このスレッドはSS速報VIPの過去ログ倉庫に格納されています。もう書き込みできません。。
もし、このスレッドをネット上以外の媒体で転載や引用をされる場合は管理人までご一報ください。
またネット上での引用掲載、またはまとめサイトなどでの紹介をされる際はこのページへのリンクを必ず掲載してください。

勇者「くっ……右目が疼く……」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/03/10(土) 22:09:02.42 ID:TBwXX0Rf0
?「……ィ繝・ぅ繧諢丞峙縺励……霎シ繧……薙□蝣エ蜷医逋コ逕溘縺セ縺吶……・」


勇者(くっ……またか……)

魔法使い「大丈夫?勇者。顔色悪いけど……」

賢者「食べ物でもあたったんじゃない?ボクの調合した薬でも飲む?」

僧侶「貴方じゃないんですから……でも本当に大丈夫ですか?良ければ休憩にしますが……」

勇者「……いや、大丈夫だよ。心配させてすまないね」

魔法使い「無理しないでね?」

僧侶「どの道もうすぐで日が暮れます。後少しだけ頑張ってください」

勇者「ああ……悪いね」






?「繧九∋縺……肴枚蟄励′豁」縺励……陦ィ遉コ」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1331384937(SS-Wikiでのこのスレの編集者を募集中!)
【 このスレッドはHTML化(過去ログ化)されています 】

ごめんなさい、このSS速報VIP板のスレッドは1000に到達したか、若しくは著しい過疎のため、お役を果たし過去ログ倉庫へご隠居されました。
このスレッドを閲覧することはできますが書き込むことはできませんです。
もし、探しているスレッドがパートスレッドの場合は次スレが建ってるかもしれないですよ。

君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713885444/

笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713869982/

【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part10 @ 2024/04/23(火) 17:32:44.44 ID:ScfdjHEC0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713861164/

トーチャーさん「超A級スナイパーが魔王様を狙ってる?」〈ゴルゴ13inひめごう〉 @ 2024/04/23(火) 00:13:09.65 ID:NAWvVgn00
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713798788/

【安価】貴方は女子小学生に転生するようです @ 2024/04/22(月) 21:13:39.04 ID:ghfRO9bho
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713788018/

ハルヒ「綱島アンカー」梓「2号線」【コンマ判定新鉄・関東】 @ 2024/04/22(月) 06:56:06.00 ID:hV886QI5O
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713736565/

【安価】少女だらけのゾンビパニック @ 2024/04/20(土) 20:42:14.43 ID:wSnpVNpyo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713613334/

ぶらじる @ 2024/04/19(金) 19:24:04.53 ID:SNmmhSOho
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713522243/

2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/03/10(土) 22:21:39.84 ID:TBwXX0Rf0
明滅する幻聴。

それは日に日に増していき、囁くように僕に語りかける。

?「蝣エ蜷医逋コ逕溘縺セ縺吶……」

意味不明の言葉は浮かびは消え、僕の思考を邪魔する。

それに伴い、右目に刺すような痛みが走った。

時折訪れる耐え難い苦痛が判断力を鈍らせる。

けど、今、僕が倒れる訳にはいかない。この程度で弱音を吐く訳にはいかないんだ。


魔王の城は近い。
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) :2012/03/10(土) 22:25:19.57 ID:ZeXY/kCw0
みてるぞ
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/03/10(土) 22:32:47.03 ID:TBwXX0Rf0

僧侶「今日はひとまずここで休みましょう。もしかしたら魔王との闘いの前の最後の休息かもしれません。ゆっくり休んでください」

焚き火を皆で囲み、各々の体制で眠りに着く。旅が始まってから幾度も繰り返した事だ。
勇者は近くの木に背をもたらせ、寒さを凌ぐためにマントに包まる。




勇者「……この子とも、そろそろお別れかな」

旅の苦難を払い続けた愛刀。魔物の硬い表皮を切り続け、刃こぼれはひどく、装飾も剥がれ落ちて見る影もない。
それでも、だからこその愛着。だがそれももうすぐ必要なくなる。魔王を倒せば自分とこの剣の出番はもないのだから。

勇者「もう少しだけ、頑張ってくれ」

魔法使い「勇者……?」

勇者「……!」

魔法使い「誰と……って、あ、そっか」

勇者「聞こえてたかい。悪いね、起こしてしまって」

魔法使い「ううん、私もなんだか眠れなかったから」

勇者「そっか……」
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/03/10(土) 22:41:43.21 ID:TBwXX0Rf0
魔法使い「ぼろぼろだね」

勇者「うん。手入れはしてたけど、やっぱりそろそろ限界かな……」

魔法使い「ずっと使ってたもんね」

勇者「それも僕だけじゃない。この剣は先代の勇者も使ってた。打ち直したものだけど、いい加減には扱えない」

その先代は、おそらくもう生きていない。消息が分からなくなった翌年、回収した遺品の中に含まれていたものを新たに打ち直したのだ。

魔法使い「……ふふっ」

勇者「魔法使い?」

魔法使い「勇者のそういうとこ、好きだよ」

勇者「照れるね」

魔法使い「……!」カァ

魔法使い「べ、別に変な意味はないからねっ!」

勇者「ははっ、わかってるよ」
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/03/10(土) 22:45:11.65 ID:TBwXX0Rf0
魔法使い「ねえ、勇者」

勇者「なんだい」

魔法使い「もうすぐで、終わりだね」

勇者「そうだね。そうしたら世界も平和になる。魔物のいない、あの頃を取り戻せる」

魔法使い「そう……だよね。それは良い事なんだよね

魔法使い「でも、なんだか寂しいな……」
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/03/10(土) 22:54:04.28 ID:TBwXX0Rf0
勇者「魔法使い……」

魔法使い「ごめんねっ。今のは忘れて。明日に備えて早く寝なきゃね!」バサッ

勇者「……」

勇者(……君もなんだね)

辛くはあったが、旅の途中は楽しい事も多かった。

賢者が変なものを食べてお腹を壊して、僧侶がそれに呆れながらも薬を見繕う。
僕と魔法使いはそれを見ながら笑っていた。

思い出してみれば本当に短い。けどそこには確かに”日常”があった。

それももう終わる。

勇者(僕も早く寝よう)





?「……繝繝峨諢丞峙縺枚蟄励繝繝」
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/03/10(土) 23:04:34.69 ID:TBwXX0Rf0




勇者「ここか……」

城の再奥。身の丈の二倍程の大きな扉。ここを開ければ魔王との闘いが始まる。だが……

魔法使い「でも……なんで何もなかったんだろう……」

魔物はおろか、罠さえもなかった。迷わせるつもりすらないのか、城の内部はほぼ一本道。

賢者「余裕って事なのかな〜」

僧侶「だとすれば舐められたものですね」

勇者「文句を言っても仕方ない。魔王がここにいるのは間違いないんだし、行くしかない」

魔法使い「そうだね。頑張ろっ!」

僧侶「私は問題ありません」

賢者「ボクも準備万端だよ!」

勇者「……」コクッ

勇者「じゃあ、行くよ」
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/03/10(土) 23:07:02.87 ID:TBwXX0Rf0
今日はここまでです。出来る限り毎日の更新をしたいと思っていますので、どうか最後までお付き合いくださいませ。
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) :2012/03/10(土) 23:10:56.26 ID:ZeXY/kCw0
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/11(日) 01:39:14.19 ID:OwYETmQIO
前衛不足なパーティーだなぁ

とりあえず乙
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/11(日) 02:45:40.20 ID:JWHI7GTDO
乙!
文字化けかと思ったら厨二だった
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/03/11(日) 23:08:48.12 ID:MXAcA5bf0






