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星空みゆき「ガンプラビルダーズ!」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :ヤン [sage]:2012/03/27(火) 15:15:00.93 ID:9H8okBD00
・このSSは『スマイルプリキュア!』をはじめとする『プリキュアシリーズ』のキャラクター達と、
 『模型戦士ガンプラビルダーズ』を合わせた創作SSです。

・プリキュアとは全く関係ない、他の作品からもキャラクターが出てきます。

・初心者ですが、楽しんでもらえたら幸いです。

・メルヘンランド?バッドエンド王国?伝説の戦士プリキュア?出ないよそんなの・・・。


というわけでスタート!

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佐久間まゆ「犬系彼女を目指しますよぉ」 @ 2024/04/24(水) 22:44:08.58 ID:gulbWFtS0
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全レスする(´;ω;`)part56 ばばあ化気味 @ 2024/04/24(水) 20:10:08.44 ID:eOA82Cc3o
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君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
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笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
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【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part10 @ 2024/04/23(火) 17:32:44.44 ID:ScfdjHEC0
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ハルヒ「綱島アンカー」梓「2号線」【コンマ判定新鉄・関東】 @ 2024/04/22(月) 06:56:06.00 ID:hV886QI5O
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2 :ヤン [sage]:2012/03/27(火) 15:16:59.39 ID:9H8okBD00
『ガンプラ』それはアニメ『機動戦士ガンダム』シリーズに登場するロボット、モビルスーツ(MS)のプラモデルである。その人気はアニメと共に世界中に広まり、世界一売れたプラモデルとして世間に浸透した。そして、それを元にしたシミュレーションゲームが製作され、その人気はさらに加速することになる。これはガンプラシミュレーションゲーム『ガンプラバトル』で戦い抜く、少女達の物語である。
3 :ヤン [sage]:2012/03/27(火) 15:17:36.48 ID:9H8okBD00
スマプリガンプラビルダーズ!
第1話 みゆき!ガンプラバトルに立つ!!
4 :ヤン [sage]:2012/03/27(火) 15:19:12.65 ID:9H8okBD00
「遅刻だぁぁぁ〜!」

 七色ヶ丘に引っ越してきた中学生、星空みゆきは情けない声を上げながら、自室で身支度していた。

「遅くまで自己紹介の練習するんじゃなかったぁ〜!」

 髪を結い上げ、制服姿の自分を鏡で確認する。青と白を基調にした下ろしたての制服、白のソックス。どれをとっても問題ない。

「・・・よし!」

 かばんを手に取り、自室のドアを空けようとした瞬間、みゆきは机に目をやる。そこには一体のピン
ク色のガンプラが立っていた。
「行ってきます!」

 みゆきは元気よく挨拶し、登校の道についた。
5 :ヤン [sage]:2012/03/27(火) 15:20:53.31 ID:9H8okBD00
 七色ヶ丘中学校での、みゆきの自己紹介は成功した。正確にはクラスメイトの日野あかねの助け舟のおかげで緊張が解けたものであったが。

「星空さん、学校の中、案内したろか?」
「でも日野さん、部活でしょ?大丈夫!また明日!」
「そか。じゃバイバーイ」

 クラスメイトのみんなは個性的でおもしろい人達だな、というのがみゆきの転校初日の感想だった。教室を出て、みゆきは校舎の中を一回りする。

「ここの図書室は大きくていいな〜。あ、絵本がある!」

 さっそく図書カードを作り、絵本を片っ端から手に取るみゆき。一冊、また一冊と時間を忘れ夢中に
なって読み進めていく。それは下校の放送が流れるまで止まることはなかった。
6 :ヤン [sage]:2012/03/27(火) 15:23:32.44 ID:9H8okBD00
「ど〜しよ〜」

下校の放送を聴き、帰路についたのはいいが、みゆきは迷ってしまった。近道と思って入った道が検討違いの場所へ続く道だったのだ。親へ連絡してあるのだが、あたりはすでに暗く、さすがに女の子一人歩くには心細い。

「こうなったら学校に戻ったほうが・・・。あれ?」

 顔を上げたみゆきの目に光が入った。どうやら小売店らしい。
「よかった〜。あの店の人に道を聞こう!」

 善は急げとばかりにみゆきは店に入った。

「すみませ〜・・・ん?」

 みゆきは思わず店の中を見渡した。そこにはガンプラが棚いっぱいに詰まっていた。

「わぁ〜!すごぉ〜い!!ガンプラがいっぱ〜い!!」

 目を輝かせてみゆきは感嘆の声を上げた。
 HGUC、MG、旧キット、BB戦士。今まで組み立てたことが無いガンプラ達。これを全部組み上げたいと想像していた時。
「いらっしゃい」
「は!」

 店の者に声をかけられ、我に還るみゆきだった。

「ん?見かけない顔だね」

 優しい店員の言葉に、みゆきは戸惑いながら口開く。
「あ、ええっと、最近この町に引っ越してきたんです。道に迷っちゃって・・・」

 頭をポリポリとかきながら事情を話すみゆき。

「なるほどね。自己紹介がまだだった。俺の名前は風間真。この店『ユニコーン』の店長だ」
「真さん・・・」
7 :ヤン [sage]:2012/03/27(火) 15:26:12.72 ID:9H8okBD00
 店長という割にはやけに若く見えた。20代前半かな、とみゆきは真の顔を見て思った。

「君の名前は?」
「私の名前は・・・」

 みゆきの2度目となる自己紹介は電子音によって遮られた。

「ああ、すまない。少し待っててくれ」

 真がカウンターへ向かうのと同時に、店の奥の扉が開いた。

「いや〜、ヤクト・ドーガは当たりやったな!少し重いのが気になるけど」
「日野さん!?」
「あれ、星空さんやん!?」
「・・・あかね、知り合い?」

 真の問いにあかねは頷いて。

「そうですー。今日ウチらの学校に転校してきた星空さんや!」
「ほ、星空みゆきです!」

 みゆきはペコリと真に頭を下げた。

「あれ、ウチらって・・・」
「ちょっとまってな。クラスのガンプラ女子呼ぶわ」

 あかねが入ってきた部屋に向かって声を発した。

「おーい!星空さん来たでー!!」
8 :ヤン [sage]:2012/03/27(火) 15:30:08.22 ID:9H8okBD00
 部屋から出てきたのはクラスメイトの黄瀬やよい、緑川なお、青木れいかの3人だった。みゆきの自己紹介を手助けしたあかねが紹介もあった事から、特に記憶に残る3人だ。

「星空さんもガンプラ作るの?」

 やよいのおどおどした質問にみゆきは大きく頷き

「うん!ガンプラって楽しいもん!」
「いいね!気に入ったよ星空さん!」
「私も、星空さんとはいいお友達になれそうです」
「緑川さん・・・。青木さん・・・」

 思わず涙がこぼれそうになるが、ぐっとこらえて、みゆきは笑顔で返した。

「ありがとう!みんな!」
「気にせんでええって!そうや!今度の日曜日、ウチらと一緒にガンプラバトルせえへん?」
「え、いいの!?」

 みゆきの驚きに対して、

「ウチはかまへん!」
「私もいいよ?」
「手加減しないよ!」
「お手柔らかに、お願いしますね」

 4人は笑顔で答えた。

「ところで」
「え?」
 その場をぶち壊すような、真の質問が5人にかけられた。

「時間はいいのかな?」
「あ〜!!」

 みゆきの絶叫が店の中に響いた。
9 :ヤン [sage]:2012/03/27(火) 15:32:05.13 ID:9H8okBD00
「う〜。怒られちゃった〜。はっぷっぷ〜」

 風呂から上がったみゆきは、ベッドに突っ伏し唇を尖らせた。
 あれから、みゆきは真に家まで車で送ってもらった。真の弁解もあって、それほど怒られはしなかったが。

「でも日曜日にみんなとガンプラバトルだあ〜!となると・・・」

 ベッドから起き上がり、机の上に置いてあるカレンダーを見る。今日が火曜日、約束の日まで後6日間。正直に言ってぎりぎり完成できるかどうかだ。

「こーしちゃいられない!!」

 みゆきは立ち上がり、クローゼットの扉を開く。

「え〜と確かここに入れたはず・・・。あった!」

 みゆきがクローゼットから取り出したもの。それは以前住んでいた町の友達から送られた、新品未開封のガンプラだった。

「よーし!作るぞぉ〜!!」

 工具箱からニッパーを取り出し、みゆきは果敢にガンプラ製作に取り組むのだった。
10 :ヤン [sage]:2012/03/27(火) 15:34:50.45 ID:9H8okBD00
 そして約束の日曜日が来た。午後2時、みゆき、あかね、やよい、なお、れいかの5人は模型店ユニコーンに集っていた。

「さあ、バトルしよー!」
「ちょい待ち星空さん。前聞かんかったけど、やったことあるん?」

 あかねの問いにみゆきは「ふふーん」と一枚のカードを取り出した。それはガンプラバトルに必須のエントリーカードだった。このカードに所有者の戦績が記録され、店先で前回のプレイ動画を見れる仕組みになっている。

「お、結構やっとる!」
「本当だ・・・。あれ?」

 あかねの隣にいたやよいが、最終プレイ日に目が付いた。

「1ヶ月くらい開いてるけど・・・」
「いいのいいの!それぐらいの勘、すぐ戻るから!みんな、行くよ〜!!」
『お〜!!』

 威勢よく5人は模型店ユニコーンの置くに設置された、ガンプラバトルのポッドに向かった。
 部屋の扉を開けると、6台のポッドが平行に3台ずつ並んでいた。その3台の間を通る通路の奥に、プレイ動画を見るためのマシーンがあり、そこに備え付けてあるパネルを操作する者がいた。

「あ、真さんこんにちは!」
「来たね。今回のルールを説明する」
「ル−ル?チーム戦じゃないんですか?」

 みゆきの問いに真は頷いた。

「確かに普通は2対2、もしくは3対3のチーム戦だ。1対1の個人戦も設定できるが、今回はバトルロイヤル方式を取った。これなら君たちが余ることなくバトル出来る」
「なるほど〜」

 みゆきは真のアイデアに深く感心した。

「ルールは簡単。自分が生き延びればいい。それだけだ」
「つまり、自分以外は敵ってことですか?」
「その通りだ。みゆき、君の戦いぶりを見せてもらうよ」
「はい!」
「それじゃ、みんなポッドに入ってくれ」

 真の指示に従って、5人はポッドへと入っていった。
11 :ヤン [sage]:2012/03/27(火) 15:38:05.50 ID:9H8okBD00
「よぉ〜し・・・!」

 ポッドに入ると、操縦席と操縦桿、そしてガンダムシリーズに登場するマスコットロボ『ハロ』が備え付けてある。みゆきは操縦席に座り、100円玉を手元の装置に入れる。

『ガンプラバトルにようこそ!硬貨投入口横にある挿入口に、エントリーカードを入れてください!』

 映像の指示に従って、みゆきはエントリーカードを入れる。

『エントリーカードを確認しました!続いて、ハロの中にガンプラを入れてください!完了したらハロを閉じてください!』

 パカ、とハロの口が開いた。このハロこそが、作ったガンプラをスキャンし、シミュレーションバトルでの愛機にしてくれる夢の箱『ガンプラスキャナー』なのだ。
 みゆきはかばんから箱を出し、さらに箱を開ける。そこにはみゆきが丹精こめて作ったガンプラが横たわっていた。

「さあ、行こう!」

 みゆきはガンプラをハロにの中に立たせ、ハロを閉じる。スキャンしている間、みゆきは操縦桿を握りながら操作方法を思い出していた。

「えっと、こっちが移動で、これで攻撃。武器切り替えはこのボタン。ブーストは・・・」
『スキャン完了!バトルの準備が整いました!他のビルダーの方が準備するまで待機してください』
「よし、体が覚えてる」

 一旦操縦桿から手を離し、みゆきは大きく深呼吸した。画面には自分のガンプラの評価が表示されている。
 ガンプラの出来は、ガンプラバトルの勝因を大きく作用する。素材合成、間接可動性、間接保持力、工作精度、表面処理精度、塗装・印字精度の6項目が10段階評価でパラメータ表記される。もちろん高ければ高いほどバトルを有利に進めることが出来る。だが、戦い方次第ではそれが無に帰することもある。
 みゆきは自分のガンプラのスペックを確認し、もう一度深呼吸する。

「大丈夫、落ち着いて私・・・」

 操縦桿を握り直す。それと同時に、画面が格納庫の映像に切り替わった。いよいよ出撃だ。

『機体の整備はばっちりだ!生きて帰って来いよ!』

『機動戦士ガンダム00』の登場する整備士、イアン・ヴァスティがみゆきに向けてサムズアップした。ガンプラビルダー達の気分を盛り上げるプログラムだが、思わずみゆきもサムズアップで返した。

『進路クリア!発進、どうぞ!!』

「ミユキ・ホシゾラ!ガンダムアストレア、行きまーす!」

 ピンク色に塗り分けられた、ガンダムアストレアが戦場へと出撃した。
12 :ヤン [sage]:2012/03/27(火) 15:41:26.58 ID:9H8okBD00
「きっもちぃー!!」

 青空の下、みゆきは快適に飛行していた。操作も一通り行ない、思っていたよりも体が覚えていた。
 そして機体の改造もうまくいったと思っていた。
 みゆきが製作したキット『HGガンダムアストレア TYPE F』は武器が多く付属するのが売りだ。しかし、このキットには『HG ガンダムエクシア』の金型を利用した商品であり、使わないエクシアの部品が大量に余る。その中から、肩と腰リアアーマーをアストレアの物と交換したのだ。その他は色の塗り替えと基本工作である合わせ目消し以外、ガンダムアストレアF2を説明書の通りに組み立てただけだ。

「これならいける!」
『まもなく戦闘空域に進行します・・・。3、2、1、突入!』

 みゆきのアストレアが、戦闘空域である市街地に突入した。廃墟となった市街地にはあちこちにビルが乱立し、MSが隠れるほどの高さの物もある。盾の代わりに使えそう、とみゆきは頭の中に叩きこんだ。

『バトル、スタート!!』

 ここからは1ミスが命取りになる。コクピットに直撃すれば即ゲームオーバーなのだ。緩んだ顔を引き締め、みゆきは画面を睨んだ。

「さてさてどこから・・・」

 T字路に入り、右を向いたとき、警告音が響いた。反射的にみゆきはアストレアをバックさせる。
 一瞬前にみゆきが場所に、2条のビームが通過した。

「うわっ!?」
「お、ようかわしたなぁ!」
「その声は日野さん!?」
「そーやぁ!」

 ドゥッ!
 再び発せられた2条のビームが、みゆきの傍に建つビルを破壊した。

「なななな!?」

 破壊されたビルの奥から、赤いMSが姿を表す。

「どーや!ウチのHGUCZZガンダムは!パワーならそこいらのMSに負けへん!」
「くぅ!」
 不利、と一瞬でみゆきは判断する。今、みゆきのガンダムアストレアは右手にGNビームライフル、左手にNGNバズーカ、左腕にアストレア専用シールド、肩と腰にGNビームサーベル2本づつ、計4本が装備されている。MSではビームサーベルが多いこと以外、オーソドックスな装備だ。
 一方、あかねのZZは右手のダブルビームライフルと背中のバックパックの大型ビームサーベル以外、特に装備されていないように見える。だが、大型ビームサーベルはバックパックに接続されている時はビームキャノンとして利用でき、バックパックにもミサイルランチャーが隠されている。腕の側面には小型シールドもある。さらに額にはハイメガキャノンという、一撃必殺の武器も装備されていた。
 今のみゆきの装備では、攻撃翌力で押しつぶされるのは目に見えていた。

「倒せるかなぁ〜?」
 意地悪そうにあかねが話しかけてくる。わかりやすい挑発だ。だが、不利だと自覚しても、ここで引くわけにも行かない。

「やってみないと・・・。わかんないよ!」
13 :ヤン [sage]:2012/03/27(火) 15:43:53.09 ID:9H8okBD00
 GNビームライフルのトリガーを引きながら、みゆきはダブルゼータに突撃した。

「その意気や!喰らいぃ!」

 ビームを避けながら、あかねがダブルビームライフルで応戦する。

「このっ!」
 地面すれすれまでアストレアを下降させ、ダブルビームライフルをかわす。
 そしてそのままZZを追い抜いた瞬間に着地、振り向き様にNGNバズーカを発射した。

「ちぃ!」
 ZZも振り向き、左腕側面のシールドでバズーカ弾受け止めた。だが、シールドは無残にもボロボロと崩れ落ちる。

「しもたぁ!これじゃ変形できへん!よければよかったぁ〜!」

 あかねが叫んだ。HGUCZZはGフォートレスという爆撃機形態に変形できるのだが、腕のシールドが翼変わりなのだ。これでは飛行は出来てもバランスが悪く、満足な操縦が出来ない。

「やったぁ!HGUCダブルゼータは干渉する箇所が多いから、動きがにぶいんだよね!」
「やりおったな〜!やり返したる!」

 そう意気込むあかねだが、内心はやや焦りを感じていた。
 相手のキットを一目見ただけでそのキットの弱点を把握する知識。転校初日の自己紹介や、迷子になった時に見せた頼りない顔からは想像できない。かなりのガンプラバトルを潜り抜けていると見た。腑抜けていたのはこっち、ということか。あかねは自分を叱咤し、機体をアストレアへきっちりと向ける。
 ZZの左手にハイパービームサーベルを持たせる。これなら、交差際で振り回せば致命傷には至らず
ともダメージは与えられる加えて、右のサーベルはキャノンとして、アストレアに向けた。

「本気でいくで!」
「落とす!」

 少女達の覇気が激突した時。

「え〜い!」

 緑色のビームと共に、戦場には似つかわしくない、黄色い声が聞こえた。
14 :ヤン [sage]:2012/03/27(火) 15:46:24.61 ID:9H8okBD00
「な、なんや?」
「黄色いトラさん?」

 市街地を軽快に駆ける黄色の4足獣が、みゆきとあかねに向けて背中のビームキャノンを連射する。だが、どちらにもロックオンしていないのか、そのままみゆきとあかねの間を虚しく通過するだけだ。

「え?え?どうして当たらないの?」

 その4足獣のパイロット、やよいがあたふたと混乱する。そして混乱したまま、二人の間を通り過ぎた。

「ちょ、ちょっとま!あ、ビルに!!きゃぁ〜!!」

 情けない悲鳴と共に、4足獣はビルに激突し、土煙を上げた。

「何・・・。あれ・・・」
「たぶん、やよい・・・。いや、やよいや」

 呆然と土煙を見るみゆきとあかね。だが次の瞬間、ビームがみゆきを襲う!

「うわぁ!」

 アストレアのシールドでビームを防ぐ。光沢クリアーコーティングされたシールドは表面に傷が付いただけで、破壊は免れた。

「やっとロックオン出来た〜。2体いたからコンピューターが混乱したんだね」

 土煙が晴れていく。そこに姿を現したのは4足獣ではなく、黄色に塗り分けられたガンダムタイプだった。

「あれは!」

 みゆきが息を呑む。4足獣でガンダムへと変形する。これに当てはまるMSは1機しかない。

「ガイアガンダム!」
「そう!これが私のガンダム!HGのガイアガンダムだよ!」

 先のZZとはうって変わって、華奢なプロポーションである。黄色をメインカラーにし、クリーム色のラインが引かれている。隠ぺい力(塗料が下地を塗り潰す力)が殆ど無い色をよく発色させたものだ、とみゆきは感心する。

「さあ、いっくよ〜!」
「ちょちょちょ!2対1!?ってあれ、日野さんがいない!?」

 先ほどまでいたあかねのZZが忽然と姿を消していた。

「問答無用〜!」
15 :ヤン [sage]:2012/03/27(火) 15:49:50.52 ID:9H8okBD00
あかねが居なくなった事に気づいていないやよいが距離を詰めてくる。みゆきは慌ててやよいに照準をやよいに向ける。

「え〜い!!」

 ガイアの右手のビームサーベルがアストレアを襲う。再びシールドを構えるも、ガイアの振りが速く、NGNバズーカを切り落とす!
「しまった!撃ってないのに〜!」

 爆発する前に、NGNバズーカをガイアへ放り投げる。放り投げた瞬間、爆発する。

「きゃあ!」

 やよいが怯んでいる間に、みゆきは空いた左手に腰のGNビームサーベルを持たせた。

「いけぇ!」
「きゃ〜!」

 今度はアストレアが突貫し、ガイアを肉薄する。だが。

「受け止めた!?」
「ま、まだ負けたくないもん!」

 ビームサーベル同士がぶつかり合い、激しいスパークを発する。

「このっ!」
 ガイアの左腕のシールドがアストレアのボディを殴る。たとえ破損してもMA形態への変形に支障は無い。
 殴られた反動でアストレアはバランスを崩すも、背面スラスターを吹かし立ち直る。
 四肢の細いガイアとは思えないパワー。おそらく間接保持力を強化している。いや、全身に渡って強化されていると見て間違いない。アストレアのスペックをどの点でも上回っているはずだ。

「強い・・・!」

 みゆきは思わず呟いた。
16 :ヤン [sage]:2012/03/27(火) 15:52:08.88 ID:9H8okBD00
 その二人の戦いに銃口を向ける者がいた。あかねである。

「ふっ・・・。二人とも悪いな。悲しいけどこれ、バトルロイヤルやねん・・・」

 目を細め、一人格好つけてダブルビームライフルのトリガーに指を掛けたその時。

「そこ!」
「何!?」

 一条のビームがZZの目の前に着弾する。

「私が相手だ!」
「!どこや!?」
「上だぁ!」

 あかねが見上げる。そこには急降下する1体の昆虫を髣髴とさせる緑のMAの姿があった。そしてそのMAはMSへと変形し、ビームサーベルで切りかかる。

「何や!?可変機か?」

 左手のハイパービームサーベルで受け止めるあかね。

「ガンダムかい!?」
「なおか!HGUCのガブスレイ!?」
「ご名答!!」

 ビームサーベルで切りかかっておきながら、防がれると同時にMA形態へ変形、離脱する。そして急旋回し専用のビームライフル、フェダーインライフルと両肩のメガ粒子砲で攻撃する。

「早っ!ちぃ!」

 大きく舌打ちし、バックステップでかわす。ダブルビームライフルを撃ち返すも、あっさりと避けられてしまう。

「遅い遅い!」
「えーいちょこまかとぉ!」

 バックパックのミサイルランチャーを撃つ。
 だが、ミサイルが発射される前に、ガブスレイはMS形態へ変形し、真正面からZZに取り付く。

「いただく!」

 ガブスレイの右肩のメガ粒子砲がZZの左肩を撃ち抜いた。

「うわあああ!」

 激しい振動があかねを襲う。
17 :ヤン [sage]:2012/03/27(火) 15:56:43.31 ID:9H8okBD00
「とどめぇ!」
「まだやぁ!」

