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勇者「火と剣とを以て」傭兵剣士「我が命尽きるとも」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/03/16(金) 17:37:55.22 ID:iEu3KWcM0

――とある平原

勇者「――止まれッ!!」

勇者は右手をサッと軽く掲げて、後続の騎兵たちを静止させる。
副官の騎兵隊大尉が、ホイッスルを吹いて、騎兵隊全体に合図を送った。

馬のいななきが連なり、騎兵隊が停止するのが見える。
勇者直属のピストル騎兵中隊百騎である。
黄色い揃いの制服より、『黄色中隊』と仇名される彼らは、
揃いの鞣革上着(バフコート)を制服の上から纏い、鳥の羽飾りが付いた鍔広の帽子を被って、
各々二丁の歯輪式短銃(ホイールロックガン)と、S字型の柄のついた騎兵用長剣で武装している。

歯輪式短銃は、最近、『大陸』で出回り始めた最新式の拳銃である。
発条仕掛けの歯車と火打石を擦り合わせる事で火花を出し、火薬に引火させるタイプの発火機構を備えた銃が『歯輪式』だ。
値段は些か張るが、火縄銃(アーキュビュス)と違って火縄を必要としないので、
闇の中で敵に気取られる事も無いし、より天候に左右されにくくなっている為、騎兵や猟兵(狙撃兵の一種)には好まれていた。

勇者「大尉、遠眼鏡を」
大尉「ハッ!!」

傍らに馬を寄せて来た黄色中隊指揮官である大尉(以下、黄色大尉と呼称)の手より、
勇者は遠眼鏡、すなわち望遠鏡を受け取った。

そうして、平原にも幾つかある緩い丘陵の内、手近なモノへと一人馬を進め、
そこより、彼方へと目を遣った。蒼穹の果て、地平線の向こうを見た。

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ハルヒ「綱島アンカー」梓「2号線」【コンマ判定新鉄・関東】 @ 2024/04/22(月) 06:56:06.00 ID:hV886QI5O
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2 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/03/16(金) 17:38:40.47 ID:iEu3KWcM0

――噴き上がり、靄為す砂塵が見える

――その最中に、蠢く無数の影が見える

勇者は、遠くに見えるその様子に顔を顰めながら、遠眼鏡を覗きこみ、
顔に現れた険をより深めた。

遠眼鏡により詳細になった土煙の内側……そこにいたのは、
勇者の予想通り、進軍する、夥しい数の『魔群』であった。

――犬面人体のコボルト
――豚面肥体のオーク
――醜面巨体のトロール
――醜面矮躯のゴブリン
――半人半馬のセントール

多種多様、雑多な人外が群れを為し、その数は大地を覆い、
歩みは地面を揺らし、砂塵を雲の如く舞いあがらせながら、
一団となって前進をする姿は、未だ日中なれど、さながら百鬼夜行であった。

黄色大尉「噂では10万との事ですが」
勇者「……どうやら噂通りのようだな大尉」

追随してきた大尉もまた、彼方に見える魔物の群れを見て、
しかし顔色一つ動かす事無く、冷静に言った。
3 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/03/16(金) 17:40:54.79 ID:iEu3KWcM0

――噴き上がり、靄為す砂塵が見える

――その最中に、蠢く無数の影が見える

勇者は、遠くに見えるその様子に顔を顰めながら、遠眼鏡を覗きこみ、
顔に現れた険をより深めた。

遠眼鏡により詳細になった土煙の内側……そこにいたのは、
勇者の予想通り、進軍する、夥しい数の『魔群』であった。

――犬面人体のコボルト
――豚面肥体のオーク
――醜面巨体のトロール
――醜面矮躯のゴブリン
――半人半馬のセントール

多種多様、雑多な人外が群れを為し、その数は大地を覆い、
歩みは地面を揺らし、砂塵を雲の如く舞いあがらせながら、
一団となって前進をする姿は、未だ日中なれど、さながら百鬼夜行であった。

黄色大尉「噂では10万との事ですが」
勇者「……どうやら噂通りのようだな大尉」

追随してきた大尉もまた、彼方に見える魔物の群れを見て、
しかし顔色一つ動かす事無く、冷静に言った。
4 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/03/16(金) 17:41:30.58 ID:iEu3KWcM0
oh…ミスって二重投稿してら……
5 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/03/16(金) 17:44:21.02 ID:iEu3KWcM0

遠眼鏡を勇者が動かせば、砂塵の中に揺らめく軍旗も見える。
黄色い地に、黒い蛇の紋を染め抜いてあるその軍旗は、間違い無く――

勇者「――このまま連中が進めば『王都』『へ一直線だな」
黄色大尉「『老傭兵将軍』の診立ての通りの様で」
勇者「見た所、進軍の速度はさほど速くはないようだな」
黄色大尉「数が数ですからね。我らが本隊とカチ合うのは、2日後ぐらいで?」
勇者「そうだな……当初の予定そのまま、『熱き門』にて連中を迎え討つ事になるだろう」

勇者は遠眼鏡でつぶさに進む『魔王軍』を観察しつつも、隣の黄色大尉とそんな会話を交わした。

勇者「――敵の陣地が慌ただしいな。こっちに気付いたらしい」
黄色大尉「出迎えが来る前に本陣へと退いた方がよろしいようで」
勇者「そうだな」

『魔王軍』の方に慌ただしい動きが見えた、騎兵を出す気配を感じ、勇者は黄色中隊を先導し、
斥候である彼らの報告を待つ本陣へと踵を返し、馬を走らせた。

黄色中隊は軽騎兵であり、その速さは疾風の如くで、たちまち走り去って見えなくなった。
6 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/03/16(金) 17:45:05.25 ID:iEu3KWcM0



――人々から、『熱き門』と仇名される場所がある。

片方に海、もう片方に切り立った崖を備え、
その崖は険しい山脈へと繋がっており、まさに『隘路』と呼ぶべき土地である。

『隘路』と言っても、一軍が展開できる程度の広さはあるのであるが、
逆に誰かがここに陣を敷いたとすれば、容易く他者を通す事が出来ぬであろう。

この『隘路』はそのまま、『太陽帯』と呼ばれるこの地域を支配する『王国』の首都、
『黄金京』へと通じている交通の要所で、防衛上の重要拠点であり、古来より、
この地においては幾度となく軍事衝突が繰り返されてきていた。

――そして今もまた、この地に陣を構え
――来るべき敵に備える軍勢があった

陣幕が張られ、土嚢が積まれ、柵が立てられ、
既に防御陣地の八割が完成していたが、篝火が焚かれ、松明が幾つも建てられ、
さながら昼の様な明るさの中、工兵達は突貫で設営作業を行っていた。

その最中、本陣として張られた一際大きな陣幕の中で、
『勇者軍』首脳の歴々が集まり、こちらでも夜を通しての軍議が行われていた。
7 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/03/16(金) 17:46:27.42 ID:iEu3KWcM0

迫りくる魔王軍に立ち向かうべく、急遽編成された『勇者軍』の首脳部、
総司令官である『勇者』本人に、事実上の軍事指揮官である『老傭兵将軍』、軍事アドバイザーである『伯爵』、
そして勇者軍22000人を構成する10の歩兵連隊と5騎兵連隊の各連隊長に、
砲兵隊の隊長に“魔術師連隊”の隊長との、合計20名……
さらにその各人の連れている副官や部下が加わり、総勢50名が、本陣に集まっていた。

――半年前、突如海を越えて南方より『魔王軍』は来寇し
――『王国』へと侵攻、彼らにより略奪と破壊と殺戮は猖獗を極めていた

その数は総勢150000。
その襲来の予兆は一切無く、完全なる奇襲攻撃の前に、
寝耳に水の王国は、これに対する迎撃を満足に行う事が出来ず、
各都市、各貴族が各々、侵攻する魔族に立ち向かうも、
勇戦虚しく圧倒的数の暴力により次々と踏み潰されていったのである。
8 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/03/16(金) 17:47:02.82 ID:iEu3KWcM0

現在より150年前、この『半島』は侵略者たる『魔王』とその『帝国』の支配下であったが、
『奪還聖戦(リコンクウィスト)』と呼ばれる人間側の粘り強い国土奪還運動により、
『王国』は海の彼方、南洋の果てへと連中を追いやった。

その時より一世紀半、『王国』はその勢力の拡大を続け、
今や『太陽の沈まぬ国』と呼ばれる程の権勢を誇っていたが、
おごり高ぶった彼らへの裁きの鉄槌であろうか、『魔王』は突如海を越え、
『王国』へと古の伝説にある大洪水のように襲い掛ったのであった。

そして、予期せぬ災禍に燃える『王国』は、6ヶ月の歳月を費やし、
ようやく迎撃の用意を為す事が出来たのである。

――本陣には大きな長机と椅子が持ち込まれ、
そこには首脳20名が着座し、残りの付き添いは各々の傍ら、あるいは背後に控えていた。
9 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/03/16(金) 17:47:37.39 ID:iEu3KWcM0

勇者「では、『老傭兵将軍』の提案通り」

勇者「第1、第2、第5の歩兵連隊は中央部に」

勇者「第3、第4、第6の歩兵連隊は中央3連隊の右側」

勇者「第7、第8、第10の歩兵連隊は左側に」

勇者「第9歩兵連隊は予備戦力とし」

勇者「歩兵集団の右翼には『胸甲騎兵』戦隊」

勇者「左翼には『軽騎兵』戦隊を再編成して配置し」

勇者「砲兵隊は正面陣地での集中運用」

勇者「魔術師隊は砲兵隊の援護」

勇者「以上の布陣と言う事で決まりでよろしいか?」

勇者「異議のある者は今の内に申し立てるように」

異議は無く、来るべき戦いの布陣は決まった様だ。
尚、今、勇者が述べた内容を図解すれば、以下の様になる。

10 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/03/16(金) 17:48:18.05 ID:iEu3KWcM0