魔王「待ち侘びたぞ、勇者。永久の如き刻の中、この日を夢見て」

魔王と名乗る者は、およそ勇者が抱いていた魔王像には程遠い。
漆黒の毛髪と瞳。悪魔のごとく整った目鼻立ちは淫美な雰囲気すら漂わせる。
だがそれは――見た目だけだった。

賢者「ちょっと待って……これ……」

魔法使い「嘘、でしょ……」

溢れ出る魔翌力は最早毒気に等しい。濃密な瘴気が辺りを覆う尽くす。
比べる事すら絶望する程の隔絶した力量の差。

勇者「くそ……」

対峙しているだけで、魂を削られるような重圧を受け続ける。
蟀谷を冷たい汗が伝った。
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/03/11(日) 23:24:05.18 ID:MXAcA5bf0
こんなことが、あり得るのか。

自分とて、当初より遙かに強くなった。魔翌力も、体力も、全て。

それでも、眼前の魔王には遠く及ばない。言葉で表す事すら烏滸がましい程に。

魔王「なまじ強者だと厄介なものよ。力量の差を器が理解してしまう」

足が竦む。肌が粟立つ。
久しく忘れていた感覚が蘇った。
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/03/11(日) 23:30:52.26 ID:MXAcA5bf0
目の前の怪物が、どうして未だ人の形をしているのかわからない。
まだ怪物の姿をしてくれた方が救いがあった。

魔王「此方の眼を見て尚、退かないのは称賛に値する、が……」

魔王「或いはここで殺してやった方が、貴君らにとっては良いのかもしれんな……」

勇者達を見据える眼は、ある種の憐憫が含まれていた。

魔法使い「どういう……こと……?」

僧侶「……魔王を倒せない勇者パーティに価値はありません。のこのこと帰っても罵声を浴びせられるだけ……そういう事でしょう?」

魔王「聡いな。そういう事だ。敗者に与えられる場所は煉獄と地獄のみ」

魔王「それが勝利へのリスクという物」
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/03/11(日) 23:42:52.16 ID:MXAcA5bf0
魔王「勝利とは、奪う事だ。それは腕か、命か、それとも……矜持か。しかしそれは勝利の過程で得る副産物に過ぎない。
   ――勝者は因果を得る」

魔王「その者がする筈だった運命を消滅させ、奪う」

魔王「のう、勇者」

勇者「……っ」ドクッドクッ

魔王「死が、怖いか?」

勇者「くっ……」

魔王「どうやら、そこの女は解っているようだぞ」

魔法使い「ハァ……ハァ……あぁ……有り得ない、だってそんな……」ガタガタ

魔法に人一倍鋭敏な魔法使いが、あの魔翌力に当てられて意識を保っている事が奇跡としか思えない。

勇者「……そこまでの力があって……」

魔王「ん?」

勇者「どうして世界を滅ぼさない……」

魔王「これはおかしな事を言う。貴君はパンを食べる事に達成感を感じるのか?」
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/03/11(日) 23:51:02.48 ID:MXAcA5bf0
僧侶「貴女は……ッ!!」

魔王「なぜそう猛る?己がそうだから相手も当然のように同じ事を思っているとでも?」

魔王「無知蒙昧とはこの事よのう。貴君ら人間はいつもそうだ」

魔王「届かぬものにこそ、輝きを感じるというもの。容易に叶ってしまうような幻想などに価値はない」

魔王「勇者。貴君なら理解できよう」

勇者「……」

魔王「それは貴君らを見れば解るというもの」
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/03/12(月) 00:02:43.35 ID:FxnpD0gL0
勇者「……!」

魔王「一見偏った編成だが、非情に合理的だ」

勇者「……何の事だ……」

魔王「惚けても無駄だ。おそらく貴君だけがわかっていた筈」

魔王「膂力で魔物に敵う筈が無い、と」

魔法使い「……!」

賢者「だから……」

魔王「それは剣を使う貴君だけしか判らぬ事実。確かに強靭な魔物の肉体に一太刀浴びせるのは容易な事ではない」

魔王「そして、もう一つは――”仲間を前線に出させたくなかった”」

勇者「やめろ……」
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/03/12(月) 00:14:01.05 ID:FxnpD0gL0
魔王「利他的に見えて、酷く利己的だ。貴君は――」

勇者「やめろッッ!!」

魔王「なぜ隠す?それこそが貴君にとっての、勇者である証だというのに。寧ろ、誇るべき事だ」

僧侶「勇者にとっての……?何を言ってるんです?」

魔王「のう、貴君らは己の悦楽を邪魔翌立てされればさぞ業腹だろう。それがたとえ、仲間だったとしても」

賢者「何、言って……」

魔王「勇者。貴君と此方は似ている。”決して同じではない”がな」
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/03/12(月) 00:25:58.78 ID:FxnpD0gL0
僧侶「貴方と勇者が似ている……?何をふざけた事を……」

魔王「ならば問うが、貴君らは勇者の何を知っているのだ?」

魔王「勇者に何をしてやれたのだ?」

魔王「厭われている事を勇者が望み、それを勝手に賞賛する」

魔王「そうする事で自分の恐怖と甘さの名分とする」

魔王「何より、貴君等が使っている魔法は、所詮紛い物」

魔法使い「……!?そんな事はないッ!」
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/03/12(月) 00:33:45.32 ID:FxnpD0gL0
魔王「ならば役に立っていたと?膂力で敵わぬ魔物にせめてもの戦力として加えた、『だけ』の貴君らが」

魔王「まあ……『彼奴等』から見れば此方の魔法も似たようなものかもしれんがね」

魔王「だが薄々気づいてはいたのだろう。己等が足手まといでしかない事が」

魔法使い「そんな……こと……」

魔王「反論は許さぬよ」

魔王「まして、他ならぬ魔王である此方にそれが言えるのか?」
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/03/12(月) 00:40:59.93 ID:FxnpD0gL0
魔王「此方は魔を統べる者。魔物も、魔界も……そして――魔法も」

魔王「魔法は幽閉された者が運命から逃れるために編み出した、因果を捻じ曲げる不合理な不条理」

魔王「貴君らが使っている魔法はその残り香。到底、人間に扱いきれる代物ではない。だが……」

魔王「勇者、貴君のその――紋章の力を除いては、な」

魔王「それは神々が貴君に与えた正真正銘の秘蹟。魔に抗う唯一にして絶対の法則」
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/03/12(月) 00:45:11.49 ID:FxnpD0gL0
魔王「のう、勇者」

魔王「此方はできる事なら、貴君にはここで死んで欲しくはないと思っている」

魔王「取引をしようじゃないか」

勇者「取引、だと……」

魔王「そうだ。此方には貴君の力が必要だ」
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/03/12(月) 00:50:23.13 ID:FxnpD0gL0
今日はここまでです。
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/12(月) 03:12:52.44 ID:n/15W+eno
右目に紋章でおk?
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/12(月) 03:14:30.93 ID:qe7RIC0IO
おつ

メール欄にsagaいれろ
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/03/12(月) 18:37:06.83 ID:R7bjcukLo
厨二万歳
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/03/12(月) 23:02:05.90 ID:FxnpD0gL0
>>25
いえ、紋章は額にあります。なぜ右目が痛むのかは……


描写不足で混乱させてしまい申し訳ありません。

>>26
ご指摘ありがとうございます。魔翌翌翌力となってしまったのはこれが原因でしたか。
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/12(月) 23:04:12.21 ID:FxnpD0gL0
勇者(僕達を油断させる……そんな理由がある筈がない。そうでないのは僕達が一番解っている)

勇者(何より、もうこれしか……)

