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おっさんがハッピーシンセサイザーを踊るまでに至る長い経緯(勝手な妄想) - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/02/20(月) 17:51:40.73 ID:tqalGdHs0
某動画サイトにあった踊りの動画を見てとても感動し、塞ぎ込んでいた自分を立ち直らせてくれました。
その動画の凄まじい魔翌力に何か背景があると思い、勝手に想像してSSを書いてみました。

本人様には全く関係ありませんのでご注意願います。名前も変えてあります。
2chは初めてなので分からない事があれば教えてください。よろしくお願いします。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1329727900(SS-Wikiでのこのスレの編集者を募集中!)
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バームくんへ @ 2025/06/11(水) 20:52:59.15 ID:9hFPsRzXO
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秘境 @ 2025/06/10(火) 00:47:53.81 ID:BDVYljqu0
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【安価】上条「とある禁書目録で」鴻野江「仮面ライダー」【禁書】 @ 2025/06/09(月) 21:43:10.25 ID:qDlYab/50
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ツナ「(雲雀さん?!)」雲雀「・・・」ビショビショ @ 2025/06/07(土) 01:30:36.87 ID:AfN9Rsm0O
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【安価コンマ】障害走を極めるその5【ウマ娘】 @ 2025/06/06(金) 01:05:45.46 ID:RaUitMs20
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貴様たちの整備のお陰で使いやすくしてくれてありがとう @ 2025/06/04(水) 20:56:21.03 ID:QjuK6rXtO
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阿笠「わしの乳首に米粒をくっ付けたぞい」コナン「は?」灰原「は?」 @ 2025/06/04(水) 04:01:13.39 ID:ZjrmryLdO
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レッド(無口とか幽霊とか言われるけどまだ電脳世界) @ 2025/06/02(月) 21:21:00.13 ID:ix3UWcFtO
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2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/02/20(月) 17:55:59.82 ID:tqalGdHs0
半年前俺、渡辺 純一(わたなべ じゅんいち)の親友であり、師匠とも呼べる人が死んだ。
居眠りトラックに轢かれて、夫婦揃って帰らぬ人となった。
師匠は俺が幼い頃から色々世話を焼いてくれた人だ。お互い片親で家が近かったこともあり、
いつも面倒を見てくれるその人を俺は兄のように慕っていた。
師匠が家庭を持つようになってからもよくお邪魔させてもらっていたし、
そのつど美人の奥さんは俺に豪華な手料理を振舞ってくれた。
そして一人娘、神海 恭子(こうみ きょうこ)仲の良い円満な3人家族の中で唯一残された16歳の一人の女の子。
今から始まるのは俺とその娘との物語。

既に親を亡くしている師匠達に信頼できる身内はいなかった。
親の葬式が終えた頃から「俺の親戚どもは腐っている」と何度か愚痴を溢していた師匠は、
自分の身に何かあったら恭子の事を気に掛けてやってくれと溢した愚痴を誤魔化すように言っていたのを覚えている。
恭子は師匠達の葬儀のあと厄介者のように親戚達の間で押し付け合いになりながらも、
二人の残した僅かな遺産目当ての叔母の家で預かる事となった。
師匠の愚痴で恭子の事が気がかりだった俺は、
半年が過ぎた今なら少しは落ち着いているだろうと様子を見に行く事にした。
結論から言うなれば、悲惨だった。
本当に腐っている大人達だ。
家に部屋が余っているのにも関わらず恭子の部屋は遺産の一部で建てられた庭のプレハブ。
恭子はいつもそこにいて家に入るのは食事を取りにいく時だけ、“食べ”に行く時では無く。
訪問した時、叔母である人に挨拶がてら恭子の様子を聞いたのだが、
「最近顔も見てないから知らない」そんな言葉が返ってくるだけで、
まるで他人の扱い。俺がそれに対し怒りが感じなかったのは、
恭子の精神状態を想像して真っ青になっていたからである。
俺は急ぎプレハブに向かう。早く恭子を確認したかった。
ノックも忘れ汗で滑るドアノブをどうにか握り扉を開ける。

「・・・・・・・おじさん」

小さな机と衣類棚しかない部屋の真ん中にぽつんと座っている女の子。
感じられない表情とまるで死んでしまっている瞳。
無表情のままおじさんと呼んだ恭子に返した言葉はきっと無意識で発したのだと思う。

「俺のところに来ないか?」
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/02/20(月) 17:59:26.29 ID:tqalGdHs0
目を覚ましたのはインターホンの音だった。ヤバイ、ヤバイ!
仕事の関係上休みが少なく時間がほとんど無いせいで迎える準備が終わっていない。
部屋造りすら終えていない、ベッド、タンス、クローゼットなど家具の設置が何とか終わっているだけで、
テレビ、レコーダー、パソコン、ステレオなどの電化製品は量販店で買ってダンボールに入ったまま積まれている。
とにかく出なければいけない。どうしようと思いながらも扉を開ける。

「あ、あの・・・・え、と」

かばん一つでマンションの部屋の玄関に立つ恭子が言葉に詰まるのは仕方の無い事だろう。
なぜなら、本来駅まで迎えに来るはずだった相手が今起きました状態で対面しているからだ。
ちなみにあの訪問の後しばらく恭子と話したり、
その後の電話などでも持ち前のフレンドトークで和ませたおかげか多少は表情を取り戻している。

「ゴメン、今起きました。チャイムが目が覚めました」

九十度のお辞儀で謝罪し、よくここまで一人で来れたなと感心していたら

「住所は聞いていましたから。その、大丈夫です」

恭子は常に遠慮がちだ、師匠がいた時はそれ程でもなかったのだが、
叔母の家で過ごした半年で何かを望む事をやめてしまったのだろう。

「まあ、立ち話もなんだ。俺は着替えと顔を洗ってくるから、くつろいでいてくれ」

「あ、はい。・・・・・お邪魔します」

「次からは、ただいまって言おうな」

俺は昔の元気な恭子に戻したい。その為には何だってやる。
とにかく遠慮できないように巻き込んで、笑えるように馬鹿をする。
あの日からそう決めていた
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/02/20(月) 18:03:44.82 ID:tqalGdHs0
「いきなりで悪いんだけど、休みがとれなくて時間が無いから今日はハードスケジュールになるけどいい?」

そう、今日中に全て生活に関する準備をしなければならない。
会社の部下が私立高校の理事長の知り合いで編入させて貰え、学校関係は何とかなった。
本当はコネで0点でも編入出来たのだが、恭子は合格点をはるかに上回る点数を叩き出し、
お礼を言いに行った時は逆に感謝されてしまった。
 
 「あの、私一人でなんとかできますから、無理しないでください」

 それがイカン。遠慮。俺はそう何度も使う事が出来ない言葉を準備している。
本当は使いたくないけど最初が肝心なので言う事にした。

 「全然、無理なんかしてないよ。恭子の面倒をみるのが俺の役目、ほかっとくなんて師匠に顔向けできねえよ」

 本当は理由付けなんて必要ない。でも、それでも師匠から受けた恩に報いる事にしておくのが遠慮をさせない為の口実。
 あ、しまった師匠の事を思い出させてしまったか。俺の入れたココアを飲む恭子の顔からはわからない。
ただ、返ってきた言葉が期待していたのと違った。

 「すみません、よろしくお願いします」

 ありがとうって言って欲しかった。
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/02/20(月) 18:06:44.77 ID:tqalGdHs0
とりあえず、すぐに必要なのが通学用の自転車、いつでも連絡が取れるようにする為に携帯電話の契約。
学校制服の引き取り、カバンや靴、後は日用雑貨、そんなところか、とりあえずは。
俺たちは1BOXである愛車のゲンちゃんに乗り込み全てが揃う大型ショッピングセンターに向かった。
そして朝飯を食ってない事を思い出し、まずはケータイショップでパンフをかっさらいフードコートでモーニングを食べながら機種選びをすることにした。

 「どれがいい?やっぱカメラの画素数はこだわりたいよな」

 「あの、なんでも良いです。安いもので。別に、無くても・・・平気で「やっぱ、前使ってたメーカーのと同じじゃないとな、使い辛いし!」

 言わせない。
俺は被せて言ってみるが、以前使っていたヤツは叔母により解約され半年間はケータイなしで過ごしていたからか、欲しがる様子をみせてくれない。
俺が一人であーだ、こーだ言ってるうちに二人とも食べ終わってしまった。
ならば、ここは専門家に任せよう。
ショップに戻るとすぐさま店員の姉ちゃん(超カワイイ)に耳打ちし、機種選びの協力を要請した。
やはりこういうところで働く人は慣れているからか言葉巧みに興味を持たせ恭子の合う機種を選んでくれた。
制服などの通学用必需品はある程度決まっているので無難に揃えることが出来、自転車もまた選ぶのに苦労しそうと思っていたのだが、
「これを買って頂いてもいいですか?」と意外な一面を見せた。
あー、後は日用雑貨か。
コップや歯ブラシぐらいはいいけど、色々男の俺には見せたくないものとかあるだろうなぁ。
そう思うと俺は財布の中から諭吉を三枚取り出し、恭子に手渡した。
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/02/20(月) 18:11:10.06 ID:tqalGdHs0
「俺、ちょっと一時間くらいいい?仕事関係で見たいものあるから。このお金で他の生活に必要なもの買ってきな、お釣りとかいらないから。終わったらさっき買ったケータイで電話して」

「こ、こんなにいらないです。私そんな、大丈夫ですから」

何が大丈夫なのかはわからないが、必死に返そうとするも俺は受け取らない。

「いいんだ。・・・あの事があって今年はお年玉を渡せなかったから。その分だ」

「すいません、無駄遣いはしません」

全部使っちまえ。そう一言返して俺たちは別れた。
仕事関係でとか言ってしまったけど、特にする事が無かった俺はぶらぶらし、本屋のテナントを見つけるとそこに入り育児コーナーに立ち止まった。

「女子高生の育て方とかないよなぁ」

あるはずない、すでに育“児”ではない。
そんな馬鹿な事を呟きながら時間を潰した。
実際、恭子から電話が来たのは2時間後だったのでパチンコでもしてりゃよかったなと少し後悔しながらも、彼女の持つ紙袋をみて、色々買ったみたいなので安心できた。
そして少し遅めの昼食をとり、帰りにはドライブがてら恭子の通う学校や街の案内などした。
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/02/20(月) 18:13:06.34 ID:tqalGdHs0
日が暮れる頃にマンションへ戻った俺たちは買ったものを運び、家に入る時に俺は大声でただいま!と言う。

「・・・・・た、ただいま」

嬉しかった。朝言ったことを覚えていてくれたんだ。
とても小さな声だったけれど、俺にはちゃんと聞こえたよ。
荷物運びを終えた後は、風呂の用意をしなくちゃなと思ったが帰りに近所の惣菜屋で買った弁当が冷めてしまうから先に晩飯にする事にした。
それに先に言っておかなければいけない事がまだ残っているし。

「えーと、改めてこれからよろしくな」

食べ終えて、一息ついたころ改めて恭子に挨拶した。
そして未だ残っている問題に対し彼女にどう告げようか迷っていたら、彼女は急に真剣に面持ちになり

「おじさん!私をここに置いて下さい!アルバイトもたくさんします!なるべくご迷惑にならないようにしますから!」

不意打ちだった。

「え、あ、えっ?」

何を今更、そう思ったが恭子のその意を決した顔を見ると、なんとなく理解できた。
きっとずっと、ちゃんと言わなくちゃいけないと思っていたのだろう。
そして、もうあの家には帰りたくないという気持ちから発せられた言葉なのだろう。
ならば、俺も彼女にちゃんと言わなくてはいけない、誤魔化しきれる事ではないから。
俺は軽く息を吸い込む。事実を伝える為に。

「スマン、恭子!俺、実は飯が作れないんだ!」

言った、言ってやった。料理が出来ない独身の俺が簡単に未成年の子供を引き取るなんて言ってしまってからずっと悩んでいた事。

「一生懸命、練習して料理を覚えるから!食べられるものが作れるようになるまで、外食とか、惣菜、弁当で我慢してくれ!して下さい!」

彼女の反応を見るために恐る恐る顔を上げると、何というか、ぽかーんとしていた。

「えっと、あの、料理ぐらいなら私出来ます、・・・あの、家事とかも得意ですし」

あ、あー。そういうのもアリなんだ。俺の悩みはすぐに解消された。
こんな事なら料理特訓休暇の申請で会社の上司と取っ組み合いの喧嘩なんかするんじゃなかった。
結局、休み取れなかったけど。

「じゃあ、よろしく頼む。家事のバイトたくさんして貰おうかな、ちゃんとバイト代をでるよ」

お小遣いを遠慮させない口実にもなる、よくやった。

「あの、それは・・・アルバイトとは別にでもちゃんとやれますから」

はいはい、バイトなんて保護者の許可は出せません。

「まー、まー、とりあえず湯沸かし器の使い方から教えよう」

きっと、なんとかやっていける。

「あ、はい!お風呂場の使い方教えてください」

あなたの娘がちゃんと社会にでるまで俺が見守ります。
いいですよね、師匠。

何とか二人の生活のスタートを切れたと安心しきった俺だが、恭子の部屋に未だ詰まれた電化製品のダンボールが視界に入り、orzってなった。
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/02/20(月) 19:31:16.73 ID:tqalGdHs0
二人の生活がスタートしてひと月ほどが経過した。
多少戸惑う事もあるけれど、何とかそれ程問題なく過ごせている。
まあ、彼女の遠慮癖はあまり変わらないし、仕事で遅くなるから先に食べていいと言っているのに俺が帰るまで待っているので、
もう少し我侭なところを見せてもいいんじゃないかと思う。
今日も二人の晩飯は9時を過ぎてからだ。
ちなみに恭子の料理はすんごい、マジで旨い、さすがは師匠の奥さん仕込みといったところか。
本日のメインは牛肉とアスパラのバター炒め、実に楽しみだ。
恭子は準備できました、と最後にトマトスープを運んでくるときに何か言いたそうな顔をしていたのでどうしたのかと聞いてみたら。

