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スティーブ「…『妹と恋しよっ♪』? ……R18!?」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/03/03(土) 23:46:10.19 ID:xiUusN5V0
スティーブ「何故この家にそぐわないアニメのDVDケースの中にもっとそぐわないものが入っているんだ…?」

スティーブ「交番に…。いや、流石に家の中に落ちてました、なんて言ったら大介さんにどんな迷惑がかかるか」

スティーブ「かといってこのまま手に持っていてもしょうがないな…。とりあえず、懐にしまっておこう」

スティーブ「佳乃さんや大介さんに見つかったら大事だからな」





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渾沌ゴア「それでもボクはアイツを殺す」 @ 2024/04/25(木) 22:46:29.10 ID:7GVnel7qo
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二次小説の面白そうなクロス設定 @ 2024/04/25(木) 21:47:22.48 ID:xRQGcEnv0
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佐久間まゆ「犬系彼女を目指しますよぉ」 @ 2024/04/24(水) 22:44:08.58 ID:gulbWFtS0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713966248/

全レスする(´;ω;`)part56 ばばあ化気味 @ 2024/04/24(水) 20:10:08.44 ID:eOA82Cc3o
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1713957007/

君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
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笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
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【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part10 @ 2024/04/23(火) 17:32:44.44 ID:ScfdjHEC0
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トーチャーさん「超A級スナイパーが魔王様を狙ってる?」〈ゴルゴ13inひめごう〉 @ 2024/04/23(火) 00:13:09.65 ID:NAWvVgn00
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2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/03/03(土) 23:48:34.62 ID:xiUusN5V0
キャプテン・アメリカ ジ・アキハバラ・アベンジャー
第一幕「桐乃ちゃんの嗜好が至極真っ当なわけがない!」


僕はスティーブ・グラント・ロジャース。
職業はフリーのイラストレーター。
画風は業界では『フリーダム』と評されている。
そのせいか、工業デザインから小説の挿絵、はては映画や都市計画のコンセプトアートと、依頼内容はかなり多様だ。
時々、繁華街のクラブなどで用心棒のバイトもしている。
アメリカはニューヨーク生まれのニューヨーク育ち。
よく20代に間違われるが、実際は90歳以上だ。
諸事情からアメリカに居辛くなってしまい、S.H.I.E.L.D.の手配で日本の高坂家に居候している。

今、僕はある問題に直面していた。
『星くず☆うぃっちメルル』と表記されたアニメのDVDケースである。
しかしケースには『R18』と明記された、ケースとはタイトルが一致しないディスクが…。

スティーブ「…玄関に落ちていた以上、少なくともこの家の人の物なのは確かだ。だが佳乃さんが買うとは思えない」

スティーブ「大介さんに至っては警察官のくせにマスメディアの偏向報道を鵜呑み出来てしまう人だからもっと有り得ない」

スティーブ「僕は買った覚えがない…。となると、残るのは桐乃ちゃんだけに…」

スティーブ「そうなると、かなりやり辛いな」

僕は桐乃ちゃんに結構避けられている。
非常に聞き辛いけど、確認しないと何も進展しない。
晩御飯の時に作戦決行だ!

3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/03/03(土) 23:49:53.00 ID:xiUusN5V0
晩飯時。
今日の晩御飯はカレーライス。
この家のカレーライスは不思議と辛さが強めなのが、美味しさの秘訣だ。

スティーブ「食べ終わって少ししてからコストコに行きますけど、買って欲しいものはありますか?」

佳乃「それなら、ハーゲンダッツの季節限定のヤツを全種類、各4つずつ。それとプルコギビーフと鳥もも肉パックも4つずつ、オリーブオイルもお願いしますね」

大介「明日の独身寮の送別会で使うから、刺身用のスモークサーモンとエビ、ジンギスカン用にラム肉と玉ねぎをありったけで頼みます」

桐乃「朝ご飯用のベーグル。プレーンとオニオンを1パックずつお願い」

スティーブ「了解。そういえば、取引先の担当が最近、子供と一緒に見ているうちに子供よりアニメに熱中し出したんです。『星くずうぃっち』とか…」

佳乃「どうしたんです、突然?」

スティーブ「いえ、今まで無趣味だった反動でとにかく夢中になってて、会社の人や僕にまで勧めてくるんです」

スティーブ「あんまりしつこいから1回は見てみようかと思って」

佳乃「何言ってるんですか。それってオタクってやつでしょ?」

佳乃「スティーブさんはそんなのになっちゃダメですよ」

大介「そうです。いくら勧められたとはいえ、わざわざ自分から悪影響を受けに行ってどうするんですか」

やっぱり大介さんと佳乃さんはああいう認識か。
さて、後は…。

ブルブル 桐乃「…………」

まさかと思っていたけど……!
夕方、僕とぶつかった時に落としたんだ…。
色々と辻褄は合うけど、何で桐乃ちゃんが…?
確証が必要だ。

スティーブ「ごちそうさまでした」

大介「足りたんですか?」

スティーブ「買い出しの時に夜食を買って、足りない分をカバーするから大丈夫ですよ」

どうでもいいことだけど、この場合、夜食とはコストコのフードコートで買えるピザとベイクドシリーズのことだ。
さて、準備をして、ドアに細工をしてから出かけるか。
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/03/03(土) 23:51:04.60 ID:xiUusN5V0
数分後、高坂家前。
今、僕は三輪自転車にまたがっている。
ただの自転車と思うなかれ、競輪用のトラックレーサーに大型の籠をくっつけた特注品。
僕の足なら少し力を入れてこぐだけで自転車の世界最速記録ぐらいは突破できる。
だからコストコ幕張店へも一っ走りさ。
ただ、これで遠出をする度になぜか行く先々でパトカーのサイレンが頻繁に鳴るのが、気になるんだ。

スティーブ「では、行ってきます!」

バヒュン! ガオ---……!!
衝撃波を残し、スティーブの三輪自転車が猛スピードで高坂家を後にした。




数十分後、コストコ幕張店。
買い物を終わらせたスティーブが三輪自転車で走り去る一部始終を、店員の一人がじっと見ていた。
唖然としていた彼に、研修中の新入りが話しかける。

店員「先輩」

先輩店員「…なんだ?」

店員「今のお客様は?」

先輩店員「…ここの常連。見てたと思うけど、いつも自転車で凄いスピードでやって来て、店を出た後に凄いスピードでいなくなるんだ」

先輩店員「あの人が来るたびに、パトカーのサイレンが鳴り響くんだ…」


更に数分後。
猛スピードでスティーブは戻ってきた。


高坂家。
家に上がった僕は急いで買った物を冷蔵庫や所定の位置にしまい、終わると同時に2階へと上がった。
桐乃ちゃんが犯人なら、あのカマかけで僕がいけない内容のDVDを拾ったことに気づいているはず。
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/03/03(土) 23:53:01.29 ID:xiUusN5V0
僕が桐乃ちゃんの立場だったら、僕がいない間にDVDを回収して素知らぬ顔をするに違いない。
けど、桐乃ちゃんは大介さんの刑事の血を結構色濃く継いでいる。
こんなシンプルな罠に引っかかっている可能性は低く見積もった方がいい。

そう考えつつ、僕はドアの上の部分を確かめる。
ビンゴ。
こっそり張っていたセロテープが剥がれている。
気づかれないように、そっと開けよう…。

スティーブ「……」

僕の目の前にいたのは、ベッドに手を突っ込んで捜索中の桐乃ちゃんだった。

スティーブ「……桐乃ちゃん、何をしているの?」

ドキッ! 桐乃「……!! な、なんだっていいでしょ」

よくないよ! ソコはユニフォーム一式と銃火器一式(※)と盾の隠し場所なんだ!!
何? 普通、ベッドの下に隠すのは『三次元のERO-HON』だって?
そんな物は持っていない!
二次元の方は資料として買った書籍一式を入れるカギ付き書庫に保管してはいるけどね。
何で持っているかって? 女性のボディラインを書くときに中々参考になるからだよ。

※:日本国では銃砲刀剣類所持取締法、略して銃刀法によって銃火器は必ずガンロッカーに保管しなければならない。
  ロッカー自体も、中身ごと持ち去られないように置き場所に固定するなどして工夫することが義務付けられている。
  なお、無許可で銃を所持・使用することと、登録された古式銃砲と猟銃以外の銃の所持も禁止されている。
  スティーブは上記三点に全部引っかかっているため、銃刀法違反に該当する。

スティーブ「……自分の部屋を勝手にガサ入れされたら、誰だって嫌なはずだ」

桐乃「どいて」

スティーブ「嫌だ!」

桐乃「どいて!!」

ゴソゴソ スティーブ「桐乃ちゃんが捜しているの、コレでしょ?」

桐乃「ッ!! それ…!」

スティーブ「やっぱり。悪いけど、中身の方は確認させてもらったよ」

僕が持ち主のあぶり出しなんかやった理由、それは単純に返すためだ。
だから、僕が次にすることは一つ。
僕は完全に固まった桐乃ちゃんに、DVDを返した。

桐乃「え!?」

スティーブ「ほら、目的の品は見つかったんだから、出た出た」

スティーブ「いくら一つ屋根の下で生活していても、二十歳を越えた男の部屋に勝手に入っていい理由にはならないからね」

桐乃「…うん」

そうだ、僕はあのDVDの持ち主が気になっただけだ。
ただ持ち主をいじり倒すだけだなんて、シュミットでもやらないような真似をするためじゃない。
……そういえば、桐乃ちゃんとこんなに話したのは、京介君の葬式以来だ。

桐乃「おかしいと思う?」

スティーブ「何が?」

桐乃「あたしが、こんな趣味、してるの…」

スティーブ「仕事の取引先の一人に、高校生ぐらいの人がいる。彼の友達の一人が物凄いオタクなんだ」

スティーブ「色々変なところもあるけど、それは彼の人格が変であって、趣味が変という訳じゃない」

スティーブ「だから、僕は、桐乃ちゃんの趣味は断じてバカにはしない」

桐乃「ほんとに、ほんと?」

スティーブ「当たり前だよ」

僕の答えに満足したのか、桐乃ちゃんは自分の部屋に戻って行った。
『妹と恋しよっ♪』が入った、『星くず☆うぃっちメルル』のDVDケースを後生大事に抱えて。

6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/03/03(土) 23:54:13.52 ID:xiUusN5V0
数十分後。
今月分の仕事を全部済ませた僕は、商売道具であるペンタブをしまい、パソコンで映画を見ていた。
見ているのは、『ペニー・セレナーデ』(※)。
古き良きアメリカン・モノクロ・ムービーの名作の一つさ。
どれだけ名作かというと、当時映画館で一緒に見ていたバッキーが感極まって真っ先に号泣した位だ。
…夜食のピザをバクバク食べながら見る映画じゃないけどね。
僕がピザを食べながらこの映画を見ていることを天国のバッキーが知ったら、絶対に怒ると思う…。
こういう感動のストーリーで肩の力を抜いてピザを食べる僕は、感性が人間の範疇から外れかけているのかもしれない。

※:ヒドラがコズミックキューブを手に入れる一年前にアメリカで制作されたメロドラマ映画『愛のアルバム』のこと。
日本公開はGHQによる占領時の1947年。
  スティーブはアメリカ人なので、アメリカの映画は原題で呼称するのだ。

スティーブ「どうしました?」

佳乃「あら、相変わらずそういう所は鋭いですね。スティーブさん宛に電話ですよ。アメリカから、リバイバル公演の件でお話があるって」

スティーブ「…分かりました」

僕は第二次大戦中、軍のマスコットとして戦時国債販売促進ミュージカルでアメリカ中を回っていた時期がある。
ヒトラーを200回もパンチ1発で倒したことを、僕は今でも覚えている。
この家のお世話になり出してからしばらくして、アメリカ政府の関係者からミュージカルのリバイバル公演への出演依頼が来た。
日本在住のアメリカ人を対象としたツアーらしく、企画した人の方が日本に来てくれたのである。
とんでもなく熱心な人で、僕も首を縦に振って、企画の方も日程を決めるところまで進んだけど…。

「もしもし」




7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/03/03(土) 23:55:41.20 ID:xiUusN5V0
ドスンッ

スティーブ「!?」

突如、何かが圧し掛かる音で目が覚めてしまう。
僕は何故ベッドに?
…そうだった。
あの電話の後、映画の続きを見終わってから歯を磨いて寝ていたんだ。
何が起きたのか時になり、僕は圧迫感を覚えた胸元へと視線を動かす。

桐乃「…」

スティーブ「……」

……何故か桐乃ちゃんが僕の上に圧し掛かっていた。
間違いない、リアルだ。
この体位なら…両手で叩ける!

ズヴァヴェヴェヴェヴェヴェヴェヴェヴェヴェヴェヴェヴェ

スティーブ「……大丈夫?」

桐乃「超人兵士にお尻叩かれて大丈夫なわけないでしょ……!!」

スティーブ「で、どうして僕の上に圧し掛かっていたの?」

桐乃「…話があるの」

スティーブ「今すぐ?」

桐乃「うん」

桐乃ちゃんの部屋
かつて、ここは桐乃ちゃんだけでなく、京介君の部屋でもあった。
いかにも女の子の部屋、といった感じになっているが、まだ京介君がいた頃の名残もかなりある。
ふと、高坂家の皆さんと一緒に撮った写真に目が行く。

スティーブ「……」

桐乃「あ…、それだけ、なんだ。お父さんがアルバムに入れられなかったの。スティーブさんの格好見てると、あの時のことを思い出すからって…」

そうだ。
写真に写っている僕の恰好は、リバイバル公演のために海を越えてきたあの全身タイツ姿だ。
リバイバル公演決定の前祝ってことであの恰好になったんだ。
だけど、これを撮った次の日…。

桐乃「えっと、話を戻すね。…人生相談が、あるの…」

その言葉を言い終えた直後に、桐乃ちゃんはドアのそばにあるドアを、''スライド''させた。

スティーブ「押入れ…あ! そういえばこの部屋、僕が出入りしていた頃は和室だったはず!」

そうだった。
桐乃ちゃんの部屋は、元々は京介君との相部屋で和室。
ここで京介君や桐乃ちゃんにお箸の使い方や日本の若い人が使う言葉や喋り方を教えてもらっていたなぁ。
京介君がいなくなってから、大介さんが「辛い気持ちを忘れたいから」と言って改装したんだっけ…。
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/03/03(土) 23:56:30.88 ID:xiUusN5V0
桐乃「正解。…これは、兄貴がいた頃の名残ってやつかな。それでね、こういうことになってるの」

ガラッ きゃぴーん きゃぴーん りゅりゅーん☆

そこにあったのは、大量のアニメグッズやゲーム各種と思われる大量のケース!
よく見たらケースに入ったままのフィギュアやポスターの類まである。
しかもケースの中には明らかにR-18と明記されたシールつきの物も…。
余りの異様さに、思わずケースの一つを手に取ってしまう。

桐乃「あ、それは『妹めいかぁ』のPC版の一つ。元々はプレステ2で一般向けに出たんだけどね」

ムフ- ムフ- 桐乃「PC移植版になるそれはシーンがすっごいハードだから、初心者にはおすすめできないかな?」

初心者? ならそこれは超級者向けなのか?
君はプロかい!? プロなのかい!?

桐乃「えーっと、これがね…」

嬉々としていけない内容のゲームのケースを、タイトルを紹介しながら桐乃ちゃんは積み上げていく。
最終的には、桐乃ちゃんの身長を越えてしまう…!

桐乃「で、こっちの段ボールに入ってるのは、星くず☆うぃっちメルルとかのDVDボックスね。で、こっちは海外版数種類」

スティーブ「…同じ内容じゃないのか?」

桐乃「お布施よ」

スティーブ「…ところで、購入資金はどうやって調達したの?」

これだけの量となると、100ドル札1枚分では済まないのは明白だ。
どうやって入手したのか甚だ気になってしまう。
警察署から盗ってきた裏金ならまだ黙認できるけど…。

桐乃「ギャラ」

スティーブ「ギャラ? guarantee?」

桐乃「Yes. そういえば、スティーブさんには言ってなかったっけ。あたし、モデルやってるんだ」

その言葉と共に、桐乃ちゃんから複数の雑誌を渡された。
ページをめくっていくと、桐乃ちゃんが写っているページが見つかる。
中には表紙を桐乃ちゃんが飾っているものも…。

スティーブ「…全部有名な雑誌だ。よく見たら僕が広告用のイラストを描いた雑誌まであるじゃないか」

スティーブ「凄いよ、全部綺麗に撮れてるね」

桐乃「そんなの…たいしたことないよ。……可愛い妹たちのためなら!」

筋金入り、ということか。
これだけ大量に買えるあたり、熱意と収入は並々ならないことは分かる。
…今度、どれぐらい貰っているかそれとなく聞いてみよう。

桐乃「このパッケージ見てさ、『いい』って思わない?」

スティーブ「どうして?」

桐乃「だってさぁ…すっごく可愛いじゃない!」

スティーブ「…ようするに君は、『妹』が好きなのか?」

桐乃「うんっ。それにね、妹は、『黒髪ツインテール』が一番グッとくると思うの」

桐乃「清楚でおとなしくて…、守ってあげたくなるっていうか…、ギュッと抱きしめてあげたくなっちゃう、ってゆーか」

スティーブ「茶髪のストレートで、丈の短いスカートなのにソファーに寝そべって足を組んで笑いながら電話している君も、『妹』じゃないか」

スティーブ「自分で自分に駄目出ししてどうするんだ」

桐乃「う…」
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/03/03(土) 23:57:12.02 ID:xiUusN5V0
こんなところを京介君が見たら、間違いなく泣くか怒るに決まっている。
僕としても、桐乃ちゃんが自分自身を貶すような光景なんてこれ以上見たくない。
だから桐乃ちゃんがそういうことをするのを防ぐ。
こういうのも、桐乃ちゃんを守ることになるんだ。
しかし…どうして桐乃ちゃんはここまで妹好きなんだろう?

スティーブ「桐乃ちゃんは、どうしてそんなに夢中なの? そういうのって普通、男の人向けだと思うんだけど」

桐乃「……そ、それは…その…」

スティーブ「まさか、自分でも分からない、もしくは覚えてない、とか?」

桐乃「……うん」

…当たってしまった。

桐乃「あたしだって、自分のこういう所が普通じゃないってわかってるよ。だから誰にも言えなくて、隠してた」

桐乃「でもさ、分かっててもやっぱり好きだから、…ネットでググって…気が付いたら体験版とかデモをしてるの」

桐乃「それで止まらなくなって、次々と買っちゃうの…。そうよ、止まらなくなるの。かわいいイラストたちが、あたしを狂わせるのよー!!」

ううむ。
原因が本人にも分からないとなると、相当に厄介だ。

桐乃「でも、買い過ぎだってのはあたしでも分かってるんだ。スティーブさん。あたし、どうしたらいいと思う?」

桐乃「このままじゃ、お父さんに見つかるのも時間の問題だと思うんだ。それならいっそのこと…」

いきなりしおらしくなったと思ったら、とんでもないことを言い出そうとした。
当たり前だが、僕はそれを最後まで言わせる気はない。

スティーブ「絶対にやめた方がいい! それができたらそもそも僕に相談することもないはずだ!」

桐乃「それも、そうだね…。ありがと」

スティーブ「可能な限り、大介さんにバレないように努力した方がいい」

大介さんはよく言えば古き日本の香りを感じる堅物。
言い換えれば自分が理解出来ないものを理解しようとすることができない、頑迷固陋な人だ。
更にアニメや漫画、ゲームに対しても子供に悪影響を及ぼすものと、徹底的に敵視するスタンスを貫いている。
…人間はその気になればあらゆる事象から悪影響を受けることができると思うのだけど。
都知事が若い頃に書いた小説とか、原作を担当した映画とか(※)。
ともあれ、大介さんがこれを見たら大参事は確実だ。

※:芥川賞受賞作・『太陽の季節』と、大映制作の・インモラル映画『処刑の部屋』のこと。
  前者の映画版は著者の実弟のデビュー作であるが、その阿鼻叫喚過ぎる内容から映倫発足の元凶でもある。
  著者の近年の舌禍や政策と、前者のある描写をひっかけて『障子チンコマン』なる単語も生み出した。
  後者は実際に鑑賞して悪影響を受けた当時の学生たちが、こぞって登場人物たちの悪行を真似て、大問題を巻き起こしている。
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/03/03(土) 23:59:16.27 ID:xiUusN5V0
スティーブ「一つ聞いていい?」

桐乃「何?」

スティーブ「君の『妹』好きって、あくまでもフィクション限定、だよね?」

桐乃「……あったりまえじゃない! フィクションはフィクション。リアルはリアルなの」

それもそうだよね。
やっぱりなまじ年をとるのも考え物(※)なんだなぁ…。

※:スティーブは第一次世界大戦が終わる前の生まれ。

スティーブ「はは…。ごめん。こう見えても米寿過ぎの老人だから、ついつい『フィクションとリアルが混ざっているんじゃないか?』って疑ってしまうみたいだ」

桐乃「あはは…」

これには、僕だけじゃなくて桐乃ちゃんも苦笑いするしかない。

スティーブ「桐乃ちゃん。話を変えるけど…」

スティーブ「『妹と恋しよっ♪』、1度プレイしていい?」

桐乃「……本気で言ってる?」

冗談で言うほど僕は痛い性格はしていない。
桐乃ちゃんの反応はもっともだと思うけど。
参考資料にと二次元系のERO-HON(R-18系ゲーム雑誌)を買う際、店員の人に阻止されそうになったたことがある。
件の店員は、目を見ただけで僕が汚れ一つない心をしているのが分かった、だからそんな本を買うのを見過ごせない、なんて訳の分からないことを言いながら取り乱していた。
そういったことが起きたのは、一度や二度じゃない。
R-18系じゃなくてもいわゆる『萌え絵』に該当できるものが掲載されている本の時でも発生している。
だから桐乃ちゃんがこういう反応を見せるのも当然だと理解できる。
でも、不愉快だ。

スティーブ「本気で言ってる。秘密を打ち明けられた以上、僕はその秘密をもっと深く理解したい」









11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/03/03(土) 23:59:50.30 ID:xiUusN5V0
妹と恋しよっ♪


ピッ LOAD
 

ピッ セーブ1


京介(※)「うわっ…し、しおり!?」

※:桐乃は自分の名前を使うの躊躇い、兄の名前を主人公のに流用している。



すやすや眠るしおりを、俺は…


  1.抱き寄せてキス

   2.着衣を全部剥いで合体開始

ピッ 3.自白剤を打ってベッドに入り込んだ理由を問いただす


ゴソゴソ キラ-ン 京介「薬液の充填、完了。これより投与を開始する」


12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/03/04(日) 00:01:24.61 ID:woH3ZTrc0
ドゴスッ 桐乃「何やってんのよ!」

スティーブ「痛いじゃないか!」

桐乃「超人兵士が何言ってんのよ! むしろ蹴り入れたこっちの方が激痛でのた打ち回りそうなのに!」

桐乃「信じらんない! 可愛い妹に自白剤打とうとするなんて! どこの北朝鮮軍よ!」

スティーブ「悪いのは蹴り出すとか、怒るとかいった真っ当な反応を選択肢に入れなかったスタッフじゃないか!」

桐乃「だからって選ぶなー! ああ、もう! しおりちゃん、謝ってんじゃない!」

言われてみると…。
画面の女の子は痙攣して涎を垂らしながら必死に謝っている。
とんでもない絵面だ…。

桐乃「全く…」

カチカチ 桐乃「あれ? こんなルートがあったの? ……即ゲームオーバーの地雷選択肢だと思ってたのに」

どうやら、僕が選んだ選択肢は桐乃ちゃんの予想とは違って、新しいルートへの入り口だったようだ

桐乃「…スティーブさんもパソコン、持ってたよね?」

スティーブ「ああ。デスクトップの長所と、護身用具としても使える頑強さを備えたモンスターラップトップ・『ザ・ラップデストロイヤー』の現行唯一の市販モデルを」

桐乃「…あの『スタークがご提供する、デスクトップPCにもノートPCにも護身用の武器にもなれる、お客様好みの可変PC』のキャッチフレーズで出てたアレ(※)かぁ…」

※:スターク・インターナショナルが2006年、『可変PC』のコンセプトを掲げて発売した、デスクトップとノートPCに変形可能、という衝撃的仕様のPC。
  極めて高いスペック、OSを起動の度にWindowsかMacから選択可能、任天堂の技術提供で得た驚異的な頑強性、薄利多売主義を突き詰めた低価格といった要素で話題を集めた。
  しかしネーミング通りの無茶な重量と、常識外れの安さが命取りとなってあまり売れず、コスト問題も重なって1モデルで生産が終了している。

桐乃「えっと…ディスクの方、学校から帰って来てから貸したげる。スティーブさんは自分のパソコンにインストールして、プレイしてくれる?」

スティーブ「今見つかった新しいルート、一足先にプレイしたいの?」

桐乃「…うん」

この調子だと、今見つかったルート以外はプレイ済みなんだろうな。
時計を見ると、既に結構な時間になっている。
僕の方は寝直すとするか…。

桐乃「〜〜♪」

スティーブ「それじゃ、僕は部屋に戻るから。おやすみ」

桐乃「うん。おやすみなさーい」

画面から視線を話さずに桐乃は返事して、ゲームを終了する。
直後、ブラウザが閉じられる前に『しおり』の一枚絵が表示される

  しおり「おに〜ちゃん! また遊んでねっ! ばいっば〜〜い!!」






次回、「キャプテン・アメリカ ジ・アキハバラ・アベンジャーズ」第二幕、「桐乃ちゃんと黒猫ちゃんの仲が悪いわけがない!」。
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/03/04(日) 00:05:01.45 ID:woH3ZTrc0
今回の投下、完了。

続きは目下書いております。
では、今日はこれにて。
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/03/04(日) 01:54:04.38 ID:kPCNmyG60
スレタイで?ってなって>>2を読んで!?ってなってここまで読んで!ってなって

やっぱりアメコミのあの人ですよね、スタークとか出てるし
俺得ではあるが、何故この組み合わせで書こうと思ったwwww
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/03/04(日) 02:04:09.30 ID:woH3ZTrc0
>>14
声優ネタ(京介の中の人と「ザ・ファーストアベンジャー」でのキャップの吹替えが同じ人)
あの格好は次回まで待って
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/04(日) 08:49:19.92 ID:tuF9yu4SO
近所の映画館じゃ字幕しか公開してなかったから知らなかったよ…
アベンジャーズの公開を待つわ
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/03/05(月) 22:36:47.23 ID:mgzxO5v00
キャップERO-HON買うのかwwww
そりゃこんな純っぽい人がそんなの買おうとしてたら止めたくもなるわ
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/03/20(火) 06:14:12.35 ID:H3RHPCIM0
第二幕投下しまっせ。

その前に注意事項

・今回は筆者の別SSからゲストが2名出ます。

・ハイル・ヒドラ!
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/03/20(火) 06:14:51.06 ID:H3RHPCIM0
大介「リバイバル公演の方はどうなっていますか?」

スティーブ「会場の手配中で、今のところOKが出たのは千葉市民会館だけですね。反対する団体からの横やりで残り全部四苦八苦しているそうですが」

大介「…やはりそういった類の連中が出てきますか」

スティーブ「出てきますね。全国公演の予定とは聞きましたが、最悪の場合、沖縄公演だけ諦めないといけないかもって、企画側の方がぼやいでいました」

スティーブ「地方公演に変更になっても、佐世保と横須賀、厚木では何が何でも公演にこぎつけると息巻いてはいましたが」

大介「ソコは…普通、『何が何でも予定通り全国公演にしてみせる』の方が正しいような…」

20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/03/20(火) 06:15:24.21 ID:H3RHPCIM0
キャプテン・アメリカ ジ・アキハバラ・アベンジャー
第二幕「桐乃ちゃんと黒猫ちゃんの仲が悪いわけがない!」


今は朝食時。
朝御飯は大抵、パンである。
お米を炊いたもの…『米飯』は大介さんと桐乃ちゃんのお弁当用に炊く程度だ。
別にアメリカ人の僕に合わせくれたわけじゃない。
京介君がいた頃はむしろお米の朝御飯の方が多かった。

大介「そういえば、あの衣装と盾はいったいどこに?」

スティーブ「両方とも、ニューヨークの博物館に保管されています。今回のリバイバル公演のために、もう一度海を渡るそうですが」

大介「そうですか」

佳乃「どうしたの、お父さん? 妙に気にしだして」

大介「……京介の奴が楽しみにしてから、つい気にってな。……あ…!」

大介さんがふと寂しげに京介君の名前を口に出す。
そして、出した直後に自分が京介君の名前を口に出したことに驚き、そして悔やんだ。

ガガガガガツガツガガガ 桐乃「……ごちそうさまっ」

桐乃ちゃんはいきなり食べるスピードを速める。
いつもより早く食べ終わった桐乃ちゃんは駆け足で2階へと戻り、そのままダイニングに入ることなく、外へと出た。

桐乃「行ってきまーす!」

やっぱりあの時のことを…、って桐乃ちゃん、お弁当を忘れてる!
追いかけないと!

スティーブ「お弁当、渡してきます!」

約2分後。

スティーブ「渡してきました」

佳乃「ありがとうございます。もう、お父さんが考えなしにあんなこと言うから…」

大介「むむ…」

そうだ。
リバイバル公演は、一度没になってしまったのだ。
京介君がいなくなる原因となった事件。
あの事件のせいでリバイバル公演は立ち消えになってしまった(※)。
京介君と…桐乃ちゃんはリバイバル公演を楽しみにしていたから…。

※:スティーブが犯人をフルボッコしたことに対して、人権団体などがスティーブ本人だけでなく、公演の際に使用するはずだった会場の運営会社にまで抗議し出したため。
  それのせいで会場が使えなくなり、予備の会場の手配が間に合わず公演は中止となってしまった。
  なお、その際に発生した金銭的被害の埋め合わせは、裁判で賠償金として人権団体に全額払わせている。

21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/03/20(火) 06:17:18.31 ID:H3RHPCIM0
その日の夜。
『星くず☆うぃっちメルル』を物の試しに見てみようと思った僕は、借りるために再び桐乃ちゃんの部屋にお邪魔していた。
借りる瞬間、桐乃ちゃんが見せた複雑な表情に少しムッと来たけど。

桐乃「ところで、ゲームの方はどこまで進んだの?」

スティーブ「3人攻略できた」

桐乃「その…シーンの方は、大丈夫?」

スティーブ「アングルの勉強になるからじっくり見ているけど」

桐乃「うう…。貸しておいて言うのアレだけど、スティーブさんがその手の絵とかを見る光景って想像できない」

……まあ、時々依頼してくる人の中にも物凄く申し訳なさそうにしている人がいるんだよね。
今の桐野ちゃんみたいに。
僕としては嬉しくないけど。
良心の呵責、というやつなのかな?

スティーブ「さすがにいけない内容のゲームは無理として、アニメの方は学校で友達と話すときに話題にはしないの?」

桐乃「……ない。みんな、アニメ見てないし、オタクのことあんまりよく思ってなさげなんだよね。だから、あたしの趣味、とてもじゃないけど言えない」

スティーブ「…それなら、学校の外で友達を作ってみる?」

桐乃「…はい?」

スティーブ「少なくとも、同じ趣味をしている友達は作った方がいいと思うよ。ネットにはそういった人たちの集まりもあるんだから」

桐乃「要は、学校の外で『オタクの友達』を作れってこと?」

スティーブ「その通り」

学校内じゃ無理なら、学校の外で作ればいい。
そういうことさ。

桐乃「…それもそうだけど…いい考えがあるの?」

スティーブ「インターネットで探せばいいんだよ」

リアルじゃ探す時点で躓くだろうけど、インターネットを使えばそういったコミュニティを探すのはわけないからね。

桐乃「それじゃ、ネットでググってみよ」

それから数十分後。
桐乃ちゃんはオタク系SNSに登録し、プロフィールを作成していた。
趣味の欄が『エロゲー』なのはどうかと思うけど。
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/03/20(火) 06:18:02.66 ID:H3RHPCIM0
スティーブ「流石に年齢の方は非公開にした方がいいと思うけど」

桐乃「…それもそうだね」

一通り入力し終わった桐乃ちゃんは、SNS内のコミュニティを値踏みするように探している。
そして、『オタクっ娘あつまれー』を見定めた桐乃ちゃんは瞬時にそれを選んで入会した。
直後、早いことにコミュニティ管理人からメールが届いた。

はじめまして、きりりん様。
『オタクっ娘あつまれー』コミュニティの管理人をしている、沙織と申します。
参加希望のメッセージ、ありがとうございました。
もちろん承認させていただきますが、趣味が近しいあなたならきっと素敵なお友達になれると思いますの。
よろしければ、来週の土曜に開催されるオフ会にご参加くださいませ。
ちなみに会場は、秋葉原はGuu!SOREビルのカフェ・『元祖癒し空間 プリティ・ガーデン』です。
それでは、今後ともよろしくお願いいたします。
追記:集合場所・時間は明日以降、追ってメールでお知らせします。

どことなく気品が感じられる文面だ。
しかし、オフ会の場所と日付がちょうど僕の予定の方と重なっているな。

スティーブ「その日、良かったら送って行こうか?」

桐乃「いいの?」

スティーブ「リバイバル公演を企画した人とちょうどその日の同じ店で打ち合わせをする約束があるからね」

スティーブ「あの恰好で来てくださいってリクエストされちゃったけど」

桐乃「…なんで秋葉原なんだろ?」

スティーブ「千葉まで行こうとしたら車にはねられそうになったんだって」




23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/03/20(火) 06:19:37.46 ID:H3RHPCIM0
そして当日、東京都千代田区、秋葉原駅前。
桐乃ちゃんを乗せ、千葉市からここまでノンストップで自転車で飛ばしてきた。

アメリカ人観光客たち「オイ、アレッテ…」「ジーザス・クライスト…」「マジデニホンニイタノカヨ…」

周囲の人、特にアメリカ人観光客の注目を集めながら、僕たちは駅前にたたずんでいた。
桐乃ちゃんの顔が、かなり赤い。

スティーブ「大丈夫?」

桐乃「…誰のせいだと思ってんの! ……いくらリクエストされたからって、よりにもよって''その恰好''だなんて」

キャプテン・アメリカ「スポンサーの殆どが僕の大ファンらしくて…」

そう、今の僕は『キャプテン・アメリカ』の格好をしている。
とはいってもあの全身タイツじゃない。
アレをモデルにMr.スタークに作ってもらった戦闘服の方だ。

桐乃「それで、打ち合わせの場所も同じなんでしょ?」

キャプテン・アメリカ「ああ。オフ会より早く始まるから先にGuu!STOREビルへ行くけど、一人で大丈夫?」

桐乃「うん。集合場所に集まってから、管理人さんの案内で行くから大丈夫だよ」



Guu!STOREビル前。

キャプテン・アメリカ「ここか…」

アメリカ人観光客たち「Hello! CAPTAIN AMERICA!」「Your autograph,please!」「Please!」

何となく予想はできていたけど、いざ入ろうと思った直後に大勢のアメリカ人観光客たちからサイン(※)をねだられた。
アメリカにいた頃も、S.H.I.E.L.D.の職員や軍人、かつて僕のミュージカルを見てくれた人たちから何度もサインをねだられている。
あの戦争での活躍でただでさえ高かった僕の知名度は、終戦から数年後のSSR解体の煽りで情報が流出したせいで、今ではアメリカ以外の歴史の教科書に名前が載るレベルになっているそうだ。
・・・何かすごく複雑だ。

※:アメリカ人観光客の皆さんがキャップにねだっているサインは英語では「autograph(オートグラフ)」と言います。
  英語圏では『サイン』は署名を指すのです。

カキカキカキカキ キャプテン・アメリカ「Here we go」

観光客たちは僕が書いたサインを受け取って大喜びでお礼を言いてくれる。
彼らのこういう反応を見ると、どうにも断れなくなる。
一通りサインを書き終わった直後、人だかりを割って入って・・・なぜかMPが現れた。
そしてMPに続いて、リバイバル公演を企画した人、スタンリー・マーティン・リーバーが出てきた。
あの時同様ペギーの偽者、シャロン・カーターを連れて・・・。
シャロンの名字がペギーと同じなのは少し気にかかる。
だが、血縁なのかたまたま苗字が一緒なだけなのか、僕には判断しづらい。
そういう訳で彼女の詳細については8月17日に「アベンジャーズ」が公開されるまで待ってほしい。

スタンリー「この国で会うのはあの日以来ですね」

キャプテン・アメリカ「お久しぶりです」

スタンリー「まあ、打ち合わせ場所は店内ですから、早速入りましょう」

24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/03/20(火) 06:23:41.81 ID:H3RHPCIM0
元祖癒し空間 プリティ・ガーデン。
何故だろう? 店内はいかにもフランスのカフェ(※)、といった感じなんだけど…。
そうだ、店員さんたちの服装が普通の喫茶店とは全然違うんだ。

※:第二次大戦中のキャップはヒドラ相手にヨーロッパ各地を転戦しており、1ヶ月丸々戦場になったヨーロッパ諸国で寝食を過ごしたこともある。
  バッキーがMIAに前に、キャップはドイツ軍から解放されたフランスはパリに駐留したことがあり、その間は昼食を殆どグラン・カフェ等のカフェで済ませていた。

店員「おかえりなさいませ、大旦那様、御坊………ちゃ……ま」

店員さんが僕の格好を見てあっと言う間にぎこちなくなる。
この格好だから仕方はないんだけど…。
それにしても、ここはどういう店なのかな?