-------------------------------←防御柵&土嚢
      【一】
【二】【三】【四】【五】【六】
      【七】


【一】……砲兵隊&魔術師隊
【二】……軽騎兵戦隊
【三】……第7、第8、第10歩兵連隊
【四】……第1、第2、第5歩兵連隊
【五】……第3、第4、第6歩兵連隊
【六】……胸甲騎兵戦隊
【七】……第9歩兵連隊


尚、歩兵連隊は、
長槍(パイク)で武装した槍兵と、火縄銃(アーキュビュス)、
あるいはより大口径の『マスケット』で武装した銃兵とが、おおよそ6:4の比率で構成されている。

また、『胸甲騎兵』とは、
兜に、胸を覆う胸甲、もしくは、脚部を除いた体を覆う『3/4甲冑』に身を固め、
基本的にはサーベルとピストル、場合によっては騎兵槍(ランス)で武装した精鋭騎馬兵の事である。

全身を隈なく甲冑で覆い、また、場合よっては馬にも鎧を着せる重装槍騎兵は、
かつてはそれを為す身分たる騎士達と共に戦場の花形であったが、銃砲火器の普及や、
魔法技術の進化により、時代遅れとなって、戦場から姿を消して既に久しかった。

11 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/03/16(金) 17:57:06.90 ID:iEu3KWcM0


――軍議は一段落付き、酒と、簡単な料理が運ばれて来る

連隊長や将校達は次々と酒杯を呷り、料理を貪った。
たちまち無礼講となり、それは外で作業を続けたり、休息をとったりしていた兵士たちにも伝染し、
勇者軍の陣地を挙げての宴となった。

この世界、この時代、この地域の戦争において主力は傭兵である。
故に元々、その士気は決して高くは無い。

加えて、敵は膨大なる魔王軍である。
彼らが占領地の人間に対して行った数々の残虐たる乱行の数々は、
噂となって兵士達の間を駆け巡り、よって、ここで負ければ後が無い事を、
金以外の理由では殆ど戦わない彼らにも自覚させしめてはいるが、
それでも、不安、恐怖で意気は上がっていなかった。

だから、始まった宴に騒ぐ兵士達の様子も、どこか、恐怖を吹き飛ばす空元気にも見えた。
古参兵達はそれを感じ取ったのか、宴を積極的に盛り上げる様に動き、
少しでも兵士達の士気が上がる様にと、自発的に動いていた。

宴は、一層、勢いを増す。
12 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/03/16(金) 18:02:59.24 ID:iEu3KWcM0

さて。
そんな宴を背に、勇者は自身の為に用意された個人用テントへと戻っていた。
大きなテントの内には幾つもの家具が運び込まれ、さながら小さな部屋である。

勇者は椅子に座り、机の上に置かれた長剣を手に取った。
壮麗なる鍔飾りのついた、細身両刃の直剣である。
まだ一度も使用された事が無いのか、曇り一つ無く、澄み切った刀身は美しかった。

勇者「……」

勇者は、それを見つつ、口を固く真一文字に結んで、何かを考え込んでいる様子であった。

13 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/03/16(金) 18:14:57.89 ID:iEu3KWcM0

勇者は、白いレースの襟飾りを首につけ、
白いシャツの上には黒のダブレット(上着の一種)を着、
ズボンは膝までの短いモノで、その下には白のタイツを履き、膝まである拍車付きの革ブーツを履いていた。
手は革手袋で覆われ、赤い帯飾りが、黒い胸に彩りを与えていた。

髪は肩口で切りそろえられ、若干のウェーヴがかかった黒色であった。
瞳は青色で、冬の湖の様に澄んでいる。

容貌は実に中性的で、男の様にも、女の様にも見えた。
確かな事は、いずれにせよ当代随一に美しく、男であれば美男であり、
女であっても美女であった。

勇者「……」

勇者は目を瞑り、冷たい剣の峰を額に当てると、
他人には聞こえない様な小さな声で、祈りの言葉の様なモノを呟いた。

その肩は、微かに震えている。
14 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/03/16(金) 18:20:52.38 ID:iEu3KWcM0

???「――総大将が、ましてや勇者がそんな様子では恰好がつかないな」
???「それとも、武者ぶるいだとでも言うのかな?」

震える肩に投げかけられた、そんな突然の言葉に、
勇者は驚いた様子で振りかえった。

果たして、一人の男が、そこには立っていた。
15 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/03/16(金) 18:22:05.58 ID:iEu3KWcM0
ちょいと中断します。

また後ほど
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/16(金) 18:28:53.75 ID:onwij1+IO
久しぶりに見たいと思うSS発見
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/16(金) 18:48:22.83 ID:l+En92AIO
     ...| ̄ ̄ | < 続きはまだかね?
   /:::|  ___|       ∧∧    ∧∧
  /::::_|___|_    ( 。_。).  ( 。_。)
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.|| ゙ヽ i    ハ i ハ i ハ i ハ |  し'_つ
.||   ゙|i〜^~^〜^~^〜^~^〜
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/16(金) 18:51:04.84 ID:8hz2DNfoo
世界観は大して変わらないのな
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/16(金) 19:49:43.91 ID:b9aXxCmDO
前作品を放り出したままなんてあんまりだよ…
こっちも中途半端に終わる予感しかしない
20 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/03/16(金) 20:09:34.66 ID:iEu3KWcM0
>>16
ありがとう。そう言ってもらえるとうれしい
>>17
もうちょっとしたら再開します
>>18
前の『黒騎士』は12〜13世紀ぐらいのヨーロッパをモチーフにしていましたが、
こっちは17世紀のヨーロッパをモチーフにしているのが大きな違いですかね

なので普通に火薬や銃や大砲が出てきます。
後、騎士階級は戦争のやり方の変化や、社会構造の変化で完全に没落・衰退していますね

>>19
そうならない様に頑張ります
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/16(金) 21:13:46.10 ID:3hJ6Wmz70
期待
22 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/03/16(金) 21:22:27.66 ID:iEu3KWcM0
再開します
23 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/03/16(金) 21:22:56.72 ID:iEu3KWcM0

焦げ茶色の髪に、青い目、浅黒い肌をした男であった。
髪と同じ色の髭が口を覆い、顎にも手入れの行き届いていない無精鬚がまばらに生えている。

濃い茶色をした、鞣革の上着に、
同色のズボン、くたびれた革靴、しみだらけのシャツと、随分とみすぼらしい姿をしている。

地味な色彩ではあるが、しかし壮麗なる勇者の装束を比べれば、その貧乏臭さは際立っている。

鍔広の帽子を小脇に抱えているが、そこに取り付けられた飾りも、
立派で手の込んだ羽飾りでは無く、何処からか取って来た鳥の羽をそのまま使っていた。

しかし、腰に帯びた二振りの剣、大きな鍔の付いた刃の厚く広目のレイピアと、
細くとも先の鋭いマンゴーシュは、地味な意匠ながら、見るからに値段の張る、立派な代物であり、
また、みすぼらしい格好に似合わぬ、不思議な風格と品が、男からは漂っていた。
24 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/03/16(金) 21:26:36.06 ID:iEu3KWcM0

勇者「……貴方か。気配を消すのに長けているのは知っているが」
勇者「いきなり背中から声を掛けるのはよしてくれ。心臓に悪い」

男は、勇者の良く知る男であったらしく、勇者はホッとした様子で剣を鞘に戻した。
そして、男の姿をジロジロと上から下までつぶさに見て、目をジト目にしつつ、
口をへの字に曲げながら言った。

勇者「……だから、さっさとそのみすぼらしい恰好から着替えろといっただろう」
勇者「貴方程の『古狐』ならば、もっと立派な恰好をしても許されるじゃないか」
勇者「渡した額じゃ足りなかった訳でもあるまいに」

――『古狐』とは、古参傭兵を指す隠語である
隊長の様な士官職にはついてはいないモノの、
この世界、この時代の兵士とは基本的に『専門職』であり、
ベテランの古参兵となれば、例え生まれの身分が低くとも、
他の兵士達とは一線を画する扱いを受けており、当人達もそれを誇りとしていた。

尚、彼ら兵士の装備の内、武器や甲冑は彼らの雇い主からの支給制になっていたが、
それ以外の衣服や装備に関しては特に規定は無く、各兵士の自前であり、自由であった。
ただ、敵味方の判別を解りやすくする為に、連隊ごとの決まった『目印』を付ける事は義務付けられていたが。
男の場合は、首に巻かれた赤いスカーフであり、それは第9歩兵連隊の目印であった。
25 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/03/16(金) 21:40:37.65 ID:iEu3KWcM0

男「……例の金はピストルと剣を買い替えるのに使った」
男「俺は他の連中と違って、死に装束を飾るのには関心が無くてね」

そう言って上着を開いて見せれば、
その下に隠れていた歯輪式拳銃が、左右に二丁、腰帯に差してあるのが見えた。

男の様な傭兵、特に古参傭兵は派手に着飾るのが常であった。
彼らはいつ死ぬとも知れぬ世界に身を置いている。
その装束は、彼らの短く破滅的な生を彩り、燃え上がらせる虚栄の装いであり、
戦場にて死す時、地獄へも着て行く死装束でもあるのだ。

勇者「……貴方らしいですね」

勇者は、少し呆れた様子で、しかし同時に納得もしたようであった。
勇者と、この男、『傭兵剣士』とは、これで一年の付き合いになるが、その嗜好や性格は良く知っていた。

傭兵剣士「……そんな事よりもだ」

傭兵剣士は、部屋に幾つか置かれていた椅子の一つを取って、腰掛け、
勇者と正面から向かい合って、言った。

傭兵剣士「……大丈夫か?」

「何が」とは言わなかったが、勇者には傭兵剣士が何を言いたいのかが良く解った。
先程の震え……戦争への恐怖の事を言っているのだろう。
26 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/03/16(金) 21:58:04.85 ID:iEu3KWcM0
ここで一時中断します。
早ければ数時間後に、遅ければ明日の再開です。

