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マミ「今日も紅茶が美味しいわ」 の外伝 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/01(日) 10:54:10.82 ID:Lhi6iNH5o

魔法少女まどか☆マギカの二次創作SSスレです
下記スレの外伝です

マミ「今日も紅茶が美味しいわ」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1304834183/

これを、読まなくてもわかるかどうかは、書いた本人には意外とわからないものです
しかし読んだ方が理解しやすいのは確かでしょう

また、以下の要素を含みます

・オリジナルキャラ
・既存キャラの設定捏造、歪曲
・世界観の設定捏造、歪曲
・原作のネタバレ

また、以下の要素を含みません

・美樹さやか

それが嫌なら回れ右
あなたの戦場はここじゃない



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1333245250(SS-Wikiでのこのスレの編集者を募集中!)
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もし、探しているスレッドがパートスレッドの場合は次スレが建ってるかもしれないですよ。

旅にでんちう @ 2024/04/17(水) 20:27:26.83 ID:/EdK+WCRO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1713353246/

木曜の夜には誰もダイブせず @ 2024/04/17(水) 20:05:45.21 ID:iuZC4QbfO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aaorz/1713351945/

いろは「先輩、カフェがありますよ」【俺ガイル】 @ 2024/04/16(火) 23:54:11.88 ID:aOh6YfjJ0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713279251/

【MHW】古代樹の森で人間を拾ったんだが【SS】 @ 2024/04/16(火) 23:28:13.15 ID:dNS54ToO0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713277692/

こんな恋愛がしたい  安部菜々編 @ 2024/04/15(月) 21:12:49.25 ID:HdnryJIo0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713183168/

【安価・コンマ】力と魔法の支配する世界で【ファンタジー】Part2 @ 2024/04/14(日) 19:38:35.87 ID:kch9tJed0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713091115/

アテム「実践レベルのデッキ?」 @ 2024/04/14(日) 19:11:43.81 ID:Ix0pR4FB0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713089503/

エルヴィン「ボーナスを支給する!」 @ 2024/04/14(日) 11:41:07.59 ID:o/ZidldvO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713062467/

2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/01(日) 10:56:38.32 ID:Lhi6iNH5o

はい、というわけで皆さんご存じ「紅茶スレ」の>>1です
元スレのあとがきで述べた外伝が書き上がりましたので新しくスレを立てた次第です

実際に投下するのはもうちょっとだけもったいぶって、夜からとしますが
最終調整とかその他いろいろ、まあ諸般の事情ってことで


それと、一つ重要なこと
当SSは、正確にはそのパイロット版ですが、
去年の冬コミにSS速報が出した本に寄稿、という形で既に公開済みだったりします
が、そちらはあくまでパイロット版ですのでこれから投下するものとは内容が若干異なります
ま、知らない人の方が多いでしょうからあんま関係ないと思いますが
とにかくご了承ください
3 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/01(日) 10:57:50.84 ID:Lhi6iNH5o

ちなみにこれがそのときのトリップ
念のため

それではまた後ほど
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/01(日) 10:59:44.73 ID:6D9ebAZpo
ついにあの狂気のチベットに終止符を打つ日が来たんですね。胸熱
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/04/01(日) 13:53:01.23 ID:jFSA8oTAO
この時を待っていた
楽しみです
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/04/01(日) 14:02:52.57 ID:gkgbHE/k0
幾多のキュゥマミSSを見たがいまだにこのネタを使ったキュゥマミSSはない
パターン1
マミ「あなた誰なの?」
QB「確かに “この僕” は、三時間ほど前まで君のそばにいたのとは別の個体だよそちらは暁美ほむらに撃ち殺された」
黒い魔法少女。暁美ほむら。あの女だけは、絶対に許さない。
まどか「わたしの願いでマミさんのそばにいた子を蘇生すれば、ほむらちゃんのこと許してあげられませんか?」
マミ「今日も紅茶が美味しいわ」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1304834183/1
パターン2
QB「うううっ……マミ、どうして、死んじゃったんだよ、マミを蘇らせて欲しい」
まどか「私の願い事はマミさんの蘇生。叶えてよインキュベーター!」
こんな感じの旧QB蘇生キュゥマミ魔法少女全員生存ワルプルギス撃破誰か書いてくれたらそれはとってもうれしいなって
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/04/01(日) 14:04:05.08 ID:gkgbHE/k0
後日談の矛盾発見

さや「QBのあの言葉があったから転校生は生き延びられたんだよねぇ?」

あん「あぁ、そうだな」

さや「で、アイツがいなくなると芋づる的にまどか魔女化確定で人類滅亡なわけで」

あん「……まぁ、そうなるだろうな」

さや「つまり、世界はQBに救われたってことだね! やったね!」

ほむらが死んでもまどかが魔女がなってもどうせ 670のように世界改変が起きるから世界滅亡は起きないでしょう
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/04/01(日) 14:06:44.66 ID:gkgbHE/k0
マミ「寝てなさい。帰りに中和してあげるわ」

   使い魔の行き交う結界の中で、それまで生きていられれば、ね。」

使い魔が多くの結界の中で痲酔弾にほむらを気絶させて帰って来る途中にもし生きていたら中和してくれるというマミは行動したが魔女退治の後帰って来たがほむら が死亡していればどのようにするつもりだったろうか
間接殺人をまどかが許すと思うのか本当に馬鹿だ

どうせ紅茶は平行世界の魔手改変で死亡したほむらもまた復活するが
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/01(日) 17:25:26.40 ID:wMwJKDNpo
誰かもいってたけど馬鹿はお前だ
書いてもらったらもう病院抜け出してくるんじゃないぞ
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/04/01(日) 19:47:53.99 ID:TT9Ln+t3o
URL踏んでも読めないんだけど、パソコンなら飛べるのか?

紅茶マミ読んでないからチベットがよりキチガイに見えるんだが
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/01(日) 20:53:52.32 ID:6D9ebAZpo
>>10
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/kako/1304/13048/1304834183.html
12 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/01(日) 21:05:03.16 ID:Lhi6iNH5o
>>4
たぶんそういうことにはならないかと

>>5
どもども
待った甲斐があったと思ってもらえるよう頑張ります

>>10-11
申し訳ない
携帯で見ることは普段ないので、ちょっと自分からはなんとも



では夜になったので投下開始します

というか思った以上に遅くなってしまった
「投下は夜からと言ったな、あれは嘘だ」とかやりたかったのに
13 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/01(日) 21:06:10.74 ID:Lhi6iNH5o




14 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/01(日) 21:07:31.19 ID:Lhi6iNH5o





   「本当にいいんだね?」

   その生き物――宇宙から来たエネルギー回収員だと名乗った、ネコともウサギともつかない白い獣は、
   そう念を押してきた。

   「ええ」

   私は、即答する。

   「……」

   すると獣は沈黙する。
   いつも無表情なその顔に浮かんでいるのは、躊躇かそれとも困惑か。

   「なに? 無理なの? 今さら無理だとか言うの?」

   「……。いや、無理ということはないよ。
   君の想いは本物だ。エントロピーを凌駕して、ソウルジェムを輝かせることができるだろう」

   「じゃあ、何をそんなに渋るのよ」

   ため息を、獣は吐いた。
   仕方がないなぁ、とでも言いたげな。
   本当に感情がないのだろうか。なんだか、ぜんぜんそんな感じがしないんだけど。

   「今は問題なくても、後々のことはわからない。
   ただ、その手の即物的な願いは、モチベーションの続かなくなる恐れが大きいんだ。
   僕としては、魔法少女になるからには、できるだけ長く活動して欲しいと思う。
   そうでないと困るんだ。採算が採れなくなるからね」

   夢のない話だ。
15 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/01(日) 21:08:26.65 ID:Lhi6iNH5o

   そう思ったので、口に出してみた。

   「夢のない話ね」

   「……。そう言われると思ったから、言いたくなかったんだけどね」

   「でも、大丈夫よ。これは私の、心からの願いだから」

   「そのこと自体は疑っていないよ」

   「そして、昔からの夢でもあるわ。だから戦える。何年だって」

   「……」

   沈黙。何度目かの。

   「……」

   今度は私も黙って、その無感情な瞳を見つめ返す。瞳だけは確かに無感情だ。

   「……」

   「……」

   「わかったよ。契約しよう」

   そうしてようやく、獣は折れた。

   「よしっ」

   私は思わず、ガッツポーズ。

   「それじゃあ、これからよろしくね。―― ペーター」

   「うん、よろしく。―― ポーラ」




16 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/01(日) 21:09:25.04 ID:Lhi6iNH5o









ポーラ「それにしても、その 『ペーター』 って名前、どうにかならない?」

   「呼びにくいかい?」

ポーラ「ってゆーか、パパと同じ名前だから、ちょっと」

   「なるほど」

   「……。確か君は、祖父が日本の出身だと言っていたね」

ポーラ「おじい様? ええ、そうよ。それがどうしたの?」

   「なら、『キュゥべえ』 ではどうかな」

ポーラ「『キュゥべえ』?」

   「向こうでは主にそう名乗っているんだ。インキュベーターのキュゥべえ」

ポーラ「ふぅん……キュゥべえ。キュゥべえ、か……」

   「……」

ポーラ「いいわね、それ。それじゃあ今からそう呼ばせてもらうわ。――よろしくね、『キュゥべえ』」

QB 「うん、よろしく」




17 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/01(日) 21:09:52.87 ID:Lhi6iNH5o






                   外伝





18 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/01(日) 21:10:21.05 ID:Lhi6iNH5o





   『 魔法少女 ポーラ☆マギカ  − 世界一のテディ・ベア − 』





   ――開幕




19 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/01(日) 21:10:50.72 ID:Lhi6iNH5o




20 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/01(日) 21:12:18.89 ID:Lhi6iNH5o



   ◆

   私はポーラ。
   ポーラ=レイノルズ=クマガミ。十四歳。
   日仏米のクォーター。
   ここ、アメリカは東海岸沿いに位置するそこそこの街、ベリーズベリーを守る “魔法少女” だ。

   おっと、馬鹿にしちゃいけない。
   二十一世紀も半ばを過ぎたこの世の中にも、ちゃんと魔法は実在している。
   他ならぬ私がその証拠。
   ついでに宇宙人も実在する。

   未来人や超能力者、あとUMAなんかもいるかも知れない。特に雪男はいて欲しい。
   でも、幽霊はいなくていい。
   怖いわけじゃない。
   人と同じような姿の亡霊なんて、“こいつら” だけでたくさんだと、そいう話だ。

   というか、むしろ “こいつら” がいらない。
   というか、ってゆーか、

   こいつら、キライ!





ポーラ「で、りゃ――――あっ!!」

   気合一閃。
   前後から挟み込むように迫ってきた三匹目と四匹目を、勢いに任せて同時に斬り裂く。

   両腕を伸ばして跳躍し、回転しながら、二度、三度。
   左右の手に装着したぬいぐるみのような手袋。そこから生えた、伸縮自在の “クマの爪”。

   それらを奔らせ、着地したときには、そいつら――二体の魔獣は
   溶け崩れるように消滅していた。

   魔獣。
   名前とは裏腹に、白いローブをまとった聖職者のような姿の巨人。
   私たち魔法少女の、倒すべき敵。

   それにしてもこいつら、いつまであんな格好してるつもりなんだろう。
   もうそろそろ秋も深まりつつあるというのに寒くはないんだろうか。

   まぁ、どうだっていいんだけど。
21 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/01(日) 21:13:40.15 ID:Lhi6iNH5o

   と、気を抜きかけたところに、悪寒が走った。

ポーラ「っ……!」

   とっさに相棒を抱えて横に跳ぶ。

   あっぶな、足に掠った。
   というか、この子に当たるところだった。

ポーラ「もう! 何してくれるのよ!」

   振り向きざまに爪を伸ばして、モザイクのかかったようなその頭部を全力で刺し貫く。

ポーラ「このっ! このこのこのこのこのこのこのこのおっ!」

   さらにもう一方の手も添えて、首から胴から手足の先まで、手当たり次第に切り刻む。
   狼藉を働いた五匹目は私の鬱憤が晴れるより前に、文字通り霧散した。

ポーラ「まったく……アルフレッド、大丈夫だった?」

   改めて、傍らに浮かぶ相棒に問いかける。

アルフ「……」

   返事は、もちろんない。
   だってこの子はぬいぐるみだから。
   一般人であるおじい様から頂いた、ただのテディ・ベアだから。
   だから勝手にしゃべったり、動いたりはしない。
   こうして浮いているのも、私が魔法でそうしているだけだ。

ポーラ「でも、いいの」

   にっこりと笑って、私はその頭を――今の私とおそろいの、
   二つの丸い可愛らしい耳のついた頭を、ぽんぽんと撫でてあげる。

             プレシャス
   この子は私の、 特 別 だから。

   そばにいてくれるだけで、勇気百倍。気力モリモリ。
   世界のゆがみだか何だか知らないけれど、魔獣なんかに負けはしない。
22 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/01(日) 21:15:04.94 ID:Lhi6iNH5o

ポーラ「……っと、いけいないいけない」

   また気を抜いてしまった。
   この子が可愛すぎるから仕方がないんだけど。
   それでもまぁ、魔法少女としてやるべきことはやらないと、と、再び周囲に意識を向ける。

   が、

ポーラ「……あれ?」

   いない。

   今の狼藉者で、まだ五匹目。
   それなのに見える範囲にもうヤツラはいなかった。

ポーラ「アフルレッド?」

   相棒に聞いてみるけれど、当然反応はない。
   魔獣探知だとかそういう余計な機能を仕込んでるわけでもないし。

   仕方なく自分で瘴気を探ってみるけど、やっぱり何も感じられなかった。

ポーラ「……もう終わり?」

   首をかしげる。
   するとその疑問に答えるように、周囲の景色が数秒ぶれて、そして色彩が戻った。
   結界が、解けた。

ポーラ「……」

ポーラ「まただわ……」



   「何がだい?」



ポーラ「え?」

   突然の声に視線を上げると、すぐそこ――この屋上を取り囲う鉄柵の上に、
   白い獣がちょこんと座っていた。

ポーラ「キュゥべえ? 何よ、久しぶりじゃない」

QB 「うん。久しぶりだね、ポーラ」
23 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/01(日) 21:16:08.28 ID:Lhi6iNH5o

   そいつの名前はキュゥべえ。最初はペーターとも名乗った。
   本当の名前は 『インキュベーター』 というらしい。いや、それは役割の名前だったか。
   まぁ、なんでもいい。

   要するに、私を魔法少女にしてくれた、契約の獣だ。

   最初の数日は魔獣狩りにも付き添ってくれていたんだけど、あるとき 「もういい」 と言うと
   本当に次の日から来なくなってしまった。そういう薄情なヤツでもある。

   本人によると、『薄い』 のではなく 『無い』 のだそうだけど。

ポーラ「何の用? グリーフシードなら確かにそろそろ溜まって……って、あ」

QB 「今の魔獣が落とした分なら、僕が拾っておいたよ」

   そう言って、キュゥべえは耳から生えた耳――そうとしか言いようがない――で
   器用に握り込んでいたそれらを手渡してくれる。

ポーラ「あ、ありがと」

QB 「礼には及ばないよ。これもまた僕の役目だ」

ポーラ「そう」

   謙虚なんだかイヤミなんだか。
   まぁ、どっちでもないんだろうけど。

ポーラ「で、用は何?」

QB 「三つある。一つは君が今言いかけた、グリーフシードの回収だよ」
24 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/01(日) 21:17:06.72 ID:Lhi6iNH5o

ポーラ「今は持ってないわ。家に置いてあるから」

QB 「じゃああとで寄らせてもらうよ」

ポーラ「はいはい。で、二つ目は?」

QB 「聞きたいことがあるんだ」

ポーラ「聞きたいこと? ……それって、私にわかること?」

QB 「もちろんさ。むしろ君にしかわからないことだと思うよ。
   この街で魔獣と戦っている唯一の魔法少女である君にしか、ね」

ポーラ「……」

   それって……

QB 「……。心当たりがあるようだね」

ポーラ「……ええ」

QB 「ではやはり、減っているんだね?」

   うなずく。

   そう。
   それは正に、ついさっき思ったばかりのことだ。
25 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/01(日) 21:18:08.65 ID:Lhi6iNH5o

   魔獣の数が減っている。

   私が魔法少女になった当初は、奴らは一日にだいたい十匹ぐらい出現していた。
   あるいは、全く出ない。そのどちらかだった。

   それがここ最近、少しずつ減ってきている。
   瘴気が薄れ、一体一体の強さも明らかにレベルダウンしている。

   楽ができるといえば、そのとおりだ。
   でもその一方で、生命線であるグリーフシードが不足し始めてもいる。

   このまま減り続けて、そしてゼロになってしまったら、どうすればいのか。
   そんな不安が零れ落ちたのが、さっきの私の呟きだ。

ポーラ「……どうなるの?」

   この街は。
   家族や友人は。
   そして、私は。

   それらの意味を込めた問いに対する答えは、意外なものだった。

QB 「まず最初に言っておくよ。魔力切れの心配なら、しなくても大丈夫だ」

ポーラ「そうなの? ……どうしてわかるの?」

QB 「一言でいえば、経験則だね。
   そもそも、一定数以上の人間が住んでいる場所に魔獣が出なくなるなんてことは、
   これまでの人類の歴史上、一度も起きたことはないんだよ」

   ……それはそれで、ゾっとしない話なんだけど。
26 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/01(日) 21:19:22.07 ID:Lhi6iNH5o

ポーラ「だったら、これは一時的なことなのね?」

QB 「そうだね。でも、ことはそう単純でもないんだ。ポーラ、君は津波を知っているかい?」

ポーラ「……知ってるに決まってるじゃない。海沿い住まいを舐めないで」

QB 「これは失礼。
    しかし、なら話は早い。要するに今この街は、“引き潮” の状態にあるのさ」

ポーラ「引き潮……?」

QB 「……。津波がやってくる前には、一時的に海岸線が後退することがあるだろう?」

ポーラ「え? ……え、ええ。そうね。そうだったわね」

   やばい。知らなかった。
   海沿い住まいとはいえ実際に津波を体験したことはないのだ。

ポーラ「……って、ちょっと待って。ということはつまり――」

QB 「うん。つまり、これは前兆だよ。これから起こる、魔獣の大量発生のね。
    まさしく津波のように押し寄せてくることになるだろう」

ポーラ「……」

   ごくり。
27 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/01(日) 21:20:39.16 ID:Lhi6iNH5o

ポーラ「どうして、そんなことがわかるの?」

QB 「今回が初めてじゃないからさ。言っただろう? 経験則だって」

ポーラ「……そう」

   どうしてこう、言い回しがいちいち鬱陶しいんだか。

ポーラ「いつ来るの?」

QB 「そうだね。減少が始まったのがいつごろからかは、わかるかい?」

ポーラ「ん……たぶん、一週間前かな。十日はたってないと思う。
    “休み” の次の日って多めに出るじゃない? でもあの日は逆に少なかったから」

QB 「確かな情報のようだね。ありがたい。それなら……」

ポーラ「……」

QB 「……あと五日といったところかな」

ポーラ「五日!? そんなにすぐなの!?」

QB 「うん。そして明後日以降は通常の魔獣の出現も途絶えると思ってくれ」

ポーラ「ちょっ……!」

   なんてこと。
   それじゃあグリーフシードの貯えも満足にできないじゃないか。
28 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/01(日) 21:22:09.65 ID:Lhi6iNH5o

ポーラ「なんでもっと早く教えないのよそういうことを! 言ってくれれば節約したのに!」

QB 「これでも最速なんだよ?  この街の瘴気濃度が不自然に落ち込んでいるのに気付いてから、
    まだ丸一日もたっていないんだ」

ポーラ「っ……」

QB 「仕方がないじゃないか。彼らの動きは僕らにも把握しずらいんだよ」

ポーラ「だからって……――ああ、もうっ」

   思わず、アルフレッドを抱く手に力が入ってしまう。

   わかってる。
   仕方がない。それはそのとおりなのだろう。

   彼は嘘は言わない。
   契約によって発生するリスクについてもちゃんと説明してくれた。
   その後の私の進退についても心配してくれた。

   奇跡を起こす力を、与えてくれた。

   たとえ事務的で夢のない理由からのものだとしても、だ。
   だからこれが彼なりの最善というのも間違いないことなのだろう。

   空を罵倒したところで雨はやまない。
   それと同じだ。

   なら、私がすべきは拒絶でも否定でもない。
   納得……は、まだちょっと無理だから、とりあえず理解することなのだ。きっと。

ポーラ「わかったわ。――それで?」

QB 「うん?」

ポーラ「大量発生って、どのくらい出るの?」
29 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/01(日) 21:23:27.94 ID:Lhi6iNH5o

   百や二百で済んでくれるならまだなんとかなる気もするけど、
   もし千とか一万とか言われた日には……どうしよう。逃げちゃおっかな。

QB 「それは、この街の人口によるね」

ポーラ「はい? ……ああ、比例するってことね。
    えーっと確か、前に学校で習ったのは…………十七万人、ぐらいだったかしら」

QB 「じゃあ、十七万匹だ」

ポーラ「……」



   え?



ポーラ「え? ごめん、よく聞こえなかった。何匹って?」

QB 「だから、十七万匹だよ」

   えっと……?

QB 「……。君たちは本当に、いつも同じ反応をするよね」

ポーラ「――いやいやいやいや。ちょっと待ってよ。十七万って、それ今私が言った数字じゃない」

QB 「それがこの街の人口なんだろう?」

ポーラ「そう、だけど。でも」

   混乱する私をよそに、彼は涼しい顔で言葉を繋ぐ。

QB 「一定の範囲内に、そこにいる人間と同じ数の魔獣が出現する――」

QB 「それがこの、“ワルプルギスの夜” と呼ばれる現象なんだよ」
30 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/01(日) 21:24:31.32 ID:Lhi6iNH5o

ポーラ「ワル……なに?」

QB 「『ワルプルギスの夜』。ヨーロッパで広く行われているお祭りにちなんで、そう名付けられた。
    この現象が初めて観測されたのが東欧のとある街でね。
    あるいは、その街の名を借りて “ワラキアの夜” と呼ぶこともあるかな」

   名前なんかどうでもいい。

ポーラ「な、何かの間違いっていうことはないの? どうしてそんなのが、この街に……」

QB 「……。残念ながら、間違いないよ。
    観測されたあらゆるデータが、“ワルプルギスの夜” 到来を示している」

QB 「どうしてこの街なのか、そもそもなぜ起こるのかについては、 悪いけど僕にはわからない」

QB 「魔獣には魔獣なりの理由や必然性があるのかも知れないけどね。
    彼らとコミュニケーションを取ることにはまだ一度も成功していないから、わからない」

   コミュニケーションって、そんなの無理に決まってるじゃない。

ポーラ「……」

ポーラ「……要するに、運が悪かったと、そういうことね」

   どうしよう?

   やっぱり逃げるしかないかな。
   家族や友達を連れ出すのは、魔法でどうにかできるだろうし……

QB 「いいや、違うよ」

ポーラ「え?」
31 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/01(日) 21:26:00.37 ID:Lhi6iNH5o

QB 「君はむしろ運がいい方だ。君やこの街の住人はね」

ポーラ「はぁ……?」

   意味のわからないことを言うキュゥべえは、まるで明後日の方角を向いていた。

QB 「来たよ」

ポーラ「きた?」

   私もそちらに目を向ける。

   すると――夜空のかなたに、何か白いものが小さく見えた。

   鳥……じゃない。飛行機でもない。
   こちらに近付いてきているけど、音が全然しないし、それに速すぎる。

   それは見る間に大きくなって、数秒後にはもう街の上空にまで到達していた。

ポーラ「……!?」

   そしてそのまま、一旦私たちの真上を通りすぎ、
   優雅に旋回しながら再び近付いてくる。

   ようやく、はっきりと見えた。

   人だ。

   それは、人だった。

   大きくて真っ白な翼を背に生やした、長い黒髪の女性。

   そしてその傍らに、何か大ぶりな棒のようなものに腰かけた体勢で宙を滑る、こちらは金髪の女性。

ポーラ「魔法……少女?」

QB 「ああ」

   心なしか誇らしげに、キュゥべえがうなずく。

   そして二人は、静かに優雅に、屋上に舞い降りた。



   私が魔法少女になって、二ヶ月目の夜のことだった。




32 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/01(日) 21:27:14.23 ID:Lhi6iNH5o



   ◆

   私はポーラ。
   ポーラ=レイノルズ=クマガミ。

   これは、私の物語。

   私と、アイツと、それとあと何人かの魔法少女による、

   この日からあの夜までの、物語。




33 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/01(日) 21:31:06.47 ID:Lhi6iNH5o



はい、というわけでそんなわけで、ひとまずここまです

杏子の話じゃなかったのかよと思われるかもしれませんが、
すまんありゃ嘘だった
基本的にオリキャラが語り部を務めるオリキャラ祭になりますんで、
苦手な人は今のうちに退避してくださいな

ではまた
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/04/01(日) 21:34:40.67 ID:jFSA8oTAO
これはこれで期待
読みやすくていいです
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/04/02(月) 03:10:30.74 ID:aqDc6COio
また巡回するスレが増えてしまったか……続きが待ち遠しい
ポーラちゃんって最終回でチラッと出てきた子がモデルだろうか
36 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/02(月) 22:11:30.06 ID:X4rBSSVso

通称クマ子ちゃんですな
ええ、モデルです
モデルなだけで、別人です
そういうことにしておかないと怒られそう

再開します
37 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/02(月) 22:12:51.87 ID:X4rBSSVso



   ◆

   黒髪の女性が優雅な手つきでその髪を払うと、白い翼が、風に散らされる雲のように
   どこへともなく消え失せた。

   ちょっとびっくりするぐらいの美人さんだった。
   直線と鋭角で構成されたモノクロの衣装に、氷像を思わせる静謐な立ち姿。
   ただ、その髪に結えられた赤いリボンだけが、どことなく浮いた感じ。

   金の巻き毛をしたもう一人の人は、その腰かけていた棒状は、
   ロングバレルのマスケットライフルだった。

   しかし物騒な武器とは裏腹に、コルセットや羽付き帽といったクラシカルな装いは
   黒髪のほうとはまた一味違った落ち着きを感じさせる。
   端的にいえば、優しそう。
   背丈もこちらの方が少し低い。私と同じぐらいか。

   そして何故か、キュゥべえによく似た――というかどう見ても同じ――生き物を
   肩に乗せている。

   まぁ、彼にも同族ぐらいいるか。魔法少女は世界中にいるらしいし。

   というか、そういえば同業者を見るのはこれが初めてだ。
38 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/02(月) 22:14:33.47 ID:X4rBSSVso

   それはそれとして、えーっと。

黒髪「……」

金髪「……」

   どうすれば。

QB 「彼女たちは助っ人だよ」

   戸惑っているところに、キュゥべえが口を開いた。

ポーラ「助っ人?」

QB 「“ワルプルギスの夜” に対抗するためのね。つまりこれが、用件の三つ目さ」

ポーラ「……」

   ああ、そういえばそうでしたね。

ポーラ「まったく……それならそうと早く言ってよ」

QB 「最初に言ったじゃないか。用件は三つあるって」

   そうだけど。

黒髪「……また何か、回りくどい言い方をしたみたいね」

   黒髪の人が呟くように言った。
   よく言ってくれた、って感じだ。

QB 「順を追って説明しようとしただけだよ。
    まずは “ワルプルギスの夜” について理解してもらわないと、話が始まらないだろう?」

   一方で、こいつはほんとに。ああ言えばこう言うんだから。

   言われた彼女も目を閉じて軽くため息をついている。
   この人もキュゥべえには手を焼いているのだろうか。なんだか親近感。
39 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/02(月) 22:16:06.62 ID:X4rBSSVso

QB 「では紹介しよう。まず今喋った方が、暁美ほむら」

ほむら「……はじめまして」 ファサ

   言われたホムラさんとやらは、視線を脇に流すと再び髪を払った。
   あいさつの場でする仕草じゃない、と思ったけど、腹は立たなかった。

   たぶん、それどころじゃなかったから。

QB 「もう一人が、巴マミだ」

マミ 「はじめまして。あなたが、ミス・レイノルズ?」

   綺麗な発音の英語とともに、そのマミさんが微笑みかけてくる。

ポーラ「……っ」

   なんだろう。こっちもだ。
   優しい印象はそのままで、別に威圧とかされたわけでもないのに、なんとなく気圧された。

   よくわからないけど……たぶんこの人、すごく強い。

マミ 「……どうしたの?」

ポーラ「ッ……! い、いえっ。なんでもっ」

ポーラ「それと――そうです。ポーラ。ポーラ=レイノルズ=クマガミ。この街の魔法少女です」

   思わず丁寧語で返してしまった。

   いや、でもまぁ、年上っぽいし。別にいいか。

マミ 「『クマガミ』?」

ポーラ「祖父が、日本人で」

マミ 「へぇ、そうなの。私も暁美さんも、日本人なのよ。よろしくね」

ほむら「よろしく」

   にっこりと笑うマミさんに続いて、ホムラさんも会釈をくれる。

ポーラ「は、はい。よろしくお願いします……」

   うぅ……こっちもやっぱり強そう。緊張する。

   アルフレッドを強く抱きしめた。
40 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/02(月) 22:17:11.23 ID:X4rBSSVso

マミ 「あら。それ……」

ポーラ「え?」

マミ 「……可愛らしい子を連れているわね。あなたの?」

   身を乗り出してマミさんが聞いてくる。
   その視線は私の胸元――腕の中に抱きかかえられた相棒に注がれていた。

ポーラ「……!」

   キタ。
   心の中でガッツポーズ。自然と笑みが浮かぶ。

   見るとホムラさんもそれとなく、だけど間違いなく、この子に意識を向けている。

   やっぱりだ。
   当然だ。
   圧されかけていた気持ちが浮きあがる。

ポーラ「はいっ。私の相棒、アルフレッドですっ」

マミ 「へぇ……男の子なのね」

ほむら「……」

ポーラ「ええ。――さ、アルフレッド? ご挨拶は?」

   腕を広げ、解き放つ。
   するとアルフレッドは、もちろん地面に落ちることなんかなく、ふわりと浮かびあがった。
   二人に向かってペコリと頭を下げる。
41 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/02(月) 22:18:04.68 ID:X4rBSSVso

マミ 「まぁ……」

   マミさんの目が輝いた。
   さらに、思わずといった感じに手を伸ばしてきた。

   だけど残念。
   アルフレッドは、ぴゃっと跳びのくと、そのまま私の後ろに隠れてしまった。

マミ 「あぁ……」

   切なそうなマミさんの声。
   ホムラさんも目を細めていて、たぶんきっと残念がっている。

ポーラ「ごめんなさい。この子、私にしか懐かないんです」

   なんちゃって。
   彼に自我なんてない。私が魔法で操っただけだ。この人たちにもそこはバレてるだろう。

   重要なのは、その上でこの反応だということ。

   流石はマイプレシャス。
   全ての人を魅了する、世界一のテディ・ベア。

   どれだけ強力な魔法少女か知らないけれど、この子の前ではこんなものよね。



ほむら「……良い腕ね」



   ほむらさんが呟いた。

ポーラ「……」



   うん?


42 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/02(月) 22:19:11.53 ID:X4rBSSVso

ほむら「魅了の魔法でしょう? かなり強力だわ。二ヶ月目の新人とは思えないぐらい」

ポーラ「え……」

   引き続き目を細めながら、まるでなんでもないように。

マミ 「ちょっと……野暮よ、暁美さん。種明かしなんて」

   たしなめるように言うマミさんにも、驚いている様子はない。

ポーラ「な、ななな……」

   うそ。
   なんで?
   私のアルフレッドが、効いてないっていうの?

ポーラ「……ちょっとキュゥべえ、どういうことよ!」

QB 「……。無理もないよ。二人とも、現役ではもちろん、歴代においてさえ最高クラスの
   魔法少女だからね」

ポーラ「だからって!」

QB 「術の効果そのものは受けているはずだよ。――だろう?」

ほむら「……そうね」

マミ「ええ。種がわかっていてなお、惹かれてしまうもの」

ポーラ「……」

マミ 「けれどこれだけの強制力ということは、もしかしてあなたの祈りって……」

   そんなことまで。
43 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/02(月) 22:20:35.94 ID:X4rBSSVso

ポーラ「……」

   彼女たちの得体の知れない大きさに、再び圧されかけて、

ポーラ「……そうよ」

   だけど私は、胸を張る。

ポーラ「『全ての人を魅了する、世界一のテディ・ベア』」
                       . .. ...
ポーラ「おじい様から頂いたこの子を、そういうものに生まれ変わらせること。それが私の願い。私の祈り」

   半分ぐらいはやけっぱちで。
   残りの半分は、誇りを持って。

   あるいは単純に、言いたかっただけなのだ。
   これまで誰にも言うことのできなかった真実を、自慢したかっただけなのだ。

   だって私は、一つの後悔もしていないのだから。

マミ 「……」

ほむら「……」

ポーラ「……何か、文句ありますか?」

マミ 「……。いいえ」

ほむら「ええ、ないわ」

ほむら「あなたはそのために魂まで差し出している。それほどの想いを否定する資格なんて、
     誰にだってありはしない」

マミ 「そういうことね」

ポーラ「……」

ほむら「さっきは術に飲まれまいと反射的に抵抗してしまったけれど、
     あなたのプライドを傷つけるつもりはなかったのよ。ごめんなさい」

   ホムラさんは、そう言って謝って、軽くだけど頭まで下げてくれた。
   悪い人ではない、のだろう。きっと。二人とも。

   なら、いいか。

   うん。いいや。

   そんなことよりも、最強の魔法少女だという彼女たちにもアルフレッドの魅力が通用したということを、
   素直に誇ろう。
44 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/02(月) 22:21:55.18 ID:X4rBSSVso

QB 「……。話を戻していいかい?」

ポーラ「え? ……あ、うん。なんだっけ。ナントカの夜?」

QB 「“ワルプルギスの夜” だよ」

   名前なんかどうだっていいじゃない。

ポーラ「ってゆーか、待って。本当にそんなに出るの? 十七万も?」

QB 「出るよ。ワルプルギスの夜に現れる魔獣の数は、常にその地の人口と同数だ。
    ただし自意識の芽生えていない乳幼児は除外されるから、多少は少なめになるけどね」

ポーラ「……」 チラ

マミ「……ええ、間違いないわ。私も暁美さんも、実際にあの “夜” を体験したから」

ポーラ「そう、ですか……」

QB 「そうさ」

   なんでそこで胸を張るんだ。

QB 「ポーラ。さっきも言ったけど、君は、そしてこの街の住人は運がいい」

ポーラ「は?」

QB 「彼女たちは、マミが言った通り、四十二年前に日本で起きたワルプルギスの夜を実際に体験し、
    そして乗り越えた三人のうちの二人なのさ」

ポーラ「え……?」

QB 「さらに、残りの一人も来ると約束してくれた。
    これほどの態勢で “あの夜” を迎えられるのは、めったにないことだよ」

ポーラ「……」

   いや、うん。
   それは、まぁ、ありがたいことではあるんだろうけど、そんなことよりも。

ポーラ「……『四十二年前』?」
45 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/02(月) 22:22:50.14 ID:X4rBSSVso

QB 「うん。だいたいそれぐらいの周期で起きるんだ」

ポーラ「いやいやそうじゃなくて……」 チラ

マミ 「……」

ほむら「……」

ポーラ「……四十歳?」

マミ 「……えっと……」

ほむら「五十六歳よ。彼女は五十七」

   ええええええええええええええええー?

   嘘でしょう? 二人ともどう見ても十代じゃない。

ポーラ「……ほんとに?」

ほむら「ええ」

ポーラ「ちょ、ちょっと待ってよ。ということは――ねえ、キュゥべえ。
    だったら魔法少女って年を取らないってこと? そんなの聞いてないんだけど」

QB 「いいや、普通はちゃんと年を取るよ。そうならないようにもできるというだけさ」

ポーラ「なんで言わないのよっ」

QB 「必要ないからね。ほとんどの魔法少女はそこまで長く生きられないんだ」

ポーラ「……」

   ああ、そういえばそんなことも言ってたわね。契約のときに。

   まったく。
   こいつと話していると自分がとんでもない馬鹿に思えて、嫌になる。

ポーラ「それでも、そういうことはちゃんと言っておいてよ」

QB 「すまなかったね」

ポーラ「……気持ちがこもってないわ」

QB 「無いものは込められないよ」

   このやろう。
46 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/02(月) 22:23:47.84 ID:X4rBSSVso

QB 「ともかく、僕としては伝えるべきことは全て伝えたつもりだよ。
   不安が残っているなら僕よりも彼女たちに聞いた方がいい」

QB 「本当ならもっと早くにそうしたかったし、それが通例でもあるんだけど、
   残念ながらこの近くには他の魔法少女がいなかったからね」

QB 「――頼めるかい、二人とも?」

ほむら「……」 チラ

マミ 「……」

ほむら「フゥ……」

ポーラ「……?」

ほむら「構わないけれど、彼女の教師役なら私たちよりも杏子の方が向いてるんじゃないかしら」

   『キョウコ』?

QB 「ふむ……彼女にはもう何人か弟子がいたはずだけど」

ほむら「問題ないでしょう」

QB 「……」

ほむら「そもそも、それよりも、まだ肝心なことを聞いていないわ」

QB 「うん?」

ほむら「ポーラ=レイノルズ」

ポーラ「え? 私?」
47 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/02(月) 22:24:44.57 ID:X4rBSSVso

ほむら「ええ。まだあなたの意思を確認していない」

ポーラ「イシ……?」

ほむら「そうよ」

ほむら「戦うのか、それとも戦わないのか。それを聞かせて」

ポーラ「へ……?」

   えっと……

   戦うか、戦わないか……?
   それは、つまり……

ポーラ「……足手まとい、ってことですか?」

ほむら「……。否定はしないわ」

マミ 「暁美さん……」

ほむら「けど、少し飛躍のしすぎね」

ほむら「何しろ敵の数が数だから、戦力は一人でも多く欲しい。
     戦場も街全体と広いから連携を気にする必要もあまりない」

ほむら「ただ、やはり敵の数が数だから、恐ろしく過酷な戦いになる。地獄を見ることになるわ」

ポーラ「……」

ほむら「回避する選択肢も与えられて当然だと、そう思うだけよ」

ポーラ「……」
48 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/02(月) 22:25:40.64 ID:X4rBSSVso

   気を使ってくれてる、んだろうな。

   一人でも多くって言うけど、本当に一人増えたぐらいじゃ大して変わらないだろうし。
   なんだか逆に私の方が手伝うみたいなニュアンスになってるし。

   なるほど、日本人だ。
   おじい様とよく似てる。

マミ 「……別に、今すぐ決める必要はないわよ?」

ほむら「そうね。でも当日までには必ず決めてちょうだい」

ポーラ「一つ聞いていですか?」

ほむら「……。何かしら」

ポーラ「あなたたちは、なんで逃げなかったんですか?」




49 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/02(月) 22:26:38.02 ID:X4rBSSVso



   ◆

マミ 「……エアレールが多いわね」

ほむら「最近はどこでもそうよ。新しい街は特に」

   ポーラと別れ、マミとほむらは再び空にいた。
   ベリーズベリーの街を上から観察しながら、ゆっくりと回遊している。
   地形を見ているのだ。

マミ 「まったく……空中に線路なんて走らせて、何の意味があるのかしら」

ほむら「さぁね。でも、あなた好みではなかったの?」

マミ 「もうそういうのは卒業したわ。射線が通らなくなるからキライよ」

ほむら「大して変わってないように見えるけど」

マミ 「人のこと言えるの?」

ほむら「……」

マミ 「そのリボン、まさかまだ着けてるとは思わなかったわ」

ほむら「……私がこれを外すのは、死ぬときよ」

マミ 「ほら、変わってない」
50 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/02(月) 22:27:47.38 ID:X4rBSSVso

ほむら「そういうあなたこそ」

マミ 「ん……?」

ほむら「“そいつ” 以外のインキュベーターとは口を聞こうとしないじゃない、相変わらず」

マミ 「……」

ほむら「目を合わそうとさえしなかったわよね」

マミ 「……いいじゃない、別に」

QB 「いや、良くはないよ」

マミ 「ちょっと、あなたまで……」

QB 「この僕にこだわるのは構わないよ。
    君たち人類にそういう傾向があることはわかっているからね。……理解はできないけど」

QB 「しかし他の個体を拒絶するのは、できればやめてもらいたいな」

マミ 「……」

QB 「緊急時の意思疎通に支障が出る恐れがある。マミの唯一といっていい欠点だよ」

マミ 「……。考えておくわ」

QB 「フゥ……そう願うよ」

ほむら「……まぁ、今さら急にどうこうできることでもないわね。私が言えた義理でもないし」

QB 「そうだね、暁美ほむら。君ともそろそろ、気安く名前を呼び合えるようになりたいところだ」

ほむら「お断りよ」

ほむら「……それに、そういう意味じゃないわ」

QB 「うん?」

マミ 「……?」
51 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/02(月) 22:29:29.45 ID:X4rBSSVso

ほむら「そんなことより……マミ。あなたは、どう見る?」

マミ 「え? ……ああ、ミス・レイノルズ?」

ほむら「ええ」

マミ 「そうね……」

ほむら「……」

マミ 「……強いわ」

QB 「ほぅ」

マミ 「願いの内容や、二ヶ月というキャリアの浅さの割には、魔力が濃く大きい」

マミ 「あと、基礎的な身体能力も高そうね。
    筋肉のつき方や重心の取り方から見て、何か格闘技でも習ってたんじゃないかしら」

ほむら「……おおむね同感ね。けど、あの願いならむしろ強くて当然よ」

マミ 「あら、どうして?」

ほむら「誰をも魅了する存在――それはつまり、
     世界中の人間の意識に影響を与える可能性を秘めているということ」

マミ 「あぁ……」

ほむら「相当の因果を抱えていると見るべきでしょうね」

QB 「流石だね、二人とも。正解だよ」

QB 「ポーラは五歳のころから空手を習っていたそうだ。そしてほむらの言うとおり、」

ほむら「……」 ピク

QB 「……。暁美ほむらの言うとおり、願いによって背負う因果を増大させている」

マミ 「つまり、佐倉さんと同じパターンね」

QB 「そうなるね。指導役に彼女を推したのはそのためかい?」

ほむら「それもあるわね。けれどそれよりも単純に、近付きたくなかったのよ」
52 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/02(月) 22:30:38.69 ID:X4rBSSVso

マミ 「……」

QB 「珍しいことを言うね。ポーラの何が気に入らないんだい?」

ほむら「好き嫌いじゃない。ただ彼女は……歪だわ」

QB 「イビツ?」

マミ 「……それは私も感じたわ。
   未熟さゆえの不安定さとも違う、もっと根本的にアンバランスな印象を」

QB 「ふぅん?」

マミ 「上手くはいえないんだけど……心の闇、というのとも違う、何かを……」

ほむら「難しく考える必要はないわ。見たままよ」

マミ 「見たまま?」

ほむら「ええ」

ほむら「魔法少女になるということは、魂を差し出し、人であることを辞め、
     終わりのない戦いの運命に身を投じるということ」

ほむら「彼女はそれを、ヌイグルミ一つのために選んだ」

ほむら「どう考えてもまともじゃないわ。少なくとも私には理解できない」

マミ 「……」

QB 「否定はしないんじゃなかったのかい?」

ほむら「しないわよ、否定はね。理解できないだけ」

QB 「……」

マミ 「なるほど、ね……」
53 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/02(月) 22:31:45.21 ID:X4rBSSVso

ほむら「……爪使いは愛に狂ってないといけない決まりでもあるのかしらね」

QB 「そんな決まりはないけど……」

マミ 「爪って?」

ほむら「彼女の手袋を見たでしょう?」

マミ 「あぁ……やっぱりアレが彼女の武器なの?」

ほむら「恐らくね」

QB 「そんなことまで、よくわかるね」

ほむら「慣れよ」

マミ 「確かに……大勢見てきたものね」

QB 「ふむ」

マミ 「けど、爪使いというのは見たことがないわね」

ほむら「……。そう」

マミ 「暁美さんが会ったのは、どんな子だったの?」

ほむら「一言でいって、狂人だったわ。
     相手のためなら同族殺しも、自分が死ぬことすら厭わなかった」

マミ 「……」

ほむら「知っている? 愛は無限に有限なのだそうよ?」

マミ 「……ごめんなさい。言っている意味がわからないわ」

ほむら「でしょうね。私もよ」

QB (……そんな子なんていたかな?)
54 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/02(月) 22:32:55.95 ID:X4rBSSVso

ほむら「ポーラ=レイノルズは、あの少女と同じ目をしていた。
     どうやら本気で愛しているのでしょうね、あのアルフレッドとかいうヌイグルミを」

マミ 「……彼女自身も魅了の魔術にかかっている可能性は?」

ほむら「だとしても、それに気付いていないはずがない。
     普通の感覚なら虚しさに耐えられなくなるはずよ」

QB 「わかるよ。似たような願いで契約した子は過去にもそこそこの数がいたけど、
    モチベーションが続かなくなることがほとんどだった」

QB 「そういう意味では、ポーラが例外的な存在だということは理解できなくもない」

マミ 「悪い子だとは思わないんだけどね……」

ほむら「それは認めるわ。戦力としても、きっと頼りになるでしょう」

ほむら「しかし、いったい何を考えているのやら……魔法というものに対する考え方が
     根本から違っているのかしらね」

QB 「最近の若い者は、という感覚かな?」

ほむら「……」 ギロリ

QB 「おっと、失礼」

ほむら「……気をつけなさい。その個体でなければ射殺していたところよ」

マミ 「そうよ、キュウべえ。今のは酷いわ」

QB 「悪かったよ」

マミ 「ハァ……いっそのこと、あと五十年ほど早く歳をとりたいところよね」

ほむら「……何を言い出すのよ」

マミ 「だって、『魔法少女、五十歳』 なら変な人だけど、百歳なら逆に格好いいじゃない?」

ほむら「……ちっとも卒業してないじゃない」




55 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/02(月) 22:34:23.60 ID:X4rBSSVso



