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いいひと多めの『禁書目録』 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/03/24(土) 01:34:40.16 ID:g7u4wL9u0







はっきり言って、クソ不味い。










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寝こさん若返る @ 2024/05/11(土) 00:00:20.70 ID:FqiNtMfxo
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第五十九回.知ったことのない回26日17時 @ 2024/05/10(金) 09:18:01.97 ID:r6QKpuBn0
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ポケモンSS 安価とコンマで目指せポケモンマスター part13 @ 2024/05/09(木) 23:08:00.49 ID:0uP1dlMh0
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今際の際際で踊りましょう @ 2024/05/09(木) 22:47:24.61 ID:wmUrmXhL0
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誰かの体温と同じになりたかったんです @ 2024/05/09(木) 21:39:23.50 ID:3e68qZdU0
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A Day in the Life of Mika 1 @ 2024/05/09(木) 00:00:13.38 ID:/ef1g8CWO
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真神煉獄刹 @ 2024/05/08(水) 10:15:05.75 ID:3H4k6c/jo
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愛が一層メロウ @ 2024/05/08(水) 03:54:20.22 ID:g+5icL7To
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2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga sage]:2012/03/24(土) 01:35:21.05 ID:g7u4wL9u0


「・・・は、ははは・・・うぇっぷ」


もう、苦笑いしか出てこなかった。抑えても、吐き気が止まらなかった。
それほどまでに、コレは異質だ。


(長期休暇突入のテンションに任せて調子に乗るんじゃなかった・・・)


意気揚々とまず一口、確認作業にもう一口、奇跡に賭けてさらに一口。
計三回だけ口を付けた目の前のアツアツ料理――苦瓜と蝸牛の地獄ラザニアを
恨みがましく見つめながら、上条当麻は己が愚行を省みた。

一応、勝算はあったのだ。
ゴーヤにエスカルゴなんて明らかに地雷っぽいその料理を頼むにあたり、一応思考は行ったのだ。

つまるところ。学園都市では実験商品として数々のゲテモノ食品が売られている。
それらゲテモノな品々はあくまで商売を考えない、データを取る為の商品にすぎない。
だからデータを取れればお役御免、つまり大抵の実験商品は期間限定のものであり、
そして、今回のラザニアにはそう言った文句がついていなかった。
だからきっと実験商品ではない。そう考えた。
そもそも、ここは敷居も何もない一般的なファミレスなのだ。
人口の八割が学生であるこの学園都市の一角にあって、時には小学生も利用する
そのファミレスが一般受けしない、それこそ舌の肥えた金持ち達が
わざわざ高い金を出して食べたがるような珍味を出したりはしないだろう。そうも考えた。
だから頼んだ。


3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga sage]:2012/03/24(土) 01:38:02.86 ID:g7u4wL9u0


――それが、このざまである。


「・・・本当に? 本当にこれが一五〇〇円? この異常な苦さと微妙な生臭さでもって
 『素材の味を生かしました☆』とか言いそうなこれが、本当に一五〇〇円なのか?」


念のため言っておくと、上条は一人である。丁寧に言えばお一人様である。
おタバコはお吸いにならないので禁煙席にご案内である。
勿論店員が傍にいるわけでもなく、これまでの言葉は全て独り言だ。

でも、言葉にしてしまう。声に出してしまう。
そうしないと、なんかもうダメになりそうだった。



それほどまでに。目の前の料理はクソ不味い。



4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga sage]:2012/03/24(土) 01:40:28.26 ID:g7u4wL9u0


「いらっしゃいませー。お一人様ですか?」


目の前の地獄から目を外しふと入口の方を見てみれば、先程料理を運んできてくれた
いかにもバイトっぽいウェイトレスが、新しい客に応対していた。
接客には慣れているのか、眩しいばかりの営業スマイルにはっきりとした通る声。
そんな明るさを持ってしてこの地獄を運んで来たのかと思わず彼女を恨みそうになり、
しかし悪いのは注文した自分なので精神的八つ当たりもままならず。
少々の自己嫌悪ののちに結局上条はテーブルに突っ伏した。


(俺のせんごひゃくえん(税込)・・・つーか実際一五〇〇円って何日分の食費だ?
 カレーとか作ったとしても三日くらいは持つんじゃねーかおい・・・)


思わずそんなことを考える。無理もない、上条当麻は『落ちこぼれ』だ。
この学園都市においてその事実は決して有利に働かない。もっとも全体の六割は
その『落ちこぼれ』であるため、上条は実のところマジョリティに属するのだが・・・。
いずれにしろ、上条が手にする奨学金は決して多い額ではない。
その上、このツンツン頭の男子学生はどういう理屈か頻繁に財布を失くしてしまうのだ。
それだけでなく、時には制服が釘に引っかかって見るも無残に破けてしまったり、
買って間もない携帯が唐突に煙を吹き出したり、
急に寮の蛇口が壊れて洗面所と水道代が大変なことになったり・・・。

別に彼が大変粗暴な人物で、触るもの触るもの壊すような破壊魔神というわけではない。
ただ、どういうわけか。彼――上条当麻はとても不幸なのだ。
幼少の頃から、或いは生まれた時からか。何か原因があったのか、それすらも知れないが。
ともかく上条が気付いた時にはもう、彼は不幸だった。

先の例にしたってその一端に過ぎない。彼の努力や思慮を越えて『不幸』は唐突に現れる。


5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga sage]:2012/03/24(土) 01:42:04.34 ID:g7u4wL9u0


(・・・とはいえ、これは自業自得だよなぁ・・・)


突っ伏した状態から顔だけ上げて、再びラザニアを視界に入れた。
円形の器の、中身の無い部分を改めて確認する。
・・・当然だが、減っていない。彼が先程すくいあげた三口分しか減っていない。


「ちくしょう・・・ただでさえ出費が痛いってのに、罰ゲーム同然のこの残量・・・
 夏休み初日、むしろ始まってすらいないってのになんだってこんな暗い気分に・・・」


うだー、と再度顔を下へ向ける上条。右手に持ったスプーンも動く気配は全くない。
記念すべき高校最初の長期休暇、その初日が刻一刻と迫ってきているというのに
気分は最悪の一言だった。

ちなみに、言うまでもないが一応は客として入った身分。
いい顔はされないだろうが、金さえ払えば残そうが何しようが上条の勝手なはずである。
にもかかわらず、食べ切るという選択以外するつもりが無い辺り
上条当麻の人間性、その一端が垣間見えるのではないだろうか(貧乏性という意味ではない、一応)。


(どうせこの育ち盛りには少しばかり物足りない量だし、もう一歩奮発して
 牛丼でも買って帰るかなぁ・・・そう考えりゃ無理にでも喉通せるかもだし)


そんなことを考えて強引に思考をポジティブに持って行く。
数分ぶりにようやくスプーンを動かそうとした――その矢先。



「・・・上条先輩?」



唐突に、そう声をかけられた。

6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga sage]:2012/03/24(土) 01:44:20.31 ID:g7u4wL9u0


       *      *      *



問題は解決した。



「はぐ、はぐ・・・」

「・・・・・・」


上条は、驚いたような訝しんでいるような複雑な視線で目の前を見つめていた。
目の前、とはいっても先程まで彼の前にあったラザニアを見ているわけではない。
テーブルを挟んで上条の反対側。そこに座り地獄ラザニアを食べる、
先程までいなかった一人の少女。彼の視線はそこへ向かっている。
簡素な白いヘアピンを付けたシャンパンゴールドのショートヘア。
どこか凛々しい印象を与える整った顔立ち。
白いシャツにブラウンのサマーセーター、それにプリッツスカートを身に着ける、
同年代に比べやや身長の高い少女――常盤台中学二年生、御坂美琴へと。


「・・・なあ御坂。勧めといてなんだけどさ。それ、おいしい?」

「? おいしいですよ?」

「・・・ソウデスカ」


きょとんとした顔でそう返す少女の視線に、思わず上条は顔を背けた。


7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga sage]:2012/03/24(土) 01:46:13.13 ID:g7u4wL9u0


その少女が上条と相席になってくれたのは、彼にとって珍しく幸運な出来事だったと言える。
先程いかにもバイトっぽいウェイトレスがご案内したお一人様。それが御坂美琴だった。
そのご案内の途中見知った黒いツンツンヘアーを見つけた彼女は、
上条を伴ってお一人様から二名様へ成長進化したのだった。
その後、軽く世間話を交えつつ注文を終え。そこで彼女は気が付いた。
上条の手が全く進まないことに。
無論、理由は言うまでも無くその料理がクソ不味いからだ。
そして当然、美琴はそれを知るはずもない。なので尋ねられた上条は、
ちょっとしたいたずらのつもりで、「一口食べてみるか?」とそう言ったのだが――。



「・・・それにしても、いいんですか? これ全部食べちゃって。こんなおいしいのに」

「あ、あぁいいんだ別に。いや、ははは、俺も割とイケるかな〜?とは思うんだけどさ。
 ゴーヤの苦みがちょっと合わないかなーなんて思って、みたり、は、ははは・・・」

「へぇ〜・・・先輩って結構グルメなんですね」

(イエ全然ソンナコトナイデスッ!!)


表面で乾いた笑いを浮かべつつ、内側で後輩へ残飯を押し付けてしまったという
よく分からない罪悪感に苛まれる上条当麻。・・・相手がおいしいと言っているのだから
気にする必要は無さそうなものだが、それでもそう考える辺り
やはり彼の人間性、その一端が垣間見えるような気がする。


8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga sage]:2012/03/24(土) 01:55:17.35 ID:g7u4wL9u0

三菱!液キャベー!ヤァホァティヤァホァテァ!エーアストライサカーズ!アイラザスメーロブナパーミンザモーニン!
ベアトラーッログトラーッ ナーゥレーッ…ロケンロー!イーディース!

(訳:短いですが本日はここまでです。
 他に書きためているSSが詰まっているので息抜きに思いつきで書き始めた物です。
 おかげでロクに推敲もしておらず三点リーダが「……」じゃなくて「・・・」のままだったり
 色々ひどいですが、その辺はご容赦をってか今気付いたよほんとちくしょう。
 次回は未定ですが、一年以内を目処に書いていきたいと思います。

 ちなみに自分はumvc3やったことないのぜてへぺろ)

9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/03/24(土) 02:41:38.85 ID:q+v4ccWAO
期待
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/24(土) 08:52:59.49 ID:/7BBM2kIO
一瞬次の投下が一年以内かと思ったわw
面白そうなんで期待
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/24(土) 09:04:13.54 ID:ASBtGHFqo
液キャベー!

(訳:乙!)
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/24(土) 10:34:03.74 ID:WKuNeJMCo
期待しますね
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/24(土) 22:22:14.85 ID:QmJCUZZfo
これは期待
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/25(日) 20:43:27.34 ID:vCK8+kW+o
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/03/25(日) 21:39:49.93 ID:RamtKT5A0
なんか気になる滑り出しだ
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チリ) [sage]:2012/03/26(月) 16:38:02.19 ID:0YXZi+mt0







はっきり言って、クソ期待。










17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/03/29(木) 00:57:34.77 ID:9KWE4RZ+0


「ごちそーさまでしたっ!」


ぱん、と勢いよく手を合わせ美琴は上条へ礼を言った。


「ははは・・・悪いな、こういう時は先輩が全額奢るべきなんだろうけど」

「いえいえ、私が頼んだのより二倍以上高いもの頂いたんですし。それだけでも嬉しいです」

「・・・そう言ってもらえると上条さんも気が楽になりますよ」


食後、世間話もそこそこに会計を済ませた二人は
涼しい夜風に吹かれつつ寮への帰路についていた。

結局、ラザニアは美琴が完食してしまった。全く食べる気になれず、
かといって残すのもなんだか申し訳なかった上条としては、ありがたい限りである。
加えて美琴が頼んだアサリスパゲティ(税込七二〇円)も、さすがにおなかいっぱいと
いうことで上条がもらうことになり、もう一歩奮発する予定も消滅。
調子づいた行動のツケをあらかた取り去ってくれた美琴は、まさしく救いの女神であった。

そんな女神様の手前、年上としての意地(というか見栄)もあり
ここは気前よく奢りたかった上条先輩。・・・が、以前財布を落とした際
うっかり自身の家計事情を美琴に話してしまったのがまずかった。
一週間もやしと濃密な付き合いをしたという上条涙の感動秘話が
相当衝撃的だったのか。割と本気で遠慮されてしまい結局パスタ分は美琴がお支払い。
さすがに「自分で食べたんだしラザニアの方を私が払う」という心優しい提案は
上条側も割と本気で止めたが、それでもかわいい後輩の手前少々情けない心もちなのだった。
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga sage]:2012/03/29(木) 00:58:52.16 ID:9KWE4RZ+0


まぁ、ともあれあまり暗い気分でいては顔にまで出かねない。
少々唐突ではあったものの上条は話題の転換を図る。


「そういえば、『身体検査』はどうだった?」


『身体検査(システムスキャン)』。この科学の街学園都市において、
全ての学校が試験と同時期に全生徒に対して行うもの。
この身体検査の結果とはそれら試験と同等の――いや、或いは
それをも超えるほどの極めて重要な意味を持っている。
無論それは。身長だの体重だの、そんな簡単なものを量るのではない。


「う〜ん、下がるようなことはなかったんですけど。
 こう、目覚ましい成長が! ・・・という程のことはやっぱり無かったですね」

「そうか・・・『超能力者』ともなると学園都市の最新技術とはいえ
 開発方法の進化の方が追いつかなくなるのかもな。薬なんかも普通とは違うんだろ?」

「そうですね。『低能力者』の頃のと比べても見た目からして全然。
 ・・・まぁ、正直成分の方がどう違うのかとかは私もさっぱり分からないですけど」

「そう考えると『科学』を謳っても実際のところ
 大概オカルティックだよなぁ、『超能力』っていうもんは」


――そう、『超能力』。それこそがこの学園都市において身体検査で量るもの。
そして、この学園都市の学生にとって勉強よりも重要なもの。

19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga sage]:2012/03/29(木) 01:00:03.81 ID:9KWE4RZ+0


一般的に(学園都市の『外』の一般だが)イメージされる超能力と比べれば
学園都市でいうところのそれは少々違うものと言える。

というのも、学園都市の『超能力』とは科学的に『開発』されるのだ。
元々不思議な力を持っていた人材を世界中から集めるのでなく、(そういった生徒もいるにはいるが)
一般の子供達を学園都市へ入学させ、そして彼らを『開発』し、独自に能力者を作り出す。
それが学園都市の『超能力』だ。

その学園都市最大の、代名詞とでも言うべき『超能力』は、
開発を受ける生徒にとっても大変重要な存在である。
特に成績に関わるという点においては生徒の将来をも決めかねない重大な影響を持つ。
それ故に能力の強さというものは分かりやすく簡潔に数字で表され、
時に人はただソレだけで向ける視線を変えさえする。