 ダブルビームライフルでガブスレイを殴る。ガブスレイの拘束が解け、照準を合わせるもその場にガブスレイの姿は無い。
「残りの武器は・・・!」

 あかねはZZガンダムの残弾をチェックした。ダブルビームライフルの残弾は残り2発。背中のミサイルランチャーは後一回は撃てる。後は額のハイメガキャノンが1発残っていた。

「こうなりゃ破れかぶれやぁー!!」

 接近してきたガブスレイをロックオンし、ダブルビームライフルを撃つ。

「遅いってば!!」
「倍返しやぁー!喰らいぃ!ハイメガキャノン砲ぉ!!」

 ZZの額から、強い閃光がなおのガブスレイへと伸びる。しかし。

「読んでいる!」

 足だけMA形態となり、わざとバランス崩し、急回避をとる。そしてフェダーインライフルの照準をZZのコクピットに合わせた。
「かかったぁ!」

 ハイメガキャノンの閃光が消えると同時に、ミサイルがなおを襲った。ハイメガキャノンを撃った直後に、ミサイルランチャーを続けざまに撃っていたのだ。

「それが本命!?しまった!!」

 なおがフェダーインライフルのトリガーを引いた瞬間、ガブスレイのコクピットにミサイルが直撃した。
「へへっ・・・どうや・・・」

 あかねはガブスレイの爆発を見た直後、なおのビームで撃墜された。
18 :ヤン [sage]:2012/03/27(火) 16:00:51.44 ID:9H8okBD00
「えーい!やぁー!とぉー!!」

 やよいはみゆきに果敢にビームサーベルを振る。その攻撃をみゆきは全てビームサーベルで受け止めていた。

「どーしよう!このままじゃ・・・。ってあれ?」

 みゆきは自分のこれまでの操作に疑問をもった。さっきから同じ操作ばかりしている。
 ビームサーベル等による攻撃は機体の状態(ジャンプ中やブースト移動中など)とレバー操作で様々な型に変化する。これにより、受け止める型も変化するのだ。
 だが、やよいの切り込みは直立状態で、レバー操作を一切しない、ただトリガーを引くだけのシンプルな操作で繰り出される型だ。

「これって・・・」

 みゆきはアストレアの左腕のシールドで、やよいのサーベルを受け止めた。

「ふえぇぇぇ!?」
「やっぱり!!」

 サーベルを受け止めたまま、みゆきはアストレアのブーストを吹かす。

「え!あ!ええええ!?」

 受身すら取らず、やよいのガイアガンダムは市街地の道路に倒れた。

「とどめ!」

 みゆきはGNビームライフルのトリガーを引いた。銃口から発せられたビームは真っ直ぐにガイアガンダムのコクピットを貫く。

「勝てると思ったのに〜!うわーん!!」

 やよいの涙声と共に、ガイアガンダムは爆発した。
19 :ヤン [sage]:2012/03/27(火) 16:04:52.49 ID:9H8okBD00
「よし!1機撃破!さあ次は・・・」
「もう私達だけのようですね」
「青木さん!正面から!?」

 堂々歩きながらみゆきへ向かう1機の機体。青と水色に塗り分けられている。

「Gエグゼス!!」

 みゆきが叫んだ。『HG Gエグゼス』はまだ発売から1年も経っていないキットだ。広い可動範囲が大きな特徴で、思い通りのポーズがとれる。この特徴はガンプラバトルでは大きな戦力となる。
「やよいさんは星空さん、あなたが。あかねさんとなおは相打ち。勝利できるのは私と星空さんだけ」

 ロックオン範囲に入ると同時に、みゆきはれいかの機体をロックオンする。それと同時にロックオン警報が表示された。

「さあ、いきますよ!このGエグゼスであなたを討ちます!!」
「負けない!」

 2機が同時にビームライフルを撃つ。ビーム同士は丁度二機の間で当たり、激しいスパークが発せられた。

「うわぁ!!」
「そこ!」

 怖気付いたみゆきとは裏腹に、れいかはライフルを捨て、バックパックのビームサーベルを両手に1振りずつ持たせる。2刀流である。

「はっ!!」
「おととととぉ!?」

 咄嗟にシールドで防御するが、無残にも切り刻まれた。これまでのダメージの蓄積もあるが、切れ口が鋭い。

「今ので仕留めるつもりでしたが・・・。やりますね」

 距離をとったれいかが賞賛する。

「いやぁ、それほどでも・・・」
「ですが!」

 Gエグゼスがバックパックのバーニアを吹かし、一気に距離を詰めた。

「まだ、甘い!」
20 :ヤン [sage]:2012/03/27(火) 16:06:58.06 ID:9H8okBD00
 2振りのサーベルがみゆきに襲い掛かる。

「しまったっ!ライフルが!!」
「そこ!」

 破壊されたライフルを捨て、左手のビームサーベルで受け止める。しかし、2刀流の激しい踏み込みと刃に防戦一方だ。

「は!たぁ!」
「とりゃ!おりゃ!」
「えい!やあ!」
「おおっと!!」

 徐々にれいかの攻撃にみゆきの操作が慣れてきている。あとはどうやって攻め込むかだ。

「これほどまでとは・・・」

 れいかは先ほどとは違い、素直に感嘆した。れいかの2刀流を受け流すビルダーはそうそういない。

「では、本気で行きます!」
「ええ!?本気じゃなかったのぉ〜!?」
「はぁ!」

 Gエグゼスの切れが早くなる。

「とぉ!!」
「うわぁぁ!!」

 アストレアの左手のサーベルが弾かれた。

「とどめです!!」

 Gエグゼスがサーベルを振り上げたその時。

「そこだあ!」

 みゆきはアストレアをGエグゼスに突撃させる。

「なあっ!?」
 思いがけない行動に、れいかは困惑する。だが、まだれいかの闘志は消えていない。その闘志が、Gエグゼスの態勢を整える。

「まだです!」
「ううん!!これで終わり!」
「えっ!?」

 Gエグゼスのコクピットに、アストレアの右拳が当てられた。これで終わり?武器も無いのに?
 だが、れいかは見た。
 アストレアの手首から発せられるビームの弾を。
 そして、それはれいかのGエグゼスを破壊した。
21 :ヤン [sage]:2012/03/27(火) 16:10:44.75 ID:9H8okBD00
『バトル終了!ウィナー、ミユキ・ホシゾラ!!』
「はー、勝ってもうたであの子・・・」
「やるねぇ!あの勢い、気に入ったよ!!」
「すごい、れいかちゃんを倒しちゃうなんて・・・」

 撃墜され、ゲーム終了となったあかね、なお、やよいはモニターでみゆきとれいかの戦いを観戦していた。

「ふぃぃぃ〜。終わった〜」
「お疲れ様です、星空さん」

 ポッドから二人が出てきた。3人は二人の元に集まった。

「すっごいわあ!みゆき、めっちゃうまいやん!」
「いやぁそれほどでも・・・」
「謙遜しなさんな!」

 あかねにおだてられ、笑顔を浮かべるみゆき。

「ですが、私を倒したビームは何だったのでしょう?」

 れいかの問いにみゆきが答えようとした時、やよいが先に答えた。

「たぶん、GNバルカンだよ。牽制用の武器」
「そのような武器が・・・?」
「ほら、これ!」

 みゆきがアストレアの組立て説明書を広げた。そこには写真と共に設定の説明が記載されていた。

「なるほど、これを零距離射撃したというわけですね・・・」
「何かあるかと思って、設定だけは頭に入れておいたんだ!」
「私も、まだまだ勉強不足ですね。この敗北はいい記念になります」

 れいかがみゆきに感謝の言葉を述べると、なおが二人の会話に入ってきた。

「ねぇねぇ、もう1回やらない?私、みゆきちゃんと戦ってないよ!」

 あかねが続いた。

「うちもまだ消化不足や!みゆき、今度は落としたる!!」

 やよいも後を追う。

「わ、私もまたみゆきちゃんと戦いたい!」

 最後にれいかが続いた。

「もう一度、お手合わせをお願いします、みゆきさん」
「あかねちゃん、やよいちゃん、なおちゃん、れいかちゃん・・・」

 みゆきの顔に満面の笑みが浮かんだ。

「よ〜し、今日はいっぱいガンプラバトルしよう!!みんなでウルトラハッピー!!」

 5人は再びポッドへ入っていった。
 みゆきのこの町でのガンプラバトルは、笑顔で始まったのである。
22 :ヤン [sage]:2012/03/27(火) 16:12:39.00 ID:9H8okBD00
第1話はこれで終了です。

次回はまた書き溜めたら随時投下、という形をとらせていただきます。ではまた。
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2012/03/27(火) 16:19:27.60 ID:tCYlNsCUo
面白かった
しかし店長、戦闘機売らなくていいんかい
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/03/27(火) 16:30:51.29 ID:FkVaDiWZ0
面白かったよ
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) :2012/03/27(火) 21:44:04.30 ID:sU4+eOOAO
プラモ狂四郎とかあの時代を思い出したよ、乙!
26 :エス氏 :2012/03/31(土) 18:08:20.70 ID:/iWL/XwK0
個人的になおはシナンジュがいいと思いましたが・・・案外ガブスレイも絵になりそうですね
27 :ヤン [sage]:2012/04/03(火) 14:59:49.72 ID:NqxKEA8r0
みなさんの感想が予想以上に好印象でよかったです。

>エス氏さん
みゆき達がガンプラを選ぶ基準は

みゆき:特になし
あかね:重武装
やよい:パイロットがカッコいいか
なお:高機動型、あるいは可変機
れいか:可動範囲が広い

と設定しています。確かにエス氏さんの仰る通り、なおがシナンジュを選ぶ可能性はありますね。
最初、なおには別の機体に乗せようと思っていました。しかし、その機体を後半機にしようと予定変更したためです。
その結果ガブスレイになったわけです。虫みたいで女の子に人気なさそうだけど、マウアー乗ってたからいっか、てな具合で。

さて、この調子で次回予告!
28 :ヤン [sage]:2012/04/03(火) 15:07:08.88 ID:NqxKEA8r0
「みゆきです!模型店ユニコーンでガンプラコンテストが開かれたの。やよいちゃんがオリジナル塗装で特別賞をもらったんだけど、1位になった蘇我、ていう美術部の人から『設定通りじゃないガンプラはガンプラじゃない!』て言われちゃった!はっぷっぷー!そこに現れたのが入江生徒会長!でも何か二人とも因縁深そう〜。次回!スマプリガンプラビルダーズ!『マイスター、出撃!!』ガンプラビルダー達の修羅場が見れるよ!」
29 :ヤン [sage]:2012/04/03(火) 15:10:40.56 ID:NqxKEA8r0
・・・予告、改行すればよかった。読みづらい!次回は来週中に投下できたら投下します。ではまた
30 :ヤン [sage]:2012/04/13(金) 12:49:53.58 ID:F3Gya1gL0
第2話完成!

これから投下します。
31 :ヤン [sage]:2012/04/13(金) 12:51:35.03 ID:F3Gya1gL0
前回までのあらすじ

七色ヶ丘へ引っ越してきたみゆき。その転校先でみゆいはクラスメイトのあかね、やよい、なお、れいかと
ガンプラバトルを通じて仲良くなったのだった。
32 :ヤン [sage]:2012/04/13(金) 12:52:29.97 ID:F3Gya1gL0
スマプリガンプラビルダーズ!
第2話『マイスター、出撃!』
33 :ヤン [sage]:2012/04/13(金) 12:55:01.03 ID:F3Gya1gL0
「うわ〜、すご〜い!!」

 模型店ユニコーンのショーウィンドウの前で、みゆきは感嘆の声をあげた。模型店ユニコーンで開催されたガンプラコンテストで、やよいの作品が中学生クラス3位に入選したのだ。

「そ、そんな事ないよ・・・」
「謙遜すんなや、やよい!これは自慢してもいいことやで!」

 あかねがやよいを元気付ける。

「あ、ありがとう・・・」
「なんで泣きそうになるん!?」
「な、泣いてないもん!」
「でもすごいよね〜。やよいちゃんのHGドラド!」

 やよいが製作したドラドは、黒と金色を主体に銀のアクセントが入っていた。そして、企業ロゴのオリジナルデカールが貼られていた。その様は特撮ドラマのヒーローを髣髴とさせる。

「色の発色もいいし、デカールもあるなんて!」
「親がプリンタースキャナー買ったから、それで作ったの」
「やよいはエアブラシも持っとるから、塗装がめっちゃ上手いねん」
「いいな〜」

 みゆきが憧れの眼差しでやよいを見つめる。
 エアブラシは初期投資が高い。安価の入門用エアブラシもあるが、エアー缶の維持費高いこと、エアブラシ本体の調整が難しいという理由のため、プラモ製作を続けるなら本格的なコンプレッサーとエアブラシは欲しい所だ。だが、最低でも3万円は掛かる弱点もある。中学生でエアブラシを所持しているやよいは珍しい部類になる。

「は、恥ずかしいよぉ・・・」

 モジモジと体をくねらせるやよい。

「ああ!恥ずかしいねぇ〜」
34 :ヤン [sage]:2012/04/13(金) 12:57:35.14 ID:F3Gya1gL0
 みゆき達に髪をだらしなく伸ばし、陰気な顔をした一人の男が寄ってきた。七色ヶ丘学園の制服を着ている。

「こんなガンプラでコンテストに出すんだからさぁ」
「何や!人の作品にケチつける気か!?」
「そうだよ!ガンプラはその人が好きなように作るのが魅力でしょ!?」
「ふん!だったら、僕の作品を見てみなよ!」

 男がショーウィンドウの一角に指を刺した。みゆきとあかねがその先にあるガンプラを見た。

「うわ!?」

 みゆきが叫んだ。そこには1位のマークが燦然と輝いていた。

「なんやこのザク・・・。めっちゃ作りこんどる・・・!」

 1位を獲得したHGUCザクUはディテール、塗装共にあかねが息を呑むほどだった。

「どうだい、僕のザクUは!ガンプラは設定通り、リアルに作ってこそ!」

 そのザクUの製作者、蘇我が大きく手を広げ、熱弁する。

「大体なんだ?その色!ドラドは黒と紫のツートンカラーが魅力の機体!マザト・ラングレー専用のドラドLの黒と黄色もいい!けど、こんな色分け、ドラドが泣いている!」
「う、うう・・・」

 やよいの目に涙が滲む。だが蘇我はそんな事はお構いなしとばかりに話続ける。

「それにこのデカール!何で企業のマーク?品が無いにも程がある!」
「何よ!1位だからって言っていい事と、悪い事があるでしょ!」
「みゆきの言う通りや!」
「だったらガンプラバトルで勝負するかい?次回のコンテストでもいい!ま、勝ちは見えてるけど?」

 蘇我の自信に満ちた表情で、みゆき達を見下す。

「望むところ・・・」
「まってみゆきちゃん!もういいの・・・」

 ポロポロと涙をこぼしながら、やよいはみゆきの袖を引っ張った。

「やよいちゃん!ダメだよ!こんな事言われてこのままじゃ!」
「そうややよい!自分のことボロクソに言ってるんやでコイツ!」
「でも・・・」
「ふふん!この様じゃ、勝ったも同然だねぇ!」

 ますます蘇我が付け上がる。

「何が来ても、そんなガンプラで勝とうと考えるのがおこがましい!」
「そんなことばかりするから、いつまで経ってもガンプラマイスターになれないんだ!」
35 :ヤン [sage]:2012/04/13(金) 12:59:45.72 ID:F3Gya1gL0
「ああん?」

 蘇我が振り返る。そこには、蘇我と同じ七色ヶ丘学園の制服を着た男が立っていた。だが、蘇我と違
い爽やかな好青年の印象を受ける。

「誰?」

 みゆきがあかねに耳打ちする。

「入江生徒会長。そっか、みゆきは知らんで当たり前か」
「この人もガンプラを?」
「そうみたいやな・・・」

 みゆきとあかねが入江と蘇我を見る。一触即発の雰囲気が漂っていた。

「入江〜。また僕の邪魔をしてぇ!」
「するさ!弱い者いじめなんて下衆がすることだ!」
「そういう優等生のふりがイチイチ癪に障るんだよ!」
「別に演じてなんかいない。自分がなれないからって嫉妬してるのか?」
 
 入江が睨み、蘇我の顔が引きつっていく。そして。

「ガンプラバトルだ!入江!お前を完膚なきまでに叩き潰してやる!勝負は2週間後の土曜日!午後1時からでどうだ!」
「構わないさ!」
「首を洗って待ってろ!」

 ふん!と鼻を鳴らして蘇我は模型店ユニコーンから出て行った。

「ご、ごめんなさい!」

 やよいが入江に頭を下げた。

「私のせいでこんな事に・・・」
「気にしないで。時々いるからね、自分の考えが正しいからって人に押し付ける奴」
「でも・・・」
「いーからいーから。じゃ、俺はバトルに備えてガンプラ買って帰るよ」

 そう言い残し、入江はガンプラ売り場へと向かった。
 その後、入江はガンプラを1つ買って、模型店ユニコーンを後にした。
36 :ヤン [sage]:2012/04/13(金) 13:01:53.17 ID:F3Gya1gL0
 次の日。みゆきとあかねは七色ヶ学園の教室で、なおとれいかに昨日の出来事を話していた。

「へぇー。生徒会長、ガンプラ作るんだ」
「ええ、入江生徒会長はガンプラマイスターの称号をお持ちです」

 ガンプラマイスターとは、ガンプラビルダーの頂点に立った者のみが与えられる称号である。

『えっ!?』
「確か、小学6年生・・・。12歳の時に取られたと・・・」
『12歳!?』

 れいかを除く3人が声を上げた。その反応を見て、れいかはきょとんとする。

「ええ、そう伺っておりますが・・・」
「チョイ待ち!れいか、知っとるか?マイスターになるんがどんだけ厳しいんか!」

 あかねが叫んだ。
 ガンプラマイスターの称号は誰でもおいそれと取れるものではない。ガンプラを発売するメーカー、バンダイが主催する全国コンテストに入選しなければならないし、初心者、上級者問わず誰でもアドバイスを送る知識を持っていなければならない。そして、ガンプラバトルでの勝利数、プレイ時間を吟味され、ようやくバンダイからマイスターの称号を得られるというわけだ。
 一応、救済ルールとしてビルダーがマイスターをガンプラバトルで撃墜することでもマイスターの称号を得られる。ビルダー達の間では俗に下克上とか、大金星と呼ばれているルールだが、同時にビルダー達にはあまりいい印象ではない。接待バトル、ラッキーヒットとバカにされるし、何よりビルダーのプライドが許さないからだ。それを覆すにはバトルの内容で答えるしかない。

「想像ですが、小学生の頃の自由時間をガンプラに当てていたのでは?」
「それでもキツイで〜。化け物かいな生徒会長は・・・」
「でもさ」

 みゆきが口を開いた。

「何で蘇我って人、入江生徒会長につっかかって来るんだろ?」
「それは、生徒会選挙にあるかと」

 れいかが答える。
37 :ヤン [sage]:2012/04/13(金) 13:04:43.27 ID:F3Gya1gL0
「生徒会の選挙、書記や会計、そして私が今在籍している副会長はそれぞれ立候補者が定員と同じだったため、信任投票で済みました」
「ふむふむ」
「ですが、生徒会長は入江生徒会長と蘇我さん、二人の決戦投票になったのです。その結果は入江生徒会長の圧勝」
「たしか蘇我先輩には5票も入らなかったなあ」

 なおがその時の投票結果を思い出して言った。あれは七色ヶ丘学園の歴史に残る大敗だろう。

「でもあの2人、昔からの因縁って感じやったけどな。いつもいつも〜、とか言うとったし」
「う、うん・・・」
「何ややよい、まだ気にしとったんか?」
「だ、だって・・・」

 やよいの声が涙声になりつつある。

「私のせいで迷惑かけちゃったし・・・」
「そう気になさらないで、やよいさん」

 れいかがやよいの手を優しく握る。

「れいかちゃん・・・」
「入江生徒会長を信じて下さい」
38 :ヤン [sage]:2012/04/13(金) 13:07:44.76 ID:F3Gya1gL0
 そしてあっという間に2週間が過ぎ、対決の日になった。その3日前に入江が40度の熱を出すトラブルがあったが。

「大丈夫なんですか?」

 模型店ユニコーンのガンプラバトルルーム。そのポッドの中には入江が、その傍にれいかが付き添っていた。その向かい側で蘇我が準備している。あちらも取り巻きだろうか、見たことが無い男子生徒が2人付き添っている。

「ああ、問題無し!今回も自信作だ」

 入江はかばんから自信作のガンプラが入った箱を、ゆっくりと取り出す。その指は先ほどまで塗装していたのか、ところどころ塗料が付着していた。

「そうではありません!お体のことです!」

 れいかは声を荒げて入江に詰め寄る。

「無茶ですよ、病み上がりでガンプラバトルなんて・・・」
「無茶かもね。でも体調管理は俺の責任だ。それにこの戦い、負けるつもりはさらさら無いよ」
「ですが・・・」
「大丈夫さ」

 入江が箱からガンプラを取り出した。その目つきは真剣そのものだ。
 その様子を見てれいかはふう、と小さくため息をつき。

「・・・わかりました。もう止めません。ですが・・・」
「ん?」
「・・・お早いお帰りを」
「・・・了解!」

 れいかがポッドから離れるのを確認すると、入江はポッドのドアを閉じた。

『ほほーう』
「えっ!?」

 れいかが驚きの声を上げ、振り返る。あかねとなおがニヤニヤした顔でれいかを見ていた。

「二人そうゆう関係やったんかー」
「いやー、うらやましいなー」

 わざと棒読みで二人は喋り出す。れいかの顔はあっという間に真っ赤になる。

「べ、別に恋人同士ではありません!」
「うちそんな事言っとらんで?」
「うん、言ってないね」

 あかねとなおはお互いの顔を見て『うんうん』と頷き合う。

「ふ、ふざけないで下さい!」
「でも、二人はお似合いやと思うで」
「え?」
39 :ヤン [sage]:2012/04/13(金) 13:10:11.02 ID:F3Gya1gL0
「アムロとチェーンみたいで!」
「ほ、本当ですか!?」

 れいかの顔がパアッと明るくなる。

『うんうん!ピッタリ!』
「そうですか・・・!」

 柄にも無く、れいかは飛び上がりそうな衝動に駆り立てられた。

「うちらガンプラ女子で恋一番乗りが、れいかやったとはなあ」
「でも前から気はあったみたいだよ。生徒会長の話よくしてたし」
「そうやったんか。ほんで、それに比べて・・・」

 あかねとなおが中央コンソールに目をやる。そこにはみゆきよやよいが真からコンソールの操作説明を受けていた。

「・・・で、ここから見たいプレイ動画を選べば見れるわけだ」
「すご〜い!ビルダー視点と3者視点が切りかえれるんだ!」
「よかったねみゆきちゃん!私もこれで駄目だったところ、見直してみる!」

