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魔法少女隊R-TYPEs FINAL2〜ティロ・フィナーレの野望〜 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/23(金) 16:56:48.18 ID:j5DtOTeH0
こう、前スレでネタ振ったしもうすぐ4月なのでこうなりました。
今年のグランゼーラは何かやってくれるのかどうか、非常に楽しみです。

注意書き

・これはR-TYPEシリーズ(STG、SLG設定含む)と魔法少女まどか☆マギカのクロスSSとなります。
・かなりオリジナル設定の塊で、そもそも年代自体がR寄りになってます。
・Rなだけに割とキボウ(狂気と暴挙と欝設定)に満ち溢れているかも知れません。
・バイド注意報発令中です。
・ハッピーエンド目指して頑張ります。
・まあ、多分このスレで終わってくれることでしょう。

前スレ
魔法少女隊R-TYPEs
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1320055251/
魔法少女隊R-TYPEs FINAL
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1326091792/

SS-wiki
http://ss.vip2ch.com/ss/%E9%AD%94%E6%B3%95%E5%B0%91%E5%A5%B3%E9%9A%8AR-TYPEs
ネタバレwiki
http://ss.vip2ch.com/ss/%E9%AD%94%E6%B3%95%E5%B0%91%E5%A5%B3%E9%9A%8AR-TYPEs_FINAL

そんなことより次スレがたったよ

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1332489408(SS-Wikiでのこのスレの編集者を募集中!)
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=^・ω・^= ぬこ神社 Part125《ぬこみくじ・猫育成ゲーム》 @ 2024/03/29(金) 17:12:24.43 ID:jZB3xFnv0
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VIPでTW ★5 @ 2024/03/29(金) 09:54:48.69 ID:aP+hFwQR0
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小テスト @ 2024/03/28(木) 19:48:27.38 ID:ptMrOEVy0
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満身創痍 @ 2024/03/28(木) 18:15:37.00 ID:YDfjckg/o
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【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part8 @ 2024/03/28(木) 10:54:28.17 ID:l/9ZW4Ws0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1711590867/

旅にでんちう @ 2024/03/27(水) 09:07:07.22 ID:y4bABGEzO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1711498027/

にゃんにゃん @ 2024/03/26(火) 22:26:18.81 ID:AZ8P+2+I0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/gomi/1711459578/

にゃんにゃん @ 2024/03/26(火) 22:26:02.91 ID:AZ8P+2+I0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/gomi/1711459562/

2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/03/23(金) 23:25:56.05 ID:1bOcoyVFo
まさか本当にこのスレタイになるとはwwwwwwwwww
3 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/03/24(土) 18:37:21.53 ID:HKWzWsc10
ささ、それじゃ新スレでも投下して行きましょうか。
多分このスレで終わるというか、相当余ることになりそうでしょうけどね。

4 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/24(土) 18:37:51.64 ID:HKWzWsc10
誰もが、言葉を失っていた。
誰もが、信じられないものを見るかのようにその光景を眺めていた。
そしてそれは、それをもっとも身近で見てしまっ

た彼女も、同じ。

「……そん、な。バカな」

全ての物を飲み込み砕く、最強のギガ波動砲。
その奔流に飲み込まれ、完全にバイドの姿は光の中へと没していた。
そして、その奔流が駆け抜け、過ぎ去った後には。


傷一つない姿の、バイドの姿があった。


「ギガ波動砲すらも通用しない。一体、一体どうすればっ!」

ギガ波動砲は間違いなく、現行の人類が生み出した最高の攻撃手段である。
R戦闘機という一個の戦力が持ちうる戦力としては、これ以上のものは存在しない。
これ以上ともなれば、ウートガルザ・ロキや超絶圧縮波動砲のような戦略兵器クラスの代物しかない。
そして、いかなラストダンサーといえど、そんな戦略兵器を搭載することは不可能であった。
つまりそれは、ラストダンサーにはもはや、あのバイドを撃滅する手段が存在しないということを示していた。

そして、その光の奔流を受け止めて尚傷一つ負うことなく、バイドはそこにあり。
再び、目前の敵を破壊するための行動を開始した。
5 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/24(土) 18:38:40.18 ID:HKWzWsc10
「そんな……あれでもダメだなんて。やっぱり……ダメなの?バイドを倒すことは、できないのかな」

震える手で、震える声で。
それでも尚、と足掻き続ける英雄の、友の姿を見つめてまどかが言う。

「……最後まで彼女は戦うだろうね。例え敗れて死ぬとしても、その最後まで」

隣に並ぶキュゥべえの、声。
けれどその声は、まどかの知るどこか無機質で感情の色の見えない声ではなかった。
まるで、何かを待ち焦がれているかのような、隠しきれない愉悦が漏れているような。

「ねえ、キュゥべえ。どうして……どうしてあなたは笑ってるの?」

そして、その口元には……笑み。
まどかが恐る恐ると尋ねると、キュゥべえは驚いたように顔を上げた。

「……笑っていたかい、ボクが?」

「うん、なんだか……すごく楽しそうに笑ってる。ねえ、どうして。スゥちゃんがあんなに必死に戦っているのに。
 どうしてキュゥべえは、そんな風に笑っていられるの。……私には、わからないよ」

「そうか、ボクは笑っていたのか。……バイドがボク達に与えた、憎悪という名の感情は
 巡り巡って、さまざまな感情を今のボクにもたらしているらしい。……きっとこの感情は、こう言うのだろうね」

そう言うと、キュゥべえは静かにその目を細めた。
軽く、その耳が揺れて。

「きっと、感慨深いのだと思うよ。長かった。
 本当に……ここまで辿りつくのに、どれだけの時間を費やしただろうか」

そして、キュゥべえはまどかに振り向くと。
さらにその表情の笑みを深めて、こう言った。

「心配はいらないよ、まどか。全人類のバイドとの戦いの歴史は、今日、この日のためにあったんだ」
6 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/24(土) 18:39:34.07 ID:HKWzWsc10
「勝てますかね、あの英雄は」

「勝つわ。そう信じて私達は戦うしかないのよ」

周囲の敵はあらかた掃討することができた。
ようやく少しだけ落ち着いた、その戦いの宇宙で。
ゲルヒルデこと巴マミと、彼女が得た新たな仲間であったマコトが
その鋼の身体で寄り添って、一時の静寂の中を飛んでいた。

「そっちもあらかた片付いたようだね。こっちもようやく落ち着いたよ」

「とはいえ、私達の機体も身体ももう限界よ。これ以上戦うのは……不可能ね」

横合いから、ダンシング・エッジとヒュロスが合流した。
見れば確かに、どちらの機体もボロボロだった。
そしてボロボロなのは機体だけではなく、積み重なる戦いの中で幾度も魔法を行使したのだろう。
そのソウルジェムに溜まった穢れも、相当深刻なレベルに達していた。

「限界なのは他の皆も同じよ。……なにせ、グリトニルからこっち、ずっと戦い詰めだもの」

「せめて、どこかで補給が受けられればいいのですが……」

続々と、この戦いを生き残った魔法少女達が集まってきた。
戦って戦って、戦い抜いて生き延びた少女達である。
誰もが皆、最早歴戦の兵と呼んで差し支えないほどの力量を持っていた。
だからこそこうして、この戦いを誰一人欠けることなく生き延びることができたのだ。

「おねえちゃん!よかった、無事に帰ってきてくれたんだっ!」

そしてその一群から一機。カロンが抜けてきた。
そのままマミのコンサートマスターに接近し、嬉しそうな声をあげた。

「ルネちゃん。……よかった。貴女も生きていてくれたのね」

「私だけじゃないよっ。みんな一緒に待ってたんだ」

ジーグルーネの駆るカロンは、まだ比較的損傷は軽いほうだった。
そんな機体が、嬉しそうにコンサートマスターの周りを飛びまわる。
7 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/24(土) 18:40:22.29 ID:HKWzWsc10
「ねえ、ルネちゃん。……今戦っている英雄。彼女はどうしたら勝てるかしらね」

そんな嬉しそうな様子を見せるジーグルーネに、直通の回線を通じてマミは尋ねた。
その言葉に驚いたかのように、機体の動きを止めて、ジーグルーネは。

「え……おねえちゃん、どうして……そんなこと、聞くの?」

戸惑いがちに言葉を返したジーグルーネに、マミは小さく笑みを浮かべて答えた。

「さあ、どうしてかしらね。……多分、ルネちゃんは知ってるんじゃないかな、って。
 あんな、途方もなく強大なバイドを……倒す方法を」

ジーグルーネは、その言葉に息を呑む。
まるで、そんな風に言われることなど予想だにしていなかったのだろう。
その言葉を聞く周囲の少女達もまた、その言葉の意味を理解できなかった。

「あれは、いつのことだったかしらね。……私がまだ、ここに来る前のことよ」

そんなジーグルーネをよそに、マミは静かに記憶を辿る。
辿れば記憶は手繰られて、明確な映像として脳裏に浮かぶ。
大丈夫、まだ、忘れていない。

「あの頃の私にも、今の貴女達に負けないくらい、大切な仲間達がいたわ。
 その中のある少女が、私にいつか話してくれたのよ。……暗黒の森の番犬のことを、ね」

それは、もう随分と昔の話。
グローリアにて、バイドと化した少女達との交戦を終えた後のこと。
その時ほむらは、その事実を彼女達に伏せていた。
そして結局、誰にもそのことを告げることなく彼女は散った。

けれど、どこかでその少女はそれを知ったのだろう。
人がバイドとなり得ることを、その少女は知っていたから。
その時対峙したあの敵機達が、その元は人であったということを察してしまったのだろう。
8 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/24(土) 18:41:10.68 ID:HKWzWsc10
そして、その少女から伝え聞くようにしてマミもまたそれを知った。
一人孤独に戦い、強大な敵に打ち勝ち。そして帰ることなく消えた。
暗黒の森に眠る番犬たる、幼い少女のその末路を。

「……おねえ、ちゃん。その……仲間、って」

呆然とした声で、ジーグルーネがマミに問う。
その幼い心に浮かんだ疑念を、確信へと変える言葉をマミは告げた。

「佐倉杏子。……私の、大切な仲間だった女の子よ」

「……キョーコの、仲間だったんだ」

懐かしむように。何かを堪えるように、幼い声が震えていた。

「だから、貴女の事も話に聞いていたわ。……千歳ゆまちゃん」

その名を呼ばれて、かつての英雄は、暗黒の森の番犬であった少女は、今はジーグルーネであった少女は。
――千歳ゆまは、小さく息を呑んだ。

「そっか……おねえちゃんは、キョーコの仲間だったんだね。
 でも、どうして私のことが分かったのかな。……私は、死んじゃったはずなのに」

その衝撃が過ぎ去って、ようやく少し心も落ち着くと。
今度は逆に不思議になってくる。今こうして生きていること自体が不思議だが
千歳ゆまは既に6年も前から死人であって、巨大戦艦の襲来の際に本当に死んでいたのだ。
そんな自分のことを、知っている人がいるとは思えなかった。
9 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/24(土) 18:41:37.20 ID:HKWzWsc10
「そうね。普通だったら私だってそんな風には思いもしなかったわ。
 でも、ゆまちゃんはあの杏子の演説の映像を、何度も何度も見ていたでしょう。
 彼女が死んだことを聞いたとき、ずっと泣いていたじゃない」

肉体を持たないマミやゆまは、グリトニルに待機している間は
そのソウルジェムを機械に接続し、半ばグリトニルの一部のようになっていた。
その状態でできることは、思った以上に多岐に渡っていた。
肉体の代わりに得た機能をさまざまに試す内、マミはいつしかそんなゆまの姿を知るに至っていた。

「佐倉さんの生死にそこまで執着する人物なんて、そうはいないわ。
 きっと私達と、ジェイド・ロスとその仲間達くらいのものよ。そして幼い女の子ともなれば……ね?」

それだけ条件が揃えば、おのずと相手の正体は見えてくる。
後は唯一つ、その相手である人物は既に死んでいる。そのことさえ除けば答えは出る。

「……そして最後に、私も多分。ゆまちゃんと同じくもう死んだはずの人間なのよ。
 それが生き返ったということは……もしかしたら、貴女が蘇っていてもおかしくないわよね?」

蘇ったという事実。その事にだけは未だに説明がつけられない。
あの超絶圧縮波動砲の炸裂の中で、ソウルジェムが無事だったとも思えない。
かと言って杏子から聞いた限りのゆまの状況は、彼女が無事でいられるとも思えなかった。
そして何より何故、肉体と一緒にではなくソウルジェムだけが蘇ったのか。
全く持って、不可解な事象であったのだ。

「おねえちゃんも……私と同じだったんだ」

ようやくその事実が飲み込めたようで、けれどもやはりどこか呆然とした口調でゆまが言う。

「そう、案外境遇としては似ているのよ。死んだはずなのに蘇って。
 腕を買われて、こうして魔法少女隊を率いて戦っている。……不思議な巡り合わせね」
10 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/24(土) 18:42:15.43 ID:HKWzWsc10
「だからこそ、ゆまちゃんに聞きたいの。サタニック・ラプソディーの元凶を倒した貴女に。
 一体、どうすればあのバイドを倒すことができるのかを、ね」

そういうことだったのか、と。ようやくゆまも納得したようだった。
それから少し考えて、どこか自信なさげに、頼りなくだが呟いた。

「あの時。レーザーもミサイルも全部あの敵には通用しなくて。それでも必死に戦ってたんだ。
 そうしたら、フォースが敵に乗っ取られちゃって。それでも必死に戦って……」

忌まわしい戦いの記憶。思い出すだけでおぞましく、心の奥の古傷が掻き毟られる。
それでもそれは、長い暗黒の森での眠りを経ても尚、忘れようのない記憶として刻まれていた。
だからこそ、ゆまはそれに思い至ったのだ。

「そうだよ。フォースだ。フォースは乗っ取られちゃったけど、それでもまだ生きてて。
 フォースに溜まったエネルギーを中から開放させて、それであいつをやっつけたんだ!」

どこか興奮したような口調で、ゆまが戦いの記憶を語る。
どんどんと思い出されていくそれは、ゆまの人間としての最後の瞬間にまで続いていて。

「それで敵はやっつけたんだ!でも、まだあの光は生きてて、追いかけてきて。
 それでゆまは逃げようとして、でも逃げ切れなくて、地球が見えてきて……それで、それで……っ」

「ゆまちゃんっ!もういいわ。もういいから……だから、落ち着いて」

やはりその記憶は、幼いゆまにとってはトラウマ以外の何者でもない。
震える声で、恐らく顔が見られたのならそれを蒼白にさせて言葉を放ち続けるゆまを
慌てた様子でマミが制した。

「……ぁ、ごめんね。おねえちゃん。……でも、ゆまは思い出したよ。
 フォースが必要なんだと思う。あの敵を倒すためには、きっと」

落ち着かない呼吸を堪えて、なんとかゆまはそう告げた。
人の身体を捨てたとて、人として生きてきた時間の記憶は拭えない。
その鋼の身に宿した心臓は激しく脈打って、金属質の肺はやけに呼吸を荒げてしまっていたのだ。
11 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/24(土) 18:43:03.51 ID:HKWzWsc10
それでも、答えを得ることはできた。
その答えが正しいのかどうかは分からない。それでも、報せる価値はある。
今尚全太陽系に発進し続けられているこの強力な通信波。
これほど強力であれば、その元を辿ることは容易い。そこに赴き、それを伝える。
向こうの状況を把握しているのなら、声を伝える事だってできるはずだ。
確実ではないが、きっと今はそれが自分のなすべきことだとマミは考えていた。

「隊長っ!高速でこの宙域に接近する機体があります」

思索にふけるマミと、呆然としたままのゆま。
その二人に向けて、その声は投げかけられた。

「っ。機体って、バイドのものなの?それとも味方かしら?」

いち早く我に帰ると、マミはすぐに詳細を問いただした。

「わかりません。所属不明。データにもない機体のようです。凄い速度で向かってきてますっ」

判別はつかないということは、概ね敵と見て間違いはない。
相手は一機だが、こちらは皆ボロボロの状態である。油断はできない。

「損傷の少ない機体は前面に出て頂戴。正体不明機の姿が見えたら一応コンタクトを。
 応答がないようなら、そのまま各自散会して攻撃をしかけて。相手が行動する前に勝負をつけるわ」

指示を飛ばせば、すぐさま各所から了解の返事が届く。

「ゆ……ルネちゃんも、前に出てくれるかしら」

「うん、わかったよ。お姉ちゃん」

ようやく我に返ったゆまが、前線へと進む部隊の中に加わっていった。
12 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/24(土) 18:43:40.27 ID:HKWzWsc10
「正体不明機、交戦圏内に入りますっ!」

「さあ、かかって来なさい。誰だか知らないけれど、私達はそう簡単にはやられないわよ」

そしてついに所属不明機は交戦圏内へ。
姿を現したその機体は、R戦闘機のようにも見えたが。
こちらの呼びかけに対する返事はなかった。となれば敵だろう。
まずは一斉射撃とばかりに、それぞれの機体が所属不明機へとその照準を合わせた。


「こらーっ!やめなさいっての、撃つんじゃなーいっ!!」


突然、所属不明機から飛び込んでできたその声は、少女の物だった。
人が乗っている。流石にそれを撃つことはできずに、ギリギリのところで少女達は踏みとどまることができた。

「ふーっ、危ない危ない。通信チャンネルの設定が、ギリギリ間に合ってよかったよ」

所属不明機を駆る少女は、ほっとしたように一つ声を上げた。
ついに機体のセンサーが捉えたその機体。その姿はやはりデータにないもので。
それも当然。その機体は、R戦闘機の開発基地を飛び出したばかりのカーテンコール。
そして、それを駆る少女は……。

「そんな……貴女、美樹さんっ!?」

「え……そんな、この声って。嘘!?ま……マミさんっ?!」

こんな宇宙の只中で、二人は再会を果たしたのだった。
13 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/24(土) 18:55:09.53 ID:HKWzWsc10
言ったでしょう、ハッピーエンドを目指して頑張るって。
みんな続々帰ってきてくれて、話が賑やかになって嬉しいです。割と。

>>996
FINALをやったことある人にとってはわかっちゃう展開ですよね。
っていうか、F-Aラスボス相手にギガ波動砲を最後までチャージするのはきつそうですよね。
特にR戦闘機への応対が、あれ割と堅いですし。

>>997
残念、もうちょっとだけ続くんじゃ。
後タイトルは、まあ最初の方でそんなことを言ってしまいましたし
もうすぐ4/1なのでこれでもいいかな、と。

>>998
されたらいいですねぇ。どんなゲームになるのかさっぱりですが。
基本SLGで局所的にSTGを混ぜたりするんでしょうか。
でもってトロット風のADVパートが入ると。ううむ、ジャンルが絞りきれない。

>>2
一応普通に『魔法少女隊R-TYPEs―Operation LAST DANCE―』という候補もありましたが
気がついたらこんなことになっていました。でも内容は相変わらずだと思います。
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/03/24(土) 19:45:57.36 ID:xRUheamIO
さあ、エイプリルフールには
ギャグ編でもやるんだ

ゆまが大佐になったりとか良いんじゃないか
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/24(土) 20:26:35.90 ID:imJ9gezDO
新スレ初投下感謝です!
世の中、そんなに甘くないよね…って思って、ゲルヒルデさんもジーグルーネちゃんも別人で想像してたらマミさんにゆまちゃんだったでゴザル。
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/03/25(日) 00:29:22.87 ID:CXFPxE8Oo
言われて気づいたけど、搭乗機がコンサートマスターにカロンだったのね。納得。
流石にあんこちゃんは生きていないかな・・・?
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/25(日) 00:53:01.06 ID:Xy1fJ0BDO
そういえば、織莉キリ帰還の時…密かにルート分岐してたみたいね。
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/25(日) 01:05:36.49 ID:Tp4JT7ul0
彼女たちって、元使い魔だったりするのだろうか?

それともひょっとしてすでにまどかが契約を……
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/03/25(日) 01:30:40.38 ID:TaBCtZK7o
オクタ結界にいたのは半魔女杏子(オフィーリア)の生前の記憶から再現創造された使い魔
グリトニル送りになったりしていたのは杏子の魔法少女契約によって本体を再生された魔法少女

って書いてなかったっけ
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/03/25(日) 09:32:20.09 ID:tGSEonWxo


ゆまちゃんだったか
てっきりよく似たオリキャラだと思ってたわ

あんこちゃんの願いの範疇に入ってたのね
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(石川県) [sage]:2012/03/26(月) 13:24:59.35 ID:QiWkBAyX0
乙でつ

ハッピーエンドねぇ…

そういやWiiの配信、
Vやsuperだけじゃなく、
イメージファイトとかミスターヘリも終わるそうだが
買っとくべきなのか?
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/26(月) 15:37:37.12 ID:gE0Oh/RDO
ところで、ゆまちゃんは杏子と出会った時…既にソウルスライム(ジャムと言うべきか?)と形容出来る姿だったが…、ちゃんとSGで戻って来てるのか…?
23 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage]:2012/03/26(月) 21:41:13.11 ID:esq9dg8G0
いよいよ決戦の時、といった感じなのでしょうか。
では、投下していきましょう。
24 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/03/26(月) 21:41:48.91 ID:esq9dg8G0
「……私は彼女と話をするから、皆は先行していて。後で追いつくわ。
 場所は指定したとおり。この通信波の発信源よ」

付き従う魔法少女隊にそう告げ、マミは一人、さやかのカーテンコールに向き合った。

「生きているとは聞いていたけれど……こんなところで出会えるなんて、思わなかったわ」

マミにとってもさやかにとっても、それは思わぬ再会だった。
英雄の帰還の際に、戦いの最中に死に分かれてそれきりで、まさか再び出会うことになろうとは。
最早感慨深くすらもある、と。マミは深い喜びを込めて呟いた。

「い、いやいやいやいやっ。そんな普通にしみじみ再会喜ぶ場面ですかっ、マミさんっ。
 って言うか本当にマミさんなんですか!?だって、マミさんはあのときに……」

だが、そんな純粋な懐かしさや喜びに浸ることは、さやかには不可能だった。
なにせ、さやかにとってはマミは既に死人なのだ。
戦いの中で失われた命。それに再びこうして出会ってしまった。
自分の頭が、自分ですら自覚できないうちにおかしくなってしまったのか。
それとも、ほむらのようなクローンでもできていたのか、そんなことまで考えてしまっていた。

「……そうね。確かに私はあの時死んだはずなのよ。バイドの戦闘機を倒すために超絶圧縮波動砲を使って。
 けれど、なぜか私は生きていた。そして、今もまだバイドと戦っているの。
 さやか。貴女も……同じみたいね。一度戦いの運命に巻き込まれたら、なかなか抜け出せないものよね」

そう言ってマミは笑った。
何度死にかけても、その度にその淵から蘇り、尚も戦いの運命に飲み込まれていく。
歳若い少女が背負うには、それはあまりに重く、暗い運命だ。

「そうですね、本当に。あたしだって、もう戦わなくてもいいはずなのに。
 魔法少女でもなくなっちゃったのに、まだこんなのに乗ってるんですから」

そして、同じようにさやかも笑った。
けれどその言葉は、マミにとっては聞き捨てならない言葉だった。
25 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/26(月) 21:42:27.88 ID:esq9dg8G0
「えっ?さやか、魔法少女じゃないって、どういうことなの?」

「あ、そっか。マミさんはその時にはもう……いなかったんですもんね。
 あ……でも、これはなんて説明したらいいんだろうな」

知らないのも当然で。けれどマミが機体と共に消えた後、さやかと杏子に一体何が起こったのか。
それを具体的に説明することは、きっと少なからずマミにとってもショックな事だろうと考えていた。

「えっと、あの後も……私と杏子はずっと戦ってたんです。
 でも、その中であたしは……ちょっと魔法とか言うのを使いすぎちゃったみたいで。
 ……それで、あたしは」

あの時のことを思い出すと、今でも胸がずきりと痛む。
きっとそれをそのまま伝えれば、マミも同じような痛みを抱えてしまう。
だからこそ、どうにか魔女の話はぼかして話そうかと考えた。けれど。

「……魔女に、なってしまったというの。さやか?」

マミは、魔法少女隊の隊長であるゲルヒルデは、そんなことなどとうに知っていた。
そして人類が、魔法少女を生贄に魔女を兵器として運用してしまっている事さえも、既に知っていた。

「知ってたんですか、魔女のこと」

「ここで戦うようになってから、なのだけどね」

だとすれば、もう隠す必要もないのかもしれない。

「魔女になったのに、貴女はまだ人間として生きているのね。
 一体どうして、まさか、魔女を人間に戻す方法が見つかったのだとしたら……」

そしてマミにとっては、今のさやかの存在こそが衝撃的な事実であった。
魔女となって尚、人の身体に戻りえたということ。
それはすなわち、自らの身体に戻ることができるのかどうかすら分からない、魔法少女隊の皆にとって
一つの希望になるのではないかと、そう考えていたのだ。

「あたしが人間に戻れたのは、杏子のおかげなんです。
 杏子が、願いと引き換えに魔法少女になったから。その願いのおかげで、あたしは人間に戻ることができたんです」
26 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/26(月) 21:43:00.66 ID:esq9dg8G0
「……そういうこと、だったのね」

魔法少女と魔女。そしてその願いと魔法。
真実を知りえる立場にあれば、少し調べるだけでその関係を見出すことはできた。
だからこそマミは、既に契約と願いによって生まれる魔法少女と
魔法を使った末に訪れる魔女化という末路を既に知っていた。

そしてその方法が、他の魔法少女達を救う術にはなりえないことを知り、少しだけ落胆もしていた。

「それじゃあ杏子は、貴女に生き返って欲しいと。そう願ったのね」

「それが……ちょっと、違うんですよね。あれは……そう、魂の再構成だって。キュゥべえが言ってました。
 それで、身体から離れちゃったあたしの魂を作り直して、身体に戻したんだって」

「魂の、再構成……そう、そういうことなのね」

さやかの言葉を聞いて、なにやら納得するかのように、マミは小さく声を漏らして。
そして、再び問いかけた。

「……さやか。例えばもし貴女が、杏子と同じ立場だったとしたら。
 貴女は、杏子だけを助けることを望むかしら」

「マミさん?……え、っと。そりゃあ、あたしだったら皆助かって欲しいって思いますよ。
 当然でしょ。皆、あたしの大事な仲間だったんだから」

質問の意図を掴みきれずに、戸惑いがちに答えを返したさやかに。
マミは、小さく笑ってこう言った。

「きっと、杏子も同じだったんだと思うわ。だから、私もこうして生きているんだと思う」

「っ。マミさん、それって……」

驚いたように息を呑むさやかに、マミは続けて言葉を告げる。
27 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/26(月) 21:43:27.63 ID:esq9dg8G0
「確証があるわけでもないわ。でも、きっとそうしたんだとおもうの。
 さやかの魂が蘇ったように、私の魂も蘇った。きっとさやかはもう魔法少女ではなくなっていたから
 普通の人間として蘇ることができたのね。けれど、私はそうじゃなかった」

「……ってことは、マミさんもあの時、実は生き返っていて」

「けれど、ソウルジェムのまま残されて、それが後で発見された。
 ……きっと、そういうことね。だとしたら、きっと」

そう、それは一つの答えを示していた。

「きっと、ほむらも生きてるっ!」

さやかにとっても、マミにとっても。まさしくそれは希望だった。



そして、そう。ほむらは確かに生きていた。
マミと同じくソウルジェムのみが再構成され、後にそれが発見された。
しかしその頃には既に、スゥが英雄の後釜として決定されていた。
今は英雄であるスゥの正体を知るほむらは、通常のパイロットとして運用するのは難しい。
だからこそ、彼らは別の方法でほむらのソウルジェムを利用していた。

暁美ほむらは、その意識を封印されたまま、ラストダンサーに組み込まれていたのだ。
彼女が持つ魔法。時間停止を発生させるためのユニットとして。
28 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/26(月) 21:43:57.38 ID:esq9dg8G0
「きっと、ゆまちゃんもそれで生き返ったのね」

「ゆまちゃん?誰なんですか、それって」

一通り納得することができた。
自分が今どうしてここに存在しているのか、答えを得た。
事実であるかどうかはわからなくとも、それは二人にとって納得のできる答えだった。

「新しい仲間よ。彼女のことも後で紹介するわ。……でも、今は先にやることがあるわ」

そう、今は悠長に話をしている場合ではないのだ。
こうしている間にも、再びバイドが襲撃をしかけてくるかもしれない。
既にバイドは太陽系内部に広く領土を伸ばし、侵略と増殖を始めている。
一度撃退したとは言え、またすぐに勢いを取り戻して戻ってくるだろうことは用意に想像できた。

「そうでしたそうでしたっ!あたしもそれできたんだ。マミさんに会えたなら丁度よかった。
 あたしも、また一緒に戦わせてくださいよ、ね。マミさんっ!」

「さやか……でも、もう貴女は魔法少女じゃないんでしょう?」

それはすなわち、魔法少女の特性であるサイバーコネクトを介した機体操縦が不可能だということで。
まるで自分の身体であるかのように、機体を動かすことはできないという意味であった。

「それでも、戦えます。機体の動かし方は忘れてない。戦い方だって、覚えてる」

「……死ぬかも、しれないわよ」

「人類皆が生きるか死ぬかの瀬戸際なんですから。今命を張らないで、いつ張るって言うんですか!」

そう、これが美樹さやかだった。
どれほどの絶望に打ちひしがれても、戦う力を失っても。
それでも、諦めない。戦う意思と覚悟は挫けない。折れない。
そんなさやかを、マミは懐かしくも、そして頼もしくも思っていた。
29 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/26(月) 21:44:53.70 ID:esq9dg8G0
「じゃあ、もう一度一緒に戦いましょう。太陽系のあちこちにバイドが侵入しているわ。
 英雄が勝てば、それでバイドの活動は止まるそうだけど、それまでバイドを放ってもおけないわ。
 それとは別に、やらなきゃいけないこともあるし」

防衛部隊の本隊は、バイドの本軍を迎え撃つため火星宙域に向かっている。
となれば、恐らくそれ以外の場所の守りは薄いだろう。
周辺施設へもバイドが侵攻している可能性が高い。その相手をする必要もあるだろう。
恐らく、他の星にも既にバイドは押し寄せているはずだが、流石にそれは遠すぎる。
R戦闘機の最大速度をもってしても、惑星間航行は時間がかかってしまうのだ。

「やらなきゃいけないこと、ですか?」

「ええ、全太陽系に発進されているこの通信波。その発信源へ向かうの。
 恐らくそこへ行けば、バイドと戦っている英雄と通信がとれるはず。そして、伝えないといけないの。
 あのバイドを倒せるかもしれない方法をね」

「倒せるかもしれないって、どういうことなんです、マミさん」

「話は道すがらするわ。とにかく行きましょう。仲間が先に向かっているはずだから」

「わっかりました。そういうことなら、行きましょうっ!」

そして再び、カーテンコールとコンサートマスターが、宇宙を駆ける。
傷ついたコンサートマスターは、それでも機体性能ギリギリの速度で。
カーテンコールもそれに続いていく。それでも出力にはまだ大分余裕があるようだ。
耐G機構も強化されているようで、生身の身体であってもほとんどGの影響は受けていない。
とはいえ、それも通常機動でもってこそ、戦闘機動ともなるとどうなるか。
それはまだ、さやかにも分からない。


「……マミさんの機体、あんなにボロボロだ。
 あんなになるまで、どれだけ戦ってきたんだろう。……私も、頑張らなきゃな」

コンサートマスターの後姿を追いかけながら、その姿を見つめて。
自分の知らない巴マミが過ごしてきた時間と、乗り越えてきた戦いの大きさをさやかは思う。
そして、これが最後の戦いなのだということを知る。

「そして、あの時聞こえた声はまどかの声だった。
 ……ってことはきっと、これから行くところにまどかがいる。
 ちゃんと会って、謝らないとな。まどかに」

そして、遥かな友のことを思った。
30 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/26(月) 21:45:37.36 ID:esq9dg8G0
「諦めるか。諦めて……たまるかぁっ!」

頭上から、そして真下から次々にバイドが現れては、再び液面に沈む。
その身体そのものを武器にして、迫る。
更にはバイドから放たれるもの。今度のそれはパウ・アーマーの形をしていた。
全てを纏めて、持続式圧縮波動砲で押し潰す。その一撃はそのままバイドさえもを貫いた。
激しく光、バイドを焼き尽くす破壊の光。
けれど、その全てが駆け抜けたその後にはまたしても。
無傷の、バイドの姿があった。

交戦を初めてもう随分と長い時間が過ぎ去っていた。
幾度となくレーザーが、ミサイルが。そして波動の光がバイドを焼き尽くした。
それだけの攻撃を繰り返しても、尚。バイドは無傷のままであった。
どれだけの力をもってしても、科学の粋と、未知の魔術を合わせたとしても。
それでも尚、バイドに傷一つつけることができないのである。

攻撃自体は、さほど苛烈というわけではない。
むしろ本当にそれは攻撃なのだろうかと思うほどなのだ。
ただ、無作為にバイドを生み出し続けるだけだったのだから。
もしもそうでなければ、これほど長い時間を戦い抜くことはできなかっただろうが。

そして、一見どちらも無傷に見える戦いにも、変化はやがて訪れる。
それは間違いなく、人類にとって不利な形で。

「っ……ついに、魔法も限界ってわけね」

魔法によるラストダンサーの装備変更。
それは、魔法少女の魔法によって為されている。
そういう魔法を持ったソウルジェムが、ラストダンサーには搭載されている。
けれど、それが魔法である以上、代償にソウルジェムには穢れが蓄積されていく。
それを取り除くための材料。魔女の死骸から採取されることのあるグリーフシードが
ついに、底をついてしまったのだ。
装備を変更できるのも、恐らく次が最後だろう。
31 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/26(月) 21:46:42.71 ID:esq9dg8G0
「……こんな時、貴女ならどうしますか。スゥ=スラスター」

待っているのは、遠からぬ破滅。
今のままではそれは確実で。そしてそれを防ぐための手段は、未だ持って存在しない。
こんな時、本物の英雄だったならどうしたのだろう。

スゥは、限りなく近く。そして果てしなく遠い英雄のことを思う。
そしてラストダンサーの中にある、もう一人の自分のことを、思った。

「そして、貴女ならどうするの?いるんでしょう、8号。……いいえ、暁美ほむら」

一瞬だけ聞こえた声。
その声は誰の声なのかと考えて、たどり着いたその答え。
それは、自分の声だということで。
自分と同じ声を持つ者。自分と同じ姿を持つ者。そして、魔法少女。
それが当てはまるものはただ一人。
英雄、スゥ=スラスターのクローンで、もう一人の自分で。
そして、かつてスゥが13号であったころの怨敵。
それが、暁美ほむらだった。
32 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/26(月) 21:47:01.34 ID:esq9dg8G0
――フォースを、使いなさい。

「っ!?貴女は……暁美ほむら、そうでしょ。応えて、暁美ほむらっ!」

再び、声が聞こえてきた。
けれど今度の声は、どこか途切れ途切れの声で。

――あまり、長くは話せない。……もう、限界だから。

ソウルジェムに眠るほむらの意識は、封印されてしまっている。
ほむらは、自らの魔法でその封印を破り言葉を伝え、更に魔法を行使していた。
それは、非常に大きな魔力を消費する行為だった。
穢れを取り除く術を失ったラストダンサーでは、もはやそれだけの魔力を消費することは
ほむらには非常に困難で、こうして途切れ途切れの言葉を繋ぐことすらやっとのことだった。

――今までの戦いで、フォースが、全てに決着をつけてきたの。

――だから、きっと、今回も……。

「フォース?そんなもの、とっくに使ってる!いくらレーザーを当てても
 刄Eェポンさえもあいつには通用しなかったんだぞ!」

そう、考えうる限りの武装は既に試した後だった。
その上で、バイドは刄Eェポンですら傷一つつけることができなかったのである。

――直接、奴に……フォース、を。

限界が来たのだろうか。
声が、ぷつりと途切れた。

「暁美ほむら?暁美ほむらっ!……結局、何が言いたかったのよ、貴女はっ!」

忌々しげに、スゥは一つ吐き捨てた。
33 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/26(月) 21:47:58.84 ID:esq9dg8G0
「直接、奴にフォースを?……フォースシュートをしろってこと?
 でも、奴には波動砲もレーザーも通用しなかった。そんな相手に、フォースが通用するとは思えないわ」

それでも、必死に考える。
暁美ほむらはスゥ=スラスター本人の記憶を受け継いでいるらしい。
だとすれば、ほむらにはかつての対バイドミッションの記憶が残されている。
その時も、きっとこれほど強大なバイドと交戦したのだろう。

「……守りが手薄になるのは不安だけれど、試さない理由は……ない」

だとしたら、本当にその戦いの終止符をフォースが撃ったのだとしたら。
もしかしたら、何かが変わるかもしれない。

「これが最後なら、全力で行くわ」

最後の装備変更。
ギガ波動砲。サイクロン・フォース。サイ・ビット改。追尾ミサイル改。
間違いなく、殲滅力でも突破力でも最高の組み合わせだった。
そして限界を向かえ、ついに魔女を孕むほどに穢れを溜め込んだソウルジェム。
見知らぬ魔法少女の魂の宿るそれが、ラストダンサーから排出された。

そのソウルジェムを、そしてバイドより生み出されたR戦闘機群を。
まとめて、低チャージのギガ波動砲が打ち抜き、砕いた。
悲鳴の一つもあげることなく、きっと恐らく恐怖すらも感じる間もなく。
一人の少女の魂が、光の中へと消えていく。

自分が行った行為の意味が分からないわけではない。
それでも、それで道は開けた。
そうしてできた一本の道。バイドへと通じるその道に。
スゥは、サイクロン・フォースを叩き込んだ。
34 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/26(月) 21:48:49.79 ID:esq9dg8G0
バイドの、その異形の大樹の中枢。
今も液体から光を吸い上げ、脈打つその心臓にサイクロン・フォースがめり込み
その周囲を回転するイオン体と、フォースそのものが持つ攻性エネルギーによる攻撃を行った。
けれど、やはり効果はない。

「……やはり、無駄ね」

フォースを手放してしまった状態では、防御能力に不安が残る。
すぐさまスゥは、サイクロン・フォースを呼び戻そうとした。
だが。

「フォースが、戻らない?」

呼び戻せばすぐさま戻るはずのフォースが、バイドの表面に食いついたまま戻らないのだ。
そして、バイドの様子にも変化が訪れた。
まるでフォースを捉えるかのように、バイドが伸ばしたその蔦は、フォースをしっかりと捕らえていた。
その蔦もまた、フォースによって焼き払われることもなく。

「フォースまで、取り込むつもりなの」

フォースは、人工培養によって生み出された純粋なバイド体である。
そしてこの目の前にいるバイドもまた、限りなく純粋に近いバイドなのだろう。
だからこそ反応しあっているのか、融和してしまっているのか。
蔦に捕らわれたサイクロン・フォースは、そのままバイドの中へと引き込まれていく。
ラストダンサーの元へ戻ろうとする動きを押さえつけて、ゆっくりと。

「させないっ!」

それを阻止するために、フォースに内包されたエネルギーが解放された。
刄Eェポンにも近いそれは、バイドを中心として荒れ狂う。
だが、そのエネルギーでさえも、バイドは吸収してしまった。
35 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/26(月) 21:49:25.10 ID:esq9dg8G0
解放されたエネルギーの奔流が収まると、やはり無傷のバイドがあって。
そして更に、サイクロン・フォースはずぶずぶとバイドの中へと沈みこんでいく。
だが、変化は起こっていた。

大樹の中で光を吸い上げ、静かに脈打っているだけのはずの心臓が。
今は激しく脈打っている。はち切れそうに膨れている。
それは一体、何を意味するのだろうか。

考える。
あのバイドの大樹の為す役割を。
考える。
それはきっと、木々が大地から養分を吸い上げるように、あの液面からエネルギーを吸い上げ
そして、バイドやR戦闘機という形にして放出するということなのだろう。
放出に間が空くのは、きっとその為のエネルギーを蓄積しているからに違いない。

考える。
だとしたら、今の状態はなんなのだろう。
バイドの心臓ははち切れそうなほどに膨らんでいる。
考える。
奴は、いったい何をした。
奴は、フォースを、そしてそこに蓄積された、膨大なエネルギーを取り込んだ。
もしもあれが、一気に大量のエネルギーを注ぎ込まれて、はち切れそうに膨らんでいるだけなのだとしたら。

「……奴がエネルギーを放出する前に、更なるエネルギーをぶつけてやれば」

奴を、バイドをパンクさせることができるかもしれない。
希望が、見えた。
36 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/26(月) 21:50:05.54 ID:esq9dg8G0
フォースからエネルギーを吸い上げているというのなら、フォースに更なるエネルギーを加えればいい。
その方法は何だ。すぐに、それに思い当たった。

ラストダンサーが、ギガ波動砲のチャージを開始する。
蓄積させたエネルギーが放出される前に、更なる一撃を奴に叩き込む。
淡い期待と可能性。それでも、それは初めて勝機を垣間見ることのできた瞬間。

「これでダメなら、別の方法を考えるまでよ」

そしてスゥは、その脈打つ心臓にギガ波動砲を叩き込んだ。
着弾。本来ならば全てを貫通するはずのその光は、サイクロン・フォースを介してバイドの中へと消えていく。
そして、それはついに限界容量を超えた。
激しい光が、バイドの内側から溢れる。
それは文字通り、膨大な量のエネルギーの奔流。
ギガ波動砲のそれより遥かに大きなエネルギーが、その空間の中に轟き、荒れ狂い。
バイドも、ラストダンサーも、全てを等しく飲み込んでいった。
37 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/03/26(月) 22:05:11.46 ID:esq9dg8G0
クライマックスへ向けてガシガシ書いてると、割とテンションがえらいことになります。

>>14
ゆまちゃんが言うわけですね。
「ご苦労だった・・・と
言いたいところだが、
君等には消えてもらう。
貴様等は知らんだろうが
我が1000年の闘争は
ここで勝利と言う終焉を迎える

これから貴様等は
なんの手助けも受けず、
ただひたすら、死ぬだけだ。
どこまで もがき苦しむか
見せてもらおう。

死 ぬ が よ い」

と。
すごい大佐だ。
あ、どこかのブラックアイレム団の偉い人は本家でお仕事があるかもしれませんね。
……まだ無理かな。

>>15
マミさんについては誰でも気付くようにしてました。
ゆまちゃんももうちょっと早めに出せていれば色々ネタを振ろうかと思いましたが。
どのタイミングで公開しようかなぁ、とずっと考えてました。

>>16
ですです。
流石にガンナーズブルームやババ・ヤガーもってきたらモロバレなので。
それに近しい系列で最終進化系のものを用意して乗って貰うことにいたしました。
杏子ちゃんは……。

>>17
おりキリは逆流空間を通って地球に帰ってきました。
跳躍空間を通るよりも、更に早く帰ってくることができたようです。

>>18
杏子ちゃんの契約によって、マミさんとほむらちゃん、そしてゆまちゃんの魂は呼び戻されました。
ロス提督やアーサーさんは、あの時まだ生きていたので無理でした。
肉体を生み出さない分、多くの人数に適応されたのでしょう。
そもそもにして、多分この杏子ちゃんは原作の杏子ちゃんより因果は集中してそうですし。

>>19
前者はその通り、後者は杏子ちゃんの願いで生み出されたり、強制徴兵された魔法少女だったりします。

>>20
一応それっぽく見えるようにはしてました。
なんとか救いはないかと考えた結果がこれです。

>>21
ハッピーエンドもベターエンドもビターエンドも
ついでにバッドエンドもバイドエンドも全部まとめて大好きです。

やってみたければゲットすればよいのです。
私もそろそろ購入しなくちゃ。

>>22
戻ってきてましたね。
どうやらその辺はちゃんとサービスが効いているようです。
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/03/26(月) 22:07:44.39 ID:AxbPJgCro
乙です
因果か…やっぱ演説が効いたのかな
39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga sage]:2012/03/26(月) 22:15:47.54 ID:o+fH9A130
はたして、どんなクライマックスを迎えるのか
そして、>>1の次回作は桜坂消防隊なのか、
絶体絶命都市なのか、はたまたパチパラとかどきどきすいこでんなのか

次回も楽しみで夜しか眠れない 乙でした
40 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/03/26(月) 22:49:25.72 ID:esq9dg8G0
uzuさんのラジオ聞いてます、証明がてらに一言
41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(石川県) [sage]:2012/03/26(月) 22:54:18.42 ID:QiWkBAyX0
>>40
あの放送で
「ネットの中にはR-TYPE×まどマギクロスssというものがあってだな…」
という旨をコメした者です。
世間て狭いね
42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/26(月) 23:19:52.23 ID:jU+kpDMMo
私もuzuさんの放送でやっているという旨を言ったことありますねー。
今更だけどさやかちゃんと話していたサーシャって聖闘士星矢LCのサーシャ?ペガサスなんて単語あったし気になったww
43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/26(月) 23:20:48.52 ID:jU+kpDMMo
私もuzuさんの放送でやっているという旨を言ったことありますねー。
今更だけどさやかちゃんと話していたサーシャって聖闘士星矢LCのサーシャ?ペガサスなんて単語あったし気になったww
44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/27(火) 01:21:56.08 ID:U3B2Hycm0
>ロス提督やアーサーさんは、あの時まだ生きていたので無理でした。

杏子の契約時すでに二人は死んでいたのでは……
それとも陽電子砲でも[ピーーー]なかったのか?
45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/03/27(火) 06:10:33.91 ID:0thGzK1ao
エネルギー吸収する敵には容量限界を超えてエネルギーを吸収させるのは常套手段だよな
乙ですた
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/27(火) 07:07:56.93 ID:PJpRAEUDO
お疲れ様です。
あれ?確かマミさん達はフォースが云々を伝える為にまどかの所に向かってたんじゃ…?もう先にやっちゃってるみたいだけど、良いの?これ。
47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/28(水) 00:17:52.89 ID:fx0mjc4do
エイプリルフール延期だなんて・・・
48 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/03/29(木) 19:09:04.94 ID:fPUg4sSN0
ああ、なんだか本当にクライマックスって感じがします。
では、今日も投下しましょうか。
49 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/29(木) 19:09:36.75 ID:fPUg4sSN0
「どうやら、私達が報せる必要もなかったみたいね。さすが英雄といったところかしら」

激しい光の炸裂。
その中に消えていくバイドの姿を、マミはコンサートマスターのコクピットから眺めていた。

「……じゃあ、他にバイドがいそうなところに行きます?マミさん」

それに併走するカーテンコールから、さやかが問いかけた。
確かにフォースによって活路は開かれた。これで決着がついたのなら、もうバイドの脅威はないはずだ。
それを確かめるためにも、バイドの動きを調べる必要はあった。

「そうね。とにかく先行している皆に合流して、それから考えましょう。
 ……とは言え、この通信波の出所にはきっとまどかがいるのよね」

「……確かに、まどかのことは気になるんですよね。一体なんであんなことになってるのか」

まどかの元へ向かいたいという、そういう気持ちも確かにあった。
けれどそれは、目の前のバイドを倒すことと天秤にかけられるのだろうか。

「仕方ないわね。それじゃあこうしましょう」

まどかの安否とバイドの殲滅。
その二つの間で揺れるさやかの姿をみて、マミは一つ頷いて。

「私は仲間を率いて近隣のバイドの討伐を続けるわ。さやか、貴女はまどかの下へと向かって」

「えっ。でも、いいんですか。マミさん」

「大丈夫よ。私達は負けないわ。それにもしかしたらまどかの所にもバイドが近づいているかもしれない。
 その時は、すぐに私達を呼んで頂戴。急いで駆けつけるから」

少なくとも、今のところはまどかは無事のようである。
となれば、全員でまどかの元へと向かう必要は恐らく無い。
けれど、安否を確認したいというのもまた事実なのだ。
だからこそ、その役目をさやかに託したのだった。

きっとそこには、生身のさやかを戦わせたくはないという気持ちも、少なからずあったのだろう。
50 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/29(木) 19:10:09.94 ID:fPUg4sSN0
「……わかりました!それじゃまどかの様子を確認したらすぐに駆けつけます。
 それまで、どうか無事でいてください、マミさんっ!」

そしてカーテンコールが速度を上げた。
まずは先行している部隊に合流し、進路の変更を伝えなければならない。
そしてそのまま、まどかの元へと向かう。
カーテンコールを最大速度で飛ばせば、そう遠からず追いつくことはできるはずだった。
ラストダンサーほどではないものの、このカーテンコールも常識的なR戦闘機の範疇において
十分に革新的ともいえるほどの性能を有していたのだから。

「ええ、私もできる限り急ぐわ。……必ずまた会いましょう、さやか」

再会は、思いがけず短い時間で終わってしまう。
けれど、これを最後にするつもりはない。必ずまた出会うために。
全人類が生きて明日を迎えるために。今は敢えて、別々の道を行くのだ。
そして、二つの光はそれぞれの道を往く。
さやかはまどかの下へ、そしてマミは新たな合流場所を目指して。
新たな合流場所は、既にさやかに報せてあった。
さやかなら必ずやり遂げてくれると信じて、マミは新たな合流場所へと目指して飛んだ。

現在地球連合軍及びグランゼーラ革命軍による連合軍は、火星周辺宙域にてバイドと交戦を行っている。
グランゼーラ革命軍が保有していた戦力は、地球連合軍の予想を遥かに上回っており。
その力もあり、今のところ戦況は優位に進んでいた。
だが、バイドは今も太陽系の各所にて増殖を続けている。
その大量のバイドが一斉に襲い掛かってくる前に、英雄が全ての決着をつけてくれることを祈るしかなかった。

その時までただ耐え続けること。押し寄せるバイドを倒し続けること。
それが、人類に許された最後の抵抗だった。
51 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/29(木) 19:10:39.73 ID:fPUg4sSN0
全てを押し流す光の、そして破壊の本流。
長く激しく続いたそれは、ラストダンサーにすらその牙を剥く。
激しく揺さぶられ、ただ飛んでいることすらも困難なその最中を、スゥ必死に機体を立て直しながらやり過ごしていく。
そして長すぎるとも思える光が過ぎ去った後、一瞬の静寂が戻った。

光に焼かれた視界が戻ってくると、衝撃の余波に未だに揺らめく液面が間近にあった。
高度を下げすぎたかと、スゥはラストダンサーを浮上させる。
そして、敵の姿を視認した。

あれだけ浮遊していたバイドの群れも、R戦闘機やパウ・アーマーも、全てが破壊の波に飲まれて消えていた。
だが、それでも尚。それほどの破壊と力をその身に注がれて尚、バイドは健在であった。

「……」

けれど、スゥの心は揺らがない。
そう、今までどれほどの攻撃を浴びせても傷一つつかなかったバイドが。
今、堅牢を誇るその巨躯はひび割れて砕け、その奥に覗く脈打つ心臓は完全に露出してしまっていたのだ。

「今度こそ、終わりよ」

最早、その心臓を守る壁はない。
となれば、通常兵器でも十分にバイドの打倒は可能である。
先ほどの炸裂の中で、どうやらフォースは消失してしまったようだが、それでも問題はなかった。
波動砲を叩き込めば、それで終わるのだ。

「お前を倒して、私はまどかのところへ帰るっ!」

動きを止めたままの心臓をめがけ、ラストダンサーは駆ける。
そして同時に、ギガ波動砲のチャージを開始した。
……だが。

「チャージが進まない……一体、これは」

それは、先の炸裂の余波の影響なのか。
それともついに、度重なる酷使にラストダンサーでさえも限界を迎えてしまったのか。
波動砲のチャージを示すゲージは割れて砕け、一切のチャージができなくなってしまっていた。
どれだけチャージを続けようとも、割れたゲージは一切の変化を見せなかった。
52 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/29(木) 19:11:14.00 ID:fPUg4sSN0
「どうやら、まだ終わりじゃないみたいだね、織莉子」

異層次元の彼方で、そして見知らぬ空間で、そして太陽系で。
ありとあらゆる場所で激しい戦いを繰り広げ、そしてそれを越え。
ついに、彼女達の機体は、そして彼女達自身もまた限界を迎えていた。

「そうね。……大分苦戦しているみたい」

寄り添うようにして漂う、ダンシング・エッジとヒュロス。
最早、その機体からは波動の光が放たれることはなく。
ただ、辛うじて機体の中枢部が生きていることを示して、弱弱しい光が零れているだけだった。
そう、キリカと織莉子の二人は、もう動かない機体の中で、宇宙を漂っていたのだ。

それは、魔法少女隊がマミとさやかを残して通信波の発信源へ向かってすぐのことであった。
あまりにも長く、熾烈な戦いを繰り広げ続けた二人の機体は、ついに限界を迎えてしまったのだ。
けれど、傷ついた機体を預けられる場所など、この混乱の宇宙ですぐにみつけられるはずもない。
かといって二人を見捨てておくわけにも行かず、魔法少女達は迷っていた。

だが、今は迷っている場合ではない。
今行かなければ、今戦わなければ、多くの物が失われてしまう。
彼女達には、それを止めるための力がある。
だから、二人は少女達に告げた。自分達のことは気にせずに、行け、と。

便宜上、魔法少女隊の士気を取り続けていたマコトは、ゆまは。
悩み、苦しみ。それでもすぐに答えを出した。
それは身を切られるような、辛い決断だったのだが。

そして、二人は宇宙の只中に残されることとなった。
53 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/29(木) 19:12:11.30 ID:fPUg4sSN0
「ねぇ、織莉子。もうちょっと……そっちに行っていいかい?」

「いいけれど、機体は大丈夫なの?」

「大丈夫さ、もう少しくらい、動いてくれるよ」

そう言って、キリカはダンシング・エッジを織莉子のヒュロスへと近づけた。
ゆっくりと、酷く緩慢な動きで。静かに、二人の鋼の身体が触れ合った。

「あーぁ。できればもう一度、生身の身体で織莉子を抱きしめたかったなぁ」

二人もまた、グリトニル陥落の事実を知らされていた。
そしてそれが意味する、帰るべき体の喪失という事実を、受け入れていた。

「……そうね。でも、もしかしたらなんとかなるかもしれないわよ」

付近にまだ、バイドの部隊が展開している可能性は少なくない。
自分からわざわざ気付かれるような真似はできないから、救難信号は出せずにいた。

「っ、何か、いい方法でもあるのかな。あるなら是非とも聞かせて欲しいな」

面白がっているようなキリカの声。

「いいえ、何も無いわ。もう完全にお手上げよ。……でも、何とかなるような気がするの」

そんなキリカに、同じくどこか楽しそうに、笑みすら含んで織莉子は答えた。

「何とか、って。何かいいことが視えたの?」

「いいえ、これ以上視たら、私も魔女になってしまうわ。だから、これは私の勘なの」

青い不可思議な空間。そこに這い回るフレームワーク。
ファインモーションに飲み込まれ、共に潰えたはずの二人が吐き出されたのは、そんな見知らぬ空間だった。
そこにもバイドがいて、二人は戦った。たった二人で、押し寄せるバイドの群れを撃ち続けたのだ。
だから、二人のソウルジェムはもう既に限界に近い。
いつ魔女化してもおかしくない、そんなレベルだった。
54 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/29(木) 19:12:37.73 ID:fPUg4sSN0
機体性能を、魔法を含めたそれを最大限に引き出した戦いは、その次元を作り出していた中枢。
そこに存在していた得体の知れない一対のバイドを倒したことにより、二人の戦いは終わりを迎えた。
崩壊する空間、それを潜り抜けた先は見知らぬ異次元でも、遥か遠い宇宙の彼方でもなく。
驚くべきことに、太陽系だったのだ。
そうして、二人は思わぬ帰還を遂げたのである。

そう、それは誰も知らないこと。
全てが終わった後にでも、十分に調べればようやく誰かが気付けるであろうこと。
彼女達が戦いを繰り広げたその場所は、太陽系への真正面からの侵攻が停滞していたバイドが作り出したもの。
直接太陽系内部への侵攻を果たすための、迂回路だったのだ。
その道を使い、バイドはグリトニルへの奇襲を成し遂げていた。
もちろん、その事実は未だ持って余人の知るところではなかった。

だからこそ織莉子もそれを知らず、そして言葉を続ける。

「今まで、私達は何度も死に掛けてきたわ。いつどこで死んでしまってもおかしくはなかった。
 でも、今まで生きてこられた。首の皮一枚のような状態でも、生き抜いてこられたでしょう? 
 だからね、きっと今回もなんとかなってしまうんじゃないかなって、そう思うの」

そして、なにやら呆れたように織莉子は笑う。
死線など、もう飽きるほどに越えすぎてしまった。
そんな自分達の命を、一体今更誰が奪えるというのか。
それは虚勢かも知れない。意味のない慢心かもしれない。けれど、何故だか奇妙な確信があった。
この先もずっと、一生二人で生きていけるという確信が。

「……参ったなぁ。そんな風に言われてしまうと、私までそんな気がしてくるよ。
 確かに、今までの私達は危ない事と死にそうな目にあってばっかりだ。
 そろそろ、二人でのんびりと過ごしたいものだね」

一瞬だけ呆気に取られて、それから。
キリカもまた、こみ上げる笑みを隠し切れないように漏らしながら、答えた。
55 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/29(木) 19:13:39.66 ID:fPUg4sSN0
しばしの静寂、そして。

「……そろそろ、通信も繋げられなくなるわね」

サイバーコネクタを通じて、弱弱しく伝わる機体からの警告を受け取って、織莉子が言った。
既にどちらの機体も限界で、これが普通のパイロットであればとっくに生命維持が不可能になって死んでいる。
そしてついに、互いの間に通信を繋ぐことすらも困難になり始めていた。

「そう、だね。……ああ、もう。どうしたんだろうな」

そうなれば、その後に待っているのは絶対の孤独。
センサーの類も死んでしまった機体は、人にすれば植物状態のようなもので。
たとえ敵が来たとしても気付けない。次の瞬間には死んでしまうかもしれない。
孤独と恐怖が、キリカの声を震えさせていた。
それは間違いなく、絶望へと彼女を導いてしまう。そうなればどうなるか、想像するのは容易だった。

そんなキリカの声を聞き、織莉子もまた自分の身の内に巣食い始めた恐怖を自覚しながら。
それでも、静かな声で言葉を告げた。

「大丈夫よ。たとえ言葉が聞こえなくて、姿が見えなくても。私は貴女の側に居る。
 だからお願い、キリカ。貴女もずっと私の側にいて。……私を、一人にしないで頂戴ね」

けれど、ほんの一瞬。最後のその一言だけは、どうしても声が震えてしまった。
その声に、キリカも織莉子の恐怖を、孤独を知って。

「……ふふ。織莉子は私のことを散々言うが、織莉子だって随分と寂しがりやじゃないか。
 ああ……でも、うん。わかった。私はずっと、織莉子の側にいる。これからもずっとだ」

笑いながら、キリカは声を返した。
けれど、織莉子の声は返ってこなかった。
どれだけ待っても、そこにあるのは暗闇と静寂だけだった。

「……織莉子。必ず……また」

そして、キリカの意識も闇へと沈んでいった。
56 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/29(木) 19:14:16.76 ID:fPUg4sSN0
「波動砲が使えなくても……っ!」

そして、スゥは尚も戦いを続ける。
フォースを奪われ、波動砲を失ってもまだ、R戦闘機には武装が残っている。
レールガン。R戦闘機ならばどれにでも標準装備されている武装である。
巨大なバイドに抗する手立てとしては、どうしようもなく頼りない。
それでもまだ、戦う術が全て失われたわけではなかったのだから。

ラストダンサーはその機首をバイドへと向ける。
露出した心臓をめがけて、レールガンを発射した。
超音速で射出されたレールガンは、次々にその心臓に突き刺さる。
その肉を食い破り、破壊の意志と力を奥へ奥へとめり込ませていく。
途端に、今まで動きを止めていたバイドが激しく脈打ち始めた。
まるでその姿は、苦しんでいるかのようで。

「手ごたえあり!なら……このままっ!!」

まるでその一撃で驚いて飛び起きたかのように、バイドは激しく脈打ち光り始めた。
バイドはついに、自らに危機が迫りつつあることを知ったのだ。
その危機を、脅威を払拭するための行動を再開させた。

続けざまに放たれたレールガンが、バイドの心臓から吐き出された何かによって阻まれた。
それはレールガンの弾丸を受け止め、そのまま事もなくラストダンサーへと迫る。
それは無敵の盾にして、最強の矛。あまりにも見慣れたその姿は。
フォース、それそのものだった。

次々に吐き出されるフォースは、まさしく無敵の盾となってレールガンを防ぐ。
そして恐るべき矛と化して、ラストダンサーへと降り注ぐ。

「―――るな」

だが、それは。

「なめるなぁぁぁっ!!」

ラストダンサーにとっては、なんら障害となりはしなかった。
57 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/29(木) 19:14:47.17 ID:fPUg4sSN0
ただ無作為にばら撒かれ、降り注ぐだけのフォース。
そんなものが、何故今更恐ろしいというのだろうか。
ラストダンサーは、まるで何も無い空間を行くかのように悠々と、降り注ぐフォースを掻い潜る。
そして、一瞬の隙間を狙って精密にレールガンの弾丸を浴びせていく。
その度にバイドの心臓には新たな弾痕が生まれ、ダメージを蓄積させていく。

ついに無数の弾痕を刻まれた心臓の、その一部が千切れて飛んだ。
その後からは、なにやら得体の知れないどろどろとしたものが溢れ出している。
後はこのまま、押し潰すだけだ。


誰しもが、英雄の戦いぶりを眺めていた。
そして誰しもが、戦いの終わりを予感していた。
遠からずバイドは倒れると、宇宙に平和が戻るのだと。
太陽系の全ての人々が、同じ感情をその胸に抱えていた。

その感情の名は、希望。
58 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/29(木) 19:15:29.48 ID:fPUg4sSN0
「……もうすぐだね、もうすぐ、スゥちゃんが勝つよ」

アークの中で、スゥの戦いを見つめるまどか。
勝利を確信して、嬉しそうな声で言う。
鈍い頭痛は消えないまでも、さほど気にならないようになっていた。
もうすぐ戦いが終わる。戦いが終われば、スゥが戻ってくる。
また会える、一緒にいられる。
まどかの心の中にもまた、暖かな希望の灯が点っていた。

「彼女の戦いが、太陽系の全人類に希望を与えている。とても大きな希望だね」

そんな希望が渦巻く太陽系。
希望の未来をその手におさめようとしている人類。
その全てを俯瞰して、キュゥべえは静かに呟いた。

「これならば、きっと途方もないエネルギーが生まれてくれるだろうね」

その唇が、静かに吊り上げられた。
抑えきれない感情が、その表情を愉悦の色に染め上げていた。

「キュゥ……べえ?」

様子がおかしい。
訝しがって尋ねたまどかに、愉悦の表情のままキュゥべえは振り向いて、告げた。

「鹿目まどか。キミの協力がなければ、ここまでうまく事を進めることはできなかっただろうね。
 感謝しているよ。そして、キミには最後にもう一仕事してもらうよ」

無機質な声ではなく、むしろそれは冷徹と表現するのがふさわしい声。
そして、その声と表情はなぜか、まどかの心を無性に恐怖へと駆り立てた。
半ば本能的にまどかは立ち上がろうとして、腕が、足が動かないことに気がついた。
まどかの身体は、今まで据わっていた椅子へと拘束されていたのだった。


「え……な、なんで。なんでこんなことするの、キュゥべえっ!」

困惑、戸惑い。まどかは叫ぶ。
けれどキュゥべえはそんな声を一顧だにすることなく。

「さあ、始めよう。宇宙の再生をね」

ただ一言、声を告げるのだった。
59 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/29(木) 19:23:17.48 ID:fPUg4sSN0
何やら白い生き物が企んでいるようです。

>>38
もとより原作の杏子ちゃんと比べて、こっちの杏子ちゃんの抱える因果は重いのです。
なにせ、英雄の連れ合いみたいなものですし。
色々とやっちゃってますしね。

>>39
バイドを倒してハッピーエンド、と簡単にはいかないようです。
次回作は……まあ落ち着いてから考えましょうか。

>>41
もとよりあまり有名なジャンルでなし、そこまで広い界隈でもありません。
となれば、人があつまるとこなんて大体決まってきちゃいますね。
何はともあれ、私は私で自分の作品を完結させるように頑張りますとも。

>>42
あー、あの辺の名前も元ネタはあります。あるにはありますが
それじゃあないです。どっかのペガサスナイトさんだったりします。
後その従者。

>>44
完全にミスですorz
自分で書いてるのに自分でわからなくなるとかどういうことなの。
恐らくロス提督やアーサーさんの魂も戻ってきたのだと思います。
が、それが宿る寄代はありません。もしかしたら杏子ちゃんと一緒に戦って。
それから九条提督と最後に話したあのロス提督は、魂だけの存在だったのかもしれませんが。
恐らく、今はもう遠いあの世へと逝ってしまったことでしょう。

>>45
原作でのあの行動をどういう風に納得させるかと考えた結果、私の場合はああなりました。
もしかしたらもっとしっくりくる何かがあったのかもしれませんけどね。

>>46
スゥちゃんはスゥちゃんでちゃんと考えながら戦ってますからね。
それに、ラストダンサーにはほむらちゃんもついてますし。

>>47
グランゼーラも大変なようですね。
とは言え、4/1にやれないのではエイプリルフールではなくただの期間限定イベントのような気も……
と、そういう風に思ってしまうのはここだけの話だったりします。

はやいとこ、元気に動き回る革命戦士達の姿を見たいものです。
60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/29(木) 20:48:25.53 ID:CxBUpQwDO
お疲れ様です!
ここに来てダーク☆キュウべぇが表面化しやがった!しかも宇宙の再生だって!?そんな事したら、お前らだって無事じゃ済まねぇぞ!正気なのか!?   ついでに石のような物体が涙目になるじゃないか!
61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(滋賀県) [sage]:2012/03/31(土) 01:31:38.01 ID:VkZIK3FSo
フォースが卵子で着床したように見えたのよねゲーム画面だと
何てったって背景はセクロスだしボスの直前の狭い道は膣っぽく見えるしゴマンダーさんの中に入っていくのも何かアレだし
62 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/03/31(土) 04:29:28.24 ID:MiyNjrJO0
本当にこれでよかったのか、自分に何度と無く問いかけました。
けれど、やっぱりこうするしかなかった。これが、私の望んだ彼でした。

では、投下しましょうか。
63 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/31(土) 04:29:58.61 ID:MiyNjrJO0
「このまま削りきる。……何時間だって付き合ってやるわ」

乱れ散るフォースの隙間を縫って、再びラストダンサーが迫る。
隙間を見つけてレールガンを放ち、即座にその場を離脱する。
ダメージは通っている。けれどやはり敵はかなり頑強で、まだまだ倒れる気配は見えない。
それでも、こちらの攻撃は通用するのだ。ならばどれだけ時間をかけても、削りきるまでだ。

一旦安全圏へと避難して、再突入のタイミングを図る。
バイドも迎撃の意思はあるのだろう、追いすがるようにフォースを生み出しては吐き出してくる。
だが、その程度では通用しない。

『善戦しているようだね、スゥ』

「っ!インキュベーター。通信が回復したの?」

突然の声にも動じることなく、回避行動を続けながら鋭く答えた。

『ああ。もともとバイドの空間干渉なんて大したことはないんだ。
 すこしこちらの出力を上げれば、簡単に突破できるものなんだ』

「……そう、それでわざわざそんなことをしてまで、一体何の用?」

その口調と言葉に、訝しげにスゥは尋ねた。

『何のことは無い。キミには、ここで死んでもらうよ。普通に戦って負けてくれればそれで済んだのだけど。
 キミは予想以上に善戦してくれたから、仕方なくボクが直接手を下すことにしたんだ』

「どういうつもりかは知らないけれど、一体、今のお前に何ができるの。
 こんな異層次元の彼方にいる私に、どうやって干渉できるのかしら?」

キュゥべえの言葉の意味は、そのほとんどが理解できなかった。
けれどただ、自分の敗北を望んでいるということだけはスゥにも理解ができた。
そして、その為に何かをしようとしている。だが、ここはあまりにも遠い異層次元の彼方である。
何をするにしても、ここまで影響を与えることなどできるはずがない。
64 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/31(土) 04:31:11.57 ID:MiyNjrJO0
『そうだね、ボクの力だけではキミに直接なにかができるわけじゃない。……でも、ここには鹿目まどかがいる』

「っ!?」

そう、この会話自体がまどかの能力を介したものなのだ。
となれば、まどかがそこにいるのは確実。

「まどかに、まどかに何をしたぁぁぁっ!!!」

そしてまどかは、スゥにとっては絶対の存在。
それがキュゥべえの手に落ちているとするのなら、下手な行動はできない。
今すぐ踵を返して助けに行くことさえできないのだ。ここは異層次元の遥か彼方、26次元。
太陽系からは、あまりにも遠い場所だった。

『何もしてはいないさ。鹿目まどかはボクにとっても大切な道具だからね。
 鹿目まどかの力があれば、26次元にいるキミにも干渉することができる。……こんな風にね』

「何を……っ?!」

その言葉と同時に、ラストダンサーのエンジン出力が急速に低下を始めた。
それだけではない。各種センサーの働きも、機体を制御するさまざまなシステムも。
その全てが、一度に変調を来しはじめたのである。

「何なの……一体、一体何をしたっ!インキュベーターっ!!」

困惑し、驚愕し。それでも満足に動かない機体で必死に迫り来るフォースを掻い潜りながら。
スゥは、怒りと戸惑いが交じり合った声で叫んだ。

『もともと、ソウルジェムはボクがキミ達にもたらした技術だ。そこに細工をすることくらい造作もないことだよ。
 単に、キミのソウルジェムとラストダンサーとのシンクロレートを75%ほど引き下げただけのことだよ。
 ほら、まるで自分の身体じゃないかのように身動きが取れなくなってきただろう?』

魔法少女は、サイバーコネクトを介してソウルジェムを機体に接続している。
そうすることで、機体を自らの手足のように扱うことができた。
けれど今、機体との接続、融合の度合いを示すシンクロレートが、キュゥべえのもたらした細工によって
急速に、そして大幅に低下しつつあった。
それはすなわち、満足に機体を動かすことすら困難になってしまったということで。
65 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/31(土) 04:32:02.29 ID:MiyNjrJO0
「何故、何故こんなことをするの。バイドを倒すんじゃなかったの!?」

シンクロレートの低下は、機体の動作のみならず通信系統にも影響を及ぼす。
必死の叫びに答えたキュゥべえの声は、やけに遠くスゥの視神経に伝わってきた。

『もちろんバイドには消えて貰うよ。ボクらの文明を破壊してくれた憎きバイドにはね。
 でも、それだけじゃ足りないんだ。失ったボクらの文明を、歴史を、そして栄華を取り戻す。
 その為には、どうしてもこうする必要があったんだ』

「くっ……何を、わけのわからない……ことをっ!」

『理解できないのも無理はないさ。けれど、キミのおかげでボクも本懐を遂げることができる。
 キミはこの戦いの中で、太陽系全ての人類にとっての希望となった。とても大きな希望だ。
 だからこそそれが打ち砕かれたとき、太陽系の全人類は、深い絶望に陥る事だろう。
 太陽系の全人類の希望と絶望の相転移。これが生み出す感情エネルギーは、宇宙の開闢にすら匹敵するはずだ』

ずらずらと、理解できない言葉が並ぶ。
そもそも、ロクに聞いている余裕すらもスゥには存在しない。
一瞬でも気を抜けば、機体操作を誤れば、すぐさまフォースと衝突してしまう。
先ほどまでの余裕のある機動は既に失せ。ラストダンサーは、ふらふらとフォースが飛び交う空間を飛んでいた。

そして、自慢げに。嬉しげに。饒舌にキュゥべえの言葉は続いた。

『このエネルギーを使って、ボクはこの宇宙の歴史を一からやり直すんだ。
 バイドなんて生み出させない。ボクらが永久の繁栄を謳歌できる。そういう宇宙を、一から作り出すんだ。
 ……もっとも、キミや他の人類がそれを見ることは無いけどね』

「黙れっ!もう何も喋るな。私は……私は、勝って。そしてまどかの所へ帰るんだっ!!」

声を張り上げ、気勢を上げて。
必死にラストダンサーを立て直そうとするスゥ。
しかし、どれだけ必死に身体を動かそうとしても、その動きはあまりにも緩慢だった。

『無理だよ。キミはここで死ぬ。そして人類も全て滅ぶ。
 ボクが創る新たな宇宙には、キミ達のような未発達で不完全で、その上愚かで野蛮な種族は
 一切存在させるつもりは無い。キミ達は、自らの愚行の報いを受けて滅ぶんだ』

まるで神か何かのような口ぶり。今までの無機質な様子からは想像もできないほどに
その口調は尊大で、傲慢だった。そしてとことんまでの愉悦に、その声は歪んでいた。
66 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/31(土) 04:32:28.26 ID:MiyNjrJO0
『バイドは元々、26世紀の人類が生み出した兵器だ。それを暴発させ、あまつさえこの時代に追放したのもキミ達だ。
 そしてバイドは時を越え、宇宙を越え。ボク達の文明を滅ぼした。その報いを受けるんだよ、キミ達はね』

そして今度は、その口調に冷徹な色が混じる。
そこには、隠し切れない憎悪も滲んでいて。

『……キミは、そこでそのまま死ぬがいい。さようなら』

そして、一方的な言葉は打ち切られ。
その翼をもがれた英雄に、ラストダンサーに、バイドの魔の手が迫っていた。
67 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/31(土) 04:32:59.23 ID:MiyNjrJO0
「……ひどいよ、キュゥべえ。どうして、どうしてこんなことっ」

通信を終えたキュゥべえに、まどかの声が響く。
涙交じりの声。事実、その瞳からはとめどなく涙が零れている。

まどか自身、キュゥべえの言葉の意味をほとんど理解できてはいなかった。
けれど、キュゥべえが全人類を絶望させて、そして滅亡させようとしていることだけは理解することができた。

「どうして、か。……いいだろう、鹿目まどか。どの道スゥはもうしばらく粘ることだろう。
 その間、少しだけ話をしてあげよう。言っておくけれど、ボクらを最初に裏切ったのは、キミ達人類なんだよ」

振り向いたキュゥべえはその瞳に冷たい光を宿したまま、椅子に拘束されたまどかを睨む。
そして、静かに冷たい。どこか苛立っている風もある声で、話し始めた。

曰く、いずれ寿命を迎える宇宙。それを延命させるために
彼らは、エントロピーに囚われないエネルギーを探していた。
そうして生み出したのが、魔法少女が持つ魔法の源となる、知的生命体の感情をエネルギーに変換する技術。
とりわけ、第二次性徴期前後の少女の希望と絶望の相転移は、最も効率よくエネルギーを生み出していた。
だからこそ彼らインキュベーターは、有史以前より人類に関わり、願いと引き換えに魔法少女を生み出してきた。
そして魔法少女が絶望し、魔女と化すその時。
そこから生まれるエネルギーを、宇宙延命のために利用していたのだという。

そうして彼らは魔法少女に願いを、そして絶望を与え、魔女を生み出しエネルギーを得ていた。
けれど、バイドの無慈悲な蹂躙は、彼らの持つ文明全てを滅ぼしてしまった。
辛うじて逃げ延びた最後の個体。それが自分なのだと。それは過去にまどかも聞かされていた。
だから、彼は憎しみという感情を得た。彼らの全てを、宇宙の未来を奪ったバイドに対して。
……そして、それを生み出した人類に対しても。

「バイドが生み出された理由を知ったとき、ボクは愕然としたよ。
 当然だろう?今まで持ちつ持たれつの関係でやってきたというのに、キミ達の不始末がボク達の文明を滅ぼした。
 これは許されざる裏切りだよ。だからボクも決めたんだ。キミ達には死をもって贖ってもらうとね。
 その為の宇宙再生、その為の世界改変計画だ」
68 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/31(土) 04:33:34.43 ID:MiyNjrJO0
「そして鹿目まどか。キミには最後に働いて貰う。
 全人類の絶望をエネルギーに変換するには、キミの能力が必要だからね」

希望と絶望の相転移。それをエネルギーに変換するとして。
今までのそれは、魔法少女と魔女、ソウルジェムとグリーフシードというシステムによって為されていた。
その範囲を太陽系全域に、全人類へと拡大させる。その為には、まどかの持つ能力が必要だった。

「キミはこれから心から絶望し、そして死ぬ。その死の間際には、強烈な絶望を孕んだ精神波が発せられるだろう。
 それは太陽系の全人類に伝播し、底知れないほどの絶望を伝えるだろう。
 その瞬間にこの太陽系を丸ごと、そこに住まう200億の人類の魂ごとソウルジェム化させる。
 そしてそれは即座に絶望に沈み、グリーフシードへと変わるだろう。そのエネルギーで、ボクは宇宙を再生させる」

そう、それこそがキュゥべえの本当の目的、世界改変計画であった。
そしてそれは、今にも遂行されようとしている。

「鹿目まどか。キミには感謝しているよ。キミほどの強力な能力を持った存在がいなければ
 きっとこの計画の遂行はもっと困難になっていただろうからね。でも、ついにここまでたどり着いた。
 地球軍はバイドの相手に追われている。誰もボクの邪魔はできない」

このままでは、バイドの手による滅びを待つまでもなく、人類は全て滅亡してしまう。
それをどうにかできるとすれば、きっと自分しかいない。
飽和するほどの情報を叩き込まれて、さらには強制的に能力を行使させられて。
既にまどかの精神は限界に近い。それでも、今この計画を止められるのは自分だけなのだ。
そのことを、まどかは理解していた。だから。

(お願い、誰か……助けてください。私はここにいます。だから、お願い……誰か)

願う。その言葉が誰かに届いてくれるよう強く念じた。
今の自分なら、きっと願いを届けられるから。誰かに届いてくれるからと、信じて。
だが、言葉を伝えるために外側へと拡大されたまどかの精神に、それは飛び込んできた。
69 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/31(土) 04:34:05.26 ID:MiyNjrJO0
それは、苦悶。
それは、悲鳴。
そして、恐らく断末魔の声。
まさしく絶望そのものとしか言いようの無い、無数の。何万もの声が、まどかの精神に飛び込んできた。

「―――っ!?っ、ひ、ぃゃあぁぁぁぁっ!?!」

今までに聞いたことが無い程に恐ろしい声。
そして、叩きつけられるのは圧倒的なまでの死の恐怖と、そして絶望に沈む何万もの精神の悲鳴。

「嫌……何なの、これ。嫌だ、いやだいやだイヤだっ!!」

常人ならば、きっと気が触れてしまうほどのその衝撃にも、高度に発達していたまどかの精神は耐えていた。
それはすなわち、正気のままでこのおぞましい声を聞かなければならないということで。
まどかは必死に首を振って、その悲鳴の大合唱を振り払った。

「……何だ、自分で見てしまったんだね」

そんなまどかの様子を、面白そうに見つめてキュゥべえが言う。

「何なの、今の……皆、皆死んじゃう。一体誰なの、あの人達はっ!?」

「このアークに眠るおおよそ10万人の人間達だよ。彼らの意識を目覚めさせていたんだ。
 そして、さっきまでの話を全て聞いて貰った。
 もちろん彼らの脳は、キミの能力を拡大させるために使用したままでね。
 意識のある状態でシステムに直結される苦痛は、想像を絶する程だろうね」

それこそ、自我が崩壊し、そのまま死に至るほどの苦痛である。
それを受けた人々の苦痛を、恐怖を、まどかは味わってしまったのだ。

「彼らの受けた絶望も、キミの死と共に太陽系に開放される。
 これほどの絶望と狂気が、まともに浴びせられれば間違いなく、人類には耐える術はないだろうね」
70 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/31(土) 04:34:33.11 ID:MiyNjrJO0
「ぁ………ぁぁっ、そん、な」

おぞましい悲鳴の大合唱に、そして絶望的な事実に打ちのめされて。
ついに、まどかの心も絶望に沈む。
その瞳から光が失われたのを見て、キュゥべえは嬉しそうにほくそ笑み。

「それじゃあ最後の仕上げと行こう。死んでもらうよ、鹿目まどか。
 そして――これでお別れだ、人類」

最後の言葉を、告げた。



魔法少女隊R-TYPEs 第18話
    『オペレーション・ラストダンス(後編)』
          ―終―
71 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/31(土) 04:35:12.66 ID:MiyNjrJO0
【次回予告】

全ての希望は打ち砕かれた。
人の歴史が閉ざされようとしている。
黄昏が、全てを昏く染めていく。

人の、バイドの、そしてインキュベーターの。
戦いの歴史は、今日、ここに終結する。



 「今更、キミに何ができるっていうんだ」



                         「後は勇気だけだっ!」



           「ったく、死んでる暇もくれやしないんだな」



                「命ある限り戦いなさい、例え孤独でも」



     「奴らの悪意が、ボクに全てを教えてくれた」



                           「貴女に出会えて、本当によかった」






              「さあ、叶えてよ!インキュベーター!!!」



次回、魔法少女隊R-TYPEs 第19話
          『終わる、一つの物語』
72 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/31(土) 04:39:37.37 ID:MiyNjrJO0
故、石ノ森先生に……は流石に捧げませんが、そういうノリで一つ。

>>60
こうでもしないと、キュゥべえは奪われた全てを取り戻すことはできませんでした。
このために、キュゥべえは今まで色々と画策してきたわけであります。

>>61
おまけに襲ってくるのはどう見てもダンタリオンの笛です、本当にありがとうございました。
ボスの直前の狭い道、イメージ的には産道あたりなのでしょうか。
確かUのラスボス前とかもそんな具合だった気がしますね。
73 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/31(土) 04:43:47.04 ID:RwFk4fNxo
おつ
次が最終話になるのかな?
74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/31(土) 08:39:17.88 ID:MxxesNIDO
お疲れ様です!!
遂に…この壮大な魂の物語に、終わりの時がやって来るのか…。この世界が、どのような道を辿るのか…、しっかりと…見届けさせてもらいます!


