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最終皇帝ネレイドさん -
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1 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2012/04/26(木) 16:56:25.68 ID:Dl3hGjKDO
ロマサガ2です。
以下、注意。
・キャラ崩壊。
・七英雄に対する歪んだ考察。
・遅筆
基本的に無害です。
sage進行でまったり行きます。
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1335426985
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1.5 :
荒巻@管理人★
(お知らせ)
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君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
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笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
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【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part10 @ 2024/04/23(火) 17:32:44.44 ID:ScfdjHEC0
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トーチャーさん「超A級スナイパーが魔王様を狙ってる?」〈ゴルゴ13inひめごう〉 @ 2024/04/23(火) 00:13:09.65 ID:NAWvVgn00
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713798788/
【安価】貴方は女子小学生に転生するようです @ 2024/04/22(月) 21:13:39.04 ID:ghfRO9bho
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ハルヒ「綱島アンカー」梓「2号線」【コンマ判定新鉄・関東】 @ 2024/04/22(月) 06:56:06.00 ID:hV886QI5O
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713736565/
【安価】少女だらけのゾンビパニック @ 2024/04/20(土) 20:42:14.43 ID:wSnpVNpyo
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713613334/
ぶらじる @ 2024/04/19(金) 19:24:04.53 ID:SNmmhSOho
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713522243/
2 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2012/04/26(木) 17:42:36.50 ID:Dl3hGjKDO
〜 忘れられた町 〜
オアイーブ「……というわけです」
老皇帝「そんな……バカなッ!」
オアイーブ「あなた方がしてきた事は無駄だったわけですね」
老皇帝「……くっ!」
老いた皇帝はオアイーブの言葉に歯を食い縛り、眉間にシワを寄せて怒りを顕にした。
今から500年前の帝国暦1000年。
オアイーブからもたらされた伝承法を頼りに、バレンヌ帝国皇帝と七英雄たちの戦いは始まった。
しかし、七英雄は強かった。強すぎた。