   ◆

ポーラ「はい、グリーフシード」 ザラザラザラザラザラ

QB 「思ったより少ないね」

ポーラ「あー……、たまにね、さっきみたいに拾うのを忘れちゃうときがあって」

QB 「……」 パクパクパクン

QB 「それは困るね。理解しているのかい? これらは君たち魔法少女の生命線なんだよ?」

ポーラ「わ、わかってるわよ。たまによたまに。たまにちょっと、うっかりしちゃうだけ」

QB 「今後は気を付けて欲しいね」 パクパクパクン

ポーラ「わかってるってば」

QB 「……」 パクパクパクン

ポーラ「……」

QB 「――きゅっぷい」

ポーラ「……ねえ、キュゥべえ」

QB 「なんだい?」

ポーラ「このグリーフシードって、放っておいたらどうなっちゃうの?」

QB 「……。別にどうにもならないよ。誰かが触らなければ何百年でもずっとそのままさ」

ポーラ「なんびゃくっ?」

QB 「うん。実際にそういう実験をしたことがあるから間違いないよ。
    放置すればどうなるのか、とね」

QB 「コレは、人の生命力から生成されたとは思えないほど冷たく安定している。
    かつてある少女は言ったよ。『まるで死者の魂のようだ』 とね」

ポーラ「生命……って、そっか。あいつらって人の生気を吸うんだったわね」

QB 「あるいは、『世界から定義するのを忘れ去られているかのよう』 と言った子もいた」

ポーラ「ふーん……」
56 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/02(月) 22:35:34.40 ID:X4rBSSVso

ポーラ「まぁ、つまり放置しといても問題ないってことね」

QB 「……。危険がないという意味ではそうだけど、もったいないじゃないか」

ポーラ「むぅ……わかったわよ。回収し忘れたのは今度探してみるわ」

QB 「それは無駄だと思うよ」

ポーラ「え、どうして?」

QB 「魔獣に回収されてしまっただろうからさ。そこらに落としたままにしていたならね」

ポーラ「そうなの?」

QB 「うん」

ポーラ「あいつらが持ってってどうするの? いやまぁ、もともとあいつらが落としたものだけど」

QB 「さあ? それは、彼らに聞いてみたいことには」

ポーラ「……あっそ」

ポーラ「ハァ……でも、そっか。もったいないことしちゃったなぁ。せめてもっと節約するんだった。
    そうすれば…… “ワルプルギス” だっけ。ちゃんと備えられたのに」

QB 「力が及ばなくて悪かったね。もっと早くに教えられていればと思うよ」

ポーラ「いいわよ別に。最速だったんでしょ」

QB 「まぁね」

ポーラ「……」

QB 「……」

ポーラ「ねぇ」

QB 「なんだい?」

ポーラ「あの人たちの言ったこと、どう思う?」

QB 「マミとほむらのことかな。どの言葉についてだい?」

ポーラ「最後のよ。私が最後にした質問の、答え」




57 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/02(月) 22:36:28.48 ID:X4rBSSVso





   『あなたたちは、なんで逃げなかったんですか?』

マミ 『……それは、今回を? それとも四十年前のこと?』

   『……できれば、両方』

マミ 『わかったわ。……そうねぇ』

マミ 『四十年前は、そこが私の居場所だったから。
    大切で、大好きな、生まれ育った街を、絶対に守りたかったから』

   『……それだけ?』

マミ 『ええ。ちなみに、今もその街に住んでるわ』

   『今もって……ずっと?』

マミ 『意外とどうにかなるものよ?』

   『……』

マミ 『そして――だけど、あのときは守り切れなかった。大勢の犠牲者を出してしまった』

マミ 『だから今度こそは、というのが今回の理由』

ほむら『だいたい同じね。私にとっては生まれ故郷ではなかったけれど』

   『……』

マミ 『参考になったかしら?』




58 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/02(月) 22:37:18.81 ID:X4rBSSVso





ポーラ「どう思う?」

QB 「……。嘘は言っていなかっただろうね」

ポーラ「……は?」

QB 「普段の言動や当時の状況との矛盾もないし、
    それに二人とも事実を曲げて話すことはほとんどしない性格だし」

ポーラ「いやいやそうじゃなくて。感想はないの?」

QB 「……。あの二人らしいと思う」

ポーラ「だからそうじゃなくて! もっとこう……立派だとか、愚かだとか、正しいとか間違ってるとか、
    そういうのを聞いてるの!」

QB 「……」

ポーラ「どうなの?」

QB 「……。判断材料が欲しいのかい? 自分が戦うべきかどうかの」

ポーラ「……質問に質問を返さないで」

QB 「これは失礼」

QB 「しかしそういうことなら……そうだなぁ。立派な考えなんじゃないかな」

ポーラ「……」
59 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/02(月) 22:39:10.24 ID:X4rBSSVso

QB 「うん。彼女たちは立派に有言実行してくれた。
    守り切れなかったなんてマミは言ったけど、僕から見れば十分に勝利だよ。
    あの街が今でも街としてしっかり機能しているのがその証拠さ」

ポーラ「……犠牲って、どのぐらい出たの?」

QB 「死者は七十四人。廃人と化したのは四三〇五人だね」

ポーラ「ッ!? 大災害じゃない……!」

QB 「全体のほんの三パーセントさ。つまり九十七パーセントは守られた。
    十分な戦果なんじゃないかな」

QB 「もっとも世間的には 『史上最大規模の災害』、なんて言われてたりするけどね。
    ちなみに表向きには毒ガス事件として扱われている。
    街の地下に眠っていたガスが何らかの理由で噴き出した、と」

ポーラ「……」

ポーラ「……そんなものに、たった二人で挑んだっていうの?」

QB 「挑んだ結果、そうなったのさ。それに二人じゃない。全部で五人いた」

ポーラ「そうなの? 残りの三人は?」

QB 「一人はマミとほむらと共に生き延びて、今も生きている。
    これは既に言ったと思うけどね。生還したのは三人だったって」

   ……そういえば、そんなこと言ってたかも。

ポーラ「じゃあ、あとの二人は?」

QB 「途中で戦線を離脱した。そういう意味では生き延びたけど、
    この四十二年の間に死んでしまったよ」
60 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/02(月) 22:40:39.02 ID:X4rBSSVso

ポーラ「……皮肉な話ね」

QB 「……。ふむ」

QB 「そうだね。僕も当時は、逃げた二人が賢明で、マミたちこそ愚かだと思ったよ。
    マミもほむらも当時で既に現役最強クラスの魔法少女だったけど、
    それでも無謀としか思えなかった」

ポーラ「……止めなかったの?」

QB 「もちろん止めたさ。逃げるように言ったよ。けど、聞き入れてもらえなかった。
    理由は、さっき君も聞いたとおりだ」

ポーラ「……街を守るため?」

QB 「うん」

ポーラ「……」

QB 「理解できないかい?」

ポーラ「そうは言わないわ。ただ……」

QB 「ただ?」

ポーラ「……」

ポーラ「……なんでもない」

QB 「そうかい」

ポーラ「ええ……」

   そう。

   理解できないわけじゃない。
   ただ、信じられないだけだ。

   そんな “正義の味方” みたいなのが、本当にいるなんてことが。

   ただ、それだけ。






61 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/02(月) 22:41:55.06 ID:X4rBSSVso



今日はここまで

そんなわけで、このポーラさんはちょっと頭のおかしな子でした
というかソウルジェム=魂がケモノのカタチをしてるような奴がまともな人間なワケがない
62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/02(月) 23:06:19.52 ID:sXdYwiF00
乙ですたー!
魂が獣の形をしていると聞くと、国内外のその手の伝説やら民話やらが脳裏をよぎる。
苗字もクマガミだしなぁ・・・・・・
次回も楽しみにさせていただきます。
63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/04/03(火) 01:44:21.77 ID:K9t2IteAO
ほむらとマミさんのやり取りに感涙
64 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/03(火) 21:31:05.45 ID:I5kVwxtvo

再開

今回はオリキャラがさらに二人追加
モデルは特にいません
65 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/03(火) 21:31:59.08 ID:I5kVwxtvo



   ◆

   翌日。
   ベリーズベリー中央駅。

   街中に張り巡らされたエアレールの集約点であり、
   外部との数少ない接続点の一つでもあるこの大型ターミナルに、私は来ていた。

   夕刻。
   中央ゲート前。
   足元にはキュゥべえ。
   そして腕の中にはもちろん、アルフレッド。今日も絶好調に愛らしい。
   行き交う人たちから向けられる羨望の眼差しが心地よい。



ポーラ「〜♪」

QB 「……。それにしても、」

ポーラ「ん?」

   ……おっと、いけない。

ポーラ《なに?》

QB 「君は本当にその人形が好きなんだね」

ポーラ《テディ・ベアよ。人形じゃないわ。間違えないで》

QB 「これは失礼」

ポーラ《フン》

ポーラ《……好きに決まってるじゃない。何を今さら言ってるのよ》

QB 「……。そうかい」
66 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/03(火) 21:33:01.50 ID:I5kVwxtvo

ポーラ《なによ? 言いたいことがあるなら言えば?》

QB 「大したことじゃないさ。君がいいならそれでいいんだ。
    実際に君は、モチベーションを下げることなく戦い続けてくれているしね」

ポーラ《……つまり、飽きるんじゃないかって?
    そういえば契約するときにそんなこと言ってたわね》

QB 「うん」

ポーラ《飽きるわけないじゃない。こんなに可愛いんだから》

QB 「そうかい」

ポーラ《あ、でも……》

QB 「うん?」

ポーラ《あんたに対する感謝の気持ちとかのほうは、だいぶ薄れちゃってるかもね》

QB 「……。問題ないよ。魔獣退治さえ続けてくれるのなら、ね」

ポーラ《それは、もちろん続けるわよ。死にたくなんかないし》

QB 「そうかい。それなら、いいんだ」

ポーラ《そう》

QB 「……」

ポーラ「……」

ポーラ「〜♪」




67 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/03(火) 21:34:34.31 ID:I5kVwxtvo





   そうして、待つこと十数分。

QB 「――来たよ」

   おもむろにキュゥべえが声を挙げた。
   ゲートの方に目を向ける。

   一目でわかった。

ポーラ《あの人たち?》

QB 「うん」

   東洋人が二人に、黒人が一人。
   私と同年代……に見える女の子の団体は他にいないから、間違えようもなかった。
   向こうもこっちに気付いたようだ。

   「よぉ、キュゥべえ。……で、いいのかい?」

   先頭を歩く赤毛の少女が口を開いた。ややブロウクンながら慣れた感じの英語。

QB 「うん、それでいいよ。よく来てくれたね、杏子」

   キョーコ。
   この人がそうか。“前回” を乗り越え生き残った最後の一人。

   腰まで伸びた長い髪をポニーテールにまとめた、どこか野性味を感じさせる人だった。
   フルジップのパーカーにショートパンツ。首には旧式のヘッドホンをかけている。

   なるほど、確かに強そうかも。昨夜の二人と比べると若干見劣りするけども。

杏子「ま、“ワルプルギスの夜” とあっちゃぁね。無視するわけにもいかないさ」 モグモグ

   しかし人と話すのにホットドッグをかじりながらというのはどうなんだ。
68 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/03(火) 21:35:53.55 ID:I5kVwxtvo

QB 「ライラとミンカも、長旅ご苦労さま」

ライラ 「問題ない」

ミンカ 「う、うん。役目だもんね。魔法少女の」

   ちょ。
   こんな人前で魔法少女とか言わないでよ。

杏子「来なくていいっつったんだけどなぁ」 モグモグ

   てか三人ともキュゥべえ相手に普通に声出して喋ってるし。
   傍から見たらまるっきり変な人じゃない。

ポーラ「……」

杏子「ん……なに見てんだい? あげないよ」

   いらないわよ。

杏子「ってか、そいつがそうか? この街の」 モグモグ

QB 「うん、紹介するよ。ポーラだ。昨日にも言ったけど、二ヶ月前に契約したばかりの新人さ」

杏子「ふーん」 ゴックン、ペロリ

ポーラ「……」

杏子「はじめまして。佐倉杏子、日本人だ。
    一応っつーか、あんたの教育係みたいなことを頼まれてるんで、よろしく」

ポーラ「……はじめまして。こちらこそ、よろしく。……です」

杏子「ああ。――ほら、お前らも」

ライラ 「は」

ミンカ 「わ、わかりました」
69 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/03(火) 21:37:20.24 ID:I5kVwxtvo

   言われて、まず黒人の方が前に出る。

ライラ 「ライラ=バナウラ。タンザニア出身」

   十二〜三歳ぐらいだろうか。三人の中では一番年下に見える。
   そのぶん肝が据わっているらしく、堂々としている。
   真っ黒な顔の中で、ギョロリと大きなアーモンド形の眼が印象的だ。

   ドレッドっぽい髪を頭のてっぺん辺りでひっつめて、迷彩柄のカーゴパンツをはいている。
   喋り方や物腰も、いかにも堅物な軍人って感じ。あるいはソッチ方向のマニアか。

   ってか挨拶短すぎ。超無愛想。

ミンカ 「つ、ツァン=ミンカ、です」

   続いてもう一人の東洋人。こちらは、年齢はよくわからないけど、背が高い。
   ただし全体的にほっそりしているので大柄な印象はない。

   おかっぱ頭にのっぺりとした面立ち。前髪が長くて目元はよく見えない。
   クリーム色のポンチョで全身をすっぽりと覆っていて、裾の辺りにチェックのスカートが覗いている。
   なんとなく、昔おじい様に教えてもらった 『コケシ』 を思い出した。

ミンカ 「え、えっと、『ミンカ』 の方が、名前です。中国の出身なので、えっと、その……」

ミンカ 「よ、よろしくおねがいします……」 ペコリ

   ってゆーか、なんかやたらとオドオドしてるんだけど。
   こんな調子で魔獣と戦えるんだろうか。

   まぁ、別にいいけど。そんなことはどうでも。
70 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/03(火) 21:38:33.67 ID:I5kVwxtvo

ポーラ「……ごていねいに、どうも。ようこそベリーズベリーへ」

   私も頭を下げる。一応の礼儀として。

ポーラ「さっきキュゥべえも言ったけど――私は、ポーラ」

ポーラ「ポーラ=レイノルズ=クマガミ。十四歳。この街の……“担当” をしているわ」

杏子「ああ」

ポーラ「そして、」

杏子「ん?」

ポーラ「この子が、クマのアルフレッド。私のパートナーよ」

杏子「……? ふーん」

   はいはい。大ベテラン様はお見通しなのよね。
   でも、

ライラ 「……!」

ミンカ 「……!」

   あとの二人は、息を飲んでいた。

   ライラは少し戸惑った様子ながらも身を乗り出しており、
   ミンカの方は素直に目を輝かせている。
71 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/03(火) 21:39:38.69 ID:I5kVwxtvo

   あー、いいわー。
   通行人のチラ見も悪くないけど、こうやって間近、真正面から見られるのがやっぱり一番だわ。

ポーラ「どう? 可愛いでしょ」

ライラ 「ッ!」 ビクッ

ミンカ 「う、うん。すっごくかわいい……こんなの初めて見た……
    ね、ライラもそう思うよね?」

ライラ 「し、知らない! 私はこんなものには興味はない!」

ポーラ「こんなもの、とは失礼ね。抱っこさせてあげないわよ?」

ライラ 「えっ……!」

ミンカ 「ら、ライラぁ……」

ライラ 「う……うぅ……」

杏子「……?」

杏子「何やってんだ、 お前ら?」

   む。

ライラ 「ッ! い、いえっ、なんでもありませんっ」

ミンカ 「え、あ……」

ポーラ「……」
72 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/03(火) 21:40:26.72 ID:I5kVwxtvo

ポーラ《ちょっと、余計なこと言わないで下さいよ》

杏子《あん?》

ポーラ《何が気に入らないのか知らないけど、……知りませんけど、
    私はこのために魔法少女やってるようなものなんだから、邪魔しないでください》

杏子《……? 何のハナシだ?》

ポーラ《だから、この子のことですよっ! あなたも見抜いてるんでしょう?》

杏子《はぁ……?》

QB 「……」

QB 「ポーラ」

ライラ 「……ん?」

ミンカ 「え?」

ポーラ《なによ、キュゥべえ》

QB 「どうやら僕は、君に一つ謝らないといけないらしい」

ポーラ《だから、何よ》

QB 「うん。――いや、その前に移動しよう。ここだと人目に付く」




73 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/03(火) 21:41:48.89 ID:I5kVwxtvo





   数分後。
   ターミナルビル裏手の、駅ビルの壁と用水路に挟まれた縦長のスペース。

   消防活動用地だかなんだかになっているらしく、幅もそこそこある。
   用水路の向こうは小さな林になっていて、そのさらに向こうは、確か公園だったと思う。

   要するに、人気のない場所だ。

杏子「魅了の魔法……ねぇ」

ポーラ「……」

杏子「なるほど。言われてみれば確かに、なんだか変な感触はあるよ」

QB 「しかし、やはり効いてはいないんだね」

杏子「ああ。……まぁ、そういうことなんだろうな。ハァ……」

   何故かうんざりしたようにため息を吐く杏子。
   ため息を吐きたいのはこっちの方だ。

ポーラ「なんで……」

QB 「すまないね、ポーラ。杏子は本来、」

杏子「おい」

QB 「……。とにかく、すまない。ただ、これは僕にも想定外だったんだ」

ポーラ「そんなので納得できるわけないじゃない!」

ポーラ「なんで!? なんで効かないのよ! マミさんにもホムラさんにも効いたのに!」

杏子「へぇ、あいつらにもか……そりゃ大したもんだ」

ポーラ「話を逸らさないで! なんでなの!?」

杏子「……悪いね。どうやら体質みたいなもんで、幻惑系は魂が拒否しちまうらしい」

杏子「理由はまぁ、心当たりはあるんだけど、あんまり話したくないんだ。
    いわゆる家庭の事情ってことで、察してくれ」

ポーラ「でもっ!」

ライラ 「……いい加減にしろ、貴様」
74 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/03(火) 21:43:02.04 ID:I5kVwxtvo

ポーラ「む……」

   唐突に、ライラが割って入ってきた。

ライラ 「さっきから聞いていればなんだ、くだらんことでぐだぐだと。
    師匠から謝罪の言葉まで頂いておいて、何を言い募ることがある」

杏子「おい、ライラ……」

ライラ 「いいえ、言わせてください師匠。こういうのは最初が肝心なのです」

杏子「……、ほどほどにな」

ライラ 「は」

   敬礼しながら短く言って、ライラは私に向き直ると腕を組んでふんぞり返る。

ライラ 「貴様はそもそも口のきき方がなっていない。
    我が師、佐倉杏子殿はこの世で最も偉大な魔法少女の一人なのだぞ。
    本来であれば貴様のような新人など近寄ることすら許されん」

   うわぁ。
   キモい。

   なにコイツ。
   やっぱり軍人気取りか。

杏子「ほどほどにっつっただろうが……」

   本人もドン引きしてるし。

ライラ 「わかったか。
    わかったならその目触りな人形を仕舞って、頭を下げて許しを請え」

ポーラ「――ハッ」

   失笑。

ラーラ 「何がおかしいっ!」
75 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/03(火) 21:43:54.48 ID:I5kVwxtvo

ポーラ「目触りって、物欲しそうな目して何言ってんだか」

ライラ 「そっ、そんな目など……! 貴様が妙な魔法を使っているからだろうが!」

ポーラ「妙なとは何よ。それに人形じゃなくてテディ・ベアだから。間違えないで」

ライラ 「知ったことか!」

   ……イラッ。

ライラ 「元はと言えば我らは、助っ人として、請われたから来てやったのだ!
    それをくだらんまやかしで愚弄するとは何ごとだ!」

ポーラ「愚弄なんかしてないわ。可愛いこの子を可愛いこの子として紹介してあげただけよ。
    それの何が悪いっての?」

ライラ 「何が “かわいい” だ!
    そんなもの、魔法で無理やり上乗せしているだけの紛いものではないか!」

ポーラ「……はぁ? なに言ってんのあんた。バッカじゃないの?」

ライラ 「なんだと貴様! もう一度言ってみろ!」

ポーラ「何度でも言ってやるわよ。バッカじゃないの?」

ライラ 「貴様……!」

ポーラ「わかんないの? この子が紛いものならあんたも紛いものだって言ってんのよ」

ライラ 「……ッ、……? なんだと?」
76 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/03(火) 21:45:17.64 ID:I5kVwxtvo

ポーラ「さっき自分で言ったじゃない。助っ人を頼まれたから来たって。
    つまり力を買われてってことでしょ? 魔法少女としての力を」

ライラ 「そうだ。それがどうした」

ポーラ「だったら、魔法の力がなかったら、あんたはここには来ていない。
    つまりここにいるあなたは魔法頼りの紛いものってことじゃない」

ライラ 「……何を言っている。それとこれとは」

ポーラ「同じよ。魔法は魔法だわ」



ポーラ「魔法少女が、魔法を否定してどうするのよ……!」



ライラ 「ッ……」

杏子「……へぇ」

   杏子が何やら声を漏らす。
   見ると感心したような顔をしていた。こっちは話がわかるみたいね。

   だからって、許さないけど。

ポーラ「そんな程度の認識で、よくも偉そうに語れたものね。
    いい? 魔法は決してインチキでも幻でもない、この世界に確かに存在して、
    実際に作用する力なの。手品なんかとはわけが違うのよ」

ライラ 「こ、この……新人の分際で……!」
                 . . . . . .
ポーラ「うるさいわよ。先輩の分際で、素人みたいなこと言わないで」

ライラ 「ぐ、く……っ!」

ポーラ「フン……認めたくないなら、そんなに紛いものがいやなら、マケドニアとやらに帰れば?
    ゴンドワナだっけ?」

ライラ 「タンザニアだ!」

ポーラ「『知ったことか』」

ライラ 「きッ……さまあ!!」



   シュイーン、キラッ!!



   うわ、変身しやがった。
77 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/03(火) 21:46:40.75 ID:I5kVwxtvo

   激昂の気配と共に、ライラは青い光を閃かせ、魔法の装束を身にまとう。
   それは身体の要所のみを覆う、軽量化された鎧の形を取っていた。
   手には三つ又の槍。
   ジェムはしずくの形で右肩に。
   全体にあしらわれたヒレやウロコの意匠も相まって、“海底王国の衛兵” といった感じ。

   ぶっちゃけ、彼女の黒い肌にはあまり似合っていなかった。

ミンカ 「ライラ!?」

ライラ 「黙っていろ! ミンカ!」

ミンカ 「ッ!?」 ビクッ

杏子「……落ちつけよ、ライラ」

ライラ 「止めないでください、師匠! こいつは私の故郷を侮辱した!」

ポーラ「あんたが先に言ったんじゃない! 私のアルフレッドを馬鹿にして!」

ライラ 「そんなガラクタと一緒にするな!」

ポーラ「……が、」

   あぁ。
   これは、
   アウトだ。

ポーラ「ガラ……クタですって!?」



   ――キラッ!!



ミンカ 「あぁ、あの子まで……」

   青ざめるミンカ。

杏子「これはまた……ジェムまで熊の形してんのかよ」

   杏子は、感心したようにムカつくことを言って、しかしそれ以上は動かない。
   キュゥべえが口を開く。

QB 「止めなくていいのかい?」

杏子「あー……とりあえずあいつの力量を見ておくつもりではあったしね、最初から。
    予定通りといえば予定通りさ」

   言いながら、杏子は壁を背にしてその場に座り込んでしまった。
   意外と話の分かる人だ。
   ムカつくけど。
78 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/03(火) 21:48:36.14 ID:I5kVwxtvo

杏子「ミンカ」

ミンカ 「あ……はい」

   シュイーン、キラッ!!

ポーラ「――!」

   その杏子の呼び掛けに、ミンカもまた魔法少女の姿へと変わった。

   なんというか、チャイナ服だ。
   深い竹林をイメージさせる落ち着いたグリーン。
   まだ顕現させていないらしく、武器は何なのかわからない。

   おかっぱだった髪の毛が後頭部の辺りでまとまり、隠れていた目元があらわになっている。
   髪留めを飾るジェムと同じ、翡翠色の瞳。
   これまた、東洋人の彼女には似合わない。

   私は杏子を睨みつける。

ポーラ「……なに、二人がかり? 別にいいけど」

杏子「違う違う。こいつはストッパーさ」

   言いながら、手にしていたホットドッグの包み紙をクシャリと丸めて、ミンカへと放る。

ポーラ「ストッパー?」

   受け取ったミンカは、それを一旦胸の前で握りしめると、そのままその辺に捨ててしまった。

   ……何やってんの?

杏子「危なくなったらミンカが止める。だからつまり……思う存分やってくれってことさ」

ポーラ「……あっそ」

   ライラに向き直る。

ライラ 「謝るなら今のうちだぞ」

ポーラ「ビビってんの? 今さら」

ライラ 「フン……口で言ってもわからぬ阿呆は、やはり殴ってわからせるしかないようだな」

ポーラ「口で敵わないから暴力に走っただけでしょ。
    そういうのなんていうか知ってる? 『野蛮人』 っていうのよ」

ライラ 「……子供でも白人は白人か。レイシストが」

ポーラ「ごちゃごちゃとうるさいわねぇ……さっさとかかって来なさいよ」

ライラ 「貴様こそ、いつまでそのガラクタを抱えているつもりだ。やる気があるのか!」

   またガラクタって言った……!
79 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/03(火) 21:49:28.54 ID:I5kVwxtvo

ポーラ「これが私のスタイルよ。言ったでしょう? この子は私のパートナーだって」

ライラ 「ああそうか……なら、まずそいつから切り刻んでやる!」

   叫び、ライラが地を蹴った。
   こちらに向かって真っすぐに槍を構え、一直線に突っ込んでくる。

   まぁ、そう来るだろうと思った。
   彼女が直情的な性格をしていることはここまでのそう長くない会話からでもわかったし、
   何より槍という武器がわかりやすい。
   投擲してくる可能性も少しはあったけど、十中八九、突進が来ると踏んでいた。

   だから、

ポーラ「やれるものなら――」

   それに対して、私もまた、真正面から、



ポーラ「――やってみろ!!」



杏子「!」

ミンカ 「えっ?」

ライラ 「なにぃっ!?」

   私の頼れる相棒、アルフレッドを、

   投げつけた。
80 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/03(火) 21:51:04.92 ID:I5kVwxtvo

   魔力を練り、そのつぶらな瞳が正面からライラを向くように操作する。

   これを受けてのライラの動きは、たぶん無意識だ。

ライラ 「くっ……!」

   足に急制動をかけ、槍から右手を離して軌道を逸らし、アルフレッドを受け止めようとした。

ポーラ「フン――」

   そしてそのときにはもう、私は十分に距離を詰めている。

ライラ 「……はっ!?」

ポーラ「ばーか」

   相棒を念動で引き戻し、伸ばされた右手を左の爪で払いのける。
   そうしてがら空きになった喉笛に右手の爪を、



   ――ギィィィンッ!!!



   突き刺せなかった。

ポーラ「……」

   赤い鎖。
   突如として空中に現れたそれに阻まれ、
   私の爪はあと数センチのところでライラの命に届かなかった。

ポーラ「ふーん。やるじゃん、ストッパー」

   ちらり、壁際の二人に視線を流す。

ミンカ 「え、あ……え?」

杏子「いや、アタシだ」

   なるほど。
   よく見ると確かに、杏子はその手に自身のソウルジェムを掲げていた。

   その色は、この鎖と同じ、赤。

   しかし、変身もせずに、この距離に、か。流石というべきかしらね。
81 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/03(火) 21:52:16.59 ID:I5kVwxtvo

ミンカ 「……ッ! ご、ごめんなさい杏子さん! わたし……」

杏子「ああ。罰として晩飯抜きな」

ミンカ 「えっ! ……い、いえ。わかりました……」

   一瞬驚いて、それから素直にうなだれるミンカ。
   しつけが行き届いてるご様子で。

杏子「しっかし……ポーラっていったか? 無茶するヤツだねぇ、あんた」

ポーラ「思う存分やれっていったのはそっちじゃない。殺してもいいってことでしょ」

杏子「は? ……あぁいや、そうじゃなくてさ。いやそれも驚いたけどね」

ポーラ「……?」

杏子「そっちの、ヌイグルミの使い方さ。まさか楯にするとはね。
    しかも切り刻むって宣言した相手に向かって。大切なんじゃなかったのかい?」

ポーラ「もちろん大切よ。決まってるじゃない」

杏子「……わからないね。ホントに刻まれたらどうするのさ」

ポーラ「そんなこと、あるわけないわ」

杏子「ふぅん?」

ポーラ「人は誰でも、この子の虜。傷つけることなんてできるわけがない」

杏子「……大した自信だな」

ポーラ「自信? 違うわ。この子に対する信頼よ」

   どうやらあんたは、それを裏切るみたいだけどね。

   絶対に許せない。

杏子「そうかい」

   肩をすくめる杏子。
   同時に、鎖が消えた。
82 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/03(火) 21:53:38.65 ID:I5kVwxtvo

ポーラ「フン」

   私も爪を退き、変身も解除する。

ライラ 「くっ……」

   ようやく解放され、同じく元の姿に戻ったライラはがくりと膝をついた。

ポーラ「ともかく、私の勝ちよね」

   ま、当然だ。
   魚が熊に勝てるわけがない。

ライラ 「……ッ!」

ポーラ「謝って。この子をガラクタって言ったこと」

ライラ 「うるさい! 認めんぞ私は! あんなやり方!」

ポーラ「あんたのお師匠さま直々のレフリーストップなのに?」

ライラ 「ぐっ……! ――師匠!」

杏子「あー、そうだなぁ」

   頭をかく杏子。

杏子「魅了の魔法のことも、そのヌイグルミが相棒ってことも、事前に言ってたわけだし、
    卑怯ってことにはならないかな」

ライラ 「……ッ!!」 ギリッ

杏子「だからまぁ、そのヌイグルミに言ったことは謝ってやりなよ」

杏子「……そうでなくても、他人の祈りを笑うのはご法度だ」

ポーラ「……」
83 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/03(火) 21:54:32.64 ID:I5kVwxtvo

   なんなのかな。
   こっちに肯定的なことを言われているのに、なんかイラッとくる。
   言ってるのがこの杏子だから、だろうか。

   アルフレッドの魅力を理解しない、私にとって最悪のイレギュラー。

ライラ 「……申し訳ありませんでした」

杏子「アタシに言ってどうすんのさ」

ライラ 「……」 ギリッ

   悔しそうに奥歯を噛み締めるライラ。
   その顔のまま、拳を震わせながらこちらに向き直る。

   それを見て、なんとなく冷めてしまった。

ライラ 「…………ポーラ、レイノルズ」

ポーラ「もういいわよ」

ライラ 「なに?」

ポーラ「上から言われて嫌々とか、そんな意味のない 『ごめん』 なんかいらないって言ってるの」

ライラ 「……ッ」

ポーラ「その代わり、次言ったらそのときこそ殺すから」

ライラ 「……」

ポーラ「……」

ライラ 「……わかった」

ポーラ「フン」
84 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/03(火) 21:55:39.42 ID:I5kVwxtvo

杏子「ま、あんたがいいならそれでいいさ。――ライラ」

ライラ 「はっ!」

杏子「お前も晩飯抜きな」

ライラ 「……は」

杏子「よし、久しぶりに豪勢なメシが食える。一人で」

ライラ 「……」

ミンカ 「……」

   なんてヤツだ。

杏子「で、だ。――ポーラ」

ポーラ「……なんですか?」

   む。
   不意に水を向けられ、何故か丁寧語になってしまった。

杏子「なんか流れで締めの空気になっちまってるけど、まだだからな?」

   杏子は気にした様子もなく、ポケットから何かを取り出しながら言葉を続ける。
   お菓子?

   あ、ミカドだ。

杏子「今の私闘を認めたのは、お前の腕前を見るいい機会だと思ったからだ。
    けど、結局よくわからなかった」

   喋りながら封を切り、チョコのかかった細いスティックを一本つまみ取る。

杏子「食うかい?」

ポーラ「いらない。……それで?」
85 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/03(火) 21:57:21.66 ID:I5kVwxtvo

杏子「そ」 パクリ、ポリポリ

杏子「とりあえず一つ聞いておきたいんだが、さっきの戦法って魔獣にも通用するのかい?」

   ……なに言ってんのこの人。

ポーラ「するわけないじゃない。あいつらに美意識とかあるの?」

杏子「知らね。でもそうか。なら次はそれナシな」 パキッ

ポーラ「え?」

杏子「――ライラ」

ライラ 「! ……はっ」

杏子「まだ行けるな?」

ライラ 「行けます」

杏子「ミンカ」

ミンカ 「は、はいっ」

杏子「お前もだ。あんまりあっさり終わらせるなよ? 二人がかりで、なるべく長引かせるんだ」

ミンカ 「……わ、わかりました」

ライラ 「了解です」

ポーラ「え、ちょ」

   パキッ

ポーラ「……!?」

   え、なに今の。
   なんかすごい寒気が。

杏子「つまり、第二ラウンドさ。もう一回言うけど魅了はナシだよ。
    魔獣を相手にするのと同じ感じで頼むわ」

QB 「……。いいのかい、杏子?」

杏子「問題ないさ」

ポーラ「あ、あるわよ問題! なんで私がそんなことしなきゃいけないのよ!」

杏子「理由か? そうだね……」

   パキッ。
   ポリ、ポリ。

杏子「抵抗すれば、一方的にタコ殴りにされなくて済むぞ?」

ポーラ「なっ……!」
86 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/03(火) 21:58:29.09 ID:I5kVwxtvo

杏子「こっちはもうその気なんだよ。
    念のため言っとくけど、この二人はともかくアタシから逃げられるとか思うなよ?」

   な、なんなの、こいつ。
   さっきまでとは雰囲気が全然違う。

   この威圧感、昨日のマミさんやホムラさんと同等……いや、それ以上。

杏子「ま、安心しな。逃げようとさえしなけりゃアタシは手を出さないよ」

杏子「あとそうだな……もしお前が勝てたら教えてやるよ、アタシに魅了が効かない理由」

ポーラ「――!!」

杏子「お? やる気になったか」

ポーラ「……本当でしょうね」

杏子「もちろん」 パキッ

ポーラ「……」

杏子「どうする?」

   問い掛けに、私は無言でジェムを掲げた。

   オレンジの輝きを解き放つ。

杏子「いい子だ」

   パキッ。

   噛み砕かれたミカドの欠片が、静かに宙に浮かんで、落ちた。






87 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/03(火) 21:59:42.10 ID:I5kVwxtvo



今日はここまで

「ミカド」ってのは、要するにポッキーのことです
ヨーロッパではそんな名前なんだとか
88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/04/03(火) 22:14:58.23 ID:K9t2IteAO
毎日楽しく読んでます
お疲れ様でした
89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/04/04(水) 08:17:33.30 ID:mnR55a2no
お疲れ様です
相変わらず面白さが留まるところを知らない

90 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/04(水) 21:16:54.66 ID:tomOSCzxo

ありがとう

再開します
91 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/04(水) 21:18:20.72 ID:tomOSCzxo



   ◆

   爪は、鉄よりも弱い。

   モース硬度という、モノの硬さを示す尺度があるが、
   これによると、人間の爪は約2.5。鉄のナイフは5.5から7ぐらいなんだそうだ。
   ちなみに最高なのはダイヤモンドの10。

   だから爪切りや爪やすりといった道具は成立するし、
   虎バサミは獣を “捕らえておく” 罠としてちゃんと機能する。

   それがこの世界の条理。

   だがしかし、物事には常に例外というものがある。
   条理を覆す方法は、この世に確かに存在するのだ。







   ――ガキィンッ!!



   突進し、一フィートほどに伸ばした爪を振り上げ、体重を乗せて叩きつけると、
   重く鋭い金属音とともに分厚い鉄の感触が手に返ってきた。

ミンカ 「っ……」

   ミンカがかすかに眉をしかめる。

   青龍刀。
   それが彼女、ツァン=ミンカの武器だった。

   片刃で、長く大きな、湾曲した刀身を持つ肉厚の両手剣。
   両面に東洋龍の文様が彫り込まれている。
   気弱げな彼女には似つかわしくない、凶悪で物々しい代物だ。

   普通に考えれば、こんな “クマの爪” なんかで対抗できる相手じゃない。

   普通なら。
92 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/04(水) 21:20:06.93 ID:tomOSCzxo

ポーラ「――っせいやあっ!」

   気合一閃。
   受け止められた右を引かせ、代わって左の爪で斬りつける。

   止められる。

ミンカ 「……っ」

   小さな呻きと金属音。
   さらに連続して、右、左、また右と、緩急織り交ぜつつ繰り出していく。

ポーラ「ちぇりゃりゃりゃりゃりゃーっ!」

ミンカ 「……っ、…っ、…………ッ!」

   何割かは刃の側で受け止められたけど、こちらの爪には傷一つない。

   そう。
   これは普通の爪じゃない。鉄ではないけど鉄より硬い、鉄をも切り裂く魔法の爪だ。
   普通の刀なんて問題にもならない。

   ……ただ、

ミンカ 「…………――シッ」

ポーラ「!」

   連撃のわずかな隙をついて、ミンカは私の爪を弾き上げると、青龍刀を上段に構え、
   そのまままっすぐに振り下ろしてきた。

ポーラ「ふんっ!」

   爪を交差させて受け止める。
   衝撃に肩が軋む。

   ふと見てみると、向こうも刃こぼれ一つしていない。

ポーラ「……チッ」

   問題なのは、それ。
   相手も普通の刀などではなく、魔法の武器だという事実。
93 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/04(水) 21:21:21.32 ID:tomOSCzxo

   まぁ、要するに互角なんだけど。
   むしろ手数でいえばやっぱりこっちが有利なんだけど。

   それでもやっぱり、一言いいたい。

ポーラ「……なにが 『魔獣相手のつもりで』 よ。あいつらだったらもう十匹は殺せてるわ」

ミンカ 「……そう、ですね。そう思います」

ポーラ「イヤミかっ」

   睨みつける。
   すると彼女は怯えたように目を逸らした。

   ……チャンス。

   爪を絡ませ剣を固定し、死角となる逆側から中段回し蹴りを繰り出す。
   吸い込まれるようにミンカの左わき腹に突き刺さる、はずだった足が、空を切った。

ポーラ「――!」

   ミンカはその場で跳んでいた。
   固定された剣を軸に、身体全体を持ち上げるジャンプ。さらにそのまま前方宙返り。

   また、チャンス。

   着地の直前、こちらに向けられた無防備な背中に、捻りを効かせた突きを放つ。



   ――ガキンッ!