勇者「……何をすれば良い」

魔法使い「勇者……!?」

魔王「ほう」

僧侶「……貴方らしくもない。魔王の言葉にのるなんて……」

賢者「そうだよ……皆で魔王を倒すって言ってたじゃん!」

魔王「信頼されているな。だが、その判断を誤っていない。流石は将と言ったところか。しかしもう少し渋ると思ったがの」
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/12(月) 23:16:44.31 ID:FxnpD0gL0
僧侶「貴女は黙っていてくださいッ!」

魔王「まだわからんのか。それとも死ななければ解らんとでも言うつもりか?」

魔王「可能性と選択肢を履き違えるな」

魔王「何なら一人、ここで消し炭にしても良いのだぞ」

僧侶「……ッ」ギリッ

魔王「此方が必要なのは勇者のみよ」
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/12(月) 23:29:33.22 ID:FxnpD0gL0
勇者「……」

魔王「のう、勇者」

勇者へと歩み寄り、頬を撫で回す。
まるで宝物の愛でるように、恍惚と喜悦が入り混じった表情で。

勇者の耳へ口を近づけ、さながら口付けでもするように。


魔王「……まな……しゃ……」

だが、他の三人に聞こえないよう、耳元で微かに呟いた一言を勇者は聞き取っていた。

勇者「……え……?」

魔王「……」スッ

魔王「さあ、貴君らよ。選べ。ここで灰塵へ帰すか、勇者を渡すか」

勇者「……僕らだけで話がしたい」

魔王「良かろうよ。存分に考えるが良い。時間は山程あるのだからな」
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/12(月) 23:41:16.37 ID:FxnpD0gL0

僧侶「どうして魔王の言葉に耳を傾けたのですか!」

魔法使い「お、落ち着いて僧侶ちゃん」

賢者「僧侶も、キミらしくないよ。今はどうすれば良いか、考えよう?」

僧侶「くっ……!」

勇者「ごめん。でもこうするしかないないんだ。少なくとも最悪は免れる」

勇者「僧侶、君にも分かった筈だ」

勇者「――『アレ』には、勝てない」
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/12(月) 23:54:07.05 ID:FxnpD0gL0
勇者の口から、三人にとって最も聞きたくなかった言葉が紡がれた。だが、その言葉に反論する者は誰一人としていなかった。

勇者「それに、魔王は”僕が必要”だと言った。それを材料にすれば、魔物を引き下げる事だけはできるかもしれない」

勇者「それがなんでなのかはわからないけど、世界を滅ぼす気はないみたいだし」

僧侶「……その言葉を、信じるのですか」

勇者「信じるしかない。魔王も言ったけど、僕らに選択肢は存在しないんだ」

魔法使い「で、でも……勇者が……」

賢者「そうだよ!君はどうするつもりなのさ!」

勇者「運が良ければ帰って……いや、」

勇者「どの道僕は、ここから帰れない。君達だけで行くんだ」
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/13(火) 00:02:05.12 ID:gqIGgkZJ0
魔法使い「そんな……!」

僧侶「そんな事、できる訳ないでしょう!」

勇者「君が言った事だよ。”魔王を倒せない勇者に価値はない”」

僧侶「……!」

勇者「悲しいけど、お別れだ」

僧侶「だ、駄目です!そんな事は許しませんよ!」
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/13(火) 00:10:57.46 ID:gqIGgkZJ0
勇者「決まったよ」

賢者「勇者!」

魔王「して、どうする」

勇者「君の取引に応じよう」

それを聞いた魔王は口角を吊り上げ、満足そうに哂う。それが当然だと言わんばかりに。

魔王「それでこそ、貴君だ」

勇者「だが、条件がある」

魔王「何でも申せ。此方は今気分が良い」

勇者「これ以上、魔物をこちら側の領土に踏み込ませるな。少なくとも、ここから一番近い町までは」

魔王「その程度、造作も無い。貴君が来るのなら釣り合うというものよ。条件はそれだけか?」

勇者「もう一つ……三人を無事に帰せ」

魔王「言われずとも。此方が欲しているのは貴君のみ。だが……」
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/13(火) 00:16:47.21 ID:gqIGgkZJ0
僧侶「貴方には見損ないましたよ……」

魔王「当の本人等が納得していないようだが」

勇者「皆……」

魔王「聞き分けがないのは結構だが、貴君らのそれは勇者の身を案じている訳ではあるまい」

魔王「勇者を見捨てて帰った己と、その己に対する眼が怖いだけであろう?」

僧侶「そんな事……!」

魔王「全く無いとは言えまいよ。それとも此方の腕の一本でも持ち帰らねば証とは言えぬか?」

魔王「だがそれがリスクだと、言った筈だ。為せなかったが負債は支払わない……そんな虫の良い話がある訳が無い」

魔王「潔く去るがいい。例えそれがどれ程正しい事でも、望んでいるのが己だけなら傲慢に他ならぬのだから」
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/13(火) 00:23:26.00 ID:gqIGgkZJ0
話は終わりだと言うように、魔王は勇者たちに背を向けた。

勇者「……皆には辛い役目を押し付ける。けど、無駄ではなかったよ」スッ

勇者がそう言った瞬間、三人の足元に魔法を構築する陣が浮かび上がる。

僧侶「強制転移……!?貴方こんなものいつ……!」

賢者「勇者!キミを待ってくれてる人はどうするつもりだ!」

勇者「他の皆にはよろしく頼むよ。勇者は死んだ、と伝えてくれ」

魔法使い「……」
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/13(火) 00:29:46.95 ID:gqIGgkZJ0
魔法使い「私、諦めないから……」

顔を伏せた魔法使いの表情を、勇者は読み取る事はできない。
しか彼女の声色には只ならぬ決意を感じたは確かだった。

勇者「魔法使い……」

共に旅をした時ですら、魔法使いのこんな様子は見た事がない。

魔法使い「絶対に君を連れて帰る。だから待ってて」

来るなと、言いたかった。
君達の役目は終わったのだから、と。
39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/13(火) 00:35:35.26 ID:gqIGgkZJ0
勇者「ごめん……それと――ありがとう」

それでも少しだけ、嬉しかった。
引き止めてくれた事が。自分の身を案じて事が。

術式が完成した合図の光が強くなる瞬間、勇者は彼女達の郷里をイメージした。それが自分の争いに巻き込んだ彼女達に対するせめてもの贖罪。


勇者「これからは……平和に暮らしてね」
40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/13(火) 00:41:31.11 ID:gqIGgkZJ0




魔王「別れは済んだか?」

勇者「おかげ様でね」

せめてもの皮肉を言葉に込めるも、心から疑う事はできなかった。
原因は、先程の魔王の言葉。

――『済まないな、勇者』

あの言葉にどういう意図があったのか、勇者は未だ推し量ることはできないでいた。
41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/13(火) 00:47:45.52 ID:gqIGgkZJ0
勇者「それで、君は僕に何をして欲しいんだい?」

魔王「手助け、と言えば良いか。貴君にしかできない事がある」

魔王「無論、貴君に何の益もない、というのは有り得ぬよ。その幻聴と痛みの理由を教えよう」

勇者「……!なんで知っているんだい?」

魔王「それも含めて、だ。ともあれ、まずは着いて来てもらうぞ」

勇者「……魔界、か?」

魔王「貴君らはそう呼んでいるようだがの。此方らはこう呼んでいる」






魔王「――天獄、と」
42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/13(火) 00:54:10.22 ID:gqIGgkZJ0
今日はここまでです。導入は以上で終わり。これからはばら撒きまくった布石を拾います。
43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/13(火) 01:12:02.36 ID:Cjf3CHuDO

また楽しみが増えた
44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2012/03/13(火) 01:24:18.80 ID:cK4+L4Hqo

導入の時点で面白いな
45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/03/13(火) 03:41:50.33 ID:i+QUgK0AO