さやかちゃん…早くまどかを助けに来て!

そしてスゥちゃん…今こそ固有魔法の出番だっ!
75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/03/31(土) 08:46:25.51 ID:WlxrcEXmo
乙。
波動砲は壊れ、フォースは奪われ、ビットやミサイル、レールガンは飛んでくるフォースに対して無力。
あんまりな状況だけれども、ヒーロー(英雄)ならばひっくり返してくれるはず。

そしてまどかも危機ですが、やはりヒーロー(主人公)は遅れて来るのでしょうね。
「待てぃ!!」ってな感じで。
76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/31(土) 09:54:09.48 ID:PIyaqATIO
アイレムなのに急展開じゃないとは…
77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/31(土) 13:07:06.53 ID:t6aQP2dMo
ほむらー早く来てくれー
このQBさんは間違いなく精神疾患
78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/03/31(土) 18:23:31.08 ID:aNl1ezV+o
QBの憎悪、復讐心は文明滅ぼされてるから当たり前の感情だよな
最近まで感情否定してたみたいだけど

なんで26世紀の人類がバイド生み出したか知らんけど
案外、対QB兵器だったのかも。相性抜群だし
79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/04/01(日) 02:02:02.49 ID:F4F/YkzIO
総霧省から通達来てたな

まあ、この景気だから仕方無いが…
80 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/01(日) 03:55:45.45 ID:cPM4XjAr0
【お知らせ】
総霧省からのお知らせを受け、当方でもエイプリルフールを延期することを決定いたしました。
純粋にネタがないのと、本編の方があんな状況なのと
ぶっちゃけキュゥべえが嘘をついたからそれでいいような気がするといったところもありますが
それでも、その内には何かをやりたいと考えています。

とりあえず何か今までの話についての疑問や質問、こんな話が見てみたいといったことがあれば
是非ともこちらのほうまでお寄せください。
可能な限り実現してみるつもりではあります。
では、本日はこれにて。
81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/04/01(日) 08:01:07.49 ID:MwvBiJ41o
スレも余りそうだし本筋完結後でもいいので、
 ・まどかを含めたティー・パーティの面子で緩いネタ(今だと花見とか)
久々にあんこちゃん活躍!ということで
 ・Missあんこちゃんの大冒険
を見てみたいかな。
82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sapa sage]:2012/04/01(日) 09:31:41.42 ID:F4F/YkzIO
四月下旬までスレがあるなら、今年のグランゼーラの
四月バカの内容を題材にして欲しいな

なんか今回は宇宙人関連みたいだから、QB出しやすいだろうし
83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/01(日) 15:21:38.66 ID:vKmKcdZDO
>>1さんが思う。 あったら良いな♪こんな魔法! とかそんなんで。
84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/01(日) 15:30:00.98 ID:HuEHmRkto
絶望で終わるハッピーエンドとかみたいなー
85 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/04/02(月) 05:45:44.30 ID:w6/564dh0
深夜はマジで筆が乗ります。
でも翌日に響きまくるという諸刃の剣。
さ、行きましょう。
86 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/02(月) 05:46:16.24 ID:w6/564dh0
何故、どうして。
理解不能な状況に対して、ひたすらにこみ上げるのは疑念。
よくもこんなことを、今まで、ずっと私達を欺いてきたのか。
あまりにも手酷い裏切りには、ただひたすらに沸きあがる憎悪。
そして。

「……ここで、死ぬのかな。私」

スゥの心をじわじわと蝕んでいたのは、絶望。


ラストダンサーは、ふらふらとおぼつかない足取りでフォースの隙間をすり抜けている。
その軌道はあまりにも頼りなく、今にも打ち落とされてしまいそうなほどに危うい。
それでもまだ、スゥは必死の抵抗を続けていた。
だが、その胸中を絶望が埋めていく。

いくら粘ったところでどうなるというのだ。
もはや、攻撃に転じる余裕は欠片も存在しない。
バイドを倒す手段は全て失われ、今していることはただの悪あがきに過ぎない。


――やめろ、考えるな。


まどかは奴の、インキュベーターの手に落ちた。
何をするつもりかは知らないが、今の自分に助ける手立ては、ない。
誰かが彼女を助けてくれるだろうか。
誰かがインキュベーターの企みを打ち砕いてくれるのだろうか。
それは、あまりにも望み薄な希望。


――認めてしまえば、動けなくなる。


人類の命運は、既に決した。
いましていることは、ただ決まりきった運命を先延ばしにしようとしているだけなのではないか。
そこに意味はあるのか。これ以上、戦い続ける理由はあるのか。


――諦めるな、諦めないで。諦めさせないで……。
87 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/02(月) 05:46:38.33 ID:w6/564dh0
「もう、いいや」

その言葉を口にした途端。まるで重い枷から解き放たれたかのようにスゥの身体は軽くなった。
そして、ラストダンサーは。人類の最後の希望は、その動きを止めた。
絶望に沈み、戦う意思を見失ったスゥの魂はついに、最後の希望を手放してしまったのだ。
諦めてしまった。絶望を、受け入れてしまった。
スゥを苦しめ続けた、重く苦しいラストダンサーという名の希望と重責。

その重すぎる役目から、スゥは逃げ出した。最早スゥを縛るものは何も無かった。
重苦しい機体から、希望から、責務から。彼女は解放されたのだった。

だが、誰が彼女を責められるだろう。
その生まれさえ自ら選ぶことを許されず、生まれた時から戦いの定めを強制され。
実験動物として扱われ、唯一自由への可能性を信じて戦い、果て。
そうして一度まっさらになった心に、全てを与えてくれたのがまどか。
それすらも失って、戦う意味も、帰る理由も失って。どうしてこれ以上戦えるというのだろう。
誰も、彼女を責められない。責められようはずがない。



ラストダンサーが、人類の希望が押し寄せるフォースの波に飲まれる。
そしてそのまま、小規模な爆発と共に墜落していく。その機体が、液面に飲まれ、消えた。
人類の希望は、潰えた。

ラストダンサーからの信号の消失により、全太陽系に伝えられていたその映像も掻き消えた。
希望の消失、すぐさま絶望へと転じる未来を、全人類へと投げつけたまま。

それは、運命に弄ばれ続けたスゥにとっては、全人類のための生贄とされた彼女にとっては。
自らの痛みを分け与えようという、一種の意趣返しのようなものだったのかもしれない。
88 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/02(月) 05:47:06.22 ID:w6/564dh0
「英雄が、負けた……」

最後の映像を見届け、自然と彼女の足は止まっていた。
呆然と、力なく声を漏らした。
英雄の敗北。それが一体何を意味しているのか。彼女は一瞬理解することができなかった。
それでも数秒の後。彼女はそれを理解した。

「負けた。負けちゃった。もう終わりだ。私達も、人類も、みんなっ!」

ずきりと胸が疼いた。
いいや、この疼きは今に始まったことではない。
ずっと前から、この疼きは感じ続けていたのだ。それはこの戦いが激化し始めた頃から。
それを、誰かは穢れと呼んでいた。
その穢れが限界にまで溜まりきったとき、魔法少女は死を迎えるのだという。
世界を、自らを呪い。それを振りまく存在――魔女へと。
今この時自らに訪れるであろうその定めを、彼女は――マコトは、自覚した。


「……隊長」

見れば、周りの機体達も同じように動きを止めていた。
きっと皆、同じく衝撃に打ちのめされているのだろう。

「ええ、どうやら英雄は失敗したようね。……でも、まだ私達は負けてはいないわ」

あの映像を見ても尚、彼女は希望を失ってはいないのだろうか。
その強さが羨ましいと思った。けれど同時に哀れだとも思った。
既に運命は決しているというのに、抗い続ければ、それだけ傷つくだけだというのに。

「こうなった以上、バイドが活動を停止するまで待つなんてことはできないわ。
 現在地球連合軍とグランゼーラ革命軍が、火星周辺宙域でバイドを食い止めているはず。
 急いでこれに加勢しましょう。地球さえ守れれば、まだ望みは……」

今だからこそ分かる。彼女は、私達がいるからこそ頑張っているのだと。
隊長という立場の自分を誇っているからこそ、そういう自分であろうとしているからこそ
これほどまでに強く、気高くあれるのだろうと。
でも、その姿はあまりにも痛々しい。これ以上、見ていたくはなかった。
89 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/02(月) 05:47:46.71 ID:w6/564dh0
「隊長。……もう、諦めましょう。そんなに頑張らなくたって、いいじゃないですか」

だから、言ってあげなくちゃいけない。
もう、頑張らなくていいのだと。無駄に傷つく必要なんてないのだと。

「マコト?……貴女、何を言っているの?」

「負けたんですよ、あたしたちは。人類はバイドに負けた。どれだけ頑張ったって、苦しいのが長引くだけだ。
 ……もう、諦めましょうよ。そして、諦めて楽になりましょうよ、隊長」

誰かが私と同じく言葉を告げた。
きっとここにいるほとんどの魔法少女達も、考えていることは同じなのだろう。
誰もが自分の、そして人類の未来を悟って諦めた。絶望した。
そしてきっと、そんな彼女達は皆遠からず魔女になる。せめてまだ、自分が人でいられる内に。


――今のうちに、死んでおくべきなんだ。
90 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/02(月) 05:48:15.37 ID:w6/564dh0
「ここでどれだけ戦ったって、どうせ押し寄せてくるバイドにやられるだけですよ。
 ……いえ、もしかしたらきっと、私達が生み出した魔女によって滅ぼされる方が早いんじゃないでしょうか」

「マコト。貴女……知っていたの?」

知らないとでも思っていたのだろうか、この人は。
まるで自分一人が全てを知っているかのような口ぶりで。
誰にも知らせず、その重荷を分かち合おうともせずに。きっとこのまま戦い続けることができたとしても
この人は、その重荷に押し潰されるまで戦い続けるのだろう。
仲間達に囲まれて、たった一人で戦い続けるのだ。本当に心から分かち合おうともせずに。

「知っていましたよ。全部。もしバイドを倒したとして、私達がどういう扱いをされるだろうかということも。
 ……それでも、私はここまでついてきたんですよ。それがどういう意味か、分からないわけじゃないでしょう?」

それはあまりにも重過ぎる事実だから。きっと受け止められないだろうと思っていたのだろう。
知らせないほうがいいと、そう思っていたのだろう。どうして信じてくれなかったのだろう。
それが、悲しい。きっと私が絶望する本当の理由は、それなのだろう。
結局彼女は、ゲルヒルデは。あの時やってきた少女が、マミと呼んでいた女性は。
最後まで、私を信じてはくれなかったのだ。認めてはくれなかったのだ。

――仲間として。

「貴女が全てを打ち明けてくれていたら、こんな結末にはならなかった。
 尊敬する貴女を、私の手にかけることにはならなかったのに」

認めてしまった。否定してしまった。
仲間という、命を預けて戦いあう、この最悪の戦場で、唯一信じられるものを。
縋れるものなんて、何もなくなってしまった。もう、耐えられない。

「何を……マコト。貴女、まさかっ!?」

わたシは、たダ。

「あなタに、ミトめてホしかッただけ、ナノに」

そして、絶望と滅亡に瀕する宇宙に。
新たな魔女が、顕現した。
91 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/02(月) 05:49:49.81 ID:w6/564dh0




――魔女・モルガナ――
Morgana eine Wüstenfata




背信の魔女。その性質は“終わらぬ戦い”。
望まぬ戦いに巻き込まれ、いつしかその戦いが日常と化した。
戦いの中で得た、かけがえのない仲間と心地よい信頼。
けれど彼女は絶望に膝をつき、自らそれを手放してしまう。
彼女は、手放した仲間を、信頼を取り戻すため、幾度も戦いを繰り広げる。
この結界の中では、誰も死ぬことはできない。絶望することもできない。
ただただ、彼女の望むままに戦い続けるしかないのだ。



92 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/02(月) 05:50:23.89 ID:w6/564dh0
そこは、変わらず宇宙の只中。
けれど違うものはある。彼方を覗けば、そこに見える見慣れた光景。
あれは……。

「グリトニル……だよね。あれは」

魔法少女隊にとっては、最早家も同じ存在。
彼女達の体が眠っている場所、彼女達の帰るべき場所。
そしてバイドの奇襲によって失われたはずのその場所が、変わらぬ姿でそこに佇んでいた。

「グリトニル……バイドにやられたんじゃなかったの?」

少女達の中に、戸惑いと動揺が走る。
けれどそれは、淡い期待に取って代わる。

「っていうことは、あそこにはまだあたしらの身体があるってことじゃないのか!」

「そうだよ!グリトニルに帰れば、元の身体に戻れるんだ!」

少女達の声に希望が宿る。
けれど、マミはそれが偽者であることを悟っていた。

「皆落ち着いて。グリトニルはもう陥落したのよ、それにここは冥王星宙域じゃないわ。
 これは魔女の作った結界よ、惑わされないで、ここから脱出を……」
93 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/02(月) 05:50:56.76 ID:w6/564dh0
けれど、その必死の呼びかけを遮って、声が。

「こちらグリトニル・コントロール。魔法少女隊、応答せよっ!
 グリトニルは現在、バイドの攻撃を受けている。魔法少女隊は至急帰投し、バイドを迎撃せよ!」

それは、グリトニルのオペレーター。
魔法少女達にとっては、聞きなれた声色をしていた。
そしてそれは、魔法少女達を更に駆り立てた。

「皆、私達の手でグリトニルを守ろう!」

「よっしゃぁ!今度こそ守って見せるよ、バイドになんてやらせるもんかっ!」

「私達の身体を、帰るべき場所を、皆で守りませんとね!」

魔女の作り出す、終わらぬ戦いという名の劇場へと。
迫り来るバイドの形をした使い魔の群れへ、次々に魔法少女達は立ち向かっていく。
誰しもがその表情に希望を宿して、いつしか修復されていた機体に力を漲らせて。
死ぬことも、絶望して果てることもない、永遠の戦いへと。

絶望に染まる宇宙で、彼女達だけが希望を抱いて戦っていた。
それが、偽りの希望だとも知らずに。

「皆を止めないと。このままじゃあ、永遠にここで戦い続ける羽目になるわ。
 ……どうにか、しないと」

唯一、その状況を理解していたマミの元へとそれは現れた。
94 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/02(月) 05:52:06.43 ID:w6/564dh0
「何してるんですか、隊長!バイドはすぐそこまで来てるんですよ。
 私達も、早く出撃しましょうっ!」

その機体は、ガルーダ。
そして通信が伝えるその声は、その姿は。

「……そん、な。貴女は……マコト?」

「そうですよ、なに人を幽霊でも見るかのように見てるんですか。
 敵はすぐそこです。さあ、ご命令を」

魔女と化したはずのマコトが、そこにいた。
マミの記憶の中のマコトと、まったく変わらぬ姿と声で。

一体何が現実なのか、何が虚実なのか。
その境界が、確かに揺らぎ始めた。
大事な仲間が、マコトが失われてしまったという現実。
自分が彼女を信じられなかったから、失われてしまったのだという現実。

そして、マコトが今ここにいる事実。
グリトニルという帰るべき場所があって、そこを守るために戦えるという事実。
守るためには戦い続けなければならない。けれど、例えそんな世界でも
バイドの危機によって、ついに滅亡していく終わる世界よりは、ずっといいのではないだろうか。
例え、この戦いが永遠に続くとしても。

「……そうね、バイドが来るなら迎え撃たなければいけないわ。
 マコト、私はバックスに回るから、フォワードは貴女がお願いね」

だとしたら、何を迷うことがあるだろう。

「わかりました。……それじゃあ先に行ってますね、隊長」

ここが、マミにとっての現実となった。
戦い続ける世界でも、大切な仲間と共に、こうして生きていられるだけで。
それだけでいいと、マミは願ってしまった。
95 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/02(月) 05:52:28.77 ID:w6/564dh0
「……隊長」

「何かしら、マコト?」

「私、隊長と一緒に戦えてよかったです。辛いことも嫌なことも一杯あったけど。
 それでも、隊長と一緒に戦えてよかったです。これからも、一緒に戦っていきたいです」

「……そうね。私もそう思うわ、マコト。このままずっと一緒に戦っていきましょう。
 いつか、バイドがいなくなる日までね。さあ、魔法少女隊、出撃よっ!」

そして偽りの宇宙に、魔法少女達が、舞う。
96 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/02(月) 05:59:28.07 ID:w6/564dh0
絶望の中で見つけた希望。
それは、絶望が生んだ魔女の生み出す、まやかしの希望でしかありませんでした。
けれども少女達は、その希望に縋って戦い続けます。
終わりの無い、意味もない戦いを。

>>73
もうちょっとだけ続くんじゃ。

>>74
絶望は尚も拡大を続けています。
英雄の翼は折れ、魔法少女達もまやかしの希望に沈みました。
宇宙に希望をもたらすことができるものなど、存在しているのでしょうか。

>>75
どうやらひっくり返せなかったようです。
彼女はあくまでまどかの英雄でした。
そのたった一つの支えが折れてしまえば、そこに英雄はいません。

果たして、ただの人間であるさやかちゃんはヒーローになれるのでしょうか。

>>76
急展開ではありませんが、超展開ではあると思っています。
半分くらいはまどマギなので、その辺はご容赦ください。

>>77
間違いなく感情はあるでしょうし、それがあるがゆえにできることもいろいろあるようです。
けれど、キュゥべえ自身はそんな自分を欠陥品だと思っているのでしょう。

>>78
未来の人類のしでかしたことなので、合理的に考えれば八つ当たりも甚だしいのです。
そう割り切れないのはやはり、キュゥべえに感情が生まれたからなのでしょう。

もしかしたら、そういうこともあるのかもしれませんね。
人類が積極的にインキュベーターという種全体に敵対する理由がわかりませんが。

>>79
それでもやろうとする気概が大事なのだと、我が事のように言っておきます。

ひとまず今日はここまでで。
97 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/04/02(月) 09:15:18.35 ID:eGrxOmyDO
お疲れ様です!
スゥちゃん……。 使う予定があるなら教えてくれなくて良いのですが、結局スゥちゃんの固有魔法って、どんなものだったんですか?

魔女が魔法少女を癒せるだと…!?モルガナ…、魔法少女にとっては、まるで麻薬のようにダークチャーミングな魔女だな…。
まぁ割り切るのが得意な魔法少女なら、体の良い回復ポッドって思えるだろうけどねw
98 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/04/03(火) 01:27:45.23 ID:9hjVOalN0
今日も元気にとうかシマスカー
99 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/03(火) 01:28:27.52 ID:9hjVOalN0
「ずっとこっちに繋がってた映像が切れた。マミさんとも連絡が取れなくなった。
 ……何が起こったんだろ、一体。何か、すごく嫌な予感がする」

さやかの駆るカーテンコールは、尚もまどかの元へと急いでいた。
けれど、それがたどり着くまでには後幾許かの時を必要とすることだろう。
そしてその時の過ぎる間に英雄は果て、魔法少女達は偽りの希望に沈んだ。

希望は失われた。それでも、それを知らず、さやかはただ宇宙を駆ける。

「待っててよ、まどか。……まあ、行って何をするって訳でもないんだけどさ。
 やっぱり、無事なとこ見ないと気が済まないし。ちゃんと謝りたいし。
 これって、自己満足だよね。分かってる、分かってるんだけどさ……それでも、これだけは譲れないんだ」

そう、最後にさやかが見たまどかの姿は赤い血にまみれた姿。
自分の失敗によって、酷く傷つけられてしまったまどかの姿。
それはさやかが背負った罪。今尚心に刺さった棘。
それを引き抜くために、その痛みを乗り越えるために。そしてただ、無事なまどかの姿が見たくて。
さやかは、駆けていた。

だが、絶望の魔の手はそこにも訪れる。

「バイド反応?こんなとこにもまだいたなんてね」

本隊を離れて行動していたバイド群。その索敵範囲に、カーテンコールは突入していた。
バイド反応の接近を示す警告が鳴り響き、知れずさやかは操縦桿を握りこんでいた。

「カーテンコールの性能なら、まともにやりあわないで逃げることもできそうだけど」

どうやら敵の足は遅い。
となれば、振り切ることはできるかもしれない。
今は一刻も早くまどかのところへ向かわなければならないのだから。
100 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/03(火) 01:29:10.79 ID:9hjVOalN0
「……でも、ここでこいつらを倒さなかったら、こいつらはあたしを追ってくる。 
 そうしたら、まどかのとこに来ちゃうかもしれないってことだよね」

恐怖は、さやかの心の中に当然のように存在した。
究極と呼ばれる機体を持ってしても、その恐怖は拭えない。
魔法少女ではないからなのだろうかと、震えるその手に聞いてみた。
答えは帰ってこない。けれどこれだけは分かる。
逃走は、逃げたいと思うその気持ちは、きっと恐怖の表れだから。

「だとしたら……逃げて、たまるかっ!!
 あんたらは絶対に、まどかのとこには行かせないよっ!」

立ち向かうんだ。人の身でも戦えるのだと証明するんだ。
その意思に呼応して、カーテンコールの速度が上がる。
間もなく、交戦圏内へと突入する。

カーテンコールは、ロールアウト直後の状態のまま発進している。
それゆえに、装備は最低限のものしか装備されていなかった。
それでも、あらゆる武装に対応したコンダクターユニットを有するカーテンコールは
魔法少女隊の機体から、ディフェンシヴ・フォース改を借り受けていた。
フォース自体の性能としてはそこまで高いわけではないが、それでも通常のバイドを相手取るには十分な性能である。
ディフェンシヴ・フォース改に加えてスタンダード波動砲とレールガンを携え
ひとまずは、カーテンコールは最低限バイドと戦いうる性能となっていた。

「かかって来なさいっての、バイドどもっ!!」

波動砲のチャージを済ませ、ついにカーテンコールは、迫り来るバイドを迎え撃つ。
キャノピー越しに見る宇宙。珍しさすら感じるその光景の中に、幾つかの光点が混ざる。
敵は小型ばかり。形状はさまざまだが、恐らくリボーの群れだろう。
R戦闘機にとっては、恐れるに足らない相手ではある。
もちろんそれは、乗り手がそれに足る腕を持っていればこそ、だが。
101 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/03(火) 01:29:39.57 ID:9hjVOalN0
「へへっ、なんだよ。ただのリボーじゃない。あ、あんなの……怖くなんかないよ。
 楽勝じゃん、今まで何回戦ってきたと思ってるんだ。……怖くなんて、ないっ」

戦いが始まる。
今まで何度と無く経験してきたはずのことなのに、身体が震えた。
もしかしたら今までもずっと震えていたのかもしれない。
ただ今までは、震える身体がなかっただけで。

怖い、怖い。怖くて仕方が無い。
死ぬかもしれない、上手くよけられなかったら、すごく痛いのかも知れない。

「魔法少女じゃなくなるって、こういうことなんだね。
 ……どうして、どうしてこんなに怖いのよ。っ、きゃぁっ!?」

リボーから放たれた弾丸を、思い切り大げさに飛びのくようにして避けた。
まるで自分のそれだとは思えないほどに、大げさで隙のある動きだった。

「しっかりしなさいよ、あたし。まどかの所に行くんでしょ。
 こんなところで、あんな奴らに負けてられないんだよ…うあぁぁっ」

立て続けに放たれる弾丸を、逃げるように大きく弧を描いて交わす。
カーテンコールの機動性は、敵のそれを完全に上回っている。
肉体に負荷がかからないレベルの機動でさえ、敵は全くついてくることができない。
負ける要素など、どこにもないはずなのに。

「くそ……ぉ、どうして、どうしてこんなに……っ。
 お前らなんかに、お前らなんかにぃぃッ!!」

機首を翻し、狙いも定めずツインレーザーWを放つ。
落ち着いて照準を定める余裕すらもなく放たれたレーザーは、リボーの群れから離れたところを通り過ぎていった。
102 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/03(火) 01:30:12.20 ID:9hjVOalN0
「何で、何で当たらないのよっ!……やっぱりダメなの?魔法少女じゃないから。
 魔法少女じゃなくなったら、あたしはもう戦えないのかな。……こんなんじゃ、杏子に笑われちゃうよ」

思い出すのは戦友の顔。
大切な仲間のために戦い続け、その身を燃やし尽くして果てた戦友の姿。
同じくらいの歳の少女でありながら、魔法少女としてではなく、自らの力で戦いぬいた少女。

「よく考えたら、当然なんだよね。杏子が戦う力を手に入れるのに、どれだけ時間がかかったか。
 あたしはそれを、一気に追い越しちゃってたんだ。……魔法少女になって」

その操縦技術が、戦う力が、一体どれだけの時間をかけて培われてきたものなのか。
それを、さやかはよく知っていた。
そして自分が魔法少女だからこそ、それと同等以上に渡り合えたのだということを知った。

「うあぁッ……そりゃ、当然だよね。いきなりなんて、戦えるわけないっての。
 ……やっぱり、調子乗りすぎてたかなぁ、あたし」

リボーの群れは、じわじわと包囲を狭めながら弾幕を展開してくる。
性能では圧倒的に勝っていても、戦う術を持たないさやかは、次第に追い詰められていく。

「情けないよね、あれだけ啖呵切って出てきてさ。このざまだよ。
 ……でも、やっぱりダメだったよ。ごめんなさい、マミさん。まどか。……杏子」

そしてついに、カーテンコールは完全にリボーの群れに取り囲まれた。
もう、逃げ場はどこにも――ない。
103 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/03(火) 01:30:43.26 ID:9hjVOalN0
「覚悟はできたかい、鹿目まどか」

「………ねぇ、キュゥべえ。一つだけ聞いてもいいかな」

英雄が尽き果て、その映像も途絶え。
ついにまどかにも、最後の時が訪れようとしていた。
どこかサディスティックにも取れる笑みを浮かべて、キュゥべえはまどかに問いかけた。
その声に、絶望に沈んだままの暗い声で、まどかは答えた。

「いいだろう。ボクもそこまで急ぐわけじゃない。これで人類の顔も見納めだ。
 最後に一つ位話を聞いてあげるよ」

その言葉に、まどかは一つ静かに頷いて。

「キュゥべえは、仲間をバイドにやられて……バイドのことが憎いって思ったんだよね」

暗く沈んだ調子の声で、淡々と言葉を告いだ。

「そうだよ、何度も言っているじゃないか。……ボクはボクらの文明を破壊したバイドを許さない。
 それを生み出した、キミ達人類も許しはしない。それがボクの答えだ」

「……だとしたら、今のキュゥべえには、感情があるんだよね」

「そうだね。酷く不本意だが、今のボクは感情という精神疾患に冒されているよ。
 それも酷く重度だ。感情に自分の行動を左右されてしまう恐れさえある、最悪の気分だよ」

吐き捨てるかのようにキュゥべえは言う。
その言葉には、そんな自分自身への隠しきれない嫌悪感がありありと滲み出ていた。
104 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/03(火) 01:31:24.53 ID:9hjVOalN0
「……そうなんだね。でも、キュゥべえは私達とずっと一緒に戦ってきたんだよね。
 ずっと、バイドと一緒に戦ってくれてたんだよね。……仲間だって、思ってくれなかったの?
 私は、キュゥべえのこと、一緒にバイドと戦う仲間だって思ってたよ。
 きっとさやかちゃんもマミさんも、ほむらちゃんも杏子ちゃんだって、そう思ってたはずだよ」

絶望に沈んだまどかの瞳に、静かな感情の色が揺らぐ。
それは悲しみ。ただただ悲しいのだ。今までずっと仲間だと思っていたのに、それが全て嘘だったなんて。

「みんながどれだけ必死にバイドと戦ってきたか。その為に、どれだけの犠牲を払ってきたのか。
 キュゥべえは全部見てたんだよね。それなのに、あなたは何も感じなかったの?
 それを全部、無駄にしてしまうつもりなの?ねえ、キュゥべえ」

けれど、心のどこかにまだ信じたいと思う気持ちが残っていた。
バイドを憎み、それに抗おうとする思いが同じなら、分かり合えるはずなのだと信じたかった。

「……わかっているさ。人類が、どれだけ必死にバイドと抗ってきたのかくらい」

何かを押し殺したような声で、キュゥべえは答えた。

「ボクだって、バイドと戦うために魔法少女の力を人類に提供した。
 それを実戦に活かせるようにさまざまな技術開発に協力もしたし、キミ達と共にバイドとも直接戦った」

その声は、かすかに震えていた。

「ボク達の開発した兵器が、バイドを次々に駆逐していった。魔法少女も驚くべき成果をあげた。
 ……あの時感じた感情は、きっと嬉しさだとか喜びだとか、そういう類のものだったんだ。
 そして、それを分かち合うことのできる相手がいた。……きっと、それも嬉しかったんだろうね」

背を向けていたキュゥべえが振り向くと、その瞳は複雑な感情を湛えて揺れていた。
その瞳の赤は、躊躇いと戸惑いを孕んだ色で。 
105 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/03(火) 01:31:53.83 ID:9hjVOalN0
「だったら、一緒に戦えるはずだよ。人類を全部滅ぼすなんて、そんなことする必要なんてないよ。
 キュゥべえ。まだ間に合うよ、今ならまだ、皆を助けられるはずだよっ」

「それでバイドを倒したとして、ボクはどうしたらいいんだい?」

身を乗り出そうとして、その身を縛る拘束具に止められて。
それでも必死に叫ぶまどかに、冷たくキュゥべえはいいはなった。

「キミ達人類は、腹立たしいほどに優秀だったよ。
 ボクがもたらした技術も、そのほとんどが既に解析されてしまっている。
 バイドとの戦いが終われば、もうボクには実験動物としての利用価値くらいしかないだろうね」

「そんなことしないよ。だって、キュゥべえは一緒に戦ってきた仲間なんだよ!」

「……彼らはそうは思っていないさ。それに、どうやって生きていけって言うんだい。
 こんな宇宙の片隅で、使命を果たすこともできずにただ生きていけというのかい。
 孤独や無為な時間が辛いものであるということくらい、ボクも学習しているんだ」

キュゥべえの声に、苛立ちの色が混じった。

「聞きたかったのはそれだけかい。……じゃあ、もうこの話は終わりだね」

「信じてたんだよ、キュゥべえのこと。仲間だって信じてたんだ。
 きっとさやかちゃんやマミさんも、ほむらちゃんや杏子ちゃんもそう思ってたはずだよ。
 ……キュゥべえは、そう思ってはくれなかったの?」

ついに死が目前に迫って、絶望に打ちひしがれながら。
嘆きと共に、まどかは静かに言葉を告げた。

「……っ」

息を呑む、小さな音が聞こえた。
106 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/03(火) 01:32:24.44 ID:9hjVOalN0
「ボクの仲間はもういない。キミ達は、ボクの仲間じゃない」

押し殺したような声。
その声はもう、人間のそれと変わらない。

「種族が違ったって、分かり合うことはできるよ。だから、キュゥべえと私達だって……」

「五月蝿いんだよ、キミはっ!!」

怒鳴り声が響いて、そして続いて機械の作動音が、一つ。

「あぐッ……」

まどかの身体を、重い衝撃が貫いた。
拘束されている椅子から突き出したのだろう、鋭く太い鉄の針が、まどかの腹部を貫いていた。
痛みと衝撃、そしてどくどくと流れ出る、赤い血液。

「ぁぎ、ッ。きゅ、べ……ぇ」

逃れようのない痛みに、身体がびくびくと震えた。
見開かれた目からは、ぽろぽろと涙が零れた。
ぽっかりと開いた口からは、掠れ気味の嗚咽が、そしてそれはすぐに。

「っ、ぅぁ、やぁぁぁぁぁァッ!!」

絶叫に、変わった。

「キミに、一体ボクの何が分かるっていうんだ。
 全てを失ったあの苦しみを、絶望を。一体どうして理解できるっていうんだ。
 ボクは躊躇わない。ボクは必ず、全てを取り戻してみせるんだ」

続けざまに、いくつも鉄の針が飛び出していく。
その度にびくびくとまどかの身体が震え、それすらも弱弱しくなっていく。

「だから、キミはここで死ぬんだ。鹿目まどか」






そしてついに、まどかの生命活動は……停止した。
107 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/03(火) 01:36:24.79 ID:9hjVOalN0
どん底だなぁ。
本日はここまでということで。

>>97
果たしてどういうものだったのでしょうね。
まどかちゃんを助けるのが契約したときの願いですから。
その魔法も、もしかしたらまどかに関わることだったのかもしれません。

そしてモルガナの結界は、そこにいる限り死ぬことも穢れることもない空間です。
ただ、永遠にモルガナの望んだ戦いを続けなければならず、そうする限り外に出ることはできません。
そんな果てない戦いすらも救いと呼べる程、魔法少女達はボロボロでした。
108 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(滋賀県) [sage]:2012/04/03(火) 01:43:01.91 ID:qmJmBxSio
まどかの生命活動を停止…死んだのだ!

ってちょっとみんな死にすぎやで・・・
希望は無いんですか!
109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/03(火) 09:10:54.66 ID:uII8rGhDO
お疲れ様…です。
>>1さん…、まるで某ガンダム監督並みに殺しおる…。

ふむ。教えて頂けないと言う事は…、沈んだとは書いてあったが、スゥちゃんのソウルジェムが砕けた描写はまだ無い…そういう事で良いんですよね?ねっ!?
110 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/04/03(火) 09:21:48.67 ID:WBBTNkGto
魔女兵器は自壊機能つきだけど、天然魔女のモルガナちゃんは当然そんなもんついてないよね
最悪、結界内の魔法少女隊が人類最後の生き残りになったりして
111 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/04/03(火) 20:49:33.96 ID:MIqOuU/qo
乙。
ここはさやかの踏ん張りどころか?
究極互換は伊達じゃないところを見せてやるんだ!
112 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/04(水) 00:14:18.20 ID:6jmQb/pXo
まだだ!まだメインがやられただけだ!
113 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/04/04(水) 01:53:56.86 ID:M8fcYot90
展開が展開なだけに、内容も大分ぶっとんでるなぁって気がします。
でも、それでも投下です。
114 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/04(水) 01:54:59.48 ID:M8fcYot90
「鹿目まどかは死んだ。そして今、その死の恐怖と絶望が、太陽系にばら撒かれる。
 希望が絶望に完全に塗り替えられたその瞬間……そのエネルギーを使って、宇宙を作り変える」

椅子に拘束されたまどかの身体は、最早動くことはない。
ただ時折、まだ残る肉体の反射がひく、とその指先を震わせていただけで。
流れ出る血液はまだ収まることはなく、床一面にその赤を広げていた。
その赤の只中に、ちゃぷ、とキュゥべえはその足を浸して。

「……やはり、キミも所詮は人間だったんだね。肉体の生命活動が停止すれば、その魂も消失する。
 もうじき、キミの全てが消えてなくなるんだ。お別れだね、鹿目まどか」

アーク内部で、死に向かう10万人が抱いた苦痛と絶望。
そしてその絶望を束ね、自らのそれによって乗算し、まどかの亡骸を中心とした絶望の精神波が
太陽系全土へ向けて発信された。
物質の法則によらないそれは、光さえも遥かに越えた速度で、即座に全ての人類へと伝えられていく。
伝播される感情は、恐怖と絶望。それは強制的にその意識を染めてしまうほどに強力だった。



希望を抱いた宇宙は、大いなる絶望に塗り替えられる。

けれど、その絶望は大いなる救いへと変わるだろう。

傷つき、穢れた世界を癒すため。

失われた世界を取り戻すため。

絶望に塗りつぶされた世界は、やがてあるべき姿を取り戻すだろう。

だが、その前に。



――全ての世界が、死ぬ。
115 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/04(水) 01:55:30.47 ID:M8fcYot90
それは、等しく全ての人類に降り注ぐ。


あるいは、娘の帰りを待つ家族。


「……ママ。今のは」

「そんな……信じられるわけないだろ。なのに、何で……何で」

我が身を抱きしめ、顔を蒼白に染めて震える詢子を
同じ様に震える手で、隣に佇む知久が必死に支えていた。

「っく、ひくっ……ぇぅ、まろか……まろかぁ」

そんな二人のズボンの裾をぎゅっと掴んで、タツヤが泣いていた。

「……まどかが、あたしたちの娘が。死んじまった」

突然に心の中を吹き荒れた、訳も分からぬ恐怖と絶望。
けれど彼女は、その中に違うものを感じ取っていた。
それは、とても大切なものを失ってしまったのだという、喪失感。

その喪失感に打ちのめされて、詢子の足から力が抜けた。
支えようとした知久にも力はなく、共に崩れ落ちるように倒れこみ。

「どうして、どうしてあの時……あの子を行かせちまったんだ。
 引っ張ってでも、止めてやればよかったのに。……ぁぁ」

詢子は強い女性だった。常に強くあろうとして、誰にも弱みを見せないような。
そんな彼女が、声を殺して泣いている。胸が張り裂けそうなほどの悲しみに、完全に打ちのめされていた。
そんな詢子を支え続けた知久も、決して弱い人間ではない。
それでも押し寄せる絶望は、喪失の悲しみは、あまりにも大きく辛すぎた。
あまりに暗く、黒く。その心は染め上げられていった。
116 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/04(水) 01:55:57.20 ID:M8fcYot90
あるいは、守るものを背負い戦う者達。


「ひっ、ひぁあぁぁぁっ!?!」

火星宙域。地球連合軍とグランゼーラ革命軍による混成部隊が、押し寄せるバイドを相手に必死の抵抗を続けている。
そこで戦い続ける兵士達の元へも、その底知れない恐怖と絶望は押し寄せていた。
その強烈な感情の波は、一瞬で戦う意味と理由を押し流した。
バイドを撃滅せんとする意思と、その為に力を振るう覚悟を奪い去っていった。

「もう駄目だ。俺達はこのまま死んじまうんだぁっ!」

「い、イヤだ……死にたくない、死にたくない死にたくないっ。俺は、俺はぁぁぁッ!」

有り体に言えば、それは恐慌という奴だろうか。
誰しもが恐怖に怯え、絶望に立ち尽くし。戦う力を失っていた。
そして、その隙に容赦なくバイドは喰らいついてくる。

一切の抵抗を失った人類の部隊が迫るバイドの群れに押し潰されるのも、時間の問題であった。


「し、司令っ!バイドが、バイドが、とにかく沢山来ますっ!どうにか、どうにかしないと……」

それでも必死に自らの使命を見失わず、地球軍のオペレーターが告げた。

「……ひひ、ッく、クヒヒっ。終わりさ。奴らが来る。絶望の化身が、災厄の死者が。
 もう終わりさ、人類に、逃げ場なんてどこにもないんだ」

けれど、それを受け取り司令を出すべきその男は。
すでに、絶望の生み出す狂気に飲まれ、狂っていた。


そして、蹂躙は始まった。
117 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/04(水) 01:56:24.24 ID:M8fcYot90
あるいは、偽りの希望に縋り続ける少女。


「隊長、グリトニルに接近していたバイド群は撤退を始めました。
 追撃しますか?……隊長?」

コンサートマスターに寄り添って飛んでいた、ガルーダが。
その中に存在するマコトの姿をした何かが、マミに問いかけた。
けれど、マミはそれには答えない。答えられない。

「……今のは、なんで、どうして」

マミはただ、静かに。そして茫然自失としたまま呟いた。
この結界に絶望は存在しない。与えられるのは、永遠の戦いと偽りの希望。
だからこそ魔法少女達は皆それに飲まれ、取り込まれ。
永遠に終わらぬ戦いを構成する、一つの部品となってしまっていた。
その戦いは何も生み出しはしない。どれだけバイドを討ち果たしても、それは全てただの使い魔。
いずれまた姿形を取り戻し、再び迫る。

そんな世界だからこそ、魔法少女達は絶望に飲まれることはなかった。
ただ何かが失われてしまったような、そんな不思議な感じがしただけで。
その失われてしまったものが、マミにとってはとても大切なものだった。
ただ、それだけのことなのだ。

「まどか……何故、どうして?」

胸を締め付けるような、痛くて苦しいこの感情。
あまりにも大きな喪失感。何故そんなものを感じてしまうのか、それがマミには分からない。
けれど、その喪失感の意味はとても重要なのではないかと、そう思ってしまう。

「貴女はもう、いなくなってしまったと言うの……まどか、まどか?」

終わらぬ戦いだけが繰り広げられるこの世界。
いつしか、それを疑問に思う心すらも失われてしまう世界。
そんな世界の只中で、まどかを失った心の痛みは、同時に自分の本当にしなければならないことを思い出させていた。
それがマミの脳裏で、明確な形を描き出そうとしていた。
118 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/04(水) 01:56:56.05 ID:M8fcYot90
「隊長っ!バイドはすぐそこなんですよ、何をぼーっとしてるんですか!
 急がないと、逃げられてしまいますよ!」

けれど、彼女はそれを許そうとはしない。
叩きつけられた厳しい声が、気付き始めていたマミの心を再び縛る。
その声の主は、常にマミの側にあるマコト。
その姿をした魔女。“終結なき戦争の指揮者”モルガナ。

「ぁ……ええ、そうだったわね。……ごめんなさい、マコト。
 すぐに追撃を始めましょう。他のみんなにもそう伝えて」

魔女の言葉を受けて、我に返ったかのように。けれど、その実まるで真逆のように。
マミは再び戦いの世界へと囚われた。


この戦場に果てはない。この戦いに終わりはない。
この戦いが終わるより先に、全ての世界が終わるのだろう。
そうなれば、魔法少女達も、そして魔女も、全てが消え去るのだ。
119 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/04(水) 01:57:27.05 ID:M8fcYot90
あるいは、かつて戦士であった少女。


「嘘、でしょ。……まどか」

宇宙の只中、まどかの待つアークを間近にして一人。
無数のリボーに取り囲まれ、終わりの時を待つばかりだったさやかの心を
絶望と共に、まどかの死という事実が貫いた。

「間に合わなかった。また、何もできなかった。あたしは……あたしは……ぁぁ」

絶望が、そして後悔が。一度振り払ったはずの恐ろしいほどの無力感が。
再び、さやかの身体を捉える。どうしようもないほどの衝撃が、視界を真白に染め上げる。

カーテンコールを取り囲んだリボーが、一斉に弾幕を展開した。
それは違わず、カーテンコールを貫く。そのはずだった。
だが、カーテンコールは即座にその身を翻す。一斉射撃の僅かな隙間を縫って、弾幕の雨をすり抜ける。
そして放たれるツインレーザーは、今度こそリボーを打ち砕く。
その動きは、今までの恐怖に震えて怯えるさやかのそれとは、あまりにも違う。
まるでそれは、彼女が魔法少女であったときと変わらぬほどに、見事な機動だった。


「まどか……まどか、まどか。あたしは、あたしが……無力だったから」

嘆きの言葉は口から零れ、とめどなくその目からは涙が零れる。
食いしばった唇は破れ、唇の端から血が垂れる。
それでもその腕は、まるで精密な機械であるかのように動き、敵弾をすり抜け。
的確にリボーの殲滅を遂行していく。その機動には、一切の感情が見て取れない。

そう、真っ白になってしまったのだ。さやかは。
恐怖に張り詰めていた、いっぱいいっぱいの心に叩きつけられた、親友の死。
その事実は、彼女の心の容量をあっさりと飛び越えた。そして、心は身体と切り離された。
悲しみ絶望し、後悔に打ち震える心はそのままに。ただその表情の幾つかを支配するだけで。
その身体は、身体に染み付いた戦士としての習性を淀みなく発揮していた。
それは、バイドと戦う戦士としての。R戦闘機の乗り手としての業。

皮肉なことに、世界を終わらせる絶望こそが、さやかの命を救ったのだった。
120 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/04(水) 01:58:04.02 ID:M8fcYot90
「なんで、あたしだけが生きてるんだ。ほむらが死んだのに。杏子が死んだのに。……まどかが死んだのに。
 なんで、あたしは生きてるんだ。だめだよね、あたしだけが、生きてちゃあ。
 うん、そうだよね。……あたしも、一緒に行かなくちゃ。――いなくならなくちゃ、あたしも」

最早動くことも叶わぬほどに粉砕されたリボー達。
その残骸を背に、さやかは真っ白な心で呟いた。
戦いの時が過ぎ、戦士であった自分が消えて。後に残っていたのはやはりか弱い少女。
その心は、あまりにも大きすぎる喪失に耐えられず、自ら命を絶つことを選んだ。
けれど、その場所くらいは選びたい。そう思うのは、最期に残った心の気まぐれ。

「……まどか。あたしも、そっちに行くね。まどかがいなくなった場所に、あたしも行くよ。
 そこで、あたしも……みんなと、一緒に」

呆然と、虚ろに言葉が漏れ出した。
その言葉をどこか他人の声のように聞きながら、さやかの手はカーテンコールを動かしていた。
向かう先は、まどかの命の果てた場所。アーク。
121 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/04(水) 01:58:30.29 ID:M8fcYot90
幾千幾万を飛び越して、幾億もの絶望が宇宙に咲いては散っていく。
人々の心が絶望に堕ち、引きずられるようにその命が消えていく。
嘆きの色に染まる宇宙。絶望に染まる世界。
その全てを、一つ残らずその全てを、彼女は見つめていた。

誰かが涙を流す時、彼女の心もその悲しみに胸を痛めた。
誰かが嘆く声を聞くと、彼女は優しい慰めの言葉を捜した。
誰かの心が絶望に沈む時、彼女はそれを救おうとした。

だけど、彼女には何もできない。
彼女には、涙を流す瞳はない。
彼女には、言葉をかける唇はない。
彼女には、救いを差し伸べる手はない。

だからといって、彼女は何もせずにただ見ていたのだろうか。
己の無力さに打ちひしがれ、同じく絶望したのだろうか。
いやいや、そんなことはありえない。
決して決して、そんなことはありえない。

数え切れないほどの苦痛を、絶望を、嘆きを、悲しみを受け止めて。
彼女は、決意した。
122 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/04(水) 01:58:59.45 ID:M8fcYot90
――大丈夫だよ。

それは声ではなく、心に直接伝わる何か。
死に瀕した誰かの側に、悲しみに暮れる誰かの側に、絶望に打ちひしがれる誰かの側に。
彼女は、全てそこにいた。そして、伝えた。

――あなた達のこれまでは、決して無駄じゃない。無駄になんかさせない。

それは、恐怖と絶望の波。それと共に太陽系全土に拡散されたもの。
肉体という枷から開放された、全にして一なる彼女の精神。

――希望は、まだ途切れてなんかいない。

彼女は――。

――私が、みんなの希望になるから。

鹿目まどかは、それを告げた。
123 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/04(水) 02:04:37.17 ID:M8fcYot90
状況はどん底、ですがそれは逆に後は這い上がるだけというわけでもあります。
這い上がった先に、希望があるのかどうかは別ですが。

>>108
希望はありません。
だからこそ、まどかちゃんは希望を探すのではなく、自分が希望になろうと決めたようです。
何をするかは、まだ分かりませんが。

>>109
英雄の帰還あたりの方がバカスカ死んでた気がします。
それでも、やっぱりキャラが死ぬというのはあんまり精神衛生上よくありませんね。
久々に書いた後に後味の悪さを感じてしまいました。

それはどうでしょう。もしかしたら本当に決めてないだけかもしれません。

>>110
残念ながら、宇宙が終われば魔女も結界も皆まとめてさようならです。
最期のその時まで、絶望することなく戦っていられるのはある意味しあわせかもしれませんが。

>>111
究極互換機と言えど、装備は間に合わせのものに過ぎません。
今のままでは、結局そこらのR戦闘機とそうは変わりません。
そしてさやかちゃんは死に場所を求めてまどかちゃんの下へと向かうことになりました。

>>112
そしてまどかちゃんの死を持って、ようやくまどかちゃんが主人公のお話が始まるのです。
124 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/04(水) 07:35:22.08 ID:pcGS/XyDO
お疲れ様です。
精神インターネット生命?

全人類守護霊?

とにかく超神秘的な存在となったまどかは、一体何をするつもりなのか…?
125 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/04/04(水) 16:15:51.57 ID:YdNoZqRPo
自分の中ではディフェンシブフォースは要らない子だったな。
ケンロクエンもスタンダードフォース装備だったらもうちょっと使ったのに。
126 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/04/06(金) 02:27:35.08 ID:0LFto7/Z0
びっくりするほど超展開、最悪後で解説入れます。
投下しちゃうぞー。
127 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/06(金) 02:28:08.65 ID:0LFto7/Z0
「太陽系には、順調に絶望が満ちてきているようだね。
 もうじき、完全にこの星系は絶望に沈むだろう。……それで、全て終わりだ」

数多の希望が絶望に塗りつぶされていく。
それが生み出す感情エネルギーの唸り。常人では気付くことのできないその力強さに
キュゥべえは、僅かに顔を顰めながらもそう言った。
その表情に浮かんでいたのは、確かな歓喜。

「けれど、たった200億の知的生命体の感情エネルギーだけで
 宇宙一つを新生させるほどのエネルギーになるなんてね。もっとも、これだけの数の知的生命体を
 一度に希望を抱かせ、そして一度に絶望させるなんてこと、そうそうできることじゃない」

だが、と思考は巡る。
もしも新しく作り出した宇宙で、これと同じ状況を再現することができたなら。
人為的に知的生命体が繁栄した宇宙を作り出し、そこに大いなる外敵を与え、抗わせ。
最期の最期、勝敗が決するその瞬間に介入する。
そしてそこに生息する全ての知的生命体の、その生命の断末魔の叫びを、絶望をエネルギーに変換する。

確かに準備には、恐ろしいほどの時間と労力を費やすことになるだろう。
だが、折角宇宙を思いのままに新生することができるのだ。
宇宙の熱的死だけは避け得ないとしても、それをないものとするシステムは構築することができるはずなのだ。

「……試してみようか。宇宙の開闢から介入を始めれば、十分過ぎる程に時間はあるはずだ」

そう、時間はありすぎるのだ。宇宙の開闢から現在まで、概算でも46億年程度。
感情を得てしまったキュゥべえにとって、その長すぎる時は、長すぎる孤独は間違いなく苦痛。
だとすれば、それを紛らわすための何かが必要だった。
どれだけ遠大で、どれだけ途方もなくとも、時間だけはうんざりするほどに存在しているのだから。
128 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/06(金) 02:28:47.93 ID:0LFto7/Z0
「このシステムが完成すれば、もう次の宇宙では魔法少女なんていう不確かなものに頼る必要は無い。
 そうだね、試してみることにしよう。……早く始まらないかな」

はち切れそうなほどに膨れ上がったその感情エネルギー。
ついにその余波は、宇宙を揺るがしこのアークにまで到達していた。
それはまだ、この次元へとシフトしていない。
人類が知覚し得るより遥かに遠い異層次元の彼方で、激しく荒れ狂っている。
太陽系全域を覆うソウルジェム、それを介してその高次次元へとアクセスし、そのエネルギーを我が物とする。
そして、それをもって宇宙を再生する。
 
もうすぐ、もうすぐ。それが為されようとしている。
人類とバイドの戦いの、その結末さえも待つことはなく。
これまでの余りに凄惨な戦いの歴史。その全てを嘲笑うかのように、無慈悲な再生が降り注ぐのだ。

それは、全人類の意思の、そして今まで生きてきた、戦い抜いてきた意味への、絶対的な否定。
全ての生を、その希望と絶望を見届けた彼女には、それは到底許しえるものではなかった。
だから。

――そうはさせないよ、キュゥべえ。

「っ!?何だ、これは……まさか、キミなのか!?」

そう、そんな無慈悲で身勝手な振る舞いを。

「――鹿目、まどか」

鹿目まどかは、許しはしない。

「何故だい。キミの精神は肉体の死と同時に喪失したはずだ。それがこうしてボクに接触している。
 そんなことが、できるはずがないじゃないかっ!キミは一体何をしたんだ、鹿目まどかっ!!」

死したはずの者。その声が聞こえる。
それは恐らく、全く異なる倫理観を持つ異星人にとっても、恐怖し驚愕すべきことだったのだろう。
その表情は、まさにその二色に染め上げられていた。
129 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/06(金) 02:29:36.68 ID:0LFto7/Z0
――私は、全部見てきたんだ。キュゥべえ。あなたがみんなに振りまいた絶望と一緒に。

――みんながどれだけ必死に戦ってきたか、そして、どれだけ必死に生きているかを。

「まさか、そんなことできるわけがない。そんなことができるのだとしたら、キミの精神は……」

やはりそれは、インキュベーターをしても信じることのできない事実。
もしもまどかの言うことが真実で、あの絶望と恐怖の精神波の拡散と同時に
まどかがその精神を太陽系全土に拡散させていたのだとしたら。
それはすなわち、まどかの精神自体が、太陽系全土を覆い尽くすほどの広大な領域を持つということになる。
群体として、多くの個を集約して拡大させた精神であればいざしらず
それほど広大な精神領域を一個の個体が持ちうることなど、インキュベーターが今まで見てきた
ありとあらゆる歴史の中にも、それは一切存在しないことだった。

「ありえないよ。そんなことは、あってはいけないことだ。あっていい訳がないんだよ!」

認められるわけがなかった。
それを認めてしまうということは、すなわち。
鹿目まどかという一個体が、インキュベーターという種よりも更に進化した
より高次な能力を持つ個体となってしまったことに他ならないのだから。
そしてそれはインキュベーターという種であることに、その崇高な使命に
大きな誇りと自負を、いつしか持つようになっていたキュゥべえには、耐えられるものではなかった。

それはすなわち、今の彼にはそれ以外に自らを証明するものも、誇れるものもないということに他ならなかった。

――何が起こっているのかなんて、私には分からない。でも、私のやらなきゃいけないことはわかる。だから。

「今更、キミに何ができるっていうんだ。キミにはもう、この世界に干渉するための器はない。
 今ここにあるのは、キミの魂だけだ。どれほど拡散しようがそれだけなんだよ」

そう、例えまどかの魂が、その精神がどれだけ進化を遂げたとしても。
結局今のまどかは魂だけの存在でしかない。それは虚に限りなく近い存在。
今この太陽系という、圧倒的な現実に干渉するための器を彼女は有していないのだ。
130 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/06(金) 02:30:18.61 ID:0LFto7/Z0
――方法なら、あるよ。私の魂は今、ここにある。だとしたら、まだ方法はあるんだよ。

キュゥべえは気付く。
太陽系全土を覆うほどに広大なそのまどかの精神が、今のまどかの存在が。
その全てが、自分を取り囲んでいることを。
だからその声という名の精神波は、まるで四方から投げかけられるかのように反響していた。

――契約するよ、キュゥべえ。私を、魔法少女にして。

今まで幾度か告げようとして、そしてその度に誰かが、何かがそれを押し留めてきた。
今なら分かる。それは、今この瞬間の為にあったのだと。
絶望と滅亡、それは迫り来る条理。それを覆すことが、この期に及んで全てをひっくり返すことができるものは。
それはきっと、魔法少女の願いに他ならないのだから。

「確かに、魂があるならソウルジェムは生まれる。キミほどの能力を持つ少女なら
 それこそかなりの力を持つ魔法少女になれるだろう。その願いも、大きな力を生み出すだろう」

けれど、キュゥべえの表情は平静を取り戻していた。
その答えが、予想していた通りだったから。
たとえまどかがここで契約し、その願いを持ってこの状況を改善することを願ったとしても
それは、叶えられることはない。まどかが背負った因果では、それを覆すほどの願いは叶わない。
それどころか、大きすぎる願いの代償で、魔女と化すのが関の山である。
確信と共に、キュゥべえは告げる。

「いいだろう、鹿目まどか。キミの最期の抵抗。ボクはそれをねじ伏せて宇宙を新生させる。
 さあ、言ってごらん。キミの願いを。太陽系を救うことかい?それともバイドを駆逐することかい?
 それとも、スゥを助けることかい?」

最初のそれは叶わない。間違いなくまどかの因果は不足している。
そして二つ目は叶うかもしれない。少なくとも、太陽系内のバイドを駆逐することはできるかもしれない。
けれど、絶望は消えない。絶望が生み出すエネルギーも消えはしない。
そして三つ目、これは叶うだろう。けれど今更バイドが死滅したところで何が変わるというのか。
結局、何を願ったところで世界の命運は変わらない。


――私の、願いは。
131 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/06(金) 02:30:51.47 ID:0LFto7/Z0










――みんなの絶望が生み出した力。それを、みんなに返してあげて。



――そして、戦う事を願う全ての人に、もう一度立ち上がり、戦うための力を与えて。



――それが私の願い。私が見つけた、最後の希望だよ。







132 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/06(金) 02:31:44.42 ID:0LFto7/Z0
「何を考えているんだ、キミはっ!!」

その願いは、とても受け入れられるものではなかった。
そんなものが叶うはずがない。叶えられるはずがない。

「そんなことをして一体なにになるんだ!絶望に沈んだ人類がもう一度戦えるはずがない。
 宇宙も救われない、人類も滅ぶ。キミは自分のわがままで宇宙と心中するつもりなのかい!?」

正気を疑う。信じられない。だから問う。言葉を放つ。
その行為の無意味さを知らしめるために、願いを反故にさせるために。

――違うよ。私は見てきたんだ。みんなの希望と絶望を。

それでもまどかは退かず、怯まず、凛とした声で突き返す。

――みんなが希望を抱いていたのは、未来を信じていたから。

戦いの終結を信じて、未来を信じて。
バイドなき、正しい宇宙を信じて。

――みんなが絶望に沈んだのは、最後まで生きたいと望んでいたから。それを諦めなくちゃいけなかったから。

ありとあらゆる力を、狂気を。
それらをつぎ込み、抗い続けたその理由。
それはただ、ただ。生きようともがきあがき続けた結果。その結果に他ならない。
133 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/06(金) 02:32:13.05 ID:0LFto7/Z0
――だから、きっと立ち上がれるはずなんだ。もう一度力を手に入れることができれば。

――もう一度、生きるために戦うことができれば。

「それでどうなる。例えそれで今バイドを退けたとしても、スゥは敗れた。もう死んだ!
 人類がバイドを根絶する見込みはない、滅亡を先送りにするだけじゃないか。
 無駄なことはやめるんだ、鹿目まどか!」

インキュベーターからすれば、それは狂信、妄信としか受け取れない。
死の淵に沈み、絶望に堕ちたものがもう一度立ち上がれるだろうか。そんなことはありえない。
彼らの歴史が知る限り、それはありえないことだった。
その条理に、真正面からまどかは挑もうとしていたのだ。
弱く脆く、短い命と不完全な心しか持たない人類を、信じて。
その為に、この最大の宇宙再生の機会をふいにしようというのだ。

――違うよ、キュゥべえ。スゥちゃんはまだ死んでない。きっと生きてる。

「何故言い切れるんだい。今のキミに、26次元の彼方を知覚できるとでも言うのかい?」

――キュゥべえが言ったことだよ。私達は出会うべくして出会ったって。

――それが運命だなんて言うんだったらきっと、スゥちゃんがいなくなっちゃったら分かると思う。

――きっと、胸が張り裂けそうなくらい辛くなる。だから、まだ……大丈夫。

それは余りに不条理、そして弱弱しすぎる根拠。
誰一人肯定できない、鹿目まどかだけの論理。
誰もそれを肯定できない。けれど、誰もそれを否定することもできなかった。
それほどにまどかがスゥに寄せた信頼は厚く、強く、堅い。
134 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/06(金) 02:32:42.68 ID:0LFto7/Z0
「何故、何故なんだい。ボクはただ失ったものを取り戻そうとしているだけなんだ。
 なのに、どうしてキミはボクの邪魔をするんだい。訳が分からないよ。
 本当に、本当に訳が分からないよっ!」

――失いたくないから。その為に、できる精一杯のことをしてるんだ。みんなが。

――だから、私もそうする。ただ、私には普通の人よりちょっとできることが多かった。それだけなんだよ。

その意志は固く、揺るがない。
そして、キュゥべえは。インキュベーターという種は。
魔法少女となる少女が契約を望むなら、それを拒むことはできない。
どれほどの感情が、憎悪が、悪意がその性質を歪めても、根本に根付いたそれだけは
決して、揺らぐことはなかったのだった。
だから。





――さあ、叶えてよ!インキュベーター!!!





その言葉が、引き金だった。
突如としてその空間に光の渦が巻き起こる。
余りにも広大、余りにも壮大な光が渦を巻き、一点に収束する。

そしてそれが、小さな種のような形にまで収束したその瞬間に。
光は、弾けた。

弾けた無数の光には、比類するものないほどに大きな力が宿る。
宇宙再生を行うプログラム。それを遂行するためのエネルギー。
それが別の形に変換させたもの。その力が、太陽系全土へと放出されていく。
無数の光と化して、遍く宇宙へ。戦う人々の元へ。

それは一体、人類に、宇宙に何をもたらすのだろう。
それは、全人類がその身をもって知ることとなる。
135 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/04/06(金) 02:35:22.06 ID:0LFto7/Z0
ここから巻き返していくのでしょうか、きっと。
しかし、随分キュゥべえさんも弄られちゃいましたね。
あのまま宇宙再生してたらキュゥべえさんは伝承族になってたと思います。

>>124
単純に魂だけの存在になっちゃっただけです。
その上太陽系を丸々覆えるほどに広域に精神を伝播させ、そこで起こったことを知覚できるという
いろんな意味でぶっとんだ能力へと進化を遂げてしまいました。

>>125
一応改でそこそこ改善はされてますし、確か青レーザーは悪くなかった気もするのですが。
まあ、扱いにくいフォースであることは否めませんね、本当に。
136 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/04/06(金) 08:44:08.95 ID:b4Ypg/xJo
乙。
ついにまどかも契約ですか。
搭乗機はやはり最後の機体でしょうかね。
137 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/06(金) 14:49:38.37 ID:30sIRzYDO
お疲れ様です!
さて、願いは微妙な気がするがどうなるのか…。
138 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/04/07(土) 06:14:46.65 ID:yFJwv8hvo
>>戦う事を願う全ての人に、もう一度立ち上がり、戦うための力を与えて

サガ2のオーディンみたいなこと言ってるな

願いを叶えなければQBの一人勝ちだったのに叶えちゃうQBマジ孵卵機
139 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/04/07(土) 08:31:09.65 ID:BhnFjw51o


自我とか感情とか芽生えてるんだから別に契約しないでもよかったんじゃなかろうかQBさん
まどかからEN回収する必要性ないのにいちいち律儀な子や…
140 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/08(日) 19:30:39.33 ID:KyYfFw4DO
戦う為の力…特殊能力とかか!?
141 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/04/09(月) 01:43:10.86 ID:bBY6ERIY0
筋肉痛が酷くてキーボードを打つのが辛いです。
が、それでも投下です。
142 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/09(月) 01:44:49.06 ID:bBY6ERIY0
人生というものが、一篇の物語だとするならば。
その物語は、その始まりから既に運命によって翻弄され続ける物語であった。
彼女は運命という嵐の只中に生まれ、それに飲まれるように日々を刻む。
昏き暗黒の日々、それは長らくと彼女の心を蝕んでいった。
唯一の希望は、英雄という幻想。

幻想に手を伸ばし、一度彼女は燃え尽きた。
その燃え殻から蘇った、空虚で真白な心。
一人の少女との出会いが、その心を新たな色に染めた。
それはあるいは瑠璃色で、それはあるいは蒼穹の空の色で。
それは幸せだった。それはきっと恋だった。乾いてひび割れる心には、唯一の救いだった。

けれど、それは奪い去られた。
取り戻すために、彼女は英雄の仮面を被り死地に立つ。
けれど、嗚呼。何故だというのか。
無慈悲な悪意が、壮大な謀が、全てを無に帰そうとしている。
そしてそれは、英雄の仮面を被った少女の心をも打ち砕いた。
心は昏く、静やかに水面に消えてゆく。
希望を、未来を抱えて。その重さに耐えかねて、沈む。




これは英雄という運命に弄ばれ続けた少女の、終着を語る物語。
143 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/09(月) 01:45:18.95 ID:bBY6ERIY0
その少女、スゥはまだ自らが存在していることに気がついた。
ラストダンサーは、バイドの攻撃を受けて水面へと沈んだはずだった。
それ以前にスゥは自ら機体との接続を切断していた。
最早、ラストダンサーがいかなる状況であろうとそれを察する術はスゥには存在していない。
それでもその辿るべき遠からぬ未来。破壊と死であるそれは容易に想像できた。

だが幾許かの時が過ぎて尚、その死の定めは彼女に振り下ろされることはなかった。
訝しく思う気持ちが、心の奥底にこみ上げてくる。
けれどそれを確認する術は、最早スゥには存在していない。
ほんの僅か、そんな気持ちが心を揺らして。けれどすぐにそれを放り投げた。
全てを諦めてしまった少女には、来るべき死が遅いか早いかなどさしたる問題ではないのだから。


けれど、空虚な時は過ぎ去っていく。


身体を失った魂だけの存在でさえ、流れる時を知覚することはできた。
けれど、それがどれだけの時間なのかが分からない。
いかにそれまで自分が生きてきた全てが、肉体というものに依存していたのかがよく分かる。
故にそれを失って今、何も聞こえず何も見えず、何にも触れられない絶対の孤独にスゥは佇んでいる。
だからその空虚な時が、ほんの数秒のことなのかそれとも数時間さえも過ぎているのか
それを理解することを、スゥはできずにいた。
144 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/09(月) 01:45:58.36 ID:bBY6ERIY0
まどか。


声にならない、音として発せられないその声がその名を呼んだ。
スゥにとっては最初で最後の希望。自分が生きる、戦う理由。
今、彼女はどうしているのだろう。インキュベーターの手に落ちた彼女は、まだ生きているのだろうか。


会いたい。


このままここで尽き果てるのならば、せめて、せめてその前に。
もう一度会いたかった。言葉を交わしたかった、心を交わしたかった。
できることならその身を重ねて、互いが互いに溶け合うまでに。
その想いは半ば偏執的とも言えるほどのそれで。


会いたいよ。


音ならぬ声は、空虚な時空に幾度も響く。
どれだけ声を張り上げたところで、それが届くはずもなく。
余りにもその場所は、26次元というその場所は遠く。


ずっと、ずっと一緒にいたかったよ。


嗚呼、嗚呼。だがそれは叶わぬ願い。
願い焦がれ、言葉は空しく響くだけ。それを聞くものがどこにいるというのか。
この絶対の孤独に踏み入れること、それが叶うものなど、この世界のどこに。
145 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/09(月) 01:46:32.57 ID:bBY6ERIY0
――それならば、もう一度立ちなさい。そして戦いなさい。

それは、自らの身の内に存在した。
もう一人の自分。恐らくかつて忌避すべき存在であった、その声は。

「暁美……ほむら」

その声を聞き、帰すべき言葉を見つけたときに。
スゥの見る世界は、再び音と言葉を取り戻していた。

「戦えだなんて、気安く言わないでよ。……もう、私には戦う力なんて残っていない。
 仮に残っていたとしても、もう……私には戦う理由が、ない」

空虚だった心を揺り動かしたのは、恐らく怒りと呼ばれる感情で。
何故まだ戦わせようとするのか、もう嫌だ。もう沢山だとスゥはその声を拒んだ。

――それは違う。貴女はまだ戦える。

「わかったようなことを言うなっ!何もできないくせに、なにも分からないくせに。
 同じ作り物の癖に、えらそうに指図をするなっ!!」

湧き上がる激情、激昂たるそれは口をついてあふれ出た。

――何もできなくなんてない。私も、貴女も。まだ、私達にはできることがある。

何を勝手な、訳の分からないことを。
燃え盛る怒りは、ますますもってその勢いを増した。
死へと導かれながら、それでもその心は赤々とした怒りの火を灯されていたのだ。

「戦ったところで何になるって言うんだ。この状況で、勝てるわけがない。
 死ぬまでの時間を無駄に引き伸ばすだけじゃない。終わったのよ、もう、全部」

――終わってなんかいない。私が、終わらせはしない。
146 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/09(月) 01:47:08.79 ID:bBY6ERIY0
言葉と同時に、強烈な眩さがスゥの感覚を貫いた。
まるで深い暗がりから、真昼の日の下へと連れ出されたような、目をつく眩しさが襲い掛かってきた。
光と視界を取り戻した世界で、スゥが見つめたものは。

今尚その翼を、羽ばたく力を失わずに飛ぶラストダンサーの姿だった。

けれどその姿はやはり弱弱しく、ふらふらと荒れ狂うフォースの嵐の中を飛んでいた。
それでも迫るフォースをかわし、必死に機体を建て直し、迫り来る死への抵抗を続けていた。

「どうして、何故ラストダンサーが。……暁美ほむら、まさか貴女が?」

スゥがいくら機体を動かそうとしても、もうそれが動くことはない。
自らの身体が、自らの意志を離れて動き出すという得体の知れない感触。
戸惑いと驚きを隠せずにいたスゥは、やがて察したかのようにそう問いかけた。

――ええ、貴女がラストダンサーを放棄したから、今は私が動かしている。

――貴女と私は限りなく近い。貴女が動かせるものを、私が動かせない道理はないわ。

そう、確かにそれは道理なのかもしれない。
だが、暁美ほむらのソウルジェムはあくまで魔法を生み出す機関として接続されている。
その機械が示す道理を捻じ曲げ、その場にあって尚このラストダンサーを動かしている。
それは間違いなく、魔法と呼ばれる力が示した事象。
既に限界に近いほど穢れを貯めきっていたほむらのソウルジェムにとって
それは自殺行為としか言えない、自ら死へと、自己の喪失へと近づくような行為だった。

それでもほむらは力を振り絞り、その魂を燃やし。
迫り来る死という名の運命を、その魔手を振り払い続けていた。
147 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/09(月) 01:47:53.99 ID:bBY6ERIY0
「……何故、戦うの。無駄だと分かっているのでしょう?いくら苦しんでも、結果は変わらない。
 私達に訪れる死が、遅いか早いかの違いでしかない。なのに、どうして」

今のラストダンサーはもはや、攻撃をかわすことで精一杯。
もはやフォースの隙間を縫って攻撃を仕掛けることなど、全く叶わない。
だというのに、もう運命は決まってしまったというのに、何故抗うのか。
スゥには、それが分からない。

――っ、それでも、私は……抗う、最後まで。私の、最後の一片まで抗い続けるわ。

ラストダンサーをフォースが掠める。
バランスを崩し、機体が水面すれすれに触れる。
それでも尚ほむらは機体を立て直し、その機首を忌むべきバイドへと向ける。
魂だけの存在であれ、機械の身体にそれを宿してさえ、疲労と呼べるものは感じるのだろうか。
荒く息を吐き、辛く苦しげな声でほむらはスゥの問いに答える。

――それが、私の選んだ道だから。そうでなければ、私を救ってくれた人達に顔向けができないわ。

ほむらがその名を借りた少女。重い病に苦しみ続け、その生の最後まで生きぬいた少女。
そして、見知らぬ誰かの幸せを願い不帰の道へと旅立った少女。
そして二人にとっての始まりである英雄。今は崩れ行く身体がこの世界に縛り付けられている英雄。
暁美ほむらと、スゥ=スラスター。その命と遺志を受け継ぐほむらには
自身の存在の最後の一片までもを賭して、迫り来る滅びと死に抗い続けるしか術はない。
逃げることなど、投げ出すことなど許されない。何よりほむらは、それを許せない。

――貴女にもいるのでしょう。貴女を救ってくれた人が。

「でも、もうまどかには会えない!声を交わすこともできない。私は、私は……」

どれほどの言葉を投げかけられても、喪失の痛みは拭えない。
その傷は埋められようもない。スゥは嘆き、そして哭く。
148 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/09(月) 01:48:35.46 ID:bBY6ERIY0
――でも、嬉しかったでしょう。貴女が、私が救われたとき。

「っ……それ、は」

そう、それは幸せな記憶。
とても幸せで、満ち足りた記憶。

――心が一杯になって、あふれ出してしまいそうだったでしょう。救われたこと、それは幸せだったでしょう。

静かな声で、ほむらは囁く。
スゥもほむらも、元を辿れば同じ存在より分かたれた同胞。
生まれながらにして抱えたその重荷は、いずれも同じであったのだ。
自分がただの作り物ではなく、一つの存在として肯定されるという救い。
それを与えてくれたのは、ほむらにとっては暁美ほむらやかつての仲間達。
そして、スゥにとってはまどかだった。

だからこそ、救われる喜びもまた同じ。
はち切れんばかりに、心の奥底から湧き上がるその感情と衝動。
確かにそれは、二人の間に共感し得るものだったのだ。

――それがどれほど素晴らしいか、私達は知っている。そしてそれは、これから生まれていくものよ。

――私達の中で、そして私達ではない誰かの中で。

――それは生まれていく、続いていく。ここで全てが終わらなければ。

その救いは、ほむらには新たな自分を。
スゥにはまさしく心そのものを与えていた。それは、とても素晴らしいこと。
スゥはそれを知っている。そして見知らぬ誰かであったとしても、それを得ることはきっと素晴らしいだろう。
そう、思ってしまった。

「だから、それを守るために戦う。いつか誰かに生まれる救いを
 その素晴らしさを……守る、為に」

呟くように、けれど謡う様に、スゥはその言葉を告げる。
それを聞き届けて、ほむらは静かに笑ったような気がした。

――命ある限り戦いなさい、例え孤独でも。それが英雄として望まれた者の義務なのだから。
149 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/09(月) 01:49:09.63 ID:bBY6ERIY0
「例え、この先に待ち受けているのが死と絶望だけだとしても。
 それでも戦えと、お前はそう言うのね。……それが、英雄だと」

その肩書きは、紛い物の複製品。
それでも、英雄として望まれてしまった。その義務を負うべき資格は、十分に存在した。

――ええ。最後まで抗いぬくのが、きっと私達のするべきことだから。

「私は、英雄になんてなりたくなかった。ただ、まどかの側に居られればよかった。
 ……でも、きっとまどかなら最後まで抗うでしょうね」

静かに、感覚が蘇ってくる。
解き放たれた精神が、再び鋼の身体に宿る。
シンクロレートが低下したその身体は、やはり尚も重い。
それでも、抗うことを決めたから。

「抗ってやる。どこまでだって、何度だって。……だからかかって来なさい、私の運命」

もう一度、少女は戦いの宇宙に舞う。
迫り来る運命に、全力で中指を立ててやるために。
舌を突き出し、その背に蹴りを入れてやるために。

――それでこそ貴女よ。……後を、お願いするわ。

「暁美ほむら……まさか、もう」

限界を超えるほどの戦いを続けてきた。
今こうして話をしていられること自体が、恐らく奇跡と呼ばれるもので。

――先に往くわ。……できれば、こっちには来ないでね。

ほむらの声が、途切れた。
小さな音と共に、限界を超えて穢れを溜め込んだほむらのソウルジェムが排出された。
そしてすぐさま、荒れ狂う破壊の嵐に呑まれ、潰えた。

「……さよなら。もう一人の私」

機体の支配が、ほむらからスゥへと移る。
尚もラストダンサーは満身創痍。迎える敵は強大。
勝機は見えず、現状を打開する術もない。
それでも、その心が再び絶望に沈むことはない。
苛烈なる運命の重圧に、再び膝を折ることはない。