ポーラ「!?」

   また止められた。
   思わず目を見開く。
   今度こそ完全に死角を突いたはずなのに、ミンカは測ったようなタイミングで刀を背に回し、
   その腹で私の爪を完璧に防いで見せた。
94 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/04(水) 21:22:40.86 ID:tomOSCzxo

ミンカ 「ふっ」

   そのまま、衝撃を利用して跳びすさる。

ポーラ「やばっ」

   私も慌てて地を蹴って、開けられた距離を詰め直す。
   背後の地面で水音が弾けた。

ミンカ 「……っ」

   迎撃に振るわれた横薙ぎの一太刀を左の爪で受け止め、
   お返しとばかりに放った右の斬撃は手首を掴まれ止められた。

   双方、動きが止まる。

ポーラ「……背中に目でもついてるの?」

ミンカ 「……はい。見えました」

ポーラ「え?」

ミンカ 「……後ろだけじゃなくて……左右も、上下も、ぜんぶ見えます……」

ミンカ 「……全方位知覚……わたしの固有魔法、です……」

ポーラ「なにそれ。ずるい」

ミンカ 「ごっ……ごめんなさい……。でも、オフにすると、なにも見えなくなっちゃうから……」

ポーラ「ふーん」

   まぁ、いい。
   一対一の斬り合いじゃあんまり意味のない能力だろうし。
95 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/04(水) 21:24:13.78 ID:tomOSCzxo

ポーラ「いったい何をねがっ――…………ッ!!」

   悪寒。

   掴まれた腕を払いのけ、とっさに上体を反らす。
   直後、透明な棒状が鼻先をかすめ、左の方の地面で水音を立てて弾けた。

   右を見る。

   やや離れた位置、用水路の脇に槍を構えたライラが立っている。
   そしてその周囲には、たった今私の頭をブチ抜きかけた棒状――“水の矢” が
   いくつも浮かんでいた。

ライラ 「何をしている。足を止めるな」

   冷たく言い放つライラ。
   同時に槍を振るうと、その動きに促されるようにして “矢” が二本、
   こちらに向けて撃ち出された。

ポーラ「くっ……」

   身をひねって回避したところに、さらに三本。
   これ以上は重心的に限界だった。
   障壁を展開し、二つを受け止める。残りの一本は勝手に外れた。

   第三射が来る前に急いでまたミンカとの距離を詰める。

   ライラの固有魔法、水の操作。

   矢の形に圧し固めた水を撃ち出すだけだけど、拳銃弾程度の威力があり、
   視認しにくい点も鬱陶しい。
   爪で斬り裂いたら逆に散弾みたいになるから避けるか防ぐかしなきゃいけないのが
   何より厄介だ。
   狙いが甘いのが唯一の救い、ではあるけれど、
   今のようにミンカから離れたり動きを止めたりすると容赦なく撃ちこんでくるから困る。

   まぁ、飛び道具を持たないこちらとしては接近戦は望むところではあるんだけど、
   休めないのは正直しんどい。
   ミンカはミンカでやたら硬いし。

   ちくしょう、どうしろってのよこんなの。




96 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/04(水) 21:25:57.68 ID:tomOSCzxo



   ◆

杏子「……障壁まで熊耳付きかよ。筋金入りだね」

   ポーラ=レイノルズの戦いぶりを眺めながら、杏子は呟く。

杏子「にしても……よく粘る」

   予想以上だった。
   彼女の動きは、まだ八ヶ月目のライラとはもちろん、
   二年以上の経験を誇るミンカと比べても全く遜色がない。

   恐らく、一対一であればライラは勝てまい。
   当然最初に見せたような目くらましを抜きにしても、だ。
   ミンカも展開次第では怪しい。

   パワーもスピードも今までに出会った魔法少女たちの水準を上回っており、
   また一つ一つの動作がキャリア二ヶ月とは思えないほど洗練されている。

   組み手を始めてから、そろそろ二十分。
   流石に動きが鈍って来てはいるが、それでもあともう二十分ぐらいは続けられそうだ。
   持久力も申し分ない。

   特にここがという突出した長所はないようだが、
   それはそれでバランスが取れていると言える。

   足りないところがあるとすれば、相手の動きを先読みするセンスと、
   膠着状況を打破する突破力ぐらいか。
   欲を言えば面制圧のできる攻撃手段も欲しいところだ。

   どれも魔獣相手ではあまり必要のない部分なので育っていないのだろう。

   逆に言えば、魔獣を相手にする分には現時点でほぼ満点、ということになる。
97 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/04(水) 21:27:43.05 ID:tomOSCzxo

杏子「なぁ、あいつってホントに新人なのかい?」

QB 「本当だよ。僕がポーラと契約したのは先々月で間違いない」

杏子「ふぅん……なのにアレか。大したもんだね」

QB 「いや、それは正確じゃないね。
    ポーラは三日目にはもうあの程度の動きはできるようになっていたから」

   そう言ったキュゥべえの視線の先では、ポーラは宙返りからのかかと落としを繰り出していた。

   クロスガードで止められ、逆回しのようにバク転、着地。
   振るわれた刀をしゃがんでかわし、足払い。
   バックステップで避けるミンカを即座に追いかける。

杏子「……マジかよ。天才ってヤツか」

QB 「うん、才能もあるね。加えて彼女は、五歳のころから空手を習っていたらしい」

杏子「へぇ……」

   見ると、ポーラは逆立ちした状態で連続の回転蹴りを放ち始めた。
   手袋と同様にヌイグルミ風のブーツにも、短めながらしっかり爪が生えている。
   避けられてもちゃんと手で移動して追っている。
   流石のミンカも動揺していた。

杏子「……空手にあんな動きはねぇだろ」

QB 「かも知れないね。しかし、」

杏子「ああ、いい。言いたいことはだいたいわかる」

QB 「そうかい」

   空手の型そのものは使えなくても、格闘戦というものに対する “慣れ” は
   大きなプラスになるはずだ。
   というか、実際になっているのだろう。

   しかしそれでも、これらに加えて魔法の補助もあるのだとしても、
   杏子はポーラに “才能” を感じずにはいられない。

杏子(……才能、か……)
98 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/04(水) 21:28:59.10 ID:tomOSCzxo

杏子「なぁ」

QB 「なんだい?」

杏子「仮定の話なんだけどさ。
    もし今のポーラと、四十何年前の二ヶ月目のマミが……どうした?」

   話している途中で、不意にキュゥべえが視線を跳ね上げた。

QB 「すまない。ちょっと離れるよ」

杏子「あん? って、おいおい」

   そして疑問にも応えず、あっという間に走り合ってしまった。

杏子「……――」

   何かあったのだろうかと、意識を周囲に向ける。
   すると先ほどミンカに放らせた紙屑がかさかさと震えているのが見えた。
   何かを訴えかけているかのような、空気の動きとは明らかに無関係な振動。
   やや遅れて、杏子自身の感覚も何かの接近を感知する。

   大きい。

   抑えても抑えきれないほどに強大な魔力の気配。
   それが、人避けの魔法がかかっているはずのこの場所に、確かに近付いてきている。

   杏子は、

杏子「何かと思えば……」

   警戒を解いた。

   間もなくその場に姿を現した “彼女” が、口を開く。



マミ 「……何かと思えば、あなたたちだったのね。佐倉さん」



   巴マミ。
   杏子の最も古い知己であり、今の世を生きる最強の魔法少女。

   タートルネックのワンピースに薄手のカーディガンを重ね、足元はタイツにブーツ。
   どこぞの令嬢然とした、彼女らしい出で立ちであった。
   五十七歳という実年齢を知った上でも痛々しく見えないのは、その気品のなせるわざか。
99 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/04(水) 21:30:06.16 ID:tomOSCzxo

杏子「ああ。久しぶりだね、“東の魔女”」

マミ 「……十二年ぶりの挨拶がそれ?」

杏子「お前がそう呼べって言ったんだろ。確か三十年ぐらい前に」

マミ 「若気の至りよ。お願いだから忘れて、普通に呼んでちょうだい」

杏子「へっ」

   鼻で笑う杏子。
   しかしその笑みには、隠しきれない親しみが込められていた。

杏子「……ん?」

   ふと弟子たちの方を見ると、ライラが不思議そうな顔を向けてきていた。
   ミンカも、ポーラの攻撃をさばきながらもチラチラとこちらを伺っている。
   ポーラは無反応。

   ……全方位知覚を持つミンカはともかく、

杏子「ライラ。集中しろ」

ライラ 「っ!? ――はっ!」

   彼女は慌てて視線を戻した。
   怒られてやんのー、と、ポーラが嗤うのが聞こえた気がする。
   思った以上に余裕があるようだ。

   杏子はマミに向き直る。

杏子「で、何の用だ? ってか一人かい?」

マミ 「この子もいるわよ」

   肩の上のキュゥべえを撫でながら、マミ。恐らく彼女専属の例の個体だろう。

杏子「見りゃわかる」

   ――いや。

   なるほど。そういうことか。
   だから “あっちの” キュゥべえは姿を消したわけだ。

   相変わらずのVIP待遇だね。羨ましくはないけど。
100 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/04(水) 21:32:11.39 ID:tomOSCzxo

杏子「じゃなくて、ほむらはどうした? あいつも来てるんだろ?」

マミ 「ええ。来てるけど、今は街の地形を見ているわ。
    私も一緒に見てたんだけど、妙な魔力のぶつかり合いを感じたから、こうして見に来たってわけ」

杏子「地形か。なるほど、お前らには必要だろうな」

マミ 「ええ」

   マミは柔らかく微笑んで頷いて、
   それから思い出したようにポーラたちの方へと視線を移した。

マミ 「……それで、これは何の騒ぎなの? 早速ミス・レイノルズの特訓かしら?」

杏子「ああ。まぁ、そんなようなモンだ。人避けはしてあるし、問題ないだろ」

マミ 「そうね。あなたが必要と判断したのなら、そうなんでしょうね」

   あっさりと頷くマミ。

   そして、ライラの鎧を数瞬眺め、ミンカの武器を目で追った。

マミ 「……」

杏子「……。言っとくけど、偶然だからな」

マミ 「わかっているわ」

   わかっている。
   全てを理解している。そう主張せんばかりの穏やかな眼差しで、マミは言う。

   杏子もかつては彼女のこうした態度に苛立ちを覚えたものだが、今は慣れてしまった。
   我ながら丸くなったものだと思う。
101 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/04(水) 21:34:14.31 ID:tomOSCzxo

QB 「ところで杏子、僕に何か聞きたいことがあったんじゃないのかい?」

杏子「ん、あぁ……」

   思わず言葉を濁す。
   本人の目の前で聞いていいものかとためらったのだが、しばし考え、
   特に問題はないと思い直した。

杏子「いや、なに。単純な好奇心さ。
    同じ二ヶ月目同士なら、マミとポーラ、どっちが強いのかなって思ってね」

マミ 「え、私?」

杏子「お前なら比べられるだろ? なぁキュゥべえ」

QB 「……。まぁ、過去のマミの強さを正確に覚えているのは、確かに僕ぐらいだろうね」

杏子「どうなんだ?」

QB 「勝敗の条件は?」

杏子「ん……じゃあ、『相手を戦闘不能にすること』 で。逃げたり降参したりはナシ」

QB 「ふむ。……」

マミ 「……」

   考え込み始めたキュゥべえを困ったような顔で見つめて、マミが口を挟んだ。

マミ 「……無理よ。あのころの私じゃあ、きっと勝てないわ。
    だって二ヶ月目っていったら、まだリボンしか武器がなかったころだもの」

QB 「いや、そうとも言えないよ」

マミ 「えっ?」

杏子「ほう?」

QB 「基本的な魔力量の桁が違うからね。
    マミは契約した時点で既に十年に一人の逸材だったんだ。
    ポーラも平均よりはだいぶ上だけど、流石にマミには及ばないよ」

QB 「今杏子が提示した条件なら、防御に徹して持久戦に持ち込めばマミの勝ちさ」
102 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/04(水) 21:36:02.03 ID:tomOSCzxo

杏子「……なんかつまんないね、それ」

QB 「そう言われてもね。僕の持つデータではこれ以外の結論は出そうにない」

杏子「無理にでも正面からぶつかり合ったら?」

マミ 「それは無理ね」

   マミが首を振る。

マミ 「例えば、あのアルフレッドくんを楯にでもされれば、私は手も足も出せなくなるわ。
    当時の私では彼の魅了には抗いきれなかったでしょうし」

杏子「……!」

QB 「そうだね。そうなればやっぱり、マミは防戦に回らざるを得なくなる」

マミ 「あ……」

杏子「そっか。……にしても流石だね」

マミ 「あら、なにが?」

杏子「さっき実際にやったんだよ、あいつ。あのクマを楯に。アタシは予測できなかった」

マミ 「へぇ……」

   マミは心底驚いたといった顔をする。
   本当にやるとは思わなかったようだ。

   しかし――そんな有り得ない可能性にまで思い至れるかどうか。
   そこが一つの分かれ目なのだろう。

   天才と、凡才の。
103 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/04(水) 21:36:46.81 ID:tomOSCzxo



   マミとポーラ。
   見滝原とベリーズベリー

   二人の天才。
   二つの街。

   そして、二度の “ワルプルギスの夜”。

   これは、偶然なのだろうか。

杏子「……」

   ふいに浮かんだその可能性を、杏子は表に出すことなく打ち消した。

   だとしたら、どうだというのか。
   きっとどうにもならない。

   仮にそれが真実だとして、キュゥべえが気付いていないはずがない。

   ただ、事実として、こいつらは何も言っていない。

   ならばこちらも何も言うことはない。

   それでいいのだろう。


104 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/04(水) 21:37:55.90 ID:tomOSCzxo

杏子「――けど、そんなにすごいのかい? あいつの魅了って」

マミ 「え……?」

QB 「もちろん、強力だよ。なにしろ契約の対価だからね。
    その強制力は君たちが普段使っている並の魔法の比じゃないさ」

杏子「へぇ。じゃあ……」

QB 「ああ。ポーラの技量とは無関係だ。
    そもそも、願いに応じて生まれ変わらせる際に、ヌイグルミ方に直接埋め込んだものだから、
    正確にはポーラが術を使っているということですらないんだ。
    ……浮かべたり動かしたりしているのは、彼女だけどね」

杏子「……」

QB 「アレは、彼女の意思とは関係なく、生死とも関係なく、無条件に周囲を魅了し続ける」

杏子「……おい、それって」

QB 「……。そうだね。系統は同じだよ」

   杏子の父親に、かけられたものと。

杏子「……ッ」

マミ 「……キュウべえ」

QB 「人間の好みはバラバラだからだね。『全ての人を魅了する』 なんて条件をクリアするには
    他に方法がないだろう?」

マミ 「そういうことじゃ……」

杏子「いいよ、マミ」

マミ 「佐倉さん……」

杏子「いいって。コイツの無神経をイチイチ気にしてたら胃がもたないよ」

マミ 「……」
105 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/04(水) 21:39:46.12 ID:tomOSCzxo

杏子「しかし……ポーラはそれで、そんなので納得してるのか?」

   気遣わしげな視線が面倒で、杏子は話題を変えた。

QB 「君もさっき聞いただろう? ポーラは魔法というものを特別視していない。
    他の技術や方法と分けて考えていないんだ」

QB 「きっと彼女にとっては、魔法をかけるのもリボンで飾るのも同じことなんだろうね」

杏子「……なるほど。わからん」

QB 「……。合理的な考え方だと思うんだけどね」

   首をかしげるキュゥべえ。

   コイツに共感されるようじゃあ理解できなくて当然だな、と杏子は思った。

マミ 「ねぇ、佐倉さん」

杏子「なんだい、マミ」

マミ 「えっと……もしかしてと思うんだけど、さっきの言い方。
    あなた、アルフレッドくんの魅了を……」

杏子「……」

杏子「ああ。どうやらそうらしい」

マミ 「……」

杏子「まだ引きずってるんだよ、アタシは。成長してないのは外見だけじゃなかったってことさ」

マミ 「そう……」

杏子「んな顔すんなよ。つまり今まで通りだってことだろ?」

マミ 「そうね……」

杏子「……」
106 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/04(水) 21:40:27.65 ID:tomOSCzxo

マミ 「……佐倉さん」

杏子「なんだ?」

マミ 「あなた、風見野には帰っているの?」

杏子「……」

マミ 「……」

杏子「ああ、いや。そういやしばらく帰ってないね」

   より正確には、三十年ぐらい。

マミ 「そう」

杏子「ああ」

マミ 「だったら、佐倉さん。この戦いが終わったら――」

杏子「待て」

   言いかけたマミを、杏子は制止した。

マミ 「でも……」

杏子「いいから、待てって」

   マミはなお物言いたげだったが、杏子はさらにさえぎる。

杏子「見なよ。どうやらそろそろ、決着みたいだ」




107 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/04(水) 21:41:52.03 ID:tomOSCzxo



   ◆

ポーラ「――よっ、とっ、はっ、たっ!」

   ライラの放つ水の矢を連続のバク転で回避する。
   六回転したところで射撃が止んだ。
   瞬間、反転し、ミンカへと走る。

ポーラ「やぁあっ!」

   左右の切り払いからの、踏み込みを効かせた諸手突き。

ミンカ 「……っ」

   ミンカは刀の腹で受け止めると、衝撃を殺しつつさらに後ろへ。
   再び距離が開く。
   すかさず贈られるライラの掃射を体裁きと障壁でしのぐ。

ポーラ「くっ……」

   まずい。

   二人とも、攻撃から甘さが無くなってきている。
   ライラの矢は精度を増し、ミンカは足を止めてくれなくなった。
   長引かせるのをやめて、そろそろ仕留めるつもりのようだ。
   こちらの体力も限界に近い。

   ならば。

ポーラ「――ぁぁぁあっ!!」

   気合一閃。

   一度大きく跳んで射線から逃れ、急速方向転換。
   地を這うほどに低い姿勢で、走る。
   ライラへと。
108 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/04(水) 21:43:03.02 ID:tomOSCzxo

ライラ 「む……!」

   すぐに迎撃の矢が来たが、そんなものは障壁で防ぐに決まってる。

   次々と生み出される水たまりを蹴立てつつ、一気に距離を詰めていく。

   あと十フィート。
   ライラが槍を構えた。

   と、そこに割り込む一つの影。
   ミンカだ。

ミンカ 「――……っ!」

   跳び込みざまに下から降り上げられた剣を爪で受け止め、さらに足で踏んで、
   彼女の身体ごと飛び越える。

ライラ 「!?」

   標的の顔が、安堵から驚愕へ。

ポーラ「もらっ――!」

   爪を振り上げ――たところで、身体が強制的に止められた。

ポーラ「――たあ!?」

   とっさに視線を下げる。
   ミンカが、後ろ手で私の足首を掴んでいた。

   ――全方位知覚!

   やられた。
   振り返って位置を確かめるというプロセスを素っ飛ばすことによる超反応。

   私はそのまま振り回されて、低軌道で投げ飛ばされた。

ポーラ「くそっ!」

   障壁を張りながら姿勢を制御するもまともな着地は叶わず、受け身を取って転がった。
   矢の追撃は来なかった。
109 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/04(水) 21:44:03.11 ID:tomOSCzxo

ポーラ「あー、もー。ちくしょー!」

   大の字に転がったまま叫ぶ。

   こうなったら……あんまり使いたくなかったけど、仕方がない。



   ――ビシャッ!



   考えていると、顔の横で水音が弾けた。飛沫がほほを濡らす。

ポーラ「……」

ライラ 「何をしている。立て」

   ライラの冷たい声。

ライラ 「それとも、もう終わりか?」

ポーラ「……」

ライラ 「まぁ無理もない。むしろ、よくぞここまでやったと褒めてやろう」

ポーラ「……」

   むくり。上体を起こす。
   こいつホントむかつく。

ポーラ「……まだやれるわよ。ってかなんであんたが偉そうにしてんのよ。
    安全なところからチマチマ射ってるだけのくせに」

ライラ 「ほざけ。それが私とミンカのスタイルだ」

ポーラ「こっちにはアルフレッドを出すなって言ったくせに! ――ってゆーか!」

   ビシッ。

   腕を伸ばし、爪を突き付ける。

ポーラ「さっきから好き放題に水使ってくれてるけど!
    その用水路がどこに繋がってるかわかっててやってるんでしょうね!」

ライラ 「……!?」
110 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/04(水) 21:45:39.63 ID:tomOSCzxo

   おや。

   言った途端、ライラの顔がこわばった。
   目を見開いて、唇を半開きにして、愕然とした表情。

   私としては、もちろん動揺を誘うつもりで言ったわけではあるけれど、
   ここまで効果があるとは思わなかった。トラウマでも刺激してしまったのだろうか。

   まぁ。
   よし。

   計画通りだ。

ライラ 「ど、どこだ! どこに通じているというんだ!?」

   ライラが前のめりになって叫ぶ。
   私は、

ポーラ「知るか」

   無視した。

   魔力を練り、突き付けたままにしておいた手から爪へと注ぎ込む。
   そして、解放。

   瞬間、伸びた。

   私とライラを隔てる二十フィート余りの距離を一瞬で――文字通りまばたき一つの時間で走り、

ポーラ「ばーか」

   鎧で守られていない彼女の右胸を、“クマの爪” は深々と突き刺した。
111 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/04(水) 21:46:52.38 ID:tomOSCzxo

杏子「!?」

マミ 「!」

ライラ 「え……?」

   ライラは呆けたような顔で、私を見て、自分の胸を見て、もう一度私を見て、

ポーラ「言ったでしょ。私はまだやれる、って」

ライラ 「――がはっ」

   私が爪を元に戻すと、口と胸から大量の血を吹いて、その場に倒れた。
   血だまりがゆっくりと広がっていく。
    ..  . . . ..
   よし。一丁上がり。



   これが私の奥の手。
   唯一の遠距離攻撃。

   この “クマの爪” は、伸縮自在。私の意思に応じてどもまでも伸びる。
   あまり長くすると比例して重みも増すのが難点だけど、工夫すればどうにでもなる。
   今みたいに。

   できれば杏子には隠したままにしておきたかったんだけどな。
   まぁ、仕方ないか。



ミンカ 「ら……ライ、ラ?」

   呆然と、ミンカが呟く。

   と――同時に私の背後で魔力が弾けた。
   次いで金色の光が脇を駆け抜ける。

   一瞬驚いたけど、見るとマミさんだった。そういえばさっき来てたっけ。
   彼女はライラのそばにしゃがみ込むと、横たわるその身体に淡い光の魔力を注ぎ始めた。

   治癒魔法か。                          ジェム
   あの人が診るのなら、まぁ、死にはしないだろう。急所も外したし。

   さて、次だ。
112 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/04(水) 21:47:45.52 ID:tomOSCzxo

   もちろんまだ終わってなんかいない。

ミンカ 「ライラ! ライラ!? しっかりして、ライラぁ!!」

   泣きわめくミンカへと爪を向ける。
   杏子の秘密を聞き出すためには、こいつにも倒れてもらわないといけない。

   魔力を――



杏子「お前がしっかりしろ、ミンカ! 来るぞ!」



ミンカ 「!?」

   杏子の声に、ミンカが振りかえる。

ポーラ「ちっ」

   余計なことを。
   そんなに知られたくないのか。

ミンカ 「……っ!」

   歯噛みしながらも伸ばした爪は、刀の腹で止められた。
   が、彼女の目は未だ茫としている。

   まだ混乱しているのだ。ならば回復する前に叩く。
113 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/04(水) 21:48:52.86 ID:tomOSCzxo

   地を蹴り、直接距離を詰める。

   ゆっくりと刀を構えるミンカ。

ポーラ「遅いよ」

   あくびが出そうだ。

   爪を振り上げ、振り下ろす。
   振り下ろしながら長さを伸ばし、重みを加えて速度を上乗せする。これもまた奥の手だ。



   ――ガッ!



   硬い手ごたえ。
   刀ではない。地面だ。

   ミンカが消えた。

ポーラ「え……?」

   どこへ――

ポーラ「――――!?」

   悪寒。
   首筋が泡立った。

   顔を向ける。

   肉厚の刃が喉元に迫っていた。

   そしてその向こうに、

   完全に表情を亡くした、人形のようなミンカの瞳。

ポーラ「あ」

   首に衝撃。

   それから、赤い何かが見えて、

   そして――暗転。

   私の意識は、そこで、途絶えた。




114 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/04(水) 21:49:53.81 ID:tomOSCzxo




115 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/04(水) 21:51:17.00 ID:tomOSCzxo



   ◆

杏子「……」

マミ 「……」

QB 「……」

   駅ビル裏に気まずい空気が漂っていた。

   眉間にしわを寄せ押し黙る杏子。
   気を失い、横たわるポーラに治癒魔法を施すマミ。
   その傍らで、いつも通りに無表情なキュゥべえ。

ライラ 「……」

ミンカ 「う、うぅ……」

   彼女たちから少し離れた位置には、悄然と座り込むライラと、
   そのライラに縋りつきすすり泣くミンカ。

ミンカ 「ライラぁ……」

ライラ 「……もう泣くな、ミンカ。私は大丈夫だ」

ミンカ 「でも……わたし、あの子を……」

ライラ 「……。ヤツも、生きている。死にはしない」
116 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/04(水) 21:52:57.41 ID:tomOSCzxo

   彼女は見ていなかった。

   一時的に正気を失い、暴走状態に陥ったミンカの放った全身全霊の斬撃は、
   常人なら即死する勢いでポーラの首に叩きこまれた。
   杏子がとっさに放った鎖が刀身に絡みついていたおかげで両断こそは免れたが、
   気道も骨も頸椎もぐちゃぐちゃに圧し潰されてしまった。

   それなのに、それを見てすらいなかったのに、ライラは言った。
   死なないと、断言した。

ライラ 「巴殿、といったか。あの方の治癒魔法は私よりも上……いや。
    私など足元にも及ばないほどに高度だ」

ミンカ 「……うそ。そんなわけ」

ライラ 「嘘ではない。……上手くは言えないし、良く覚えてもいないのだが……、こう」

   拳を開き、握る。

ライラ 「命そのものを繋ぎとめられたかのような、そんな感覚があった」

ミンカ 「いのち、そのもの……?」

ライラ 「そうだ。何をどうすればあんなことが可能なのか、正直さっぱりわからん。
    水を媒介に相手の生命力を活性化させるのがせいぜいの私などには、到底及ばない領域だ」

ミンカ 「……」

ライラ 「……いや、そもそも比べることすらおこがましいのかも知れん。
    どうやら私は自惚れていたようだ」

ミンカ 「そんなこと……ライラがいなかったら、わたし、何度死んでたか……」

ライラ 「だからこそ、自惚れてしまったのだろうな。井の中の蛙というやつだ」

ミンカ 「……」
117 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/04(水) 21:54:54.36 ID:tomOSCzxo

ミンカ 「……なにもの、なんだろうね。あの人……」

ライラ 「わからない。師匠と親しげな様子ではあったが……」

??「――巴マミは、現役最強の魔法少女よ。そのキャリアは佐倉杏子よりも長い」

ライラ 「師匠より!? ……って、え?」

ミンカ 「……だれ? ……というか、いつのまに……?」

   その人物は、いつの間にか二人のそばに立っていた。

   長くつややかな黒髪の美少女だった。
   白いブラウスの上にカーキ色のベストを羽織り、デニムのロングスカートを履いている。
   シンプルで控えめながらも上品な出で立ち、ではあったが、
   頭を飾る赤いリボンだけが妙に浮いていた。

??「あなたたちは、ライラとミンカね。インキュベーターから聞いているわ」

ライラ 「『インキュベーター』……?」

??「……。キュゥべえのことよ」

ミンカ 「ああ……じゃなくて、えっと……」

ライラ 「……誰だ、あなたは」

   わずかに警戒をにじませ、ライラが問う。

   問われた彼女は、長い髪を手で梳いて流す。



ほむら「暁美ほむら、よ。よろしく」






118 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/04(水) 21:56:50.50 ID:tomOSCzxo



今日はここまで

ふーやれやれ、ようやく面子が揃った
一人死にかけてるけどな!

ではまた明日
119 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/04/05(木) 01:22:39.21 ID:9Ey7hV9qo
魔法少女なんてやって生きていける時点でどうやっても変人だよな
お疲れさま、明日も楽しみにしてる
120 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/05(木) 19:55:49.65 ID:O2MZRP28o

再開します
121 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/05(木) 19:56:29.32 ID:O2MZRP28o



   ◆

ポーラ「……、ん……」

ポーラ「ぅ、ん…………うん?」

   曖昧な、黒だか白だかよくわからない視界がゆっくりと像を結んで、
   やがて見知った天井が見えた。

   私の部屋だ。

   「あら、気が付いた?」

ポーラ「ん〜……、アルフレッド……」

   私は目をこすると、愛しい相棒を求めて定位置の窓際へと手を伸ばした。――が、

   すかっ。

   空を切った。

ポーラ「……?」

   すかっ、すかっ。

ポーラ「……」

   いない。

   …………いない?

ポーラ「え?」

   目を開く。
    . ..
   いない。

ポーラ「――アルフレッド!?」
122 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/05(木) 19:58:11.84 ID:O2MZRP28o

   跳ね起きた。そこへ、

   「ここよ」

   逆方向からの声。
   超高速で振り返る。

   ――いた!

ポーラ「アルフレッド!!」

   跳びかかる。

   「え?」

ポーラ「え?」

   と、そこで気が付いた。誰かがいることに。

   マミさんだ。
   魔法衣ではない普通の格好をしていて、ベッドサイドに置かれた椅子に腰かけている。
   そしてアルフレッドは、その彼女の膝の上にちょこんと座らされていた。

   気が付くのが、ちょっと遅かった。
   衝撃の予感に身がすくむ。
   次の瞬間には三半器官がデタラメに掻き回されて――

ポーラ「ッ……」

ポーラ「……」

ポーラ「…………?」
123 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/05(木) 19:59:42.31 ID:O2MZRP28o

   おや?

   何故だろう。思ったよりも衝撃が少ない。というかぜんぜんない。むしろ柔らかい。
   いや、彼女の豊かな胸がどうとかいう話ではなく。

ポーラ「……え?」

   閉じていた目を開く。
   するとどうしたことだろう。私の身体はマミさんに横抱きに抱きかかえられていた。
   いわゆるお姫様だっこの体勢だ。
   さらに、この腕の中にはアフルレッドがちゃんと収まっている。

   それらのことを認識してからようやく――かたん、と。
   あまりにも小さな揺れが一つだけ来た。
   傾いていた椅子が元通りに着地したのだと、辛うじて理解する。

   いや、……えぇ?

マミ 「ふぅ……びっくりした」

   ため息とともにマミさんが言う。
   実感はこもっていたけど説得力がぜんぜんない。
124 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/05(木) 20:01:00.06 ID:O2MZRP28o

ポーラ「え、あの……なに、を」

マミ 「あら、ごめんなさい。降りられる?」

ポーラ「あ、はい」

   腕から降ろされ、ベッドに座り直す。

ポーラ「……」

   ――じゃなくて。

ポーラ「いやあの、だから……今、何がどうなったんですか?」

   椅子に座っているところに数フィートの距離から低空タックルを見舞ったのだ。
   普通に考えたら、どんがらがっしゃんとなる以外に道はない。

   それをこの人は、

マミ 「なにって、こう……くいっ、と」

   両腕で何かを、右から左へと掬い上げるような動作。
   そんなものでどう受け止めたっていうんだ。

ポーラ「……魔法?」

マミ 「まさか。こんなことに魔法なんて使わないわ。ただの小手先の技術よ」

   こんなのが小手先であってたまるか。
   わかってたけどこの人、とんでもない達人だ。
125 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/05(木) 20:03:04.02 ID:O2MZRP28o

マミ 「それよりも、ごめんなさいね? 私がその子を勝手に膝に乗せてたりしたから」

ポーラ「え? ……あぁ」

   その子。アルフレッドか。
   そういえばなんでこの人が抱いてたんだろう。

ポーラ「それはまぁ、アレですけど……でもどうして?」

   聞くとマミさんはわずかに視線を逸らした。

マミ 「えっと……やっぱり、可愛かったから。つい」

   ちょっと顔が赤い。

ポーラ「そっか。だったら、いいです」

マミ 「え?」

ポーラ「アルフレッドが可愛かったから抱きたくなったんでしょう? だったら仕方ないですよ。
    でもできたら次からは私に一言いってくださいね?」

マミ 「……。……ええ、気を付けるわ」

   うん。やっぱりこの人はいい人だ。
   残念がってるのか、なんか微妙な表情してるけど、流石にお触り自由というわけにはいかない。
126 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/05(木) 20:04:26.34 ID:O2MZRP28o

ポーラ「他の子が残ってれば貸してあげることもできたんですけどね」

マミ 「他の……って、そういえば、」

   きょろり、マミさんが部屋を見渡す。

マミ 「ここにいるのはそのアルフレッドくんだけなのね。
    てっきり、テディ・ベアであふれたような部屋を想像しちゃってたんだけど」

ポーラ「あー、前はそんな感じだったんですけど、全部手放しちゃったんです。
    友達にあげたり、オークションに出したりして」

マミ 「そうなの。……でもどうして?」

ポーラ「この子がいれば十分ですから」

マミ 「……。そう」

ポーラ「……ってゆーか、」

   私も見渡す。
   もう一度言うけど、ここは私の家で、私の部屋だ。

ポーラ「どうしてマミさんがここに?」

マミ 「あぁ……そうね。まずはそれを説明しないといけないわね」

   言って、彼女は軽く居住まいを正した。

マミ 「その前にまず確認しておきたいんだけど、あなたはどこまで覚えてる? 気を失う前のこと」

ポーラ「気を……?」

   首をかしげる。

   ……そっか。
   そういえば私、寝てたんじゃなくて気絶してたんだ。
127 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/05(木) 20:06:10.79 ID:O2MZRP28o

ポーラ「……だいたいは。ミンカにやられたんですよね。ライラは倒しましたけど」

マミ 「……。そう」

ポーラ「あ、でも……なんか首をはねられたと思ったんですけど、マミさんが繋いでくれたんですか?」

マミ 「……」

ポーラ「……? マミさん?」

マミ 「……。いえ、佐倉さんが危ないところで防いでくれたから、そういうことにはならなかったわ」

ポーラ「杏子が?」

マミ 「ええ。ただ、ダメージがゼロというわけにはいかなかったから、その分の治療は、私が。
    どこかおかしなところがあれば言ってね?」

ポーラ「はぁ」

   とりあえず、打たれたはずの首筋を触ったりしてみたが、特に異常は感じない。
   綺麗なものだ。

ポーラ「大丈夫みたいです」

マミ 「そう。よかった」
128 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/05(木) 20:07:29.13 ID:O2MZRP28o

マミ 「……それにしてもあなた、ずいぶんあっさりと言っちゃうのね」

ポーラ「何がです?」

マミ 「首をはねられた、だなんて」

ポーラ「あぁ……それは、もちろん、平気なわけじゃないですけど。
    でも魔法少女ってそういうものなんでしょう?」

マミ 「……」

マミ 「……そうね」

ポーラ「それより、あのあとどうなったんですか?」

マミ 「あぁ、ごめんなさい。話が逸れてしまったわね」

マミ 「まず、ミス・ライラ=バナウラは無事よ」

ポーラ「はい」

マミ 「……」

ポーラ「?」

マミ 「……。それから、あのあと。あなたに治癒を施している途中で、暁美さんが来たの」

ポーラ「アケミって……ああ、ホムラさん?」

マミ 「そう。それで――」




129 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/05(木) 20:08:48.79 ID:O2MZRP28o



   ◆

杏子「来たのか、ほむら」

ほむら「ええ」

   手を挙げる杏子に、ほむらは薄く微笑んで返した。

ほむら「久しぶりね、杏子。元気そうで何より」

杏子「お前もな。……ってか、相変わらずその似合わないリボン付けてるのな」

ほむら「放っておいて。それより……」

   ちらりとその場を見渡す。

ほむら「どうやら全員揃っているようだけど、初顔合わせといった雰囲気でもないみたいね」

杏子「ああ、それがな……」

ほむら「だいたいのことはインキュベーターから聞いたわ。最後の方は見させてももらったし」

杏子「……そうか」

ほむら「さて、どうしましょうか」
130 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/05(木) 20:09:47.14 ID:O2MZRP28o

杏子「……」

   杏子はうつむいて頭をかくと、その姿勢のまま大きめの声を挙げた。

杏子「ライラ、ミンカ」

ライラ 「――はっ!」

ミンカ 「あ、は、はいっ」

   呼びかけに、ライラとミンカは敬礼で応える。

杏子「……」

ライラ 「……師匠?」

杏子「あ、あぁいや……うん。お前らは、先に宿に行ってろ。場所はわかるな?」

ライラ 「はっ。師匠は?」

杏子「アタシはこいつらとちょっと話がある。後から行くから先に休んでてくれ」

ライラ 「了解しました」

杏子「よし。じゃあポーラが目を覚ます前に早く行け。またややこしいことになるのは御免だ」

ライラ 「……。はい」

ミンカ 「し、失礼します」

   ライラは再び敬礼し、ミンカは深々とお辞儀をして、そして二人で連れ立って去っていく。
   見送る杏子は、少しだけ赤面していた。
131 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/05(木) 20:11:32.74 ID:O2MZRP28o

ほむら「……素直な子ね」

杏子「言うな。ありゃアタシがやらせてるわけじゃない。ライラの趣味みたいなモンだよ」

ほむら「そう」

杏子「だから来なくていいっつったんだ……まったく」

ほむら「まぁ、彼女たちのことは、あとで改めて紹介してちょうだい」

杏子「そうするよ。――で、マミ」

マミ 「ええ」

杏子「ポーラの様子は?」

マミ 「治療は終わってるわ。問題ないと思う」

杏子「そうか」

   うなずき、杏子はマミたちの方へと歩みよる。
   ほむらも続いた。

ポーラ「――」

杏子「……起きないね」

マミ 「眠ってもらってるのよ。下手なタイミングで目を覚まされたらいけないと思って」

杏子「あー……」

ほむら「いい判断ね」

杏子「だな。助かる」

マミ 「どういたしまして」
132 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/05(木) 20:12:35.54 ID:O2MZRP28o

マミ 「それで、どうする? もう起こす?」

ほむら「いえ、そのまま家まで送り届けた方がいいと思うわ」

マミ 「そう。……やっぱり、私が行くべきよね」

杏子「ああ、悪いな」

マミ 「治療に当たった者の義務よ。気にしないで」

ほむら「あ……でもその前に、――インキュベーター」

QB 「なんだい?」

ほむら「今のうちに情報の共有を済ませておきたいわ。
     テレパシーの送信を許可するから、お前がこの場で見たことを映像で送りなさい」

杏子「おまえ……相変わらずそいつと仲悪いのな」

ほむら「私が一方的に嫌っているだけよ」 ファサ

QB 「……」

杏子「自覚があるなら改善しろよ。……――キュゥべえ、マミにもやってくれ」

マミ 「そうね。お願い」

QB 「わかった。それじゃあ、送るよ」

   キィィィン…




133 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/05(木) 20:14:08.63 ID:O2MZRP28o





ほむら「……」

マミ 「……」

QB 「……」

ほむら「……、……思っていた以上に危険な子のようね」

マミ 「……」

杏子「まったく、可愛いナリしてとんだじゃじゃ馬だよ。まさか二回も殺しに走るとは思わなかった」

QB 「……。そうなのかい?」

杏子「……なに?」

QB 「君がポーラに禁じたのは魅了の魔術だけで、殺してはいけないとは言わなかったじゃないか」

杏子「それは……だから、あそこまでやるとは思わなかったんだよ」

QB 「どうして?」

杏子「どうしてってお前……」
134 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/05(木) 20:15:23.38 ID:O2MZRP28o

QB 「ポーラはまず最初にライラを殺そうとしたんだよ?
    そして君は、それを咎めるどころか、魔獣を相手にするのと同じようにとまで言った。
    だからポーラはその通りにしたんじゃないかな」

QB 「魔獣と殺すのと同じように、ライラとミンカのことも殺そうと」

杏子「……!」

マミ 「キュウべえ、そんな言い方……」

QB 「事実さ」

杏子「……アタシのせいだって言うのか……?」

ほむら「……何を言っているのよ。当り前でしょう?」

杏子「ッ……」

マミ 「暁美さんまで……」

ほむら「流石に今のは聞き捨てならないわよ」

ほむら「もちろん、そいつが今言ったことは、事実ではあるけど極論よ。
     人はそんな簡単に人を殺そうなんてしないし、また他人がそうするとも思わない。
     今日のことはポーラ=レイノルズの持つ異常性の方が原因でしょう」

ほむら「だけれど、一連の私闘そのものは、杏子、あなたの監督責任の下に
     行われたものでしょう?」

杏子「……」

杏子「…………ああ、そうだな」

杏子「悪い。どうやらアタシが腑抜けちまってたみたいだ」

マミ 「佐倉さん……」

杏子「ちょっと頭冷やしてくる」

   マミの不安げな視線から顔を背けるようにして、杏子は足早に去って行った。
135 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/05(木) 20:16:27.66 ID:O2MZRP28o

マミ 「……」

ほむら「丸くなったと思っていたけど、どうやらなりすぎていたようね」

マミ 「暁美さん」

ほむら「……必要なことを言ったまでよ」

マミ 「それは私もそう思うわ。そうじゃなくて、一つ聞きたいことがあるの」

ほむら「? 何かしら」

マミ 「暁美さん。あなた、もしかして知っていたんじゃない? 佐倉さんに魅了の魔術が効かないことを」

ほむら「……。なぜ?」

マミ 「だってあなたらしくないもの。自分がやりたくないことを他の誰かにやらせる、なんて。
    それもその場にいなかった人に」

ほむら「……」

マミ 「……」

ほむら「……可能性があると思ってはいたわ。杏子の固有魔法については知っていたから」

マミ 「……。そう」

ほむら「……」
136 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/05(木) 20:17:32.49 ID:O2MZRP28o

マミ 「それじゃあ……私はそろそろ行くわ」

   マミがポーラを抱きかかえる。

ほむら「ええ。あと、これを彼女に」

   そのマミに、ほむらは二粒のグリーフシードを手渡す。

マミ 「あら……わかったわ」

マミ 「キュウべえ、案内をお願い。あと、彼女の家族は?」

QB 「両親と、七歳になる妹が一人。この時間なら誰かいるとしても妹だけだと思う」

マミ 「なら、なんとかなるわね」

ほむら「……ちなみに、その妹さんにはお前の姿は見えるの?」

QB 「見えないよ」

ほむら「そう」

マミ 「それじゃ。……夕食は、久しぶりに三人で食べたいわね」

ほむら「……。わかったわ」

マミ 「お願いね」

   ゆっくりと頷いたほむらに微笑みを返すと、マミはポーラを抱えたまま地を蹴った。
137 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/05(木) 20:19:11.78 ID:O2MZRP28o

   そうして十分に離れたところで、小さく呟く。

マミ 「……まったく、暁美さんの秘密主義にも困ったものね」

QB 「おや? 彼女は嘘をついたのかい?」

マミ 「たぶんね」

QB 「ふぅん……」

マミ 「感謝はしているんだけどね。
    彼女がいなかったら、私も佐倉さんもとうに死んでいただろうし……」

QB 「……」




138 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/05(木) 20:20:31.18 ID:O2MZRP28o





ほむら「……」

ほむら「『犬の魔女。その性質は渇望』」

ほむら「『その結界内に入った人間は、この魔女に関心を抱かずにはいられない』」

ほむら「あの閉じた一ヶ月の中で、アレを倒すのはいつだって佐倉杏子の役目だった」

ほむら「一切の幻惑を拒絶する彼女だけが、あの魔女と正面から戦えた」

ほむら「……今のあなたたちには、関係のない話よ」




139 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/05(木) 20:23:00.47 ID:O2MZRP28o



一旦ここまで
140 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/04/05(木) 20:36:01.11 ID:bOV+5vUAO

あんこちゃんの死亡フラグが着々と建設されてる感じがなんとも……次回に期待。
フラグ回収は期待してないんだが。
141 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/05(木) 21:52:37.04 ID:O2MZRP28o

再開
142 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/05(木) 21:53:43.06 ID:O2MZRP28o



   ◆

マミ 「――それで、これを預けられたわ。あなたにと」

   マミさんが、ポケットから取り出したものを手渡してくれる。

   すっかりおなじみの小さな黒いキューブ。
   それが二つ。

ポーラ「グリーフシード……?」

マミ 「私たちと合流する前に遭遇した魔獣が落としたものらしいわ」

ポーラ「はぁ……、――え? ってことは、」

マミ 「そうね。これでもう、“ワルプルギスの夜” までは打ち止め」

ポーラ「うわ……」

   我ながら嫌そうな声が漏れた。
   わかっていたけど改めて聞かされるとわだかまるものがある。

   あと、獲物を横取りされたような気分も少し。
   手に入るべきものは手に入ったわけではあるんだけど、なんかなんとなくね。
143 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/05(木) 21:54:42.09 ID:O2MZRP28o

ポーラ「……でも、なんで私に?」

マミ 「それはやっぱり、この街があなたの縄張りだから、ということだと思うわ」

   律義な人だなぁ。

マミ 「そうでなくても、あなたが一番消耗しているわけだしね」

ポーラ「……わかりました。ありがたくもらっときます」

   せっかくだし、早速使わせてもらおう。

   指輪をジェムに戻し、キューブとともにベッドに置くと、溜まっていた穢れが染み出して
   吸い込まれていく。

   二つぽっちだと大して浄化もできないし、すぐに終わるだろう。

マミ 「以前からのストックも多少はあるから、必要なら言ってね?」

ポーラ「あ、はい。どうも」

ポーラ「えっと――それで、他には?」

マミ 「……いえ、それで終わりね」

ポーラ「そうなんですか?」

マミ 「ええ。あなたは眠っていたし、ミス・バナウラもミス・ツァンも疲れていたから、
    軽く情報交換しただけですぐに解散しちゃったわ」

ポーラ「はぁ」
144 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/05(木) 21:55:39.93 ID:O2MZRP28o

   ……と、終わった。

   ジェムを指輪に変えて指に戻す。

QB 「じゃあ、それはこっちにくれるかい?」

ポーラ「はいはい……って、あんたいたんだ」

QB 「……。最初からいたよ」

   気付かなかった。

ポーラ「ふーん」 ポイ

QB 「どうも」 パクン

QB 「――きゅっぷい」

   放ったグリーフシードを背中の穴で飲み込み、妙な声を出すキュゥべえ。
   いつも思うけど、これはゲップなのだろうか。

マミ 「……ちなみに、この子はあなたと契約した個体じゃないわ。私が日本から連れてきたの」

ポーラ「え? ……ああ、最初のときに肩に乗せてた?」

マミ 「そうね」

ポーラ「ふーん、そうなんだ。よろしくね」

QB 「挨拶の必要はないよ。どの僕も全て同じ僕だから」

ポーラ「はい?」
145 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/05(木) 21:56:43.47 ID:O2MZRP28o

QB 「僕らインキュベーターは、全体で一つの意識と記憶を共有しているんだ。
    だから区別を付ける必要はないのさ。まだ言ってなかったね」

ポーラ「え、何それ気持ち悪い」

マミ 「……」

QB 「……」

ポーラ「あ……えっと、ごめんなさい?」

マミ 「いえ……」

QB 「まぁ、それが普通の反応だよね。だからあまり言わないことにしてるんだけど」

ポーラ「そうなんだ」

QB 「ああ」

マミ 「……」

ポーラ「……」

QB 「……」

   何これ気まずい。

マミ 「……それじゃあ、私はそろそろ失礼するわ」

ポーラ「あ、はい」


146 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/05(木) 21:58:15.47 ID:O2MZRP28o

   玄関までマミさんを送る。
   ドアの外はもう夜だった。

   途中で通りかかったリビングでは妹がソファで眠っていた。
   毛布が掛けられていたけど、マミさんが掛けてくれたんだろうか。

マミ 「そうそう。明日か明後日、改めて集まりたいと思うんだけど、あなたも来られるかしら」

ポーラ「ん……学校がありますけど、夕方以降なら」

マミ 「そう、よかった。じゃあ時間と場所はまたあとで連絡するわね」

ポーラ「お願いします」

   IDを取り出し、連絡先を交換した。

マミ 「ただ……」

ポーラ「なんです?」

マミ 「そのときは、今日みたいなことにならないようにしてほしいの」

ポーラ「今日って……」



   ――血まみれになって倒れるライラ。

   ――危うく首をはねられかけた私。



ポーラ「……私のせいなんですか?」
147 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/05(木) 21:59:50.20 ID:O2MZRP28o

マミ 「そういうわけじゃないけど……」

   マミさんはそんなふうに言いながら、困ったように眉尻を下げた。

   この目は、知ってる。
   “扱いにくいもの” を見る目だ。

ポーラ「……」

マミ 「あそこまでやる必要はなかったと思うの」

ポーラ「……」

マミ 「だから……」

ポーラ「……」

マミ 「……」

ポーラ「……」

ポーラ「わかりました。気を付けます。でも、向こうにも言っといてください」

マミ 「……。わかったわ」

ポーラ「……」

マミ 「……それじゃ」

ポーラ「はい」

   そして、マミさんは帰って行った。
148 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/05(木) 22:00:48.46 ID:O2MZRP28o

ポーラ「ハァ」

   ため息を吐いてきびすを返す。
   リビングで眠る妹を素通りし、キッチンで水を飲んでから自室に戻る。
   ベッドに寝転びアルフレッドを抱きしめる。

   目を閉じる。



ポーラ「…………」



   巴マミさん。

   あの人は、いい人だ。
   だけど、結局は “ただの善人” だ。

   私の気持ちを理解してくれるわけじゃ、ないんだ。




149 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/05(木) 22:01:35.03 ID:O2MZRP28o



   ◆

   ポーラの家を出て、ひとまずホテルの方へと歩いていたマミの携帯に
   ほむらからの連絡が入ったのは、ちょうど午後七時を回ったころだった。

マミ 「――わかったわ。じゃあ、あとで」

   通話を切り、進路を変える。

QB 「なんだって?」

マミ 「昼に見つけたカモ料理のお店で待ってるって。佐倉さんのことも捕まえたそうよ」

QB 「ふぅん」

QB 「……。その店は、ペットを連れ込んでも大丈夫なのかい?」

マミ 「えっ?」

QB 「……」

マミ 「……」

QB 「冗談だよ」

マミ 「あぁ……」

QB 「うん」
150 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/05(木) 22:02:32.11 ID:O2MZRP28o

マミ 「……」

QB 「……」

QB 「まぁ、今回は僕は遠慮しておくよ。ほむらが嫌がるだろうしね」

マミ 「……暁美さんも、本気であなたのことを嫌っているわけじゃないはずよ?」

QB 「とてもそうは思えないよ」

マミ 「女心は複雑なの。……あの子も認めようとはしないでしょうけどね」

QB 「ふぅん」

QB 「何にしても、今回は君たち三人、水入らずで過ごすといい。積もる話もあるだろう」

マミ 「そうね。そうさせてもらうわ」

マミ 「それにしても……珍しい、というか、久しぶりね。あなたが冗談を言うなんて」

QB 「まぁ、たまにはね。それに 『ユーモアが大事だ』 と言ったのは君だよ」

マミ 「言ったかしら、そんなこと」

QB 「言ったよ」

マミ 「うーん……ごめんなさい。あまり良く覚えてないわ」

QB 「別に謝る必要はないけど」
151 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/05(木) 22:03:27.99 ID:O2MZRP28o

QB 「なんとなくね、君が疲れているようだったから、試しに言ってみただけさ」

マミ 「そう。ありがとう、キュウべえ」

QB 「どういたしまして」

マミ 「でも、そうねぇ……疲れているというか、よくわからなくて……」

QB 「何がだい?」

マミ 「彼女よ。ミス・レイノルズ」

QB 「ふぅん?」

マミ 「話をしていても、通じているようで通じていないみたいな……
    世代間ギャップというだけでは説明できないような違和感があるのよね……」

マミ 「あれならまだ昔の暁美さんの方が理解しやすかったわ」

QB 「ふむ……」

マミ 「あなたは、どう思う?」

QB 「……。いや、特には」

マミ 「そう……」
152 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/05(木) 22:05:15.69 ID:O2MZRP28o