スタンリー「メイド喫茶です。このように、女性従業員がメイドに扮して接客してくれるのです」

スタンリー「飲食業界に『コスプレ系』という新ジャンルが生まれるきっかけとなった経営スタイルですよ」

僕が物珍しそうにしていたせいか、スタンリーさんは簡潔に説明してくれた。
・・・スタンリーさんが『大旦那様』なのは分かるが、どうして僕は『御坊ちゃま』なんだ?
いくらスタンリーさんよりかなり年下に見えるからって、『御坊ちゃま』はないと思うんだ。
『若旦那様』か『ご主人様』が普通じゃないのか?
それに、僕はスタンリーさんより年上(※)だ。

※:スタンリーは1922年生まれ。
  現在87歳で、もうすぐ米寿を迎える。
  キャップは彼より5歳ほど年上。

打ち合わせが開始して既に15分以上経過している。
何故確認できたかって?
スタンリーさんが何気なしの僕の後ろに視線を移していたのが気になり、僕も体を捻ってスタンリーさんの視線の先にある時計を見たからだ。
そういえば、お冷を貰った記憶も、メニューが決まったかどうか確認された記憶もない。
と、そこに店員さんが慌ててお冷を持ってきてくれた。

店員「申し訳ありません! 近寄りがたい雰囲気でしたので…」

どうやらどのタイミングで持ってくれば良いか分からず、考えあぐねている内に15分間放置してしまったようだ。

スタンリー「次に来る時に備えて、今後は注意したまえ。では、何か頼みましょうか、キャップ」

キャプテン・アメリカ「そうしましょう。……」

この店は何か変だと思っていた。
しかし、それは間違いだった。
内装だけがまともで、残りが凄く変だったんだ。
そう言い切れる、メニュー表に書かれたメニュー名を見た以上。

らんちっ
バットマンもびっくりのメイドさん特製イカスミソース・オムライス
グリーンランタン・コーズにお勧めしたい、いもうとテイストのグリーンカレー
モスマンの酔いも吹き飛ぶツンデレ委員長プレゼンツ・BBQピラフ
どりんくっ
ロールシャッハも手を出しそうになる黒豆ミルクセーキ
クエスチョンを意識した果汁100%な黄桃ジュース
スーパーマンに飲んで欲しくなるような甘々アップルティー

シュミットの人格よりはマシだが…………いろいろイカレている。

スタンリー「私はBBQピラフと黄桃ジュースで」

キャプテン・アメリカ「僕はオムライスとアップルティー」

店員「かしこまりました。では、呼び方のオーダーに入らせていただきます」

キャプテン・アメリカ「呼び方?」

店員「はい。わたくしどもが、大旦那様とお坊ちゃまのことをどう呼ぶか、お決めください」

店員「ちなみにメニューは『ご主人様』『旦那様』『お兄ちゃん』『お兄様』など、各種取り揃えております」

キャプテン・アメリカ「……そちらにお任せします」

25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/03/20(火) 06:24:43.31 ID:H3RHPCIM0
店員「じゃあ、『お兄ちゃん』って呼ぶね。お兄ちゃん」

よりにもよってそれか……。
何かとっても嬉しくないぞ…!
年齢に関しては…目の前の店員さんは20代半ば過ぎだけど、僕とスタンリーさんの方はとっくに還暦を通り越しているから気にならない。

スタンリー「『おじいちゃん』で頼む」

店員「分かったよ、おじいちゃん」

それから更に数分後。
打ち合わせが滞りなく進んでいた所に、年頃の女の子達だけの団体客がやって来た。
その中に、桐乃ちゃんの姿もある。
案の定、僕と目があった瞬間に目を逸らしたけど。
他の子たちは驚愕の表情で僕の方を見ている。
その中でも特に、『一昔前のオタク(♂)の典型』といった感じの恰好をした女性は興味津々だった。
身長は・・・何と僕より2〜3cm低い程度、プロポーションもアメリカ人レベルで『出るとこは出て、引っ込むとこは引っ込んで』いる、変なメガネをかけているけど顔の方も中々…。
何と言うか、最近のアメリカン・ドラマとかに出る白人系お馬鹿ガールの如き大味&日本人女性の持ち味を全部台無しにしている残念な・・・失礼、意外と日本人離れした感じの美女だ。

スタンリー「昔はICHI-MATSU DOLLのような可愛らしさの中にも凛とした美しさを持った人もたくさんいたんですけどねぇ」

キャプテン・アメリカ「アメリカ政府による肉食押しつけの問題点を浮き彫りにしていますね」

僕の視線の先に気づいてあの日本人離れしたプロポーションの美女を見たスタンリーさんも同じことを思ったのか、ため息を吐くように同意してくれた。
そろそろ打ち合わせを再開しようと思った矢先、アメリカ人だと分かる女性が数名、色紙を手に僕とスタンリーさんが座っている席にやって来た。
無碍にすることもできないので、僕は席を立ち、サインを書く。
書いてる途中で、日本人離れしたプロポーションの美人が店員さんの一人に話しかけていた。

??「拙者、12時30分に団体客で予約していたものでござるが」

店員「はい。お名前は?」

沙織「沙織・バジーナでござる」
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/03/20(火) 06:25:50.19 ID:H3RHPCIM0
ドグワッシャ-ン!!
その名前を聞いた瞬間、僕は物凄い勢いで仰向けに倒れて後頭部を強打した。
ヘルメットをかぶっていてよかった…。

キャプテン・アメリカ「う、嘘だ! 嘘だぁ!! ウゾダドンドゴド-ン!!!」

ああ、分かっているさ、店中の視線が僕に一極集中していることぐらい!
でも、転んで、叫ばずにはいられなかったんだ!
いくら何でも名前とマッチしてないじゃないか、色々と!
後、バジーナって何? 八つ当たりで小惑星を地球に落とそうした、何故か2ちゃんねるでロリコン扱いされがちな人の偽名の一部じゃないか!
平行世界の同一人物気取り!? それ何て誇大妄想!!?

スタンリー「キャップ、落ち着いてください」

キャプテン・アメリカ「…………」

スタンリーさんのおかげで何とか落ち着けた僕は立ち上がる。
冷静になれたので、僕は何食わぬ顔でサインの続きを書いた。

いきなりズッコケたり、叫んだりするスティーブを見て、桐乃は顔から火が出る思いだった。
しかし、スティーブの格好を見て、桐乃はふと思う。

桐乃「(リバイバル公演の宣伝? ・・・まさかね)」

女の子たちが語らっている傍ら、打ち合わせは続いた。
何回か桐乃ちゃんたちの方に視線を向けてみたが、桐乃ちゃんは話しかけるだけでも四苦八苦している感じだ。
話題が続かない…。
かといってこの場で助け舟を出したらそれこそ全部台無しだ。
僕が言っていいかは迷うけど、垢抜けた桐乃ちゃんはあの面々の中じゃどうしても浮いてしまうらしい。
それから数分後、打ち合わせの方は無事に終わり、桐乃ちゃんが参加しているオフ会の方もまだ続いている。
そこにタイミングよく、ピラフとオムライス、ドリンク類が運ばれてきた。

店員「お待たせ、おじいちゃん、お兄ちゃん」

並べられたのを見て、食べようかと思った直後、スタンリーさんは神妙な顔つきになる。
それと同時にシャロン・カーターが僕とスタンリーさんが座っている席に近づいた。

スタンリー「キャップ、陸軍は先日、SSR再編を決定しました」

シャロン「それに伴い、ロジャース大尉への人事通達が行われます。本当なら、こういったところですることではありませんが」

シャロン・カーターはそう呟き、一枚の書状を手に持った。
SSRが戦後解散したことは聞いていたが、まさか再編成されるなんて…。

シャロン「では読み上げます」

 スティーブ・グラント・ロジャース大尉(※)、貴殿は6階級特進で永世名誉中将に任官しました。
 同時に、再編成された戦略科学予備軍指揮官に任命します。
 なお、私の直属となるため、戦略科学予備軍は第5空軍の指揮下に入ることはありません。
 作戦遂行の際は気兼ねなく行動してください。
  アメリカ陸軍参謀総長

※:キャップは『ザ・ファースト・アベンジャー』では終戦後、MIA確定に伴い秘密裏に『退役』している。
  しかし本作ではS.H.I.E.L.D.に救出された後、『生きて帰ってきたから』という理由で強引に再就役させられている。
  ちなみに予備役。
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/03/20(火) 06:26:52.74 ID:H3RHPCIM0
キャプテン・アメリカ「僕が……!?」

シャロン「第二次大戦中の功績を踏まえれば妥当と思われます」

シャロン「それ以上に……リトル・ブッシュのせいでおかしくなった今のアメリカ軍でSSR指揮官に相応しい方はあなたしかいません。」

キャプテン・アメリカ「僕に、一軍を率いる資格が・・・あるのかな……?」

スタンリー「『Star Spangled Man』たる者、その資格をつかみ取らねばならないのです」

……みんながそう望んでいるなら。
僕は決めた…!
ならなきゃいけないのなら、なってやろうじゃないか!

キャプテン・アメリカ「……その辞令、引き受けます」

本気で安堵の溜息を漏らすスタンリーさんと、シャロン・カーター。
MPの人たちも肩を抱き合って喜んでいる…。
軍司令でも、予備役でいられるのかな…?
考えても仕方ない。
僕はオムライスを食べ始めた。
中のご飯はドライハヤシか。
確かにバットマンもビックリだね。

そして、オフ会が始まって通算2時間が経過した頃。
結局桐乃ちゃんはろくに会話もできないまま、オフ会は終わってしまった。
プレゼントの交換会でゲットした、エアガン(よく見たらU.S.M2カービンだ)

キャプテン・アメリカ「最初は、そう上手くいかないさ……」

桐乃「………誰よりも目立ちすぎてた癖に。沙織さんが誰か気づいて勝手にズッコケて、オンドゥル語で悲鳴上げてたくせに」

桐乃「・・・いつも通りにやったつもりなのに・・・ぜんぜん話、できなかった…!」

キャプテン・アメリカ「一度でダメなら二度、二度でダメなら三度、オフ会に出て自分から話しかければいいんだよ」



28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/03/20(火) 06:28:56.58 ID:H3RHPCIM0
Guu!STOREビル前。
店を出た僕たちは、せっかくだからと秋葉原観光に出向くことにした。
その直前、聞き覚えのある声が桐乃ちゃんを呼んだ。

沙織「おお、きりりん氏。良かったてござる。……えっと、そちらの方はひょっとしなくてもキャプテン・アメリカ殿でござるか?」

キャプテン・アメリカ「yes」

沙織「……二人ぴったり・・・…恋人同士でござるか?」

桐乃「違・・・ キャプテン・アメリカ「絶対に違う!!」

気が付いたら、桐乃ちゃんの言葉を遮って怒鳴っていた。
断っておくが、僕はネットでいうラッキースケベに該当するシーンとか、ふとした誤解で気まずい雰囲気になる展開とか、誰かにカップルと誤認されるのは…大っ嫌いだっ!!(※)

※:「ザ・ファースト・アベンジャー」で、ファンの女性に唇を奪われる光景をペギーに見られ、誤解されたため。

沙織「そ、そうでござるか…。ネット界隈で、本物が日本のさるご家庭に居候しておられるとの噂を聞き申したが、まさか真実でござったとは」

沙織「・・・…それにしても、この秋葉原でも一、二を争うほど目立つ恰好でござるな」

言いたい気持ちはわかるけど、『バジーナ』を名乗る残念な美人に引き気味に言われると心理的に納得できなくなるな

沙織「それにしても、第一次世界大戦が終わる前の生まれとは思えぬ若々しさでござる。若作りのレベルを超越しておられますぞ」

キャプテン・アメリカ「20代半ばから80代半ばまでの60年近くを氷漬けで過ごしていたからね」

彼女は興味と好奇心をむき出しにして僕をまじまじと見ている。
当然だ。
僕みたいなレベルの若さを保った90代なんて、普通は人魚の肉を食べたか吸血鬼になっていないと有り得ない。

沙織「と、それでは改めて。きりりん氏、今度はキャプテン・アメリカ殿とご一緒に二次会にご参加いただけませんか?」

桐乃「二次会、ですか? 沙織さん」

沙織「呼び捨てタメ口でおkでござる。先ほど拙者が喋れなかった方と拙者個人の趣味仲間を、個人的にお誘いしようと思いまして」

沙織「拙者とキャプテン・アメリカ殿を入れて、5人で」


29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/03/20(火) 06:31:16.83 ID:H3RHPCIM0
マクドナルド、秋葉原ソフマップ店。
秋葉原ソフマップタウン本館1階にある独立テナントだ。
沙織ちゃんに案内された席にいたのは、あのオフ会にいた黒いドレスの子と、……信長君だった。

沙織「お待たせいたしました、黒猫氏、信長氏。きりりん氏と、こちらその居候のキャプテン・アメリカでござる」

桐乃「・・・よろしくね」

キャプテン・アメリカ「アメリカ陸軍予備役兼フリーイラストレーターのスティーブ・グラント・ロジャースだ。よろしく、黒猫ちゃん」

黒猫「ハンドルネーム、黒猫よ」

信長「沙織ちゃんの個人的な友人の朝倉信長……です」

何故だろう? 桐乃ちゃんを見たときの信長君の表情が、若干驚いているように見える。
しかし、信長君はその表情のまま僕の方を見てしまった。

信長「・・・…まさかその格好のスティーブさんを生で見れる日が来るとは」

キャプテン・アメリカ「僕もトニー君抜きで君と会うとは思ってもみなかったよ」

桐乃「…スティーブさん?」

沙織「信長殿、つかぬ事をお聞きしますが、ひょっとしなくてもキャプテン・アメリカ殿と面識が?」

信長「あ、うん…。高校で一番仲のいい友達が外国の会社を経営しててさ。何回かスティーブさんに工業デザイン依頼をしてるんだよね」

信長「その時よく出くわしてた縁の知り合いだよ」

沙織「なるほど」

桐乃「ひょっとして、この間言ってた取引先の一人の物凄いオタクの友人って・・・」

キャプテン・アメリカ「信長君のことだ」

微妙にぎこちない雰囲気になったが、こうして二次会は始まった。
僕以外は全員ドリンクだけ。
僕はコカ・コーラのLサイズに、大量の各種サンドイッチ(※)とサイドメニュー。
これだけでテーブル一つを埋めてしまったので、僕の席はみんなの席から少し離れてしまった。

※:日本マクドナルドの公式サイトでは、メインメニューである各種バーガーを「サンドイッチ」と表記している。

黒猫「で、管理人さんはこのメンツを集めてどういう思惑があるのかしら」

沙織「いやあ、言った通りでござるよ。それに、拙者のことは呼び捨てタメ口おkでござるよ」

沙織「では皆さん、無礼講で行きましょうぞ」

黒猫「・・・…その図体で沙織だなんて、よくもまあ、名乗れたものね。図々しい」

Why? この子、今何て言った!?

黒猫「出落ちにしたって悪質よ。今度からベインかソロモン・グランディって名乗りなさい。それにその喋り方と恰好・・・」

桐乃「何年前のキモオタだよって感じ」

キャプテン・アメリカ「君たち! 無礼講っていうのは罵詈雑言フリーって意味じゃないんだぞ! 謝りなさい!」

沙織「まあまあ、拙者はこの程度の罵倒なら大歓迎でござる。キャプテン・アメリカ殿も遠慮なく罵ってくだされ」

キャプテン・アメリカ「しないよ!」

信長「スティーブさん、落ち着いて(まさかトニー以外の人をなだめる日が来るとはねー…)」

黒猫「あなたもどうしてここじゃ浮いてしまう格好をしているの?」

黒猫「第二次大戦中の米軍のマスコットのコスプレになってないコスプレをしている、アメコミオタかミリオタか判別しづらいそこの人よりかなりマシとはいえ」

沙織「まあまあ、この世は『蓼食う虫も好き好き』でござるから…」

桐乃「水銀灯の出来損ないに言われたくないわよ! それにコスプレになってないコスプレですって? その両目って節穴?」

桐乃「本物とコスプレイヤーの見分けもつかないわけ!? 少しはここに来るアメリカ人観光客を見習ったらどうなの!」

桐乃「それに沙織も何言ってんのよ!? 自分で本物かどうか確認したくせにまだ半信半疑ってどういうことよ!」

黒猫「どこに目を付けているの? マスケラに出てくる『夜魔の女王』よ!」
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/03/20(火) 06:33:31.68 ID:H3RHPCIM0
いきなり険悪な雰囲気だ。
ハッキリ言ってこれは良くない。

沙織「二人ともすぐにあそこまで打ち解けるとは…。意外と相性がいいかもしれませんな?」

キャプテン・アメリカ「君って人を見る目がまるでなっていないね。ここは止めないと」

信長「…スティーブさんって、以外と言葉の棘が多いんだね」

キャプテン・アメリカ「信長君も一人で呆れない。二人とも落ち着いて。ケンカするための二次会じゃないんだから」

キャプテン・アメリカ「何かテーマを決めて話すなりしないと」

僕の提案に対して桐乃ちゃんが何か言いたげだったが、それよりも先に沙織ちゃんが口を開いた。

沙織「ナイスでござる、キャプテン・アメリカ殿」

信長「それじゃ最初は僕から。『最近一番焦った瞬間は?』。黒猫ちゃん!」

黒猫「……。ニコニコ動画に投稿するためにネコ耳と尻尾を付けて『ウッ-ウッ-ウマウマ(゜∀゜)』を踊っていたのを、風呂上がりの妹に目撃されたことね」

黒猫「流石にあの時は本気で焦ったわ」

沙織「お茶目でござるなー。それで、その時の妹さんは?」

黒猫「不可思議なものを見る目で、口半開きになっていたわ」

それはまた…。
その時の黒猫ちゃんはかなり気まずかったに違いない。

沙織「では次。今度は言い出しっぺの信長氏」

信長「……この場でスティーブさんと桐乃ちゃんに会ったこと」

沙織「? 信長氏、きりりん氏とも面識が」

桐乃「……みんな、あたしがエロゲーやってることは認識済み、よね」

黒猫「プロフは事前に確認しといたわ」

沙織「右に同じく」

キャプテン・アメリカ「それについて相談されたことがある」

……まさか、エロゲー繋がり、か?
………!

回想スタート

それは昨日のことだ。
『メルル』のDVDを返却した時に、何気なく聞いてみた。

スティーブ「桐乃ちゃん」

桐乃「何?」

スティーブ「エロゲーとか、どうやって入手しているの? R-18なのに」

桐乃「…それは内緒」

回想終了

桐乃「信長さんはね…あたしがエロゲー買う時に色々手配してくれてるんだ」

キャプテン・アメリカ「やっぱり」

予想が見事当たってしまった。
信長君の協力があれば、確かに未成年の桐野ちゃんがエロゲーを買う程度、造作もないことになる。
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/03/20(火) 06:34:33.82 ID:H3RHPCIM0
信長「いやぁ、ギリギリアウトな手を使ってるから、内密にしたかったんだけど…」

桐乃「何で最後までシラを切りとおせないのよ。らしくない」

信長「まさか君が、それもよりにもよってスティーブさんと一緒に来るとは思わなくて…」

信長「驚いた顔、スティーブさんに見られたからもう隠せないなー、って思ってバラしちゃった」

沙織「何とも奇妙な縁でござるな。では次、拙者でござる」

沙織「拙者、こう見えても業界とのつながりが深く、各種エロ同人誌も格安で入試ているでござる」

沙織「この間、様子を見に来た両親にそれを発見されそうになったでござる。隠し方がかなり巧妙だったので見つからなかったものの…」

沙織「あの時ばかりは素で焦りもうした」

桐乃「あ、危なかったわね……」

沙織ちゃんのご両親がどんな人かはわからないけど、少なくとも見つかったら修羅場になっていたのは確かだと思う。
この調子だと、僕も言わなければならなくなるな…。
どうしたものかと視線をそらし、ふと黒猫ちゃんが目に入った。

キャプテン・アメリカ「その格好、『マスケラ』っていう作品のキャラのコスプレ、だったかな?」

黒猫「…『maschera〜堕天した獣の慟哭〜』。ストーリー・策がともに今期最高峰のアニメのキャラクター、『夜魔の女王』の衣装よ」

黒猫「木曜の夕方にやってるから……少し胸が痛いけど観ることをお勧めするわ」

桐乃「メルルの裏番組の邪気眼電波アニメじゃない。何勧めてんのよ」

黒猫「お子様と大きなお友達しか見ないテンプレなバトル系魔法少女にすぎないわよ、メルルなんて!」

桐乃「すっごい燃えるし、作画だってマスケラなんかより断然動いてるってーの! キッズアニメなめんな!」

何故だかまたも場の空気が悪くなった。
同じオタクでも好きな作品の相違でここまで言い合えるのか…。
しかし、さっきとは違って趣味の話で熱くなっている。
さっきよりは、マシか。
これはこれで、打ち解けていると、言えるかもしれない。
・・・結局この後、僕が食べている傍らで桐乃ちゃんと黒猫ちゃんは罵倒合戦を続行。
その後、僕たち五人はアキバ巡りをすることになったのだが…。



32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/03/20(火) 06:35:45.18 ID:H3RHPCIM0
歩行者天国。
土日は買い物客や観光客でごった返している。
しかし、世の中、最近は歩行者天国で訳の分からないことを言いながら買い物・観光を妨害する団体も出てくるものであって…。

変な団体「…故に、我々『反戦を尊ぶ保護者と教師の会』はキャプテン・アメリカ主演のミュージカルのリバイバル公演に断固反対致します!」

反戦を尊ぶ保護者と教師の会「子供たちに、戦争を賛美する俗悪なステー所ショーを見せることに、反対します!」

『反戦を尊ぶ保護者と教師の会』、ミュージカルのリバイバル公演を反対して横槍を入れている市民団体だ。
おもな主張は反戦・平和教育の徹底と、戦争を題材とした作品の徹底的な規制だ。
それだったら、『火垂るの墓』や『後ろの正面』、『はだしのゲン』も規制対象にならないか?
戦争を題材にしたもの全てだと、反戦をテーマにした作品まで規制することになると思うのだが。
阿蘇の主張のおかしさや、秋葉原でやる空気の読めなさのせいか、通りを歩く人たちの反応は冷ややかを通り越してどれも嫌悪感に満ちている。

歩行者「何なの? あのKY集団」「日本にいるアメリカ人向けのショーに名に目くじら立ててるんだが」「『青葉の森公園通り魔事件(※)』を解決したの、誰だと思ってるんだか」

※:ミュージカルのリバイバル公演が一度没った原因となった事件。
  商社勤務の50代男性が自責による家庭不和の末に離婚、親権を取られた腹いせと別れた妻子への嫌がらせを兼ねて起こした。
  被害者は当時の実施と同年代の小学生児童を中心として30名以上、死者は10名を超える大惨事となった。
  偶然、同公園の敷地内にある県立中央博物館内の軽食喫茶で打ち合わせをしていたスティーブが駆け付け、犯人を撃退・無力化することで事件は解決している。
  犯人は無力化された後、そのあまりの暴言に激高したスティーブに更なる追い打ちを受けて両手足の骨と歯を全部たたき折られ、内臓にも大打撃を受けた。
  その後、犯人は裁判で検察の求刑通り無期懲役の実刑判決を受け、警察病院で苦痛に苦しみながらベッドの上で死亡している。
  尚、死者の中には高坂家の長男も含まれており、それ故に高坂家では『青葉の森公園』はタブーとなっている。

歩行者の中には件の団体に向けて野次を飛ばしている人までいる。
あ、警官が団体の方を職務質問している。
……この場は離れた方がいいな。

キャプテン・アメリカ「みんな、ここから離れよう」

沙織「そうでござるな」

流石に僕たちがあの連中の真ん前に行くのは不味い。
そう思って振り返った僕が見たのは、明らかに挙動不審で、僕の方を見ている男女十数人。
ファン? それにしては僕を見る目が変だ。
だとしたら、…まさか!

キャプテン・アメリカ「!」

案の定、刃物を手に突進してきた!
仕方ない、迎え撃とう!

キャプテン・アメリカ「ぬん!」

ゴガ! 不審者「べごあっ!」

まずは一人、胸板を一蹴り。
二人目はみぞおちに強烈ボディーブローで悲鳴を上げる間もなく吹っ飛んだ。

キャプテン・アメリカ「少しの間、借りるよ!」

不審者「へ? のああああああああっ!」

この人ごみの中での集団相手の大立ち回りは面倒臭いから、三人目の腕をつかみ、そのまま鈍器代わりに振り回す!
あらかた叩きのめし、仕上げに三人目を垂直に投げ飛ばす。

キャプテン・アメリカ「そぉい!」

不審者「ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ッ-!」

投げ方が悪かったのか、顔面着地してしまった。
ともあれ、後は警察に…。

グシャァッ! 「グエェェェェェェッ!?」

背後で鈍い音と断末魔の叫びが聞こえた…。
何事かと思って振り向いたら、叩きのめした不審者とはまた違う奴の上にロボットみたいな姿をしたのが立っていた。
よく見ると下敷きになっている人は、手に拳銃を持っている。
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/03/20(火) 06:37:30.05 ID:H3RHPCIM0
??????「最近の秋葉原はどうなっているんだ。……あなたは、キャプテン・アメリカか? 本物の」

キャプテン・アメリカ「いかにも、正真正銘本物のキャプテン・アメリカだ」

??????「私は駆け出しのヒーロー、アイアンマン。訳あって秋葉原で起きていた連続傷害事件の犯人をやっつけた帰り、たまたまこの場に出くわした」

アイアンマン「あなたを狙って拳銃を出していたのを見たので、阻止しようと真上から着地したのだ」

アイアンマン「しかし、まさか武力行使に出てまでリバイバル公演に反対するとは…」

アイアンマンは呆れ半分で呟いている。
僕もこの不審者たちにはただ呆れるばかりだ。
……よく見ると、アイアンマンが下敷きにした不審者だけ、人種が違う。
典型的なアングロサクソンだ。
…? 何やら口の周りが白い。
泡を吹いて失神しただけにしたは泡が小粒な気が……!

キャプテン・アメリカ「服毒自殺している!」

アイアンマン「何だと!?」

僕の言葉に慌てたアイアンマンは、慌てて不審者から飛び退いて口元を調べ始めたが…。

アイアンマン「……既に死んでいる。一体何者なんだ、歩行者天国であなたに襲いかかり、失敗したら自害。意味不明すぎる」

キャプテン・アメリカ「僕にも見当がつかない…」

そう、その言葉で言い表すしかない。
しかし、それについて考える暇はなかった。
何故なら、背後から殺気を感じたから!
さっきに瞬時に反応した僕は、振り返ると同時に盾を構える。

バンバンバンバンバン! グワァグワァグワァグワァグワァ~ン

僕目掛けて発射された銃弾は、すべて盾に衝撃を殺がれ、力なく落ちた。
呆然とする悪漢目掛けて、僕は右手に持ち替えた盾を投げつける!

キャプテン・アメリカ「シールドスラッシュ!」

投擲した盾が直撃。
吹っ飛ばされた悪漢が起き上がろうとしたので、僕は追撃とばかりに鳩尾を踏みつける!
一気に息も絶え絶えになった悪漢の襟首をつかみ、僕は問いただす。

キャプテン・アメリカ「お前は誰なんだ!」

悪者「……新しい敵だ! たとえ、閣下は死したままでも、組織は蘇る」

悪者「さっき、お前がブッ飛ばしていたのは、我々が支援している団体の内の一つに所属している」

悪者「あのステージショーの公演を邪魔するのを手伝いたいと言ってみたら、そいつらは理由も聞かずに喜んで手伝わせてくれたよ!」

悪者「せいぜい、気を付けることだ。連中はお前を止めるためなら犯罪者になるのも平気だ!」

悪者「頭を一つ切り落としても、そこに二つ、また生えてくる! …………ハイル・ヒドラ!!」

その言葉を残して、男は毒薬入りの差し歯を噛み砕いて…自殺した。
まさか、ヒドラが未だに生き残っていたとは!





34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/03/20(火) 06:39:03.49 ID:H3RHPCIM0
その日の夜、高坂家。
今日の晩御飯はハンバーグ+付け合せの温野菜(ブロッコリーと人参)とサラダ、シジミ汁。
あれから、何故かその場に駆け付けたMPたちに促されるまま、僕たちはその場を離れ、秋葉原駅前で解散した。
言うまでもないが、帰宅後、僕はすぐに着替えている。
……疲れた。
ヒドラが生き残っていたとなると、それが気がかりで今夜は夜食がピザ1ホール分しか入りそうにない。

佳乃「どうでした? 打ち合わせの方は」

スティーブ「順調でしたよ。僕以外の出演者の手配と演目は今日のうちに決まりました」

佳乃「そういえば桐乃も、スティーブさんに付いて行ったのよね? 見学したい、とか言って。どうだった?」

桐乃「うん。スティーブさんの格好と、MPの人が一緒にいたこと以外は至って普通の打ち合わせだったけど」

佳乃「そう? あんた目立つから、男の子に声かけられたりしたでしょう? そのMPの人たちにも」

桐乃「そんなことなかった。スティーブさんが物凄く目立ってて、それが上手い具合に隠れ蓑になってたから」

あの恰好をしていた以上、反論できない。
桐乃ちゃんの説明を聞いた大介さんと佳乃さんもかなり複雑な顔をしている。

大介「今回はスティーブさんが目立ってくれたおかげでどうともならなかったが、常にそうなるとは限らないから程々にしておけよ」

大介「仕事で着るのは仕方ないが、普段から浮ついた格好をしていると、そのつもりがなくても良くない輩が寄ってくるぞ」

大介さんがそう言うのももっともだ。
桐乃ちゃんを心配して言っているのだから。



それから数時間後。
僕は『妹と恋しよっ♪』の全ルートを制覇、言い方を変えればコンプリート出来た。
なのでそれを報告するために桐乃ちゃんの部屋にお邪魔していた。

桐乃「他にも…やってみたい?」

スティーブ「今日は色々とあり過ぎたから、別の機会に。ところで、沙織ちゃんと黒猫ちゃんとは、どうだった?」

桐乃「一応、両方からメールを受け取ったから、返信しといた。またオフ会で会いましょう、って」

スティーブ「そうか…。趣味で盛り上がれる友達ができて、良かったね」

桐乃「……!」

スティーブ「それじゃ、先に寝るから…。おやすみ」



自室。
僕はベッドに横たわっていた。

スティーブ「ヒドラが生き残っていた以上、一戦交えるだけで済みそうにないな…」

スティーブ「でも桐乃ちゃんの趣味も気がかりだし……。疲れた」






次回、「キャプテン・アメリカ ジ・アキハバラ・アベンジャー」第三幕、「桐乃ちゃんの趣味への口出しは僕が許さない!」。

35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/03/20(火) 06:41:21.70 ID:H3RHPCIM0
今回の投下、完了

しかし、今回は分量が凄いことになった…。

では、次回投下時にまた。
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/03/20(火) 14:59:02.22 ID:cgTBAh2Q0
舞ってました
乙。別の作品って何ぞ
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/03/20(火) 17:04:44.61 ID:H3RHPCIM0
>>36
このスレより前に建てたスレ、美夏「お姉ちゃんの『鋼鉄の騎士』か…」のこと。
信長(『乃木坂春香の秘密』のキャラ)とアイアンマンはそこからの出張。
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/05/03(木) 11:57:06.03 ID:OQXCnfqKo
生きてるか…?
39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2012/05/18(金) 01:33:28.30 ID:TjkQtJMb0
>>38
まだ生きてる

筆が遅いのでまだ執筆中だけど
40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/05/23(水) 08:15:05.49 ID:98f5Nb0I0
第三幕、ようやく完成。

読む際の注意事項

・スティーブの服装

・地味子が好きな方は注意

・全くもって大介さんは大人げない、略してマダオ
41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/05/23(水) 08:15:58.08 ID:98f5Nb0I0
沙織「公演のチケット、きりりん氏やきりりん氏のご家族の分もご用意してあるのでござろう?」

スティーブ「前売り券の発売日前日に用意してもらうよう手配はしてある」

スティーブ「今のうちに言ってくれたら沙織ちゃんや黒猫ちゃんの分も用意できるけど」

沙織「いやいや、拙者はちゃんと自分の身銭を払わせていただくでござる」

沙織「確実に確保して下されれば、定価で買わせてもらうでござる」

スティーブ「今コンビニなんだけど、ちょうど出くわした黒猫ちゃんにも同じことを言われたよ」

沙織「そういえば黒猫氏とはご近所でしたな。…? サイレンの音? 何か事件でござるか?」

スティーブ「そっちから電話が来る前に呼んだんだ。黒猫ちゃんに代わるから、詳しいことは彼女に聞いてくれ」

黒猫「もしもし」

沙織「おお、黒猫氏。ところで、スティーブ氏は何故警察を?」

黒猫「…この間、変な連中が彼に襲いかかって返り討ちにあったの、覚えてる?」

沙織「覚えているも何も、あれはそう簡単に忘れられませんぞ。…それ絡みでござるか?」

黒猫「・・・正解よ」




42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/05/23(水) 08:16:24.71 ID:98f5Nb0I0
そんな優しくしないで…
憎しみ引きずってるのに
自分が嫌いになりそうで見れないよ
…あなたの笑顔

いつだっけ? 思い出が壊れた記憶ができた日
悲しみ…。 擦れ違いが今も少しだけ続く

ほんの少し近く あなたとの距離が
うまく掴めないのよ あとちょっとなのに!