初戦のクジンシーこそなんとか倒せたものの、後は惨敗の連続。
攻略作戦は遅々として進まず、勝負を仕掛けても返り討ちにあう歴代皇帝たち。
そして現皇帝の代になって、一計が案じられる。
「……リーダーのワグナスさえ倒せば」
そんな考えをいざ行動に移し、多大な犠牲を出して辛くもワグナスを撃破した現皇帝。
しかし、ここに来て告げられたオアイーブの言葉はただひたすらに無情だった。
オアイーブ「彼らの本体は死んでおらず、いずれ復活します。ゆえにリーダーのワグナスだけ倒しても無意味です」
死山血河を越えて得た勝利がすべて無意味。
それだけでも放心するばかりの衝撃だが、続く言葉は更に皇帝の弱った心臓をえぐるものだった。
オアイーブ「それと、伝承法も限界のようですね。おそらく、次の皇帝で終わりです」
3 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2012/04/26(木) 18:04:05.14 ID:Dl3hGjKDO
オアイーブ「……ふう」
老いた皇帝を半ば追い立て気味に帰らせ、オアイーブは瞳を細める。
そこに浮かぶ蔑みの感情を隠しもせず、オアイーブはくだらなそうに、皇帝の帰ったドアへ向けて吐き捨てた。
オアイーブ「皇帝……捨て駒にもならないとは、所詮は劣等種か」
短命で無能な現代人なぞ、長命で優れた古代種のオアイーブたちにとって奴隷と同義。
例えそれが皇帝であってもオアイーブにはよくても『飼い犬』と変わらなかった。
オアイーブ「さて、どうしたものか……」
オアイーブはテーブルに行儀悪く腰を下ろし、頭をひねる。
『飼い犬』が獲物を仕留めてくれないとなると、策を講じなければならない。
オアイーブ「……」
オアイーブが静かに瞳を閉じると、頭の中で数多の算段が入り乱れ始めた。
長き命が育んだ知識の宝泉。
それにどっぷりと頭から爪先まで浸かり、オアイーブは思索に耽る。
先ほどまで会っていた皇帝の顔なぞ、既に頭の中からは忘れ去られていた。
4 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2012/04/26(木) 18:29:27.46 ID:Dl3hGjKDO
〜 アバロン 〜
老皇帝「次が……最後の皇帝……」
アバロンに帰還した皇帝は玉座に腰を落ち着け、頭を抱えていた。
老皇帝「500年で成果を出せないのだ、一代で成し遂げられる者なんて……」
七英雄は五人も残っている。
しかも、オアイーブが言うにはクジンシーが復活間近らしいので倒す相手は実質六人。
その上、ワグナス撃破に国力を使い果たしてしまい、アバロンは経済に深刻なダメージを負っている。
これらすべてを一代で解決するのは不可能だ。
老皇帝「……いや」
ふと、気付く。
老皇帝「一代が長い種族なら……人間以外の、長命な種族ならば」
アバロン皇帝は、今まですべて人類が歴任している。
異種族の皇帝を擁立すれば、いらない波風を立てるのは間違いない。
老皇帝「……」
だが、それ以外の方法は思い付かなかった。
七英雄は着々と力を蓄えつつある。
奴らに対抗出来る伝承法を途切れさせるのに比べれば、政治の問題なぞ些事に過ぎない。
老いた皇帝はそう決意すれと、玉座からゆっくりと腰を浮かせ、王の間に高らかと声を張り上げた。
老皇帝「出陣だ! ルドン高原のアクア湖に向かう!」
5 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2012/04/26(木) 18:46:27.49 ID:Dl3hGjKDO
〜 アクア湖 〜
湖の前に老皇帝が立つ。
それに対面するのは、湖から上半身だけを出したネレイドの姿だった。
ネレイド「申し訳ありません」
皇帝の説明を聞いたネレイドは静かに頭を垂れ、拒絶の言葉を綴った。
老皇帝「どうしてもダメか?」
ネレイド「……確かに皇帝のおっしゃるとおりに我々は長命です。ですが……」
ネレイドは自分の尾ビレを湖の水面から突き出した。
ネレイド「この足では陸上生活はさすがに……」
老皇帝「そうか、そうだな」
老皇帝は、おもむろに空を見上げて諦観のため息を吐いた。