その身に宿った気高き心。
そしてスゥは、目覚めた心を走らせる。
150 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/09(月) 01:58:00.95 ID:bBY6ERIY0
英雄達に待っているのは何なのでしょう、せめて救われてくれるのでしょうか。

>>136
ついに契約の時です。
なんだかんだいって、大まかな展開自体はそれなりに原作をなぞっていたりもします。
その願いが何をもたらすのかは、もうちょっと後で分かることですが。

>>137
それについてはもう少しお待ちください。
まどかちゃんは果たして全人類の希望となりえるのでしょうか。

>>138
まさしくオーディンなのかもしれませんねぇ。
そんなまどかちゃんに導かれて、魔法少女という戦乙女と全人類はエインヘリャルにでも連れて行かれるのかもしれません。
状況的にはモルガナの結界のほうがエインヘリャルっぽいですが。

>>139
願われればそうしなければならないのが彼らなのです。
感情や悪意は彼のあり方を大きく歪めましたが、そこは変わらなかったようです。

>>140
果たしてそれが何なのか、それは遠からず知るところとなるでしょう。
151 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/09(月) 09:05:13.57 ID:RzAngj9DO
お疲れ様です。
ほむほむ………黙祷。
152 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/09(月) 22:37:42.29 ID:+MjcPYkTo
一回機能が落ちた期待が回復する展開っていいよね
ギューンって感じでワクワクする
153 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/04/09(月) 22:53:50.14 ID:N6zED7Amo
(´・ω・`)ほむぅ……
154 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/04/09(月) 23:20:24.57 ID:bBY6ERIY0
では、今日も投稿していきますか
155 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/09(月) 23:21:23.43 ID:bBY6ERIY0
再び目覚めた英雄。けれどそれを知るものはどこにもいない。
今だ絶望に沈む太陽系には、最後の希望を作り出すための力が降り注いでいた。
それは、遍く人の下へと降り注ぐ。一つの意志をそこに宿して。

――これは、みんなの絶望が生んだ力。

――もしかしたらこのまま、この世界は終わってしまうかもしれないけれど。

戦う者に、戦わざる者に。絶望に抗う者に、絶望に沈む者に。
かつて彼女が見た、遍く全ての人にその声は伝播した。

――もしも、そんな運命に立ち向かう意志が、ほんの少しでもあるのなら。

――もしも、もう一度戦う意志があるのなら。

それは、絶望に沈む人類を救うための声ではない。
けれど、安易な絶望と死という逃げ道へと誘うものでもない。

――その為の力を、みんなにあげるから。

――だから、望むのなら……願って。そして、戦って。

それは、更なる戦いへの誘い。
迫る絶望に対して、もう一度立ち向かう力を与えんが為に。
きっとその誘いを受けてしまえば、その力を借りてしまえば。
どれほどの苦境、どれほどの絶望の渦中にあっても、絶望に膝を折ることは許されない。
その最後の瞬間にまで抗い、立ち向かわなければならなくなる。
それは間違いなく、座して絶望と死を受け入れるよりも遥かに辛い、戦いの未来を予想させた。
156 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/09(月) 23:23:40.20 ID:bBY6ERIY0
――ずっと思ってたんだ。私にできることはこれだけだから。

――この力で、みんなを救ってあげたいって。でも、それじゃだめなんだ。わかったんだ。

それでもその声は優しく、そして力強く呼びかけた。
その声は選択を強いる声。けれどあくまで最後に選択するのは全ての人類で。

――本当の希望は、誰かに与えられるものじゃないんだ。

――たった一人の英雄に、押し付けていいものでもないんだよ。

ただ与えられただけの希望は、また奪われてしまうから。
誰かに押し付けた希望は、誰かを押し潰してしまうから。
だから、本当の希望は。本当の未来は。

――希望は、未来は。私達一人一人の手で掴み取るものなんだ。

――だから、お願い。みんなの力を……貸して。

その声は、願いは、遍く人の心へと染み渡る。
けれど、人々が沈んだ絶望は深い。
そして多くの人は、それに抗う力を持たない。
そんな彼らが、どうして目の前の絶望に立ち向かえるというのか。
そんなことが、できるはずもない。広がっていくその願いと意志は、ただただ人々の心を駆けていくだけで。

ただ、そう。そんな得体の知れない、信用もできない力でさえも。
そんなものにでさえも、縋ってみせたものがいた。
157 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/09(月) 23:24:05.79 ID:bBY6ERIY0
それは、戦い続ける者達。

「一体どうなっているんだ。誰なんだろうな、こんなことを言う奴は」

その男は、少しだけ戸惑ったように口を開いた。
彼は名も無き戦士。彼に並び立ち、絶望に沈み。そして今にも潰えようとしていた無数の戦士たち。
彼らもまた、名も無き戦士達。
誰の機体も損傷は大きく、絶望がその足を止めている。
さらなる絶望の形を為して、彼らの元へもバイドが迫る。
確実な死が、じきに訪れる。

だが、と男は思う。
まだ自分は戦えたはずだ。得体の知れない絶望が、戦う力を奪い去っていなければ。
まだ抗えたはずなのだ。迫り来る、バイドという名のもう一つの絶望に。
悔しかった。何よりバイドが憎かった。
だから男は得体の知れないその声を、その力を、受け入れた。

「誰だっていいさ。力をくれるってならもらってやる。……俺はまだ、戦いたい」

再び胸に宿ったその闘志。
それが引き金だったのか、強い光が男の駆るR-9AF――モーニング・グローリーに宿る。
機体に深々と刻まれた傷跡を、その光は癒していく。
度重なる戦いによって消耗していたエネルギーさえも、光の中から蘇る。
一瞬の閃光が目の前を照らしたその後には、まるで完全に整備されたかのように万全の
モーニング・グローリーが、男の命令を待っていた。

曰く再び戦えと、力を振るって見せろと、希望を掴んで見せろと男の命を待っていた。
158 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/09(月) 23:24:49.37 ID:bBY6ERIY0
そしてそれを、間違いなくその場にいた全ての戦士達が見届けていた。
男はゆっくりと機体を翻し、共に戦い続けた戦士達へと振り向いた。
彼らもまた、深い絶望に沈んでいるはずである。
だが、それを払うための力を再び手にすることはできる。

男が何かを話しかけようとしたその時に、ついにバイドの接近を知らせる警報が鳴り響く。
もはや、幾許の猶予もない。男はすぐさま機首を迫るバイドへと向けた。
そして、口元で静かに、力強く一言を告げた。

「さあ、どうする?」

――と。


答えはすぐに示された。
バイドの群れへと立ち向かうモーニング・グローリー。
その背後で、無数の光が舞い踊る。
光の中から次々と、蘇った力と翼達が沸きあがる。
誰しもがその言葉に激しい闘志と、身の内より湧き上がる希望を乗せて。

そして再び、数多の戦士達がバイドに挑む。
宇宙を再び閃光が染め上げ、激しい戦闘が始まった。


それは、名も無き戦士たちの詩。
そしてそれは、遍く宇宙で紡がれていく詩。
159 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/09(月) 23:26:18.62 ID:bBY6ERIY0
「さて、なんだったのだろうな。今のは」

地球軍総司令部。ここもまた絶望に沈み、緊急会議という名目集められた高官達は皆
希望を失い、絶望に沈み、中には自ら死を選んだものもいた。
その中で聞こえた言葉、希望を掴むために、戦えという言葉。
それを聞き、司令の男は不思議そうに呟いた。

「まあ、言っていることにはある程度納得はできる。生きるためには戦わねばならん。
 それを誰かに押し付けて、事がすべて片付いたような顔をしていられるわけもあるまい」

ゆっくりと立ち上がる男、高官達は虚ろな目でそれを見ていた。

「何をしている、貴様らっ!聞いただろう、この最悪最低の状況を、どうにかするのは私達自身だ」

男は椅子を蹴り飛ばす。豪華で重い椅子が、蹴り飛ばされて床に転がる。
だん、と床を蹴って飛び上がる。彼らが囲んでいた円卓をその足で踏みつける。
そのままつかつかと円卓の上を歩き、それを囲む高官達の顔をぎろりと鋭く睨みつけ、そして。

「手勢を集めろ!駐留部隊を全て集結させろ!私自ら出るっ!!ついて来られる者だけついて来いっ!」

そのまま円卓を飛び降り、扉を蹴破った。
じっとしていられないほどの強い衝動が、男の身体を駆け巡っていた。
それは前線を退き、いつしか戦士からそれを統率するものへと変わっていた男が、いつしか失っていたもの。
激しく燃え盛り、荒れ狂う戦いへの欲求。激しい闘志。

そうだとも、ここで負ければ後がないのだ。
そんな時に、どうして自分だけが偉そうにふんぞり返っていられるというのか。
その衝動に衝き動かされ、歩みはいつしか早足に、そしてやがては駆け出して。

「何をやっているんです、司令っ!」

当然のように、それを止めようとする言葉は投げかけられた。
160 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/09(月) 23:27:35.72 ID:bBY6ERIY0
「今だけは止めるな。今行かなくてどうするというんだね!?」

生き生きとした、張りのある声で男は答える。
その通信を送っていたのは彼の部下、付き合いもそう短いものではなかったが
それでも、彼がこんな人物だとは思いもしていなかったようだ。
だが、止めなくてはならない。戦線に立ち並び、戦う戦士が必要であるのと同じく。
彼らの後ろに立ち、彼らが余すことなく力を振るえるようにすることも必要なのだ。

「いいえ、止めます。戻ってください。……信じられないことが起こっているんです」

どうやら、司令としての役目を放り投げたことを咎めるつもりではないらしい。
となれば話は別だと、男は足を止めて問う。

「何かあったのか?いや、あれで何も無いほうがおかしいとは思うが」

「はい……信じられないことですが、通信の途絶していた火星以降の惑星圏に存在する基地から
 続々と通信が届いているんです」

バイドの侵攻は火星にまで及び、すなわちそこまでに存在する全ての人類の施設は飲み込まれて潰えた。
そのはずであったのに、そうして潰えた多くの施設から、通信が続々と届いているのだという。

「確かにそれは信じられないな。……それで、内容は?」

「内容はどれも同じです。バイドを倒すために舞い戻ったと。
 そして現在、火星に向けて全速力で駆けつけているとのことです!」

「潰されたはずの施設から、死人の声がする。……まさか」

そう、その通信を伝えた施設は、そこにいる戦士達は、間違いなく既に潰えている。
そんな者達がどうして、通信をこちらに伝え得たのだろうか。

「彼らも戦う事を望んでいた……そういうこと、なのか
 なるほど、確かにこれはもうしばらくここに踏ん反り返っている必要がありそうだ」

男は笑い、そして言う。
それは余りに荒唐無稽、そして信じがたいほどに壮大で。
まどかが与えたその力は、無念の内に散っていき、未だこの宇宙に残る戦士達の魂にまで及んでいた。
そして彼らは戦いを願い、再起した。
だとすれば、誰かがそれを助けなければならない。それができるのは、自分だ。
161 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/09(月) 23:36:44.71 ID:bBY6ERIY0
絶望をもたらされた全ての人に、同じようにその光は降り注ぐ。
その声は、現世より隔絶された異界にすらも響き、その光を届けようとしていた。
けれど、そこにいる少女達に絶望の色はない。
ただ、偽りの希望に踊らされているだけの少女達だった。

だからこそ考える。
それが偽りであれ、希望を抱いて戦えるのは幸せなのだろうか。
そんな事があっていいものか、それでは、誰かに与えられた希望も同じ。
それもいつか必ず奪い去られることが約束されたまやかしの希望。
本当の希望を掴むのは、確たる意志と自ら戦う覚悟が作る。

だからまどかの願いは、モルガナの結界の中へさえも飛び込んでいく。
そして、声を届けた。
162 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/09(月) 23:37:42.93 ID:bBY6ERIY0
「……まど、か」

その声は、まどかの絶望がその結界を揺るがしたときと同じようにマミの意識に届いた。
偽りの希望、終わらぬ戦いに意識を奪われていたマミの、その瞳に自我の色が揺らいで見えた。
それは結界に生じた綻びで、魔女はその存在を許さない。

呆けたように動きを止めたマミのコンサートマスターに、マコトのガルーダが接近した。

「隊長、敵が接近しています。……すぐに迎撃しないと、命令をください、隊長」

それは従順な部下の仮面を被って、マミをこの世界に捕らえようとしている。
決して逃がすまいと、この世界を守ろうとしている。

「……そう、だったのね。マコト、確かに敵はすぐそこにいたわ」

ゆっくりと機首を翻したコンサートマスターは、その砲塔をガルーダへと向けていた。
違和感は、ずっと胸の中にあった。
迫り来る戦いは、それを考える余裕を与えてはくれなかっただけで。
けれど今、まどかの言葉を聞いて、マミの心は戦いの狂気から掬い上げられた。
幾分か冷静になった頭で考えれば、答えはとても簡単だった。

「何をするんです、隊長。敵はこっちにはいませんよ、隊長っ!」

「いいえ、敵はここにいるわ。マコト……貴女がそうなのよね」

機首を突き合わせたまま、向かい合って動かない二機。
マコトは言葉を返さない。だからマミは言葉を続けた。

「違和感はずっとあったの。貴女も、他の魔法少女達も、皆あの地獄のような戦場を生き抜いてきたわ。
 だから、自分がどう戦うべきかを迷ったりはしない。いちいち指示を求めることなんてない。
 ただ私は、必要な時に指示を出すだけでよかった。……それが違和感」

ガルーダは、その鋼の翼は小さく震えているような気がした。

「そして、認めたくないけれど。……マコト、貴女はもう死んでいる。絶望し、魔女となった。
 ……無理もないことだとは思うけれど、だとしたら今、ここに貴女がいるはずはない」

息を呑む音が、聞こえた。
163 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/09(月) 23:38:30.94 ID:bBY6ERIY0
「それ以上、言わないでください。隊長。それ以上言われてしまったら、私は……私はっ」

声は震えていた。まるで何かを恐れるように、涙すら混じっているような声で。

「いいじゃないですか、ここにいれば、みんなずっと一緒に居られるんですよ。
 ずっと一緒に戦って、それでも生きていけるんですよ。あんな絶望に身を晒す必要もない!」

そのままの声で、マコトであった魔女は、まだマコトでもある魔女は叫ぶ。
マミは、そんなマコトと魔女に諭すようにして言った。

「でも、それじゃあ私達は本当の希望を手にすることはできない。
 例え敗れて死ぬとしても、偽りの希望に踊らされ続けるよりは、ずっといいわ」

その言葉がもたらすのは別離。余りにも辛い別離。
その痛みを噛み締め、漏れそうになる嗚咽を堪えてマミは告げた。

「だから私達を開放しなさい、マコト。……いいえ、魔女」

みしり、と。何かがきしむ音。
それはあちこちから聞こえる音。
ガルーダが、背後に映る宇宙が、守るべきグリトニルが。
全てにひびが入り、崩れ落ちようとしていく。

「嫌だ、嫌だいやだイヤダっ!私は私で居たい、なのに、なのになノになノニナノニィィィッ!」

叫ぶ声が、宇宙を揺るがしていく。全てが崩れ去り、張りぼての宇宙は消え去ろうとしていた。
そこに現れる、本当の姿は。

「イ、ナナ、ナナァァァ……サ、ッガァ………ニィィィィィィ!?」

最後に残った心は壊れて、魔女モルガナは、その真の姿を現した。
164 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/09(月) 23:39:23.37 ID:bBY6ERIY0
魔法少女達は、夢から覚めたかのように、はっとして辺りを見回していた。
グリトニルを背負い、押し寄せるバイドと戦うという世界は既にない。
そこは最早、宇宙ですらもない。
そこは砂漠、天に輝く太陽が、遍く物を照りつける灼熱の地。

そしてその砂中に身を埋め、日に照らされる異形のオブジェが無数に並ぶ。
それは例えばR戦闘機、それは例えばバイドの兵器。
そんな歪なオブジェをいくつも砂中に並べて、生命を感じさせない死の砂漠は広がっていた。

そして、そんな砂漠に立つ一際大きなオブジェ。
黒々とした、天を衝く巨人。見ればその身体は、砂中に埋まる無数の機械群と同じもので構成されていた。
言うなればくず鉄の巨人。言うなれば、巨大なる墓標。
そしてその巨人が、唐突に動き始めた。そう、その巨人こそ、その墓標こそが魔女モルガナの本当の姿であった。

「お姉ちゃん。どうなってるの、これは……一体何なのかな」

いち早く異変を察し、ゆまのカロンがマミの元へと戻ってきた。

「魔女の結界よ。私達は今まで、そこに囚われていたのよ。……だから、あの魔女を倒さなくてはいけないの」

痛みを堪えるような声で、マミは答えた。
けれど、それと同時に異変に気付く。
先ほどまで一切の支障なく動いていた機体は今は動かない。
そう、それはまるでこの結界に取り込まれる前の状態に戻ってしまったかのように。
魔女の加護を受けて動いていた魔法少女達の翼は、それを自ら振り払ったことにより
再び傷ついた翼へと戻ってしまっていた。

更に、状況は悪化する。
巨人が僅かに身じろぎすると、そこから無数の機械がこぼれて落ちる。
そしてその全てが、こちらへと向けて攻撃の意志を示していた。
恐らくそれが、魔女モルガナの使い魔なのだろう。
165 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/09(月) 23:40:21.39 ID:bBY6ERIY0
「それじゃあ……誰かがなっちゃったんだね。魔女に……」

ゆまの声も沈んでいる。魔法少女と魔女の事実。
そして魔女を兵器として使う人の所業。その全てを知っているゆまですら
共に戦ってきた仲間が魔女となってしまったとなれば、気にせずには居られなかった。

「ええ、でも、今はそれを悲しんでいる余裕はないわ。……早く戻って、バイドと戦わなければならない」

「……うん、そうだよね。じゃあ、私も頑張るよ!だから、お姉ちゃんは下がってて、その状態じゃ戦えないよ」

比較的損傷の少ない、とは言え十分中破といいえる状態のカロンが、コンサートマスターの前に出た。
けれど、マミには分かっていた。マコトが魔女となってしまったのは、自分のせいだ。
だとしたらその罪を贖うのは、自分がやらねばならないことだ。
自分が、背負わなければならない痛みなのだと、わかっていた。だから。

「ルネちゃん。貴女は他の子達と使い魔の相手をしていてちょうだい。あの魔女は……私が倒すわ」

「そんなの無理だよ、だって、お姉ちゃんの機体はもうぼろぼろなんだよっ!」

「……大丈夫、だから信じて、お願いだから。必ずあの魔女は、私が止めてみせるから」

「わかったよ。……でも、でもっ!危なくなったら、すぐに助けに行くからね!」

そしてカロンは、魔法少女隊の下へと飛んでいく。
そしてようやくふらふらと、ゆっくりとコンサートマスターはモルガナと対峙した。


「まどか。……貴女が今どうしているのか、私にはわからない。けれど、私は貴女を信じるわ。
 だからお願い、力を貸して。私にもう一度戦う力を。私の罪を、贖うための力を」

そしてついに願ったマミに、その機体にもその光が宿る。
だが、それは魔女の察するところとなったのだろう。魔女はその腕を振り上げ、そして振り下ろした。
無数の機械が織り成す鋼の腕が、コンサートマスターを、マミを飲み込みその空間ごとを根こそぎ薙ぎ払っていった。
166 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/09(月) 23:47:15.94 ID:bBY6ERIY0
何のこともなく、本当にまどかちゃんの能力は戦う力を与えるだけのものだったようです。
ただ、範囲がえらい広いというだけで。

>>151
なんだかんだいいつつも、ほむらちゃんも最後まで英雄として戦いぬいたのでした。
あとは、その意志を誰が継いでくれるかということでしょうか。

>>152
いいですよねー、確かにそういうシチュエーションは燃えます。
そう言うわけでR戦闘機にも再起動をしていただきました。
随分と豪快な魔法もあったものです。

>>153
折角返ってきたのに、また随分と早い退場でしたね。
残念といえば残念ではあります。
167 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/04/10(火) 00:11:18.61 ID:qm1Krckho
乙。
さやかも再び戦うことができるのかな?

そして、願わくば杏子にも再び出番を、というのはあまりにも都合が良すぎか。
168 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/04/10(火) 08:01:02.51 ID:1B8DDjTDO
お疲れ様です!
希望は、死すらも越えて……!?

しかし、あれだけ強く出て行ったのに戻らなきゃならないってーと、司令官さんは気まずい思いをさせられそうだなw
169 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/04/10(火) 21:34:06.95 ID:X2XH32tmo
とうとうティロフィナーレの野望が……(違
マミさんマミマミ
170 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/04/11(水) 14:29:59.61 ID:3Mq+hSS30
さっと投下していきますかー
171 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/11(水) 14:30:33.33 ID:3Mq+hSS30
「お姉ちゃんっ!」

ゆまが叫んだ。
ボロボロのコンサートマスターでは、あれほどの攻撃を最早よける術はない。
そしてあんな大質量による攻撃を受けてしまえば、撃墜は免れない。
やはり無理やりにでも下がらせて、自分が魔女の相手をするべきだったんだと。
後悔が、ゆまの胸中にこみ上げてきた。けれど。

「心配はいらないわよ。この程度じゃ、私は負けない」

それはマミの声。あの大質量による攻撃の最中にあっても、マミは健在だった。
振り下ろされた腕の、その先端が内側から弾け飛んだ。
その中にあったのは、眩い輝きを放つ黄色の光。
そしてその中心には、光に全身を包まれて立つ一人の少女、巴マミの姿があった。

その姿はまさしく魔法少女のそれで、マミにとっては遥かな懐かしい記憶だった。
かつてマミ自身の精神の内で、そこに巣食うバイドを倒すためにとった姿。
あの時は、マミはまどかと杏子に助けられて目覚め、そして力を行使した。
その記憶が今も残り、明確な力のイメージとしてマミの中に存在していた。
それがまどかが与えた力によって再現され、マミに身体と、力を与えていたのだった。

「ごめんなさい、マコト。……私はこれから、貴女を殺すわ」

目を伏せ、自らに言い聞かせるかのようにそう呟いて。
マミは、魔法少女の身体で単身、魔女モルガナへと立ち向かった。
172 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/11(水) 14:31:02.16 ID:3Mq+hSS30
されど相手は巨大な魔女、魔法少女と、さらにR戦闘機の力をもってしてようやく打倒し得る存在。
本物の魔法少女の力を得たとはいえ、R戦闘機の力を持たないマミには些か荷が重い。

「ならその力を借りればいいだけよ。私は覚えている、今まで振るってきた力達を」

宙に浮かんだそのままで、静かにマミが手を上げた。
けれど、敵はまだそこにいると知り、モルガナが再びその鋼の拳を振り上げた。
そして再び振り下ろされる。圧倒的な質量と破壊が、牙を剥く。
その破壊めがけて、マミは静かにその手を下ろした。

だが、その拳は振り下ろされる途中で止まる。
その拳を留めていたのは、黄色に輝く光のリボン。
そのリボンは波動の粒子の結晶体。モルガナの拳を縛り、更にそのまま切り裂き焼き払う。
無数の機械の残骸が、切られて焼かれて地に落ちていく。

そしてそのリボンを放った射手は、かつてのマミの乗機。
まどかとさやかとほむらを救い、彼女達を戦いの運命へと導いたもの。
R-9MX――ロマンチック・シンドロームの姿だった。
まどかの願いがマミに与えた力、それが更に形を変えて今、かつてのマミの乗機として現れていた。
それは虚空から現れ、それが持つ力であるリボン波動砲を放ったのだった。

「懐かしいわね。……あなたがいたから、私は彼女達を助けることができた。
 仲間を得ることができた。……ありがとう、もう一度だけ、一緒に戦ってね」

再びロマンチック・シンドロームに力が宿る。
同じくして、モルガナもまた次なる攻撃を仕掛けていた。
その全身から零れ落ちる機械群が、使い魔と貸してマミに迫る。
その群れを静かに見つめながら、マミは静かにその手を上げて。

「無駄よっ!」

再び放たれたリボン波動砲は、そのままリボンの形を為した波動エネルギーの塊であり。
それは縦横無尽に空間を駆け抜け、迫る使い魔の群れを次々に打ち砕く。
一瞬の閃光が駆け抜けた後には、数珠状にいくつもの炸裂が巻き起こった。
173 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/11(水) 14:31:40.48 ID:3Mq+hSS30
「あの魔女を倒すためには、もう少し時間が必要ね。……それじゃあ、足を止めましょう」

まるで剣を鞘から引き抜くような動作で、マミは静かにその手を振り上げた。
その動きに呼応するかのように現れたのは、剣。
かつてマミがその手にしていた光の刃。

「あなたのことも、結構好きだったのよ。本当はもうちょっと乗っていたかったくらい。
 ……お願いね、ナルキッソス」

TL-3N――ナルキッソス。
かつてマミが駆り、バイドと化した魔法少女達と戦った機体。
擬態機能と、右腕のヒートロッドを介した強力なレーザーソードを持つ機体。
そのナルキッソスが、マミが剣を振りかざす動きに応じてモルガナへと立ち向かう。

その最中、ナルキッソスの姿が歪み、変わる。
ナルキッソスの持つ擬態機能が、その姿と能力をストライダーのそれへと変えていた。
そして即座に、ストライダーに搭載されたバルムンクが放たれ、モルガナの左脚を直撃した。
大きな爆発が巻き起こり、モルガナの左脚の半分ほどが消失する。

さらに追い討ちと言わんばかりに、元の姿に戻ったナルキッソスが
レーザーソードを振りかざし、その半分ほどを消失させた左脚部に切り込んだ。
ついにそれは両断され、バランスを失ったモルガナの巨体がぐらりと揺らぐ。
だが、まだ倒れない。切り裂かれた脚部同士が再び融合し、堪えようとしている。

「なら、もう一撃ね。食らいなさいっ!」

放たれたのは、ロマンチック・シンドロームのリボン波動砲。
だが今放たれたそれはリボンの形状を取ることはなく、それらを一つに束ねることで威力を増した
もう一つのリボン波動砲、リボン波動砲βだった。
そしてその一撃は、再生を始めていたモルガナの左脚に更なる損傷を与え
ついには完全に体勢を崩したモルガナの巨体が、轟音と共に砂中に没した。

あれだけの巨体である、すぐに起き上がることなどできはしない。
とどめの一撃を叩き込むための時間は、十分に稼ぐことができる。
174 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/11(水) 14:32:21.63 ID:3Mq+hSS30
「……これで終わりよ。マコト」

豊かな胸元から引きずり出すようにして、一本のマスケット銃がマミの掌中に生まれる。
そしてその銃口をモルガナへと向けた。
もちろん、それが敵に止めをさせるほどの威力があるわけではない。
これはあくまで引き金、そしてその引き金が撃ち放つ砲身は別にあった。

それは、一対の巨大な砲身。
そしてそれは、その砲身に比すればあまりにも小さなR戦闘機に接続されていた。
ゆっくりと、まるで虚空から引きずり出されていくかのように、二機のR戦闘機の姿が具現化される。
いずれもが、その巨大な砲身に似合った破壊力を持つ戦略級の決戦兵器。
そしてそのいずれもが、かつてのマミの乗機であったのだ。

R-9DX――ガンナーズ・ブルーム。
そしてR-9DX2――ババ・ヤガー。
その二機が今、マミの手によって再現され、その巨大な砲身をモルガナへと向けていた。
いずれの砲身にも、既に限界までエネルギーが蓄えられている。後は、その引き金を引くだけだった。

そして、マミは静かにその引き金を引いた。
引き絞られた引き金、それを合図に、二つの砲身はその力を解放する。
地球から月の間、おおよそ384,400kmという長射程と、それを実現させる威力。
その力が全て、超絶圧縮波動砲の威力の全てが、目の前の魔女モルガナへと叩きつけられた。
激しく迸る二筋の閃光。それは魔女の身体を構成する全てを焼き払い、打ち砕いていく。

そして全てを消し去る閃光が駆け抜けて行った後、残されていたものは。
魔女モルガナの核とも言える存在、人の形を模した、歪な人形が一つ。
焼け残ってしまったそれは、恨めしげにマミを睨み、その手を伸ばした。
彼女を害そうというのか、それともそれは救いを求めて伸ばされた手だったのか。
それは、誰にも分からない。ただ今大切なことは、ここを出なければならないということ。

だからマミは、その人形の手をマスケット銃の銃身で払い
そのまま流れるような動きで、人形の額に銃口を突きつけた。
人形は動かない。ただ、まるで泣いているかのような顔でマミを見つめていただけで。

「……ティロ・フィナーレ」

静かに呟き、マミは引き金を引いた。
175 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/11(水) 14:32:56.59 ID:3Mq+hSS30
結界の核たる魔女を失ったことで、結界は急速にその形を失いつつあった。
無数の墓標の立ち並ぶ砂漠はその姿を消して行き、じきにもとの宇宙空間が戻ってくることだろう。
その時、宇宙は、人類はどうなっているのだろうか。
不安は拭いきれないが、それでも今は戦うしかない。

だから、再び手にしなければならない。戦うための力を。
マミは一瞬だけ悩んだ後に、変わらずそこに佇むババ・ヤガーのキャノピーに触れた。
触れた指先は、そのままババ・ヤガーの中へと沈み込んでいく。
きっと、このままいけるはずだという根拠のない確信を抱いて、マミはその身体をババ・ヤガーの中へと躍らせた。

肉体が、まるで解けるように失われていく感触。
そして気がついたときには、マミの身体は重く冷たい鋼のそれに変わっていた。
曰く、ババ・ヤガーそのものへと。
そしてそれを見届けたかのように、ロマンチック・シンドロームが、ナルキッソスが
ガンナーズブルームが消えていく。

残されたのは、実体を得たババ・ヤガーだけ。
その中で、最早懐かしいとも言えるような感覚に浸りながら、マミは仲間達に呼びかける。

「気がついたかしら、皆。どうやら私達は、魔女の結界の中に囚われていたようね」

戦いの狂気から抜け出し、半ば呆然とした様子で魔法少女達がぱらぱらと返事を返してきた。
どうやら、まだみんな無事なようだ。

「でも、まだ私達の戦いは終わってはいないわ。いいえ、本当の戦いはこれからよ。
 ……だから、もう一度貴女達に戦う力をあげるわ。ここで朽ち果てるつもりがないのなら、願いなさい」

とはいえ、魔女の加護を失った機体はどれもボロボロのものばかり。
けれど、それを助けるための力は確かにこの宇宙にあるのだ。

「もう一度、戦いたいと願いなさい。希望を途絶えさせはしないと、最後まで戦い抜いて見せると」

戸惑いながらも、少女達は口々にその言葉を口にした。
果たしてこんな状況で、縋れる希望などあるのだろうか、きっとありはしない。
だから、少女達も気付いたのだろう。本当の希望はきっと、自らの手で勝ち取っていくものなのだと。
だからこそその為に、少女達は力を求めた。そして、それは叶えられた。
176 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/11(水) 14:33:25.17 ID:3Mq+hSS30
遍く宇宙で、力を与える一つの声が響く。
遍く宇宙で、力を求める無数の声が響く。
たとえ戦う力を持たない者であれ、それを願った者には力が与えられた。
それは直接に敵を討つための力ではない。
それは隣にいる誰かを、今も絶望に沈んでいる誰かを助けるための、手を差し伸べる為の力。
その力の名は、恐らく勇気と呼ばれる何かで。
人類はその声と力、そして勇気に導かれ、急速に死の恐怖と絶望から抜け出していく。
太陽系を満たす絶望が、ひっくり返ろうとしていた。
力強く輝く、希望へと。

けれどそう、その少女の深く絶望に沈んだ心は、まどかの声を持ってしても立ち直ることはできなかった。
そして彼女の周りには誰もいなかった、だから誰も彼女を助けられず、誰も彼女を止められなかった。
どうしようもなく死に惹かれ、死すべき場所を求めて宇宙を駆けるその機体。
カーテンコール、美樹さやかを、誰も止められなかったのだ。

遍く場所へと広がり続けて、薄れていくまどかの自我。
ただ、願う者に力を与えるだけの存在となろうとしていたまどかは、それでも彼女を救いたかった。
薄れきった自我を振り絞り、その手に一つの光を握り締めた。
それは太陽系のいたるところに振りまかれた力そのもの、その欠片の一つを、大事にぎゅっと握り締めて。
今尚死に惹かれている大切な友を、美樹さやかを助けるために、その欠片を解き放った。
願いを込めて。

誰か彼女を止めて、彼女を助けてと。
強い願いを込めて、その欠片は解き放たれた。


そしてその願いは、世の理さえも越えて届く。
その願いを受け止めたのは、いなくなってしまった一人の少女だった。
177 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/11(水) 14:34:59.35 ID:3Mq+hSS30
――行くのかい。

ここではない場所で、いずれ誰しもが訪れるその場所で、その片隅で。
男が、少女に問いかけた。

――ああ、あいつが呼んでる。助けて欲しいって呼んでるんだ。

少女は、その胸に飛び込んできた欠片を、力と願いのたっぷりと篭った欠片を抱きしめて。
そして、真っ直ぐに男を見つめて言った。

――本当にいいんだね、一度ここを出てしまえば、もう戻ってはこられない。

――君はそのまま永遠に、向こうを彷徨い続けるだけの存在になってしまうかもしれないんだぞ。

男は再び問いかけた。
だが、それを問う男にも答えはわかりきっていたのだろう。
少女の答えは、男が望んだとおりだったのだから。

――今行かなかったら、あたしは死んでも死にきれねぇ。まあ、もう死んでるんだけどさ。

少女は、苦笑交じりにそう笑い、赤い髪を揺らした。

――そう、か。ならもう止めないさ。行ってきなさい、そして戦ってきなさい。

男は笑って言葉を返し、ふとその表情に懐かしむような色を浮かべて言った。

――そしてどうか、私達が守れなかったものを、守ってくれ。

その言葉に頷いて、少女は手にした欠片を飲み込んだ。
熱い感触が、喉元を過ぎて胸の中へと伝わってくる。
その熱さがやがて脈打つ何かになった。そこに触れてみると、そこには脈々と命を伝える心臓があった。
死する者だけの場所において、少女は再び命の源を得て、そして。
それに引きずられるように、少女の身体が再構成されて消えていく。
彼岸を越えて、現へと。

その全てが消失してしまう刹那。

――君に幸運を、キョーコ。

――ああ、目にもの見せてやるさ、ロス。
178 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/11(水) 14:38:14.14 ID:3Mq+hSS30
都合がよくたっていいじゃありませんか。
やっぱりマミさんは活躍させたくなります。

>>167
ご都合的だっていいじゃあありませんか。
大事なことなので二回くらい言いました。

>>168
全人類の力と、逝ってしまった者達の力さえも借りて
まさしく最終最後の最大決戦です。
話がどんどん大きくなっていきますね。

>>169
マミさん大活躍です、さすがマミさんです。
179 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/04/11(水) 18:53:11.21 ID:y2q3yeVmo
おお!あんこちゃん現場復帰ですか。
熱い展開に期待ですね。
180 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/11(水) 23:58:20.10 ID:K3vtwXbDO
神域の魔法少女マミさん再び!やっぱり鮮やかだなぁ。
181 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/04/12(木) 00:11:19.99 ID:goGkEk5Yo
かつての乗機で戦うとかなんて胸熱
さてさて、あんこちゃんは何に乗ってくるのか楽しみだ
182 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/04/12(木) 03:33:13.45 ID:NImc3BgB0
やはり彼女達が帰ってくると、どうにも筆が乗りますね。
だんだんと宇宙もこの物語も希望を取り戻しつつあるようです。
では、投下します。
183 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/12(木) 03:33:47.13 ID:NImc3BgB0
絶望に沈んだ機体が宙を往く。
自分が死ぬべき場所だと選んだ場所へ赴くために。
その場所で、自ら命を絶つために。
さやかは一人、絶望と希望が渦巻きせめぎ合う宇宙を駆けていた。

「……まどか。あたし、まどかに謝りに行くから。まどかのいるところに、行くからさ」

力無く、虚ろにさやかは呟いた。
誰にもその声は届くことは無く、ただただ虚ろな呟きだけが響いた。

「そうしたら許してくれるかな、まどか。……あたし、本当にバカだったね」

心は真っ黒な絶望に埋め尽くされ、身体は経験に衝き動かされるかのように機体を動かしていた。
自分の死すべき場所を求めて、ひたすらに。

「また、まどかの声が聞けるかな。会えるかな。まどかに、杏子に、ほむらに。
 ……みんな死んじゃったら、また向こうでマミさんにも会えるかな」

乾いた笑みが唇の端から漏れる。
涙はとめどなく頬を伝い、そして落ちていく。
ぽたり、ぽたりとヘルメットのシールドに涙が伝い、綺麗に二筋跡を残していた。
そんなものすら意に介さず、さやかは静かに宇宙を駆ける。

「死ぬのって、辛いんだろうな。……でも、今生きてるのだってこんなに辛いんだよ。
 自分が生きてるってことが、たまらなく辛くて、苦しくて、情けなくてさ。
 ……いいよね、もう。全部、諦めちゃっても……いいよね」

もうすぐだ、もうすぐまどかのいた場所に着く。
そこが、さやかの終着点。長く苦しいこの生を、その全てを終わらせる場所。

「……んなもん、会えるわけねーだろーが」

その声は、どこからともなく聞こえてきた。
さやかにとっては懐かしく、そしてとても愛おしい声だった。
184 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/12(木) 03:34:39.02 ID:NImc3BgB0
「え……今の声、どうして、何で?」

その声に、弾かれたかのようにさやかは顔を上げ、辺りを見渡した。
けれど、そこには誰の姿もなかった。
当然だ、ここは広く孤独な宇宙空間。誰もいるはずが無い。
通信だって入ってはいない。だとしたら、ついに幻聴でも聞こえ始めてしまったのだろうか。

「あはは……本格的におかしくなってきちゃったかな、あたし。いきなり声が聞こえてくるなんて、さ」

こんなんじゃだめだなぁ、と苦笑して。再び死ぬべき場所を目指して走る。
そんなさやかを押し留めるかのように、もう一度その声は響いた。
今度こそ、力強く。

「確かにおかしくなってるよな。あたしが知ってるあんたは、そんな弱くは無かったはずだろ」

疑いようも無いほどにはっきりと、その声はさやかの鼓膜を振るわせた。

「そんな、何で……本当に聞こえる。……杏子?」

信じられないといった風に、震えた声で名前を呼んだ。

「ああ、そうだよ。わざわざ帰ってきてやったんだぞ」

声はすれども姿は見えず、しきりに辺りを見回しながら、さやかは答えた。

「何で、どうしてっ!?だって、杏子はもう……死んだんだよ、なのに声が聞こえるなんて。
 そんなのおかしいでしょ。声は聞こえるのに姿は全然見えないし、一体どうなってるのよ」

「お前があんまりにもふがいないから、見てられなくなって帰ってきたんだよ。
 ……ったく、お前って奴はあたしに死んでる暇もくれやしないんだな」

更に震えを増したさやかのその声に、杏子はうんざりしたように答えた。
185 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/12(木) 03:35:56.80 ID:NImc3BgB0
「じゃあ、近くにいるの?杏子?ほんとに……帰ってきてくれたの?」

「ああ、でもお前がそんなんじゃ、あたしはあんたに会ってもやれないね 
 っつーか、さやか。お前今何しようとしてたんだよ?」

問い詰める声は、如何せん冷たいもので。
どうにも再会を喜ぶといった雰囲気ではまるでない。

「え……そ、それは」

まさか、まどかの側で死ぬためにまどかのいるところへ向かっていました、なんて
そんなことが言えるはずもなく、さやかは思わず口ごもってしまう。

「言えないならあたしが言ってやる。死のうとしてたんだろ。
 それで向こうであたしらに会おうとでもしてたんだろ。でも残念だったね。
 このまま死んだって、あんたは絶対に誰にも会えない。あたしにもほむらにも、マミにもまどかにもだ」

そうして挙げた仲間達も、そのほとんどが本当に死んだわけではないのだが
それを杏子が知る由もなく、さらに語勢を強めて詰め寄った。

「当然だろ?あたしらはみんな最後の最後まで戦い抜いて、そして死んだんだ。
 そんな奴らと、自分の命を途中で投げ捨てるような奴が、同じところに逝けるわけがないだろうが」

その言葉は、冷たく鋭くさやかの胸を貫いた。
死の先に抱いていた、儚くも破滅的な希望。それが無残にも打ち砕かれて。
もう何をどうすればいいのか、さやかにはわからなくなってしまった。

「……じゃあ、どうしたらいいのよ。どうすればいいのよっ!
 あたしにはもう何も残ってないんだよ、戦う力も、守りたい人も、全部無くなっちゃったんだよ。
 もう、生きてたって辛いだけだよ。……もういいでしょ、諦めたっていいでしょうが!」

一度口をついて出てしまえば、その言葉は止まらなかった。
ずっと心の奥底に抱えていた弱音、全てを失って初めて表に出てきたそれは、止まることなく口からあふれ出た。

「ずっと、ずっとずっと戦ってたんだよ!何度も何度も死にそうになって、傷ついて。
 その結果がこれだよ?大切なものも全部なくして、何もできなくなって。
 結局そうなっちゃうんだよ。どんなに頑張ったって、あたしに待ってるのは絶望だけなんだ。
 ……だから、もういいじゃない。諦めさせて、楽にさせてよ……ねえ、ねえってばぁっ!」

その言葉の向かう先は、果たして誰なのだろう。
状況的には、その言葉は杏子に投げかけられているのだろう。
けれどその言葉は、誰より先にまずさやか自身に投げかけられていた。
自分自身を諦めさせるために、そう言い聞かせるために。
186 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/12(木) 03:36:49.83 ID:NImc3BgB0
「さやか、あんたが本当にそれでいいってなら、本当にそうしたいってなら
 別に、あたしはそれを止めるつもりはないよ。でも、それじゃあんたは絶対に救われない。
 絶望して諦めたままじゃあ、向こうには行けない。死んでもずっと、暗い所で自分を悔やみ続けるだけだ。
 あんたはそれでいいのか、最後まで胸を張って生きてたくないのかよ!」

例え敗れて果てるとしても、自分の無力を悔やんで、全てを諦めて死んでいくのか。
それとも最後の最後まで、例え惨めと言われようとも生にしがみついて、生き抜いてから死ぬのか。
どちらも同じく生命の終焉。けれどきっと、それが持つ意味は大きく異なるものであるはずだから。
きっと迷っているのであろうさやかに、必死に杏子は呼びかけた。

「あたしだって、そうやってできるならそうしたいよ。でも……もうだめなんだよ。
 あたしはもう戦えない。戦おうとしても、怖くて怖くてしょうがないんだよ。
 ……体が動いてくれないんだ。杏子達と一緒に戦ってたときは、こんなことはなかったのに。
 そんな怖さになんて、負けなかったはずなのにさ」

そんな自分が悔しくて、けれどどうすることもできなくて。
そしてさやかは諦めてしまったのだ、何もできはしないと、自分を決め付けてしまったのだ。

「あたしだって怖かったさ。……戦うのは怖かったよ。だから、分かるよ……さやか」

杏子もまた、生身の身体で戦い続けていたのだ。
それが恐ろしくないわけがない、それでもそれを堪えて戦い続けた。
それは何故か、答えは簡単だった。

「でも、あたしはわかったんだ。戦えない事のほうが、大切なものを守れないことのほうが
 戦うことよりも、自分が死んじまうことよりも、ずっとずっと怖いんだってさ」

だからそれを避けたくて、幼き日の杏子は戦う事を選んだ。
普通の少女として生きられる未来があっただろうに、それでも戦う事を選んだのだ。
バイドが奪うものの余りの大きさを知っていたから、もう二度と、奴らには何も奪わせたくはなかったから。

「でも、現実ってのは非情だよ。そう願って戦っても、あたしは多くのものを失っちまった」

ロスやアーサーの、そしてゆまの顔が脳裏に浮かぶ。
どれもまた痛々しくも苦しい喪失の記憶。けれど、それでもと杏子は言葉を続けて。

「それでもさ、あたしは逃げずに立ち向かったんだ。
 きっとそうしてなかったら、あたしはもっと後悔してたと思うから。
 ……だからさ、さやか。あたしはあんたにそんな後悔はして欲しくないんだよ」

あれほど大きな喪失の記憶を、日常の中に埋没させて、忘却させて生きること。
それは難しいけれど、きっとできないことではない。
それでも杏子は立ち向かうことを選んだ。その選択が正しいのかは分からない。
それでもその選択をしたのだという事実が、杏子の中では誇りだったから。
187 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/12(木) 03:37:27.29 ID:NImc3BgB0
「杏子……あんたはそんなに強いから、だからそんなことが言えるんだよ。
 あたしはもう魔法少女じゃない。戦う力なんてないんだ。
 だから、もう立ち向かえないよ。後悔なんてしたくないよ。でも……でも、もう無理なんだよ」

それでも、さやかの心は変わらない。
たとえどれほど強力な機体を得ても、最早今のさやかではそれを満足に操れない。
恐怖に駆られ、バイドとまともに戦うこともできはしないのだから。
まどかを助けることすら、できなかったのだから。

「無理なもんかよ。なあ、さやか。あたしらはずっと一緒に戦ってきたじゃないか。
 だから分かるんだよ。あんたはきっと戦える、戦うことができるんだ。
 ただ、むやみやたらに怖がって力が出せないだけでさ。だからさ、もう一度立ち向かってくれよ。
 ……あたしはもう一度、あんたと一緒に戦いたいんだよ、なあ、さやか。頼むよ」

いつしか、杏子の声も震えていた。
それはまさしく懇願するような、縋るような声で。

「後は、あんたの勇気だけが頼りなんだ。あんたが勇気を出して、もう一度戦ってくれるなら。
 あたしはあんたの側にいてやれる。一緒に戦えるんだ」

「え……一緒に、って。どういうことよ、杏子?」

その言葉が気がかりで、さやかは杏子に尋ねた。
今こうして言葉を交わすことはできても、杏子の姿はどこにもない。
これでは一緒に戦うどころではないだろうと、そう思っていたのだが。

「あたしはまどかの願いで、今あんたの側にいるんだ。でもそれだけじゃ足りないんだよ。
 さやかと一緒に戦うためには、まだあたしには力が足りない。こっちに帰ってくるのが精一杯だった。
 だから、あんたがもう一度戦うって決めてくれたら、願ってくれたら、あたしは戻ってこられるんだ」

「ちょ、ちょちょちょっと待ってよ!いきなりそんなこと言われてもわけわかんないっての。
 もっと分かるように説明しなさいよ、あんたは時々そうやって勝手に突っ走るんだからさ」

「うるさいうるさいっ!あんたはただ戦うって決めて、あたしに戻って来いって願えばいいんだよ。
 そうすりゃ何の面倒もなくあたしは戻れる。一緒に戦えるんだっての。そのくらい分かれよ、バカさやかっ!」

「なっ!?ば、バカとは何よっ!元はといえばあんたが全然説明しないのが悪いんでしょうが。
 願って欲しかったら、もっとしっかりばっちり懇切丁寧に説明して、お願いしなさいっての。アホ杏子っ!」

なにやら、いつしか随分と露骨な感情のぶつけ合いになってしまっている。
どちらの声にも、随分と怒気が満ちている。
けれどそんな怒気に満ちたさやかの声は、今までになく生き生きとした声だった。

「うるせーっての、どうせどんだけ説明したってわかりゃしないんだ。
 だったら、さっさとやっちまえばいいんだよ。そうすりゃ全部上手く行くんだっての。
 あーもうっ!いい加減に面倒になってきたぞ、もうお前のことなんざ知るかっ!バァァァーカっ!!」

より一層の怒気を込めて、杏子が言葉を叩きつけた。
その言葉が、ますますさやかの怒りを煽る。
思わずぎりぎりと歯軋りしてしまうほど、その怒りは強く激しく燃え上がる。
そんな感情の動きは、まさしくさやかが生きていることの証明で。
どこまでも深く死に惹かれていたさやかの魂は今、怒りの炎で赤々と染め上げられていた。
188 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/12(木) 03:38:24.12 ID:NImc3BgB0
「ムっ……カァァァーッ!そこまで言うか!バカにしてくれちゃってさ。
 いいよ、そこまで言うなら見てなさいっての。戦ってやるわよ!ここまでバカにされて、引き下がれるもんですか。
 上等じゃない、願ってやろうじゃない。戦うわよ!どう、どうなのよっ!なんとか言いなさいってのーっ!!」

半ばヤケクソ気味にだが、さやかの心に闘志が宿る。
そして戦う願いも共に。それはすぐさま、この宇宙に遍在するその意志の知るところとなって。

まどかは、すぐさまさやかの願いに力を与えたのだった。
さやかの機体に光が宿る。けれどその光は、すぐさまカーテンコールから離れてしまい、そして。

「悪いけどさ、この力はあたしがもらうよ。見ればさやかの機体は全然消耗してないじゃん。
 なのに、こんな力は勿体無いよ。うん、決まり。これはあたしのもんだっ!」

その光が真紅に染まり、一際強く輝いて。そして弾ける。
激しい光の奔流が、一瞬さやかの視界を焼いた。
眩しさが過ぎ去り、再び静寂を取り戻したその宇宙には。

真紅の影を操る女王、真紅に染め上げられた懐かしい姿。
かつて杏子が乗機とし、思うが侭に威力を振るったその機体。
R-9AD3――キングス・マインドが、記憶の中の姿と寸分違わぬ姿形でそこに存在していた。

「……これで、一緒に戦えるな。さやか」

そのキャノピーの中で、不敵に笑って杏子は言った。
確かにまどかの願いは、死者の国より杏子の魂を呼び戻した。
けれど、それが限界だったのだ。
呼び戻された魂に、更なる戦う器を与えるためには、もう一人分の願いと力が必要だった。
そして今、怒りに震えるさやかの願いが生んだ力を奪い、杏子は現世に実体を持って再臨したのだった。
189 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/12(木) 03:39:31.38 ID:NImc3BgB0
「な……ちょ、っと。これ、どーゆーこと?」

目の前で起こった、あまりにも衝撃的な光景。
理解がどうにも追いつかず、吹き荒れていた怒りまでもが驚愕に追いやられてしまう。

「理解なんざしなくてもいい。今大事なことは一つだけだ。
 あたしらは、もう一度一緒に戦える。さやかが戦うのが怖いってなら、あたしも一緒に戦ってやる。
 だから一緒に行こうぜ。な、さやか?」

キングス・マインドがカーテンコールへ機首を向け、そして問う。
もう一度その戦う意志を、恐怖を乗り越え希望を掴むために、その手を伸ばす勇気を。
呆気にとられていたさやかも、だんだんと何が起こったのかを理解した。
自然とその口元には、何かを堪えるような笑みが浮かんでいて。

「まったくもう、どうしてこう、あんたはそうなのかな……死んだはずなのに、帰ってきちゃってさぁ。
 どうしてそんなに頑張るのさ。……まったく、もう。
 そんなんじゃ、あたしだって頑張らないわけには行かないじゃない。……杏子の、ばか」

声は震えて、けれどそれは恐怖ではなくて。
嬉しくて、どうしようもないほどに嬉しくて。
こみ上げる涙と一緒に、さやかはどうにかそれを口にして。

「じゃあ、行こうぜ。さやか」

「行くって、どこに行くのさ。バイドを倒すにしても、どこにいるかなんてわからないじゃない?」

不思議なほど、さやかの心を埋め尽くしていた恐怖はどこかへと消え去っていた。
不思議なほど、さやかの心は落ち着いていた。
とはいえ今こうして落ち着いて、力と自信を取り戻して、さて何をするのか。

「バイドを倒すのも重要だけどな、あたしらにはもっと大事なことがあるんだ。まどかの所に行くぜ」

「まどかの、って。でも……まどかはもう」

そう、あの時絶望と共に強烈に叩きつけられたまどかの死のイメージ。
それは未だにさやかの中で拭い去れていない。思い出すと挫けてしまいそうになる。
190 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/12(木) 03:40:20.04 ID:NImc3BgB0
「確かに、まどかは死んじまった。でもあいつは諦めてない。まだ何かをやろうとしてる。
 だったら、あたしらはそれを助けに行かなくちゃいけないだろ?」

そんなさやかに杏子はそう言うと、機首をアークへと向ける。
まどかの願いを聞き届け、その力受け入れた杏子は今のまどかの状態を理解していたのだ。

「……わかんないけど、まどかが何かしようとしてるなら助けに行くよ。
 こんどこそ、あたしがまどかを助けて見せるんだ。……でも、何したらいいわけ?」

「さあな、行ってから考えようぜ、そんなのはさ」

あっけらかんと杏子は答える。
久方ぶりの現世でさえも、その性格まるで変わらないらしい。

「ま……った行き当たりばったりな。でも、あたしもそう言うのは嫌いじゃないよ。
 まず動いて、後のことはその時に考えればいいんだ。……よし、行こう杏子っ!」

「……へっ、やっと調子が出てきたじゃねぇか、さやか。じゃあ、いっくぜーっ!!」

そして二機は寄り添って飛ぶ。
宇宙に渦巻く希望と絶望、その趨勢がぐらりと傾き始めた。
絶望を屠り、しぶとくしたたかな希望が、ぐいぐいとその芽を出し始めていた。
191 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/12(木) 03:50:17.15 ID:NImc3BgB0
お楽しみはここからです、ええ。

>>179
これで何とか全員が復帰したことになりますでしょうか。
最終決戦への仕込みは完了といった感じです。

>>180
うっかりすると機体に乗らない時のほうが活躍してしまう。
そんなマミさんです。本当にいいキャラになってしまいました。

>>181
杏子ちゃんは相変わらずキングス・マインドです。
それでもこうして無事に帰ってきてくれました、彼女達は一体何を為すのでしょうかね。
192 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2012/04/12(木) 09:09:18.33 ID:6Ps8+XjAO
乙。
おかえりあんこちゃん。
193 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/04/12(木) 11:30:29.97 ID:cGCEZ1loo
乙。
何だかんだであんさやは良コンビだね。

全員揃ってハッピーエンドというならば、ほむらにも救いの道があるのだろうか。
194 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/12(木) 16:19:59.89 ID:WtLuDlsDO
お疲れ様です!
ここのさやかちゃんは本当に怒らせたもの勝ちですなww

不屈の女、杏子ちゃん。再・臨!!

まどかさん…願いが微妙なんて言ってごめんなさいっ!!凄いなんてもんじゃありませんでした!

ほむらちゃんも魂の残滓があれば、もしかしたら…! 換装用装置にされてた不憫な娘は分からないけど。
195 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/04/12(木) 21:14:43.20 ID:NImc3BgB0
反撃開始です。
さあ、今日も投下しましょう。
196 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/12(木) 21:15:22.82 ID:NImc3BgB0
彼女は一人の女性だった。
そして、一人の戦士でもあった。
彼女は、非凡なる才を持つ戦士だった。
それゆえに、世界は彼女に英雄となることを望んだ。
そして彼女はそれを受け入れ、英雄となり、少女となった。

戦い、戦い、そして尚戦い。
孤独な戦いの果てに、彼女は勝利し、帰還した。
けれど、激しい戦いの後遺症は確実に彼女の身体を、そして精神を蝕んでいた。
かくして彼女は人知れず封印されることとなり、今この時も生かされ続けている。

人類を救った英雄に対して、それはあんまりな仕打ちと言えた。
けれど誰がそれを知りえただろう。知ったとして、誰がそれを糾弾できただろう。
最早そこに眠る英雄は、自ら声を上げることすらできなかったのだから。
もし再び、彼女が自らの意志を取り戻したとして、彼女は何を願うのだろう。
押し付けられた運命を呪うか、自らに降りかかる死を恨むか。
それとも……。


それは、一筋の流れ星。
その流星は闇を切り裂いて飛ぶ。
もっと早く、もっと輝けと、願いを込めて強く飛ぶ。

それに最初に気付いたのは、迫り来るバイド群を迎撃していた、地球連合軍の一部隊であった。
火星の衛星の一つから、激しい光を放つ物体がこちらへ接近していた。
バイドによる攻撃かと身構え、迎撃準備を始めた彼らを尻目に、その光は彼らを通り越し
迫り来るバイドの群れの中へと突っ込んでいった。そして直後、湧き上がる無数の爆炎。
ほんの僅かな交錯で、正面から迫り来るバイドの約半数が破壊され、消滅した。
197 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/12(木) 21:16:01.75 ID:NImc3BgB0
「なんだったんだ、今のは……また得体の知れない新兵器か」

迎え撃とうとした敵の大半を撃破され、その部隊の指揮官は驚愕交じりの声を上げた。
なんにせよ、この徹底的に悪い形勢を少しでも覆しうるのならそれはありがたい。
暴れる分には、精一杯暴れて貰うことにしようかと、そんな風にも考えていた矢先。
目の前に移る敵を全て屠り、ようやく一つ落ち着いたその光
今はR戦闘機の姿をしたものからの通信が入ってきたのだった。

「誰かは知らんが絶好調だな、その調子で、さっさとバイドどもを蹴散らしたいもんだ」

通信を入れてくるということは、恐らく味方であることに間違いはない。
所属はどうにも不明だが、今はそれよりもっと案ずることがある。
そう考えてその男は、通信を繋ぎ軽快にそう言った。

「そんな軽口を叩ける程度には余裕があるのね。でも、まさかここまでバイドに侵攻されているなんて。
 私が眠っている間に、一体何があったのだか。まあいいわ、私がやるべきことはいつだって変わりはしない」

そんな男の言葉に、少女のような声が答えた。
けれどその返答はどこか上の空で、やがて何かに納得したかのように頷いて。

「何を言ってるんだ、お前?バイドは太陽系中にとっくに侵攻してるぜ。
 おまけに眠ってたって、実験台にでもされてぷかぷか水槽にでも浮かんでたのか?」

冗談交じりの笑い声。だから少女もそれに笑って答えた。

「その通りよ、随分と長いこと妙な液体に漬けられてたわ。
 でももうその必要は無い。誰かは知らないけれど、随分と味な真似をしてくれたものだわ」

ぎらりと好戦的に歯を剥いて、その少女は笑う。

「おいおい……いくら何でも笑えねぇ冗談だな。一体何なんだよ、あんたは」

その勢いに僅かに気圧されたかのように、男の顔から笑みが消えた。
それでも尚も、少女の気勢は止まず失せずに。
198 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/12(木) 21:16:52.63 ID:NImc3BgB0
「別に、単なるバイドと戦う戦士のつもりだけど。
 かつての英雄だとか、そういうことは全くないんだから」
 
「は?」

返答に窮し、男の言葉が一瞬止まる。

「なんでもないわ。正面のバイドはあらかた蹴散らしたから、後は貴方達で十分やれるでしょう。
 私はこのまま他所へ行くわ。どうやらまだ他にもバイドはわんさかいるようだから」

「あー……まあ、わかった。一応協力は感謝しとく。
 周囲の部隊の展開状況を送るから、それを見ながらよろしくやってくれ」

一つ小さな返事を返して、少女の機体は翻る。
そして、そのまま青い光と共に消えていく。
その機体はR-9/0――ラグナロック。そしてそれを駆る少女は。
再び戦う力を求め、その願いに力を与えられ、今蘇ったその少女は。

スゥ=スラスター。

かつての英雄が、それと変わらぬ力を宿して蘇った。
そして、再び彼女は戦いの宙に、舞う。
かつてのそれと変わらぬ力を宿し、遍くバイドを打ち砕くために。

けれど彼女は、今の自分は英雄ではないこともまた分かっていた。
身体、精神共に生と死の狭間に揺らぎ、意識さえも薄れていたあの日々。
それでも断片的な記憶は残っていた。そして知っていた。
自分という存在から生み出され、そして英雄となってしまった少女達のことを。
自らの同胞たる、8号と13号、暁美ほむらとスゥのことを。

「私は、貴女達に謝らなくちゃいけないから。英雄っていう役目を押し付けてしまった。
 そしてその為に生み出されてしまった貴女達に。……だから、必ず帰ってきなさいよ」

願いを、祈りをその身に篭めて、彼女はついに目前に迫ったバイドに立ち向かう。
孤独を恐れはしない。戦う事も、死ぬことも恐れはしない。
恐ろしいのはただ、自分が敗れたことで守れなくなること。
確かにその英雄たる資格と精神を持って、スゥ=スラスターは再びバイドとの戦いにその身を投じていった。
199 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/12(木) 21:17:39.32 ID:NImc3BgB0
時間を、距離を、ありとあらゆる隔たりを越えて、まどかの願いは全ての人類へと伝えられた。
その願いが、それに呼応して与えられた力が。多くの人々に伝播していく。
そして、人々は再び立ち上がる。今度こそ未来を手にするために。
バイドの脅威を打ち払うために。人々が心に抱くその強い感情は、間違いなく希望と、そう呼べるものだった。

そうして自らの身を投げ打って、全ての人々に希望の種をばら撒いて。
まどかの魂は、再び収束した。

アーク内部、力なく項垂れ、一切の生命活動を停止したまどかの身体の上に
全太陽系から収束したまどかの魂を宿したソウルジェムが生じて、そして重力に引かれて落ちた。
まどかの身体にぶつかって、そのまま小さく跳ねて、赤い血で濡れた床へと転がった。
小さな水音と、金属音を残して。

「……本当に、キミの行動は随分と予想外だったよ」

その一部始終を見届けて、キュゥべえはゆっくりとその血の池の中へと足を踏み入れた。
純白の身体が、地を染める赤に触れて同じく赤く染まる。その足先が、跳ね返った飛沫が触れた場所が。

「でも、もうこれまでだね、鹿目まどか。確かにキミは願いを叶え、その魂はソウルジェムになった。
 確かによくやったよ、キミの願いは人類に再び戦う力を与えた。この分なら、もう少し人類は頑張ってくれるだろう


 それでも、この宇宙と人類が滅ぶことに変わりはない。そしてもう、キミには何もすることはできない」

まどかのソウルジェムを咥えて、キュゥべえは血の池から抜け出した。
感情を得た今の彼には、自分の身体が血で汚れるということは嫌なことだったから。

「バイドはもう既に太陽系内で増殖を開始している。たとえどれだけ人類が抵抗したところで
 再びそれを根絶することなんて、できるわけないじゃないか。キミがやったことは無駄に終わるんだ。
 どの道遠からず人類は滅ぶ。ボクはそれまで待つことにするよ。宇宙再生計画は、まだ潰えていないからね」

果たしてその声は、今のまどかに届いているのかいないのか。
そんなことはどうでもいいのだろうか、キュゥべえは言葉を続けた。
恐らく、答えなど最初から求めてはいないのだろう。

――まだ、終わりじゃないんだよ。

だから、その言葉はキュゥべえを驚愕させた。
200 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/12(木) 21:18:06.28 ID:NImc3BgB0
「鹿目まどか!?どうしてまだ話ができるんだい。
 キミの魂は、完全にソウルジェムへと変わったはずだ。ソウルジェム単体で他者に干渉するなんて。
 そんなことができるはずがない。それができるとすれば……キミの魂は」

驚愕。そして同時に、キュゥべえの中に一つの可能性が浮かび上がってきた。

「キミの魂は、キミの精神は、通常ではありえないほどの速度で進化をしている。
 その進化は、通常では起こりえないことだ。例えキミに類稀なる能力があったとしても
 それが、これだけ急激な進化をするということは、普通には起こりえないんだよ」

何故今までその可能性に思い至らなかったのだろうか。
それをもっと早く思い至っていれば、やりようはあったのではないだろうか。
そんな後悔も含みながら、キュゥべえの言葉は止まらない。

「そんなありえないことを実現させる方法は、ボクの知る限り一つだけだ。
 きっとそれは、魔法少女の持つ魔法が、もしくはその願いが関わっているはずだ。
 ……いや、過ぎた話をしても仕方ないだろうね」

キュゥべえは、床に置いたまどかのソウルジェムに触れる。
これ以上話を続ける必要はないと、そう判断した。

「例えキミに意志を伝える手段があるとしても、現実に何かを行使する術はない。
 鹿目まどか、キミにはここで死んでもらうよ。キミの存在はもう、ボクにとっては邪魔なだけだからね」

もっと非道に徹するべきだったのだ。
芽生えたばかりの感情に振り回されて、適切な行動を選ぶことができなくなっていた。
今度こそその感情を支配して、その上で正しい行動を取ってみせる。
感情という、行動にまで影響してくる強大な力。
それに対抗しうるものは、確かにキュゥべえの中にも存在していたのだ。
201 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/12(木) 21:18:53.75 ID:NImc3BgB0
「バイドの存在は、ボクに感情だけでなく思わぬものを与えてくれたよ。
 悪意さ。敵対するものをなんとしても打ち滅ぼそうとする、絶対的な悪意だ。
 ……もっとも、その悪意を教えてくれたのは、キミ達人類でもあるのだけどね」

――私達、人類が?

「そうだよ。バイドが持ち、そして人類がバイドに対して持った悪意。
 それはボクに全てを教えてくれたよ。感情を、更なる悪意を持って押し殺す。
 そうすることで、ボクはキミ達を理解し、そしてより効率的に目的を果たすことができるんだ」

まどかのソウルジェムにかけられたキュゥべえの足に力が篭められた。
ソウルジェムが、みし、と小さく軋んだ。

――く……っ、キュゥべえ。

魂だけとなっても、それでも自らの身を砕かれる苦痛はやはりあるのだろう。
苦悶の声は、隠しようもなく漏れて出た。

「終わりだよ、まどか。キミはここで死ぬ。そして人類も滅ぶ。
 その屍の上に、ボクは新たな宇宙を作ってみせる。キミがそれを見ることは、ない」

――まだだよ、まだ……終わってなんかいない。

「何度も言わせないで欲しいな。終わりなんだよ、キミも、人類もっ!!」

更に、その足に力が篭った。
このまま踏み砕けば、手に取れる形となったまどかの魂は確実に消失する。

――終わらない。終わらせない……絶対に、絶対にっ!!
202 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/12(木) 21:19:24.98 ID:NImc3BgB0
「ああ、そうさ。まだ終わりなんかじゃないぜっ!」

その声は、外部から届いた声だった。
それと同時に、アークを揺らす衝撃が走る。
それに投げ出され、キュゥべえの身体が宙に浮く。
まどかのソウルジェムもまた同じく、澄んだ音を立てて転がっていく。

空中で体勢を整え着地したキュゥべえは、その声に向けて言葉を返す。

「その声は……まさか、佐倉杏子かい?キミは死んだはずだっ!」

「ああ死んださ。でもな、てめぇがこんなわけのわからねえよからぬ企みをやってるって聞いて。
 あの世の果てから戻ってきたんだぜ。くだらねぇ企みをぶっ壊して、お前をぶっ飛ばしてやるためにな!」

見れば、アーク表面には巨大な穴が開いていた。
杏子のキングス・マインドによる、デコイ波動砲の一斉発射がアークを深々と貫き揺るがしていた。
先ほどの衝撃は、それが原因だった。

「キミまでボクの邪魔をするのかっ!佐倉杏子っ!!
 でも、邪魔はさせない。アークには何重もの防衛機構が備わっているんだ。
 R戦闘機一機で、キミ一人で一体何ができるって言うんだ!」

大して、杏子の声はどこまでも余裕ぶった声で。

「できるさ。あんたの相手くらい、あたし一人で十分だよ。
 悔しいかい?悔しいだろ、だったらかかってきなよ。ほら、防衛機構が山ほどあるんだろう?」

そして、どこまでも煽る。非常に煽る。
生まれたばかりの感情。それを悪意を持って制するというキュゥべえの方法は間違ってはいないのだろう。
けれど感情の向く方向が、その悪意を存分に振るえる方向に向いた場合。
その感情を制することは、今のキュゥべえには酷く困難なことだった。
203 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/12(木) 21:20:02.84 ID:NImc3BgB0
「そこまでいうなら、相手をしてあげようじゃないか。人類の希望たるこのアークで
 キミ達の、ひいては人類の希望を打ち砕いてあげようじゃないかっ!」

そして、アークの各部に光が宿る。
アークはただの箱舟ではない。人類にとっての最後の希望にして、それを守る要塞でもある。
故に自らを守るための力も、アークには搭載されていた。
アーク全身に搭載された迎撃装置が起動する、無数のレーザー、ミサイル砲台が起動する。
更には無人兵器の群れが、杏子へと向けて殺到していた。

「……やれやれ、これはちょっと面倒だね。まあ、時間は稼いでやるさ。
 だから、後は任せたぜ……さやか」

そんな圧倒的な戦力差を前にしても、杏子はにやりと不敵に笑う。
キュゥべえの注意を自分に向けさせるため。
まどかを救出するために、単身アークに乗り込んださやかを助けるために。
杏子は一人、アークに立ち向かう。
204 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/12(木) 21:26:04.77 ID:NImc3BgB0
いよいよ本格的に牙を剥くキュゥべえさんです。
果たして人類は、魔法少女は勝利を掴むことができるのでしょうか。

>>192
復帰第一戦はいきなり大物相手となるようです。

>>193
あの二人が揃うと俄然話が楽しくなります。
ええ、本当に書いてても楽しくなってしまいます。

ほむらちゃんは残念ながらまたしてもお亡くなりになってしまいましたね。
とはいえ、マミさんのように二度目がないとも限りませんね。

>>194
どんなにへこんでいても、怒りの炎はガソリン並みに引火しやすかったようです。
そして杏子ちゃんも戻り、かつての英雄も帰還しました。
まどかちゃんの願いが人々に力を与え、一人一人が自分に降りかかる絶望を払い。
そうすることで今、状況は確かに変わりつつあるようです。

ただ、バイドは尚も健在です。
205 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/04/12(木) 21:29:25.27 ID:goGkEk5Yo
オリジナルスゥ復活か
そして中ボス的なQB乙
206 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/12(木) 23:55:49.33 ID:WtLuDlsDO
連投お疲れ様です!
凄い人が蘇ったもんだ。しかし、オリジナル・スゥさんは流石に精神が大人なだけに、余裕のある強くて素敵な女性だな。

あれ?何だかQBがマミさん喪失後(一回目)のさやかちゃんみたいに見えて来たぞ?

それにしても、とばっちりを受けてるアークの10万人の要人さん達は涙目だな。
207 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/04/13(金) 23:43:29.67 ID:puuGpel+0
続きを書くたびキボウが増えるね、やったねバイドちゃん!