群発頭痛じゃなかったか
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/13(火) 05:02:27.02 ID:KWosR5oIO

清々しいまでの厨二表現だね
47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/13(火) 07:45:54.27 ID:NsloKt7IO



ファンタジーなんだから厨二な位で丁度いい
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/03/13(火) 10:01:24.02 ID:6vRvod1ho
俺の邪気眼が……的なノリかと思ったらガチだった
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/13(火) 16:46:40.10 ID:jTCq5G810
素晴らしい厨二具合、最高だ!
50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/13(火) 23:14:58.98 ID:gqIGgkZJ0


魔女「お初にお目にかかります。私は魔女。魔王様の忠僕に御座います」

魔女「ここでは貴方の目付役として陛下から言いつかっています。御用があれば、私に」

勇者「はあ……」

魔王「魔女は此方の寵臣だ。此奴も中々の手練ぞ」

魔女「恐悦至極に存じます」

魔王「堅苦しいのが玉に瑕だがの」

魔界――天獄に連れてこられて何をされるかと思えば、部屋を用意された上に世話まで焼かれる始末。

勇者「あの、魔王?」

魔王「ん?」

勇者「僕、こんなんで良いの?」
51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/13(火) 23:17:06.58 ID:gqIGgkZJ0
魔王「今は、の」

魔王「とって喰うために連れてきた訳ではない」

魔王「貴君は己のしたいままにしていれば良い。そのために貴君が望むものを用意しよう」

魔王「何なら、伽の相手でも」

勇者「……いや、今はそんな気分じゃない」

魔王「ふふ、そうだろうて。貴君が焦がれる悦楽は、尚凄烈なものよのう?」

勇者「嫌味かい。君らしいね」

魔王「そんなつもりはない。だが、図星よな」

魔王「心配せずとも、そう遠くない内に機会は巡る。待っておれよ」
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/13(火) 23:19:19.00 ID:gqIGgkZJ0
去っていく魔王の背中を見送りながら、彼女の臣下だと言った魔女に眼を向けた。

勇者「あの、一応聞くけど、僕が勇者だって知ってる?」

魔女「はい。陛下から伺っておりますよ」

勇者「もしかしてここでの勇者の認知度って低かったりするの?」

宿敵である筈の勇者を堂々と迎え入れ、その上警戒の色を全く見せない。

もしや、敵として見られていないのではないか、とまで思ってしまう。

勇者(まあ、魔王があんだけ強ければねえ……)

魔女「そんな事はありませんが……ああ、しかし、我々と貴方方とでは少々感じ方は違うかもしれませんね」
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/13(火) 23:20:36.53 ID:gqIGgkZJ0
魔女「ともあれ、貴方は賓客として来られています」

勇者「魔王の?」

魔女「いえ、ここにとっての、です。来るのは敵か同胞のみ。例外は少ないのです」

勇者「僕も一応敵なんだけどね……」

魔女「あの方にとっての本当の敵は『勇者』ではありません」

勇者「どういう……」

魔女「いずれわかります……今は養生なさいませ」

魔女「ここは天獄。どうかゆるりと」
54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/13(火) 23:21:51.10 ID:gqIGgkZJ0
勇者「ふうー……」

勇者(ベッド、柔らかいな。何時ぶりだろ、こんなに落ち着いて寝られるなんて)

いつ魔物に襲われるかわからない中で常に気を張り、精神的にも肉体的にも十分な休息を得られなかった。

勇者(それにしても、魔王の目的ってなんだろう……)

あれ程までに力を持った者が、手助けが欲しいと言っている。あるいは、必要なのは勇者としての何らかの要因か。

考えられるのは、紋章。

――それは神々が貴君に与えた正真正銘の秘蹟。魔に抗う唯一にして絶対の法則――

勇者とて、事これについて言えば知る事は少ない。

神託を得た者が神に魅入られた証として、無尽蔵の力を得る、という事だけ。
55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/13(火) 23:24:15.78 ID:gqIGgkZJ0
あの様子から察するに、魔王は更に知っているようだが……

勇者「まあ、考えても仕方ないか」

勇者(それより、気が抜けて急に眠気が……)

勇者(明日考えればいいや。今日はもう寝よ……)







?「……ウ……テタ……モウ……」
56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/13(火) 23:26:34.26 ID:gqIGgkZJ0




魔女「それにしても、本当に宜しいのですか」

魔王「何がだ」

魔女「あの『勇者』が、です」

魔王「ならば、貴公の眼にはどう映った?」

魔女「……」

魔王「ふふ、遠慮する事はない。まあ、概ね予想はできるがの」

魔王「だがな、此方は期待しておるよ」

魔女「陛下がそこまでおっしゃるのでしたら……私から言う事は何もありません」

魔王「相も変わらず、貴公は忠実よな。謀反でも起きようものなら、此方も甲斐があるのだがの」

魔女「……お戯れも程々に」

魔王「久方振りに気分が昂ぶっての」

魔王「ふふふ。今宵は眠れぬやもしれんな」
57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/13(火) 23:38:21.72 ID:gqIGgkZJ0
短めですが、今日はここまでです。

見てくださってる皆様方、感謝の言葉もありません。

萌えキャラは他の作家様方に任せて、僕は濃厚な厨二を貫きたいと思いますので、どうかご贔屓に。
58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/03/13(火) 23:44:58.58 ID:ULb1ZenWo
うい
59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/14(水) 01:03:05.25 ID:jtjAF0ljo
いいぞその調子だ
60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/14(水) 13:09:31.91 ID:VuLrWTS30
何これ面白い
61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/14(水) 19:42:24.77 ID:b0iSfbBQ0
すばらしい。続けなさい
62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/14(水) 19:45:13.14 ID:1c48C+2IO
良いねこれ 良いよこれ
すげぇ良いよこの中学二年生

かなり期待してる
63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/14(水) 23:45:36.41 ID:LvbUvJSe0




魔女「基本的には自由に行動して頂いて構いませんが、注意していただかなければならない事もありますので」

翌朝。ここを案内してくれるという魔女に付いてもらい、勇者は天獄の中を歩いていた。

勇者が部屋を用意してもらった建物の造りはあちらの城と同じものだったので、迷う事はなかったが……

勇者「うん。わかった、んだけどさ」

勇者「さっきからすごい見られてるね」

魔女「勇者がここに来るのは初めてですから、皆興味があるのですよ」

勇者「えっ、僕が初めて?」

魔女「ええ」

勇者「前に来た勇者はここに来なかったの?」

魔女「私が把握している限り、『勇者』が陛下へたどり着いたのは貴方が初めてですよ」

勇者「え……」
64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/14(水) 23:54:21.01 ID:LvbUvJSe0
勇者(どういう事……)

先代も含めて、勇者と呼ばれる者は数える程しかいなかったが、数える程は存在していた。

その彼らが、一人も魔王の下へ着いていないと言う。

勇者(嘘を吐いているようには見えないけど……)

もとより、そんな事をしても意味はない筈。

辿り着き、負けた、若しくは逃げたというのならまだ解るが、それすらないというのはどういう事だ。

いまだ魔王討伐が成されていない今、考えられるのはその二つのみだった筈なのに。

勇者(辿り着けずに死んだ?いや、それこそ馬鹿な話)

神託を受けた勇者がそう安々と死ぬ筈がない。それは自分が一番良く解っている。

謎は増えるばかり。

勇者(やっぱり魔王に直接聞くしかないかな)
65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/15(木) 00:01:24.14 ID:+InzbHpR0
勇者(ああ、そうだ。謎と言えば……)