そんな優しくしないで…
自分を傷つけてるじゃない
積み重ねた想いで戦い続けながら
いつか会いに行きたいけど
言葉がなぜか出ないの
最後の1シーンくらいあなたの
笑顔、見たいね!


キャプテン・アメリカ ジ・アキハバラ・アベンジャー
第三幕「桐乃ちゃんの趣味への口出しは僕が許さない!」




43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/05/23(水) 08:18:01.40 ID:98f5Nb0I0
官「それで、なぜそのような格好を?」

スティーブ「コスチュームの劣化具合を、着用してあちこち歩き回ることで確かめてほしいと頼まれましたので」

警官「……頼んだ側は、宣伝の意図もあったのでは?」

スティーブ「まさか」

今、僕は沙織ちゃんの電話越しの相手を、偶然再会した黒猫ちゃんに頼んで事情聴取を受けている。
理由は簡単だ。
秋葉原で返り討ちにした不審者の仲間たちが、大挙して襲い掛かって来たのをまた返り討ちにしたから。
そして、僕は再び海を越えてきたあの全身タイツを着て、シュミットが殴った跡が残っている逆三角形の盾を左手に装備していた。
目の前の警官に説明したとおり本当にスタンリーさんに、外出時に着用して劣化箇所がないか数日かけて確認してほしい、と頼まれたんだ。

スティーブ「過剰防衛、になるんでしょうか?」

警官「全員が全員、銃とか刃物持ってますからねー。問題なく正当防衛が成立しますね。殺しても問題なかったと思いますよ」

黒猫「皆殺しにしても正当防衛に?」

警官「なるね。相手が武器持った集団で自分の方がほぼ素手なら、スーパーマンでも正当防衛が成立するよ」




和菓子屋の「田村屋」。
試食コーナーの蕗羊羹を口にして以来の、行きつけの和菓子屋だ。
今日も色々と疲れたので、疲れを吹き飛ばそうと思ってわらび餅を食べている。
ここのわらびもちは名前通りわらび粉で作った高級品で、別の和菓子屋で買ったわらび餅が比べ物にならないほど美味しい。
店主やその息子さんとも顔馴染み、お孫さんの一人であるいわお君と仲良くやれているのだが…。

麻奈美「……」

お孫さんの一人で、いわお君のお姉さんである麻奈美ちゃんからは殆ど目の敵にされている。
理由は分かっている。
京介君のことだ…。

いわお「いつもごめんな、スティーブのじっちゃん。姉ちゃん、まだ逆恨みが治ってないんだ」

いわお「ところでその恰好は?」

スティーブ「リバイバル公演を企画した人に、どこか痛んでいる箇所がないか外出時に着て確認してほしい、って頼まれたんだ」

いわお「本当は遠回しな宣伝じゃないの? じっちゃんに黙って」

スティーブ「この格好をしている理由を話す度にそう言われるんだ」

ああ、わらび餅が美味しい。
麻奈美ちゃんの視線は痛いけど。
……とか思っていたら店主さんに店の奥へ連行されていった…。

店主息子「すみません。馬鹿娘がいつもいつも…」

スティーブ「……栗羊羹、8本ください」

店主息子「…………毎度あり」

何かいたたまれない気分になったので、みんなの分もセットで栗羊羹を買うことにした。
・・・3本ほど余分に買ってしまったけど。



44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/05/23(水) 08:18:48.57 ID:98f5Nb0I0
シャロン「絶対に中将に内緒で宣伝するつもりで頼んだんだと思いますよ」

スティーブ「今度、スタンリーさんに聞いてみるか」

行きつけの書店。
ここは店員が買う本の種類に文句を言わない(※)ので、行きつけにしている。
この間、秋葉原でスタンリーさんに同伴していた一人、シャロン・カーターと偶然遭遇してしまった。
どうも僕の居候先である高坂家に挨拶に行こうとして、道中で詳しい場所を聞こうとしていたらしい。
もちろん彼女にもこの全身タイツを着ている理由を聞かれて答えたのだが…。

※:実際は別の書店でスティーブが参考資料用EROGE雑誌購入阻止に怒って激烈なクレームを入れたことを知っており、怖くて止められないだけ。
  店員の中にはスティーブにR-18系の本を売る良心の呵責から神経を患い、レジ係から外れた者もいる。

シャロン「話は変わりますが、秋葉原で襲い掛かった連中と今日襲い掛かった連中が所属している団体、ようやく家宅捜索されました」

シャロン「中将の報告書に書かれてあった推測通り、…ヒドラからの資金援助・武器提供の証拠が大量に出てきました」

スティーブ「そうか」

シャロン「もう、笑うしかありません。自分たちがテロリスト化していたことを自覚していませんでしたから」

不謹慎な話だけど、その点に関してはシャロン・カーターの言う通りだ。
沙織ちゃんから以前聞いた話だと、日本のあの手の集団はCBとは違って滅多に武力行動に出ない代わりに、世の中を乱す害悪ばかりだとか。



45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/05/23(水) 08:19:46.58 ID:98f5Nb0I0
それから少しして…。
シャロン・カーターを連れて帰宅したのだが…。

スティーブ「今戻りました。……!」

シャロン「お邪魔します。……?」

この空気は…、一度感じたことがある。
お弁当を忘れた大介さんに、お弁当を届けようと千葉県警本部まで行った時に感じたことがある。
大介さんが被疑者を取り調べる時の空気だ!

シャロン「中将、この空気は?」

スティーブ「……居間から発せられている。とにかく行ってみよう!」

居間に入った僕たちが見たもの。
それは項垂れている桐乃ちゃんと、向かい合って座って無言で睨んでいる大介さん。
テーブルには『星くずうぃっち☆メルル』のケースが置かれている。
・・・・・・中身がこの間とは違って『メルル』のものなのには安心……、している場合じゃない!
こんな空気になるのも必然、ということか…。
よりにもよってアニメへの理解が過不足な大介さんに見つかるなんて。
エステス・キーフォーバーやフレデリック・ワーサムみたいな心どころか魂その物が腐り果ててドロドロに溶けてるような、人格と精神が同時に破綻してて、
根本的かつ理解力以前に脳の構造上理解力という概念が欠けている、どうしようもない吐き気がするようなファシストとは違ってはるかに救いはあると断言できるけど。

佳乃「スティーブさん、ちょっと、スティーブさん…」

・・・・・・なんて思っていたら佳乃さんに小声で話しかけられた。

佳乃「こちらの方は?」

スティーブ「S.H.I.E.L.D.のエージェント、シャロン・カーターです。皆さんにご挨拶がしたいと来たそうです」

シャロン「初めまして」

佳乃「S.H.I.E.L.D.の…。ああ、フューリーさんのとこの人ですね。初めまして、高坂佳乃です」

佳乃「せっかく来ていただいて申し訳ありませんけど、今取り込み中なのでダイニングの方に案内しますね」

シャロン「ありがとうございます」

佳乃「スティーブさんは部屋に戻っていてくださいな。ここでスティーブさんが割って入ったらもっと空気が悪くなりそうで…」

スティーブ「はい…。ところで、いったい何が?」

何となく予想はできたけど、一応聞いておかないと。
佳乃さんから聞いたのは、完全に僕の予想通りであった。
よりにもよって大介さんとぶつかった際に、DVDのケースを落としてしまったのだ。
まあ、『妹と恋しよっ♪』を入れてなかっただけ、マシとするしかないか…。
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/05/23(水) 08:20:47.46 ID:98f5Nb0I0
佳乃「あまり、驚いてませんね。……もしかして知ってました?」

スティーブ「何をですか?」

佳乃「だから、…その…あれですよ…ああいうの、桐乃が持ってるってことです」

スティーブ「はい。それについて相談されたこともあります」

佳乃「……さっきも言いましたけど、部屋に戻ってくださいね。お父さんの好きなお酒買ってきますから。
   あの人さっぱり酔わないけど、どばどば飲ませればある程度大人しくなりますし」

言いたいことは非常によく分かるけど…。
まるで怨霊の類や格だけのロクでもない土地神を鎮める、と言わんばかりの言い方だ。
それから佳乃さんは、シャロン・カーターをダイニングに案内してからお酒を買いに行った。
僕も居間から出たけど…、部屋に戻る気にはなれず、廊下でやきもきしている。
こうなると、大介さんと桐乃ちゃんの声もほとんど聞こえない。
というのもこの家、実は超の付く免震・耐火・防音・厳重セキュリティなのだ。
…大介さんはS.H.I.E.L.D.長官であるニック・フューリーと懇意にしていて、独身時代から色々手を貸してもらっていたらしい。
この家の無茶な安全対策も、ニック・フューリーに増額分を払ってもらったから実現できたとか。
…僕が居候しているのは、その時の見返りの意味合いが非常に大きかった。

それから十分ほど経過。
流石にいつまでも廊下で待つのもどうかと思ってもう一度入ろうとした瞬間、桐乃ちゃんが飛び出してきた。
顔は真っ赤で、目も充血している。
一体何が!?

スティーブ「何があったの!?」

桐乃「……うるさいわよ……うるさい!」

そのまま桐乃ちゃんは体勢を崩しそうになりながら外に出てしまった。

スティーブ「桐乃ちゃん!」

今の桐野ちゃんを見る限り、すぐに追いかけたら逆効果かも知れない。
とりあえず大介さんに何があったかを聞かないと。
居間に入ると、座ったまま微動だにしない大介さんがいた。

大介「知っていたんですか? スティーブさん」

スティーブ「はい」

大介「…何故知っているのかは聞きません。喋らないと桐乃と約束したのは、想像に難くありませんから」

大介「俺は、京介にも、桐乃にも、ああいうものを買い与えたことはありません。悪影響を及ぼすものですから」

大介「真偽はともかく、こういうのを見ている者は、…オタクだのなんだのと、蔑視されています」

スティーブ「ですが、桐乃ちゃんが真っ当に働いて得た報酬で買った物です。法に触れる物でもありません」

大介「正論です。物が化粧品やバッグなら、俺もとやかく言うことはできません」

スティーブ「物がアニメやゲームなら、話は別だ、ということですか?

大介「当然です。あれは、できた娘です。あのような物はいずれ桐乃の将来に対して大きな足かせとなります。道は正さねばならないのです」

オタク趣味は、桐乃ちゃんにとって害毒である、か…。
その考えの根底は、我が子への愛情なのは分かる。
だけど…!
今の言葉で、大介さんがどうするかは察知できた。
だから、僕は立ち塞がる。
47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/05/23(水) 08:22:12.37 ID:98f5Nb0I0
大介「……そこに立たれたら、廊下に出れないのですが」

スティーブ「例え桐乃ちゃんのためであっても、本人の許可なく部屋に立ち入るのは褒められたことではないと思います」

スティーブ「警察だって、ガサ入れの時は礼状を必要とします」

大介「……読まれましたか。桐乃を探して連れ戻してくれませんか? 部屋に立ち入る許可は、取らないといけませんから」

そう言って、大介さんは居間へと戻った。
何とか時間は稼げた。
こうでもしないと確実にあのコレクションは見つかっていただろう。
ただ、僕が立ち塞がったことで見せられないものが確実にあること自体は、確信してるだろうけど。
…桐乃ちゃんを迎えに行こう。
その前に、全身タイツからちゃんとした服に着替えないと。




桐乃ちゃんが行きそうな場所は一通り探したが…。
見つからないな。
あとはこのゲームセンターだけだ。
……入り口近くの『太鼓の達人』をプレイしている。
あの叩き方じゃ速攻でゲームオーバーだと思うのだけど。

桐乃「死ね! 死っね!! 死ねぇぇっ! 死ねぇ!!」

よく見たら、既にゲームオーバーになってる。
あれじゃ他のお客さんが入れないじゃないか。
流石に放っておけないので、両手を掴んで止めた。

桐乃「!? …なんでその格好なの?」

キャプテン・アメリカ「全身タイツよりはちゃんとした格好じゃないか」

説明し忘れていたが今の僕は戦闘服を着て、キャプテン・アメリカになっている。
何となくだけど、迎えに行くにはいつもの私服じゃなくて、この格好じゃなきゃダメだと思ったんだ。
京介君はあの時、キャプテン・アメリカに頼んだんだ。
桐乃ちゃんを守ってほしいと。
だから、僕はこの姿になったのかもしれない。

キャプテン・アメリカ「大介さんに頼まれたんだ。外に出た君を迎えに行ってほしいと」

桐乃「……それ、どういうこと?」

キャプテン・アメリカ「あの後、大介さんは桐乃ちゃんの部屋に入ろうとしてた」

桐乃「…!」

キャプテン・アメリカ「理屈を並べて止めてはおいた。…ここじゃ他のお客さんたちの迷惑だから、場所を変えよう」



48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/05/23(水) 08:23:21.00 ID:98f5Nb0I0
近くの公園。
僕と桐乃ちゃんはベンチに並んで座っている。
スターバックスでもよかったけど、僕の格好が恰好なので公園の方がいいと判断した。

キャプテン・アメリカ「桐乃ちゃん、大介さんに何を言われたの? あの時、結構話し込んでいたとは思うけど…」

桐乃「……!!」

僕の問いを聞いた瞬間、桐乃ちゃんは顔を真っ赤に染めた。
表情を見れば、今の桐野ちゃんの気持ちは簡単に分かる。
悔しさと、哀しさ。
何があったのかは家の防音設備のせいで分からなかったけど、桐乃ちゃんの顔を見れば、余程のことがあったことは察知できる。

桐乃「…………くだらんって、くだらんって言われたの!! アニメもゲームもオフ会も…」

桐乃「全部全部全部!! 全然違うのに! そんなんじゃないのに……あたし、なに…も…」

キャプテン・アメリカ「なにも、言い返せなかった?」

桐乃「……!」

その後、桐乃ちゃんは泣きじゃくってた。
誰にだって、大切なものは、ある。
桐乃ちゃんにとっては、それはアニメとエロゲーであって、僕にとっても桐乃ちゃんと本当の意味で仲直りし始めたきっかけだ。
大事なものをくだらんと否定されれば、僕も怒る。
否定して、話を全く聞かないのは、許せない。
桐乃ちゃんがここまで泣いたのは、多分、京介君がいなくなった時以来だ。
だから僕は…、僕は……、僕は初めて、大介さんに怒りを感じている!
僕は大介さんを叩きのめしたい衝動に駆られている!

桐乃「ねえ」

キャプテン・アメリカ「?」

桐乃「あたしさ、おかしいかな? 好きでいちゃ…悪いのかな?」

キャプテン・アメリカ「そう言う親もいると思う。大介さんはそれの最悪のケースだ」

キャプテン・アメリカ「だけど、桐乃ちゃんはやめたくないんだろ?」

桐乃「うん。グッズを全部捨てられても! ケータイもパソコンも禁止されてネットに繋げなくなっても! オタクはやめない! 絶対にやめない!!」

キャプテン・アメリカ「それなら、僕は桐乃ちゃんの趣味を否定する人を許さない」

キャプテン・アメリカ「大介さんが無理やり止めさせようとするなら、僕が大介さんをブッ飛ばす!!」

桐乃ちゃんは思いっきり面食らった顔をしている。
いきなり今みたいなことを言えばそうなって当然とはいえ・・・。
とにかく、僕としては大介さんに物申さないと気が済まない!
その前に、佳乃さんに電話しておこう。
既に帰ってきているはずだ。
佳乃さんには引っ張り出してもらう物が結構あるからね。



49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/05/23(水) 08:26:40.29 ID:98f5Nb0I0
高坂家。
桐乃ちゃんを連れて戻ってきた僕は、居間で大介さんと対峙していた。

大介「……そう睨まれては桐乃と話ができないのですが」

キャプテン・アメリカ「僕は桐乃ちゃんを迎えに行って連れ戻すことは約束しました」

キャプテン・アメリカ「だけど、桐乃ちゃんに立ち入りを認めさせると約束したわけではありません」

大介「…」

キャプテン・アメリカ「知ろうともせずに下らないなんて勝手に決めて、それが正しいって言えるのですか!?」

キャプテン・アメリカ「僕は間近で桐野ちゃんの『大切なもの』を見てきました。同じものを大切にしている人たちに会ってきました」

キャプテン・アメリカ「偏見を持たれかねないような人たちだったけど、でも、それでも偏見を持つ人よりずっとまともな人たちだ!」

キャプテン・アメリカ「みんな真剣に楽しんでいました。夢中になるのがそんなに悪いことなんですか!」

大介さんとは対照的に、僕の方は完全に熱くなっている。
その勢いのまま、佳乃さんに引っ張り出してもらった桐乃ちゃんの成績表と賞状を半ば叩きつけるようにテーブルに置いた。

大介「…・・・母さんから借りましたね?」

キャプテン・アメリカ「そうです。悪影響しかないなら、これはどう説明するんですか? 悪影響を受けているなら、これだけの成績と賞状はあり得ません!」

大介「それは桐乃が俺との約束を守っているだけのことでしょう」

キャプテン・アメリカ「よくもまあ、そこまで狭量なことが! 既に悪影響がないことぐらい気づいているでしょうが! それでも認めることができないんですか!?」

大介「それが躾という物です」

全く! なんなんだ、大介さんは!
意固地にだって限度があるだろうに!
こうなった以上、あまり褒められないけどこっちも出すしかない。

大介「……桐乃のアルバムがどうかしたのですか?」

そう、桐乃ちゃんの写真を収めたアルバムだ。
生まれた頃から、最近のものまで。
しかし、この中には京介君が写っているものはない。
桐乃ちゃんの部屋をリフォームしたのと同じ理由で、京介君が写っている分は別のアルバムに入れてあるのだ。
…………話しを戻そう。
大介さんは家族写真にえらくお金をかける主義らしく、撮影に使われたカメラは結婚した時にニック・フューリーのツテで購入したものだ。
なんでも、当時のS.H.I.E.L.D.が金に物を言わせてキャノンに作らせた、S.H.I.E.L.D.への納品専用シリーズ『GANYMEDE(ガニミード)』だとか…(※)。

※:ガニミードはガニュメデスの英語読み。
  かつて、EOSシリーズの没モデルの一つに一目ぼれしたS.H.I.E.L.D.のとあるエージェントが、それを強引に買い取ろうとしてキャノン側と衝突。
  その際のゴタゴタが切っ掛けとなって、件の没モデルをプロトタイプとして開発された。
  『ガニミード』の名は、開発スタッフの一人がそのあんまりな開発経緯をわし座の神話と引っ掛けて命名したものである。
  大介が所持しているのは一号モデルの『GANYMEDE Altair(アルテール)』の後に出た二号モデル『GANYMEDE Rembrandt(レンブラント)』。
  当たり前だが現実のキャノンにはこんな名前のシリーズは存在しない。
50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/05/23(水) 08:29:16.86 ID:98f5Nb0I0
アルバム一冊で言い包められるなら苦労しないから、更にもう一冊を出す。
さっきのアルバムも、これも佳乃さんに引っ張り出してもらったものだ。
これ見た瞬間、ようやく大介さんの顔に焦りが見え始めた。

大介「……どうしてそれまで!?」

キャプテン・アメリカ「佳乃さんが折角だからとこのスクラップブックも貸してくれたんです。渡された時は流石に驚きましたよ」

キャプテン・アメリカ「大介さんの宝物だと聞いたのでどんな物かと思ったら…」

スクラップブックを開けた瞬間、大介さんの顔に出ていた焦りが更に強まる。
それはそうだ。
張られているのはファッション誌などの切り抜き、それも桐乃ちゃんの写真だけと来ている。
口では色々と難色を示していながら、実際はこうやって桐乃ちゃんが写ってる部分を切り抜いて集めている。

キャプテン・アメリカ「桐乃ちゃんがこうやって頑張って、きちんと結果を出してることが嬉しいから集めているんじゃないですか?」

大介「…馬鹿なことを言わないでください。親が子の仕事を確認しなくてどうするんですか」

キャプテン・アメリカ「確認して…、どうでした?」

大介「あの恰好はどうかと思いますが、胸を張れる仕事であることは分かりました」

キャプテン・アメリカ「眉をひそめるようなチャラチャラした仕事でない、ということですね?」

大介「……そうです」

キャプテン・アメリカ「それでは、これはどうですか?」

僕は携帯電話の液晶を突きつける。
そこに映っているのは、あの時のオフ会の二次会で撮った集合写真。
僕を中心に桐乃ちゃん、黒猫ちゃん、沙織ちゃん、信長君が集まっている。

大介「! なんですか? この写真は」

キャプテン・アメリカ「桐乃ちゃんが趣味仲間と一緒に撮った写真です」

写真に写っている桐乃ちゃんは、屈託のない笑顔だ。

キャプテン・アメリカ「これを見て、桐乃ちゃんの趣味がくだらないと、まだ言えますか?」

キャプテン・アメリカ「写真に写っている桐乃ちゃんの顔は、大介さんが撮った写真と全く違いません。両方とも屈託のない笑顔です」

キャプテン・アメリカ「この写真に写っている趣味仲間たちが、桐乃ちゃんが得たものです」

キャプテン・アメリカ「アルバムに写ってるのも、切抜きに写ってるのも、この写真に写ってるのも、全部桐乃ちゃんです。一つでも欠けたら桐乃ちゃんは桐乃ちゃんじゃない存在になるんです!!」

キャプテン・アメリカ「これを見てまだ認められないというなら、僕がっ、桐乃ちゃんの代わりに大介さんをブッ飛ばす!!」

大介「どうしてそこまでできるのですか!」

キャプテン・アメリカ「あの日、京介君はキャプテン・アメリカに桐乃ちゃんを託しました!!」

大介「京介が……!」

キャプテン・アメリカ「そして桐乃ちゃんの趣味のおかげで、僕と桐乃ちゃんの間にある溝は無くなりました。あの日出来た、埋まることが無いはずだった溝が!」

大介「!!」

キャプテン・アメリカ「何も知ろうとしないくせに、いい加減なことを言うとは何事ですか! それが人の裏を見抜かないといけない警察官の姿勢ですか!? 高坂大介!!」

大介「スティーブ・グラント・ロジャース…………!!」
51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/05/23(水) 08:31:05.35 ID:98f5Nb0I0
大介さんの顔は、えらい数の血管が浮き出ている上に表情が表情なのでとんでもないことになっている。
しかし、それもホンの一瞬で終わった。
ため息を吐いた大介さんの顔は、一輝に欠陥が沈んだのでだいぶ柔らかい表情になっている。

大介「くだらんと言ったのは、撤回します。桐乃の趣味が、あなたと桐乃が本当の意味で仲直り出来たきっかけだと分かった以上、認めるしかありません」

大介「スティーブさんの言う通り、知ろうともしなかったのも事実ですから」

大介「…・・・ですが、俺は父親です。親以上に桐乃と歩み寄れることや、京介から桐乃を託されたことに関しては恩知らずにも嫉妬しています」

大介「だからせめて! 踏ん切りをつけるためにも一撃食らってください!」

父親としての意地もあるのだろう。
そう言わないとやってられないのかもしれない。
よく見たら泣いている…。
まあ、殴られた方が後腐れは無いだろうね。

キャプテン・アメリカ「僕としては一向に構いません! さあ! どうぞ!」

直後、視界がいきなり横にずれた上に衝撃で後ずさってしまった。
待ってましたとばかりに大介さんが渾身の力で僕を殴ったのである。
…視界を大介さんの方に向けなおしたら、握り拳のまま固まって震えていた。
殴ったのはいいが、僕の方が予想以上に堅かったので痛かったらしい。
? なぜかメガネを外したぞ。

大介「なんで呆けているんですか…。次はスティーブさんの晩ですよ?」

キャプテン・アメリカ「……はい?」

大介「いくら許可をもらったとはいえ、八つ当たりで人を殴った以上、殴った相手に殴り返されるのが筋という物です」

大介「むしろ殴るだけとは言いません。俺自身のケジメでもありますから、今度は俺の方を遠慮なく叩きのめしてください」

……そう簡単には終わらないか。
大介さんとしてはあれこれ吹っ切りたいのだろう。
せっかく後腐れなく終わりそうなのに、ここで断って引きずったら台無しになるな…。
しかたない、後で佳乃さんと桐乃ちゃんに言われるだろうけど、ここは大介さんのリクエストに応えよう。

大介「さあ、おいでませい!!」

キャプテン・アメリカ「そこまで言われた以上、遠慮なく!!」

がすぼかどこびしごがばきぐちゃばこどかげしちゅどーん!!

大介「………………御美事です」

どっさー!!


それから数十分後。
玄関前。

シャロン「事前の連絡もしないで来たのにお土産まで…」

佳乃「いいんですよ。スティーブさんが余分に買っちゃった分ですから」

挨拶を一通り終えたシャロンは、高坂家を後にするところである。
家族の問題のせいで随分待たせてしまったお詫びなのか、佳乃はお土産としてスティーブが買って来た栗羊羹の内3本をシャロンに渡していた。

シャロン「それではこれで失礼します。今度は、こちらがお土産を持参してきます」



52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/05/23(水) 08:31:59.76 ID:98f5Nb0I0
次の日。
今日は非番なこともあり、大介さんは佳乃さんの付き添いで病院に行っている。
結局加減が微妙に弱かったらしく、大介さんを還付無きにまでボコボコにしてしまった。
その結果、昨日の晩御飯はおかゆなのに主菜が麻婆豆腐、という不思議な組み合わせになった…。
時間は既に午後で、桐乃ちゃんも帰ってきている。
佳乃さんに電話したところ、折角だからと買い物を兼ねてちょっとしたデートの真っ最中だとか
一方、桐乃ちゃんは電話越しに黒猫ちゃんと言い争っている。
…・・・昨日のドタバタのせいで冷蔵庫にしまいっ放しになっている栗羊羹、仏壇に供えておこう。
そう思って今を出ようとした直後、電話を終えた桐乃ちゃんに呼び止められた。

桐乃「ねぇ」

スティーブ「どうしたの?」

桐乃「また人生相談するかもしれないから、その時はよろしくね」

桐乃「それと…えっと…。ありがとね、スティーブさん」

桐乃ちゃんはハッキリと、そういった後に慌てて部屋に戻って行った。
気のせいだろうか、その時の桐乃ちゃんは頬が赤かった気がする。
もし京介君なら、なんて思ったのだろう?
『俺の妹がこんなに可愛いわけがない!』だったり……、京介君に限ってそれはないか。
あ、冷蔵庫から栗羊羹を出すのを忘れていた。
それに気づいた僕は、慌てて冷蔵庫の戸を開けた。






次回、「キャプテン・アメリカ ジ・アキハバラ・アベンジャー」第四幕、「新垣あやせは何故だかいけ好かない!」。
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/05/23(水) 08:33:43.35 ID:98f5Nb0I0
今回の投下、無事に完了。
いまさらですが読者の皆様、本当にお待たせいたしました。

次はせめて来月中に投下できるといいな…。
54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/05/23(水) 14:07:26.52 ID:zuegQHXIo
乙!おかえり!
しかしよく設定をクロスできるな…そして超兵に殴られた大介さん…
55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/05/23(水) 17:33:21.81 ID:zuegQHXIo
SS速報VIP SS宣伝スレ
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1313550918/


さっきこのスレで許可も取らずに宣伝しました…本当にすいません
56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/05/23(水) 18:09:45.99 ID:98f5Nb0I0
>>55
作者です。
書き込みを確認して慌てて来ました。
事後承諾になりますが、宣伝は全くおkです。
むしろ、宣伝してくれてありがとうございますw
57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/06/25(月) 03:07:58.16 ID:VKx6puOs0
第四幕が今月中に完成したので投下。

読む前の注意事項

・ED曲注意

・トニー何やってんの

・ハイル・ヒドラ!
58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/06/25(月) 03:08:59.64 ID:VKx6puOs0
スティーブ「それで、ヒドラの動向は?」

SSR所属米兵「全くもって分りません。痕跡、というか足取りを追える物証や情報を、援助を受けてた団体に消されているため、追いかけようがありません」

SSR所属米兵「まあ、団体の方は軒並み特定できましたけど」

スティーブ「…そこまでヒドラに協力するメリットがあるとは言い難いのに…」

SSR所属米兵「もうイデオロギーの問題ですね。自分たちの主義主張を通すためならどんな犯罪も平気になっているのかもしれません」

SSR所属米兵「それを通すための援助をしてくれるのならヒドラであろうと味方なんですよ、ああいうのは」

スティーブ「……ヒドラが関わっている以上、これは既に我々アメリカ軍が解決しないといけない案件だ」

スティーブ「最悪、ヒドラの援助を受けている団体相手に銃口を向ける日が来るかもしれない…!!」



59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/06/25(月) 03:10:18.47 ID:VKx6puOs0
日米を守る勇敢な人は誰?

スティーブ「戦場で戦うだけが、軍隊の仕事じゃない。戦争以外の仕事もある」

正義のため再び戦うのは誰?

スティーブ「青葉の森公園通り魔事件を僕は絶対に忘れたくない」

星条旗を持ち日本中を回る
北海道から遠路はるばる
沖縄県まで
日米の希望 キャプテン・アメリカ

脅威に立ち向かおう

スティーブ「このコンサートは、亡くなった子供たちへのプレゼントでもある」

悪い奴らは許せない

使命に燃え、日米に
正義を示す戦士は誰?
ともに戦おう
日米の希望 キャプテン・アメリカと

スティーブ「かつて20代だった頃の僕は、アメリカでほぼ同じことをしていた」

スティーブ「その時は戦時国債を買ってもらう為だったが、今回は純粋なエンターテイメントだ」

スティーブ「あの頃は背後にヒトラーが忍び寄っていたが、今回は誰が後ろにいることやら…」

戦う彼は眩しい(左手には星の盾が一つ)
星条旗のような赤・青に白

日米のために戦う者がいる(彼こそはファースト・アベンジャー)
時を経て蘇った人がいる(戦う彼はいつも美しい)

正義を貫くキャプテン・アメリカ
平和を守るキャプテン・アメリカ
闘志みなぎる
ヒーロー再び
日米の希望 キャプテン・アメリカ

スティーブ「僕は僕の正義を信じる! みんなもどうか正義を信じて欲しい!」


キャプテン・アメリカ ジ・アキハバラ・アベンジャー
第三幕「新垣あやせは何故だかいけ好かない!」





60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/06/25(月) 03:11:20.75 ID:VKx6puOs0
いけね、『第三幕』じゃなくて『第四幕』だったorz
61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/06/25(月) 03:12:17.94 ID:VKx6puOs0
演出家「OKでーす。もう完璧! いろんな意味で文句なし!」

演出家がやたらと褒めちぎってくれる。
ここは千葉美浜区にある美浜豊砂ビーチ米軍基地(※)。
どうやらS.H.I.E.L.D.がSSR用にとずいぶん前から用意していたらしい…。
その筋の団体の抗議とかはなかったんだろうか?

※美浜区に建設された海岸沿いの基地であり、新都心ヘリポートと花見川第二終末処理場の間に立地している。
 陸軍基地としては特異な立地から『美浜豊砂ビーチ』と命名された。
 説明するまでもないと思うが、現実の在日米軍はそんなところに基地を建てていない。
 あくまでも本作オリジナルの設定なので本気にしないように。
 ちなみに近隣住民の抗議は基地建設後に生じる雇用増加の説明や、S.H.I.E.L.D.が裏でやった実弾バラ撒きで鎮静化している。
 スティーブが懸念する団体筋の方はS.H.I.E.L.D.が近隣住民を味方につけて鎮圧済み。

あの後、ミュージカルの練習をしていた。
それにしても、まさか練習1回でここまで絶賛されるとは。
確かに曲調や台詞を挟むタイミングは完全に覚えていたけど…。

演出家「ただ、ダンサーたちの動きがまだバラバラですね。中将さん以外はまだ練習が必要ですね」





それから数日後…。
トニー君(※)がアイアンマンであることを、自分で暴露した日の翌日。
7月の土曜日だ。

※:説明しておくと、この世界のトニーは基本的に「ザ・アドベンチャーズ」準拠なので、高校生である。
  スティーブがトニーを君付けで呼んでいるのはそのため。

僕は今、桐乃ちゃんから新しく借りたゲームをしている。
その名も『真妹大戦シスカリプス』!
ヴァリアブル・ジオ(※)の系譜に連なる18禁対戦格闘ゲームだ。

※:PC-98発祥の対戦格闘エロゲー。
  『勇者王ガオガイガー』で有名な『キムタカ』のキャラデザと、ぶっ飛んだバックグラウンドが特徴。
  その人気から、エロ要素を取り除いてからのコンシューマー移植も数回行われている。

結構難しいな…。
反射神経を意外と要求されるゲームだ。
……よし、かなり強かったけど倒せた。
うむ、勝利後のシーンは中々参考になるな。
それにしても、今僕が操作している『電撃妹』はどこかで見たことがある気が…。
バーチャロイド(※)?

