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P「神はサイコロを振らない」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/27(金) 21:42:57.57 ID:PySxbYPJ0
 2012年8月19日、1040航空402便は、定刻どおり離陸。順調に行けば5時間で目的地、羽田空港まで到着するはずだった。
しかし、402便は着陸しなかった。いや、出来るわけがなかった。どうしてか? 理由は簡単、そのまま消えてしまったから。墜落した証拠も何も無く、飛行機ごとどこかへ消えてしまった。まるでイリュージョンのように。
それから10年……。俺は相も変わらず765プロでプロデューサーをしていた。

小鳥「プロデューサーさん、もうすぐあの日ですね」

P「そうですね。……あれから、もう10年なんですね」

過ぎ去りし日々を思い返す。10年前、俺たちは輝いていた。アイドルだけじゃなく、プロデューサーである俺も、事務員の小鳥さんも、社長だって。
でもそれは昔の話。俺たちはある日を境にバラバラになったんだから。

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ぶらじる @ 2024/04/19(金) 19:24:04.53 ID:SNmmhSOho
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旅にでんちう @ 2024/04/17(水) 20:27:26.83 ID:/EdK+WCRO
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木曜の夜には誰もダイブせず @ 2024/04/17(水) 20:05:45.21 ID:iuZC4QbfO
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いろは「先輩、カフェがありますよ」【俺ガイル】 @ 2024/04/16(火) 23:54:11.88 ID:aOh6YfjJ0
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【MHW】古代樹の森で人間を拾ったんだが【SS】 @ 2024/04/16(火) 23:28:13.15 ID:dNS54ToO0
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こんな恋愛がしたい  安部菜々編 @ 2024/04/15(月) 21:12:49.25 ID:HdnryJIo0
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【安価・コンマ】力と魔法の支配する世界で【ファンタジー】Part2 @ 2024/04/14(日) 19:38:35.87 ID:kch9tJed0
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アテム「実践レベルのデッキ?」 @ 2024/04/14(日) 19:11:43.81 ID:Ix0pR4FB0
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2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/27(金) 21:50:43.29 ID:z/IdN2wF0
 乗客、乗組員35人を乗せたまま、402便は消息を絶った。その35名の中に、かつてうちに所属していたアイドルも数人いた。

高槻やよい、双海亜美、秋月律子、菊地真、我那覇響、そして天海春香。
本来なら美希がこの便に乗って、俺と春香は仕事の関係で一緒に帰るはずだったが、打ち合わせで先に帰る俺に着いて行く! と言って聞かなかった美希は春香と交代する形で1つ便をずらしたため、俺たち2人は難を逃れることが出来た。


春香『プロデューサーさんなんてもう知りません! 美希と一緒に帰ったらいいじゃないですか! そのまま墜落しちゃえ!』

それが最後の彼女の言葉。謝ることも出来ず、10年間という長い月日だけが過ぎって行った。

P「ホント、どうしてなんですかね……」

 誰にも答えることは出来まい。それは、きまぐれな神様しか知らないんだから。
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/27(金) 21:55:10.26 ID:z/IdN2wF0
美希「あっ、プロデューサー……。これ、目を通しておいてください」

 あの事件以来、ハニーと呼んでべったりくっついて来ていた美希は俺と距離を取るようになった。自分だけが帰って来たこと、それが負い目になっているのだろう。プロデューサーと呼び方を戻したことによく表れている。
事故後休養していたが、しばらくしてアイドル活動に復帰したものの、モチベーションの低下もあり、人気は急降下、今は派手な金髪を黒に戻し、うちで事務員として働いている。アイドルとして無限の可能性を秘めていた彼女だが、事務員としてもそれなりに優秀だ。天性の要領の良さを持っているんだろう。


あの事件で半分近くの仲間を失った当時のメンバー達は、それぞれ別の進路についている。アイドルとして活動しているのは、千早ぐらいだ。もっとも、アイドルではなく歌手と言ったほうが正しいが。
伊織は水瀬の会社で働いており、真美は医大生、雪歩は元アイドルの小説家としてデビュー、あずささんは事故の後結婚し、今は2児の母だ。貴音は……、誰も知らない。最初からいなかったみたいに、姿を消してしまった。

貴音「10年後、皆で会える日まで」

P「どこに行くんだ?」

貴音「少し、抗ってみようと思いまして」

そう言って765プロを去った。今765プロに残っているのは、俺と小鳥さん、美希と社長の4人。10年もあると世間の流行は大きく変わる。俺たちは新たな可能性を持つアイドル、シンデレラガールズをプロデュースしながら日々を過ごしている。
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/27(金) 21:57:40.72 ID:z/IdN2wF0
 402便の事故を担当した調査委員会の見解によると、事故の原因は急速に発達した積乱雲を避けきれず、ダウンバーストに巻き込まれて海面に叩きつけられた、そう結論を下した。しかし、懸命な捜査にもかかわらず、何一つ見つからず、捜査は早くに打ち切られた。

しかし、そんな中1人の量子物理学者がおかしな自説を振りかざしていた。402便が地球を横切るマイクロブラックホールに吸い込まれ、時空を超えて10年後の2012年8月19日に帰ってくると。
そんな馬鹿げた学説が支持されるわけもなく、その学者は教授の座を追われたと聞いている。

事故当時、世間は大きく取り上げ、俺もその対処に追われたが、10年たつと皆忘れてしまい、年末の怪しい番組すら取り上げなくなった。遺族以外の人間が忘れかけていた頃、思わぬ形で再び事故と向き合うことになる。
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/27(金) 22:02:09.59 ID:z/IdN2wF0
小鳥「へ? 何かしらこの書き込み……」

P「どうしました、小鳥さん。また婚活サイトとか見てませんよね?」

小鳥「し、してませんよ! これです、うちのHPの掲示板に書き込まれているんですよ。全く、たちの悪い悪戯でしょうか?」

P「なになに……。『2日後の8月19日に羽田空港に集結せよ!』 なんですか、これ?」

小鳥「分かりませんよ。でもこの日ってあの教授が言ってた日じゃないですか? 10年後に再び姿を現すって」

P「まさか。あれを信じているんですか? あんなの、子供でも信じてませんよ」

小鳥「無茶苦茶な話なのは分かってます。でもこの書き込みが本当なら……」

P「俺だってそうなればいいなと思います。でもどうですか? あんなトンでも理論、テレビで笑いものにされただけじゃないですか」

小鳥「でもファンの皆様は、これに縋っちゃうんでしょうね。いつか帰ってくる、そう信じてますから」

P「はは、偶像崇拝主義ですか? まあアイドルって偶像って意味ですけど」

自分でも少しうまいこと言ったかなと思ったが、小鳥さんのジト目を見るに受けはいまいちだったようだ。
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/27(金) 22:04:23.07 ID:z/IdN2wF0
社長「君たちもそれを見ていたのか」

P「社長! もしかして書き込みを?」

社長「ああ。ネットの書き込みだから信憑性は薄いんだが、なんとなく何かが起きそうな気がしてね……」

P「ティンと来たわけですか」

社長「はは、それも懐かしいなぁ。そうやって君を会社に入れたっけか」

P「そうでしたね。でもこれが本当なら……」

社長「再び765プロオールスターズが結成できるわけだ」

P「10年越しにですか。もう現役は1人しかいないのに」

実現したらなんと素晴らしいことだろうか。しかし、時の流れは残酷だ。10年のブランクは大きいし、あずささんに至っては子持ちだ。昔みたいに激しいダンスができるとも思えない。
キラキラと輝いていた頃と違うんだから。高望みなんかするもんじゃない。
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/27(金) 22:06:34.74 ID:z/IdN2wF0
P「結局来ちゃったな……」