「あの、良かったらでいいんですけど。その、学校の友達が明日、遊びに来たいって言ってまして」
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/02/20(月) 19:32:58.15 ID:tqalGdHs0
来たかー、来たのかー。
こういうのはもうちょっと後に来るべきイベントじゃねえのかよ!
あれだろ、金髪っつぁんで耳ピアスィーなヤツがガムをくっちゃくっちゃしながら、
「あー、どうも」と言うんだろ。
彼氏ジャン!それ絶対彼氏だよ。
まぁ、仕事で帰るのがおそくなるだろうから、居合わせる事はないと思うけど。
駄目ジャン!それ絶対駄目だよ。部屋に若い男女がぴぴぴぴぴーじゃないか。

「あの、とっちゃん・・・都華子(とかこ)ちゃんっていう子なんですけど、あの、駄目なら大丈夫ですから」

ぴぴぴぴぴーは回避できたー!女の子かよ。
っていうか、恭子、口癖のように“大丈夫”って言うけどなにが大丈夫なのかイマイチわからん。

「オウ、どんどんつれて来い。そっか、もうそんな友達が出来たのか、よかったな」

「はい、とってもいい子なんです。じゃあすいません、お言葉に甘えて明日家に連れてきますね」

俺は何としてでもその子に会わなくてはいけない。
どんな友達かはわからないけど。
きっとこれからこういう繋がりは必要になるはずだ。
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/02/20(月) 19:36:22.61 ID:tqalGdHs0
翌日会社の昼休み、早く上がる為に俺は休憩なしで作業を行っていた。

「ナベさん、エライ気合じゃないですか」

部下の一人である木下 直樹(きのした なおき)だ。

「今日、早上がりしたいからな」

恭子が友達連れてくるからと理由を説明して。

「あー、例の同棲中の女子高生」

「同棲言うな」

「まぁまぁ、JK二人といっしょなんて羨ましいこってすね」

「おまえなぁ・・・」

わかってますよ、ナベさんの考えそうなことぐらいと言って直樹は飯を食べに行った。
多分、きっとわかっていない。
その後、データチェックの部署から緊急連絡が入ったのは、夕方4時を過ぎたあたり、作業もあと少しで終わりそうな時だった。
今週作成したデータ今日中に全て手直し。
特別残業、特残の要請だった。
通常残業はどんなに遅くても夜の8時くらいまでであり、特残は下手したら日付が変わるまで残らなくてはいけない。
本当にツイてない。

「これウチの責任じゃないでしょ。やんなくていいじゃないですか」

確かに直樹の言う通り仕様書のミスでありこの職場の責任ではない。

「といっても、手直しが出来る職場はウチしかないだろ」

「ですね、じゃあ、ナベさん抜ける分久々に本気を出しますよ」

「いやいや、こんな状況じゃ今日は帰らんよ」

しょうがない。まだ見ぬとっちゃんとやらにはまた来てもらえばいい。

「この膨大な作業量だと一人くらいいてもいなくてもあんま関係ないですよ。帰ってよし」

直樹が根回ししたのだろうか、昼休みに仕事をするという、はよ帰りたいアピールからか、
他の連中からも「そうだ、帰れ」と次々に飛んできて、挙句の果てには帰れコールにまで発展した。
気持ちは嬉しいが、部下たちからの扱いが酷く思えるのは気のせいか。
とりあえず、進捗の連絡だけは頼むと直樹お願いし、予定通り早上がりすることにした。
帰宅途中愛車のゲンちゃんをぶっ飛ばしていたせいか白バイが横付けしてきやがったが、中学の同級生だったので、
飲みかけの缶コーヒーをくれてやると、そのまま去っていった。
奴に今の嫁さんを紹介してやったのは俺だ。
マンションへと帰着できたのは6時を過ぎた頃、さすがにまだ帰ってないだろうと思っていたら、案の定恭子の自転車の隣に見慣れない自転車が止まっていた。
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/02/20(月) 19:38:46.34 ID:tqalGdHs0
「ただいまー」

「あ、おじさん。今日は早いですね、おかえりなさい」

ぱたぱたと駆け寄ってきた恭子が出迎えてくれた。
そして続いて本日の主役であろう、恭子より少し背の高い女の子が姿を見せた。
すると恭子は彼女に手の平を向け

「あの、この子が昨日言ってた、友達の―」

「始めまして!私、キョウの親友で相葉 都華子(あいば とかこ)って言います。よろしくです。とっちゃんって呼んでくださいね」

おお!元気だ。すこぶる元気な女の子だ。これは俺も元気に答えねばなるまい。

「こちらこそよろしく。とっつぁん。渡辺 純一です。お兄ちゃんって呼んでくださいね」

「オジサマ、とっちゃん!とっつぁんだと、なんか男気溢れた親方っぽくてやだなぁ」

この子は実にフランクだ。いいね。
ってか、お兄ちゃんはスルーかよ!
でもこんなやりとりに恭子がちょっと笑ったような気がしてそれがとても嬉しかった。

「ムリムリ、もう俺の中でとっつぁんイメージが完全定着しちゃったから」

えー、と抗議の声をだす彼女の仕草に俺は微笑まずにはいられなかった。
きっとこの子はいい子だ。

「あの、おじさん。こんなところに立ってるのもなんですから、中に入ってください」

恭子に促され、着替える為に部屋に向かう途中、

「そーだ、オジサマ!今日期末テストの結果が返ってきたんだけど、キョウ、クラスで一番だったんだよ!学年でも3位、すごいよねー」

振り向いた俺は、ちょ、ちょっと、とっちゃん、と照れるように静止する恭子を見る。
頭が良い事は知っていたが、まさかあの高校でクラス一なんてこいつはよほどだな。
学校レベルでされ俺の通った高校より2,3上なはず。

「・・・すごいな、恭子」

たまたまです。と胸の前で手を振る恭子。
俺にとっては今のこの状況は実に奇跡だといえる。
遠慮がちな恭子へのご褒美。多少口実になってしまうが、このままだと二人は恭子の部屋に戻ってしまい、彼女の友達と接する時間は限り無く少なくなってしまう。
早上がりの立役者である直樹には今度何か奢ってやらねばなるまい。

「褒美じゃ!ご褒美をやる・・・そうだ、肉だな。肉を食いに行くぞ!とっつぁん、おめぇも食ってけ!」

恭子がそんな、私、と遠慮仕掛けるも、じゅるり、と、とてもいい顔をしている彼女を見て何も言えなくなる。

「えへへ、オジサマ。ゴチになります」
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/02/20(月) 19:41:41.85 ID:tqalGdHs0
速攻で着替えを済ませ、準備を済ませた二人をゲンちゃんに乗せると車で15分くらいのところにある庶民的には高級といえるだろう焼肉店へ向かう。
大人だと一人万単位くらい消費する結構な店だが、こんな機会は滅多にないだろうからケチらない。

「ねー、ねー、キョウ、何でこの車ゲンちゃんっていうの?」

移動途中、疑問に思ったのか、とっつぁんが聞いていた。
恭子は、んー、と考えている様子だが、知るはず無いだろう教えていないからな。
ならば俺が語らねばなるまい。ゲンちゃんの名前の由来を。

「まさか、グレード名のGENESIS(ジェネシス)のGENからとか?」

何も言うまい。
俺はずっと以前からこの車のスポーツタイプを買うと決めてたんだ、
スポーツタイプのグレード名に思い入れがあったのさ。
ちなみに車名はスタイリッシュワゴンの“ジュニア”。
当初は名前にちなんで息子のゲンちゃんと呼んでいたのだが、部下の直樹がうわぁ、という顔をしていたので止めた。
 そんなこんなで焼肉店到着する。
今日は平日なので普通に入れるが土日とかになると予約なしでは結構待たされる人気のある店だ
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/02/20(月) 19:44:48.71 ID:tqalGdHs0
「うっわー、オジサマ何、この店?店員さん超美人ばっか、ありえん」

とっちゃんの言う通り、絶対狙って雇っているとしか思えない、店員のレベル。男性のウェイトレスは一人もいない。

「よーし、二人とも遠慮なくじゃんじゃん頼んでくれ!」

「あ、すいません。先にお手洗いに」

恭子はそう言うと、注文の前に席から離れた。チャンス到来。

「・・・あの、とっつぁん、恭子こと、本人から色々聞いてる?」

とっちゃんは、はいと一言いい、

「本当は、私のほうから色々しつこく聞いたんですけど、編入する前の事とか、オジサマの事とかも知ってます」

恭子が色々話しているということは相当この子の事を信頼しているのだろう。
彼女が敬語で話しているということはきっと真剣に聞いてくれているからだと思う。

「恭子、あの子は以前は凄く元気な子だったんだ。あんなことがあったから、今はまだ塞ぎこんでる部分もあるけど・・・」

俺は続けて言う。

「俺は昔のように元気になって欲しいんだ、だから、その、とっつぁんには色々、なんていうか、よろしくお願いしたいんだ」

とっちゃんはすこし笑って俺に言葉を返す。

「オジサマ、すごくイイ人ですよね。・・・私もキョウと出会ってからまだ短いですけど凄く大事な親友なんです、だから・・・」
 
とっちゃんはそう言うと、店に備え付けてあるアンケートのうらに何か書き始め俺に手渡してきた。

「だから、オジサマもキョウのことで何かあったら私に相談してください」

ちょっと目が潤んできた。
この子は良い子なだけでなく、凄く頭の良い子なんだろう。
この少ないやり取りだけで俺の伝えたいことを理解してくれている。

「ちょっと、オジサマ、ワンギリ。ワンギリ」

え、あっ、と戸惑いながらも、そうか、とケータイを取り出しアンケートのうらに書かれている番号を発信する。

「えへへ、オジサマの番号GET、後でメールもしといてー」
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/02/20(月) 19:47:42.49 ID:tqalGdHs0
そんなやり取りの後、席に戻ってきた恭子を二人で見つめる。

「おまたせしました・・・?二人ともどうかしたのですか?」

「キョウお帰りっ、いやー、アレだよね、とりあえず最初は牛タンだよねって話」

「牛タン・・・ですか?」

「そう、牛タン、牛タンタタンタン♪」

あ、このノリは、アレだろう。俺はすかさず続ける。

「うん、牛タンタンタタンタン♪」

「「牛タンタンタタン、タンタンタタン♪」」

よし、見事なハモリ。

何ですかそれ、と恭子は苦笑しながら席に着く。

「あ、しらないの?キョウは笑いに疎いね」

「そうだぞ、勉強以外にも色々と知らないといけないぞ」

二人が今度教えてあげるよ、みたいなやりとりをしている間に俺はちょうど近くにいた店員に声を掛け適当に注文を取った。
タン塩に始まり、ローズ、カルビ、ハラミ、シーザーサラダ、ユッケにキムチの盛り合わせ、そして二人が注文を決めるまで待てなかった生中。
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/02/20(月) 19:49:20.00 ID:tqalGdHs0
「オジサマ、早いよぅ。っていうか、車なのにお酒飲んじゃ駄目じゃん」

「この世の中には代行様という便利なものがあるんだよ。欲しいのがあれば追加すればいいから、飲みもんだけ先に決めちまえ」

あ、なるほど、と納得してくれたとっちゃんは急いでジャスミンティーを一つ、いや、二つ、と店員に頼んでいた。
しばらくして、ある程度で揃いとっちゃんご所望の塩タンが焼きあがり豪快に頬張る彼女。
どうだ、俺の一押しの店の味は。

「んー、マジありえない。超おいしいんだけど!」

「本当ですね。凄く美味しいです」

期待通りの二人のリアクションにまるで自分の手柄かのように喜んでしまう。
ほろ酔いなのもあってとても気分が良い。

「そういえば、おじさんととっちゃん凄く仲が良いですよね?なんか初めて会った感じじゃないんですけど」

「そりゃ、私とオジサマは会ったのは今日だけど、出会うべくして出会った運命の出会いだからだよ」

自分で注文した、テールスープを飲み更にご満悦の彼女はわけのわからないことを言う。
しかし、それに乗っかるのが俺。

「きっと、アレだな。前世とかでも来世を誓い合っていたに違いない」

「んー、オジサマ!前世の誓い通り私を嫁にしてくだはい」

とりあえず、飲み込んでから喋れ。

「勿論だとも。そうだ恭子!とっちゃんのことはこれからお母さんと呼びなさい」

飲んでる所為もあり、ノリに拍車が掛かる。

「だ、駄目です!友達をお母さんだなんて、無理です!」

二人の冗談に戸惑いをみせる恭子。あの日から過ごした中でこんな姿を見るのは初めてだ。
確実に少しずつだけど元気を取り戻せている。
そう思えると嬉しくてしょうがなかった。

「んもぅ、つれないなぁ、キョウたんはぁ、キョウたんたんたたんはぁ」

「つれないな、キョウたんたんたたんは」

「「キョウたんたんたたん、たんたんたたん♪」

「・・・だ、だから、何ですかソレ」

二人とも馬鹿だった。馬鹿が出来た。
こんな具合にちょっとずつでいい。
前に進んでいければ。
時間は掛かるかもしれないけれど、いつかはきっと昔の彼女に戻ってくれるだろう。

会計を済ませた俺はもう満腹ですとニコニコ顔のとっちゃんを夜も遅いからとゲンちゃんの後ろに自転車を乗せ自宅まで折り届ける。
そして別れぎわお礼の言葉の後「メール、わすれないでくださいね」と耳打ちされ家へと帰っていった。
とっちゃん覚醒。
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/02/20(月) 19:50:29.05 ID:tqalGdHs0
書き溜めは異常なのですこしづつ進めていきます。
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/20(月) 19:54:53.34 ID:8yPvyawDO
期待
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/02/20(月) 20:03:44.28 ID:tqalGdHs0
2CH初めてなので何か気をつけることがあったら教えてください。
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/02/20(月) 20:30:07.35 ID:tqalGdHs0
とっちゃん襲来から数日後のこと、直樹奮闘により手直しラッシュが落ち着いてきたので今日は久々の全員定刻上がり。
今日はゆっくり出来ることと、本日の晩飯にわくわくてかてかしながら自宅の扉を空けると、