勇者「そう言えば、”天獄”って……?」

魔女「ええ、文字通り、ここは天上の牢獄」

魔女「罪を犯した者らが閉じ込められる僻地」

勇者「そういうのって、地獄じゃないの?」

魔女「地獄は敗者が送られるべき場所。……いえ、敗者にすら成れなかった者が堕ちる場所、と言うべきでしょうか」

魔女「いずれにせよ、貴方方には関係のない事」
66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/15(木) 00:05:40.01 ID:+InzbHpR0
魔女「――これが、証です」

おもむろに、魔女は被っていた帽子を外した。

魔女「醜いでしょう?決して運命に抗う事はできない、輪廻の輪から外れた者の証。剥いでも削っても取れる事はない罪の汚れ」

黒い瞳に、黒い髪。漆器のように玲瓏で、ただ、美しかった。

それは風に弄ばれ、彼女の横顔を覆う。

勇者「……綺麗、だね」
67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/15(木) 00:10:55.30 ID:+InzbHpR0
この言葉が相応しかったのかはわからない。あるいは彼女が嫌悪感を抱くことも、不思議ではなかった。彼女は醜いとまで言っているのだから。

魔女「……ふふ」

勇者「あ、いや、不快だったのなら謝るよ、でも……」

魔女「解っていますよ。ふふふ、本当に面白い人。罰を与えた神々も、さぞ驚愕しておるでしょう」

――初めて見た彼女の微笑は少女のように無邪気で、淫魔のように甘かった。

それは見た者を虜にする魔性の笑み。魔の者故の危険な誘いだった。
68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/15(木) 00:14:16.40 ID:+InzbHpR0
勇者はそれを残る理性で頭から振り払い、誤魔化すように言葉を紡ぐ。

勇者「けど、そんなものだよ。望んでいる事も、望まない事も、人それぞれだから」

魔女「……成程、そういう事でしたか」

勇者「えっ?」

魔女「陛下も同じ事をおっしゃっていました」

勇者「魔王が……」

魔女「貴方方は似ています」

魔女「しかし、似ているようで全く違う。死神の如き逆しま」

勇者「……」

魔女「ともあれ、今は――」

?「あっれー、魔女様じゃん!やっほー!珍しいね、こんなとこにいるなんて!どしたの?」
69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/15(木) 00:19:02.94 ID:+InzbHpR0
?「って、あー!この人勇者?話には聞いてたけどなんか貧弱そうだねー!」

勇者「ひ、貧弱……」

魔女「…………五月蝿いですよ、魔物。一つずつ質問してください。後、初対面の人に失礼な真似をしないように」

魔物A「はいはーい!」

魔物A「あ、でもこの人と殺り合っても良い?ちょっと味見させてよー!」

魔女「駄目です」

魔物A「んなっ!?ごむみたいな!」
70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/15(木) 00:22:08.76 ID:+InzbHpR0
魔女「それを言うなら御無体でしょう……それに彼は客人です。この前『新入り』を負かしたばかりでしょう。少しは大人しくなさい」

魔物A「えー!やだよーあんなんじゃ満足できないよー!」

勇者「僕は別に構わないけど……」

魔物A「ほらー!本人も良いって言ってるんだし、ね?ね?」

魔女「……念の為、陛下に確認してください。あの方が良いとおっしゃるのであれば構いません」

魔物A「魔王様に聞けばいいの?わかったー!」
71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/15(木) 00:24:08.18 ID:+InzbHpR0
勇者「元気だね……あんな魔物もいるんだ……」

魔女「彼女は特別です。……しかし、よろしかったのですか?」

勇者「構わないよ。僕も身体が鈍るのは嫌だし」

勇者「それに、貧弱とまで言われたら勇者としては引けないね」

勇者「にしても、彼女は……君もだけど、随分見た目が僕らに近いね。あっちの魔物は、なんというか、もっと禍々しかったんだけど」

魔女「その理由もお話しようと思っていたのですが……」

勇者「まあ、また今度ってことで」

魔女「申し訳ありません」

魔女「ひとまず、その場所までご案内します。十中八九、陛下は許可されるでしょうから」
72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/15(木) 00:32:13.31 ID:+InzbHpR0
今日はここまでです。次回はようやく戦闘パート。厨二の見せ所ですね。
73 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/15(木) 03:20:47.66 ID:S80EyZPyo
期待
74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/03/15(木) 08:14:37.35 ID:2yDjFiQSo
この厨二はよい厨二
75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/03/15(木) 16:44:18.16 ID:e+r7O94oo
悪い厨二なんてない
あるのは恥ずかしい厨二
76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/15(木) 17:53:50.26 ID:+InzbHpR0




魔王「さて、思う存分死合えよ、両者共」

場所は正しく闘技場を思わせる意匠。魔王は玉座から二人を見下ろし、魔女は隣に控えている。

勇者(高みの見物って訳ね……)

魔物A「にゃははっ!見ててくださいね、魔王様!」

魔王「ああ、見ているぞ」

魔王「だが油断はするなよ。貴公の悪い癖だ」

魔物A「へへーわかってますよー!」
77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/15(木) 18:01:12.72 ID:+InzbHpR0
魔物A「ねえねえ」

魔物A「あたしが負けたら、あたしを好きなようにしていいよ」

魔物A「甚振っても、嬲っても、好きなようにね」

魔物A「その方がきみも燃えるでしょ?」

魔王「ほう」

魔王「それは貴公の余裕か?魔物よ」

魔物A「んにゃ。これであたしは負ける訳にはいかなくなります!」

魔王「己を奮い立たせるためか。貴公にしては珍しい事よの」

魔王「と、彼奴は言っておるが」

魔王「勇者よ、貴君は何を懸ける?」
78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/15(木) 18:07:29.82 ID:+InzbHpR0
勇者「だったら僕も、僕自身を懸けよう」

勇者「何なら、奴隷にだってなるよ」

魔物A「言ったね!?ホントにいんだね!?」

勇者「勿論。勇者に二言はないよ」

魔王「ふむ。それならば、十全に見合うというもの」

魔王「命の代わりとすれば、安いものかの」

魔王「それでは始めよ」

魔王「貴君らの敢闘を期待する」
79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/15(木) 18:07:59.65 ID:+InzbHpR0
取り敢えずここまで。また夜に投下します。
80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/15(木) 18:24:38.67 ID:HTrtC6r60
おおおお

待つ!
81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/03/15(木) 20:46:52.25 ID:WSPGlu8Mo
久しぶりに良い厨二を見つけたぞ!!
82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/16(金) 00:36:45.87 ID:baUkfSRQ0



魔物A「いくよっ!」

掛け声と共に炎弾を射出。十を超えた多角的な攻撃と同時、自身も勇者に向かって駆ける。

勇者(へえ、そんな魔法も使えるんだ)

向かってくる魔物を見据えながら、勇者は炎弾を剣で迎撃する。

本命がこちらではない事程度、獣とて解る。魔物から眼を離さないように残る炎弾を交わしながら距離を詰める。

勇者(得物はあの爪か。速いけど、懐にさえ入れさせなければ……)

勇者「ハッ!」

魔物A「意外とバカ正直な攻撃だね!」

袈裟斬りを入れるも、案の定爪で防がれた。剣から衝撃が伝わるが、手応えの無さに若干焦る。

見た目と反した膂力。やはり魔物は侮れない。
83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/16(金) 00:40:31.75 ID:baUkfSRQ0
勇者「繧繝縺」

飛び退きざまに魔法で爪を凍らせる。旅の初期で覚えた、ごくごく普遍的な初等魔法。

魔物「そんな小細工、時間稼ぎにもならないよ!」

しかし先と同様の魔法で瞬く間に溶かされた。もとより効果は期待していない。

勇者(そりゃそうか、でも――)

魔物A「よそ見はしないほうがいいよ!」
84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/16(金) 00:41:57.56 ID:baUkfSRQ0