纏まって一気に投下するのが難しくとも、
短くても短いスパンで投下していきたく思います
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/17(土) 14:41:05.72 ID:ruZhPCZ9o
せめて前の終わらせてからスレたてろよ
28 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/03/17(土) 21:05:51.11 ID:ZseoglP60
>>27
申し訳ない。
ただ、あっちはあっちで止めるつもりは無いので
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/17(土) 21:30:59.11 ID:cQWYhMISO
ふむ…
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/17(土) 21:56:28.76 ID:l+Z6h8YDO
マジレスすると間違いなく両方ハンパに終わるから片方しっかり終わらせてから次に行くんだ
31 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/03/17(土) 22:25:49.72 ID:ZseoglP60

勇者「怖く無いとは言えば、嘘になります」
勇者「敵は10万以上の大軍。対して、こちらは僅かに2万2千」
勇者「確かに、こちらは地の利を押さえているが……」

勇者「『熱き門』を抜かれれば、そのまま都へ一直線だ」

単純なる『死への恐怖』もあるが、それ以上に、
自らの背中に圧し掛かった、義務と命の重さに、潰されてしまいそうであった。

勇者「ハッキリ言って、戦力はまるで足りていない」
勇者「大砲も、数だけは揃えられたが、弾薬がまるで足りていないんだ」
勇者「銃の方の弾薬も多くは無い。魔術師の数だって不十分だ」
勇者「かといって、節約出来る様な兵力の余裕も無い」

魔王軍の迎撃に出ている王国の軍事集団は大きく三つ。
一つは、勇者軍であるが、あと残り二つある。
一つは、自称『騎士団長』こと『侯爵』が結成した義勇軍『聖騎士団』。
最後には、『提督』率いる『王国艦隊』である。

『聖騎士団』は、魔王軍の襲来に立ち向かうべく結成された義勇軍であり、
基本的に有志の参加の為、士気は高いが、その数は僅かに5000。
騎兵戦力が中心の為、機動力はあるものの、兵力差故に攻撃力に欠け、
あくまで魔王軍の後方や補給を混乱させる以上の軍事行動は取れず、
展開している場所の都合上、勇者軍との合流も果たせそうにはない。

『王国艦隊』は王国の海上戦力で、『魔王軍』の本土との繋がりを寸断する為に活動し、
充分な成果を挙げてはいたが、逆にそれで精一杯であり、そちらの任務に釘付けで、動きが取れない。

宗教的義勇心から、対魔王の『聖戦』に参加すべく、諸外国で他の義勇軍設立の情報も勇者の耳に届いていたが、
とても彼らが決戦に間に合う様子は無かった。
32 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/03/17(土) 23:12:47.48 ID:ZseoglP60

勇者「私がこんな有り様では、兵達にも示しが付かないのは解っているのだがな」
勇者「怖いよ。どうしようもなく」
勇者「死ぬことも、負けることも」

勇者は一旦ここで口を閉じて傭兵剣士を見つめ直した。
傭兵剣士と、勇者は、静かに見つめ合い、暫し、2人の間には沈黙が流れた。

傭兵剣士「……俺が最初に戦場に出たのは、13歳の時だったが」

沈黙を先に破ったのは、傭兵剣士の方であった。

傭兵剣士「暫くは下働きの小僧をやっていて、初めて戦場に出たのは15の時だ」
傭兵剣士「生まれて初めて、人を殺したのもその時だ」

勇者「……」

傭兵剣士「始めて、戦場に兵士として出るその前の晩も」
傭兵剣士「それを生き延びたその日の晩も」

傭兵剣士「お前以上に震えて夜寝付く事も出来なかった」

33 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/03/17(土) 23:31:49.49 ID:ZseoglP60

傭兵剣士「それを考えれば、お前はまだ良くやっている方だろう」
勇者「……そうだろうか」
傭兵剣士「そうさ。それに、恐れ慄くならば、今の内にやれるだけやっておけばいい」
傭兵剣士「今の内に恐怖に身をゆだね、馴らしておくことだな」
傭兵剣士「そうすれば、いざ戦いが始まるころには、少しはマシになっているだろう」
傭兵剣士「されにな、勇者。いざ戦いが始まれば」

傭兵剣士「震えている余裕もなくなるだろう」

勇者「……」

勇者「……」
傭兵剣士「……」

勇者「……私達は」
勇者「皆、死ぬかもな」

傭兵剣士「ああ」

勇者「怖くは無いのか、本当に」
傭兵剣士「恐怖など、10代の頃に出しきったさ」
傭兵剣士「それにな……生きている以上」

傭兵剣士「結局、みな死ぬんだ」

傭兵剣士「ようは、それがいつで、どこか」
傭兵剣士「ただ、それだけの問題だ」
34 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/03/18(日) 00:47:49.99 ID:YXC0G5eJ0

勇者は傭兵剣士の瞳を覗きこむ。
いつも思う事だが、不思議な色を持った瞳であった。
単純に、物理的な色と言う意味ではなくて、
内包された様々な感情や、印象と意味においてだ。

冷酷と激情。

現実と理想。

計算高さと気まぐれ。

相反する種々の性質が、混ざり合いつつも同居する、複雑な人格。
加えて、普段は酷く寡黙な為に、その性質を理解する事は、他人には中々に難しい男である。

勇者は、改めて想起する。
思えば、自分とこの男の関係、出会い、共に過ごした日々の出来事。
その全てが、複雑にして怪奇であったと言う事を。

今、こうして椅子を並べ、戦友として共にあるこの男は、
思えば、自分の命を狙う敵であったのだ。

勇者の意識は、この男との出会いである、1年前の冬のあの日へと跳んだ。

35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/18(日) 00:50:26.07 ID:LYVrylFDO
傭兵が初めて戦場に出た年齢がめっさブレてるぉ
36 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/03/18(日) 00:55:06.35 ID:YXC0G5eJ0
>>35
確かに
最初の方の台詞を、
>傭兵剣士「……俺が最初に戦場に出たのは、13歳の時だったが」
から
>傭兵剣士「……俺が最初に軍隊に入ったのは、13歳の時だったが」

に差し替え
37 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/03/18(日) 01:39:12.59 ID:YXC0G5eJ0

――1年前
――『王国』
――『首都/黄金京』

『太陽の沈まぬ国』と仇名される『王国』の栄華は今や絶頂を迎え、
その首都たる『黄金京』もまた、その名の通り、絢爛たる金色の繁栄を誇っていた。

表通りには贅をこらした大商人の豪奢な館が軒を連ね、
新造された市庁舎には幾つもの尖塔が聳え立ち、郊外の宮殿は広大で、
高台より都を一面に見下ろす姿は、白と金に輝いて眩いばかりであった。

しかし、光ある所には必ず影がある。

表通りより一歩路地の方へ足を踏み入れれば、
そこは魑魅魍魎共の蠢く魔窟、あるいは伏魔殿であった。

富は人を引き寄せるが、しかし全ての人が富を手にする事は無い。
そして、富よりあぶれた人々は、金持ちどものおこぼれと施しで糊口を凌ぎながら、
必死に、地の底で足掻き、もがく他ないのだ。

日雇い、乞食、娼婦、詐欺師、強盗、ゴロツキ、傭兵……
あらゆる種類の貧者達が、黄金京の掃き溜めの中で蠢いている。

――傭兵剣士もまた、そんな泥沼の住人の一人であった。
38 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/03/18(日) 09:08:03.36 ID:YXC0G5eJ0

傭兵剣士は、彼が言う様に13の時、
田舎の貧しい農村から口減らしで追い出され、生きる為に軍隊に入った。
当時も、今も、種々の理由から人口過剰の状態であり、
農村などでは働き手が余って、彼の様に故郷を追いだされた者達が、
あちこちの都市に溢れている時代であった。

そんな連中が、生きて行く為に出来る仕事など、片手で数えるほどしか無い。
何せ、どこも人手は余っている状態なのだ。
“まっとう”に生きるならば賃金が雀の涙の日雇いか、傭兵になるか。
さもなくば、山賊、追剥の類になって、アテも無く路々を彷徨う他ないのである。

そして日雇いや傭兵も、言うまでも無く安定した職業などでは無い。
どちらも、何時仕事が無くなってもおかしくは無いし、
賊徒へと“転職”する連中は後を絶たなかった。

そんな有り様であるから、繁栄する場所、者がある一方で、世相は荒んでいた。
暴力、死、殺人、犯罪、飢饉、疫病……そんな忌むべきモノ共に、人々はある種馴れてしまう程に、
それらは地に満ち溢れていた。
39 :1 ◆ItNEKgTFQ. [aga]:2012/03/18(日) 14:00:05.26 ID:YXC0G5eJ0
荒らし対策age
40 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age]:2012/03/19(月) 14:38:00.39 ID:p9FCZj2s0

傭兵は戦争がある内は少なくとも飯にはありつけるが、
戦争が終わればたちまち失業し、しかも、失業した傭兵の面倒など、誰もみてはくれない。
つまり、戦争が無い間は、別の仕事を探すしかないのだ。

幸い、傭兵剣士は幼少より“剣の腕”が立った。
流儀など無い、何でもありのヤクザ剣法ではあったが、
ある種の天才性があり、向かう所負けなしであった。

そして、その剣の腕を活かせば、荒んだ世相である、おあつらえ向きの仕事は幾つかあった。
用心棒、賞金稼ぎ、そして、殺し屋稼業である。

――あの『キナ臭い依頼』が彼の元に舞いこんで来たのも
――戦争が終わって、殺し屋稼業の為に『黄金京』を根城にしていた
――そんな冬のとある日であった
41 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age]:2012/03/21(水) 21:18:56.53 ID:0g6xIiKg0


馴染みの口入屋から斡旋されたその仕事の依頼人の男は、
自身の正体を明かさなかったが、どうもかなり身分の高い貴人である様であった。
従者らしき男を何人か従えていたし、そして何よりも従者ともども身形に品があったのだ。

――集められたのは、傭兵剣士を含めて六人の男達である

まず、明らかにヤクザ者だと解る無頼漢が三人。
恐らくは、普段からつるんでいる連中であろう。
ちょうど体型が、チビ、[ピザ]、ノッポの三人組で、
以降はそまま『チビ』『[ピザ]』『ノッポ』と呼称する。

