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ペルソナっぽい悪魔設定のシェアワでお話を書いてみたい人集まれ - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 : ◆2PnxfuTa8. [saga]:2012/03/24(土) 13:30:17.77 ID:kMt9Mvx60
この世界には悪魔憑きと呼ばれる人々が居る。
彼らは自らの大切なものを悪魔に渡し、その代償として彼らの力を得た存在だ。
人によって渡したものは違うが多くは友人や恋人、家族などである。
しかし美しいものはその美貌、力強いものはその腕力など渡すものは必ずしもそれらには限らない。
契約を結ぶ悪魔によって能力は違い、引き渡すものによっても能力の方向性が変わってくる。
契約が行われる際にはイヴィルベリルに自らの血をかける必要がある。

悪魔と契約できる人間の手にはイヴィルベリルと呼ばれる宝石が転がり込んでくる。
これは悪魔憑きになってからも身につけている必要があるが無くしたとしてもまた手元に帰ってくる。
イヴィルベリルは持ち主の適正により様々な色に変化する。
珍しい色であればあるほどに悪魔憑きとしての格は高いが、強さは個人の能力を扱う才能とその為の鍛錬の結果であり格に応じるとは限らない。

悪魔憑き達に与えられたルールはたった一つ
「汝欲する所を為せ」
である。
ちなみに悪魔憑き同士の私闘も当然認められる。

“蝕”の時期と呼ばれる日蝕の起きる期間には悪魔憑きが一同に会す祭りが行われる
そこで悪魔憑きの中の最上位のものが発表され、次の“蝕”の時期まで王座に君臨する

悪魔憑きにも階梯があり、下のように十一に分けられる
●第三団(サード・オーダー)
10=1 :Ipssisimas(イプシシマス)
 9=2 :Magas(メイガス:魔術師)
 8=3 :Magister Templi(マジスター・テンプリ:神殿の首領)
●第二団(セカンド・オーダー)/内陣(インナー)
 7=4 :Adeptus Exemptus(アデプタス・イグセンプタス:被免達人)
 6=5 :Adeptus Major(アデプタス・メジャー:大達人)
 5=6 :Adeptus Minor(アデプタス・マイナー:小達人)
●第一団(ファースト・オーダー)/外陣(アウター)
 4=7 :Philosophas(フィロソファス:哲人)  
 3=8 :Practicus(プラクティカス:実践者)
 2=9 :Theoricus(セオリカス:理論者)
 1=10:Zelator(ジェレーター:熱心者)
 0=0 :Neophyte(ニオファイト:新参入者)
通常の悪魔憑きに到達できる最高位は、「5=6小達人」までと言われている。
これは単純に力を示すものであり下位の者は上位の者に従うのがマナーである。
無論これはルールではないので気に食わなければいくらでも逆らえる。
しかしその結果として叩き潰されても文句は言えない。
階梯を決めるのは告知の悪魔“ガブリエル”で彼の告げる階梯が絶対である。
人を食べたり、悪行を為したり、霊地で鍛錬を続け強くなることで階梯は上がる。
一般的に人食いか霊地での修行が効率は良いとされるが、悪魔憑きとなった人間の欲望の有り様次第で変わる。


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少し暑くて少し寒くて @ 2024/04/25(木) 23:19:25.34 ID:dTqYP2V2O
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渾沌ゴア「それでもボクはアイツを殺す」 @ 2024/04/25(木) 22:46:29.10 ID:7GVnel7qo
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二次小説の面白そうなクロス設定 @ 2024/04/25(木) 21:47:22.48 ID:xRQGcEnv0
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佐久間まゆ「犬系彼女を目指しますよぉ」 @ 2024/04/24(水) 22:44:08.58 ID:gulbWFtS0
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全レスする(´;ω;`)part56 ばばあ化気味 @ 2024/04/24(水) 20:10:08.44 ID:eOA82Cc3o
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君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
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笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
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【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part10 @ 2024/04/23(火) 17:32:44.44 ID:ScfdjHEC0
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2 : ◆2PnxfuTa8. [saga]:2012/03/24(土) 13:31:53.34 ID:kMt9Mvx60
悪魔憑きの多くは自らが契約した存在の名前で名乗るがこれは契約前の人間だった頃の名前が自らの弱点となるからである。
自らの人間である頃の名前を知る人間が自らをその名前で呼ぶと一時的に悪魔憑きはその力を失う。
これを恐れ、多くの場合で悪魔憑きは悪魔憑きになった途端身近な人間を殺す、あるいは代償として捧げる。

悪魔憑きによって力の一部を貸し出された人間(使徒)は魔術を使える。
ただし使徒は自らに力を貸した悪魔憑きには勝てない。
悪魔憑きと人間が子を作った場合、その子供は魔術の素養が有る可能性が高い。
はるか昔に強力な悪魔憑きと交わった家系の人間が独自に魔術を発展改良させて魔術師の家系となる場合もある。
代を重ねるごとに魔力を通して魔術を使うための神経である魔力回路が減る傾向にあるので、そういう魔術師の家系は強力な悪魔憑きを迎えるか娘を悪魔に捧げている。
しかし代を重ねるごとに術自体は洗練されるので魔力回路が無くならないように気をつけていれば代を重ねた魔術師の方が強い。

悪魔憑きにとっては魔術とは“後付の技術”であり、
悪魔憑きになってからどれほどの鍛錬を重ね、また力を持つかという証明にもなる。
それ故に悪魔憑き同士の戦いでは、力の誇示のために悪魔と契約して得た能力ではなく魔術を使いたがる悪魔憑きが多い。
同じ理由で高位の悪魔憑きほど能力を使いたがらない。

悪魔憑きや魔術師の体内には“世界の外側”から魔力を引き出す為の“門”と
その魔力を体内に巡らせるための“回路”がある
門が大きければ大きいほど大量の魔力を使えるが
それを扱うための回路に余裕が無ければ自滅する

悪魔憑きや魔術師には魔的属性(パターン)、術分類(カテゴリ)、能力(モーメント)というものがある

魔的属性(パターン)はそのままずばり魔力の持つ属性を表すもの
悪魔憑きや魔術師の身体から出た魔力は空気中の魔力と反応して炎属性ならば発火、氷属性なら氷結といったような反応を起こす

術分類(カテゴリー)は術者の持つ技巧がどのようなものを根底に据えているかです
人間であれば祖である悪魔憑きを、悪魔憑きならば使える魔術の方向性をそれぞれ示す
 
最後に能力(モーメント)は魔的属性や術分類を踏まえた上でそれをどう使うかを示している
人間の魔術師には殆んど意味がない項目ですがまあ一番得意な術を示していると考えて良い

この世界では悪魔は世界の外側に存在しており、実態はない。
契約の形で人間に流れ込んでこの世に顕現して娯楽を貪っている。
悪魔憑きの人格は契約者である人間の元の人格と悪魔の人格が混ざったものになる。
自我の弱い人間は完全に乗っ取られるが、多くの人間は自我を保った上で性格が少しばかり変わる程度。
悪魔にとって人間に取り憑くことはリアルなゲームを楽しむ程度の感覚。
イヴィルベリルは世界の外側からやってきた物質なのでこの世界の存在では干渉不可能。



※なお、悪魔の定義は“真・女神転生シリーズ”的に考えているので『これ、悪魔じゃなくね?』みたいなのは無しで
※自分のオリジナルでなく出展を明記できるのならばどんなものでも悪魔にして構いません
※ざっくり言うとメガテンでクー・フーリンが悪魔になってるからクー・フーリンの悪魔憑きとかバッチリオーケーです
※調子に乗ってそいつに「突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルグ)!」とかやらせてもいいです
※ぶっちゃけディズニーに居たからジャック・スケリントンとかでも良い
※ただあまりにもあれだから「ジャック・オ・ランタン」の皮をかぶったジャック・スケリントンみたいな感じにして欲しいっす
※アルトリアたん萌ええええええええええ!ってそこの貴方は「ワイルドハント」の皮をかぶったアーサー王みたいな感じ
※このシェアワのルールもまた【汝欲するところを為せ】です

3 : ◆2PnxfuTa8. [saga]:2012/03/24(土) 13:33:03.60 ID:kMt9Mvx60
設定長すぎルトは思いますけど
とりあえず本編を読んでいただければなんとかなります
第一話
4 : ◆2PnxfuTa8. [saga]:2012/03/24(土) 13:33:30.19 ID:kMt9Mvx60
【ブギーマンは笑ってる 第一話「oath sign」】

 クリスマスの夜。
 玩具屋の箱を抱えた一人の老人とその孫と思しき少女が数人の若者に囲まれていた。
 場所は暗い路地裏、ゴミの詰まったビニール袋だらけのその路地裏で、孫だけは守ろうと老人は健気に抵抗していた。
 しかし若者のうちの一人が子供に銃を突きつけ、怯んだ老人を殴り倒す。
 少女の泣き声。
 若者が怒鳴る。
 助けを求める声が、其処に木霊する。

「希望はいいものです。多分最高のものだ。いいものは決して滅びない」

 その時だった。
 路地裏に似合わぬ良く響く声。
 突如としてスーツ姿の洒落た雰囲気の男が現れる。

「なんだお前?」
 
「誰だと思います?」

 続いて銃声。
 それは間違いなくスーツの男の腹に直撃した。

「うわっ」

 街角でパンを咥えた女子高生にでもぶつかったような声をあげて腹を見る男。

「うわああああああああああ!」

 悲鳴を挙げたのは銃でを撃った男だった。
 スーツの男の腹から流れ出ていた物は血ではなかったからだ。

「あーあーあーあー、せっかくの一張羅をこんなにしちゃって
 どうしてくれるんですかね一体?
 これからデートなんですけど」

 スーツの男はため息を吐いてから男たちに向けて歩き出す。
 幾度も銃声が響く、その度に彼の身体に穴が開く。
 しかし彼は気にする事無く歩き続ける。
 そこから吹き出るのは虫。

 蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲
 蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲
 蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲
 蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲
 蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲
 蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲
 蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲
 蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲
 蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲
 蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲
 蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲
 蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲
 蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲
 蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲
 蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲、蟲

 色とりどりの蝶、悍ましい蜈蚣、蠢く毛虫、キラキラと輝く勇ましい甲虫、羽を大きく伸ばす飛蝗。
 種類はバラバラ
 量はタップリ
 老人と少女だけを無視して蟲達は這いずり、飛翔し、男たちに襲いかかる。
 牙で、角で、毒で、針で。
 悲鳴、脳漿、臓腑、鮮血。
 自らの脳に引き金を引く男すら居た。
 幼い子供の目の前で繰り広げられる惨劇。
 老人はこの世ならぬ光景の前にすでに気を失っていた。
5 : ◆2PnxfuTa8. [saga]:2012/03/24(土) 13:33:56.32 ID:kMt9Mvx60
「現実を拒否することすらできぬ幼い感性か……
 悲劇という他無いですね
 ところで貴方はこれから目の前で人が蟲に食い殺されて死んだこの光景を胸に灼きつけて生きていくわけですが……
 どんな気分?
 悲しい?
 それとも助かって嬉しい?
 ああ、怖いか!怖いよねえそうだそうだ、助けに来たスーパーマンはスパイダーマンでしたーってね!
 スパイダーマンですらないですか、そうですよね」

 スーツの男は銃弾で風穴の開いた腹の中から蜘蛛を取り出して投げ捨てる。
 男の口調は熱を帯び、目は爛々と輝きはじめる。
 先ほどまでの余裕ある雰囲気ではない。
 おもちゃを目の前にした子供だ。

「じゃあビーファイター?」

 カブトムシを腹から取り出して投げ捨てる。

「じゃあ仮面ライダー!」

 バッタを取り出して投げ捨てる。
 少女は目に涙を溜めて後ずさる。

「ハハハハハ!その通り!そのどれでもない!
 これで震えなきゃどうかしてる!
 私、この私こそが、ブギィイイイイイイイマァン!
 髄に刻んで記憶しな!NYに現れた蟲の悪魔憑き!
 ブッッギイイイイイイイイィマンです!
 子供大好きな変態の悪党!
 今からお嬢ちゃんを食べてしまいましょうかねえ?」

 少女は逃げ出す。
 涙を流し、何度も転び、彼女が人通りの多い表通りに出てやる気なさげな警官に泣きついたところを確認して彼は薄暗い路地裏に戻る。
 ドラム缶の上に座り、破れた腹を蟻の顎で繕うと煙草を一服する。
 煙が肺の中に流れ、体中に染みこむと、それを嫌がるように体中の蟲が蠢き始める。

「……ふぅ、“人を脅かす”し“自分のやりたいこともやる”
 どっちもやらなきゃいけないのは私達の辛い所でしょうかね」

「子供にトラウマ植えつけることで力を得るなんて随分と悪趣味な悪魔憑きが居たものです」
 
 ブギーマンの後頭部に冷たい銃口の感触が走る。
 そこに居たのは背の高い修道服の女性。

「この身はウォルトとバートンの紡ぐ悪夢の顕現
 恐怖と引換に希望を与えるんです、これは拒むことが不可能なだけで立派な取引、等価交換ですよ?
 絶望の淵で死ぬか、恐怖と共に生の可能性を追うか、というだけのことです」

 芝居がかった口調でブギーマンは言葉を続ける。
6 : ◆2PnxfuTa8. [saga]:2012/03/24(土) 13:34:31.08 ID:kMt9Mvx60
「さてさて、これから私は女性と約束がある
 一ヶ月喫茶店に通い続けてやっとアドレス交換したんですよ?
 ですから説教なら後にしていただきたいのですシスター」

「そうはいきません、私は神の使徒、悪魔をこの世より根絶するバチカンの一員」

「オーケィ、ではこうしましょう。私はデートを諦める
 貴方は女を諦めた可哀想な私を慰める
 理に適ってます」

 この時点で彼は油断していた。
 銃弾程度簡単に躱せると思っていたのだ。

「誰が悪魔などと!」

 引き金を引く。

「銃弾の速度で私を捉えられると……」

 ブギーマンがそれを躱そうとしたその時、聖書の紙片が彼の身体にまとわりついて動きを封じる。

「――――遅い」

 銃弾がブギーマンの頭部を貫く。
 その傷からは蟲が流れだすことはない。
 代わりに青い炎が勢い良く燃えて彼の顔面を焼き尽くす。

「うおわああああああああああああああああああ!?」

 上品さの欠片も無い声で絶叫する。
 敵の力量を見誤った。
 それに気づいた時点で、既に彼から余裕は消え去っていた。

「聖別済みの銀で作った硝酸銀入りの弾丸です
 体の内側に入って液体状のまま体中に広がっては焼き払います
 悪魔には効果覿面でしょう」

 シスターは胸の十字架に仕込んでいたナイフで怯んだブギーマンを突き刺して、切り刻む。
 傷口からは青い炎。
 渾身の力でシスターの腹――臍より下、下腹部の辺り――をステッキで殴りつける。
 
「ふぐぅっ!?」

 見た目に反して可愛らしい悲鳴。
 それを聞いて焼け爛れた顔でブギーマンは笑っていた。
 下卑た笑み。
 欲情した野犬のような視線がシスターを刺す。
7 : ◆2PnxfuTa8. [saga]:2012/03/24(土) 13:35:29.95 ID:kMt9Mvx60
「いい声で鳴くじゃないか、気に入った」

 挑発するブギーマン。

「舐めるなあ!」

 真後ろに飛んで短機関銃で撃ちまくるシスター。

「街中でなんてものを!?」

 彼は悪魔憑きとしての能力は高いが戦士としてはあまり素質がない。
 挑発したところで大して意味は無いことに彼は気づくべきだった。
 弾丸は彼に直撃、全身をくまなく焼き払う。
 顔面はもはや原型を留めていない。

「はぁ……っはぁ……」

 通路は一本道、彼女の背後には裏路地の出口がある。
 殴られた場所から寒気と鈍痛が続いている。
 それを彼女は懸命に堪えているが限界は近い。

「これで、止めです」

 出てきたのは火炎放射器。
 これならば路地裏を炎で包み、再生の暇も無くダメージを与えられる。
 
「――――!」
 
 顔面を焼き払われて声も出せないブギーマンは焦る。
 口も傷口も炎で封じられてしまっては蟲を出しようがない。
 そこで彼は迷わず懐からトランプを出してそれで自らの腹を切り裂いた。

 しかし

 降り注ぐ水。
 ただの水ではない。
 聖水だ。
 体内に直接注ぎ込まれるそれはあくまで悪魔な彼にとっては致命傷。
 声にならぬ悲鳴をあげてブギーマンは内側から燃え尽きる。
 後には何も残らない。

「火炎放射器、の中身を改造した聖水放射器……準備してもらってよかった」

 彼女は無線のスイッチを入れる。

「……こちらシスター・アリア、悪魔憑きの討伐に成功
 これより帰還します」

 無線機に向けてそう言って電源を切る。
 シスターはブギーマンの燃えカスに背を向けた。
 
「これはどうもお久しぶり」

 彼女の目の前にはブギーマンが居た。
 正確には先程燃えた彼とは違う。
 今の彼は人間の姿をしていない。
 ビニール袋いっぱいに詰め込まれたゴミの代わりに詰め込まれた虫の大群。
 ウギー・ブギーの悪魔憑き。

「なん……」

 そこから先、彼女は言葉を続けられない。
 彼女の口の中に拳が滑りこむ。
 そこから沸き上がる蟲。
8 : ◆2PnxfuTa8. [saga]:2012/03/24(土) 13:36:08.61 ID:kMt9Mvx60
「私はね、虫と入れ物さえあればいくらでも再生できるんですよ
 これはわたしからの愛の証、受け取っていただければ幸いです」

 余裕を取り戻したのだろう、口調が丁寧なものに戻ってる。
 男はひどくやらしく笑う。
 ヌメリとした感覚
 舌を締め付けられる。
 喉を蹂躙される。
 胃袋の内側を這い回られる。
 すぐに毒が回り全身の力が抜けていく。
 頭蓋、消化器官、女性器、蟲という蟲が入り込み、まぐわい、増殖する。
 体中から沸き上がってくる自分じゃない生き物。
 激痛が走り、ブルブルと身体を震わせてその場に崩れ落ちる。
 焼けるような苦痛の中で時折下腹部から走る甘い快楽が彼女に敗北以上の屈辱を与える。
 彼女は顎に力を入れるがブギーの腕が邪魔で上手く噛めない。

「ダメですよ、舌は噛ませません
 っていうか元医者として言わせてもらえば舌噛んでも死ねないんですよ?普通」

 殺せ、と言いたいのだろう。
 おーえーと意味のない音にしか聞こえない言葉が口から溢れている。
 肝臓にブギーマンの拳が突き刺さる。

「お゛えっ!」

 ブギーマンが手を抜くとシスターの口から胃液が逆流する。
 ビチャビチャと溢れる物の中にはのた打ち回る虫も混じっていた。

「神様って本当に居るのですかね?
 仮に居るとしてもこんなになった信者を助けてくれないなんて彼ら相当クレイジーでしょうね?
 あ、信者同士の殺し合いを止めない神様ですからこれも当たり前か
 さーてそんな貴方にラッキーチャンス
 そんなクレイジーな神様を信じるくらいなら私と一緒に来ませんか?
 丁度助手が欲しかったのですよ
 見た目も悪くないうら若き女性だからこそのチャンスですよぅ?」

「…………やめて、ください
 見逃して……それだけは」

 ブギーマンの口が今宵の三日月のごとく吊り上がる。
 彼が指を鳴らすとシスターは甘い声を上げて身体をくねらせる。

「やめっ……!いや、いやなの……」

「そうですか、そんなにも蟲達が気に入りませんか?
 その割には嬉しそうな顔をしていますがねえ……
 ああそうだ、実は先程の子供に虫を仕込んでいます
 私の命令であの娘の脳を食い荒らすのですが貴方が私に忠誠を誓うなら助けないこともない
 貴方は自分の意志ではなく子供を救う為に強制的に従わされるんだ
 それならば良いでしょう?
 貴方の信仰は汚されない」

「…………それは」

 ブギーマンの言葉に一瞬だけ彼女の心が揺れる。
 もう一押しで堕ちる、そんなところまで。
 彼が幾度も幾度も繰り返してきた神への忠誠をコワスアソビ。
 
「私は……!」

 堕ちたな、と確信してからまるで彼女の声が聞こえないかのようにブギーは笑う。

「成程、か弱きものを見捨てるあなたの神に倣うわけですね
 じゃあもういいです、さようなら
 助手は別の場所で探します
 褐色でロリィタっててニンフェットで健康的で従順で可愛い助手を
 男の子でもいいなあ?可愛い可愛い男の子
 女の子の姿をさせて後ろからガンガンやってやりたいものですね
 ふふふ、こいつは楽しみだ」

 ブギーマンの興奮に合わせるかのように彼の身体を構成するビニール袋が破れて蟲がゆっくりと彼女を飲み込む。
 骨が砕け、そこに蟲が収まり
 肉が吸われ、そこに蟲が収まり
 臓物が食われ、そこに蟲が収まる。
9 : ◆2PnxfuTa8. [saga]:2012/03/24(土) 13:37:34.93 ID:kMt9Mvx60
「ふっ、いひぃい!?ぐっ、やめ……する!なんでもするから!ごめんなさい!
 私が悪かったですから許して!お腹の中がぐじゅぐじゅするの!いやああ!」

「……良い顔で苦しんでくれますねえ
 私もこれじゃあ興奮を止められないじゃないですか
 とはいえ私もオニじゃあ有りませんからねえンフフ
 少しだけ楽にしてあげましょうか」

 ブギーはシスターを蹴り飛ばす。
 悲鳴と共に修道服の下から白濁した液体が飛び散る。

「ところで入れ物なんですけどね
 麻袋が機能性は最高なんだけど見た目は最悪
 革袋は機能性は最低なんだけど見た目はおしゃれ
 こういうビニール袋はどっちも最低
 さーて、ではどちらも最高なのはなんでしょう?」

 彼の高ぶりに呼応するかのようにシスターの腹の中の虫は暴れ、彼女の神経に毒を流し込み全身を悪魔の玩具に作り変える。
 最初こそ激痛に悶えていたが今は既に臓腑から指先に至るまでピリピリと痺れるような快楽で彼女の顔は弛緩しきっていた。

「うっ、い゛…………あぐぅ!?」

 大量の蟲をその胎に受け入れながらもシスターは必死でその場から逃げようとする。
 だが無慈悲にも蟲達は彼女を蟲の山の中に包み込んだ。
 蠢く蟲山、続く静寂。
 山の中から手が伸びる。
 シスターだった女性が顔を出す。

「そうさ!」

 声高らかに叫ぶ。

「人間の体さ!
 特に女性は最高、男よりも“袋”が沢山あるからなあ!」

 シスターの身体を乗っ取ったブギーマンは無線機を拾い上げてスイッチを入れてこう告げる。

「こちらシスターアリア、想定外の攻撃を受けましたがこちらは無事です。これより帰還致します」

 無線の電源を切る。
 そしてブギーマンは高笑いと共に宵闇に消えていった。 

【ブギーマンは笑ってる 第一話「oath sign」 続】
10 : ◆2PnxfuTa8. [saga]:2012/03/24(土) 13:39:14.63 ID:kMt9Mvx60
とりあえずこんな感じで一日一話で十三話と思ったら十三話にまとめられなかった
作品や作者が集まってwiki編集してくれる神様が居たら嬉しいなと
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/03/24(土) 14:04:30.93 ID:XXgtgSgto
作者年齢が高い事が分かった タイトルはひょっとしてブキーポップは笑わないを反転させたのかな…
設定多くて混乱したけど使いたい設定だけ選出すればいいんだな
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/24(土) 14:40:51.21 ID:wnU9POvDO
>>11
好きな設定を好きに使っていただいてかまいません
作者の為の設定なので枷になるものがあったらそれは適当にごまかしてもらって結構です
あと年齢はたかくねーし!!ねーし!!
13 : ◆NamCapMdYU [sage]:2012/03/24(土) 16:42:45.13 ID:Tzk3IOzTo
買い物行ってて遅れて、今読み終えた。とりあえずwiki編集から初めて、ネタ浮かばせていくさ

一応、現代……だよね、時間軸は
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/24(土) 16:57:17.15 ID:wnU9POvDO
>>13
時間軸は基本設定さえ守られてれば何時でも良いかなあと
この話は現代という設定で書いてます
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/24(土) 19:15:00.09 ID:BaQbj4x3P
面白そうだな
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/24(土) 19:27:52.08 ID:wnU9POvDO
>>15
さあ書くんだ
今なら先駆者になれるぜ
17 : ◆bYs74oxxCg [sage]:2012/03/24(土) 19:56:38.97 ID:XXgtgSgto
興味あるんだけど自スレが優先だからこっそり書き溜めてみる、期待はしないでくれ
18 : ◆NamCapMdYU [sage]:2012/03/24(土) 20:13:58.45 ID:Tzk3IOzTo
とりあえずwikiのほう、雛型作成したよ
基本は>>1>>2だけど、気になって言い方を変えてる部分があるから、一応確認しておいて

ネタのほうはとりあえず一つ思いついたから、期待せず待ってて
19 : ◆2PnxfuTa8. [saga]:2012/03/24(土) 21:03:47.27 ID:kMt9Mvx60
>>17
自分もこのスレと並行して別のスレの書き溜めやってるからご安心ください
まあ自分の本筋の作品が詰まったらということで
>>18
ネタは裸靴下ネクタイで待ってるわ
設定の辺りは勢いで書いたからぐちゃぐちゃだったかもしれない
修正&ウィキのひな形作成ありがとうございます
20 : ◆2PnxfuTa8. [saga]:2012/03/24(土) 22:14:51.37 ID:kMt9Mvx60
それと作品作る際質問注文意見など有ったらガンガンお願いします
「これやって良い?」とか
「こんな悪魔憑きどうよ!?」とか
「こんな設定思いついたんだけど追加しようぜ!」とか
21 : ◆2PnxfuTa8. [saga]:2012/03/25(日) 06:09:59.34 ID:LHHBFT2R0
【ブギーマンは笑ってる 第二話「サードアイ」】

 大きな箱を背負った女性が歩く。
 多くの人の集まる市場の中を。
 彼女はそこそこ整った顔立ちをしており
 また身なりもそこそこ良かったので
 市場の商人達は彼を良いカモになりそうだと考え盛んに声をかけた。
 しかし彼――ブギーマン――は柔和な微笑みでそれらを躱し、ブラブラと歩きまわる。
 そのうち彼は面白そうな商品を見つけた。

「あんた、見ない顔だねえ。観光かい?」

「こんな所に冷やかしでは来ません。それを見せていただけますか?」

「ふぅん……構わんが、お目が高いね
 今日入ってきたばかりの初物だよ」

「目が血走ってないし、痩せても居ない、しっかりと調べなくてもそこそこのモノであるのはわかります」

「ふぅん」

 彼は品定めを始める。
 手にとってみたり、ジロジロ眺めたり

「あんた、品定めに熱心なのは良いがあまりベタベタさわらないでくれ」

「失礼、確かに貴方の話に偽りは無さそうだ
 初物と偽って商品を売る人も多いものですから
 しかし……この市場で正直な人は貴方くらいですね
 疑ってしまい申し訳有りませんでした」

「それを買ってくれるなら別に構わんよ」

「ええ勿論、おいくらになりますか?」

 酷く無愛想に商人は金額を告げる。
 それに少しばかりの色をつけてブギーマンは商人に代金を払う。

「……ん?」

「非礼のお詫びも兼ねて少し色を付けさせていただいたまで
 誠意には誠意をつけねばなりますまい」

「誠意、ねえ。俺達みたいなのに誠意なんて意味はないと思うぜ」

「無意味なことはあっても無価値なことはありません
 少なくとも自身の気分を満足させることはできました」

 彼は商品を大きな箱の中に入れてそれを背負って歩き始める。

「まだ活きが良いけど逃げないようにしなくても良いのかい?」

「ご安心ください、私から逃げることは不可能ですので」

 そういった瞬間、ブギーマンの服の袖で小さな何かが揺れた。

「……ふぅん」

 悪魔憑きか
 と商人は小さくつぶやいた。
 ブギーマンは相変わらず柔和な笑みで頷く。
 箱の中で子供の悲鳴が響く。
 しかし商品の悲鳴が聞こえても気にする人間はこの市場には居ないし
 そもそもその悲鳴も騒音に紛れて何処にも聞こえない。
 彼がホテルに着く頃には箱の中の子供はすっかり叫ぶ元気も無くなっていてた。
22 : ◆2PnxfuTa8. [saga]:2012/03/25(日) 06:10:46.19 ID:LHHBFT2R0
「着きましたよ」

 箱を降ろして蓋をあけるブギーマン。
 中には怯えた瞳の粗末な衣服を着た子供と潰された何匹かのグロテスクな形状の虫とそれの出した白く濁る体液。
 特に虫の体液でベトベトになっており、まるで乱暴された直後のようだった。

「なんですか悪魔を見るような顔で人のことを見るなんて失礼でしょう」

 ブギーは見た目以上の怪力で子供をひょいとつまみ上げてバスルームに放り込む。
 
「勝手に身体でも洗いなさい、私は面倒なので後回しにさせていただきます」

 ブギーは箱の中を覗き込む。

「やれやれ、いつの間にそっちに紛れ込んでたのやら……
 まあ良いか、教える手間が省ける」

 ブギーの指の皮がゆっくりと裂けて中から先ほどと同じような蟲が現れ箱の中の蟲の死体を食べ始める。
 その様子に満足した彼は更に何体かの蟲を箱の中に注ぎ込み、その中に先程の市場でついでに買ってきた骨付きの生肉を放り込む。

「さて……と」

 そこで彼はバスルームが静かなことに気がつく。
 遠慮など無くドアを開けると子供がバスタブの底で震えていた。

「……どんだけビビってるんですか」

 いきなり買われて得体のしれない虫の入った箱に突っ込まれたらこんな反応になってもおかしくはない。
 子供としては予想もしていないという意味ではそちらのほうが恐怖だった。

「さっさと身体を洗ってこの服に着替えてきなさい
 さもないと先ほどの虫に貴方を食べさせますよ」

 ブギーはメイド服をバスルームに置いてそのまま出ていく。
 流石に脅しが効いたらしくバスルームからシャワーの音が聞こえてきた。
 箱からは相変わらず骨をバリバリ噛み砕く音が聞こえる。
 しばらくすると服を着て子供がバスルームから出てきた。

「おや、出てきましたか
 それでは遅ればせながら自己紹介をさせて頂きましょう
 私は悪魔憑きのブギーマン、魔的属性(パターン)は『蟲』、術分類(カテゴリ)は『使役』、その能力(モーメント)は『使い魔』
 五大元素に分類されないレアな属性なのが自慢です
 ある目的のために世界を渡り歩いていますがまあ貴女には関係のない話です
 貴女は黙って私の従者をやっていればいいのです
 ところで貴女をこれからなんと呼ぶか決めたいのですかよろしいでしょうか?」

 蟲の世話と聞いた瞬間、子供の顔が恐怖と嫌悪でゆがむ。
23 : ◆2PnxfuTa8. [saga]:2012/03/25(日) 06:11:21.37 ID:LHHBFT2R0
「私の名前は……」

「いえ、貴女の名前を聞いているのではありません
 貴女の名前は今から私が決めますので」

「……はい」

「安心しなさい、大人しく言うことを聞いている分には貴女は運が良い子供でいられるのですから」

 その言葉にどう答えれば良いか解らないほどには、その子供はまだ子供だった。
 ブギーはにこりと微笑む。

「そうですねえ、じゃあ“クライン”とで呼びましょうか
 気に入った代案があれば積極的に提案して良いですよ」

「……はい」

 ひとまずまともに働かせてくれるらしいことが解りクラインは安堵の溜息を漏らす。
 自分と一緒に売られてきた娘達が此処まで来る途中で“試用”されたり“廃棄”されたりしたところを見たからなおのこと。

「ちなみに“クライン”というのはこのように書きます」

 メモに『Kline』と書いてみせる。
 
「どういう意味なんですか?」

 クラインはメモの字をジッと眺めて、やっと喋った。

「やっと喋ってくれましたね、小さいという意味です」

「え?」

「小さいんですから小さいで悪いことなんて無いでしょう?
 ではクライン、貴方がこれから世話をする蟲のことについて少しばかり説明しましょうか
 そこにお掛けなさい」

「……はい」

「先ほど貴方を詰めた箱に入っていた蟲は私の飼っている蟲の中でも凶暴な方でしてね
 生き物と見ると見境なく襲いかかります
 が、戦闘能力は大したこと有りません
 飛びかかられたら適当に叩き落としてください
 さて、貴女に世話してもらうのはこの子達です」

 そう言ってブギーは先ほどまで生肉を投げ込んでいた箱を開ける。
 次の瞬間、箱の中から色とりどりの美しい蝶が現れて部屋中を極彩に彩った。

「蟲使いですから、これくらい容易いことですよ
 貴方にまず世話していただくのはこれ、よろしいですか?
 理解していただけたならばまずはこの砂糖をこの皿の半分程の水に溶かしたものを準備してきてください」

 その幻想的で蠱惑的な光景にクラインの恐怖は薄れ、ただただ幻惑され魅了されていた。
 クラインはブギーに従い皿と砂糖を持って準備を開始した。

【ブギーマンは笑ってる 第二話「サードアイ」 続】
24 : ◆2PnxfuTa8. [saga]:2012/03/25(日) 06:20:21.68 ID:LHHBFT2R0
くそっ!なんで朝起きたら俺のベッドの中に可愛い幼馴染が居ないんだよ!
おっかしいだろうが!俺だって桜ちゃんみたいな通い妻欲しかったわ!
もしくはバーコードバトラーだったかのさくらちゃんでも良いぞオラァ!

とまあそれはさておき
書きためしてるから早朝投下
宣伝効果もありそうだし
蟲使い主人公書こうとしたんですがこれきつい
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2012/03/25(日) 12:26:04.06 ID:FfUG5Z7z0
元ネタ的に第3陣は人間止めてる感じなのかな?
26 : ◆2PnxfuTa8. [saga]:2012/03/25(日) 16:46:21.09 ID:LHHBFT2R0
>>25
そんな感じです
まあ悪魔憑きな時点で人間辞めてる奴らばっかりですけどね
ブギーマンは現在Practicus(プラクティカス:実践者)なのですが個人的な感覚では

第三団(サード・オーダー)
→もはや神の領域、P4だとヨシツネアリストランペッター辺り、型月で言うと魔法使い、東方で言うと金閣寺の一枚天井、無双シリーズなら難易度地獄の呂布
 これに認定される悪魔憑きは両手で数えられるほどしか居ないつもり、というかそれ以上居たら世界滅ぶ

第二団(セカンド・オーダー)/内陣(インナー)
→下位ならば長い時間をかけて努力すれば誰でも到達可能、型月で言うと死徒二十七祖の中位から下位のもの

第一団(ファースト・オーダー)/外陣(アウター)
→大部分はここ、多くの悪魔憑きはPracticus(プラクティカス:実践者)行く前に調子乗って悪魔狩人や教会や自分より強い悪魔憑きに狩られる
 ブギーは希少属性って才能が有るからかなりの速度で強くなってる
 あと二十年あればセカンドオーダーには到達確定
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2012/03/25(日) 17:02:09.42 ID:FfUG5Z7z0
把握。あと一般における悪魔憑きの認知度とゲーティアやアブラメリンのような悪魔を召喚・使役する類の魔術の扱いも
設定があるなら聞かせて欲しい。
28 : ◆2PnxfuTa8. [saga]:2012/03/25(日) 17:12:51.27 ID:LHHBFT2R0
一般的には悪魔憑きの存在を知らない人ばかりです
オカ板の住民だったら都市伝説レベルで知ってるかも
裏社会でそれなりに顔の効く人たちだったりすると認知度はあがりますね

悪魔を使役する魔術はどうしてもこの世界によって拒絶されてしまうので悪魔の本来の力は出せないという設定です
だからこの世界で出せる能力は悪魔憑き達の方が基本的に上です
まあ悪魔憑きもピンきりですけど

呼び出した悪魔とは自由に契約ができるのでイヴィルベリルを先に手に入れた人たちとは違って好きな悪魔と悪魔憑きになるための契約ができます
一度代償を捧げて契約してしまえば後からイヴィルベリルも与えられますし普通の悪魔憑きと変わりません
むしろ人間の状態でそれだけの魔術行使ができる分伸びしろ的には圧倒的に有利だったりします
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2012/03/25(日) 17:57:07.56 ID:FfUG5Z7z0
了解です。同じ悪魔と契約した悪魔憑きが複数いたりするのでしょうか?
悪魔憑きは基本的に契約した存在を名前とするようですがその場合少々ややこしくなりそうな……
会合などで一箇所に集まることもありそうですし。

それと上で出ている五大元素は西洋魔術における五大(火・水・風・土・エーテル)でしょうか。
魔術の種類によっては、五行(木 火 土 金 水)や五輪(空・風・火・水・ 地)も在りそうですけど。
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2012/03/25(日) 18:14:44.46 ID:FfUG5Z7z0
すいません追加で
・契約対象の悪魔はイヴィルベリルに依存するのか、それとも契約者の資質により変化するか
・悪魔憑きからイヴィルベリルを奪って使用することは可能か
・二重・多重契約は可能か
・魔術・能力などの外的要因による契約の破棄は在り得るか
・複数の側面を持つ悪魔は複数の権能を持つのか、それとも契約者の資質に合った一側面が顕れるのか

実際書こうと思うったら気になる点が噴出して……
31 : ◆2PnxfuTa8. [saga]:2012/03/25(日) 19:08:47.31 ID:LHHBFT2R0
>同じ悪魔と契約した悪魔憑き
ナイス質問、丁度やろうとしてたところですよ
います
名前はその場合
ブギーマン・ヤマトとかブギーマン・グレイとかみたいに後ろに何かつけて判別します

>五大元素
ブギーの言う五大元素は彼が西洋の出自だけあって火・水・風・土・エーテルです
ぶっちゃけキャラによって言い方やら内包するものは変わります

>契約対象の悪魔はイヴィルベリルに依存するのか、それとも契約者の資質により変化するか
素質のある契約者のところに決まった悪魔のイヴィルベリルが現れる感じです

>悪魔憑きからイヴィルベリルを奪って使用することは可能か
不可能です
契約はわりとお互いの相性というか運命みたいのが有りまして本来の持ち主じゃないと奪ったとしても使えない上にありえないレベルの偶然が起きて持ち主の元に戻ります

>二重・多重契約は可能か
不可能です
やろうとすればできますが大抵差し出すものが無くなりますし
契約したとしても体内で悪魔の力同士がぶつかり合って死にます
ただ上記の問題をクリアできれば可能です
あと他の悪魔を眷属とする悪魔ならば擬似的な多重契約は可能です
妲己の契約者なら雉鶏精とかの力が使えます

>魔術・能力などの外的要因による契約の破棄は在り得るか
無いです
悪魔との契約自体が特別なもので、その悪魔に気に入られていたり深い縁が有ってつながっているものなので
外部からの要因では契約は破棄されませんし自らの意思でも契約は破棄できません
契約しないことはできますけどね

>複数の側面を持つ悪魔は複数の権能を持つのか、それとも契約者の資質に合った一側面が顕れるのか
場合によりけりです
色々能力値を振れるところがあって素質によって伸び幅が違うとお考えください
状況に合わせて上手く運用する能力を持っていない限りバランス良くするよりは一点特化の方が強いと考えています
ブギーは研究者肌なので色々バランス良く能力上げて実験を繰り返しているようです



作品お待ちしております
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2012/03/25(日) 19:28:40.72 ID:FfUG5Z7z0
何度もお答え戴き有難うございました。
本来の持ち主で無いと不可能かぁ。となると魔術師が仲間の悪魔憑きから死に際にイヴィルベリルを託されて――――
という展開も使えないか……
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/25(日) 20:40:34.07 ID:vCK8+kW+o
だめだ、読む気しねえや
34 : ◆2PnxfuTa8. [saga]:2012/03/25(日) 21:15:39.44 ID:LHHBFT2R0
>>32
友を失った哀しみと絶望がイヴィルベリルを引き寄せてそれが偶然友のそれと同じもの
って展開ならばもうばっちりでございます
>>33
安心するんだ
第七話辺りでエロが有ったりするし
今の話が終われば悪魔憑きに襲われたヒロインを助けようと悪魔と契約することになった高校生だ
王道だ
ただメインウェポンを毒にしようとか思ってるけど
待ちきれねーよとか思ったら書いてくれても構わない
このスレは何時だって書き手ウェルカムだ
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2012/03/25(日) 22:00:12.69 ID:FfUG5Z7z0
良かった。一から構想練り直さなくて済むwwww
あ、人を呼びたいならエログロはR-15程度に抑えておいた方がいいかも。苦手な人多いし。
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/25(日) 22:07:52.19 ID:2Pj9JlO0o
三行で頼む
37 : ◆2PnxfuTa8. [saga]:2012/03/25(日) 22:15:48.73 ID:LHHBFT2R0
>>35
うい、了解
エロはもう書いたからあれとして本編でかっ飛ばすのはやめよう
今の話は前日譚的なあれだからハードにできなかった
面白かったら設定なんて友情パワーとか火事場のクソ力とか魔族の血の覚醒とかで打ち破っていいんですよ
ぶち破るための設定ですよ
>>36


とやらないか
38 : ◆NamCapMdYU [sage]:2012/03/25(日) 22:39:20.07 ID:GgVMTkrvo
>>1にあるwikiを見ればいいと思う。一応、分かりやすくしておいたから
39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/26(月) 01:46:08.95 ID:1hKCJy4Ho
面白そうだし、参加してみたいけれどルールにそって書けるかがちょっと自信ないな……
40 :面倒だからこれからはホイッスルと名乗ることにしたり ◆2PnxfuTa8. [saga]:2012/03/26(月) 07:30:08.06 ID:EKup6GzM0
誰かマジでクー・フーリンの悪魔憑きやってくんねえかなwwwwww
あとワイルドハントの悪魔憑きwwwwww
>>38
いい感じに厨二になってて最高っす!
アレまじ良いわ
>>39
ルール?
破ってたら後から
「めんごwwwwwwww」
って言って修正したり
「こんな感じで良いかい?」
ってやりたいことざっと出してくれたらなんとかなりますよ
41 :ほいッスる ◆2PnxfuTa8. [saga]:2012/03/26(月) 07:31:29.97 ID:EKup6GzM0
【ブギーマンは笑ってる 第三話「ジュエルズ」】