勇者「ッ……!」

魔物がその言葉を発した瞬間、視界の外側から明確な”意思”を感じる。

それは紛れも無い殺意。もし後、数刹那でも気付くのが遅れれば頭部を両断されかねない一撃だったに違いない。

勇者「……血、だ……」

油断や慢心はなかった。ともすれば鈍ったのか。

――いや、それ以上に。

額から瞼を伝わって流れ出る血。先程の一撃で掠めた傷口から傷から流れ出る。
85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/16(金) 00:43:55.83 ID:baUkfSRQ0
血涙を流しているようにも見えるその姿。

魔物「……ッ!」

何故かは判らない。しかし距離を置かずにはいられない、そこに居たらすぐにでも首を飛ばされそうな錯覚に陥った。

感じたものは、恐怖であり、戦慄。それも不可解な者に向ける類のものではない。

勇者「くく、ふふふふ」

堪え切れず、溢れるように哂いが響く。いや、そもそも堪える気などないのかもしれない。

滴る血を舌で舐めとり、天を仰いだ。
86 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/16(金) 00:45:30.17 ID:baUkfSRQ0
勇者「……ふ、くくく……」

勇者「ふふふ、あははははははははははははははははははッッ!!」」

勇者「面白い。愉しいよ。こんな気分は久しぶりだ」

漏れ出したのは愉悦の哄笑。
味わったのは甘美な血の味。
思い出したのは死からの誘い。
冴え渡るのは相手を地に伏すための手段。

魔物A「にゃはははははっ!なんか良くわからないけど、本気になったみたいさね」

魔物A「だけどその――」








勇者「いつまで喋ってるつもりだい?」
87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/16(金) 00:48:46.57 ID:baUkfSRQ0
魔物A「――なっ」

確かに眼前から漏れていた殺意と恐怖が、背後から聞こえる。当然、間に合う筈もない。

勇者「遅いね」

剣の柄で背中を強打され、壁に打ち付けられる寸前で受け身を取る。

勇者「さっきまでの威勢はどうしたんだい」

魔物「……あなた、何物……?」

勇者「ただの勇者だよ」

勇者「そんな事より、早く続きをしよう。君は中々戦い甲斐がある」

勇者「もっと楽しもうよ。楽しませてよ」

勇者「さっきの殺意は心地良かった。そんなものじゃないだろう?もっと見せてくれ」
88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/16(金) 00:53:06.98 ID:baUkfSRQ0
急変した勇者に戸惑いを隠せぬも、体制を戻しながら周囲に魔法を展開。

勇者「一度効かなかった手が通用するとでも思っているのかい」

が、撃ち出す事もできずに構成した術式が崩壊する。

魔物A「は……!?」

硝子のように砕け散る自身の魔法を見て眼を見開く。

想定外の事態に頭が混乱する。が、それは一瞬。徒手に切り替えようとして――

勇者「『よそ見はしないほうが良い』」

――首筋に剣が添えられる。

にも関わらず、そこには”意思”がなかった。ただ添えただけなのだと、その程度いつでもできるのだと言われたように。

魔物A「……ッッ!!」

恥辱で憤怒が、憤怒で殺意が放たれる。
89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/16(金) 00:54:38.57 ID:baUkfSRQ0




魔女「本当に勇者ですか……」

魔王「あれも『勇気』の一つの形だという事だ。良く見ておけよ。『彼奴等』の気まぐれだ。そうそう見れるものではない」

魔女「気まぐれ、何でしょうか」

魔王「そう思いたいという、此方の願望だ。或いは『彼奴等』も学習しているのかも判らんな。慈愛は何も齎さないという事を」

魔女「そうだと良いんですが……」

魔王「全くだ」
90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/16(金) 00:55:42.05 ID:baUkfSRQ0
魔女「……しかし、理解できませんね」

魔女「私にとって、闘いとは手段であって、目的ではありません」

魔王「冷めておるの」

魔王「だが、それは各々違うものよな」

魔王「勇者は拮抗した闘いそのものを悦びとしておる。竜攘虎搏の如くに」

魔王「勝利も駆け引きも、敗北すら、の」

魔王「対して彼奴は力を出し、その上で打ち負かさんとする」

魔王「中々どうして、悪くない相性だ」
91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/16(金) 00:57:45.15 ID:baUkfSRQ0
魔物A「お前……ッッ!!」

勇者「ああ、良いね。その眼だよ。それが欲しかった。向こうではそういう事がなくてね」

勇者「次はどうする?これじゃあ、魔法は効かないね。それともまだ何か手品があるのかな?」

魔物A(手品、だと……!?)

魔物A「ふ、ざけるなああああああああああッ!!」

力任せの、怒りに身を任せた一撃。当然届く筈もなく、呆気なく防がれる。

その一撃を横に薙ぎ、そのまま突きを放つ。

喉元を狙った、確実に命を刈り取るため攻撃。

魔物A「くっ……!」
92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/16(金) 00:59:24.60 ID:baUkfSRQ0
心臓、頭部、喉元。例えずらせても体幹は外れないように緻密に、確実に詰めていく。

魔物A「く……そっ……!」

絶え間なく降り注ぐ剣戟に魔物は防戦一方になっていた。

――それに故に、気づけなかった。勇者の掌に、今までとは比較にならない程の魔力が収束している事に。

勇者「……ああ、楽しかったよ。こんなに新鮮なのは久しぶりだった」

勇者「これはその御礼だ」

この期になって、初めて魔物は自分に向けられた殺意の正体に気づいた、が、遅すぎる。

魔物A「な……ッ!」







勇者「逕溘縺吶€」

勇者「――消し飛べ」
93 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/16(金) 01:01:32.43 ID:baUkfSRQ0
口上と共に放たれたのは純粋な魔力の衝撃波。地に向ければ視界一辺を焦土に変えられる程の暴威の一撃。

回避も防御も叶わない絶妙の間を以って、それを魔物に直撃させた。


魔女「……あれは、人間が編み出したものでしょう?確か、全魔力と引換に敵を葬り去る、背水の陣だったと記憶していますが」

魔王「源を紋章にした上で威力を設定しなおしておる」

魔女「という事は、勝負あり、でしょうか」

魔王「そうだの。ここまで力を引き出せれば、重畳よ」

魔王「魔物も、憂いは残ろうがそれも致し方のない事」
94 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/16(金) 01:03:04.58 ID:baUkfSRQ0





勇者「ふう……」

剣を鞘に収めながら、息を吐く。

魔王「見事だ、勇者よ。貴君の健闘、しかと眼に焼き付けた」

勇者「魔王……」

勇者「自分の言った通りになって満足かい」

魔王「それこそ傲慢よの」

魔王「最中の貴君は、紛れも無く愉しんでおったぞ?」

勇者「……」

魔王「ともあれ両者共、良いものを見せてもらった」

魔王「各々身体を休めるが良い」

魔物A「……」
95 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/16(金) 01:04:33.73 ID:baUkfSRQ0
魔物A「魔王様……」

魔女の治癒によって若干は回復しつつもあるも、顔色は優れなかった。

魔王「何だ?」

魔物A「負けて、しまいました……」

今にも泣きそうな声色で、やっとの思いで言葉を紡いだ。それは不甲斐なさか、それとも己への憤り故か。

魔王「負けたな」

しかし魔王は一部の憐憫も含まずに言い放つ。

魔王「それが敗北の味だ。覚えておくが良い」

魔王「或いは貴公にとって、それが厭うべきものならば、な」
96 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/16(金) 01:06:04.79 ID:baUkfSRQ0
今日はここまでです。
97 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/03/16(金) 01:51:11.93 ID:96uMR3jvo
おつ
98 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/03/16(金) 02:35:05.88 ID:EyeLsmyo0
奴隷GETだぜ!
99 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/16(金) 03:15:16.84 ID:kY1Ep2nSo
額に紋章とかダイの大冒険みたいだな
100 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/17(土) 00:56:48.07 ID:QCwcS1lY0