QB 「確かに君や杏子やほむらとは少し違う印象はあるよ。
    だけどそれを言うなら君たち三人もそれぞれかなり違っているし、個人差の範囲内だね」

QB 「むしろ僕から言わせれば、君たちの方がよほど規格外だ」

マミ 「え……?」

QB 「四十年以上も現役で活動し続けている魔法少女なんて、歴史上でも数えるほどしかいない」

マミ 「……精神性の話よ」

QB 「そのつもりだけど?」

マミ 「ハァ……いいわ。それがあなたたちだものね」

QB 「……?」

マミ 「それにしても……何を考えているのかしらね、彼女は……」




153 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/05(木) 22:06:22.81 ID:O2MZRP28o



   ◆

   自分が他の 『普通の人』 と少し違っているらしいことは、知っている。
   昔からさんざん言われてきたからだ。

   パパも。
   ママも。
   先生も。
   友達も。
   ことあるごとに私を責めた。
   それらの言葉は時と場合によって様々だったけど、要約するとこういうものになる。

   すなわち――もっと人の気持ちを大切にしなさい、と。

   それを聞くたびに私は思った。

   『じゃあみんなも、もっとテディ・ベアのことを大切にしてよ』

   人間は自分で自分の面倒を見られる。
   だけどテディ・ベアにそれはできない。
   だからそれは当然のことのはずなのに、誰も理解しようとしない。

   「ふさけるな」 って怒ったり、 「何言ってるの」 って気味悪がったりする。
   そしてあの “扱いにくいもの” を見る目を向けてくるのだ。

   そんなだからいつしか口に出すことはしなくなったけど、未だに納得はしていない。
154 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/05(木) 22:07:48.17 ID:O2MZRP28o

   今日だって、私は別にライラを殺そうとしたわけじゃない。
   殺さないように気を付けることもしなかったけど、だからって私のせいじゃない。
   悪いのは、自分が死なないように気を付けなかったライラのほうだ。

   ……そういう意味では、ミンカを見くびった私にも責任はあるわけか。

ポーラ「めんどくさいなぁ……」

   ため息を吐く。

   本当、人間は面倒くさい。

ポーラ「……みんなぬいぐるみになっちゃえばいいのにね」

ポーラ「ね? アルフレッド?」

   問いかけても、答えはなく。
   プラスチックの瞳も、ただそこにあるだけで、私を見つめ返したりはしない。

ポーラ「……ふふっ」

   うん。
   やっぱりテディ・ベアは最高だ。






155 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/05(木) 22:09:42.06 ID:O2MZRP28o



今日はここまで
156 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/05(木) 22:41:43.07 ID:d62RqFG0o
157 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/04/06(金) 07:57:57.44 ID:BDmVEIRMo

おかしい、ここのQBは精神疾患患ってないにもかかわらず
マミさんにデレてるように見える
いいぞもっとやれ
158 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/04/06(金) 11:47:01.19 ID:UHbSaqQAO
めちゃ面白い
見習わねば…
159 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/04/06(金) 13:35:55.25 ID:VtK6P2OAO


最早流石と言うべきクオリティ
次回も期待
160 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/06(金) 21:37:00.14 ID:Rc7yuNpWo

再開します

今回は本筋とはあんまり関係ない息抜き回です
あとロリコン発狂注意
161 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/06(金) 21:37:38.68 ID:Rc7yuNpWo



   ◆

   「それじゃあ――再会を祝して」

   「勝利を願って」

   「円環の導きに」

  「「「乾杯」」」


162 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/06(金) 21:39:31.81 ID:Rc7yuNpWo



   ベリーズベリー市内、某レストラン。

   目立たない隅のテーブル席に、杏子、マミ、ほむらの三人が揃っていた。
   他の人物やキュゥべえはいない。

杏子「ふぅ……。ワインなんて久しぶりだよ」

マミ 「あら。普段は呑まないの?」

杏子「基本的にずっと旅してるからさぁ。ビールぐらいしか手に入らないんだよ。
    果実系の方が好きなんだけど安いのはたいがい不味いし」

マミ 「暁美さんは?」

ほむら「お酒は飲まないわ」

杏子「呑んでるじゃん」

ほむら「そこまで無粋ではないつもりよ。でもやっぱり、あまり美味しいとは思えないわね」

杏子「ふーん。呑まずによくやってられるね、こんな商売をさ」

ほむら「昔に比べれば、どうということのない道程よ」

杏子「ムカシって……“あの” 昔か?」

ほむら「……。ええ、“その” 昔」

杏子「ふーん……」
163 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/06(金) 21:40:53.50 ID:Rc7yuNpWo

ほむら「マミは、どうなの? お酒」

マミ 「私? ……そうねぇ、良く飲むのはワインだけど、あまりこだわりはないわね。
    ただブランデーだけは、ちょっと苦手かな」

杏子「ブランデーって言うと、紅茶に入れたりするんだろ? しないのかい?」

マミ 「ええ。たまに試してみるんだけど、なんとなくね」

ほむら「……」

杏子「しかし、アレだね。アタシらこんな見た目なのに、こんなに堂々と飲んでて大丈夫なのかね?」

ほむら「それに関してはぬかりはないわ」

マミ 「ああ……やっぱりアレ、使っちゃったのね」

杏子「ん? そーいや入ったときに店員に何か見せてたっけ」

ほむら「ええ」

杏子「どんな魔法を使ったんだい?」

ほむら「別に大層な代物じゃないわ。ただの偽造パスポートよ」

杏子「……」

マミ 「まぁ、避けては通れない道よね……」

杏子「ああ、そう……」

ほむら「まさか、持っていないの?」

杏子「持ってるけどさ……夢がないっつーか……」

ほむら「ずいぶん可愛らしいことを言うのね」

杏子「ほっとけ」


164 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/06(金) 21:43:01.72 ID:Rc7yuNpWo



杏子「っつーか……今日は悪かったね、迷惑かけて」

ほむら「そうね。ぜひとも挽回してちょうだい」

杏子「厳しいね。ま、期待しといてくれよ」

マミ 「でも……あれは、佐倉さん一人の責任とは言い切れない気がするわ。
    私でも防げたかどうか……」

杏子「……」

ほむら「……。ポーラ=レイノルズ?」

マミ 「ええ」

ほむら「どんな様子だったの?」

杏子「何か言ってたか?」

マミ 「……いいえ。何も」

マミ 「――そう、何も言ってなかったわ」
165 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/06(金) 21:45:31.17 ID:Rc7yuNpWo

マミ 「ミス・ツァンに対する恐怖も、憎悪も。ミス・バナウラに対する心配も罪悪感も。
    そもそも彼女自身が生きていたことへの安堵すら、何一つ口にしていなかった」

マミ 「彼女が見せたのはただ一つ。
    あのテディ・ベアに対する無邪気な執着だけだったわ」

ほむら「……」

マミ 「……悪い子だとは思わないんだけど……価値観が違いすぎて、どう接すればいいのか」

ほむら「……そう」

マミ 「一応、もうああいったことはないようにって、それだけは言っておいたんだけど……」

杏子「……」

杏子「なぁ、ほむら」

ほむら「何かしら」

杏子「せっかく推薦してもらって悪いんだけどさ、マミがここまで言うアイツを御する自信は、
    アタシも正直、ちょっとないわ」

ほむら「あなたしかいないわ。彼女の魅了を行け入れてしまう私たちには、勤まらない」

マミ 「そうね……」
166 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/06(金) 21:47:37.17 ID:Rc7yuNpWo

杏子「っつってもさぁ……」

ほむら「……。ツァン=ミンカはどうなの?」

杏子「あん?」

ほむら「最後に見せた暴走――彼女もかなり危なっかしく思えるのだけど」

杏子「あー、アレな……」

マミ 「うーん……」

杏子「まぁ……普段がおとなしすぎるせいなのかねぇ。 たまーにああやってキレちまうことが
    あるんだが……そこまで気にするほどのモンじゃないと思うよ?」

ほむら「そうかしら」

杏子「少なくとも、アタシが知る限りじゃ正当防衛しかしたことはないし、
    ヒトに牙をむいたのも今日が初めてなんだ」

マミ 「……そうね、私も同意見よ。彼女のことはまだよく知らないけれど、あの暴走は――」

マミ 「そう。人間味が感じられるものだったわ」

ほむら「……そう。あなたたちがそう言うなら、そうなのでしょうね」
167 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/06(金) 21:48:49.27 ID:Rc7yuNpWo

杏子「それよりも、ポーラだ。どうするよアレ」

ほむら「……」

ほむら「重要なのは、戦力としてどうなのか、という点ね」

杏子「おいおい、それって――」

ほむら「彼女の人格や行動を矯正することは、祈りの否定につながりかねない。
     魔法少女として、それだけはしてはならないわ」

杏子「……」

ほむら「忘れないで。私たちは “ワラキアの夜” に対処するために来ているの。
     それ以外は二の次よ」

杏子「そりゃそうだけどさぁ……」

マミ 「けど、何かやりようがあるというわけでもないのよねぇ……」

ほむら「現状、彼女は戦いに参加するかどうかも決まっていない。
     ひとまずは、無駄に刺激しないようにだけ気を付けて、他のことはまたあとで考えましょう」

杏子「……わかったよ」


168 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/06(金) 21:50:01.56 ID:Rc7yuNpWo



杏子「そーいや……お前らは、それぞれ一人で来たのか?」

マミ 「ええ」

ほむら「そうね」

杏子「ふーん……」

ほむら「……。私は、弟子は取らない主義だし」

杏子「そーゆートコも変わってないね」

マミ 「今まで一人も?」

ほむら「ええ」

ほむら「行きずりの新人に多少の手ほどきをしたことぐらいならあるけど、いつもその場限りね」

杏子「クールっつーかドライっつーか……」

マミ 「暁美さんらしいわね」
169 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/06(金) 21:51:13.67 ID:Rc7yuNpWo

杏子「そういうマミはどうなんだい?」

マミ 「私?」

杏子「お前が一人なんてのは、それこそ 『らしくない』 じゃないか。
    てっきり何人も連れてきてるもんだと思ってたんだけどね」

マミ 「んー……タイミングが悪かった、としか言えないわね。
    しばらく前までは私の周りもにぎやかだったんだけど、ここ数年でみんな巣立っちゃって」

マミ 「一人だけ残っていてくれた子も、迷ったんだけど、結局留守番を任せちゃった」

杏子「留守番?」

マミ 「ええ……迷ったんだけど、やっぱり見滝原を空っぽにすることはどうしてもできなくて」

杏子「……は?」

マミ 「私情を挟んだことは悪いと思ってるわ。でも――」

杏子「いやいや、そうじゃなくてさ」
170 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/06(金) 21:52:47.24 ID:Rc7yuNpWo

杏子「お前、またあの街に戻ったのか?」

マミ 「え? 戻ったも何も、私はずっと見滝原の住人よ?」

杏子「は? いやだってこないだはイタリアにいたじゃん」

マミ 「こないだって……十二年も前のことじゃない。旅行していただけよ」

杏子「……」

ほむら「気持ちはわかるわよ、杏子。私も驚いた……というより、呆れたわ」

マミ 「いいじゃない、別に」

杏子「良くはないだろ……」

マミ 「あら、どうして?」

杏子「どうしてって、そりゃ」

ほむら「同じ街に、ほとんど変わらない姿で、五十年」

ほむら「……狂気の沙汰とまでは言わないけれど、リスクしか見つけられないわ」

マミ 「意外とどうにでもなるものよ」
171 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/06(金) 21:53:56.23 ID:Rc7yuNpWo

杏子「そうは言うけど、実際どうやってんのさ。近所づきあいとか、古い知り合いとか」

マミ 「家だけは十年おきぐらいに引っ越しているけど、やってることといえばそれぐらいね」

マミ 「もう身寄りもいないし、普通の人と深く付き合うこともほとんどなかったから、
    知らんぷりをしていれば勝手に人違いだと思ってくれるわ」

杏子「マジでか……」

マミ 「少なくとも、大きな疑いをかけられたことは今まで一度もないわよ」

杏子「はー……そんなもんかねぇ」

マミ 「ええ」

ほむら「でも、気付いている人は必ずいるわ。例えば不動産界隈あたりに」

マミ 「だとしても、その手の噂って外には広まらないものよ」

ほむら「……。そう」

マミ 「――そういえば、ねぇ、佐倉さん」


172 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/06(金) 21:55:05.21 ID:Rc7yuNpWo



   ◆

   宴もたけなわ。

   ほどよく食欲も満たされ、酔いも回り始めた頃合いに、
   ふと思い出したといった調子でマミが杏子の名を呼んだ。

杏子「うん?」

マミ 「駅裏でも言おうと思ったんだけど」

杏子「あぁ」

マミ 「この街に訪れる “夜” を越えたら―― 一度日本に帰らない? 私と一緒に」

杏子「……」

マミ 「どうかしら」

杏子「……帰ってどうしろってのさ……」

   平静なつもりで返した言葉は、杏子自身の耳にさえ絞り出すような音として響いた。

マミ 「どうするって……あなたの故郷なのよ?」
173 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/06(金) 21:56:12.15 ID:Rc7yuNpWo

杏子「違うね」

   断じる。

杏子「あそこはもう、アタシの知ってる風見野じゃない」

   なぜなら、父親の教会も、通っていた小学校も、妹と遊んだ公園も、
   リンゴを盗んだ商店街の八百屋も、行き付けにしていたゲームセンターも。

杏子「アタシをアタシとして育んでくれた思い出は、もう何一つ残っちゃいないんだ」

   そんな場所を故郷と呼べるのか。
   帰ったところで何があるというのか。



マミ 「ゆまさんがいるわ」



杏子「……」

マミ 「……」

ほむら「……」

杏子「……………………馬鹿言うなよ。それこそ、会ってどうしろってのさ」
174 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/06(金) 21:57:38.75 ID:Rc7yuNpWo

   千歳ゆま。
   かつて杏子に命を救われた少女。

   両親とともに魔獣に襲われ、孤児となり、
   数か月を杏子らと過ごしたのちに施設に引き取られ、表社会へと復帰した。

   魔法少女としての素質を有してはいたが最後まで契約をすることはなく、
   第二次性徴期の終わりに伴いキュゥべえを知覚できなくなるのを見届けたところで
   杏子は彼女に別れを告げた。

   以来、二人は一度も会っていない。

杏子「あいつにはもうあいつの家族がいるんだろ?」

   そして、二十七年前の春。
   以前から交際していたというとある男性のもとに嫁いだと聞いた。
   その後、子供も生まれたらしい。

杏子「アタシにそれを伝えたのは、マミ。あんたじゃないか」

マミ 「関係ないわよ」

   それなのに、あっさりと、マミは言った。

杏子「な……」

   杏子は唖然とする。
175 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/06(金) 21:59:04.10 ID:Rc7yuNpWo

マミ 「確かに彼女は、もう一人ぼっちじゃないわ」

マミ 「だけどね、どれだけ幸せでも、どれだけ満たされていても、
    好きな人に会いたい気持ちは、他では埋められないものよ」

マミ 「そのことは――佐倉さん。あなた自身もよく知っていることでしょう?」

杏子「……」

マミ 「ただ、会えばいいのよ」

マミ 「彼女だって、またあなたと一緒に暮らしたいなんてことは思ってないわ。
    いえ、思ってはいるかも知れないけれど、それが無理なことぐらいわかっているはず」

マミ 「何もしてあげなくていいの。何かを言う必要もない。
    ただ一緒にお茶を飲んで、お菓子を食べて、最後に 『また会おう』 って別れれば、
    それでいいのよ」

杏子「……」

マミ 「ね? 簡単なことでしょう?」

杏子「…………ほむら」

   助けを求めて、その場にいるもう一人へと向き直る。
   暁美ほむら。この話題が始まってから、彼女は一言も喋っていない。
176 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/06(金) 22:01:07.78 ID:Rc7yuNpWo

ほむら「何かしら」

杏子「黙ってないで、なんとか言ってくれ」

ほむら「……」

   彼女は再度沈黙し、そして小さく頭を揺らす。
   肩にかかっていた髪が背中に落ちた。
   食事の場で直接手で触れるのは流石に憚られたらしい。

ほむら「そうね。私がこの件について言えるのは、二つだけ」

杏子「おぉ、なんだ」

ほむら「一つは、私も同じ誘いを受けていて、そして既に乗っているということ」

杏子「え……」

ほむら「もう一つは、会いたい相手に会えるのは幸せなことだと思っている、ということ」

杏子「ちょ……」

ほむら「あなたの選択よ。あなたが決めなさい」

杏子「……」

   逃げ場なし。
   杏子は一人、深い深いため息をついた。






177 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/06(金) 22:01:56.93 ID:Rc7yuNpWo



今日はここまで
178 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/06(金) 22:15:13.92 ID:D3cr/9Fa0
乙っしたー!
八百比丘尼のジレンマと言うか何と言うか。
人間、生きれば生きただけのしがらみが絡み付いて、感情はそれを捌き切れなくなるから、そうなると、その場から逃げ出さざるを得なくなるとでも言いますか。
しかし、理に成り果てたまどかの祈りの歪みは、実は魔獣ではなくこうして絶望=魔女化じゃなくなった魔法少女達の苦悩なんじゃないかと思ったり。
でも、それも多分「魔女にならない」という一点に絞らないとどんな逆凪やしっぺ返しで、それこそ世界を破壊するか分からなかったまどかの資質を考えると
仕方ないのかもしれないし。
次回も楽しみにさせていただきます。
179 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛媛県) [sage]:2012/04/07(土) 10:00:39.50 ID:QxMqNuLd0
え? 別に発狂なんてしなかったぜ??
180 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/04/07(土) 17:35:44.40 ID:Qt3KnjYAO
ゆまちゃんが子供のままで出てくるのを期待してた層に向けてじゃないか?
ぶっちゃけ魔獣グッジョブだが(原作ままの場合)幸せなら良かった

だとするとおりこ勢やかずみ勢も出ないって事かな?
181 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/07(土) 21:16:57.30 ID:1f3o075No

ゆまちゃん50歳、非処女で子持ち
割と思い切ったことやったつもりだったんですが、そうでもなかったかな

おりキリは未契約、かずみ勢の消息は不明です


再開します
182 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/07(土) 21:18:24.48 ID:1f3o075No



   ◆

   さらに、翌日。
   “ワルプルギスの夜” まであと三日。



ほむら「――全員、揃ったわね」



   場を停滞させていた沈黙を、ホムラさんの一声が破った。

   夕刻。
   杏子たちが逗留しているというホテルの一室。

   そこに、私とアルフレッド、マミさん、ホムラさん、杏子、ライラ、ミンカの七人が
   一日ぶりに勢ぞろいしていた。
   ちなみにマミさんたちも同じホテルの別の階に止まっているらしい。

   部屋は、豪華さはないけどかなり広くて、窮屈な感じはまったくしない。
   かといって居心地がいいわけではぜんぜんない。

   誰かさんがチラチラと陰険な視線を送ってきているからだ。

ライラ「……」

   その隣に座ってるミンカの卑屈な視線もうっとおしい。
   マミさん、ちゃんとこいつらに言っといてくれたのかな……
183 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/07(土) 21:20:00.71 ID:1f3o075No

杏子「……そういや、昨日聞きそびれてたんだが……」

   と、さっきまで心ここに非ずといった感じでボーっとしてた杏子が、不意に声を挙げた。
   今日は紙袋に入った揚げ菓子のようなものを食べている。

ほむら「何かしら」

杏子「これで全員なのか?」

QB 「そうだね」

   うなずいたのはキュゥべえ。
   ちなみに昨日の、マミさんと一緒にいた奴だ。……と思う。肩に乗ってるし。

QB 「今現在、生きて活動している世界中の魔法少女のほぼ全員に声をかけたけど、
    応じてくれたのは君たちだけだったよ」

ほむら「『ほぼ』、とは?」

QB 「経験の浅い子たちは除外した。だいたい一ヶ月目あたりを目安に、
    まだ戦いそのものに慣れていない子たちには教えてすらいないよ」

ほむら「……なるほど。当然ね」
184 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/07(土) 21:21:26.67 ID:1f3o075No

杏子「アイツはどうなんだ? ほら、あの墓守の」

   ハカモリ?

QB 「佐木ハルカのことかい? それなら、断られたよ」

杏子「そっか……アイツがいればかなり助かるんだけどな……」

マミ 「無理よ。あの人を三園さんのお墓から引き離すのは、並大抵のことじゃないわ」

マミ 「まぁ確かに、あともう一人欲しいところではあるけどね。
    やっぱりこういうのは 『六人』 よりも 『七人』 の方が格好が付くし」

ほむら「……」

   クリント=イーストウッドじゃあるまいし。

ほむら「無い物ねだりをしても始まらないわ。話を続けるわよ」

ほむら「まず――ポーラ=レイノルズ」

   ホムラさんがこちらに向き直る。

ポーラ「あ、はい」

ほむら「どうするかは決まったかしら?」

   どうするか。

   戦うか、戦わないのか。
185 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/07(土) 21:22:08.00 ID:1f3o075No

ポーラ「……」

ポーラ「……」 チラ

杏子「……、ん?」

ポーラ「……」 フイッ

杏子「……?」

ポーラ「出ます。でも、たぶん途中で抜けます」

ライラ 「なに?」

   私の答えに、ぜんぜん関係のないライラが真っ先に反応した。
   無視だ。

ライラ 「おい、新入り。それはどういう――」

杏子「ライラ」

ライラ 「……、は。申し訳ありません」

   杏子に制され、大人しく引き下がる。が、

ポーラ「待って」

   無視中止。

ポーラ「『新入り』 って何よ」
186 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/07(土) 21:23:11.75 ID:1f3o075No

ライラ 「何とはなんだ。新入りは新入りだろうが」
                                         ニ ュ ー カ マ ー
ポーラ「私はあんたらの下につくつもりはないわよ。てゆーか街に入ってきたのはむしろそっちじゃない」

ライラ 「貴様……」

杏子「おい。ライラ」

ライラ 「……」

マミ 「ミス・レイノルズ、あなたも落ち着いて。ね?」

ポーラ「フン……」

   ひとまず、双方腰を落ち着ける。
   ホムラさんがため息をついた。

ほむら「……一応、理由を聞かせてもらえるかしら?」

ポーラ「死にたくないからです。最初から逃げないのは、グリーフシードを手に入れるため」

ほむら「なるほど」

ポーラ「……いけませんか?」

ほむら「いいえ。理想的よ」

   あっさりと、ホムラさんはうなずいた。
187 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/07(土) 21:24:02.46 ID:1f3o075No

ライラ 「えっ……」

杏子「なに驚いてんだ、ライラ。来る前にアタシも言っただろ?」

ライラ 「は……」

杏子「アタシたちは死にに来たわけじゃないんだ。
    必死になるのはかまわないけど、決死の覚悟なんか間違ってもするんじゃないよ」

   不機嫌さもあらわに言う杏子。
   なんだか昨日と雰囲気が違う気がする。

ライラ 「……」

杏子「返事はどうした」

ライラ 「さ、サーイエッサー」

   不承々々といった感じにライラは敬礼。
   杏子の眉の角度が増した。

杏子「……『サー』 は余計だ」

   ちなみにミンカは、

ミンカ 「……っ、……っっ」

   やり取りの間中、ずっとおろおろと視線をさまよわせていた。

   正直、こいつらと何かが話し合えるという気はまったくしない。


188 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/07(土) 21:26:16.87 ID:1f3o075No



マミ 「……それでは改めて、“ワルプルギスの夜” 対策会議、始めましょうか」

ほむら「当日までを含む全体の指揮は私とマミとで執らせてもらいたいのだけど、
     かまわないかしら?」

   マミさんの宣言に続いてホムラさんが問いかける。
   反対意見は出なかった。
   ま、当然でしょーね。

ほむら「まずは各々の能力を把握しておきたいわね。
     順番に、武器や固有魔法についてできるだけ詳しく教えてちょうだい」

ほむら「ライラ=バナウラ。あなたから」

ライラ 「了解しました」

   指名されたライラがソファを立つ。

ライラ 「ライラ=バナウラ。十三歳。タンザニア出身。武器は三又槍」

   そしてジェムを取り出し、変身。
   手に武器を掲げ持つ。

ライラ 「長さ一四〇センチの短槍です。銘はありません。
    ご覧の通り外側の二本には刃が付いていますので斬撃を用いることもできますが、
    得手ではないため刺突による攻撃を主体としております。変形の類はできません」
189 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/07(土) 21:27:42.42 ID:1f3o075No

   長い説明を、つっかえることもなくスラスラとよく喋る。
   練習でもしたんだろうか。

ライラ 「魔法の説明に移ります。私の固有魔法は、水の操作」

   言いながら、窓際におかれた花瓶を槍で指し示す。
   そして穂先を、ついっ、と振ると、その動きにつられるようにして花瓶の中の水が
   ぽちゃんと跳び出した。

   ライラがさらに槍を振るうと、アメーバのように不定形だった水のカタマリは
   彼女の方へと空中を移動しながら綺麗な球体となり、
   胸の前まで来たところで三つに分かれて、それぞれが鋭利なあの “水の矢” になった。

ライラ 「主に、このように矢の形にして武器として使います。
    他の形にもできますが、あまり複雑な形状を作ろうとすれば時間も魔力も消費します。
    また水に限らず液体なら大抵のものは扱えますが、これも不純物の割り合いが高いと
    精度と魔力消費率が低下します。具体的には、海水ぐらいが限界です」

ライラ 「次に欠点ですが、その場にある水しか操作できません。
    つまり、生み出したり、量を増やしたりといったことは不可能です。
    大気中の水分を抽出するといったことも今はまだできません。
    ただ、霧が出ていれば集めて操作できます」

ライラ 「また、扱えるのは目視できる範囲の水に限ります。
    今のように花瓶の中の水という程度なら可能ですが、
    例えば今この場所から海の水を操作することなどは不可能です」

ライラ 「以上です」

   締めくくりに一礼し、浮かべていた水を花瓶に戻すと、ライラは変身を解いた。

   てか長っ。
   説明長っ。
190 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/07(土) 21:28:30.57 ID:1f3o075No

ほむら「ありがとう」

   しかしホムラさんは気にした様子もなく、淡々と礼を口にする。

ほむら「今、あなたは槍を振るっていたけれど、それは必要な動作なのかしら?」

ライラ 「……いえ、絶対必要というわけではありません。が、そうした方が扱いやすくはあります」

   なんか初代 Wii のリモコンみたい。動画で見たことある。

ほむら「わかったわ。ところで――ポーラ=レイノルズ」

ポーラ「あ、え? あ。はいっ」

   急に呼ばれてびっくりして、慌てて椅子から立ち上がる。

ほむら「一つ質問よ。この街に霧は出る?」

ポーラ「霧? ……あー、えぇと、どうでしょう? あんまり見たことないかも。……です」

ほむら「そう。……座っていいわよ」

ポーラ「あ、はい」

   着席。
   ……びっくりした。
191 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/07(土) 21:29:26.79 ID:1f3o075No

ほむら「杏子、何か補足はある?」

杏子「ああ、ある」

ライラ 「……」 ピクッ

杏子「ライラ、回復魔法のことが抜けてるぞ」

マミ 「あら、回復もできるの?」

杏子「アタシなんかよりよっぽど上手だよ、他人にかける分にはね。かなり助かってる」

ライラ 「……巴殿には、遠く及びません」

ミンカ 「……」

杏子「当り前だ。でも、そんなことは関係ないんだよ。癒しの使い手は貴重なんだ」

ライラ 「……、は」

杏子「何を気にしてんだか……まぁいい。アタシが言っちまうよ」

杏子「……そうだな、回復力そのものは十分に実用レベルだ。
    ただし水が必要でね、傷を覆えるだけの水がなけりゃかけられない。
    ま、水筒一本持ち歩いてりゃいいハナシだけどね」

ほむら「なるほど。他には?」

杏子「ん〜……ない、と思う」

ほむら「わかったわ、ありがとう」
192 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/07(土) 21:30:34.51 ID:1f3o075No

ほむら「では次、ツァン=ミンカ。お願い」

ミンカ 「はっ、ひゃいっ!」

   ミンカが立ちあがった。というか跳び上がった。

ミンカ 「つっ、つつつつ、つ、つぁ、ツァン=ミンカっ、十六歳、で、ですっ」

ほむら「……落ち着きなさい」

マミ 「あなたのペースで、ゆっくりでいいから。ね?」

杏子「深呼吸しろ深呼吸」

ミンカ 「は、はい……はぃ……」

   で、説明を始めたわけだけど、割愛する。
   代わりに要約しよう。

   武器は青龍刀。
   両手用の大型、片手用の中型、投擲用の小型と三種類が使えて、
   得意とするのは中型による二刀流らしい。

   そして固有魔法、全方位知覚。
   前も後ろも上下も左右も、全て同時に、普通に目で見るのと同じように見えるらしい。
   ちょっと想像がつかないよね。

   また、集中すれば望遠鏡並の視力を発揮することもできるという。
   ただその場合は視野が狭まり、見ようと思った方向にしか意識が向かなくなるんだとか。
   遮蔽物の透過は不可能。過去視未来視といった超視覚も一切なし。

   その他の特徴としては、スピードに優れているんだそうだ。これは杏子が補足した。

   たったこれだけのことを語るのにライラの三倍近い時間をかけていたことから考えると
   疑わしい話だけど、昨日戦ったときは、確かに速かった。
   結局一発も当てられなかったのよねー。
193 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/07(土) 21:31:30.82 ID:1f3o075No

ほむら「では――ポーラ=レイノルズ。次、お願い」

ポーラ「はい」

   私の番だ。
   席を立つ。

ポーラ「ポーラ=レイノルズ=クマガミ。十四歳。武器は、“熊の爪”」

   指輪をジェムに戻し、そのまま握り込んで魔力を注いで、左の手袋のみを顕現させる。

ポーラ「鉄格子ぐらいなら切り裂けます。あと、伸縮自在」

   人差し指と中指に当たる二本だけを伸ばして、花瓶に刺さったバラを一輪つまみ、
   縮めて引き寄せる。
   ……別にライラに対抗したわけじゃないけど。

ほむら「……」

マミ 「……」

杏子「……」

ライラ 「……」

ミンカ 「……」

   うん?
194 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/07(土) 21:32:33.91 ID:1f3o075No

   なんかみんな驚いた顔してる。
   ホムラさんだけはあんまり変わってないけど、少しだけ眉が寄ってるっぽい。

ポーラ「なんです?」

ライラ 「部分変身……だと……?」

   呻くようにライラが言った。

ポーラ「魔力を節約しただけじゃない。何よ、あんたできないの?」

ライラ 「ぐっ……」

   あれ? マジで?

ポーラ「これって難しいの? ……ですか?」

マミ 「……んん、若い子がやっているのは、あまり見たことがないわね」

QB 「難易度自体はそう大したものでもないよ。コツはいるけど、慣れれば簡単だ。
    特に君の場合は “手袋” だしね。脱着のイメージをしやすい方だろう」

ポーラ「ふぅん……」

QB 「ただ、」

ポーラ「ん?」

QB 「普通、二ヶ月程度の経験では、そこまで細密な魔法の運用が身につくことはないんだ。
    魔獣相手にはまったく必要のない用法だから」

QB 「ポーラ、君は一体普段どういう魔法の使い方をしてるんだい?」
195 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/07(土) 21:33:31.01 ID:1f3o075No

ポーラ「どうって……別に何も?」

QB 「本当に?」

ポーラ「本当よ。魔獣退治とアルフレッドと遊ぶの以外にはほとんど使ってないわ」

QB 「……。なるほど」

ほむら「人形遊び、ということかしら?」

   むっ。

ポーラ「人形じゃありません。テディ・ベアです」

ほむら「……失礼。日本ではあまり区別しないのよ」

ポーラ「おじい様はそんなこと言ってませんでしたけど」

ほむら「…………世代が変われば価値観も変わるわ」

   アナタってむしろおじい様と同世代じゃありませんでしたっけ。

ほむら「ともかく――別に揶揄するつもりで言ったわけではないの。
     遊びというのは、一昨日見せてくれたような念動で操る寸劇のことでいいのよね?」

ポーラ「……まぁ、そうですけど。人前でやったりはしてませんよ?」
196 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/07(土) 21:34:20.08 ID:1f3o075No

ほむら「そう。そういうことなら、納得できなくもないわ。
     アレを日常的にやっていたのなら、魔力の精密操作が身につくこともあるでしょう」

ほむら「その子はあなたの研鑽に立派に役立っているというわけね」

ポーラ「そ、そうですか」

   なんかおべっかみたいだけど、悪い気はしないわね。
   ほっぺが緩みそう。

ほむら「話を戻しましょうか。その爪、伸縮自在と言ったわね」

ポーラ「あ、はい」

ほむら「どのくらいまで伸ばせるものなの?」

ポーラ「ん? う〜ん…………三ブロック分、ぐらいかな。頑張ればもっと行けるかも。……です」

ライラ 「なっ!?」

マミ 「まぁ……」

ほむら「……。誇張ではない、わよね?」

ポーラ「当り前ですよ。やって見せましょうか?」

ほむら「……あとでいいわ」
197 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/07(土) 21:35:20.83 ID:1f3o075No

杏子「おい、ブロックってなんだ? 何メートルだ?」

QB 「街区のことだね。四本のアベニューとストリートに囲まれた正方形の区画を主に指して言う。
    一ブロックは約一〇〇メートル四方が一般的だ」

杏子「え? つまり……三〇〇メートル!?」

ミンカ 「っ!?」

   お、杏子も驚いてる。
   いい気分、だけど……しまったな。言うんじゃなかったかも。

ライラ 「わ、私の矢だってそのぐらいなら届くっ」

   で、コイツは何を言ってるんだ?

ポーラ「ふーん。すごいね」

ライラ 「ぐっ……!」

杏子「……無駄に張り合うな、ライラ」

ライラ 「……はい……」

ほむら「ハァ……。ちなみに、重さは?」

ポーラ「う……増えます。だから、そのまま振り回したりとかは無理で」

ほむら「そう。他には?」

ポーラ「ん〜、えーっとー……以上、かな? たぶん。はい」
198 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/07(土) 21:37:11.82 ID:1f3o075No

ほむら「それじゃあ、次は固有魔法について教えて」

ポーラ「あ、はい」

   待ってましたとばかりにアルフレッドを抱き上げる。

ポーラ「それはもちろん、この子の持つ魅了の力です!」

   自分でもわかるぐらい超笑顔。
   なのに、

ほむら「……」

マミ 「……」

杏子「……」

ライラ 「……」

ミンカ 「……」

   みんなほとんど無反応。ミンカですら。

ポーラ「……はいはい。皆さんご存じでしたね」

   テンション下がるなぁ。
   不貞腐れた声を漏らして、座りなおそうとした私に、キュゥべえが言う。

QB 「違うよ、ポーラ」

ポーラ「え?」

QB 「そのヌイグルミに込められた魔法は契約によって生じたものだから、
    君自身の固有魔法は別にある」
199 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/07(土) 21:38:01.20 ID:1f3o075No

ポーラ「なにそれ? そんなの聞いてない」

QB 「言ったよ」

ポーラ「聞いてないってば!」

QB 「言ったさ。間違いなく言った。二か月前、君のそばを一度離れた際にね」

ポーラ「はぁ? 二か月前って……」



   『――ということなんだけど……聞いていたかい?』

   『聞いてた聞いてた。要は他にも色々できるってことでしょ』

   『……間違ってはいないけど』

   『はいはい。いいから、もう行ってよ。私とアルフレッドの愛の時間を邪魔しないで』

   『……』



ポーラ「……」

QB 「思い出したかい?」

ポーラ「えぇと…………アレはノーカウントなんじゃないかな……」

QB 「……」

ほむら「……つまり、わからないのね?」

ポーラ「…………わからないの、キュゥべえ?」

QB 「僕に聞かれてもね」
200 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/07(土) 21:39:14.86 ID:1f3o075No

QB 「固有魔法は祈りの内容と密接に関わってくるから、系統を推し測ることはできるよ。
    君の場合は恐らく幻惑の類だろうね。
    だけど具体的にどんな能力であるかは自分で見つけるしかない。
    これも、二ヶ月前に既に言ったことだよ」

ポーラ「……」

   ええと。
   つまり。

ポーラ「幻惑って、何をどうすればいいの?」

QB 「……。話を聞いていたのかい?」

ポーラ「き、聞いてたわよ。でもいきなりそんなこと言われても……」

ほむら「……杏子」

杏子「なんだよ」

   む?

ほむら「指導できるかしら?」

杏子「……」

杏子「さぁな」

   ん〜……?
201 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/07(土) 21:41:01.47 ID:1f3o075No

ポーラ「杏子、幻惑魔法が使えるの?」

杏子「使えねぇよ」

ポーラ「なぁんだ」

杏子「……ああ、使えない」

ポーラ「……?」

   でもまぁ、そうか。
   アルフレッドの魅了を無視した上に自分は幻惑が使えるなんて、反則すぎるもんね。

ほむら「……。まぁ、いいわ。今からでは付け焼刃にしかならないし、
     わからないならわからないで、その条件で作戦を立てるから」

   ほむらさんが締めくくる。疑問は棚上げだ。

ポーラ「はぁ」

   でもまぁ、いいか。要は今まで通りだし。
   それで何かが変わるとか、特にアルフレッドの可愛さが損なわれるとかいうわけでもないし。

   いつか芽生えるであろう新技に期待するとしよう。
202 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/07(土) 21:42:02.75 ID:1f3o075No

マミ 「……ねぇ、キュウべえ」

   ん?

QB 「なんだい、マミ?」

マミ 「ミス・レイノルズの固有魔法は、幻惑系で決まりなの?」

QB 「他の可能性もなくはないけど、……君も知っているだろう?
    誰をも魅了するテディ・ベア――それがポーラの祈りなんだ」

マミ 「う〜ん……」

ポーラ「マミさん、何かわかるんですか?」

マミ 「ええ、まぁ」

ポーラ「教えてくださいっ」

   身を乗り出して尋ねると、彼女はためらうように小さく息を吐いた。

マミ 「……その、爪のことを聞いたときに、とっさに思ったのよ。まるでギネス級だ、って。
    そこからの連想で」

ポーラ「は?」

ほむら「……なるほど」

杏子「ギネスって……あぁ、そういうことか」
203 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/07(土) 21:43:23.86 ID:1f3o075No

   ホムラさんと杏子がうなずく。

   どういうこと? 今ので何がわかったの?

マミ 「ミス・レイノルズ。ためしにその花に魔法をかけてみて?
    爪を伸ばすのに使うのと同じ種類の魔法を」

ポーラ「これに……?」

   わけがわからなかったけど、とりあえず言われたとおりにやってみる。

   薔薇を右手に持ちかえ、集中。
   すると、



   ――シュインッ、ブワッ!!



ポーラ「うおっ!?」

   咲いた。

   私が魔力を込めた途端、まだ膨らみかけだった小さなつぼみが、
   一瞬にして怖いぐらいに綺麗な大輪の花へと変化した。
   茎に生えていた刺も、爪の先ぐらいだったものが一インチ以上にまで伸びた。
   そしてそれらの分だけ、重さも増した。
204 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/07(土) 21:45:58.08 ID:1f3o075No

ポーラ「え……? なにこれ?」

QB 「強化魔法だね。……なるほど、そういうことか」

ポーラ「どういうことよ!?」

マミ 「あなたの祈りは、正確には
    そのアルフレッドくんを 『全ての人を魅了する、世界一のテディ・ベア』 に変えること、よね?」

ポーラ「そ、そうですけど……?」

マミ 「テディ・ベアに限らず、人形やヌイグルミは、最初から愛されることを目的に作られる……」

ほむら「あなたの祈りは、その愛玩性を極限まで高めるものだったとも解釈できるわ。
     世界一 ――すなわちギネス級のレベルにまでね」

ポーラ「? ? ? ……つまり?」

QB 「……。つまり、強化魔法。その爪の伸縮が君の固有魔法だったってことさ」

ポーラ「え?」

ポーラ「…………えええええっ!?」

杏子「標準ギミックにしちゃあ強力すぎるもんなぁ。ま、そんなとこだろ」

205 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/07(土) 21:47:24.75 ID:1f3o075No

ポーラ「ちょ、ちょっと待ってよ。爪は伸びるものでしょう?」

杏子「だから、そこまで伸びないっつってんだ。それに縮みはしないよ」

ポーラ「それは……」

   確かに、そうかも知れない。
   でも納得いかない。

   椅子にへたり込む。

ポーラ「えぇ〜〜? なにそれ、つまんない……」

マミ 「つまらない、って……」

ポーラ「だってぇ、せっかく何か新しい技とか使えるようになるかもって思ったのに、
    ぬかよろこびじゃないですかぁ」

ほむら「……」

ポーラ「あーもー、やる気なくしたー……」

ライラ 「……」

ミンカ 「……」

杏子「……なんなんだ、こいつは」

   思わず、といった感じに呟かれた杏子の声が、特に嫌味な響きでもなかったけれど、
   なんだか無性にムカついた。


206 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/07(土) 21:48:39.21 ID:1f3o075No



ほむら「さて――今日はここまでね」

ポーラ「え?」

ほむら「それで、ポーラ=レイノルズ。一つお願いしたいことがあるのだけど」

ポーラ「……はい?」






207 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/07(土) 21:50:02.20 ID:1f3o075No



今日はここまで
会議とは名ばかりの設定披露回でした

ではまた明日
208 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/04/07(土) 22:45:01.85 ID:isCsj9dCo


ポーラの強化魔法が戦いの鍵かな?
しかし他に来ないとは薄情だのお、マミさんやほむほむの弟子はおらんのか?
209 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/04/08(日) 01:01:03.62 ID:2mtDsjCPo


前作で出てきた墓守さん健在なのかww
210 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛媛県) [sage]:2012/04/08(日) 10:15:55.99 ID:OkHuutDx0
あまり増やしても立ち回り描ききれなくない?
211 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/08(日) 20:47:24.17 ID:wQERk19so

一応あと一人だけ来ますよ
裏タイトルが「テディベアと七人の魔法少女」だったりしなかったりしたりするので

再開します
212 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/08(日) 20:49:54.69 ID:wQERk19so



   ◆

   翌日。
   “ワルプルギスの夜” まであと二日。

   ベリーズベリーの背骨、町を南北に貫く国道を、私たちは歩いている。
   私とアルフレッド、そしてライラとミンカ。

ポーラ「……まったく……」 ブツブツ

ライラ 「……」

ミンカ 「……」

ポーラ「……なんで私が……」 ブツブツ

ライラ 「……」

ミンカ 「……」

ポーラ「……せっかくの休みが台無しよ……」 ブツブツブツブツ

ライラ 「おい、新入り」

   ふと、後ろに続いていたライラが声を発した。
   振り返ることなく応える。

ポーラ「新入りってゆーな余所者」

ライラ 「……ポーラ=レイノルズ」

ポーラ「何よ」

ライラ 「不満なのはわかるがな、」

ポーラ「わかるなら黙ってて」

ライラ 「……」

ミンカ 「……」 オロオロ

ポーラ「……あー、めんどくさい」
213 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/08(日) 20:51:01.87 ID:wQERk19so

ライラ 「……暁美殿と巴殿の指揮下に入ることに、貴様も同意したのだろうが」

ポーラ「だからこうやって言われた通り案内してあげてるんじゃないのあんたたちを」

ライラ 「黙って歩けないのかと言っているんだ!」

ポーラ「だったらまずあんたが黙りなさいよ!」

ライラ 「貴様……!」

ポーラ「なによ……!」

ミンカ 「――けっ、けんっ!」

ライラ 「ッ!?」

ポーラ「うお」

ミンカ 「え、あの、その……けんか、は、その……」

ポーラ「……」

ライラ「……ああ。すまない、ミンカ」

ポーラ「フン……」

   まったくホントに。
   せっかくの休みだっていうのに、なんで私がこいつらと歩かなきゃなんないのよ。


214 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/08(日) 20:52:17.59 ID:wQERk19so



   ◆

ポーラ「案内、ですか?」

ほむら「ええ、その二人を。川沿いを重点的に見せてあげて。
     今日はもうあまり時間も取れないでしょうから、明日でいいわ。土曜日は休みよね?」

ポーラ「え? あのでも、午前中は、ちょっと」

ほむら「なら午後から」

ポーラ「いえ、あの」

ほむら「……何かしら?」

ポーラ「えっと……二人、っていうのは、そいつらですか?」

ライラ 「……」 ピクッ

ミンカ 「……」 ビクッ

ほむら「そうね」

ポーラ「……杏子は?」

杏子「アタシはいい。まだ配置がどこか決まってないしね」 モグモグ

ポーラ「……」
215 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/08(日) 20:53:28.99 ID:wQERk19so

ほむら「ライラ=バナウラにはツァン=ミンカと共に川沿いで戦ってもらうことになるでしょう。
     上流と下流、どちらがやりやすいか、見極めておいて」

ライラ 「……了解です」

ミンカ 「は、はいっ」

ポーラ「……」

ポーラ「……それはいいんですけど、あの」

ほむら「まだ何か?」

ポーラ「まだっていうか、まだあなたたちの武器とかを聞いてないんですけど」

ほむら「自分たちのことなら把握しているわ」

ポーラ「……」

ほむら「作戦の立案は、ひとまずこちらに任せてちょうだい。
     もちろん、ある程度まとまったところであなたにも見てもらうつもりよ」

ポーラ「はぁ……」

ほむら「では、お願い。時間や場所はそちらで決めてくれればいいわ」

ポーラ「……」


216 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/08(日) 20:55:14.42 ID:wQERk19so



   ◆

   とまぁ、そういった次第だ。
   だからこうして、二人を伴って、大通りをとりあえず川の方へと歩いているわけ。



   ここで、街の地形を大雑把に説明しておこう。

   ベリーズベリーは、大西洋に沿って南北に広がる縦長の街だ。
   東西との比率はだいたい三対一ぐらい。

   海側に行くほど町並みは古くなり、道も細く入り組んだものになる。
   逆に陸側、ちょうどこの国道の前後より西へ入ると綺麗に区画整理された街になる。
   中央駅や、市役所に庁舎、大学や大型店舗なんかはほとんどこっちにある。
   『古い港町』 と 『新興の商業地』 といった感じ。

   また北に行くほど金持ちが多く、海辺の一部はビーチになっている。
   一方の南側には労働者階級が多く住み、最も古く最も貧乏だった南東の一帯は
   私が生まれるずっと前に再開発されてでっかい港に作り変えられたらしい。
   地域同士の仲が悪いとかいった話は特に聞かない。

   そして、南から三分の一ぐらいのところを大きな川が横切っていて、
   この国道の続く先には街一番の大きな橋が架けられている。

   橋の名前は、知らない。
   たぶん何か付けられてるんだろうけど、気にしたことがないのでわからない。
   普段は単に 「大橋」 とか 「真ん中の橋」 とか呼んでいる。

   そろそろ見えてくるころだ。
217 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/08(日) 20:56:24.72 ID:wQERk19so

ポーラ「あー、見えた見えた。アレの右っかわが上流、左が下流になるわ。どっちから行く?」

ライラ 「では、上流から頼む」

ポーラ「はいはい」

   ほどなくして橋のたもとに到着した。

ポーラ「上流よね」

   渡ることはせず、川沿いの道を右へと曲がる。が、

ライラ 「待て」

   呼びとめられた。

ポーラ「……なに?」

ライラ 「渡らないのか」

ポーラ「えー? めんどくさい」

ライラ 「……」 イラッ

ミンカ 「ら、ライラ……」
218 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/08(日) 20:58:21.78 ID:wQERk19so

ライラ 「……。フゥー…………、案内するのが、今の貴様の、役目だろう。怠けるな」

ポーラ「あーはいはい、行きゃーいーんでしょー行きゃー」

   進路変更。橋を渡る。

   大橋は、国道の一部だけあって立派な作りをしているけれど、
   なぜか歩道だけがやたらと狭い。自転車でも来たら脇によけないといけなくなる。
   向こう側はほとんど工場と倉庫しかないから歩行者はあまり通らないのだろう。
   代わりにというか、交通量はそこそこ多い。

ポーラ「……」

   車道を行き交う大型車のオゾン臭い排気に眉をひそめつつ、数分をかけて渡りきる。
   これで文句ないだろう。

   今度は声をかけることなく右へと曲がる。
   ちらりと振り返ると、二人ともちゃんとついてきていた。

ライラ 「ミンカ、川幅は?」

ミンカ 「えぇと……四六〇歩だったから……」

ポーラ「……」

   私が案内する意味あるの、これ?