※:大ハズレ。
  正解は『とある魔法の禁書目録』『とある科学の超電磁砲』のキャラ、三坂琴美のクローンの10032号。
  隠れチャロナーであるスティーブはバイザーを見てデジャヴを起こしたようである。
  こちらの世界ではメーカーが事前に原作者である鎌池和馬氏に許可を貰って作ったキャラクター、ということになっている。
  ちなみにスティーブは『禁書目録』も『超電磁砲』も知らない。

62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/06/25(月) 03:13:17.39 ID:VKx6puOs0
それから更に少し経ち…。
クリアしたのでセーブして、終了。
最近はミュージカルのリバイバル公演にむけた練習やらが響いて数は減ってるけど、依頼は依然として来ているのだ。
気のせいか、SaH-D(※)のゲームに出てくるキャラクターのデザインばっかりのような気が…。
『ファンタシースターIII〜時の継承者から地球人根絶まで〜』とか『大貝獣物語3』とか『爆ボンバーマン3』とか『スペースチャンネル5 Part3』とか。

※:正式名称は『セガ・アンド・ハドソン・デベロッパーズ』。
  発音は『サード』。
  スタークインターナショナルがセガとハドソンを買収・合併させて生み出したゲーム企業。
捲土重来のために2009年に発売した第四勢力ハード「PCネプチューン」は、『キン肉マン』の完璧超人たちを起用した笑撃のCMで年末を風靡している。
  ローンチタイトルである、ごった煮ホラーコメディお馬鹿RPG『セガガガVS邪聖剣ネクロマンサー』はゲーム脳や自主規制を極限まで皮肉った内容で結構な売り上げを記録した。
  この狂ったゲームの企画書は2007年に作成されており、作中世界ではそれが『超次元ゲイム ネプテューヌ』誕生のきっかけとなる。

思えば、ワーナーからの「CG-MOE-Anime The Future Eve MAD-ARRANGE(※)」のコンセプトアートとキャラクターのデザインの依頼が縁でトニー君と知り合ったっけ。
……資料用のEROGE雑誌が役に立ったよ。
…ドアをノックする音が聞こえる。
確か大介さんは研修のため出張、佳乃さんはそれに合わせてデート気分で同行して、二人とも金曜日まで家にいない。
ノックしてるのは桐乃ちゃんだね。

※:19世紀後半のフランス製SF小説であり、SFに『人造人間』の概念を持ち込んだ最初の作品『ラ・エヴ・フチュール』を原作とする非18禁SFコメディエロアニメ映画。
  企画・脚本原案と翻訳:トニー・スターク、脚本監修・製作:ティム・バートン、総監督・脚本:出渕裕、作画監督・メカニックデザイン:大張正巳、演出チーフ:福田巳津央、制作補助:ジャーヴィス。
  「Salutary HENTAI animation」と銘打っており、大胆にもバカ・エロ・ブラックユーモア・社会批判を溢れんばかりに盛り込んでアレンジしてある。
  制作自体は桐乃が小学生6年生の頃にスタートしてる。
  メインスポンサーである、スターク・インターナショナル側の強い要望でスティーブがコンセプトアートとキャラクターデザインを担当することになった。
  …厳密には、社長であるトニー・スタークのゴリ押しであるが。
  要は『キャプテン・アメリカがメイン・スタッフとして参加した』という事実を宣伝材料にするためである。
  邦題は『未来のイヴ〜僕の嫁は機械仕掛け〜』で確定している。
  ちなみに、原作である『ラ・エヴ・フチュール』は日本では『未来のイヴ』名義で戦前から出回っている。
  タイトル繋がりでALI PROJECTの『未来のイヴ』を主題歌にすることが決まっているのだが、権利問題から原曲ではなく急遽収録したカバー版が使用される。
  なお、カバー版はトニーが脚本の内容に合わせて歌詞をアレンジしてあり、ボーカルも関係者間で隠匿されているため、未だ非公開である。
  誤解無きよう言っておくが、こんな作者得な非18禁バカエロアニメはあくまでも作中世界にのみ存在するのであしからず。

スティーブ「開いてるよ」

ガチャ 桐乃「…」

スティーブ「どうしたの?」

桐乃「えっとね。急な話なんだけど、今日は友達が来るから部屋から出ないでよ」

スティーブ「……僕を友達と会わせたくないの?」

桐乃「正解。だってスティーブさん…モテモテじゃん。みんな、スティーブさんを見たら間違いなく見惚れちゃうから」

そういうことか。
僕はあくまでもペギー一筋なんだけどなぁ…。
桐乃ちゃんの学校での友達ということは、桐乃ちゃんの趣味を知らない女の子ばかりだということだ。
オタク趣味を悪く言う女たちなんかには、頼まれても近寄りたくないね。



63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/06/25(月) 03:14:10.68 ID:VKx6puOs0
それから2時間後。
一応、昼食は済ませたけどスーパーソルジャーは必要なカロリーも馬鹿にならない。
なので少し前にナポリの窯(※)に頼めるだけのサイドメニューを頼んでおいた。
え? ピザは頼まないのかって? それは無理だよ。
ピザを頼めるだけ頼んだら、それだけでお店の方がパンクするじゃないか。
で、配達が来るまでリビングのドアを開けて待機中なのだ。

※:宮城県仙台市の株式会社「いちごホールディングス」の子会社である宅配ピザチェーン「ストロベリーコーンズ」の第2ブランド。
  会社と同名の第1ブランドとは違い、イタリア式の本格的なレシピが特徴。
  「ストロベリーコーンズ」は売り上げで大手に大敗しているにも拘らず、顧客満足度では毎年大手を押しのけて上位にランクインしている。
  作者は本当はストロベリーコーンズと書きたかったのだが、実際の千葉県にはないため仕方なく第二ブランドであるナポリの窯に変更した。
  ストロベリーコーンズのベーコンの入っていないペペロンチーノがメニューから削除されたのは寂しい限りである。

ピンポ-ン
あ、ピンポンが押されたようだ。
先に出ようとするより早く、桐乃ちゃんが出てしまったけど。

桐乃「お待たせ〜。待ってたよぉ〜♪」

どうやら桐乃ちゃんの友達が先に来たらしい。
物凄い猫なで声だ。
桐乃ちゃんの声だとは信じ難いものがあるね。
……とか思っていたら、ほんの数秒の差で宅配の方も来たようだ。

ナポリの窯の店員「お待たせ致しましたー。ピザとドリンク以外のメニュー、お持ちしましたー」

待っていたものが届いたので、代金をカード(※)で支払う。
気のせいだろうか。
宅配の人はテレビでよく見るスクーターみたいなのじゃなくて、結構大きいワゴン車で来ていたような。
一方、桐乃ちゃんの友達どころか、きりちゃん自身も届いたサイドメニューの数に呆然としている。

※:もちろんクレジットカードのこと。
  ちなみにスティーブのはJCBカード、それも彼専用の新たな最上級カード『JCBスタースパングルド』である。
  非常にデンジャラスな安全対策と、『ザ・クラス』よりある程度サービス面が充実しているのが特徴。
  以下、サービス例。
   ・メンバーズセレクションの利用回数が年3回
   ・グルメ・ベネフィットの限定的当日予約可能+国内利用店舗とエリア増大&海外でも使える
   ・ハーツレンタカーのマスタングGT-hを予約なし&半額以下でレンタル可能
   ・日米プロ野球特別観戦プラン
   ・クルージング・アッパーサービスプラン
   ・ファーストクラスラウンジ利用時のサービス強化
  等々…。

桐乃「……ちょっと慣れたけど流石にこの量は……、じゃなくて! 部屋から出ないでって言ったでしょ!」

スティーブ「パスタとかが来るのを待ってたんだよ」

桐乃「全く……。運ぶの手伝うから部屋に戻ってて!」

64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/06/25(月) 03:15:06.26 ID:VKx6puOs0
持てる分だけを両手に持った僕は、桐乃ちゃんのその言葉通りに部屋へと戻ることにした。
その際、パスタや揚げ物を数人分、桐乃ちゃんの部屋の方に持って行ったけど。
桐乃ちゃんの友達は…3人。
しかし、一人だけ髪を染めていない子がいたけど…。
何と言うか、あの子だけとは明確に仲良くなれる自信がない。
清潔感もあって、一番礼儀正しいし、髪を染めていない点もいい。
案外、京介君なら「ラブリーマイエンジェル」とか言う…………訳ないよね。
いくらなんでも京介君に失礼過ぎる(※)。
これじゃ京介君がジョーカーをドン引きさせるあのハーレイクィン(※)みたいじゃないか。
でも、何で僕はあの子に対していい感情を持てないのだろうか?

※:残念ながら原作では、京介はスティーブの予想通りの状態になっている。

※:1990年代にアメリカで制作され、日本でもテレビ東京系で放映されたTVアニメ『BATMAN』に登場したアニメオリジナルのヴィラン。
  発音が安定しないので日本語では「ハーレクィン」「ハーレークィン」とも表記されるが、ここでは「ハーレイクィン」表記とする。
  元はアーカム・アサイラムに赴任したインターンの精神科医であり、本名は「ハーリーン・クィンゼル」。
  ジョーカーと接する内に次第に精神に変調をきたし、彼の口八丁に乗ってしまった末に一目惚れして道を踏み外してしまう。
  ジョーカーの愛人を自称しているが、当のジョーカーからの扱いは雑である。
  殺されそうになってもめげるどころか心変わりすらしない辺り、その狂気はある意味ジョーカー以上と言える。
  加えて、ジョーカーは邪険にしつつも彼女を特別視しており、最近のジョーカーは彼女が傍にいないと注意力散漫になることが多い模様。
  根っからのギャグ担当気質とジョーカーを本気で引かせる狂気、そしてどこまでも一途で突き抜けた愛故に非常に人気の高いヴィランである。
  その人気は、後々原作コミックスの方に逆輸入されたほど。
  頭は悪い方なのだが、ジョーカーへの愛でかなり強力な補正がかかることがある。
  実際、オリジンと魅力を描いた名作『バットマン:マッドラブ』では、「ジョーカーを利用する」という思い切った手段を使わせるほどバットマンを知恵で追い詰めた。
  
考えても始まらない。
さ、食べよう。
『バットマンビギンズ』を見ながら。
『ダークナイト』は見ないのか、って? アレは…ダメ。
確かにヒース・レジャーの演技は最高だし、アクションシーンも大分レベルアップしてる。
だけどヒーロー物なのにヒーロー物らしさを削ったのは論外だ。
しかもジョーカーがしかめっ面をメイクで誤魔化して、人間のままでバットマン相手に肉弾戦で圧倒できるのは良くない。
『ザ・バットマン』はどうなんだ、って? あっちのジョーカーは人間辞めているから問題なし(※)。
『ビギンズ』は粗削りだけど、モービルがちゃんと大暴れしていて、バットマンも強いからね。
ジェームズ(※)には悪いけど僕は『ビギンズ』の方が好きだし、映画としての質も高いと思う。

※:どういうことかというと、『ザ・バットマン』のジョーカーは、落ちた薬液タンクの中身が人間を変異させる特殊薬品だったから。
  そのため完全に怪物化しており、『歴代最強のジョーカー』と言うしかないほどの身体能力と戦闘力を誇る。
  オリジンも『キリング・ジョーク』並みに悲劇的なものとなっている。

※:アメリカの著名な映画&クソゲーレビュアー、ジェームズ・ロルフのこと。
  映画の自主製作が趣味で、それがネット配信番組『シネマサッカー』とAVGNという略称で有名な『ジ・アングリー・ビデオゲーム・ナード』の制作に活かされている。
  AVGNの人気要素である、破壊行為とFワードを盛り込んだ超攻撃的批評で誤解されがちだが、実際はAVGNで見られるような情緒不安定男ではないので注意。
  スティーブはAVGNを見たのが遠因で彼とは知人の間柄である。
  ちなみに、上記のセリフは『シネマサッカー』でジェームズが『ビギンズ』より『ダークナイト』を高く評価したことへの感想でもある。



65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/06/25(月) 03:17:53.36 ID:VKx6puOs0
加奈子「いい加減、白状したらどうなのさぁ〜。桐乃〜」

桐乃「な、何をよ?」

加奈子「彼氏よ! カ・レ・シ! どんな男なの!?」

桐乃「だからぁ! いないって言ってんでしょ!」

加奈子「桐乃にそういわれると『ハイ、そうですか』じゃ済まないっつーの!」

加奈子「桐乃、学校ですっごいモテるじゃん、男の子たちからさ!」

藍(※)「まさか、キャプテン・アメリカと一つ屋根の下だから学校の男子に興味が持てない、とか?」

加奈子「それもかなりあり得る〜! 確かにキャプテン・アメリカってすんごいイケメンだもんねぇ〜」

※:ランちんのことです。
  漫画版でも本名が分からず、アニメでは存在せず、原作でも伏見先生が設定を出してくれないのでキャラも設定も掴めない始末。
  なので本作ではオリジナル設定で本名を「穀野藍(こくの らん)」にしています。

桐乃「あのね…。スティーブさんはもう90歳以上なのよ。お父さんとも明らかに親子以上に歳離れてるのと何で付き合うのよ」

あやせ「でも最近、学校でもその人と電話してることがあるでしょ?」

藍「そうそう。しかも時々痴話ゲンカっぽくなってたし。怒鳴ってるのにさ、顔の方はすっごいうれしそうなの」

桐乃「や…それは、ちがっ…全然違くて!」

あやせ「でも、凄く優しい人じゃない」

あやせ「宅配ピザ屋さんから買って来た料理、結構分けてくれただけじゃなくて、人数分のお箸や分け皿まで持ってくれたでしょ」



66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/06/25(月) 03:18:34.00 ID:VKx6puOs0
……? 携帯電話が鳴っている。
着信は、沙織ちゃんからだ。
バジルチキンを刺したフォークを皿に置き、一時停止をクリックしてから電話に出た。

スティーブ「どうしたの?」

沙織「スティーブ氏。資料の方はもう届きましたかな。今日届く予定でござるが」

スティーブ「まだ。ひょっとして、予定ではもう届いてるころかな?」

沙織「その通りでござる」

沙織ちゃんが言っている資料とは、メルルとシスカリプスの同人誌セットのことだ。
一応、金払って購入したものである。
最初、沙織ちゃんが物凄く難色を示したのが不愉快だったなぁ…。

沙織「擬装用の箱のストックが切れていたので、海外に行った時に買った化粧用品の箱をに入れておりまする。『エタナー』というブランドの」

スティーブ「そうなん……」

それって、僕以外は僕宛てに何故か化粧品が届いた、ってことになるような。
もしも桐乃ちゃんが受け取ったら、勘違いした挙句、友達に見せびらかそうとする可能性大!
ヤバい!
もしそうなったら大惨事だ!

スティーブ「なんて箱に入れてくれたんだ!」

沙織「はひ!?」

スティーブ「理由は後でかけ直したときに話す!」



桐乃「……どうしたの?」

部屋を出た直後に、桐乃ちゃんと出くわした。
その手には…「エタナー」の箱!
しかも蓋にはしっかりと僕の名前が書かれた紙が!

スティーブ「…………!」

とっさに桐乃ちゃんの腕を掴む。

桐乃「!? なにすんのよ!」

スティーブ「その箱、僕宛てのだ!」

桐乃「はぁ!? 意味わかんないわよ! スティーブさんがあたしへのプレゼントで買ったんでしょ!?」

スティーブ「プレゼントする気なら前もって君に何が欲しいか聞くってば!」

スティーブ「これは化粧品じゃなくて! 沙織ちゃんから買った資料用の同人誌なんだよ!」

スティーブ「送り主の名前のところ、よく見てみるんだ! 『沙織』って書いてあるだろ!?」

桐乃「…はい?」

檄するだけじゃ埒が明かないので、僕も桐乃ちゃんの手を放す。
が、それがいけなかった。
桐乃ちゃんは階段を上り切っていなかった。
オマケに、片足を次の段に置く前、つまり片足立ち状態。
よりにもよって、僕が腕をつかんだせいで却ってバランスが安定していた状態だったのだ。
だから…仰向けに階段から落ち始めた!

スティーブ「危ない!」

飛びかかるように桐乃ちゃんを抱きしめ、体を捻って、僕の背中が階段に当たるようにする。
桐乃ちゃんを抱きとめたまま、僕は階段を滑るように落ちた。



67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/06/25(月) 03:19:21.95 ID:VKx6puOs0
いたたたたたた…
後頭部は打たなかったけど、延髄を数回強く打ったみたいだ…。

桐乃「ちょっと、だいじょうぶなの?」

スティーブ「痛いけど、かなり大丈夫」

藍「ちょっと桐乃!」

加奈子「大丈夫なの!?」

桐乃ちゃんが開けっ放しにしたのか、それとも遅いのが気になって友達の方が開けたのかは分からない。
でも、どうやら桐乃ちゃんの部屋のドアが開いていて、そのせいで僕と桐乃ちゃんが階段から落ちた時の音が彼女たちに聞こえたみたいだ。
駆け付けてきた……んだけど、何か彼女たちの表情が変だ。
んでもって、すぐに桐乃ちゃんの顔が真っ赤になって行っく。
…………?
桐乃ちゃんが自分の胸元から下を見ていたので僕も視線をそこに移すと…、上着もスカートも盛大にはだけて、下着が丸見えになっているのが見えた。

桐乃「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

顔を真っ赤にしている桐乃ちゃんはバネのような勢いで立ち上がって、僕に蹴りを入れてきた!

スティーブ「痛いじゃないか!」

桐乃「超人兵士が女子中学生如きの蹴りでダメージ喰らう訳ないでしょ! つーか、むしろあたしの足の甲と足の裏全体に鈍い痛みが走りだしてるんだけど!」

蹴られながら、僕は立ち上がる。
友達の内、黒髪じゃない2人が呆れている。
一方、黒髪の子は階段にへたり込んだ。

あやせ「……桐乃って、その人と、『そう言う関係』なの?」

桐乃&スティーブ「「ちっがあああう!!!!!」」

桐乃「有り得ないでしょ! どんだけ歳の差があると思ってんのよ!」

スティーブ「そもそも、この状況下でなんでそういう考えに行きつくんだ! 中二病か? 中二病なのか!?」

あやせ「そ、そうですよね…」

黒髪の子は、どこか安心した表情でそう言った。
やれやれ…。
箱を回収しないと…あれ?。
箱が落ちてない…?

加奈子「何? これ」

スティーブ「あ、それは桐乃ちゃんが間違えて……」

僕が撮ろうとした瞬間、ツインテールの子は僕の手を避けて階段を駆け上った。
……人の嫌がることを機敏に察知できるみたいだ。
そっちがその気なら!

加奈子「ええ!?」

ジャンプして一気に階段を飛び上がる。
そして箱を奪還して、彼女を片手で持ち上げる。
そんでもって彼女の方を桐乃ちゃんの部屋のベッドへとポイ。
僕はそのまま自分の部屋へと戻った。
桐乃ちゃんが何か怒鳴っていたけど、今はこの同人誌セットをカギ付きロッカーに直すのが先だ。



68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/06/25(月) 03:20:31.32 ID:VKx6puOs0
沙織「いやはや。まさかそのようなことになっていたとは」

スティーブ「擬装用の箱のストックは前もって補充してほしかったな」

沙織「次からは気を付けまする。それでは、これにて失礼するでござる」

沙織ちゃんに電話して、何があったのかを説明した。
あの後、桐乃ちゃんに少し怒られた。
ツインテールの子、来栖加奈子を投げ飛ばしたことでだ。
流石にやり過ぎ、だと言われた。
本日二度目の、ドアをノックする音が響く。
今度も桐乃ちゃんだろうか?
そう思って開けたら、桐乃ちゃんではなく黒髪の子がいた。

あやせ「えっと、今日はお騒がせしてすみませんでした」

あやせ「あの後、桐乃から聞いたんです。あの箱、お仕事用の資料が入っていたって」

スティーブ「そのことか…。もう済んだことだよ」

あやせ「桐乃、スティーブさんからのプレゼントだと思ってたから、ちょっぴり残念そうにしてて…」

黒髪の子はそう言いながら、顔を段々僕の方に近づける。
どうも顔を僕の方に近づけていることに気づいていないようだ。

あやせ「いきなりな上に差し出がましいですけど、もし本当に何か桐乃にプレゼントすることになったら相談してください!」

あやせ「桐乃の好みはばっちり把握してますから」

スティーブ「そうか…。ありがとう。もしそうなったら力を貸してもらうよ。桐乃ちゃんのこと、これからもよろしくね」

僕がお礼を言った瞬間、彼女はようやく自分が顔を近づけていたことに気づいたらしい。
急に顔を赤くしだした。

スティーブ「名前を教えてもらえるかな? その後で携帯電話の番号とメールアドレスも」

あやせ「あ、はい。申し遅れました。私、新垣あやせですよろしくお願いします」

スティーブ「スティーブ・グラント・ロジャース。またの名を『キャプテン・アメリカ』。こちらこそよろしく」

お人好しで、礼儀正しくて、とてもいい子だ。
…・・・なのになんで僕は、綾瀬ちゃんに対して「いけ好かない」なんて思ってしまうのだろうか?


桐乃「全く。いきなり加奈子を投げ飛ばしたスティーブさんもアレだけど、よりにもよって高級化粧品の箱にエロ同人誌詰め込むなんて何考えてんのよ、沙織は」

スティーブ「その辺は僕の方から言っておいた」

桐乃「あんまり悪びれてなかったでしょ?」

スティーブ「謝ってはいたけど、口調の方は大体桐乃ちゃんの予想通りだったね」

桐乃ちゃんも「やっぱりそうか」と言った表情になる。
色々あったせいか、桐乃ちゃんはどこか疲れているように見える。
こういう時は…気分転換だね。
当日予約だから一人分無料、とはいかないけど…やっぱり最上級カードを持っていると便利だ。
とりあえず、前から気になっていた赤羽橋の店に予約しておく。

桐乃「どこに電話したの?」

スティーブ「赤羽橋の鉄板焼きの店。今日のディナーを予約したんだ」

桐乃「…はい?」

スティーブ「ボケッとしてないで、ほら、着替える。おしゃれな店だから僕たちの方もおめかししておかないと」

桐乃「……うん」





69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/06/25(月) 03:21:22.60 ID:VKx6puOs0
場所は変わり、スウェーデン王国、ヴェストライェータランド県、ヨーテボリ市。
ノルディック・マスメディア倫理会議会場、時刻は早朝。
北欧各国のマスメディア関係者が、前日の夜から紛糾している。
お題は専ら、「スェーデンのマスコミが行った、移民犯罪を幇助する悪質偏向報道」である。
スェーデンのマスメディア代表団は国民代表や、他の国のマスメディア代表団の激しい追及にしどろもどろになっていた。
この様子は、北欧各国に放映されている。
スウェーデン代表団は、国内で移民を狙った連続大量殺人を引き合いに出してはぐらかそうとするも、焼け石に水となっている。
そんな中、軍服を着た一団が会場になだれ込んできた。

スウェーデン代表団メンバー「な、何者だ!」

?????「ふん。スウェーデンのマスコミ業界人がそれを言うのか」

?????「スウェーデンの国籍を取得しながら、スェーデン人になろうとしないで安易に犯罪に走る悪質移民の悪行、お前らはどれだけ報道した?」

?????「報道しないから、掃除した。我々がな」

スウェーデン代表団メンバー「まさか、貴様たちの……!」

?????「読解力があるな。ある意味お前らのおかげで、こっちは随分と人手が増えた」

?????「彼らの総意はこうだ。『絶望した! この国のマスコミと、それを野放しにした政府に絶望した!』」

?????「感謝の気持ちは毛頭ないが、礼はしておこう。……総員、スェーデンのマスメディア代表団だけ殺処分だ!」

スウェーデン代表団メンバー「いきなり何を言い出すんだ!? 突然現れたかと……」

刹那、一団のリーダーらしき者が、食って掛かってきた、代表団メンバーの足を銃で撃つ。
足を撃たれた、スウェーデン代表団メンバーは崩れ落ちる。

?????「最初からお前たちだけ殺すつもりだから言ったのさ」

?????「……何分、スカウトする時に、ここを襲撃してお前たちを殺すと約束してしまったのでね」

?????「ウルトロン・ピムはヒドラの誇り高き幹部だ。故に約束は守ることにしている」

ヒドラ兵士「Dr.ピム。総員、殺処分の用意ができました」

ウルトロン「そうか、では処分開始だ。『忘れるな。ヘンリー・ピムとジャネット・ピムを』。質問される前に言っておくが、今のは俺の決め台詞だからな」

直後、ヒドラの兵士たちの一斉射撃でスウェーデン代表団は蜂の巣になって事切れる。
一部の兵士は、なおも発砲し続け、弾切れになった瞬間に死体を蹴り始めた。

ウルトロン「国民代表に各国の代表団諸君、そしてこれを見ている視聴者諸君。我々の作戦はまだ序章に過ぎない」

ウルトロン「もうすぐ、我々はここを動かずしてスウェーデンのマスコミ各社を吹き飛ばす、壮大なマジックを披露する。楽しんでくれたまえ」

ウルトロン「ハイル・ヒドラ!」

ヒドラ兵士たち『『『『『『『『『『ハイル・ヒドラ!』』』』』』』』』』





70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/06/25(月) 03:22:08.03 ID:VKx6puOs0
ほぼ同じ頃、東京都港区の麻布と東麻布の間辺り。

GPS乃ナビと、自転車の猛スピードを頼りにここまで来れた。
無料の駐輪場に自転車を置いた後、僕たちは店の方へと歩いている。
桐乃ちゃんはオシャレな服装で決めているが、僕はどんな服を着ればいいのか分からなかったので軍服を着ている。

桐乃「秋葉原の時とは違う意味で目立ってるね」

スティーブ「普通のスーツでよかったかな…?」

桐乃「今更言っても始まらないって」

桐乃ちゃん、どことなく嬉しそうだ…。
ふと、桐乃ちゃんは懐から何かを取り出す。
……iPod?

桐乃「トニーから預かってたの。ちょうど『未来のイヴ』が完成したから、主題歌の方を是非スティーブさんに聞いてほしいって」

桐乃ちゃんから手渡されたiPODにはイヤホンが付いていた。
そう言えば、主題歌は原曲が無理だからトニー君がスカウトした人が歌うカバー版を使うんだったな。
カバー版を歌う人は、トニー君以下一部のスタッフしか知らなくて、僕も誰なのかは教えてもらえなかった。

スティーブ「……そういえば、どうしてトニー君は桐乃ちゃんにあの曲の入ったiPODを預けたのかな?」

桐乃「簡単簡単。だって、カバー版歌った当人だもん」

イヤホンを耳につけ、曲を再生される直前、桐乃ちゃんのその言葉に固まった。
タイミングよく、赤信号になったので止まったのと同時に。
曲が再生され、その数秒後に桐乃ちゃんの言葉が事実であることを僕は嫌というほど気づかされることとなる





71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/06/25(月) 03:23:18.55 ID:VKx6puOs0
SFガジェットで、弄って朝まで
禁忌(タブー)は壊せ、お気に召すまま
解剖学的(アナトミック)に愛して

都市(とかい)は、迷路な研究所なの
不要になれば、すぐに消される
情熱に生き急いで

工房はエデンの園
机上の設計図は預言書

彼女はイヴ
ロボット工学の粋集め、生まれた
老いはしないアンドロイドの、堕落の女神よ
お望みどおりに
清らです、可憐です、知的です
罪の味で

金属の骨には、めくるめく羞恥心
天使のような、とても愚かしい
あの元ネタの罪なの

いつしか変えたの、廻る運命(さだめ)
無情の神を、冷ややかに見据え
ほんとの自由味わう

信じられるモノは一つ
一糸纏わぬ甘き伴侶

理想のイヴ
科学者がそう全力で、造った
愛されてる電子仕掛けの、安息の娼婦よ
誘惑の蛇
絞めてます、登ります、噛んでます
闇の奥に

貴方の瞳(め)に、見つめられて
紅玉(ルビー)の胸、鼓動が響きます

この子はイヴ
メガロポリスの妄想で、育ってます
汚れ知らぬ貴方の嫁よ、優しく抱きしめて
未来のイヴ
デザインしたのはキャプテン・アメリカです
涙を知るアンドロイドは恋する女よ
貴方の林檎で
悶えます、よがります、孕みます
共に生きて



次回、「キャプテン・アメリカ ジ・アキハバラ・アベンジャー」第五幕、「時には辛い出来事を思い出すこともある!」。
72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/06/25(月) 03:25:48.10 ID:VKx6puOs0
投下完了。

ヒドラが本格的に暗躍し出しました。
次回は結構先になるかもしれません。

追記:ウルトロンの声は絶望先生で脳内アフレコしておいてください
73 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/07/23(月) 12:11:57.98 ID:+q/Yxbyao
74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2012/08/16(木) 01:57:35.82 ID:yfp68z4b0
ただ今第五幕を執筆中。
やっぱ暗い話を書く時は気が滅入って筆が進まん。
75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage saga]:2012/08/20(月) 02:50:22.88 ID:TLz5unIB0
完成したので投下予告。

注意事項

・原作キャラの死亡描写注意

・麻奈実のファンの癪に障る可能性がある描写があります
76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/08/20(月) 02:51:29.23 ID:TLz5unIB0
スティーブ「……」

桐乃「スティーブさ…もう着替えてたんだ」

スティーブ「ああ」

桐乃「お父さんもお母さんも玄関で待ってるわよ」

スティーブ「分かった…」





キャプテン・アメリカ ジ・アキハバラ・アベンジャー
第五幕「時には辛い出来事を思い出すこともある!」




77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/08/20(月) 02:52:17.31 ID:TLz5unIB0
青葉の森公園。
僕たちはそこにいた。
高坂家ではタブーであるこの公園にいる理由は一つ。
『青葉の森公園通り魔事件』五周年追悼式典に出席しているからだ。

市長「あの惨劇をキャプテン・アメリカが解決してから5年も経ちました。5年目に当たる今日この日、節目として追悼式典を開きました」

市長「それに当たり、キャプテン・アメリカに協力を依頼した結果、弔砲をしていただけることとなりました」

市長の演説が参加者の耳に響く。
そして僕は、あの日以前の数年間を断片的に思い出していた。





78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/08/20(月) 02:53:26.41 ID:TLz5unIB0
スティーブ「ハジメ、マシテ…」

京介&桐乃「「えーっと…」」

大介「あー…。二人とも大丈夫だ。この人はまだ勉強中だが日本語は喋れる。だから英語で挨拶する必要はないぞ」

京介&桐乃「「…。初めまして」」

初めて会った時、僕はまだ日本語を習いだしたばかりでかなり片言だった。





大介「なんだ。スティーブさんにそれを教えてたのか」

京介「スティーブさん、もうチョッと器用に箸が使えるようになりたいから、って」

桐乃「スティーブさん、すっごい器用なんだよ。持ち方教えたら、簡単に覚えたんだから」

大介「確かに凄いな…」

スティーブ「スーパーソルジャーは肉体だけじゃなくて記憶力も強化されてますから」

スティーブ「ある意味ズルしてるようなものです」

大介「いやいや。それでも十分凄いですよ」

京介君と桐乃ちゃんに箸の使い方を教えてもらったこともある。
物覚えが良過ぎてちょっと感心されてしまったけど。





京介「のおおおおおおおおおお! 風が! 風が!」

桐乃「…………!」

スティーブ「桐乃ちゃんみたいに口は開けない方がいい。舌をかむよ!」

コストコにみんなで買い物に行った時、ちょっと張り切り過ぎた。
ちょうど、フィル(※)からあの三輪自転車と一緒に貰った各種オプションの中にリクショウ(※)を改造した人員運搬カーゴがあった。
なのでそれを取り付け、大介さんと佳乃さんはカーゴの方に乗ってもらい、京介君と桐乃ちゃんは僕と一緒に自転車の方に乗ってもらい、コストコに猛スピードで直行していたのである。
佳乃さんの悲鳴に混じって、大介さんのうめき声も聞こえたんだけど、あの時は何故か幻聴だと思い込んでしまった。

※:フルネームはフィル・コールソン。
  S.H.I.E.L.D.のエージェントであり、マーベル・シネマティック・ユニバースではお馴染みのセミレギュラー。
  当時はスティーブの監視役として千葉に滞在していた。
  もっとも、ニックを介して大介と面識があったため高坂家からの心証は良好で、加えてキャプテン・アメリカの大ファンでもあるため、スティーブとも仲が良かった。
  青葉の森公園通り魔事件後、タイミング悪く新しい任務が入ったため後ろ髪をひかれる思いで帰国。
  現在は再び日本に来ており、兄と和解したロキ・オーディンソンの監視役に就いている。
  ちなみに、キャノンとトラブルを起こして『ガニミード』が開発されるきっかけを作ったのはこの人である。

※:アルファベット表記は『rickshow』で、意味は『人力車』。
  英単語らしく発音が一定しておらず、国によっては『リクシャー』と発音する場合も。
  高坂家の人たちは見た目でカーゴの正体に気づいて『人力車』と呼称していたが、説明を受けたスティーブはアメリカ人なので『リクショウ』と呼称していた。
  




79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/08/20(月) 02:54:40.52 ID:TLz5unIB0
大介「そのままじっとしてくださいよ、スティーブさん」

大介「母さんはその位置で。京介と桐乃はスティーブさんの肩に乗って、お互いに盾を持つんだ」

京介「こんな感じ?」

大介「そんな感じだ。よーし、セルフタイマーをセットしてっと…」

桐乃「チーズ!」

ミュージカルのリバイバル公演が決まり、海を越えてあの時の全身タイツが再び僕の手元に来た。
折角だから、という大介さんたちの提案でこの全身タイツを着た僕と、高坂家の皆さんの集合写真を撮ることになった。
桐乃ちゃんの掛け声とともにシャッターが切られる。
それから数分後、着替えた僕は廊下にいた京介君に、気になることを聞いてみた

スティーブ「そういえば、時々大介さんがいなくなることがあるんだけど、どうしてだろう?」

京介「うち、地下の物置に隠し部屋があるんだよ。親父用の現像室が」

スティーブ「……」

大介「よーし、なかなかの出来になったぞ、京介」

大介「……あれ、どうしたんですか? スティーブさん」

大介「京介、何でスティーブさんは俺の顔を妙な表情で見ているんだ?」

京介「現像室のこと、教えたと途端にあんな顔になったんだよ」

大介「そういえば、現像室のことを言うのを忘れていた」

現像室は分かるけど、地下、それも物置の隠し部屋っていうのは変だと思う。
そう思っていたら、エプロンをつけた桐乃ちゃんが出て来てた。

桐乃「兄貴。そろそろ晩御飯作ろう」

京介「おう」

そういえば、今日は京介君と桐乃ちゃんが晩御飯を作ってくれるんだった。

大介「前祝、ということで京介と桐乃が自分から作ると言い出したんですよ」





市長「では、これより弔砲に入らせていただきます……」

市長の言葉の直後に発せられた銃声が鳴り響いた直後、回想が終わる。
……あの日、打ち合わせのためにこの公園に僕は来ていた。
何の偶然か、京介君もその日は友達とこの公園で遊ぶ約束をしていたんだ。
たまたま同じところに用があったから、僕は佳乃さんに断りを入れ、京介君を乗せてこの公園に行くことにした。
……京介君は自分で行くと言っていたのに僕は半ば強引に乗せたっけ。
もし、あの時京介君を乗せなかったら、ひょっとしたら……。





80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/08/20(月) 02:55:24.68 ID:TLz5unIB0
事件当日、高坂家の玄関。

京介「……その格好で行くの?」

スティーブ「向こうのリクエストなんだ。ところで、京介君も出かけるの?」

京介「青葉の森公園。友達と遊ぶ約束したんだ」

スティーブ「行き先は同じなんだ……。それだったら、僕の自転車に乗っていくかい?」

京介「自分で行けるんだけどなぁ」

思いっきり目を逸らされた。
多分、コストコに行った時のことを思い出したんだろう。
流石に無茶し過ぎたかもしれない(※)。

※:裏通りや、車と車の間を縫うように猛スピードで突っ走った。
  それじゃあ京介が嫌がるのも当然である。

スティーブ「そう言わないでさ」

スティーブ「佳乃さん。僕と行き先が同じなので、京介君を乗せて行っていいですか?」

佳乃「一向に構いませんけど、信号には注意してくださいね。赤信号を突っ切ったりしちゃダメですよ」





京介「……今日はあの時より安全だったね」

スティーブ「コストコに一緒に行った時は、そんなに危なげだった?」

京介「『危なげだった』、じゃなくて純粋に『危なかった』よ! 何回かフラッシュバックしたし。親父ですら晩酌の時に『怖くてしばらく乗れないな』とまで言ってたんだよ」

スティーブ「……」

ここまで言われるとぐうの音が出ない。
あの時のは幻聴じゃなくて、本当に大介さんの呻き声だったんだ……。
そういえば、コストコに着いた時、大介さんの膝が笑っていた。
帰りに高いお酒でも買っておこう。
その後、待ち合わせ場所など決めて、京介君は中央博物館とは正反対の方向へ行った。



待ち合わせ場所に一番に着いた京介が、そこで待つこと数分。
友人たちが次々と到着してきた。

友達A「京介が一番のりかぁ」

京介「……まあね」

友達B「そういえば、博物館でキャプテン・アメリカが誰かと打ち合わせみたいなのをしてたけど」

京介「今度、ミュージカルのリバイバル公演があるだろ? それの打ち合わせなんだよ」

友達B「……なんでそんなの知ってんの?」

友達C「知らないの? キャプテン・アメリカって京介ん家に居候してるんだよ」

それから数十分。
公園内で適当に遊んでいた京介たちの耳に、悲鳴が聞こえる。

京介「……?」

何事かと思って京介が、悲鳴が聞こえた方向を振り向く。
そこにいたのは、逃げ惑う子供たち目掛けて狂ったように刃物を振り回す中年男性。
既に何人かは刺されて倒れている。
そうこうしている内に、京介と同じぐらいの歳の少女がこけてしまう。

京介「!!」

それを見た瞬間、京介は友達が制止するのを振り切り、駆け出した……。



81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/08/20(月) 02:56:10.57 ID:TLz5unIB0
スティーブ「それで、劇場の方は?」

スタンリー「千葉の方は決まっていますが、それ以外がいがまだ交渉中となっています」

スタンリー「何せ唐突に始まった企画でして……」

青葉の森公園の敷地内にある、県立中央博物館。
そこの中にある喫茶店『あおば』では僕はスタンリーさんたちと打ち合わせをしていた。
店の人に注文しながらかれこれ数十分は続けている。
隣のテーブルには何十個もの空の皿が積み重なっている。
……大半は僕が平らげたものが乗っていた皿だけど。
そんな時、急に館内が騒がしくなった。
何事かと思って喫茶店を出た僕が見たのは、怪我をしている子供たち。

スティーブ「一体何が!?」

職員「あ、あの!」

スティーブ「何があったんですか!?」

職員「そ、それが……公園内で通り魔が暴れているらしいんです!」

スティーブ「何だって?」

どうりで怪我をしているはずだ。
しかし、まさか通り魔が出てくるなんて

職員「逃げてきた子供たちの中には、御覧のように怪我をしている子もいて……」

スティーブ「通り魔は一体どこに?」

職員「中央広場です!」



82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/08/20(月) 02:57:08.77 ID:TLz5unIB0
中央広場。
子供を連れて必死に逃げ惑う大人たちとは正反対の方角へと走った。
彼らが足を止めて注目する中、僕が目にしたのは……。

スティーブ「……!」

血を流して倒れた子供たち……!!
そして少し離れた先にいたのは、刃物を振り回して子供たちに襲い掛かる通り魔!
止めに行こうとした刹那、僕の視界に京介君が映った。
明らかに数か所を刺されいた京介君も僕に気づいて、視線をこっちに向ける。
そして……震える手で、通り魔の方を指さす……!

