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吹寄「―――がんばりなさい、鋼盾掬彦」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 : ◆FzAyW.Rdbg [sage]:2012/03/13(火) 23:51:45.98 ID:8gl+azNoo


本作は鎌池和馬先生の「とある」シリーズの二次創作作品です
タイトルはおこがましくも『とある端役の禁書再編(リミックス)』

「とある科学の超電磁砲」に登場する無能力者、鋼盾掬彦を主人公に据え、
彼を交えての「禁書目録一巻」と「超電磁砲・幻想御手編」の再構成作品となります

4スレ目となりますので、1〜3スレにお目を通して頂きたく存じます


 神裂「鋼盾―――鋼の盾ですか、よい真名です」
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1304150567/l50


 アレイスター「鋼盾掬彦、か……まったく、たいしたイレギュラーだよ」
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1312793068/l50


 上条「行こうぜ鋼盾―――みんなで、素敵な悪あがきだ」
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1320936113/




此処に紡がれるは学園都市最下位たる少年の軌跡

泥龜の視点より遥かな月を仰ぎて、無様にも素敵な悪あがきを


少なからず独自設定、独自解釈、時系列の入れ替え等がございますので、苦手な方はご注意ください

では、どうぞよしなに




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二次小説の面白そうなクロス設定 @ 2024/04/25(木) 21:47:22.48 ID:xRQGcEnv0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1714049241/

佐久間まゆ「犬系彼女を目指しますよぉ」 @ 2024/04/24(水) 22:44:08.58 ID:gulbWFtS0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713966248/

全レスする(´;ω;`)part56 ばばあ化気味 @ 2024/04/24(水) 20:10:08.44 ID:eOA82Cc3o
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1713957007/

君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713885444/

笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713869982/

【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part10 @ 2024/04/23(火) 17:32:44.44 ID:ScfdjHEC0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713861164/

トーチャーさん「超A級スナイパーが魔王様を狙ってる?」〈ゴルゴ13inひめごう〉 @ 2024/04/23(火) 00:13:09.65 ID:NAWvVgn00
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713798788/

【安価】貴方は女子小学生に転生するようです @ 2024/04/22(月) 21:13:39.04 ID:ghfRO9bho
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713788018/

2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/13(火) 23:54:47.81 ID:8gl+azNoo

とある端役の禁書再編 登場人物紹介ver4 (読み飛ばし可)

 ※現時点での登場人物についてのまとめです
 ※前スレのが長すぎて読み返してタルかったので、思い切って短くしました
 ※短すぎて人物紹介の体をなしていない可能性が大です
 ※割と適当
 ※つまり読み飛ばし可
 ※でも読んでくれると嬉しいな!


 鋼盾掬彦 ―――― 無能力者

  とある科学の超電磁砲・幻想御手編にでてくるマイナーキャラ
  名前ありのくせに読み方不明! アニメで謎の大抜擢らしいですよ
 
  コンセプトは“学園都市最下位の主人公”……ヒーローにはなれそうにない感じ

  上条当麻のような右手もなく、一方通行のような能力もなく、浜面仕上のような技術もなく
  それでも、戦うと決めてしまった少年の素敵な悪あがき――今作はそんなお話です
  

 上条当麻 ―――― 幻想殺し

  言わずと知れた原作主人公、本作では相棒ポジ
  原作同様の立ち位置、友人である鋼盾と共に、インデックスを助けるべく奔走
  再構成モノで彼をどう扱うかは、その作者のスタンスを如実に表すらしいぜ
  

 Index-Librorum-Prohibitorum ―――― 禁書目録

  言わずと知れた純正ヒロイン、本作ではサブヒロイン
  再構成モノではいろんな所に落ちてゆく彼女ですが、本作では原作通り上条家でした
  原作に比べいろいろと知ってしまい、もう守られるだけの仔羊ではいられないようです


 土御門元春 ―――― クラスメイト
 
  言わずと知れた多重スパイ、にゃーだぜいですたいの人
  いつか書きたかった土御門再構成の要素が、本作にはたくさん織り込まれています
  インデックスの初代パートナーだったりします、それは実らなかった遠い初恋の記憶


 青髪ピアス ―――― クラスメイト

  言わずと知れた愛の伝道師
  誰も本名を言わないのは世界の約束です
  似非関西弁を笑ってゆるしてあげるのは日本人の約束です


 吹寄制理 ―――― クラスメイト

  言わずと知れた「対カミジョー属性」の女
  すべての運営委員に名を連ね、なんとスレタイへも名を連ねました
  愛読書は通販生活のカタログ。俺の嫁


 月詠小萌 ―――― 先生

  言わずと知れたロリ教師、まさかのヒロイン枠です
  鋼盾ら一年七組の生徒を教え導く熱血先生です、素敵
  五年後の約束が果たされるのかは―――神のみぞ知る世界

 
 黄泉川愛穂 ―――― 先生

  言わずと知れたじゃんじゃん教師じゃん
  じゃんの付け方に迷います、ない方がいい場合もあるようです
  後に鋼盾に乞われ、彼に“黄泉川流盾術”を伝授することに(嘘)
  

 雲川芹亜 ―――― 先輩

  言わずと知れた難攻不落の先輩
  鋼盾にとってはある種指標めいた存在でもあるようです
  後に鋼盾に乞われ、彼に“雲川流交渉術”を伝授することに(嘘)
  
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/13(火) 23:56:56.27 ID:8gl+azNoo
 
 御坂美琴 ―――― 超能力者

  言わずと知れた第三位、超電磁砲
  報われて欲しいのに報われて欲しくない系のヒロイン
  むしろヒーロー、三巻で鋼盾と激突予定です


 白井黒子 ―――― 風紀委員

  言わずと知れたジャッジメントですの!
  原作で颯爽と鋼盾を救ったキャラクター、ギャグもシリアスもこなす黒子さん素敵
  ラストエピソード「月明かりふんわり落ちてくる夜は」は彼女視点になる予定

  
 初春飾利 ―――― 風紀委員

  言わずと知れたスーパーハカー
  同僚たる黒子曰く“諦めの悪い女”。幻想御手事件での無双っぷりは既に伝説です
  鋼盾掬彦風紀委員化計画を画策中、はたして実るのでしょうか
 

 佐天涙子 ―――― 無能力者

  言わずと知れた無能力者、原作で鋼盾に手を差し伸べた優しい少女
  鋼盾とは立ち位置を同じくするキャラと言えるかもしれません
  エピローグで鋼盾と再会することになると思います


 ステイル=マグヌス ―――― 魔術師

  言わずと知れたルーンの魔術師
  再構成においては主人公の最初の見せ場にされる安定の噛ませ犬、不憫  
  ですが、今作で鋼盾に最初に火を付けたのは、実はこの人だったりします


 神裂火織 ―――― 聖人

  言わずと知れた極東の聖人
  一巻の中ボス、彼女を如何に攻略するかも再構成の見所のひとつでしょう
  初代スレタイのひと。ある意味このSSの産みの親と言ってもいいかもしれません


 土御門舞夏 ―――― メイド
    
  言わずと知れたメイド義妹
  厨房の錬金術師。我が黄金練成(アルス=マグナ=オムレツ)に戦慄せよ!
  土御門再構成の真ヒロインでした
  

 木山春生 ―――― 研究者

  言わずと知れた幻想御手の生みの親、あと脱ぎ女
  「無能力者と多才能力者」「学生と研究者」「被害者と加害者」「こどもと大人」「男と女」と、鋼盾とは尽く対となるキャラクター
  この物語が禁書再編ではなく超電磁砲再編だったら、ヒロインは彼女でした

4 : ◆FzAyW.Rdbg :2012/03/14(水) 00:03:41.79 ID:IlelJJkyo
おっと酉忘れ、失礼

そんなわけで4スレ目ですよ、みなさん
長々と続いて申し訳ねえですが、>>1は今日も楽しく書いてます
よろしければラストまでお付き合い下さい

次回投下はなるたけ早く!
気張って行きますので、今後ともどうかご贔屓に

では、新スレでもよろしくお願いいたします

5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/14(水) 02:15:16.13 ID:nmZP+bheo
>>1
俺の嫁北な
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/14(水) 02:19:37.59 ID:DqgO6lVh0
>再構成モノで彼をどう扱うかは、その作者のスタンスを如実に表すらしいぜ


今後の参考にちょっと詳しくだな…
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/03/14(水) 04:58:49.52 ID:Y3jlwxCW0
長編モノは途中で飽きるんだがこればっかりは飽きずに追いかけてきてる
スレ建て乙、ここでも頑張ってくれさい

あと前スレ感動した
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/14(水) 13:16:56.30 ID:J0uLtpY8o
待ってる
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) :2012/03/14(水) 18:37:16.29 ID:s5pFRUeYo
きたか…!!

  ( ゚д゚ ) ガタッ
  .r   ヾ
__|_| / ̄ ̄ ̄/_
  \/    /
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/14(水) 19:13:32.94 ID:y6rr6EWDO
前スレがなんでか見れなくなってしまって
なんかもやもやしてた


スレ盾乙
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/03/14(水) 20:06:08.19 ID:qzgQj5kqo
浜面「盾ェェェぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッッ!!!!!!」


スレ盾乙

>再構成モノで彼をどう扱うかは、その作者のスタンスを如実に表すらしいぜ

上条さんを仲間パーティに入れちゃうのは逃げ、そう思っていた時期が僕にもありました
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/14(水) 20:06:48.23 ID:qzgQj5kqo
ごめん
吊ってくる
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/03/15(木) 07:41:46.72 ID:1Ptm5XUAO
スレ盾乙
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/15(木) 13:22:42.30 ID:QQFM1PM7o
盾乙
15 : ◆FzAyW.Rdbg [sage]:2012/03/15(木) 21:41:55.01 ID:o6Rd6FG2o
レスありがとううございます、4スレ目まで追いかけてくれて感謝です

んでスレ盾といて申し訳ねえ、風邪引いてヤバイ、超ヤバイ
すまんが体調戻るまで更新控えます、寝ます


>>6 らしいぜ、とか書いたけどただの>>1の持論です
   内容は多分すげえ長くなるので割愛


すまねえ!
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2012/03/17(土) 16:49:06.59 ID:51awFMWAO
>>15
近いうちに再構成書こうとしてる俺にはその持論も是非聞きたいところだぜ

お大事にな
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/17(土) 17:58:47.60 ID:aXOBuuQFo
つ葛根湯

>>16 再構成は修羅の道だぜ…がんばれよ!
    個人的にはステイル戦をどう書くかで腕前が測れると思う。
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/03/17(土) 21:44:50.26 ID:EKN3o7sko
再構成じゃ大体ド噛ませになるステイルさんをこんだけ目立たしてくれて嬉しい
19 : ◆FzAyW.Rdbg :2012/03/18(日) 18:19:50.95 ID:Xh4vPIL2o
どうも>>1です。新スレ建てといて放置気味ですまねえ
風邪もだいぶ良くなりました、お大事にのお言葉と葛根湯に感謝
のどの風邪には銀翹散がおすすめです、薬局のおっさんにも感謝

>>16 再構成ガンバれ! 一体誰で書くんだ……楽しみだぜ!
    >>1の持論はアドバイスになるか微妙ですが、時間があるときにでも書いてみます

今晩来ます、遅れを取り戻しますよ!
んでは、しばし後に!
20 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/18(日) 20:52:47.40 ID:Xh4vPIL2o
参ります!

そぉい!



――――――――――
21 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/18(日) 20:53:48.42 ID:Xh4vPIL2o


 血を煮詰めたようなインク、怨念で研いだペン先

 紡がれた文字は、歪にして禍

 
 それは少女の柔らかな口内を犯す悪意のムカデ

 毒を持ち、肉を喰み、後退を拒み蠢き続ける百足の呪虫


 それが彼女の裡で、暴れるのだ

 ムカデの飼い主が、そのように命じたが故に


 内より縛る環鎖

 生命を縛る呪鎖


 それは陵辱の傷痕

 それは隷属の焼印

 それは底すらない人の残酷


 インデックスという名の少女に仕込まれた、呪

痛みを与え、足を奪い、やがては死へと至らしめる毒


 霊装の銘は、ただただ簡潔に“首輪”

 其は英国清教が暗部“必要悪の教会”が備品に刻んだ、冷徹無慈悲の所有印



――――――――――
22 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/18(日) 20:55:09.92 ID:Xh4vPIL2o


 舞夏は昼食の洗い物を片付けると、学校に提出物があるからと言って家を出た。

 なんといっても彼女は名門繚乱家政生、あくなきメイド道をひた走る求道ガールである。

 この数日鋼盾宅を手伝ってくれているのも、その実習の一環なのだという。


 繚乱家政女学校。

 そのカリキュラムや評価のシステムがどんなものなのか、正直鋼盾には想像もつかない。

 メイドの道は遠い、余人には測りがたい世界である。


 そして舞夏の不在は、インデックスと魔術についての話をするチャンスでもある。

 ……あるいは、自分たちがそういう時間を持てるように、気を遣ってくれているのかもしれない。

 舞夏は聡い、料理や掃除といった家事スキル以上に、それに己は救われている。

 
 そうだとすれば、なおさらこれからのことを避けるわけにはいかない。

 元より逃げる気はないが―――これから己が目にするかもしれぬものを思うと、少し怖い。

 鋼盾はしばし呼吸を整えると、覚悟を決めて口を開いた。

23 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/18(日) 20:56:49.06 ID:Xh4vPIL2o


「―――インデックス」


 彼女の名を、呼ぶ。

 ほんの少しだけ、己の声が揺らいだのがわかった。


「……なにかな? きくひこ」


 鋼盾の声に込められたものを敏感に察知し、インデックスは鋼盾を見遣る。

 その顔には如何ともしがたい緊張の色があった。

 あるいは彼女もずっと機を窺っていたのかも知れない、話さなければいけないことは山積している。


「話がある……昨日の一件の報告と……きみにかけられた呪について」 

「……ん、教えて、きくひこ」

「まずは、きみらと別れてからのことだね。
 ぼくと木山先生は、警備員に身を寄せるため高架を目指して―――――」


 
 幻想御手事件の顛末―――木山春生の逮捕と、被害者の快復。

 そして、仮初の多才能力者が太鼓判を押した、その診断結果。


 透視能力、生体検査、五感強化、審査診眼……そして、未来予知。

 一万の脳を統べた女が探知してくれた、呪の在処。
 


 鋼盾掬彦は、訥々と知りうるその全てを語った

 インデックスには何もかもをを話すと、彼は決めていた




―――――

24 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/18(日) 20:58:35.16 ID:Xh4vPIL2o


「……ありがとう、インデックス。
 もういいよ、あとでもう一回見せてもらうけど」


 果たして、呪の首輪は存在した。

 視認阻害の術式がかけられている可能性もあるかと思ったが、それもなかった。


 無用心だと鋼盾は思う、歯医者にでもかかれば一発で見つかるじゃねえか、と。

 いや――頭痛という兆候が出るほどに活性化しているから、視認が可能になった可能性もある。

 でなくば、流石に歴代のパートナーの誰かは答えに行きあたっているだろう。


 禍々しい黒蜈蚣

 少女を縛る、呪い虫


 英国が吐いた嘘の証拠が、ここにある。


「……うん」


 そう言ってインデックスは、喉に手を当てて心配そうな顔をしている。

 惑う彼女を安心させてあげなければ、とは思うも―――鋼盾自身の感情も、酷く揺れていた。

25 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/18(日) 20:59:14.44 ID:Xh4vPIL2o


 秘密を暴いたことへの昂揚

 確信に触れてしまったことへの緊張


 呪わしき首輪、人の悪意への根源的な恐怖心

 同時に感じるある種の感嘆、魔術への好奇心


 このような異形を彼女に植えた清教への憤り

 その目論見を破壊することができるという昏い喜び


 それを成したのが己であるという自負

 なぜ、自分以外の誰かがもっと早くにそれを見つけてくれなかったのかという悲嘆


 ―――落ち着け、と鋼盾は自己を律する。

 酔っ払ってる暇はない、証拠は見つけた、ならば―――それを提出しなければなるまい。


 ステイル=マグヌス

 そして、神裂火織


 お前らが盲信していた、脳の容量についての話は、嘘だ。

 お前らが超えてきた苦悩も懊悩も絶望も、全ては仕組まれたものだった。


 禁書目録をイギリス清教に縛り付けておくための嘘

 きみたちを都合よく操作するための嘘
 
 禁書目録に掛けられた、ひとでなしのシステム


 これが、証拠だ
 
 これを、ステイルと神裂に突きつける


26 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/18(日) 20:59:58.67 ID:Xh4vPIL2o


 そうすれば―――――どうなるだろう。


 彼らは、どんな反応をするだろうか。

 もし、自分が彼らの立場だったらどう思うだろうか。


 例えば大事な友人が、原因不明の記憶障害を患っていたとして。

 そんな友人の命を引き伸ばすために何度も記憶を消去するスイッチを押してきたとして。

 罪悪感に苛まれ、悪役を演じ、それでも自分にできる最善を尽くしてきたとして。


 そこに魔術師を名乗る人間が現れて。

 お前がやっている事は間違いだ、無意味だ、お前の無知が友人を傷つけてきたのだと告げられたとして。

 それの対処法なんて僕らの世界なら初等教本に載ってるレベルだぞ、なんて鼻で笑われたとして。


 それに素直に頷けるだろうか。

 自分が間違っていました、愚かでした、貴方たちにすべて任せます、なんて言えるだろうか。

 どうか友人を救ってくださいなんて、言えるだろうか。

 友人を魔法陣の上に置いて、生贄を捧げて、怪しげな呪文を唱えて貰おうなんて、思えるだろうか。


27 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/18(日) 21:00:24.20 ID:Xh4vPIL2o


 無理だ。

 ふざけるな、何が魔術だ。

 バカにするな、詐欺師が。

 そんなの、認められない。

 言えない、思えない、許せない、耐えられない。
 
 できない。

 できるわけがない。


 救うのは、ぼくだ。

 ぼくらだ。

 そうじゃなきゃいけない。

 それ以外なんて、絶対に認めない。

 ぽっと出のお前らなんかに、譲れるものか。

 これまでの決意も覚悟も努力も涙も嘆きも喪失も、総てが無駄だっただなんて、許せるものか。

 そんな理不尽はない、そんな不条理はない。

 そんな残酷なことはない。

 ありえない。

 嘘だ。

 
 そんなことになるくらいなら、いっそ――――


28 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/18(日) 21:02:48.57 ID:Xh4vPIL2o


「――いっそ、なんだって言うつもりだ、馬鹿」

「きく、ひこ?」

「……ああ、ごめんごめん、独り言だよ」


 そう言って鋼盾はくるりとインデックスに背を向ける。

 魔術師たちの気持ちはわかる、自分たちの手で救いたいのだろう。

 それは当然の感情だと、鋼盾だってそう思う。 


 ステイルの魔法名、神裂の涙。

 そこに込められた想いに、自分は触れてきたのだから。


 あるいは、探求と研鑽の果、いつの日か彼らの手が解答を掴むのかもしれない。

 魔術師のやり方で、ステイルと神裂がインデックスを救う―――なるほど、ハッピーエンドだ。

 絶望を乗り越え、望まぬ役に耐えぬいて、苦難の末に掴みとった栄光の結末だ。

 いい話だ、素晴らしい。


 が、それは今ではない、彼らは今回は諦めると言う。

 探したけど見つかりませんでした、残念ですが今回も見送りますと言う。

 また来年もがんばります、だそうだ。


 ふざけるな、と鋼盾は歯を軋らせる。

 リセットボタンなどない、コンティニューもない。

 ステイル、神裂―――それを、おまえらは履き違えている。

 手前勝手な幻想に溺れ、この子を何度殺すつもりだ。


 今、救う。

 インデックスを、救う。

 鋼盾掬彦が、上条当麻がそれを成す。


 負の連鎖を、ここで断ち切る。

 彼らに痛みを強いる事になっても、それを成す。


 そう。

 誰が救うか、じゃない。

 そんなことは大した問題じゃ、ない。

 強がりでもなんでも、そう認めさせなくてはならない。


 そのためなら、なんだってやってやる。

 追い詰めて追い詰めて追い詰めて―――問い落としてやる。

29 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/18(日) 21:03:44.29 ID:Xh4vPIL2o

 
 ……まずいかな、これは。

 思考がなにやら毒々しい、先程目にした呪の首輪に当てられたようだ。

 すこし頭を冷やさないと、と鋼盾は溜息を吐く。


 その瞬間、鋼盾の背になにかが軽く押し当てられた。

 それが位置的にインデックスの額と思い当たったと同時に、彼女の声が響く。


「……きくひこ、怖い顔してる」


 見えるはずもない鋼盾の表情を、少女は断じる。

 声音には心配の色がある、どうかそんな顔をしないで、と。


「……ぼくは、背中に顔なんか付けちゃいないんだけどね」

「ううん、きくひこ、怖い顔してるんだよ。
 悪い癖かも、とうまもひとりで溜め込むとこあるけど、きくひこはもっとひどいかも」


 インデックスは尚も断言する。

 ……しかし上条当麻よりひどいとは、心外である。

 自分は違う、あんな本物とは違う。


「こもえがね、言ってたんだよ。
 きくひこは、盾の使い方を間違ってるって」


 インデックスが、囁くようにそんなことを言う。

 それは昨日、小萌本人からも言われたことだった。

 まったく、小萌とインデックス、女二人でどんな話をしていたのやら。


「教えて、きくひこ。……あったの、かな?
 ―――ううん、あったんだよね?」

「……ああ、あったよ、思った通りだ。
 喉に、きみを縛る、首輪があった」

「…………そう、なんだ」


 首輪、魔術の枷。

 裏切りの証左……いや、それも違うか。

 ことによると裏切られてすらいないのかもしれない、この子は。

30 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/18(日) 21:05:50.35 ID:Xh4vPIL2o


「……頭痛も、それが原因だ。
 明後日にはきみは倒れてしまうらしい」

「……気付いてたんだね、きくひこ」


 騙せてると思ったのに、と少女はいたずらっぽく呟く。

 ―――よし、ステイルに聞いてたということは内緒にしておこう。


「ぜんぶまるっとお見通しだ、きみのことなんて一発だぜ」

「ふふ、うそつき。
 わたし、いっぱい嘘ついてるんだよ」

「へえ、それはそれは」

「嘘じゃないもん。
 それに、わたしだってきくひこやとうまのことならお見通しかも。
 ―――そのほっぺたの傷のこととかも」


 鋼盾の頬の傷―――神裂に先ほど付けられたそれ。

 魔力の残滓でもあったのか、それともただのハッタリか。

 どちらにせよ、大正解だった。


「怖いね……頭痛、大丈夫?」

「だいじょぶ。
 いまは、ずっと楽だよ、時々ずきっとするくらいかも」

「そっか」


 嘘かもしれないな、とは思ったが、突っ込むのも野暮だった。

 こうして話ができている以上、深刻なものではないはずだ。

 ―――だが、ステイル曰く“それが彼女を昏倒に追い込むことになる”という。


「なでてくれたら、それもなくなっちゃうかも」

「……はいはい」


 鋼盾の表情に何を見たのか、インデックスはなんとも可愛らしいことを言ってくれる。

 思わず笑ってしまった鋼盾は、振り返り乞われるままにその頭を撫でる。

 少女は猫のように心地よさげにその感触を一頻り楽しむと、礼を言って鋼盾を見上げた。


 翠緑の双眼が、まっすぐと鋼盾を射抜く。

 そこには先ほどまでの甘やかな笑みはなく、ただ静謐な覚悟の表情があった。

31 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/18(日) 21:06:17.36 ID:Xh4vPIL2o


「聞かせて、きくひこ。
 なにを考えてるのか、わたしに教えて」

「……お見通しなんじゃなかったのかな」


 混ぜっ返すように、先の彼女の言をなぞる。

 だが、インデックッスはふるふると頭を振ると、にこりと笑顔で言葉を返した。


「きくひこの口から、ききたいかも」

「そっか―――ぼくも、きみに聞きたいことがあるよ」

「うん、なんでも聞いて欲しいんだよ」


 口に出せねば伝わらぬもの、聞かねばわからぬものがある。

 何もかもを飲み下して、それを力に変えて見せよう。


「じゃあ、ぼくから。
 うまく言える気がしないし、きっと変なことも言うけど、許してね」


 せめて、正直に。

 嘘も偽りも、この子には向ける気がしない。

 そんなことを思いながら、鋼盾掬彦は口を開いた。


32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2012/03/18(日) 21:07:09.99 ID:ISWWk+xc0
鋼盾って日村みたいなやつだろ?
[ピザ]がでしゃばるのって虫酸がはしるわ
33 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/18(日) 21:10:24.05 ID:Xh4vPIL2o


「まず……きみの喉にあるその首輪は、きみを英国に縛り付けるものだと思う。
 記憶を奪う事で、余計な知恵や変な柵から英国に害を為すことを防ぐためだ」


 余計な知恵、変な柵―――もちろんそれは英国の、管理者の理屈だ。

 それは本来、当り前にインデックスが持つべき記憶で思い出で、そして絆である。

 人が人としてあるために必要なもので―――それ故に英国清教はそれを奪った。 


「……たぶんだけど、きみはかつて、望んでその首輪を受け入れた」


 土御門元春が、それを間近で見ていたという。

 聖女を見た、神を見た、そう彼は言っていた。


「きっとそうなんだろう、きみの魔法名が、それを示している。
 ―――それは、どうしようもなく尊い選択なんだと思う」


 dedicatus545

 献身的な仔羊は強者の知識を守る

 遍く悪意をその身ひとつに背負う犠牲の羊

 禁書目録、その在り方はきっとどんな聖女よりも聖女だ


「……でもさ、ぼくは、それを許せない。
 許せないよ、インデックス、気に入らない、なにが献身的な仔羊だ」


 だって、きみはそれを覚えていない

 全てを忘れて、否、忘れさせられてしまっている


「覚えてもいない誓に縛られて、そんな首輪を嵌められている。
 それが許せないよ、そんなの、ない」


 鋼盾掬彦は、それを許せない

 許せない、納得できるわけがない


「だから……ぼくはきみに否定してほしいんだ、かつてのきみを。
 押し付けられた魔法名なんて、捨ててくれ。聖者になんか、なるな」


 犠牲の羊だ、それは

 年に一度神様に捧げられる供物だ


 強要された献身なんて、隷属に他ならない

 そんな荷を、どうしてきみが背負わなければならないんだ



 鋼盾は言葉を紡ぐ

 理不尽を忌み、不条理を嘆き、運命を呪うように

34 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/18(日) 21:13:03.18 ID:Xh4vPIL2o


「これから言うのは、ぜんぶ、ぼくのわがままだ。
 ぼくは、ね―――英国の思惑も、世界の均衡も、十字教の理念も知ったことじゃない」


 なにが禁書目録だ

 なにが魔道図書館だ

 なにが一〇万三〇〇〇冊だ

 なにが最終兵器だ

 なにが魔神だ


 そんな些末はどうでもいい。

 眼の前のきみに比べれば、そんなのは本当にどうでもいいことだ。


「きみが生きてくれ、今のきみじゃなきゃだめなんだ。
 助けたわけじゃない、ただ失いたくないんだよ、きみを」


 心底の本音はずっと変わらない、ひとつだけだ
 
 一昨日の晩は、結局口にすることはできなかったその言葉


 不細工が無理にクールぶってもしょうがない

 だから包み隠さず言おう、すがりつくように無様にまっすぐに


「……お願いだ、インデックス。
 ぼくは――きみにわすれられたく、ない」


 今更だ。

 だが、それこそが鋼盾掬彦の心底からの本音だった。

35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/03/18(日) 21:14:29.93 ID:oCESCW9AO
>>32
なるほど虫酸が走った
36 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/18(日) 21:18:48.26 ID:Xh4vPIL2o


「これはさ……言わないでおこうかとも思ったけど。
 その首輪を壊せば、それできみが確実に救えるかというと、そうでもない。
 例えば心臓にきみを殺す魔法の刃が仕掛けられている可能性だって、ゼロじゃない」


 木山春生が“視た”以上、その可能性はほぼありえぬだろうが、鋼盾はあえてそれを言わない。

 極小だろうが、ゼロではないのだ―――インデックスの生命に関わるリスクがある。

 件の予言もある、それは絶望の予言だった。

 下手をすれば、彼女が死にかねない。

 だけど


「……それでも、ぼくはその首輪を壊す。
 きみを殺す可能性が拭い切れなくても、壊すよ」


 それでも壊す、と鋼盾はそう言った。

 ひとつも躊躇わず、そんなことを言った。


「ぼくが救いたいのはきみであって、禁書目録じゃないから。
 魔術師たちの方法なら確実に生命は繋げる―――だけど、それじゃあきみが死ぬ。
 そして生まれた次のきみを、ぼくはきみとは認めない」


 化けの皮が剥がれたね、ひどい男だろう、ぼくは、と鋼盾は笑う。

 自分の事を忘れてしまうような不義理な女は死ねばいいと、これはそんな台詞だろうと。

 
 身勝手だ、と鋼盾は己をそう断じる。

 魔術師たちとはまた異なる種類の下衆だ、そう思う。

 上条に知れたらぶん殴られるかも知れないな、とも。


 でも

 やっぱり、それが彼の心底からの本音であった。

 偽ることなど、出来る訳がなかった。

37 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/18(日) 21:21:31.17 ID:Xh4vPIL2o


「きみがこれ以上何かを喪うのを許さないとか、かっこいい台詞を言ったような気もするけどさ。
 ―――そうじゃないみたいだよ……ぼくが喪いたくないだけだったみたいだ」

「……きくひこは、わたしを、喪いたくないの?」

「当たり前だ、そんなこと聞くな馬鹿。
 言っとくけど、きみに忘れられたらさ、情けない話だけど――ぼくはきみを恨むぞ」


 寂しくて悔しくていじけて引きこもるね、絶対。

 泣くかも知れない、醜男の涙とか誰得だよ。


 恨むぞ、と言われたインデックスは、なんとも困ったような顔をする。

 なるほど返答に困るだろうなと鋼盾も思うが、やはりこれもどうしようもなく本音だ。


「……上条くんは、たとえきみに忘れられても、その絶望から立ち上がりきみを救おうとする。
 ステイルと神裂さんについては言うまでもないね、今もきみを諦めちゃいない。
 でも、ぼくには無理だよ―――ぼくを忘れたきみを、許すことができないと思う」


 ぼくは墓守なんてやらない、今のきみ以外は、いらない

 死んだきみも、ぼくの事を忘れてしまったきみもいらない

 次のきみに他人をみるような眼で見られるなんて、耐えられない

 耐えられないから、今ここで目の前にいるきみを意地でも守り通す


「だからぼくは、きみが諦めることを許さない。
 その首輪も上条くんに潰させるし、ステイルも神裂も手伝わせる。
 仮にきみが嫌がったって、それをやる」

「……嫌がるわけなんて、ないかも。
 一緒に戦うって、約束したんだから」

「うん、一昨日の晩にそう言ってくれたね。
 嬉しかったけど―――もう一個、ぼくはきみから聞きたい言葉があるんだ」

「……なんなのかな?」


 鋼盾掬彦には、ずっと気になっていたことがあった。

 結局この少女は、一度も己の望む未来を口にしてはいない。


38 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/18(日) 21:22:37.27 ID:Xh4vPIL2o


「ねえインデックス、きみはこれからどうしたい?」

「……どう、って」

「未来の話だよ。
 どうしたい? どうなりたい? なにが欲しい? どこに行きたい?
 ―――それをさ、教えてくれ、インデックス」


 鋼盾のその問いに、インデックスはすぐには答えられなかった。

 何かを口にしようとしては噤み、視線を彷徨わせ、鋼盾を見ようとしては慌てて目を逸らす。


 きっと、未来のことなど考えたこともないのだろう、と鋼盾はそんな彼女を見て思う。

 全ての記憶を喪い、見知らぬ異国で謎の襲撃者に怯えて生きてきた少女だ。

 
 残酷な問いであったか、と鋼盾は少しばかり後悔をする。

 だが、その未来こそが彼の望むものであった。


 鋼盾がいて、上条がいて、小萌がいて、友人たちがいて。

 その環の中で、インデックスが笑っている未来。


 鋼盾掬彦は、それが欲しい。

 そして、それをこの少女にも望んで欲しいと思う。

39 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/18(日) 21:24:21.13 ID:Xh4vPIL2o


「―――わたしは」


 およそ五分ほどの沈黙を経て、インデックスがそれを破った。

 その声は少しだけ掠れていて、彼女の声から常の甘を奪っていた。


「きくひこ、わたしはね――禁書目録で構わないの」


 禁書目録でいい、十万三千冊の呪の塊でいい、英国の、清教の備品でいい

 それでもかまわない、と彼女はそんなことを言う


「きくひこは怒るかもしれないけど、それはわたしにとって、自負ですらあるんだよ。
 ……他の誰にだって、この荷物を背負わせる気はないの」


 彼女が喪われれば、他の誰かがその任につくのだろうか

 神裂は、それは彼女にしかできぬことと言っていたが、そういう可能性だってあるのかもしれない


「犠牲の羊でかまわない……わたしは、それでいい。
 それが、わたしだからって―――そう、思ってたんだんだよ」


 違う、と鋼盾は叫びたかった。

 それは、願いではない、強迫観念だと言ってやりたかった。


 だが、それをインデックスは否定する。

 真っ直ぐに、矜持をもって否定する。


「……ううん、今だってそう思ってる。
 きくひこは“その信仰は英国清教が植えたものかも知れない”って言ってたけど―――それは違う。
 これは、わたしのもの。それは、きくひこにだって否定はさせない」

「……そっか」

「うん」


 わかっては、いたことだった。

 彼女は敬虔なシスターであり、禁書目録だ、最初からそれは解りきったことだった。

 出会ったその日から、鋼盾はその事を知っていた。


「でも」


 ……そう、“でも”だ。

 鋼盾掬彦と、上条当麻と、月詠小萌と過ごしていた時の彼女は。

 果たして、禁書目録を負う修道女でしかなかっただろうか?

 ―――そんなわけが、なかった。

40 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/18(日) 21:27:06.24 ID:Xh4vPIL2o


「……でも、欲しい物ができちゃったんだよ。
 だから――わたしはもう、敬虔なだけの仔羊じゃいられないかも」


 そうとも、きみは普通の女の子だ。

 欲しいものは欲しいと言うべきだ、諦めるには若すぎる。

 教えてくれよ、インデックス。

 そしたら、それをぼくらが用意するから。



「きくひこ、わたし……わすれたくないよ」



 それが、彼女の願い。

 なんてちっぽけで、真摯な望みなんだろう。


 わすれたくない、おぼえていたい。

 そんな当たり前のことすら、彼女には許されていなかった。


 知れ、イギリス清教。

 お前らの罪の深きを知れ。


「きくひこを、とうまをわすれたくない。
 こもえのことも、まいかも、はるみも、ぜんぶ」


 一年の逃避行の果てに出会った、友人たち


「みんなで食べたごはんも、いっしょに見たてれびも、ぜんぶ、ぜんぶ」


 その友人たちと過ごした、愛しき日々の記憶


「忘れたく、ない、わたしはわたしで、生きて、いたい」


 その記憶を持つ、たった一人だけの己


「ここに、いたいんだよ。
 ―――未来が、ほしいよ、いっしょに、いたい、よ」



 禁書目録ではなく

 英国清教の修道女でもなく


 この街で生まれた、ひとりの少女が―――初めて未来を、自己を願った

 ここにいたい、みんなといたい、これからも、ずっと、と

41 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/18(日) 21:29:18.71 ID:Xh4vPIL2o


「うん、ありがとう。
 ……それをさ、聞きたかったんだ」


 その言葉があれば、鋼盾はもう大丈夫だった。

 恐れるものなんて、もうなにひとつとして有り得なかった。


「ぼくも、上条くんも、みんながそう願ってる。
 きみを拒むものなんて何もないし、あればぼくらがそれを潰す」
 
 
 首輪を引き剥がし、鎖を引き千切る

 くそったれな幻想を尽くぶち壊して、望んだ未来を掴みとる


 鋼の盾がそれを為す

 幻想殺しがそれを為す


 そう決める

 
42 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/18(日) 21:33:15.79 ID:Xh4vPIL2o


「ここにいてくれ。
 明日も、明後日も、その後も……きみが飽きるまで、ずっと」

「……きくひこのばか。
 飽きたりなんか、するわけがないかも」
 
「んじゃ、死ぬまでずっとだ。
 長生きしてくれ、インデックス」

「……うん」


43 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/18(日) 21:41:00.33 ID:Xh4vPIL2o


 かくして、首輪は白日のもとに晒された。

 インデックスの脳内にある、十万三千冊の禁書を守るセキュリティ。

 英国が仕掛けた霊装、その存在が明らかになった。


 それを破壊する右手を持つ少年、上条当麻は未だ目を覚まさない。

 だが――鋼盾もインデックスも気付かなかったが、ベッドに眠る上条の睫毛が、微かに動いた。



 舞台が整い、役者も揃いつつあった。

 物語のクライマックスが、近づきつつあった。


 
44 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/18(日) 21:46:03.35 ID:Xh4vPIL2o





――――――――


ここまで!
新スレ一発目が遅くなって申し訳ねえです

つうわけで首輪発見でした
……これも結構無理のある設定だと思うんスよ
頭痛とか昏倒とかなったらさ、喉って結構診るよな! バレます!

まあ、いいや!
次回はやっと、アイツの出番です

もう大体書けているので、次はなるたけ早くに!
次もどうかよろしくおねがいします!


45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/18(日) 21:54:44.68 ID:u9jWvA8B0
乙。
マジで上条さん、そげぶするだけの簡単なお仕事
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2012/03/18(日) 22:08:37.24 ID:ISWWk+xc0
>>35
ごめんな


[ピザ]
47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/03/18(日) 22:10:38.90 ID:MpC+F2PCo
上やん起きたら色々混乱するんじゃないか?ww
寝てる間にいろいろ有り過ぎてww
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/18(日) 22:11:02.58 ID:UgPKH9Ci0

氷華ちゃんはシリーズ化しないとでないよなぁ・・・
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/03/18(日) 22:16:09.44 ID:69ej9VEAO

インデックスいいよインデックス

風切さん登場まで、あと20スレってとこか
50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/03/19(月) 16:51:16.82 ID:UdsD+Fa90
ほほう、乙
51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/19(月) 21:02:35.46 ID:GRmyA/X5o
乙。待ってる。
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/03/19(月) 21:08:16.52 ID:u5td+izDo


>>45
それを言っちゃあおしめえよって奴だぜそりゃあ

非主要キャラで再構成物の宿痾って奴でなあ・・・
53 : ◆FzAyW.Rdbg [sage]:2012/03/19(月) 23:03:51.70 ID:kpxfI8zgo

 ひゃっほう>>1です
 どうせ新スレもこんな感じだぜ! レス感謝!

 >>45の“そげぶするだけの簡単なお仕事”
 すっげえ笑えることに、次回更新で鋼盾が同じような台詞を言います

 さて、>>52が言った宿痾というのはまさに然り。
 >>16が興味を持ってくれた>>1の持論とも被る部分が多々なので、せっかくだから書いてみる
 この話を書く前に、再構成についていろいろ考えてみたもののひとつです

 長文な上、ただの>>1の妄想なので、反転しておきます
 ビール飲みながら書いてるので、あまり期待しないで下さい、読み飛ばし可

 んじゃ、見たい人だけどうぞ!
54 : ◆FzAyW.Rdbg [!orz_res]:2012/03/19(月) 23:10:17.82 ID:kpxfI8zgo
  さて、一巻再構成の勘所は、やはり首輪解呪であるペンデックス戦
  これがなかなかに無理ゲだから困る

  魔道図書館のセキュリティ、自動書記
  一〇万三〇〇〇冊の魔道書を駆使するそれは、まさに後出し魔神
  んで上条さんじゃない場合だと、たぶん“歩く教会“も装備してる、超チート

  竜王の殺息とか超ヤバイ、だけどもっとヤバイのは、相手を分析し最適手を打つその万能性
  つーか、言わせてもらえば相手が上条さんじゃなかったら、多分竜王の殺息使わねえよなアイツ
  多分もっと効果的にえげつなく殺しに来る、勝てねえよ実際
  
  そしてなによりも問題なのは
  「ペンデックスを撃破できたとしても、首輪が残ってりゃインデックスが死ぬ」ということ

  首輪の仕事は「対象を一年周期で記憶消去をしなければ狂死する体質にする」と
  「首輪に危害を加える簒奪者を排除すべく、セキュリティである自動書記と連動」の二点
  だからペンデックス現出なら多分簡単、首輪や魔道書にちょっかいだせばOK

  だけど問題はあくまでも自動書記ではなく首輪
  なんせ「ローラ謹製」の「禁書目録の鎖」、容易いシロモノの訳がない
  これを簡単に外せそうなのは、それこそ管理者ローラと上条さんくらいなんじゃなかろうか
    
  
  んで本題
  上条さんがでてこない、あるいは物語に関わらない物語
  これを「この物語に幻想殺しの少年は存在しないルート」……長いのでAとします
  んでその逆、どんな形であれ上条さんが首輪を破壊するものはBで
  
  Aであれば「幻想殺し」以外で首輪を破壊する手段が必要です
  ペンデックスの撃破ではなく、あくまで首輪の破壊です。そこを勘違いしてはいけない
  「霊光波動拳・修の行」とか「破戒すべきすべての符」とかそのへんが欲しいところ

  原作で確立されていない、幻想殺しに依らぬ首輪の破壊、それを説得力をもって描写できるか
  そこをなあなあにしてしまっては、それは再構成とは言いがたいような気がします
  それでいて既存の再構成作品と被ってしまったら……二番煎じの謗りは免れないでしょう
  だから難しくて、だから面白い……Aの方が個人的には好きです
  
  Bでは「幻想殺し」という、首輪破壊の手法が確立されています
  首輪の破壊が絶対不可能な鋼盾みたいなキャラでも、味方に上条さんがいればそれをクリアできます
  再構成の可能性を広げるのがBと言ってもいいかもしれません
 
  当然、本作はB
  それを踏まえて、一巻再構成における上条当麻について考えてみると……
  
  ・再構成における首輪の破壊は、説得力のあるものでなくてはならない
   独自の方法でそれを為すにはそれなりの理屈と基盤が必要だが、それを成せないキャラも多い
   上条当麻、つまり幻想殺しがあれば、それが不要となるひゃっほーい

  ・だからといって上条さんを単なる便利キャラにしても興醒め
   彼が単なるそげぶ係に堕ちる可能性を、Bは常に孕んでいる

  ・とは言え、上条当麻を前面に押し出し過ぎてしまっては、主人公の見せ場が奪われる
   そうなっては本末転倒、主人公はあくまでも一人であるべき

  ・再構成における主役は、けして上条さんであってはならない
   上条さんの主人公性を排しつつ、しかし魅力的に書かねばならない
   (もちろん、上条さんが主人公の場合を除きます)
   

  それらを踏まえ、原作最大のジョーカー「上条当麻」「幻想殺し」を如何にうまく描くか
  如何に主人公と絡ませるか……きっとこれが、Bを選んだ再構成書きの腕の見せ所と存じます
  私見ですが、これをうまく書けてる作品はホント面白いです
  

  そしてAにも上条さんの呪縛はあるのかもしれません
  原作に近い展開をゆくタイプの場合、必然的に主人公は上条さんの行動をなぞることになります
  でもそれは、一歩間違えれば只の焼き直し……下手をすれば単なる原作劣化になりかねません
  
  それに堕とさぬだけの説得力のある描写が出来るか
  あるいは原作一巻のストーリーの軛から解き放たれ、新しい物語を構成できるか
  Aの勘所はこの辺でしょうか、難儀ですよね実際


  原作再構成において原作主人公を如何に描くか、あるいは如何に描かないか
  再構成好きの>>1は、そのへんも楽しみ他の作品を読んでおります

  んで、書き手としてもそのへんをうまく書きたいと思っております
  書けるかどうかは別としてな! ああもう難しいなちくしょう!

  なんなんだ上条さん! このヒーロー野郎め! 大好き!
55 : ◆FzAyW.Rdbg [sage]:2012/03/19(月) 23:13:04.02 ID:kpxfI8zgo
つーわけで、この程度でした
あんま参考にはならんと思います、ごめんよ>>16
酔っぱらいの戯言と流して下され

あ、本題
明日、投下にきますぜ
よろしければお付き合い下さい!

んでは、しばし!
56 :!orz_res [sage]:2012/03/19(月) 23:13:15.54 ID:Tr+lzENEo
57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/03/19(月) 23:19:25.58 ID:ob/mj3Moo
16とは別人だけどなるほどなあと思った
神裂戦までで止まってる(スレ立てはしてない)やつの筆を進めるモチベーション上がってきた
58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/03/20(火) 00:12:45.78 ID:s0LMPjs1o
今は亡き木原禁書がAパターンだったな
あれがエタったのは勿体なさすぎる
59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/20(火) 00:23:40.97 ID:Nrf86/v0P
そんなこと全然考えないでVIPで再構成クソスレ立てまくっててごめんなさい
60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2012/03/20(火) 00:46:35.10 ID:sguMAbPAO
Aパターンを地でいっていたのが木原禁書。次点が浜面禁書って感じなのかな?

正直この2作の発想というかアイデアは読んでるこっちからしても頭おかしいレベル。首輪攻略法とか。
61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/03/20(火) 02:15:26.20 ID:ijBKfpY1o
ぱくった歩く教会でドラゴンブレス防ぐとか狂気の沙汰だよな
62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/03/20(火) 19:28:00.80 ID:IpRBsDoAO
一方禁書もA、偽善やトンデモはBか
63 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/20(火) 23:13:12.85 ID:iZqDzGwFo
まあ、つーわけで上条さんをどうするか、というのは
>>1的にいろいろ思うところのある要素だったりします
それなりに思惑はあるので、たのしみにしていただけたらな、と


んじゃ、投下します
そぉい!


――――――――――
64 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/20(火) 23:14:00.54 ID:iZqDzGwFo


 ドラマツルギーの話をしたい

 ヒーローは遅れてやってくる、というあれだ


 正義は勝つとか、勝ったほうが正義だとか、そんなつまらない次元の話ではない

 ヒーローは遅れてやってきて、しかし勝つのだ、ドラマツルギー的に、絶対に


 なぜなら彼はヒーローだから

 ヒーローゆえに、勝利する


 お約束である

 約束は守られなくてはならない

 けして違えてはならない


 世界がどんな力で回っているのかなんてしらない、興味もない

 科学の歯車でも、魔術の神秘でも構いやしない


 だが、約束は守られなくてはいけない、当たり前だ

 ドラマツルギー的に、常識的に考えて


 そう、鋼盾は信じている

 そんな幼稚な戯言を、勝手に信じ抜いている


 ありえぬと百も承知で、しかしそれでも信じている


 世界の懐の深さは、いかほどのものか

 馬鹿の無様で純粋なその祈りくらい、聞き届けてみせろ

 問答無用のハッピーエンドくらい用意しておけ


 この身は端役に過ぎぬのだろう

 そんなことは知っている、今更それを恨みはしない


 だけど、端役だって物語の紡ぎ手だ

 ハッピーエンドを望むのだ


65 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/20(火) 23:14:53.32 ID:iZqDzGwFo


 ヒーローは遅れてやってくる

 なんのことはない、ドラマツルギーの話である

 お約束の話である



 ご都合主義と笑わば笑え、なんなら一緒に笑ってやる

 ああもう、にやけてしまう、どうしようもなく


 ヒーローってやつは、これだからたまらない

 ヤツらはけして、自分の出番を間違えたりしない

 そして己は、そんなヒーローに与している

 我が陣営にはヒロインすらいるのだ、ああもう、ならば


 勝利は約束されている

 ―――たとえその先に絶望があると予言されていても



「……おはよう、鋼盾。
 すまねえな、たぶん、とんでもなく寝坊した」

「まったくだよこの野郎。
 ……だけど、ギリギリセーフかな」



 ヒーローが、目を覚ました

 上条当麻が、目を覚ました



――――――――――

66 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/20(火) 23:15:43.84 ID:iZqDzGwFo


 インデックスの喉に首輪を見付けて。

 ふたりで、舞夏が帰ってくるまでいろんな話をして。

 戦う理由を、たくさん積み上げた。


 午後は、それぞれに過ごした。

 舞夏は夕食の準備や、細々とした家事を。

 インデックスは己に掛けられた首輪の解析を。

 そして鋼盾は―――まあ、戦支度を。
 

 夕食を終えると、鋼盾は早々とインデックスを上条宅へ帰らせた。

 小萌宅であればこれからが団欒の時間であったが、彼女の体調を思えばそれは躊躇われる。

 インデックスは相当に不満気であったが、舞夏のフォローもあって渋々引き上げてくれた。

 舞夏も、インデックスを送らせ、そのまま帰ってもらった。



 そして、ひとり夜を過ごして。

 そろそろ休もうか、と思い、ふとベッドを見遣ると、そこに上半身を起こした友人の姿があった。


 上条当麻。

 神裂火織の襲撃から二日目にして、ようやくの復活であった。


 

―――――

67 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/20(火) 23:18:01.07 ID:iZqDzGwFo


「……携帯、は壊れてるんだったな。
 えと、鋼盾、今は何日になるんだ?」

「二十五日の夜だよ」

「じゃあ、二日間も寝てたわけか。
 ……ってことは、インデックスが記憶を奪われるまで」

「あと、丸二日だ。
 ……意識や記憶ははっきりしてるみたいだね」


 寝起きだというのに、上条当麻の目は決然とした光に満ちている。

 鋼盾が心配していた意識や記憶の混濁もなく、神裂火織への怯懦もない。

 今すぐにでも戦場へ駆け出せそうな、そんな風情ですらあった。


「ああ、覚えてる。
 おまえが神裂相手に、すんげえ啖呵切ったのもなんとなく覚えてるよ。
 ……土御門がいたような気がすんのは、流石に夢か?」

「……ううん、現実だ。
 笑っちまうことに、あいつはイギリス清教の人間で、凄腕のスパイで。
 ―――――そして、インデックスの友達だった」

「……そっか」


 禁書目録初代のパートナー、土御門元春の物語。

 それも、あとで聞かせねばなるまい。話さねばいけないことはいくらでもある。

 が、まずは確認しておきたいことがあった。


68 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/20(火) 23:21:24.03 ID:iZqDzGwFo


 
「で……体調はどうだい?
 立てそう? 土御門くんたちの見立てだと、そう傷は深くなさそうだって話だけど」

「ああ、っと……このとおり、起きれる、痛みも大したことは……ん?
 なんだ、これ?」


 立ち上がった上条は寝間着の胸ポケットに入れられていた封筒に気づき、それを取り出した。

 それは、今朝鋼盾がしたためた一種の保険だった。


 そこに書かれているのは、鋼盾が見つけたインデックスを救うための方法。

 彼が目覚める前に、鋼盾の身に何かあった時のために用意しておいたものだ。

 ……今思うとちょっと恥ずかしいメッセージも書いたりした気がするので、開かれると困る。


「……ああ、忘れてた。
 あー、ぼくが留守中にきみが起きた時のための、置き手紙さ。
 もう用無しだから、捨てちゃおう……そこのゴミ箱に入れちゃって」

「ああ」


 上条は特に気にした風もなく、封筒をそのままゴミ箱に捨てた。

 ……うん、後で念入りに破いておかねば。

 
 そして上条は数度、身体の調子を確かめるように屈伸を行う。

 身体に異常はなさそうだ、なによりである。
  

「ん……で、その他、なんかあったか?」

「そうだね……いろいろあったよ」


 上条の問いに、鋼盾はこの二日間に思いを馳せる。

 ああ、本当にいろいろあった。

 例えば―――そう、幻想御手事件。

 
69 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/20(火) 23:24:27.41 ID:iZqDzGwFo


 悲劇と妄執に囚われた科学者が、学園都市全てを巻き込んだ壮大な実験を開始した。

 倒れ伏す幻想御手使用者たち、形成されるネットワーク、それを以って設計者たらんとした女。

 一万人の子どもたちから能力を奪った仮初の多才能力者(マルチスキル)。



 対峙するは学園都市第三位

 名門常盤台中学が誇る電撃姫

 最強の電撃使い・超電磁砲


 御坂美琴

 
 ――放て、心に刻んだ夢を

      未来さえ置き去りにして 」


「……なんだよソレ、なんでナレーション調なんだよ」

「一端覧祭映画企画その3『とある科学の超電磁砲』だよ。
 御坂さんが主役だ、満員御礼だね。ああ、きみはヒロインの想い人って設定で行くから」

「……ちなみにお前は?」

「いじめられっ子B」

「……俺そっちがいい、代われ」

「残念、きみじゃあこの役はこなせない、説得力が足りないね。
 おとなしくヒロインに追っかけられてやるといい」


 適所適材だ、ヒーロー。

 端役には端役の、主役には主役の仕事があるのだ。


 まあ、とは言え超電磁砲より禁書目録、かな。

 御坂さんには申し訳ないけど、こっちのヒロインの方が切羽詰まっている。


「……はぁ、不幸だ。
 で? その話マジなのか?……いや、映画化云々は置いといて」

「ああ、マジだよ。
 魔術ヤバイと思ってたら科学の方も大概だった」

「……上条さんが寝てる間にエライ話になってたみてえだな。
 薄々思ってたけど、この世界はちょっとおかしいよな」


 おかしさ極まる右手の持ち主が、よく言うものだ。

 この世界のアレっぷりについては全くもって同意ではあるが、何度でも言おう。

 お前が言うな上条当麻。

70 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/20(火) 23:27:23.37 ID:iZqDzGwFo


「今更だね。……まあ、それはいいや。たいした話じゃないし。
 そうそう、土御門くんのはからいで、舞夏がうちの家事を手伝ってくれてる」


 きみの包帯を替えてくれたりしたのも彼女だ。

 明日も来てくれるからお礼を言うように、と鋼盾は言う。


「舞夏か。そりゃ、世話になっちまったな……インデックスは」

「今はきみの部屋で寝てるよ。
 ……ああ、鍵、勝手に拝借しちゃった、許してね」

「……かまわねえよ、そんなの。そっか、無事か」


 上条の顔に、安堵の表情が浮かぶ。

 あの子は無事だ、そして、共に戦う決意を固めてくれた。


「あと、この二日間であったことといえば、これが一番かな。
 ……インデックスにはぜんぶを話したよ。一切合財ぶちまけちゃった、割と容赦無く」


 知りうる全てを、インデックスに伝えた。

 それは必要なことだと、鋼盾掬彦が断じた。


「……ああ、お前がそうすべきと判断したならきっとそれがベストだ。
 アイツも、それで折れるほどヤワじゃねえだろ」

「うん……強いよ、あの子は」


 或いは何も知らぬままでいてもらうという選択肢も、あったのかもしれない。

 ふと、上条ならそちらを選んだのではないかと思った。


 だけど、鋼盾はそうはしなかった。

 匙加減の斟酌もせず、すべてありのままに彼女に突きつけた。


 我ながらひどい男である。

 ヒーロー度数が足りてない、器が小さいのだ。

 まあ、それは仕方ないことだろう、それが鋼盾掬彦だから。


 ……そうそう、無断といえばもうひとつ。

 大した話じゃないが、やってしまったことがある。

71 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/20(火) 23:28:21.98 ID:iZqDzGwFo


「んでもう一個、きみに無断で決めちゃったんだけど」


 悪いね、相棒。

 きみが寝ている間に、ちょっと魔術師たちともいろいろ進展があってさ。


「今日、宣戦布告をしてきたよ。
 ―――割と真っ向から、あのふたりに喧嘩を売ってきた」


 否、必要悪の協会そのものにだろうか。

 てめえら信用できねえぜ、あの子は俺らが貰い受けるぜと言ってきたのだ。


「それはそれは……鋼盾先輩マジぱねえ」
 
「誰が先輩だ、誰が。
 勝手に決めちゃって申し訳ないけどさ、別にいいよね?」

「当たり前だ」


 上条は揺るがない。

 あの日、小萌の家で交わした誓いは変わらない。

 友人の即断に鋼盾は微笑む、ああ、上条当麻はそう応えるだろうと。


「“素敵な悪あがきを”だってさ。
 ――いやいや、流石に諦めてしまったヤツは言う事が違う」

「……は、上等じゃねーか」


 上条は歯を軋らせて、笑う。

 似たような笑みを浮かべている鋼盾に、高らかに宣言する。


72 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/20(火) 23:30:54.88 ID:iZqDzGwFo


「足掻くぞ、相棒。
 インデックスを助け出す、俺らで、地獄の底から引きずり上げる」

「はは……上条先輩マジぱねえ」
 
「誰が先輩だ、誰が」


 痛快だ。

 打てば響くのが、上条当麻だ。

 この男のすごいところは、鋼盾がこっそりと彼を尊敬して已まないところは、その一点に尽きる。

 
「……ことによるとこの話の結末は、ハッピーエンドとは行かないかもしれない。
 それでも付き合ってくれる? 上条くん」

「当たり前だ、決まってる。百でも千でもだ、何度だって立ち上がってやる。
 アイツがずっと笑えるようにするのが、俺たちの勝利だ。
 ―――きっと道はある、探すぞ鋼盾」


 迷いのない、その覚悟。

 固く握った拳は信念そのもの。

 けして揺らぐことのない、上条節。


 その背を追えばこそ、己もここまで走ってこれた。

 諦めることなく、答えを求める事ができた。

 この二日間を、戦い抜くことができた。


 逆転の道筋を

 呪の首輪を


 見つけることが、できたのだ

73 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/20(火) 23:32:07.76 ID:iZqDzGwFo


「……勝算はある。見つけてきた。
 詳しくはまた話すけど、この二日間で道筋を付けたよ。
 きみの力が必要だ―――よく間に合ってくれた、待ってたよヒーロー」

「…………ほえ?」


 勝算が、道筋があるという鋼盾の言葉に、上条は間抜けなリアクションを返す。

 マジかよ信じられないぜ嘘だろオイ、とその目が語っている。

 ……心外だね、まったくもって。

 ぼくだってきみが寝てる間、無為に過ごしていたわけじゃないんだぜ?


「インデックスを助ける方法を見つけたんだよ。
 成功すれば、あの子が記憶を喪うことはなくなるんだ」

「……あれー? 上条さんが寝てる間にそんなに話が!?
 え? “きっと道はある、探すぞ鋼盾”キリッ とか俺バカ丸出しじゃねーか!」

「きみはそれでいいんだよ、ヒーローは遅れてくるもんだ」

「ヒーロー言うな、……うわ、情けねえな俺」


 恥じ入るように、握りしめた拳を解く上条。

 グーパーグーパー、なにをやっているんだか。

74 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/20(火) 23:33:55.61 ID:iZqDzGwFo


「そもそもさ、その右手あれだよね」

「……なんだよ鋼盾、俺の右手がどうしたってんだ」


 上条当麻の右手、幻想殺し。

 魔術も能力もまとめてぶち壊す、とっておきのジョーカー。


「それさ、強力すぎて序盤から出てきちゃだめなタイプだよね。
 物語ぶち壊すよね、黄門様が最初から正体明かしちゃだめだよね。
 刺青はここぞという時だけで十分だよね」

「印籠!? 印籠なのか俺の右手!? 紋所!? 桜吹雪!?
 ……あれー? え? 鋼盾さん? もしかして怒ってらっしゃる?
 不甲斐なく寝転けてたワタクシに怒り心頭な感じでござりますでしょうか?」


 わたわたと慌てだす上条、なにその敬語。

 ……まったく、真打はどっしりと構えていればいいものを


「まさか。ちょっとからかってみただけさ。
 ……ああ、ぼくらはこんな感じでいい、肩の力を抜いて行こう」

「……たく、ああもう、抜けちまったよ。
 どうせ俺は喜劇役者だ、シリアスなんて勤まんねえ、そうだろ監督」
 
「だれが監督だ、こちとら端役だっての。
 ああ、でも―――そうだね、僭越ながら、ぶっちゃけこの脚本は気に入らない」


 断じてやる、これは駄作だ。

 悲劇なら趣深いとでも思ってやがるのか、三流め。

 やっぱりさ、ハッピーエンドが一番だ。

 無能な脚本家などぶん殴って、筋書きを書き換えてやる。

75 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/20(火) 23:38:12.47 ID:iZqDzGwFo


「…シリアスもいいけどね、でも、深刻ぶってもしょうがない。労働争議さ、ぼくらがやるのは。
 イギリス清教っていうブラック企業に物申してやるだけの話だよ」


 友人がブラック企業に勤めてるんだが、そろそろ限界かもしれない。

 二十一世紀に奴隷制とかふざけんじゃねえよ英国清教、もっとがんばれクエーカー教徒。


 とりあえず溜まりに溜まってる有給と残業代からもぎ取ってやる。

 最終的には円満退社まで漕ぎ着けてやる、覚悟しておけ。


「――英国野郎のヘボ台本を、書き直そう」

「ああ、力づくで、俺らにに都合のいいようにな。
 ……ったく、例の魔法学園モノみたいな魔法使いならよかったのに」


 まったくだ、失望させんなイギリスめ。

 でも、あの映画アメリカ資本じゃなかったっけ?


「はは……まあ、連中にマグルの意地を見せてやろう。
 主演はきみだよ。――その右手で幻想をぶち殺すだけのかんたんなお仕事だ」

「はいはい、そげぶそげぶ。
 ワタクシ上条当麻は鋼盾監督の指揮に従いますのことですサー」


 ふざけた台詞の割に、上条の表情は覇気に満ちている。

 主人公は出演依頼を快諾だ、じゃあ、ギャラの話でも。


「報酬はインデックスの笑顔ひとつ。
 あの子が記憶を喪うことなく、日々を重ねていけるようになる。不満はあるかい?」

「ありませんサー。
 貰いすぎじゃねえか心配なくらいですサー」


 まったくだ。

 あの子が笑うだけで、ぼくらはメロメロである。

 馬鹿みたいに愛しいのだ、どうしてくれよう。


 あの子の笑顔が欲しい、それだけでいい。

 なんとも安い話だが、それゆえに譲れない。


 譲れないんだよ、魔術師

 あの子を殺させやしない、どんな手段を用いても

76 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/20(火) 23:40:23.79 ID:iZqDzGwFo


「決行は二十七日夜、インデックスに仕掛けられた魔術の仕掛けを破壊する。
 ――――その右手で一切合切をぶち壊せ、幻想殺し」

「イエッサー」


 インデックスの喉に仕掛けられた悪意のムカデ。

 あれを殺せるのは上条だけだ、働いてもらうぞ幻想殺し。


 ……そして、もう一個だ。

 鋼盾はいたずらに笑う、楽しくてしょうがない。


「加えてきみにはもうひとつ、重大な任務を与えたい。
 覚悟はあるか? 幻想殺し―――いや、上条当麻」

「なんなりとお申し付け下さいサー!」


 ノリノリだね、主人公。

 ならば、遠慮なく筋書きを押し付けてやろうじゃねえか。

 ベッタベタな脚本だ、恋愛劇など不得手ではあるが―――それでも書かずにはいられない。


 忘れちゃいないさ、インデックス。

 きみに、プレゼントを贈る約束をしていたね。


「明日二十六日、上条当麻は破損した携帯電話を修理、もしくは買い換えること。
 それにインデックスを同行させ、彼女に携帯を買い与えること」


 譲ってやるよ、上条くん。

 奪われてばかりのあの子に、最初に贈り物をする役を。

 ま、それはオマケで、つまり、なんというか、

 モノより思い出、ということで。


77 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/20(火) 23:40:50.27 ID:iZqDzGwFo



「―――インデックスとデートしといで、上条くん」


78 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/20(火) 23:42:06.98 ID:iZqDzGwFo


 ラストバトルの前の、デートイベント。

 これもまた、ドラマツルギーでお約束だろうと鋼盾は笑う。


「………………はヒ?」


 呆然と。

 眼を白黒させる上条当麻の顔は、なかなかに見物で。


 鋼盾は久しぶりに声を上げて笑った。

79 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/20(火) 23:47:21.96 ID:iZqDzGwFo




――――――――――


ここまで!
つーわけでホント久しぶりに上条さんの登場です
実に一スレまるまる寝てましたよコイツ

次回もこのふたりのおしゃべりいろいろ
書いてて楽しいです、こいつらの組み合わせは

んでは、また次回!
よろしければお付き合い下さい!
80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2012/03/21(水) 00:03:41.51 ID:Nvgl8vg9o
やだこのスレ男くさい。
なんかひさしぶりに見たなこういうの。かっけえなあ。
81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/21(水) 00:52:13.75 ID:LajYuB8DO

この二人の遣り取りいいわー
82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/03/21(水) 06:58:59.32 ID:Rvno5qUeo
中二臭溢れるセリフの応酬
超好みです乙
83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/21(水) 07:24:00.34 ID:sYKvW5mAO
上条さんの安定感は異常
84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/22(木) 00:16:44.71 ID:z6LRnKCn0
なんか、鋼盾くんがいーちゃんに重なる。語り手だからだろうか・・・・・。まあ、戯言か。
85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/22(木) 00:56:56.26 ID:zBN18Xino
いい。とてもいい!乙!
86 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/03/22(木) 20:37:20.30 ID:Mh4Lqaxv0
上条さん、このデートイベントで巻き返さんと!
インデックス取られちゃうよね、現状じゃ
87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/03/22(木) 20:40:14.42 ID:AHpzSEGzo
取られたっていいいじゃない主人公じゃないもの
88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/03/23(金) 15:16:04.19 ID:iLr5O4NCo

主人公ポジに2人いると、どうしてもこうなるな
これがBルートの弊害か…!
89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/03/23(金) 21:02:09.39 ID:bac/K64/o
結局コウやんに女の子は似合わないと思うの。可哀想だけど。
90 : ◆FzAyW.Rdbg :2012/03/24(土) 09:01:58.39 ID:ASBtGHFqo
どうも>>1です、レス感謝!

このSSは基本、男臭いアレを目指しております
だから、恋愛的なアレを望んではいけないぜ! だって鋼盾だし!

つーか鋼盾くん、上条さんと話してる時が一番楽しそうだから困る
次回の更新は、まさにそんな感じです

>>88
実は当初、主人公が鋼盾じゃなくて、吹寄や布束や雲川という女子案もあってだな……
でも鋼盾の位置に女の子を入れると、次はヒロインとインデックスでダブってしまって困る
ハーレムにはしたくないし、インデックスを体のいい妹枠にするのもあれだし、取り合うのもあれだし! うああ!

結局、めんどくさいので諦めました……恋愛話など俺には書けねえよ!
つうわけで誰か書いて下さい、吹寄再構成、布束再構成、雲川再構成、フレンダ再構成、よりどりみどりです


あ、本題! 今日、どこかで更新に来ます
よろしければお付き合い下さい
91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2012/03/24(土) 16:17:45.20 ID:hG41kOsi0
大丈夫、インデックスをヒロインって思ってる人、少ないから。
ほとんど上条さんの子供って認識だから。
92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/03/24(土) 16:58:54.11 ID:uncnOv/AO
上条さん記憶失う前だと間違いなくヒロインなんだがなぁ…記憶失ってからは確かにな
93 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/24(土) 18:11:20.74 ID:qd0FJrEio
フレンダ再構成とは聞き捨てならねえな……!

待ってる
94 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/03/24(土) 18:40:22.18 ID:cn132OBKo
>>89
> 結局コウやんに女の子は似合わないと思うの。可哀想だけど。
>>90
> どうも>>1です、レス感謝!
>
> このSSは基本、男臭いアレを目指しております


なるほど・・・つまり誘波ちゃんルートまっしぐらなんですねわかりました
しかし男臭いアレだなんて・・・///
95 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/24(土) 21:07:17.05 ID:ASBtGHFqo
どうも>>1です

以下濃厚なホモスレ―――というわけではなく
少年ふたり、ちょいと未来の話をしたりします

んでは、投下

そぉい!


――――――――――
96 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/24(土) 21:12:03.85 ID:ASBtGHFqo


「……は? デートって……何言ってやがるんだよお前!
 なんだってんだ鋼盾! なにこの仕打!? つーか誰だテメエ!!」

「口から垂れる糞の前と後にサーをつけろ、ウニ虫」


 自失から立ち直った上条は、泡を食って鋼盾を問いただす。

 対する鋼盾は煙に巻くが如くの韜晦、鬼軍曹スタイルで迎え撃つ。


「サーわけがわかりませんそれとウニ虫ってなんなのサー!
 ……おい鋼盾、どういうことだよ?」

「携帯、いるだろ実際? 青髪くんとか、連絡がとれないって困ってたよ?
 ……あと、インデックスになにかプレゼントをしたくてさ……ああ、カンパはするよ?」


 手元の十万円の使い時だろう、と鋼盾は思う。

 ……いや、ここは上条当麻が全額を支払うべきかも知れない。

 なんたってデートだ、記念すべき初デートである。


 男を見せろ、上条当麻

 見せてくれ、ヒーロー


 だが、そんなヒーローは情けないことに混乱の極みにある。

 食って掛かるように、上条は鋼盾へ問を重ねた。

97 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/24(土) 21:14:31.23 ID:ASBtGHFqo


「後者はいいんだよ! デートってなんなんだ!」

「デートはデートだろうに、逢引ってやつだよ」

「辞書的な意味なんか聞いちゃいねえよ!」

「……互いを想い合う男女が、一時の非日常を」

「文学的な表現も期待しちゃいねえよ!!」


 上条当麻激怒、超激怒である。

 ……流石にからかいが過ぎたか、と鋼盾は少しばかり反省する。


 上条とインデックスのデートイベント。

 半ば思いつきで口にしたアイデアではあったが、いくつか意図がある。

 少なくとも八割――いやさ、七割くらいは、真面目な話だ。


「ごめんごめん、冗談はおいといて、さ。
 当日まできみらに出番はないからさ、英気を養っておいで。
 ……まあ、明日のあの子の体調次第かな」

「体調?……治療の副作用、まだ続いてるのか?」


 心配そうに、上条が眉を顰める。

 二日前の時点では、彼女は背に受けた傷を無理やり癒した副作用に苦しんでいた。

 もうずっと前の話みたいだ、と鋼盾は思う。


「そうじゃない、仕掛けられた魔術の弊害だね。もう期限が近いから。
 そっちの関係で、ちょっと調子が悪くなることがあるみたいだ」

「……そうかよ、胸糞悪い話だぜ」


 まったくだ。

 首輪の機能については、既にインデックスが解析を終えている。

 専門的な内容だったので、適度に噛み砕いてもらったところによると

 「対象を、一年ごとに記憶を消さなければ狂死する体質に作り変える」というものらしい。


 頭痛等、彼女の変調はその兆候。

 ブラフでもなんでもなく、このまま放おっておけば――彼女は死ぬ。


 くそったれ

 呪われろ、イギリス清教

98 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/24(土) 21:16:17.75 ID:ASBtGHFqo


「あの子の気を紛らわせてあげて欲しいんだ、部屋に閉じこもってちゃ二日間は長すぎる。
 これまでは二十七日には起きれなくなってたらしいし、せめて明日くらいはね」

「……そういう狙いか、よし、わかった……でもよ、それなら三人で行こうぜ。
 俺とお前とあいつ―――俺達は三人で一緒だ、そうだろ?」


 上条当麻が、そう言って笑った。

 三人で一緒……本当に、嬉しいことを言ってくれるヤツだ、と鋼盾は思う。


 鋼盾と上条とインデックスで街を歩く、きっと楽しいだろう。

 だが―――


「そうだね、それはきっと楽しい。
 ――でも、そうもいかないんだよ、残念ながら」

「? なんでだよ?」


 首を傾げる上条に、鋼盾は静かに答えを返す。

 そう、鋼盾掬彦の二十六日の予定は、既に埋まっている。


「ぼくにはもうひとつ、やることがあるんだよ。
 明日、ぼくは魔術師二人とさ、話し合いをしに行くつもりだ」

「アイツらを……? って! 待てよ鋼盾!
 それこそ一人で行くような話じゃねえよ!……どう考えたって危険だ! 俺も行く!!」


 ひとりで行かせはしない、と上条は息を巻く。

 彼の懸念は尤もだが、しかし今回ばかりはそうでもないのだと鋼盾は思う。


「……いや、ぼく一人で行くよ。いろいろ考えての結論なんだ。
 信じてくれ、絶対にやり遂げてみせるから」


 ステイルと、神裂。

 彼らと対峙するのは、自分だけのほうがいいと鋼盾は思う。

 そうでなければ、だめなのだ。

99 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/24(土) 21:21:21.11 ID:ASBtGHFqo


「もう、説得の道筋はついてる。
 だけどその場にきみたちがいると、だめなんだよ」

「……なんだよ、それは」
 
「脇役端役のシンパシー、とでも言っておこうかな」


 脇役端役のシンパシー。

 なんとなく口にしたそのセリフは、しかし意外なほどにしっくりと鋼盾の胸に落ちた。


 この物語の主役は上条当麻、そしてヒロインはインデックスだ。

 だから、それ以外の人間は、たとえ誰であっても、脇役で、端役だ。



 そう。

 上条当麻では、だめだ。

 まっすぐ正しいヒーローでは、だめだ。

 その正しさを彼らは許さない、正しくあれなかった己に耐えられない。

 
 インデックスでも、だめだ。

 彼らの目的であるヒロインでも、だめだ。

 彼女を前にすれば、彼らは冷静ではいられないし、偽らずにはいられない。


 ヒーローには歌えない、そんな歌がある

 ヒロインには紡げない、そんな言葉がある

 彼らには歩む事のできない、そんな道がある


 端役なればこそ

 脇役なればこそ

 鋼盾掬彦なればこそ


 魔術師ふたりの心に触れた己なればこそ

 弱く愚かでなんの力も持たぬ無様な卑怯者なればこそ

 悪辣卑小な小心者である己であればこそ


 歌える歌がある
 
 紡げる言葉がある

 示すことのできる道がある

 成すことのできる仕事がある


 ……そうだといいな、と鋼盾は思っているわけだ。

 それはまさに願望であり、つまり願望でしかないのだろう。


 だけど。

 なんだかんだで、勝利を確信していたりする。

100 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/24(土) 21:23:22.65 ID:ASBtGHFqo


「だから悪いけど、これはぼくの仕事だ。
 ―――いいだろ? 見せ場のひとつくらい貰っても」


 ……もちろん、こんな言葉は適当だ。

 正直に言うと、上条には、インデックスには見られたくない、聞かれたくないのだ。


 己を友と、仲間と、味方と呼んでくれる二人にだけは

 鋼盾掬彦が身の裡に抱える、この無様なドロドロを晒したくない


 此度の説得にあたり、鋼盾が描いた棋譜は十二

 うち三つは誠意と覚悟と熱意を以って説き伏せる正道

 残り九つは口にするのも躊躇うような外道非道の類


 弱みにつけ込み、傷口を抉り、塩どころか塩酸を塗りこむような真似をする。

 わりとドン引きである、なにそれひどい、ちょっとどころじゃない。


 正直なところ、己がこれほど悪意にまみれた人間だとは思わなかった。

 まっとうな道が三で、その反対が九……それが鋼盾掬彦だそうだ。


 下衆め、呪われればいいのに。

 ――ああ、罰は下るのだったか。


 だが、それでいい。

 それこそが己の戦いだ。

 ヒーローになど、なれなくたっていい。


 だって

 上条当麻では成すことの出来ぬことをこそ、鋼盾掬彦はやると決めているのだから 


101 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/24(土) 21:25:59.31 ID:ASBtGHFqo


「……ねえ、上条くん。
 ぼくはさ、この一件で、きみの相棒でありたいんだよ」

「……なんだよ、いまさら。
 最初からそうじゃねえか、馬鹿言ってんじゃねえよ鋼盾」

「ありがと、……でもさ、ぼくはまだ認められないんだよ。
 ―――だからさ、その証を立ててくる」


 ステイル=マグヌスと神裂火織。

 この二人を相手にその証を立ててくるよ、と彼は笑った。


 正しいだけの言葉は、きっと彼らには届かない。

 だから、正しさなんて持ち得ぬ己がそれを成す。


 そのために、道を選り好むつもりはない。

 携えた十二本の錆槍を、何れであっても躊躇わず振るう。

 
 そこまでやって、やっと言葉が届く

 彼らはきっと、わかってくれる


 そう、鋼盾掬彦は信じている

 なんだかんだで、鉄板だと思っている
102 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/24(土) 21:28:50.38 ID:ASBtGHFqo


 “……なあ、後輩”

 “ほぼ初対面でこんなことを聞くのはどうかと思うんだけど”

 “人の持ちうる最も貫通力のある武器を知っているか?”
 