「……これは?」

 ブギーマンに買われてからしばらくしたある日。
 カナダにある彼の邸宅を掃除していたクラインはリビングに転がった宝石を見つける。

「ブギーさん、これなんですか?」

「ん?」

 ネグリジェ姿のブギーはソファから起き上がってクラインの方を見る。
 ブギーの目に淡い乳白色の光が飛び込む。

「掃除してたら落ちてたんですけど」

「あーそれ私のですけど気に入ったなら差し上げますよ?」

「え?これは一体……」

「それはイヴィルベリル、悪魔憑きが悪魔と交渉するための許可証、あるいは交渉した証みたいなものです
 持ち主によって色は様々なものにかわりますが同じ形同じ色のものは世界に1つとして無いと考えていただいて結構
 捨てても持ち主の元に戻ってくるものですから私は適当に扱ってますがアクセサリに加工する人も多いみたいですね」

「そうなんですか、素敵ないろをしてますね」

「では差し上げましょう、どうせ手元に置くならば貴女に持たせたところで問題はありますまい
 そうですね、指輪ではすぐにサイズが合わなくなるからネックレスにしましょう
 腕のいい加工屋が居れば……」

 その時、来客を告げるベルが鳴る。

「少し様子を見てきなさい」

「え?はい」

 クラインはイヴィルベリルを胸ポケットにしまってから玄関に向かう。
 ドアを開けるとそこには髭を生やしたロングコートの大男が立っていた。
42 :ほいッスる ◆2PnxfuTa8. [saga]:2012/03/26(月) 07:32:09.99 ID:EKup6GzM0
「あれ?嬢ちゃんここでなにしてんだ?」

「わ、私はブギーさんのところで働いている……」

「あー駄目だ駄目だ、あんた達の国の言葉は知らんのだ
 ブギーを出せブギーを!」

「なんですか騒々しい……」

 男の声を聞きつけてブギーが奥から出てくる。

「ブギーさんお客様です」

「ようブギー……って女になってやがる!?」

「ああ久しぶりですウルフマン・ジャック」

「他人行儀だな、ウルヴィーで良いぜ
 ところでなんで女になってんだ?
 俺が前にお前を見た時はお前は男だった筈だぜ?」

「色々有ったんです、まずは家に上がりなさい」

 ウルヴィーを連れてブギーは客間に入る。
 クラインは更にその後ろをついていく。

「クライン、緑茶の用意をしてきなさい」

「はい」

 クラインはおじぎをするとお湯を沸かしに別の部屋に向かう。
 その様子を見てニヤニヤとウルヴィーは笑う。

「可愛いもんじゃねえか」

「高いカネ積んで買った高級品なんです、あげませんよ?」

「そうじゃねえ、お前だよお前」

「はぁ?」

「昔なじみのよしみでさ……一発やらせてくれよ」

「何を馬鹿なことを、私は男ですよ?」

「いや人間の頃はそうだったのかもしれないけどさ
 今はもう関係無いだろ?
 つーかおまえ目の前でそんな立派なパイオツぶら下げられてたらもう我慢できねえって
 どこで手に入れたんだ?」

「教会のエクソシストが襲いかかってきたのを返り討ちにしたんですよ
 じゃあこの身体は使い終わったら差し上げます
 その代わりといってはなんですがどこかに腕のいい彫金師かなにかはいませんかね?
 私もイヴィルベリルでアクセサリーをつくろうかなんて思いまして」

「いいぜ、それくらい紹介してやるよ
 俺もこの前見つけたばかりだが腕の良い悪魔憑きが居る」

 ウルヴィーは胸の宝石がはめ込まれたドッグタグを見せびらかす。
43 :ほいッスる ◆2PnxfuTa8. [saga]:2012/03/26(月) 07:32:43.85 ID:EKup6GzM0
「それは良かった」

「あと死体は趣味じゃないんだが……」

「大丈夫、まだ殺してませんよ
 最低限の生命機能は保持させてますから私が抜ければ勝手に意識も取り戻すでしょう」

「そいつは良かった」

 その時、ドアからノックの音が響く。

「お茶ができました」

 クラインが緑茶を淹れてきたのだ。

「ご苦労様、下がっていいですよ」

「あー待て待て!嬢ちゃん!」

「へ?」

「少し待ってくれとこの人は言っているんです」

「はぁ」

「翻訳おつかれブギー
 賢いお嬢ちゃんにはこいつをやろう」

 ウルヴィーは飴玉をクラインに渡す。
 クラインはお礼を言ってから部屋を出る。

「いつも持ち歩いてますね」

「ハハッ、俺はお前と違って子供が好きだからな」

「そうですか」

「ところでこれってグリーンティーってやつか、砂糖入れるのか?」

「緑茶に砂糖なんて入れるわけ無いでしょう」

 ウルヴィーは緑茶を一気に飲み干す。
44 :ほいッスる ◆2PnxfuTa8. [saga]:2012/03/26(月) 07:33:11.90 ID:EKup6GzM0
「うへぇ、苦いなおい!」

「飲みなれないようですね、遠く日本ではこれが一般的なお茶なのですが」

「おいおいここはカナダだろう?」

「ええ、まあね。しかし異国の文化に触れるのも中々悪くは無いでしょう?」

「あーあ、お前も昔っから珍しい物好きだよなあ?」

「うふふ」

「やめろよ、うふふとか言うと色っぽいだろ
 マジ早くその身体俺によこせ」

「そう言われましてもねえ、代わりを今作ってる所ですから少し御待ちなさいな
 彼女に殺されても知りませんよ?」

 笑う二人の間に騒音が飛び込んでくる。
 その方向はおそらくクラインが掃除を続けているであろう居間。

「誰かにつけられたのか?」

「そんなつもりは無かったんだがねぇ」

 ブギーがパチン、と指を鳴らすと青年の悲鳴が聞こえる。
 居間に二人が踊り込むと頭から血を流した青年が割れた窓ガラスから外に出ようとするところだった。
 彼の足元にはクラインが転がっている。

「くそっ、なんなんだお前ら!
 動くな!動けばこのガキの命がねえぞ!」

 青年はクラインを抱え上げて拳銃を突きつける。

「あぁん!?この俺がそんなちゃちな脅しに……」

「やめなさいウルヴィー、ここは素直に言うことを聞いておきましょう」

「あ?だがこのままじゃあ、あの嬢ちゃんが……」

「今無理して彼女に何かあったら大変です」

 ブギーはウルヴィーを制して後ろに下がる。
 それを見て青年は安心したように窓から外に出る。
 クラインは気を失っているらしい、ぐったりしている。

「……チッ」

 青年はそのままクラインを抱えて何処かに去っていった。
45 :ほいッスる ◆2PnxfuTa8. [saga]:2012/03/26(月) 07:34:13.99 ID:EKup6GzM0
「おいブギー!なんであのまま行かせた!」

「あのこそ泥は私達を見てなんと言ったか覚えてますか?」

「……なんなんだお前ら、だったっけか?」

「ええ、その通り
 彼が私達を倒して昇格を狙う悪魔憑きだったとして
 ターゲットの顔を知らないなんてありえるでしょうか?」

「いや、お前顔変えたばっかりじゃねえか」

「いやいや、敵なら下調べくらいしてるでしょうし貴方の顔も知らなかったみたいですよ?
 そもそもこの家には人払いの結界が張られていまして、ここに家があることを知っている人間にしか入れないんですよ」

「なるほどね、それでそれがどうしたってんだ?」

「あのこそ泥を使って私達を狙う悪魔憑きが居ると考えるべきでしょう」

「はん、なるほどね。下位の悪魔憑きが上位の者を殺して下克上を狙うなんていくらでもあるからな
 俺だって何度か経験したしよ」

 ウルヴィーは拳を握る。

「だがこいつは駄目だ、男らしく正々堂々一対一じゃなきゃあ駄目だ
 許せねえなあ、俺の流儀じゃねえぜこいつぁよう」

「綺麗も汚いもありませんよ、戦いには」

「で、その策に対抗する術はあるのか?」

「あります、もうすでに手を打っていますから
 向こうとしても貴方が居るとは思っていないでしょうしそれを利用させていただきます」

「報告されてたりしてるんじゃないか?」

「あの男は様子からして使い捨て
 連絡系統がしっかりしているとは思えません
 まあどう転んでも大丈夫なように手は打ってますからご安心を
 ――――さて」

 ウルヴィーを部屋から叩き出すと素早く修道服に着替えてブギーは外に出る。
 ガレージを開けて中からジムニーを出して乗り込む。

「クラインには既に蟲を仕込んで有ります
 場所も分かりますから追いかけるのも自由自在」

「なに?ガキに蟲を使うとは随分なことをしてるじゃないか」

「違いますよ、私の切り札である蟲が入ったイヴィルベリルをもたせているってだけです
 遅かれ早かれ彼女にも蟲を仕込んで私の使徒にするつもりではありますが……
 まあ殺されるという事態はありえないでしょう」

「……はぁん、なるほどね」

 ウルヴィーはそれを聞いて酷く獰猛な笑みを浮かべた。

【ブギーマンは笑ってる 第三話「ジュエルズ」 続】
46 :ほいッスる ◆2PnxfuTa8. [saga]:2012/03/26(月) 07:39:08.62 ID:EKup6GzM0
ありえねええええええええ!
なんで俺が朝起きたらキャスターがエプロン姿で家事してねえんだよ!
誰かベヘリット俺によこせ!
今なら俺が持つ全ての抱きまくらを代償に捧げてゴッドハンドになれる気がする!

はい、それはさておき第三話
基本的にタイトルは音楽ネタ
適当につけたタイトルだったりする時もあります
ウルヴィーはまあ元ネタウルヴァリン
ただし正確はどこぞのチャイニーズアサシン
まあブギーも裏モチーフではガンビット意識して作ったキャラなのでこの二人組は書いてて楽しい
決してアッーなあれではない
47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2012/03/26(月) 16:06:40.56 ID:TGl/EyD60
>自らの人間である頃の名前を知る人間が自らをその名前で呼ぶと一時的に悪魔憑きはその力を失う。

これだと現代舞台じゃ世捨て人か犯罪者しか書けないんで

隠し名:本名の他に真の名を持つことで人間だった頃の名前を弱点から外す事が出来る。この真の名を隠し名という。
     悪魔憑きは偽名を含め新たに名を創る事ができない為、他者に与えてもらう必要がある。
     元々土地に根付いた魔術師の血族など本名を隠すことが難しい者達が始めたものが
     国家による戸籍の管理が始まるとともに徐々に広まり、社会の情報化によって急速に普及した。
     但し、隠し名の影響力は本名以上に激烈であり、遠隔地においても魔術的手法に則れば、
     悪魔憑きの能力に干渉できる。これを嫌ってあえて隠し名をもたない者も多い。

こういう設定を追加したいんだが、どうか? 
因みに悪魔憑きが新たに名を創る事ができないというのは能力がモロバレになるにも関わらず
契約した悪魔の名前を使うことの説明付けのつもり。
48 :ほいッスる ◆2PnxfuTa8. [saga sage]:2012/03/26(月) 21:19:28.50 ID:EKup6GzM0
>>47
あ!それ良いですね
自分も次回作ではそれ使ってみます
wikiにも加えてしまって良いかな
49 :ほいッスる ◆2PnxfuTa8. [saga ]:2012/03/26(月) 21:20:19.41 ID:EKup6GzM0
【ブギーマンは笑ってる 第四話「Sitting On The Dynamite」】

「ったく、訳が分かんねえぜ!
 俺はガキしか居ねえと聞いたからあの家に忍び込んだんだぜ?
 なのにあんな奴らが居るなんて聞いてねえぞ!」

 青年は車を走らせていた。
 後部座席には気を失って手錠をはめられたクライン。
 青年はバックミラーからクラインの様子を伺う。

「見たところこの国の人間じゃあねえみたいだな
 養子か何かか?
 まあ良いや、俺は金さえ手に入れば……」 

 その時、青年の目にクラインのポケットからこぼれ落ちる乳白色の宝石が映る。
 彼は宝石の価値が解る男ではない。
 しかしその石にはなんとも言えぬ不思議な魔力が有った。

「こいつは……」
 
 震える手、早鐘を打つ心臓、男はそれをひったくって懐にしまう。
 しばらく車を走らせるとすぐに彼は指定されていた場所に到着する。
 廃工場、男は車を降りてクラインをその奥に運ぶ。
 そこには彼の雇い主が居た。

「ご苦労だったね」

 老人だ。

「おう、あんたの言うとおりにガキを連れてきたぜ」

 老人はクラインを受け取るとまるで儀式の供物か何かのように祭壇の上に置く。

「礼を言おう」

「それよりもさっさと金を出してもらおうか」

 老人は祭壇のすぐそばにおいてあったケースを開けて男に中身を見せる。

「ああ、これで構わないね?」

「ああ、それじゃあ俺はずらかるぜ」
 
 男はすぐに

「そうだ、少し待ってくれたまえよ君」

 その声で男は振り返る。
 そこに居たのは人間ではない、二足で立つ巨大な牛のような怪物。
 人間よりも大きい斧を持つ巨大な怪物。
 名前をミノタウロスという。

「な、なななな、なんだおまえひゃ!?」

「いや君はよく働いてくれたよ、だから何処かに行かれては困る
 それに……あれだ」

 逃げる青年を見つめて老人は笑う。

「小腹が空いた」

 斧が振り下ろされる。
 廃工場の中に絶叫が満ちる。
 それを合図にするかのように一台のジムニーが扉を突き破って廃工場に突入してきた。
50 :ほいッスる ◆2PnxfuTa8. [saga ]:2012/03/26(月) 21:21:56.57 ID:EKup6GzM0
「―――――――――なにっ!?」

 ジムニーは祭壇の前で停まる。
 中からブギーが出てきて気絶しているクラインを抱きかかえる。
 
「残念でしたねえ、人間など使うから簡単な尾行にも気づかないんですよ」

「くそっ、この男尾行されてたのか!」

 死にかけの青年を見て老人は忌々しげに呟く。
 
「そういうことです、悪魔憑きになった人々は自らの力に溺れ頭が弱くなるなんて言いますがどうやらその通りみたいですね」

 気絶したクラインを車に乗せるとブギーはトランプとサイコロを構える。

「新しい身体の慣らしも兼ねて少し痛い思いをしてもらいましょうか」

 ブギーはトランプとサイコロに体内の魔力を注ぎ込みばら撒く。
 トランプは空中で加速、それぞれに蛇のような軌道を描いてミノタウロスに飛来する。

「しゃらくせえ!」

 ミノタウロスは斧を振り回してトランプをはじき飛ばす。

「その程度ですか?」

 弾き飛ばされたトランプは爆発と共に大量の毒蛾に変わりミノタウロスにまとわりつく。

「その言葉、そのまま返してやる!」

 しかしミノタウロスも自らの魔力を炎に変えて毒蛾を焼き払う。
 そこで再びの爆発。
 魔力による発火に反応して先程ばらまいたサイコロ内部の魔力が爆発したのだ。

「何しやがったッ!?」

「悪魔憑き同士の勝負ですからね、術だけで遊んであげますよ
 貴方も炎属性の魔力放出だけしか使えないというわけではありますまい
 ……さて、それでは見せてもらいましょう、貴方の術を!」

 ミノタウロスの焼け爛れた表皮があっという間に再生する。
 そして背中から小さな斧を取り出して素早くジムニーに向けて投げつける。
51 :ほいッスる ◆2PnxfuTa8. [saga ]:2012/03/26(月) 21:25:40.58 ID:EKup6GzM0
「遅い!」

 地面から沸き上がる巨大な蜈蚣。
 その分厚い甲殻は斧を紙一重で止める。 

「隙だらけだぜブギーマン!」

 炎を纏った巨大な斧がブギーに振り下ろされる。
 ブギーは細いステッキでそれを何とか止めるがやはり力では劣るらしく壁に叩きつけられた。
 しかし吹き飛ばされながらもブギーの投げたダーツがミノタウロスの身体に突き刺さり、蟲に変化してミノタウロスを食い荒らそうとする。
 炎で再び焼かれるがサイコロが爆発してミノタウロスにもダメージが入った。

「ちっ、やっかいだなこのサイコロ」

「愉快でしょう?術が使えればこの程度吹き飛ばすのも容易いでしょうに」

 ブギーはトランプを空中に大量にばら撒いて哄笑する。

「これぞブギーマンの殺戮賭博、チップは貴方の命です」
 
 トランプが空中で増える。
 一つが二つ、二つが四つ、四つが八つ、倍々に増えていく。
 
「――――悪いが、俺はギャンブルが嫌いだ!」

 炎を出してトランプを焼き払うミノタウロス。
 当然再びサイコロが爆発する。
 絶叫
 爆炎の内側から飛びかかるミノタウロス。
 捨て身の一撃がブギーに襲いかかる。

「…………なに?」

「私もね、嫌いなんですよギャンブル」

「何故だ!なぜ身体が動かねえ!」

「冥土の土産に教えてあげましょう」

 自らの目前で静止する斧を見て笑うブギー。
 彼の肩に一匹の蜘蛛が降りてくる。

「蜘蛛の糸は細い
 しかしそれを幾重にも幾重にも束ねればジェット機すら止められるそうです
 戦闘開始時から辺りに張り巡らせておきましたので……あれだけ暴れまわった貴方はもう動けない」

 懐からステッキを取り出してそれをミノタウロスに突きつける。

「そう、私は不確定要素が絡むギャンブルは嫌いなんですよ
 だからいつもしっかりイカサマして勝つことにしています」

「くくく……そうかそうか」

 それを聞くとミノタウロスの口角が吊り上がる。
52 :ほいッスる ◆2PnxfuTa8. [saga ]:2012/03/26(月) 21:28:04.09 ID:EKup6GzM0
「何がおかしいのですか?追いつめられてどうにかなってしまったのでしょうかね」

「言ってなかったが、俺もイカサマは大好きだぜ?」

 ミノタウロスを縛っていた糸が何者かによって一瞬で切断される。

「え?」

「今だお前ら!」

 廃工場に怒声が響く。
 それと同時に現れる十数体の悪魔憑き。

「なに?」

 まだ絡み付いていた蜘蛛の糸を焼き切ってミノタウロスは吠える。

「上位の悪魔憑きを倒せば階梯をあげられると聞いたら俺のお友達が集まってくれたのさ!
 悪魔憑き同士の殺し合いには卑怯なんて言葉は無しだぜ?」

「あいにく私は卑怯もらっきょうも大好物でしてね」

 指を弾くと同時にその悪魔憑き達の四分の一は肉片になる。

「なに!?」

 それは爪による薙ぎ払い。
 何よりも速く、何よりも力強く、何よりも単純な一撃。
 持てる魔力全てを身体能力の強化につぎ込んだ鬼才ともいうべき悪魔憑きウルフマン・ジャック
 彼の能力である体内魔力炉からの魔力の更なる供給もあってか彼と同じ階梯の悪魔の間ではありえない肉弾戦能力を持っている。

「――――ギャア!」

 高速で動き、止まる。
 その度に死体は少しずつ増えていく。
 工夫も何もないまっすぐな軌道での攻撃。
 なのに反応できない。
 少なくとも彼に今襲われている悪魔憑き達はそう思っている。
 
「いやあ良くねえなあ、待ち伏せってのは良くねえ」

「やめろぉ!」

 全身を鎧に包まれた悪魔憑きが只の拳骨で鎧ごと頭部をペタンコに潰される。
 高速で動くから反応できない?
 それは違う。

「見えてたものがなんで消えるんだ!」

 実は、途中で止まっている――溜めの動作がある――からこそ反応ができない。
 高速で動き続けるだけのものならば犠牲を払えばこの悪魔憑き達にも反応はできるのだ。
 しかしウルヴィーの踏み込みの初速度が既に彼の肉体の出せる最高速度にまで到達してしまっている。
 そしてその最高速度は新幹線並だ。
 これに反応できるわけが無い。

「な、なんで貴様が此処に居る!ウルフマン!」

「これから死ぬお前がそれを知る必要は無いんだなぁ」

 あらかた他の悪魔憑きを屠ったウルヴィーがミノタウロスの横を一瞬で通りすぎる。
 そう、人の知覚は0.1秒より短い時間で行われる動作を察知できない。
 知覚を強化せずに肉体の強化にだけ魔力を回していたミノタウロスや他の悪魔憑きはウルヴィーの攻撃に気づけなかった。
 ただし知覚を強化していたとしても死ぬ瞬間を自覚出来るだけなのだが。
  
53 :ほいッスる ◆2PnxfuTa8. [saga ]:2012/03/26(月) 21:28:59.53 ID:EKup6GzM0
「――――なにをした!?」

「自分の体に聞いてみたらどうだい?」

 ミノタウロスの首が飛ぶ。
 
「i……エ」

 逆さになった視界で事態を飲み込めずに小さく声を漏らす。 
 それが身の程知らずな彼の最期の言葉だった。

「まったくブギーちゃんよお、俺が来るまでチマチマ遊んでるなんて余裕じゃねえか
 おまえちょっと鈍ったんじゃないのか?」

「大丈夫ですかクライン?」

「……ほえ?ブギーさんここは一体?」

「クライン!やっと目を覚ましましたか心配したんですよ?
 貴女が居なくなってしまったら私はどうすれば良いというのか……
 ここは貴女が今まで捕まっていた場所です
 しかし私が助けに来たからにはもう大丈夫、貴女をさらった犯人も始末しました
 すぐにここから離れましょう」 

「あ、ありがとうございます……」

「おーい、無視かよー」

「すいませんウルヴィー、貴方の働きにも感謝していますよ」

「なにその上から目線!いいと思ってるの?
 お前が遊んでた間に隠れている雑魚達掃除してたんだからね?
 格好良かったよあん時の俺!輝いてた!燦然シャンゼリオン!」

「狼のおじさんありがとう!」

「なんて言ってるの?」

「イケメンウルフマンかっこいいー!
 ですって」

「ふふふ、まあそう言われたら悪い気はしないな
 お前の上から目線も含めて許そう」





「ちょっとちょっとまってー!こ〜こでじゅううううううううだぁいはっぴょおおおおおおおだよおおおん!」





「え?」

「は?」

「きゃあ!」

 クラインが悲鳴をあげてブギーの後ろに隠れる。
 それもそのはず、最初にミノタウロスによって切られた男が内蔵を腹からはみ出させたまま大声で喋っているのだ。
 
「ひっさしぶりだねえブギーちゃあん!ウルヴィーくぅん!
 今日は君たちにハッピーなお知らせが有って来ちゃったぞぉ」
54 :ほいッスる ◆2PnxfuTa8. [saga ]:2012/03/26(月) 21:33:45.42 ID:EKup6GzM0
「……ガブリエルじゃねえか」

「ガブリエルさんですか……何があったのですか?」

「ブ、ブギーさん……あの人って?」

「ガブリエル、告知の悪魔です
 用事がある時は人間の身体に憑依してこうやって私達悪魔にそれを告げる
 とても高位のお方ですから粗相がないようにしてください」

「え、えっと」

「私の後ろでおとなしくしててくださいということです」

「ハッハー!畏まることはないよ!僕は誰の敵でも味方でもないからね!
 そしてブギーマン!君は思ってもない事を言わなくても良いんだぜ?
 僕は君の正体を知っているんだからさ!
 さーて雑談は此処でオシマイ、告知しちゃうよやっちゃうよ!
 まずはウルヴィー!おめでとう!君は百体の同族を狩ることに成功した!
 そこで君の階梯(ランク)はPracticus(プラクティカス:実践者)にまで上がったよ!」

「ハハッ、やっとブギーを追い越したぜ!」

「実力の割には階梯低いのは普段から真面目に人を脅かさないからだね!
 まあ不当ってほど低くはないから僕は文句言わないけどさ!」

「だって趣味じゃねえしさ!」

「知ったこっちゃあないぜ
 お前たち悪魔憑きに与えられた義務(ルール)は【欲する所を為せ】だけど
 課題(ワーク)は【恐怖と尊崇の対象になれ】なんだぜ!
 しかしそれもすぐに変わるけどね」

「なんですって?」

「そう、それが二人にとってハッピーなニュース
 “蝕”の時期が迫っている、次なる悪魔憑きの王が生まれる時期は近い
 具体的に言えば来月!
 皆で仲良くお祭り騒ぎしようぜええええええ!」

「……ほう、それは良い事を聞いた」

 ブギーは呟く。
 彼のある願いを叶えるためには“王の力”は必要だった。
 今回は駄目でも次回、次回が駄目でも次々回、そう考える彼としては今回決められるであろう悪魔憑きの王は強い興味の対象だった。
55 :ほいッスる ◆2PnxfuTa8. [saga ]:2012/03/26(月) 21:38:06.04 ID:EKup6GzM0
「今回の王の争いはどうなってたんだ?」

「候補者は二人、それ以上のことは残念ながら言えないんだ
 しかもまだ継続中だ、人知れず、悪魔知れずにね
 僕はぜーんぶ知ってるけど言わないよ!
 片方が優勢でほとんど勝負は決まってるんだけどね!
 そしてこれが最後のニュース
 ブギーくんがPracticus(プラクティカス:実践者)に昇格だよ!
 バチカンの使徒を十人狩ったから特別ボーナスだ!」

「おおおい!追いぬいたと思ったんだぞ!?」

「残念でしたね、腐れ縁はまだまだ続くようです」

「そんなにランクを上げたいなら君が王になってはどうかなウルフマン・ジャック
 “王の力”を手に入れれば君の望みは叶うよ?」

「悪くないがそんなチャンス有るのか?
 俺はたしかにバトルマニアだし王とガチれるなら悪くない話だが……」

「ふふふ、気になるならその内教えてあげるよ
 王の選定を終えた所で王にすぐなれるわけじゃないのは君たちだって……」

「妙ですね。ガブリエル、貴方は中立ではないのですか?」

「ヘヘッ、今回の王候補は我々の主の意向に逆らっている
 悪魔業界としてはそいつはちょぉっと困るんだよねえ」

「ふぅん……何やら今回の王の争いは様子を見て正解だったみたいですね
 色々と例外が多すぎる」

「そんなことやってると何時までもチャンスを逃すぜブギー
 ウルヴィーみたいに強気で攻めることも偶にはやってみると良い
 悪魔憑きを成長させる“王の力”は君も喉から手が出るほど欲しいはずだ」

「“王の力”は私の研究に欲しいですが“王の地位”は只の重荷だ
 地位だけだれかに押し付けたいくらいだ」

「なるほどねえ
 さてそろそろ時間だ、この身体は僕の神々しい魔力によって十秒以内にパーン☆ってなる
 そこの車に乗ってさっさと逃げるといいよ!」

「もっと早く言えよ!」

「良いから逃げますよ、二人とも早く乗って」

「ばっはは〜い」

 ブギーは何やらボタンを押しながらアクセルを踏み込む。
 爆音と共にジムニーは急発進する。
 
「何時からこのジムニーはボンドカーになったぁ!?」

「いっけえ!」

「怖いよお!」

 先ほど開いた扉の穴に向けて進むジムニー。
 後ろから聞こえる爆音。
 きしむ鉄柱、爆炎が車を包む。
 期せずして爆風が追い風となりさらに加速する。
 扉を抜けた直後、ブギーは素早くハンドルを回す。
 遅れて二度目の爆炎が穴から吹き出す。
 背後で轟音を立てて廃工場が崩れ落ちた。
 黒煙を背景に走り続けるジムニーの中でクラインが突然大声を出す。
56 :ほいッスる ◆2PnxfuTa8. [saga ]:2012/03/26(月) 21:38:38.43 ID:EKup6GzM0
「あ!」

「どうしたのですかクライン?」

「無い!無いんです!貰った宝石が!
 どうしようせっかくもらったのに……
 もしかしてあそこで落としちゃったんじゃ……」

「あーそれなら大丈夫ですよ」

「え?」

 一般道に出ると信号の前で車は止まる。
 カーン、と高音をあげて車に乳白色の宝石がぶつかり、ボンネットの上に転がる。

「先程の爆発でここまで吹き飛ばされてきましたから」

「そんな事あるんですか?」

「今その嬢ちゃんはなんて言ってるんだ?」

「そんなことあるんですか?だそうです」

「嬢ちゃん、そのイヴィルベリルは俺達悪魔憑きにとっては運命の石であり運命切り開く意思の象徴でもある
 だから決してその石から離れることはできないんだよ
 だからってブギーみたいに粗末に扱う奴はほとんど居ないけどな」

「ブギーさんジャックさんはなんて言っているんですか?」

「その石には不思議な力があるから無くしても心配しなくて良い
 だそうです」

「そうなんですか、教えてくれてありがとうございます」

「だそうですよ」

「いや分かんねえよ」

「教えてくれてありがとうジャックさん、だそうです」

「なるほどね」

 車内にしばし沈黙が広がる。

「しっかし……もう“蝕”の時期か」

 ウルヴィーが物憂げに窓の外を眺める。

「この際です、クラインには我々のことについて急いで教える必要が有りそうですね
 悪魔憑きの助手として働いてもらっている以上は知らないでは済まされないですし……」

「そうだな、それが良い」

「ひと月でどこまでできるやら……」

 二人がため息を吐いたのは同時だった。 
 
【ブギーマンは笑ってる 第四話「Sitting On The Dynamite」続】
57 :ほいッスる ◆2PnxfuTa8. [saga ]:2012/03/26(月) 21:53:03.53 ID:EKup6GzM0
さっさとこっち終わらせて弓使いの吸血鬼の話書くんだ……
最終回書きなおしまくりだからゆっくり投下してるんだけどね!
急展開過ぎてジャンプの打ち切りかよってレベル
でもまあ世界観の自由度をあげるには色々必要なわけで
58 : ◆NamCapMdYU [sage]:2012/03/26(月) 23:27:42.91 ID:w5SS3J0Qo
あっちの話に突っ込むと、>>1がもう少しKOOLになるといいよ。いや、割とギャグ抜きにね

自スレのでっかい投下が一段落ついたから、ネタにあった悪魔探す旅。頑張りますね〜っと
59 :ほいッスる ◆2PnxfuTa8. [saga ]:2012/03/27(火) 06:27:33.18 ID:KBELfOe60
精神汚染は平野耕太先生からラーニングしたスキルです
きのこ節はラーニングしようとしたら誤字がついてくる仕様上上手く行かなかった……
>>58
楽しみにしております
まあ書きため分投下の間は皆の準備期間だものね
という訳で本日の投下
60 :ほいッスる ◆2PnxfuTa8. [saga ]:2012/03/27(火) 06:29:07.10 ID:KBELfOe60
【ブギーマンは笑ってる 第五話「Hungry Spider」】

 ブギーは家に戻るとジャックにイヴィルベリルを預けて彫金師への依頼を頼んだ。
 彼はそれを請け負うとあっという間に出発した。
 午後からは急に天候が荒れ始め、あっという間に大雨になってしまった。
 ラジオでニュースを聞いたり地下室でまだクラインに世話を任せられない蟲の世話をしていたブギーは夜になるまでそのことに気づかなかったのだが。

「やれやれ……散々な日だった」

 自らの寝室で先ほどまで冷凍庫に入れていたウイスキーを飲みながらブギーはため息をつく。
 キンキンに冷えてとろみのついたウイスキーをこれまた表面が凍りつくほど冷えたグラスに入れて丸い氷を落としチビチビ呑むのが彼の好みである。
 実際、彼にとっては災難だった。
 やかましい旧友の訪問。
 無礼な新参悪魔憑きによる襲撃。
 告知の悪魔との邂逅。
 これだけ面倒な出来事が続けばさすがの彼も気が滅入る。

「はぁ……」

 ノックの音が響く。

「ブギーさん……いらっしゃいますか?」

「どうしたのですかクライン、何か話があるのでしたらお入りなさい」

「失礼します」

 扉が開く。
 中々賢く、礼儀作法もすぐに覚えたので、ブギーはクラインを気に入っていた。
 だからクラインの為にそこそこ立派な部屋を与え、クラインがそこで寝るようにしていた。

「どうしたんですかこんな夜中に?
 この家にはゴキブリも鼠も出ない筈ですが……
 育ち盛りですしお腹が減りでもしましたかね?」

「えっと、その、一緒に寝てもいいですか?」

「え?」

「一人で眠るのが怖いんです……雷がひどいし、朝あんなことがあったから」

 ブギーとしては断る理由はない。
 
「なるほど、では良いでしょう
 確かにこの家の防備は完璧とは言い難いみたいですし
 貴女が望むならば毎晩ここで寝ても良いですよ」

「え……良いんですか?」

「はい、ただ良いのですかね?男性の寝所に未婚の女性が訪れるというのはなんというか……」

「え?」

「……と思ったのですが私は今のところ女性だし貴女は子供ですからね
 まあそこらへんについても不問にしておきましょう」

 そういえばそうか、とブギーは思う。
 今自分の体が女性のものだからクラインも抵抗感が薄いのかもしれない。
 興奮を感づかれないのもこの際丁度いい。
61 :ほいッスる ◆2PnxfuTa8. [saga ]:2012/03/27(火) 06:30:29.40 ID:KBELfOe60
「ごめんなさい……」

「なぜ謝るのですか?
 特に貴女が悪くもないのに謝るべきではない
 むしろ私のところに来たのは賢い選択だ
 なぜ思いつかなかったのか、私こそ貴女に謝るべきだ」

 後ろめたい思いがあったから
 ブギーの中に子供に対する欲望があったからこそ
 クラインを寝室に置くことに対して抵抗があった。
 ソレは事実だ。
 生意気な女に対するサディスティックな趣味はあるが自分好みの子供を力で手篭めにするのは抵抗は無いし楽しむだろうが趣味ではない。
 悪魔憑きとしての本性が顕になる時を見れば解るように、エセ紳士なのだ。

「ご、ごめんなさい……」

「やれやれ話が通じませんね、まあ良い
 貴方には英語や英語での読み書き以外にも色々教える必要があることですし
 悪魔憑きのこととか、魔術とか」

「えっと……はい」

 この時点で彼自身もあまり理解できていなかったのだ。
 今彼のベッドの横で立ち尽くすパジャマ姿の子供の思う所など。
 
「失礼します」

 クラインがおずおずとブギーの隣で横になる。

「明かりはつけっぱなしなので眩しかったらそこにあるアイマスクでもして眠ってください
 音は立てないタイプなので耳栓は要らないと思いますが必要なら使うと良い
 特に今宵は貴方の言うとおり雷がうるさい」

「……はい」

 クラインはそっと手を伸ばし、ブギーの身体に触れる。
 ブギーの体温の低さにクラインは驚く。
62 :ほいッスる ◆2PnxfuTa8. [saga ]:2012/03/27(火) 06:31:03.55 ID:KBELfOe60
「驚きましたか?」

「えと、その……」

「私達悪魔憑きは半ば死人です
 だから体温が常人に比べて低い、サーモグラフィーなんかで見ればそれと解るくらいにはね」

「そうなんですか……」

「魔術でごまかしているものも居ますが私はそういう術はどうにも苦手でしてね
 寝る時には冷えて仕方ない
 だから湯たんぽの代わりには貴方は丁度いいかもしれませんね
 寝ている時にまで働かせるというのは少々酷ですが」

「私は……構いません」

「おや、そうなんですか?」

 寝ている間のことだからどうせ気にならない、程度の意味だろうとブギーは解釈した。

「ではありがたく使わせてもらいましょうか
 これはお酒ついでの話なので眠くなったら寝て結構なので聞いてください」

 グラスを左手に、クラインを右手に抱き寄せてブギーは話を続ける。

「我々悪魔憑きの多くは“人間ではたどり着けない願い”を叶える為に契約しました
 巨万の富、不老、強靭な肉体、幸運、憎い相手への復讐
 いずれも契約した者にとっては“人間のままでは叶えられぬ願い”
 そんな願いにイヴィルベリルが反応して契約の座へと素質有る人間を招くのです」

 クラインの息遣いが伝わる。
 子供だからこその暖かな熱も、大きな鼓動も。
 細い腕は強くつかめば骨まで折ってしまいそうだ。
 蟲を飼う地下室の淫靡で甘い香りがまだ残っている。
 危うい。
 ブギー自身の理性が。
 今此処でこの美しい花を散らせば彼女はどんな顔をするのだろう?
 親に売られ傷ついた心に見えた一筋の希望を断ち切れば彼女はどんな顔をするのだろう?
 倒錯的な妄想が彼の胸を埋める。
 悪魔以上に悪魔である自らしか頼れるものは居ない。
 自らに傷つけられてもその傷を愛情の証明と思い込み健気に生きるのだろうか?
 私の醜い欲望を愛情だと思い、彼女は私という悪魔を愛することで自らを保つのだろうか?
 自らが下衆であることは彼とて理解していた。
 しかしそんな妄想を止められないのは目の前のクラインが愛らしかったからだ。
 もしこの手で傷つければとても良い涙を流す。
 しかし理性がそれを押しとどめる。
63 :ほいッスる ◆2PnxfuTa8. [saga ]:2012/03/27(火) 06:31:38.81 ID:KBELfOe60
「何時になるかはわかりませんが魔術を教える時にはどのみち……」

「どうしたんですか?」

「なんでもありませんよ」

「ブギーさんは……」

「どうしました?」

「ブギーさんはどうして悪魔憑きになったのですか?」

「それを聞きますか」

 遠くを見つめるような目でグラスの氷を鳴らす。

「神様……神様になって人が皆幸せになる方法を見つけてみたかった」

 どす黒く渦巻く感情と裏腹にブギーが語るのは彼の中にあった最も綺麗な願い。
 どちらも対立しない真剣な欲求。
 強いアルコールが思考回路を揺さぶって、彼を普段より饒舌にさせている。

「私は人間だった頃、将来を嘱望される医師だった
 私はあの頃、多くの不幸な人間を将来この手で救えるつもりでいた
 だがある日気づいてしまった
 いくら努力しても、善くあろうとしても、自分が満たされないことに
 自らこそが最も救いから程遠い忌々しい最悪の人間であることに」

 いくら抑えようとしても抑えられぬ黒い欲望
 人の喜び、人の笑顔
 それも彼にとってはたしかに喜びだった。
 しかしそれと同時に
 人の嘆き、人の哀しみ
 それもまた彼の心を踊らせた
 苦痛を訴える女性の顔
 ミイラになった子供の遺体
 気づいてみればそれらすべてが彼にとっては単なる興味の対象に過ぎなかった。
 善も可し、悪もまた可し、どちらも愉悦とできる人格。
 そんなもの……紛う方無き最悪だ。

「……気づいてしまったんですよ、私が救いたかったのは私だったんだ」

 酒を呷る。
 善人が羨ましかった。
 悪行に顔をしかめていられるから。
 悪人が憎かった。
 楽しそうに他人を傷つけるから。
 どちらからも、仲間はずれ。
64 :ほいッスる ◆2PnxfuTa8. [saga ]:2012/03/27(火) 06:32:10.69 ID:KBELfOe60
「私は私という最悪の人間をも救う口実が欲しくて多くの人を救おうとしたのだ」

 そう言って酒を飲み干す。

「そして結局、私は人間で居ることに耐えられなくなった」

 人間を捨てるために大きな代償を払って化物になった。
 そしてなまじ才能があって、希少な蟲という属性を持った為に
 
「醜い化け物になり果ててしまった」

 自嘲気味に呟いて、ブギーはため息を吐いた。
 醜い化け物、否、それですらない。
 悪魔にもなりきれず、人にも戻れず、黄昏の夕景の内に無可有の郷を探す修羅。
 
「でもブギーさんは私を助けてくれました」

 小さな、でもはっきりした声でクラインは言う。

「そんな立派なものじゃありません
 貴方のお友達を見捨てたということです」

「それは……」

「何かを救うことは何かを捨てること
 何かを選ぶということは何かを選ばないということ
 こんな簡単なことに気づいていたのにそれでもそれを認められなかった
 だから私は……」

「なら私がブギーさんを助けます」

 子供ゆえの自らが選ばれたという陶酔感に酔っていたのかもしれない。
 もしくは自信の持ち主に対して媚びてみせただけかもしれない。
 狭い世界しか持たないゆえの無知な発言かもしれない。
 でもそれはクラインとしては真剣で歪な愛情表現だった。
 自身はその歪さには気付かないが。
65 :ほいッスる ◆2PnxfuTa8. [saga ]:2012/03/27(火) 06:32:38.31 ID:KBELfOe60
「ブギーさんは私を救ってくれた
 だからブギーさんを私は救いたい」

「……なるほどね、そこまで思ってるのですか」

「はい」

「ではゆっくりやるのはやめにしましょうか
 明日から本格的に貴女を助手として鍛え上げます
 文字通り何でもしてもらいますよ?」

「はい」

「本当になんでもする覚悟はあるのですか?」

「ブギーさんに命令されたなら私はなんでもします
 だって……」

 そう言ってブギーの方を見るクライン。

「ならば良い」

「え?」

「正直眠くなってきたのでね、お休みなさい」

 ブギーは既に寝息を立てて寝ていた。
 クラインは困ったような顔でブギーの顔を覗き込む。
 頬に触れてみる。
 酒のせいで少しは温かいがやはり温度は死体のそれに近い。
 クラインは思う。
 生まれてから自らが必要とされたことがなかった気がする。
 決して裕福ではない家に後から生まれ、口減らしのために売り飛ばされた子供だったクラインは、常に要らない子として扱われていた。
 クラインが居なくても世界は上手く回ったし、居ないほうが皆幸せそうだった。
 金を受け取りほくそ笑む両親の顔がクラインに初めて向けられた両親の笑顔だった。
 だから自分は自分を必要としているブギーマンを必要としている。
 自分を必要としてくれるなら自分は全てを彼に捧げられる。
 痛いことも、辛いことも、苦しいことも、恥ずかしいことも我慢できる。
 誰かのために役立って喜びを感じること、優しさや愛情を与えられること、それはすべてクラインにとって初めてのことだった。

「だって私には貴女しか居ないから、大好きだから」

 クラインはブギーを抱きしめる。
 冷たいけれど温かい。
 無用の地獄から自身を救い出した力強い意思と欲望の篭った腕。
 皮膚の下では得体のしれないものが蠢いているがそれすら愛おしかった。

「…………お休みなさい」

 明かりが消える。

【ブギーマンは笑ってる 第五話「Hungry Spider」 続】

66 :ほいッスる ◆2PnxfuTa8. [saga ]:2012/03/27(火) 06:35:50.76 ID:KBELfOe60
電車に乗り遅れる夢って何の暗示なのか……
さて、そろそろネタがなくなってきたので真面目な話
この話、タイトルが殆んど音楽関係です
全部調べると面白いかもしれません
全部で十六話なのですが展開に納得できずにこまこま直しているので当分ゆっくり投下させて頂きます
67 :ほいッスる ◆2PnxfuTa8. [saga ]:2012/03/28(水) 07:56:43.67 ID:M5E9iY+10
【ブギーマンは笑ってる 第六話「青空になる」】