 2日後、俺は羽田空港に来ていた。信じたわけじゃないが、もし本当に帰ってくるなら……。そんな淡い期待を込めて。

??「あれ? 兄……、プロデューサー?」

P「ん? その声は……、もしかして真美か!?」

真美「お久しぶりです、プロデューサー」

 俺を呼ぶ声に振り向くと、そこにはあの頃のサイドポニーはそのまま、背も高くなった双海真美の姿がそこにあった。

P「なんか真美に敬語を使われるのは慣れないな……。むず痒いって言うかなんつうか」

真美「うーん、やっぱそう? こっちも23にもなって、兄ちゃんって呼ぶのは恥ずかしいかな……」

P「そうか? 俺は大歓迎だぞ?」

真美「私が嫌なの!! 子供みたいじゃん」

P「俺からしたら子供だっての」

真美「ちーがーう! 私はもう大人だっての!!」

 子供らしさと、思春期特有の複雑な心を持った少女は、幼さをどことなく感じさせつつも、美しく成長していた。
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga sage]:2012/04/27(金) 22:08:27.24 ID:whmd9rMQ0
元ネタ とかあるかは知らんが期待
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/27(金) 22:08:50.91 ID:z/IdN2wF0
真美「兄……、プロデューサーもさ、ネットの掲示板を見てきたの?」

 中身はまだまだ子供だけど。

P「ああ、ご丁寧にうちのHPに書き込まれてたよ」

真美「やっぱり。他の皆も来てるもん。ほらあそこ」

P「あれは……、涼君か。隣にいるのは夢子ちゃんだな」

真美「もうすぐ奥さんでしょ? 良いなぁ、結婚とか。こちとら彼氏作る暇ないっての」

 見渡すと知っている顔もちらほらとある。高槻兄妹、菊地真一氏……、どんな思いでここに来たかは分からないが、ネットの書き込みに期待をしているのだろう。中にはカメラを持った者も。テレビ局か?

真美「私たちこっちにいるからさ、おいでよ! 皆いるよ?」

P「わっ、ちょっと!」

 真美の手を引っ張られ連れて行かれる。パワフルなところは相変わらずだ。
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/27(金) 22:12:37.34 ID:z/IdN2wF0
>>8 元ネタはドラマ

真美「みんなー! 兄ちゃん連れてきたよ!」

P「ハァ……、ハァ……。兄ちゃんに戻ってるぞ?」

真美「へ? プ、プロデューサーの聞き間違いだかんね! ニヤニヤしない!!」

 顔を真っ赤にして否定する真美。ちょっぴりキュンと来たぞ。

伊織「どうかしら? ずっと兄ちゃんまだかなぁって言ってたのはどこのどなたかしらねぇ?」

真美「ち、違うって!!」

P「真美……、そんなに俺のことを」

真美「兄ちゃんは黙ってよ!!」

子供みたいに否定する医学生の相手はほどほどに、他のみんなとも挨拶をする。

雪歩「お久しぶりです、プロデューサー」

あずさ「あら……、いつ以来でしょうか?」

P「皆……」

 目の前には懐かしい顔。年甲斐にもなく泣きそうになる。

あずさ「千早ちゃんもこっちに来るみたいですね。アメリカからわざわざ帰ってくるんですって」

P「ちょっとした同窓会ですね」
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/27(金) 22:16:32.45 ID:z/IdN2wF0
伊織「そうなんだけど、アイツはどうしたの?」

 周りを見渡して、伊織が尋ねる。

P「アイツって美希か? 美希はまだ来にくいんだとさ。事務所で仕事しているよ」

美希『私にそんな資格ありませんから……』

 誘った時の美希の辛そうな顔を思い出す。時効と言えば彼女は気が済むのだろうか? いいや、それでも彼女は自分を責め続けるだろう。周りが赦したとしても、自分自身が赦せないから。

伊織「はぁ、あれは別にアイツのせいじゃないでしょ? 早いこと前を向いてもらわないと気分が良いもんじゃないわ」

P「ありがとうな、心配してくれて」

伊織「当たり前でしょ。……仲間なんだから」

真美「そーだよ! ミキミキはハニーハニー言ってこそなんだから!」

照れながらぶっきらぼうに言う伊織。美希、良い仲間に恵まれたな。

雪歩「あの……、四条さんは?」

P「知らないぞ? 電話も通じないし、住所も実在しないものだし、月にでも帰ったのか?」

雪歩「つ、月って……」

 とっぷしーくれっと。彼女はよく言っていたが、プロデュースしていた身で恥ずかしいが、彼女のことはほとんど知らない。住所にいたっては二十郎本店のものだったし。

話題は尽きない。今までのこと、現状のこと。盛り上がると共に書き込みのことなんか忘れてしまっていた。何も起きなくても皆会えたから良いかなって。
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/27(金) 22:18:32.54 ID:z/IdN2wF0

そして、運命の瞬間がやって来た。

あずさ「あれ? あれはなんでしょうか?」

 何かに気付いたあずささんが指差す方に目をやる。

 その瞬間、その場にいた誰もが言葉を失い、目を疑った。

P「よ、402便……?」

 夜空より着陸体勢に入る402便。教授のトンでも予言は当たったのだ。滑走路に緊急着陸した機体。あれが402便なら、一体10年間どこで何をしていたんだ?

伊織「何よあれ……。生きてるの? 乗客も、乗員も。こんなイリュージョン見たことないわよ……」

??「いりゅーじょんなんかではありません。これは現実です。そして402便に乗っている彼女らにとっては、5時間程度しかたっていません」

P「貴音!? どうしてここに!?」
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/27(金) 22:21:07.28 ID:z/IdN2wF0
貴音「どうしてとは、なかなか悲しいことを言いますね。理由は決まってます、そうでしょう?」

 芝居をしているかのようにオーバーな物言いだ。

貴音「帰ってくる同胞を迎えに来てどこかおかしなことはあるでしょうか? ねえ、如月千早」

千早「いや、そういう意味じゃないと思うけど……。みなさん、お久しぶりです」

 なぜか貴音とセットの千早。もう何が何だか分からない。

伊織「あんた一体今まで何してたのよ!? ってなんで千早と一緒なの!?」

千早「同じ便に乗ってたの。流石に驚いたわ」

伊織「は? アメリカにいたの!?」

貴音「そうですね……。便りの1つも送らなかったのは詫びましょう。それよりも、」

混乱する俺たちを尻目に、貴音は続ける。

貴音「私のことよりも、今は402便に注目すべきかと。10年という時空を飛び越えてきたのです。しかし、機内の乗客は10年前となんら変わりない姿でいることでしょう」

P「じゃ、じゃあ! 皆生きているのか!?」

貴音「ええ、心配はございません。ただ……」

貴音が何かを言いかけた時、402便の入り口が開き出す。俺たちは最後まで聞かず、慌てて402便へと駆け寄った。
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/27(金) 22:23:02.71 ID:z/IdN2wF0