「オジサマ、おきゃー」

また居た。

「とっつぁん、いらっしゃい。ってか、おきゃーってなんだよ」

「えー、オジサマ知らないの?おきゃえりの略だよ女子高生の流行り言葉ぐらいしっとかないとキョウともろくに会話できないよ」

そうなのか、知らなかった。

「あれ?恭子は何処にいるんだ?」

「キョウは、料理の材料で足りないものがあるって買いに行っちゃった。本日はキョウ様の手料理のご相伴にあじゅK」

噛んだ。なれない言葉を使うから。

「ごほん、ご飯を食べに来ました。あと、オジサマに大事なことをおしえてあげよーかと」

「大事なこと?」

「どーせ、キョウは言ってないと思うけど、今週の土曜学校で三者面談があるのデス。オジサマ知ってた?」

「・・・初耳デス」

あんにゃろう、どうせ俺に迷惑掛けるとか思って黙ってたんだろう。
俺が忙しそうにしてたのも問題あるんだろうが。

「やっぱり、多分キョウが先生に断ったんだと思う。ウチの担任キョウとオジサマのこと理解してるみたいだし」

俺は、腕を組みうーんと考え込む。
その姿を見たとっちゃんがちょっと笑っているのが少し気になった。

「えへへ。いやー、オジサマはどうするのかなって?」

うむ、本当にどうしましょうかね、と更に考え込むうちにただいま、と扉が開く音がした。
恭子が帰ってきたようだ。
一旦、思考中止。
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/02/20(月) 20:40:58.79 ID:tqalGdHs0
「恭子、おきゃー」

「あ、おじさん。今日は早いですね。というか、おきゃーってなんですか?」

「オイ、流行ってんじゃねえのかよ」

俺は顔を逸らすとっちゃんにお前だよツッコミを入れる。

「・・・そのうち流行るもん」

ちょっと可愛かったので許す。

「やっぱり二人は仲いいですね」

そう言うと恭子は、急いでご飯作りますね、とキッチンへ向かった。
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/02/20(月) 21:01:00.01 ID:tqalGdHs0
本日の晩御飯はアジの塩焼きに加え肉じゃがとホウレン草のお浸し、それに恭子特製澄まし汁。
とっちゃんの母親は洋食ばかりに凝っていて和食が食べたいと言う彼女のリクエストにちなんだメニューらしい。
心して食え。
恭子の作った手料理をぺろりと平らげたとっちゃんはマジ嫁に欲しいわ、と感激しつつ自宅へ帰っていった。
マンション先まで見送ったのだが、女子高生が自転車をモリ漕ぎするのはどうかと思う。

さて、本題が残っている。
寝る前にどないしようかと、ベッドの中で考えていたところケータイにメールが着信し、

『ちなみに、担任は激美人デス』

という、本文を見た瞬間に意は決した。
明日会社から学校に連絡しよう。
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/02/20(月) 21:46:01.08 ID:tqalGdHs0
そして迎えた土曜日。
先に学校へは連絡してしまったので後に引けない俺は、土曜日は恐らく風邪をひくと予め上司に言っておいた。
これで今日は心置き無く病欠できる。
そして、今日は重役出勤じゃあと恭子に言い、玄関までお見送り。
その後、数ある中で一番高かったポールなんとかのスーツに身を包みいざ戦場へ。
県内有数の進学校だけにあり、いかにもまじめな生徒たちを眺めながら恭子たちの通う学校へ突入した俺は、指定された時間を見計らい教室へ入っていった。
面談を終えた生徒と親は帰ったのだろうか、教室には数組の親子が居るだけになっており、
辺りを見渡したとき、窓際にたたずんでいた恭子と目が合った。
予想通りの驚く表情だ。

「あれ、おじさん?・・・あれ?今日は二人だけで面談って先生に・・・」

困惑する恭子、まだ余り状況を理解してない様子。

「恭子よ。俺の情報網を甘く見ちゃイカンぜ」

「あ、もしかして三者面談に来てくれたのですか?」

「・・・あたりまえだろ。保護者だからな」

「すいません、私黙っていたのに・・・」

「まあ、俺を気遣ってのことだろうから、怒りはせんが、恭子を気にしてくれている友達に感謝だな」

そんな会話をしているうちに、神海さん、渡辺さんお待たせしました、と扉が開く音に後に若い女性の声が響いた。
うわ、マジで激美人じゃん。それにありえねースタイル。
隣の教室へと勧められ、三者面談は始まった。
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/02/20(月) 23:51:34.45 ID:tqalGdHs0
「えー、まずは始めまして神海 恭子さんの担任を務めさせていただいております吉沢 と申します」

うわぁ、真面目な感じの人だ。ちなみに下の名前は姫紀(ひめき)らしい、とっちゃんがあの後メールで姫ちゃんって呼んでみてと無理なミッションを与えてくれた。
俺も失礼があってはいけないと姿勢を正す。

「恭子の保護者の渡辺です。今日は急に予定を変更させてしまってすいませんでした」

「構いませんよ。2者面談も3者面談も時間に変更は特にありませんので」

そして、先生は恭子の方を向き、

「てっきり、神海さんが渡辺さんに説明しているものだと思っていたのですが」

そう言われると、恭子はしゅんとなり俯いてしまった。

「まあ、色々あるでしょうから。顔を上げなさいね神海さん」

そう言うと、期末テストの点数表などの用紙を机に並べた。
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/02/20(月) 23:53:01.34 ID:tqalGdHs0
「神海さんはまだ編入してから2月足らずですが、成績には目を見張るものがあります。学校での生活態度も素晴らしいといって良いでしょう」

それはそうだろうな、クラスで一番の点数と言っていたし恭子の性格からしてもまず粗相はしまい。

「このまま順調に学力を伸ばしていけば相当なレベルの大学に入れる事と思います」

そして先生は少し言いづらそうに、

「その、神海さんと渡辺さんとはいささか特殊だと存じておりますが、進学希望など」

先生が言い終わる前に恭子は言葉を被せるように言う。

「吉沢先生!そういうのは、まだ、私は!」

先生は一度目を瞑り、再び恭子の方を見て話し出す。

「確かに1年の今すぐに決める必要はないでしょう、しかし、いずれは必ず答えを出さなければいけない問題でしょう」

そして、視線を俺に移し、俺に進学させる意思があるかどうか聞いておきたいのです、と。

「おじさん、私、大丈夫ですから、大丈夫ですから」

隣で慌てて言っている恭子に俺は振り向かず、ただ前を向き先生に答えた。

「・・・・・恭子が行きたいと言えば」

こういう話になる事は予想してなかったわけでもない。
きっと二人が気にしているのは大学費用のことだろうから、正直言えばどうでもいい。
それくらいの金は何とでもなるし、それぐらいの恩を師匠からは受けていた。
でも、進学を決めるのは恭子であって、俺じゃない。
俺は改めて恭子のを向く。

「今の恭子は望めばなんだって出来る。間に誰かに迷惑を掛けるとか、そういう風に思っていたら、何も出来ない」

「俺が、気にせず大学に行けよって言うのは簡単だけど・・・いや、それが多分本音なんだけど、でも、何をするのも恭子がどうしたいか自分自身で決めた事であって欲しい」

そう言うと恭子は肩を落とし、俯むく。

「・・・・・私、その、わかりません、わからないんです」

恭子はきっと色々な気持ちが混ざり合って、叔母の家での事や、これからの事とかもごちゃごちゃになって、わからないんだろう。解れないんだろう。
そんな姿を見て先生は優しく微笑み、

「先生が先走りすぎましたね、神海さん。これから時間を掛けてゆっくり考えて行きましょう」

そう言うと先生は少し顔つきが変わる。
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/02/20(月) 23:53:47.46 ID:tqalGdHs0
「そういえば、渡辺さん。神海さんは随分クラスに男子に人気があるようですけど、保護者としては気が気で無いんじゃありませんか?」

なぬ、聞き捨てならねぇ。つか、この先生結構真面目なだけじゃないんだな。

「なんとっ、そうなのか恭子?」

俯いていた恭子はパッと顔を上げ、

「そんな事、全然無いです、吉沢先生も変なこと言わないで下さい!」

「あら、そうかしら?嘘はついていないと思いますけれど、彼氏とか出来るのも時間の問題かもしれませんよ、そうなったらどうします、渡辺さん?」

更にあたふた恭子を尻目に、ちょっと子悪魔的な顔になる先生。

「それは、アレですよ。食卓のテーブルがちゃぶ台に変わりますね」

先生は、ははん、と理解した様子で答えてくれる。

「ひっくり返して、そんなの許さんぞ!って奴ですか?」

「いやいや、本人の自由を妨げはしません、ただただ、俺個人の無言の訴えを必死に伝える事のみですよー」

すると、先生はあははははと目尻に少し涙を浮かべ笑い出した。

「っっ・・・・はぁ、失礼しました。渡辺さんはとても面白い方ですね。神海さん、保護者の方が本当に素敵な方で先生安心しました」

安心した。そういうことか、きっと不意に出てしまった言葉だろうが、この先生は恭子の事以上に俺自身の存在を心配していたんだ。
確かにそうだろう、何の繋がりも持たない恭子を引き取った男性、何か疑いたくもなるもんさ。
それにしても、親友に、先生。恭子は本当にいい人たちに巡り合えている。
今はまだわずかだけれど、この先もきっとたくさんの素敵な出会いがあるだろうよ。
面談も終わり恭子の自転車を乗せたゲンちゃんで帰りながら、そんな風に思った。

あ、姫ちゃんって呼ぶのわすれてた。
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/02/20(月) 23:55:14.81 ID:tqalGdHs0
今日はこれくらいで終わりにします。また明日続きを。
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/02/21(火) 18:32:52.19 ID:3TZQKR1M0
続きを書きます
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/02/21(火) 18:33:54.54 ID:3TZQKR1M0
翌々日の休み明け、月曜の事。マジで風邪をひくとは思わなかった。
朝の挨拶で声のおかしさに気づいた恭子が体温計を持ってきてくれたので測ってみたのだが、平熱じゃねえか。

「おじさん!39度もあるじゃないですか、私今日は、学校お休みします!」

看病してくれるのか。
涙がちょちょぎ出そうな位嬉しいが、俺の休みも確定してるんだ。
会社はそう簡単に休めないのに。
恭子は、自分の部屋から学校の電話番号を探し出し、電話を掛けようとしている。
しかし、そうはイカのなんとやらだ。
仮に休むにしても今まで高熱が出てもずっと一人でやってきたんだから、そうそう問題ない。
こんなことで、恭子を休ませてなるものか
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/02/21(火) 18:35:07.20 ID:3TZQKR1M0
「はい、はい、ええ。おじさんが高熱を出してしまいまして。・・・はい、すいません、それではよろしくお願いします。吉沢せん」

最後まで言いかけたところで俺は電話を奪い取る。

「せんせぇ!自分は大丈夫ですけぇ、恭子には出頭させますけぇ!」

『ええ?渡辺さん、何を?ご体調が宜しくなければご無理を・・・』

俺は熱が出ると変にテンションが上がるらしい。

「いーえ、姫ちゃん先生!必ず出頭させますけぇ!是非とも恭子の内申書には花マルを!是非とも花マルを!」

そう言ったところで、何変なこと言ってるんですか、と恭子に電話を奪い返された。
しかし、その直前「姫ちゃんってなによ、本当に花マルつけてやろうかしら」との呟きが電話先からしっかり聞こえた。
おお、先生の意外な反応。そしてとっちゃんのミッション完遂!実に満足である。

「すいません、先生。・・・はい、・・・はい。それでは失礼致します」

「・・・もう、おじさん。体が良くないんですから無理しないで下さい」

ちょっとむくれている恭子。始めてみる表情に少し嬉しくなる。

「それで、先生は?」

「はい、好きにして良いと言って下さいましたので、今日はお休みしようかと」

却下。

「恭子、駄目だ。学校へ行きなさい。・・・なに、大丈夫だよ。あんな冗談も言えるくらいだから平気、平気」

正直、体は結構きつい。それでも心配掛けまいと陽気に話しかけるが、恭子は納得できずにいる。

「でもですね。39度も熱があればきっと、後で苦しくなってくると思うんです」

「わかった、じゃあこうしよう、ちょっとでも辛くなったら、必ず電話するから帰ってきてくれ。欠席より、早退の方がマシだしな」

そう言うと恭子は少し考えた後、わかりました、と渋々了承してくれた。

「必ず暖かくして寝てくださいね。お粥を作っておきますから、食べてください。それと絶対にちょっとでも辛くなったら電話してくださいね」
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/02/21(火) 18:36:44.60 ID:3TZQKR1M0

その後、お粥の準備と自分の身支度を終えた恭子は本当に大丈夫ですか、と何度か聞いた後、ようやく学校へ言ってくれた。
さあ、ここからが勝負、急いで恭子の作ってくれた特性卵粥を掻きこんで買い置きの風邪薬を飲み出社の準備をする。
御免よ恭子なかなか、連続して休めないのさ。
それに今の状態を会社で見せれば仮病がばれない。大変都合が良い。

始業時刻には少し遅れてしまったが、何とか出社する。

「ありゃ、渡辺サン、マジで辛そうじゃないっスか?」

俺に声を掛けてきたのは、部下の一人である夏海 菜月(なつみ なつき)、アルバイトから正社員へのし上った成人を迎えたばかりのパワフル且つ、アクティブな女性社員。
小柄な容姿ながら、積極的な行動と、寝る時間なんて1日3時間くらいで平気ですという、圧倒的な体力を併せ持つ常にモチベーションの高い子だ。

「ああ、熱が下がらなくて。一昨日は迷惑かけたな。・・・それよりも、直樹はどうした」

「直樹先輩なら、渡辺サン今日も休むと思って張り切って早朝会議の代理に行ってるっスよ」

まったく、アイツは俺がいないときに限ってヤル気を出しやがる。

「それじゃあ、渡辺サン。大変かもしんないスけど、頑張ってくださいね」

そう言い、自分の席に戻ろうとする夏海だが、俺は彼女を引きとめる。

「あっ、ちょっと待ってくれ。夏海、ちょっと頼みたい事があるんだが、今週の日曜日暇か?」

えっ、と振り向く彼女は少し考える仕草をする。

「うーん、特に用事は無いっスから、暇ですよ」

それじゃあ、悪いんだが、と以前から恭子の事で年も近く活発的な彼女に頼みたい事があったのを思い出し、お願いをした。
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/02/21(火) 18:39:53.00 ID:3TZQKR1M0
その後、戻ってきた直樹に休んでいた分の申し送りを聞き、仕事に取り掛かったのだが、昼になっても、体のだるさがとれなかったので、
昼休みに近くの行き付けの診療所で点滴をうってもらい、そこでようやく復調できた。
日中、何度かケータイに恭子から着信があったのだか、どうも出社がばれそうで電話には出ることはなかった。
寝ていると思ってくれるだろうと楽観視していたのだが、結局帰ったときにはばれるのだから気は少し重かった。
そして、ウチの職場はまだ残務が残っていたのだが7時を越えた辺りで、周りの皆が気を使ってくれ自宅へ返ることにした。
マンションへ到着したとき、入り口で恭子を見かけたので、ちょうど買い物の帰りかなと普通に声を掛けようとしたが、違った。
待っていたのだ、俺を。
きっと今までずっと待っていたのだ。
その時の恭子の顔を俺は当分忘れる事は出来ないだろう。
怒っている、違う。
呆れている、違う。
拗ねている、違う。
なんとも表現しがたいその表情。
恐らくは心配しているというのが一番近いのか。