「ブギーさん、朝ですよ?八時ですよ?」

 声がして目を覚ます。
 布団の中からする声。
 クラインが顔だけ出していた。

「…………ああ、もうそんな時間ですか
 蟲達に餌をあげておいてください
 増やさないと戦闘の時に面倒ですから」

 魔力で成長や繁殖を促成はできるが魔力だけでは育たない。
 ブギーの扱う蟲の数少ない弱点の一つだ。
 これが中々面倒な作業で、クラインだってそもそもその為の助手だった。
 彼の個人的な趣味がだいぶ混じっているが本来はそうだったのだ。
 実際クラインのおかげでこの一週間の間、ブギーは自らの身体を作る作業をスムーズに続けれられたわけで。

「はい、わかりました
 コーヒーも淹れておきますので起きたら飲んでくださいね?」

「ええ、それではお願いします
 しかし女性の体は面倒ですねえ……朝が
 まあもう別の身体を準備したのですがね
 この体もさっさとウルヴィーに渡してやらないと
 彼に彫金師への依頼も任せてしまったことですし……」

「でも私、好きですよその身体」

「貴女はこれしか知らないでしょう?
 イケメンな私の本来の姿を見たらもう一目惚れですよ?」

「はぁ……」

 あまり興味はないらしい。
 そそくさと寝室を出ていくクライン。
 ブギーが十分遅れて出ていくとそこには温かいコーヒーと目玉焼きとトーストが用意されてた。

「今日はこれだけですか?」

「いえ、こういうのも作ってみました」

 シーザーサラダである。
 絶妙な色彩の調和が食欲をそそる。
68 :ほいッスる ◆2PnxfuTa8. [saga ]:2012/03/28(水) 07:57:10.72 ID:M5E9iY+10
「これは素敵だ、それでは……ふふっ、貴女ともあろう人がうっかりしていましたね
 フォークとナイフを忘れるとは」

「いえ、これで大丈夫です」

 妙に自信に満ち溢れている。

「え?」

「あーん」

「あー……いやいやいやいやいや!?
 そこまで私奉仕を求めてないですよ!」

「……そうですか」

「何故少し憮然としてるのですか」

「……なんでもないです」

「ああ、そういうことか
 やれやれ……少しここに座りなさい」

 ブギーはクラインの椅子を自分の椅子のすぐそばに寄せる。
 クラインは言われるがままに座る。
 
「まあ貴女も子供ですしね
 気持ちは分からなくもない
 ほら、口を開けて?」

「ほーれふ(こーです)か?」
 
「あーん」

 ブギーはクラインの口の中にサラダを運ぶ。
 そういうことをされたいから、自分がそうしたのではないか。
 と、一応心理学について少し齧ったブギーは結論づけた。
 ――――しかし違う。
 とりあえずシャクシャクとサラダを食べるクライン。

「……何かが違う」

 そもそもメイドと主人の筈だ。
 なんで私はここまで可愛がってしまってるのだ!
 とブギーは自分に激しく疑問を抱く。

「――――やはり、貴女が私にあーんすべきです!」

 もはや全てがおかしい。

「最初からそうしようって言ったじゃないですか」

 幼い子供にあーんしてもらう。
 ロリコンでショタコンでマゾでサドでどうしようもない変態のブギーとしては望むところだ。
 文字通り据え膳。
 
「ええい主人に口答えするとはこの駄メイドめ!
 今日はお仕置きとして全部私にあーんしなさい!
 それが終わったら魔術の訓練です、わかりましたか?」

 お気づきだろうか?こいつわりと駄目なヤツだ。

「……はいっ!」

 ツッコミ不在だ。
 昨日の嵐が嘘みたいに空も笑う朝だった。

【ブギーマンは笑ってる 第六話「青空になる」続】
69 :ほいッスる ◆2PnxfuTa8. [saga ]:2012/03/28(水) 07:58:48.92 ID:M5E9iY+10
やばいな
書き直し間に合うかな
プロット組んで書けば良かったぜ
70 :ほいッスる ◆2PnxfuTa8. [saga ]:2012/03/28(水) 17:49:08.11 ID:M5E9iY+10
【ブギーマンは笑ってる 第七話「Magia」】

「部屋の掃除は終わらせてきましたか?」

「はい」

「言いつけた他の仕事は?」

「終わりました」

「何かやり残した家事はありませんか?」

「ありません」

 昼下がり。
 クラインはいつも通りのメイド服で、蜘蛛の糸に四肢を縛られてベッドに寝かされていた。
 ブギーは最近気に入り始めている修道服を着てクラインの裸体を舐めるように見つめている。

「それでは貴女にはこれから魔術の訓練を受けて頂きます」

 場所は暗い地下室。
 周りの水槽や籠の中では大量の蟲が蠢いている。

「……あの、ブギーさん……私はこれから一体何を……」

「何もする必要なんて有りません、貴女にこれからしてもらうのは私の魔力を身体になじませる作業
 簡単にいえば体液の交換です
 最初のこれさえ乗り切ってしまえば後は楽ですから」

 そういってブギーはクラインの胸に服の隙間から直に触れる。

「ただ……少し辛いので我慢してくださいね?」

「え、ひぎぃ!?」

 次の瞬間、クラインの胸の先端に焼きごてを押し付けられたような熱が走る。

「う……ゃあ!痛い!痛いです!やめて!」

 熱は次第に身体の奥深くへと潜っていき、未成熟な胸を強制的に刺激する。
 暴れようにも手足はギッチリと縛り付けられていて動かせない。
 ブギーが手を離すとクラインの胸の二つの頂点からは細長い虫がその尾を覗かせていた。
 虫は暴れながらもクラインの中へとじわりじわりと侵襲して行って神経を魔力回路に作り変える。
 
「な、なんですか!?なんか冷たいのが当たってる?
 虫?これって私が世話していた虫の……」

 暴れる尾がクラインの平らな胸に当たってペチペチと音を立てる。

「恐れることはありません、素直に受け入れなさい
 それが私そのものなのですから」

「怖いよブギーさん!やだ、助けて、なんッ……か変なのォ!」

 声に少しずつ甘いものが混じる。

「大丈夫ですよ、私が側に居るから」

 すすり泣くクライン。
 ブギーはその頬にそっと口付けをする。
 クラインは歯を食いしばって痛みに耐え始めた。
 それでも胸の虫がのたうつ度に小さく悲鳴が漏れる。
71 :ほいッスる ◆2PnxfuTa8. [saga ]:2012/03/28(水) 17:49:52.41 ID:M5E9iY+10
「ブギーさん……なんか胸が熱い」

 痛みから逃れるようにブギーを求めるクライン。
 ブギーもそれに応えるようにクラインを抱きしめている。
 その姿だけを見ればまるで聖母子像のようでさえあった。
 
「きゅい!?」

 その時、ブギーの指がクラインの胸をさする。
 するとクラインの胸の中にすっかり収まった虫が急に身をくねらせ始めて神経を刺激する。
 血液が痛いほど乳首に集まり今度はじわりとクラインの先端が熱を帯びる。

「どうしたんですか?」

「なんか、きゅうに身体がむずがゆくなって……」

「ふむ……」

 ブギーはクラインの上の馬乗りのようになる。
 クラインの服を破ってブギーはクラインの胸を大きく撫でさする。

「あっ、ふぁ……ひゅ、はっ、くぅっ……」

 クラインはそんな行為をを見たことがあった。
 売られていく途中に運の悪い少女の一人がされていた時は恐ろしく、嫌悪感しか感じなかった行為だった。
 しかし今は違う。
 理由はどうあれブギーはクラインを心から大切にしている。
 そして形はどうあれクラインもまた彼を自分を必要としてくれるかけがえの無い存在だと感じている。
 愛する人が触れているという事実だけで恐怖は薄らいでいた。
 うっすらと汗をかいてクラインは喘ぐ。
 全身からは力が抜けて、自分の上に乗るブギーにされるがままになっていた。
 その時、ブギーの手はクラインの胸を離れ、四肢をしばりつけていた糸が外される。
 熱を帯びた瞳がブギーを刺す。

「ブギーさん……あのね、身体が熱いの
 さっきみたいに痛い感じじゃなくて温かいっていうか……」

 ブギーはぶるりと身を震わせて唇と唇を重ね合わせる。
 唇のふわりとした柔らかな感触が互いに伝わる。
 それ自体が独立した別個の生き物のような熱くぬめる舌の動きがクラインの幼い口腔を陵辱した。
 しかしクラインはただそれに耐えるしか無い。
 ただクラインはもう唾液が自らに次々と流し込まれているのさえ幸福に感じていた。

「ほへ……は?」

 違和感。
 舌が増えている。
 いや、舌ではない。
 良く分からない肉塊がクラインの喉奥に滑りこみ始めている。
 甘い味がする。
 ブギーの唇が離れる。
 
72 :書き忘れてたけどエロ注意 ◆2PnxfuTa8. [saga ]:2012/03/28(水) 17:55:49.14 ID:M5E9iY+10
「それも虫です、潤滑液も流しこんだし喉に優しいタイプの物にしたのでご安心を
 飲み込んでしまいなさい」

 言われたとおりにクラインはそれを飲み込む。
 喉を無理矢理押し広げられる痛み。
 胃袋に入り込んだ感触がした。
 胃袋に入り込んだ瞬間、それが溶けてくすぐったい感触が全身に広がる。

「消化器官になじませる蟲です、恐らく痛みは無いでしょうけど痛いならすぐに言ってください」

 次の瞬間クラインは咳き込んで一匹だけ虫がベッドの上に転がり出る。
 ブギーはそれを拾い上げてクラインの口の中にゆっくりと挿し込む。
 クラインはブギーの指を赤ん坊のようにぺろりぺろりと舐めていた。
 そのままもう片方の手がクラインの下腹部に伸びる。

「……あれ?」

 足と足の隙間に手を差し込んだ時、ブギーは違和感を覚える。
 コリコリとした感覚。
 小さいながらも硬くなった一本の肉。

「え?」

「いえ、なんでもありません」

 ブギーはやっと気づいた。
 ああ、この子って男の子だったんだ。
 ていうか男の娘だったんだ。
 だからといって躊躇う彼ではない。
 むしろ自分が今女の体を持っている以上、普段はできないことをしたいとさえ思ってる。

「あの……私」

「構うことは無いですよ」

「でもその……できれば女の子として、扱ってほしいなあって」

「……え?」

「自分が男っていうのが嫌なんです」

「ふむ……そうですか」

 ブギーはクラインのスカートを捲り上げてパンツを下ろし、
 顕になった小さなクラインの分身を見つめる。
 
「や、やめてください恥ずかしいです!」

 その言葉を聞きながらブギーはパンツだけを脱ぐ。

「私とあなたの間に恥ずかしいことなど一つも有りません
 さあ、貴女の全てを私に捧げてもらいましょうか」

 酷く淫靡にブギーは笑う。
 彼女はベッドの上に立ち、自らの修道服のスカートを捲り上げてクラインに見せつける。
 大人の女性のものを見たことの無いクラインはそのグロテスクな形に怯えながらも本能的に心引かれるのかじっと見つめていた。
 淫らな汁がクラインの太腿に垂れる。
 少しずつ、少しずつ近づいてくる。
 
73 :書き忘れてたけどエロ注意 ◆2PnxfuTa8. [saga ]:2012/03/28(水) 17:57:39.06 ID:M5E9iY+10
「……さあ、力を抜きなさい」

 ゆっくりと腰を下ろしていくブギー。
 クラインの先端が彼の淫唇に触れた。
 血液という血液がそこに集まっているのだろう、とても熱い。
 ブギーはわざとそこで腰を止める。  

「私が欲しいですか?クライン」

「は、はい……」

「くくく、いけないメイドだ。それならしっかりとおねだりをしなくてはいけませんねえ?」

「えっ……」

「ほら、言ってごらんなさい?
 変態メイドは愛するご主人様で童貞卒業したいですって」

「え、う、……へ、へんた……あひぃい!」

 腰を一気に落とす。
 ブギーはまるでクラインが物であるかのように勢い良く腰を叩きつける。

「ほらほら、もっといい声で鳴いてみなさい
 気持ちいいんでしょう?」

 膣内で蠢く肉壁の感触にクラインは身体を大きく震わせて喘ぎ声をあげる。
 ぬるぬるしたひだが彼の陰茎をこすってはひき、こすってはひき、絶え間ない快楽の波が彼を包む。
 その間に、彼の尿道に一匹の虫が侵入する。
 
「うっ、痛っ……」

 ブギーは腰を押し付けて陰部から漏れ出る愛液をまるでマーキングのようにクラインに擦りこむ。
 激しくぶつかり合う肉と肉、そして液体の音。
 閉ざされた地下室で淫猥に残響し反響し共鳴する。
 虫はクラインの尿道にそのまま居残り、もうとっくに果てている筈の彼の陰茎を強烈に刺激して無理矢理勃起させる働きをしていた。
 針で刺したように痛い。
 その痛みにクラインは必死で耐える。
 何をしていなくても体中の精気が尿道に入った虫に吸い取られていく感覚がした。
 
「さーて、次はこうしましょう」

 ブギーはクラインの服をすべて脱がせて四つん這いにさせる。
 彼もまた服を脱いで一糸まとわぬ姿になって彼に後ろから抱きついた。
 背中に当たるやわらかな感触。
 首筋をブギーのザラリとした舌が這う。
 
「ひゃっ!?」

 クラインの首を横に向けて覆いかぶさるように再びキスをする。
 その間も陰核をクラインの滑らかな肌に押し付けてブギーは快楽を貪っていた。
 舌と舌を絡ませた濃厚なキス。
 お互いの唾液を混ぜあっては啜る淫らな交歓が劣情を高ぶらせてやまない。
 
「そろそろ準備は良いでしょうかね」

 ブギーは自らの膣に手を差し込むとその中から芋虫のような気持ち悪い蟲の頭を引きずりだす。
 愛液に濡れててらてらと光るそれは先端だけでも相当な大きさがうかがえた。
 
「ブギーさんそれはいったい……」

「言ったでしょう、貴女の全てを捧げなさいと
 それに貴女は女の子として扱われたいのでしょう?」

 ブギーは膣口をクラインの菊門に押し付ける。
 蟲は新たなる定住の場所を見つけてのそりのそりとその身体をひきずる。
 先端が彼の無垢な肛門を圧倒的サイズで蹂躙する。
 ムチッと音がした。
74 :書き忘れてたけどエロ注意 ◆2PnxfuTa8. [saga ]:2012/03/28(水) 17:58:19.33 ID:M5E9iY+10
「好きなだけそうやって扱ってあげますよ!」
  
「はぅっ!いぎいいいいいいいいいいいいいいいいいい!?」

 突然の刺激に慌ててクラインの穴は引き締まる。
 だが時はすでに遅い。

「あっ、中で……い゛ったいの、のに……
 暴れて……入ってくる、怖いよぉ……」

 メソメソと泣くクライン。
 だがそんなことに構わずにブギーは腰を叩きつける。
 悲鳴をあげて転げまわるクラインを腕力で抑えつけて淡々とピストン運動を開始する。
 さらさらとした液体が蟲を伝わって滴り落ちる。
 それでシーツは紅く染まっていた。

「痛いですか?」

 パンパンと勢い良く響く。

「は、はい……」

 締め付けは痛いくらいに蟲を圧迫している。
 蟲と感覚を共有するブギーにもそれは伝わってくる。
 ブギーはピストンを止めてクラインの子供らしい陰茎を握り締める。
 
「痛いくせにギンギンになっているじゃないですか
 いやらしい子供ですねえ」

「そ、それはブギーさんだから……」

「可愛いこと言ってくれるじゃないですか」

 今使っている蟲の体液には痛みを麻痺させる成分がある。
 また、腸内の老廃物を消化吸収することで順調にアナルセックスをする為の浣腸の役割をも果たしていた。
 ブギーのピストン運動ですでにだらしなくひろがったクラインの腸内を、ブギーの膣から這いでた蟲が進む。
 
「お腹がぎゅるぎゅるしてる……」

 だらしなく開いた穴と穴がピッタリとくっついている。
 それを離すと透明な粘液がツゥーっと糸を引いた。
 すでに倒れてしまったクラインはお腹を抑えて呻いていた。
 
「ねえブギーさ……!?」

 振り返ったクラインは驚く。
 先ほどまでブギーマンだった女性は虚ろな目でベッドに倒れていた。
 その女性の体の中から虫が這い出してきて近くの箱に入り込んでいく。
75 :書き忘れてたけどエロ注意 ◆2PnxfuTa8. [saga ]:2012/03/28(水) 18:00:52.51 ID:M5E9iY+10
「この姿に戻るのも久しいですね」

 箱を内側から男性が開けた。

「やっ、誰?」

「ブギーマン、今度は男性バージョンですよ
 貴方に蟲を任せていた間に準備した身体の試運転でもさせてもらおうかと思いまして」

 股間をギンギンにさせている碧眼金髪の男性。
 耽美的な表情に似合わない凶悪なモノを股間から生やしている。
 彼はクラインを軽々と持ち上げてベッドに仰向けに寝かせた。
 
「本当に、ブギーさん?」

「ええ」

 ニコリと微笑む。
 どんな姿でも笑顔だけは変わらない。
 そして自らの手でクラインの腕を拘束すると脇腹から出した蜘蛛の足でクラインの両足をあげる。
 丁度イチモツの先端にクラインの菊座が当たる。

「行きますよ……」

「でもまだ心の準備が……ああん!やんっ、みゅっ……っふぅ」

 ペニスをしっかりと立てたままブギーの愛を受け入れるクライン。
 先程からの蟲漬けですでにその身体は快感しか感じないようになっていた。
 心から嬉しそうに嬌声をあげてされるがままになっている。
 ピストンに合わせてヒクヒクと締めつける肛門の感触がブギーを責める。
 
「あんっ、ブギーさんの大きい!
 なんかっ!すごくっ!気持ちいいよ!
 なんか変だよ私、どうしよう怖い!」

「怖がることはありません、私を受け入れなさいクライン」

 蜘蛛の足がクラインの乳首をクチュクチュといじる。
 前進を襲う刺激にクラインは耐え切れずに身をくねらせ大声でヨガっていた。
 そのもぞもぞとした動きがまた刺激に変化を与え、ブギーをいやが上にも興奮させる。

「いきますよクライン、全部飲み干しなさい……!」 

 ブギーの熱い精液がクラインの腹に注がれる。

「きゃあああああああああああああああああああああ!」

 それと同時にクラインも絶叫し、力なく倒れてしまった。
 まだ精子の混ざらない透明な液体だけをペニスからチロチロと流しながらも虚ろな目で呻いている。
 ブギーはそんな彼につながったままのしかかり耳元で囁く。
76 :書き忘れてたけどエロ注意 ◆2PnxfuTa8. [saga ]:2012/03/28(水) 18:01:39.39 ID:M5E9iY+10
「どうでしたか?」

「気持ちよくて……訳がわからなくなっちゃいました」
 
「これだけ注がれたら男の子でも妊娠しちゃうかもしれませんねえ?」

「えっ……?」

「冗談ですよ」

「私は良いですよ、ブギーさんが私を女の子として扱ってくれるならそれで
 ブギーさんの子供だって……」

 ブギーが自分の中でまた硬くなっているのがクラインにはどうしようもなく幸せだった。
 肛門の熱い感覚に再び彼は神経を集中させ始めた。

【ブギーマンは笑ってる 第七話「Magia」続】
77 :書き忘れてたけどエロ注意 ◆2PnxfuTa8. [saga ]:2012/03/28(水) 18:07:17.30 ID:M5E9iY+10
「時代は男の娘だ!」
というテンションの赴くままに書いたらこれだよ
全力で書いてた俺を説得しに過去まで戻りたいよ
地の文ではブギーの心情描写の時以外彼女って使ってないんだぜ
これ絶対ドン引きされたわ
自分の名誉のために別に男の娘が好きとかそういうんじゃなくて純愛の蟲姦やろうとしただけなんだって言い訳しときます
こういうことやるから怒られるんだよ俺は……
78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/29(木) 08:37:36.88 ID:K7q5zOhB0
そのどうでもいい語りがすごく気持ち悪いってことに気付いたほうがいい。
79 : ◆2PnxfuTa8. [saga sage]:2012/03/29(木) 12:18:38.42 ID:KS3f81tB0
【ブギーマンは笑ってる 第八話「金色のカペラ」】

 ブギーは部屋の窓から月を眺めていた。
 クラインは既にすやすやと眠っている。
 ブギーはパソコンを開くとニュースサイトにアクセスして怪事件や異常気象などがないか調べる。
 悪魔憑きが動く時は往々にしてこのようなことが起きる事が多いのだ。
 そしてそれに合わせてエクソシスト等が動くので悪魔憑きの中にもこういった事件に警戒を払うものが居る。

「……ふぅん、何も無しか」

 時刻はまだ午前0時
 熱い月明かりが悪魔憑きの血を沸かす時間帯だ。

「少し、外の空気でも吸ってきますかね」

 前回の事件以降、ブギーは人払いの結界だけでなく防護結界や番犬代わりの使い魔を配備するようになっていた。
 それの性能を試す意味合い
 向かう先はホテルの屋上。
 かかっている鍵は魔術で簡単に外れた。
 見あげれば星空。
 天球の中心には満ちる月。
 彼は懐からトランプを取り出すとそれを空に向けて一枚ずつ投げつける。
 トランプは蜻蛉に変化して直線的な動きでそこら中を飛び回る。
 ブギーが指を弾くと好き勝手飛び回っていたソレは一瞬で隊列を組んで真っ直ぐに飛翔する。
 もう一度指を弾くとブギーの懐に向けて一列になって飛翔。
 トランプに変化して彼のポケットに収まった。
 次に彼は自分の持つ魔力を足元に転がるコンクリート片に丁寧に込める。
 コンクリート片は次第に足を伸ばし甲殻を手に入れ一匹の蜈蚣に変化する。
 ブギーが指を弾くとそれは小さな音を立てて爆発し、辺りに甘い香りをまき散らした。

「ふむ……」

 目をつぶってその場に座り瞑想を始める。
 しばらくしているとどこからか野生の虫達が集まってくる。
 それらは瞑想をするブギーの周りで互いに喰い合い殺し合いを始める。
 二時間ほどすると掌ほどの大きさの蜘蛛がブギーの目の前に居た。
 どうやらその虫が殺し合いの勝者らしい。

「……ほう」

 目を開けたブギーが小さく感嘆の声をあげる。
 彼はその蜘蛛をつかみとると胃袋の中にしまい込む。
 ブギーの持つ蟲の属性の魔力は“生命の集約”を得意とする。
 彼はこの生命の集約と生命のエネルギーに注目して体内に膨大な生命を貯めることで自らの存在を神の領域まで高め、最終的には世界の外側へと至ろうとしていた。
 今日もまた多くの命が彼の内側に取り込まれる。
 全てが終わると彼は部屋に帰っていった。 
 翌朝、クラインが目を覚ます。
 ブギーはソリティアを楽しんでいた。
80 : ◆2PnxfuTa8. [saga ]:2012/03/29(木) 12:19:27.58 ID:KS3f81tB0
「ブギーさん、今日は何処へ行くのですか?」

「今日はホテルで貴方の修行をしようかと思います」

「分かりました」

「体調は回復しましたか?」

「はい、もう元気です」

 思ったよりも早く馴染んだものだとブギーは驚く。

「心理的な拒絶が無いことが原因でしょうかね……」
 
 彼は小さな声でつぶやいた。

「では貴方にはまず虫の使役を練習してもらいましょうか」

「はい」

「まずは……そうですね、先日植えつけた卵が育っている筈ですから蝶を出してみてください」

「はい」

 クラインのスカートの下から白と黒の二匹の蝶が現れる。

「よく出来ましたね」

「えへへ……ほめられちゃった」

「でもほんとうに大事なのはこれからです
 気を緩めないでくださいよ」

「はーい」

 蝶はまるでそこに花でもあるかのようにクラインの周りをふらふらと飛び回る。

「そもそも人間の扱う魔術と悪魔憑きの扱う魔術は根本こそ同じですが意味合いは少々違います
 悪魔憑きの魔術は能力から派生したものであり、方向性が決められてます
 しかし人間の魔術は魔力を与えられた悪魔憑きの影響は有りますが訓練次第で様々な方向に伸ばせます
 たとえば今は貴方の魔術は虫を使っていますが訓練を積み重ねれば
 魔力を通す回路に蟲を使うだけでまったく別の属性の術を使うことも出来るでしょうね
 無論虫が嫌うような魔術は不可能ですけど」

「そうなんですか?」

「ええ、まずは基礎ができるようになってからですけどね
 という訳でまずは基礎から
 虫を操ってこのホテルの外から花の花粉をとってきなさい」

「花粉ですか?」

「ええ、微量で構いません
 ただし貴方はここから動いてはならない
 虫に花粉をとってこさせてこの部屋に戻ってこさせるのです」

 クラインは窓を開けて二匹の蝶を外へ出す。
 初めてにしては上手く蝶と魔力回路を結んで操っている様子だった。
 とはいえブギーのように片手間で操るというわけにもいかず目をつぶって一生懸命に集中している。
 
「さて、貴方が一生懸命に虫を操っている隣で私は悪魔憑きのことについて授業をさせてもらいましょうか」

「え、いまちょっと後にしてください!
 鳥が!私の虫が鳥に襲われてるんです!」

「それを上手く回避するのも含めて修行ですよ」

 ブギーマンはクスクスと笑う。
81 : ◆2PnxfuTa8. [saga ]:2012/03/29(木) 12:20:01.72 ID:KS3f81tB0
「さて、そもそも我々悪魔憑きには魔的属性(パターン)、術分類(カテゴリ)、能力(モーメント)というものがあります
 魔的属性(パターン)はそのままずばり魔力の持つ属性を表すもの
 悪魔憑きや魔術師の身体から出た魔力は空気中の魔力と反応して燃えたり突風になったり水になったり電気になったり凍ったりします
 魔力放出といって全身の回路から魔力を噴出させてこのような反応を起こす攻撃方法があります
 技巧としては工夫も何も無いですが量があればそこそこ強力なので覚えておきなさい
 術分類(カテゴリー)は術者の持つ技巧がどのようなものを根底に据えているかです
 人間であれば祖である悪魔憑きを
 悪魔憑きならば使える魔術の方向性を
 それぞれ示します
 人間は悪魔憑き無しで人間のまま魔術を使えませんし
 悪魔憑きは使える魔術の方向性がある程度限定されてしまってますからね
 最後に能力(モーメント)は魔的属性や術分類を踏まえた上でそれをどう使うかを示しています
 人間の魔術師には殆んど意味がない項目ですがまあ一番得意な術を示していると思ってください
 さてここまでで理解出来ないところはありますか?」

「ああん!食べられちゃったよぉ!」

「ハハッ、そもそもきいてなーい」

「ブギーさんこれ無理ですよ
 外は何故か鳥がウロウロしていますし」
 
「本当に無理だと思いますか?」

「え?」

「私が貴方に出した課題はなんでしたっけ」

「虫を使って花粉を取ってくること……」

「別に蝶を使えとはいってませんよ」

「――――!」

「……まあ蝶を使う方法もありますが、好きなようにしてください
 それができてから次の課題を始めることにしますから」

「はぁい」

 ブギーはパソコンを開いてメールボックスを覗く。
 ガブリエルちゃんより全世界の悪魔憑きの皆様へ、という題名のメールが来ていた。
 
「……正式に決まりましたか」

 メールに記されたのは日付と場所。
 ここに集まれ、ということだろう。
 添付された写真に今回決まった悪魔憑きの王の顔が写っていた。
 その面相にブギーは苦笑いをする。
 これだけ緩いセキュリティーでバチカン相手に祭りの会場に踏み込まれないのだろうか?
 と心配になるのだがガブリエルはこの方法を変えない。
 どれだけネットが好きなのかとブギーは毎回彼に頭を抱えている。
 突然スカイプの彼のIDに通話が来る。
 ウルヴィーからの着信だった。
82 : ◆2PnxfuTa8. [saga ]:2012/03/29(木) 12:21:14.16 ID:KS3f81tB0
「おいブギー……って男に戻ってやがる!
 あの女はどうした!」

「今は地下室で保存してますけど」

「言えよそういうの!」

「安心して下さい、まだ五体満足で生きていますから」

「ならば良い、待ってろ今から取りに行くから」

「ところで貴方のところにメールは?」

「ああああああああ!それそれ!それだよ!
 今度の王はなんだあれ!日本人、しかもガキじゃねえか!」

「ガキといっても元医師として言わせてもらえば彼女は十六から十八歳ほどですから……
 ガキというほどガキではないんじゃないですかねえ」

「関係ねえ!あんなガキが王だなんて俺は認めないぜ!

「じゃあどうするっていうんですか?」

「これからあの女取りに行くついでに聞かせてやる!
 お前も付き合え、俺達で王を倒して新しい王になってやろうぜ!」

「はぁ?まあ王を倒せば王になれるという話は聞きますが……」

「とりあえずすぐにそっち行くから待ってろ!」

 そう言ってウルヴィーは一方的に通話を切った。 

【ブギーマンは笑ってる 第八話「金色のカペラ」 続】
83 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/30(金) 01:19:36.64 ID:/gtP5Ro00
【夜は短し屠れよ乙女】

とある場所、とある街角、とある夜。
その静かな街は、夜の間だけ戦場へと変わる。
いつからそうだったのかは知らない。
少なくとも、自分が“それ”になってからは、夜のこの街は常に戦場だった。

……いや、それはきっと違う。
きっと私の行くところ全てが、戦場へと変わっているだけなのだろう。
そうでなければどうしてこう、散歩の度に奴らと出くわさなければならないのだ。
それが誰の思惑なのか、誰の仕業なのか。そんなことはさっぱり分からないけれど。

「……常在戦場。それはそれで上等かな」

肩にかかった長い髪、腰まで伸ばした黒髪を、ぱっとこの手で払って垂らす。
切れ目がちの瞳をぱっちり開いて、望む闇をぎろりと見据え。

「人生って名前の退屈しのぎ、これくらい楽しいほうがいい」

手前味噌だが、割と自慢のこの身体。髪も手足もすらっと長い。
身体つきも十分女らしいし、胸だって大きい。
ちょっとばかり背が高すぎるのが玉に瑕と、風の噂で聞いた気がする。

なんだか思考が逸れた気がする。
ぐっと握った手を離し。また握ってはまた離し。それを何度か繰り返す。
何かが近づいてくる、気配を感じる。問題は無い、迎え撃つ術はある。

「なんだって、まぁ。こんなことが楽しいんだろうね。私は」

くく、と小さな笑みが唇の端から零れた。
そう、楽しいのだ。楽しくて楽しくて仕方がない。
これから始まることが、互いの存在をかけた命の交錯、シンプルに言うなら殺し合いが。
力を技を、魂を尽くして生死の狭間で凌ぎあう。その愉悦が、それへの期待が、身体中に溢れている。

だから、闇の向こうから現れたそれを見つけた時、私は唇の端が吊り上るのを堪え切れなかった。
84 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/30(金) 01:20:34.89 ID:/gtP5Ro00
「おや、また君かい。生きていたとは嬉しいね」

闇の中から現れたのは、ロングコートを着た人影だった。
背は私よりも頭二つほども低い。要するに、まだ子供と言って差し支えないような背格好。

「前は不覚を取りましたが、今度はそうも行きませんよ」

「いやいや、全く。私も人気者だな、こんな何度も追いかけてきて貰えるだなんてね」

「っ!戯れるなっ!!」

声は声変わりした丁度くらいだろうか。
そんな少年の声。耳ざわりのいい感じの声だ。
名前も知らないこの男の子は、以前に一度、私が倒したはずの相手。
とどめは刺さなかったけれど、こんな短時間で再び戦えるようになるとは思わなかった。
もっとも、人外じみた回復力はお互い様、といったところなんだろう。

軽く腰を下ろした人影、コートの袖に隠れ気味のその手の中に、何か黒い物が生じた。
それを確認するや否や。私はすぐさま路地へと飛び込んだ。
その後を追って、すぐに響いた発砲音が二つ。

「相変わらず、街中で好き勝手ぶっ放してくれちゃってさぁっ」

回避は成功、と言いたいところだが、この程度でよけられるほど甘くもない。
放たれた銃弾は、その軌道を不可思議に捻じ曲げ路地へと飛び込んでくる。
あの少年の持つ力、それがどうやら銃弾の軌道を操るようなものであるらしい。
こんな便利な能力があるのなら、真っ向勝負などせずに狙撃銃でも持てばいいだろうに。

そんなことを考える間もなく、軌道を曲げた銃弾は私の元へと飛び込んでくる。
そして回避することも敵わず、二発の銃弾は私の腹部を貫いていた。
腹の中が焼けるように熱い。痛い。思わずそのまま倒れこんでしまいそうになるのを堪えた。

更に続けて発砲音。今度は四つ。

「再会を喜ぶ暇も与えてくれない訳?随分と乱暴じゃないかっ!」

ここに留まっていては蜂の巣だ。幸い足は撃たれていない。
それに、銃で撃たれたところでこの身体には、さほど効果はない。
……もちろん、痛いことは痛いのだが。
85 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/30(金) 01:21:22.57 ID:/gtP5Ro00
掌の上に魔力を集中させるイメージ。
そしてその魔力と自分を構成する一部分。それと大気中に存在する水分とを混ぜ合わせていく。
するとそこに生まれたものは、幾つかの水塊。

これが私の持つ力。何でも魔的属性とかなんとか言う奴では、『水』の属性なのだという。
そうして生まれた水塊を、迫り来る銃弾へと向けて撃ち放った。
放たれた水塊。いやむしろ水弾というべきそれは
銃弾に匹敵する速度と、鋼鉄に勝るとも劣らない硬度を持って、迫る銃弾を迎え撃つ。
そして、そのまま叩き落した。

「ん、よし。今日も調子は割と上々。そろそろ……打って出ようか」

しかし意外にこの魔術、魔力を多く使ってしまう。
それもそのはず、もとよりこの魔術は単なる水芸などではないのだから。

同じように掌の上に水弾を生み出し、ついに路地から打って出る。
人影は相変わらず、先ほどと同じ場所で銃を構えたまま立っている。
魔力を込めて放つ以上、そうそう立て続けに放つこともできないのだろう。
路地から飛び出した私に、すぐさま迎撃の弾丸は放たれることはなかった。

そこで今度はこちらからも水弾を放つ。
硬度と速度、そして高速回転を加えた水弾。ちょっとした鉄板くらいならあっさり貫く威力をもっている。
あの少年も銃弾の軌道操作ばかりでなく、銃弾そのものの強化もすればいいだろうに。
そうでなければ、人間じゃない手合いを相手にするには力不足だ。
腹にあいた二つの穴を、血も流れないそれを眺めてそんなことを考えたりもした。

それでも、そうそう簡単に当たってくれるほど相手も容易くない。
放った水弾はあえなくかわされ、奥の暗がりへと消えていく。

「今日はこの前とは違う。こいつで……っ!」

コートの中から取り出したのは、またしても何か黒いもの。
今度は随分と長い。うん、というかあれは。

「……しょっとがん?」

そんなもの、バイ○ハザードでしか見たことがない。
というか、本当にここは日本なのかと疑わしくなる。

「うわ、さ、流石にそれはまずいっ」

多分めちゃくちゃ痛い。流石に無事じゃ済まない。
とはいえ、もう仕込みは終わっている。
両手で抱えるようにして構えたショットガン。引き金を引けばそれで弾丸が放たれる。
その銃身を、闇の中から伸びた何かが叩き落した。
86 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/30(金) 01:22:46.48 ID:/gtP5Ro00
「な、っ。う、わぁぁぁっ?!」

そしてそのまま、その何かは少年の身体を絡め取っていく。
それは水。水が触手のような形をなして、少年の自由を奪った。
これが私の本当の魔術。自分の魔力を込めた水を混ぜ込むことで、それよりもずっと多くの液体を操ることができる。
術分類で言えば支配。能力で言えば液体操作、といったところだろうか。

「まったく、子供が持っていい玩具じゃないだろうに。こんなもの」

四肢を水の触手に絡み取られ、身動きの取れない少年をよそに。
私はゆっくりと、悠然と歩き。取り落とされたショットガンを拾い上げた。
結構重い。

「持って帰ろうかな、と思ったけど。流石に置いておく場所ないかな」

片手で構えてみる。次は両手で。
狙いをつけるようにしてみたけど、ショットガンじゃあそんな必要も無いか。
あ、少年が何か凄い目つきで私を見てる。
日本人じゃないのだろう、その顔つきは普通に可愛い。

「でーも、折角持ってきてくれたんだし、試しに撃ってみようかな」

銃口をふらふらと揺らして、少年の額に押し付けてみた。

「く……っ、う、撃つなら、撃てよぉっ」

格好いいこと言うじゃないか。

「じゃあ遠慮なく」

引き金に指をかけた。

「ひ……っ」

死の恐怖に怯える声。
ぎゅっと閉ざされた瞳。そっちのケは無いはずだが、随分とこう、そそられるじゃないか。
叫び声も聞いてみよう。
額から銃口を外して、そのままショットガンを放り投げた。
地面に落ちる重い物。その音と同時に。

ボキリと、なにやら鈍い音がして。
少年の足に、関節が一つ増えていた。

「っっっぃ、っぎぁぁぁああぁっ!!?」

ああ、いい声だ。
もっと聞きたい。次は腕にしよう。
87 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/30(金) 01:23:26.02 ID:/gtP5Ro00
ボキリ。


「ひぐっ、ぁぎ、ぁぁぁあぁあっ!!」


      グシャ。


    「や、やぁぁっ!ぎぃぃぃいいっ?!!」


              ブチリ


         「―――っ!?ぁぁ――っ。ぎぃ」




気がつくと、手足にそれぞれ三つくらいずつ関節を増やした少年が、泡を吹いてぶっ倒れていた。
拘束はとっくに解かれていたが、流石に動けないようだ。
多分、生きてるだろ。

「ああ、楽しくてちょっとやりすぎちゃったかな。これだけ五月蝿くしたんだ、誰か来てもおかしくないね。
 うん、そろそろ帰ろう。今日の散歩も楽しかったな」

少年に背を向けて、私は夜の闇へと歩き出していく。
今夜も、楽しい散歩だった。これだから、夜遊びはやめられない。


私が名乗るこの名前。昼の名前は朱峰 流(あかみね ながれ)。
夜の名前はまだ決めていない。目下考え中。
歳は17、高校二年。何より好きなことは……夜遊び。
88 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/30(金) 01:24:24.25 ID:/gtP5Ro00
とりあえず思いついたから書いてみたけれど、こんなのでもいいのかな。
短編か気が向いたら続き、もしくは別の子で話しを続ける……かも。
89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2012/03/30(金) 03:17:42.83 ID:azF36Gei0
乙です。
90 : ◆2PnxfuTa8. [saga]:2012/03/30(金) 07:19:44.62 ID:kkKQA7J30
乙でした
現代日本の宵闇に潜む魔との戦い書きたくなって来ました
91 : ◆2PnxfuTa8. [saga]:2012/03/30(金) 07:22:39.66 ID:kkKQA7J30
【ブギーマンは笑ってる 第九話「スリーピング・ビューティー」】

「とりあえず新しい王は日本の女子高生
 妲姫と名乗っていることは解った」

 それからきっかり一時間後
 ウルヴィーはブギーの家を訪ねてきた。

「九尾の狐の悪魔憑きですか
 炎属性の相手なら私はパスしたいんですが……」

「まあ待て待て!お前にとっても悪い話じゃあ無いんだよ
 その妲姫には同い年の魔術師の付き人が居る」

「魔術師?」

「おう、古い家の魔術師だ
 確か名前は【九曜朔夜】、九曜一族の娘だった筈だ
 奴ら中々姿を表さないしお前のあのなんだっけ?
 世界の外に至る研究だっけ?
 あれを進める為の実験体として丁度良いんじゃないか?」

「リスキー過ぎますよ、私はそういったリスクを犯さないことにしていますから
 貴方と私の二人だけで王に選ばれた悪魔憑きに勝てるとは思えませんね」

「ところがどっこい、俺達二人だけじゃないんだ
 既に奴らと争ったことのある勢力の残党を誘っている」

「残党集めて襲撃なんて悪役すぎますよ
 勝てる雰囲気がしません
 面白く無いですし」

「……だろうなあ、お前って世の為人の為を謳う割には自分本位だし
 でもあの妲姫を名乗る悪魔憑きはかなりやばいんだぜ?」

「人を助けるのは気分がいいし面白いですし自らの鍛錬の証明にもなりますから
 で、そのやばいとはどういうことです?」

「俺は一度極東に遊びに行った時に少しやりあうことになってよ
 ぶっちゃけ負けた」

「おい」

「あんなガキに負けたってのが我慢ならん!
 俺は絶対に戦うぞ!
 つーかあいつがやばいってのは何も力の問題だけじゃない
 思想も問題なんだよ」

「はぁ」

「そいつは昔、俺をボコボコにしておいて笑顔で
 【お友達になりましょう】とか【喧嘩はいけません】とか言うんだぜ?
 あんな奴が王になったら悪魔憑き業界全体のピンチだよ!
 悪魔憑きだって人間だ、誰もが仲良しこよしでなんてやっていけるわけない
 しかも今まで【汝欲するところを為せ】でやってきた悪魔憑きがそんなのに素直に従う訳がねえ!
 どうせ負けても殺されねえしやるだけやってみようぜ?」

「んなこと言ってるヤツから死ぬんですよ」

「…………チェッ」

 つまらなさそうに舌打ちするウルヴィー。
92 : ◆2PnxfuTa8. [saga]:2012/03/30(金) 11:45:49.56 ID:kkKQA7J30

「…………さて、そろそろ本音で話したらどうです?
 ウルフマン・ジャック、貴方みたいな正義の味方がそんな馬鹿なことをする理由」

 ウルヴィーはつまらなさそうにため息をつく。

「馬鹿野郎、俺は正義の味方なんかじゃねえよ
 ただ無駄な犠牲を減らしたいのと……俺は強い奴には敬意を払うってだけだ
 あの娘は俺より強い、だから俺はヤツの言うことを聞く」