次に、やはり無頼漢のヤクザ者ではあるようだが、
しかし、立ち居振る舞いや身に纏った気配より、
相当な『使い手』であろうことが覗える黒鬚の剣士風の男が一人いる。
以降、この男を『黒鬚』としよう。

そして最後に、こういう場所には似つかわしく無い、
どことなく上品さを感じさせる若い男が一人いた。
プラチナブロンドの髪と髭の青年で、中々に整った風貌の持ち主だが、
威厳を出そうと思っての事か、その年齢に似合わぬ、頬まで届く大きな口髭を生やしており、
それが顔に似合わず酷く滑稽に見える。
装束は往年の騎士を思わせるきどった代物だが、どこか古臭く、くたびれていた。
腰には、やはり古い拵えの、今では使われる事が滅多に無くなった、
やや小ぶりの『両手大剣(ツーハンデッドソード)』を下げていた。
――『騎士崩れ』という言葉が、その印象を表わすのに相応しい男である
――よって、以降、そう呼ぶ事にする。

以上の六人が並んでいるのを見渡し、依頼人は口を開いた。
42 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age]:2012/03/21(水) 21:19:24.17 ID:0g6xIiKg0

依頼人「明後日の夜、黄金京の西門を通って馬車が一両出る」

依頼人「二頭立ての、黒塗りの馬車だ。形は箱型で、窓は鎧戸になっている。外から中は見えん」

依頼人「恐らくは供廻りの騎手も何人かついているだろう」

依頼人「黄金京を出るのを確認したら、街道の、適当な所で連中を襲い」

依頼人「追剥か強盗を装って、一人残らず始末しろ」

依頼人「静かに、素早くだ。よって銃のような、うるさい音が出る得物を使うのは厳禁だ」

依頼人「だが、それを守るならば、手段は問わない」

依頼人「ヤツらを消せ」

依頼人「見事に成功すれば」

そこまで言って、依頼人は顎をしゃくり、傍らの従者に、
じゃらじゃらの中身の鳴らす音のする、大きな革袋の中身を、
眼前の長机に広げさせた。

――金貨だ
――それも、ほんの数年前に発行されたばかりの
――純度が恐ろしく高い王国の『新金貨』であった

依頼人「一人あたま新金貨で30払おう」
43 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age]:2012/03/21(水) 21:21:17.97 ID:0g6xIiKg0

チビ「30!?」ヒソヒソ
[ピザ]「しかも金貨でかよ」ヒソヒソ
ノッポ「ツケ全部払ってもお釣りが来るな……」ヒソヒソ

黒鬚「……」スリスリ
騎士崩れ「……」ピンッ

ゴロツキ三人組がざわつき、黒鬚が手でその顎を撫で、
騎士崩れの白髭の先が、ピンと上下に一度動いた。

――新金貨であれば
――20もあれば男一人、それなりの生活を一年間、充分に暮らして行く事が出来る
――30とは大金であり、人の命の安いこの世相では、『殺し』の代金としても破格であった

傭兵剣士「(……臭うな)」

そう、あきらかに普通の『仕事』では無い。
だが――

傭兵剣士「(おもしろそうだ)」

そう思った。
44 :1 ◆ItNEKgTFQ. [sage]:2012/03/21(水) 21:21:56.78 ID:0g6xIiKg0
オウフ
sagaになってなかった。やり直し
45 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/03/21(水) 21:22:46.95 ID:0g6xIiKg0
馴染みの口入屋から斡旋されたその仕事の依頼人の男は、
自身の正体を明かさなかったが、どうもかなり身分の高い貴人である様であった。
従者らしき男を何人か従えていたし、そして何よりも従者ともども身形に品があったのだ。

――集められたのは、傭兵剣士を含めて六人の男達である

まず、明らかにヤクザ者だと解る無頼漢が三人。
恐らくは、普段からつるんでいる連中であろう。
ちょうど体型が、チビ、デブ、ノッポの三人組で、
以降はそまま『チビ』『デブ』『ノッポ』と呼称する。

次に、やはり無頼漢のヤクザ者ではあるようだが、
しかし、立ち居振る舞いや身に纏った気配より、
相当な『使い手』であろうことが覗える黒鬚の剣士風の男が一人いる。
以降、この男を『黒鬚』としよう。

そして最後に、こういう場所には似つかわしく無い、
どことなく上品さを感じさせる若い男が一人いた。
プラチナブロンドの髪と髭の青年で、中々に整った風貌の持ち主だが、
威厳を出そうと思っての事か、その年齢に似合わぬ、頬まで届く大きな口髭を生やしており、
それが顔に似合わず酷く滑稽に見える。
装束は往年の騎士を思わせるきどった代物だが、どこか古臭く、くたびれていた。
腰には、やはり古い拵えの、今では使われる事が滅多に無くなった、
やや小ぶりの『両手大剣(ツーハンデッドソード)』を下げていた。
――『騎士崩れ』という言葉が、その印象を表わすのに相応しい男である
――よって、以降、そう呼ぶ事にする。

以上の六人が並んでいるのを見渡し、依頼人は口を開いた。

依頼人「明後日の夜、黄金京の西門を通って馬車が一両出る」

依頼人「二頭立ての、黒塗りの馬車だ。形は箱型で、窓は鎧戸になっている。外から中は見えん」

依頼人「恐らくは供廻りの騎手も何人かついているだろう」

依頼人「黄金京を出るのを確認したら、街道の、適当な所で連中を襲い」

依頼人「追剥か強盗を装って、一人残らず始末しろ」

依頼人「静かに、素早くだ。よって銃のような、うるさい音が出る得物を使うのは厳禁だ」

依頼人「だが、それを守るならば、手段は問わない」

依頼人「ヤツらを消せ」

依頼人「見事に成功すれば」

そこまで言って、依頼人は顎をしゃくり、傍らの従者に、
じゃらじゃらの中身の鳴らす音のする、大きな革袋の中身を、
眼前の長机に広げさせた。

――金貨だ
――それも、ほんの数年前に発行されたばかりの
――純度が恐ろしく高い王国の『新金貨』であった

依頼人「一人あたま新金貨で30払おう」

チビ「30!?」ヒソヒソ
デブ「しかも金貨でかよ」ヒソヒソ
ノッポ「ツケ全部払ってもお釣りが来るな……」ヒソヒソ

黒鬚「……」スリスリ
騎士崩れ「……」ピンッ

ゴロツキ三人組がざわつき、黒鬚が手でその顎を撫で、
騎士崩れの白髭の先が、ピンと上下に一度動いた。

――新金貨であれば
――20もあれば男一人、それなりの生活を一年間、充分に暮らして行く事が出来る
――30とは大金であり、人の命の安いこの世相では、『殺し』の代金としても破格であった

傭兵剣士「(……臭うな)」

そう、あきらかに普通の『仕事』では無い。
だが――

傭兵剣士「(おもしろそうだ)」

そう思った。

46 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/03/21(水) 21:23:31.13 ID:0g6xIiKg0
>>45>>41>>43
47 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/03/22(木) 11:15:50.10 ID:nLAPi0wS0

傭兵剣士は今や『古狐』と呼ばれる古参傭兵である。
数々の戦場を渡り歩き、そのいずれでも一兵卒として最前線で生き残って来た。
それは彼の兵士としての技量力量もあるが、危険を感知するある種野生染みた本能を備えているからであった。
真の危険が迫る時、彼はこの本能に従っ来るべき危機に備え、それを凌いで来たのだ。

その本能が、この『仕事』の放つ危険の臭いを感じ取っている。
そうでありながら、敢えてこの仕事を受けるのは、
他人の血を流す事で糧を得る世界に余りに長くいすぎ、それ以外の生き方を知らぬ男の、いわば哀しい習性である。
解っていたとしても、敢えて危険に向かうのが、彼の様な人種の習性であった。

依頼人「どうする?この仕事、受けるか、否か?」

男が問うた。
答えは言うまでも無い。

チビ「受けるぜ。金貨30なら、命を張るにも充分だァ」
デブ「同じくだ。暫くは遊んで暮らせるぜ」
ノッポ「借金も何とか出来そうだしなぁ」

ゴロツキ3人は直ぐにそれを受けた。
黒鬚は少し考えた後、

黒鬚「俺もこの仕事、受けよう」

と答える。
48 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/03/22(木) 11:16:42.84 ID:nLAPi0wS0

依頼人「お前はどうだ?」
騎士崩れ「……」

騎士崩れは髭の先を指で弄りつつ、一つ問うた。

騎士崩れ「某(それがし)、お聞きしたき事がひとつござるが」
騎士崩れ「よろしいか?」

依頼人「何だ?」

騎士崩れ「が、斡旋人より聞く所によれば」
騎士崩れ「我らの誅す相手は異端の信奉者との事にござるが」
騎士崩れ「それは真にござるか?」

依頼人「……」
傭兵剣士「(……フム)」

自分をここに誘った口入屋の話には無かった話であった。
依頼人は騎士崩れの問いに答える。

依頼人「そうだ。間違いは無い」
依頼人「連中は異端のクズ共だ。心おきなく、躊躇う事無く、始末して欲しい」

騎士崩れ「……しからば」
騎士崩れ「某もこの仕事、受けさせて頂こう」

騎士崩れは依頼人の断言に一応は納得したようだった。
49 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/03/22(木) 11:17:21.24 ID:nLAPi0wS0

傭兵剣士「……俺も、受けさせてもらおう」
傭兵剣士「(胡散臭い所もあるが……金貨30は魅力的だからな)」

そして傭兵剣士も騎士崩れに従い、仕事を受ける事を宣言する。

依頼人「ふむ。では6人とも、この仕事を受けるのだな」
依頼人「では、明後日の昼、もう一度、ここに来てもらうとしよう」
依頼人「おい」

依頼人が手で合図をすると、彼の従者が、机に並べられた金貨を何枚か拾うと、
6人に対し、一枚ずつ手渡した。

依頼人「“支度金”だ。これで酒でも飲んで意気を上げるなり」
依頼人「得物の用意をするなり、好きに使うが良い」

――その晩の話は、ここで終わりである
――では、時間は少し飛んで、肝心の、明後日の夜……
50 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/03/22(木) 17:41:26.35 ID:nLAPi0wS0