「おじさん、会社に行ってたんですか!あんなに熱があったのにどうしてですか!?」

そして、何で電話に出てくれなかったんですか?捲くし立てられた。俺は自分の軽率さを改めて実感し、その後色々言われたのをあまり覚えてない。
ただ謝る事しかできなかった。
はっきり覚えているのは「そんなに休むのが難しいなら、面談なんて来なくて良かったのに」と言った彼女に何も言い返すことができなかったことだ。
その後言い過ぎたと思ったのか、部屋に戻った後の恭子の打って変わった気遣いと優しい態度が俺はきつかった。心が痛かった。
俺は恭子の事をわかっていない、
何もわかっていなかった。
その日、夏海にお願いした事を彼女に言わなければいけなかったが、言えぬままにベッドへ潜り込む。
明日言おう、謝罪と、感謝の言葉と共に。
そう決めて深い眠りに着いた。
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/02/21(火) 18:51:24.68 ID:3TZQKR1M0
これで、ようやく半分くらいです。
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/21(火) 19:24:15.69 ID:of0mblASO

なんだこの発想源
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/02/21(火) 20:07:29.93 ID:3TZQKR1M0
1に書いてある通りです、妄想過多ですみません(笑)
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/02/21(火) 20:08:37.93 ID:3TZQKR1M0
本日は部下の夏海が家にやってくる、恭子にも今日のことを言ってあるし、予定も空いているようで安心。
でも、何をするのかは秘密にしてあるので本人は気になってしょうがないだろうな。
そして、ゆっくりと出来る日曜の朝を満喫している最中、9時を過ぎた辺りか、来訪者はやってきた。

「ちわーっス、渡辺サン、約束通り来たっスよ!」

あいも変わらず元気な声だ。俺は玄関に向かう。

「おう、よく来てくれたな・・・ってお前もかよ」

「いやぁ、例の女子高生が気になって気になって」

にやけ顔の直樹。

「直樹先輩、ちょっと話したら一緒に行くって気かないんスよ」

「まぁ、いいじゃないですか。・・・あっ、その子が?」

直樹が何かに気づいたようすで、俺はその視線の先に目をやった。
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/02/21(火) 20:09:38.96 ID:3TZQKR1M0
「あの・・・始めまして、神海 恭子です」

自分も挨拶しなければと思ったのか、おずおすと後ろから現れる恭子。
真面目だ。

「うわぁ、これはまた。ほほぅ」

まるで何かを査定か鑑定するような目で見やる直樹。
頼むから止めろ、穢れる。

「すっごい!超カワイイっスね!恭子ちゃん今日はお姉ちゃんにまかしとき」

年上と話すとき意外は基本関西弁が出る夏海、なんか喋り方が姉御っぽく聞こえる」

「え?え?・・・・・何をですか?」

一体、何をするのか知らない恭子は戸惑いを見せる。
まぁ、こんなところで立ち話もなんだろう。

「とりあえず、中に入ってゆっくりしてくれ」

お邪魔しますとリビングへ入り、ソファーに腰掛ける二人。

「あの・・朝がまだでしたら、簡単なものでよければご用意しますけど」

「いいの?食べてなかったからお腹すいとったんよ。ヨロシク」

遠慮の無い夏海。恭子も是非見習って欲しいところだ。

「恭子ちゃん、俺も、俺も!」

「はい、少し待っていてくださいね」

恭子、こいつにはやらんでいい。
そしてふたりが、多分恭子の事だろうが、なにやら俺にはもったいないとか失礼な事を言っているうちに軽食の準備が出来た。
テーブルに並ぶ朝食、フレンチトーストに卵サラダそしてコーンスープ。

「えー、全然簡単やないやんか!普通に食パンとか思うてたのに、すっごいなぁ!」

驚け、これが恭子クオリティ。
直樹はいただきますも言わずに食べ始める。

「すっげぇうめぇ!ちょっ、マジで恭子ちゃん俺と付き合わない?」

駄目だ、お前にはやらん。
夏海がすかさず、彼女さんに言いつけるっスよと言うと、黙りこくったので俺の出番はやってこなかったけど。
そんなやりとりに、あははと苦笑いする恭子は玄関先の「今日はまかせとき」発言が気になったのか、夏海に顔を向けるが、

「えっと、あの・・・」

なんと呼べばいいのか解らない様子の恭子。
それに気がついた夏海はようやく自己紹介をはじめる。

「ああ、ゴメンゴメン、名前ゆうてなかった。ウチは夏海 菜月でナッツナツ!気軽になっちゃんと呼んでな。・・・ちなみにこっちは木下 直樹先輩、気を許すと5番目辺りの彼女にされるから気をつけや」

変な事吹き込むな、と講義する直樹だが、、まぁ、大体あってる。
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/02/21(火) 20:30:02.92 ID:3TZQKR1M0
「それで、ええと、菜月さん。今日は私はどうすればいいのでしょうか?」

「ほんま真面目な子やなぁ、なっちゃんでええゆうてんのに、まぁ、今日な。恭子ちゃんが変身するんや。更なる高みに登るんやで」

さらに??な状態になる恭子だが、

「恭子、夏海に任せとけばいいよ。こいつは色んな店しってるみたいだから」

そして俺は、そうそう軍資金だな、と言い、財布の中から2万取り出し夏海に手渡す。

「チッチッチ、渡辺サン、駄目っスよ。乙女はお金が掛かるんです」

そう言うと、更に手を差し出してきたので、仕方なくもう一枚同じ人物の紙幣を財布から取り出した。

「これって、自分のお昼代も入ってるっスよね?」

勝手にしろ。

「やったー、恭子ちゃん今日はパミパミのランチやでー」

パミパミって何だよ。
ツっこもうとするも、夏海は戸惑う恭子の手をとり彼女の乗ってきた車で早々と出かけて行った。
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/02/21(火) 21:20:30.56 ID:3TZQKR1M0
「あれ、お前は行かないのか?」

コーヒーのお代わりを自分で入れだした直樹に問いかける。

「何言ってるんですか?今日はあの店グランドオープン初日でしょう?」

パチンコかよ。

「さぁ、ぼちぼち準備しましょうや」

俺も行くのかよ。
そして俺たちは直樹の真っ白な爆走しようのスポーツカーに乗り、郊外にあるパチンコ店で夕方まで遊ぶ。
俺は投資千円で大当たりしたのだか、出たり飲まれたりで最終的には全部打ち込んだ。
まぁ千円で半日以上遊べたから満足だ。
直樹はというと、ちょこちょこ台を変えながら4箱ほど持って終えることが出来、この店の売りであるスーパーのようなでかい景品コーナーの一角にある北海フェアで色々物色していた。

「恭子ちゃんにナベしてもらおう」

そんな事を言いながら、カニやらサケの切り身やら魚介類を大量に交換する直樹。

「さぁ、そろそろ帰りましょうか?」

帰り道、車の中で俺と直樹は少し真剣な話しをしていた。

「ナベさん、九州のほうのヤツぼちぼちコケそうじゃないですか?手を打っとかないと」

「ある程度の損害は覚悟しているさ。でも、今動いちまうと上が何時までたっても気がつかんからな」
「そりゃ、そうでしょうけど、ケツもつのがウチな以上、あんまり引っ張るのは」

「そこらへんは多少考えてある、お盆空けには気付くようにしてあるさ」
39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/02/21(火) 21:47:10.28 ID:3TZQKR1M0
凄く中途半端なところですが、胃の調子が悪くなってきたので今日はここまでにします。
40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/02/22(水) 06:38:08.20 ID:w5KCfG/+o
おっさんもいろいろ大変なんだな
41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/02/22(水) 19:28:35.08 ID:4p/o4Vep0
とりあえず、夏海、恭子編を終わらせておきます。
42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/02/22(水) 19:29:39.45 ID:4p/o4Vep0
マンションに帰り着いた時、まだ夏海の車は駐車場に無かった。先に俺たちが戻ってきたらしい。
それを見て直樹は、今日車を置いていって言いですか、と聞いてくる。
二人が帰ってくるまでちょっと一杯やろうということか。
俺たちは景品のスモークサーモンをつまみにビール、チューハイ、柚子コマと順調に酒瓶を空にしていく。
それにしても、二人が遅い。
晩飯はみんなで食べようと言ってあったのでそんなに遅くはならないと思っていたので少し心配になりかけた頃、ようやく玄関の扉が開く音がした。

「遅くなりましたー!もうしわけないっス!」

「お帰り、随分時間が掛かっ・・・?」

俺は、言いかけて夏海の後ろからひょこっと姿を見せた恭子を見て言葉が止まる。

「あの・・・・・ただいまです」

こいつはたまげた。
元々、素材はいいのだが、なんか色々加工されて帰ってきた。
垢抜けたと言えばよいのか、まさに今からミスコンのステージにでも立ちそうな勢いだ。
43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/02/22(水) 19:30:28.01 ID:4p/o4Vep0
「うひょー!恭子ちゃん。バッチリ決まってんじゃん!」

「すごいっしょ、美容室髪いじって、服買って、お昼食べたり、コスメやったりしてたから、こんなに時間かかったっス」

「似合ってるぞ恭子」

本当に、似合っている。酔いが醒めちまったくらいだ。

「あの、・・・その、ありがとうございます」

てれってれの恭子。
そして随分と頑張ってくれた夏海にお礼を述べる。

「夏海もサンキューな」

「いえいえ、自分も楽しかったっスから、恭子ちゃんもスッゴイいい子だし。友達になっちゃったっスよ」

「良かったな恭子」

「はい、菜月さ・・・なっちゃん・・・さんに、凄く良くしてもらえて。お洋服とか一所懸命選んでくれました。色んなお店に行けて、すごく楽しかったです」

本当に嬉しそうに話す恭子。口数があまり多くない恭子にとっては珍しい。
なっちゃん、というのは無理やり言わされているんだろうが、恐らく次ぎ会う頃には菜月に戻っている事だろう。

「そんなこんなで、お腹ペッコペコっす!」

ご褒美に旨いもん食わせろよ、と、視線をこちらに向ける夏海。

「そうだ、恭子ちゃんお鍋、お鍋!ほら見て、戦利品こんなにモッサモサ」

直樹はここぞとばかりに、魚介類の入ったビニール袋をドンと机の上に置く。
それを見た夏海は、でかした先輩と、カニだあ、ホタテだあ、大騒ぎ。

「恭子疲れているところ悪いな」

「いえ、急いで準備しますね。美味しいお鍋にしますから、直樹さん」

そういって、いそいそと準備を始める。
隣の直樹は、今名前呼んでくれた、名前呼んでくれた、と、鬱陶しくてしょうがない。
こうして、北海海鮮パーティーが始まり、一通り平らげたところで二人は自分たちの家へと帰っていった。
ちなみに直樹は夏海の車で送っていってもらっている。

「お疲れ、恭子。後片付けはそこらへんにしといて、ゆっくりしたらどうだ?」

あ、はい、と頷く恭子はお茶を入れてくれて二人で落ち着いた時間を過ごす。

「そういえば、お前の・・・恭子の誕生日、今月末だよな?」

ついつい、お前と言いかけてしまう。駄目だなちゃんと気をつけているのに。

「あ、・・・覚えていてくれてたのですか?」

「当たり前じゃないか、何か欲しいもんは?遠慮しなくいいぞ」

「何もいらないです!もう、十分すぎるくらい、それ以上におじさんからは色々頂いているんです。今日の事だって凄く贅沢なことなのに・・・これ以上は罰が当たってしまいます」

その、遠慮とかじゃないです、と、言う恭子。
やっぱりな、と思う俺だったが、続いた言葉は意外だった。

「でも、・・・その、よかったら、・・・お誕生日の日はおじさまとケーキを食べたり出来たら、その、・・・とても、嬉しいです」

そう言うと、恥ずかしくなったのか、後片付けつづけないと、と、恭子はキッチンへ戻っていった。
ケーキ、ケーキねぇ。
なんか知らんが、俺、超ニヤニヤしてるんだけど。
そんな風にして今日一日は終わりを告げた。

余談だが、翌日仕事中にもかかわらずとっちゃんから電話が掛かってきた。

『オジサマ、何余計な事してんの!?キョウの近く超ウザイ事になってんだけど!男子の視線とか、男子の視線とか!』

通話口がなにやら騒がしい。
そして、もう一つ。
その日学校から恭子が難しい顔をして持ち帰ってきたもの。
内申書ではないが、通知表の先生のコメント欄にしっかり通されていた。花マル印。
中にはライオンさんの絵と大変よく出来ました。

「・・・おじさんの所為ですからね」

爆笑した。
あのお方は笑いを十分に理解されていらっしゃる。
44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/02/22(水) 19:37:19.11 ID:4p/o4Vep0
以上で、夏海恭子編終わりです。
45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/22(水) 23:20:06.47 ID:Wo+2E1fB0
乙。

……。なんと言うか……。内容自体は面白いんだろうけど、見る気が起きないww
かなり惰性で読んだ感じが否めません。

投下量をもう少し抑えて、漢字もっと開いて、行間も空ければ見易くなるんでない?

46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/02/23(木) 23:29:22.24 ID:Bu565B7U0
面白い
47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/02/26(日) 09:52:38.94 ID:uPrNXkkG0
45≫アドバイスありがとうございます。
見やすいように工夫してみます!
ちなみに、投下量というのは一レスのことなのか、一日でのことどちらなのでしょうか?