「なるほど、それで貴方の言う小娘の手先として働いているって訳ですか」

「まあそうなる
 知っての通り俺はガチの戦闘なら絶対に負けねえ
 魔的属性(パターン)“金”、術分類(カテゴリー)“強化”、能力(モーメント)“内燃機関”
 狼男の悪魔憑きの運動能力と治癒再生能力に加えて地上に存在しない金属のの爪で何でも切り裂ける
 霊体だろうがなんだろうが何でも来いさ
 そんな俺が反乱の長となって、昔なじみで聖職者狩りとして有名なお前も誘って無防備な王に攻撃を仕掛ける
 王に不満を抱くヤツも乗る筈だ、その場の勢いでな
 なんせガブリエルの話では王の首さえ手に入れれば誰でも王になれるらしいしよ」

「その場で調子に乗った反乱分子を皆殺し、王の力も示してめでたしめでたしと」

「ああ、そうだな。じゃあ乗ってくれるかい?」

「良いですよ、勝ち馬には乗る主義です」

「さんきゅー、それじゃあ妙なことはするなよ、絶対するなよ!
 分け前は弾むから絶対だぞ!」

「分かってますよ、私とあなたの仲じゃないですか
 私も試そうとしてたのは腹が立たなくも無いですがまあ忘れます」

「なら良い、ところであの女は?
 お前が倒した教会の娘、ちゃんと五体満足で残しておいてくれたんだろうな?」

「勿論、少しハードに使ってしまいましたが問題ない筈ですよ
 地下室で眠っておいてもらってますから今から引き渡しましょう」

「なら良い、ところであのお嬢ちゃんは?」

「今は蟲を操る練習中です
 筋は悪くないですが“蝕”までには間に合いませんね
 “蝕”の後を見据えて基礎から丁寧にやってます」

「そいつは重畳」

 二人は地下室まで降りていく。
 ブギーが一番奥に置いてある木の箱を開けると修道服を着た女性が眠っていた。

「これで良いですか?虫は抜いておきました」

「最高だぜ、病気になっちゃかなわねえからな」

「やれやれ訳のわからない人だ」

「お互い様だろうがよ、俺だってお前の言う世界の外ってのがよく分からないよ」

 ブギーはため息を吐いてウルヴィーに箱を渡す。
 機嫌良さげに彼は箱を車に乗せて帰っていった。

【ブギーマンは笑ってる 第九話「スリーピング・ビューティー」 続】
93 : ◆2PnxfuTa8. [saga]:2012/03/30(金) 22:55:07.72 ID:kkKQA7J30
【ブギーマンは笑ってる 第十話「ウルヴァリン」】

 ダンベルやベンチプレスなどのトレーニング機器とプロテインだらけの部屋。
 その部屋の中央の床の上で一人の女性が眠っていた。
 先日ブギーマンの悪魔憑き“ウギー・ブギー”に倒されたバチカンの武装修道女
 名前はアリア・マーガレットという。

「……おい」

 ウルヴィーはアリアの頬をペチペチと叩いて起こそうと試みる。
 
「おーい、起きろー!」

 ペチペチ

「おーきーろー!」

 ペチペチペチペチ
 その時、女性のまぶたが開く。

「きゃあっ!?」

 女性は驚いて後ろに後退るがバーベルに躓いて転ぶ。

「待て待て待て、別にとって食おうって訳じゃねえんだ
 むしろ助けてやったんだから感謝くらいしてほしいもんだ」

「や、やめて!来ないで!来ないでください!」

「あらら、ブギーのやつによっぽど怖い目に合わされたらしいな
 まあ落ち着いて俺の話を聞けよ」

 ウルヴィーの話も聞かずに彼女は走りだす。
 が、彼は跳躍して天井を走り先回りして彼女の眼の前に立つ。

「だから……話を聞けってば」

 爪を喉元に突きつける。
 アリアは動けない。
 動けなくて、何もできなくなり、最後には泣いた。
 大声で泣いた。
 その場にへたり込んでまるで子供みたいに泣いた。

「……どうすりゃいいんだこれ」

 アリアは未だに泣き続けてる。

「おいシスター聞け!俺はお前の敵じゃねえ
 とりあえずあんたが可哀想だったから助けてやったんだ
 そこだけはとりあえず理解しろ!」

 大声がよくなかったのか更に激しく泣いている。
94 : ◆2PnxfuTa8. [saga]:2012/03/30(金) 22:55:36.00 ID:kkKQA7J30
「落ち着け、思いだせ俺、たしかこういう時は……」

 元医師であるブギーから聞いたパニックを起こしている人間の落ち着かせ方を思い出すウルヴィー。

「殺してください!悪魔に情けをかけられるくらいなら死んだほうがマシです!」

 しかしこの言葉を聞いた瞬間にそれらが吹っ飛んだ。

「はあ!?せっかく助けてやったんだぞこのやろう!?
 なのに殺せだと?」

 いっそ殺せ、その言葉にウルヴィーは強く反応する。

「悪魔に返り討ちにされて、しかも身体まで乗っ取られて、その上情けで生かされているなど耐えられません!」

 涙混じりで喚くアリア。
 背こそ高くて大人びているが彼女もまだ若い。
 あんな目に遭わされてまだ一応自我を保っているだけでもおどろくべきことなのだ。
 ポン、と彼女の肩に両手を置くウルヴィー。
95 : ◆2PnxfuTa8. [saga]:2012/03/30(金) 22:57:01.49 ID:kkKQA7J30
「ひっ!」

 恐怖で振るえるアリア。
 ウルヴィーは気持ちを落ち着けてゆっくりと語りかける。

「良いかお嬢ちゃんよ、死んだらオシマイだ
 死んだ人間を神様は救わねえ」

「で、でも神父様が!」

「そりゃああれだよ、そう言っておけば救われた気分になるからだよ
 ありゃあ気持よく日々を生きるための方便だ
 死んだらなーんにもねえ」

「それでもマシです!私を助けるといっておいて苦しめるつもりなのでしょう?
 本当に助けるなら私を殺してください!」

「カーッ!若いねえ、純粋だねえ、困るぜまったくよぉ
 良いかお嬢ちゃん、確かにあんたは上司からの命令でとんでもない奴に手を出してボコボコにされた
 身も心も傷ついただろうさ
 俺だって昔あいつとやりあったことがあったがひどい目にあったもんだ
 でもな、生きていればいいことは有る
 例えば今日は晴天、空が綺麗だ。
 これを見ればまず一つ幸せだろう?
 例えば明日は日曜日、ゆっくり眠れる
 また一つ幸せだ
 こうやって地道に幸せを積み重ねていくことでしか不幸に人間は耐えられないんだ
 不幸も苦痛も忘れられはしない
 でも幸福になれば少しは気持ちも癒える
 お嬢ちゃんもこれから幸せを積み重ねていけば良いじゃねえか?」

 彼はそう言って彼女を腹筋用のベンチに座らせる。
 ウルヴィーの長い話の間に彼女の気持ちは落ち着いていったらしく、彼女はポツリポツリと話し始める。
96 : ◆2PnxfuTa8. [saga]:2012/03/30(金) 22:58:04.56 ID:kkKQA7J30
「……あの男は、私の幼馴染を殺したんです」

「は?」

「ウギー・ブギーは先月のローマにおける聖職者大量殺人事件の主犯です
 被害者の中には私の幼馴染や親代わりになってくれた人々も含まれていた」

「ああ……あの事件か」

「ですから私は無断であの男を殺しに来たんです
 サポート役の方の中にも同じ境遇の人が居たので手伝ってもらってました」

「無断で自分より強い相手にかかって行って捕まった
 そんな奴を教皇庁が許しておくとは思えないな
 あんたを手伝ったサポートのやつだって今頃どうなってるやら」

「…………」

「それに、あの聖職者大量殺人事件で殺された連中
 奴らが何をしようとしていたか知っているか?」

「え?」

「ヨーロッパにはいくつもの魔女やその子孫が住む街がある
 あの事件で殺された奴らはその街に毒ガスを撒く予定だったんだよ
 事故に見せかけてな、一般人もだいぶ死ぬってのに」

「そんなの!嘘に決まってます!」

「まあ信じるか信じないかはあんた次第だ
 でもあんただって魔女狩りはしたこと有るはずだ」

「それは当然です!」

「その時、魔女だけでなくその子供だって殺したろう?」

「悪魔の子供を殺して何が悪いというのですか!」

「悪いとは言わねえ、俺はな
 あんたら自称神様の下僕、俺達自称悪魔、殺しあうのくらい当たり前だ
 負けたら殺され奪われ犯される、ったりめえだよ仕方ねえ
 でもあいつは違う
 あいつはその残酷に耐えられない
 耐えられないからその残酷な現実を楽しんでいると思い込む
 耐えられないからあんたを手放した」

「―――――馬鹿な!?悪魔にそんな考えがあるわけ無い」

「それは間違いだ、嬢ちゃんが何を吹きこまれてたかは知らんが俺達は元々人間だ
 思考パターンも人間と同じで様々な者がいる
 十把一絡げにはまとめられないんだよ」

 ウルヴィーは懐から葉巻を取り出して一服する。
 
97 : ◆2PnxfuTa8. [saga]:2012/03/30(金) 22:59:35.27 ID:kkKQA7J30
「俺がまだ人間だった時の話だ
 俺はガキの頃から少林拳ってのをやってきた
 親父の仕事の都合で中国に住んでいたから地元のガキに混じって一生懸命練習をした
 身体がでけえからかそもそも向いてたからか知らんがすげえ上達して師匠に偉く気に入られたんだ
 上級生のいじめっ子から友達守ってみたりなんかもして、人を守る武の道に生きがい見出したりしちゃって
 大人になってからはそのまま拳法の先生として地元で道場なんか開いちゃったりして
 それである日弟子がボコボコにされたのが原因でちょいと近くの道場主と揉めてな
 古い時代だったから決闘なんてのもまだ残っていてそいつと俺はやりあった
 無論俺の勝ち、瞬殺だったね
 だがその道場主の家族が俺を恨んでよ、銃で俺の家族をみぃんな殺しちまった
 守ることに喜びを感じていた俺は一番大事な物を守れなかったんだな
 俺も撃たれて、その時に親父が俺に土産物としてくれたイヴィルベリルが俺の血に反応
 狼男と契約して、その場で全員八つ裂きにして……俺は全てを捨てて旅に出た
 そうだな、あんたを助けたのもその頃の感情が残ってるからかもしれねえわ」

「…………そんな、それが本当なら私の聞いてたことは…………」

「分かってくれたか?悪魔憑きにもこういう人間くせえのが居るのさ
 不幸だなんて思うなよ?同情されるのは好きじゃねえ
 旅していく中でダチができたり目標が見つかったりしたし
 悪いやつに苦しめられる善良な小市民を助けられたからそれで良いんだ」

「それで、私はどうすればいいんですか」

「ん?」

「私は孤児ですし、もう行く宛もありません
 今バチカンに戻れば処刑は免れないでしょう
 助けたっていうのは分かりましたけど助けてもらった所で……」

「ああ、それな
 お嬢ちゃん、あんたはまだ若い
 世界を旅して見聞を広める気は無いか?
 あんたの目や耳で受け取った事実から自分なりに考え方を深めていけば良い」

「旅……?」

「差し当っては日本を勧めよう、あそこは教会の勢力も余り及んでないし
 もし追手が差し向けられても嬢ちゃんならなんとかできるだろうさ
 あんな東の果てに教会もわざわざ戦力を割きたくない筈だ」

「はぁ……」

「今日明日の内にこの国を離れて日本へ向かうと良い
 もうすぐ俺達悪魔憑きのパーティーが始まるからな
 教会の奴らも大挙して押し寄せてくる可能性がある
 今のあんたは両方から狙われる身分なんだから自分の身体は大切にしな」

 ウルヴィーは引き出しからトンファーと短い棒のようなものを取り出してアリアに渡す。
98 : ◆2PnxfuTa8. [saga]:2012/03/30(金) 23:00:18.66 ID:kkKQA7J30
「これは餞別
 俺が人間だった頃に使っていたもんだ」

 ウルヴィーが棒を振るとあっという間にそれは槍になる。

「こっちの槍も中々悪くないが……まあ気分で使い分けてくれ」

 リュックにその二つを入れてウルヴィーはアリアに渡す。
 
「着替えと明日の日付の航空券も一応入れておいた
 とりあえず生きろ
 生きて……できれば目の前で苦しむ人を助けてやれ
 あんたの上司は咎めてもあんたの神はそれをお喜びになるだろうよ」

「……何故私にここまで?」

「正義の味方の真似事さ」

「……お礼は言いませんよ」

 リュックを受け取って背負い、アリアは立ち上がる。

「構わん、自己満足だからな」

 ウルヴィーは彼女の為に道を開ける。

「……お礼は、私が自分の道を見つけた時にでもさせて頂きます
 その時には生きてお礼を言いに来ます」

「何、世界は狭い、生きていれば会うこともあるさ
 バスを使えば空港まではすぐだ」

 アリアは振り返ることなくその部屋を出る。
 ウルヴィーも彼女の方向を見ることなく手を振る。

「……さて、あの爺さんのところにアクセサリーを取りに行くか」

 友人から頼まれていたアクセサリーの受け取りを思い出して、
 彼は愛車のランボルギーニの入っている車庫に向かった。

【ブギーマンは笑ってる 第十話「ウルヴァリン」 続】
99 : ◆2PnxfuTa8. [saga]:2012/03/30(金) 23:01:02.28 ID:kkKQA7J30
【ブギーマンは笑ってる 第十一話「男同士のイチャイチャとか作者の性癖的に限界が来ているから誰か助けて」】

「さて、これでどうでしょうか?」

 蝶を模した銀の髪飾りがクラインの髪に添えられる。
 中央には乳白色の宝石が輝いている。
 依頼をしていたアクセサリーが完成して、ブギーはそれをクラインに装着しているところだった。

「……似合いますか?」

「ええ、とっても」

 クラインは髪飾りになったイヴィルベリルをつけてドレスで着飾っていた。
 
「……嬉しい」

 クラインはボソリと呟いて顔を赤らめる。

「場所が場所ですからね、服装にも気を付けないと」

 ブギーはそんなクラインの様子に気づかない。
 自分のタキシードについていたホコリを落としている。

「さて、そろそろ迎えも来ることでしょうから下で待っていましょうか」

 そう言うと同時にクラクションが鳴る。
 ランボルギーニカウンタックに乗った大男が家の前に居る。

「さっさとしろよブギー!」

「分かってます、今準備が出来ました!」

 あわただしく二人は一階まで降りてくる。
 それぞれ旅行用のカバンをカウンタックの後ろに無理やり詰めるとブギーは助手席にクラインは客席に座る。

「よし、それじゃあ出発と行きますか」

「ええ、願わくば快適な旅であることを」

 その願いどおり旅は順調だった。
 カナダを北へ北へと進みとある港町へ
 そこからは船で北上して向かうは北極付近の地図にない森
 生身の人間ではとても近寄れないその森の中は殆んど日が差さないがそれでも少しばかりは日照時間がある。
 しかしその僅かな日照時間の間に起きる日蝕の時、異界への門が開くのだ。
 そこは“悪魔”が住む“世界の外側”とこの世界の間に存在する“幽世”
 祭りの舞台である。
100 : ◆2PnxfuTa8. [saga]:2012/03/30(金) 23:03:13.41 ID:kkKQA7J30
「……着いたぜ」

 あるものは馬
 あるものは自らの足
 酔狂な悪魔憑きはウルヴィーのように車やバイクを改造してやってきている
 立ち並ぶ屋敷と様々な商店
 祭りの期間だけはこの幽世も賑やかとなる。

「あれ?もうですか?」
 
 とある屋敷の前で車は止まる。
 眠そうなまぶたをこすりブギーはあくびをする。
 クラインは珍しい風景に目を輝かせていた。
 コンコン、車のドアをノックする音。

「ジャックおじ様、お待ちしておりましたわ」

「よう、九曜か。…………ふぅん、人間のくせにまた強くなったな
 昔より更に良い魔力じゃあねえか」

「おじ様、私実家とは縁を切った身の上ですので朔夜とお呼びくださいませ」

 黒い帽子に長いローブ
 まさに魔女といった風体の少女がいつの間にか車の側に立っていた。

「私は魔術師、朔夜と名乗らせていただいています
 妲姫様からの使いとしてあなた達をお迎えに上がりました」

 ブギーは曖昧な笑顔を帰す。

「それは良いがこの屋敷、駐車場はあるかい?」

「ええ、ご案内致しますわ
 この場所は人払いがされているので基本的に監視や尾行の心配はありませんから楽になさってください」

 愛想良さげな表情で朔夜は屋敷の門を開けてブギー達の乗る車を導いた。

【ブギーマンは笑ってる 第十一話「男同士のイチャイチャとか作者の性癖的に限界が来ているから誰か助けて」】

101 : ◆2PnxfuTa8. [saga]:2012/03/31(土) 08:30:28.47 ID:dv88x3wq0
【ブギーマンは笑ってる 第十二話「円卓」】

「それではこちらでございます」

 車を駐車場に停めた後、三人は屋敷の中に通される。
 そこかしこに鎮座する水晶や大理石の彫刻
 筋骨逞しく今にも駆け出しそうな馬の群れや
 羊の頭に蝙蝠の翼を持つ悪魔
 そして伸びをする猫までもが居る
 今にも動き出しそうで、それこそ生きたまま宝石にされたような風だった。

「妲姫、連れてきたわよ」

 屋敷の奥にある大きな部屋。
 妲姫は大きな円卓の前に座っていた。
 丁寧に結われた長い黒髪、黒曜石をはめ込んだようにつぶらな瞳と石英のような白い肌。
 唇は赤く輝き、ニコリと笑った時に見える歯は白く輝いていた。
 椅子から立ち上がると小柄ながらもメリハリのあるボディラインが明らかになる。
 着ている豪華な白のドレスは所々に狐と太極の意匠をあしらっているのが彼女に良く似合う。
 ガラスの靴から惜しげもなく晒される足は良く手入れされているらしく美しいの一言以外に無い。
 
「あらありがとう朔夜ちゃん、お久しぶりですわジャックさん
 そして初めまして聖職者狩りのブギーさんと……」

「この子はクライン、私の助手です」

「ありがとうございますブギーさん
 初めましてクラインちゃん
 私の名前は妲姫、九尾の悪魔憑きでございます
 今回悪魔憑きの王の座を継承することになりましたが未だに力不足ですのでこうして皆様にお手伝いしに来て頂いたところです」

「王の御力になれるのならば光栄というものです」

「そうだぜ妲姫、お前は俺より強いんだからもっと堂々としていろ」

「先輩方にそういって頂けるなんてこちらこそ光栄ですわ
 ……さて、本題に入りましょうか
 朔夜ちゃん、例のものを持ってきて」

「笑点じゃないんだから……もう持ってきているわ
 はい、呪い避けのアミュレット」

 そう言って朔夜はどこから取り出したのか小さな木箱を差し出す。

「ありがとう、朔夜ちゃんはいつも気が利くよね」

 朔夜の手を握って微笑む妲姫。
 朔夜の表情が一瞬だけ緩む。

「どういたしまして」

 しかしすぐにそれを隠してできるだけそっけなく答える。
 その様子を見て妲姫はニコニコと笑う。

「それではここからは込み入った話になります
 クラインちゃんには朔夜と一緒に別の部屋で遊んでいてもらっていいですかね?」

「構いません、彼女も駆け出しながら魔術師ですし……
 できれば朔夜さんに修行を見ていただきたいくらいですよ」

「あら、それは良かった
 じゃあ朔夜ちゃん、クラインちゃんをお願いするわ」

「分かったわ、任せてちょうだい」

「さて、それじゃあ本題にさっさと入ろうぜ
 俺はまだるっこしいのは嫌いでねえ」

「ええ、勿論」

 妲姫はそう言って再びニコリと笑った。

【ブギーマンは笑ってる 第十二話「円卓」 続】


102 : ◆2PnxfuTa8. [saga]:2012/03/31(土) 08:32:35.74 ID:dv88x3wq0
【ブギーマンは笑ってる 第十三話「プロムナード」】

 朔夜はクラインを連れて部屋の外に出る。

「クラインちゃんだっけ?」

「はい」

「ふぅん……中々可愛いじゃない
 妲姫の次くらいに可愛いってことにしてもいいわ
 とりあえずついてきなさい、貴方も魔術を習う身ならば見学しておいて損は無いでしょう」

「えっと……はい」

 大理石で出来た廊下に足音が響く。

「私は土属性の魔法使いだからね
 石とか砂とか操るのが得意なのよ
 宝石も土の魔術の範囲
 希少属性である蟲使いのブギーマンの弟子ってことはあんたは虫使いなのかしら?」

「はい、まだ蝶とかしか使わせてもらえないんですけど」

「ふぅん……」

 朔夜はクラインを舐め回すように見つめる。
 
「まあ修行ってのは時間がかかるものだしね
 特にあなたのは制御が難しいからなおのことよ」

 部屋の扉を開く。
 そこには世界各地の宝石が集められていた。
 クラインには解らないが数年間かけて貯めこまれたらしい魔力が渦巻いている。
 しかるべき場所に売りだせば小国の国家予算ほどの価値になるだろう。
 
「この棚だけでも
 ターコイズ(トルコ石)、ヘマタイト(赤鉄鉱)、クリソコラ(珪孔雀石)、タイガーズアイ(虎目石)
 2段目は水晶(石英)、トルマリン(電気石)、カーネリアン(紅玉髄)、パイライト(黄鉄鉱)、スギライト(杉石)
 3段目はマラカイト(孔雀石)、ローズクォーツ(紅水晶)、スノーフレークオブシディアン(黒曜石)、ルビー(紅玉)、モスアゲート(苔瑪瑙)
 4段目はジャスパー(碧玉)、アメシスト(紫水晶)、ブルーレース、ラピスラズリ(瑠璃)
 それぞれに魔力の溜め方が有って使い方もある
 加工の仕方や掘り出された場所によって性質も違う
 私の家ではこれを全部覚えて、そこからが本当の始まり
 貴方ならばさしずめ蟲の生態を学ぶ部分にあたるのかしら」

 扉の横にある棚から説明をはじめる朔夜。
 クラインはそれを聞いてただ頷くことしかできなかった。

「次はこっちの棚」

 そこには何故かフリフリの可愛いドレスが大量に並んでいた。

「貴方、中々良いドレスを着ているみたいだけど……それじゃあ貴方の魅力は引き出せないわ」

「え?」

「任せなさい、私は可愛い女の子が大好きなの!
 貴方にもぴったりのドレスを選ぶことが出来るわ!
 さあ脱ぎなさい!脱いでください脱ぎやがれ!
 今からファッションショーを開始する!」

「ええええええええええ!?」

 朔夜が悲鳴を上げるのはその五分後であった。
 さて、ブギー達が部屋を出ると、遠くから何故か顔が真っ青になった朔夜とちょっとモジモジしているクラインがやってきた。
 妲姫の命令で朔夜は三人を屋敷の門まで見送ったが彼女は最後まで渋い顔だった。
103 : ◆2PnxfuTa8. [saga]:2012/03/31(土) 08:34:35.88 ID:dv88x3wq0
「クライン、彼女の具合が悪かったようですが一体何かあったのですか?」

「い、いえ特に何もありませんでしたよ!?」

「…………そうですか、なら良いんですが」

「おいブギー、今日はどうするつもりだ?」

「今日は私の屋敷でのんびり寝て、明日の集会に備えようと思っていましたが」

「そうか、じゃあ俺もそうするわ」

「屋敷って?」

「この幽世には普段私達が私たちの世界で使っている居住空間が投影される仕組みになっているんですよ」

「そういうこと」

 ブギーの普段住む家とそっくりな一軒家の前で車は止まる。
 
「じゃあここで一旦お別れですね」

「明日は現地集合だ」

「ええ」

 クラインが何気なく空を見上げると真昼なのに月が高く登っていた。

【ブギーマンは笑ってる 第十三話「プロムナード」 続】
104 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/31(土) 13:34:40.49 ID:zwaaiW+ao
だめだな、こりゃ
105 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2012/03/31(土) 16:11:19.81 ID:NTKqWL3AO
設定はそう悪くないんだが肝心の話が稚拙過ぎる
106 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/31(土) 16:57:30.45 ID:dv88x3wq0
思いついておいてあれだが、俺ではこの設定をうまく使えないらしい
書きたい人がいたら後は好きにしてくれ
107 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/31(土) 17:24:26.96 ID:1nmnaTbN0
ここまで読ませておいて丸投げかよ。ありえねぇ。
スレ建ててんならせめてブギーの話ぐらいは仕上げて行けボケ
108 : ◆NamCapMdYU [sage]:2012/04/01(日) 00:05:57.10 ID:416fzdc1o
さっさと援護出来ないのは悪いけども、とりあえず最低限ある話を落とすだけはして欲しいかも
自分の思ってる設定と微妙に違う部分とかがあって、それの調整もしてるからさ
109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/04/02(月) 10:23:41.16 ID:+Fy6ts/DO
了解
俺がどうかしてた
今晩からまた投下するわ
110 : ◆2PnxfuTa8. [sage saga]:2012/04/02(月) 16:14:46.00 ID:KQfcG9UG0
【ブギーマンは笑ってる 第十四話「セシアの翼」】

「ねえ妲己、死んだお父様の練った計画は理解できるけどさあ
 ……あの脳筋は従うとしてあっちの似非紳士は本当に私達の言うこと聞くの?」

 妲己の屋敷にある大きな浴室。
 ブギー達が帰った後、朔夜と妲己はそこで二人きりで今日出会った二人の男について話していた。

「うーん……朔夜ちゃん」

「なに?」

「ここでは名前で呼んでくれないかな?
 子供の頃から一緒にいる朔夜ちゃんくらいには名前で呼んでほしいし」

「……もう、あんた分かってるの?
 名前で呼んだら力が使えなくなっちゃうんだよ?」

「ここでくらい人間として朔夜ちゃんと一緒に居たいなあ……なんて」

 朔夜の顔が一気に赤くなる。

「あ、朔夜ちゃんの顔赤くなってるー!」

「お、お、お風呂が熱すぎるのよ!あの使い魔共湯加減を間違えたわね!
 あ、ああ、後でお仕置きしてやるんだから!」

 朔夜は妲己に背中を向けてブツブツと文句を言っている。
 妲己はそんな彼女に背後から抱きつく。

「ひゃあ!」

「照れてるところもかーわいいー!」

 妲己は朔夜に頬擦りをする。

「からかわないでよもう!」

 声色だけ見れば怒っているように聞こえなくもない。
 しかし表情は満更でもないという彼女の心境が滲み出るようだ。
111 : ◆2PnxfuTa8. [sage saga]:2012/04/02(月) 16:16:40.56 ID:KQfcG9UG0
「朔夜ちゃんもっと栄養つくもの食べないと駄目だよ、栄養胸に行ってないよ」

 それを見てとると妲己の指が朔夜の胸の上で軽快に跳ねまわる。
 
「バカにするなぁ!お腹摘むぞ!」

「まあね、私は朔夜ちゃんのそういう中性的でスレンダーな体格が羨ましいなあ
 なんていうか男の子よりも頼れるっていうか
 朔夜ちゃんは私にとっての王子様だしね」 

「なんで真顔でそういう事言うかな……」

「で、ブギーマンの裏切りについてだけどそれは安心して」

「急に話題切り替えるわね、それってどういうこと?」

「あの人、まずは建前として人々の幸福を願っているみたいなこと言ってるじゃない
 でも本音は別にあってあの人はとにかく面白いものごとが見られればそれで満足しちゃうの
 妙に善玉ぶっておいても行動は悪党のそれだし
 悪党ぶってみようとしても思わず一般人に対しては怖がらせる程度のショボイことしかできない
 自分ではどちらにも振りきれないからこそ……
 現実の厳しさを噛み締めて、尚自分の出来る範囲で正義を為そうとするジャックさんのスタンスを好きになってるんでしょうし
 逆に自分や親しい人を守るためだと言い訳できれば日曜の教会に毒ガスばら撒くなんてことも出来るのよ
 正義も悪逆も等しく面白いで済ませる狂気の大器
 だからお父様の計画をぶちまければその時点で彼はこっちにつく
 なんせこれは面白いからね」

「計画のすべてを知れば私達の味方をする、逆を言うと私達の計画を悟るまで彼は揺れ続けるってこと?」

「私達に敵対する勢力をあぶり出すのに丁度いいと思わない?」

「ふふ、それってすごく素敵ね」

「虫は虫らしく餌に使わないと、ね」

 二人の少女は声をあわせてクスクスと笑った。

【ブギーマンは笑ってる 第十四話「セシアの翼」 続】
112 : ◆2PnxfuTa8. [sage saga]:2012/04/02(月) 16:18:20.07 ID:KQfcG9UG0
【ブギーマンは笑ってる 第十五話「Liar! Liar!」】

 真夜中、ブギーは良く月を見ながら一人で酒を飲む。
 それは誰にも邪魔されない彼自身のための時間だった。

「やあブギー、元気にしてたかい?」

「――――ガブリエル、クラインをどうしたんですか!?」

「クラインのことなら安心しなよ、この子は徹底的に君に鍛え上げられているから僕を依代にしたところで死なないよ」

 ブギーの元にクラインを通してガブリエルが降りてきた。

「何か告げることが有るなら早くして欲しいものです
 貴方の依代になるのはあまり好ましくない可能性もありますから」

「分かってる分かってる、僕だって君に恨まれたくはないからね
 この前言ったじゃない、王を破る方法を教えるってね」

「ああ、言いましたね」

「君にだけ、それを教えるよ」

「私は王の座には興味ありません
 ウルヴィーにでも教えてやってください」

「ジャックには教えないよ、あいつ僕の言うことを聞かないしね
 君は王の力に興味が有るはずだよ?」

「力を得た所で責務は果たしませんが」

「王の仕事なんて好き勝手やることを許可することだけさ
 だからこそあの子供たちになられたら困るんだよね
 あーんな正義の味方に憧れる子供が王になったらオチオチ人食いもできなくなるよ?」

「私は人食いで能力は高めないので」

「あっそう、つまり力は欲しいってところは否定しない訳だ」

「ええ……まあ」

「じゃあ良いことを教えてあげよう」

「と、言いますと?」

「妲姫が扱うのは九尾の狐としての“誘惑”や“妖術”だけじゃない
 胡喜媚と王貴人って部下も居て、そいつらがまた厄介なのさ」

「あの魔術師ですか?」

「あれは彼女の恋人、関係ない
 彼女を自動で守る上に特殊能力のあるファンネルだと思えば良いよ」

「わかりました、しかしそれだけでは不意を襲うには足りませんね
 彼女の本名か隠し名を調べてこられるなら……貴方の、いえ貴方の上司の計画にも乗りましょう
 仮にも告知の悪魔ならペナルティ覚悟の裏技を使えば出来るでしょう?
 私はあなた方の世界に至ることが目的ですし、恩を売って損はありますまい」

「……無茶言うねえ」
113 : ◆2PnxfuTa8. [sage saga]:2012/04/02(月) 16:19:15.37 ID:KQfcG9UG0
「人間だった時の名前が悪魔憑きにとっては一番の弱点ですから
 明日の集会の時までに私にだけ上手く伝えられたなら貴方の計画に乗りましょう」

「解ったよ、それじゃあこの子供は人質として乗っ取らせてもらうけど良いかい?」

「構いませんが……妙なことをしたらそちら側の世界に送り返しますよ、数百年くらいは」

「分かってる分かってる!この世界において外に向けて出せる僕の力は制限されてるからね
 君にすらかないっこ無いってのは十分理解している」

「ならば良い、それでは今日は早く帰って明日一日かけて調べてくることですね」

「解ったよ、それじゃあね!」

 ガブリエルがクラインの身体から抜け出す。
 クラインはガクリと崩れ落ちた。
 ブギーはブランデーグラスをテーブルにおいてクラインをベッドに運んでいった。

【ブギーマンは笑ってる 第十五話「Liar! Liar!」 続】
114 : ◆2PnxfuTa8. [sage saga]:2012/04/02(月) 16:21:50.47 ID:KQfcG9UG0
【ブギーマンは笑ってる 第十六話「謝肉祭」】

「本日は皆様、私の王座の継承の為にお集まり頂き真に感謝致します
 選定の儀式に勝ち抜き、皆様のこの会場への参加が有ってこその王です
 皆様のご期待に添えるように精一杯努力しますので……」

 壇上で並み居る悪魔憑き達に語りかけるのは妲己。
 その背後に影のように控えるのは魔術師“九曜”朔夜。
 九曜の家は既に出ているらしいがそんなことは関係ない。
 実際、彼女の能力は人間の身にして此処に居る七割の悪魔を上回っている。
 積み上げた血統、重ねた努力、天よりの才。
 悪魔憑きの下で従者をやっている器ではない。

「ですから私は、隣人を大切にし、仲間を思いやり、誰かの笑顔の為に頑張れる素敵な悪魔憑きを……
 人間と一緒にニコニコ笑顔で暮らせる素敵な世界を提案したいと思います」

 所信表明のたぐいらしい。
 要約すると“皆で仲良くして人間にあまり危害を加えないようにしましょうね”
 だそうだ。
 演説を聞く悪魔憑き達は退屈そうである。

「だというのに何故でしょうね……」

 ブギーは思いを巡らせる。
 
「ブギー、せっかくルール違反してまであの娘の名前を必死で調べてきたんだ
 しくじってくれるなよ?」

 クラインの体内の虫を使ってガブリエルが語りかけてくる。
 演技で裏切るふりをして本当に裏切る。
 しかも絶対的切り札を用いて。
 ブギーは策を弄するタイプの人間ではないがその愉悦に酔っていた。

「分かってますよ、私は目的の為には手段を選ばないタイプの人間です
 それよりも貴方はクラインの身体を屋敷で安全に保存しておいてくださいよ」

「分かってる、君が妙なことをしたらあの子、爆発まではしないけど魔術回路はむちゃくちゃになるからね
 しっかり約束を守ってくれよ?」

「分かってますってば」

 妲己の長話は続いている。
 どうやら今は丁度自分よりも強い力を持つ年かさの悪魔憑き達に向けての感謝の言葉らしい。
 他の悪魔たちより一際高いところに座る老人たちは鼻の下を伸ばして妲己の言葉を聞いているものが殆どだ。

「それでは……」

 妲己は挨拶を終えようとする。
 あとは集会に参加したメンバーの過半数によって拍手が行われれば儀式は終了。
 これで王の力は妲己が手に入れる事になる。
 しかし……
115 : ◆2PnxfuTa8. [sage saga]:2012/04/02(月) 16:25:33.20 ID:KQfcG9UG0
「ちょおおおおおっと待った!
 こんなガキが王?
 俺は認められねえなあ!」

 やや演技過剰気味にウルヴィーが立ち上がり、叫ぶ。
 
「王ってのは皆を従えるもんだ
 皆を従える者ってのは強くなくちゃあいけねえ
 なあそこの爺さん共、違うか?
 あんた達の中にも昔は王だったものが居るだろう?
 俺の意見が間違ってるかどうか教えてくれよ」

 老人たちはニヤニヤしながらウルヴィーを見る。
 彼らはこの三文芝居の意図がわかっているのだろう。
 
「貴方は確か……ウルフマン・ジャックでしたか」

「ハン、名前を知っていらっしゃったとは光栄だね」

 ウルヴィーが無駄に役者である。

「良いですよ、そこまで言うなら今この場であなたと戦っても
 面倒ですから他の方々もついでにかかってきてください」

「………………」

 ブギーは黙って事の成り行きを見つめる。
 ウルヴィーのところに集まった彼女の王位継承に反対する悪魔憑き達。
 ウルヴィーの起こした騒ぎに乗じてひと暴れして名をあげようとする悪魔憑き達。
 彼らは知らない。
 この狂奔すら妲己の持つ“誘惑(テンプテーション)”によるものであることを。
 ウルヴィーも彼が自分の意志で妲己の策に乗ったと思っている。
 会場が二つに割れる。
 妲己に従うもの、妲己を殺し我こそ王たらんとするもの。
 数はほぼ等しい。
 釣り合った天秤のようなこの状況。
 それでもまだ動いていない男はブギー位のものだ。
 睨み合いの中で全員の自然は彼のところに集まる。
 完璧。
 ブギーは高らかに叫んだ。

「汝、望むところを為せ!
 我が盟友を王の座に向かおうというなら私のやることは既に決まっている!」

 戦争が始まった。
 ブギーの操り育ててきた数多の蟲が妲己の操る妖術を阻害してる間に
 妲己――新たなる王――を守ろうと立ちふさがる軍勢をウルヴィーの爪が一枚一枚剥がしていく。
 老人たちは乱痴気騒ぎを真上から見下ろしている。
 そんな彼らの背後から一人の少女が現れた。
116 : ◆2PnxfuTa8. [sage saga]:2012/04/02(月) 16:25:59.34 ID:KQfcG9UG0
「ところで……どの程度間引くつもりなのかね?」

 老人は少女に問いかける。

「全て」

「全て?」

「妲己様に歯向かう者全てですわ」

「ふむ、天晴だな
 で、あの狼男は貴様らの傀儡として……どこまでがお前たちの手の内なのだ?」

 彼女は下の戦場を見てほくそ笑む。

「それはお答えいたしかねますわ
 さて妲己様をお守り頂いた皆様方にあの騒ぎが飛び火しては大変です
 今すぐ処置をいたしますのでしばしお待ちくださいませ」

 朔夜はコホンと咳払いをしてから魔術書を片手に詠唱を開始する。
 それと同時に彼女の周囲をとてつもない魔力を秘めた宝石達が飛び回る。

「――――天より降りるヴリルの火よ
 ――――我こそは玉髄と閃光織り成す呪いの担い手
 ――――我が祖の名前において古き血の盟約を結ぶ者
 ――――契約により我が手に必滅と顕正の理を授けたまえ
 穿て、砕け、嫐れ、放て、燃やせ、凍てつけ、我が主の敵を破滅に導け
 


     告げる



 極彩の虹光よ、我に遵え!」

 朔夜の指先から七色の光が溢れ、会場を制圧しかけていたブギーの蟲を濃密な魔力のみで焼き払う。
 そして彼女はいかにも魔女といった雰囲気のローブを脱ぎ捨てる。
 すると中から現れたのはThe☆魔法少女といった感じのピンク色な意匠の衣装だった。

「妲己様の右腕、魔法少女ミラクル☆サクヤ参上!」

 この一撃の為に彼女は数年間宝石に魔力を貯めていたのだ。
 圧倒的な一撃による力の誇示。
 それが統治のための最良のパフォーマンスであると歴史が証明している。

「さあ、妲己様のどこのどいつ!?妲己様の前に私と戦ってもらうわよ!」

 静まり返る会場。
 当然だ。
 ガンドとは本来指さすだけで相手を病に追い込む呪い。
 莫大な魔力を使ってある程度の指向性をつけたものの全員がその呪いを浴びたのだ。
 特に、妲己に歯向かっていた勢力には完全に直撃した。
 口から血反吐を吐いて崩れ落ちるが殆んどである。
 先程までは一人で数十人の悪魔憑きを切り刻んでいたウルヴィーも、もはや瀕死である。
 芝居とバレぬように本当にガンドを撃ちこまれたのだ。
 前もって朔夜の作ったアミュレットを受け取っていたにしても苦しくない訳が無い。
 妲己は笑顔を絶やさずにウルヴィーの元に歩み寄る。

「今回私は殆んど戦っていませんが……これも含めて私の力ですよね?」

「……俺の負けだよ、俺はあんたに従う」

「ならば良いでしょう
 さて、ジャックさんと一緒に私に歯向かってきた悪魔憑きの皆さんは……
 …………あらやだ死んでる、運が悪かったのねえ
 でも私は器が広いから降参する人たちは皆許します
 特に強い人は大好き、大歓迎よ?」

 死屍累々な会場中を見渡す。
 過去にも集会でこのようなことはあった。
 だがここまで死者が出たのは初めてだ。
 その事実が彼女の王としての君臨に更に箔をつけるだろう。
117 : ◆2PnxfuTa8. [sage saga]:2012/04/02(月) 16:27:45.33 ID:KQfcG9UG0
「ねえ、聖人殺しのブギーマンさん?
 今なら貴方も許して差し上げますわ」

 妲己がブギーの方を向く。
 ガブリエルの教えた名前が本当ならばそれをつぶやけば全ては終わる。
 ブギーが一言呟き、次の刹那に足をバッタに変えて接近して一撃で切り刻む。
 それでブギーが王の資格を得る。

「……そうですね」

 ブギーの間合いまで妲己がゆっくりと歩み寄ってくる。
 あと五歩、四歩、三歩、そこで妲己が止まる。

「ああそうだ、その前に皆様に伝えておきたいことがあります」

 コホンと咳払いをしてから彼女は声を張り上げる。

「私、王の力とか本当にどうでも良いので皆様に差し上げますね!」

 その場に居た全員が耳を疑った。

「今時王の座の取り合いとかバカバカしくてやってらんないですって!
 力なんて欲しい人が使って勝手に王を名乗れば良いじゃないですか!
 ああそうだ、領地でも作ってみたらどうです?
 人間の世界を使って行う椅子取りゲームみたいな感じできっと面白いですよー?
 あー、一度王になった方々とか〜弱い人とかは〜体内で魔力が暴走したり耐え切れなかったりすると思うんですけど…………
 そこら辺は王様である私の命令なので我慢して死ねってことでおねがいしますね」

 ここでブギーは完全に裏切りの機を逸す。
 
「おいブギー!さっさとやれよ!」

 脳内にガブリエルの声が響く。
 そうしている間に妲己の身体から膨大な魔力が溢れ始める。

「でもー、王の力に耐えられないと死んじゃうから皆さんに選択肢をあげたいとおもいます
 今からすぐに此処を逃げるか、死を覚悟して王の力の恩恵に与るか
 十数える間に決めてくださいねー」

 偶然王の近くに居た弱い悪魔憑きの肉体が強力すぎる魔力を浴びてとろけ始める。
 それを皮切りに会場は大混乱となった。
118 : ◆2PnxfuTa8. [sage saga]:2012/04/02(月) 16:28:07.81 ID:KQfcG9UG0
「……うわ、なにそれ面白っ!」

 地獄のような光景の中でブギーは呟く。
 満面の笑顔で。

「おいブギー!ありゃ不味い!集会に参加する殆んどの悪魔憑きが死にかねん!
 僕の言ったとおりさっさとあいつを殺せヨォ!」

「……うるさいですね」

「は?」

 ガブリエルは自らが取り憑いたクラインの口が勝手に動いていることに気が付く。

「うるさいといっているのですよ」

「おま、なんでここに!?
 こっちに!此処に居るんだよ!
 お前の身体はあの集会場だろうが!」

「身体などいくらでも作り直せる
 本体さえ残していればね」

「死ぬぞ!?悪魔憑きが片っ端から死んじまう!」

「馬鹿ですねガブリエル
 【汝欲するところを為せ】ってのが私たちのルール
 あの女王はそれを誰よりも鮮やかにやってみせた
 これで悪魔憑きの世界の勢力図は変わりますよ
 面白い、実に面白い、理想だとかなんだとか御託抜きにあれは、あの女は面白い!」

「人間ってマジ狂ってやがるな……だが良いよ、そっちがその気なら」

「ああそうそう言っておきますが……」

「黙れ!せめてこいつの身体だけは……あれ?」

「だから、本体は既にこちらに移しているんですってば
 既に貴方は私の結界の中に居るようなものです」
 
「なんだと……くそっ!身体の自由が!?全身の蟲が暴れてっ!」

「妲己様から私への命令が一つ有りましてね
 “ガブリエルの動きを監視しておけ”だそうです
 恩を売っておくのは悪くないですし……受けることにしました
 ま、今ここにいる貴方が死んでも別の貴方が派遣されてきますし気にしないってことで一つ」

 ガブリエルの魂が徐々に徐々に焼き尽くされる。
 最後の最後まで呪詛の言葉をまき散らしながらガブリエルはこの世界から消えていく。
 燃える。
 ガブリエルの力が、痕跡が、全て燃え落ちていく。
 後には何も残らない。

【ブギーマンは笑ってる 第十六話「謝肉祭」 続】

119 : ◆2PnxfuTa8. [sage saga]:2012/04/02(月) 16:32:41.11 ID:KQfcG9UG0
【ブギーマンは笑ってる 最終話「ゴールデンスランバー」】

「……とまあそういう訳で今の世界はそこそこに平和が保たれているんですよ
 悪魔憑きの数が減れば世界も少しは平和になりますしね
 生き残った悪魔憑きの情熱も妲己への復讐やら悪魔憑き同士の戦いに向けられてますから
 貴方みたいな新しい悪魔憑きに関しては知りませんが」

「ちょいちょいちょい待った」

「なんですか?」

「その話が本当ならあんたって今はお偉いさんって奴なんじゃねえの?」

「汝欲するところを為せ、私は好き勝手やるだけです」

「ははん、最高にCOOLだな」

 野球帽を目深に被った青年が金属バット片手に笑う。

「じゃあ、あれかい?
 あんたは将来有望なオレをスカウトしに来たってかい?
 自分で言うのもあれだが俺ってかなり素養あると思うぜ」

「ふふん、そうですね
 化物になった恋人の為に毎晩血を調達しているんですからね
 中々悪魔的で才能が有ると考えて良い」

「……はん、ご存知でらっしゃったか」

「良い話じゃあないですか
 化物になってしまった恋人と生きるために自分もまた化物になるなんて」

「…………」

「そこで提案ですが……」

 次の瞬間、大量の煙が見る間に辺りを包む。
 花火を加工して作った煙幕発生装置だった。

「…………逃げられてしまいましたか
 魔術でないだけに感知できませんでしたね」

 青年はもう居ない。

「うーん、のんびり研究をやるために部下を集めたいんですけど上手くいきませんねえ
 クラインを修行に出したのは間違いだったかなあ……」

 集会における悪魔たちの大量虐殺事件。
 あれ以来、一部の悪魔憑き達は王の力を手に入れて自由に振る舞うようになった。
 王の力を持つ悪魔憑き同士で戦いは激化していったが最終的に平和条約を締結。
 少数の強い悪魔憑きが話しあって大きな決定をするようになっていた。
 ブギーはそういった世間の流れに背を向けて一人研究のために山に籠もり、時々見込みのある悪魔憑きを仲間に誘う生活を続けている。
 
120 : ◆2PnxfuTa8. [sage saga]:2012/04/02(月) 16:33:33.43 ID:KQfcG9UG0
「まあ良いや」

 ブギーは笑う。
 ヘラヘラと笑う。
 地位とか名誉とか賞賛などどうでもいい。
 面白いと思ったものに片っ端から首を突っ込みながら目的に淡々と向かうだけ。
 悪魔たちが本来存在する“世界の外側”
 どの道遠い道なのだ。
 その途中で寄り道して楽しんでも損はない。
 楽しんで、楽しいから笑う。
 この物語も彼にとっては少し長い寄り道。
 だから、ブギーマンは笑ってる。

【ブギーマンは笑ってる 最終話「ゴールデンスランバー」 おしまい】
121 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/16(月) 23:53:19.52 ID:nwPV8djwo
以前投下すると言っていた人はまだ生きているかな?
122 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(熊本県) [sage]:2012/04/22(日) 15:15:10.14 ID:7KTGmjjm0
ちょっとここで短編を書いてみていい?