 みゆきとやよいがはしゃいでいる。

「あれやもんなあ・・・」
「当分、恋愛話に花はなさそう・・・」

 ガンプラ以外にも女の子らしい話がしたい。その思いが当分先になるのを実感して、あかねとなおは肩を落とした。

「おい、ばれなかっただろうな」

 みゆき達がはしゃいでいる片隅で、蘇我は2人の男子生徒に耳打ちする。2人は蘇我が仕切っている美術部の2年生の後輩であった。

「大丈夫ですよ、ちゃ〜んと設定し直してあります」
「では予定通りバトル開始2分後に・・・」
「よしよし・・・」

 蘇我がほくそ笑んだ。
40 :ヤン [sage]:2012/04/13(金) 13:14:47.97 ID:F3Gya1gL0
「何かな?入江生徒会長のガンプラ!」

 目を輝かせながら、みゆきはモニターを見る。戦艦アルビオンが映し出され、いよいよ出撃だ。
 蘇我の取り巻き2人は臨場感があるほうがいい、と空いているポッドへ入っていた。

「れいかちゃん、何か聞いてない?」
「さあ、何なのか・・・。入江生徒会長は好きなガンダムの2体の内の1体とおっしゃっていましたが・・・」

 れいかはこれまで何度か入江とガンプラバトルをプレイしたことがある。だが、HGUCのジェスタ、同シリーズのザクV改、HGのゼダス、時には1/100のネオガンダムと最新キットであったり、昔のキット、通称旧キットであったりとバラバラだ。だが、どのガンプラを作ってバトルを行なっても勝ち続けている。

「あ、来た!HGUCのEX−S(イクスェス)ガンダム!!」

 やよいが叫んだ。戦艦アルビオンから発進した機体の白いボディが光る。
 入江のEX−Sガンダムが青空の下を駆け抜ける。白を基調とし、金色のライン、メタリックブルーの間接、赤と緑でアクセントが加わっている。その塗装はBB戦士の機動武神天鎧王を連想させた。太陽の光が当たるたび、EX−Sガンダムは輝く。

「すごい、機体がきらきら輝いてる!」
「あれ、ガイアノーツのプレミアムガラスパールだよ。上から吹けば、どの色もパール調に早変り!」
「へ〜。そんな塗料があるんだあ・・・」

 やよいの説明に、勝ちは決まりと確信するみゆきだが、隣のなおはそう思っていなかった。

「また扱いづらい機体選んだなぁ・・・」
「扱いづらい?」

 なおが難しい顔をし、みゆきは首を傾げる。

「うん、加速は背中のブースターが強力だから速いんだけど・・・。間接があまり動かないんだよ」
「ええ〜!?」

 なおの説明にみゆきは驚く。

「うちもなおのEX−S借りて試し乗りしたんや。でもあれは乗り手選ぶで」

 あかねがその時のプレイを思い出しながら喋る。重武装だから、と軽い気持ちで乗りこなせると思っていたが大違いだった。背面ブースターのおかげで重心が高くなりバランスが取りづらい、加速がありすぎてコントロールが上手くいかないと、思った通りに動かないのだ。
 バトルエリアに入る前の動作チェックを見るが、やはり間接、特に膝が動かないようだ。

「ブーストの加速も私が作ったのとあまんり変わらないなあ」
「違うの色だけかいな・・・」
「じゃあ、かなりマズいんじゃ・・・」

 ポツポツとなおとあかねの呟きを聞いたみゆきは青ざめた顔で、再びモニターに視線を送った。
41 :ヤン [sage]:2012/04/13(金) 13:22:40.46 ID:F3Gya1gL0
「いい感じだ」

 みゆき達の心配を他所に、入江はバトルエリアへ入る前に一通りの操作を行い感触を確かめる。

「狙い通りの感覚だ。後はこの戦いの中でこいつの声を聞くだけだ」
『まもなくバトルエリアに突入します。3、2、1、突入!』

 EX−Sガンダムがアスファルトに着地した。

『バトル、スタート!』
「ホンコンシティか・・・」

 入江は乱立するビルとネオン看板の文字を一通り見て呟いた。
 ガンプラバトルの戦場はその時その時によって変化する。市街地、砂漠、雪原、ジャングル、宇宙と戦場は様々だ。その中のホンコンシティ、Zガンダムで戦場となった街は見通しが悪い。以前、みゆき達が戦った廃墟と違い、ビル群に損傷は一切無い。
 1歩、2歩と入江はEX−Sガンダムを歩かせる。背面ブースターで高くなった重心を矯正するために、足首に重りを入れたおかげで、問題なく歩行する。

「ん、黒い空!?」
 入江へ向かってくる黒い空。
 足を止め、手に持っていたビームスマートガンを構えた。ビームスマートガンに備え付けられたセンサーがキラリ、と光る。

「よし。ラピーテープの上から市販のクリアーレンズをはめたから、ロックオンが早い」

 ラピーテープとは光沢のある金属シールだ。ガンプラではカメラアイやセンサーに貼り、質感を高めるのに使われる。もちろん入江のEX−Sガンダムの頭部カメラアイや各部センサーに使われている。

 迫りくる黒く空の中心を捕らえ、すかさずビームを放つ。

 だがその一発は、黒い空へ到達する前に向きを急に変え、ホンコンシティに着弾する。

「なるほど、それがお前の機体か!」
「ああ!コンピューターも粋なステージ選択をしてくれる!」

 入江に向かってくる黒い空。それは空ではなく、山と言っていい要塞であった。そして、その要塞はEX−Sガンダムの前で停止する。

「ふふふ・・・。見るがいい!」

 要塞から足が生え、腕が伸びる。そして要塞の頂点が割れ、ガンダムフェイスが姿を現す。

「これが僕のHGUCサイコガンダムさぁ!!」

 着地の衝撃で窓ガラスは一斉に砕け落ち、その巨体はビル群を次々となぎ払う。
 サイコガンダムは頭高長40メートルという巨大なMSだ。HGUCの1/144スケールに縮小しても30センチとなる。この大きさは1/60スケールのガンダムとほぼ同じであり、ガンプラでは巨大なものになる。EX−Sガンダムも全長25.18メートル、HGUCのサイズに縮小すると約18センチと大柄だが、サイコガンダムの前では子供同然だ。
42 :ヤン [sage]:2012/04/13(金) 13:26:12.74 ID:F3Gya1gL0
「くらえぇ!」

 サイコガンダムの両手10指からメガ粒子砲が発射される。

「避ける!」

 入江は背面ブースターを吹かし、突進しつつメガ粒子砲の雨をかわす。その加速を維持したまま、サイコガンダムへビームスカートガンを放つ。

「そこぉ!」
「無駄なんだよぉ!」

 サイコガンダムの黒光りする装甲はビームを曲げ、あらぬ方向へと着弾させてしまう。
 ガンダムシリーズには、ビームを無効化するIフィールドと呼ばれるバリア、実弾兵器を無力化するフェイズシフト(PS)装甲等がある。だが、ガンプラバトルではその設定は完全に反映されない。もし常時発動で反映してしまっら、バトルで使われるガンプラに偏りが出来てしまう。そうならないためにも、防御に関する設定は一定秒、使い終えたらチャージが完了するまで使用不可能とシビアになっていた。
 しかしその設定に頼らずとも、ある程度であれば防御能力をガンプラに付加することが出来る。その1つが艶の有だ。光沢仕上げならばビーム兵器の、つや消し仕上げならば実弾兵器のダメージをある程度抑えることが出来る。そして、ダメージの減衰量はクリアー塗料の厚みに比例する。

「このサイコガンダムには光沢クリアーを何度も吹き重ねてある!お前の変な塗りわけガンダムとは違うんだよ!」

 入江のEX−Sガンダムもパール塗装と光沢クリアーでコートしてあり、ビームに対する防御は万全のものだ。その防御能力を蘇我のサイコガンダムはクリアー層の厚みとボディの大きさという要素で上回っていた。

「そうかな?じゃあここはどうだ!」
「だから無駄・・・」

 3度発射されたビームスマートガンは曲がらず、サイコガンダムの3連腹部拡散メガ粒子砲の1門に直撃する。

「うおおお!?」

 サイコガンダムが1歩、後へとよろめく。だが。

「なまじ大きいと対したダメージを与えられないか!でも・・・」

 弱点は見えた。ならば零距離から仕留めるまで。入江がブーストペダルを踏み込もうとしたその時、両側から衝撃が走った。

「何だ!?」

 EX−Sガンダムの右側にHGUCマラサイが、左側にはHGUCザクスナイパーが取り付いていた。EX−Sガンダムの両腕をガッチリと捕らえており、動かすことが出来ない。

「やりましたぜ、部長!」
「さあ!やっちゃってください!」

 蘇我の取り巻きの男子生徒が下衆じみた声を発した。
43 :ヤン [sage]:2012/04/13(金) 13:28:06.38 ID:F3Gya1gL0
「なんやあれ!1対1やないんか!?」
「なんてことを・・・!」

 あかねとれいかが画面を睨む。その目は怒りに満ちている。

『主人公のピンチに駆けつける仲間!これぞリアル!』
「何がリアルだ!このぉ!」

 なおが取り巻きの一人が入ったポッドのドアを開けようとするが、びくともしない。それどころかポッドはガンプラバトルの機体の動きに反映して動くため、取っ手を掴んだなおは上手く踏ん張ることが出来ない。

「ど、どうなってるの!?」
「おかしい、確かに1対1のシングルマッチに設定したはず・・・」

 みゆきの声に答えながら、真が中央コンソールのパネルを叩く。

「設定が変更されている!1対3のチーム戦だ!」
「ええっ!?」

 やよいが驚きの声を上げた。

「でもいつ設定変更を・・・。あ!」

 真は思い出す。
 設定を終えた後、蘇我の取り巻きの一人が商品の会計を求めてきて、部屋を後にしたことを。
 その入れ違いにもう一人の取り巻きが部屋へ入ったこと。

「卑怯者!」
「プライド無いんか!?」
『構わないさ!』

 ポッドから離れたなおとあかねの罵倒を入江が止める。

『こっちも確認しなかったから、こっちにも落ち度がある!』
「ですが、勝てるのですか!?」

 れいかが入江に問いかける。

「数で圧倒的に不利なのに・・・」
『勝てるさ!』
『何だと〜!!入江!おまえのいい子ちゃんぶりには飽き飽きしてるんだよ!』
『そうかい!なら見せてやる!マイスターの本気を!!』

 EX−Sガンダムのバーニアから光が溢れ出した。
44 :ヤン [sage]:2012/04/13(金) 13:32:02.65 ID:F3Gya1gL0
「さあ行くぞ、EX−S!」
 入江はブーストペダルを完全に踏み込む。EX−Sはその操作に答え、取り付いた2体をそのまま、猛加速の世界に連れ込む。

「うわあああああ!!?」
「何が起こってるんだああ!?」
「ただ加速してるだけだ!!バーニアの中にさらに市販のバーニア接着してあるから、加速のキレがいいのさ!設定通り主義のお前達には出来ない芸当だ!」

 猛スピードで移り変わるビル群の中、入江が当然のように答える。だが、二人には聞こえていないようだ。

「ブーストスピード、持続時間共に元の2倍か。うん、悪くない」
「こ・・・。の!」
「ん?」

 右側に取り付いたマラサイが左腕を振り上げた。どうやらブースターを破壊するつもりだ。

「やらせない!」

 入江はEX−Sを縦回転させ、マラサイをアスファルトに押し当てた。

「ひ、ぎゃあああああああ!?」

 マラサイの腕が千切れ飛び、脚が吹き飛び、頭がもぎれ飛ぶ。
 ガンプラバトルの初心者脱却のコツの1つとして、いかなる振動があろうとも操縦桿から手を離さないことがある。単純に手を離さなければ機体操作が出来るからだ。だが。

「うあああああ!!助けてくれぇぇぇ!!」

 マラサイを操る取り巻きが乗るポッドは激しい振動を起こしていた。縦横、上下、斜め。バーテンダーが振るカクテルシェイカーの如く。

「じょ、冗談じゃない!!」

 ザクスナイパーが離れた。自分もそうなる運命と悟ったのだろう。入江は離れた場所を覚えておき、そのまま駆け抜ける。そして、ビルにマラサイを叩きつけ、急停止した。

「た、助け、たしゅけ・・・」

 両腕、両足、頭、バックパック。その全てを失ったマラサイのボディがビルからネオンとガラスと共にアスファルトへ崩れ落ちた。

「まず1機!」

 入江が叫ぶのと同時にロックオン警報が響いた。入江は反射的に回避行動をとっていた。いた場所に一筋のビームが走った。

「さっきのザクスナイパーか。こっちの場所を把握しているってことは・・・」

 ビルの屋上から狙っている。見通しの悪いホンコンシティだと、狙撃場所はそこしか考えられない。ビームの方向、角度からすると、入江がいるT字路へすぐ入った箇所はビルで死角のはずだ。

「よし」

 入江は看板を左手に取る。それを上空へ放り投げ、再びブーストペダルを全開にして移動する。
 そして、看板が頂点へたどり着いた時、ビームが看板を貫いた。

「狙い通り!」

 今のビームの攻撃からザクスナイパーは場所を変えていない。そう判断した入江は左手にビームサー
ベルの柄を持たせそこへ急行した。
45 :ヤン [sage]:2012/04/13(金) 13:34:15.57 ID:F3Gya1gL0
「よぉし!!」

 看板をEX−Sガンダムと間違えたのにも気づかず、ザクスナイパーに乗る取り巻きはガッツポーズを取った。スナイパーは楽でいい。相手の攻撃が届かない長距離で、一方的に攻撃すればいい。一発で仕留める快感はたまらない。

「さて、これでバトルしゅ・・・」
「終了じゃないさ!」
「な・・・!?」

 目の前に倒したはずのEX−Sガンダムがいる。ビームスナイパーライフルを構え直すもEX−Sガンダムの腰部ビームキャノンで両腕ごと破壊される。

「ひぃぃぃぃ!び、ビームサーベル!?何で!」

 HGUCのEX−Sガンダムはビームサーベルの柄が外せないはずだ。

「2機目!」

 EX−Sガンダムは左手に持っていたビームサーベルを突き刺す。ザクスナイパーのコクピットを綺麗に貫いた。
「ビームサーベルを外せれるようにしてあるからだ。お前達の好きな設定再現。これもまたガンプラの醍醐味の1さ!」
46 :ヤン [sage]:2012/04/13(金) 13:45:54.27 ID:F3Gya1gL0
「何をやってるんだ!役立たず共ぉ!!」

 蘇我がわなわなと震え、叫ぶ。こんなはずじゃない。リアルに勝負は決まっていたはずだ。こんなはずじゃない。

「最後はお前だ!落とす!」

 入江がサイコガンダムに向かって叫ぶ。

「やってみろぉぉぉ!!」

 両手のメガ粒子砲を撃つ。だが、あっさりと避け、全開の猛加速で突っ込んでくる。

「か、拡散メガ粒子砲!!」

 腹部に残った2門の拡散メガ粒子砲を放つも、一発も当たらない。かすりすらしない。

「くそぉぉぉ!なんで当たらないんだあ!」
「腰が動かないからな、HGUCのサイコガンダムは!俺のEX−Sもそうだが速さでカバーしている!そして弱点もう1つ!」

 EX−Sがサイコガンダムの背後の回った。

「リフレクターインコムッ!」

 EX−Sガンダムの両膝のニークラッシャーから、ワイヤーに繋がった円柱のパーツが飛び出す。それに向かってEX−Sガンダムはビームスマートガンを撃つ。そしてビームは円柱に当たると直角に曲がり、サイコガンダムの右膝を砕いた。反射で相手の予想を覆し攻撃する。これがリフレクターインコムの最大の特徴だ。

「うわああ!バカな、リフレクターインコムは射出できないはず!」
「キットのままじゃな!リフレクターインコム・ユニットのハッチをポリキャップで開閉可能にしてある!」
「だとしても僕のサイコガンダムは光沢仕上げだぞお!?何で壊れるんだあ!」
「剥がれさ!変形したとき、膝関節の光沢クリアーが剥がれたんだ!」

 サイコガンダムが崩れ落ち始める。そして右膝を破壊したビームはもう1つのリフレクターインコムに当たり、方向転換して左膝を壊した。

「好きなものを好きなように作る。それがガンプラだ!そのことに気づかず、考えを押し付け、他人の作品を見下すお前は、マイスターには絶対になれない!」

 サイコガンダムはアスファルトにうつ伏せに落ちた。

「終わりだ!!」
「うわああああ!!」

 背後に乗ったEX−Sガンダムのビームスマートガン零距離射撃。さすがの光沢クリアーコーティングも無力化出来ない。
「こんなの嘘だぁ〜!!」
 サイコガンダムの頭部コクピットが爆発した。
47 :ヤン [sage]:2012/04/13(金) 13:48:44.54 ID:F3Gya1gL0
『バトル終了!ウィナー、イリエ!!』

 バトル終了のアナウンスが流れるまで、みゆき達は開いた口を塞げなかった。それと裏腹にれいかと真は笑顔だ。

「さすがだ。前より思い切りがいい」

 真が冷静に入江の戦いぶりを評価していた。

「なに・・・。あれ・・・?」

 みゆきは震える体に力を込め、全力で叫んだはずだった。だが、漏れた声は小さいものだった。

「あかん。腰抜けそうや・・・」
「すごい・・・」
「あの加速、化け物だよ・・・」

 あかね、やよい、なおもみゆきに続く。3人共みゆきと同じ、体が震えていた。

「ふう」

 入江がポッドから出てきた。

「お疲れ様でした、入江生徒会長。素晴らしい戦いぶりでした」

 れいかは入江にタオルを差し出す。

「ありがとう。EX−Sの声も聞けた。これで作りたい機体のプランが出来たよ」
「そうですか・・・」
「さて・・・」

 入江は蘇我が入っているポッドに目を送る。先に撃墜された取り巻き2人が情けない声を上げていた。

「蘇我ぶちょ〜」
「出てきてくださいよ〜」

 その声が聞こえたのだろうか。蘇我がブツブツ何かを呟きながらポッドから出てきた。

「嘘だ嘘だ嘘だ・・・。僕が負けるわけ無いんだ。僕が負けるわけ」
「もう1戦やるかい?」

 入江は蘇我に声を掛ける。すると蘇我の顔がみるみる真っ青になる。

「ひぃぃぃ〜!!」
「蘇我ぶちょー!」
「待ってくださいよー!」

 蘇我達は恐怖に満ちた顔で部屋から飛び出した。

「やりすぎた・・・。かな?」
「これで懲りるでしょう」

 ふふふ、とれいかは微笑んだ。

「さて、俺も行くよ。真さん、買い物したいんだけど・・・」
「わかった。設定し直して・・・。よし、行こう」

 入江と真は部屋から出ていく。

「すごい、マイスターって!」
 部屋を後にする入江の背中を見て、絶対にマイスターの称号を手に入れることを心に誓ったみゆきであった。
48 :ヤン [sage]:2012/04/13(金) 14:02:21.84 ID:F3Gya1gL0
次回予告

みなさん、おまちかね〜!あかねやで!みゆきが出会った少年、天野雪輝君。でもな〜んか困っとるみたいや。
原因は同じチームメイトの我妻由乃と春日野椿。この恋する2人の暴走を、果たしてみゆきは止めることが出来るんやろか!?
次回、スマプリガンプラビルダーズ!『タッグバトル!恋にオドオド天野雪輝』に!レディ〜ゴー!やで!!
49 :ヤン [sage]:2012/04/13(金) 14:04:42.10 ID:F3Gya1gL0
第2話は以上!

ガンプラの魅力は、自分のアイデアや好みを表現できる素晴らしいもの、と自分は考えています。
他の人の作品をバカにする権利は誰にもありません。原作のボイス・シャウアーみたいなことをやると嫌われますよ!
マナーはキチンと守りましょう!