219 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/08(日) 20:59:59.45 ID:wQERk19so



ライラ 「……」

ミンカ 「……」

ポーラ「……」

   川と倉庫街に挟まれた道を黙々と歩く。
   後ろの二人は何やら話しているようだったけど、いちいち聞いてなかった。

   景色はさかのぼるにつれて少しずつ寂れた感じになっていき、それが極まったところで
   二つ目の橋に行きついた。

ライラ 「む、行き止まりか……」

   正確には突き当たり。丁字路だ。

ポーラ「そうよ。だから面倒くさいって言ったの」

ライラ 「……。どの道、橋を見る必要はあった。むしろちょうどいい」

ポーラ「あっそ」

   というわけで元いた対岸の方へと戻る。
   この辺りは交通量も人通りも少ないようで、橋の作りもそれに比例して簡素なものだ。
   片側にしか歩道がなく、幅も狭い。
220 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/08(日) 21:01:12.26 ID:wQERk19so

ライラ 「この先にまだ橋はあるのか?」

ポーラ「知らない」

ライラ 「知らない?」

ポーラ「行ったことないし」

   ここから上流は、森というか山というか、とにかく木しかない。
   一応市内で、舗装された道が隣町のビックスビーまで続いているらしいけど、
   私は通ったことはない。
   だって用なんかないし。

   ちなみに街の周囲はだいたい森で、北側だけは草原になっている。
   つまり基本的に何もない。

ポーラ「行きたいなら勝手に行ってよね。私はその辺で待ってるから」

ライラ 「おい……」

ポーラ「知らないところを案内なんてできるわけないわよ」

ライラ 「……」

ミンカ 「ら、ライラ」

ライラ 「…………わかっている。私は冷静だ」
221 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/08(日) 21:02:25.86 ID:wQERk19so

ミンカ 「えっとあの、もしよかったら、わたしが一人で行くから」

ライラ 「その間こいつと二人で待っていろと? 御免だな」

ミンカ 「あぅ……」

ライラ 「……すまない。言い過ぎた」

ミンカ 「う、ううん。ううん。いいの」

   いちゃいちゃすんな。

ポーラ「どうするの? 私そろそろ疲れたから休憩したいんだけど」

ライラ 「待て。その前に一つ聞く」

ポーラ「なに」

ライラ 「この先に人は住んでいるのか?」

ポーラ「知らないって言ったわ」

ライラ 「……」 イラッ

ミンカ 「あ、あのっ」

ポーラ「……なに?」
222 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/08(日) 21:03:27.97 ID:wQERk19so

ミンカ 「その……魔獣、は……」

ポーラ「はい?」

ライラ 「そうか――魔獣だ。奴らはこの辺りにも出るのか?」

ポーラ「……ああ、なるほど」

   あいつらは人間を狙って現れる。
   つまり、人間がいなければあいつらが出ることもないわけだ。

ポーラ「そういえばこの辺で見た覚えはないわね」

ライラ 「なら、こっちはもういい。下流に行くぞ」

ポーラ「はいはい。でもその前に休憩ね」

ライラ 「……待て。なぜそうなる」

ポーラ「『その前に質問一つ』 って言ったわよね? で、質問は終わった。だから休憩。OK?」

ライラ 「……」

   返事は待たずに歩き出す。
   橋を渡って来た道を、そのまままっすぐ。小さな商店街になっていたはずだ。


223 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/08(日) 21:04:22.73 ID:wQERk19so



ポーラ「んー、おいしー♪ 懐かしー♪」

   ドーナツを頬張り、ご満悦な私。

ライラ 「……この辺りには来たことがないのではなかったのか?」

ポーラ「それは森の話。この通りには昔からたまに来るわ」

   今いるドーナツショップにも、もっと小さい頃に何度かおじい様に連れてきてもらった。
   ここ数年ご無沙汰だったけど、まだ残っててくれてほっとした。

   ちなみに私はハニーコートのオールドファッションとコーヒー、
   ライラとミンカはそれぞれミネラルウォーターとウーロン茶を頼んだ。
   誰に何をアピールしてるんだか。

ポーラ「あんたたちは食べないの?」 モグモグ

ライラ 「いらん」

ミンカ 「……」 ウズウズ

   ミンカの方は明らかに食べたそうなんだけど。
   まぁ、私の知ったこっちゃないか。

ポーラ「あっそ。……ん〜、幸せ♪」

ミンカ 「……」 ゴクリ
224 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/08(日) 21:06:03.87 ID:wQERk19so

ポーラ「私ドーナツって大好き。ケーキもオマンジューもいいけど、一番好きなのはドーナツ」

ライラ 「そうか」

ポーラ「味よりもこの形が好きなの。だって二つに割ったらクマ耳の形になるんだもん」

ミンカ 「……? ……あぁ」

ポーラ「あ、ミンカわかった? そう、あのまぁるい耳」

ミンカ 「う、うん……」

ライラ 「……食べ物で遊ぶな」

ポーラ「はいはい。――ねぇ知ってる? 私の名前、クマガミって、おじい様から頂いた名字」

ミンカ 「……?」
           ベアズイヤ
ポーラ「日本語で、『熊ヶ耳』 って意味なんだって! 素敵だと思わない?」

ライラ 「知らん」

ポーラ「無知ねー」

ライラ 「……」 イライラ…
225 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/08(日) 21:07:04.47 ID:wQERk19so

ライラ 「……貴様はどうして、そこまで熊が好きなんだ」

   うんざりしたような声でライラが言う。

ポーラ「……」

   言われて私は、不意に冷めた。

ポーラ「あんたも、それ聞くんだ」

ライラ 「なに?」

ポーラ「なんだか知らないけど、みんな聞くのよね、それ」

ミンカ 「……」

ポーラ「そりゃぁまぁ、私が誰よりもこのアルフレッドを愛してるって自信はあるわよ?」

ポーラ「でもそれに、好きってことに理由がいるの? 可愛いってだけじゃダメなの?」

ライラ 「それは……それは確かに、いけないということはないがな。
    しかし貴様のは明らかに度を超えているだろう」

ポーラ「度ってなに?」

ライラ 「なに、って……」
226 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/08(日) 21:07:54.23 ID:wQERk19so

ポーラ「私はこの子のために身体を壊したり、お金を使いすぎたり、
    誰かを犠牲にしたりもしてないわ。それなのに、どこが度を越してるっていうの?」

ライラ 「む、う……しかし、魂を差し出しているではないか」

ポーラ「何言ってんの? 差し出してなんかいないわよ」

ライラ 「……なんだと?」

   訝るライラに、左手を突き付ける。

ポーラ「ここにあるじゃない」

ライラ 「ッ……」

   何驚いてんのコイツ。

ライラ 「だ、だが――」

ポーラ「別に身体の外に出されたからってどうってことないわよ」

ポーラ「だってこの子たちには、最初から魂なんて入ってないんだから」

ミンカ 「え……?」

ライラ 「な……なに?」

ポーラ「何よその反応……まさかあんたたち、
    その年にもなってテディ・ベアに魂があるなんて思ってるんじゃないわよね?」
227 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/08(日) 21:08:46.49 ID:wQERk19so

ライラ 「お、思ってるわけないだろう! ……ただ、」

ポーラ「ただ?」

ライラ 「……貴様はそう思っていると、考えていた」

ポーラ「んな……!? そんなわけないじゃない!」

ライラ 「いや……」

ミンカ 「ごっ、ごめんなさいっ!」

ポーラ「まったく……人をドールフリークの変態みたいに……
    ……だからいちいちニンギョーニンギョー言ってたわけね……」 ブツブツ

ライラ 「そ、そういうわけではないが……しかし、だとしたらなおさらわからん」

ミンカ 「……」

ライラ 「それがそういうものだと、魂のない似姿に過ぎないと理解しているのなら、
    どうしてガラクタと呼ばれたことで、あんな……に……!?」

   やや前のめりで喋っていたライラが、動きを止めた。

ミンカ 「ひっ……!」

   ミンカは息をのんだ。

   私がさせた。
   強化魔法で伸ばしたフォークの先端を、ライラの喉元に突き付けて。
228 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/08(日) 21:09:45.49 ID:wQERk19so

ポーラ「好きなものを悪く言われたら、誰だって怒る――当り前のことでしょう?」

ライラ 「ま、待て……」

ポーラ「私言ったわよね? 次にそれ言ったら殺すって。あんたもわかったって応えたわよね?」

ライラ 「そ、それは……しかし……」

ポーラ「あぁ、あぁ。わかってるわよ。今のがただの引用だってことぐらい。
    だから今回だけは見逃してあげる」

   フォークを引っ込める。

ポーラ「でも、次が最後だから。この次は引用だろうが言い間違いだろうが、警告なしで殺すわ」

ライラ 「貴様は……」

   脱力し、テーブルに肘をつきながらライラが唸る。

ライラ 「何を、考えているんだ。こんな場所で」

ポーラ「席の位置関係ぐらい計算してるし」

   現に目撃した人間はいないらしく、店員も他の客も特に騒いではいない。
   こちらに目を向けていた人がいたとしても、まずアルフレッドに目が行っていたことだろうし。

ライラ 「だからと言って……!」

ポーラ「うるさいわね。騒ぐとかえって目立つわよ」

ライラ 「ッ……」
229 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/08(日) 21:10:43.70 ID:wQERk19so

ポーラ「それにしても、思ったより便利ね、この強化魔法って」

ライラ 「貴様は…………イカレてる」

ポーラ「フン」

   鼻を鳴らす。

   私からすれば、イカレてるのは彼女たちの方だ。
   今の会話一つを取ってみても、主張に根拠も何もなく、説明も証明もろくにできないくせに、
   自分たちの方が正しいのだと信じ込んでいる。

   こんなのが 『まとも』 だっていうのなら、私は 『異常』 でかまわない。

ポーラ「そんなことより、私も聞きたいことがあるんだけど」

ライラ 「……なんだ」

ポーラ「なんで杏子には魅了が効かないの?」

ライラ 「……」

ミンカ 「……」

   聞くと、二人は虚を突かれた表情になって、そのまま顔を見合わせた。
   ミンカがふるふると首を振り、そしてまた二人してこちらに向き直る。

ライラ 「いや、それは我々も知らない」
230 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/08(日) 21:12:12.31 ID:wQERk19so

ポーラ「なによ。そっちはさんざんいろいろ聞いてきたくせに、こっちの質問には答えないっての?」

ライラ 「……まともに納得できる答えなぞほとんどなかったがな」

ポーラ「そんなのそっちの都合でしょ」

ライラ 「まぁ、そうだな。貴様を理解するのは、どうやら諦めた方がいいらしい」

   悪びれた様子もなく、水を飲みながら言うライラ。
   さっき私に殺されかけたばっかりだっていうのに。図太いヤツだ。

ライラ 「だが、それとは関係なく、知らないものは本当に知らん」

ポーラ「あんたたちあいつの弟子なんでしょ?」

ライラ 「なんでもべらべらと喋り、見せびらかすような輩など、師として二流だ」

ポーラ「偉っそうに……」

ライラ 「それにそもそも、師匠自身、一昨日のあのときまで知らない様子ではなかったか?」

ポーラ「……」

   言われてみれば、そうだったかも。

ライラ 「いずれにせよ、我々に聞いても無駄だということだ。諦めろ」
231 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/08(日) 21:12:54.27 ID:wQERk19so

ポーラ「あんたたちは気になんないの? 大好きなお師匠さんなんでしょ?」

ライラ 「くどい」

ポーラ「……」

ミンカ 「……」

ポーラ「……」 チラ

ミンカ 「……っ」 ビクッ

ポーラ「ミンカ、あんたは? 気になんないの?」

ミンカ 「え、あの……」

ライラ 「ならないと言っているだろう」

ポーラ「あんたには聞いてない。黙ってて」

ライラ 「……」 イラッ

ポーラ「どうなの?」

ミンカ 「え、えぇと……」

ポーラ「気になるのか、ならないのか。イエスかノーかよ。簡単でしょ?」

ミンカ 「あ、う……」
232 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/08(日) 21:13:41.29 ID:wQERk19so

ライラ 「……せめて身を乗り出すのをやめろ」

ポーラ「……」

   はいはい。わかったわよ。

ミンカ 「……わ、わたしは、その……」

ポーラ「うん」

ミンカ 「気には、なりますけど、でも――……杏子さん、あまり言いたくなさそうだったから……」

ポーラ「つまり?」

ミンカ 「だ、だから、あの……えぇと……」

ポーラ「…………ハァ」

ミンカ 「――ッ」 ビクッ

ポーラ「いいわよ、もう。まったく」

ライラ 「気は済んだか?」

ポーラ「済むわけないでしょ。……ったく、使えないんだから」

ライラ 「もとより貴様に使われる謂われはない」

ポーラ「フン」

ミンカ 「……」


233 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/08(日) 21:14:50.49 ID:wQERk19so



   ◆

   ドーナツショップを後にして、エアレールで港湾部に向かう。
   ライラがまたものぐさだなんだと文句を言っていたけど、適当に聞き流しておいた。

   ベリーズベリーの港は広い。

   他の街のそれと比べてどうかは知らないけれど、
   とりあえずこの街で敷地面積が一番広い場所と言えばここだと思う。
   船着き場や冷凍冷蔵倉庫をはじめとしたいくつもの施設が立ち並んでいて、
   昼夜を問わず人が多い。

   そう。
   何をそんなにやることがあるのか、真夜中でも結構な数の人がいる。
   魔獣の出現頻度も繁華街に次いで高い。

   だから見せておくべき個所は多い。……んだけど、

ライラ 「ここも立ち入り禁止か……」

   基本的に 『大人が働くための場所』 なので、
   社会的にはただの子供に過ぎない私たちが見物できるところなんてほとんどない。
   せいぜい市場ぐらいなものだろう。

ライラ 「どうにかならないのか?」
234 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/08(日) 21:15:42.66 ID:wQERk19so

ポーラ「なるわけないでしょ」

   まぁ、アルフレッドを前に出して頼み込めばある程度までなら入り込めると思うけど、
   めんどくさいからパスだ。

ポーラ「だから言ったのよ。図書館かウェブで地図でも探せって」

ライラ 「……」

ポーラ「ああ、そーいえば市役所だかどこだったかに大きな模型みたいなのもあったかも」

ライラ 「ならそこでもいい。案内しろ」

ポーラ「どこだか忘れたから無理」

ライラ 「……」 イラッ

ポーラ「それこそウェブで探しなさいよ。楽ばっかりしようとしないでさ」

ライラ 「楽ばかりしようとしてるのは貴様だろうが……!」

ミンカ 「……あの……」

ポーラ「ん?」

   ふと、ミンカが手を挙げた。
235 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/08(日) 21:16:57.31 ID:wQERk19so

ポーラ「なに?」

ミンカ 「っ……」 ビクッ

   いや、声かけられたから返事しただけなのに、なんで怯えるのよ。
   めんどくさい。

ミンカ 「スゥ……、ハァ……」

   そして深呼吸と来た。

ポーラ「……」

ミンカ 「……、えぇと、一つ、思い出しました。杏子さんのことです」

ポーラ「へぇ。どんなこと?」

ミンカ 「いえ、その……教える代わりに、あなたにも思い出してほしいんです」

ポーラ「……」

   私は、

ポーラ「何を?」

   あえて聞いた。
236 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/08(日) 21:17:45.94 ID:wQERk19so

ミンカ 「……」

   彼女は、手振りで周囲を示した。
   見て回る方法を、ということか。

ポーラ「……」

ミンカ 「……」

ポーラ「……それって、役に立つこと?」

ミンカ 「それは――あなたが、何をしようとしているかに、よります……」

ポーラ「ふーん……」

   何よ。ちょっと面白いじゃない。

ポーラ「わかったわ。来なさい」

   きびすを返す。

   さて、それでは責任者っぽい大人を探して交渉してみるとしましょうか。






237 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/08(日) 21:20:37.13 ID:wQERk19so



今日はここまで

とりあえずフラグは建て終えた
あと二回、明日と明後日で終わる予定
238 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/09(月) 00:34:26.54 ID:lu5i93us0
お疲れ様です
あと二回、ということは、ワラキアの夜自体は結構簡潔な描写でいくのかしら
戦闘は盛り上げ難いんですよねぇ、対魔獣って
239 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/04/09(月) 06:50:31.62 ID:lvoGIvnAO

ガンパレみたいに怪物と絶望的な戦力差で戦う描写は友軍が少ないと難しいだろうな

もう一人か…七人の侍なのか用心棒なのかそれで最後の一人が変わるかな?次回も期待
240 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛媛県) [sage]:2012/04/09(月) 15:26:55.08 ID:8NhBtmIt0
狼と七人の仔山羊
241 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/04/09(月) 18:10:28.95 ID:lvoGIvnAO
>>240
それ食べられちゃうじゃないですかやだー!
今の所生存確実なのはマミさんとほむほむか。全員生存して欲しいが……
242 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 20:51:10.72 ID:FYS5Fqjlo

うん、まぁ
魔獣って全部同一規格だから書いててもつまんないんすよね


再開します
途中休憩あり
243 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 20:53:11.98 ID:FYS5Fqjlo



   ◆

   翌日、夜。

   “ワルプルギスの夜” まで、あと二十時間。

   ベリーズベリー北西部。州立大学の時計塔。
   海に向かってなだらかな傾斜になっているこの街で、最も高く、全てを見渡せる場所。

   佐倉杏子は、そこにいた。

   屋根の上に胡坐をかき、ヘッドホンを耳に当て、眼下の夜景を見るともなく眺めている。
   日の光の下では美しく映える赤髪も、夜の闇の中では鉄錆のようにくすんで見える。

杏子「……」

   風の気まぐれだろうか。
   ふと、その鼻を潮の香りがくすぐった。海までは数キロも離れているというのに。
   あるいは街そのものに匂いが染みついているのか。

   港の方に視線を向ける。
   夜中にも関わらず、いくつもの明かりが煌々と輝いている。

   そういえば、見滝原にも海があった……







   「――見つけた」
244 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 20:53:55.19 ID:FYS5Fqjlo

杏子「っ!?」

   背後からの突然の声に、思わず背筋を震わせる。

杏子「お前……」

ポーラ「何やってんのよ、こんなところで。探しちゃったじゃない」

   ポーラ=レイノルズだった。
   普段着ではなく、魔法少女の装束をまとっている。

杏子「……いや、別に」

   杏子はため息をひとつ。振り向かせていた視線を街の方に戻した。

杏子「ちょっと考えごとをね」

ポーラ「ふーん」

   ポーラも隣――やや斜め後ろに腰を下ろす。

杏子「何か用かい?」

ポーラ「今日は何も食べてないのね」

杏子「……」

   無視されたのか、聞こえなかったのか。
245 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 20:54:45.80 ID:FYS5Fqjlo

杏子「そんな日もあるさ」

ポーラ「なに聞いてんの、それ?」

杏子「……」

   杏子は無言で、ヘッドホンのジャックをプレイヤーから抜いた。
   とたん、繊細なバイオリンの音色がこぼれ出し、夜の空気を震わせる。

ポーラ「……『アヴェ・マリア』?」

杏子「ああ」

ポーラ「意外」

杏子「似合わないだろ?」

ポーラ「うん」

杏子「正直なヤツだね」

   苦笑が漏れた。

杏子「まぁ、確かにアタシの趣味ってわけじゃないよ。
    ただ弾いてるヤツとちょっとばかり縁があってさ」

ポーラ「クラシック奏者と?」

杏子「バイオリニストさ」
246 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 20:55:32.56 ID:FYS5Fqjlo

ポーラ「ふーん……」

   杏子はその人物の名前を口にする。

杏子「聞いたことないかい?」

ポーラ「知らない」

杏子「ハハッ……あの坊やもまだまだってことか」

ポーラ「……」

杏子「……」

   杏子はまた無言で、プレイヤーを止めた。

杏子「――で? 何の用だい?」

ポーラ「……」

   ポーラは答えず、ただ黙って立ち上がる。
   しかし、帰る、というわけでもなさそうだ。

   杏子はもう一つ、ため息をついた。



杏子「……そんなにアタシを殺したいかい?」


247 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 20:56:34.30 ID:FYS5Fqjlo

ポーラ「……!」

   ポーラの気配が、初めて揺らいだ。

ポーラ「な――」

杏子「殺気が駄々漏れだよ。なんだかんだいっても、まだまだ経験が足りないね」

ポーラ「ッ……」

杏子「わかりやすい動機もあるし。
    アタシさえいなくなれば、そいつは正真正銘、誰にとっても世界最高のヌイグルミになる」

   言った途端、波打っていたポーラの気配が、すぅ、っと凪いだ。

   決定的な何かが切り替わる。

ポーラ「わかってるなら話は早いわ。――それで、あんたはどうするの?」

杏子「……」

ポーラ「死んでくれるの? それとも、私を殺す?」

杏子「……そうだなぁ……」

   呟きつつ、杏子も立ち上がる。
248 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 20:57:42.56 ID:FYS5Fqjlo

杏子「正直、どっちもパスって言いたいところだけど……」

   左手を真横に伸ばし、中指の指輪に魔力を注ぎ込む。

   宝石のカタチに戻ったソウルジェムから、赤の光があふれ出す。

ポーラ「……!」

   スニーカーはロングブーツに。
   ショートパンツはプリーツスカートに。
   フルジップのパーカーは、裾にフリルのあしらわれたカソック風のノースリーブに。
   それぞれ、置き換わった。
   そして右手には、衣装と同じ、赤の長槍。

杏子「考えてみりゃあ、教育係っぽいことぜんぜんしてやれてないことだしね」

   ポーラが初めて見る、杏子の魔法少女姿だった。

杏子「いいさ。いっちょ揉んでやるよ」




249 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 20:58:55.14 ID:FYS5Fqjlo



   ◆

   大学構内。フットボールグラウンド。

   芝生の上に、向かい合って立つ杏子とポーラ。お互いの距離は十メートルほど。
   照明はついていない。

杏子「ところで――ここってセキュリティはどうなってるんだい? 警備員の巡回とか」

ポーラ「……知るわけないでしょ。大学なんて近寄るのも始めてよ」

杏子「ま、そりゃそうか。じゃあそれをタイムリミットってことにしよう。
    誰かが来るか、それか日付が変わるまでにアタシを殺せたら、お前の勝ち。
    できなかったらアタシの勝ち」

ポーラ「……わかったわ」

杏子「アタシが勝てば、とりあえず明日が終わるまで大人しくしといてもらう――それでいいかい?」

ポーラ「なんでもいいわよ。それより、」

杏子「うん?」

ポーラ「なんで槍なの?」

杏子「なんでって言われてもね。コレがアタシの武器だし」
250 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 21:00:02.48 ID:FYS5Fqjlo

ポーラ「鎖はどうしたのよ」

杏子「ん? ……あぁ、ありゃ防御魔法さ」

ポーラ「……」

杏子「でもま、鎖でもあるよ」

ポーラ「……?」

杏子「そうだね、アタシだけ手の内を知ってるってのもフェアじゃないし、見せてやるよ」

   訝るポーラを前に、杏子は魔力を練り、槍を 『ほどいた』。

   バラリ―― 一本の長い棒だった柄が、鎖で連結されたいくつもの短い棒へと変化する。

杏子「多節槍っていってね」

   そのまま見せつけるようにして縦横無尽に振り回す。
   変幻自在の読めない軌道に、ポーラの眉が小さく寄った。

杏子「……っていっても、アタシがそう呼んでるだけで正式名称ってわけじゃない。
    そもそも人類に扱える代物じゃないから、そんなものはないんだろうね」

   そうしてひとしきり遊ばせると、また魔力を操作して元通りの一本の槍へと戻した。
251 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 21:01:23.10 ID:FYS5Fqjlo

杏子「ともかくコレが、アタシの武器さ」

ポーラ「わかった」

   あっさりうなずき、ポーラは地を蹴った。

杏子「――!」

   あっという間に杏子へと肉薄し、虚を突かれたようなその顔めがけて伸ばした爪を振り下ろす。



   ――キィンッ!



   響いたのは、意外に澄んだ金属音。

杏子「おいおいおい」

   杏子は虚を突かれた顔のまま、槍の刃でポーラの斬撃を受け止めていた。

杏子「せっかち過ぎるだろ。まだ開示の途中だよ?」

ポーラ「知ってるわ」

杏子「……なに?」
252 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 21:02:13.00 ID:FYS5Fqjlo

ポーラ「固有魔法のことなら、もう聞いたって言ってるの。ミンカからね」

   答えながら、左の爪で斬り上げる。
      ..
ポーラ「無いんですってね」

杏子「……」

   思わず押し黙る杏子。
   攻撃はかわしている。

ポーラ「キュゥべえにも確認を取ったわ。“そういう魔法少女” も、時にはいるって」

杏子「……」

ポーラ「……どうやら本当みたいね」

杏子「あいつら……後でお仕置きだ」

ポーラ「好きすれば? 『あと』 なんてものがあるならね」

杏子「冷たいね。普通かばうところじゃないかい?」

ポーラ「何のメリットがあるのよ」
253 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 21:03:28.35 ID:FYS5Fqjlo

   受け答えの間も攻防は続く。

   突き、斬撃に足技や爪の伸縮を織り交ぜたポーラの多角的な連撃を、
   杏子は右手一本に構えた槍と体裁きのみで的確に凌いでいく。

ポーラ「でもま、実際キュゥべえは大したことは教えてくれなかったわよ」

杏子「ふぅん」

ポーラ「主に精神的なことが原因で、魔法を上手く使えなくなる子もたまに出てくるって、それだけ。
    トラウマってヤツね」

ポーラ「ミンカも、あんたが 『固有魔法をなくした』 って言ってた、ってことだけ」

杏子「そうかい」

ポーラ「でも、ピンと来たわよ。あんたも幻惑魔法の使い手だったんでしょ?」

杏子「……どうしてそう思う?」

ポーラ「あんた、言ってたわよね。『家庭の事情だ』 って」

杏子「そんなこと言ったっけね」

ポーラ「言ったわよ。――つまり、殺しちゃったんでしょ? 家族の誰かを」

杏子「……」

ポーラ「……ビンゴ」
254 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 21:04:19.05 ID:FYS5Fqjlo

   斬り払い。

杏子「……だったらなんだ?」

   槍で受ける。

ポーラ「なるほど、そりゃあトラウマにもなるわよね」

   左右の連突き。

杏子「……」

   槍で受ける。

ポーラ「で、勢い余っちゃったわけだ。他人の幻惑まで否定するようになっちゃったのね」

   前蹴り。

杏子「……」

   横にかわす。

ポーラ「いい迷惑よ。どんなドジ踏んだんだか知らないけど、そんなの私たちには関係ない。
    なんでそのツケをアルフレッドが払わなきゃいけないの?」

   回し蹴り。
255 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 21:05:20.40 ID:FYS5Fqjlo

杏子「……」

   かがんでかわす。

ポーラ「ま、いいわ。とにかく重要なのは、あんたは固有魔法を使えないってこと」

   追い撃ちの回転斬り。

杏子「……だったらなんだ?」

   バックステップ。

ポーラ「決まってるでしょ。そんな不完全なあんたなんか――」

   追いすがる。



杏子「――――だったら、なんだ?」



ポーラ「……!?」

   足を止める。

   否。止められた。
256 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 21:06:13.34 ID:FYS5Fqjlo

   杏子は何もしていない。
   ただ少し、怒気を放っただけだ。

   それだけなのに、ポーラは全身が竦み上がって動けない。
   攻撃も後退もすることができない。

ポーラ「ッ……!」

杏子「ま、だいたいあんたの言う通りさ。満点をくれてやるよ」

杏子「確かにアタシもかつては幻術使いだった。そして今は使えない」

杏子「つまり、特化した能力は何一つ持ってない。――でもな」



杏子「だったら勝てる、とでも思ったってんなら……いくらなんでも、舐め過ぎだよ?」



ポーラ「う――うるさいッ!!」

   ポーラが吠えた。

   プレッシャーを気合いで跳ねのけ、目の前の杏子に斬りかかる。
257 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 21:07:46.79 ID:FYS5Fqjlo

杏子「……」

   受けて、杏子は一歩も動かない。

ポーラ「ッ!?」

   結果――空振った。

   驚いて、見ると、ふるった右手の爪が根元から折れていた。
   一拍遅れて、ドスドスドス、と周囲の地面に突き刺さる。

ポーラ「な――」

   と思った次の瞬間には身体が宙に浮いていた。
   背中から地面に叩きつけられ、瞬間、呼吸が止まる。

ポーラ「げほっ! げほっげほっ! ――この……!」

   起き上がろうとしたその喉に、槍の穂先が突き付けられる。

   左の爪も折れていた。

杏子「……アタシも大人げないとは思うけどね。あんたは言っても聞きゃしないだろうし」

ポーラ「くっ……!」
258 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 21:08:34.69 ID:FYS5Fqjlo

杏子「これが四十年の差だよ。理解できたかい?」

   冷たく見降ろしながら、杏子は告げる。

ポーラ「――ぁああッ!!!」

   しかしポーラは聞かない。

   再び爪を伸ばし、槍を撥ね退けて立ち上がる。
   攻撃を再開。

ポーラ「あんたなんかに! あんたなんかに……!」

   しかし、届かない。

   それでも、止まらない。

   全て避けられ、防がれても、挫けることなく攻め続ける。
   先ほどまでよりさらに苛烈な連撃を次々に繰り出していく。

杏子「……」

   対照的に、杏子は冷めた気持ちでそんなポーラを眺めていた。

   彼女の激情は本物だろう。少なくとも演技にはとても見えない。
   どうやら本気で勝てると思っていたらしい。
259 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 21:09:24.35 ID:FYS5Fqjlo

杏子(もっと賢い奴だと思ってたんだけどな……)

   しかしその希望は、敢え無く崩れた。完膚なきまでに叩き潰された。
   それゆえの激昂。

   要するに、癇癪を起している。

   だから攻撃も単調になりがちで、捌くのも先ほどまでより楽になっているのだが、
   まぁそれはいいとして。

杏子「……解せないね」

ポーラ「何がよ!」

杏子「いや、こっちの話さ」

杏子「それより、もうちょっと落ち着きなよ。せっかくイイモノ持ってんだからさ」

ポーラ「うるさい!」

杏子「ほら、そんなふうに頭に血を上らせてるから……足元がお留守だ」

ポーラ「ッッッ!?」

   最小限の力で軸足を払うと、ポーラは見事に体勢を崩した。
260 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 21:10:21.29 ID:FYS5Fqjlo

ポーラ「――ぁああッ!!」

   が、流石というべきか。
   倒れ込むその勢いをそのまま利用して、空中回し蹴りを放つ。

杏子「おおぅ……でも残念」

   しかしながらもちろん、そんな不安定な体勢からの攻撃が当たるわけもない。
   杏子は軽く上体を反らしただけで避けてしまった。

   肩から地面に叩きつけられるポーラ。

ポーラ「ぐうっ!」

杏子「立ちなよ。まだまだこんなもんじゃないんだろう?」

ポーラ「ッ……!」

   ポーラは舌打ちし、背筋の力のみで跳ね起きると再び杏子へと飛びかかる。

ポーラ「当り前よ!!」

杏子「その意気だ」
261 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 21:11:22.39 ID:FYS5Fqjlo

ポーラ「っづあぁあ!!」

杏子「おう、なかなか」

ポーラ「せいっ! やあ! ――ったあ!!」

杏子「けど素直すぎるね。おまけにそんな力任せじゃあ、当たるものも当たらないよ」

ポーラ「うるさい!」

杏子「ってゆーかお前、いつもそんな感じなのかい? 魔獣ども相手のときも」

ポーラ「それが何よ!」

杏子「いや、普段なら問題ないんだけどね。
    あいつらも数が集まると妙な連携を取ることがあるからさ」

ポーラ「知ったこっちゃないわよ!」

杏子「おいおい、そりゃあないだろう。
    忘れたのかい? まさにその 『まとまった数』 が明日この街に来るんだよ?」
262 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 21:12:05.52 ID:FYS5Fqjlo

ポーラ「だから! どうでもいいって言ってるのよそんなもの!」

杏子「……本気で錯乱してるのか? そんなんじゃあ、お前も死ぬし、街のヤツらも大勢死ぬよ?」

ポーラ「知らないって言ってるでしょ!」

杏子「……」

ポーラ「こんな街なんかどうでもいい! 死ぬならみんな死ねばいい!」

杏子「ふぅん……」

   ポーラのその言葉を受けて、杏子は。

杏子「本音が出たね」

   ニヤリ――笑った。

ポーラ「!?」

   大きく後ろに跳んで距離を取る。

   ポーラは、とっさに動けなかった。
263 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 21:12:57.22 ID:FYS5Fqjlo

ポーラ「何を……」

杏子「なんだい? 街の連中に恨みでもあるのかい?」

ポーラ「……ないわよ。そんなもの」

   苛立ちも露わな、しかしいくらか落ち着きを取り戻した答え。
   杏子にはそれが、動揺を押し殺しているように見えた。

杏子「復讐か」

   だから無視して、言葉を重ねた。

ポーラ「……」

   ポーラは小さく眉根を寄せる。
   杏子はいよいよ確信した。

杏子「ま、よくあるハナシだよね。
    具体的に誰に何をされたのかは知らないけど、そこは別にどうでもいいさ」

杏子「問題なのは、手段だ」

ポーラ「……」

杏子「要はそのクマを使って何かしようってんだろ? 何か、そこそこ大規模なことを」

杏子「で、そのためには魅了の効かないアタシは邪魔ってわけだ」
264 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 21:13:54.21 ID:FYS5Fqjlo

   それが杏子の推理だった。
   そういうことでもなければポーラの言動には説明がつかない。

   あるいは――そういうことであるなら、納得がいく。

杏子「安心しなよ。アタシはあんたの邪魔はしない。話によっては手伝ってやってもいい。
    だからまぁ、とりあえず聞かせてみなよ」

   しかし、

ポーラ「……なに言ってんの、あんた?」

   ポーラは、真顔でそう言った。

   動揺も、羞恥も歓喜も何もなく、ただ少しの嫌悪のみをにじませて、それだけを言った。

杏子「あ……?」

   確信が揺れる。

ポーラ「……ううん。いいわ、答えなくて」

   そうしてまたポーラは爪を構え、無造作に距離を詰めてくる。
265 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 21:15:11.55 ID:FYS5Fqjlo

杏子「お――おい、待て!」

   杏子も慌てて後ろに跳んだ。

杏子「なんだよ、違うのか?」

ポーラ「だから、もういいって言ってんのよ」

   大振りな左の一閃から、右のバックハンド。
   さらに、回し蹴り。足払い。低空からの諸手突き。

杏子「くっ……!」

   技の切れが元に戻っている。
   いや、激昂する前よりさらに、鋭さが増している。

杏子「おい、ちょ――待てってば!」

   対する杏子は、予想外の展開に思考の切り替えが追いつかない。

   無論、まだ十分に対処可能なレベルではあるが……

杏子「だったら! 違うんだったら、なんだっていうんだよ!」

ポーラ「うるさいわね。じゃあさっきので正解でいいわよ。復讐で」

杏子「はぁあ!?」
266 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 21:16:16.31 ID:FYS5Fqjlo

ポーラ「いいわね、復讐。いかにも頭でっかちの陰謀論者が好みそうな “理由” だわ」

杏子「ふざけてんのか、この……!」

ポーラ「フン……ふざけてるのはそっちでしょ。
    私がこの二日間をまるまる使って街じゅうを回ったのって、あんたたちの指示じゃない」

杏子「……え?」

ポーラ「忘れたの? 明日までに知り合いをできる限り街から出せって」

杏子「あ……」

ポーラ「言われた通り、片っぱしから逃がしたから、もうほとんど残っちゃいないわよ。
    それなのに誰に何を復讐するっていうのよ」

杏子「……」

ポーラ「わかった? じゃあもういいでしょ。早く死んでよ」

杏子「ああ、もう! くそ! わかったよ! アタシが悪かった! 勝手な決め付けをしたことは謝る!」

ポーラ「詫びるなら死んで詫びて」

杏子「だから、説明しろって! ホントの理由を話せよ!」

ポーラ「……」

   不意に、ポーラは足を止めた。
267 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 21:18:05.82 ID:FYS5Fqjlo

杏子「っと……?」

   杏子も止まる。

   鍔迫り合いの体勢。お互いに、力はほとんど入っていない。

ポーラ「ほんとに……あんたたちって、そればっかりよね」

   うつむいて、ぼそり。呟く。

杏子「……あん?」
               リーズン   リーズン  リーズン
ポーラ「なんで。どうして。理由は、理由は、理由は……馬鹿の一つ覚えみたいに同じことばっかり。
    今どき人形だってもっといろいろ喋るわよ」

杏子「だから何を……」

ポーラ「学校のやつらも、パパも、ママも、妹も。おじい様でさえそうだった……!」

ポーラ「そんなに理由が大事なの? 理由さえあれば全部納得できるの?」

ポーラ「理由を知るために命をかけられるの? 死ねるの? 殺せるの? できないんでしょう?」

杏子「いや、それは……」

ポーラ「私はできるわ」

杏子「……!?」
268 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 21:19:16.23 ID:FYS5Fqjlo

ポーラ「この子のためなら、死ねるし、殺せる。勝てなくても死ぬまで戦える」

杏子「お前……」

ポーラ「私は、この子さえいればそれでいい! “理由” なんて糞食らえだ!!」

   叫びと共に、爪を押しこむ力が増した。

杏子「!?」

   よく見るとポーラは全身を淡く発光させていた。

   ジェムと同じ、オレンジの光。

   強化魔法。

   一般のそれでなく、彼女固有の強固なそれが、全身を包み込んでいた。

杏子「くっ……!」

   杏子は、ついに押し返された。
   槍を弾かれ、後ろに飛ばされ、しかし危うげなく着地する。

杏子「おいおい、マジか……」

   まだ、どうにかなる。勝とうと思えばいつでもできる。
   しかし今、一瞬とはいえ、ポーラの膂力は杏子を上回った。

   もしこのまま続けたとしたら……
269 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 21:20:18.18 ID:FYS5Fqjlo

ポーラ「最初から本気よ。いいから――もう死ね!」

杏子「ああっ、くそ!」

   またも間を置かず繰り出される連撃を、より慎重に受け止めていく。

杏子「待てって! だってお前だって聞いてたじゃないか、アタシに魅了が効かない理由を!」

ポーラ「それとこれとは話が別よ!」

杏子「どう――ああもうっ! ……どう違うってんだよ!」

ポーラ「全部この子のためよ! 私は!
    意味もなく知りたがってるだけのあんたたちと、一緒に――するなあっ!!」

   突き。

   杏子の胸元、ソウルジェムを目がけての、強力な一撃。

杏子「っ……!」

   とっさに槍を両手で支えてガードする。
   重い。
270 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 21:21:30.90 ID:FYS5Fqjlo

杏子「お前……ホントに、そいつが好きってだけでここまでやってるってのか?」

ポーラ「今さらか! 死ね!」

杏子「だったらアタシなんてほっときゃいいじゃないか!
    アタシにそいつの魅了が効かなかろうがなんだろうが、そいつ自体には関係ないだろう!?」

ポーラ「だから理屈じゃないって言ってるじゃない! イヤなものはイヤなのよ!」

杏子「っ……! 無茶苦茶だ……」

ポーラ「いいから死ね! 早く死ね! 死ね死ね死ねっ!!」

   雨のような連撃。
   一発一発が、確実に重く、速くなってきている。

   そして、

杏子「だから待て! 止まれよ! こんな無茶な力の使い方してたら死んじまうぞ!」

   クマの形をしたソウルジェムが、目に見えて曇り始めている。

   そう。これは成長などではない。
   ただの暴走――命そのものを削って攻撃力に転化しているに過ぎない。

   長くもつはずがない。
271 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 21:22:24.03 ID:FYS5Fqjlo

ポーラ「わかってるわよそんなこと!」

杏子「だったら――」

ポーラ「関係ないのよ!」



ポーラ「――私が死んでも、アルフレッドは残るんだから!!」



杏子「なっ……!?」

   耳を疑った。

ポーラ「だからあんたさえ殺せれば! 後のことなんか、知るもんか!!」

   しかしその目は、完全に本気の眼だった。

杏子「……ッ」

   ことここに至って、杏子はようやく理解した。

   こいつは、狂っている。


272 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 21:24:12.02 ID:FYS5Fqjlo



   他の部分は普通の人間と大して変わらない。
   ただ一点、優先順位のみが違う。

   人間よりもテディ・ベアの方が上。

   自分や他人の命よりも、テディ・ベアの可愛さの方が大事。

   だから、
   その方が可愛くなると思ったら、リボンを買って飾り付けるし、
   それで世界一可愛くなるのなら、人の心を歪める魔法でも喜んで受け入れるし、
   その可愛さを完全なものとするためなら、杏子のことだってためらわず殺す。
   刺し違えることすら厭わない。

   それが、ポーラ=レイノルズ=クマガミという少女なのだ。

   元もと魔法少女という人種は、大なり小なり、変わりものが多い。
   杏子は実体験としてそれを知っている。
   頭のネジが何本か抜け落ちたような変態もいたし、どうしようもない外道だっていた。
   だが、ここまで “外れて” いる精神を見るのは初めてだ。

   もはや同じ人間であるとは思えない。

   元からそうなのか、あるいは何らかの原因となる体験なりがあったのか、それはわからない。
   いずれにせよ、それがわかった以上、杏子の取る道は一つしかない。


273 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 21:25:05.40 ID:FYS5Fqjlo



杏子「……ったく……」

   杏子はポーラの攻撃をさばきながら魔力を練り、石突きで芝生の地面を叩いた。

   瞬間、二人の間に赤い鎖の壁が出現する。

ポーラ「!?」

   ポーラの爪がぶち当たり、耳障りな音がグラウンドに響く。

ポーラ「くっ……! 何のつもりよ!」

杏子「終わりだ」

ポーラ「……、……なんですって?」

杏子「もうやめだって言ってるんだよ」

   ため息交じりに、杏子は言った。

ポーラ「……」

   呆けた顔を見せたのは、一瞬だけ。
   すぐさま憤怒の形相へと切り替わる。

ポーラ「――っざけるな!!」
274 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 21:26:03.77 ID:FYS5Fqjlo

   爪を振り上げ、力任せに障壁へと叩きつける。
   しかし大げさな音が響くばかりでびくともしない。
   わずかな震えさえ起こらない。

ポーラ「このッ……!」

   腕を前に突き出し、強化の魔法を全力で発動させる。



   ――ギィンッ!!