――日は完全に落ちていたが、空に白く輝く満月の放つ光で
――灯り一つ無い街道は思いの外、明るかった

その光の中で土の路面を曝す街道の両脇に、そのまま残る木立の陰に、
6人の刺客はそれぞれの持ち場について、息を潜めていた。

チビ、デブ、ノッポの三人組は、街道の一方の茂みの中に隠れ、
その反対側に、

傭兵剣士「……」
騎士崩れ「……」
黒鬚「……」

傭兵剣士、騎士崩れ、黒鬚の三人は潜んでいた。
いずれも黒っぽい、闇に溶け込む様な衣装に身を包み、標的の到着を待ち構えていた。

傭兵剣士は常用しているレイピアとマンゴーシュに加えて、
騎兵様のサーベルを腰の後ろに括りつけている。

騎士崩れは例のトゥーハンデッドソードを腰に帯び、黒い鍔広の帽子を目深に被っている。

そして黒鬚は、どこから仕入れて来たのか、
今ではモノ珍しくなった弩(クロスボウ)をかついでいた。
銃火器が普及して以来、使う者が随分と減った武器である。

しかし、その威力は鋼の鎧を紙の様に貫通する程に高く、
長弓などと違って、使うのに高い技量を必要とせず、
銃と違って天候に左右されにくく、そして、銃に比べれば『静か』である。

今回の場合は、適当な飛び道具だろう。

――さて……

51 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/03/22(木) 22:15:47.51 ID:nLAPi0wS0

騎士崩れ「……おふたがたは、随分と場馴れしている様でござるな」

と、騎士崩れが黒鬚と傭兵剣士に話しかけてきたのは、
『標的』が来るのを待ち始めて、少し経ってからであった。
件の相手がこちらに向かっているのは既に確認しており、
よってここで待ち伏せている訳であるが、しかし、思いの外、来るのに時間が掛っていた。

騎士崩れ「某、実はこの様な企てに加わるのは初めてなのでござる」
騎士崩れ「やはり体が強ばりますな。某、思いの外、緊張しているようでござる」

傭兵剣士「そうは見えんがな」

緊張を紛らわせるためなのであろうか、小声で話しかけて来た騎士崩れに、
傭兵剣士はそう答えた。

傭兵剣士は思った事を率直に言っていた。
本人の言とは反対に、若干顔が強ばってはいるものの、
騎士崩れが緊張している様にはとても見えなかった。
むしろ、熟練の戦士の様に、落ち着いている様な印象を、傭兵剣士は受けていた。

52 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/03/22(木) 22:17:16.03 ID:nLAPi0wS0
ちょいと質問です。
今はこうして細切れに投下している訳ですが
投下スパンが多少長く空くかもしれませんが、一気にある程度の量を纏めて投下した方が良いでしょうか?
それとも、現状維持でおk?

いや、そもそも見てくれている人が居ないのかな?
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/03/23(金) 01:10:13.56 ID:ga6Jw32So
好きなように、やりやすいようにしたらいい
54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(熊本県) [sage]:2012/03/23(金) 03:50:01.78 ID:IW9ayeGGo
見てるぞ
55 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/03/23(金) 11:06:44.90 ID:XNDxbQN70
>>53
了解です。では、今まで通り
>>54
そう言ってもらえるとうれいい
56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/03/23(金) 12:22:34.83 ID:d93M9xHko
期待期待
57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/03/23(金) 14:44:20.36 ID:iLr5O4NCo
まあ、がんばれ
58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/23(金) 15:27:09.68 ID:K4KTfsUSO
ここも飽きて放置するだろと思っているので期待してない俺がいる


でも頑張って下さいね
59 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/03/24(土) 22:34:09.46 ID:VaynnYXC0


傭兵剣士「腰にも立派な代物を下げているしな」
傭兵剣士「それとも、その御大層な剣は飾りか何かか?」

少し冗談めかした傭兵剣士の言い方に、
騎士崩れは少しムッとした様子であったが、
ツーハンデッドソードの化粧瓶型の柄頭を軽く叩いて、誇らしげに言う。

騎士崩れ「何の、某、幼少のみぎりより」
騎士崩れ「御父上より託されし、我が家伝来の名剣」
騎士崩れ「その名も『真っ二つの剣(ヴォーパルソード)』」
騎士崩れ「その使い手となるべく鍛錬する事幾月幾年」
騎士崩れ「今や、魚の泳ぐが如く、鳥の飛ぶが如く」
騎士崩れ「生来備わった体の一部の様に使いこなしてござる」
騎士崩れ「何ならば、ここで抜いて――」

黒鬚「おい」

若干興奮してきたのか、声の大きくなりつつあった騎士崩れに、
黒鬚が冷たい声をかけ、道の方を見る様に促した。
傭兵剣士もまた、自ら、道の方へと目をやった。

黒鬚「来たぞ」

60 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/03/25(日) 11:01:38.28 ID:MOnQqYbX0

夜路の向こうに、淡いオレンジ色の光の珠が表れ、
それはその大きさを増しつつ、彼らの方へと近づいてくる。
明るい月の光の為に、その光の主の姿は、直ぐに明らかとなった。

それは、黒塗りの馬車に取り付けられたカンテラの光であった。
二頭立ての馬車を操る御者の姿をおぼろげに照らし出している。

その馬車に少し先行しているのは、2人の騎手である。
『王国』流行の黒い服に黒いマント、黒い帽子の黒尽くめ装束をしていて、
見た所、鎧の類をつけている様には見えない。
マントで得物は見えないが、さしずめレイピアかサーベル、もしくはピストルといった所であろうか。

傭兵剣士「さっき偵察した時とは変わっていないな」
黒鬚「そうだな。護衛の騎手2人に、御者1人。馬車の中には……」
傭兵剣士「数は解らんが、大きさから考えてせいぜい2人だ」
傭兵剣士「標的を除けば、残りは全部で4人ってところだろう」
黒鬚「よし。手はず通りいくぞ」
騎士崩れ「よいいよでござるな。武者ぶるいがしますな!!」
61 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/03/25(日) 11:02:24.52 ID:MOnQqYbX0

小さな声で、しかし興奮した様子で口角を釣り上げる騎士崩れを無視して、
黒鬚は反対側のチビ・デブ・ノッポの三人組に手でサインを送った。
デブが黒鬚と同じ様なクロスボウを取り出すのが見える。

傭兵剣士達の隣では、黒鬚が地面に腰を下ろした状態で、
器用にクロスボウの弦を引いていた。

余談ながら、クロスボウは機械仕掛けの弓で、
引き金機構を仕込まれた長く四角い木の棒に、横向きに弓を取り付けてある。
その弦は短く太く、空の片手ではまず引く事が出来ない為、
矢の先端部に取り付けられた鐙を踏みしめ、背筋を使って一気に引くか、
専用の巻き上げ機を使って弦を引き絞る必要があった。

弦受けに弦を掛け終えれば、そこに専用の角矢(ボルト)を装填し、構え、引き金を引けばいい。
この矢の威力は存外高く、大型のクロスボウを使えば、鋼の鎧でも容易く貫通する事が出来た。

今、黒鬚が使っているのは狩猟用の小型のモノだが、しかし、人を射殺すには充分な威力がある。

62 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/03/26(月) 11:56:31.56 ID:riT1u9gp0

馬車と護衛騎手が一斉攻撃を仕掛けるに充分な距離に近づいた時、
黒鬚が再びチビ・デブ・ノッポへと合図を送った。

黒鬚とデブがほとんど同時に茂みの中から立ち上がり、クロスボウの引き金を引いた。

御者「――げぇっ!?」

デブの撃ったボルトは外れたが、黒鬚の撃ったボルトは御者の胸板に深々と刺さり、
踏みつぶされた小動物の様な声を挙げながら、御者は馬車から転げ落ちた。
突然の御者の転落に、馬車の二頭の馬がいなないた。

傭兵剣士「今だ」
騎士崩れ「応!!」

驚いた護衛騎手の2人が背後を振りかえったのを見たのと同時に、
傭兵剣士、騎士崩れの抜剣しながら茂みより飛び出した。
僅かに遅れて、チビとノッポも雄叫びを挙げながら駆けだしている。

護衛騎手2人は、驚愕しつつも素早くピストルを抜き放った。
しかし彼らが襲撃者達に照準を合わせるよりも速く、
傭兵剣士と騎士崩れの両名は彼らへと肉迫していた。
63 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/03/26(月) 11:57:23.49 ID:riT1u9gp0

傭兵剣士「ハッ!!」
騎士崩れ「せいやぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

傭兵剣士は、抜き放っていた騎兵用のサーベルで、一方の騎手の馬の脚を切断し、
騎士崩れは何と、両手で構えた『真っ二つの剣』で、もう一方の騎手の馬の首を一撃で切断していた。
成程、さっき豪語していた事は嘘ではないらしい。

脚を斬られた馬はバランスを崩して倒れ、首を斬られた馬は命を失って倒れる。

馬上より転げ落ちた騎手2人には、遅れて来たチビとノッポが襲い掛るが

護衛騎手「曲者ォッ!」
――ズパァンッ!!
チビ「あぎ!?」

護衛騎手のピストルが火を噴き、チビの体が地に伏した。
――運の無いヤツである。

しかし、次の瞬間には、撃った騎手の体にも

ノッポ「テメェ!!」
護衛騎手「がぼ!?」

その喉元に、ノッポの剣が突き刺さる。
もう一方の騎手は、それを見た為か戦意を無くし、その場から転ぶ様に逃げ出そうとするが、

黒鬚「ふん」
護衛剣士「――ぐぇ」

何時の間にか近づいていた黒鬚の投げた短剣が背に突き刺さり、
動きが止まった所で彼にトドメを刺された。

瞬きする間に、御者と護衛の命は絶たれた。
犠牲は一人出たが、鮮やかな手並みであった。

デブ「おい!!しっかりしろ!!」

デブとノッポがチビへと駆け寄るが、

傭兵剣士「無駄だ。もう手遅れだよ」

傭兵剣士と黒鬚はそれを意に介する事無く、馬車へと歩み寄り、
騎士崩れはチビへと駆け寄るが、彼が手遅れであると知ると、
その眼を閉じてやり、短く神への祈りの印を切った。
64 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/03/26(月) 16:09:35.73 ID:riT1u9gp0
捕捉(と言うより余談)