次回は出来次第、投下します。ではまた。
50 :ヤン :2012/04/27(金) 15:43:26.38 ID:hPFqzcL10
ストライクフリーダム、君はなぜそんなにマスキング箇所が多いの?
電撃のコンテスト用にアルケー作らないと・・・。

そんなわけで、投下は5月中ごろになります。
51 :ヤン :2012/05/25(金) 15:17:07.90 ID:0tArHyjm0
お久しぶりです。

では早速投下!
52 :ヤン :2012/05/25(金) 15:18:24.43 ID:0tArHyjm0
前回のあらすじ
史上最年少でガンプラマイスターとなった入江生徒会長。彼の戦いぶりを見て、みゆきは驚きと感動を隠せなかった。

スマプリガンプラビルダーズ!
第3話『タッグバトル!恋にオドオド天野雪輝!?』
53 :ヤン :2012/05/25(金) 15:23:42.88 ID:0tArHyjm0
「こんにちは〜!」

 みゆきは模型店ユニコーンの扉を元気よく開けた。
 憂鬱な中間テストも終わった日、あかねの提案でみんなとガンプラバトルをする約束をしたのだ。

「やあ、いらっしゃい」

 真がいつもの笑顔で答える。
「あれ?みんなは・・・?」

 きょろきょろとみゆきは店内を見渡し、中をうろつくが、真以外の姿は見えない。ちらりと腕時計の時刻を見ると、1時半を回ったばかり。約束の2時まで後30分もある。

「う〜ん、私が一番乗りか〜」
「ガンプラバトルかい?」
「はい、中間テストが終わったからみんなとやろうって話になったんですけど・・・」
「今、先客がいるから、少し待っててくれ」
「おーい、真!」

 入り口から声がした。

「持ってきたぞー!」
「マッコイじいさんか。今日は早いじゃないか?」
「へへ、いつでも手早く丁寧に!手に入らないものは無い!それがマッコイ商店のモットーだ!」

 その男は70目前だろうか。顔にはしわ、白髪、やや腰が曲がっていた。

「おや、初めてみる顔だね?ワシはマッコイ」
「ほ、星空みゆきです!」

 みゆきはペコリ、と頭を下げる。それと同時に日本語がとても流暢な事に驚いていた。
 この町、七色ヶ丘町はニューヨークと国際友好都市を結んでいる。お互いに自由を愛するという理念だからだ。なので、海外から移住してくる人もいれば、逆に海外へ移住する人達が外国暮らしで慣れるために住む人々もいる。

「お前さんかい?ピンクのアストレアを使うガンプラビルダーって」
「はい!今日も持ってきてます!」
「そうかい。でもどうだい?そろそろ新しいガンプラを組んでみては・・・」
「おいおい、じいさん。俺の仕事とるなよ」
「へへっ!悪いな」

 いしし、と笑うマッコイを見て、気のよさそうなおじいさんだな、とみゆきは感じた。

「頼んでいた奴、あった?」
「持ってくるよ。おーい!プーギー!」
「手伝ってくれよぉー!」

 ダンボール箱が2個、3個と運ばれてくる。店の中が徐々に慌しくなるのを察して、みゆきはガンプラコーナーへと向かった。
54 :ヤン :2012/05/25(金) 15:28:09.12 ID:0tArHyjm0
「次どれを組もうかな・・・」
  
 マッコイに言われた通り、みゆきはそろそろ新しいガンプラを組み立てようと考えていた。だが、いまひとつピンと来るガンプラが中々見つからない。

「えっと・・・。タミヤの1/72のF−22ラプターとF−35ライトニングU・・・。グリペンは?」
「確か奥に・・・。あったあった。ライトニングUは日本採用記念の奴だ」
「・・・!・・・!」
「まあね。次はフジミの1/700の金剛、武蔵最終型・・・」
(うわ〜。あんなにたくさんある・・・)

 みゆきが普段あまり見ないコーナーの商品が、次々とダンボールから取り出されていく。だが、みゆきにとってはどれも似てる形状に見えてしまい、何がなんだか分からないが。

「後はHGUCのキュベレイ、ジム改、ギラ・ドーガ・・・」
「・・・!・・・!」
「さっきから何だあの声?どっかで祭りか?」

 マッコイが手を止め、真に尋ねた。小さい声だが、確実に店の者達の耳に届いている。

「いや・・・。バトルルームから声が漏れてるな・・・」
「おや、防音ならいいのが・・・」
「その商売魂には感服するよ・・・」

 呆れて真はため息をついた。

「あの、私見てきます!」

 みゆきが手を挙げて提案した。ここで考えてるより、ガンプラバトルを見て、参考にすれば欲しいガンプラが見つかるかもしれない。

「いいのかい?トラブルにならないようにね」
「はい!」
 
 みゆきはバトルルームの部屋を開けたその瞬間。

「我妻由乃ぉぉぉぉぉー!!!」
「春日野椿ぃぃぃぃぃー!!!」

 怒声が店に響き渡る。慌ててみゆきはバトルルームへ入り、ドアを閉めた。

「大丈夫かい、あのお嬢ちゃん・・・」
「心配になってきた・・・」
55 :ヤン :2012/05/25(金) 15:31:59.96 ID:0tArHyjm0
「なにがどうなってるの・・・?」

 みゆきはその光景に目を疑った。
 向かい合わせに設置されたポッドが激しく動く。罵声と罵声がぶつかり合う。こんな光景、見たことが無い。

「うぁぁぁぁ!!」
「はぁぁぁぁ!!」

 叫びと同時に、お互いの機体が爆散する。

『バトル終了!ドロー!』

 ガンプラバトルではあまり目に掛かることができない、ドローの表示が出る。

「やっと終わった・・・」

 ほう、と1人の少年が溜息をついた。七色ヶ丘学園中等部の制服を着ているが、見たことが無い顔だ。

「あ、二人のお知り合いですか?」

 みゆきが少年に声を掛けた。年は同じくらいのようだ。

「え、あ、うん・・・」
「真さんが困ってたよ?声も漏れてたし・・・」
「あ、謝ってこなくちゃ・・・」
「だめだよ、ユッキー」
「そうですわ、雪輝クン」

 ポッドから2人の少女が出来きた。1人はみゆきと同じ七色ヶ丘学園中等部の制服を着ており、もう1人は十二単を髣髴とさせる和服を身にまとっている。

「まだこいつと決着がついてないもの」
「待っててくださいね。雪輝クンと契りを交わすのは私なのですから」
「い、嫌だよ!もう休憩無しで6回連続!しかもドローじゃないか!」
「6回!?それもドロー!?」

 みゆきは驚きの声を上げた。ガンプラバトルはバトル内容、プレイヤーの腕にもよるが、約10分前後で終わる。だがポッドの振動、目の疲労で予想以上に体力を使うため、プレイ後の休憩が勧められている。それを6回もすればかなりの体力を使うはずだ。さらに連続ドロー。みゆきでなくても、もう奇跡ではないかと錯覚してしまうだろう。

「それに待って!何か理由があるの!?契りって!?」
「えっと、それは・・・」
「ユッキー、この女、誰?」
「由乃!睨んじゃ駄目だよ!」

 制服の少女、由乃がみゆきに近寄る。

「どうしてユッキー?この女、ユッキーを誘ってるんだよ?」
「誘ってないよ由乃!」
56 :ヤン :2012/05/25(金) 15:35:04.89 ID:0tArHyjm0
 話がまったく見えてこない。だが、みゆきには分かったことが1つある。

(目が死んでる・・・)

 この2人の少女、由乃と椿の目が死んでいる。なのにギラギラとみゆきを睨みつけてくる。とんでもない事に巻き込まれたと本能的に感じ取れた。

「まずはこの泥棒猫を始末する必要がありますわね・・・」
「椿さん!物騒な事言わないで!」
「言葉遊びですよ、雪輝クン。どうです、あなたもガンプラバトル?」

 くるり、と和服の少女、椿がみゆきに顔を向けた。
 怖い。
 正直に言って、今すぐ逃げたい。
 でもここで逃げたら雪輝という男の子はどうなるのだろう?
 ユニコーンの人達にも後から来るお客さんにも迷惑が掛かる。
 だったら。

「わかった!やるよ!」
「じゃあ2対1・・・」

 由乃が設定を変更しようとした時。

「それは駄目だ!僕がこの人のパートナーになる!」
「ユッキー!?」
「そんなの不公平だよ!」

 雪輝の発言に由乃が黙り込む。

「・・・仕方ありませんね。私と由乃さん、雪輝クンとその女の2対2で行きましょう」

 由乃に代わり椿が設定を変更し、他の3人に確認を取らせる。

「雪輝クンの足を引っ張ったらどうなるか・・・。分かってますね?」
「待っててね、ユッキー!その女、すぐ潰すから!」

 由乃と椿は先ほどの死んだような眼とは打って変わって、キラキラと輝かせながらポッドへ入っていった。
57 :ヤン :2012/05/25(金) 15:41:05.78 ID:0tArHyjm0
「ごめんなさい!」

 雪輝は二人がポッドへ入った後、即座にみゆきに謝った。

「え!?ううん!」
「僕、天野雪輝。中学2年」
「私、星空みゆき!同じく中学2年!でも何でこんな事に?」
「それは・・・」

 雪輝はこれまでの顛末について語り出した。それは今日の昼12時まで遡る。
 中間テストも終わり、何気なくガンプラ公式サイトを覗いたら、全国ガンプラバトル選手権の案内が掲載されていたのだ。
 その事をクラスメイトの由乃と椿に話し、3人でチームを組もうとしたところ、雪輝を独り占めしようと2人が喧嘩になり、ガンプラバトルで決着をつけようという話になったのだ。

「1人から5人までエントリー可能、て書いてあったから何気なく誘っただけなのに・・・」
「なるほど・・・」
「本当にごめん・・・」
「いいから!まずは倒して落ち着かせよう!」
「う、うん!」

 みゆきと雪輝はポッドに入り、準備に入った。
 この町で初めて作ったHGガンダムアストレアをハロスキャナーに入れ、大きく深呼吸する。
 先ほどのバトルで見たのは相手2体が相打ちで爆発した瞬間だったため、機体が見れなかったのは痛いが、こちらも知られていない。雪輝の機体は知られている可能性は高いが、6回もバトルした後だ。体力では大きな差がある。
 息を吐いたのと同時に画面が切り替わった。『Zガンダム』に登場した戦艦アーガマのMSデッキにサイレン音が響く。

『MS出撃遅いぞ!何やってんの!?』

 アーガマの艦長、ブライト・ノアが檄を飛ばす。カタパルトが動き出し、発進準備が整う。

「雪輝君!準備OK!?」

 操縦桿を握り、みゆきは雪輝に聞いた。

「大丈夫!」

 思っていたより落ち込んでいなさそうだ。みゆきはすぅ、と息を吸った。
 カタパルトの発進管制シグナルが赤から青に変わった。

「よ〜し!ミユキ・ホシゾラ!ガンダムアストレア、いきまーす!!」
「ユキテル・アマノ!プロトMK−U!出ます!」

 2体の機体が宇宙空間へと飛び出した。
58 :ヤン :2012/05/25(金) 15:45:08.60 ID:0tArHyjm0
「宇宙か・・・」

 みゆきはバトルエリアに入る前に、一通り機体操作を行なう。テスト期間で少しのブランクがあったが、勘はすぐに戻った。
 宇宙空間でのバトルは地上よりも難しい。360度全体、特に地上ではあまり見られない上下からの攻撃に注意しなければならない。コクピットに当たれば終わりになるこのゲームにとって、宇宙空間でのバトルは初心者の鬼門とも言えた。

「雪輝君のはガンダムMK−Uかあ・・・。あれ?」

 隣を並行している雪輝の白いガンダムMK−U。だが、手に装備しているビームライフルとシールドはGP−01のものだ。よく見ると、アンテナや肩、腰のスカートとみゆきが知っているガンダムMK−Uとは違っていた。

「ああ、これプロトタイプガンダムMK−U。ギレンの野望ってゲームオリジナルの・・・」
「すごーい!!」
「そんなことないよ・・・。友達からいらないパーツもらったり、説明書借りてパーツ注文で揃えたんだ」
「それでもすごいよ!」
「あ、ありがとう・・・。でも・・・。」
『まもなくバトルエリアへ進入します・・・』

 音声アナウンスが響き、2人は顔を引き締め、画面を睨んだ。

「行こう、星空さん!」
「みゆきでいいよ!突入!」

 みゆきと雪輝のガンダムがバトルエリアへ侵入した。
 今回はあちこちに宇宙のゴミ、[ピザ]リが散乱する廃コロニー周辺だ。
 ビルが乱立する市街地とは違い、盾になりそうな[ピザ]リは限られている。例え盾として使っても上下からの攻撃には無防備だ。ただの障害物として割り切ったほうが懸命だな、とみゆきは思った。

「そういえば、2人の機体は何?」
「それは・・・」
「何ユッキーとイチャイチャ喋ってるのかな」

 みゆきの目前に黒い機体がいきなり現れた。警報音が遅れてみゆきの耳に飛び込む。

「な!?」
「離れなさいよ」

 刃が振り下ろされる。だが。

「このぉ!」

 咄嗟にアストレアを突進させ、且つ左腕を上げる。左手の装備したNGNバズーカの本体が刃の柄を捕らえ、刃が止まる。
「NGNバズーカでよかったぁ〜」

 みゆきは今日、HGガンダムアストレアに付属する武器を全て持って来ていた。自分に合う戦闘スタイルを模索するためだ。だが、先ほどの急なトラブルで装備を持ち変える時間が無かったのだ。しかしそれがみゆきにとっては幸運だった。

「・・・ふん!」
「きゃあ!」

 由乃の機体がアストレアを蹴り飛ばす。再び由乃が突貫してくるが、雪輝のプロトMK−Uがビームライフルを正射する。
59 :ヤン [saga]:2012/05/25(金) 15:49:55.14 ID:0tArHyjm0
>>58を修正

「宇宙か・・・」

 みゆきはバトルエリアに入る前に、一通り機体操作を行なう。テスト期間でブランクがあったが、勘はすぐに戻った。
 宇宙空間でのバトルは地上よりも難しい。360度全体、特に地上ではあまり見られない上下からの攻撃に注意しなければならない。コクピットに当たれば終わりになるこのゲームにとって、宇宙空間でのバトルは初心者の鬼門とも言えた。

「雪輝君のはガンダムMK−Uかあ・・・。あれ?」

 隣を並行している雪輝の白いガンダムMK−U。だが、手に装備しているビームライフルとシールドはGP−01のものだ。よく見ると、アンテナや肩、腰のスカートとみゆきが知っているガンダムMK−Uとは違っていた。

「ああ、これプロトタイプガンダムMK−U。ギレンの野望ってゲームオリジナルの・・・」
「すごーい!!」
「そんなことないよ・・・。友達からいらないパーツもらったり、説明書借りてパーツ注文で揃えたんだ」
「それでもすごいよ!」
「あ、ありがとう・・・。でも・・・」
『まもなくバトルエリアへ進入します・・・』

 音声アナウンスが響き、2人は画面を睨んだ。

「行こう、星空さん!」
「みゆきでいいよ!突入!」

 みゆきと雪輝のガンダムがバトルエリアへ侵入した。
 今回はあちこちに宇宙のゴミ、デブリが散乱する廃コロニー周辺だ。
 ビルが乱立する市街地とは違い、盾になりそうなデブリは限られている。例え盾として使っても上下からの攻撃には無防備だ。ただの障害物として割り切ったほうが懸命だな、とみゆきは思った。

「そういえば、2人の機体は何?」
「それは・・・」
「何ユッキーとイチャイチャ喋ってるのかな」

 みゆきの目前に黒い機体がいきなり現れた。警報音が遅れてみゆきの耳に飛び込む。

「な!?」
「離れなさいよ」

 刃が振り下ろされる。だが。

「このぉ!」

 咄嗟にアストレアを突進させ、且つ左腕を上げる。左手の装備したNGNバズーカの本体が刃の柄を捕らえ、刃が止まる。

「NGNバズーカでよかったぁ〜」

 みゆきは今日、HGガンダムアストレアに付属する武器を全て持って来ていた。自分に合う戦闘スタイルを模索するためだ。だが、先ほどの急なトラブルで装備を持ち変える時間が無かったのだ。しかしそれがみゆきにとっては幸運だった。

「・・・ふん!」
「きゃあ!」

 由乃の機体がアストレアを蹴り飛ばす。再び由乃が突貫してくるが、雪輝のプロトMK−Uがビームライフルを正射する。
60 :ヤン [saga]:2012/05/25(金) 15:53:38.90 ID:0tArHyjm0
「みゆき!大丈夫!?」
「う、うん!」
「・・・ちっ」

 ビームを避けながら舌打ちし、由乃はその場から離脱した。

「あ〜、びっくりした!」

 警報音が止まり、みゆきは大きく息を漏らす。

「でも、機体は判った!デスサイズヘルカスタム!」
「うん・・・。厄介なんだ」

 デスサイズヘルカスタム。正式な商品名は『HGガンダムデスサイズヘルカスタム』と言う。HGUCが発売目前とされる頃に出されたキットであり、ポリキャップの露出など、古さを感じさせる構成ではあるものの、総じて出来は良い。
 この機体には大きな特徴がある。ジャマー機能だ。相手のレーダーを騙し、ビームの鎌、ビームサイズで一気に切る。それが基本的な使い方だ。

「椿はHGFCのシャイニングガンダム。どっちから倒す?」
「そうだね・・・」

 HGFCシャイニングガンダムは今戦っている4人の中では一番新しいキットだ。機体性能を高めるバトルモード、さらに性能を高めるスーパーモードへと変わる。

「2体とも格闘機・・・。もうめんどくさいから出てきたら倒そう!」
「でも・・・」
「こっちにはビームライフルにバズーカもあるんだよ?なんとかなるって!」

 みゆきが意気揚々NGNバズーカを掲げ、雪輝を元気づけた時、NGNバズーカに一筋の光が貫通した。

「・・・へ?うぇぇぇぇぇ!?」

 思わぬ攻撃にみゆきはNGNバズーカを離す。離した瞬間、バズーカは爆発した。

「なんでぇ〜!?2体とも射撃武器無いはずでしょ〜!?」
「いいえ、私のは元からありますよ」

 アストレアの下方のデブリの影から、シャイニングが姿が現れた。赤のボディに金のラインが入ったその機体は和をイメージしているのが良くわかる。そのシャイニングは拳をみゆきに向けている。

「シャイニングショットが!」

 手甲からビームが発射される。

「わあああ!」

 慌ててビームをかわすみゆき。だが思っていた以上に正確だ。時折シールドで防御し、凌いでいく。

「でもいつからいたの〜!?」
「いましたよ?あなたが由乃さんと戦っていた時から。お気づきにならなかったのですか?」
「わかんないよ〜!!」

 その時は目の前のデスサイズヘルカスタムをあしらうのに精一杯だった。レーダーを見ている暇なんて無い。
 みゆきはビームライフルで撃ち返すが向こうもバカではない。あっさりとかわし、デブリに身を潜める。
61 :ヤン [saga]:2012/05/25(金) 15:57:32.41 ID:0tArHyjm0
 2人の戦いぶりから、完全に検討違いだとみゆきは後悔した。雪輝の援護を難しくする位置取り、機体性能を生かした奇襲、射程範囲外からの狙撃等操縦センスもそうだが、もはや体力で動いてるのではない。精神が2人を動かしているのだ。あの時見た濁った目はその証だったのだ。
 それに動きが早い。以前見た入江生徒会長のEX−Sと同様に、バーニアを改造しているのだろう。色とパーツをエクシアの物に変えただけで、あとは基本工作の合わせ目消しを行なった以外の、アストレアには荷が重い。

「ふふふ・・・。雪輝クン、待っていてくださいね?直ぐこの女、落としますから」
「引っ込んでなさいよ、和服女」

 みゆきの目の前に再びデスサイズヘルカスタムが躍り出る。先ほど同じようにビームサイズを振り下ろす。

「おわぁ!」

 みゆきはアストレアのシールドで防御する。だが、ビームサイズは盾ごとアストレアの左腕を切り落とす。

「こいつは私の獲物よ」
「何を言ってるんですか?私が落とすんです」

 椿のシャイニングがアストレアとの距離を詰め、腰のビームソードでアストレアのビームライフルを輪切りにする。

「ななな!?」

 慌ててビームライフルを離すも遅すぎた。爆発がアストレアを襲い、装甲にダメージを与える。

「はあ?ユッキーとの愛を邪魔してるのあんたでしょ?」
「どの口が言ってるのです?教養の無い女が」
「どっちがぁ!!」

 デスサイズヘルカスタムとシャイニングがアストレアに襲い掛かる。みゆきは腰のビームサーベルを右手に持ち、構える。

「何でぇ〜!?何で私ばっかりぃ〜!」
『あんたが横取りしているからでしょ!!』

 ビームサイズとビームソードの刃が同時にアストレアへ向かったその時。

「もういい加減にしてよ!!」

 雪輝のプロトMK−Uがビームライフルを発射した。
62 :ヤン [saga]:2012/05/25(金) 16:00:01.50 ID:0tArHyjm0
「ユッキー・・・?」
「ど、どうしたのです雪輝クン?」

 先ほどの動きは何処へやら、デスサイズヘルカスタムとシャイニングはピタリと止まった。

「いい加減にしてって言ったんだ!人に迷惑かけてさ!」

 プロトMK−Uのビームライフルがデスサイズヘルカスタムの右足を破壊する。

「ど、どうして!?こいつユッキーを誘っているんだよ?」
「誘ってない!2人を注意しに来たの!」

 続けてシャイニングの左腕をビームライフルで壊す。どの射撃も正確だ。

「きゃあ!」

 椿が悲鳴を上げた。

「いつもいつも人に迷惑かけて!小学校から仲が良かった友達が急に話してくれなくなっちゃったし!このガンダム作るのにもどれだけ説得したか!」
「それは雪輝クンに悪い奴が寄ってきたから・・・」
「それくらい僕にも判断できる!」

 ビームライフルを乱射し、デスサイズヘルカスタムとシャイニングの手足にに命中させていく。だが、アストレアも巻き添いを喰らい、頭が消し飛ぶ。

「ちょっと!私!味方なのにー!!」
「休み時間はいつもくっついてくるし!お弁当はいらないって言ってるのに2人とも3段弁当持ってくるし!先生も2人のせいでストレス溜めて辞めるし!」
「聞いてー!!」

 みゆきの必死の懇願にも耳を傾けず、雪輝はビームライフルを乱発する。乱発するたび、他の3機は手足を無くしていき、そして遂には3体のボディが宇宙に浮いていた。

「僕の学校生活めちゃくちゃだよ・・・!返してよ!僕の生活!!」
「ご、ごめんなさいユッキー・・・」
「反省してます・・・」
「私味方だよね!?ねぇ、私は味方だよ!」

 由乃と椿の反省と、みゆきの正論が雪輝に伝わる。悲しい事にみゆきの言葉は聞き流してしまったが。
 雪輝はビームライフルが弾切れになったことを確認し、銃口を下に向けた。
63 :ヤン [saga]:2012/05/25(金) 16:03:52.19 ID:0tArHyjm0
「本当に反省してる?」
 雪輝が酷く落ち着いた声で尋ねた。
『はい!』
「何か嫌な予感〜!!」

 みゆきの顔に冷や汗が浮かぶ。プロトMK−UがビームライフルのEパックを交換したのだ。これで再びビームを発射する事ができる。

「言うこと、ちゃんと聞く?」
『はい!ちゃんと聞きます!』
「待ってー!!」

 みゆきの悲鳴が響く。
「迷惑かけない?」
『はい!あなたの言う通りです!!』
「じゃあもう終わり!」

 頬を赤く染めながら、由乃と椿はうっとりとプロトMK−Uを見つめる。
「撃ってユッキー!私、これで生まれ変われる!」
「さあ雪輝クン!私に愛の鞭を!」
「やめてぇー!!」

 みゆきが涙を流しながら叫ぶ。
 雪輝はプロトMK−Uのビームライフルを3機に向け、トリガーを引いた。
64 :ヤン [saga]:2012/05/25(金) 16:08:28.00 ID:0tArHyjm0
「おっそいな〜、みゆき!」

 模型店ユニコーンの店前。携帯電話の時計表示を見て、あかねはぼやいた。約束の時間から10分過ぎていた。

「何しとるんやろ?」
「道に迷った・・・。わけないよね」

 やよいがきょろきょろ辺りを見回すが、みゆきの姿は無い。もう何回もユニコーンに来ているのだ。迷子になっている可能性はかなり低い。

「別の店に寄り道かな?」
「みゆきさんのお家からここまでにお店は無いわ、なお」

 なおの問いにれいかは冷静に返した。

「だとしたら何処に行かれたのでしょう?公園は反対方向ですし、みゆきさんのお家の方にも連絡しましたが、1時間くらい前には出たとおっしゃっていましたし・・・」
「もうちょい待ってみよか。ひょっこり来るかもしれへん」

 あかねの提案に3人がうなずいた時、ユニコーンから3人の男女が出てきた。男子を真中に、女子が2人両側から腕組している。

「今日の晩御飯、何にしますか雪輝クン?和食がいいかと・・・」
「ハンバーグ作ってあげるよユッキー?大好きでしょ?」
「イタリアンがいいな・・・。お願い、2人とも離れてよ〜」

 雪輝が情けない声を上げる。先ほどのバトルでの勇ましい声は何処へやら、だ。

「これは駄目です!その代わり、ちゃんとご迷惑かけた人達に謝りますから・・・」
「ユッキーへの愛の証だもん。離れない!」
「やめてぇ〜」

 3人はあかね達の前を通り過ぎていった。

「・・・何や?あれ二股か?」
「違うような・・・」
「嫌がってるように見えたなぁ」
「恋路とは難しい道ですね」

 あかね、やよい、なお、れいかが思い思いの感想を述べた。

「あ、4人とも来てたか!」
「真さん?どないしたんですか、そんな青い顔して」
「みゆきが!」
『えっ!?』

 4人が店の中を覗くと、みゆきがふらふらと店内を歩き、遂には倒れこんだ。

「みゆきぃー!しっかりしぃー!!」

 あかねが駆けつけ、みゆきの体を起こす。

「何があったのみゆきちゃん!」

 涙を零しそうになりながらも、やよいはみゆきの手を握った。

「みゆきちゃん!気を確かに持って!」

 ペチペチとなおはみゆきの頬を叩く。

「みゆきさん!」

 れいかも、懸命に声を掛ける。

「も・・・」
『も?』

 みゆきが最後の力を振り絞り、口を開いた。

「もう・・・。恋愛のトラブルはコリゴリ・・・」

 暫く恋の話はやめよう。そう決心しつつ、みゆきは気を失った。
65 :ヤン [saga]:2012/05/25(金) 16:11:28.77 ID:0tArHyjm0
次回予告
ついに始まる全国ガンプラバトル選手権。5人の少女はチームを組み、決戦に向けて特訓を始めた。だが、彼女達の行く手を阻む3機のMSが現れる!次回、スマプリガンプラビルダーズ!『ガンダム・キラー』漆黒の宇宙を駆け抜けろ、ガンダム!