すなわち、『強度(レベル)』。
『無能力者(レベル0)』から『超能力者(レベル5)』、このわずか六種の数字達が
学園都市に住まう学生、総勢一八○万人を分かりやすく色分けしてしまっている。

ちなみにこの『落ちこぼれ』、上条当麻は『無能力者』で最低ランクに位置していて。
成績が悪いから奨学金が少なくて、少ないからもやしが恋人なのだ。野菜炒めも得意なのだ。
そして、片や御坂美琴。こちらは六つの最上位、学園都市一八○万人中わずか七人しか
存在しないエリート中のエリート。『超能力者』、その第三位である。
特に美琴は学園都市の広告塔としての役目も持っており、
一部のミーハーな生徒達からは憧れの目すら向けられる存在だ。

ぶっちゃけて言うと。上条レベルの有象無象がお知り合いになれる相手ではない。
いくら美琴が力や地位を鼻にかけるタイプではないとはいえ、
それでも先輩と敬称を付けられ、あげく(ファミレスだが)一緒にディナーを
楽しむなんてことはそうそうあるはずもない。そもそも住んでいる次元が違うのだ。

――そう、違うはずなのだが。
上条の持つ、とある『異質』。それが二人の間を結びつけた。

20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga sage]:2012/03/29(木) 01:01:34.09 ID:9KWE4RZ+0


「・・・それで、先輩の方はどうだったんですか?」

「へ?」


唐突な問い返しに思わず間抜けな声が出た。

『どう』、とは。一体何が『どう』なのだろうか。
それは勿論、今までの話を考えてみれば身体検査のことだということは
成績の悪い上条の頭でもさして悩むことなく理解できる。
だが、繰り返す通り上条は無能力者。それも入学からほぼ一〇年ずっとである。
或いは、苦節一〇年努力の末にようやく能力を手に入れるという感動の物語があったかもしれない。
しかし仮にそんなことがあったとして、それをここまで秘密にしておくだろうか。
自慢とかそういうのを抜きにしても(そもそも自慢できる相手ではないが)、
普通は真っ先に話のタネにするものではないか。

無論、上条の感動秘話はもやしと奇跡の一週間以外レパートリーは増えていない。
これまでの苦節一〇年だって今のところは徒労である。
だから上条としては、


「決まってんだろ? 相変わらずの無能力者。いつも通りの結果だよ」


と。そう事実を告げる以外できることは何もない。

何も、ないのだが。


21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga sage]:2012/03/29(木) 01:04:35.84 ID:9KWE4RZ+0


「嘘ですっ!!」

「うわっ!?」


上条が言った途端、美琴がすごい勢いでつっかかってきた。


「嘘です詐欺です有り得ないです!
 上条先輩が無能力者だなんて、そんなの絶対おかしいですよ!!」


言いながら、びしびしと指で上条をつっつきつつ、ぐいぐいと前へ迫る美琴。
その勢いと剣幕に押され上条も思わず後ずさる。


「い、いや嘘でも詐欺でもインポッシブルでもなく本当に無能力者でですね・・・
 ほっほら検査結果! ここ! ここ見て! 0って! 0って書いてあるでしょここ!
 それはもう読みやすくすごく綺麗なデジタル印刷で美しい楕円が君臨してるでしょ!」

「だからそんな検査結果、私は全っ然信じられないんですよ!
 おかしいんですもん! 異常ですもん! 機械が壊れてるんじゃないんですか!?」

「ちょ、今度は機械全否定!? そりゃ学園都市の先端技術だって
 時には壊れたりするだろうけどさ! さすがに俺の検査の時だけ一〇年連続皆勤で
 機械が故障するってのはさすがに考えられないだろ! いくら俺が不幸でも!」

「そりゃ私だってそう思いますよ、それも十分あり得ないって! 思いますけど・・・」


そこまで言って美琴は黙った。黙った、というよりは溜めを作ったと言うべきか。
足を止めて息を吸い――そして、たっぷりの間の後に。



「――それなら! これは一体何だって言うんですか!?」



22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga sage]:2012/03/29(木) 01:06:43.03 ID:9KWE4RZ+0


言うと同時、バチバチと火花が散った。


「ちょっ・・・!?」


迫っていた美琴が足を止めたことで上条との距離はやや空いていたが。
しかしそれでも上条は、美琴の纏ったその火花に思わず表情を変えていた。


「今日はちょっと強くしますよ!」


そして美琴がそう言い放った直後、彼女の纏っていた青い火花が明確にその矛先を上げた。
無論狙いは真正面。目の前にいる上条だ。

美琴の能力『超電磁砲』、電撃使い最強の能力。
その基本の基本、電撃の光が上条へ向けて光速で駆ける。


「うわっ――!」


思わず右手を前に出した。それは急所たる頭を守るための生存本能から来る反射。
目の前から来るダメージを防ごうとする行動だ。
しかし言うまでもない、それは電気には全くの無意味。
腕で防御を作ろうが何しようが、電流は腕から体を巡り
人体の各所を破壊しつつ一瞬で外へと駆け抜ける。そこに物理的な障害はない。
だから無能力者である上条はごく普通の人間同様、電撃に呑まれ感電するはずだった。

23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga sage]:2012/03/29(木) 01:08:04.43 ID:9KWE4RZ+0


――その、『はず』は。
バギン、という鈍い音を残し、青白い電撃と共に消滅する。


「・・・・・・」


不可解な光景だった。能力『超電磁砲』により美琴から放たれた青白い雷撃の槍。
その高圧電流の一閃が、何か絶縁体を挟んだわけでもなく。
ただ上条の右手に触れた、ただそれだけで。まるでガラスを割るように砕け散った。
明らかな不自然。上条の『異質』。
その様子を、電撃を放った本人である美琴は特に驚くこともなく、ただ不満げに見つめていた。


「・・・先輩の中では高圧電流を右手一つで振り払うのが、ごく普通のことなんですか?」


明らかに不機嫌な表情と声。受けた方の上条としては、普通でも何でもなく
今も心臓がバクバク鳴っているのだが。とはいえ、美琴が暗に言うように
普通の人間なら逆立ちしたって右手一つで電撃を打ち消せるはずはない。

そう、それこそ。超能力でも使わなければ。

24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga sage]:2012/03/29(木) 01:10:24.88 ID:9KWE4RZ+0


「……そりゃ言いたいことは分かるけどさ。さっきも見ただろ、検査結果。
 入学してからこのかた一〇年、例外なく無能力者。
 能力の兆候すら全くなしの、完全無欠の無能力だぞ? 先生すら頭抱えるレベルの」

「だからそれがおかしいんですって! 機械が無能力者って言っても
 先輩の右手に何かあるのは間違いなく事実じゃないですか!
 それを全く考慮せずに、機械的に『ハイ、無能力者です』っておかしいと思わないんですか!?」

「い、いやそうは言ってもですね……上条さんとしましては、
 他にこれを測る機会も方法も心当たりは無いわけでして……
 それにそんな、そこまでして能力者認定されたいなーなんてことも」

「何弱気なこと言ってるんですか! 大体ですね、謙虚さが美徳なんて時代は
 もう終わったんです! 時代遅れなんです! これからの時代、
 自分の存在をアピールしなきゃ有象無象に埋もれたまま無意味に人生終わっちゃうんですから!」

「ちょ、なんか論点変わってない!? そんな話してなかったよね!?
 なんでいつの間にか人間性否定されてんの!?
 あと上条さん的に程良い謙虚さは今でもいつまでも美徳だと思います!!」

「それは私も否定しませんが、でもともかく先輩の場合
 なんかこう、ダメな感じに謙虚です! 謙虚っていうかどっちかっていうと
 諦めとか不精の類です! 折角持ってる才能の原石を不法投棄だなんて私は認めません!」

「ちくしょう後輩に教師みたいなこと言われた! グレてやる!」


25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga sage]:2012/03/29(木) 01:12:05.28 ID:9KWE4RZ+0

……こんな不毛なやり取りも割と頻繁にあった気がする。

上条が美琴と出会ったのはほんの一カ月ほど前のことだが。自身の電撃を打ち消した相手が
無能力者だと知って以来、たびたびこうしてその判定について美琴は異論を唱えている。


「……つーかさ、なんでそんなに俺の能力を評価させたがるんだ?」


美琴のあまりにも熱心な意見に上条はそう理由を聞いた。
当たり前と言えば、当たり前の疑問。何故そうまでこだわるのか。
別に、上条が能力者と認められても美琴に益は生まれないのだ。
それはまぁ、知人が日の目を見ることは嬉しいことなのかもしれないが、
本人の背中を押すどころか蹴り飛ばすような勢いでもって勧めることではないだろう。
それこそ超能力者と無能力者が交友を持ってはいけないだとか
そんな理不尽な規則やらがあるわけではないのだから。

――もっとも、上条にはその理由が何となく予想できていた。
明朗快活で誰にでも分け隔てなく接する美琴。超能力者七人の内、唯一まともな
人格とまで言われ、学内での人気を見ても行き過ぎなほど慕われている、そんな彼女。

しかし一方で。美琴は筋金入りの負けず嫌いだ。
現状、友好的関係を築いていると言える上条に対しても、
その右手の力を見て以来「いつか必ず越えてやる!」と豪語して憚らない。
始めは低能力者だった彼女が、果てしない努力の末に超能力者まで上り詰めたのも
その性質のおかげかもしれない。

26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga sage]:2012/03/29(木) 01:13:35.76 ID:9KWE4RZ+0


だからこそ。自分の能力を打ち破ってみせた上条当麻という存在が、
不当な評価を受けるのが許せない。自分を越える先輩が、それを受け入れているのが許せない。
恐らく、きっと。それが理由なんだろうと、上条は思っていた。


「だって、そうしたら……」


だから、少々の思案の後。
口を開こうとした美琴の言葉も、そういうものだろうと彼は思った。
まだ短い付き合いではあるが、美琴がそういう人間だと上条は分かっていたし、
そういうところも御坂美琴のいいところだと、心から思っていた。

だから、美琴の紡ぐ言葉を。上条は黙って聞いていた。



「――そうしたら! もやしで一週間凌ぐなんてことも、しなくてよくなるんですよ!?」

「って、もやしの話はどうでもいいだろぉぉぉぉぉッ!!!?」


学園都市の明るい夜に盛大なツッコミが響き渡った。

――常盤台中学二年生、『超電磁砲』御坂美琴。
彼女は先輩の健康を気遣う、とっても優しい女の子である。

27 :サラダバー!! [saga]:2012/03/29(木) 01:15:25.99 ID:9KWE4RZ+0

トベウリャ!

そんな感じで第二回『もやし無双』は終了です。
前回分にレスして頂いた方々、ありがとうございました。
この手の匿名掲示板にSSを投下するのは初めてだったので
安心するとともに励みになりました。

して、内容についてですが。最初の投下分を書いている途中で
「本編再構成モノなんだし、能力とかの説明も一からした方が雰囲気出るかな?」
などとアホなこと考えたせいで、筆が進まねーとかそんなレベルじゃなかったです。
しかも設定をまとめて露骨に出したせいで「安西先生……解説が、したいです」感が酷い。
要勉強といったところでしょうか。

しかも書いてる途中で「なんか足りねーなー」とゴテゴテ付け足したら
美琴さんがすごいヨイショされちゃって書いた本人がわぁビックリ。
ホントは朝まで行くつもりだったのが、まだ日付すら変わってないし……。
あと途中までまた「・・・」のまま。だめだこいつ。

まぁともかく、次回はインデックス登場へ向けて色々進めて行きたいですね。
今回はギリギリでしたが、次回の投下も一年以内を目処に頑張っていこうと思います。

てなわけでちょっとベランダから南斗獄屠拳を放つと見せかけて
お前の拳では、死なん!をやってくる!

28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/03/29(木) 01:23:34.75 ID:Ua0hySmNo
乙〜
次も待っていますとミサカは読んでいることをアピールします
1年どころか3ヶ月で消えますが…とミサカは暗に早く続き書けやこのやろうと
催促の意思を隠しつつツッコミを入れておきます
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/29(木) 09:57:38.11 ID:mdn4fOCi0

>>28
髪白い眼の紅い人がお前探してたぞ
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/29(木) 10:31:03.61 ID:K12XOnHbo
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/29(木) 10:47:08.92 ID:5KZbIM8DO
乙なんだよ!
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/29(木) 11:00:55.04 ID:dETq59tYo
敬語美琴!
乙!
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2012/03/29(木) 15:09:18.39 ID:6XJOd3jM0
乙です
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/29(木) 23:43:42.37 ID:+XPrvXhio
乙です
マジ期待してる
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/30(金) 07:29:22.03 ID:NChOUftwo
いいひと多めか

禁書目録なんて生まれなかったんや!
絶対能力進化実験なんて存在しないんや!
置き去りもプロデュースも暗闇の皐月計画もなかったんや!
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/30(金) 13:47:23.77 ID:m+wee+iNo
『多め』ということは少なからず悪い人もいるのか・・・・・・
今後の展開に期待だな
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/03/30(金) 20:09:53.53 ID:VgcCVtfb0



     *      *      *



「才能の原石、ねぇ……」


翌朝。昨晩どうにか宥めた美琴の言葉の嵐の一端を、
上条はその右手をかざし小さく口で繰り返した。

才能の原石と。美琴はこれを、そう称した。
正直なところを言えば、今まで上条は自分の力を『そういう』風には見ていなかった。
だって、役に立たないのだ。路地裏の不良を倒せたりもしないし、
テストの点が上がったりもしないし、女の子にモテたりすることもない。

上条だけの、特異な右手。
別に、電撃だけに限らない。例えどんな異能だろうと、触れれば一撃で打ち消してしまう。
いつからなのかは知らないが、そんな効果を持った右手は――しかし、本当に。役に立った試しがない。


「そう思ってたわけなんだが……それとも、そういう考えが良くないのか?」


美琴の勢いに影響を受けたのか、不意に上条がそう呟いた。


(俺の右手はすごいんだって、思い込めばもしかしたりして――)


そう心中で言葉をつづけ、今度は視線の先で開いていた右手を上条はぎゅっと握ってみる。
……何も変わらない。指の形が変わっただけでただの無骨な右こぶしだ。
そういえば爪が伸びているが、それでも無骨な右こぶしだ。


(…………)


いや、でも、しかしだ。見た目には変わらないだけで、
上条の思い込んだ通り何かすごいことが起きたかもしれない。
なので。


「――てい」


ぺたり、と。おもむろに目の前のモノに上条は右手を当ててみる。

……当然だが。何も起こらなかった。何も変わらなかった。望んだ結果の、端すら見えなかった。
具体的に言うと。上条がぺたりと手を当てた中が常温の冷蔵庫は、
相も変わらず無音のままで冷たい空気は吐き出さなかった。



「……………………やっぱ、役に立たねぇ」



七月二〇日午前八時。夏休み最初の記念すべき不幸は、どうやら冷蔵庫の故障であるらしい。


38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga sage]:2012/03/30(金) 20:13:49.99 ID:VgcCVtfb0