さあ、投下しますか。
208 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/04/13(金) 23:43:57.34 ID:puuGpel+0
「さーてと、無事に侵入は成功したわけだけど。あんまりぐずぐずもしてられないんだよね」

アーク内部。杏子の陽動に合わせて密かに侵入を果たしたさやかは、きょろきょろと辺りを見渡しながら呟いた。
内部の構造を把握しなければならないし、その上でまどかを救出しなければならない。
キュゥべえが何を企んでいるのか、それはさやかの知り及ぶところではなかった。
それでもまどかをこのままにはしておけない。さやかはそう考えていた。

「とにかく、まどかのいる場所さえ分かればいいんだ。そうすれば後は、最短距離を抜けられる」

それでもどれだけ時間がかかるか怪しいものだ。
何せアークは直径にして30km以上を誇る巨大な人口天体である。
普通に歩き回っていては、目指す場所にたどり着く前に全てが終わってしまう。
兎にも角にもアーク内部の構造を把握することが、さやかにとっての急務だった。

「始まった……杏子、あたしが行くまで持たせなさいよ」

爆発の衝撃が、アークをかすかに揺るがした。
恐らく外では激しい戦いが始まっているのだろう。
これほどの巨体に無数の兵器を搭載したアーク。立ち向かうはたった一機のR戦闘機。
杏子の力を疑うわけではないが、あまりにも状況は不利。

ただ一つだけ幸運だったのは、キュゥべえは杏子の迎撃に持てるすべての力を使っているのだろう。
こうして侵入を果たしたさやかに対して、未だ持って何の干渉や妨害もなされていない。
楽観視できる状況ではないが、おっかなびっくりに進む必要もない。

「とにかく急いでソッコーまどかを助けて脱出。後は野となれ山となれ、だ」

一つ、力強く頷いて。
そしてさやかはアーク内部に延々と続く通路を駆け出した。
209 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/13(金) 23:44:44.30 ID:puuGpel+0
「へっ!どうした下手くそっ!あたしは……ここだぜっ!!」

次々に降り注ぐミサイルを、加速や減速、そして急旋回を駆使してすり抜けていく。
その性能を十分に、それ以上に発揮したR戦闘機に対して、ミサイルは何ら脅威たり得ない。
どれほど誘導性が高かろうと、R戦闘機の機動性や旋回性能を超えることなどできないのだ。

そうしてミサイルの雨をすり抜けた杏子に、更なる攻撃が迫る。
それは無数のレーザー砲台から放たれるレーザー。
宇宙を閃光に染めて、触れる全てを破壊する光の大波が打ち寄せる。
だが、それさえも今の杏子を止めるには至らない。

「R戦闘機を、あたしを……なめるんじゃ、ねぇぇっ!!」

キングス・マインドはその大波に真正面から立ち向かう。
そう、アークには無数の兵器が搭載されている。それを十分に支えることのできる高出力の波動機関も備えられている


けれど、それとて万能ではない。数を増やせば個々の力が衰えるのは道理。
故にアークに搭載された一つ一つのレーザー砲台の出力は、戦艦の主砲などには遠く及ばない。
よくてR戦闘機がフォースを介して放つレーザーと同程度。無論それは非力とは言えない。
けれど、R戦闘機が携える盾を食い破るには、やはり非力と言わざるを得なかった。

押し寄せる破壊の光を、先端に携えたフォースで切り裂く。
そうして作った僅かな隙間に、キングス・マインドは躊躇なく飛び込んでいった。
そして破壊の光が過ぎ去った後、残されていたのは無傷のキングス・マインドが一機。

「これなら、ロスやアーサーの方がよっぽど手ごわかったぜ?
 どうしたよ、キュゥべえ?あんたのいう力ってのはその程度かい?」

不敵に笑い、挑発するかのように杏子は言い放つ。
210 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/13(金) 23:45:24.69 ID:puuGpel+0
「ボクを侮るな。佐倉杏子。キミがそこまで頑張るの予想外だけどね、それでもボクは負けない。
 現に、キミは攻撃をよけるばかりで攻撃に転じる余裕すらないじゃないか。
 このままじっくりと押し潰してあげるよ。誰も、誰にもボクの邪魔はさせないさ!」

そんな言葉に煽られて、最早怒りという感情を抑えることができずに。
キュゥべえは怒気の孕んだ口調でそう叫ぶ。
確かに杏子は防戦一方。不意打ちの初撃以外、一切アークに攻撃を仕掛けられていない。
だが、それも杏子にとっては想定通りのことで。

(さやかが中にいるんだぜ、撃てるわけねーだろうがっての。
 ……ま、ああ言うってことはまだ、さやかは気づかれてないみたいだな)

内心で思い、杏子は静かにほくそ笑む。
その表情には余裕すら見て取れる。そう、この程度では物足りないのだ。
かつて彼女が戦った敵は、更に強大で邪悪。
かつて彼女が乗り越えた戦いは、更に苛烈で悲しかったから。
生まれたばかりの感情に振り回されて、身の丈に合わないおもちゃを振り回すような。
そんな無様な戦いをするキュゥべえに、遅れを取るはずがない。取っていいはずがない。

「負けらんねぇ、な」

そう呟いて、何かに気付いたように小さく笑って。

「はは、そんなのいつものこと、か」

R戦闘機にその身を、魂を預けてしまった以上。
それを背負って飛ぶ空は、それを携え挑む戦いは、決して敗北を許されないものばかり。
相手がバイドである以上。相手が人類の敵である以上、負けることなど許されない。
そういう人生だったなと、ほんの僅かに自分の生涯を振り返り。

「……でも、悪くなかった。だからさ、これからもあたしは負けねぇ。
 何もかもぶっ壊そうとするバイド共にも、あたしらの世界を奪おうとするお前にも、負けない」

好戦的に、歯を剥いて。飛び切り獰猛な笑みを浮かべて、杏子は。

「負けてやらねぇっ!!」

更なる力を蓄えて、真紅の影を操る女王が駆け抜ける。
211 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/13(金) 23:46:34.26 ID:puuGpel+0
「っ、見つけた。生体反応だ。……でも、やけに弱い。まさか、まどか!?」

片手に握り締めた端末。アークへの接続や、周囲の状況を探るセンサーの役割を果たしていたその端末が
周囲に生体反応が存在していることを示していた。そして、それが酷く弱っているということも。

「場所は……こっちか。待ってて、まどかっ!」

位置情報を取得して、すぐさまさやかは駆け出した。
幸いなことに、その場所はそう遠くはないようだ。
痛いほどの静寂と、時折その静寂の中に響く振動。それだけが支配するアークの内部。
その中を足音を響かせて駆けていくさやか。
走って走って、走って。息が切れそうになった頃。
ようやくさやかは、その部屋にたどり着くことができた。

「っ……は、ふぅ。……っせい!まどか、いるのっ!!」

息切れしながら扉を開くと、そこは一面の暗闇だった。
その部屋は余りにも大きく、暗闇に満ちていたがため、その全貌を窺い知ることすらもできなかった。

「……はぁ、っ。なんなの、この部屋」

必死に走っていたからか、ずきずきと肺が酸素を求めて痛んでいた。
壁にもたれかかるようにして、さやかは外から漏れる明かりを頼りに部屋の中を見渡した。
やはり闇は深く、その全貌は捉えきれない。
けれど目が闇に慣れてくると、見えてくるものがあった。
それは無数の装置。およそ人が一人入れそうなほどの大きさの装置だった。
そしてそれは、さやかにとってはどこか見覚えのあるものだった。

「これは……まさか。コールドスリープ装置?」

そう、その装置はかつてさやか達が機体に搭乗する際に、その身体を保存していたもの。
ラウンドキャノピーを模した、コールドスリープ装置。それとよく似た構造をしていたのだった。

「なんで、こんなものがこんなところに……それも、沢山」

アーク。その本来の目的は、存亡の急に瀕した人類が太陽系から脱出し、種の保存を行うための箱舟。
だが、民衆や他勢力からの反発を恐れ。その存在は徹底的に秘匿されていた。
それゆえに、さやかでさえも未だもってアークの本当の役目を知らずにいたのだ。
ただ、その役目は果たされることはない。
アークは皮肉なことに、インキュベーターという種を復活させるための苗床として利用されていたのである。
そこに眠る10万という膨大な数の人命と、鹿目まどかの命と共に。
212 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/13(金) 23:47:04.85 ID:puuGpel+0
「何だろう……この部屋、凄く嫌な感じがする。……でも、生体反応はここから、出てるんだよね」

怖気のような感覚を覚えて、さやかはぎゅっとパイロットスーツの胸元を押さえた。
確認しなければならない。分かっているのだが、足が動いてくれない。
この感覚を、さやかは知っていた。それは恐怖。死の恐怖。
けれどそれは、自分が死ぬという恐怖ではない。そしてさやかは、その恐怖をどうにか克服していた。
だから、さやかは足を踏み入れた。その部屋の中へと。

壁に埋め込まれるようにして設置されたコンソール。
まずはそれを見つけて触ってみると、部屋の照明を作動させることができるようだった。
一体、この部屋には何があるのだろう。
一体これほどの数のコールドスリープ装置の中に、一体何が眠っているのだろうか。
ごく、と喉を鳴らして。それでもさやかは意を決して部屋の照明を作動させた。

中に詰まっていたものが、例えばおぞましい蟲の群れだったのなら。
まだ悲鳴の一つも上げるくらいで済んだのだろう。
いっそそこに詰まっていたものが、禍々しくも毒々しいバイドの肉塊であったのなら。
さやかは何も考えずに、即座にその部屋を脱出していたことだろう。
だが、そうではなかった。そうではなかったのだ。

「……ぁ。っ、ひ、ひぃっ!?」

そこに横たわっていたのは、人。人。人。
コールドスリープ装置は、既にその機能を失っていた。けれどそこにいるのは眠っている人ばかり。
否、それは眠っているのではない。もし眠っているのだとしたら、何故。――何故。

「ゃ……嫌……ぁ、ぁぁぁっ」

何故、これほどの苦悶の表情を浮かべているのだろうか。
まるでこの世のありとあらゆる苦痛を体感させられたかのように歪みきった人々の顔、顔、顔。
そんなものが、見渡す限りに広がったコールドスリープ装置の中に、一面に広がっていたのである。

それは最早狂気の沙汰。
少女から正気を奪うには、十分すぎるほどのイカれた光景だった。

「イヤァァァぁぁぁッ!!!」
213 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/13(金) 23:47:40.74 ID:puuGpel+0
まどかの能力を増幅させるハードとして利用されていた、アークに眠る10万の人類。
彼らはキュゥべえにより強制的にコールドスリープから目覚めさせられていた。
生きながらにして装置に接続され、限界を超えて脳を酷使される感触。
それは最早、死に至るほどの痛苦。
そして彼らに追い討ちをかけたのは、まどかの死と共に放たれた絶望の精神波だった。

遥か彼方の全人類を深い絶望に陥れるほどの絶望である。
その爆心地たるアーク、その直下にいた彼らが感じたのは、どれほどの絶望だっただろうか。
人の精神の枠を超えてぶつけられたその絶望の波は、彼らの精神を容易く破壊した。
精神の破綻。自我の崩壊。それに伴う苦痛。
更に無理やり彼らの脳を用いてその絶望は増幅され、太陽系へと放たれていた。
その負荷は余りにも大きく、アークに眠る10万の人類の遍くその脳髄を焼き切り、死へと追いやっていたのだ。
それが果たしてどれほどの痛苦だったのだろう。
それは最早筆舌に尽くしがたく、ただ死せる彼らの相貌をもってのみ表現されていた。

そしてそんな無数の死が、その痛苦を示した無数の顔が、さやかの眼前にどこまでも広がっていたのだった。

「ぅ……ぅぐ、っ!えほ、げほ……ぅ、ぐ」

正気をごりごりと削られるようなその光景から、ありったけの気力でもってさやかは目を背けた。
そうするとすぐさま襲ってきたのは、激しい悪寒と吐き気。
思わず床に蹲り、さやかは激しく咳き込んだ。
頭の片隅に、宇宙に上がって以降ほとんど食事を摂っていないことを思い出し
さやかは、ほんの僅かに安堵した。
214 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/13(金) 23:48:25.91 ID:puuGpel+0
「誰か……そこにいるのか」

それは、非常に弱弱しい声だった。
正気と狂気がせめぎ合うさやかの精神は、それが今尚脳裏にがんがんと響く幻聴との区別がつかなかった。
その幻聴は、無数の断末魔の声で。蹲るさやかの精神を更に追い詰めていた。

「……いるなら、答えてくれ。頼む」

その声は、男の声だった。
もう一度、力を振り絞って出したその声はやはりか細く掠れたもので。
それでも二度目に放たれた声は、さやかの耳に確かな現実として響いた。

「誰?誰か……生きてるの?誰かっ!」

その声に、そして生存者がいるという事実に、さやかは自分のやるべきことを思い出していた。
そう、今自分がやらなければならないことは、まどかを助けることなのだ。
まどかは確かに死んでしまったのかもしれない、けれどその精神はまだ生きている。
だから、その精神を助け出す。キュゥべえの手から取り戻す。
それだけを、ただその思いだけを心の中に満たし、さやかはどうにか立ち上がることができた。

「ここだ、私は……ここにいる。頼む、どうか……ここに、来てくれ」

今にも途絶えてしまいそうな声。
それでも今は唯一の手がかりだから、さやかは必死にその声の元を探った。
コールドスリープ装置の中には、あらゆる地獄を体感したかのような苦悶を張り付かせた顔と顔。
それを見ないように、心のどこかを凍りつかせて自我を保って、さやかは声の出所にたどり着くことができた。

そこには、内側からこじ開けられたコールドスリープ装置が。
そして、そこから半分ほど身を投げ出して、そのまま力無く倒れている軍服姿の男の姿があった。
215 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/13(金) 23:48:58.72 ID:puuGpel+0
「ちょっと、大丈夫!?まだ生きてるんでしょうね!」

ぱっと見では死んでいるようにしか見えない。
さやかは慌てて駆け寄り、男の身体を支えた。やはり重かった。

「子供が……なんで、こんなところに。いや、だがこうなってしまえば……止むを得まい」

男はやっとのことで視線を巡らせ、さやかを視界に捉えた。
その目は真っ赤に血走り。表情は憔悴しきっていた。

「私は、アーク直属防衛部隊長、アーヴァン=クトラップ大佐だ。
 頼む。名も知らぬ少女よ……私の頼みを、聞いてくれ」

「……へ?え、アーヴァンク、とらっぷ?」

「何度も言わせるな。アーヴァン=クトラップだ。……二度と間違えるな」

酷く辛そうに、それでも突っ込まずにはいられないといった風に男は念を押した。
見るからに痛々しいその姿に、これ以上とぼけるつもりにもなれずに、さやかは。

「わかったよ。クトラップ大佐。……でも、あたしも今急いでるんだ。頼みごとが聞けるかどうかは分からないよ。
 早く、まどかの所に行かないと」

静かに首を振り、さやかはそう答えた。

「まどか?……それは、カナメマドカのことか?」

キュゥべえとまどかの会話。それをアークに眠る人々は強制的に聞かされていた。
鹿目まどかという名前にも、聞き覚えがあるのは当然のことだった。

「まどかのこと、知ってるの!?あたしはまどかの所に行きたいんだ、まどかを助けたい。
 クトラップ大佐。もし場所を知ってるなら教えてよ、まどかが危ないんだ!」

たちまちさやかは食いつき、そのまま詰め寄った。
216 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/13(金) 23:49:30.35 ID:puuGpel+0
「そうか……君は、カナメマドカを助けにきたのか。だが……彼女は、もう」

「知ってるよ。まどかは死んじゃったってこと。でもあたしはまどかの所に行かなくちゃいけないんだ!
 だから……お願いだよ、急がないといけないんだ!」

必死に食い下がるさやか。
そんなさやかに、クトラップ大佐は静かに笑って言葉を告げた。

「それならば好都合だ。私の頼みも同じだからな。……奴は、カナメマドカと共に司令室にいる。
 そう、だな。……その端末に、場所を記録させておこう。少女よ、頼む……奴のところへ行ってくれ。
 そして、奴を………止めて、くれ」

言葉を告げる気力さえ尽き果て、それでも男は必死にその指先を動かして。
アーク内部の構造と、目指すべき司令室の場所をさやかの持つ端末にインプットさせた。
為すべき事を為し終え、その手から、身体から力が失われていく。

「クトラップ大佐!?……ちょっと、大丈夫なの?」

「私は………もう、ダメだ。頼む、少女よ…………奴を、止め……」

そして、ついに声は途絶えてしまった。
もう、どれだけ声をかけようと、どれだけ揺さぶろうと。
彼が再び動き出すことは、無い。



「……一体、何をやったってのさ、キュゥべえ」

端末を握り締め、込み上げる感情を必死に堪えてさやかは呟いた。
まださやか自身、心のどこかでキュゥべえを信じたがっているのだ。
ずっと一緒に戦ってきた、仲間だと思っていた。
だというのに、そのキュゥべえの行動が、これだけの人を無惨に死に至らしめている。
信じられなくとも、もはや疑うべくも無い。

「待ってなさいよ。今すぐ、駆けつけてやるんだからさ」

ぎゅっと唇を結んで、ぎり、と歯を食いしばり。
さやかは、その地獄と化した部屋を飛び出していった。
217 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/04/13(金) 23:52:45.96 ID:puuGpel+0
なんとなく名前が思いついて出してしまった、多分あんまり後悔はしていない。

>>206
きっともし彼女が五体満足であったなら、きっと戦ったのだろうと思います。
もう一度戦いたい。そういう願いにまどかちゃんは力を与えてくれました。
そしてキュゥべえさんは本当にもう、自分で書いてて哀れになってきます、割と。

>>207
ブランクはあれど、並ぶ者なき古今無双の英雄様です。
おまけに完全な叩き上げなので、経験値的にはクローン二人よりもずっと上だったりします。

あのキュゥべえさんはキュゥべえさんで、色々大切なものを失ってますからね。
取り戻そうと足掻いているだけなんです、あいつも。

そしてアークはとっくに全滅しておりました。
人類に逃げ場なし!
218 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/14(土) 08:05:02.01 ID:UOzDwQaDO
お疲れ様です!
アークの砲台を攻撃するくらいはやっても良い気がする。

十代の女の子に10万のムンクなんか見せればなぁ…。しかし、脳を焼き切られちゃあ、まどかの魂の声も聞こえる訳が無いか。

きっとずっと言われてきたんだろうな…名前の間違いに突っ込むだけの気力を生み出させるとは。 生きていてくれてありがとう。クトラップ大佐に敬礼!

最早キュウべぇはどうしようもないのだろうな…。とにかくまど魂を救うんだ!さやかちゃん!
219 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/04/14(土) 08:48:52.96 ID:vo0OUahDo
オービーでもバービーでもな(ry

直径30kmもある船の中は移動するだけでも苦労しそうだ
病み上がりのさやかちゃんには酷だな
移動の設備も動かしたら流石にQBにばれそうだし
220 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/04/16(月) 16:13:55.89 ID:pmBeShOV0
ようやくエンディングの形が決まりました。
……ハッピーエンドカナァ。

では投下します。
221 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/16(月) 16:14:35.82 ID:pmBeShOV0
「しかし、やっぱ……きついな、ったく」

キングス・マインドはその機体を反転させ、更に急加速させる。
青い光と共に駆け巡る機体。慣性制御のシステムを飽和した衝撃が身体を揺さぶる。
その機動に対応しきれず無数のミサイル群は次々にコースを逸れ、誘爆していく。
それでもまだアークからの攻勢は一向に止まず、レーザーの雨が降り注ぐ。
僅かな隙間を見つけてやり過ごしたキングス・マインドの元へ、無数の無人兵器が迫っていた。
圧倒的な物量。一瞬たりとも気を抜くことができない。
それでも尚も、キングス・マインドは孤独に宙を舞っていた。

さやかからの連絡は未だ無い。
こちらから通信を取りたいとも思ったが、それでさやかの存在を気取られていては意味が無い。
とにかく今は耐え続けるしかないのだと、杏子は再び覚悟を決めた。

「呆れるほどのしぶとさだね、佐倉杏子。このアークを相手に、攻撃に転じる余裕すらないというのに
 一体、いつまで粘り続けるつもりなんだい、キミは?」

絶対的な優位にあるという余裕と、けれど杏子が尚も屈しないことへの不快。
それを同時に言葉の端に滲ませながら、キュゥべえが言う。

「さあな。でも、あたしは絶対に諦めねぇ。ここで諦めたら、何のために戻ってきたんだって話だしね」

不敵に笑い、杏子は答えた。
その姿には恐怖も絶望もまるで見て取れない。
それが、キュゥべえにとっては不快でならなかった。疎ましくてならなかったのだ。

「何もできないんだよ。キミはここで無惨に潰されて死ぬんだ。
 何もできやしない、何もさせやしないっ!これ以上ボクの邪魔をするな、佐倉杏子っ!!」

最早、その言葉は人のそれと変わらない。
自らに仇なすものを排除しようと、その力と悪意を振りかざす。
222 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/16(月) 16:15:02.97 ID:pmBeShOV0
芽生えてしまった感情と悪意、それは彼の精神を歪めていく。
それは変貌。けれど見方を変えれば進化とも言えた。

「まだまだ、こんなもんじゃ……届かないっての!」

ぎりぎりで、それでもまだ幾分かは余裕のある様子で杏子はアークからの攻撃を回避する。
自爆を恐れてか、キュゥべえはミサイルとレーザー、そして無人兵器をそれぞれ分けて運用している。
それだけに攻撃は単調となり、辛うじてそれが杏子に回避の余地を与えていた。

確かに効率的に考えれば、彼我の戦力差は圧倒的。
余計な被害を生むような行為は避けたい。急がずとも遠からず勝利することはできるのだ。
そう自分を納得させようとしていたキュゥべえであったが。

「……いや、それじゃあ納得できないよね。癪なんだよ、いつまでも目の前を飛び回られているとさ」

増大していく悪意は、それを許しはしなかった。


降り注ぐレーザーの雨をすり抜けたキングス・マインド。
しかしそのレーザーの雨の向こうから、その光に自らを焼かれながら
それでも突撃を敢行する無人兵器。虚を突かれ、杏子の回避が一瞬遅れた。

「ち……いぃっ!」

回避しきれず、無人兵器から放たれたレールガンがキングス・マインドの胴体部に直撃する。
その衝撃に、一瞬機体の動きが止まった。
それはアークを前にしては、まさしく致命的な隙だった。
そしてその隙を見逃すほど、キュゥべえは甘くはなかった。

続けざまに放たれたレーザーが、キングス・マインドを焼き尽くしていく。
一瞬の眩い閃光の後、キングス・マインドの存在していた場所で大きな爆発が巻き起こった。
223 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/16(月) 16:15:28.59 ID:pmBeShOV0
「なかなか手こずらせてくれたが、これで終わりだ。佐倉杏子。
 結局無駄死にだったね。たかだかR戦闘機一機で、このアークに立ち向かうだなんて。
 まったく、正気を疑うよ」

吐き捨てるようにそう言って、キュゥべえは戦いの狂気から思考を引き戻した。

「待たせたね、鹿目まどか。これでようやくキミを処分できるよ。
 佐倉杏子は無駄死にだったね、折角キミの願いが呼び戻したというのに、またつまらない死に方をしたものだよ」

まどかは黙し、何も答えない。
心が張り裂けそうな苦痛に、身を引き裂かれようとしているのか。
それとも、じきに訪れるであろう死に恐怖し、声も出せないのだろうか。


「おいおい、勝手に人を殺してくれるなよ。あたしはもう死ぬのはこりごりなんだよっ!!」

そんなことは決してありえない。
まどかはまだ、希望を捨ててはいない。そしてそれが潰えていないことも知っていた。
だからただ待っているのだ。口を閉ざし、静かに祈りながら。

そして飛び込んできた杏子の声。
更にアークに走る衝撃。再び放たれた波動砲が、アークの砲台の密集地点を打ち抜いていた。

(って、思わず勢いで撃っちまったけど……さやかの奴、大丈夫だろうな)

けれども内心、僅かに焦っていたりもして。

「佐倉杏子。なぜ生きているんだい。まさか、これもまどかの願いの力だっていうのか」

「いいや、いくらなんでもそこまで万能じゃないさ。まどかの願いは、あたしに片道切符をくれただけだ」

「じゃあ、何故っ!」

声を荒げ、再び攻撃を開始したキュゥべえ。
そんなキュゥべえを鼻で笑って、杏子は再び戦闘を開始した。

「お前は、あたしの機体が何かも忘れちまったのかよ。ほら、まだ終わっちゃいないぜっ!!」

そう、キングス・マインドはデコイ機能を搭載している。
先の攻撃もそれを受ける直前に、デコイに攻撃を受けさせて本体は離脱していたのだった。
巻き起こった爆発も、デコイの爆破によるもので。
咄嗟の機転があってこそのことで、そうそう何度も使える技でもない。
それでも尚、杏子は抵抗を続ける。
さやかを信じ、まどかを信じ。悪意と絶望を振りまく死の箱舟に立ち向かっていった。
224 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/16(月) 16:15:56.64 ID:pmBeShOV0
けれど、たとえどれほどの強い意志と力を持っていたとしても
それでも、たった一人で立ち向かうには、余りにもアークは強大だった。
先に放った波動砲も、まるで意に介さぬかのようにアークは攻撃を再開していた。

「ったく。空元気もそろそろ限界……だぜ」

アークからの攻撃は更に激しさを増した。
最早キュゥべえの悪意は留まることを知らず、ありとあらゆる方法を持って
杏子の存在をこの世から抹消しようとしていたのだ。

そう、それは余りにも分の悪い戦いだった。
単身での拠点攻略。英雄ならぬ杏子には、それは余りにも荷が重い戦いでもあったのだ。
そう、たった一人では。それは余りにも辛すぎた。


「随分と面白そうなことをしてるじゃないか。私も……混ぜて貰うよっ!」

舞い込んだ黒い閃光が、キングス・マインドに迫るミサイルを叩き落した。

「どうやら間に合ったようですね。……手を貸すわ。一緒に戦いましょう」

そして同じく白い閃光が、そのフォースが放つ光の刃が、無人兵器を切り裂いた。

「お前ら……あの時の。へっ、どういうことだか知らねぇが、ありがたいねっ!!」

その二筋の閃光は、ダンシング・エッジ。そしてヒュロス。
まどかの願いによって再起した、呉キリカと三国織莉子の姿だった。
225 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/16(月) 16:16:33.43 ID:pmBeShOV0
「今更二人増えたところで、一体何だって言うんだ。何も変わりはしないよ。
 まとめて押し潰してやる。圧倒的な力の差を思い知るといいっ!」

増援の登場に、更に苛立ちを募らせて。
その心に更なる悪意を滾らせて。キュゥべえはアークを駆る。

立ち向かう三つの光はそれぞれに散らばり、攻撃を分散させる。
集中砲火を受ければ回避は困難だが、的が三つに散ってくれれば問題は無い。
それでも回避が不可能に近いというレベルから、困難という表現ができるレベルに落ちただけで。
それを為し続けていたのは、偏に彼女達の卓越した技量によるものだった。

「しかし、よくここが分かったな。それもこんなタイミングよくさ」

レーザーをすり抜け、その隙を縫って放たれる弾幕をフォースで受け止め。
杏子は二人に呼びかけた。

「ああ、あの子の声はここから聞こえていたからね。助けに行かなきゃいけないと思ったんだ。
 あの子は私と織莉子を助けてくれた、命の恩人だからね」

駆け抜ける側からありとあらゆる敵を切り裂き、キリカがその言葉に答えた。
確かにまどかの願いは、キリカと織莉子の二人さえも救っていたのだ。
完全に機能を失った二人の身体に戦うための力を。
完全な孤独に陥った二人に、再び光を。それはまさしく救いだったのだ。

「あの子は私達を救ってくれた。だから私も、命を賭けてあの子を救うんだっ!!」

力を意志を、鋼の機体に漲らせ。
キリカは再び駆け抜ける。誰かに依存してではなく、自らの意志でその力を振るう。

「鹿目まどかは、私達を救ってくれたわ。その恩に報いたいというのは本当よ。
 でもそれだけじゃないの。この戦いを終わらせるためには、彼女の力が必要なのよ。
 絶望が渦巻くこの宇宙で、それだけははっきりと見えたわ」

宇宙は既に混沌に沈んでいる。
織莉子の予知をもってしても、正しくその行方を定めることは困難だった。
けれどそんな暗雲を引き裂いて、確実な未来を指し示す一つの指標。
それこそが、鹿目まどかの存在だった。

「だから私は彼女を助けるわ。協力……してくれるかしら」
226 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/16(月) 16:16:56.75 ID:pmBeShOV0
「当たり前だろ。今は猫の手でも借りたい時だ。
 ……それに、まどかを助けたいのはあたしも同じだ。手を貸してくれ、頼む」

そして、三人はその力を合わせてアークに立ち向かう。
かつて巨大戦艦に相対した時のように。そして今もまた、強大な敵を相手取って。

「任せたまえっ!それで、私達は何をしたらいいっ!」

勝機が見えてきた。
杏子は僅かにその顔に笑みを浮かべた。

「さやかが中に侵入してる。あいつがまどかを助けて戻ってくるまで、あたしらはこのまま耐えていればいい」

一人では厳しい。
けれど、三人でなら不可能ではない。
後どれだけの時間が必要になるかもわからない。それでも、怯む気持ちは欠片もない。

「そういうことなら話は簡単ね。ひたすらよけ続けて、奴の注意をこちらに向けさせればいい」

「直接あいつをぶちのめせないのは残念だけど、仕方ないね」

「じゃあ頼むぜ。勝手にくたばるんじゃねぇぞっ!!」

そして、三つの光が散らばって。舞う。
それはまさしく舞だった。光と爆発が彩る死の演舞。
一瞬でも気を抜けば即座に死が待っている。
けれどその状況が、彼女達の心を昂ぶらせる。ひどく原始的な、闘争の愉悦。
知れず、少女達はその顔に獰猛な笑みを湛え、更なる死地へと機体を駆り立てていく。
227 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/16(月) 16:17:25.17 ID:pmBeShOV0
「よくも粘るものだ。……でも、何故なんだい」

アーク内部、司令室。
そこで引き続き少女達への攻撃を続行しながら、キュゥべえは疑問を抱いていた。
敵は数も増え、こちらの攻撃も万全とは言えなくなってきた。
恐らくは少なからず、反撃に転じる余裕も生まれているはずなのである。
だが、少女達は一向にアークに攻撃を仕掛けてはこない。
仮に仕掛けたとして、狙うのは無人兵器の発進用ハッチや砲台ばかり。
そんな行動に、ついにキュゥべえも違和感を抱き始めていた。

「彼女達の行動は余りにも不可解だ。時間稼ぎでもしているのだろうか。
 だとしても、何故そんなことを……」

そもそもにして、アークを撃破するつもりがないのなら何故ここに来たのか。
その答えは、考え込むまでも無く分かることだった。

「そうだ、彼女達の目的は恐らく……鹿目まどかの救出。
 でも、それも外からできることじゃない。ああしていくら耐えていたって何も……っ。
 まさか、既に内部に侵入を!?」

今まで外部の敵に集中する余り、内部の状況に気を払っては居なかった。
どうせ皆死んでいるだろうと、そう高をくくっていた。
攻撃に回していたアークの機能を、内部のスキャンに回そうとしたその刹那。
激しい衝撃が、アーク内部を揺るがした。

それは外部からではなく、内部に生じた衝撃。
ゆえにそれは激しく司令室を揺るがし、キュゥべえの身体は壁へと投げ出された。
まどかのソウルジェムも、澄んだ音を立てて転がり、そして跳ねる。

更に衝撃、爆発音までもが混ざる。
またしても、何度も。だんだんとそれが近づいてくる。
228 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/16(月) 16:18:07.29 ID:pmBeShOV0
「くっ……一体、何なんだこれはっ!!」

その衝撃に翻弄され、キュゥべえはなすすべもない。
アークを操ることすら困難となり、アークの動きが停止した。
状況はまるで飲み込めないが、狙いがまどかのソウルジェムだというのなら、それだけは確保しなければならない。
衝撃に揺さぶられ、司令室の中を飛び跳ねるまどかのソウルジェム。
それを狙って飛びつこうとしたキュゥべえを、更なる衝撃が弾き飛ばす。

そして、司令室の壁を突き破って生じた何か。
それはラウンドキャノピー。R戦闘機の機首。
突き破った壁に干渉されながらも、無理やりにそのキャノピーは開かれて。
その中から、飛び出してきたものは。

「キミは……」

「助けに来たよ、まどかっ!」

司令室の位置を特定した後に、そのままカーテンコールを駆り。
邪魔する全てを破壊して、最短距離を駆け抜けた。美樹さやかの姿だった。

「まさか、こんな無茶をするとはね。……美樹さやか」

「……キュゥべえ。久しぶりだね」

さやかはまず司令室の中を一瞥した。
衝撃に揺さぶられ、荒れ狂った室内。その中に、椅子にくくりつけられたまどかの死体があった。
無理やりに拘束され、更に衝撃に揺さぶられ。その腕は、曲がる筈のない方向に曲げられていた。
ぎり、と。さやかは歯噛みした。溢れそうになる感情を、必死に押し留めて。
大丈夫、心配ない。まどかはまだ生きている。そう自分に言い聞かせて。

「一体、何をしに来たんだい。魔法少女でもないキミが、そんなものを駆って」

ようやく収まった衝撃から立ち直り、よろよろと身体を起こしてキュゥべえが問う。
司令室にも、侵入してきた敵を迎撃するための装置は存在している。
けれど、カーテンコールの突入によってそれは全てだめになってしまった。
それでもどうにかして、キュゥべえはさやかを阻もうとしていた。
229 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/16(月) 16:18:51.32 ID:pmBeShOV0
「もちろん、まどかを助けに来たんだ。まどかを返してもらうよ。
 ……それと、あんたと話をしに来たんだよ。キュゥべえ」

そんなキュゥべえに、さやかは静かに語りかけた。
心の中に渦巻く激情を必死に堪えて、唇が破れるほどに食いしばって。
確かめたかったのだ、信じたかったのだ。キュゥべえの事を。
230 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/16(月) 16:23:29.58 ID:pmBeShOV0
どうなのでしょうね、こんな人間味と悪意バリバリのキュゥべえさんでいいのでしょうか。
嫌いではないのですけど、よければ意見が聞きたいところです。

>>218
ちまちまと攻撃はしていたようですが、そんなことよりさやかちゃんが大暴れでしたね。
そしてどう見てもトラウマになりそうな光景です、アレは。
PTSDにでもなってしまいそうですね。

そして、それでもさやかちゃんはキュゥべえを信じたかったようです。
曲がりなりにも一緒に戦ってきた仲間ですからね。

>>219
R戦闘機で壁を全部ブチ壊して突き進みました。
人の足よりもずっと早いですが、びっくりするほどの力押しです。
231 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/16(月) 17:37:27.90 ID:Mk6REsfDO
お疲れ様!
ゲームのじゃないデコイは有能だな。

さやかちゃん…本当に無茶だよ。まど魂が割れてたらどうするつもりだったのさ?
232 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/16(月) 20:27:05.69 ID:bRoi0USV0
ところで杏子は今人間でしょうか、魔法少女でしょうか?
魔女でないのは確かでしょうが……
233 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/04/17(火) 06:24:47.78 ID:Jf8yV3zso
オリキリも復活したか
機能停止後にバイドにモグモグされてなくてよかった

さやかちゃん無茶しすぎですぜ。まあ、急がなきゃいかんかったから仕方ないけど
234 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/04/18(水) 19:12:56.69 ID:QQXSJpVI0
定期的なこととは知りつつも、やはりサーバーが落ちてると厳しいものです。
では、投下しましょう。
235 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/18(水) 19:17:27.42 ID:QQXSJpVI0
「話だって?この状況で、一体何を話すつもりだい?」

投げつけられたキュゥべえの声は、そんなさやかを嘲るようで。

「キミは随分とお人よしだと思っていたけど、こんな状況でまだ対話の余地があるとでも
 本当にそう思っているのだとしたら、それは最早愚かとしか言いようが無いよ」

その赤い瞳は細められ、さやかを睨むように見つめている。
そんな視線を受け止めて、それでもさやかは一歩として引かず。

「……それでも、あたしはまだあんたを信じたい気持ちはあるんだ。
 まどかを殺したことは許せないし、みんなを絶望させようとしてるなんて、許せるわけないけど
 それでもさ、あたし達はいままでずっと一緒に戦ってきたんだよ?なのに、何でこんなことをするのさ」

ただただ不思議だったのだ。
何故、と。同じくバイドの脅威に脅かされて、それと戦う事を余儀なくされた。
同じ敵を掲げる以上、一緒に戦えると信じていた。
だからこそ今、人類がバイドによって最大の危機を迎えているこの時に
なぜキュゥべえがこんな裏切りとも取れる行為をしているのか、それがさやかには分からなかった。

「美樹さやか。キミも鹿目まどかと同じようなことを言うんだね。
 ボクはただ取り戻したいだけなんだよ。ボク達の使命を、かつての栄光を。
 その為には、キミ達人類に犠牲になってもらうしかない。だからそうするだけのことだよ」

「そんな、何か、何か他に方法はなかったの!
 こんな人類全部を滅ぼさなくちゃいけないような方法じゃなくてさ!」

「無理だね、どの道人類はもうすぐバイドによって滅ぶ。
 なら、その前にボクが滅ぼしたって変わりは無いじゃないか。
 それどころか、キミ達程度のほんの僅かな犠牲を払うだけで、宇宙そのものを再生させることができるんだ」

「だから……あたしらを裏切るってわけ?あたしは、あんたの事だって仲間だって思ってたのに」

言葉を交わせば交わすほど、心は離れていく。
ただひたすらに、キュゥべえが人類とはまるで別の価値観をもつ存在であることを思い知らされて。
さやかは、静かに肩を震わせた。
236 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/18(水) 19:18:13.91 ID:QQXSJpVI0
「仲間だって?笑えない冗談だね。キミ達だって家畜相手に情をかけることはあっても
 まさか、それを自分と対等の存在として扱おうとはしないだろう?
 ボクにとってキミ達人類は、飼い主を食い殺してしまう程に愚かで凶暴な家畜に過ぎない。
 そんなものは、駆除してしまうしかないだろう」

ついにさやかもそれを悟った。
もはやわかりあうことなどできない。余りにも二つの種は違いすぎた。
今目の前に居るのは、共に多くの戦場を戦い抜いてきた戦友、キュゥべえではなく
バイドと等しい全人類の天敵、インキュベーターという侵略者なのだと。

「……わかった、もう何も聞かない。あんたがそうするなら、あたしは全力で止めてみせる」

それが何を意味しているのか、考えるまでも無いことだった。
さやかはパイロットスーツの腰から銃を引き抜き、インキュベーターへと向けた。

「確かに、ボクを殺せば止められるかも知れないね。
 でも、本当にキミにそれができるのかい?例えできたとして……撃てばどうなるか、わからないでもないだろう?」

事実、さやかのその手は震えていた。
相手は人間ではない。それでもバイドならぬ命をこの手で絶つという事実に
その手の震えは、どうしても止まらなかった。
そんなさやかの隙を突き、インキュベーターは部屋の隅へと飛び込んだ。
慌ててそちらへさやかは銃口を向けて、その動きが完全に硬直した。

「……まさか、それは」

そう、インキュベーターがその手に抱えていたものは。
先の衝撃で投げ出され、部屋の隅へと転がっていたまどかのソウルジェムだった。
237 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/18(水) 19:18:52.54 ID:QQXSJpVI0
「ボクがちょっとソウルジェムに細工をすれば、一瞬でまどかの魂を死滅させることができる。
 少なくとも、キミが引き金を引くよりは早くね」

「く……インキュベーター。あんた……よくもっ!」

形勢逆転。インキュベーター自身は、人に対して殺傷能力は持ち得ない。
それでも、ソウルジェムと化したまどかの魂に干渉するだけの能力は持っていた。
そしてまどかを助けるために乗り込んださやかには、当然こんなリスクを犯してまで撃つことはできなかった。

「武器を捨てて投降するんだ、美樹さやか。それともまどかを殺すつもりでボクを撃ってみるかい?
 それも悪くない選択だとは思うよ。まどか一人の命と、全人類のほんの僅かな未来。
 天秤にかけたとしても、そこそこ釣り合いは取れてくれそうだね」

その表情に、悪意に満ちた笑みを浮かべて。
インキュベーターは、さやかに決断を迫った。

「そんな……そんなこと、できるわけないでしょうが」

悔しさがさやかの胸を満たした。
けれど、悔やんだところでもうどうにもならない。
まどかという切り札が敵の手に渡ってしまった以上、もはやどうすることもできなかったのだ。
そしてさやかは、その手に構えていた銃を落とした。

「それじゃあ、そのまま壁のところまでゆっくり下がるんだ。両手は挙げたままでね」

その様子に、満足そうにインキュベーターは頷いて。
更なる命令をさやかに投げつける。
当然、さやかはそれに従うより他に術はない。
ゆっくりと後ずさり、さやかの背が部屋の壁に触れた。

それを確認して、インキュベーターはまどかのソウルジェムを咥えたまま歩を進め
そして、さやかが落とした銃をその手に掴んだ。
実弾を必要としない小型のレーザー銃ではあるが、それでもインキュベーターの身体には大きい。
そんな銃をインキュベーターは両手で抱えるようにして持ち、さやかに狙いを定めた。
一瞬、放たれた赤い閃光。
238 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/18(水) 19:19:43.68 ID:QQXSJpVI0
「ぁ……ぁぐっ、ウあぁぁァッ!」

さやかの左足に、焼けつくような痛みが走った。
放たれた閃光はさやかの左腿を貫き、そこにぽっかりと痛々しい孔を作り出していた。
足から力が抜けて、さやかは壁にもたれるようにして倒れこんだ。
高熱のレーザーによって焼き払われたからだろうか、創部からの出血はさほど多くはない。
それでもそれは、さやかの一切の行動を封じるには十分すぎるほどのダメージだった。

「キミが魔法少女だったら、この程度の怪我で動けなくなったりはしなかったんだろうけどね。
 大丈夫だよ、まだ殺しはしない。キミみたいな使えない道具にも、まだ役目は残ってるからね」

「ぅぐ……お前、よくも、よ、くもぉぉォッ!!」

その瞳には激しい憎悪が宿る。
壁を頼りに必死に立ち上がろうとして、足から生じる焼け付く痛みは容易くその為の力を奪った。
無様に地に付し、それでもさやかは必死にインキュベーターの姿を見上げて睨みつけていた。
裏切られたことが悔しくて、憎くて。銃創は熱くて痛くて、さやかの脳内が灼熱していく。
ぎりぎりと歯を食いしばり、唇の端からは血が一筋零れた。

「無駄に吼えているといい、その方がボクとしても手間が省けるからね」

酷薄に笑って、インキュベーターはそう答えると。
再び、アークの機能を行使することに意識を集中させた。
239 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/18(水) 19:20:18.31 ID:QQXSJpVI0
「さて、さやかの奴は上手くやったんだろうかね」

アークからの苛烈な攻撃が突如として止み、不気味なほどの静寂が宇宙に戻る。
恐らく、中で何か動きがあったのだろう。杏子達はそう推測した。
無事にさやかがやり遂げてくれたのなら、遠からずカーテンコールは帰還するだろう。
そうなれば、これ以上こんな敵を相手にする必要はない。
さっさと逃げ出して、本当に戦うべき敵であるバイドを迎え撃ってやらなければならない。

「……なあ、織莉子。今のうちに攻撃しておいてもいいと思うんだけど」

「悪くはないけれど、うっかり何があるも分からないわ。……それにあれは、元は人類の施設なのだから。
 正直なところ、余り傷つけたくは無いのよ。わかってくれるかしら、キリカ」

「織莉子がそういうなら、もう少し待つことするさ」

キリカと織莉子も、同じくアークを囲んで待機していた。
果たして状況はどう転ぶのか、混迷した宇宙において、正確な未来を図り知ることは
織莉子の能力をもってしても、尚も困難であったようで。
動きようも無く三機は再び集結し、これから起こるであろう何かを待っていた。

「そもそもこのアークって奴は、一体何なんだよ。
 なんだってこんなところに、こんな巨大な人口天体が存在してるんだ。
 おまけに、なぜかキュゥべえの奴がそれを牛耳ってやがる。
 あいつの秘密基地にしちゃあ、規模がでかすぎると思うんだけどな」

アークの存在を知らない杏子にしてみれば、それは当然の疑問だった。
これほどの規模の人口天体を建造するのに、一体どれだけの資材と時間が必要だったのだろう。
そんなものを、しかも極秘裏に建造する理由とは何なのか。
どうにも疑問は尽きなかった。そしてその答えは、意外な人物によってもたらされることとなった。

「アークは、太陽系脱出計画を遂行するための箱舟よ。……実物を見るのは初めてだけれど」

織莉子のその声は、どこか感慨じみたものを帯びていた。
240 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/18(水) 19:21:04.70 ID:QQXSJpVI0
「太陽系、脱出計画?……ああ、なるほど。なんとなく納得いったぜ。
 ……確かに、負けた時の事考えないで戦争やるってのも、馬鹿げた話だしな」

察しのいい杏子は、その一言だけでアークの存在理由を悟っていた。
人類という種を保存するための箱舟としての、アークの存在を。

「しかし、あたしらが今の今までまったく知らなかったってことは、相当厳重に秘匿されてたんだろうね。
 ……なんで、あんたはその存在を知ってたんだ?」

当然の疑問を、杏子は織莉子に投げかけた。
織莉子はしばし逡巡し、躊躇いがちに口を開いた。

「……お父様がね、アークの建造に関わっていたの。
 その頃には私もお父様の仕事をお手伝いすることが多かったから、それでアークの事を知るに至ったわ」

織莉子にとっては苦い記憶、痛々しい過去を、少しずつ話し始めたのだった。

「織莉子……そうか。織莉子のお父様は」

キリカもそれを思い出す。
織莉子の父は、権謀術数の渦に飲まれ、この世を去ったその人は。
地球連合宇宙軍参謀次官という肩書きを持っていた。それは確かに、人類の存亡に関わるこのアークの存在に
何らかの関係を持っていたとしても、何ら不思議ではない人物であった。

「……ってことは、あんたはどっかのご令嬢だった、ってわけかい。
 となるわかんないね。なんでそんな奴が、こんなところで魔法少女をやってるんだ」

それは純粋な興味からの言葉。
けれど、織莉子にとっては余りに大きく深く痛い、喪失の記憶。
塞がっていた、塞がっていたと思っていたその傷跡を、痛々しく抉るような言葉だった。
241 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/18(水) 19:21:51.09 ID:QQXSJpVI0
「それは……話さなければいけないことかしら」

当然、返す言葉は重く苦しいものとなってしまった。
そんな過去は全て捨て去ったはずなのに、今はただ、魔法少女として戦いの運命の中に生きているはずなのに。
思い出してしまえば、古傷を抉る痛みが胸をつく。

「……答えたくないなら別にいいさ。誰にだって、話したくない過去くらいあるだろうさ」

その言葉にどこか自分と似たようなものを感じて、杏子は言葉を打ち切った。

「それは、まるでキミにも話したくない過去があるような言い草だね」

通信に割り込むように、キリカの声が飛び込んできた。
織莉子を庇おうとする気持ちも、きっとどこかにはあったのだろう。

「……まあな。ま、あたしが詮索しないんだ。あんたらも詮索するのは勘弁してくれ」

「気にはなるけど、そういうことなら詮索はやめておこうか」

冗談めかして杏子は答え、同じく冗談めかしてキリカも答えた。
けれど、それでは一人古傷を抉られた織莉子は気が済まない。

「いいえ、最初に聞き出そうとしたのは貴女なのですから。今度は私が詮索させて貰う番じゃないかしら」

くす、と小さな笑みを漏らして、織莉子は杏子にそう告げた。
胸の奥に込み上げる痛みを隠すように、どうにか余裕を保って。

「あんまり面白い話じゃないし、長い話になるぜ。……勘弁してくれよ」

「それじゃあ、全部終わったら話すことにしましょう。お互いにね」

「ま、それが打倒なところかね。楽しみにしとくよ。……織莉子」

「ええ、私も楽しみにしているわ。……杏子さん」

そして、二人は不敵に笑った。
もちろん織莉子のそれは、鋼の機体に隠れて分かりはしなかったのだけど。
杏子には、確かに笑っているように感じられたのだ。
242 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/18(水) 19:27:03.10 ID:QQXSJpVI0
ちょっと短めですが、今日のところはこれで。

>>231
威力さえ伴っていてくれれば、ドンマイさんも役には立てたのでしょうけどね。
実に残念なところです。

そして本当に無茶をやってくれるさやかちゃんです。
一応ある程度計算ずくのところもあるのでしょうが、ほとんど体当たりです。
文字通り体当たりですしね。

>>232
人間のまま帰って来ているようです。
もっとも、杏子ちゃんの場合魔法少女になっても人間のままでも
そこまで戦闘力的には大きく変わらないのかもしれませんが。

>>233
なんだかんだでピンチの時にはかけつけてきてくれる二人です。
すっかり使いやすくなってしまいました。本当に。
243 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/18(水) 20:28:45.61 ID:QIKFYYODO
お疲れ様。
今回はトーク回でしたね。血みどろトークと若干剣呑トークでしたが。
244 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/04/19(木) 02:12:52.51 ID:4ljiKN+O0
追撃の投下でそろそろアーク編も終わりが見えてきました。
それでも書いても書いても終わりません、本当に長いです。
そして今更ながらかずみ三巻を読みました。
キボウに満ちてきましたね、楽しみです。

というわけで投下します。
245 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/04/19(木) 02:13:30.41 ID:4ljiKN+O0
「話は済んだかい。ボクはそろそろ、こんなふざけた茶番は終わりにしようと思うんだ」

アークが再起動した。
そして、キュゥべえからの通信が届く。
それが意味するところを察して、杏子は表情を固くした。

「へっ、ついさっきまであたしら三人相手に大苦戦してたお前が、よく言うぜ」

「もちろん言うともさ。これを見れば、キミ達も嫌でも思い知ると思うよ。絶望というものをね」

映し出された映像は、司令室内部の状況を示していた。
足を打ちぬかれ、蹲ったまま動けずに居るさやか。
そして、キュゥべえの足に踏みつけられて転がっているまどかのソウルジェム。
その光景を見るだけで、失敗したのだということがよくわかった。

「まったく、魔法少女でもないただの人間を送り込んでくるなんて
 キミ達も随分無茶な策を打ったものだね。でも結局はこのザマだ。残念だったね」

「さやか……っ、くそ」

確かにそれはか細い希望だった。
あれほど広大なアークの中に、さやか一人が乗り込んでまどかを救出するような
そんな大それた真似が、本当にできるかと言われればやはり危うい。
それでもさやかは言ったのだ、必ず助けて見せると。
そして杏子も、その言葉を信じて送り出したのだ。
だが、結果はこれである。

「分かっただろう?これでキミ達のくだらない小細工も終わりだ。
 これ以上無駄な抵抗を続けるようなら、ボクは鹿目まどかと美樹さやかを殺す。
 抵抗をやめて、すぐに投降するんだ」
246 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/04/19(木) 02:13:58.22 ID:4ljiKN+O0
「……投降したところで、奴が私達を生かしておいてくれるとは思えないんだけどな」

キリカの声にも焦りが混じる。
キリカにとっては、まどかを助ける道理は無い。
さやかに対しては多少なりとも恩人としての義理はあった。
だがそれでも、織莉子の身の安全と引き換えにできるものではない。

「当たり前じゃないか。投降すればそのまま殺す。抵抗すれば二人を殺してそれから殺す。
 別に逃げたければ逃げても構わないよ。どの道、死ぬのが少し遅くなるだけだ。
 もう、キミ達人類に未来なんて存在しないんだからね」

インキュベーターの声には、圧倒的優位に立ったことで生まれた余裕と愉悦が、ありありと見て取れた。

「そういうことならさっさとおさらばするとしよう。……こんなところで死ぬつもりじゃないだろう?」

本当に逃がしてくれるのかは分からないが、それでも逃げるだけならば
R戦闘機をもってすれば、アークを相手どっても逃げきることはできるだろう。
そう推測し、キリカは早くも脱出の手はずを整えていた。

「悪い、あたしはここまでだ。どうやら、あたしはさやかを見捨てられないみたいだ」

けれど、杏子は続かない。
そんな自分に呆れたように呟いて、それでも杏子は動かなかった。
それでもその目から闘志は消えず、アークをぎらぎらとした目で睨みつけながら。

自ら死を選ぶのかと、そんな杏子を一瞬キリカも怪訝そうに見つめた。
けれど、すぐに理解した。もし織莉子が同じ状況であれば、キリカもそうしただろう。
大切な人の為に、自らの身を捧げる行為。
それに意味があろうと無かろうと、キリカにとってそれは尊ぶべきことだった。

「……すまないね、杏子。それでも私は、織莉子を死なせたくないんだ」

だからキリカはすまなさそうに、友に殉じようとする杏子に告げた。
247 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/19(木) 02:15:35.72 ID:4ljiKN+O0
「いいさ、元からこんなことに付き合わせるつもりはなかったんだ。
 あたしは、あたしの大事なものの為に行く。あんたも、自分の一番大事なものを守ってやりゃあいいさ。
 ……それに、まだ諦めたわけじゃないからさ。運がよければ、後で追いかけるよ」

これほど絶望的な状況においても、杏子はまだその絶望に負けてはいない。
知っていたからだ。どれほどの深い絶望の中にも、希望を見出すことはできると。
その希望がこうして杏子の命を呼び戻し、更なる戦いの渦中へと誘ったのだから。

「何があっても諦めてやるもんかよ。
 たとえあたしが死んだって、世界の終わりが訪れたって、あたしは絶対に諦めない……絶対に」

それは一つの精神の境地。
不撓不屈なる精神。たとえ自分が、人類が、そして世界が終わりに瀕していくとしても
それでも決して諦めない。その胸を貫き、決して抜けることの無い意志という名の一つの矢。
その強さはまさしく呪いにも似て、杏子の全てに浸透していた。
そんな杏子の、無意味であって尚強固で曲げざる意志だった。

「佐倉、杏子。キミは……凄いんだね。キミの事は忘れずにちゃんと覚えておくから。
 だから……生きていたら、また会おう」

そんな杏子を見捨てることを心苦しく思いながら、キリカは機首を翻す。

「……行こう、織莉子。……織莉子?」

そう促したキリカの言葉に、織莉子は答えなかった。
怪訝そうにもう一度呼びかけて、それでも返事は無かった。
何かあったのかと、キリカの胸中に黒い不安が宿る。
そんな心配をよそに、織莉子は唐突にその口を開き、言葉を放った。
けれどその言葉は、キリカにも杏子にも向けられては居なかった。
その言葉は、インキュベーターに向けて投げかけられていたのだ。
248 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/19(木) 02:16:29.81 ID:4ljiKN+O0
「全てを滅ぼそうとする、余りにも強大な悪意がこの宇宙に降りかかっている。
 貴方はその悪意が生み出す絶望を使って、宇宙の再生を為そうとしているのね」

織莉子の静かな声が響く。

「そうか、美国織莉子。キミは気付いたんだね。……いや、“視て”しまったんだね」

織莉子の能力を持ってすれば、確かにこの宇宙が辿る未来の一片を覗くことは可能だろう。
宇宙が辿る顛末の全てを理解するには、織莉子の能力は全くもって不足している。
それでも、こうして断片としてインキュベーターの目的を推し量ることができた、それはすなわち。

「つまり、未来はそういう風に動いていくというわけだ。……これは、ボクにとっては嬉しい話だね。
 わかっただろう、美国織莉子。キミ達がこれ以上何をしようが、この宇宙が辿る結末は変えられないのさ」

「……そうね、確かにこの宇宙の辿る結末は絶望に満ちているわ。
 余りにも痛々しいほどの絶望よ、胸が押し潰されしまいそうなほどの」

それほどの未来を見据えて、織莉子は何を感じたのだろうか。
その口調には、不思議なほど絶望の色に染まった様子は見られなかった。
そしてなぜか、その言葉の端にはうっすらと笑みが混じった。

「貴方は、自分だけがその絶望から逃れることができると思っているのね。
 けれど、すぐに思い知ることになるわ。……それが愚かな思い違いだと」

その声と同時に、アークの表面で爆発が巻き起こった。
その衝撃はアーク内部に吸収され、司令室まで届くことは無かったのだが。
249 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/19(木) 02:18:26.50 ID:4ljiKN+O0
「なっ!?……くっ、まさか二人もろともこのアークを破壊するつもりなのかい?
 なんて愚かなことをするんだ、いいさ。それならキミ達もこの二人同様、宇宙のチリに……」

「ちょっと待てっ!あたしらは撃ってないぞっ!……って、じゃあ何で」

困惑するインキュベーター。そして杏子。
どちらにとっても、アークが攻撃を受けたことは予想外だった。
けれど、それすらも分かっていたかのように織莉子の声は落ち着いていた。

「――絶対なる悪意が、来るわ」

そして、未来という形で訪れるであろうそれを、迎え入れた。

「この反応……まさか、そんな馬鹿なッ!?」

それを知り、インキュベーターの声が焦燥と驚愕に歪む。

「……そうか、奴らがもうこんなところまで」

それを悟り、キリカは驚いたように声を上げた。

「確かに悪意の塊みたいな連中だ。絶望感もたっぷりだ。
 ――だが、あたしらにとってはとんだ希望かもしれないなぁっ!」

そして、杏子が。

アーク目掛けて殺到する、バイドの大軍勢を前にそう叫ぶのだった。
250 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/19(木) 02:19:24.13 ID:4ljiKN+O0
「そんなこと、ありえるはずがないっ!ここはバイドの侵攻ルートからは遠く離れた場所なんだよっ!」

現状を認められずにインキュベーターは叫んだ。
けれど、眼前に迫り来るバイドの姿は消えはしない。
それは絶望的な現実。バイドが人類にとって恐るべき敵であるのと同じように
インキュベーターにとっても、バイドは憎むべき敵でしかないのだ。
そしてバイドにとっては、人類もインキュベーターも変わらない。
どちらもただ、喰らい尽くすだけの敵なのだ。

「あたしらが後をつけられてたのかね。それとも随分派手にドンパチやったからね。
 それでうっかり連中を呼び寄せちまったかな」

状況はたちまち混沌と化していくことだろう。
少なくともそれは、先ほどまでの圧倒的な劣勢よりは遥かにマシである。
敵が増えたことに変わりはないし、絶望的な状況であることも変わりはない。
それでもまだ足掻くことができる、戦う事ができる。
好戦的で、そして危険な笑みが杏子の表情に宿る。
ぎらりと、その目は輝いた。

「私が視る未来は、このまま進んだ世界の未来。
 だからそれは、現在を動かすことで変容しうるものなのよ。
 容易くはないけれど、未来は変えられる。私が視た未来ですらも、変えられるのよ」

織莉子は静かに呟いて、混迷を深める戦場に再び意識を向ける。

「――だから、私は戦う。これが運命だというのなら、その運命と戦って、勝利して見せるわ」

そして織莉子は更なる未来の姿を得る。
それは無残な敗北の未来。けれどそれは、たった一人の行動で覆る未来。
251 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/19(木) 02:20:33.41 ID:4ljiKN+O0
「さやかさん、聞こえていますか?」

そんな未来を覆すため、織莉子は行動を開始した。
司令室との回線は繋がっている。恐らくその声は、今も壁際で蹲っているさやかにも届いている。
そして恐らく、彼女はまだ死んでいない。だとしたら、まだ可能性は潰えていない。

そして織莉子が願ったとおり、声に答えてさやかはゆっくりとその顔を上げた。
血の気の無い、苦痛に歪んだ顔だった。それでもまだ、生きている。

「話せないのならそのまま聞いて。そして、覚悟を決めて欲しいの」

その言葉は、まだ希望が途絶えていないことを示した。
希望がそこにあるのなら、さやかは必死にそれにしがみつく。
だからさやかは、そんな織莉子の言葉に弱弱しくも頷いた。
その目から、死に堕ちていくだけの弱弱しい光は消えうせた。

「もうすぐ、バイドの攻撃で大きな爆発が起こるわ。そして激しい衝撃を生む。
 その時、まどかさんのソウルジェムが貴女の手元に落ちてくるわ。
 それを拾えば、貴女はそのままアークを脱出することができるはずよ」

織莉子の言葉に、さやかの目が見開かれた。
それは確かに希望と呼べた、けれど何故そんなことがいえるのかという疑問もあった。
そしてようやく、さやかは織莉子がもっていた能力のことを思い出した。
それはかつての戦いの中で、ただ推測として考えただけのものではあったけれど。
今この状況に及んで、それは十分に信じるに足るものだと思えた。

「貴女が動けば未来は変わる。お願い、もう一度だけ――」

声は途切れた。通信が打ち切られたのだ。

「キミ達に未来なんて与えない。未来は、ボク達のものだっ!」

激昂を露わにインキュベーターが叫ぶ。
既にアークは迫るバイドに対する迎撃を開始していた。
杏子達さえもまとめて葬り去ろうと、全身に備え付けられた武装が再び起動する。

けれどそれは一歩遅かった。
アークの迎撃装置が作動するより一瞬早く、バイドの放った大型ミサイルがアークを直撃した。
激しい衝撃がアークを貫いた。
252 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/19(木) 02:22:49.91 ID:4ljiKN+O0
そう、宇宙はいまもバイドの脅威に晒され続けているのであります。
インキュベーターは勝利を過信する余り、その存在を軽んじていたのかもしれません。

>>243
そして次は行動です。
果たして人類は、バイドは、インキュベーターはどうなるのでしょうかね。
253 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/19(木) 09:42:55.45 ID:kANdr25DO
お疲れ様!
またまたぁ〜、書いても終わらないのではなく、早く終わらせると新スレが可哀想だってのと、ついでに俺達の為に、必死で延ばしてくれているんでしょう?

QB…女の怨みってのは凄〜く強烈らしいぜ?後でどうなっても…知らねぇからな?

流石バイドだ、どこにでも来るぜ!

本当にまどかのソウルジェムは、ちゃんとさやかちゃんの手もとに転がって来るのか?
254 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/04/20(金) 09:38:55.63 ID:QgCamWGro
織莉子△
255 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/04/20(金) 22:06:05.06 ID:p8wnnUGU0
終わらない終わらないといいつつも、どうやらそろそろ本当に終わりが見えてきたようです。
では、投下しましょう。
256 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/20(金) 22:07:08.14 ID:p8wnnUGU0
司令室にまで、その激しい衝撃は浸透する。
振動が部屋を揺さぶり、そこにあるもの全てが投げ出された。

「これを離さなければボクの勝ちだ。これがボクの運命だというのなら、ボクは絶対にそれを手放さないっ!」

当然、インキュベーターの小さな身体はその衝撃に翻弄され、宙に浮く。
それでもインキュベーターは、まどかのソウルジェムを握ったその手を離さなかった。
これさえ握っていられれば、これさえ砕いてしまえれば、それで運命に決着をつけられる。
今すぐ宇宙を再生することはできないだろうが、どの道遠からず人類は滅ぶ。
その絶望を使えば、きっと今度こそ上手くいくはずだと考えた。
だからこそ、その手を離すわけには行かなかった。

手段はどうあれ、その思いは強い。
失われた文明を、同胞を、使命を夢を取り戻そうというその思いは、インキュベーター自身にとっても
思いがけないほどに強いものになっていた。それもきっと、感情というものを得たからなのだろう。
けれど、そんなインキュベーターに運命は問いかける。

――命を取るか、夢を守るか――と。

「っ!?」

衝撃に弄ばれ、宙に浮くインキュベーターの身体。
その身体が落ち行く先には、椅子に縛られたままのまどかの身体があった。
最早命の無いその身体は、その四肢は衝撃に揺さぶられ、その顔は宙を向いていた。
目を見開いて、その表情には思い苦悶を浮かべたままで。
それは偶然なのだろう。だがそれでも、インキュベーターには感じられたのだ。
事切れたまどかの表情が、その見開かれた眼差しが、彼を見つめているかのように。

そして、まどかの腹部を食い破って突き出た固い金属の杭。
血に濡れたそれが、作られた重力によって落下するインキュベーターを待ち受けていた。
恐らくそれも偶然。けれどそれは確実に、インキュベーターを貫かんとしていた。
257 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/20(金) 22:07:40.89 ID:p8wnnUGU0
待ち受けるのは冷たい杭、貫かれれば死ぬかもしれない。
回避する術はある。けれどその為には手が必要だった。
まどかのソウルジェムを固く抱きしめたその手が、どうしても必要だった。

運命は問いかけていたのだ。
自らの命を守るために、夢を手放すのか。
それとも自らの夢に殉じ、死をもたらす杭に立ち向かうのか。
インキュベーターがかつてのままの存在であるのなら、間違いなく手を離さなかっただろう。
けれど彼は感情を得た。さらに、彼はたった一つの存在だった。
死に対する恐怖が、その身体を支配する。そして恐怖を乗り越える術を、彼はまだ知らずに居た。

「う……っ、わぁぁぁっ!!」

インキュベーターの中の冷静な部分は、その声をまるで他人の声のように聞いていた。
そして残った全ての部分が、恐怖に駆られた悲鳴を上げていた。
必死に手を伸ばし、椅子の縁に手をかける。そのまま渾身の力でその小さな身体を引き上げた。

そして辛うじて、インキュベーターの身体は椅子の縁にしがみつくことに成功した。
冷たく恐ろしい杭から、どうにかその身を遠ざけることができたのだ。

けれどそれは手放されてしまった。
まどかのソウルジェムは、キュゥべえの手を離れて再び宙に舞う。
それは定められた運命に従い、再びその身を壁に打ち付けたさやかの元へと舞い降りた。
258 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/20(金) 22:08:04.91 ID:p8wnnUGU0
(来た……っ)

さやかもそれを待ち受ける。
足は動いてくれそうも無い、だから手を伸ばす。
その手が届けば、後は這ってでもカーテンコールへ戻るだけなのだから。

されど運命は尚も過酷。
まどかのソウルジェムはくるくると回りながら、さやかの元へと落ちてくる。
けれどその軌道は、その手の届く範囲とは重ならなかった。
せめて後一歩、後一歩動くことができたら。
その為にはどうしても、この傷ついた足に働いて貰わなければならなかった。

「……ったくもぉ、覚悟を決めろって、こういうことね」

青ざめた顔でさやかは笑った。
運命もまた、さやかを嘲笑っていた。
――変えられるものなら変えてみろ、と。

まだ無事な右足を踏ん張り、身を起こしながら手を伸ばす。
覚悟を決めて、左足でもう一歩。

「っ、ぎ……ぁっ」

激痛が走り、左足から力が抜ける。
そのままがくりと膝をつく。このままでは、伸ばしたその手は届かない。

「と……ど、けぇぇぇっ!!」

右足に、そして左足にも力を篭める。
激痛が再びさやかの意志と力を奪おうと迫る。
余りにも痛すぎる、左足どころか頭まで痛くなってきた。
吐き気がする。それでもさやかは、その両足に力を振り絞り、そして。

さやかは、跳んだ。
259 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/20(金) 22:09:22.99 ID:p8wnnUGU0
不安定な姿勢での跳躍、更に足が片方潰れているとあっては
もはや着地なんてできよう筈もない、ごろごろと無様に地面を転がりながら着地する。
そうしてさやかが降り立った場所は、カーテンコールのすぐ側で。
そしてさやかの掌の中には、かすかに輝くまどかのソウルジェムが握られていた。

「なるほどね、そのまま脱出できるって、そういうことなわけ。
 ったくもう、もっとしっかり説明しなさいよね。帰ったら問い詰めてやる」

「待てっ!逃げられると思うのか……美樹さやかっ!!」

さやかを追いかけ、インキュベーターが吼える。
そんなインキュベーターに、さやかは僅かに振り向いて。

「結構、長い付き合いだったね。……さよなら、キュゥべえ」

ほんの少しの感傷を篭めて、さやかはカーテンコールに飛び乗った。
足はおろか体中が痛い、まるでばらばらになってしまいそうだった。
それでもどうにか身体を動かし、カーテンコールは再び主を受け入れた。

「オートパイロット、コードイプシロンっ!!」

音声認証によって、カーテンコールは既に入力されていた命令を実行する。
予め指示された脱出経路を辿り、アークを脱出するという命令を。

この状況、最早躊躇うことなど何も無い。
脱出の妨げになっている周囲の構造物を、レールガンで薙ぎ払う。
そしてカーテンコールは後退、まどかの身体とインキュベーターを残したまま
カーテンコールは、アークからの脱出を開始した。

それを阻む余力は、バイドの迎撃に負われるインキュベーターには残されていなかった。
260 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/20(金) 22:09:55.24 ID:p8wnnUGU0
「やれやれ、見境なしかっ!!」

バイドとアーク、そして魔法少女の三つ巴。
誰しもにとって全てが敵、戦況はますますもって混沌に沈んでいく。
そんな大混戦の最中、杏子は叫ぶ

「右も左も敵ばかりだ、バイドまで来ると……流石に勝手が違うね」

大部分のバイドはアークへと向かっているが、それでもかなりの数のバイドが殺到している。
それにまださやかが脱出していない以上、あまりアークを傷つけさせるわけにも行かない。
そして当のアークは、バイドの魔法少女もお構いなしの無差別攻撃を続けている。
奇しくも少女達は、自らの命を狙う敵を守りながら戦うという、奇妙な行動を強いられていた。

「……来るわ」

そして織莉子は呟き、その言葉が示す運命は訪れる。
アーク表面に穿たれた穴から、カーテンコールが飛び出した。

「さやかっ!無事か、返事しろっ!!」

すぐさま杏子が通信を飛ばした。
怪我をしている、無事なはずは無い。それでもここまで来られたのだから
きっと、大丈夫なはずだ。

「……なんとか、生きてるよ。ごめん、色々面倒かけたね」

弱弱しくも、それでもさやかの返事が聞こえて。杏子は、ひどく安堵した。
261 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/20(金) 22:10:42.48 ID:p8wnnUGU0
「ったく、よく帰ってきたもんだよ。よし、じゃあさっさと脱出するぞ!
 キリカ、織莉子っ!近場のバイドを蹴散らして脱出しようぜ!」

「ああっ!そうと決まれば長居は無用だ、行こう、織莉子っ!」

キングス・マインドはいち早く、カーテンコールの元へと駆けつける。
そんな二人を横目に、キリカは織莉子を促した。

「………そう、ね」

けれど、それに答えた織莉子の声はどこか沈んでいた。

「織莉子?何か……気になることでもあるのかい?」

「アークは既に発進している。ということは……計画通りなら、あそこには10万人の人間が眠っている。
 それを見捨てるのは……悲しいわね」

それを、織莉子は守りたいと思った。
けれど、それが叶わないであろうことも知っていた。
そんな余裕は、今の彼女達には存在しない。
前後を敵に囲まれて、その敵を守りながら戦い通すことができるほど、彼女達は器用ではない。
その上、どう見ても戦力が足りない。

それに、アークに眠る彼らは……もう。

「……無駄だよ。あそこに眠ってた人達はみんなもう、死んじゃってた。
 何をしたのかわかんないけど、あいつが……インキュベーターが、殺したんだ」

思い出すだけで吐き気がするようなおぞましい光景。
それがフラッシュバックして、さやかの言葉が震えてしまった。

「マジ……かよ。キュゥべえ……何考えてやがるんだ、あいつは!」

それが意味することを知り、杏子の声も震えていた。
恐らく、それは怒りによるものであろうが。
262 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/20(金) 22:11:21.17 ID:p8wnnUGU0
「なんて、ことを……っ」

ぎり、と織莉子が歯噛みした。
それだけの命を、こうも容易く奪い去る敵に怒り。
それを守ることができなかった自分に、怒っていた。

けれど、彼女はその怒りに身を任せはしない。
怒りが熱く燃え盛るほど、その心は冷たく沈んでいく。
その頭脳は、心は。既に自分のやらなければならないことを知っていた。

「織莉子……っ、くそっ!あいつ、やっぱり叩き潰してやる。
 織莉子を悲しませる奴は、許すもんかっ!!」

その衝撃に、呆然と立ち尽くすヒュロス。
そして、怒りを露わにアークに立ち向かおうとするダンシング・エッジ。
このまま放っておけば、きっと無謀に突っ込んでいってしまうだろう。
そんなことはさせられない、させられるはずがなかった。

「キリカ、私なら大丈夫だから。だから……このまま脱出しましょう。
 これ以上、ここに留まる理由は無いわ」

込み上げそうになる嗚咽を噛み殺し、いつもと変わらぬ調子で織莉子は告げた。

「織莉子がいいなら……いいけど、でも、本当にいいのかい?」

「守るなら、今生きている人を……よ。敵の包囲を抜けるわ、暴れて貰うわよ、キリカ」

今やらなければならないことは、戦う事。
そして生き延びることだった。

「っ、ああ。任せておくれよ、織莉子っ!!」

キリカは鋭く一つ答えて、脱出経路を確保するため敵陣へと飛び込んでいった。
263 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/20(金) 22:11:59.02 ID:p8wnnUGU0
「なんにしても、無事に帰ってきてくれてよかった、さやか。
 ……それで、まどかは助けられたのか?」

怪我をして、十分に動けないであろうさやかを守るように、杏子は周囲を警戒しながら飛ぶ。

「まどかの身体は死んじゃってたけど……それでも、ソウルジェムは助けられたよ。
 とりあえず、よかったかな……ぁ、くぅっ!」

さやかの声は弱弱しくて、更に声には苦悶が混じる。
機体はオートパイロットに任せてあるが、この先の戦場を越えるのはそれでは不可能だ。
かといって、今の状態のさやかには任せられない。どうにかする必要があった。

「さやか、まどかのソウルジェムと一緒に、機体を捨ててこっちに移れ。
 その傷じゃあ、それ以上は無理だ」

「……そうだね、残念だけど……そうするしか、ないか。
 折角託して貰ったのに、ごめんね、カーテンコール。ここまでありがとう」

(こんなふがいない乗り手で、ごめんね)

キャノピーを開放。キングス・マインドに乗り移ると同時に、機体の自爆コードを作動させる。
カーテンコールは、人類の英知の結晶。
それをバイドやインキュベーターの手に与えることだけは、避けなければならなかった。

――待って、さやかちゃん。

けれど、それを止めたのはまどかの声だった。
264 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/04/20(金) 22:18:29.59 ID:p8wnnUGU0
果たしてまどかちゃんは何をするのでしょうね。

>>253
それでも自分の想像以上に長引いてしまっています。
ただまあ、それでもやっぱりもうすぐ終わりなんだろうなぁ、と思います。
そう考えると、ちょっと寂しくもあり……ってな具合でしょうか。

インキュベーターはもう引き返せないでしょう。
バイドと同じく、彼ももう人類の敵になってしまったのですから。

そして確かにまどかのソウルジェムはさやかちゃんの元へと転がってきました。
けれど、それを掴んだのはさやかちゃんの意志と度胸です。

>>254
織莉子さんはなんだかんだでいい子なようです。
あれだけ地獄を見て、それでも正気でいられたのはある意味不幸せなのかもしれません。
265 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/20(金) 23:57:15.83 ID:C7vlBwXDO
お疲れ様です!
QBが冷静じゃなくて助かったな。落ち着いてたら、まどかのSGを空中ジャンプに使って、その反動を利用して砕かれてたかも知れないし。

さやかちゃん。気合い…見せてもらったぜ!

見限られたQB。だが……?

アーク…希望の方舟から、デカいだけの棺桶にされちまうとは、な。

まどっち…!?策も良いけど、その前にさやかちゃんの足をどうにか出来ないのかい?
266 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/04/21(土) 17:43:03.81 ID:EwCNs9sAo
まど体「解せぬ」

QBはもう終わったか? 案外、しぶとく生き残りそうではあるが
267 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/04/21(土) 23:33:40.22 ID:3ouGBt/E0
四畳半神話大系が実に面白かったです。
よく考えるとあれはあれでループものですね。
くたびれた大学生活を送るほむほむが麗しき桃色の髪の乙女とくっつくまでの話……………だめだ、引き出しが足りない。

と、そんなことをぼやきつつ投下です。
268 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/21(土) 23:35:10.87 ID:3ouGBt/E0
「まどか……?」

その声はさやかだけにではなく、杏子にも聞こえていた。

「どうしたんだ、まどか?何かいい考えでもあるのか?」

――うん、でもゆっくり説明はしてられないんだ。

いかにまどかの能力が優れていようと、それを行使する身体が存在しない。
その為に、魔法によってその能力を行使するための器官をその都度作り出していた。
それは目には見えない特殊な精神網で、それで直接相手の精神に触れることで意志を伝えていたのだった。
それゆえに、ソウルジェムのみで意志を伝えるのは、まどかにとって多くの負担を強いる行為だった。

――お願い、さやかちゃん。杏子ちゃん。私にこの機体を使わせて。

「使わせて、って……まどか。カーテンコールは、魔法少女が乗れる機体じゃあ……」

そう、確かにカーテンコールは普通の人間が乗るための機体。
少なくともさやかにとってはそうであったし、コクピットブロックは明らかに人間が乗ることを意図して作られていた



――大丈夫、なんとかできるから。今は必要なんだ、私にも戦うための力が。

「……まぁ、まどかなら確かになんとかできちまいそうだな。ほら、こっち来いよ、さやか。
 それに、あんたが戦えるってなら文句はねぇ。……しくじらないだろな、まどか」

どうにか開いたキャノピーから身を乗り出したさやかを、杏子が引っ張りあげた。
キングス・マインドのコクピットブロックは、杏子の最後の戦いの時のまま、タンデム仕様であった。
後部座席にどうにかさやかを座らせた。応急処置をしている暇もない。
しかたなく、医療キットに入った痛み止め用の麻酔だけを打っておいた。
269 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/21(土) 23:35:37.42 ID:3ouGBt/E0
――うん。それに、もうすぐだから。

「もうすぐ?……どういうことだ、まどか?」

訝しげに杏子がそう問いかけた時、突如としてカーテンコールから音声が発せられた。

【ソウルジェムユニットの搭乗を確認。M.M.I.をTYPE-Mに換装します】

その音声が発せられると同時に、まどかのソウルジェムのみを残したコクピットブロックは
その様子を大きく変更させていた。
コクピットブロックの壁面より生じたマニュピレーターがまどかのソウルジェムを固定する。
さらに、サイバーコネクトの接続口から湧き出した有機回線が、ソウルジェムに接続された。
長らく闇に閉ざされていたまどかの視界に、久方ぶりの光が宿った。

それはカーテンコールが見ていた光景。
まどかが右を向くと、カーテンコールも右を向く。左を向けばそれもまた叱り。
そしてまどかの身体の中に満ち溢れている力。それは波動を操りバイドを討つための……力。

そう、カーテンコールは完全なるワンオフ機であるラストダンサーとは違っていた。
全てのR戦闘機のデータを集約した機体であると同時に、誰でも乗ることのできる究極互換機としての側面も持っていた


それは、たとえ魔法少女であろうとも例外ではなかったのだ。
カーテンコールはソウルジェムユニットの搭載を感知し、自動でパイロットブロックを魔法少女仕様へと換装した。
そして今、ついにまどかは力を手にしたのだった。
敵を倒すための、自らの手で運命を切り開くための、力を。
270 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/21(土) 23:36:29.26 ID:3ouGBt/E0
「……まさか、ここまで予想してたってのかよ、まどか」

だとすれば驚愕するよりないといった感じで、呆然と杏子は呟いた。

「あはは……流石にここまでは予想外だったかな、なんて」

そんな杏子に、かなり困惑気味にまどかは答えていた。

「ってこたなんだい?まだ何か隠し種があるってわけかよ。
 ……でも、その前に脱出しようぜ。あの二人にばっかり頑張らせるのは不味いだろ?」

「うんっ!」

そして脱出の為に、再び戦火の中に飛び出すキングス・マインド。
それを追い、少し頼りなくも飛んでいくカーテンコール。
初めてのR戦闘機、初めての戦場で、それでもまどかはどうにか機体を動かすことができていた。
それは恐らく、まどかが既に人としての身体を失っていたからであろう。
人としての身体を失ったまどかの魂は、新たな身体である鋼の戦闘機に、実に容易く適応していた。
早く走ることや、派手な体操を何の練習もせずにできる人間はそうはいないだろう。
だが、わざわざ方法を教えられなければ手足を動かすこともできない人間もいない。

すなわち、今のまどかにとって機体を動かすことは、その手足を動かすことも同義だった。
飛ぶことはできる。ただ、恐らくそれは戦闘には耐えられないであろうというだけで。

「道はあたしが切り開くっ!まどか、あんたは後からついて来いっ!」

「わかったよ、杏子ちゃんっ!」

そして二人は、ますます混迷を深めてゆく宙に、舞う。
271 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/21(土) 23:37:30.32 ID:3ouGBt/E0
「よう、待たせたねお二人さん」

「随分遅かったじゃないか。それで、無事囚われのお姫様達は救出できたのかい?」

「お姫様、なんて柄じゃないんだけどな。うん、でも大丈夫だよ」

「さやかさんは、大丈夫なのですか?」

「ああ、麻酔が効き始めたみたいでね、大分落ち着いてる」

戦場の片隅、周辺の敵を蹴散らし一時に猶予を得て。
ようやく少女達の描く軌道は、近しく触れ合えるほどの軌道を取った。
手短に言葉を交わし、お互いの状況を確認しあう。

「それでは、そろそろ脱出の算段を立てなくてはね」

いよいよ脱出、尚も激しく追撃するアーク。
そしてそれすらも飲み込み、全てを塗りつぶさんと迫るバイド。
脱出するにしても、どちらの動きも予想できない。
下手に動けば、双方の間に挟まれ潰されてしまうかもしれないのだ。

「とりあえず、まどかを中心にする。それで織莉子、あんたはまどかを守ってやってくれ。
 あんたの能力と、その機体の迎撃能力ならきっとなんとかなるだろ」

「ええ、しっかりと守り抜かせてもらうわ。まどかさん、どうにかついてきてくださいね」

「うん、わかったよ。織莉子さん。……えっと、ごめんね。私、守ってもらってばっかりで」

折角力を得たというのに、それを振るう能力をまどかはまだ持っていない。
それがどうしてももどかしくて、すまなそうにまどかは告げた。
そんなまどかに、織莉子は柔らかに笑って答えるのだった。

「いいのよ、私も貴女を守りたいのだから。
 貴女はきっと、この絶望に沈んだ世界を変えてくれる。……随分と頼りない未来だけど
 それでも信じてみたいの。だから、私は貴女を守るわ。まどかさん」
272 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/21(土) 23:38:18.98 ID:3ouGBt/E0
「……織莉子」

そんな様子を見て、ちょっとしょんぼりしてしまったキリカだった。
そんなキリカの首根っこを引っつかむかのように、杏子の声が飛ぶのだった。

「お前は前衛、あたしは殿。あたしらが頑張れば、織莉子もまどかも守れるさ。
 それともあんたは、始終織莉子を独占してなきゃ気がすまないってかい?それじゃ、まるで子供だな」

そう言って、杏子はからかうように笑った。

「だれが子供だっ!……見ているといい、織莉子もまどかも、ばっちり私が守ってやるさ。
 だからキミも、つまらないミスで勝手に死んでくれるなよ」

少しふてくされながら、それでもそんな自分に少なからず恥じ入るところはあったのか。
幾分か落ち着いた様子で、キリカもそう答えるのだった。

「へっ、言ってくれるね。……その調子なら、まあ心配はいらないだろうな。
 ここまで来たんだ。最後まで生き延びて、見届けようぜ、キリカ」

「言われなくともそのつもりさ。私はこんなところで潰えるつもりは無い」

しばしの沈黙、互いに機首をつき合わせて睨みあい。

「……へっ」

「……くす」

そして、どちらとも無く小さく笑った。

「さあ、蹴散らしてあげよう。私達の道を塞ぐ不届き物は、みんな纏めて微塵切りだっ!!」

「あたしの前を通りたけりゃあ通してやるよ。ただし、五体満足に通して貰えると思うなよっ!!」

二人は同時に咆哮し、そして4機のR戦闘機は希望への脱出を開始した。
273 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/21(土) 23:39:02.63 ID:3ouGBt/E0
どこで間違えたのか、何が間違っていたのか。
人類に比しても遥かに高度であるはずの頭脳は、そんな簡単な問いにすらも答えを見つけられずにいた。
ただただ迫り来る敵を迎え撃つことと、逃げてゆく者を追い縋る事だけに注力していたのだ。
そしてそれ以上に彼は焦っていた。思うようにならない状況に
長らく待ち続けた、この千載一遇のチャンス。世界再生を行う最高の機会が失われようとしていることに。
彼は、ひどく焦りを抱いていた

そして彼は恐れていた。自らの死を、その存在の終焉を。
孤独が怖かった。失敗を認めるのが怖かった。その感情を、恐怖と認めることが怖かった。

「何故だ。何故……どうして理解してくれないんだ。
 キミ達が犠牲になるだけで、この宇宙は正しい姿を取り戻すのに。
 バイドも居ない、宇宙の寿命に悩まされることも無い。素晴らしい世界が生み出されるというのに」

半ば呆然と、インキュベーターは、キュゥべえは呟いた。

「これからあのバイドによって失われていく命と、今この場所で消えるたった200億の命。
 比べ物になんかなるわけが無いじゃないか。なのに何故、何故キミ達は分かってくれないんだ」

アークは尚も、インキュベーターの手によって存分に破壊を振りまき続けていた。
けれど、それは恐らく人の手によって操られるそれには及ばなかった。
いかなインキュベーターが優れた種であろうとも、それはあくまでも個。
知識と技術、そして経験に裏づけされた人が操る兵器には、やはりどうしても及ばなかったのである。
それゆえにアークは、バイドによる猛攻に晒され続け、被害は甚大となっていた。
274 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/21(土) 23:40:04.30 ID:3ouGBt/E0
衝撃が幾度もアークを揺るがし、内部各所に火災が発生していた。
ついに火の気は司令室の存在するブロックにまで至り、内部の温度は急速に上昇を始めていた。
そして気がつけば、まどか達が操る機体の姿が消えていた。
恐らく離脱されたのだろう。バイドへの対応に追われるインキュベーターには
それを追跡する余裕も、最早残されては居なかった。

恐ろしかった。恐怖という感情を自覚してしまうと、それは更に強くなった。
かつてインキュベーターという種を滅ぼしたバイドが、今再び彼の命を絶とうとしている。
避けがたい死が、その存在の終焉が今まさに、彼の頭上で振りかぶられていた。

「……ああ、そうか。なんで、こんな簡単なことに気付かなかったのだろう」

死を眼前に向かえ、ようやくインキュベーターは自身の内に宿ったその感情を自覚した。

「死にたくなかったんだね。キミ達人類は。自分が死ぬのが嫌だから、だからどれだけ非合理的でも
 どれだけ非効率的だったとしても、自分達が生存できる可能性を必死に模索していたんだね」

それは酷く簡単な真理。飽くなきまでの生への欲求。
ありとあらゆる生命が、生まれながらにして持っていなければならないその本能にも近しい感情を
理性と知性、そして個を否定する意識を持っていた彼らは、いつしか忘れかけていたのだった。
けれど今、彼は人類と同じようにその感情を抱いている。
自身すら気付かぬ内に、いつしか彼はその感情に支配されていたのだろう。

「なんで気付けなかったんだろう。……ボクは、死にたくないんだ」

呆然と呟いたその時、一際大きな衝撃がアークを貫いた。
小さなインキュベーターの身体は衝撃に投げ出され、壁に打ち付けられた。
痛い。痛みを感じるということが、これほど恐ろしいとは知らなかった。
否、それは忘れ去っていただけなのかもしれない。

「嫌だ……こんなところで終わるのは、嫌だ」

その赤い瞳が揺らぐ、焦り、恐れ、悲しみ、後悔。
様々な感情が、その瞳を揺るがしていた。
275 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/21(土) 23:41:42.93 ID:3ouGBt/E0
「誰かっ!誰か……助けてっ!嫌だ、ボクは死にたくない、こんなところで死にたくなんかないっ!
 バイドに、殺されたくなんかない……お願いだ、誰か……誰か、助けてっ!」

悲痛な叫びを音に乗せ、通信に乗せてありったけの力で放つ。
けれどもう、それに応えるものなど誰もいない。
居るはずがない。彼はたった一つのインキュベーターで、彼は人類を敵と断じた。
そんな人類の敵を助けるほど、人類という種はお人よしではなかった。

「嫌だ。嫌だ……死にたくない、死にたくない……っ
 ぁぁ……………うあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁっ!!」

錯乱し、叫び散らすその声は誰にも届かない。
ついにバイドがアーク内部に侵入し始めた。最早どうにもならない。
絶望に打ちひしがれ、全ての力が抜けたように横たわるインキュベーター。
虚ろに見開かれた瞳に最後に見えたのは、宇宙を流れる一つの星だった。
276 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/21(土) 23:47:36.97 ID:3ouGBt/E0
こんなキュゥべえさんですが、ざまぁwwwwと嘲笑ってやるもよし
なんとなく哀れんでやったり、共感してみたりするのもいいかもしれません。

>>265
残念ながらキュゥべえさんはもうとっくに冷静さなんて欠いてしまっています。
群体としての意識に強制的に個という単位に陥れられた自分。
芽生えてしまった感情と、それに振り回されて思うようにならない行動。
そんな状況で落ち着けってのが無理な話というものです。

>>266
まど体さんはもう出番終了でございます。
どこかの業者さんに回収して貰ってもいいかもしれませんね。

そしてとうとうキュゥべえ絶体絶命。
死ぬのは誰だって怖いもの、けれどその心配がなくなってしまえば、いつしかそんな恐怖もなくなってしまうのかもしれません。
277 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/22(日) 00:54:36.49 ID:gMV2JAGDO
お疲れ様です!
コックピットタイプ変更とか…格好良いですね!