基本的に本作中にピストルと出てきた場合、ホイールロックハンドガンの事を指します。
ホイールロックとはマッチロック(いわゆる火縄銃)の発展形にして、その後のフリントロック銃への過渡期的形式です
フリントロックともども、日本人には馴染みが薄いので、参考画像、動画を紹介します

ホイールロック銃の画像
http://wktk.vip2ch.com/vipper1423.jpg
発火機構の図解
http://wktk.vip2ch.com/vipper1422.jpg
実射動画
http://www.youtube.com/watch?v=P8q4DicVBws
65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(熊本県) [sage]:2012/03/28(水) 02:46:22.71 ID:Jd96LCQDo
あっちの更新もしてくれよ・・・
66 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/03/28(水) 13:46:36.74 ID:8aXmQzjj0
>>65
あっちの方もおりを見てやるつもり

67 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/03/29(木) 23:22:55.25 ID:+trcX9Lo0

御者を失った馬車は、道の半ばで停車していた。
黒塗りの馬車は窓は鎧戸になっており、中に何人いるのかはまるで覗えない。
しかし、誰かが居るらしい事は、傭兵剣士には“気配”で解った。

サーベルについた血糊を、ポケットの中に入れておいた襤褸切れで拭う傭兵剣士の隣で、
黒鬚はマントの下に忍ばせたピストルを取り出していた。

契約違反であるが、傭兵剣士はそれをとがめない。
標的が既にピストルをぶっ放した後である。
今更銃声が一、二発増えた所で、さして問題はあるまい。

弾丸と発射火薬は既に装填されているらしい。
黒鬚は右手でピストルを構えつつ、左手で腰の辺りより、
専用の螺子廻しを取り出し、キリキリと音を立てて、歯輪の発条を廻す。
螺子廻しは火薬入れと一体になっており、火皿に発火薬を注いで、火蓋を閉じ、撃鉄を下ろす。
これで、ピストルの発射準備は整った。

――事切れたチビもそのままに、一同は馬車を取り囲む。

馬車には扉が左右に二つあった。
デブとノッポが右側の扉の方を塞ぎ、黒鬚、騎士崩れ、そして傭兵剣士が左側を塞ぐ。

黒鬚がピストルを構えた。
扉越しに、その中の人間を撃つつもりであるらしい。
馬車を成す木はさして頑丈では無い様に見える。
拳銃用の弾丸でも、充分に貫通するかもしれないし、
例え無理でも、相手に対する充分すぎる牽制と脅しになる。

黒鬚が、扉に銃口を擬し、まさに引き金を引かんとした、その瞬間――

――扉が、爆ぜるが如き勢いで開け放たれ
――黒い人影が、獣のような速さで、飛び出して来た
68 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/03/30(金) 21:51:21.38 ID:/XPFYNvR0

黒鬚が、その影へと向けて銃口を向け、引き金を引く。

火蓋が切られ、回る歯輪と火打石が擦れ合い、火花が散り、火皿に落ちる。
点火薬へと、次いで銃身内の発射薬へと火が付き、黒色火薬がその特有の白煙を吐きながら、爆発的に燃焼する。
爆発的エネルギーが鉛の丸い銃弾を銃身から押し出し、その速さは、音の壁を容易く突破させる。
陶器を割る様な、空気を貫く音を立て、銃弾は宙を走った。が――

黒鬚「――チッ」

――外れる。
思いの外、影の身のこなしは速く、
引き金を引くタイミングが、僅かとは言え遅れた為であった。
この世界、この時代のピストルは単発である。
最早無用の長物。よって黒鬚はピストルを投げ捨て、腰のレイピアへと手を伸ばすが、それ以上に――

??「きぇぇあぁぁッ!!」
黒鬚「――ッ」

影の手にしたレイピアの切っ先が閃くのが速かった。
ビャッと空気を刺す音が鳴り、錐の様な尖端が黒鬚の喉笛に突き刺さる、その直前に、

――キィン

??「!?」
傭兵剣士「生憎だな」

傭兵剣士の刺し出したレイピアの剣身が、影のソレを撥ね上げ、
キャリキャリと二つの刃は暫時絡み合わさる。
影が跳び退くのに伴って、二つの鋼は離れた。

切っ先を互いに擬して、2人の剣士は対峙する。
69 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/03/30(金) 22:11:10.12 ID:/XPFYNvR0
参考画像をまたも貼ってみる。
イメージの助けになってくれるとうれしいです

マスケット銃兵
http://wktk.vip2ch.com/vipper1799.jpg
長槍(パイク)兵
http://wktk.vip2ch.com/vipper1800.jpg
騎兵イロイロ
http://wktk.vip2ch.com/vipper1801.jpg
大規模戦闘の様子
http://wktk.vip2ch.com/vipper1802.jpg
70 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/04/02(月) 17:38:02.49 ID:Q7mNOPrF0


身形から判断するに、恐らくは貴族の子弟であろう。
立派に整えられた髭面はまだ若い。せいぜい歳三十っといった所であろう。
上下ともに流行りの黒色の衣装で固め、右手にはレイピア、左手には盾代わりのマントを構えていた。
盾といっても、薄布のマントで刃を受け止める事は出来ないので、敵の刃を『絡め取る』と言う、攻性の盾であった。

切っ先は互いの喉笛に照準を合わせ、睨み合う。
帽子を被っていない相手の顔が、月光に白く照らされて、傭兵剣士には、良く見えた。

傭兵剣士「――?」

ここで、鋭い双眸で相手の動きを注視する傭兵剣士の脳裏に、微かな違和感が走った。
その原因は判然としないが、何ともしっくりこない、魚の骨が喉に引っかかった様な、
もどかしい違和感が、彼の脳裏をよぎっている。
71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/04/03(火) 02:03:16.48 ID:ZJ+UnQhFo
追いついた。乙なんだが、こういう文体と質だけに細かいところが気になって。

陣幕個室の場面で、
>>13
>勇者は目を瞑り、冷たい剣の峰を額に当てると、
とあるが細身で両刃の直刀、というのは峰があるのか?
72 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/04/03(火) 07:41:08.06 ID:C01uAnbD0
>>71
すんません。ミスです。
峰じゃなくて鎬(しのぎ)です。

なお、こんな感じの剣ですね
http://wktk.vip2ch.com/vipper2034.jpg

なお、本作は17世紀ヨーロッパをモチーフにしているため、
キャラの服装だとか武器だとかは『三銃士』をイメージして下さると解りやすいかと


73 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/04/06(金) 18:40:45.77 ID:vky7Nzv00

しかし、その違和感を解消する間もなく、
貴族子弟らしき男の鋭い切っ先が、紫電となって傭兵剣士へと走った。
ふたたび、傭兵剣士の白刃が向かい来るソレを撥ね上げる。

――丁々発止
鋼と鋼のぶつかり合う音が、夜路に響く。

傭兵剣士達とは反対側の馬車のもう一つの扉からも誰かが飛び出して来たらしく、
それにデブとノッポが応戦する、剣戟音と怒号が聞こえてきた。

貴族子弟らしき男――これより便宜上、『子弟剣士』と呼称しよう――は、
上品な太刀筋ながら、中々の使い手であった。

2人の剣は、フェイントを交えながら、虚々実々と交差し、火花が散る。

斬撃はぶつかり合い、刺突は絡み合う。
互いに、余計な動きは殆ど無い。避ける動きも、僅かな動きで攻撃を外す動きしか無い。
切っ先では無く、相手の体を見て、相手の動きを先読みし、体を動かす。
刃は、髪の毛程のスレスレの距離で通り過ぎるが、しかし、どちらの肌にも未だ触れていない。
また、避けるも防ぐも適わぬ攻撃には、傭兵剣士はマンゴーシュを、子弟剣士はマントを以て“防ぐ”。

刃、あるいは布を用いる防御は、そのまま攻勢へと転化しうる。
故に、互いに、“盾”に防がれたと見れば、即座に剣を退く。
剣を絡み取られぬ様にする為であるが、双方、見事な引き際の良さであった。

――2人の立合いは白熱し、されど、互いに隙が無い。
――よって黒鬚も、騎士崩れも、迂闊に2人の勝負へは割って入れない
74 :以下、名無しにかわりまして アナ・コッポラ がお送りします [sage]:2012/04/07(土) 00:45:11.27 ID:o6uLBtcl0
1週間に2レスかもうちょっとなんとかならんかの
楽しみにしてるんだが....
75 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/04/07(土) 20:04:33.99 ID:uGzx3vnb0
>>74
うむ。
もう少しギアを上げて頑張ってみる
76 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/04/07(土) 22:12:15.56 ID:uGzx3vnb0

そうして、2人の剣士が互角の立ち合いを演じている内に、
もう一方の闘いはケリがついたようであった。
――傭兵剣士たちにとって、都合の悪い形で、であるが。

デブ「――ぎょば」
ノッポ「――ぐばふっ」

2人分の、血泡を吐く音と断末魔の混合音が響き、
それらに続いて、彼らの骸が、地面に斃れる音が響いた。
あちらの方に出てきた護衛の方も、子弟剣士と同格、あるいはそれ以上の相手であったらしい。

傭兵剣士と子弟剣士の立ち合いの邪魔にならぬよう、
騎士崩れと黒鬚は、もう一方の護衛へと駆ける。

その間も、傭兵剣士と子弟剣士の剣は戛然とぶつかり合い、刃鳴が散る。

子弟剣士「御仲間が」
――キィン!
子弟剣士「やられたぞ!」
――キィン!
子弟剣士「旗色が悪そうじゃ」
――キィン!
子弟剣士「ないか!」
――キィン!
子弟剣士「ここはとっとと」
――キィン!
子弟剣士「退散したら」
――キィン!
子弟剣士「どうだ!」

――キィン!――キィン!――キィン!
刃を交わしもながらも、そんな事を話し掛けてきた。
これには、傭兵剣士、口角を釣り上げ、獣じみた微笑を浮かべながら応える。

傭兵剣士「はなから連中には」
――キィン!
傭兵剣士「期待してなかったから――」
――キィン!
傭兵剣士「――なっ!」
――キィン!
傭兵剣士「今度の2人は」
――キィン!
傭兵剣士「違うぞ――」
――キィン!
傭兵剣士「――と!」

77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/08(日) 22:23:19.05 ID:j9yIk0Oso
キンキンカンカンキンカンカン!