「あーあ、どれもこれも生ゴミ行きか……」


最早ただのハコと化した元家電の前にしゃがみ、
上条は手にしたキャベツの臭いで思わず顔を酷く歪めた。

学園都市第七学区、その一角に存在する少々ボロい男子寮。
上条の住むその寮の室温は、ナマモノには少々酷だったようだ。
元々中身が少ないとはいえ、野菜室の住人を始めその大半がやられてしまった。
当然、それらは取っておいてもどうしようもない。仮に保存したとしても
余計に臭いがキツくなるだけだ。なので上条の横に広げられた半透明のゴミ袋は
住人達の移住によってどんどん重くなっていく。


「そもそも、なんだってこんな暑い日に限って冷蔵庫が壊れるんだ……?」


言いながら、付けっ放しのテレビから流れる天気予報に目を向けた。
そこでは見なれたいつものお姉さんが明るい声で予報を伝えている。曰く。
『今日は朝から灼熱地獄、夏休み初日だっていうのに熱くて嫌になっちゃうね!
 こんな日はついエアコンの力に溺れたくなっちゃうけど、若いんだから外で汗流せ☆
 ちなみに気温がクソ高い割に湿度はそんなに高くないので洗濯物でも処理っとけ!』
……ということだった。
なんというかまぁ、相も変わらずふざけた物言いである。
誰も信じないのをいいことにひたすら馬鹿馬鹿しさでウケを狙う朝の占いとほぼ変わらない。
普通ならチャンネルを変えられるレベルだが……とはいえ、学園都市では
こんないい加減な予報でさえ『必ず当たる』というのだから実に面白い話である。

尚、続けて言うところによれば今日の最高気温は実に三五・六度らしい。
暑すぎである。というか、暑いと言うのも生温い。真夏日通り越して猛暑日だ。
この、東京西部一帯を占める学園都市の環境にあって、そうそう出ていい数字ではない。


「ヒートアイランド現象も半ば克服しつつあるってのに、この異常な暑さは
 なんなんだ……? 俺の家の食材に何か恨みでもあるのか、ちくしょう……」


言いながら、すごく嫌な感触のトマトをゴミ袋にぶち込んだ。
中でベチャ、という音が聞こえたがどうせ捨てるのだから関係ない。

……処理開始から数分。思ったより袋は重くなったが、ほぼ廃棄は終了した。

39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga sage]:2012/03/30(金) 20:15:12.15 ID:VgcCVtfb0

「あとは……」


袋を軽く持ちあげつつ、上条は最後の要確認物を見る。
調味料を始めとした一部の無事だった食材達。
その中にまだ残る、唯一生死が分からないもの。

本日朝用のヤキソバパンである。


「……なんつーか、確かめるのが怖い」


冷蔵庫の下から二番目、広いスペースにちょこんと乗っている
実態の分からないシュレディンガーのパン。
その醸しだす虚構の威圧感に、上条はぽつりとそう漏らした。

まぁ、現在の上条宅にまともな食料は存在せず、仮にこのパンがダメだった場合は
空腹のままコンビニかどこかで割高なおにぎりなどを
買って来なければならず、そのことを考慮すればしょうがないと言えばしょうがないが。


「――うわーなんかもう手に取った感触だけで既に中身がダメな気がするうわー」


悲しいかな、意を決して掴んでみても嫌な予感は拭えなかった。というかむしろ酷くなった。


「……ダメなの? これ、臭い嗅がなきゃダメなの?」


別に、誰が許可を出すわけでもないのに思わずそんなことを呟いていた。
なんかもう、現実を見つめるのがツラい。
小学校一年の時、一番初めの身体検査で『無能力者です』と言われた時よりツラい。

40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga sage]:2012/03/30(金) 20:16:12.87 ID:VgcCVtfb0

「……いや、逆に考えるんだ。別に腐ってたって問題無い。
 朝飯を確保するついでに散歩ができると考えれば」


思い付きでそんなことも言ってみるが、しかしよくよく考えたら
それは完全に負け惜しみである。というか、先程の天気予報で本日の外の気温が
散歩日和には程遠いと既に分かってしまっているので、そもそも散歩すら苦痛である。
買いに行く必要がある時点で不都合が一つ増えている。
このヤキソバパンがダメだった場合上条が得することなど初めから一つもなかった。


「……いいやもう。さっさと確かめて着替えよう、うん」


微妙に後ろ向きに開き直りつつ、上条は意を決した。
というか、朝食のパン一個で自分は何を躊躇してるんだろうと
身も蓋も無いこと考えつつ、おもむろにパンを鼻に近付ける。


「……………………」


たっぷり、数秒。軽く空気を吸い込んで上条は停止した。


「…………うん。よし、着替えるか」


……シュレディンガーの猫は死んでいたらしい。
言葉で聞かなくても分かる程にとても清々しい切り替えで、上条はパンをほっぽった。

41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga sage]:2012/03/30(金) 20:17:18.77 ID:VgcCVtfb0

まぁ、実際のところパンが一つダメになってやたら暑い中数分歩くくらい
上条としてはなんでもない。だって、ギャグで消化できてしまうくらい
凄まじい不幸体質の持ち主なのだ。この程度で済むのなら上条としてはむしろ御の字だ。
それより要解決の当面の問題は壊れてしまった冷蔵庫か。故意に壊したわけではないし
保証期間もまだのはずだが、言うまでも無く修理に出すためには手続きが必要である。
それ自体も中々面倒であるし、何より冷蔵庫が治るまで家にまともに食材が置けない。
もやしすら買っても保存できない。それは困る。
なので上条は今日からしばらくカップ麺かなぁ、と健康に悪そうなことを考えて、
しかしそれだとおサイフがなぁ……、と現実的なことも考えて。

そこで、携帯電話の着信音が鳴った。


「おっと、電話か。珍しい」


メールではなく音声通話だと着信音で判別し、出しかけた服を一旦置く。
別に遠いわけでもないのに何となく数歩を早足にしつつ、素早く右手を携帯に伸ばした。


「はいはい、今出ますよーっと」


早くしろと喚く携帯を慣れた手つきの片手で開く。
液晶に映る電話番号は上条の知らないものだったが、特に気にすることもなく
そのまま通話ボタンを押した。すぐに右手を耳まで上げつつ、しかし昨今大抵のことは
メールで済ますご時勢なのにわざわざ電話とは嫌な予感がするなぁ、と
ネガティブなことを考えて、それでも無視はできないので『もしもし』と話しかけた。


『あ、上条ちゃんですかー?』


と。定型句への反応として底抜けに明るい声が返ってきた。


「……小萌先生?」

『はいー。あなたのクラスの担任教師、月詠小萌先生なのですー』

42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga sage]:2012/03/30(金) 20:18:32.13 ID:VgcCVtfb0

明るい声は、明るい調子でそう続ける。
変声期なぞクソ喰らえとでも言わんばかりのかわいいソプラノ。
電話の向こうのその声の主は、上条のクラスの担任教師、月詠小萌の声である。
クラス全員からやたらめったら高く厚い信頼を集め、生徒のことがまず第一というまさに理想の先生だ(上条評)。

ちなみにソプラノなその声が特徴なのかと言われれば、全然そんなことはなかったりし、
むしろその声が似合ってしまう一三五センチの低身長、その身長に違和感無い愛嬌ある幼い顔、
そしてそれがよく馴染む年齢不相応な玉の肌。
ぶっちゃけスーツだの黒いカバンだのオトナな仕事スタイルよりも、
リコーダーが脇に刺さっている赤いランドセルの方が
しっくり来てしまうその容姿が小萌先生最大の特徴である。


「どうしたんですか? 夏休み初日から。何か問題でもありました?」

『えーと、問題と言うかなんというかー……』


その、七不思議な幼女先生は少々歯切れ悪く声を出す。


『実は、昨日の終業式の後に伝え忘れたことがありましてー』

「……伝え忘れたこと?」


……何故だろうか。いつも聞いている先生の声に何故か嫌な予感があった。
先程電話を開いた時より遥かに大きな予感だった。

43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga sage]:2012/03/30(金) 20:19:54.38 ID:VgcCVtfb0

『上条ちゃん、今学期終了時点で不可の教科がありましたよねー?』

「――――……」


一瞬、空気が凍った(気がする)。


『……上条ちゃん? ありましたよねー?』

「……ハイ、アリマシタ」

『いきなり片言にならないでほしいのですー。露骨な反応はダメダメですよー?
 ……それで、そういう反応が出るってことは
 先生が何を言いたいのか、上条ちゃんもちろん分かってますよねー?』

「イエスイマセン。ワタクシカミジョウハアタマガワルイノデ、マッタクモッテワカリマセン」

『――上条ちゃん、嘘が下手ですねー』


声のみならず体の方までガチガチになった上条へ
小萌ははぁ、と溜息をついて電話越しに呆れかえる。


『――じゃあ、はっきりと言っちゃいますよー?』

「…………」



『上条ちゃーん。バカだから補習ですー♪』

「ふっ、不幸だぁぁぁぁぁぁッ!!」



男子寮に、絶叫一つ。
不幸な少年の不幸な口癖は、しかしどう考えても因果応報でしかない。

44 :コレハハヤル [saga]:2012/03/30(金) 20:21:19.67 ID:VgcCVtfb0

インデックスの登場だと言ったな。あれは嘘だ。

というわけで三回目の投稿は以上です。
まずは前回に引き続きレスして頂いた方々に感謝を。
なんか微妙にハードル上げられてるけどワタシナニモミテナイ、シラナイ。

しかし今回上条さんの一人コントしかやってないですね。
そして一人だけのせいか前二回に輪をかけて酷いと思う部分があったのですが……
しかしそれでも推敲など無い。
まぁ、次回はもう少しマシになるよう頑張っていきます。行きたいです。……いけるかなぁ……。

それはそうと前回のあとがき(?)のAC北斗ネタに反応が無かったのが地味に寂s……
みんな人が弾むゲームは嫌いかね (*´ω`*)
45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/30(金) 20:41:33.82 ID:G9/Lt25vo
乙だぜ
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) [sage]:2012/03/30(金) 20:44:29.89 ID:haHHTYPoo
AC北斗やっとらんしなぁww
乙した
47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/30(金) 20:48:08.45 ID:hlHwbEQDO
乙。
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/30(金) 23:29:45.07 ID:QcjKKmvH0
南斗獄屠拳もサラダバーも北斗の拳のネタであってAC北斗が出展ってわけじゃない!! と原作ファンとして言っておきつつ、礼儀として。
その顔文字は流行らない。
ここまでではまだ原作との差異がいまいち分からんな。敬語美琴以外。
いい人多めってことはそもそも必要悪の教会とか暗部とか無くなるのだろうか。
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/03/31(土) 00:38:46.37 ID:r+dB0tf7o
乙〜
北斗は知らないんで反応のしようがなかったんだぜい
次回は隣人とその妹のらぶらぶな出番を期待してるにゃー
ついでにシスターにはメイド服を着せてお兄ちゃんって呼ばせるといいと思うぜい
50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/01(日) 16:11:36.29 ID:mrSc+72to
普通にインデックスがおちてくる筈がねえな!
これは、とんでもない展開になるに違いない

期待
51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/04/02(月) 01:49:45.60 ID:RtciYZjk0



     *      *      *



学校に着いた頃には既に満身創痍だった。


「ぜー、ひー、ぜー、ひゅー・・・」


別段、運動音痴ではないはずなのだが。
かといって『運動部でキバって鍛えてます!』とかいう程ではない上条の体は
寮から高校までの道中で半ば酸欠にすら陥っている。
午前八時三四分。横目で時計を確認しつつ、その長針の移動具合に
我ながらよくやったと密かに上条は自分を褒め讃えた。


「ぜー、はー、ぜー・・・ッケホ、な、何とか間に合った・・・」

「いや全然間に合っとらへんよ、カミやん。三〇分て言われたやないの」


席まで這いずって辿り着くやいなや、近くの席から関西弁のテノールが飛んできた。
上条の席の隣に座る、青髪にピアスで一八〇センチ超の男。
その特徴的すぎる特徴ゆえ『青髪ピアス』としか誰からも呼ばれない、
実は委員長のその男子生徒は、息も絶え絶えな上条へ向けて至極冷静なツッコミをお見舞いした。


「せっかく小萌先生の授業を一週間多く受けられるゆーのに、
 初日から遅刻するなんて。カミやんちょいとばかしバチ当たりやでー?」

「うるせぇ・・・ひー・・・こちとら・・・朝飯も食わずに・・・全力疾走だぞ・・・
 ・・・はー・・・別に・・・寝坊したわけでもねーのに・・・ひゅー・・・」


できることなら、『お前と一緒にすんじゃねーよ、ロリコン』と、ツッこみ返してやりたかったが。
しかし、呼吸すら辛い今の上条にはそんな返しをする余裕も無い。
それほどまでに彼はヘバっていた。

そもそも、ツッこまれた点については本当にどうしようもなかったのだ。
だって、先刻連絡網(ラヴコール)を受けた時、既に時刻は八時一五分。
飯も着替えも済んでなかったのにその時点でもう一五分前だ。
学区が同じだとはいえ、どう考えたって間に合わない。
連絡を受けた直後慌てて部屋着は制服に着替えたし、飯は空腹ながらも放り出したが、
しかし、それでも明らかに通学のためには持ち時間が足りなかった。

52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga sage]:2012/04/02(月) 01:51:10.16 ID:RtciYZjk0

「ちくしょう・・・ぜー・・・冷蔵庫も修理に出さなきゃいけないってのに・・・
 なんかもう今日一日分のやる気、全部使い果たした気分だ・・・」

「・・・なんや知らんけど相変わらずやねカミやん。主に人生の難易度が。
 ちなみにお腹減ってるならこれ食べてみぃひん? ボクんとこの新作パンなんやけど」

「パン・・・? あぁ、お前パン屋に下宿してんだっけ。
 大変だな、夏休みも仕込み手伝うのに早起きなんだろ?
 俺なんて暑さで目ぇ覚めなかったら未だに布団の中だぞきっと」

「ん? いやいや何言うてんの。そら早起きはするけども、
 何より休みの間はずっと擬似メイド制服少女を朝から晩まで見放題やで?
 むしろボクの下宿生活はここからやと言うても過言やない!」

「おい待て下宿ってそういう理由かよ!? 分かってたけど最悪だなテメェ! 
 つか謝れ! パンに情熱注いでる頑固一徹の親父さんに謝れ!
 仕事場に邪念を振り捲いてごめんなさいって頭擦りつけて謝りやがれ!」

「えーははは、面白いこと言うねカミやん。
 そもそも制服考えたの親父さんなんやからー。 あの人それはそれは話の分かる人で」

「同類ッ・・・!? え、このパン作ってんのお前の同類なの・・・!?
 な、なんだろうこの感覚、急に目の前の新作パンが凄まじい劇物に見えてきたッ・・・!」

「一応ツッこむけどそのセリフのがよっぽど謝罪モノやないかな。
 大丈夫やて、味の方は保障するし変なもんも入っとらへんよ。
 せいぜいちょっと女性の好みがワイドモードになるくらいで」