京介「……行って! …………キャプテン・アメリカ!!」
スティーブ「京介君……。ごめん!」

僕は通り魔の手の甲を思いっきり殴って、刃物を落とさせる。
更に盾の先端(※)で鳩尾を突き、一気に無力化する。
直後、僕は慌てて京介君の側へと駆けつけた。

※:この時のスティーブが持っていた盾は、ビブラニウム合金製の円盤型盾ではなく、レッド・スカルに殴られた跡がある鉄製の逆三角形型盾。

スティーブ「京介君!」

京介「スティーブさん……」

服の、刺されて穴が空いた箇所を確認する。
……急所を何か所も刺されている。
既に致命傷だったのか……。
周りを見渡してみると、他の子供達の内、京介君以外の9人もすでに手遅れだと見ただけで気づいてしまう。
改めて京介君の方に視線を移すと、その顔には目に見えて死相が色濃く浮かんでいた。
なのに、京介君は笑っていた。

京介「通り魔は……?」

スティーブ「やっつけた」

京介「……やっぱりキャプテン・アメリカってすごいや。…桐乃のこと、俺の代わりに、……守ってください……」

スティーブ「…………約束する」

京介「これで……安心して……ひと眠……りできる……よ」

その言葉と共に京介君は、笑顔のまま目を閉じた。
そして、その体はどんどん冷たくなっていく。

スティーブ「京介君。起きてくれ……。大介さん用のお酒を買おうと思うんだけどさ。どんなのを買えばいいかな? アドバイスが欲しんだ」

スティーブ「だから……目を覚ましてくれ! 眠っちゃダメだ!! 京介君!!!」

耳元で大声を出しても、京介君は反応しない。
京介君は…………死んだんだ…………。
けど、悲しみに沈むのには早過ぎた。
……やっつけた通り魔が、笑っていたから。
そして、自分勝手なことを、べらべらとまくし立てだす。

スティーブ「…………」

嘆くのは、このクズを殺さないようにしつつ、完全に黙らせるてからだ!

通り魔「……え? ちょ、ちょっと待って! 俺、動けないんだけど!」

スティーブ「それが…………どうしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

通り魔「ひぎゃああああああああ!?」

僕は怒りの咆哮を上げながら、通り魔を容赦なく痛めつける。
通り魔の両手足が複雑骨折し、歯が全部折れて、内臓が破裂して吐血しようとも、僕は執拗に痛めつけた。
過剰防衛? 殺人未遂? それがどうした!





83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/08/20(月) 02:57:46.65 ID:TLz5unIB0
あの後、誰かが呼んだ、警察と救急が駆け付けた。
彼らが見たのは、怪我をした子供達、殺された京介君たち、僕に叩きのめされて無残な姿になった通り魔。
そして……、俯いて立ち尽くす僕だった。
その場で警察の事情聴取を受けていた僕は、怪我をした生存者たちが気がかりで彼らが搬送された病院に来ていた。
命に別状はないと聞かされて安堵したが、直後に僕はまた立ち尽くしてしまう。

TVの音声「たった今入った情報によりますと、目撃者の証言からキャプテン・アメリカに助けられたとのことです」

TVの音声「どのように助けたのでしょうか?」

TVの音声「通り魔を叩きのめしたそうです」

TVではさっきの事件を報道している。
事件の凄惨さを伝えているのと同時に、報道内容は次第に僕への賛美が含まれるようになった。
けれど、僕は……。

大介「スティーブさん!」

スティーブ「……大介さん?」

大介「部下に聞いたところ、この病院にいると聞いたもので。佳乃と桐乃も来ています」

佳乃「スティーブさん……」

桐乃「…………」

大介さんと佳乃さんが心配そうな表情を見せているのとは正反対に、桐乃ちゃんは険しい顔で僕を睨む。

桐乃「ここに来る前に、怪我してる子に聞いた。兄貴のとこに駆け付ける前に通り魔やっつけたって」

桐乃「兄貴を無視したから! 兄貴は死んだんだ! もっと早く現場に来てくれたら兄貴は殺されなかったのに!」

桐乃「返してよ!! 今すぐ兄貴を返せ!!!」

桐乃ちゃんは、関を切ったように泣きながら僕を叩く。
大介さんと佳乃さんがそれを停めよとする。
けれど、二人とも、特に大介さんのその姿にはいつもの勢いがない。

保護者A「あの、キャプテン・アメリカですか?」

そんな中、不意に話しかけられた。
話しかけた人を見てみると、子供と手を繋いでいる。
その子供は、通り魔があの時手にかけようとしていた子だった。
大介さんが何とか桐乃ちゃんを僕から引きはがし、話ができる状態になった。

保護者A「ありがとうございます。息子から、間一髪で助けてもらったと聞きました」

この人を皮切りに、大人たちが大挙して集まってくる。
口々にお礼を言って来た。

保護者B「貴方がいなかったら娘はどうなっていたか……」

保護者C「ありがとうございます……。娘の仇を討ってくださって……」

その中には、殺されたこの親御さんまでいる。
純粋にお礼が言いたくてここまで来たんだろう。
よく見たら、桐乃ちゃんに事情を説明している子もいる。
みんな、僕にお礼を言いてくれる。
だけど……今の僕は、無力だ……。

佳乃「スティーブさん?」

スティーブ「しばらく、一人にさせてください……」



84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/08/20(月) 02:58:37.96 ID:TLz5unIB0
病院の屋上。
僕は佇んでいた。
僕は……。

桐乃「スティーブさん……」

スティーブ「!? どうしたの?」

いつの間にか、隣に桐乃ちゃんがいた。
桐乃ちゃんの顔からは、既に険しい表情は消えている。
ただ、泣きはらした顔で、更に泣きそうな顔をしている。

桐乃「ごめんなさい……」

スティーブ「どうして謝るんだい。……謝らなきゃいけないことはしてないだろ?」

桐乃「……あの後、兄貴の友達から聞いたの。兄貴、刺されそうになった人を庇って自分が刺されたって。」

スティーブ「……それでも、間に合わなかったのは事実だ」

桐乃「でも兄貴は自分の命を…… スティーブ「だけど僕は間に合わなかった!」

桐乃ちゃんの言う通り、間に合わなかった。
だから、僕は桐乃ちゃんの言葉を遮ってしまった……。
桐乃ちゃんも僕の絶叫で目を丸くしている。

スティーブ「……一人に、してくれないか?」

桐乃「うん……」

返事の直後、桐乃ちゃんは屋上からいなくなった。





それから少しして、京介君の葬式の日。
ご近所の皆さんやS.H.I.E.L.D.のエージェント・クリント(※)が手伝ってくれたおかげで、葬式はこれまで滞りなく進んでいた。

※:フルネームはクリント・バートン。
  タイミング悪く京介の死と同時にコールソンを別任務のために本国に戻してしまったことへの埋め合わせとして、ニック・フューリーが派遣した。
  弓術の達人で、常識外れの他界命中率を誇り、それに加えて特殊合金性の基本モデルを始めとした各種矢尻を組み合わせているためかなり強い
  いうまでもなく、あの「ホークアイ」である。

だけど、トラブルが起きた。
焼香を済ませた後で、麻奈美ちゃんが僕に食って掛かってきたんだ。

麻奈実「どうして? どうして京ちゃんのお葬式にいるのよ!? お前のせいで京ちゃんが死んだのに!」

スティーブ「……」

麻奈実「何がヒーローよ! 京ちゃんを助けられなかったのに! 京ちゃんを返してよ! 偽善者!!」

みんなから止められても、麻奈美ちゃんは聞かずに叫び続ける。
それが気に障ったのか、桐乃ちゃんが麻奈美ちゃんを突き飛ばした……!

桐乃「うるさい! あんたの言ってることは八つ当たりじゃない!」

麻奈実「どうしてそいつを庇うのよ! あなただってそいつに当たり散らしたじゃない! 京ちゃんはあなたのお兄ちゃんなのに!」

桐乃「聞いてなかったの? 兄貴はほかの人を庇って死んだって! あたしより年上で、兄貴がどうして死んだかを知っても八つ当たりするあんたよりマシよ!」

桐乃「兄貴じゃなくて、あんたが死ねばよかったんだ!!」

あっという間に掴み合いのケンカに発展してしまう。
大介さんと佳乃さん、田村屋の店主さんたちが二人を引きはがそうとしている……。
僕は、立ちすくんでそれを見ることしかできなかった……。





85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/08/20(月) 03:00:45.05 ID:TLz5unIB0
現在、青葉の森公園。
追悼式典が終わり、帰ろうとした僕たちは、式典に参加していた田村屋の皆さんと出くわした。
麻奈実ちゃんが僕に文句を言おうとしたが、桐乃ちゃんが割って入って遮られた。

桐乃「……こっちくんな!」

麻奈実「……チッ!」

……麻奈美ちゃんが舌打ちしたように聞こえたのは気のせいだろうか?
加えて、よく見たら、少し離れたところでハルクが暴れている(※)……。

※:ハルクはスティーブが追悼式典に参加したことに抗議しに来た団体をブッ飛ばしている。
  ちなみに、件の事件で亡くなった子供たちの中にはハルクの親戚もいた。
  更に付け加えると、このSSに出てくるハルクはブルース・バナー博士とは別人なので悪しからず。





その日の夜、、千葉県の某テナント。
惨殺体が大量に転がる地獄絵図を、警察の鑑識に混じってS.H.I.E.L.D.のエージェント達が調べていた。

クリント「……一つ聞いていいか?」

鑑識「なんです?」

クリント「どうして俺たちS.H.I.E.L.D.が介入しているんだ? 訳が分からないぞ。長官に問い合わせても『現場を見ればわかる』としか説明……」

クリント・バートンはそう言いながら壁の方に視線を映して、瞬時に納得した。
壁には被害者たちの血で「ヒドラの最近の動向に関する資料をこの部屋に置いてある。それをキャプテン・アメリカとニック・フューリーに渡してくれ」と書かれていたから。

クリント「……しない訳だ」

鑑識「そういうことです」

クリント「主任。キャプテンに連絡は?」

フィル「長官の指示で連絡は明日にするようにと言われた。青葉の森公園でのあの事件の追悼式典だったからな」

クリント「……」

フィル・コールソンはそう言いながら、クリントと監視と一緒にデカい血文字を凝視している。

鑑識「それにしても、何でしょうね? メッセージに添えられたあの署名は?」

クリント「昔、長官が追っていた『ソ連の暗殺者部隊』にCIAがつけたコードネームと同じだな……。この部屋の状況を夏投げれば、犯人はこいつら、ということになる」

クリントと鑑識は、血文字のメッセージに添えられた署名をまじまじと見ていた。
『ジ・ウィンター・ソルジャーズ』を……。






次回、「キャプテン・アメリカ ジ・アキハバラ・アベンジャー」第六幕、「コミケでは『世に事は無し』では済まないことが多い!」。
86 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/08/20(月) 03:02:59.20 ID:TLz5unIB0
投下完了……。
次回は来月中に投下できるといいなー……。
あらかじめ決めていたとはいえ、悪人じゃない、それも原作では生存しているキャラを殺すとモチベーションが一気に削られてしまう……。
87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [saga]:2012/08/20(月) 09:18:16.62 ID:F4tEQ0Vz0
乙!
ハルクェ……

絶賛公開中のアベンジャーズで大活躍してましたねキャップ!
88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/08/20(月) 12:04:31.99 ID:GXA5ONRdo
鬱展開だなぁ…そしてハルクがサラッと出てきてワロタ
乙。今日アベンジャーズ見てきます
89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2012/08/21(火) 21:09:19.71 ID:yL+R5roZ0
乙!ssで彼らを出してくれる人がいて嬉しい!
ダウニーJrの方の皮肉屋アル中社長も是非見たいなぁ
90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [saga]:2012/08/22(水) 02:34:33.80 ID:XWgsKKUr0
>>89
ごめん。このSSに出てる社長はダウニーJr.が演じてる実写版のアル中プレイボーイじゃなくて、ディズニー系列のCS局でやってる「アイアンマン ザ・アドベンチャーズ」版の高校生なんだ orz
91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/24(金) 22:20:53.71 ID:XeOF+Fqio
アベンジャーズ効果か読者が増えてるな
珍しいSSでしかも良作だし、もっと多くの人に読んでほしいわ
92 :名無しさん :2012/09/08(土) 18:44:50.33 ID:8l/o5/zW0
更新はよ
93 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga sage]:2012/09/25(火) 08:26:10.20 ID:61CzTx8/0
完成したので投下。

注意事項

・アイアンマン注意

・今回のゲスト:アイアンマンと乃木坂春香
94 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga sage]:2012/09/25(火) 08:27:20.08 ID:61CzTx8/0
桐乃「え? コミケ?」

スティーブ「うん。今年はスターク・インターナショナルが参加しているんだ」

スティーブ「参加サークルの出版費用補助とか相当額のお金を出してるね」

スティーブ「それで、桐乃ちゃんの分の限定品とかを確保しとくから、参加しないか? って打診がトニー君から来たんだ」

桐乃「……」

スティーブ「この間、沙織ちゃんが送ってきた同人誌を描いたサークルの新刊、それも無修正のを確保して……」

桐乃「行く! 何が何でも行く!」

スティーブ「(沙織ちゃんのアドバイス通り、チョロかった……)」




キャプテン・アメリカ ジ・アキハバラ・アベンジャー
第六幕「コミケでは『世に事は無し』では済まないことが多い!」





95 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/09/25(火) 08:28:16.81 ID:61CzTx8/0
話は数時間前に遡る。
S.H.I.E.L.D.から提供された、最近のヒドラの動向に関す資料(※)を読んでいた時のことだ。
桐乃ちゃんがいきなり部屋に入って来た。
物凄い形相で。

※:この資料に関しては前回のラスト参照。

スティーブ「…………どうしたの?」

桐乃「どうしたじゃない! あ、あんた……、あたしのノーパソにエロゲをインストしたでしょ!!」

スティーブ「…………あ」

思い出した!
信長君から買ったエロゲー『魔法少女えれな』を、プレイしようと焦るあまり、間違えて桐乃ちゃんの部屋に入った挙句、更に間違えて桐乃のちゃんのパソコンにインストールしてしまったんだっけ。
一応妹キャラがいるから削除しなくていいだろうなー、って放置したんだった……!

桐乃「やっぱり! で、何で人のノーパソに?」

僕は、事の経緯を正直に話した。
いや、意図していなかったとはいえ、桐乃ちゃんのパソコンに勝手にインストールしたのは事実だから。
すぐに謝ろうとしたけど、それを遮って桐乃ちゃんは乾いた笑い声を発した……。
ちょっと不気味だよ。

桐乃「……ふ、ふふ……っ。びっくりしちゃった。新しくかったエロゲをインストしようとしたら、見たことのないのがインストされてて、首を傾げながら起動してプレイしたら…………!」

桐乃「ひーとーにー、なんってもの見せてくれんのよ!? 信っじられない! 鬼畜米英!」

スティーブ「えええええええええええええええ!? もしかして、妹物以外には耐性がないの?」

スティーブ「何十本もプレイしているのに!?」

桐乃「う゛る゛ざい゛!」

嗚呼……。
とうとう泣き出しちゃった……。

桐乃「へっ、へ、変、変身の度に体内侵入&触手プ   スティーブ「ごめーーーーーーーーーん! 僕が悪かったーーーーーーーーーーー!!」

それ以上はダメだ!
それ以上は女子中学生が言ってはいけない言葉だー!

桐乃「あ、ああいうシチュが好きなの!?」

スティーブ「そういう訳じゃ、そういう訳じゃないんだー!」

この後、必死で頭を下げて、8月下旬の陸上部強化合宿前のどこかに連れて行くことで許してもらえた……。
そして、桐乃ちゃんが部屋を出た直後にタイミングよくトニー君からコミケへのお誘いの電話が入り、これを活用できないかとさおりちゃんに相談して、冒頭へと話は繋がる。、
…………秋葉原に行った時と同じぐらい疲れたよ、バッキー。





96 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/09/25(火) 08:29:21.29 ID:61CzTx8/0
当日、夏コミ3日目。
夏コミ会場。
入場待ちの列,の最後尾。
今日は盆の最終日にして終戦の日だけど、僕が付き添う、ということで大介さんもOKしてくれた。

桐乃「な、何なの? 開場してないのに、これだけのふざけた人混みって……」

キャプテン・アメリカ「これでも去年よりは列は短くなったらしいよ。トニー君がトラップを仕掛けて徹夜組を駆除したんだよ」

桐乃「…………アイアンマンが?」

キャプテン・アメリカ「アイアンマンが。何か所か血の海ができてたとか。おかげで警察はてんやわんやだけど」

??「アンソニー君がそんなことを?」

後ろから思いっきり聞き覚えのある声が聞こえる。
振り返ったら、春香ちゃんだった。

桐乃「……誰?」

春香「あ、失礼いたしました。乃木坂春香といいます」

キャプテン・アメリカ「信長君とトニー君の通っている高校のクラスメートだよ。僕も実際に会ったのは初めてだけど」

桐乃「あー……。それでアイアンマンのことを本名で読んだんだ」

春香「まさか、アンソニー君がそこまでするなんて……」

キャプテン・アメリカ「徹夜組がそれだけ悪質だった、ってことだよ。確か偽装サークルとかもかなり強引に弾いたって信長君から聞いたよ」

キャプテン・アメリカ「僕は直接見たわけじゃないけど、信長君から偽装サークルと徹夜組の悪質さは嫌と言うほど聞かされた」

キャプテン・アメリカ「トニー君は、ひょっとしなくてもそんな連中から君を守りたかったんだよ」

さっきまで不安げだった春香ちゃんだったけど、少し安心したような表情を見せた。
と、唐突に放送が流れた。

アイアンマン「それではコミックマーケット78・最終日の開始を宣言しまーっす! ご入場の際は走らないでください。絶対守ってください」

アイアンマン「もし破ったら速攻で身ぐるみ剥いで東京スカイツリーの人柱にするからな! 分かったか!? 分かったら大きな声で返事しろ! 黒い絨毯ど……」

アイアンマン「あ! 人が話してる時に横からマイクを……  ブツッ

トニー君だった。
多分、もとい間違いなくスタッフの人が慌てて阻止したのだろう。

沙織「いやはや、相も変わらずニッチでござるな。アイアンマン殿は」

キャプテン・アメリカ「あ、沙織ちゃんと黒猫ちゃん。……と、そうだ、これ」

春香ちゃんの更に後ろに、沙織ちゃんと黒猫ちゃんがいた。
と、そういえば、最後尾を示すボードをスタッフに渡されていてのを今思い出した。
なので、『現時点での最後尾』である黒猫ちゃんにボードを手渡す。

黒猫「……ありがとう」





97 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/09/25(火) 08:29:50.29 ID:61CzTx8/0
コミケ会場内部。
内部は熱気が支配……していない?

沙織「……こ、この涼しさは一体?」

アイアンマン「熱吸収式ジェットクーラーのテスト運用、大成功みたいだな」

沙織「!」

黒猫「アイアンマン……!」

今回のコミケはスターク・インターナショナルが参加している。
だからトニー君……アイアンマンがいても不自然じゃない。

アイアンマン「春香」

春香「アンソニー君! さっきの放送は一体なんなんですか!? 『人柱』の意味を分かって言ったんですか!?」

アイアンマン「当然さ。許容量以上の参加者が押し寄せるコミケじゃ、みんなが走った際の危険度が高いからね」

アイアンマン「そんなときに一人でも転んだら、どうなる? ケガ人続出、場合によっては死人が出る、そんでもってその年でコミケ終了」

アイアンマン「そう言う事になりかねないのに、多くの参加者はそれを守ろとしない。それならこっちもああ言うしかないんだ」

……他のスタッフに慌てて阻止されていたような?
まあ、人柱云々言えばそうはなるか。

アイアンマン「……君が高坂桐乃か。初めまして。僕はアンソニー・エドワード・スターク。学校じゃ専らトニー・スタークって呼ばれてる」

アイアンマン「……この姿の時の『私』のことは、アイアンマンと呼んでほしい」

アイアンマン「キャプテン・アメリカから聞いてるだろうけど、沙織が君にと送った同人誌を描いたサークルの各サークルのブースに行ってくれ」

アイアンマン「キャプテン・アメリカからもらった君の写真を彼らに見せた上で説明したから、君が来れば新刊の無修正版を出してくれる手はずになっている」

アイアンマン「ちなみに代金もこっちが支払い済み」

至れり尽くせり、ってところだね。
沙織ちゃんと黒猫ちゃん、挙句春香ちゃんまで呆れてるよ。
桐乃ちゃんは目を輝かせてるけど。

桐乃「そ、そこまでしてくれるの!?」

アイアンマン「まあ、ギブ・アンド・テイクだけどね。対価は至って格安!」

アイアンマン「会社の軍隊向けカタログにファッションモデルならぬコンバットモデルとして出演すること」

アイアンマン「ハダリー(※)のコスプレをしてミサイルに抱き着いたり銃を構えたりするだけの簡単なお仕事! 事務所の方も金で説得済み」

※:『未来のイヴ』のヒロインであるアンドロイドのこと。
  ちなみに名前はペルシア語で『理想』の意。
  言うまでもないが、ここでは第四幕で言及された、作中世界で公開予定の非18禁SFバカエロコメディ純愛アニメ映画のことを指す。

やっぱり裏があった。
ここら辺は商人なんだね。

桐乃「……実際に撃ったりするの?」

アイアンマン「……ん〜、流石にそこまではいかない」

桐乃「そうなの?」

アイアンマン「まあ、女子中学生じゃ手に持つだけでも一苦労じゃ済まないのばっかりだから」

アイアンマン「危なくて実弾は使わせられないよ.。銃口覗いたら弾が出て来て頭が血の華になりました、じゃシャレにならないからね」

桐乃「うは……」

それからどうしたって?
僕たちはお目当てのサークルがいるエリアへ行くことにしたよ。
別のサークルの同人誌が目当ての春香ちゃんに付き合う形で、アイアンマンは別の所に行ってしまった。
彼らが行った方向からリパルサー・レイの発射音と断末魔が聞こえたのは気のせいだと信じたい。





98 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/09/25(火) 08:30:33.25 ID:61CzTx8/0
お目当てのサークルがいるエリア。
とりあえず、桐乃ちゃんはトニー君が確保してくれている物の受け取り。
残りは散開、ということになった。
……ということで何気なくブースを見ていたら、結構前に秋葉原で見かけたことがありそうな人を見つけた。

キャプテン・アメリカ「どこかで会いました?」

売り子(※)「ぞ、存じ上げませんが……」

※:キャップ本人の予想通り、第二幕でメイドカフェにてキャップを『お兄ちゃん』と呼んだ剛の者(メイド)です。

明らかに動揺しているから説得力が……。
? 出している同人誌は、メイドもの……。
この売り子の人の格好もそれにちなんでいるのかな?
…・・・表紙を見る限り、売り子の人をモデルにしたとしか思えない。

キャプテン・アメリカ「試し読みできる?」

売り子「あ……」

キャプテン・アメリカ「その反応に怒りを覚えたから答は聞かない! 読むぞ!」

ドゲシ 桐乃「何やってんのよ!」

キャプテン・アメリカ「痛いじゃないか!」

同人誌を手に取ろうとしたら、いつの間にか隣にいた桐乃ちゃんが僕の手に飛び蹴りをかましてきた!

桐乃「超人兵士が言っても説得力無いわよ! むしろ蹴った瞬間に足の感覚がなくなってるんだけど!?」

桐乃「何考えてんのよ! その格好でそういう物を読もうとするなんて!」

キャプテン・アメリカ「それと今の飛び蹴りの関連性が見えないよ! こんなの絶対おかしいよ!」

桐乃「全く……! そっちもそっちで……。何スケッチしてんのよ!」

桐乃ちゃんが八つ当たりで売り子の人にも文句を言おうと、彼女の方を振り向いた瞬間に別の理由で怒鳴りだした。
スケッチ?
それが気になって売り子の人の方を僕も振り向いたら……何故かすごく気まずそうな顔でスケッチブックとペンを握っていた。

売り子「その……つい……構図を見て閃いたもので……えへへ」

何だよそれ、クリエイターの性って奴なの?。
一体何を閃いたのやら。
とか考えていたら、僕の心を見透かすように売り子の人は、聞いていないのにさらっと答えた。

売り子「次の新刊は、『第二次大戦中、ヒドラが放った女スパイへの拷問SM輪姦もの』が頭の中に浮かびまして……」

売り子「『キャプテン・アメリカ暗殺未遂事件発生! 暗殺者であるヒドラからの刺客は年端もいかぬ少女。怒ったバッキー達はその少女を……』っていう粗筋も構築出来ました」

桐乃「その暗殺者ってのはあたしかー!? ちょっと待て! なんでそんな役のモデルなのよ!」

キャプテン・アメリカ「それは閃きじゃなくて狂気だよ! わけが分からないよ!!」

とりあえず、こんな人がいるこのサークルだけにはこれ以上関わりたくないのは確かだ!





99 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/09/25(火) 08:31:47.94 ID:61CzTx8/0
桐乃「全く……。冗談じゃないわよ。スティーブさんにならまだ我慢できるけど、何でそれ以外の米兵になのよ!」

桐乃「さっき言ってたの、本当に描かないかチェックしなくちゃ!」

キャプテン・アメリカ「一部聞かなかったことにしておいて。チェックの方は賛成だ」

キャプテン・アメリカ「万が一桐乃ちゃんをモデルにしたのを描いた場合、生まれてきたことを後悔させてやらないと……!」

あれから、結局あのサークルのいるところから足早に去った後、他のサークルを何点かチェックしていた。
資料用にと、非18禁・18禁問わずに色々と購入したけど、買うたびに売り子の人が罪悪感むき出しの表情になるのには辟易してしまう。
人目に憚るものを売っておいて客に対して恥じらいを見せるとは破廉恥だぞ、各サークルの売り子たち!

桐乃「……その格好が原因だと思うけどなぁ」

桐乃ちゃんが何か言ったけど、聞こえなかったことにする。
それにしても、思ったよりも同人誌の数が多くなってしまった。
情けないけど、沙織ちゃんに袋がないか聞いてみよう。

キャプテン・アメリカ「余分な袋、持ってない? 情けないことに買い過ぎちゃって……」

沙織「それでしたら、知り合いのサークルから頂いた袋があるのでお使いくだされ」

沙織「さあ♪ …………失礼。キャプテン・アメリカ殿には相応しくない物だったでござる」

キャプテン・アメリカ「見せちゃいけないところは隠れてるじゃないか!」

『のらぬこ』なる題名とネコ耳の全裸で隠すべきとこは巧妙に隠してる女の子が書かれた袋を、沙織ちゃんは出した瞬間に気まずい表情で引っ込めた。

沙織「では改めて。…………またも失礼。痴漢モノエロゲーの販促アイテムでござった」

キャプテン・アメリカ「何でそう一々気まずい表情になるんだ!?」

今度は『痴漢電車』か……。
どうしてそれもダメなんだろう?
その袋だって隔すべきとこは隠れてるのに。

黒猫「手ぶらで来るからそうなるのよ」

黒猫ちゃんが合流した。
手には紙袋……結構な量が入っているようだ。

沙織「豊作のようでござるな」

黒猫「……まあ、それなりね」

黒猫「はい。何の因果か、余ったからこれを使っていいわ」

そういって、黒猫ちゃんは何も描かれていない紙袋を差し出してくれた。
……ここは素直に好意を受け取っておこう。
しかし、黒猫ちゃんが持っている方は、結構な量の同人誌が入ってるせいか微妙に重そうだ。

キャプテン・アメリカ「ありがとう。ところで、そっちは重くないの?」

黒猫「……両手で持てば何とかなるわ」

片手じゃ持ちきれない、ってことかな……。
僕の分は黒猫ちゃんに貰ったのに収納済み。
スーパーソルジャーは300パウンド(※)の重量物だろうと片手でヘッチャラです。
という訳で、ちょっと強引だけど代わりに持っておこう。

※:アメリカでの重さの単位。
  1パウンドが約450g。
  スティーブは両手で1100パウンド(約495kg)強の重量物を持ち上げ可能。
  人間は理論上、500sまでなら持ち上げ可能と言われてはいるが、骨が耐えられないので現実には無理。
  スーパーソルジャーは耐久力や体力が極端に強化されているため、実現できるのである。
  ……それ以上の重さでも持ち上げられそうに思えるのが怖い。

100 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/09/25(火) 08:32:38.28 ID:61CzTx8/0
キャプテン・アメリカ「それって片手じゃキツイ、って意味だろ? それなら代わりに持つよ」

黒猫「ちょ、ちょっと……」

沙織「まあまあ。そういえば、黒猫氏は今回、サークル参加はなさらなかったのですな」

黒猫「していたら今ここにはいないわ。落選したのよ、今回は」

キャプテン・アメリカ「落選? サークルの参加って投票とかで決めるの?」

黒猫「正確には抽選よ。申込期間は結構シビアよ。おまけに転売選定のダミーサークルとかもいるから、存外狭き門になっているわ」

黒猫「流石に、今回はアイアンマンが申し込みしたサークルを金の力で全部調べて、ダミーは弾いたわ」

黒猫「でも、その件でちょっと黒い噂も出たの」

キャプテン・アメリカ「噂?」

沙織「参加申込みしたダミーサークルが軒並み壊滅した、との噂が流れたのでござる。」

沙織「暴力団の襲撃を受けたところまであるとか。それがアイアンマン殿が『ダミーサークルを潰すために何かした』という噂にまでエスカレートしたのでござる」

なるほど……。
何となくトニー君ならやりかねないな。

桐乃「有り得そう、というか『アイアンマンだから』本当にやったとしか思えないとこが怖いわね」

桐乃ちゃんの今の一言は、相当に的を得ていると思う。





101 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/09/25(火) 08:33:37.93 ID:61CzTx8/0
屋外のコスプレスペース。
同人誌の種類である「オフセット」の詳細や、造るのにかかる費用などの説明を黒猫ちゃんから聞きながらここまで来た。
コスプレイヤーが大挙して、自分の好きな作品のキャラクターの衣装を着て、自分たちが撮影されているのを楽しんでいる。
中々過激なコスチュームを着ている人もいる。

キャプテン・アメリカ「それにしても、中には厚着を通り越して着ぐるみの人までいるな」

キャプテン・アメリカ「暑くないのかな?」

ふと疑問を口にした瞬間、黒猫ちゃんが頼む前に説してくれた。

黒猫「ああいうのは多分保冷剤を詰め込んでいると思うわ。じゃなきゃ真夏にああいう格好は不可能よ」

黒猫「ああいう対策は形は違えど、レイヤー側だけじゃなくて撮影側もしているわ。ホラ、効率よく囲んで撮影しているでしょ?」

黒猫「レイヤーを長時間拘束しないためのマナーよ、あれ」

なるほど……。
まあ、歴史がそれなりに長いから、そういった工夫は自然に確立されていったんだろうな。
それはそうと、黒猫ちゃんも日本の夏に不向きな格好をしているのに、まるで汗をかいていないように見える。

キャプテン・アメリカ「黒猫ちゃんも暑さ対策はしてるの? 汗をかいていないようにしか見えないけど」

黒猫「妖気で熱や光をシャットアウトしてるから大丈夫よ。そういうあなたこそ、どうなの?」

黒猫「あなたが着ているのは戦闘服、それも第二次大戦中の物じゃない」

キャプテン・アメリカ「不思議なことにそこまで熱く感じない。……Mr.スタークが何か細工をしていたのかも」

キャプテン・アメリカ「……ところで、本当に妖気でシャットアウトしているの?」

黒猫「あなたには視えないわ……。仮に夜の眷属特有の眼を得たとしても、この世で最も清らな心を持つあなたには決して視ることはできない」

黒猫「むしろ決して視えてはいけない物よ」

……本人的には的確なつもりだろうけど、聞く側としてはいまいち理解しきれない。
あれ? そういえば、桐乃ちゃんが見当たらない。
どこに行ったんだ!?