老皇帝「無理を言ってすまなかったな、それではこれで」
ネレイド「はい、力になれない私ですが、ここから皇帝の御健勝を願っております」
二人は軽く言葉を交わし、その場を別れた。
6 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2012/04/26(木) 19:05:06.34 ID:Dl3hGjKDO
ネレイド「ふう、私たちが皇帝……ねぇ」
断るには少し勿体ない気がしないでもないが、どうせ立ち行かないのが見えている。
水に流して無かった事にしよう。
ネレイドはそう思い、アクア湖の底へと気晴らしに一潜りしようとした時だった。
幼ネレ「皇帝が来たってほんとうーッ!?」
ネレイド「きゃっ!」
ネレイドの背中に、人間でいうとまだ十歳児程度の大きさの幼いネレイドが飛び付いてきた。
幼ネレ「皇帝見てみたーいッ! どこにいるのーッ!?」
ネレイド「さ、さっき帰ったわよ、もぅ……」
幼ネレ「えーッ!」
幼ネレイドは不満げに頬を膨らませ、そして叫んだ。
幼ネレ「おいかけるーッ!」
ネレイド「あ、ちょっと!」
ネレイドが止める間もなく、幼ネレイドは両手で陸に這い上がり、なんと尾ビレで地面を叩いて跳ねるように移動を始めた。
ネレイド「も、戻って来なさいッ! 今の時期、陸は危ないわッ!」
ネレイドは叫ぶ。
だが、幼ネレイドは脱兎の如くぴょんぴょんと陸を跳ねて行き、その姿は一度も止まることなく、アクア湖からはすぐに見えなくなった。
7 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2012/04/26(木) 19:56:16.22 ID:Dl3hGjKDO
幼ネレ「ふんふ〜ん!」
べちーん、べちーんと、尾ビレで地面を叩きながら、水中生物にあるまじき速度で大地を跳ね進む幼ネレイド。
その無邪気な頭の中は皇帝の事でいっぱいだった。
幼ネレ「サイン! お菓子! サイン! お菓子! お菓子! お菓子ッ!!」
ただ、進むうちに少しばかり物欲が出て来ている。
皇帝
↓
偉くてお金持ち
↓
太っ腹
↓
おいしいものをたくさんくれる。
という幼ネレイドの脳内チャートは確定事項なのだ。
……現実がそれに則するかは不明だが。
ともあれ、幼ネレイドは皇帝との邂逅をこれ以上無いほどに待ち望んでいた。
幼ネレ「ふんふふんふ〜ん!」
ゆえに、警戒心が鈍ってしまっていた。致命的に。
幼ネレ「……あれ?」
変な臭いを嗅ぎとり、幼ネレイドはふと尾ビレを止めた。
幼ネレ「お肉を焼く匂い……きっと皇帝だー!」
それは肉を焼く香ばしい匂い。
皇帝がご飯でも食べているのだろうと思った幼ネレイドは、匂いの元を探して辺りに首を回す。
すると、意外に近く、小高い丘の向こうから煙が昇るのが見えた。
幼ネレ「あそこだー! 皇帝ー!」
べちーん、べちーんと、大きな音を上げながら、無警戒に丘を回り込んでいく幼ネレイド。
やがて、揺らめく炎がチラチラと視界に見え始めた頃。
幼ネレイドは再び大きく声を上げた。
幼ネレ「皇帝へいかー!」
8 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2012/04/26(木) 20:17:17.98 ID:Dl3hGjKDO
だが、そこにいたのは皇帝では無かった。
幼ネレ「ふぇっ?」
巨大な、直立で五メートルほどはある複頭の蛇たちの瞳が、幼ネレイドの方へと一斉に向いていた。
幼ネレ「……」
思考が止まる。
辺りに沈黙が降り、パチパチと爆ぜる炎の音だけが声を大きく主張していた。
幼ネレイドは空白の頭で、音につられるようにゆっくりと、揺らめく炎に視線を動かす。
──原形をとどめないほどにバラバラに引き裂かれた獣が、こちらを向いていた。
幼ネレ「……ひっ!?」
体の芯に冷水を流し込まれたように、底冷えの悪寒が走り抜けた。
心臓が早鐘を打ち始め、本能がひたすらに危険を告げてくる。
逃げよう。
考えるよりも早く、体が動き始める。
しかし、幼ネレイドよりも先に、複頭の大蛇が動くのが先だった。
大蛇は首をもたげて力を蓄え、それを一気に解放。
牙を剥き、目にも止まらぬ速度で幼ネレイドへと飛び掛かって来た。