「全然大丈夫じゃねー!? 変なもん入れてないのに何使えばそんな効果が出るんだ!?」

「何ってそりゃあ・・・アレや。そう。真心、とかやないかな」

「アホか! お前ぜってー煩悩だソレ! ここ一番のいい声で言っても絶対煩悩だろーがそれ!」

「まぁ、そうとも言うね」

「そうとしか言わねー!! お前本当にそんなんで――」

53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga sage]:2012/04/02(月) 01:52:29.20 ID:RtciYZjk0

「うるさい、そこの三バカ!」

「ちゃんと店回ふべし!?」


と。騒いでたら、黒板消しが飛んできた。


「本当に貴様たち三バカときたら……! 先生の貴重な時間を頂いて
 サボりのツケを解消してもらうのに、なんで大人しく待てないのよまったく!」

「ふごご……ふ、吹寄さん……?」


顔面に受けた黒板消しで漫画っぽく椅子から転げ落ちた上条が
頬をさすりながらゆっくり起き上がると、教壇に女生徒が一人立っていた。

吹寄制理。上条と同じクラスに所属する、黒髪ロングで巨乳の少女。
髪は耳にひっかけるようにおでこではっきり分かれており、
規則にうるさそうなその雰囲気はスカーフから上履き、何から何まで
規格統一されている服装からか。紺のスカートはやや短いが、
白いセーラー服は皺一つ無く彼女の性質を表しているようだった。
加えて、両手を腰に当てやや足を開き、まっすぐ仁王立ちというその姿、
それを見るとどういうわけか威圧感すら感じるから不思議だ。


「な、なんで成績優秀の吹寄がこの要補修者の一団に……?
 まさか、勤勉委員長キャラと見せかけて実は成績が良くないオチとか」

「そんなわけあるか、馬鹿! 私は月詠先生の手伝い! 今日の補習をやる前に
 小テストを実施するから、その採点他諸々をサポートすることになってるの!」


言いながら、バンと吹寄は教壇を叩く。ついその音にビクリとしながらも
彼女の手の先を見てみれば、確かに先程まで無かったはずのA4サイズの紙束が、
さほど枚数は無いながらも吹寄の手の下に置かれていた。それが件の小テストらしい。
ちなみに肝心の小萌先生はまだ来ていない。吹寄が一人で運んだようだ。
小とはいえテストの扱いを先生から手放しで任される辺り、
『あぁ、やっぱり吹寄だなぁ』と密かに上条は感心する。

54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga sage]:2012/04/02(月) 01:53:34.66 ID:RtciYZjk0

「……ん?」


と。そこで上条は何かに気が付いた。


「……吹寄さん。小テストって……?」


彼女が何気なく放った言葉。そのとても不穏な一単語に上条は凄まじい悪寒を覚えた。


「何を言っているの上条当麻。昨日言われたはずでしょう?
 落第単位のテスト範囲を自分できっちり復習して、
 ある程度小テストで点数を取れたら初めて補習で救ってくれるって」

「…………」


言うまでもないが、初耳である。さも当然という顔の言葉だが、
昨日と言われても初耳である。というか補習の存在そのものが二〇分前で初耳である。
その初耳の説明の中で先生はテストなど一言も言っていないし、
ましてそれが補習に必須など寝耳に水どころか塩酸レベルだ。
さらに言えば、そもそもその中で仮に説明されていても、勉強する時間など初めから無く、
つまり最初から詰んでいたのだが。


「……上条。貴様まさか、黙って先生を待てないどころか、そのご厚意まで
 踏み躙るだとかそんな愚かしい馬鹿な真似を本気でやるとか言わないでしょうね?」

「……………………」


言葉に、滝のような汗が出た。
吹寄からの刺すような視線とか、周囲からの押し潰すような重い空気とか、
体の内からの裂けるような冷や水の如き恐怖とか。そんなものに上条は完全に縫いとめられた。

55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga sage]:2012/04/02(月) 01:55:07.11 ID:RtciYZjk0

「……ふ、ふきよせサン」

「何よ、大馬鹿者」

「ソレ……もし不合格だったら?」

「朝まで耐久コロンブスの卵」

「――――…………ッ!!」


ガバァッ! と。乱暴にカバンから教科書を取り出した。


「ちょ、ねぇまって青髪! 範囲って!? 範囲ってどこだっけ!?
 それ以前にまず何の教科!? 俺なんの単位が足りないんだっけ!?
 記憶術!? それとも薬学!? え、待ってテスト何時から!?」

「もう直ぐに決まっとるやろカミやん。今から勉強したって遅いで。
 てか別にそんな慌てんでもええやん。テストで不合格になったら
 朝まで先生とオールナイトやで? これ以上の幸せが一体どこにあるってゆーの!」

「ええい黙れ、黙りやがれロリコン! テメェと一緒にすんじゃねぇーッ!!」

「あっはーッ! ロリ『が』好きとちゃうでーっ! ロリ『も』好きなんやでーっ!!」

「ダメだ! もうダメだこいつ! ちくしょう俺には念動力もねーのに
 卵を逆立ちさせる趣味はない! 範囲! ねぇ範囲どこ! 数秒でもいい、
 一瞬でもいい! 足掻くんだ! おれは足掻くんだ! 儚い夢を追いかけるんだー!!」

「だから黙れ三バカ共!!」

「へぶぅ!?」

56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga sage]:2012/04/02(月) 01:56:28.78 ID:RtciYZjk0

今度は白いチョークだった。速過ぎて、もはや尾すら見えそうな高速の白い一撃が
上条と青髪を一撃で粉砕した。ヘッドショット。必殺である。
遅れて、がしゃーんと椅子ごと盛大にこける轟音が響き渡り、
ついでに砕けたチョークの粉で上条の教科書が白く染まったが、
しかし吹寄はそれを気にせずテストの束をさばき始めた。実に鮮やかな手並みである。


「まったく、本当にこの三バカ共は……
 一人は過失、一人は故意、一人はそもそも放棄だなんて……どういう神経してんのよもう!」


言いながら、ばん、と少々荒っぽくテストを机に叩きつけた。
その気迫に全く関係ない男子生徒A(仮)が思わずひぃ、と悲鳴を上げる。


「……そういえば、土御門クンも補習なん?」

「土御門なら急用だそうよ。さっき先生に電話があった。……本当かどうかは知らないけど」


じろり、と吹寄は青髪の前の席を見た。
視線の先には空席があった。誰も座っていない椅子と机がある。
昨日まで金髪の男子が座っていて、そして本来ならこの補習でも座ってなければいけないはずの席。
そこは、上条と青髪の友人兼『クラスの三バカ(デルタフォース)』最後の一人――土御門元春の席なのだが。
しかし今のこの時間、彼の姿はここにはなかった。


「……ちょっと意外やね。土御門クン成績悪いと思わへんかったけど」

「知らないわよ、悪いから補習に呼ばれてるんでしょ――ほら、上条!
 貴様いつまで床に寝てる! さっさと椅子と教科書戻して大人しくテストを受けなさい!」

「あだーっ!? ふっ、吹寄さん、髪は!
 髪は勘弁してください! 痛い! 痛いって抜けるって! あだだだだだ!?」


騒がしい人物が一人欠けたとある高校のとある朝。
しかし彼ら一年七組は三バカが一人いないくらいで静かになることはない。

57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/04/02(月) 01:57:41.14 ID:RtciYZjk0

インデックスが出(ry

というわけで4回目の投下は以上ですってか話進まねー助けて吹寄。
引き続き前回分にもレスしてくださった方々ありがとうございます。
一部の方の期待には正直答えられなさそうですが頑張って、頑張っていきたいです。ハイ。

>>48
ごもっとも。確かに三つとも原作のネタですね。申し訳ありませんでした。
ちょっとケンシロウに十字の形で秘孔突いてもらってくる!
58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/02(月) 02:08:09.37 ID:N7nW9eRAO
焦らすねえ
59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/04/02(月) 03:10:13.16 ID:owHTjJsOo
乙〜
青ピが土御門クンて呼ぶとなんかすごい違和感を感じるんだよ
次回こそはついに真打たる美少女シスターの登場なんだよ
もっといえばお腹いっぱいお肉を食べさせてくれると嬉しいかも
60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/02(月) 08:26:58.24 ID:zron/mwzo
こりゃあ土御門さんがヤバイな
61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/03(火) 13:45:37.99 ID:hn/ebIsAo
はっきり言って、大期待
62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/04/03(火) 15:37:17.96 ID:q7wgLbx00



     *      *      *



上条の頭髪は守られた。

無茶な体勢で倒れた状態から『別にそんなお洒落好きじゃないけど一応他人の目は気にしてます』的な
ワックスで固めたツンツンヘアーをワシャアッ!! と吹寄に鷲掴まれ、
そのまま力ずくで引っ張られて擬似アイアンクローになりかけたわけだが、
幸い頭皮が息絶える前に小萌先生が到着した。
ギリギリ(頭皮的な意味で)間に合った小萌先生から、上条への連絡が遅れてしまったと
どうにか吹寄に伝えられ、結果上条の数少ないオシャレポイントは河童ハゲへ進化せずに済んだ。

付け加えると、その関係で上条だけは小テストが明日の昼へ持ち越しになり。
また、コロンブスの卵の方も執行保留でその行方は明日の結果如何になった。
もっとも上条の脳みそだとそれがただの執行猶予になりかねないのが問題だが……
まぁそれは帰宅後の話だ。

ともあれ。上条は補習を終え、平和な帰路に就いていた。


「あーあ、もう四時過ぎか……冷蔵庫って今から連絡して取りに来てもらえんのかな……」


自然に目に入ってきた公園の時計を見、上条ははぁ、と溜息を吐く。
上条の視線の先、ところどころペンキの禿げた茶色く細いポールの上。
そこに乗っている丸い時計が、学園都市でよく見かけるデジタル式の表示ではなく、
昔ながらのアナログの針で、四時一二分を指していた。
朝方、思っていたよりも遅い時間。空がそろそろ赤らむ時間帯。
今は夏真っ盛りで実際にはもう少し夕焼けには時間があるが、
しかし電気店に回収を頼むなら少々遅いと思われる時刻だった。

言うまでもないが補習は当然明日もある。仮に今日中の受け渡しができなければ
冷蔵庫の引き渡しは明日夕方以降。丸一日時間が開く。
上条には家電の知識なんてないので修理に何日かかるかは知らないが、
しかしナマモノに厳しいこの季節、一日でも早く直したいのが本音だ。

63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga sage]:2012/04/03(火) 15:38:02.18 ID:q7wgLbx00

「まあ、考えても仕方ねーか……帰りに近くの電気屋寄って直接話聞いて来よう」


言いながら、だらだら流れる汗を拭う。
上条はわざわざハンカチを取り出してお上品に額へ当てるほど麗しい育ち方はしていないので、
先程から汗を拭っている左腕がかなり気持ち悪い感触になっている。
もっとも、育ち盛りの汗だく野郎にとってそんなもの日常茶飯事なので、別段気にすることもなく。
それより公園の片隅で見つけた自販機で『そう言えば小銭あったっけ』とか
『品揃えはマシなやつだろうか』とか水分の補給を考える方が重要だった。

ちなみにファミレスの時にも言及したとおり、学園都市の食品関連は
珍品・怪品がやたらと多い。コンビニで売っているパンや弁当にも
そういった地雷は数多く、『なんとなくの好奇心』とは猫をも殺す悪魔である。
学園都市外の人間が物珍しさで購入し、泣きを見るなんてのもよくあることだ。
そして学園都市に住むこと十年、故郷よりこの地に慣れ親しんだ上条の印象としては
パンや弁当よりも何よりも自販機の飲み物が一番危険だった。


「うめ粥……山芋DRINK……HABA、はばねろぱいんあっぷるじゅーす……?」


やっぱり、聞いただけで吐きそうなラインナップだった。というかジュースに付いていい名前ではない。
梅って。山芋って。ハバネロって。どう考えても食品系の材料の名前である。
もうここまで来るとこのクソ暑い季節にあって、未だ残っているスープカレーの方が
至極まともに見えるから怖い。

64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga sage]:2012/04/03(火) 15:39:06.10 ID:q7wgLbx00

「ヤシの実サイダー……これなら大丈夫そうか……?」


いつものこととはいえ、悪い方向への予想通りに果てしなくドン引きしながらも
かろうじてまだ飲めそうなものに上条は目を付けた。
ヤシの実っぽい炭酸飲料。名を、ヤシの実サイダー。
まぁ、ヤシの実の味なんて上条は知識に無いのだが。でもなんかほんのり南国っぽくて
ちょっとトロピカルな雰囲気があるからと、上条はその炭酸飲料にイケるという評価を下す。
そしてポケットからサイフを探り、己と考案者の感性を信じて千円を機械へ投入した。
紙幣投入時の独特の音と共に上条はボタンへ指を伸ばす。


「……って、あれ?」


紙幣が機械に入ったのを確認し、
目当てのボタンを押そうとしたところで上条の手の動きが止まった。
何かおかしい。いつもと違う。というか。

ランプが、点かない。


「……え? えぇ? あれ?」


ランプの不備かとびしびしがすがす乱暴にボタンを押してみるが、しかし機械は一向に反応を示さなかった。


「な、なんだ故障か……?」


まぁ、普通に考えれば反応がないのだからきっとそうに違いない。
どれもランプ点いてないし。ボタン押しても出てこないし。そもそも金額も表示されてないし。
もしそうでないのなら秘密結社の陰謀か何かだ。多分無いけど。そんなことを考えつつ
上条は現実を再確認し、なんていうか、やっぱ、相変わらずツイてねーなー、と
己の不幸を改めて呪い。そしてこのクソ暑い中無駄に疲れたと溜息を吐いて、乱暴に返却レバーを引いた。

65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga sage]:2012/04/03(火) 15:40:48.40 ID:q7wgLbx00

「……って、あれ?」


で、さっきと同じセリフが出た。


「……あれ? あれあれ? あれ? ……あれぇぇぇ!?」


がちゃがちゃがちゃーっ!! と、より乱暴に動かしてみた。
何も起きない。何も変わらない。というか。千円が、出てこない。


「……え? マジで? 冗談抜きで?」


しばらくやって疲れたので動かすのをやめ、自販機の前で立ち尽くした。
太陽がもろに照りつけるのでそれはもうすごく暑い。すごく暑いが。でも既にどうでも良かった。
夕飯代。そう。夕飯代が呑み込まれたのだ。夕飯どころか二日は食えるのだ。それが。


「……ホワイ?」


じーっと。紙幣の投入口を見る。
動かなかった。機械前面からやや突出し、四角くて真ん中がへこんでいて
そこから紙幣を投入するソレは、しかし先程上条が投入した千円という大金を、
放さず一向に返そうとはしなかった。