話しのネタとして作ってみた奴だけど。
123 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/07(月) 22:04:09.64 ID:Vqt/pioro
今更ながら練習として参加してみようと思う
とりあえずオーソドックスに火、炎系統能力の悪魔憑きを採用しようと思うのだけれど、悪魔に詳しくないんだ
炎系統の悪魔を知っていたら教えてほしい。もしくは名もない悪魔、みたいな扱いのを出してもいいのかな?
124 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/07(月) 22:18:23.33 ID:svsbRrdko
>>2見るとあまり悪魔に明確な縛りはないみたいだな

鬼火とかサラマンダー、ジャックランタンとか有名じゃないか?
125 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/07(月) 22:34:25.36 ID:Vqt/pioro
おおなるほど
そのあたりで書かせていただきやす
本当にサンクス
126 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/10(木) 17:59:06.31 ID:wnylMJ4Jo
すみません、書く前にもう一つ、>>1がまだいればお聞きしたい

イヴィルベリルは持ち主が死亡した場合どうなります?
もし"世界の外側"に戻らないならば、珍しいイヴィルベリル狙いの悪魔憑き狩りとか書けるんですけれど

あともうひとつ。悪魔憑きは、強化系でなくとも身体能力は底上げされる感じですよね?
以上、お願いします
127 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/11(金) 19:54:47.22 ID:6LYAOevjo
返事はもらえませんでしたが、とりあえず投下してみます
すみませんが今日から五日ほど場所をお借りします
128 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/11(金) 19:55:18.07 ID:6LYAOevjo

 目に入るのは火の海ばかりだった。
 まばゆい光の舌がボロアパートのあちこちを舐め回し、端から劣化させていく。
 ボロボロと崩れる木材。質量を持った熱波。どこからとなく聞こえる悲鳴と怒声。その中にあって、彼女は炎に侵されることなくそこにいた。
 へたり込み、炎に衣服を跡形もなく燃やされながら、涙をあふれるままにさせていた。

「持っていかれた……」

 かすれた声が口からこぼれる。どうしようもなく。
 今現実に鳴り響いているどんな音も耳に入らない。聞こえるのはただ、最後に自分の名前を呼んだ弟の声の残響だけ。
 頭を抱えて悲鳴を上げる。炎熱によるものではなく、もっと致命的な傷による叫びだった。
 弟がいない。弟が奪われた。いや違う。"自分は弟を悪魔に捧げてしまった"!
 どうしようもなく寒気がする。炎に包まれて、しかしそれでも寒気がする。
 遠のく意識の中、彼女は構わず叫び続けた。
129 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/11(金) 19:56:29.49 ID:6LYAOevjo

 夢が終わり、目が覚めた。ホテルのカーテンの隙間から、朝の日差しが瞼越しに眼球を焼いていたようだ。
 身体が熱を感じなくなって久しいが、それでも不快であることに違いはなかった。

(また……あの夢)

 弟を失ったあの夜の夢。もう四年も経つが、いまだに夢に見続けている。
 立ち上がって、洗面所に歩く。カーテンは開けない。
 顔を洗って鏡を見ると、うつろな目をした少女が目に入った。目の下の隈が濃い。これが自分だ。
 名前は――本当の名前はもう忘れてしまった。が、一応悪魔憑きとしての名はある。サラマンダー。短くサラと呼ぶ者もいる。
 肩までのくすんだ金髪を掻きあげて彼女はベッドに戻って座った。
 髪の間に指をさし込み、頭を抱えて俯く。目は閉じない。夢の光景がよみがえってくるから。
 深くため息をついた。カーテンの隙間からの光以外には光源はなく、朝だというのに部屋は酷く暗かった。

◆◇◆◇◆

 ホテルを出ると、彼女は小さいトランクを提げて真っ直ぐ都心へ向かった。時間はあったので二時間ほど歩いた。
 通りには車が多く、粗悪な燃料による排気ガスの臭いがたちこめている。
 まだ九時を過ぎておらず、季節のせいもあって少し肌寒い。彼女はジャケットの前を重ねて押さえた。
 ただ、強化されている身体にはそれほど寒気が堪えたわけではない。ただ、思い出してしまうのだ。弟を失ったのはちょうどこの季節の頃ではなかったか。
 自分の名前は忘れてしまったが、弟の名前ははっきりと思い出せる。ラファエル。
 天使に由来するその名前は、今の自分に対するちょっとした皮肉だった。
 天使を捧げて、自分は悪魔から力を得た。

 希望の数だけ天使がいる、という言葉がある。ならば欲望の数だけ悪魔もいる。
 自分のあれは欲望とは違う気がしたが、悪質なものである点は一緒だった。
 むなしく認めて、歩を進めた。
130 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/11(金) 19:59:25.14 ID:6LYAOevjo

 都心の裏路地にある扉の一つを開けると、ドアベルがきらきらと音を立てた。
 中は待合室のような設えになってはいるが、どう見ても狭すぎた。

「奥に来い」

 衝立が向かいの壁にあり、その陰にさらに別の部屋の入口がある。声はそこから聞こえてきた。
 無言で狭いその入り口をくぐると、壮年で中肉中背の男がこちらに背を向けて何やら作業をしている。
 書類に何かを書きこんでいるようで、彼の仕事に関することだろうと予想はできたが、それ以上は興味がなかった。

「来たわよ」

 それだけ告げると、男はこちらに後ろ手をひらひらさせた。それから間を空けずに振り向く。

「久しぶりだな」

 言葉の内容と反対にそっけなく彼が告げる。
 サラは特に言葉は返さずに次の言葉を待った。

「奴を見つけたぞ」

 それを聞いて、その意味が自分の頭にじっくりとしみこむのを彼女はどこか高いところから見下ろした。

「……詳しい話を聞かせて」

 ああ、と男はこちらに書類の束を差し出した。といっても薄い。十枚ほどか。

「奴はちょうどアメリカ大陸の反対側、北西のど田舎に住みこんでいる」
「彼は"知っている"のね?」
「間違いない。お前と同じだ」
「そう」

 言って、受け取った書類に目を通す。内容を頭にしっかりと刻み込む。
 歓喜がわき上がってくることを若干期待したが、どうにも心は冷えていた。

「お前はもう、ここには来ないんだろうな」

 男の声を意外に思って顔を上げると、彼は石膏ボードのような無表情にわずかばかりの感慨を混ぜて煙草を口にくわえていた。
 こちらを見てはいない。関係のない壁を見ている。

「お前はよく働いてくれたよ。下級の悪魔憑きにしちゃ上出来だった。店も繁盛した」
「繁盛していいような仕事ではないけどね」
「そういうな」

 言って、男はがりがりと頭を掻いた。

「ま、なんだ。餞別はやれねえが、元気でやってくれ、とだけ」

 サラは無言で立ち上がって踵を返した。
 部屋の出口に向かう。が、肩越しにわずかに振りかえって、一言だけ、

「あなたもいい情報屋だったわ」

 そう告げて、店を出た。
131 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/11(金) 20:00:35.42 ID:6LYAOevjo

 昼を過ぎ、少しばかり気温が上がったらしい。
 と言ってもぬくもりは感じないため、寒くはなくなった程度の事しか分からないが。
 書類にもう一度目を通しながら裏路地を行く。
 目は手元にいったままだったが、それでも気配には気付いていた。

「へえ。結構かわいい子だったんだな」

 立ち止まって目を前に向けると、トレンチコートを身に付けた男が道をふさいで立っていた。
 こちらをじろじろと観察する彼を真っ直ぐ見返して、彼女は口を開いた。

「最近この近辺でわたしの事を嗅ぎまわっていたのはあなた?」

 男は頷いてにやりと笑ってみせた。

「ああ、俺だ。仕事には割と熱心な方でね」

 言いながら懐から何かを取り出す。大型のナイフのようだった。
 サラはもう一度書類に目を落とした。ちょうど最後の行だ。

『――以上、彼の者は極めて強力な悪魔憑きであることを報告する』

 目で追って、それから念じた。手の中で書類が炭化して崩れた。
 ひゅうと口笛が聞こえる。

「それが君の能力か」
「調べてなかったの?」
「おっと、怠けたわけじゃないぞ。楽しみは後に取っとくクチでね」

 男が軽く構えを取る。見て分かるほどではないが、気配がじわりと切り替わる。

「イヴィルベリルは高く売れる。もらうぞ」

 それだけだった。男が飛び出した。
132 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/11(金) 20:03:27.58 ID:6LYAOevjo

 ナイフが届くのに一瞬にも満たなかった。
 突きだされたナイフがサラの腹部に突き刺さった。
 それで終わりだった。脾臓を貫き、後は絶命するだけだ。
 そのはずだった。

「!?」

 男の動揺がこちらにも伝わってきた。
 サラの腹部には傷一つついていなかった。ナイフが融け落ちていた。
 熱気が発生し、彼女の服が発火する。
 男は飛び退こうとしたのだろう。だがサラがその手首を掴んでいたためにしくじった。
 掴んだ手首から急速に火傷が広がった。男の悲鳴。
 構わずサラは反対の手を伸ばし、男の顔面に手をやった。握る。
 今度こそ終わりだった。

「誰にも邪魔はさせない」

 絶命した男を見下ろして、サラは呟いた。

「弟を取り戻すためなら、なんだってする」

 静かに、だが厳然と宣言する。

「神だって殺して見せるわよ」

 彼女は火炎の悪魔憑き。
 悪魔から弟を取り戻す、そのためだけに全てを賭ける。
133 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/11(金) 20:04:58.91 ID:6LYAOevjo
以上第一話でした
ちとハガレンぽくなった
134 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/12(土) 12:40:54.78 ID:Py156TsDO
設定は良いし書く人来たのは期待できるな
135 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/12(土) 20:46:42.58 ID:GzWJzT9Do
第二話を投下させていただきます
136 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/12(土) 20:48:47.59 ID:GzWJzT9Do

 彼女が悪魔憑きを発症したのは四年前、十三歳の時だ。
 その頃彼女は安アパートの一室に、父親、そして弟と一緒に住んでいた。母親はその頃には既に亡くなっていた。
 サラはぼんやりと母の顔を思い出すことはできたが、弟は母の顔を知らない。そのことで彼はよく泣いた。なだめるのは一苦労だった。
 母親が死んでから、もともと悪かった父の素行はさらに悪くなった。
 仕事もせずに昼間から飲んだくれ、酩酊していない時間が珍しかった。
 彼はよくサラを殴った。酒がなければそのことで。酒があればあったでもっとうまい酒を買ってこいと殴った。
 弟も殴られそうになることはあったが、彼女がそれとなく守っていたので実際に暴力にさらされることは少なかった。
 それでも殴られたときは、彼女は泣いて弟に謝った。守ってあげられなくてごめんね。こんなお姉ちゃんでごめんね。

 こんな生活でも、彼女はとりあえず満足していた。大事な弟がそばにいればそれで良かった。
 それが一変したのは彼女が仕事を終えて――その時既に彼女が一家の稼ぎ手だった――帰ってきた夜のことだ。
 その夜、珍しく父親は酩酊していなかった。だが、薄明るい部屋の中、その目がギラギラとしていて不気味だった。
 部屋の隅で弟がうずくまっていた。乱暴を受けたのだと一目でわかった。彼女は父親を睨みつけ、弟に駆け寄ろうとした。
 しかし。父親は弟に伸ばそうとした彼女の手をとると、乱暴に引き倒した。
 彼女に押しのけられ、床の酒瓶がいくつもぶつかり合って耳障りな音を立てた。
 いきなりの視界の変化に呆けていると、父親は彼女に覆いかぶさってきた。混乱して暴れると殴られた。
 何回も何回も殴られて、力が抜けたところで乱暴に服を脱がされた。それこそ引きちぎるかのような脱がせ方だった。
 悲鳴を上げた。漠然と理解した。これから、今までとは比較にならないおぞましいことが起きる。
 口を口でふさがれ、秘部をまさぐられ。父親が男性器を取り出した時には発狂の寸前だった。
 助けて。言葉にならなかった。なぜ、と問うた。なぜこんな目にあわなければならないのか。
 この世に神はいないのか。頭の中が、かっ、と熱くなった。弟が自分を呼ぶ声が聞こえた。
 この時彼女は悪魔憑きとなった。
137 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/12(土) 20:50:07.13 ID:GzWJzT9Do

 我に返ると辺りは既に火の海だった。
 へたり込んだ彼女の前には炭化して四肢をちぢこめる焼死体があった。父親のなれの果てであることに気づくのにしばらくかかった。
 彼女は服が燃えてしまって生まれたままの姿だった。ただ、火炎は身体に触れても熱を伝えてこなかった。
 視界がぼやけていた。熱によって空気が揺らいでいるのかとも思ったが、それは涙のようだった。
 弟の姿がない。それはとっくに気づいていた。彼は連れていかれたのだ。それも理解していた。
 我に返る前の暗闇の中に声が響いたのを覚えている。『汝欲する所を為せ』
 彼女は力を得た。しかし。

「持っていかれた……」

 失ったものが大きすぎた。
 嗚咽が口から洩れた。彼女は頭を抱えてうずくまり、叫び声を上げた。
 その後彼女は病院に搬送され、大火事の中生き延びた奇跡の子と呼ばれたが、彼女自身は何も語らなかった。
 搬送されてから数日後、彼女は病院から消えた。
138 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/12(土) 20:51:29.40 ID:GzWJzT9Do
以上、短いですが今日もお借りいたしました
ありがとうございました
139 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/12(土) 21:22:43.17 ID:Py156TsDO

俺も書いてみようかな
140 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/12(土) 21:59:32.13 ID:GzWJzT9Do
こういうのは人が多い方に越したことはないかと
ぜひぜひ
141 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/05/12(土) 22:04:11.33 ID:be7Fqz/Do
なんとなく代償って大事だよね
142 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/12(土) 22:06:47.67 ID:Py156TsDO
代償は「大事なもの」だからなあ
死にたくなくて親友を捧げて契約とか鬱いよね
あと復讐のために夢を捧げるとか
143 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/12(土) 22:19:37.52 ID:GzWJzT9Do
ハリウッド脚本術によると、その人にとって大事なものというのは物語に大きく関わってくるらしい
大事なものを捧げてまで欲したものは何か、そして何を為すかって考えると結構話が面白くなるような気がする
そういえばブギーマンは何を捧げたのだろうね

ところですみませんが、人目につくように俺はageでいきますね
144 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/12(土) 22:39:24.25 ID:Py156TsDO
元医者って時点で嫌な予感しかしない
145 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/12(土) 23:10:22.38 ID:oaVZ4X4d0
お姉ちゃん辛いなあ
これから先期待してる乙
146 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/13(日) 20:17:40.71 ID:u62Sw9+ao
そっか。そういえばブギーマンは元医者でしたね。たしかにいい予感がしない
あと期待どうもです

では投下開始します
147 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/13(日) 20:18:34.33 ID:u62Sw9+ao

 規則正しい振動が身体に響いていた。彼女は眼をつぶっていたが、一応は起きていた。
 地平を見渡す広大なステップの中を伸びる道。それを踏みしめて進む中型トラックの中に彼女はいた。
 時間感覚は麻痺していたが、そのトラックを拾ってから優に六時間は経っているはずだった。太陽はそれなりに傾いている。
 遠くに背の高い木々の集まりが黒々と見えた。

「繰り返しですけど驚きました。本当に大陸の反対側からいらっしゃったんですねえ」
「ええ」
「やっぱり大変ですよね。疲れませんでした?」
「それなりには」

 運転席からかけられる言葉に適当に返事しながら、サラはいくつかの事を頭の中で転がしていた。
 まずはこれから会いに行く人物の事。"彼"についての情報は既に紙面で確認していたが、無機質なそれがどれほど役に立つかはわからない。
 次に、彼の持つ知識について。彼が目当ての知識を持っているか、そしてそれにどれほどの確度があるか。
 そして最後は。

「――だからね、わたしは思うわけですよ。人生は旅をしてこそだって」

 瞼をわずかに持ちあげて目をやると、先ほどから話し続けていた作業着の運転手が視界の端に映る。ブラウンの長髪の女性だ。
 歳はサラより十歳ほど上に見えるが、背はサラより低かった。
 彼女とはここから南に位置する街で出会った。ちょうど目的の場所に行くと言うので乗せてもらったのだ。
 偶然だが、すこぶる運が良かった。

「――なんて話を信じてるわけじゃないわよね」
「え?」
148 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/13(日) 20:19:10.32 ID:u62Sw9+ao

 サラが問うと、運転手は怪訝そうにこちらに視線をよこした。
 サラは彼女の方に顔を向けると、再度口を開いた。

「わたしが向かっているのはある男が住む一軒家。針葉樹の森の縁にあるそれ以外に家はない。その近くにも彼以外の人間は住んでいない」

 運転手が何か言おうとしたが、それを無視する形でサラは続けた。

「ということはあなたはわたしが彼に用があることに気づいている。わたしが最初からあなたを探していたことも。そして気づいているならば、考えているはずよ」

 彼女は言葉を続け、締めくくった。

「わたしが敵か否か。敵ならばどうやって始末すべきか」

 その眉間に鉄の塊が突きつけられた。
 拳銃を見つめたままサラは待った。運転手は既にこちらを見ていなかった。トラックは次第にスピードを落とし、やがて止まった。
 改めて運転手がこちらを見て、拳銃を構え直す。

「一つ訂正をして差し上げましょう」
「何かしら」
「あなたが敵であることは知っていますミスサラマンダー」

 冷たい眼光がサラを射抜いた。

「わたしはうかがっていたのです。あなたを殺害するための隙を」
149 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/13(日) 20:20:10.48 ID:u62Sw9+ao

 トラックの中にしばしの静寂が落ちた。
 数秒待って、サラは口を開いた。

「あなたは強力な悪魔憑き、ミスターサラマンダーの使徒ね」
「どう思います?」
「それ以外に考えられないわ」

 言って、サラは念じた。
 その瞬間、目にもとまらぬ速さで使徒の顔面に小さな火球が飛んだ。そして命中する。
 空気が破裂した音が響いたが、ただそれだけだった。
 使徒は無傷で銃を構えていた。微動だにしない。ひるむことすらなかった。

「火蜥蜴の悪魔憑き、およびその使徒は熱に耐性ができる。やはり当たりね」

 サラマンダーの皮等は炎にくべても燃えないという。それと契約した悪魔憑きたちもその特性を受け継いでいる。
 そのため、少しの温かさすら感知することはない。

(わたしはあの日以来ぬくもりを感じたことはない……)

 沈みがちになる気分と視線を、なんとか維持して彼女は使徒を睨みつけた。

「彼の場所は分かった。もうあなたに用はないわ。消えなさい。さもなくば殺すわよ」
「あなたに訊きたいことは一つだけです」

 使徒はこちらを無視した。

「マスターの情報をどこから手に入れました?」

 サラは、少し考えて。それから答えた。

「腕のいい情報屋から。それ以上は言うつもりはないわ。というより彼のことはわたしもよく知らないの」

 その瞬間。サラが言葉を終えるか終えないかのその瞬きの間に、拳銃が火を噴いた。
150 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/13(日) 20:22:11.16 ID:u62Sw9+ao

 拳銃の弾丸は、しかしサラの頭を貫かなかった。
 彼女の身体から発せられた熱によって融け落ち、その残骸が顔にべちゃりとはりついた。
 彼女は無傷。しかし――
 途端にそこから激痛が生じた。
 銀の弾丸だ。悪魔憑きの身体に大きな傷を、場合によっては即死のそれを与える。
 弾丸の直撃そのものを防がれることは承知の上だったのだろう。一度目で予想外の痛痒を与え、能力が鈍った所を二度目で仕留める。
 使徒が再び引鉄を絞った。
 だがサラは。彼女は全く動じていなかった。

「!?」

 銃身を払いのけられて逆に使徒が動揺する。
 銃声が鳴り響き、弾丸がフロントガラスを割って飛び去ったその時には、使徒のみぞおちにナイフが突き刺さっていた。
 だがサラは止まらない。そのままの力で身体を乗り出し、使徒を押し倒す。

「くっ……!」

 いつの間にか、サラの手の中に拳銃があった。先ほどまでは使徒が構えていたものだ。
 使徒の上に覆いかぶさりながら、その眉間に銃口を押し付ける。そして囁く。

「あなたには二つ、選択肢がある。わたしに彼の詳細な情報を渡すか、もしくは――」

 言い終わる前に使徒の身体から陽炎が立ち上った。能力を使う兆しだ。

「……残念ね」

 サラは引き金を引いた。
151 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/13(日) 20:22:41.89 ID:u62Sw9+ao
以上、お借りしました
ありがとうございました
152 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/13(日) 20:24:17.74 ID:u62Sw9+ao
ところでふと思ったんですけど、一番大事なものとして自分という存在、または魂なんかを悪魔に引き渡した場合どうなるんでしょうね
結構物語的に面白いキャラができそうな気がするんですが。ブギーポップ的な
153 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage saga]:2012/05/13(日) 20:43:44.70 ID:ZSz4MUWko
死後に成仏できないとか?、永遠に現世をさまよう云々
154 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/13(日) 20:51:38.57 ID:u62Sw9+ao
自分としてはこう、自我をなくして自動的な存在になり、悪魔憑きからも都市伝説扱いされるようなキャラになるとか想像してました
155 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/13(日) 21:34:20.24 ID:X09gtH0DO
哲学的ゾンビになるとかどうよ?
156 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/13(日) 22:09:49.74 ID:u62Sw9+ao
名前しか知らなかったけど、調べてみたら面白いですね哲学的ゾンビ
ただ、話として書くのは工夫がいりそうな気はする

あと、魂を半分渡した場合は二重人格になったりするのだろうか。某ゲーム王みたいに
157 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2012/05/13(日) 22:15:18.98 ID:/XRybGDL0
そも、魂って何よ?って話になるんじゃね? その辺の設定は世界観に依存するから。
158 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/13(日) 22:27:47.49 ID:u62Sw9+ao
なるほど。じゃあ魂を捧げたキャラが自分が何を失ったのかを探る話とか書けそうですね
魂とは何ぞや、みたいな。難しそうだけれど
159 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/13(日) 22:33:27.79 ID:oktdI4Nh0
哲学的でかっくいいなあ
面白そう
160 :仮面ニャルライダーホテップ [saga]:2012/05/13(日) 23:43:21.09 ID:oktdI4Nh0
 気配はその先の曲がり角からだった。
 響く悲鳴。

「誰か助けてくれ!」

 子供の頃は自分が正義の味方になれると思っていた。
 子供の頃は自分が世界を変えられると思っていた。
 子供の頃は自分がなんでもできると思っていた。

 バイクから降りて彼は腕を高々と天に掲げる。

 身体が大きくなると夢の大きさは縮んだ。
 身体が大きくなると世界は窮屈になっていった。
 身体が大きくなると怖くて何もできなくなっていた。

 彼がイメージするのは自らの願った“最強”。

 腰に埋め込まれたイヴィルベリルが浮かび上がりベルト状の形態に変化する。
 精神の昂りに呼応して顔面に漆黒の痣が浮かび上がる。
 彼に与えられたものは、顔のない神の力。

「――――――――変身!」

 光を反射しないのっぺりとした仮面。
 目のあった筈の位置には白いラインが走ってる。
 肘と膝には真紅の刃。
 これが、かつて正義の味方を夢見た少年の末路。
 皆の夢見るヒーローの醜悪なパロディ。
 
「誰あなた?」

「……マスカレイダーと名乗っている」

 そこには今まさに男に襲いかかろうとしている蜘蛛女が居た。
 漆黒の男は彼女の前に立ちふさがって襲われていた男を逃げるように急かす。
 男は這々の体で走り去っていった。

「人の獲物を横取りって訳?随分な趣味だわねえ
 私も貴方も化物同士でしょうに」

 会話に意味など無い。
 そんなことは解っている。
161 :仮面ニャルライダーホテップ [saga]:2012/05/13(日) 23:43:53.02 ID:oktdI4Nh0
「それを決めるのは自分自身だ
 お前が自らをバケモノだというのならば……
 俺はそいつらから人を守る正義の味方だ」

「な、ま、い、き」

 蜘蛛の糸が網目状に広がって彼を包囲する。
 バールのような物を練成してそれに魔力を込めた。
 それは彼が振るうままに蜘蛛の糸を切り裂く。

「嘘でしょう!?」

 バールのようなものを投げつけ、それと同時に蜘蛛女の背後に回りこむ。
 戦い慣れてないせいか突然武器を投げつけられて怯む蜘蛛女。
 隙を突いてマスカレイダーはもう一本練成していたバールのような物で蜘蛛女を地面に括りつける。
 ガマガエルもかくやという悲鳴をあげて蜘蛛女は地べたを這いつくばる。

「――――輝く(シャイニング)!」

 ベルトのイヴィルベリルが異界の風を世界に呼び込む。
 満ちる白色の魔力が黒のボディに美しいラインを形成して足に集中する。
 マスカレイダーはこれを受けて空高く舞い上がる。 

「――――――辺四角多面体(トラペゾヘドロン)!」

 高速で回転しながらマスカレイダーは鋭く尖った踵を蜘蛛女に叩きつける。
  
「キャアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 絶叫とともに蜘蛛女は青い炎に包まれて灰に変わる。
 担い手を失ったイヴィルベリルだけがその場に残っていた。
 マスカレイダーはそれを拾い上げて握りつぶす。

「……終わったか」

 マスカレイダーは自らの変身を解くと深くため息をつく。

「やあやあピエロ君、今日も頑張ってくれていて何より」

 そんなマスカレイダーの背後にいつの間にか立つ男性。
 肌は黒い、黒を基調とした上品な服装。
162 :仮面ニャルライダーホテップ [saga]:2012/05/13(日) 23:44:21.75 ID:oktdI4Nh0
「…………」

「無視するなよ、これは君の見ている幻なんだ
 自分が見ているんだから責任をもって相手ぐらいしてくれ」

「……病院行くか」

「ハッハン、ジョークはいつまでも下手っぴぃの
 上手くなったのは人間の真似事と戦闘だけかぁ?」
 
「お前は皮肉と韜晦しか能が……」

 言いかけて口を閉じる。
 SANチェックが必要かもしれない。
 ナイアトラップの悪魔憑き。
 それが正義の味方を目指した子供の成れの果て。
 能力は至極単純。
 “契約者が思い描く最強の存在へ変身すること”

「くそっ」

 小さくつぶやくと男はバイクに跨ってその場を去っていった。
 彼の耳の中には嘲笑する無謀の神の声がいつまでも反響していた。


163 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/13(日) 23:45:23.66 ID:oktdI4Nh0
今アニメ化で話題の某ラノベを読んだ勢いで書いただけです
それだけです
164 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/05/14(月) 01:07:33.42 ID:ZeyKWid5o

どうやらそれは力をくれるらしい。
力。力とはなんだろう。
それさえ手に入れば、何か終わるだろうか。
自身の死だけでは足りない。もっと明確で鮮烈な終わりが欲しい。
纏わり憑く全てのものに終焉を。

どうやらそれは代償を求めるらしい。
僕は何でも持っていけと言う。
欲しいものは喪失だ。ならば惜しい物など無い。

それは笑って、まず力を寄越す。
そして代償に、最初の終わりをプレゼントされた。

僕は今笑っている。
それは初めての感覚だった。

165 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/05/14(月) 01:09:04.33 ID:ZeyKWid5o


「……アン?」

 最初は見間違いかと思った。それでも声は自然と漏れる。
 よく知った幼さと影を滲ませる少年は、私の声に気だるげに振り返った。

「やっぱり、アンじゃないか!」

「……」

 小走りで近づいて手を握る。
 アンディ。私が警官だった頃にとある事件をきっかけに預かり、世話をしていた少年だ。 
 数年前から行方知れずになっていたのだが、こんなところで再会出来るとは。
 十字を切って神に感謝するべきなのかもしれない。

「今までどうしていたんだ? ただの家出なら良いんだが、何か事件に巻き込まれたりとか――」

「……家出」

「そうか、やっぱりお前の意思で出て行ったんだな。それなら一先ずは良かったよ」

 正直そうだろうと思っていた。
 アンディの、彼の瞳には意志が無い。志や信念といったものから、彼は遠く離れた位置にいる。
 だがその空虚な双眸とは不釣合いに、彼には意図がある。
 私がかつてアンディを通して触れた事件の、その妄執がこびり付いているのだ。

「まあ、何にしろ良かった。今はどこに住んでいるんだ?」

「……」

「おっと、どうせならどこかに座って話そうか。そこのカフェでどうだい」

「……金が無い」

「はは、おごるよ」

 促すと、彼は大人しく私に従った。
 私はそれを意外に思う反面とても嬉しく思う。
 私が保護していた頃の彼は、きっとこの誘いを受けなかっただろう。なにせ水を飲むことすら嫌う少年だったのだ。
 “呪い”は、少しずつ薄まってきているのかもしれない。
166 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/14(月) 01:10:17.63 ID:ZeyKWid5o

 カフェで彼のこれまでの話を聞く。
 彼は当然のように乗り気では無かったが、こちらから聞けばポツポツと返事をよこした。
 そんなやりとりをしながら、私は少しづつあの事件を思い出す。



 端的に言えば、ただの火事だった。街の外れに立っていた一つの家屋が燃えたのだ。
 発見も対応も遅れ、結果ほぼ全焼。住人のほぼ全員が焼けて死んた。
 その中で唯一生き残ったのがアンディだった。折り重なる死体の一番下にいた為に助かった。
 それだけ見れば子供を愛する家族の献身によって奇跡的に助かった美談に思えるだろう。

 事実、彼は愛されていた。但し狂人達から病的に。
 詳しくはわからない。要領を得ないアンディの話と、その様子から窺うことしか出来ない。
 ゆえにこの話は推測であるのだが、ようは彼の同居人達は潔癖であったようだ。
 この世の全ての穢れからアンディを遠ざけようとした。穢れとはアンディ以外のこの世の全てを指した。

 ゆえにアンディは火事が起こるまでその同居人ら以外と会ったことが無かった。
 肉を嫌い野菜を嫌い水を嫌い空気すら嫌い、大地と空でさえも嫌う。何故ならそれらは穢れだと教わってきたから。
 彼の世界には彼しかいない。ゆえに意志が無く空虚でしか無く、同居人らから伝わった狂った意図しか無かった。

 彼らから離れてもアンディは全てを嫌った。
 不幸中の幸いは、同居人らが人間に関しては深く教えていなかったことだ。
 誰とも会わせなかった辺り人間も穢れだと思っていたのだろうが、自分達が拒まれるのを嫌ったのだろう。
 彼は全てを嫌悪しながらも私の言うことはある程度聞いた。死なない程度には飲み食いもした。
 それでも、彼の瞳が人間らしい意志を宿すことも、活気を伴うことも無かった。


 私はそれを悲しく思ったが、そこまで悲観的になってもいなかった。
 彼は狂人に育てられた子供で、およそ人間らしいとは言えなかったかもしれない。だが、それでも彼は命ある人間だ。
 彼は自殺を望まなかった。それが例え歪んだ思想によるものだとしても、生きている限りは人だ。
 人が人である限り、きっといつか彼が人間らしく笑える日が来る。きっとその呪いは解ける、少なくとも可能性は潰えない。
 そう信じていたからだ。

167 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/05/14(月) 01:11:47.14 ID:ZeyKWid5o


 彼が行方不明になってしまってからも、その思いは変わらなかった。
 せめて生きていてくれと、それだけ願っていた。死ねば全てが終わってしまうから。
 そしてアンディは生きて私の目の前に姿を現してくれた。故にそれが何よりも嬉しい。

「……このコーヒーは、苦いな」

 そして、その一言すらも私には嬉しい。
 それは人間らしい言葉だ。かつての彼はコーヒーなど飲みたがらなかったし、味を気にしたことなど一度も無かった。
 呪いは解けていっている。その事実に私は頬を緩ませながら、彼の名を呼ぶ。

「アンディ、」

 直後、アンディの心臓を刃が貫いた。




 好機を俺は逃さなかった。
 復讐の好機。俺はこのアンディと呼ばれた悪魔憑きを殺す機会を窺っていたのだ。
 だから旧知の人間と会い普通に会話を交わす今は、好機以外の何物でもなかった。
 悪魔憑きはかつての名を呼ばれるとその力を失う。

 俺はこの悪魔憑きの能力を詳しくは知らない。ただ怖ろしく頑丈で、怖ろしく強いということだけ。
 皆殺しにされた仲間から聞いたそれだけの情報で戦いを挑むのは愚計だ。
 故に近くの町でそれらしき奴を発見してからは、ずっと様子を窺っていた。
 しかし、こんなに早く絶好の機会が来るとは。思わず俺は高笑いを上げ、

168 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/05/14(月) 01:13:21.48 ID:ZeyKWid5o

 その頭を僕は握りつぶした。
 誰だか知らないが悪人だろう、悪人は優先的に殺すことにしている。より醜いものから潰す。
 心臓から槍を抜こうとし、少し迷ってから刺さっている部分以外を折った。
 抜けば大量の血が溢れる。それは目立つ、だから良くない。

 力は割とすぐに戻るようだ。他の悪魔憑きより早いのか遅いのかは分からない。
 そもそもどういった理屈で力を失うのかが分からないのだから分かりようがない。
 別に大した問題でも無いし、考える気も起きなかったが。

 向かいの呆然とした顔を見、僕はゆっくりと席に座りなおす。
 コーヒーを飲み干したら、次はどこの何を壊すか。
 そんなことを考えながら。



 力の代償には命を貰いました。
 正確には人としての命の終わりでしょうか。いわば不死の呪いです。
 故に元々人から離れた道を歩んでいた彼は、決定的に人から外れました。
 そのまま空虚な道を行くならば永久に何も無し、輝かしい未来を掴むことが出来ればその先には絶望が。
 ええ、我ながら素敵なプレゼントだと自負していますよ。

169 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/14(月) 01:15:10.30 ID:ZeyKWid5o
>>152を読んでなんとなく思いついただけの代物
まあただいかれてるだけだけど
170 :仮面ニャルライダーホテップ第二話 [saga]:2012/05/14(月) 12:48:18.71 ID:p/HgYA4x0

 夢を見ていた。
 峠の道を走る一台のワンボックスカー。

「あーあ、やっと面倒な妹の世話から抜け出せるぜ!
 おじさんおばさん!温泉旅行誘ってくれてありがとうな!」

「ハハハ、まあ偶には息抜きってことでね」

「おいおい丈一、そんな事言ったらまたギャアギャア言われるぞ」

「良いんだよ、どのみちギャアギャア言うんだし
 それより大悟、お前その首の宝石どうしたんだよ?」

「お前の妹から修学旅行のおみやげで貰った」

「うわなんだよそれ、俺には何もくれなかったのに」

「お前の普段の行いが原因じゃないか?