78 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/04/10(火) 22:15:48.08 ID:233SGScP0

――ガァキィィン……
一際大きな音を立てて、刃を交わした後、
2人は殆ど同時に、自身の背後へとパッと飛び退いた。

飛び退きつつも、視線は互いに相手を鋭く見つめ、
切っ先もまた、互いの急所の方へと擬されている。

傭兵剣士「(――埒があかんな)」

――実力は伯仲
このまま勝負を続けても、体力勝負の消耗戦になるだけであろう。
襲撃者であり、暗殺者である傭兵剣士たちにとって、勝負が長引くのは好ましく無い。

傭兵剣士「……」

傭兵剣士は、子弟剣士より後ずさる事で距離を取り、
彼が傭兵剣士へと一足飛びに斬りこめるか否かの間合いに立った時、
左のマインゴーシュを――

傭兵剣士「――シッ!」
子弟剣士「――ッ!?」

投げつける!
子弟剣士は難なくそれを剣で払い落すが、
その僅かな隙に、傭兵剣士は再び間合いを詰めつつ、
レイピアを地面に捨てて、腰のサーベルを抜き、斬り込んだ。
79 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/04/10(火) 22:35:42.75 ID:233SGScP0

子弟剣士「何とッ!?」

間合いは一瞬で詰まった。
投げられたマインゴーシュにより一瞬『間』を外された子弟剣士には、
その肉迫は余りに突然であった。
剣を盾として、湾刀の振り降ろしを受け止める。

傭兵剣士「しゃぁぁぁっ!!」
子弟剣士「くぉあっ!!」

間合いを取らんとさがる子弟剣士に対し、
傭兵剣士はずいずいと間合いを詰めて、密着し、刃で圧する。

白兵戦、殊、剣槍を以てなす闘いや、体術を用いての闘いにおいて、
重要なのは『拍子を取る』、すなわち、相手の戦闘リズムを読み、それを崩す、
あるいは、自分のリズムに相手を巻き込む事である。

レイピアからサーベルへのいきなりの武器変更と、
レイピアとサーベルの武器の間合いの違いから、
子弟剣士の戦闘リズムは掻き乱され、拍子を外され、傭兵剣士のリズムに瞬く間に呑まれてしまう。
80 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/04/10(火) 22:57:55.20 ID:233SGScP0

傭兵剣士は、サーベルの扱いにも、レイピア程ではないにしても熟練している。
さる戦場で知り合った、東方から異邦人の傭兵より教わった曲刀術の応用である。
サーベルは東方の『三日月刀(シミター)』を起源とし、その東方傭兵は、シミターの達人であった。

傭兵剣士「どうした…旗色が悪そうじゃ、ないか」
子弟剣士「ッ……くぉあッ!!」

ニカワの様に、しつこく粘りつくように肉迫し、
時に鍔迫りさながらにまで迫る傭兵剣士に、
思う様に間合いを離せない子弟剣士の顔が、焦りに覆われる。

何度目かの傭兵剣士の肉迫に、
子弟剣士は、全体重を掛けて、タックルするように、
傭兵剣士のサーベルの刃を、もはや盾と化したレイピアで圧しかえる。

するとどうであろう、虚をつかれたのか、傭兵剣士の体勢が崩れる。
その隙に、子弟剣士は僅かに間合いを開けると、崩れた傭兵剣士へと全力の突きを放った。
傭兵剣士は、サーベルを以てそれを迎え撃つが――

傭兵剣士「――!」
子弟剣士「殺(ト)ッた!!」

突きの力に押されたか、傭兵剣士の手から、サーベルが零れ落ちた!
――好機!!
この時を逃すまじと、子弟剣士、今一度、渾身の突きを放たんとし――

子弟剣士「ぬがぉ!?――がぁっ……」

電流でも流れた様に体を痙攣させ、口から血泡が漏れた。
何故?その所以は、脇腹に突き刺さった、細い『鎧通し(メイルブレイカー)』。

―― 子弟剣士の“拍子”は、またも外されたのだ。

戦闘中にワザと武器を落とし、敵の注意をそこに引きつけるのは、
古今東西の武術に広く見られる技法である。

サーベルの落下に、子弟剣士の意識は一瞬、全てそこへと注がれ、
そして生じた隙は、余りに致命的。

体勢を崩したと見せかけた間に、左手に握られていたメイルブレイカーは、
サーベルを落とした瞬間生じた子弟剣士に生じた隙に乗じて、
体勢低く飛び込んだ傭兵剣士の体と共に、子弟剣士の体へとぶつかり、皮膚を破り、肉を裂いたのである。

81 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/04/10(火) 22:59:49.08 ID:233SGScP0

針の様に細く尖った切っ先は、肝臓に突き刺さっていた。
――急所である。
傭兵剣士が体を離すと、子弟剣士の体は地面に斃れ、痙攣し、すぐに動かなくなった。

82 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/04/10(火) 23:02:48.90 ID:233SGScP0
今日はここまで
83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長野県) [sage]:2012/04/11(水) 00:41:16.81 ID:7ukRBIWFo
84 :!icigo :2012/04/11(水) 17:45:10.86 ID:yqL7nAAN0
乙!!
85 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/04/11(水) 19:19:07.61 ID:DL1chxCf0
修正
>>80
<体勢を崩したと見せかけた間に、左手に握られていたメイルブレイカーは、

<体勢を崩したと見せかけた間に、左手に握られていたのは腰帯の中に隠し持っていたメイルブレイカーであり、
に差し替え
86 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/04/17(火) 02:04:31.13 ID:uKRvtlwb0

傭兵剣士は、子弟剣士がただの骸になっただろう事を確認すると、
直ぐに、サーベルを拾い上げて、騎士崩れ、黒鬚達の方へ援護へと向かった。

デブとノッポンの死体が転がっているすぐそばでは、
三人の男達による大立ち回りが繰り広げられている。


87 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/04/18(水) 19:09:46.76 ID:ox+5J2Vh0

騎士崩れが果敢に攻め、それを黒鬚が援護している形である。
騎士崩れの『真っ二つの剣』は両手剣であり、間合いは広いが、
それだけに、迂闊に彼に近づけば巻き込まれかねないからであろう。
この手の両手剣は、斬撃を主としているが為に。

――騎士崩れの猛攻に、相手は殆ど転ぶような姿で逃げ回る他ないようである

『真っ二つの剣』の様な両手剣は、その威力が絶大な半面、
剣身は長く重く、重心も普通の剣とはまるで異なり、これを使いこなすのは数ある刀剣の中でもかなり難易度が高い。

どうやら先程、騎士崩れが言ってのけた事は法螺では無かったようだ。
両手で、時には何と片手で風車の如く振るわれる『真っ二つの剣』の切っ先は空を裂いて唸り、
その円を描く斬撃群の勢いは、台風さながらであった。

対して、相手の得物は一般的なレイピアとマインゴーシュ。
切っ先をいなしたり、絡めたりする事はおろか、受け止める事すら出来ないだろう。
ただただ、相手は逃げる他無いが、しかしその逃げ道を塞ぐようにして、黒鬚が先回りしているのである。

今はかろうじて唸る刃をかわしているが、それが彼の肉体を両断するのも、そう遠い事ではあるまい。

88 :以下、名無しにかわりまして いとう のぶえ がお送りします :2012/04/19(木) 01:35:15.21 ID:NMxQXsJh0
89 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/04/22(日) 08:55:51.80 ID:BkVTS+l00

経ること暫時、僅かな間である。
騎士崩れの豪剣をかわしきれなかった相手は、切っ先に皮膚を裂かれ、
短い悲鳴を上げながら、倒れ、尻を地面に着けた。

正面からは大剣を突きの形に構え、トドメを刺さんとする騎士崩れ。
背後には、逃げ道をふさぐ形で、レイピアを手にした黒鬚が控える。

――『詰み』である。

ヒッと、情けない声を出し、得物を放り出して、両腕で顔を覆い、庇う形を取った。
無論、唯の肉と骨に、あの鋭い切っ先を止める事など適うわけもない。

『真っ二つ』の剣に、相手は貫かれ――

そうなるかと思われた、まさにその瞬間である。

騎士崩れ「――!?」

騎士崩れの切っ先が、相手を刺し貫く直前で、突如止まったのである。
なにやら驚いた様子で、騎士崩れは眼を見開き、口は唖然の形を取っている。

突然の騎士崩れの異常に、されど好機は逃すまいと、レイピアを後ろの黒鬚は突き出さんとするが

――チャキィィィンッ!

黒鬚「ッ!?何のつもりだ!?」

その剣身は、翻る様に飛んで来た『真っ二つの剣』に弾かれる。
騎士崩れが、今まさに殺さんとしていた相手をかばったのだ。

驚き睨みつける黒鬚に、騎士崩れは大きな声で言った。

騎士崩れ「この御仁を、手にかけること相成りもうさん!!」
騎士崩れ「某、“同朋”を闇討ちする仕事を引き受けたつもりは全くござらん!!」

――“同朋”?
――こいつは何を言っている?