「…………」


図らずも、無音。遠巻きに聞こえるセミの声。それだけがこの虚しさを強調して。
そして。


「……………………不幸だ」


微動だにせず。抑揚もなく。無意識に上条はそう呟いた。

66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga sage]:2012/04/03(火) 15:42:21.96 ID:q7wgLbx00



     *      *      *



ばしゃり、と。男の体が酷烈に裂けた。


「――――、ひ」


斬撃。そして、間隙があった。そこで、男は声を発した。

気付けなかった。知覚なんてできなかった。
目の前の相手が一体何をして、それが自分にどう影響して、そして何故、裂傷を負ったのか。
あまりにも速過ぎて。現実に斬られて尚、男は理解できなかった。


「――ひ、は」


言葉なのか何なのか分からないモノが男の口から僅かに出た。
その顔は苦しんではいなかった。別段何も浮かんでいなかった。
肩から腰まで真一文字。非現実で冗談のような装飾をもらって。
しかし男はそれでも尚、顔を苦痛に歪めることなく。わずかにそのまま踏みとどまって

そして。




「――はははハはハハハはハハハハハハハ!!!!」




と。狂ったように笑って、溶けるように消えて行った。

67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga sage]:2012/04/03(火) 15:43:28.02 ID:q7wgLbx00

「…………」


その様子を、斬撃を放った本人はただ冷静に見つめていた。


「悪趣味ですね」


女だった。結った長く美しい黒髪はなお腰に届くほど長く、
それを被る整った顔立ちは東洋、ひいては日本のものだった。
服は白い半袖のTシャツで、裾はまとめ上げられヘソが出る格好。
下の青いジーンズはそのスラッとした脚を隠す長いものだったが、
しかしそれは片方だけで、何故かもう一方は根元から切られている。
さらにその上に巻かれたウエスタンベルトは彼女なりのアクセサリなのか。

加えて。そんな服装やベルトよりも何よりも、その手に持つある一つの『モノ』。
それが彼女を決定的に『異質』な存在に仕立て上げていた。

日本刀だった。漆黒の鞘の、日本刀だった。それもただの日本刀ではない、
長さは実に二メートルを越え、鞘から抜くだけでも苦労しそうな真剣。
そんな物騒な一振りを彼女は左手に握っていた。

68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga sage]:2012/04/03(火) 15:44:37.38 ID:q7wgLbx00

「――本当に悪趣味としか言い様がありません」


僅かな合間を置いて、女は再びそう繰り返した。


「正直、気味が悪いだけではないですか? 自分のカタチが壊される姿など。
 ……それを、そうも愉快そうに笑うとは。私には理解ができません」


冷静ながら、されどどこか軽蔑を含みながら。女は言葉をそう続ける。

学園都市第五学区、そのとある狭い路地裏の一角。普段なら不良がたむろするそこに、
しかし女はただ一人、男も消えた何もない空間にただ鋭い視線を向けていた。




「――否定はせんさ」




と。そこから誰もいないはずなのに、答えは何故か帰って来た。


「私の歩むその過程は到底健常なものではなし。歩み、沈み、その身を浸し。
 ならばこの身の感じるところは、すなわち、『異常』と。それもまた道理」


ぞわり、と。言いながら、『何か』は這い出てきた。
一つではなかった。狭く、長く、暗い路地裏の。その迫り来るような壁や床から、
いくつも、いくつも。まるで染み出すようにソレは現れカタチを作る。

69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga sage]:2012/04/03(火) 15:45:38.31 ID:q7wgLbx00

「だが、貴様に言われるとは心外だな。この世界の何十億。
 その内に在る僅か二〇。それほど『希少』で『異常』な『常識』が、
 果たして道理を支えるに足るのか――さて、存外に考えれば面白いかもしれん」


そして、ソレは姿を現した。

男だった。それも、先程消えたはずの男だった。
先刻と全く同じ姿で、先刻と全く同じ声で、されど今度は異様な『数』で以て、
男達は路地裏に立ち塞がっていた。


「ならば、聞いてみてはどうですか?」


そのあからさまな『異常』。それを見て、しかし女は冷静にそう言った。


「同じ顔形が何人も立ち並ぶそのふざけた光景を。
 果たして私とどちらが『異常』か、通行人にでも聞いてみましょうか」


見せつけられる圧倒的な数の差。それでも尚、女の口はただ皮肉を吐くだけだった。
その手は刀の柄にすら触れない。完全に、余裕の表情。


「それはまた面白いが。しかし、残念ながら同意はしかねる。
 私もこの数というものにはいささか『異常』を感じざるを得ないのでな」


対して、どれが言っているのか分からない男の声を聞いてみてもその声色は余裕だった。
目の前の女の皮肉を受け取り、そしてその皮肉あえて皮肉とせず淡々と返していく。

70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga sage]:2012/04/03(火) 15:46:33.92 ID:q7wgLbx00

「そうですか……では、私が間引くとしましょう。
 その数ばかりある『人形』達を、最後の一つまで厳正な審査で選び抜いて差し上げます」


そこで、初めて空気が変わった。相変わらず刀は抜いていない。柄にもやはり手は触れていない。
しかしそれでも間違いなく、女の纏う空気が変わった。
それはつまり、開戦の合図。先程一太刀で終わったそれを再開させようという血の色の合図。
そして。



「――決然、それには及ばん」



男もそれに抗わなかった。


「貴様の手など煩わせずとも、私自ら消してくれよう。
 当然、それは貴様を始末したのちこの戦いの締めとしてだがな」


ゆらり、と。数は一斉に動き出した。
その手に持った鎖付きの鏃、黄金の切っ先を女に向けて。
倣い、女も柄に手を触れた。すぐにでも刀を抜き放てるように。
刀と鏃。その二種類のどちらもが明確に目の前の相手へと切り裂く程の敵意を剥いた。
ひりつくような両者の空気。交錯する強烈な殺意。第三者が立ち入ろうものなら
それだけで失神しかねない凶器。まるでばらまかれた起爆剤のようなモノ。


「――始めるとしましょう」


それを、点火して弾けさせるように。この場における最後の言葉が
無造作に両者の間を伝い、至極平坦に、至極冷酷に、女の口から言い放たれた。


「とりあえず片っ端から潰しますので――せめて一番大事な人形はしっかり強化しておくのですね」


同時、路地裏は戦いに呑み込まれる。
『異常』と『異常』。その二つの、『異常すぎる』戦いの中に。

71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/04/03(火) 15:47:50.79 ID:q7wgLbx00

インデッ(ry

とりあえず第五回は終了です。お疲れさまでした。
んでもって感想頂いた方々に感謝を。毎度ありがとうございます。

後半の文章読み返したら凄惨なことになってますが、それはとりあえず置いといて
本当は今回こそインデックスが出るはずだったのですが……
なんか変な人達が出て三度先送りになってしまいました。南無三。
……だ、大丈夫だって! 次回こそ! 次回こそはちゃんと出るから!

>>59
スイマセン、原作の青ピ>土御門の呼び方ってなんでしたっけ……。
一二巻とSSパラパラ読んで見つからなかったので適当に書いたのですが……。

72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/03(火) 18:11:17.99 ID:ejIQ7j9IO
土御門君であってるはず
73 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/03(火) 20:48:15.37 ID:m1zzbIzuo
74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/04(水) 01:58:39.44 ID:7I9LTLiD0
ツッチーじゃなかったっけ?
75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/04/04(水) 02:12:11.03 ID:LCrplVovo
つっちーだったと思った
76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/04/07(土) 18:47:12.65 ID:nn+agkdE0



     *      *      *



それでも、カエルってのはないと思う。


「――……えっ、えぇーっ!?」


常盤台の制服の少女――『超電磁砲』御坂美琴は
お気に入りのストラップを手にしたままで思わず大きくそう叫んだ。


「なっ、なんでですか!? こんなに! こんなにかわいいのに!
 ほらっ、ほらっ! 見てください、触ってください!
 キュートでしょ? プリティーでしょ? マーベラスでしょう!?
 なんていうかこの造形全てが卑怯なまでにパーフェクトでしょう!?」

「どわぁぁっ!? 待てっ! 待ちなさい御坂嬢!
 ストラップ目の前に掲げたまま全力でこっちに迫ってくるな!
 怖い! いっそ怖いからそれ! デフォルメされた表情が何か威圧感帯びてるから!!」


ぐいーっとそのストラップを体ごと押し迫るような勢いで強引に眼前へ突き付けられ、
そのまま勢いに逆らえず上条は後ろのベンチへ倒れ込んだ。

真夏の熱気は相変わらず。景色も歪むとある公園。
先刻上条が立ち尽くして一〇分、千円を飲み込んだ自販機の前では何やら品評会が行われていた。


「なんでこの子の良さが分からないんですか! 黒くてまぁるいつぶらな瞳!
 いかにもなカールしたダンディなおヒゲ! そしてパリッとした紳士的なスーツ!
 この絶妙なバランスの素晴らしいデザインが上条先輩には理解できないんですか!」

「いっ、いやすまん、言い方が悪かった! 御坂があんまりにも
 かわいいっていうから犬とか猫とかのキャラかと思ってて、
 その、そこからの反動がというかちょっと予想に比べて期待外れというか・・・!」

「って結局この子のことバカにしてるじゃないですか!
 期待外れとか言わないでください!
 まして犬だの猫だのって! そんなのよりゲコ太の方がかわいいんですから!!」

「あぁッ!? ちょ、ホントにゴメンなさい! わたくしが全面的に悪かったです!
 だから! だから怒りを収めて! そのバチバチいってる不穏な光をどうか引っ込めてくださいませ!!」

77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga sage]:2012/04/07(土) 18:48:25.50 ID:nn+agkdE0

品評会の目下の品は美琴の持ったストラップだった。
全体的に緑色で、紳士っぽい格好のカエルのキャラクター。
曰く、ゲコ太とかいうらしい。
なんでもケロヨン(この名前自体が既に上条には分からない)の隣に住むおじさんという設定で、
名前の由来は乗り物に弱いがためにすぐゲコゲコするところから、だそうだ。

――ぶっちゃけ、どうでもいい。果てしなく、どうでもいい。
それはもう、どうでもいいのだが。しかしこの紳士で緑色な子供向けのカエル、
どういうわけか美琴の心をガッチリ掴んで放さないらしく、
先程から限定の品だというそれを美琴は熱心に推しているのだった。


「もう、黒子も先輩も・・・どうしてこの魅力が伝わらないのかしら・・・」


ひとしきり捲し立てて、ようやく布教は諦めてくれたらしい。
不満そうな顔をしながらも美琴は上条の眼前から緑色のストラップを遠ざけた。

時に、なんで美琴がいるのかと言えば。
あの後、上条が炎天下立ち尽くしていたら早足で彼女がやってきたのだ。
美琴は友達と喫茶店に行った後で解散してすぐのところに上条を見つけたという。
この世の終わりを見たような上条に当然彼女は大層驚いて、
そしてその原因が上条の目の前の自販機だと知るや否や


『じゃあ、私が取り返してあげますね』


と、ポンと自販機に手を置いて。
上条が『どうやって』と聞き返す前にズバチィ!! と電撃をお支払いした。
結果。ガラガラガラガラーッと雪崩のような勢いで缶が一〇個程お出迎え。
これ千円以上出てるよねってか警報とか大丈夫なのねぇと上条は戦々恐々するのだが、
下手人の美琴の方はといえば『一年前に一万円呑まれちゃってそれが帰ってこないどころか
修理する気配も見受けられないし、しかもどうやら警報の方も完全に壊れてるっぽい』と
すごく冷静に言い放って缶の一本を呷るだけだった。
・・・まぁ本人曰く何本飲んだかは逐一ちゃんと数えていて、それでもまだ一万円の元は
取り切れていないらしいので『いやそういう問題じゃないんじゃね?』と思いつつも
上条はあんまりツッこめないのだが。

78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga sage]:2012/04/07(土) 18:50:24.57 ID:nn+agkdE0

(しかしまぁ、自販機に一万円突っ込むとはさすが常盤台というかなんというか・・・)


そんな微妙に的外れなことを思いつつ、上条も缶へ手を伸ばした。
美琴曰く、缶の種類は選べないらしい。よってかなりヤバ気なものもある。
昨日の地獄ラザニアを思うとできれば手は出したくないのだが・・・
とはいえ出てしまったものはしょうがないわけで。上条は意を決して近いものを手に取ってみる。
『きなこ練乳』と。そう書いてあった。・・・ものすごい甘ったるそうな名前である。
うげー、という表情を上条は一切隠そうともせず、でも仕方がないのでそのまんま指をプルタブに引っかけた。
ちなみに美琴は上条が買おうとしたヤシの実サイダーが好きらしい。
その証拠に先程開けた美琴の持つ缶にはそう商品名が書かれている。
ストラップのせいで飲みかけのまま少々放置された黄色い缶は、
しかしそろそろぬるくなるんじゃあ・・・と上条はちょっと心配になり、
とりあえず美琴の表情を恐る恐るそーっと窺ったところで、


「・・・? どうしたんだ、御坂?」

「・・・え?」


彼は、美琴がどことなく呆けているのに気づいた。


「・・・あ、いえ、別に何も無いんですけど・・・」


ボーッとしていたことに今気付いた。暗にそう言うようなその様子。
問われてハッと気付いたように美琴はかろうじて取り繕い、
しかしどこか相変わらず何か考えている様子でもって
彼女はしばらく沈黙し――そして、意を決したように顔を上げ、


「・・・先輩、喫茶店とか行きたくありませんか?」

「――へ?」

79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga sage]:2012/04/07(土) 18:51:27.65 ID:nn+agkdE0

聞いて、思わず上条は間抜けな声を出した。なんというか、肩透かしな言葉だった。
少女が何やら悩んだ挙句そんな問いが出るなどとは上条は微塵も思っていなかったのだ。
まして。


「・・・御坂? 確か俺を見つけてここに来るまで友達と一緒に喫茶店にいたんじゃ・・・?」

「は、はい。それはそう、なんですけど・・・」


そう。上条の言う通り美琴は先程まで喫茶店にいたはずだ。友人三人に研究員が一人、
実を言うと諸事情で楽しいお話ではなかったが、しかし確かに彼女達は喫茶店でお茶を飲んでいたはずなのだ。
にも関わらず。今度は相手が違うとはいえ、もう一回美琴は行きたがった。
ただでさえジュースも飲んでるのに。しかもまだ余ってるのに。
上条はそんなことを思ったが、


「・・・うーん。そう、ですよねぇ・・・」

「・・・は?」


今度は、言った本人の美琴の方が何故かそのことを認めてしまった。
もう、意味が分からなかった。美琴の方が言ったことで何故本人が反論を認めるのか。
道理の吹っ飛んだその問答にあまり良くない上条の頭は一息にこんがらがった。