 かつて、あの六月の騒動の折、雲川芹亜が言った言葉が脳裏をよぎる。

 正体不明の謎な先輩は、笑いながら鋼盾掬彦にそんな問いを放った。


 “銃ではない、槍ではない、針でもない、ドリルでもない”

 “それは、言葉だよ”

 “故に私はそれを振るうことを躊躇うつもりはないんだけど”


 鋼盾の知る中で、もっとも悪辣で酷薄で鮮やかな武器。

 雲川芹亜が振るう無形のナイフ、その銘は“舌先三寸”。

 毒蛇のように舌が跳ねた、その艶やかな赤にかつて鋼盾は見惚れた。


 土御門を打ち払い、青髪を叩き伏せ、吹寄を穿ち貫き、鋼盾を屈服させたソレ。

 あの正体不明の先輩のように鮮やかには振るえずとも、あれを再現してみせる。



 無能力者にも牙がある、生贄の羊にも角がある

 それを示さねばならない


 インデックスのために

 そしておそらくは、鋼盾自身のために


103 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/24(土) 21:36:47.41 ID:ASBtGHFqo


「必ず、勝ってくる、約束するよ」

「……わかった、鋼盾、おまえにまかせる」


 上条当麻は、葛藤も不安も何もかもを圧し殺し、友人の作戦を是とした。

 己が無様に気絶している間に、ひとり戦い続けた鋼盾掬彦の判断を、信じた。


「……右手をぶん回すだけの俺じゃ無理、インデックスにも無理だ。
 ったく、立つ瀬がねえよ実際、なんだその余裕綽々の面は」

「いやいや、内心ビビりまくってるんだけど」

「嘘つけ」


 上条当麻は知っている。

 三ヶ月そこらの短い付き合いではあるが、知っている。

 鋼盾掬彦という男を、知っている。

 
「そこはおまえが用意したおまえの戦場だ。
 なら―――おまえが負けるわけねえよな」


 盾たらんと願う、この友人は

 なかなかどうして―――かっこいいヤツなのだと


「やっちまえ、鋼盾」


 だから、上条当麻は笑う。

 僅かばかりの嫉妬と、その百倍の昂揚を胸に。

104 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/24(土) 21:42:25.49 ID:ASBtGHFqo


 やっちまえ、と。

 そう言って笑みを浮かべる上条に、鋼盾も釣られて微笑んだ。


 ……ああ、そういえば、あの時もそうだった。

 雲川のナイフをただひとり受けきったのはこの男だった。

 幻想殺しではなく、真摯で熱い言葉ひとつで、彼は雲川芹亜を打ち破ったのだ。


 上条の言葉は、いつだって強くてまっすぐだ。

 あるいは彼なら、己では不可能であろう正道を行けるかもしれない。


 それは、逆立ちしたって鋼盾にはできないことだ。

 故に彼は上条当麻に憧れ、そして嫉妬をした。


 ……だが、ここはぼくに任せてもらう。

 呪いを引き剥がすための切り札たる上条を危険に晒すなどできない……というのは建前に過ぎない。

 なにより鋼盾が神裂やステイルに、言いたいことが山とあるのだ。


 ステイル=マグヌス

 神裂火織


 わからず屋の馬鹿野郎

 弱虫の逃げ虫の泣き虫め


 そこになおれ

 正座しやがれ


 烏滸がましいが、説教をくれてやる

 それが終わったら、一緒にインデックスを助けにいくぞ

105 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/24(土) 21:45:36.92 ID:ASBtGHFqo


「勝てよ、親友。
 俺の分までぶつけちまってくれ」

「……楽勝だ、仲間をふたりばかり増やしてくるさ。
 きみの方こそ、ぬかるなよ」

「……何をだよ」

「初デート」

「……おい」


106 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/24(土) 21:52:16.96 ID:ASBtGHFqo
――――――――――

ここまで!

つうわけで、男二人
明日はそれぞれの戦いに赴くようです

でも、次回もまだ二十五日
このふたりが猥談――もとい、ちょっとコイバナなど
このあたりは随分前から書きたかったとこなので、楽しいです


あ、そうそう
次回誘波さんが話題に登りますよ!


んじゃ、また!
次回もよろしくおねがいします!
107 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/24(土) 22:00:08.15 ID:j6ex7JADO
乙。
108 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/03/24(土) 22:09:01.79 ID:gWjy4yDOo

ここにきて誘波登場だと……?
109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/03/24(土) 22:13:29.72 ID:uncnOv/AO


ついに真のヒロイン参戦か…遅かったじゃねえかヒロイン
110 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/24(土) 22:16:42.26 ID:0io8pw6AO
乙!
コイツらの過去話が読みだい
111 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/03/24(土) 22:34:58.16 ID:cn132OBKo


話題に登る・・・誘波ちゃんに上条さんがフラグ建ててるとかか・・・?
112 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/24(土) 23:25:27.15 ID:ASBtGHFqo
おまえらが誘波さん大好きすぎてワロタ
話題に上がるだけだっつの!いざなみさんの登場は、SS2までお待ちください

……さあ嘘予告だ!
なんか酔った勢いで19巻まで書いてしまった嘘予告だ!
2巻以降はこれでお茶を濁そうかとか思っている嘘予告だ! 嘘だ!


本編を補完するSSシリーズ第二弾!
◆───────────────────────────────◆
◆とある端役の禁書再編(リミックス)SS(2)
◆【著/ ◆FzAyW.Rdbg イラスト/灰村キヨタカ 定価:536円】
◆───────────────────────────────◆
ジーンズ切り裂き魔を追う神裂、ヘンテコ魔草売り少女と出会う上条刀夜(かみじょうとうや)、
パン屋でバイトをする超能力者(レベル5)・誘波の華麗なる日々
学園都市にふらりと現れた『鋼盾嗣彦(こうじゅんつぎひこ)』と名乗る男性、
ついにその全貌を明らかにする、雲川芹亜とデルタフォース+1の『六月事件』、
鋼盾に美容師を紹介する白井黒子、『魔神』になれなかった優しい男、
初春に挑戦するハッカー少年、 刑務所帰りのナイスガイ・絶対等速、
闇咲逢魔から届いた一通の招待状、釧路帷子による介旅初矢への熱血指導、
土御門舞夏に弟子入りしたとある錬金術師による『黄金錬成(スイートポテト)』
長身美女から慕われる砂皿緻密(すなざらちみつ)、麻雀に夢中なミサカシスターズ、
何かに目覚めたシェリー、そして駒場と布束のデートコースとは……!
もう一度見たかったあのキャラたち&新キャラが大活躍! 本編を補完するSSシリーズ第二弾!


なんちゃって! 
あ、だれか20巻以降のメルマガ予告をまとめているサイトとかご存知でしたら教えて下さい!

それでは!
113 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/03/24(土) 23:58:22.93 ID:uncnOv/AO
普通に読みたいんですけどこれ
114 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/25(日) 01:14:56.30 ID:JdPnn4PvP
長すぎワロタ
ネタに困らないのはわかったからまず鋼循に美容院を紹介する黒子から消化しようか
115 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/25(日) 01:20:53.11 ID:vCK8+kW+o
道端「えーと、アフロだっけ?」
鋼盾「マッシュルームカットだって言ってんだろ!!」
116 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/25(日) 05:30:10.25 ID:Zaw46R5B0
とりあえずヘタ錬と駒場の旦那が幸せになれそうだからいいことだ、うん。
……で、発売はいつだ?
117 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/25(日) 11:22:58.40 ID:2EkXypGAO

読み返してみたら誘波さんのキャラというか設定がヤバすぎだった
118 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/03/25(日) 13:06:27.04 ID:d1oDyFbVo
> ・日本系魔術師
> ・清楚
> ・学園都市統括理事
> ・天然誘い受けエロス
> ・ヤンデレ
> ・キキ
> ・クリスティーナ
> ・第六位にして原典持ち魔導士、心を二つ持つヨモツヒラサカの封印を護りし者
> ・家出少女(元)
> ・短髪和風美少女、実は男の娘
> ・英検準2級簿記3級原付免許所持
> ・空気清浄機大好き
> ・実は郭

振り返ってみると設定ヤバ過ぎワロタ

  そだ  |------、`⌒ー--、
  れが  |ハ{{ }} )))ヽ、l l ハ
  が   |、{ ハリノノノノノノ)、 l l
  い   |ヽヽー、彡彡ノノノ}  に
  い   |ヾヾヾヾヾヽ彡彡}  や
  !!    /:.:.:.ヾヾヾヾヽ彡彡} l っ
\__/{ l ii | l|} ハ、ヾ} ミ彡ト
彡シ ,ェ、、、ヾ{{ヽ} l|l ィェ=リ、シ} |l
lミ{ ゙イシモ'テ、ミヽ}シィ=ラ'ァ、 }ミ}} l
ヾミ    ̄~'ィ''': |゙:ー. ̄   lノ/l | |
ヾヾ   "  : : !、  `  lイノ l| |
 >l゙、    ー、,'ソ     /.|}、 l| |
:.lヽ ヽ   ー_ ‐-‐ァ'  /::ノl ト、
:.:.:.:\ヽ     二"  /::// /:.:.l:.:.
:.:.:.:.:.::ヽ:\     /::://:.:,':.:..:l:.:.
;.;.;.;.;;.:.:.:.\`ー-- '" //:.:.:;l:.:.:.:l:.:
119 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福井県) [sage]:2012/03/25(日) 17:26:38.90 ID:iIIThE0bo
原付免許か……
和装でビンテージスクーターとか浪漫だな
120 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/03/26(月) 00:54:33.35 ID:vm46JMXAO
ランブレッタのターコイズに一票
121 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チリ) [sage]:2012/03/26(月) 16:36:41.37 ID:0YXZi+mt0
べスパ一択


> ・第六位にして原典持ち魔導士、心を二つ持つヨモツヒラサカの封印を護りし者

ここがネックだな、ほかも大概だけど
122 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県) [sage]:2012/03/26(月) 17:28:18.28 ID:8XEoHqggo
だがちょっとまって欲しい、誘波さんは「誘波」という集団である可能性もあるのではないだろうか
123 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/26(月) 20:15:49.95 ID:oJK5TqzCo
黄泉平坂を守護する誘波忍軍の後継者でコードネームは郭
イザナミ(能力者)モードとイザナキ(魔術師魔導師)モードを自在に切り替える特異体質

まで、幻視した
124 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/26(月) 22:52:05.32 ID:+V7+EBmto
どうも>>1です
>>122のコメを読んだら、こんなの思いついてしまったぜ!

――――――――――

 学園都市には、五千人の誘波がいる
 統括理事からスキルアウトまで、学園都市のどこにでも誘波はいる
 波が尽きることのないように、ヤツラの存在も尽きることはない

 原作で苗字だけのヤツはたいてい誘波だ!
 苗字っぽい名前が特徴だ!


 原作に登場した誘波さん(一部)

 誘波潮岸(統括理事)
 誘波エツァリ(魔導師)
 誘波郭(実は郭)
 誘波五和(日本式魔術師)
 誘波災呉
 誘波杉谷
 誘波トリック
 誘波横須賀
 誘波査楽
 誘波鉄網

 そして―――誘波誘凪(いざなみいざなぎ)

 グーチョキパン店で働く青髪ピアスの同僚
 頭脳明晰、空気清浄機マニア、かつては月詠小萌の世話になっていた
 性格は普段は清楚で天然誘い受けだがヤンデレ属性持ちである
 外見は和服の似合う清楚な短髪和風美少女だ
 そのたおやかな指先でこねくり回されたい

 だが、男だ

 そんな衝撃的事実の前では、あまりにも小さな話ではあるが
 彼が、この学園都市が誇る超能力者が第六位である

 だけど、そんなことはどうでもいいと誘波は思っている
 彼の物語はこの愛すべきグーチョキパン店で紡がれてゆく
 パン職人になるのが、誘波の夢なのだから

 寡黙で不器用で、しかし誰よりパン造りに情熱を傾ける親方
 豪快で面倒見のよい、待望の第一子の出産を控えたおかみさん
 青い髪と偽物臭い関西弁を操る同い年の同僚、青髪ピアス


 だが、そんな平穏な日々は
 ある日突然、崩れることになる。


 青髪ピアスの友人、鋼盾掬彦
 ひとつの戦いを終えた彼が、グーチョキパン店にやってきた
 第三次世界大戦が終結した、その二日後の事だった

 この世界にあふれる、よくある絶望
 それを否定する第六位の能力をこそ、彼は欲していた
 ひび割れた声が、誘波のもうひとつの名前を呼んだ


「いや、第六位、“辿黄泉路”
 ―――きみの力を、貸してくれ」


 “毀れた盾”と“黄泉路の守護者“
 
 その運命が交差する時、物語は始まる!


――――――――――

ここまで妄想した
もちろん、ぜんぶ大嘘だぜ! 大概にしろ!

アホネタばかりで申し訳ない
本編も鋭意執筆中、三日以内に更新に来ます

んじゃ!
125 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/03/27(火) 12:37:18.68 ID:auFnwcrAO
乙、面白そうじゃないか!

ただ死者復活と聞いて悲劇な予感しかしないんだぜ…原作的に考えて
126 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/27(火) 18:15:49.03 ID:eLqzlEAAO
なんという誘波一族
127 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/03/28(水) 13:56:33.18 ID:kDcg72L1o
学園都市には、五千人の誘波がいると聞いてバッカーノのシャムとヒルトン的なアレを思い出した
128 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/28(水) 20:02:46.03 ID:G2SLXph/o
誰だよ死んだの
129 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/03/28(水) 20:07:27.04 ID:kNJBRlMKo
>>128
◎上条さん
○インデックス
△美琴
●土御門
×青ピ

こんなとこじゃね?
130 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/28(水) 22:06:38.31 ID:7W/QSqHQo


「ハ、これが晴明のジジィの置土産、か。……狂ってやがる。
 ……すまないな、第六位。こんな無茶に付き合わせて」

「かまいません、それが誘波(わたし)の役割ですから。
 ……ですが、貴方――死にますよ? いえ、死ぬよりももっと、ひどいことになります」

「ああ、かまわない。
 ―――それが、土御門(オレ)の役割だ」


 大禁呪・泰山府君祭

 晴明の末裔、由緒正しき呪家の血、一千年の研鑽

 それが“背中刺す刃”……否、陰陽博士土御門元春の最後の魔術


「コウやんには、背負わせちまうな」

「でしょうね」

「……誘波は、動くのか?」

「はぐれ者の私には、そのような問い、答えかねます。
 ――ですが、鋼盾掬彦……あれは、英雄の器ではないでしょう?」

「確かにな。
 だが―――だからこそ、オレはあいつに夢を見た」


 土御門元春が笑う

 その透明な笑みに、誘波誘凪は悼むように溜息を吐いた。

 
「……幻想です」

「ああ、幻想だ。
 ―――生命を賭けるには、十分だよ……行くぞ」
 
「……ええ」


 喪うことから、全ては始まる

 祈りは、きっと届く


「「謹ミテ泰山府君、冥道ノ諸神ニ申シ上ゲ奉ル」」
 

 安倍晴明が遺した、負の遺産

 結末は、どうせ碌なものではない
 

 だけど

 それでも素敵な悪あがきを
 


    “新約”とある端役の禁書再編

     この物語に、主人公(ヒーロー)は登場しない




 ……うん、ねえな! なにこの大風呂敷!
 もちろん全て嘘っぱちだにゃー!!

 んじゃ、もうしばらくしたら本編投下します!
 では!
131 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/28(水) 22:10:43.75 ID:1fE+PUBLo
ノリノリだなww
132 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/03/28(水) 22:20:11.52 ID:eMTtF1xAO
絶好調だなww
133 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県) [sage]:2012/03/28(水) 22:30:09.53 ID:WgYvWb71o
もう誘波さんメインで一本書いたらいいんじゃないかなww
134 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/28(水) 22:52:14.46 ID:7W/QSqHQo
いやー、自由過ぎだぜ!
調子こいて小ネタに走るクセをどうにかしなきゃですな!
俺、この話が終わったら総合で嘘予告を書きまくるだけの男になるんだ……!

……あ、レス感謝です! ガチで感謝です!
んじゃ本編、参ります!



――――――――――
135 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/28(水) 22:56:47.37 ID:7W/QSqHQo


「――さあて、デートプランはどうしようか」

「まだ言うかこの野郎」


 鋼盾掬彦と上条当麻。

 その会話は、どうしてか作戦会議から雑談にシフトしつつあった。

 ぶっちゃけ、コイバナである。


「そろそろ白状しろよ。好きなんだろ、あの子のこと」

「知らねえよ、……なんだよこの修学旅行の夜みたいな雰囲気」


 渋る上条。

 バレバレだっつーの、いい加減認めればいいのに、と鋼盾はひとつ溜息。


「ま、起きたばっかで眠れやしないだろ?
 一晩中だって付き合ってあげるよ――さあ吐け、ゲロれ、歌え」

 
 戦う理由はシンプルでいい。

 正義の味方じゃなくていい、恋路の成就なんてそれこそ最高だ。


 それでいい。

 鋼盾掬彦は、そう思う。 

136 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/28(水) 22:59:34.04 ID:7W/QSqHQo


「……なあ、鋼盾」

「なんだいシンデレラ」

「おまえもシンデレラじゃねえか! つーかおまえ誰だよ?
 俺の知ってる鋼盾はなあ! 猥談になるとこっそり口数を減らしてゆくシャイなあんちくしょうなんだぞ!」

「深夜だしさ、上条くんとインデックスのことだからね」
 

 テンションも上がるというものだ。

 木山や黄泉川の気分がわかる、これは楽しい。


「ああ、今頃インデックスはきみのベッドで眠っているだろうね。
 いやー大変だね、次に寝るときはあの子の残り香に包まれちゃうね」

「……! てめッ、鋼盾!?
 ―――うああ、ちょっとからかい過ぎじゃねえの!?」


 そんな鋼盾の発言に、上条は過敏に反応する。

 顔が真っ赤である、はいはい誰得。


「ごめんごめん。
 ああ、そういや彼女パジャマがなかったからさ、きみのシャツ渡しといたから。
 いやー大変だね、次に着るときはあの子残り香に包まれちゃうね」

「更 に 踏 み 込 ん で き や が っ た だ と !? 
 食ったな? テメエ鋼盾を食って皮をかぶったなコラ! 返せ、鋼盾を返せよ!
 つーかテメエ、なにしてくれてんだよ、なにしてくれてんだよ!」

「大事なことなので」

「二回言いました! うるせえええ!」


 ちなみに下着は小萌が用立ててくれたらしい。

 ―――舞夏がいなかったら、誰が洗濯をすることになったのかは考えないことにする。

137 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/28(水) 23:01:01.77 ID:7W/QSqHQo


「ああもう、なんだこの状況……。
 ………つか、おまえはどうなんだよ鋼盾」


 上条の声のトーンが変わる。

 ひどく真剣な声……当たり前か、好きな女のことなのだから。


「なにが?」

「……おまえもアイツが好きなんじゃ、ねえの?」


 ぼそぼそと、そんな事を言う上条。

 ああもう、うっかり萌えてしまいそうですよ奥さん。

 コイツ今「も」とか言いましたよ、「も」ですよ「も」。

 なんてテンプレ、愛おしいほどにテンプレ。


 さて、なんと答えたものだろう、と鋼盾は考える。

 まあ……とりあえず、からかい尽くしておくとしようか。

138 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/28(水) 23:02:08.31 ID:7W/QSqHQo


「……ぼくはきみらの結婚式には“新郎友人”じゃなくて“新婦親族”ポジで出る気だから。
 つーかインデックスが欲しいなら、ぼくと土御門くんとステイルを倒してゆけ」

「なんだよソレ、なんでお前身内ポジに収まってんの!?
 つーかなんだ結婚式って!」

「でも神裂火織を倒せぬような輩にあの子は渡せない」

「無視かよ!! つーかハードル高ぇよ!! 
 越えられねえよ! 負けない気持ちだけじゃクリアできねえよ!」


 はいはい、止まらない未来に譲れない願い。

 そして色褪せない心の地図だ。


「ハードルが高ければくぐり抜けてしまえ。
 ―――と、冗談は置いといて……うーん、そうだね」
 

 おまえもインデックスを好きなんじゃねえの?、だったか。

 その真摯な問には、まじめに答えておこう。

139 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/28(水) 23:03:05.99 ID:7W/QSqHQo


「好きだよ、大切だ、誰よりね。ぶっちゃけなんかもう愛してる。
 でも恋愛じゃない―――ぼくには他に想い人がいるのですよ、実は」

「……誰だよ」

「内緒」


 きみが正直になったら教えてやるよ、と。

 そんなつもりで口にしたその台詞に、上条はムキになってしまったようだ。


「……吹寄! どうだ!」

「……さてね」

「じゃあ田ノ岡」

「どうだろ」

「井口」

「ブー」

「伊東」

「……クラスの子みんな言ってくつもりかい?
 ヒント、クラスの女子じゃありません」


 うん、“女子”じゃないよな。

 ……嘘はついてないよな、うん。


「む、クラスじゃないとなるとお前ぜんぜん女の子と縁ねえじゃねーか」

「……事実だけどもう少しオブラートに包めよ旗男」

 
 旗男とは違うんです。

 フラグなんてそうそう立たねえよ、ちくしょう。

140 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/28(水) 23:06:37.15 ID:7W/QSqHQo


「……お、これは自信あるぞ!
 雲川先輩! どうだ!!!」


 舌鋒鋭き謎の先輩、雲川芹亜。

 ……つーか、おまえのフラグじゃねえか、この野郎。


「憧れはあるけどね、はずれ。
 そういえば今日会ったよ……上条くんによろしくってさ」

「そっか……御坂?」


 常盤台の超電磁砲、レベル5、電撃姫、御坂美琴。

 ……やっぱりおまえのフラグじゃねえか、旗男。


「いい子だけど……彼女、好きなひとが居るみたいだね。
 ……あ、ちゃんと名前で呼んであげてるんだ」

「約束したしなー、いやこないだあった時はビリビリしてなかったし」

「そうしてあげな、よろこぶから」


 上条の思いも完全には決まってないのかも知れない。

 まだチャンスはあるかもよ御坂さん、分が悪い勝負でもいいじゃない。

 ――焚き付けておいてあれだが、別に焦って答えを出す類の問題ではない。


 ぼくらには、未来(さき)がある。

 時間はこれからいくらでもある、奪わせはしない。

 その時間を作るのが、ぼくらの仕事だ―――鋼盾掬彦はそう決めている。


 インデックスが

 上条が

 鋼盾が


 みんなが笑って過ごせる未来

 それを、きっと掴みとってみせる―――そう、決めている。

 


「……図書委員の早坂先輩!」

「違います」

「……佳茄ちゃん?」

「流石にマズイだろ、そりゃ」


 盲滅法、思いつく限りの名前を上げてゆく上条。

 ことごとく、ハズレ――つーかお前のフラグじゃねえかことごとく。

 ちくしょう爆発しろ、人誑し。


141 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/28(水) 23:08:31.51 ID:7W/QSqHQo
 

「……むう、わっかんねーな。
 あ、黄泉川先生ってのはどうよ?」


 ……おや、教師ゾーン、いよいよか。

 黄泉川愛穂、そういえば彼女には、知られてしまったのだった。

 ―――やれやれ、新学期が怖いったらねえよ実際。


「いい先生だけどね」

「親船先生」

「いい先生だけど、ね」

「うーーーん、わっかんねーなー。
 あ、青髪ンとこのバイトの誘波さん! どうだ!」


 ……担任教師を飛ばしやがった、この野郎。

 ああ、これは正解に辿り着かねえな、と鋼盾は溜息を吐く。

 つーか、誘波さんの正体を知らないのかコイツは。


「誘波さん……美人さんだけど、上条くん……知ってるの?」

「ああ、知ってる……違うようならよかった、青ピが狙ってるみたいだし」


 ――ああ、知らねえなコイツ。

 その情報、古いです上条さん。

 青髪くんのその幻想は、既に殺されてしまってます。


 問答無用の大和撫子

 無自覚誘い受け天然エロス

 ああ、パン生地の如くにこねくり回されたい


 ―――だが男だ


 ……その衝撃の事実を教えたもんだろうか。

 いや、黙っとこう。そのほうが楽しめそうだし。


「うーん……舞夏?」

「……おい、やめろ。
 じつはこの会話、シスコン軍曹に盗聴されてる可能性がある」

「おまっ……盗聴って、必要悪の教会的な理由でか?
 ……冗談だよな?」

「そうだね、そうだといいね。
 ぼくは土御門くんを信じるよ。土御門くん、今のなしだから」

「……俺も信じるぜ。土御門、今のノーカンな!」


 ものすごくいい笑顔で虚空に話しかける鋼盾と上条。

 ……ふたりとも、これっぽっちも土御門元春を信用していなかった。

 まあ、これについては彼の日頃の行い故だろうか。

142 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/28(水) 23:09:20.09 ID:7W/QSqHQo


「……む、土御門で閃いた……よっしゃ、ラスト!これで決めてやる!」

 
 上条の声。

 あ、これは当たるな、と鋼盾は笑った。

 土御門から担任である小萌の顔を思い出したのであろう、その声は確信に満ちていた。


「かなり意外だけど―――もうこれしかねえだろうしな。
 ―――つーか……そう考えると意外とアリなような気もするぜ!」


 ああ、確かに意外だろう。

 それこそ鋼盾だって予想だにしていなかったくらいだ。

 だが、意外とアリといってくれたのは嬉しい。

 いつだって彼の言葉は、鋼盾に力をくれる。


「しかし鋼盾、すごいとこいったなー。
 まあ、美人さんであることは間違いねえしなー」

「うん、そうだね――ほんと、我ながら」


 美少女と呼ばれることのほうが多いようなあのひとだけど。

 見た目だけに惹かれたわけではないが、それでもそこも含めて、だ。


 ほんとに。

 すごいとこいったもんだ鋼盾掬彦。

 つーか、成就しねえよな実際。


 でも、それでもいい

 かまわない、悪くない


 そんなことを考えている鋼盾に、上条の声が響く。

 厳かに紡がれたその一言は、ひどく意外な言葉だった。


143 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/28(水) 23:10:03.08 ID:7W/QSqHQo


「なんたってデカイしな」


 ……ん?

 デカイ? え? あれー?

 なんか月詠小萌から一番縁遠い単語が聞こえたような気がするが、聞き間違いか?


 ……あー、あれかな?

 人間性がおおきいとか、器がおおきいとか、そういうあれか?


 鋼盾は戸惑いつつも、なんとか己を納得させる。

 しかし、上条のズレた発言は止まらない。


「エロいし」


 ああ、あの夜にみせてくれた小萌の一面

 鋼盾の心を揺らしたあの艶めいた仕草


 エロい、なんていう俗な一言で片付けられるのは、少しばかり業腹ではあるが

 しっとり濡れた髪、薄く赤らんだ頬、優しく綻んだ唇、棚引く煙草の煙


 それはまさしく夏の夜の夢

 届かぬと知りつつ手を伸ばしてしまった、艶然たる立待月


 ……だが、一般的に見て(断じて鋼盾掬彦が特殊な性癖を抱えているわけではなく!)

、月詠小萌はお色気的なものが皆無であるということは否定できない


 となると

 上条くんは、この男は

 一体誰のことを言ってやがるのか

144 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/28(水) 23:10:54.54 ID:7W/QSqHQo


「……明日のアレも、ソレが理由か。
 ああ、そりゃ本気になるよな、わかるよ、わかる。
 愛した女は敵だった、いや、敵と知りつつ愛してしまったって訳だ」


 あれ? なんか

 すげえ嫌な予感が、ふつふつと

 あれー?

 え?


「……えーと」

「わかってる! みなまで言うな!……確かに悲劇だな。
 ――だがおまえはソレを否定した! おまえが脚本を書き直した!
 主役は俺じゃない、おまえが主役だ鋼盾掬彦!!」

「…………」


 すいません、ウチの相棒がほんとにすいません

 ああ、予告しておきます、今回、鉄拳制裁オチです

145 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/28(水) 23:12:04.46 ID:7W/QSqHQo



「やってやれ鋼盾!
 あいつを、神 裂 火 織 を掬い上げてやれ!

 ――もし、オマエのその恋路を阻むヤツがいるというのなら!
 そんな無粋な幻想は俺がぶち殺ビソゲブ!!?」



 温厚篤実で鳴らす鋼盾掬彦の拳が

 ゴスッ、となかなかにいい感じの音を立てて

 高らかに愛を謳う上条当麻の顎へと吸い込まれた


146 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/28(水) 23:13:08.87 ID:7W/QSqHQo


「痛ってえええ!? なにしやがる鋼盾!」

「……ちょっとそこになおれ、馬鹿野郎」



 現在時刻は七月二五日二十三時

 インデックスの記憶破壊まで、あと丸二日

 
 その大舞台を前にして

 主役と前座は、こんな間抜けな遣り取りに興じていた


 楽しそうに

 幸せそうに


147 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/28(水) 23:20:32.63 ID:7W/QSqHQo
――――――――――



ここまで!
そげぶ不発!

さて、長くなりましたが二十五日もこれでおしまい
この二人の会話は書いてて楽しい部分でした、神裂さんオチに使ってごめんよ!

次回からは二十六日
鋼盾掬彦、最大の戦いがやって参ります!

次回分はまだ全然書いてないのですが、できるだけ急いで来たいところ!
よろしければまたお付き合いください


んじゃ、またな!
148 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/29(木) 09:35:35.92 ID:Ws5ooFmDO
乙。
149 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/29(木) 10:59:52.83 ID:dETq59tYo
上条さんマジ上条さん
150 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/03/29(木) 20:27:04.45 ID:bAuxenWAO

ねーちんかわいいよねーちん
151 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/03/29(木) 21:06:08.19 ID:vUgI+27oo


鋼盾君にはやっぱり小萌先生だけは無いと思うの、他の人の可能性はあり得たとしても
152 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) :2012/03/29(木) 22:10:58.03 ID:qzEMeShAO


とりあえず新約の続きを期待してる
153 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大分県) [sage]:2012/03/29(木) 22:50:10.65 ID:LJQe5slM0
恋愛とかではないはずだが初春フラグは結構立ってると思う
154 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/30(金) 07:19:18.83 ID:NChOUftwo
次にお前らは「鋼盾?ステイル」に決まってるだろ、という
155 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/30(金) 07:20:33.12 ID:NChOUftwo
すみません、鋼盾×ステイルでした!


吊ってくる
156 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/30(金) 17:59:41.13 ID:8Xg9XZCWo
乙ゥ
157 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/31(土) 05:08:28.67 ID:xvK7Po56o
ただ楽しみに待つ。乙。
158 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/04/02(月) 01:38:21.00 ID:c0x6UQeHo
乙ー
しかし語彙力すごいな>>1
めくらめっぽうとか始めて聞いた
159 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/02(月) 08:27:49.66 ID:zron/mwzo
盲滅法☆メルトダウナー!!
160 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/04/02(月) 12:10:49.24 ID:N7nW9eRAO
大胆不敵☆ダークマター!
161 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/04/02(月) 12:15:46.74 ID:rRf4zmVho
全裸待機☆トーカマダー?
162 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/04/03(火) 12:55:39.02 ID:hn/ebIsAo
3にすべきだと、わたしのゴーストが囁くのよ
163 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/04/03(火) 12:57:16.77 ID:hn/ebIsAo
誤爆誤爆☆ヤッチマッター!
164 : ◆FzAyW.Rdbg [sage]:2012/04/03(火) 21:51:43.29 ID:m1zzbIzuo
愛情一方☆アクセラレーター!

どうも>>1です、なかなか更新に来れず申し訳ない
年度末&年度初めが鬼のように忙しいのです
週末にはなんとか!

>>158
書いといてあれですが、盲という言葉はあんまりよろしくないかもですね
個人的に滅法という言葉に満ちる“てやんでい”オーラが好きだったり





165 : ◆FzAyW.Rdbg :2012/04/07(土) 10:34:20.86 ID:3c9oLw4Vo
うがー、間が開いてしまった!
忙しいのと、クライマックスのあたりとか別の話とか書いちゃう病に罹ってました!
申し訳ねえ!

昼までには投下します
多分、>>1が昨日テレビで何を見たのかが一発で分かる内容でしょう!
金曜労働ショー!

んでは、しばし!
166 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/04/07(土) 11:58:07.44 ID:Qt3KnjYAO
乙、待機

来いよステイル、ルーンなんか捨ててかかってこい!
167 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/07(土) 11:58:23.19 ID:3c9oLw4Vo


 明けて、二十六日。

 時刻は午前十時、鋼盾掬彦は上条宅のベランダに居た。

 つい先程、デートに出かける上条とインデックスのふたりを送り出したところだ。


 さて、家主不在の上条家にどうして鋼盾がいるのかと言えば、なんのことはない。

 現在、鋼盾家&上条家の家事を取り仕切っている土御門舞夏が上条の部屋の掃除をするというので、それの手伝いを買ってでただけの話である。

 ならばと舞夏が任せてくれたのがベランダの清掃であり、鋼盾はそれに取り組んでいた。


 上条当麻の部屋のベランダ。
 
 入学間もないころは、やたらめったら鳩が迷い込みフンでエライことになっていたらしい。

 ちなみに隣室である鋼盾と土御門は被害ゼロ、さすがの上条当麻である。


 しかし、今はそんなこともないようで、割と綺麗なものであった。

 余計なものも置いていないので、ひと通り箒で掃き清めればそれで完了だ。


168 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/07(土) 12:02:29.98 ID:3c9oLw4Vo


 鋼盾はふと、ベランダの手摺を見遣る。

 ここにインデックスが落ちてきて、物語は幕を開けたという。

 そう思うと、なかなかに感慨深い物があった。


 十万三千冊の魔道書を背負う“禁書目録”の少女

 神様の奇跡すら打ち消す右手“幻想殺し”の少年


 彼らは、まさに此処で出会ったのだ

 その時己は隣の部屋でシチューとか煮てたわけだ、我ながら実に脇役である


 ヒーローとヒロインの出会い

 誰も知らない運命の則

 奇跡のような、その偶然


「……荒唐無稽だね、実際。
 空から落ちてきたヒロインなんて、さ」


 なんという天空の城、親方もびっくりである。

 とは言えラピュータに準えるには、この街は些か淀み過ぎているだろうか。

 神様に喧嘩を売ってる度数では、いい勝負かもしれないが。


 鋼盾はふと天を仰ぐ

 夏空は抜けるように青く、深い

 日差しは強く、しかし湿度はさほどでもない


 格好のデート日和、素晴らしき洗濯日和

 そして―――そう、なかなかの喧嘩日和である

169 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/07(土) 12:04:09.53 ID:3c9oLw4Vo


 鋼盾はポケットから携帯電話を取り出す。

 本日の鋼盾掬彦の予定は一件のみ、魔術師二人との対決だ。


 故に、連中に呼び出しをかけねばならない。

 本日電話をかけるとは言ってあったが、特に時間を定めてはいなかった。


 神裂火織と、ステイル=マグヌス。

 あの二人がこの街で、どのように過ごしているのかを鋼盾は知らない。

 適当なホテルにでも部屋を取っているのか、どこかに魔方陣でも書いて野宿でもしているのか。


 まあ、どうでもいいことだ。

 時刻は十時、まさか布団の中でもないだろう。

 鋼盾掬彦は携帯の発信履歴からステイル=マグヌスの番号を引っ張り出す。


 彼との通話は、これが二度目。

 一度目は徹頭徹尾、非難と糾弾と宣戦布告。

 おそらくは今回も、似たような事になるだろう。


 三度目はそうじゃなければいいな、と鋼盾は思う。

 敵ではなく友人として電話をかけることができればいい、そんな時間がくればいいな、と切に願う。

 
170 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/07(土) 12:06:06.12 ID:3c9oLw4Vo


 今日のデートで、インデックスは携帯電話を手に入れる。

 IDを持っていない彼女だから、名義こそ上条のモノだろうけれど。

 それはまごう事無き、インデックスの携帯電話だ。


 栄えある登録番号001番は、上条のものだろう

 002は鋼盾掬彦と言いたいところだけど―――なんなら譲ってやってもいいぞ、ステイル

 
 欲しくはないか、魔術師

 そんな未来が、欲しくはないか


 携帯電話の操作に悪戦苦闘するインデックス

 そんな彼女をからかって、ガブリと噛み付かれる上条当麻

 ニコニコしながら操作方法を一生懸命教える月詠小萌

 ドギマギをひた隠しにしながら番号交換をするステイル=マグヌス

 電話帳に加わったINDEXの名前に、幸せそうに目を細める神裂火織

 そんな光景を見て笑う土御門元春と舞夏の兄妹

 そして、鋼盾掬彦


 重なる日々、ありふれた出来事

 空っぽだった彼女のアドレス帳に増えてゆく名前、増えていく思い出


 幸せそうに笑う、インデックス

 奪われることのない、その笑顔


 鋼盾掬彦はそれが欲しい
 
 その為になら、ちょっとくらい似合わない真似もしてみせる

171 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/07(土) 12:09:21.95 ID:3c9oLw4Vo


 つまりはホーホケキョ、となりの鋼盾くんである。

 腹はぽんぽこ、二の腕ポニョポニョ、腿から悲鳴、トロくさいトーシロー。

 されど飛べない豚にも意地がある、外道戦旗上等、克利己上等。

 恩返しの時は今しかない、借りは返すと決めている。


 敵は火垂るの馬鹿&閃と血路の魔女タッグ。

 相手にとって不足なし、オンユアマーク―――さあ動け、早くしろ。


 鐘を鳴らせ、学園都市のせむし男

 ねじ曲がったその魂で、それでもまっすぐ成すべきをを成せ


「……と、これはディズニーだったか」


 鋼盾は小さく呟くと、一旦携帯をポケットにしまった。

 考えてみれば舞夏がすぐそばにいるのだ、ここでやることもないだろう。

 会話の展開次第じゃ口汚くもなる予定だ、聞かれちゃまずい。


 此度の戦いに観客は不要、所詮は脇役三人の舞台裏である。

 カメラは上条とインデックスのデートイベントを向いていればいい。

 爆発しろ旗男―――いや、今回は己が焚きつけたのだったか。


 とりあえず一旦自宅に帰ろうと、鋼盾はベランダのサッシを跨いだ。

 その瞬間、ポケットの中の携帯から、甘やかなギターの調べが紡がれた。

172 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/07(土) 12:12:32.05 ID:3c9oLw4Vo


 歌が聞こえる。

 耳をすませば思い出ぽろぽろ。

 爪弾き揺蕩う月の河、虹の端から聞こえてくる旋律。


 この曲が鳴るだけで馬鹿みたいに浮き立ってしまうのだから、男というのはどうしようもない。

 鋼盾はポケットから携帯を取り出す――――ディスプレイなど、見るまでもない。

 
「……定時連絡は夜、の筈なんだけどな」

 
 彼女の家から退去した際に、約束させられた幾つかの事柄のひとつ。

 最初の一回目は黄泉川からの密告報告で波乱万丈の始まりだったわけだが、昨晩はきちんと報告を入れている。

 
 ならば、どうしてこのタイミングで電話が鳴るのか。

 まさか――――なにかあったのか?

 一瞬、身を裂くような緊張に駆られた鋼盾だったが


173 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/07(土) 12:24:13.91 ID:3c9oLw4Vo


『おはようなのですよー、鋼盾ちゃん』

「……おはようございます、先生」


 暢気極まりないその飴声に、その緊張も一瞬で掻き消えた。

 正直勘弁願いたい……今から喧嘩にいくんですけどね、ぼくは。

 なんかもうピクニックにでも行きたくなってきましたよ、ちくしょうめ。


 担任教師からのラブコール
 
 とりあえず、補習のお誘いではなさそうだった


 鋼盾は口中で溜息と煩悩を噛み殺す

 甘くて苦くて、どうしようもなく笑顔になってしまうそれ


『突然電話しちゃって申し訳ないのです。
 ……なーんか、鋼盾ちゃんが無茶をやらかすような気がしたのですよ』

「…………いえいえ、そんなそんな。滅相も無いです。
 明日、ちょっと友達と遊ぶ約束をしてまして―――今日はその打ち合わせくらいしかしませんよ」


 ……物は言いよう、とは言えこれは我ながらちょっとヒドイ

 つーかなんというタイミングで電話をよこしやがるのか―――エスパーなんじゃねえの、このひと

 どうやら魔術師たちとの一戦の前に、とんだイベントが降って湧いたようである 


 月詠小萌

 あるいは魔術師ふたりを相手取るより、よほど難敵であるかもしれない

174 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/07(土) 12:54:08.93 ID:3c9oLw4Vo


『……嘘はだめですよ、鋼盾ちゃん』

「……嘘じゃないですよ、先生」


 嘘だった

 なれど、偽りはない


 本当の事なんて、鋼盾にはわからない

 本当の事以外はすべてが嘘だなんて思えない、なにもかもを晒す事が誠実だなんて思えない

 鑑定書付きの真実なんてどこにもない、いつだって足りないものだらけだ

 
 嘘をついてばかりの己ではあるけれど、その行動すべてが嘘に満ちているわけでもない

 吹いた嘘を本当にすることが、鋼盾が自身に任じた仕事であった


 嘘はだめだと、諭すように小萌は言う

 それはそうだ、反論のしようもない


 正直は、尊い

 だが―――それは子どもの美徳だ

 頭を撫でられて、いい子いい子と褒められるだけのことだ

  
 あなたにとってはぼくなんか、どうせ子どもに過ぎないのだろう

 それは知ってる、多分この先もずっとそうなのだろう

 きっとこの距離は変わることはない


 どこまでいっても大人と子ども、教師と生徒だ

 それでいい、実際その通りである


 だけど

 それでも


175 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/07(土) 13:12:45.49 ID:3c9oLw4Vo


 先生の言うことをよく聞いて、正直に、危険なことなどせずに、良い子でいれたらよかったけれど

 いつまでも貴女の羽の下にいるわけにもいかない―――与えられた幸せを貪るような真似は、もうできない

 そんな甘えを許さない、そんな無様を許さない、そんな弱さを許さない

 戦うと決めた、守ると誓った、盾になると吼えた

 

 鋼盾はこれから、魔術師二人を説得に行かなければならない

 あの迷い子ふたりに、道を示してあげたいのだ

 だからもう、子どものままではいられない


 こんな感情自体がガキのそれだと百と知りつつ

 それでも張らねばならぬ、意地がある

 吐かねばならぬ、嘘がある

176 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/07(土) 13:14:53.52 ID:3c9oLw4Vo



「ぼくは先生に嘘を吐いたことなんて、一度だってありませんよ」

『―――まったく、困ったものです、鋼盾ちゃんには』


177 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/07(土) 13:16:54.98 ID:3c9oLw4Vo



 鋼盾掬彦と月詠小萌は、そんなやり取りをした

 もしかしたらそれは、生徒と教師のそれではなかったかもしれなかった





――――――――――
178 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/07(土) 13:20:18.10 ID:3c9oLw4Vo





ここまで!
最後の方即興です、投下時間かかりすぎやで!

ジブリがいっぱい!
ふざけ過ぎて申し訳ない! いくつ入っているか分かるかなー

次回分はほとんど書けているので、あまり間を空けないで投下に来たいです
んでは、お付き合いありがとうございました
179 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/07(土) 13:22:14.07 ID:3c9oLw4Vo
>>166
コメント感謝!
スマン、ステイルは次回からです!
ルーンなんか使わせねえぜ! 喧嘩だコノヤロー!
180 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/04/07(土) 13:34:52.18 ID:UDiBDCv4o

ジブリネタで攻めてきながら最後だけ化物語の羽川かよww
181 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/07(土) 20:11:16.30 ID:Fpeomaw40

鋼盾くんを見るとぼくらのキリエくんを思い出す。
182 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/04/07(土) 23:55:08.82 ID:GXMJuzWAO


ナウシカがない、だと…!?
183 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/08(日) 21:09:57.63 ID:j9yIk0Oso


>>181
久しぶりにアンインストール聞いてみた
ちょっとレベルアッパー編のコウやんっぽいと思った

:あの時 最高のリアルが向こうから会いに来たのは
僕らの存在はこんなにも単純だと笑いに来たんだ
耳を塞いでも 両手を擦り抜ける真実に惑うよ
細いからだ……ダウトー!


そうでもなかった

184 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/10(火) 12:14:39.98 ID:YGNHDce4o
とても楽しみだ。乙!
185 : ◆FzAyW.Rdbg :2012/04/13(金) 00:31:56.23 ID:GSuV08JWo
どうも>>1です!
すぐ投下にきたいとか言っといてこの為体! ガッデム!
今晩投下します、見捨てないでくだされ

>>181 >>183
ぼくらの、懐かしいですね
キリエくんは感受性に富んだ魅力的なキャラでした
聖戦に酔わず、単純に怯えるでもなく、問い続けるその姿勢は見事でしたね

唐突にAA改変!
>>1のスキルではコウやんのマッシュルームは再現不可だったぜ!

          ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ -、
       /           ヽ
      /             | 
       }  _______     |  
      ヽ/ -    -  ヽ   /     
       f| tェ   tェ   Y  /      
.         {l         r /
        |    '      |
         ヽ、 ‐_.‐-   八
        ,.ィ>、_.  <  /:入
      /.:.:|.:{     //: : \
     /.: : : :\\ _//: : : : : : ヽ
    /.:. : : : : : : :`ー--‐´: : : : : : : : : ヽ
.   ∧.: : : : : : : : : : : : : : : : l: : : :/ : ヽl
   l.:.ハ: : :l: : : : : : : : : : : : : l: : /: : : : : : }
   |.:. :ヽ :l: : : : : : : : : : : : : l :/: : : : : : ;ク
   |.l: : :∨: : : : : : : : : : : : .:∨: : : : : /:/l
   V : : : }.: : : : : : : : : : : :.:.:|.:./: :/ /イ
  ノ: : : : :!:.:. : : : : : : : : : : :/: : :/: : /: |
  { \ヽ: :{: : :`ー-: : : : : : :l.:./ : : : / : l
  }:.:.:. :\ }\_.:.:.:.:.:.:.:.:../: : : : : :∧: :j


>>182
すんげえ無理矢理だけどナウシカもあるんだぜ……?
まったく、アホなテンションで申し訳ねえぜ

大人にこそ、ジブリを!
んじゃ、また
186 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/04/13(金) 13:11:33.34 ID:HsUF7rlOo
大人にこそ、ジブリを!
187 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/04/13(金) 23:06:54.97 ID:6IbP1WYpo
最近だと「こどもにこそ、ジブリを」の方がしっくりくる
古臭いとか言ってトトロとか見なさそう
188 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/13(金) 23:10:53.99 ID:GSuV08JWo
>>186
そうだ! 今こそジブリを!
忘れてしまった情熱を取り戻せ!

かっこいいとは、どういうことだ?
好きな人は、できたか? トンネルの向こうは? 
あの変な生き物は、まだこの国にはいるか?
いるさ! トトロはいるさ!
ウチの庭にもいるさ! たぶん!
家内安全は、世界の願いッ!!!

では、参りましょうか
投下です

そぉい!!



――――――――――
189 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/13(金) 23:11:59.70 ID:GSuV08JWo


「……で、変わりはないですかー、鋼盾ちゃん?」

「……一晩じゃ、変わりゃしませんよ。
 ちゃんと、三人で仲良くやってますから」


 やはり嘘で、しかし真実。

 上条当麻が目を醒まし、ようやく本当の事が言えた。


 今日は、朝から大騒ぎだった。

 具体的には、鋼盾の部屋にやってきたインデックスが、起きている上条を見て無言で飛びついた。


 その後の愁嘆場については割愛だ。

 いろいろあって、とりあえず照れ隠しに余計な事を言った上条が噛み付かれたりした。


 ようやく、三人が揃った。

 鋼盾、上条、インデックス。

 ちゃんと仲良く、前を向いている。

 迫る運命の夜に、備えている。

 
 ……そうそう、仲良しといえば

 これは、小萌にも報告しておかねばならないだろう


190 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/13(金) 23:13:58.81 ID:GSuV08JWo


「……そうだ、実はあのふたり、今日はデートに行ってるんです」

『……あらあらあらあら、まあまあまあまあ!』

「……まあ、とりあえず焚きつけておきました。
 いやいや、我ながら、いい仕事しましたよ」


 
 舞夏謹製の朝食を片付けて、食後のコーヒーをいただきながら。

 鋼盾は本日の予定、つまりは上条とインデックスのデートを発表した。


 リアクションは三者三様。

 苦虫を噛み潰したような顔の上条と、きょとんとした顔のインデックス。

 意外にもというか順当にというか、一番いい反応を示したのが舞夏だった。


“デート!! 上条当麻とインデックスがデート!!
 知らなかったぞー、ふたりはそういう関係なのかー! そうだったのかー!!
 どこにいくんだー!? 行くところまで行っちゃうのかー!? あ、服は!?” メイクは!?
 どうなんだー!? インデックス!?”

“ふぇ!? ふ、服はわたしこれしか持ってないかも……って、ま、まいか!?”

“駄目! それじゃ駄目なんだぞインデックス!
 よっしゃ任せるんだぞメイドたるこの私にその全てを委ねるんだぞー!
 とりあえず、先にシャワー浴びてこいやー!!”


 男ならいつかは言ってみたい台詞、かどうかは微妙だが。

 そんな舞夏は彼女らしからぬ事に、朝食の後片付けもほっぽり出して猛ダッシュ。

 数分後には土御門宅から数着の私服と、メイク道具を抱えてきた。


“さあ、そのシスター服を脱ぐんだぞインデックス!
 殻を破れ! 羽化だ! 無限の空に舞え! ハリー! ハリー!! ハリー!!!”

“ま、待って! 舞夏!! こわい! 
 なんかこわいんだよ助けてきくひこ! とうま!!”

“……よっしゃ、逃げるぞ鋼盾”

“お手柔らかにね、舞夏”
 
“ふふふ……任せれ!!
 ―――我がメイド道は世界の為にッ!!”

“ふえええええっっっ!!!?”

191 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/13(金) 23:19:12.56 ID:GSuV08JWo


 突如として始まってしまった土御門舞夏によるインデックスプロデュース。

 禁書目録改造計画である、羽化だそうだ、つまりは化けるそうだ、恐ろしい。


 もちろん男子禁制である。

 鋼盾と上条は人は迅速に上条宅へと避難した。


 そして時間つぶしに男二人、ああでもないこうでもないとデート用の服を選ぶ。

 オシャレに頓着の無い両名、大量生産品を無難に着こなす男、Mサイズ上条とLサイズ鋼盾である。

 夏装なんてどうしたってTシャツかポロシャツ、そしてジーンズがせいぜいだ。

 それでもなんとかキレイめに取り繕ったところで、玄関のチャイムが響いた。

 
 扉を開けると、そこにいたのはひとつの奇跡。

 真っ白なワンピースに身を包み、髪を結い上げ、薄く化粧を施した問答無用の美少女。

 インデックスさん(マジ天使)が御降臨である、平伏すしかない。


 見るなり顔を真赤にした上条当麻、緊張でコチコチのインデックス。

 満面の笑みを浮かべる土御門舞夏、黙って親指を立てる鋼盾掬彦。


 その後のラブコメ的展開については割愛だ。

 いろいろあって、とりあえず照れ隠しに余計な事を言った上条が噛み付かれたりした。


192 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/13(金) 23:22:16.82 ID:GSuV08JWo


『ふむ、思いの外面白いことになってるみたいですねー。
 ……まったく、先生は蚊帳の外なのですかそうですか』

「そんなわけ、ないでしょうに。
 ……そうだ、先生?」

『む? なんですかー、鋼盾ちゃん?』


 ひとつ、思いついたことがある。

 天啓のようなアイデア。

 うまくいけば、とびきり楽しいイベントになるかもしれない。


「突然で申し訳ないんですが……
 今晩、なんかご予定ってあったりしますか?」

『ん、これから学校で片付けなきゃいけない仕事はありますが。
 ……そうですねー、七時とか、そのくらいからなら大丈夫なのですよ?』


 そいつは重畳、と鋼盾は笑みを深める。

 上条とインデックスも、夕方には帰宅する運びとなっている。

 今夜の予定は白紙、ならば。


「夕食にご招待したいな、と思いまして」

『……ふぇ? 晩ごはん、ですか?』


 デートのお誘いに……なんて冗談は飛ばせなかった。

 さんざん上条を煽っておいてこれだ、困ったものだが仕方ない。


193 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/13(金) 23:23:19.25 ID:GSuV08JWo


「んー、壮行会というか、前祝いと言うか、リハーサルと言うか、結成式というか」

『……わけがわからないのですよ、鋼盾ちゃん』

「まあ、晩ご飯です。
 舞夏……土御門くんの妹さんと、あと……インデックスのともだちを招いて」


 インデックスの、ともだち。

 ステイルと神裂、もそこに招こう。

 
 今回の騒動に関わった人間すべてを一堂に集め、ごはんにしよう。

 そのためには当然、このあとの魔術師ふたりとの戦いに勝利せねばならないわけだが。


 ……できるか? 鋼盾掬彦。

 もちろんできるさ、楽勝だ。


『……むむむ、それは見逃せませんね!!』


 弾む飴声、月詠小萌。

 このひとに見せてやろう、インデックスの笑顔を守るべく理不尽に挑む、ぼくらの軍勢を。


「ええ、みんないい子ですので、是非」

『ん! それじゃ先生は、それを楽しみに午後も仕事を頑張るのですよ!』

「がんばってください……それでは、夜に」

『はーい』


 そんなやり取りをして、通話を終える。

 役目をおえた携帯をしまう鋼盾へ、背後から声がかかった。


194 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/13(金) 23:29:42.51 ID:GSuV08JWo


「おつかれなんだぞー」


 声の主は土御門舞夏。

 既に掃除を終えたのか、その手にはなにもない。

 塵一つないフローリングが眩しい、流石の手際である。


「そっちこそ。
 ……すごいな、あっという間にピカピカだね」

「まあ……鋼盾掬彦といい上条当麻といい、意外と整理整頓が行き届いているからなー。
 ……まったく、ウチのグータラ兄貴とは大違いなんだぞー」


 お褒めに預かり光栄である。

 が、件のグータラ義兄に関しては、舞夏に世話を焼いて欲しくてそうしてる可能性も高そうだが。


「……んで? なにやら楽しそうな話が聞こえてきたけど、今夜はパーティなのかー?」


 換気のため、ベランダのサッシは開け放たれていた。

 特に声を潜めていたわけでもない、通話はすべて丸聞こえだったようだ。


「ああ、きみに相談もせずに悪かったね。
 ちょっと思いついちゃってさ―――料理、お願いしていいかな?」


 家事は舞夏の領分だ。

 故に鋼盾の思いつきは、彼女の仕事量を増やすことに他ならない。


 ……が、この子のことだ。

 鋼盾は思う、おそらく目の前のメイド様は、嬉々として―――


「もちろん! 血が騒ぐんだぞー!
 で、何人分用意すればいいんだー?」


 その腕を存分に奮ってくれるようだ、まったく有り難いことである。

 さて、人数はと言えば……ひのふのみのよのいつむうなな、そして。


「ぼくら四人と、小萌先生―――ウチの担任がひとり。
 そして、プラス二人ってとこかな? ……もうひとりくらい増えるかもしれないけど」


 もうひとり。

 鋼盾の頭に浮かんだのは、舞夏の義兄、土御門元春だった。
 
 来れる筈もないとは思うも、彼もまた必要悪の教会の一員で、此度の騒動に関わる者だ。

 
 ふむ、と舞夏は顎に手を当てて黙考。

 おそらくは如何にその大人数を歓待するか、思案しているのだろう。


 いきいきとしたその表情、やはりメイドは彼女の天職だ。

 全くもって、羨ましい話である。


195 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/13(金) 23:40:24.37 ID:GSuV08JWo


「ん……七人、ないしは八人ってとこかー。
 食器が足りないなー……というか、会場はここだよなー? 
 ……ちょーっと、狭い気がするけど」

「ぼくの部屋でもいいけど……広さは変わんないしな」

「だよなー……むう、どうしたものか」


 ワンルームの学生寮、さしもの舞夏とは言え、限られたスペースを広げることは不可能だ。

 正直、今朝の四人での朝食だって、手狭な感は否めなかった。

 とは言え、それは大した話ではないと鋼盾は思う。


「……でもさ、狭いくらいの方が楽しそうだろ? ウチから食器とテーブルを持ってくるよ」

「ま、格式張ったものじゃないんなら、どうとでもなるけどなー。
 ……よし、いっちょやってみるかー」

「ああ、掃除も完璧だし、なるようになるさ」


 むん! と袖をまくる舞夏。

 まったく、頼れるメイド様である、頭が下がるぜホント。

 
 舞夏の頼もしい台詞に目を細める鋼盾。

 そんな彼に、舞夏は笑ってこんなセリフを言った。
196 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/13(金) 23:48:25.27 ID:GSuV08JWo

 
「……それはそれとして、なんだがなー?
 その泰然自若かつ澄み切った覚悟漂う表情はなんなんだー? 鋼盾掬彦」

「漂わせてねえよ、そんなん」


 ……なんだそりゃ、と戸惑う鋼盾。

 思わず傍にあった姿見を見れば、いつもの間抜けな顔がそこにあった。

 驚きのブサメンである、まったくもってどうしようもない。



「ふふん、メイドさんの眼力を侮ってもらっちゃ困るぜー。
 ……最後の晩餐とか、ちょっと死亡フラグの匂いがするんだぞー?」

「……最後にするつもりはないけどね。
 つーかフラグなんてそうそう立たねえよ、旗男でもあるまいし」


 そんなかっこいいフラグとやらと、己は悲しいほどに縁遠い。

 そういうのは、ことごとく上条の役割である、旗男め、なんなんだアイツは。


 旗を立てるは、いつだって他の誰かだ……鋼盾はそう思う。

 が、どうやら舞夏はそうは思わなかったようである。
197 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/14(土) 00:02:51.82 ID:bHNMbTv5o

「そうでもないと思うんだがなー?
 ……まあ、それはいいとして……私の仕事は、どうやらそれで、終わりなのかなー?」

「……ん。
 そうだね、明日でいろいろ決着が着く。
 だから―――きみに家事をお願いするのは、今日の夜が最後になるかな」


 明日にはインデックスは倒れてしまう、それは確定だ。

 それを舞夏に見せて、余計な心配をさせることもない。


 だから 
 
 この子とは、一旦ここでお別れになる。

 どうやって切り出そうかと思案していた鋼盾だったが、舞夏は既にそれを予期していたという。


 メイド様の眼力、侮りがたしである、怖い怖い。

 ―――聡い子だ、ほんとに。


「……そっか。
 なんとなく、そんな気がしてたんだぞー。
 上条当麻が目を覚ました以上、話は先に進むんだろう、ってなー」


 少しばかり、寂しそうに舞夏は微笑む。

 いつだって蚊帳の外に置かれてしまう彼女は、今作とは別の物語のヒロインである。
 
 それを告げる役割は、その物語の主人公たる土御門元春のものであろう。

 過保護な兄貴がいつか、それを告げることもあるのかもしれない。


 しかし、それは今ではない。

 鋼盾としても、舞夏を巻き込むことは望むところではなかった。


「……なに、ただの一区切りだよ……明後日からはまた通常営業だ。
 ―――これからも、インデックスを頼むよ、舞夏」

「ああ、もちろんなんだぞー。
 ……インデックスは、友達だからなー」

「ありがとうね、ほんとに」
 

 ほんとうに、なによりもそれがありがたい。

 同年代の女の子の友達、鋼盾にも上条にも小萌にも成せぬ、そのスタンス。


 彼女の存在は、きっとインデックスの中でも、確たる地位を占めるだろう。

 そしてそれは、きっとあの子の力になる。

 明日を願う、その力になる。
198 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/14(土) 00:13:40.57 ID:bHNMbTv5o


「……そうそう、ところで料理はなにがいいんだ鋼盾掬彦ー?
 和洋中米印独仏露、スリランカトルコエジプトアステカジンバブエ!
 なんでもござれだぜー、言ってみるといいんだぞー」


 明るい声で、舞夏が今夜のメニューについて聞いてきた。

 最後の仕事、それを完璧にこなしてみせる―――そんな決意が透けて見えた。


 流石の万能っぷりである、ジンバブエ料理とか未知の領域すぎる。

 まあ、この子ならどんなものでもつくってくれるだろう、それこそ魔法のようにだ。


 が、特別なものなど望まない

 強いて言えば洋、いや、これは既に和ですらあるかもしれない。


 ありふれた、普通の家庭料理。

 ホワイトだろうが、クリームだろうが構いやしない。


 本日のメインディッシュは、これしかないだろう。

 お願いします、料理長。
199 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/14(土) 00:17:39.62 ID:bHNMbTv5o


「シチュー、お願いできるかな?」

「……ほう、その心は?」


 意外、とばかりに瞬かれる舞夏の目。

 なるほど、真夏にシチューというのは少しばかりおかしなチョイスである。

 だが、ぼくらにとっては思い出の料理なのだ、と鋼盾は笑う。


 初めてあった、あの日。
 
 ふたりで食べた、真っ白なシチュー。

 あれが食べたい、そんな事を彼女は言っていた。

 元気になったら一緒に食べよう、三人でそんな約束をした。


 そして、あの子は元気になってくれた。

 ならば、約束を守ってあげねばならないだろう。

 
200 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/14(土) 00:34:31.34 ID:bHNMbTv5o

 
「インデックスの好物なんだよ。
 ――元気になったら、一緒に食べる約束だったんだ」

「ふむふむ……よし、任された。
 シチューがメインで、副菜の類もいろいろ用意しておくんだぞー」


 うむうむと、思考に没頭する舞夏。

 既に食卓のイメージは固まっているようだった。


 狭い食卓に並ぶ至高のメニュー。

 そして、それを囲む笑顔、笑顔、笑顔。

 
 欠けるもののない、幸せな食卓。

 そしてそれは、運命に挑むための祝儀膳でもある。


 胃を満たすだけではない、そんな食卓

 鋼盾はそれを望み、そして舞夏はそれを請け負った


「頼んだよ。
 って、買い出しにいかなきゃね……あー、用事が済んだらぼくが行くから。
 ―――必要なもの、書き出しといてくれる?」

「んにゃ、私の方でやっておくんだぞー。
 ……やること、あるんだろー? そっちに専念するといいんだぞー」


 ……それもお見通しだそうだ。

 もはや驚きすらない、感謝するしかない。


「……ありがと。悪いね……ああ、お金、預けとく。
 ―――って、財布は家だな」

「ん? ああ、立て替えておく。
 あとでまとめて請求するから、心配無用なんだぞー?」

「……世話になるねえ――バイト代くらい払うぜ? ホントに。
 考えてみれば、メイドさんにタダ働きとかさせられないよ」

「はは、そんなのいらないんだぞー。
 ほんと、いい研修になってるし―――十分、報酬も貰ってるから」
 
「……そっか」

「そうだぞー」 


 そう言って笑う舞夏。

 ……まったく、敵わない。
201 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/14(土) 00:40:17.56 ID:bHNMbTv5o


「……んじゃ、私は繚乱の寮から大鍋とってくるかなー。
 明日の朝ごはんにもなるし……あ、今日の昼ごはんはどうしようか?」
  

 時刻はもう十一時近い。

 さして動き回りもしなかったので空腹も感じないし、なにより電話の結果次第じゃ即対面だ。

 上条とインデックスもいないし、舞夏に負担を強いることもないだろうと鋼盾は思う。


「……んー、ちょっと帰りの時間が読めないから、用意しなくていいよ。
 インスタントラーメンとかも買ってあったし」

「……ほーう、私の手料理を差し置いて、既成品で済まそうとはなー……」


 恨みがましく、そんな事を言う舞夏。

 もちろん彼女の手料理とは比べるべくもないが、それはそれだ。


「はは、その分夜に期待させてもらうさ……なんなら昼は抜いとくよ。
 ……んじゃ、まかせたぞメイド様」

「はいはい、任されたんだぞー、ご主人様。
 じゃ、ちょっと行ってくるんだぞー」

「気をつけて、ね」


 舞夏が居る以上、宴の支度は万全だ。

 ならば己も、己の仕事を頑張るとしよう。


 鋼盾の仕事は今夜のパーティの主催者、ホスト役である。

 なにせ小萌を招いたのだ、ゲストが揃わぬなどという不手際など晒せない。


 鋼盾は負けられぬ理由をもう一つ積み上げ、鋼盾は舞夏を見送った。

 



――――――――――
202 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/14(土) 00:43:40.35 ID:bHNMbTv5o


「……んで、鍵がないわけなんだけど」


 そして結局、上条宅に取り残されてしまった鋼盾掬彦である。

 上条は鍵を持って行ってしまったし、おそらくは持っているであろう舞夏も同様だ。

 とは言え舞夏の方はすぐに帰ってくるだろうから、別段困ることもない。


「……まあ、ここでもかまわないか」


 ボソリと、そんな台詞を呟いて、鋼盾はベランダに出る。

 それは、逃げも隠れもしないという彼の意思表示にほかならなかった。


 ……さて、それじゃあいよいよ本番だ。

 鋼盾は携帯電話を取り出すと、目的の電話番号を引っ張りだす。

 臆せず発信、無機質なコール音。

 前回は20コールほど待たされたが、今回はすぐに繋がった。
203 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/14(土) 00:45:54.13 ID:bHNMbTv5o


「やあ、一日ぶりだね、ステイル」

『…………鋼盾、掬彦』


 電話口から声が響いた。

 怨嗟炎炎、聞く者の耳を焦がすかのような声音。

 そのドスの利き具合といったらそれはもう、看板に頼らない自前の貫目。


 ステイル=マグヌス。
 
 必要悪の教会がエージェント、炎の魔術師、ルーンの天才児。


 あらためて考えてみれば、凄まじいステータスである。

 積み重ねた経験も蓄えた知識も、己のずっと上を行くだろう。

 戦力差など比べるに馬鹿らしい、鋼盾が何人いたって勝てるわけがない。


 それは、どうしようもない事実だ。

 だが、なんということもない。

 強がりでもなく、そう思う。


 それは最初から解っていたことだし、木山春生の予知もある。

 そして、なによりも―――この胸に渦巻く、確信がある。
204 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/14(土) 00:49:26.25 ID:bHNMbTv5o


 鋼盾掬彦には、未来が見えている。

 多分、渦中の人間の誰より強く、それを確信している。

 
 その未来ではインデックスが笑っている

 上条当麻が笑っている、月詠小萌が笑っている

 土御門元春が笑っている、土御門舞夏が笑っている

 
 そして、ステイル=マグヌスが笑っている

 もちろん、神裂火織も笑っている


 鋼盾掬彦が思い描いているのは、そんなハッピーエンドだ。

 それを成すための手段も、用意した。


 絶望を先送りするだけのおまえらとは、見えているものが違う。

 哀しみを積み上げることしかできないおまえらとは、覚悟が違う。
 

 偉ぶってるんじゃねえよ、魔術師

 未来も語れず、我が身を嘆くだけのガキが


 おまえらなんかに、負けるわけがない

 負けるわけがない
205 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/14(土) 00:54:06.26 ID:bHNMbTv5o


「単刀直入に言おう。約束通り証拠を用意したよ。
 きみが望んだ、証拠だ。―――さあ、出てきて話を聞いてもらおうか」


 言ってやりたいことが山とある

 言ってあげたいことが山とある


 おそらくは、此処が鋼盾の最後の戦いだ


 刀槍を執り、拳を握り、走り回るだけが戦闘ではない。

 異能を操り外法を操り、超常の力を奮うばかりが戦闘ではない。


 能力に依らず、腕力に依らず―――彼らふたりを説き伏せろ


 それが、おまえの仕事だ

 それが、おまえの戦いだ
 
 それが、おまえの役割だ
 

 主人公にはなれなくていい

 それは上条当麻が、おまえのヒーローが十全にこなすだろう


 アイツはいつだって、おまえの期待に応えてくれる

 ならばおまえはどうする? 鋼盾掬彦

 
 ―――そんなの、決まってる

 当り前のことを聞くな、馬鹿野郎


 鋼盾は笑う

 笑いながら、ひとつめの槍を構える
206 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/14(土) 00:57:15.71 ID:bHNMbTv5o



「さあ、未来の話をしよう。
 ハッピーエンドの話をしようよ、ステイル」




 七月二十六日、午前十一時

 ひとつの戦いが、幕を開けた
 

 




――――――――――
207 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/14(土) 01:01:10.85 ID:bHNMbTv5o


ここまで!
携帯でメールしながら推敲しつつ投下とかやるもんじゃねえぜ!
SSのテンションがメールに伝染るんです、洒落になんねえ!

次はステイルですね
がんばります

んじゃ、次回もよろしくです
良い週末を!
208 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/14(土) 01:11:24.44 ID:tt3UHllso
おおおお、たまらんぜ。乙!
209 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/14(土) 17:52:53.27 ID:ua1kHPjAO
躊躇なく乙
210 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/04/16(月) 09:06:17.30 ID:mgvtte5P0
211 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/18(水) 22:46:47.17 ID:d0LhgKFbo
どうも>>1です!
ひゃっほう投下だ!

そぉい!