幼ネレ「い、いやあぁぁぁぁッ!!」
幼ネレイドの叫びが、辺りに響き渡った。
9 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2012/04/26(木) 20:54:32.56 ID:Dl3hGjKDO
〜 皇帝一行 〜
軽装歩兵「なっ! なんでこんなにモンスターが!」
帝国猟兵「行きはこんなにいなかったのに!」
兵隊たちがモンスターを相手に武器を振るいながら次々と叫んだ。
帰城中の皇帝一行たちだったが、途中でモンスターの集団に行く手を阻まれた。
その数は当初十ほどだったが、あっという間に膨れ上がり、今では四方八方から次から次にモンスターが襲い掛かって来る始末だった。
そして、それらは種別や野生という本能を無視した、明らかに皇帝一行だけに殺意を向けてくる異常な動きをしている。
だが歴代皇帝の知識がある老皇帝は、その事態に心当たりを覚え、苦々しく顔を歪めた。
老皇帝「くっ! ボクオーンの仕業か!」
七英雄の一人、ボクオーン。
姦計を弄する事に喜びを覚える元英雄は、麻薬によって得た莫大な資金力を背景に、世界各国を暗部から掌握し始めている。
スパイを使って皇帝の出立を調べるなど、容易い事だろう。
重装歩兵「しかし、なぜ今頃にこんな真似を!」
老皇帝「おそらく、私の伝承法の限界を知ったのだ。
老い先短い私が、伝承する相手を見つけて喜ぶ。
だが、その帰り道の途中で、伝承者を殺害。
私はこれ以上無いほどに落胆する、という仕掛けだろう」
帝国猟兵「な、なんと卑劣な!」
老皇帝「だが、陸上に疎いネレイド族を連れ帰れないで正解だった。我々だけなら何とか……」
突破出来る、と老皇帝が言葉を紡ごうとした瞬間。
「い、いやあぁぁぁッ!!」
幼い少女の声が遠くから皇帝一行の元へと届いてきた。
10 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2012/04/26(木) 21:25:10.72 ID:Dl3hGjKDO
帝国猟兵「人の声!?」
軽装歩兵「少女!? 近くにいるのか!」
戦いながら、ざわめき立つ兵たち。
老皇帝「……」
老いた皇帝も剣を片手に、しかし無言で戦い続ける。
重装歩兵「皇帝、どうしますか?」
兵の一人が皇帝に尋ねた。
が、即座にその兵は尋ねた事を後悔した。
今の皇帝が優先すべきは伝承者の確保と、何よりも皇帝の命である。
叫び声を上げた少女を見捨てる、という事を皇帝に直接口にしろと言っているようなものだった。
軽装歩兵「これはボクオーンの策略です! あの声もボクオーンの姦計に過ぎません!」
それに気付いた他の兵が、話に割り込んできた。
説得力のある免罪符を突き付けられる老皇帝だが、まだ無言のままで、うなずかない。
老いた皇帝の心は激しく揺らいでいた。
軽装歩兵「……っ」
その様子を見てとった兵が、続けて何かを口にしようとする。
しかし、戦場に新たに届いてきた声がそれを遮った。
?「たすけてーッ! 皇帝へいかーッ!!」
老皇帝「……」
老いた皇帝は無言で一歩、少女の声がした方へと進む。
軽装歩兵「皇帝!」
老皇帝「ここは任せた」
叫ぶ兵にそれだけ残し、老いた皇帝は両の足に力を込め、モンスターの陣中を突っ切るように駆け出した。
11 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2012/04/26(木) 21:59:03.24 ID:Dl3hGjKDO
幼ネレ「きゃーッ!」
初撃を回避出来たのは奇跡に近かった。
『跳ねる』という不規則な移動方法が、複頭の大蛇パイロヒドラの牙から幼ネレイドの命を救ったのだった。
危機一髪。
だが、状況は依然として変わらない。
幼ネレ「誰かー! たすけてー!」
幼ネレイドは必死に跳び回って距離を取るが、追い掛けるパイロヒドラの移動速度の方がわずかに早い。
ネレイド族のテリトリーであるアクア湖まで逃げ切れればなんとか撃退出来るのだが、とてもそこまで持ちこたえられそうに無かった。
幼ネレ「たすけてー! みんなー!」
幼ネレイドは跳び逃げながら、ただひたすらに声を張り上げた。