「・・・カッコつけても、やよいはやよいやな」
「そんなことないもん!」
66 :ヤン [saga]:2012/05/25(金) 16:15:12.63 ID:0tArHyjm0
第3話は以上です!ガンダム・キラーといってもガンダム野郎のガンキラーやコンパチヒーローの奴とは違います。

また完成したらすぐ投下します。ではまた。
67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/05/26(土) 08:59:18.63 ID:/MvRQuao0
68 :ヤン :2012/06/18(月) 16:19:48.21 ID:CS0hVFpg0
お久しぶりです。

6/22(金)に投下予定です。
69 :ヤン [saga]:2012/06/22(金) 15:30:36.84 ID:lH/tq0j/0
お待たせしました。
ではこれから投下します。
70 :ヤン [saga]:2012/06/22(金) 15:31:41.84 ID:lH/tq0j/0
前回のあらすじ
天野雪輝の悩みを聞いたみゆき。恋の悩みはもうコリゴリと決めたみゆきだった。

スマプリガンプラビルダーズ!
第4話『ガンダム・キラー』
71 :ヤン [saga]:2012/06/22(金) 15:35:53.27 ID:lH/tq0j/0
「これでいいのでしょうか?」

 模型店ユニコーンのガンプラバトルルーム。みゆき、あかね、やよい、なお、れいかはコンソールに集まり全国ガンプラバトル選手権の登録を行なっていた。
 全国ガンプラバトル選手権。初めて開催される大会である。性別、年齢等一切不問で、チームは1人から5人まで。予選を通過した16チームが決勝トーナメントを勝ち進んでいく。
 最後の1人、れいかがエントリーカードを差込み、登録を済ます。確認画面を目に穴が開くほど、不備が無いことを確認すると、れいかは確認決定キーを押した。

『チーム登録完了しました!5秒後に専用画面に移動します』
「よーし!チームスマイル結成だね!」

 みゆきが笑顔ではしゃいだ。

「よっしゃ、やったるで!目指すは優勝や!」

 あかねが意気揚々と叫ぶ。その隣でやよいがコンソール画面を操作していた。

「ここで他のチームとバトル申し込んだり出来るんだね」
「公式BBSかあ・・・。確かここも工事してオンライン対戦可能なんだよね?」

 なおがれいかに尋ねると、れいかは頷いた。

「ええ。お互いの腕を上げたり、相手の動向をチェックするのにいいでしょう。自宅のパソコンでも書き込めます」
「どれどれ・・・」

 なおが公式BBSの画面を操作する。チーム同士の対戦申し込みの書き込みや、店の情報がずらりと並んだ。

「う〜ん、やっぱり男の人が多いね・・・」
「しゃーないやろ。ガンプラ女子は少ないほうや」
「でもおじさん達ばかりなのはちょっと・・・」
「10代でチーム検索すると20チームもないんだ・・・」
「まだ登録期間は1ヶ月以上あります。これから増えるでしょう」
「あの〜。そろそろいいですか?」
『えっ?』

 5人の後に3人の男が立っていた。3人ともエントリーカードを持っている。

「チーム登録したいんですけど・・・」
『す、すみません!』

 5人は慌ててバトルルームから出る。
 その後店内で一通りガンプラをチェックし、店を出た5人は、みゆきの家へ向かい、パソコンを操作していた。先ほどは人が来てしまい、途中までだったBBSも、ここでならじっくり見ることが出来る。

「オンラインなら対戦時間だけ決めればいいよね?」
「せやな・・・。お、このチームええんとちゃう?えーっとチーム・・・。ネールブ?」

 操作するみゆきの横から、あかねが画面に指差した。『チームNERV』とある。

「ネルフ、と読むのでしょう」

 れいかがあかねに読み方を教える。あかねは英語が大の苦手で、テストの順位もいつも下から数えたほうが早い。

「チームは4人、平均年齢14歳、神奈川で活動中・・・。このチームに申し込んでみようよ!」
「わたしもなおちゃんに賛成!」

 なおとやよいが3人に賛同を促す。3人もうなずいた。

「よーし、早速書き込んで・・・」

 みゆきが早速BBSに書き込み始めた。
72 :ヤン [saga]:2012/06/22(金) 15:41:49.21 ID:lH/tq0j/0
「おっおっおっ?」

 みゆきがBBSに書き込んで数十分後、神奈川のとあるマンションのリビングの一角。真木波・マリ・イラストリアスはパソコン画面に顔を近づけた。

「うちに対戦申し込み来たぁ〜!おーい、アスカちゃーん!」
「そんなに大きい声出さなくても聞こえてるわよ!」

 隣の部屋からルームメイトであり、チームメイトでもある式波・アスカ・ラングレーがリビングに入ってきた。

「で、どこ?」
「えっと、チームスマイルだって!」
「チームスマイルぅ?聞いたこと無いチームね・・・」
「私達と同じく14歳チーム。気を遣わなくてもいいし、交流深めておけばいい事あるかもね〜」
「ま、チームのイメージアップにはいいか」
「ただいま〜」

 玄関から声が聞こえた。

「お、シンジ君とレイちゃん帰ってきた」
「はぁ〜。重かった・・・」
「碇君、私にもっと持たせてもいいのに・・・」

 アスカと同じルームメイト兼チームメイトの碇シンジと綾波レイが入ってきた。シンジの両手には大きく膨れた買い物袋がある。

「ごくろーさま!対戦相手来たよ〜」

 マリが画面に指刺した。

「チームスマイル・・・。でも僕のガンプラまだ出来てないよ?」
「はあ!?あんたまだ出来てないの?」
「じゃあ僕の変わりに炊事と掃除と洗濯やってくれる?そうしたら作るよ」
「うっ・・・」

 おもわぬ反撃にアスカは黙り込んでしまう。この4人の中で、炊事と掃除と洗濯を完璧にこなせるのはシンジしかいない。一応他の3人も練習はしているものの、料理を焦がしてしまったり、柔軟剤と漂白剤を間違えるなどミスが目立つ。そのためシンジが家事の全て任されてしまい、ガンプラを作る時間は削られてしまう。

「でも家事出来ない変わりに膝枕で耳掃除してあげてるよ、私」
『なっ!?』

 さも当然のようなマリの突然の発言に、アスカとレイは顔を向けた。

「本当は毎日してあげたいけどね〜。炎症になっちゃうし」
『ななな・・・』
「マ、マリ!それは無理矢理・・・!」
「ははは、照れない照れない!そういえば昨日は添い寝も・・・」

 わなわなと震えていたアスカとレイが、今度はシンジを睨んだ。

「バカシンジ・・・」
「どうゆうこと・・・?」
「誤解だよ!マリが勝手に僕の部屋に入ってきたんだよ!」
「もー。シンジ君ってばあんなに強く私を抱きしめてきて・・・。ダメって言ってるのにそれから・・・」
「やってない!!」

 シンジの叫びにマリは『ちっ、ばれたか』と小言を呟いたが、怒りに震える2人には聞こえていない。

「・・・シンジ」
「は、はい!」
「お風呂で背中、流してあげる」
「・・・へ!?」

 アスカの発言に、シンジは耳を疑った。

「これから!あんたの背中を洗うのは私って言ってんの!!」
「どうしてそうなるの!?」
「わ、私は碇君に毎日マッサージする!」
「綾波まで!?」
「あ、シンジくーん!寂しくなったらいつでも添い寝してあげるねー!!」
『黙って!!』
「もう勘弁して・・・」

 女の子ってみんなこうなのだろうか。シンジは泣きたい気持ちをグッとこらえた。
73 :ヤン [saga]:2012/06/22(金) 15:50:37.82 ID:lH/tq0j/0
それから対戦日までの間、みゆき達は特訓を重ねた。チームの役割分担、フォーメーション、各ガンプラの特徴など、持っている情報は全て交換し、互いの腕を磨き上げる。特にやよいの成長は目に見えて伸びており、チームの戦力アップに大きく貢献した。
 そして対戦日。模型店ユニコーンのにはチームNERVの3人と、チームスマイルの5人が集まっていた。まだチームNERVが通う模型店のオンライン工事が終わっていないからだ。

「どもー。チームNERVの真木波・マリ・イラストリアスでーす」
「式波・アスカ・ラングレーよ。よろしく!」
「綾波レイです」

 チームNERVの3人がそれぞれみゆき達に挨拶した。

「よろしくお願いしまーす!!」

 みゆきが持ち前の明るさで挨拶した。

「本当はもう1人いるんだけどね、まだ完成していないんだ。でも自慢の彼だよ」
「へ〜。いつから自慢の彼になったわけ?」
「真木波さん・・・」

 マリの後からアスカとレイが睨んだ。

「ははは・・・。さて、やりますか!」
「ちょっと!誤魔化すんじゃないわよ!」
「・・・なんか、緊張感ないチームやな」

 チームNERVのやりとりを見て、あかねは感想を述べた。正直、雰囲気だけ見れば楽に勝てそうな相手だ。

「こっちもいこかぁ!威勢よく初チーム戦は白星スタートで飾るでぇ!」
「うん!」
「私達なら勝てるよ!」

 チームスマイルからはみゆき、あかね、やよいの3人がエントリーした。各々ポッドへ入り、戦闘準備を行なう。

「さあ、行こうアストレア!」

 みゆきはスキャナーに愛機を置き、スキャナーを閉じる。今回はいつものNGNバズーカの変わりにGNビームピストルを両足にホルダーと共に装備していた。
 あかねとやよいの機体は、みゆきがこの町での初バトルで使用した時のガンプラの塗装のはみ出しを修正したり、色分けを増やしただけで、大きな変更点はない。

「何が来るのかな・・・」
「やよい、自信持ち!一番がんばったのはやよいや!」
「・・・うん!」

 あかねの励ましとやよいの返事と共に、画面が格納庫に切り替わった。

『MS発進準備お願いするです!!そんなこんなでいつもと同じでよろしくです!!』
『ミレイナ!はしょりすぎ!』

『機動戦士ガンダム00』のオペレーター、ミレイナ・ヴァスティが戦闘前とは思えない明るさで指示を出し、同じくオペレーターであるフェルト・グレイスがツッコミを入れる。みゆきは思わずプッと笑ってしまった。

「さあ、行くよ!ミユキ・ホシゾラ!ガンダムアストレア!行きまーす!!」
「アカネ・ヒノ!ZZガンダム出るでぇ!!」
「ヤヨイ・キセ!ガイアガンダム、い、行きます!!」

 3機のガンダムがプトレマイオスUから発進した。
74 :ヤン [saga]:2012/06/22(金) 15:57:04.00 ID:lH/tq0j/0
「今回はアステロイドベルトかぁ」

 バトルエリアに進入したみゆきは辺りを見回して呟いた。以前由乃達と戦った廃コロニーとは違い、盾になりそうな小惑星はあるものの間隔は狭い。ミサイルのような誘導兵器だと、敵に当たらず岩塊を削る結果になる。またコロニーが無く、同じような景色が続くため位置の把握がしにくくなっているのが特徴のエリアだ。

「ウチ、ここ嫌いやねん・・・」
「私も・・・」

 あかねとやよいの反応が一般的なガンプラビルダーの感想である。ステージ選択が出来たら、まず選ぶビルダーはいないくらいだ。

「でもこれを突破しないと勝てないよ!」
「・・・みゆきの言うとおりやな。弱気になったらあかん!」
「よぉ〜し!!」

 3機のガンダムが小惑星の合間合間を縫って飛行する。そして、みゆきの目に2つの赤い光が写った。

「あれは・・・?」
「待って!今確認するから」

 やよいがビームライフルを構え、スコープで2つの光を拡大する。

「・・・HGのジンクスだね。マシンガンとバズーカ持った赤いのと、マント羽織った白いの」

 ジンクスは『機動戦士ガンダム00』に登場した国連軍のMSである。エースパイロット達に配備され、主人公達を苦しめた機体だ。キットもHGとMGで発売されており、その出来はガンプラモデラーの間で高く評価されている。

「白いのはGNランス持ってる。赤いのはGNバスターソードが右肩に・・・。でももう1体の姿が無いよ?」

「どっかに隠れとるかもしれへんな」
「ここは私とあかねちゃんで戦おう。やよいちゃんはもう1体のほうを!」
「わかった!」
「ほないくでぇ!!」

 みゆきの発言を引き金に、あかねとやよいが動いた。
75 :ヤン [saga]:2012/06/22(金) 16:02:18.96 ID:lH/tq0j/0
「来た来た!」

 チームスマイルの3機が展開し、そのうちの2機がこちらに向かってくる。マリは思わず笑みを零した。

「アスカちゃん、どっち行く?」

 隣を並走するアスカに通信を送る。

「ZZ!」
「即答だね」
「重武装のZZと戦ってみたかったし。それにどっちが赤に相応しいか思い知らせてやるわ!」
「う〜ん・・・。最後はどうでもいい気がするけど・・・。ま、いっか!」
「どうでもよくない!」

 アスカの反論を聞き流し、マリはレイに通信を繋いだ。

「レイちゃん、作戦通り頼んだよ」
「わかったわ。1分後に」
「じゃ、アスカちゃん号令よろしく〜」
「あんたねぇ・・・。」

 マリのマイペースぶりに呆れつつも、アスカは思いっきり息を吸い、叫ぶ。

「ゲーエン!!」
「それが無いとね!!」

 マリの乗る白のジンクスが、アストレアに突撃する。アストレアがビームを放つ。

「おっと!」

 ひらりと避け、GNランスのビーム砲で反撃する。だが、寸前に小惑星に逃げ込まれてしまい、ビームは岩塊を削るだけだ。

「あっちもやるねぇ〜」

 一旦動きを止めて、ちらりとアスカのジンクスに目を送る。爆炎とビームの閃光が入り乱れ、戦いの激しさを物語っている。マリが見る限りでは一進一退。派手な膠着状態である。
 だが、こちらの作戦通り1対1に分断出来た。

「さて、こっちは・・・」

 再び正面を向く。こちらにはまだ動きは無い。こっちから攻めるか、と思った時、影が岩塊から飛び出した。

「そこだ!」

 その影にビーム砲を放つ。爆発が起こるも、MSの爆発にしては小さすぎる。

「・・・手ごたえがなさ過ぎ。じゃあどーこーだー?」

 答えは直ぐに出た。下からの警報アラーム!

「見っけ!」

 アストレアが両手のGNビームピストルを連射しながらこちらに迫る。マリはあらかじめ左手に持たせてあったビームサーベルを伸ばし、突貫する。

「おりゃあああ!」

 すれ違い様に、ビームサーベルを振る。その刃は右手のビームピストルを切り落とす。アストレアは切られたビームピストルを捨て、腰のGNビームサーベルに手を伸ばした。

「手ごたえあり!」

 こっちの得意分野に持ち込めた。マリはニヤリと笑った。
76 :ヤン [saga]:2012/06/22(金) 16:06:48.44 ID:lH/tq0j/0
「強い!」

 GNビームサーベルを右手に持たせ、みゆきは額の汗をぬぐった。
 あれだけGNビームピストルを連射したにもかかわらず、被弾らしい被弾をしていない。むしろ攻めたこちら側がダメージを追ってしまった。残っている武器はGNビームピストル1丁とGNビームサーベル4振り。あとは手首のGNバルカンだけだ。

「接近戦に持ち込むしかない・・・!」

 みゆきが腹をくくった時、眼前にGNランスが飛び込んできた。

「うわっ!」

 シールドで防御するも接続ジョイントごと、シールドが弾き飛ばされる。その隙にジンクスは急接近し、残されたビームピストルを切り落とした。

「しまったっ!」

 みゆきは咄嗟にビームピストルを捨て、ビームサーベルを持たせる。れいかの様な華麗な2刀流は無理でもなんとかなるはず。
 構えた瞬間、宇宙がありもしない色に変わった。赤く染まったのだ。

「な、何!?」

 レーダーが機能しなくなり、ロックオンが強制的に解かれた。以前戦ったデスサイズヘルのジャマーと違い、視界すら悪くなる。これでは攻撃しても当てるのは至難の業だ。

「君、強いね」

 ノイズ交じりに、マリの声が聞こえる。

「あ、ど、どうも・・・」
「じゃ、本気出しますか!!」
「え!?」

 ジンクスがシールドの裏からビームサーベルを取り出す。そして、シールドと羽織っていたマントを捨てた。

「ガンダム・キラーと言われた私の実力見せてあげる」
「ガンダム・キラー・・・?」

 みゆきの背筋に寒気が走った。

「モードチェンジ!モード、ジ・グリーヴァス!!」

 ジンクスの背中から腕が生えた。いや、正確に言えば隠れていた腕が出現したのだ。その隠れていた腕―――形はジンクスと同じもの―――にはビームサーベルが握られている。そして光の剣は2本から4本へと増えた。

「うぇぇえぇぇ!!?」
「行こうか、ニャ!!」

 4刀流となったジンクスが、みゆきのアストレアに迫った。
77 :ヤン [saga]:2012/06/22(金) 16:12:39.77 ID:lH/tq0j/0
「どぉううぉうりゃぁー!!」

 赤く染まった宇宙で、アスカとあかねは激闘を続けていた。
 アスカが叫びながらマシンガンとバズーカのトリガーを引く。あかねも負けじとダブルビームライフルを打ち返しバズーカの砲弾を打ち落とすも、落としきれなかった弾がZZに被弾する。

「うわっ!やりよる・・・!」
「その程度じゃ、あたしを落とそうなんて夢のまた夢ね〜」
「なんやとぉー!!」

 挑発で頭に血が上ったあかねがミサイルランチャーを撃つ。だが。

「よ、は、とぉ!!」

 小惑星と小惑星の間を、猛スピードで飛ぶアスカのジンクス。肩に増設されたバーニアのおかげで加速がノーマルのジンクスに比べて増している。
 それに小惑星が邪魔をして、ミサイルがアスカに届かない。たとえ小惑星が無くてもロックオンが出来ないこの状況で当てるのはかなりの操縦技術がいる。

「あーもう!ちょこまかすんなや!!」
「避けるに決まってんでしょ!」

 小惑星を蹴り、その反動で加速をつけたジンクスがZZを蹴り飛ばす。

「わああ!!」

 小惑星に激突し、ZZの右腕が破壊された。お返しとばかりに残った左腕でハイパービームサーベルを振るが、ジンクスの姿はもうない。

「あかん、もうミサイルもキャノンの弾もない・・・!」

 あかねは愛機の残段数をチェックして絶望した。がむしゃらに引き金を引けばあっという間に無くなるのは当然である。

「もう終わりかしら?」

 一方、アスカは弾切れになったマシンガンをあっさりと捨て、腰¥にある予備のマシンガンを構える。
 アスカのジンクスは開始当初、マシンガン3丁、バズーカ1丁、GNバスターソード装備とかなりの重武装だった。マシンガンを中心に使い、弾が切れたら即交換。チャンスがあればバズーカと共に一斉射撃。これがアスカの戦闘スタイルだ。
 そしてアスカが今手にしたのが予備の1つ。バズーカの弾は心もとないが、まだ遠距離の武装には余裕がある。

「ならこれやぁ!」

 ZZの額が光った。ハイメガキャノンだ。

「!!」

 爆発。距離は少し離れていたものの、あの射程範囲からは逃げられないだろう。

「よっしゃあ!」

 あかねがガッツポーズを取る。だが。

「とぉりゃあ!!」
「なっ!?」

 あかねの目の前に光る4つの目。アスカのジンクスだ。両手でバスターソードを持っている。

「なんやとぉ!?」
「あんたが撃ったのはマシンガンとバズーカだけ!こっちはかすり傷ひとつも付いていないわ!」

 ジンクスのバスターソードが、ZZのコクピットを貫く。

「ちくしょぉー!!」

 あかねのZZは光に変わった。
78 :ヤン [saga]:2012/06/22(金) 16:16:53.45 ID:lH/tq0j/0
「きゃあ!」

 やよいのガイアガンダムの左腕か吹き飛んだ。これでガイアガンダムの変形は出来なくなる。

「遠距離からの狙撃!?」

 砲撃された方向へ向かうも、今度は背中のビーム砲を撃たれてしまう。

「ど、どこから・・・?」

 辺りを見渡すも姿形は無く、赤い光が視界を遮っている。狙撃にしては正確すぎる。

「近くにいるんだ・・・!とにかく動かなきゃ!」

 背中のウィングを展開し、全速でその場から離れる。左腕を失ったせいでバランスが取りづらくなっているが、鍛えたやよいの腕なら問題なくコントロールできる。時折岩塊を蹴り、無理矢理軌道を変え、狙われないようにする。

「どこに・・・。あ、いた!!」

 やよいの目に、黄色と白に塗り分けられたジンクスが写った。頭部が元の4つある目は削り取られている変わりに、中央に大きなモノアイが装備されている。そして背中にある、亀の甲羅を連想させるユニットから赤い光の粒子が勢いよく噴射されていた。

「やっぱりGNステルスフィールド!ガンダムスローネドライから流用したんだ!」

 黄色のジンクスがこちらを向き、ロングライフルのトリガーを引いた。やよいはいち早く反応し、射線から離れる。

「あれを倒せばステルスフィールドが切れる!倒さなきゃ!」
「落とせないわよ!」
「え!?」

 赤いジンクスがバスターソードでやよいの背後から切りつける。

「ウ、ウィングが!」
「後はあんただけね!」
「あかねちゃんがやられたの!?でもまだみゆきちゃんが・・・!」
「来ないんだよねー、それが!」
「!?」
 アスカの赤いジンクスだけではない。マリのジンクスもその場にいた。
 そして白いジンクスがやよいに放り投げたもの。それはピンクに塗られたアストレアの頭部だった。

「そ、そんな・・・」
「じゃこれで終わりだニャ!!」

 4本腕の白いジンクスが、やよいのガイアガンダムを細切れにした。
79 :ヤン [saga]:2012/06/22(金) 16:21:12.21 ID:lH/tq0j/0
「あちゃぁ・・・」
「やよいさん!」