そう思いながらも、傭兵剣士は自身の胸中で、先程子弟剣士を相手に感じた違和感が、
再度胸の中で鎌首をもたげはじめるのを感じている。
90 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/04/29(日) 21:06:41.22 ID:4spy4ZTd0
明日、夜10時ごろ、多めに更新したく思います
では
91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/04/29(日) 21:31:11.77 ID:krh4npLVo
期待してる
92 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/04/30(月) 21:46:45.22 ID:553Zdi9z0
ちょっと早いけど始めます
93 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/04/30(月) 21:47:47.14 ID:553Zdi9z0

そして、その違和感の正体は、騎士崩れの次の言葉によって瞭然となった。

騎士崩れ「この者、この土壇場、死ぬか生きるかの瀬戸際において、祈りの聖句を唱え申した」
騎士崩れ「異端の輩においてはまず、有りうべからざるべき事」
騎士崩れ「この吾人は同朋でござる。間違いござらん!!」

この言葉にハッとした傭兵剣士は、先程自身が仕留めた男の亡骸へと駆け寄ると、その死相を見た。
まだ殺して殆ど時間が経っていない為に、肌の色にはまだ温かみがあり、この男がどういう人種であったかが、月明かりで良く解る。

傭兵剣士「(太陽帯系の顔つきだな……成程、違和感の正体はこれか)」

『王国』の所在地である『太陽帯』地域の人種は、
浅黒い肌に、黒や茶の軽くウェーブの掛った髪、さほど高くは無い鼻と、薄い青色の瞳がその身体的特徴である。
(そういう意味で傭兵剣士は、典型的な太陽帯人である)

まだ息の根を止められてばかりの子弟剣士の容貌は、傭兵剣士と同じく典型的な太陽帯人種のそれであった。

太陽帯では『正統派』が主流の宗教であり、異端派の人口は事実上、ゼロに等しい。
正統派の持つ社会的、宗教的矛盾への批判から始まった異端派は、かつてはこの太陽帯にも少なからずいたらしいが、
しかし徹底した正統派信者の家系である歴代『王国』国王の、虐殺めいた怒濤の弾圧により、
太陽帯よりは異端派は一掃されて久しく、少なくとも傭兵剣士は、太陽帯人種の異端派信者は見た事が無い。
94 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/04/30(月) 21:49:24.19 ID:553Zdi9z0

異端派は、太陽帯の北、『王国』領の飛び地であり、
現在も断続的な反乱が続いている『低地帯』にて盛んであり、
異端派の主な信者である低地帯人種は、金髪に濃い碧眼、高い鼻に大きな体躯が特徴であった。

傭兵剣士「(……異端派では無かった訳か)」
傭兵剣士「(さて、依頼人は法螺を吹いていた訳だが――)」

傭兵剣士は死体から眼と手を離し、騎士崩れの方へと視線を向ける。
宗教に熱心でない彼にとって、殺しの標的が正統派か異端派かどうかは大した問題では無く、
これまでの殺しの仕事で、標的の信仰に政治が絡む場合を除けば、
殺す相手が何を信仰しているかなど気にした事も無かった。

故に、依頼人がその点について嘘を言っていたとしても、さして気にはならない。
しかしだ――それを気にする男もいるものだ。

黒鬚「どけ!俺がトドメを刺してやる!」
騎士崩れ「いかんでござる!!異端ならば兎も角、同じ正統派信者を手に掛けるなど――」

騎士崩れはその古臭いナリと同じく、古い信仰に血道を上げているタイプであるらしい。
傭兵剣士と同じく、金さえ貰えばどの神を信じていようが手に掛ける黒鬚と、押し合い圧し合いしている。
95 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/04/30(月) 21:50:37.71 ID:553Zdi9z0

黒鬚「どかねぇか!テメェもブッた斬るぞ古臭い田吾作の分際で!」
騎士崩れ「ぬかしたな!!某を侮辱すると言うならばコッチも黙っては――」

仕舞には互いの剣を構え始めた。
このままでは仲間割れで殺し合いなど始まりかねない。

傭兵剣士「おい、お前ら――」

そう言って傭兵剣士が仲裁に入らんとした、その時であった。

――『待ちなさい』

そんな静かな、しかし良く通る声が、月下に響いた。
傭兵剣士も、騎士崩れも、黒鬚も、倒れている標的の一人も、一斉に声の方を向いた。

声が聞こえてきたのは、馬車の方からである。
見れば、馬車の中から、一人分の人影が降りて来る所であった。

当初、陰になってその姿は見えなかったが、青白い月明かりが、直ぐにその正体を明らかにする。
96 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/04/30(月) 21:51:27.20 ID:553Zdi9z0

王国風の黒い上下に、膝まである長いブーツ。
首には華麗な紋様を描くレースの襟飾り。
肩口で切りそろえられた髪は艶のある烏羽玉の黒。

肌は抜ける様に白く、瞳は冬の湖の様に澄んでいる。

中性的な容姿で男にも女にも見えるが、いずれにせよ、確かな事は一つ。

――絶世と言っていい程に、美しい

騎士崩れは、口を阿呆の様に開け、黒鬚は眼を見開いて驚いた様子であり、
戦場にあっても平常心を失わない傭兵剣士も、常に無く、茫然とした様子であった。

それほどに、月下の麗人の姿は素晴らしかったのだ。

再度、良く通る綺麗な声が響く。

???「君達の狙いは」
???「この私の筈だ」
???「その剣を向けるのは、私であるべきで」
???「そこの彼では無い」
???「見逃してやって欲しい」

そう、静かな声で言ったのである。
97 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/04/30(月) 21:52:04.11 ID:553Zdi9z0
今日はここまで。そこまで多く無いかも知れない。

次の更新はもっと早くしたいぜ

では
98 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/05/08(火) 21:54:44.96 ID:UxO8FPHu0
少し間が空きます。
今週の土日辺りに更新する予定
99 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(熊本県) [sage]:2012/05/09(水) 20:57:28.13 ID:Gn/wkrino

100 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/05/13(日) 18:59:16.50 ID:ERXcNtzz0
申し訳ないが、今日は無理です。
5月15日火曜日の夜に更新します
101 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/05/15(火) 06:02:42.99 ID:0ZbhMw9Zo
無理すんな。まだ導入部、長丁場なんだから、さ。舞ってるけど
102 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/05/15(火) 20:57:47.89 ID:D3PiwMIjo
書ける時にゆっくりでいいぞー


待ってるけど
103 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/05/15(火) 22:33:06.74 ID:CZpOF2zR0

――傭兵剣士達が、謎の麗人と邂逅していた
――ほぼ、同時刻

――『王国』
――『黄金京郊外』

『王国』の首都たる『黄金京』はその郊外に、巨大な宮殿を有している。

この国の王城は首都の北東部にある小高い丘の上に築かれていたのだが、
『王国』が繁栄し、その宮廷の規模が大きくなるにつれ手狭になった為、
また、昔ながらの城――防衛機能を持った王・貴族・領主の住居――は、
往々にしてその居住性があまり良く無く、この国の王城も例外では無かった為、
防衛上の機能を削り、代わりに居住性と政務機能とを拡張した、新宮殿が黄金京の郊外に建てられたのだ。

『白亜宮』と、その白い姿から呼ばれるこの宮殿は、前述したように巨大で、小さな街がその中に入ってしまう程である。
『大王』と呼ばれた先代国王によって十年の歳月と莫大な資金・資材を投じて建造された『白亜宮』は、
その規模、その豪奢さにおいて、この大陸においては匹敵する物の無い、正に『最高』の王宮であった。

そして、先代『大王』の時代においては、多くの宮廷人と役人、芸術家、音楽家、道化、僧侶、
そしてあらゆる部門の学者達がこの宮殿に住まい、宮殿は外側のみならず、その内側の住人も実に華やかで、
文化の大輪が咲き乱れたものであった。

――しかしそれも、今は昔……
104 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/05/15(火) 22:33:36.49 ID:CZpOF2zR0

――『白亜宮』
――『大執務室』

そこは、執務用に設けられた、細長い大部屋である。

入口から見て左側に幾つもの大窓が連なり、
右側は窓の無い壁で、そこには、幾つかの場面に分割されながら、
伝説に謳われる神と悪魔の戦いが荘厳たるタッチのフレスコ画で描かれている。
そしてそうした場面の合い間合い間に、丁度境界をなす様に本棚が設けられ、
そこは各種本や帳簿、紙束、紙巻物が収められている。

大きなテーブルや、台の斜めになった製図用の机などが並べられ、
幾つものランプと燭台によって、もう夜も深く為って来たと言うのに、未だにオレンジ色に明るい。

しかし、昼間はここで忙しなく働く官僚たちの姿は既に無い。
勤務時間は終わり、皆、床に着いているらしい。

では、この煌々と灯された明りは誰が為の物か。

――果たして、部屋の最奥
そこに置かれた大きな長机に向かい、何やら書類をしたためている一人の男の姿があった。

105 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/05/15(火) 22:34:32.37 ID:CZpOF2zR0
短くてすまないが、今日はここまで。

>>101>>102
ありがとう。そう言ってもらえると、実に嬉しい
106 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(熊本県) [sage]:2012/06/24(日) 01:17:30.21 ID:BiQlnTMFo
はよ・・・
107 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/06/24(日) 08:05:46.27 ID:A631N6sMo
待ちすぎてお股濡れちゃう///
108 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [age]:2012/06/25(月) 10:45:15.48 ID:W1O0leXDO
やはりと言うかまあ……酷いな
書かないなら埋めるぞ?
109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/25(月) 11:08:55.84 ID:h1fVZ8pAO
最初の方で危惧されてた通りになったな
110 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/26(火) 11:03:08.48 ID:AZ2ziuAIO
埋めるくらいなら他を上げれば?
111 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/26(火) 16:08:23.28 ID:/8qBDjGDO
>>110
本当に埋める気なら上げたりせずに粛々と埋めてるっての
既にLRに引っ掛かってるつーのにこんな放置スレ下げて残してもしょうがないと思わんか?
>>1への注意喚起だよ伝わらないけどねww
112 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(熊本県) [sage]:2012/06/26(火) 20:13:23.80 ID:4K1uAkWNo
この人は面白いSS書くけどすぐ飽きるからなぁ・・・
113 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2012/07/20(金) 15:23:55.25 ID:Vxx0o5//o
まだー??
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