??「いたた……。機内でもこけるって……。でも無事着陸成功なのかな? ってあれ?」

 最初に降りてきたのは、2つのリボンが目を引く少女。いつも前向きで、何もないところでこけて、個性がないことに悩んだりする、誰もが愛したアイドル。

 天海春香。765プロ(元)所属アイドル。そして――

春香「もしかしてプロデュうわぁ!」

P「春香ぁ!!」

 10年前から帰って来た、俺の恋人。

春香「プ、プロデューサーさん! く、苦しいです……」

P「あっ、悪い……」

春香「もう! いきなり抱きつかないで下さいよ!! それに、今喧嘩中なの忘れましたか!? そんなので許してあげるほど優しくないですよーだ!! ふんっ!」

P「あっ……」

 喧嘩中――。その言葉で、一気に現実へと引き戻される。この子は紛れもなく、10年前に姿を消した彼女だ。あの日のまま、俺だけ歳をとって。
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/27(金) 22:24:43.90 ID:z/IdN2wF0
貴音「何か気付くことはありませんか、天海春香?」

 ふてくされる春香に貴音が声をかける。

春香「何かって? ってあれ? 真美ってこんな大きかったっけ? それにプロデューサーさんも妙にダンディだし……。あれ、なんでだろ?」

伊織「ね、ねえ貴音……。これって」

貴音「私が言ったとおりです。天海春香、落ち着いて聞いてください」

春香「へ?」

状況をつかめず、ポカンとした顔の春香。

律子「何止まってるのよ。進まないと出れないわ……、何よ、これ?」

やよい「さっきは死ぬかと思いましたー。あれ? どうしたんですか?」

真「響……、羽田ってこんなんだっけ?」

響「いや、おかしいぞ……」

亜美「ねーねー、もしかしてドッキリ? 空港ごと弄るって金持ちじゃん! って真美、1日でそんなでかくなんの?」

後ろからぞろぞろと出てくる乗客たち。765プロの皆も、春香と同じようにあの頃の姿のままだ。戸惑う皆を見渡し、貴音は口を開いた。
それは、彼女達にとって、奇跡なんだろうか?
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/27(金) 22:27:26.42 ID:z/IdN2wF0
貴音「あなた方は、10年の時を経て羽田へと帰ってきました。これはまさしく奇跡としか言いようがありません」

やよい「どういう意味ですか?」

意味が分からないと言った顔をするやよい。そりゃそうだろう、俺だって急にこんなことを言われたら理解が追いつかない。

貴音「受け入れがたい事実ですが、今は2012年8月19日ではありません。10年後の」

律子「8月19日って言いたいわけ? 浦島太郎にでもなった気分よ……」

頭を抱えて言う律子。異常事態に置かれても、冷静でいられる彼女が少し羨ましい。

貴音「理解が早くて助かります」

律子「そりゃ信じるわよ。飛行機から出たらみんな成長してるし。それに、あれ涼と桜井さんでしょ? 背も高くなって」

涼「律子姉ちゃん! その、お帰り」

律子「ただいま。こっちからしたら5時間ぐらいしか経ってないのに、こっちは10年も経っている。涼の方が年上じゃない」

涼「で、でも律子姉ちゃんは律子姉ちゃんだし……」

律子「変な感じね……。いつの間に1040航空はタイムマシンなんか造ったのかしら? テストするならするで一言欲しかったわよ」
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/27(金) 22:29:45.98 ID:z/IdN2wF0
それぞれが事実を受け入れれたかは分からないが、10年ぶりの再会に涙する遺族達。そんな中――

響「ええ!? にぃにぃと結婚!?」

あずさ「黙っててごめんなさい……」

響「いや、無理だから仕方ないぞ。それより、いつからなの?」

あずさ「その……」

響の剣幕に圧されてか、歯切れの悪いあずささん。言い難いのだろう。あずささんと旦那様、我那覇さんは遺族会を通して知り合った。
響がいなくなったからこそ生まれた夫婦なのだから。傍から見たらこう見えるだろう。

失った者同士が慰めあったと。

響「何でも良いさー。にぃにぃは自分ほどじゃないけど完璧だからな。あずささんが惚れるのも無理はないぞ」

笑って話を締める響。お兄さんとあずささんが幸せなんだからいいだろ? っと言わんばかりだ。

響「ほーんと、色々変わったんだなぁ……」

寂しそうに、空を見上げて笑う。変わった者と、変わらない者。その溝は大きく深い。
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/27(金) 22:35:33.91 ID:z/IdN2wF0
春香「あ、あの……。プロデューサーさん、美希はいないんですか?」

響のほうを見ていると、後ろから春香が声をかけてきた。声にさっきほどの怒りは感じず、少しだけホッとする。

P「アイツは仕事中だ」

春香「仕事? もしかしてまだアイドルしてるとか?」

P「引退して事務員をしてるよ」

春香「引退……、ですか……。それってわ」

春香の声を遮るように、貴音がマイクを片手に話し出す。

貴音「感動の再会をしているところ申し上げにくいのですが、一度会議室まで来ていただけないでしょうか? 皆様に説明しなければならないことがあります。遺族の方もご同行お願いいたします」

真「遺族って……、まるでボク達が死んだみたいな言い方だね」

亜美「それにどうしてお姫ちんが仕切ってんの?」

貴音「それも含めて説明いたします。それでは付いて来て下さい」

貴音に連れられて、空港の会議室へと入る。
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/27(金) 22:43:07.50 ID:z/IdN2wF0
貴音「さて、説明に移ります前に、1つ心の準備をお願いします」

P「心の準備? どういうことだ?」

 ただ事ではない口ぶりに、部屋に集まった乗客、遺族達がざわめきだす。

貴音「言葉の通りです。これから話す内容は、非常に衝撃的な内容ですので。さて、自己紹介がまだでしたね」

貴音「私は四条貴音、10年前はあいどるをしていましたが、現在は米国で量子物理学の研究を行っています。これでも一応准教授です」

P「そんなの初めて聞いたぞ!?」

 なるほど、だから千早と同じ便にいたんだ。……貴音って英語はてんでダメじゃなかったか?

貴音「ええ、親しいものにも言っておりませんでしたから。自己紹介はこの辺にして、これからとある教授が立てた、この事故の真実をお話しようと思います。教授は偏屈な方で、自分の見解が正しいと判断すると、そそくさと帰宅してしまったので、私が代理で説明いたします」

 真剣な眼差しでおれたち聴衆を見据え、周囲が落ち着きを取り戻すと説明を始める。
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/27(金) 22:47:15.31 ID:z/IdN2wF0
貴音「ところで、402便は消失する前に大きな揺れに襲われたと聞いています」

やよい「すっごく怖かったです! 死ぬかと思いました」

亜美「やよいっち高いの苦手だもんね→」

律子「こっちからしたら乱気流に捕まったぐらいで感じてたんだけど、そう聞くぐらいなんだから何かあったのかしら?」

貴音「ええ。急速に発達した積乱雲を避けきれず、ダウンバーストに巻き込まれて海面に叩きつけられた。それが一般の見解です。しかしながら、懸命な捜索にもかかわらず402便は破片の一つも見つかりませんでした。そして10年を経て着陸しました。それでは402便はどこを飛んでいたのでしょうか?」

真「乗ってた人みんなここにいるもんね」

律子「そうだけど、日本にバミューダトライアングルなんか無いわよ?」

貴音「しかし、異端とされている加藤教授の説、今日私はそれが正しいと確信いたしました」

春香「えっと、全然話についていけないんだけど……」

 春香の他にも理解していない人がいたが、それを無視して続ける。
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/27(金) 22:49:35.75 ID:z/IdN2wF0
貴音「あなた方が体験した急激な揺れは、402便が時間軸のねじれに吸い込まれ、吐き出されたからなんです」

 それは突拍子もない事実。時間軸のねじれ? 空想科学の話じゃないのか?