 なおが戦闘結果に頭を抱え、れいかはやよいが乗ったポッドに駆け寄る。みゆきとあかねはすでにポッドから出ており、なおの傍でぐったりと頭を下げていた。

「いや〜。勝った勝った!」
「ま、こんなもんね」
「お疲れ様」

 チームNERVの3人はうって変わって上機嫌だ。悠々とポッドから降りてきた。

「ステルスフィールドで混乱させ、得意の間合いに持ち込む・・・。正直ウチらの完敗だね」

 なおは素直に結果を受け入れた。

「くやしい〜!!」
「もう1回!もう1回やるで!!」
「いやあごめんね。もう帰らないと夕飯間に合わないんだ!」

 マリは両手を合わせ、ウィンクしてみゆきとあかねに謝る。だが2人は『う〜』とうめき声を上げて睨む。

「1つだけ忠告してあげる」

 アスカが一歩前に出て、ビシッとみゆき達に指差した。

「色を変えただけじゃガンプラバトルに勝てないわよ。それだったらまた戦っても勝てる自信があるわ」
「うう・・・」
「その甘い考えを改めることね」

 手を振りながら、アスカはバトルルームから出ていった。レイも頭を下げて、バトルルームから出て行く。

「じゃ、また戦いたいならBBSに書き込んでよ!」
「今日は勉強になりました」

 れいかが素直に礼を述べ、手を差し伸べる。マリは伸ばされた手を握る。

「うん!じゃ、また戦いたいならBBSに書き込んでね!」
「はい」
「バイバーイ!!」

 マリは二人の後を追った。

「くやしいよぉ〜!!」
「あーもう!自分に腹立つわー!!」
「負けちゃった・・・。くすん」

 敗北した3人はこれからしばらくの間不機嫌だった。
 こうして、チームスマイルの初陣は黒星スタートとなった。この5人がリターンマッチを申し込むのはもう少し先のことである。
80 :ヤン [saga]:2012/06/22(金) 16:28:35.80 ID:lH/tq0j/0
次回予告
「なおだよ!初めてのチーム戦は敗北に終わった。だけど、私たちはそれにいつまでも悔しがってはいられなかった。
 シンさんが私たちを鍛えてくれる!新たなステップアップにつながると信じて、私達は戦場に戻ってきた。
 次回、スマプリガンプラビルダーズ!『特訓!チームスマイル』良い風が吹いてきた・・・!」
81 :ヤン [saga]:2012/06/22(金) 16:29:39.43 ID:lH/tq0j/0
第4話は以上です。
みゆき達の次なる愛機はまだ決めていません!
ではまた完成次第投下します。
82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/22(金) 17:03:21.67 ID:PYTnvW6DO
スマプリでやる意味は…
83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/06/22(金) 19:25:07.39 ID:PVf/nl880

おもしろい
84 :ヤン [sage]:2012/07/18(水) 17:24:52.12 ID:7soy+few0
お久しぶりです。

今現在、仕事で手がついていない状態にあります。少しずつ進めてはいますが、まだまだかかりそうです。

完成次第、投下します。
85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2012/07/28(土) 22:09:01.32 ID:QbRzrayqo
ビルダーズパーツ発売記念パピコ
86 :ヤン [sage]:2012/08/15(水) 15:44:53.19 ID:mk7oFG/M0
お久しぶりです。まだまだかかります。
>>85
いい出来ですよね、ビルダーズパーツ。
87 :ヤン [saga]:2012/09/03(月) 15:49:55.30 ID:Mz0F71Dt0
お久しぶりです。やっと完成したので投下します。
88 :ヤン [saga]:2012/09/03(月) 15:51:07.78 ID:Mz0F71Dt0
前回のあらすじ
チームスマイルを組んだみゆき達。だが、初めてのチーム戦は敗北で終わった。

スマプリガンプラビルダーズ!
第5話『特訓!チームスマイル』
89 :ヤン [saga]:2012/09/03(月) 15:52:31.67 ID:Mz0F71Dt0
「はっぷっぷ〜」
 鬱陶しい梅雨が続く七色ヶ町。七色ヶ学園の教室でみゆきは落ち込んでいた。
 チームNERVとの戦いから1週間。あれから他のチームとオンラインで対戦を繰り返しチームスマイルは勝ち越してはいるものの、みゆきは撃墜されてばかりだ。負けた事を未だ引きずっており、極度のスランプに陥っていた。
「今日で何回目や。そのはっぷっぷ〜は」
 みゆきの前の席に座っているあかねが呆れて口を開いた。蒸し暑さを凌ぐため下敷きをうちわ代わりに使っている。
「負けたくらいで落ち込むなや〜。これまでも何回か負けたやろ?」
「そうだけどさ・・・」
 負けた経験はみゆきにもある。あかねにも、やよいにも、なおにも、れいかにも落とされている。
 むしろガンプラバトルで負けたことが無いビルダーはいない。負けてその結果を振り返り、分析し弱点を補う。そして次に繋げる事はスポーツとなんら変わらない。
 だが、チームNERVの真木波・マリ・イラストリアス。彼女の乗る4本腕のジンクスに一方的にやられたのだ。手も足も出ずに負けた経験はこれまでに無かった。
「そらウチかて負けた。でもな、いつまでも負けを引きずっている訳にはいかん」
「うん・・・」
「やよいを見てみ」
 あかねに促されて、みゆきはやよいの後姿を見る。スケッチブックに何か描いているようだ。
「やよいな、昔はガンプラバトルで負けるとすっごく落ちこんどったんや。でも今はちゃう。あの目はあきらめとらん」
「・・・」
「みゆきも遅れとったらあかんで?」
「そうだよね・・・」
 みゆきは言い返すも気持ちがこもっていなかった。その言葉はあかねの怒りを買った。
「あ〜もう!!」
 あかねは立ち上がり、みゆきに指差した。
「今日ユニコーン行くで!!新しい愛機や!」
90 :ヤン [saga]:2012/09/03(月) 15:54:12.92 ID:Mz0F71Dt0
>>89修正します
「はっぷっぷ〜」

 鬱陶しい梅雨が続く七色ヶ町。七色ヶ学園の教室でみゆきは落ち込んでいた。
 チームNERVとの戦いから1週間。あれから他のチームとオンラインで対戦を繰り返しチームスマイルは勝ち越してはいるものの、みゆきは撃墜されてばかりだ。負けた事を未だ引きずっており、極度のスランプに陥っていた。

「今日で何回目や。そのはっぷっぷ〜は」

 みゆきの前の席に座っているあかねが呆れて口を開いた。蒸し暑さを凌ぐため下敷きをうちわ代わりに使っている。

「負けたくらいで落ち込むなや〜。これまでも何回か負けたやろ?」
「そうだけどさ・・・」

 負けた経験はみゆきにもある。あかねにも、やよいにも、なおにも、れいかにも落とされている。
 むしろガンプラバトルで負けたことが無いビルダーはいない。負けてその結果を振り返り、分析し弱点を補う。そして次に繋げる事はスポーツとなんら変わらない。
 だが、チームNERVの真木波・マリ・イラストリアス。彼女の乗る4本腕のジンクスに一方的にやられたのだ。手も足も出ずに負けた経験はこれまでに無かった。

「そらウチかて負けた。でもな、いつまでも負けを引きずっている訳にはいかん」
「うん・・・」
「やよいを見てみ」

 あかねに促されて、みゆきはやよいの後姿を見る。スケッチブックに何か描いているようだ。

「やよいな、昔はガンプラバトルで負けるとすっごく落ちこんどったんや。でも今はちゃう。あの目はあきらめとらん」
「・・・」
「みゆきも遅れとったらあかんで?」
「そうだよね・・・」

 みゆきは言い返すも気持ちがこもっていなかった。その言葉はあかねの怒りを買った。

「あ〜もう!!」

 あかねは立ち上がり、みゆきに指差した。

「今日ユニコーン行くで!!新しい愛機や!」
91 :ヤン [saga]:2012/09/03(月) 15:58:49.15 ID:Mz0F71Dt0
その日の放課後。2人は模型店ユニコーンに足を運んだ。

「新しいガンプラ買うて気分転換や!」

 あかねが率先して模型店ユニコーンに入ると、話し声が聞こえてきた。真が誰かと話しているらしい。

「やっぱり飛行機プラモはハセガワだな。1/48トムキャットは名作だ!」
「組むだけで大変な上級者向けだけどな・・・。それで?注文するのか?」
「ああ!1個頼むわ」
「・・・誰やろ?あんま見かけん人や」
「外人さんだ・・・」

 七色ヶ丘町はニューヨークと国際友好都市を結んでいるが、外国人は簡単にはお目にかかれない。みゆきも以前問屋のマッコイと部下のプーギーに会って以来、他の外国人を目にしたことは無い。
 その外国人の年は真とあまり変わらないだろうか。金髪で背が高く、顔も中々ハンサムだ。

「お。やあ、いらっしゃい」

 真が2人の存在に気づき、挨拶する。

「こんにちは」
「儲かってまっかー?」
 みゆきとあかねの返事に真は笑って答える。
「ボチボチとね。ガンプラかい?」
「そうですー。みゆき邪魔やろうから行くで」

 あかねがみゆきの腕を引っ張った時、金髪の外人が「ちょっと待った」と声を掛けてきた。

「お嬢ちゃん達か。真が言ってたの?」
「こいつはミッキー・サイモン。昔からの知り合いだ」
「よろしくな」

 ミッキーが右手を差し出す。

「星空みゆきです!」
「日野あかねです!よろしゅうに!」

 2人は差し出された右手に握手を交わした。

「なあ真。さっきの話、2人に話していいか?」
「ああ」
「何ですか?」

 みゆきがミッキーに問いかけた。

「簡単に言うと、特訓さ」
『特訓!?』

 みゆきとあかねがお互いの顔を見合わせる。
92 :ヤン [saga]:2012/09/03(月) 16:02:47.77 ID:Mz0F71Dt0
「そうだ。ここんところ、チームスマイルは勝ち越し中。だが、最近は負けていないか?」
「う・・・」

 ミッキーの指摘にみゆきは声を詰まらせる。

「そこでだ。模型店ユニコーンでバックアップするって話になったのよ。まあ店が特定の1チームにテコ入れするのはフェアじゃないから、ここの常連チームにも特訓はする。どうだ?」
「やります!」

 みゆきは間髪いれずに即答する。今のスランプから脱出すればチームに迷惑をかけなくて済むと踏んだからだ。

「やったるで!一気にパワーアップや!」

 みゆき同様、あかねもやる気満々だ。

「よーし・・・」

 ミッキーが胸のポケットからメモ用紙を1枚、みゆきに渡した。

「これは?」
「そのメモに今度ベースに使うガンプラがメモされている。1人1人違うから注意しろ。それ以外のガンプラをベースにするのは禁止。他のガンプラから流用や改造、塗装をしたりするのはOKだ」

 ミッキーからの説明を受け、みゆきはうなづいた。

「バトルする日は来週の金曜日!10日後の終業式だ」
「はい!」
「そうや、やよい達にも教えたらんとな」
「私、電話してくる!」
「ウチも手伝うで!」

 携帯電話を取り出し、電話帳機能を呼び出す。みゆきに元気が少しずつ戻ってきた。
93 :ヤン [saga]:2012/09/03(月) 16:08:32.42 ID:Mz0F71Dt0
 あっという間に約束の金曜日が訪れた。みゆき達はルールに従って指定されたガンプラを持って、模型店ユニコーンのバトルルームへとやって来た。

「何が来るかな、店長達のガンプラ!」

 やよいがキラキラと目を輝かせながら、4人に聞いた。

「プロ級の腕やからな〜。ショーウィンドウから持ってくるかもな!」
「何が来ようと直球勝負だ!」

 自信に満ち溢れるあかねとなおとは対照的に、れいかとみゆきの顔には不安が浮かんでいた。

「私は少し自信がありません・・・」
「私も・・・」
「スランプのみゆきはともかくとして、れいかは何でや?」
「作ったことが無いガンプラでしたから・・・」
「そんなん私かて一緒や。気にしとったらキリないで」
「・・・はい」
「あ、来た!」

 バトルルームの扉が開かれ、真、それに続きミッキーが入ってきた。さらに初めて会う外国人が3人ミッキーの後に入ってくる。

「来たねみんな。バトルの前に紹介しておこう。俺の隣にいるのがミッキー・サイモン。みゆきとあかねは会っているね」
「よろしくな」

 ミッキーは手を振った。

「そしてミッキーの隣にいるのが、ミッキーの奥さんのセラ」
「よろしく!」

 セラはみゆき達にウィンクする。腰まで届きそうな黒髪に、整った顔たち。美しさの他に妖艶さを兼ね備えている。

「さらに隣にいる男がグレッグ」
「よろしくな嬢ちゃん達!!」

 真やミッキーと比べてグレッグは太っており、顔には髭が生えていた。だが豪快な笑い声は人当たりの良い人物だと思わせる。

「最後の1人がジョゼ。俺の養子だ」
「よろしくね!」

 ジョゼは真と同じ金髪碧眼だ。歳はみゆき達と同じくらいだろうか、顔には幼さが残っている。

「さて、紹介も終わったことでバトルの説明だ。バトルする組み合わせは既にこちらが決めてある。そしてその組み合わせで1対1のバトルをする。じゃ、誰から行く?」
「よっしゃ、うちからや!」

 あかねが一歩前へ出る。

「あかねか。相手は・・・」
「俺だな!」

 グレッグが笑みを浮かべてあかねの前に立った。

「手加減はしないぞ?」
「望むところや!」

 2人は硬く握手した。

「よし、早速始めよう。準備してくれ!」

 真の掛け声をきっかけに、あかねとグレッグはポッドへと入っていった。
94 :ヤン [saga]:2012/09/03(月) 16:14:41.49 ID:Mz0F71Dt0
「いやー、これ一度作ってみたかった奴やねん!」

 砂煙が時々舞う荒野をあかねの機体、HGガンダムヘビーアームズカスタムが駆け抜ける。

「肩と脚にミサイルポッド、両手にはダブルガトリング、胸に隠れた4連ガトリング!ロマンの塊や!!」

 重武装好きのあかねにとっては大好物の機体だ。

 この戦いで勝ったら、この機体で大会に出よう。あかねが決意した時、警報音が鳴り響いた。砂嵐を抜けてミサイル!

「おっとぉ!」

 あかねはあっさりと右腕のガトリングガンでミサイルを撃ち落とす。

「へへ〜ん!そんなへなちょこ軌道ミサイル、いくら撃ってきても当てらへんでぇ!」
「今のは避けるところだ、嬢ちゃん!!」
「なあ!?」

 あかねに大量の銃弾が襲う。思わず左腕のダブルガトリングを盾にする。

「くっそぉー!まだや!」
「威勢はいいな嬢ちゃん。だが・・・」
「いい!?」

 左腕を下げた瞬間、再びミサイルが真っ直ぐあかねに向かってくる。そのミサイルは落とされること無く、あかねのヘビーアームズの装甲に損傷を与えた。

「なんやこれ・・・。こんなに強いんか!?どんなガンプラ使うとるんや!?」
「一緒だぞ?」
「へ・・・?」

 あかねは思わず情けない声を上げる。

「いや嘘や。ガトリングの威力もミサイルの精度も段違いやん!」
「じゃあ攻撃しないから、ちゃーんと見ろ!」

 砂嵐が収まり、視界が明けていく。肩と脚にミサイルポッド、両手にダブルガトリング、胸に4連ガトリング。

「ホンマや・・・。同じガンダムヘビーアームズカスタム・・・」
「まあ違うのは、嬢ちゃんのはオレンジで俺のは灰色だが」
「で、でも威力が・・・」
「それは、だ」

 グレッグは自分のダブルガトリングの銃口をあかねに向けた。

「よく見てみな。俺のガトリングはピンバイスで銃口を全部彫り直している。それが威力アップの秘訣だ」
「あのたくさんの銃口を全部・・・」

「もちろん、胸に隠れてるガトリングもな。ミサイルポッドもキットの弾頭を削り落としたり、埋めた後にリベットパーツで作り直してある」

 グレッグのヘビーアームズのミサイルポッドのハッチが一斉に開く。あかねのヘビーアームズと比べると、立体感、色の塗り分け、どれをとってもあかねのそれを上回っていた。武装面では同じでも仕上がりで差がついており、撃ち合いをすればあかねのヘビーアームズはあっという間に落とされるだろう。

「どうする?まだ続けてもいいが・・・」
「やるでぇ!」

 あかねの叫びが戦場に響いた。

「そんな戦力差、気合で乗り越えたるぅ!!」
「その意気は気に入ったぞ、嬢ちゃん!!」

 戦場が爆炎と銃声に包まれた。
95 :ヤン [saga]:2012/09/03(月) 16:20:22.41 ID:Mz0F71Dt0
「負けてもうた・・・」

 あかねは肩を落としてポッドから出てきた。あれから激しい銃撃戦が繰り広げられたが、あかねのヘビーアームズがすぐ弾切れを起こしてしまい、その隙にグレッグが落としたのだ。

「嬢ちゃんは作りこみもそうだが、弾の管理もしないとな。だが・・・」

 グレッグはニッと笑った。

「嬢ちゃんの気迫は良かったぞ!諦めない気持ちは逆転に繋がるからな!」
「あ・・・。あありがとうございますぅ!!」

 あかねは勢い良く頭を下げた。

「さーて、次はあたしが行こうかな!」

 なおが前に出た。

「今度はこっちが勝つ!」
「自信満々だな。だが負けん!」

 ミッキーが役者ぶって出てきた。

「ミッキーさん、私は甘くないよ!」
「よーし、早速チキンレースといくか!」
「・・・チキンレースぅ!?」
96 :ヤン [saga]:2012/09/03(月) 16:24:33.63 ID:Mz0F71Dt0
「さて、ルールは簡単」

 バトルエリアのアステロイドベルトでミッキーのHGオーバーフラッグが、ライフルを指差し棒代わりに振る。灰色の機体色に白のプレイボーイバニーのイラストが入っている。

「足元にある白い線がスタートライン。で、あそこがゴール。言うまでも無く先に着いたほうが勝ち」

 ライフルで指した方向には赤い旗が立っていた。

「ちなみにコースは今みんなで製作中だ。みゆき達も一緒だから不公平は無いぞ。攻撃は禁止だ」
「分かりました!」

 なおが頷いた。
 なおの機体はミッキーと同じオーバーフラッグだ。濃い緑色に塗装されており、かつての太平洋戦争で活躍した名機、零戦を髣髴とさせていた。

「こっちは背中と腰のエンジンポッドにバーニアつけてるんだ。スピードなら負けない!」

 なおの顔には自信が浮かび上がっていた。操縦桿を握り直した時、電子音が響いた。

「終わったようだな。なお、そっちの画面にコースと矢印が出てるはずだ」

 ミッキーの話通り、なおの目の前のモニターには矢印が追加されていた。その隅にはコースも表示されている。

「準備はいいか?」
「はい!」

 カウントダウンが開始された。3,2,1!

「スタートだっ!」
「いけぇ!!」

 2人は同時に変形し、一気に加速する。なおのオーバーフラッグが前に出てミッキーとの距離を伸ばしていく。

「よし、後はこのまま・・・!おっとぉ!!」

 右へのコース指示が示され、なおは減速して曲がる。

「減速しすぎたかな・・・?だけどこっちはぁ!」

 なおは思いっきりペダルを踏み、加速をかける。

「このスピードがある!!」
「おーおー、飛ばすなあ」
「なっ!?」

 ミッキーの声になおは振り返った。だが、ミッキーのオーバーフラッグははるか後方。心なしか少し近づいた気もするが、まだまだ差には余裕がある。

「何だ・・・。もう来たかと思った、らぁ!」

 再びコース指示。今度は左だ。

「よし、今度はうまく行った!ってぇ!」

 間髪いれずに右へのコース指示が現れた。加速どころか減速して曲がり続ける。

「あーもう!全然踏み込めない!」
「お先!!」
「嘘!?」
「本当だよ!」

 ミッキーの灰色のオーバーフラッグが、悠々となおの背後から抜き去った。

「何であっちの方が速い!?」

 曲がるたび、なおとミッキーの差がどんどん広がっていく。直線に入ればなおのオーバーフラッグが差を詰めるが、コーナーへ入ると再び離されてしまう。
 そして、なおはミッキーに追いつくことすら出来ずゴールした。その差は10秒以上もある。

「なんで・・・?」
「簡単な改造だ」

 ポッドから出たなおに、ミッキーは製作したオーバーフラッグを見せた。

「なおはエンジンの中にバーニアを追加してスピードアップしているが、俺のは操作性を上げるために機体とエンジンを繋ぐパーツに小型のボールジョイントを仕込んでいるんだ」
「だからあんなに小回りが利くんですか・・・」
「ちなみに他はキットのままだから、なおのようにバーニア仕込めばもっと速くなる。長所を伸ばすのもいいが、こういう細かい工夫がいざという時、役に立つぞ」
「・・・はい!」
97 :ヤン [saga]:2012/09/03(月) 16:30:44.51 ID:Mz0F71Dt0
「ほら、動きが遅い!」
「うわーん!」
「今度は踏み込みがなってない!」
「ひぃーん!!」
「地形はバトルエリアに入る前に把握する!砂漠で逃げ道なんてない!」
「ごめんなさぁ〜い!!」
「謝ってないで機体を動かす!!突っ立っていいのは初めてのガンプラバトルの時だけよ!!」

 なおに続いて特訓をうけているのはやよいだ。相手はセラが勤めているが、正直に言ってやりすぎである。やよいが乗る黄色のHGUCジェガンは、セラの銀色の同型機の手によって満身創痍であった。

「はい、今度はブースト管理がなってない!使い切ったら終わりよ!」
「わーん!!」
「・・・なあ、止めろよ旦那」

 あきれた真がミッキーに声を掛けるが、ミッキーもまたあきれていた。

「無茶言うな真・・・。ああなったらもう落ち着くまで待つしかない」
「そうか・・・。あ、落ちた」

 やよいの機体が爆発し、ようやくバトルが終わる。

「ふう、こんなものかしら」

 満足げにセラはポッドから降りてくる。一方、やよいはフラフラした足つきで降りた。

「仕上げはいいけど、操作に難ありね。もっとバトルして経験を積むこと」
「はいぃぃぃ〜」

 やよいは情けない声を上げて、床に倒れこんだ。

「では、次は私が参ります!」

 れいかが前に出る。みんなの敵を取ろうとしているのか、先ほどの弱気は無く気合が入っている。

「さあ、お相手はどなたですか!?」
「俺だよ、れいか」
「真さん・・・!」

 一瞬、チームスマイルにざわつきが起きた。真のガンプラの腕前は高く、ユニコーンのショーウィンドウの作品は全て真の手によって作られたものだ。作品について質問してくる客もいることから、その高さが伺える。