挑発やからかいも、戦士によくあるコミュニケーション。

ここまで来てまどマギ本編一話をよぎらせるなんて…上手い作り方だなぁ。

QB…お前は素直な奴だったよ。だが、間違った素直さだった…。
278 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(滋賀県) [sage]:2012/04/22(日) 01:11:50.73 ID:IioqHukco
キュゥべぇさん・・・ちょっとまどかさんのソウルジェムを盾にすればよかったんじゃね?
279 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/22(日) 01:17:10.69 ID:p1cpBwUS0
さすがにやばい表記漏れがあったので一部修正です。

>>274 20行目冒頭
×理性と知性、
○高度な理性と知性を持ち、

このままだとインキュベーターがただの白痴になってしまいます。
てなわけで修正を。
280 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/04/22(日) 17:00:00.20 ID:ns9wEPS2o
究極互換機の名は伊達ではないということか
ようやく戦う力を得たまどか、でも本当に戦えるのか?

バイバイQB
281 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/04/23(月) 02:41:04.67 ID:k9uXEPxw0
久々に随分と筆が乗りました。
時間も押してますので、カカッと投下しましょう。
282 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/23(月) 02:41:45.31 ID:k9uXEPxw0
「どうなってやがるんだか、今度はさ」

今度こそ本当に訳が分からない。
そんな様子で、これでもかというほどにあきれ返った様子で杏子は言葉を口にしていた。
そのキャノピーの外に広がる光景。電子的に処理をされ、キャノピーの内側に映像として映し出された世界。
その光景は、青々と輝くその星の姿を映し出していた。

そこは太陽系第三惑星、地球。
その衛星軌道上に設置された国際宇宙ステーション、ISPV-5。
かつて修学旅行の折、まどか達が目指していた場所。
そして、とうとう辿り着くことのできなかった場所だった。

「本当に地球ね。……いつ以来かしら。本当に……美しいわ」

信じられないという驚きと、久方ぶりに目にしたその青き星への感慨を篭めて、織莉子は呟いた。

「……これも、キミに仕業だということかい?まどか」

機体に備え付けられた計器の類。それが指し示す全てのデータは
その場所が間違いなく、地球の衛星軌道上であることを示していた。
その事実に、最早納得するよりほかないといった様子でキリカが言葉を放った。

そう、少女と魔法少女達が操るその機体は、まさに地球の衛星軌道上。
ISPV-5のすぐ側に存在していたのだった。


アーク周辺宙域から地球まで、そこにあるのは遠大にして遥かな距離。
当然彼女達は、その遥かなる距離をえっちらおっちらと乗り越えて来たわけではない。
アークを脱出した後この場所に至った今にまで、過ぎ去った時はさほど長くはないのだ。
純粋な速度にして表すのならば、それは恐らく光の速度にも近しいものとも思える程で。
もちろん、いかな優れたR戦闘機であろうと光に近い速度などが出せるはずもない。
だとすれば、一体何が起こったのであろうか。

それは、少女達がアークを脱出してすぐのこと。
283 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/23(月) 02:42:30.30 ID:k9uXEPxw0
「どっちを向いても敵、敵!敵っ!!いい加減にして貰いたいものだねっ!」

激化する戦いの宙。バイドの群れは、アークにも魔法少女にも、どちらにも等しく迫り来る。
そしてまたアークに無数に搭載された砲台や無人兵器は、動く物全てが敵であるかのように荒れ狂う。
それは余りに混沌としていて、余りにも苛烈で壮絶だった。

「いいからさっさと道を開けろっ!ここに留まってりゃ、それこそ挟まれて潰されっちまうぞっ!」

長く留まれば、いつか必ず御しきれず囲まれ、そして潰される。
覚悟を決めて飛び出したはずだった。けれどそんな少女達を待ち受けていた戦場は余りにも最悪だったのだ。

「だめだっ!こっちも自分の身を守るのでやっとだ。……織莉子っ!どうすればいい、どうすればいいんだいっ?」

迫り来るミサイルを振り切り、喰らいつくバイドを切り払い、キリカは叫ぶ。
このままでは脱出するための道を作ることさえもできない。
だからキリカは、織莉子に頼った。
織莉子が持つ予知能力であれば、きっと状況を打開する術が見つけられるはずだと信じて。
けれど。

「…………」

織莉子は応えない。痛々しくも沈黙を保つだけで。
その沈黙は、暗に一つの事実を示す。
そこに未来はないのだということを、この地獄から逃れる為の道など存在しないということを。
その沈黙は、ありありと思い知らせていたのだった。
284 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/23(月) 02:43:15.89 ID:k9uXEPxw0
「……それでも、覆して見せるわ。何か、何か方法はあるはずなのよ」

それでも、織莉子は諦めなかった。
予知を続けることで織莉子にかかる負担は、決して軽いものではない。
それでも織莉子は、まどかによってもたらされた力を糧に未来を視続ける。
前後の二人が捌ききれなかった敵を相手取り、必死にそれを迎撃しながら視続ける。
必ず希望が見えるはずだと、残酷な未来にも、必ず綻びが生まれるはずだと信じ続けて。

けれど悲しいかな、押し寄せる悪夢の尖兵も全てを迎え撃つ死の箱舟も
そのいずれもが、余りにも強大すぎるものだったのだ。
たった五人の少女では、立ち向かうことなどできないほどに。
それでも少女達は、いずれ潰えるその体を必死に駆り、戦いの宙で必死の抵抗を続けているのだった。


「また、私だけ何もできないのかな」

カーテンコールの鋼の身体を駆って、どうにか織莉子に追随しながら
まどかは、自分の無力さを噛み締めながら自問する。
こうして手に入れた力も、戦う術を知らないまどかにとっては余りに過ぎた力で
それをまともに振るうことなど敵わない。ただ守られているだけで、それは酷く無力感を煽り立てる。

「……それは、違うよね。今の私にはできることがある。ううん、私にしか……できないことがある」

きっと、かつてのまどかであればその無力感に心を苛まれ、それに屈し。膝をついていただろう。
けれど、今は違うのだ。今のまどかは、自分にできることを知っていた。
それはR戦闘機を駆って戦うための力ではないけれど、この逆境を打開することのできる力であるはずだと。

解き放ってみよう。
その力はきっと、今も戦う人々を救うことができる。
その力はきっと、苦境に喘ぐ仲間達を救うことができる。
その力はきっと、遥か彼方で一人戦う彼女を、救うことができる。
信じて、まどかはそれを解き放つ。
絶望に沈んだ宇宙に、力強く脈打ち始めていたその力を。

「これが奇跡なら、魔法なら……きっと、皆を助けられるはずなんだ」
285 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/23(月) 02:43:55.04 ID:k9uXEPxw0
突如として、まどかのカーテンコールが激しい光を放ち始めた。
その光は、魔法を行使しうる魔法少女であれば、見覚えのある光だった。
魔法を行使する際に発生する、機体の発光現象。
具体例はさほど多くもなく、その現象の生じる理由は解明されていない。
それでもその光は、ついにまどかがその魔法を行使したのだということを示していた。


「キリカ!杏子さんっ!今すぐ戻ってっ!!」

その光は、一つの光景を織莉子に与えるのだった。
その声を待っていたとばかりに、ダンシング・エッジは踵を返して織莉子の元へ。
杏子もそれにほんの一瞬だけ遅れ、追従した。

カーテンコールが放つ光は、更に強く激しくなった。
そしてそれは周囲へと広がり膨らんでいき、すぐ側に戻っていた三機さえ包み込んだ。
その光に誘われるように、バイドや無人兵器の群れが迫る。
それらが殺到し、光の内側へと入らんとするその直前に。
膨れ上がった光は、内側から弾けるようにして消失した。

その光が弾け飛んだ後には、何も残されては居なかった。



鹿目まどかの、もはや異常とも呼べるような進化を遂げた精神は、全太陽系に伝播していた。
そしてその願いと、それが生み出した力もまた同じ。
要するにまどかの願いは、自分自身の存在を等しくこの太陽系に遍在させるものだった。
例えその意識がソウルジェムの中に収束したとしても、かつてそこに存在していたことは事実。
そしてまどかの魔法は、呆れるほどの魔力を注ぎ込むことで自身の存在の可能性を変動させるものだった。

今いる存在をいなかったことにする。かつてそこにあった存在を、今そこにある存在に書き換える。
そうして起こる存在の変換。
事象を正確かつ厳密に捉えるのならば、鹿目まどかとその周辺の一定範囲に存在しているものは
その瞬間に、この宇宙から消滅している。そして同一時間軸の別の座標に、全く同一の物として
質量保存の法則を侵すことなく、再構成され出現していた。

そしてその現象を、非常に簡潔かつ的確な言葉で表すこともできた。

「ワープ……って、いうんだよね、こう言うの」

地球の青さを目に焼きつけ、そうして仲間ともども帰還を果たしたまどかは
自らの能力を、非常に簡潔かつ的確な言葉で表現したのだった。
空間転移。それがまどかの願いが生み出した、まどかの魔法であった。
286 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/23(月) 02:44:38.14 ID:k9uXEPxw0
「そこのR戦闘機っ!貴方達はISPV-5の周回軌道上に侵入しているわ。直ちに軌道を離れなさいっ!」

純粋な驚きに呆然と立ちすくむ三人と、自らの能力を確信し、同じく呆然としている一人。
そしてもう一人、麻酔によって朦朧とする意識の端に、地球の姿を焼き付けていた少女。
そんな少女達に、殴りかかるような乱暴な通信が投げかけられるのだった。
それはISPV-5の管制室から投げかけられたもので、その女性の声は直ちに現在の座標から移動することを求めてきた。

「っと、こりゃあ不味いな。とにかく一回離脱してあそこに寄航しよう。
 ……あそこなら、さやかを預けても大丈夫そうだしさ」

杏子は後部座席を心配そうに眺めた。さやかの状態は安定しているように見えて
杏子は、ほんの少しだけ安堵したような表情を浮かべた。
そして、一芝居打つかと唇の端に笑みを浮かべた。

「っ……く、こちら、デルタ試験小隊所属の、佐倉杏子特務曹長だ。
 作戦遂行中にバイドの襲撃を受け、どうにか脱出してきた。負傷者もいる!
 機体の補給と、負傷者の収容を……頼めるかい?」

酷く焦燥しきった……ような声色で、杏子はその女性の声に答えた。
答えながらも、四機はISPV-5の周回軌道から離脱して。

そんな杏子の迫真の演技に、通信を送っていた女性も小さく息を呑んだ。
負傷者が居るのは事実だが、杏子は恐らく身分としてはすでに死んだ身だ。
恐らくキリカや織莉子も状況はそう変わらない。まどかなんて論外だ。
とにかくさっさと収容してもらうためには、多少の方便は通してみるしかないだろう。
287 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/23(月) 02:45:20.79 ID:k9uXEPxw0
「……分かりました。合流地点の座標を送ります、7番ハッチを空けておきますので、そこで収容します」

「了解した。……協力感謝するよ」

色よい返事はすぐに返ってきた。
バイドの侵攻に慌てふためく地球圏である、すぐに許可が下りたのは僥倖という他ない。

「さやかさんを預けて補給を済ませたら、すぐに火星に向かいましょう」

合流地点へと機体を向かわせながら、織莉子は既にこの先のことを考える。
戦火を逃れることはできたが、それでは根本的な解決にはならない。
やはり、人類そのものが生き延びるためには戦うしかないのだ。

「そうだね、火星ではきっとまだ、バイドと激しくやりあっているはずだ。
 多分、私達の仲間たちももうついている頃だろうからね」

キリカもそれに頷いた。
もっとも、魔法少女隊はつい先ほどまでモルガナの結界に囚われており
彼女達が火星の戦場に到着するまでには、まだ幾許かの時が必要とされていたのだが。

「ああ、まだあたしらの戦いは終わっちゃ居ない。だけどまどか、あんたはここに残れ」

それに並んで杏子が言う。
確かにまどかは力を得た。けれどそれは、戦うにはまだ足りないものだった。
だからここにおいていく。それにまどかの能力はきっと、ただ戦うよりももっと大きな仕事をしてくれるはずだと
杏子はそう考えていた。
けれど、まどかからの返事はなかった。見れば、カーテンコールはISPV-5の周回軌道を離れたところで止まっていた。

「おい、まどか?……まさかっ!?」

そして今になって、杏子はそれに思い至った。
魔法の行使は代償を必要とする。それはソウルジェムに穢れという形で現れる。
あれほどの広大な距離を、それも四機にして五人を同時に転移させるという所業。
それは果たしてどれほどの魔力を必要とすることであろうか、値を求めることなどできないが
間違いなくそれは、膨大なものであろうことは杏子にも容易に推測することができたのだ。
288 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/23(月) 02:45:51.39 ID:k9uXEPxw0
「おい!返事しろ、まどかっ!!」

杏子は必死に呼びかけた。
まさかあの転移は、文字通り命がけで行ったものだったのかもしれない。
だとすれば、それほどの魔力を行使したまどかに待っている結末は何だ?
忘れもしない、かつてさやかが辿った末路と同じ。
魔女となり、破壊と絶望をもたらす権化と化す。そんな最悪の悪夢が、杏子の脳裏でありありと再生されていた。

「大丈夫だよ、杏子ちゃん。このくらい、全然平気だよっ」

けれどその心配は、まどかの元気そうな声によって杞憂に終わることになる。

「……ンだよ。心配させやがって。ったく、じゃあさっさと行こうぜ、まどかっ」

ほっと胸を撫で下ろして、杏子はまどかに呼びかけた。
けれど、カーテンコールは動かない。

「まどか、お前……本当に大丈夫なのか。実はもう、ギリギリなんじゃないのか?」

そんなまどかに、やはり訝しがって杏子は尋ねた。
あれほどの途方もない魔法を行使して、平然としていられるとは信じられなかったのだ。
それは、杏子もまた魔法を行使する魔法少女であったからこそ分かること。

「違うよ、本当に大丈夫なんだ……でも、私は行けない。私には、行かなくちゃいけないところがあるんだ」

杏子の声に、まどかはどこか覚悟を決めたような様子で、そう答えるのだった。
289 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/23(月) 02:46:30.11 ID:k9uXEPxw0
「私はきっと大丈夫。あのね、杏子ちゃん。私が一度死んだとき、この宇宙の人たちは皆絶望しちゃったんだよ。
 その絶望が、とても大きな力を生んだ。私はその力を皆に返してあげて、それで杏子ちゃんを呼び戻したんだ」

「……ああ、未だに信じられねぇけど、そういうことなんだってのはあたしにも分かるよ」

それは独白にも似た言葉。杏子は到底信じられないようなまどかの言葉に
それを信じざるを得ない自らの状態を重ねて、そう相槌を打った。

「それで、みんなは希望を取り戻した。死んでしまいそうな深い絶望から、力を手にしてそれを乗り越えたんだ。
 私ね、思うんだ。希望が絶望に変わる、それが力を生み出すっていうのなら。
 ……その逆もあるんじゃないかな、って」

「それは……じゃあ、まさかっ!?」

希望と絶望の相転移。それが生み出すエネルギー。
それがエントロピーを凌駕し得るというのだとしたら。
そのエネルギーの発生は、恐らくエネルギー保存の法則さえも無視するのだろう。
だとすれば、エネルギーを生み出す行為と真逆の行為は何をもたらすのだろうか。
そのいずれもがベクトルを逆にしただけの、同じく強い感情の相転移なのだ。それは何を生み出すのだろう。

「全ての人類が希望を取り戻したわけじゃないから、その力はさっきと比べて全然弱いけど。
 けれど、それでも凄く大きな力が生み出されたんだよ。……私の魔法は、それを使っているみたいなんだ」

生み出されるのはやはり同じく膨大なエネルギー。
それを宇宙の延命に役立てるためのシステムは既になく、生み出されたエネルギーは
必然的に、まどかの身の内にはち切れんばかりに蓄えられていた。

「そっか……なんか、よくわからねぇけど凄いな。それでその力を使って今度は何をやる気なんだ、まどか?」

理解はできない。それでも、信じるには十分すぎた。
だから杏子は、きっとまどかが何かをしてくれるのだろうと信じた。
290 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/23(月) 02:47:02.60 ID:k9uXEPxw0
「多分、この力があればいろんな事ができると思う。マミさんや、他の魔法少女達を助けることができる。
 火星に住んでる人たちを、地球に避難させることだってできるかもしれない。
 でも……私には、この力でやらなくちゃいけないことがあるんだ」

そのいずれも、まどかの今の能力をもってすれば不可能なことではないのかもしれない。
この太陽系で今尚苦境に喘ぎ、バイドと戦う人々を助けるためにこの能力は確実にその力を発揮してくれるだろう。
けれど、まどかはそうしない。そうできない理由があった。

「大切な、とっても大切な友達を助けに行きたいんだ。
 その子は、とってもとっても遠いところで、今も一人で戦ってる。
 私は、その子を見捨ててなんて置けない。助けてあげたい。……だから、行くんだ」

「その友達ってのは、あんたが救えるかもしれない沢山の命やあたしと天秤にかけても
 それでも助けなけりゃならない、そういうものなのかい?」

まどかの決意は固い。けれどそれほどの希望が目の前にあって。
杏子はどうしても、それを問いかけずにはいられなかった。
その問いに、まどかは少しだけ躊躇って。それでも。

「……うん。あの子は、ずっと一人で戦ってたんだ。あの子を助けられるのは、私しか居ないから。
 それにね、きっとあの子を助けることが、人類皆を助けることに繋がるはずなんだ。
 ……だから私、行くね」

力強く、そう答えるのだった。

「やれやれ、あんたにそこまで思われてる子は随分と幸せもんだね。
 ……わかったよ。もともと何があろうと戦ってやるつもりだったんだ。
 行ってこいよ。あんたが帰ってくる場所は、あたしらが守っててやるよ」

そして杏子も、そんなまどかに力強く笑って答えた。
291 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/23(月) 02:47:41.71 ID:k9uXEPxw0
「貴女も見つけたのね。自分より大切な誰か。……本当に譲れない、戦う理由を」

気付けば、織莉子のヒュロスが隣に並んでいた。
かつて織莉子が見たまどかは、戦うことの意味を知らず、その苦痛を知らず。
ただ孤独に耐えかね、戦いという名の逃避を選ぼうとしていただけの少女だった。
けれどどうだろう、今こうして再び相見えることとなったまどかは、驚くほどの成長を遂げていたのだった。

「織莉子さん……うん、今なら分かる気がするんだ。あの時言われたことの意味。
 でもね、織莉子さん。もしかしたらもう織莉子さんも分かってるかも知れないけど。
 戦う先に未来がないなんてことはないんだ。戦って、勝ち取らなくちゃいけない未来だってあるんだよ」

それは、かつて戦う理由を問われた織莉子がまどかに答えた言葉。
“戦うことを選んだ時点で、その先に未来などありはしない。”
その言葉から時を経て、織莉子も戦いの先に描く未来を知った。
まどかもまた同じく、戦うことで勝ち取る未来をその胸に描いていたのだった。

「……ええ、今ならはっきりと言えるわ。あの時の私の言葉は間違っていた。
 だからまどかさん。あなたにもそれを証明してもらえるかしら。私達の未来を、一緒に作りましょう」

「おおっと!そんな素敵な未来なら、私のことを忘れてもらっちゃ困るな。
 当然織莉子の素敵な未来の側には、いつもいつでも私が居る。それで完璧素敵な未来だ。
 そうだろう、織莉子?……そして私は、そんな未来をキミ達とも見られたらいいと思うよ」

付け加えるようにそう言って、キリカは照れくさそうに笑った。

「うん、織莉子さん、キリカさん。……私、行ってくるね。
 皆が手にした希望を、絶望なんかで終わらせないために。皆が未来を勝ち取るために。
 そして、必ず帰ってくるから。……あの子と、スゥちゃんと一緒に」

そして、カーテンコールが再び光に包まれる。
今度はその光は膨らむことはなく、カーテンコールのみを包み込む。
かつてまどかの意志は、その能力は26次元の彼方、スゥの元へも届けられていた。
だからこそ、その場所にもまどかの存在は残されていた。
それを辿れば、転移することができる。

(行ってくるね、さやかちゃん)

昏々と眠り続け、一切の反応を見せないさやか。
その横顔を僅かに眺めて、そっと心の中で言葉を告げた。
292 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/23(月) 02:48:18.22 ID:k9uXEPxw0










そして、再び光は弾け。
カーテンコールは、太陽系から消失した。









293 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/04/23(月) 02:55:43.85 ID:k9uXEPxw0
希望→絶望→希望→絶望を繰り返せばいくらでもエネルギーを得られそうです。
ただまあ普通は、絶望を希望に変えることなんてできやしないのです。
それこそが奇跡とでも言えましょうか。

>>277
何かと革新的な技術を盛り込まれているのがカーテンコールなのです。
戦闘力という点ではラストダンサーには及びませんが、汎用性はかなりのものです。
これをベースに量産機を……作る余裕はありませんでしたけどね。

そしてキュゥべえではなく織莉子さんがあの言葉を言うことになりましたが。
それでも彼女ほど、運命の導き手としてふさわしい人物もおりますまい。

なんだかメタルアルカイザーさんが出てきそうですね。

>>278
結局盾にしようがすまいが、手放してしまうのはまさに運命だったわけです。
運命に抗う意志がキュゥべえにあれば、結果は変わっていたのでしょうが。

>>280
それが戦う力かどうかはさておき、とにかくまどかは力を得ました。
そしていよいよ二人は再会します。
果たして、スゥちゃんはまだ戦っているのでしょうか。
294 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/04/23(月) 12:42:16.08 ID:gvsl1YzDO
お疲れ様です!
太陽系と、ちょっとの異層次元内限定のヨグ=ソトース…その名もマド=カミサマ。
このSS内でも…全にして一、一にして全とか言われてたし…。

希望と明日を見つめ続ける少女、織莉子。

美しき魔法の輝き…魂の灯火よ…。

まど次元移動の移動中は、全てがまどかに包まれているんだろうか?だとしたら…スゥちゃん大歓喜だな!

始まりの場所から、終わりの場所へと…。ドラマチックですねぇ。

やっぱり女の子はみんな女優なんだな。

まどっち…そこで沈黙は洒落にならない気分だったぞ。

QBが果てれば、スゥちゃんへの妨害は無くなるのだろうか?


行ってらっしゃい、まどかちゃん。そして、必ず帰って来てくれよな。そうじゃなきゃ、あんまりだぜ…?
295 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/04/24(火) 21:42:45.76 ID:ZUfKRMneo
満身創痍のスゥ+ラスダンの元にまどか+カーテンコールか……
296 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/04/25(水) 00:27:26.47 ID:ypcOXIzO0
超展開に次ぐ超展開でお届けいたします。
流石に終わりが見えました。けど今月中の完結は厳しそうですね。

では投下しましょう。
297 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/25(水) 00:27:58.33 ID:ypcOXIzO0
英雄であることを望まれた少女は、戦い続けた。
人知れず、遥かな次元の彼方で。悪しき異星人に謀られ、その翼を引きちぎられて尚。
千切れた翼ももげよとばかりに、死に挑んで羽ばたき続けた。戦い続けた。

だが、それは最早無意味な抵抗。反撃に移る余裕などなく、ただ迫り来るフォースの間をすり抜け続ける。
そうしているうちにバイドは既に体勢を立て直し、砕けた外殻を修復してしまっていた。
ギガ波動砲の直撃すらも退けるそれは、先のフォースの暴走の攻撃のデータを既に学習し
その攻撃にすらも耐えうるほどの、更なる頑丈さを獲得していたのだった。

そんな更なる力を得たバイドに対して、抗う少女は余りにも無力。
力を振り絞り、魂を燃やし尽くし。その命の最後の一片までもを輝かせんばかりに飛び続ける。
けれどその身体には無数の傷が刻まれ、メインブースターも一基を残して沈黙している。
その姿は最早、動いているのが不思議なほどで。

まさにその状況が指し示すのは絶望。遠からぬ敗北と死。
けれど、少女は。

「……負けない、負けないっ!負け……なぃっ!!」

スゥは咆哮する。その意志は挫けることはなく、それはラストダンサーへと伝播する。
まだ抗う。それでも戦う。未来は分かりきっているはずなのに。
未来はもう、決まってしまったはずなのに。覆せるはずなどないのに。

きっとスゥ自身、希望を信じていたわけではないのだろう。
それでもただ、負けられない。負けたくないという思いだけが頭の中を埋め尽くす。
負けたくない。目の前の敵に、忌まわしき企みに。そして避けようもなく襲い来る、過酷なる運命に。

それはただの意地。けれど強く途切れざる意志。
きっとこの世界に本物の奇跡というものがあるとするのならば、それは。




そんな意志を、最期の最期まで貫き通し得た者の元に、舞い降りるものなのかもしれない。
298 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/25(水) 00:28:27.84 ID:ypcOXIzO0
カーテンコールは、鹿目まどかは遥かな距離を、23の次元を一足飛びに跳躍した。
そして、少女の戦場に。琥珀色の空間の只中に、その姿を現したのだった。

「R戦闘機……一体、誰が」

機体機能の低下に伴い、スゥの身体たるラストダンサーは感覚さえも衰えていた。
けれど、最新鋭の機器によってもたらされていたその感覚を補うほどにスゥの感覚は研ぎ澄まされていた。
その研ぎ澄まされた感覚は、その空間に新たに現れたR戦闘機の姿を、即座に知覚していた。
だから、続けざまに飛び込んできた声はスゥを驚愕させた。


「助けに来たよ、スゥちゃんっ!!」

「…………まどか?」

その声に、スゥは驚愕した。
何故ここにまどかがいるのか、それが理解できなかった。
その声に、スゥは困惑した。
こんなところにまどかが居るはずがないと、インキュベーターの手に落ちていたはずなのにと。
その声に、スゥは安堵した。
けれど、まどかは今ここにいる。聞き間違えるはずがない。
そしてその声に、スゥは憤慨した。
何故、まどかがR戦闘機に乗っているのかと。一体誰が、彼女をこんなところへ追いやったのかと。

「ぁ……っ」

そしてそんな激しい感情の大波は、容易に張り詰めていたスゥの心を乱した。
動きを止めたラストダンサーに迫り来るフォース。回避行動を取るも、その動きは哀れなほどに緩慢だった。
そしてフォースは、ラストダンサーの機体後部をごっそりと抉り取り。
ついにラストダンサーは、その身を保つ術の全てを失った。
火花を撒き散らし、爆炎と共に墜落していくラストダンサー。
熱に歪んだスゥの視界には、それでもまどかのカーテンコールが映し出されていた。

「こんなところで、終わり?……嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だッ!まどかが居るんだ!あそこにっ!!
 死にたくない、まどかっ!もう一度会いたい、触れたい。話したい……まどか、まどか…まどかぁぁぁっ!!」

叫ぶ。けれどその声を外部に伝える機能は、もうラストダンサーには残されていない。
湧き上がる炎に包まれ火だるまになりながら、ラストダンサーは琥珀色の湖面へと落ちていく。
299 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/25(水) 00:28:56.34 ID:ypcOXIzO0
そして、まどかは。

「っ!スゥちゃんっ!今、助けに行くからっ!!」

叫び、そして再びカーテンコールは光に包まれ消える。















そして、奇跡は起こった。















300 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/25(水) 00:29:23.93 ID:ypcOXIzO0
カーテンコールが消失したその刹那、炎の中に消えていくラストダンサーが光を放つ。
それは余りに眩く強く、あらゆるものを塗りつぶしていく光。
そしてその光の中心で、とても大きな力を宿した何かが一つ、力強く脈打った。

それは奇跡、されど必然。
まどかはスゥの元へと行こうとした。ただそれだけを考え、自らの魔法を行使した。
恐らくそれは、触れ合う距離よりももっと近く。完全なる同一座標上に、その身体を転移させた。
当然そこにはラストダンサーがいる。カーテンコールはラストダンサーに重なるように
まるで二つが一つの機体であるかのように、現れたのだった。
301 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/25(水) 00:30:06.72 ID:ypcOXIzO0
それは、先のアークでの出来事の最中。インキュベーターが思い至った一つの事実。
鹿目まどかの特異性。彼女の持つ能力は、余りに広大かつ強力。
それを自在に操るに足る精神は、とても人間という未熟な生物の枠には収まりきらないものだった。
そう確実に断ずることができるほどに、恐ろしい進化をまどかの精神は遂げていたのだった。
それほどの恐るべき進化が、突如として一個体に現れることなどあるだろうか。
可能性は0ではなかろう。それでもそれは、何らかの外的要因を疑わせずにはいられない。

考えれば、それはすぐにでも思い至る。
その能力に身体を精神を苛まれ、苦しんでいたまどか。
彼女を救ったのは、スゥの存在とその願い。
スゥに出会い、まどかの精神は均衡を取り戻し。そしてスゥが魔法少女となった願いによって
まどかの身体は、その能力を受け止めるに足るものへと変わった。

だとすれば、まどかにその恐るべき進化をもたらしたのは、スゥの願いに他ならない。
進化を促す願い。その願いが生み出す魔法とは何か。恐らくそれもまた、進化を促す力だったのだろう。
だが、その魔法いまだ発現することはなかった。だが、それも当然だった。
その願いは、まどかの為にあったのだから。その魔法も、まどかがいて初めて力を発揮するものだったのだ。

そして今、まどかがそこに現れた。
全てのR戦闘機のデータを内包したカーテンコールを携えて。
戦うために生み出された究極の力――ラストダンサー。
そして、ラストダンサーすら持ちえぬバイドの因子。それすらも飲み込み組み上げられた
人類の英知、そして狂気の結晶――カーテンコール。

その力をもってしても尚足らざる巨大な外的要因、そしてもたらされた更なる英知。
積み上げられた戦いの経験値。そして、進化を促す魔法。


そう、それは必然とも言うべき奇跡だったのだ。
302 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/25(水) 00:30:39.33 ID:ypcOXIzO0
光が薄れ、そこに佇んでいたのは一機のR戦闘機。
ラストダンサーではない、カーテンコールでもない。今までのR戦闘機とは、全く異なる姿をしていた。

「これ……は」

その機体の中で、驚いたように周囲を見渡しながらスゥは呟いた。

「スゥちゃんの機体と、私の機体が……一つになっちゃった」

そしてその声に答えて、まどかもまた呆然と呟いていた。

「っ!?まどか?……そこに、いるの?」

声が聞こえて、さらに驚きスゥが問う。

「うん、私はここにいる。きっと今は、スゥちゃんと一緒にいるはずなんだ。
 だからスゥちゃん、手を伸ばして。きっと届くから」

まどかは答え、言葉を返し。そして手を伸ばす。
それは現実には在らざる手。けれどまどかは手を伸ばす。
そして、スゥもその手を伸ばした。在らざる手と手は結ばれた。
303 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/25(水) 00:31:37.30 ID:ypcOXIzO0
「本当に……まどかを感じる。まどか……ぁぁ、まどかっ」




――次元を越えて差し伸べられた手と手は。




「私も感じるよ、スゥちゃんの手を。スゥちゃんの暖かさを。
 ……そこに居るんだね、スゥちゃん」




――もう放される事は無い。




「もう、絶対に離さない。絶対に」




――もう解ける事は無い。






それは、ラストダンサーがカーテンコールを取り込み進化した姿。
まさしく最終最後の、そして究極のRの姿がそこにあった。
304 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/25(水) 00:32:12.39 ID:ypcOXIzO0
手を握り合い、身を寄せ合い、生まれ変わった機体に二人の魂を宿す。
結ばれたその手が、そのまま操縦桿を握るイメージ。体中に、はち切れそうなほどの力が渦巻いていた。

「あの時から、ずっと考えてたんだ」

驚いた様に動きを止めていたバイドが、その活動を再開した。
再び吐き出されるフォース。それを尻目にまどかは囁く。

「私は、このまま守られ続けてるだけでいいのかなって。
 マミさんやさやかちゃん、ほむらちゃんや杏子ちゃんに、スゥちゃんにも。
 私は、守られてるだけでいいのかな、って。考えて、考えて……そして分かったんだ」

動かない二人に、フォースが再び降り注ぐ。
それを真っ直ぐ見据え、まどかは力強くそう告げた。

「未来は、希望は、皆で一緒に掴むものなんだ!
 だからもう、スゥちゃん一人を戦わせたりしない。私も……一緒に戦うからっ!!」

言葉と同時に、二人の機体が掻き消えた。
次の瞬間、離れた場所へと転移している。
まどかの魔法は、その身体を新たな機体としてさえも尚、その力を誇っていた。
305 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/25(水) 00:32:42.96 ID:ypcOXIzO0
「……まどか」

涙が零れてしまいそうだった。胸がいっぱいだった。
涙を零す瞳など無いのに、視界は何かで揺らいでいた。
ずっと一人で辛かった、誰かに一緒にいて欲しかった。
この辛さを、生きる事、戦う事の苦痛を分かち合える、仲間が欲しかった。
それが最高の形で叶った喜びが、スゥの胸中を埋め尽くしていた。

「行こう、今ここで、全てを終わらせようよ!」

そんなスゥに、まどかは力強くも優しく促した。
どこか笑ってもいるような、そんなまどかの姿に導かれるようにして。

「行こう、まどか。これで終わりにするんだ。今度こそっ!」

スゥもまた、力強く決意の言葉を放ち、そして。

「もう一度だけ力を貸して。ラストダンサー……いいえ」

僅かな、ほんの僅かな沈黙の後に。





「――グランドフィナーレっ!!」



 

それは、まさしく終焉を告げるもの。
人とバイドの戦いの歴史に終止符を討つもの。
その終わりの姿の望むべき形が、そのまま機体の名前となった。
そう、願わくば最高の大団円を……と。

そして今、誰一人知らぬこの次元の彼方で。
人類の未来を賭けた、最後の最大の戦いが、始まろうとしていた。
306 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/04/25(水) 00:35:38.75 ID:ypcOXIzO0
要するにスゥちゃんの魔法はゲッター線だったわけです。

>>294
まあ、まだ神様じゃないのですけどね。
随分と途方もない魔法を使う魔法少女というだけで。

そして結局、まどかは修学旅行の目的地にたどり着くことはありませんでした。
それでも、修学旅行よりもずっとずっと多くの経験をしたことでしょう。
随分と成長してしまったものです、本当に。

>>295
そしていよいよ登場グランドフィナーレです。
完全に人類の手を離れたR戦闘機ということになってしまいました。
なんにせよ、本当の戦いはこれからです。
307 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/04/25(水) 01:09:21.57 ID:sUxCQ14uo
乙。
ついに最後のR戦闘機ですか。
しかも2人乗りで精神コマンドもお得ですね。

バイドコアを蹴散らして、FinalStageC突入だ!
308 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/25(水) 02:43:04.47 ID:m0nG72GJo
ついにグランドフィナーレが来たか。
309 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/25(水) 09:27:18.14 ID:CBWAKjjDO
お疲れ様です!
孤独に耐え続けた英雄に、遂に報われる時が訪れた!奇跡と奇跡が一つとなり、無限の如き力を得た。その力で、二人の望む結末を手にする事が出来るのか!?

とてつもなく強力な奇跡の輝きは周囲を満たしたが、砕かれた二つの魂は、どうなるのだろうか…?

ゲッター線ww分かりやすいけどww微妙に不安になるww

マド=カミサマは…一番語呂が良かったのでこうなりました。

“まだ”神様じゃない…?まさか?

まどかは>>1が育てた。
310 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/04/25(水) 18:29:38.54 ID:Ww8i2RSxo
ラストダンサーとカーテンコールがバロムクロスでジョグレス進化してグランドフィナーレになって
スゥまど2つのSGでツインドライブしてトランザムしてた

何を言ってるのか(ry
311 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/04/26(木) 00:28:29.38 ID:dJeL8/SYo
>>310
メガ波動砲くらいなら連射してくれそうだな。
312 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/04/27(金) 22:13:56.46 ID:6LJg6SVs0
クライマックスですね。
今月中にこの話は終わらせたいところですが。

さて、投下しましょう。
313 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/27(金) 22:15:41.22 ID:6LJg6SVs0
波動砲のチャージを開始。グランドフィナーレが、バイドへ向けて突き進む。
行く手を阻むフォースの群れ。次々に吐き出され、グランドフィナーレを叩き落そうと迫る。
その悉くをすり抜けるようにして、速度を落とすことなく突き進む。

だが、追い詰められたバイドもまた、その抵抗を諦めるつもりはないらしい。
琥珀色の液面から、グランドフィナーレの侵攻を阻むかのように何かが突き出してきた。
それは巨大な塊。無数の機械が寄り集まってできた壁。
それがそのまま、グランドフィナーレを押し潰そうと押し寄せる。
これほどの巨大な物質を生み出す能力さえも備えていたのか、ほんの僅かに驚愕した。
だが、それでもグランドフィナーレを止めることはできない。

「まどか。お願い」

「任せて、スゥちゃんっ!」

そして、機械の塊がグランドフィナーレの存在していた空間を押し潰す。
それが通り過ぎていった後、まどかの魔法が転移させたグランドフィナーレが
再びその姿を現し、バイドへと向けて突き進んでいく。

グランドフィナーレの性能と、スゥの卓越した技量。
そして更に緊急回避的に用いられるまどかの魔法が合わさり、最早彼女達を止められるものは何も無い。
そしてグランドフィナーレは悠々と波動砲のチャージを完了させ、バイドへ向けて打ち放った。

放たれるのは光の奔流。最大最強のギガ波動砲。
波動砲そのものが強化されたわけではなかったが、それでもグランドフィナーレは
ギガ波動砲の最大の弱点たる長大なチャージ時間を短縮させ、通常の波動砲程度までそれを縮める事に成功していた。
314 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/27(金) 22:17:25.06 ID:6LJg6SVs0
だが、その威力はギガ波動砲のそれと変わらない。
つまりは、激しい光の奔流を受けて尚、バイドは傷一つ負うことなく健在であった。

「やはり……駄目ね」

そしてそれは、スゥにとっては予想の範疇。
先ほどバイドの装甲を破った時とて、フォースのエネルギーを最大開放し、更にギガ波動砲のフルチャージをあわせて
それでどうにか破ることができたのである。ギガ波動砲が通用しないことは十分に予想していた。
だとすればどうするか。

「もう一回、試してみようよ。スゥちゃん」

「何かいい手があるの?まどか」

「うん。大丈夫、きっと上手くいくから。だから、私に任せてくれないかな」

戦いの場に臨み、まどかは自らの力をどう使うべきかを考える。
最早そこには、無力に嘆き、戦いを恐れていた少女の姿は欠片もなかった。
そんなまどかが、今や頼もしくすらも感じられるスゥだった。

「わかったよ、まどか。タイミングはまどかに合わせるから!」

スゥはまどかに力強く答え、再びバイドへと肉薄する。
迎撃は更に苛烈になり、ついには生み出されたバイドがそのままグランドフィナーレに襲い来る。
迫り来るフォースが逃げ場を奪い、その隙を縫ってバイド群が生み出す弾幕がグランドフィナーレに降り注ぐ。
だが、それすらも無意味。

ほんの僅か、機体一つ分の隙間を見つけてはそこに機体を滑り込ませ。
時には放たれるフォースすら盾にして、グランドフィナーレは飛び続けた。
どれほど濃密な弾幕も、どれほど大量の敵でさえも、それを止めることはできないのだ。
315 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/27(金) 22:17:52.89 ID:6LJg6SVs0
「どうしてかな。こんなに敵だらけで、すごく怖いはずなのに。
 ……今、すごく嬉しいんだ。私」

ほんの少しの戸惑いと、隠しきれない喜びをその言葉に滲ませて、まどかが言った。
その思いはきっと、自分が感じているものと同じなんだろうとスゥは思った。

「私も、まどかと一緒に居られることが嬉しい。一緒に戦えるのが嬉しい。
 まどか……もう、絶対にこの手は離さないから」

それは在らざる手と手。けれど固く強く結ばれた手と手。
その繋がりが、確かに強く感じられて。それだけでいくらでも羽ばたくことができる。
いくらでも、身体に力が湧いてくる。
全身に漲るこの全能感は、それが決して過信ではないことを教えてくれる。

「波動砲チャージ完了、いつでも行けるよ。まどか」

「私もいつでも大丈夫だから。行こう、スゥちゃんっ!」

どちらとも知れず頷きあって、そして。

「食らえ……っ!」

カーテンコールが光を放つ。
その光がそのまま機首へと収束し、そして。
放たれるはずであったギガ波動砲の光は放たれず。収束したその光も掻き消えた。
次の瞬間。

脈打ちながらバイドを吐き出し続けていたその心臓が、更に激しい光に包まれた。
脈打ちも更に激しくなり、それはまるで苦しんでいるかのようだった。
316 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/27(金) 22:18:49.76 ID:6LJg6SVs0
「一体何が……まさか、まどか?」

「きっとあのバイドは、外からの攻撃は全然通用しないんよね。
 だから中から攻撃したら、効果があるんじゃないかなって思ったんだ」

そう、まどかの能力は機体にのみ発揮されるものではなかった。
放たれようとするギガ波動砲を、解放されて荒れ狂う力そのものを直接バイドの体内へと転移させていた。
原理で言えば、それは炸裂波動砲に近いものであっただろう。
バイドによる空間干渉さえもものともしないまどかの魔法は、その上位互換とも言えた。

いかなその装甲が強力だとは言え、それが守るものまでもがそうかと言えば、違う。
逃げ場のない閉鎖空間内で荒れ狂うエネルギーは、長時間に渡りバイドにダメージを与え続けた。

「効いてるわ。……これなら、勝てるっ!
 でもまどか、貴女は大丈夫なの……魔法は」

勝機を目前に、スゥの思考に一抹の不安が宿る。
魔法少女の魔法がいかなるものか、それを使いすぎたときに辿る末路がなんであるのか。
スゥもそれを知っていた。まどかは絶対にそうさせるわけには行かなかった。

「……大丈夫だよ」

まどかの力の源は、人類の絶望から希望への相転移によって生まれたエネルギー。
それは確かに膨大なものではあったけれど、26次元への転移もまた多くのエネルギーを必要としていた。
恐らく、そうして生み出された力は全て使い切ってしまったのだろう。
となれば後は、まどか本人が持てる力でバイドに立ち向かうしかなかった。
今すぐどうなるとは思わない。けれど、そういつまでも戦い続けられるものでもないだろう。

「私なら大丈夫だから。今はバイドをっ!」

「どっちにしても、急いで片付けないと。……もう一撃、次で決めるわ」

「任せて、私はいつでもいけるからっ!」

なんにせよ今、バイドにダメージを与える術はこれしか考えられない。
そしていかなバイドが強大であれど、逃げ場のない空間で荒れ狂うギガ波動砲に
そう何発も耐えられるはずなどない。今度こそ終わらせるのだと覚悟を決めた。
317 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/27(金) 22:19:40.16 ID:6LJg6SVs0
ギガ波動砲のチャージを再度開始する。
敵もダメージは大きいらしく、バイドやフォースの生産が停止している。
絶好の好機。今度こそ、これで全てを終わらせることができる。

バイドとの戦いに終止符を。
全ての人類に、平和な未来と希望を。
そしてせめて、戦い抜いた少女達にささやかな平穏を。
願いを乗せた引き金を、二人のその手を重ねて握る。
狙いを定め、引き絞る。

「これで……」

「終わりだよっ!」

再び輝くグランドフィナーレ。そして放たれたギガ波動砲。
直接中枢にその一撃を叩き込まれ、異形の心臓が激しく明滅する。そして、ついにそれが弾けた。
異形の心臓が纏う光は途切れ、堅牢であった装甲にも次々にひびが入っていく。
ひび割れた隙間から、荒れ狂うエネルギーの奔流があふれ出していた。

そして、ついに。

激しい光を全身から撒き散らしながら、異形の心臓を抱えた大樹が弾け飛ぶ。
高まる内圧に耐えかね、粉々に砕け散っていった。
318 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/27(金) 22:20:17.39 ID:6LJg6SVs0
「……終わったの、かな」

砕けた破片が、次々に琥珀の液面に散らばっていく。
その光景を見つめながら、呆然とまどかは呟いた。
思いがけなく呆気ないと、ちょっとだけそんな風にも考えながら。
そう、事実バイドという敵はそこまで甘くはない。
そのことを、スゥはしっかりとその心に焼き付けていた。

「バイド反応増大……まだ終わりじゃない、まどか!気をつけてっ!!」

言葉と同時に、琥珀色の液面が揺らぐ。
その液面を突き破り、現れたのはバイドの大樹。
先ほどと変わらぬ姿、変わらぬ異形でもって、再びグランドフィナーレの前に立ちふさがった。

「そんな……確かに倒したはずなのに!」

「きっと再生したのね。さすがバイドの中枢。まさかこれほどの再生能力を持っているなんて」

まさしくそれは恐ろしいまでの再生能力。
打ち砕かれ、完全に粉砕されたはずのその大樹がすぐさま復活を遂げている。

「どうしよう、スゥちゃん。何回でも倒せばいいのかな……でも」

持久戦を挑むには、この方法は余りにも消費が大きすぎた。
グランドフィナーレ自体は問題ないだろう。けれど、まどかの魔力は有限なのだ。

「それじゃ無理だと思うよ、まどか。あいつはきっと、この空間そのものからエネルギーを取り込んでる。
 そして、自分さえも再生させている。だとしたら……その元を断つしかない」

今まで繰り返してきた戦いから、スゥは一つの推測を得ていた。
恐らくこの琥珀色の液体は、バイドにとっての重要なエネルギー源なのだろう。
それを取り込むことであのバイドは、バイドの生産や自らの再生を為しえている。
それを遮るためにはどうするべきか。そのエネルギー源自体を断ち切るしかない。

すなわち、破壊しなければならないのはこの空間そのものなのだ。
319 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/27(金) 22:20:44.21 ID:6LJg6SVs0
「……じゃあ、私は何をしたらいいの、スゥちゃん」

スゥは、ほんの少しだけ考える。
グランドフィナーレが持つ可能性を、そしてまどかのことを。
まどかを危険に晒したくはない。けれど、それでもまどかは戦うと言ってくれたのだ。
一緒に戦ってくれるのだと。だから、それを信じようと思った。

「最低限の機体維持以外の全てのエネルギーを、波動砲ユニットに回す。
 グランドフィナーレの全エネルギーを放出して、この空間に叩き込んでやるの」

実際問題、どれほどの余剰エネルギーがあろうとも、ギガ波動砲というデバイスの限界を超えて
多量のエネルギーを放出することは難しい。というよりも不可能だ。
だが、その不可能を可能にする術ならばこの手の中にある。

「だからまどかは、その間グランドフィナーレを守っていて欲しいの。
 多分、ほとんど身動きが取れなくなると思うから。……大丈夫かな、まどかは」

ためらいがちに尋ねたスゥに、まどかは力強く応えるのだった。

「任せてよ!絶対に、スゥちゃんを守り抜いてみせるから」

自分はもう無力ではないと、できることがあるのだと。
自分のこの手で、大切な人を守ることができるのだと。そんな自信に満ちた声で。
そんなまどかの声に、スゥは自らを恥じた。
今のまどかは、守ってもらわなければならないただの女の子ではないのだと。
今のまどかは、命を共にし戦いあう戦友なのだということを、実感した。
320 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/27(金) 22:22:01.45 ID:6LJg6SVs0
「ありがとう、まどか。……ねぇ、まどか」

そんなまどかの力強い姿に、スゥの胸がどきりと跳ねた。
鋼の機体に宿した心臓が、その鼓動が一つ、上がったような気がして。
溢れ出る感情を、抑えることができなくなった。
在らざるものの、それでも繋がるその手の暖かさが、胸の内に染み入って。
戦いの最中だというのに、スゥはもう、そうせずにはいられなかった。
きっとその思いは、まどかとの再会を果たしたそのときからずっと、はち切れそうに膨らんでいたのだ。

それが今、胸中を埋め尽くした思いが、溢れ出してしまった。

「こんなこと言ったら、変だって思われるかもしれない。でも、抑えきれないんだ。
 好きなの。……まどかのことが、大好き」

胸の中に宿った小さな思い。打ち明けることもなく、理解されることもないであろう小さな思い。
けれどそれは、長い別離の時を経て、どんどんとスゥの中で大きくなっていった。
会えないからこそ会いたくて、会えないからこそ恋焦がれて。
その思い、どこまでも途絶えることがなくて、今。スゥの心から溢れ出してしまった。
それはそのまま口をつき、素直な言葉になって表れた。

「助けに来てくれて、会いに来てくれて……本当に、本当に嬉しかったの」

きっとその瞳からは、ぽろぽろと涙が零れていたことだろう。
それを知ってか知らずか、その涙を拭う手があった。
その手は優しくて柔らかくて、そして暖かかった。スゥはその手を知っていた。
それはまどかの手であった。
触れ合うほどに近しい魂だからこそ、在らざるその手は在らざる者に。
スゥの心に触れることができていた。
321 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/27(金) 22:22:34.81 ID:6LJg6SVs0
「嬉しいな、スゥちゃんがそんな風に思っててくれたなんて。
 ……スゥちゃんはね、みんなの英雄になるより前に、わたしの英雄だったんだよ」

仲間の死に、親友との離別に、失われた光に、世界の全てがまどかを打ちのめし、その心が壊れてしまいそうなとき。
スゥはそんなまどかを助けてくれた。壊れかけた心を支えてくれた。
迫り来る悪魔の手から、まどかを守ってくれた。その世界に再び光を取り戻してくれた。
まさしくスゥは、まどかにとっての英雄だったのだ。

「だから私は……もしかしたら、そんなスゥちゃんに一目惚れしちゃったのかもしれないな。
 ……大好きだよ、スゥちゃん」

照れくさそうに、けれど嬉しそうにまどかは笑った。
そして、スゥの手にその手をそっと重ねて。一つになるほどに近く、その魂を触れ合わせて。

「行こうよ、スゥちゃん。それで、さ。……帰ったらデート、しよ?」

「えっ!?……ぁ、ぇと」

悪戯っぽく言うまどか。スゥはすっかり呆気にとられて。けれど、それでも。

「………うん」

嬉しげに、けれど泣いているかのように、スゥは小さく頷くのだった。
322 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/27(金) 22:38:10.96 ID:6LJg6SVs0
そして本当の意味での二人の戦いがいよいよ始まろうとしています。

>>307
スゥ:集中 直感 加速 熱血 鉄壁 覚醒
まどか:祝福 応援 信頼 友情 奇跡 補給

こんな具合で一つ。
スゥちゃんはともかくまどかちゃんが恐ろしい精神コマンドしてますね。

>>308
いろんな意味で最後の機体です。
TEAM R-TYPEにとっては喉から手が出るほど欲しい機体だと思います。

>>309
ありとあらゆる力が一つになって生まれた、本当の奇跡という奴です。
バイドとの戦いもいよいよもって佳境。最後の希望を掴むのは一体誰なのでしょう。

そして思いがけなく長い旅になりました。
どの登場人物達も皆、いろいろな形で成長を遂げてくれました。

>>310
大体そんな感じだからなんとも言えません。
おまけに気がつくとギガ波動砲がスタンダード波動砲クラスのチャージ時間でぶっぱするようになりました。
冗談抜きでバケモノです。対峙する相手もまた、バケモノなのです。

>>311
残念、ギガ波動砲でしたっ。
323 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/28(土) 07:41:59.77 ID:0h6JvUBDO
お疲れ様です!
転送直撃ギガ波動砲とか…まどっちまじパねぇ。

まどっちもパねぇけどバイドの樹もパなかった。復活してくるとか…こんなのゲームじゃ絶対勝てない…。

紛う事なき百合…ごちそうさまでした。

デートとか…フラグってやつじゃないんですか?それは…。
324 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/28(土) 12:24:36.30 ID:BzVxWlTDO
ギガ波動砲ですの
325 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/04/28(土) 18:43:56.18 ID:FzC6G+GYo
バイド樹はバイオリレーションの影響下にあるのか……(違
326 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/04/29(日) 00:24:47.60 ID:SbSAdX8/0
決着です。

では、行きましょう。
327 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/29(日) 00:26:32.13 ID:SbSAdX8/0
「来るよ、まどかっ!!」

「任せて、スゥちゃんっ!!」

ついにバイドが完全なる再生を遂げる。
敗北から学び、バイドは更に凶悪なる進化を遂げていた。
無数のフォースを、バイドを生み出し。更にはその身体からも無数のレーザーが放たれた。
それは有機的に、ランダムに枝分かれしグランドフィナーレに迫る。
更に苛烈さを増すその攻勢。けれど、最早それは何の意味も持たなかった。
最早、グランドフィナーレは攻撃を回避するつもりもないのだから。

「3番以降の全バイパスを波動砲ユニットへ直結。波動砲ユニット、全リミッター解除」

膨大なエネルギーを生み出し続けるグランドフィナーレの全機関が唸りをあげる。
そのエネルギーの大部分が、波動砲ユニットへと注ぎ込まれる。
膨大すぎるエネルギー、それを一点に注がれグランドフィナーレが唸りをあげる。
激しく振動する機体。それを制御するための余力すらも波動砲ユニットへと注ぎ込まれていた。

グランドフィナーレは、完全に動きを止めていた。
敵の攻撃を回避する術は、全く持って存在していなかった。
けれど何も問題はない。まどかの魔法が、それを可能としていた。

グランドフィナーレが発光し、その光が広がり球となる。
そうして生まれた球体へと、空間ごと埋め尽くすかのような攻撃が降り注ぎ。


その全てが、まるでそこに何も無かったかのようにその空間を通り過ぎていった。
その後には、変わらず光球と化したグランドフィナーレの姿があった。
328 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/29(日) 00:27:11.09 ID:SbSAdX8/0
まどかの魔法が生み出したその光球、それに与えられた役割はたった一つ。
それに触れる全てのものを、球の向こうへと転移させる。
それはすなわち、まどかの魔力が持つ限りいかな攻撃もいかな干渉も、グランドフィナーレには届かない。
全てを受け流す絶対なる守護の方陣。それが、押し寄せるバイドの攻撃の全てを無効化していた。

「すごい力……でも、大丈夫なの、まどか?」

「大丈夫だよ、信じて。……それに、私の心配をするなら、早くバイドをやっつけちゃおうよ!」

どうしてもスゥはまどかを心配してしまう。
心配しなくてもいいようにするためには、やはりバイドを倒してしまうしかないのだ。

「……そうだね。まどか、もう少しだけ頑張って!」

覚悟を決めた。スゥは更なる力を波動砲ユニットへと注ぎ込む。
内側で荒れ狂い、解放される時を待ち望むその力。それが更に激しく機体を揺さぶり続けた。

小規模な爆発が起こる。それはグランドフィナーレの内部から。
制御可能な領域を超えたエネルギーに、ギガ波動砲のデバイスがオーバーロードしている。
制御を失ったエネルギーは、ついにグランドフィナーレそのものに牙を剥く。

「く……ぅ、暴れ、ないでっ……っ!」

必死に機体を制御する。けれどその為のエネルギーすらも波動砲ユニットに回されている。
ろくに制御することもできず、衝撃に翻弄されてふらふらと飛び交うグランドフィナーレ。
ただそれでも、まだまどかの魔法がその身を守ってくれている。
それ故に、グランドフィナーレは一切の制御を失って尚、健在であった。
329 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/29(日) 00:27:44.01 ID:SbSAdX8/0
「やっぱりダメなの……このままの波動砲デバイスじゃあ、グランドフィナーレの全力に対応できない」

焦燥を滲ませ、スゥが言葉を放つ。
人類が持ちうる最強の波動砲。それを制御するためのデバイスでさえも
グランドフィナーレが持つ、余りにも強大すぎるエネルギーを制御することはできずにいた。

波動砲のチャージを示すゲージは、既に最大容量を突破していることを告げている。
それでも尚止むことなく注がれ続けるエネルギーに、激しい振動と明滅を繰り返す。
そしてついには、ゲージにひびが入り始めた。
このまま完全に砕けてしまえば、波動エネルギーの一切の制御が失われてしまう。
これだけ膨大なエネルギーが制御を失ってしまえば、確実に暴走する。

「いっそ暴走させて奴ごと道連れに……ううん、それじゃあ私達だって死んでしまう。
 それに、それで倒しきれるとも限らない……っ」

どれほど足掻いても、どれほど悩んでも事態は好転しない。
その為の手段は、今のグランドフィナーレには存在していないのだ。
だからどれほど手を尽くしても、今のままでは無為なこと。

「……もう一度、試してやる」

その不条理を無理やりにでも押し通す力を、少女達は持っていた。
それは魔法と呼ばれた力。条理に寄らない事象を引き起こす、力。

けれどそれだけではなかった。人類の怒りと憎しみと絶望が、それに駆り立てられて生み出された英知が。
余りにも最悪な復讐のための刃を、グランドフィナーレに用意していたのだった。
330 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/29(日) 00:28:20.04 ID:SbSAdX8/0
「これは……何か、プログラムが……」

起動するプログラム。それは、遍くR戦闘機の根幹に組み込まれていたものだった。
少女達の脳裏に浮かぶ、プログラムの起動文。

―――F-W-C mode Activate―――

「何だ、これは……一体、何がっ!?」

困惑するスゥ、けれどそれを尻目に走り出したプログラムは即座にグランドフィナーレに浸透していく。
今にも暴走しそうなエネルギー。それを生み出し続ける機関が更に唸りを上げる。
まさしく暴走としか言えないほどに膨大に、がむしゃらにその機関はエネルギーを生み出し始めた。
間違いなくこれほどのエネルギーに、グランドフィナーレの機体は耐えられない。

―――Final Wave Canon Ready―――

「ファイナル……ウェーブ、キャノン?」

浮かび上がった文字を、不思議そうにまどかが読み上げた。
機体の根幹に埋め込まれたロックが解除され、ファイナルウェーブキャノンの、最終波動砲の封印が解除された。
封印が解かれたことにより、その詳細情報が明らかになる。
それはまさしく、驚愕するより他に無い事実であった。

最終波動砲。それは波動砲デバイスが損傷したR戦闘機に残された、まさしく最後の波動砲。
けれどそれは、波動砲と銘打ってはいるものの、その実情はまるで違う。
全機関から最大限のエネルギーを発生させ、それをそのまま機体内部で波動エネルギーの炸裂という形で出力する。
それに伴い、機体は対象となる敵へと突撃し、機体そのものを波動砲と化して敵を粉砕する。

まさしくそれは、兵士に突攻を強いる悪夢の兵器。
そんなものが全てのR戦闘機の根幹に設定されている。
その事実の恐ろしさにスゥは戦慄した。
R戦闘機はそれほどまでに、敵を殲滅するための兵器として完成されていたのだ。
331 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/29(日) 00:28:50.87 ID:SbSAdX8/0
「って!このままじゃあ私達、あいつ突っ込んじゃうってこと!?」

「そうなるわ。……このままじゃ、良くて相打ちじゃない」

そんな事実は認められない。認めていいはずがない。
それでもグランドフィナーレは敵と認めたバイドへと機首を向け、自身を波動砲と化して突き進む。
機体の制御は失われている。そしてまどかの防御も健在。
結果として何一つグランドフィナーレを阻むものはなく、最後の時を迎えようとしていた。

「そんなこと……させないっ!!」

そして、まどかはそれを拒んだ。
光が弾け、グランドフィナーレの姿が消える。
次の瞬間には、再び離れた場所へとその姿が出現していた。
だが、しかし。再びグランドフィナーレは敵を認めて突き進む。
このままでは同じことの繰り返しである。

「くっ……スゥちゃん、お願いっ!」

まどかの力では、訪れる最後を引き伸ばすことしかできない。
だからまどかはスゥを頼った。きっとどうにかしてくれると、そう信じていたから。

「ええ、やってみるわ」

そしてスゥは、全人類の、そしてまどかだけの英雄は、その言葉に答えた。

「これがわたしの魔法なら……もう一度、わたしに力を貸してっ!
 あいつを倒す為の力を、まどかと一緒に生きていく為の、力をっ!!」

強い意志を込めて願う。その願いは、意志は、再び彼女の魔法を発現させた。
その魔法が導くのは、進化。窮地を好機に変え、困難を乗り越える為の、力。
332 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/29(日) 00:29:17.32 ID:SbSAdX8/0
まどかの魔法が輝くグランドフィナーレに、更なる光が加わった。
それは黒く艶のある輝きで、グランドフィナーレを包み込む。
それは闇にも似た光。そんな漆黒の繭の中で、グランドフィナーレは更なる進化を遂げていく。
その身が宿した膨大なエネルギーを、暴走しているプログラムを。
全てを飲み込み、あるべき形へと進化していく。

そしてついに漆黒の繭が割け、新たなる力を得たグランドフィナーレがその姿を現した。

「……やはり、消耗が激しい」

その機体の中で、スゥは苦々しく呟いた。
進化を促す魔法。それはやはり、スゥにとっては大きな負担となっていた。
二度の魔法の行使の後、そのソウルジェムには多量の穢れが溜め込まれてしまった。
恐らく、これ以上魔法を行使することはできない。
これで決めるしかない。

「すぅ………うんっ!」

ゆっくりと息を吸い、何かを自分の中に取り込んでいく。
そして、スゥは覚悟を決めた。

「これで本当に、最後の最後。……まどか、一緒に飛ぼう!」

再びその手は差し伸べられて、まどかはその手を強く握った。

「うん、一緒に世界を救おうよ、スゥちゃんっ!」

そして、グランドフィナーレは動き出す。
333 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/29(日) 00:29:50.00 ID:SbSAdX8/0
暴走する最終波動砲のプログラムは改変され、スゥは機体の制御を取り戻していた。
けれどそのプログラムは消失したわけではなかった。あるべき姿へと、進化を遂げていただけで。
それは真なる最終波動砲。そのデバイスは、ギガ波動砲のそれよりも遥かに多くのエネルギーの制御を可能としていた。
更には今討つべき目標、この空間そのものを破壊できるように、その攻撃範囲もまた広大だった。
目に見える空間のみではなく、それに隣接する異層次元にまでも破壊の嵐を巻き起こす。
ついに誕生した、これこそまさしく最終最後の波動砲であった。

最終波動砲は、機体の物質としての限界さえも超えたエネルギーを放出させる。
間違いなく、撃てるのは一発が限度。この一撃で、全てが決まる。

そして自らに終焉をもたらし得るものの存在に、バイドも気付いてしまったのだろうか。
発狂したかのように、無数のレーザーやバイドやフォースをばら撒いてきた。
その姿はまるで、何かを恐れているようにも見えて。
けれど、それは全てグランドフィナーレの機動に、まどかの魔法に遮られる。

「恐ろしいかしら、バイド?これはわたし達がお前達に与えられ続けてきた恐怖よ。
 その恐怖の重さを知れ、その罪深さを知れ。お前は今、その報いを受けるんだ!」

「これは私達の希望と絶望が生み出した力なんだ。あなた達バイドが人類に与えた絶望が
 それでも必死に抗い続けた人類が苦しい戦いの果てに見つけた希望が、全てを終わらせるんだっ!」

最早、躊躇うことなど何も無い。
ただありったけの力と意志を込めて、撃つ。

「「最終波動砲……発射っ!!」」
334 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/29(日) 00:30:47.86 ID:SbSAdX8/0
放たれたそれは、まるで一つの太陽のように眩く輝いた。
そして突き進み、その進行上にあったバイドを一瞬の内に消滅させるのだった。
更にその暴威は留まらず続き、炸裂し無数の光の雨を降らせた。
その雨は琥珀色の海に降り注ぎ、海が沸き立ち蒸発していく。
全てを消滅させる破壊の雨が、とめどなく世界に降り注ぎ、全てを壊して掻き消していく。
それはまさしく、この世の地獄とも言えるような光景だった。

そしてその威力に、バイドの中枢たる、バイドそのものたるその空間はついに消滅を始めた。
裂けてゆく空、砕けていく世界。その隙間からは星空が見える。
最早バイドにもその空間を維持する能力はなく、その空間に蓄えられていた大量のエネルギーが解放されていく。
それは空間の消失と同時に解放され、凄絶なる破壊をばら撒くだろう。

そしてそれでもまだ、最終波動砲の威力は衰えることを知らずに荒れ狂う。
ついに解放されたバイドの空間に蓄えられたエネルギーと、最終波動砲のエネルギーが混ざり合い
琥珀色の海を、そこに存在するあらゆるものを薙ぎ払って、原子一つ残さず消滅させていく。
恐らくこの宇宙の歴史上、類を見ない規模のエネルギーの放出。
その全てが過ぎ去り、全てが通常空間へと帰還したその時。そこには何も残されてはいなかった。


バイドも、グランドフィナーレも、何一つ残されてはいなかったのである。
335 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/04/29(日) 00:33:44.67 ID:SbSAdX8/0
BYEBYE BYDE!

>>323
冗談なく酷い兵器でしたが、バイドもバイドで大概でした。
それでもとうとう、バイドとの決着が……ついたのでしょうか。

そしてなんだかんだでくっついちゃった二人です。
果たして、無事にデートにこぎつけるのでしょうか。

>>324
そしてついに最終波動砲も発動とあいなりました。
まあ、なんだかうっかりと外道兵器に成り下がってたりもしましたが。

>>325
バイドですからね、そりゃあ再生くらいしますとも。
336 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(滋賀県) [sage]:2012/04/29(日) 00:36:18.35 ID:9H2/cGO3o
NGシーン集があればファイナル波動砲の射線上に地球があってBADENDで苦笑いだな
337 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/29(日) 09:05:43.48 ID:biBQmTaDO
二人とも…いない。
338 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/04/29(日) 19:39:37.34 ID:10FrrYJYo
テラワロス砲ならぬファイナル波動砲、炸裂
果たして人類の未来を奪還できたのか?!
339 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/05/01(火) 00:38:34.35 ID:FBqFyGYQ0
バイド無き世界、最後の話を始めましょう。

では、投下します。
340 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/01(火) 00:39:18.61 ID:FBqFyGYQ0
太陽系のいたるところで、人類の必死の抵抗は続いていた。
この戦いにおいて散った者達が、願いによって帰還したとは言え
それでも本格的に太陽系内へと侵入し、既に増殖を開始していたバイドとの戦力差は覆しがたく
人類の敗北はそう遠くない未来として、誰しもの脳裏に浮かんでいた。
それでも、人類は決して諦めはしない。
最後まで戦いぬくと願ったのだから、その願いと引き換えに、再び戦う力を得たのだから。

それは、あるいは呪いにも似て。

けれどそうして戦い続けていたからこそ、人類はその瞬間を迎えることができた。
長きに渡って人類を苦しめ続けたバイドとの、決着の瞬間を。


それに最初に気付いたのは、きっと名もなき兵士だったのだろう。
群れを成し、全てを押し潰さんとばかりに迫るバイドの群れ。
必死に戦い、多くの仲間達が散っていった。最早残るは彼一人。それでも彼は立ち向かった。
けれど現実はかくも過酷、ついには彼の機体はバイドの凶刃によって貫かれ、その動きを停止した。
後は蹂躙され、喰らい尽くされるのみ。すぐに訪れる死を、固く目を伏せて迎えようとした。

けれど、その死が訪れることはなく。
恐る恐る目を開くと、全てのバイドが動きを止めているのが分かった。

「何が、どうなってるんだ……これは」

恐る恐る呟くも、バイドは一切の活動を停止したままだった。
信じられないといった顔で、それでも震える手で機体の各部に再起動をかけた。
損傷した回路をバイパスし、どうにか機体のコントロールを取り戻すことができた。
おっかなびっくりとバイドから離れ、ようやく少し落ち着くことができた。

「まさか、これは……」
341 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/01(火) 00:40:11.80 ID:FBqFyGYQ0
それと同じ光景が、太陽系のいたるところで見られていた。
あるものは戸惑い、あるものはそれを好機とばかりにバイドを打ち砕いていった。

「これはつまり、そういうことなのだろうな」

あちこちでばらばらに展開されていた戦線をどうにか取りまとめ、反撃の用意を進めていた地球連合軍の司令は
その光景が意味することをいち早く察するのだった。

「英雄はやられたようにも見えたが、そうではなかったのか?」

「バイドの動きが止まったのなら、今のうちに部隊を再集結させるべきなのではないか」

「だが、一体何故……」

高官達の間にも、戸惑いと希望がない交ぜになったような表情が浮かぶ。

「なんにせよ、バイドの動きが止まったのは事実だ!今こそ最大の好機だ!
 全部隊に、周辺バイドの掃討及び再集結の指示を伝えろ!
 ここで終わりにするんだ、長々と続けてきたバイドとの戦いをなっ!」

そんな戸惑いをかき消し、司令は力強く叫んだ。

「今まで散々やってくれたじゃないか、バイド共。今度はこっちが蹂躙する番だ。
 ……我々の苦痛と絶望が生み出した力、その身をもって知るがいい」

その瞳には、ぎらぎらとした強い光が灯されていた。
自ら敵を討つ事ができないことが悔しいとすら思えるほどに、激しい怒りと喜びに満ち満ちた表情であった。
342 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/01(火) 00:41:32.43 ID:FBqFyGYQ0
その言葉と意志を受け、各地で人類の反撃が開始された。
反撃とは言うものの、バイドはその攻撃本能を司る器官を失っている。
攻撃本能のみに衝き動かされて活動を行っていたバイドにとって、それは最早死も同義。
それゆえに人類は、最早死骸にも等しいバイドをひたすらに、ただひたすらに蹂躙し始めたのだった。
バイドに対する激しい怒りがそのまま形になったかのような、あまりにも苛烈な蹂躙であった。

そんな蹂躙の最中、無数のバイドの死骸の中に佇む一機のR戦闘機があった。
そこに築かれていた死骸の山は、既にバイドが活動を停止するより前に築かれていたもので。
それを築き上げたたった一機のR戦闘機、それは蘇りしかつての英雄、スゥ=スラスターの駆るラグナロックだった。

「バイドの動きが止まった。……やり遂げたのね、あの子達は」

彼女は自身の経験から、そして半ば直感的にもそれを悟った。
それはすなわち、最早バイドは脅威ではなくなったということで。

「だとすれば、先にこっちを片付けることにしよう」

ラグナロックがその眼前に捉えていた巨大な物体へと近づいていく。
それはバイドの猛攻に晒され、かなりの損傷を受けていた。
最早元の姿を推測することすら困難だが、その残骸からそれが巨大な人口天体であることが伺えた。
それはかつてアークと呼ばれた人類の箱舟であり、無数の死と絶望を内包する世界新生のための種子。
そして今は、無残にも打ち砕かれた異星人の夢の亡骸。

スゥ=スラスターはバイドの群れを千切っては投げ、追い回しているうちに
いつしかこんなところへ辿りついていたのだった。

「……通信に応答はなし。生命反応は……これだけ巨大だとどうにもわからないや。
 生き残りがいるとは思えないけど、一応調べておくとしようかな」

ほんの少し考えて、ラグナロックはアーク内部へと侵入を開始した。
それを阻むものは誰もいない。そしてそのことを知るものもまた、誰もいなかったのである。
343 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/01(火) 00:42:00.74 ID:FBqFyGYQ0
夢を見ていた。
夢など見るはずもないのに、それはまるで夢のように彼の脳裏に浮かんでいた。

それは、果たして作り変えられた世界なのだろうか。
それとも、この世界とは別の可能性の世界なのだろうか。
いずれにしても、彼が夢見たその世界は、今この世界とは近しくも遠い姿をした世界であった。

契約と願いが魔法少女を生み、それが魔女を生む。
そうして生み出されたエネルギーが、宇宙を存続させるための糧となる。
非常に効率的で、それでいて完成されたシステムだった。
そのシステムを維持させることこそが、彼の、否彼らの存在意義であったのだ。
夢の中の世界では、非常にそのシステムは上手くいっているように見えた。
それはまるで、バイドという脅威に晒される以前のこの世界のように。

その時彼の胸中に浮かんだ感情は何だったのだろう。
憧憬じみたものだったのだろうか、それともそれは後悔、あるいは悔恨のようなものだったのか。
とにかくそこには、悲しみじみた感情が薄暗く広がっていた。

その世界にも同じように、彼らが生み出した無数の魔法少女と魔女がいた。
そしてこの世界にも、彼にとっては忘れることのできない魔法少女達がいた。
彼女達は魔法少女の運命に抗うことなく、次々にその身を散らせていく。
けれど、全てが終わろうとしていたその最後の最後でまたしても彼女が、鹿目まどかが全ての条理を覆したのだった。

それは最早、宇宙の再生にも等しい行為。
彼がどこまでも望み、そして決して果たすことのできなかった夢。
その夢を、彼の夢を阻んだ当の鹿目まどかが実現させていた。それが、余りにも悔しくて、悲しくて。
彼は、思わず叫んだ。
344 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/01(火) 00:42:32.70 ID:FBqFyGYQ0
「どうしてキミはこうもボクの邪魔ばかりするんだ、鹿目まどかっ!!」

その叫びが声として発せられたことに気付いて、彼――キュゥべえは、自分がまだ生きているということを知った。

「ボクは……まだ生きているのか?でも、何故……?」

呆然と声を放ち、辺りを静かに見渡した。
明晰な頭脳も高度な知性も、今は空しく空回りをするだけで。
視覚から取り込まれる無数の情報も、その一切が形になることはなかった。
故にそれを補うように、聴覚はその情報を伝えるのだった。

「人の言葉を話せるとは、驚いたわね」

その声は、とても聞き覚えのある声。
けれど、どこか調子の違う声。なんと言うか、知っているそれより幾分かは人間味に溢れた声だった。
そこでようやくキュゥべえは気付く。
自分のいる場所が、R戦闘機のコクピット内であるということに。
そしてその声の主は、予想通りに暁美ほむらやスゥと同じ顔をしているということに。

「キミは……一体何者なんだい。まさか、暁美ほむらがこんなところにいるはずがない」

キュゥべえの声に、スゥ=スラスターはあからさまに怪訝そうな表情を浮かべて
ぐい、とキュゥべえに顔を近づけた。不思議そうに歪んだ表情が、困惑に揺れる赤い瞳をじっと見据えて。

「それはこっちの質問だ。お前こそ一体何者なの?妙なナリをしているくせに人の言葉を喋る。
 それどころか、随分と色々と知っているようじゃない。
 ……私達は、もう少しお近づきになる必要があるとは思わない?」

不思議そうに歪んだ表情が、どこか好奇の色を帯びる。
その唇は不敵に歪められ、僅かに犬歯が覗いて見えた。そのままずい、と更に彼女は顔を近づけた。
345 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/01(火) 00:43:08.18 ID:FBqFyGYQ0
どうにもその口ぶりは暁美ほむらのそれではない、かといってスゥのそれでもない。
だとすれば、残る可能性はなんだ。その事実に思い当たると、それは随分と馬鹿げた話に思えたが
けれど、それはありえないとは言い切れないことであった。

「まさかキミは……スゥ=スラスター?」

「……勝手にあれこれと話を進められるのは、あんまり気分がいいものじゃないんだけど。
 具体的な説明を要求するわ。お前は何者?何故私や暁美ほむらのことを知ってるわけ?」

ますます訝しげな表情になって、スゥ=スラスターはぎろりとキュゥべえを睨んだ。

「……答える必要は無い、と言いたいところだけどね。別にいいさ、もうどうだっていい。
 ちょっと長い話になるけど、それでもいいかい?」

恐らく自分は、復活した英雄ことスゥ=スラスターによって助けられたのだろう。
その事実にはすぐに思い至った。けれどそれは、最早彼の計画は完全に失敗してしまったということを示していて。
失敗した。全ては無為に終わってしまった。今更に大きな虚無感が胸を満たして。
諦め混じりに、キュゥべえはスゥ=スラスターにそう答えるのだった。

そしてキュゥべえは静かに、まるで自分自身が思い出すかのようにゆっくりと話し始めた。
インキュベーターという種のこと、魔法少女とR戦闘機のこと、暁美ほむらやスゥ、鹿目まどかのことを。
思い返して話してみれば、魔法少女達と過ごした日々は思いがけず悪くないと、そう思わせるような思い出だった。
いつしかその口調が、何かを懐かしむようなものになるのをキュゥべえは感じていた。

そしてようやく、キュゥべえは全てを話し終えた。
346 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/01(火) 00:44:03.13 ID:FBqFyGYQ0
「俄かには信じがたい話ね。というか、その話を聞く限り思いっきりお前は私達の敵じゃない。
 まあ、失敗したようで何よりだけれど」

些か信じがたい。けれど、こうして自分が生きていること自体が不可思議。
だとすれば、このくらいの不可思議が起こったとしても不思議はないのかもしれない。
とりあえずは、そう納得しておくことにした。

「そうさ、ボクは負けたんだ。バイドに、そしてキミ達人類に。……全く、笑えない話さ。
 ボクがしたことが結局鹿目まどかを、ひいては人類を助けることになってしまったのだからね」

自嘲気味にキュゥべえは笑って、仰ぎ見るようにスゥ=スラスターを見た。

「キミはどうするんだい、スゥ=スラスター。ボクをここで始末しておくかい。
 多分そうするべきだと思うよ、ボクは人類に敵対したんだからね」

「それでもいいけど、どうせならもっとはっきりと報いを受けてもらうわ」

にたりと、スゥ=スラスターはキュゥべえに笑みを向けた。
なにやら、とても楽しそうな顔だった。

「お前の身柄は軍に引き渡す。ついでにお前の悪事も纏めて暴露してあげる。
 さて、どうなるかしらね。……とりあえずTEAM R-TYPE送りからかな?」

「………大人しく死なせてくれないかな」

「だが断る」

非常に冷たい空気が、ラグナロックのコクピット内に漂った。
確たる感情を得て改めて彼らの所業を省みると、それは随分とえげつないということを
この期に及んで、キュゥべえでさえも理解していた。理解してしまっていた。


なんと不幸なことか。
347 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/01(火) 00:44:37.10 ID:FBqFyGYQ0
「そんなことより、キミはこんなところで油を売っていていいのかい?
 バイドの相手をしなくていいのかい、まだまだバイドの脅威は消えていないはずだ」

「多分、それはもう終わったわ。……あの子達のおかげでね」

その言葉に、キュゥべえは絶句した。
まさかそんなことが起こりうるとは、信じられなかった。
信じることができなかった。彼らの優れた技術でさえ及ばなかったバイド
それを、遥かに劣る種として見下していた人類が打倒するなどということは、絶対に認めることができなかった。
けれど、最早認めることしかできなかったのだ。

「はは……ははは、ますます滑稽じゃないか。とんだお笑いだ。
 ボクのやろうとしたことが、結局巡り巡ってどこまでも人類に利することしかできないなんてさ」

どこまでも暗い感情が、胸の奥底から込み上げてきた。
それはかつて彼らの道具でもあった感情。絶望と呼ばれるそれだった。
全身の力が抜けた、そのまま、倒れこむように地に身を伏して。

「お蔭様で、人類は救われるわ。おまけに私も救われて、随分とご都合主義な結果に終わるみたいね。
 さあ、それじゃあ残りのバイドを蹴散らして……っ?」

そう、人類は救われ、バイドは消える。
失われた命は蘇り、かつての英雄さえもその翼を取り返す。
それは、余りにもご都合主義な展開だった。
確かに奇跡は世界を救った。だが救われたその世界は今、ついに奇跡の対価を求めた。
それは当然の帰結であり、必然として起こってしまうことだった。
348 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/01(火) 00:45:14.42 ID:FBqFyGYQ0
それは降り注いだ奇跡に等しく、太陽系のあらゆる場所で起こっていた。
奇跡の対価。修復された機体や、新たに再構成された物質達が消え去るわけではなかった。
それらは既に、この世界に存在している物質なのだから。
けれど、呼び戻された命は違う。彼らは今も、在る者と在らざる者との狭間にいた。
その狭間に彼らを繋ぎとめていた力が、奇跡の対価として奪い去られていった。

蘇り、太陽系のいたるところで戦いを繰り広げていた戦士達。
彼らの命が、あるべき姿へと戻る。在るべき者は在るべきままに。
在らざる者は、再び在らざる姿へと。
けれど彼らに悔いは……ないとは言い切れまい。けれど彼らは笑って往くだろう。
ついに悲願が叶ったのだから。バイドを倒す。平和を取り戻すという、人類最大の願いが
ついに、叶う時がきたのだから。

「あばよ、戦友」

だから彼らは、どこか寂しく笑って逝った。


そしてそれは、かつての英雄にとっても同じことだったのだ。
なぜなら彼女もまた、在る者と在らざる者との中間に生きていたのだから。
死すべき定めを負いながら、無理やりに生かされているだけの存在だったのだから。
349 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/01(火) 00:46:29.42 ID:FBqFyGYQ0
「何……これは、身体が……」

スゥ=スラスターの操縦桿を握った手が、不意に動きを失った。
それだけではない。全身の感覚が急速に失われていく。
奇跡が消失し、その代わりに死が彼女の全身へと満ち始めていた。

「どうやら、キミも限界のようだね。……助かりたいかい、スゥ=スラスター。
 ボクと契約すれば、その願いでキミは助かるかもしれないよ」

そんな彼女を、まるでかつての姿のように、感情の無い瞳で見つめながらキュゥべえは問いかけた。

「……何を、企んでいるのかしらね」

「今更何を企めるって言うんだ。キミには、一応助けられた借りがある。
 それくらいは返しておこうと思っただけさ。……信じるも信じないもキミの好きにすればいいさ」

その瞳が無表情に見えたのは、本当に感情が無いからというわけではなく。
ただ単に、全てを諦めてしまったからというだけで。どこまでも、虚ろになってしまったというだけで。
それでもそんなことを持ちかけたのは、一体どういう気まぐれなのだろうか。
もしやすると、本当に恩返しのつもりなのかもしれない。

「そう、ね。じゃあ……私の願いは」

急速に死に近づく身体をどうにか動かして笑い、スゥ=スラスターは願った。



「契約は成立だ。……本当に、キミ達人間はわけが分からないよ」

その願いを聞き届け、呆れたように笑ってキュゥべえは静かに言葉を吐き出すのだった。
澄んだ金属音が一つ、転がった。
350 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/01(火) 00:49:55.53 ID:FBqFyGYQ0
多分、次で終わりです。

>>336
その場合のタイトルはメタルブラックで一つ。
真っ二つになるどころか完全に消滅でしょうが。

>>337
はたして、二人はどこへ行ってしまったのでしょうね。

>>338
どうやら人類の未来は繋がったようです。
後はただ、残された人間達がどうなるのかを語るのみです。
351 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/01(火) 02:45:49.72 ID:LdshL9IDO
お疲れ様です!
二次創作QBは原作まどマギの夢を見るか?