「お父さん、もうそろそろつく頃かしらね」

「ああ、カーナビだと……」

 その日、比護大悟は両親と親友の宇城丈一とで温泉旅行に行っていた。
 丈一の両親と大悟の両親は同じ職場の仲間で家族ぐるみの付き合いのある仲。
 こうして旅行に行くことも珍しくない。
 
「あれ?」

「どうしたのおじさん?」

「いやカーナビの調子がね?」

「大悟あなたわかる?私もお父さんも機械苦手だし」

「僕?ちょっと見せてよ、えっとこれはね……」

 ガタン
 突然後ろからトラックにぶつかられた。
 勢いで顔からエアバッグに突っ込む。
 なんとか致命傷を逃れるものの車はそのまま峠道から外れ、崖下へと落ちていく。
 次々と移り変わる風景に、比護大悟は自分の命を諦めた。



「――――諦めるなよ」



 突然声がした。
 見ると窓の外にはエジプトの観光写真から抜けだしてきたような浅黒い肌の男が居た。
171 :仮面ニャルライダーホテップ第二話 [saga]:2012/05/14(月) 12:49:28.90 ID:p/HgYA4x0
「なあ少年、諦めるなよ」

 いつの間にか車の落下は止まっている。
 それどころか大悟以外の全てが動きを止めている。

「人間には無限の可能性が眠っている」

「あ、あんた誰だ!?」

「俺に名前はない、だから一々気にするな
 比護大悟、君には素質と才能が有る
 俺と契約して神の力を使ってみたくはないかい?」

「だからなんなんだよお前は!」

「分かった分かった俺が何者かは教えてやろう
 俺はこのままでは家族や親友と一緒に若いまま死ぬ哀れな運命を背負った君を助けに来た神様
 いつもニコニコ貴方の隣に這い寄る混沌ニャルラトホテプなんぞ呼ばれている」

「あ、あんたなら僕達を助けてくれるっていうのか!?」

「いいや、助けるのはお前だけだ
 神の力を得るのはお前だけだからな」

「じゃあそれを使って助けろってことか
 良いぜ、契約でもなんでもしてやる!」

「おぉいおい、何時俺が無料でお前に力をくれてやると言った?」

「なんだよ!俺の命でもなんでもくれてやる!」

「違う違う、俺が欲しいのはお前の命じゃないんだ
 俺が欲しいのは…………」

 男は爆笑をこらえるような表情で続ける。

「この車に今乗っているお前以外の人間の命さ!」

 こらえきれずに笑う。
 ノイズ、ノイズ、ノイズ、騒々しい馬鹿笑い。

「なあどうする!?」

 ゲラゲラゲラゲラ、笑い続ける。

「このままじゃあ全員死ぬ」

 延々と笑い続ける。

「俺と契約したならお前一人だけは絶対助かる!」

 腹を抱えてヒィヒィ言っている。

「俺と契約しないならば皆死ぬ!
 この高さだからまず助からねえよ!
 こいつは悲劇だ!さいっこうに悲劇じゃねえか!
 他人の不幸でご飯がおいしい!」

 楽しそうな男とは対照的に大悟は真っ青な顔をしている。

「ぼ、僕は……」

 子供の頃は自分が正義の味方になれると思っていた。
 子供の頃は自分が世界を変えられると思っていた。
 子供の頃は自分がなんでもできると思っていた。

「どうする?ねえどうする?」

 比護大悟は正義の味方などではない。
 比護大悟は世界を変えられない。
 比護大悟は何もできない。
 眼の焦点が合わなくなる。
 口から乾いた笑みが溢れる。
 男はまだまだ笑い続ける。
 何時しか男と一緒に大悟も笑っていた。
 狂ったように笑っていた。

「僕は――――」


 こうして比護大悟は壊れた。
172 :仮面ニャルライダーホテップ第二話 [saga]:2012/05/14(月) 12:49:54.44 ID:p/HgYA4x0


――――――――

 夢の終わりは唐突。
 けたたましい声が夢を終わらせる。

「お兄ちゃん朝だよ!」

 身寄りが無くて宇城家に引き取られた大悟はこの家から大学に通っている。
 彼は朝が弱いのだが宇城丈一の妹である宇城愛奈が彼を起こしてくれるのでなんとか遅刻しないで済んでいた。

「愛奈ちゃん、今日は休講日なんだ……」

「えーなにそれ私聞いてないよ」

「何が言いたいかわかるかい?」

「一緒に寝て良い?」

「惜しいな、もう少し一人で眠らせてくれってことだよ」

「なんだつまらない」

「お前も高校生なんだし彼氏の一人でも居ないのかよ」

「お兄ちゃん以外興味無いし」

「困ったもんだな」

 愛奈が大悟の布団を剥ぎ取る。

「……汗すごいよお兄ちゃん、二度寝にしたって着替えたら?
 それじゃあ風邪ひいちゃうよ」

「え?」

 確かにシャツがぐっしょりと濡れている。
 
「ほらほら、さっさと着替える着替える!」

「う……」

 服を着替えて歯を磨いて顔を洗って簡単な朝食をとる。
173 :仮面ニャルライダーホテップ第二話 [saga]:2012/05/14(月) 12:50:20.14 ID:p/HgYA4x0
「お前は学校行かなくて良いのか?」

「今日開校記念日」

「おじさんとおばさんは?」

「仕事だよ」

「そっか…………」

「ねえ、今日は何をする?」

 何処か遠くで男の笑い声が聞こえてくる。

「何処かに遊びに行くか?」

「ふふ、お兄ちゃんは私の為になんでもしてくれるよね」

 友を見捨て、親を見捨て、自分の命にすがりついた分正義の味方でいようと思った。
 犠牲にした分より多くの人を救い、正しく生きようと思った。

「お兄ちゃんなんで悲しそうなの?」

 その僅かな祈りすら踏みにじられる。
 神とは名ばかりの呪われた力。
 できるだけ多くの笑顔を守ろうと思った。
 大悟は彼女の兄が死んでしまってから愛奈が本当に笑った姿を見たことはない。
 彼女がいくら笑顔を作っていてもその目は死んでいた。

「……なんでもないんだ。そうだ、それより愛奈の好きな水族館でも行こうか」

「うん!」

 正義の味方を夢見た少年は、妹の笑顔ひとつ守れなかった。
 何処か遠くから嘲笑する声が聞こえる。
174 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/14(月) 12:54:15.34 ID:p/HgYA4x0
>>169
投下乙でした
成程、そう言う風にまとめたか……
やっぱりこの題材作者によって色々味わいがでて面白そうだな
175 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/14(月) 20:01:20.29 ID:d1HcWId80
ところで大変な事に気づいてしまった
偏四角多面体を間違えて辺四角多面体にしちゃってた
176 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/05/14(月) 20:09:17.77 ID:xYFk5yhAO
なんか面白そう
ただ等身大の一般人は主役におけないな
能力者に瞬殺される
177 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2012/05/14(月) 20:30:49.39 ID:dc8mPWsP0
ジャンルを能力バトルからホラーに変えればイケるイケるww
178 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/14(月) 20:34:50.19 ID:d1HcWId80
ラブクラフト作品っぽく為す術もなく恐怖におののく感じにすれば楽勝っすよ兄貴
ただそういうの書くのが大変なんだけどさ
179 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/14(月) 20:41:54.79 ID:FCEbJPeuo
変化球でならいけますね。そういうのも考えてるんでいつものやつの投下後にやってみます
それにしても結構賑やかになってきましたね。これはうれしい
アイディアが良かったり文章レベルが結構高い感じだったりでわくわくしてきました
180 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/14(月) 20:45:25.74 ID:d1HcWId80
待ってるよー
181 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/14(月) 21:22:34.02 ID:FCEbJPeuo
それでは火炎の悪魔憑きの第四回をば
182 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/14(月) 21:23:07.63 ID:FCEbJPeuo

 月が、静止した光を地上に投げかけていた。暗闇に沈んだ世界を青白く染め上げ、一種幻想的なものに変貌させている。
 空気はひどく冷えこみ、呼吸のたびに肺を縮こまらせた。目の前にそびえたつ針葉樹の森はこちらをきっぱりと拒絶していた。
 だがそれらのことは、そこが人ならざる者の住む場所であることをこれ以上なく雄弁に物語っているようにも思える。

 彼女は眼前に建つ屋敷と、その屋根にかかる月とを見上げていた。見上げて、物思いに沈んでいた。
 感傷に浸っているわけではない。それは別に気取っているわけではなく、単に強敵との決戦を前にして感傷に浸るほどの余裕はないということにすぎない。
 彼女は考えていたのだ。今日、これから自分が生き残れる可能性がわずかでも存在するのかと。

 冷静に考えれば、彼女は今日、この数分後に死ぬ。
 相手は極めて強力な悪魔つきであり、噂、それとあの情報屋から得た資料によれば百年以上前からここで暮らしている。
 悪魔憑き同士の抗争を幾度もくぐりぬけ、悪魔憑き狩りを返り討ちにした回数は数えるのも馬鹿らしいとの話だ。
 彼女に勝利の可能性はない。ゆえに生き残れる可能性もまた存在しない。
 しかし死ぬことはは絶対に許されなかった。弟を取り戻さなければならない。

「わたし――」
 頑張るから。彼女は心の中だけで言葉を継いだ。呼びかける。だからお姉ちゃんを守って、と。
 サラは、屋敷に向かって足を踏み出した。
183 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/14(月) 21:24:31.55 ID:FCEbJPeuo

 屋敷の正面の扉には鍵が掛かっていなかった。
 不用心、と思い浮かべて取り消す。単に防犯の必要性がないということだろう。
 こんな辺鄙なところまでわざわざ物取りにやってくる輩は、ゼロではないにしろ極めて珍しいはずだった。
 また、悪魔憑きである以上、乱闘になったとして人間に後れをとることもないという判断なのだろうとも想像できた。

 屋敷の中は酷く暗かった。開け放った正面扉から差し込む月光以外に光はない。強化された眼でも暗闇を見通すことはできなかった。
「なら火をやるよクソアマ」
 ぽっ、と闇に明かりが浮かび上がった。小さいが、悪魔憑きたちにとっては十分の光量だ。
 そこにいたのは、見たところどこも変わったところのない普通の男だった。

 いや、かなり端正な顔立ちをしてはいる。
 サラのくすんだ色とは異なる、輝く金の短髪。
 彫りの深い顔立ちと尖った鼻。ブルーに輝く瞳。
 着ているシャツとスラックスもかなり上等なものに見えた。

 サラがどこも変わったことがないと思ったのは、"悪魔憑きにしては"ということだった。
 想像していたような脅威的なプレッシャーもなければ威厳もない。
 加えて若い。見た目だけだろうが、二十代の後半程度にしか見えない。

「思っていたほどではない。そんなところか? 考えているのは」
「……」
 男の皮肉げな口調に、しかしサラは返事をしなかった。男は気にしなかったようだったが。
「まあ、仕方ねえよな、こんな見た目だしな。年齢はとうに百なんざ通り過ぎたけどよ」 
 だが、と男は続けた。
「テメエも思ったほど大した奴じゃなさそうだな」
「まあね」

 男が舌打ちする。
「ケニーはこんな小物にやられちまったのか?」
「ケニー?」
 サラが訊き返すと、男は不機嫌そうに声を荒げた。
「お前が殺した奴だよ。殺したよな?」
「あの女なら表のトラックの中で死んでるわ」
「よく言うぜ。テメエで殺したくせによ」
184 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/14(月) 21:25:24.76 ID:FCEbJPeuo

 サラは一旦男を無視して視線を周囲に振った。
 その空間は広い。中二階から左右に蛇行して伸びる階段と、正面には奥へ続く通路の入口が開いていた。
 心もちがらんとしている。生活のにおいがしない。
 申し訳程度に二体の西洋鎧が剣を携えて、彼女のそばに立っていた。

「ガキは嫌いだ。分別ってものがねえ」
 言う割には男の口調からも粗暴なにおいがする。
「まあ、トラックを運んでくれたことには礼を言う。あれにはこれから一ヶ月分の食料その他もろもろが積まれてるんだ」
「気にしないで。わたしもここまでの足が欲しかったから」
「だが」
 男が言葉を挟み、その眼光が鋭さを増す。
「俺の大事な召使いを駄目にしちまったのは許せねえな」

 しかしサラはそれにひるまなかった。
「ごめんなさいね。彼女、聞き分けが悪くて」
「そうか。そりゃ躾がなっていなかったかもな」
「わたし、あなたに訊きたいことがあってきたの」
 サラはそう話の向きを変えると、一歩だけ、踏み出した。
「悪魔に捧げてしまったものは、どうしたら取り戻せる?」
「無理だ」
 男は少しの間も挟まずに答えた。

「……」
「当たり前だろうよ。流行りの通販じゃねえんだ。クーリングオフ制度なんざないし、あったところでとっくに期限は切れてるだろ馬鹿」
「……そうね」
 サラは、ゆっくりとため息をついた。
 予想していなかったわけではない。それでも心の底にじわりと痛みが広がった。
185 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/14(月) 21:26:33.14 ID:FCEbJPeuo

「話は終わりか?」
「……」
 サラが黙っていると、男は気にせず続けた。
「なら、こっちの話も聞いてもらおうか」
 下がっていた視線を持ちあげる。男が笑みを浮かべていた。ただし目は笑っていない。
「ケニーが死んじまって手が足りなくなった。新しい召使いが必要だ」
「……だから?」
「お前がなれ」
 その声と同時、サラの目に激痛が走った。

 男はミスターサラマンダーと呼ばれている。
 サラと同じく火蜥蜴の悪魔と契約した悪魔憑きだ。能力は同じく火炎。および火炎に対する耐性。
 つまり、たとえ彼が火炎能力を使用したところでサラに傷を与えることはできない。サラの方からも同様だ
(そのはずなのに!)
 押さえた右目が焼け爛れているのが分かった。ミスターが放った火炎球によるものだ。

「クソアマにはまず躾が必要だ」
 飛んできた二発目を身を捻ってかわそうとしたが、避けきれない。かすめた箇所にも激痛。
 格の違いということか。あちらの火炎はこちらの皮膚を貫くようだった。
 悲鳴とも苦悶ともつかない声をもらし、懐から拳銃を取り出す。使徒から奪ったそれを、ミスターに向けて撃つ。
 弾丸は彼に触れることもなく、蒸発して消えた。

 つまり。現時点こちらの攻撃は一つもなく、彼の攻撃はこちらに痛撃を与えるということである。
(勝ち目があるとすれば)
 あちらはとりあえずこちらを殺す気はないということ。
 サラは傍らの西洋鎧に飛び付いた。その剣を抜きとる。
 そして直後に背中からの激痛にのけ反る。
186 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/14(月) 21:27:41.73 ID:FCEbJPeuo

 床に転がった。剣を抱えたままだったので腕に小さな傷がいくつか開いた。
「なかなか元気がいいな。うれしいぞ」
 ミスターの声が遠くに聞こえた。
「死にたくねえだろ? 俺はこのままだとテメエを殺すが、それが嫌なら俺に仕えると誓え」
 それは遠くのことに過ぎなかった。

 その時サラが考えていたことは一つだけ。
(あの子と再会したら、最初になにを言おう……)
 ただそれだけだった。
 取り戻す手段はないと言われた。それでも彼女は諦めていなかった。

 ゆっくりと剣を構えた彼女を、ミスターは笑った。
「死ぬぞ」
 サラは笑わなかった。
「かもね」
 それだけ呟いた。

 その瞬間は何の合図もなく訪れた。
 ミスターが掲げた右手の先に炎の光が瞬いた。サラが床を蹴った。
 サラの踏み込みは速い。だがそれでもミスターの炎に呑まれる方が早い。
 逆転のために必要なのは、その状況にあっても躊躇をしないことだった。
 それは下級悪魔憑きのサラが持つ最大の武器でもあった。
「ウィリアム・アンブラー!」
 彼女は叫んだ。叫んで、ミスターの胴を両断した。
187 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/14(月) 21:28:23.73 ID:FCEbJPeuo

 しばしの沈黙があった。
「……これは、どういうことだ?」
 さすがは強力な悪魔憑きといったところか。下半分を失った身体でも喋ることはできるようだった。
 ただ、それでも出血は多い。
 無理もないことではある。今、彼はそこらの人間と、本当の意味で違いはなかった。

「わたしの、情報屋は優秀なのよ」
 肩で息をしながら彼女は告げた。
「あなたの真の名まで割り出してくれたわ」
「……すぐに使わなかったのは、俺を油断させるためか。大した度胸だな」
 彼はひきつった笑いを漏らす。
「それがわたしの最大の武器だからね」
 彼女はやはり笑わなかった。

「あなたに訊きたいことがあるの」
「またか? この死にかけになにを聞きてえんだ?」
「火蜥蜴の悪魔にはどうしたら会える?」
 出血により弱った顔に、ミスターは訝しげな表情を浮かべた。
「聞いてどうする」
「直談判する」

 男が噴き出した。弱弱しく笑って口を開く。
「なんでそこまで……」
「弟を取り戻したいの」
 サラは真っ直ぐに彼の目を見下ろした。
「わたしのせいで犠牲になってしまった弟をね」
188 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/14(月) 21:29:16.04 ID:FCEbJPeuo

 ミスターは急に力を得たように哄笑の声を上げた。
 ひとしきり笑い、涙まで浮かべ、それから嘲るように言い放つ。
「笑わせんじゃねえ。取り戻してどうする。一度はテメエが身勝手にも捧げたガキだろうがよ!」
 サラが口を噤んだ。
 男はなおも笑いつづけ、急にそれを引っ込めると眼光を強くした。
「蝕を狙え」

「え?」
「冷静に考えろ。悪魔たちのいるあの世かなんだかに一番近付けるのはいつだ? 蝕だろうがよ」
 男はなおも続ける。
「それ以上は俺にもわからねえ。なにしろ悪魔本体には恐ろしくて近付く気になりゃしねえ」
「……」
「それでもやりたいなら自分で探せ。そしてつかみ取れアホンダラ」

 男は思い出したように血を吐きだした。
 それすらももう弱弱しく、顔は既に真っ青だった。
「ついでに絶望しろ」
 そして彼は眼を閉じた。
「その方が面白い」
 それきり、黙り込んだ。もう喋ることはなさそうだった。

 サラは。いまだ黙っていた。
 その身体が震えている。それから嗚咽が漏れた。
「そうよね」
 涙を流しながら、彼女は呟いた。
「今更許されようだなんて虫がよすぎるわよね」
 自分は、自分の都合だけで、弟を悪魔に引き渡したのだ。
「それでも会いたい……ラファエル」
 しばらく涙は止まりそうになかった。
 開いたままだった扉から、一陣の風が入り込み彼女の髪を揺らした。わずかに。優しくもないが、静かに。
189 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/14(月) 21:29:50.01 ID:FCEbJPeuo
以上、今日もお借りしました
ありがとでした
190 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/14(月) 22:50:20.98 ID:OpaskbWw0
乙でした
悪魔に引き渡した魂はどうなるんだろうなあ
まあその悪魔次第か
それでは自分も投下したいと思います
191 :仮面ニャルライダーホテップ第三話 [saga]:2012/05/14(月) 22:52:53.91 ID:OpaskbWw0
「それでねえ、早希ちゃんが怒られちゃったの」

「ははは、それは運が悪かったな」

 水族館。
 この街にある水族館は子供の頃よく遊びに来た場所だった。
 この年になってしまうといくことは少なくなってたがそれでも大悟は偶にこうして妹にここへと連れ出される。

「愛奈は学校が楽しそうで良いな」

「うん、友達が居るから」

「そういう友達が居て良かったね」

 友達、その言葉に大悟の胸はシクシクと痛む。
 自らの手で友と両親を殺めた痛みが彼の胸からは消えることはない。
 だがそれでも笑顔を作って喜んでみせる。

「お兄ちゃんのおかげだよ」

「僕が?」

「あの事故からお兄ちゃんだけでも帰ってきてくれたからまた学校行こうって思えるようになったし」

「そっか……」

 心が削られていく。
 しかしそれでも笑顔は崩さない。
 彼女が今過ごす平和で普通な日常は壊す訳にはいかないから。
 過去に不幸が有ったとしても、平和な日常はそれを唯一塗りつぶしてくれるものなのだ。
 だから大悟は幾ら辛くてもそれを顔に出しはしない。
 仮面を被る。

「そういえばなんで愛奈はここが好きなんだい?」

 感情が表に出てしまう前に話題を変える。

「素敵じゃない?この水中トンネル」

「水中トンネルねえ……」

 この街の水族館には全長24mほどの水中トンネルがある。
 真下から見上げる魚群は確かに驚かされる。
 大悟は見慣れない魚がこちらに向けて泳いでくるのを見つける。

「あ、あの魚なんだろう?」

 大悟は愛奈に魚の名前を尋ねる。
 彼女はこの水族館に居る魚を全て覚えているのだ。
 
「え?あれはねぇ……」

 愛奈が首を傾げる。
 
「あれは……」

 魚は真っ直ぐ真っ直ぐにこちらに向かってくる。
 水槽があるというのに止まる気配を見せない。

「お兄ちゃん、私あんなの見たこと無い!」

 次の瞬間、その魚は水槽を破って愛奈に襲いかかった。
 大悟は彼女を抱きかかえて大きく飛び退く。
192 :仮面ニャルライダーホテップ第三話 [saga]:2012/05/14(月) 22:53:24.42 ID:OpaskbWw0
「キャア!」

 ガラスが割れる音が連続する。
 一体、二体、三体、見たこともない魚が愛奈を狙って襲いかかる。
 一匹目は正拳突きで頭部を打撃、脳震盪を誘発しながら遠くへ飛ばす。
 二匹目は蹴り飛ばして三匹目にぶつける。

「この程度は流石に躱すみたいだな」

 トンネルの出口から黒板を引っ掻いたような声が響く。
 それと同時に他の客たちの悲鳴。

「誰だお前は!」

 声の主は額に宝石を埋め込まれた半魚人だった。

「残念だが死人に名乗る名は無い」

 男が指を鳴らすと魚が何体もガラスを突き破って襲い掛かってくる。
 それ自体は問題ではない。
 契約によって強化された身体能力を以てすれば躱せる攻撃だ。
 しかし水中トンネルが徐々に破壞されている現状はまずい。

「逃げるぞ愛奈!」

「え?え?」

「良いから早く!」

「ケッケッケ、無駄なのにねえ」

 狙いは他の客ではない。
 どうみても愛奈、あるいは大悟。
 ならばまずは他の人を巻き込まないために逃げの一手だと考えた大悟は愛奈の手を引いて走る。
 走って水族館の外に出る。

「逃げてきたか?」

「じゃあ俺達の出番だ!」

 そこにも大量の半魚人。
 宝石が無い上に感じる魔力も弱い。
 大悟の敵ではない。変身するまでもない。
 数が増えたところで少し手間取るだけだ。
 愛奈をかばいながら十分突破できる。
 だが問題はそこじゃない。
193 :仮面ニャルライダーホテップ第三話 [saga]:2012/05/14(月) 22:54:53.05 ID:OpaskbWw0
「お前ら、やっちまいな!」

 背後からは先ほどの半魚人。
 完全に囲まれた。
 修学旅行、家族旅行、日曜夜八時半。
 今までも悪魔憑きの襲撃に遭ったことはあるが夜ばかりだった。
 こんな派手な動きをする悪魔憑きは見たことがなかった。

「くそ……!」

「お、お兄ちゃん後ろからもたくさん来るよ!
 一体なにこれ!」

 本当に、願ったものから叩き壊されていく。

「少年、ピンチじゃないか」

 こんな時にまた浅黒い肌の男の幻を見る。

「うるせえ黙れ!」

「お、お兄ちゃん?」

「ち、違うんだ今のは!」

「私が……私が……私が邪魔なの?」

「だから違うんだって!」

「やっぱり、そうだよね。お兄ちゃんだって私のことが……
 私はどうせ邪魔者だったよね、お兄ちゃんや達也と違って私は勉強もできないしこんな時も足引っ張っちゃうし……」

「違うって言ってるだろ!」

「違わないよ!私はいつも邪魔者だったもん!役立たずだったもん!
 小学校の時だって友達できなくてお兄ちゃんに世話を焼かせたし!」

「はははははははは!お前は本当に嘲笑い甲斐が有るな少年!」

 大悟は心のなかで思いつく限りの悪態を並べる。
 無駄なのは解っているがそうでもしないとやってられない。
194 :仮面ニャルライダーホテップ第三話 [saga]:2012/05/14(月) 22:56:38.21 ID:OpaskbWw0
「おいおい、何漫才してんだよニャルラトホテプの悪魔憑き!」

 魚人の一体が襲い掛かってくる。
 足を高く上げて蹴り飛ばす。

「話は後だ!
 とにかく伏せてろ愛奈!」

「は、はい!」

 続いて襲いかかる一体には高く上げた足を踏み込んで前蹴り。
 着地から後ろ飛び回し蹴りで愛奈を捕まえようとした半魚人を蹴り飛ばす。

「囲んでやっちまえば問題ねえぞ!」

 二人を囲んで半魚人たちはジリジリと距離を詰めてくる。

「どうする少年、もはや手段は選べまい?」

 幻は笑う。

「くそ……」

「お兄ちゃん……」

「ほらほら、さっさと力を使ってみせろよ!
 可愛い妹ちゃんと串刺しにされちまうぜ?
 妹ちゃんの方はその前に別のもので串刺しにシてもいいけどな!」

 半魚人の男たちは笑う。

「少年、それはそれで嘲笑いがいが有るから別に良いぞ?」

 ニャルラトホテプはサムズアップを決める。
 大悟の内側から沸々と怒りが湧き上がる。
 そもそも僕さえ居なければ。
 そもそも僕があの時素直に死んでいれば愛奈は怖い思いをしないで済んだ。
195 :仮面ニャルライダーホテップ第三話 [saga]:2012/05/14(月) 22:57:06.16 ID:OpaskbWw0
「……なんで僕は守れないんだ」

 何もかもが憎い。
 何もかもが腹立たしい。
 
「お、お兄ちゃんなにそれ!?」

 顔に漆黒のラインが浮かぶ。
 非ユークリッド幾何学的なライン。
 涙のように見えなくもない。
 
「愛奈、良いと言うまで目を閉じて顔も伏せていろ」

「で、でも……」

「早くやれ!」

 小さく悲鳴を上げて愛奈は縮こまる。

「随分優しいお兄様だなあ!」

 その様子を見てニャルラトホテプは馬鹿笑いを始める。

「――――変!」

 イメージするのは最強の自分。

「――――身!」

 右腕を天高く掲げる。
 光を反射しない漆黒の仮面。
 その上からも涙のような白いラインが走る。
 腰には偏四角多面体の黒く輝くイヴィルベリル。

「こいつが噂の……」

「顕現、マスカレイダー!」

 左手を前に構え右肘を腰まで引く。
 圧倒的魔力の奔流が辺りを包む。
 それに促されるかのように半魚人達は彼の元へと殺到する。
196 :仮面ニャルライダーホテップ第三話 [saga]:2012/05/14(月) 22:57:33.07 ID:OpaskbWw0
「……形成位階(イェツラー)」

 ベルトの中からバールのようなものが飛び出てくる。
 マスカレイダーはそれを構えると今度はそれに魔力を流し込む。

「活動位階(アッシャー)!」

 腕に白いラインが現れて魔力がバールのようなものの中に流れ込む。
 バールのようなものは一瞬で長く伸びて更に凶悪な形をとる。 
 一閃、それと同時に三体の半魚人が吹き飛んで砂になる。
 それでも彼らの勢いは弱まらない。
 真っ直ぐに突き、引きぬいて手首のひねりだけで背後の敵を弾き飛ばす。
 左手に持ち替えてなぎ払う。
 次にバールのようなものを地面へ突き立てて魔力を注ぐ。

「形成位階(イェツラー)、峻厳(ゲブラー)!」

 アスファルトが割れる。
 地面から大量のバールのようなものが現れて襲い来る半魚人を貫く。
 だがその攻撃を額に宝石をはめている半魚人だけは間一髪で逃れていた。

「これがマスカレイダーの力か……
 成程成程、理解したよ」

「死ねば無意味だがな」

 マスカレイダーは既に半魚人の頭上を取っていた。

「消えた!?」

 そのまま背後に回りこみながら彼はバールのような物を振り下ろす。
 が、その腕は直前で止まる。

「あれ?どうしたんだいマスカレイダー」

「ふざけるな貴様……卑怯だぞ!」

「悪いが卑怯もらっきょうも大好物さ
 俺たち弱いからヨォ、あんたみたいな化物と戦うにはこうするしか無いの」

 半魚人とマスカレイダーの間に一人の子供が立たされていた。
 口をガムテープで封じられているがその目には涙が光る。
197 :仮面ニャルライダーホテップ第三話 [saga]:2012/05/14(月) 22:58:05.42 ID:OpaskbWw0
「まずは武器を捨てて変身を解きな
 さもないとこのガキが死ぬぜ」

 マスカレイダーはバールのような物を背後に投げ捨てる。
 そして変身を解き、比護大悟の姿に戻る。

「へっへっへ、話が早いな」

「僕はどうなっても構わない、子供だけは離してやれ……」

「それはお前の誠意の見せ方次第じゃあねえかな?」

「くっ……」

「おいお前ら!」

 どこからともなく先程倒された筈の半魚人が現れる。
 数が減っているところを見ると無限に出せるわけではないらしい。

「やっちまえ」

 大悟の足に槍が突き刺さる。
 しかしそれにも彼は悲鳴一つあげない。
 足の次は腕、なまじ再生能力が高いだけに痛みは続く。
 だがそれでも彼は甘んじて攻撃を受け続ける。

「お前じゃあつまらないな
 やっぱりあっちの妹の方を……」

「やめろ!あいつだって関係無いだろうが!」

「おいお前ら!あっちに居る妹の方を……あれ?」

「お兄ちゃんをいじめるな!」

 いつの間にか居た愛奈が子供を捕まえていた半魚人に体当たりを仕掛ける。
 一瞬だけ隙が生まれる。
 その間に愛奈は子供の手を引いて半魚人達から逃げ出した。
198 :仮面ニャルライダーホテップ第三話 [saga]:2012/05/14(月) 22:59:29.35 ID:OpaskbWw0
「愛奈!?」

「お兄ちゃん、私邪魔者じゃないよね?」

「当たり前だ!」

 大悟の腰にベルトが浮かび上がる。
 漆黒の光が彼を包む。

「変身!」

 英雄はここに。
 マスカレイダー、再びの顕現。

「しまった!只の臆病なガキだと思って油断した!」

「形勢逆転だな半魚人!喰らえ!」

 マスカレイダーは愛奈達を追う半魚人にバールのようなものを投げつける。
 それはブーメランのように動きまわり、半魚人達は一瞬で爆発する。

「やべえ、こうなったら逃げるしか……動けねえ!」

 宝石を額につけた半魚人の影にバールのような物が突き刺さる。
 光属性の簡易拘束術式、日本では忍法影縫いなどと呼ばれているものだ。
 拘束力自体は大したものではないが突破のために生まれる僅かな時間だけで彼にとっては十分だった。
 
「――――輝く(シャイニング)!」

 満ちる白色の魔力が黒のボディに美しいラインを形成して足に集中する。
 ベルトのイヴィルベリルが異界の疾風を世界に呼び込む。
 マスカレイダーはそれを受けて空高く舞い上がった。 

「――――――偏四角多面体(トラペゾヘドロン)!」

 かかと落としが半魚人の宝石に突き刺さる。
 ガラスの割れるような音とともに宝石は砕け散る。

「塵は塵に、灰は灰に、闇は闇へと還るが良い……!」

「ギャアアアアアアアアアアア!」

 半魚人は青い炎と共に灰となって風に吹かれて消滅した。
199 :仮面ニャルライダーホテップ第三話 [saga]:2012/05/14(月) 23:00:20.49 ID:OpaskbWw0
「ひろちゃん!ひろちゃん!」

 直後、女性が遠くから駆けてくる。

「ママ!このお兄ちゃんが助けてくれたの!」

「そうなの?何処のどなたかは知りませんがありがとうございます!」

「……当たり前のことをしたまでです
 それでは失礼致します」

 マスカレイダーが指を鳴らすと突然漆黒のバイクが現れる。

「待ってお兄ちゃん!」

 マスカレイダーは手を伸ばす。

「早く乗れ」

 二つの手が繋がる。

「うん!」

 愛奈の手を引っ張ってバイクの上に乗せる。

「しっかり捕まっていろ」

 彼女にヘルメットを渡すとマスカレイダーはバイクを急発進させた。
 人気の無い所まで入ってからマスカレイダーは変身を解く。
200 :仮面ニャルライダーホテップ第三話 [saga]:2012/05/14(月) 23:03:03.08 ID:OpaskbWw0
「お兄ちゃん……正義の味方だったんだね」

「そんな立派なもんじゃないよ」

「でもお兄ちゃん、すっごく格好良かったよ?」

「そう見えるだけさ、当然のことをしただけだ」

「…………」

「お前だけは巻き込みたくなかった」

「ううん、良いの」

「だけど……」

「だってお兄ちゃん、私に何か有ったら絶対に助けてくれるもん
 だから大丈夫」

「あのさ」

「なに?」

「さっきのは、違うんだ」

「ああさっきの?
 私は別に全然気にしてないよ!
 緊急事態だったんだもんね!
 むしろ何も知らなくて迷惑かけちゃったのは私だし……」

「違うんだ、そういうことじゃない
 俺がお前にあんな酷いことは絶対に言わないんだ
 あれを言ったのはおまえにじゃなくて……」

「え?」

「説明しづらいんだが……えっと、その……
 とにかくあれはお前に言ったわけじゃない、信じてくれ」

 愛奈はキョトンとした表情で首を傾げ、そのあと微笑む。

「解ったよ!」

 でもその目はやっぱり死んでいる。
 大悟の耳にはまた男の笑う声が聞こえた。

「……ありがとう、お前だけは絶対に守るからな」

 大悟は愛奈にすがりつくようにして彼女を抱きしめた。
201 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/14(月) 23:07:42.72 ID:OpaskbWw0
一人だけ日曜朝八時半の空気で突っ走ってしまっていることにやや引け目を感じつつ今日の分は終了です
>>198は黒鋼のストライバーやLORD OF THE SPEEDなど処刑用BGMっぽいものを掛けながら再読していただけると幸いです
202 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/05/14(月) 23:11:12.73 ID:xYFk5yhAO
サガフロのbattle5が鳴ってた
203 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/14(月) 23:30:26.16 ID:OpaskbWw0
>>202
調べてみたらすげえ格好いい曲だった
なんというかありがとうございます
204 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/15(火) 06:45:37.75 ID:RB+3zDE9o
特撮系と組み合わせる発想はなかったなーとつくづく感心

さて、一般人ものっぽいのができたので場所をお借りします
205 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/15(火) 06:46:52.13 ID:RB+3zDE9o

 彼女が常々言っていた言葉がある。
「わたしたち、ずっと一緒だよ?」
 それを確認するのが極上の幸せであるとばかりにその時々に、彼女は笑った。
 うれしそうな彼女を見るのは彼にしたって幸福なことだったが、彼女は人目を気にせずどこでも声高に言うので、時たま恥ずかしくて仕方ないこともあった。
 実際、人通りの多いところでそれをやられた時はかなりうろたえた。
 それでも彼女は気にしなかった。

 今思えば彼女は不安だったのかもしれない。
 言葉とは裏腹に、いつか自分たちは離れ離れになってしまうのではないかと。
 だから。その笑顔の下には常に怯えて泣きだしそうな本音があったのかも、と彼は死を目前にして考えていたのだった。

◆◇◆◇◆

「くそっ!」
 彼は自分の膝から下を押しつぶしている鉄の塊を殴った。
 それは完璧に脚を挟み込み、骨を粉々に砕いている。
 痛みを感じないはずはないのだが、そんな余裕はないということか、少なくとも彼の脳は痛みを認識できていなかった。

 そんなことより動けないことの方が彼には重大だった。
「恭子!」
 電車が脱線して横転するまでは隣にいたはずの彼女は、今は離れたところに横たわっていた。
 頭に怪我をし、大量に出血しているようだ。意識はなく、このまま放っておけば命にかかわるだろう。

「どけよ! この!」
 罵って脚の鉄塊を取り除こうと力を込めるが、車体のゆがみによって生じたそれはピクリともしない。
 一刻も早く彼女のもとに行かなければならない。
 手を伸ばせば届きそうで、しかし届かない距離。「ずっと一緒だよ?」という声が頭に響いた。

「そうだ……一緒にいなけりゃならないんだ」
 焦燥が胸の奥を焼く。
 だが気づいてもいた。自分の力ではどうしようもないということに。
 焦げ臭いにおいがした。火災が発生していることは疑いようがなかった。
 それほどしないうちにここにも火がやってくることも苦もなく想像できた。

(どうすれば……!)
 指が床だった箇所をむなしく引っ掻く。
 だがその時、頭に声が響いた。
『汝欲する所を為せ』
206 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/15(火) 06:48:15.56 ID:RB+3zDE9o

 それは肉声ではなかった。
 はっきり聞こえたはずなのに、聞こえたと断言するのが難しい、そんな声だった。
(誰だ?)
『我と契約を結べ。さすれば汝らの命は救われん』
 声は一方的に告げてきた。
 訳が分からなかったが、それでも漠然と理解する。
(俺たちを助けてくれるのか……?)
『代償を引き渡せ。汝が最も愛し、最良とするものを』

 にわかに鼓動が早まった。
 声は大切なものを引き渡せという。だが今、そんな物はない。あるのはこの身、命だけだ。
 いや、とほどなくして気付く。この声は命の代わりに命を差し出せと言っているのだ。
 恐らく助かるのは一人だけ。
 片方を捧げて片方が生き延びる。だが、彼女を捧げるのは論外だった。

「おいお前!」
 ありったけの声で叫ぶ。
「恭子を助けてくれ! "俺の命"を――」
 持っていけ。言いかけて。
「駄目……」
 小さな声に遮られた。

 はっとして見やると、気を失っていた恋人が、薄く眼を開いてこちらを見つめていた。
 意識は朦朧としているようだ。そのことが彼の胸をざわめかせる。
「駄目だよ。わたしたち、ずっと一緒でしょ?」
 聞いて、彼は言葉を詰まらせた。
「あなたと離れ離れになるなんて、嫌だよ……」

 轟音がした。炎が迫っていた。
 その中で、少女は手を伸ばした。少年がその手を取った。
 その瞬間、赤い炎が全てを包んだ。

◆◇◆◇◆

 事故現場には、既に黒く焼け焦げた車体しか残っていなかった。
 その電車はちょうど山間部を通っていたため、消火や救助が間に合わなかったのだ。
 あるのは死体だけだった。
 現場検証のために踏み込んだ警官の一人がそれを発見した。
 十代後半と思われる二体の焼死体。既に冷えて縮こまったそれらは、手を取り合って死んでいた。
 警官はしばらく静かにそれを見下ろし、それから手を合わせた。
 願わずにはいられなかった。死をくぐりぬけても、それが二人を分かつことがないようにと。
 秋の冷たい風が吹いて、去った。
207 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/15(火) 06:51:00.45 ID:RB+3zDE9o
以上
一般人ものかは怪しいけど、一般人のままで終わったってことでどうか一つ
208 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/15(火) 11:46:35.34 ID:mMD6YECDO
乙でした
契約しない話としてまとめあげるとは…
宇宙的ホラーばかり考えてた自分には無い発想でした
209 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/05/15(火) 20:51:26.99 ID:CF9faqbAO
泣いた
210 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/15(火) 21:00:18.71 ID:RB+3zDE9o
読んでもらってありがたいです

さて、火炎の悪魔憑き第五回、投下開始
211 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/15(火) 21:01:02.75 ID:RB+3zDE9o

 実のところ彼女は弟の事はよく覚えていない。
 とはいえもちろん忘れてしまったわけでもない。
 ただ、弟と暮らした日々はひどく遠くておぼろげだった。
 少なくとも一緒に暮らしていたという実感は薄かった。

 悪魔憑きとなって日常と呼ばれるものから乖離した生活をしているうちにそうなってしまったのだろうか。
 人という存在からかけ離れた者になるにつれて少しずつこぼしてしまったのだろうか。
 なんにしろ彼女がくっきりとした実感を持って思い出せる弟についての記憶は、ただの二つだけだった。
 一つは言うまでもなく悪魔と契約を交わした忌まわしい夜のこと。
 そしてもう一つも夜のことだったが、それは真反対に心休まるあたたかい記憶だった。
212 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/15(火) 21:04:12.42 ID:RB+3zDE9o

「誕生日おめでとう、ラファエル」
 頭をなでてやると、弟は照れ臭そうにはにかんだ。
「ありがとう……お姉ちゃん」

 夜も更けて、いつものように酔いつぶれた父親が、くたびれたソファーで泥のように眠っている。
 彼が寝静まってからが彼女と弟の時間だった。
 窓から差し込む月の光以外明かりはなく、部屋は薄暗い。その中でろうそくが灯った。
 椅子はないため二人で床に直に座りながら、小さい声でハッピーバースデーを歌う。
 歌いながらサラは、後ろ手に隠していたプレゼントを取り出して、弟に手渡した。彼が小さく歓声を上げた。
 綺麗にラッピングされたそれを開けて出てきたのは小さな腕時計。

 無論、父親の目を盗んで溜めこんだ程度の金額では高価なものは買うことはできない。
 それでも彼女がどれほどの思いでやりくりしていたのか、弟はきちんと理解していたし、事実うれしくてたまらなかったようだった。
 微妙にサイズの合わないそれを腕に巻きつけてラファエルはひとしきりはしゃいでみせた。
 だが、それから何やら神妙な顔になって、言った。ごめんねお姉ちゃん。

 サラが何のことかと聞き返すと、弟はうつむいて、僕、何もお返しできてない、と声を湿らせた。
 彼女は静かに弟を抱きしめると、いいの、とその耳元で囁いた。わたしはあなたのうれしそうな顔を見るのが何よりも好きなの。
 それでは納得できないと弟は涙をこぼした。
 じゃあ、と彼女は笑った。あなたが大きくなったらお返ししてちょうだいね。
 弟はサラの目を見つめると、力強く頷いた。

 弟を失ったのは、それから八ヶ月後のことだった。
213 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/15(火) 21:04:43.97 ID:RB+3zDE9o

◆◇◆◇◆

 告知の悪魔、ガブリエルによる召集令が来てから一ヶ月。彼女は極北の地にいた。
 冷たい風が吹き抜ける森の中、彼女は歩いていた。
 身体には防寒具を纏い、火傷で潰れた右目には眼帯、腕には小さな腕時計。
 吐いた呼気が、白く渦巻いて後ろに流れた。

 長い旅路を踏み越えて、彼女の身体は疲れ切っている。
 能力で保護しているもののそれでも身体は凍え、足の裏はズタズタになっている。意志の力だけで耐えるには限界があった。
 倒れ込むのは時間の問題。それを悟ってはいたものの、彼女は足を止めなかった。
 止めたところで休息を取るための道具や食料は尽きていたのだ。

 暗い予感が否応なく胸中に膨らむ。
 それでもしかし、目だけは真っ直ぐ前を見据えている。
 視力は衰弱により落ちていたが、それでも進むべき道だけは見失うまいと睨みつけている。

 行く手に明かりが見えたのは、それから一時間ほど後だった。
214 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/15(火) 21:05:11.22 ID:RB+3zDE9o

 翌日。幽世に整えられた王位継承の儀の会場。
 ブギーマンらをはじめ多くの悪魔憑きたちが集まり、反逆の嵐が今にも吹き荒れようとしているその場所に、サラはだが"いなかった"。

「ここね」
 会場からも屋敷や焦点の並びからも離れた湖の前。そこに彼女はいた。
 一度空を見上げる。太陽は見えず、昼とも夜ともつかない灰色のうす暗い空が広がっている。
 それはゆっくりと渦を巻いているようにも見えた。

 視線を再び下ろすと、今度は黒々と濁った水面が目に入る。
 水底を見通すことは叶わない。まるで夜の闇のように。そこに別の世界が広がっているようにも思えた。
 いや。
(事実、ここは外の世界への入口の一つ……のはず)
 呟いて、頷いた。

 古来より水の面は、生者と死者の世界を分かつものといわれている。
 それに倣ったのかどうかは知らないが、悪魔儀式に関する古い文献によると、ここが"第二の門"のはずだった。

 サラは一度大きく息を吸い、吐いた。
 その目が、瞳孔が、きゅっと締まって、同時に彼女は地を蹴り離し――
 無音のまま湖に吸い込まれた。
215 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/15(火) 21:06:35.88 ID:RB+3zDE9o
お借りしました
次回で終わりの予定
216 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/15(火) 22:00:32.05 ID:RB+3zDE9o
それにしてもやっぱり設定がいいなあと思う
この設定に沿うだけで結構話がわいてくる(面白いかどうかは別として)
>>1の話自体は不評だったみたいだけど、この設定作成力は正直羨ましいです
217 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga  sage]:2012/05/15(火) 22:13:00.07 ID:Q725Lx4A0
>>1、儚くも哀れな男よ……
乙でした
次回で終わりなのは辛いのう
まだまだ話を見たいぜ
218 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2012/05/15(火) 22:33:07.38 ID:PuVxu3b00
>>216
だねぇ。イヴィルベリルが契約後完全に無意味な存在になる辺りとか一部惜しい所もあるけどさ。
219 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga  sage]:2012/05/15(火) 22:43:12.80 ID:Q725Lx4A0
まあそこら辺は自由にアレンジしてくれって>>1も言ってたし色々やってみようぜ
220 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/15(火) 22:52:59.52 ID:OYmdoSOro
>>1もきっとそしらぬ顔で投下してるかもしれないしな
221 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga  sage]:2012/05/15(火) 23:03:00.76 ID:Q725Lx4A0
やめとけやめとけ、また色々面倒になるぞ
222 :仮面ニャルライダーホテップ第四話 [saga ]:2012/05/16(水) 00:23:42.80 ID:3Zjtrkhw0
「マーシュが失敗したか」