幼ネレ「たすけてー! 皇帝へいかー!」
背後、パイロヒドラが大口を開け、魔力を集中し始める。
幼ネレ「だれかー!」
パイロヒドラの魔力は荒れ狂う炎塊となり、周囲を赤に染めていく。
背中を照りつける熱波が、無言でそれが秘める威力を物語っていた。
幼ネレ「たすけてー! 皇帝へいかー!」
最後にもう一度、幼ネレイドが必死になって皇帝に助けを求めたのと同時。
とうとうパイロヒドラの炎塊が、幼ネレイドの背中に向けて勢いよく放たれた。
12 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2012/04/27(金) 06:41:01.87 ID:u2ArasUDO
老皇帝「空圧波ッ!」
老いた皇帝の声が、どこからともなく上がった。
遅れて、パイロヒドラと幼ネレイドとの間の大気が一斉に歪む。
蜃気楼のようにその身をねじ曲げられた大気は、一瞬にして破壊の権化へと変貌を遂げていた。
そしてその顎(アギト)は、幼ネレイドに迫る炎塊と、パイロヒドラの両者を一息に噛み砕いた。
「……っ!!」
炎塊は瞬く間に消し飛び、パイロヒドラの頭たちはそれぞれに口を大きく開け広げ、何事かを叫ぶ。
だが、破壊の猛威は断末魔の声すらも許さず、すべてを等しく食らい尽くした。
13 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2012/04/27(金) 11:45:29.61 ID:u2ArasUDO
圧搾された空気はパイロヒドラの全身を切り刻み、同時に万力で締め付けるような凄まじい力で体を引き潰す。
その暴威がやっと過ぎ去ったとき、パイロヒドラは全身から血を噴き出してボロ布のようになっていた。
そして、パイロヒドラは糸が切れたように、その場でゆっくりと前のめりに倒れ始めた。
幼ネレ「ふ、ふぇっ?」
五メートル強のパイロヒドラが土煙を巻き上げながら崩れ落ちていく。
地崩れのようなその音に驚いて振り返った幼ネレイドはパイロヒドラの惨状に目を丸くし、激しく動かしていた尾ビレを止めて呆然と立ち尽くした。
老皇帝「大丈夫か!」
幼ネレ「ふぇっ?」
老いた皇帝の声に、びくっと身をすくませて幼ネレイドは我に帰った。
幼ネレ「お、おじさん……だれ?」
おそるおそる尋ねてみる。
老いた皇帝はシワが深く刻まれた顔に柔らかい笑みを浮かべ、右手を幼ネレイドに差し出しながら優しく答えた。
老皇帝「ただの通りすがりの、バレンヌ帝国現皇帝さ」
14 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2012/04/27(金) 19:05:53.35 ID:u2ArasUDO
幼ネレ「皇帝ッ!?」
幼ネレイドはその言葉を聞き、途端に目を輝かせ始めた。
幼ネレ「たすけてくれたのっ!? 皇帝のおじちゃんが私をたすけてくれたのっ!?」
老皇帝「ああ、そうだとも、しかし私の事がそんなにお気に入りなのかい?」
幼ネレ「うん!」
幼ネレイドは尾ビレを使って老皇帝の周りを跳ね回りながら答える。
喜びを全身で表現する幼ネレイドの純真無垢な姿に、老皇帝は小さくほくそ笑んだ。
老皇帝「ふふっ」
しかし、少し離れた所では仲間たちが今も戦い続けている。
老皇帝はすぐに表情を険しく戻し、幼ネレイドに向けて言った。
老皇帝「ここは危ない、早くアクア湖に戻りなさい」
幼ネレ「え〜! もっと皇帝とお話したい〜!」
幼ネレイドは両手をバタつかせて抗議する。
老皇帝は困った顔で、しかしちゃんと幼ネレイドの顔を真っすぐに見ながら、優しく諭した。
老皇帝「いま、私の仲間がモンスターに襲われているんだ」
幼ネレ「えっ!」
老皇帝「だからね、すぐに助けに行かないといけない。君とは遊んであげられないんだ」
幼ネレ「……」
15 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2012/04/27(金) 19:33:36.21 ID:u2ArasUDO
幼ネレイドはすぐに老皇帝へと返した。
幼ネレ「分かった! 皇帝へいか頑張ってー!」