お休みなさい、英霊さん達。

スゥさんは、一体何を願ったのか…。
352 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/01(火) 17:13:04.80 ID:g3//OypDO
死者は在るべき処に還る……
つまり、あんこちゃんも……

QBの反応からするとオリジナルスゥは自分のために祈ったのではなさそう。果たして?
353 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/05/01(火) 18:56:21.64 ID:L4c53vsBo
あばよダチ公……

なんか名も知らぬ戦士が鋭い角度のサングラスかけてる気がしたww
354 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/01(火) 23:42:20.11 ID:pMpb/XHoo
甘き死よ来たれって感じですね
もう少し絶望のスパイスがあるのかな
355 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/05/03(木) 01:21:14.90 ID:ZBJljBKH0
なんとこの19話、ざっと数えただけで12万字近くに膨れ上がっていました。
ぶっちゃけ分割するべきだったかもしれません。
なんにせよ、これで終わりです。

投下します。
356 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/03(木) 01:22:15.30 ID:ZBJljBKH0
バイドの能力によって生み出されていた、遥かなる異層次元。
26次元は、その核を為していたバイドの消失と最終波動砲の威力によって崩壊した。
崩壊した空間はそのまま通常空間へと投げ出される。けれど、そこは太陽系からは遥かに遠い場所だった。
恐らくそれは距離という意味でも、時間という意味でも。

26次元を破壊しつくし荒れ狂い、ついには通常空間にまで放たれた最終波動砲の光。
それは尚も荒れ狂い。星より輝く光と化して広がって。
あたかも宇宙に広がる花火のようで。けれど、それが飲み干した星々の数はまさしく天文学的な数であった。
それだけの破壊を、光を超える速度でばら撒き続け、ようやくそれは内包するエネルギーを放出しつくし
ついには、その猛威たる牙を収めるのだった。

そして生まれた星一つ無い、ちり一つ残らない完全なる虚空。
その只中に、突如としてそれは現れた。
それは、壊れかけた機械の残骸。宇宙の風に静かに揺れているそれは。
辛うじて原型を留めている、グランドフィナーレのそれだった。

「……生きて……る?」

全てのエネルギーを放出したグランドフィナーレ。
その機関は完全にその役目を終え、最早動くことは無い。
動かそうとしても動かない身体、ただ流されるだけのそれに戸惑いながら、スゥは呟いた。

「うん、私達……生きてるんだよ、スゥちゃん」

そしてそんなスゥの戸惑いを、言葉を。まどかが次いだ。

「まどかが……助けてくれたの?」

「ちょっと頑張っちゃった。……でもよかった、助かって」

戦闘の気配どころか、何一つ存在しない宇宙。
寂しさすら感じるほどの虚空でも、それを実感するだけで。
こうしてゆっくりと、まどかと言葉を交わしているだけで。スゥの胸には安堵と喜びが込み上げてきた。
357 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/03(木) 01:23:14.16 ID:ZBJljBKH0
「じゃあ……勝ったんだ、私達」

「そうだよ、バイドはもういないんだ。スゥちゃん」

嗚呼。掠れた声が漏れるのを、スゥは堪えられなかった。
バイドを倒す。ただそのために、一体どれほどの犠牲を、苦痛を人類は強いられてきたのだろうか。
自分自身の存在こそがその象徴たるもので。そして今、その悲願が果たされた。
全ての人類が、スゥ=スラスターが、暁美ほむらが望んだことが、ついに果たされたのだ。
余りにもその事実は、強く強くスゥの心を揺さぶった。

(私は……きっと、報われたんだ。よかった、本当によかった……っ)

グランドフィナーレは完全に停止している。故にに視界は暗い。
けれどもしその視界が光を取り戻していたのなら、きっとそれはぼろぼろと零れ落ちる涙で歪んでいただろう。

「ぅ……っく、えぐ……っ、あぁ。よかった、よかったよぉ……」

いつしかそれは嗚咽に変わる。
胸の中にははち切れそうな達成感。そしてこれからも続いていく世界への、はち切れそうな喜びがあった。

「うん……そうだよ。全部終わったんだよ、スゥちゃん。……大変だったね、本当に」

ここに来るまで、どれほどの苦痛の朝を、嘆きの夜を越えてきたのだろう。
その多くを知らず、大部分をただ巻き込まれる形で関わり続けていたまどかの胸中にも
言い知れぬほどの感情が溢れ、それは静かな雫になって、まどかの頬を零れ落ちていた。

「まどかがいてくれたからだよ。貴女がいてくれたから、私は頑張れた。戦えた。勝つことができた。
 ああ、ああ……まどか、まどか……っ!」

在らざるその手はまどかの身体を抱きしめる。
一つに混ざりあうほどに、二人の心は近づいた。
その心地よさが、今は手放すのが惜しくて。二人はずっとそうして、静かに宇宙に揺られていた。
今は宇宙も、完全なる静寂で戦いを終えた少女達を見守っていた。
358 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/03(木) 01:25:24.21 ID:ZBJljBKH0
「……終わったのね」

戦いの終結。それを実感し、マミは一つ大きく吐息を漏らした。
つい先ほどまでバイドとの激しい戦いを繰り広げていたのだろう、マミの駆るババ・ヤガーは
既に全身に無数の弾痕が刻まれ、その巨大な砲身は中ほどでひしゃげて折れていた。
けれど、それでも生き延びた。生きて、戦いの終わりを迎えることができたのだった。

「やったね、お姉ちゃん」

同じようにボロボロになりながら、ゆまの駆るカロンがババ・ヤガーに近づいてきた。
その後方からも、いくつも無数の光が近づいてきていた。
魔法少女隊の仲間たちは、誰一人欠けることなく生存していた。
誰もが皆例外なくボロボロで、今にも朽ち果ててしまいそうであったけど。
それでも最後まで諦めず、抗い続けた少女達はついに、未来を掴み取ることに成功したのだった。

「本当に、随分と長い戦いだったわね、ゆまちゃん。
 ……流石に疲れちゃったわ。帰ってケーキでも食べたい気分」

「ゆまはイチゴのショートケーキがいいなっ!中にもイチゴが入ってる奴!」

明るく声を掛け合って、静かにくすりと笑いあう。
戦いは終わった。それでも忘れてはいけないことがある。
魔法少女となってしまった少女達。自分達も含めた少女達が辿るであろう未来は、決して明るくは無いということを。

「いつか皆で、またお茶会がしたいわね。……その時は、私達も一緒に」

だからマミの言葉が少し遠いところを見ているようなものになってしまうのも、仕方ないといえば仕方のないことだった。
けれどそれも一瞬。バイドという余りにも大きすぎる脅威を。
魔法少女の宿命を、魔女という末路を乗り越えここまでやってきたのだから。
だからこそマミは、こんなところで諦めるつもりも嘆くつもりも、足踏みをするつもりもなかった。
見据えていたのは、未来。
359 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/03(木) 01:26:04.18 ID:ZBJljBKH0
随分と時間をかけて集結を果たした魔法少女隊の面々へ向けて、再びマミが語りかけた。

「どうやら私達の知らないところで、バイドとの戦いは既に終わっていたようね。
 それ自体はいいことよ。散っていった仲間たちも喜んでくれると思う。
 ……でも、私達の戦いはまだ終わりじゃない」

その言葉を予期していたもの、そうでないもの。
魔法少女達の反応はまるっきり違う二色の色に分かれた。

「ここで降りるというのならそれでも構わないわ。……でも、言いたくはないけれど
 その場合の未来はあまり明るいものじゃないと思うの。きっと軍は、私達の存在を秘匿
 もしくは抹消しようと思っているはずだから」

それは推測。けれどやはり容易に予想できてしまう未来。
重苦しい沈黙が垂れ込めるなか、マミは更に言葉を続けた。

「これ以上奪わせないための戦いは今日でお終い。これからは、私達が奪われたものを取り戻すために戦うのよ。
 もしかしたらそれはバイドと戦うよりも辛い戦いかもしれない。だから、選択は委ねるわ。
 このまま私と一緒に、とことん運命っていう奴に喧嘩を売ってやるか、それともここで降りるか」

沈黙は、やはり続いた。
マミの言葉は、最悪軍に対して敵対するという意味すらも孕んでいる。
それはすなわち、人間同士で殺し合いをやらなければならないかもしれないということで。
その事実を認識すれば、それは少女達には余りにも重すぎた。

最初に口火を切ったのは、一人の少女。

「私は……取り戻したいです。だって許せないじゃないですか!いきなり何もかも奪われて、魔法少女にさせられて。
 嫌になるほど戦わされて……友達だって仲間だって沢山死んでしまって。
 それなのに、戦いが終われば用済みだなんて。そんなこと、私は絶対に許せませんっ!」

怒りを露わにした、震える声。
その少女は大人しい少女だった。ここまで生き延びた以上、十分したたかな戦士ではあったが
それでも一人の少女としては、やはり大人しく優しい少女だったのだ。
そんな彼女が、こうも怒りを露わにしていることは、魔法少女達にとっては大きな衝撃だった。
360 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/03(木) 01:27:11.75 ID:ZBJljBKH0
そして同時に、少女達の胸中にも沸々と怒りが湧き上がってきた。
そもそもにして、こんなところに自ら望んで来ているものなどほとんどいない。
誰もがその素質を見出され、強制的に徴兵されたような少女達ばかりなのだ。
その横暴に、その事実すら認めようとしない傲慢さに、黙っていられるはずなどが無い。
最早この場には、運命に翻弄されて膝を抱える少女などは一人もいない。
誰しもがそう、戦士なのだから。

「確かに、このまま引き下がるってのはちょっと舐められすぎだよね、私達」

「折角こうして素敵な牙を頂いたのですから、思い知らせてあげませんとね。
 私達は狗ではない、ということを」

膨れ上がっていく怒気、敵意。
それは激しく燃え上がり、少女達に新たな気力を与えていった。
けれどそう、この先の敵はバイドではない。絶対なる敵性種ではなく、血の通った人間かもしれないのだ。
その事実をどうしても受け入れることのできない者も、当然存在していた。

それぞれが気炎を上げ、怒りの声を高らかに響かせる中。
それでも沈黙を保つ少女の姿も、多少であるが存在した。

「……貴女達は、どうするのかしら?」

それに気付いて問いかけたマミに、少しだけ躊躇ってやがて、一人の少女が答えた。

「私は……行けません。確かにこんな境遇は嫌だけど、ムカついてますけど。
 ……それでも、私の力はバイドと戦うためのもので、人を守るための力だと思うから」

戸惑い、躊躇い。けれど最後には迷いを捨てて力強く。
その声は、少女の声で発せられた。

「だから、私は行きません。……ごめんなさい」
361 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/03(木) 01:27:52.85 ID:ZBJljBKH0
「謝る必要なんか無いわ。……貴女達のその選択は間違ってない。
 きっと、それも勇気ある決断だと思うから」

どうしようもない不条理を、やるせない憤りを、吐き出しぶつけるのではなく、ぐっと堪えて飲み込んだ。
それはある意味、戦いを選ぶ少女達よりもずっと大人な選択であるかもしれない。
少女達には運命に抗う権利も、それを堪える権利も等しく与えられていたのだから。

「もう会えないかもしれないけど、貴女達のことは忘れないわ。
 できれば、敵としてだけは会いたくないわね」

寂しさも辛さもぐっと飲み込んで、マミは少女達に笑って言った。
同じように戦いを選んだ少女達もまた、思い思いの別れの言葉を告げていた。
死別ではなく交わされた別れなど、少女達にとっては随分と久方ぶりのことで。
ここが運命の分岐路なのだと、改めて少女達に思い知らせるのだった。

「さよなら、私の戦友たち。……幸運を祈るわ」

ふらふらと頼りなく、けれど確かに動き始め、魔法少女隊を離れていく少女達の機体を見送って。
マミは静かに別れの言葉を告げた。



「さあ、行きましょう。……私達の戦いを始めるわよ」

見送りを終えて、少女達にそう告げる。
新たな気合を纏わせて、少女達はそれに続いた。


誰のためでもない、ただ自分を取り戻すための戦いが、一つの戦いの終結と共に静かに始まろうとしていた。
362 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/03(木) 01:29:03.83 ID:ZBJljBKH0
「……あのね、スゥちゃん」

虚空を漂う二人。二人きりの時間はそこに無限にあった。
けれど、本当に無限にしてしまう訳にもいかなかった。
まどかには、スゥに話さなければならないことがあった。
とても大切なこと、けれどどうにもならない事実を。

「分かってるよ、まどか。……帰れないんだよね」

スゥは穏やかな口調でまどかに答えた。
その言葉に、思わず息を飲むまどか。

「あはは……お見通しだったのかな。凄いや、スゥちゃんは」

「多分ここは、太陽系から遠く離れた宇宙のどこか。そもそも同じ次元なのかどうかもわからない。
 普通に考えたら、とてもじゃないけど帰れない。……それにまどかは、最終波動砲から逃れるために
 沢山力を使ってしまったから。多分、太陽系に戻るだけの力はないと思ったから」

驚いたように、けれどすぐに笑ってまどかは答えた。

「凄いや、本当に何でもお見通しなんだね、スゥちゃんは」

「まどかのことだもん、分かるよ」

そう、もはやグランドフィナーレは動かない。
そしてまどかも、最終波動砲の余波から逃れるためにその能力を酷使してしまい
最早、太陽系に戻ることなどできなかった。
最早二人に帰還する術は何一つ残されていない。このままただ、永遠に虚空を彷徨い続けるしかなかった。
363 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/03(木) 01:29:52.71 ID:ZBJljBKH0
「ごめんね、スゥちゃんだけでもどうにか返してあげたかったんだけど……無理みたいなんだ」

「いいよ。まどかとずっと一緒に居られるんだから。人類はもう救われた。
 だったらもう、私はまどかが居てくれればそれだけでいいから」

全エネルギーを放出したグランドフィナーレは、最早暴走する心配すらもない。
後はただ物質としてのグランドフィナーレが、二人の魂が朽ち果てるまで
それこそ永遠にも近い時間を、ただただ二人きりで過ごし続けるしかないのだ。

この宙域の半径数光年にも渡る距離が、最終波動砲によってちりも残さず破壊されている。
グランドフィナーレに衝突するような宙間物質など、向こう数千年は訪れないだろう。

「……まどかはよかったの?私はまどかが居ればいい、でもまどかはきっと、会いたい人がいるんだよね。
 家族とか、友達とか。……もう、会えなくなっちゃったんだよね」

それがスゥには少し悲しい。
まどかまで、この永遠の二人ぼっちに巻き込んでしまったことが悲しくも嬉しい。

「ぁ……うん。やっぱり、寂しいし辛いんだろうな。もう誰にも会えないって。
 ……だから辛くないように、ずっと……側にいてくれないかな、スゥちゃん?」

きゅ、と。柔らかな手がスゥの手に触れた。
その手を握って、掌の中の柔らかさを感じながら。

「絶対に離さない。まどかを一人になんて絶対にしないよ」

「ありがとう……スゥちゃん」

それは、二人で永遠を生きるという誓い。
あるいはそれは婚礼にも似て、その手は柔らかに強く結ばれていた。


けれど、その手は無情にも断ち切られることとなった。
願いという名の刃に、結ばれた手と手は断ち切られて。
364 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/03(木) 01:30:13.84 ID:ZBJljBKH0
繋いだ手と手が分かたれる。そして急速に、スゥの存在と身体が消失していく。

「何なの……まどか。まどかなの?」

それはまどかの転移にも似ていた。
二人の間を引き裂いて、一体どこへ導こうというのか。
困惑と驚愕を滲ませた声を、スゥは投げかけた。

まどかはほんの少しだけ考えて、やがて何かを悟ったかのように話し始めた。

「……ううん、私じゃないみたい。でも、誰かがスゥちゃんを呼んでるんだと思う」

どこか嬉しそうな声。けれど隠し切れない寂しさも滲んだ声だった。
どうにか必死にそれを隠そうとしても、どうしてもまどかの声は震えてしまっている。

「多分、私も似たような力を持ってるからなのかな。なんとなく分かるんだ。
 誰かが、スゥちゃんを呼んでるって。そしてその行き先は、太陽系みたいだよ。
 帰れるんだよ、スゥちゃんは」

それが悪いことであるはずが無い。
喜んで送り出してあげなければならない。
まどかは、その力が自分も一緒に連れて行ってはくれないことを知っていた。
それでもきっと、ここで永遠の二人ぼっちを過ごすよりずっと
たとえ別離が辛くとも、スゥには自分自身の人生を生きて欲しかった。
だから、笑って送り出してあげなければならなかったのだ。

「そんなっ!嫌!嫌だっ!行きたくなんかない、私はまどかと一緒に居るんだっ!
 やめろ、私を連れて行くなーっ!離せ、離せぇぇっ!!」

必死に叫び、もがき足掻く。
けれど抵抗などできよう筈もない。
それは無情なる願い。そこに意志の介在する余地は無く。
それに抗うには、余りにも今のスゥは無防備だった。

「どうして!どうして……折角一緒になれたのに、またお別れなんて嫌だよ!
 お願い、神様でも何でもいいから……私をまどかの側に居させてよ、お願いだからっ!」
365 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/03(木) 01:30:42.06 ID:ZBJljBKH0
その叫びは、まどかの胸をきりきりと締め付けた。
離別の苦痛。永遠の孤独。待ち受けるそれがまどかを苛んだ。
引き止めたい。一人は嫌だ。もう一度手を伸ばしてスゥを掴まえたい。
側にいてほしい。思いはどんどん募っていった。

けれどそれはできない。それは間違いなく、スゥの人間としての未来を奪ってしまうことだから。
漏れそうになる嗚咽を、呼び止めたくなる心を必死に押さえつけて。
それでも隠し切れない涙を、ぽろぽろとその瞳から零しながら、まどかは。

「……スゥちゃん。帰ったら、伝えてくれないかな。私の家族に、友達に。
 私、世界を守ったんだよって。頑張ったんだよ、って」

「そんな……嫌だよ、お別れみたいなこと言わないでよっ!」

「お別れ、だよ。これでお別れ。……ごめんね、スゥちゃん。デートの約束守れなくて」

だんだんと、スゥの存在が消えていく。
グランドフィナーレも、その輪郭がぼやけていった。
互いの声が遠くなる。もう、ほとんど聞こえない。

「でも……もし、スゥちゃんが…………そうしたら、いつか……えに、来て」

「何……聞こえない、聞こえないよ……まどか、まどかぁ…………」


そしてついに、グランドフィナーレの姿が消滅した。
小さく煌くまどかのソウルジェムだけが、置き去りにされて残っていた。


「まどかぁぁぁぁぁぁ!!……ああ、あ……ぁぁ」

慟哭の声も、もう届かない。
366 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/03(木) 01:31:10.01 ID:ZBJljBKH0
目が覚めると、そこには宇宙が広がっていた。
そよぐ風が頬を撫でる。よく見れはそれは宇宙ではなく、星空だった。
虚ろに伸ばしたその手は、確かに星空に向かって伸ばされていた。

呆然と辺りを見渡した。そこは静かな草原だった。
沈黙したグランドフィナーレがそこに佇み、その傍らにスゥは寝転んでいた。
その身体が人のそれであることに気付くのに、少なからぬ時を要した。

「………どうして、私だけが」

再び草原に身を伏した。ちくちくと刺さる草がどうにもくすぐったい。
けれど今は、そんなことも気にならないほどにスゥの心は虚ろだった。
何故、どうして。疑問ばかりが脳裏を駆け巡る。

「まどか。貴女は最後に……なんて言おうとしたの」

星空に手を伸ばし、問いかける。
当然、星空は何も答えてはくれなかった。
風がそよぐ音。それがただ虚ろにスゥの耳に響き渡った。
そんな中、たった一つだけそうではない声が聞こえてきたのだった。

「……随分と腑抜けたものね。一体何があったというの」

それは、聞き覚えのある声だった。
ぼんやりと目を開くと、そこには自分と同じ顔があった。

「暁美、ほむら」

最早今となっては、その存在にも何の疑問も感情も抱けない。
空っぽのスゥは、虚ろにその名を口にするだけだった。
367 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/03(木) 01:32:30.73 ID:ZBJljBKH0
「私の存在が生み出した少女達を助けたい、か。
 ……本当におかしなことを願ったのだね、キミは。スゥ=スラスター」

死を迎えた肉体から離れ、弱弱しく輝くスゥ=スラスターのソウルジェム。
その輝きを見つめながら、キュゥべえは呟いていた。

「本当に、キミ達人類はわけがわからないよ。あそこまで生に執着し、恐るべき力を見せたかと思えば。
 今度は逆に、作られた命の為にわざわざその生をなげうとうとする。
 何故そんな価値観が生まれたのか。……今のボクにも、それを理解することはできないな」

それは呆れたようで、それでいてどこか感心したような口ぶりで。

「結局、キミの肉体は死を免れることはできなかった。だが、その魂はまだ生きている。
 ……結局その願いは、キミ自身を永らえることにも繋がったようだね」

当然、その声はスゥ=スラスターに届きはしない。
それを知ってなお、キュゥべえは言葉を続けたのだった。

「バイドが倒れてしまった。けれど、ボクの計画も失敗に終わった。
 ……一体、これからどうすればいいのだろうね、ボクは」

ラグナロックのプログラムに介入し、その機体を操作し飛び始める。
行き先のあてもない。それはまるで逃避行のよう。

「それでも、ボクもまたこうして生に執着してしまっているんだ。
 何故と聞かれればきっと、生きるために生きる。そんな風にしか答えられないだろうね」

静かな光の尾を引いて、ラグナロックは飛び去っていった。
368 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/03(木) 01:33:06.54 ID:ZBJljBKH0
「……そう、そんなことが」

グランドフィナーレに身を預けて、スゥとほむらが並んで座る。
もはやそのどちらにもかつての確執などは存在していない。
ただほむらは静かに、スゥの独白に耳を傾けていた。

「もう、私はまどかに会えない。……まどかのいない世界になんて、意味が無い。
 笑えるよね。必死に守った世界なのに、守り通した途端に無価値なものになるだなんて」

込み上げる笑みは力なく、零れ落ちる涙はとめどなく。
壊れたように笑いながら、スゥはほむらに話し続けた。

「でも、頼まれたことは果たさないとな。まどかの家族や仲間に会わないと。
 丁度いいや。ねえ、暁美ほむら。頼んでいいかな。まどかの家族と仲間に、まどかの最後を伝えてあげて」

ほむらは黙して答えない。
その表情は、ぎゅっと痛みを堪えるように顰められていたのだから。

「……でも、まどかは最後になんて言ったのかな。気になるなぁ……ねえ、まどか」

ほむらにとっても、まどかは大切な仲間だった。
自分が死して後、まどかがどれほどの苦境を乗り越えあの場所へと至ったのか。
それを知る術はほむらには無い、だがそれが並ならぬ苦痛であることは容易に想像できた。
その末路が、永遠の孤独を一人で漂うだけなのか。余りにも、それでは救いがないではないか。
救えるとしたら、誰だ。救いを与えられるものは。
369 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/03(木) 01:33:32.40 ID:ZBJljBKH0
「なら、確かめに行きましょう」

いつしかほむらは、スゥの眼前に立っていた。
その表情にはもう、苦痛に歪んだ色はない。

「確かめる……何を、どう確かめろって言うんだ」

「直接まどかを迎えにいって、そして確かめて。連れ戻す」

「そんなこと、できるわけない。……第一、まどかがどこにいるのかすらわからないのに」

虚ろに投げやりに首を振るスゥ。
その胸倉を掴んで、ほむらは。

「探すのよ、何が何でも見つけるの。あの機体を解析すれば、何か分かるかもしれない。
 そうすればそれを辿ってまどかのいる場所へとたどり着けるかもしれないのよ。
 私達には、まだできることがある。……こんなところで諦めるつもり?
 それほど、貴女のまどかへの想いは軽くない。そうでしょう!」

その剣幕に弾かれたように、スゥは視線を上げてほむらを見つめた。
久方ぶりにその顔に浮かんだ表情は、驚愕の色をしていた。

「……何故、お前がそんなに私とまどかを助けようとするんだ」

「決まってるじゃない。まどかは私の大事な仲間だから」

それから僅かに躊躇って、ほむらは続く言葉を口にした。

「……それに、もう一人の私がやっと手にできたかもしれない幸せだもの。
 応援してあげたいなって、そう思っただけよ」

そして、照れくさそうにふい、と顔を逸らした。


「協力、してくれる?」

「私にできることなら、なんだって」

そして差し伸べられた手。それを掴んだ手。
どちらも同じ姿の手、違ってしまった心を宿したその手とその手が今、結ばれた。
370 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/03(木) 01:34:03.01 ID:ZBJljBKH0



バイドの沈黙から48時間後、地球圏及び火星圏のバイドの掃討が確認され。
引き続き太陽系内のバイドの掃討を開始すると共に、地球連合軍はオペレーション・ラストダンスの終了を宣言。
人類とバイドの長きに渡る死闘がついにその日、終わりを告げるのだった。

そして人類は、新たな時代を歩み始めた。



魔法少女隊R-TYPEs 第19話
      『終わる、一つの物語』
          ―終―
371 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/03(木) 01:34:48.24 ID:ZBJljBKH0
【次回予告】

バイドとの戦いは終わった。
最大の敵を退けた人類は、ついに輝かしい繁栄を手にする。
その戦いを生き延びた者達は、平和を手にした世界で何を見、何をなすのだろうか。

これは、そんな時代の過渡期を駆け抜けた少女達の記録。
誰が遺したのかも知れぬ、事実かどうかも分からぬ記録達。

その一端を紐解いて、終わる物語への手向けとしよう。
願わくば、少女達の未来が輝かしいものであらんことを。


次回、魔法少女隊R-TYPEs 最終回
         『そして、繰り返す』
372 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/03(木) 01:40:20.17 ID:ZBJljBKH0
なんにせよここまでたどり着けたことにまず達成感。
恐らく最終回は一気に纏めて、日時を予め決めて投下したいと思います。
もしその時にお時間の合う方が居られましたら、是非とも見ていってくださいませ。

ちなみにスゥまど搭乗時のグランドフィナーレの戦闘BGMが
完全にデジモンテイマーズのOne Visionになっていました。テンション上がりましたね。

>>351
感情を手にしたキュゥべえさんには、きっとさぞかし悔しいことでしょうね。
そしてスゥ=スラスターの願いは二人を救うことでした。
何度死んでも戻ってくるほむらちゃんに乾杯。

>>352
果たして、杏子ちゃんはどうなったのでしょうか。
その辺りも最終話にて明らかになります。

>>353-354
なんだかガイナっぽい匂いがします。
そういえばトップ2の最後も離別エンドでしたねぇ。
あそこくらいケレン味と熱さのあることがやれれば万々歳なのですが。


では、次は最終話でお会いしましょう。
373 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(滋賀県) [sage]:2012/05/03(木) 02:02:03.82 ID:mCee48U0o
二人のいちゃいちゃを邪魔しないほむらちゃん空気読みすぎ
374 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/05/03(木) 11:43:11.91 ID:GFxfXkYfo
とうとう最終回か胸が熱くなるな

そして、魔法少女になったオリジナルスゥ
魔法少女三姉妹の誕生である
マスコットは白くて猫だかねずみだか分からないナマモノ(目が死んでる)
375 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/03(木) 16:48:07.41 ID:tPmkX8vDO
19話完結、お疲れ様ですっ!
虚無空間での永劫の誓いが、まさかああも短時間で引き裂かれようとは…。

魔法少女にも正当な権利を!と、主張する魔法少女達と、QB&O・スゥさんが合流して…マミさんが代表、QBが参謀、スゥさんが裏のボス。みたいな組織にならないかなって。

ほむらちゃんには、不滅の女って称号が似合いそうだな。
376 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/05/03(木) 19:44:56.23 ID:OkFvi7lQ0
>>372
↓の流れに繋げるとかでもイイのですよ
http://ncode.syosetu.com/n8020m/74/
377 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/04(金) 11:13:02.03 ID:d8vY/gaDO
とりあえずQBはスゥさんの身体にSGを触れさせてやれよ。
378 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/05(土) 08:15:31.07 ID:zBV/37nLo
スゥがほむらでほむらがスゥで
379 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/05(土) 11:33:13.45 ID:ZTnQ2vZ40
魔法少女の体って、もともと死んでいるんだっけ?
380 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/05(土) 11:34:41.71 ID:ZTnQ2vZ40
>>379は途中で送ってしまいました。

いや、スゥさんはあの体は形を保っているのだから使えそうな気も……
脳がやられていてもソウルジェムに魂はうつっていうわけだし。
381 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/05(土) 15:06:25.67 ID:ETcwK1WDO
ほむほむが暁美家に帰れるのは、もうしばらく後になりそうだね。
382 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/06(日) 23:51:41.99 ID:5/eTxCVDO
いじけスゥちゃんも可愛いもんだね。
383 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/08(火) 15:20:29.36 ID:VfbA7cdDO
早いとこ穢れの浄化装置をなんとかしないとな。
384 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/05/09(水) 16:03:05.90 ID:ZRl8ZMQ50
諸事情により執筆が遅れております、なもんで、前後編に分ける感じで投下したいと思います。
つきましては、明日21:00ごろより最終話の前編を投下していこうかと思います。
385 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/09(水) 16:11:36.56 ID:DV7vTTtDO
やったー、投下予告だー!

でもなんか、一人一人のエピソードに分けての投下でも良い気がしてきた。
386 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/05/10(木) 00:18:11.91 ID:J6/jLfg1o
387 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/05/10(木) 21:00:46.93 ID:7AO1ihg40
それではまあ、やりましょうか。
と言うわけで最終回(前編)、投下します。
388 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/10(木) 21:04:37.70 ID:7AO1ihg40
流れ行く日々は、その速さを緩めることも早めることもなく流れていった。
けれど、それを実感する人々にとっては、それは恐らく相当に早く流れていったことだろう。
バイド戦役と後に呼ばれることになる、人類史上最大の決戦から半年の時が流れていた。
バイドとの戦いが太陽系に与えた傷跡は深く、半年を経た今も尚その復興は十全とは言えなかった。

もっとも、それは単純にその被害が甚大であったというだけの理由ではなかったのだ。
バイドとの戦いに勝利した人類は、尚も歴史を繰り返していたのである。
曰く、戦いの歴史と呼ばれるそれを。

これは、戦い続ける人類の歴史。その一瞬を駆け抜けた、少女達の記録。




   魔法少女隊R-TYPEs 最終回   『そして、繰り返す』






半年。わずか半年である。
時間としては長いかもしれない。だが、歴史が動くにはそれはあまりに短すぎる時間だった。
たったその半年という時間の間に、地球を、そして太陽系を取り巻く情勢は、急速に悪化の一途を辿っていた。
389 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/10(木) 21:05:17.19 ID:7AO1ihg40
誰がそれを言い出したのかは未だ持って不明であるが、バイド戦役終結直後からそれは人々の間で囁かれていた。
地球至上主義。
そう呼ばれたそれは、熾烈を極めたバイド戦役において地球のみが被害を免れたという事実にまず起因した。
地球こそが人類の永遠の繁栄の象徴、不滅にして神聖なる母星である、と。
そんな思想を持った者達が、俄かに現れ始めたのである。

彼らは世界を救った奇跡すら、それを引き起こした少女の願いすら地球が生んだ偉業などだと言い放ち
彼らの言葉は、急速に世界中に広まっていった。いっそ不可思議なほどにその広まりは急速だった。


それだけならば、まだ一種の流行り病のようなものとして捉えられていただろう。
動乱する時代の狭間の、一種の仇花として見られることもあったのだろう。
だが、軍事政権の解体と共に発足した新政権により、この思想が世界を新たな狂気へと駆り立てていくこととなる。

地球至上主義者がそのほとんどを占める新政権は、まず先だっての軍事政権の行いを徹底的に批判した。
かつては地球連合軍の司令として、存分に采配を振るっていたあの男も
戦時中の数々の非道な行いの責を問われ、後に処刑された。
軍の要職についていた多くの者達も同様に、あるものは処刑され、あるものは僻地へと左遷されていた。
そして、その後釜には続々と地球至上主義者達があてがわれていくのだった。

不満を抱く者も少なくはなかった。旧体制を支持する者達は、こぞってその動きに反発した。
けれど多くのシンパを抱え、地球至上主義というイデオロギーの元に結託していた彼らの前に
その動きは敢え無く潰えることとなった。

それらは全て粛々と、秘密裏に行われ。
人々が知らぬうちに、時の権力は地球至上主義を掲げる者達の手に渡ってしまっていたのだった。
そしてついに、彼らの狂気は顕現する。
390 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/10(木) 21:05:54.07 ID:7AO1ihg40
人類の生活圏は、既に太陽系のいたるところに広まっている。
火星には既にいくつもの都市が成立しており、コロニーの建設は尚も盛んに行われている。
地球を見ることなく育った人というのも、最早今では珍しくもない。
そんな彼らに、地球至上主義者達は容赦なく牙を剥くのだった。

事の起こりは、バイド戦役によって甚大なる被害を受けた火星や、その他のコロニーへの地球連合軍からの通達であった。
戦災復興という名目での地球軍の受け入れ及び既存の軍の解体。そして現政権の解体と地球軍による臨時政権の受け入れ。
それは言うなれば、地球の植民地になれとでもいうかのような命令であった。
当然そんな事を受け入れられるはずも無く。地球と各都市との間の緊張は高まっていた。


そして、事件は起こる。
391 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/10(木) 21:07:23.62 ID:7AO1ihg40
火星や各コロニー内において、竜巻や落雷、隕石といった無数の災害が発生するようになっていた。
それにより、そこに住まう人々の暮らしは困窮していく。
民衆の間でも、地球軍の受け入れを望む声は日増しに強くなっていた。
だが、とある部隊が人為的に災害を発生させるR戦闘機の存在を突き止め、それを鹵獲し公表した。
これを火星及びコロニー群は、地球軍による侵略行為であると判断。
彼らは反地球至上主義の元に結託し太陽系同盟軍を結成。地球軍に対する対決姿勢を露わにした。

そしてバイド戦役終結から僅か四ヶ月後、人類は再び戦乱の災禍へと突入することとなる。
フォボス周辺宙域において、地球連合軍と太陽系同盟軍の一大開戦が行われたのである。

その結果は、太陽系同盟軍の惨敗であった。
ほとんどの部隊がバイドとの交戦で疲弊しきっており、十分に戦力を集めることができなかったことや
地球連合軍はバイド戦役終結直後から、既に無人兵器の量産を始めていたことも大きな要因であったのだろう。
バイドに対してはコントロール奪われる危険が高く、軽視されていた無人兵器も
今では死を恐れぬ機動とその量産性を持って、恐るべき兵器として同じく人類である太陽系同盟軍に牙を剥いたのだった。
戦いは始終地球連合軍の優勢で進み、太陽系同盟軍の壊滅は間近かと思われた。

しかし、それまで沈黙を保っていたグランゼーラ革命軍が突如として火星を脱出。
両軍の注意が火星宙域に集中している隙を突き、外惑星に点在する鉱物資源採掘所をことごく接収。
更にはバイドによって陥落していた軍事要塞ゲイルロズを改修し、地球連合軍に対して対決の姿勢を示したのだった。
瓦解し、壊走する太陽系同盟軍もグランゼーラ革命軍に吸収される形となり、途端に戦力は拮抗した。
地球連合軍も、木星圏まで広げた領土の統治を安定させる必要に駆られており、更なる戦闘の継続は困難となっていた。
かくして地球連合軍とグランゼーラ革命軍との間に休戦協定が結ばれ、戦乱はひとまずの終結を迎えた。

これが、後に第一次太陽系戦争と呼ばれる戦乱の顛末である。
尚、この大決戦によりフォボスの質量の58%が失われたことは特筆すべき事実であろう。

そして、誰しもが遠からず起こるであろう新たな戦乱を予測していた。
それが間違いなく、先の戦乱よりも遥かに大きな規模のものとなるであろうことを。


そして、更に二ヶ月の時が流れる。
少女達の軌跡も、再びここから動き出すのである。
392 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/10(木) 21:08:01.08 ID:7AO1ihg40
――Epilogue of Mami Tomoe――


「なるほど……よく生き延びていたものだ。半年の間も宇宙を彷徨い続けて。
 流石はM型……と言ったところか」

感心したように、けれどどこか嘲るような調子に言う男に、その少女――巴マミは、どこか憮然とした声で答えた。

「別に彷徨っていたわけじゃないわ。機体の推進部が壊れてしまったから
 軌道を計算して、慣性飛行でここまで飛んできただけよ。……確かに、こんなに時間がかかるとは思わなかったわね。
 その間生き延びることができたのも、こんな身体になったお陰ではあるのだけど」

そこは月面上に建設された軍事基地、ルナベース6。
月の重力に引かれ、基地の近くへと墜落する物体が察知され、解析の結果それがR戦闘機であることがわかった。
回収されたR戦闘機は、魔法少女が乗るそれで。その中にはマミのソウルジェムが搭載されていた。
そして、それはまだ生きていた。

彼女の言によればバイド戦役終結直後、帰投しようとしたところで機体の推進部が変調を来たし
仕方なく推進部へのエネルギー供給をカット。慣性飛行のみで近隣の施設へと向かわざるを得なくなった。
しかし交差軌道に入ることのできる施設は民間のものしか存在せず
今の自分の身をそんなところに晒すわけには行かない。
だからこそ仕方なく、火星周辺宙域からこのルナベース6まで、半年という長い時間をかけてたどり着いたのだった。

「バイドとの戦いが終わった後、どんな願いでも叶えられる。
 それが、私が魔法少女隊を率いることになったときの契約だったはずよ。
 こうして無事に帰ってきたのだから、その契約を果たしてもらえないかしら」

そんな長すぎる孤独を感じさせないような力強い口調で、マミは自らの尋問を担当する
ルナベース6の司令官である男に向けて言い放った。
393 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/10(木) 21:08:35.68 ID:7AO1ihg40
「確かに、そのような話であったことは聞いているよ。
 ……それで君は一体何を願うというんだね、ゲルヒルデ。いいや、巴マミ」

そう促され、マミは答える。
その口調はどこか楽しげで、けれど辛辣な調子すらも含んだものだった。

「そうね、あれだけ地獄を見せてくれたんだもの、色々要求させて貰うわ。
 まずは私を含む全ての魔法少女を日常に復帰させること。身体を失ったものはその復活もお願いするわ。
 そしてもう一つ。沢山の少女達を犠牲にした上で生まれた魔法少女隊や魔女兵器。その存在を公表すること。
 私からの要求はそれだけよ。できればすぐにでもお願いしたいところね」

一通りの要求を叩きつけ、どこか満足げにマミは笑った。
一瞬呆気に取られたような様子をしていた司令官も、すぐに乾いた笑みを漏らして。

「なるほど、なるほど。それは実に大それた望みだな。本当にそんな要求が通るとでも思っているのかね?」

「通して貰うわ、それが私達と貴方達との契約だもの」

マミは臆せず言葉を返す。

「通らんさ。君と契約を交わしたのは、戦時中の軍事政府だ。
 知らなかっただろうね。君が宇宙を漂流していた間に軍事政府は解体され、新たな統合政府が成立していたのだよ。
 故に我々には、君達と契約を交わした事実などは存在しない。それを履行する義務もまた、発生しないわけだ」

酷薄に、その口元に薄く笑みを浮かべて男は笑う。
バカな女だ。どれだけ兵士としては優秀でも、所詮は子供ということか。
たとえ軍事政府がそのまま残っていたとして、そんな要求が受け入れられるはずが無いだろうに。
こうして自分の命すら握られている状況で、よくもそんなことが吐けるものだ。
そう内心で嘲笑いながら、言葉に愉悦をたっぷりと滲ませて続く言葉を投げかけた。

「そして我々は、前政権の行っていた非人道的行為の全てを否定する。
 当然、君を含め全ての魔法少女の存在を我々は認めない。……君もつくづく運がない。
 このルナベース6には、君の他にも無数のソウルジェムが保管されている。それが何故だか分かるかね?
 ……もうじき、彼女達は処分されることになるからだ。そして君もそうなるのだよ」
394 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/10(木) 21:09:09.11 ID:7AO1ihg40
その衝撃的な事実、さらに続けざまに投げかけられる残酷な言葉。
そんな言葉に心砕け、気力は萎え。そして屈してしまうのだろうか。
そんなはずがない。この程度の絶望など、バイドに比べれば余りにも矮小だった。
むしろその男の言葉は、マミの懸念に明確な答えを与える結果となっていたのだから。

「貴方達はそう言って、グランゼーラ革命軍との盟約も反故にしたのね。
 ……なんにせよ、その事実がわかっただけで十分よ。これで、私達も目的を果たすことができる」

「何を、言っている?」

くす、と小さな笑みが零れた。
恐らく人としての身体があったのなら、その規格外な胸を十全と張っていたことだろう。
それほどに自信に満ち溢れた様子で、マミはさらに言葉を続けた。

「直に分かるわ。さあ皆、初めて頂戴っ!」

その言葉と同時に、基地内に無数の衝撃が走った。
激しい衝撃に揺さぶられ、どうにか壁に手をついて男は、焦燥交じりの言葉を発した。

「何だ!何が起こっている!?状況を報告しろっ!」

「わ、わかりませんっ!突如として、基地の周りに無数のR戦闘機が出現、基地に攻撃を仕掛けていますっ!」

「なんだとっ!?く……っ、とにかく無人兵器を出撃させろっ!付近の基地に救援を要請しろっ!」

口早にオペレーターに指示を伝え、ようやく男はマミを睨みつけた。
その片手には銃を。その銃口をマミのソウルジェムを突きつけて。
395 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/10(木) 21:09:56.70 ID:7AO1ihg40
「これも貴様の差し金か。だとしたら、今すぐ止めさせろ」

「お断りよ。貴方達も思い知りなさい。私達の痛みと怒りを」

一閃。放たれたレーザーがマミのすぐ隣を掠めた。

「下らないお喋りに付き合うつもりはない。今すぐ奴らを下がらせろ。でなければ殺す」

「どうぞ、ご自由に」

けれどマミの言葉は、一切揺るがない。
どこまでも静かで冷静で、けれどその奥底には深い怒りを秘めて。
ぎり、と男は歯噛みした。状況が掴めない以上、マミの存在は人質になりえる。
そんなものを、まさかここで殺すわけには行かない。

「司令、敵機より通信がありました」

苛立ちと戸惑いを抱えた男に、オペレーターからの通信が届く。

「奴らはなんと言っている!さっさと知らせろっ!!」

「ただ一言、魔法少女隊と。……そう、名乗っています」

「な………っ」

魔法少女隊。魔女兵器の製造に際してできた副産物。
バイド戦役の最中に全滅し、一機として帰投したものはない。そうされていたはずの部隊だった。
それが今、巴マミと共に帰還した。
かつては人類の守り手として。今は地球連合軍の敵として。
396 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/10(木) 21:10:29.44 ID:7AO1ihg40
「奴らに伝えろっ!巴マミの身柄はこちらにある、攻撃を続ければこいつを殺すと伝えろっ!!」

信じられない事態の連続。完全に平静を失った男は、怒鳴り散らすようにしてそう言った。
それをそのままオペレーターが伝えた。けれど、帰ってきたのは更なる攻撃。
衝撃が基地を貫く。ようやく出撃を始めた無人兵器群も、次々に魔法少女隊の前に撃ち落されていく。

無人兵器は確かに恐ろしい兵器であった。けれどそれは、十分な数を揃えて始めてそう言える。
奇襲を受け、発進口自体が幾つか塞がれてしまった上、発進した側から的確に叩き落されていく。
そう、魔法少女は一人の例外もなく、あの地獄のような戦場で半年近くの時を戦い抜いた
まさしく、歴戦の勇者達だったのだから。故にその戦力差は圧倒的で、繰り広げられるのは一方的な蹂躙だった。

「……敵機より返答、ありません」

「……最初から、捨て石だったということか」

その事実は、少なからず男を愕然とさせた。
それほどの覚悟を持って迫っているということは、恐らく完全にこの基地を陥落せしめんとしているのだろう。

「まさか、そんなわけないじゃない」

どういうことなのだろうか、何か恐ろしいものを見るかのように男はマミを見た。
間違いなく殺されることが分かっているであろうに。その声はどこまでも平然としていた。

「ガキが……我々地球連合軍を、舐めてくれるなよ」

「侮るつもりはないわ。ただ、私達の全力を持って叩き潰す。それだけよ」

どこまでも平然と、それどころか余裕すら滲ませるマミの言動がついに男を激昂させた。
撃ち放たれた閃光。銃口から放たれた光は、マミのソウルジェムを貫いていた。

「……とにかく、他の基地からの救援が来るまで持ちこたえるぞ。
 無理やりにでも無人兵器を発進させろ。基地を破壊しても構わん」

撃ち抜かれ、砕けていくマミのソウルジェム。
だが、その姿が突如として掻き消えた。
まるで、最初からそこには何も無かったかのように。

「一体、何がどうなっているというんだ」

するりとその手から力が抜ける。
からん、と。乾いた音を立てて銃身が床に転がった。
397 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/10(木) 21:10:59.45 ID:7AO1ihg40
「……ふぅ、ここまで上手くいくと、気分がいいわね」

後方にて待機していたババ・ヤガー。
その機体の中で、マミは意識を取り戻した。
先ほどまでルナベース6において、軍の虜囚となっていたマミのソウルジェム。
それは、とある魔法少女の魔法によって複製されたものだった。

意志を宿した複製を造り出し、それが砕かれれば元となった場所へと意識が戻る。
いわば、自分自身の予備を作り出すようなものなのだろうか。
そのような魔法を生み出しえたこと自体が、一つの奇跡のようなものだった。

「長かったわね、ここまで来るのに」

たっぷりと感慨を込めて、マミは静かに呟いた。
398 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/10(木) 21:11:35.02 ID:7AO1ihg40
バイド戦役の終結直後、魔法少女隊はグランゼーラ革命軍にその身柄を委ねた。
地球連合軍にいたままでは、恐らく少女達の未来を勝ち取ることはできない。
グランゼーラ革命軍とて、正直得体の知れない相手ではあった。
けれど彼らは非人道的なバイド兵器、フォースに対する排斥感情を強く抱いている。
同じく非人道的な技術の産物である魔法少女の境遇にも、一定の理解を示してくれるのではないかと考えた。

その目論見どおり、グランゼーラ革命軍は魔法少女達を快く受け入れた。
それはやはり非人道的な技術の犠牲者である魔法少女達への同情もあったのだろうが
兵士としても非常に優秀であった魔法少女達を、自らの戦力にしたいという思いもあったのだろう。
ことこの一点においては、常日頃から意見の対立の見られていたグランゼーラ革命軍上層部の意見も一致していた。

かくして魔法少女隊はその所属をグランゼーラ革命軍へと移すこととなる。
その後、新政府によって盟約を反故にされたグランゼーラ革命軍は、反抗の時までじっと牙を潜めて待ち続けていた。
魔法少女隊はその間も、災害発生兵器たるR-9WZ――ディザスターレポートの捕獲や
外惑星における採掘拠点の確保において目覚しい働きを見せ、革命軍内での地位を確たるものとしていた。

そして、今。グランゼーラ革命軍の力を借りて、本格的な反抗作戦が行われる。
その初戦たる、地球連合軍に囚われた魔法少女達の救出が敢行されたのだった。
399 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/10(木) 21:12:04.28 ID:7AO1ihg40
魔法少女隊は、マミの突入と同時に密かにルナベース6の周囲に展開していた。
それを可能にしたのが、グランゼーラ革命軍が生み出した新技術、ジャミングであった。
既存のレーダーに対して完全なる隠蔽を可能にした、その最新技術を惜しみなく投入し得るほどに
魔法少女隊は、革命軍内においての信頼を勝ち得ていたのだった。

「隊長、管制塔を押さえました。無人兵器もほとんどが沈黙したようです」

隊長の帰還を察知し、随行していた機体から状況の報告が行われた。

「さすがは私の仲間たち、手際がいいわね。それじゃあ上陸班は、魔法少女達の救出に向かって頂戴。
 それが済み次第、後始末を済ませて撤退するわ」

そう、月面には無数の基地が設置されている。
完全にこの基地を押さえようと思えば、その基地からやってくる増援も全て叩き落さなければならない。
不可能ではないかもしれないが、やはり分は悪い。
もとよりそんなつもりもない、目的はあくまで魔法少女の救出なのだから。
400 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/10(木) 21:12:56.16 ID:7AO1ihg40
「上陸班が魔法少女達を押さえたようです。内部の抵抗もほぼ収まっています」

「さすがはあの二人ね。みんなは引き続き周囲の警戒をお願い。こちらも準備を始めるわ」

言葉を交わし、ついにババ・ヤガーが動き出す。
超絶圧縮波動砲が、それを撃ち放つためのエネルギーを蓄え始める。
既に基地内部の構造は入手していた。そして定められた照準は、ルナベース6内部、兵器格納庫。

「おいおい、始めるのは勝手だが、ちゃんと私達の脱出まで待っておくれよ」

唐突に舞い込んできた通信。それは上陸班からのもので。

「大丈夫よ、彼女の腕は私達が一番良く知っているでしょう?
 巴さん、ソウルジェムは全て確保したわ。後はこのまま脱出するから、それまで待っていてね」

上陸したのは二人。敵地へ乗り込むには心許ない数ではあったが。

「了解よ。ごめんなさい、キリカさん、織莉子さん。貴女達にだけ危険な任務を押し付けてしまって」

そう、その二人は呉キリカに美国織莉子。
いずれも魔法を扱う魔法少女。その魔法は白兵戦においても効果を発揮していた。

「気にすることはないさ。これは、私達にしかできないことだからね」

「そういうことです。それに、道なら全て私が示すから。問題なんて何もありません」

何せ少女達の中で、生身の身体を持っていたのはこの二人だけなのだから
それを良く分かっているからこそ、二人は静かに笑って答えた。
そして、脱出を急いだ。
401 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/10(木) 21:14:09.66 ID:7AO1ihg40
「全機脱出したわね?射線上からの退避も済んでいるかしら?」

マミの問いかけに全機が答える。発射準備は完了していた。後はただ、撃ち放つのみ。

「じゃあ、始めるわよ。私達の戦いを……未来を手に入れるための、戦いをね」

マミはその意識を、超絶圧縮波動砲の引き金へと向ける。
この一撃は、恐らく歴史を変える一撃となるだろう。身震いすらする心を抑えて、静かに狙いを定めた。

「……ティロ・フィナーレ!」

そして、引き金は引かれた――。


その日、ルナベース6は設備の大半と搭載した無人兵器の全てを失い、基地としての機能を完全に失った。
しかし、その人的被害は基地が被った被害と比べれば非常に少ないものだったと言われている。
そしてその事件と同時に、地球と月の全域に向けて一つの映像が放送された。
浮き足立った地球連合軍の隙間を縫って放送されたそれは、多くの人々の目に止まることとなった。

それはマミの言葉による、魔法少女の存在とその現状の訴え。
そして、魔法少女の存在を隠蔽しようとする地球連合軍に対する宣戦布告であった。
その日から、巴マミ率いる魔法少女隊の新たな戦いは始まるのだった。

彼女はそれからも戦い続けた。
第二次太陽系戦争、グッバイ・マイ・アース作戦等、多くの戦いにおいて常に彼女はその先頭に立ち戦い続けた。
それ故にその名は高く、そして長らく人々に語られることとなる。
402 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/10(木) 21:15:12.73 ID:7AO1ihg40
――Epilogue of Kirika Kure & Oriko Mikuni――


「静粛に。美国織莉子及び呉キリカへの判決を言い渡す。……両名は求刑通り懲役300年の刑に処す」

それは、バイド戦役終結の三ヵ月後。
無事に異層次元より帰還した第二次バイド討伐艦隊、そこに保存されていた身体を取り戻し。
今、美国織莉子と呉キリカの両名はかつての罪に問われ、軍事裁判にかけられていた。
二人の罪。それはかつてのTEAM R-TYPEの研究所にて行われた虐殺。
その罪は余りにも重く、されどその事情を鑑みれば、十分に情状酌量の余地はあるものだと思われた。
けれど、その罪を裁く者達はそのような事情を考えもしなかったのである。

彼らが属する新政府は、先の軍事政府の最大級の汚点とも言える魔法少女に対して、徹底的な隠蔽工作を行っていた。
全ての研究データの破棄や、現存している魔法少女の処分も検討されており、そう言った事情が
織莉子とキリカの二人に重過ぎる罪を言い渡していたのだった。

かくして裁きは下され、二人の身柄は火星にある収容施設へと護送されることとなるのだった。
403 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/10(木) 21:15:59.84 ID:7AO1ihg40
「どうにも解せないね」

護送船の中、特殊合金の檻の中。枷をはめられたキリカが呟いた。
どうやら新政府は、魔法少女の存在自体は否定的だが、その力を制御することには精力的らしく。
はめられたその枷は、魔法少女の魔法を抑制する機能も備えていた。
そうなってしまえばいかなキリカもただの少女、逃げる術など何もない。
例えこの檻を抜け出したとして、自動操縦の護送船は収容施設まで一直線に飛ぶことしかできない。
結局のところ、できることは何もなかった。

「……何か気になることでもあるの、キリカ?」

同様に檻に囚われた織莉子も、それは同様だった。

「どうにもね。連中が私達のことを始末したいってのはよく分かるんだ。
 でも、それにしては随分悠長なことをするじゃないか、連中はさ。さっさと極刑にしておけばよかったのに」

自分の事であるはずなのに、どこか他人事のようにキリカが毒づく。
そう、確かに始末するだけならばそのまま極刑に処してしまえばよかったのだ。
事実として、既に幾度かの暗殺をくぐりぬけて生き延びていたキリカには、その手ぬるさがどうにも解せなかったのだ。

「そういうわけにもいかなかったのでしょうね。極刑にするのならばそれ相応の手続きが必要になる。
 そうなれば、自然と多くの人の目に触れる。人の数が増えるほど、秘密を守るのは困難になるわ。
 だから、裁判自体は正当に行うことにしたんじゃないかしら。……あくまで、その判決自体は」

最後の一言だけ、織莉子の声のトーンが下がる。
そう、あくまで行われたのは正当なる裁き。織莉子自身は、自分のやったことに罪の意識は欠片もない。
恐らくキリカも同様だろうと思っている。
少なくともあの時あの場所に居た連中は、殺されても文句の言えないようなことをしていたのだから。
それでもその行為は、社会通念上では間違いなく重罪だった。
404 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/10(木) 21:16:34.79 ID:7AO1ihg40
「……なるほど、ね。なんだかちょっとだけ織莉子の気分が分かったような感じだよ。
 つまり、こういうことだろう?これからこの船にある不幸な事故が起こる。
 それは隕石との衝突かもしれないし、テロリストによる犯行かもしれない。そして護送船は撃沈。
 護送中の凶悪犯二名も、その爆発の中に消えた。きっとそんなところだろう?」

「ええ、きっと視えていればそんな光景だと思うわ。……いいものじゃないわよね、自分が死ぬところが見えるなんて」

軽くウインクして見せて、そんな事を言うキリカに、織莉子は苦笑混じりに答えた。
そう、あくまで対外的には正当な裁きを下したように見せているのだろう。
そうして送り出してしまえば、後はいくらでも好きなようにできるのだから。

「そう考えると、いろいろと不自然だったのにも納得がいくね。凶悪犯の護送にR戦闘機の一機もつけない理由。
 そしてついさっき、この船の乗組員が全員シャトルで出て行った理由。全部納得がいくよ」

乾いた笑いが、その口元から零れた。低く、掠れたような笑い声が。

「まったく、滑稽な話だよね。織莉子。あれだけ織莉子がみんなの為に頑張ってたのにさ。
 何度も何度も死にそうになって、それでも頑張って戦い抜いて、生き延びたって言うのにさぁ」

声が、震えた。それを押し隠すように強気な言葉を紡ごうとして。
けれど、できなくて。震える声だけが、次々に押し出されていった。

「なのに……それなのに、さぁ。何でこんなことになっちゃうんだよ。
 私達が守り抜いた相手に、こんな風に舌を突き出されてさ。……はは、はははっ。
 これじゃあ一体何のために戦ってたのかわかりもしないよ。ねぇ……織莉子」

震える声を隠し切れずに、キリカは縋るように織莉子を見つめた。
その時、激しい衝撃が船を揺らした。
405 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/10(木) 21:17:48.31 ID:7AO1ihg40
「うぁっ?!」

「きゃっ……!」

その衝撃に二人の身体は投げ出され、壁に繋がれた枷によって引き止められた。
恐らく推進部に何らかの攻撃を受けたのだろう。衝撃に揺さぶられ、そのまま護送船は一切の動きを止めていた。

「とうとう……来たか。ああ、来てしまった。本当に……こんなものが私達の最後なのかいっ!?」

胸の内で芽生えた絶望が、じくじくと心に侵食していた。
何か手はないのか、生き延びる術はないのかと必死に辺りを見回した。
けれどそこにあるのは檻と枷。そして織莉子の姿だけで。一切脱出の役に立ちそうなものはない。
まして外は宇宙空間。スーツの一つもない今では、投げ出されれば即、死亡である。

「死線を幾度も乗り越えて。……けれど、その最後は思っていたよりもずっと呆気ないものだったわね。
 ごめんなさい、キリカ。元々これは私だけの問題のはずだったのに、貴女まで巻き込んでしまったわ」

今こうしている自分。その全ての発端は、織莉子が魔法少女となったことからだろう。
そしてそれを追い、キリカもまた魔法少女となり。そして闇へと転げ落ちた。
逃げ出す場所などどこにもない、深い絶望の袋小路へと、転げ落ちていったのだ。

織莉子の頬を、暖かな雫が伝った。
それは涙と呼ばれたもので、全てが絶望に沈んだあの日から、ずっと忘れていたものだった。

「でもね、キリカ。これは私の我侭よ。それに貴女を巻き込んで、こんなことになってしまったのも事実なの。
 ……でも、それでも私は。貴女に出会えてよかった。貴女と一緒に生きられて、貴女と一緒に戦えて。
 幸せだったわ。本当に……愛してるわ、キリカ」

感極まって伏した目から、とめどなく涙が溢れた。
闇に堕ちた織莉子にとって、キリカの存在は光だったのだ。
それは闇よりも黒く、織莉子の側で彼女の進むべき道を照らす漆黒の光。
それがたまらなく愛おしくて、一緒に居られる時間は甘美で。それが失われることが、ただただ悲しかった。
406 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/10(木) 21:18:21.65 ID:7AO1ihg40
「私だって!織莉子のことは大好きだ、愛してる。愛してるんだっ!
 ……嫌だ!嫌だ嫌だイヤだっ!こんなところで終わりたくない。まだ死にたくないっ!
 もっと織莉子と一緒に居たい、もっと一緒に話がしたい。もっと、もっと織莉子に触れたい。
 嫌だ、嫌だよ……死にたく、ない……よぉ」

例えどれほどの絶望を乗り越えたとて、幾度もの死線を乗り越えたとて、彼女達はまだ少女なのだ。
呆れるほどの苦境の末に手にした平和。その平和からさえも舌を突き出されて、気丈で居られるはずがなかった。
止め処ない嗚咽が、キリカの口から漏れた。

「キリカ……あぁ、キリカ。私も同じよ。貴女と一緒に居たい。貴女と生きていたい。
 なのに、どうして……こんなっ」

ぽろぽろと、零れるのは涙ばかりではなくて。
零れるのは嗚咽。それはやがて慟哭。二つの泣き声が、死を待つばかりの箱舟の中に響いた。


けれど、その死は一向に訪れなかった。


泣きはらし、すっかり目元も腫れてしまった二人。
溢れる激情は、涙になって流れてしまった。されど訪れぬ最後の時。

「……これは、もしかすると」

それは、二人の脳裏に何かを予感させた。

「ええ、もしかしたら……」

それはあまりにかすかな希望。状況は変わったのではないか。
最後をもたらすその一撃は、未だ持って放たれていないのだ。
もしやすると、死の定めは覆されるのかもしれない。それはもちろんかすかな希望。
けれど今まで希望のきの字も見えなかったのだ。そしてほんの僅かでも希望があれば
それはきっと現実足りえることを、二人は知っていた。
407 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/10(木) 21:19:07.36 ID:7AO1ihg40
「……ええと、その。そういうこと、なんです。ハイ」

艦の通信をジャックして流れ込んできたその声は、やけに気まずそうな少女の声だった。

「え……貴女、は?」

「な……っ、君はっ!?」

その声は、二人にとっては聞き覚えのある声だった。
その声に織莉子は疑問を、キリカは驚愕をその表情に浮かべた。

「まあ……要するに、っスね。刺客かと思った?残念、魔法少女隊でしたっ!!……ってなわけで」

もう一つ、別の少女の声。なんだかもう開き直っているような声。
それもまた、二人にとっては聞き覚えのある声で。
とうとう二人は互いに同じく、驚愕の表情を浮かべるのみとなり。

「助けに来たんです。……隊長、織莉子さん」

そしてもう一人の声。それもまた同じく聞き覚えのある、忘れようもない声。
少女達は、かつてのキリカの戦友達。バイド戦役を生き延びた、魔法少女隊の戦士達だったのだ。

「生きて……いたのかい、君達は」

愕然と、そして呆然とキリカは呟いた。
安堵、驚愕、そして今更になって込み上げてきた、たまらないほどの嬉しさと。

「あー、ひっどいなぁ隊長ってば、会っていきなり生きてたのかーって。
 死ぬわけないじゃないスか。私らは隊長の部下で、魔法少女隊なんでスよ?」

「先ほどはごめんなさい、どうしても船を止めるためには推進部を破壊するしかなかったので。
 お怪我とかなされてませんか?とにかくすぐに助けに行きますから」

「……まあ、本当は結構前から通信は繋がってたんだけどね。
 あんなわんわん泣かれてたら、話すことも話せないってわけでねぇ」

そして最後の一言が、たまらなく二人の羞恥を煽るのだった。
当然、途端にその顔は朱に染まった。
408 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/10(木) 21:19:50.14 ID:7AO1ihg40
「き〜み〜た〜ち〜は〜〜っ!何をやってるんだぁぁぁっ!!」

キリカ、絶叫。
恐らくそれは照れ隠し。恥ずかし紛れといってもいい。
その声はとてもとても嬉しそうに、少女達へと怒りを発散していた。

「うわわ、隊長が怒ったっスー」

「ですからそれについてもごめんなさいということで……その、正直驚いてました
 隊長があんなにわんわん泣いてるなんて……くくっ」

「いや、状況が状況だから笑っていいのかわからなかったんだけどね、やっぱり笑うってこれ」

詫びているのだか煽っているのだか、なんだか暢気なやり取りで。
そんなやり取りを遮って、響く一つの笑い声。

「くくっ……ふふ、あはは。あははははっ!」

「……お、織莉、子?」

それは織莉子の放った声で。今までの様子が嘘のように笑い出す。
それには少女達も絶句。キリカすら、どこか心配そうに顔を覗き込むばかりで。

「あはは……はは、はぁ。っ、もう」

目じりに浮かんだ涙を払おうとして、枷に遮られそれも叶わずに。
さりとて気にすることなく、織莉子はそのまま言葉を次いだ。
409 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/10(木) 21:20:55.83 ID:7AO1ihg40
「本当にもう、一体どれだけ波乱万丈なのかしらね、私達の人生は。
 多分もう、一生どころじゃすまないほどの生き死にを越えてきたんじゃないかと思うくらい。
 思わず笑ってしまったわ。……そろそろ隠居でも考えようかしら。ねぇ、キリカ」

「え、いや。織莉子がそうしたいなら……私もいい、けど」

キリカですら見たことのない織莉子の姿。
目を見開いて戸惑うキリカ。まさか極度の緊張で何かがぷっつりといってしまったのでは、と
そんなことすら考え始めてしまったところに、更なる声が飛び込んだ。

「輸送艦が来たんで、船ごと積み込んじゃいますよ。……それと、織莉子さん。
 ちょっと隠居は……まだできそうにないかもしれないスよ」

少し申し訳なさそうにその少女は告げた。
それは予想されいたことかのように、織莉子の答えはすぐさま返ってくるのだった。

「分かっているわ。バイド戦役が終わった今、存在しないはずの魔法少女隊を名乗る理由。
 そして重罪人である私達を助ける理由。それを考えれば、新たな魔法少女隊の目的も分かるわ」

「……相変わらず、驚くほど察しがいいですね」

その答えが、自分の推測を肯定しているのだと理解して、織莉子は更に笑みを深めた。

「戦うつもりなのね、地球連合軍と」

「……ああ、ここまで好き勝手にやられっぱなしで、泣き寝入りじゃあ気がすまないからね。
 だから二人にも付き合って欲しい。そのためにわざわざ革命軍に救出作戦への協力をさせたんだからさ」

そう、今回の救出作戦にはグランゼーラ革命軍も一枚噛んでいた。
政治犯収容施設が火星にあることから、そこへの護送の日時や航路を革命軍を通じて手に入れていたのである。
410 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/10(木) 21:21:34.57 ID:7AO1ihg40
「織莉子、私は戦う。私や織莉子をここまでコケにしたんだ。あいつらはその報いを受けるべきだ。
 織莉子はどうするんだい?やっぱり人間相手は……」

織莉子の戦う理由は、正義のため。世のため人のため。
だとすれば、その力を同じく人に向けるのは恐らく大いに躊躇うべきことだろう。
キリカの言葉も、今一つ歯切れが悪い。

「戦うわ。ここまで死にそうになったり生かされたりしていたのでは、身の休まる暇もないもの。
 だから、そろそろそんな最悪な運命の後ろ髪を、思い切り引き抜いてあげてもいい頃だと思うのよ。
 もう二度と私達にそんな運命を与えられなくなるくらい、徹底的に叩き潰してあげましょう」

そして織莉子は不敵に、力強く、どこか邪悪さすら感じるような笑みを浮かべた。


かくしてその日、魔法少女隊に美国織莉子・呉キリカの両名が復帰することとなった。
二人のその後の活躍は目覚しく、後の戦乱の最中にも多くの戦果を挙げたといわれている。
411 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/10(木) 21:22:54.23 ID:7AO1ihg40
――Epilogue of Kyoko Sakura――


「あとどれだけの時間が、あたしには残されてるんだろうな」

土星圏の辺境に存在する居住用コロニー、リリシアン。
主たる居住区画から離れた、自然の多い公園区画。
その片隅に寝転んで、映し出された青空を眺めて杏子は呟いた。

そう、バイド戦役の終結後、奇跡によって帰還した命たちが、あるべき場所へと帰る中。
杏子はたった一人、その存在を失うことなく生き長らえていた。
後にそのことを知り杏子自身もひどく驚いたが、大事なのは今自分が生きているということ。
これからも、そうして生きて行けるということなのだと、自分を納得させていた。

そしてバイド戦役が終結し、世界が戦後の混乱に沈んでいる最中。
こっそりと機体や資材、財産などを持ち出して、こんな辺境のコロニーにまで逃げ延びてきたのである。
当然既に杏子は死んだ身で、素直に軍に戻れるかどうかもわからない。
何よりもうこれでバイドとの戦いは終わった。杏子にとってはこれ以上戦う理由もなかった。
だから、全てを捨てて逃げ出したのだった。

たった一つ以外だったのは、その逃避行には連れ合いが居たことだけだった。
さやかが、そんな杏子に着いて行くと言ったのだ。
当然最初は反対した。既に死人の杏子と違い、さやかにはれっきとした地球人としての身分がある。
家族の元にだって戻ることができるはずだと説得したのだが、さやかの意思は固かった。

さやかは言ったのだ。

「あたしはこれからも、あんたと一緒に生きていきたいんだ。だから、一緒に行くよ。
 そして、いつか色々ほとぼりが冷めたらさ、一緒に帰ろうよ、ね?杏子」

それがどれほどの時を要するかもわからないというのに、それでも不敵に笑って。
自身げに、希望の色を絶やさずに。そう言ったのだ。

その時杏子は、少し泣きそうになりながらそれに答えたのだった。
今でも時折、さやかはそのことをからかってくる。それがちょっとした悩みの種だった。
412 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/10(木) 21:23:51.67 ID:7AO1ihg40
宇宙の片隅、それなりに蓄えはあったにせよ、年端も行かない少女が二人で生きていくにはやはり世間は厳しかった。
目減りしていく蓄えが、日々の不安を募らせて。ついに杏子は再び戦うことを選んだ。
それは仲間を守るためでも、バイドを討つ為でもなく。ただ彼女とさやかが生き延びるための戦いだった。
丁度その折地球連合軍から各コロニーへの干渉が始まっていたこともあり、リリシアンもまた自衛の為の戦力を必要としていた。
杏子はリリシアン自警団の一員として、再び戦場に舞い戻ることとなる。

今度の敵はバイドではなく同じく人間。躊躇いはあったはずなのに、その身に染み付いた戦士としての本能は
容易くその引き金を引かせ、心の痛みすらもどこかへと遠ざけていたのだった。

そんな再び戦う日々の中、それは唐突に発覚した。
自警団で行われたメディカルチェック。
それが杏子に示したデータは、その身体が限りなく死人のそれに近づいていることを示していた。
驚愕、そして困惑。逃げるようにリリシアンを飛び出した杏子の足は、気付けば忌まわしき場所へと舞い戻っていた。
かつての地球連合軍において、魔法少女と魔法の研究を一手に担っていた研究機関。
すなわち、かつても今も変わらぬ狂気の科学者集団、TEAM R-TYPEの元に。
413 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/10(木) 21:24:36.32 ID:7AO1ihg40
「……まあ、見ての通りだ。佐倉杏子。お前さんの身体は、もうとっくに死んでおる」

その初老の男性は、杏子の身体を舐めるようにジロジロと見回して
それからさぞ興味深いとでも言った風に、杏子にそう告げるのだった。

「それで、じゃあ何であたしはこうやって生きてるんだよ。ゾンビにでもなっちまったってのか?」

そんな視線、そして言葉に込み上げてくる嫌悪感を隠そうともせずに、苦々しい表情で杏子は言葉を返した。

「ある意味、それに近いといえば近いかもしれんな。お前さんの身体を動かしているのは今や脳や神経からの電気信号ではない。
 あまりこういう言い方はしたくないが、魔法といったほうが理解はしやすかろう」

「魔法で身体が動いてる、って。……そりゃあ、まるで」

「そう、今のお前さんの身体は、M型被験体。いわゆる魔法少女という奴とよく似ておる。
 ただ、ソウルジェムができている風でもない、なんとも不思議な状況だの」

だとすれば、この身体がある意味死体のようなことにも納得はいく。
そもそもこの身体自体が、まどかの願い。いうなれば魔法によって生み出されたものなのだから
ある意味当然のことだとも言えた。だが、だとすれば気がかりなこともある。
414 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/10(木) 21:25:06.78 ID:7AO1ihg40
「じゃあ……あたしはこのまま、ずっと普通に生きていけるってことなのか?」

「それは分からん。お前さんの話によれば、恐らくお前さんの身体を動かしている魔法の力は
 お前さんが生み出しているものではなく、願いによって与えられたものなのじゃろう。
 となれば当然、それが尽きてしまえば……どうなるかは、言うまでもあるまい」

「時間は、どれくらいあるんだ」

ぎり、と歯噛みして。男を睨んで杏子は詰め寄った。
どれだけの時間があるというのか、ある日突然動けなくなって、そのまま死んでしまうのではないか。

「それも分からん。お前さんがこの世界に舞い戻り、更に身体を得るにいたるまで
 そこには二つ分の願いが介在しておる。その分余計に魔法の力が残っておる、という解釈もできるが。
 実際それがどの程度のペースで目減りし、一体今どれだけ蓄えられているのか。それを知る術はない」

彼らの科学技術をもってしても、異星の技術たる魔法を完全に解析するのはまだ不可能であった。
その技術をもたらしたインキュベーターは、バイド戦役の末期から行方が知れていない。
そもそも新政府の方針により、魔法少女に関する全ての技術や情報が封印されてしまっている。
これ以上はどうにもなるまいというのが、男の考えではあった。

「明日か明後日か、それとも五分後か十年後か。それは我々にもわからん。
 ……だがまあ、そう気に病むことでもあるまい」

まるで何事もないかのように、男は杏子にそう告げるのであった。
当然人事ではない杏子は、男に掴みかかった。

「っざけんじゃねぇッ!人事だと思って、好き勝手言いやがって!」

それでも、男の笑みは崩れない。
多少締まっているのだろうか、その語る声はどこか苦しげではあるが。
415 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/10(木) 21:26:37.33 ID:7AO1ihg40
「変わらん……さ。お前さんも、あの戦場を見てきただろう。
 五秒後、十秒後。自分が確実に生きていられる保障があったか?絶対に自分が死なないと……言い切れた、か?」

杏子ははっとなったように目を見開き、自然とその手から力が抜けた。

「ま、要するにそういうことだよ。別に戦場に限った話でもない。
 普通に暮らしていたとて、ふとしたことで人は死ぬ。それが今日かも知れんし、明日かも知れん。
 十年後かも五分後かも分からん。今のお前さんと、何が違うというのだね」

「……そりゃあ、そうだけどよ」

いつしか杏子の手はだらりと垂れ下がり。その視線は、浮ついて虚空をなぞっていた。

「問題なのは、その限られたいつ終わるとも知れぬ生で、一体何を為すかと言うことだ。
 私とて、まだまだやりたいことは山ほどもある。だがそれでもいつ死ぬかも分からん。
 その時になって悔やまんよう、自分のやりたいことにはひたむきに、真摯に取り組んできたつもりだ。
 ………ま、それもこれでお仕舞いだがな」

そう言って笑う男の横顔には、隠し切れない寂寥の念が滲んでいた。

「……なんだよ、ついに今までの悪行の報いを受ける日が来たか?」

そんな表情がどうにも意外で、けれど素直に心配できるほど相手の日ごろの行いは良くない。
だからこそからかうように、どこか嘲笑う風も込めて杏子は言った。

「新政府は、近々TEAM R-TYPEの解散を宣言するつもりらしくてな。
 今後は無人兵器を主とした兵器体系にシフトしていくらしい。TEAM R-TYPEはそのための組織に作り変えられる。
 組織としての形も大きく変わろう。今までどおりのやりたい放題、とはもういかんのだよ」

「ってことは、もうR戦闘機はなくなっちまうのか」

今まで様々なRと共に、多くの戦場を駆け抜けてきた。
その日々が終わり、ついにRのその名も潰えてしまうのか。そう思うと、杏子はどうにもやるせないものを感じてしまった。
416 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/10(木) 21:27:12.54 ID:7AO1ihg40
「しばらくはR戦闘機のデータを流用した無人兵器の開発が行われるだろうが、あくまでR戦闘機は有人機。
 いずれは違う形に取って代わられるだろうな。……今更だが、なんだか寂しいものだ」

「にしても、いいのかよ。そんな機密をあたしなんかにべらべらと」

「構うまい。どうせ近々なくなる組織だ。それにもしTEAM R-TYPEが健在なら
 お前さんのような最高の実験台を、みすみす放っておくという話もないからの」

もの悲しさなどどこへやら、呵呵と笑うその姿はこんな状況ですら楽しんでいるような、そんな風にも見えた。

「それに今、TEAM R-TYPEはその全能力を投入して最後の大仕事に挑んでおる。
 それさえ終わらせることができれば、別に解散してしまってもかまわんのだよ」

「今度は何企んでんだよ、あんたらはさ」

「言うまでもあるまい。究極のR戦闘機の開発だ。……いや、流石にそれに関してはまだ秘密だ。
 ほれ、話は済んだんだ。私も忙しい、さっさと帰ってやるがいい」

話は終わった。すぐさま席を立ち、男は杏子に背を向ける。
究極のR戦闘機。それが一体何なのか。気にならないわけでもなかったが。
そんなこと、知ったところでどうにもなるまい。
杏子もまた踵を返し、リリシアンへの帰路を辿った。
帰還した日の夜のことである。公園区画で、星を眺めて寝転ぶ杏子の姿があったのは。


「さて、そろそろ戻るかね。さやかの奴も心配してるだろうし」

結局、どれだけ生きられるかなどは心配しても仕方がない。
だとすれば、大切なのは何を為すか。男の言葉が杏子の頭の中を渦巻いていた。
どう生きるべきなのか、何を為すべきなのか。その答えはまだ、見つかっていない。

そして今日も杏子は、家路を辿る。
417 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/10(木) 21:35:34.02 ID:7AO1ihg40
今日のところはここまでです、後半はまた後ほどということで。
バイドとの戦いを終えて尚、人は愚かにも争いを繰り返すのだそうです。

>>373
まあ、地球に帰ってくるときにほむらちゃんは生き返っただけなので。
あの時はまだお亡くなりになってたというだけなのですけどね。

>>374
彼女達のことについては後半で触れられることとなるでしょう。
はたして今、彼女達は何をしているのか。どうぞお楽しみに。

>>375
権利を主張する前に叩き潰されそうです、だからこそ彼女達も全力で牙を剥きました。
人類同士の戦争は、バイドとのそれに比するほどに熾烈を極めていくことでしょう。

なんだかんだで皆結構死んだり生き返ったりしてますからね。

>>376
このまま無人兵器の開発がとことんまで進んでいくと……さて、どうなることでしょうか。

>>377-380
スゥ=スラスターの場合は身体どころかその精神も大きなダメージを受けておりました。
よしんば魔法少女となったとして、果たしてどうなっているか……。
そして使えたとして、どうなるかという話でもあります。

>>381
残念ながら暁美家はほむらちゃんの帰るべき場所ではないのです。

>>382
なんだかんだ言ってスゥちゃんの精神はまだまだ未熟なのです。
ほとんど唯一とも言うべき心のよりどころがまどかちゃんだったわけですから。
当然、失ってしまえばそのショックは大きいものだったのでしょう。

>>383
それについては流石に死活に関わるということで、どうにかこうにか技術を持ち出すことに成功していたようです。

>>385
まさしくそんな感じになっております。
418 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/05/10(木) 23:04:06.55 ID:z3ARamOm0
行き着く先は家畜人ヤプーのイース帝国かもな・・・
419 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/11(金) 00:40:44.90 ID:miRxe5Moo
まさかここでディザスターが出るとは・・・。

グランゼーラが新しくジャミングを開発ってことだけどアンチェインドサイレンスとかはバイド戦役時はなかったのか
420 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/11(金) 10:30:34.10 ID:K1b4XFuDO
最終回(前編)投下お疲れ様です!