沙織「きりりん氏なら、春香氏と一緒にあそこでレイヤーの皆さんを恍惚の表情で見ておりますぞ」

キャプテン・アメリカ「あ、本当だ。……? 何か変だ。……!」

よく見たら、変なのに絡まれている春香ちゃんを庇っている。
しかも、その場を離れようとした瞬間に一斉に取り囲んだ!
そういう事をするならこっちにも考えがある!

キャプテン・アメリカ「チャージング・スター!」

悪質カメコ達「「ぬばぁ!」」

囲みの一部を、盾を使って強引に破る。
それによって二人ほど吹き飛ばされた。
その内の一人が落としたカメラをキャッチ、デジカメを構えたままで唖然とした別の奴乃、デジカメ向けて投擲!

ドグアシャッ 悪質カメコ「ぼがぁっ!」

デジカメ同士が粉砕され、同時に相手の顔面も粉砕。
ここで、飛び道具も使っておこう。
ハイ! 天下往来のサブマシンガン、ヘッケラー&コック・MP7A1(※)!
流石に場所が場所なので今回は模擬弾だ。
……家を出る前に確認済みだからな。
とりあえず安全装置を解除して、トリガーも引いておこう。

※:ドイツの銃器メーカー『ヘッケラー・ウント・コッホ』が2004年にリリースしたサブマシンガン。
  20世紀末に開発・公開されたMP7の改良型である。
  MP7からの改良点は弾切れまでの時間延長のための連射速度定価処置と拡張性のさらなる向上。
  ちなみに、キャップはメーカー名を「ヘッケラー&コック」と発音している。
  これは彼がアメリカ人であるが故に「ヘッケラー・ウント・コッホ」を英語式に発音したため。
  このように綴りは同じでも語圏によって発音に相違が生じる事例は、言語学上かなり多い。

102 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/09/25(火) 08:34:14.37 ID:61CzTx8/0
バラララララ! 悪質カメコ「ばばばぶばぁー!」

全弾命中!
エコ目的のケースレス弾(※)だから薬莢を後で拾う必要も無し!
模擬弾は発砲時の熱で化学変化して、土に還る特殊ラテックス弾(※)。
更にある程度離れた状態で発砲した。
だから安心して相手に向けて発砲できる。

※:ケースレス弾とは、文字通り薬莢(ケース)が存在しない弾丸のこと。
  圧縮形成された火薬でコーティングされており、軽量なので従来の弾丸より多量に持ち運びが可能である。
  元々は『ヘッケラー・ウント・コッホ』が1970年代に開発した小銃『G11』用に、別の会社が開発した。
  しかし、薬莢がない故に湿気に弱く、G11自体の構造上の問題点が追い撃ちとなって21世紀の現在でも普及率は微々たるものである。
  作中でキャップが使用したMP7A1に装填された物は、スターク・インターナショナルが開発協力した湿気に強くて熱暴発とも無縁な新型。
  火薬の爆発力も向上しているためゴム弾でも高威力であり、実弾の場合は威力が更に跳ね上がる。

※:スターク・インターナショナルがS.H.I.E.L.D.の依頼に応じて開発した新型ゴム弾。
  空気抵抗を受けにくい構造をしているため、有効射程が実弾と大差ない。
  そのため、S.H.I.E.L.D.ではスナイパーライフル用としての用途が多い。
  キャップはサブマシンガンで多量に発射している。
  なので撃たれたカメコは全治数か月以上の重傷が確定したことになる。

あ、一人逃げようとしているのがいる。
……と思ったらアイアンマンが飛行しながらの体当たりで吹き飛ばした。

アイアンマン「スマートボム!」

ヴォガン 悪質カメコ「あぎゃぶぁー!」

アーマーの脇に近い部分から爆弾が発射された。
でも威力は弱めていたらしく、相手は黒こげになるだけで済んだ。

キャプテン・アメリカ「シールドスラッシュ!」

アイアンマン「リパルサー・レイ!」

それから、僕とアイアンマンのラッシュで、桐乃ちゃんと春香ちゃんを囲んでいた連中は全滅。
カメラも全部破壊済み。
連中はどうもブラックリストに記載されていたらしく、コスプレイヤーの皆さんにお礼を言われてしまった。
そんなこんなで今、僕とアイアンマンはコスプレイヤーの皆さんに混じって写真撮影に参加している。

撮影してる人「モテモテだなおい。ま、いいや。そのままじっとしてくださいね」

ボディビルディングでやるようなポーズをしている僕の両方の二の腕にはコスプレイヤーさんたちが座っている。
その状態で撮影される。
アイアンマンの方はエロゲーの魔法少女のコスプレをした人たちと一緒にポーズをとっている。

アイアンマン「どうだい、春香?」

春香「とってもカッコいいですよ」

とても和やかな雰囲気だ。
桐乃ちゃんもコスプレイヤーの皆さんを嬉々として見ている。
沙織ちゃんと黒猫ちゃんもすごく楽しそうだ。





103 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/09/25(火) 08:35:57.64 ID:61CzTx8/0
あれから十数分後。
今度は企業ブースに来ていた。
スターク・インターナショナルはもちろんのこと、シスカリプスのメーカー『ありす+』も出展している。

桐乃「……スティーブさん」

キャプテン・アメリカ「どうしたの?」

桐乃「黒猫の顔、真っ赤になってる。あれ、間違いなく脱水症状とか熱射病で倒れる手前だと思う」

桐乃「撮影の時に何人かああなって少ししてから倒れるの、よく見たから分かるわ」

この言葉に、桐乃ちゃんがやろうとしていることにすぐに気付いた。

キャプテン・アメリカ「……注意を引けばいいの?」

桐乃「そんなところ」

僕は黒猫ちゃんの目の前に近づく。
沙織ちゃんと黒猫ちゃんが面喰っている隙をついて、背後に忍び寄った桐乃ちゃんが黒猫ちゃんの上着をはぎ取った!

黒猫「〜〜!」

沙織「乱心! 乱心でござる!」

キャプテン・アメリカ「沙織ちゃん。他の参加者たちが驚いてる」

桐乃「全く。顔が真っ赤だったわよ。今年はアイアンマンのおかげで屋内は涼しいけど、そんなの着てたら熱が逃げないって」

桐乃「うわ、籠ってた熱気が肌に! まったく。ほら、ミネラルウォーター。水分もとっときなさい」

黒猫「…………」

いきなりのことなので黙り込んでしまった。
まあ、当然と言えば当然だけど。
とはいえ、これはあまりよくないので背中を押すことにした。

キャプテン・アメリカ「こういう時はお礼を言わないと」

黒猫「……ありがとう」

桐乃「ど、どういたしまして……」

やれやれ、桐乃ちゃんはまだまだ素直じゃないな。
ま、ケンカにならないで何より。



104 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/09/25(火) 08:38:44.26 ID:61CzTx8/0
ありす+のブース。
シスカリプスのアーケード版お披露目イベントをしている。
『今回の夏コミ限定の追加ディスク』、『設定資料集とアートコレクションとR18な公式アンソロジー』、『キャラクターのコスチュームセット』を賞品にしたバトルイベントだ。
この3点は、それぞれ勝利した先着一名様にのみどれか一つがプレゼントされる。
そのせいか、イベントで対戦するスタッフも中々の手練れのようだ。
しかし、コスチュームセットの方は初日にゲットされたとか。

桐乃ちゃんが限定ディスク目当てに挑戦して…………瞬殺された。
リターンマッチとばかりに沙織ちゃんも挑戦したけど……。

キャプテン・アメリカ「ハメ技を出してくるとは……」

沙織「んがぁ〜!」

沙織ちゃんも負けちゃったか……。

ギャラリーモブA「あのスタッフ、アイアンマンにコスセットを分捕られてから3日で50人抜きしてるぜ。勝たせる気ないだろ」

ギャラリーモブB「つーか、PC版の上位ランカーだよ、あれ。そんな人にPC版の中ボスキャラを使われたらさ」

むこうも中々小賢しいことをしてくれる。
こうなったら僕が……、と思っていたら黒猫ちゃんがスタッフを圧倒している!
あ、黒猫ちゃんが勝った。
ギャラリーは大盛況だ。
ゲットしたのは、限定ディスクの方か。

黒猫「…………あげるわ、これ」

桐乃「え? 何?」

そう言う事か……。
今度は桐乃ちゃんの背中を押しておこう。

キャプテン・アメリカ「お礼を言っておかないと」

桐乃「……あ、ありが、とう」

黒猫「礼を言われるようなことは、していないから」

どことなく微笑ましいな。
沙織ちゃんもそう思ったのか、二人に抱きついている。
こういうのって、いいな。
と、和むのはもう少し後だ。
最後の一点目当てに、僕も挑戦しよう。
ステージに上がった瞬間、歓声とどよめきが混ざった声が響き渡る。

ギャラリーモブ達「キャプテン・アメリカだと!?」 「本物なのか!?」 「あの恰好で挑戦するのかよ!?」

ギャラリーの反応に思わず眉間にしわが寄ってしまう。
桐乃ちゃんたちはというと……変な表情で3人とも固まっていた。。
この後、、操作の度に僕の怒りの掛け声でギャラリーが静まり返った中、勝った。
でも、ギャラリーはまだ困惑している。
黒猫ちゃんの時は素直に称賛していたのに……!
結果? もちろん勝って最後の賞品をゲットしたよ。





その頃、会場の外でグラビアの撮影をしている人たちがいた。

???「今日は向こうに大勢来ていますね。何かイベントがあるんですか?」

スタッフ「コミケだってさ。今年はスターク・インターナショナルが参加してるから、色々変な噂も飛び交ってるよ」

スタッフ「オマケに、アイアンマンが徹夜で並んでたのをまとめて病院送りにしたり、会場内でマナーのなってないのをボコボコにしたとか」

???「血生臭い話ですね。それに、ヒーローなのにどうしてああいうのに……」

スタッフ「本当だよ。と、ちょっと雲出てきたから巻きで行くよ! あやせちゃん」

あやせ「はい! お願いします!」

撮影に出ているモデルは、桐乃の親友・新垣あやせだった……。






次回、「キャプテン・アメリカ ジ・アキハバラ・アベンジャー」第七幕、「死闘! ヤンレズカンフーVSザ・ファースト・アベンジャー!」。
105 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/09/25(火) 08:40:57.42 ID:61CzTx8/0
投下完了。
この調子で月一投下のペースは維持していきたい。
ちなみに次回はタイトル通り、ラブリーマイエンジェル対スーパーソルジャーの死闘をお送りいたします。
これにて失礼。
106 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [saga]:2012/09/25(火) 22:40:45.54 ID:n6PGbYw10

チャージングスターやスマートボム……MVC3でお世話になってます!
107 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/01(木) 02:53:15.78 ID:f87n5ApDO
下げ
108 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/11/21(水) 13:17:22.68 ID:TutEV8Pwo
二ヶ月経つけど生きてるか
109 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga sage]:2012/11/23(金) 01:55:05.51 ID:tKm4BXI10
>>108
生存中。
現在、キャップVSあやせの殺し合い(ウソ・誇張に非ず)が始まる前のシーンまで執筆中。
110 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/11/27(火) 00:09:38.03 ID:KInp1XN60
完成したので投下。
今回は難産でした。
以下、今回の注意事項
・ドロドロの修羅場
・終盤は血生臭くなります
・暴言炸裂、キャプテン・アメリカ

111 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/11/27(火) 00:10:32.59 ID:KInp1XN60
キャプテン・アメリカ「企業ブースでもかなり買っていたようだけど……」

桐乃「メルルの夏コミ限定抱き枕カバーでしょ、シスカリの公式エロフィギュアに……」

キャプテン・アメリカ「OK。残りは帰ったあとで教えてくれ」

桐乃「りょーかい。んふふ〜」

???「桐乃?」

桐乃「!?」

???「あはっ、やっぱり桐乃だあ! やだ、なに、どしたのー?」

桐乃「……あ、あやせ……!」

あやせ「ウソぉ、嬉しー! えー、うそみたーい! 待ち合わせしたわけでもないのに偶然会っちゃうなんて。……すっごいよね!」

あやせ「わたしたち見えない絆で結ばれてるんじゃない? ……あ! やだわたし、いま桐乃のストーカーみたいなこと言ってる!?」

あやせ「あはは、違うからね!」

桐乃「……う、ん……凄いね! ……すっごい偶然…………」

あやせ「やだどしたの桐乃! 面白い顔! こら〜、折角親友と会えたっていうのに、テンション低いんじゃい〜? あ、そうそうところでどうしてここに?」

あやせ「お盆明けから部活が忙しくなるから、お仕事休んでるって聞いたけど? ショッピング……じゃないか。じゃあなんだろ」

桐乃「……え、えと……その…………」

キャプテン・アメリカ「やあ」

あやせ「あ、スティーブさんじゃないですか! ご無沙汰しております! ……ん!? んんっ!? その格好って、確か第二次世界大戦中に着ていたものじゃないですか?」

キャプテン・アメリカ「…………(これ以上、今ここであやせちゃんを桐乃ちゃんの側にいさせたら危険な気がする!)」





キャプテン・アメリカ/ジ・アキハバラ・アベンジャー
第七幕「死闘! ヤンレズカンフー対ザ・ファースト・アベンジャー!」





112 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/11/27(火) 00:13:06.67 ID:KInp1XN60
キャプテン・アメリカ「ああ。今どきの服よりも丈夫で、着心地も抜群さ。あやせちゃんこそ、どうしてここに?」

あやせ「わたしですか? グラビアのお仕事です」

それで露出度の高い服を着ていたのか。
それにしても、どんな雑誌のグラビアなのだろうか?

あやせ「ちょうどそこで撮影をしていたんですけど、雨が降りそうだから突貫作業で撮影を終わらせたんです」

あやせ「その後は、マネージャーさんたちがお話ししている間、車の中で休憩してたんですよ」

綾瀬ちゃんはそう言いながら空を振り仰いだ。
そう言えば、今朝のニュースで東京は雨が降るとか言っていたな。

キャプテン・アメリカ「そうなんだ……」

話題を逸らせたけど、後はどうするか。
この子には、コミケに行ったことを知られてはいけない気がする。
だから話をはぐらかした方がいい。
桐乃ちゃんの親友だけど、確固たる証拠はないけど、あやせちゃんはどこか危険だ。
あやせちゃんは、思い込みがかなり強いけど、優しくて真面目で凄くお人好しで……。
だからバレても笑い話で終わるはずなのに、全然そういった流れが想像できない。

キャプテン・アメリカ「すまない、僕たちは、今急いでいるんだ……」

キャプテン・アメリカ「盆の最終日なのに遠出しちゃったから、すぐに帰らないといけない」

あやせ「あ……言われてみれば。それでしたら、車に乗っていきますか?」

そう来たか。
なんて思った瞬間、桐乃ちゃんがテンパりながら口を開いた。

桐乃「あ、ありがと……! でも、大丈夫だから! スティーブさんと一緒に自転車に乗ってきたから」

桐乃「自転車は近くの駅に駐輪してるんだ。スティーブさんって、自転車で200q以上出せるから、全然大丈夫!」

あやせ「そっか、分かったよ、桐乃」

桐乃「う゛……うん」

桐乃ちゃんは物凄く複雑な表情で頷いていた。
状況が状況だからなぁ……。

あやせ「ところで桐乃……さっきから気になってたんだけど……」

桐乃「な、何!?」

桐乃ちゃんは既に半泣きになっている。
早いところ退散した方がいいな……。

あやせ「えっと……あの人たちって…………桐乃の知り合い……なの?」

キャプテン・アメリカ&桐乃「「!」」

完全に忘れてた!
沙織ちゃんと黒猫ちゃん、ついでに春香ちゃんもいたんだ!
あやせちゃんは沙織ちゃんと黒猫ちゃんを見て、若干引き気味になって眉をひそめている。

キャプテン・アメリカ「僕の仕事の取引相手を通じて知り合ったんだ!」

あやせ「お仕事の……? スティーブさんのお仕事って、イラストレーターでしたよね?」

キャプテン・アメリカ「依頼の種類が多様なんだ。その中にはアニメやゲームのキャラクターデザインの仕事もある」

取り繕い、あやせちゃんの気を逸らしている内に左手の人差し指を親指に叩きつける仕草でモールス符号を沙織ちゃんに送る。
-・・・ ・-・ --・-・ ・--- --・-- -・- ・---・ ・-・-- ・・・- ---(意味:ハナシヲアワセテクレ)
沙織ちゃんがモールス符号を知っているかどうかは博打だ。
祈るしかない。

113 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/11/27(火) 00:14:32.98 ID:KInp1XN60
沙織「その通りでござる。キャプテン・アメリカ殿には資料の購入などで御贔屓にしてもらっておりまする」

沙織ちゃんが不意にそう言いながら右手を僕の肩に置く。
それと同時に、人差し指で僕の肩を突く動作を始めた。
僕はそれが瞬時にモールス符号であることを察した。
どうやら博打は成功だったらしい。
・-・・・ -・・- ・-・・ ・---・ --・-- ---(意味:オマカセアレ)

黒猫「私はそこの女のツテで知り合ったわ」

春香「私は、アンソニー君がスティーブさんの取引相手の一人で、その縁で知り合いました」

僅かな隙の間に黒猫ちゃんと春香ちゃんにも言ってくれておいたらしい。

あやせ「そうなんですか」

沙織「そうでござる」

あやせ「そういえば、アンソニーって言いました? ひょっとして、トニー・スタークのことですか?」

春香「は、はい」

あやせ「アイアンマンの知り合い……」

あやせ「桐乃。ひょっとして、『コミケ』っていうイベントの帰りなの?」

桐乃「え゛!?」

春香ちゃんの何気ない一言から疑念を持ったのか、不審そうな眼差しになるあやせちゃん。
しかも視線は桐乃ちゃんが提げている紙袋に集中している。
挙句の果てに紙袋と桐乃ちゃんの顔を交互に眺め始めた!
こうなったら!

キャプテン・アメリカ「僕たちはちょっと急いでいるんだ! ごめん、また今度!」

キャプテン・アメリカ「行こう桐乃ちゃんっ」

桐乃「え、あ、う、うん……。じゃあね、あやせ……」

あやせ「……待って!!」

僕は桐乃ちゃんの手を引っ張って強引にその場を去ろうとした。
しかし、あやせちゃんは怒号を上げると同時に桐乃ちゃんの手首をガッチリと掴んでいた!

桐乃「…………あやせ?」

あやせ「桐乃、どうして逃げるの?」

桐乃「え……あの……逃げたワケじゃ……」

あやせ「ウソ」

あやせ「それはウソ……ウソウソウソウソウソ……ウソ吐かないでよ……。だって逃げたじゃない?」

あやせ「……逃げたでしょ? 逃げたよね? ……なんで私にウソを吐くの?」

…………突然どうしたんだ?
いきなり表情を変えた上でコレだ。
余りの不気味な剣幕に、僕だけじゃなく、沙織ちゃんに黒猫ちゃん、春香ちゃんまで呆気に取られている。
桐乃ちゃんはどこか怯えているようにも見える。
何と言うか、おどろおどろしいの一言に尽きるな。

キャプテン・アメリカ「あやせちゃん  あやせ「スティーブさんは黙っててください! 今は桐乃と話しているところなんです!」

……この女、一体なんなんだ!?
さっきと比べると明らかに別人だ!
多重人格かと疑いたくなるレベルだよ。

あやせ「ごめんなさい。いきなり大声出しちゃって……。でも、私、桐乃のこと、心配で」

反転、優しい口調で僕に詫びるあやせちゃん。
その口調で桐乃ちゃんを問いただした。

あやせ「だから桐乃……。逃げないで、わたしの質問に答えてくれない? 何か隠してるよね?」

114 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/11/27(火) 00:15:58.30 ID:KInp1XN60
最後だけドスの利いた口調になった。
この子といい来栖加奈子といい、桐乃ちゃん絡みで会う美人ってどうして藍(※)ちゃんと春香ちゃん以外はみんなぶっ壊れているんだろう……?
桐乃ちゃんの怯えようを見る限り、あやせちゃんのあの一面は桐乃ちゃんも知らなかったようだ……。

※:第四幕で出てきたランちんのこと。
  覚えていない人がいる可能性も考慮して、敢えて注釈を入れた。
  余談だが大変失礼なことに、キャップの言う「ぶっ壊れている」美人には沙織と黒猫も含まれている。

桐乃「……ち、違うのっ。あやせ、これはね? 違うんだ? だからその、怒らない……で?」

あやせ「桐乃こそ、言い訳しないでくれる? 私、真剣に聞いてるんだよ……?」

桐乃「あう……」

あやせ「いま、逃げたよね? 私から、逃げようとしたよね? 言い訳じゃなくて……本当に誤解なら、そう言って? "言えるものなら”」

桐乃「う、うう……」

桐乃ちゃんは俯いて、まともに答らられなくなっている。
あんな形相で言われたら、ああなるのも無理はない。
そんな親友の姿を虚ろな瞳で見ていたあやせちゃんは、噛みつくように牙を剥き、捲し立てだした。

あやせ「ほら言えない! 知ってるよね? 桐乃は知ってるはずだよね? 私がウソ吐かれるの大嫌いだってこと」

あやせ「ウソ吐く人が大っ嫌いだってこと! ……なのにどうしてそういうことするの? ねえどうして? ……わたしたち親友じゃなかったの?」

怒り方がトンデモなく悪質だ。
非常に嫌な責め方をしている。
それにしても、どうしてこの女はいきなりここまでひどいヒステリーを起こしたんだ?
第一、親友であること盾にするような言い方が、気に入らない!

あやせ「黙ってないで何とか……  キャプテン・アメリカ「いい加減にしろ!」

キャプテン・アメリカ「今の言い方は何だ? コミケ帰りなのがそんなにいけないことなのか!? どうしてそこまで噛みつくんだ!」

あやせ「……桐乃、コミケに行ったんですね?」

キャプテン・アメリカ「ああ! 行ったさ! それがどうした? コミケに行っちゃ悪いって誰が決めた? 神がいつ決めた!?」

キャプテン・アメリカ「……そういう訳で僕たちは失礼する!」

桐乃ちゃんの手を掴んでいる、新垣あやせの手を払いのけて僕は改めて桐乃ちゃんを連れてこの場を離れようとした。
振り向いて新垣あやせに後ろを見せた刹那、さっきを感じたので体を捻った瞬間、新垣あやせの飛び蹴りが目の前を通り過ぎた!

あやせ「わたしが今決めた!」

物凄い形相で、新垣あやせが僕たちの方を睨む。
何て言い草だ!

キャプテン・アメリカ「日本の支配者にでもなったつもりか!」

僕の反論に対して、新垣あやせはハイキックで答えた。
とっさに僕は盾で防ぐ。
ビブラニウム合金製の盾で防いだのだから、新垣あやせの足にはかなりのダメージが入ったはず。
しかし、彼女はそれを物ともせずに更なる蹴り技を放ってくる!

あやせ「龍角<ドラゴンホーン>!」

あやせ「龍尾<ドラゴンテイル>!」

キャプテン・アメリカ「っ!?」

飛びあがりながらの2連キックを盾で防いだ直後、ローキックが僕の足に直撃する。
この威力は……中学生のものじゃない!
その威力に思わずバランスを崩した直後、新垣あやせは足に「何か」をまとわりつかせて飛び蹴りしてきた!

あやせ「龍牙<ドラゴンファング>!」

キャプテン・アメリカ「スターズ&ストライブス!」

僕は新垣あやせの飛び蹴りを、盾を構えてからの対空タックルで弾き飛ばす!

あやせ「ちぃっ! 呀咤(あちゃ)ー!」

キャプテン・アメリカ「ぬっ!?」

115 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/11/27(火) 00:17:48.72 ID:KInp1XN60
ガードの堅さを見て搦め手を使おうと思ったのか、平手打ちを盾の縁に当てて、ガードを崩しにかかった。
こっちもガードしてばかりじゃないぞ!
という訳でサイドアームの出番だ。
ハイ! なぜか日本じゃソーコム名義で知れ渡っている MK23MOD0(※)!
マガジンに入っているのは模擬弾。
しかし相手は女子中学生。
だが撃っておく!

※:ドイツの銃器メーカー『ヘッケラー・ウント・コッホ』が、1991年にアメリカ軍の特殊作戦向けに開発した自動拳銃・MARK23のこと。
  M9(ベレッタM92)のトラブル、使用銃弾への不信感からアメリカ軍は国内外の数社に新しい自動拳銃の開発を依頼。
  ヘッケラー・ウント・コッホは自社の製品『USP』をベースにしてこの銃を開発した。
  数々のトライアルを経て、コルト・ファイヤーアームズの『ソーコム・プロト』に競り勝って1996年に正式採用された。
  余談だが、キャップが作中でこの銃に装填していた模擬弾は前回同様、ケースレスである。

パンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパン!! あやせ「……っふ!?」

どさっ……。
よし、全弾命中。
模擬弾だから一応生きている。
……しばらく起き上がれないだろうけど。
何て余韻に浸っていたら桐乃ちゃんが膝にヤクザキックを入れてきた!

ドゴス! 桐乃「このアホ者ぉぉぉおおおおおおおおお!!」

キャプテン・アメリカ「痛いじゃないか!」

桐乃「超人兵士が何言ってんのよ! つーかヒーローが何で女子中学生を拳銃で撃つのよ!?」

桐乃「それも、よりにもよって人の親友を!」

キャプテン・アメリカ「アレを親友とは、むしろ人とすら思わない方がいい!」

キャプテン・アメリカ「目の当たりにしただろ!? あの女の異常さを!」

桐乃ちゃんの抗議に対して、僕は新垣あやせを指差しながら反論する。
? 指差す時に何か違和感を感じたような……。
そう思って新垣あやせの方を振り向くと、何と奴が起き上がっていた!

キャプテン・アメリカ「ほら見ろ、ゾンビだ!」

桐乃「どこまで人の親友をなじれば気が済むのよ!」

桐乃ちゃんはああ言ったが、僕から見れば完全にゾンビだ。
とか思っていたら、何かが飛んでくる音が聞こえる。
……アイアンマンが飛んできて、新垣あやせを体当たりでフッ飛ばしてから着地した!

アイアンマン「春香!」

春香「ア、アンソニー君……!」

春香ちゃんの手には、携帯電話が握られていた。
おそらくあれでアイアンマンを呼んだんだろう。

アイアンマン「キャプテン・アメリカ。あの女は私が何とかする! 今の内に桐乃を連れて撤収するんだ!」

キャプテン・アメリカ「OK!」

ついでだから一応ご近所になる黒猫ちゃんを連れて行こう!

沙織「春香殿は拙者にお任せあれ!」

キャプテン・アメリカ「頼む!」

その言葉を最後に、僕はアイアンマンと新垣あやせが怒号を上げながら殺し合う光景に背を向け、桐乃ちゃんと黒猫ちゃんを抱きかかえながら大急ぎでその場を離れた。





116 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/11/27(火) 00:18:42.07 ID:KInp1XN60
高坂家。
あれから、雨が降り出す直前に何とか帰宅できた。
桐乃ちゃんは流石に元気をなくしていたけど、思っていた以上に落ち込んでいないように見えた。
ちょっと安心。
……今、ちょうど沙織ちゃんと通話中。
流石に桐乃ちゃんのことが心配だったそうだ。、

沙織「きりりん氏はいかがされてますか?」

スティーブ「ケロッとしていた。でも、ちょっと疲れていたみたいで、今は寝てる」

沙織「……空元気の可能性もありもうすから、気をつけてくだされ」

スティーブ「ああ」



次の日の朝。
珍しく起きるのが遅れた。
シスカリプスのキャラコスを徹夜寸前で自作していた(※)からだ。
多分、桐乃ちゃんの方が先に起きていると思う。

※:ゲーム内のデータのことです、念のため。

スティーブ「おはようございます」

大介&佳乃「「おはようございます」」

桐乃「あ。おはよう、スティーブさん」

元気だ。
髪もメイクも、いつも通り綺麗にセットしてある

佳乃「桐乃あんた、今日から合宿でしょ? 緊張してるんじゃない?」

桐乃「あたしを誰だと思ってるの? お母さん」

表情と声には、自身が溢れていた。
そうだ、桐乃ちゃんは努力を重ねた末に、こういう言葉を言って、それに相応しい結果を出せる子だと思い出した。

スティーブ「今日が合宿だったのか」

桐乃「そうだよ」





117 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/11/27(火) 00:20:28.92 ID:KInp1XN60
あれ以来、桐乃ちゃんから相談を持ちかけられることは特になし。
新垣あやせの件は振り切ったみたいだな。
僕も僕で、軍の仕事とキャラクターデザインの依頼、ミュージカルの練習を無事に消化。
桐乃ちゃんが合宿から戻ってきたのと併せて、インスピレーションを得ようと僕は月末一杯まで長崎県へスケッチ旅行に行っていた(※)。
そして、今は九月の初日。
各種べっ甲細工(※)とカステラ&ビワゼリーといった各種長崎銘菓、それ以外のお土産各種をお土産にして高坂家に帰ってきた。

※:もちろん、いつもの自転車でR・田中一郎よろしく高速道路を新幹線以上の速さで突っ走った。

※:ウミガメの一種であるタイマイという亀の甲羅・爪・腹の甲から取れる工芸品用の高級素材。
  色は半透明な赤みを帯びた黄色で所々に濃褐色の斑点があり、黄色の部分が多く(=斑点が少なく)なればなるほど高価になる。
  そのため、斑点が少ないカリブ海産はアジア近海の100倍以上の値段で取引されることが殆ど。
  質感が軽く、ずり落ちにくいのでメガネのフレー・櫛・簪に最適だが、置物やブローチに加工してもOK。
  日本では沖縄でも相当の遠洋でないとタイマイが獲れないため、天然物は専ら輸入頼み。
  タイマイは卵と肉も食用可能であり南方の島国では重要なタンパク源だが、食性の都合で食べた餌に含まれる毒素が蓄積して肉が毒化することも多く、死人が出るレベルの食中毒が幾度となく発生している。
  残念ながら我々の世界では乱獲や生息地の減少でタイマイが減ったせいで輸出入がNGになったため滅多に手に入らない。
  作中世界では過去に、エコテロリストによる生体バランスを無視した保護計画に起因する異常増殖によってワシントン条約の付属書から除外され、乱獲推奨という異常事態が発生した。
  乱獲の推奨によって個体数が落ち着いた近年も、食用にしている国へ養殖タイマイの肉と無精卵を輸出しているので、べっ甲は金さえあれば普通に入手可能。

スティーブ「ただいまー」

お土産一式を置こうと居間に入った僕は、見てしまった。
電気もつけず、クッションを抱きしめてうずくまるように座っている桐乃ちゃんを。
落ち込んでいるのが一発で分かる。

スティーブ「どうしたんだい。電気もつけないで。……学校で、何かあったの……?」

桐乃「別に」

か細い声だ。
絶対に何か……。
新垣あやせか!

118 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/11/27(火) 00:21:13.62 ID:KInp1XN60
スティーブ「まさか、新垣あやせが桐乃ちゃんの趣味のことを……」

桐乃「あやせはあそんなことしない!」

僕の言葉を桐乃ちゃんは怒号で否定する。
夏コミ前だったら微笑ましいんだけど……。

スティーブ「まさか、仲直りした、とか?」

僕としてはそっちの方が深刻な事態だ。
もう一度言う、僕にとってはそっちが深刻だ!

桐乃「……」

スティーブ「良かった……。してないんだね」

桐乃「どういう意味よ! この鬼畜米英!」

桐乃「……仲直りなんて…………出来るわけ……ないでしょ。あんな……ことが……あって……」

スティーブ「それもそうだね。むしろ良かったじゃないか。あんなのと縁が切れたわけなんだから」

桐乃「人が落ち込んでる時にどこまで親友を罵倒すれば気が済むのよ! 軍人のクズ!」

親友が自分にあんな剣幕を向けたんだ。
桐乃ちゃんは相当ゾッとしたはずだ。
しかし、それは桐乃ちゃんが落ち込んだ原因とは関係ないと思う。

スティーブ「でも、盆明けの時はケロッとしてたじゃないか」

桐乃「だって……あの時は、陸上の選抜強化合宿があったし……しょぼくれてらんなかったのよ」

桐乃「あの合宿は、行きたがってた人がいっぱいいて、みんな頑張ってて……」

桐乃「なのに、そういう人たち押しのけて選ばれたあたしが、このあたしが、落ち込んで、ダメになってるとか……有り得ないじゃん!」

だからあの時は空元気で押し通したのか……。
なのに僕は……沙織ちゃんからも念を押されていたのに気付けなかった……!