 巨大な会議室に集まる三人組。
 まとめ役である年老いた男がため息をつく。

「斥候程度の仕事しかできぬ三流に向かわせたのがそもそもの失敗
 僕が行っていれヴぁあの仮面ライダーもどきなんてすぐに始末できたかも!」

 ボーイッシュな少女が机をバンバンと叩く。

「お前は三賢人の一人として軽率に動こうとする癖を直した方が良い
 ……ジョー、お前はどうする?」

「…………」

 仮面を被った青年は黙って銃器の手入れを続けている。

「そうか、沈黙を以って否定とみなそう」

「僕が行くんだってヴぁ!」

「落ち着け、相手は無貌の神の力を得た悪魔憑き
 最初から派手に攻めかかって失敗してはしょうがあるまい」

「ちぇっ」

「宇城愛奈は我々の計画に無くてはならぬピース
 地球の巫女として此方側に迎え入れなくてはならぬ娘だ
 石橋を叩いて渡るくらいで丁度良かろう……」

 老人が指を鳴らすと漆黒の影がぬるりと浮かび上がる。

「行くが良いナイトゴーントの悪魔憑き
 貴様の働き次第では大首領様に力を与えていただけるかも知れぬ」 

「御意」

 それだけ答えると漆黒の影は会議室から影も形もなくなった。

「ラピュタ翁」

「なんだジョー?」

「相手は確かニャルラトホテプの悪魔憑きだったな」

「うむ」

「俺も少し様子を見てきて良いか?」

「構わんが……まだ余り派手に動くなよ?
 ブギーマンが居なくなったせいでまた教会がうるさい」

「解ってる」

「ずううううるうううういいいいい!」

 二丁の拳銃を腰にぶら下げてジョーと呼ばれた男は部屋を出ていった。
223 :仮面ニャルライダーホテップ第四話 [saga ]:2012/05/16(水) 00:24:12.64 ID:3Zjtrkhw0



――――――――

 ミステリーサークルサークル
 部員わずかに十名の小規模なサークルである。
 彼らの住む夜刀浦の街に点在するオカルティックな物を追いかけるサークルなのだが基本的に麻雀したりカラオケ行くのがメインの活動である。
 比護大悟を始めとして全員が悪魔憑き関係者なのが特徴だ。
 普段大悟はここで情報を得て魔力を帯びた野生生物などを狩ったりしている。

「ナイトゴーント?」

「ああそうだ、何者かがこの街に夜鬼(ナイトゴーント)を放っている」

 サークルの部屋は大悟と、サークル仲間の倶爾ツカサの二人きり。
 倶爾ツカサは夜刀浦に住み着く魔術師の子孫であり、邪神ハンターの母親と暮らしている。

「そいつは有害なのか?」

「まあまあ有害だね、人を襲っているらしいし
 恐らくはノーデンスの悪魔憑きかナイトゴーントの悪魔憑きがこの街に侵入しているのだろう」

「ふむ……」

「頼むよ正義の味方さん、奴を狩ってはくれないか?」

「それは構わないが……ツカサ」

「なんだい?」

「この前妹と水族館に行ったら半魚人の悪魔憑きに襲われた
 その前は白昼堂々絡新婦の悪魔憑き
 ここの所事件が増えすぎていないか?」

「うん、そう思うよ
 僕の結界を好き勝手ぶち破ってくる輩が多くてね
 この土地を管理する魔術師としては本当に腹立たしい話さ」

「なるほど」

「おそらく夜になれば奴さんも動き出す
 ソレに合わせて動いてくれ」

「分かった」

 大悟は立ち上がって部屋を出ようとする。

「おい待てよ大悟」

「なんだ?」

「君は本当に薄情な人だね
 二人きりになると構ってくれないなんて寂しいぜ
 誰かと特別な関係になるのが怖いのか?」

「わかるぞおもう既に親友を裏切ってしまったからな!
 裏切られるのは辛いが裏切るのも辛いんだよなあ少年!」
 
 黒衣の男が窓からこちらを見て笑ってる。

「……その、あれだ。勘弁してくれ」

 苦り切った表情で大悟は部屋を出た。
224 :仮面ニャルライダーホテップ第四話 [saga ]:2012/05/16(水) 00:24:39.24 ID:3Zjtrkhw0



――――――――



 夜
 魔という魔が歓喜とともに疾走を始める刻。
 小高い丘の上にある魔女の家、それがツカサの家だ。
 今日はツカサの家に泊まってくるというと両親は快く彼を送り出した。
 妹だけは不機嫌そうだったが……まあ其処は後で埋め合わせをすることにしよう。

「レポートが終わらん」

「後で写させてやるから今は仕事に集中しろ」

「分かった」

 ローブを被って水晶玉を覗くツカサ。
 その姿は本物の魔女みたいだ。

「マジで魔女みたいだな」

 大悟は軽口を叩いてみせる。

「知ってるかい?魔女ってのは男にも使うらしいぜ」

「へえ、それは一つ賢くなった」

「……お、反応が出た
 街の東の廃工場付近に居るよ」

「オッケー……変!」

「家の中ではやめて」

「はい」

 ファンシーなデザインのドアを開けて外に出る。
 大悟は右手を天高く掲げて叫んだ。

「変!身!」

 腰に浮かび上がる漆黒のイヴィルベリル。
 宵闇すら飲み込む黒い光を撒き散らして大悟の身体を作り替えていく。
 光が止まる頃には大悟は仮面のヒーローマスカレイダーと化す。

「脚は有るのかい?」

 マスカレイダーが指を鳴らすと漆黒のバイクが現れる。

「魔獣シャンタクか」

「ナイアトラップの契約者の特権だ
 じゃあ行ってくる」

「夜食を作って待ってるよ」

「だからそういうのマジでやめろ」

 マスカレイダーはバイクに乗り込んで走りだした。

225 :仮面ニャルライダーホテップ第四話 [saga ]:2012/05/16(水) 00:25:05.96 ID:3Zjtrkhw0

――――――――


「ふふふん〜」

 鼻歌交じりに夜道を歩く少女。
 塾から帰ってくる為に夜道を歩いていたのだがやはり怖いらしい。
 鼻歌でも恐怖を紛らわせずにiPodで音楽を聴き、形態をいじり始めた。

「…………」

 そこに背後から迫る黒い影。
 音もなく電信柱から電信柱に飛び移り、真上から少女に……
 鈍い衝突音に少女が振り返ると、そこには誰も居なかった。

「……早く帰ろ」

 少女が駆けていく壁の一枚向こう側ではナイトゴーントとマスカレイダーが対峙している。
 闇夜に浮かぶ白い魔力光のライン。
 全身黒一色のナイトゴーントに比べてマスカレイダーの方が若干位置を補足されやすい。
 ナイトゴーントが雄叫びを上げるとマスカレイダーを囲むように何体ものナイトゴーントが現れる。

「活動(アッシャー)、勝利(ネツァッフ)」

 先手を取ったのはマスカレイダーだった。
 白色の魔力を漆黒の拳に乗せて殴り抜ける。
 非常にシンプルなフィジカルエンチャントだが、だからこそ強い。
 特にこのような囲まれた状況では先手を取れるか否かが勝負を決める。
 その先手を取るための手段としてフィジカルエンチャントは非常に有効だ。

「シャアアアア!」

 叫んだところでもう遅い。
 最初の一体の頭が見事に吹き飛び、青い炎に包まれて消滅する。
 背後から迫る次の一体には後ろ回し蹴りで対応。
 側転で鋭い爪を回避するとバック宙で後ろをとって背骨を折る。

「形成(イェツラー)!」

 空中に魔法陣が現れてそこからバールのようなものが飛び出す。
 マスカレイダーはバールのような物をキャッチして右から来るナイトゴーントを殴りつつ、左のナイトゴーントを蹴り飛ばす。

「――――これで終わりだ!」

 最後に残ったナイトゴーントに向けてバールのようなものを振り下ろす。
 しかしその刹那、正体不明の悪寒を感じてマスカレイダーは真横に飛び退く。
 先ほどまで彼の居た場所が地面ごとえぐられている。
226 :仮面ニャルライダーホテップ第四話 [saga ]:2012/05/16(水) 00:25:41.05 ID:3Zjtrkhw0
「……形成(イェツラー)、峻厳(ゲブラー)!」

 辺りを埋め尽くすように伸びるバールのようなもの。
 その隙間にもう一体、漆黒の影が居た。

「お前か」

「然り、よくぞ見つけた」

 バールのようなものの隙間から華麗に抜けだして飛び上がる。
 バールのようなものの山の上に立ち、影は堂々と名乗る。

「ナイトゴーントの契約者、服部無蔵」

「ニャルラトホテプの契約者、マスカレイダー」

 挨拶がわりに拳を叩きつけあう。
 自力で劣る無蔵が簡単に吹き飛ばされる。
 だがそれは問題ではない。
 元より力の差は承知の上である。

「影分身」

 空中で無蔵の姿がいくつにも増える。

「忍法地走」

 その内何体かは地面に潜り、

「忍法月渡」

 その内何体かは月光を背に空を舞う。

「―――――天井返し!」

 上下二方向からの攻撃
 横から、背後からの攻撃に対応できる人間は多い。
 しかし上から、あるいは下から攻撃を受けた経験の有る人間は少ない。
 理にかなった攻撃法だ。
 だがしかし、マスカレイダーは不条理を不条理で打ち破る無謀の英雄。
 そんな理が通じる相手ではない。

「形成位階(アッシャー)、智慧(コックマー)」

 月明かりで生まれた影にバールのようなものを打ち込む。
227 :仮面ニャルライダーホテップ第四話 [saga ]:2012/05/16(水) 00:26:13.62 ID:3Zjtrkhw0
「――――影縫いだと!?」

「残念だったな」

 天を征く影
 地を這う影
 全て同時につなぎとめる邪神の悪意

 マスカレイダーの両腕から白色の稲光が轟く。 

「影の国の住人よ、ここに貴様らの明日はない」

 満ちる魔力が黒のボディに美しいラインを形成して腕に集中する。
 ベルトのイヴィルベリルが異界の疾風を世界に呼び込む。
 旋風を纏った両腕を地面に当てるとマスカレイダーの足元からものすごい速度で漆黒の巨木が伸びる。

「黙して捧げよ――――凄惨の贄(アトゥ)」

 奇しくもそうつぶやいたマスカレイダーの姿は神に祈りを捧げる司祭のようであった。
 巨木は全ての影を同時に貫き、内側に取り込む。
 これこそが対集団攻撃用召喚魔術“凄惨の贄”
 巨木が消える頃には既に辺りから魔力の気配は消えていた。

「……終わったか」

 変身を解く。
 
「久しいな、大悟」

 その時突然、背後から銃を突きつけられた。
 聞き慣れた声。

「――――!」

「元気にしてたかい?」

「あ、あ……」

 そんな馬鹿な、ありえない。
 大悟はの心臓が早鐘をうつ。
228 :仮面ニャルライダーホテップ第四話 [saga ]:2012/05/16(水) 00:26:40.45 ID:3Zjtrkhw0
「な、なんでこんな所に居るんですかオバサ……」

 銃弾が頬を掠める。

「よく聞こえなかった」

「何故こちらにいらっしゃってるのですか
 ツカサちゃんの若くて美しいお母さ……」

 もう一度銃弾が頬を掠める。

「褒めりゃいいってもんじゃない」

「お久しぶりでございます重音さん」

 そこでやっと拳銃がホルスターに収まった。

「娘が家に男連れ込んでたから追いかけてみたらこれだ
 正義の味方ごっこがそんなに楽しいかい?」

 振り返る。
 バイクに跨った背の高い美しい女性。
 大人の色気、というのか少し影のある雰囲気がまた心惹かれる。
 彼女は倶爾重音、悪魔狩りとして名高いフリーランスの魔術師。
 そして、倶爾ツカサの母親でもあり師匠でもある。

「これは俺の義務ですから」

「あっそう、悲しいねえ前途有望な青年がこんなことしてるなんて
 とりあえずついてきな、お腹がペコペコなんだ」

「え、でもまだ……」

 急に重音が大悟を抱きしめる。

「誰かがここを見張ってる、相当な腕利きだ
 まともにやりあう訳にはいかないだろう?」

「え……?」

 頬にキスされた。
229 :仮面ニャルライダーホテップ第四話 [saga ]:2012/05/16(水) 00:27:24.24 ID:3Zjtrkhw0
「――――な、なにしてるんですか!」

「生きてたご褒美だ、さっさと帰るぞ!
 あんたも早くバイクを出しなさい」

 言われたとおりにシャンタクに跨って重音の後をついていく大悟。
 確かに薄っすらと何かの気配が追ってきている。
 しかし街を抜けて丘の上に着く頃にはその気配も消えていた。
 重音に急かされてドアをノックする大悟。

「只今」

「おかえり!」

「私も帰ったぞ」

「…………」

「…………」

 ちなみにこの母娘、仲はあまり良くない。
 重音は盾にするように大悟を前に押し出す。
 大悟の耳にだけ、聞き慣れた馬鹿笑いが聞こえていた。
230 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga ]:2012/05/16(水) 00:35:13.76 ID:3Zjtrkhw0
RPGツクールの素材ページのニャルラトホテプのコーナーが元ネタです
色々と
231 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/16(水) 18:23:21.30 ID:AwOwht7To
何やらキャラが増えて物語が広がる予感。楽しみ
元ネタも面白そうなんで見てこようかな

さて、火炎の悪魔憑き、最終話を投下させていただきます
232 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/16(水) 18:23:50.92 ID:AwOwht7To

 それはまるで――夢の中のようで。
 ぼんやりと。さまざまのことが。浮かんでは消え。
 過去と現在と未来とが邂逅し。混ざってどろりと溶け合った。

 悠久にも近い時間の錯覚を漂った後に。彼女はその気だるい黒の混濁の中からなんとか自分の意識をまとめ上げた。
 次第に自我の把握が追いついてくる。
 同時に手足の感覚を取り戻すことに成功した。
 視ている、という実感もようやく帰ってきた。

「……」
 とはいえ何かが見えたわけでもない。遮るものもなく、遠い地平に向かって空虚に空間が広がっている気配を感じるが、それは全て暗闇に閉ざされていた。
 その閑散とした雰囲気は、あらゆるものの存在を拒んでいるようにも思える。
 あまりに寂し過ぎて、迷子にでもなったかのような、胸が締め付けられるような。

(弱気になるな。弟を取り戻すんでしょう)
 自分を叱咤し、意識を引き締める。
 前を見据え、歩きだした。
233 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/16(水) 18:24:41.63 ID:AwOwht7To

 進む方向が前、というのに何か理由があったわけではない。周囲三百六十度全てが開けていた。
 だが、自分の進むべき道、と考えたときに自然と"前進"しか選択肢に残らなかった。
 弟はきっと、この先にいる。

 何も見えない闇の中、歩を進める足の裏に返ってくる感触も、同じくあやふやなものだった。
 あまりに不確か過ぎて、歩いているのもか不安になりそうな程で、しかし反対に彼女の足取りは確かだった。
 徐々に鼓動が速まる。心がせくのを感じる。いつの間にか、彼女は駆けだしていた。

 どんなに走り、気持ち昂ぶっても、弟の事はやはりおぼろげにしか思い出せなかった。
 彼とどんな日々を過ごしたか、彼はどんなものが好きだったか、彼はどんな夢を持っていたか。
 全て全て遠くに置き忘れてしまった。
 目頭が熱くなった。こんな自分に弟を取り戻す資格はあるのか。こんな自分でも彼は許してくれるのか。
 いや違う。資格などどうでもよかった。許されることも期待していない。
 ただそれでも弟に、ラファエルに会いたかった。
「だから」
 立ち止まる。ありったけの声で叫んだ。
「弟を返しなさい! サラマンダー!」
 なにか巨大なものが、目の前にいた。
234 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/16(水) 18:25:27.39 ID:AwOwht7To

 彼女は躊躇なく能力を解き放った。
 いくつもの火球が暗闇に浮かびあがり、前方の暗闇に吸い込まれる。
 手応えはあったが効いている気配はなく、彼女はさらに能力を強める。
 火炎によって轟音と強風が巻き起こり、サラの髪を逆立たせる。
 だがやはり効かない。

 火勢は弱めないまま、彼女は懐から銃を抜いた。
 銀の弾丸を影に向けて撃ち込む。銃声が立て続けに響き渡る。
 さほど経たぬうちに撃ち尽くしたそれを背後に捨てると、サラは次に剣を抜いた。
 突進する。
 そして大上段に構えたそれを力のままに振り下ろした。

 それは唐突だった。
 その時認識できたのは、視界がぶれて何やら頭蓋の奥の脳が大きく揺さぶられたような感覚だけだった。
 叩きつけられて理解する。腹の激痛がその理解を助けた。弾き飛ばされたらしい。
 自分がどれほどの痛撃を受けたかも把握できないが、起き上がることすらできない。
 痙攣が身体を突きぬけた。

 どうやら、とぼんやり気付いた。火蜥蜴の悪魔は今の今まで自分を認識してすらいなかったらしい。
 「多少うざったいな」程度だったのだろう。振り払われて、このざまだ。
(くそっ! お前たちにとってわたしはその程度!?)
 火炎が見えた。
 火蜥蜴の悪魔が放ったそれは大きく膨らんで、サラを静かに呑み込んだ。
235 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/16(水) 18:26:09.48 ID:AwOwht7To

 業火の中でそんな余裕はなかったはずだが。
 サラは左手首に付けた腕時計だけは庇おうとした。
 彼女が悪魔憑きになったあの夜の火事の中で、幸運にも残った弟の形見だった。
 もちろん無駄なことは分かっていたけれど。それでもこれだけは守りたかった。

 衣服が全て燃え、皮膚が焼け爛れ、炭化し、崩れ落ちる。
 それを想像して、震えながら待ち受けていたが、しかし彼女は生きていた。
(……?)
 衣服は確かに燃え落ちて、腕時計以外何も残っていなかったが、それでも確かに生きていた。

 彼女は知るべくもなかったが。
 同時刻に起きたブギーマンたち悪魔憑きの反乱と、その中で生じた現王である妲己による王の力の放棄と拡散。それが彼女に力を与えた。
 知らなかったので、こう解釈した。
 すなわち。
(ありがとう。ラファエル)

 素肌を外気にさらしたまま、彼女は静かに立ち上がった。
 首から装飾品として下げていたイヴィルベリルを外して手に持った。
 いまだ視界は暗闇に閉ざされていたが、気配で火蜥蜴の悪魔が身じろぎしたように感じた。怯えたのかもしれない。

 イヴィルベリルを腕を伸ばして掲げる。
「弟を返してもらうわよ。トカゲ野郎」
 手から火炎が生じた。火蜥蜴の悪魔に向かって飛んだ。イヴィルベリルを乗せて。
 轟音と閃光と突風と。サラはそれらによって目を閉じた。
236 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/16(水) 18:26:41.28 ID:AwOwht7To

 しばらくして、目を開けようとした。
「開けちゃだめ」
 声がして、瞼をとどめた。
 ただ、代わりに声が漏れた。
「……ラファエル」

 頬を涙が伝った。あんなに会いたかった人が、こんなに近くにいる。
 言いたいことは山ほどあった。だが、やはり、こんなときに限って何も言えない。
「わたし……」
「お姉ちゃん」
 その声にサラは身体を震わせた。

 そこには決定的に彼女を咎める棘があった。次の言葉によって、打ちのめされる予感がそこにあった。
 俯いて、覚悟した。いや、とっくに覚悟はできていたはずだった。
 自分は半分は、断罪されるためにここに来たのだから。

「馬鹿」
 ぽこっ、と頭を叩かれた。それだけだった。
「え?」
 困惑して、思わず目を開けそうになった。

「こんなに無理して。お姉ちゃんは馬鹿だよ……」
 温かいものに包まれた。ぬくもりを感じた。誰かが自分を抱きしめていた。
 信じられずにそれを疑った。自分は既にぬくもりとは遠く隔てられたはずではなかったのか。
「大怪我してるじゃないか」
 潰れた右目にも温かい手が触れるのを感じた。
237 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/16(水) 18:27:16.98 ID:AwOwht7To

 何かが弾けた。
「こんな傷では償えない!」
 それは喉のひくつきに遮られかけたが。それでも抱きしめられたまま、彼女は言わずにいられなかった。
「あなたを捧げてしまったわたしは……」
「お姉ちゃんはもうとっくに許されてるよ」
 棘の落ちた、含み笑いの声が耳元で聞こえる。

「お姉ちゃんのおかげで僕はずっと幸せだった。お姉ちゃんのためだったら、僕は僕が惜しくないよ」
 限界だった。何かが崩れた。
 嗚咽を漏らして、それでも号泣しないようにと意地を張って。ただただこちらも抱きしめ返した。

 涙を流し続けて、しかしいつまでもこうしてはいられないことは予感していた。
「僕もう行かなきゃ」
「嫌だ」
 顔をゆがめながら、それだけは言えた。
「わたしもあなたと一緒に行く」

「それは駄目」
 彼はそう言って、サラから身をはなした。
「それ持っていて」
 と、腕時計がとんとんと叩かれた。
「お姉ちゃんと僕をつなぐ絆。ね?」

「ラファエル!」
 叫んだが届かない。最後に聞こえた。
「ああ……僕、何もお返しできなかった」
 そんなことはない!
 あなたがいてくれたからわたしはずっと……!
 目を開いた。
238 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/16(水) 18:28:30.37 ID:AwOwht7To

 星空が見えた。遠い遠い小さな輝きが、静かに地上に降り注いでいた。
 彼女は黒い湖に浮かんでいるようだった。
 呆けたまま見上げる。全てが通り過ぎてしまっていることを実感した。

 ふと右目が見えることに気づいた。
 触れて確かめると、火傷は跡形もなくなっている。
 左手首には小さな腕時計。
「……」
 しばらくは、そのまま動けそうになかった。
 ながれ星が一筋走って、消えた。

◆◇◆◇◆

 数カ月後のことだ。田舎の草原に小さな家が建った。
 マリアと名乗る少女がそこに住んでいる。
 彼女は過去を語らない。何も他人に語らない。
 過去を一人で背負いながら。その重みに時々悲鳴を上げながら。それでも。
 小さい腕時計を手首に巻いて、彼女は確かに生きている。
239 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/16(水) 18:30:47.36 ID:AwOwht7To
終わりです。付き合ってもらってどうもでした
文章に試行錯誤してて、自分でもどこかおかしいなと思ってるところなんで、もしよかったらアドバイスもらえるとありがたいです
またちょこちょこ書かせてもらいにきます
240 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/16(水) 21:17:18.17 ID:iivviPJDO
話が短めだったせいか主人公が一人でひたすら突き進む形式のせいかキャラの色々な顔が見られなかったのが惜しいなあと
敵味方問わず色んなキャラとの会話、とくに日常っぽさをもっと見たかったり
241 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/16(水) 21:18:04.26 ID:iivviPJDO
まあ偉そうに指摘できるほど自分も書いてないですけどね!!
242 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/18(金) 17:43:07.64 ID:kFGwZ3HLo
>>240
アドバイスどうも。もっと多面的な描写?ができたらよかったということですね
以後参考にします
243 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/05/20(日) 04:35:28.22 ID:uuQvmd4Oo
お、知らない内に再動しとる
wikiがほしいところだな・・・簡単な編集までならできるんだが
244 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/20(日) 17:08:21.76 ID:gHPkhtTuo
一応>>1にあるsswikiにはいろいろまとめられてるみたい
245 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/21(月) 17:09:41.11 ID:fxP+1H1go
借りますー
246 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/21(月) 17:10:09.18 ID:fxP+1H1go

 かつて一人の武人がいた。
 この平和な時代にあって闘いを愛し、闘いに明け暮れた、珍しいタイプの人間だったと聞く。
 私の知る限り、彼が負けたことを示す記録はない。何人もの武の者が彼に挑み、そして散っていった。
 当代最高の武術家と呼ばれ、十数年前まではその道で知らぬ人はいないほど有名だったらしい。

 しかし……それらは全て過去形だ。
 私にしたって数年前、人づてに聞いて初めて知ったところである。
 彼はおよそ十年前、忽然と他人の世から姿を消してしまったのだ。
 彼が何を思って消えてしまったのか、今もまだ生きているのかすら知る者はいない。そして知りたがる者も意外なほどいない。
 それがなぜだかは知らないが、つまり私は数少ない例外というわけだ。
247 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/21(月) 17:10:37.49 ID:fxP+1H1go

 山道が途切れて、それでも進み、早一時間と少し。
 私は荷物の重さを強烈に意識していた。
 汗が滝のように流れ、服がぐしょぐしょと嫌な感触を伝えてくる。
 既に気力は半分ぐらい萎えてしまい、身体は座りこむことを要求していた。

 私はその誘惑に負けなかったが、それでもそこから十分も歩かないうちに限界が来たので、そう違いはなかったかもしれない。
 木の根がごちゃごちゃと絡まり小さな虫が這いまわっている地面。私はそれに頓着する余裕もないまま横たわった。
 私がなぜこんな山奥にいるのか。言うまでもなく、例の武人に会うためだ。

 彼のことを知って以来、私は記者としての仕事の合間に彼の情報を探しまわっていた。
 確実に彼である、と確信を持てる情報はかなり少ない……いや皆無に等しかった。
 こじつければ彼のことであると言えるかもしれない、といった類の目撃情報を頼りに、私は各地を回った。
 この山歩きもその一環だった。

 倒れこんで見上げる空は、木々に削り取られ見晴らしはよくない。
 隙間から覗く曇り空はどことなく気分を暗くする。
 私は目を閉じた。今日はここらで野宿かもしれない。
248 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/21(月) 17:11:24.42 ID:fxP+1H1go

 そこで夜を明かすつもりかね。
 声がして私は目を開けた。
 上体を起こして見回すと、ちょうど右後ろの方向に老人がいた。
 背筋がしゃんと伸び、小柄ながらもしっかりとした体つきをしている。
 しかし、それ以外は何のことはない、ただの老人だった。この山を下りた町にでもいれば、特に注目することもないだろう。

 とはいえ私が見間違える訳もない。
 だいぶ体躯が小さくなっていたが、"彼"だとすぐに分かった。
 その事で声を上げる前に、老人が口を開いた。
 ついて来なさい。人間に会うのは久しぶりだ。
 言って、背を向け歩きだした。

 たどり着いたのは、雨避けに布が張り渡してある程度の粗末な野営場だった。
 座れ、と彼に言われて、私は従った。
 人間に会うのは、久しぶりだ。彼は先ほどの言葉を繰り返した。無表情だったが、どこか感慨深げだった。
 私はいろいろ彼に聞きたいことがあったのだが、順番を考えているうちに彼はそこにあった毛布をかぶって眠ってしまった。
 あまりに違和感なく眠りの世界に入られたので、私は呆気にとられた。
 起きる気配がないので、仕方なく持ってきた缶詰を一つ空け、私も横になった。
 とにかく。私は彼に会うことができたのだった。
249 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/21(月) 17:11:58.59 ID:fxP+1H1go

 次の日。私は翁と対峙していた。肩の力を抜き、なるたけ隙のないよう構えをとる。
 彼がどれほど強いのかを知りたかったのだ。
 ちなみに翁というのは私が決めた彼の呼び名だ。特にそう呼ぶことを止められはしなかった。

 私は空手歴が結構長い。
 かれこれ十年近くになるだろうか。我ながら長く続いている。
 記者としての仕事でもそちらの方面の取材が多い。翁の事を知ったのもその関係でだった。
 そのときに決めたのだ。絶対にこの武人に手合わせを申し込むと。
 鋭く息を吐いて、踏み込んだ。

 ……結果から言うと、私は一本も取ることができなかった。
 あれから何本も何本も、納得がいくまで(というか諦めがつくまで)手合わせしたのだが、駄目だった。
 なんで負けるのかも分からないほどに実力に差があった。

 やはりお強いですね。笑って言ったが、彼は無表情を崩さなかった。
 私は言葉を続けた。なぜ、こんな山奥にいるんですか。なぜ失踪なんて真似を。
 彼はわずかに視線を落とした。

 しばらく木々のざわめきの音しかしなかった。
 沈黙が長引いて、私は垂れてきた汗をぬぐった。その時翁が口を開いた。
 君。強い、とはどういうことだと思う。
 翁のようなことだと。と私は即答した。

 翁が笑った。ただ、それは酷く苦々しく、笑いというよりも顔をしかめたという方がどちらかというと近かった。
 かつて。と翁が言う。かつて、私は恐れを抱いた。と。
 闘いに明け暮れる日々。勝利をおさめてはいたものの、いつか敗北することは、続ける以上明白だった。
 それは当然で、避ける手段など人が持っているわけもなく、持っていていいものでもなかった。

 だが、私は望んでしまった、と翁は空を見上げる。苦しげに。
250 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/21(月) 17:12:34.33 ID:fxP+1H1go

 定められた勝利、翁はそう表現した。
 決して敗北することはなく、勝利を避けられぬ運命。
 その後ろ向きな言い方に私はおや、と思った。

 翁は続ける。
 人はいつか死ぬ。生き続ける限りそれもまた明白だ。
 だが、死ぬことから逃げてまで続く人生に何の意味があろうか。
 同じように、敗北からも人は逃げられないし、逃げることは許されない。そこにもまた意味があるからだ。
 だから。悪魔はそれを欲したのだろうな。

 悪魔? 私は訝しく思って眉を上げた。
 翁はその声を無視した。
 私は敗北を恐れた瞬間に既に敗北していたのだ。私の愛した闘争は、その瞬間闘争ではなくなった。

 翁は見上げていた顔を下ろした。
 君。私を目指してはいけないよ。きちんと負けることのできる人間のままでいなさい。
 言って、寂しげに笑った。
251 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/21(月) 17:13:27.49 ID:fxP+1H1go

 次の日。目を覚ましたときには既に翁はいなかった。
 私はそうなるだろうと思っていたし、事実そうなっていたのだから、特に驚かなかった。

 翁が言っていたことは、完全には理解できなかった。
 ただ分かるのは、敗北から逃げ出した彼が、人里からもまた逃げたということだった。
 人のいるところにいれば、また勝ち続けなければならず、それは彼がかつて逃げたことの再確認にしかならないから。

 私は強い人間というのに憧れていた。
 だからこそこんな山奥までそれを追いかけてきたのだ。
 だが、ここにいたのは敗北から逃げた一人の男に過ぎなかった。

 彼を笑うつもりはない。
 私もまた、恐怖する一人だ。
 だが、どこかうすら寒い寂しさまでは誤魔化すことができず、私は身体をこわばらせた。

 上空を鳶らしき鳥が飛んでいた。
 それが一鳴きして、どこかへ飛び去った。
252 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/21(月) 17:15:28.16 ID:fxP+1H1go
終わり
ちょっとそれっぽい話を書いてみたくなったので
253 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/21(月) 17:55:09.88 ID:nlGRhI9DO
乙でした
254 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/05/23(水) 03:40:45.37 ID:s7USQ6MA0
乙乙
翁の相手はもう人間じゃ務まらないんだな
会話文がないのが淡々としててよかったよ
255 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/25(金) 19:02:49.13 ID:GdeuJPpjo
借ります
256 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/25(金) 19:03:15.35 ID:GdeuJPpjo

 わたしはかつて、悪魔に"心"を捧げました。
 そして、それと引き換えに禁忌の力を得ました。
 大切な人を害悪から守るために、どうしても必要なことだったのです。
 それによって得たものと失ったもの。
 あれから長い時を経ましたが、わたしはいまだにそれらのことについて考えています。
257 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/25(金) 19:03:42.72 ID:GdeuJPpjo

 朝の日の光が、カーテンの隙間から射し込みネグリジェを温めて、わたしはいつものように目を覚まします。
 何年も繰り返したことですが、その時に感じるすがすがしさは変わることがありません。
 ベッドを抜け出して顔を洗った後は、朝の分の食事に加えてお昼の分の食事も用意します。
 今日は出かける用事があるのです。

 ランチを詰め込んだバスケットを持って家を出ると、町の全てが見渡せます。
 ここは町から離れた丘にある一軒家です。
 町はいつものように綺麗で、離れていても生き生きとした雰囲気が伝わってくるようでした。

 しばらく歩いて町に入ります。
 目的地はもう決まっているので、足取りに迷うことはありません。
 通りを一直線に進み、途中でお花屋さんに入ります。
 それから、小さな花束を買って店を出ました。

 その頃には町に人がちらほら見えるようになりました。
 わたしは皆と視線を合わせないように若干目を伏せるようにしました。
 ひそひそ声が聞こえます。こちらをちらちらとかすめる視線も。
 先ほどのお花屋さんの、腫れものを扱うような態度がなんとなく思い出されました。

 町の真ん中を抜ける通りを歩き切ると、人通りがぱたりとなくなりました。
 そこには生きる者の気配はありません。ただ、死者の沈黙のみがありました。
 どこかさびしい風がさわさわと吹いているのを感じます。
 そこは集合墓地です。

 ある墓標の前でわたしは立ち止まります。
 その下には、彼が眠っています。
258 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/25(金) 19:04:17.45 ID:GdeuJPpjo

 花束を墓標の前に置きます。
 それから黙祷。口をきゅっと結んで、いくつか近況報告をした後、愛しています、と締めくくります。
 墓地に満ちているのは、やはり何者かが黙りこくっているような不思議な沈黙で、しかしわたしはそれをどこか心地よく感じていました。

 彼が亡くなって、もう八年ほどになるでしょうか。
 そのとき彼は病の床にあり、大変衰弱していました。
 彼には両親が遺した幾ばくかの財産がありましたので困窮はしていませんでしたが、その財産を狙うよからぬ輩もいました。

 彼には亡くなった両親以外の親類はなく、わたし以外に力になってくれる人はいませんでした。
 わたしが、彼を守るしかなかったのです。

 かつて。
 わたしは悪魔に心を捧げました。
 得たものは彼が亡くなるまでの平穏な暮らしです。
 それはとてもあたたかく、わたしは後悔を覚えたことはありません。
 ではしかし。失ったものはなんなのでしょう。
259 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/25(金) 19:04:47.68 ID:GdeuJPpjo

 筋から言って、悪魔に捧げた"心"こそが、わたしの失ったもののはずです。
 わたしは心を失って、力を得て、人間をやめてしまった。
 それが真実のはずです。

 なのになぜでしょう。わたしは思わずにいられないのです。
 わたしは朝の日のあたたかさと、風の冷たさに思いを新たにすることができる。
 人々の得体の知れないものを見るような視線に、心を痛めることができる。
 そして、墓標の下の彼に愛を囁くことすらできる。
 だから、わたしが真に失ったものは何なのか、と。思わずにいられないのです。

 もしかして、と考えることがあります。
 もしかして、人は心などなくても生きていけてしまうのではないかと。
 いや、そうではないのかもしれません。
 もっと単純に、"人間には元々、心と呼べるものなどないのではないか"、と。
260 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/25(金) 19:05:35.82 ID:GdeuJPpjo

 それを思い浮かべるとき、わたしは背筋に凍るほど冷たい何かが通り過ぎるのを感じます。
 人間が心や精神とあがめて崇拝しているものは偶像にすぎないのではないか。
 そう思えてしかたないのです。

 わたしはサンドイッチを手に持ったまま、彼の墓標を見つめます。
 死者の沈黙は、心の在処を知りながら、それを言い示すのをためらっているかのようで。
 わたしは今までのあれこれを胸中で転がしながら。
 契約によって得たものとはなんだったのか。失ったものとはなんだったのか。
 そして、本当に自分は契約者となっていたのか。
 ずっと、悩み続けるのです。
261 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/25(金) 19:08:52.82 ID:GdeuJPpjo
終わり
>>158を実践してみようとして、やっぱり上手くいかない
262 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga ]:2012/05/25(金) 22:07:34.40 ID:+3/ImRHc0
乙乙
じゃあ自分なりにそれっぽいのを
263 :世界で一番美しいニューロン [saga ]:2012/05/25(金) 22:08:32.56 ID:+3/ImRHc0
「じゃあ学校行ってくるよ」

「行ってらっしゃい」

 父が新聞を読み、母が朝食を作り、妹が歯を磨いている。
 そんなどこにでもある普通の家庭。

「真理子、学校に遅れるなよ」

「解ってるって、すぐ行くよお兄ちゃん」

 理想の家庭。

「おはよう久我くん」

「おはよう」

 クラスメイト全員が仲良く、いじめなんてない。
 互いに学び合い高め合う絵に描いたようなクラス。

「今日は皆に伝えたいことがある」

 生徒の指導に熱心だが決して押し付けがましくない先生。
 授業も面白い。
 理想のクラス。

「この学校に転校生が来ることになった」

 予定外の存在が現れる。
 
「はいってきなさい」

「遠山さつきです、よろしくお願いします」

 皆歓迎する。
 僕も歓迎する。
 彼女は僕の方を見る。

「やっと見つけたわ、リッチの契約者」

 ああ、どうにも“此方側”の人間らしい。
 スイッチを切る。
 まるで僕達が居ないかのように皆は振る舞い始める。

「そうだよ、確かに僕はリッチと契約した。それがどうしたんだい?」

「これだけ被害が大きくなるまで気づかれなかったなんてね……
 貴方がこの街の人たちを全員殺したのでしょう?」

「人殺し?言ってることがよくわからないや」

「じゃあ、死体しか操れない貴方が何故町の人を操れるの?」

「何故だろうね、ちゃんと魂は戻したんだよ
 間違えて他人の傘をとってしまったから傘立てに戻した
 その程度のことさ
 肉体的損傷は無いし、何か汚したわけでもない」

「いくら詭弁を弄しても貴方のそれは死霊を操る術だ
 人間の魂は傘じゃない
 少し取り出して戻すことすら許されない神聖なものだよ」
 
「それは知らなかった
 でもこの街の皆はいつも通り普通どおり僕の思うとおりに理想的な生活を送ってくれるし
 誰も憎しみ合わないんだからきっとみんな幸せなんだろうね
 僕は善良な人間だと思うな」
264 :世界で一番美しいニューロン [saga ]:2012/05/25(金) 22:08:58.32 ID:+3/ImRHc0
「生とは不可逆
 一度死ねばいくら完璧に蘇生したとしてそこに自我は存在しない
 完璧な物理的化学的電気的反応の集合体に過ぎなくなる
 貴方は他人の人間存在というプログラムを勝手に再起動したんだ」

「誰が起動しようと、人間には変わりない
 僕の思うとおりに理想の生活を送るだけで
 自分なりに怒ったり笑ったり泣いたり喧嘩したり仲直りする立派な人間だ
 君の言い分では彼らがまるでロボットみたいじゃないか」

「人間は一人で生まれ、一人で死ぬ
 そこに人間の尊厳というものがある
 貴方はそれを犯した」

「人間の尊厳とは他者に尽くし、他者との関係性の中で生まれるものだ
 関係性の無い所には何も生まれない
 故に貴方の言うとおり人間が生まれ死ぬ時一人であるなら……
 人間の、否、この世のすべての存在の発生と終焉に尊厳など無い
 何もない」

「一人であっても正しいと思う道を他ならぬ自らの思考で探求し、実践する
 それが自我を持つ人間の貴さです
 自我を捨てた貴方にそれを理解できるかはわからないですけど」

 え?