魔女「正直な所」

勇者「うん?」

魔女「率直に申し上げて、私は貴方の事を見くびっておりました」

勇者「それはまた、本当に率直だね」

魔女「陛下の手前、口を閉ざしておりましたが、貴方の実力を計り損ねていたようです」

魔女「無礼をお詫び致します」

勇者「魔王の右腕ともあろう人が、そのくらいで頭を下げなくても良いよ」

勇者「それに、僕は強くない。ただ好きなだけなんだ」
101 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/17(土) 00:58:10.95 ID:QCwcS1lY0
それは皮肉でも謙遜でもない。
ただ一度でも、あまりに強大なものを見てしまったら。
『アレ』は、比べる事すら烏滸がましい。

魔女「陛下の事を気にしているのでしたら、それは無駄な事ですよ」

魔女「『アレ』は、我々が認識している”強さ”とは全く別に位置しています。それが魔を統べ、運命に抗い続ける者の頂」

魔女「我々には及びもつかない、途方のない地平を見据えています」

魔女「対抗しうるは、貴方だけです」

――なぜ。
なぜ彼女は視線に光明を含ませているのだろうか。
仮にも主の危機に成りうる者を、だ。

勇者の訝しげな視線に気づいたのか、魔女は眼を伏せながら言った。

魔女「あの方の希求は危うい。ともすれば消えてしまいそうな程に。ですから勇者様、どうか打倒してくださいまし」
102 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/17(土) 00:59:57.27 ID:QCwcS1lY0


意味深な台詞を残し、部屋を後にした魔女と入れ替わりで魔物が入って来た。
その表情は遠目から見ても沈んでいるのが判る。
それは先程の勇者へなのか、それとも今から受ける恥辱に対するものなのか、勇者には判断しかねた。

魔物A「……」

ベッドの縁に座っている勇者の目の前まで来ても尚、顔を伏せたまま。

勇者「自分から来るとはね」

魔王A「負けた、から……」

聞き逃してしまうそうな程に掠れた呟き。
思い出したのは、闘いの前に交わした”賭け”

勇者「負けたら、相手の思い通りに動くのかい」

それは勇者が自分自身にも向けた言葉。
いや、自分は負けたのではない。逃げたのだ。
だとすれば眼前の、少女のように怯えている魔物より遙かに愚かだ。
103 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/17(土) 01:00:58.97 ID:QCwcS1lY0
勇者「君はあの闘いに負けただけ」

勇者「今ここで僕を殺せば、君の勝ちだ」

勇者「それをしないのはどうしてだい」

問うたが、解らない筈がない。
そんな事をしても無意味だと判ってもしまう程に、絶望を味合わされたからに決まっている。

――しかし、魔物の返答は勇者のそれとは反するものだった。

魔物A「証が、欲しいの」

勇者「え?」

魔物A「負けた印が欲しい」

魔物A「あたしは負けられない。負けたら生きてちゃいけない」

魔物A「だからそれを忘れないように、あたしを嬲って」
104 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/17(土) 01:02:03.74 ID:QCwcS1lY0
戒めが必要なのだと、魔物は告げる。
勇者の想像より魔物は随分ストイックな性分のようだった。
あるいは、この件によってそうなったのかもしれないが……

勇者「……そんな事をしなくても、君は忘れないだろうね」

勇者「それに君はその口ぶりからするに、今まではあまり負けなかったんだろう」

勇者「だから敗北が怖いと、自分では思ってるだろうけどそれは違う」

勇者「君が勝ちたいのは、君が敗者だからだ」

魔物A「な……ッ!」

勇者「それに」

勇者「君はこれからも負け続ける」

魔物A「そんな事はないッ!あたしは……あたしはもう負けない!」
105 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/17(土) 01:04:15.23 ID:QCwcS1lY0
勇者「なら、魔王の側近だと言った、彼女とは闘ったのかい」

魔物A「え……?」

勇者「魔王とも。それに、ここには他にも強い人がいるだろうね。彼らとは闘ったのかい」

魔物A「そ、れは……」

勇者「……避けているんだよ。でなければ僕に負ける程度の君が、勝ち続けられる筈がない」

勇者「それは君自身が無意識に勝てる筈がないと思ってしまっているからだ」

勇者「敗者にすらなれていなかったんだよ」

勇者「魔王が君に言いたかったのは、そういう事なんじゃないかな」
106 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/17(土) 01:05:11.65 ID:QCwcS1lY0
魔物の前で、初めて微笑んだ勇者。

魔物(あっ……)

魔王とはまた違った形の”安堵感”。

魔物(そっか……)

気づいた事実は、勇者にとっては些事だったのかもしれないけど。

魔物(あたし、負けても良かったんだ)

いや、そもそも負けるべきだったのだ。それが必要な事なのだと、勇者と魔王は気づいていた。

魔物(でも、そうだとすれば尚更――)
107 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/17(土) 01:06:12.04 ID:QCwcS1lY0
魔物A「だったらさ――」

魔物A「えいっ!」

魔物が覆いかぶさるように勇者をベッドに押し倒した。
膝立ちになった魔物の顔は、勇者の僅か数センチ先。鼻を掠めそうな距離まで詰める。

魔物A「なおさら欲しくなっちゃった」

勇者「へ……?」

魔物A「証」

魔物A「だって、あなたが初めてなんでしょ、私の」

勇者「いや、まあ、そうだけどさ……」

魔物A「だったらちょうだいよ、敗者の証をさ」

魔物A「あなたにしか、できない事だから」
108 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/17(土) 01:10:56.32 ID:QCwcS1lY0
さて、今日はここまでです。

>>9
紋章って言ったら額、って思ってたんですけど、やっぱりその先入観でしょうか。

効果はドラゴニックオーラとは違うんですけどね。
109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/17(土) 01:11:45.02 ID:QCwcS1lY0
安価ミス。上は>>99でございます。
110 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/03/17(土) 10:03:03.94 ID:uUoVpzrAO
いいところで切るなあ
111 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/03/17(土) 15:36:54.82 ID:5HGl/iGuo
取り敢えず服脱いだ
112 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/17(土) 19:36:52.16 ID:cQWYhMISO
素晴らしい
パンツ脱いだ
113 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2012/03/18(日) 01:55:20.53 ID:P03jCaZS0
勇者「へむっ……!?」

魔物A「ん……ちゅ……んむ……」

魔物の細く長い舌が、勇者の口内を蹂躙する。
身体を密着させ、逃がさないとばかりに舌を絡ませる。

魔物A「はむ……ちゅ……はぁ……ちゅぷ……」

勇者「……」クルッ

魔物A「きゃっ!」

――唐突に、何の前触れもなく勇者が魔物の身体を持ち上げ、位置を入れ替えた。
今度は勇者が魔物に覆い被さるような形になる。

魔物A「えっと、やる気に……なったの、かな?」
114 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2012/03/18(日) 01:56:01.26 ID:P03jCaZS0
猫のような細い瞳孔が勇者を捉えた。
ただ、その瞳に映っているのは最早恐怖ではない。

勇者「本当に、良いんだね」

最後通牒。
最早止まる事はできないのだと、暗に告げる。

魔物A「……うん、来て」

魔物A「あたしを負かした最初のあなたが、印を付けて」
115 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2012/03/18(日) 01:58:29.02 ID:P03jCaZS0
人間とはまた違った白さの柔肌が、勇者の劣情を加速させていく。