――――――――――
212 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/18(水) 22:49:23.91 ID:d0LhgKFbo


『……証拠、ね』

「ああ、証拠だ。
 ―――きみらが望んだ、証拠だよ」


 証拠。

 それが鋼盾掬彦の手の中に、ある。

 すばらしいことに、その解決策まで一緒にだ。


 英国の裏切りの証左たる、呪の首輪。

 そして、それをぶち殺すことのできる、上条当麻の右手に宿るモノ。


「それを見せてやる。今からでも会って、話がしたい。
 きみたちふたりとね。……神裂さんは、そこにいるのかな?」

『……神裂は、あの二人の監視にあたっている』


 なるほど上条の担当は、確実に勝利できる彼女というわけか。

 もしくは―――逃げたかな、神裂火織。


 鋼盾掬彦は歪に笑う。

 頬の傷がじわりと甘やかに痛む、心地よいほどに。


「出歯亀とは趣味が悪い。
 ……呼び戻してくれ、神裂さんにも話がある」


 ステイルと神裂、両名に用があるのだ。

 二度も繰り返せるようなことではない、そいつは流石にちと恥ずかしい。

 だから呼び戻せ、そう鋼盾は要求する。

 そんな鋼盾へ、冷ややかにステイルはこう返した。


213 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/18(水) 22:51:33.31 ID:d0LhgKFbo


『……信用出来ないね。
 きみを囮にして、あの二人が逃げる可能性だってある』
 

 ああもう。

 ……この期に及んで、そんな台詞。

 実につまらないことを言うものだ、と鋼盾は溜息を吐く。

 当然の警戒なのかもしれないが―――ここは空気を読んで欲しいところだ。

 
 鋼盾掬彦の描いた絵図は、そんなちっぽけなものではない。

 目先の絶望をやり過ごす事に一生懸命なおまえらと、一緒にしてもらっては困るのだ。


「だいじょうぶだよ、ふたりは帰ってくる。
 なんたって、今日の晩御飯はあの子の大好物だからね」

『……戯言を』

「戯言なんかじゃない、心底真面目に言ってるんだけどね、ぼくは」
 

 インデックスは、今日という日を満喫して帰ってくる。

 帰ってきたらみんなでいっしょにごはんを食べて、いろんな話をする。

 ありふれた幸せを、存分に噛み締めて貰いたい。


 そして――明日がくる。

 運命の七月二十七日が来て、上条当麻が首輪を破壊する。

 
 それは、既に必然。

 だから、逃げる必要がない。

 嘘を吐く必要もない。


214 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/18(水) 23:00:54.95 ID:d0LhgKFbo


「誓うよステイル。嘘はない。
 もし嘘だったら―――そうだね、この首を切り落としてくれても構わないよ」

『……口ではなんとでも言えるさ。
 そもそも、無神論者の君がなにに誓うというんだい?』

「確かにぼくは神様なんて知らないけどね。
 ―――でも、そんなものより尊いものを知っている」


 誓いとは、神やら佛やらに捧げるばかりじゃない。

 約束というのは、人と人のものだ。


 鋼盾掬彦はそう思う。

 そう思うのだ、ほんとに。

 この身も、いくつも大切な約束を抱えている。

 それは、たとえ神様にだって否定はさせない。

 
『異教徒が……言ってみろ、なにに誓うつもりだ』
 

 十字教の神父が、そんな事を問う。

 野暮な話だ、宗教なんかやってる奴はコレだから困る。
 
 蒙昧な一神教徒め、世界をお前らだけのものさしで測るんじゃねえよ。

 ぼくときみが交わす約束なんだから、誓うものなんて限られるだろうに。


 鋼盾は笑って、ステイルの問いに応える。

 指切拳万針千本、なんでもこいだ。


215 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/18(水) 23:01:39.91 ID:d0LhgKFbo


「ぼくらの友情に。
 そして、あの子の未来に――不足かな?」

『………………』


 沈黙。

 こういう時電話というのは不便だ、滑ったかなあと鋼盾はほんの少し不安に思う。

 だが、どうしようもなく本音なのだからしかたがない。

 相手は外人さん、ハートフルに行かなくては、だ。


「昨日も言ったかもしれないけどさ、もう一度。
 ……ぼくはね、やれることはすべてやってきたよ、ステイル」


 “対価も代償も支払うし踏み倒す”

 “必要なありとあらゆるものをかき集める”

 “反則でも裏技でも禁忌でも、使えるものはなんだって使えばいい”

 “そんなものより優先すべきことがある”


「―――きみが示してくれた道だ。
 あの日からぼくは、ずっとそうやってきたつもりだ」


 おっかなびっくり、迷いまくりの惑いまくりだったけど。

 それでも、前に進んできたという自負が、鋼盾にはある。

 
 そしてその自負は魔術師ども、おまえらがけして持ち得ぬものだ。

 先送りを是とした人間にはけして掴めぬ可能性、己が手に入れたものは、そういうものだ。


 だから、鋼盾掬彦は揺るがない。

 だから、こんなにもまっすぐ立っていられる。

 だから、ちょっとかっこいいセリフだって言ったりもできる。


 似合わないのは百も承知。

 分相応に、隅っこの方で生きていければそれでいいと思っていたけれど。

 でも、それじゃあ手に入らないものがあるらしいので、ちょっと無理をしてみよう。


 滑稽と、笑われたって構わない

 身の程なんて、誰にだって測れない

 なにより己はひとりではない


 だから

 素敵な悪あがきを、ここに誓おう

 
216 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/18(水) 23:02:47.36 ID:d0LhgKFbo


『……おざなりな説教さ。
 あんな適当な台詞、誰にでも言えるだろうに』


 搾り出すように、ステイルが呟く。

 二人の胸に去来したのは、出会いの夜。

 互いに互いを知らぬまま、ちょっと夢や未来など語ってしまったあの日のこと。


 鋼盾掬彦にとってのターニングポイントは、きっとあの夜だった。

 上条でも、インデックスでも、小萌でもなく―――ステイル=マグヌスこそが、そうだった。


 だから鋼盾は、ステイルのそんな物言いを認めない。

 神父の愚痴なんぞ、それこそ神様にでも聞かせておけばいい。


「上っ面な言葉にあんな熱が宿るものか。
 ……あの夜を、きみの覚悟を汚してくれるな」


 きみが宿す炎の熱は、その火を分けてもらった己が一番良く知っていると。

 鋼盾掬彦は静かに吠える、今もその火は熱を保っている。


「ステイル、きみはこうも言ったね。
 ぼくらの目指す場所は同じだと、いつかきっと辿りつける、って」

『……そうだね、確かにそう言った』


 守るべき少女の為に、最強を誓った炎の防人

 弱い自分を変えたいと、鋼の盾になりたいと望んだ己


 共通点なんてそれこそ性別くらいの、似ても似つかぬぼくらだけれど。

 確かにあの日、ひとつの理想を共有した。


 強くなりたいと

 大切なものを、まもれるくらいにと


217 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/18(水) 23:03:41.84 ID:d0LhgKFbo


「……ああ、ぼくらの目的は同じだ。あの子の笑顔だ。
 そのぼくが、あの子の笑顔を守るすべを得たと言ってるんだよ?
 ―――だからさ、ステイル……きみらには、それを聞く義務がある」

『……そんな義務なんてない、なぜ僕が、君の言葉に耳を傾けなくてはいけないんだ?
 ――――思い上がるな、英雄気取りの素人が』

「そっか……なら、本当に残念だけど話はここまでだ。
 でも―――最後にひとつ言わせてもらうぞ、ステイル」


 単純な説得は届かない。

 それは、最初からわかっていた。


 だから話はここまで、ここからは予定通りに喧嘩といこう。 

 思い上がってるのはおまえの方だ、迷子の魔術師。


 買えよ、ステイル。

 多分これっきりだぞ、ぼくが喧嘩を売るのなんて。


218 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/18(水) 23:04:21.43 ID:d0LhgKFbo


「……逃げてんじゃねえよ、ステイル=マグヌス。
 都合の悪い事に耳を塞いで逃げまとう――そんなのは強者の選択じゃない、弱者の逃避だ」
 

 諦めてしまったおまえが、強者を名乗るな。

 問題を先送りにすることしかできないおまえが、強者を名乗るな。

 足掻く者を蔑み、話を聞こうともしないおまえが、強者を名乗るな。

 少女ひとり救えないおまえが、強者を名乗るな。


「そうだな――魔法名をinvalidusにでも書き換えろよ。
 無様なおまえにはそれがお似合いだ、臆病者」


 紡がれた言葉は、踏み躙る足の裏。

 魔法名は誇りであり、魂の名前であるとかつてステイルは言った。

 それを書き換えろとは、まさに最大限の否定であり、この上ない侮辱であると言えた。


 焼き殺されてもおかしくない。

 だが――これは故なき揶揄ではない、鋼盾掬彦はそう断じる。


219 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/18(水) 23:05:28.20 ID:d0LhgKFbo


『……魔法名の意味を知ってその台詞、いい度胸だね。
 ―――殺すぞ鋼盾、その侮辱、死を以って償わせてやる』


 ステイルは、鋼盾の言にそのように返した。

 電話口より響く、聞く者の耳を呪い焦がすかのような言葉。


 殺すぞ、だそうだ。

 怖い怖い――だが、舐めるな。

 おまえの言葉なんかで、今更揺らぎはしない。

 逃亡者の遠吠えなど、はっきり言って失笑モノだ。


「きみがぼくに言っていることも同じようなものだっての。大概にしろ。
 ―――電話じゃ埒が開かねえよ、さっさとその顔を晒せ、ステイル=マグヌス」


 今更覚悟など問うてくれるな、と鋼盾は言う。

 そんな段階はとうに過ぎているのだ。


 この身は既に覚悟を終えている。

 だからおまえもいいかげん、覚悟を決めろよ。


220 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/18(水) 23:16:21.86 ID:d0LhgKFbo


「逃げるな、魔術師」

『……三十分後、その建物の屋上に来い。鍵は外しておく』


 会合の了承。

 だが……確認しておかなくてはならないことが、一点。


「神裂さんも、ね」

『……禁書目録には監視の式を付ける。
 ―――妙な目論見を起こそうとはしないことだ』

「もちろん」


 もちろんだ。

 妙な目論見など、ひとつもない。

 鋼盾掬彦がやりたい事は、たったひとつだけなのだから。


『……肝に銘じろ、鋼盾掬彦』


 ステイルが、噛み付くように吠える。

 声には敵意、火のように攻撃的なそれ。


『君の言う覚悟と算段とやらが、その啖呵に見合わぬものであれば……容赦はしない。
 我が最奥をもって貴様を殺す、肉も骨も臓腑も願いも、灰すら残らぬと知れ』

「……上等だ、それじゃ、三十分後に」


 通話終了。

 およそ五分の遣り取りは、それで幕を閉じた。
 

221 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/18(水) 23:18:13.43 ID:d0LhgKFbo


「……おっかないったらないね。
 別に、討ち入りにいくわけじゃないんだけど」
 

 ベランダの柵に背を預け、鋼盾掬彦は笑う。

 それは、極めつきの悪事を為す者にしか浮かべられない類の笑いだ。


 何もかもが嘘で本当。

 恐怖はあるが、怯懦はない。

 つまり、討ち入りだ、と言っているわけだ。


 稀代の炎術師と極東の聖人。

 鋼盾掬彦がおまえらふたりを相手取り、討ち取ると。


「……インデックスが絡むと途端にガキ、か。
 ホント、聞いてたとおりだね、まったくもって度し難い」


 迷子だ、アレは。

 自分が迷ってしまっていることも認められない、哀れな迷い子だ。


「徹底が足りないよ、ほんとに。
 ―――みっともないったら、ないね」


 いっそ、愛おしくすらある。

 彼らがプロフェッショナルに徹したら、こんな局面にはならなかった。

 甘いのだ、甘くて甘くて、笑顔になってしまう。
 

「……そう思うだろ、ねえ――」


 鋼盾は、壁に仕切られた隣室のベランダに向かって言葉を掛ける。

 自宅とは反対側の、隣室へ。


「―――土御門くん」

222 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/18(水) 23:20:06.12 ID:d0LhgKFbo


 その、揺るぎない確信が込められた言葉を受けて。

 観念したように、壁越しに溜息混じりの呟きが帰ってきた。


「……気配は完全に消してたつもりなんだがにゃー」


 クラスメイトで隣人の隣人、土御門舞夏の義兄

 英国清教所属のスパイ、晴明より連なる陰陽の血筋

 シスコン軍曹、金髪グラサン野郎

 禁書目録、初代のパートナー



 土御門元春

 鋼盾掬彦の友人の声が、響いた

 


――――――――――
223 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/18(水) 23:24:28.71 ID:d0LhgKFbo

ここまで


あらゆる困難が科学で解決する、この学園都市に
人々の閉ざされた心の闇に蔓延る 魑魅魍魎が存在していた。
科学の力ではどうしようも出来ない、その奇っ怪な輩に立ち向かう
神妙不可思議にして胡散臭い男がひとり。

その名は土御門元春、そう、人は彼を陰陽師と呼ぶ。


というわけで、微妙なパクリ改変はともかく!
そんな土御門さんの登場でござる。

インデックス初代のパートナー
彼にも伝えなくてはいけないことがあるでしょう

というわけで次回は土御門回です
よろしくお願いいたします
224 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/04/19(木) 11:40:21.58 ID:eeXfqJQ4o
乙ですの

鋼盾なんでこんなに度胸あるん
225 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/04/19(木) 12:19:04.53 ID:/qI+oHHAO
ステイルと神裂さんがあのザマだからな

226 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage saga]:2012/04/19(木) 13:32:11.89 ID:V9jXY/I7o
コウやん……
ほんとに何なんだアンタww
気配を読んだのかパターン……じゃなくてつっちーの行動を読んだのか
227 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage saga]:2012/04/19(木) 13:32:11.89 ID:V9jXY/I7o
コウやん……
ほんとに何なんだアンタww
気配を読んだのかパターン……じゃなくてつっちーの行動を読んだのか
228 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage saga]:2012/04/19(木) 13:34:41.60 ID:V9jXY/I7o
あるぇ?一回しか書き込む押して無いのになんで二重になってんの?
書き込んだ時に2chmateがバグって止まったのが原因か?
229 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/19(木) 22:29:42.00 ID:Gpo7P/5ao
>>227
いるのは分かってるぜ?出てこいよ

って偶に部屋でつぶやくだろ?あれと同じだよ
230 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/19(木) 23:23:46.64 ID:/UrN6k1Vo
ふっ、わかってるぞ……?
お前が俺の心を読んでいる事など、まるっとお見通しだ!!
だから、読心能力は使わないほうがいいぜ……?


みたいな感じですね、わかります
231 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/04/20(金) 12:46:41.51 ID:ugvDBPLao
ドーマン!セーマン!ドーマン!セーマン!
232 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/20(金) 23:08:29.76 ID:g/Yqs0uNo
すぐに呼びましょ
233 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/21(土) 00:27:14.12 ID:K24EdlcCo
掬彦にゃん 乙!
234 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/27(金) 11:19:46.55 ID:3tS29P6IO
まーだー?
235 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/27(金) 23:59:20.36 ID:S2VXyOIco
すまんぜ!
もうとっくに書き上がってるんだがなんだか妙に忙しいのです
今から出かけなければならないのです、ちくせう

でも、苦しくても 挫けるな 落ち込むな くよくよするな!
何事にも屈しない強靭な心こそが最強の武器なのだから!

出来れば明日、無理でも三連休中には必ず!
236 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/04/28(土) 11:20:15.37 ID:0n3+NhvV0
すぐに呼びましょ陰陽師
237 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/04/28(土) 18:49:23.35 ID:qMQqwvUAO
レッツゴー!
238 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/04/28(土) 18:52:46.33 ID:qMQqwvUAO
レッツゴー!
239 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/28(土) 22:22:02.43 ID:GkpAdEuso
レッツゴー!
んでは、参ります!




――――――――――
240 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/28(土) 22:23:11.08 ID:GkpAdEuso


 ベランダの薄いベニヤの壁を挟んで、鋼盾掬彦と土御門元春が向かい合う。

 神裂来襲のあの夜から、実に二日ぶりの再会であった。


「なんなんだコウやん……
 ……まさかご都合主義にこの土壇場で能力にでも目覚めたか?」


 例えばAIM探知能力

 例えば五感強化能力

 例えば熱源感知、風力操作、読心能力


 世界の闇を駆け、数々の修羅場を越えてきた土御門元春の隠身は完璧といっていい。

 魔術に依らねど土御門家が誇る摩利支天隠形、けして素人に感知できるような生半可ではない。

 何らかの異能を用いたのではと土御門が感じたのも、無理のない話ではある。

 だが――もちろん、そんなことはなかった。


「んなわけないだろ、ぼくは無能力者だよ」


 そう、鋼盾掬彦は無能力者だ。

 木山春生の予言の件もあるので、少しばかり微妙な話ではあるのだが。

 とは言え、それはまだ先の話だ――そんなものはありえない、勘定にも入れていない。


 鋼盾が土御門を見つけられた、その理由。

 ぶっちゃけ、実につまらない話である。


241 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/28(土) 22:24:45.22 ID:GkpAdEuso


「……ちょっとカマをかけてみればズバリかよ。
 なんなんだはぼくの台詞だ、このストーカーめ」


 すなわち、当てずっぽうだ。

 いるんじゃねえかな、と思ってカマをかけてみれば案の定の大当たりである。


 勘弁願いたい、ほんとうに。

 初春といい、ステイルといい、神裂といい、どいつもこいつも。

 てめえら他人のプライベートを一体なんだと思ってやがるのか。


 溜息を混ぜて、鋼盾は恨むように口にする。

 見事にハマった土御門としては、笑うしかない。


「はは、見事なカマかけだ。引っかかっちまったぜい。
 ―――前にも言ったがコウやん、オレはおまえが怖いよ」


 おまえのそういうところが怖い、と。

 薄い壁越しに土御門は笑い、スマンと小さく謝った。


「言い訳がましいが……別に四六時中コウやんらを見張ってるわけじゃないんだぜい?
 少し時間が空いたもんだから、風呂と着替えに寄っただけですたい」
 

 確かに、土御門の飄々とした声には隠しきれぬ疲労が滲んでいる。

 どうやら、走りまわってくれたようだった。

 ……でも、冷静に考えるとコイツ今盗聴を否定しなかったよね。

 ちくしょうめ。

242 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/28(土) 22:25:30.73 ID:GkpAdEuso


「ホントにもう……ああ、そういや話してて大丈夫なの?
 ―――あれ? 問題なんじゃない、コレ」


 接触は、ご法度。

 調停者たる土御門元春は、禁書目録に関わることができない筈だ。

 いいのだろうか、と鋼盾としては首を傾げるしかない。

 だが、そんな鋼盾の疑問に、土御門は事も無げに返した。


「いやいや、問題ないにゃー。
 なんたって、クラスメイトとベランダ越しに会話してるだけですたい」

「……そりゃ、そうだけど」


 考えてみれば、なんとも普通の事ではあったが。

 ……まあ、土御門がOKと言っている以上、それでよいのだろう。


「もちろん、直接的な手助けはご法度だがな。
 ……ま、魔術科学問わず“耳”は潰してあるよ」

「……魔術的な“耳”って……。
 つーと、必要悪の教会以外の魔術結社も来てるってこと、かな?」

「ああ……といっても、もうご退場願ったがな」


 事も無げに、土御門はそんなことを言う。

 鋼盾としては、今さらながらに冷や汗ものだ。


 ステイルや神裂のような個人的な理由混じりではない連中。

 純粋な利害から禁書目録簒奪の任に就くプロの魔術師、漁夫の利を狙う簒奪者。

 たとえ戦闘能力では“必要悪の教会”の魔術師に劣ったとしても、十二分に脅威である。


 ひとつ間違えば、その牙が自分たちに伸びていた可能性があった、ということだ。

 そして、鋼盾掬彦やインデックスは、それらに対して全くの無力だった。
 

 それを、土御門が撃退したという。

 鋼盾は魔術師としての土御門元春を知らないが、この男も必要悪の教会の一員なのだ。

 彼もまた、神裂やステイルのように戦闘技能を有しているのだろう。


 ……つくづく、とんでもない話である。

 どいつもこいつも、うんざりするほどファンタジーだ。


243 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/28(土) 22:26:34.88 ID:GkpAdEuso


「……おつかれさま、土御門くん。
 どうやらお互い、なかなか難儀な二日間だったみたいだね」

「オレの方は大したことじゃない、いつもの事だよ。
 ……そっちはエラい大事だったらしいがな」


 土御門元春が、なにやら恨みがましく溜息を吐く。

 はて――こっちの大事と言えば、やはりあの一件だろうか。


 学園都市全域を巻き込んだ、執念の科学者の復讐劇。 

 あるいは“超電磁砲”御坂美琴が主役の冒険活劇。


「幻想御手事件―――まったく。
 ……オレが言えることじゃないだろうが、コウやん、あまり危ない事に首を突っ込むな」

 
 咎めるように、諭すように、案じるように。

 まさに、苦言を呈するといった風に、土御門元春がそんな事を言う。


 幻想御手事件、鋼盾は事件の渦中にいた。

 しかもインデックスを引き連れて、だ。

 ―――もしかしなくても、大問題だろう。


 あるいは、見えない所で彼の仕事を増やしてしまったのかも知れない。

 いや、単純に鋼盾の身を案じてくれているのだろうか。

 そうだとすればありがたい話だと鋼盾は思う、大いに反省しよう、しかし。

244 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/28(土) 22:31:43.66 ID:GkpAdEuso

「ほんっと、きみに言えた台詞じゃないね、それ。
 まあ、終わった話だよ……それにさ、大事というならこれからだ」

「……ステイル相手に随分な啖呵だったな。
 ―――あの子を救い出す手立てがついた、それは……本当なのか?」


 一昨日の夜、土御門と交わした約定。

 インデックスを救う、その為の手段を見つけてくれ、と彼は言った。

 それに応えるべく、鋼盾はこの二日間駆け回ったのだから。


「……ああ、きみの睨んだ通りだったよ」


 二日前、土御門はインデックスの記憶破壊についての上からのアナウンスを「胡散臭い」といっていた。

 事実、それは真っ赤な嘘であった。


「……と、言うと?」

「あの子の身体に、魔術の痕跡を見つけた。首輪だ。
 ユピテルの落雷……おそらく、いや間違いなく……英国清教の、仕業だ」


245 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/28(土) 22:32:09.76 ID:GkpAdEuso


 七年前の、あの日から

 それはあの子の喉に棲んでいた


 戒めの首輪、呪の百足

 彼の初恋に終止符を打ったのが、それということになる


 発覚した英国清教の裏切り

 その英国の手先に堕ちた、ひとりの男


 土御門元春
 
 壁の向こうで、サングラスの向こうで、彼はどんな顔をしているのだろうか


 鋼盾はそれ以上言葉を重ねることなく、土御門の反応を待つ。

 さほどの沈黙もなく、土御門の声が響いた。


246 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/28(土) 22:32:43.42 ID:GkpAdEuso


「――――ったく、魔女め」


 短く、それだけ。

 それは鋼盾に宛てたものではなく、空に溶かすような呟きだった。


 罵りにしては平坦で

 嘆きというには乾きすぎていて

 怒りというにはどこか柔らかく

 哀しみというには温すぎて

  
 混ぜて混ぜて混ぜて、結果真っ白になってしまうような

 透明で虚ろで、しかし色濃い感情を湛えているかのような


 それは土御門元春にしか紡げぬ、七年モノの呟き

 余人には推し量ることすら敵わない、静かな詠嘆

 掛けられる言葉など、あるわけがなかった

 
 だから鋼盾は、淡々と話を進めることにする。

 そう……届かぬ過去の事などどうでもいい、未来の話をするべきだ。


 それが今代のパートナーたる、己の仕事。

 土御門元春が鋼盾掬彦に願ったのも、それであったはずだから。


 口を開く、言葉を紡ぐ

 前に進むために

 未来を紡ぐために


247 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/28(土) 22:34:16.10 ID:GkpAdEuso


「……上条くんの右手で、ソレを消すつもりだ。
 一切合財の異能を払うあの右手なら、それが出来る。
 そうすれば――インデックスの記憶が奪われずに、済むんだ」


 それが、鋼盾が導き出した解法。

 たったひとつの、冴えたやり方。


「なるほどにゃー、そいつはハッピーエンドだ。
 ……いや、大したもんだぜコウやん、俺たちの誰にもできなかったことだ」


 土御門が、そんな事を言う。

 悔いるでもなく、嘆くでもなく、喜ぶでもなく。

 自分たちにはできなかった、届かなかった、そう言って笑う。


 土御門元春。

 そして、ステイル=マグヌスと神裂火織。

 更には、鋼盾の知らない歴代のパートナーたち。

 
 彼らが余儀なくされてきたその別離を、鋼盾は拒むと決めた。

 そのための手段を、この手に掴んだ。


 上条当麻、逆転のジョーカー、ヒーロー。

 彼がその右手を振るい、きっと首輪は破壊されるだろう。

 インデックスの記憶は奪われることはなくなり、未来へと糸が繋がる。



 だけど、まだそれだけだ。

 鋼盾掬彦はそう思う。

 そこで終わってしまっては、駄目だと。


248 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/28(土) 22:36:32.84 ID:GkpAdEuso


「違うよ……なにがハッピーエンドだ。
 それで終わるわけじゃない……そうだろ?」


 悪いけど、感傷に浸っている暇なんてないぞ土御門、と鋼盾は口にする。

 彼女が記憶を喪わないなんて、当たり前のことだろうと。


「……コウやん?」


 戸惑ったような、土御門の声。

 らしからぬ鈍さだ、きみらしくもない――と、鋼盾は溜息を吐く。


 ほんとうに、困ったものだ。

 どうやら“インデックスが絡むと途端にガキ”なのは土御門も同じらしい。

 どいつもこいつも、目先のことばかりだ――――視野が狭いぞ、ガキめ。


「……足りないんだよ、それじゃ足りない。
 ぼくらの戦いは、その後も続く。むしろそこからが本番だよ」


 そこはゴールではない、スタートラインだと鋼盾は断じる。

 そんなのはただの前提に過ぎない、どいつもこいつも、そこを履き違えている。

 土御門も、神裂も、ステイルもだ。


 ぼくらの目指すものは、そんなところでは終わらない。

 終わるわけがないのだ、それじゃ、足りないのだ。


「あの子が記憶を喪わなくて済むなんて、前提だよ。
 間違えるな。インデックスを笑顔を守り続けることこそが、ぼくらの勝利だ」

「……はは、そうかよ。
 ―――そうだな、お前の言うとおりだ、コウやん」


 そう、戦いはそこからだ。

 そうでなくてはならない。


 鋼盾掬彦が、上条当麻がそう決めた。

 インデックスも、それを望んでくれた。


 
249 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/28(土) 22:37:39.51 ID:GkpAdEuso


「あの子は縛られているんだよ、禁書目録という立場に。
 首輪だけじゃないんだ。術式に依らない、幻想殺しでも殺せない類の呪。
 あるいはそれは―――きみの初恋の女の子の遺したものかもしれないけどね」

「……確かに呪だな、あの子の切願は、忘れてしまった今となっては」


 もういない、はじめの少女。

 dedicatusを名乗った、献身の聖女。

 土御門元春が恋した、女の子。

 
 その覚悟はまさしく聖者のそれであるけれど。

 しかしそんな女の子は、もういないのだ。


 死してなお、生者を縛るもの。

 正邪に依らず、それはまさしく呪だった。


「そうとも。……だけど、インデックスは未来が欲しいっていってくれたんだ。。
 あの子は禁書目録で、でも、それがすべてじゃない」

「……とは言え、ただの女の子に十万の魔道書を預けるわけにもいかない。
 だからこれまでは、一年ごとに記憶をリセットしていたって事だな」

「そうなるね」


 一年経てば、オーバーホール。

 汚れを落として油を射して、新品同様に磨き上げる。


 人間関係のリセット

 人格のリセット

 経験値のリセット


 初期化してしまえば、そこにいるのは英国清教と己の使命に忠実なだけの人間がいる。

 何の柵もなく、何の思想もなく、知識のみを蓄えたそれこそが、禁書目録の理想形。


250 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/28(土) 22:48:55.79 ID:GkpAdEuso


「……理に適ってるとも思っちまう自分が嫌になるぜい」
 
「どうなんだろうね、人間に記憶させる意味がわかんないよ、ぼくには」


 雲川芹亜も、そんなことを言っていた。

 わざわざ人間に記憶させる意味がわからない、と。

 鋼盾としても、それに同感だ。

 もっといいやり方が、いくらでもあると思うのだが。


「人間にしか務まらないんだよ、コウやん。
 まあ、これは魔術を知らない人間には解って貰えないとは思うが」

「……百年そこらで死んじゃうのに?」


 人の身は、有限だ

 彼女もいつか死ぬ、それで全てが水の泡になってしまうじゃないか、と鋼盾は思う。
 

「寿命を伸ばす術もあるし、あの子と同じ才能を持つ人材が出てくる可能性もある。
 死体から情報を抜き出す技術なんてのもな、ウチの職場にゃ事欠かねえんだよ、コウやん」

「……外道だね。
 まあ、この街も似たような事をしてるんだけど、さ」

「つっても読んだヤツが原典に犯されるから、現実的じゃないかもな。
 ま、百年あれば英国に都合のいいように世界を作り替えることができる、ってトコだろうよ」

「……かもしれないけどね。
 ―――なんか、他にも思惑がありそうな気がするよ」

「……コウやん?」



 
251 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/28(土) 22:52:45.67 ID:GkpAdEuso
 

 鋼盾に言わせれば、禁書目録というシステムはどこかおかしい。

 具体的には言えないが、なんともチグハグな印象を受けるのだ。

 おそらくその原因は、インデックスが置かれた奇妙な現状に由来するものだろう。


 例えば、そう。

 なぜ、彼女は学園都市に放置されている?

 なぜ、追手がステイルと神裂の二名だけなんだ?


 ありえない。

 本気で捕まえる気があるのか、イギリス清教。

 それこそ今のこの状況こそが、狙い通りなんじゃないのか?


 そもそも、この一年「禁書目録の運用」がゼロという事実。

 おそらくは数年掛かりで魔道書を収集し、年に一度のメンテナンスまで行なって維持してきた禁書目録。

 
 十万三千冊というのは未だ途上なのかもしれないが、それでも必要十分な数だろう。

 ならば苦心して作り上げた禁書目録は、効率的に運用されるべきだ。

 それは英国清教に、必要悪の協会に多大な利益を生むはずだ。


 なのに、どうしてあの子をこんなところで遊ばせている?

 禁書目録が不要なほど、世界が平和だとでもいうのだろうか?

 そんなわけがない。


 おかしい。

 おかしなことだらけなのだ。



 上条の部屋に落ちてきたのもおかしい。

 首輪にこれまで誰も気づかなかったことだっておかしい。

 あの子が魔術をつかえないのもおかしい。
 

 なにかある、ような気がする

 ―――とは言え、ピースがあまりに足りていない


 鋼盾は頭を軽く振って、妄想じみた思索を振り払った。

 まずは、目先の問題を片付けなくてはいけない。


252 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/28(土) 22:59:27.80 ID:GkpAdEuso


「まあ、今はいいや……土御門くん、ぼくはさ。
 できればさ……きみらの上層部、最大主教さんとやらと、ちょっと話がしてみたいんだけど」

「……コウやん、それは無理だ。
 英国は禁書目録を手放しはしない、世界がソレを許さない。
 なにより―――お前はローラ=スチュアートを知らない」


 禁書目録と最大主教。

 それは英国清教の闇そのものだ、と土御門元春は口にする。

 鋼盾はそれを受けて、小さく頷くと言葉を紡いだ。


「……わかってる。忌々しい事に、あの子もそれをよしとはしないだろう。
 ぼくもね、なにもあの子が禁書目録をやめられるとは思っちゃいないよ」

「……なら、どうするんだコウやん?」

「待遇の改善をお願いするだけだ。
 つまり……まあ、労働争議だよ、ただの」


 労働争議、上条にも言った台詞だ。

 こっそりこの表現を気に入ってる鋼盾である。


「労働争議ねえ……有給でも申請するつもりかコウやん?」

「うん、そんな感じだ」


 あの子には、時間が必要だ。

 あの子には、経験が必要だ。

 あの子には、平穏が必要だ。

 あの子には、未来が必要だ。


 必要だから、それをもぎ取ってやる。

 手始めに、七年分の安息日からというのも悪くないだろう。


253 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/28(土) 23:02:17.72 ID:GkpAdEuso


「献身的な仔羊は強者の知識を守る。
 あの子にとって、その魔法名は絶対の指標なのかも知れない……。
 でも、前にも言ったけど……それは違う」


 禁書目録として、いいように取捨選択された脳

 操作された感情、制限された情報、奪われた未来


 積み重ねることを許さない、それは尊厳に関わる非道

 それを許さない、絶対に許さない


 もう二度と記憶は奪わせない

 その上で彼女に道を、己の在り方を選んでほしい

 今のあの子に、未来の彼女に


「長期戦になるだろうけど、ね。
 ――ぼくと上条くんはさ、その戦い全てに勝つと決めちゃったんだよ」


 昨晩改めて決定したそれが、今後の方針である。

 ゆえに此度の戦いは、その鏑矢に過ぎない。

 インデックスの未来を掴む為の戦いの、そのファーストステップにすぎないのだ。


 所詮は緒戦。

 油断などありえないが、さりとてそれのみに拘泥していては、道を誤る。


254 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/28(土) 23:05:42.87 ID:GkpAdEuso


「別に、今すぐあの子を解き放てなんて言わないよ……最初の譲歩は些細なもので構わないんだ。
 ―――だが、絶対に対価は支払ってもらうし、邪魔はさせない」


 献身的な仔羊は強者の知識を守る、その誓いに殉ずる少女がいる。

 仔羊の献身、その身を捧げた少女から奪うだけ奪って素知らぬ顔の英国清教。

 気に入らない、全くもって気に入らない。

 そんな不義理を許しはしない

 あんないい子が、不幸になっていいわけがない。


「七年分…いや一五年分だ。
 その借り、たっぷりと利子を付けて、返してもらう」


 鋼盾はかつて彼女に言った。

 “未来と現在だけじゃない、なくした過去もきみのものだ”

 そうとも、あの子のこれまでを取り返す、可能な限り取り返す。


「―――あの子の献身に報いろ、英国清教」


 返してもらう

 絶対に  

255 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/28(土) 23:07:41.52 ID:GkpAdEuso


「……威勢がいいのは結構。
 だが、具体的にはどう動く? 無能力者の鋼盾掬彦」


 土御門が平坦な声で、そんな事を言う。

 おまえにそんな力などない、そう言外に口にする。


 だが、そんなことは今更だった。

 おまえに言われなくても知っている、この身は無力だ、知っている。

 だから、鋼盾掬彦はこう返した。


「……ぼくのやり方は、きみも見ていた筈だろ。
 何の力も持たないぼくは、力を持つ人に縋るだけだよ」


 口にした台詞は、恥知らずな他力本願。

 が、それこそが鋼盾掬彦の戦い方で、生きる道だ。


「……は、誰の力を当て込んでるんだか。
 カミやんに丸投げか? コウやん」

「上条くんだけじゃないさ。
 ―――わかってるだろうに……惚けないでほしいね」

 
 ジョーカーだけじゃ、役はできない。

 幻想殺しだけじゃ、足りないのだ。


 だから、その足りないところを補う“力”が必要だ。

 それを集めてくるのが鋼盾掬彦の仕事、とっくに目星は付いている。

 美琴や黒子、初春らは巻き込めないが……おまえらにはそんな遠慮は無用だろう?


256 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/28(土) 23:08:49.13 ID:GkpAdEuso


「ステイル=マグヌス、神裂火織……そして、土御門元春。
 ……ぼくはね、きみらを抱き込むつもりでいる」


 かつてインデックスのそばにいた、パートナーたち。

 勝手に諦めて、或いは敵に回ってあの子を傷つけ続けた連中。

 おまえらの力をよこせ、そう鋼盾は言う。

 その力をもって、あの子の未来を掴みとろう、と。


「歴代のパートナー、あの子を救えなかったどうしようもない無能ども。
 腹が立ってしょうがないんだよ。せめておまえらからも容赦なく取り立ててやる。
 ―――逃しはしないよ、きみも、あいつらも」

「……はは、怖い怖い。
 鋼盾掬彦、おまえはオレたちに英国を敵に回せというのか? 
 おまえは知らない、英国清教の闇を、必要悪の教会を、ローラ=スチュアートを」

「そうだよ、その通りだ。
 ぼくには無理だ……だからおまえがなんとかしろ、土御門元春」


 どいつもこいつも、なにが闇だ。大概にしろ。

 暗いから怖いとでも言うつもりか、ガキが。


 見せてみろよ、親友。

 世界の裏側を駆ける蜘蛛、その本領を見せてみろ。

 かっこいいとこ、見せてみろ。


 力を貸せ、土御門元春。

 おまえが守れ、今のおまえがあの子を守れ。


257 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/28(土) 23:11:04.20 ID:GkpAdEuso


「――ハ、無理を言ってくれるな。
 日差しを浴びてる人間の言葉だぜ、それは」

「グラサン野郎が何を言ってやがる。カッコつけるな。
 ―――そんなものつけてるから、きみはモノがよく見えないんだよ」


 なんなんだそのサングラス。

 舞夏も心配してたよ、兄貴のペルソナ

 中二病も大概にしろ、中学二年生に心配されてどうするんだ


「おいおい、こいつは土御門さんのトレードマークだぜい?」

「何がトレードマークだよ。
 ……前から言おうと思ってたけど、それ、言うほど似合ってないよ」


 イケメンめ、忌々しい。

 外してしまえよ、そんな上っ面は。


「……にゃー。
 手厳しいな、コウやん……本気で英国を相手取る気か?」

「当たり前だ。あの子の為に、英国を黙らせる。
 だからさ……ぼくに力を貸してくれよ、土御門くん」

「無理だ」


 即答。

 にべもなく、土御門は鋼盾の依頼を否定する。


258 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/28(土) 23:11:38.23 ID:GkpAdEuso


「世界がどれだけ危うい均衡の上に小康を保っているのか、考えた事があるか?
 ……ないんだろうよ、なにも知らない鋼盾掬彦」


 世界の裏を駆けるエージェント。

 冗談のようなその肩書を背負う男が、平和ボケの国に住む学生を鼻で笑う。


「……オレはなコウやん、正直今日も世界が続いてる事が不思議でしょうがねえよ。
 戦争の火種なんてさ、本当に至る所に転がってるんだ」

「……なにが火種だ。
 自分たちの都合で火を付けて、自分たちの都合で火を消して、さ。
 ―――そんなものは必要悪でもなんでもない、ただのマッチポンプじゃねえか」

「お前が認めなくても、それが今日の秩序の一角だ。
 ――英国を甘く見るな、あれが動けば天秤が崩れる」


 禁書目録の価値は、それほどのもの。

 この件から第三次世界大戦なんていうのも、けしてあり得ない話じゃない。

 調停役を自認する彼の立場であれば、それは当然の反応と言えた。


「オレは天秤を崩すことはできない。
 力のあるものがルールを作る、お前のモノサシで世界を測るな、素人が」


 容赦のない否定の言葉。

 だが――鋼盾からは見えないが、土御門の口元は綻んでいる。

 それは、楽しくて楽しくて仕方がないと言わんばかりの、悪戯な笑み。

 魔術師でも陰陽師でもエージェントでもスパイでもない、鋼盾掬彦の友人の笑みだった


259 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/28(土) 23:12:24.18 ID:GkpAdEuso


「……だが、困ったな。お前にはオレの弱点を握られてしまった。
 ああ参った、どうすればいいんだぜよ、土御門元春一生の不覚にゃー」


 弱点、それは彼の一番たいせつなひと。

 舞夏を鋼盾に預けたのは、どうやらこのためだったらしい。


 なんだよ、最初からそのつもりなんじゃねえか。

 ―――お人好しめ、どうやらおまえも上条くんにほだされた口のようだ。


「……はは」


 鋼盾も笑う。

 ああもう、楽しくてしかたない。

 なんなんだその棒読みは、声に笑いが透けてるぞ。


 おまえがそう来るなら―――いいだろう、付き合ってやる。

 どうせこの身は他力本願の卑怯者、他者に縋ることでしか願いを成せぬ無様な男だ。

 雑魚っぽい台詞で、おまえを駆り立ててやろうじゃねえか。


 とびきり小物っぽく、狡辛く、ばかみたいに。

 情けなく人任せで碌でもない台詞を、鋼盾掬彦は口にした。


260 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/28(土) 23:13:23.05 ID:GkpAdEuso


「なに、簡単なことだ。
 ―――土御門元春、可愛い義妹の命が惜しければ、ぼくに従え」

「くっ……人質とは卑怯なり、なーんてにゃー。
 ……了解だ、コウやん―――戦後は、オレに任せろ」

「ああ、任せる――頼んだよ、土御門くん」


 そんなやりとり。

 互いにニヤニヤ笑いながら紡がれた、紛う事無き戦場の誓い。

 愛ゆえに人は苦しまねばならぬ、ならばその苦しみを喜びと呼んでやる。

 マゾヒスト宣言である、どんとこい艱難辛苦。


 戦後は、オレに任せろ―――土御門はそう言ってくれた。

 鋼盾は思う、この約束はきっと大きな意味を持つ。

 土御門は約束を違えるような男じゃない、僅かばかりの後顧の憂いも、これで断たれた。

 
 とは言え、鋼盾の仕事は変わらない。

 五代目と六代目の二人にも、土御門と同じセリフを言わせてやらねばならぬのだ。


「……さて、そろそろいい時間だ、行ってくるかな」


 約束の時間まで、十分を切っている。

 そうして屋上へ、戦場へと歩き出す鋼盾の背に、声が掛かった。


「――fallere825」


 耳慣れぬラテン語と、三桁の数字。

 それが意味するところを、己は知っている。


 ……そういえば、そうだったね、と鋼盾は思い至る。

 それは、魔術を生業とする者が背負う、魂の誓言。

 土御門元春、きみも、英国の魔術師だったか。

261 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/28(土) 23:14:04.72 ID:GkpAdEuso


「……あー……魔法名、かな?」

「ああ……『背中刺す刃』、それがオレの魔法名だ」


 背中刺す刃。

 それを聞いて鋼盾が想起したのはふたつ。


 ひとつは敵の背後に忍び寄り、音もなく刺し殺す刺客の刃

 そしてもうひとつは……背を預けた味方を貫く、裏切りの刃


 どちらにしても、ろくでもない話だ。

 ……もっとマシな魔法名はなかったのだろうか。

 いやいや、聖書の故事に由来した、含蓄に富んだ言葉なのかもしれない。

 あれだあれ、籤言あたりにある有り難いお言葉だよきっと、と鋼盾はそんなことを思うが。


「fallereは欺く、騙す、偽るというような意味になる。
 忘れるなコウやん、オレは成すべきを成すためならすべてを裏切るような男だ」

「……へえ、そうかよ」


 残念、まんまらしい。

 そして、更に残念な事に、どうやら後者のようだ。


 全てを裏切ってでも、己が本懐を成し遂げる者。
 
 それが土御門元春だと、彼はそう言っているらしい。


 “fallere825”

 不義を是とする、その誓名。

 必要ならおまえも裏切るぞ、と、そんな言葉である。

 しかしそれを突き付けられてなお、鋼盾から笑みが消えることはなかった。


262 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/28(土) 23:15:26.58 ID:GkpAdEuso


「わかった、肝に銘じよう。
 ――ああ、そうそう、今晩みんなで晩御飯を食べる予定なんだけど、さ。
 もちろんきみも来るよね、土御門くん」


 そして晩飯の話である。

 関係者が一堂に会する今宵のパーティにおまえも参加しろやと、そんな事を口にした。


「……コウやーん、オレ一応隠密行動中なんだがにゃー」


 無理だ、と土御門は言う。

 そいつは残念、と鋼盾はからかうように言葉を繋ぐ。


「せっかくの舞夏謹製シチューなんだけどな、仕事優先かー。
 まったく、どうしようもなくひどい兄貴だ、背中から刺されればいいのにね」

「……てめえ、人の妹と随分楽しそうに過ごしてくれてんじゃねえか」

「うん、インデックスとも仲良くなってくれてさ、ありがたいよ」

「……そっか」

「ああ」


 インデックスと土御門舞夏。

 初恋の女の子と、守るべき義理の妹。

 そのふたりが仲良く過ごしているというのは、彼にとっても悪い話ではないはずだ。

263 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/28(土) 23:15:51.86 ID:GkpAdEuso


「……舞夏にはほんと、随分と助けて貰ったよ。
 上条くんといい、インデックスといい……他人の為に尽くせる人間ってのは、強いね」


 献身という言葉

 強要された献身は隷属に他ならないと断じた鋼盾ではあったが、その言葉自体は尊いと思う

 
 我が身を擲って、他者の為に為すべきを為す。

 例えば上条当麻、例えばインデックス、例えば月詠小萌。

 木山春生、御坂美琴、初春飾利、白井黒子、佐天涙子。


 彼ら彼女らに、鋼盾が見たもの。

 それは鋼盾掬彦が持ち得ぬ、やさしさと強さだ。


「……オレには、コウやんもそう見えるが」

「ちがうよ……ぼくはさ、もっとあれだ。なんというか、もっと利己的だよ。
 誰も彼もなんて、無理だ―――土御門くん、きみも、そうだろ?」

「……そうだな、まったくもって、ヒーローにはなれそうにないよ」


 七月二十日、学生寮の前で、ふたりでそんな話をしたことがあった。

 ぼくらは彼らのようには在れなかった、あんなに馬鹿みたいに正しくなんて、なれない。

 ヒーローになんて、なれない。


 それは知ってる、わかってる。

 それでも、それでも、諦められなかった未来がある。

 端役にも意地があり、願いがある。

 だからぼくらは、ここにいるのだ。


264 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/28(土) 23:18:22.71 ID:GkpAdEuso


「……ああ、ヒーローになんかなれないよ。
 でも、だからって……なにもかもを諦めなきゃいけないわけじゃないみたいだよ?」


 きみが結局はインデックスの笑顔を諦めきれなかったみたいに。

 ぼくがこうして、悪あがきをやめないように。


「……結局、他人任せだぜ? オレは。
 お前らに丸投げして、裏でコソコソなにかをした気になってるだけだ」


 自嘲に塗れた、声。

 或いは弱音の吐露だったのかもしれない、小さな小さな呟きが零れた。

 まったく、似合わないことだと鋼盾は笑う。


 つーか、やめてください。

 おまえの目の前にいる男をなんだと思ってるんだか。

 それはぼくの台詞だっつーの、ホントに。

265 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/28(土) 23:19:06.58 ID:GkpAdEuso


「そんなの、ぼくだってそうだ―――いや、ぼくの方がずっとひどい」

「……そんなことはない、お前は十二分によくやってるよ、コウやん」

「そんなことあるよ、言ってて情けないけどね。
 ……首輪を見つけたのは木山先生で、それを壊すのは上条くんだし」


 木山春生がいなければ、首輪は見つけられなかった。

 上条当麻がいなければ、首輪を破壊する方法など思いつけなかった。


「インデックスにも、随分と無茶をさせてるしね。
 小萌先生にも、甘えてばかりなんだよ、ほんとに」


 インデックスに、喪失と重圧に喘ぐ少女に選択肢を押し付けた。

 月詠小萌に頼ってばかりで、しかし本当の事は話せずにいる。


「幻想猛獣を倒したのは御坂さん、
 解除プログラムを撒いたのは風紀委員と警備員の皆さん」


 異能を持たぬこの身は、誰かに助けてもらわないと何もできない。

 粋がって見せても所詮は只の高校生、金も力もなかりけり。


「なにより、今もきみに押し付けたばかりだしね。
 その上、今からステイルと神裂にもさ、それを押し付けにいくんだぜ? 
 ……ぼくはさ、ひとりじゃなんにもできないよ」

「……何が言いたいんだ? コウやん」

「聞きたい?」

「……ああ」


 言いたいことはひとつだけ。

 押し付けてやる、容赦なく。

266 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/28(土) 23:29:05.32 ID:GkpAdEuso


「つまり、だ、背中刺す刃な土御門くん。
 他力本願なぼくは、きみを信じることしかできないって話だ」


 おまえに全額張ってやる、裏切りの心配なんかやってられるか

 信じるというのはそういうことだと、鋼盾は真顔でそんな事を言った
 

「……っは! ははははははは! 、
 ―――いやいや、まいったぜよ……ああもう、しょうがねえなこの野郎」

「うん、しょうがねえ野郎なんだよ、ぼくは」


 知ってただろ、と鋼盾は笑う。

 知らなかったよ、と土御門も笑う。


「……でも、しょうがねえのはオレも同じか。
 ――ああもう、しょうがねえな……ったく、わかったわかった」


 しょうがない

 まったくもってしょうがない


 やってやる

 しょうがないからやってやる



「―――せいぜいオレに騙されていろ、鋼盾掬彦」

「……はいはい了解、ばかみたいに信じてやるよ」



 しょうがない馬鹿二人が、そんな遣り取りをした。

 まったくもって、しょうもない話だった。




――――――――――
267 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/28(土) 23:31:14.58 ID:GkpAdEuso


 ベランダの戸を閉める。

 エアコンが効いた室内は快適で、鋼盾は思わず息をひとつ吐いた。

 
「……ったく、嘘つきめ。
 ばかじゃねえの、土御門元春」


 なにが背中刺す刃なんだか

 つーか、本当に裏切りを是とするヤツは、わざわざそんな名前を名告らないだろうに。


 fallere

 たぶんそれは、誠実の裏返し

 挑み戦い足掻き続ける男の、ちょっぴり皮肉な冗句の類


 天邪鬼が過ぎる、中二病が過ぎる、……お人好しが過ぎるぞ、土御門元春。

 難儀な野郎だ、さすがは上条当麻の友人である、ぱねえ。

 普通なのはぼくくらいだぜ、と鋼盾はひとりごちる。
 
268 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/28(土) 23:33:05.30 ID:GkpAdEuso


「んー? 鋼盾掬彦ー? なんか言ったかー?」


 いつの間にか戻って来ていたらしい舞夏が、キッチンで大鍋を洗いながら声をかけてくる。

 鋼盾の独り言を、聞き止めていたらしい。


「ううん、なんでもないよ。
 ―――きみの兄貴、いい奴だなと思ってさ」

「……あー、我が兄ながらめんどくさいヤツなんだがなー。
 でも、うん……ありがとうなー」


 義兄を褒められ、我が事のように微笑む舞夏。

 ……だから、その微笑にうっすら漂う色気はなんなんだっつうの。


 まったく、土御門元春め。

 そもそも、全てを裏切るとかほざいてたけどさ。

 舞夏以外は、が抜けてるんじゃないか? お兄ちゃんめ。


 まあいい、これは野暮だろう。

 さて、そろそろ本格的に時間がない、あと5分で約束の時間である。


 
269 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/28(土) 23:48:24.31 ID:GkpAdEuso


「ところで舞夏、ぼく、今から少し出かけるから」

「ん、了解だぞー。
 ……どこにいくんだー?」


 ……行き先を聞かれてしまった。

 さて、なんと答えたものだろうと鋼盾は惑うも、時間もないので正直に言ってみた。


「屋上で喧嘩」

「おおう、男の子だなー。
 暴力はいけないんだぞー?」


 諭されてしまった。

 流石の舞夏である、この子の言うことはいつだって正しい。


「あー……あれだよあれ、喧嘩ってのは比喩だね。
 ちょっと、話し合いに行ってくる―――ああ、そいつらが今晩のお客さんだから」

「りょーかい、お腹を空かせてくるといいんだぞー。

「うん、期待してるよ」



 さて、それではおいしいごはんのために

 楽しい未来の為に

 皆の笑顔の為に

 己の定めた戦場へ 


「行ってきます」

「行ってらっしゃいご主人様―――道々お気を付けて、なんだぞー?」
 
 

 土御門の兄妹に見送られ、鋼盾掬彦が屋上へと赴く

 己の定めた任を果たすべく、彼の最大の戦いへと


 
270 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/28(土) 23:52:29.19 ID:GkpAdEuso
――――――――――――――――――――



ここまで!
長いわ! なんか投下しながらやたらめったら伸びたわ!

つうわけで、土御門さんでした!
仲間をひとりゲットだぜ! やったね!

次回は連休明けになりそうです
よろしければお付き合い下さい!

んでは、また次回!
271 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/04/28(土) 23:55:24.81 ID:GkpAdEuso
忘れてた!
>>229さん、>>230さん大当たりです!
土御門さんが返事してくれてよかったねコウやん!

んでは、しばし!
じゃあの!
272 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/29(日) 03:52:51.24 ID:WTfdKNEVo
ありがとう
273 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) [sage]:2012/04/29(日) 05:17:38.27 ID:N5fvPjjAo
しょうがねえな、乙だ……嘘です!普通に乙!

このSSは脇キャラの掘り下げがすばらしい
274 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) :2012/04/30(月) 00:52:39.36 ID:8VPXKEmL0
おつ
275 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/30(月) 10:59:31.54 ID:qHvL7z2O0
>中二病も大概にしろ、中学二年生に心配されてどうするんだ
なんか凄い受けたwww そうだよな。相手中学生だしなぁ。

コウやんのスタンスは実に素晴らしい。
なんでもかんでも自分で背負いたがる上条さんの隣には、それをヒョイヒョイ周りに分配できる人が必要だと思うのですよ。
276 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/04/30(月) 15:19:49.48 ID:97bYdKOAO
コーディネーターさんだな

277 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/04/30(月) 19:25:57.95 ID:ptld7qs1o
鋼盾「やめてよね。僕が本気だしたらステイルが勝てるわけないだろ」ですねわかります
278 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/05/01(火) 01:37:44.95 ID:IQssNdKJo

鋼盾「やめてよね。君が本気を出したら僕が勝てるわけないだろ」(ドヤァ

このレベル0は弱者の立場を積極的に押し出すことで無理押ししてるからなあ。
279 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/05/01(火) 04:51:59.44 ID:AhDKrTEBo
これ鋼盾がもし中途半端に強かったら成立しない物語じゃないか?ww
弱きを守る、あるいは侮り油断する相手と対峙している限りは絶対的弱さが強みになるのか
280 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/01(火) 11:27:27.80 ID:qgmatfsQo
>279
中途半端に強くないから上条さん見たいな主人公補正が後からついてくんだよ
281 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/05/01(火) 15:14:42.23 ID:h3fWn0zro
バッドエンドの匂いがするような気がするぜ!
282 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/01(火) 18:02:48.87 ID:DRGD+FsMo
いやいや皮肉ってころがしてそして王道だろ
期待してる。乙。
283 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/05/01(火) 20:43:54.86 ID:a6jG5YJPo

アックア「そこが他力本願の限界《げんかい》である!!」

 今度こそ打つ手を失った鋼盾掬彦へと、後方のアックアはメイスを振るう。
 このタイミングでは回避も防御も不可能。
 後は鋼盾の首が飛ぶだけだったのだが、

鋼盾「――ああ、これが他力本願の限界《ちょうてん》だ。後方のアックア」

 ドバッ!! という轟音が炸裂した。
 それは大量の足音だ。目の前にいたはずの鋼盾の体が消え、入れ替わりに建宮や対馬など、
 新生天草式の近接戦闘用のメンバーが飛びかかってきたのだ。
 明らかに、先ほどまでの速さとは違う。
 三倍も四倍も素早く動き回る尖兵達に対し、長大なメイスを振るって迎撃しながら、奥歯を噛み締める。

アックア(なるほど、先ほどの豪雨の正体は―――攻撃ではなく、身体能力増強用の術式であるか!!)

 浅知恵と言えば、浅知恵。ただの時間稼ぎの特攻にすぎない。
 が、戦場の真ん中で圧倒的な鬼気を纏いながら、海軍用船上槍を構えるボロボロの女が、声高に必殺を謳っている。

 聖人殺しの槍使い。
 あれは―――この身を滅ぼしうる呪だと、後方のアックアは直感する。
 これほどの大規模術式を編んだ天草式、そしてその発動の時間を稼ぎ切った鋼盾掬彦。

 いずれも、見事。
 後方のアックアは獰猛に笑い、メイスを構え直し賞賛の言葉を放つ。

アックア「天草式十字凄教、そして鋼盾掬彦。その名は我が胸に刻むに値するものとする!!」


 他力本願のヒーロー。
 1スレ目スレタイ祭りの16巻はこんな感じだろうな。
 乙。
284 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/01(火) 22:55:53.71 ID:Lk8eur5AO
そしてまた寝てる上条さん
285 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/01(火) 23:58:18.58 ID:wYsJRKY1o
どうも>>1です
なんとこのSSを書き始めて一年経っちゃいました
ははは笑えねえよ、マジか、マジなのか

とは言え、なんだかんだ言いましても、一年です
学園都市最下位、鋼盾掬彦による再構成
“とある端役の禁書再編”そろそろ終わりが見えてきましたよ

続けてこれたのは皆様のおかげ
続けて行けるのも皆様のおかげ

よろしければ、ラストまでお付き合い下さい
それでは、また!
286 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/02(水) 11:13:38.16 ID:wRMQqcDNo
1年立ってそこそこに更新してまだ1巻ってスレも珍しいよな

こうなったらやるところまで見るんで長く続けてくださいb
287 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/05/02(水) 11:34:38.16 ID:2AT/TIbpo
描写が丁寧でワンシーンあたりの文章量が多いからなあ
288 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/05/02(水) 21:18:00.10 ID:dj58UOIAO
祝一週年
289 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/02(水) 21:20:20.68 ID:yrZMPFAzo
1巻で終わりなんてそげぶ
290 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/03(木) 04:52:55.74 ID:y9G5nog1o
ホント楽しみなんだよ。しっかり頼むね!
291 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/05/05(土) 11:34:03.22 ID:RntpFbboo
途中で無理矢理にでもオリジナル展開に持ってかないと終わらない戦いになるぞ
292 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) :2012/05/05(土) 16:38:57.75 ID:tGYc5awX0
―――終わらない歌を歌おう
293 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/05(土) 21:16:40.27 ID:zMEKlpzC0
4スレ目の三分の一に達しようかというところで、ようやくクライマックス直前の溜めシーン。
ここの>>1のことだから、シナリオを締めて伏線までかっちり回収しようと思ったら5スレ目までいく可能性のゼロじゃない、てか結構高いだろうなぁ。
コメントは多いにしても、某イヤだや童貞スレのように雑談で埋まったってわけでもなし。たぶん史上空前の大長編1巻再構成だな。
294 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/05/06(日) 08:39:52.96 ID:HYa860g/o
伏線って何があったっけ?
295 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/06(日) 13:00:59.67 ID:ai6naHJIO
弱者が弱者を武器に強者を倒す
一歩間違えば人権屋だな

まぁそれを正しく格好よくやってるんだからたまんねぇ
296 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/10(木) 23:33:57.89 ID:S9hQWwFwo
ぬるぽ
297 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/05/11(金) 10:12:09.40 ID:QLxbppMA0
ガッ
298 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/05/11(金) 16:30:09.45 ID:+0euS2pAO
299 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/05/11(金) 18:14:34.97 ID:2Lrx8hymo
300 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/05/11(金) 19:30:13.06 ID:/4T9WSquo
301 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/11(金) 20:11:06.14 ID:+f1mvcZao
OK牧場

どうも>>1です!
なかなかこれなくて申し訳ない! 仕事ががが

日付が変わるまでに来ます!
よろしければお付き合い下さいです!
302 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/11(金) 22:00:00.00 ID:G4Mk5GB7o
待つてるは
303 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/11(金) 22:50:25.79 ID:+f1mvcZao
さてさて、それでは
いっちょやってみっか!


それでは参ります!
そぉい!




―――――――――――――――
304 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/11(金) 22:51:08.14 ID:+f1mvcZao


 学生寮の屋上には、屋内階段ないしは屋外階段より上がることができる。

 普段は施錠されているはずのその扉は、しかし今は開け放たれていた。


 焼き切られた南京錠が、床に落ちている。

 言うまでもなく、ステイル=マグヌスの仕業であろう。


 ゴツい金属錠をあっさりと破壊するには、一体どれほどの高熱が必要なのか。

 それが己の身に降りかかればどうなるか―――それについては考えないと決めている。 

 
 鋼盾はひとつ深呼吸をした後、扉をくぐって屋上へと踏み出す。

 遮る物のない太陽の光が、燦々と味気ないコンクリートを照らし出していた。

 
 ここが、戦場になる。

 鋼盾掬彦が用意した、己の戦場だった。

 視線の先には、既に二人の魔術師が己を待ち構えている。


 一人は赤髪の魔術師、ルーンの天才、ステイル=マグヌス

 今一人は令刀の魔術師、神の子の似姿、聖人・神裂火織


 必要悪の教会に所属する、魔道の尖兵。

 いずれも鋼盾掬彦など一瞬で殺し尽くせる、外法の使い手。


 だが、恐怖はない

 怯える意味がない


 だって、ぼくはきみらに、道を示しに来たんだから。

 笑みすら浮かべて、鋼盾掬彦は彼らへ挨拶をする。


305 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/11(金) 22:51:58.96 ID:+f1mvcZao


「……こんにちは、ふたりとも。
 呼び立てて済まなかったね……来てくれて、ありがとう」

「――今更殊勝なフリなどするな、鋼盾」


 刺々しい言葉を放つ、ステイル=マグヌス。

 こちらを見ようともしない神裂火織。


 笑ってしまうくらいに、予想通りの反応である。

 戦意ギンギン敵意ズンズン隔意バリバリ殺意ジリジリ、どえらいプレッシャーであった。

 だが―――どうやらそれだけでもないようだ、と鋼盾は笑う。

 でなければ、彼らはここに立っていないのだから。


「……余裕がないことだ、ステイル。
 せめてさ、お礼くらいは受け取ってほしいな」

「無駄話をするつもりはない……さあ、証拠とやらを見せて貰おうか。
 もっとも、僕らは君を、この街を、科学を信用していないがね」

「そうそう、それだ」

「……は?」


 科学を信用していない、というその言葉。

 幾度と無く聞いた、科学―――ひいては学園都市への不信感、隔意。

 ステイル、神裂、そしてインデックスに共通するその前提。


 まずはそれだ、そこを突いてやる。

 気に入らねえんだよ、その思考停止っぷりが。


306 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/11(金) 22:52:40.61 ID:+f1mvcZao


「じゃあ、まずはそこからはじめようか。
 一度聞いて見たかったんだけどさ……きみらの言う科学ってなんなのかな?」

「……その問いに、どんな意味があると言うんだい?」

「いいから答えなよ、魔術師」


 科学とは、なにか。

 唐突とも言えるその問いに、訝しみながらもステイルはこう答えた。


「……神に弓引く、異形の総称だ。
 僕にはこの都市がタルタロスか何かに見えるよ」


 タルタロス。

 地獄だったか、奈落だったか――いずれにしても、ろくなものではない。


「なるほど。……神裂さんは? どうかな」


 ここまで会話に加わることのなかった神裂にも聞いてみる。

 やはり鋼盾を見ようとはせず、目を伏したまま彼女は答えた。


「……私も、ステイルと同意見です。
 この街は―――歪です。摂理に反している」


 タルタロス、摂理に反する。

 ヒドイ言われようだが、鋼盾としても割と同感だ。


「ああ、そうだろうね。
 ―――たしかに学園都市は、常軌を逸している部分があるかもしれない」


 学園都市。

 能力開発の街。

 鋼盾掬彦はそこで三年間と数ヶ月、無能力者として生きてきた。


 目を逸らし、耳を塞ぎ、口を閉ざして。

 それでもやっぱり、この街の歪に足を取られて。

 怯えて震えて、生きてきた。


 だから、鋼盾は知っている。

 この街がどれだけ歪んでいるのかの、その一端くらいは知り抜いている。


307 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/11(金) 22:53:30.26 ID:+f1mvcZao


「……ぼくもこの都市の住人だけどね、まだ三年そこらだ。
 正直さ、この街は歪だと思うよ。それこそカルトのようだと思ったこともある。
 能力開発―――きみらにしてみれば、さぞや不快に写るだろうね」


 超能力と魔術、その根幹はおそらくは近しい。

 インデックスと鋼盾が出会ったその日に、そういえばそんな話をしたことがあった。


 能力開発という荒唐無稽な技術の確立に際しては、おそらくは魔術がその下敷きにある。

 仮説ではあるが、学園都市とイギリス清教の上層部の繋がりを鑑みるに、その可能性は低くはあるまい。
 

 魔術師は、学究の徒だという。

 探求と研鑽の成果を掠め取られたようなものだ、確かにひどい話ではある。

 しかも、あくまで秘すべきものである魔術とは異なり、能力は「科学技術の産物」としてその存在を世界に広く認知されている。


 つまり、グローバルスタンダードから彼らは外れているのだ。

 連綿と積み重ねてきた知識と業は、オカルトの一言で片付けられてしまう。


 ひどい話だ。
 
 その忌避たるや、如何程のものか。
 

 ……気に入らねえだろうなあ、と鋼盾は思う。

 そりゃあタルタロスとも呼びたくなるだろうな、とも。


308 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/11(金) 22:54:08.69 ID:+f1mvcZao


「ああ、おぞましいよ。
 異教徒よりもなお遠い、ミュータントだね」


 鋼盾の言に、ステイルは更に言葉を重ねた。

 意図した突然変異(ミュータント)、なるほど摂理に反している。


 能力者とは、そういうものらしい。

 疾患、と木山春生も言っていたのを思い出す―――いや、あれは完全記憶能力についてだったか。

 とは言え、大差はあるまい。

 
 脳開発により形成された、尋常ならざる脳味噌。

 無能力者とて例外ではない、この町の学生は既に“そういうもの”なのだ。


「……ミュータントはひどいな。
 まあいいよ、そうとも、この街はおかしな街だ」


 肯定。

 鋼盾はステイルらの意見を是とする。

 この街は、能力開発は確かに異常だと、そう口にした。


 ……だが、しかし。

 科学とはなにか――その問の答えとは言えないな、とも彼は思う。


309 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/11(金) 22:54:56.56 ID:+f1mvcZao


「……でもさ、ステイル、神裂さんも。
 ぼくが今聞いたのはこの都市のことじゃなくてさ、……なんだろ。
 もっとこう……一般レベルの技術・学問としての科学だ」


 そう、鋼盾が言いたいのはそこではない。

 学園都市の異常性など、今更問いたいわけではない。


 宗教としての科学主義でもなければ、この街に蔓延る魔法めいた超科学でもなく。

 中学生が学校で習うような、書店で売ってる学術書に書いてあるような。

 そんな、当り前の科学についての話をしたいのだ。


「……地動説やケプラーの三原則、ニュートン力学、メンデルのそらまめ。
 ううん、もっと身近な話でいこうか、例えばそう―――電話の発明とかさ。
 ぼくが言ってるのは、そういうレベルの科学の話だよ」


 電話、telephone。

 それは電気通信役務の一種。

 機械で音声を電気信号に変換し、回線を通じて離れた場所にいる相手方にこれを伝え、お互いに会話ができるようにした機構およびその手段のこと。

 
 アントニオ・メウッチ、グラハム・ベル、イライシャ・グレイ。

 発明したのが誰かなんてどうでもいい、便利な便利なこの道具は既に世界を覆っている。

 多くの人間が、その恩恵に与っている。


 そして眼前の魔術師たちも、その例外ではない。

 思えばこの会合の呼出も、電話を用いてのものであった。


「身の回りにあふれる、科学の産物。それを否定するかい?……できるわけがないだろう。
 きみらの手にある携帯電話、それ、ミュータントのテレパシーとは言わないよね」

「………………」

「科学はさ、人間の力だよ。
 人を人たらしめ、より高めるために人類が積み上げてきたものだ。
 ―――きみたちの魔術と同じ……いや、より多くの基板の上にある人類の成果だ」


 科学と魔術、きみらはそれをあたかも対義語であるかのように語るけど。

 それは傲慢だ、視野が狭いぞ魔術師共、と鋼盾は言った。


 ステイルと神裂は、そんな鋼盾の物言いに敵意を深める。

 鋼盾の言わんとしている所は分かる、彼らとて現代を生きる人間だ。

 科学の恩恵を受けているのだ、インターネットで予約を取って、飛行機に乗ってこの街に来たのだから。

 ―――とは言え、魔術を下に扱われ、それを是とできる魔術師などいない。

310 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/11(金) 22:55:32.73 ID:+f1mvcZao


「……だから、どうだというんだ?
 そんな稚拙な物言いで、魔術を貶めるつもりなら失笑モノだが」

「もちろん、そんなつもりはないよ。
 まあ、確認かな。科学ってだけでヒステリックに否定されるようじゃ困るからね」


 そう、そこは分けて考えてもらわねばならない。

 高度に発達した科学は魔法と区別がつかない、なんて言葉も聞いたことがあるけれど。

 これからするのは、尖った峰のような科学の極みの話ではないのだ。


 そうだ。

 なだらかに広がる裾野にこそ、答えはあった。

 学園都市という世界一の科学の街だから、届いたものではけしてなく。

 きみらの住むイギリスの図書館でだって、それを見つけることはできたはずなのだ。


「……その一般レベルの科学的な観点から見て、なんだけど。
 インデックスの脳が魔道書と日々の記憶に押し潰されている、という話は偽りだ」


 そして、鋼盾はそう口にした。

 それは科学的な事実、無数の症例に裏付けされた結論だった。


311 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/11(金) 22:56:30.01 ID:+f1mvcZao


「詳しい説明は省くけど、記憶と思い出じゃあ容れ物が違うそうだよ。
 頭の中に図書館があったとしても、それが彼女の思い出を食いつぶすなんてあり得ない。
 それいついては専門家のお墨付きだ―――この都市じゃない、外の研究者のね」

「……それを、信じろというのか?」


 疑念が渦を巻いているのが見えた。

 ステイルと神裂の反応は、残念ながら捗捗しくない。

 ならばと鋼盾は左手にぶら下げていた紙袋を、ステイルらに向けて差し出した。

 中身はいくつかの紙束のようで、袋から一部がはみ出している。


「そう言ってる……これは、この都市のとあるお医者さんに用立ててもらったものだ。
 インデックスの症例に関連する論文を、学園都市外からさ……いくつか見繕ってもらった」
 

 大脳生理学や脳神経科学についての論文。

 概論、症例、治療法―――その他もろもろ盛りだくさんだ。


 先日のメールで、鋼盾がカエル顔の医師に依頼したのがこれであった。

 彼も多忙だろうに、大量ファイルに詳細な注釈と要約を添えてメールを返してくれた。


 鋼盾は昨日一日かけて、その全てに目を通した。

 彼の描いた作戦、その裏付け材料には十分過ぎる質と量。

 ありがたくって、涙が出そうだった。


「うん、例えばこれなんかわかりやすくていいと思うよ。
 ―――赤線の部分だけでもいいから、読んでみるといい」


 鋼盾は紙袋から二十枚程度のA4の紙束を引っ張りだすと、ステイルに渡そうと手を伸ばす。

 だが、ステイルはそれを受け取ろうとはせず、吐き捨てるようにこう言った。


「不要だ」


 いらない、とそれだけ。

 ステイルの後ろに控える神裂も、手を伸ばそうとはしなかった。


 
312 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/11(金) 22:56:55.86 ID:+f1mvcZao


 ……やれやれだ、と鋼盾はため息をつく。

 わざわざ印刷して注釈まで書き込んできたというのに、釣れない反応である。


「わからないね―――どうして読もうとしない?
 そこにインデックスを救うためのヒントが書かれているんだよ?」


 どうして、自分で可能性を狭める?

 どうしてだステイル、手段を選ばないんじゃなかったのか?

 そんな疑問を込めて、鋼盾はステイルを睨みつける。


 脳という人体の小宇宙、ブラックボックス。

 インデックスを助けるために、それに挑むと決めたのだろう?

 
 敵は深淵広大にして意味不明。

 そしてぼくらは無知なガキ、ならば先人の知恵に縋るべきだろう。


 なぜ、それを躊躇う?

 もう分かっているだろうに、自分たちだけでは届かないと。

 それこそ、二年かけてもなにひとつ掴めなかったくせに。

313 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/11(金) 22:58:21.71 ID:+f1mvcZao


「……さっきも言ったけどさ、科学は人間の力だ。
 脳科学――いや、医術だってそう、医者や学者がこれまで延々と記録し積み上げてきたものだ」


 医療の発展――否、目の前の生命を、患者を救うために紡がれてきた医の大系

 連綿たる知識の、技術の、研鑽の、究明の、計算の、無為の、試行錯誤の繰り返し


 その、集大成

 ……否、未だ道半なのだろう


 終着などありえない終わりなき道

 言うなれば、それは人類の素敵な悪あがき


 患者に必要なものは全て用意する、そう言って笑ったカエル顔の医師の顔を思い出す。

 貰った名刺に書いてある名前を調べてみれば、すぐに彼の医師の偉大な功績へと行き当たった。


 曰く“冥土帰し”(ヘヴンキャンセラー)

 学園都市の最新技術を駆使し、すべての分野を極めた世界一の医の巨人

 助けを求める者あらば、ありとあらゆる手段を用いて治療を成し遂げる男


 あれもまた、この歪な都市が紡ぎ上げたひとつの成果。

 だがおまえらは、それを悪魔の業と口にした。

314 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/11(金) 22:59:07.16 ID:+f1mvcZao


「きみらは魔術を誇るけど、まさかそれで世界のすべてを網羅できるわけじゃない。
 思い上がってんじゃねえよ魔術師。そもそも分母の数からして桁が違うんだ」


 おまえらご自慢の魔術がどれほどのものかなんて知らないが、所詮は裏技じゃねえか。

 世界の表で延々積み上げられてきた知識の塔を、カビ臭い魔道書なんかに笑わせやしない。

 鋼盾掬彦は苛立ちを隠そうともせず、そんなセリフを口にした。


「……ですが、あの子の頭にあるのは魔道書です!
 それを普通の書物と一緒に考えていいかどうかなんて!!」


 吼える神裂。

 ただ一冊で神秘を体現する魔道書の危険性は、鋼盾もインデックスや土御門から聞き及んでいる。

 だが、それも的外れとしかいいようがない。


「それは違う……解って言ってるだろう?
 あの子の中にある魔道書は記憶に過ぎないよ。
 だからこそあの子は十万三千冊も覚えていられるんだから」


 これについては、他ならぬインデックスのお墨付きだ。

 彼女を禁書目録たらしめたのは、埒外の完全記憶能力と盤石の宗教防壁がゆえ。


 なによりあの子は魔術を使えない。

 だから、あくまでもただのコピーなのだ、それ単体では機能するわけがない。

 
「……でもッ!!」

「……感情だけで否定するな。
 否定するならそれに足るだけのデータを持って来きてくれ」


 にべもなく神裂の叫びを打ち払う鋼盾。

 黙りこむ神裂を庇うかのように、炎の魔術師がその口を開いた。


315 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/11(金) 22:59:54.79 ID:+f1mvcZao


「それが君の言う証拠かい?
 ……もういい、たくさんだ―――そろそろ黙れ、鋼盾掬彦」


 怨嗟炎炎。

 その抑えた声には、しかし途方も無い激情の熱が宿っている。

 怖い怖い、恐ろしいったらない―――だが、舐めるな。


「……それは、できない。
 あの子を助けるために足掻くと決めたんだから――そんなんじゃ止まれないよ」

「曖昧な可能性なんていらない。あの子の記憶を消せば、とりあえず命を助けることができる!
 僕はそのためなら誰でも殺す、いくらでも壊す!……そう決めたんだ。ずっと、前に」


 それが、ステイル=マグヌスの誓い

 護ると決めた少女のために、生命を燃やす男の覚悟


「誰でも殺す、ね――結構なことだ。殺せばいい、あの子の敵を。
 ……そう言えば宿題だったね―――答え合わせをしようか、ステイル」


“明日にもまた電話を入れる。
 それまでに考えておけ、きみの敵がだれなのかを”

 昨日、鋼盾はステイルにそう問うている。


 たとえどれほどの力を持とうとも、それを誰に向けるかを間違えてしまえば意味はない。

 だからどうかきみは敵を間違えてくれるなと、そんな台詞を口にしていた。

316 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/11(金) 23:00:35.79 ID:+f1mvcZao


「あの子の敵、見つけられたかい?
 ―――ぼくは見つけたぞ、ステイル、神裂……ほら」


 鋼盾は携帯からとある画像を引っ張り出し、ステイルへと本体を投げつける。

 受け取ったステイルと、それを覗きこんだ神裂の瞳が、驚愕に見開かれた。


「それが、約束の証拠だよ。
 インデックスの咽の奥に仕掛けられた、呪だ」


 ディスプレイに表示されている画像は、携帯電話のカメラ機能で鋼盾が撮影したものだ。

 少女の口内を犯す悪意の蜈蚣、それが象る妖しい記号の意味はインデックスが教えてくれた。


「ユーピテルの落雷、鷲、そしてゼウスの頭文字だってね。
 そして、太陽系最大の惑星たる木製の象徴でもある」


 そんな大仰な記号だったらしい。

 まったくもって魔術というのは意味がわからないと鋼盾は思う。


「インデックスが言うには“首輪”だそうだ。
 その刻印を刻まれた者は、一年ごとに記憶を消さねば狂死する。
 去年と一昨年、きみたちが見てきたインデックスの衰弱も昏倒も、それの仕業だ」


 きみたちはインデックスを守るために、記憶を奪ってきた。

 ―――そうしろと、きみらに言ったのは、誰だ?


 決まってるだろう?