マミさんは、平穏を手に入れるその日まで、スマートに生きたんだな。
にしても、ずっとリーダーってのは苦しかったろうな。
全部終わったら、好きな事をしながらのんびり暮らして欲しいもんだ。

“不幸な事故”は便利過ぎるな、全く。
ま、地球厨共にとっては残念な事に、
彼女らの愛を、より深める結果に終わったみたいだけどね。

杏子ちゃん…さやかちゃん…。
二人の日常が、少しでも長く、続きますように。
421 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/05/12(土) 00:40:56.62 ID:Pxk6aUVfo
魔法少女達の戦いは終わらない
奪われたものを取り返すその日まで……



ゲッターロボが必要だな。ダークネス的に考えて
422 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/05/14(月) 15:18:31.34 ID:4eolQDbx0
やはりと言うかなんと言うか、こういう風に一人一人のエピローグをやっていくのなら
恐らく一つ一つ投下していってもいいんじゃないかという気がしてきました。
最終話自体もそこそこ長くなりそうですし、しばらくはそんな風に投下してきましょう。

ということで今夜21時頃より再び投下していきます。
423 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/05/14(月) 15:54:05.56 ID:DaKm7Tdco
わっほい
424 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/05/14(月) 21:03:50.60 ID:gWRHFoUH0
んではやりましょうか
おさとうおいしいです
425 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/05/14(月) 21:06:37.00 ID:gWRHFoUH0





――Epilogue of Sayaka Miki――




426 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/05/14(月) 21:07:29.71 ID:gWRHFoUH0
「う……ぅ、ぅあぁぁぁっ!」

そこは地獄だった。
見渡す限りに広がるのは、まるでこの世に存在するありとあらゆる苦痛をその一身に受け
その身と魂を焼き尽くされて朽ち果てた亡骸の群れだった。
彼らの無残にも歪められたその表情はまさに正視に堪えぬほどの惨状であり
あるいは歪みあるいは崩れ、そしてあるいは焼け爛れたその口から漏れる声は、断末魔の声と
そして身の毛もよだつほどのおぞましい怨嗟の声だけであった。

さやかは、ただ一人その光景を見つめていた。
目を逸らすことはできなかった。そして例え目を逸らそうともおぞましきその声は
容赦なく彼女の鼓膜をすり抜け、その体の奥底に存在するであろう精神を傷つけ続けていたのである。

それは間違いなく夢だと、さやかは知っていた。
なぜならその光景は、彼女にとっては忘れようもない光景であったのだから。
それはかつてのアークにおいて、希望が転じて絶望となり、多くの人間の死を孕んだ箱舟となった場所において。
単身まどかを助けるために乗り込んださやかを待ち受けていた、まさしくこの世の地獄のような光景だったのだから。

そう、それは既に起こってしまった過去の出来事。
けれどその時心に深く刻まれたその傷は、約半年の時を経た今でも、さやかを苦しめ続けていたのだった。
427 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/14(月) 21:08:51.79 ID:gWRHFoUH0
彼らは望まぬ死を押し付けられたその表情で、口々に怨嗟の声を漏らす。
けれどその声は、確かな意味のある言葉としてさやかの元へは届かなかった。
それも当然と言うもの、彼女は彼らの声などまるで知らぬ。
彼女がアークを訪れたとき、彼らのほとんどは既に事切れてしまっていたのだから。
だとすればその声は一体何なのか、そんなことは誰にも分かりはしなかった。

それでもその声ならぬ声は、ひしひしと耳に心に響くその感情は、否応なくさやかを追い詰めた。
亡者の一人が起き上がる。それにつられるようにまた一人、そしてまた一人。

「ひ……ぃっ」

それはあまりに恐ろしい光景で。
恐怖に縮こまったさやかの喉は引き攣れ、震える声を一つ漏らすだけであった。
けれどその間にも、亡者達は次々に起き上がりさやかへと迫ってくる。
逃げ出そうとして始めて、さやかは自分が床に座り込んでいることに気がついた。
立ち上がって逃げようにも、恐怖は完全にその四肢から力を奪い去っている。
何よりも腰がすっかりと抜けてしまっている。
仕方なく手足を動かし、必死に這うようにして後ずさる。けれどすぐにその背は壁へとぶつかった。

もう逃げ場所などどこにもない、亡者達の手はすぐそこにまで迫っていた。
彼らの手に囚われれば、一体どうなってしまうのか。
その生をこれでもかと言うほどに啜られ、さやかもまた同じく亡者の仲間入りとなってしまうのか。
それともその生を激しく憎む亡者達の手によって、到底筆舌に尽くしがたいほどの陵辱の憂き目を見てしまうのか。

いずれにせよその未来は決して明るくはない。
そしてついに伸ばされた亡者の手が、さやかの身体を掴み上げ――
428 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/14(月) 21:10:07.80 ID:gWRHFoUH0
「さやかっ!おい、しっかりしろ、さやかっ!」

力強く身体を揺さぶる手、そして自分の名を呼ぶ声。
飛び起きたさやかの意識が最初に感じたのはその二つだった。
そして目を開けると、そこには。

「……杏子?」

そこには必死の形相でさやかを見つける杏子の姿があった。

それは丁度杏子が忌まわしき場所からの帰還を遂げ、リリシアンへの戻った日の夜である。
杏子がようやく我が家へと戻ることができた時には、時刻はもう既に深夜であった。
当然さやかも寝ているだろうと、密かに帰宅を果たした杏子であった。
いつ戻るとも知らせずに飛び出してきたのだ、明日の朝にでも起こしてやって驚かせてやろう。
そしてそれから謝ろうと、そんな殊勝かつ諧謔なことを考えていたのだが、それは唐突に打ち切られることとなる。

自室へと戻る前に少しだけさやかの部屋を覗き込んだ杏子が見たものは
まるで目に見えない何かに怯えるかのように身を丸め、全身に汗をびっしりと浮かべながら
苦悶の表情とそれに負けぬほど苦しげな声を上げながら眠るさやかの姿であったのだ。
当然それを放ってはおけぬ。思わずその身を抱き起こし、身体を揺さぶり声をかけた。
恐らくそれがさやかを悪夢の淵から引きずり起こしたのだろう。かくしてさやかの悪夢の幕は閉じられたのである。
429 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/14(月) 21:10:54.34 ID:gWRHFoUH0
「あんた……一体今までどこほっつき歩いてたってのさ!勝手にいなくなったりしてっ!」

途端に飛んできたのは怒声である。
土星に近しいこのリリシアンにおいても、その怒声はやはり変わることなく杏子の鼓膜を振るわせた。
何故だかはわからないが、その声が杏子にはなにやら愛おしく感じられた。
込み上げるその感情はあるいは感慨、あるいは思慕のようでもあったりして。
それに駆られるように、杏子はさやかの手をとって。そしてじっとさやかの顔を見つめて。

「それは……ほんとに悪いと思ってる。でも、おかげで問題は解決した。
 もう大丈夫だ、どこにも行かない。……ほんとごめん、さやか」

どうやらさやかのたった一言で、杏子の胸中の諧謔たる思いは一片に消し飛んでしまったらしい。
珍しく素直に自分の非を詫び、頭を下げる杏子の姿に、逆に困惑してしまうさやかでもあった。

「……ったくもう。そんな風に言われたら怒るに怒れないでしょうが。
 それで、本当にもう大丈夫なんでしょうね。だったら、ちゃんと事情を聞かせなさいよ」

「分かってる。……ちょっと衝撃的な話かも知れないけどさ、とりあえず最後まで聞いてくれよな」

真夜中深夜、うなされているところを叩き起こして。
話しているのはそれとは全く関係のないことである。けれどそうして話をしている間に
蒼白とでも表現できそうなさやかの表情には僅かに赤みが戻ってきていて
全身にびっしょりと浮かんでいた汗も、幾分かは引いたようだった。
430 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/14(月) 21:12:03.17 ID:gWRHFoUH0
「まあ、そういうわけらしくてさ。……要するに、今のあたしはいつ死んでもおかしくないんだってさ」

ようやく全てを語り終えると、当然のようにばつが悪そうに杏子は佇んでいた。
結ばれた手と手は、なんとなく別れる機を逸したかのように今でも繋がったままである。

「……それで、杏子はどうするのさ」

最悪の夢に続いての衝撃の告白。
どうにも心のどこかが完全に麻痺してしまったらしく、さやかはどこか据わったような目つきで杏子に問いかけた。

「まあ、色々考えたんだけどな」

一つ息を吐き出して、杏子はさやかの問いに答える。
そんな杏子を、さやかは相変わらず据わったままの目つきで睨みつけているのである。

「どうもしないことにした。別にそれが分かったからって、生き急いだり死に急いだりはしねぇよ。
 あたしは今まで通り普通に生きる。いつか死ぬかも知れないのだって誰だってそうだろ。変わりゃしないさ」

そして驚いたように目を見開いたさやかの手を引いて、自分の元へと引き寄せて。

「だから、さ。さやかも一緒にいてくれ。先に行っちまうかもしれないってのは心苦しいけどさ。
 それでもあたしは、限られた時間だからこそあんたと一緒に居たいんだ。……ダメ、かな」

今度こそ杏子から、さやかの身体を抱きとめて。
その耳元に囁くように、そんな思いを打ち明けた。

「なーんか……さ。それって、プロポーズみたいじゃない?」

照れくさそうにはにかみながら、少しだけ困ったようにさやかは答えた。
杏子もどこか恥ずかしげにそっぽを向いて、それでも。

「好きでも大切でもない奴を、こんな土星くんだりまで連れて来るわけねーだろ、ばか」

確かに、そう答えたのだった。
431 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/14(月) 21:12:38.18 ID:gWRHFoUH0
そんな言葉に、さやかは一つ大きく溜息を吐き出して、そして。

「……あたしの答えはもう伝えてあるはずでしょ。あたしはあんたと一緒に生きていきたい。
 だから、一緒に行くってさ。……あんなに泣きながら喜んでた癖して、またそんなこと尋ねますかねこいつは」

親指を中に、柔らかく握りこんだその拳でこつんと、杏子の胸を打つのだった。

「なっ、泣いてねーだろうがっ!勝手なこと言うな、バカっ!」

「はいはい、過ぎた話はいいからまずは今流れてる涙をどうにかしなさいな、杏子」

「っ!?……だ、だから泣いてなんか、ねぇって」

恐らくその光景を誰かが見ていたのなら、その反応は二つくらいに大別されていたことだろう。
素晴らしい、と頬を緩めて見つめるものと、ご馳走様、と顔を歪めて目を背けるものにだ。


「ほんとは、ちょっと怖かったんだ。……いつまで生きられるか分からないから
 そんな自分とは一緒にいられないって言って、そのまま居なくなっちゃうんじゃないかって」

柔らかに打ち付けた拳さえ、引き寄せられて投げ出した身体さえ、杏子の身体に受け止められて。
そのまま杏子の顔を見上げて、そこからぽたぽたと垂れる雨を受け止めながらさやかは囁いた。

「ばーか。だったらそもそもここに帰って来たりなんかしねぇよ」

「……それもそっか。でも、もし勝手にいなくなってたりしたら
 どんな手を使ったってあんたを探し出してたと思うよ、あたしはさ」

見詰め合っている二人。不意に杏子がひょいと身を屈め、顔を突き出した。
その意するところを察して、さやかも僅かに背を逸らして顔を突き出し、目を伏せた。
小さな灯りだけが照らす部屋の中、二つの顔はゆっくりと近づいていく。
部屋の灯りに映し出された曖昧な影も、浮かび上がった二つが一つになろうとしていた。

ごくりと、どちらともなく小さく喉が鳴った。
尚も止まらず静かに二つの顔は距離を詰めていく。
震える唇同士が、静かに重なろうとしていたその時に。


部屋の壁に埋め込まれた端末が、けたたましい音を鳴らし始めるのだった。
432 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/14(月) 21:14:19.60 ID:gWRHFoUH0
これはたまらぬと目を開くさやか、すると目前には杏子の顔があって。
最高潮にまで高まっていたその羞恥やらなんやらが、一気にぱちんと弾けてしまった。
まさしく弾かれるかのように仰け反り、そのままベッドから転げ落ちてしまったのである。

「あ……さや、か」

「痛……つつ、なんなのよ、こんな時間にっ」

どうにもならない衝撃に、呆然と立ち尽くす杏子。
どうやらしたたかに床に打ち付けてしまったらしく、しくしくと痛むお尻を押さえてさやか。
そしていまだに鳴り響く端末である。

「ったく!時間を考えやがれ、馬鹿野郎がっ!」

いいところに水を差され、この調子では続きどころでもない。
苛立ち紛れに端末の側へと駆け寄り、起動ボタンに指を叩きつける杏子であった。
433 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/14(月) 21:14:47.95 ID:gWRHFoUH0
「ああ、やっと繋がったわ。って、キョーコじゃない!?貴女いつの間に戻ってきてたのよ?」

その端末が映し出した顔は、杏子の良く知る顔だった。
彼女は杏子と同じくリリシアン自警団で戦う兵士であり、ひょんなことからさやかとも交友を持っていたのである。

「ついさっきだよ。っつーか何だよ、何の用があったらこんな時間に連絡して来るんだっての」

非常にいいところを邪魔された苛立ちを、まるで隠そうともせず杏子はその女性に向けて吐き出した。
なんとなく不味いことをしたかなというの察して、彼女はとにかく口早に用件だけを伝えてしまうのだった。

「それについては明日にでも、隊長もカンカンっていうよりマジ心配してるから、後でちゃんと弁解しておくこと。
 それはそうとあんた達、今すぐテレビをつけてみなさい。凄いのやってるから。じゃ、またねー」

言いたいことだけ言ってしまって、ぷつりと通信は途切れてしまったのであった。

「……なんだってんだよ。ったく、はた迷惑な奴だ」

果てしない脱力感に苛まれながら、杏子も端末から視線を背け、振り返った。
そこにはどうにか起き上がったさやかの姿。
先ほどよりも随分と距離を置いて、再び見つめ合う二人。
けれどどちらともなく漏れたのは、なんとも言えない疲労感たっぷりのため息だった。

「なんか……白けちゃったね」

「……ああ、ほんとにな」

本格的に続きなどと言える空気ではない。
どうしようもない脱力感と徒労感が、二人を苛んでいた。


「っと、それよりテレビだよ。何かやってるらしいけど」

「まあ、見るだけ見てみるか。これでまた下らない通販番組だったら、後でブン殴ってやる」

何はさておき二人は居間へ。灯りをつけて、早速テレビを眺めてみると。
そこに現れた光景は、随分と衝撃的なものだった。二人にとっては尚のことである。
434 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/14(月) 21:15:17.91 ID:gWRHFoUH0
「現時刻を持って、私達は魔法少女隊として地球連合軍の非人道的行為に対して反抗を開始するわ」

それは、ルナベース6襲撃に対する対応に追われる地球連合軍の間隙を縫って放送されたものであり
魔法少女と言う地球連合軍が抱えた闇を知らしめると同時に、魔法少女隊による地球連合軍への宣戦布告でもあった。
その声の主は、やはり二人にとってもよく知った声。まさしくマミのそれであった。

「マミ……さん」

「こりゃあ……随分派手にやらかしたな、マミの奴」

二人は呆然と、その画面を眺めていた。
呆然と見つめている二人の目の前で、テレビの画面が唐突に砂嵐へと変わった。
浮き足立ってていたとはいえ、いつまでもこのような電波ジャックを許しておけるほど地球連合軍も甘くはなかった。
それでもその放送は広く太陽系全土へと流され、少なからぬ時差を経た後に二人の下へも届けられることとなったのである。

「そっか、マミさん……まだ戦ってるんだ、他の魔法少女達も」

その胸中に湧き上がる感情はいかなるものだろうか。
こうして今尚戦い続ける魔法少女達を尻目に、自分達はこうして一応自由な生活を過ごしている。
魔法少女と言う運命からも、いち早く抜け出してしまっている。
彼女達が今の自分たちと同じように生きられるようになるまでには、一体どれほどの困難があるのだろう。
現実問題として、それは可能なのだろうか。

戦いはまだ終わっていないことは知っていた。
そしてそれが人間同士の戦いであることも分かっていた。
けれどまさかその渦中で、魔法少女達は今も戦い続けていただなんて。
その事実は二人の心を打ちのめした。

「この分だとあいつら、本気で地球連合軍に喧嘩を売るつもりなんだろうな。
 ……いくらなんでも馬鹿げてるぜ。勝てるもんかよ」

地球連合軍という組織の巨大さを、かつてそこに所属していた杏子は良く知っていた。
確かに魔法少女達は皆歴戦の猛者揃いなのだろう。けれども地球連合軍が総力を挙げて叩き潰そうと思えば
それこそまるで羽虫か何かのように容易く叩き潰されてしまうことだろう。
435 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/14(月) 21:16:18.30 ID:gWRHFoUH0
「あたしは、もうマミさんにも他の魔法少女達にも死んで欲しくない。
 ……でもあれじゃあ、きっと戦わなくちゃ生き残れないんだよね、魔法少女達は」

砂嵐の画面をじっと見つめて、さやかは呻くようにして呟いた。
その心に渦巻いていたのは、恐らく義憤と呼ばれるものだったのだろう。
もとより自分が魔法少女であったこともある。
これから苦境に立たされることとなる少女達は、もしかしたら自分がなっていたかもしれない未来なのである。
その未来が理不尽にも奪われそうになっている。許せるはずがなかった。

「……お前の考えてること、当ててやろうか?
 何かできることはないか、何か助けられることはないかってそう考えてるんだろ」

杏子の言葉に、さやかは静かに頷いた。

「やめとけよ。今更言うけどさ……お前はやっぱり戦うのは向いてないと思う。
 相手がバイドだから何とかやれてたってだけだ。今度戦わなくちゃいけない敵は、同じ人間なんだぞ」

続く言葉に、さやかは何も答えない。答えられない。

「もうあれから半年になるってのに、未だにあんな風にうなされてるんだ。
 人間相手に殺し合いをするなんて、お前にゃ無理だよ……さやか。
 あたしは、お前の死ぬところなんて見たくないんだ」

きっとここで止めなければ、さやかは再び戦いに臨んでしまう。
バイドと戦うことすらあれほど恐れたさやかが、今更人間同士の殺し合いに耐えられるとは思えなかった。
例え身を挺してでも、止めなければならないと考えていた。

「……ごめん、杏子。でもやっぱり、あたしは行かなきゃいけないんだ。
 マミさんは私の大切な仲間だし、今戦ってる魔法少女達は……もしかしたら私がなってたかもしれない私なんだ。
 何かできることがあるなら、助けてあげたいって思うんだ」

杏子の言葉をしっかりと受け止めて、それでもやはりさやかの意思は固かった。
そしてそんなさやかの言葉は、杏子にも同じく降りかかってくる。
杏子にとってもマミは大切な仲間で、魔法少女達はもしかしたら自分がなっていたかもしれない姿なのだ。
436 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/14(月) 21:17:59.86 ID:gWRHFoUH0
「それにさ、うなされてたのだって別に戦うのが怖いとかそういうんじゃないんだ。
 ……多分あれは、まだ私の中でけじめがついてないだけだと思うから。
 そのためにも、この戦いは終わらせなくちゃいけないんだ。……だから、行くんだ」

そう、夜毎さやかを苛むあの夢。それを生み出していたのはさやか自身の自責の念でもあったのだ。
救えなかった、何もできなかったという無力感や、そんな自分への自罰的な意識。
それが今尚自分を苛んでいるのだと、さやかはそれを自覚していた。
恐らくそれはこれから長い時間をかけて向き合っていくものなのだろうと、そう考えていた
けれど今、本当の意味での魔法少女の戦いが終わっていないことを知った。
だとすれば今こそが、そんな自分の過去の負債を取り払うときだとさやかは感じていた。

そして杏子は、こうなったさやかを止めるのはまず無理だということを良く知っていた。

「……ったく、相変わらずだな。最近ちっとは大人しくなったかと思えばこれだ。
 まともに戦えもしねぇくせに、口ばっかりは達者でさ」

「戦い方は覚えてるんだ。身体にも、魂にも。だからきっとやれるよ。
 だから、さ。杏子も協力してくれないかな」

どうにも困った。と今更ながらに杏子は顔を歪めた。
本当に、こういう風に頼まれると弱いのである。

「ったく、本当に言い出したら聞かねぇんだもんな、お前は。
 ……とりあえず明日、自警団の方に話をつけてくるさ」

仕方ないといった感じで、けれどどこか悪しからず思いながら杏子は答え
そしてそのまま、部屋のベッドに潜り込んだ。

「そうと決まれば、今日はさっさと寝ようぜ。明日から忙しくなるんだからさ」

「……いや、ここあたしの部屋なんだけど」

「またあんな風にうめかれたら寝覚めが悪いだろ。だから、ほら……朝まで、一緒にいてやるよ」

「………っ」

さやかは酷く赤面した。そして、静かにベッドに潜り込むのだった。
今度は、悪夢は見なかった。
437 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/14(月) 21:23:04.81 ID:gWRHFoUH0
どうにもくちのなかがおさとうでいっぱいになります
甘ぇ。

>>418
その作品は分かりませぬが、今の地球連合軍は戦時に負けず劣らず暴走しているようです。

>>419
使用しないという条約もあったはずなんですけどね。
彼らにとってはそれも前政権の作ったものなのかもしれません。

恐らく地球連合軍製のアンチェインド・サイレンスなどはFINAL仕様のもので
早期警戒機の後期型などでしかなかったのでしょう。
グランゼーラはそこからとうとうジャミング技術を生み出しました、他にも色々やっているのでしょう、きっと。

>>420
早速ぶち壊された日常でした。
けれど彼女達は自分の日常を取り戻すために戦うのです。
ある意味では、生き残るための戦いであるバイドとのそれと変わらないかもしれません。

>>421
あんな変態機動ロボ、喜々としてあの連中は弄繰り回してくれることでしょう。
それ相応の報いでも受けていただきたいところですが。


明日もまた21時頃より投下をしたいと思います。
まだまだ最終回は続くようですね。
438 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/15(火) 00:25:28.92 ID:oxKeoZvDO
まだもうちょっとだけ続くんじゃ
439 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/15(火) 09:45:08.57 ID:wmSrMEkDO
お疲れ様です!
「あんた……今まで一体どこほっつき歩いてたってのさ!
このくだり、完全に夫婦のそれじゃないっすかww

さやかちゃんも結局、戦場の人として染まっちゃってたのかねぇ。
440 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/05/15(火) 11:15:10.22 ID:nMcLnbrZo
    _、   コーヒーはブラック
  ( ,_ノ` )
    [ ̄]'E ズズ
.      ̄


    _、_
  (  ◎E  ……


    _、_
  ( ; Д`) .・;'∴   ブハッ!?

      [ ̄]'E
.        ̄


   _、 _
  ( д` ; ) [ ̄]'E  いつの間にか砂糖入ってる!?
            ̄
441 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/05/15(火) 21:25:23.16 ID:A3hd8AFv0
ちょいと遅れましたが、今日もとにかく行こうじゃないか。
442 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/15(火) 21:27:11.22 ID:A3hd8AFv0





――Epilogue of Yuma Chitose――




443 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/15(火) 21:28:55.34 ID:A3hd8AFv0
「まずいわね、すっかり囲まれてしまったわ」

続々と集結し周りを取り囲んでいる無数の無人兵器群をレーダーに捉えて、マミはそう呟いた。
ルナベース6への奇襲を成功させた魔法少女隊は、そのままグランゼーラ革命軍の拠点であるゲイルロズへと向かっていた。
しかしその最中、火星から木星への航路を辿る途中ついに地球連合軍の追撃部隊に補足されてしまった。
いかな魔法少女隊とて、おおよそ一個艦隊に匹敵しようかと言う戦力と無数の無人兵器を相手取っては
まともに勝負になるはずもなく、たまらず小惑星帯へと身を潜めるのだった。
そして開発されたばかりの基地建造システムを用い、比較的大きな小惑星にどうにか拠点を構えることはできたのだが。

いかな地球連合軍といえども、これほど広大な小惑星帯の中から
基地として利用している場所のみを特定するのは困難であろう。
しかしそれでも地球連合軍の艦隊は木星への進路を塞ぐように小惑星帯の前に立ちふさがり
無人兵器群を小惑星帯へと送り込み続けていた。
既に無人兵器との小競り合いも散見されており、このままでは直に発見されてしまうだろう。
位置を特定されれば、そのまま艦砲射撃で基地ごと焼き払われてしまう。

早急に何らかの行動に移る必要があった。
だからこそ魔法少女隊は基地から離れたエリアで無人兵器群を迎え撃つこととなったのである。

「無人兵器が基地に接近してるみたい。急がなきゃ大変だよ、お姉ちゃん」

マミの元にゆまの駆るカロンが近づいてきた。
他の魔法少女達は今もそれぞれ小惑星帯のあちこちに散らばって無人兵器群の迎撃を行っていた。

「合流もしなきゃいけない、けれどできるだけ速やかにこの窮地を逃れなくてもいけない。
 ……参ったわね。まさかこんなに地球連合軍の動きが早いだなんて」

そう、よもやこれほどまでに地球連合軍の動きが早いとは。
それは魔法少女隊にとって予想外のことだったのである。襲撃計画が漏れていたとは考えにくい。
もしそうならそもそもルナベース6襲撃の時点で既に手は打ってあるはずなのだ。
となれば恐らく、敵の司令官が相当に優秀だということなのだろう。
バイド戦役を経て優秀な軍人のほとんどが処断された今において尚、これほど優秀な人材が地球連合軍にいようとは。
それもまた、大きな誤算の一つではあった。
444 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/15(火) 21:30:29.73 ID:A3hd8AFv0
「これ以上篭城を続けるのは不可能ね。そろそろどうにか逃げ出す算段を考えないと」

何か策はないかと、マミは必死に考える。
たとえここで無人兵器群を撃退したとしても、どうせまたすぐ次が来る。
それに今尚いくらかの無人兵器群は基地の特定に向けて動いているはずなのである。
基地の場所が特定されてしまう可能性は非常に高いといえた。

となればもはや幾許の猶予もない。
今すぐここを打って出てゲイルロズに向かわなければならない。
だが、その前にどこかに補給にも寄らなければならなかった。
魔法少女であれば搭乗者は全くの無補給でも、機体が持つ限りいつまでも飛び続けることはできた。
しかし今、グランゼーラ革命軍と行動を共にする以上、彼らにも気を使う必要があった。

なんにせよこのままここで篭城を続けるわけには行かないのである。
ここにこれ以上留まり続けたところで、じわじわと戦力を失っていくばかりである。
あの放送を見た誰かが手を貸してくれたりすればよいのだが、それもあまりに望み薄である。
ルナベース6の襲撃より、まだたった10日しか過ぎていないのだから。

「決めたわ。今接近している無人兵器群を撃退したら、そのまま小惑星帯を離れましょう。
 どこか近くの施設を押さえて、そこで速やかに補給を済ませましょう」

ルナベース6から強奪した資材や小惑星帯で回収した資源は、既に基地の建設や維持の為に使い果たしている。
補給を受けるにしてもそれに見合った対価などは払えまい。これではまるで海賊である。
しかしそうでもしなければ、これからゲイルロズへと向かう長い旅路は越えられない。
最短距離で突き進むにしても、どうしても木星が邪魔になる。迂回するとなるとかなりの距離であった。

「お姉ちゃん。もっといい方法があるよ。きっとこれなら上手くいくと思う」

進むべき進路、立ち寄るべき施設を手早く探し始めるマミに、意を決してゆまが声を放った。

「何か考えがあるの?ゆまちゃん」

恐らく目があったならそれを丸くしてマミは答えた。
ゆまはR戦闘機の乗り手としては実に優秀であった。けれどそれでもやはり子供である。
局地的な判断はともかく、隊全体の方針についてはあまり考えることはなかった。
もちろんゆまの判断が間違いばかりというわけでもなく、それは十分に信頼に値しており
マミとしては、もっと広い視野で隊全体に関わってくれればもっと魔法少女隊はよくなることだろうと思っていた。
しかしゆまの実際の年齢を考えると、それは些か難しいように思えていた。

それ故この苦境を打破するために、勇気を出して自らの考えを打ち明けようとするゆまのありようは頼もしくもあった。
445 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/15(火) 21:31:23.42 ID:A3hd8AFv0
「木星の中を突っ切っちゃおうよ!それなら最短距離で木星を抜けられる、無人兵器だって追って来れないはずだよ!」

「木星の、中を?……でもゆまちゃん、木星の大気の中を突っ切るなら、どうしたって速度は落ちてしまうわ」

木星の大気が持つ圧力は地球のそれの十倍にも値する。
まともに突っ切ろうと思えばどうしてもその進行速度は落ちてしまうだろう。
さらに木星の大気の状況も気がかりである。大赤斑に代表されるような無数の嵐が
大気の内外を問わず発生しているのである。それに巻き込まれればR戦闘機とて無事では済むまい。

だが、それでもである。
もしも巡航速度で木星の大気を駆け抜け、地球連合軍の艦隊と大きく距離を取ることができれば
そのまま悠々と合流と補給を済ませるだけの時間を生み出すことは想像に難くなかった。

「R戦闘機ならやれるよ。R戦闘機は、どんな過酷な異層次元でだって戦えるように作られてるんだ!
 木星くらい突っ切れるよ。絶対に大丈夫なんだ!」

マミにとっても不思議なことであったが、ゆまはR戦闘機に並ならぬ信頼を寄せていた。
それは最早愛しているといっても過言ではないほどに。
自分の身体たる兵器である。信頼を寄せるのは当然ではあろうが、それは些か情熱的で、ともすれば感傷めいていた。

ゆまにとっては、R戦闘機とはただ自分の身体であるだけではなかったのだ。
共に過ごし、信頼を寄せていた者たちがその力の限りを尽くして作り上げた叡智の結晶。
そして戦いの最中に散った彼らの、その生の証であるとも言えた。
だからこそゆまは、恐らく誰よりもR戦闘機の可能性を信じていた。
さりとてそれは盲目的というほど愚かではなく、確かな性能の裏づけからなる信頼であった。

そこにいかなる感傷があるのだろうか、それはマミにとっても知るところではない。
けれどそのゆまの姿は、R戦闘機を信じて戦い続けた名も知れぬ英雄の姿は
マミの心にも暖かく力強い勇気を与えるものだった。
446 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/15(火) 21:32:14.63 ID:A3hd8AFv0
無人兵器群の第一波が文字通り蹴散らされ、魔法少女隊はさしたる損傷を負う事もなく基地へと帰投した。
そしていよいよ彼女達の、小惑星帯脱出作戦が始動する。




一陣の閃光が、小惑星帯を貫き迸る。
それはマミの駆るババ・ヤガーの放った超絶圧縮波動砲の光であった。
その一撃は宙を裂き、破壊の渦を振りまいた。

撤退し、遠巻きに交戦宙域を囲んでいた無人兵器群の一角をその光が薙ぎ払い、次々に喰らい尽くしていく。

「何事だ?」

艦隊を率いていた司令官の男は、微塵も慌てたそぶりを見せずに副官の女性に尋ねた。
その女性はコンソールに手を這わせ、すぐさま望まれた答えを返すのだった。

「データ照合出ました、エネルギー放射のパターンと距離から、超絶圧縮波動砲によるものだと思われます」

「ふむ……だが射線的にこちらの位置を特定して撃ってきたわけではなさそうだな」

「ええ、ですが超絶圧縮波動砲による攻撃がある以上、もう少し陣を下げたほうがいいかもしれません。
 まず当たることはありえませんが、念のためです」

「やたら滅法に撃ってこられては面倒だ、とりあえず発射地点と思しき場所に無人兵器を向かわせよう。
 ……それと、木星方面の部隊を引き上げさせよう。そろそろ勝負を決めようじゃないか」

どうにも引っかかる。と副官の女性は僅かに首を傾げた。
確かに木星方面に展開している部隊を総動員すれば、小惑星帯を制圧することは容易いだろう。
けれど、やはり気になってしまう。

「大丈夫なんですか。木星方面に逃げられる可能性もあるのでは?」

「かも知れない。いずれにせよ奴らはゲイルロズを目指しているはずだ。
 となると木星の外を大回りに抜けるしかない。そこは木星の防衛部隊が足止めしてくれはずだ」

「………そう、でしょうか。相手はあの魔法少女隊ですし」

知らない相手ではない。むしろその頼もしさと恐ろしさは誰よりも良く知っている。
それ故に副官の女性にはそれが不安であった。

「問題ない。もし問題があったとしても、その時は……ね」

そして男はまるで子供か何かのように、にやりとその唇を歪めるのだった。
447 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/15(火) 21:33:31.07 ID:A3hd8AFv0
「無人兵器群がこっちに殺到してる。すごい数だね」

早期警戒機から伝えられる情報を受け取り、続々と反応を増す光点として描かれた敵の接近を知る。
そしてゆまは、覚悟を決めて言葉を放つ。

超絶圧縮波動砲の一撃はただの目晦ましに過ぎない。
それで敵を引き寄せ、その隙に魔法少女隊の本隊とグランゼーラ革命軍はは木星を目指す。
かくしてその目論見は当たり、基地に残ったマミとゆまの元へは無数の無人兵器群が押し寄せていた。

最早この基地に残るのはこの二人のみ。
後は基地を爆破し離脱。敵を十分引き付けて木星へと逃れるだけだった。

オートパイロットで発進させ、偵察を行わせていた早期警戒機が撃墜された。
もう幾許もない撃ちに、敵はこちらへ迫ってくることだろう。

「いいわねゆまちゃん。第二射の射撃と同時に離脱。先行した部隊を追いかけるわよ」

「任せてよっ!多分敵は真っ直ぐここを目指してくると思うんだ、おもいきりやっちゃえっ!」

超絶圧縮波動砲のチャージは既に完了していた。
この一撃で敵の出鼻を挫き、仲間が自分が脱出するための時間を稼ぐ。

そして。


「ティロ・フィナーレっ!!」

再び小惑星帯を貫く閃光が迸る。




「行こう!お姉ちゃんっ!」

「ええ、ゆまちゃんっ!」

その光が止むや否や、二機のR戦闘機が宇宙を駆け抜ける。
方や黒のカロン。方やその砲身をパージしたババ・ヤガー。
そしてその二機の背後で、急造の基地が膨れ上がり、炎を巻き上げ潰えていった。
448 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/15(火) 21:34:25.17 ID:A3hd8AFv0
「……囲まれちゃったね」

「流石に、そうそう上手くはいかなかったようね」

迫り来る無人兵器を叩き潰して、僅かな疲れも見える声色で二人が通信を交わす。
そう、敵は正面から来るだけではなかったのだ。両翼から挟撃しようと迫っていた部隊に捕まり
マミとゆまは脱出の機会を逸してしまった。すでに幾度もの交戦を経て、時間も随分と過ぎていた。
これ以上脱出が遅れれば、殺到する敵部隊によって押し潰されてしまうだろう。

「みんなは大丈夫かな……」

「私達がここまで敵を引き寄せたんだもの、きっと大丈夫よ。
 ……とはいえ、これじゃ私達が大丈夫じゃないのよね」

こうなるであろうことは薄々と予感していた。
結局のところ二人は完全に囮なのである。運よく逃げ果せればよし
そうでなければ恐らく押し潰されてしまう。たった二人で何ができるというのか。

「……負けないよ、ゆまは、絶対に諦めないもん」

それでもゆまは敵意を明らかに、尚冷めやらぬ闘志を燃やして言葉を放つ。
その心根には、R戦闘機に対する信頼と誇りがあった。だからこそあんな無人兵器に負けるわけにはいかなかった。

「そうね、私達は絶対に負けない。こんなところでやられてたら、あの子達に申し訳が立たないもの」

マミもまた、その声色には諦めの色は一切見られなかった。
魔法少女隊の皆が止めるのも聞かずに二人でここに残ったのである。
大丈夫だと言ってのけた。それを貫かないわけにはいかないのだ。

絶望的な戦い。されど二人の心に絶望はない。
かつてバイドとの戦いの中で感じた絶望は、こんなものの比ではない。
今更、どうしてこんなものに屈することができようか。

さりとてその戦力差は絶望的。ついに全天より無人兵器の群れが押し寄せる。
それに真正面から立ち向かい、二つの光が今、駆け抜けて――。
449 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/15(火) 21:35:26.29 ID:A3hd8AFv0
「よう、楽しそうなことやってんな。あたしも混ぜろよ」

その目前に、一つの光が飛び込んできた。
その色は真紅、その形はR戦闘機のそれで。それを駆るのは少女の声。
聞こえた声は、二人にとっては忘れようもない声だった。

「貴女、杏子……なの?」

「おう、あんたも結構元気そうじゃん。マミ」

それは驚くべき援軍であった。
まさか、一体なぜ、どうして。疑問は尽きなかった。
けれどそんなことはどうでもいい。
今目の前にいるのは大切な仲間で、かつて失ってしまった大切な人なのだ。
それが今、ここにいる。如何な奇跡によるものか、けれどそんなこともどうでもいいのだ。
かくしてかつての魔法少女は、再び出会うこととなるのだった。

そしてそれは、もう一人の魔法少女にとっても同様だった。
いや、むしろその思いはマミのそれよりも遥かに強かっただろう。
450 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/15(火) 21:36:42.37 ID:A3hd8AFv0



「キョー……コ」



呆然と呟き、完全に硬直してしまったゆま。
そう、もう一つの再会がここには存在していたのだ。
哀切なる別離を超えて、数多の奇跡が生み出した二人の命は今
再び、この宇宙で出会うこととなったのだ。

「キョーコ。キョーコなの……本当に、本当、に?」

心ここにあらず、茫然自失といった具合に繰り返すゆま。
その胸中は、困惑と驚愕、そして幸福感と感動とに揺れていた。
今このときだけは、ここにいるのは戦士ではなく。歳相応のただの少女だったのだ。

けれど、状況はゆまにそうあることを許しはしない。

「ゆま、お前が今やらなきゃ行けないことは何だ」

だから杏子は、努めて冷たい声でそう呼びかけた。

「………キョーコ。う、うん。そう……だよね。
 ゆまは戦わなきゃ、守らなきゃいけないんだ。みんなを。キョーコも!」

「あたしまで守る、ってか。……ったく」

相変わらずに真っ直ぐで、そして頑張りやのゆまだった。
そんな姿が眩しくて、嬉しくて。思わず視界が涙で歪むのを杏子も感じていた。
恐らくゆまも、泣けるのならばそうであったのだろう。

「あの時言ったろ。助けてやるって。……あの時はできなかったけどさ、今度こそ助けてやる。
 それにな、今度はあたしもお前も、一人きりじゃないんだぜっ!」

杏子が叫ぶ、それと同時に無人兵器が飛来した。
もうこんなところまで近づいていたのかと、一瞬反応が遅れたゆまに
無人兵器は容赦なく攻撃を加えようとして、横合いからの攻撃を受けて爆散した。
451 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/15(火) 21:37:15.16 ID:A3hd8AFv0
「え……?」

呆然とするゆま。そして杏子はにやりと笑い。

「騎兵隊……というか、リリシアン自警団の到着だ」

そう、その一撃を放ったのはリリシアン自警団による攻撃だった。
杏子が魔法少女隊との合流を決めた時、リリシアン自警団の意見も割れていた。
このまま魔法少女隊やグランゼーラ革命軍の動きに同調するか、それとも静観し様子見に徹するかである。

そこを杏子が一喝したのである。
杏子はTEAM R-TYPEの元を訪れた時、地球連合軍を蝕む地球至上主義の実態を知った。
コロニーに干渉する理由が地球至上主義によるものである以上、今ここでそれを止めなければ
いずれかならずリリシアンにも本格的な介入が始まることは明白だった。
だからこそ今立ち上がらなければならないと、杏子は彼らに言い放ったのである。

そしてリリシアン自警団は地球連合軍に対して蜂起。
密かにかつ速やかに木星圏を通過し、魔法少女隊の下へと援軍に駆けつけたのであった。

例えリリシアン自警団の勢力を加えたとて、地球連合軍と真正面からぶつかるには力不足。
だが今目の前に迫る無人兵器群を蹴散らして脱出するためには、それは十分すぎるほどの戦力だった。

「援軍も一緒に連れてきてやったんだ。さっさと片付けて、それからゆっくり話そうぜ、ゆま」

戦端は開かれた。追いすがる無人兵器群を蹴散らし、木星へ。
戦火の中へと杏子の駆るキングスマインドが飛び込んでいく。

「……うんっ!」

ゆまは力強く答え、カロンはそれを追いかけ飛び込んだ。
かくして一つの再会は成った。けれど彼女達が生身の身体で触れ合える日は、まだ遠いのである。
452 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/15(火) 21:50:09.34 ID:A3hd8AFv0
是非とも彼女達には幸せになっていただきたいものです。

>>438
とはいえそろそろ残された物語も後わずかとなってきました。
完走までもう少し、いろんなものを噛み締めながらやって行きたいと思います。

>>439
紆余曲折を経まくった結果、なんだかくっついてしまいました。
割とガチっぽくなってしまったおりキリと比べて、こちらの二人はプラトニックなようです。
毎回いいところで邪魔が入るとも(ry

あの地獄の戦場で、結局その終結には何ら関与することなく
意識を失っている間に全てが終わってしまっていたのです、それは心中穏やかではなかったのでしょう。
だからこそ、けじめをつける必要はあったわけです。
何せ人類の戦いはまだ終わっていないのですから。

>>440
一体どういう原理なのでしょうか、口から砂糖が吐き出されるのは。
この原理を上手いこと利用すればなんだか口元がさびしくて甘いものが欲しい時でも大丈夫なような気がします。
私はあまり珈琲は飲みませんが。
453 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/16(水) 11:29:51.12 ID:/ig2uWeDO
お疲れ様!
無人兵器は脅威だな。救出された魔法少女の中に、対応出来る魔法を使える娘が居ると良いけど。

それにしても木星を突き抜けようなんて大胆だなー。
454 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/05/16(水) 13:06:28.80 ID:DTsuM2ryo
ゆまちゃんよかったね

仲間が増えたよ! やったねマミちゃん!
455 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/05/18(金) 21:14:47.66 ID:ziihD7jc0
明日九時に次の投下を行います。
恐らくもう最終話も折り返しを越えたことだろうと思います。
次はあの人のお話です。今一つ影が薄かったあの人です。
456 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/05/19(土) 06:37:24.96 ID:IgNAg9QRo
把握
457 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/05/19(土) 21:22:50.64 ID:HIbkqNWz0
ちょいと遅れましたが投下しましょうか。
458 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/19(土) 21:23:42.65 ID:HIbkqNWz0





――Epilogue of Admiral Kujo――




459 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/19(土) 21:24:37.74 ID:HIbkqNWz0
「奴らの追撃に失敗し、あまつさえ木星圏の突破を許すとは、貴様は一体何をやっているのだっ!!」

怒気を孕んだ男の声が、その部屋を揺るがした。
そこは艦内の会議室。並び立つ立体映像に囲まれて、一人の男が憮然とした表情で立っていた。

「この失態、一体どう説明してくれるのかね、ナインライブス中佐」

また別の男が、どこか嫌味っぽい口調で問い詰める。
思わず溜息が零れ出そうになるのを堪えて、彼――カズマ・ナインライブスあるいは九条は口を開いた。

「確かに、木星を抜けられたことに関しては私のミスでもあるでしょう。
 ですが、たとえそうでなくともこんな急造の部隊で、奴らの相手ができるわけがない」

そう、魔法少女隊の追撃を行った部隊の司令官、それこそがこの九条提督であったのである。
かつての戦友であるはずの魔法少女隊と戦わねばならない。その心情はいかなるものなのだろうか。
そんな葛藤も迷いもさほど見せることはなく、九条は努めて冷静な軍人然として任務を遂行していた。

けれどその結果は余人の知るとおり。
追撃に出た無人兵器部隊は甚大なる被害を被り、更には木星の守りを手薄にしたことにより
魔法少女隊と所属不明部隊の連合軍は、容易く木星を突破しえたのである。
木星を突破されてしまえば、その先はもはや地球連合軍の支配の及ぶ領域ではなく
彼女達のグリトニルへの帰還を阻むことは困難であると予測されていた。

そんな失態を受け、木星圏に駐留している追撃艦隊に直接地球連合軍司令部からのお叱りがあったというわけである。
460 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/19(土) 21:26:12.38 ID:HIbkqNWz0
「確かに部隊は急造かも知れん、だが貴官に預けたのは無人兵器のみの部隊だ
 兵の錬度や士気は影響することはなかったと思うのだが?」

また一つ、今度はどこか冷たい印象も受ける女の声。
彼女は無人兵器の開発、配備を推進する派閥の者であり、部隊としての錬度や士気によらず
安定した戦力を展開することが可能な無人兵器のアドバンテージを、ひたすら声高に強調していたのである。
だからこそ彼女には、その失態の原因を追究する必要があった。

「いかに無人兵器が優秀でも、僅か数日で扱えるようになれというのは、流石に酷なものでしょう?
 そして個の能力が数を圧倒することもある。魔法少女隊は、貴方方が思っているほど容易い相手ではありませんよ」

そんな疑問にも、努めて冷静に九条は答えるのだった。
そう、九条がこの追撃艦隊の指揮を取り、魔法少女隊への追撃を行うようになったのはほんの数日前のことなのだ。
というのも、ルナベース6襲撃事件が起こるまでの間、九条は火星に投獄されていたのだから。
461 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/19(土) 21:27:36.24 ID:HIbkqNWz0
話は第二次バイド討伐艦隊の帰還へと遡る。
跳躍空間において、オージザプトム、ファインモーションの二大A急バイドとの激戦を乗り越えた
第二次バイド討伐艦隊ではあったが、その被害は甚大であった。
艦隊の二割が大破、残りの艦隊も大なり小なりの損傷を負い、戦闘に耐えうるものは半数程度しか残っていなかった。

仕方なく九条は、負傷艦を後方に下げ、大破した艦や航行不能な艦の乗員もすべてそこに押し込んだ。
負傷艦にはそのまま地球へと戻ってもらい、残る戦力でバイド中枢への突入を再度敢行しようと目論んでいた。
だが、その矢先である。バイドの残党が再び討伐艦隊へと攻撃をしかけてきたのであった。
応戦し、さらに激しく跳躍空間を戦火に染め上げている最中、唐突にバイド群はその動きを止めたのである。

それがいかなる事実を示しているか、それはもはや疑うべくもなく。
英雄がバイドの中枢を撃破したのだということを示していた。
結局のところ、バイド中枢の撃破において、第二次バイド討伐艦隊はその本懐を果たすことはなかったのである。
なんとなく釈然としなくもあったが、バイドの脅威が去ったことに艦隊は狂喜し、歓声が沸き立った。

そんな浮かれ騒ぎを何とか御して、第二次バイド討伐艦隊は太陽系への帰路を辿ったのである。
負傷艦を牽引し、行きの優に数倍もの、おおよそ二ヶ月ほどの時を経て。
第二次バイド討伐艦隊は、無事に太陽系へと帰還したのだった。
462 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/19(土) 21:28:19.81 ID:HIbkqNWz0
だが、呆れ帰るほどの死闘と苦難の果てに帰還を果たした九条に待ち受けていた運命は
不当なほどに過酷なものであった。

太陽系の各惑星において、歓声を受けながら凱旋を果たした第二次バイド討伐艦隊は
火星へと到達した時点で解散され、それぞれの軍務へと戻ることとなった。
そして九条は一人、副官さえも伴わず地球へと戻ることなった。

そこで、彼は謂れなき誹謗を受け、余りにも不当な罪で投獄されることとなる。
曰く、バイドとの交戦において多くの人員、資材を失わせたことに対する罪なのだという。
かくして、英雄は一夜にして獄中の人となったのである。

その全ては人知れず行われた。
そのようなことを平然と行えるほどに、当時の地球連合軍はイカれていたのだ。
もちろんその当時には既に、地球至上主義は地球連合軍内へと蔓延していた。
旧体制の行いの全てを批判しようとする新政府の所業は、九条にも等しく降り注いでいたのだ。

そして数ヶ月の時が流れ、その全てを九条は獄中にて過ごした。
英雄となった九条を、新政府の扱いかねていたのだろうか。
その時点で既に起こっていた第一次太陽系戦争への対応に追われていたこともあったのだろう。
とにかくそれらの出来事が太陽系を揺るがしていたその頃でさえ、九条は獄中にいたのである。

けれど、状況は変わった。
神出鬼没にして大胆不敵な魔法少女隊。
この強敵を前にして、地球連合軍は優れた司令官を必要とした。
旧体制に付き従う軍人のほとんどを処断してしまっていた地球連合軍には、魔法少女隊の追撃を任せられる人物は
もはや、九条しか残っていなかったのである。
463 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/19(土) 21:28:57.69 ID:HIbkqNWz0
九条とて曲がりなりにも英雄である。
彼を投獄することを決めた彼らでさえ、その実力にはひとかどの評価を向けていた。
だからこそ獄中の九条を引きずり出し、恩赦と軍への復帰を引き換えに魔法少女隊の追撃の任を任せたのであった。
彼らは、九条がかつてグリトニルにて魔法少女隊を率いていた事実を知らなかった。
だからこそそれを任せえたのだろう。そして、九条をそれに応じた。


だが、それは失敗した。
そう、失敗したのである。
464 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/19(土) 21:29:49.14 ID:HIbkqNWz0
「無人兵器を信用しないわけではありませんが、連中の相手には役不足。
 もし本当に連中をどうにかしたいと思うのなら、同じく熟練の戦士が必要となるでしょう」

批難するように九条を睨みつける、無数の立体映像の視線。
それを相変わらずどこか憮然とした表情で受け止め、九条は言葉を続けた。

「そうすれば、連中を始末できると?」

「私に部隊の裁量権を、そして一月時間をいただければ、確実にやってのけますよ」

訝しげに尋ねる声にも、やけに自信げに九条は答えたのである。

「馬鹿を言うな、一月もすればもう、奴らはとっくにゲイルロズに到着しているではないかっ!」

「だから、そのゲイルロズごと陥落せしめて見せる。と言っているのですよ。
 何、大したことはありませんよ。いかにグランゼーラ革命軍と合流したとは言え
 奴らにさほどの実戦経験はありません。魔法少女隊以外の兵の質では確実にこちらが勝る。
 そしてこちらにはフォースというアドバンテージもある。もっとも、無人兵器で運用できるものではありませんが」

淡々と九条は言葉を続ける。
そう、無人兵器の優秀さはその数と無人機ゆえの機動性に所以するもので。
けれどもそこには欠点も存在した。
フォースという、地球連合軍がグランゼーラ革命軍に対して持ちうる最大の優位の証明たるその兵器は
未だ持って暴走の危険性もあり、無人兵器に搭載することはできずにいた。
その原料となるバイドも、遠からず枯渇するであろうと考えられていたこともその一因ではあったのだが。
465 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/19(土) 21:30:32.30 ID:HIbkqNWz0
恙無く自らの主張を終え、九条はどこか胸を張って地球連合軍司令部からの返答を待っていた。
その返答はしばしもたらされることはなく、どうやら相当に議論は紛糾していたことが見て取れた。

「……本当に、できるのかね?」

やがて、静かに尋ねるような声が一つ、放たれた。

「任せていただけるなら、必ず」

僅かな沈黙、そして。

「改めて貴官に一個艦隊を預ける。人員の選別は貴官に一任する。
 速やかに火星に戻り、そこで部隊を編成した後ゲイルロズに向かえ。以上だ」

その指令は、九条の元へと伝えられた。

「……了解」

その重々しい声に、九条は変わらず淡々とした口調で答えるのだった。
そして、それを最後に無数の立体映像は次々に掻き消えていった。
全ての立体映像が消え通信が途切れ、会議室は暗闇に閉ざされた。

だから、それを見るものは誰もいなかったのだ。
その目を爛々と輝かせ、静かにその牙を剥き笑う、九条の姿を。
466 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/19(土) 21:31:04.82 ID:HIbkqNWz0
「どうでした、お偉いさんの様子は?」

会議室を出たところで、まるで待ち伏せしていたかのようにガザロフが呼びかけた。
九条が復帰の際に降格を食らい、彼女自身は変わらなかったこともあり、二人の階級は随分と近いものとなっていた。
そんな彼女だけは、九条のたっての頼みによって今回の追撃艦隊にも召集されていた。
そして、相変わらず彼の隣に副官として立っていたのである。
その姿は、余人をしてまるで長年連れ添った夫婦のようだ、とも言われていることを知らない二人ではなかった。

「火星で部隊を再編した後、ゲイルロズへ向かえ……だそうだ。
 ようやくこれで、私も随分自由に動けるようになったよ」

そして九条は自信げに、彼女にそう答えるのだった。

「早速仕事だ、ガザロフ少佐。第二次バイド討伐艦隊のメンバーと繋ぎをつけてくれ。
 できれば私達が火星に到着するまでに、可能な限り人員を集めておきたい」

敵はかつての魔法少女隊。
知らぬ中ではない相手、それでも命じられれば戦うのが軍人なのかもしれないが。
どこか嬉々として艦隊再編の準備を進める九条の姿は、彼女にはどうにも不思議に見えた。
まさか、ととある予感めいた考えたが彼女の脳裏によぎる。
だとすれば、そうでないにしても、優秀な人材はいくらだって欲しいものだ。

「了解しました、提督!」

ガザロフはそう一声答えると、通信室へと駆けていくのだった。
けれどその途中で振り向いて、一言叫んだ。

「提督っ!私は……どこまでも提督について行きますからっ!」

そして今度こそ急いで、まるで逃げるかのように通信室へと駆け込んでいくのだった。
そんな様子に九条は思わず目を丸くして、それから小さく微笑むのだった。
467 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/19(土) 21:31:32.89 ID:HIbkqNWz0
「久しぶりだな、諸君」

そして九条は、並び立つ艦隊へ向けて感慨深げにそう呼びかけた。
それに答える者達も、懐かしげに。そして感慨深げに口々に言葉を返した。

ゲイルロズ攻略艦隊。
表向きの名目はともかく、その目的からすればそのように呼ぶのが相応しかろう艦隊である。
一個艦隊とは言うがその戦力は非常に強大であり、現時点での地球連合軍の全戦力の約二割が投入されていた。
そしてそれらの艦隊の艦載機は全てR戦闘機。すなわち有人機であり
現時点で地球連合軍が保有している全R戦闘機の約四割が、この艦隊に動員されていた。
軍の主力が無人兵器へと移り変わる中、恐らくこれがR戦闘機を用いた最後の大規模戦闘となるだろうと
この艦隊の実情を知る者達は、口々にそう漏らすのだった。

攻略艦隊の旗艦であり、かつての九条の乗艦でもあったテュール級五番艦、スキタリス。
そのブリッジに今、九条“大佐”は艦隊司令官として立っていた。
けれど、その隣にはガザロフ少佐の姿はない。
変わりにいたのは、細面にモノクルをつけた、どこか慇懃無礼な印象を受ける男だった。

「では、早速我々は木星を経由しゲイルロズへ向かう。
 これは太陽系を真に解放するための戦いであるからして、諸君らのより一層の奮戦に期待するものである」

その男は、九条を差し置いて言葉を放つ。
その言葉もやはり、どうにも慇懃無礼な印象を与えるものだった。

彼の名はアイズ・イジマール。階級は中佐。
ゲイルロズ攻略艦隊の副官として、そして地球連合軍からの監視役として、九条に随伴していた。
ガザロフ少佐は前線に展開している艦隊を取りまとめる任務が与えられており
今や直接九条に関わることはできなくなっていた。

結局、肝心なところは思うようにしたがるのが彼らのやり口であるらしい。
このゲイルロズ攻略艦隊に集められた人員のほとんどは、第二次バイド討伐艦隊に参加した者達であり
その中でも特に実戦経験の多い、グリトニル防衛部隊の生き残りが多く召集されていた。
それこそ彼らは九条にとっては馴染み深い戦友である。
だが、このスキタリスのブリッジやその後方の艦隊の乗組員達は、地球連合軍が直接指名し選んだものであった。

恐らくそれは、九条の反逆を恐れてのことだったのだろう。
もしそんなことが起これば、すぐさま周りの者達が九条を処断し、イジマールが代わって指揮を執る。
そういう手はずが既に整っているような雰囲気を、周りの乗組員達は感じさせていた。
468 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/19(土) 21:32:04.80 ID:HIbkqNWz0
「首輪を付けられ、遥かな敵地へどんぶらこ……か」

艦長席につき、頬杖の一つもつきながら嘲笑気味に愚痴る九条に

「言動にはお気をつけください、貴方の行動は監視されていますので」

副官席についていたイジマールが、やはり慇懃無礼に言うのだった。

「言われなくともやることはやるさ。君も協力してくれるのだろう、イジマール中佐?」

「ええ、副官の立場を逸脱しない程度には、ですがね」

面倒な旅になりそうだ、と。九条は唇をへの字にして内心で嘆いていた。
ある意味ではバイドよりも厄介なのだ。強大な敵が目の前にいることよりも、身内に敵がいることのほうが恐ろしい。
この旅路は、いろんな意味で困難な行程となるだろうという、確信めいた思いが九条の脳裏に浮かんで消えた。

「……まあ、とにかく行こうか」

静かに九条は呟き、そしてゲイルロズ攻略艦隊は粛々とその航路を辿り始めるのだった。
469 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/19(土) 21:32:33.25 ID:HIbkqNWz0
ゲイルロズ攻略艦隊は恙無くその航海を続けていた。
途中、幾つかの革命軍の拠点を侵攻する予定であったが、攻略艦隊がそこに到着したときには
既に革命軍は撤退しており、もぬけの空の拠点だけがいくつも残されているだけだった。

流石にそれを不信に思う者はいたものの、破棄された拠点には物資がそのままの形で残されており
革命軍は、相当に急いで拠点を破棄したことが伺えた。
恐らくゲイルロズに戦力を集中させ、決戦に備えているのだろうという推測が立てられ
これ以上の戦力の結集を妨げるため、攻略艦隊は予定を前倒しにしてゲイルロズへと急ぐのだった。
470 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/19(土) 21:33:20.70 ID:HIbkqNWz0
「さて、なんだかあっという間についてしまった気がするな」

「連戦連勝、と言うまでもありませんね。そもそも一度の戦闘もなかったのですから」

ゲイルロズを遠巻きに囲み、スキタリスのブリッジで九条が呟く。
副官姿は一向に板に付かず、相変わらずの慇懃無礼さでイジマールが言葉を続けた。

「おかげでこちらは戦力を温存できた。それは向こうも同じだろうがね。
 ……さて、どう攻めるか」

ゲイルロズは実に堅牢な要塞である。
その外壁は陽電子砲の直撃にも耐え、大量の食糧生産プラントは篭城を容易に可能とさせていた。
まさしく堅牢不落の要塞であり、これを陥落せしめたのはバイド戦役終戦間近に押し寄せたバイドの群れと
そして、一部の人間を除いて知ることのない、かつての英雄の所業だけであった。
それほどまでに、ゲイルロズは堅牢を誇っていたのである。

流石の九条も、これを陥落せしめることは容易ではないと思われた。
その時である、前線に艦隊を展開していたガザロフからの通信が飛び込んできた。

「提督、ゲイルロズよりこちらの艦に通信が入りました」

「通信?ふむ、それで連中はなんと?」

問いかけた九条の言葉を遮って、イジマールが文字通り口を挟んだ。

「ガザロフ少佐、事前に厳命していたはずだ。本艦への直接の通信は控え
 本艦の通信手を必ず通すようとな!これは重大な軍規違反だぞ!」

そこまでして全ての情報を検閲したいのだろうか。
全くもって辟易とした気分を抱えながら、九条は彼女の言葉に答えた。

「まあ、とにかく聞こうじゃないか。そうまでして伝えたいということは重要なことなのだろう?」

「はい、とっても重要なことなんですっ!
 革命軍は和睦のための交渉を始める意図があると言っています。条件によってはゲイルロズを明け渡すとも」

それは、随分と意外な申し出だった。
確かに革命軍の戦力は各コロニー軍、魔法少女隊を吸収したとは言え地球連合軍のそれには及ばない。
だとしても、この堅牢たるゲイルロズと多くの戦力を抱え、かくも容易く白旗を揚げるのだろうか。
471 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/19(土) 21:34:19.19 ID:HIbkqNWz0
「和睦?和睦だとっ!?ふざけるな、我々は奴らを打ち滅ぼしに来たのだ。
 地球に仇なす害虫を、宇宙のゴミ虫どもを一匹たりとも生かしておけるかっ!
 何が和睦だ何が交渉だ。奴らを皆殺しにしろ、今すぐ攻撃を開始するんだッ!!」

何がそこまで気に入らなかったのか、イジマールは青白い顔を赤らめ。
更には青筋までもを浮かべて叫んでいた。このままでは本当に激情に任せて攻撃を開始しかねない。

「落ち着きたまえ、中佐。とにかく向こうの事情を聞こう。
 向こうに交渉の意図があるというのなら、話くらいは聞いてもいいはずだ」

「提督、貴方は我々の任務をお忘れか?」

「忘れてはいない。だが、無用な戦いが回避できるならそれに越したことはないだろう?」

どうやら、九条の言葉は更なる憤怒の引き金を引き絞ってしまったらしい。
今にも切れてしまいそうなほどに青筋を浮かび上がらせて、イジマールは九条に迫った。

「無用?無用だと?ふざけるな、これは聖戦だぞ!
 我等地球人が下賎な宇宙人どもの上に永遠に君臨し続けるということを全太陽系に知らしめる。
 そのための聖戦を、圧倒的勝利を収めなければならないこの戦いを、貴様は無用だというつもりか!?」

地球至上主義も徹底的に拗らせれば、ここまで人格が歪んでしまうのか。
最早階級の上下さえも知ったことかと語気を荒げるイジマールを、呆れたように九条は眺めていた。
だが、そうして燃え上がった怒りはイジマールを随分と短絡的な行動へと駆り立てた。

九条の額に、黒光りする銃口が突きつけられていた。
472 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/19(土) 21:34:52.30 ID:HIbkqNWz0
「やはり貴様などには任せておけん。私が艦隊を指揮してやる!私が、私こそがこの聖戦を勝利に導き
 青きあの地球に永遠の英雄としてその名を刻み――」

その瞳に映るのは純然たる狂気。そして狂喜。
艦内がざわついた。正気ならぬ様子に、流石に止めようとするものもいたが
そんな者達が動き出すよりも早く、その引き金は引かれる事となるだろう。

その銃口を逸らしたのは、スキタリスに接近する機体の反応だった。

「高速で本艦に接近する機体があります。これは……革命軍ですっ!」

艦のオペレーターが敵機の接近を告げた。
その報告に、一瞬イジマールの注意が九条から逸れた。
その一瞬の隙を突き、九条はイジマールの手から銃を弾き飛ばし、更にはその手を捻り上げる。

「がああっ!離せ、お、折れるぅ……」

「攻撃開始だ、敵を近づけさせるな!……それと、誰かこいつを取り押さえろ。
 まさか諸君だって、この状態の彼に指揮権を預けたくはあるまい?」

たとえ地球連合軍の息がかかった者達だとしても、流石にこの状況では九条の言葉に従わざるを得ない。
全艦を迎撃体勢に移行させると同時に、艦の警護班がイジマールを連行していった。

「離せ、貴様らっ!私を、私を誰だと思っているっ!」

「はぁ……君が誰であれ、今は私が上官だ。指揮権の譲渡だとか私の弾劾だとかは
 とりあえず、この戦いが終わってからにしてくれよ」

溜息交じりにイジマールを送り出し、九条はようやく戦場へと意識を向けた。
迎撃が遅れたためか、既に敵機は前線を突破していた。
単機での突攻である。正気とは思えないが、それでも前線を突破したのだからその腕は確かなのだろう。
473 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/19(土) 21:35:55.52 ID:HIbkqNWz0
更にその敵機は、スキタリスの護衛艦が次々に放つ迎撃用のレーザーを掻い潜り
R戦闘機の発進準備が整うより早く、スキタリスへと肉薄していた。

「敵機、本艦に接近……こ、これは」

オペレーターが絶句する。そう、最早逐一状況を報告される必要も無いのだ。
スキタリスのブリッジの目の前に、その敵機の姿があったのだから。
機体内部には高エネルギー反応。恐らく波動砲だろう。放たれれば逃れる術は無い。

完全に詰みである。まさかまさかの強襲であり、その成果は文句なしだった。

「……単独でこれほどのことをやってのける技量、只者ではないようだ。
 しかし、交渉を持ちかけておいてその矢先に奇襲か、向こうも向こうで随分と腹の黒いことをする」

敵の手並みには素直に感服はするものの、それとは逆にこちらの手際の悪さにも辟易とさせれる。
身内同士で腹の探りあいなどしている場合ではないのだというのに。
もし副官や護衛艦がまともであれば、よもやここまでの肉薄などは許すはずはなかっただろうに。
やはり優秀な人材というものは実に得がたいものだと、今更ながらに九条は天を仰いで嘆いた。

この一撃が放たれてしまえば、まず間違いなくスキタリスはその機能を停止することになる。
九条自身も助かりはすまい。戦いも止まりはすまい。
自分亡き後一体誰が指揮を執るのかと考え、せめてガザロフ少佐が奮戦してくれればいいが、と九条は考え。

「……彼女には生き延びて貰いたいところだ。こんなところで死んで欲しくはない」

そんな言葉がぽつりと零れて、九条は思わず苦笑した。
果たしてそれは彼女の能力が信頼できないということなのだろうか、いやいやそうではあるまい。
純粋に彼女の身を案じる理由。それが何かと思い至ればなんともおかしくなってしまって。
九条は、零れ出そうになる笑みを堪えるのに随分と苦労した。
474 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/19(土) 21:36:33.40 ID:HIbkqNWz0
そして、それだけの時間を経ても波動砲が放たれることはなく。
代わりに飛び込んできたのは、どこか聞き覚えのある少女の声だった。

「最初に言っておくわ。こちらには確かに交渉のテーブルに付く用意がある。
 けれど貴方達がどうしてもそれを拒んで戦闘を行うというのなら、まずは貴方達の指揮官に死んでもらうことになる



「……銃口を突きつけて交渉のテーブルに付け、とは。随分とまだるっこしくも乱暴なことをするね。
 私が死んだところで、それで総崩れになるほど我々は甘くはないのだが」

いち早く九条はその言葉に答え、そして実に複雑な表情で言葉を続けるのだった。

「そうだな。確かに君が生きているのなら、魔法少女隊に加わっていても不思議はないだろう。
 かつての英雄が今は地球の敵対者……か、懐かしいな、スゥ=スラスター。いや、本当の名前は違うんだったかな?



通信の向こうで、静かに息を飲む音が聞こえた。
九条の言葉は、その少女にとっても意外だったのだろう。

「……答えを、聞かせなさい」

それでもどこか冷たい声で、その少女――暁美ほむらは
なんだかんだで実は面識のなかった九条に向けて決断を迫るのだった。


そしてその日、ゲイルロズ周辺宙域において地球連合軍・ゲイルロズ攻略艦隊と
グランゼーラ革命軍及び太陽系同盟軍との和睦交渉が開かれることとなる。
そしてその日より太陽系内部の状況は激変する。当然のごとくそれは、新たなる戦いを呼び起こす。
475 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/19(土) 21:37:06.17 ID:HIbkqNWz0
「やあ、どうやら落ち着いたようだね、イジマール中佐」

交渉のため、ゲイルロズに付属するコロニーへと赴いていた九条から、スキタリスへと通信が入った。
スキタリス及び地球連合軍から差し向けられた護衛艦隊は、ゲイルロズに接近することを拒み後方へと下がっていた。
そしてガザロフ少佐率いる部隊のみが、九条の護衛についていたのである。
戦力が分断されてしまった以上、革命軍との戦力差は最早圧倒的であり
これ幸いと革命軍が牙を剥けば、容易く攻略艦隊は総崩れとなってしまうだろう。

そんな状況だからこそ、その通信が誰にも妨げられることなく届いたことは、些か不思議なことではあった。
時がその激昂を鎮め、ようやく冷静な思考を取り戻したイジマールにとっても、それは不思議なことであった。

「九条……まだ生きていたのか」

そして例え激昂が収まったとは言え、一度突きつけた矛先を下ろすことは用意ではない。
それが狂信者の矛であれば尚更で、イジマールの口調は敵意と殺意の混じったものだった。

「ああ、ぴんぴんしているとも。色々と君に伝えなければならないことがある。
 恐らくこうして通信を送るのもこれが最後だ、よく聞いて欲しい」

変わらぬ調子の九条の言葉、けれどその言葉の意味するところは果たして何か。
恐らくそれが、彼の最後の言葉となるのだろう。すぐにそれを理解し、イジマールは唇の端を吊り上げて笑った。

「そういうことなら聞きましょうとも。敵の口車に乗せられて死ぬこととなった哀れで愚かな男の最後の言葉だ。
 しっかりと最後まで聞き届けましょうとも。九条提督?」

「……いや、まあいいか。とりあえず攻略艦隊の指揮権を君に譲渡する。
 引き続きグリトニルの攻略を頑張ってくれ」

やはり本格的にこの男とは話が合わない。
相手が狂信者であるのなら尚のことである。九条は内心辟易としながらも言葉を続けた。

「もっとも、そう容易くはやれないだろうがな」
476 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/19(土) 21:38:29.73 ID:HIbkqNWz0
躊躇いもあるが、それでもどこかなにやらスカッとしたような表情で、九条は言い放った。

「全艦旋回!攻撃態勢に移れっ!!」

その言葉と同時に、九条に着き従っていた艦隊が動き出す。
旋回し、その砲塔が向けられたのは同じく地球連合軍の艦隊に対して出会った。
かつてのグリトニル防衛部隊のみで構成された艦隊は、九条の指示に躊躇することなく従った。
そしてついに、地球連合軍に対して牙を剥く。

「貴様、反逆するつもりかっ!?」

「仮にも英雄として帰ってきた身、投獄される謂れも飼い殺しにされる謂れもない。
 そうでもなければ、わざわざこんなところまで来るつもりはないさ。
 ……それに言うだろう。反逆は英雄の特権だ、とね」

言ってやった、これ以上なくすっとした気持ちで九条は通信を打ち切った。
錯乱したように何事かをがなりたてるイジマールの言葉など、これ以上は欠片も聞く必要は無かった。

死地より戻り投獄されたその時より、九条は既に地球連合軍という組織に対して見切りをつけていた。
そして、常軌を逸した狂信に取り付かれたこの組織の暴走をどうにかして止めねばならぬと、そう思っていた。
だからこそ九条は、ガザロフを始めとした一部の信頼の置ける部下に頼み、革命軍への亡命の準備を進めていたのだった。
拠点を放棄するという不可解な革命軍の行動も、互いの戦力を損なわないようにするためであったのだ。

かくして、多少の想定外の出来事はあれど、九条はついに革命軍への亡命を遂げた。
そして九条は、自らに付き従う無数の戦友たちに向けて高らかに宣言したのである。
477 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/19(土) 21:39:29.34 ID:HIbkqNWz0
「私は確信した。最早、今の地球連合軍に正義はない。ならば私は、私が信じるものの為に戦おう。
 君達は私と共に、あの死闘を生き抜いた戦友たちだ。私は君達を信じる。
 そして私は、同じく戦友である魔法少女隊の少女達を信じたい、そして救いたいと思っている」

ずっと九条の胸中に渦巻いていた不信。
それは悪夢の兵器たるフォースを扱うことや、非人道的な機体を開発することへも向けられていた。
そして彼は魔法少女隊の実情を知る。その裏で犠牲となった、何千人もの少女達のことを知った。
されど敵がバイドであれば、戦わねばならないと自らを納得させることもできた。

だが、この有様はなんだ。
バイドとの戦いを終えたかと思えば、今度は人間同士の争いである。
そして新たな政府は、バイド戦役における数多くの非人道的行為を改めようともしていない。
最早これ以上、地球連合軍という組織に忠義立てる謂れなど、どこにも存在していなかった。

「現時刻をもって我々は、魔法少女隊の指揮下に入るっ!!」

大きく息を吸い込んで、雄雄しく九条は叫ぶ。
そしてその声につられるように、コロニーから無数の光が飛び出した。
それは、魔法少女隊が駆るR戦闘機の光であった。

かくして、九条提督及びかつてのグリトニル防衛部隊を取り込んだ魔法少女隊は
ゲイルロズ攻略艦隊へ向けて攻撃を開始したのだった。


そして戦いは、ますます持ってその激しさを増していく。
バイド戦役当時こそ、英雄と呼ばれながらもその戦争の終結に何ら関与し得なかった九条であったが
此度の戦いにおいては、まさしく英雄の名に恥じぬ多くの活躍を見せ、多くの勇名を馳せたといわれている。
478 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/19(土) 21:47:41.89 ID:HIbkqNWz0
裏切りの九条提督、多分これから色々と活躍してくれるのでしょう。

>>453
木星はほぼガスのようなものですから、突入座標さえあわせれば突っ切れるんじゃないでしょうか。
途中嵐とかがあったりもするようですが、きっとR戦闘機ならば大丈夫でしょう。

>>454
おいやめろ
なんにせよたくさん仲間が増えました。
敵も増えたようですが。
479 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/19(土) 21:50:21.23 ID:RWlnu4aD0
九条提督……本当に大丈夫かという気がしないでもない。

何しろ地球連合軍とグランゼーラ革命軍の戦い。
結末は琥珀色の瞳孔じゃ……

バイドがいなくなったといっても、どこかの平行世界からまた来るかもしれないし。
480 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/05/19(土) 23:02:23.66 ID:o1e4gBeno
TAC2の番外編要素は関わってこないんだっけ
どっちにしろ連中に関しては情報が少なすぎるが
481 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/05/19(土) 23:03:42.59 ID:IgNAg9QRo
ほむほむは革命軍に居るようだけどオリジナルとスゥちゃんはどうしてんだろうな?