ポーラ「なっ!?」

   が、結果は同じ。
   その意思に従い、亜音速で伸ばされた爪は、やはり杏子には届かなかった。

   ポーラはもちろん、鎖の隙間を狙った。
   にもかかわらず、その何もないはずの空白を通り抜けることが、できなかった。

ポーラ「なんでっ……! このっ! このおっ!!」

杏子「無理だよ。見た目ほど単純な壁じゃあないんだ」

ポーラ「ッッ……! 外しなさいよ! これ!」
275 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 21:27:14.71 ID:FYS5Fqjlo

杏子「外すわけないだろ。もうやめだって、何回も言わせるなよ」

ポーラ「ふざけ――」



杏子「ふざけてるのはどっちだ!!」



ポーラ「ひっ……!?」

   突然の一括に、ポーラは思わず竦み上がる。

杏子「トチ狂った餓鬼の我がままに、これ以上付き合っていられるか」

   言いながら杏子は、懐からいくつかのグリーフシードを取り出した。

杏子「使え」

   ポーラへと放り投げられたそれらは、鎖の障壁をすり抜けて地面に落ちる。

ポーラ「……」

   ポーラは答えず、足元に散らばった黒いキューブを見下ろした。
276 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 21:31:04.20 ID:FYS5Fqjlo

杏子「自分でもわかってるんだろ。そんなペースじゃあと一時間ももちやしない」

ポーラ「……」

杏子「そして、そこまでやっても、今のお前じゃアタシに傷一つつけられない。
    その壁だって破れない」

ポーラ「……」

杏子「なぁ、ポーラ。ポーラ=レイノルズ」

ポーラ「……」

杏子「お前がアタシを殺したいってのは、よくわかったよ」

ポーラ「……」

杏子「でもそれってさ、本当に今すぐじゃなきゃダメなのか?」

ポーラ「……」 ピク

杏子「正直なところさ、それもアリかなって思うんだよ。
    それで誰かの祈りが完全になる――なんて、こんなアタシには勿体ないぐらい
    オイシイ死に様だろう、ってね」

杏子「だけど、今はまだそのときじゃない」
277 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 21:31:54.81 ID:FYS5Fqjlo

杏子「“ワルプルギスの夜” が来るんだ。アタシは戦わなきゃいけない。そのために来たんだ」

杏子「そのあとも……って、まぁそっちは個人的なアレだけど」

ポーラ「……」

杏子「何より、お前にはまだそれだけの価値がない」

ポーラ「……」

杏子「逆の立場で考えてみなよ。
    昨日今日に空手を始めたような奴に挑まれて、負けてやろうって思えるかい?」

ポーラ「……」

杏子「大人になれ、ポーラ。そして強くなれ」

ポーラ「……」

杏子「まずは明日を生き延びて、それから修行なりなんなりで強くなれるだけ強くなったら、
    そのときはまた相手をしてやるよ」

ポーラ「……」

杏子「……なぁ、それでいいだろ?」

ポーラ「……」
278 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 21:32:37.07 ID:FYS5Fqjlo

   ポーラは答えない。
   うつむいたまま、反応らしい反応をほとんどしない。

ポーラ「……」

   いや、反応がなさすぎる。

杏子「……ポーラ?」

   顔を覗き込むようにして呼び掛ける。

ポーラ「……」

   やはり応えはない。

杏子「おい……」

ポーラ「……」

杏子「……ハナシ聞いてたか? なぁ?」

   問い直しながら、障壁に顔を寄せる。

ポーラ「……ぃ……」

   するとようやく、何かが聞こえた。
279 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 21:35:03.51 ID:FYS5Fqjlo

杏子「え?」

ポーラ「……ぃ……」

   肩と唇を震わせて、確かに何か言っている。

ポーラ「……ぃ……」

   しかし聞き取れない。
   さらに耳を近づける。

杏子「なんだって?」

ポーラ「…………さい……」

杏子「いやだから、聞こえ――」










ポーラ「――――――――うるさいって言ってんのよ!!!」



280 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 21:36:04.75 ID:FYS5Fqjlo

杏子「うわっ!?」

   障壁にほとんど耳をくっつけたところで、待ち構えていたようにポーラは叫んだ。
   同時に渾身の力で壁を斬りつけ、また蹴りつけた。

   不意打ちの轟音に、杏子は耳を押さえて後ずさる。

杏子「何を……! ってかそっちがうるせぇよ!」



ポーラ「ははっ! ははははははははははははははははっ!」



   それを受けて、ポーラは笑った。

ポーラ「見たぞ! 聞いたぞ! ダメージだ!」

ポーラ「ダメージを受けた! なにが傷一つ! あははははははははははははははははっ!!」

   追い詰められた人間の顔で、涙をぼろぼろとこぼしながら。
   それでも高らかに笑声を挙げた。
281 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 21:36:52.25 ID:FYS5Fqjlo

杏子「お前……」

ポーラ「――うるさい! 喋るな!! もう黙れぇぇぇえっ!!」

   叫びながら、再び障壁へと右手の爪を突き付ける。

ポーラ「ぅらあっ!!」

   左手を添え、渾身の魔力を叩きこむ。

   もちろん、結果は同じ。
   弾ける衝突音。
   起こるのはそれだけで、壁は微動だにしない。

   だけどそれでも、ポーラは魔法を止めない。

   壁に押し付けられて限界まで張り詰め、軋みを上げる三本の爪に、さらに魔力を注ぎ込んでいく。

ポーラ「ぅううううううううううううううううう……ッ!!」

   やがて軋みはヒビとなり、間を置かず限界を超えて砕け散る。

ポーラ「ぅぅぅあああああああああああああああ――!!」

   それでもなお、ポーラは止まらない。
282 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 21:37:45.52 ID:FYS5Fqjlo

   折れた爪を即座に伸ばし、壁に叩きこみ、また砕けてもまた伸ばす。

   そのまた次に折れても、折れても、折れても、折れても。

   折れても折れても折れても折れても折れても折れても折れても折れても折れても。
   構うことなく魔力を注いで伸ばし続ける。

   砕けた爪の破片が機関銃の薬莢さながらに周囲に降り積もっていく。

ポーラ「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ――!!」

杏子「おい……」

   同様に、そのソウルジェムにも穢れが溜まっていく。

   黄昏時の空のように、オレンジから闇色へと堕ちていく。

杏子「おいっ! もうやめろ! 無理なんだよ!」

ポーラ「黙れええええええええええええええええええええ――!!」

   叫ぶ。
   涙を流しながら、泣き叫ぶ。


283 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 21:38:42.52 ID:FYS5Fqjlo



   ポーラだって、本当はもうわかっている。

   杏子は正しい。
   今のポーラでは、決して彼女には届かない。
   それどころか、目の前の弧の障壁すら破れるかどうか。
   仮に破れたとしても、そんなもの、杏子にとっては痛くもないだろう。

   わかっている。
   諦めるしかない。

   杏子の言った通り、とりあえず今は諦めて、強くなってからまた改めて挑めばいい。
   どうやら自分には才能があるらしいから、いずれ実現できるだろう。
   その道を拒否する理由はない。

   逆に、ここで意地を張り続ける理由もない。
   むしろこのままだと、最悪ポーラだけが死んで、結果アルフレッドともお別れになってしまう。

   だからもう、諦めてしまえばいい。

   そう思う。
   そう、思った。しかし、
284 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 21:39:26.21 ID:FYS5Fqjlo

ポーラ「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」

   それでもポーラは、止まらなかった。
   止められなかった。

   理由などない。
   ないが、しかし。

   まだ動けるから。

   まだ手が動くから。足が動くから。
   身体が、心が、魂が。

   まだ、生きているから。

   そしてそのどれもが、アルフレッドには最初から与えられていないものだから。

   だから、まだ止まれない。

   止まるわけにはいかない。

ポーラ「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
    あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
    あああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」
285 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 21:40:07.42 ID:FYS5Fqjlo

   そうして、ついに。



   ――ピキッ。



杏子「!」
ポーラ「!」

   ポーラの魔法が。

   杏子の魔法を――突き破る。



   ――バキィンッ!!



ポーラ「やっ――!」
286 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 21:40:46.36 ID:FYS5Fqjlo

杏子「――ってねぇよ、バカ」

   しかし、それでもやはり、届かない。

   すぐさま張られた二つ目の障壁に阻まれて。

ポーラ「ッッッ……!!」

杏子「言っとくけど、あと百回は同じものを出せるよ」

ポーラ「くっ……!」

   がくりと、ポーラはその場に膝をついた。

   息が荒い。
   顔色も悪い。
   心身ともに、限界が近い。

   にもかかわらず、未だその眼に宿る執念は、衰えていない。

杏子「……どうやったら止まるんだよ、お前」

   無論、殺す以外で。
287 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 21:41:32.51 ID:FYS5Fqjlo

ポーラ「なんで……なんで、なんで!!」

杏子「……」

ポーラ「否定っ、したくせに! 魔法を! 捨てたくせに!!」

ポーラ「それなのにっ……否定したあんたが! なのに、なんで……っ!」

杏子「……。ハァ……」

   ため息。

杏子「……無い方がいいんだよ、こんな力なんて」

ポーラ「そんなわけないっ!」
                                 アイツラ
杏子「あるさ。……まぁ、必要ではあるんだろうけどね。魔 獣がいる限り。
    だけど使わずに済むなら、それに越したことはないんだ」

杏子「魔法が――アタシたちのこの力が、本当に肯定できるものなんだとしたら、
    使うごとに魂が濁ったりなんかするはずがないんだよ」

ポーラ「黙れ……!」

   地に落ちていた膝が、再び浮いた。
   立ち上がる。
288 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 21:42:23.36 ID:FYS5Fqjlo

ポーラ「魂が、なによ! そんなものがそんなに大事か!」

杏子「そりゃお前……」

ポーラ「本当に大切で尊いものなら、なんでこの子たちには与えられなかったのよ!!」

杏子「……なるほど、そうか。そりゃまぁ、お前ならそういう反応になるわな」

   心底うんざりしたように、杏子はもう一つため息を吐いた。

ポーラ「あんたに、何が……!」

杏子「わかるよ。よくわかったさ」

杏子「もう何を言っても無駄だってな」

   言いながら槍を八の字に振り回し、再び石突きで地面を、タタタンと叩く。

   すると、二人の間に張られた障壁が、ポーラに向かって滑るように移動し始めた。

ポーラ「!」

   とっさに飛びのくポーラ。

   が、その背後にも障壁が出現する。

ポーラ「なにっ!?」
289 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 21:43:26.50 ID:FYS5Fqjlo

   急停止。
   したときにはもう、右と左と、さらに上下にも壁が現れている。

   都合六枚。ちょうどポーラだけを空間から切り離したかのような、棺桶サイズの檻ができあがる。

ポーラ「あっ!!」

   仕上げに、地面から斜めに生やした巨大槍の先端に天井部分から伸ばした鎖を引っかけて、
   出来上がり。
   鳥籠ならぬ熊籠の完成だ。

杏子「そこでしばらく頭冷やして――」



ポーラ「――アルフレッド!!」



杏子「……あ?」

   予想外の反応に、見上げると。

ポーラ「アルフレッド! アルフレッドぉ!!」

   ポーラは杏子に目もくれず、足元の地面に――どうしてだかその場に投げ出されている
   相棒のヌイグルミに向かって、必死の形相で手を伸ばそうとしていた。
290 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 21:44:13.81 ID:FYS5Fqjlo

杏子「あー……そっか。ミスった」

   この魔法はもともと救出用――敵に取り囲まれた味方を保護するために
   組み上げたものであるため、対象以外は巻き込まないつくりになっているのだった。
   うっかりしていた。

杏子「ったく、しょうがないね」

   放っておけばまた無茶をしかねない。拾ってやろうと、歩み寄る。

ポーラ「……!」

   ポーラが顔色を変える。

ポーラ「ちょっと、待ちなさいよ! 何をするつもりよ!」

杏子「うるさいね。黙って待ってなよ」

   杏子は構わず、その傍らに膝をつく。

ポーラ「やめろ!! 触るな!!!」

杏子「はいはい」

   手を伸ばす――




291 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 21:44:46.53 ID:FYS5Fqjlo










ポーラ「ッッッ触るなああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!」









292 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 21:45:33.42 ID:FYS5Fqjlo



   絶叫。

   そして――爆発。

杏子「――!?」

   振り仰ぐ。
   夜空に四散する煙と檻の破片。
   その手前。

   眼前――文字通りの眼と鼻の先に。



   “死” が迫っていた。



杏子「ッッ……!」

   とっさに槍で打ち払う。
   そうしてから、ようやくそれがポーラの爪であることに気付く。

ポーラ「――ガッ!!」

杏子「しまっ――!」
293 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 21:46:55.18 ID:FYS5Fqjlo

   ほぼ手加減なしのカウンターをもろに食らった彼女は、数メートル先の地面に――着地した。

杏子「!?」

   明らかに不自然な体勢だった。

   後ろ向きに、大きく広げた両足と頭頂部で地面をこする三点着地。
   背中側に突き上げられた左腕には、いつのまに拾ったのか、
   しっかりと相棒のヌイグルミを掴んでいる。

   そして右腕は、なくなっていた。

   肘の辺りが真っ黒に炭化し、そこから先が闇夜に溶け込むように途切れている。
   また右半身を中心にして全身が焼け焦げている。

   つまりそれが、檻を破るための代償。
            . . .. . . . . .. .
   そのために、死なない程度に自爆した。

杏子「そこまでやるか……」

   これは、どうなのだろう。
   マミなら治せるだろうか。
294 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 21:48:08.18 ID:FYS5Fqjlo

ポーラ「――お前ぇぇぇ……!」

   ゆっくりと、その顔が上がる。

ポーラ「今、この子に何をしようとしたぁあああああ!!?」

   その瞳に浮かぶのは、深い――これまでよりもさらに深く、純粋な、獣の殺意。

杏子「ちょ、落ち着けよ。別に何も……って、痛ぅっ」

   慌てて振って見せた手に、違和感があった。

   たった今、ヌイグルミに向けて伸ばした左手。
   その手のひらが切れて、薄く血がにじんでいた。

杏子「……、え?」

   斬られた?
   いつ?

   わからない。
   まるで気付かなかった。

ポーラ「……血?」

   ポーラも気付いたらしく、真顔に戻ってつぶやいた。
295 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 21:48:56.94 ID:FYS5Fqjlo

杏子「いや、別にそんな大した傷じゃ」

   違う。
   こんな取り繕うようなことを言ってどうする。

   そうじゃない。いつ斬られたかも問題じゃない。問題は、

ポーラ「血だ……」

   斬られたという事実、そのもの。

ポーラ「血が出るなら…………殺せる!」

   嗤った。
   口が耳まで裂けたかと錯覚するほどの、壊れ切った笑顔。

   ――その姿が、不意に大きくなる。

   否。
   跳んだのだ。こちらに向かって。

杏子「くっ!!」

   鳴り響く衝突音。

   辛うじて槍で受け止めることに成功したその一撃は、手ではなく足。ブーツに生えた爪だった。
296 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 21:50:12.44 ID:FYS5Fqjlo

   腕は左脚と共に地面について、身体を支えるのに使われている。
   ヌイグルミは、いつの間に持ちかえたのか、右の小脇に。

   加えて、今の跳躍。
   予備動作が全くなかった。だから遠近感すら狂わされたのだ。

   余りにも不自然な動きと体勢。
   先ほどの着地もそうだった。

   重量感だとか、体重移動だとか、慣性だとか。そういったものが一切感じれなかった。
   まるで本当のバネ人形か、巻き戻し映像のような。
   あるいは、見えない何者かに引っぱられているかのような。

ポーラ「ひひっ!」

   壊れた笑みとともに、追撃が来た。
   ブレイクダンスのように腰を軸にして身体を回し、左右同時の上、下段蹴り。

杏子「ちっ!」

   バックステップで逃れると、あろうことか、左手一本で跳躍し追ってきた。

杏子「なに!?」

ポーラ「ひははっ!!」
297 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 21:53:54.60 ID:FYS5Fqjlo

   さらにそのまま、三本の爪を巧みに操り地面を走りながら、両足の爪を振り回す。
   かと思えば腕と足をランダムに入れ替えての回転移動。
   あるいは障壁を利用した空中での軌道変更。

   もはやヒトの動きではなかった。

   何より不気味なのは、これだけ出鱈目に身体を振り回しているのにもかかわらず、
   片時たりとも視線が外れないという点だ。
   狂人そのもののこの顔に見つめられ続けるというのは、精神的にもくるものがある。

杏子「っ!」

ポーラ「あはぁっ!」

   そしてまた、斬り傷が一つ。

ポーラ「行ける、行けるよ! アルフレッド!」

ポーラ「やっとわかったわ! 最初からこうすればよかったのね!」

杏子(……こいつ、まさか……)

   そうして、杏子は気付いた。

   今の一言。
   そして激しい風切り音に混じって聞こえてくる、ぶちぶち、ごりごりというおぞましい音。
   腱が千切れ、関節が砕ける音だ。

   ポーラはどうやら、その身体を捨てている。
298 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 21:55:40.68 ID:FYS5Fqjlo

   自らの肉体を人形に見立て、筋肉ではなく魔力で無理やり操っているのだ。
   だからこその、常軌を逸したその動き。
   恐らくは痛覚も消しているのだろう。

   しかし元はと言えば、魔法少女とはそういうものなのだ。

   魂と切り離された肉体を、魔力を通して操作する。
   それを突き詰めていけば、“こう” なるのは必然なのかも知れない。

   そう。
   あるいはこの姿こそが、“魔法少女” の完成系……

杏子(――なワケあるかっ。なに考えてんだアタシはっ)

杏子(だって、これじゃあ――)

ポーラ「うふっ! うふふははっ!」

ポーラ「あはははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!」

   その様は、杏子がこれまでに見てきた他の何物にも似ていない。

   だが、脳裏に働く一つの連想が、あった。

杏子(これじゃあ、まるで――)




299 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 21:57:08.07 ID:FYS5Fqjlo



   ◆



   「――まるで、魔女ね」



   星明かりのグラウンドでぶつかり合う、杏子とポーラ。
   そんな二人を蔭から見つめる者たちがいた。

ほむら「『熊の魔女。その性質は……』、何かしら。『献身』 あたりかしらね」

QB 「へぇ。ああいう感じだったのかい」

   グラウンドからやや離れた、礼拝堂の屋根の上。
   暁美ほむらとキュゥべえである。

ほむら「……まったく違うわ、根本的にね。なんとなく似ていると思っただけ」

   十字架の隣に腰を下ろしたほむらは、その長い髪を手で梳いて流す。

ほむら(……いや。似ているのは、むしろ私にか)

ほむら(どうしようもない敵に、それでも無様に挑み続けた、愚かな愚かなかつての私)

ほむら(けれど……あのころの私に、あれほどまでに捨て身の覚悟があっただろうか)
300 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 21:57:56.91 ID:FYS5Fqjlo

ほむら「……」

   考えを打ち切り、目を閉じる。
   意味のない思考だ。

QB 「ふぅん」

   キュゥべえは曖昧に頷くと、ふと二人から視線を外してほむらを向いた。

QB 「君は、今回は何を知っていたんだい?」

ほむら「……なんの話?」

   ほむらも彼に向き直る。

QB 「ポーラのことさ。
    彼女についても、君はまた何かをあらかじめ知っていたんじゃないのかい?」

ほむら「何も知らないわ。どうしてそんなことを」

QB 「君は物知りだからね」

ほむら「皮肉が上手くなったわね。……勘ぐりすぎよ」

ほむら「以前に話したでしょう。私が知っているのは、あれが全て。
     この街に来たのも、ポーラ=レイノルズと出会ったのも、今回が初めてよ」
301 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 21:58:36.52 ID:FYS5Fqjlo

QB 「しかし僕は、想い人のために死を選んだ爪使いになんて、心当たりがないんだよ」

ほむら「でしょうね。彼女はこちらの世界では契約しなかったようだから」

QB 「……」

   沈黙するキュゥべえ。

   ため息をつくほむら。

ほむら「本当よ」

ほむら「“あれ” について知っていたなら、こうなる前に止めていたわ」

QB 「……。そうかい」

ほむら「ええ、そうよ」

QB 「わかったよ。だったら――そろそろ止めに入った方がいいんじゃないかい?」

ほむら「……そうね」

   グラウンドの二人に視線を戻す。
302 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 21:59:58.80 ID:FYS5Fqjlo

   とはいえ、最悪の事態――すなわち杏子が殺されるといったことにはなるまい。
   ポーラ=レイノルズの粘り強さはほむらの予想を大幅に上回ってはいたが、
   それでも、この期に及んでもなお、あんなものは杏子の敵ではない。

   そう。
   敵ではない。

   敵ではなく、味方なのだ。

   だから殺してしまうわけにもいかず、それゆえに手を焼いている。
   それだけの話だ。

   しかし、ならばほむらとしても、杏子のその意志を無碍にするわけにもいかない。

ほむら「あなたはマミを呼んできて。グリーフシードも忘れずに」

QB 「ライラとミンカはどうする?」

ほむら「待っているように――いえ、知られないようにしなさい。手遅れなら、足止めを。
     これ以上拗れるのは御免だわ」

QB 「わかった。じゃあ、行ってくるよ」

   そうしてキュゥべえは走り去る。

   ほむらも立ち上がり、指輪をジェムに戻し、胸の前に掲げる。

ほむら「思わせぶりな態度を取っているつもりはないのだけれど……改めるべきなのかしらね」




303 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 22:01:18.32 ID:FYS5Fqjlo



   ◆

ポーラ「あはっ! あははっ! はっ! ははっ! あ! はっ! あは! あはははっ!!」

杏子「くそっ、この……ッ!」

   どうする?
   どうすればいい?

   杏子は必死で考えていた。
   どうすれば、ポーラ=レイノルズは止まってくれる?

   攻撃はできない。
   どれだけダメージを与えたところで構うことなく暴れ続けるだろうから。
   むしろ魔力の消耗を早めるだけだ。
   同じ理由で拘束も不可。

杏子(ったく! なんでアタシがこんな餓鬼のために……!)

   いっそ残りの手足も斬り落としてしまおうか。
   そんな考えもよぎったが、即座に却下する。

   あの様子だと根元から切らねば効果はあるまい。
   そうすると止血ができず、結局殺すことになってしまう。

杏子(上手く気絶でもさせることができりゃあ、一番いいんだが……)
304 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 22:02:24.24 ID:FYS5Fqjlo

   だが、どうやって?
   今の彼女に当て身が通用するとも思えない。脳を揺らしてさえ効果があるかどうか。
   催眠魔法も得手ではない。

   ――いや。

   待て。
   そうだ。
   魔法。魔力だ。

   風の噂で聞いたことがある。
   他人の変身を強制的に解除する方法があると。

杏子(ピック・ジェム……!)

   ソウルジェム。すなわち魂。
   ヒトの根源にして中枢。
   それぞれに固有のものであり、神聖にして侵さざるべきもの。

   魔法の使用によって、穢れを貯め込む性質を持つ。

   それ故なのかどうなのか、他者の魔力に触れると強い拒絶反応を示し、
   一時的に機能を停止してしまうらしい。
                              ピック・ジェム
   その上で肉体から抜き出す技が、すなわち “魂 摘 み”。

   上手くすれば心身にダメージを与えることなく、意識だけを文字通り刈り取れる。
305 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 22:03:22.20 ID:FYS5Fqjlo

   が、それは同時に危険な賭けでもある。

   問題となるのは流し込む魔力の量と強さだ。
   強すぎれば濁りを加速させ、最悪砕いてしまうし、
   弱すぎれば効果がなく、狙いが読まれて打つ手がなくなり、結果、殺すしかなくなってしまう。

   そのギリギリの境目を見極めなければならない。
   それも、実行しながら、瞬間的に、だ。

杏子(ハードモード……なんてモンじゃないね。マニアック越えの難易度だ)

   そう思ってみると、不思議と気分が高揚した。
   苦笑いを噛み殺す。

   まったく、年甲斐のないことだ。
   だがそれもある意味で当然。

   なにせ――魔法 『少女』 なのだから。
306 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 22:05:06.31 ID:FYS5Fqjlo

杏子「……」

   ポーラのジェムを確認する。
   もうほとんど真っ黒だ。

   時間的にも、チャンスは一度きり。

杏子(……よしっ!)

   意を決し、まず一手。

杏子「――おぉ、っと」

   余裕でかわせた攻撃を、足を止めて敢えて受け止め、わざと隙を見せる。

ポーラ「キヒッ!」

   かかった。

   狙い通り、ベタ踏みになった軸足に視線が落ちる。
   ほぼ同時に最上段からの突き降ろし。
   左手の爪が足の甲を貫かんと落ちてくる。

杏子(――――――――今!)

   紙一重で回避。

ポーラ「!?」

   グラウンドの芝生に、爪だけが深々と突き刺さる。
307 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 22:05:48.99 ID:FYS5Fqjlo

   第一段階クリア。
   これで最短でも半秒は動きが止められる。
   その隙をついて跳びすさり、さらに時間を稼ぐ。魔力を練る時間を。

   第二段階――

ポーラ「――」



ポーラ「えへっ」



杏子「っ!?」

   悪寒。
   同時に、背中に衝撃。――壁?

   否。

杏子(障壁だと!?)

   杏子の後退を遮るように、熊耳付きの障壁が出現していた。
308 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 22:06:37.80 ID:FYS5Fqjlo

   さらに前にも。左右と上も塞がれる。
   そして下は、

ポーラ「もラッタあ!!」

   地面を割いて、まっすぐに伸びる爪が飛び出した。

杏子「くそッ!?」

   足裏の障壁を展開。
   どうにか防いだが、囲いの中に押し込められた。

杏子(さっきの意趣返しかよ……!)

   完全に意表を突かれた。
   あちらもこれを狙っていたのだろうか。それとも、直感と偶然によるものか。

   いずれにせよ、時間切れだ。

   ポーラが左手の爪を地面から引き抜き、杏子に向けて突き付ける。

杏子「――待て! やめろ!!」

   叫んでも無駄。
   もう間に合わない。
   ここからでは、止められない。
309 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 22:07:46.95 ID:FYS5Fqjlo

ポーラ「うふふっ」

   爪が伸ばされる。
   障壁に突き刺さる。
   火花が走る。

   直後。

   五枚、全ての障壁が、爆発した。

杏子「がっ!!」

   全周囲と頭上から襲い来る、熱と爆圧。障壁の破片。
   全身が焼け焦げ、斬り裂かれ、吹き飛ばされる。
   ゆるい放物線の末に地面に叩きつけられる。

   まずい。

   重傷だ。
   それはいい。
   回復させればそれで済む。五秒とかからない。魔力も十分残っている。

   しかしポーラは。

   もう、無理だ。




310 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 22:08:43.28 ID:FYS5Fqjlo



はい休憩
311 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/04/09(月) 22:10:45.56 ID:iT28JdR5o
ああん良い所で・・・

とりあえず中乙
ポーラちゃんは長生きできなそうな子だねぇ・・・さてさて
312 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/04/09(月) 22:23:43.88 ID:P4Ll2YJAO
面白いなあ
面白いなあ
313 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/04/09(月) 23:09:46.45 ID:/1Xs4EuAO
誰か休憩代行はよ。
314 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 23:32:46.58 ID:FYS5Fqjlo

再開

315 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 23:33:57.05 ID:FYS5Fqjlo



   ◆

   上手く行った。

   障壁で囲いが作れるのは、さっき見た。
   武器を地面から生やす遣り方があるのも、さっき知った。
   暴発のさせ方も、さっき覚えた。

   それらの即席の組み合わせ。
   練習なしのぶっつけ本番だったけど、上手く行ってくれた。

   杏子の慌てふためくさま、やめろと叫ぶ必死の形相は、
   アルフレッドと過ごす時間の、次の次の次ぐらいに愉快だった。

   でも、まだ生きているらしい。

   ボロぞうきんのように地面に投げ出されたその身体が、ぼんやりと赤い光に包まれている。
   回復魔法か。
   なんてしぶといんだろう。
   喜んでる場合じゃなかった。早く止めを刺さないと。復活してしまう。
316 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 23:34:47.71 ID:FYS5Fqjlo

   一歩を踏み出す。

   その膝が、壊れた。

ポーラ「え――」

   関節があらぬ方向に曲がり、身体が重力に引っぱられそうになる。
   踏ん張ろうにも力が入らない。
   地面に向かって落ちていく。

   いけない。
   この体勢。アルフレッドを下敷きにしてしまう。

   とっさに――動かない。
   動けない。

ポーラ「……ッ!」

   必死で――全力で――全身全霊で――最後の力を振り絞って――

   そこまでやって、ようやく動けた。少しだけ。
   腰をひねり、どうにか背中から倒れ込む。受け身なんか取れやしない。

   そして、本当にそれが最後だった。
317 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 23:35:39.69 ID:FYS5Fqjlo

   視界の隅で杏子が起き上がろうとしている。
   私は動けない。

   変身が解けた。

   次いで、凄まじい激痛が襲いかかってきた。

ポーラ「――」

   痛い。

   いや、痛いなんてものじゃない。それどころの騒ぎじゃない。

   痛すぎる。痛すぎて悲鳴も上げられない。悲鳴どころか呻き声すら。
   全身の骨という骨、肉という肉が、挽き潰されたような――否。

   ようなではなく、まさにその痛みなのだろう。

   頭のてっぺんから足の先まで、痛くないところが少しもない。

   どこにも力が入れられず、身を強張らせることさえできない。
318 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 23:36:23.49 ID:FYS5Fqjlo

   痛覚遮断。
   契約の直後ぐらいにキュゥべえが言っていた。痛みを完全になくす魔法。

   どうやら、無意識のうちに使っていたらしいそれが、切れた。

   魔力が、切れた。

   なら回復を――できるわけがない。
   グリーフシードなんて持ってない。
   ストックはとっくに切れてたし、さっき杏子から投げ渡されたぶんも踏みつけにしてしまった。

   このグラウンドのどこかにあるはずだけど。どこにあるのかわからない。
   わかったとしても取りになんて行けない。行けるわけがない。

   だって身体が動かない。指一本も動かせない。
   動かし方がわからない。
   動けるという気がまるでしない。

   まるで私は、ぬいぐるみ。

   ただ一つ、違うのは。
   痛いということ。
   とてもとても、とてもとてもとてもとても、痛くて痛くて痛くて痛いということ。
319 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 23:37:55.26 ID:FYS5Fqjlo

   ああ。
   どうして、こんな。
   こんなにも。
   痛い。
   痛い。
   痛くて、痛い。
   なんで。
   どうして。
   いやだ。
   いやだ。
   どうして私がこんなにも。
   どうして私がこんな目に。
   こんな目に逢うぐらいなら。
   どうして、私は――



   ――違う。



   違う。
   ダメだ。
   それは、ダメだ。そんなこと。
   そんな考えは。
   発想は。
   それだけは。
   ダメだ。
   いやだ。
   後悔なんてしたくない。
   やめとけばよかったなんて。
   それだけは考えちゃダメなんだ。

   だってそれだと、この子に会えなかった。
   この子と遊べなかった。
   この子と眠れなかった。
   この子を愛せなかった。
   この子に触れられなかった。
   この子を抱きしめられなかった。
   この子を感じられなかった。
   この子が生まれなかった。

   だから受け入れるべきだ。
   受け入れないといけない。
   そう。
   この痛みは、この子が存在している証。私がこの子を望んだ結果。
   そう。
   そうだ。
   この子がいたから――
320 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 23:38:27.94 ID:FYS5Fqjlo





   つまり、











   この子さえいなければ、

   私は、





   こんな痛い思いをしなくても済んだのよ。


321 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 23:39:12.00 ID:FYS5Fqjlo



ポーラ「――――――――ッッッ!!!!!」



   ゃ。

   いやぁ。

   違う。

   違うよ。違う。違う。違うの。違う。違うから。違うから。違うんだ。違う。違うのよ。

   今のは――違う。間違い。勘違い。
   ただのちょっとした思い違い。

   だから。
   お願い。

   アルフレッド。

   いや。
   やだぁ。
   いやあああぁぁぁぁぁ…………






























   『――大丈夫だよ』


322 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 23:39:38.29 ID:FYS5Fqjlo





ポーラ(え?)




323 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 23:40:22.23 ID:FYS5Fqjlo



ポーラ(……あれ?)

   ふと気がつくと。

   私は光に包まれていた。

   直径六フィート余りの円柱状の光。
   とてもとても温かい、桃色の光。
   周囲のグラウンドの背景はそのままに、いつの間にか現れていたその中に、私はいた。

   私と、そしてもう一人。

   『大丈夫。あなたは、悪くない』

   ピンクと白の可愛らしい衣装をまとった、桃色髪の女の子。

   魔法、少女……?
324 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 23:41:14.93 ID:FYS5Fqjlo

   『あんなに痛かったんだもん。少しぐらい弱音を吐きたくなったって、仕方ないよ』

ポーラ(え……)

   いた、かった?

   あれ、でも。
   言われてみれば、身体が痛くなくなっていた。
   さっきまであんなにも私を苛んでいた、地獄のような激痛が、嘘みたいに消えていた。

   『ううん。怪我を直したわけじゃないの。……そこまでは、わたしの力の及ぶところじゃないから』

   『あなたの意識だけを取り出して、引き延ばしてる……って、感じかな』

ポーラ(意識を……)

   確かに、身体は動かないままだ。
   見える範囲もさっきまでと変わりない。

   視界の隅では、杏子がもう起き上がって、こちらに駆け寄ろうとしている。
   けど、その動きが……なんだろう?
   止まっているような、ものすごくゆっくりになっているような。

   引き延ばしている、か。変な感じ。
325 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 23:42:22.51 ID:FYS5Fqjlo

   『ごめんね、ポーラちゃん。本当はもっと早く来てあげたかったんだけど……
    これでも、普通よりはほんのちょっとだけ早い方なんだけど……』

   『できることなら、そんな姿になる前に、助けてあげたかったのに……』

ポーラ(……)

   『うん、知ってるよ。あなたが魔法少女になったそのときから、私はずっと見ていたよ』

   『だから、わかる。ポーラちゃんが、どれだけアルフレッドくんのことを愛しているか。
    その子と一緒にいることで、どれだけの喜びに包まれてきたのか』

   『だから、大丈夫。あんなのはちょっとした気の迷い。きっとその子も許してくれるよ』

ポーラ(……)

ポーラ(……そんなわけない)

   『え……?』

ポーラ(許すも許さないもない。この子たちは、最初から怒らないし、悲しまないし、喜ばない)

ポーラ(ぬいぐるみ、なんだから)

   『……』
326 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 23:43:32.95 ID:FYS5Fqjlo

ポーラ(からっぽなの。からっぽじゃなくちゃ、いけないの)

   『……どうして?』

ポーラ(どうしても)

ポーラ(だって、からっぽじゃないと、私の想いを注げない。想いだけで満たせない)

ポーラ(人間はダメ。動物もダメ)

ポーラ(好きだって言えば、最初は喜んでくれるけど、言い続けると、もういらないって言われちゃう)

   『……』

ポーラ(でも、この子たちは違う)

ポーラ(どれだけ想っても、愛しても、ぜんぶ受け入れてくれる。いくらでも受け止めてくれる)

ポーラ(逆に、この子の方からは、私に入ってこようとはしない)

ポーラ(だから、からっぽじゃないと、ダメなの)

ポーラ(一方通行が、一番いいの。誰もわかろうとしないけど)
327 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 23:44:25.25 ID:FYS5Fqjlo

   『……』

ポーラ(私もわからないよ。なんでみんな、できもしないくせに、人間を好きになろうとするの?)

   『……』

   『……そっか』

   『すごいね、ポーラちゃんは』

ポーラ(……わかるの?)

   『ううん。ごめんね、全部をわかってはあげられない』

ポーラ(……)

   『でもあなたが本当に、本当の意味で、なんの見返りも求めてないことは、わかるよ』

   『すごいと思う。とても真似できないよ』

   『その心の在り方は、確かに他の人たちとは違うものなのかも知れない。
    理解してくれる人は、あんまりいないかも知れない』

   『でも、間違ってるなんてことは、絶対にないんだよ』

   『だってあなたは、そのために戦いの運命を受け入れて、実際にたくさんの人たちを
    魔獣から守ってきたんだもん』
328 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 23:45:12.05 ID:FYS5Fqjlo

ポーラ(……)

   『だから、間違ってるなんて思わない』

   『例え他の誰かが――あなた自身が否定したとしても、わたしだけは否定しない』

   『あなたの祈りを、願った希望を、絶望で終わらせたりなんかしない』

   『そのために、わたしは来たんだから』

ポーラ(……)

ポーラ(あなた、ひょっとして)

   『ん?』

ポーラ(キュゥべえの言ってた、“円環の……”)

   『あぁ……えへへ。うん』

   『そんなふうに呼ばれちゃってるね。そこまで大層なものじゃないつもりなんだけど』

ポーラ(私を迎えに来たの?)

   『…………うん』

ポーラ(そっか)
329 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 23:46:02.46 ID:FYS5Fqjlo

   『もう少し後になるはずだったんだけどね……』

   『そう、本当は……本来なら、明日。“ワルプルギスの夜” の果てに、あなたは倒れるはずだった』

   『だけど色々なことがちょっとずつ重なって、今になっちゃった、ってことみたい』

ポーラ(……)

ポーラ(私が杏子に挑んだから?)

   『それもあるよ。でもそれだけじゃなくて、説明し切れないほどの色々が、他にもたくさんあるの』

ポーラ(……そっか)

   『あと、実は助けてあげることもできるの。できるんだけど……』

   『そのためには最初から全部を無かったことにするしかなくて、そうするとあなたは、
    アルフレッドくんとも逢えなくなっちゃうの』

   『それは、イヤだよね?』

ポーラ(当たり前じゃん)

   『……ごめんね』
330 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 23:46:47.18 ID:FYS5Fqjlo

ポーラ(ううん。……それよりも)

   『なぁに?』

ポーラ(この子は、アルフレッドは、どうなるの?)

   『……それも、ごめん。連れていくことはできないの。
    わたしに導くことのできるのは、魔法少女だけだから』

ポーラ(……そう……)

   『でも――でもね?
    その子は、この世界に長く残って、世界中のみんなからたくさん愛してもらえるよ?』

   『あなたが望んだとおりの、世界一のテディ・ベアとして。何年も、何十年も、ずっと』

ポーラ(……)

   『もちろん杏子ちゃんだって、大切にしてくれる』

   『壊したりなんて、しないよ』

ポーラ(……そっか)

ポーラ(だったら、いいよ)
331 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 23:47:34.76 ID:FYS5Fqjlo

   『ごめんね……』

ポーラ(ううん。いいの。この子がこの子として愛されてくれるなら、私はそれで十分)

ポーラ(寂しいけど、我慢する)

   『……本当に、すごいね。ポーラちゃんは』

   『でも、大丈夫』

ポーラ(え?)

   『寂しくないよ。ポーラちゃんには、わたしがいるから』

ポーラ(……え?)

   『わたしね、こう見えても包容力にはちょっと自信があるんだよ?』

   『なんたってこれまでの……ううん。過去だけじゃなくて、過去と未来、全ての時間。
    全ての宇宙に生まれた魔法少女たちの想いを、残らず受け止めることができるんだから』

   『だから、ポーラちゃん一人ぐらい、軽い軽い』

ポーラ(……)

   『まぁでも……ポーラちゃんがその気になってくれないと、意味ないんだけどね。えへへ……』
332 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 23:48:07.11 ID:FYS5Fqjlo

ポーラ(……)

ポーラ(……本当に?)

   『……うん』

ポーラ(本当に、私のこと、全部受け止めてくれるの?)

   『うん。わたしなんかで、よかったら』

ポーラ(……でも……)

   『大丈夫』

   『わたしは、もういらないなんて言わないよ。
    アルフレッドくんにだって負けないぐらい、あなたの全部を、引き受けてあげる』

ポーラ(……)

ポーラ(あ……)

ポーラ(……あり、がとう……)
333 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 23:48:46.78 ID:FYS5Fqjlo

   『うん』

ポーラ(……だったら。ねぇ?)

   『なぁに?』

ポーラ(あなたのこと、なんて呼べばいいの?)

   『わたしは――』














































   《――――まどか!!》


334 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 23:50:48.35 ID:FYS5Fqjlo



   ◆

   暁美ほむらには弟子がいない。
   今現在も、過去においてもいなかった。

   一般人とはもちろん、魔法少女仲間とも長く付き合うことはほとんどなかった。
   巴マミと佐倉杏子だけが数少ない例外だ。

   他者との関わりを可能な限り避けてきた。
   大切な人。守るべき誰か。そんな相手を作らないようにしていた。

   守るべきは、ただ一つ。
   かつてあの子が守ろうとしたこの世界。
   それが、暁美ほむらの在り方だった。

   ――だから。

   彼女は、一度も見たことがなかった。
   この四十年間、一度たりとも。

   魔法少女の最期を。
   誰かが “円環の理” に導かれる、その瞬間を。

   故に介入するタイミングを見誤り、そして――
335 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 23:52:01.98 ID:FYS5Fqjlo

ほむら「……!」

   それは、まず一条の光として現れた。

   ほむらの放つ矢にも似た、ただし色違いの光。
   天からまっすぐに降ってきたそれが、地面に横たわるポーラの手前で弾けて、
   彼女の身体を包み込む。

ほむら「あれは――」

   知識はあった。
   誰よりもその意味を理解していた。
   だが、こんなにも直接的なものであるとは思っていなかった。

   あの色。
   あの魔力。

   この、気配。

   間違いない。
   姿こそ見えないけれど、そんなことは関係ない。
   この世界でただ一人、暁美ほむらだけは、“彼女” の気配を取り違えることなど有り得ない。




336 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 23:54:10.51 ID:FYS5Fqjlo



   ◆

杏子「くそっ、来やがったか……!」

   桃色の光。

   円環の理。

   杏子にとっては見慣れた光景。見慣れてしまった光景。
   今までに何人の弟子があの光に呑まれたことか。

   友人や知り合い程度まで含めると、とっさには思い出せないほどだ。
   それほど多く、杏子はこの光を目にしていた。

   そんな杏子だからこそ、気がついた。

   いつもより早い。

   ほんの数テンポ。
   あまりにも小さな、ほとんど誤差みたいな違い。されど確かな違い。

   だからこそ、杏子は駆けた。

   いつもと違う。
   ならば、助けられるかも知れない。
337 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 23:55:09.38 ID:FYS5Fqjlo

杏子(もう、たくさんだ……!)

   円環の理。
   それは魔法少女たちの間で囁かれる伝承だ。

   曰く。
   希望を求めた因果が、この世に呪いをもたらす前に。
   その存在ごと消し去ることで救ってくれる、神さまのような何かがいると。

   なるほど、確かに救済なのだろう。
   どいつもこいつも満ち足りたような顔をして逝きやがった。確かに救われたんだろうよ。

   だけどな、神さま。
   あんたは考えたことがあるのか? 残された方の気持ちってヤツを。

   目の前で同胞を掻っ攫われる悔しさを。
   何もできずに傍観を強いられる惨めさを。
   ほんのわずかでも有り得たかも知れない可能性を、確かめることすらできない歯がゆさを。

   知っているのか、あんたは。
   わかるのか、あんたに。

   わかるって、言うんなら――



ほむら「――まどか!!」



杏子「!?」

   ほむら?
   来てたのか。

   だが、悪いけど構ってる暇はねぇ。
338 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 23:56:18.47 ID:FYS5Fqjlo

   振り返らない。足も止めない。
   光に向かって走りながら、槍を構え、加速する。



杏子「おぉぉおおああぁぁああああああ――――っ!!」



   頼むよ、神さま。
   そいつは。
   ポーラは。
   まだ出会ったばかりの、いけすかない、頭のいかれた糞餓鬼だけど。

   それでも、もう。
   そいつはアタシの弟子なんだ。

   これ以上、失うのは、もうたくさんなんだよ……!




339 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 23:57:55.26 ID:FYS5Fqjlo



   ◆

   『――ほむらちゃん?』

   ふいに割り込んできた第三者の声に、その人は大きく反応して振り返る。

   何故だか私にも見えた。
   少し離れた建物の屋根の上。十字架が立っているから、礼拝堂か何かだろうか。
   そこにいた。
   ホムラさん。
   目を見開いた驚愕の表情で、こちらを見つめてきている。

   ――そして、動いた。

   左手を前に突き出す。
   その手に銀色の弓を顕現させる。
   紫に輝く矢を番える。
   その狙いを、こちらに定める。

   ……いや。

   違う。狙われているのは私たちじゃない。微妙に視線がずれている。

   狙われているのは、私たちと彼女の間。
   槍を構えて走る、“赤”。

   『……!?』

   桃色のその人が、目を見開いた。




340 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 23:58:24.35 ID:FYS5Fqjlo



   ◆

ほむら「止まりなさい! 佐倉杏子!」

   声の限りに叫ぶ。

   駄目だ。
   それは、駄目だ。許せない。

   たとえあなたでも。
   実際にはまるで意味のない行為だとしても。

   あの子に刃を向ける者を、暁美ほむらが見過ごせるわけがない。




341 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 23:59:00.75 ID:FYS5Fqjlo



   ◆

   後方でほむらが叫んだ。
   無視だ。

   だってほら、光が揺らいだ。
   こんなことは初めてだ。
   やはり今回はいつもと違うのだ。

杏子(これなら……!)




342 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/09(月) 23:59:34.58 ID:FYS5Fqjlo



   ◆

   『ほむらちゃん! ダメ!』

   マドカさんが声を張り上げる。
   外の二人に向かって手をかざす。

   その瞬間。

   ほんの少し。
   ほんの一瞬。
   ほんのわずかな間だけ、彼女の意識が、私から完全に逸らされた。
   それを、感じた。

   そして矢が放たれる。




343 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/10(火) 00:00:42.72 ID:PTtOJ6Xfo



   ◆

杏子「――がっ!?」

   衝撃。
   右肩。

杏子(あいつ……! マジで撃ちやがった!)

   体勢が崩れる。
   進路がずれる。
   身体が反時計回りに回転をし始める。

   痛みは魔法で和らげられる。
   しかし加えられたベクトルはどうしようもない。

   杏子にはポーラが見せたような肉体操作のノウハウはない。
   そんなものを覚える必要などなかったから。

   ――ならば。

   そのベクトルに、逆に乗っかる!