 それが、おまえらの敵だ。


「首輪は飼い主がつけるものだ。
 ……わかるかイギリス清教、おまえらのことだよ」


 イギリス清教

 必要悪の教会


 それが、首輪を与えた者の名だ

 きみらの飼い主だね、と鋼盾は悼むように嘲るように口にした。

 そしてその口で、残酷な真実を言い放った。


317 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/11(金) 23:01:25.70 ID:+f1mvcZao


「インデックスの記憶についての話は、嘘だ。
 ……きみたちは、だまされていた。歴代のパートナーとやらもだよ」


 教会は、嘘をついている。

 すべては禁書目録をコントロールするために。


「その首輪の解呪は不可能だそうだ。
 禁書目録たるインデックスも、多才能力者――この街すべての大能力者でも匙を投げた」


 十万三千の魔術図書館

 無数の能力を持つ多才能力者

 
 各々、魔術と能力の生き字引であるインデックスと木山春生。

 その両者が揃って「解呪は不可能」と口にした。

 それはつまり、この世の誰にも不可能と言っても過言ではない。


 だが、鋼盾掬彦は知っている。

 あらゆる異能を打ち払う、問答無用の幻想殺しの存在を。


「でも……ぼくらなら、これを壊せる。
 きみらも知っているはずだ、上条くんの右手の力を」


 ジョーカーが、この手の内にある。

 鋼盾掬彦自身には、いつだって碌なカードは配られることはなかったけれど。


 それでも、どうしてか。

 本当に不思議な事に、友人にだけは恵まれているのだ、この身は。


 上条当麻には、エースをやってもらおう。

 インデックスは数字の10、土御門元春はジャックがよく似合う。

 願いはひとつ、ならば纏うスーツの色も同じと嘯こう。


 あとはキングとクイーンが揃えば……ロイヤルストレートフラッシュの出来上がりだ。

 それが誰の事を指しているかなんて―――言うまでもないだろうよ。


 魔女狩りの王と、令刀の女王。

 そろそろ着替えろよ、ぼくらの目指すものは同じと気付け。


318 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/11(金) 23:02:29.94 ID:+f1mvcZao


「っ! ……だが!」 


 血を吐くように、ステイルが“だが”と口にする。

 そうではあるが、それでも、けれど――それらと同じ、否定へと繋ぐ接続詞。
 

「……だが、なんだ?。
 言いたい事があるなら言ってみろよステイル、神裂さんもね」


 しかし、肝心の「そのあとに続く言葉」は、いつまでたっても聞こえてはこなかった。

 鉛よりも重い沈黙―――勿論、鋼盾はそんなものに付き合うつもりはない。


 だから、次の槍だ。

 さあ、畳み掛けてやる。

 ここから先は、我ながらドン引きな展開になるだろう。


319 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/11(金) 23:04:54.01 ID:+f1mvcZao


「じゃあ、きみらの意見を代弁してやろうか。
 ――――『そんなことされたら、困る』ってところかな?」


 その言葉に、ステイルと神裂がピクリと震えた。

 鋼盾は笑う、笑う、笑う。


 ――ほら、やっぱりそこが鎧の隙間だ。

 さあ毒を塗りこんでやる。


「実際、困っちゃうよね。さんざん追い回して、背中から斬りつけて、踏みつけて。
 どうせぜんぶ忘れてチャラになるから好き勝手やってたのにね。
 ここにきてあの子が助かりますなんて言われたら――ホラ、今後のきみらの人間関係とかさ」


 リセットされる筈だったそれ。

 またどうせ、喪われるはずだったもの。


 そんな前提が、ここにきて崩れてしまった。

 ああもう、確かに―――それは、困ったことだろう。

320 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/11(金) 23:10:41.96 ID:+f1mvcZao


「困ったね、参ったね、どうしようね。
 ふむ―――じゃあ、提案だ。今すぐぼくを人質にとるといい」


 紡がれた言葉は、どうしようもなく歪に響いた。

 “己を人質に”というその言葉に、ステイルと神裂は言葉を喪う。


 眼の前の男が何を考えているのかがさっぱり読めない

 理解できない、できないままに流されるがまま、聞き入るしかない


 耳を塞いで逃げろ、さもなくば意識を奪え、いっそ殺してしまえ

 魔術師の勘が盛大に警鐘を打ち鳴らす、それは呪詛だ、耳を貸すな、と


 だが、それもできない

 それは矜持ゆえか、自負ゆえか、敵愾心ゆえか、勇気ゆえか

 それとも、それとも


「そしてさ、デートから帰ってきたふたりにこう言えよ。
 “鋼盾掬彦の生命が惜しくば、インデックスをこちらに引き渡せ”ってね」


 自分でいうのもなんだけどさ、と鋼盾は笑う。

 聞いてくれると思うよあのふたりは、とそんな言葉を口にする。


「そしたらあとは時間まで待って、泣いて嫌がるあの子の記憶を消す。
 慣れたものだよね、もう三回目だ――そして消した後で、首輪を上条君に壊してもらえ」


 逃亡生活の忌まわしい記憶はリセット

 あの子を縛る首輪の存在はデリート


「そうすればさ、お待ちかねのまっさらなインデックスが出来上がりだ。
 その子はなんにも覚えてない、きみらに何をされたかなんて忘れちゃってる。
 ……よかったね、また始めればいい―――また、その子の友達になればいいよ」


 きっと受け容れてくれるだろう、あの子なら

 なんせ―――きみらの事を覚えていないんだから

 きみらがその記憶を、殺すのだから


 それを聞いた神裂とステイルの表情が、凍りついたような顔になっている

 そんな彼らのリアクションがあまりにも予想通りで、鋼盾は思わず笑ってしまいそうになった。

321 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/11(金) 23:11:37.75 ID:+f1mvcZao


「想像してみろよ。全てを忘れてひとりぼっち、その身には十万三千冊の魔道書だ。
 かわいそうなあの子は不安に押し潰されそうだろうね、ひとり泣いてるかも知れないな」


 かわいそうに、見知らぬ異国で一人ぼっちの少女。

 寄る辺なき孤独、身に宿す無数の呪、強迫観念に縛られた少女は焦燥と不安に身を焦がす。


「そこに、颯爽ときみたちが現れるわけだ。一発だろうね……懐くだろうよ、あの子はきみらに。
 蕩けきった信頼の眼差しで、笑って、名前を呼んでくれる―――欲しいだろ、そういうの」


 欲しいだろう、その信頼が。

 いなくなってしまったあの子が、そこにいるのだ。

 かつて手にしていたそれを、取り戻したいだろう?

 ほら、手を伸ばしてみろよ魔術師。


「イギリス清教を裏切れステイル、首に付けられた鎖を外せよ神裂。
 顔を変えろ、名前も変えろ、生き方を変えろ、弟でも兄でも恋人でも、姉でも母でも好きにしろ」


 最初の一年のように、家族のように生きればいい。

 その後の二年間なんて、なかったことにして。

 あと一回だ、あと一回だけあの子を殺せば、そんな未来が手に入るぞ。


「これであの子を殺すのは最後になるぜ、魔術師。
 あの子を殺してきた過去など忘れてしまえ、誇りなど、魔法名など捨ててしまえよ。
 もう忘れられる事に怯えることなく、幸せな記憶だけを重ねていけばいい」


 よかったね、ハッピーエンドだクソ野郎。

 おまえらの望んだ結末だろう? あの子を殺して幸せになればいい。


322 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/11(金) 23:13:05.48 ID:+f1mvcZao


「……もちろんぼくはきみらを恨む、軽蔑する、絶対に許さない。
 でも、そんなことはどうでもいいだろう? あの子と一緒にしあわせになれるんだから。
 些細なことだよ――ぼくらの絶望も、きみらの罪も後悔も。何もかもが瑣末事だ」


 知れよ、魔術師。

 おまえらはぼくらからインデックスを奪う。

 おまえらはインデックッスから、記憶を奪う。

 おまえらはそうやって、幸せな未来を手に入れる。


 そうだろう?

 ステイル=マグヌス、神裂火織。


 おまえらは人殺しになる。

 無様な逃避と矮小な利己心に依って、罪なき少女を殺す最低最悪の人殺しだ。


 これまでの二度は、仕方がなかったと認めてやってもいい。

 だが、今回は違う―――おまえらはおまえらのエゴのためだけにあの子を殺す事になる。

 己のエゴのためだけに、死ななくてもいい少女を殺すことになる。


 そういうことだ。

 その無様な逃避、矮小な欺瞞の結果は―――そういうことだぞ魔術師

323 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/11(金) 23:19:04.99 ID:+f1mvcZao


 最強を名乗ったステイル=マグヌス

 誇り高き聖人、神裂火織


 さあどうする

 あの子を殺すのか、魔術師


 ここでそんな選択肢を選ぶのなら――覚悟を決めろ。

 おまえらの持つ輝かしいもの、そのすべてを奪ってやる。

 この問答は、そのためのものだ。


 それは殺人罪だ、この先一生、許されることなどないと知れ。

 二度と魔法名など名乗らせはしない、罪にまみれて、最低最悪のクズとして余生を過ごせ。


 そこの男、おまえはステイル=マグヌスを殺すのだ

 そこの女、おまえは神裂火織を殺すのだ


 誇り高き彼と彼女を殺して、後悔と慚愧に震えながら七番目のインデックスを幸せにできるというのなら

 その覚悟があるというのなら、もはやきみらを阻む事などぼくにはできはしない

 
「それほどまでに棄てられると言うのなら、この勝負はぼくの完敗だ。
 たいしたものだよ下衆野郎、そこまでやるならあの子を任せられる……幸せになるといい」


 せめて呪をくれてやる

 裏返した祝福をくれてやる


「ぼくらを暴力で黙らせて、他のすべてを踏み躙って。
 誇りも誓いも過去も何もかもを擲って、ぜんぶまるごと何もかもを放り捨てて。
 あの娘を三度殺したその手で、あの子を撫でてあげればいいよ」

 
 おまえらが、そこまでの覚悟をきめているならば

 鋼盾掬彦は、ここで兜を脱いでやってもいい


 罪に塗れて、それでも先へ進めるのならば

 認めてやる、おまえらは最高のクズ野郎だと

 インデックスを任せるに足る、厚顔無恥な卑怯者だと

324 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/11(金) 23:19:48.43 ID:+f1mvcZao


 さあ錆槍の味を知れ

 既に呪はお前らを蝕んだ


 おまえらの望むのもは、取り返しのつかぬ犠牲を持ってしか掴めない
 
 その身に纏った無知と無自覚の鎧は言葉ひとつで剥ぎ取ってやる

 
 知識というのは不可逆だ

 知ってしまえば、取り返しがつかないことがある

 
 自覚しろ、その身がどれほどの罪に塗れるのか

 鋼盾掬彦はただで殺されてなんかやらない


 呪はおまえらの専売特許ではない――只人なれど呪詛は紡げると知れ

 殺してやるぞ、問い殺してやる、おまえらの死因は罪悪感だ


 苦しめ、血を吐け、まき散らせ

 高潔な者にほど、この毒はよく効くぞ 

 のたうち回れステイル=マグヌス、無様に転がれ神裂火織


 鋼盾は笑う、笑う、笑う

 悪魔のように呪を紡ぐ

325 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/11(金) 23:21:22.79 ID:+f1mvcZao


「そ、んな、そんな事が! できるわけがないでしょう!
 どんな顔をしてあの子に向き合えと言うのですか!!」


 神裂火織が怯えたように叫ぶ。

 ああ、そう言うと思ったよと鋼盾は笑う。

 知っている、鋼盾掬彦は知っている。

 神裂火織はそういう人間だと、知っている。

 知っているから、彼女が最も痛がるであろう言葉を紡いだ。


「笑えよ、ヘラヘラと、恥知らずに。
 大丈夫だよ、インデックスは覚えてないんだから」


 彼女は、忘れてしまう。

 ……だが、おまえらはそうじゃない。


 だからこその呪なのだと鋼盾は嘲るように笑う。

 鋼盾は許さない、インデックスを殺すような未来を許さない。


 そう決めた、決めた、決めたから。

 だから、鋼盾はこんなぐちゃぐちゃな戦いを選んだ。


 この身は無様な無能力者。

 なんの力も持たぬ、無力な敗北者。

 無様に情けなく他者に縋る事しかできない、他力本願の負け犬だ。


 なれど、それでも戦を望むなら。

 できることからコツコツと、ひとつづつ柱を潰してゆくしかない。

326 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/11(金) 23:22:58.58 ID:+f1mvcZao


「ふざけるな! そんな真似ができるわけがない!!
 僕に、僕らに、そんなッ――――鋼盾ッ!!」


 ステイル=マグヌスが吼える。

 ばかみたいに喚いている、喚き散らしている。


 鋼盾は笑う、笑う、笑う。

 可笑しくてしかたない―――掌の上だぜ、ステイル=マグヌス。

 極まりなく滑稽だ、愛おしい、どうしようもない、最高だ。


 ねえステイル、やっぱりきみはあの電話をとるべきじゃなかったよ。

 無視するべきだった、会合になど、応じるべきではなかったんだ。


 だから、こんな事になる。

 だから、きみは敗北するんだ。


327 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/11(金) 23:24:10.50 ID:+f1mvcZao


「なんだよ魔術師―――つーか、まだわからないのか?」


 そんな事、そんな真似と言ったな? できるわけがない、そう言ったな?

 その言葉で自分の首を絞めてる事に、なんで気付かないのかな。


「きみたちがやってきたことは、やろうとしていることは、まさにそういうことだろ?
 ……ホントにそろそろ勘弁してくれよ、まだ正義を騙るつもりか?」


 ばかじゃねえの、ほんとに

 ―――さっさと気付けよ、目を覚ませ


「貴方にっ、貴方なんかに私たちの何が判るというのですか!!」


 もはや泣きそうな声で、神裂火織ががなりたてる。

 どうしようもないガキがどうしようもなくガキ臭い台詞を、無様に空に響かせる。


「判るさ、きみたちは、逃げてる。
 インデックスから、逃げてる。今まで重ねてきた罪から逃げてる。
 挙句、ようやく生まれた可能性からも逃げ出そうとしている」

 
 ステイル、神裂

 きみたちは、それでいいのか?

 違うだろ? そうじゃないだろ?


 今、言ったじゃないか――――そんな事、できるわけがないと。

 その通りだ、もう、それは終わりにしなくちゃいけない。



328 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/11(金) 23:24:56.06 ID:+f1mvcZao


「逃げるなよ、魔術師。
 ……もう結論は出てる、そうだろ?」
 
「「………………」」


 応えは沈黙。

 だが―――それもまあ、鋼盾の予想の範疇だった。

 理詰めの説得なんて最初から不可能なのだ、質の悪い意固地の塊め。


「……答えられない、か―――なるほど、わかったよ。
 よくわかった。どうやらぼくは、随分と勘違いをしてたみたいだ」


 では、しかたない。

 仕方ない、しかたない―――しょうがない。

 しょうがないから次の槍だ、もちろん引き続き、呪毒塗れのヤツである。

 用意した十二本の中でも、一際捻くれているのがこの槍だ。

 もっとヒドイ事になる、かわいそうにかわいそうにかわいそうに。


 ……じゃあ、まずはシンプルにシャープかつ決定的に
 
 鋼盾掬彦が、穏やかな声で魔術師ふたりに話しかける


「きみらはあの子が憎いんだ」


 ステイル=マグヌスはインデックスを憎んでいる、と

 神裂火織はインデックスを憎んでいる、と


 そんな台詞を口にした

 インデックスを救うため、魂を削りながら生きてきた魔術師ふたりに向けて、そんな台詞を


329 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/11(金) 23:25:41.64 ID:+f1mvcZao


「―――は?」

「なん、だと?」


 その言葉があまりにも予想外だったのか、魔術師ふたりはぽかんとした顔でこちらを見つめる

 それを見た鋼盾は、痛みを堪えるかのように表情を歪めていた。


 できれば、この槍は使いたくなかった。

 できれば、こんな残酷な詰問はしたくなかったと。


 鋼盾掬彦は、思う

 心の底から、そう思う


 ―――というのはもちろん嘘だ

 呆れてしまうほどに大嘘である、嘘っぱちだ


「吐き出せよ、ここにはぼくらしかいない。
 ―――だからさ、そろそろ腹を割って話してくれないかな?」

「……なにを言ってるのか、わからない。
 僕らが―――あの子を、なんだって?」

「あー、もう取り繕わなくていいよ。
 ……てっきりぼくは、きみらもぼくらと同じだと思っていた。
 きみらもインデックスを助けたいんだって、そう思ってたんだ」
 


 この槍は、特に念入りに砥いでおいた。

 ずっと、言ってやりたかった。


 ねえ、ステイル

 神裂さん


 ずっと、疑問だったんだよ

 どうして、おまえらはあの子の隣にいない?

 どうして、この期に及んで真実から目を逸らす?

 どうして、インデックスを救おうとしない?
 

 ああもう

 決まってるじゃねえか、そんなの

 問うまでもないよね、実際のところ


330 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/11(金) 23:27:17.79 ID:+f1mvcZao


「……でも、そうじゃなかった。
 ようやくわかったよ、きみらは助けたくないんだ、インデックスを。

 考えてみりゃ、当たり前だね……そうとも、当然だ。
 ―――きみらは被害者だ、あれに関わって人生を狂わされたんだから」


 或いは、彼らには自覚はないのかもしれないとふと思う。

 いや、きっとそうなのだろう、救いがたい事に気付いてないのだ、こいつらは。


 でも―――それでも

 ……いや、それだからこそ罪深いと鋼盾は断じる


 槍を持つ手に力を込める、今更容赦などできる筈がない

 したくないし、許さない

 
331 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/11(金) 23:29:14.70 ID:+f1mvcZao


「きみらはインデックスが憎いんだ。
 自分たちを覚えていないあの子を許せないんだ。
 あの子が絶望して、記憶を喪うところを見たいんだ。
 甚振りたいんだよ、哀れなあの子をいじめて、溜飲を下げたいんだ」


 おまえらはあの子の敵役を望んだ

 だからおまえらはそこにいる


 おまえらはあの子の快復を望んでいない

 だからおまえらはぼくを否定する


 笑ってしまうくらいにまっすぐに、その言葉が鋼盾の口から零れ落ちた

332 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/11(金) 23:30:01.80 ID:+f1mvcZao


「おまえらは、あの子を殺したいんだよ。
 インデックスを殺したいんだ、そうだろ?」


 そういうことに、なるだろう? 

 鋼盾掬彦は、そう言った


333 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/11(金) 23:30:45.92 ID:+f1mvcZao

 
――――――――――

 

 学生寮の屋上で、とびきりの呪が花開いた。

 その根は深く深く地を走り、埋もれていた罪を絡めとる。


 ステイル=マグヌスと神裂火織。

 彼らの罪を、暴き立てるために。




――――――――――


334 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/11(金) 23:34:41.13 ID:+f1mvcZao


ここまで!
次回は決着編ですの!


それでは!
さらば!



――――――――――
335 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/05/11(金) 23:41:48.02 ID:/4T9WSquo

メンデルさんはソラマメじゃなくエンドウマメってのは置いといて、
ここのインデックスってどういう経歴なんだっけ
7年前が最初でパートナー土御門だよね
ステイルが何年前って話どっかにあったっけ?
それっぽいところざっと見直してみたけど見つからず……
336 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/12(土) 20:00:15.93 ID:mQg1psLlo
>>335
2スレ目>>490より

約15年前
 インデックス誕生
 本人曰く、生まれはロンドンで聖ジョージ大聖堂で育ったらしい

?年前
 “首輪”と“自動書記”を刻まれ、禁書目録の任務に就く
 魔法名“Dedicatus545”――献身的な子羊は強者の知識を守る、を名乗る

4年前〜3年前(11歳)
 インデックスのパートナーはアウレオルス
 インさんを救えなかったアウは3年間潜伏し、錬金術を極めて2巻に登場

3〜2年前(12歳)
 インデックスのパートナーはステイル(11歳)と神裂(15歳)
 漫画版の回想編エピソードのあたり、何も知らぬステイルと神裂さん
 
2〜1年前(13歳)
 インデックスのパートナーはステイル(12歳)神裂(16歳)
 インさんに忘れられて絶望しきりの2人、アルバムをみせてもゴメンなさいと言われたりする

1年前〜(14歳)
 パートナー不在
 ステイル(13歳)神裂(17歳)、インデックスの敵として接することに
 気づいたら日本で、その後一年に渡り逃亡生活を送るインさん

1巻開始時点(15歳)
 パートナーは上条さん(&このスレでは鋼盾くん)
 ステイル14歳、神裂18歳

337 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/05/12(土) 20:24:23.67 ID:Z65FzLrYo
>>336
いや、原作の話ではなくてここのSSの中でどうなってたかなって
「そういや鋼盾ってこれまでのことをどこまでどう聞いてその時どう思ってたんだっけ?」って思ってな
338 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/13(日) 03:01:16.42 ID:A2sESenvo

鋼盾えげつねえな
339 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2012/05/13(日) 22:49:31.21 ID:OlRYMFq40
豬∫浹
340 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2012/05/13(日) 22:52:35.93 ID:OlRYMFq40
341 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2012/05/13(日) 22:58:42.96 ID:OlRYMFq40
なかなか
342 : ◆FzAyW.Rdbg [sage]:2012/05/13(日) 23:56:59.17 ID:AjB/WGHio
そらまめ? エンドウマメ○

orz
343 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/05/14(月) 01:12:53.87 ID:/RL2B29P0
ステイルさんマジかませ
344 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/14(月) 04:40:01.71 ID:CIakqaTIo
いやあたまらん。いいな!乙!
345 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/14(月) 08:35:09.48 ID:1T1ULzFB0
捨て犬さんのことを悪くいうな!
346 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/05/17(木) 11:39:19.68 ID:50/6/jLk0
わんわん
347 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/05/17(木) 11:40:07.56 ID:50/6/jLk0
わんわん
348 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/05/19(土) 19:40:08.16 ID:0IRcJVyB0
にゃー
349 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/19(土) 22:24:04.13 ID:G88EoSKio
ほろっほー
350 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/05/21(月) 16:32:12.21 ID:kYvPRULBo
うっきー
351 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/05/21(月) 16:40:37.32 ID:nl+SFwA2o
てけり・り!
352 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/05/23(水) 15:46:30.05 ID:wrid08dt0
ぱおーん
353 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/24(木) 10:55:59.37 ID:dnoP1ufRo
ひひーん
354 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/25(金) 23:06:49.41 ID:Bod6h9fvo
検査入院をしたりもしたけれど、私は元気です

どうも>>1です
ちょっと体調とか崩してました申し訳ない
4スレ目ペース遅すぎですなちくしょう、すまねえ

多分明日には来れると思います
もしかしたら明後日になっちゃうかもですが、なんとか!

んじゃ、しばし!

355 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/25(金) 23:18:57.11 ID:Bod6h9fvo
>>335 >>337
あー、これはちょっと>>1のミスかもです
つっこみ感謝、ちょっと確認させてくだされ

鋼盾が魔術師組について知る流れは

@インデックスとの出会い
 ・魔術、魔術師、必要悪の教会の存在を知る(半信半疑)

Aステイルとの出会い
 ・ステイルがイギリス清教の人間と知る
 ・彼が“ある人”のため“強者”たらんと誓いを立てていると知る
 ・彼がインデックスを追う魔術師であるかもしれないと思う

B上条やインデックスから交戦時の状況を聞く
 ・ステイルがインデックスを狙う魔術師であると確認
 ・イギリス清教が一枚岩ではない可能性を思う
 ・学園都市とイギリス清教の間に、なんらかの繋がりがある可能性を見る
 
C神裂襲来
 ・ステイルと神裂が必要悪の教会の人間であり、インデックスと親しい間柄だったと喝破
 ・問い詰められ涙する神裂の様子に、その過去の重きを知る

D土御門登場
 ・土御門元春が魔術師で、必要悪の教会の人間であることを知る
 ・インデックスが記憶を失う事、既に六度記憶を失っていたことを知る
 ・必要悪の教会がインデックスの記憶を消していた事を知る
 ・ステイルと神裂がインデックスのパートナーで「ここ数年」彼女の記憶を奪っていた事を知る
 ・彼がインデックスの初代のパートナーであることを知る
 ・英国清教上層部のアナウンスが嘘である可能性を、土御門に示唆される

だいたいこの辺で、謎解きの材料が集まる感じですね
そして鋼盾は、木山や冥土帰し、雲川らの助言を得て「首輪の存在」「英国の嘘」「首輪の破壊法」を見つけます

確かにステイルや神裂が“三年前”からのパートナーという点についての言及はありませんでした
あと、“歴代のパートナー”という言葉も唐突に過ぎますね、ウルトラミス!!
六年という歳月とステイルの年齢から、他にも“そういう境遇の人間”がいた可能性に思い至ったかもですが、ちと根拠が足りない

地の文でちらっとその辺を書いたせいか(2スレ目592)、土御門が鋼盾に教えたと勘違いしてました
つうか地の文に鋼盾視点以外の描写がちょくちょく入るのが混乱のもとなんだろうか、ううむ未熟

というわけで訂正
2スレ目570の土御門の台詞です

「神裂とステイル、あのふたりが就いているのは、そういう任務だ。
 あいつらこの数年、ずっと親友だったあの子を助けるため、彼女記憶を殺し続けてる。
 さっきの神裂への非難は尤もだが………まあ、そんな理由があるんだよ」

 ↓ ↓ ↓

「記憶を消すのは、あの子に近しい立場の人間の役目になる。
 悶え苦しむあの子をその苦痛から解放し―――その最期を看取る。
 禁書目録の管理人……いや、パートナー、といったところかな」

「一年目は温和で敬虔な神父さま、二年目は姦しくも心優しい修道女。
 三年目は手先の器用な彫金師、四年目は魔道書のエキスパートたる隠秘書記官」

「父として、姉として、隣人として、教師として……
 彼らはそれぞれにあの子を慈しみ、そしてその生命を繋ぐためにあの子から記憶を奪った。
 自分が忘れ去られる痛みに涙しながら、それでもあの子の未来を望んだ」

「神裂とステイル、あのふたりが就いているのは、そういう任務だ。
 あのふたりは既に二度、親友だったあの子を助けるため、その記憶を殺している」

「インデックス、神裂、ステイル―――あの三人は家族のようだったよ、掛け値なしにな」

「……だが、二度目の記憶破壊を経て、それでもあの子の家族でいることはできなかったらしい。
 ゆえに、敵を演じて距離を取ってるんだ。 さっきの神裂への非難は尤もだが………まあ、そんな理由があるんだよ」


 ……と、こんな感じの話を土御門がしたと、脳内で補完していただければと思います
 歴代のパートナーはアウレさん以外捏造です、手元に原作がないので適当でござる。笑って流して下され 

 アウレ以外のパートナーは元気にしてるのでしょうか
 鋼盾は彼らにも対価を払わせてやると息巻いていましたが、どうなることやら

 長々と失礼
 それでは、また明日!!

356 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/25(金) 23:28:07.68 ID:QdmFJ4rco
そろそろ来る頃だと思ってたぜ
357 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/05/26(土) 01:40:26.99 ID:zR9j10D40
蛹励°
358 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/26(土) 01:42:31.67 ID:+IT5ca10o
待ってるぜ。しっかりな。
359 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/26(土) 20:56:29.15 ID:3YdlsRYwo
どうも>>1です
レスサンクス! ほんとに救われるぜ!

あ、もうひとつミスっぽい、わりと大事な設定で
>>355のあたりを調べてたらわかったんだけど、どうやらインデックスの記憶破壊は既に七回行われていたみたい

以下、インデックスさん年表更新版
言うまでもないですが当SSの独自設定を多分に含みますので注意

―――――

約15年前(0歳)
 “     ”誕生
 本人曰く、生まれはロンドンで聖ジョージ大聖堂で育ったらしい

7年前(7歳)
 なんらかの理由で英国にいた土御門元春と出会い、友人になる
 ローラ=スチュアートにその才を見出される、生まれた時からかもしれない

 魔法名“Dedicatus545”――献身的な子羊は強者の知識を守る、を名乗る
 “首輪”と“自動書記”を刻まれ、禁書目録の任務に就く

 記憶破壊1回目


7〜6年前(8歳)
 インデックスのパートナーはとある神父
 記憶破壊2回目

6〜5年前(9歳)
 インデックスのパートナーはとある修道女
 記憶破壊3回目

5〜4年前(10歳)
 インデックスのパートナーはとある彫金師
 記憶破壊4回目

4〜3年前(11歳)
 インデックスのパートナーはアウレオルス、記憶破壊5回目
 インさんを救えなかったアウは3年間潜伏し、錬金術を極めて2巻に登場

3〜2年前(12歳)
 インデックスのパートナーはステイル(11歳)と神裂(15歳)
 漫画版の回想編エピソードのあたり、何も知らぬステイルと神裂さん
 記憶破壊6回目
 
2〜1年前(13歳)
 インデックスのパートナーはステイル(12歳)神裂(16歳)、記憶破壊7回目
 インさんに忘れられて絶望しきりの2人、アルバムをみせてもゴメンなさいと言われたりする

1年前〜(14歳)
 パートナー不在
 ステイル(13歳)神裂(17歳)、インデックスの敵として接することに
 気づいたら日本で、その後一年に渡り逃亡生活を送るインさん

1巻開始時点(15歳)
 パートナーは上条さん(&このスレでは鋼盾くん)
 ステイル14歳、神裂18歳

 8回目の記憶破壊を防ぐべく、素敵に悪あがき中

―――――

というわけで記憶破壊は6回じゃなくて7回でしたね
それに付随して本編中の数字が幾つか間違っています、すまん

原因は、初代のパートナー土御門さんについての設定の甘さ
彼は一年目のパートナーではなく、0年目のパートナーなんですね
禁書目録インデックスではなくて、ちゃんとした名前があった頃の“あの子”のパートナーなのでした!

……まあ、こんなこと気にしてるのは俺くらいなんだがな!
とにかく失礼しました! めんご!

あと30分くらいしたら、投下に来ます
よろしければお付き合い下さい
360 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/05/26(土) 21:08:57.72 ID:M3wUkHHao
俺がうっかりつついたばっかりにいろいろ変なことになってすまんかった
投下まで舞ってる
361 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/26(土) 21:33:20.35 ID:3YdlsRYwo
>>360
うんにゃ、つっこみ感謝です
つうかプロットにないものを突っ込みまくってるからこういうミスがでるんだよなー
当初はもっとシンプルな話だったのですが

あ、それでは投下ですたい!
そぉい!


――――――――――
362 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/26(土) 21:34:40.90 ID:3YdlsRYwo


 悪いのは全て、英国清教の上層部。

 ステイル=マグヌスも神裂火織も、黒幕に操られていた哀れな被害者。

 彼らは騙されていただけだ、真実を知ればきっとぼくらの仲間になってくれる。

 だって彼らはあんなにも、インデックスを愛しているのだから。


 ……と、いうのが魔術師ふたりに対する鋼盾の基本的なスタンスだ。

 割と鉄板だと思っているし、現に彼はその評価をもとに作戦を組み立てた。

 ステイルと神裂、彼らを戦力としてこちらの陣営に引きこむ。

 かつての絆は喪われることなく、彼ら三人がまた共に笑える日がくるように、そう願って。

 
 それは、魔術師ふたりとの対話を経て形作られたある種の信頼

 あの子を護ると誓った赤毛の神父と、あの子のためにあんなにも無防備な涙を流した聖人への、信頼


 ……だけど、それを否定する材料があったことも事実だった。

 それはすべての始まりだった七月二十日、学生寮で上条とステイルが対峙した際の事だ。


 あの日、ステイル=マグヌスは――インデックスをゴミのように足蹴にしたという。

 殊更に彼女を“ソレ”“備品”“禁書目録”と、物のように呼ばわったという。


 それが、今までずっと疑問だった。

 鋼盾掬彦が抱いているステイル像には、ひどくそぐわない行為だったからだ。

 その疑念は、土御門元春から“ステイルとインデックスの関係”について聞かされた事で、さらに強いものになった。


 擬似人格たる“自動書記”、それが発動していたとはいえど。

 護ると誓った、それこそ魔法名――己の魂に誓った女を相手に、だ。

 なぜ、そんな真似をしなければならなかったのか―――そも、できたのか。


 残虐な魔術師を演じた?

 誰に対して? 上条当麻に対して? 殺すつもりだった相手に? わざわざ?

 意味がない、そんなことをする意味がない。

 なぜ、そんなことをしたのか


 やる必要があったから?

 それとも―――そうしたかった?
 

 だとしたら、それはどうして?

 ……そんなの、ひとつくらいしか思いつかない


363 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/26(土) 21:35:24.15 ID:3YdlsRYwo

 
「そう―――きみたちは、インデックスを恨んでいる」


 そして、出た結論がこれだった

 少なくとも、事実の一測面ではあるはずだった
 

 そう考えれば、いくつかの疑問にすっきりと解答が用意できる

 そもそも、そう、その感情は実に自然で真っ当であるすら彼は思う


 他ならぬ自分が、インデックスに言ったではないか

 自分の事を忘れてしまったきみを、ぼくは“きみ”だと認められない、と


 愛した少女と同じ顔をしたその少女を変わらず愛することなんて―――果たしてできるものだろうか

 できるというのは容易いだろうが、そんな単純な話でもないだろう、実際


 ……少なくとも自分にはできないな、と彼は思った

 見様によっては―――それこそ、他人よりも遠いのかもしれない


 忘れられるということは、そういうことだ

 そこにいるのにどこにもいない、それは死よりも理不尽な喪失


364 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/26(土) 21:36:47.79 ID:3YdlsRYwo


「きみらはさ、自分たちのことを忘れてしまった、あの不実な女を恨んでるんだ。
 ハ……確かにひどい話だ、ひどい女だよ、アレは」


 まさしく魔女だね、鋼盾は笑う。

 悪い女だと、流石は英国、魔女の本場だけのことはあると。


 その女、まさに天真爛漫の天衣無縫。

 するりと他人の心に入り込み、その微笑みで魅了して。

 しかし一年ごとに全てを忘れ、新しいパートナーに尻尾を振る。


 無自覚なのが、余計に罪深い。

 まあ、とんでもない悪女がいたものだ、と。


 そんなことを笑いながら口にする鋼盾掬彦。

 それに対する魔術師二人の反応は、劇的だった。


365 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/26(土) 21:37:46.15 ID:3YdlsRYwo

「……あの子を、あの子を侮辱するのですか? 他ならぬ貴方が!?
 ――――取り消しなさい、今すぐッ!!」


 激昂し、糾弾の声を上げたのは神裂。

 ステイルにいたっては怒りのあまり、その表情は逆に冷え切っていた。

 だが、握り締められて真っ白になった拳が、殺してやるぞ鋼盾掬彦とがなり立てている。


 インデックスの代弁者のような口振りで

 インデックスの守護者のような顔をして

 インデックスの家族のようにまっすぐに


 あの子を貶めるなと、吠えている

 正義は我等にありと、嘯いている

 声高に、ギャーギャー喚いている


 ……それが、鋼盾には許せない。

 気に入らない、どうしようもなく。


 抜け抜けと、悲劇の主人公のような面をしてやがるステイル。

 理不尽な試練に耐え忍ぶ、敬虔な信徒のような面をしてやがる神裂。


 ああ

 わかってしまう、透けて視えてしまう

 このふたりは、この期におよんで、自分たちが正しいと思っている

 自分たちがこの物語の主人公だと思っている


 そんなこと、あるわけがないのに

 あるわけがないのに


 だっておまえらは、その役を、資格を

 自らの手で――擲ったのだから

366 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/26(土) 21:38:40.69 ID:3YdlsRYwo


「……もううんざりだ、頼むからもう正直に言えよステイル、神裂。
 事の発端からしておかしいんだよ、なぜお前らはインデックスの敵の位置にいる?」


 なぜ、そんなところにいるのか、と鋼盾は問う。

 そう、鋼盾がなにより問い質したいのが、それだった。


 去年の七月二十八日、インデックスは記憶を奪われている。

 記憶を消したのはステイルと神裂で、昏睡状態にあった彼女の身柄は、彼らの手の中にあった。

 それは間違いない、他ならぬステイル自身がそう言っていた。


 ならば、今代のインデックスは“必要悪の教会”つまり英国で目覚めた筈だ。

 それが道理だろう、禁書目録をわざわざ国外に出す意味など無いのだから。


 しかし実際のところ、目が覚めた彼女は縁も所縁もない異国である日本に居たという。

 あの子が日本に逃げてきたのではない、彼らが意図して逃がし、そして放置した。

 そして、その上で―――禁書目録の簒奪者を演じ、彼女を追った。

 
 それが何を意味するのかは、正直なところ想像だ。

 だが少なくとも彼らは“家族ごっこ”を自ら放棄して“鬼ごっこ”を始めた事になる。


 見知らぬ異国でひとりきり、全てを忘れて、しかし使命だけはその身に深く刻み込まれて

 不安と恐怖と空腹に苛まれながら、その優秀な自己保全プログラムに従う少女


 “禁書目録”“十万三千冊の魔道書”“英国清教”“第零聖堂教区”“必要悪の教会”

 “dedicatus545”“献身的な仔羊は強者の知識を守る”“自動書記”“歩く教会”


 生まれたばかりの仔羊に、あまりにも重い荷を背負わせるその所業

 それを施したのは、英国清教の上層部だが―――しかし


 それでも、共に歩む仲間がいれば、あの子は笑顔でそれを成し遂げただろう

 禁書目録として敬虔な十字教徒として、その短すぎる生をそれでも笑顔で過ごせた筈だ


 だけど、そうはならなかった

 目の前の魔術師ふたりが、そうさせなかった

367 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/26(土) 21:40:59.35 ID:3YdlsRYwo


 鋼盾はインデックスの涙を覚えている、“こわかった”と泣いたあの子の顔を覚えている

 震える声を、しがみつく指先の白さを、“こんな一年いらなかった”というその言葉を覚えている


 出会った日の、その諦めきった眼差しを覚えている

 “わたしと一緒に、地獄の底までついてきてくれる?”そんなかなしい台詞を覚えている


 あの子が苦しむ必要なんて、どこにもなかったのに

 “傍にいるのが耐えられない”なんてふざけた理由で、彼らはそんな真似をした


 あの子に関わるのが辛いなら、逃げ道など幾らでもあった筈なのに

 土御門元春がそうしたように、他のパートナーがそうしたように、そうすることもできたはずなのに


 どうして、そうしなかった? どうして、三年間も費やした?

 ふたりで二年間だとしても、この一年は余計だろうに


 わざわざ敵対者となってまで、あの子に関わり続ける理由はどこにある?

 インデックスを救う方法が浮上したこの状況で、それを拒み続けるのはどうしてだ?


 ……決まってる

 決まっているだろう、そんなのは


「憎いんだよね? あの子が。
 自分たちのことを忘れて、他人(ぼくら)にヘラヘラ笑ってみせるあの子が」


 “おまえらのこの一年の振る舞いは、その全てが八つ当たりに他ならない”

 有罪も無罪もなくただただ断じる、そんな器械めいた容赦のなさがそこにはあった。
 

 鋼盾は問いを重ねる。

 その声音は、喩えるならギロチンのようだった。
 
368 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/26(土) 21:45:02.38 ID:3YdlsRYwo


 無邪気に笑う少女を憎んだことはなかったか

 なかったはずがないだろう、と鋼盾は言う、己であれば絶対に憎むだろうとも


 その笑顔を向けられるのは己であるべきと思ったことはなかったか

 なかったはずがないだろう、と鋼盾は言う、己であれば絶対にそう思うであろうとも


 可愛さ余ってなんとやら
 
 それらが前面に出てこなかったのは、彼らの克己や自制心ゆえではない


 知っていたからだ、どうせこの女はまた記憶を失ってしまうと

 どうせ絶望するとわかっていたから、その嫉妬をやり過ごす事ができたのだ

 鋼盾も上条もインデックスも――どうせ、繰り返すだけだと


 無知なぼくらを悼み嘲笑い、哀れみと優越感に浸っていたのだろう

 ビルの屋上あたりで、風に吹かれながらセンチメンタルな台詞でも吐いていたのではあるまいか

 “素敵な悪あがきを”みたいなヤツを、沈痛な面持ちでキメていたのかもしれない

 
 だが、その目論見は外れた

 此度のパートナーは、なんとインデックスを救う方法を見つけたのだという


 首輪の存在と、その鍵に

 魔術師たちは、何を思っただろうか


 鋼盾にはそれが手に取るようにわかる

 我が身に置き換えてみればいい、それだけの話であるからだ
 
369 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/26(土) 21:45:52.31 ID:3YdlsRYwo


「ふざけるな、って話だよね。ありえないよ。
 そうとも、自分たちをこんな目に合わせておいて、ひとりで幸せになるだなんて許せない。
 こんな街で勝手に幸せになるなんてさ―――裏切りとしか言いようがない」
 

 インデックスは救われるという

 上条当麻が、鋼盾掬彦がそれを成すという

 魔術師ではなく、科学の徒が彼女を救うというのだ


 そんなことになったら、ステイル=マグヌスはどうしたらいい?

 そんなことになったら、神裂火織はどうしたらいい?


 どうもこうも、ない

 そんなことは、ありえてはいけない


「……だから、きみたちは認めない。
 ここに、解答があるのに、ぼくが見付けてきたのに……それから眼を逸らし続ける。
 そりゃあ、そうだ。だってそれじゃあさ―――あの子が救われてしまうじゃないか」


 ステイルと神裂を置き去りに、あの子は救われてしまうという

 何もかも忘れてしまったままで、とても幸せそうな顔をして


 もう、後ろを振り返ることもなく

 魔術師たちの三年間は、すべてが泡と消えてしまう


 それは――まあ、理不尽な話だなと鋼盾は思う

 鳶に油揚げどころではない、ヒロイン泥棒だ、どこぞの大魔王よりひどい


 それなのにヒロインは、にこにこ笑っている

 人の気も知らずに、幸せを謳歌している

 ここが己の居場所だと、そう言っている


 めでたしめでたし?

 あの子がしあわせなら、それでいい?


 いいわけねえだろ、恩知らずの尻軽売女の裏切り者め

 ……と、思った人間がいても、なにも不思議ではない

370 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/26(土) 21:46:55.57 ID:3YdlsRYwo


「そうだよ、あの子は不幸でなくてはならない。
 きみたちを不幸にしたんだから、それが当然の報いだ」


 鋼盾は“蜘蛛の糸”の話を思い出す

 カンダタに縋り付いた亡者は、何を思っていたのだろう


 “自分も救われたい”というのは当り前だとして

 “地獄から一人で足抜けなんて許さない”なんて気持ちも、あったのではないだろうか


 亡者であれど、あるいは亡者なればこそ

 裏切りなんて、ゆるせるわけがない

 ならば


「あの子はこれからも死に続けるべきだ。
 ――せめてきみらに、殺されてやるべきだ」


 年に一度の儀式のように

 日が昇るように日が沈むように

 月が欠けるように月が満ちるように


 神の子のように、捧げられて死ぬべきだ

 神の子のように、復活するのだから


「認めろよ――おまえらはインデックスを守りたいんじゃない、苦しめたいんだ。
 あの不実な女を、不幸なままにしておきたいんだよ、そうだろう?」


 鋼盾掬彦はそんなことを言いながら、笑う

 眼前の魔術師ふたりがどんな顔をしているか、自分以外見ていないのが勿体無くて仕方ない


 いい表情だ

 計算通りと言っていい


 ほうら、そろそろ溢れるぞ

 涙が、言葉が――――彼らの心そのものが


 目論見通りに導きの火が走る、それは文字通りの導火線

 打ち上げ花火を待つような昂揚、感情の炸裂する前の一瞬の静寂


 そして
 

371 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/26(土) 21:47:52.53 ID:3YdlsRYwo


「「違うッ!!!」」


 ステイルと神裂が、爆発するように“違う”と吠えた

 インデックスを苦しめたくなんかない、と

 不幸になんかしたくない、と


「ふざけるな!! 僕らは、あの子をッ!!」

「そんな訳がないでしょうっ!!
 ……なんでっ、なんで、あなたはッ!!」


 否と叫ぶ、その声

 愛とかなんとか、感情に塗れた声が響き渡る

 あらゆる虚飾を剥ぎとった、それは心底からの本音だった

372 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/26(土) 21:48:51.26 ID:3YdlsRYwo


 ――ああ、やっぱりそうでなくてはね、と鋼盾は笑う

 嬉しくて楽しくて思い通りの狙い通りで、まったくもってたまらない

 
 上等だ、よく吼えた

 その台詞が聞きたかった


 ……さあ、ようやくだ

 手間かけさせやがって、意地っ張り

 おまえらがあの子を大好きなことくらい、お見通しだ

 ギャップもクソもないんだから、最初からデレてればいいものを


 お待たせしました、ツン終了のおしらせ

 やっとこさ地金を晒しやがったなこの善人め、と悪人が笑った

 笑いながら、次の槍を構えた


 この槍もまた、えげつない一筋

 残酷で、卑怯で、狡辛く悪辣な一撃になる
 
 鋼盾掬彦は躊躇わず、その穂先を鎧の隙間にねじ込んでゆく


「―――そうだね、違う。
 知ってるよ、きみたちはそんなヤツじゃない」


 正確には、それだけで終わるヤツじゃない、だろうか。

 彼らの裡に、インデックスへの複雑な感情があることは、きっと否めない。


 だが、それだけではない。

 あの子に幸せになって欲しいという彼らの願いも、また真実だ。

 人形じゃないんだから、単一な感情だけで動けるわけもないだろう。


 無私の愛情なんて、神様でもあるまいし

 見返りは欲しいよ、そりゃ

373 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/26(土) 21:49:32.19 ID:3YdlsRYwo


「優しいんだよ、きみたちは―――どうしようもなく。
 だから、痛みから逃げることができなかった。
 あの子を見捨てられなかった、諦められなかった」

 
 先ほどまでの糾弾とは、打って変わって肯定の台詞。

 それは単なる甘言や、御為ごかしのような言葉ではなかった。

 どちらかと言えば……悼むような色すらあったかもしれない。


 やさしいから、傷を負う羽目になった

 その痛みが、彼らをねじ曲げてしまった

 だから、こんな事になってしまったのだ、と


「……あの子を救うヒーローに、なりたかったんだよね。
 いつか、努力が実る日が来て、最高のハッピーエンドを掴み取れるって信じてたんだ」


 かつてきみたちにはその資格があった、と鋼盾は認める。

 紛うことなくきみたちは、インデックスの家族で、味方で、友人だったのだから。

 ぽっと出の自分たちなんかよりも、ずっとヒーローの役にふさわしかった、と。


「……でも、きみたちは“それ”を見つけられなかった。
 できなかった、届かなかった、駄目だったんだよ」


 しかし、そうはならなかった。

 神裂もステイルも、そこには至れなかった。

 魔術に拘泥するがあまり、自ら可能性を狭めてしまった。


 仮に、科学的な観点からイデックスの症状に疑問を抱く事ができていたならば。

 そうだとしたら、物語はまた違った局面に進んでいた可能性はずだ、と鋼盾は思う。

 まあ、噂の最大主教がそれを簡単に許すとは思えないのだけれど。


 それでも。
 
 可能性は、確かにあったのだ。

 記憶を奪うなんて、あの子を殺すなんて方法を取らずにすんだ可能性は、あったのだ。


 ……でも、駄目だった。

 探せど探せど見つからず、魔術師ふたりは愛する少女の二度目の死に行き当たる。

 そして、そのあまりの痛みに耐えかねて―――彼らは道を踏み外した。

 記憶を喪い惑う少女を、突き放してしまった。

374 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/26(土) 21:51:38.20 ID:3YdlsRYwo


「……今となってはきみたちは、どうしようもなく敵役だ。
 望んできみらはその役に就いた、あの子の仲間であることを放棄してしまった」

 
 家族ではなく追手として振る舞うこと。

 記憶破壊による現状維持を是としたこと。


 “どうせ記憶を喪うのなら、いっそ―――”

 その言葉が敗北宣言だと、気付いていなかったなんて言わせない。


 彼らはその弱さゆえに、あの子をひとりぼっちにした。

 そして鋼盾掬彦は、それを“仕方がない”と許す事はできない。


 けれど――まだ、間に合う

 そう、信じている


「……っ! だって! どうすればよかったのですか!?
 私たちはそんな道しか選べなかった! 見つけられなかった!」

「……そう、見つけられなかった、耐えられなかった。
 それは、きみらの弱さで罪だ。ぼくはそう思うよ―――だから、償え」
 

 血を吐くように叫ぶ神裂に、鋼盾はそう返した。

 償えと。その罪から、どうか目を逸らさないでくれと。

 そのための舞台は、ぼくが用意してやるからと。


「終わりにしよう、こんな物語は。
 ――そろそろさ、ヒーローが出てきてもいいはずだ」


 英国教会の脚本なんか、破り捨ててしまえ

 ヒロインを六回も殺しやがって、その展開にはもう飽き飽きなんだ


 新しい脚本がここにある

 鋼盾掬彦が、夜一夜書き連ねたとびきりの物語だ


「……ヒーローなんて、いない」

「いるよ、ステイル。
 ―――いるんだ。それはぼくじゃないし、きみらでもないけど」


 ご都合主義と笑わば笑え

 あいつの出番だ、幻想(シナリオ)をぶっ壊す、ドラマツルギーのバケモノの

375 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/26(土) 21:55:27.91 ID:3YdlsRYwo


  “繰り返されること七度目、此度の舞台は学園都市”


  “神様に喧嘩を売るような、科学の街
   そこに紛れ込んだ魔術世界の結晶たる禁書目録”


  “記憶を喪った少女、その身に宿すは一〇万三〇〇〇冊の魔道書。
   それを付け狙う悪の魔術師から逃れるべく、孤独なヒロインは必死に夜を駆ける。
   しかし追い縋る敵の攻撃を受け、少女はあわれ撃ち落とされてしまう”


  “落とされた先は何の変哲もない学生寮。
   しかし、そこに住む少年の右手には、神様だって殺せる異能(ちから)があった。
   ――少女に科せられた残酷な呪を破壊する、冗談のような奇跡があった”


  “押し寄せる異能の使い手、見え隠れする黒幕の繰糸、英国の闇
   時計の砂は容赦なく滑り落ちてゆく、それは彼女の生命そのもの”


  “『地獄の底までついてきてくれる?』と悲しそうに笑う少女に
   『地獄の底から引き上げてやる』と少年は当り前のように返して”


  “禁書目録と幻想殺しの運命が交差し、物語が始まる”



  ……ほら、まるでよくできたライトノベルのように

  気恥ずかしいほど痛快で王道な、ドキドキワクワクな物語じゃないか


 「超能力と魔術、非日常が跋扈する珠玉のボーイ・ミーツ・ガールだ。
  タイトルは―――“とある魔術の禁書目録”ってところかな」


  さあ、ヒーローがやってくる

  ぼくらのヒーローがやってくる


  今までの七年間なんて、全部プロローグにしてやる

  おまえらの絶望なんて、ハッピーエンドの添え物にしてやる


  だから

  もう諦めてしまえばいい


  諦めて、ぼくらと一緒に素敵な悪あがきをすればいいのだ

  
376 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/26(土) 21:57:50.65 ID:3YdlsRYwo


「この物語のヒーローは上条当麻だ」

「「……っ」」


 主役はきみらじゃない、そう言われたステイルと神裂は声を詰まらせた。

 そう、ヒーローは上条だ、あいつしかいない。


 上条当麻の右手に幻想殺しが宿ったのは、きっとこのためだった
 
 それでいい―――地獄から迷える少女を掬い上げるためだけに、その右手はあったのだ


 そう決めた、勝手に

 それでいい、上条当麻はそれでいい


 ……手くらいは繋げたか、デート中のヒーローめ

 ぼくらの勝利条件を覚えているか? 隣にいる少女はどんな顔をしてる?

 笑ってるんだろうよ、はいはい流石だ、爆発しろ旗男


「ヒロインは言うまでもないね。
 ―――もちろん、インデックスだよ」


 ヒーローの横には、ヒロインだ


 英国が闇、十万三千の魔道書、ひとでなしの呪縛、世界の均衡

 そんな馬鹿げた重責呪縛など、単なるヒロイン属性と鼻で笑ってやる


 というか設定盛りすぎだ、銀髪碧眼修道服腹ペコ美少女の時点でお腹いっぱいである

 あの笑顔ひとつで、あの子にはヒロインの資格があるのだから


377 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/26(土) 21:58:43.06 ID:3YdlsRYwo


「そして、きみらは今のところは敵役で……ぼくは脇役、端役だ。
 ぼくらは主人公じゃない。配役なんて、もう最初から決まってたよ」


 ステイル=マグヌスは敵役である

 神裂火織は敵役である

 そして―――鋼盾掬彦は、端役だ


 主役を張れる人間、ヒーローやヒロインになれる人間ばかりではない

 どうしたって、スポットライトから外れる人間がいる

 そういう風にできているらしい、この世界は


 誰が選んでいるのやら

 誰も知らない、運命の則


 それを呪ったこともあった

 夜が来るたび、それはこの身を灼いた

 持たざる己を嘆き、持つ者を妬み嫉んだ


 幻想御手を欲したのは、能力を欲したのは

 そのためだったのかもしれないな、と今更ながらにそれを知る


 認めよう、絶対に口にはしないけど

 鋼盾掬彦だって、ヒーローになりたかったのだ

 なれぬと知っていて、それでもなりたかった、夢を見ていた

 今だって、もしかしたら、あるいは


 だけど

 それでも

378 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/26(土) 21:59:27.30 ID:3YdlsRYwo


「……でも、端役だっていい、脇役だっていいじゃないか。
 少なくともぼくは、さ―――自分が主役じゃなくたって、ハッピーエンドが見たいよ。
 インデックスが、あの子が幸せになる、未来が見たい」


 鋼盾掬彦はそれが見たい

 もうヒーローになんかなれなくてもいいから、それが欲しい


 この街で彼が守りたい人間なんて、三人しかいない

 その程度が今の己の器だ、ちっぽけだけど、既に十二分に満たされてもいる


 それを失いたくないから

 だから、似合わぬと百も承知でこんな真似をしている

 ここで心を燃やしている、思考をやめず足を止めず前を見据えて歯を食い縛って拳を握っている


 そして

 それはきみらも同じだろう、と鋼盾はそう言っている

 
「自分が主役になれないからって、逆恨みでバッドエンドになんてさ。 
 そんなのは……だめだよ。脇役にだって矜持がある、そうだろ?」


 ぼくらとて、物語の紡ぎ手だ

 主役じゃなくたって、ここで生きている

 
 夢がある

 理想がある

 守りたいものがある


 だから

 やつあたりよりも先に、やるべきことがあるはずだ

 鋼盾はステイルと神裂をまっすぐに見つめると、静かに真摯に言葉を紡ぐ

379 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/26(土) 22:00:44.33 ID:3YdlsRYwo


「―――頼む。
 報われない道になるかもしれないけど、選んでくれ
 他ならぬあの子のために、選んでくれ」


 我ながらひどい台詞だと、鋼盾は思う

 こんな台詞を言う男は呪われればいい、とも思う


 報われぬ道を征けなんて、そんな理不尽を

 インデックスのためだからと、そんな言葉で押し付けている


 よくもまあ、そんな事ができるものだ、ろくなものではない

 マジでろくなものではない、やっぱり主人公役は振れそうにない、無理だ


 だが、そんなヤツだからこそ言える台詞があり、示せる未来がある

 それは上条当麻にも、インデックスにも、月詠小萌にも不可能なこと


 こんな台詞は、きっと恥知らずな脇役にしか口にできない

 鋼盾掬彦にしか、口にできない


「ヒーローになるのを、あきらめてくれ」
 

 その役は、もう埋まっている。

 上条当麻が、幻想殺しの少年が、それを成す。

 あの右手がきっと、すべての鎖を引き千切る。

 それは、彼にしかできないことだ。

 上条当麻にしか、できない事だ。


 鋼盾はふと、彼ならば自分とは正反対の事を言ったんじゃないかなとも思う。

 “今こそお前らがヒーローになるチャンスだ”みたいな感じだろうか。

 失意に塗れる魔術師ふたりに、少年漫画のような、熱いハートでまっすぐに。

 それこそがヒーローの、主人公の台詞に他ならないと、彼が気づくことはないだろうけど。


 でも、ここにいるのは鋼盾掬彦だ。

 鋼盾はヒーローではないから、そんな事は言えないし、言わない。

 故にこの口から出てくるのは、こんな台詞になる。 

380 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/26(土) 22:02:26.05 ID:3YdlsRYwo


「ぼくと一緒に、脇役をやってくれよ。
 ……あの子がこれから笑えるように、そんな未来の為に、脇に回ってくれ」


 主役だけじゃ物語は回らない。

 ぼくらにだって、為すべき役がある筈だ


 ステイル=マグヌスにはステイル=マグヌスの役が、神裂火織には神裂火織の役が

 そして、鋼盾掬彦には―――もちろん、鋼盾掬彦の役がある

 それを彼に教えてくれたのは、いみじくも目の前のふたりだった

 覚えている、刻まれている


 “鋼盾――鋼の盾ですか、よい真名です”

 ……真名と言ったな、神裂火織


 “鋼の盾、か。それが君にとっての“目指すべき名前”なんだろうね”

 ……道と言ったな、ステイル=マグヌス


 いいだろう、やってやる

 それがぼくの名前、ぼくの道、ぼくの誓い、ぼくの役だ

 
 鋼の盾に、なってやる

 ――守りたいひとを守る、それだけの盾になってやる


381 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/26(土) 22:03:18.28 ID:3YdlsRYwo


 ……我ながら、なんともアレだ。

 はいはいはいはい、かっこいいかっこいい。

 やばいね、たまんねえよ、ああもう押し潰されそうだ。

 なに言ってやがんだか……身の程を知れよ鋼盾掬彦。

 お前なんてちょっと変わった苗字なだけのデブじゃねえか。

 鏡見ろよ、なかなかいねえぞこんな脇役ヅラは。


 賭けてもいい。

 誰も覚えてないぞ、お前のことなんか。

 スタッフロールに名前がでて視聴者に「……誰コイツ」とか言われそうなキャラだ。

 そもそも読めねえよ鋼盾掬彦とか、ルビを振れってんだ、ルビを。


 そうだろう?

 鋼盾掬彦など、所詮は脇役だ

 どうしたって、端役だ

 モブキャラだ、エキストラだ、大部屋のその他大勢だ

 村人Aだ、いじめられっ子Bだ、クラスメートCだ


 あの日、白井黒子を見捨てて逃げ出した臆病者

 佐天涙子を無意味に傷つけた下衆野郎

 ……幻想御手に縋り付いた卑怯者

 無能力者、この街の最底辺


 鋼盾掬彦のキャラクターなんて、そんなものだ

 その過去を、なかったコトにはしてはいけないだろう

382 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/26(土) 22:03:51.37 ID:3YdlsRYwo


 ―――だけど、そこで終わってしまっていいわけがない

 欲しい物が、出来てしまったのだから
 

 やると決めたのだ、守ると決めた、戦うと決めた

 理想を掲げ、それに相応しい男になると誓った


 ……さあ、名乗っておけ

 決めたんだろう? 鋼盾掬彦――ならば宣言しろ


 不言実行なんて、臆病者の言い訳だ。吠えてみせろよ一回くらいは

 時代は有言実行――なにより、ひとに名前を聞くときは、まず自分から名乗るべきだろう


 自己紹介はずっと苦手だったけど、そうも言っていられない

 気負うことはない、親から貰った、ちょっと物珍しいだけの苗字だ


 やたら大仰で、無骨で、強そうで―――自分には似合わないと拗ねたこともあったけど

 それでも、これからもこれを背負って生きていくと決めたから


 それでは、どうぞ今後とも

 なにとぞよろしくおねがいします、ということで

383 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/26(土) 22:04:37.99 ID:3YdlsRYwo




「鋼盾――鋼の盾、だ。
 それがぼくの名前で、誓いで、理想で、在り方で――役割だ」



384 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/26(土) 22:06:33.23 ID:3YdlsRYwo


 この身はすでに、万錬を経た鋼と嘯く

 けして砕けぬ、絶対の盾であると嘯く


 うそつきはどろぼうのはじまりなら

 うそぶきはなんのはじまりなのか


 きっと碌なものではないだろうなと、思わないでもない

 でも、黙り込んでいるだけの被害者気取りよりは随分とマシな筈だ


 覚悟の火種、意志の鞴、決意が薪

 禊たるその火を以って、錆鉄たる己を否定する

 ああ、弱い己など燃えてしまえばいい


 それが、鋼盾掬彦の願いと誓い

 紛う事無き本音そのまま……とは言え、これはなかなかに


「……ああもう……黒歴史確定だ」


 ボソリと呟く。

 やっぱりちょっと恥ずかしいなあと鋼盾は笑う。

 ……訂正、ちょっとじゃなくて、すごく恥ずかしい。


 まさに酔っぱらいである、これはひどい。

 多分、あとで思いっきり身悶えする羽目になるだろう。


 流石に「鋼の盾」にクール且つスタイリッシュなルビなどは振らなかったが!

 言いつつスチールとかシールドとかイージスとか一瞬それっぽい単語を探してしまったあたり、己も随分染まっている

 なんなんだろうこの学園都市の謎文化、罰ゲーム過ぎる、統括理事長にご説明願いたい
 

 なにより、それを口にしたことに仄かな昂揚があるあたりどうしようもない。

 恥ずかしいは恥ずかしいでも「嬉し恥ずかし」的なアレなのだ、まずい。

 こんなんじゃ素敵魔法名な土御門元春の事をどうこう言えない。


 中二病乙である、うざい、死ねばいいのに。

 せめて痩せればいいのに、その腹をどうにかすればいいのに。


 だけど

 ほんとに

 我ながらアレで申し訳ないのだけど

 どうしてか


385 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/26(土) 22:09:50.22 ID:3YdlsRYwo


「――でも、ぼくは名乗ったぞ、さあ次はきみらの番だ」


 どうしてか、悪くない気分だった。

 こうしている今も、腹の底から生まれる何かがある

 どうしようもないが、悪くない。

 だって、今からこいつらとそれを分かち合うのだから。


 微動だにしないステイルと神裂に、鋼盾はバトンを回す。

 おまえらこういうの得意だろう、ほら、あるだろ例の“魂の名前”がさ、と。


 ……名を名乗れよ、脇役。

 おまえの名前を名乗ってみせろ。

 もちろん、両方ともだ。


「付き合ってもらうぞステイル、
 ――神裂さんもだよ、そろそろ出し惜しみはやめてくれ」


 何の為に魔術を身に付けた?

 その力を以て何を成す?

 誰の為に強くなった?

 どうしてその名を背負った?

 なにを願い、此処に居る?


 さあ、聞かせろ

 さあ、答えろ

 さあ

386 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/26(土) 22:12:31.85 ID:3YdlsRYwo

 
「応えろ! ステイル=マグヌス!! 神裂火織!!
 ここでもう一度自分の役を! その魔法名を名乗ってみせろ!」


 名乗れ、と鋼盾は吼える

 魔法名を名乗れと―――その魂に誓った、おまえの本当の名前を聞かせてみせろ、と


 ステイル=マグヌス、炎の魔術師であるおまえが、そこで燻って終わるのか?

 神裂火織、神討の炎を名前に冠したおまえには、もう燃やせるものがないというのか?


 そんなわけが、ない

 あるはずがない


 まずは自縄自縛の縄から燃やせ

 弱音も後悔も罪科憂いも何もかも、熱と光に変えてみせろ


 そしてついでに、その身に絡まる繰糸すらも焼き切ればいい

 余計な柵を全部燃やした、その後に残ったものこそ、鋼盾は用があるのだ

 魔術師でも、英国の手先でもない―――素のままのきみらにこそ、届けたいものがあるのだから

  
 鋼盾は二人に向けて右拳を差し出す。

 答えろ、応えろ、見せてみろ、そんな願いを込めて、右手を伸ばす。

 この右手には上条のような異能などない、そんなものなどいらない。


 他力本願のひとでなしが、最後の槍を構える

 穂先にあるのは刃ですらない、されどこの槍は過たず魔術師ふたりを貫くだろう

 いちばん鋼盾掬彦らしい、それは槍と言うよりは松明の芯棒のようであった

 あるいは旗竿のようであったかもしれない


 世界で一番貫通力のある武器は言葉、かつてそう言った才女がいた

 彼女は否定するかもしれないが、それはけして舌先話術の有用性のみを意味するものではあるまい


 言葉に載せる、なにかにこそ

 きっと宿るものがある、ゆえにぼくらは言葉を紡ぐのだ


 だから、鋼盾掬彦は口を開く

 想いを込めて、願いを込めて、心を込めて

387 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/26(土) 22:13:58.37 ID:3YdlsRYwo


「……応えてくれ、頼む。
 ステイル、神裂さん―――どうかぼくらを、たすけてくれ」


 手を差し伸べるように、あるいは背を押すように

 道を示すように、闇霧を払うように

 
 救いを求めているくせに

 掬い上げてやるぞとばかりに


 その声は、響いた

 鋼盾掬彦の、この期に及んでも他力本願な台詞が

 まっすぐ相手を信じる、本気の願いが


 魔術師ふたりの胸に、響いた

 ステイル=マグヌスと神裂火織に、届いた



―――――――――
388 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/26(土) 22:24:52.47 ID:3YdlsRYwo




ここまで!

鋼盾掬彦は、やっぱりヒーローにはなれないようです
このSSは、そんな彼の物語となります

一気に決着まで行く予定でしたが、長くなったので次回にします
よろしければまた、お付き合い下さい

それでは!




389 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/05/26(土) 22:33:09.50 ID:dT4skY9v0
390 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/05/27(日) 01:06:29.20 ID:NreAcOAi0
乙ん
終わりが近い
391 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/27(日) 01:52:52.23 ID:hCky0UQwo
・・・乙、乙だ!待ってる。
392 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/27(日) 11:48:22.76 ID:Aj3WdOs30
393 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2012/05/27(日) 17:49:33.68 ID:Yqszfls/0
チャリ乙!!
394 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/28(月) 19:09:33.24 ID:fJFjJorTo
ほのおのまじゅつし と きょくとうのせいじん が おきあがり
なかまになりたそうに こちらを みている

なかまに してあげますか?
395 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/05/28(月) 20:02:51.55 ID:Ncu5y8hAo
次回最終決着って一瞬自動書記戦決着かと思ったけど、ステイル神裂との決着か
まだまだエンディングまで長いこと楽しめそうだなww
396 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/28(月) 20:39:39.15 ID:9JUBZdni0
わからんぜ?
「一年後、そこには元気にごはんを食べるインデックスさんのすがたが!!」
で終わる可能性もある!
397 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/05/28(月) 21:12:09.50 ID:Ncu5y8hAo
>>396
ソードマスター展開ででも決着シーン含めろよww
398 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/28(月) 22:44:00.27 ID:6WefnVJFo
・アレイスター「よく来たなシールドマスター鋼盾…待っていたぞ…」

・その次のコマですよ! 神裂が「神裂火織と申します」って言う超クールなシーンが・・・「神崎かおりと申します」
 なんでこの子いきなりDoki!doki宣言してんですか!

・浜面「えー どこどこ彼女いない歴0年の俺が一体どんな間違いを?」

・ペン「警告――第二章第三節。貴方は首輪を破壊するのに『幻想殺し』が必要だと思っているようですが…別になくても壊せます」

・上条「鋼盾はやせてきたので最寄りの町へ解放しておいた」

・日村の勇紀が世界を救うと信じて…! ご愛読ありがとうございました!


>>397 こんな感じですか、わかりません
399 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/05/29(火) 07:38:42.93 ID:AUuNrzyso
>>398
わろたww
しかも決着してねえww
400 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/05/29(火) 09:59:30.79 ID:TgmGgj/Mo
はまづらに黙祷
401 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/30(水) 21:29:41.58 ID:JmXSDvzSo
どうも>>1です
コメントありがとうございますです

無様な懇願、脇役の遠吠えに魔術師たちはどう応えるのか
小ネタはいいから本編書けよという話ですな

推敲が済んだら投下に参ります
よろしければお付き合い下さいです
402 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/30(水) 23:00:58.25 ID:JmXSDvzSo
――――――――――



 戦喇叭よりも心を昂らせるSOSを、ステイル=マグヌスは聞いた

 いかなる軍旗戦旗よりも勇壮な白旗を、神裂火織は見た


 紡がれた言葉の字面だけを見れば、それは助力を乞う無様な懇願

 だが、鋼盾掬彦の目に宿っていたものは、そんなものとは対極にあった

 
 浅いとか深いとか、熱いとか冷たいとか、いいとかよくないとか
 
 正義とか悪とか、白とか黒とか、そういうわかりやすいものではなかった

 すくなくともヒーローのそれではないことだけは、確かだった

 なら脇役なのかと問われれば、首を傾げざるを得ないのけど


 ぶっちゃけ、あまりかっこよくはなかった

 それでも、目を逸らせないなにかが、そこにはあった

 それを形容する言葉は、魔術師ふたりの語彙にはなかった


403 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/30(水) 23:05:26.36 ID:JmXSDvzSo


 ぼくらを助けてくれ、と彼は言った


 インデックスを助けてくれ、と

 鋼盾掬彦を、上条当麻を助けてくれ、と


 そして、きっと

 彼は、こうも言っていた


 ステイル=マグヌスを、神裂火織を

 未だに囚われ続けているぼくの友人を、インデックスの家族を


 彼らをどうか助けてくれと


 その男は、そんなことを言っていた

 ……どうしてかそれが、わかってしまった


 その声音には興奮も激もなく、媚も打算もない

 普通に普通、それゆえに異常


 そんなことを心底真面目に口にする男のことなど、理解が及ばない

 ただただ“遠い”、それが一番しっくりとくる形容だった


404 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/30(水) 23:07:55.18 ID:JmXSDvzSo


 思えば、ずっとそうだった

 鋼盾掬彦は、自分たちよりもずっと先を見ていた


 ほんの数日で呪とその解呪法を弾きだせたのは、きっとそれがため

 ……先見の明というよりは、チート予言じみた先読みのちから

 目の前の男は未来視の類ではないのか、そう思わせる得体の知れぬ確信の色


 それが、ずっと気に入らなかった

 許せなかった、ずるいと思っていた


 こんなものは詐欺師の口上、そう切って捨てるべきだと理性は言う

 それなのに、なぜこの身は―――こんなにも、熱に浮かされているのだろうか


405 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/30(水) 23:09:33.08 ID:JmXSDvzSo


 指先に花が咲くような感覚がある

 足の裏から根が生えて、地から水を吸い上げるような感覚がある

 背に羽が生えて、心臓が二つに増えて、伸びた牙が打ち鳴らされているような感覚がある


 かつてない感覚が、ステイルと神裂を襲っていた

 昂揚の一言で片付けるにはあまりにも強すぎるそれは――言うなれば酩酊だった

 
 言葉ひとつで、酔わされた

 あんな“おねがい”ひとつで、血が湧き上がった

 血が湧けば肉も踊る、それを抑えようと身体がぶるりと震える

 その震えを人は武者震いなどと呼んだりもする、ぶるり



 毒よりも呪よりも性質の悪い、それはまさしく火酒だった

 あるいは、花酒であり果酒であったのかもしれない


 春風駘蕩、匂いを嗅いだだけで、この威力

 抗い難い芳醇なそれは、どこか呪いじみていた

406 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/30(水) 23:13:12.32 ID:JmXSDvzSo


 気づけば、両手を合わせて椀をつくり、それを受けていた

 なみなみと注がれるそれは、あっというまに杯を満たしてゆく


 両掌に満ちた、喩えようもなく尊いもの

 その重みは神裂火織とステイル=マグヌス、そして歴代のパートナーたちが

 流してきた涙、堪えてきた涙の、その総量のようですらあった



 その水面には、彼らは誰よりも愛した少女の笑顔が映っていた
 
 その少女と家族のように過ごしていた、幼い自分たちの笑顔が映っていた


 それは、喪われてしまったはずのもの

 もう、なくなってしまったはずのもの

 届かないと、諦めてしまったはずのもの


 それが今、手の中にあった

 零れないように必死になっている己に気づき、魔術師ふたりは愕然とする

 なれど、それを捨てることなど―――もう、できるはずがない
 
407 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/30(水) 23:13:48.20 ID:JmXSDvzSo


 ごくりと、喉が鳴った

 ステイル=マグヌスと神裂火織の、喉が鳴った


 乾いていた、もうずっと、彼らは乾ききっていた

 水でも酒でも満たせぬ乾きが、ずっと彼らを苛んでいた 


 手の中には、その乾きを潤す術が注がれている

 喩えようもなく澄み切った、抗い難きその誘惑
 


 そんなものを注ぐ鋼盾掬彦は、どう控えめに言っても悪人だった

 欲しいだろう、くれてやる、それを飲み干せと笑っている


 聖書に語られる知恵の実とは、こんな感じだったのではあるまいか

 アダムでもイヴでもないのに、彼らはそんなことを思った


 創世記の蛇は、この男のように笑っていたのではないかとも
 

408 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/30(水) 23:18:10.07 ID:JmXSDvzSo


 蛇は言う

 這いつくばって蛇の道を征けと

 それは報われぬ道行であり、楽園を追われる羽目になると

 だけど、その楽園にはあの子の未来などありはしないと

 ならば、その箱庭をこそ地獄と呼ぶべきだと
 


 蛇は言う

 魔術師だろう、おまえらはと

 その身に宿した術技と知識は、神ならぬ身にて天上を目指す人の業だろうと

 神から与えられたものだけでは満足できなかった、どうしようもない欲深だろうと

 欲しい物が、あるのだろうと



 蛇は言う

 力を貸せと、罪を償えと、格好つけろと、守れ救えと

 その酒を飲み干して高らかに吠えてみせろ、と

 あの子のために、その生命を燃やせと



 蛇は言う

 ステイル=マグヌスと神裂火織が、一番欲しかった言葉を容赦無く

 冷血動物のくせに、火傷しそうな程に熱を湛えて

409 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/30(水) 23:18:43.86 ID:JmXSDvzSo

 
 創世記の蛇は、悪魔の隠喩であるという

 また、火を吐く蛇は竜と呼ばれて然るべきで――その竜もまた、悪魔を指し示す言葉だ


 悪魔とは彼らの信じる神の敵で、否定すべき、討ち滅ぼすべき対象であった

 故に敬虔たる神の徒が、そんな誘惑に応じていいわけがない

 
 幸いにして、この悪魔は笑ってしまうほどに無力だ

 彼らがこれまで神の名において裁いてきた魔術師たちとは、比べるべくもない


 だけど、ここにいるのはあらゆる虚飾を剥ぎ取られた無様な男と女

 身を裂くような喪失を、家族の不在を嘆く無力なガキふたり

 
 だからきっと今だけは、彼らは十字教徒ですらなかった
 
 素のままのステイル=マグヌスと神裂火織だった


 生命に代えても欲しい物がある、欲深な魔術師だった

 悪魔と取引してでも叶えたい愛がある、ただの人間だった


410 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/30(水) 23:19:54.03 ID:JmXSDvzSo


 
 だから

 彼らはそれに口を付けてしまった


 それがどんな味をしていたのかなんて、それこそ神様ですら知らぬことである
 

411 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/30(水) 23:22:17.78 ID:JmXSDvzSo

――――――――――


 そして、沈黙は破られた。
 
 戦場にて名乗りを上げる声が、静かに響き渡る。

 
 名前とは、世界で一番短い歌だと言う。

 坂本金八がそんな事を言っていた。寿限無な長助の事などしらない。



 夏空に響け君が歌

 てめえの魂に誓ったその歌を、好きに歌えばいいのだと

 己はそれを聞きに来たのだと、きみらの歌を聞きに来たのだと


 つい先程、鋼と盾を歌い謳った少年が、口には出さずそう言ったから

 それに応えるように、龍の鬚のようなポニーテールが、揺れた

 七天七刀が、笑った


412 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/30(水) 23:23:04.21 ID:JmXSDvzSo


「――Salvere000」


 凛然と、決然と、高らかに。

 それは至上の名刀のみが持ちうる、妖しくすらある艶めいた風情。

 天を覆う雲すら引き裂く、その名告りこそが唯なる閃撃。

 
 先ほどまでそこに居た、残酷な運命を嘆く弱い女は既に影すらない。

 聖人と呼ばれるに相応しい威風を纏い、彼女は毅然とそこに立っていた。


「……それが私の魔法名です。篭めた誓いは“救われぬ者に救いの手を”
 あの子を救えなかった私が名乗ることなど許されぬ、そんな名前です」


 誓いしは“救済”

 人の身には不可能であるその願い、一度は諦めてしまったその誓い。

 しかし彼女は今再び、その魔法名を口にした。


 それが、何を意味するのか、気付かぬ者はここにはいなかった。

 否定する者も、また。


413 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/30(水) 23:24:57.59 ID:JmXSDvzSo

 

「……ですが、もう、私は、あの子からなにひとつとて奪いたくはありません。
 たとえもう二度とあの子の笑顔が自分に向けられることがなくとも」


 たとえ報われずとも、守るべき少女の為に。

 神討の火が、その瞳に宿る。


「認めましょう、貴方の言うとおり、どうやら私は脇役です。
 それを認めたくなくて、目を逸らしたままで、無様に踊り続けて来ました。
 その苛立ちを、あの子にぶつけていたというのも――今となっては否定できませんね。
 “歩く教会”があるからなんて、言い訳にもなりはしません」


 その罪を、なかったことにしてはいけない。

 償わなければならない、十字架の重みすらも力に変えて。


「まったくもって、度し難い。
 だけど―――それも終わりにしなくてはならないようです。
 幕を引きましょう。あの子には、こんな舞台は似合いませんから」


 次の舞台の幕を開けるために、幕を引く。

 ここに円環を断ち切る、そのための刃となる。


「……鋼盾掬彦。貴方はインデックスを救う算段を示してくれた、だから今一度私も誓います。
 鋼の盾、あなたの――あなたたちの力を貸してください」


 その右手が拳を形造り

 鋼盾掬彦の右拳に

 とん、と触れた



 彼女の名は神裂火織

 世界に二十人といない聖人、神の子の似姿

 されどその身に宿すは人の魂、その魔法名は“Salvere000”

 
 救われぬものに救いの手を

 絶望も不条理も切り裂き燃やす、刃金の女がそこにいた


414 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/30(水) 23:27:18.70 ID:JmXSDvzSo



 ――そして、いまひとり

 神裂火織の炎に劣らぬ心火を、その裡に宿す男がいる


415 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/30(水) 23:29:03.56 ID:JmXSDvzSo

「Fortis931―――君に名乗るのは二度目になるね」


 静かで、それでいて熱を孕むその声。

 胸に確信の火を宿したものだけが紡げる、そんな声が響き渡った。


「気に入らない、許せない、認めたくない―――だが仕方ない、か」


 そう、仕方がない。

 気に入らなくても許せなくても認めたくなくても、それでも。

 それでも、夢を見てしまったのだから。

 
「参ったね、どうやら君の言うとおりだよ……僕は確かに君たちに嫉妬していた。
 そんな弱さから目を逸らしていた……認めるしかないようだ」


 嫉みの火では熱が足りず、妬みの火では光が足りない。

 その身に燃やすべき感情は、そんなものであってはならない。


「……ヒーローに、なりたかった。
 だけど、なれなかった。僕じゃ、届かなかった」


 なぜ、あの子を救うのが己ではないのか。

 どうして、この身は脇役に過ぎぬのか。


 その問いに応えてくれるものはいない。

 誰一人として、それを教えてはくれなかった。

416 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/30(水) 23:30:57.00 ID:JmXSDvzSo


「それでもさ、うん、僕も見てみたいよ。
 あの子が笑うハッピーエンドを……舞台袖からでもかまわないから」


 世界は残酷だ。

 世界は間違っている。

 だけど、それでも―――拗ねてばかりもいられない。


 そんな世界で、生きていかねばいけないのだから。

 この身に代えてでも、欲しいものがあるのだから。


 主役にはなれなくても、それでも

 こんな自分にも、できることがあると君が言うならば 


「―――炎の本質は熱と光だ。
 そしてまずそれを灯すべきは、己が心に他ならない。
 ……そんなことすら、僕はいつの間にやら忘れてしまっていた」


 始まりの炎とは、きっとそれのことを指すのだろう。

 挫けぬ心にこそ、その偉大なる炎は宿る。


「教えられるとは情けない。炎は僕の専門なんだけどね、一応。
 とは言え鋼を謳う君なら、それも当然なのかな?
 ……結論はあの子にかけられた呪を実際に診てからだけど、まあ暫定だ」


 心を燃やせ。

 その熱こそが、その光こそが、一歩を踏み出す力となると嘯いて。


「“我が名が最強である理由をここに証明する”
 ――この身はすべてあの子のために使うと決めている」
 

 覚悟の火は燃え移る、静かに猛り天をも焦がす。

 零れた涙を吹き飛ばし、凝り固まった諦念を熔かし尽くし、暗い道行を照らす標となる。


「……やはり君は強いよ、道を示してくれ、鋼盾」

417 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/30(水) 23:34:00.92 ID:JmXSDvzSo


 その男の名を、ステイル=マグヌス

 叡智の探求者、炎の魔術師、力ある文字を識る者

 Fortis931――誓いしは“最強”、すべては守るべき者のために。


 指輪で飾ったその右拳が

 鋼盾と神裂のそれにまっすぐに伸びて


 とん、と触れた


418 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/30(水) 23:35:16.71 ID:JmXSDvzSo


 突き合わされた三人の――否、上条と土御門も含め五人の拳

 この手でもって、ふざけた悲劇をぶち壊す 


 地獄を蹴散らせ

 首輪を破壊しろ

 繰糸を引き千切れ

 あの子の未来を掴み取れ


 物語を、紡ぎ上げろ

 
 無能な脚本家も、捻くれた監督も、無責任な観客もいらない

 主役のケツをひっぱたいて、望むは問答無用のハッピーエンドだ


419 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/30(水) 23:36:37.47 ID:JmXSDvzSo


「ありがとう、ふたりとも。
 ……さあ、行こうか、終わらせよう」



 救済を誓う聖人が

 最強を謳う炎術士が

 誰より誠実な嘘吐きが

 幻想を殺し尽くす英雄が

 絶望を否定する鋼の盾が



 それぞれの誓いを胸に、手を取り合って運命へ挑む

 ただひとりの少女のために、その魂を明明と燃やして


420 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/05/30(水) 23:42:03.78 ID:JmXSDvzSo

――――――――――






ここまで

我ながらひねりのない展開ですが、ステイル&神裂戦、これにて決着でありんす
決着といいつつ勝者はなく、そもそも戦闘ですらなかったのかもしれぬ一幕でした

んでは、また次回もよろしくおねがいします
さらば!