満面の笑顔で幼ネレイドは声を上げ、尾ビレを器用に使って後ろ向きに移動を始める。
そして、両手をバンザイするように頭の上に伸ばし、バタバタと振り始めた。
老皇帝「うむ」
聞き分けの良い幼ネレイドに見送られ、仲間の元へと向かう。
そのために、老皇帝が来た道へ振り返ろうと身をひねった。
老皇帝「……ん?」
その瞬間、視界の中で何かが動いた気がして、老皇帝は足を止めた。
幼ネレ「?」
目の合った幼ネレイドが、ちょこんと不思議そうに首をかしげる。──その背後。
──ゆらり、と大蛇の首が浮かんでいた。
16 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2012/04/27(金) 20:08:32.09 ID:u2ArasUDO
老皇帝「ッ!」
──仕留め切れていない。
老皇帝は即座に理解し、慌てて鞘を握る手に力を込める。
老皇帝がもっとも得意とするものは『居合い』。
一瞬で斬撃を叩き込み、鞘に戻して次撃を装填する、大国ヤウダ特有の高速剣技。
その腕前は大気すらも切り裂いて凶器に変えるほど。
しかし、その剣閃を放つ寸前、老皇帝は腕を止めた。
──近すぎる。
今放てば、幼ネレイドまで空圧に巻き込んでしまう。
間合いからそれを『見た』老皇帝は一心不乱に、大きく声を張り上げた。
老皇帝「逃げろッ!」
そして、走りだす。
向かう先は、自分の状況をまだ理解出来ていない幼ネレイド。
幼ネレ「……!」
だが、肝心の幼ネレイドは老皇帝の大声に身をすくませてしまっていた。
一応異様な気配は感じとっているらしく、幼ネレイドは困惑の表情を浮かべているが、背後の殺意には気付かない。
17 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2012/04/27(金) 21:05:09.62 ID:u2ArasUDO
仇討ちのつもりか、それともただの敵意の発露か。
無残に積み重なった死骸の山から這い出でたパイロヒドラの一本頭は、殺意をありありと浮かべた赤い双眸を爛々と不気味に輝かせている。
そして、一つ首になったパイロヒドラの口が音もなく開き、魔力を溜め始めた。
老皇帝「くっ!」
老皇帝は幼ネレイドの元へとただ駆ける、ひたすらに。
だが、幼ネレイドの元に辿り着くよりも先に、パイロヒドラの術法が完成。
炎塊が、幼ネレイドのすぐ後ろに現出する。
幼ネレ「えっ?」
幼ネレイドが惚けた声を上げ、その小さい体が炎に包まれ──。
老皇帝「させるかッ!」
その刹那、老皇帝が大地を蹴り、体を宙に舞い上げた。
それは全身の力を込めた、まさしく渾身の大跳躍。
そして、引き絞られた矢が解き放たれるが如き勢いのまま、老皇帝は幼ネレイドと炎塊の間へと体を飛び込ませた。
18 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/04/28(土) 11:36:55.28 ID:MVuLbIYDO
うちの帝国は半分くらい人外皇帝だったな
19 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2012/04/28(土) 13:32:03.51 ID:sgo/3LcDO
そして爆音、遅れて衝撃。
幼ネレ「きゃーっ!」
幼ネレイドは背後からの衝撃に、勢い良く前方へと身を投げ飛ばされた。
幼ネレ「きゃーっ!?」
ゴロゴロと、荒れ野を転がっていくネレイド。
その前方に大岩の姿が現れる。
そして、幼ネレイドはお約束通りに大岩にぶつかり、ビターンと小気味よい音を立てて止まった。
幼ネレ「いたた……」
赤くなった鼻を撫でながら、クラクラと揺れる頭を押さえる。
幼ネレ「な、なにが起きて、……っ!?」
そのまま後ろを振り返った幼ネレイドだが、そこに広がる景色に思わず言葉を飲み込んだ。
いつの間に出来たのか、荒れ野が広がるだけの地面には直径三メートルはあるクレーターの穴が穿たれ、周囲の地面は黒く焼け焦げている。
そして、そのクレーターのすぐそばに、幼ネレイドにも見覚えがある老人が仰向けに倒れていた。
老皇帝「……」
幼ネレ「皇帝へいかっ!?」