貴音「飛行機が、何らかの理由で光の速度に限りなく近い速さまで加速すれば、飛行機の中で1時間経つ間に、外では10年経つ、と言うのは一応説明可能です」

律子「何らかの理由って?」

貴音「恐らくですが、地球を横切ったまいくろぶらっくほーると推測されます。それが時間軸のねじれを引き起こしたのではないか。それが私の見解です」

貴音「ここまではよろしいでしょうか?」

P「言いたいことは分かる。でも荒唐無稽だ」

貴音「ええ。私もこの目で見るまでにわかに信じれませんでしたから」

 乗客、遺族達も納得がいかないという顔をしている。

貴音「そして、問題はここからです。皆様、心の準備は出来ましたでしょうか?」

 貴音は周りを見渡し、ふぅと1つ深呼吸をすると、俺たちに告げるのだった。神様がくれたのは奇跡でもなんでもない、どうしようもない残酷な試練だと言うことを。
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/27(金) 22:53:49.54 ID:z/IdN2wF0
貴音「402便乗客、乗員に残された時間は、……残り8日です」

P「どういうことだよ……」

貴音「8日後、402便に乗っていた者は再び消えてしまう。元に戻るのです」

遺族「ふざけるな!! だったら何で! 何で帰ってきたんだ!!」

 淡々と話す貴音に遺族達の怒号が飛ぶ。貴音は一瞬苦い顔を見せるが、アナウンサーのように事実を述べていく。

貴音「――――」

 それからのことはほとんど憶えていない。何か難しい言葉を並べて、残り時間が8日しかないということを説明してくれたのは分かる。

 でも、理解できるはずが無かった。物理学の不勉強ゆえか? いや、そうじゃない。理解したくなかったんだ。10年の時を経て再会した乗客、乗員と遺族。死んだとされて、もう一度会うなんて絶望的だったのに、神様が奇跡を起こしてくれて――。
それは、同時に別れの始まりでもある。どうして同じ人間と2回別れなければならない!? 彼女達が何をした!?

答えてくれないか、神様――。
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/27(金) 22:56:57.78 ID:z/IdN2wF0
貴音「皆様としても言いたいことは山ほどあるでしょう。私とて信じたくありません。ですが、ご理解いただきたいのです。自身の置かれている状況を。そして、残された時間を有意義に使って欲しい、死刑宣告のしたいわけじゃないと。私の願いはそれだけです」

 全ての怒りの矛先が向こうとも、貴音は最後まで説明を続けた。その真摯な姿に、聴衆たちも落ち着きを取り戻していく。どれだけ彼女を責めたとしても、残された時間は伸びない。

貴音「どうか残り8日、悔いのない毎日を……」

 8日間。いや、今日はもう終わる、だから7日間。俺達のもっとも長い1週間が始まった。
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/27(金) 22:59:54.07 ID:z/IdN2wF0
小鳥「お帰りなさい。皆が帰ってくるのを、テレビで見てました」

 765プロに帰った俺を、小鳥さんが迎えてくれる。ホワイトボードを見ると、美希はもう帰ったようだ。

小鳥「美希ちゃんも一緒にテレビを見ていたんですが……。少し前に帰っちゃいましたね。みんなは?」

P「春香たちは事情聴衆を受けています。伊織が気を利かしてくれたみたいで、直ぐ終わらせてホテルで休むことになるそうです」

小鳥「そうですね……。お疲れでしょうし。でも、彼女達に早く会いたいですね」

 小鳥さんの淹れてくれたお茶を飲みながら、今日あったことを話す。再会を楽しみにしている彼女にタイムリミットのことを話すべきか悩んだが、後々知って後悔するぐらいなら、初めから覚悟させておいたほうがいい。優しい彼女のことだ、深く傷つくだろう。それでも――。

小鳥「そんなの……、酷いですよ。結局いなくなるなんて、最初から戻ってこない方が傷つきません!」

P「ええ、本当に悔しいです。何も出来なくて」

 説明が終わると、彼女は泣いていた。ぬか喜び、無力感。あらゆるネガティブな感情が俺たちを包む。
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/27(金) 23:04:54.51 ID:z/IdN2wF0
 貴音の話が終わった後、その場にいたほぼ全員が泣き崩れた。アイドル達も、残された家族も、残酷な現実に何も出来ない貴音も。最後の一週間、俺達は有意義に過ごすことができるのだろうか?

P「明日アイドル達は事務所に来ます。そこでこれからどうするかを話したいと思います」

小鳥「分かりました。明日までには泣き止んできます。あーあ、化粧落ちちゃった」

小鳥さんは無理に笑顔を見せる。悲しんでいても仕方ない、むしろ今回はラッキーなんだ。突然いなくなったあの日と違って、期限が分かっているんだから。それまでにできることをしよう、深く心に誓った。

P「それじゃあ俺も帰ります」

小鳥「気をつけて帰ってくださいね」

 事務所を出、家まで帰る。誰もいない無人の家、お帰りなさいと言ってくれる人がいればどれだけ嬉しいことか。

春香「お帰りなさい! プロデューサーさん!! ご飯にしますか? 御風呂にしますか? それともわ・た・し? キャッ、言っちゃった!!」

P「ただいま。……あれ?」

 春香さん、……なんでここにいるんすか?
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/27(金) 23:05:56.78 ID:z/IdN2wF0
やよい「長介、大きくなってなってたな」

 10年。実感はないけど、成長した弟達をみると、いやでも思い知らされました。長介は大学生、かすみは高校生、浩太郎も浩二も大きくなって、浩三はまだあんなに小さかったのに、元気いっぱいに育っていた。

 お姉ちゃんとして成長を見れなかったのは残念だけど、それはとても嬉しいかな。でも良いことだけじゃありません。

やよい「あれ? お父さんは?」

長介「あんなヤツ……、父親でもなんでもないよ!」

やよい「え? どういうこと?」

 お父さんとお母さんは離婚した。弟達から知らされた事実は、とても悲しいことで。

 お父さんは私がいなくなってから、本を書いたんだって。アイドルの父として、また事故遺族として。私の名前もあったから、本は売れたみたい。だけど、それが家族をバラバラにして――。

長介「アイツは! 姉ちゃんの死を、いや死んでないけど! それをネタにして金を儲けたんだ! そんなこと、娘が本当に大事なら出来るわけ無いだろ!?」

 すっごく怒ってた。お父さんに裏切られたから。そう言ってたけど、私はそれよりもお父さんとお母さんが離婚したこと、家族が壊れたことの方がショックでした。

やよい「お姉ちゃんの私が何とかしないと!!」

 残された時間はとーっても短いです。でも私がいる間に、元通りにしないと! みんな笑顔が一番なんですから!
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/27(金) 23:08:33.93 ID:z/IdN2wF0
律子「あと7日か……」

 事情聴衆を終え、私はホテルの部屋で1人ボーっとしていた。本当に不思議な気分だ。5時間ぐらいのフライトなのに、ドアを開ければ10年後の世界。漫画じゃあるまいし。

 だからかな、残り一週間と言われても全くピンとこない。未だにドッキリじゃないかと疑っているぐらいだ。携帯を見ると、涼からのメール。何かあったら連絡して欲しい、か。ホント、大きくなったわね。

涼「律子姉ちゃん。僕、婚約したんだ」

律子「ええ!? 今ここで言われても……。まぁなるようにしてなるって感じだし、良いんじゃないの?」

涼「それと……、実は子供も……」

律子「……マジ?」

涼「マジ」

 桜井さんのお腹を見て言う。流石にそこまでとは思って無かったわ。涼と桜井さんの子供なんだから、男でも女でも可愛いんだろうな。想像するとにやけて来た。

律子「可愛い子になるんでしょうね。どっちに似たとしても」

涼「それってどういう意味!?」

 恥ずかしそうに笑う涼。隣の桜井さんはもっと恥ずかしそうだ。あれだけ鈍感だった涼も、ようやく踏み出したのか。10年と言う歳月がとても長く尊いものだと突きつけられた。

律子「なにが姉ちゃんよ。あんたの方が年上でしょうが」

 大きくなった男の背中は逞しく見えた。もう、私が知っているヘタレだった涼はどこにもいないのだ。嬉しく思う反面、寂しくも思う。
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/27(金) 23:09:53.69 ID:z/IdN2wF0
真「信じろって方が無理だよな」

 10年。オリンピックもワールドカップも2回ずつ行われている。日本はどうなったんだろう?