もしかして、飲み物がどうとかよりも暑いのが嫌なのだろうか?
そういえばこの炎天下の日差しの中、よく見れば公園には誰もいない。
先程何人か通りがかった気もするが、改めて見回してみると人っ子一人見当たらない。
彼の座るベンチの横の件の自販機にも誰も来ないし、すぐそこに設置されている
水飲み場にだって誰もいない。せいぜい水撒き用の青いホースがポツンと寂しく置いてあるくらいだ。

もしかしてこの異常なまでの熱気の中、外で休むのは間抜けなのだろうか。
そう思わず考えてしまうほど公園には人がいなかった。

80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga sage]:2012/04/07(土) 18:52:30.53 ID:nn+agkdE0

「・・・あ、いや別に冷房の恩恵にあやかりたいんじゃなくて」


上条の視線から意図を読み取ったのか、美琴がそうフォローを入れてきた。


「その、なんていうか・・・急にそんな気分になって」

「はぁ? 理由もなく喫茶店に行きたくなる気分って一体どんな気分なんだよ。
 もしかしてあれか? さっき入った喫茶店の飲み物に依存性の薬が入ってたとか」

「そっそんなんじゃないですよ! 飲み物を飲むのが目的とかじゃなくって!
 ・・・その、なんというか喫茶店に行くことそれ自体に何か欲求を覚えたというか・・・」

「・・・・・・」


何だか、余計にわけがわからない。喫茶店に何かあるとでも言うのだろうか。
訝しげな表情を向ける上条に相変わらず美琴は説明を続けるも、しかしやはり上条にはその理屈は分からない。
しょうがないので上条は意識を目の前の後輩から外し、必殺聞き流しの構えを取ると
誰もいない景色へとぼんやり視線を向けていった。


(あーあ、ムカツク程にいい天気だなぁ)


大分太陽は傾いてそろそろ夕暮も見えそうな時間だが、しかし相変わらず降り注ぐ日光は
地上を焦がしてやまないようだ。相変わらず肌は焼けつくように暑いし、
ベンチもかなり温度が上がっているし、上条が視線を向けていった景色もゆらゆら熱で歪んでいる。
こんなに暑いと蜃気楼でも見えんのかなぁ、でも蜃気楼って空気が綺麗じゃないと見えないんだっけ、とか
上条は本当に取りとめのないことを考えつつ、フラフラ視線を彷徨わせ、


(・・・ん?)


と。動かした視線の先。上条の気付かぬ内にいつの間にか二つの人影があった。


(・・・さっきは気が付かなかっただけか? なんだ、ちゃんと人いるじゃねーか。
 うん、そうだよな、暑い中無駄に汗かくのもいいよな。
 冷房に慣れ過ぎると体に悪いし、それに天気予報のお姉さんも汗流せって言ってたし)


何やら慌ただしそうな二つの影を見、上条は妙な安心感を得た。
別に汗だくの自分が間抜けなわけではなかったと、心内で勝手に自己完結し
そのまま安堵を与えてくれた走る二人を目で追ってみる。

81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga sage]:2012/04/07(土) 18:53:51.35 ID:nn+agkdE0

見ていると二人は少々変わった格好だった。
修道服、というのだろうか。前を行く小さな姿は白い修道女の格好をしていて、
手や足から果ては髪まで、顔以外はほとんど露出していない。
その姿は遠目でも修道女っぽいと見える程度に『らしい』格好だと上条は思った。
対して、その後ろの大きい影。どのくらいかは分からないが、
しかし遠目にも少女と比べかなり大きいとわかるそちらは、
逆に真っ黒な修道士の姿だった。少女の後に続くその男性の影。
『らしくない』、というべきか。あまり神父には見えないその格好は。
なんというか、前の少女のそれと合わせないと神職だと分からないくらいだった。

そんな宗教絡みと連想される修道服のその二人。上条はぼんやりと考えて、
或いは第一二学区の生徒か、と適当にあたりを付けた。
言うまでもないことだが学園都市にはオカルトは無い。宗教施設だって数えるほどだ。
それでも第一二学区は確か神学系の学校が集まっているはずだし、
オカルトな分野の研究ではないとはいえ仮にも神学関連の学校、
きっとそこの制服か何かであの二人は野外活動中なんだろう、と上条は続けて頭を回す。


(・・・あれ? でも第一二学区ってここからかなり遠かったような・・・)


それが、なんでこんな所にいるんだ? と。
自分の中の思考の一部に上条が不意に疑問を見つけ――直後だった。




ゴッ!! と少女が炎に呑まれた。




82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga sage]:2012/04/07(土) 18:55:42.29 ID:nn+agkdE0

「――――…………は?」


一瞬、上条は自分の目がおかしくなったのかと思った。瞬きをして目を擦って
改めて状況を確認して、そしてようやくその光景が現実だったと認識した。
だって、信じられなかったのだ。その少女が炎に呑まれる様はあまりにも『簡潔』過ぎた。
別に、火事の現場にいたわけじゃない。火炎放射器があったわけじゃない。
ただ、唐突に。何の脈絡もなく。炎が生まれ、少女を呑み込んだ。本当にそれだけだったのだ。


「――ッ!!」

「え? ちょっ、上条先輩!?」


気が付けば上条は走り出していた。
背を向けていて気付かなかった美琴に説明することもなく、
無意識の内に全力でもって少女の方に駆け出していた。
何が出来るわけじゃない、何が救えるわけでもない。それでも。彼はそうせずにいられなかった。


「――っぷぁ!」


その、上条の必死な視線の先。炎の踊るその場所で、しかし予想に反してまだ白い少女は絶命していなかった。
上条が走るその途中、炎でできた紅蓮のカーテンから少女はぴょこんと顔を出す。
熱い空気を嫌ったのだろう、呼吸を止めていたらしい彼女はそのまま体を炎から引き抜き、
同時、近くに迫っていた上条を見てぎょっとした顔で足を止めた。


「なっ、なんで一般人が――!?」


公園の一般人、という意味は分からなかったが。しかし上条はその足を止めなかった。
両足が公園の柔らかい土を蹴る。
驚愕の表情の少女へ走り、その距離をわずか数秒で詰め、そして少女の横へ辿り着き――
それでも上条はまだ足を止めなかった。そのまま少女を通り過ぎてその先まで走り抜ける。
理由は簡単。少女の後ろの黒い男がその手に炎を掲げていたからだ。

83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga sage]:2012/04/07(土) 18:56:29.55 ID:nn+agkdE0

「おおおおおぉぉぉぉぉッ!!」


思わず、上条は大きく咆哮を上げた。その右手を思いっきり振り上げ、
獣の様な勢いで男へ迫る。少女が何で無事かは知らない。そもそも何故焼かれたのかも知らない。
だが。少なくとも二発目は撃たせるわけにはいかないと、上条は直感でそう思った。


「――!? 馬鹿な、『人払い』の効力は……!」


対して、男は上条を前に躊躇した様子だった。放ちかけた炎をギリギリで抑え、
強引にそれを握りつぶし、そして振り抜かれた上条の拳を紙一重でどうにか後ろに避ける。
それを、体勢を崩しながらもどうにか彼は完遂し、そして突っ込んできた上条を見、
ぎり、と苦く歯軋りして……しかしそれからは苛立つように睨むだけで立ち塞がる上条へ攻撃しようとはしなかった。


「逃げろ御坂!!」


男を睨んだまま後ろも見ず、上条は大声で後輩へそう叫んだ。


「そいつを連れて逃げろ、御坂! こいつは俺が足止めする!」


その声を聞き、遅れてやってきた美琴が一瞬ぴくり、とその身を震わせる。
恐らく言葉に従うか迷ったのだろう。第三位の超能力者、『超電磁砲』御坂美琴。
戦いが目的の力ではないとはいえ、その実力は間違いなく戦闘でも高い。
にも拘らず、それを使わずさっさと逃げろ、と。そう言う上条に疑問を覚えたらしい。
彼女は何か反論しようとして、大きく息を吸い込んで――

84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga sage]:2012/04/07(土) 18:58:16.79 ID:nn+agkdE0

「左見ろ!」


そこで、焦燥の混じる上条の声。言われて、そちらを見た美琴の表情が凍る。
視線の向いた左側、そのおよそ一〇〇メートルの先、明らかに不自然な集団がいた。
不自然、というか、異質だった。ただでさえ先程まで誰もいなかった公園、
そこに唐突に現れた人影。その奇妙なほどにちぐはぐで、違和感を覚える十数人。
彼らは明らかに真っ当な理由を持って集まった集団には見えなかった。

一人は、スポーツでもしていそうな若い黒髪の男だった。雰囲気はどこか真面目そうで
服もほとんど飾りっ気はなく、全体としてストイックな印象の青年。
アスリートか何かだろうか、と美琴は雰囲気でそう思った。
続けてその横の二人目を見ると、今度は白髪の混じる細いおばさんだった。
服はどこか高級そうなブランドものと思われる落ち着いた選択。
なんだかソファで猫でも撫でていそうな気品のある中年女性。
加えてもう一人。三人目を見てみれば、次は不気味なくらいに痩せた男だった。
筋肉も脂肪もほとんどないようなヨレヨレの服を着た中年の男性。
先の女性と比べるともう少し若い、そんな雰囲気の四〇歳位の男だった。

なんというか、統一感がというものが存在しなかった。何故一緒なのかが分からない組み合わせ。
彼らだけではない、その周りを見てみても一〇歳位の小さな子どもや
軽薄そうな金髪の若者、顔の皺が多い白髪の老人に制服を着た警察官と、
どう見ても一緒な方がおかしいと言いたくなる共通項の無い人々ばかりだった。
そんな、世代も雰囲気もバラバラな集団。それが、しかして全員一様にこちらを目指して近づいてきていた。


「あいつらが来る前に、早く!!」


再び上条が吠えるように叫ぶ。それを聞き、そこで御坂はようやく理解した。
つまり、上条はこう言っているのだ。あの集団から少女を守れ、と。

束の間、それでも美琴は逃走を躊躇った。上条をちらりと一瞥し、彼女はその背中へ不安そうな視線を向ける。
確証がなかったのだ。本当に彼らが少女を狙っているのか、その確証が。
無論、少女を守るのなら関係無い。狙っていてもいなくても男から引き離すため、ただ逃げればいいだけの話。
少女の安全はそれだけで確保される。

だがしかし。狙っていなかった場合、上条が囲まれることにはならないだろうか。

85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga sage]:2012/04/07(土) 18:59:26.64 ID:nn+agkdE0

(数で押されたら、いくら先輩でも……)


美琴は上条の持つその力に素直に尊敬の念を抱いていた。
彼女にだって自負はある。仮にも超能力者、電撃使いの頂点。
ちょっとやそっとでは揺らがない、『超電磁砲』の大きな力。
しかし、美琴自身もそう思っていたそれを、上条は苦も無く打ち破ってみせた。それ故の尊敬。

だが。その力も万能ではない。彼の右手はそんなものではない。
美琴とて詳しく知るわけではないのだが、
とにかく彼の右手は異能を消すだけで、ただそれだけの効果しかなく、
そこから何かそれ以上の攻撃的で具体的な威力というのは存在しない。
加えて何より懸念すべきなのは、その効果が及ぶのが彼の右手の手首の先、
本当に『手』だけに限定されるということ。その制限は決して小さくはない。

要するに、上条は相手が能力者でないとその力を発揮できず、
さらにその数も多くなれば右手だけでは捌けなくなる。そういうことなのだ。
当然彼らが一気に来れば――結果は想像に難くない。


「――〜〜っ、来て!!」

「え!? ちょ、ちょっと!?」


それでも、美琴は吹っ切るように集団を見据えると少女の腕を取って素早く身を返した。
引っ張られ始めた少女は何やら『だめ、危険なんだよ!』としきりに上条を気にしていたが、
しかし彼女はそれを無視して走りながらわずかに後ろを見やる。

その視線の先では。
幸運にも、というべきだろうか。先程まで目的の分かり辛かった十数人の一団は
美琴と少女が走り出したことに伴い、進む方向を曲げていた。
彼らの睨むその目標。彼らの求めるターゲット。
それはどう見ても上条ではなく、確実に美琴と少女。そちらの身に間違いなかった。


(よし、このまま引き付けながら逃げる!)


最悪の場合は少女だけ行かせて自分も足止めに回ろうかと思ったが、
どうやらその心配はないらしい。上条には目もくれない彼らに少し安堵しつつ、
戻りたがる少女を抑え美琴は公園の出口を目指す。

86 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/04/07(土) 19:00:37.26 ID:nn+agkdE0

中途半端ですが六回目はここまでということで。
前回分にレスして頂いた方々、ありがとうございます。
結局つっちー? なんでしょうか。
以降青髪が土御門を呼ぶかは分かりませんが、覚えておきたいと思います。
87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/04/07(土) 20:10:01.85 ID:UDiBDCv4o

原作では青髪ピアスが土御門を名前で呼んだことはたしか一度もないはず
12巻・SS・14巻・17巻で土御門と青髪の会話シーンはたぶん全部でこのどこにもない
88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/04/07(土) 23:21:27.59 ID:hut0owhlo
乙〜
89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/07(土) 23:52:49.67 ID:GXMJuzWAO
アニメでもなかったっけ?