桐乃「小説や漫画でさ、恋人に振られたり、友達とケンカした主人公が、そのせいで部活やら大会やらに集中できなくなるって展開がたまにあるけど……ふざけんなって思おうし」

桐乃「それはそれ、これはこれって思うし。あんたもう死ねばって思うし……。あたしは、絶対そうはならないって、決めたの」

スティーブ「桐乃ちゃんは、どうするつもりなんだ? 君にとっては大事な親友なんだろ?」

桐乃「うるさい! あやせのこと罵倒したと思ったら今度は!」

桐乃ちゃんは、怒鳴りながらクッションで僕を叩く。
怒鳴り声に、徐々に、徐々に嗚咽が混ざっていく。

桐乃「仲直りしたいに…………決まってるでしょ…………。助けてよ…………キャプテン・アメリカ…………!」

桐乃ちゃん…………!





119 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/11/27(火) 00:22:10.16 ID:KInp1XN60
耳に当てた携帯からは、まだコールが鳴り響いている。
15回目にして、ようやくあの忌々しい声が聞こえた。

あやせ「はい」

スティーブ「久しぶりだな。キャプテン・アメリカだ」

あやせ『何か御用ですか?』

スティーブ「桐乃ちゃんのことで話がある」

あやせ『……それ、桐乃に頼まれたんですか?』

スティーブ「桐乃ちゃんがそういう娘だと思っているのか?」

あやせ『いえ』

桐乃ちゃんがどういう性格をしているかは、こいつだって百も承知のはずだ。
まさかここまでひどい女だったとは思っても見なかった。

あやせ『仲直りしろという話なら、お断りします』

スティーブ「僕個人としては、願ったりかなったりだ。お前みたいなロクでも無い女が親友だと、桐乃ちゃんにどんな不幸が降りかかるか分かった物じゃないからな」

そういう態度がどれだけ桐乃ちゃんを傷つけたと思っているんだ! この異常者は!

スティーブ「その様子だと、コミケの一件でまだ仲直りできていないようだな。安心したよ」

あやせ『……よくもそこまでずけずけと。自分であんなのに桐乃を引きずり込んでおいて!』

スティーブ「どういう意味だ?」

あやせ『信じられない……どうしてそんな……。桐乃はそういう娘じゃなかったのに! スティーブさんだって知っているでしょう?』

あやせ『すごい娘なんですよ、あの娘は! みんなに尊敬されて、わたしにだって……』

スティーブ「いきなり何を言っている!? 脈路がないぞ! 人の話を聞け!」

あやせ『……聞いて何になるっていうんですか!? 親友だったんです……』

あやせ『私と桐乃は親友だったんですよ、スティーブさん。ですから……仲直りをしたいと思うのは、またいつもどおりの自分たちに戻りたいと思うのは、当たり前のことだと思いませんか?』

酷いヒスを起こしたと思ったら今度は泣きそうな声だ。
凄まじい情緒不安定だな。

あやせ『わたし、学校で久しぶりに会った時に改めて聞いたんです、桐乃に。そしたら、桐乃は自分の趣味のことを話してくれました』

あやせ『その時、わたしは言ったんです。「もう、ああいうの、やめよ?」って』

あやせ『「あなたと仲直りしたいから、嫌いになりたくないから、全部捨てて、忘れよ?」って……』

あやせ『夏休み中、わたしもずっと悩んでて……自分の気持ちに折り合いがつけられなくて……でも、やっぱり桐乃のことが大好きだったから……』

あやせ『これからも大好きでいたいって、思ったから……自分から歩み寄ったんです』

電話越しの声から感じ取れる新垣あやせの雰囲気は、 あの日以前の、親友思いの優しい女の子に戻っていた。
いけ好かないと思った一方で、とてもいい子だと思った僕の感性は正しかった。
だが、この後の一言で空気を悪化させてきた。

あやせ『…………そうしたら桐乃、何て言ったと思います?』

簡単に予想できる。
バッサリと言い切ったんだろう。

あやせ『「絶対イヤ」って言ったんですよ! っ……信じられない……わたしがあんなに頼んだのに……!』

あやせ『仲直りしようって、お願いしたのに……っ! 「絶対イヤ」って……ひどい……』

うわー、物凄く面倒くさい女だ。
心がここまで病気まみれだと殺意すら感じる。

スティーブ「それは趣味を捨てるのが嫌なだけだと思うが」

120 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/11/27(火) 00:23:25.61 ID:KInp1XN60
あやせ『同じことですよ! わたしよりも、あんな趣味の方が大事だってことでしょう!? 親友だと思ってたのに……こんなの無いですよ……!』

スティーブ「確かに桐乃ちゃんはお前には理解しがたい趣味を持っているかもしれない。だが僕は、その趣味のおかげで桐乃ちゃんと仲直りできた!」

スティーブ「青葉の森公園で起きたあの事件以来、すれ違ってばかりだった桐乃ちゃんと仲直りできた!」

スティーブ「なのにお前は! 自分が理解できない趣味を持っているから桐乃ちゃんを嫌いになるっていうのか? それくらいのことで! それでよく親友とか言えるな!」

あやせ『それくらいのこと? それくらいのことって言いました?』

スティーブ「言ったさ! 僕からしてみれば、親友をやめる理由になるとはとても思えないからな! 本音としては、このまま桐乃ちゃんとの縁が切れて欲しいところだよ!」

あやせ『どっちなんですか!? あなたって人は!』

スティーブ「桐乃ちゃんが望んでいる以上、仕方なく仲直りしてほしいと考えてはいる。桐乃ちゃんの趣味がどんなものなのか知りもしないで嫌う点は極めてどうかとは思うけどね」

あやせ『……わたしの母は、PTAの会長を務めているんです』

話の流れを無視して、新垣あやせが不愉快な単語を出してきた。
僕は首を傾げると同時に、それが今の話と関係があるのか疑問に思う。

あやせ『母が定期的に開催している“会合”に、お手伝いとして参加することがあるんです。……その会合で、テレビのコメンテーターもやっているジャーナリストの方が、公演をしてくださったことがあって……』

スティーブ「その時に、その社会の木鐸モドキは『アニメやアダルトゲームは人に悪影響を与えるから規制するべき』とでも言ったんだろう? 何となく予想できたよ。PTAの言いたいことなんていつもそうだ」

あやせ『そうです。会合で配られていた参考資料に、いくつか載っていました。……そういうのを、楽しめる人がいるなんて……』

あやせ『桐乃が行ったあのイベントは、そういう人たちが大勢集まるんですよね?』

あやせ『そんなおぞましいのを親友が楽しんでいると知ったら、……やめさせるのが当然じゃないんですか?』

スティーブ「過剰反応だな。まるで全盛期のKKKだ」

あやせ『ゲームに影響されて、犯罪者になった人がいるとしても、そう言えるんですか!? 夏休み前、ニュースでやっていたでしょう、“シスカリ殺人未遂事件”って……』

スティーブ「そういえばニュースであったが、しばらくしてピタッと報道されなくなったぞ。大方シスカリとは無関係なのが判明して、それで報道しなくなっただけだろうがな」

あやせ『何を根拠に!』

スティーブ「根拠は、“ない”。そもそもお前みたいなのは根拠があっても納得しないで文句を言うだけだから、憶測で吐き捨てるだけで十分!」

あやせ『それでもヒーローですか!? オマケに、桐乃が犯罪者予備軍にした挙句放置して!』

あやせ『ゲームに漫画、アニメの類は、この世にあってはいけない物なんです! 欲しがる人も、作る人も、みんな同類の犯罪者予備軍!』

あやせ『キチンと規制して、厳しく取り締まるべきものなんです! 桐乃が関わっていいものじゃない!!』

あやせ『わたしの桐乃を返して!! 返してくださいよ!!!』

スティーブ「そういうことが言える貴様の方が犯罪者予備軍じゃないか! それに、桐乃ちゃんは貴様の物じゃない! 京介君の妹だ! 覚えておけ!! この人間のクズが!!」

スティーブ「And fuck you mother fucker!!!」

ピッ!
怒りに任せ、僕は通話を切った。
相手の言い分と精神状態は破綻していたが、厄介な点があった。
桐乃ちゃんを心配する気持ちだけは本物、ということだ。
それ故に余計怒りが湧きあがる。
仕方ないので、この湧きあがる殺意をシャドーボクシングで発散しておこう。



121 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/11/27(火) 00:24:17.44 ID:KInp1XN60
大介「……何やってるんですか?」

スティーブ「お帰りなさい。湧きあがる殺意を発散するためのシャドーボクシングです」

大介「はい!?」

十数分後。
何があったのかを説明した後、大介さんは凄く微妙な表情をした。

大介「話は大体わかりました。…………しかし女子中学生相手にそれは……」

スティーブ「目の前にいたら確実に中指を立ててましたね」

大介「それ、他の人には絶対に言わないでくださいよ。それはそうと……少し待ってください」

更に数十秒後。
大介さんが何やら複数の資料を持ってきてくれた。

大介「その友達、確かに苗字は『新垣』でしたか?」

スティーブ「はい。母がPTA会長をしているとも言っていました」

大介「となると……、その子は十中八九新垣議員のお嬢さんだと思われますj」

大介「『あの日の件』以来、色々とあれ絡みの資料は集めています。例の会合に関するものも……ありました」

大介さんから資料を受け取る。
その資料には、議題だけでなく、参加したジャーナリストの名前なども記されていた。

大介「その資料に名前が記載されているジャーナリストのことも調査済みです」

大介「不起訴や無罪で済んではいますが……侮辱罪と信用毀損罪、名誉棄損罪で何回も訴えられた札付きでしたよ」

大介「『シスカリ殺人未遂事件』の資料もあります」

あの時(※)を境に、大介さんは大介さんで桐乃ちゃんの趣味を理解しようと頑張っていたのか……。
……よし!

※:第三幕参照。
  スティーブが大介をボコるシーンは、作者個人としては結構好きなシーンだったりする。





122 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/11/27(火) 00:25:01.90 ID:KInp1XN60
次の日。
個人的には物凄く嫌だったが、桐乃ちゃんが通う中学校の側の児童公園に新垣あやせをメールで呼び出した。
昔、この公園に京介君が桐乃ちゃんや麻奈美ちゃんと一緒にいたところを何度も見た。
京介君が死んだあの事件のしわ寄せで、滑り台も、ジャングルジムも、ブランコも根こそぎ撤去されて、残っているのは砂場ぐらい。
遊ぶ子供も皆無という、たまらなく物寂しい場所と化してしまったが、それ故にこれからする話……とその後起きるかもしれない殺し合いには好都合と言える。

あやせ「わたしにお話ってなんでしょう?」

これから殺し合いでもするかのような目だ。
いや、次第によっては殺し合いに持ち込むつもり満々だな。

キャプテン・アメリカ「桐乃ちゃんのことに決まっているだろう」

あやせ「その話なら、もう終わりました。私の考えは昨日お話ししたとおりです」

キャプテン・アメリカ「結論を急ぎ過ぎてどうする」

あやせ「急いだつもりは全くありません。わたしは桐乃を更生させたいと思っているのに……! なのに…………桐乃は!」

新垣あやせの声は震えている。
僕にはわかる。
桐乃ちゃんは絶対に自分の趣味は捨てない。
新垣あやせは、マスコミの腐ったバッシングを鵜呑みにしすぎて、オタクという概念そのものに偏見と嫌悪感を抱いてしまっている。
バッシングの中には正しい物もあるだろうし、彼女の中にオタクを生理的に受け付けない面もあるかもしれない。
見るからに潔癖そうだし。
お人好しで、礼儀正しくて、とてもいい子、だけどどうしようもなく思い込みが激しくて頑迷で、オタク嫌い。
僕が彼女をいけ好かないと感じた理由は、まさにそのオタク嫌いを何となく察知してしまったからだろう。

あやせ「スティーブさんからも言ってくれませんか。桐乃の趣味をやめさせたいんです。お願いします」

あやせ「もう……わたしの言葉じゃ届かない……から…………」

新垣あやせは頭を下げてきた。
だが、それにこたえる気は毛頭ない。

キャプテン・アメリカ「それはできない、絶対にだ」

あやせ「……桐乃の世間体、壊しちゃいますよ? …・・・と言っても?」

キャプテン・アメリカ「お前はそんなことをする人間じゃないことは、桐乃ちゃんが教えてくれた」

キャプテン・アメリカ「それを知らなかったら、今の言葉を聞いた瞬間に僕はお前を殺していただろう」

僕は反論の暇を与える間もなく、大介さんから資料を出した。

キャプテン・アメリカ「あの後、僕の方で色々調べさせてもらったよ。『シスカリ殺人未遂事件』や件の会合における社会の木鐸モドキの主張に関して」

キャプテン・アメリカ「活論から言うぞ。オタク趣味と犯罪の因果関係は、未だに認められていない」

あやせ「……え? で、でもテレビのニュースでは……。それに、あのジャーナリストの人だって!」

キャプテン・アメリカ「アニメやエロゲーの影響で簡単におかしくなる人間なら、それらに触れる前にとっくの昔におかしくなっている。それぐらい、自分で考えろ!」

あやせ「それはあなたの個人的な意見でしょう!?」

キャプテン・アメリカ「肯定だ。だが、僕みたいな意見を持つ人間は沢山いる」

キャプテン・アメリカ「これは『児童ポルノ禁止法改正に当たり、拙速を避け、極めて慎重な取り扱いを求める請願』のコピーだ。数百人の署名付きで提出された物のな」

あやせ「で、でも! 実際にゲームに影響されて……!」

キャプテン・アメリカ「『シスカリ殺人未遂事件』か? 運が悪かったな。犯人のウソに反応したマスコミのでっち上げだったよ」

キャプテン・アメリカ「『ゲームキャラの真似をして、女の子を感電死させようとした』って言っていたのは最初だけ。その時の犯人の態度が引っ掛かった刑事が更に追及して本当のことを言わせたんだ」

キャプテン・アメリカ「『女の子に乱暴したかったから、改造スタンガンをちらつかせた。死にかけるとは思っても見なかった。だからゲームの影響だと嘘をついて矛先を逸らせようとした』。これが動機だ」

キャプテン・アメリカ「ゲスな事件であったのは確かだけど、ゲームの影響なんて全くなかった。けど、マスコミが報道した時点では、『ゲームの影響で人を殺そうとした』と連想しやすい事件になっていた」

ここでちょっと一息いれる。
地の文を入れておこう。

キャプテン・アメリカ「問題は、散々アニメやゲームの影響云々言っておきながら、いざ違っていたと分かった瞬間に全く報じなかったことだ。マスコミはいつもそうだ。謝罪・訂正という概念が完全に抜け落ちている」

それを聞きながら、新垣あやせは僕が渡した資料を必死になってめくる。
読み進めるごとに、新垣あやせの表情が固まっていくのが分かる。

あやせ「そんな……でも……、あの人は母もお世話になっている人なのに……!」

123 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/11/27(火) 00:26:39.71 ID:KInp1XN60
キャプテン・アメリカ「そのジャーナリストの主張が全部ウソとは言えない。だが、その事件に関しては無関係だと分かっていながら、自分の主義主張のために嘘八百を並べたのは確かだ」

キャプテン・アメリカ「そいつは、今はまだ不起訴や勝訴で済んでいるが、侮辱・信用棄損・名誉毀損で何度も訴えられた悪徳ジャーナリストでもある。ウソだと思うならそいつのことを調べてみろ」

新垣あやせは、明らかに動揺している。
目の焦点も心なしか合っていないようにも見える。

あやせ「ウソ……ウソだったウソウソウソ……」

キャプテン・アメリカ「…………キモいよ」

あやせ「…………!!」

余りのおぞましさに正直な感想を言った瞬間、逆キレで正気に戻ったようだ。
……何だろう? この間見たオーラみたいなのが全身から溢れている。
とか思っていたら、新垣あやせの服装がアニメのスーパーヒロインよろしく一瞬で別の物にチェンジした!
チャイナドレスにいかにも堅そうな金属製の肘&膝ガードにグローブや靴、そんでもって目元は黄色いドミノマスクと来た。
何故か胸元にドラゴンのタトゥーみたいなのが浮かんでいる始末。

あやせ「…………あなたさえいなかったら! あなたさえぇっ! このアイアンフィストの手で死ねぇっ!!」

アイアンフィスト「キシャアアアアアアアアッ!」

キャプテン・アメリカ「!?」

新垣あやせの回し蹴りを、バク転で回避。
最早話し合いでの解決は不可能と判断した僕は、躊躇う事無くサイドアームを手に持ち、「実弾が装填されている」それの引き金を迷わず引いた。

アイアンフィスト「!」

チッ! 避けられたか。
だが、こっちが一人だけで来たと思ったら大間違いだ!

SSR士官「中将!」

前もって隠れていた部下たちが一斉に姿を現す。
勿論、僕の命令でだ。
その内の一人が投げた銃をキャッチ。
ハイ! やろうと思えば軽装甲車も壊せる超凶悪ショットガン、MPS AA-12(※)!
ちなみに去年、海兵隊が評価試験をしたとか。
勿論、これも実弾を装填している!
Fire!

※:ミリタリー・ポリス・システム(略してMPS)が2005年に開発したフルオートショットガン。
  『AA』は『オートアサルト』の略である。
  1972年、アメリカの銃器設計技師、マクスウェル・アッチソンが軍と警察向けに設計した『アッチソンアサルト12』が原型。
  第三世代戦闘散弾銃選定トライアルを受けるも、トライアル自体が軍内部の意見の影響で白紙になった後、アッチソン自身によって1987年に諸権利がMPSに売却された。
  その後、十数年の歳月をかけて188箇所にも及ぶ近代化目的の改修を重ねた末に完成。
  毎分350発という無茶な発射速度と高いメンテナンス性、アッチソンアサルト12から引き継いだ独自技術による片手撃ち可能レベルの低反動が特徴。
  更に専用弾である18mmグレネード弾『FRAG-12』を使用した場合はショットガンでありながら有効射程が180mにまで跳ね上がる。
  FRAG-12は普通の炸裂弾から徹甲弾まで数種類存在しており、徹甲弾はキャップの言及通り軽装甲車も破壊可能。
  装弾数増加とリロード容易化のために弾倉は着脱式になっているが、アッチソナサルト12とは違ってセミオートとフルオートの切り替え機能がないため、弾切れが早過ぎる、という欠点も抱えている。
  この点を少しでも何とかしようとしたのか、8発入り箱型弾倉の他に20or32発入りドラム弾倉も存在する。
  作中世界ではこちらの世界同様、2009年に海兵隊が試験評価を行っている。
  キャップが使用しているのは、スターク・インターナショナルが開発した90発入りスネイル式特盛ドラム弾倉(手動ゼンマイ方式)を装備。
  装填してある弾もFRAG-12をケースレスにした特別性である。

ドゴンドゴンドゴンドゴンドゴンドゴンドゴンドゴンドゴンドゴンドゴンドゴンドゴンドゴンドゴン!!
ズガガガガガガガガガガガガガガガヴォォォォォォォォン!!
轟音と盛大な爆炎に衝撃波、そして爆風と破片をまき散らす、新垣あやせは上手くかわしているらしく、なかなか直撃しない。

アイアンフィスト「……街中でなんて物を!」

キャプテン・アメリカ「話し合いが決裂した場合に備えて正解だったよ!」

アイアンフィスト「龍触<ドラゴンタッチ>!」

新垣あやせはもうダッシュでこっちに接近。
奴が至近距離で放ったパンチが右手に当たってAA-12を落とした直後、更に裏拳が飛んできた!

アイアンフィスト「龍鞭<ドラゴンウィップ>!」

とっさに左手でガードするが、勢いが強かったため体勢が崩れてしまう。

124 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/11/27(火) 00:29:27.15 ID:KInp1XN60
アイアンフィスト「龍壁<ドラゴンウォール>!」

変則体当たりで完全にバランスを崩してしまい、吹き飛ばされてしまった。
しかし、受け身をとって僕は盾を手に取った。
今度はこっちの番だ!

キャプテン・アメリカ「シールドスラッシュ!」

盾が新垣あやせの方に直撃。
機を逃すまいと、僕は追撃に出た。

キャプテン・アメリカ「とぁっ!」

飛び蹴りを一番槍にして連続して打撃を叩きこむ。
トドメとばかりに僕は最後に渾身の技を放つ!

キャプテン・アメリカ「ハイパー・スターズ&ストライプス!!」

新垣あやせは、放物線を描くように吹き飛ばされた。
それでも立ち上がったが、服装は元に戻っていて足元も相当ふらついているから、もう戦えないのが目に見えて分かる。
……本当はトドメを刺したいけど、それは桐乃ちゃんが望んだことじゃないから我慢する。
だから、僕も戦闘態勢を解除した。

キャプテン・アメリカ「…………撤回してもらうぞ、オタクを犯罪者予備軍扱いしたことを」

キャプテン・アメリカ「あの時、お前が桐乃ちゃんに知り合いかどうか聞いた3人がいただろう? 3人とも桐乃ちゃんの友達だ」

キャプテン・アメリカ「彼女たちまで悪く言われるのは不愉快だ」

これは、僕の個人的な用件だ。
だけど、僕にとっては重要な用件でもある。
黒猫ちゃんと沙織ちゃん、春香ちゃんまで犯罪者扱いしたことは何が何でも訂正させる。
それは、あの3人が僕にとっても友達と言えるからだ。

あやせ「……桐乃と同じこと、言うんですね。……オタクを犯罪者予備軍といったのは、撤回します」

あやせ「…………でも、桐乃の趣味を認めるつもりはありません。おぞましいことに違いはありませんから……」

キャプテン・アメリカ「見て見ぬ振りすらできないっていうのか? 親友なのにか!?」

あやせ「その親友をずっと、騙し続けていたんですよ!」

キャプテン・アメリカ「あれは隠していたって言うんだ。お前と仲違いするのが嫌だから! 何故それを知ろうとしない!?」

キャプテン・アメリカ「桐乃ちゃんにとっては、お前も自分の趣味も自分自身より大事だから言えなかったんだ! 」

あやせ「うるさい! 知ったようなことを言うな! あなたなんかに私たちの何が分かるのっ! 私が一番、誰よりも桐乃のことを分かってる!」

あやせ「なのにあんな……っ! あんなのは桐乃じゃない! 別人です! 絶対に別人! 偽者っ……!」

あやせ「返して! 本物の桐乃をどこに隠したの! わたしの桐乃を返してくださいよっ!!」

……………………よし、桐乃ちゃんには悪いけど殺しておこう。
AA-12を受け取った際にホルダーに直したサイドアームを、再び手にとって安全装置を解除。
新垣あやせの顔面に狙いを定める。

キャプテン・アメリカ「もう喋るな。不愉快だ! Dead! bitch!!」

??「っざけんなっ! 偽者偽者やかましいのよアンタ!!」

怒声が響き、その声に僕も新垣あやせも児童公園の入り口を振り向いた。
早足でこっちに向かっている。

桐乃「銃声や爆音が響いてたから何事かと思ったら……」

キャプテン・アメリカ「桐乃ちゃん、どいて。そいつ殺せない」

桐乃「あんたはもう黙ってて! こっからはあたしがやんなきゃいけないことだから」

桐乃ちゃんの言葉に、僕はただうなずいて後ずさりした。

桐乃「あやせ……。あたしの話を聞いて」

あやせ「……偽者の言うことなんて聞きたくない。本物の桐乃に合わせてよ!」

キャプテン・アメリカ「精神病院を手配しよう閉鎖病棟への半生涯入院コースとかどうだい?」

桐乃「だまれっつてんでしょ!」

125 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/11/27(火) 00:35:30.79 ID:KInp1XN60
余りの言い草につい口出ししたら、速攻で桐乃ちゃんに注意された。
何でだよ!? 悪いのは新垣あやせの方じゃないか!

桐乃「あやせ。本物のあたしって何? 運動も勉強もできて、スタイルとファッションセンスが抜群で、友達がいっぱいいて教師受けも良好な前項の憧れの的」

桐乃「それでももってモデルもやっててみんなが知ってる完璧な少女。それがあんたの言う本物あたしなの?」

あやせ「そう! それが桐乃でしょ!」

桐乃「……ごめん、あやせ。あたしはアニメもゲームも大好きなの。誰が何と言おう、とそれが大好きなのがあたしなの」

桐乃「だから、心配してくれてるのは分かるし、嬉しいけどやめないよ。好きなものは好きなんだもん」

あやせ「それって、わたしよりも大事なの? その趣味の方が?」

桐乃「そんなわけないでしょ!! 自分の趣味も、あんたも大事!! どっちか選べたなら、最初っから悩んでない!」

桐乃ちゃんの殺し文句に、新垣あやせはただただ圧倒されている

桐乃「だから決めた! 絶対アンタと仲直りする。趣味も絶対に捨てない。両方とも、あたしには必要なんだから!」

桐乃「どっちが欠けてもあたしじゃなくなっちゃうから、どっちも諦めない!! なんか文句ある!?」

新垣あやせも悟っただろう。
僕たちの目の前にいるのは、まぎれもなく本物の高坂桐乃だ。
桐乃ちゃんはこういう子だということぐらい、親友である新垣あやせ奈良僕以上に理解しているはずだ。

あやせ「わたしも桐乃と……仲直り……したい…………」

桐乃「……………………ん」

二人は涙ぐみ、手と手を合わせながら照れたように微笑んだ。
二人の気持ちは一緒。
腹を割って話し合ってお互いにようやく気付いたのだろう。

ボソッ キャプテン・アメリカ「これじゃ殺すわけにはいかないな」

めでたし、めでたし、ということにするか。
なんて思っていたら……。

あやせ「……やっぱりダメっ。桐乃の趣味は認められない……っ!」

この期に及んでかよ!
桐乃ちゃんもビックリだよ!

桐乃「え? さっき仲直りするって言ったじゃん!?」

あやせ「ふええええ〜。だって、だって、ああいうのって犯罪とは関係なしに、穢らわしい、おぞましい、気持ち悪いって思うもの!」

あやせ「えっく。えっく。えっく。やっぱりむりだもーん!」

桐乃「……………………う゛っ!」

泣きだしちゃったよ……。
桐乃ちゃんも本気で困っている。
しょうがない、僕がおせっかいを焼いておこう。
えい! 盾で軽く地獄突き!

ゴシャス あやせ「………………!!!」

がっくし……。
そのまま前のめりに倒れそうになった新垣あやせを、桐乃ちゃんが慌ててキャッチ。

キャプテン・アメリカ「奥義! 『別の問題を起こして大事を有耶無耶にする』!! 先に帰ってるからね。車には気をつけるんだよー!」

殺意も晴らせてこっちの気分も爽快!
Oh yeah!

キャプテン・アメリカ「キャホホのホーイ!」

桐乃「待てコラ鬼畜米英! にげるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁー!!」

桐乃ちゃんの罵声が聞こえた気がするけど気にしない。
気にしたら負けだと思っている!!
帰宅後、しばらくして帰ってきた桐乃ちゃんから、物凄い抗議を受けたけどそれでも気にしなかった!





126 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/11/27(火) 00:36:53.18 ID:KInp1XN60
数日後。
中学校にて。

あやせ「……送信っと」

以下、あやせがスティーブに送ったメールの内容。

鬼畜米英のスティーブさんへ。
おかげで桐乃と仲直りすることができました。
……でも、麗の趣味を認めたわけではありませんし、意見を撤回するつもりもありません。
ですが、しばらくは折り合いをつけないまま、納得しないままで、やっていくことにしました。
仕方ないですけど、諦めませんからね、わたし!
わたしに神秘のカンフーを伝授してくださった崑崙の戦士の皆さんの名誉と、桐乃のためにあなたをギャフンと言わせてみせますから!
PS. もしも桐乃に手を出そうものなら、ブチ殺します。

物騒な追記を加えたメールを、あやせはスティーブの携帯に送信。
それから2分ほどしてから、スティーブから返信が来た。
以下、スティーブが送ってきた返信の内容。

SRSの総力を動員してでも返り討ちにしてやる!
後、僕には忘れえぬ人がいるから桐乃ちゃんには手を出さない!
誰が手を出すかボケ!

あやせ「…………本当に口が悪いですね」

一方、携帯のワンセグで桐乃はある番組を見ようとしていた。
その番組とは、討論生番組。
今回のお題は『アニメや漫画、ゲームが社会に悪影響をもたらすかどうか』。
スポンサーであるスターク・インターナショナルの意向でスティーブが急遽出演することになったので、桐乃はワンセグで見ようとしたのである。

桐乃「おし! 見れるようになった…………って?」

あやせ「どうしたの?」

桐乃「えっと……スティーブさんが出演する討論生番組を見ようと思ったんだけどさ……………………」

桐乃「討論生番組なのかプロレスの生中継なのかよく分からない状況が映ってるんだよね……」

あやせ「え゛!?」

携帯の液晶が映していたのは、あの会合に参加したジャーナリストが顔面を派手に腫らし、そんな彼を鈍器代わりに鬼気迫る表情で振り回して他の出演者をボコボコにするスティーブの姿であった…………。

スティーブ『コレがメジャーリーグ式だぁぁぁぁぁぁぁ!!』






次回、「キャプテン・アメリカ ジ・アキハバラ・アベンジャー」第八幕、「その男、ハンクとジャネットの忘れ形見!」。

127 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/11/27(火) 00:39:13.06 ID:KInp1XN60
久しぶりの投下、完了。
さ、次はハルクの最後の話だ。
それにしてもキャップの口の悪さが次第に激化しているな……。
128 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/11/27(火) 02:53:54.00 ID:wShZY2HTo
スティーブさん血気盛んすぎワロタwwwwそんな簡単に発砲するなwwww
そして>キャプテン・アメリカ「桐乃ちゃん、どいて。そいつ殺せない」にクソワロタwwww
129 : ◆lc8fM/f/jN38 [sage]:2012/12/27(木) 04:44:29.85 ID:4iTIKSa10
ハルクの最終話の執筆・投下が完了したので、次回からは多少執筆ペースは上がると思います。
次の投下は早くて来月になるけど……。
130 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2013/01/31(木) 19:35:56.20 ID:1576AETI0
次の話は来月の投下が確定……。
ハーメルンに投稿してる新作にかまけすぎた orz
131 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga sage]:2013/01/31(木) 19:38:17.36 ID:1576AETI0
更に下げ忘れた
132 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga sage]:2013/02/23(土) 01:42:45.87 ID:vifj3Qhm0
やった! かなり短くなったけど2月中に完成した! という訳で今回の注意事項。

・あちこち端折ってない?

・中盤のノリがおかしい

・ハイル・ヒドラ!
133 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2013/02/23(土) 01:43:33.19 ID:vifj3Qhm0
ハンク『そうだ。その調子だぞ』

ジャネット『全問正解じゃない。凄いわ』

ニック『お前たちが子供みたいにはしゃいでどうする』

ウルトロン『ニックさん。ファーザーとマザーがどうかした?』

ニック『……お前が結果を出していることに一々オーバーに反応しているだけだ』

スティーブ「この映像は?」

ニック「Windows95が世に出た頃に撮影されたホームビデオだ、ピム家のな。映像を見ればわかると思うが、撮影したのは私だ」

スティーブ「この映像に映っているのは間違いなくウルトロンですけど、あのヒドラの幹部と同一の存在は思えないほどです」

ニック「20数年前、科学者であるハンク・ピムとジャネット・ピムは、生体電流で動く強化義肢の開発に成功した」

ニック「二人はその開発過程で、人間の細胞と金属を融合させる技術を偶然確立し、それを使って危険な賭けに出た」

ニック「ハンクは病気で子供を作ることができず、ジャネットも同じ理由で子供を産めなかった」

ニック「子供がどうしても欲しかった二人は、自分たちの遺伝子を素材にし、その技術を以て人造人間を誕生させた」

ニック「それが、ウルトロン・ピムだ」

スティーブ「それが、どうして今はヒドラの幹部なんかに!?」

デッカチー「スティーブ。君のすぐ近くには、理不尽な出来事で我が子を失った親がいる。ウルトロンはその逆」

デッカチー「理不尽な出来事で、愛する両親を失った少年だった」




キャプテン・アメリカ ジ・アキハバラ・アベンジャー
第八幕「その男、ハンクとジャネットの忘れ形見!」





134 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2013/02/23(土) 01:44:16.79 ID:vifj3Qhm0
ここは、S.H.I.E.L.D.の移動本拠地である、双胴の超大型航空母艦。
数か月前に起きた『再誕計画事件(※)』に関してニック・フューリーと、S.H.I.E.L.D.に協力している地球外知的生命体・デッカチーの三人で話し合っていた。
司法取引と引き換えにこちら側に協力し、現在は監視付きの長期休暇を余儀なくされているエミル達の今後の処遇に関して。
で、終わった後で今度は再誕計画が頓挫した点に関して話し合っていた時に、アイスランドに行っていたフィルからトンデモない緊急連絡が入った。
アイスランドの遺跡に安置されていた、レプリカの四次元キューブがヒドラに奪われた、と!
現在、ヒドラを率いているのはウルトロン・ピム。
2か月前にスウェーデンでマスコミ関係者を狙った大量殺人を敢行し、世界中にその名を轟かせた人造人間だ。
ニック・フューリーとデッカチーは何故か彼の過去を知っており、彼の過去の記録を僕に見せてくれた。

※:筆者の別のSSスレ、ロバート「葉君と八重ちゃんは似合いのカップルだね」、で描かれた出来事のこと。
  この名前は、『再誕計画』が大きく関わっている事件であることにちなんで名づけられた。
  詳細は、ロバート「葉君と八重ちゃんは似合いのカップルだね」、を参照されたし。

スティーブ「ウルトロンの両親に、何か不幸があったと?」

デッカチー「強化義肢の開発で一躍脚光を浴びたハンクとジャネットは、ウルトロンを誕生させたことで更なる注目を集めた」

スティーブ「養子縁組、という手段もあったはずだ」

デッカチー「……二人は過去の事件の冤罪騒ぎの巻き添えを食らい、養子を引き取ろうにも引き取れなかったのだ」

デッカチー「故に二人は自分たちの遺伝子を持つ人造人間の創造を選び、結果的に養子縁組すらできない人たちの希望になった」

ニック「しかし、今度は倫理面の問題を生み出してしまった。命を軽んじる行為ではないか? そう疑問視する声も強かった」

ニック「その疑問はやがて人造人間への不安に、不安は人造人間が自分たちの脅威になるのではないかという恐怖へと変異した」

ニック「恐慌状態になった人々は結託し、遂にハンクとジャネットを殺害してしまった」

ニック「彼らは、これで人造人間はもう増えないと信じて安堵した」

デッカチー「だが、それが恐怖を現実のものとした。両親を殺した者たちを復讐のために皆殺しにした後、ウルトロンは姿を消した」

そんなことが……。
しかし、それだけの大事なら大ニュースにならないと変だ。

スティーブ「それらの出来事は、報道されたんですか?」

ニック「現地のマスメディアが暴徒たちと結託して隠蔽した。そのため事実の発覚に時間がかかり、ウルトロンの暴走を許す格好となってしまった」

ニック「こちらが事実に気づいた頃は、既にウルトロンは暴徒たちを皆殺しにして姿を消した後だったんだ。我々には、ハンクとジャネットを弔い、現地のマスメディアを徹底的に潰すことしかできなかった」

そうだったのか……。





135 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2013/02/23(土) 01:45:12.24 ID:vifj3Qhm0
高坂家。
僕は自分の部屋で資料を読んでいた。
ウルトロンが前線に立って起こした事件の数々に関するものだ。
どれもこれも凄まじいな……。
そう思っていたら、ノック音が聞こえた。

スティーブ「開いてますよ」

その言葉に反応して入ってきたのは、桐乃ちゃんだった。

スティーブ「どうしたの?」

桐乃「聞いてよ、スティーブさん! この間、沙織と黒猫の二人と一緒に遊びに行った時のことなんだけど……」

それから数分間、桐乃ちゃんは待ち合わせに遅れた上に、悪態をつきまくっていた黒猫ちゃんへの愚痴をぶちまけた。

桐乃「しかも沙織の提案のせいで、木曜日に家でメルルの鑑賞会やる事になったのよー!」

スティーブ「……新垣あやせ達が遊びに来た時のように、僕は部屋で待機していた方がいいかな?」

桐乃「あ、今度はそこまでしなくても大丈夫。つーかむしろ参加してほしいぐらい」





鑑賞会当日。
大介さんと佳乃さんは別の用事でいない。
多分、沙織ちゃんはそれを見越したのだろう。
割り込むのは悪いかと思って参加するのは遠慮していたけど、ちょっと心配だ。
ちょっと様子を見るか。
……そう思って入ってみたら、中は真っ暗、カーテンも完全閉め切りと来た。
明かりをつけないと。
そして明かりがついた瞬間、僕は思わず身構えた。
目の前のソファに黒猫ちゃんが座っていたからだ。

黒猫「……っふ……よくぞここまでたどり着いたものね……褒めてあげるわ」

スティーブ「僕はここの居候だ それに何だ、その悪者のボス役みたいな台詞と態度。それ以前に何をやっていたんだ?」

黒猫「暗い部屋で座っていただけよ」

スティーブ「ドラキュラ伯爵じゃあるまいし。ところで、桐乃ちゃんと沙織ちゃんは?」

黒猫「前者は部屋。後者は急用で来れなくなったわ」

スティーブ「……今日の鑑賞会は、君と桐乃ちゃんの二人っきりってこと?」

黒猫「…………そうよ」

止める役がいない状況下に桐乃ちゃんと黒猫ちゃんが置かれたらどうなるか……。
僕は瞬時に察知できた。
止め役がいない以上、桐乃ちゃんと黒猫ちゃんは……。

スティーブ「ケンカ……したんだね?」

黒猫「流石ね。スーパーヒーロー」

唖然とするしかない。
そしてこのタイミングメールが来た。
案の定、沙織ちゃんからだった。

スティーブ氏、後は頼んだでおじゃる。

スティーブ「遅いよ……。ところで黒猫ちゃん。ケンカの原因は?」

黒猫「あの女の書いたケータイ小説よ」

スティーブ「……つまらなかった、とか?」

黒猫「それを通り越して殺したくなったわ」

そこまで?
逆に内容が気になる!