真「ははっ、何考えてんだろ、ボク」

 ドアの向こうには、10年の時を経た皆がいた。真美は本当に大きくなったし、千早も少しばかり大きくなっていたと思う、……72が73ぐらいには。
 でもボクの目を一番惹いたのは、かつて同い年だった雪歩だ。26歳というのに、守ってあげたくなるような可愛さは健在だ。きっとラフタイムスクールを着ても違和感はないだろうな。うらやましいや。

真「一週間しかないのは悔しいし怖いけど、残された時間は楽しまないと! ね、雪歩!」

雪歩「うん、そうだね……」

真「ん? どうかした?」

雪歩「ううん、なんでもない。少しだけ、真ちゃんが羨ましいの」

真「どういうこと?」

雪歩「10年ってさ、短いと思う? 長いと思う? 私は凄く長く感じたの。小説家としてデビューして、最初は結構う売れてドラマ化しけど、それは萩原雪歩の名前があってこそ。でもさ、今は書きたい話も書けなくなって」

真「雪歩?」
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/27(金) 23:11:21.24 ID:z/IdN2wF0
雪歩「正直今では後悔してる。小説家って、誰でもなれるんだよ? 死刑間近の死刑囚だって、ペンと紙があれば書ける、言っちゃえば人生最後に付くべき仕事なの」

雪歩「そんなのに20にも満たないうちからなって、今ではお金が欲しいから惰性で書いている。キラキラした日々も、いつの間にかくすんじゃって」

真「何言ってんだよ。今からでも取り戻せるだろ?」

雪歩「無理だよ。私もう26歳だよ? 四捨五入したら30だもん。もうあの頃みたいに輝くなんて出来ないよ。だから、真ちゃんが羨ましいな」

真「雪歩!!」

 正直ショックだった。10年という長い月日は雪歩から情熱や気力を奪い、あの頃のままのボクは、1人空回ってるみたいで。

 勿論こんなの嬉しくない! だって浦島太郎だよ!? 死ぬかもしれないぐらい怖い思いして、付いた先は10年後。それでもあの時よりはマシだ、この時代で生きていこうと決めたのに!! 後一週間でボク達は再び消える。どこに行くか分からないし、凄く怖い。

 だから雪歩の他人事みたいな態度が気に食わなかった。

真「君は、もうボクの知っている雪歩じゃないんだね……」

雪歩「ゴメンなさい。でもね、10年経つとこうなっちゃうんだ。干からびて、ペラペラで。風に吹かれたら飛んで行っちゃいそうなぐらい。あの頃に戻りたい、でも無理なんだよ?」

 ボクは、もう一度雪歩の輝いた顔が見れるのかな――。
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/27(金) 23:12:54.21 ID:z/IdN2wF0
響「なぁハム蔵、知らないうちにあずささんがねぇねぇになってたぞ」

 ロケから帰ってくると、時間が経っていて、あずささんとにぃにぃが結婚して、それで一週間後に自分達はまた消える。うぐぐ……、色々ありすぎて理解が追いつかないぞ。

響「家族の皆はどうしているんだろうな……」

 衝撃的なことが多すぎて、完全に聞き忘れていたが、みんな小さな頃からの仲間だ。もし10年間、餌も与えられず主人の帰りを待ち続けていたとしたら? 想像するだけでもぞっとする。

響「ハム蔵も消えちゃうのか?」

ハム蔵「キュ?」

響「そっか、ずっと一緒だもんな。ハム蔵だって乗客、例外は無いか」

 難しいことは分からない、貴音が言ってたことも何一つ分からない。でも、それは良い方向ではなく悪い方向へ向かっていることだけは分かった。

 そしてもう1つ、気がかりはある。美希のこと。あの場所で美希は姿を見せなかった。多分だけど、長い間苦しんできたんだと思う。プロデューサーと春香を引き裂いてしまったことを。そして今も、罪悪感に苛まれて――。

響「自分、何も出来ないのか? いやいや! なんくるないさー! くよくよしたって仕方ないぞ!」

 無理にでも自分をごまかし、明るく振舞う。どうなるか分からない、でも残された時間を大切に使いたい。そう決心すると、眠気が襲ってきた。

響「おやすみ、ハム蔵」

 朝起きたときに、これが全部嘘なら良いのに。そんなことを思いながら。
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/27(金) 23:15:57.78 ID:z/IdN2wF0
亜美「意味分かんないよ……」

亜美と真美はいつも一緒だった。兄ちゃんに悪戯する時も、レッスンする時も、一緒に泣いたり、一緒に笑ったり。それが当たり前だった。
 でも亜美が竜宮小町に入って、真美がソロで活動しだして、少しずつ別々の道を歩きだした時、事故っちゃって。外に出ると真美がメッチャ大きくなって、亜美はまだ小さなまま。

 思えば、中学に入った頃からそーだっけ。レッスンの後兄ちゃんに抱きつくのを嫌がったり、兄ちゃんの飲み差しを飲みたがらなくなって、変にお洒落を気にしだして。

真美『真美は子供じゃないかんね!!』

 おんなじ歳なのに何をいってるんだろ? って思ったけど、真美はホントに大人になっちゃった。亜美は子供のまま。永遠の13歳。

 亜美はまだ子供料金で誤魔化せるけど、真美はもう大人じゃん。お酒も飲んで、タバコも吸って、Hなビデオも見たり、もしかしたら彼氏だっているかもしれない。

真美「いるわけないっしょ? てかそんなの作る暇ないし……」

亜美「ほほう、言いますなぁ〜」

真美「はぁ……、私も13歳の頃はこんなんだったのかな。なんかいろんな人に謝りたくなってきた……」

亜美「真美……、ノリ悪いよ?」

真美「ノリで生きていけるほど甘くないの。真美はもう、大人なんだから……」

 アイドルを引退し、医者としての道を選んだ真美と、アイドルのままの亜美。ホンの少ししか違わないと思ったけど、それは嘘っぱち。全然違う。

亜美「どーしてこうなったんだYO!」

 真美は不憫とか言ってゴメンなさい。亜美の方が不憫でした。
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/27(金) 23:17:20.59 ID:z/IdN2wF0
P「なぁ、なんでいるんだ?」

春香「なんでって……、そりゃ合鍵持ってますもん」

P「いつの間に!?」

 鍵をクルクルと回し、悪いですかと言わんばかりの顔で言う。

春香「あー、言い忘れてました」

P「言い忘れたじゃない! ってホテルにいたんじゃないのか?」

春香「退屈なんで抜けてきました! ほら、言ってたじゃないですか。有意義に使ってほしいって」

P「お、おう……」

 今頃ホテルは大騒ぎだろう。これ、警察沙汰になるんじゃないのか?