90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/08(日) 20:45:43.91 ID:j9yIk0Oso


しかし美琴が誰だよの世界
めんこいがな
91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/08(日) 23:29:27.94 ID:NsPr7ENIO
アニメだと土御門くんだったと思うよ
92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/16(月) 22:24:56.60 ID:DKqsZAHjo
まじか、つっちーって書いてた

93 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/04/18(水) 21:34:21.18 ID:piz5rAjp0

「……やってくれたね」


その一部始終を見、上条と相対しながら男は憎らしげに口を開いた。


「もう少しだったというのに……逃がされた挙句『アレ』に先を越されるとは、
 本当にやってくれる。――いや、その前に君は何なんだ? 少なくとも同業では無いようだが、
 しかしそれなら何故ここに『居られた』のか。良かったらその秘密、ちょっと教えてくれないかな」


咥えたタバコの火を揺らしつつ、男は不機嫌にそう続ける。

その男の格好を改めて見てみると、素人目にもおよそ神職とは思えない格好だった。
そもそもタバコなんて吸っている時点で明らかに神には縁がなさそうであるが、
彼の場合それだけでない。まず肩まで伸びた長い髪は燃えるような赤に染色されており、
加えて右の眼の下にはバーコードのような黒い刺青、耳にはどちらにも複数のピアス。
手も指輪がジャラジャラとはめられ、その指でタバコをつまむ仕草は
聖書を朗読する神父というよりは路地裏にたむろする不良のそれだった。

或いは、そもそも着ている服そのものが修道士とは関係無いのかもしれない。
そう上条が考え直す程、彼の姿は冒涜的だった。


「別に、公園に学生がいるのなんて何もおかしいことはねえだろ」


その冒涜的な男の言葉に上条は静かに答えを返す。


「例えこんなクソ暑い中、外で突っ立ってんのが間抜けだとしても。
 例えロクに娯楽も無い公園で休暇を浪費してるんだとしても。
 そんなのは全然おかしくなんてねえだろ。
 ――少なくとも。逃げる女の子の背中に向かって発火能力を
 使うなんてことに比べりゃ……そんなのは、全然おかしくなんてねえだろ!!」


まるで軽く愚痴でもこぼすような男の調子。それが逆に上条の言葉を感情的にさせていた。
強度がいくつかなんて知らない。どれほど温度があるのかも知らない。
それでも、見た目だけで人を殺せると判断できるようなその能力を
必死で逃げる少女の背中へ容赦無く放っておいて、その上で冗談のようなその言葉。

正義感、なんて大層なものじゃない。上条は自分でそう思っていた。
ただ単に。殺人に近しい暴挙をしでかしながらそれを何とも思わない、
そんな目の前の男の存在が上条にはあまりに『異質』過ぎた。
自分の思う『人間』はそんな要素と相容れない。もしもそれを持っているなら
それは『人間』などではない。そう思う上条の本能が無意識に男を拒絶している。

94 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga sage]:2012/04/18(水) 21:35:38.19 ID:piz5rAjp0

「……発火能力、ねぇ」


それでも、男は知人をからかうようなその軽い調子を変えなかった。
怒りに震える上条の視線を真正面から受け止めて、浴びせられたその強い言葉の
意味と要旨を理解した上で。その上で彼は上条の主張の本質を完全に受け流し、
そしてその言の葉の切れ端をただ弄ぶように口に出す。


「そっちの『同業』――いや、『同種』にされるのは大変心外なんだけどね。
 まぁいい、こっちの不手際ということで納得しておこうか。どうやら聞いても無駄みたいだし」


面倒臭そうに男は言って、ふー、と白い煙を吐いた。改められない男の態度に
上条は怒りを強めたが、しかしやはりその主張には一切触れることもなく、
彼は懐に手を突っ込んでトレーディングカードのようなものを数枚そこから取り出した。
上条へ一切注意を払わず確かめるようにカードへ視線を落とす。


「……それで?」


そのまま上条を見ることもなく彼は投げやりに言葉を続ける。


「君はそこに立ち塞がって一体何がしたいんだい? あれか、正義の味方ごっこか?
 悪いんだけど僕は忙しくてね。できればそういうお遊びの類はお友達とでもやってくれないかな」

「――ッ、テメェ……!!」

95 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga sage]:2012/04/18(水) 21:36:25.86 ID:piz5rAjp0

相変わらずの茶化すような男の調子。言葉に、上条の拳が思いっきり握られた。
やはり一切の理解ができない。あんなことをしておきながら何故こんなにも平然としているのか。
もう今にも殴りかかりそうだった。脳内の血管がぶちりと切れる音すら聞こえそうな程だった。
半ば怒りに塗り潰されながら、上条は飄々とした目の前の男へ噛みつくように言葉を浴びせようとして、


「……あぁ、そうだ。君と問答する前にやらなきゃいけないことがあった」


本当に、たった今思い出したというように男はようやく顔を上げた。
今更何を、と。上条が喰ってかかろうとして、その声が実際に口から出る前に。




「危ないから、あっちは潰しておかないとね」




轟! と、一息に炎が駆け抜けた。
拳を握りしめた上条の体、その横を一瞬で紅が通り過ぎる。勢いを全く落とすことなく
一直線に真夏の空気を切り裂き、炎は凄まじい高熱と爆音を上条の後方で炸裂させた。


「――、」


ほんの、一瞬の出来事。ひりつくような高熱の残滓を半袖の左腕に感じつつ、
その爆発の源を振りかえり上条は言葉を失った。

96 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga sage]:2012/04/18(水) 21:37:52.03 ID:piz5rAjp0

地面は大きくえぐれていた。月のクレーターのようだった。
ある一点を中心として概ね円形に土は吹き飛び、周囲にあった人口の緑や
舗装された道路もまた一様に焼け焦げ、砕け落ちていた。
その、クレーターの周囲。爆弾が爆発したような惨憺たる現場のわずか外。
吹き飛んだ樹木の枝や破片が僅かに残り燃える中、散乱したそれら欠片の中に
明らかにあってはならないものがあった。

人の腕だった。本来人間の両の肩から伸びていなければならないモノ。
ソレが何の繋がりも脈絡もなく、ただぽつんとそこに落ちていた。


「な、ん――」


何で、とすら言い切れなかった。先程の少女の時とは違う、今度こそ本当に本当の殺人。
人の命が奪われるという非日常の大事件。その、あってはならない異常事態の、
それが持つ異常な『簡単さ』とでもいうべきものは、上条をしばらく凍りつかせるのに十分すぎる衝撃だった。

散乱した人間の欠片は一人や二人のものではなかった。
正気では直視すら躊躇われるものの、よく見ればパーツの重複が多い。
上条には考える余裕もないが、パーツの本来の持ち主達は
先程左から迫って来ていたちぐはぐな十数人だったらしい。
恐らくは白い少女を狙っていた彼ら。目の前の男と同じ目的の集団。
それを、何故彼は問答無用で躊躇いもせず吹き飛ばしたのか。
上条の思考は衝撃の中まだそこまで至らない。


「……さて」


そんな向こう側の惨状を露ほども気にしていないというように
男は相変わらず口から煙を吐き、硬直した上条へ軽い調子で言葉を投げる。

97 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga sage]:2012/04/18(水) 21:38:17.58 ID:piz5rAjp0

「先程も言った通り僕はとても忙しい。なのでできれば君にはそこから
 可及的速やかにどいて欲しいんだが……君は自分で道をあけるのと
 僕に道をあけさせられるの、果たしてどちらの方が好みかな? 差し支えなければ聞かせてくれないか」


手に持っていた数枚のカードを軽く指で弄びつつ、男はその顔に笑みすら浮かべる。
まるで『力の差を知っただろう』とでも言いたげなその調子。
罪悪感などこれっぽっちも無い言葉に上条は振りかえったまま答えない。


「……なんだ、驚きすぎて言葉も出ないのかい? 
 自分から突っ込んでくるのだから、余程腕に覚えがあるのかと。
 ……いやまぁ、超能力なんて大半が実用には程遠いし、せいぜいがそんなものか。
 心配はしなくていい、君が邪魔をしないと言うなら別に無理して殺しは」

「テメェ」


そこまで言われて、ようやく上条は声を出す。低く、重く、憎しみすら見えそうな言葉。
怯えだの恐怖だの弱いものでは断じて無い、威圧するようなその声色。
それが響き空気を伝わり、そこで初めて男の眉間が訝しげに歪みを見せた。


「――図星だったかい? それは悪いことをしたね。
 だがそれも仕方がないだろう。あれ程迷いなく突っ走ってくれば」

「テメェ」


それでも尚続けられる男のふざけたその言葉を。
もう一度。より低く、より重く、上条の声が遮った。



「ここまでのことをやっておいて。テメェは本当に、そんなことしか言えねぇのか――!!」



言って、上条は初めて振りかえった。男の言葉に生まれた怒りを、微塵も隠さず視線に乗せて。

98 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga sage]:2012/04/18(水) 21:38:57.01 ID:piz5rAjp0

逃げたっていいはずだった。
別に上条が傷を負ったわけではない。大切な誰かが傷ついたわけでもない。
特別敵愾心を煽るような『仇』が存在することもなかった。
美琴や少女が逃げ切った今、目の前の殺人鬼に構う事無く逃げてしまったっていいはずだった。
そもそも、上条はただの無能力者。ケンカの腕だって中の上程度。右手の特殊な力にしたって、
文字通り手の平サイズの盾のようなもの。それこそ先の炎の一撃のような敵を切り裂く剣には成り得ない。

それでも、上条は目の前の男の存在が本能の領域から許せなかった。
ここで見逃すことはできない、無意識にそう感じる程に。


「……なるほど。許すまじ、殺人鬼。そんなところか。大した正義感だ」


――正義感、なんて大層なものじゃない。上条は自分でそう思う。


「だが、まず質問に答えてくれないか。
 君は自分で道を譲るか、僕に――いや、もっと簡潔に聞くとしよう」


ただ、不愉快だった。殺人という暴挙をしでかしながらそれを何とも思わない、
そんな目の前の男の存在がどうしようもなく不愉快だった。


「君はまだ生きたいか。それとも後ろの脳無しのように地面のシミになってみたいか」


この期に及んで悪びれもしない言葉が。どうしようもなく。どうしようもなく。どうしようもなく。

99 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga sage]:2012/04/18(水) 21:39:35.51 ID:piz5rAjp0

「ッ、テメェェェェェェェェェェェェェェェ!!!!」


ぶちり、という音が聞こえた時にはもう足が動いていた。
限界だった。防御も何も関係ない、本能のまま地面を蹴る。
ただ目の前の『ムカつく』男を全力でぶん殴るためだけに体が勝手に動いていた。


「……、シミになるのがお好みか」


それでも、男はひたすら冷静だった。
獣の様な突進を見て尚、手の内のカードを弄び――そして、不意に短くなったタバコを無造作に右手で投げ捨てた。


「――“炎よ”」


同時、彼の右手がぐらりと揺れた。
正確には右手の先の空間が高熱で歪むように変化を起こした。
その僅かな空気の揺れは、しかしすぐに大きくなり投げ捨てたタバコの火を追うように
赤い光を発し始め、そして。




「――“巨人に苦痛の贈り物を”!!」




轟!! と。紅蓮の炎が姿を見せた。酸素を吸い込み踊る音が咆哮の様な響きを放ち、
今までよりさらに大きい紅が何の脈絡も無く飛び出した。
炎はさらにそのまま消えて行くこともなく、まるで剣を形作るように男の右手に集まっていく。
非常識な光景。それでいて分かりやすい。
実際にそれを振うまでもなく、一目で理解できる圧倒的な暴力。
立ち向かうなど正気とは思えない、そんな凄まじい武器を前に。
しかしそれでも、上条の足は止まらない。止めることなど考えない。

100 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga sage]:2012/04/18(水) 21:40:31.50 ID:piz5rAjp0

「警告はした」


ぽつり、と男はそう呟き、鋭く上条を睨みつける。
揺れる炎を気遣うようにゆっくりと右手を後ろに動かす。
まるでボールでも投げるように、大きく炎を振りかぶり――そのまま、
何故かほんの少しだけ悲しげに赤い目を僅かに細めて。



「――死ね」



直後、炎剣が上条へ投てきされた。高速で迫る灼熱の一撃。軽く地面に穴が開く砲弾。
迷い無くただ真直ぐに、その炎は上条へ迫ってくる。
見るだけで誰もが逃げ出しそうな凄まじい暴力を携えて。


「うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」


しかしそれでも上条当麻は、その足を決して止めなかった。
炎はもう目の前にある。肌には熱が届いている。
そこまで来ても上条は尚、その激情を揺らがせない。

上条は右手を握りしめた。
走りながら硬く指を折り曲げ、体ごと後ろに右手が引かれる。
まるで今にも殴りかかるような体勢。ただ威力だけ考えた構え。
射程に相手はいないのに、それでも彼は体を捻る。
そのまま上条は前へ進み炎へ向かって飛び込んで行き。

そして、ゴバッ!! と炎が炸裂した。
爆風は周囲の全てを焼き払い、土も砂も空気すら吹き飛ばす。
灼熱が付近に敷かれたタイルすら溶かすように表面を焦がし、
離れたところの樹木にすら火の粉を飛ばして焼いている。
圧倒的な暴力を実際に使ってしまった惨状。
人一人を殺すためには余りに強すぎた非道の一撃。

101 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga sage]:2012/04/18(水) 21:41:01.92 ID:piz5rAjp0

ふう、とステイルは溜息をついた。あの一撃を喰らって尚
生き残れる人間などいるはずはない。爆風は速やかに人体を引きちぎり、
灼熱はそれらを一瞬で灰にする。そのための一撃なのだ。
或いは彼と似たような力を持っていればその限りでは無いが、
しかし拳を握って足で駆ける少年がそんな力を持っているとは思えない。
だから、終わり。少年は死んだ。少女を追いかけるための障害は消えた。
逸れた横道から戻って来られた以上、本来の目的へ向かわなければならない。
ならばその追いかけるべき本来の目的は一体どこまで逃げたかな、と
彼はゆっくり考えつつその足をとりあえず前に一歩出そうとして。


そこで、唐突に炎が一息で吹き飛んだ。


「――――な」


その瞬間を見たわけではない。別へ注意が移っていた男はただ横目に見えただけ。
それでも、視界の端の異常事態に思わず視線を元に戻して
そして実際に起きた出来事の結果だけその視界の真ん中に入れて。
しっかりと確認をした上で尚、彼の顔は驚愕に染まらざるを得なかった。

炎は吹き飛んでいた。半ば塊のまま残っていた炎が跡形もなく消えていた。
しかもそれだけでない、本来あってしかるべき爆発によるクレーターも
一体どういう理由なのかどこにも存在しなかった。
せいぜい残っているものといえば、周囲の二次的な細かい炎くらい。
まるで穴が開いたようにぽっかり真ん中の被害が無かった。
今まで一度も有り得なかった初めて見る異常事態。

102 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga sage]:2012/04/18(水) 21:41:33.45 ID:piz5rAjp0

それだけでも十分おかしい。少なくとも彼の想定外。
そうだというのにも拘わらず、彼が一番驚くべき事態はまた別のものだった。


「でりゃあああぁぁぁぁぁッ!!」


ざし、と土を蹴る音がした。男の足によるものではない、他の人間から発生した音。

足音の発生源。吹き飛んだ炎の跡。その、ぽっかり空いた空間から上条当麻が突っ込んできた。


「馬鹿な――ッ!?」


二撃目、という時間は無かった。回避すらも出来なかった。
完全なる予想外、そこから来る思考の空白。
一瞬白く塗りつぶされた思考のその裏側で、男はこの状況に明確な危険を感じながら
しかしそれに何をすべきか考えることができなかった。

その思考の空白の内に、ソレは十分届いていた。



「ごッ、がぁ……!?」



ミシャ!! という鈍い音。声にならない呻きと共に男の顔が酷く歪んだ。
それは正義も何も関係ない、極めて個人的な一撃だった。
悪を許さない道徳でもない、見知らぬ死者への弔いでもない。
ただ、『心の底からムカついた』。それだけで動いた上条の右手が男の左頬にめり込んだ。

103 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/04/18(水) 21:42:14.56 ID:piz5rAjp0

大変遅れてしまいましたが、今回はこれで終わりです。
前回コメントして下さった方々に遅ればせながら御礼を。
……で、結局土御門の呼び方h(ry

それはそうと謎の男(炎)にジャブをかますだけでこんなに長くなってしまうとは。
文字数の分うまい流れが出来てるわけでもないし、次回からもう少しサクサクいくべきか……。
104 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/04/18(水) 22:01:11.22 ID:LyN5C2OUo
乙〜
ステイルは原作とあんまり差がないっぽいね
105 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/18(水) 22:15:41.15 ID:VMtnL5VDo