421 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/05/31(木) 00:00:24.52 ID:bkmdAiTvo
焦らすねぇ……乙!
422 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/05/31(木) 00:09:46.23 ID:zaQh5/TUo

本格的にクライマックス近づいてきた感じがあるな
423 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/05/31(木) 00:13:26.52 ID:JqD23uOF0

勝利確定だなオイ
424 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/31(木) 02:10:20.18 ID:YmJi6LK0o
乙。マジ楽しみにしてる。乙。
425 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/01(金) 23:52:52.45 ID:fhctd3Jno
I Cavalieri del Drago oh oh
arriveranno lontano assieme a lui
e con l'aiuto di un mago
tornera il sole, la nei cieli bui
426 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/06/04(月) 19:54:51.13 ID:sw5TRPENo
otu
427 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/06/09(土) 20:55:45.81 ID:BM+9mF04o
脇役なればこそ、主役を喰らう唯一無二

無能力者再構成では、やっぱりここがナンバーワンかな

428 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/06/10(日) 01:49:14.34 ID:2gQBWr68o
上条「ステイルと神裂は、チョロいか?」
鋼盾「……ああ、チョロいね」
429 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2012/06/13(水) 17:13:53.30 ID:AJ3iiCRAO
その書き方だと性的な意味で二人を食ったようにしか見えない
430 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/13(水) 22:44:30.94 ID:ewLdsqqNo
かませっぷりに定評のあるステイル
431 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2012/06/14(木) 12:21:36.32 ID:CV1iefoi0
神裂「聖人ですから」
432 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/06/14(木) 14:31:35.88 ID:+51l4hX20
>>431
氏ねゴミクズ
433 : ◆FzAyW.Rdbg :2012/06/16(土) 14:15:28.67 ID:MOQ6bSRro
どうも>>1です、つーかゴミクズとは俺の事です
やべえ半月も放置しちまった、すまぬ
だって休日がないんだよう、ジューンブライドとか馬鹿じゃねえの
ジューンブライドとか馬鹿じゃねえの

愚痴はともかく、コメント感謝です
スラムダンクで一番好きなキャラは田岡監督です

さて、本編の方は一山越えましたか
ここらへんまでは予定調和ですな

こっからです
夜までにきますので、よろしければお付き合い下さい

んでは、書いてきます
434 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/16(土) 14:24:18.85 ID:M4KZu5NIo
なんだ花嫁か
435 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/16(土) 14:32:13.13 ID:Rakzztpfo
>>1結婚したのか、めでたいな
436 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/16(土) 17:24:31.67 ID:bs/0SPDIO
吹寄もとうとう人妻か……
いいなぁ若妻
437 :392:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/16(土) 20:05:04.08 ID:ajal9NIk0
吹寄が旦那
>>1が嫁
438 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/06/16(土) 21:30:20.48 ID:MOQ6bSRro
うぎゃー
なんだこの状況

>>1に貰い手などない!
ばーかばーか! ちくせう

投下します!
そぉい!




――――――――――
439 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/06/16(土) 21:32:07.44 ID:MOQ6bSRro


「ルーンの数が多いほどに、僕の対応力は上がる。
 不測の事態に備えておきたいから、ギリギリまで時間を貰いたいね」

「それに、イギリス清教からの監視の目があるかもしれません。
 私は一応そちらの炙り出しを行っておきたいと思います」

「ん、わかった。じゃあ、決行はギリギリまで粘って明晩ということで。
 ―――かまわないよね? 上条くん、インデックス」

「ああ……それでいいと思うぜ?」

「……うん、わたしもそれでいいんだよ、きくひこ」

「ん。じゃあステイルと神裂さんは、各々準備にあたってくれ。
 ……あ、でも今晩はまず上条くんの家でごはんだからね」

「……その話ですが……いいのですか? 鋼盾掬彦。
 正直、邪魔をするのは心苦しいというか……その」

「じゃまなわけないだろ? もちろんだ。
 ―――ねえ、インデックス」

「うん、待ってるんだよ。
 かおり、ステイル」

「…………ありがとうございます」

「お言葉に甘えるよ、鋼盾。
 ―――七時には隣室にお邪魔するから」


 そして魔術師ふたりが去り、部屋に三人が残される。

 やはり緊張していたのだろう、上条が長々と息を吐いた。


「……はぁ、しかし昨日聞いてたとはいえ、驚いたぜ」
 ―――でも、あの目……信じてよさそう、かな?」

「ああ。
 もう大丈夫だよ、あのふたりは」

「そうだな」

「うん」


440 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/06/16(土) 21:33:21.07 ID:MOQ6bSRro


 現在時刻は一七時過ぎ。

 屋上での和解から、既に六時間以上が経過している。

 あの後、鋼盾は魔術師二人を自宅に招き、彼らといろいろな話をしていた。


 科学の話と魔術の話

 学園都市の話と英国教会の話

 未来の話と過去の話

 そして、現在の話


 聞きたいこと、教えたいこと、生まれた疑問、今後の課題。

 共有しておかねばならぬ情報はいくらでもあった。


 そして話し続けて一六時を回ったところで、上条とインデックスが帰ってきた。

 この状況は既にメールで予告済み、疑いや惑いの霧は既に晴れているだろう。


 鋼盾宅のテーブルを囲み、五人が車座に座る。

 ……だが、流石にどうやら気まずいようで、誰も会話の口火を切れない。


 追った者と追われた者、殴った者と殴られた者、斬った者と斬られた者。

 そして、これから共に戦う者同士。


 もどかしさと不安……そして期待の入り混じった沈黙が場を支配した。

 誰も彼も、どう動いたものかと落ち着きなく視線を彷徨わせている。


 ひとり、またひとりと助けを求めるようにとある人物に視線を向けた。

 この状況を作り上げた、ひとりの無能力者に。
 
 なんか余裕綽々の鋼盾掬彦に。


441 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/06/16(土) 21:34:59.53 ID:MOQ6bSRro


 途方にくれてる上条当麻

 おろおろ困惑のインデックス

 居心地悪げなステイル=マグヌス

 既に涙目な神裂火織


 四者四様、どうにかしてくれと目が言っている。

 縋りつくように、なんとかしてくれと言っている。


 それでも、だれひとりとしてここから逃げ出そうなんて思っていない。

 このメンバーで、これから理不尽に挑むのだと覚悟を決めている。


 それが、おかしくて

 うれしくて

 たまらなくて


 溢れだしてしまいそうな感情をどうにか抑えて、鋼盾は柏手を打った。

 ぱしんと高らかに響く短くも鮮やかな号砲が、蟠った沈黙を吹き飛ばす。


 ビクリと身を震わす四人に笑いながら、彼が口火を切った。

 はじめよう、ここがスタートだ。


442 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/06/16(土) 21:36:49.24 ID:MOQ6bSRro


“じゃあ、作戦会議と行こうか、みんな”

“……ニヤニヤしてんじゃねえよ鋼盾”

“してないよ、きみらの頼もしさにちょっと緩んじゃっただけだよ”

“……そこはかとなく、ばかにしてるね?”

“してないです、してません”

“……笑ってないで話を進めてくれないかい?
 ここは君が仕切るべきだろう、鋼盾”

“そうだねステイル、ぼくもきみらにそんな顔をさせたいわけじゃない。
 ……ああもう、神裂さん泣かないでいいからね”

“泣いてませんッ!!
 ……って! なにを笑っているのですか貴方達はっ!
 インデックス! 上条当麻! ステイルまで!

“っ……いやー、悪いな、神裂。
 あの夜とのギャップがアレ過ぎてアレがアレなんだ”

“ふふっ……アレがアレだからしかたないんだよ”

“そうだね、アレ……っ、アレだからね。
 ……ところで神裂、……なんなんだい? アレって”

“知りません!
 ……鋼盾掬彦ッ! 貴方という人はッ!!”

“んじゃ、とりあえず軽くおさらいだ。
 脱線しない程度に補足や質問を挿れてもらって構わないから”

“おう”

“お願いするんだよ!”

“頼んだよ、鋼盾”

“って無視ですか!? 
 ……上等だよこのド素人どもがッ! 屋上に戻れよ久しぶりに……あ”

“ごめんね、かおり? ……すわろ?”

“…………はい、インデックス。
 っ! だから男三人!そのニヤニヤ笑いをやめて下さい! 

“ニヤニヤ”

“ニヤニヤ”

“ニヤニヤ”

“口で言うなッ!!”


443 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/06/16(土) 21:38:59.57 ID:MOQ6bSRro


 そんな遣り取りからはじまった、その会合

 交わされたのは現状と今後の予定の確認、幾つかの謝罪と懺悔

 そして、インデックスの喉にある、首輪の確認


「……家族だったんだな、お前らは」

「……うん、そうみたい。
 なにも覚えてないけど、わかっちゃうんだよ」

「そうだね、ほんとに」


 インデックスを診るステイルと神裂の所作は、こわれものを抱くかのように丁寧で、いとおしげで。

 なによりインデックス自身が戸惑ってしまうほど、彼女の扱いに慣れている空気があった。

 身じろぎのタイミング、緊張すると息を止めてしまうクセ、本人も意識していない細かなインデックスの動きを、完全に彼らは把握していた。


 まるで、妹の虫歯を診る姉と兄の図のような一幕だった。

 あるいは、かつてそんな穏やかな光景があったのかもしれないな、と鋼盾は思う。

 しかし少女の口内にあるのは、虫歯よりも万倍では利かぬほどに厄介な代物だったのだが。


 ひどい話だ

 だが、ひどい話では終わらせはしない


 たとえ失われたモノが戻ることがなくとも

 彼らはインデックスの為に、未来を選んでくれたのだから

444 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/06/16(土) 21:40:22.07 ID:MOQ6bSRro


「……というわけで、約束通りに仲間をゲットしてきました」


 とは言え、今は感傷に浸るべき局面ではない。

 湿っぽい空気を払うように、鋼盾は軽い口調でそんな事を言った。


「――ラスボスを仲間にしてきました、のまちがいじゃねーの?
 首輪の破壊を阻む連中は海の向こうで、あいつらの意志を知る方法はない。
 少なくとも明日の夜には間に合わねえ……いや、もちろん油断は禁物なんだろうけどな?」


 なあ? と上条がインデックスを見遣る。

 インデックスもそれに応え、コクリと頷いた。

 そして、ふたりは同時に視線を鋼盾に向けた。


「………………」


 しかし、鋼盾はそれには応えず、なにやら思考に沈んでいる。

 上条とインデックスは再び視線を合わせると、小さく首を傾げた。


「……鋼盾?」

「きくひこ……どうかした?」

「……ああ、ごめん、なんでもない」


 なんでもない、なんてことはないのだろうとふたりは思う。

 目の前の男は事も無げに大金星を上げたのみならず、その先をさらに見据えているらしい。

 一体何を考えているのか、と二人は惑うも、鋼盾掬彦から返ってきたのはシンプルな肯定だった。


445 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/06/16(土) 21:41:13.52 ID:MOQ6bSRro


「……ん、そうだね。
 本来一番の難題である首輪は、上条くんの前では無力だから。
 仮に安全装置やら罠が仕掛けられていたとしても、それもまとめて破壊できる」


 幻想殺しの大きな利点は、そこなのだと鋼盾は言う。

 どれほど複雑でも、強固でも、過敏でも、理不尽でも―――問答無用で消せるということ。


 例えば時限爆弾の解体作業。

 青のコードと赤のコード、そのどちらかを切らねばならない

 正解なら爆弾は無力化、不正解ならその場でドカン


 そんな、漫画の爆弾処理班のように理不尽な二択を迫られることもなく

 爆弾そのものを、ただ触れるだけで消してしまうことができる


「……ぼくが一番怖いのは第三者の介入なんだけど……土御門くんが何とかしてくれたみたいだしね。
 神裂さんも索敵に出てくれてるし、ステイルの陣地も時間ごとに固くなってくから」

「……わたしの感知野にも、今のところなにもかかってないんだよ」
 
「なにより、差配は鋼盾……お前だ―――盤石だな」

「……ぼくはそこが一番心配だよ。
 ――――まあ、みんなに助けてもらうさ」

446 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/06/16(土) 21:42:11.01 ID:MOQ6bSRro


 ……そう、考えられる限りの準備を尽くした。

 魔術の専門家が四名と、異能に対しての専用の毒のような幻想殺し。


 はっきり言って、現状で望みうる最高のメンバーだろう。

 まあ、約一名どうしようもなくどうしようもないのがいるのですけれど。


 人事は尽くされる

 あの日から、やれるだけのことはやってきた

 あとは天命を待つのみだ

 
 しかし

 その天命を、既に視た女が―――


447 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/06/16(土) 21:44:31.92 ID:MOQ6bSRro


「きくひこ」


 またも思索に沈んでいった鋼盾を、インデックスの呼びかけが遮った。

 ……まずいまずい、と鋼盾は頭を振る彼を、上条とインデックスは心配そうに見つめる。


「……やっぱり、怖い顔してる」 

「ああ……ちょっと顔色もイマイチだな、鋼盾。
 寝不足か? 昨日は俺との話に遅くまで付き合わせちまったし」

「……あー、ごめん。
 やっぱり緊張してたからね、今日は―――でも、だいじょうぶだから」

「ほんとに? きくひこ無理してない?」

「だいじょうぶだって。
 明日は夜までやることもないしね、ゆっくり寝させてもらうから心配しないで」


 そう言って鋼盾は立ち上がり、おもむろに時計を見た。

 約束の時間まで、あと一時間半というところだった。

448 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/06/16(土) 21:45:56.03 ID:MOQ6bSRro


「……さて、今日のデートの話でも聞きたいとこだけど――それは夜にしようか。
 上条くんの家に行こう、少しくらいは舞夏の手伝いをしなきゃね」

「勘弁してくれ……しっかしパーティーねえ……。
 先生も来るんだろ?……もちろん異論はねーけどさ、変なこと考えるよな、お前も」


 上条が、なんとも言えないような顔をしてそんな事を言う。

 確かに唐突だなとは鋼盾も思う―――が、それは必要な事だとも彼は感じている。


「前祝い――いや、結成式かな。
 なんならレクレーションでもいいけどさ。大事だよ、そういうのは」

「同じ釜の飯を、ってか?」

「そんなトコ――インデックス、ぼくらだってそうだっただろう?
 ちなみに今日のメインは、いつかの約束通り、きみの大好物だから」

「……シチュー?」

「今回は真っ白じゃないけどね。
 ―――舞夏を手伝っておいで、……“シチューもカレーも……」

「かき混ぜた分だけ美味しくなる”なんだよ!!
 ……行ってくるね、きくひこ、とうま」

「着替えは向こうに舞夏が持ってってたから。
 ―――ぼくらもすぐにいくよ、テーブルも一緒に持ってくから」

「舞夏に迷惑かけんなよー」

「かけないんだよ! べーだ!」


 そんな遣り取りを交わし、インデックスは部屋を出た。

 その扉が閉まるのを見計らっていたかのように、上条が口を開く。


449 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/06/16(土) 21:50:03.67 ID:MOQ6bSRro

 
「……なんつーか、やっぱりお前のほうに懐いてる気がする」

「なにがさ」

「インデックス」


 閉まった扉を見つめながら、上条はそう言った。

 “インデックスは上条より鋼盾に懐いている”とそんな事を言った。


「……焼き餅、と」

「ちげえよ、馬鹿」


 確かに、上条の声からは妬み嫉みの粘り気は感じない。

 じゃあなんでそんなことを口にしたのかと惑う鋼盾に、上条は言葉を重ねる。


「やっぱこの二日間、随分と濃密だったみたいだな
 ……今日、アイツの口からも聞いたよ、俺が倒れてからの事」


 この二日間―――つまり、幻想御手事件と首輪発見についての話を、彼は聞いたという。

 昨晩のうちに鋼盾からも話してはあったが、インデックスの視点からはまた別の物語になるだろう。


 ……結構恥ずかしいセリフを言ってしまった気がする鋼盾である

 それを聞いていた相手は完全記憶能力者である

 
 ……余計な事まで言ってねえだろうな、あの子

 ちょっと不安な鋼盾を尻目に、上条が言葉を重ねた

450 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/06/16(土) 21:50:38.52 ID:MOQ6bSRro


「この二日間でさ、アイツはほんとに強くなった。
 俺さ、アイツを守らなきゃってずっと思ってたけど……ちょっと舐めてたな、実際」

「……そうかも、ね。
 木山先生や御坂さんを見て、随分と思うところもあったみたいだから」


 木山春生と、御坂美琴。

 幻想御手事件の中心にいた二人の女の激突は、鋼盾の胸にも深く刻まれている。


 強さというのはどういうことか

 覚悟というのはどういうものか


 傷つくことを厭わず、己の信念を張り通すこと

 それがどういうことなのか、鋼盾はあの二人から多くを教わった

 そしてそれはインデックスも同様だろう、と彼は思う


 そんな鋼盾の言葉を受けて上条は頷き、しかし否定した。


451 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/06/16(土) 21:51:24.84 ID:MOQ6bSRro


「ああ、インデックスもそう言ってたな。
 ……でも、アイツを変えたのは、そのふたりじゃねえよ」

「……見てきたように言うじゃないか。
 ―――誰だっていうんだ? インデックスを強くしたのは」

「言うまでもねえと思うんだけどなー、上条さんは。
 ……お前だよ鋼盾、お前がアイツを強くしたんだ」


 全てを擲って筋を通そうとした多才能力者ではなく

 誇りと責任の正道を貫いた超能力者でもなく

 他力本願の無様な無能力者こそが、インデックスを変えたのだ、と


 上条当麻は笑ってそんな事を口にした

 鋼盾掬彦としては、否定するしかない


452 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/06/16(土) 21:52:02.96 ID:MOQ6bSRro


「……何言ってんだか、ねえよ」

「あるさ。
 端から見てりゃ一目瞭然、アイツを変えたのはお前だよ、鋼盾」

「……もしそうだとしたら、それはぼくが頼りにならないからだろ」


 あの子が道を選んでくれなければ、己は前になど進めなかった

 だから、追い込んで追い詰めて言葉を引き出した


 インデックスに、恐怖に惑える女の子に、だ

 鋼盾掬彦は容赦なく選択を強いた、残酷だったと今でも思う
 

 そんな事を口にする鋼盾に、上条は呆れたように言う。


「……わかってねえな朴念仁」

「おまえが言うな朴念仁」
 

 どうしようもない朴念仁ふたりが、互いに“おまえにだけは言われたくない”と笑う。

 この場に第三者がいれば、きっと深々と溜息を吐いたことだろう。


453 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/06/16(土) 21:53:53.04 ID:MOQ6bSRro


「たく―――もっと、楽しい話をすればいいのに。
 せっかくのデートだってのにさ」

 
 デートの途中で他の男の話をするとかどうなんだよ、と鋼盾が混ぜ返すように言う。

 木山春生が言っていた「デートの鉄則」に悖る行為である、大減点である。


「楽しい話だよ、俺にとっても、アイツにとっても」


 だが、上条は晴れ晴れとした笑顔でそう答えた。

 自分たちふたりに、それ以上の楽しい話なんてないとでも言うかのように。


「俺たちは、俺たち三人で一緒だろ?
 これからどんなに日々を重ねたってさ、それは変わんねえよ」
 

 小萌、舞夏、木山、美琴、ステイル、神裂、土御門。

 インデックスの世界はこれから先も、もっと広がってゆくことだろう。


 だけど、はじまりは俺たち三人だ。

 俺とお前とアイツの三人で、俺たちは俺たちなんだ。

 そこは譲れねえな、と上条は笑う。


「だからさ……次は三人で行こうぜ。
 夏休みも、まだ始まったばっかだしな」


 もっとも俺はまだ補習終わってねえんだがなー、と上条は笑う。

 からからと、そんな未来を確信しているかのように、朗らかに。


「……そうだね」


 “自分たちは三人で一緒だ”

 上条が心底本音でそれを言っていると解ってしまい、鋼盾は胸が詰まってしまう。

 インデックスも、きっと同じ事を言ってくれるだろう、鋼盾だってもちろんそうだ。


 だけど

 そんな彼に、彼女に

 ぼくは―――ひとつ隠し事をしている


 その事実が、鋼盾の首を締め付けている。

 万力のようなその圧を押し退けて口から零れ出た言葉は、ひどく虚ろで。

 それでいて、どうしようもなく真摯に響いた。


「いきたいね……三人で、一緒に」


454 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/06/16(土) 21:54:37.83 ID:MOQ6bSRro


 
 鋼盾掬彦は祈る

 祈る神すら知らぬまま、それでも強く強く


 幸せな幻想を、祈った



455 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/06/16(土) 22:03:23.61 ID:MOQ6bSRro




――――――――――

ここまで
うん、進んでねえ
今回の更新で二六日を終わらすつもりだったのですが、終わんねえでやんの

なにやら不穏ですな
今回から数回は、下準備編です
つまりこのSSのメインですな

なにやら忙しい日々で、更新も滞りがち
それでもこっそりがんばりますので、次回もよろしくお願いします

それでは、また
456 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2012/06/16(土) 22:38:11.06 ID:Kruh+1IWo
いきなりのんびりした雰囲気で火織さんかわいいですありがとうございます。
鋼盾が怖いのは動かない未来そのものなんだな。
457 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/16(土) 23:56:42.54 ID:ajal9NIk0
繝九Ζ繝九Ζ
458 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/17(日) 03:51:51.46 ID:bc3XurFvo
楽しみに待っててよかった!これらからも、頼む。
459 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/17(日) 08:39:03.90 ID:b1SDkjRKo
きょうも乙

なんでこの>>1の書く女性キャラはこんなにキュンキュンくるのか
神裂さんもインデックスさんもかわいい、超かわいい
460 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/06/17(日) 11:33:06.19 ID:dY4gPOBX0
行きたいなのか
生きたいなのか

461 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/06/23(土) 22:48:27.28 ID:pr2enZPwo
どうも>>1です、コメント感謝
かわいいって言ってもらえたよやったねねーちん!
ちなみに次回更新はねーちん回です、やったねねーちん!

完全に私事ですが、先日必要に迫られMacBook Proを購入しました
初マックです。だいぶ操作にもなれてきたのですが細かい点でいろいろ試行錯誤です

デリートキー押したらバックスペースじゃー、単語登録ってどこでやりゃいいんじゃー、フォント違和感やべー
テキストエディタなにがあるんじゃー、専ブラ何使えばいいんじゃー、GoogleIMEカモン! みたいな感じですが私は元気です

明日、更新に来たいと思います
よろしければお付き合い下さい


462 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2012/06/24(日) 11:58:32.52 ID:hroDsgrX0
macbook proってデフォで入ってるのtcshだっけ?
463 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/06/24(日) 12:19:17.34 ID:My5yRZZX0
最近のはbashだな
464 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/24(日) 15:15:26.75 ID:7rvm/XjXo
窓もマックも両方使ってるけど、SS関連は執筆も投下もWinのが楽だなー
専ブラを変えられないだけなんだが
465 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/06/24(日) 23:23:32.07 ID:uINIAgaFo
ダークナイトをガン見してしまって、気づけばこんな時間だぜ
遅れましたが、今から更新しますよろしく


そぉい!



――――――――――
466 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/06/24(日) 23:25:21.28 ID:uINIAgaFo


 そして、午後七時になった。

 何の変哲もない学生寮の一室で、パーティの準備が整った。

 
 メインのシチューは大鍋いっぱい具沢山、舞夏入魂の一品である。

 もちろん、かき混ぜ係はインデックスが務めた。

 その他にもオードブルにアラカルト、色とりどりの料理が食卓を彩ってくれた。


 食器の類は上条宅にあったものだけでは足りず、鋼盾や土御門の家からもかき集めたものだ。

 そのちぐはぐさが、かえって自分たちらしいと思えてしまう、そんな感じだ。


 集まったのは、結局予定通りの七人。

 土御門元春は宣言通り顔を出す事はなかった、彼のことだからニヤニヤ盗聴でもしてるかもしれないが。

 
 なんの変哲もない高校生が二名
 
 銀髪碧眼、純白の修道服を纏うシスターが一名

 赤髪ピアス指輪刺青のパンクな神父が一名

 今だけは日本刀をどこかにおいてきた、黒髪の美女が一名

 見た目十二歳の高校教師が一名

 繚乱家政女学校が誇る、料理長にしてメイド様が一名


 そんな、共通点を見つけることすら難しそうなぼくらが、同じテーブルを囲んでいる。

 ガラスに陶器にアルミ、大きさも材質もバラバラなコップに、同じものを満たして。


467 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/06/24(日) 23:28:05.64 ID:uINIAgaFo


「……ん、これで飲み物は行き渡ったなー。
 ―――では、皆様。これより主催者であります鋼盾掬彦より、開会の挨拶と乾杯の音頭を――」

「……え!? なにそれ、ぼくがやるの!?」

「あたりまえだろー鋼盾掬彦、主催者なんだからビシッと頼むぞー」

「そのままやっちゃってよ舞夏、ぼくはいいから」

だめだぞー、主人より前に出るメイドなんていないんだぞー」

「……パス、上条くん、任せた」

「断る、上条さんだって空気くらいは読みますことよー。
 ……俺たちを繋いだのはお前だろ、鋼盾。だからこれはお前の仕事」

「……インデックス、やってみない?」

「ダメなんだよ、きくひこじゃないと。
 ほら、はやくするんだよーきくひこ、シチューがぬるくなっちゃうんだよー」

「……お願いできませんか、先生」

「ふふ、ダメなのです。先生は今日はただのお客さんですからねー。
 ……ほら、鋼盾ちゃんなら大丈夫ですから」

「………………えーと」

「……そんな目でこっちを見てもらっても困るよ鋼盾。
 食前の祈りならともかく、乾杯の音頭なんて僕には務まらない」

「勿論、私にも無理ですね。
 ―――それも貴方の役でしょう、全うしなさい鋼盾掬彦」

「……はいはい、しょうがない、やりましょう」

「はいは一回ですよー、鋼盾ちゃん」

「はい」

468 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/06/24(日) 23:29:42.60 ID:uINIAgaFo


 挨拶は、彼らしく穏やかなものだった。


「……まずは、みんな、こうして集まってくれてありがとう」


 ありがとう、と彼は笑う。

 本当に感謝しかない、こんな自分に付き合ってくれて、と。


「今回、一番準備に尽力してくれたのは、こちらの土御門舞夏さん。
 突然のお願いにもかかわらず、料理も掃除も完璧に仕上げてくれました」


 パチパチと、方々から拍手が上がる。

 それを受けて舞夏は少しだけ頬を染め、しかし誇らしげに微笑んだ。

 土御門の姓に魔術師ふたりが僅かに反応するのを視線で制し、鋼盾は挨拶を続ける。


「……別に、何をしようって集まりじゃない。
 ほんと、突然思いついたんだ―――きっと、楽しいだろうなって」


 理由なんて、そんなものでいい。

 放課後友人たちとファミレスで騒ぐのと、これは大して変わらない。


「ただ、いっしょにごはんを食べて、楽しくおしゃべりしてください。
 ―――んじゃ、みんな、飲み物を」


 鋼盾はグラスを高く掲げ、皆の顔を見渡す。

 ただのジュースだけど、きっとどんな美酒より美味しい。


 では、高らかに。


「……乾杯!!」


 鋼盾の音頭に応え、六つの声が唱和した。

 不揃いなグラスがぶつかる不協和音は、しかしこの上なく耳に心地よく響いた。




――――――――――

469 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/06/24(日) 23:32:12.91 ID:uINIAgaFo


 夕食会は、とんでもなく盛り上がった。

 その詳細を語ろうとすれば、それこそ小説一冊分にもなるだろう。

 でも、一文に纏めてしまってもいい。


 みんな、笑っていた。

 それだけでいい、と鋼盾掬彦は笑う。


 夜の街を、鋼盾はひとり歩いていた、月詠小萌を送って行ったその帰り道だ。

 小萌は固辞したが、半ば無理矢理ついていった形だ。


 結局また、いろいろと諭されてしまった。

 心配かけてばかりで、本当に申し訳ない。



 学生寮と小萌宅の距離は、歩いてほんの十五分ほど。

 その距離を、鋼盾はことさらゆっくり歩いてゆく。


 今夜は、少しばかり涼しい。

 風が通り過ぎてゆく、明日に向かって。


 そして、学生寮が見えてきた。

 建物の前にいる、ひとりの女の姿も。


 ……どうやら、今日はまだ終わらないらしい。

 盛り沢山だね、七月二十六日。



「……すこし、話しませんか。鋼盾掬彦」



 神裂火織が、待っていた。

 鋼盾掬彦を、待っていた。




――――――――――
470 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/06/24(日) 23:36:27.85 ID:uINIAgaFo

 
 それから二分後、ふたりは学生寮の屋上にいた。



 コンクリート剥き出しの殺風景な空間だが、人払いの結界も健在で雑談にはちょうど良い。



 なによりここは、自分たちにとっては大切な場所である。



 明晩のインデックスへの施術も、ここで行う予定になっている。


 


 メンテナンスの業者以外が訪れる事など考慮していないのであろう、屋上にはフェンス等はない。

 

 神裂はのんびりとした足取りで、ビルなどが建っていない東側の縁へと歩き出した。



 鋼盾もそれに続き、神裂の隣に並ぶ。






 屋上の端。



 開けた視界には、色とりどりの

街の光が溢れていた。


 クリーンエネルギーの供給が完全に整備されているこの街は、電力浪費に寛容だ。



 明日の心配をしなくてもよい夏休みということもあってか、灯りの点いている家も少なくない。


 

 それを眺めながら、神裂火織が口を開いた。


「……見事な夜景ですね。
 正直、この街のことはあまり好きではないのですが、この景色は素晴らしい」

「そうだね」


 ほんとうに、そうだ。

 科学の粋を集めたこの歪な都市は、どうしようもなく美しい。

 この街に対して、少なからず複雑な想いを抱いている鋼盾ではあったが、それは認めざるをえない。

 ……中に何が詰まってるのかなんて、わかったものではないけれど、それでも。



 しばし二人でぼうと夜景を眺めていると、神裂が口を開いた。

 穏やかな声と穏やかな表情、神裂火織というひとは、本来こんな風に話すのだろう。

 出会って数日、鋼盾は初めてそのことを知った。


471 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/06/24(日) 23:37:35.20 ID:uINIAgaFo


「……先ほど、土御門に会いました。
 過去の――あの子との事も、聞きましたよ」

「……そっか」


 索敵に出た神裂は、土御門元春と出会ったそうだ。

 神裂が見つけたのではなく、土御門がその身を晒したと見るべきだろう。


 初代のパートナー、土御門元春。

 彼も己と同じ傷を負っていた事を知り、彼女は何を思ったのだろうか。


「土御門とあなたと上条当麻とは、友人だそうですね。
 ……あんなふうに幼げな顔をする土御門は、初めて見ましたよ」




 魔術師、必要悪の教会の一員としての土御門元春。

 常のふざけた口調を排した硬い声と、サングラスに隠した剣呑な風情。

 呪術の大家たる土御門家の末裔、ドーマンセーマン陰陽博士。

 初恋の女の子の遺志を抱いて、世界の闇に身を落としたひとりの少年。

 Fallere825……背中刺す刃。


 そんな彼のもうひとつの顔を、確かに己は殆ど知らない。

 ……が、神裂の知らなかった土御門元春も居る。


 学園都市の学生、レベル0の落ちこぼれ
 
 義妹を溺愛しメイドを偏愛する、どうしようもなくふざけた男

 クラスの三馬鹿、デルタフォースが一角


 そして―――鋼盾掬彦の親友

 ……それが仮初のペルソナなどではないことを、知っている


472 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/06/24(日) 23:38:51.96 ID:uINIAgaFo


「うん、友達だよ。
 神裂さんとは……同僚、でいいのかな」

「ええ、もう六年ほどの付き合いになるでしょうか。
 情けない話ですが、いろいろと弱みを握られてしまっている身です」


 ああいう男ですから、と神裂は困ったように微笑む。

 そうだね、ああいうヤツだから、と鋼盾も笑った。


「そんなきみらが所属する……必要悪の教会、か。
 ……インデックスの所属でもあるわけだ」

「ええ。
 イギリス清教第零聖堂区―――冗談のようでしょう、零区などと」


 まったくだ。

 警視庁捜査零課と同じくらいに胡散臭いと鋼盾は笑う。


 鋼盾の言う捜査零課というのは、都市伝説のひとつである。

 霊能犯罪を取り締まる日本警察の暗部、そんな漫画のような話だ。


 とは言え―――もしかしたら本当にあるのかもしれないと鋼盾は思う。

 彼をしてそう思わせるほど、この数日間は埒外の神秘であふれていた。


473 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/06/24(日) 23:45:04.15 ID:uINIAgaFo


「英国は魔術の国なのです……現在に於いても、未だ色濃く。
 十字教においては忌避されるべき魔術ですが、しかし魔術師を相手取るにはそれを知らねばならない」


 毒を以って毒を制す、ということだろう。

 なかなかに血腥いのです、この業界も―――と、神裂は笑った。


「それゆえに、教会において唯一魔術の習得を許された機関が必要悪の教会です。
 魔術なる力を独占したがゆえに、今日では英国清教でも最大の影響力を持ち得ています」


 最大主教たるローラ=スチュアートからして魔術の徒ですから、と神裂は言う。

 やっぱりこの世界はどうかしてる、今更ながらにそう思う鋼盾である。



「……だから、必要悪なんだね」

「ええ……ですから我々は、敬虔なる信者の集い、というわけでもないのですよ。
 魔術対策で様々な術式や文化を取り込むことに積極的な機関ですから、どうしても信仰の制限は緩くなります。
 異教でも枠組みを保ったまま入信が可能で、私も厳密には清教徒というわけではないのです」


 神の教えは無数に枝分かれし、いくつもの宗派が生まれている。

 聖教、正教、清教、星教、政教、制教―――それは、事によると異教徒より遠いかもしれぬ隣人。


「私は“必要悪の教会“の一員として、外道の魔術師を誅する任に就いています。
 腕力だけはありますから、それを活かすのが誓いを果たす最善と信じていました」

「―――そっか」


 “救われぬものに救いの手を”

 昼にまさにこの場所で聞いた魔法名……それこそが神裂火織の誓いだ。

 なればこそ、彼女は鉄火場に己の居場所を求めたという。


「そうして日々を重ねる中、それまでとは少し毛色の違う任務に就くことになりました。
 噂に名高い英国清教の秘密兵器“禁書目録”の護衛任務です」

「それが……三年前?」

「ええ……そうして私は、私とステイルは、あの子と出会った。
 すぐに仲良くなって、まるで家族のように睦まじく日々を送って」


 疑いようもない、その愛のかたち

 ありふれていて、しかしかけがえのないもの


 家族の肖像

 今日、インデックスの喉を診る魔術師ふたりに、鋼盾はそれを確かに視た
 

 しかし

474 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/06/24(日) 23:46:43.52 ID:uINIAgaFo


「そして、七月二八日を迎えて。
 ―――――あの子を、殺しました」


 そう、それを阻む意志があった。

 彼らは絶望の味を知る事になる、これまでのパートナーたちと同じように。


「そして私は……名乗ることができなくなりました、魔法名を。
 たったひとりの女の子も救えぬこんな己が、そんな名を名乗れる筈もない」


 魔法名とは、魂の名前であるという。

 己が魂に悖る行為を行えば、それを名乗ることなどできないというのも―――理解できる話だ。


 汚れた手で、綺麗(りそう)になんて触れられない。

 大切だったから、祈るように鍵をかけて。


 目を背けて。

 忘れたふりをして。


 いつしか本当に、それを忘れてしまっていた。



 そう言って、神裂火織は悔いるように目を伏せた。


「この二年間、私はずっと誇りを失っていたのです。
 今の今まで、そんなことにすら気づけませんでした……滑稽ですね、我ながら」


 自嘲に塗れた声

 しかし――今は、それだけではない

 思い出した、鍵なんてポケットの中にあったのだ


 それを己は知っている

 神裂火織は知っている 

475 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/06/24(日) 23:47:49.22 ID:uINIAgaFo


「でも、それも終わる。
 ―――神裂さんは、この件にカタがついたら、どうするのかな」

「……そうですね、先のことはわかりませんが。
 あの子の安全を確保できたなら―――久しぶりに故郷に顔を出してみましょうか」

「故郷か…ぼくもしばらく帰ってないな」


 一念発起をして学園都市にやってきた己、その決意は実ることなく腐っていった。

 信じて送り出してくれた両親に、そんな無様な姿を見せたくなかった。


 いつしか、足は遠のいてしまい……今に至るというわけだ。

 ……不孝息子め、みっともないったりゃありはしない。


 この件にカタが付いたら、己も故郷に顔を見せに行こうかな、と鋼盾は思う。

 それもいいだろう……まだ、夏休みは始まったばかりなのだから。


476 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/06/24(日) 23:49:17.90 ID:uINIAgaFo


「ところでさ……神裂さんの故郷っていうと、どこらへんなの?」


 先の問答で、ふと疑問に思った点を、鋼盾は尋ねる。

 神裂の口調には訛りや方言のようなものは一切なく、お手本のような標準語である。

 意外と東京出身なご近所さんだったりするんじゃないだろうか、とそんな事を鋼盾は思った。

 しかし神裂から返ってきたのは、予想外の台詞だった。


「……場所は意味をなしません、私が育ったのはこの国に根を下ろした十字教団体ですから。
 所謂“カクレ”たる流浪の民が、私のルーツです」


 ひとところに留まることはなかったですね、と神裂は言う。

 カクレ、という言葉の意味くらい、鋼盾だって知っている。


「この国の、十字教―――というと天草とか島原とか、その辺の……?」


 鎖国政策、異教排斥。

 小萌宅で日本史の教科書を読んでいたインデックスが、悲しげに語ったことがあった。

 宣教師追放令、元和大殉教、踏み絵、俵責、穴吊るし。

 この国と十字教の歴史も、なかなかどうして血に塗れている。


 ……そういうこと、なのだろうか。

 そんな鋼盾の問いを受けて、神裂火織はこくりと頷いた。


477 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/06/24(日) 23:50:38.25 ID:uINIAgaFo


「ええ、まさに。名を“天草式十字凄教”
 私はかつて女教皇(プリエステス)として―――その一派を束ねる立場にありました」


 数珠にロザリオを隠し、観音に聖母を重ね、そうまでして祈ることをやめなかった者たち。

 随所に十字教の色を残しつつ、日本の民俗信仰と深く結びつきその形をかえた神の教え。


 それが、天草式十字凄教。

 極東の地で今なお息づく、十字教のひとつの在り方。


 神裂火織はそこで、女教皇なる任に就いていたという。

 過去形である、それは……つまり。


「ですが私は……その任を擲って、イギリス清教へと逃げたのです。
 先刻も言いましたが、必要悪の教会は腕さえあれば大抵の人間は受け容れてしまいますから」


 逃げた、と神裂は口にする。

 我が身の罪を、弱さを悔いるように。


「……それは、どうして?」

「そうですね、強いていうなら……私は聖人である己を許せなかったのです」


 聖人、世界に二十人といないと言われる選ばれた子等。

 生まれた時から神の子に似た身体的特徴・魔術的記号を持つ人間。

 故に、神の力の一端……人の身には余る力をその身に宿す者たち。

 インデックス曰く、聖人とはそのような存在であるという。


「神の子の似姿である故に、神の寵愛を不当に掠めとる……それが聖人なのですよ。
 本来、万人に等しく分け与えられるべきそれを、独り占めしてしまう簒奪者が私達です。
 周囲に不幸を押し付けて、のうのうと幸運を甘受していたのです」


 籤を引けば、必ず当ててしまう。

 それは必然的に自分以外の人間に外れ籤を押し付ける事だ、許し難いと神裂は言った。


「天草の皆を愛してはいました、だから、これ以上彼らを不幸にしたくなかった。
 傷付けたくなかった、奪いたくなかった―――過ぎた力は流れを歪ませ、災いを産みます。
 離れるのが互いの為と信じ、イギリスへ渡ったのが十二の頃でした」


 土御門とはその時からの縁ですね、と神裂は微笑む。

 十二歳。鋼盾が学園都市への進学を決めたのもそのくらいの歳であったが、なんとも次元が違う。

 彼女はその歳で一宗派を治める立場にあり、更には異国に渡り新たな道を選んだのだ。


「ですが今にして思えば――それも私の独り善がりだったのかもしれません。
 貴方に思い知らされましたよ……聖人なのは身体だけ、中身は視野の狭い小娘です、私は」


 もっといい方法があったかもしれない。

 己はそれを探そうともしなかった、今回の件と同じように。

 ……今更ですけどね、と神裂は苦く笑ってそう言った。
 

478 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/06/24(日) 23:51:18.09 ID:uINIAgaFo


「ですが―――こんな私にも、意地があります」


 ……そう、ぼくらにだって意地がある。

 願いがある、矜持がある、叶えたい夢がある。

 ヒーローにはなれないけど、それでも。


「もう迷いはありません……今一度、誓いましょう。
 ――Salvere000……もう二度と、この名に背くことなどありえない」

「……かっこいいね、それ」 


 救われぬ者に救いの手を

 神様の手なんて存外小さい、ポロポロ取り零してばかりだ

 それを救うと言っているのだ、目の前の不遜な女は

 
 まったくもってたまらない、かっこいいったらない
 
 このひとのようにはなれないだろうな、と鋼盾は改めて思う。

 だが、それでもかまわない……誰もが己にしかなれないのだ、自分の役を全うすればいい。


「……ぼくにもさ……ちっぽけながら意地があるよ。
 掬彦なんて名前なんだから、一度くらいは掬ってみせる」


 そう。

 全部なんて無理だけど、ひとつくらいは成し遂げたい。

 掬。両親が己にかけた願いは、きっとそういうものだったのだろうから。


 繰り返される、盾の宣。

 そんな鋼盾の言葉を受けて、神裂は笑みを深めた。


479 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/06/24(日) 23:52:16.45 ID:uINIAgaFo


「鋼盾掬彦―――鋼の盾、掬いの御手。
 ……良い真名です。先日は不躾にも貴方を無力と断じましたが、それは間違いでした。
 他ならぬ私が、貴方に掬われてしまいました。きっとステイルも、あの子も」


 足元を掬われ、心を救われた。

 こんなひどい目に合わされたのは初めてです、と神裂は言う。


 微笑みながらの、恨み言。

 その声の甘やかさに、鋼盾はすこしばかりドギマギしてしまう。

 冷徹な魔術師の仮面を外した神裂火織は、どうしようもなく柔らかくて困る。


「気に入らないことこの上ありませんよ、素人のくせに。
 ですから―――貴方への借りは、必ず返します」


 ……いや、柔らかいというよりは、靭やかなのだろう。

 折れず曲がらず……日本刀という武器は、そういうものなのだから。


「借りって……ステイルといい、義理堅いことだね。
 ……気にすることなんかない、ぼくらがきみらに力を貸してもらうんだから」

「それでは私の気が済みません。
 ……まあ、おいおい返してゆくことにしましょう」


 おいおい返してゆく、と神裂は言う。

 その言葉の意味など、改めて問うこともない。

 
「私たちは、ようやく未来を望めるのですから」

「……ああ、そうだね。
 明日で終わりじゃない、ぼくらの戦いはこれからも続く」


 続くのだ、物語は。

 ぼくらの物語は、あの子の物語は。

 
 鋼盾掬彦のその言葉に、神裂はからかうように微笑んだ。


480 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/06/24(日) 23:53:05.00 ID:uINIAgaFo


「―――ふふ。土御門に言われましたよ
 “コウやんはオレらを使い潰す気マンマンだにゃー”でしたか」


 ……にゃーて、かわいいなこのひと。
 
 じゃなかった、何言ってくれやがんだ土御門元春。

 脳裏に浮かぶ金髪グラサンにチョップを入れて、鋼盾は溜息混じりに言葉を重ねた。

 
「人聞きが悪いな……とは言え、確かに先は長いしやることは多い。
 だからさ、みんなに力を貸してもらおうってだけだよ」

「“あの子を救えなかった無様なおまえらから、容赦なく毟りとってやる”
 ―――ふふ、怖ろしいですね、毟り取られてしまうわけですか―――無様な私たちは」


 ……はい、確かに言いました、そんな台詞。

 言ったけどさー、アレは友人同士の気のおけない遣り取り的なアレでさー。

 ちょっと悪っぽい台詞でカッコつけちゃっただけなんだけどさー。

 ぼくだって相手が女の子ならもうちょっと言葉とか選ぶんだけどさー。


 ……とは言え、嘘じゃない。

 インデックスの家族なら、あの子の味方を名乗るなら。

 ちょっとくらいは―――押し付けてやっても構わないよね?
 

481 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/06/24(日) 23:54:31.56 ID:uINIAgaFo


「はは……前に言ったとおりだよ―――ぼくらを助けてくれ、神裂さん。
 ……あの子がこれからずっと笑顔でいられるようにする、付き合ってくれるだろう?」

「ええ、喜んで。
 ……おや、その役を誰より望む子が来たようです」


 視線を巡らす神裂を追うと、屋上の扉が開くのが見えた。

 出てきたのは火の点いていない煙草を咥える、赤毛の不良神父だ。


「ここにいたのか、神裂、鋼盾」

「やあ、ステイル」

「――ああ、長話になってしまいましたね。
 もう、お開きですか?」

「うん、あの子が眠ってしまったからね。
 ――ああ、首輪によるものではなく、単純に眠りに就いただけだよ。
 もう、けっこうな時間だからね」


 腕時計を見遣れば、時刻は既に零時を回っている。

 七月二十六日が終わり、七月二七日がやってきた。


 歴代のパートナーたちが己の無力を嘆き、残酷な運命を嘆き、少女の死を嘆いた日

 それでも少女の命を繋ぐため、少女を殺すと決めた諦めの日、別れの日


 今日という日は、そんな日だ

 ―――だが、今年は違う


 今代のパートナーたる鋼盾掬彦と上条当麻が、そのふざけた運命をぶち壊す。

 ステイルと神裂、そして土御門も居てくれる。

 勝利は既に、約束されている。


「……いい夜景だね、この街は気に入らないが。
 何度も見る機会があった筈なのに、初めて見るような気分だよ」


 先の神裂と似たような台詞だ。

 咥えた煙草に手を触れぬまま火を点けて、紫煙を燻らすステイル。

 浮かぶ表情に常の険はなく、例えようのない穏やかさに満ちていた。


 穏やかに眠りに就くインデックスを、穏やかなままに見守ること。

 この二年、そんなことはなかったのだろう。


 ステイル、神裂、インデックス。

 この三人の三年間、喪失と慟哭と絶望に塗れた三年間。

 そろそろ、この長ったらしいプロローグも終わりにしなければならない。


 煙が途切れる。

 ステイルは振り返ると、穏やかなままに口を開いた。


482 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/06/24(日) 23:55:10.41 ID:uINIAgaFo


「……さて、僕はもう行く。……引き続きルーンの設置を行うよ。
 やれることはすべてやっておきたい。……君はどうする、神裂」

「手伝いましょう。索敵は、やりながらでも充分ですし……
 それに土御門からも、他勢力からの横槍はないと太鼓判を貰ってますから」

「助かるよ。
 ……ありがとう鋼盾、楽しい一時だったよ」

「ええ、本当に」

「それは何より―――でも、これで終わりじゃないよ」


 そう、これで終わりなんかじゃない。

 最後の晩餐なんかじゃない―――今日のような楽しい出来事を、これからも重ねて行こう。

 
 幸せの形、目指すべき理想の共有

 鋼盾掬彦が今夜のパーティに望んだのは、そういうものなのだから


「全部終わったらインデックスの誕生会をやろう、祝勝会も兼ねて、みんなでね。
 楽しいことなんていくらでもある、そして忘れることもなくなるんだ」

「――ええ、未来を掴み取ります」

「そうだね―――そうしよう」


 そして魔術師ふたりは、夜闇に溶けるように姿を消した。

 その胸に、望むべき未来を掻き抱いて、足取りも確かに。


 

――――――――――

483 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2012/06/24(日) 23:57:47.16 ID:+UXV359AO
乙。いよいよだな
484 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/06/24(日) 23:59:34.09 ID:uINIAgaFo

ここまで!


夕食会はスキップ!
いろいろネタはあったのですが、容赦なくスキップ!

ステイルの年齢に驚く一同とか
神裂火織の年齢に驚く一同とか
月詠小萌の年齢に驚く一同とか


年齢ネタだけじゃねーか!
それでは、また次回!




485 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) :2012/06/25(月) 00:02:40.05 ID:POzgAXtW0
乙!
初めてリアルタイムで見れてよかったぜ
486 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/25(月) 01:33:18.77 ID:e8u7F1t3o
信じて送り出した鋼盾が…
いやなんでもないです乙
487 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/06/25(月) 01:51:41.60 ID:sM5iEBeT0

鋼盾×神裂あるで!
488 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/25(月) 01:54:37.96 ID:vTNrhFkfo
鋼盾×ステイル
の方がいいなあ(期待)
489 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/25(月) 02:18:20.09 ID:8PSOeNayo
懐かしい流れだなww
じゃあ鋼盾×舞夏はどうだろう
490 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/25(月) 04:25:15.42 ID:H6vnHSmIo
面白いぜ。待つぜ。乙。
491 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/06/25(月) 08:49:35.07 ID:HFLRCDh6o

しかしなんだな、嫌な予感がするな
492 : ◆FzAyW.Rdbg :2012/06/30(土) 18:53:04.52 ID:MJRLwiVIo
どうも>>1です、土曜出勤おわったーい!!
今から書きます、まだ半分くらいしか書けてないけどな!
今日中に投下に来ますよ、決意の予告age!

あ、前回更新分、改行が乱れまくりで申し訳ない
まだマックさんのエディタに不慣れなのです
というよりケアレスミスです、気をつけます

それでは、しばし
493 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/06/30(土) 22:17:50.37 ID:MJRLwiVIo
――――――――――



「……よ、遅かったな鋼盾」

「ああ、ごめんね。ちょっと話し込んじゃってさ。
 ――――後片付け、任せちゃって悪かったね」


 神裂らと別れ屋上から戻ってみれば、上条宅はすっきりと片付いていた。

 ほんの少し前まで、部屋の許容量いっぱいいっぱいのパーティが行われていたなんて思えぬほどに。


「いやいや、帰る前に舞夏が粗方やっつけてくれたからなー。
 俺がやったのはおまえの部屋にテーブルやらを持ってったくらいですよー」


 この部屋によくもまあ七人も詰め込めたもんだよな、と上条が笑う。

 学生寮の一室はやはり手狭で、確かにいろいろとギリギリだった。


 だけど、それすらも楽しかった。

 宴の熱は開け放たれたベランダの網戸越しに流れ出てしまったが、それでも残っている熱がある。


 確かなぬくもりが、胸の裡にある。

 言葉にすれば、ひどく嘘っぽくなってしまいそうなそれが、ひどく心地よい。


「そっか―――まあ、おつかれ」

「おう」



 短い遣り取り、それだけで、眼前の彼も己と同じ熱を感じているのだと判る。


 それが擽ったくて鋼盾はごまかすように視線を巡らせ、ベッドで寝息を立てるインデックスを見つけた。

 その寝顔は穏やかで、彼女がこの一時を楽しんでくれたのだと知れた。


 大事なものがすべて揃っていた、あの食卓。

 その中心に居たのは、言うまでもなく――この少女だった。
 

 鋼盾は、それがたまらなく嬉しい。

 他の面々も同意見だろうと確信できることが、また嬉しい。

 ふと目頭が熱くなるのを慌てて抑えて、鋼盾は上条へと話しかけた。


494 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/06/30(土) 22:22:12.86 ID:MJRLwiVIo


「……寝ちゃったか。
 明日の朝は起きれないかもね、二十七日には動けなくなってたらしいから」

「……そうだな。
 ま、コイツが夢でも見てる間に片づけちまおうぜ」

「そうだね―――そうしよう」



 そうして、再び鋼盾はインデックスを見遣る。


 パジャマに着替える余裕はなかったらしく、眠る少女の服装は、常の“歩く教会”姿である。

 デートで着ていた舞夏のワンピースは、汚すのが嫌だからと夕食前に着替えてしまっていた。

 大人っぽく結い上げていた髪も、その時に下ろしている。




 純白のシスター、いつもの彼女だ。

 デートスタイルもよかったが、やはりいつもどおりの方が“らしい”。

 どうしたってこの子は修道女なのだな、と鋼盾はあらためて思う。


 イギリス清教にあれだけのことをされて、しかし彼女は揺るがない。


 その強さは尊いのだろうけど、しかしすこしばかり悲しくもあった。


 染まらぬ白。

 穢れ無き明晰の色、あるいは白痴の色。

 あるいはそれもまた、禁書目録たる資質だったのかもしれない


 だけど、盤石絶対を謳った歩く教会とて壊れてしまったように。

 その白とて、いつまでも保たれるわけもない。


 まっさらなカンバスなど、寒々しいだけだ。

 好きな色を好きに混ぜて、好きなように絵を描いて欲しい。


 好きなように……自由に日々を紡いで欲しい。

 呪いに縛られることなく、繰糸に絡め取られることなく、記憶を奪われることなく。


 当り前の幸せを、あなたに。

 友人にそんな未来を望むのは、決して大それた願いなどではないだろう。


 ふと横を見遣れば、上条も鋼盾と同様にインデックスを見つめている。

 その無防備な横顔に浮かぶ表情は、ひどく優しげなものだった。


495 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/06/30(土) 22:22:56.83 ID:MJRLwiVIo


「しっかしまあ、気持ちよさそうに寝やがって……。
 ……そういや、舞夏のヤツが“ちゃんと着替えさせておくんだぞー、とか言ってやがったが」

「……おいコラ旗男てめえ。
 ―――とは言え、誰の仕事かって言えば……きみの仕事になるのかな?」


 少なくともぼくの仕事じゃないな、と鋼盾は言う。

 そんな鋼盾のからかい混じりの呟きに、上条は大いに噛み付いた。


「なんねーよ! ……たく、ステイルのアホもすんげえ睨んできやがったし!
 こんな馬鹿な話で同盟瓦解とか洒落になんねーよ!! つうかそもそも無理だっつの!」 

「―――ステイルのアホ、ね。
 仲良くなったみたいでなによりだ」

「……別に、仲良くなったわけじゃねえよ。
 でも、お前に間に立たれちゃな、認めないわけにもいかねえだろ。
 ―――インデックスを大事に思ってるのは、わかってるしな」


 旅は道連れだ、と上条が笑う。

 ステイルと上条、かつてすぐそこの廊下で激闘を演じた二人。

 水と油のように相容れぬかと思われたこの二人の関係も、此度の夕食で多少は緩和されていた。

 
 一体何の話をしていたのか、彼らが笑みを交わす一幕もあった。

 同じ女を愛した男ふたり、望む未来だって共有できるだろう。


 ぼくらの目指す所は、ただひとつ。

 あの子の笑顔だ、それだけでいい。


496 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/06/30(土) 22:23:59.64 ID:MJRLwiVIo


「……ったく、ああ、舞夏から伝言だ。
 “朝ごはんは冷蔵庫の中だぞー”“インデックスの誕生会も私に任せれ”
 ……あと、“がんばれなー”だとさ――最後の最後まで、アイツには世話になっちまったな」

「最後じゃないよ―――最後なんかじゃ、ない」


 最後ではない、最後になんかしない。

 反射的に返したその言葉は、思った以上に強い語気を孕んでいた。

 相棒のそんな過剰とも思える反応に、しかし上条は小さく微笑んで言葉を連ねた。


「ああ、そうだった……最後なんかじゃないな。
 ……ん、じゃあ明日のために寝るとするか。流石に眠いぜ」


 悪いがまたお前の部屋に厄介になる、そう言って上条は立ち上がる。

 しかし、鋼盾はそれに続こうとはしなかった。


「ん……あ、悪いけど先帰っててくれる?
 ――なんかさ、もうちょっとだけ起きてたい気分なんだよね」

「……悪だくみか、鋼盾?」

「まあ……そんなとこかな」


 そんな鋼盾の返答に、上条は笑う。

 ……怖えなー、ウチの監督は、と楽しそうに。


「―――ほらよ、鍵、交換な。
 寝不足だって言ってただろ?……無理すんなよ」

「……うん、すぐに戻るよ」



「……インデックスに、手ェ出すなよなー」

「心配ならこっちで寝なよ、家主さん。
 ……寝不足で明日トチったら許さないけどね」


 この手のネタについては今のところ自分の方が優勢だぞ、と鋼盾は笑う。

 それを受けて上条は降参とばかりに両手を上げた。


「冗談だっての……じゃあ、先に休ませて貰うぞ。
 ―――おやすみ、鋼盾」

「ん、おやすみ」



――――――――――
497 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/06/30(土) 22:28:57.87 ID:MJRLwiVIo





 玄関の扉が閉まるのを見送って、彼はひとりベランダに出た。

 悪だくみか、という上条の言葉に頷いてみたものの、別に何を企む予定もない鋼盾である。


 ここ数日、ひとりの時間はずっと思索に費やしてきたが―――もう、打ち止めだ。


 できることは、すべてやった。



 これ以上は、逆さに振っても出てこない。




 “怠け者め、思考を止めるなと言った筈だけど”

 そんな風に雲川には怒られてしまいそうだが???これで、全部だ。






 土御門元春、ステイル=マグヌス、神裂火織。



 彼らを抱き込み、上条当麻の右手を以てインデックスの首輪を破壊する。



 巻き込めるのは当事者たる彼らまで、小萌や舞夏らにはこれ以上は踏み込ませない。





 第三者の介入や英国との折衝は魔術師たちに任せ、首輪は上条に任せる。

 無力な己は、それでも可能な限り彼らのサポートとインデックスのフォローに努める。



 それが、鋼盾掬彦という他力本願な男が描いた作戦のすべて。



 その目論見通りに事は運んだ、はっきり言って、出来過ぎといってもいい。






 小萌や舞夏は心配を圧し殺して何も問わずにいてくれたし、魔術師たちは今もベストを尽くしてくれている。



 上条当麻もインデックスも、こんな自分を信じて笑ってくれた。



 それが、鋼盾が積み上げてきたもの

 それが、すべて


498 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/06/30(土) 22:30:21.25 ID:MJRLwiVIo








 ……ここまでが、己の限界だった



 その先をこそ、鋼盾掬彦は望んでいたのに――どうしても届かなかった





 まるでシナリオでもあるかのように、話は進んでゆく



 結末など最初から決まっていると、愚かな道化を嘲笑うかのように

 

499 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/06/30(土) 22:33:53.68 ID:MJRLwiVIo


 眠るインデックスを起こさないように、鋼盾は静かにベランダの戸を後ろ手で閉める。

 そしてそのまま、ガラス戸に背を預けるようにずるずると床にへたり込んだ。


 ああ、と鋼盾は呻く。

 ……ひとりになった途端に、このざま。

 ここ数日、いろいろな事があって、少しは変われた気がしていたけれど……それも気のせいだったのかもしれない。




 ???彼らがいないと、己はこんなにも無様で、弱い。

 気付いてしまえば、当たり前の話ではあった……鋼盾掬彦など、そんなものだった。


 それでも、彼らの前では笑っていなければいけなかった。

 彼らを焚き付けた己には、その義務があった。

 未来を語り、理想を嘯かねばならなかった。

 そうしたかった、そうありたかった。


 鋼盾掬彦は、そんな自分になりたかった。

 でも、なれなかった。






 だから、こうしてひとり膝を抱えている。

 夜の闇に、やがて来る朝を疎んじている。

 その先に訪れる未来に、怯えている。


500 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/06/30(土) 22:35:43.60 ID:MJRLwiVIo

――――――――――



 それから、どれくらいの時間が経過したのだろうか。

 鋼盾はふと我に返る、眠っていた訳ではないと思うが、何も見えず、何も聞こえていなかった。

 腕時計を見るのも億劫な程の倦怠感が、身体をじりじりと苛んでいる。






 忘我から立ち直れば、世界は寸分変わらずそこにあった。

 上条宅のベランダにへたり込んだまま、彼は胡乱げに視線だけを上げる。


 その先にあるのは向かいの建物と、ベランダの柵。



 数日前、その柵に彼女が引っかかっていたという。



 もう随分と前のような気がする七月二十日のことを、鋼盾はぼんやりと思い出す。



 上条当麻に聞かされた、彼らの出会いの一幕を。


501 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/06/30(土) 22:36:38.61 ID:MJRLwiVIo


 ある日ベランダに出てみれば、そこにはなぜか見覚えのない布団が既に干してあった。

 そんな奇妙な状況に慌てて目を凝らしてみれば、それは布団ではなく白の修道服を纏う美少女。

 謎の魔術結社に追われる、十万三千冊の魔道書を抱えた悲劇のヒロイン。

 彼女が落ちてきたのは、あらゆる幻想を否定する右腕を持つ少年。


 幻想殺しと禁書目録の運命が交差する時、物語は始まる――!


「……第一話だね、掴みはばっちりだ」


 ここが、始まり

 ヒーローとヒロインの出会いの場所だ


 鋼盾は目線を上に向け、インデックスが落とされたというビルを見上げた。

 ほんの少しずれていたら、地面まで真っ逆さまの紐なしバンジーである。

 当時は歩く教会の加護があったとは言え、改めて見るとやはりとんでもない話だった。


「……ほんの少し、ずれていたら、か」


 鋼盾は思う。

 例えば、例えば。

 ほんの少しだけ角度がずれて、インデックスが己の家に落ちてきたらどうなっただろう。


 はじまりが上条当麻ではなく、鋼盾掬彦だったなら。

 ……己は、はたしてヒーローになれただろうか?


502 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/06/30(土) 22:38:57.25 ID:MJRLwiVIo


「―――――無理だ、ね」


 考えるまでもなく、そんな結論が出た。

 そんな結論を出してしまう時点で、きっと己は主役の器ではない。


 ベランダに、見知らぬ少女

 きっと己は馬鹿みたいに慌てて、ドッキリを疑って

 それでも乞われるがままに食事を与えて

 魔術だ魔道書だ必要悪の教会だなんてトンデモ話を聞かされて

 もちろん、そんな話を信じる事などできなくて


 そして、あの笑顔で別れを告げられて

 ―――きっと、それで終わりだったことだろう


 能力を持たぬ己は、彼女の異常に触れる機会がない。

 なにより彼女を押し止めるだけの意志が、力が、自信が、覚悟がない。

 奇妙な出会いに惑いつつ、しかしその先を望みはしなかったに違いない。

 
 それで、おしまい。

 そのまま幻想御手の取引に向かい、十万円を騙し取られ、劣等感に苛まれて。

 ステイル=マグヌスに道を示されることもなく、月詠小萌に打ち明けることもせず。


 己の弱さを呪い続けて、どうせ、幻想御手に縋りついて。

 あの幻想猛獣の、一部になってしまっていた事だろう。


 鋼盾掬彦なんて、そんなものだった


 そしてインデックスは逃避の果てに、時間切れ。

 魔術師ふたりはそんな彼女に記憶破壊の術式を行なって、次のインデックスが生まれるのだ。

 停滞と堂々巡り、何れにしても碌なものではない。


 あるいは――鋼盾掬彦が罷り間違って勇気を出して、インデックスを救おうとしたら?

 ……それも考えるまでもない話だろう、その日の夜にでもステイルに焼かれて終わりだ。


 勝てるわけが、ない。

 己ひとりでは、インデックスを救うことなど不可能だ。

 物語は始まりすらせず、鋼盾掬彦はひとり腐っていったに違いない。


503 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/06/30(土) 22:39:39.85 ID:MJRLwiVIo


 ならば……土御門元春なら、どうだろう。

 インデックスの落ちる角度が、また少しずれて、土御門の部屋に落ちていたらどうなっただろうか。

 世界の裏側を知る彼は、どんな選択を為しただろうか。


 必要悪の教会の魔術師として、ステイルや神裂にインデックスを引き渡すか。

 学園都市の走狗として、値千金の禁書目録を利用しようとするか。


 英国清教と学園都市、彼がこのどちらに重きを置いているのかを鋼盾は知らない。。

 だが、いずれの道にもインデックスの救済などありえないのだろう。


 それとも、土御門元春は第三の選択肢を選んだだろうか。

 初恋の女の子を救うべく、単身世界を敵に回したりしただろうか。

 ふざけた口調もサングラスも放り棄てて、ひとりの女の為にその生命を燃やしたりしたのだろうか。
 

 ……それは、ないのだろう。

 舞夏のために、世界の均衡を守るために、己が信念???魔法名に殉じるために。


 彼は、土御門元春は。

 幼い初恋を圧し殺し、あの子を見殺しにしたに違いない。


 ここまでの七年が、それを示している。

 土御門元春の言葉には、その罪がいつだってこびり付いていた。


 だから、土御門ではだめだ

 鋼盾でもだめだ

 ステイルにも、神裂にも、それはできなかった

 小萌でも舞夏でも、そこには至れないだろう





 ならば、誰がそれを成すというのか?



 ――言うまでもないことだ、さんざんこの口が繰り返してきたことだった。


504 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/06/30(土) 22:41:50.33 ID:MJRLwiVIo


「……やっぱ、主役はアイツだよ」


 首輪を破壊できる人間は、この街にひとりしかいない。

 探せばもしかしたらいるのかもしれないけど、鋼盾には尻尾すら掴めなかった。

 多才能力者の木山ですら匙を投げたのだ、少なくとも大能力者レベルでは不可能だろう。

 第三位たる御坂美琴、あの雷姫でもきっと届かない。


 幻想殺しを持つ上条当麻のもとに、インデックスが落ちてきたということ。

 並外れた幸運、とびっきりの奇跡、運命の悪戯。


 まるでテレビアニメの第一話

 御都合主義と笑わば笑え、奇跡は起こるさ何度でも


「……お約束、ってやつかな」


 あるいは運命とか……と鋼盾は小さく呟き、即座に頭を振った。

 ―――ねえよ馬鹿、流石にそれはない。


 おまえがヒーローと、ヒロインと呼ぶ彼らの出会い

 おまえはそれをただの幸運だ、運命だと口にしたけど、さ


 奇跡なんか、この世にはないよ

 そうだろう? 鋼盾掬彦


 ありえないなんてありえない、そう言って笑った人がいたけれど

 だが―――やはり理由があるのだ、物事には


505 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/06/30(土) 22:44:37.41 ID:MJRLwiVIo


 ひとつ。

 残酷な仮説を鋼盾は思い付いている。

 思い至った瞬間即座に否定し、しかし否定しきれぬまま抱え込む羽目になったその仮説。


「“不幸だー”……か。
 ……なんなんだろうね、きみの右手は」


 それは上条当麻の右手に宿る力、幻想殺しについての話。

 神様の加護すらも打ち消してしまうが故に、彼ははあらゆる“不幸”をその身に集めてしまうという。


 “だからこそ”インデックスは上条当麻のもとに吸い寄せられたのではあるまいか

 “不幸にも”彼と彼女は出会ったのではあるまいか


 そんな、あまりといえばあまりにひどい話。

 でも、そうとでも考えなければありえないじゃないか。

 こんなに都合よくこの二人が出会うだなんて、そんな事は。


 なあ

 そう思うだろう? 鋼盾掬彦



 目を逸らすなよ、思考を止めるなよ

 さもなくば、おまえらは、明日―――


506 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/06/30(土) 22:46:38.89 ID:MJRLwiVIo


「―――黙れ。
 ……アイツは、不幸なんかじゃ、ない」


 裡なる声を圧し殺し、鋼盾掬彦は吼える


 上条当麻は不幸なんかじゃ、ない

 ぼくらは不幸になんか、ならない


 上条当麻とインデックス

 ヒーローとヒロインの出会い 


「それは絶対に、不幸なんかじゃ、ないよ。
 ―――神様の加護が届かないなら、罰だけ下る道理がない」


 なるほど、そいつは然りだ

 だけどさ、鋼盾掬彦……木山春生の予言を忘れたか?

 ―――忘れてねえよな、おまえはずっとそれに怯えているんだから

 こんな所で膝を抱えて、無様に震えているのだから


507 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/06/30(土) 22:49:25.56 ID:MJRLwiVIo


 ……実際さ、大したものだよ

 よくもまあ、ペラペラとあんな法螺を吹いたものだ


 なにが鋼の盾だ

 なにが素敵な悪あがきだ

 なにが脚本を書き換える、だ

 ハッピーエンドなんて、信じちゃいないくせに


 無様な無様な鋼盾掬彦

 結局おまえは、ここまでじゃないか


 おまえの逃避に、いったい何人巻き込むつもりだ?

 おまえの絶望に、いったい何人巻き込むつもりだ?


「……逃げてなんか、ない。絶望なんて、しない。
 ―――ぼくは……戦うって決めたんだから」


 あの日、小萌の家で上条当麻と一緒に勝利を誓った

 一度たりとも勝ったことのない男が、はじめて己の意思でそれを願った

 それだけを願い、鋼盾掬彦はこの一週間を駆けてきた


 勝利条件は明確だ

 誰も彼もが、違う言葉で同じ事を言った


508 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/06/30(土) 22:50:05.71 ID:MJRLwiVIo


“決まってる、インデックスを笑顔にすることだ。
 これから先も、ずっと笑顔でいられるようにすることだろ”


 上条当麻が、そう言った


“あんな優しい子が救われないなんて、許せません、認めません。
 掬い上げて見せてください、鋼盾ちゃん。シスターちゃんを助けてあげてください”


 月詠小萌が、そう言った


“……でも、響いたよ、痛快だった…………あれは、ヒーローの台詞だ。
 オレがずっと待ってたヒーローの、オレにはなれなかったヒーローのセリフだ”


 土御門元春が、そう言った


“……なー、鋼盾掬彦。
 兄貴とインデックスのこと、よろしく頼むなー?”


 土御門舞夏が、そう言った


“貴方はインデックスを救う算段を示してくれた、だから今一度私も誓います。
 鋼の盾、あなたの――あなたたちの力を貸してください”


 神裂火織が、そう言った


“それでもさ、うん、僕も見てみたいよ。
 あの子が笑うハッピーエンドを……舞台袖からでもかまわないから”


 ステイル=マグヌスがそう言った


509 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/06/30(土) 22:52:32.59 ID:MJRLwiVIo


 インデックスに、笑顔を

 インデックスに、未来を


 ぼくらのヒロインに、明日を、みんなで

 ―――それが、ぼくらの掲げた勝利だから



 だから

 喪われるものがあっても、報われることがなくとも、

 今はただ、それだけに全力を尽くそう


 たとえそれすらが予言の内でも

 もう、逃げることなどできないのだから


510 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/06/30(土) 22:53:50.89 ID:MJRLwiVIo


 首輪の破壊は、既に確約されている……上条当麻が、それを成す

 インデックスの首輪は外され、鋼盾掬彦は大切ななにかを喪う


 木山春生が口にした、そんな未来がやってくる

 あと二十四時間もせぬうちに、ひとつの決着が着くことになる


 喪失がやってくる

 絶望がやってくる


 だけど


「―――そこで終わらせたりなんか、しない」


511 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/06/30(土) 22:54:53.24 ID:MJRLwiVIo



 勝利の先にある敗北を受け入れて

 その敗北の先にある勝利を掴み取る




 鋼盾掬彦は立ち上がり、そう口にした


 鉄錆の入り混じった声で、それでも確かに


512 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/06/30(土) 23:04:44.61 ID:MJRLwiVIo
――――――――――

ここまで!
……うぎゃー、なぜかまだ改行が乱れる! 文字化けも!
今回はウィンドウズの方で投下しているんですがああ

なんかマックで改行した部分が、二行分のスペースになってるのでしょうかわかんねえ
途中でそれに気付いて結構注意深くチェック入れて打ち直してみたのですががが

ちょっと鬱だ
書き直してえ、やんないけど

……まあ、次回までになんとか対処法を見つけます!