春香「あっ、心配は要りませんよ? 伊織に便宜図ってもらいましたから」

 水瀬財閥、お疲れ様です。

P「なあ、今喧嘩中じゃなかったか?」

春香「へ? 喧嘩……、そうですよ!! 今春香さんはすっごく怒ってるんです! 早く謝ってください!」

 どうやら忘れていたようだ。怒った顔を見せるが、余り怖くなく、むしろ愛おしさを感じるぐらいだ。そんな顔が見せたくてわざ怒らせたこともあったかな?
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/27(金) 23:22:11.47 ID:z/IdN2wF0
 あの日も同じだった。美希が俺にちょっかいをかけて、春香が怒る。765プロでは半日常化した光景だった。

春香『節操なしのプロデューサーさんは死んじゃえばいいんです!!』

P『うわっ! 誤解だって!!』

美希『そんなことないの! 昨晩は一緒に寝たもんね!』

P『それは美希が勝手にベッドに入ったからだろ!』

春香『言い訳なんか聞きません! 私が誘惑しても反応しないくせに、美希にはするんですか!?』

P『い、いやそういうわけじゃないんだけど……』

春香『もう知りません! 美希と一緒に帰ったらいいじゃないですか! そのまま墜落しちゃえ!』

美希『春香も言ってるから、ハニーは美希と一緒に帰るの!!』

P『わっ、ちょ誰か助けてくれー!!』

 乗る飛行機がずれただけ、それだけだったはずなのに。402便は寄り道をしまくって10年たってようやく帰ってきた。もう二度と帰ってこないと思っていた

P「春香……、すまん!」

春香「わぁ!」

 でも奇跡は起こった。期限付きだけど、俺たちはもう一度この世界で巡り合えた。それだけは気まぐれな神様に感謝しておこう。
34 :書き溜め終わっちまった。 [saga]:2012/04/27(金) 23:32:20.83 ID:z/IdN2wF0
春香「く、苦じい……」

P「あっ、やり過ぎた、ごめん」

春香「ケホッ、限度ってものがあるでしょ!? もう、なんかプロデューサーさん私を抱きしめたら許してもらえると思ってませんか?」

P「足りなかったか?」

春香「いや、そうじゃなくて……。はぁ、考えたら私が5時間怒ってた以上に、プロデューサーさんは10年間謝るタイミングを逃してたんですよね」

P「そうだ。毎日夢の中のお前に謝罪してたよ」

春香「夢の中にも出てきたんですか?」

P「ああ、恨んでやる恨んでやるって耳元で囁いてくるからな」

春香「怖っ! いや別に恨んでませんよ?」

P「ははっ、冗談だよ、冗談」

春香「もう! 揄わないで下さい! あー、なんか怒ってたのが馬鹿らしくなりました。いっつもこうですよ、私が主導権を握れたことなんて一度もないし」

P「春香」

春香「なんですか?」

P「ヒョオオオオオオオ!」

春香「ぶふっ! 変な顔で奇声を発しないでください!」

P「ああ、これ今はやりの芸人バルログ君の持ちネタなんだけど……」

春香「まんまHGじゃないですか! しかも顔が面白いって……、あはは!」

 こうやって、笑いあえることができるんだから。
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/27(金) 23:38:19.29 ID:z/IdN2wF0
春香「千早ちゃん、大きくなってましたね」

P「何がだ?」

春香「胸ですよ、胸!」

 互いに並んで歯を磨きながらとりとめのない話をする。これまでのこと、今の流行、765プロのみんなの近況――。この時代に生きる俺たちには当たり前のことでも、過去からやってきた春香にとってはすべてが新鮮だ。いちいち大げさなぐらいのリアクションを見せる彼女がおかしくて、話を続けてしまう。座って話せばいいのに、20分も歯を磨いている。

春香「愛ちゃんも活躍しているんですね! あの時声をかけて良かったかな?」

P「今でも愛ちゃんは春香を尊敬しているよ。後お母さんの舞さんも健在だ。しかも現役アイドルだ。もうすぐ40なのに、あれだけのバイタリティを持っているのは素直にすごいと思うな」

春香「きっと死ぬまで続けると思いますよ?」

P「そろそろ勘弁してほしいんだけどな……」
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/27(金) 23:50:22.31 ID:z/IdN2wF0
 風呂から出ると、春香が俺のベッドでかわいらしい寝息を立てて寝ていた。

P「お疲れだろうしな。今日はゆっくり休んでてくれ」

 同じベッドで寝るのもなんか気が引けて、ソファの上に横になる。恋人同士ではあったが、実は恋人らしいことをほとんどしていない。相手はトップアイドルだからうかつな行動がとれないのもあるが、相手は16歳の女の子だ。結婚が出来る年齢とはいえ、それでも世間から見ると子供だ。対して俺は30過ぎのおっさん。10年間の間に、年齢は2倍になってしまった。

P「ってこれ親御さんは知っているのか?」

 今更ながら恐ろしいことを思い出してしまう。春香はホテルから逃げてきた、両親に何も言わず……。

P「俺まだ挨拶してないんだよな……」

 プロデューサーとして挨拶に伺ったことはある。その時は娘をよろしくお願いしますと言われた。萩原家に比べて平和的に終わったが、大切に育ててきた娘をどこの馬の骨かわからないようなやつ、それもプロデューサーという預かる身分の人間が手を出したのだ。キスもまだだが、親からしたら関係ないだろう。

P「どうか平和的に済みますように……」

 意を決して春香パパに電話する。恋人同士ということは伏せて、一時的に預かっていると説明しなければ。
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/27(金) 23:56:46.39 ID:z/IdN2wF0
P「ふぅ、怒られるかと思ったがそうでもなかったな……」

 結論から言うと、親御さんは俺と春香の関係を知っていたようだ。その上で、後7日しかないというのに、俺に預けると言ってくれた。その言葉はとても重い。

春香パパ『春香が最後に過ごしたいと思ったのは、悔しいですが私たちじゃなくて、あなたなんです』

 責任は重大だ。必ず1日は家族で過ごさせる日を作ると約束し、俺は電話を切った。手は汗でびっしょりだ。暑いからじゃない、むしろ冷や冷やしたぐらいだ。

P「後7日か……」

 時計を見ると、すでに1日が終わっていた。与えられた時間はとても短い。でもその中で、俺たちは最良の選択をし続けなければならない。

 サイコロは投げられたのだ。
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/28(土) 00:06:11.25 ID:NzeVi3pF0
「俺が会社に入ったのは、2011年。
 東北地方太平洋沖地震が起き、
 それを元気づけるかのように子役たちが台頭してきて、
 俺はニンテンドー3DSが気になって、
 入社式はドッキリという形でお披露目、
 そのあとの社長との飲み会で多少なりともはじけたことは覚えてる。
 若かった!
 そして2021。
 俺は、とんでもない出来事に遭遇した。
 かつて忽然と消息を絶ち、墜落したとされていた東洋航空402便が、
 再び姿を現した。
 10年前の姿のままで。
 再び姿を現した402便には、彼女もいた。
 彼女。いわゆる俺の彼女。ただし、10年前の。
 10年前の姿のままの彼女。元の姿のままの彼女。
 まさにモトカノ。
 つまり俺は、お恥ずかしいことに、モトカレ?」

8月20日。期限まであと7日
39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/28(土) 00:14:05.54 ID:M2Ycxese0
 微睡の中、ジュージューと何かを焼く音が聞こえる。それが妙に心地よい。目をうっすらとあけて、時計を見る。5時ジャスト。なんだ、まだ寝てても大丈夫じゃないか――。

P「5時ぃ!?」

春香「あっ、起しちゃいました?」

 瞼を開けると、目の前には最愛の少女。それはいい、昨日泊めたんだから。でもなんで勝手に朝食を作ってるんでしょうか? しかもこんな朝早くから。ラジオ体操だってやってないぞ?