あくまで「多め」だから原作と大差ないキャラも結構いるんだろうな
106 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/04/19(木) 14:04:30.39 ID:/qI+oHHAO


まさかのローラいいひとで行こうぜ!
107 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2012/04/20(金) 22:42:51.38 ID:0KXHES5J0
イノケンだす暇もなく……
108 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/20(金) 22:52:52.86 ID:g/Yqs0uNo
再構成のステイルに陽は当たらないのね
109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/21(土) 20:19:02.59 ID:da3CqtvFo
まあ、主人公最初の見せ場だからね
110 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/05/05(土) 11:13:29.36 ID:RntpFbboo
まだ、なのか……?
111 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/27(日) 12:19:47.92 ID:q86qJ9/Qo
もう、駄目なのね
112 :>>1 [sage]:2012/06/18(月) 17:25:36.91 ID:kCvOKSE60
気付けばもう二ヵ月・・・待って下さってた方もいたようで申し訳ありません。
一応最近ようやく書き始めたのですが・・・
だ、大丈夫だって!もうちょっと!もうちょっとだから!
113 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/19(火) 21:39:28.23 ID:l3aY2yKbo
待ってるよ
114 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/06/19(火) 21:54:47.13 ID:ejFBfjJho
なるべく早めに頼むぜ
115 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/24(日) 15:18:59.53 ID:7rvm/XjXo
いいひとー
116 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/03(火) 17:20:33.55 ID:Huq3bjkto
いいひとなんて、いない
117 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/08(日) 13:27:05.62 ID:sGz7PyeIo
おまえこそが、いいひとだ
118 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/07/16(月) 07:01:29.84 ID:h8DYfs770



     *      *      *



御坂美琴は超能力者(レベル5)だ。

能力者、などと言っても大抵はさしたる力を持たない。
外のテレビ番組などでは学園都市の能力開発について
『子供にナイフを持たせるようなものだ』としばしば評論家が声を荒げるが、
実際人を傷つけるとなるとナイフだなんだと比較するどころか
拳にすら及ばない場合がほとんどだ。
強能力者程ともなればその限りではなくなるとはいえ、
しかしそれでもかなり集中しなければ事件という程にはならない。
なのでそういった論議の場で先述のような批判が出た際には
『能力を規制するくらいなら包丁でも取締まった方がまだマシだ』と、
半ば定型化した答えを返すのがお決まりの流れになりつつある。
それが学園都市の能力者の現実。

――なのだが。それはあくまでマジョリティの話だ。『超電磁砲』、御坂美琴の場合そうはいかない。
繰り返すようだが、彼女は超能力者である。出力から精度から、何から何まで
そこらの能力者とは格が違う。それこそ軽く能力を放っただけでも簡単に人が殺せるほどだ。
仮に彼女が何かの拍子に喧嘩で全力を出したとすれば、喧嘩の相手がほんの一瞬で
消し炭になってしまうのはおろか、それに加えて周囲の人々も能力の余波で被害を受け、
果てはその周辺一帯が停電に陥ってしまう。人災にして、もはや天災。そんなレベルの巨大な力を御坂美琴は持っている。
故に、彼女は自分の能力行使に最大限の注意を払う。誤って出力を上げすぎないように、
相手に致命傷を与えないように。時には能力の発現そのものを別の形に変えてさえ
どんな時も周囲の被害を考える。


――そう、例え。
少女を連れて逃げる途中で妙な集団が有無を言わさず攻撃を仕掛けて来た時でも、だ。


119 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga sage]:2012/07/16(月) 07:02:27.44 ID:h8DYfs770


「ちょっ、待――!?」


待って、と言おうとした美琴のその目の前を男の拳が通り抜けた。
上からハンマーの様に振り下ろされたその拳は彼女の前髪を僅かに掠め、
そのまま真下の地面へと轟音と共に打ち付けられる。


「ッ……!?」


直後のゴシャ、という音の元。自分の足先の僅か前を見、美琴の顔から血の気が引いた。
特に何も着けていない中年男のその拳。それが強打したアスファルトのタイルが
粉々に砕けていた。公園の道に敷き詰められていて、本来なら人力ではびくともしないそれが
しかし男の一撃によりガラスの如く粉々になっている。
明らかに異常だった。人間の力の限界を越えている。本当に道具も何もなく生身の一撃なのにも関わらず、
遥か高空から鉄球でも落としたように拳が地面にめり込んでいる。


「――見かけによらず怪力なのね。その歳じゃ能力ってことも無いでしょうに」


額に冷や汗を感じつつ、美琴は苦し紛れにそう言い放つ。
男は何も言わない。四〇か五〇くらいの小太りの男。青い作業服はところどころ汚れがあって
どこか年季を感じさせ、顔を見れば人の良さそうな人相をしたその人物は
しかしその印象に似つかわしくないプロボクサーも舌を巻くような一撃を放つ右手をゆっくりと地面から引き離した。
拳には傷一つ付いていなかった。普通ならタイルの方が無傷であるはずなのに、
まるで硬さが入れ替わったようにタイルだけが砕けていた。


(……どういう手してんのよ、このおじさん……)


後ろの白い少女を右手で庇いつつ、じり、と半歩後ずさる。
公園の出口は目と鼻の先、走れば数歩で出られる距離。
そこに立ち塞がる複数の影が壁のように行く手を阻んでいる。
共通項の無い奇妙な集団。先程見たような十数人。
そして見たようでいてそちらとは違う別人達が無表情にこちらを睨んでいた。

120 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga sage]:2012/07/16(月) 07:03:27.53 ID:h8DYfs770

そもそも今のこの緊迫した状況、窮地に立たされた原因について美琴は今一度考える。
まず、美琴とその後ろの白い少女は例の炎使いや集団から逃げる為公園の出口を目指し走っていた。
理由は人目を作るため。犯罪とは大抵人目を避けるもので、危険とは死角に転がっている。
先程の炎使いの様子を見る限り人目を気にするかは怪しいところだが、
それでも平均的な正義感は持ちあわせているであろう第三者の存在というのは
ただそこにあるだけである程度の抑止力を働かせる。それが直接的な介入なのか
警備員への通報なのか、はたまた追手の良心への訴えなのか、どんな形であるのかは
正直なところ不明瞭だが……いずれにしろ要警護対象である少女を後ろに庇いながら
公園で孤軍奮闘するのは『超電磁砲』の力を以てしても得策とは言い難い。
少女を巻き込んでしまうかもしれないし、周囲が停電するかもしれないし――
或いは、戦局が極限に達してしまえば『加減を間違えて』しまうかもしれない。
得体の知れない相手とはいえ、それだけは何としても避けたかった。

なので美琴は上条に炎使いを任せつつ、何故か第三者のいない閑散とした公園から
もっと人通りの多い場所へ行こうとしたのだ。
別に戦力が欲しいわけではない。ただ先述の様に人目が欲しかった。
それだけで追手は諦めるかもしれないし、あわよくば誰か協力的な人に
戦う力は持っていないらしい少女をとりあえず一旦預かってもらい、
新手の登場に警戒するとか警備員まで届けてもらうとか手助けしてもらえるかもしれない。
それだけでも十二分。周囲に巻き込む人間がいなければ、彼女の電撃を周囲に展開し
あくまで一時的に自由を奪う程度で確実に集団を制圧することができる。
行き当たりばったりではなく、そこまで考えを巡らせた上での美琴の算段だったのだが――。
しかし結果としてそれは机上のものとなる。


(人のいない公園ならともかく、外でも堂々と集まってるなんて……
 見られてもいいと思っているのか、自分達の異常性を理解していないのか。
 いずれにしろこれだけの数に先回りされるなんて厄介どころの話じゃないわね)


そう。出口まで辿り着いた美琴の目の前。簡素な柵で区切られた幅二メートルか
三メートルくらいの何の変哲もない歩道の地面。そこに、まるで来ることが分かっていたかのように
統一性の無い集団が立ち塞がっていた。繰り返すようだが、恐らくは先程とは違う人々。
一瞬見ただけとはいえ先とは別人のように見える彼らは、しかし共通項が無いという
共通項でもって同じ類の人物だと美琴へ暗に伝えている。
そして彼らは公園の出口、半ば外にその身を置いていた。そこは公道だ。
普通に人が歩いているし、車だって走っている道である。
今は『たまたま』通行が無いようだが、本当なら美琴が欲していた人目があるはずだった。
予想通りなら現状の危険度が一段階下がるはずの場所。そこに明らかな敵性が存在した。

そんな、算段の計算外。認識から外れた外的要素が美琴と少女を窮地に追いやっていた。

121 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga sage]:2012/07/16(月) 07:04:54.96 ID:h8DYfs770

無意識の迎撃に意識を加えつつ、脳内で手札を整理し直す。
考えていた手では対処できないのだ。超能力者に危機を感じさせる、それ程の力。
一瞬美琴の脳裏に嫌な未来が思い浮かぶが、それも仕方がないだろう。
恐らく相手は一般人であれば例え十人や二十人いても素手で簡単に殺害できる。
それが、ともすれば十数人。最悪、同じ力量の人間がさらに何人も控えているのだ。
いくら力を持っていても弱気になるのは当然と言える。

――もっとも。美琴が思い浮かべたのは自身の凄惨な末路などではない。


(正直、ここまで戦闘能力が高いと――)


美琴が心内でそう呟いた瞬間。


ゴァン!! と、鈍い金属質な音が響き渡った。


「え……?」


想像し得た最悪の未来。架空の惨劇に目を瞑った白い少女が思わず疑問の声を発した。
並んで、恐る恐る目を開ける。惨劇は無かった。再び開いた視線の先に美琴は、男は立っていた。
両者の間は零距離。片や拳に体重をかけるように、片やそれを受け止めるように。
明らかな交戦体勢でありつつ、しかしどちらも傷は負わず拮抗の元に止まっていた。
そしてそんな中のただ一つ。先程の光景との明らかな差異が白い少女の目を引いた。


「黒い――盾?」


少女の言葉に、美琴は僅かに口元を緩める。
その目の前には男の拳を阻むように、まさしく盾として黒い物体が宙に浮かび佇んでいた。
アスファルトを砕く程の強烈な一撃。これを受けて尚、黒い何かは微動だにしない。

122 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga sage]:2012/07/16(月) 07:05:59.63 ID:h8DYfs770

「……ホント、そんなに戦闘能力が高いと」


先程心内で呟いた言葉を、今度は口に出してもう一度呟く。
無論、小さくとも目の前の男くらいには確実に伝わる程度の声量。
それに男は僅かながら目を見開いたようだった。こちらの言葉に反応した初めての動作。
それを、美琴は一切気に留めない。一瞬訪れた静寂を引き裂くように素早く次の行動へ移り、そして。



「――『加減』しきれるか心配ね!!」



力強く、叫ぶ。同時、黒い何かが高速でうねり男の腹へ突っ込んだ。
盾から一転、黒い腕のような形をとった硬い何かの一撃に男の体は大きく吹っ飛ぶ。
それは紛れもなく美琴の放った一撃だった。電撃使い最強の能力『超電磁砲』による力。
しかしそれでいて決して電流ではない。一撃を放った直後さらさらと形を崩し始めるソレは。


「砂の鉄、とは言うけれど結構効いたんじゃないかしら。
 塵も積もれば、砂鉄のボディーブローは痛いでしょ?」


そう、砂鉄。強力な電気を操る美琴はそれに付随して磁界をも操る。
その力を応用して磁場の影響を受ける砂鉄を間接的に動かした、その結果が先の一撃だ。
砂鉄、とはいえ侮ってはいけない。強力な磁界に縛られる砂鉄は
例え個々の粒子が結合していなくとも磁力によって一つの塊となる。
そして、まさしく鉄の塊となった砂鉄の打撃を受ければ――結果は想像に難くないだろう。

尚、当然だがただ攻撃を行うだけならそのまま電撃を浴びせればいい。
わざわざ面倒な手順を踏んで間接的に砂鉄を操る必要はない。
しかし、電気というのは危険なのだ。環境次第であらぬ方向へ飛ぶし、
何より五〇ミリアンペアも心臓に流せば人間は死に至る。そして、美琴はその危険を嫌っていた。

すなわち、加減。巨大なハンマーを振り回すような攻撃に人間離れした敏捷性。
それらを兼ね備え、能動的に攻撃を仕掛けてくる相手を前にして尚、加減。
それを可能とする程の力を持つのが超能力者という存在であり。

そして、それを持っているからこそ。
御坂美琴は超能力者(レベル5)だ。

123 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/07/16(月) 07:07:06.08 ID:h8DYfs770

なんかもうホント遅れに遅れて申し訳ありません。
大丈夫(笑)とかもうちょっと(失笑)とか一カ月前の自分は何をほざいていたんでしょうね。
いや、ほんと、次回は早く投稿できるよう頑張ります。頑張ります。
124 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/07/16(月) 10:00:46.14 ID:4WuppFqJ0
いいひとキテター
こまけえこたあ(ry
125 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/07/16(月) 12:53:49.19 ID:L27/gLtJ0
みこっちゃんまじいい子
乙!
126 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2012/07/16(月) 15:13:47.71 ID:RN0DRVPDo
乙〜
127 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/21(土) 13:06:58.98 ID:Sn5tJ/vTo
大津
128 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/07/24(火) 15:21:54.40 ID:AT14FwUk0
待機
129 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/29(日) 20:45:54.09 ID:LyKtrCU2o
130 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/13(月) 07:59:24.72 ID:a3t6xxd6o
131 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/15(水) 14:36:33.47 ID:pky0GoHRo
Z
132 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/08(土) 19:31:48.92 ID:QNN6wzcFo
133 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/09/15(土) 22:26:08.04 ID:72WXb2DP0
もう二ヶ月か…
134 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/09/16(日) 23:31:29.36 ID:6k1p/Xcvo
まあ、こうなることはわかっていた
135 :>>1 [sage]:2012/09/17(月) 01:43:41.70 ID:fODWguxJ0
既に期待している人もいないかと思われますが、一応生きています。
一文に十分くらいかけて「今日はもうダメだ」という日々。
最大の問題はサボり癖ですが、文章をスラスラ書くというのも自分には難しすぎるようです。
136 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2012/09/17(月) 01:46:31.15 ID:0nSe0rICo
がんば
俺もなかなか筆が進まないわ……
137 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/09/19(水) 17:03:57.47 ID:rKNrwEMd0
落ちなければいいよ
気長に待ってる
138 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [ saga sage]:2012/11/05(月) 20:23:38.42 ID:bR6bcqHAo
139 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2012/11/07(水) 23:36:28.94 ID:SLcvVm2/o
よつば、とーちゃんはもーだめだ。サラダバー
140 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/09(金) 21:42:43.80 ID:AbxJJHDwo
サラダバー
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