「本気で行く」
「ご指導のほど、よろしくお願いします!」

 真とれいかがポッドへと入っていった。
98 :ヤン [saga]:2012/09/03(月) 16:35:58.17 ID:Mz0F71Dt0
 そして程なくして、真とれいかのバトルが始まった。お互い、HGUC百式を使用している。機体色を変更しているのは、メガバズーカランチャー付属のメッキ処理がされていないタイプだからだ。余談であるが、メッキ処理されているパーツはであれば食器用漂白剤とラッカー塗料用薄め液で落とすことはできるが、2種類の液体の後処理が大変であることを記載しておく。

「れいかちゃんのが青い百式で、真さんのが青と白の百式か〜。・・・ん〜?」

 みゆきが目を細め、れいかの百式を注視する。

「ねえ、あかねちゃん。れいかちゃんの百式、何か変じゃない?」
「変?どこもおかしなとこ無いで?」
「そうかな・・・。あっ!」

 みゆきの叫びと同時に、れいかの百式の左腕がビームライフルに射抜かれる。だが、爆発がいつもみ
ゆきが見る爆発よりも大きい。

「すごいわー、真さんの百式は!ビームライフルでもあんなに威力あるんか!」
「違う!れいかちゃんの百式、上手く組めてないんだよ!見て!」

 みゆきが画面を指さす。右肩のパーツとパーツの合わせ目に大きな隙間がある。

「なんやあれ!?あんな隙間、れいからしないで?」
「そうか!れいかの弱点はそれだ!!」

 なおは叫んだ。

「れいかはガンプラ作り出したのが中学上がった時・・・。プラモの経験が少なすぎるんだ!」
「それって2年も経っとらへんやないか!?」
「初めて作ったのがHGのダブルオーガンダム。後もダブルオー以降のHG00シリーズやHGAGEシリーズしか作ってない!!」
「それってつまり・・・」
「経験も無ければ知識も無いって事だよ!たぶん、百式のアンダーゲートの処理が分からなかったから、あんな隙間があったんだ!」

 百式にはアンダーゲートと呼ばれる特殊なゲートが使われている。ゲートとはパーツと枠にあたるランナーを繋ぐ細い部分の事だ。HGUC百式は本来、金メッキ処理が施されており、従来のゲートでは傷が表面に出て見栄えが悪い。そこで採用されたのがアンダーゲートで、パーツの下にゲートを設置することによりパーツ表面に傷が現れない仕組みだ。
 しかし、アンダーゲートになった事で弱点もある。丁寧にゲートを削らないとパーツとパーツの間に隙間が出来てしまうのだ。それにはニッパーだけでなくデザインナイフで仕上げるのが定石となっているのだが。

「つまりれいかちゃんの百式、隙間だらけって事!?」
「説明書に切り方は書いてあるし、そんな事無いと思うけど・・・。まずいよ!」

 なおの心配は的中する。れいかの百式は何とか真の攻撃をかわし続けるものの、動くたびにパーツが外れていく。

「ああ・・・!!」

 そしてとうとう、れいかの百式が自壊した。

「もう言わなくてもいいかな?」

 ポッドから出た真がれいかに聞いた。

「はい・・・。ガンプラは奥が深いのですね」
「昔と違って、今はインターネットが発達している。そこから自分にあった製作技術を学ぶといい」
「ありがとうございます」

 れいかは一礼し、みゆき達の元へ戻った。そして。

「さあ、みゆきさん。最後はあなたです」
「・・・うん」
「・・・」

 元気のない返事をするみゆきの姿をジョゼは黙って見ていた。
99 :ヤン [saga]:2012/09/03(月) 16:39:46.94 ID:Mz0F71Dt0
 最後に残ったみゆきとジョゼに選ばれたステージはネオホンコンの決勝リーグのリングだ。丸いステージにビームロープが囲まれている以外に障害物は無い。ビームロープの反動を上手く利用すれば高速且つ強力な攻撃を繰り出すことが出来るステージだ。
 その中心にHGUCガンダムが2体、向かい合うように並んでいた。1体はピンクに塗られたみゆきのガンダム。もう一方はジョゼが作ったガンダムだが、塗装は最小限に抑えられた成型色を生かした仕上げをしている。いわゆる簡単フィニッシュと呼ばれる仕上げ方で、ガンプラの多彩な成型色だからこそ出来る仕上げだ。

「よぉ〜し、じゃあ行く・・・」
「あー。戦う前にちょっと待って。聞きたい事あるんだけど」
「何?」
「どうしてガンプラ作っているの?」
「え・・・」

 思わぬ質問にみゆきは口を紡ぐ。

「あなたのガンプラには魂が無いっていうか・・・。楽しく作ってない感じがするのよね」
「そ、それは・・・」
「真から聞いてる。コテンパンにやられたんだって?」
「うう」
「確かにそれでスランプになるってのは分かるけど、楽しむ気持ちは忘れちゃいけないと思うな」
「・・・」

 ジョゼの言うとおりだった。マリに負けたことが未だ払拭し切れていないみゆきは楽しく作る余裕は無かった。

「思い出してみて。初めてガンプラを完成した時のこと。ちなみに私はいつでも思い出せれるよ」
「初めて、作った時のこと・・・」
「それまでは攻撃しないから安心して」

 ジョゼのガンダムが両手を挙げた。
 それを見たみゆきは操縦桿から手を離し、目を閉じた。
100 :ヤン [saga]:2012/09/03(月) 16:43:35.44 ID:Mz0F71Dt0
 みゆきが初めてガンプラを作ったのは小学6年生の頃だった。ある日みゆきの父、博司が居間でガンダムを見ていたのだ。顔から笑みがこぼれていた事は今でも思い出せれる。

「ねえお父さん。ガンダムって面白いの?」

 テレビには髭を蓄えたガンダムが石像から出てきているシーンが写っていた。その時のみゆきには、変なガンダムにしか見えなかった。

「ああ、面白いぞ!みゆきも一緒に見よう」

 DVDを操作し、最初から再生し直す。コックピットの中で褐色の肌をした少年が『メリーさんの羊』を歌っている。みゆきの心を掴むには十分すぎるシーンだった。

「面白そう!」
「これからもっと面白くなるぞ〜」

 博司の言うとおり、物語はどんどん盛り上がっていく。少年が敵対する人間であることを告白するシーンは思わず涙が出た。その後も笑ったり、泣いたり、時には怒ったり。みゆきは充実した時間を過ごした。

「どうだった、ガンダムは?」
「すっごく面白かった!」
「そうかそうか!じゃあ次は作ってみないか?ガンダムのプラモデル」
「う〜ん、でも難しくない?」
「簡単さ!今見たガンダムなら部品の数も少ないから、すぐ出来るぞ!」
「そうなの!?それだったら作ってみる!」
「よぉ〜し、これから模型店へ行くぞ!」

 その後、買ってきたガンプラを一緒に購入した工具で組み立てていく。時折、組立て説明書と睨めっこしながら、みゆきはガンプラを完成させた。良く見るとゲートの切れ端はパーツに残っているし、シールは歪んで貼ってある。だが。

「お!初めてにしては上手だぞ、みゆき!」
「ありがとうお父さん!ガンプラも面白いね!」
「ああ!他にもいろんなガンプラがあるから、そのたびに感動があるぞ!」
「私、もっと作りたい!もっと上手になりたい!」
101 :ヤン [saga]:2012/09/03(月) 16:51:36.24 ID:Mz0F71Dt0
「そうだ。あの時、楽しんで作ってた。私、楽しかった!」
「思い出したようね」

 ジョゼが微笑んだ。

「ごめんねガンダム。嫌な気分で作って。この戦いが終わったら、ちゃんと綺麗にしてあげるね」
「さて、それじゃ戦いましょうか!」

 両手を挙げていたジョゼのガンダムがビームサーベルを抜いた。盾を構え、みゆきのガンダムを睨んでいる。

「うん!」

 みゆきは操縦桿をしっかりと握り、ジョゼのガンダムに突撃した。
 戦闘結果はみゆきの負けだった。ボロ負けだったが、みゆきは自分を取り戻した気分で嬉しかった。

「ボコボコに負けてもうたな」

 特訓を終え、今の自分達に合ったガンプラを購入した後、チームスマイルの面々は模型店ユニコーンを出た。

「でも、すっごく鍛えられた感じがする!私、セラさんみたいな女性になる!」
「最後は違うやろ!」
「長所だけじゃダメってのが良く分かったよ!」
「ガンプラの奥深さを改めて知ることが出来ました」
「ガンプラは楽しんで作ることを思い出したよ!」

 皆各々の改善点を見つけたことにとても充実していた。
 分かれ道にたどり着くまでの間、それぞれの改造プランを意見交換し合う。そして分かれ道で5人は分かれ、それぞれの家路についた。
 無事何事もなくみゆきは家に帰り、夕食をとり、入浴を済ますと部屋で今日共に戦ったガンダムを取り出した。接着剤のはみ出しや、塗装が雑なところ、塗り残しが所々にある。

「綺麗にしてあげるね〜」

 デザインナイフでバリを取り、はみ出した接着剤を削っていく。削った際に剥がれた塗装は面相筆でリタッチしていく。ついでに塗りきれていなかった箇所やはみ出した箇所も塗り直す。
 みゆきが部屋に篭ってから2時間。ガンダムの修正が完了した。

「ごめんね。また一緒にガンプラバトルに出ようね」

 みゆきはガンダムに心から謝り、机の一角に置いた。そして、ユニコーンで買ってきたガンプラに手を伸ばした。
 落ち込んだ暗い気持ち0は無い。これから来る楽しみでみゆきの胸は明るく踊っていた。

「よーし、楽しんで作るぞー!!」

 ニッパーを手に取り、みゆきは笑顔で製作に取り掛かった。
102 :ヤン [saga]:2012/09/03(月) 16:56:51.93 ID:Mz0F71Dt0
次回予告
「れいかです。真さん達のご指導のおかげで、チームスマイルは調子を取り戻すことが出来ました。しかし、1人の女性が駆るMSが私達に襲い掛かります!私達は彼女を止めることが出来るのでしょうか?次回、スマプリガンプラビルダーズ!『全方位攻撃の中』見て下さい!」
103 :ヤン [saga]:2012/09/03(月) 17:00:09.91 ID:Mz0F71Dt0
今回はこれでおしまい!久しぶりの投下でいきなりセリフの行を開け忘れるミス・・・。
ちなみにスマプリでやる意味は『好きだから』。以上です!
また完成次第投下します。
104 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2012/09/05(水) 22:05:10.69 ID:ATA1ySvoo
105 :ヤン :2012/10/15(月) 15:05:05.14 ID:p40GSp+d0
お久しぶりです。今から投下します。
106 :ヤン :2012/10/15(月) 15:06:10.50 ID:p40GSp+d0
前回のあらすじ
真達の特訓を受けたチームスマイル。全戦全敗したものの、それぞれの弱点を見つけることができた。

スマプリガンプラビルダーズ!
第6話『全方位攻撃の中』
107 :ヤン :2012/10/15(月) 15:07:58.51 ID:p40GSp+d0
 ガンプラバトル選手権の申し込みは夏休みに入った日に予定通り終了した。だがシミュレーションポッドの生産の遅延と、ネット回線の配備が遅れていることを理由に、開催日が12月へと伸びてしまった。ビルダー達の間では、商品を売りたいのではないか、重大なバグが起きたのではないかなど様々な憶測が飛び交ったものの、伸びた期間を製作に当てれること、そして勝ちたい願望からかすぐ終焉した。
 その間にも、全国のビルダー達の間ではガンプラバトルが繰り広げられていた。そしてある程度バトルの数が増えると、どこが強豪チームか誰にでも予想がつくようになっていき、マークされていく。自分の手を相手に見せないようバトルを控えるのも1つの作戦ではあるが、名前が大きいと戦う前に相手が畏怖する可能性もある。ガンダムの世界観の如く『赤い彗星』とか、『白狼』といったエース扱いされるのだ。
 だが、現実の勝負事のようにそれを覆す存在、いわゆるダークホースがガンプラバトルにも存在する。
108 :ヤン [saga]:2012/10/15(月) 15:09:16.43 ID:p40GSp+d0
 夏休みに入った7月最後の土曜日、ガンプラビルダー達に衝撃が走った。前回の全国大会ベスト4で今回の大会優勝候補の1チーム、チームリリカルが1体の敵に1発も当てることが出来ずに惨敗したのだ。
 チームリリカルは女子大学生3人で組まれたチームで、勝率もさることながら、そのグラビアアイドル顔負けの可愛さ、スタイルの良さで男性ビルダーからの人気は高い。非公式にファンクラブがあるくらいだ。だが、彼女達の戦いぶりはその顔に似合わず容赦無いの一言に尽きる。しかし、それもまた人気に拍車をかけていた。
 彼女達の使うガンプラはHGアルケーガンダムだ。GNバスターソードを武器としているが、両腰のコンテナにGNファングという遠隔操作の攻撃兵器がある。キットではコンテナのハッチは開くものの、GNファングそのものはモールドのみで再現されているだけだ。しかし、チームリリカルはそれを切り離し、プラ板で作り直して、武器としてのファングを機体各所に装備していた。そして各々に合った武装を施し、超攻撃型チームとして名前を轟かせていた。
109 :ヤン [saga]:2012/10/15(月) 15:14:38.68 ID:p40GSp+d0
 その日、チームリリカルは1人の女子高生のオンライン対戦の挑戦を受けた。1対1の対戦を提案したが3対1でいい、と女子高生は言ってきた。

「2人とも、あれで行くでぇ!」

 チームリリカルの司令塔、八神はやての掛け声を引き金に他の2人、フェイト・T・ハラオウンと高町なのはが頷いた。正直に言えば1機に対して、それも年下に対してやり過ぎだと感じるが全力で答えるのがチームリリカルの方針だ。容赦なく行く。

「まずはうちからぁ!」

 はやてのアルケーガンダムが、敵に向かってグレネードを撃つ。しかしこれは当てるのではなく煙幕が目的だ。作戦通り、敵機の周辺に煙幕が広がった。

「ええい!」

 その煙幕にフェイトのアルケーガンダムが2振りのGNバスターソードを両手に持ち突撃していく。

「これが私達の全力全開!!」
「喰らいぃ!バスターソード、ランチャー、ファングの3重攻撃!!」

 なのはのアルケーガンダムが、HGガンダムスローネアインから流用したGNランチャーとGNファングを、はやてのアルケーガンダムからはGNファングが煙幕の中の敵へと伸びていき、爆発が起きた。
 これがチームリリカルの必勝パターンだ。煙幕で相手を油断させ、フェイトが格闘戦を仕掛ける。その後方でなのはとはやてが一斉射撃して落とす。フェイトへの誤射の可能性もあるが、練習を積み重ねた結果、誤射する確率かなり低い。

「っしゃあ!決まったで!」
「これで終わり・・・。ってあれ?」

 必殺のコンビネーションが直撃したにもかかわらず、ゲーム終了の表示が流れない。
 そして、2人の疑問は煙幕と共に消えていく。

「な・・・?」
「フェイトちゃん!!」

 2人は目を疑った。フェイトのアルケーガンダムは敵の左手で頭を掴まれており、下半身が無く、GNファングが背中のコアファイターに全て突き刺さっていた。力が抜けた手からはGNバスターソードがずり落ちていた。
 そして敵機は戦力を無くしたアルケーガンダムを大地に叩きつけ、背中のコアファイターを踏み潰した。

「・・・弱いわね」
「よくもぉ!!」

 敵の声に逆上したはやてがGNバスターソードを手に敵へ突貫する。だが、敵はフェイトのGNバスターソードをはやてに投げつける。

「こんなこ・・・」

 はやてがGNバスターソードを切り払った瞬間、もう一振りのGNバスターソードがはやてのアルケーガンダムに突き刺さる。はやては光になった。

「はやてちゃん!」
110 :ヤン [saga]:2012/10/15(月) 15:17:10.67 ID:p40GSp+d0
 なのはが叫んだその時、なのはに衝撃が襲った。もうスクラップになったフェイトのアルケーガンダムの上半身が、なのはに投げつけられたのだ。

「きゃあ!」

 思いがけない攻撃に、なのはのアルケーガンダムは仰向けに倒れてしまう。

「その程度かしら?」
「ま、まだ」

 だが、なのはのアルケーガンダムは立ち上がらなかった。敵機に右足で踏みつけられていたからだ。1ミリも体が上がらない。

「くっ!」
 右手のGNランチャーを敵に向けるも、すぐさま右腕の武器で破壊される。そして、押さえつけられたまま、頭、両腕、両足と的確に攻撃され、だるま状態にされた。

「もうおしまいかしら?ふふっ」

 抵抗できない状態と敵の微笑みに、なのははこれまで感じたことのない恐怖に絶望した。歯がガチガチと鳴り、目から涙が流れた。

「た、助け」
「戦場で命乞い・・・。無様ね。そうだわ」

 敵が左手に持っていたもの。フェイトのアルケーガンダムのGNバスターソードだ。はやてに切り払われたが、刀身には目立った損傷が無く、武器として問題なく機能していた。

「友達の武器で止めを刺してあげる」
「ひぃ・・・」
 なのはのアルケーガンダムに刃が少しずつ入っていく。装甲が刻まれる音と火花、頭部を壊されたせいで不鮮明な映像に写る敵機のぎらつく目。
 レバーを動かしても、ペダルを踏んでも愛機は何も反応しない。なのはにさらなる絶望を与えていた。
 その光景を、敵は不敵に微笑んでいた。

「ふふふ・・・。どうかしら?友達の武器でトドメを刺されるの、うれしいでしょう?」
「いやあああ!!助けて!お願い!お願いだからあああ!!」
「・・・もういいわ」

 じわりと嬲るように刺していたGNバスターソードを一気にコックピットに貫き通した。
 その衝撃に、なのははポッドの中で失禁した。
111 :ヤン [saga]:2012/10/15(月) 15:20:13.22 ID:p40GSp+d0
「ふう・・・」

 古びた駄菓子屋の入り口前に置かれたシュミレーションポッドから、チームリリカルを全滅させた女子高生、月影ゆりが出た。美しい顔立ちだが、鋭い眼つきで近づき難い雰囲気を出していた。

「あれで優勝候補・・・」

 ゆりが呟く。正直、期待外れだ。前回の全国大会でベスト4に進出しているから練習相手になると思ったが、まったくならない。しかも旧キットで合わせ目消しと塗装を変えただけの相手にあれだけの惨敗をしたのだ。再起には時間が掛かるだろう。

「次は誰にしようかしら・・・」
「ゆりちゃん」

 駄菓子屋の店主である老婆がゆりに声を掛けた。手には冷えて水滴が付いたラムネがある。

「はい、ラムネ。今日は暑いからね」
「おばあちゃん、お金払うから・・・」
「いいのよ。ラムネ1本くらい。それに、今ウチに来てくれるのはゆりちゃんくらいだしねぇ」
「・・・ありがとう」

 ゆりはベンチに座り、ラムネに口をつけた。昔から愛されている炭酸水がゆりの喉を潤していく。

「おいしい」
「やっと笑った」
「え?」
「さっき怖い顔していたわよ?」

 ゆりはラムネの瓶に写った自分の顔を見つめた。そんなに怖かったのだろうか?

「ゆりちゃんは美人さんだから、笑っているほうが似合うわ」
「そんなこと・・・」
「きっとそうよ」

 老婆はニコニコと笑った。
 恥ずかしくなって、ゆりはラムネを一気に飲み干し、空になった瓶をベンチに置いて立ち上がった。

「ラムネ、ごちそうさま」
「あら、もう行っちゃうの?」
「夕飯のしたくもあるし・・・。あら?」

 ゆりは駄菓子屋の中を覗いた。菓子たちに並んでガンプラが少し積まれていた。

「ガンプラ?前来た時には無かったはず・・・」
「ああ、あれね。倉庫を掃除してたら昔売ってた物が出てきたのよ。ほら、一応『しみゅれーしょんぽっど』もあるし」
「なるほど・・・」
「でもよく解らないわ。この歳じゃあ『ぶろーどばんど』とか『ひかりつうしん』とか言われても」
「大丈夫よ、私が教えるから。少し見ていい?」
「いいわよ」

 駄菓子屋のガンプラを見ると、どれもゆりが生まれる前に発売されたものだ。全てのキットが接着剤と塗装が必須の旧キット、しかもHGUCでリニューアルされたものばかりだ。とても全国大会には使えそうに無い。

「どれもバトルじゃ・・・。あ、これは・・・」

 ゆりが1つのガンプラの箱を取り上げた。それは全身重武装で巨大なMSのガンプラだ。しかし、スケールが1/144ではなく1/300。これなら最近の1/144スケールのガンプラを芯にして間接を一新し、武装を他のキットから流用すれば1人で全国大会に優勝出来そうだ。

「おばあちゃん、これ買うわ」
「あらいいの?それ古いわよ?」
「ううん、これでないと駄目なの」

 ゆりが微笑んだ。
112 :ヤン [saga]:2012/10/15(月) 15:23:12.73 ID:p40GSp+d0
 そして時は流れて8月に入った。チームスマイルの名前は少しずつだがガンプラビルダー達の間で広まっていた。今日もバトルを申し込まれ、オンライン対戦で戦っていた。

「勝ったぁ!」

 オンライン対戦を終えたみゆきがポッドから出てきた。スランプは克服し、チーム勝率を上げる原動力となっていた。

「あー、うちもバトルやりたいー!!もっと早く新しい愛機決めとればよかったぁ!」

 羨ましそうに戦闘シーンを見ていたあかねが地団駄を踏んだ。開催日が伸びたことをいい事に、じっくりと作ろうと計画を立てたのだがその通りにならず、未完成なのだ。

「後どれくらいなの?」

あかねと同じく完成させていないやよいが話しかけた。だがやよいはあかねと違い、みゆき達と相談をしてから製作を進めている。

「後は武器だけ!今日中に終わらせたる!」
「失敗しないようにね」
「でもあせると失敗しやすいよねー」

 あかねと違って自分のガンプラ完成させたチームの切り込み隊長、なおがいたずらっぽく喋った。

「なお!変な事言うな!」
「そうですよ。あかねさんはチームの攻撃の要。完成させてもらわないと」

 結い上げた髪を解きながら、れいかがあかねに近づいた。

「れいか・・・」
「でも、2人とも早くしてくださいね?もちろん夏休みの宿題も」
『・・・はい』

 れいかの悪意のない笑顔に、あかねとやよいは謝った。れいかに悪意は無いのだが2人にはプレッシャーに感じる。そして夏休みの宿題という言葉のプレッシャーは、まだ手付かずのみゆきとなおにも重くのしかかった。

「ねえねえ、私達に挑戦状来てる!」

 れいかの言葉を忘れさせようと、中央のコンソールをいじっていたみゆきが、他の4人に話しかける。

「ほら見て!」
「おお、ウチらも有名になって来とるからな!」

 あかねが画面を覗くが、すぐ眉間にしわを寄せた。

「これチームちゃうやん!1人やんけ!」
113 :ヤン [saga]:2012/10/15(月) 15:26:31.88 ID:p40GSp+d0
「嘘ぉ!?」
 みゆきが見直すと確かにチーム名が無い。しかし、内容を読むとどうやら間違えて送ったわけでもないようだ。