他のにも皆さんに見てもらえるような小説にしていきたいので
他にも注意点やアドバイスがあれば皆様教えてください。
よろしくお願いします。
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/26(日) 10:05:52.94 ID:q4q2vNoSO
なにこれこわい
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/03/04(日) 20:54:59.83 ID:nwddT+5O0
結構間が開いてしまいましたが。続きです。

姫ちゃん編書きます。

後、アドバイスを頂いたので行間隔をあけて、長レスにならないようにしてみます。
50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/03/04(日) 20:57:38.46 ID:nwddT+5O0
「おじさまのから揚げもーらいっ」

隙を見ては俺の皿からおかずをくすねるとっちゃん。

「なぜととっつあんが飯を食ってる?そして俺のおかずを奪う」

ここ毎週この子の顔を見ている。

遭遇確立は、とっちゃんが家に来るのと俺が早く帰る事と重ならなければ発生しないことから、とても低いはずなのに。

まさか、毎日来てるのではなかろうな。
51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/03/04(日) 20:58:29.93 ID:nwddT+5O0
「ソレはアレだよ。過保護のおじさまがキョウに渡しすぎてる食費代の消費に貢献してるのと、・・・・・から揚げは、オジサマのダイエット?」

確かに揚げ物はカロリーが高いが。

いやいや、っていうか、俺はそんなに食費を渡していない。

俺は、恭子に食費込みお小遣い兼バイト代を毎月渡している。

余った分が自分の小遣いになるシステムにしておけばやりくり上手スキル上達にもなるし、と思い採用したシステムだ。

それで、ネットで調べたのだが、大人一人の平均食費は月三万、高校生のお小遣いは1万円位。

合計7万円渡そうとしたのだが、本人が3万円位で十分ですと言い張り、結局は間をとって5万になったわけだが。

「恭子、食費足らないだろ?やっぱり7万にした方が・・・」

「おじさんの金銭感覚少しおかしいです」

「キョウ、男の一人暮らしなんてそんなもんだよ」

チキショウ。

何故だ、俺一人の時より旨いもん食ってるのに、今の二人分の食費のほうが安い。
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/03/04(日) 20:59:28.29 ID:nwddT+5O0
「ちなみに、キョウ。おじさんにあの事言った?」

「えっと・・・それは」

「なっ、何のことだい?隠し事かい?隠し事かい?」

2回言ってしまった。

彼氏が出来ました、とか言われるのかなぁ。

「キョウやっぱり、言ってないんだね」

言いにくい事なのか。

「オジサマ、明日キョウは私の家でお泊りデス」

「お泊り!もうそんな仲なのか!」

「いやいや、そんな仲ってキョウは親友ですし。オジサマ何か勘違いしてない?」

間違えた、彼氏じゃなかった。
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/03/04(日) 21:01:40.49 ID:nwddT+5O0
「ウチのお母さんが、最近結構ここでご飯たべて帰るから、たまには連れて来なさいって」

「あの、おじさん。ちゃんとご飯とか準備して行きますから、ダメですか?」

あれ?俺は呼ばれないんだ。

「いやいや、そういうことなら結構、ご飯も準備しなくていい。たまには連れがやってる店に顔出してやらにゃイカンし」

存分に百合ってこい。

「すみません、おじさん。では、明日はとっちゃん家でお世話になってきますね」

「お世話します」

そういうとまたヒョイと俺の最後のから揚げを掻っ攫う。

まぁ、充実した日々でなによりだ。
54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/03/04(日) 21:04:13.34 ID:nwddT+5O0
翌日、就業時間が過ぎ残業3Hをようやくこなし終えたPM8時過ぎ。

「ナベさん。今日そっち行っていいですか?恭子ちゃんのご飯が恋しくなっちゃいまして」

「残念だな、直樹。恭子は友達の家でお泊りだ」

家にいたとしても拒否るけど。

「家出スか?風呂とか覗いたのがバレたとか?」

「馬鹿か」

「まぁ、ナベさん手際よさそうだから、ばれる様なヘマはしないか」

そういう問題じゃねえよ。

たまには彼女の不味い手料理でも食うかと余りにも失礼な事を言う直樹に続き、俺も会社を出た。
55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/03/04(日) 21:05:08.69 ID:nwddT+5O0
向かうは同中の連れがやってる居酒屋。本人はバーとぬかしており、確かにちょっとお洒落に頑張っているが、居酒屋だ。

キョウが家に来てから一度も顔を出してないので多少は太っ腹に店の売り上げに貢献してやるか。

そう意気込んで店に入るが、店内で意外な人に声を掛けられ驚いてしまった。

「あら、渡辺さん。奇遇じゃないですか?」

恭子の担任の吉沢先生だ。

カウンターの端でポン酒を呑む姿は余りにもシュールだが、他に誰かと来ている様子が無い。

「あっ、吉沢先生。こんなところで本当に奇遇ですね。ひょっとしてお一人で?」

そう言うとムッとした顔をする先生。

聞いちゃイカンかったかな。

「悪い?一人で飲みたい時もあるのよ・・・ブツブツ」

うわぁ、結構酒入ってんなぁ。
56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/03/04(日) 21:05:51.30 ID:nwddT+5O0
「いえいえ、俺も一人ですから」

「ふーん、まあ、聞きなさい。先生ってのもね、結構疲れるのよ、あっ、店員さんこっちの人にビール・・・で、良いわよね」

あれ?俺一緒に飲むことになってる?

一人で飲みたいって言ってたのに。

とりあえず、はぁ、と答える俺。

「いろいろウザイのよ、保護者とか、物理のババアとか、教頭とか、教頭とか、教頭とか!」

ウザイとかババアとか言わないで。

完全に俺の知っている吉沢先生ではない。

それに教頭よ、何をしたのだ?

「はぁ、それは大変ですね」

あ、俺の連れの店主がニヤ顔で写メとってる。

あとで強制消去しておかねば。
57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/03/04(日) 21:06:20.75 ID:nwddT+5O0
「あら、そっちも大変じゃないの?あんなに可愛い猪八戒・・・もとい、恭子ちゃんと一つ屋根の下で。荒ぶる本能が抑えられないんじゃなくて?」

色々、ちょっと待て。

なぜ猪八戒と間違えた?あのスリムボディーにブタはねぇだろ?

後、発想が直樹と同じだし。

そんなこんなで、俺の事1%、九分九厘先生の愚痴だった居酒屋タイムは先生が潰れた事で終了した。
58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/03/04(日) 21:07:00.29 ID:nwddT+5O0
店を出てフラフラの先生を家に帰さねばと、タクシーを捕まえようとしたが、今にも吐きそうな先生を見てとりあえずは近くのコンビニに向かう。

「先生、もうちょっと我慢してください。もうすぐコンビニですから」

肩を貸してゆっくりと進むも無理、吐く、と今にも戻しそうな勢いだ。

なんとか耐え切り、コンビニの駐車場までたどり着いたのだが、そこが限界だったらしい。

「おえーーー」

俺は、先生が全部出し切るまで背中をさすってやる。

そんななか、悲劇が起きる。

コンビニの自動ドアから出てきたのが、一人は今朝まで一緒にいた女の子と、昨晩一緒にいた女の子の二人組。
59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/03/04(日) 21:07:45.63 ID:nwddT+5O0
「あれ?おじさん?・・・吉沢先生?」

恭子が唖然としたのか、ポトリと買い物袋を落とす。

アイスが入っているのを見ると、寝る前のオヤツを買いに来たのか、女の子らしい事だ。

違う違う、冷静に分析している場合じゃない。

「恭子!、それにとっつぁん。これは、違うんだぞ、誤解だ、誤解」

俺は、偶然という言葉をゆうに10回は使い手振り身振りで誤解を解こうとするも。

「ねぇねぇ、オジサマ。・・・アウトー!」

親指を突きたて目一杯腕を伸ばすとっちゃん。

一生懸命説明したのにアウトだったらしい。

解ってもらおうと更に必死になろうとしたところ、

「まぁまぁ、オジサマにそんな甲斐性がない事ぐらい、キョウも解ってますよー。私は面白いから二人の爛れた仲を期待してたケド」

くそう。からかわれてたのか。

ちなみに恭子は俺の必死の言い訳・・・じゃなくて、説明でなんとか理解してくれたみたいだ。
60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/03/04(日) 21:08:53.24 ID:nwddT+5O0
「それより、吉沢先生は大丈夫なんでしょうか?」

吐いた後、眠り込んだのか、駐車場で横たわって声を掛けても起きる気配が無い。

「えー・・・二人とも先生の家とかワカルカナ?」

ブンブンと首を振る二人。

こうなれば、アレしかないよなぁ。

「あー、今から二人に重大なお知らせがあります」

今度はコクコクと首を振る。

「今日のお泊りはウチの家に変更です。とっつぁんはご両親にうまく誤魔化して下さい」

「しょうがないなぁ、キョウが自分家じゃなきゃ眠れないとか言っとくよ」

スミマセン。
61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/03/04(日) 21:09:54.67 ID:nwddT+5O0
結局先生は家に連れ帰ることにした。

勿論、二人も一緒に来てもらうのは、変な誤解を生まない為である。

お持ち帰りとか言われても困るしな。

家に着くと、恭子がリビングに布団を敷いてくれ、吉沢先生を何とか寝かせる。

無論、上着を脱がすのとか、シャツの上のボタンを外すのとかも二人にまかせたさ。

正直疲れきった俺は、二人にご苦労と言い寝室に向かい、風呂も入らず寝ようとしたが、なんかこう、色々あり寝付けなかった。

先生の愚痴を延々と効かされてた所為か、店では酒も余り飲んでないのもあり、俺は深夜遅くまで自室で酒を飲むのであった。

明日が休みで本当によかった。
62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/03/04(日) 21:10:44.44 ID:nwddT+5O0
そして翌朝、渡辺純一はまだ自室で寝ている。

リビングではようやく起きてきた吉沢先生と二人の女の子がご対面。

「うぅーん、・・・気持ち悪い」

ポリポリと眠たそうに頭を掻く吉沢先生。

「アハハ、なんか、姫ちゃんのイメージが完全に崩れちゃった」

「あー・・・相葉さん。・・・認めましょう、確かに他に類を見ない不祥事です。でもね、そんなもん、見つかって面倒なヤツに知られなきゃ別にいいのよ」

そう言うと、胡坐を掻いて開き直る。

「不祥事というか、そのキャラ的なものなんだけど・・・」

「解った!解りました。・・・」相場さんは結構遅刻が多いです。・・・そうね、半分にしときます」

とても解りやすい口止め。

「いやいや、交換条件とか求めてないし」

「それじゃ足りないって言うの?・・・じゃあ、こうしましょう。プラスで今日二人を映画に連れて行って上げるわ」

「私もキョウも別に何も要らないですケド」

「別に、私が見たいのよ、映画。・・・・・それと、神海さん!」

驚いて、ひゃい!と返事する恭子。

「・・・・・朝はお茶漬けかなんか、軽いものにして」

「ダメだ・・・この先生」
63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/03/04(日) 21:11:22.17 ID:nwddT+5O0
所変わって、渡辺純一の寝室。


俺はケータイの着信音で目を覚ます。

誰だ一体こんな休みの朝から。

「はい、もしもし。渡辺は寝てますが、なにか」

電話の相手は会社の他部署のヤツだった。

用件は今から会社に来てくれとのこと。休日なのに。

「いやいや、無理でしょ。今からスグなんて酒も抜けてないし、車運転できねえよ。・・・えっ?タクシーで来いって、・・・はぁ?マジで言ってんのかよ。・・・はいはい、了解」

休日出勤している部署からの依頼、システム不具合でウチの部署でしか対応できない事が発生したらしい。

俺は不貞腐れながらも急いで着替え、自室からリビングへ出ると三人の姿が目に入った。

そうだった、先生が居たんだった。

あちゃあ、時間が無いのにどうしよう。
64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/03/04(日) 21:12:43.99 ID:nwddT+5O0
「あ、吉沢先生。おはようございます、もう大丈夫なんですか?」

俺は慌てふためいて謝罪やらなんやらする先生の姿をそうぞうしたのだが、

「ええ、まぁまぁです。渡辺さんは今から出勤?休日なのに大変ねぇ、二人は今日私が面倒見るから気にせず行ってらしてー」

そう言ってダルそうに手を振る先生。

アンタが少しは気にしろよ。

昨日は酔っ払ってたからキャラが違ったように見えたが、これが素なんだ。女はわからん。

「はぁ、お願いしますね、それでは行ってきます」

「あっ、おじさん!出勤になったのですか?今、お茶漬けが出来ますので食べていってください!」

時間無いけどなぁ。

キッチンに見えるのは明らかに本格的なお茶漬け。お茶漬けの元使えよ。

旨そうだから仕方ない、タクシーの中で食おう。

俺は恭子からアツアツのお椀を受け取って外に出た。

「うわぁ、私お茶漬け持って外に出る人、始めて見た。オジサマも先生も大物だ」

パンを咥えてなら解るけど、と呟いているとっちゃん。

キニシナイ。

結局ドタバタで終わった二日間。

出勤も他部署のヤツらの申し送り不足で不具合でもなんでもなく只のシステムの操作ミス。

無駄足だったのだがタクシー代は誰が出してくれるのだろう。

そして帰るとみんな遊びに行ってて一人ぼっち、そんなオチ。

まぁ、吉沢先・・・姫ちゃんの素が見えたからいいとするか。

ティーチャー覚醒。
65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/03/04(日) 21:14:00.85 ID:nwddT+5O0
以上で、姫ちゃん先生編終わりです。
66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/04(日) 21:52:27.82 ID:f4FBiqgGo
これはニコ厨[ピーーー]って言っていいのか
67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/03/06(火) 05:51:23.58 ID:rUAWUguIO
おちんこ
68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2012/03/12(月) 16:16:19.27 ID:Bn1D8f8to
楽しみに待ってるんだが、生存しているかい?
69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/03/12(月) 16:31:41.88 ID:5Jxm0yOe0
生存しています
70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/03/12(月) 16:38:53.94 ID:5Jxm0yOe0
≫68さんに質問があるんですがいいですか?