春香「ごめんなさい、いつもの癖で早起きしちゃって……。で、でも! 早起きは三文の徳って言うじゃないですか! きっと良いことありますよ!」

P「100円もしない分の良いことか?」

春香「そんな安いんだ……」

 それぐらいなら寝ていたほうが建設的だと思うのは俺だけじゃないはず。
40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/28(土) 00:19:04.66 ID:ucw5Fp8K0
春香・P『いただきまーす』

 朝起きてトップアイドルの手料理が食べれる。なんと素晴らしい身分だろうか?

P「さすが春香。料理はドジらないよな」

春香「当たり前です! プロデューサーさんは何でもかんでもドジると思ってるんですか!?」

 黙って首を上下に動かしてやる。

春香「ちょっと人よりこけるだけじゃないですか!」

P「それをドジっていうんじゃないのか?」

 少なくとも俺の知っているドジの代表はマ目の前の彼女なんだが。

春香「それより、今日は美希に会えるのかな……」

P「ああ、美希には話せなかったが、今日はあいつも出勤だ」

春香「急に現れたらびっくりすると思うけどなぁ」

P「前もって教えたら、休みそうだったからな。逃げそうになるなら追いかけるさ」
41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(奈良県) [sage]:2012/04/28(土) 00:26:18.71 ID:cKumoGQH0
懐かしいな神サイ。支援
42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/28(土) 00:26:28.25 ID:oPrnATGo0
 朝のニュースを一緒に見る。やはりどの局も過去から飛んできた402便の話題で持ちきりだ。それでもアイドルにあまり話題がいかないのは、伊織がちょっくら働いてくれたってことだろう。本当に感謝してもし足りないぐらいだ。後で100%果汁のオレンジジュースを買っておくか。

春香「ジュピターまだ活動してたんだ」

 見るとニュースは終わり、芸能情報に移っていた。

P「ああ、未だに第一線で活躍している。俺たちの事務所も負けちゃいないがな」

春香「765プロって新しい子がいるんですか?」

 春香は興味津々といった顔で聞いてくる。

P「ああ、それも10年前以上に強烈なインパクトを持つ子たちだ。色物に見えるかもしれないが、実力はお墨付きだよ」

 ニート、巨大な乙女、堕天使……。特に売れっ子の三本柱は10年前ならあり得ない個性を持ったアイドルだ。水谷さんが若干かぶるけど。

春香「また会ってみたいなぁ」

P「先輩風でも吹かせに行くのか?」

春香「そんなことしませんよ!」

 やるわけないよな、愛ちゃんを見るに面倒見は良いし。
43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/28(土) 00:38:01.80 ID:M2Ycxese0
 いつもより早めに事務所についた俺たちを、昨日のメンバーが数名待っていた。

律子「最近の流行はこうなってるのね……。眼鏡アイドルの時代が来たかしら? もう一度女装アイドルする?」

涼「嫌だよ!」

響「そうか……、いぬ美たち死んじゃったんだな……」

あずさ「ごめんなさい。大切にお世話はしたんだけど、お医者さんは寿命だって」

響「仕方ないぞ……。10年も生きてたらそれは奇跡さー。あずささん、後でお墓参りに行きたいんだ。場所教えてくれる?」

あずさ「ええ、みんな響ちゃんが帰ってくるのを待ってたわ。ホント、良い子たちばっかで……」

響「なんくるないさー。自分が悲しんでたら、みんな成仏しきれないだろうしな」

春香「トップアイドルがいたのに殆ど変らないですねー」

P「おかげで狭くて仕方ないんだが……。いつでも帰ってこれるように、って社長の計らいだよ」
44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/28(土) 00:51:01.71 ID:M2Ycxese0
 アイドル達が帰ってくるのを誰よりも待っていたのは、他ならぬ社長だ。父親のように彼女たちをいつも遠くから見守っていた。事故にあってからも、社長はずっと待ち続けた。お金もあるし人も増えたから事務所も大きくした方がいいという声はあった。それでも、帰ってきた場所が彼女たちの居場所であるように、あの頃のままずっと事務所を守ってきたのだ。

やよい「なんも変わってません!」

伊織「本当にね。狭いんだからもう1つ事務所借りればいいのに」

千早「多分前みたいにだまされるのを怖がってるんじゃないかしら?」

雪歩「でもあの後黒井社長逮捕されました」

真「あー、やっぱ捕まったんだ……」

亜美「悪は滅びるんだい!」

真美「そーだね、滅びるね……」

小鳥「なんか疲れてるわね……」

真美「亜美ってこんなに腕白だっけ……。なんだろ、兄……、プロデューサーの気持ちが少しわかったや」

社長「仲良きことは美しき哉……。私はこの日を待っていたよ!!」

 変った者と、変らない者。双方入り乱れて少々カオスなことになっている。

律子「そういえば美希と貴音はまだなのね」

P「俺たちが早く来ているということも有るんだが……」
45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/28(土) 00:59:33.18 ID:oPrnATGo0
涼「それなんだけど、貴音さんは後で来るって。後そろそろ記者会見の時間だよ」

春香「記者会見?」

P「ああ、昨日の一件がただで終わるわけがないからな。1040航空は記者会見を開くことになっているんだ」

涼「はい。遺族会の会長さん、甲斐って方なんですけど、彼も参加されるそうです。事故の後率先して遺族会を組織して下さったんです」

 テレビでも見たかもしれないな。遺族会の代表として身を粉にして活動されていたと聞いている。弟さんが事故に巻き込まれたとのことらしい。

涼「この10年間、甲斐さんには非常にお世話になりました」

 そうこうしているうちに、1040航空の記者会見が始まった。
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/28(土) 01:08:12.15 ID:M2Ycxese0
『前代未聞のことであり、前例のないことでありまして、現在、調査中であるとしか、申し上げられません。』

 記者会見は記者からは特に突っ込んだことも聞かれなかった。そりゃそうだ、前例がない、調査中としか言えないんだから。原因の究明、乗客の社会復帰を約束する。しかし、俺たちはそれどころじゃないんだ。社会復帰する前に消えてしまうんだから。

甲斐『10年前402便が消息を絶ったときと同じようなことを言っています。前代未聞。前例がない。責任はどこにあるか。そう繰り返すばかりで、全力を挙げての支援というのは遅々として進まなかった。僕は大屋本部長に、いえ、東洋航空に対してどうしても不信感が拭えません。黛さんを除いては。遺族会を立ち上げようとした際、東洋航空の中で唯一味方になってくれた方です。黛ヤス子さん』

 テレビ越しからも伝わる、甲斐氏の静かな怒り。俺たちにもそれは伝わる。記者会見は甲斐氏の言葉に1040航空側が何も答えられず、記者会見はお開きとなった。

P「結局、何も分からずじまいか……」

 神様は一体何のつもりでこんな物語を俺たちに強制させているのだろうか? 感動のストーリーのつもりか? そんなもの、迷惑な話だ。
47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/28(土) 01:20:58.07 ID:ucw5Fp8K0
 お通夜状態の中、事務所のドアが大きな音を立てて開かれる。