魔物A「んっ……あんっ……」

申し訳程度にしか隠されていない服をずらし、乳房を露わにさせた。
まだ幼気な印象が残る彼女には少々違和感のある大きさだが、勇者の眼鏡に適ったのか一心不乱に揉みしだく。
緩急をつけながらこねり、ひねる。

魔物A「ひゃうっ!ひゃ、あ……そこばっかり……んっ!」

魔物もまた、満更でも無さそうに勇者と快感に身を委ねる。

魔物A「あっ、あ……ん……いやっ……!」
116 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2012/03/18(日) 01:59:13.95 ID:P03jCaZS0
その愛撫は徐々に下に移動していき、遂に秘宮へと到達する。
しなやかな両足にの間、そこは最早前戯など必要ない程に準備が整っていた。

勇者は胸への愛撫をしたまま、空いた手の指を中に挿し込む。

魔物A「んあっ……!」

指を曲げ、浅い部分を刺激するとぴちゃぴちゃと淫猥な音が響いた。

魔物A「ん、ふあぁ……!ああんっ!」

勇者(もう良いかな)

頃合いだと判断した勇者はズボンから”それ”を取り出す。

魔物A「あっ……」

半分は興味ありげに、もう半分は不安が宿った眼をを向ける魔物。
その彼女を横目で見ながら、勇者はそれを秘所にあてがう。
117 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2012/03/18(日) 02:00:25.67 ID:P03jCaZS0
勇者「……いくよ」

魔物A「うん……ちょうだい」

硬く屹立した楔を以って、敗者の烙印を突き立てた。
渓谷をこじ開け、強引に打ち込んでいく。

魔物A「んっ……!く……うぅ……」

勇者「平気かい」

魔物A「だいじょ……うぶ……に決まってる……でしょ」

破瓜により痛みで顔を顰めるも、弱みを見せまいと彼女は強がる。
その強気な彼女の残影が一層、勇者の嗜虐心をそそらせる。

勇者「そうかい」

勇者「なら遠慮なく」
118 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2012/03/18(日) 02:01:19.55 ID:P03jCaZS0
魔物A「く……ひゃ…ん…!」

宣言通り一切の手心も加えず、楔を深々と膣内に押し込んだ。
その苦痛を彼女は甘んじて受ける。
痛みがなければ、意味はないのだと。
勇者もそれを理解し、移送を開始する、が。

魔物A「あ……にゃ……!んっ!……ふぁっ!」

早々に、声色に喜悦が含まれていた。
それどころか彼女の膣内がまるで勇者を受け入れるように蠢き、未知の快感をもたらす。
きつく締め、勇者を逃がさないように。

勇者(これじゃ……僕が……)
119 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2012/03/18(日) 02:02:01.00 ID:P03jCaZS0
魔物A「あっ――ひゃっ!」

繋がったまま魔物を抱え、ベッドの縁に座る。
対面座位の体制になり、更に深く差し込まれる。
子宮口に絶えず勇者のものが辺り続け、それが底抜けの刺激を送る。

魔物A「ふ、ひゃあんっ!あっ、あっ、ああんっ!」

勇者は移送を止めているにも関わらず、魔物はひたすら腰を動かし続ける。
最早それにすら気づいていないのだろう。
焦点は定まっておらず、口はだらしなく開いている。

勇者は押し付けられた豊胸から顔を離し、先端部を錠前を開けるように捻った。


魔物A「――ふにゃああああああっ!」
120 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2012/03/18(日) 02:03:28.94 ID:P03jCaZS0
勇者「大丈夫かい?」

達し、勇者にもたれるように力尽きている魔物に声をかける。

魔物A「だい……ひょう……ふぅ……」

快感の余韻が冷めないのか、未だ息は荒い。

勇者「そう」

勇者「なら、良いかな」

魔物A「へ……?――あんっ!」

しかし勇者はそれを意に介さないように、より一層激しく動き出す。

魔物A「あっ!いやっ!だめ、ほんとにこわれちゃう!ひゃあんっ!」

勇者「……」

魔物の声が聞こえないかのように、彼女の腰を持ち、力強く突き上げる。
121 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2012/03/18(日) 02:04:04.49 ID:P03jCaZS0
――瞬間、勇者のものが彼女の再奥に突き当たった。

魔物A「ひゃああああああっ!」

つんざくような叫びが耳元から聞こえるも、尚動くを止めない。
魔物は勇者にしがみつくように勇者の頭を抱え、押し寄せる快楽の波にひたすら耐える。

魔物A「ひゃあ、ああああっ!だめだめだめ!おかしくなっちゃう!」

勇者「……もう、少し……」

魔物A「らめっ……!もう、きもちよすひてっ!」
122 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2012/03/18(日) 02:05:36.44 ID:P03jCaZS0
初めて体感する、狂気とも言える快楽のせいか、顔は蕩けきり、淫猥に染まっている。
脳髄を刺激する程の快感が常時付き纏い、思考を鈍らせる。

勇者「……いく、よ……!」

魔物A「ひてぇっ!あらひに……ぜんぶだひてぇ……っ!」

勇者「くっ……!」

魔物A「にゃああああああああっ!」

二人同時に、甘美なうねりが吐き出される。
その絶頂は暫くの間止まる事はなく、酩酊が抜けきるまで二人は繋がり続けた。
123 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2012/03/18(日) 02:15:01.05 ID:P03jCaZS0
今日はここまでです。

ひとまず一段落。これからは伏線回収に戻ります。
124 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/03/18(日) 02:27:20.07 ID:lsmhXkO+o
125 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/18(日) 10:22:47.42 ID:1P96LjJSO
うむ
126 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/03/18(日) 20:36:17.81 ID:XQZZ1AFwo
ふぅ
127 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/20(火) 18:37:34.05 ID:UG/NPD7T0
ふぅ
おいついたぁー
128 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/25(日) 01:34:11.92 ID:9ghBADUwo
まだかいな
129 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/25(日) 23:15:10.06 ID:kyY7HAEg0


なんとなくだが淫魔の国の王のと表現が似てるな
130 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(熊本県) [sage]:2012/03/28(水) 00:56:12.57 ID:Jd96LCQDo
>>129
他のスレの話題をださなーい

おつ
131 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/31(土) 23:57:30.07 ID:c/ioIg1DO
はいはい失踪失踪
132 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/01(日) 09:14:34.14 ID:pExb4UZH0
>>130
すまない、以後気をつける
133 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/04/03(火) 17:42:04.78 ID:ZJ+UnQhFo
>>132
不用意なレスが、「以後」を消し去っちまった。なんてことになってたりして
134 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/11(水) 22:10:44.50 ID:MpZOp+8IO
・・・消し去ったみたいだな
135 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/04/12(木) 23:01:34.11 ID:b3Moy1Pfo
そろそろ来るだろ
136 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/20(金) 13:20:05.34 ID:/onTH3lgo
まだかな
137 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/20(金) 13:52:50.81 ID:ipyW8UyIO
     ...| ̄ ̄ | < 続きはまだかね?
   /:::|  ___|       ∧∧    ∧∧
  /::::_|___|_    ( 。_。).  ( 。_。)
  ||:::::::( ・∀・)     /<▽>  /<▽>
  ||::/ <ヽ∞/>\   |::::::;;;;::/  |::::::;;;;::/
  ||::|   <ヽ/>.- |  |:と),__」   |:と),__」
_..||::|   o  o ...|_ξ|:::::::::|    .|::::::::|
\  \__(久)__/_\::::::|    |:::::::|
.||.i\        、__ノフ \|    |:::::::|
.||ヽ .i\ _ __ ____ __ _.\   |::::::|
.|| ゙ヽ i    ハ i ハ i ハ i ハ |  し'_つ
.||   ゙|i〜^~^〜^~^〜^~^〜
55.98 KB   
VIP Service SS速報VIP 専用ブラウザ 検索 Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)