71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/03/14(水) 19:24:30.76 ID:dU3jt8rl0
なんだこれ
おっさんが可愛く思えてきたwww
72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2012/03/25(日) 08:07:05.23 ID:/Gsu6Sw7o
>>70
どした?
73 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2012/04/07(土) 17:57:58.52 ID:+70U/rKo0
時間が空いてしまってすいません。

引越しが無事すんだので続きを書きます。

といっても、もう最後の畳み込みですのでもう少しお付き合いください。

それでは、まずは最終話冒頭を書きます。
74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2012/04/07(土) 17:58:53.39 ID:+70U/rKo0
今は8月の頭、暑さも本格的に猛威を振るい始めている今日この頃、我が家はやんごとなき事態に陥っている。

「オジサマ、どしたー?難しい顔しちゃって」

そりゃ、難しい顔にもなるさ。

「お箸も余り進んでないようですし、もしかして体調でも・・・」

恭子よ、心配は嬉しいが、体調は別に悪くない。

「そうですよ、余り眉間に皺を寄せると小皺が増えてしまいますよ、渡辺さん」

何故か増えてる?今まで対面が埋まるだけだった食卓が四方向全て埋められている。

ってか、とっちゃんはともかく、姫ちゃんまで何故、飯を食ってんだ。

そう突っ込むと、

「いや、コンビニでお弁当を買おうとしていましたら、恭子さんが是非と」

うん、それは昨日の話でしっかり食って帰ったじゃん。

「意外と細かいですね。解りました!それでは御夕飯の対価としまして、これからは1膳に対し1揉みでいかがかしら?」

えっ?揉んでいいのソレ?と1点を凝視する。

「肩を」

そういうと姫ちゃんは食卓をバンバン叩きながらエロいわ、エロいわコイツ!と豪快に笑い出した。
75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2012/04/07(土) 17:59:58.91 ID:+70U/rKo0
何故俺が飯まで食わせた上に肩まで揉まにゃいかん。どんだけ奉仕させるつもりなんだ。

っつーか、完全に出来上がっている。そんな姫ちゃんの姿をみて俺は重大な事に気付く。

「あっ、俺の最後の柚子コマ!もう空っぽじゃねえか!」

ああ、1瓶二千円近くするとっておきの俺の果実酒が。

無念である。

「おじさん、すいません。私、すぐ買ってきますから!」

そして何故か、恭子が謝る。

恭子よ、不可能だ。柚子コマは遠くのコンビニしか売っていないし、それに・・・

「無理よ、ムリ。高校生がお酒を買える筈無いじゃない。渡辺さん、諦めなさいな」

そう言うと姫ちゃんはまた食卓を小突きながら笑い出す。

なんだこのティーチャーは!

「ま、まぁ。柚子コマは別にいいとして。吉沢先生、若い女の子がいる所であまり下ネタというか、そういった冗談は・・・」

「何を言っているの渡辺さん。今日日の若い子は進んでいるんです。恭子さんだって色々な男子と神聖なる教室や屋上、校舎裏、そして保健室、新たな刺激を求めて色んな事シちゃってるんですよ」

だ、誰かこの先生を止めてくれ。そう思いつつも本当の事だったりしないよな?と不安になる。

「はい?私が何をですか?」

恭子が少し首を傾げる。よかった理解していない様子だ。

「そりゃあ、貴方。何って、セッ・・・イタイ、イタイわ、相場さん」

よかった、とっちゃんが救世主か。

ポカポカと先生を叩き私だってまだキョウをイジれてないのに、とちょっとズレた事をブツブツ言い出した。

確かに恭子はイジられ屋といしては最高の資質を持つも、天然の性格とふんわりとしたオーラが相まってなかなかイジれない、そんなイジリー共にとって至高の存在といえる。
76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2012/04/07(土) 18:01:01.18 ID:+70U/rKo0
まあ、こんな日常の事など正直どうでもよい。やんごとなき事情とは昨晩の事だ。

昨日掛かってきた電話を偶然俺が取れた事がせめてもの救い。

掛かってきた相手はかつて形の上で保護者であった恭子の叔母。

恭子に聞かれたくない話であったので明日、会社から折り返し電話すると言い、今日職場で詳しい話を聞いた。

内容はこうだ、師匠が無くなってから売りに出していた家に買い手がついたので、家から必要なものを運び出して欲しいとの事。

とっちゃんと、姫ちゃんが帰って行き、恭子が洗い物を済ませた後、俺は意を決して恭子に伝える。

「恭子、昨日叔母さんから電話があったんだが、師匠の、恭子の住んでいた家が売れたらしい」

「・・・そうですか、もう売れたんですね」

寂しそうな顔をする恭子。

「最後に一目見ておくか?」

「いえ、見てしまうと多分、きっと・・・」

泣いてしまうから、か。

俺はそんな恭子の顔をみて決断する。恭子の家のものは、こいつの思いのつまったものは全て俺が運び出す。

そして、恭子が完全に元の自分を取り戻したとき、返してやるんだ。
77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2012/04/07(土) 18:04:28.90 ID:+70U/rKo0
「恭子、誕生日でっかいケーキ買ってくるから二人で食おうな」

俺がそう言うと、寂しそうな顔をしていた恭子が、

「はい、楽しみにしています」

微笑む。
78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2012/04/07(土) 18:05:12.00 ID:+70U/rKo0
とりあえず、ここまでですが、すぐに続きを書けると思います。
79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2012/04/07(土) 21:14:01.33 ID:+70U/rKo0
続きです
80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2012/04/07(土) 21:14:29.19 ID:+70U/rKo0
そして日曜日、恭子には仕事があるといって家を出てきた。

もちろん、師匠宅の物の運び込みである。既に貸し倉庫の契約は済ませてあるので、レンタカー屋で4tトラックを借り、そこへ運び込む。

人手としては直樹にこんどなんか奢るからと頼み込んだが、事情を話すと、ナベさんの頼みは京子ちゃんの頼み、礼などいらんわ!と真顔で承諾してくれた、

こいつは本気で恭子のことが好きなんじゃねえだろうな。

高速をすっ飛ばす事2H、師匠宅へ到着する。

そして一足先に来ていた、恭子の叔母と対面。

「意外と早かったのね」

この人は、今も電話でも恭子のことは一切聞いてこない。

普通ならどういう生活をしているか、少しは気になるはずなのに。

「いえ、直ぐに運び込みますので」

「ええ、そうしてもらいたいわ」

この人は俺達が持ち帰るもの以外の物の処分でここへ来ている。

何一つ残すものか。
81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2012/04/07(土) 21:15:15.18 ID:+70U/rKo0
「直樹、着いて早々悪いが、頼むぞ」

「いえ、若いですから」

俺はおっさんってか。

俺たちは、サクサクとトラックへ運ぶ、大物は二人で、小物はダンボールにガンガン積め込み、3時間もしない内に大方綺麗に片付いた。

そしてトラックの荷台にシートを被せ、直樹がシートをロープで縛っている最中の事、3人の女の子がこちらに向かってくる。

「あの、ひょっとして、恭子の、いえ、神海さんのご家族の方ですか?」

一人の女の子が俺に聞いてきた。

「ああ、恭子は今、俺と一緒に暮らしているが、ひょっとして君たちは?」

すると、もう一人の女の子が前に出る。

「はい、私たちは恭子の友達なんです。ご両親が亡くなってから急に転校が決まって、携帯も繋がらなくなって、連絡もとれなくて・・・」

胸の前で両手を組み心底心配そうに尋ねてくるその仕草はその子達にとって恭子はとても大切な存在だったのだろう。

「ああ、大丈夫だ。確かにまだ辛い出来事から完全に立ち直った訳ではないが、最近は笑顔も良く見せるようになったし、すごく元気になったと思う」

よかった、そう三人の女の子は言い、喜び合う。

「恭子は、まだ踊ってますよね?私たちダンスグループなんですけど、恭子は一番上手で本当に好きだったから。・・・あの、お帰りになられましたら、是非私たちがまたいつか一緒に踊れたらと恭子に伝えていただけませんか?」

踊る?

ちょっと待て、俺は何故忘れていたんだ。

そうだ、小さい頃から恭子のダンスがとても好きだった。

師匠が親馬鹿のように俺に自慢していた。

家に着てから恭子はそんな様子は全く見せなかった。趣味を聞いても料理や家事としか言わない。

何故、あんなに好きだったものを、やめてしまったのか。

俺が中で色々な疑念が渦巻く中で恐らく俺たちのやり取りを見ていたのか、叔母が声を掛ける。

「あの子はまだそんな事をしてるのかい。アンタも大変だね。家に居ついていた頃も公園で一人で変な踊りをしていたから、引っ叩いてやったのに、近所の笑いものだよ」

叔母の発言に、女の子たちは酷い、何故そんなことを、と悲しそうに口々に言う、中には涙を流す子も居た。
82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2012/04/07(土) 21:15:58.92 ID:+70U/rKo0
「もう家の荷物は全て運び終えたので、大丈夫です。後は、その、恭子の事は俺に任せてください」

俺がそう言うと、フンと踵を返し、アンタが全部持っていったから私がここに来た意味がないよ、と不貞腐れながら家に戻っていった。

そういう事か、あの極限状態の中で恭子の大好きだったダンスは唯一の心の支えだったのだろう。

それを否定された、許されなかった。

近所の迷惑だと、打たれた事が恐らくトラウマになり、自分の中で仕舞い込んでしまった。

また、踊りを始めれば俺にも迷惑が掛かる、いや、追い出されると思っているのかもしれない。

俺は何か出来るのか?いや、なんとかしなければいけない。

「すまない、君たち。俺は知らなかった。でも、きっと何とかするから、ひと月待ってくれ」

俺は彼女たちにそう言って、恭子の今の携帯番号を教える。

「ひと月後恭子に電話してやってくれ、きっとその頃には恭子も喜べるようになっているから」

彼女たちは浮かない顔のままだったが、絶対電話しますから、と渋々帰って言った。

大丈夫、きっとなんとかなる。

俺がなんとかするから。
83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2012/04/07(土) 21:17:16.44 ID:+70U/rKo0
「本当に酷い叔母さんですね。ナベさん本当に恭子ちゃん大丈夫なんですか?叔母さんの話がマジだともう踊りなんて絶対やらないと思うんスけど」

帰りの高速を走っている中、聞いてきた。

直樹はいつもはチャラいというか限りなく軽い雰囲気で今もはたから見ればそう見えるが、正直怒っている。

「一応、考えはある。そこで直樹に聞きたい事があるのだが」

俺がそう言うと、直樹は何でも協力しますよ、言ってください、と先を促した。

そして俺は直樹に自分のしようとしている事を伝えた。

「はははっ、それはいいですね。ナベさんらしい!・・・うん、いいヤツがあります。後で、今日中にでもナベさんのパソコンに送っておきます。おれも偶然そっち関係に興味があったので色々知ってるんすよ」

「たすかる」

「いえ、恭子ちゃんの事頑張ってください。・・・今のナベさんあの時のようですね。目というか、気合というか」

あの時?

「以前会社でウチのチームがトラブルで解散の危機に陥ったときの事ですよ。ナベさんが動き回って飛び回って何とか、解決したときの事です」

二年も前の話じゃねえか。

「菜月がウチの社員になる為頑張りだしたのもそれが切っ掛けらしいですよ」

あいつ、そんな事一言も言ってねえ。

かっこ悪くて素直に言えないんですよ、とまあ、そんなことを言っているうちに契約している貸し倉庫に到着し荷物を全て収納させた。

「それじゃあ、ウチは近くなんで歩いて帰ります。・・・ナベさん俺に出来る事があったらなんでも言って下さい」

「その時は、、また頼む。今日は本当に助かった」

俺はレンタカーを返し、自宅へと帰る事にした。
84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2012/04/07(土) 21:18:43.34 ID:+70U/rKo0
そして自室で直樹から送られてきたデータを一通り見た後、やはりここはとっちゃんにも言っておかなければいけないかと、電話を掛けることにした。

恭子を連れ出してもらう時とか、協力してもらう事もあるだろう。

俺は電話で粗方事情説明する。

『やっぱり、キョウそんな事があったんだ』

やっぱり?何か気付いていたのだろうか。

『うん、私もそのダンスとか結構好きでキョウに見せたり、話したりする事があったんだけど、あの子凄く悲しそうな顔をするから』

私もそれ以上突っ込めなかったし、とそう言う。

『オジサマ、キョウをお願い!私にはどうして良いかわからないケド、オジサマにはなにか考えがあるんだよね!?どうするの?』

「・・・俺が踊る」

そう、俺が踊るしかない。

今までもそうだった、塞ぎ込んでいた恭子を俺は強引に巻き込んで来た。

今回も俺が勝手に踊りまくってアイツを巻き込んでやるんだ。

『あははっ、オジサマが踊るの!?凄い、凄い発想だ!でも、オジサマダンスとかした事ないよね?っていうか、そもそも何を踊るの?』

「部下の直樹がハッピーシンセサイザーっていう曲があるみたいでそれをデータで送ってくれたからソイツを覚えようと思う。あと2週間ちょいしかないけど恭子の誕生日まで一生懸命練習してプレゼントしようかと」

『ハピシンかぁ、中々のチョイスだけど、オジサマ大丈夫?結構キツイよ、アレ』

とっちゃんも知ってるのか、侮れない曲だな。

「大丈夫、めっちゃ練習するから」

『よし、私も練習に付き合う!少なくともオジサマよりはダンスが上手いし、教えてあげるよ』

「えっ、そりゃ、なんというか、その」

『キョウの事は私の事、是非やりたいの。とりあえず時間が無いから明後日、カラオケボックスで曲は私のほうで準備して置くからね』

そう言い放って、とっちゃんは電話を切った。

とっちゃんに相談してよかった・・・のだろうか?