136 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2013/02/23(土) 01:45:59.93 ID:vifj3Qhm0
それから数十秒後。
ケータイ小説の内容を聞いた僕は思わず怒りに駆られた。
黒猫ちゃんが怯えていたので相当鬼気迫る表情だったのだろう。
気が付いたら桐乃ちゃんの部屋に怒鳴り込んでいた。

スティーブ「……『黒猫』って登場人物がレイプされた挙句殺される、って流れはどうかと思うんだ!」

桐乃「え……えーっと……。く、黒猫も悪いのよ! ほら! コレ!」

スティーブ「これは?」

桐乃「マスケラの二次創作物の同人誌。ブッ殺そうかと思ったレベルの代物よ」

黒猫ちゃんと似たようなこと言うね……。
桐乃ちゃんの説明を聞く限り、この同人誌は『逆行物』というやつのようだ。
にしても、こんなに分厚い設定資料集まであるのか……。
黒猫ちゃんは桐乃ちゃんのケータイ小説の文章量の少なさを嫌い、桐乃ちゃんは黒猫ちゃんの同人誌の読みづらさを嫌う。
二人とも、きちんと全部読んだ上で的確に文句を言っている
文章量と読みやすさのバランスって確かに難しいね。
後……。



スティーブ「黒猫ちゃんも似たようなことやってるじゃないか! 京介君の妹をモデルにしたキャラを主人公専用の肉便器って何てことしてくれるんだ!」

桐乃「スティーブさんはそんな卑猥な単語言っちゃダメ!」

僕は今度は黒猫ちゃん相手に怒っていた。
桐乃ちゃんが何か言ったけど聞こえないフリだ!
それはそうだろう。
黒猫ちゃんだって似たようなことやったんだから。

黒猫「……」

スティーブ「この話題はここで打ち止め。鑑賞会を始めよう。」



137 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2013/02/23(土) 01:47:13.25 ID:vifj3Qhm0
『星くず☆うぃっちメルルっ♪ はっじまるよぉーーーっ♪』

スティーブ「…………」

あれ? オープニングに変身シーン入れるのは別段問題ないと思うけど、ちょっとアレじゃないか?
あからさま過ぎるほどのストリップ(しかも思いっきり全裸になっている)!
オマケに脱いでいるのは小学生!
これ、放映できるレベルじゃないよ!

桐乃「DVD版だから問題ないのよ。リアルタイムじゃほとんどの地方で修正が入って、大量のリボンと星で隠しまくってたの」

黒猫「ニコニコ動画にテレビ愛知版の無修正変身シーンが大量にアップされて祭りになった(※)ことがあるわ」

僕の表情を見て察してしまったのか、桐乃ちゃんと黒猫ちゃんが説明してくれる。
主題歌の方も電波ソングだ!

※:このSSのオリジナル設定であるが、変身バンクでは『創聖のアクエリオンの合体シーンのオマージュ』という名目で主人公の乳首と局部を(一瞬しか見えないようにしてあるが)堂々と描写している。
  制作に携わった紳士淑女一同の欲望の賜物である。

スティーブ「サビの部分に合わせて敵を光線技で消し飛ばさなかったか?」

桐乃「演出の一環よ」

黒猫「サビの歌詞は要約すると『今から全力全開魔法を零距離でお見舞いしてやるから、逃げるんじゃねえぞ』って意味になるわね」

その『零距離』に至るまでの流れもえぐい。
空中で敵目掛けてきりもみ突撃し、杖の先端で心臓を串刺し(この時点で十分過ぎるほどのトドメだと思う)!
そのまま高速低空飛行で串刺しにした敵を思いっきり地面に擦り付け、しかる後に再度上昇。
ジャイアントスイングの要領で敵を杖ごと振り回し、遠心力を利用して地面に叩き付ける。
最後に必殺技の名前(『メテオインパクト』だと桐乃ちゃんが教えてくれた)を叫びながら、光線を発射してフィニッシュ、か……。

黒猫「これ、本当にお子様アニメなのかしら? あのえげつない必殺技を笑顔でかましていたわよ」

桐乃「うだうだ言ってないで最後まで見るのよ!」

それからそれから。
第6話鑑賞後。

黒猫「魔星物(イーヴルスター)に寄生されていたからって、親友相手に笑いながらあの技は異常よ。生粋のサイコキラーよあの女は」

桐乃「大丈夫! あの後ちゃんと蘇生させたから! メルルが戦闘前に張る『まじかるフィールド』の中では、死んだ人たちや壊れた者は、後でぜーんぶ再生できるって設定があるの!」

黒猫「何よその設定……」

また桐乃ちゃんと黒猫ちゃんの言い合いが始まった。
僕はそれをなだめて、カーテンを開けることにした。

スティーブ「二人とも落ち着いて。鑑賞会の前に飽きるほどケンカしたんだから」

カーテンを開けると、日光……。

ウルトロン「……」

……が差し込むと同時にウルトロン・ピムの姿が目の前に現れた!
桐乃ちゃんと黒猫ちゃんもウルトロンの姿を見て驚いている。
慌ててカーテンを閉め直した瞬間、二人は僕に抱きついてきた。

桐乃「なななな……なんなのアレ!?」

黒猫「一体全体何者……!?」

スティーブ「2か月ぐらい前にスウェーデンで起きた『スウェーデン・マスコミ狩り事件』の主犯だ」

黒猫「その事件って、確か『ヒドラ』とかいう集団の仕業でしょ?」

スティーブ「奴は『ウルトロン・ピム』。ヒドラを率いる人造人間だ。二人とも、ジッとしているんだ」



138 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2013/02/23(土) 01:48:17.97 ID:vifj3Qhm0
数分後。
大急ぎで着替え、武装した僕は高坂家前の道で奴と対峙していた。

ウルトロン「…………居留守を決め込まなかっただけ評価しよう。あのまま居留守を決め込んでいたら、この住宅街に死体と瓦礫の山が築かれていただろう」

キャプテン・アメリカ「何のためにわざわざ来た?」

ウルトロン「簡単だ。……組織最大の怨敵である貴様に、このウルトロン・ピムの力を誇示するためだ!」

ウルトロンは吠えたのと同時に荒ぶる拳を繰り出す。
僕は慌てて盾でガード。
しかし、ウルトロンは盾自体を蹴りあげてガードを崩してきた!

キャプテン・アメリカ「そう簡単には!」

僕は相手の隙を突いて、アゴ目掛けて右フック!
直撃した……が、ウルトロンはビクともしていない。

ウルトロン「……人間は貴様が思っているほど脆くはない」

キャプテン・アメリカ「お前は人造人間(アンドロイド)だ! 人間(ヒューマン)じゃない!」

ウルトロン「俺は人間だぁっ!!」

ウルトロンは瞬時に激高。
右手を払い除けた直後に裏拳で僕を吹き飛ばした。
余りの勢いに、僕はコンクリート塀に叩きつけられる。
辛うじて倒れなかった僕目掛け、ウルトロンは追い撃ちでヤクザキックを繰り出してきた。
それを避けたため、空振りに終わったヤクザキックはコンクリート塀に激突し、そのまま貫通した!

ウルトロン「……今の一撃で倒れないとはな!」

キャプテン・アメリカ「人間がそこまで脆くないと言ったのはお前だ!」

ウルトロン「人間の範疇から外れた存在が人間ぶる気かー!」

そこからもう、延々と殴り合う泥仕合。
周囲のコンクリート塀はほぼ全て穴開きチーズ状態。
僕は盾を使った打撃で対抗するも、地力の差なのかダメージの影響なのか、次第に追い詰められていった。

ウルトロン「……流石にダメージの蓄積が著しいようだな。人間の底力を今こそ見せてやるぞ、スーパーソルジャー」

ウルトロンが自信満々にそう言った直後、その顔目掛けて光る何かが直撃してウルトロンを吹き飛ばした。

ウルトロン「……!?」

???「キャプテン!」

キャプテン・アメリカ「フィル?」

大型の銃火器を抱えているフィルだ!
どうやら彼がウルトロンを狙い撃ちにしたらしい。

フィル「ウルトロンが千葉県に出て来たって報告があったから、レールガンを持参してきた。……! どうなっているんだ!?」

吹っ飛ばされたウルトロンの方を見て、フィルが驚愕の声を上げた。
なぜなら、レールガンが直撃してもほぼ無傷だったからだ!

139 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2013/02/23(土) 01:49:45.30 ID:vifj3Qhm0
フィル「だったらもう一度!」

ウルトロン「それがどうした!」

フィルがもう一度レールガンを構えるよりも速く、ウルトロンはフィルに接近。
フィルをボディブローでダウンさせてからレールガンを奪い、細い材木をへし折るように折り曲げて破壊してしまった。

ウルトロン「これが火事場の馬鹿力の一端だ! そして人間という存在は、大多数の人間が思っているよりも頑丈なのだ。俺がそれを証明している! そして俺は誇りに思っている!」

キャプテン・アメリカ「ならお前には血が流れているのか? お前は涙を流すことができるのか!?」

ウルトロン「……」

僕の問いかけに、ウルトロンは答えなかった。
そして、いつの間にかヒドラのマークが大きく描かれた航空機が奴の頭上に現れる!

ウルトロン「我が組織最大の怨敵、キャプテン・アメリカ。今日は痛み分けということにしておいてやる。だがいずれ、貴様は人間の意地にかけて俺が殺す!!」

機体後部のハッチが開き、ウルトロンは大ジャンプでそこから航空機に飛び乗る。
直後に後部ハッチを閉じて、ヒドラの航空機は再び透明になりながら飛び去って行った……。

キャプテン・アメリカ「……人間の範疇から外れているのは、お前の方だ」

僕の呟きは、空へと消えて行った。
ウルトロンは自分を人間だと主張していたが、僕は認めない。
一人の人間として、奴が人間であるとは認めない!





数時間後、某国某所。
ヒドラの基地の一つ。

ウルトロン「先ほど、俺はキャプテン・アメリカと対峙してきた! 流石に人外は手ごわかったが、俺は人間の力を発揮して圧倒してやった! 横槍が入ったので痛み分けにしてやったが、我らヒドラ最大の怨敵より俺の方が強いことを証明できた!」

ウルトロン「更に、我々にはこのレプリカ四次元キューブがある! 閣下が手に入れたオリジナルには及ばないが、それでも強大な力を感じる。これのエネルギーがあれば我らは弾薬も燃料も要らん! 敵が銃を構えれば我らは数百発の光の雨を降らす!!」

ウルトロン「頭を一斬り落とされたら、そこから二つまた生えてくる……! ハイル・ヒドラ!!」

ヒドラ兵士たち『『『『『『『『『『ハイル・ヒドラ! ハイル・ヒドラ! ハイル・ヒドラ!』』』』』』』』』』






次回、「キャプテン・アメリカ ジ・アキハバラ・アベンジャー」第九幕、「黒い眼鏡っ娘のブルース!」。
140 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2013/02/23(土) 01:51:13.37 ID:vifj3Qhm0
投下完了。
次回は3月中に投下したいところ。
141 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/24(日) 08:44:29.30 ID:XsZfchrVo
乙。ウルトロンは名前しか知らなかったけど哀しい奴だな
あと愛知だけ無修正って何だっけ…もえたんだっけ
142 : ◆lc8fM/f/jN38 [sage]:2013/02/24(日) 11:43:36.93 ID:kVHo3v1D0
>>141

原作(アメコミ)でのウルトロンのオリジンはこのSSのやつほど悲劇的ではないけど、それでもどこか哀愁が漂っていたりする。
愛知だけ無修正、ってのは原作(俺妹第3巻の第一章)ほぼそのまま。(流石に注釈の乳首と局部モロ見せはこのSSオリジナルの設定だけど)
143 : ◆lc8fM/f/jN38 [sage]:2013/04/08(月) 14:47:48.71 ID:hGbVF/wDO
書き込みテスト
144 : ◆lc8fM/f/jN38 [sage]:2013/04/08(月) 14:50:55.04 ID:hGbVF/wDO
嫌な報告。

HDDの異常が発生したのでPCを修理に出しました。
そのため今月一杯は投下できません。
慎んでお詫び申し上げます。
145 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/04/10(水) 08:02:23.73 ID:IF4o05BYo
修理か…残念だな
早く直ると良いな
146 : ◆lc8fM/f/jN38 [sage]:2013/05/24(金) 00:39:37.86 ID:OvR4aNM00
第九幕を執筆中。
PCを2度も修理に出した(戻ってきてすぐに冷却ファンの異常も発見したのでまた修理に出した)のが思っていた以上のダメージになった……。
147 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2013/05/29(水) 03:33:38.57 ID:0mRF8uCt0
第九幕、やっと完成!
というわけで今回の注意事項

・流血どばどば死人どばどば

・地味子ならぬ病味子
148 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2013/05/29(水) 03:34:12.77 ID:0mRF8uCt0
TV番組『先日、千葉県千葉市の住宅街でヒドラの幹部が出現、キャプテン・アメリカと交戦したとの情報が……』

TV番組『例のヒドラ幹部は非常に強く、キャプテン・アメリカも圧倒されたとのことです』

TV番組『ヒドラ幹部は、かつてアメリカで生まれ、世間を騒がせた「ウルトロン・ピム」であることがS.H.I.E.L.D.広報部の発表で明らかになっています』

クリント「どこもこの間の殴り込みを報道しているな」

スティーブ「それなりの騒ぎになったからな。それで、ヒドラの動向は? 邪魔者が多過ぎてこちらはほぼ手詰まりだ」

クリント「この間の一件以来、S.H.I.E.L.D.の方でも分からん」

スティーブ「…………誰かが、意図して情報をシャットダウンしているのかもしれない」

クリント「どんな奴がだ?」

スティーブ「ヒーロー(僕たち)を快く思わない人たちが。そういう人たちはそれこそかなりいる。彼らは自分たちの嫉妬や恐怖心だけしか大事に出来ない。だから、世界の敵の利になることを平気でやって、それが間違っていることを頑として認めない」




キャプテン・アメリカ ジ・アキハバラ・アベンジャー
第九幕、「黒い眼鏡っ娘のブルース!」





149 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2013/05/29(水) 03:34:55.63 ID:0mRF8uCt0
高坂家、僕の部屋。
僕とクリントはヒドラの動向に関して話し合っていた。
防音でセキュリティも厳重なこの家は、この手の話し合いにうってつけだったりする。

クリント「……その辺もチェックを入れた方がいいかもな」

スティーブ「僕はSSR関連で調べてみる」

僕たちの話し合いがちょうど終わったのと同時に、桐乃ちゃんがいきなり入ってきた。

クリント「ノックしたらどうだ?」

桐乃「それどころじゃなーい! スタンリーさんが……スタンリーさんが……!」

スティーブ「どうしたんだ!?」

桐乃「暴漢に襲われて病院に運ばれた!!」

スティーブ「何だって!?」

クリント「……カーターも呼ぼう!」





東京都内の病院。
スタンリーさんは頭に包帯を巻いている。

シャロン「遂にここまでやるとは……」

スタンリー「連中を甘く見ていました」

スティーブ「SSRから1個小隊分は出した方がいいな」

クリント「俺もガードに入る」



150 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2013/05/29(水) 03:35:39.33 ID:0mRF8uCt0
桐乃「スタンリーさんは?」

スティーブ「全身打撲に頭部強打、あちこちの骨にもヒビが入っているけど、命に別状はないって」

桐乃「誰がそんなこと……」

スティーブ「警察が調べているとは聞いたけど、SSRの方でもそれとなく調べさせてみる」

桐乃「それ聞いたら……ちょっとだけ、安心できた」

言葉通りだったらしく、桐乃ちゃんの表情から少しだけ不安が無くなっていた。
更に、しれっと抱き着いている。
僕としては嬉しくないので穏やかに引きはがす。
そしてタイミングよく携帯の着メロがなる。
『ティーンエイジ・ミュータント・ニンジャ・タートルズ』(※)のOPテーマだから、大介さんか。

※NHKのBSとテレビ東京系列で吹き替え放映されていた方。
 日本側の責任者が後年担当することになった『ビーストウォーズ』に負けない位、アドリブとメタ発言が激しいテレ東版に関しては『サワキちゃん』と言えば分る人には分かる。
 あまり話題に上らないBS版の方も主題歌の日本語版を流したりと、こっちもこっちで中々羽目を外しているので存外侮れない。
 ちなみに作者はBS版とテレ東版の両方をリアルタイムで視聴しており、タートルズが大好きだったせいかテレ東系列局で流れた時は違和感なく受け入れていた。
 筆者の記憶が正しければ、BS版の後にテレ東版がスタートしたはず。

スティーブ「もしもし」

大介『スタンリーさんの容体はどうですか?』

スティーブ「命に別状はないそうです」

大作『そうですか……。ところで、夕飯はどうします? 伝えるのを忘れていたのですが、今日は母さんと一緒に外で食べる約束をしていたのです』

スティーブ「それなら、僕と桐乃ちゃんも外で済ませます」





151 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2013/05/29(水) 03:36:16.52 ID:0mRF8uCt0
赤坂の中華料理店、『四川飯店』(※)。
僕と桐乃ちゃんは今日はここで晩御飯を済ませることにした。
何故か新垣あやせが隣のテーブルにいるが。

※:日本における中華料理の父、陳建民が東京都新田橋で創業した中華料理店。
  赤坂にあるのは規模拡大時に進出してからできた店。
  ランチは割とリーズナブルだが、元々宮廷料理を得意としていた陳建民の影響なのか、ディナーは中々お高い。

あやせ「お、お久しぶりです」

スティーブ「……こちらこそ」

桐乃「えーっと、この間のことは、ここでは不問ってことで!」

あやせ「桐乃がそう言うなら……」

スティーブ「僕もだ」

ハッキリ言ってすごく気まずい。
むしろ、何で新垣あやせまでいるのだろうか?

桐乃「そういえば、何であやせは一人でここに?」

あやせ「私にカンフーを教えてくれた人たちと久しぶりに晩ご飯を食べることになったんだけど、この店を向こうから指名されたの。ここの先代料理長(※)も、崑崙の戦士だったらしくて」

※:いうまでもなく陳建民のこと。
  言っておくが、このSSのオリジナル設定だから本気にするなよ。

桐乃「崑崙?」

あやせ「中国のどこかにある山なんだけど、私も詳しい場所は分からないわ。私、小さい頃に家族旅行で中国に行った時に誘拐されたんだけど、崑崙の戦士の一人に助けてもらったの」

あやせ「孤児と間違われて数日間一緒に過ごす羽目になったけど、その時にカンフーを教えてもらったのよ。……それにしても、言葉が分からないから孤児ってどういう意味よ!? 崑崙の一般常識ってどうなってるのよ!」

あやせ「勘違いに気付いて帰してくれたけど、仕事の都合でどうしても予定日数以上の期間はいられなくて泣く泣く親が先に日本に帰ったから、一人だけで北京の空港からこっちまで直行便に乗って帰る羽目になったんだから!」

桐乃「…………色々あったんだね」

色々抱え込んでいるみたいだ。
語気が結構荒くなっている。





152 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2013/05/29(水) 03:36:55.17 ID:0mRF8uCt0
桐乃「一体…………何が起きてるのかな?」

スティーブ「良くないことであるのは、確かだ」

家に帰ってきた僕たちは、今日の出来事に関して話し合っていた。
今回の状況は異常だ。
僕みたいな一個人を主役にしたミュージカルを止めるためだけに、市民団体がヒドラの援助を受け入れる。
何がしたいのだろうか? もしくは何をしたいのかすら本人達にも分からなくなっているのだろうか?
いずれにしても、彼らが倒すべき敵であるのは確かだ。

桐乃「ヒドラと戦ったときみたいに、戦争になるのかな?」

スティーブ「あの時よりはずっと小規模だろうけど、多分そうなる」

そして、負けられない。
思想自体は千差万別であるべきだが、それを押し付けるために誰かを攻撃するような悪党は許せない。

スティーブ「そして、僕が奴らを倒す。SSRの一員として、SSRのみんなと一緒に」

桐乃「スティーブさん……」





次の日の朝。
僕たちはいつものように朝食を済ませていた。

佳乃「スタンリーさんを襲うなんて……」

桐乃「命に別状はなかったけど、やっぱりミュージカルの公開に響くかな?」

影響は出るだろうな。
僕は少なくともそう思う。
そう思った矢先、携帯の着メロが鳴り出した。
選曲(※)から察するに、大介さんの携帯のようだ。

※杉良太郎の名曲『君は人のために死ねるか』の96年度セルフカバー版。
 このセルフカバー版、テクノ全開の曲調となっているのが特徴。
 ……見た目とマッチしてないから、演歌テイスト全開の原曲版にしようよ大介さん。

大介「高坂です……。何!? ……分かった、俺から伝えておく。スティーブさん。大変なことが起きました」

スティーブ「どうしたんですか?」

大介「プラカードを持った集団が青葉の森公園で大規模なデモを開始したとの連絡でした。ヒドラの協力者として国際指名手配されている人物が複数、連中を先導しているとも」

この言葉を聞いた直後、僕は慌てて朝食を平らげて部屋に戻って戦闘服に着替え、大急ぎで青葉の森公園へと直行していた。





153 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2013/05/29(水) 03:37:34.06 ID:0mRF8uCt0
青葉の森公園。
僕が見たのは、数千人の暴徒がプラカードや鈍器を手に大声で喚いている姿だった。
それも、よりにもよって追悼式典の会場で!

キャプテン・アメリカ「……こいつら、なんてことを!!」

暴徒連中「来たぞ!」「作戦通りだ!」「殺せー!」

作戦? ということは、僕をおびき寄せるためにわざわざここに集まったのか!
勢いに任せて飛び出したから、奴らと対峙しているのは今のところ僕だけ。
だったら、僕一人でもこいつらを叩きのめす!

キャプテン・アメリカ「シールドスラッシュ!」

盾を投擲して3人を一度に弾き飛ばす。
だが、相手は千単位。
これだけの大人数を相手にする以上、下手をすると命を落とすかもしれない。
それでも、僕は退かない。
突き進むだけだ!



飛び蹴りで顎を粉砕した直後、別の暴徒が鈍器を振りかぶる。
それを盾で防ぎ、逆に盾で弾き飛ばす。
100人程倒したところで、目の前にいた暴徒の一人に矢が突き刺さる。
倒れた直後に矢尻から弾丸が発射され、周囲の暴徒仲間を射抜く。
直後に銃声が響き、今度は複数の暴徒が胸や腹から血を吹きだして倒れる。

ホークアイ「Mr.スタンリーのガードをフィルに引き継ぐのに時間がかかって遅くなった!」

ブラックウィドウ「大丈夫!?」

キャプテン・アメリカ「クリント! ナターシャ! 僕はまだ大丈夫だ!」

ブラックウィドウ「あなたが一人で突撃したって連絡があったから、もう一人助っ人を連れてきたわ!」

ハルク「ガァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」

ナターシャがそう言った瞬間に、ハルクが怒号を挙げて暴徒たちを蹴散らしながらこっちに合流してきた。

ハルク「ハルクも手伝うぞ!」

その次とばかりに、今度は空から爆弾が降って暴徒たちを吹き飛ばす。
それから少し間を開けてトニー君が着地した。

アイアンマン「フィルから連絡があってね。僕も駆け付けた!」

……そうそうたる面々が集まったな。
これなら、全部倒せるかもしれない。

キャプテン・アメリカ「みんな、聞いて欲しい。連中は僕を殺すためだけにわざわざ集まった。だから…………」

そう、僕自身を囮にすれば、それだけ連中の隙はより大きくなる。
そこをみんなが全力で突けば、勝機を掴める!

キャプテン・アメリカ「僕を囮にして全力で暴れてくれ」



154 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2013/05/29(水) 03:38:50.33 ID:0mRF8uCt0
それから約1時間後……。
暴徒は全滅(皆殺しにした、とも言う)。
辺り一面と死体と血で凄いことになっている。
大介さんから聞いたとおり、暴徒の中に扇動役としてヒドラの構成員が何人かいたが、全員服毒自殺してしまった……。

アイアンマン「……冷静になって見てみると凄まじいな」

ブラックウィドウ「数千人の暴徒全員の死体が転がっているから無理もないわ」

アイアンマン「屍山血河とは正にこの光景なり、か」

トニー君とナターシャがしみじみと会話している。
一応、通報したから警察も駆け付けるとは思うが……。

ハルク「こいつらは、なんで誰も死を恐れずに突っ込んできたんだろうな……?」

ホークアイ「特定の思想に酔い潰れた集団はそれ以外に目が行かなくなり、やがて思考自体も鈍って思想の大本に操られるがままになる。15世紀の一向一揆や60年代にあった学生運動がいい例だ」

クリントとハルクも色々と話し込んでいる。
SSRのみんなも呼んだ方がいいかも……。
そう思った矢先、ヘリコプターがやって来た。
辛うじて空いているスペースに着地する。
すると、フューリー長官と……桐乃ちゃんが下りてきた。、

桐乃「スティーブさん!」

キャプテン・アメリカ「桐乃ちゃん!?」

ニック「気になって家と大介が勤務している警察署と連絡したのだが、佳乃も大介も心配していた上に、桐乃が不安がっていたと言っていたのでな。学校にいたところをこっちまで引っ張ってきた」

ニック「ここは千葉県警と我々に任せて、すぐに帰るんだ。このままここにいたら面倒なことになるぞ」





155 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2013/05/29(水) 03:40:00.64 ID:0mRF8uCt0
それからそれから。
僕は桐野ちゃんを乗せ、中学校へと彼女を送っていた。
いつもとは比べ物にならないほど緩やか(※)に。

※とはいっても、時速60qオーバー。
 立派な道路交通法違反レベルの速さである。

桐乃「スティーブさん」

キャプテン・アメリカ「どうしたの?」

桐乃「この間、黒猫も加わって鑑賞会したじゃない。なのにスティーブさんってあたしからDVD借りてメルルを一度は見てたはずなのに、OPだけは何だか初めて見たって顔してたけど、どうして?」

キャプテン・アメリカ「何となく嫌な予感がして、借りた時はOPを飛ばしてたんだ」

桐乃「ええー!? OPから見ないと意味ないでしょー! あ、そういえばコミケの時にも春香さんのことを知っていたのに、実際に会うのは初めてとか言ってたような」

キャプテン・アメリカ「仕事のことで会った時、トニー君が惚気ながら彼女の写真を見せてくれたんだよ。後、会話時の声を録音・編集して作った目覚まし用着ボイスまで聞かされてさ。それで顔と声だけは知っていたんだ」

キャプテン・アメリカ「そう言う桐乃ちゃんこそ、コミケでトニー君と会った時、お互い初対面みたいな態度だったよ。確か映画の主題歌の件で面識があったはずなのに」

桐乃「アレはチャットやメールで知り合ったからよ。ほら、親しいチャット仲間とリアルで初めて会う時ってさ、基本的に初対面時のあいさつから始めるじゃない」

キャプテン・アメリカ「そういうものなのか」

桐乃「そういうものなのです」





そして、桐乃ちゃんを無事学校に送り届けて数時間後。
僕は田村屋にいた。

いわお「朝っぱらから大変だったね。スティーブのじっちゃん」

スティーブ「秋葉原に行った時より疲れたよ。あ、チョコ羊羹も10本ほどお願いします」

店主「まいどあり! にしても、テレビもスティーブさんの話題で持ちきりですよ」

スティーブ「素直に喜んでいいのかどうか、正直迷っています。僕一人で蹴散らしたわけじゃないから」

苦笑いする僕を尻目に、店主さんといわお君は素直に感動している。
一方、麻奈実ちゃんはいつもり険しい表情で僕を睨んでいた。



156 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2013/05/29(水) 03:40:40.81 ID:0mRF8uCt0
大量の和菓子が入った袋を両手に抱えて、僕は家に帰る途中だ。
その途中、桐乃ちゃんが新垣あやせと一緒に岐路についている姿が見えた。
桐乃ちゃんは部活帰りとして、新垣あやせは桐乃ちゃんの部活が終わるのを待っていたのだろうか?
そうこうしていると、新垣あやせが僕に気付いて手を振った。
桐乃ちゃんもそれに気付いて、僕に向けて大きく手を振る。
しかし、すぐに桐乃ちゃんの表情に焦りがにじみ、どこかを指さすような仕草をしだす。
新垣あやせも似たような動きをしている。
そして、桐乃ちゃんと新垣あやせは遂に悲鳴を上げた。

桐乃「スティーブさん! 危なーい!! 地味子が刃物持って後ろから突っ込んで来てるー!!!」

あやせ「スティーブさん! 避けてー!!」

え……?
その言葉に反応して後ろを振り向くと、確かに麻奈実ちゃんがいた。
桐野ちゃんが言ったように、ナイフを手に持って鬼気迫る表情で突っ込んできた。
そして、何かが刺さる音がした刹那、鈍い痛みが腹部に走る。

麻奈実「何でよ!? 京ちゃんを助けられなかったくせに!」

ぽろぽろと泣きながら僕をナイフで刺し、殺気むき出しの表情で麻奈実ちゃんが僕を睨む。
直後、右側頭部を蹴られて麻奈実ちゃんが吹っ飛ぶ。

あやせ「スティーブさん!」

新垣あやせが、麻奈実ちゃんの右側頭部にジャンピング回し蹴りを炸裂させたのだ。
激痛に耐えながら、僕は麻奈実ちゃんの方を見る。
殺意を全く隠さない表情のまま、立ち上がろうとした瞬間、今度は桐乃ちゃんが彼女の顔面に何度もヤクザキックを決めた!
蹴られた際に黒縁メガネはフレームがひしゃげ、レンズもヒビだらけになっている。
麻奈実ちゃんが動かなくなったのを確認し、桐乃ちゃんは僕のもとへと駆け寄った。
泣きそうな顔で、桐乃ちゃんは僕を見て、必死に呼びかけてくる。

桐乃「スティーブさん! スティーブさん!!」

あやせ「ひゃ、119番するね!」

桐乃「そのあとで110番も!」

意識ははっきりとしつつも、僕の頭の中には、みんなの顔が浮かんでは消える。
僕は……僕は……。

スティーブ「どうしたらいいんだ? ………………京介君」






次回、「キャプテン・アメリカ ジ・アキハバラ・アベンジャー」第十幕、「桐乃ちゃんの小説家デビューが平穏無事に済むとは思えない!」。

157 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2013/05/29(水) 03:42:29.40 ID:0mRF8uCt0
今回の投下、終了。
PCのトラブルのせいでただでさえ遅い執筆速度が今回はダダ下がりだった……。
みんなもPCのトラブルには気を付けてな!
158 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/05/29(水) 08:45:53.18 ID:wRaZRbBKo

日本世紀末すぎてヤバい
159 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/05/29(水) 23:49:11.92 ID:Ji4jxFuDO
こういう汚れ役にいかにウルヴァリンさんが貴重だったか良くわかる
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