幼ネレイドは叫ぶや否や老皇帝の元へと駆け寄り、その肩をつかんで揺さ振り出す。
幼ネレ「皇帝へいか! 皇帝へいかーっ!」
幼ネレイドが老皇帝の体を揺さ振るが、老皇帝は何も応えない。
それでも幼ネレイドが老皇帝を揺さ振り続けると、やがて老皇帝の体に動きが起こる。
──老皇帝の黒くすすけた鎧の下から、赤黒い液体がじわじわと垂れ流れてくる形で。
幼ネレ「……!」
20 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2012/04/28(土) 19:30:52.02 ID:sgo/3LcDO
最悪の帰結。
そして、そこに至った原因が自分にあるという事を知る程度には、幼ネレイドにも思慮と分別があった。
幼ネレ「う、うぅ……」
倒れた老皇帝の肩に両手を置いたまま、幼ネレイドの瞳が揺らぎ始める。
悲哀と自責の念が頭の中で黒々と渦巻き、体が内側から突き破られそうなほどに胸が痛んだ。
幼ネレ「皇帝……へいかぁ……」
景色が歪む。
嗚咽を噛み殺せず、肩を小さく揺らしながら声を漏らし始めた。
幼ネレ「うっ、うぅっ……」
いたいけな顔を悲痛に歪め、今まさに幼ネレイドの最後の堰が割り断たれる。
まさにその時だった。
老皇帝「……うっ」
力尽きたようにピクリとも反応しなかった老皇帝の体が僅かに揺れ、その瞳がうっすらと開かれた。
21 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2012/04/28(土) 21:07:36.37 ID:sgo/3LcDO
幼ネレ「皇帝へいかっ!」
幼ネレイドが叫びながら、倒れた老皇帝に顔を近づける。
老皇帝「うぅ、ここは? ……そうか、私は」
老皇帝は幼ネレイドの顔をぼんやりと眺め、すぐに自分の置かれた状況を思い出したようだった。
だが、体に刻まれた傷の痛みまで神経に呼び戻されたらしく、すぐに歯を食い縛り、表情を苦悶のそれに変えた。
老皇帝「う、ぐぅ……っ!」
幼ネレ「待ってて皇帝へいか! 今すぐアクア湖のみんなを呼んでくるから!」
幼ネレイドはそう言い残し、老皇帝から顔を離すと、跳ねるために尾を持ち上げる。
だが、老皇帝はそれに待ったをかけた。
老皇帝「待ちなさい、奴は……パイロヒドラは?」
幼ネレ「あっ」
すっかりパイロヒドラの事を忘れていた幼ネレイドが、慌てて辺りを見回す。
そして、見つけた。
幼ネレ「……もう大丈夫みたい」
パイロヒドラはすべての頭を地に下ろし、絶命していた。
先程の一撃に死力を尽くしたのか、もう動き出す気配も無い。
幼ネレイドが老皇帝に見たままを伝えると、老皇帝は苦痛で脂汗を浮かべた顔に、頬を小さく吊り上げた、ぎこちない笑みを作った。
老皇帝「そうか、よかった。これでアクア湖まで帰れるな」
幼ネレ「っ!?」
その老皇帝の言葉に、幼ネレイドは体を貫かれるほどの衝撃を覚えた。
老皇帝が息も絶え絶えな重傷を負ったのは、どう考えても幼ネレイドのせいである。
しかし、老皇帝は今、それを微塵も責める事なく、幼ネレイドを気遣ってくれている。
幼ネレ「う、うえぇ……」
それが嬉しくて、申し訳なくて、そして何故だかとても悲しくて。
幼ネレイドはとうとう堰を切ったように泣き出してしまった。
老皇帝「近くにはまだモンスターがいる、弱った声を上げたらダメだよ。奴らが来てしまう」
泣く幼ネレイドを諭す老皇帝の声は、そのシワだらけの表情は、とても、とてもとても綺麗で、だが同時に悲しいほどに儚い。
死を受け入れた者の潔さというものを、年端もいかない幼ネレイドはまだ知らなかった。
しかし、目の前の老皇帝が、もう二度と手の届かない所へ行ってしまう。
そんな危うさだけは分かった。分かってしまった。
22 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga sage]:2012/05/21(月) 06:53:28.22 ID:gLYBe9TDO
進行速度的にアレなので、地の文を消してから、さらにギャグ路線に変更だ!
22.15 KB
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