その後すぐにとっちゃんからメールが来て、

『明後日までに少しは練習しておくように』

俺は寝る間も惜しみ、覚えるまでなんどもデータを繰り返しループさせた。
85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2012/04/07(土) 21:19:46.47 ID:+70U/rKo0
とりあえず、ここまで。

物語は佳境です。
86 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2012/04/09(月) 00:34:46.76 ID:vTsMDvht0
最後まで書けましたので一気に投下します。
87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2012/04/09(月) 00:36:31.70 ID:vTsMDvht0
そして二日後、恭子には仕事で遅くなると伝え会社の帰りにとっちゃんの指定するカラオケボックスへ向かう。

とりあえず、この二日間、恭子の目を盗んでは踊りの練習をした。

そして、とりあえず一曲最後まで通してとっちゃんに見てもらった。

「うーん、とりあえず全部覚えたのは本当に凄いと思う。後は上手く踊るにはどうするかだよ」

下手なのは解っている、直樹からのデータのヤツと見比べても全然違う。

まぁ、まだ3日目なのだからしょうがないのかも知れないが。

「オジサマ、とりあえず私が少し踊るのを見ててね」

そういうととっちゃんは1フレーズを2回別々な踊り方をして見せた。

「オジサマ、どう思う?」

「うん、最初のヤツはなんかふにゃふにゃしてて、後のヤツはなんかこうハキハキ踊れてて美しいというか」

「そう、これがいわゆる踊りのキレというものなんだよ。私はキレには“静と動”この二つが重要と思う。動は目一杯大きく体を動かしたり腕を伸ばしたりすること」

とっちゃんは続けて言う。

「そして静は、リズムに合わせてピタッと動きを止める事。最初のがふにゃふにゃに見えたのは動きを止めずに踊り続けたからなの」

「ハピシンはこの静と動が最大限に生かされている踊り、これを意識して踊ればなんとかなるんじゃないかな」

なるほど、とっちゃんの説明は良く解る。

とりあえず、とっちゃんの言う“静と動”を意識して再度踊ってみる。

「うん、全然良くなった。後はひたすら練習するのみだよ。間奏の部分は特に難しいから、大変だと思うけど頑張ろう!」

こりゃあ、恭子のためにも、練習に付き合ってくれているとっちゃんの為にも頑張らにゃあいかんな。

そして、2時間近く特訓した後、俺たちは家に帰る。

残された時間でできるだけのことはやろう。
88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2012/04/09(月) 00:38:03.55 ID:vTsMDvht0
とっちゃんの協力もあって順調に見えた恭子への誕生日プレゼント。

ハッピーシンセサイザーの踊り。

誕生日までのこり1週間をきった時、事態は少し悪い方向へ向かってしまう。

「ナベさんこの日って恭子ちゃんの誕生日じゃないですか。マズイすよ」

例の九州でコケた話だ。

問題の解決の為、俺が九州へ呼ばれた。出張。

「こればかりは仕方が無い。あの踊りだけは完成させてビデオにとって恭子に必ず渡すからそれは心配要らない」

「でも、ガッカリするでしょうね。恭子ちゃん」

一緒にケーキを食べたい。

他に何も要らないと言っていた恭子の願い。

俺は少し気が重かったが家に帰ると仕方なく恭子に出張を伝えた。

「お仕事ですから、仕方が無いですよ。気にしないでください」

「すまないな、恭子」

俺がそう言うと、恭子は俺に気を遣ってか、わざと明るく振舞う。

「おじさん、本当に大丈夫です!とっちゃんもお祝いしてくれるって言ってくれてますし、おじさんはお仕事を頑張ってください!」

とっちゃんには真っ先にこの出張の事を電話で伝えた。

本人から恭子の誕生日は私に任せて俺は踊りのプレゼントに集中するようにと言われている。

そうだ、俺は余計な事を気にしすぎて一番大切な事まで失敗させてはいけない。

気持ちを切り替えていこう。

俺はさらに気合を入れ自由な時間はほぼ全て踊りの練習に費やした。
89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2012/04/09(月) 00:38:40.67 ID:vTsMDvht0
そして恭子の誕生日、俺の出張の日の前々日、とっちゃんに最後の感想を聞くために俺たちはまたカラオケボックスで落ち合う。

「うん、完璧だよ!これならキョウもまた踊りを始めてくれると思う!さすがオジサマ」

お褒めの言葉を頂いた、後は明日ビデオに撮り当日の朝恭子の机に買ったプレゼントと共に置いておくだけだ。

「じゃあ、明日はとっつぁんちに恭子を泊まらせてくれるんだな」

「うん、お泊りリベンジ。この前は姫ちゃんの所為でキャンセルになっちゃったから」

オジサマは気兼ねなくビデオ撮りをすること、と準備万端である。

俺は家へと戻ると明日に備えて今日は早く寝る事にした。
90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2012/04/09(月) 00:39:03.57 ID:vTsMDvht0
8月24日午前9時 出張日前日 屋外

「キョウ、明日の事、残念だったね」

「いえ、おじさんにはお仕事頑張って欲しいですし、私は全然平気です」

恭子は純一を会社に送り出した後、迎えに来た都華子と共に今日、明日を共に過ごす予定。

(健気だ、本当は一緒に居たい筈なのに、やけちゃうなぁ)

「あのとっちゃん、今から一体何処へ行くのですか?」

恭子は都華子にはまかせといて、と言われ今日の予定は何も聞いていない。

「うん、市民プール。今年全然泳げてないからねー」

都華子のその言葉に、恭子はえっ、と戸惑ってしまう。

「えっ、あの私、水着とか準備してません。と、いうか、そもそも学校指定のものしか・・・」

恭子がそういうと都華子はカバンからゴソゴソと何かを取り出した。

「じゃーん、はい。姫ちゃんから。一日早いけど誕生日プレゼントだってさ」

そう言って、取り出す紙袋には水着一式が入っていた。

「吉沢先生がですか?・・・・・すごく嬉しい、お礼を言わないと」

正直思いも寄らなかったプレゼントに、自然と顔が綻ぶ恭子。

「本当は今日一緒に行く予定で直接渡すつもりだったらしいけど、ウチのクラスのタカフミが他校の男子と喧嘩したらしくて、朝、渡しといてくれって」

「三田原くんが喧嘩・・・ですか?怪我とかしてなければいいのですが?」

「大丈夫だよー。基本タカフミはチキンだから。でも今年に入って三回目で理由がウケる。最初は正義の為、次に愛の為、」

そして今回は何の為なんだろうね、と、都華子は恭子にあまり気にする必要はないよと気軽に言う。

「ま、今日は姫ちゃんの分まで目一杯泳いじゃおう!」
91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2012/04/09(月) 00:39:58.27 ID:vTsMDvht0
同日 午前10時30分 市民プール

「うひゃー、凄いよキョウ。女の私でも軽く2度見しちゃうね。姫ちゃんの水着のチョイスもハイセンスだ」

「あ、あの、布地が少ないので、凄く恥ずかしいです」

パレオが付いているのがせめてもの救いなのだが、初めてビキニタイプの水着を着る恭子は恥ずかしくて仕様が無い様子。

「こりゃ、姫ちゃんぐらいじゃないと対抗できないなぁ。あっ、キョウ見て見て、男の人がチラッチラこっちをみてるよ」

あぅ、とさらに恥ずかしがる恭子はとうとうしゃがみ込んでしまう。

(っていうか、姫ちゃんあの水着何処で買ったんだろ?あんなの見た事ないし、超でどこがあやしいんだけど・・・?オーダーメイド?なわけないか)

恥ずかしがる恭子を無理やりプールの中に引き込み、水の中に入る事でようやく恥ずかしさから抜け出す事が出来たことで、都華子達は水泳を堪能する事になる。

元々運動神経が良い二人は、25Mの競泳や水中追いかけっこなど3時間ほど楽しんだ後ようやく、お腹が空いたのかとうに正午を過ぎた頃引き上げることになった。
92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2012/04/09(月) 00:40:35.14 ID:vTsMDvht0
同日 午後7時 相場家

「じゃーん、これが私からの誕生日プレゼンッ!私もちょっとフライングだけど、後、料理も殆どお母さんだけど、このおっきいケーキは私から!お菓子作りだけならキョウにタメ張っちゃうよ」

食卓に並べられた、豪勢な料理と、都華子の自信作のホールケーキ。

都華子は大人たちなら兎も角、同級生の自分からのプレゼントはお返しなど気にしそうと言う事で、悩んだ末のことだった。

本当はもう一つ準備を始めていたのだったが、思い立ってからの日が2週間と短く間に合わずにいた。

「恭子ちゃん、今日は遠慮せずたくさん食べてね」

恭子の母親の勧めと共にうんうんと促す都華子。

「有難う御座います。私なんかの為に、とても嬉しいです」

「はっはっは、足りなかったら言いなさい、私がピザでも取ろう!キミは只でさえ痩せ気味なんだからガンガン食わんとなぁ!」

綺麗な奥さんと若い女の子二人に囲まれる父親、今日一番幸せなのはこの男なのかもしれない。

「「いや、無理でしょ」」

食卓に、並べられた量を見て母子共に突っ込むも、はっはっはっと笑い続ける父親。

「あなた、残った物は勿体無いから全て食べてくださいね」
93 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2012/04/09(月) 00:41:57.95 ID:vTsMDvht0
同日 午後9時30分 都華子の部屋

「とっちゃんの作ったケーキとっても美味しかったです。おばさんの料理もすごく本格的でしたし、今度教わりたいです」

「えへへ、キョウにお菓子褒めて貰えるなんて合格点かな?お母さんにもいつでも作り方聞いたらいいよ」

お風呂に入り終え、寝る準備を始める二人。いや、女の子はここから寝るまでに凄い時間、喋ったりゲームをしたりするので、実際、就寝は深夜になってからだろう。

(よかった、おじさまとの寂しさが少しは忘れられたかな?・・・そういや、おじさま、今頃ちゃんとビデオ撮りできているのかなぁ?)

人は一度考えてしまうと不安になる、不安を覚えるとそれが実際になる。

純一から都華子の携帯に着信が合ったのは、心配になり始めた矢先の事だった。

(オジサマから?)

「ごめん、キョウちょっと電話だから」

ほぼ、恭子に聞かれたら不味い内容である事を予想出来ている都華子は慌てて家の外に出て通話のボタンを押す。

『ごめん、とっつぁん、こんな時間に』

「大丈夫だよ、オジサマ。今は一人だからキョウに聞かれることもないし、それよりどしたの?」

『それは良かった、いや、問題自体はよくない事だな』

都華子はなんとなく感じている、恐らくは明日の踊りのプレゼントになんらかの支障があったのだろうと。

『結論から言うと、明日の誕生日にビデオ撮りが間に合いそうに無い、とっつぁんにも色々協力してもらって本当に申し訳ない事だが』

「どうして?オジサマあんなに頑張ってたのに、何があったの?」

『完全に俺のミスだ。いざ撮ろうと始めたとき、ビデオカメラが壊れてて、どうしようもなくて、もう店も空いてないから、新しいのも買いにいけない』

事前に確認しておかなかったのがいけなかった、と言う純一の声に落胆は大きかった。

「あれだけキョウの事を想って、あんだけ練習してオジサマは諦めちゃうの?」

『いや、ギリギリまで色んなツテを探してカメラを借してくれる人を探すさ、でも明日は早朝から出張だし、店が開く前に飛行機に乗らなければいけないんだ』

「カメラなら!わたっ・・・」

違う。

カメラなら私が貸してあげる!と言い掛けた都華子はそうじゃないと何かに遮られたかのように言葉が詰まる。

(キョウが踊りを辞めたのは叔母さんからの虐待、周りを気にしないで踊れるようになるには、ビデオだけでは・・・)

そう考えた恭子に一つの閃きが走った。

(キョウの為だけのオジサマの踊り、でも皆にみてもらえるような物でないとトラウマは消えない)

「オジサマ!キョウの誕生日は明日!まだ30時間くらいあるよ!」

『それはそうだが、さっきも言ったように明日は九州だ。どう足掻いても間に合わん』

「オジサマは明日九州で新しいビデオを買うの!」

『無論それは可能だが、仮に向こうで撮れたとしてもそれをどうやって・・・そうか!直樹がやったようにデータを送れば!』

「それも違う!」

恭子は続けて言う。

「キョウの為だけの踊りかもしれない、でもそれが回りに見られても気にせずいられる様なものじゃないと、キョウはまた踊れるようにならない」

『とっつぁん、それって?』

「動画共有サイト。オジサマはお昼休みとかに何とか頑張って撮ってサイトにUPする」

『・・・動画共有サイト!?そうか、とっつぁん!有難う!俺、やってみる!いや、必ずUPさせて見せる!』

「オジサマはUP出来たら私の携帯にサイトのアドレスを送って、私がスグにキョウに伝えるから」

そう言うと、純一は解った、絶対に成功させるから、と電話を切った。

(やっぱ、オジサマはかっこいいなぁ・・・だからこの手で決意を掲げた、か。ここはロッキンを入れよう。誕生日には間に合わないけど私もキョウの為に絶対完成させる)
94 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2012/04/09(月) 00:42:48.43 ID:vTsMDvht0
8月25日 午前 10時 九州支社

翌日飛行機で九州に降り立った俺は、タクシーで移動する中途中で新しいビデオカメラを購入し支社へ辿り着く。

「いやー渡辺さん。お久しぶりです、総務の佐々木です。会議は午後からなのでそれまでは資料に目を通してもらうのと現状把握で解らない事があれば私が何でも調べますので」

俺は何度か九州へ来た事があるので、この人とも面識がある。依然会ったのはもう3年ぐらい前になるのだが。

「すいません、佐々木さん。それよりも、昼くらいにでもどこか誰もいない空いている会議室と、その、なんというか、ネットが使えるPCをプライベートで使いたいんだが」

俺の依頼にふむ、と少し疑問を感じる佐々木だったが、以前にも奇妙な行動で九州支社のピンチを乗り切ったこともあり全面的に協力してくれる。

「うん、会議室なら2回の第3をお使いください、終日空いているはずです。パソコンは移動用モバイルの奴なら社内ネットワークから外れていますから普通にデータを消しておけば履歴は残らないはずです。直ぐに準備しますよ」

なんと佐々木いい奴、俺は申し訳ないとお礼を言う。

そして、俺は昼までには会議の準備をしておかなければと、向こうで得られなかった情報を調べる事にした。
95 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2012/04/09(月) 00:43:12.27 ID:vTsMDvht0
同日 正午0時 第3会議室

準備は整った、カメラのセッティングはOK。扉の前のボードにも使用の表記はしてあるし鍵もカーテンも掛けたから大丈夫だろう。

俺やるよ、とっちゃん。

頑張るからな、恭子。

ビデオの録画ボタンを押すと、レンズ下の発光ダイオードが赤く点灯する。

そしていよいよ音楽の再生。

ボタン押してから曲が流れるまでの時間は5秒。手に汗が滲む。

始まるイントロ。

意識しろ!とっちゃんが教えてくれた静と動、目一杯体を動かし停止させる。

間違えることなく順調に進む1発撮り、しかし、俺の体に違和感が現れる。

ちくしょう、腰がッ!