さて、本編も鬱々ですね
魔術師たちが仲間になってもはや敵なしじゃね? とは問屋が卸さないようです
木山先生も厄介な予言を残してくれたものです、どうしよう

そんなこんなで次回に続きます
よろしければまたお付き合い下さい

513 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/07/01(日) 00:16:50.86 ID:q+5mMqqlo
>>512


改行の件はwindowsとMacで改行を意味するコードがちょっと違うせいかな
エディタの設定で改行コードを\nか\rか\r\nか選べたりしない?
それをMacで書くエディタとwindowsで開くエディタで統一しとけば問題は解消できると思う
文字化けもたぶんそのあたりのOS依存の部分じゃないかと思う
514 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2012/07/01(日) 00:40:41.92 ID:OsjE9glu0
macならmiってエディタが改行コードやら文字コードやらインデントやらいろいろ設定できておすすめ
515 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/01(日) 04:53:22.05 ID:BmngKKM2o
楽しみすぎてしかたない。乙。待ってるぜ。
516 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/07/01(日) 10:29:48.89 ID:IzH57iqvo
>>513 >>514
おお! 詳しいお方たちが! サンクス!
なるほどコードか、やっぱりその辺の話なんですね
miの導入をやってみますです、他にもおすすめあったら教えろ下さい

>>515
待っててくれて嬉しいんだぜ
517 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/07/01(日) 12:22:29.45 ID:nea0aIYbo
おつ!
なんか文章量は多いのに展開が遅々としてるから、ベルセルクとか読んでる気分になるww
終わった後に最初から読み直そう
518 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/07/01(日) 12:37:58.36 ID:maLYZq6Ao

木山てんてー、なんて予言してくれたんよ・・・

上条さんとインデックスの出会いが「不幸」ってのはなんか納得しちゃった
☆の意図ってわけでもないんだよな、ふしぎ!
519 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/07/01(日) 23:20:31.73 ID:H6kTaZhq0
そのふざけた未来をぶち壊す!
520 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/02(月) 00:13:22.50 ID:pQI/gXlbo
そみぶ
521 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/07/02(月) 16:48:40.23 ID:3vKp9mWS0
きたい
522 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/07/02(月) 23:56:53.55 ID:jPextkGPo
>>518
何時から意図ではないと錯覚していた…?
523 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/07/03(火) 12:07:06.68 ID:3gXB3f1m0
インを落としたのは神崎
つまり神崎はアレイスターの手先
524 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/04(水) 19:26:42.35 ID:qYkSc9m7o
一巻時点では上条さんはアレイのプランに必要不可欠ってわけでもないような気がします
そもそも一巻の時点ではアレイスターなど影も形もなかったような気もしますが

まあそれはそれとして!
天井亜雄安価SSが始まりましたね! 期待!
てか天井主役でSS書こうって人間なんて俺くらいかと思ってたぜ!

あ、今晩投下に来ます
よろしければお付き合い下さい
525 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/04(水) 21:39:46.32 ID:qYkSc9m7o

――――――――――


 風は涼しく、夜は深く。

 星も月もなく、街頭の灯りが道を照らしている。

 とある男ととある女が、その道を歩いている。


 十数分の道程を、ゆるゆる歩くふたつぶんの足音。

 彼らは恋人同士でもなければ親と子でもない、師弟というのともだいぶ違う。


 学校の先生と、生徒。

 担任教師と、その教え子。


 ありふれていて、しかし千差万別

 けして永続するものではない、期間限定の関係性。


 月詠小萌と、鋼盾掬彦。

 生徒想いの優しい先生と、どうしようもなく不出来な教え子。


 学外であっても時間外であっても、やはり彼らは教師と生徒に他ならない。

 その事実を鋼盾は愛おしくも思うし、歯がゆくも思う。

 
526 : ◆FzAyW.Rdbg [sage]:2012/07/04(水) 21:41:11.51 ID:qYkSc9m7o


 なぜ自分はこの人に恋をしたのだろう、と鋼盾はただただ疑問に思う。

 あの夜から幾度と無く考えてきたその自問には、きっと答えなどない。


 この想いはどうせ実らない。

 それでいい―――よくはない、でも、どうしようもない。

 それが、鋼盾掬彦が己の初恋に下した結論だった。


 なれど未練がましく、己は彼女に甘えている。

 この人だけは巻き込むまいと願った筈なのに、今日もこうしてその声と笑顔に縋ってしまっている。

 その無様、その浅慮、その厚顔、その無恥、その惰弱。

 只管に恥じ入るしかないと、鋼盾はひとり臍を噛む。


 今宵、彼女を招くべきではなかった。

 今更ながら、そう思う。
 

 絶望の未来は、すぐそこまで迫っている。

 その未来は、きっと彼女が望むものではない。


 それを回避する術は、見つける事ができなかった。

 届かなかった、片鱗すら掴むことができなかった。


 無様で無力な鋼盾掬彦は、結局このひとの期待を裏切ることになる。

 それが苦しくて、情けなくて―――でも、彼女にだけはそれを悟られたくなくて。


 だから結局のところ彼は、ひとり重荷を抱え込む羽目となる。

 薄っぺらな嘘を並べて、ヘラヘラと笑顔を取り繕っている。

 慚愧の念にその身を焼きつつ、それでも鋼盾掬彦は歩みをやめない。


527 : ◆FzAyW.Rdbg [sage]:2012/07/04(水) 21:42:01.61 ID:qYkSc9m7o


 そんな、痛々しいほどに必死で、無様で、どこまでも真摯な少年の虚勢。

 ……それに教師たる月詠小萌が気付かないはずなんて、あるわけもなかった。



 これは、そんな彼と彼女の会話。

 とある夕食会の帰り道に交わされた、未来と予言についての話。



――――――――――
528 : ◆FzAyW.Rdbg [sage]:2012/07/04(水) 21:43:40.68 ID:qYkSc9m7o


“……今日は、呼んでくれてありがとうなのです、鋼盾ちゃん”

“……いえ、突然でほんとすみません。
 仕事でおつかれのところ、こんな遅くまで付き合わせてしまって”

“ふふ、楽しかったのですよーほんとうに。
 ……ま、確かにちょっと遅くなっちゃいましたがねー。
 先生がいながら夜遊びを助長させちゃいましたねー、反省なのです”

“……もう、解散ですよ。
 インデックスが眠そうにしてましたしね、お開きです”

“本当なのですかー? 
 邪魔な先生を帰して、これからみんなでふぃーばーな予定じゃないのです?”

“本当ですって。
 ……というかフィーバーって……死語じゃないですか、それ”

“そんな事はないのです! 死なないのです!
 ――で、こんな楽しい夜なのに……どうして鋼盾ちゃんはそんな顔をしているのです?”

“……そんな顔って言われても……不細工は生まれつきですよ。
 ぼくはいつもどおりです、なにも変わったことなんて、ありません”

“……嘘はだめですよ、鋼盾ちゃん”

“ぼくは先生に嘘を吐いた事なんて、一度だってないですよ”

“……そうでしたねー、まったくもう”
 ん、じゃあ世間話でもしましょうかねー……はい、鋼盾ちゃん、なにかお題を”

“……お題、ですか?
 うーん、突然言われても……えーと”

“ふふ、なんでもいいのですよー?
 最近あった楽しいこと、嫌なこと、疑問に思ったこと……なんでも”

529 : ◆FzAyW.Rdbg [sage]:2012/07/04(水) 21:44:52.69 ID:qYkSc9m7o


“……それじゃあ、先生”

“はい、なんでしょう”

“あー……『恐怖の大王』って、知ってますか?”

“……予想外のところを突いてきますねー、鋼盾ちゃん。
 もちろん知ってますよー、ノストラちゃんの大予言……懐かしい話です”

“ぼくは、あまり詳しくは知りませんでした。
 昔、恐怖の大王が訪れるとかなんとか、そんな話があったみたいですね”

“……ま、ブームでしたねー。
 終末思想、停滞する経済、空回りする政治、社会不安、閉塞感。
 そういう漠然としたものが、ああいう形になってしまったのでしょうか”

“あれを、本気で信じた人はいるんでしょうか”

“いたかも、知れませんねー”

“……結局、予言は外れたみたいですけど”
 
“ふふふん、内緒なんですが一九九九年に恐怖の大王が来なかったのは
 わたしが人知れず戦って勝利したからなのですよー?”

“そいつは……伝説ですねえ”

“いやー、たいへんな戦いでした……で、どうしたのですか、鋼盾ちゃん?
 夏休みの課題にはそんなのはなかった筈ですけど……読書感想文とか?”

“……ちょっと、調べる機会があったんです。
 こないだ、ちょっとそういう能力者の人とお会いしまして”

530 : ◆FzAyW.Rdbg [sage]:2012/07/04(水) 21:46:14.51 ID:qYkSc9m7o


“ふむー、……未来予知、ですかね?”

“ええ。
 いろいろ、面白い話を聞かせてもらいました”

“ん、興味深い能力ではありますねー、この街ではマイナーな部類ですけど”
 
“ええ――そのマイナー能力者さんは、未来を視たそうです。
 でも、それを変えることはできないみたいで”

“……なるほど、ただ『視る』だけの力というわけですか”

“はい――確定した未来を、ただ『視る』だけの力です。
 どんなに頑張っても、その未来が変わることはないんです。
 ―――そんなの示されたところで、もうどうしようもありませんよね”

“いえいえ、どうしようもないなんて先生は思いませんねー。
 しっかり備えて置くことができるでしょう? その未来に対して”

“その人も、似たようなことを言ってましたね。
 ……諦めることができる、の間違いじゃないですか?”

“いえいえ、間違いなんかじゃないのです。
 もちろん、ケース・バイ・ケースでしょうけどねー”

“…………”

“たとえば……そうですねー。
 『鋼盾ちゃんが明日お財布を失くしてしまい、二度と見つからない』
 そんな未来を先生が知ってしまったとしましょうか”

“……財布を、ですか……それは、災難ですね”

“ええ……更に残念なことに、その未来は確定しているのです。
 誰がどんなに注意を促しても、鋼盾ちゃんがどんなに気を付けても、それは防げない。
 ―――さて、その場合……先生はどうするべきでしょうか、鋼盾ちゃん?”

“……未来が確定してるなら、どうしようもないでしょう?
 たとえ何をしたって、無駄じゃないですか、そんなの”

531 : ◆FzAyW.Rdbg [sage]:2012/07/04(水) 21:47:31.24 ID:qYkSc9m7o


“ぶー、〇点なのです。いろんなやり方があるのですよ?
 たとえば『私が鋼盾ちゃんからお金を借りる』なんてのもひとつの方法です。
 明後日になったら返してあげれば、とりあえずその金額は帰ってきます”

“……まあ、それは確かに。
 生徒にお金を借りる教師というのは、どうかと思いますけど”

“たーとーえーばーなーし! なのです!
 ……他にも『財布の中身を盗んでしまう』なんて乱暴方法もあるかもですね。
 もちろん、後でちゃんと返すのですよ?……まあ、犯罪ですから絶対ダメですけど”

“……じゃあ、『ぼくが車にはねられてしまう』みたいな予知だったら?”

“先生の車で、かるーく当てちゃうってのはどうでしょうか。
 間違っても怪我をしない程度に、かるーく”

“……血まみれで倒れるぼくの姿が予知されていたとしたら?”

“錯乱したわたしがなぜか手にしていたトマトケチャップをブチュっと”

“……ぼくが、車に跳ねられて死んでしまうとしたら?”

“……どうしたのですか? 鋼盾ちゃん。
 随分ネガティブなのですよー?”

“いえ……ちょっとそんな想像をしちゃっただけです”

“……ふむ、覆せない死が確定されてしまったわけですか。
 恐ろしい話なのですねー、自分だけがそれを知ってしまうというのは”

“ええ―――どうしようもないでしょう、そんなのは”

“うーん、困りました。
 確かに、それはどうしようもないのかもしれませんねー”
 
“どうしようもないんです、ほんとに。
 ―――未来なんか、知るべきじゃないんでしょうね、やっぱり”

532 : ◆FzAyW.Rdbg [sage]:2012/07/04(水) 21:50:18.38 ID:qYkSc9m7o


“むう……そうかもしれないのですねー。
 ……でも―――どうせ、いつかは死んでしまうなら……自分が消えてしまうなら。
 この世のすべては意味なんて無い……って、そう思うのですか? 鋼盾ちゃんは”

“……それは――いえ、思いません”

“はい、先生もそうは思わないのです。
 とは言え、だからといって永遠が欲しいとも思わないのですよ?”

“…………”

“私たちだって、いつかは死んでしまいます。
 この星だって、いつかは消えてなくなります。
 ――――でも、それは絶望の予言なんかじゃありません”

“……スケールの大きな話になりましたね。
 ぼくの財布なんて、どうでも良くなっちゃいそうです”

“ふふ、大は小を兼ねますからねー”
 ……何と言うか……結果にだけ拘泥すれば、極端に走ることになります。
 極端というのは、往々にして多くを取り零すことになるのですよ”

“―――そうです、ね”

“ええ、白と黒に、はっきり分けられるものなんてないのです。
 グレーの濃淡―――いえ、もっと彩り豊かですかね、この世界は。
 まあ、偏らずに真ん中を行ければいいんじゃないかと先生は思うのですが……”

“……中庸ってヤツですか、仏教でしたっけ”

“ふふ、そんな難しい話じゃありません。
 グーだけじゃなにも掴めませんし、パーだけじゃ取り零すばかりです。
 チョキなんて、すぐにも突き指しちゃいそうですし……ってなんですか鋼盾ちゃん、指三本立てて”

“いわゆる無敵のグーチョキパー……軽いボケにそんな怖い顔しないで下さい、先生”

“……突き指するといいのです。
 まあ、先生が言いたいのは、凝り固まるのはよくないってだけの話なのですよ。
 
“―――それは、はい”

“回避不能の絶望を知ってしまう……確かに酷い話です。
 でも、そんな酷い話は結構世の中に溢れているのですよ?
 ままならないことばかりですから……いつだって、誰だって”
 
“……じゃあ、どうすればいいんでしょうか。
 ――――ままならないまま抱えていかなきゃいけないなんて……苦しい、です”

533 : ◆FzAyW.Rdbg [sage]:2012/07/04(水) 21:52:14.76 ID:qYkSc9m7o


“簡単なのです、苦しければ、誰かに話してしまえばいいのです。
 そのひとにに一緒に背負って貰えば、いい――自分だけでやろうとするから、潰れてしまうのですよ?”

“……できませんよ、そんなこと”

“ずるい、とでも思うのですか? ……かもしれないのです。
 でも、それでもそうすべきなのです。未来なんて、ひとりで背負うには重すぎる。
 人はそうやって生きていくべきだと先生は思います”

“そんなの……ないですよ。
 押し付けられた方にしてみれば、たまったものではないでしょう?”

“そうとは限らないのですよ?
 たとえば教師にとっては、生徒の抱えるものを分けてもらえるのは喜びなのです。
 ……鋼盾ちゃんにとって、シスターちゃんはただの重荷に過ぎないのですか?”

“それは―――違います。
 そんなわけが、ない”

534 : ◆FzAyW.Rdbg [sage]:2012/07/04(水) 21:54:28.04 ID:qYkSc9m7o


“ええ、そうでしょうとも。
 ですから……先生に、それを分けてはくれませんか、鋼盾ちゃん?”

“そうですね、もしそんな状況になったら、お願いします”
 
“――ばか”

“……そうですね、馬鹿です”

“本当、どうしようもないのです、鋼盾ちゃんは。
 ……だけど、それでいいのかもしれませんねー。
 鋼盾ちゃんの足りないところは、きっと誰かが補ってくれますから”

“…………”

“先生との約束、忘れてはいないですよね?
 ―――貴方はひとりじゃない……それだけは忘れちゃだめですよー?”

“………”

“信じて、頼るのです。
 みんなを……そして、貴方の相棒さんを、ね”

535 : ◆FzAyW.Rdbg [sage]:2012/07/04(水) 21:58:18.35 ID:qYkSc9m7o



 そんな、遣り取りがあった。

 教師と生徒の、そんな遣り取りがあった。


 それは七月二十六日の夜、つまりは昨晩のこと。

 鋼盾掬彦と月詠小萌が、夜道をつらつら歩きながらそんな話をした。



 鋼盾は、ぼんやりとそれを思い返していた。

 首輪の呪いに身を蝕まれ、意識のないまま苦悶に喘ぐ少女を見ながら、それを思い返していた。



 七月二十七日、午前八時、朝飯時、学生寮の一室、上条当麻の部屋。

 インデックスは、目覚めなかった。


536 : ◆FzAyW.Rdbg [sage]:2012/07/04(水) 22:06:52.03 ID:qYkSc9m7o





――――――――――

ここまで。
恐怖の大王を撃破したのは、小萌先生だったようです
やっとこさ二十七日ですねー、二十六日も長かったなー

>>517さんのツッコミはごもっとも! おせえよ!
>>1の悪い癖です。ラストが見えてきてしまったせいか、つらつら書いてしまいガチ


……ですが、それもそろそろ終わりにしなければならないようでうす
次回で二十七日は終わり、そして二十八日がやってきます

予言成就の夜が来るぜよ!
どうなることやら!

んでは、また次回!!
537 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/05(木) 00:16:29.15 ID:E7PtqblGo
しっとりときたな、いいと思うぜ。乙。待ってるぜ。
538 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/05(木) 01:17:30.52 ID:DA5Ts7g2P

なんかこの厨二半開のgdgdな文を淡々と延々と読んでるのが結構楽しいから遅いの大歓迎っすよ
539 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/07/05(木) 08:13:59.41 ID:c/2C0xsw0
こもえてんてーマジ天使
540 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/07/05(木) 14:28:05.72 ID:7JM+73fyo

俺もこういう感じだからこそいいと思ってる

でもそのわりに次回一回だけで二十七日終了って、十二時以降を含まないにしても今度は一日分が極端に短いな!
541 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チリ) :2012/07/05(木) 16:15:12.30 ID:XF2psyHD0
がんばれ
542 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/05(木) 20:55:27.04 ID:10Y84AhFo
次回は本当に一回だけなのか
前後編の可能性はもちろんその気になれば前中後編もありえるのではないか
場合によっては神裂火織さんの華麗なる日常〜天草式ってホントバカ〜を一スレに渡って挟むことさえ……
543 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/05(木) 20:57:43.18 ID:++H8QODGo
>>540
もうやれることがないんだろうな、こうやんは

こうなったら確定した未来を否定できそうなキャラにご登場してもらうしかないな
誰かって?そりゃあ当然、
544 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/05(木) 23:35:34.98 ID:NXyZo8pso

 \                    /
   \  丶       i.   |      /     ./       /
    \  ヽ     i.   .|     /    /      /
      \  ヽ    i  |     /   /     /
   \
                                  -‐
  ー
 __           わ た し で す           --
     二          / ̄\           = 二
   ̄.            | ^o^ |                 ̄
    -‐           \_/                ‐-

    /
            /               ヽ      \
    /                    丶     \
   /   /    /      |   i,      丶     \
 /    /    /       |    i,      丶     \

545 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/07/06(金) 12:52:52.08 ID:52AkMpt9o
>>544
その幻想をぶち[ピーーー]!
546 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/06(金) 22:21:29.70 ID:6DLRJ0WAo
はよ
547 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/06(金) 22:21:59.27 ID:6DLRJ0WAo
誤爆
548 : ◆FzAyW.Rdbg :2012/07/07(土) 19:03:47.68 ID:1R1kWCfDo
どうも>>1です
>>542の言った通りになりました、一回投下に収まりきらんかったです! 二回に分けます
『神裂火織さんの華麗なる日常〜天草式ってホントバカ〜』はやらねえがな!

最終決戦直前のお約束と言えば? みたいな回になるでしょうか
決まってますね、アレしかないでしょう

厨二半開がいいというご要望には応えられませぬ
なんたって、こっから先は厨二卍解でござる

21時〜22時くらいに、投下に来れればと思います
よろしくです
549 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/07/07(土) 19:09:56.12 ID:Ng9Bax1K0
ひゃっほう!
550 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/07(土) 20:22:11.25 ID:AFOYEyza0
卍解!
551 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/07/07(土) 21:29:19.02 ID:1R1kWCfDo
それではー
二七日前編、参りますー




そぉい!


――――――――――
552 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/07/07(土) 21:30:33.91 ID:1R1kWCfDo



 昨晩、寝入った頃は穏やかだった少女の顔が、いまは苦悶に歪んでいる。

 熱は高く、吹き出る汗は止め処なく、吐息は重く激しい。


 それは、死に至る病。

 そう確信させるに余りある、その病状。


 歴代のパートナーたちが最後には記憶消去を選んだのも当然か、と鋼盾は思う。

 舞夏を家に返したのは正解だったな、とも。


 鋼盾は彼女の首を見る。

 そこに、すべての元凶がある。


 インデックスの喉に仕掛けられた、ひとでなしの呪

 記憶を消さねば宿主を狂死させる、ユピテルの焼鏝


 その役は束縛、その役は剥奪、その役は制限

 その役は拘禁、その役は呪縛、その役は封印


 禁書目録に科せられた、ひどく歪な安全装置

 ろくでもないメイドインブリテン、大英帝国に呪いあれ


 首輪

 忌々しいその鎖を、破壊すると決めた


 ……その先に、たとえ何が訪れたとしても、必ず


553 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/07/07(土) 21:34:30.85 ID:1R1kWCfDo


 上条がタオルと、水を張った洗面器を持ってきた。

 その表情は、暗い……おそらくは自分も似たような面だろうと鋼盾は思う。


「……タオル、持ってきたぞ鋼盾」

「ありがと……拭いてあげて、汗」

「おう」


 現在時刻は午前八時。

 いつもなら、小萌や舞夏が作ってくれた朝食を彼女が美味しそうに食べている時間だ。


 だが、インデックスは目覚めない。

 予想していたとはいえ、その事実は鋼盾と上条にズシリと圧し掛かっていた。

 その重みに耐えかねたように、上条が言葉を吐き出した。


「……なあ、決行は夜のままなのか? 鋼盾」


 上条としては、一刻も早くインデックスをこの苦しみから解放してあげたいところだろう。

 彼の右手にはそのための手段があるのだ、さぞや歯痒いに違いない。


 鋼盾とて気持ちは同じ、苦しむ彼女の顔など見たくない

 だが―――それでも


554 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/07/07(土) 21:36:08.19 ID:1R1kWCfDo


「……予定の変更は無し、だ。
 この子には悪いけど、可能性は少しでも上げておかなきゃ」


 今この瞬間も、ステイルと神裂がルーンによる下準備を進めている。

 土御門もきっと、方方を走り回ってくれている。


 決行は、今晩―――それは変わらない。

 だから、今は待つしかない。


「……そうだな、悪い。
 ―――しんどいな、まったく」
 

 そう、しんどい話だ―――解ってはいたが、それでもキツい。

 何もかもが揃っていた昨夜が夢のようで、嘘のようでかなしかった。
 

「……今日で、終わらせる。
 この子が苦しむのは、これで最後だ。
 こうしててもしょうがない――――食事にしよう、」

「ああ、そうだな。
 ―――最後にしなきゃ、いけないよな」



 ゆるゆると立ち上がり、動き出す。

 昨夜のうちに舞夏が用意してくれた三人分の食事を、二人で食べる。


 こんな時だというのに、朝食はとても美味しかった。



――――――――――
555 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/07/07(土) 21:38:28.40 ID:1R1kWCfDo


 それから。

 鋼盾と上条は施術開始までの時間を、インデックスの眠るベッドの傍で過ごした。

 やるべきことは既に済ませてしまい、ここにきて新たな策などもはや浮かばない。


 夜に備え交代で仮眠をとり、風呂と夕食を済ませ、常のように馬鹿話に興じる。

 焦燥を圧し殺し、手持ち無沙汰をやり過ごし、不安をひた隠しにして、それでも笑う。

 
 そして、時計の針はじりじりとだが確かに進み、時刻は二十三時を回った。

 集合時刻まであと三十分を切り、いよいよその時が近づいてきた。

 とは言え、待つ身には長い時間だ。


 時間潰しにコーヒーでも淹れようか、と鋼盾が立ち上がろうとした瞬間。

 新品の携帯を弄っていた上条が、不意に口を開いた。

 その口調も表情も、ひどく穏やかなものだった。

556 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/07/07(土) 21:40:35.24 ID:1R1kWCfDo


「……なあ、鋼盾」

「なにさ」

「ありがとうな」

「……なんだよ、藪から棒に」


 それは感謝の言葉。

 唐突に過ぎるその台詞に、鋼盾は訝しみながら問い返す。


「いや、言わなきゃと思ってたんだよ。俺一人じゃ、きっとこうはいかなかった。
 記憶に関する矛盾にも気付かなかったし、なによりあの二人を味方につけるなんて絶対無理だった」

「何言ってるんだか……きみが戦ったからこその展開だよ。
 ぼく一人だったら――それこそステイルに焼かれて終わりだった」


 インデックスを救うのは、やはり上条あってのこと。

 そんな彼が己に頭を下げるこの状況に、鋼盾は戸惑いを隠せない。


「それでもさ……お前はすげえよ、鋼盾。
 俺たちを繋いだのはお前だ、はは、映画のヒーローみたいだぜ。」


 ヒーロー。

 木山春生と初春飾利もそんな事を言っていた、買いかぶりもいいところだ、勘弁願いたい。

 自分ほど、その言葉から遠い人間もいない、こんなヒーローがいてたまるものか。

 大体にして、鋼盾にとってのヒーローは眼前のツンツン頭である、おまえだよおまえ。


 ……なにより、己は。

 結局、予言を覆す術を見つけることができなかった。

 そのことを、未だ誰にも話せないでいる。


 最後の最後まで、彼らを騙している。

 それは―――なんという、裏切りだろう。

 
 じくりと、腹の底に痛みが走る

 もうずっと、その痛みは彼を苛んでいた 

557 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/07/07(土) 21:43:48.70 ID:1R1kWCfDo


 そんな鋼盾の心中に気づくことなく、上条はつらつらと言葉を紡ぐ。

 彼の表情も鋼盾と同じく、どこか自嘲の色があった。


「……俺はさ、鋼盾。自分が情けねえよ。
 今回の件に限らずだ―――いつだって俺には考えが足りてねえ、
 この右手を闇雲に振り回すばかりで、その実この右手に振り回されてばかりだ」


 吐露、溢れるもの、溢れるもの。

 それは、ヒーローの弱音。
 
 上条当麻という明け透けな男が、必死に覆い隠してきた弱さだった。


 そんなもの聞きたくなんてなかった、そう思う己がいるのは否定出来ない。

 だけど、それを聞く役は己以外にはありえないとも、思う。

 そんな権利は既にないかもしれないけど、それでも。


「……俺はもう長いこと、この右手に囚われてる。
 それを否定したくて、ずっと突っ走ってきた―――だけど、さ。
 思うんだ、俺は所詮“偽善使い”(フォックスワード)に過ぎねえんじゃねえかな、って」

「……フォックスワード、ねえ。
 かっこいいね、ひどいセンスだ、誰の命名だよソレ」

「は、幻想殺しって名付けたのもソイツだよ。もうずっと前の話だ。
 ……男なのか女なのか、若いのか年寄りなのかもわからない不思議な人だったな」


 中学に入る前の話だよ、と上条は笑う。

 ――どこのどいつか知らないが、余計な事を言う奴が居たものだと鋼盾は憤る。


 フォックスワード、偽り化かす狐の言葉。

 ガキにそんなかっこいい二つ名あげたら、その気になっちまうだろうに。


558 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/07/07(土) 21:47:49.05 ID:1R1kWCfDo


「……なあ、鋼盾―――俺は、お前に嫉妬してる。
 どうしようもなく、お前が羨ましいし、妬ましいよ」 

「……隣の芝生ってヤツだよ。
 つうか、それはぼくの台詞だぜ、実際」


 無力感に囚われていたかつての鋼盾にとっては、世界の全てが嫉妬の対象だった。

 その歪な感情は、今だって完全になくなったわけではないのだ。


 幻想殺し、イマジンブレイカー

 超電磁砲、レールガン

 守護神、ゴールキーパー


 まったく、格好いい事だ。

 格好良すぎてアレだけど、正直ちょっと憧れた。

 “無能力者”と書いて“レベルゼロ”と読まれるだけの己には、過ぎた望みと判っていても。


 ヒーローに、なりたかった

 かっこいい二つ名も、必殺技も、ホントはきっと欲しかった

559 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/07/07(土) 21:52:30.79 ID:1R1kWCfDo


 例えばそう、幻想殺し

 イマジンブレイカー


 能力も魔術も関係なく、異能であれば何もかもを消してしまうその右手

 この街の序列を笑い飛ばす、埒外の天然物


 生まれついての、その力

 己には持ち得ぬ、ヒーローたる素質


 もしも、己の右手が上条当麻のそれだったなら――

 ……そんな妄想を、もう何度しただろうか
 

 連続虚空爆破事件、幻想御手事件、魔術師との対峙

 いや、もっとずっと前からだ……己の無力を噛み締める局面は、幾度と無くあった


 そんな鋼盾の胸中を見透かしたかのように、上条は言葉を重ねる

 五指を開いた右手を鋼盾に向け、見せつけるように拳を作る


560 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/07/07(土) 21:53:49.93 ID:1R1kWCfDo


「……欲しいか? この右手」

「欲しいさ、無能力者なめんな。
 ―――でも、ぼくには似合わないかな、それ」


 そう、己には似合わない。

 その右手が相応しい人間は、ひとりしかいないと彼は思う。

 それが誰かなんて、言うまでもない。


「その右手は、きみの力だよ。
 あの日、あの路地裏でぼくを助けてくれた、きみの」


 四月のあの一件を、彼は覚えているだろうか。

 上条にとってはそれこそ、いつもの事だったのだろう。

 だが、己にとっては―――あれは、あまりにも大きな出来事だった。


 灰色の日々を繰り返すだけだった己。
 
 それを救い上げてくれたのは、立ち上がるきっかけをくれたのは。

 他でもない、この男だった。


561 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/07/07(土) 22:00:51.70 ID:1R1kWCfDo


「あの後もさ、いろんなトラブルに巻き込まれたよね。
 ……きみはいつだってまっすぐ突っ込んで行って、結局たくさんの人を助けた」

「……うまく行かねえこともあったし、余計なお世話だったこともある。
 お前や青髪なんかを、巻き込んだことだってあっただろ」

「――でも、やめなかった。
 逃げなかったし、諦めなかった」
 

 トラブルに巻き込まれ

 荒事に首を突っ込み

 理不尽を放っておけず

 不条理に挑みかかり

 手を差し伸べる事を躊躇わぬ


 天下御免のお人好し

 問答無用の人たらし


 上条当麻は、そういう奴だ

 ウチのクラスの連中なら、誰でも知っている

 鋼盾掬彦も知っている、ずっと憧れていたのだから


 だから―――そんな台詞は、言わせやしない

 笑い飛ばしてやる、おまえがそんなタマかよヒーロー


562 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/07/07(土) 22:04:33.16 ID:1R1kWCfDo


「右手に振り回されてる? ……馬鹿を言うな。
 そんな右手なんか、きみの力の一面に過ぎない。
 ……ぼくは幻想殺しじゃなくて、上条当麻に救われたんだ」


 右手があるから上条当麻なのではない。

 上条当麻なればこそ、その右手が宿ったのだと鋼盾は断じる。


 きっと力には、迷い悩み苦しむ人間こそが相応しいんだと思う。

 己の力に疑問を持たない連中ほど、恐ろしいし、醜い。


「だからこそ、ぼくは上条くんにその右手がぴったりだと思うよ。
 きみが力を欲したんじゃない、きっと力の方がきみを選んだんだと思う」

「……そっか」
  
「そうだよ」

 
 そもそも、偽善のなにが悪いというのか。

 偽、という漢字は人為と書く。

 すなわち人の為だ、言葉遊び以外のなにものでもないけど、鋼盾はそう思う。


 人の為に、我が身を擲って善を為す。

 それはもう偽ではなく、義と呼ぶにこそ相応しいものだろう。


 義、まっすぐな道。

 自分には絶対に歩むことのできない道を、傷つきながらも歩む男がいる。


 それが悔しくて、だけど嬉しかった。

 誇らしかった、これが上条当麻だ、ぼくの友人だと世界中に言ってやりたかった。
 

「そんなきみだからこそ、ヒーロー役がよく似合う。
 それは、誰にだって否定させない……たとえ、他ならぬきみであってもね」


 きみが主人公だから、ぼくは脇役でいい。

 強がりでもなく、今はそう思うことができるんだと彼は笑う。


 そんな鋼盾の言葉を受けて、上条も笑う。

 清々しく、おかしくて仕方が無いとでも言わんばかりに。


563 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/07/07(土) 22:08:06.10 ID:1R1kWCfDo


「……ったく、不思議なもんだよな。
 運命の赤い糸が全て断ち切られてるって話なのに、俺の周りはいい奴だらけだ」


 上条当麻。

 神の加護すら否定する少年は、しかし今も確かに真っ直ぐ立っている。

 鋼盾はそれを奇跡のようだとも思うし、当たり前だとも思う。


 ああ、自分もやはりこの街の人間だ。

 神様を否定する気はないが、やはり盲信することなどできない。


 幸も不幸も気の持ちようだ、ぼくらはこの街でそれなりに楽しくやってる。

 物知らずの神風情が人の営みに口を挟むな、そう思う。

 釈迦の野郎もだ、蜘蛛の糸なんか垂れてんじゃねえよ、降りてこいってんだ。


「そうだな……俺はいつも不幸だ、なんて口にしてばかりだけどさ。
 不幸じゃねえや俺。不運かもしれないけど、不幸なんかじゃねえよ」

「気づくのが遅いよ、旗男め」

「悪い」


 口癖と言っても過言でない、上条当麻のいつもの台詞

 何度聞いたかわからない程に繰り返されたその台詞


 不幸だ

 我が身を嘆き、運命を呪うような台詞


 だが、それを当の本人が否定した

 笑い飛ばした、己はけして不幸ではないと


564 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/07/07(土) 22:09:50.16 ID:1R1kWCfDo


「この右手の力がさ、俺の幸運を食い潰すってならそれでもいい。
 対価はくれてやる―――神様だってぶん殴れるこの右手が、今は必要だ」


 未来を掴むために、その右手はある。

 理不尽を払うために、その右手はある。

 囚われのヒロインを救うために、その右手はある。

 そのふざけた幻想をぶち殺すために、その右手はある。


「……そうだな、ずっと待ってたんだよ、俺は。
 この忌々しい右手を、誰かのために、俺自身のために振るえる機会を。
 ―――鋼盾、ヒーローになれと他ならぬお前が言うなら、なってやる、やってみせる」


 右拳を握り締め、上条当麻は決意の言葉を口にする。

 それは眠れる少女に贈る、少年の真摯な想い―――つまりは、まあ……そういうことだ。


565 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/07/07(土) 22:12:29.58 ID:1R1kWCfDo


「幸せだよ、俺は…………惚れた女の子を救えるんだから」
 
「……ようやく認めやがったなこの朴念仁」


 はいはいはいはい、ラストバトル前の告白イベントですねわかります。

 ……まったく、この子が起きてる時に言ってやればよいものを。


 ああ、罪のない女の子が何人泣くんだろうか、難儀な話だ。

 鋼盾は指折り数え、五指を折った時点でそれを諦める……旗男め。


 だが、まあ仕方ないだろう―――上条当麻にハーレムルートなど有り得ない

 そんな一途な馬鹿だからこそ、ぼくらは彼に幻想(ゆめ)をみたんだから


566 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/07/07(土) 22:20:03.25 ID:1R1kWCfDo


“信じて、頼るのです。
 みんなを……そして、貴方の相棒さんを、ね”


 ふと、昨夜月詠小萌が口にしたその言葉が、脳裏に蘇る。

 相棒、と彼女は言った、鋼盾掬彦にとって“そう”呼べる人間は、一人しかいない。


 この一週間ずっと一緒に戦ってきた、誰より信頼できる友人だけだ。

 上条当麻、その人だけだ。


 そんな彼は、この局面で自分を信頼し、弱さを曝け出してくれた。

 そして、それを乗り越えて覚悟を示してくれた。



 だから、鋼盾掬彦も

 ―――それを、告げることにした


 押し付けてやることにした

 一緒に背負ってもらうことにした

567 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/07/07(土) 22:31:21.55 ID:1R1kWCfDo



「……ねえ、上条くん。
 ぼくもさ――きみに、言っておかなきゃいけないことが、あるんだ」

「……あれか? 
 例、お前の好きな人でも教えてくれるのか?」

「それは、次の機会にしとこうかな。
 ―――ちょっとどうしようもない話になるんだよね、ほんとに」


 告白イベントと言えば、これも告白イベントだ

 だが、その内容は―――碌でもないものになる


 だけど

 それでも


「……ごめん、押し付ける。
 ――――聞いてくれ、相棒」

「どんと来やがれ、相棒」


568 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/07/07(土) 22:33:43.21 ID:1R1kWCfDo



 そして鋼盾の口から、絶望の予言が語られることになる

 共に未来に立ち向かう、そのために




――――――――――――――――――――

569 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/07/07(土) 22:41:44.76 ID:1R1kWCfDo


ここまで!
二七日は鋼盾上条の会話のみです
電話で今までの登場人物と会話する、みたいな展開も考えましたが長くなりすぎたので断念!

出番を鋼盾に奪われがちな上条さんのターンです
次回こそ、七月二七日ラストとなります

それでは、また次回!
570 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/07(土) 23:13:50.52 ID:dQMTZimNo
乙〜
571 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/07(土) 23:43:10.77 ID:AFOYEyza0
フラグやなぁ

572 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/07/08(日) 01:50:33.94 ID:FIq2DL4to
上条さんかっこいいな
次回も期待乙
573 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/08(日) 13:20:32.78 ID:sGz7PyeIo

この時点の上条さんに「不幸じゃない」と言わしめたSSが、かつてどれほどあっただろうか
574 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/08(日) 23:33:49.73 ID:q46YTlN2o
いやあたまらんね!乙!待ってるぜ!
575 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2012/07/08(日) 23:59:05.31 ID:pleJyMtB0
576 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岩手県) [sage]:2012/07/09(月) 10:03:02.43 ID:j8gecu1a0
うまい
そうなんだよな、間違いなく不運ではあるけど上条さんは不幸じゃないはずなんだ
原作上条さんはほとんど自業自得なことで不幸不幸うるさいからイラッとくるわけで

「不幸じゃねえ」もそうだが、たぶん1巻時点でインデックスへの恋愛感情自覚した上条さんも珍しい、よな?
ステ織とバトって寝っぱなし、起きてデートしただけなのにな
自分寝てる間にコウやんがドラマチック仲良くしてたことも影響してるんだろうけど
577 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/10(火) 09:49:39.87 ID:q0f8WkWIO
パパに俺は幸せ宣言したあとも不幸不幸いってたしな
でも不運だー、より不幸だー、のほうがニュアンス的にいいな
578 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2012/07/10(火) 14:35:09.08 ID:L3XRlqzc0
ニュアンスっつーか、語呂がいいな
579 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/12(木) 11:52:27.17 ID:m7Qs7O0zo
上条「“不運”(ハードラック)と"踊"(ダンス)っちまったよ…」
580 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/14(土) 00:29:35.91 ID:iNGzl++i0
上条さんのキメシーンのことごとくで"!?"が踊ってるのが見えた。
あと鋼盾君がステイル&ねーちんに啖呵切ってるシーンのバックにも"!?"が見えた。
581 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/07/16(月) 19:53:09.53 ID:aTbEgk+Q0
"!?"
582 : ◆FzAyW.Rdbg :2012/07/20(金) 00:23:44.15 ID:2QPJ8P9Lo
        〃   |                     |   
       ___ ハ|                     |   
  ち  ノ|ヽ l |         ___        |  >>1
  ま  、_ ド |       ,r‐':::::::::::::::::::::::`:丶、  | 
  っ  ].車 ワ |     {:::::::::::::::::::::::::::::::: ::::::::ヽ. | 
  た   ̄~  l |       ゞ:::::::::::::::::::;..-‐┐:::::::::::i  |  
  ん 〃   ク |       |!`゙`'"´´    .!:::::::::::::|  |  は
  だ        | ヽ  l  | 、 ,、 ,.::   ゙i::::::::::::l  |   :
  よ   と    |  ) ノ r---.ハ,.――、_」:r=、:::|  |   :
   :    〃ダ |  (.(.  |::::::::::八:::::::::::::「 ̄ } }|::l  \
   :  lコ.マ ン l   `ー-、゙ーrイ `ー‐‐′ ∵':::j     `ー―
     止用 ス |      )ハ`__     丿^゙Y
\    〃 っ ,.へ(     ((_ // ̄`    /   |
  `ー――‐'´           ‘゙ ヽ   _/     |、
                      `T´  _,--‐'´ ̄`ー‐、_
                   _r‐「| 「 ̄


どうも>>1です
なかなか来れなくて申し訳ねえ、ハードワークとダンスってました

今晩なんとか投下にこれますように
己を追い込め予告age!
583 : ◆FzAyW.Rdbg :2012/07/20(金) 21:28:10.55 ID:2QPJ8P9Lo
参ります

そぉい!


――――――――――
584 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/07/20(金) 21:30:21.54 ID:2QPJ8P9Lo


「“この話の結末は、ハッピーエンドとは行かないかもしれない。それでも付き合ってくれる?”
 ―――覚えてるかな、きみが昏睡から目覚めた夜のことなんだけど、さ」

「……ああ、覚えてるよ。
 “当たり前だ、決まってる。百でも千でもだ、何度だって立ち上がってやる”
 だったか、そんなふうに返したっけな、俺は」


 二日前、七月二十五日の夜のこと。

 昏睡から目覚めた上条当麻と鋼盾掬彦は、そんな会話をした。

 あの時はそれほど深く考えてはいなかったけど、ひどく暗示めいた会話だったと鋼盾は思う。


 そうなのだ。

 この物語の終わりは、きっと碌なものではない。


「―――ほんとうに、申し訳ないんだど。
 どうやら、問答無用のハッピーエンドは、無理みたいだ」

「……縁起でもねえな……なんだそりゃ、予知能力にでも目覚めたか鋼盾」

「ああ、そうだよ」


 正解だ、と鋼盾は苦く笑う。

 まったくもって縁起でもない、未来なんて視るものじゃない。


585 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/07/20(金) 21:32:21.41 ID:2QPJ8P9Lo


「ただし目覚めたのはぼくじゃない。
 木山先生……木山春生だ」

「……多才能力、だったか。
 なるほど―――予知能力者でもあったわけだな」


 幻想御手事件についても、上条にはかなり詳しく話しておいた

 その中には当然、百花どころか千花繚乱たる多才能力者の話もある。


「……うん、そうなんだ。
 おいても予知能力が一番馴染んだって言ってたよ。
 ―――自分が能力開発を受けてたら、目覚めたのはコレだっただろうってね」

「……そいつはまた、おっかねえな」

「ああ、おっかないね。
 ―――その人が、ぼくの未来を、視た」


 木山春生。

 存在しない筈の、未来予知の大能力者。

 彼女の言葉は、楔で打ち付けたかのように鋼盾の胸に刻まれている。


 目を閉じれば、今も聞こえる。

 震えを押し殺して紡がれた、かすれたアルトの呻吟が。

586 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/07/20(金) 21:33:24.07 ID:2QPJ8P9Lo


 
 “四日後”

 “七月二十八日だ”


 “君はかけがえの無いものを喪い”

 “しかし勝利するだろう”


 “そして、君は能力者になる”

 “けして砕けぬ鋼の盾へと生まれ変わる”


 “つまりその日は君の命日で”

 “しかし君の誕生日だ”


587 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/07/20(金) 21:35:52.70 ID:2QPJ8P9Lo


 彼女が語ったのは、希望と絶望。

 木山春生は鋼盾掬彦にいろいろなものをくれた。


 溶かすように優しく、貫くように容赦なく、奪うがごとく乱暴に。

 呪いのように真っ直ぐに、寿ぐようにしめやかに。


 私たちの出会いにはきっと意味がある、と彼女は言った。

 それが意味するところを、未だ鋼盾は見つけられずにいる。


「……そっか」


 鋼盾の口から語られた、木山春生の予言。

 あと数十分後には確実に訪れる“喪失”。

 それを受けて上条は、うめくようにそれだけを返した。


「ごめんね、黙ってて。……違うな、ごめん、言っちゃって。
 きみら全員だまくらかしたまま、最後まで行っちゃおうかと思ってたんだけどね」

「ばーか……抱え込んでんじゃねえよ。
 上条さんがビビって逃げ出すとでも思ったか?」

「思わないよ。
 ……だから、言えなかった」


 そう、だから言えなかったのだ。

 上条当麻という男を知るがゆえ、鋼盾掬彦はそれを躊躇った。

 言ってどうなるものでもない、未来は既に決まっているのだから。


 だけど今、結局彼に押し付けている。

 ――小萌はそれを是としたが、やはりその事実に鋼盾の胸は軋んだ。


588 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/07/20(金) 21:36:33.65 ID:2QPJ8P9Lo


「……つーかお前能力者になんの?
 ―――えーと、……おめでとうございます?」


 沈んだ空気を嫌うように、上条はおどけた口調でそんな事を言う。

 鋼盾掬彦は能力者になるという、その予言……朗報、福音、グッド・ニュース。

 だが、鋼盾にとってのそれは、けして単純な喜びに彩られたものではない。


「ありがとうございます、でいいのかな……。
 ……笑えないよね、間に合いやしないんだ、ぼくは」
 
「………………」

「意味が無い、よ。ぼくの能力も、木山先生の予知も。
 ―――馬鹿じゃねえの、目覚めるなら今すぐ目覚めろって、思う。
 でも届かない、間に合わない……だから、意味が無い」


 喪失の果てに、鋼盾掬彦は能力を得る。

 悪魔と取引なんてした覚えもないのに、それが事実と木山は言った。


 それは、不可避の未来。

 彼を苛む、どうしようもない現実そのもの。


 部屋を、静寂が包む。

 それを払うのは、やはり上条当麻だった。

589 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/07/20(金) 21:37:30.95 ID:2QPJ8P9Lo


「予言、か……確かにしんどいな、そりゃ。
 でも、それでも、そんな未来を聞かされて、それでも。
 ―――お前は全力全霊で、ここまで突っ走ってきたわけだ」
 
「……引っ込みがつかなくなっただけだよ。
 そんなかっこいいものじゃ、ない」

「それでも、逃げなかった」

「………………」

「なら、俺も逃げない。
 ―――おまえの恐怖なんて、歯医者を怖がるガキみたいなアレだと思うぜ?」

「……虫歯なら、治るだろうけどさ。
 取り返しのつかないことに、なるかもしれないんだ」
 

 実際に何が起こるのかを、木山春生は教えてはくれなかった。

 見えなかったと、そう言っていた。

 だからこそ鋼盾は、それを恐れずにはいられない。

 そんな彼を励ますように、上条は言葉を連ねる。


「なあ、鋼盾―――お前はさ、最善を尽くしてる。
 それは俺が保証する。きっと他の誰だって、お前ほどうまくはやれなかった」


 インデックスの治療法を割り出し、魔術師三人を味方に付けた。

 それは誇るべき成果だろう、全力で駆けてきた自負がある、彼らの覚悟を知っている。


 しかし。

 それでもなお―――届かないのだと知ってしまったのだ。

 そんな戦いに、己は彼らを駆り立てた。

 ひどい話だ、ほんとうに―――ひどい。


 そしてまた黙りこむ鋼盾に苦笑し、上条は言葉を繋げる。

 話題はやはり、彼らの護るべき少女の事だった。


590 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/07/20(金) 21:39:48.07 ID:2QPJ8P9Lo


「なあ、覚えてるか、鋼盾?
 ……初めて会った日のインデックスはさ、諦めきってたよな」


 七月二十日、上条当麻の部屋のベランダに落ちてきた少女。


 彼女は花咲くような、それでいて諦めの混じった笑顔を浮かべていた。

 目を離すことのできない可憐さと、目を背けたくなるような疲労の入り混じったそれ。

 
 死の旅に出る殉教者のような、己を擲つ聖女のような表情。

 ひたすらに遠いその在り方に、鋼盾も上条も圧倒されたものだった。


「インデックスだけじゃない。
 神裂、ステイル、そして土御門……あいつらも諦めちまってた」


 敵役、悪の魔術師を演じたステイル=マグヌスと神裂火織。

 傍観者、関与しないことを選んでいた土御門元春。


 冷徹な魔術師の仮面、非情なエージェントの仮面に。

 泣き顔を顰め面を憤りを絶望を隠して、彼らは己を偽っていた。

 諦めていた、どうしようもなく。


「……俺もさ、正直に言うと―――折れそうだったよ。
 神裂には偉そうに啖呵を切ってみたけどさ、ありゃあ勢いだけだった」


 そして、上条当麻もまた。

 神裂の暴力と激昂を前に、心が折れそうになったと口にする。


 誰も彼も、行き詰っていた。

 立ちはだかる壁に、繰り返す日々に、挑む手立てを見いだせずにいた。


591 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/07/20(金) 21:40:56.35 ID:2QPJ8P9Lo


「だけど鋼盾―――お前だけは、そうじゃなかった。
 あいつらがいじけてる間に、俺が眠っちまってる間に―――お前が戦ってくれた。
 繋いだのは、お前だ……ほかの誰にもできなかった、鋼盾掬彦にしかできなかったことだ」

「なんだよ、それ。
 ………繋がりなんて、そんなの、最初からあったじゃないか」


 ステイル、神裂、土御門。

 かつてのパートナーたちは、結局あの子を見捨てられなどしなかった。

 それがわかっていたから、自分はあんな台詞を言えたのだと鋼盾は言う。


 それを受けて、上条はやれやれと肩をすくめる。

 わかってねえな、と呆れたように続きを口にする。


「それを見つけられたのは、お前だけだ。
 ――俺にはさ、そんなの全然見えなかったぜ? インデックスも、そう言ってた」

「……見え見えだったよ、あんなの」

「そう、お前には、そうだった。
 わかんねえかな……それ、相当すげえ話だと上条さんは思うのですよ」


 鋼盾掬彦だから、それを見つけられたのだ、と。

 あいつらを敵として捉えていた自分たちには、それは見つけられなかったのだ、と。


592 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/07/20(金) 21:41:42.39 ID:2QPJ8P9Lo


「お前が俺たちに、チャンスをくれたんだ。
 行き止まりの前で途方にくれてた俺たちに、道を示してくれた」

「……茨の道、だよ」

「望むところだ。茨の先に、アイツの笑顔があるんだろ?
 ――それ以上の報酬はねえよ、サー。あいつらだってそう言うに決まってる」

「でも、それには対価が必要なんだ。
 それがなんなのかもわからないのに、ぼくはそんな勝負にきみらを追い込んだ」

「それは違う。喪う可能性なんて、常にあるんだよ鋼盾。
 大丈夫だ――インデックスもステイルも神裂も、もちろん俺もそれは覚悟してる」
 

 上条のそんな言葉を聞いて、鋼盾が感じたのは僅かな反感。

 今の今まで勝利を確信していたおまえになにがわかる、そんな身勝手な感情。

 そんなことを考えてしまう己に落胆する、身勝手なのは自分の方だと。


「……失敗して、インデックスを永遠に喪う可能性も零じゃないよな。
 まあ、コレについてはありがたいことに予言のお墨付きがあるみたいだけど」


 だが、上条当麻の覚悟は、本物だった。

 彼は彼で、しっかりと未来を見据えていた。


「成功したらしたで、イギリス清教が回収のために凄腕の刺客を放ってくるかもしれない。
 ―――禁書目録ってのは、そういうものなんだろ?」

「―――うん」
 

 かつて鋼盾が土御門に依頼した、“戦後”についての彼是。

 それには当然、そのあたりの懸念もある。


 インデックスは、あくまでも禁書目録。

 それは否定できぬ事実であり、これから先も彼女の人生に付き纏う。


 利用しようとする者がいるだろう。

 忌避する者がいるだろう、奪おうとする者がいるだろう。

 破壊しようとする者も、いるかもしれない。


 禁書目録の、宿命。

 彼女の笑顔を守ろうと願うなら、それこそが自分たちの立ち向かうべき敵だ。


 その闇の深さは如何程のものか。

 正直、見当もつかない。


 だけど

 だけど


593 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/07/20(金) 21:46:37.31 ID:2QPJ8P9Lo


「……でも、それでも――それでもさ、俺たちは未来を望んだよ。
 鋼盾、おまえが見付けてくれた可能性に、夢を見たんだ」


 だから、俺たちは大丈夫だ。

 歩いていける、転んだって立ち上がれる。


「俺は、それが幻想じゃないって知ってる。
 お前が必死で作ってくれた未来を、誰にも否定なんかさせねえよ」


 そう言って、上条は笑った。

 挑むように真っ直ぐ、前を向いて笑った。


594 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/07/20(金) 21:47:48.32 ID:2QPJ8P9Lo

 
「……しかしまあ―――能力ってのはさ、ワケがわからねえよな。
 努力すれば手に入る訳じゃねえし、選べもしない」


 ギフトというには、あまりに乱暴。

 いや、神様っていうのはそういうもんか、と上条は言った。

 突然のその台詞にすこし戸惑いつつも、鋼盾はそれに同意する。


「……そうだね、魔術の方がよほど健全な気さえするよ、正直」


 能力は、才能に依存する。

 しかし魔術は、さにあらず。

 神裂のような例外もいるが、あれは特異なケースだろう。

 すくなくとも被験者の半数以上を無能力者にする能力開発に比べれば、ずっと平等だ。


 学園都市の能力開発と、魔術。

 どちらかが正しくて、どちらかが間違ってるとは言わない。

 とはいえ、思わないところがないとも言えはしなかった。
 

595 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/07/20(金) 21:50:13.70 ID:2QPJ8P9Lo


「……でも、な。
 それでも、意味がないなんて事はない」


 考えこむ鋼盾を尻目に、上条当麻はこう言った。

 理不尽と不条理と無慈悲を前にして、しかし無意味ではないと宣った。


「意味はあるんだよ鋼盾。
 お前に能力が宿るのにも、そして俺の右手にも、きっと意味がある―――そうだろ?」


 他ならぬお前がそう言ってくれたじゃねえか、と上条は笑う。

 幻想殺しを握りしめ、真っ直ぐ高らかにそんなことを言う。


「木山先生とやらの予知も、そうなんだろうな。
 ―――少なくともその人は、お前を傷つけるためにそれを伝えたんじゃねえよ」

「……それは、わかってる」

「ならさ、報いてやろうぜ。
 ―――ところでさ、その予知は七月二八日までしかねえんだよな?」

「?……ん、そうだね」

「なるほど―――そりゃ、好都合だ」

「……上条、くん?」


 上条が鋼盾に視線を向ける。

 その目には、何かトンデモなく楽しいことを思いついたかのような、悪戯な光があった。

 
596 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/07/20(金) 21:54:54.54 ID:2QPJ8P9Lo


「七月二十八日、俺たちは何かを喪う」


 そう、それが彼女の予言。

 それが目前まで迫ってる、追いつかれる、奪われる。


「予知はそこまで――だけどその先だって続くんだ。
 ならさ――その先はおまえに決めてもらおうじゃねえか、鋼盾」


 そして吐き出された言葉は、そんなもの。

 未来についての話をしようと、上条は笑う。


「……ぼくが?」

「ああ……言ってみろよ、鋼盾
 おまえがこれから言うことは全部、ホントになるから」
 
「―――それは……でも」


 それこそ、意味がない。

 予知能力者でもない自分の言葉になんか、なんの力もない。


 それでも。

 上条当麻は、笑って先を促す。


「深く考えなくていい、騙されたと思って言ってみろ。
 お前が望む未来を――次は俺たちで掴みとってやる」


 お前がそうしてくれたように、と。

 予知の向こう、絶望の向こうに手を伸ばそうとそう言った。


「……ぼくが、望む、未来。
 ―――そんなの、決まってる」


 決まっている、決まっている、決まっている。

 ずっと願っていた、夢見ていた、思い描いていた、決めていた。

597 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/07/20(金) 21:55:38.69 ID:2QPJ8P9Lo


「決まってる――きみのと同じだ」

「ああ、そうだろうな。
 ……それでも聞かせろよ鋼盾、お前の望む俺たちの未来を」


 本当に、言うまでもないことだ。

 小萌の部屋で、約束をした


「……インデックスは、幸せになる」

「ああ、なるよ。あたりまえだ。
 ―――それで終わりじゃねえだろ?」

「もちろん、そうだよ。
 こんなの、ただの前提だ」


 そう、それは前提。

 文字通りの当り前、プロローグですらない。


 堰を切ったように、願いは溢れる。

 言葉が思考すら超えて、自分勝手に未来を歌う。


598 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/07/20(金) 21:57:32.37 ID:2QPJ8P9Lo


「ぼくらは勝利する。
 ―――木山春生の予言はただの途中経過だ」

「ハッピーエンドの前フリだな。
 ま……期間限定の予言者じゃあ、その程度だろ」

「これからぼくらがなにを喪ったとしても、それは絶対に取り戻せる。
 ―――だから、ぼくらはなにひとつとして喪わない」

「ああ」


 恐怖の大王を踏み越えて、ぼくらは今も生きている。

 だから願え、嘯け、夜は開ける、明日はやってくる。


「ふざけた幻想はすべてぶち壊す。
 鋼の盾は砕けない」

「そうだ」

「嘘吐きは嘘をホントにする。
 誓いの火は消えないし、刀は折れない」

「おうとも」

「先生は先生で、メイドはメイド。
 ―――ぼくらは望んだ自分になれる」

「だな――絶対だ。
 俺たちが負けるはずがない」


 敗北など、あり得ない。

 そんな未来は、願い下げだ。

599 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/07/20(金) 22:00:15.59 ID:2QPJ8P9Lo


「そうだね、ぼくらは負けない。
 ―――じゃあ、もうひとついいかな?」

「ハ……調子出てきたみてえじゃねーか。
 いいぜ鋼盾、なんでも来やがれ! 絶対実現してやるから」


 そいつは重畳、言質ゲットだぜ。

 男に二言はない――上条くんの、ちょっとイイトコみてみたい。


「……上条当麻はインデックスに愛の告白をする。
 ―――もちろん、起きてる時に、面と向かってね」

「っ!? ってオイ鋼盾!?
 ……うああ、くそ、わかったよ! します! やってやる!! 畜生!」
 
「インデックスはその告白を……あー、これは視えないや」

「オイィィィィ! てめえ鋼盾!!
 なんなのお前!? 鬼なの!? そこは保証しとけよ!! して下さい!!」

「……っ、くっ……ははっ」

「笑ってんじゃねえ! なんだそのいい笑顔!」

「……ちょ、タンマ……ぷ」

「鋼盾っ!」
 

 笑え笑え。

 笑って笑って、掴みとれ。


「ごめんごめん。
 ――うん、ぼくらはみんな、望んだ未来を掴める」

「……ったくお前は……ああ、絶対だ。
 ―――さあて、明日のために一仕事、そろそろ行こうかね」

「上条くん」

「ん?」

「……ありがとう」

「ん」


600 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/07/20(金) 22:02:00.86 ID:2QPJ8P9Lo


 予言なんて、誰にでも紡げるのだ

 神様に愛されていなくても、未来など見えなくても


 意志と行動で、法螺は真となる

 絶望を上書きする術なんて、誰もが知っている


 だから、人は歩みをやめない

 悪あがきを、やめない


 なにより己は一人じゃない。

 そんな事すら忘れてしまっていたらしい、しっかりしろよ鋼盾掬彦。


 結末が決まっていたら、それが免罪符になるのか?

 どうせいつかは死んでしまうなら、今死ぬか?


 そんなわけがない。

 ぼくらはもっと、欲張りで欲しがりだ。

 
 茨に手を突っ込んで、血に塗れても毟り取れ。

 恐れるな、勝利は確約されている。


「……もうだいじょうぶだよ……さあ、そろそろ行こうか。
 仕事だよヒーロー、窮地のヒロインを救い出せ」

「上等だ、まかせろ相棒」


 上条当麻が笑う

 ヒーローが笑う

 終わらせるために笑う

 始めるために笑う

 未来をこの手にと、笑う


601 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/07/20(金) 22:02:56.17 ID:2QPJ8P9Lo




「行こうぜ鋼盾―――みんなで、素敵な悪あがきだ」




602 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/07/20(金) 22:14:03.20 ID:2QPJ8P9Lo


 種が、ここにある。

 たとえ喪失と悲嘆に地が塗れても、この種は必ずや芽を紡ぐ

 空を掴んで、月まで届く

 いつか花咲き、実を結ぶ

 それを知ってる、そう、信じている

 
 だから、鋼盾も笑って応える。

 絶望の予言を受け容れ、それを乗り越えて先へ進むために笑う。


「ああ、行こう。
 ―――足掻いて足掻いて、なにもかもを掴みとってやる」


 セットしておいた携帯のアラームが鳴る。

 約束の時間まであと五分、そろそろ家を出ないといけない。


 鋼盾と上条は立ち上がり、眠るインデックスへと向き直る。

 戦う理由は、それで十全―――思えば最初から、ずっとそうだった。
 

 今から、彼女を解き放つ。

 施術は屋上で行うため、この子を運ぶ必要がある。

 その役は決まっているよね、と鋼盾は笑う。

 
「じゃあ上条くん、インデックスは、きみが運んでね。
 うん、お姫様抱っことかいいんじゃないかな?」

「…………お前は、いちいち。
 つーか、背負ってけばいいじゃねえか」

「……ロングスカートをはだけさせて太ももの間に割入って、
 背中全部で火照った少女の熱を感じたい、と……このエロ野郎」

「鋼盾ッ!!」


 気のおけぬ遣り取り。

 力みも迷いも気負いなく、いつもどおりのぼくら。

 つまりベストコンディションである、いいのかなあこんなんで……と思わなくもない。


 でも、たぶんこれでいい。

 これがいい。

 
 ぼくときみは、これでいい。

 このままで、あの子を取り戻せ。


 ぶつくさ言いながら、おっかなびっくりインデックスを抱き上げる上条を尻目に、鋼盾は廊下を歩く。

 そして、扉を開ける―――目指すは屋上、そこに彼らの仲間がいる。


 運命の夜に挑む、仲間がいる。


  
603 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/07/20(金) 22:14:56.40 ID:2QPJ8P9Lo




 ……さあ、種を蒔きに行こう

 収穫の日を夢に見て、今は泥仕事へと赴こう



604 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/07/20(金) 22:21:03.01 ID:2QPJ8P9Lo


――――――――――


ここまで!
ようやく3スレ目のスレタイ回収だぜ!

当SSでは相棒ポジの上条さん
>>1のせいで見せ場が足りないと評判の彼ですが、こんな役回りですね

次回は二十八日
どんな展開になるのか、楽しみにして頂ければ幸いです

んでは、また次回
605 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/21(土) 01:31:59.20 ID:H9h7C+73o
期待期待。待ってる。乙。
606 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/07/21(土) 05:01:04.52 ID:WP7anRQDo

いよいよクライマックスだな

次回はもちろん来週金曜夜24時ジャストから最終決着まで一気に投下ですよね?
607 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2012/07/21(土) 13:35:56.49 ID:Sn5tJ/vT0
これコウやん死ぬよね
608 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/21(土) 22:26:38.35 ID:9SCL/76s0
乙。
609 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/21(土) 22:34:06.59 ID:8EQnwqBB0
肉体的な死はないと思うの
記憶の喪失をその人の死と断じている本作の考えでは、たとえば原作1巻上条さんは死んで2巻以降は別人なわけだけど
はたしてコウやんはいったいかけがえのない何を喪失するのか
その上で勝利する
勝利条件とはインデックスの呪いを壊し記憶を失わずにすむこと?
そうなら喪失とは…はっ
『ひ む ら な み た め』?
見た目までイケメンになったらたしかにコウやんは色々アイデンティティーを喪失するな!?
はてさて、楽しみに待っております
610 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) :2012/07/21(土) 23:46:31.68 ID:7H9fRRYS0
記憶じゃね?
5スレ目のタイトルは

鋼盾「心に、じゃないですか?」
611 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(田舎おでん) [sage]:2012/07/22(日) 05:03:34.61 ID:lbrhKUPj0
記憶じゃなくて感情とか?
鋼の盾になるって言ってたし
612 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/22(日) 10:43:38.67 ID:BofZNMJn0
バッドエンド30か
613 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/22(日) 17:18:39.60 ID:N/FoUcgm0
現在の記憶を失った場合のインデックスを、インデックス本人とは認めないとか言ってた気がするんだが
たとえばコウやんが記憶失った場合に「記憶を失ったりもしたけど僕は元気です」状態だとなんか趣旨に反してる気がするんだよ
記憶取り戻せるなら別だけど
なにより、「鋼の盾の誓い」とかまで忘れちゃうと、けして砕けぬ鋼の盾へと生まれ変わるという話にそぐわないんだ
あとは…情報の海からピックアップして統合できるコウやんの特殊才能も、劣等感含む様々な人生経験があってのものだと思うので…
なんにしてもそこを書かれるのを待つしかないわけだけれど

最後に一言
>>610ソフトバンクさんsage覚えよう?天井さんとこも上げちゃったろう
614 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/22(日) 23:30:31.73 ID:GLzXu0La0
確かにここで上条さんや鋼盾君が記憶を失うのはいまいちしっくり来ないなぁ。
かと言って、本当に何も失わずに木山先生の予言が無効になるってのも肩透かしな感じだし。
まあ全ては>>1に期待、としか言えないわけですが。
他に類を見ないレベルで風呂敷を広げまくった一巻再構成、最後の締めを楽しみにしてます。
615 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/07/23(月) 12:27:06.81 ID:1g8tkjNq0
失うものトトカルチョ

1 生命
2 記憶
3 感情
4 童貞
616 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/23(月) 12:54:23.90 ID:MlCB1phFo
>>615
四番wwwwwe
617 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/23(月) 22:35:40.86 ID:cUdVeNPJ0
>>615
ああ、たしかにかけがえのないものだな、4番
って、アホかぁ!(スパーン
しんみりと納得しかけたじゃないか
冥土返しだの進んだ科学だので、1〜3が下手すると取り戻せかねないのに対して、4は観念的なものなので失ったら終わりなんだぜ
618 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/07/23(月) 22:39:35.25 ID:aWK1G6nyo
コウやんが喪うかけがえのないモノといえば
誰がどう考えてもあの髪型一択じゃね?
619 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長野県) [sage]:2012/07/24(火) 12:50:32.18 ID:XQ4O8qsoo
>>618
脂肪じゃないか?
620 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/07/24(火) 14:46:31.18 ID:AT14FwUk0
このままだと鋼盾が非童貞のモテ髪の細マッチョに!
621 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/07/25(水) 18:45:05.66 ID:3J4u3pp80
嗚呼、失うものとはキャラそのものだったのか
622 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/07/25(水) 20:13:26.51 ID:fTfudfOko
無能力者というのが、鋼盾さんのアイデンティティというか、キャラクターなんだよな
だからラストでそれを覆すのが冒険過ぎると思う
期待半分不安半分
623 : ◆FzAyW.Rdbg [sage]:2012/07/25(水) 23:34:54.69 ID:UjKLhTq6o
判りきった結末を語る事は無い
鋼盾掬彦は心を鋼(てつ)にしたまま
崩れぬ盾になるだろう


〜ムーン道場〜

小萌「……うーん、今回は何も言えませんねー。
   これもひとつの結末なのです」

イン「………………………………………………
   ………………………………………………
   …………………………………………ばか」


――――――――――


はい、>>612のバッドエンド30でした!……これだよな?
あと童貞ネタは前スレ586で既に>>1が先んじている! ワハハ!

ともあれ、コメント感謝です
深く読み込んでくれてるなぁというコメもあり、感激しきり

鋼盾が何を喪うのかは、たぶん次回更新で明らかになるんじゃないでしょうか
きっと碌なもんじゃないぜ! どうなるコウやん!

次回は日曜か月曜です
木金土出張です、死ぬ、ちなみに昨日まで栃木出張でした、死ぬ

あ、そういや栃木で浅田真央選手を見ました
いえーい
624 : ◆FzAyW.Rdbg [sage]:2012/07/25(水) 23:36:10.41 ID:UjKLhTq6o
やべえ他所で誤爆しちゃった
死にたい
625 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大分県) [sage]:2012/07/25(水) 23:47:33.32 ID:6RIJErDh0
安価スレ見てる暇があったら続き書けよwwwwwwww
626 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/25(水) 23:49:12.39 ID:caeuMvfro
>>1は麻雀好きなのか?
627 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/25(水) 23:53:15.27 ID:CDPQU8e10
誤爆先で見かけて、28日になってないのに更新したのかなと見に来ましたww
どんまい
628 : ◆FzAyW.Rdbg [sage]:2012/07/26(木) 00:14:17.80 ID:T7lVZUOco
だめだ、恥ずか死ぬ
こんな時に限ってまた内容がまたヒドイ
ホントごめんなさい

>>626
麻雀は下手の横好きとすら言えないレベルです
大学の頃ちょっとやりました、国士無双ばっかりやりたがるアホの子でした

咲では黙って風越推しです
一年後の逆襲の文堂さんとか妄想してます、開眼するの
あとみはるんかわいい、超かわいい

以後気をつけます
すみませんでした
629 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/26(木) 01:03:10.41 ID:TqNAEUy90
>>615
4番を失って絶望して慟哭して超能力に目覚めて鋼の盾として完成するって、どんなシチュエーションでの喪失だよwww
630 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/07/26(木) 06:26:33.86 ID:5QDqdy3O0
>>1先生の次回作
咲 〜Saki〜 風越編に御期待下さい
631 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/07/26(木) 10:22:19.70 ID:frJvB3Yuo
>>629
そりゃああれだ、いつか小萌先生に捧げる筈だった童貞を暴走ペンデックスに奪われて上条とインデックスへの申し訳なさと抵抗できず「悔しい、でも……」になった悔しさからだろ
632 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長野県) [sage]:2012/07/26(木) 11:30:39.79 ID:VPuj6Lf8o
>>628
風越と言えば 友達がモデルになった高校の近くに住んでいて
実家に帰った時 親父殿が咲を読んでいたらしいwwww
633 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/27(金) 22:17:27.07 ID:mmxhHlku0
小萌先生が記憶喪失になります。
634 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/07/28(土) 22:55:04.84 ID:faDbHWa2o
出張終わったイエー!
どうも>>1です。

本日は七月二十八日
SS上の日付も七月二十八日ですな
今日の零時丁度に投下してシンクロ!とかしたかったけど仕事で無理でした、残念

まあいいや
投下です!


そぉい!