「『チームスマイルの方々へ・・・』私達のチーム名、本文にちゃんと書いてあるね」

 やよいが本文を流し読むが、どこにもあるような対戦依頼の文章だ。日時、対戦方式も事細かに書かれている。

「受けちゃおうよ。今の私達に必要なのは経験!実戦あるのみ!」
「待って、なお。やよいさん、その対戦を申し込んでいらしたのはどなたですか?」
「えっと、月影ゆりって書いてあるよ」
「月影ゆりさん・・・」

 れいかは目を細めた。

「れいかちゃん、知り合い?」
「いいえ。ですが、みゆきさん。7月の終わりにチームリリカルの方々が惨敗した情報をお聞きになった事ありませんか?」
「聞いたことある!・・・って、まさか」
「そう、チームリリカルに勝たれたのが月影ゆりさんです。その時の動画を見ましたが、かなりの腕前です。私の見立てですと、おそらく入江生徒会長と互角・・・」
「マイスタークラスかいな・・・」

 あかねが呆然とする。優勝候補が3対1で負けたのだ。それほどまでに彼女の力は強大である事は簡単に予想出来た。

「恐らく、このまま受ければ・・・」
「受けよう!」

 みゆきがれいかの声を遮るように叫んだ。

「みゆきさん・・・」
「だって全国大会はどんな相手が来るか分かんないだよ!相手が誰だろうと、立ち止まるわけにはいかない!」
「お、先月とは思えへんほど気合入っとるな!よっしゃあ!ウチの新しい愛機デビューや!」

 あかねはニヤリと笑った。だが、やよいの言葉があかねを落胆させた。

「でも『明後日の午後2時、オンライン対戦でどうですか』だって。私は無理だよ」
「無理やー!!絶対塗装終わらへん!!」
「じゃあ、みゆきちゃんとれいかと私で戦うよ!」
「明るく言うな!なおー!!」
 いたずらっぽくなおが笑い、あかねは再び地団駄を踏んだ。
114 :ヤン [saga]:2012/10/15(月) 15:30:49.83 ID:p40GSp+d0
 そして訪れた月影ゆりと戦いの日。チームスマイルの面々は予定通りの時間に模型店ユニコーンのシミュレーションルームに集まった。

「月影ゆりよ、よろしく」
「チームスマイルリーダー、青木れいかです。本日はよろしくお願いします」
「それじゃあ、3対1のハンディ戦で」
「ええ、お互い全力を尽くしましょう」

 オンライン回線を通じての挨拶を交わし終え、お互いに準備に入った。

「みんな、しっかりなー!!」
「頑張って!!」

 最後の詰めで自作パーツを折ってしまい、武器の製作を失敗したあかねと、後は塗装を残すのみとなったやよいが3人を応援する。

「まかせてー!!」
「負けるつもりはないよ!」
「行って参ります」

 みゆき、なお、れいかの3人は各々のポッドに入った。

「よーし・・・」

 みゆきは100円玉を入れ、続けてエントリーカードを入れる。『オンライン対戦』と表示された画面を選択し、チームスマイルと月影ゆりのポッドが接続されている事を確認した。

『オンライン対戦接続を確認しました!続けて、ハロにガンプラをセットしてください!』

 みゆきは新しい愛機をハロの中に立たせ、ハロを閉じた。後はスキャンされた愛機のパラメータを確認し、画面が格納庫に切り替わるのを待つだけだ。

『今回のミッションは敵部隊の全滅よ。頑張ってね』

 プトレマイオス2の艦長、スメラギ=李=ノリエガが任務内容を伝える。

「了解!」
「ノリノリだね」
「緊張は無さそうですね」
「えへへ・・・」

 2人に聞かれて、みゆきは少し恥ずかしくなる。そんな呑気な気分もカタパルトのハッチが開くと同時に消えた。発進シグナルが赤から青に変わる。

「行くよ!ミユキ=ホシゾラ!アイズガンダム!行きまーす!!」
「ナオ=ミドリカワ、ギャプランフライルー、出る!!」
「レイカ=アオキ、ギラーガ!参ります!!」

 3体のMSがプトレマイオス2から発進した。
115 :ヤン [saga]:2012/10/15(月) 15:32:48.22 ID:p40GSp+d0
「わ、夜だ!」

 プトレマイオス2から発進したみゆきは景色に驚いた。ランダムステージ選択で夜のステージになる事は珍しい事ではないが、選ばれる確立は10回に1回と低めに設定されている。

「ちょっと不利かな・・・」

 みゆきは自分のアイズガンダムの塗装を少し後悔した。みゆきのアイズガンダムは白とピンクを主体に塗り分けられていた。そして赤と金でアクセントを加えてあり、全体に半光沢クリアーを吹いていた。ビーム攻撃にはある程度の耐性はあるものの、その輝きは夜間戦闘では敵に見つかりやすい。

「みゆきちゃん、弱音厳禁!」

 隣を飛んでいたなおがみゆきを叱咤する。なおのギャプランフライルーは緑に黄色のラインが入った、零戦のような塗りわけだ。フライルーのベースとなったギャプランが元々緑色のため、正式採用されたように見える。

「自信を持つ!」
「そうですよ、みゆきさん」

 なおの反対側を飛んでいたれいかが賛同する。れいかのギラーガはメタリックブルーと金と黒で塗られていて、3機の中では一番派手に輝いていた。恐らく彼女が一番に狙われるだろう。

「これまでの戦いぶりなら大丈夫です」
「・・・2人ともありがとう!」
『まもなくバトルエリアに進入します・・・。3』

 音声アナウンスがみゆき達にさらなる緊張を与えた。恐らく経験したことが無い激戦になるだろう。そうでなければあっさり落とされるかだ。

「行こう!」
『2、1、突入!!』

 3機のMSが同時にバトルエリアに突入した。
116 :ヤン [saga]:2012/10/15(月) 15:36:56.33 ID:p40GSp+d0
 バトルエリアとなったボストニア城の城下町は日が落ちているものの、町には明かりが灯っていた。これならばツヤがあろうが無かろうが、MSの姿は目立つ。町の建物はどれもMSと同等かそれよりも低い。障害物と見るのが妥当だ。

「お城きれー!!」

 みゆきはバトルエリア中央にある一際ライトアップされたボストニア城をうっとりと見つめる。

「あんなお城行きたいなー!」
「みゆきちゃん、今バトルちゅ・・・。ん?」

 なおが城の頂点に目を凝らし叫んだ。敵のMSの姿だ!

「散開!!」

 チームスマイルが3方向に分かれる。分かれた瞬間、いた場所にビームが3発着弾する。

「同時に3発・・・。重装備ですね」
「なおちゃん、何か解った?」
「背中の武器・・・。たぶんプロヴィデンスのドラグーンだ!」
「プロヴィデンスガンダムですか・・・」

 れいかが口元に指を当てた。
 プロヴィデンスガンダムは遠隔端末兵器ドラグーンをハリネズミのように装備している。それから繰り出されるオールレンジ攻撃は1発1発の攻撃力は低くても厄介だ。当たり所がコクピットならそこで終わりだ。

「一瞬だったから本体は解らなかったけど・・・」
「ですがそれでも十分です。ここはフォーメーションを組まず、個別に動きましょう。固まって全包囲攻撃を受けることは避けましょう」
「わかった!」

 れいかのプランにみゆきは頷いた。

「通信はこまめに。解ったことがあったらすぐお知らせください」
「了解!空から探すよ」

 なおも頷く。ギャプランフライルーをMAに変形させ、夜空へと飛びたった。
 その時、3条のビームが城下町を焼き払う!

「町が!」

 みゆきの叫びはビームの光がもたらす破砕音に消さた。

「くぅ!」

 みゆきはアラーム音を頼りに、ビームを避けていく。そして3条のビームの束が過ぎた頃、美しい町は城を残して瓦礫と化した。

「みんな、平気!?」
「大丈夫!空にもビーム来た!」
「私も無事です!」

 なおとれいかの声に、みゆきはほっと胸を撫で下ろした。

「ふふふ・・・」
「!?」

 突然の笑い声に、みゆき達は耳を疑った。
 爆煙が晴れ、ゆりが操るガンプラが姿を現す。

「ターンX!!」

 HGプロヴィデンスガンダムのバックパックにターンX特有の左右非対称の四肢。左腕にはプロヴィデンスガンダムの複合兵装攻盾システムが装備されていた。そして月光に冴えるパールホワイトのボディと薄紫のライン。美しさと禍々しさを引き立てている。

「少し町並みもさっぱりしたところで・・・」

 ターンXのバックパックと腰からドラグーンが全て切り離された。それらはみゆき達へ向かい飛んでいく。

「落ちろ、小娘ども」

 ゆりは不敵に笑った。
117 :ヤン [saga]:2012/10/15(月) 15:41:36.73 ID:p40GSp+d0
「ちぃ!」

 空中でなおは機体各部のバーニアを細かく吹かし、ドラグーンのビームを避ける。ギャプランフライルーの腕のバインダーはキットのままでも360度回転出来る。そこにHGUCガンダムヘイズルのシールドブースターを追加することで防御と機動力を高めている。さらに、軽量化を図るためテールユニットを外している。なおが得意とするヒット&アウェイに特化した機体だ。

「くそ、ドラグーンを上手に使う!?」

 なおがぼやいた。
 ガンプラバトルにおいて、ビットやファンネルのような遠隔操作武器は発射される前に行動パターンを入力する。パターンは多数あり、それらの組み合わせで相手の動きをある程度拘束する事が可能だ。
 ゆりの操るドラグーンはギャプランフライルーが避ける場所をある程度予測していて、一方を避けても別のドラグーンが攻撃する。ギャプランフライルーに致命傷は受けていないものの、上下左右360度囲まれつつある。バーニアの消費量も激しく、このままだと撃墜は時間の問題である。

「囲まれたら終わりだ。ならば!」

 なおはバーニアを全開し、その場から一気に離れる。そうはさせまいと、ドラグーンはなおの後を追う。 
 そしてなおと取り巻いていたドラグーン達が一直線になった時。

「落ちろぉ!」

 MS形態に変形し急旋回して、バインダーのビームキャノンの引き金を引く。そのビームはドラグーンを全て撃ち落とした。

「よぉし!!」

 なおは感嘆の声を上げた。
118 :ヤン [saga]:2012/10/15(月) 15:49:37.69 ID:p40GSp+d0
 れいかのギラーガもまたドラグーンの集中砲火を受けていた。HGガンダムナタクから流用したビームトライデントを回転させ、盾代わりとしている。

「Xトランスミッター展開、ターゲット補足。パターン選択・・・」

 れいかは回転を休めることなく、武器の設定を行なっていた。機体の向きを忙しなく変えながらビームを弾いていく。

「設定完了。お行きなさい!」

 ギラーガの背中、両腕、両足から金色の突起が飛び出した。その突起から無数の光の玉が発射され、ギラーガの周囲に展開する。

「ギラーガビットォ!!」

 れいかの叫びに答え、ビット達はドラグーンへと向かう。ギラーガビットはドラグーンと違い、ビームそのものだ。遠隔操作出来るビーム弾と考えてくれればいいだろう。1個につき1回のみの攻撃だが、ファンネルやドラグーンといった既存の遠隔操作兵器と違いビームそのものだから撃ち落すことが出来ない。さらに纏うようにギラーガ本体に展開すればバリアーのような働きが出来る。
 展開されたギラーガビットは群れとなり、ドラグーンを落としていく。

「はあっ!」

 れいかもギラーガビット任せにするのではなく、ドラグーンのビームを避け、自らビームトライデントで切り落とす。 真との特訓で、基礎工作の甘さを実感し、格闘戦に特化しすぎた自分の戦闘スタイルを見つめ直した答えが、今操っているギラーガだ。合わせ目が多いギラーガを製作したことで自分が如何にキットの出来に甘えていたことが分かったし、戦闘スタイルにもメリハリがついた。ギラーガを選択したれいかの判断は正しかった。

「これで最後です!」

 れいかの叫びと共に、最後のドラグーンが切り落とされた。 
119 :ヤン [saga]:2012/10/15(月) 15:52:44.53 ID:p40GSp+d0
「ディフェンスモード!」

 みゆきはアイズガンダムのバインダーを左側に移動させる。強力なGNフィールドが展開され、ドラグーンの攻撃から身を守る。
 アイズガンダムの大きな特徴は背中のバインダーだ。それらを移動、変形させる事により武装強化、機動力向上させる機能がある。他のチームメイトに比べ、バトルスタイルに特徴が無く、そつなくこなせるみゆきにとって、状況に合わせて変化するアイズガンダムとの相性は抜群だ。以前の愛機、ガンダムアストレアのように武器を複数持つ必要も無くなり、操作性も向上していてみゆきの思い通りに動く。

「えいっ!」

 ディフェンスモードを解除し、GNバスターライフルでドラグーンに向かって撃つ。しかし、的が小さいせいで中々当たらない。遠隔操作兵器の厄介なところだ。2発、3発と撃っても当たらない。

「こーなったら!アタックモードォ!」

 バインダーを右側に動かし、先端をドラグーンに向けた。その中央にライフルを構える。

「いっけぇ!」

 みゆきが引き金を引くと、先ほどのライフルとは段違いのエネルギーが放出される。その奔流はドラグーンを撃ち落す。

「よし、次!」

 アタックモードを解き、バインダーを後へ伸ばす。機動力を大きく伸ばすハイスピードモードだ。なおのギャプランフライルーほどのスピードは出ないものの、ドラグーンを簡単にかわすスピードは出る。スピードで翻弄し、腕に固定されたビームサーベルでドラグーンを落とした。

「終わりだぁ!!」

 最後の1機を撃ち落し、みゆきは一旦エネルギー残量を確認する。アイズガンダムのキットの元になったリボーンズガンダムから両腕のGNドライブを流用したおかげでエネルギー残存量は十分にある。
 攻撃力、機動力、継戦能力、操作性。どれをとってもガンダムアストレアを上回っていた。

「さあ、後はターンX本体だけ!」
「みゆきちゃん、無事!?」
「なおちゃん!大丈夫!」
「お2人とも無事ですか!?」
「れいかちゃん!」

 みゆきより先にドラグーンを落としたなおとれいかが、みゆきの元に集まる。

「さあ、行くよ!」

 みゆきの言葉を合図に、3人はターンXに突撃した。
120 :ヤン [saga]:2012/10/15(月) 15:56:54.89 ID:p40GSp+d0
 ドラグーンを全て落とされたゆりは、3機の動きを注目していた。ドラグーンを落とされることなど計算のうちだ。むしろこの程度で落とされるようなら全国大会で勝ち抜くのは困難だろう。
 それに、ドラグーンを全て射出した目的は敵を落とすことではない。

「ギャプランフライルーは早いけど、直線的。ギラーガは恐らく格闘戦。ビットはおまけ程度。問題は・・・」

 ピンク色のアイズガンダムをゆりはちらりと見た。特に戦闘スタイルに大きな特徴は無い。むしろ癖が無さ過ぎる。掴みどころが無いタイプだ。

「パイロットが万能か・・・?」

 ゆりが呟いた時、最後のドラグーンがアイズガンダムに破壊される。そのタイミングを計ったかのように、他の2機が集まりゆりに接近し「ゆりさん、覚悟ぉ〜!」とみゆきが叫ぶ。

「ふふふ・・・」

 ゆりは微笑みながらターンXの右腕を3機に向ける。右腕の先がバカリ、と花の如く開いた。

「わざわざ集まってくれて、ありがとう!」

 ターンXの右腕からビームが発射された。これが溶断破砕マニピュレーター。通称。

「シャイニングフィンガー!!」

 ゆりが叫ぶ。それと同時に、ターンXにある動作を入力した。それを受けたターンXの本体が頭、腕、足と切り離される。
 そして、バラバラになったターンXはシャイニングフィンガーを避けたみゆき達を取り囲んだ。

「しまった!ターンXはこれがあるんだ!」
「遅いんだよ!」
「くっ!」

 みゆきは急制動をかけ、ビームの斜線上寸前で止まる。
 ターンXの腕から、足から城下町を破壊したビームが照射される。その閃光はみゆきの目先寸前を通り過ぎていく。このビームの前ならドラグーンは赤子同然だ。

「まだあんなビーム出せるなんて!」

 なおが避けながら口を開いた。
 ゆりがドラグーンでみゆき達を足止めした理由はこれであった。ターンXに元からある武装で町を一気に破壊し、ドラグーンで足止め。その間にエネルギーを回復させ、一気に畳み掛ける。
 本来ゆりは敵を破壊して武装を奪い取り、その武装で攻撃をかけるスタイルだが、みゆき達の機体を見て無理と判断しての作戦だ。もしみゆき達がオーソドックスな武器―――ビームライフルやビームサーベルなどの手持ち武器―――だったら、勝負はすぐ付いたかもしれない。

「これはまずいですね・・・!」

 れいかにあせりが生じていた。自分と同じように、みゆきとなおも避けるので精一杯だ。ドラグーンに比べて腕や足なので本体そのものは大きいが、威力も段違いだ。ギラーガビットで間接に当てて落とすとプランニングしたものの、ギラーガビットにパターン入力する隙が無い。ならば接近して切り落とすことも考えたが、接近する前に撃ち落とされる確率のほうがずっと高い。
121 :ヤン [saga]:2012/10/15(月) 16:01:40.77 ID:p40GSp+d0
「さあ、もっと避けてごらんよ?」
「さっきから思ったけど!あんな人だったっけ〜!?あわわぁ!」
「ずいぶんと余裕じゃないか!」
 ゆりがパターンを再入力する。ターンXの四肢がみゆき達を囲み、ビームを連射する。
「たぶん!うわぁ!ハンドル握るとキャラが変わっちゃうタイプなんだよ!」
「バトル前は物静かな方だと思いましたが・・・!これが本性なのですね!」
『多分違う!』

 れいかの天然ボケにみゆきとなおがツッコミを入れる。

「さっきから反応が鈍い!」

 みゆきは操作するアイズガンダムの反応が、ターンXの分離攻撃が始まってから鈍いと感じていた。それに時折画面の切り替わりがゆっくりになる。今はそれ以上にゆっくりだ。

「何で!?何か特殊な武器でも積んでいる?」
「そうじゃない!」

 なおが叫んだ。

「シミュレーションポッドの処理が遅れているんだ!あっちのビームもすごく遅くなってる!」
「それってまずいんじゃ・・・!」
「ゆりさん、ゆりさん!聞こえますか!?ポッドにかなりの負荷が掛かっています!これ以上は!」
「それがどうかしたの?」

 れいかの必死の呼び声に対して、ゆりの声は冷たかった。

「その程度のトラブル!あんた達を落とせばすぐに直るんだろう!?」
「今にも壊れそうなんです!」
「落ちろぉ!」

 ゆりがれいかのギラーガに照準を合わせたとき。
 ブザー音と共に、ポッドの中の光が消えた。
122 :ヤン [saga]:2012/10/15(月) 16:06:59.89 ID:p40GSp+d0
「あれ?フリーズしちゃった・・・?」
「ホンマや!中央コンソールのパネルが反応しとらん!」
「真さん呼んで来る!」
「みゆきー、大丈夫かー?」

 やよいがシミュレーションルームから出ると同時に、あかねはみゆきが居るポッドをノックした。

「大丈夫!でも真っ暗でハッチのノブが解んないよー!」
「こっちから開けるでー!」

 あかねが緊急脱出用のノブに手をかけ、みゆきのポッドを開けた。

「ありがと〜。でもバトル、どうなっちゃうのかな?」
「さあな〜。あ、真さん!」
「みんな大丈夫か!?」

 冷や汗をかいた真がシミュレーションルームに入って来た。

「大丈夫です!」

 ふう、と真は一息ついた。やよいが慌てて来るものだから火事でも起こったのかと思ったのだ。

「でもフリーズしちゃって・・・」
「それなら再起動かけるよ。なおとれいかは?」
「手伝ってー!!」

 やよいが情けない声で叫んだ。どうやら緊急用ノブの操作が解らないらしい。

「とりあえず、今日は再起動かけたりバンダイのカスタマーセンターに問い合わせたりするから、ガンプラバトルは無しだ。多分回線がパンクしたんだろう」
「解りました」
「ほな、なおとれいかを助けたろか」
「早くー!!」
「やよい、自分が慌ててどうするんやー!!」

 もう少ししっかりして欲しいと思いながら、あかねはやよいの元に向かった。


「ゆりちゃん、大丈夫?」
「ええ、これなら電源落としてまたつければいいから」

 みゆきと違い自力でポッドから出たゆりは、駄菓子屋で店主の老婆に説明していた。老婆がその通りに操作すると、ポッドに光が戻った。

「あら、直ったわ」
「よかった。後はバンダイに電話して指示を受けてね」
「わかったわ」

 ゆりがポッドに入り、残しておいたエントリーカードと愛機のターンXを取り出した。エントリーカードには『最終バトル:オンライン対戦、トラブルにより無効バトル』と書かれていた。

「チームスマイルか・・・」

 あのチームは予想以上に強い。出る杭は打とうと思っていたが気が変わった。本気のターンXの装備であそこまで粘ったのだ。本気でないターンXで落ちたチームリリカルのような雑魚共とは違う。後3ヶ月でどれほど成長するか楽しみだ。だが、目の前に出てきた時は。

「全力で落とす・・・」

 ゆりがにやりと笑った。
123 :ヤン [saga]:2012/10/15(月) 16:15:55.39 ID:p40GSp+d0
次回予告
「みゆきです!ゆりさんとのバトルは結局お流れ。あーあ、決着付けたかったなー!
 でも、私達にはどーしても倒さなきゃいけないチームがあるんだ!待ってってよ、チームNERV!
 次回、スマプリガンプラビルダーズ『熱血のチームスマイル!』あかねちゃんとやよいちゃんの新ガンプラが出る   よ!」
124 :ヤン [saga]:2012/10/15(月) 16:17:36.49 ID:p40GSp+d0
>>123訂正

次回予告
「みゆきです!ゆりさんとのバトルは結局お流れ。あーあ、決着付けたかったなー!
 でも、私達にはどーしても倒さなきゃいけないチームがあるんだ!待ってってよ、チームNERV!
 次回、スマプリガンプラビルダーズ『熱血のチームスマイル!』あかねちゃんとやよいちゃんの新ガンプラが出るよ!」

125 :ヤン [saga]:2012/10/15(月) 16:18:24.16 ID:p40GSp+d0
今回はこれで以上です。
また1月かかるかもしれません。
それでは、また。
126 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2012/10/22(月) 23:58:40.01 ID:69K4bNHJo
おつ
127 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2012/11/27(火) 22:30:01.93 ID:ujmdLlNho
ビルダーズパーツ第二弾発売記念パピコ
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