ハードな練習の所為だろうか、蓄積された身体の負担は明らかに出始める。

耐えろッ!アイツの為だろうが!

一番の難関である間奏部に入った時、正直限界だった。

でも、ここで諦めたら、失敗したら全てが無駄になるんだ!

あと少しッ、あと少しだけッ!

持ってくれよ!俺の身体ッ!!
96 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2012/04/09(月) 00:43:59.00 ID:vTsMDvht0
同日 午後3時 都華子の部屋

「どうしたんですか?とっちゃん、そわそわしているみたいですけど?」

「いやー、別になんもないよぅ、えへへ」

(オジサマ、どうしちゃったの?遅いよ、無理だったの?)

一向に送られてこないメールにやきもきする姿は恭子に悟られる程だった。

(オジサマ、オジサマぁ)

恭子にはわからない様に携帯を握りこむ都華子の両手に端末からの振動が伝わった。

その瞬間おもむろに携帯を開き、メール着信のアニメーション画面のをキャンセルさせるようにボタンを連打する。

『サイトUPに戸惑った、遅れてスマン。http://×××××××××××』

「やった!やった!でかした!」

都華子の喜びようにど、どうしたのですか、と驚く恭子。

「行くよ、キョウ!」

え、え、と戸惑う恭子であったが、都華子は気にせず恭子の手をとり相場家を出る。

都華子はなにを喋らずに歩いていく、恭子の手が握られたままに。

昨日も今のように何も告げられぬまま市民プールに行く事になったのもあり、今日もなにかのサプライズなのだろうかと、思う恭子であったが進む先が、近づいていくのが自分の家であったから、疑問が膨らむ。

「あの、とっちゃん?一体・・・」

恭子がそう言うと、都華子はパッと手を離し歩みを止める。

そして、都華子はカバンからメモ帳をペンを取り出し、純一から送られてきたアドレスを写し、間違いが無いか何度か見返し、恭子に手渡した。

「私の役目は此処まで。後はオジサマにまかせた」

都華子は恭子の後ろに回り、本人の住むマンションの方へと背中を押した。
97 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2012/04/09(月) 00:44:27.26 ID:vTsMDvht0
同日 3時30分 恭子の部屋

一体、何がなんだかわからないまま恭子は自室に戻り机に向かう。

都華子に渡されたものがインターネットのURLであるという知識は持っていたのでそれが関係しているのだろうとPCの前まで進む。

すると、恭子の目に映る一つの包み。

それが純一からのプレゼントである事はすぐに理解した。

「お財布、こんなに高級なブランド。おじさんだってボロボロのお財布を使っているのに」

純一からの心遣いにたまらない想いが駆け巡ったが、恭子の疑念は更に広がる。

ならば、このアドレスは一体なになのだろう?

PCを立ち上げ、ネット接続を始める為、マウスを操作している時だった。

さっきは財布の包みに気をとられ気付かなかったモニター横に置いてある便箋。

(手紙?おじさんから?)
98 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2012/04/09(月) 00:47:11.54 ID:vTsMDvht0
新しい家族へ

誕生日おめでとう恭子。

----------ハッピーシンセサイザ 君の 胸の奥まで

先ずはごめん、今日の誕生日一緒に祝えなくて。

----------届くようなメロディ 奏でるよ

後、もう一つゴメンな、勝手に部屋に入っちゃって。

----------儚く散った淡い片思い

でもせっかく部屋に鍵を付けたのに使ってない恭子の所為でもあるな。

----------笑い話だね 今となれば

なんか照れるなこういうの。

----------見る物全て 輝いて見えた

まぁ、なんだ、日頃面向かっては言いにくいから手紙に書きます。

----------あの日々がキレイに 笑ってるよ

恭子が家に来てから、俺たちが家族になってから、

----------我慢する事だけ 覚えなきゃいけないの?

もう、4ヶ月とちょっと経つのかな?

----------「大人になって頂戴ね?」 ならなくていいよ

恭子に色々あって、俺なんかで大丈夫だろうか?

----------知らない事ばかり 知らないなんて言えなくて

正直最初は、不安だった。

----------「大変お似合いで」 ウソついてゴメンね
99 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2012/04/09(月) 00:47:41.63 ID:vTsMDvht0
でも、最近は恭子も笑顔が多くなって、今は少し自信がついた。

----------ハッピーシンセサイザ 君の 胸の奥まで

恭子が笑うたび、俺はとても幸せになるんだ。

----------届くようなメロディ 奏でるよ

恭子を引き取ったのも最初は師匠への恩が大きかったからだけど。

----------つまらない「たてまえ」や ヤな事全部

今は違う、なんて言えばいいか難しいけれど、

----------消してあげるから この音で

恭子が俺の家族だから、家族の笑顔を守りたいから、

----------何の取り柄も無い 僕に唯一つ

俺は頑張れる。

----------少しだけど 出来る事

うーん、なんか違うな。

----------心躍らせる 飾らない 言葉
100 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2012/04/09(月) 00:48:10.61 ID:vTsMDvht0
多分、感謝しなければいけないのは俺の方だ。

----------電子音で伝えるよ

今までは気付かなかったけど、一人でいるのはやっぱり寂しかった。

----------好きになる事 理屈なんかじゃなくて

恭子が来てくれたから、寂しくなくなった。

----------「こじつけ」なんて いらないんじゃない?

だから、頑張れる。ごめんよく解らんこと書いてるよな。

----------時代のせいと 諦めたらそこまで

とにかくだ!恭子が悲しい顔してる俺も悲しくなるし、

----------踏み出さなくちゃ 何も始まらない

恭子が笑うと、俺も嬉しくなる。

----------「ゴメンね夜遅く 寝るところだったでしょ?」

恭子が居ないと寂しくなるし、

----------「驚いた 私もかけようとしてた」

恭子が居ると、すごく安心する。

----------心の裏側をくすぐられてるような

だから、頑張れる。そういうこと。

----------惹かれあう2人に 幸せな音を
101 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2012/04/09(月) 00:49:04.80 ID:vTsMDvht0
前、恭子の叔母さんから電話があったよな。

----------ハッピーシンセサイザ ほらね 楽しくなるよ

実はその時恭子の前の学校の友達にあったんだ。

----------涙拭うメロディ 奏でるよ

恭子が踊りが大好きだった事、俺はずっと忘れていたけど、

----------強がらなくたっていいんじゃない? 別に

その友達から聞いて、思い出した。

----------自分に素直になればいい

後、その時叔母さんからも恭子と何があったか聞いて、

----------何の取り柄も無い 僕に唯一つ

恭子が大好きな踊りを止めてしまった理由がわかって

----------少しだけど 出来る事

恭子がまた、大好きな踊りが出来る自分を取り戻せるよう、

----------ちょっと照れるような 単純な気持ち

おっさんだけど一生懸命踊りました。

----------電子音で伝えるよ

もう、見ちゃったか、まだ見てないかわからないけど、

----------ハッピーシンセサイザ 君の 胸の奥まで

ぶっちゃけ、めっさ恥ずかしいけど、

----------届くようなメロディ 奏でるよ

上手な恭子からみれば、笑っちゃうかもしれないけど、

----------つまらない「たてまえ」や ヤな事全部

へたっぴでごめんだけどさ、

----------消してあげるから この音で

それでも、

----------何の取り柄も無い 僕に唯一つ

それでも、どんな言葉よりも、

----------少しだけど 出来る事

いくつも言葉を並べるよりも、

----------心躍らせる 飾らない 言葉

一生懸命踊れば、伝わると思ったから。

----------電子音で伝えるよ
102 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2012/04/09(月) 00:49:34.52 ID:vTsMDvht0
ここは恭子が望めば何でも出来る場所だよ。

----------ハッピーシンセサイザ ほらね 楽しくなるよ

これから、色んなことがあると思う。

----------涙拭うメロディ 奏でるよ

時には喧嘩する事もあると思う。

----------強がらなくたっていいんじゃない? 別に

それでも、少しずつでも、ちょっとずつでも、乗り越えていけば、

----------自分に素直になればいい

きっと、ずっと笑っていられる日が来るから。

----------何の取り柄も無い 僕に唯一つ

俺に出来る事なんてたかが知れてるけどさ、

----------少しだけど 出来る事

そんな日を奏でる為に、俺は君にとっての、

----------ちょっと照れるような 単純な気持ち

恭子にとってのハッピーシンセサイザーになってみせるよ。

----------電子音で伝えるよ

勿論、家族的な意味で(笑)
103 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2012/04/09(月) 00:50:11.16 ID:vTsMDvht0
同日 午後4時 九州支社大会議室

「えー、以上の問題により、復旧の目処は立っておらず、現時点では少なくとも半年以上の遅れが見込まれています」

大会議室に集まる、重役及び各チームの責任者。

問題解決の為に集まった面々である。

粗方、現状把握と摘出された問題が報告された時、俺の携帯に着信が入る。

マナーモードにしているので回りから視線を浴びるという事は無かったが、ポケットのなかでブルッブル震えているのが多少隣に座っている人などにはわかるだろう。

恭子から?

5コール程で切れてしまった。

俺が席を立ち、外へ出ようとした時、

「わ、渡辺くん。何処に行くのかね!まだ会議の途中だぞ!」

恐らくは、俺を呼びつけた重役の一人だ。

「何処へって帰るんですよ」

ザワザワ周りがざわめく。

「今回のトラブル、こうなる可能性は以前から現場は指摘していたはずです」

早く電話を掛け直さないと。

「それをあんたらはずっと放置していた」

恭子になにかあったのかもしれない。

「ウチは既にフォロー体制にはいりつつあります、問題点の洗い出しも修正立案も先ほど仰った事よりずっと先にいます」

もう、1分経った。

「今回のトラブル、3ヶ月で目処を付けないと、莫大な損害が出る。だから俺が直ぐにしなければならないのは部下たちに頭を下げ、休日返上で作業に入ってもらう事」

出口はあそこだ。

「そして、あなた達に出来る事は、要求書にある100、200、1300の追加予算を認める事だけだ」

ダッシュ!


『あ、の、おじ・・さん。ゴメン、な、さい。ぐすっ、・・・おし、ごと中です、よね。ううっ、ごめんなさい。』

恭子が泣いている。家に来てから初めて泣いてくれている。

「いやいや、おっさん、あんま役にたってないから。大丈夫だよ、どうした?」

『て、がみ・・・読み、ました・・・どう、がも見ました。ぐすっ、わた、し、わたし、居て、も、立っても、いられ、なくて、ご、めんなさい』

笑う事を取り戻せた彼女、そしてあの日から、今ようやく泣く事を取り戻すことが出来た。

その事が俺にとっては爆発的な喜び。

「あちゃー、見ちゃったのか!恥ずかしいんだけどな」

『う、まく、言えない、です、けど。・・・わ、たしも、わたしも、おじさ、んにとっての、ぐすっ、はっ、ぴー、しんせ、さいざーに、なっ、てみせま、すから。うっ、・・い、ろんな、意味でっ!』

そう言うと恭子は仕事の邪魔をしていると思い込んでいるのか、泣きながら謝り倒して電話を切った。

これから、どうしよう。今更会議室にも戻れんしなぁ。

あれ?ひょっとして、今から帰ればギリギリ・・・。
104 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2012/04/09(月) 00:50:38.70 ID:vTsMDvht0
エピローグ

怒涛の恭子の誕生日から数日後、その週の日曜。改めて皆を交えたパーティーが我が家で行われた。

「さあ、恭子ちゃん、メッチャ焼いたるでぇー」

メインに夏海のたこ焼き、本人がタコパ、タコパとうるさかったので聞いてみればたこ焼きパーティーの略だった。

そして、姫ちゃんの持ってきた、超豪華オードブル。本人は適当に料理長に頼んだだけと言っていたが、侮れない人だ、確か普段はコンビニ弁当の筈なのに。

侮れないといえばもう一つ。

「まさか、姫ネェが恭子ちゃんの担任だったなんて」

確かに感性は近いものを感じていたが、まさか直樹と姫ちゃんがいとこ同士だったとは。

「その、先生は一体何をしている?」

正直聞きたくないがな、

「そりゃ、ずっとナベさんの踊りを繰り返し見ているんですよ。いやぁ、ほんとあんだけやってくれると、間奏のアレなアレンジも許すしかないでしょ。すごいっすわ」

隣の俺の部屋から大爆笑の声と床をバンバン叩く音が聞こえる。

「あははははっ、流石よ!流石よ!渡辺さん!、ヒィー!ヒィー!・・・もう無理よ、ムリムリ!・・・・・抱いて!いっその事私を抱いてぇ!」

無理なら見るな、姫ちゃんよ。誰が抱くか。

「それよりも、凄いって言えばあれだよねぇ」

ニヤけ顔で俺と恭子を見るとっちゃん。恭子もコクコクコクコクコク、と小刻みに頷く。まるで壊れた人形だ。

あん時、とっちゃんも居た事が俺の想定外。

「誕生日当日23時59分のハッピーバースデー!もう汗でビショビショ、手に持ってるケーキはグチャグチャ!オジサマはまさにGHSだね」

ガールズ ハート スナイパーの略らしい。とっちゃんは勝手に言葉を作るので困る。

確かに、俺も間に合うと思わなかったが、猛ダッシュの末に玄関の扉を開け放なちバースデーコールを叫んだのが誕生日締め切り1分前だった。

何事かと、周りの住人が起き出してしまったことは過去の話として封印しよう。

これからもこんな日常が続いていく事だろう。

まぁ、あれだ、長くなってしまったが、これが俺のハッピーシンセサイザーを踊るまでに至る長い経緯。
105 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2012/04/09(月) 00:51:16.79 ID:vTsMDvht0
ラストシーン

某日 某公園にて

「二人とも準備はいいかー?撮るぞー」

「オジサマ、私はオッケー」

「私も、だ、大丈夫です!」

----------ピピピ、
106 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2012/04/09(月) 00:57:53.18 ID:vTsMDvht0
以上で終わりです、変則的な投下でスミマセンでした。

後、使わせていただいた歌詞のハッピーシンセサイザーの作者様とタイトルの某動画の作者様に感謝いたします。
107 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/04/09(月) 11:22:31.42 ID:LAeILJJU0
面白かった。よくこの内容で完走した
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