「僕が自我を捨てた?」

「ああ、気づいてなかったのですか」

「馬鹿な、僕はここにいる
 今ここで思考し、反応している」

「では聞きますが貴方は契約時に何を捧げたのですか?
 外面だけが良く、貴方にも口先だけでは倫理を吹き込んだ両親?
 親にだけは良い子ぶって外では年上の男と遊んでた妹?
 それとも貴方の悩みを理解せずに貴方の真面目さを疎んだ級友?
 貴方は善良な人間だった
 だからそんな彼らさえ犠牲にできなかった」

「馬鹿な」

「貴方が捧げたのはあなた自身」

「うそだ」
265 :世界で一番美しいニューロン [saga ]:2012/05/25(金) 22:09:40.80 ID:+3/ImRHc0
「ほら、そう言っている間にも実は何も感じていないんじゃないですか?
 普通ならば“君には自我が無い”とか
 “君は神経反応の集合体以上の価値は無い”とか
 そんな事言われたら……」

「そんな馬鹿なことあるわけない」

「それも上っ面のことなんでしょう
 あなた自身はそういうように反応する人間としてプログラムされているからそう動くだけ」

「そんな……」

「貴方は、とっくに死んだ貴方の理想を実現し続けるロボット
 タンパク質で構成されているだけの回路なんだよ
 怒り哀しみ泣き笑い、性能が良いだけのファービーさ」

 ブルスコファーってね
 さつきさんは笑う
 僕は微笑み返す

「仮にそうだとしたなら僕はどうすればいいんだ?」

「さあ?
 どうのしようもないんじゃないかな
 続けたらいいじゃん」

「え?」

「君は生きている限りこの死者の王国を広げ続ける
 どこまでもどこまでも
 それが君の行動原理なのだから」

「…………」

「もしかしたら、君のその行為こそが正解なのかもしれない」

「…………」

「群体生物という存在は聞いたことあるかい?」

「ああ、単体の生物が集まって一つの巨大な生物のように振る舞うってあれだろ?」

「この街の人間の思考は“君の考えた理想”というものの実現のために動いている
 君の理想に則って教育し
 君の理想に則って学び
 子供を産み育て
 その子供たちを教育する
 今はいびつな死者の帝国だが
 いびつな死者による理想的で倫理的な教育が生者を変え
 いつか君の能力に関係なく君の理想の通りの人間だらけの街にここを変えられるなら……
 それは中々面白い実験だ」

「そうなのかい?」
266 :世界で一番美しいニューロン [saga ]:2012/05/25(金) 22:11:34.66 ID:+3/ImRHc0
「そうだよ、君の欲望には価値がある
 ああ、名乗り遅れたが私は魔術師“遠山さつき”
 悪魔憑きは人間であった頃の名前が他人にバレると力を失う
 そこで君に一つだけプレゼント
 君さえ良ければ“ネウロ”という名前を使ってくれ
 そして、私を殺せ」

「君は何故そうまで僕に……」

「うーんそれはたぶんね」

 さつきさんは笑う。

「君と話している内にそれも良いかなって思うようになったのと」

「それと?」

「私は好きだから、君みたいな綺麗な顔の男の子」

「ネウロだっけ?」

「うん」

 さつきさんは僕の手を握りしめて首に当てさせる。

「すぐ戻してね、綺麗サッパリ
 本当のゾンビにはなりたくないから」

「うん」

 でも困ったことに、僕も彼女に一目惚れしていた。
 どうすればいいんだろう。
267 :世界で一番美しいニューロン [saga ]:2012/05/25(金) 22:12:14.94 ID:+3/ImRHc0
とりあえず書いてみた
似非SF恋愛もの
268 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/06/14(木) 16:55:10.11 ID:Rx9kMhLIo
今更ながら面白かったのでage
269 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/06/14(木) 17:00:22.90 ID:ZKpv7I180
面白いからといってレスがつくとは限らない!
残念ながら
270 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/14(木) 17:09:40.21 ID:Rx9kMhLIo
確かにそうだよな……いいもん書いてるなーとは思うのだけれども
271 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/06/26(火) 11:27:02.43 ID:Pbjok3OIO
「こちら、第二特殊?戦車"4式 誰か、誰か応えて!!」
"彼女"は破損した右脚を引きずり、なにも映らない視覚センサーであたりを見渡しながら
戦車として生まれて初めて''心"の篭った悲痛な叫びであった。
彼女の叫びは彼女自身には聞こえなかったもののそれに応じる様に蹴りが叩き込まれる。
「ッッツ!!」
声にならない悲鳴を上げながら地面を転がる、そんな中どうしてこんなことになったのか
その元凶の姿を思い出す。
??「ウッセーんだよグズ人形喚くんじゃーねーよ、チッ、まーだ動いてやがる何なんだこりゃ」
そいつはワタシタチの部隊のひとをいきなり…
??「大体なーんで、こんなへんぴなド田舎に米兵顔負けの装備で突っ込んで来たんだ?オマケにガキがいると思ったら機械の塊だし、あれか、日本か、日本の変態共がつくったのか?」
272 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/06/26(火) 12:40:25.38 ID:Pbjok3OIO
「あいつはナンダ」
自身は気付いては無いが、既に彼女はあまりにも強大な力に
彼女の心は恐怖に塗り潰されて居た。
彼女は壊れかかった身体を引きずりながら相手から離れる様に逃げながら思い出す、あいつとの遭遇を、
思い出す、圧倒的な力の差を、思い出す、自身の窮地を、そんな中彼女に出来たことはただ小娘の様に泣きながら逃げる事しかなかった。
しかしその選択も意味を無くす。
??「どこ行こうとしてんだよブリキ」
彼女はそれでも逃げようと振り返りざまに手にした機関銃の引鉄を握り込む、なんとか弾は出たものの何の役にも立たず
ただ両腕を切り落とされる結果となった。
腕を斬られた衝撃で自身の回路が飛びそうになる中それは見え無い瞳に写り込んだ。蒼き蝶がまるで花畑の様に当たり一面を飛び廻り、場違いな風景を創り上げていた視界全てを蒼塗りつぶされた中、その奥に何かが佇んでいた。そして此方を向くと
悪魔は喋った
「何ともみすぼらしい姿だな、こんなのが役に立つとは思えないが…まあいい余興にも成るし何より賭けは分が悪い方が楽しい」
そう一人呟くと私に向かって
「"汝欲する所を為せ"まあ足掻いてみたまえ、未完成の人形」
その後は、私は何も知らないただ何かが始まってしまった
そんな気がした、まだこの時に契約を蹴っていれば助かったかもしれない。
だが線路は変わらない
273 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/06/26(火) 16:54:07.56 ID:Pbjok3OIO
,
弱い悪魔使いは何処でも狙われる


悪魔使いと言うだけで普通の生活には戻れない。
"教会"やその力を利用しようとする一般の組織から狙われ、掴まれば弁明の余地なく殺されるか、実験材料か人以下の闘犬の扱いを受ける
たとえ分隊程度とタメが張れたとしてもそれ以上には勝てない
ましてや万全の状態での話だ。
だから、うちらのボスは村を作った、また悪魔憑きが人として暮らせる世界、小さいながらも大切なそんな世界
成って間も無い自分には狭苦しい所だったが果物屋の姉ちゃんが駄賃替わりにくれたリンゴは好きだし、狩りのおっちゃん達はオッカナイけどいつも優しい、ボスはかなり変わり物で何考えてんだか訳分んねえ変態だが、いざって時はみんなを助けてくれるそんな人だ。
だからワタシは信じられる、村の皆を助ける為に例え命を棄ててでも…
274 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/06/26(火) 19:05:46.49 ID:PZUEO+Kq0
「なんだか今とてもアホなこと考えてたでしょ?」
ハンズフリーの無線機から苛立しいながらも愛嬌の有るボスの声が響く
「いんやー、そんな事ねーすよそんな事より殲滅、終わりましたよー。」
そう言った瞬間
「はい、ダメー、お小遣い20%カッート!!」
「はぁあ?!な「なにが"殲滅しましたよー"だ、だからアホなんだよ偵察、良くて敵の撹乱っていったのになんで潰したの、ねえなんで?これじゃあ大群引き連れて来てくださいって言ってんのと同じじゃん。」
「サッサとずらかるよサッサとてか今すぐ逃げろ。」
「へぇ?」
275 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/06/26(火) 19:32:14.04 ID:PZUEO+Kq0
「悪魔憑きだ」
そう聞こえた瞬間背中の見えない毛が一気に逆立った
何故、もう近くには敵の姿は無い、己の聴覚と視覚をフルに使って何度も敵は確認した。なら何処に…
身体に電撃を喰らうのと理解したのは同時だったその攻撃は今までジャンクと見ていた物からだった。
心の中で毒づきながら森の中に隠れひそむ。誰だ、誰がどこから操ってる、どんな能力で何人で…
「ハイハイじゃれ合いはそこまで、アレの視覚は奪ったでしょサッサと合流地点まで走る走る。」
「おい、敵は他「確認した、でも居ないから大丈夫大丈夫てか産まれたては何も出来ないしみんな村から引き払ったよん。
今は君が危ない、だからさっさと帰って来い。」
「…分かった。」
「よく頑張った、みんなの為に有難う。」
そしてワタシはそのまま悪魔憑きを置いて消えた
276 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/06/26(火) 20:13:36.87 ID:PZUEO+Kq0
ケータイから書くのキツイ
277 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2012/06/29(金) 12:31:50.09 ID:4Q9MNxcy0
書いてみようと思ったんだけどちょっと疑問


悪魔と契約する際に大切なモノを生贄に捧げる必要があるらしいけど
それは自分の所有しているものの範囲ですか?だとしてその範囲の定義がわからない

たとえば、自分がほしい宝石を別の人が持っている
ある日、自分がそれを盗んで手に入れた
そしてやがて悪魔と契約しその宝石を生贄に捧げることにした
これはアウト?

また、とある魔術師が自分の娘を悪魔に捧げたいと思います
しかしその娘は捧げられる当日、家を飛び出し逃げた
家出娘を生贄に捧げることはアウト?

アウトなら、捧げる現場にいればいいのかな?
それならそれで、家出娘をむりやり連れてきても、心はもはや家族の所有物ではないことになる

どこまでを自分の所有していることにしていいのか誰か教えてくらさい
278 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2012/06/29(金) 15:11:02.84 ID:4Q9MNxcy0
あと生贄にされた人とか物はどうなるのでしょう?
悪魔のコレクションみたいにされるのかな?
279 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/29(金) 18:19:43.77 ID:+/ZyfkuDO
書いてる人によって全く違うけど大体は大切なら所有権は関係ないし記憶みたいなもんでもオッケーっぽい
じみにどの話もクオリティー高いから期待してる
280 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/07/01(日) 13:18:08.92 ID:16Ve4Inq0
>>279
返答ありがとうございます
所有権云々で少しアイデアを思いついたので、とりあえず自分なりの解釈でやってみます

>>267
初めての投稿ですね、面白かったです
哲学的な会話がよかった
ただ「さつきさん」の登場が急すぎて、まだ物語に入り切れないところがあります

>>271
こちらもお初の方ですよね?
機械人形で兵隊(?)の女の子というのは好きなシチュ
教会の設定や舞台の説明がほしいなと思いました
携帯からは大変だと思いますが頑張ってください
281 :機械人形 :2012/07/05(木) 22:01:25.36 ID:zjEmO9B/0
-囚人は枷から解き放たれ剣を手に入れた、次に何を望むだろう?-
暗い闇の中いくつの時がたったのだろう?
私の機械(身体)はとうに朽ち果て今は仲間を見捨てた罰なのか
さながら棺桶の中に居るかのように狭く、全てをなくしたかのように
身動き一つ取れはしない。全ては己が招いた罪、甘んじて受けるしか無い
そして意識すら亡くそうとした時、見知った画像が輝いた

『おい、なんでこのフレーム交換できないんだ?』
『あぁ、それはまだ触れるな、機密保持のために本体からの命令からしか開けん』
『……まさか自爆装置何て物騒な物は付いてないだろうな。『多分?大丈夫?』よし逃げるぞ』
『待った待った、これ以上人出が減ってはたまらん『ちょっと待て、どうしてすでに人手がへっt』そんなことより』

『聞こえているかね、【"試作戦車"4式】返事はできるかね』
懐かしい、本当に懐かしい顔がそこにはあった。
私は声を震わせながらハイといった、言った筈なのに
声が出ないどうして、なぜ、の気持ちより早く内部の状態を確認する。
なんとも酷い物だモーターは逝かれてるしバッテリーも一つを残してダメになっている
外装もひどく歪んだものでこれでは身を捩ることすらかなわない‥まあそれ以前に駆動系も終わっているので
なにもできないのだが…『もういいかな、大丈夫、モニターに映しだされているから分かるよ』
私はこの言葉を聞いた瞬間
兵器である私が状況にパニックになっている→モニターに考えたことも映ってる→"父さん達"に見られた→\(^o^)/
その事を理解し、その思考もモニターに晒された時、フリーズした。
282 :機械人形 :2012/07/05(木) 23:12:51.37 ID:zjEmO9B/0
「一体何がどうなって居るんだ」
十人中十人が軍人と思う様な厳つい顔の男が言った。
彼は今まで生きて来てこれからの未来の中でも[ありえない]自体だった。
自社が作っていた対強化人間用特殊戦車の試作品が居なくなり、緊急ビーコンを辿ればスクラップ状になった"戦車"がいて
オマケとばかりにいつの間にやら乙女回路まで搭載して挙句の果てに目の前で雷を放ちながら固まっている
これが冗談と言わずしてなんというのか?この答えを答えた奴は鉛弾をぶち込むと決心した上で
生みの親に聞いた。
「どういうことだ私に分かるように説明してくれ」
そいつは仮面のように顔色を変えず淡々と言い放つ。
「どうやら今僕達は完成品を作るために出来た試作品に先を越されたみたいだ」
理解に苦しんでいるとこの野郎はあるものを指さした。
「これ、わかるかい」
「知らん」
「考えてくれよ全く…まあいいさ、これはまだ僕達が少量しかサンプルが手に入っていない貴重な"黄昏の羽根"と同等、
いやそれ以上の力を持った物質さ。今まで理論値に達する"黄昏の羽根"が手に入っていないからまずは器を作ろうと
コレ、いや彼女を作ってみたら彼女の方から魂を得てしまった。こんな僕でもこの魂と器が惹かれ合うとはオカルト
を信じざるを得ないね、まぁこんなこともあろうかと完璧に達するまで設計した僕に抜かりはなかったッ!!!!」

っとこの様に意味不明の発言をこのクソは…放っておいてその大層な物質を眺めた。
それはまるでこちらを引きずり込もうとする悪魔の瞳のようなものだった簡単に言うと猫眼石のようなだがその色合いは
先ほどの雷のように激しいコントラストであった、つい触れようとして。
「それは彼女の魂なんだ、穢してくれるなよ?」
「もうこの野郎の口の聞き方には我慢ならん!、大体なんでこの姿にしたんだ!当初はボト○ズのように戦いの中畏れられ
交換可能なパーツ、大量生産可能なそんなむせる様な兵器を望んでいたのにどうしてこうなった!しかも予算の三分の一を
使っていきなり完成させて持ってきて『この先生きのこり続ける、そんな姿はこれだ!』て見せられて度肝抜いたわ!
何やったら五メートルが限界だった小型化を一ヶ月でここまで出来たんだよ!意味分かんねーよ」
「いやーそこはノリと発想で」
「黙れよ!おれもびっくりしたけどそれ以上に泣いたわ!クソッこいつさえいなければ夢が、AT乗りの夢が…」
「…そんなことより彼女また起きましたよ。」
283 :機械人形 :2012/07/05(木) 23:47:56.54 ID:zjEmO9B/0
再起動を行った後、私は気を取り直し再び"父さん達"の前に出た。すると、
「OK、今度はスピーカーに繋げたよ、気分はどうかな?」
「はい、ただ今の破損率は71%危険なj「そうじゃない僕が聞きたいのは"気分"のほうさ」…」
私は兵器として欠陥品となってしまったんだ。そう感じた上でこう言い放つ。
「はい、四式のただ今の気分は後悔と自責です。」
その時"父さん達"は眉を顰め恐る恐る尋ねた。
「何を後悔しているんだい?どうして自責の念に駆られているんだい?僕に教えてくれないか?」
私はその原因、その戦闘そしてその失態を伝えた。
「わ、私はどうすればあの方達に詫びればいいんですか?どうすればよかったんですか?そもそも私がこんな欠陥品
でなければみんな、みんな…「ちょっと待てどう言うことだ?」」
私が自分に耐えられなくなった時、いつも怖い顔をした父さんがあわてて言葉を遮る
そして私に信じられないことを言った。
「そもそもそんな任務は出していないし、そのさっき言った部隊も組織されていない。そもそもお前がこうなったのは
実験中、突然の暴走による失踪をして、3日後このクソ暑苦しい密林地帯の中、発見されたんだぞ。」
猫眼石の目が嗤った気がした。
284 :機械人形 :2012/07/05(木) 23:50:52.05 ID:zjEmO9B/0
なーんか言葉というか表現が足りませんね〜今回はここまでででは
285 :機械人形 :2012/07/05(木) 23:56:01.91 ID:zjEmO9B/0
あと舞台はペルソナ3以前、蝕よりずっと前な感じで
286 :機械人形 :2012/07/06(金) 00:05:50.47 ID:rpV1tFrU0
ぶっちゃけ4式ちゃんは人型でありながら「黄昏の羽根」持ってない。なんなら出せるんじゃねと思い、出しました
因みに「吾輩は4式、名前はまだない」状態です。
287 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/06(金) 00:36:52.54 ID:2pQ4uS9Yo
スレタイと>>1 >>2くらい読んだ?
288 :機械人形 :2012/07/06(金) 01:14:23.61 ID:rpV1tFrU0
一応把握してます。ただ今回は雑魚なら雑魚でどう楽しむか、また何を欲っしてゆくのかも定めてます。
悪魔憑きの悪魔は固まってるので
289 :機械人形 :2012/07/06(金) 01:24:42.08 ID:rpV1tFrU0
もし勘違いしてる方が居るならすいません、こちらの文章が至らないばかりに
290 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/06(金) 06:24:37.00 ID:2pQ4uS9Yo
いや、ペルソナの世界と地続きな書き方をしてるのかと思って気になったんだ
水を差してすまん。続きまってる
291 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/06(金) 11:19:03.62 ID:s4iDo/aHo
「舞台はペルソナ3以前、蝕よりずっと前」「黄昏の羽根」「機械人形」
このあたりの言葉を見るに、このスレをペルソナの設定でのシェアワと勘違いしているような気はする
正確には"ペルソナっぽい"設定でのシェアワだから一応確認した方がいいかと

そこをきちんと分かった上でわざとペルソナ設定を持ってきてるとかならすまん
292 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/06(金) 12:12:30.68 ID:4UmqLY2IO
ケータイから失礼、ただ、対強化人間用特殊戦車、
彼は今まで生きて来てこれからの未来の中でも[ありえない]自体だった。
アトラスってもしもの話って多いですよね?
293 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/06(金) 20:25:25.37 ID:s4iDo/aHo
ん? ごめんよく分からない
このシェアワの設定はペルソナを参考にしてはいるもののオリジナルで、ペルソナとは一応別物って事が言いたかったんだけど
もし問題ないならいいんだ
294 :機械人形 :2012/07/06(金) 20:57:41.27 ID:rpV1tFrU0
一応ペルソナ使いのキャラなんてものは出しません。ただヒロインの指定がペルソナのネタであり一種のパラレルです
295 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/06(金) 21:28:19.04 ID:s4iDo/aHo
なるほど。特殊戦車等々、世界設定が他の人のとだいぶ違ったから混乱してた
一応意図的だったんだな了解。頑張ってくれ
296 :機械人形 :2012/07/06(金) 22:00:57.23 ID:rpV1tFrU0
-ヒトの四則はAmbition、Distraction、Uglification、Derision-
穴に落ちたように周囲のものが判らなくなる。それはモノクロ映画のように現実味を失い、一気に冗談めいたような気がした
今まで合同訓練をした日々、悪魔憑きの集団の殲滅戦、そして部隊の壊滅、それらは夢だったのだろうかそれともここは
死後の夢なのかどちらが現実でどちらが空想なのかもしかすればここは白痴の夢のなかなのか?
私の思考は只々深い穴に落ちるように逃避した。
そんな中落ちてゆく先に小部屋が現れ、扉越しに何処かで聞いた不快な笑い声が響いてきた
「ヒャハハハハヒャハhahahahahhahahhahahahahahaahha、ふ、フフっなんて笑える話だ、ヒヒッあれがそんな大層なもの?
ヒャハハハハ何にも何にも分かってない、ヒハハ、卵鶏以前に彼女が選んだ道を見間違えるなんて、なんてアホな生き物だろう
ましてやろくに調べず「黄昏の羽根だ」 キリッだってよフヒャハハハハヒャハhahaha」
目の前の生物が部屋の壁に掛けてあるテレビを見ながら不快に笑い
「ところでなにか聞きたいかな"アリス"さんプッ、フヒャハハハハヒャ」
笑い始めた、笑い声の中、私はこの醜悪な生き物に尋ねる
「あなたは何ですか、そもそもここは一体…」
「そんなに知りたいか?少女よ」
急にしんとした中生き物は佇まいを変えこちらを眼鏡越しにこちらを見る
「まあ、誕生祝いだ。いくつか答えよう悪魔憑き」
297 :機械人形 :2012/07/06(金) 22:54:48.36 ID:rpV1tFrU0
扉とテーブル越しにあちらを見つめる、部屋にはなぜか模型やパソコン、何の用途に使うのかわからない機械、そんなガラクタが
所狭しと並んでいるそれらを見回し椅子に座り、向かい合い
「汚い部屋ですね、まるで今のあなたです」
「そんなことはないさ、君に比べればまだキレイな方さ」
「あなたは?」
「悪魔さ」
「なぜここに?」
「久しぶりの観光旅行さ」
「なぜ私を?」
「趣味と興味と実益から」
「…………」
私は単調とした質疑応の中、嫌な考えがよぎった。
「どうしたんだ?もう話の種がつきたのか?それともあのことが気になるのか?」
彼は部屋の奥のモニターを指差す。
そこに………
「いや、きみの契約は実に効率的だった、どちらにしろ死んでいるのだから良い判断だ」
私は信じたくなかった、いや、これまでの話で感づいていたが理解したくなかった
私は‥
「こんなに掴み掛かるなんて驚くじゃないか、まあこんなことをしても意味は無い、君は罪を犯しただが誰も咎めないこりゃ見事な完全犯罪だ」
「私はッ!!」
「もはや君を咎めるものはいない!君を罰することは最早叶わず、君の失態も卑怯も矮小さも全てここに押し込めた!君は誇ってもいい
己はヒトの感情を持ったと!また私は人らしいと!」
私はその場でへたり込み問うた
「そんな、では私のこの怒りは、この嫌悪はこの罪は何処に晴らせばいいんですか‥」
『簡単なことさ』
悪魔は嗤う
『元凶さ、元凶に訪ねに行くといい、おや?どうやら時間のようだ』
部屋の輪郭が滲んできた
『最後にワタシの名前だがグレムリンのBrainそう呼んでくれ』
すべてが眩しくなった時、私は懐かしの格納庫にいた。

298 :機械人形 :2012/07/13(金) 16:32:24.87 ID:I5dGtwYW0
-鏡や鏡、この世で最も美しいのは何?-
昔々、わたしがわたしでなかった頃、まだ普通の子供の頃の記憶
この世がクロとアカしか無くなった時
わたしの世界は壊された
(またあの夢だ)
家屋は焼け崩れ、川は干からび、空は夜なのに赤黒く濁る
人々は灼け、溶け、崩れていた
(もう飽きた、さっさと終われ)
過去のわたしは苦しみ、事実と悪臭に吐きながら家族を探す
かつて人だったものは腐った泥に、家畜は灰に、作物は燃え、我が家は瓦礫に
そんな中輝くものが瓦礫の中に、
(早く終われ)
それは両親が自慢していた2つの指環でした、今は泥の中で一つの塊でした
そしてその奥、瓦礫の向こうに二人の影が、
(早く早く早く!)
ひとりは見知らぬ人、もう一人は…。
(まだか、もう良いだろ早く起きろ!)
ボロボロになるまで焼かれながらも炭化した木の棒を振り回し泣いているのか叫んでいるのかわからない声を挙げながら
相手に向かって襲い掛かる、だが木の棒は崩れ子供の首は掴まれる
(イヤッ!もう嫌っ!!、起きて起きて起きて起きてoki...!!)
その子供はわたしの声に気付いたのかこちらを向く
その顔はもはや過去の面影や可愛らしさすらなくただ痛々しく焼け爛れ、可愛らしい瞳も肌も無く、暗い眼窩をこちらに向け
嗄れ声で「お姉ちゃん、お姉ちゃん、おねえちゃん..」とつぶやく
(イヤーーーーーーーーーーー!!!!)
そして私は助けてと叫び、悪魔は喚ばれた。
299 :機械人形 :2012/07/13(金) 18:05:20.97 ID:I5dGtwYW0
瞳の奥に光が突き刺さる、わたしは狭い部屋の中で床に転がってそこら中に身体じゅうをぶつけたのか、かなり痛む
自分の寝相の悪さに毒づきながら揺れる部屋に何とか立ち上がり、吐いた
自分達の[村]を捨てた後、私たちは次の居場所を求めて旅立った、旅立ったけれども何処に行くのかがまず
問題になった。まずボスが「そうだ、ロシアに行こう」と言ったが皆にボコボコにされてから黙殺、
懲りずに「U.S.A!U.S.A!」と騒いだので列車と線路の間に吊るされ、「じゃあさぁ、じゃあさぁヨーロッパ行こうヨーロッパ」
と提案したので未来体験としてキャンプファイアの中で火炙りにされたりと色々審議された結果、(アレ、なんでボス生きてるんだ?)
行き先は日本に決まり私達は船で向かっている。船の甲板ではボスがまたやらかしたのか船員にわからないように
ひっそりと船の端に吊るされていた。また何かしたのだろう、わたしは他のみんなを探しながらボスに
「何やってるんスカー」と声をかける
すると
「はっはーその声は"猫被り"くん、"猫被り"くんじゃないか。おやおやどうしたんだい?そんなやつれた声を出して?
何か嫌なことでも遭ったのかい?そんなことは海に流してしまいなさい!これだけ大きいんだいくら汚くしてもバレやしない
溜め込んだところでただ自分や周りが苦しむだけさ、嫌な事からは全速力で逃げる。コレこそ長生きの秘訣さwwwww」
「はっはー、それでその結果がこれですか、ふーん」
「いやいや、"猫被り"くん、やはり過去からは逃げられないものでねいくら逃げてもやがては捕まるものなんだ
たとえ、バレ無い様にウイスキーと隠し持っていたスピリタスをすり替えて上手い事ラッパ飲みさせたとしてもその罪
からは逃れられない」
「結局アンタが馬鹿やってー私刑されただけじゃなーいですかー」
「ふふふふ、分からないかね、わたしは今こうしていながら懺悔しているのだよ。部下の下着を入れ替えたり、暇だったから皆の寝言から性癖を書き溜めたり、野郎どもの嗜好本にバレ無い様に細工を施したり、淑女達の風呂場に盗撮器、盗聴器
を付け撮り溜めしていることなどその他諸々を今!この場で!懺悔しているのだよ!」
「あ、聞きましたー?皆さん」
「抜かったー!!!」
その後肉塊のミノムシとなったボスは
「つっ、つまりだ君はそんな下らない物に苦しまずこのボスに預ければいい、その為のボスなんだからそれに君はもう独りじゃない我々の村の一員さ」
わたしはその言葉と..

船酔いで吐き出した
300 :機械人形 :2012/07/13(金) 18:20:43.44 ID:I5dGtwYW0
「いえいえ、本当にすいません迷惑を掛けてしまい、…いえいえあれはほんのコミュニケーションですから、大丈夫です
いじめられてるわけでもカツアゲされたわけでもありません、はい。紛らわしい真似をすいません」
結局わたしのゲロのせいでボスは大騒ぎをし船員に見つかり今叱られている。
ワタシハワルクナイそう心に言い聞かせながらこの場を逃れた。わたしはもう昔のわたしではない、もうあの頃の平和で幸せ
だった家族も弟もいない、だけど今はあのボスが居る、みんながいるだからこそもうあの頃に振り回されたくない
そう思いわたしは食堂へと向かった。
301 :機械人形 :2012/07/13(金) 18:29:35.65 ID:I5dGtwYW0
…たとえこの心が壊れていてもあの過去は忘れない、たとえこの身が癒えようともあの傷跡は痛み続ける、どんなに時が過ぎようともあの光景は忘れない、たとえこの身が焼かれようとこの怨嗟には敵わない、どれだけ喜びを得ようともこの後悔の前では死に絶える

.......あいつを...........
302 :機械人形 [saga]:2012/07/13(金) 18:32:45.04 ID:I5dGtwYW0
..............殺すまで.........................
303 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/13(金) 22:31:24.63 ID:I5dGtwYW0
すいませんかいてるものですが、ちょいと質問したいことがあります。だれかいますか?
304 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/13(金) 22:45:54.13 ID:q/bFSTnAO
いる
答えられるかどうかは質問内容次第
305 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/13(金) 23:22:15.36 ID:I5dGtwYW0
今後、夏になるため書き込みが今以上に不安定になります
その為
1書き込みを減らし、文章の表現力を上げる
2今までどうり即興で書き続ける
3一度表現方法について学んでから出直す
どれがいいですか
306 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/13(金) 23:26:45.26 ID:q/bFSTnAO
そんなことを他人にきいてどうする
あんたがしたいようにすればいい
307 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/07/13(金) 23:29:21.31 ID:HtJkY08Eo
汝欲する所を為せ
308 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/13(金) 23:35:31.73 ID:I5dGtwYW0
さいですか…では2にしつつなんとかしてみます
最近、想像が文章に追いつかずグロいところを書き起こす時、鮮明に思い浮かぶせいで
どうしてもsan値が減ります。それでも全てを表現できず、なかなか歯痒いですね
309 :機械人形 [saga]:2012/07/14(土) 02:33:46.53 ID:Vcqxz0Pz0
-両目を持ったウグイスは世界の姿に感動し-
わたしは日本については何も知らない、父も母もあの地で生まれ死んだ、昔のわたしはあの地が世界だった
どれだけ広いと言われてもあの家、街、あの麦畑、それだけがわたしの世界だったなのに
あの日、世界は死んで、わたしも死んだ
あの廃墟の中から見た世界はただ広いだけだった
そして、あの時彼に出会い、わたしが生まれた
今もよく思い出す、あの時の絶望も敗北も憎悪も彼あってこその今がある
そんなことを思い出しながら、今わたしは村にいる
ここは山中の廃村だったところをボスがここを買取り、今はなんとか復旧作業中だ。
雑草は家々の至る所に伸び伸びと生え、禍々しいキノコが生い茂りかつての人の気配は最早何処にもなく
ただ屋根があるだけだった。
蒸し器の中にいるような暑さに虫の声に私達は
ダウンしていた
そんな中、ボスとおっちゃんは平然と作業を続ける
「あつーいー、どーしてこーなった」
「まだ元気じゃねぇかよさっさと手伝え」
「どーしてこんな辺鄙なとこにしたのさー?もっと街の近くでいいじゃん」
そうつぶやくと部屋の奥から
「猫ちゃんもわかってるでしょ、治安が良くて人が殆ど来ない為にもここが一番いいんだから多少の不満は我慢する」
「「「姐さん!!」」」
「誰が姐さんだ!!!普通に呼べ!!」
「だってイメージに合わねーもん」
「姐さんは姐さんだろそれ以上も以下もねぇ」
「アッネッサン!アッネッサン!アッネッサン!」
ボスが感電し、肉の焦げる臭いを嗅ぎながらわたしは
「でもここじゃ以前より色々とキツイよー、肉はー?魚はー?飼うには狭いしそんなに土地広くねーしこのままじゃ飢える」
「そんな心配しなくていいわよ、大体のものは買い出しで済ませられるからそこまで苦労しないわよ」
「そうだぞ、そこまで財源は逼迫してはいない。てぇか手伝え、また野宿とか嫌じゃん」
「そうだぞ"猫被り"くん、私もようやく趣味に興じることができるというものだ、なあ姐s」
…へんじがないただのしかばねのようだ…
「.......大体こんな山奥だけどこの程度、私達には関係無いでしょ」
そうだった、わたし達は悪魔憑きなのだからそんな事は気にしなくて良かったのだ
「でも見た目と言語のせいで普段の買い出しは俺とボスぐれぇだな他の奴らじゃ警戒されちまう」
「ふふふ、こんな私でも役に立つのだよ、どうだい、羨ましいか羨ましいのかはははははh....」
皆はボスを黙殺し「じゃあ続けるか」と作業に戻った
いまはこんなに狭くなった世界だけどこの世界は美しい
310 :機械人形 [saga]:2012/07/15(日) 03:08:56.38 ID:y0if5XIX0
-盲とかげは世界を恨む-
私のそれからの日々は単調とした以前の実験時とほぼ同じ日々であった。
今日も戦場を想定された実験場で一通りの射撃、換装、接近戦、破損パーツの交換などを行い欠点やバグの洗い出し
外部パーツの互換性の向上の為のプログラムの書き換え、新型装甲の対衝撃、射撃、斬撃耐久実験のレポート
幾つかの思考実験、最新式の都市用迷彩の感想等、殆どが研究の為に費やしたものであった
ただ変わったことは私は「はーい今日の実験はここで終わりです、お疲れ様でした『レメシス』さん明日はミーティングがあります」
私に名が付いたことだろう、この名前はわたしの父たちが殴りあいながらも分かり合いそして友情、努力、裏切り、抜け駆け
の血と汗と涙の結晶の結果らしい、実際は無骨な兵器の名称で通すか、心を持ったのだから女性型らしい名にするかの二大派閥
の血と血で争う凄惨な殴り合いの途中、勝手に奥様が選んで下さいましたが....
やはり慣れない、自分が兵器であった頃はこんなことは無かっただけに違和感すら感じるまたこの様に自由な時間を過ごすのも
なんだか落ち着かない、声は掛けられるもののそれは好奇によるものか命令のものだけであった。ただ、花束と手紙を渡してきた人は
何かを話す前に数人の黒服と笑顔のままの父さん二人に連れて行かれていたりもしていた。
わたしの心と言うものは一応人として扱われている。なので労働基準法や基本的人権のため私には個室が与えられていた
私は部屋につくと今回の実験で得られた経験とそこから考えられる今後の課題についてレポートを紙に書いた。
紙媒体なのは、人は手先を動かすことで脳が活性化されるように私も思考回路を回すことで何処の回路をよく使うのか、
知恵熱で回路が焼き切れないよう補強するための場所探しのためだそうだしかしレポートに絵を書き入れる意味がわからない。
またその日の感想を述べてレポートは書き終わる
その後は自由な時間であるが何も知らないため職員によく尋ねた。人のこと、施設のこと、目的、思想、そして自分自身
そして私はぼんやりと空を見上げそこに映る色に過去の景色を思い出し自己嫌悪に陥いった
こんなに広くなった世界なのに今はこんなに濁って見える
311 :機械人形 [saga]:2012/07/20(金) 22:42:46.50 ID:fEpG6KZb0
-ウワバミソウ-
路地裏に足音が響く、ひとつは足がふらついて今にも倒れてしまいそう、ひとつは軽く、踊るよう
男が叫ぶ「糞野郎、何しやがる!てめぇ俺が誰だかわからねぇのか!」男は脅しに掛かろうとするがその言葉は
弱々しくむしろ滑稽なものであった、車に何度も轢かれたかのような姿を除くなら。
女の動きは止まり空気が凍り付く、男は荒く息をしながらなんとか言葉が通じたと思い余裕が出たのか
「っはは、そうだよ、分かったかこのクソアマわけわかんねぇことしやがってこの野郎、おい、おまえこのまま帰れると思うなよッ!、?!」
男は普段からその様な癖があったのだろう、女に蹴りを何も考えずにいつもどおり入れるそしてまた金を毟ればいいと考え、
その考えは灼ける痛みで掻き消えた。
312 :機械人形 [saga]:2012/07/20(金) 23:27:14.77 ID:fEpG6KZb0
女は苦しんでいた、耐えねばならぬ痛みから、苦しまねばならぬ己から
どれだけ言葉で諭してもその代償は拳に変わる、どれだけ抗おうとしてもその心は圧し折られる
女にとってその現実は耐え難い現実であった、死のうと何度もしてみたもののその行動は実ること無く枯れ果てた
ひとつは己の死の恐怖から、ひとつは男の妨害で
死ぬ自由すら奪われ女の心は死んでいた
そんな死んだ日々の中、女は店の中の紫の石に目を奪われる
胡散臭い”パワーストーン”なるものだ、世の中にそんな魔法じみたものはなくただあるのは詐欺と思い込み
そう考えながらもその石は女を惹き付けるそんな拮抗状態の中一つの声が聞こえた
「お客さんは何を望みで?」中性的な声に目を向けるが置かれている石や置物などで姿が見えない
奥に向かうとするも「いえいえ、こちらに来られても困りますこちらにはこわれやすいのがあるもので....」
女は尋ねた
「何か「いえいえ、ただ貴方様は何かに苦しんでるご様子、そのお助けになればと」.......」
やけに五月蝿い店主だ、女は振り払うかのように
「いえ、此処へはただの冷やかしですでは「いえいえ、その石に惹かれたのでしょうその石は欲望を叶えますどんなものでも
己の欲するままに只々..」
女は呆れた
「詐欺紛いな事言わないでください、もうい「あげますよそれ。いえいえ、その石がどうしてもと言いますので。」
女はますます呆れて
「いいです、買いますそれでいいでしょうもし叶わなかったなら投げ付けて返します」
女は値札どうりのお金を叩きつけ去った
その姿を目で追いながらもお金を拾い集めて店主は
「まあまあ、あんなに怒ってしまって困ったものです、この商売、接客が基本なのにこれでは売れるものも売れませんね
でも....」
店主は外を見つめ勘定をはじめる
「願わくばこれからも仲良く付き合えたらいいんですがね......あれ、お金が足りない..ま、いっか」
313 :機械人形 [saga]:2012/07/20(金) 23:45:33.11 ID:fEpG6KZb0
女はふらつきながらも家路についた、最近走ってもいなかったのかかなり疲れた
靴を放り出し服を着替え買ったものを見た
形は瓢箪のように面白いもので模様は墨汁の中に透き通った紫が雲のように石の中に漂っていた
そんな見た目と裏腹に石からは粗雑で荒々しいものが感じられる
そんな変わった石を手に転がしていると心にほんの少しだけ活力が湧いてきた
そうしていると扉の方から五月蝿い声が聞こえ「おい女扉開けやがれ!聞こえたんだろさっさとこい!」
女は言われるがままに動く女にはもう逆らうことはできない、だから.....
『汝欲スルカ、欲ッシチマウノカ?ヒヒヒッヒ!!!』
女は扉を手にしながら頷くしかできなかった。
314 :機械人形 [saga]:2012/07/21(土) 00:11:02.61 ID:IKJz8jS50
それから見たものはお伽話であった
男が扉に弾き飛ばされるかのように共に跳ね跳び道路に転がる女はなぜか「ヒヒヒッ、クレ、オレサマ、オマエMAG欲シイ、クレ」
と呟いて跳躍男に追いつく男は何かを叫んでナイフを取り出し男の手の中に握りこまされる
女はそれが自分の手が勝手に行っているのに気付き、手を離そうとするも叶わず男の手はもう片方の女の手で斬り裂かれた
男は醜く斬り裂かれた手を見て路地裏に逃げ込むそして現在、
男は自ら燃えていた叫びながらもがきながら苦しみながら燃えていたそれでも女は「アギ」と呟く
男はより一層燃え動かなくなり火も消えた。そして女は
食べた
千切れた手を取り
口に運び
焼けた足を裂き
口に運び
焼けた腕を食いちぎり
口に運び
ただれた皮膚を裂き
内臓に頭を突っ込む
頭蓋を割り
眼をえぐり
口に運ぶ
その頃には女は自分の身体があの石のものになったと気付いた
そして女は「食ベタ、食ベレタ、初メテタベタコンナニ美味インダナ食イ物ハハハハハハハハハ!!!!」
嘲笑った
315 :機械人形 [saga]:2012/07/28(土) 18:18:01.57 ID:0sjjG1lr0
いつもの住居専用施設と違い生活感のある、はっきり言って汚い会議室の中に書類を隅にどけながら三人、二人と一体の姿がそこにあった
部屋の壁には私とは異なった機体の描きかけの設計図やこれまでの会議の書類の一部が、部屋の隅には報告書、模型、部品、空の容器、エロ本、が
なんとかまともに会議ができるギリギリの狭さまで私達を追い詰めていた。そんな中、育ての親である社長が今回の内容を話す
「今回はレメシス君の実験的実戦投入となる"教会"からの依頼だ。」
教会?依頼?よくわからないキーワードに首を傾げる
すると生みの親である主任が気付いたのか話し始める
「詳しくは僕が話そう。そもそもこの"対強化人間用特殊戦車"つまり君ね、が計画されたのは今から六年ほど前に起きた集団狂人暴動の際
只の人間の力では殆ど役に立たず、各国のそれらの事件は半数以上の軍の兵器、人命を対価にして収まったこれが表向きの話でね、
実際は君が言っていた能力者?とでも言うべきかな、まあ、そういうのが力に物言わして暴れたんだよね
まあなんだかんだで殆どの人間が知ること無く戦いは終わり。その後こんなことが起きないために"教会"が生まれた
日本もその例に漏れず自衛隊も壊滅ギリギリ、人手も兵器も足りない中どうすればいいか考えた結果
あらゆる対処方法が行えて、替えがきく兵器を作ろうということになったんだ。ただし、資金源は国から"教会"そしてこちらと言う
面倒なルートになってるからこっちから見ればオーナー兼依頼者みたいなもんだよ」
主任が片付けも忘れて喋る中、社長は手に持っていた新聞のスクラップブックを私に手渡す
「兎も角、今回の依頼は最近世間を騒がせている連続誘拐殺人未遂事件だそうだ」
私はスクラップブックを受け取るが主任は新聞の記事を見て
「...あぁこれか、たしかいなくなった人の近くの路地裏に血溜まりがあるだけで死体もないから未遂なんだっけこれ?」
「そして犯人はその狂人の可能性が有るという訳だ、ランクはアウターのNeophyteとあるが詰まるところ雑魚らしい、詳しくは知らん。」
主任はいきなり社長に詰め寄り
「おい、知らないってどういうつもりかい?どう考えたらそんなキチガイの所にうちの愛娘を出せるか!君が行けばいいじゃないか!」
「五月蝿い!、こっちは一定の成果を報告せにゃならんのに失踪やら人格やらオマエの暴走のせい、てか大部分がオマエの『レメシスの人権を認めろ』
のせいで報告書の書き直し、隠蔽工作なんぞせにゃならんハメになったんだぞ!しかも独りで!。そのせいで妻に不倫疑われて軽く刺されたんだぞ!」
「爆ぜろ」
316 :機械人形 [saga]:2012/07/28(土) 22:16:36.83 ID:0sjjG1lr0
こうしてあたりの物が元通りになった時、私には胸のわだかまりを吐き出していた。
「やはり私には父さん達にとって面倒な物だったんですね」
心の何処かで引っかかっていたもの、聞けなかったこと、漫然とした生活に私は不安にさせた
誰の役にもなってないのでは?邪魔になってるのでは?
しかし父達はそんな私に
「ほらこんな事言うから泣かせてやんの、なーかせた、なーかせたレm」
「フゥ..すまないレメシス君、いやこの無責任野郎の行動がほとんどの原因だし君は気にするな、子は成長するのが仕事だ
だがこんな事をさせるからにはどうやってでもいい生きて帰ってこい、その為の裏方は任せろ」
不安定な足場の中おちょくることに夢中で動きを止めた主任に対して震脚を踏み、顎のに右アッパーに近い掌底をぶち込み
主任は雑多なゴミの山のオブジェとなった後このように締めくくられた
私はもう一度スクラップブックを見返しそれ以外の情報がないのか、他に見落としがないか調べるため
移動用車両に向かった

会議室二人
堂々とした姿とごみの山が出ていった娘を見送った後、ゴミ山が
「僕もあの子のために気はほぐしてあげたいんだけどこうすることがどう繋がるかわからない今は従うしかないのかな?」
「中途半端な立場はゴメンなんだがな、なにぶんその程度の能力しかなくて苦労を掛ける」
社長はごみ山に向かい謝り、主任を引き揚げるすると社長は主任の懐の書類を見つけたのか取り上げ
「強化防護服じゃないかオマエ、ヨミクグツ?またなんかしようとしてるな?まあいいさどうやらあの子の為になるならな」
「いやーばれたらしょうがんない、一応あの子のために作るつもりですしまあ、非人道的な代物なんですけどねまあ何とかしてくれるとはありがたい
一応の計画名は超力兵なんだけどね…」
317 :あとがき [saga]:2012/07/28(土) 22:22:13.55 ID:0sjjG1lr0
すんませんちょっと用事で8月は投下できません
後感想、訂正して欲しいところ、合いの手を書いてくれると文章が増えます
それでは
318 :あとがき [saga]:2012/07/28(土) 22:27:51.98 ID:0sjjG1lr0
あと水道橋重工のラクタス完成しましたね
このままどんどん増えれば夢のAT乗りも夢ではなくなるかも
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