杏子「っうらあっ!!」

   左手一本、逆手に槍を持ちかえて、回転に乗せて地面に突き刺す。
   棒高跳びの要領で前に跳び、さらに石突きを蹴飛ばし加速する。

   杏子の身体は緩やかに旋回しながら地上一メートルを駆け抜けて。

   そして、ついに。

杏子「ポーラぁ――!!」

   桃色の光を、突破した。




344 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/10(火) 00:02:33.71 ID:PTtOJ6Xfo



   ◆

   『あ……』

   え……?

   『杏子ちゃん……』

   お前は……

   『……すごいな……それとも、やっぱりちょっと早く来すぎちゃったのかな』

   そうか……お前、だったんだな……

   『……うん。久しぶりだね』

   …………ごめんな。

   『え?』

   お前は、全部知ってたよな。
   悔しさも、惨めさも、歯がゆさも。
   なのに、アタシあんなこと……

   『ううん。気にしてないよ』
345 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/10(火) 00:03:38.22 ID:PTtOJ6Xfo

   でも……

   『いいの』

   『それじゃあ、わたし、もう行くね』

   え……
   もう、行っちまうのか……? ほむらには……

   『そすがにそれは、無理だと思う』

   『杏子ちゃんとこうしてるのだって、本当ならまず有り得ないはずのことだから』

   そうか……

   『それじゃあ、またね。杏子ちゃん』

   ……ああ。

   そのときは、悪いけどよろしく頼むよ、まどか。




346 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/10(火) 00:04:50.55 ID:PTtOJ6Xfo



   ◆

   光が消えた。
   杏子が飛び込んだ、その直後に。

ほむら「!?」

   杏子はそのまま横たわるポーラに抱きつき、抱きかかえ、
   二人で転がって光のあった領域から離脱した。
   そしてすぐに身を起こし、一度懐に差し入れた手をポーラの手のひらに押し当てる仕草。

   グリーフシードを使っている?
       . .
   ――何に?

   浄化し切れなくなったソウルジェムは、跡形もなく消滅してしまうはず。
   あの子の手によって、そうなるはず。

   にもかかわらず、ポーラ=レイノルズのソウルジェムは、あそこに健在であるらしい。

   ということは――

ほむら「――ッ!!」

   沸き立つ予感に押されるように、ほむらは足元の屋根を蹴る。




347 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/10(火) 00:05:31.07 ID:PTtOJ6Xfo



   ◆

   間に合った。

   どうにかこうにか、間に合った。
   携帯していたグリーフシード、十数個を全て使い切り、ほんの爪の先ほどではあるが、
   ポーラのジェムに輝きを取り戻すことができた。

   初めて、誰かをあの光の中から取り戻すことができた。

杏子「はぁ〜〜……」

   大きく息をつく杏子。



   ――ザッ。



杏子「……――」

   その背後に立つ、気配が一つ。
348 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/10(火) 00:06:37.18 ID:PTtOJ6Xfo

   振り返る。
   見知った顔がいた。

ほむら「……」

   紫の矢が、鼻先に突きつけられていた。
   弓に番えられ、いつでも放てる体勢だ。

杏子「おい……」

   流石に動揺する。

ほむら「あなた、今、何をしたの」

   本気の眼だった。

   狙いこそジェムから外してはいるが、返答次第では。そう言っている。

杏子「……わかんないヤツだね。さっきもマジで撃ちやがったし」

杏子「そんなにあの――」

   言いかけて、言い淀む。

杏子「……」
349 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/10(火) 00:07:19.92 ID:PTtOJ6Xfo

   あの死神がそんなに大事か。

   そう言ってやろうと思った。しかし口に出すことができなかった。
   あの光をそう形容することに、何故だか強い抵抗感があった。
    . . . .
   何故だか。

   理由はわからない。

ほむら「……。私の事情は、あなたも知っているはずよ。信じてるかどうかはともかく」

杏子「……ああ。けど……」

ほむら「あなたが “あの子” をどう評しようと、構いはしないわ。私だって納得なんかしていない」

杏子「……」

ほむら「けれど害するというなら話は別」

杏子「……」

ほむら「答えなさい。佐倉杏子」

ほむら「あなたは今、何をしたの?」
350 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/10(火) 00:08:24.80 ID:PTtOJ6Xfo

杏子「何って……」

   頭が上手く働かない。

   目の前の彼女が何を言っているのかは、だいたいわかる。
   言われた通り、事情はだいぶ以前に聞いて知っている。

   “前の世界” に関することだろう。

   しかし、それはわかるのに、今までのように与太話と笑い飛ばすことができない。
   逆に真剣に応えなければという気さえする。

杏子「別に、何も」

   だけど、答えられない。

   自分の中に何らかの変化があったことはわかる。
   ほんの数分前まで胸の中にわだかまっていた、あの桃色の光に対する敵愾心が
   根こそぎなくなってしまっている。

   同様に、別の何かも抜け落ちてしまっている、気がする。

   なんなのかは、わからない。
351 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/10(火) 00:09:26.55 ID:PTtOJ6Xfo

ほむら「何もなしに、“円環の理” を退けたというの?」

杏子「だからわかんねーって……」

ほむら「忘れたのなら、思い出しなさい。必ず何かあるはずよ」

杏子「んなコト言っても……」

ほむら「……お願いよ。杏子」

ほむら「あなたといえど、たった一人でどうにかできる相手じゃないとはわかってる」

ほむら「だけど……」

   気付けば、その目には涙が浮かんでいた。

ほむら「あの子の――まどかの無事を、確かめさせて……!」

杏子「……」







ポーラ「その人なら、帰りました」



ほむら「!?」
杏子「!?」
352 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/10(火) 00:10:27.34 ID:PTtOJ6Xfo

   ポーラ=レイノルズ。

   うっすらと目を開けていた。

ポーラ「あなたに、よろしくって。言ってました」

ほむら「どういうこと!? あなた、何を見たの!?」

杏子「お、おい。落ちつけ! 乱暴にするなって!」

ほむら「でも……ッ」

杏子「まず手当てが先だろ!」

ほむら「ッ……」

杏子「とりあえずグリーフシード、持ってたら出してくれ。あとマミに――」

ポーラ「キョーコ」

杏子「え――な、なんだ?」

ポーラ「……」

   ちらり。
   力のない視線が、ほむらを捉える。
353 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/10(火) 00:11:18.19 ID:PTtOJ6Xfo

ポーラ「私の負けよ」

杏子「は?」

ポーラ「約束通り、明日一日だけは、大人しくしておいてあげる」

杏子「あ、ああ……」

   そういえば、そんなルールだった。
   誰か第三者に見つかるまでがタイムリミット。

ポーラ「でも、いつか殺すから」

杏子「……」

ポーラ「それだけ。……じゃあね」

   言って。
   目を閉じて。

   そして動かなくなる。

ほむら「えっ?」

杏子「お、おいっ。ポーラ?」
354 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/10(火) 00:12:22.02 ID:PTtOJ6Xfo

ポーラ「……、ー……、ー……」

   息はしている。
   眠った。あるいは意識を手放しただけか。

ほむら「ちょっと……」

   途方に暮れたように、ほむらが呟く。
   しかしどうやら落ち着きは取り戻したらしく、もう無理に揺さぶろうとはしなかった。

杏子「……」

ほむら「……」

杏子「とにかく、あー……まずは手当てだ。アタシらじゃ手に負えないからマミを呼ばないと」

ほむら「……その必要はないわ」

杏子「え?」



マミ 「――ええ。そのとおりよ」


355 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/10(火) 00:13:35.18 ID:PTtOJ6Xfo

杏子「えっ」

   声に、振り仰ぐ。
   彼女はすでにそこにいた。

   金色の魔法少女。白い獣を肩に乗せて。

   空飛ぶマスケットから飛び降りて、軽やかに芝生に着地する。

マミ 「さて――説明してもらうわよ、佐倉さん。これはどういうことなのかしら?」

   ほんのわずかに怒気を含んだその声に、

杏子「あぁ……」

   杏子はまた一つ、大きくため息をついた。



   “ワルプルギスの夜” まで、あと十九時間。






356 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/10(火) 00:15:56.55 ID:PTtOJ6Xfo



ここまで

明日、つーか今日か
エピローグを投下して終わりです
357 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/04/10(火) 00:39:02.50 ID:0nm3XnnPo

円環の理に反逆するとかあんこちゃん格好良すぎ
358 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/04/10(火) 07:17:04.16 ID:4Tprkx6AO

大乗でなく小乗とは杏子ちゃんマジカオスヒーロー
359 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/10(火) 18:05:21.97 ID:Q9c69lfm0
お疲れ様です
あと2品と聞いて少し油断していたら、バケツパフェが出てきたでござる

そしてあと一人来る、って……
その人(?)うちのシマじゃノーカンだから(笑)
360 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/10(火) 21:15:31.30 ID:PTtOJ6Xfo

まぁ一応杏子が主人公ですからね(ポーラはヒロイン扱い)

あと、まどかも魔法少女であることには間違いありませんので



再開します
361 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/10(火) 21:17:46.23 ID:PTtOJ6Xfo



   ◆

   そして、十九時間後。

   私たちは杏子らの泊っているホテルの屋上に集っていた。
   空は群青。
   見下ろす街には多くの人や車が行き交っている。
   夕暮れの薄明かりの中、人工の光が色とりどりに灯り始めている。

   日没まで、あと数分。



マミ 「ミス・レイノルズ。身体の調子はどう?」

ポーラ「はい。バッチリです」

   マミさんの問い掛けに、私は力強くうなずく。

   あのあと、私は十八時間に渡って眠り続けた。
   そして目が覚めたときには、身体はすっかり元通りになっていた。
   消しズミになったはずの右腕すら以前のままだ。もちろん、問題なく動く。

   最初は夢だったかと思ったぐらいだ。
   あらためて、魔法ってすごい。
362 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/10(火) 21:18:42.44 ID:PTtOJ6Xfo

マミ 「そう。……駅裏の一件で、一度診ていたのが幸いだったわね」

QB 「ああ。あのときに全身を走査していなかったら、流石のマミでも
    失われた部位まではどうしようもなかっただろう」

ポーラ「……ふぅん」

   そういうものか。

ライラ 「フン……悪運の強い奴め」

   ライラが忌々しげに口を挟む。

ミンカ 「ラ、ライラっ」

ライラ 「失くしておけばよかったのだ、そんな物騒な腕など。
    いや、いっそ今からでも私がこの手で斬り落としてやりたいぐらいだ」

ポーラ「……」

   ほんとに、こいつは。

ポーラ「そういうの、なんていうか知ってる?」

ライラ 「なんだと?」
                      リンチ
ポーラ「知らないなら教えてあげる。『私刑』 っていうの。野蛮人の発想よね」
363 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/10(火) 21:19:26.27 ID:PTtOJ6Xfo

ライラ 「……むしろ貴様らの領分だろうが。歴史を知らん奴め」

ポーラ「ふーん。つまり私の方があんたの腕を斬り落とすべき、と」

ライラ 「やれるものなら――」

杏子「――やめろ、お前ら」

   と。
   さらに杏子が入ってくる。
   平板だけど、重い一喝。

ライラ 「……」

ポーラ「……」

   私とライラは口をつぐみ、互いに顔を背け合う。

ほむら「……」

   ……ん?

   背けた先には、ホムラさんがいた。
   でも、なんだろう。
   今、じっと見られていたような……?


364 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/10(火) 21:24:32.36 ID:PTtOJ6Xfo



   ◆

ほむら「……」

   どうやら心配はいらないらしい。
   ポーラ=レイノルズは、完全に落ち着きを取り戻している。

   人格面の異常性に変わりはないようだが、
   ほんの一日前にあれだけの狂態を晒していたとは、とても思えないほどだ。

   ともあれ、今このときを迎えるにあたっての最大の懸念は、取り払われた。

ほむら(……しかし……)



マミ 「――それにしても、やっぱりにわかには信じがたいわね。
    あの導きの光に一度捕らわれておきながら、生きて戻ってきただなんて」

杏子「まぁな。アタシも、自分でも信じられないよ」

ポーラ「はぁ……」

365 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/10(火) 21:25:52.34 ID:PTtOJ6Xfo


   正気に戻った彼女には、記憶の欠落があった。

   ほむらに届けた伝言のこと。
   そして、それを預けてきた何者かのこと。

   桃色の光に包まれた以降のことは、一切覚えていないと、目覚めた彼女は語った。

   手掛かりは失われた。

ほむら(けど、一つだけわかったことがある……)

   ほむらがあのグラウンドで見たのは、確かにあの子の色だった。
   感じたのはあの子の気配だった。

   あの子は、間違いなくあの場にいたのだ。
   この宇宙の一員ではなくなったと思われたはずの、あの子が。

   鹿目まどかが。
366 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/10(火) 21:26:51.72 ID:PTtOJ6Xfo

マミ 「キュウべえはどう思う?」

QB 「確かに珍しいケースだね。でも前例はあるよ」

マミ 「え?」

杏子「なにぃ?」

QB 「昔から、数百年に一度ぐらいの頻度で起こっていることさ。
    主に戦時下などの混乱した状況だと起こりやすいようだよ。特に黎明期には多かった」

杏子「……初耳だぞ、おい」

QB 「聞かれなかったからね」

杏子「このやろう……」

QB 「むしろそういうことでもなければ、言い伝えになんてなるはずがないじゃないか」

QB 「『円環』 という呼び方にしたってそうさ。
    こんな実態にそぐわない名前、君たちが言い出さなければ付けられるわけがない」

杏子「……ああ、そうかい」

   そうだ。
   こんなにも、ヒントはあった。
367 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/10(火) 21:29:47.05 ID:PTtOJ6Xfo

   他にも、例えば暁美ほむら自身のことも、そうだ。

   以前のほむらには、記憶がなかった。
   自分がどうして魔法少女になっているのかもわからなかった。
   だが、取り戻した。

   ……そのときから、ずっと思い違いをしていた。

   何故忘れてしまっていたのか――ではなく。
   何故思い出すことがきたのかを、考えるべきだった。

   今ならわかる。
   あの子の気配に触れたからだ
   四十二年前の、あの日、あのとき。あの駅のホームに現れたあの子の気配に。

マミ 「……まったくもう、キュウべえったら」

   あるいは、巴マミのことにしても。

   彼女は、とうに死んでいておかしくなかった。
   いやむしろ、前回の “ワラキアの夜” を乗り越えられる可能性の方が遥かに低かった。
   何故なら、かつてはそうだったから。

   あの閉じた一ヶ月において、彼女が “ワルプルギスの夜” を超えて生き延びたことは、
   一度もなかったのだ。
   合計十二回に及ぶ繰り返しの中で、ただの一度も。
368 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/10(火) 21:32:09.00 ID:PTtOJ6Xfo

   だからほむらは、警戒していた。
   杏子たちのように 『マミがいるから大丈夫だろう』 などという楽観を、一切持っていなかった。

   その結果として、彼女は今、こうして生きている。

   自惚れではない。
   ただ事実として、ほむらはマミの命を救った。そういう場面があった。

   それを為し得たのは、“以前” の記憶と知識があったから。
   あの子のおかげで、取り戻せたそれらが。

ほむら(……つまり、)

   あの子は、切り離されてなんかいない。

   どれほど細い糸だとしても、この世界と確かに繋がっている。
   それも恐らくは、感情のない概念などではなく、確固とした意識と人格を持ったままで。
   人びとに影響を与え得るものとして。

ほむら(ならば……)

   もう一度会うことも、できるのではないか。

   いや、この世界に再び呼び戻すことだって――


369 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/10(火) 21:32:54.33 ID:PTtOJ6Xfo



ほむら「……」

マミ 「……。暁美さん?」

ほむら「――……、……何かしら」

マミ 「どうしたの? ぼうっとして」

ほむら「……。なんでもないわ」

マミ 「そう?」

ほむら「ええ。――それより、」

   うなずき、風に遊ぶ髪を梳き流しながら、ほむらは西の空を振り仰ぐ。

杏子「ああ。時間だ」

   杏子も、他の五人とキュゥべえもそれに倣う。
370 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/10(火) 21:34:10.13 ID:PTtOJ6Xfo

マミ 「……」

ほむら「……」

杏子「……」

ライラ 「……」

ミンカ 「……」

QB 「……」

ポーラ「……」

   それぞれがそれぞれの面持ちで、西の空を見つめる。

   午後五時二十八分。
   山際に、ほんの僅かに残っていた最後の陽光が、静かに消えた。

   “ワラキアの夜” が、始まった。




371 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/10(火) 21:36:14.54 ID:PTtOJ6Xfo



   ◆

   空間にノイズが走る。

   街の灯りが一斉に消えて、きっかり一秒。
   再び灯った光からは、位置と強さはそのままに、一切の色彩が失われていた。

   モノクロの世界。

   結界。

   それは絵本や映画に出てくる 『鏡の中の世界』 に似ている。
   左右がひっくり返っているわけじゃない。
   ほとんどのことが元の世界とそっくり同じで、色だけが抜け落ちている。
   そして、人間が一人もいない。
   あれだけあった人の姿は残らず消えて、ただ影だけが同じ場所で揺らめいている。

   代わって表われたのが――

杏子「おいでなすったね」

   白の巨躯。

   一つじゃない。
   十や二十じゃ効かない。

   道に、広場に、エアレールに、屋根に、テラスに、橋に。
   見渡す限り一面に、カビが生えるように伸び上がる、おびただしい数の魔獣の群れ。

   これが、“ワルプルギスの夜” ……
372 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/10(火) 21:37:40.06 ID:PTtOJ6Xfo

ミンカ 「なんて数……」

ライラ 「ひ、怯むな、ミンカ! わかっていたことだろう!」

ポーラ「そうは言っても、これ……流石に無理ってゆーか……」

   うろたえまくる私たち。

   対して、年長組の三人は平然としていた。

杏子「ったく。だから来なくていいって言ったんだ」

マミ 「そんなこと言うものじゃないわ。私たちだって同じようなものだったじゃない」

ほむら「そうね。むしろ真っ当な反応といえるわ」

杏子「ま、そりゃそうだけどね」 モグモグ

   杏子なんてまた何か食べてるし。
   『タイヤキ』 とかいったっけ、魚の形をしたワッフル。あんなものどこで買ったんだろ。

杏子「でも、そうだな。だったらこう言ってやんなきゃいけないね」 モグ、ゴックン



杏子「――リラックスしな。アタシたちがついてる」



ポーラ「お……」

ミンカ 「あ……は、はいっ」

ライラ 「……了解しました。この命、師匠に、御三方に預けます」

杏子「預からないよ。自分で持ってろ」

ライラ 「……、はい」

   ……くそっ。
   なんかカッコイイじゃないの。
373 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/10(火) 21:39:00.65 ID:PTtOJ6Xfo

ほむら「お喋りはそこまでよ。――杏子」

杏子「おう」

マミ 「一番槍、お願いね」

杏子「任せろ」

   二人の呼び掛けに力強くうなずくと、杏子は一歩、進み出た。
   両手で持った槍を垂直に構え、石突きを屋上のコンクリートに打ちつける。

   キィン――――……

   響いたのは、意外に澄んだ金属音。
   その音と呼応するように、杏子の魔力が高まっていく。

   一方でマミさんは、肩の上のキュゥべえに問い掛ける。

マミ 「キュウべえ、位置を」

QB 「ああ。……三番、九五番、一〇二番、四六七番、五一八番……」

マミ 「……。……。……、……。…………」

   何やら数字を読み上げるキュゥべえ。
   その声に合わせてあちらこちらの方向に手を伸ばし、指先に金色の光を浮かばせるマミさん。
374 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/10(火) 21:40:17.11 ID:PTtOJ6Xfo

ポーラ「……何やってるんです、あれ?」

ほむら「保護よ。結界に捕らわれてしまった人たちの。説明したでしょう」

   確かに、それがとりあえずの最優先であると、作戦会議で説明はされた。

   この空間には普通の人間は立ち入ることができない。
   魔獣たち自身もこの外に出ることはできない、らしい。
   行き来できるのは魔法少女のみ。

   ただし中には迷い込んでしまう人もいる。私も二度ほど遭遇したことがある。
   魔法少女の素質を持った子や、その近くにいた人たちであることが多いそうだ。
   まったく無関係の人も、ごく稀に。

ポーラ「いえ、まあ、はい。でも……つまり、何をどうやって?」

ほむら「……街じゅうにあらかじめ仕込んでおいたマーキングを元に、
     遠隔で障壁を作っているのよ。どこに人がいるかをインキュベーターに観測させて」

ポーラ「え……え、でも今、千何番とかって……それ全部覚えてるってことですか?」

ほむら「頭で覚えているわけじゃないわ。ソウルジェムに記憶させてあるの」

ポーラ「えぇー……」

   信じられない。
   けど、よく見れば遠くのあちこちでマミさんの魔力の色がチラチラと光っている気もする。

   すごいと言うか……なんて人なんだろう、本当に。
375 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/10(火) 21:43:50.18 ID:PTtOJ6Xfo

   そうこうしている間に、作業は終わったらしい。
   マミさんが動きを止めた。

マミ 「――オッケー。いいわよ、佐倉さん」

杏子「りょーかいっ!」

   掛け声とともに、杏子が再び地面を叩く。

   瞬間、膨大な魔力が解き放たれた。

ポーラ「……!?」

   皮膚に熱を錯覚するほどの、凄まじいまでの力の奔流。
   爆発的に広がり、渦を巻き、もう一度収束しながら槍を伝って地面に吸い込まれていく。

   そして、

杏子「っ――らあっ!!」

   槍が、生えた。
   街じゅうに。

   夕べのグラウンドでも見たものよりもさらに大きい、大木のような巨大槍。
   一本や二本じゃない。
   十や二十でも効かない。

   魔獣どもの数にはさすがに及ばない。
   けれど充分に圧倒的な数。

   白と黒の世界の中で、林立するその “赤” は、鮮烈な存在感を持ってそびえ立っていた。

   それら全てに、魔獣どもが串刺しにされている。
   全体の二割か三割ぐらいはこれで倒されたんじゃないだろうか。
           .. .. .
ポーラ(私は……こんなものに勝とうとしたの……?)

   今さらながら、肝が冷える思いだった。
376 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/10(火) 21:45:10.62 ID:PTtOJ6Xfo

   『……』
   『……』
   『…………』

   しかし一方で、今ので注目を集めてしまったらしい。

   見える範囲にいる、槍を逃れた魔獣たちが、一斉にこちらに向き直る。
   指を掲げて攻撃の体勢に入ろうとする。

ミンカ 「ひっ……」

ライラ 「お、落ち着けミンカ! 障壁だ!」

ポーラ「えっと、えっと……四面に張るのってどうやるんだっけ……!」



マミ 「大丈夫」



ポーラ「え……」

   言ったのは、マミさん。
   いつの間にか屋上の中央まで下がって、今度は両手を翼のように広げている。

   ――そのときにはもう、敵の攻撃準備は整っていた。
377 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/10(火) 21:46:10.62 ID:PTtOJ6Xfo

   四方八方。
   全周囲三百六十度から一部の隙もなく迫るレーザーの一斉射。

ポーラ「ッッ!」

   思わず固く目をつぶる。
   アルフレッドを抱きしめる。

ポーラ「……」

ポーラ「……」

ポーラ「…………?」

   が、何も起こらない。
   痛みも熱も感じない。

   恐る恐る目を開けると、金色の光が見えた。
   マミさんの色。
   彼女を中心に、ホテルの屋上をすっぽりと覆う、半球状の光の壁。
   不規則な縞模様が薄っすらと見てとれるそれは、どうやらリボンでできているらしい。

   これは……障壁?

   一瞬そうだとわからないぐらい、大きく、美しく、堅牢だった。
   あれだけ――というか、今もこれだけ打ちこまれているレーザーを
   ひとつ残らず完璧に防ぎきっている。
378 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/10(火) 21:47:04.17 ID:PTtOJ6Xfo

ライラ 「なんという……」

ミンカ 「こんな大きな壁、一瞬で……」

ポーラ「……」

   本当にすごい。
   さっきの遠隔障壁とやらもそうだし、防御系が得意だという話は聞いていたけど、
   ここまで桁違いだったなんて。

ポーラ「……けど、これ。この後どうするんです?」

   いくら完璧な防御でも、こちらから手を出せないんじゃどうしようもない気がする。
   これだけの使い手とはいえ魔力には限りがあるはずだし。

   というかそもそも、四組に分かれて戦うって話じゃなかったっけ。
   迷い込んだ人たちを保護して、敵をある程度減らしたあとは、確かそうすると。
   これじゃ動けない。

ほむら「心配は無用よ」

   言いながらほむらさんが、その手に弓を顕現させた。
   内側からなら攻撃できるということだろうか。

   と、思うと同時に――マミさんが動いた。
379 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/10(火) 21:48:45.26 ID:PTtOJ6Xfo

マミ 「ん……このぐらい、かな?」

   小さく呟きながら腕を広げた体勢を解き、両手十本の指を複雑に組み合わせる。
   印を切る、というやつか。

   そして、叫ぶ。



マミ「――都市拘束〈レガーレ・ディ・メトゥローポリ〉!!」



   掛け声とともに、防壁が―― 『ほどけた』。

   分厚く重ねられていた何千何万のリボンがバラバラになって、四方八方に解き放たれた。

   それらは枝分かれしながら、ビルを、街灯を、橋を、エアレールを、杏子の巨大槍を経由して、
   立体的な幾何学模様を描きながら縦横無尽に伸びていく。

   数秒後には、街を丸ごと覆い尽くす金色の網が完成していた。

   そして、全ての魔獣どもがその網に絡め取られ、あるいは刺し貫かれて、
   身動きを封じられていた。

   いや、断言はできないけれど、少なくとも見える限り、ほとんど全てだ。
380 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/10(火) 21:50:03.19 ID:PTtOJ6Xfo

マミ 「結界を張れるのはあなたたちだけじゃないのよ。――暁美さん、お願い!」

ほむら「ええ」

   さらに、ホムラさん。
   先ほどから矢を番え、引き絞り続けていた弦を――今、弾いた。

   解き放たれた薄紫の矢は音もなくまっすぐに空を駆け、まずは手近にいた一匹を撃ち抜いた。
   一体どれほどの魔力が込められていたのか。
   射られた魔獣は次の瞬間には霧散して消えていた。

   だけど、驚くのはそこからだった。

   一匹目を射抜いた直後、その光条は二股に分かれ、それぞれ別の方角へと飛んでいく。
   それぞれが別々の魔獣を時間差で撃ち抜き、霧散させ、また分裂する。

   射抜いては別れ、別れては射抜き。

   大小さまざまな弧をいくつも描きながら加速度的に増殖した光の矢は、
   マミさんのリボン同様、ものの一分足らずで街の隅々まで駆け巡り――

   そして、なんと。

   全ての魔獣どもを、一掃してしまった。
381 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/10(火) 21:51:26.88 ID:PTtOJ6Xfo

ポーラ「……え?」

   一掃。
   殲滅。

   右を見ても、左を見ても。東西南北どちらを見ても、白の巨躯は一つも見えない。
   本当に、今ので全てを倒し尽してしまった、ようだ。

   杏子の槍もマミさんのリボンも、役目は終えたとばかりに消えていく。

杏子「相っ変わらず恐ろしいね、二人とも。――んじゃキュゥべえ、頼んだよ」 ゴソゴソ…モグ

QB 「了解だよ」

   杏子に言われて、でもそいつ自身は動かない。
   代わりに、屋上から見下ろす風景のあちらこちらに、モノクロだからわかりにくいけど、
   別の大勢のキュゥべえが走りまわってるのが見えた。

   グリーフシードを回収しているのだ。
   そのための人員として、万を超える仲間を呼び寄せてあると聞いていた。

   いやまぁ、それはいいんだけど……

ポーラ「もしかして……これで終わり?」
382 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/10(火) 21:52:20.70 ID:PTtOJ6Xfo

ほむら「何を言っているの。まだよ」

ポーラ「え、でも……」

ほむら「よく見なさい。まだ出てくるわ」

ポーラ「へっ?」

   あ、ホントだ。
   見渡せばまた、遠くに近くにヒト型のシルエットが浮かび始めている。

マミ 「今のは第一陣。数は、ざっと一万ってところね」

ほむら「奴らは一度には出てこない。日没から夜明けまでの、約十三時間に渡って、
     延々と出現し続ける――それが “ワラキアの夜” の実態よ」

ポーラ「うぇ……」

ほむら「……これも説明したはずなのだけど」

ポーラ「……」

   言われてみれば、そんな話を聞いたような気が、しないこともないような。あるような。
   でも確かに、『一晩中戦わなくちゃいけない』 って感覚だけは、漠然と持ってたような。
383 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/10(火) 21:52:52.36 ID:PTtOJ6Xfo

杏子「お前ってホント、人の話を聞かないのな」

ポーラ「う、うるさいわねっ! 仕方ないでしょ、アルフレッドは話なんかしないんだから!」

杏子「……。ああ、そう」

ライラ 「駄目だこいつ……」

ミンカ 「ら、ライラっ」

ポーラ「……あ? やんの?」

ライラ 「フン。……やるか?」

マミ 「こーら、ケンカしてる場合じゃないでしょ?」

ほむら「……マミの言う通りよ。そんな暇はないわ。
     奴らが再び数を揃えて体勢を整えるまで、あと十分ほど」

マミ 「ええ。だから今のうちに、それぞれの持ち場に移動しましょう」
384 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/10(火) 21:53:45.33 ID:PTtOJ6Xfo

ポーラ「……はい。あの、でも」

マミ 「なぁに?」

ポーラ「えっと、今のをもう何回かやってもらうっていうのは……やっぱりナシですか?」

マミ 「それは……ちょっと無理ね。
    佐倉さんと暁美さんはともかく、私のあれは術の組み立てだけで四時間はかかるから」

ほむら「私も無理よ。動く標的をあれだけの数は狙えないわ」

ポーラ「……ですよね」

ライラ 「軟弱者め……自分の住む街を自分で守ろうという気概はないのか」

ミンカ 「ライラぁ……」

ポーラ「……。だったらあんたはあんたの街にでも帰れば? 今すぐに」

杏子「だーかーら! やめろっつってんだろうが! お前らもう喋るな!」

ライラ 「……はい」

ポーラ「フン……」

マミ 「まったく……やれやれね」
385 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/10(火) 21:54:37.90 ID:PTtOJ6Xfo

ほむら「……。もう行くわよ。
     打ち合わせ通り、私は南。マミは北。ライラとミンカは川沿い。杏子とポーラはここ一帯」

杏子「ああ」

ライラ 「はっ」

マミ 「まずは迷い込んだ人たちの救出を確実に。キュウべえの仲間たちが案内してくれるわ。
    グリーフシードを受けとるのも忘れないようにね」

ポーラ「はーい」

ミンカ 「……は、はいっ」

ほむら「それと、これが一番重要なこと」

マミ 「無茶をしないこと。必ず生きて帰ること」

ポーラ「……」

ライラ 「……」

ミンカ 「……」

杏子「……当然だ」
386 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/10(火) 21:55:27.85 ID:PTtOJ6Xfo

ほむら「それじゃあ、またあとで」

   ホムラさんが翼を広げ、空に飛び立つ。

マミ 「気を付けてね、みんな。――行きましょうキュウべえ」

QB 「ああ、がんばろう」

   肩のキュゥべえを一撫でして、マミさんもジャンプし、去っていく。

ライラ 「師匠」

杏子「ああ、行ってこい」

ライラ 「……本当に大丈夫なのですか? そいつと二人きりなんて」

   む。

杏子「あー、平気へーき。な?」

ポーラ「……」

杏子「……な?」

ポーラ「…………ええ。約束は守るわ」
387 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/10(火) 21:56:33.13 ID:PTtOJ6Xfo

ライラ 「……」

ミンカ 「……」

杏子「はいはい、もういいだろ。さっさと行けよ、二人とも」

ライラ 「……了解しました」

ミンカ 「はい、あの……気を付けてください」

杏子「お前もな」

   そんな感じで、ライラとミンカも持ち場に向かう。

杏子「じゃ、アタシらも行くか」

ポーラ「……」

ポーラ「なんで?」
388 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/10(火) 21:57:19.12 ID:PTtOJ6Xfo

杏子「は? なんでってお前――」

ポーラ「なんで、平気だなんて言えるの? あんなことをした私を、どうして信じられるの?」

杏子「……そっちか」

   ため息。
   そしてまた新しいタイヤキを取り出してかぶりつく。

杏子「別に信じちゃいないさ。ただ、今のお前からは殺気が感じられないんでね」

ポーラ「……隠してるだけかも知れないわ」

杏子「ハハッ。無理むり。アタシはともかくマミやほむらを相手に隠し通せるかよ」

ポーラ「……」

杏子「それに――、……アレだ」

ポーラ「何よ」

杏子「お前、あの光に触れただろ?」
389 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/10(火) 21:58:08.60 ID:PTtOJ6Xfo

ポーラ「……」

   あの光。

   桃色の光。

ポーラ「言ったでしょ。覚えてないわ」

杏子「アタシもだ」

杏子「でもさ、なんかなんとなくわかるんだよ。お前はもう大丈夫だ、ってね」 モグモグ

   どこまでも気楽な調子で、笑って言う。

ポーラ「……意味わからないわ。日本人ってみんなそうなの?」

   そんな態度に、イラっとくる。

杏子「お前のじい様はどうだったんだ?」

   すると向こうは、ますます笑う。ニヤニヤと。

ポーラ「……」

   言い返す気に、何故かなれない。
390 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/10(火) 21:59:52.03 ID:PTtOJ6Xfo

杏子「まぁ、あんま固くなるなよ」

   そう言って、杏子はまた一つ、どこからかタイヤキを取り出した。



杏子「――食うかい?」



   差し出されたそれを、私は。

ポーラ「……いらない」

   当然のように、突っぱねた。




391 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/10(火) 22:00:42.35 ID:PTtOJ6Xfo



   ◆

   私はポーラ。
   ポーラ=レイノルズ=クマガミ。

   これは、私の物語。

   私と、アイツと、それとあと何人かの魔法少女による、

   この夜から始まる、物語。






392 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/10(火) 22:01:13.76 ID:PTtOJ6Xfo




393 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/10(火) 22:01:45.84 ID:PTtOJ6Xfo





                   外伝



   『 魔法少女 ポーラ☆マギカ  − 世界一のテディ・ベア − 』




394 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/10(火) 22:02:16.31 ID:PTtOJ6Xfo







                                   ――閉幕






395 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/04/10(火) 22:06:04.03 ID:PTtOJ6Xfo





以上

十日間に渡ってお送りした紅茶外伝劇場は、これにて終了です


読んでくださった皆さん、そして『紅茶』の方を気にいってくださったみなさんの
期待に応えることができたかどうかはわかりませんが

書いてた俺は、すげえ楽しかった
書きたかったものはとりあえず全部書けた
大きくは、「自己完結型のヤンデレ」と「改変後世界に魔女を出すこと」
それと、「新人vs大ベテラン」

うん、楽しかった


それではまた、どこかでお会いできればと思います

396 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/10(火) 22:16:53.30 ID:EtE8E55x0
乙ですたー!
ポーラはほんのちょっと、世界が開けて
あんこちゃんはほんのちょっと、丸く(?)なって
ほむらにはほんのちょっと、希望が垣間見えて
これから何が始まるかは、まさに円環の女神のみぞ知るって感じでしょうか
十日間楽しませてもらいました
お疲れ様でした
397 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/04/10(火) 23:06:48.81 ID:0nm3XnnPo

すばらしい十日間だった

変わって行くようで変われないのが魔法少女なのかもしれないな
そんな魔法少女の面倒をすべての宇宙とすべての時間で見てあげるまどかはマジ女神
そしてたぶんこういう光景をベテラン3人組は繰り返していくんだろうなと思うと、
この物語との感想とはまだ別のところで感慨深いものがある

またどこかの円環の物語を書いてもらえたら嬉しい
その時を待ってる
398 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/04/10(火) 23:16:47.27 ID:ERfsmmOAO
お疲れ様でした
杏子の最期をいつか書いて貰えると嬉しいです
399 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/11(水) 00:39:43.91 ID:Ka5E9wEl0
10日間お疲れ様でした
自分で楽しみながらこれだけのものを書けるなんて羨ましい限り
望めるなら、次回作も期待しております

ところで個人的になんかツボだった、マスケット銃を箒替わりに空を飛ぶお茶目なマミさん
誰か支援絵書いてくれないかしら(他力本願)
400 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/04/12(木) 00:02:16.41 ID:HpCjXOhK0
幾多のキュゥマミSSを見たがいまだにこのネタを使ったキュゥマミSSはない
パターン1
マミ「あなた誰なの?」
QB「確かに “この僕” は、三時間ほど前まで君のそばにいたのとは別の個体だよそちらは暁美ほむらに撃ち殺された」
黒い魔法少女。暁美ほむら。あの女だけは、絶対に許さない。
まどか「わたしの願いでマミさんのそばにいた子を蘇生すれば、ほむらちゃんのこと許してあげられませんか?」
マミ「今日も紅茶が美味しいわ」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1304834183/1
パターン2
QB「うううっ……マミ、どうして、死んじゃったんだよ、マミを蘇らせて欲しい」
まどか「私の願い事はマミさんの蘇生。叶えてよインキュベーター!」
パターン3
マミ「あなた誰なの?」 QB「前の個体は処分した」
QB「『前の僕』、は精神疾患を『患い』かけていたからね。『僕達』にとっては、『煩わしい』存在でもあったしね」
こんな感じの旧QB蘇生キュゥマミ魔法少女全員生存ワルプルギス撃破誰か書いてくれたらそれはとってもうれしいなって
401 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/04/12(木) 07:38:03.91 ID:XpBKoDX9o
ネタかこれは
まだ書かせるとでも?
402 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/04/12(木) 07:48:16.81 ID:xSCInmfDo
多分チベットは、もうとっくに迷子になっちゃってたんだと思う

ともあれ、>>1
403 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/14(土) 01:28:56.14 ID:ZfEDEC+IO
おつでした
404 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/04/16(月) 12:36:12.62 ID:keVxmDLko
よかったぜまじお疲れ様



書いてもらったくせにいまだにコピペあっちこっちに張り続ける
チベット野郎はもうまじ氏んでほしい
405 : ◆D/8.giurYc [saga sage]:2012/04/17(火) 01:19:26.58 ID:QhAFWVewo
おや、ついに書いてもらえたのか
俺も読んでみたいな
406 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/04/21(土) 19:44:06.59 ID:Mf36x/VS0
幾多のキュゥマミSSを見たがいまだにこのネタを使ったキュゥマミSSはない
パターン1
マミ「あなた誰なの?」
QB「確かに “この僕” は、三時間ほど前まで君のそばにいたのとは別の個体だよそちらは暁美ほむらに撃ち殺された」
黒い魔法少女。暁美ほむら。あの女だけは、絶対に許さない。
まどか「わたしの願いでマミさんのそばにいた子を蘇生すれば、ほむらちゃんのこと許してあげられませんか?」
マミ「今日も紅茶が美味しいわ」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1304834183/1
パターン2
QB「うううっ……マミ、どうして、死んじゃったんだよ、マミを蘇らせて欲しい」
まどか「私の願い事はマミさんの蘇生。叶えてよインキュベーター!」
パターン3
マミ「あなた誰なの?」 QB「前の個体は処分した」
QB「『前の僕』、は精神疾患を『患い』かけていたからね。『僕達』にとっては、『煩わしい』存在でもあったしね」
こんな感じの旧QB蘇生キュゥマミ魔法少女全員生存ワルプルギス撃破SS

コミケや通販・ダウンロード販売予定はないでしょうか?
407 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/04/21(土) 23:53:26.58 ID:Qc0YV4vco
改変されててクッソワロタwwwwwwwww
もうずっと貼り続けて無いんだから諦めろよwwwwwwwww
408 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/22(日) 23:57:33.27 ID:GXSgSLjMo

          _,,..-‐──-..、
        -'"´        ` ヽ、
      /       ∧       丶
     f 、/   /  /  \  人   ヽ
    ( ∨^ヽ,  /  /    ヽ 卜 ヽ   i    もう何も怖くないお
  ィ-うイっメ l ノ l/  _ノ  ∨ヽ、_ヽ〉∧} 
   し入 ミ ミ ミ  o゚((●)) ((●))゚o)∨      ミ ミ   
   (__/⌒)⌒)⌒. ::::::⌒(__人__)⌒:::  jリ )    /⌒)⌒)⌒)
    < | / / /     |r┬-|     厂) (⌒)/ / / //   バ
   く~| :::::::::::(⌒)___| |  | _ __ノ/人 .ゝ  :::::::::::/      ン
  く~ .|     ノ(:::::-∪| |  |  し// 人/  )  /    バ
 /~入 ヽ    / /~`ソ:ハ`ー'´   ~て__/ /    /     ン
 し′ |    |/    l||l 从人 l||l      l||l 从人 l||l
     ヽ    -一''''''"~~``'ー--、   -一'''''''ー-、
      ヽ ____(⌒)(⌒)⌒) )  (⌒_(⌒)⌒)⌒))




        ノ            \
      /´               ヽ
     |    l              \
     ヽ    -一””””~~``’ー--、   -一”””’ー-、.
      ヽ ____(⌒)(⌒)⌒) )  (⌒_(⌒)⌒)⌒))

409 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(京都府) [sage]:2012/04/25(水) 02:48:35.26 ID:DxZpu/cJo
さすが上手いわ。
オリキャラ出まくるSSにはあまり興味がないんだけど、引き込まれるように貪り読んだ。
この後、ほむほむが積極的に魔法少女を看取るようになって、紅茶本編の「死神」に繋がるんだろうな。
410 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/05/12(土) 00:11:57.52 ID:UpXUh2p40
後日談の矛盾発見

さや「QBのあの言葉があったから転校生は生き延びられたんだよねぇ?」

あん「あぁ、そうだな」

さや「で、アイツがいなくなると芋づる的にまどか魔女化確定で人類滅亡なわけで」

あん「……まぁ、そうなるだろうな」

さや「つまり、世界はQBに救われたってことだね! やったね!」

ほむらが死んでもまどかが魔女がなってもどうせ 670のように世界改変が起きるから世界滅亡は起きないでしょう


マミ「寝てなさい。帰りに中和してあげるわ」

   使い魔の行き交う結界の中で、それまで生きていられれば、ね。」

使い魔が多くの結界の中で痲酔弾にほむらを気絶させて帰って来る途中にもし生きていたら中和してくれるというマミは行動したが魔女退治の後帰って来たがほむら が死亡していればどのようにするつもりだったろうか
間接殺人をまどかが許すと思うのか本当に馬鹿だ

どうせ紅茶は平行世界の魔手改変で死亡したほむらもまた復活するが
411 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/12(土) 02:10:58.55 ID:xxGeeAiso
今更?
412 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/12(土) 03:11:43.68 ID:FjfhmWOE0
>>410
文盲は黙ってろ
413 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/05/12(土) 17:10:18.11 ID:Gzf7Nu9AO
いつまで続けるんだろうな。この腐れニートは
このコピペ張って荒らしてドヤ顔してると思うとニヤケちゃうわ

一生続けて時間を無駄にしてくれよ腐れニート君。俺、いつまでも続けてくれること期待してるから


お話は乙でした。久々にまどまぎSSで面白かったよ
414 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/05/14(月) 16:52:23.82 ID:2akouY3Bo
>>410
書いてもらったお礼も一言も言わずコピペを張り続けることしかしない
お前以上のチンカス野郎をおれは知らん
415 : ◆D/8.giurYc [sage saga]:2012/05/30(水) 23:56:28.65 ID:1jY/bRu6o
二回目だからはっきり言うけど
この外伝はそのチベットとは全くの無関係だから
そいつのために書いたつもりなんて毛の先ほどもない
スレタイ見ただけならともかく、ここまで読んだならそれぐらいは理解して欲しかったよ
残念だ

もしくは本当に、そいつが何かしら書いてもらってるんなら、どこにあるのか教えて欲しい
416 : ◆D/8.giurYc [sage saga]:2012/05/30(水) 23:58:16.19 ID:1jY/bRu6o

ま、それはそれとして、本題
近日中におまけを投下します
417 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/05/31(木) 00:04:00.98 ID:bkmdAiTvo
某軍事利用魔法少女を読んでからこういう海外魔法少女の話がすげぇ好見になったけど、全然無いのよね
それはそれとしておまけ全裸待機
418 : ◆D/8.giurYc [sage saga]:2012/06/03(日) 16:09:45.95 ID:bEqQTH4mo


419 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/06/03(日) 16:12:20.03 ID:bEqQTH4mo




   rosso finale

420 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/06/03(日) 16:13:38.44 ID:bEqQTH4mo



      ・

      ・

      ・



   「――――ハァ……ハァ……ハァ……」

   荒い息をつき、その場に座り込む。

   「ハァ……ハァ……、――くっ」

   が、それだけでは襲い来る脱力感に抗いきれず、杏子はそのまま、仰向けに倒れた。
   大の字になって寝転がる。

   「ハァー……」

   目を閉じて、開く。
   細長く切り取られた夜空には、星は一つも見えない。

   「……」

   どこかの街の、どこにでもある繁華街の、どこということもない路地裏だった。
   ゴミと汚水と煤煙にまみれた、薄暗く狭苦しい空間だった。

   そんな、誰からも顧みられないような、忘れられた世界の片隅で。
   着古したパーカーを埃にまみれさせながら。

   杏子は一人、星のない空を見上げていた。
421 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/06/03(日) 16:14:40.40 ID:bEqQTH4mo

杏子「……ハァー…………」

   ため息を、一つ。

杏子(こんな場所か……)

杏子(……ま、別に贅沢言うつもりはないけどさ。そもそも自分で選んだことだしね)

杏子(けど……コレに比べたら、アイツはやっぱり、幸せだったんだろうね……)