反逆のクジョー
482 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/05/19(土) 23:44:54.52 ID:EWLuad/P0
まさかリアル九条提督同様グランゼーラへ奔るとは夢にも思っていなかった。
寝返った振りして背後からとか、実はアバターアンドロイドで本物の九条提督はとかだったりして・・・
483 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/05/20(日) 12:57:49.73 ID:TAsWZz7/o
ほむほむ、無事だったのか。
484 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/20(日) 20:34:58.20 ID:ruDUgwfDO
提督回お疲れ様です!
指揮下に入ってくれるとは、女の子を立てて
あげるなんて、流石九条さん格好良〜い。

イジマール を 一文字変えて♪
イ ジ ワ ー ル♪
こういう単純な名前の悪役って、結構居ますよね。
ワイリー博士とか
ワリオとか
ワルナッチ博士
他etc...
485 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/05/21(月) 00:44:00.43 ID:OsqIjkDy0
明日九時頃、続きを投下したいと思います。
486 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/05/21(月) 20:43:48.26 ID:NNhzoj+Io
wktk
487 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/05/21(月) 20:59:28.82 ID:OsqIjkDy0
wktkしてもらっちゃいましたし、今日も頑張って行きましょうか。
488 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/21(月) 21:00:37.97 ID:OsqIjkDy0





――Epilogue of Homura Akemi――




489 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/21(月) 21:01:07.63 ID:OsqIjkDy0
「これで全ての準備は完了。……長かったな」

赤いリボンで髪を結んだ、黒髪の少女が静かに、そして感慨深げに口を開いた。
その言葉を受け止めたのは、同じく黒髪を左右にみつあみに縛った少女。
その二人は同じ顔をして、同じ声をして。
けれど異なる心を宿し、異なる道を行くこととなる二人の英雄であった。

「本当に、思いがけず長くなってしまったわ。でも、どうにか間に合ったから」

みつあみを静かに揺らして小さく笑い、暁美ほむらは言葉を返す。
髪を縛ったリボンにそっと触れ、スゥはその言葉を受け止める。

そして、二人が見つめる視線の先には二機のR戦闘機があった。
かたや、人類の救世主たるグランドフィナーレ。
力を使い果たしボロボロになったかつての姿は既になく、まるで新品のように磨き上げられていた。

そしてその隣にはもう一機、グランドフィナーレとよく似た姿のR戦闘機があった。
確かにその姿はよく似ていれど、その各部には人類の手が加えられたような痕跡が見て取れた。
その機体の名は、R-102――ファラウェル・ギフト。
グランドフィナーレを解析し、その性能の再現と更なる追求を目して作られた機体であり
TEAM R-TYPEが生み出した、最後のR戦闘機でもあった。
そしてこの機体はまさしくその名が示す通りに、TEAM R-TYPEにとっての餞別ともいえる機体だったのだ。
490 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/21(月) 21:01:41.86 ID:OsqIjkDy0
それはバイド戦役終結直後、グランドフィナーレと共にほむらとスゥの二人が地球に帰還した後の出来事である。
ほむらは、完全に機能を停止したグランドフィナーレを、TEAM R-TYPEへと提供したのだった。
バイドを討つという意志の結晶たるラストダンサー。R戦闘機そのものの系譜たるカーテンコール。
この二つが融合し、そして生まれたグランドフィナーレはまさしく真の意味で究極のR戦闘機であった。
そしてその存在は、間違いなくTEAM R-TYPEにとっては非常に興味深いものであると同時に
どうしても許しがたい、そういう存在でもあったのだ。

究極のR。それを生み出すという偉業が人類の力によってなされたものではなく
魔法や奇跡といった代物によって為されてしまったことは、酷く彼らの矜持に傷をつけたのである。
だからこそ彼らはグランドフィナーレを徹底的に解析するために、そしてそれを越える機体を生み出すために
ほむらの申し出を受け、機能を停止したグランドフィナーレを引き取ることとなったのである。

彼女が出した条件は二つ。
その一つはほむらとスゥの身柄の保護。
そしてもう一つは、ありとあらゆる手を尽くし、鹿目まどかの救出に協力するというものだった。
二つの条件は二つ返事で受け入れられた。そして、最後のR戦闘機の開発が始まった。

地球至上主義に染まった地球連合軍により、遠からずTEAM R-TYPEは解散の憂き目を見ることとなるだろう。
だからこそその前に、彼らの常軌を逸した行為の証を残さんとして、彼らはその力を余すことなく発揮した。
そして太陽系を巻き込む動乱を尻目に、半年もの時を経て二つの機体は完成することとなったのである。
491 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/21(月) 21:02:14.40 ID:OsqIjkDy0
「これでいよいよ、まどかを迎えにいけるんだ」

スゥはその目を爛々と輝かせてグランドフィナーレを見つめた。
それがどれだけ過酷で長い旅になるかは誰にも分からない。それでも、スゥは迷わない。
まどかに会いたいと、もう一度言葉を、想いを交わしたいと、生身の身体で触れ合いたいと。
ただそれだけのひたむきで強い思いが、スゥの胸中を埋め尽くしていたのだから。

「そうね。……スゥ、まどかのこと、頼むわよ。まどかは……私達の大事な友達だから」

隣に並んで、ほむらはスゥを見つめて言った。
共にまどかを助けに行けたらと、そう思う気持ちは確かにあった。
けれどそれはできない。ほむらには、この太陽系でやらなければならないことがあったのだから。

「任せて。まどかの魔力の波長はグランドフィナーレに記録させてあるから。
 後は、それを辿ればきっとたどり着ける。……どれだけの距離が、どれだけの時間の隔たりがあったとしても、必ず」

解析と開発の最中、まどかの救出のための術も確かに研究が進められていた。
とは言えまどかと別れた場所は遥か26次元の彼方である。
最終的に通常空間に帰還できたということだけは分かっているが、その座標は分からない。
それどころか、この宇宙と同一の時間軸にまどかが存在しているのかどうかすら定かではなかった。
けれどスゥは諦めなかった。
そしてついにどれほどの距離も、どれほどの時間さえも飛び越える力をグランドフィナーレは宿したのだった。

「……必ず、また会いましょう。スゥ」

「うん、その時はまどかも一緒に。皆で会おう。……ほむら」

互いにその手を重ねて握る。
同じ姿であったはずの手に刻まれた異なる時間。
それは、二人の手をほんの僅かに異なる姿に変えていた。
492 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/21(月) 21:02:47.74 ID:OsqIjkDy0
かつて、二人の間には大きな隔たりがあった。
ほむらは自らの出自を知らず、スゥとてそれを知っているからこそ知らぬほむらを恨むことしかできず。
それでも、ほむらは本当の自分を知った。スゥは一度全てを失い、それでもまどかと出会うことで
新たな自分を確立することができた。
そして今や、二人の距離はずっと狭まっていた。
まるでそのありようは、仲のよい姉妹のようでもあった。

その成り立ちだけを切り取れば、二人はまるで同じ存在。
そしてただの英雄の複製品でしかない。
けれど二人は確かな生を受けた人間で、その生の軌跡は、紛い物でもなんでもない。
互いがそれを理解し、認め合うことができて今、ようやく本当の意味で二人は一人の人間となったのだろう。
そして、忌むべき同胞たるもう一人の自分をあるがままに受け入れることができたのだ。

「ほむら、貴女の仲間達にもよろしくね。それと、太陽系をお願い。
 私とまどかの帰ってくる場所を、ちゃんと守っていてよね」

「私一人に何ができるかなんて分からないけど、あそこには私の仲間達がいる。
 今も、彼女達は運命と戦ってる。私は、絶対に彼女達を助けて見せるわ」

力強く握った手を、ゆっくりと離して。
互いに互いを見詰め合う。同じ姿の同じ瞳、そこ刻まれた思いは違えど、その強さはどちらも同じ。
493 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/21(月) 21:03:17.94 ID:OsqIjkDy0
「貴女の旅路に、幸多からんことを」

「貴女と貴女の仲間たちに、どうか幸運を」

静かに言葉を交わし、掲げたその手を打ち合わせた。
ぱしりと一つ、乾いた音がして。
それにはじき出されるように、二人は各々の機体へと駆けていく。

スゥはグランドフィナーレへ。ほむらはファラウェル・ギフトへ。
そして、それぞれの戦場へと向かう。
スゥは遥か時空の彼方、そしてほむらは魔法少女隊の待つゲイルロズへ。

二人を待ち受けるは恐らく再び過酷な運命。
それでも、決して負けはしないだろう。その翼は折れはしないだろう。
なぜならば、その瞳は進むべき道を逸らさず見つめていたのだから。
なぜならば、その翼は常に希望へ向けて力強い羽ばたきを続けていたのだから。
494 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/21(月) 21:04:07.53 ID:OsqIjkDy0
そしてほむらは木星を抜け、ゲイルロズへと至る。
いかに地球連合軍が木星圏以降への人の動きを見張っていたとしても、相手はたった一機の
それも最高の性能を持ったR戦闘機である。そして、それを駆るのも最高の魔法少女である。
その動きを捉えられるはずもなく、ほむらは悠々とゲイルロズへと辿り着くのだった。

「そこのR戦闘機、ここは我々グランゼーラ革命軍の施設である。
 許可なき接近は認められない。貴官の所属と目的を報告されたし」

そしていよいよゲイルロズに近づくと、ほむらの接近に気づいたゲイルロズからの通信が入る。
ほむらは機体を停止させ、小さく一つ息を吐き出し、こう告げた。

「魔法少女隊所属、暁美ほむらよ。……私は、私の仲間達を助けるために来たわ」

ゲイルロズの管制官は、その言葉に僅かに息を呑んだ。
しばらくの沈黙の後、ゲイルロズは、ほむらとその機体を収容した。
495 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/21(月) 21:04:39.96 ID:OsqIjkDy0
「……ほむら」

「ただいま、さやか、杏子」

「ほむらっ!ほむら……本当に、ほむらだっ!
 よかった……生きてて、くれたんだ。ほむらぁ……」

機体を降りたほむらを待っていたのは、二人並んで立っている、さやかと杏子の姿だった。
ほむらが帰ってきたと聞いて、持ち場を放り出してまでここへ迎えに来たらしい。
呆然としたように呟く杏子に、ほむらは小さく笑って答えた。
そうするや否や、さやかがほむらに飛びついた。
そのまま抱きつき、何度も何度も名前を呼んで。いつしかその声は涙声へと変わっていた。
抱きついたまま震えるさやかを、ほむらも優しく抱きしめて。

「ったく、ピーピー泣きすぎなんだよ、お前は。
 ……でも、本当に良く帰ってきてくれたよ。生きててくれたんだな、ほむら」

そんなさやかを茶化しながら、それでも杏子もほむらの肩を抱いて。

「一度どこか二度死んだわ。でも、助けられたのよ、私は。それは貴女のおかげでもあるわ。……ありがとう、杏子」

そしてほむらもまた、杏子の手に自らの手を重ね、優しく笑うのだった。
496 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/21(月) 21:05:06.97 ID:OsqIjkDy0
その後、ほむらはさやかと杏子の紹介で晴れて魔法少女隊の仲間入りを果たす。
煩雑な事務手続きも終わり、ようやく落ち着いて話すことができるようになった。
そこでほむらは、彼女が見た全てを話すのだった。
彼女の魂を蘇らせた奇跡のことを、そしてバイドとの激しい戦いのことを。
その果てに得た勝利と、もう一度起こった奇跡。そして今尚宇宙の彼方にいるであろう、まどかのことを。
そしてそれを迎えに行くために、もう一人の自分であったスゥが旅立ったのだということを。

「じゃあ……まどかはきっと、帰ってくるんだよね」

「それがいつになるかは分からないけれど、きっと彼女はやってくれると思うわ。
 だから二人がいつか帰ってくる日まで、私は太陽系を守らなきゃいけない。
 彼女達が帰ってくる場所を、守らなくちゃいけないから」

さやかの問いに、力強くほむらは頷いた。
大切な仲間を守るため、そしてもう一人の自分との約束を果たすために、ほむらはここまでやってきたのである。

「そういうことなら、あたしらだって協力するさ。いつまでも人間同士、争ってるわけにも行かないからな。
 まどか達が帰ってきた時には、平和な宇宙を見せてやらないとな」

「うんうんそうそう!その為に、あたしら魔法少女隊はいるんだから!
 ……って、まあもうあたしと杏子は魔法少女じゃないんだけどさ」

そう言って、さやかはどこか苦笑めいた笑みを漏らした。
通常のR戦闘機でも戦闘経験も豊富な杏子とは違い、さやかは魔法少女としての経験しか持っていない。
それ故の不安、足手まといになるのではないかという恐れが、ほんの僅かに透けて見えた。

だからほむらは、そんなさやかを静かに抱きしめて。

「たとえ魔法少女じゃなくても、貴女は私の大切な友達、大切な仲間よ。
 貴女に戦う覚悟があるのなら、私はそれを止めない。それに、貴女は一人で戦ってるわけじゃない。
 ……一緒に戦い抜いて、生き抜いてやりましょう。さやか」

「なん……かさ、ほむら、随分印象変わったんじゃない?
 優しくなった、って言うかさ。接しやすくなった感じ?ちょっと見違えちゃったよ」

抱きしめられたまま、はにかむように笑ってさやかは答え、そして。

「髪型まで変わっちゃって。イメージチェンジってわけなのかな。
 ……うん、でも良く似合ってるじゃん、みつあみもさ」

編みこまれた髪を、そっと掴んでさらりと揺らした。 
497 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/21(月) 21:05:34.98 ID:OsqIjkDy0
「そういえば……マミはどうしたのかしら。ここには来ていないの?」

話はどうにも尽きぬ中、ほむらが不意に問いかけた。
時間は随分と過ぎていたが、マミの姿は尚も見えなかった。

「ああ……それは、ね」

「マミや他の魔法少女達はさ、まだ身体がないんだ。
 ゲイルロズが陥落したときに、一緒に失われっちまった。
 それをどうにか復活させる方法を手に入れるってのも、あたしらの戦う理由の一つなんだ」

「それじゃあ、マミとは話はできないのかしら」

そこまで深刻な状況だったとは、ほむらでさえ知る由はなかった。
身体を失い、魂だけになった彼女達は一体何を考えて生きているのだろう。
魂だけになり、それでも生きるために戦い続ける彼女達。その生き様は、どれほどに過酷なのだろうと。
思わずそんな想像が脳裏をよぎり、閉ざした瞼の裏に熱いものがよぎった。

「いや、それはできるんだ。っつーか一応みんなそれなりに暮らしてはいる。
 そうでもなきゃあ、こんなところにずっとなんて耐えられないしさ。
 ほむら、会いに行こうぜ。マミのとこにもさ」

「そうだね、マミさんにも教えてあげなくちゃ、ほむらが帰ってきたんだって。
 さ、行こうじゃない、ほむらっ」

そして促されるままに、ほむらは杏子とさやかの後に続いた。
ゲイルロズの奥へ、魔法少女隊が管理する区画へと入ると、そこは底冷えのする空気に包まれていた。
498 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/21(月) 21:06:08.87 ID:OsqIjkDy0
「うー、相変わらず寒いね、ここは」

「置いてある物が物だからね、冷やさなけりゃならないのはわかるけど。
 こっちまで冷気が漏れてるのはいただけないよな。ほら、風邪引く前にちゃんと着込んでな」

厚手の上着を羽織り、更に奥へ。
そこには、さらに不可思議な空間が広がっていた。
円状の広々とした部屋の中央に、特殊ガラスに包まれた巨大な機械が設置されていた。
無数の機械を継ぎ接ぎして作り出されたかのように、それは随分と歪な姿をしていた。
どこか恐ろしさすらも感じるその機械の表面を、幾筋もの光がひっきりなしに這い回っている。
そしてその機械から伸びたケーブルは、ガラスの外に無数に設置された小さなケースへと接続されていた。

「何なの、これは……一体」

その異様はどこか、本能的な恐怖感すらも覚えさせるほどで。
思わずほむらも、声が僅かに震えてしまうのを堪えられなかった。

「魔法少女の楽園……って言うには、ちょっと無骨すぎるか。
 マミや他の魔法少女達は、この中にいるんだ。みんなこの中で、データで作られた世界の中で暮らしてる。
 要するに、所謂仮想現実、って奴だな」

「それで、あの機械はそれを生み出すコンピューターなんだってさ。
 すごい機械らしいけど、それだけにずっと冷却してなきゃいけなくて、それでこの部屋はいつもこんなに寒いんだ」

それは恐らく、ここに存在しているのが身体を持たない魔法少女のみだから。
だからこそ、これほどの低温であることが許されているのだろう。
ソウルジェムにはこの程度の低温など、何ら影響を及ぼすことはないのだから。
499 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/21(月) 21:06:36.21 ID:OsqIjkDy0
「元々革命軍はさ、連合軍の連中と違ってそこまで実戦経験があるわけじゃないんだ。
 だから、それを補うために仮想現実での訓練が行われてたらしい。
 そのための技術の副産物なんだとさ、こいつらは」

「最初はさ、あたしもひどいって思ってたんだ。これじゃまるで、皆が機械の一部みたいだってさ。
 でもさ、すぐにそうしなくちゃ生きていけないんだってわかったんだ」

この部屋の、そして魔法少女達の現在の在り様を見るたびに、さやかと杏子の心のどこかに影が宿る。
それを払うことができるのは、いつか全ての魔法少女達がこの部屋から解き放たれ
本当の人生を取り戻すことができた時だけなのだろう。そして、その時はまだ遥かに遠かった。

「外からでも話をすることはできるけど、ソウルジェムがあるなら直接会いにだって行ける。
 だからさ、行ってこいよ、ほむら。あんたの身体はあたしらが見といてやるからさ」

「きっと、マミさんも待ってると思うから。行ってきなよ、ほむら」

躊躇う心はどこかにあった。
この異様を前にすれば、それは当然とも言えた。
けれど、そこには仲間が待っている。会いに行く術は、この手の中に確かに存在している。

ならば、躊躇う必要などはないはずなのだ。
ほむらは静かに頷いて、自らの魂、ソウルジェムをさやかに託した。
そして僅かな時間の後、彼女の視界は暗転した。
500 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/21(月) 21:07:06.96 ID:OsqIjkDy0
「ここ……は」

気がつくと、そこはなぜか見慣れた空間だった。
一面に白い内装、そしてどこか懐かしい調度品の数々。
ほむらはそこで、自分が椅子に腰掛けているのだと気づいた。
テーブルの上にはおいしそうなケーキが、そして湯気の沸き立つ紅茶のカップが。
そしてさらにその先へと視線を向けると、そこには懐かしい姿があった。

「……マミ」

「いらっしゃい、本当に久しぶりね。ほむら」

ほむらの記憶の中と寸分違わぬ姿のマミが、微笑んだまま座っていた。
そこでようやくほむらも気がついた。この場所は、ティー・パーティーのマミの自室であると。

「ええ、本当に……っ、また、会えてよかった」

安堵の表情を浮かべ、静かに吐息を漏らしたほむらを、マミは静かに笑みを湛えたまま見守っていた。
それは果てしない戦いの末、ようやく辿り着いた再会だった。
なぜだろうか、先ほどさやかと杏子と出会った時よりも、なぜだか胸がいっぱいになってしまって
思わず言葉に詰まってしまうほどの感情で、ほむらは溢れてしまいそうになっていた。
きっとそれは、この仮想現実の空間故なのだろう。
ここにいる以上、誰もが剥き出しの魂で触れ合わなければならなかったのだから。

思わず咽び泣いてしまいそうだったが、なんとかそれを堪えるほむら。
その様子がだんだん落ち着いてきたのを見計らって、マミは静かに口を開いた。

「色々と話したいことはあるけれど、まずは紅茶でも飲んで落ち着いて頂戴。
 実際にお腹が膨れるわけじゃないけれど、味はちゃんとわかるはずだから」

その位のことをやってのけるくらいには、この仮想現実は便利な空間だったのである。
事実、漂ってくる紅茶の香りは実にかぐわしく、一口頬張ったケーキはほろほろと甘かった。
501 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/21(月) 21:07:42.77 ID:OsqIjkDy0
二人きりのお茶会。言葉がふわふわと飛び交う中で、静かに紅茶とケーキを嗜みながら。
ここに来られるのは魔法少女か、そうでなければサイバーコネクタ手術を施された者だけだろう。
それ故にさやかや杏子はここに来ることはできず、画面越しに言葉を交わすくらいのことしかできないのだった。
そんなことを、マミは少し寂しげに話すのだった。

「随分と……色々なことがあったわね、本当に」

「でもバイドとの戦いが終わったのに、今度は人間同士で戦う事になるなんて」

ほむらは知らなかったのだ。地球連合軍を蝕む狂気なる信仰の存在を。
だからこそ不思議でならなかった。なぜ人類同士が争わなければならないのか。
その理由は一体何なのか。それを知るということも、彼女革命軍の本拠地たるゲイルロズを訪れた理由の一つだった。

「そう、確かに今のこの状況はおかしいわ。バイドとの戦いが終わったばかりだというのに
 戦後の復興をさしおいてまで次の戦いを始めようとしている。
 こんなことを望んでいる人なんて、いないはずなのに」

マミは悲しげに瞼を伏した。
バイド戦役を生き延びた猛者である魔法少女達の、そのリーダーである彼女ですら
やはり人間相手に戦うということへの躊躇いは、完全に打ち消せるものではなかった。

「それでも戦うのね、貴女達は?」

「……ええ、それでも私達は戦うわ。今の地球連合軍のありようは余りにも異常よ。
 それを正すためにも、そして私達が私達の人生を取り戻すためにも、私達は戦わなければならないの」

伏していた瞼が開かれる。
そこにはやはり物憂げな色は浮かんでいたけれど、それでもそこには強い意志の光があった。
けれどその言葉の端には、多くの魔法少女達の命を背負っているという責任の重さも見て取れた。
502 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/21(月) 21:08:10.10 ID:OsqIjkDy0
「マミ。……貴女は、少し頑張りすぎていると思う」

「かもしれないわね。でも、休むのなら全て終わらせてからいくらでも休めるわ。
 今はもう少しだけ、頑張らなくちゃいけないじゃない」

気遣うようなほむらの言葉に、マミは少しだけ困ったように笑った。
それでもほむらは、そんなマミの手を取って。

「……辛いのなら、頼って欲しい。私にできることなんてどれだけあるかわからないけど。
 それでも、私にできることならなんだって協力するから」

ほむらの言葉に、マミは僅かに目を丸くして。
それから、くす、と笑みを零した。
というよりも、堪えきれない笑いが溢れてきているようだった。

「くす……あはは、あぁ、もう……ごめんなさい、ほむら。別におかしかったわけじゃないのよ。
 貴女もさやかや杏子と、他の仲間達と同じ事を言うのね。って思ったら、なんだかおかしくなってしまって」

こんな風にお互いを思いやれる仲間は、きっと得がたいものなのだろう。
こんなところまで自分を慕ってついてきてくれる仲間達が、どうしようもなく愛おしかった。
堪えきれない笑みをかみ殺して、目元に浮かんだ涙を払った。そして、マミは言う。

「大丈夫よ。私がこうしているのなんて、ただ私にそれが向いていたってだけだから。
 私にできないことがあった時には、遠慮なくみんなの力を借りちゃうんだから」

嬉しそうに笑いながら放たれたマミの言葉に、ようやくほむらも安堵の表情を浮かべた。

「きっと、これから忙しくなるわ。地球連合軍の侵略を防がなくちゃいけない。
 それと同時に、地球連合軍を蝕む敵を明らかにしなくちゃいけない。
 ほむら、きっと貴女の力も沢山借りることになると思うわ」

改めて、マミはほむらに手を差し伸べた。
躊躇いもせず、ほむらはその手を強く握って。そして頷いた。
503 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/21(月) 21:08:47.62 ID:OsqIjkDy0




その日、魔法少女隊は新たな仲間を得た。
それは英雄のなりそこない。さりとてそれは英雄の同胞(はらから)。
彼女も、そして彼女の駆る機体もまたその呼び名に十分に足るほどの力を持ち。
彼女はその力を、僅か半月の後に現れたグリトニル攻略艦隊との戦闘において、まざまざと見せ付けた。
そしてその後も、多くの戦場で勇名を馳せたと言われている。



504 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/21(月) 21:17:06.94 ID:OsqIjkDy0
残る登場人物もあとわずか、いよいよ終わりが見えてきましたね。

>>479
はたして彼らがどうなるのか、それはまだ分かりませんね。
地球連合軍がおかしいとはいえ、革命軍とて一枚岩ではないでしょうし。
魔法少女隊の台頭にあまりいい顔をしていない勢力もあるのかもしれません。

バイドは……どうでしょうね、いい加減これで終わりにしていただきたいものです。

>>480
あいつらは情報が少ないのもありますし、出しようもないのでパスです。
構想だけはないわけではありませんが。

>>481
それはこれから語られることです。
とりあえずほむらちゃんは魔法少女隊に戻ることとなりましたが。

九条提督はこれからが本番なようです。

>>482
途中色々とバイド兵器だとか魔法少女に対しては嫌悪してるような感じもありましたからね。
元々地球連合軍と言う組織に対しては懐疑的だったのでしょう。

>>483
ほむらちゃんもスゥちゃんも、無事に地球に戻り、新たな力と共に飛び立っております。

>>484
というか、離反したばかりの部隊が率先して指揮を取るのもおかしなはなしですからね。
そしてあくまで彼らは魔法少女隊に所属するということで、完全に革命軍についたわけではないという
そんな意味合いもあったようです。

イジマールさんについてはまあ、残念な人でしたと。
505 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/05/21(月) 22:42:26.84 ID:J8mISf05o
乙。
おや、102番目のRですか。
506 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/22(火) 10:27:48.16 ID:v18KchVDO
お疲れ様です!
やっぱりほむほむは、あの三人と一緒がよく似合うなぁ。

いやしかし、仮想現実とかCOOLっすねぇ。
あ、だから寒かったのか?

ほむ スゥ「進化しちゃいました」テヘ ペロ
ニホンカイハヤマネコ「ギギギ……」ハンカチカミシメ
507 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/22(火) 10:32:07.44 ID:v18KchVDO
ツ が抜けちまった……orz
508 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/05/22(火) 19:25:01.34 ID:FK03CGxio
半年でグランドフィナーレ解析してそれ以上の機体を開発するとかTEAM R-TYPEマジキチすぎるだろww
509 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/22(火) 22:58:00.65 ID:TD+bePEo0
ざっと見返したら気がついた誤字をちょっとだけ訂正しときます。
細かいところはともかく、この辺ちゃんとなおしとかないと話が通じませぬ。

>>411
8行目
青空→夜空
時間経過的におかしい。

>>459
22行目
グリトニル→ゲイルロズ
未だにこの二つが混ざります、結構このミスは沢山あるっぽいです。

>>503
8行目
グリトニル→ゲイルロズ
上に同じく。
510 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/05/24(木) 00:30:38.56 ID:9hN7J/Nz0
明日、十時ごろに投下しようかと思います。
もうそろそろ終了です、本当に長かったです。
511 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/05/24(木) 04:17:59.09 ID:CHsCjx7ho
ここも完結するのか
最初の頃から追ってたから感慨深い
待ってる
512 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/05/24(木) 21:31:01.13 ID:7EXpXlzwo
      +   +
        ∧_∧  +
       (0゚・∀・)   ワクワクテカテカ
   +.   (0゚∪ ∪ +
     /ヽと__)__)_/ヽ   +
    (0゙   ・   ∀ ・ ) ワクワクテカテカ
    (0゙     ∪    ∪     +
  /ヽと____)___)_/ヽ   +   +
 ( 0゙     ・    ∀   ・  ) ワクワクデカデカ
 ( 0゙     ∪   ∪     +
 と_______)_____)
513 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/05/24(木) 22:14:20.98 ID:9hN7J/Nz0
少々遅れはしましたが、それでは参りましょう。
514 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/24(木) 22:16:03.07 ID:9hN7J/Nz0





――Epilogue of Kaname's family――




515 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/24(木) 22:17:17.34 ID:9hN7J/Nz0
「ママ、もうその位にしておいたほうがいいんじゃないかな」

時刻は既に夜。小さな灯りが灯るだけのリビングで。テーブルを囲んで座る男女の姿。
そこは鹿目家。座っていたのは当然詢子と知久で。
心配そうに言葉をかけた知久に、項垂れながら詢子は答えた。

「……そうだね。どうせいくら呑んだって酔えもしないんだ」

そして、琥珀色の液体の溜まったグラスをテーブルに置いた。
からんと、氷の揺れる音がした。

バイドとの戦いが終わって半年。時間としては決して短くはない。
けれど、家族を失ってしまった悲しみを癒すには、余りにも短すぎる時間だった。
それもその最期を見届けることができたわけでもなく、ただその死という事実を
疑いようもない感覚として押し付けられただけなのだから、その悲しみは尚のこと大きい。

「もう寝たほうがいいんじゃないかな。明日も仕事、あるんだろう?」

バイド戦役においてすら、さほどの被害を受けることのなかった地球では
既に人々は、以前と変わらぬ暮らしを取り戻すまでに至っていた。
それ故に、詢子の暮らしも今までと変わらぬように流れていた。けれど、詢子は変わってしまった。
忙しいながらも、それでもいっそ楽しむほどに精力的に取り組んでいた仕事が、どうにも苦痛でならなくなった。
それでも一見すれば変わらぬように過ごせていたのは、やはり彼女が有能であることの証明なのだろうが。

けれど、家に帰れば酒に浸る日々だった。
それで少しでも酔えたのなら、彼女も救われたのかもしれないが
どれほどの酒精をその身に収めて尚、彼女の心はそれに酔い、逃げ込むことは許されなかった。
そして、夜もあまり眠れていない。
どうにかごまかせてはいるが、目に見えてやつれ、体重も減った。
常に近くでそれを見ている知久には、彼女が限界に近づいていることがわかっていた。
516 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/24(木) 22:17:47.55 ID:9hN7J/Nz0
「タツヤは、もう寝てるのかい?」

「うん、よく寝てるよ。だけど……」

「またまどかの部屋で寝てるのか。まったくあの子はもう」

もうすぐ五歳になるってのに、と詢子は小さく苦笑した。
まどかの死というイメージは、幼いタツヤにも容赦なく降り注いだ。
はたしてその意味を正確に理解できていたのかはわからない。
それでもまどかの名前を口にするたび、ほんの僅かでも切なげに顔を歪める両親の姿を見続けて
今ではタツヤは、まどかの名を口にすることはなくなってしまった。

その代わりなのだろうか、タツヤはまどかの部屋で眠るようになった。
毎日掃除は欠かしていない。部屋の中はほとんど変わっていない。
だからこそ些か少女趣味が過ぎるその部屋の中で、彼は毎日寝起きをしていた。
きっとそれは、まどかのことを忘れたくないという思いの表れだったのだろう。
517 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/24(木) 22:18:17.98 ID:9hN7J/Nz0
「ねえ、ママ。余計なことかもしれないけど、少し仕事を休んだほうがいいんじゃないか。
 僕は家でのママの姿しか知らないけど、もう……限界だと思うんだ」

眼鏡の奥に複雑な光を湛えて、知久は静かに言葉を投げかけた。
その言葉に詢子は弾かれたように顔を上げて、目を見開いた。

「はは……参ったな。パパにまでそんなに心配されちまうなんてさ。
 でも、ごめん。今頑張るのをやめたら、あたしは本当に駄目になっちまいそうなんだ。
 じっとしてたら、まどかのことばっかり考えちまう。
 どうしてあたしは、あの時まどかを一緒に連れて行かなかったんだろう。
 そうでなけりゃあ、どうしてまどかと一緒に行ってやれなかったんだろうってさ」

だん、とテーブルに拳を打ち付けて。肩を震わせながら言う。
拭いきれない後悔の念が、今でも詢子を苛んでいた。
その後悔は、知久も同じく感じていたもので。
同じ思いに身を焼かれ、何も言えずに知久は詢子の肩を抱くのだった。

そんな時、一つ響いた呼び鈴の音。来客の訪れを告げる音。

「誰だろう、こんな時間に」

知久はそう言って、壁に備え付けられたインターフォンに目をやった。
するとそこには、どこか落ち着かない仕草で佇む、一人の少女の姿があった。

「あの子は……確か」

その少女の姿を、詢子は知っていた。
巨大戦艦の襲撃の後、入院していた詢子のところにまどかが見舞いに来たときに
まどかに付き添い、共に病院を訪れていた少女だったと記憶していた。
直接言葉を交わしたことはなかったが、まどかと親しげに話していたことは知っていた。
518 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/24(木) 22:18:44.31 ID:9hN7J/Nz0
「こんな遅くにやってくるって言うのは、何か事情があるんだろうね。
 とにかく、中に入ってもらおうか」

「そうだね、一体何をしに来たのかはわからないけどさ。話を聞いてみようじゃないか」

やり場のない指を這わせていたグラスを押し退け、詢子も立ち上がった。
そして二人で、玄関へと向かう。
扉を開けばやはりそこには、見覚えのある少女の姿があった。




その少女――スゥは、家の扉が開かれるのを固唾を呑んで見つめていた。
この場所に住んでいるであろう人々のことは、既にデータでは知っていた。
そして開かれた扉の奥から出てきた二人の人物は、やはり映像で見たとおりの姿をしていた。
ただ、少しだけ女性の方はやつれているような印象を受けた。

「あの……私、私。スゥって言います」

けれど、そのどこか物憂げな女性の表情は、不意にスゥの脳裏に
かつて自らの境遇を嘆き、苦しんでいた頃のまどかの表情を想起させた。
胸が、締め付けられるほどに苦しくなった。
それでも苦しむ胸を押さえて、零れそうになる涙をぐっと堪えて、スゥは静かに言葉を紡いだ。

「私、貴方達に話さなくちゃいけないことがあるんです。謝りたいことも、お願いしたいことも。
 いっぱい、いっぱいあって。……だから」

ただ言葉を放つだけなのに、それだけでまるで身が切られるような痛みがスゥを襲っていた。
スゥは、全てを話すつもりで鹿目家を訪れていた。けれどこんな現実離れした話が、どれだけ理解されるだろう。
拒絶されるのが怖くて、それでも今伝えなければ、もう伝える機会などないのだから。
だからスゥは身を震わせながら、ぎゅっと目を閉ざしながら言葉を紡いでいた。

そんなスゥの頭に、ふわりと優しい手が触れた。

「ぁ……」

「事情は良く分からないけどさ、大事な話がしたいってことは分かった。
 ほら、こんなとこで立ち話もなんだろ?……中で話そう。ね、スゥ」

ゆっくりと瞳を開いたスゥの前には、疲れた顔にも優しい笑みを浮かべた詢子の姿があった。
その手はそっと、スゥの頭に触れていた。
519 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/24(木) 22:19:54.15 ID:9hN7J/Nz0
「何か暖かいものでも用意するよ。そんなに固くなっていたら、話したいことも話せないだろうからね」

「……ありがとう、ございます」

先ほど詢子と知久が向かい合っていたテーブルで、今度はスゥと詢子が向かいあう。
こと、と小さな音を立てて差し出されたカップには、ほかほかと湯気の立ち上るココアが入れられていた。

「遠慮しなくていいから、まずは飲むといいよ」

「はい。……頂きます」

静かに息を吹きかけて、一口。
まだ少し熱いけれど、それでも柔らかな甘さが口の中に滑り込んできた。
強張っていた身体が、確かにどこか解れていくような気がした。
表情自体もいくらか強張りも取れ、青ざめているようにも見えた表情にも、いくらか赤みが差して見えた。

静かに息を吹きかけながら、ゆっくりとココアに口をつける。
ただその音だけが静かに響いて、誰も何も言わなかった。
知久は向かい合う二人の間に座り、詢子は静かにスゥの姿を見つめていた。

やがていい具合に冷めたココアが、掌の中で温かな熱を放っていた。
その温もりがまるで大事なものであるかのように掌に握ったまま、スゥは静かに顔を上げた。

「……話せるように、なったかい?」

詢子の問いに、スゥは躊躇いながらも頷いた。

「信じてもらえないと思います。……貴方達にしてみれば、何を馬鹿なことをって思うかもしれません。
 でも、どうか最後まで聞いてください。そして、できたら信じてください」

一体どう説明すればいいのだろう。
言葉はいくらでも考えてきたはずなのに、こうしていざ話すとなると、言葉が上手く出てこない。
バイドとの戦いの時ですら、ここまで身体が強張ることはなかったのに、恐れることもなかったのに。
それでも、その恐れを乗り越えるための力はスゥの中に確かに存在していた。
やらなければならないことなのだと、自らを納得させた。そして。

「……鹿目まどかは、まだ生きています」

確たる決意を込めて、スゥはその言葉を放った。
520 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/24(木) 22:21:27.62 ID:9hN7J/Nz0
長い時間が過ぎていた。
これほどの長い時間、誰かと言葉を交わしたのは、まどかと一緒に病院にいた頃以来だとスゥは思った。
夜は更に深まり、日付もいよいよ変わって久しく。
それだけの長い時間、スゥは静かに言葉を紡ぎ続けていた。

まどかとの出会い、そして離別。
英雄の複製品として作られた自分が、背負うこととなった戦いの定め。
まどかの死と、太陽系を救った奇跡。そしてその果てに、最後の戦いの場における再会。
そして、再びの離別。

一つ一つの思い出を、白地の多い記憶のキャンパスに、何より鮮やかに刻まれた記憶の一つ一つを
振り返りながら、静かにスゥは語った。
それを聞いていた二人は、時折顔を顰めたり、何かを言いたげにしていたが
それでもその話が終わるまでは、口を閉ざしてただただ耳を傾けていた。

「……それで、私だけが地球に戻ってきたんです。
 でも、まどかはまだ宇宙の彼方で生きているはずなんです。
 どこかも分からないくらい、ずっとずっと遠いところで。……信じられないですよね、こんなこと」

そして最後の言葉を告げて、スゥはすっかり冷めたココアを飲み干した。
冷めていてもそれでも甘いココアは、話し疲れた喉を癒してくれた。

「……それが本当なら、あんたは世界を救った英雄ってことになるんだな。
 あの時戦ってたのは、あんただってことなんだね」

そう、彼の英雄がバイドの中枢と戦ったあの姿は、全ての人類の知るところとなっている。
だがそれも、インキュベーターの裏切りにより、一度敗北の憂き目を見たその時までだけで。
521 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/24(木) 22:21:59.75 ID:9hN7J/Nz0
「そっか。まどかは……本当に世界を救ったんだな。すごいや、本当に」

「本当だね。まどかは間違ってなかったんだ。すごいな、僕達の子供は」

そう言って、詢子も知久もどこかはにかんだように、弱弱しく笑った。

「信じて……くれるんですか?」

こんな信じられないような言葉を事実であるかのように受け止めている。
そんな姿は、かえってスゥには信じがたかった。

「普通だったら、信じられることじゃないだろうね。
 ……でも、あの時確かに僕達の理解を超えることが起きていたのは事実なんだ。
 だとしたら、君が言っているようなことも、起こってもおかしくはない。僕はそう思った」

「それに、あんたは嘘をついてるようには見えない。嘘をつくにしたって、あたしらを騙す理由なんてないだろ。
 ……なんて、格好つけて言ってるけどさ。本当は信じたいだけなのかも知れないや、まどかが生きてるって」

「そうだね、僕も結局はそうなのかもしれない」

二人は顔を見合わせて、かすかに笑みを浮かべた。
結局のところ、二人はどこまでもまどかの親だったのだ。
まどかが生きていると聞けば、それがどれほど途方もない話であれ、信じたくなってしまうほどに。
それほどまでにまどかを愛していた。
だからこそ、こんな話を信じてくれたのだろう。

そんな思いが胸の中に染みこんできて、思わずスゥは目の奥が熱くなるのを感じた。
けれど同時に、そんな家族が自分にはいないことが、少し寂しくも思っていた。
522 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/24(木) 22:22:53.81 ID:9hN7J/Nz0
「ありがとうございます。……信じてくれるなら、私も思い残すことなく行けます」

「……まどかの所に、かい?」

スゥは、小さく頷いた。

「行くって言っても、今のまどかは宇宙の遥か彼方にいるんだろ。迎えに行く方法なんてあるのか?」

「はい。……来てくれますか?」

スゥは立ち上がり、足早に部屋を後にした。
そのまま玄関を抜け、扉を開いて外へ出た。
そんなスゥを見送って、二人は一度顔を見合わせ。そして連れ立ってスゥの後を追った。


そこには、信じられないような光景が広がっていた。
市街地である。何の変哲もない市街地の上空に、一機のR戦闘機が佇んでいた。
リモートコントロールによって呼び寄せられたグランドフィナーレが、搭乗者たるスゥの元へと駆けつけていた。

「これはグランドフィナーレ。人類の科学と、まどかの願いが生んだ最後の希望です。
 私はこの力で、まどかを助けに行きます。必ずつれて帰ります」

機体を前にしただけで、自信なさげに佇んでいた少女は兵士へと変わった。
凛然とした表情で、恐らく初めて間近で見ることとなったであろうR戦闘機の威容に圧倒された二人に振り返る。
523 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/24(木) 22:24:08.38 ID:9hN7J/Nz0
「あんた……本当に」

その姿は、英雄という現実味のない言葉に圧倒的な現実感を与えるほどの力強さを持っていた。
気圧されたように詢子が口を開く。

「英雄……なんだね」

そんな詢子を支えて立って、知久もまた呟いた。
グランドフィナーレは音もなく佇んでいて、夜の静けさは相変わらずだった。
けれど、人々も気付くだろう。そうなれば騒ぎが起こる。
時間は、あまり残されてはいない。

「一つだけ、お願いしてもいいですか?」

だから最後に、スゥはその願いを伝えようとした。

「私はまどかをつれて帰ります。だから、もし帰ってこられたら……」

冷たい氷のような表情が、何故だかたちまちのうちに溶けてしまう。
この言葉を紡ぐのは、あまりにも多くの精神の力をスゥに必要とさせた。
けれど、今言わなければ絶対に言えないことだから、スゥは言い放つ。

「その時は、まどかを私にくださいっ!」

叫びにも似た大きな声が、夜の市街地に響いた。
524 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/24(木) 22:24:55.86 ID:9hN7J/Nz0
「……そりゃあ、一体どういうことなのさ」

「好きなんです。まどかのことが、この世の誰よりも大好きなんです。
 だから、もしも私がまどかと一緒に帰ってきたら……まどかを、私にください」

あまりにもあけすけな愛の告白である。
それも本人のいないところで成し遂げられて、受け止めたのはまどかの両親である。
この年代では、同性愛に対しての意識は大きく変わったといってもいい。
手術によって擬似的な生殖機能を持たせ、それによって本当に同姓同士で結ばれるという事例も少なからず存在する。
けれど、それが当たり前にありえることだと受け入れられるまでには至らない。
だからこそ詢子も知久も、思わず呆然としてしまっていた。

「ったく、いつの間にこんなにモテモテになってたんだか、まどかは。
 ……でも、あんたはまどかを幸せにできるのかい?まどかは、あんたを好いてるのかい?そこが問題だ」

いち早くその衝撃から立ち直った詢子は、スゥに向けてそう言った。
けれどすぐに、その唇の端に不敵な笑みを浮かべて。

「でもまあ、それだけの問題さ。自身もって大丈夫だって言えるなら、あたしは認めてやるよ」

「……まどかは、私のことを好きだって言ってくれました。これだけは、自惚れてもいいと思ってます。
 そしてまどかを不幸にする人がいるのなら、誰が相手だって私は容赦しません。
 この命を懸けて、まどかを助けます。守って見せます」

一歩も引かず、真っ直ぐに視線を向けてスゥは答えた。
刹那、どこか張り詰めたような雰囲気が流れ、そしてそれはすぐに弾けとんだ。
525 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/24(木) 22:25:39.50 ID:9hN7J/Nz0
「なら、何の問題もないさ。でもあんたらはまだ未成年だ。ちゃんと成人するまでは家に来な」

「ちょっと驚いたけど、僕もそれがいいと思うな。
 それに君がまどかと添い遂げるなら、君も僕達の家族の一員だ。
 君さえよければ、ずっと家にいてくれてもいいと思う」

がつん、と。胸の奥を揺さぶられたような衝撃だった。
信じてもらえないと思っていたのに、馬鹿なことを言うなと罵られるかもしれなかったのに。
二人は全てを受け入れた。その上で、スゥのことさえも受け入れてしまっていた。
それがあまりにも嬉しくて、暖かくて。胸の奥から溢れるものを堪えきれなくなった。

「っ……っぐ、ぁ。ありがとう……ござい、ます。
 信じてくれて。こんな私を、認めてくれて……本当に、本当に……っ」

そこから先は、もう声にもならなかった。
静かに嗚咽を漏らすスゥは、詢子は静かに抱きしめて。

「信じてやる、いくらだって受け入れてやる。だから、絶対に帰って来るんだぞ。
 まどかと一緒に、ちゃんと元気な顔を見せてくれよ」

「はい……っ、えぐ。はい……っ!」

それはきっと幸せな時間。
スゥは家族の暖かみを知った。二人は希望を取り戻した。
けれど、幸せな時間はやはり長くも続かない。
526 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/24(木) 22:27:10.50 ID:9hN7J/Nz0
「どうやら近くの人たちが気付き始めたみたいだ。急いだほうがいいかもしれないね。
 見られたらきっと困るだろうし、君は早く行ったほうがいい」

嗚咽に混じって、人の声やどうにも騒がしい気配が近づいてきた。

「しばしの別れ、だな。あたしはこっちで頑張るから、あんたも頑張ってくれよ。
 ……まどかを頼んだよ、スゥ」

最後にもう一度スゥを抱きしめて、詢子はその身を離した。
頷き、スゥは涙を払って手を上げた。それに応えてグランドフィナーレが更に接近する。
キャノピーが開き、まるで機体から湧き出るかのように生じたタラップに、スゥは身を躍らせた。
たちまちの内にその身はキャノピーの中に吸い込まれ、そして、グランドフィナーレは飛び立っていく。
そして鋭い光の尾を引いて、その姿はたちまち空の彼方へと消えていった。

「……行っちまったね」

「そうだね、ママ。……なんだか楽しそうだね。久しぶりに見た気がする、そんなママの顔」

確かに知久が見た詢子の横顔は、力強くそして不敵な笑みを浮かべていた。
それはあの日まどかと別れて以来、一度として見ることのない表情だった。

「そりゃ笑いたくもなるさ。まどかはきっと帰ってくる。そうしたら家族が増えるんだ。
 まったく、これはあたしも頑張らなくちゃいけないね。新しい家族に、みっともないとこ見せられないだろう?」

その胸に宿った僅かな希望。それは僅かでも力強く、詢子の中で輝いていた。
そこにはもう、絶望に日々蝕まれ続けるだけの女性の姿はなかった。

「さあて、うるさいのが来る前にさっさと退散しよう。そして、ゆっくり寝よう。
 今日はゆっくり寝られる気がするよ。……それとも、一緒に寝ようか、知久」

思わずぞくりとするほど艶のある声で、詢子は知久の名を呼んだ。
まどかが物心つくようになって以来、そんな風に呼ぶことは滅多になかったのだが。

「参ったな。まどかが帰ってくるころには、もう一人家族が増えることになるかもしれない。
 ……行こうか、詢子さん」





そして二人は連れ添って、押し寄せようとする人並みより早く家へと滑り込んだ。
以降の鹿目家の家庭事情については、恐らく特筆すべき事項ではないだろう。
527 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/24(木) 22:35:50.68 ID:9hN7J/Nz0
次回、最終回です。


>>505
101番目が完全に人類の手を離れてしまいましたからね。
彼らがそれで満足するはずがありません。それを越える機体を、せめてその機体を解析することだけでもと
解散直前の彼らはまさしく死に物狂いで頑張ったのでしょう。
恐らくそれは、人類の意地という奴に他なりません。

>>506
あの四人が揃ってこその魔法少女隊、といった感じもあります。
内半分ほどは魔法少女ではありませんが、それでもやはりなにやら懐かしい気分になってしまいますね。

仮想現実を生み出しているのは所謂スパコン的な代物ですから
それはそれは頑張って冷却しなければすぐに熱暴走してしまうような代物なのでしょう。
基本的に人が長居する区画ではないので、断熱とかを考える必要もありませんでしたからね。

>>508
平常運転ですらあんだけマジキチな連中が、まさしく最後の死力を尽くした成果です。
あの機体こそ、その名に等しくTEAM R-TYPEへの、そしてR戦闘機へのはなむけとなったというわけです。

>>511
気付けばもう半年以上。思えば本当に長い旅でした。
こんなえっちらおっちらやってきた旅に、最後までお付き合いくださいました貴方にはギガ波動砲一発分ほどの感謝を。
是非とも最後までお付き合いくださいませ。
528 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/05/25(金) 00:43:11.97 ID:2/OwD5/qo
乙です。
半年か。マジで乙です。

このスレに触発されて無印からFinalまで再プレイしたけど、
どれひとつとノーミスクリアできなかった。
529 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/25(金) 01:58:58.17 ID:yUDod59lo
ついに最終回か。
最期まで頑張ってください
530 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/25(金) 10:46:04.94 ID:vjxLFnMDO
最終回前、お疲れ様です!

暗澹たる有り様だった鹿目家に、一縷の光明が差した。それでも、
それだけで強く生きられるなんて、とても凄い家族だ。

スゥちゃん。両親公認おめでとう!二人で帰って来れたら。末永く、お幸せに!

詢子さん…なんてセクシーなんだ…。知久さんは幸せ者だな。この、この〜。
531 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/05/25(金) 20:17:17.87 ID:t/UYhRhuo
いよいよこのスレもグランドフィナーレを迎えるのか……

スゥはまどかの元へたどり着けるのか? 果たして、魔法少女隊の未来は?
ワクテカして待ってます
532 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/05/26(土) 19:50:53.72 ID:UDXMKSJP0
本日九時ごろより、最終回を投下します。
終わりです、それが望んだ終わりかどうかは分かりません。
けれど、これで終わりです。
533 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/26(土) 20:03:16.96 ID:+C7ma0PDO
煌めけ……終焉の奇跡!
534 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/05/26(土) 20:03:29.48 ID:IAUocWEMo
               +   + +     +   +
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 し'     (_つ  ̄(_)) ̄ (.)) ̄ ̄ ̄ ̄ (_)) ̄(.)) ̄    し' ̄(_)) ̄ ̄ ̄ ̄(_)) ̄(_))
535 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/05/26(土) 21:00:41.32 ID:UDXMKSJP0
では、終わらせましょう。
長々と続いたこの物語に、幕引きと呼べるかどうかは分からない幕引きを。
終わらない物語の一区切り。これは、それだけのお話なのです。
536 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/26(土) 21:01:23.69 ID:UDXMKSJP0





――Prologue of them――




537 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/26(土) 21:02:15.94 ID:UDXMKSJP0
「キミ達は、実に愚かだ」

眼下に映る群集を見下ろしながら、キュゥべえはそう呟いた。
そこは広大な講堂のような場所で、演説台の上に立っている男がなにやら熱弁している。
その声は、上で見ているだけのキュゥべえの元へは届かない。
けれど、話していることなどは大体想像がついた。

その男は地球連合軍の新たなる総司令。
そして、地球至上主義の第一人者にして、地球連合軍に地球至上主義をもたらした張本人であった。
バイド戦役終結直後より囁かれ始めたこの思想は、僅か数ヶ月の間に地球連合軍のほぼ全てを飲み込んでいた。
それは、余りにも不可解なほどに急速に伝播していったのだ。
今もまた、各地より招聘した軍人達へ向けて彼は檄を飛ばしていたのだった。

曰く、地球と言う星がどれほど貴重であるか。
その地球に生ける我等が、どれほど崇高であるか。
我等が尊くあるために、太陽系の全ては我等が統べる必要があるのだと。
そのための障害は、すべて打ち払わなければならないのだ、と。

それは人間とことなる価値観を持つキュゥべえを以ってしても、思わず笑ってしまいそうなほどに幼稚な思想だった。
当然、それを聞く軍人達も半信半疑で耳を傾けている。だが、すぐにその様子は変貌を遂げる。
男が語勢を荒げるほどに、だんだんと引き込まれるように群衆はその言葉に聞き入っていく。
やがては誰しもが口々に、地球を我等を称える言葉を口にしはじめた。
その光景は、まさしく狂気の沙汰と言うより他にないもので。
けれども渦中の彼らは、そんな狂気にすっかりと飲み込まれてしまっていたのだ。
538 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/26(土) 21:02:45.28 ID:UDXMKSJP0
「一時の感情や浅薄な思想に支配され、何度でも同じ過ちを繰り返す。
 キミ達はやはり、どこまでも愚かだよ」

再び、嘲るような呟きがキュゥべえの口から漏れた。
こんなことを何度も繰り返すうちに、いつしか完全に地球連合軍は地球至上主義の傀儡と成り果ててしまった。
その遠因は確かに自分にもあるだろうと、キュゥべえは密かに思う。
けれど彼らが、人類が真に知的生命体足りえるのならば、こんなことにはならなかっただろうとも思う。
彼のもたらした力は万能ではなく、その力を受けた男の弁説もまた完全ではなかったのだから。

「あら、でもそんな愚かな人類に、貴方は負けたのではなくて?インキュベーター?」

群集を見下ろすキュゥべえの元に、一つの声が飛び込んできた。
声に気付いて振り向けば、背後で開いた扉の向こうに一人の少女が立っていた。
流れる銀糸の髪は腰にまで垂れ、血のように濡れた紅眼を煌かせた少女。
夜が如き天鵞絨のドレスを纏った姿は、恐らく高校生になるか否かといったところだろう。
そしてその瞳に宿した煌きはどこまでも冷たく、遍く全てを射殺すように爛々としていた。

「そうさ。彼はとても愚かだが、それでいてとても優秀だ。
 それでいて性質の悪いことに、彼らは往々にしてその力を自ら御することができずにいる。
 未成熟で、それでいて恐ろしいほどに強い種族。それがキミ達人類だ」

振り向いたキュゥべえと少女。互いの赤い視線が一瞬交錯し。すぐに離れた。

「だからこそ、その力が正しい方向に向かうようにしてあげているのではなくて?
 誰かが導いてあげなくては、彼らはどうやったって道を踏み誤ってしまうだけだもの」

そして少女はその怜悧な瞳を細め、口角を僅かに吊り上げ笑った。
539 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/26(土) 21:03:22.31 ID:UDXMKSJP0
「そうして導いた先が、あの太陽系規模のナショナリズムかい?
 まったく馬鹿げてるよ。どうしてわざわざ人類同士の同士討ちなんてことを始めようとしているんだい?」

その少女は、今尚熱弁を振るうあの男の娘。
そして彼の弁が世界を席巻するようにと願い、契約を果たした魔法少女。
すなわち、この太陽系を巻き込む大きな戦争の元凶こそがその少女であった。
たった一人の少女の願いが、これほどまでに大きな戦乱を巻き起こしているのである。
その事実にはいくらかの驚愕を覚えつつも、そんなことをする理由が、未だ持ってキュゥべえには理解ができなかった。

「人類の歴史をずっと見てきたのに、貴方にはその理由が分からないんですの、インキュベーター?
 人類の歴史は戦いの歴史よ。人はより多くの富を望み、繁栄を望み。終わらぬ戦いに明け暮れてきた。
 そしてその戦いの中でこそ人は進化して、あらゆる業を飲み込みながら突き進んできたのよ」

どこか陶然とした表情で、少女は戦いこそが人類の本質であると語る。

「その影に、一体どれだけの願いがあっただろうね。有史以前からボク達は人類に関わってきたんだ。
 むしろそれは人類の所業というよりも、ボク達の成果であるかもしれないよ?」

「けれど、今回はそうではなかったわ。バイドという恐るべき敵と、人類はその死力を尽くして戦い抜いてきた。
 確かに貴方がもたらした技術のお陰でもあったけれど、それだけではなかったもの」

これにはキュゥべえも閉口せざるを得ない。
確かに人類は、インキュベーターという種が抗し得なかったバイドという天敵に対して
独力での戦いを繰り広げ、これを撃退せしめていたのだ。
それは人類の力としか言うべき他なく、インキュベーターの敗北に他ならなかった。

「バイドは理想的な外敵だったわ。けれど、彼らは少しやりすぎた。
 人類の力はかつてないほどに、飛躍的に膨れ上がりはしたけれど、彼らはそれ以上に強大だったもの。
 いくら発展を遂げても、人類が全滅してしまっては意味がないでしょう?」

「だからキミは、人類を更なる戦いに駆り立てようとしているのかい?それも、今度は人間同士で」

「――ええ♪」

そして少女は、飛び切りの笑みを浮かべてその問いを肯定した。
540 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/26(土) 21:03:52.83 ID:UDXMKSJP0
「分かるでしょう。人がどれほど戦いの中で進化を遂げてきたか。
 そしてどれほど、平和という唾棄すべき間隙が人類を堕落させてきたか。
 だから、人類は争い続けなければなりませんの。
 戦う為に産み増やし、戦う為に進化を遂げ、戦う為にあらゆる所業を飲み込んでいく。
 それが人の進むべき未来よ。私は、そんな未来の導き手になる」

その手を広げ、どこか超然とした表情を湛えて少女は宣告する。
少女が告げた人類の未来。その未来における人類の姿。
戦う為に進化し、戦う為に増え、戦う為にあらゆるものを取り込む姿。
その姿はキュゥべえに、酷く自然にバイドの性質を思い浮かばせた。

「好きにすればいいさ。ボクがやりたかったことはもうすべて終わってしまったんだ。
 後はもう、人類や宇宙がどうなろうと知ったことじゃない。精々キミが造る未来を見届けさせて貰うよ」

だが、それがなんだというのか。
キュゥべえは諦念と寂寥感の混じった声でそう言った。
バイドは倒れた。宇宙は救われ、再生されることはなかった。
すべては失敗したけれど、種族の仇たるバイドを討つ事はできた。
もはや今の彼には、何一つ執着するものはなかった。
後に残されたのはただ、魔法少女を生み出すためのデバイスとしての肉体と
未だ完全には解析されざる、異星の技術を詰め込んだ知性だけだった。

けれど、と思考は遡る。
あの時スゥ=スラスターの願いを叶え、そのままあてのない旅へと出た時の事を。
通常の人間には知覚することすらできないキュゥべえである、寄る辺などはありはしない。
そのままスゥ=スラスターの魂と共に、宇宙の孤児として彷徨い続けるしかないのだろうと、そう考えていた矢先に。
そんなキュゥべえの前に、その少女は現れたのである。
少女はキュゥべえを救い、そして一つの契約を果たした。
それ以来キュゥべえは、その少女と行動を共にしていた。
541 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/26(土) 21:04:37.20 ID:UDXMKSJP0
「それで、私の剣は完成したのかしら?」

「オリジナルナンバーは完成しているよ。量産型が完成するのは、まだ少しかかるだろうけどね」

剣、と少女は言った。
それは未来を切り開くための力。
その前に立ちふさがる敵を平らげるための力だった。

「見せて御覧なさい。私の剣に相応しいものかどうか、見定めさせてもらうわ」

薄暗い部屋の中、その壁の一面に光が宿る。
それは映し出された映像で、そこには円筒状の水槽が二つ並んでいた。
そのそれぞれに入っていたのは二人の少女。その姿はどちらも同じ。

「暁美ほむらもスゥも、どちらもその肉体は残されていたからね。
 オリジナルナンバーにはそれを使わせてもらった。もともとが複製体だ、よく馴染んでくれたよ」

そう、その二人とは暁美ほむらとスゥの姿。
ジェイド・ロスとの戦いの最中、ティー・パーティーに取り残された暁美ほむらの身体と
ラストダンサーの出撃に際し、地球に保管されていたスゥの身体。
その二人の身体は秘密裏に回収され、この場所において利用されていた。
最強の剣を作り出すための素体として。

「起動させるよ。よく見ているといい、英雄の再臨だ」

二つの水槽に湛えられた、薄緑色の液体がごぼごぼと水位を下げていく。
それに伴い、二人の少女は同時に目を開いた。けれどその表情には感情の色はなかった。
そんな少女達の胸元には、小さな宝石のようなものが黒い輝きを放っていた。

それは回収されたスゥ=スラスターのソウルジェムを複製したもの。
その複製体より、感情に関する領域を除外し、さらに記憶の操作を行ったもの。
複製体たる身体に複製体たる魂を宿し、少女達は目覚めた。
最強のパイロットであり英雄、スゥ=スラスターと同じ力を持ち
それでいて一切の感情を持たない、命令に忠実な機械のような兵士として、少女達は目覚めたのである。
542 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/26(土) 21:05:06.61 ID:UDXMKSJP0
「どうやら成功したようだ。今後はこの調子でスゥ=スラスターを複製していくよ。
 肉体については、複製体のデータを元に作り出すことにするさ」

「素晴らしい、素晴らしいわっ!これならば申し分はなさそうね。戦火を生み出す私の剣。世界を導く私の剣!
 早く数を揃えて欲しいものね。頼んだわよ、インキュベーター?」

その成果に満足げに頷いて、少女は声を荒げて笑う。
間違いなくこうして生み出された少女達は、最強クラスのパイロットである。
けれどこんなことをするくらいなら、無人兵器にソウルジェムだけを積んだ方が早いのではないか。
そんな問いを、かつて投げかけたことをキュゥべえは思い出していた。

少女はその時答えていたのだ。
人の世を導くための剣が、一山いくらの無人兵器ではいけないのだと。
その為の剣は人でなければならぬ。人の姿で忠実に、私に傅く者で無ければならぬと答えた。
だからこそ世界を自分の掌の上に転がしているという、そんな実感を得られるのだという。
それが、彼女の美学なのだという。それは未だ以って尚、キュゥべえには理解できないことであった。

「これからはもっと忙しく、そしてもっと楽しくなるわ。
 貴方も精々楽しみなさい。面白きことはよきことなり、よ」

最後の言葉を告げ、ゲイルロズへと向かう部隊を送り出す父の姿を見下ろしながら。
少女はとても楽しそうに、その唇を歪めたのだった。
543 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/26(土) 21:06:33.99 ID:UDXMKSJP0
バイドを下した人類に待っていたのは、更なる戦禍への誘い。
それを誘うは異星の徒。その力を得た一人の少女。
少女は自らの信じる人類の為に、更なる戦禍を巻き起こす。
それが人類の本質なのか。答えを求めて人々は戦う。

けれど果たして、そこに答えはあるのだろうか。
星々は何も答えてはくれない。
混沌の宙。真実を誰も知らぬまま、人類の戦いは尚も続いていくのである。



けれどそう、だけれども。人類の系譜は、その終焉を迎えることはない。
人類存亡の危機は去り。これは、その後に尚続く物語のほんの序章に過ぎないのだ―――
544 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/26(土) 21:08:21.80 ID:UDXMKSJP0





――At last Wind is blowing――




545 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/26(土) 21:09:12.49 ID:UDXMKSJP0





BGM:STORIES〜song by Nana Mizuki〜
http://www.youtube.com/watch?v=L8GR9v_je0o




546 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/26(土) 21:10:13.17 ID:UDXMKSJP0
けれど、そんな戦いの宙を駆ける一筋の光があった。
それを駆る、少女の姿があった。
彼女には、どれほどの戦果も悲劇も全て関係のないことだった。
彼女が願うは唯一つ、遥かな友との邂逅だけで。
それに全てを賭した彼女には、地球の蒼さも戦火の紅も、一切その瞳に映ることはなかった。
瞳に映るのは、ただ遥かなる宇宙。その深淵を目指して、今。

「HS航法に移行。コールドスリープ開始。ソウルジェムとの接続……確立」

一瞬暗転する視界。すぐにそれが、より鮮明に映し出される。
彼女の肉体は永い眠りにつき、その魂だけが機体を衝き動かす。

遥かな距離を越え、越えざる時間の壁を越え。
どこまでも彼女は突き進む。虚空の彼方で待っている、愛しい少女の姿を求めて。
547 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/26(土) 21:10:46.29 ID:UDXMKSJP0


思い出すのは戦いの日々、暗く暗澹たる記憶。
決して幸せではなかったのだろう。そんな彼女を救ってくれた少女の姿。
幸せをくれた人、心をくれた人、愛を教えてくれた人。
その面影を焼き付けて、もう一度逢いに往くために。

548 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/26(土) 21:11:33.21 ID:UDXMKSJP0



――――星の海を渡っていこう




――――――振り向くことなく、




――――――――光を追い越し、時を翔んで、







――――――――――いつまでも




――――――――――――どこまでも












           「いつか、貴女に逢えるその日まで」
549 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/26(土) 21:12:20.52 ID:UDXMKSJP0



そして彼女は、スゥは宇宙の風となる。
遥か彼方へ、時空の果てへと流れ行く風に。





その日、宇宙は風にそよいでいた。


550 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/26(土) 21:13:19.30 ID:UDXMKSJP0
 




         “迎えに来たよ、まどか”




         “来てくれるって、信じてたよ。スゥちゃん”




551 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/26(土) 21:15:14.96 ID:UDXMKSJP0



            魔法少女隊R-TYPEs
   
                完

552 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/26(土) 21:25:06.83 ID:UDXMKSJP0
長かったなあ、と。自分の事ながらに思います。
結局魔法少女達の物語は終わりません。全てに綺麗に決着のつくハッピーエンドではなかったかもしれません。
けれど、私が語り、綴る物語はこれにて終幕と相成ります。

>>528
私も恐らくノーミスクリアができるものはないでしょう、というか1・2あたりはクリアすら危ういものです。
それでもゲームとしての楽しさと、背後に流れる狂気染みた世界に惹かれ、ここまでの長い旅を終えることができました。
いつかまた、Rの新たな姿を見ることができる日が来れば。
その時にはまた、たっぷりと遊んであげたいものです。頑張れグランゼーラ。

>>529
皆さんの声のおかげでどうにかここまで終えることができました。
本当に長かったです。でも楽しかったのも事実です。

>>530
彼らの苦しみは、まどかちゃんを失ってしまったことと、何もできず、何も知らない自分達自身も原因となっていました。
少なくとも彼らにとっては信じられる事実を知り、まどか達の帰還の可能性を抱くことができた以上
例えそれが儚くとも、前へ突き進むための原動力となってくれるのでしょう。

果たして、彼らが生きているうちに再会は為るのでしょうか。

>>531
すべての未来が語られたわけではありません。
戦いは終わりません。けれどもう、人類の存亡を脅かすほどの敵もいません。
恐らくこれから綴られていくのは、些事といえば些事のような物語。
全人類のものではなく、もっと小さな、それでいて煌くいくつもの物語が生まれていくのでしょう。

>>533
奇跡、と。そう呼べる程の終わりではないかもしれません。
奇跡は既に起こっています。奇跡の後、残された者達と往く者の物語は続く。
その序章を語り、今はこの筆を置く事とします。
553 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/05/26(土) 21:37:11.72 ID:UDXMKSJP0
もう少しだけ語ることが許されるのならば。

一つの話を最初から最後まで書き上げるという経験は、正直言ってこれが始めてなのではないかと思います。
とにかく長くて、長くて長くて、長い路をひたすらに突き進んできたような感じがします。
途中色々な物に影響を受け、書きたいものは大体ぶち込んできた気がします。

……なんだかどうにも書きたい事が多くてまとまりません。
気が向いたらその内にでも振り返って色々書いてみることに致しましょうか。
とにかくこんなところまでお付き合いしてくださった皆様には、ただただ渾身の感謝を。

お疲れ様でした。いつか、また会える日まで。
554 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/05/26(土) 21:49:09.21 ID:IAUocWEMo
裏で手を引いてたのはオリ主だったのか……
銀髪ww紅眼ww
555 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/05/26(土) 22:20:05.34 ID:1jSwSJgmo
完走乙です。

スゥ=スラスター(オリジナル)は、再びその存在を利用されてしまうのですね。
何らかの形で彼女も救われてほしいものです。
556 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/05/27(日) 00:42:38.87 ID:kLQmY2Nmo
完結乙です
557 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/05/27(日) 03:27:50.38 ID:TLdOngHQo
完結乙
別スレでの初期構想の頃から追いかけてたけど、
これで終わりかと思うと寂しくなるな

R-TYPEシリーズを通してやってると、バイド自体が人類の性の写し鏡のように思えてくるけど
そのバイドを討滅してもなおその性に囚われ続ける人類
でもその一方で、自分と自分の大切な人との約束のために
その身も魂もすべてを掛ける者がいる
キボウと希望の入り混じった、このクロスにふさわしいラストな気がした

ありがとう
558 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/27(日) 03:49:39.45 ID:d2YlCpnho
完走お疲れ様でした。
太陽ノ使者は出てくるのかと期待したんですがでませんか。
まぁ設定自体があまりよく分かってないものですからしょうがないですが。

魔法少女たちの戦いはこれからも続き自由を、幸せを得るためにはまだまだ時間がかかりそうですね
バイドの欲望が破壊だとすれば地球主義者の欲望は支配、その後ろには戦いを望む者
最期まで希望を捨てなかった彼女らならいつか掴めると信じす

改めてお疲れ様でした
559 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/27(日) 10:57:59.10 ID:FoJv5sGE0
完結おめでとうございます。
そしてお疲れ様でした。

最後に質問ですけど、英雄が必要になったところで、ほむらやゆまのソウルジェムが回収されていたのなら、それをR-99に乗せようという考えはなかったのですか?
560 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/05/28(月) 01:47:06.23 ID:FDKV1Ipeo
完走お疲れ様
561 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/29(火) 18:23:42.27 ID:vmxAZeeDO
完結お疲れ様でしたっ!!
魂と…宇宙と…愛の奇跡が混ざり合った。このとてつもなく
壮大で壮観な物語も、遂に完全に終わってしまうんですね。

そう思うと、なんだかやっぱり寂しく思えて
しまいます。が、終わらない物語は無いですものね。
未練がましくせず、潔くするとしましょう。この
スレにも、本当に長い事お世話になりました。

この世界の創造主である作者…>>1様に。
改めて、盛大なる感謝を!

堂々完結!!これでお別れ!
どうもありがとうございました!!

後は広大な情報の海の一部となり、いつまでもいつまでも、
多くの人の心に響き続ける存在となる事を…祈っています。
562 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/06/02(土) 20:46:00.60 ID:oaTx7WEE0
皆さんちょっとだけお久しぶりです。
向こうでやってるほうが一区切りつきましたので、一度こちらのほうにも顔を出させていただきます。
ついでに最後のレス返しをば。

>>554
きっとあの子はものすごく強くて偉くて賢い魔法少女なのだと思います。
魔法少女隊の前に恐るべき敵として君臨してくれることでしょう。
もっとも、それが語られる時は恐らく来ないでしょうが。

>>555
結局彼女は幸せにはなれなかったようです。
いつか誰かが、本当の意味で彼女を救ってくれることを祈るばかりです。

>>556
ありがとうございます。みなさんの声援のおかげで何とか走りきることができました。

>>557
思いがけず話が膨らんで、初期構想と比べて倍近くにまで伸びてしまった感じがあります。
結局あそこで話していたような機体は出てきませんでしたしね、まったく。

そういう意味ではバイドというのは本当に終わることのない悪夢なのかもしれません。
その存在が消えた今となっても、その性は人類を縛り付けて離しません。
バイドという強大な外敵に抗するために生み出された力は、とうとう自らにさえその牙を剥くこととなってしまうのでした。
ある意味では、スゥちゃんはそんな世界を見捨てて逃げ出したと言えるのかもしれません。
果たして彼女達が戻ってくるころには、人の系譜はまだ続いているのでしょうか。

>>558
太陽の使者についてはさすがに出すタイミングがありませんでした。
原作ですら恐らく相当の長い時間が経過した後に生み出された代物のようですしね。

そして魔法少女達の戦いはこれからも続いていくわけです。
人類同士の愚かな争いであったとしても、彼女達は自らの人生のために立ち向かうのです。
戦うことが生き抜くことが、残酷な運命に対する彼女達の最大の抵抗なのですから。

>>559
残念ながらほむらちゃんやゆまちゃんのソウルジェムが見つかったのは、スゥちゃんの身柄が確保された後のようです。
いずれにしてもゆまちゃんでは、ほむらちゃんにあわせて作られたラストダンサーは乗りこなす事はできなかったでしょう。
そもそもにして戦地の中から発見された正体不明のソウルジェムです。
そんなものに人類の未来を託すのは、非常に危ういことだと判断したのではないでしょうか。

>>560
ありがとうございます。こんなところまで付き合ってくださった皆様方には本当に感謝を。

>>561
壮大という言葉に足るような物語だったのでしょうか。
ご都合主義も過ぎるかと思います、どうにも最後は曖昧です。
それでもとにかく書き終えました。非常に楽しく、多少は苦しいながらも書き上げることができました。


堂々完結とは言いますが、実はもうちょっとだけ終わらなかったりもします。
新たな物語を綴るわけではございませんが、今まで綴ってきた物語に新たに手を加えて書き直しています。
話の大筋自体は変わりようもありませんが、いろいろ振り返りながら手を加えるのも楽しいものです。

現在はPixivの方にて投稿を進めさせてもらっています。もしよければそちらもご覧ください。

ではでは、今度こそこれにてお別れです。
向こうの方の再投稿が完了するまでは、この場所も一応は残しておくつもりではあります。
少々お時間を頂くことになるやもしれませんが、何卒ご容赦を。

では、おさらば!
563 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/06/12(火) 22:13:29.86 ID:Dvy1YlSZ0
祝・捕鯨達成記念
564 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/06/12(火) 22:14:49.56 ID:Dvy1YlSZ0
それは、果て無き宇宙と時空の彼方。ここではないどこか、今ではないいつか。
一人の少女が駆け抜けた、とある戦いの記録。

「何なの……こいつらは?」

立ち向かうは一人の少女。立ちはだかるは無数の敵。それは、どこか見覚えのある姿をした敵。
まさにその姿は、宇宙の海を泳ぐがごとくして迫る。

「所属不明の戦闘機、直ちに停止し所属と名称、そして作戦目的を述べなさい」

バイドと異なる新たな敵。その存在に戸惑いながら、尚も戦いを続けた彼女の目の前に現れたのは、伝説に謳われし白銀の翼。
そして、二人の少女は戦火の中に出会う。

「私は、スゥ。所属はないわ。私の目的は……大切な友達を、連れ戻すことよ」
方やかつての英雄の系譜を継ぐ、今は幼き英雄。
「ダライアス宇宙軍所属、シルバーホーク一号機パイロット『Ti2』です」
方や大いなる敵を退けた救世の英雄。人の姿をした、人ではないモノ。
二人の英雄は、戦いの宇宙で出会った。

「どうなってる、またベルサーの連中かっ!」
「いいえリーガ、この反応は……」

現れたのは、宇宙の守護者達。

「恐らく彼らは、貴女のその機体を、その存在を、宇宙の脅威として認識しているのでしょう」
「なら話は早い。こいつを放り出せばそれでケリがつきそうだな」

外より入り込んだ、強大なる異物。それを排除するために、彼らは現れた。

「その技術があれば、まどかを助けることができる。……お願い、力を貸して」

“死を司る者”――シーマ。

「リーガ。私は彼女を助けたい。そう思っています」
「勝手にしろ。どっちにしろ、連中が俺達にも襲い掛かってきている以上、戦わなけりゃならないんだ」
「……ありがとう」

立ち向かうのは、異界を駆ける翼達。



「行くわよ。グランドフィナーレ・バーストっ!!」



           ――魔法少女隊R-TYPEsBURST――


       ―――君は、生命の再生を見る。
565 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/06/12(火) 22:19:07.70 ID:Dvy1YlSZ0
うっかりGダラとかダラバーとかACEXとかやりまくった結果がこれです。

エイプリルフールネタをまだ消化していないことに気がつき、筆の走るままにいろいろ考えてみました。
本当に書くかどうかは…………まあ、別の話ではありますが。
もし書くとして、R成分はほとんどなく、ダライアスバーストとまどマギのクロスっぽいものになりそうです。
とりあえずACEXで捕鯨安定するまで頑張ります。もしもまた会えることがありましたらば、その時はよろしくお願いします。

では、またしてもおさらば!
566 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/06/12(火) 22:57:13.95 ID:OWO7C+szo
せっかくだからビックバイパーやFIRE LEO(またはRVRシリーズ)も混ぜようぜ!
567 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/06/12(火) 23:41:45.69 ID:yjh+f4TUo
エンプリオンさんに取り込まれて創世ENDじゃないですかーやだー
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