――――――――――
635 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/07/28(土) 22:55:57.54 ID:faDbHWa2o




 七月二十八日、午前零時。

 とある学生寮の屋上は、異界と化していた。




――――――――――
636 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/28(土) 22:56:42.97 ID:LW1Xaioyo
イカイカァ!
637 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/07/28(土) 22:57:30.40 ID:faDbHWa2o


 インデックスに科せられた、首輪。

 そこには、やはり迎撃の罠が仕掛けられていた。

 それは想定の範囲内、当然のセキュリティとすら言えた。

 事前の打ち合わせで鋼盾はその可能性を示唆し、三人もそれに同意していた。


 とはいえ、幻想殺しであればその迎撃機能ごと殺せる筈であった。

 触れればもれなく破壊する、それが上条当麻の右手なのだから。


 有象無象の区別なく、その右拳は異能を殺す。

 例外なんて、ありえない。


 しかし―――そう、ありえないなんてありえない。

 確実に、何らかの邪魔が入る――万が一じゃない、万に九千九百九十九、それは起こる。


 そう鋼盾は断言した。

 内か外か、それはわからない。

 だが、確実にそれは起こるのだ、と。


 土御門元春の、神裂火織の裏を抜き

 ステイル=マグヌスのルーン包囲網を掻い潜り

 上条当麻の幻想殺しすら、押し退けて


 それは必ず、牙を剥く

 ぼくらを殺しにやってくる、と


 その鋼盾の言を、笑い飛ばす者は居なかった。

 緊張した面持ちの上条の右手が、インデックスの口内へと伸びて。

 そして。


 ばちん、と紫電が走り。

 上条の身体が、得体の知れぬ力によって弾き飛ばされた。


638 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/07/28(土) 22:59:01.69 ID:faDbHWa2o


『警告、第三章第二節。
 禁書目録の首輪、第一から第三まで全結界の貫通を確認。再生準備……失敗』


 そんな、声が響いた。

 無機めいた声音は死者の国から届くラジオのよう。

 誰に聴かせるわけでもない、ノイズよりも無感情なその声。


 自動書記、ヨハネのペン。

 それは魔道図書館禁書目録が制御装置。


 鋼盾がそれを見るのは、これが初めて。

 上条から聞いてはいたものの、そのあまりの変貌に彼はギリと歯を軋らせる。


 気に入らない、心底からそう思う。

 その声がどれほど色彩豊かに響くのか、ぼくらは皆それを知っているのだから。


639 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/07/28(土) 23:00:02.13 ID:faDbHWa2o


「……とと、痛ってぇ、な。まったく。
 ―――こりゃ、お前の危惧が当たっちまったみたいだぜ、鋼盾」


 弾き飛ばされた上条が、そう口にしながら起き上がる。

 きちんと受け身を取っていたようで、ダメージもショックも感じさせぬ様子だった。


 その目はインデックスから離れない、そこに恐怖はない、怯懦もない。

 決意に燃え、しかし観察と分析に冷えている。


 ―――そう。

 わかっていたのだ、知っていた。

 なにかが起こる、それは判っていた。


「……とは言え、流石にこれは―――予想以上、かな」


 鋼盾の目も、真っ直ぐにインデックスへと向いている。

 その一挙手一投足を見逃すまいと、宙に浮かぶ少女を食い入るように、視る。


 瞳の中に魔法陣

 人形めいた無表情

 滾る魔力、溢れる呪詛

 濃密な死の気配

 少女の貌をした絶望


 これなるは、十万三千冊の魔人

 存在の規模が違う、桁が六は違う

 英国教会が誇りし禁書目録、その真の姿と呼ぶべきもの


640 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/07/28(土) 23:01:16.76 ID:faDbHWa2o


「ああ、こいつはとんでもねえな。
 ―――やっぱ、インデックスに魔術が使えねえってのも、嘘か」


 上条当麻が呟く。

 インデックスには魔術が使えないと聞いていたが、それも虚構。


 “才能なき者が為の技術”であるはずの魔術。

 それを使えない―――魔力がないということが、そもそもおかしかったのだ。


「……自動書記、ですね。一定条件を満たすと現出する、植えられた擬似人格。
 あの子には魔力がないのではない―――封じられていた、ということですか」


 神裂火織が、呻くように言う。

 つまりはそれも、安全装置のひとつ。

 飼い犬に手を噛まれぬように、鎖で縛り首輪を嵌めて檻で囲って蓋をした。


「その開封条件は、魔道図書館の防衛、だね……女狐め」


 ステイルが新たな煙草に火をつけ、その眼光を尖らせる。

 彼もまた、彼女を縛る手段のひとつだった―――今ではそれを、知っている。


 雁字搦めの少女がひとり。

 そこまでの徹底的な封印を施された理由は、言うまでもない。

 目の前の存在が放つ圧が、千言よりも雄弁に語っていた。

641 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/07/28(土) 23:02:52.85 ID:faDbHWa2o


「――防衛のためだけじゃ、ないかもね。
 下手すりゃ女狐さんの繰糸ひとつで、この子はいつでも“こう”なっちゃうのかもしれない」


 文字通りの最終兵器ってわけだ、と鋼盾は悼むように口にする。

 単なる検索装置(インデックス)ではない、十万三〇〇〇冊の魔道書を操る最強の魔導師。


 魔人だったか、魔神だったか。

 眼の前に居るのは、正真正銘の“本物”だった。


『首輪の自己再生は不可能。
 現状、十万三〇〇〇冊の書庫の保護のため、侵入者の迎撃を優先します』


 タイプライターの打鍵音の方がよほど人間らしい、そんな声が殲滅の意を表明する。

 侵入者に牙を剥く、恐ろしい司書もいたものだ。


「はは……ぼくらは魔道書の簒奪者ってわけか」

「ま、事実だろ……わかりやすくていいじゃねえか。
 その糸を引き千切ってやりゃあ、俺らの勝利だ―――そうだろ?」

「ええ、その通りです」

「ああ――そうとも」


 鋼盾が小さくぼやけば、即座に仲間たちがそれに応える。

 戦意十全、意気軒昂、気炎万丈……頼もしい事この上ない。

 とは言え確認しなくてはいけないことが、ひとつ。

 鋼盾は隣に立つ上条に向かって、問うた。


642 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/07/28(土) 23:04:03.60 ID:faDbHWa2o


「上条くん、感覚でいい……聞かせて。
 ―――アレ、きみの右手で消せるよね?」


 質問と言うよりは、確認といった方が正確だろう。

 消せるに決まっている、鋼盾掬彦はそれを知っている。

 上条当麻も、それを知っている。


「ああ、行ける。さっきのは浅かっただけだ、なんとなく判るよ。
 たぶん、頭なり首なりにもう一回触れれば―――次は壊せる」

「よし―――じゃあ、作戦は変わらずだ。
 首輪の破壊。幻想殺しでもう一度、あの子に触れる。」
 
「……簡単に言ってくれますね、鋼盾掬彦。
 ―――でも、それが間違いなく最適解でしょう、骨子としては」
 

 具体的にはどうしますか? と神裂が目で問うてくる。

 お前が算段をつけろ、とそう言っている。


「――時間を稼いで、魔力の枯渇を待ってみようか。
 こっちには幻想殺しがある。ガス欠に追い込めれば、それがベストだ」


 鋼盾が提示したのは持久戦。

 防御に徹し、相手の消耗を待つ戦い。

 それなら、インデックスを傷つける可能性を極力減らす事ができる。


「それは無謀だ、鋼盾」


 だが、鋼盾のその案は、ステイルによって即座に否定された。

 煙草の火で空中にルーンの記号を刻みながら、彼は冷静に戦場を読み解いてゆく。


「君らには見えまいが、どうやらアレは大気中のマナを取り込んでいるようだ。
 持久戦ではジリ貧だよ、神裂はともかく、僕と上条当麻の体力が保たない」

「ええ――それに、幻想殺しについても、過信は禁物です。
 強力ですが弱点も多い……其処を突かれれば、私たちは首輪を破壊する術を喪う」

「……そうだね、その通りだ」


 幻想殺しの弱点は、多岐に渡る。

 かつての魔術師ふたりと上条の戦いでも、それは顕になっている。

 ステイルは意図せず、神裂は意図してそこを突いた。


 例えば、核が別に存在する魔術は、その核を潰さねば破壊できない。

 例えば、魔力を介さぬ物理的な破壊には対処できない。

 例えば、上条当麻の反応速度を上回る攻撃は防げない。


 禁書目録は、確実にそこを狙ってくると魔術師ふたりは言う。

 圧倒的な蔵書量・知識量に裏打ちされたその分析こそ、禁書目録が真骨頂だと。


643 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/07/28(土) 23:06:52.50 ID:faDbHWa2o


「となると、急戦だな――特攻あるのみってか」


 拳を握りしめ、上条が言う。

 右ストレートでぶっとばす、まっすぐ行ってぶっ飛ばす。

 無茶と言えば無茶だが、おそらくはそれがベストだろうと鋼盾も認める。


「ん……魔女狩りの王を盾に、上条くんが突っ込んで、神裂さんがフォロー、
 ステイル本体は援護――あとは臨機応変ってとこだね」


 フォーメーションは、これしかないだろう。

 言うまでもないが、鋼盾掬彦は退避、だ――ステイルが屋上の入り口に張った結界に逃げ込む。

 そのタイミングは、やはり事が動き出してからになるだろう。


「……異論はないが、魔女狩りの王は既にあの子に見られている。
 すぐ対処されると思っておいた方がいいだろうね」


 あの子は禁書目録だ、とステイルは口にする。

 あらゆる魔術は即座に看破・対応される、僕らが対峙しているのはそういう相手だと。

 
「勿論、可能な限り粘ってみせるけどね。
 ――クセの強い魔術は、その分あの子相手には弱い……だから」

「ああ……連携の要は、神裂さんになる」


 聖人、神の子の似姿。

 身体ひとつで完成した、オールマイティな戦力。

 鋼盾は、自陣の最大戦力である神裂火織へと言葉をかける。


「そんなわけだから、頼らせてもらう。
 ――上条くんを、頼むよ」

「わかりました―――私が道を作ります」


 淡々と口にする神裂の表情は、既に入神の域にあるようにすら見える。

 鞘の内に満ちる奔流を完全に制し明鏡止水、怖い怖い―――頼もしい。

 ならば、上条への指示はこれだけでいい。


「上条くん、きみはふたりを信じて突っ込め」

「了解……ちゃんと隠れてろよ、鋼盾」
 
「そりゃあ、もちろん」


 この身は無力、それは十二分に弁えている。

 今更それを嘆くこともない――というのは、正直負け惜しみじみていたかもしれないが。

 
644 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/07/28(土) 23:08:30.48 ID:faDbHWa2o


『防壁に傷をつけた魔術の術式を逆算……失敗。
 該当する魔術は発見できず。術式の構成を暴き、対侵入者用の特定魔術を組み上げます。
 戦場の検索を開始……完了。現状、最も難度の高い敵兵、上条当麻の破壊を最優先します』


 禁書目録が、淡々と戦場を読む。

 結論は上条当麻の排除、まったくもって正しい分析だ。


「って俺かよオイ」


 神裂だろフツー、と上条がゲンナリとした声で言う。

 それ受けて、神裂が小さく微笑み、ステイルがやれやれと肩を竦めた。


「きみしかいないだろ、ヒーローなんだから」


 自覚しろ、きみが主役だ。

 鋼盾は脇役三人を代表し、そんな事を口にする。

 上条はガシガシと頭を掻くと、


「……しゃあねえな。
 鋼盾、おまえが合図しろ。なんか気の利いたヤツ、頼むわ」

「ぼくかよ」


 なかなかの無茶振りだ、と鋼盾は溜息を吐く。

 とはいえ、己の方がよほど皆に無茶を言っているのは否めないが。


「おまえしかいねえだろ?」

「……しゃあねえな」


 それでは――僭越ながら。

 鋼盾は一歩前へ踏み出すと、静かに、それでいて力強く言葉を発した。


645 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/07/28(土) 23:12:41.34 ID:faDbHWa2o


「あの子が泣いてる、ぐずってる。
 ―――だから、どうにかしなきゃいけないよね」


 そんな物言いに、背後で三人が笑ったのがわかる。

 “幼稚園児じゃねえんだからさー”と上条が呟くのが聞こえた。

 鋼盾はそれを流して、更に言葉を繋いだ。


「あれも、インデックスだ。
 ――これからもあの子と一緒に居たいなら、あれを止めれなきゃ話にならない」


 あの子をまるごと受け入れるというのは、そういうこと。

 つまりこれは前提だ、と鋼盾は言う。


「正直さ、ぼくには無理だ。でも、きみらになら、できる。
 どうやら、向こうも準備万端だ……用意はいいね?」


 頷く気配を背中に感じ、鋼盾は笑う。

 戦場は既に爆発寸前、弱者のアンテナにビリビリ来ている。


 さあ

 嵐がくるぞ、迎え撃て

 
646 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/07/28(土) 23:14:19.54 ID:faDbHWa2o


『これより特定魔術、“聖ジョージの聖域”を発動。
 ―――――侵入者を破壊します』


 禁書目録が、撃滅の意を表明する。

 同時にその瞳が大きく開かれ、魔法陣が拡大した。

 そこから空中に闇黒の魔法陣が投影される、数はふたつ……魔眼にも程がある。

 その口から人ならぬ声で歌が紡がれ、世界を自分勝手に書き換えてゆく。


 空間に、そして世界に罅が入る。

 既にして此処は異界、もう夜が明けることなんてないとすら思えるほどの威容。

 罅の向こうには無窮の闇、生者を引きずり込む無明の深淵。


 だが――、そんなことは勿論ありえない。

 鋼盾の横を抜け一歩踏み出した上条が、無造作に右手を払う。

 幻想殺しが、牙を剥く。


 ぱりん、と硝子の割れる音が響いた。

 それだけで、聖域は掻き消えた。


 同時に、ステイルが魔女狩りの王を展開し、神裂が鋼糸で陣を張り巡らせる。

 轟然たる炎と、研ぎ澄まされた糸。

 それらはこの一年、彼らがインデックスに差し向け続けたもの。

 逃避と失意と絶望に彩られた、言ってみれば八つ当たりだった悲しい暴力。


 だが、今日は違う。

 とある少女の未来の為に、初めてそれが振るわれる。

 それが嬉しくて、鋼盾は思わず震えた。


 上条当麻の異能は

 ステイル=マグヌスの研鑽は

 神裂火織の天禀は


 きっと、この日のためにあったのだ、と

 鋼盾は勝手にそう決める、文句なんて言わせない。


 さあ、それでは開幕だ。

 ここから先は、彼らの舞台。

 
 これより絢爛な殺陣が始まる、そこに己の役はない。

 だが、号砲を任せて貰えた――ならば、ここはひとつ、声を張り上げてみよう。


 それでは

 いざ

647 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/07/28(土) 23:15:04.25 ID:faDbHWa2o


「―――あの子を救え!
 今救え!! ここで救え!!!」

「「「おおっッ!!」」」


 鋼盾掬彦の声に、三人の咆哮が応える。

 それを迎え撃つように、インデックスが新たな魔術を展開した。


 七月二十八日、とある学生寮の屋上にて。

 戦端が、斬って落とされた。

 



――――――――――

648 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/07/28(土) 23:23:15.69 ID:faDbHWa2o




ここまで!
てなわけで、最終戦がスタートです
だいぶ長くなった本作も、そろそろラストに向けて猛ダッシュな感じですよ

次回、皆様の予想をがっつり裏切れたらいいなと思います
よろしければ最後までお付き合い下さい

それでは、また

649 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/29(日) 00:05:33.90 ID:6A2bPmhgP

裏切るだと…これは何だ皆無事なのかと思わせておいてそこを裏切りBADENDにするという高度な心理戦…!
650 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2012/07/29(日) 06:04:15.90 ID:NmEVus3AO
まさかの幽白
651 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/29(日) 17:41:12.19 ID:5Sxd5E90o
652 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2012/07/29(日) 18:44:26.88 ID:JdU176rVo
どんなにパネぇ、まじヤベぇと思っていても「やはりな……」って答えるから問題ないぜ。
願わくば彼女のために架けられた梯子が壊れませんようにみんなで上れますようにってとこだなー。
653 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/07/29(日) 19:31:15.57 ID:KgYwyG+y0
それが世界の選択か…
654 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/30(月) 01:43:35.54 ID:yN7m+tOw0

さぁがんばれ皆
ところで、ペンデックス起動してんのに悠長だなお前らと思ったのは俺だけじゃないと思いたい
ふむふむ、ではそのときは「裏切ったな!僕の気持ちを裏切ったな!父さんと同じに裏切ったんだ!」って叫ぶよ(違

>>650>>幽白
一度死んで霊界探偵として復活すんのかよww
なんの能力に覚醒するのかと思いきや霊能力とかww
でもまぁ、なんだ
言葉の魔術師コウやん的には海藤君の「禁句(タブー)」とかがばっちりだと思うぜ!
655 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/30(月) 01:59:50.64 ID:D8nzaWNEo
幽白といえば、うっかり10年来の疑問なんだが
微笑みの爆弾の歌詞でさ

>ふたつマルをつけてちょっぴりオトナさ
>中にイコール書いてちょっぴりオトナさ

ってどういう意味なの?
教えてリーシャウロン!
656 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/30(月) 14:25:04.65 ID:/5aza5Hc0
すげースレ違いなんだが返答していいんだろうかww
自分なりの回答だけど(ただ書いた後ネットで探したら似たような話がいくつか転がってた)

人は多いのに孤独を感じる都会と、風が吹き付ける誰も居ない草原のどっちが泣きたくなるかの1番
元気にヨロシクと言った数と、泣いてサヨナラと別れた数はどっちが多いかの2番
どっちだろうって自問した後、両方に○をつけたり間に=を書き込むことで
どっちも物悲しくて泣きたくなることを知っている、出会いと別れは等値だよと、
子供から成長した目線で言えるようになったよと語ってるんだと思う
657 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/30(月) 19:59:19.56 ID:/5aza5Hc0
言葉が微妙に足りてなかった…
(さすがにこの話題続けたら)すげースレ違いなん(だと思うん)だが返答していいんだろうか
これでよし

微妙にスレと話題を混ぜよう
そういや仙水の前の霊界探偵の女性は中学生のころ太ってて、子供生んで数年な作中ではスリムなお姉さん(おばさん)なわけだけど
>>619>>620の想定したコウやんの未来に繋がる!?
658 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/30(月) 20:17:04.87 ID:D8nzaWNEo
>>656-657
ア・リ・ガ・ト・ウ・ゴ・ザ・イ・ます!
659 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/07/30(月) 23:56:14.88 ID:isGGIZzX0
幽助 鋼盾
桑原 上条
ぼたん 誘波
蛍子 インデックス
敦子 子萌
鞍馬 ねーちん
飛影 ステイル
コエンマ アレイスター
プー スフィンクス

こんなとこかね
660 :sage :2012/07/31(火) 00:22:32.38 ID:xHnpGW+40
黒い魔界の炎を操れるとかそれが腕の中に封印されてるとか、そういうのがあればステイルももっと一線で輝けたろうに。
そしてアレイスターがコエンマかよwww
661 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/31(火) 10:07:02.96 ID:MYrPjhqDO
飛影が「大事に思いつつあえて傍にいない」とか桑原の想い的に、インデックスは雪菜だろう。
さしずめ今は四聖獣編か。
母親は退廃的な雰囲気と大人の立ち位置から木山先生。
で、蛍子は好きな人なんだから小萌先生でしょうや。
662 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/07/31(火) 11:18:53.85 ID:R1KoPAQp0
美しい魔闘家アウレオウス
という電波がきた

鋼盾「ちょうど5年したら戻ってきます。
約束します。そしたら」
小萌「…そしたら?」
鋼盾「結婚して下さい」

みたいな電波も来た
663 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/07/31(火) 22:26:33.12 ID:q0t5uG99o
お前らが幽白好きすぎてワロタ
転がる夢なんだよ追いかけていたいのは

テッラが戸愚呂兄でアックアが戸愚呂弟で
「私は品性まで売った覚えはないのである」とか言ってぶった切るシーンを幻視した

二十三時までには投下に参ります!
よろしく!
664 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/31(火) 22:59:26.74 ID:y4bmZY4Qo
そろそろかな
665 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/07/31(火) 23:02:28.02 ID:q0t5uG99o

すまんちょっと遅れた!
参ります


そぉい!!

――――――――――
666 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/07/31(火) 23:05:12.41 ID:q0t5uG99o


 上条当麻

 ステイル=マグヌス

 神裂火織


 三人の連携は、完璧だった。

 魔女狩りの王が禁書目録の射線を塞ぎながら距離を詰め、その背後で上条が機を窺う。

 遊撃を務める神裂火織は攻防一体の鋼糸を振るい、ステイル自身も遠距離から炎弾を放つ。


 目的は幻想殺しの発動

 即ち首輪の完全破壊

 つまりはとある少女の救出


 モチベーションの桁が違う。

 それは、プログラムなんかには絶対に宿ることのない熱だ。


 禁書目録が紡ぐ魔術は、そのひとつひとつが恐るべき威力だった。

 余波だけで屋上のコンクリートを豆腐のように削るほどの激戦の中、しかし彼らは諦める事無く抗い続ける。

 ギリギリで回避し、受け流し、一進一退を繰り返し、ほんの少しずつ距離を詰めてゆく。

 ジリジリと、前へ進む、たしかに、たしかに。

 右手の間合いまで、あと三メートル。


 永劫のような三メートル。

 だが、きっと届く。


 上条も、ステイルも、神裂も、鋼盾も

 誰もがそう信じている

 信じ抜いている
667 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/07/31(火) 23:07:12.54 ID:q0t5uG99o


 そして。

 このままでは埒が開かぬと踏んだのか、禁書目録が魔術の構成を変えた。

 術名を「聖ジョージの聖域」、一度は上条に打ち消されたそれをもう一度紡ぎ上げる。

 
 討竜の聖人の名を冠するこの術式の真価は、その名に反して竜の召喚。

 名状しがたき獣臭、重厚な気配、止めどないプレッシャー。

 罅割れの向こうに、人智を超えた幻獣が確かに居た。

 それが、冗談のような量の魔力を練り込んでいるのがわかる。


 いつの間にか根元まで吸いきっていた煙草を吐き捨て、ステイルが表情を硬くする。

 十字教に属する魔術師で、その術式の名を知らぬ者などいない。
 

「竜王の殺息――洒落にならないね、法皇級だ」


 つまりは大技。

 その圧倒的な魔術の奔流を、しかし勝機と読んだのは百戦錬磨の神裂火織。


 奇貨居くべし。

 凛とした声が笛のように刀のように戦場を切り裂いた。


668 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/07/31(火) 23:11:35.10 ID:q0t5uG99o


「勝負に出ます!
 ――ステイル、上条当麻! 少しの間で構いません! 抑え込みなさい!!」


 神裂のその言葉に、即座に上条とステイルは応える。

 ルーンの構成を神速で組み換え、炎の魔術師が咆哮を上げた。


「魔女狩りの王ッ!!
 ――――上条当麻!、右半分請け負え!!」

「任せろ!!」


 そして、竜王の殺息が放たれる。

 極太のレーザー砲を思わせる白色の光帯が、総てを否定するかのように迸る。

 狙うは当然、上条当麻だ。


 同時に、無数のルーンによる強化を全て防御力と復元速度に回した魔女狩りの王が、射線へと飛び込む。

 圧倒的な大質量の光の柱を、抱き込むようにして抑えこみ、相殺する。

 それでも消し損ねた分を、上条当麻の右手――幻想殺し打ち払う。


 どんな強力な魔術でさえ殺し尽くす筈の、その右手。

 しかし。


「っ!? ヤバイぞ、これ!」


 驚愕の表情を浮かべる上条当麻。

 その右手に、浅くではあるが傷が走り、血が弾けた。

 物理攻撃ではない、瞬時に消し去られるはずの魔術でありながら、それを為す異常。


 幻想殺しのキャパシティを超える質量と密度。

 竜王の殺息、それはまさしく法王級の大禁呪であった。


 それでも、上条とステイルの二人がかりでなんとかそれを止めた。

 光の粒子を撒き散らしながら、戦場が一時膠着する。


 だが、この均衡は長くは続かない。

 禁書目録の機械めいた眼が、戦場を残酷なまでに読み解いてゆく。

669 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/07/31(火) 23:13:26.92 ID:q0t5uG99o


『第二〇章九節。曲解した十字教のモチーフを確認。
 上記の術式に対し最も有効な術式の構築を開始します』


 朗々と紡がれる呪詛。

 相手は禁書目録、あらゆる魔術に対処すべく積み上げられた十万三〇〇〇冊の魔道書だ。

 その真価は分析のみでは終わらない、真に恐るるべきはそこからである。


 いかなる構成の魔術でも即座に見抜き、即興で無効化のための迎撃術式

 言うなれば、魔術に対するワクチン――否、劇薬だ。
 

「…これは、どうやら消されるね、僕の魔術は」

「ってオイ! マジかよ……ッ!?」

「何を今更……とは言え、ピンチかな」


 二人がかりでも均衡状態の維持が精一杯なのだ、ここで魔女狩りの王を封殺されたら簡単にそれは崩れる。

 ステイルはせめて時間を稼ごうと、術式にダミーの式を紛れ込ませてゆく。

 しかし。


『命名“神よ、何故私を見捨てたのですか”発動準備完了。即時実行します』


 小細工は無意味。

 即時実行、と禁書目録は歌う。

 魔女狩りの王は消え、幻想殺し単体では、おそらく竜王の殺息は抑え切れない。


 次の瞬間にも、均衡は、崩れる。

 糸が切れるように、弾ける。

 稼げた時間など、ほんの十数秒程度のものでしかなかった。

670 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/07/31(火) 23:15:40.26 ID:q0t5uG99o


「――良い仕事です、二人とも」


 だが、それで十分。

 神裂火織が全ての手を打ち終えた軍師のように、笑った。


 次の瞬間、戦場に激しい破砕音が響く。

 迷彩術式に隠した七条の鋼糸が、禁書目録の立つ地面を抉り取り、足場を崩す。


 バランスを崩した少女の視線が、天へと逸れる。

 竜王の殺息が、天へと逸れる。

 
 雲を裂き星を墜とすが如きその強烈な一撃は、しかし虚空に解けるのみ。

 魔道図書館はその瞬間、確かに守護を喪った。


 その、一明の間隙。

 それこそが、神裂が狙い撃った逆転の布石。


 その場面を誰が担うかなんて、それこそ言うまでもない。

671 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/07/31(火) 23:19:48.95 ID:q0t5uG99o


「行きなさい!!」

「応ッ!!」


 ヒーローが、走る。

 彼の行く手にはいつの間にか、無数の光る羽が舞っていた。


 いかなる魔術か、その一枚一枚もまた、法王級の魔術塊だった。

 それに触れれば死ぬ、と上条当麻は直観を以てその本質を理解した。


 右手で払い除けられる数ではない

 避けることのできる密度ではない


 それでも。

 上条当麻は一瞬の躊躇もなく、禁書目録へと走った。

 恐れる理由がない、上条の口元が獰猛な笑みを浮かべた。


 道はある。

 彼の友人が繋いでくれた絆が縁が、それを為す。

 インデックスのために立ち上がってくれた仲間が、やってくれる。


 最初の一枚が、落ちてくる。

 後一秒もせず、それは上条当麻の頭に触れる。


 それでも、彼は止まらない。

 だって。


 
672 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/07/31(火) 23:20:46.21 ID:q0t5uG99o


「Salvere000!!」


 凛然たる声が響く。

 曰く“救われぬ者に救いの手を”

 神裂火織の鋼糸結界が、ほんの一瞬だけ全ての羽を受け止めて。


「Fortis931!!」


 毅然たる声が響く。

 曰く“我が名が最強である理由をここに証明する”

 ステイル=マグヌスの生む熱気流が、鋼糸ごと遥か空へと巻き上げてゆく。


 阻むものは、なにもない。

 魔術師二人が、道を作った。

 そして。

673 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/07/31(火) 23:22:51.99 ID:q0t5uG99o


「行け! 上条くん!!」


 この一週間、共に戦ってきた相棒の声が背後から聞こえた。

 いつだって傍にあったその声が、今も背中を押してくれる。


 上条は右手を強く強く握り締め、また開く。

 幻想殺し、イマジンブレイカー。

 神様の奇跡だって打ち消すくせに、なんの役にも立たない右手。

 疎んじた事もあったこの能力への迷いは、既に消えていた。


 上条は、先ほど鋼盾の部屋で交わした会話を思い出し、笑った。

 あの言葉に己がどれほど救われたかなんて、きっと鋼盾が知ることはないだろう。


 そして、それは己だけではないのだ。

 ステイル、神裂、土御門、小萌、インデックス。

 聞いた話によれば、御坂や風紀委員の面々、黄泉川に木山とやらもだ。


 誰も彼も、鋼盾掬彦に絆され焚き付けられてしまった。

 人誑しの旗男、と彼は己をそう呼んだが、ぶっちゃけそれはこちらの台詞だと上条は思う。
 

 だが、そんな鋼盾の弱さを己は知っている。

 出会ってわりとすぐに、いろいろと悟るところがあった――こりゃあ難儀な野郎だぞ、と。

674 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/07/31(火) 23:25:19.26 ID:q0t5uG99o


 鋼盾掬彦。

 とても優しい男だが、その優しさを弱さだと恥じている節がある。

 卑怯者を任じているわりに、どうしようもなく潔癖に過ぎる。

 人一倍痛がりなくせに、わざわざ傷付きに行くマゾヒストである。

 自分が大嫌いで、ほっとけばいつまでも雁字搦めの自縄自縛の自傷癖。

 その反動か、他者をちょっとばかり理想化しすぎるきらいもある。

 そうしてまた、自己嫌悪に沈み込むのだから質が悪い。

 
 アイツのあの自己評価の低さはなんなのかね、と友人たちと話をしたことがある。

 土御門や青髪はやれ中二病だのいや高二病だの女子だったら不憫萌えだの好き勝手言っていた。

 印象深いのが、側で聞いていた吹寄制理が会話に割り込んできた事だ。
 

“鋼盾のアレは、甘え”

“わからなくもないわ、防衛なのよね、きっと”

“鋼盾は貴様らとは違って馬鹿じゃないから、いろいろ考えちゃうんでしょ”

“まあ、ほっときなさいよ”

“いつまでも燻ってるヤツじゃないわよ、アレは。
 目立たないけど、あれで貴様らとタメ張るくらいの変人なんだから”
 
“賭ける? 上条当麻。
 あたしは鋼盾はそのうち化けると思うのよね、なんでかな”


 もちろん、賭けなかった。

 当たり前だ、分の悪い賭けなどしたくない。

 不運な己には珍しく、その選択は大正解だった。


 化けるとは言い得て妙、まさにである。

 この一週間の彼の成長は、端で見ていて慄くしかないほどだった。

 吹寄制理の慧眼は確かだったわけだ、ギャンブラーFUKIYOSE恐るべしである。
  
675 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/07/31(火) 23:30:36.86 ID:q0t5uG99o


 だが、その変化は本来であれば、もっとゆっくりとなされる筈のものだったとも上条は思う。

 こんな鉄火場なんかに巻き込まれなくとも、彼はちゃんと立ち直ったと思うのだ。


 急激な変化は、時に歪みを生む。

 かもしれない、そんな危うさを感じるのだ。

 そう、鋼盾は少しばかり、危ういところがある。
 
 ついさっきだって抱え込みすぎて死にそうになってたくらいだ。
 

 まあ、それは周りがフォローしていけばいいだろう、と上条は思う。

 その役を望む、あるいは任じている人間は意外と多いぞ、とも。

 もちろん自分も、そのひとりだ。


 約束がある。

 彼の望む未来を、自分は掴み取ってやらなければいけない。


 あのお人好しが報われないなんて、許さない。

 そんなふざけた幻想を、認めない。

 そのようなモノがこの世界のシステムだというのなら、まずはそれからぶち壊してやる。



 それが、俺の仕事だ

 それが、俺の役割だ

676 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/07/31(火) 23:34:13.99 ID:q0t5uG99o


 ――いつか、鋼盾掬彦に自分自身を肯定してほしい。
 
 それこそが上条当麻が不器用な友人に望むことの全てだった。

 なんとも長期戦になりそうな予感がするが、それに付き合うのだって吝かではない。


 だから、まずはここから。

 さあ、我らがヒロインを取り戻せ。

 ひとつだって零さずに、未来を掴んでみせろ。

 
「――帰って来い、インデックス」


 お前にも伝えなきゃいけない言葉があるんだ、と笑いながら。

 上条当麻の右手が、インデックスに向かって真っ直ぐに伸びてゆく。


 遮るものなどなにもない、勢いのままに幻想殺しが奔る。 

 首輪を引き千切るために、未来を掴み取るために。


 そして。

 額に触れる、その、刹那。


『―――警告、第二十七章第一節』
 

 有り得ぬはずの声を、上条は聞いた。

 竜王の殺息を中断した禁書目録が、有り得ぬ動きでこちらを向いた。

 虚ろの闇と、目が合った。

 


――――――――――

677 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/07/31(火) 23:39:56.75 ID:q0t5uG99o


 第二十七章第一節。

 屋上入り口の結界に退避していた鋼盾掬彦は、確かにそれを聞いた。


 耳元で囁かれたかのように、はっきりと。

 風遊ぶ屋上の中、十数メートルの距離を隔ててなおもさやかに。


『緊急動議――情報を修正。
 敵兵・上条当麻の撃破に最適な魔術を再構築――完了』


 刹那の狭間、あり得ぬはずの詠唱。

 幻聴だと思った、そうとしか思えなかった。


 だって、もう既に上条当麻がインデックスの額に、右手で触れているのに

 今まさに首輪の壊れる音が響いているのに、彼女の口は動いてもいないのに


 その言葉が、聞こえた。

 鋼盾掬彦は確かに、それを聞いた。

 ステイル=マグヌスと神裂火織も、それを聞いた。

 上条当麻も、それを聞いた。


 それは心滴拳聴、一瞬を引き伸ばす時間感覚の矛盾と呼ばれるものか

 それとも禁書目録があらかじめそのような魔術を仕込んでいたのか


 捻じれ狂った時間の中で、それは為された

 有り得ぬ筈の声が、聞こえた

 
678 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/07/31(火) 23:40:59.88 ID:q0t5uG99o




『――特定魔術、“ディエモンフラントの約束”を発動します』




679 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/07/31(火) 23:42:05.83 ID:q0t5uG99o


 幻想殺しが首輪を完全に破壊する、ほんの一瞬だけ前に。

 首輪の砕ける硝子の音に、被さるようにもうひとつ。


 何かが断たれる音を、鋼盾は聞いた。

 命が終わる、音を聞いた。

 己の心臓が握り潰される音の方が、百倍はマシだろうと思った。


 そして

 世界から音が消えた



 木山春生の予言は、成ったのだと。

 誰に言われるでもなく、分かった。



――――――――――

680 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/07/31(火) 23:50:50.23 ID:q0t5uG99o


ここまで!

書き込みながら気付いたんだけど、羽ってビームで撃ちぬかれた天井とかが変化したものなんだよな
だから上方になにもない屋上戦では、羽はでないのです! ウルトラミス!
あと撃ちぬかれた天井って書くと、天井くンを思い出しちゃうよね! 

神裂さんが目眩ましに給水タンクでも投げつけたことにしようかとも
思ったのですが、なんかそれだとマッチポンプ過ぎワロタなので断念
かと言ってステイル神裂の活躍を消しちゃうのも寂しい!

というわけで、このSSではあの羽根は他の魔術ということで勘弁な!
ペンさんが襲い来る上条さんから身を守るべく展開したのです!
そういうことで勘弁してつかあさい!


本編はなかなかエライ展開ですな
次回はもっとエライことになりそうです

それでは、また

681 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/01(水) 00:16:45.96 ID:6CMC2IMOo
682 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/08/01(水) 00:29:42.02 ID:gyc0I0Hyo

釣られたネタをいつか使うとしたらここしかないなと思ってたけどやっぱり来たなww
683 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/01(水) 01:17:10.50 ID:yRzrnvgMo
おおう・・・。待ってるぜ。乙。
684 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/08/01(水) 05:18:37.05 ID:eD7GCHuLo


鋼盾の能力は死者蘇生だな
そして上条さんを蘇らせるのだ
685 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/01(水) 17:48:02.40 ID:SmFHceVx0
うおお
上条さん…!
686 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(田舎おでん) [sage]:2012/08/01(水) 18:12:12.89 ID:pTdmSCmy0

ディエモンフラントの約束wwwwww
687 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/08/01(水) 23:06:40.57 ID:VWE1jSoqo

まえに>>1の言ってた
「再構成における上条さんのありかた」についての話を思い出した

上条さんを喪うことで、コウやんは化けるのだろうか
それとも・・・・?

とにかく期待
688 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sahe]:2012/08/02(木) 21:58:09.34 ID:f4TWGnaQ0
そういや光の羽ってワイヤーで防げるん?
689 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/08/02(木) 23:44:07.04 ID:BQ7lnxlGo
漫画版でやってたと思う
690 : ◆FzAyW.Rdbg :2012/08/04(土) 15:54:19.57 ID:CIryVMbQo
どうも>>1です

ディエモンはアカンかなーと思いつつやっちまったぜ!
釣られネタ、ちゃんと覚えてくれていたひともいるようですね
お客さん―アンタ、通だね……いや、>>1と一緒に釣られた口かな?

ねーちんの鋼糸はいい鋼糸!
つよいぞー、つよいぞー!
メイド・イン・アマクサ! きっと神裂さんの魔翌力的なものが通っていたのでしょう

今晩投下できればいいなと思っております
けっこう思い切った展開なのですが、楽しんでいただければと思います

んでは、日付が変わる前に!
691 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/08/04(土) 17:25:31.73 ID:ZgqTcy0n0
脱いだ
692 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(田舎おでん) [sage]:2012/08/04(土) 17:55:10.53 ID:bHx+W+T10
着た
693 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/04(土) 18:51:20.58 ID:Nvsnkotd0
嫁に脱いで貰った
694 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/04(土) 20:52:03.24 ID:dH8Ld4+ko
きたい
695 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/04(土) 22:16:54.24 ID:4fGORkXCo
>>1はディエモンryにガチで釣られてたのかwwwwwwww
なんか見覚えある名前だと思ったらそれだったのな
696 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/04(土) 22:31:15.47 ID:CIryVMbQo
>>695
そうだよ! 釣られてたよ!
へー、アレそんな名前なのかー、なんともいわくありげだなー
よし、ググってみよう! ……むう、でてこない……ちょっと表記を変えてみようか
……そうだ、アルファベットにしてみようか……検索エンジン、変えてやってみるか……

みたいな感じで小一時間潰したよ!
結局、横スクロールアクションゲームの「デーモンフロント」の存在を知っただけだったよ!
ちくせう!

あと>>693爆発しろ

では、投下します
そぉい!!



――――――――――
697 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/04(土) 22:33:26.28 ID:CIryVMbQo


 捻れた時間が、元に戻る。

 世界に音や光が、戻ってきた。


 自失にも似たその時間は、果たしてどれほどのものだったのか。

 気づけば、上条当麻がインデックスを抱きしめていた。

 その右手は額に添えられ、左手で彼女を抱え込んでいる。


 上条の腕の中、意識を失っているインデックス。

 先ほどまで彼女を覆っていた魔力の奔流は、すでに消えている。

 なにより人形めいた無機の冷たさが消えている、赤みの差した頬は紛れも無い人間のもの。

 ぼくらが愛した、少女のものだ。


 首輪の破壊は、成った。

 最後の魔術は不発に終わったのだろう、そうに決まっている。


 そうでなくては、ならない。

 ディエモンフラントの約束なんて、知らない。


698 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/04(土) 22:35:57.25 ID:CIryVMbQo


 屋上の入り口に設けられた防御結界から、鋼盾は足を踏み出す。

 歩き出す、一歩、また一歩、少しづつ彼らへと近づいてゆく。


 なぜ、この足が走り出さないのかは考えないことにする。

 なぜ、指先が震えてしまうのかは考えないことにする。

 なぜ、喉がひりつくように痛むのかは考えないことにする。


 歩く

 歩く
 
 歩く


 そして、立ち止まる。

 立ち尽くすステイルと、神裂の間で立ち止まる。

 上条とインデックスから、五メートルほどの位置で立ち止まる。


 なぜ、己がここで立ち止まってしまったのかは考えないことにする。

 なぜ、ステイル=マグヌスが動こうとしないのかは考えないことにする。

 なぜ、神裂火織がが動こうとしないのかは考えないことにする。

699 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/04(土) 22:39:20.81 ID:CIryVMbQo


 だってホラ、そんなことより先に、もっと考えなきゃいけない事がある。

 ぼくらは、勝ったのだ、上条当麻の右手が、ふざけた幻想を打ち砕いたのだ。

 彼を労わなきゃいけない、同時にその抱擁をからかってやるのもいいだろう。

 ステイルと神裂も一緒にだ―――ステイルは心中複雑かもしれないが、それでも。


 笑って、笑って、笑って。

 みんなで笑って。

 とびきり気の利いた言葉で、今日という日を讃えてしまおう。


 インデックスが、救われたのだ。

 上条当麻が、それを成し遂げたのだ。


 これはヒーローが、ヒロインを救い、熱い抱擁を交わす、そんなシーンだ。

 一幅の絵画のような、映画の山場のような、漫画の見開きのようなハッピーエンドだ。

 ここからキスシーンにでも移行すればいいのだ、脳内で大音響でエンディングテーマを鳴らしてやる。


 これは、ぼくらの勝利だ。

 誰に憚ることのない、完全勝利だ。

 
 目に映る光景は、そういうものだと

 鋼盾掬彦は、そう、信じたかった


700 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/04(土) 22:40:14.39 ID:CIryVMbQo

 

 ――だけど、現実は残酷だった。

 禁書目録最後の魔術は、過つことなく発動していた。

 その対象が誰かなんて、言うまでもない。


 最も難易度の高い敵兵、だっただろうか。

 自動書記は狙いを外したりなんか、しないらしい。


 ぐらりと、上条当麻の身体が揺らいだ。

 インデックスを護るように抱きしめたまま、仰向けに頭から、落ちた。

 ゴツリ、と頭が地面にぶつかって、ひどい音がした。


 取り返しのつかない類の倒れ方だ、そう思った。

 糸の切れた繰り人形のように、上条当麻は崩れた。


 人形を支えるのは、繰糸。

 では、人間を支えているのは、なんだっただろうか。

 インデックスを抱えていた腕からも力が抜け、その拍子に彼女が上条の上からずり落ちる。


 コンクリートの地面に、二人が転がっている。

 鋼盾たちはそれを、ただ呆然と見ていた。


 
701 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/04(土) 22:41:32.98 ID:CIryVMbQo


 墜落を見た

 椿のような最期を見た

 人が死ぬ光景を見た


 鋼盾掬彦、ステイル=マグヌス、神裂火織。

 あれは致命傷だと、三人が三人、そう思った。


 身体が、動かない。

 駆け寄っても無駄だと、わかってしまった。


 上条当麻が、死んだ

 ヒーローが、死んだ


 木山春生の言ったとおりに、絶望がやってきた。

 その重みに、鋼盾掬彦は膝が折れそうになる。

 心が、折れそうになる。


 逃げ出したいと心底から願い、逃げる場所などないと心底から悟る。

 喉元まで、すぐそこまで、悲鳴が迫り上がってくるのが判る。

 だけど、それを吐き出してしまったら全てが終わってしまう気がした。


 この物語の結末は、ハッピーエンドにはならない。

 わかっていた、わかっていた、わかっていた。

 わかっていた、つもりだった。

 覚悟を決めた、つもりだった。


 でも、そんなものは。

 実際にその時がやってきてしまえば、なんの意味もなさなった。


702 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/04(土) 22:43:35.29 ID:CIryVMbQo



 鋼盾は、跪くようにその場に崩れ落ちる。

 嘔吐感と眩暈に引き摺られ、コンクリートの地面を掻き毟るように爪を立てた。

 このまま、世界が終わるまで、こうしていたかった。

 残酷な結末なんて、見たくなかった。


 だが、それは許さない、絶対に許さない。

 神裂が折れても、ステイルが折れても―――鋼盾掬彦は、己だけは駄目だ。


 ここで、折れてしまうわけにはいかない。

 こんな絶望ひとつで、蹲ってなどいられない。

 こんなところで、歩みを止めるわけにはいかない。


“思いだせ”


 木山春生はなんと言った?

 上条当麻はなんと言った?

 鋼盾掬彦は、彼らになんと言った?

 
“忘れるな”


 上条当麻は、己の役を全うした

 ならば、おまえはどうする鋼盾掬彦

 決まってる、おまえはおまえの役を為せ


 彼が目指した鋼の盾は、こんなところで折れたりなんか、しない。

 俯かない、目を逸らさない、思考を止めない、逃げない。


“ぼくは

 上条当麻の、相棒だ”



 だから、鋼盾は立ち上がる。

 もう一秒だって、彼は己に逃避を許すつもりはなかった。


703 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/04(土) 22:48:08.54 ID:CIryVMbQo


 その時。

 有り得ないことが、起こった。


 何事もなかったかのように、上条当麻が立ち上がった。

 鋼盾がそうしたのを、なぞるように。


「――上条当麻! 無事なのですか!?」

「……フン、ゴキブリのようなしぶとさだね。
 まったく、忌々しいよ上条当麻」


 その光景に魔術師二人が歓喜の声を上げる。

 神裂は素直に、ステイルは悪態に隠して。


 上条は深く俯いており、その前髪に隠れて目は見えない。

 だが、その口が小さく動いた。


 “あぶねーあぶねー、死ぬかと思った”

 “いやー、上条さん一世一代の大仕事でしたよ”

 “でもやったぜ、首輪はぶっ壊した”

 “これでインデックスは大丈夫だ”

 “俺達の勝ちだ、鋼盾”

 “さあ、このネボスケをたたき起こして、誕生会といこうぜ”



 彼の口から溢れるのは、そんな台詞のはず。

 人に心配させておいて、なんでもないように笑うのだ、この男は。

 いつもの事だ、もうすっかり慣れてしまった。

 ヒーローめ、忌々しいったらない。 

 言ってみればお約束だ、死んだと見せて死んでない、鉄板だ。

 約束は、守られなくてはいけない。

 今回だって、きっと―――



 などということは、ないのだと

 鋼盾掬彦は知っている
 

 彼の知る上条当麻は、倒れるインデックスを放っておいたりなんか、しない

 絶対にだ 


 だから

 たぶん


 今一度己は、突き落とされるのだろう

 鋼盾掬彦はそれに備えて、ひとり歯を食い縛った


704 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/04(土) 22:50:40.22 ID:CIryVMbQo




「――uolnf※※ldkf」


 鋼盾の予感は的中する。

 上条当麻の口から、そんな音が聞こえた。




705 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/04(土) 22:53:32.75 ID:CIryVMbQo



「「―――――ッ!?」」

「………っ、……」


 ステイルと神裂が、驚愕に言葉を喪い。

 鋼盾掬彦が、痛みに耐えるように歯を軋らせた。


 上条当麻の口から、零れたもの。

 それはヒトの言語ではない、位階のズレた言葉。

 聞く者の脳味噌を掻き回すような、不可解なノイズ。

 ありえない、音。


 聞いただけで、背筋が粟立った。

 それは、上条当麻のものではなかった。

 断じてもっと、恐ろしいものだった。


 それの目が、鋼盾掬彦を見た。

 神裂火織でもステイル=マグヌスでもインデックスでもなく、鋼盾を見た。

 先日の幻想猛獣の時と、同じように。


706 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/04(土) 22:55:25.44 ID:CIryVMbQo



 脳が焦げ付く感覚と脊髄が凍る感覚を、鋼盾掬彦は同時に味わった。

 先ほどまで渦巻いていた吐き気も頭痛も混乱も絶望感も、まとめて吹き飛ばされた。


 奇妙に冷えて冴えた感覚で、鋼盾は改めて上条を見遣る。

 姿形は常通りの彼だった、否、常通りだったのはそれだけだった。

 
 幻想猛獣より神裂火織より禁書目録より、圧倒的な存在がそこにいた。

 それがなんなのか、形容する言葉は多分存在しない。

 人類はみんな、とっくの昔にそれを忘れてしまっている。


 上条当麻の右手。

 イマジンブレイカー。

 幻想殺し。


 
 ああ

 その正体は、こういうものだったのか



 不思議と悟るところがあった、幾つかの疑問に答えが見つかった気がした。

 だけど、そんなモノには意味が無いとも同時に悟る。


 それでも、鋼盾は目を逸らさなかった。

 それしかできないから、そうした。


707 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/04(土) 22:59:03.35 ID:CIryVMbQo


 そして、その足が動いた。

 ひどく自然な足取りで、それは歩き始める。

 向かうは視線の先、鋼盾掬彦の居る方向だった。


「……逃げろっ! 鋼盾!!
 ―――ッ! 魔女狩りの王!!」


 最も早く事態に対処したのは、炎の魔術師ステイル=マグヌス。

 鋼盾と上条当麻の間に、待機状態にしておいたらしい魔女狩りの王を割り込ませる。


「そこで止まれ! 上条当麻!!」


 悲鳴のような警告。

 その声には嘆願の色すらあった。

 君に刃を向けたくないと、そう言っていた。


 それに呼応するかのように、魔女狩りの王が咆哮を上げる。

 意思持たぬはずの魔術塊の雄叫びは、しかし悲痛に塗れていた。


708 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/04(土) 23:00:22.58 ID:CIryVMbQo



 ステイル=マグヌスと、上条当麻。

 夏休み初日のこの二人の戦いでは、上条が勝利を収めている。

 だが、それは二人の実力差によるものではない、そう鋼盾は思っている。


 先日のステイルの敗因は、言ってしまえば準備不足と不運。

 それもそのはず、だって、あの時彼は戦う必要がなかったのだから。


 死に体のインデックスを捕えるだけでいい、肝要なのは速度で、戦力ではなかった。

 巻き込まれた哀れな一般人など、歯牙にも掛ける必要はない。


 ゆえに、学生寮の廊下のみという、極めて狭い範囲にしかルーンを配置しなかった。

 あるいはインデックスが血まみれに倒れているという事実に、彼も動転していたのかもしれない。


 だが、それでも十分だったのだ。

 相手が上条当麻という男でなければ、十分だった。


 彼の右手に宿る、幻想殺しというとびきりの反則。

 縁もゆかりもない少女の為に、得体のしれぬ敵に挑むその精神性。

 そこに、インデックスという助言者が加わったのが、さらなる不運。


 結果彼は、スプリンクラーの水で水性インキを溶かされ、ルーンの加護を喪った。

 ステイル=マグヌスは、上条当麻に敗れた。


709 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/04(土) 23:01:56.66 ID:CIryVMbQo



 ……だが、今回は違う。

 カードタイプのルーンはラミネート加工によって表面処理され、文字が水などで溶けることはない。

 そして、周囲数キロメートルに渡って張り巡らされたルーン網を即座に破壊する方法はない。

 そもそもルーンの数が違う、魔女狩りの王の強さに直結するそれが、今回は桁違いに多い。


 なにより、ステイル=マグヌスは上条当麻を知った。

 今では上条がなんの後ろ盾も持たない、喧嘩慣れしただけの一般人に過ぎぬことを知っている。

 その右手に宿る幻想殺しの弱点すら、知っている。

 それでいて、寸毫の油断もない。


 ならば結果は見えている。

 今戦えば、ステイルが勝つ。


 上条がステイルに勝つには、ステイルが準備を整える前に奇襲するしかない。

 もしくは、上条が“魔女狩りの王”を抑えている間に、他の人間がステイルを襲うか、だ。

 そして、それは現状どちらも不可能といえた。


 十全に準備をしたステイル=マグヌスに、上条当麻は勝てない。

 それが、この一週間延々そんなシミュレートを繰り返していた、鋼盾掬彦の結論だった。


 その判断は、おそらくは正しい。

 否、正しかった。

 そう、ほんの数分前までは。


710 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/04(土) 23:02:47.82 ID:CIryVMbQo


 ソレは、右手で空中を無造作に払った。

 それだけで、魔女狩りの王が掻き消えた。


「……なッ!?」

「龍脈を、切り離した……!?
 そんなことッ! できるはずが……」


 魔術師二人が、驚愕に声を震わせる。

 鋼盾には専門的な事はさっぱり分からないが、それでも。

 それがどれほどに異常な事なのかは、わかる。


 幻想殺しは、異能に直接触れねば効果を発揮しない。

 その制約が失われたのなら―――はっきり言って、手が付けられない。


 なによりも、予感がある。

 目の前の存在は、けして盾ではない。


 あれは

 まさしく


711 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/04(土) 23:04:56.43 ID:CIryVMbQo



「……っ! 鋼盾掬彦!! 逃げなさいっ!!」


 神裂が、鋼盾と上条の間に割り込み、背中へと叫んだ。

 己に逃げろと言っている、何から? もちろん目の前のソレからだ。

 
 でも、それはできない。

 無理な相談だ、そんなことできるはずが、ない。


「――刀を下ろして、神裂さん」

「安心して下さい、峰で行きます、必要以上に傷つけたりはしません。
 魔術を介さない戦闘であれば、彼の能力が紛れ込む余地はない。
 ――――わたしの勝利は、揺るぎません」


 そんなことを欠片も信じていない声で、神裂は言う。

 神の子の似姿、聖人の背中が小さく見えた。

 震えていた、怯えていた。

 こと戦闘において、一度足りとも恐怖したことのない女が、確かに。


「大丈夫だから、戦わなくても。
 ―――そこをどいてくれ、上条くんに、話があるんだ」

「話なんてッ!! 出来る訳が、ない!!
 逃げて下さい鋼盾掬彦! インデックスを連れて、早く!!」

「頼むよ、神裂さん。
 ――――頼む、お願いだ」


 逃げるわけが、ない

 逃げる必要が、ない


 そうだろう? 上条くん。

 この結末は―――ぼくらの選択なのだから

 鋼盾は共にこの戦いの日々を駆けた友人に、語りかける。


712 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/04(土) 23:07:27.82 ID:CIryVMbQo



「そうだろ、相棒」

「……rjg、こお、じゅ、krjf ん」


 返答が、あった。

 名前を呼んでくれた、鋼盾と

 ちぐはぐな声で、それでも確かに


「―――――ッ!?」

「……貴方、なのですか…?」


 その言葉に、意味のある単語をソレが紡いだことに、魔術師二人は慄く。

 竜巻や津波が喋ったようなものだ、その反応は尤もだろうと鋼盾も思う。

 だけど同時に、驚くようなことではないとも彼は断じる。


「―――上条くん」


 ほら、上条当麻はそこにいる

 罅割れて、八割くらいは零れ落ちてしまっているけれど

 鋼盾掬彦以外は誰も、それを上条当麻とは呼ばないかもしれないけれど



 確かに彼は、ここにいる

 それがわかったから、鋼盾掬彦は笑った



 
――――――――――
713 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/04(土) 23:14:40.12 ID:CIryVMbQo




ここまで!

てなわけで! こんなん出ました!
いえーい! ラスボスは上条さんだー、ひゃっほーい!

いろいろ仰りたいことのある展開かとは思いますが、悪いのはすべてディエモンフラントの約束です
嘘です、すべては>>1の責任です

さて、それではまた次回
お盆休み前に一回くらい更新できればいいなと思います

じゃあの!
714 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/04(土) 23:37:55.43 ID:N20c2CTC0
乙です
喪ったのは、かけがえのない親友(の人格?)だったのか
そうすると能力に目覚めるプロセスってのも…ふむふむ
それとも、鋼盾が上条の残滓を感じてる以上、喪ったと確定されずさらに何か喪うのだろうか

お盆前ですか、全力で待ってる
夏はネクタイソックスが苦じゃなくていいですね(ぇ

>>ディエモンフラントの約束
私も検索しまくったんだけど、本気でわからなかった
まさか、ほんとになんでもない言葉だったのです?
715 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/04(土) 23:50:17.04 ID:vLdtOOc80

中条さん、だと…?
どうなってしまうんだ!
嫁も心配してます!全裸で!
716 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(田舎おでん) [sage]:2012/08/05(日) 00:43:42.91 ID:TmA8rSCn0
乙でした
神上さんか…
次の更新が楽しみすぎてちょっと舞ってくる
717 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/05(日) 02:00:52.11 ID:ali/GiAfo
本当に楽しみに待ってる。面白い。乙。
718 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/07(火) 05:35:22.41 ID:6poBRl9lo
>>714
どうせそのときに適当に思いついた言葉を並べて見ただけじゃねえの?
















自己顕示するわけじゃないが釣った本人が言うんだから間違いない
719 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/07(火) 05:58:00.92 ID:xrrlWppDo
約束、という単語が罪深かったのだ……
720 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/08/07(火) 11:42:23.06 ID:atoA1itg0
>>718
アレは貴様の仕業か・・・!

今の上条さんはあれだよね
普通にドラゴンストライクかましてくるよね
721 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/08(水) 22:03:42.30 ID:lgPeh1oH0
ヴァルガリアンテの誘惑
722 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/08/10(金) 23:16:45.39 ID:BrfHQvbE0
ラフトアーブルの溜息
723 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/11(土) 01:29:41.15 ID:tySqjQWPo
ココはMTGのカード名スレですか
724 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/08/11(土) 21:58:14.35 ID:bJkzPUMl0
暴走スイッチ入ったか。ヒーローが最強の敵になる・・・こちらの幻想ぶっ壊されたwwwwww
言語が『uolnf※※ldkf』って事は、『黒い翼』状態の一方通行と同じか。
『竜王の顎』+バーサーカーカミやんだったらどうしよう・・・
725 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/12(日) 07:06:13.50 ID:4eZhpQp80
そこに颯爽と現れるアウレオルス先輩っすよ

黄金錬成vs神浄討魔っすよ
726 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/12(日) 21:02:14.04 ID:JtKC1goJo
どうも>>1です
明日からようやく盆休みですよ!
日付変更と同時にバイクで風になります

出発前までに今回分書き上げて投下したい
あとはんぶん、がんばってくる
727 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/12(日) 22:25:20.46 ID:JtKC1goJo


 世界から隔絶されたかのような屋上に。

 ノイズの混ざる声が、虚ろに響いた。


「 ……rjg、こお、じゅ、krjf ん 」


 千年前にテープレコーダーに吹き込めれたもののように、遠く。

 それでいて心が軋むほどの圧を備えた、人ならぬ声。


 それが上条当麻のものだなんて、きっと誰も信じない。

 彼をよく知る人ほど、否定するかもしれない。


 きっと誰も、信じない。

 鋼盾掬彦以外は、信じない。


 そうしてまた、その口が開く。

 切れ切れに結ばれる言葉は、それでも意味を紡いでいた。


728 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/12(日) 22:27:26.11 ID:JtKC1goJo



「 どうやら、――、knfv おれだ。
  よげん、jklw 当たっちまった vwsi 」


 よげん――そう、予言だ。

 未来視、予知、ファーヴィジョン。

 囁くような、震えを圧し殺したアルト。

 あの日から、ずっとそれが纏わりついていた。


 未来を視た女がいた。

 未来を視られた男がいた。


 未来を視た女の名は、木山春生。

 未来を視られた男の名は、鋼盾掬彦。


 その予知は、どうせ百発百中。

 知っていた、知っていた、知っていた。


 きっと己は知っていた。

 この結末を、知っていた。



729 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/12(日) 22:29:04.66 ID:JtKC1goJo



「――そうだね、……そんな気がしてた、なんて言ったら、怒る?」

「 は――― jdyi 俺 mxdも、そんな sd 気が ljgdo して た。
  ……運が nkcl 悪い からな jfd おれ、は 」


 鋼盾掬彦はかけがえの無いものを喪う、と木山春生は言った。

 己にとってかけがえのないものなんて、どうしたって限られてくる。


 友人、恩師、家族。

 守ると決めた異国の修道女。

 そして、この一週間、一番傍にあった彼。


 名を、上条当麻という。

 その異能ゆえ、世に満ちる理不尽を掻き集めてしまう不運な男だ。

 
 だから、この結末は――心の何処かで予期していた。

 鋼盾も、上条も、口にする事こそしなかったけれど。


 出陣前、自宅で話ながら。

 輝かしい未来を、夢に見ながら。


 死神の足音を、二人で確かに聞いていた。


730 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/12(日) 22:30:07.01 ID:JtKC1goJo


「 ――でも djis、
lklu それでも wekx 俺は、dsjk 不幸 nd じゃねえ、よ」


 そう、上条は口にする。

 かつての口癖を、つい先程そうしたように蹴り飛ばす。


 運命の赤い糸がなくても、神仏の加護がなくても

 そんな事はどうでもいい、俺は幸せだと口にする。


「……そうだね、きみは不幸じゃない。
 ぼくらは絶対に、不幸なんかじゃないよ」
 

 不運であっても、不幸ではない。

 それを、神様にだって否定はさせない。


 旗を掲げろ。

 ここに、旗を掲げろ。


 継ぎ接ぎだらけで、薄汚れていても。

 よれよれで、みっともなくても。

 
 ぼくらの旗を、ここに掲げろ。

 世界で一番幸せな顔をして、厚顔無恥に真っ直ぐに。


 上条当麻は、不幸ではない。

 鋼盾掬彦も、不幸ではない。


731 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/12(日) 22:30:51.97 ID:JtKC1goJo



「 ffkg おれ、で、mkd 良かったんだ、よ。
  dhdt 大丈夫だ、わかる んだ――おれは、jihp 死 kob ない


 途切れ途切れの雑音混じりの声で、上条が言う。

 つい先程、確かに死んだ筈の男が、そんな事を言う。


 己は死なない、と。

 確かに。


「 ちょっと、やすめば sgxo 帰って klpoこれ、るって、klkj そう、言って る
  ――、俺たち cjw は dkd なにも、うし jndsj なったり、なんか ない 」


 誰が、言ったのか。

 ちょっとというのは、どれくらいなのか。

 その言葉は、果たして本当なのか。

 
 問うても答えは得られぬだろうと悟る。

 だから、鋼盾はそれを聞きはしなかった。


 そんな彼の反応を噛み締めるように、上条の言葉は続く。


732 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/12(日) 22:32:01.20 ID:JtKC1goJo



「 wam おれら、の、slez 勝ちだ
  だから、hiezp そんな顔、さ、するなよ kds 鋼盾 泣くな 」

「……そうだね、ぼくたちは、勝った」


 塩の味のする勝利もある。

 もしかして敗北よりも苦くて辛い、そんな勝利もある。


 だけど、それでも―――ぼくらは、それを望んだ。

 皿まで飲み干せ、焼いて処方し、毒を力に変えてみせろ。

 鋼に霊威を宿らせ、盾に祈りを降ろせばいい。

 それだけでいい。


 絶望なんて、ありえない。

 欲張って欲張って、それから死ね。

 その瞬間まで、ひとつだって諦めるな。

  
733 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/12(日) 22:33:05.42 ID:JtKC1goJo



「……あの子はもう、ひとつだって喪わない」

「 ああ ajdl、そうだ。
  ―――kd イン mok デックスを、ksdj たのむ な 」


 それはきみの仕事だと、鋼盾掬彦はそう思う。

 だけど、口から出た言葉はそれとは逆の、素直な肯定だった。

 だって。


「わかってる……きみのフォローは、ぼくの仕事だ。
 脇役の仕事ってのは―――そういうものだから、ね」

「 は、kdjs おまえ は lmbxw 脇、役 じゃね え alic よ 」

「脇役だよ、ぼくは。きっとどこまでいったって。
 ―――でも、うん……ひとりじゃないからね、だいじょうぶだよ」


 ひとりではない。

 寂しい道のりではない。


 インデックスがいて、ステイルがいて、神裂がいる。

 土御門元春が、舞夏が、月詠小萌が居る。

 皆がいる。

 何より誰より、きみがいる。


 ずっと心の裡に置いておいた、幸せな未来予想図。

 この期に及んで、鋼盾はそれを諦めてはいない。


734 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/12(日) 22:35:53.48 ID:JtKC1goJo



「kdxs、※※k」


 上条当麻が、握りこんでいた右拳を開き、鋼盾へと向ける。

 幻想殺し、思い出してみれば、己にソレが向けられることなどついぞなかった。


 人ならぬ右手、人ならぬ彼。

 だけど、恐怖はない。

 あるわけがない。


「 わる い、mckz な。
  idcus おま えに、さ fjkm 、おしつ ける 」


 押し付ける、と上条は言う。

 表情から察するに、どうやらインデックスのことではないらしい。

 なにを―――と聞こうとして、しかし鋼盾はそれを止める。

 たとえなんであろうと、構いやしないのだから。


「じゃあ、借りとこうかな。
 ……忘れてた、いつかのファミレス代、返してもらってないからな。
 次は、きみに奢らせてやる―――インデックスの分もだからね」


 あとぶっちゃけ、苦瓜と蝸牛の地獄ラザニアは微妙極まりなかった。

 同じテーブルの男子五人、揃って同じ感想だった。

 チャレンジャーも大概にしろ。

 どうせドリンクバーロシアンルーレットで負けるんだから、料理くらいは安牌でいけばいいのに。


「 は、はは、ey りょう、かい。
  ――― mria 約束 djksl する―――だから、kawn 待ってろ 」


 待つのは得意だ。

 待つのは得意だ。

 待つのは得意だ。


 嘘を吐くのは、もっと得意だ。

 だから、こんな局面でもこんな台詞が言える。


735 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/12(日) 22:38:14.34 ID:JtKC1goJo



「当たり前だよ、ばか。ぼくらは三人でぼくらなんだから。
 ……待っててやるから、次はあまり待たせるなよ」

「 は、fojgk は ヒー ロー akuw は、さ
  ――遅れてやってくる、ん、だろ。」

「そうだね、でも、必ず間に合うんだ」

「 ああ、af;x お約束 は bdoh 守らなきゃ、いけねえ mfk よな。
  ――だか ら 」

 
 上条当麻の右手が、ゆっくりと鋼盾掬彦の方へと伸びてくる。

 鋼盾はそれを迎えるように、右手を彼に向かって伸ばす。


 ぱし、と

 握手のように、バトンを受け渡すかのように二人の両手が合わさった


 触れた瞬間、何かが砕ける音を鋼盾は聞いた

 それは鎖の千切れる音のようであり、卵が罅割れる音のようでもあった


 上条当麻もそれを聞いたのだろう、彼は口の端から血を零して、それでも笑った。

 先ほどまで彼を覆っていたモノは、既に晴れていた。
 
 いつもどおりの上条が、そこにいた。


736 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/12(日) 22:39:15.71 ID:JtKC1goJo



「―――頼むぜ、相棒」


 はっきりとした口調で、それだけ呟いて。

 上条当麻はそのまま、鋼盾に覆い被さるように倒れ込む。

 死体のように重いその身体を、鋼盾はしっかりと受け止める。

 受け止める、彼の願いを。


「任せろ――相棒」


 もう聞こえてはいないと知りつつ、はっきりとそう宣言した。

 右手を強く強く握りしめて。



737 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/12(日) 22:45:42.53 ID:JtKC1goJo


「鋼盾!!」

「……っ、上条、当麻!!」


 金縛りの解けたステイルと神裂が、青い顔をして鋼盾と上条に駆け寄ってくる。

 その狼狽をひどく遠いもののように感じつつ、彼は上条当麻の身体を丁寧に床へと横たえた。


 そのまま、尻もちをつくように鋼盾も地べたにへたり込む。

 眩暈がする、眩暈がする、眩暈がする。


 なにか、決定的な事が己の裡で起きた事を知る。

 臓腑が灼けて、頭が軋む。

 眩暈がする。


 蹲ったまま頭を抱える鋼盾

 崩れ落ちた上条当麻

 気絶したままのインデックス


 状況は混迷至極。

 どこから手をつけるべきか、神裂とステイルは視線を巡らせる。

 だが――― 一番被害が大きいのは、やはり彼。


738 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/12(日) 22:48:26.85 ID:JtKC1goJo



「っ!……まずは、上条当麻の治療を!!
 ステイル! 結界の組み直し……いえ、病院に運びます!!
 最寄りの病院をっっl 調べて下さい、急いで!!」

「ああ!」


 斃れた上条を診る神裂が、叫ぶようにステイルへと指示を飛ばす。

 上条には魔術による治療は通じない、その事実に思い至ったようで病院へと運ぶと決めたようだ。


 その判断は正しい、きっと最善だ。

 そして病院であれば、己に心当たりがある。

 鋼盾は崩れそうな意識をなんとか取り繕って、声を上げた。


「――神裂、さん」

「! 鋼盾掬彦、貴方は大丈夫なのですかッ!?
 顔色が紙のようです! あれだけの存在規模に晒されて――」


 焦燥に身を焦がす神裂の表情は、しかし冷静さを取り戻している。

 彼女に任せておけば安心だとわかり、鋼盾は安堵する。

 今の自分には、その役は無理そうだったから。


「……ぼくは、大丈夫。まず、上条くんと、インデックスを、頼むよ。
 ―――病院は、ここにして、欲しい」


 鋼盾は胸ポケットから、皺の寄った一枚の紙を引っ張りだす。

 それは、彼が先日とある医師から貰い受けたもの。

 色気のない、四号サイズの個人情報。

 よれよれの名刺、これもまた、戦いの日々で彼が掴んだ縁のひとつ。

 震える指で、彼は神裂にそれを押し付ける。


「この街で、一番、腕のいい、お医者さんなんだ。
 だから、そのひとを、頼ってくれ」


 この街で一番の医者。

 つまり、この星で一番の医者だ。

 鋼盾はかつて世話になった、カエル顔の医師の事を思う。


 冥土帰し、その異名を今こそ托みたい。

 いけ好かない神様よりも、きっと貴方の方が頼りになるから。


739 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/12(日) 22:54:03.41 ID:JtKC1goJo


「分かりました! すぐに運びます!
 ―――ですから! もう喋らないでいいですから!」

「こっちによこせ神裂! 僕が先行する! 早く!
 君は上条当麻を運べ、急ぐぞ!」
 
「はい!」


 神裂は倒れ伏す上条を、ふわりと丁寧に抱き上げる。

 ステイルは既にインデックスを背負い、屋上の縁で彼女を待っていた。

 熟練の奇術師のように名刺をステイルへ投げ渡すと、神裂は鋼盾へと呼びかける。


「すぐに、戻ります!
 それまで動かずに待機していて下さ……っ!?」


 神裂の声が、不自然に途切れた。

 その顔は驚愕に引き攣っており、鋼盾の後方をまじまじと見つめている。


 それを見た鋼盾は、反射的に彼女の視線の先を追う。

 丁度屋上の入り口のある方向へと、振り返る。


 そして目にしたその人物に、鋼盾の目も見開かれた。


 
740 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/12(日) 22:59:18.89 ID:JtKC1goJo



 そこには

 居るはずのない女がいた


 身長135センチメートル

 子供服のようなワンピース

 呑兵衛のヘビースモーカー


 年齢不詳の我らが担任教師

 月詠小萌が、そこにいた



 ぞっとするほどに表情のない顔で、こちらを見ていた

 終わってしまった戦場を、まっすぐに見ていた


741 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/12(日) 23:06:54.60 ID:JtKC1goJo

―――――――――――――――




ここまで!

ヒーロー退場
おつかれさまです、上条さん

次回は小萌先生の出番ですね
どうなることやら

待て次回!


お盆休み、みなさんゆっくり休んで下さい
>>1はちょいと長野に行ってきます、さらば!
742 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/12(日) 23:19:30.99 ID:UNzurQbm0
どどどどど、どうなるんだぁあぁあっ?
いてらおやすみ、乙なんだよ!
743 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/12(日) 23:28:26.47 ID:JtKC1goJo
忘れてた
>>718! やってくれたなコノヤロー! 大好き!
“ディエモンフラントの約束”がどのような魔術だったのかについては、各自妄想してスレに書き込んでおいて下さい(適当)

そして>>742さんレスサンクス
んじゃ、こんどこそさらばですの!
744 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/08/13(月) 00:55:27.20 ID:tJV+Zhgvo
うおおおつ!
コウやんはいかなる力に覚醒するのか
今回の描写からして……いやさすがにそれは無い……よね?
745 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(田舎おでん) [sage]:2012/08/13(月) 01:01:34.73 ID:Y6TVl5WQ0
乙でした!
上条さんはコウやんはどうなるのか
746 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/13(月) 04:05:07.42 ID:xmFU+Hz10
勝ってくれ!
頼む!
747 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/13(月) 04:06:54.80 ID:xmFU+Hz10
すまん誤爆った
許せ
748 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/08/13(月) 07:36:16.99 ID:a3t6xxd6o
>>747 許さない


旧約ラストで鋼盾が爆発して生死不明
それと同時に上条さんが目覚めて、枕元にいた美琴に「久しぶり」というイベントが見えた
749 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/13(月) 11:12:38.22 ID:HJsBTQMIO
乙である

まさかのバイク海苔!!
( ´ ▽ ` )ノyaeh!!
750 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/08/13(月) 16:27:14.63 ID:YaSPNJXN0
まさかの小萌先生っ!! いったいナニモンっ!!?
751 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/13(月) 23:11:55.66 ID:Fob8ipLJo
高速道路のアスファルトの継ぎ目で冷や汗かくがいい。乙。楽しみに待ってる。
752 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/14(火) 09:52:30.79 ID:ouQZjao00
料金所でチケットを落としてアタフタして後続車に煽られればいい。乙。
753 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/14(火) 20:42:17.76 ID:1sevpQ2fo
帰省先で中学時代に片思いしていた女の子と再会して
あたりまえに大人になって綺麗になった姿にドキドキして
ひょんな事から彼女をバイクのリヤシートに乗せることになって
押し付けられた胸の感触を楽しんだり昔話に花を咲かせたりして
海とか見ながら実は両想いだったことが判明すればいい。乙。楽しみに待ってる。


754 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/08/14(火) 22:34:34.32 ID:9kgE6uTAO
なるほど
こうきたか
755 :sage :2012/08/14(火) 23:45:20.91 ID:bvS7oQLj0
ディエモンフラントの約束
効果:
かまちーが突然虚淵御大のバッドエンド依存症に疾患する。
相手は死ぬ。
というか皆死ぬ。
756 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/15(水) 00:27:57.18 ID:TGy6+y6fo
『ディエモンフラントの約束』

上条さんが食らったのはただの前フリ
本命の効果は「魔道図書館の移譲」

対象に選ばれたのはもちろん小萌先生
次回からは 『 と あ る 教 師 の 禁 書 目 録 』がスタートする
757 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/15(水) 10:41:43.34 ID:yJ2avso50
よし
ちょっと1すれ目から読み返してくる
758 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/19(日) 00:54:48.37 ID:V1B7v2Wlo
渋滞を切り裂く稲妻になれ!
心よ空を裂く号砲に踊れ!
バイクがあれば何処にでも行ける!
いえーい!

あ、どうも>>1です
無事バイクの旅から返ってきました。
コメント感謝、うれしいです!

本日中に投下しますぜ!!
よろしければお付き合い下さい!
759 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/19(日) 00:58:14.95 ID:84Yxmm3Ho
おかえり〜
760 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/19(日) 00:59:12.90 ID:V1B7v2Wlo
酉忘れた

>>1でござる
761 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/19(日) 03:09:03.42 ID:X366eepEo
ん?この夜に投下なのか、明けて月曜の夜に投下なのか。
とりあえず無事におかえり。楽しみに待って寝る。
762 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/19(日) 03:10:51.59 ID:X366eepEo
しまった開けて日曜の夜だな、いつもそうだった。たーのーしーみーにーまーつ。
763 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/19(日) 18:15:12.72 ID:YsnG4G1/0
縺翫°縺医j繧薙%
764 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/19(日) 18:55:04.64 ID:YsnG4G1/0
文字化けだと…すまぬ

おかえりんこ
765 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/19(日) 19:50:51.93 ID:YjKn5LUCo
おかえりんこ
766 : ◆FzAyW.Rdbg [sage]:2012/08/19(日) 21:27:38.17 ID:V1B7v2Wlo
ただいまんこ


んじゃ、透華します

そぉい!