   目を閉じる。
   同じ黒なら、まぶたの裏の方がまだマシに思えたから。

杏子(……だったら、いいや。アタシはコレで)

杏子(むしろ相応しい末路だろうさ、こんな親不孝者にはね)

   心残りはあるけれど、今さらどうしようもないことだ。
   覚悟はとうにできている。

   目を開く。



QB 「やあ、杏子」



   そいつがいた。
422 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/06/03(日) 16:15:39.41 ID:bEqQTH4mo

杏子「……お前、なんで」

QB 「オラクルに聞いたのさ。君がここにいると」

   オラクル〈予言者〉。
   未来予知の能力を持つ、高名な魔法少女だ。杏子も協力を仰いだことがある。

杏子「何の用だ、っつってんだよ」

QB 「様子を見に来たのさ。あと、差し入れも持ってきた」

   そう言ってキュゥべえは、どこからか十数個のグリーフシードを取り出すと、
   杏子のそばの地面に置いた。

杏子「……間に合ってるよ」

   杏子は寝転がったまま、懐から取り出した数十個のグリーフシードをその上に積み重ねる。

QB 「……」

   沈黙するキュゥべえ。
   黒いキューブの山を見る。全て未使用だった。

QB 「……」

   続いて杏子の手の中のソウルジェムを見る。

   濁り切る寸前に見えた。
423 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/06/03(日) 16:16:30.93 ID:bEqQTH4mo

QB 「……。なるほど」

QB 「つまりそういうこと、なのかい?」

杏子「ああ。無駄足だったね」

QB 「そうでもないよ」

杏子「あん……?」

QB 「未使用のグリーフシードはいくらあっても困らない。
    これを回収しに来たということにしておくさ」

杏子「……」

   目をしばたたく。

杏子「あぁ、そっか……そういうことまでは、頭が回ってなかったよ」

杏子「悪いけど、お前から他の奴らに渡しといてくれるかい?」

QB 「お安い御用さ」

杏子「すまないね」
424 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/06/03(日) 16:18:09.31 ID:bEqQTH4mo

杏子「ハァ……やっぱアタシは駄目だね。結局自分のことしか考えてないや」

QB 「そんなことないさ」

   無表情にキュゥべえは言う。

QB 「君はとても優秀な魔法少女だ。君ほどの人材を失うのは、僕たちにとって大きな痛手だよ」

杏子「ああそうかい。そいつは光栄だ」

QB 「……。今からでも考えなおすことはできないかい?」

杏子「へっ……」

   杏子は鼻で笑う。

   それから、ゆっくりと身を起こすと、壁に背を預けて座りなおした。

杏子「ふぅー……。憶えてるか、キュゥべえ。アタシの家族が死んだときのこと」

QB 「……。まぁ、一通りは」

杏子「だったら――『元に戻してくれ』、『全部なかったことにしてくれ』。
    そう言ったアタシに、お前はどう答えた?」

QB 「……」

QB 「『残念だけど、それは無理だ』――そう言ったよ」

杏子「そっくりそのまま返してやるよ」

QB 「…………そうかい」
425 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/06/03(日) 16:19:01.70 ID:bEqQTH4mo

QB 「しかし、どうして今になって?」

   キュゥべえはなおも問う。

杏子「……」

   杏子はため息をまた一つ。

   そして、ちらりと路地の奥を見遣る。
   別に何もない。

杏子「……そうだな。まだ時間があるみたいだし……」

QB 「ジカン?」

杏子「最期に良いこと教えてやるよ」

QB 「……。何かな?」



杏子「――お前さえいなけりゃ、アタシの家族は壊れずにすんだんだ」



QB 「……」
426 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/06/03(日) 16:20:05.49 ID:bEqQTH4mo

QB 「それは、違うよ。僕たちがこの星に来なかったら――」

杏子「違う。アタシの前に現われなかったら、って意味さ」

QB 「……」

杏子「お前さえいなければ親父が酒浸りになることもなかったし、
    モモとお袋がその親父に殺されることもなかった」

QB 「……」

杏子「ああ、あぁ。わかってるさ。どっちみちどうしようもなくて、
    食うに困って結局は同じことだったかも知れない。――でもな、」

杏子「それだったら、アタシも親父たちと一緒に逝けたんだ。同じところに行けたんだ」

QB 「……」

杏子「この歳になるとよくわかるんだよ。同じ墓に入るってのがどれだけ大事なことなのか、ね」

QB 「……」

QB 「つまり、僕を恨んでいるのかい?」

杏子「ハッ……」

杏子「……――ハハハ! ハハハハハハハハハ!」

QB 「……」
427 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/06/03(日) 16:21:09.60 ID:bEqQTH4mo

杏子「ハハ……フフフフフ……」

杏子「ハァ、ハァ……フフッ……、お前ってホント、ときどきすげぇ馬鹿だよな」

QB 「そうかな」

杏子「そうさ」

   杏子はアゴを上げ、ことさらに見降ろすような表情を作る。

杏子「……恨んでるに決まってるだろう。許されてるとでも思ってたか?」

QB 「……。うん。もうとっくに気にしていないものだと思っていたよ。
    君がそういった素振りを見せたのは、最初の数ヶ月間だけだったからね」

杏子「抑えてたんだよ。こっちにも非はあったし、言ってどうなるわけでもないし、ってね」

QB 「そうかい」

杏子「でも、お前ともこれで最後だ。もう我慢する理由もない」

QB 「なるほど」

杏子「言いたいことはまだあるよ。聞いていくかい?」

QB 「……。そうだね。そういうことなら、せっかくだから聞かせてもらおうかな」

杏子「殊勝な心がけだね。――それともデータ収集か?」

QB 「好きなように解釈してくれればいいよ」

杏子「へっ……」
428 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/06/03(日) 16:21:56.18 ID:bEqQTH4mo

杏子「じゃ、言わせてもらうとしますか」

QB 「……」

杏子「いろいろあるけど、やっぱ極めつけはコレかな。お前がいなけりゃ――」



杏子「――ゆまが、あんなふうに死ぬこともなかった」



QB 「……」

QB 「『ゆま』?」

杏子「そうさ。忘れちまったかい?」

QB 「いや。千歳ゆまのことだろう、君が言うのなら。――死んだのかい?」

杏子「ああ、一ヶ月前にね」

QB 「そうか……」

杏子「八十九歳。自宅のベッドで、親類縁者に看取られながらの大往生だったよ」

QB 「……」

QB 「……え?」
429 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/06/03(日) 16:22:44.38 ID:bEqQTH4mo

杏子「どうした?」

QB 「いや……。それは、君たちの価値観で言っても、あまり不幸な死に方とは
    言えないんじゃないかい?」

杏子「そうだね。人として考えられる限り最高の死に様だろうさ」

QB 「……」

杏子「モモにしたって、そうだ。あんな最期だったけど、それまでの数カ月は、
    美味いもんを好きなだけ食って暖かい布団で寝ていられた。お前のおかげでな」

QB 「……。恨み事を言うんじゃなかったのかい?」

杏子「誰がそんなことを言った?」

QB 「……」

QB「言っていないね、確かに」

杏子「だろ?」

   小首をかしげるキュゥべえに、杏子は自嘲のような笑みを見せる。

杏子「お前のことは恨んでる。でも、感謝もしてるんだ」
430 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/06/03(日) 16:23:48.27 ID:bEqQTH4mo

杏子「お前がいなくても、ゆまはやっぱり死んでいた。
    ただし、あのクソみたいな母親に捕らわれて、何の幸せも知らないままで、
    魔獣に心を喰い荒らされて、ね」

杏子「そうならなかったのは、お前のおかげさ。
    お前がアタシを魔法少女にしてくれたから、あいつは別の運命を歩むことができた」

杏子「幸せに生きて、幸せに死ねた」

杏子「それこそ、アタシの分まで勘定に入れてもお釣りがくるぐらいにね」

QB 「……」

杏子「だから……」

   そして、杏子は立ち上がる。
   壁に体重を預けながら、ゆっくりと。

杏子「……ああ、そうか……そうだね……」

QB 「……? どうしたんだい?」

杏子「――だからさ、キュゥべえ」

QB 「うん」

杏子「アタシは、お前を許すよ」
431 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/06/03(日) 16:24:44.35 ID:bEqQTH4mo

QB 「え?」

杏子「……うん、許す。……許した」

杏子「お前に対する恨みは、もう、きれいさっぱりなくなった」

QB 「……本当かい?」

杏子「本当さ」

杏子「ずいぶんと時間がかかっちまったが……お前のことも、アタシ自身のことも、ね」

QB 「そうか。じゃあ――」

杏子「ああ。これで心置きなく逝ける」

QB 「――え?」

   キュゥべえの疑問をよそに、杏子はソウルジェムを胸の前に掲げ、魔力を解放する。
   赤い輝きが路地裏を照らし、薄汚れた服が鮮やかな魔法衣へと変わる。

   ――呼応するように、周囲に陰鬱な空気が漂い始めた。

QB 「! 瘴気が……」
432 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/06/03(日) 16:25:48.78 ID:bEqQTH4mo

杏子「あん? なんだお前、知らなかったのか?」

QB 「君は知っていたのかい?」

杏子「もちろんさ。オラクルに教えてもらったからね」

QB 「……。なるほど」

杏子「フッ……」

   鼻で笑う。

杏子「ま、そんなわけだから、後のことは気にしなくていいよ。
    自分の死体ぐらい自分で始末するさ。――あいつらごとな」

   槍を携え、瘴気の湧き出す路地の奥へと歩を進める。

QB 「待ってくれ」

杏子「あん?」

QB 「気が済んだんだろう? それなのに、どうしてまだ死のうとするんだい?」

杏子「逆さ。済んだからこそ、幕を引けるんだよ」

QB 「……わけがわからない。恨んでいる間は働いて、許したとたんに投げ出すなんて、
    まったくあべこべじゃないか」
433 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/06/03(日) 16:26:47.99 ID:bEqQTH4mo

杏子「ああ。ホント、わかってないよね。マミから聞いてないのかい?」

   首を斜めに傾けて振り返る。

QB 「何をだい?」

杏子「女心は複雑だ、ってことをさ」

QB 「……」

QB 「聞いてるよ、数えきれないぐらいにね。……複雑を通り越して不条理だ」

杏子「そうかもね」

   最後にもう一つ微笑んで、杏子は前に向き直る。
   もう振り返らない。
434 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/06/03(日) 16:27:43.51 ID:bEqQTH4mo

杏子「そろそろ行けよ。こんなことで身体を無駄に潰すこともないだろう」

QB 「……。そうさせてもらうよ。でも、その前に一つだけ」

杏子「なんだ?」

QB 「他の子たちに何か伝え残すことはないかい?」

杏子「……」

杏子「……そうだね。じゃあ、マミとほむらに」

QB 「うん」

杏子「『お先に』 って、言っといてくれ」

QB 「……。わかった」



      ・

      ・

      ・


435 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/06/03(日) 16:30:08.03 ID:bEqQTH4mo



      ・

      ・

      ・



   そうして、結界が形成される。

   明かりが消え、再び灯る。
   キュゥべえの姿はすでになく、杏子は一人、モノクロの世界に立っていた。

   ――否。

   一人では、ない。

   『……』
   『……』
   『…………』

   白い巨人。
   モザイクに覆われた虚ろな顔に、ローブをまとった聖職者のようなその姿。

   路地の前後から、杏子を挟みこむ形で立っている。

杏子「十……十一匹か。そこそこだね」

   全盛期をとうに過ぎ、また酷く消耗している今の杏子にとっては、少々面倒な数だ。
   しかし、余裕の笑みで向かい合う。
436 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/06/03(日) 16:31:12.20 ID:bEqQTH4mo

杏子「それにしても……ツイてるね、あんたたち」

杏子「うん、実にツイてる。何せこのアタシを、佐倉杏子を道連れにできるんだからね」

杏子「それに――」



   ――パシュッ



杏子「……」

   口上の終わりを待たず、攻撃は開始された。
   最前列に立っていた魔獣の放ったレーザーは、一編の容赦もなく、杏子の腹部を撃ち抜いた。

杏子「ぉ……」

   さらに前後から、脚に腕に肩に腿に、急所を避けながら次々と撃ちこまれる。

   両膝が地面に落ち、そのまま前のめりに倒れ込む。

   しかし、まだ死んではいない。
   ピクピクと痙攣するその身体を、生命力を吸い上げようと、魔獣どもが取り囲む。


437 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/06/03(日) 16:31:47.25 ID:bEqQTH4mo





   「――やれやれ、せっかちな奴らだねぇ」




438 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/06/03(日) 16:32:59.45 ID:bEqQTH4mo

   その輪の外側から、声は響いた。

   『――?』
   『――!』

   いっせいに振り返る魔獣たち。

   それら視線の先に、立っていた。

杏子「もっとじっくりと堪能しておくれよ。アタシの最後の魔法なんだから、さ」

   路地の奥の暗がりに、佐倉杏子が、もう一人。

杏子「……まぁ」

   否。

杏子「なぁんて言っても、無駄か」

   路地の入口に、逆光を背負って、また一人。

杏子「あんたたちってあのキュゥべえ以上に話が通じないもんねぇ」

   壁面を這う排水管の上に。   

杏子「まったく、もったいない、憐れなハナシだよ」

   ビルに設えられた非常階段の踊り場に。

杏子「自分たちがどれだけの幸運に見舞われてるのか、理解できないってのは」

   さらに、囲いの中心に倒れ伏していた最初の一人も、何ごともなかったかのように立ち上がる。

杏子「……でもまぁ、」

   総勢五人の “杏子” が、笑う。

杏子「ちょっとは驚いてくれたみたいだね。それでこそ甲斐があるってもんだ」
439 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/06/03(日) 16:33:43.83 ID:bEqQTH4mo

   『……』
   『……』
   『…………』

杏子「……ふふっ」

杏子「七十……いや、八十年ぶりか」

杏子「……取り戻したぜぇ……」

   大きく息を吸って、吐く。
   口角を獰猛に吊り上げる。



杏子「「「「「――〈ロッソ・ファンタズマ〉!!」」」」」



   『……!』
   『……!!』

杏子「それじゃあ――おっぱじめようか!」

   五人の杏子が槍を構える。

   魔獣の群れが指を構える。

   そして戦いが始まった。


440 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/06/03(日) 16:36:26.94 ID:bEqQTH4mo



杏子「――そらそらどうした! こっちだこっち!」

   交錯する、“幽霊” と “亡霊”。

   『――!』
   『――!』

   杏子の槍が翻り、

   魔獣のレーザーが乱れ飛ぶ。

杏子「ボサっとしてんな! もっと踊れよ! 魔獣ども!」

   切り裂かれるたび白が失せ。

   貫かれるたび赤も散る。

杏子「さぁ――しかとその目に焼き付けな!」

   赤龍のごとき巨大槍が舞い踊り。



杏子「これがアタシの魔法! 佐倉杏子のフィナーレだ!!」



   そして全ては、赤い光の奔流に呑み込まれ、消えた。









      ・

      ・

      ・




441 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/06/03(日) 16:37:06.31 ID:bEqQTH4mo





442 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/06/03(日) 16:37:44.10 ID:bEqQTH4mo











      ・

      ・

      ・


443 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/06/03(日) 16:38:23.81 ID:bEqQTH4mo


      ・

      ・

      ・





杏子「……」

杏子「……」

杏子「ん……」

杏子「……ここは……?」



   「お疲れさま、杏子ちゃん」



杏子「あ……」
444 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/06/03(日) 16:39:09.36 ID:bEqQTH4mo
                   .. ..
杏子「……そっか。そーいや、こうなるんだったね」

   「うん」

杏子「……」

杏子「久しぶりだね、円環の神サマよ。お勤めご苦労さん」

   「あはは……。その呼び方、知ってる人からされるのは、ちょっと恥ずかしいかな」

杏子「へへっ」

杏子「じゃあ……、まどか」

まどか「うん」


445 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/06/03(日) 16:40:01.84 ID:bEqQTH4mo



杏子「しっかし……なんで忘れちまってたかねぇ。こんな大事なことをさ」

まどか「仕方ないよ。なんだか、そういうものみたいだから」

杏子「そうなのか……って、ずいぶんと曖昧だね」

まどか「えへへ。実はわたしも、何もかも全部わかってるわけじゃないから……」

杏子「ふぅん……ま、いいけどさ。意外とそんなもんなのかもね」

まどか「うん」

杏子「んじゃあ、案内してくれよ。導いてくれるんだろ?」

まどか「あ、ちょっと待って。その前に」

まどか「――お待たせ。出てきていいよ?」

杏子「?」



   ――ポンッ!!


446 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/06/03(日) 16:40:39.23 ID:bEqQTH4mo

杏子「ん?」



   「キョーコ!」



杏子「え――」

   「キョーコぉー!」

   タタタタ――ダキッ

杏子「え、ちょ」

   「あはははっ! キョーコ! キョーコだ! ひさしぶりっ!」

杏子「や、ちょ――ちょっと待てよ! まさか、お前……」

ゆま「うん! ゆまだよ!」

杏子「……ッ!!」
447 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/06/03(日) 16:41:35.29 ID:bEqQTH4mo

杏子「なんで、お前がここに出てくるんだよ!? しかもその姿――」

ゆま「あ、うん。魔法少女、千歳ゆま、年齢ヒトケタばーじょんだよっ!」

杏子「だよっ、じゃないだろ!?」

まどか「まぁまぁ杏子ちゃん、落ち着いて」

杏子「落ち着けったってまどかお前、どういうことだよこれ!? なんでゆまが!」

まどか「ごめんね? 驚かせちゃったみたいで」

まどか「その子は、別の世界のゆまちゃんなの」

杏子「別の……セカイ?」

まどか「うん。並行世界、って言えばわかるかな。
     さっきまで杏子ちゃんがいたのとは異なる世界、別の宇宙で、
     杏子ちゃんが知っているのとは違う運命をたどったゆまちゃん」

杏子「……なんだよそれ。そんなのアリなのか?」

まどか「アリというか、全ての宇宙の全ての魔法少女をお迎えするのが、わたしの願いだから」

杏子「……」
448 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/06/03(日) 16:42:32.23 ID:bEqQTH4mo

ゆま「……キョーコ?」

杏子「ん……?」

ゆま「もしかして……イヤだった? ゆまと会いたくなかった?」

杏子「い、いや。そんなわけは」

ゆま「……ほんとう?」

杏子「もちろん。もう二度と会えないと思ってたから、正直嬉しいよ。でもな……」

ゆま「でも?」

杏子「うん……だったら、アタシの苦労はなんだったんだ、ってね。
    せっかく人並みの、人として幸せな人生を歩ませてやることができたと思ったのにさ……」

ゆま「キョーコ……」

まどか「そういうことなら、大丈夫だよ」

杏子「何がさ」

まどか「人として生きた、“ゆまお婆ちゃん” の一生が、消えてなくなっちゃったわけじゃないから」
449 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/06/03(日) 16:43:30.89 ID:bEqQTH4mo

まどか「順番で言ったら、こっちの魔法少女のゆまちゃんの方が先に在って、
     そうさせてしまった後悔から、もう一人のゆまちゃんが人間でいられるように頑張った」

まどか「そういう流れだから」

杏子「うーん……」

まどか「ダメ、かな……?」

杏子「いや……」

ゆま「……」

ゆま「……そっか……」

杏子「ん……? ゆま?」

ゆま「今のキョーコは、わたしの知ってるキョーコとは違うキョーコなんだね……」

ゆま「今のキョーコはわたしを知らない……
   “あなた” にとっての 『ゆま』 は、人間の 『ゆまお婆ちゃん』 の方なんだよね……」

杏子「い、いや、それは…………、……ん?」

杏子「あれ? なんか……言われてみれば、身に覚えのない記憶があるような……」

ゆま「……キョーコ?」

杏子「なんだ、これ……?」
450 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/06/03(日) 16:44:20.86 ID:bEqQTH4mo

まどか「記憶が統合されてるんだよ」

杏子「は? 統合?」

まどか「うん。やっぱり詳しい仕組みとかはわからないんだけど、
     いくつかの並行世界で同じように魔法少女になって、違う結末をたどった子は、
     ここに来たときに一つになっちゃうみたいなの」

杏子「だから、同じ人が何人も、っていうことにはならないんだ」

杏子「へー……」

ゆま「えっと……じゃあ、キョーコ。わたしのこと、わかるの?」

杏子「……」

杏子「……ああ」

ゆま「ほんとっ!?」

杏子「本当さ。……魔女にやられかけたアタシを助けるために、契約してくれたんだよな」

ゆま「……ッ!」

ゆま「キョーコっ!!」 ダキッ
451 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/06/03(日) 16:45:02.51 ID:bEqQTH4mo

杏子「申し訳ないことしちまったねぇ、アタシが不甲斐ないばっかりにさ」

ゆま「ううん! ううん! そんなことない!」

杏子「でも……」

ゆま「わたし、幸せだったよ!」

杏子「……え?」

ゆま「もう一人の、お婆ちゃんになったわたしも、たぶん幸せだったと思うし、
    だけどこのわたしだって、魔法少女になって、ちゃんと幸せだったんだよ?」

ゆま「杏子に守ってもらうだけじゃなくて、一緒に戦って、一緒に過ごして」

ゆま「すごく――すっごく! 幸せだったよ!」

杏子「ゆま……」

杏子「……」

杏子「……そっか、そうだな。そういう幸せも、アリっちゃアリか」

ゆま「うんっ!」
452 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/06/03(日) 16:45:41.45 ID:bEqQTH4mo

杏子「ありがとね、ゆま」

杏子「それと、さっきは悪かった。ちょっとびっくりしすぎて、混乱しちまってさ」

ゆま「うん」

杏子「また会えて、嬉しいよ。これからもよろしくな」

ゆま「うん……うんっ!」 ギュゥゥゥ

杏子「ハハ……」 ナデナデ









   「――相っ変わらずの女ったらしよね。しかもそんな小さな子を」



杏子「え?」

   「フン」
453 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/06/03(日) 16:46:38.16 ID:bEqQTH4mo

杏子「お前…………ポーラ、か?」

ポーラ「!」

ポーラ「……へぇ、意外。覚えてたんだ。とっくに忘れられてるかと思ったけど」

杏子「いやぁ、アレはそうそう忘れられるモンじゃないだろう。なんつーか……強烈だったし」

ポーラ「……フン」

杏子「ってゆーか、お前も出迎えに来てくれたのかい? むしろそっちの方が意外だよ」

ポーラ「そんなんじゃないわ。
    あんたが死んだことを、この目で、確実に、一秒でも早く確認したかっただけだから」

杏子「……ああ、そう」

ポーラ「どうやら間違いなく本人ね。……これでアルフレッドも安泰だわ」

杏子「ブレないヤツ……」

ポーラ「フン。じゃあね」 クルッ

杏子「え? お、おい。どこ行くんだよ?」

ポーラ「先に戻るの。もう用は済んだし」
454 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/06/03(日) 16:47:27.15 ID:bEqQTH4mo

杏子「だからって――」

ポーラ「それに、そもそも私はオマケだし」

杏子「……は?」

ポーラ「ついでに言うと、そっちの幼女は前座ね」

ゆま「むっ」

杏子「何を……」
                  . . .
ポーラ「……で? 本命であるあなたはなんで隠れてるんですか?」

まどか「そうだよ。出ておいでよ」



まどか「――――さやかちゃん」



杏子「……!?」

   《 あー、えーっと……、あはは 》

   ッポン

さやか「……どもー」
455 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/06/03(日) 16:48:27.94 ID:bEqQTH4mo

杏子「さやか……」

さやか「あ……う、うん……」

杏子「……えっと……」

さやか「……」

杏子「…………」

さやか「………………」



ポーラ「……」

ポーラ「じゃあね。ごゆっくり」

杏子「え、あ」

ポーラ「ほら、そっちの幼女も、行くわよ」

ゆま「幼女じゃなくてゆま! それにわたしの方がトシウエなんだからね!」

ポーラ「年齢一桁とか言っといて……」

ゆま「トシウエはトシウエだもんね! べー、っだ!」

ポーラ「っ…………はいはい、わかりましたよ」

ゆま「むー……」
456 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/06/03(日) 16:50:00.24 ID:bEqQTH4mo

ポーラ「それじゃ、マドカさん。お願い」

まどか「うん。――ゆまちゃん、行こっか」

ゆま「はーい」

杏子「いや、ちょっと。お前ら何を」

まどか「うん。わたしはゆまちゃんとポーラちゃんを一足先に向こうに送ってくるから。
     杏子ちゃんとさやかちゃんは、ゆっくりしてて?」

さやか「……うん」

杏子「や、ちょ、だから、なんで――」

ポーラ「……気を利かせてるの。わかりなさいよ」

まどか「そういうこと♪」

ゆま「じゃーね、キョーコ。またあとでねっ」

   シュイーン

杏子「あ、おい! ちょっと!」

杏子「……って、行っちまいやがった……」
457 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/06/03(日) 16:50:59.58 ID:bEqQTH4mo

さやか「あははー……」

杏子「あははー、じゃなくてさ……」

さやか「あー、うん。まぁでも……」

さやか「とりあえず――お疲れ。あと、ひさしぶり」

杏子「あ……おう」

さやか「いやー、あはは。なんていうかアレだねぇ。いざとなると言葉が出ないもんだねぇ」

杏子「……ハハッ。そうだね」

杏子「でも、まぁ――」

さやか「……ん?」

杏子「また会えてうれしいよ」

さやか「おおぅ、ストレートな……あたしもまぁ、そうだけどさ」

杏子「ヘッ」

さやか「そんじゃー、……始めよっか」

杏子「おう」

杏子「…………ん?」
458 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/06/03(日) 16:51:49.97 ID:bEqQTH4mo

杏子「始めるって、何を?」

さやか「何って、決まってるじゃんそんなの」

















さやか「  あ と が き を 、 だ よ !  」



杏子「  ま た そ れ か よ !  」


459 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/06/03(日) 16:52:49.40 ID:bEqQTH4mo



   ◆

さや「はーい、というわけで始まりました―。外伝完結記念、初夏の大あとがき祭りー」

あん「おいちょっと待てマジでやるのか?」

さや「いやそりゃもちろん、やるよ」

あん「マジかー……」

さや「マジです。ほら、名前の表記もさやあんになってるし」

あん「うわマジだ」

さや「しかも今回は正真正銘の 『まど界』! 今度こそ淫獣の出番はない!」

あん「くっそ……前半のアレやコレやはなんだったんだ……」

さや「せっかく 『格好いい死に様』 を演出したのにねー。
    けどまぁとりあえずその辺は切り離して考えてねってことで一つ」

あん「ちくしょう……」
460 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/06/03(日) 16:54:04.69 ID:bEqQTH4mo

さや「というわけで、改めまして後書きです。
    司会進行は前回と同じくワタクシ、“>>1の時点で存在を全否定された” 美樹さやかと」

あん「うー……」

さや「ちょっと杏子、いつまでぐずってんの。もう宣言しちゃったんだから、
    今さら何をしたって空気は戻せないよ?」

あん「……」

さや「ほーらー」

あん「……わかった。わかったよ、やるよ。やりゃいいんだろ」

さや「よし。それでは今一度改めまして――美樹さやかとー」

あん「……佐倉杏子でお送りシマス」

さや「やはり前回と同じく、本文に仕込んだり仕込み損ねたりしたネタとか、制作裏話とか、
   そーゆーのを好き勝手に書いていく作者の自分語りな内容です」

あん「例によって、苦手な人はとっとと退避しちまいな」
461 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/06/03(日) 16:55:31.35 ID:bEqQTH4mo

さや「よし。――じゃあまずは、この外伝を思いついた経緯から」

さや「最初に思ったのは、紅茶の後半に杏子をぜんぜん出せなかったな、ってことなんだって」

あん「まぁ……出す余地がないわな、時系列的に」

さや「だからあんたを主役に一本やろう、と。
    で、紅茶がああいう終わり方だったから改変後世界の話しかないよなー、と」

さや「そこで作者が目を付けたのが、原作の最終話に登場したモブ魔法少女のクマ子ちゃん」

あん「なんでそうなるんだよ」

さや「未来世界の魔法少女と目されてたからだよ。実際、登場シーンの背景もそんな感じだったし」

あん「ふーん」

さや「で、」

   この子は何を願って契約したんだろう? やっぱりテディベア関係かな。
      ↓
   どうせなら 『世界一のテディベア』 ってことにしてしまおう。
   人心掌握の祈りになるから杏子との因縁も作れそう。
      ↓
   ならいっそ杏子の設定も拡大解釈して、あらゆる幻惑を拒絶することにしてしまおう。

さや「とまぁ、これが一番最初のプロットなんだそうです」

あん「なんていうか……いい迷惑だよ、こっちとしちゃあ」

さや「まぁまぁ」
462 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/06/03(日) 16:56:46.92 ID:bEqQTH4mo

さや「ついでにいうと、この時点ではポーラちゃんももっとまともな子だったらしいんだけどね。
    契約したのは妹のためだったりとかして」

あん「それがどうしてああなった」

さや「なんかつまんないかなー、って。
    実はこんな事情がー、とかじゃなく、ただただテディベア大好きってことだけを
    とことんまで突き詰めて書いてみたくなったんだとか」

さや「あと上の方でも言ってるけど、ジェムがケモノの形してるってこともあったし。
    呉さんちのキリカちゃんと同じ爪使いって部分も大きいかな」

あん「くだらんところに目を付けるのがホント好きだよな……」

さや「結果、作者のヤンデレ好きに火がついた、と」

あん「そもそもなんでそんなモンが好きなんだよ……」

さや「それと、執筆当時にオンエアしてた 『ブラック★ロックシューター』 が大きく影響してるみたい」

あん「……ああ、やたら評判の悪かったアレか」

さや「確かに色々とお寒い部分もあったけど、登場人物の半数がヤンデレだったからもう、
    作者大興奮なわけですよ。そりゃあプロットも歪みまくるってなもんよ」

あん「あーそう……」

さや「アクションシーンも普通に格好良かったしねー。
    特に第二話で主人公が見せたガトリンクが最高でね。思わずパクってしまったという」

あん「……」
463 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/06/03(日) 16:57:40.79 ID:bEqQTH4mo

さや「ではでは、続いて人物について。――まずはやっぱりあんたのことからかな?」

あん「ん。……っつっても、幻惑キャンセル以外には言うべきことなんてそんなないよ。
    強いて言うなら40年分レベルアップしてるってことぐらいかな」

さや「でも紅茶本編のときと比べるとだいぶ印象違うよね。喋り方とか」

あん「歳とって丸くなったってことだろうさ」

さや「うーん。……まぁ、紅茶の方を書いてたころと、こっちを書いた最近とでは、
    作者の中であんたに対する捉え方が若干変わっちゃってるらしいから、
    その辺が影響してるのかもね」

あん「んな身も蓋もない……」

さや「じゃあさ、そもそもなんで40年も生きてたの?」

あん「……悪かったね、待たせちまって」

さや「そういうことじゃなくて。えっと……
    例えばマミさんや転校生には、長生きするための明確な動機があるじゃん。
    あんたにはそういうの無くない?」

あん「なるほど、そういう意味か」
464 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/06/03(日) 16:58:40.47 ID:bEqQTH4mo

あん「んー、……惰性、かな」

さや「おいおい」

あん「でも実際、他に理由っていうか、言いようがないのさ」

あん「原作の方で、一家心中を引き起こしても絶望しなかったって点と、
    魔獣っていう一種類の敵しかいない改変後世界の難易度の低さ。
    この二つのせいで、逆に死ぬための強い理屈付けが必要になっちまったのさ」

さや「あー……じゃあ、本編から今回まで妙に間が開いたのも、」

あん「そう。『佐倉杏子の最期』 がなかなか思いつかなかったせい、らしい」

さや「なるほど。……しょっぱいなー」

あん「まったくだ」


465 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/06/03(日) 17:01:22.66 ID:bEqQTH4mo

さや「じゃあ次。当スレのメインヒロイン、ポーラ嬢について」

あん「めんどくさいヤツだったなぁ」

さや「えーっと、名前の由来はポーラーベアー、つまりホッキョクグマから。要は思い付きだね」

さや「で、調べてみると 『ポーラ』 はフランス風の名前だったので、日仏米のクォーターになったと。
    『レイノルズ』 はなんとなく語感で。『クマガミ』 はパトレイバーから拝借」
    祖父母両親については、『日本人のおじい様』 以外は特に決めてないそうです。生死も」

あん「そーいや結局出てこなかったっけ、じい様」

さや「テディベアが何より好きで、テディベアを害するものが何より嫌い。
    それ以外の物事には基本的に無関心。本物の熊にも興味はない、とのこと」

あん「自分の命すら本気で捨てようとしたしな……」

さや「お爺さんのことも、最初にヌイグルミをくれたから感謝してるだけ、なんだってさ。
    そんなんだから、アルフレッドくんにも構わず攻撃してくる魔獣は大嫌いだけど、
    グリーフシードの方にはあんまり興味がない、と」

さや「初期案ではそのせいで魔力切れを起こすってことになってたみたい。
    本文でまどかが言ってるように、ワルプルギスの夜の乱戦の中で。
    だけど盛り上がりに欠ける気がして、」

あん「ああなった、と……勘弁して欲しいよまったく」
466 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/06/03(日) 17:02:51.61 ID:bEqQTH4mo

さや「ベア好きな理由は、本編でも強調してるけど、特になし。
    昔におじいさんから貰ったヌイグルミが可愛かったから。本当にただそれだけ」

あん「理解できん……」

さや「作者も共感してもらえるとは思ってなかったみたいだよ」

さや「魔法少女としてはかなり優秀。実際は2ヶ月目だけど、そこらの1〜2年目レベルに相当、と。
    頭の回転も速いみたいだね。特に口げんかでは負けなしだし」

あん「いっそメアリーって名前にでもすりゃよかったのに」

さや「仮にも現役最強の一角と遣り合うわけだし。多少の補強もやむなし、ってことでしょ」

あん「まぁ、単純な天才にはせずに色々と理屈をこねてるあたり、作者の薄皮一枚のプライドか。
    人殺しに躊躇いのない性質とか、固有強化魔法とか 『魔女化』 とか」

さや「40年前のあんただったらヤバかったかもね」

あん「ふん。だったら、お前じゃ絶対勝てないね」

さや「……そんなの、やってみなきゃわかんないし」

あん「へっ」


467 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/06/03(日) 17:03:48.70 ID:bEqQTH4mo

さや「では次。マミさん……と転校生は、あんた以上に何もないから、弟子の子たちについて」

あん「ライラとミンカか」

さや「うん。どこで知り合ったの?」

あん「え? ……いや、知らない」

さや「あれ? じゃあ、普段はどんな指導を?」

あん「わからん」

さや「……他に弟子はいるの?」

あん「さぁ?」

さや「……」

あん「設定されてないってことだよ。言わせんな」

さや「うん、まぁ、そうなんだろうけど……」
468 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/06/03(日) 17:05:18.77 ID:bEqQTH4mo

さや「仕方ない、カンペに頼るか」

あん「最初からそうしろよ」

さや「えー、一人目。ライラ=バナウラ。アフリカ系黒人。軍人かぶれな13歳。
    武器やイメージカラーなんかは本文の通り」

さや「名前の由来は、『ライラ』 は特になし。
    やたらイライラしてる子になっちゃってるけど特に意識したわけではないってさ。
    で、『バナウラ』 は 『海原』 のアナグラム」

さや「性格は、一言でいえば 『身の程知らず』。……って、ひどいな」

あん「あぁ、まぁ、そういうヤツさ。物怖じしないのは長所と言えなくもないんだが……」

さや「それにしても扱い悪いなぁ。負けてばっかりだし、見せ場もほとんどないし」

あん「……仕方ないさ。オリキャラでサブキャラなんだし」

さや「まぁ、ね。――そして契約時の祈りは……『村に井戸を』?」

あん「乾燥地帯で生まれ育ったらしくてね」

さや「なるほど、それで “水の操作” なわけ」

あん「そういうこと。本編では描き損ねてるけど」

さや「ポーラちゃんが関心を持ってくれなかったからねぇ」


469 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/06/03(日) 17:06:56.45 ID:bEqQTH4mo

さや「二人目、ツァン=ミンカ。中国出身アメリカ在住の16歳。武器や色は以下同文」

さや「『ツァン』 は 『蒼』 の中国語読み。『ミンカ』 は特になし。臆病で引っ込み思案な性格、と」

さや「初めての妹弟子であるライラを溺愛しているんだけど、
    そういう性格なので上手く好意を示せないのが悩み……」

あん「……」

さや「なんかこの二人ってさー、分解再構築したらあたしになるんじゃない?」

あん「……アタシが設定したわけじゃねーし」

さや「ふーん。まぁ別にいいけど」

さや「えっとそれから……契約時の祈りは、『失明からの回復』。
    『世界をもう一度見たい』 と願った、と。なるほどなるほど。それで全方位知覚なわけか」

あん「そういうことらしいね」

あん「ついでに言うと、あの緑色の瞳も願いの影響というか、副作用みたいなものらしくてね。
    だから前髪を伸ばして普段は隠してるんだそうだ」

さや「ほうほう。……そういうことは知ってるんだ?」

あん「……まぁ、ね」

さや「相変わらずと言うかなんというか、設定してるところとしてないところの差が
    いまいちよくわかんないね、この作者」


470 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/06/03(日) 17:08:00.61 ID:bEqQTH4mo

あん「えーっと次は……まどかか」

さや「だね」

さや「鹿目まどか。円環の理。実態のない概念などではなく、一己の人格を持った魔法少女として、
    時空を渡り歩きながら魔女化しそうな魔法少女を一人一人手作業で救済している。
    手動なのでときにはタイミングを見誤ることもある」

さや「……という設定、だそうで」

あん「気が遠くなるね……よく発狂しないでいられるもんだ」

さや「作者も無理は承知らしいよ。
    でもまぁだからこそ、あんたもポーラちゃんを救いだせたわけだし、
    転校生にも希望が生まれたわけで」

あん「別にいいけどさ」

さや「ちなみにこの二つを物語のゴールとすることは、かなり早い段階で決まってたらしい」

あん「ふぅん、珍しく初志貫徹したわけだ」

さや「連載形式だったら危なかったかもね」


471 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/06/03(日) 17:09:19.76 ID:bEqQTH4mo

あん「人物は以上か」

さや「おーっと待ったー、まだいるよー。
    “前回”、42年前の見滝原戦に参加した、あんたたち以外の二人」

あん「あー……そういやそんなことも書いてあったね。
    でも、誰とか言えるほどの情報があるのかい? おりキリは未契約だそうだし……」

さや「惜しいね。その二人ではなく、その二人の被害者なのさ」

あん「は……?」

さや「つまり、“魔法少女狩り” で殺されちゃった人たち。
    『おりこ』本編では、シャルの結界内とキュゥべえの証言の中でそれぞれ描かれてます。
    だから見滝原風見野近辺には少なくとも二人の魔法少女がいたはず、と」

あん「わかるかそんなもん!」

さや「ですよねー」

さや「ついでに言うと、“今回” の方にもあと2、3人追加しようかって思ったらしいんだけどね。
    マミさんの弟子とか、近隣の子とか、あるいは墓守さんとか。
    でも結局めんどくさかったからナシにしたって」

あん「そんな理由かよ」

さや「おかげでずいぶんとバランスの悪いパーティーになっちゃったんだよねー、人種的に。
    アメリカが舞台なのに白人が0.75人しかいない」

あん「エピローグで背景に配置するなりできただろうに……」

さや「後の祭りってやつだね」


472 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/06/03(日) 17:10:40.45 ID:bEqQTH4mo

あん「――で、今度こそ人物は以上、と。他には何があるんだ?」

さや「世界設定かな。舞台になった街について軽く触れておきましょー」

あん「ああ」

さや「『ベリーズベリー』。アメリカ合衆国某州の、東海岸沿いに位置する港町。人口約17万。
    大都会とも田舎とも言い切れない感じの、まさに 『そこそこの街』 だね」

あん「コレは何か元ネタがあるのかい?」

さや「特にないみたい。同じ名前の子供服専門店なんかが実在したりするけど、無関係」

あん「子供服?」

さや「うん。思い付きで名付けて、変なモノと被ってないかな―と検索して見つけたんだって」

さや「そのホームページを飾ってたイラストが微妙にイヌカレーっぽかったりもして
    ちょっと面白いんだけど、残念ながら今は改装中みたいだね」

あん「ふーん」

さや「ちなみに、森の向こうの隣町である 『ビックスビー』 には元ネタがあるよ」

あん「へぇ、なんだい?」

さや「『トレマーズ』って映画の舞台である町の、隣町。
    セリフの中で名前が挙がるだけで実際に画面には写らないんだけどね」

あん「……マニアック過ぎんだろ」


473 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/06/03(日) 17:12:06.34 ID:bEqQTH4mo

あん「そーいやこのエアレールってのは、なんなんだ?」

さや「何ってそりゃあ、未来都市的なアレよ」

さや「よくあるじゃん、ビルの合間を縫って空中に張り巡らされた透明なチューブ状の線路と、
    その中を走る車とか電車とか」

さや「アンドロイド、ホログラムと並ぶ三大未来予想図の一角だよ」

あん「取ってつけた感が酷いんだが」

さや「……まぁ、実際取ってつけたようなもんだし」

あん「認めちゃうのかよ……」


474 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/06/03(日) 17:13:05.44 ID:bEqQTH4mo

さや「あとは魔獣についてぐらいかなー。改変後世界の “ワルプルギスの夜”」

あん「ほむらだけは 『ワラキアの夜』 って言ってるな」

さや「うん。理由は、まぁ、わかるよね?」

あん「舞台装置の魔女と区別するためだろ?」

さや「そ。で、その 『ワラキア』 の中身なんだけど、」

あん「街の人口と同じ数だけの魔獣、か。なかなかハッタリが効いてていい設定じゃないか」

さや「あー、うん。これも映画が元ネタ」

あん「」

さや「『マトリックス』 の、確かレボリューションズの方。
   人間たちの隠れ里に攻め込んでくるクラゲロボットの数が、そこの人口と同数」

さや「『ザイオンの人口20万に対してセンチネル20万体。いかにも機械の考えそうなことだ』、ってね」

さや「原作十一話の逆立ち先輩に匹敵する無理ゲー感を数行で表せるのって、
    作者が知る限りではコレぐらいしかなかったらしくて」

あん「あっそう……」

さや「この他にも映画ネタは色々と仕込んであるから、暇な人は探してみてね―」

あん「探させんな」


475 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/06/03(日) 17:14:32.07 ID:bEqQTH4mo

さや「……っと。うん、こんなもんかな」

あん「ん、終わりか」

さや「では最後に>>2で言ってるパイロット版を晒しておきましょーか」

あん「勝手に出していいのかい? 寄稿したものなんだろう?」

さや「特にダメとか言われてないみたいだし、いいんじゃない?」

あん「いい加減な……」

さや「本自体はもう手に入らないっぽいし、それに万一まずかったとしても
    怒られるのはあたしたちじゃないし」

あん「最悪だおまえ」

さや「というわけで、コチラです。じゃん!」っhttp://www1.axfc.net/uploader/File/so/79630.txt



あん「……。ワラキアの夜戦本番なのな」

さや「最初はコレをプロローグに配置するつもりだったらしいんだけど、
    それだとポーラちゃんが生き残るってわかっちゃうから外したんだってさ」

あん「ってゆーか、全体的に薄味?」

さや「お試し版だしねー」

あん「ふーん」


476 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/06/03(日) 17:15:34.28 ID:bEqQTH4mo



さや「ふー、終わった終わったー。お疲れー」

あん「はいはい、お疲れ」



まど「さやかちゃーん、杏子ちゃーん」



さや「お、まどか」

まど「そろそろいい?」

さや「うん。ちょうど終わったとこ」

あん「いいタイミングだね」

まど「じゃ、行こっか。杏子ちゃんも」

さや「うん」

あん「おう」
477 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/06/03(日) 17:16:21.81 ID:bEqQTH4mo

さや「ぶっちゃけ積もる話は全然できなかったけど、それは向こうでじっくりやろうっか」

あん「あぁ。……ってそういやぁ、『向こう』 ってどんなところなんだい?」

さや「え? ……うーん、口では説明しにくいなぁ」

あん「そうなのか」

さや「ま、行けばわかるよ」

まど「見てのお楽しみ、だね」

あん「そうかい。じゃ、期待させてもらうとしようかね」





478 : ◆D/8.giurYc [saga]:2012/06/03(日) 17:17:04.67 ID:bEqQTH4mo

ノシ
479 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/06/03(日) 17:34:55.04 ID:0nOco3PYo

まさかリアルタイムで投下に遭遇できるとは

なんというか、杏子らしい終わり方だと思った
熱く燃え尽きるわけでもなく、かと言って達観するわけでもなく、
目の前の事実を飄々と受け入れて受け流していくような……

あとポーラはやっぱり先に導かれちゃったのね
なんだかんだでデレてるのが微笑ましい


毎回思うけど、>>1の書く話は>>1自身に愛されてるなと感じる
だからこそ自分も読んでて>>1の話が好きなんだろうし、
一応SS書いてる人間として見習いたいと思う
書いてくれてありがとう
480 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/06/03(日) 17:35:53.83 ID:WtJcHygio
お疲れ様でした
481 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/03(日) 17:37:35.42 ID:Py6qGCbCo
乙カレー!
ポーラのただ好きなだけって凄く素敵だとおもう
パイロット版のポーラってなんか丸いねとても
新スレ楽しみにしてる
482 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/03(日) 17:37:54.08 ID:nKNSwQIfo
乙でした
483 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/06/04(月) 00:29:31.27 ID:KOpeOR2AO
お疲れ様でした
次作の予定とかあるのでしょうか?
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