――――――――――
767 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/19(日) 21:30:20.35 ID:E5MVPKMNo
ひやしとーか
768 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/19(日) 21:33:35.55 ID:V1B7v2Wlo



 魂の抜けたかのような表情で立ち尽くす月詠小萌。

 それを見た神裂が、泣きそうな顔を浮かべる。


 責められることを恐れたのではなく、そんな表情をさせてしまったことを神裂は悔いていた。

 それは、鋼盾掬彦にもひどく覚えのある感情だった。

 笑顔でいてほしいのに、この数日間で何度彼女の顔を曇らせただろうか。


 あの夕食会の夜、この二人が談笑をしていたことを鋼盾は思い出す。

 一体どんな話をしていたのか、小萌が神裂の頭を撫でていた場面もあった。

 それを受けて擽ったそうに頬を赤らめていた彼女は、歳よりずっと幼く見えた。


 あるいは、彼女にとってはそんなことすら初めてのことだったのかもしれない。

 神に選ばれし聖人、一宗派を率いる女教皇、必要悪の教会の魔術師。

 そんな重責と才能を背負う彼女はきっと、孤独だった。


 月詠小萌は、誰であろうと救い上げてくれる、手を差し伸べてくれる。

 その優しさに、ぼくらは救われてばかりいる。


 この一幕は、そんな彼女を裏切る結末だ。


 ぼくらは、彼女の望む未来には至ることができなかった。

 ぼくらは、きっとなにひとつ彼女に打ち明けることができなかった。


769 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/19(日) 21:34:47.11 ID:V1B7v2Wlo



「――行って、神裂さん」


 とは言え、それは鋼盾掬彦の負うべきものだ。

 誰も彼もが“おまえはひとりで背負込み過ぎる”と言ってくれたが、それでも。

 これだけは、誰にも譲れない。

 譲ってやらない、絶対に。
 

「……ですが」

「いい、から――上条くんを、頼む」

「……はい」


 躊躇う神裂に、鋼盾は少しばかり語気を強めてそう言った。

 彼女の仕事は、彼を迅速に病院まで運ぶこと。

 それは言うまでもないことで、神裂は逡巡を圧し殺しくるりと背を向ける。

 ステイルがそれを見届けて屋上から隣のビルへ飛び移ると、一足飛びで神裂も後に続いた。



 そして屋上には、ふたりだけが残される。

 座り込んでいる鋼盾を、小萌が見下ろしている。


 わだかまる静寂は、ほんの十秒程度のもの。

 ポツリとひとつ、小萌が言葉を落とした。

 
770 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/19(日) 21:35:37.21 ID:V1B7v2Wlo



「……空、飛んでっちゃいましたねー」

「そう、ですね」


 魔術師たちは文字通り夜空を駆けた、鳥のように。

 それは、言うまでもなく一般人には不可能な挙動であった。

 この街の人間、能力者ではないステイルや神裂には、できるはずもないことだ。


 小萌には昨日、彼らを「インデックスの友人」とだけ紹介している。

 勘の良い人だ、かつて倒れ伏す少女を救った「魔術」なる神秘と結び付けるのは、容易だろう。


 
「屋上も、ボロボロですねー」

「です、ね」


 ありふれた学生寮の屋上は、今夜の激闘によって完膚なきまでに破壊されている。

 鋼糸で豆腐のように削り取られ、炎に焼き焦がされ、酸で溶かされ、水に穿たれ砕かれ――。

 はっきり言って、見る影もない。


 これもまた、常人には成し得ぬことだ。

 大能力者十人くらいでバトルロイヤルしたら、こんな感じだろうか。


 ……いや、それらは些末事だ。

 どうでもよいことだ、倒れ伏ていた彼の存在に比べれば。


 喪失の重みは、いや増すばかり。

 頭痛も眩暈も吐き気も震えも、ひどくなる一方だった。


771 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/19(日) 21:37:50.71 ID:V1B7v2Wlo



「……上条ちゃん、は」

「…………病院に、運んで、もらいました」

「……そう、なのですか」


 彼女が聞きたいのはそこじゃないのは、わかっている。

 それでも鋼盾は悪足掻きのように、問う。


「いつ、から」


 いらっしゃってたんですか、続く言葉は形にならず、ほどけてしまった。

 そもそも意味のない問いだった、どうしようもなく。

 その無為な言葉に、律儀に返す声があった。


「……つい、今しがたなのです。
 どうしてなのでしょうか、屋上への扉を見つけるのに、二十分もかかってしまいました」


 不思議な話なのです、と小萌は呟くように口にする。

 彼女が屋上にすぐに辿りつけなかったのは、ステイルの張った結界がため。


 その結界は、先頃上条の右手で引き千切られてしまっている。

 神裂曰く“龍脈を引き剥がした”という埒外の能力運用。

 アレでおそらく、屋上の人払いも解けてしまったのだ。


 だから、月詠小萌がここにいる。

 今この時、全てが終わってしまったこの場所に。

 鋼盾掬彦の目の前に、月詠小萌が居る。


 それが、何を意味するのか。

 答えてくれるものは、いない。


772 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/19(日) 21:38:47.81 ID:V1B7v2Wlo



「……ねえ、鋼盾ちゃん?
 ―――先生に、まだ、何も話してはくれないのですか?」


 呟くように零れたその言葉は、もう何度目になるだろうか。

 己は一体何度、この人にこんな台詞を言わせてしまっただろうか。


 分不相応な想いを自覚した、あの夜の公園で。

 幻想猛獣戦の直後、病院の一室で受けた説教に隠して。

 日に一度の定時報告義務、緊張しながら掛けた電話で。
 
 みんなで一緒に食事をした後、彼女を送った道すがらに。


 いつだって彼女は、共に荷を負うと言ってくれていた。

 それが教師の仕事だと、それが私の矜持だと。


 鋼盾掬彦は、それを拒んだ。

 拒み続けた、肝心な事は結局なにひとつ告げずここまで来た。


 だけど、全てが終わってしまった今ならば。

 言ってしまってもいいのだろうか、何もかもを。


 ……ああ、でも。

 正直もう、何を言えばいいのかもわからない。

 頭がまともに動いていない。


 鋼盾は、小萌の顔を見る。

 泣きそうな顔で返事を待つ、彼女の顔を。


 綺麗だと思う、こんな時だというのに、やっぱり見惚れる。

 馬鹿みたいに、いとおしいと思ってしまう。


 だから、言葉が口を突く。

 ずっと秘めておくつもりだった想いが、するりと喉を抜けていった。


773 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/19(日) 21:41:10.99 ID:V1B7v2Wlo



「先、生」

「はい」


 きっと後悔する。

 きっと後悔する。

 きっと後悔する。


 そんなことは、わかっている。

 わかっているのに、とまらない。


 ばかじゃねーの空気読めよ今そういう話してないだろうが、と思う。

 墓場までもってけ身の程を知れダイエットしろよ、と思う。


 そこまでにしておけよ鋼盾掬彦。

 もう寝とけよ、死ぬぞ馬鹿。


 ……ああ、もう。

 勝手にしろ、馬鹿野郎。

 言っとくけどソレ、実らねえからなデブめ。


774 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/19(日) 21:42:19.84 ID:V1B7v2Wlo



「ぼく、は」

「はい」
 
 
 猿猴促月という言葉がある。

 水面に映る月に手を伸ばす、身の程知らずの馬鹿野郎。

 それがあまりにこの状況に填り過ぎていて、鋼盾は少しだけ笑った。


 猿は溺れる、水面は揺れる、月は消える。

 手の中は空。


 ずぶ濡れの猿は天を仰ぐ。

 月は遠い。

 手の中は空。


 届くことはない。

 手の中は空。


 それでも、手を伸ばす。

 猿も人も、誰でも。


 手に入る事など、なくても。

 それでも。


775 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/19(日) 21:44:51.33 ID:V1B7v2Wlo



「あなたの、ことが」

「……はい」


 酷いロケーション。

 コンディションは最悪。

 この口から溢れようとしているのは、ありきたりな台詞。


 ありきたりで、行き当たりばったりで、ひとりよがり。
 
 
 申し訳ないにも程がある、なんだこれ。

 残念過ぎる、どうしようもない、大減点、いっそ死刑だ。


 我ながらこれはひどい、と鋼盾は笑う。

 この瞬間じゃなきゃ、きっと口にすることすらできない。

 だから、これは口にすべきではない。


 それなのに、溢れる、止め処なく。

 どうしようもない、ひどすぎる。


 なによりひどいのは、もう返事を聞くこともできそうにないこと。

 せめてちゃんとフラれないといけないのに、それすらできない。

 もう、目の前すら見えない、何も聞こえない。

 今にも死んでしまいそうだ、冗談抜きで。


 だけどまだ、口は開く。

 想いが溢れる。


 ほんとうに、どうしようもない。

 ほんとうに、どうしようもなく。


776 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/19(日) 21:45:29.72 ID:V1B7v2Wlo




「あなたのことが、好きです」




777 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/19(日) 21:46:29.30 ID:V1B7v2Wlo



 その言葉を、果たしてきちんと声に出せたのかすらわからぬまま。

 煙が解けるように静かに、鋼盾掬彦の意識はそこで途切れた。 


 地面に落ちてゆく彼を、小さな体で懸命に抱きとめた誰かがいたことなど知らぬままに。

 
778 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/19(日) 22:10:07.90 ID:V1B7v2Wlo





―――――――――――――――

ここまで!
なんか告白してた、びっくり!
後書き書くの忘れててまたびっくり!

さて、一応これにて最終戦、決着の運びとなります。
原作とはだいぶ違ったかんじになりましたが、いかがでしょうかね。

当初の予定では、記憶喪失になった上条さんをフォローする鋼盾くん的な展開でした。
でも、それじゃイカンなあと思ってしまったのですね、怖い怖い。

そろそろ、エンディングも近くなってきましたね。
よろしければラストまでお付き合い下さい。

779 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/19(日) 22:44:35.49 ID:53nno2GDO
乙。
780 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/20(月) 06:20:57.23 ID:5n0bhtrAo
乙!
781 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/20(月) 06:52:55.93 ID:7EUsAXyG0
782 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/20(月) 07:34:33.74 ID:Ybx8GdeIO
乙、


そして鋼盾よく言った。
783 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/08/20(月) 14:16:42.15 ID:PuGWNZFCo
784 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/20(月) 22:22:32.57 ID:seXAQROmo
785 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2012/08/20(月) 22:40:56.38 ID:Ss26Qfjdo
鋼盾テンパりすぎだろww
何がこうさせたのか続きに期待だわー。
786 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/20(月) 23:09:48.28 ID:sYveLNAPo
>>784
志村ー!
ID、IDーーーー!!
787 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/21(火) 02:06:10.75 ID:B9yLTkv2o
しっかり頼む。楽しみに待つ。乙。
788 : ◆FzAyW.Rdbg :2012/08/23(木) 22:04:58.96 ID:pf0ySfD+o
>>766-767

県予選に間に合うように春先から取り掛かって
腕に納得いくまでハーノヴァーで牌譜洗って
本日四校同時合宿、龍門渕高校でもとうとう
冷やし透華はじめました

思索重ねてる間、ともきーが同人活動に狂ったけど
冷やし透華はじめました

個人戦 妹尾がいっこずつで国士かまして多額の振込
冷やし透華はじめました

冷やし透華、一(はじめ)ました



……いやー、ひどい誤字もあったもんだぜ!
せっかく突っ込んでくれたのに読み飛ばしてました、>>767さんに感謝
その他のみなさんもコメント感謝です

あ、今日中に透華します
よろしくです


789 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/23(木) 22:47:59.14 ID:HBimldj10
ダヴァンがビビってイモひいてから一年、今年もあれが恋しくなる季節だな
790 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/23(木) 23:31:58.56 ID:pf0ySfD+o
では、行きましょうかね




そぉい!


――――――――――
791 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/23(木) 23:35:33.34 ID:pf0ySfD+o





 Dear Kikuhiko Koujun




792 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/23(木) 23:36:57.84 ID:pf0ySfD+o



 この手紙に君が目を通す頃には、僕らはその街にはいないだろう。

 せめて君が意識を取り戻すのを待ちたいところだけど、しかしそれは叶わないようだ。


 最大主教直々に、帰還命令が出た。

 首輪への干渉を感知したか、なんらかの手段を用いて見ていたのか。

 計算通りとでも言いたげな口調で、へらへらと命じてきやがった。


 女狐め。

 無視してやりたいところだが、そうもいかない。


 僕と神裂は英国で、もうひと勝負だ。

 それはあの子の未来のために必要な事だと信じている。

 ならば、僕らは僕らの為すべきを為す――君ならそうしろと言うだろう? 鋼盾。

 
793 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/23(木) 23:39:31.73 ID:pf0ySfD+o



 君が目を覚ますまでのインデックスの世話と、その他の後事はすべて土御門に任せてある。

 必要悪の教会きっての変わり者だが、あれで中々に優秀な男だ。

 その街では僕らよりよほど役に立つだろうから、精々コキ使ってやるといい。

 初代のパートナーを名乗るなら、その位はやってもらわないとね。


 あの後、インデックスの身体については僕と神裂とで調べてある。

 首輪の破壊を確認したよ、もうあの子が記憶を奪われることは、ない。

 上条当麻については、調べる機会を得ることは出来なかった。


 あの時、彼の身に何が起こったのか。

 インデックスの用いた魔術がどのようなものだったのか。

 幻想殺しとは、いかなるものだったのか。


 情けない話だが、僕らには皆目検討もつかない。

 君の言う、その街一番の医者に任せることしかできない。

 神裂ともども、せめて彼の為に祈ろうと思う。


 その身を賭してあの子を救った上条当麻。

 誰よりまっすぐに最善を尽くした鋼盾掬彦。

 きみらの献身に、僕らは最大限の敬意を払いたい。

 
794 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/23(木) 23:41:02.12 ID:pf0ySfD+o



 今回、僕らは徹頭徹尾無様で無知で無力だった。

 だけど僕は最強を謳った、神裂もそうだ、全てを救うと宣った。

 己が定めた魔法名だ、必ずや完遂する。


 誓おう、神父失格かもしれないが、誓う相手は神ではない。

 僕らの友情とあの子の未来にかけて、誓う。

 もう二度と、この誓いを裏切ることはない。
 


 きっと、君が僕らに望んだのは、これから先のことなんだろうと思う。

 インデックスの未来を護る、それこそが僕らの戦いだと君は言ってくれた。

 だから、それに応えたいと思う。


 脇役でもいい、ハッピーエンドを掴み取ろう。

 僕らは僕らの役をやる、だから君は君の役を張り通せ。


 どうせ苦難の道になる、だけどその道はきっと、あの子の笑顔で溢れているんだ

 ならばこの道を歩むことに、ひとつだって躊躇いはない。

 そうだろう? 鋼盾。


795 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/23(木) 23:43:01.49 ID:pf0ySfD+o



 インデックスは、君に預ける。

 その役は君にこそ相応しい、だれよりあの子を護り続けた鋼の盾である、君の役目だ。


 あの子を、助けてあげてくれ。

 僕らのヒロインを、支えてあげてくれ。


 状況が落ち着いたら、二人で君たちに会いに行くよ。

 良い報告ができればと思っている。


796 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/23(木) 23:43:32.21 ID:pf0ySfD+o




 あなた方の友人 ステイル=マグヌスより




797 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/23(木) 23:44:13.35 ID:pf0ySfD+o



 ps


 正直に言おう、僕は今、この手紙を燃やし尽くしたい衝動に駆られている。

 感情の赴くままにペンを走らせたせいで、相当に恥ずかしいことを書いてしまっていると思う。

 けれど、読み返すと確実に灰にしてしまいそうなので、さっさと封をしてしまうことにする。


 故に乱文だろうが、勘弁して欲しい。

 まったくもって、夜中に手紙など書くものではないと思う。


 この手紙を君が呼んでいるということは、僕がその葛藤を乗り越えたということだ。

 そのあたりを汲んでくれると嬉しい。


798 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/23(木) 23:45:00.36 ID:pf0ySfD+o


 どうせだから、もうひとつだけ恥ずかしい話をしておこうと思う。


 彼の家で、皆でシチューを食べたあの夜。

 僕と上条当麻は二人で、少しばかり雑談をした。


 今更言うまでもない事だが、僕にとっての上条当麻はやはり嫉妬の対象だ。

 ぼくは彼が憎らしいし、なにより羨ましくて仕方ない。


 そして彼にとっての僕は、自分を殺そうとした男であり、惚れた女を足蹴にした下衆だ。

 勝手に絶望し自暴自棄に八つ当たりに走った、唾棄すべき卑怯者だ。


 多分一生相容れないだろうと思っていたし、向こうも同様だったと思う。

 そんな僕らだけど、笑ってしまうくらい話が弾んだよ。


 話題は君の事だ。

 鋼盾掬彦、君についての話だよ――内容は内緒にしておこう。

 ひとつだけ言えるのは、上条当麻は意外と口が軽いということ。


 君を向こう一年は誂える、必殺のネタだ。

 あの子も知らない、鋼盾掬彦のとある面白エピソードだよ。

 この手紙に書かれた僕の乱文を忘れてくれるなら、僕もそれを忘れてやらなくもない。

 
799 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/23(木) 23:45:50.30 ID:pf0ySfD+o



 失礼、話が逸れた――何が言いたいかというと、僕らを繋いだのはやはり君だということだ。

 あのテーブルで僕らが食事を共にしたということ。

 大袈裟な物言いだが、僕はそれを奇跡のようだとすら思う。
 

 鋼盾掬彦、鋼の盾。

 君は僕らにとって、ステイル=マグヌスにとって、神裂火織にとって、上条当麻にとって。

 そしてだれより、インデックス―――彼女にとって。


 君こそが、ヒーローだった。

 紛うことなき、ヒーローだったんだ。


 そのことを、どうか忘れないで欲しい。

 僕はそう願っている、君にだってそれは否定させやしない。


 
800 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/23(木) 23:46:53.31 ID:pf0ySfD+o



 ここまで書いて、やっぱり恥ずかしすぎる事に気付いた。

 だけど書き直す時間もないので、証拠隠滅のためルーンを仕込んでおくことにする。

 よくある“この手紙は十秒後、自動的に消滅する”ってヤツだね。


 仕込んだルーンはステイル=マグヌスがオリジナルの逸品。

 昔あの子にせがまれて編み出した、僕のとっておきだ。



 楽しんでくれると、嬉しい。

 それでは――どうか火傷に気をつけて。




――――――――――


801 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/23(木) 23:47:58.64 ID:pf0ySfD+o



 七月二十八日午前十時、とある病院。

 その一室で、美しい炎の蝶が舞い、そして消えた。


 鋼盾掬彦と、冥土帰し。

 患者と医者が、それを見ていた。


802 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/23(木) 23:52:53.00 ID:pf0ySfD+o





――――――――――


ここまで!

今回はお手紙のみでした、夜中に手紙なんか書いちゃだめだよね!
ちなみに神裂さんも書こうとしていましたが、途中で恥ずかしくなってステイルに任せちゃいました


上条さんはどうなったのか
小萌先生はどうしてあの場所にいたのか

その辺は、次回ということで


では、さらばです!

803 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/08/24(金) 00:36:17.44 ID:6L7wTaZHo
乙!
コウやんの秘密が気になりすぎるww
さあ唐突な告白の返答やいかに!
804 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/24(金) 02:07:00.35 ID:IpqGV2m2o
おっつおっつ!
805 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/24(金) 03:04:36.25 ID:kCfhtT6po
次回も楽しみに待つ。乙。
806 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2012/08/24(金) 16:28:27.08 ID:dFGLAHGX0
繧医▲縺励c繧医▲縺励c
807 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/24(金) 19:40:59.41 ID:ZMJ/Zi0Lo
おちつけ
808 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/24(金) 19:50:47.53 ID:YbZCuCHro
コウやんの秘密……



もしかして > ヅラ

HAHAHA、まさかね
809 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2012/08/24(金) 20:02:11.34 ID:ysdERO6Ao
あー、締めに向かって行ってるのが寂しいなー。
グダグダして欲しいとは思わんけどもっと読んでいたい気持ち。
810 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/25(土) 16:51:06.61 ID:JM7KgBtZo
サンクス
811 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/25(土) 16:51:44.64 ID:JM7KgBtZo
ソーリー、誤爆だ
812 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/26(日) 21:01:33.21 ID:gbZTum6Ro
さあて、来るかな?
813 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/28(火) 01:45:30.67 ID:oIna4ojjo
眠れねえよう、眠れねえよう
明日五時起きなのに眠れねえよう(涙目)

どうも>>1です
開き直って投下します!
今回はちょっと短めです、すまぬ


いくぜ!


――――――――――
814 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/28(火) 01:46:43.83 ID:oIna4ojjo



 目を覚ますと、白い部屋にいた。

 鼻をつく消毒液の匂いに、ここが病室なのだと気づく。

 清潔に整えられたベッドに横たわっている己を、人事のように眺めていた。


 記憶に齟齬はない。

 倒れるその瞬間のことまで、はっきりと覚えている。


 月詠小萌の沈痛な表情を

 神裂火織の懸命な声を

 ステイル=マグヌスの悲痛な叫びを

 インデックスの首輪の砕ける音を


 上条当麻が、己に全てを託して崩れ倒れるその光景を、その重みを

 最後に彼が口にした、その言葉を

 それに応えた、己の言葉を


 覚えている

 忘れるわけが、ない


815 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/28(火) 01:48:40.25 ID:oIna4ojjo



 鋼盾は、腕に力を込めて上半身を持ち上げる。

 昨夜――でいいのだろうか、あの時彼を襲った原因不明の頭痛や吐き気は、既に去っていた。

 戦闘にも参加していない己は、もとより傷のひとつも負ってはいない。


 改めて室内を見渡す。 

 室内には彼以外の誰もおらず、ベッドはひとつだけ、つまりは個室だ。

 レースのカーテン越しに入る陽の光から、今が昼近いことを知る。

 時計は見当たらなかったが、枕元にある物置台には彼の携帯電話が置いてあった。


 手を伸ばし、鋼盾は携帯を開く。

 昨夜の決戦に備えて電源を切ってあったため、画面は暗いままだった。

 指紋認証で電源をONにすると、瞬時に待ち受けが表示された。


816 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/28(火) 01:50:11.63 ID:oIna4ojjo



 7/28 10:27

 新着メール 2件


 表示された時刻は午前十時半。

 あれから既に、約十時間が経過していた。


 あの時の、死にそうな頭痛から考えれば意外と早い復帰と言えるかもしれない。

 だけど、なにやら取り返しのつかない寝坊をしてしまったようにも思う。

 もう、すべてが終わってしまっているのだから、そんな事はあるわけもないのだけれど。


 あのあと、どうなったのか。

 上条は、インデックスは、小萌は、神裂は、ステイルは、土御門は。


 ぐちゃぐちゃと思考が絡まる、焦燥に脳髄が煮えてゆく。

 情緒が、ひどく不安定になっているのがわかる。


 そんな頭とは裏腹に、指はメールボックスを開こうとしている。

 それがなんとも滑稽で、腹立たくて、涙が出そうだった。

817 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/28(火) 01:54:05.98 ID:oIna4ojjo



 そのまま、数分間ほどそうしていただろうか

 コンコンと、部屋にノックの音が響いた。


 虚をつかれて返事を躊躇った鋼盾を他所に、数秒を待って扉が開く。

 入ってきたのは見覚えのある初老の医師、白衣の名札にカエルのキャラシール。


「――やあ、また会ったね?」
 

 少しばかり呆れを滲ませて、それでも穏やかなその口調。

 どうせカウンセリングだって一流に違いない、その男。


「やっぱり倒れたね―――まったく、医者の言うことは聞いとくものだよ?」


 患者に安心感を与える声は、一種の才能だろうと思う。

 それだけで、ぐらついていた心が落ち着きを取り戻した。

 自然と背筋が伸び、声も出た。


「……ご迷惑をおかけしてばかりで、ほんとすいません、先生」

「かまわないけどね? ―――体調は?」

「大丈夫、です」 

「結構……じゃ、問診かな?
 ああ―――その前に、お友達から手紙を預かってるんだけどね?」


 二つ名を、冥土返し。

 ここ数日世話になりっぱなしの、この街で一番の医師がいた。

 その手に炎の魔術師がしたためた、一通の手紙を携えて。



――――――――――
818 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/28(火) 01:56:27.64 ID:oIna4ojjo



 そして、病室に炎の蝶が舞う。

 幼虫も蛹も知らぬ、美しいだけの赤い蝶。


 儚く踊り、そして散る。

 灰すら残さず、空気に溶ける。


 感情を乗せた手紙は、それを読んだ人間の胸に炎を宿らせる。

 その火の光と熱は、きっと前へと進む力になる。


 ステイル=マグヌスとっておきの秘術は、その名に恥じぬ優美な術式であった。

 インデックスに見せる事ができなかったことを、鋼盾は忌憚なくに残念に思った。


 ステイルと、神裂。

 親愛なる友人たちは、次の戦いへと歩き出している。

 ならば、己もまた次の戦いへ臨まねばならない。



 ぼくらの交わした約束は

 きっとそういうものだったから


819 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/28(火) 01:57:22.38 ID:oIna4ojjo



「……なかなか、ロマンティックな手品だね?
 とは言え……病室は、火気厳禁なんだけどね?」


 しかし、しかしである。

 ここが病室という点や、人目に触れる可能性にも考慮して欲しかったとも思う。


 案の定、冥土返しから賞賛と苦言と溜息が来た。

 ごもっともすぎて、頭を下げるしかない。


「―――すみませんでした、先生。
 手紙の送り主によく言い聞かせておきます」

「頼むよ?
 ―――さて、それじゃ説明といこうかな?」

「お願い、します」


 思わず佇まいを正す鋼盾。

 魔術について語れぬ以上、幾つか嘘を吐かねばならない可能性があった。

 土御門のようなスキルは己にはないのだ、油断せずゆかねば。


820 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/28(火) 02:00:03.72 ID:oIna4ojjo



「検査の結果、別段これといった原因はみつからなかったんだね?
 身体は健康そのもの、入院の必要もない――落ち着いたら、帰っていいよ?」

「―――そりゃ、よかったです」

「連日いろいろと走り回ってたみたいだし、その疲れがでたのかもしれないね?
 ニ、三日は無理をせずゆっくり休みなさい―――これは絶対……いいね?」

「はい」
 

 鋼盾はその言葉を受け、素直に頷いた。

 やらなくてはいけないことは山積しているが、時間の制限はない。

 タイムリミットに囚われ続けたこの数日間は、やはり異常だったと今更ながらに思う。


「君は昨晩、学生寮の自室で突然倒れた。原因は不明との話だったね?
 運んでくれたのは君の友人だという赤毛の少年だ、さっきの手紙の彼だね?
 ―――覚えてるかな? 昨晩のことは?」

「……はい、覚えています」


 覚えている。

 が、鋼盾が倒れたのは、学生寮の屋上である。


 わざわざ深夜に屋上に上がる理由も説明できない以上、無難な改変だろう。

 ボロボロの屋上には、とりあえず人払いと視認阻害の術式でもかけておけばいい。


 だが、

 そうなるとひとつ、大きな問題があった。


821 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/28(火) 02:03:32.78 ID:oIna4ojjo



「……そして、君が運び込まれる二〇分ほど前に、同じ学生寮からもうひとり運ばれているね?」


 そう、倒れたのは二人

 同じ時間帯に、同じ学生寮で倒れた二人の少年が、同じ病院へと担ぎ込まれた。

 それをただの偶然と思うような人間は、いないだろう。


「こちらは、黒髪の娘さんが抱きかかえてきたね、ぼくの名刺を持っていたよ?
 患者……上条当麻くんをこちらに託して、煙のように消えてしまった」

「………………」


 そう、問題は上条の昏倒について、だ。

 その名刺は己が託したものだと、冥土返しなら気付いていることだろう。


 なんと答えたものか、一瞬口ごもる鋼盾。

 だが、それを尻目に冥土返しの説明は続く。

 なにも言わなくていいと、その目が言っていた。


「上条当麻くんは意識不明。
 思いつく限りの方法でデータを取ったが、身体は健康体だね?」

 
 身体は、健康体。

 あくまで身体「は」だ。


 件の“ディエモンフラントの約束”

 あれは、直接的な攻撃魔術には見えなかった


822 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/28(火) 02:06:46.71 ID:oIna4ojjo



「だが……幾つかの数値が、あり得ない値を示していてね?
 ―――率直に言うとね、何も知らない医師がこの検査結果を見せられたら
 彼が人間だとは思わないんじゃないかな?」

 
 そう、人間ではない

 外からではなく、内から―――いや、今はいい
 
 そんな事は、本当にどうでもいい


 聞かなくてはいけないのは

 そう


「―――彼は、上条くんは、今」

「……今は、別室で経過観察中だね?
 今この瞬間に目覚めても、おかしくない―――だけど」


 この先、ずっと目覚めなくてもまた、おかしくはない。

 後に続く言葉はきっと、そういうものだった。

 だから、鋼盾は言葉を差し挟む。
 

 石版に刻むように、強く

 想いと願いを、口にする


823 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/28(火) 02:07:36.39 ID:oIna4ojjo



「上条くんは、目を覚まします」

「……ふむ?」
 


 “七月二十八日、俺たちは何かを喪う”

 “予知はそこまで――だけどその先だって続くんだ。
  ならさ――その先はおまえに決めてもらおうじゃねえか、鋼盾”

 “言ってみろよ、鋼盾。
  おまえがこれから言うことは全部、ホントになるから”


 無責任で、自分勝手な未来予知。

 あれを諦めることなんて、あるわけがない。


824 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/28(火) 02:11:12.08 ID:oIna4ojjo


「アイツは、帰ってくる。そう約束、しましたから。
 それに――先生の患者ですからね」


 死の淵に立つ人間を、この世へと繋ぎ止める医師。

 ゆえに“冥土帰し”―――だから、上条当麻が死ぬわけが、ない。

 鋼盾のそんな言葉に、冥土返しが小さく笑う。


「ふむ……そのとおりだね?
 これは自慢話なんだけどね? 僕は患者を死なせたことがないんだよ?」

「そりゃ、伝説ですね」

「伝説にするには早すぎるね?
 僕が最初に死なせるのは、僕自身にする―――それで、伝説だね?」

「語り継ぎます」


 伝説すぎる、なんだそれは。

 そりゃ、冥土帰しなんて言われるわけだ、とんでもない。

 ヘヴンキャンセラーとか超クール、イマジンブレーカー? 出直してきやがれ。


 さっさと返ってきやがれ、馬鹿野郎。


825 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/28(火) 02:14:56.43 ID:oIna4ojjo



「僕としては語り部より、跡継ぎの方が欲しいところなんだけどね?
 まだまだ死ねないし、まだまだ救う―――もちろん君の友人も、だね?」


 挑むは生命、理不尽の極み

 不敵に笑う、医の巨人


「あるいは、長期戦になるかもしれないね?
 だけど、約束しよう―――必ず、彼を救ってみせる」

「――おねがいします、先生」


 

 強いということは、どういうことか

 覚悟というものは、どういうことか

 戦うということは、どういうことか


 きっと

 ひとつの答えが、そこにはあった



――――――――――
826 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/28(火) 02:18:43.04 ID:oIna4ojjo



ここまで!
こんな時間の更新でスマなんだ
もう寝ないもんね、コーヒー飲んだるぜ

冥土帰し先生回でしたね、誰得
口調がゲシュタルト崩壊するぜ


小萌先生は、出ませんでした
次回でますので、勘弁です


それでは、また次回
827 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/08/28(火) 03:40:39.81 ID:UHOA64Xto
投下乙!
一瞬手紙の炎で気絶したのかと思った
828 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/28(火) 10:44:49.16 ID:2dRkcMTco
乙。マジ楽しみなんだ。待つ。
829 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2012/08/28(火) 17:56:34.19 ID:/X8W5Z5k0
830 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/28(火) 21:33:19.97 ID:9x5lJkTY0
乙です。カエル先生マジ医の巨人。
しかし余韻深いクライマックスだというのに、“ディエモンフラントの約束” の文字を見るたびに頬が引き攣いてしまうのはこれ如何に。
831 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/28(火) 21:58:58.34 ID:zDWigzBDO
とうとう追い付いたでござる
面白くてここ数日寝不足でそろそろ倒れそうだったぜ
832 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/08/28(火) 23:59:03.43 ID:oIna4ojjo
アカン、返と帰のミスが多すぎる……!
やっちまったぜー!>>1です

あ、ちょっと相談いいでしょうか
お察しのとおり、本作はあと数回の投下でエンディングとなります
具体的には4回といったところでしょうか(多分)

それだけならこのスレにギリギリ収まりそうなのですが
以前何処かで予告した通り、エピローグ&伏線回収的な掌編をいくつか予定しています
そうなると確実に次レスに入っちゃうわけでして

個人的に、本編完了してるのに番外編のためにだけスレを建てる、というのはどうかと思うのですね
ですので次回投下をもって、このスレを閉じてしまうのも手かなと考えました
次のスレは、ラスト三回と番外編という感じでいきたいのです、このスレ余ってしまって勿体無いけど

それでいいかな?
ダメなら言ってください、なんか良い提案とかもあれば是非


あ、みなさんコメント感謝です
常連さんもご新規さんも、よろしければ最後までお付き合いください
833 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/08/29(水) 01:06:37.79 ID:UWojX/ljo
せっかく木山先生とつながりあるんだし、この後超電磁砲メンバーと会う話もあるんだろうし、
ここを普通に使い切って次スレで番外編から乱雑開放編突入というのはどうだろうか!

と思ったけど、ここの>>1はアニメの方はちょっとしか見てないんだっけ?
834 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/29(水) 03:29:29.48 ID:Z81bATYQo
しっかり書ききってほしい。次スレ賛成。
835 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2012/08/29(水) 07:06:10.57 ID:f1oNu7f8o
最後までの投下数の目処が立ってるならスレを使い切る必要はないと思う。
このスレと次スレの比率が10:3から8:5になったところで何も変わらんというか。
なのであんま気にしなくていいと思うぜー。
836 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/08/29(水) 13:05:33.72 ID:Ij/WlSLz0
投下しやすい方法でどうぞ
がんばれ


ーーーさあ、余った150レスの使い方について話しあおうか!
837 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/08/29(水) 14:13:44.74 ID:k6xi9zqyo
もう今更だから誤字には突っ込まないぜ!
838 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/08/29(水) 14:56:34.28 ID:SyPqZ95a0
やっぱ冥土帰し最高っ!! 上条さん、大暴れしなくよかったな。
もし暴れていたら、ウルトラマンマックスのイフや魔デウスのようにどうしようもなかったかも。
839 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/29(水) 18:34:36.48 ID:3PE8Ll5IO
>>613
禁煙脱出ってのも変な話だよなwww

心遣いに感謝、借金はあんま減ってないけど
煙草銭の確保はどうにかなってるよ
840 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/29(水) 18:35:03.53 ID:3PE8Ll5IO
>>839
誤爆 すんません
841 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/29(水) 20:22:55.74 ID:wacbUV0a0
誰か例のAAを
842 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山形県) [sage]:2012/08/29(水) 21:57:48.94 ID:nwtwUfjUo
    殺 伐 と し た ス レ に 初 春 が ! !
          i'⌒!        _i⌒)-、
          f゙'ー'l       ( _,O 、.ノ
          |   |       /廴人__)ヽ      _/\/\/\/|_
         ノ   "' ゝ   /  ,ォ ≠ミ   ',     \          /
        /       "ゝノ   {_ヒri}゙   }     <  サテンサン!! >
        /               ̄´    ',     /          \
       i   打ち止め     {ニニニィ    i     ̄|/\/\/\/ ̄ 
      /               ∨    }    i 
      i'    /、          ゙こ三/   ,i
      い _/  `-、.,,     、_       i 
     /' /     _/  \`i   "   /゙   ./ 
    (,,/     , '  _,,-'" i  ヾi__,,,...--t'"  ,| 
         ,/ /     \  ヽ、   i  | 
         (、,,/       〉、 、,}    |  .i 
                  `` `     ! 、、\ 
                         !、_n_,〉>
   _ノ ̄,/ / ̄/  /'''7 / ̄ ̄/ /77        / ̄ ̄ ̄/ / ̄ ̄ ̄/
/ ̄  /   ̄  /  / /  ̄ ̄ ̄ /'ー'/' 7'7./''7 / / ̄/ /  ̄ .フ / 
 ̄/ /   ____.ノ  /  ̄_7 / ̄   _'__,'ノ / ー'  / /  __/  (___
 /__/  /______ /  /.__ ノ     /____,./    /__ノ /___,.ノゝ_/
843 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/29(水) 22:17:31.05 ID:kEAPD3vsP
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       `i::|  弋ー' 〉    ヾー '   |::!/
        、|    ̄   |         |/-――-
           i     ,. !. ヽ      |.:.:.:.:.:.:.:.:.:       あなたのことが、好きです
          /|      `ー‐ '      /.:.:.:.:.:.:.:.:.:
        | 、    、_-_ .,    /|.:.:.:.:.:.:.:.:.:
        _/:.:.:.:\   、 __ ノ   / |.:.:.:.:.:.:.:.:.:
     /.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:、 _ __  /   |.:.:.:.:.:.:.:.:.:
    /.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:、      |.:.:.:.:.:.:.:.:.:
    /.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.` 、  |.:.:.:.:.:.:.:.:.:
844 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/29(水) 22:45:03.63 ID:HasKtMC5o
        i!
          ト、 ト.ト、
      _≧ヽ`ヾヽ!:::::レ'レィ
      \::::::::::::::::::::::::::::<_
      ∠´/::::::::::::::::::::::::::<_,.
      _乂:::/:::/::::,.、:,..::::::<_
      `7从乂〃o゜:>く〃
      /::::::::ヽ、:::::,.ィ升::::\i!
  !  v'ニミ>'´:{ ̄`ヽ┐':::/:,イ
   V:::::/´::::::::::::>勺ノノ:/::::::|
   ≧=≦ニ彡'///:::::::::/:::::|
   三:::::::::::::/::::::::/:::::::::∧:::::| i!
    彡〃/」:::::::::∧:::::,.イ|::::|i!    「――uolnf※※ldkf」
       ´〃川N::|:::::::::ハ|::::::|
      /::::::::/∧:::::::::::|:::::::| /
      `ァ-<::::::::::ヽ:::::::|:::::::|〃
      i!/::::::::::::> <`ート、__j
     V::::::::::::/    ヽ:::u、::::L_
     V:::::::::::/      \::ヽ〉ヘ〉
     /::::::::::/        |::::::::::i!
   /::::::/:/       /  ̄ ̄ ̄``ヽ、     ヽ
   /::::::':::i       (    V / i     ` 、__,. >
   |:::::::::/        \   V /|      ヾ.__ヽ、
.  |::::::,イ  二><  '´ ̄   V  !         ==
  |::::::!::|     ,、  -     ∧ ヽ
  .|::::::::::|    < | \へ`ー――>――‐- 、
\|ー',.イ≧ユ_ `´―ー= ̄ ゝ   `     ヽ.
  \:ミx___/ /   ><><      <、
   )〈≠≡∠__/    /         `
  /'´ \__ 二=―  (_
845 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/08/30(木) 22:50:19.58 ID:T3gCay180
追いついた!
面白いなー
846 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/30(木) 23:09:22.74 ID:PyIUTJj1o
>>842のAAってなんなの?
847 : 【吉】 [sage]:2012/09/01(土) 19:33:54.12 ID:Zs9rMAWKo
当たるも八卦当たらぬも八卦
848 : ◆FzAyW.Rdbg :2012/09/01(土) 19:52:16.31 ID:Zs9rMAWKo
あ、どうも>>1です、おみくじは吉でした
できれば今晩投下に来たいですが、まだ半分しかかけてない
遅い時間になっちゃうかもですが、よろしければお付き合いください

>>845 追いついてくれてありがとう、ずっとあなたを待ってた

エピローグはとりあえず

「Dedicatus」ローラ、ステイル
「窓のないビル」アレイスター、土御門
「超電磁お茶会」4人娘

の三本を考えておりますが、予定は未定
よければ安価かアンケでもとって、もう一本くらい書こうかなと思いますです

んでは、後ほど
849 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/01(土) 20:26:08.67 ID:oCQG23ADO
このスレで舞うのもそろそろ終わりかと思うと感慨深い


舞ってる
850 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/01(土) 20:30:39.80 ID:60n/+Zk0o
>>849
優雅だな
851 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2012/09/01(土) 21:35:43.27 ID:saNzCKd40
ソーランソーラン!
852 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/09/02(日) 00:47:27.33 ID:2qjZCeR/o
ヤサエーエンヤーンサノ ドッコイショ
(ハァドッコイショ ドッコイショ)


投下します!

ソーランソーラン!!




――――――――――
853 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/09/02(日) 00:49:23.35 ID:2qjZCeR/o



 冥土帰しが去ると、それと入れ替わるかのようにノックの音が響いた。

 鋼盾が「どうぞ」と声をかけると、一拍おいて扉が開いた。


 現れたのは、月詠小萌。

 担任教師で、倒れる前、最後に会った人だった。


「……失礼するのです、鋼盾ちゃん」

「……ああ、先生。
 おはようございます」

「もう、お昼近くですけどねー」


 小萌はトタトタと歩み寄ると、備え付けの椅子に腰を下ろす。

 一睡もしていないのかもしれない、その表情には、色濃い疲労の色が浮かんでいる。

 ほんの少しだけど、煙草の匂いもした。


 懐かしさすら覚える、その匂い。

 否応なしに、あの夜を思い出す


 自宅と職員室以外で吸ったりはしないのですよ、と言っていた彼女。

 己に課していたその禁を、律儀なこの人が破ったということ。

 そのことだけで、小萌がいかに張り詰めた思いでこの一晩を過ごしたのかが判ってしまう気がした。


 昨夜、彼女は見たのだ。

 上条当麻が、鋼盾掬彦が倒れる様を。

 無秩序に破壊された屋上を、異能を操る魔術師の存在を。


「……昨晩、上条ちゃんからメールを貰っていたのです」


 彼女が昨夜、なぜあそこにいたのか

 深夜零時に教え子の学生寮に、一体なぜ彼女は来たのか。

 来なければ、ならなかったのか。


 その答えが今、彼女の口から零れ落ちる。

 
854 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/09/02(日) 00:50:51.61 ID:2qjZCeR/o



「一昨日の夜に、シスターちゃんと番号を交換した時ですねー。
 上条ちゃんに、メールアドレスを聞かれまして」


 あの、夕食会の時のことだ。

 上条がインデックスに買ってもらった携帯を、皆にお披露目した一幕。

 皆がその携帯に、己の名前や電話番号を打ち込んでゆくさまを、嬉しげに眺めていたインデックス。

 その時に、他のメンバー間でも番号交換の遣り取りがあったのを覚えている。


「先生は電話のほうが好きなのですが、上条ちゃんが是非メールもと言いまして。
 ……まあ、メールの方が伝えやすい事もありますからねー」


 口にすることができなくても、文字でなら伝えることができる事もある。

 月詠小萌はそう口にすると、カバンから携帯を取り出し、鋼盾へと向けて開いた。


「貰ったメールは、二通。ひとつめは、感謝のメールでした。
 昨日の夜、九時くらいでしたか……来てくれて、ありがとうって」


 画面に表示されていたのは、簡素なメール。

 要約すれば“今日はありがとうございました”“次も呼びますので是非”で終わる、そんな内容だった。


 二十一時。丁度鋼盾が自宅で仮眠をとっていたタイミングだ。

 その隙を縫って、彼はそんなメールを送っていたという。

 それについては、なにもおかしな点はない。


855 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/09/02(日) 00:51:36.92 ID:2qjZCeR/o



「……そしてふたつめ……これは、なんなんでしょうね。
 深夜、日付が変わる寸前のメールです、内容もひどく唐突でした」
 

 そう言って、小萌は携帯を操作し、再び鋼盾に画面を見せる。

 送信時刻は二十三時五十分――つまり、インデックスの解呪を行う寸前だ。


 屋上への集合が二十三時半、施術開始が零時ジャスト。

 作戦の最終確認はほんの数分で終わってしまって、そのあとは思い思いに待機していた。

 周到にルーンを刻み続けるステイルに、瞑目し気を練り研ぎ澄ます神裂。

 そう言えば確かに、あの時上条当麻は携帯電話を操作していた。


 あの状況で、彼がわざわざ送ったメール。

 その内容は小萌の言うとおり、なんとも唐突なものだった。


856 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/09/02(日) 00:52:20.80 ID:2qjZCeR/o



 “何も聞かずに、鋼盾を支えてあげて下さい”
  
 “アイツはひとりじゃ無理しちゃいそうですから、どうか先生が”

 “その役目は、どうやら俺には無理そうですので”

 “お願いします”

 “あの馬鹿の、力になってあげて下さい”
 

 そんな、ただ鋼盾掬彦への助力を乞う、そんな文面。

 それは、まるで―――


857 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/09/02(日) 00:53:14.41 ID:2qjZCeR/o



「……遺書のようだと、思いました。
 ―――というのは大袈裟ですかね……でも、どうしようもなく不安になってしまったのです」


 そう、遺書だ。

 自分はここまでだから、せめて。

 その先を歩む者たちに、未来を目指す激励を。

 餞を。


 そのメールと、昨夜の上条が浮かべていた表情が重なる。

 絶望の未来を突き付けられて、それでも一歩も退かなかった男の顔が。


「慌てて返したメールに返信はなし、通話してみても電源は切られていまして……。
 ……気付いたら、ふたりの家に足が向いていました」
 

 非常識かな、とは思ったのですけどねー、と小萌は呟く。

 夜道を不安に駆られながらひた走る、そんな姿が脳裏に浮かぶ。


「……ですが、上条ちゃんの家も鋼盾ちゃんの家も、どちらも不在。
 パーティーの席で、神裂さんが話してた内容を思い出して屋上を目指したのですが……
 どうしてか、わたしは屋上への行き方を思い出せませんでした」
 

 人払いの、魔術。

 それが仕掛けられている以上、小萌が屋上に辿り着くことはありえない。
 

「……半ばパニックになっていたと思います、でも、しばらくすると唐突に思い出しました。
 非常階段を上がればいいだけ、そんな当たり前の事だったのですけどね」


 しかし、盤石を誇るはずのステイル=マグヌスの結界は。

 埒外の右手によって、龍脈から引き剥がされてその効果を喪った。

 結果、人払いの術式もその効果を打ち消される。


 異常が跋扈した、あの屋上。

 そこを目指す小萌を、止めるものなどありはしない。


「そこで、私は―――上条ちゃんが倒れる所を、見ました」


 そして、彼女は。

 とある終焉を、目撃する羽目になったのだ。


858 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/09/02(日) 00:55:05.71 ID:2qjZCeR/o



「……それから、鋼盾ちゃんも倒れて。途方に暮れているところに、あの二人が帰ってきて。
 そこから記憶は途切れています、気づいたら明け方で、病院の待合室に立ち尽くしてました」


 暗示、だろうか。

 いっそ記憶を消してくれれば―――いや、それは言うまい。

 彼らに記憶消去を罪と突きつけたのは、他ならぬ自分だ。


「……上条ちゃんの昏睡は“不幸にも階段から足を滑らせた事故”として処理されています。
 必要なあらゆる手続きも、既に済んでいるみたいなのです。ありえないスピードで」


 担任教師(わたし)の判子が必要な書類も、あった筈なのですがと小萌は眉根を寄せる。

 入院手続きや統括理事会、関係機関への報告全てが、既に済んでいたとの事だ。


「……つまり、横車を押した人間がいるということに、なるのです」


 土御門の言う“上”、あるいは土御門自身がそのような処置を取ったのだろう。

 それは取りも直さず、自分たちがそれの掌の上にあることを意味する。


 学園都市の手は長く、速い。

 今更ではあるが、改めて鋼盾はそれを思い知る。


 まったくもって、ひどい話だ。

 溜息すら、でない。


859 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/09/02(日) 00:56:29.50 ID:2qjZCeR/o



「この件には大人が――この街の上層部が、絡んでいる。
 ―――そうなのですね? 鋼盾ちゃん」

「……はい」


 逃げられない。

 いや、もう逃げる必要がない。


 鋼盾は小萌を真っ直ぐに見つめ、言葉を探した。

 どこから説明すべきかといえば、やはりここからになるだろう。


「魔術と呼ばれる、能力……学園都市とは違った異能が、この世界にはあります」

「……ええ、先生も見ました。あれが、魔術なのですね?
 シスターちゃんが怪我を治したのも、ボロボロの屋上も、神裂さんたちが空を飛んだのも」


 死に至る傷を塞ぐ、天使の指先。

 頑健なコンクリートに残された、バリエーションに富んだ破壊の爪痕。

 常人には有り得ぬ、並外れた身体能力。


 その、いずれもが、

 学園都市ではありえない、魔術なる秘儀。


「はい、インデックスが―――ぼくらが関わっているのは、そういうものです。
 魔術を操るその勢力は、学園都市の上層部とも繋がりを持っているみたいで」

「……この街の闇は、深い。
 黄泉川先生から聞いてはいましたが――そんな、ことが」


 鋼盾が木山春生の一件でその闇の一端に触れたように、小萌もまたその片鱗を知り得ていた。

 この街は、ひどく歪だ―――それは知っている。


 だが、それでも。

 それは彼女にとって、受け容れ難い事実だった。


860 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/09/02(日) 00:58:17.56 ID:2qjZCeR/o



「……ありえない、いえ、あってはいけないことです」

「……ありえないなんて、ありえない。
 あってはいけないことなんて、ありふれてます」

「……ッ」


 そんな小萌の反応を、教え子は一言で切って捨てた。

 彼はこの一週間、そういうものを相手取っていたのだから。


「――インデックスには、呪いが掛けられていました」


 首輪。

 一年ごとに記憶を消去せねば、宿主を狂死させる呪い。

 少女から、全てを奪う、その理不尽。


 まさにそれはありえないこと、あってはいけない事だった。

 世界の裏側で、いいように食い散らかされている少女がいた。


 ぼくらはそれを、知ってしまった。

 それを知らずにいればよかったなんて、もう思えない。


「ひどい、呪いでした。
 ぼくらはそれを、許せなかった」


 許すわけには、いかなかった。

 どんなに敵が強大でも、それだけは譲れなかった。


「上条くんは、自分が倒れることを承知で、その右手でインデックスに掛けられた魔術を解いた。
 ……その代償に、今は眠りについています」


 もうなにひとつとして奪わせやしない、そう誓った。

 あの再会の日、奇しくも眼前のあなたの部屋で、ぼくらは誓った。


「この結末は、予言されていました。
 ぼくらは勝利する、だけど、かけがえの無いものを喪うって」

「――未来、予知」

「……はい」


 絶望の予言があった。

 喪失の予言があった。

 完全無欠のハッピーエンドなんて、ありえないと言われた。

 代償を払うハメになる、それは知っていた。


861 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/09/02(日) 01:00:32.11 ID:2qjZCeR/o



「―――でも、それでも。
 それでもぼくらは、勝つことを選びました。
 選択肢なんてなかったですけど、それでも選んだ」


 避け得ぬ喪失を、受け入れて。

 その先の未来のために、素敵な悪足掻きを。


 上条当麻が、昨夜の鋼盾との会話のあとにあんなメールを送ったのは、

 倒れるのは己と知っていたからだ、だけどそれでも彼は止まらなかった。

 想いを託して、為すべきを為した。


 鋼盾は、ポケットから携帯を取り出し、開く。

 上条が小萌にメールを送っていたという話を聞いたときから、なんとなく予感があった。


 新着メールは、二件。

 最新のメールは、午前九時ジャスト、土御門元春からのもの。

 そして、もうひとつは昨日の二十三時五十二分、上条当麻からのものだった。


「“鋼の盾は、砕けない”
  ――普段は筆不精なくせに、こんな時だけ周到な事です」


 短く、一文のみ。

 餞の言葉は、彼の理想そのものだった。


 その言葉に応えないことなんて、できるはずもなかった。


862 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/09/02(日) 01:04:38.22 ID:2qjZCeR/o



「……顛末は、だいたいそんな感じでしょうか。
 もうあの子の記憶が奪われることはなくなりました。
 ―――上条くんも、すぐに帰ってきます」

「……そうですか、ありがとうなのです、鋼盾ちゃん」

「……いえ、すみませんでした。
 一番心配してくれた先生に、なにも話せなかった」


 話す機会は、何度もあった。

 小萌自身が、何度も水を向けてくれていた。

 だけど、鋼盾の中の何かが、それを拒んだ。


「ほんとうに、身勝手でしたけど。
 それでも、先生だけは巻き込みたくなかった」


 失いたくなかったし、迷惑を掛けたくなかった。

 カッコ悪い所を見せたくなかった、とっくに今更ではあるけれど。


 我ながらどうしようもないことだと鋼盾は思う。

 薄っぺらいにも程がある、はっきりいってばかみたいだ。


 でも、それでも。

 好きな人の前くらいでは、カッコつけてみたかったのだ。


863 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/09/02(日) 01:05:35.07 ID:2qjZCeR/o



「先生には、たくさん助けてもらいましたから。
 ―――いつか、恩返しができたらいいって思ってました」

「…………」


 どれほど彼女に助けられただろう、救われただろう。

 この一週間だけではない、四月の入学式からこちら、一体どれほどの恩があるだろう。


「返しきれるわけないから、その分は他の誰かを助けたりして。
 もう大丈夫だって言ってもらえるように。褒めてもらえるように。
 認めてもらえるように――できれば、生徒としてじゃなくて、ひとりの人間として」


 それは、鋼盾掬彦の夢。

 ぼくは、ずっとそんな事ばかり考えてたんです、と鋼盾は笑う。


「能力なんか、なくても。ぼくなんかでも。
 この街で―――ちゃんと幸せになれるって、見せたかった」


 この街は、能力至上主義の街。

 その街で、無能力者の己はずっと地べたを舐めていた。


 それでも、なにも得られなかったわけではないのだ。

 この街で生きていたいと、そう思えるくらいには。

 
 得難い出会いがあった、尊敬のできる人がいた。

 蜘蛛の糸を掴み損ねた自分にも、手を差し伸べてくれる人がいた。


 だから。

 いつか、自分も。

 手を差し伸べる側の人間に、なろうと決めた。


864 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/09/02(日) 01:07:12.34 ID:2qjZCeR/o



「将来は―――学校の先生に、なりたい、なんて、思ったりしてたんです。
 ぼくみたいなのが、誰に何を教えられる自信なんてないんですけど」


 幻想御手事件が解決した翌朝の事を思い出す。

 あの日、黄泉川の先輩だという警備員に将来の夢はあるかと聞かれ、そう答えた。

 未来の事なんて碌に考えてもいなかったくせに、そんな言葉が零れた。


「ちゃんと勉強して、大学にも行って、大人になって。
 ―――先生みたいな先生になって、ぼくみたいなヤツらを助けてあげたいって」


 月詠小萌のように、黄泉川愛穂のように、木山春生のように

 災誤や親船、鉄装、名も知らぬ警備員たちのように


 彼らのように、なりたかった。

 そんな、夢をみていた。


「だけど、それは諦めることにしました」

「……っ! なんでなのですか。
 諦める理由なんてないのです、なればいい! めざせばいい!
 あなたなら―――鋼盾ちゃんなら、絶対に―――――!」


 小萌が、炎のように言葉を放った。

 諦める理由など無い、在るわけがない、ないのだと。

 泣き出しそうなほどまっすぐに、真摯に。


 しかし、それを受けてなお。

 鋼盾の答えは変わらなかった。


「……わかっちゃったんです、いろいろ。
 ぼくは、先生みたいにはなれない」


 この一週間、いろいろなものを切り捨ててきた。

 いろいろな人間を、巻き込んできた。

 自分がどれほど悪意に塗れた人間か、嫌というほど突き付けられた。


 きっと己は、どこまでいっても。

 正しくなんて、なれないと知った。


865 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/09/02(日) 01:09:38.94 ID:2qjZCeR/o



「それでも、やるべきことができました。やりたいことが、できました。
 ……先生は無理だって言ってたけど、ぼくは鋼の盾になるつもりです」


 ほんの数日前、病院で説教を受けた時だったか。

 彼女はそれを無理だと言った、無茶だと言った。


 それは、きっと事実だ。


 だけど、足を止める理由にはなりえない。

 無理も無茶も無謀も超えて、ぼくらは今を掴んだのだから。


866 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/09/02(日) 01:10:25.97 ID:2qjZCeR/o



「そう、なのですか。
 ……先生との約束は、全部破っていくわけなのですね」

「そうなります、ね。
 ―――ごめんなさい、先生」

「謝らないで下さい。
 ……シスターちゃんを掬い上げろといったのは先生です。
 ふたりは、それを成し遂げました」


 それは、きっと正しい事だと。

 月詠小萌はそう思う、胸に渦巻くあらゆる感情を棚置きして、それを認める。


 彼らは、彼女の教え子は。

 女の子を救うために立ち上がり勝利を掴んだのだと。

 ……否。

 
「―――いえ、まだ終わってないのですね」

「……はい、はじまったばっかりなんです。
 多分、長期戦になるんじゃないかと思います」


 鋼盾は思う、この状況は、とりあえず時間を稼いだだけ。

 インデックスの記憶が消えない、それはひとつの勝利ではあるだろう。

 だが、それだけでは足りないのだ。

 まったく、足りていない。


 望むのは、インデックスの幸せな未来だ。

 それを阻むものを、すべて潰す。


「それに、勝つと決めました。
 ―――他で全部負けてもいいから、勝ちたい」


 何年かかってもいい、ありとあらゆる手段をもって、それを成す。

 誰も彼もを巻き込んで、それを成す。


 それが、上条当麻と鋼盾掬彦が望んだ戦いだった。

 ステイルも神裂も土御門も、既に先へと進んでいる。

 ならば、己もここで歩みを止めるわけがない。


867 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/09/02(日) 01:11:22.68 ID:2qjZCeR/o



「……まったく、教師というのは因果な仕事です。
 誰も彼も、みんな卒業していってしまうんですから」


 置いてきぼりですねー、と。

 寂しそうに小萌は呟き、目を伏せる。


 目覚しい成長を遂げる教え子たちは、いつも手の届かないところへ行ってしまい。

 見送るばかりの己は、既に成長をやめてしまったかのようだ。


 歳を取ったと、そう思う。

 身体はいつまでたっても育たぬくせに、心はやはりくたびれてくる。


 目の前の少年と、同い年だったらよかったのにな、と小萌は思う。

 もしそうだったなら、共に闘うことができたかもしれない。

 未来を歩んでゆく道があったかもしれない。


 だけど。

 それでも、それでも。


「―――わたしにだって、意地があります」


 鋼盾に聞こえぬように、口中で小さく言葉を紡ぐ。

 彼らに彼らの戦いがあるように、月詠小萌にも譲れない戦いがある。

 
868 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/09/02(日) 01:13:01.11 ID:2qjZCeR/o



「鋼盾ちゃん」

「はい」

「先生にとって、貴方は教え子です」

「はい」


 昨夜の、届いたかどうかもわからない、あの無様な告白。

 その返事がこれなのだと、鋼盾はなんとなく悟った。


「わたしはわたしの職掌と矜持のため、そこを曲げるつもりはありません」

「はい」


 振られてすらいない、同じ土俵にすら立っていない。

 そんなことはわかっていた、あの告白は、そんなものを求めたわけでもない。


 月詠小萌の表情はひどく透明で、しかし底が見えない。

 きっと、己が其処に至ることは無いのだろうと思う。


「ですから」

「はい」


 だけど、それでもいいと思う。

 掴むことは出来なくても、月は夜道を照らしてくれる。

 それはきっと、とても幸せなことだと彼は思った。


869 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/09/02(日) 01:13:53.79 ID:2qjZCeR/o



「見ていてあげるのです、これからもずっと。
 ―――覚悟なさい、鋼盾ちゃん」

「……ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします」



 高校卒業まで二年半、煙草の約束まであと五年。

 今のところは、どうしたって教師と教え子。


 その距離が縮まることがあるのか、それともそのままなのか。

 今はまだ、神様ですらそれを知らない。


870 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/09/02(日) 01:26:22.28 ID:2qjZCeR/o




――――――――――

ここまで!
小萌先生回でした、彼女の出番はこれで最後かな?
果たしてヒロインと呼べたのか、その辺は読者さまの判断に委ねたいと思います

鋼盾くん、学校の先生になりたいと思っていたみたいですね
教師キャラとの絡みが多かったせいでしょうか、唐突に感じたら申し訳ない

以前「鋼盾は教師に向いてそうだな」というコメントを頂いて、その時から漠然と考えていました
中学校の先生にでもなりたいとか思ってたんじゃないでしょうか、しらんけど

んでは、また次回もよろしくです!

871 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/02(日) 01:27:36.30 ID:1nFDqzWZo
マジ楽しみに待つ。乙。
872 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/02(日) 01:46:48.95 ID:9QrlDeUi0
乙!
小萌先生マジいい女です
873 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(田舎おでん) [sage]:2012/09/02(日) 04:09:29.63 ID:7BGRlh7z0
乙でした
コウやんが教師になったらか……
その世界線で同窓会とかデルタフォースとの飲み会とかあったら凄いいじられるんだろうなぁ
874 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/09/02(日) 18:12:52.04 ID:owRKE2450
子萌&黄泉川(高校)と木山(小学校)で取り合いがはじまるわけですね
875 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/03(月) 09:53:20.52 ID:1hgI8nMd0
乙! 次は上やん回かな…?
876 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大分県) [sage]:2012/09/03(月) 10:24:12.43 ID:ps6coKLE0
初春が色々手回して気付いたら風紀委員な展開もあり得るかな?
877 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/03(月) 20:27:08.31 ID:8A70L8SIO
風紀委員→実習生(小学校)→教師(高校)&アンチスキル

これでフラグ回収か……
878 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/03(月) 20:29:24.41 ID:c2ATpW/Jo
綿辺先生「そろそろまぜろよ」
879 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/09/04(火) 13:55:52.28 ID:JjF3Ljd2o
こうやんは綿辺先生が治せなかった美琴のノイローゼを治している

その噂を聞きつける可能性が微レ存
880 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/09/05(水) 23:46:09.28 ID:tnp7/Ay2o
あ、どうも>>1です、IDがチンコで申し訳ありません
コメント感謝です、ほんとうに励みになります

後3話との話でしたが、なんか予想外の人物が出張ってきてしまいエピソードがひとつ増えてしまったぜ!
今それを書いてます、今週中には次スレ盾&投下に漕ぎ着けたいですね

このスレは新スレが建ち次第、HTML依頼を出します
番外編の為だけにスレ建てるのはどうしても嫌という>>1もワガママです、ごめんよ
残りがもったいないので質問やら雑談やらご要望やコンマテストなどどうぞ

それでは、また週末に!
881 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2012/09/06(木) 02:09:07.36 ID:CKYeKlUAO
チンコじゃなくチンポじゃん
882 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2012/09/06(木) 02:32:30.38 ID:gvc3g9ut0
ああ、ちんぽだ
883 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [sage]:2012/09/06(木) 02:42:00.90 ID:AoPf+4xAO
ん?
つまり1はチンポ見せびらかしに来たって事?
884 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/06(木) 02:59:53.37 ID:NRiND7wQo
こいつはとんでもない淫乱ですねえ(ゲス顔)
885 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/06(木) 03:00:21.98 ID:E5XzzZu7o
露出性癖かあ 乙。
886 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/06(木) 11:19:53.72 ID:7ChJbtEDO
エピローグまで来てチンポスレになるなんて誰が予想できただろうか
887 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/09/06(木) 16:03:37.55 ID:qimsC5lno
落ち着けおまえら、>>1にチンポはない
つまりこれは欲求不満のあらわ……おや、誰か来たようだ
888 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/06(木) 16:10:42.90 ID:jrCOHBSIO
>>1が欲求不満なロリ系貧乳の美少女と聞いて
889 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/09/06(木) 16:38:00.63 ID:HaBNkTDk0
新スレが勃つと聞いて
890 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/06(木) 23:14:57.38 ID:cnR54vVIO
総合すると
貧乳ロリっ娘のちんぽが勃って
しかも新ぽをオマケにしたくないから
勃ったら最初っからクライマックスだと!?


やべぇ……これは生える
891 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/09/07(金) 21:56:46.55 ID:MmzSeH6jo
正直この流れは読んでいた キリッ
どうも>>1です、スレ立ては明日の夜になりそうです

でもスレタイが思いつかなくて涙目
順当にいけばインデックスさん(最近出番がないと評判)なんだけど
使えそうな台詞がネタバレ過ぎる! それは本編でズバンと出したいのです

いっそ、「とある端役の禁書再編」にしちまおうかね
へっへっへ、タイトルに期待してスレを開いたヤツらの怨嗟の声が聞こえるかのようだ……!

まあ、あと一日考えてみようかね
よろしければ明晩、お付き合い下さい
892 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/09/07(金) 22:18:42.87 ID:eIwrZ9HD0
鋼盾「その幻想から守りきる」

とか?
893 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2012/09/07(金) 22:24:07.14 ID:2Kkq3kNro
アウレオルス「―――まだかな、鋼盾」 ですよねー
894 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/09/08(土) 07:36:20.12 ID:9TGYtg43o
そういやこのスレは吹寄がスレタイなのに、吹寄の登場が回想シーンだけだなww
895 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2012/09/08(土) 12:58:31.86 ID:rYASnMRB0
二巻の配役を考えれば。自ずとスレタイは決まる。はず。
896 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/08(土) 19:33:54.23 ID:QNN6wzcFo
行間を読め。
ここにきて正式タイトルをスレタイにするということは・・・














今までのはプロローグ。
次スレから本編開始ということだろうが!
897 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/09/08(土) 21:30:03.54 ID:nS7qVeNio
ヒャッハー!
コウやんの冒険はまだまだこれからだ!
898 : ◆FzAyW.Rdbg [sage]:2012/09/08(土) 23:46:20.34 ID:08dW3Yvno

どうも>>1です
新スレのご案内ですよー


 とある端役の禁書再編
 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1347114605/


結局前述の通り、シリーズ名をスレタイに据えました
鋼盾掬彦再構成のくせに大仰なタイトルで申し訳ありませんですたい


>>892 
サンクス! だけど鋼盾はスレタイには使わんと決めているのです!

>>894
もうすぐ出番ですよー

>>893−897
二巻以降? ねえよ
このスレの>>1000でそれを叫べば話は別だがなグヘヘ (ゲス顔)


……さて、最後のスレですね
エンディングまであと数回、どうかよろしくお願いいたします

899 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/09/08(土) 23:54:07.71 ID:nS7qVeNio
>このスレの>>1000でそれを叫べば話は別だがなグヘヘ

フラグが立ちました
900 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/09(日) 01:01:06.23 ID:+aJbmsrmo
フラグ回収は任せろー
901 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/09(日) 12:18:32.83 ID:HsJcWj/Ao
スナイパーだけど需要ある?
902 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/09(日) 18:04:40.11 ID:d69j4nMIO
残り100レスほどで>>1000を取ればと言っておきながら既にHTML依頼済みとは……なんつーしたたかな>>1
903 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/09(日) 18:11:41.23 ID:1fcSc0Lyo
今らか急いで埋めればいいんじゃないですかねえ(ゲス顔)
904 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2012/09/09(日) 18:15:16.37 ID:agk9k0qD0
ちょっと本気出すか
905 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/09(日) 18:32:55.34 ID:aSsjRm3mo
うめ」
906 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/09(日) 18:40:04.82 ID:aSsjRm3mo
ksk
907 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/09(日) 18:40:31.85 ID:aSsjRm3mo
ksk
908 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/09(日) 18:43:14.92 ID:aSsjRm3mo
ksk
909 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/09(日) 18:43:41.25 ID:aSsjRm3mo
ks;
910 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/09(日) 18:44:08.47 ID:aSsjRm3mo
ksk
911 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/09(日) 18:44:54.04 ID:/lfrCb7RP
おい流石にやめとけよ
元々冗談で言ってんだからそんな荒らしまがいのことやっても変な空気になるだけだ
でもその熱意は伝わったんじゃないかな(チラッ
912 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2012/09/09(日) 18:56:35.16 ID:agk9k0qD0
そうだね、熱意は伝わったよね
たまには姫神が幸せになってもいいよね
913 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/09(日) 19:01:47.94 ID:+aJbmsrmo
うめ
914 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/09(日) 19:02:47.07 ID:+aJbmsrmo
ニ巻以降希望うめ
915 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大分県) [sage]:2012/09/09(日) 19:07:14.56 ID:8JnOwes80
2巻と言わずに行けるところまで行っちゃってほしい

レールガン組との絡みも待ってますよい
916 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2012/09/09(日) 19:33:26.92 ID:SyCbzeQio
吹寄「―――がんばりなさい、>>1
917 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/09(日) 19:57:09.87 ID:+aJbmsrmo
みんなで素敵な悪あがきうめ
918 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/09(日) 20:02:57.43 ID:aSsjRm3mo
始めようぜ>>1!うめ
919 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/09/09(日) 22:45:45.69 ID:Wyf4Me3no
めう
920 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/09(日) 23:38:30.57 ID:NuqR2LxDO
終わったらもうコウやんに会えなくなるのが寂しいぜ
921 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/09(日) 23:40:46.89 ID:NuqR2LxDO
だからってライフワークにして続きを書いてくれとはさすがに言えん
922 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/09/10(月) 00:01:40.41 ID:Kjr/ZjzYo
押すなよ!絶対に押すなよ!
923 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/10(月) 01:09:54.59 ID:S7+OLPlIO
少し話さないか?





……ちんぽについてだ
924 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/09/10(月) 07:25:53.85 ID:zH0MF63o0
>>922
えいっ
925 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage ]:2012/09/10(月) 15:34:03.71 ID:CN+23Y6c0
926 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage ]:2012/09/10(月) 15:34:31.26 ID:CN+23Y6c0
927 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage ]:2012/09/10(月) 15:34:59.90 ID:CN+23Y6c0
928 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage ]:2012/09/10(月) 15:36:12.25 ID:CN+23Y6c0
929 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage ]:2012/09/10(月) 15:37:06.97 ID:CN+23Y6c0
930 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage ]:2012/09/10(月) 15:37:43.07 ID:CN+23Y6c0
931 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/10(月) 18:52:38.22 ID:tHzECXRIO
932 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/10(月) 19:14:32.97 ID:ynzCtmifo
933 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/10(月) 21:27:32.65 ID:H5Y4de2Eo
934 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/09/10(月) 21:30:13.99 ID:0T5cTGp00
935 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/10(月) 21:36:53.56 ID:4ULQLezDO
936 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/09/10(月) 21:37:09.89 ID:aIZ3AGBH0

937 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/10(月) 21:39:15.63 ID:55t01gqJo




938 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/09/10(月) 21:44:19.78 ID:syk9ib960
939 : ◆2BKUj1MfpU [sage]:2012/09/10(月) 21:53:09.15 ID:H5Y4de2Eo
940 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/10(月) 22:18:01.13 ID:53/ArXsIO
941 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/10(月) 22:32:27.52 ID:kUprtajwP
942 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2012/09/10(月) 23:01:25.12 ID:0T5cTGp00
943 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/10(月) 23:12:07.15 ID:H5Y4de2Eo
944 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/09/10(月) 23:12:47.84 ID:syk9ib960
945 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/09/10(月) 23:15:30.22 ID:fq21obLwo
946 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/10(月) 23:16:11.47 ID:CzoeLmWIO
947 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/10(月) 23:16:22.02 ID:55t01gqJo
948 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(広島県) [sage]:2012/09/11(火) 00:35:26.02 ID:CpCdz25K0
949 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/11(火) 00:37:22.50 ID:zfkslyMpo
950 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県) [sage]:2012/09/11(火) 07:50:24.00 ID:1aPXaKwEo
なんだこの流れ…
951 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/11(火) 08:24:07.13 ID:uEBUjzwJ0
あと50

lian仕事すんな
952 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/11(火) 08:27:23.40 ID:gl9naKxbo
もう少しか
953 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/11(火) 08:59:27.38 ID:ZTUNeumIO
lainさんがこのスレ見て空気を読んでくれると信じるしかないな
954 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大分県) [sage]:2012/09/11(火) 10:13:02.42 ID:JJh6zV300
基本スレタイの人次スレで出番あるし、吹寄のターン来るか?
955 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/11(火) 11:19:54.70 ID:FVnnX8FDO
>>1の嫁が吹寄らしいので出番作るんじゃないかなーとは思う
956 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/09/11(火) 13:24:10.64 ID:BL2JtWrA0
吹寄さんのキスが上条さんを起こしてハッピーエンド
957 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/09/11(火) 13:31:24.13 ID:BL2JtWrA0
lianでもlainでもない

lain.だ!ピリオドを忘れるな!
958 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(田舎おでん) [sage]:2012/09/11(火) 17:20:53.70 ID:XoDsbUbn0
埋め?
959 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/09/11(火) 19:04:50.91 ID:Lz5wk+Xoo
1000まで埋め
960 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/11(火) 19:05:36.09 ID:zfkslyMpo
埋めならまかせな
961 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/11(火) 19:29:16.04 ID:TFRUYOF2o
よろしいならばうめだ
962 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/11(火) 20:27:54.19 ID:Gub0Ozie0
軍靴を鳴らせ!
空白を埋めろ!
963 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/09/11(火) 20:30:51.12 ID:u/n802iV0
ウメッチマジックタッチゴー
964 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/11(火) 20:33:28.30 ID:TFRUYOF2o
ゴーゴー!
965 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2012/09/11(火) 20:47:43.77 ID:FNChd97Uo
シャバドゥビウメヘンシーン!
966 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/09/11(火) 21:08:06.79 ID:u/n802iV0
シャバドゥビウメッチヘンシーン!プリーズ
967 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/11(火) 22:02:09.66 ID:GX8y7qqIO
シャバダバウメッチヘーンシン!



.|. チンポ!!


968 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/11(火) 22:10:18.85 ID:94+NAZLKo
シャーマンキングのポンチとコンチってマジ秀逸なネーミングだったよな
969 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/09/11(火) 23:20:25.15 ID:u/n802iV0
ルポンチウメッツコンチゴー
970 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/11(火) 23:22:22.55 ID:TFRUYOF2o
マダマニアウンダー!
971 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/09/11(火) 23:43:32.30 ID:PMYnkSlWo
じっくりと
972 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/11(火) 23:47:06.12 ID:TFRUYOF2o
優雅に
973 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/11(火) 23:48:02.70 ID:zfkslyMpo
急ぎつつも
974 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/11(火) 23:48:38.47 ID:MG0Evs+f0
けして焦らず
975 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage ]:2012/09/12(水) 01:23:19.77 ID:h1FNrII00
一日に玄米四合と味噌と少しの野菜を食べ
976 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/12(水) 01:28:15.18 ID:uYVHls3Lo
――――体は鍬でできている
977 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/09/12(水) 01:37:00.00 ID:h1FNrII00
血潮は水で 心は堆肥
978 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/12(水) 01:44:54.52 ID:h81QfsHRo
幾歳の開墾を経て収穫
979 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/12(水) 10:47:11.06 ID:iFXnzX25o
ただ一度の豊作もなく、ただ一度の不作もなし
980 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/12(水) 18:17:17.97 ID:aRAZ9FvHo
ゆえに、その耕作に意味はなく
981 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/12(水) 18:20:45.44 ID:Vq97ZxkIO
やがて時は経ち
982 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2012/09/12(水) 19:36:04.62 ID:vOVo79wY0
やつらの足音が聞こえた
983 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2012/09/12(水) 19:38:51.21 ID:dU7hlh4ko
「バカな・・・お前らは死んだはず!」
984 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/12(水) 20:00:37.95 ID:6k9IH1fIo
残念だったなあ、トリックだよ
985 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/12(水) 20:06:41.43 ID:otqQSfFGo
1000なら限界まで話を続ける
986 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/12(水) 20:13:48.34 ID:FmNUQO6IO
さらに別の方角から複数の足跡が聞こえた
987 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/09/12(水) 21:51:58.28 ID:RVKLPM37o
埋める者達に背を向けて
988 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2012/09/12(水) 21:52:31.72 ID:vOVo79wY0
それは、絶望の足音だった
989 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/12(水) 21:55:54.14 ID:aRAZ9FvHo
だが、鋼の盾は諦めることを知らない
990 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/12(水) 21:56:49.84 ID:ybI2BX0u0
そんなこんなで、>>1000まであと11レスを残すのみとなりました。
991 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/12(水) 22:02:48.21 ID:aRAZ9FvHo
二巻以降を希望する埋め
992 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/12(水) 22:04:35.68 ID:G8MsCrguo
――――始めようぜ錬金術師!
993 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/12(水) 22:11:53.28 ID:aRAZ9FvHo
その程度で、この鋼の盾を破れるとでも思ったか?
994 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2012/09/12(水) 22:16:11.12 ID:dU7hlh4ko
この程度で、諦めると思ったか?
995 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/12(水) 22:23:38.85 ID:FmNUQO6IO
ふん、残り5か…
さあ>>1000を踏む者よ、俺を超えてゆくがいい!!
996 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/12(水) 22:32:51.91 ID:5s/Lnsl0P
二部希望するわ
是非やってほしい
997 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2012/09/12(水) 22:33:44.41 ID:0UPomRGAO
お前ら普段どこに隠れてたんだよ…
998 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/12(水) 22:35:41.80 ID:G8MsCrguo
二巻だ!二巻だ!!二巻を希望なんだ―!!!
999 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/12(水) 22:41:04.71 ID:aRAZ9FvHo
>>1000なら>>1は嘘予告を全部現実にする
1000 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/09/12(水) 23:02:07.91 ID:/gfxpVPE0
20スレまでやりますように
1001 :1001 :Over 1000 Thread
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    =@   ノ       ノヽ、,  !..□ /     ヽ
     ヽ        .ィ'.  ,!    ハ/    、   `!、    七夕に…
      `ー-、_    く´ =@    /     ヽ  
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          l  . =@ ,=@ヽ、 、_ ,ィ      ノ               
         l、_,!   し'   l =@  `l     =@               ://vip2ch.com/
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俺の部活に屑しかいない件 @ 2012/09/12(水) 22:55:25.83 ID:m4vItrbSO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1347458125/

先週ハッテン場に行って来たったwww @ 2012/09/12(水) 22:54:36.93 ID:W3o8299Lo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1347458076/

サーニャ「エイラとニパさんの仲が良すぎる」 @ 2012/09/12(水) 22:51:30.75 ID:1PwSi3bJ0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1347457890/

女の子のお風呂あがりの格好が知りたいからみんな集まって @ 2012/09/12(水) 22:49:39.50 ID:vIl6p1vto
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1347457779/

VIPDTM避難所 @ 2012/09/12(水) 22:42:00.39 ID:JzjAVdMOo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1347457320/

さやか「安価スレが……多すぎる……?」 @ 2012/09/12(水) 22:23:47.11 ID:bRgWYtDio
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1347456226/

【咲安価】京太郎「記憶喪失…?」友香「その3でー!」【兵庫:劔谷】 @ 2012/09/12(水) 22:09:30.49 ID:KQ7dFN750
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【まさか私が】初対面の♀にキスされて1年【百合っぷる】 @ 2012/09/12(水) 22:04:16.11 ID:F/UgYGde0
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