美希「遅れてごめんなさい! 電車が遅れてしまって……」

 事務所にいた皆が入り口を見る。そこには黒い髪と、あの頃以上のスタイルを持つ事務員2号、星井美希がいた。

春香「美希!?」

美希「え? は、春香……」

 蛇に睨まれたみたいに、美希は怯えてしまう。

美希「そんな……、どうして……。はは……、あれマジックじゃなかったんだ」

春香「違うよ、美希。私たちはここにいる。これはマジックなんかじゃない」

 春香が美希へと歩み寄る。

美希「い、いやぁ!!」

律子「美希!!」

P「待つんだ、美希! すまん、追いかけてくる!」

 階段を走って逃げる美希を追いかける。追いかけて、逃げるふりをして……。相手はガチで逃げてるっつーの!!
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/28(土) 01:29:24.47 ID:ucw5Fp8K0
春香「行っちゃった……」

 美希とプロデューサーさんの追いかけっこ。今回は嫉妬しないでおく。ポカーンとしていると、開けっ放しのドアから客人が現れる。いや、私もお客さんみたいなものだけどね。

貴音「皆様、おそろいで。2人は先ほどすれ違いました。どちらも私の存在に気付いていないようでしたが……」

涼「貴音さん! 一体どこにいたんですか?」

 貴音さんは涼ちゃんの言葉を無視して、事務所へと足を進める。

貴音「今後の方針を話すと聞いていましたので。すこし準備に手こずってしまいまして、遅れたことはお詫び申し上げます。申し訳ございません」

春香「いや、こちらこそ……」

伊織「なんで春香も頭下げるのよ」

 自然と頭を下げてしまう。貴音さんにはこう言葉で表現できない何かがある。オーラというか存在感というか……。どこかずれた人だと思ってたけど、まさか学者になっているとは思ってもなかったな。
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/28(土) 01:39:06.15 ID:M2Ycxese0
貴音「一晩で昨日の説明をまとめました。いやはy、こんぴゅーたーといい、最近の電子器具は扱いにくくてたまりません」

春香「別にコンピューターは最新のものじゃないと思うけど……」

貴音「……昨日のおさらいですが、7日後、全てが元に戻ってしまいます」

 私の突込みは華麗にスルーされた。なんか悲しい。

真「それだけどさ、考えたんだけど消えないように何かに捕まっていたら良いんじゃないの?」

貴音「いえ、そういうことではありません」

真「だよね、うん。自分でもこれはないわーって思ったし」

貴音「あり得ない話と考えておられる方もいるかもしれませんが、実際に起きてしまった話です。これから何が起こっても驚かないぐらい、あり得ない話です」

 貴音さんは続ける。

貴音「この宇宙から、全ての物質が消滅したら、時間と空間のみが残るとかつては信じられてきました。しかし、相対性理論によれば、時間と空間も、物質と共に消滅する。分かりますか?」

やよい「わかりません。私馬鹿なのかな……」

 大丈夫、私も分からないから!
50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/28(土) 01:46:10.42 ID:M2Ycxese0

貴音「お渡しした紙を見てください。こっちが時空A、こっちが時空B、本来なら、隔絶しているはずの時空Aの一部が時空Bにはみ出した。しかし、時空の復元力により、元に戻る。こう言えば分かりやすいでしょうか?」

亜美「お姫ちんの話難しくて分からないYO!」

律子「乱暴に説明すると、ゴム風船みたいなものなんじゃないの?壁に開いた穴から風船膨らまして、パッと放すと元に戻るでしょう? 時空からはみ出したものが元に戻るっていうのは、そういう感じをイメージするとわかるんじゃないかしら」

亜美「うーん、さっきよりは分かりやすいかな!」

貴音「がーん」

 律子さんの説明でなんとなく理解した。貴音さんは自分の分野を奪われたようで、少し悔しそうな顔をする。

雪歩「つまり、消えるっていうのは、元の時間軸、元のあるべき場所に戻るっていうことでしょうか?」

貴音「そう捉えていただいて構いません。それがどこに行くかわかりませんが、おそらく402便もろとも消滅するのではないかと思います」

伊織「ホントイリュージョンみたいな話よね……」

 ドラマ化映画にしたら面白そうな話。でも私たちはキャストとしてここにいる。出来れば、テレビの中だけで終わらせてほしかったかな。
51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/28(土) 01:52:36.58 ID:NzeVi3pF0
響「なあ、10年前のものは全て消えるって言ったよな。じゃあ服は? 自分たちが機内で着ていた服はどうなるんだ?」

貴音「例え焼いたとしても、元の時間軸に戻る過程で、再構成されます」

春香「じゃ、今着てる服は?」

貴音「元に戻る際、その場に残ります」

 それってつまり……。

真「裸になるの!?」

 全裸系アイドル誕生です! イエイ! ……最悪だよ!!

春香「さすがに恥ずかしいかな……」

貴音「いえ、正確には現れたときの服装になって消えるということでしょう」

やよい「い、いつ着替えるんですか?」

貴音「瞬間的に移動して……」

律子「じゃ、瞬間的に裸になるわけ?」

響「うがー! どうしたらいいんだー!」
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/28(土) 01:58:51.50 ID:NzeVi3pF0
貴音「細かいことは気にするまでも有りません。それは不毛な会話です」

真「どうして!?」

伊織「答えられないからじゃないの?」

貴音「いえ……、議論をしたところで意味が有りませんから」

 貴音さんは悔しそうな顔をする。それは律子さんの方がちゃんとした説明ができたときじゃなく、昨日と同じ顔。8日間の期限を宣告した時と同じような苦しそうな顔。

貴音「記憶も消えてしまう。つまり、この世界に起きたことは、乗客の記憶には一切残りません」

涼「それって、奇跡の出来事は、僕たち残された人しか覚えてないってこと!?」

 貴音さんは肯く。

真「え、ちょ、ちょ、ちょっと待って。それって、ボクそのもの、が?」

貴音「ええ、何もかも消えてしまいます」

やよい「それは……私死んじゃうんですか?」

貴音「私の理論上では、そういうことです」

 それじゃあなんで助かったの、私たち?
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/28(土) 02:11:38.23 ID:ucw5Fp8K0
亜美「で、でも! お姫ちんじょーだん好きだし! マヤの予言も外れたんだから、これも外れるって! ね?」

 亜美は無理にでもポジティブな方向へと持っていこうとする。この中で一番年下で、ずっと一緒にいたはずの真美と離ればなれになって、ようやく再開したのに、消えてしまう、それどころか私たちはここに帰ってきたことを忘れてしまう。それはあまりにも残酷な話。

 でも亜美の願いも虚しく、貴音さんは続ける。

貴音「いいえ、亜美。外れる可能性はゼロです」

亜美「じゃあ、じゃ、亜美たちどうして助かったの? あの時、メッチャ怖い思いをして、何のために10年後の世界に来たの? 意味ないじゃん! 結局死んじゃうなら、ここにこうしていることだって、無意味じゃん!!」

真美「亜美!!」

亜美「ゴメン、少し落ち着かせて……」

 亜美は泣きながら部屋を出る。私たちは彼女に、何も声をかけることができなかった。

貴音「あいんしゅたいんの言葉に、こういう言葉があります。神はサイコロを振らない。我々人間は、神のそれを受け入れるしかないんです。もうどうしようもないんです……」

真美「違うよ、お姫ちん」

貴音「真美?」

真美「亜美はどうしようもないからって、諦める子じゃないから。亜美はそんなヤワな女じゃないんだから!」

 ここにいない亜美にも聞こえるように、真美は大声を出す。ドアの外には、誰もいない。

真美「ゴメン、ちょっと探して来るね。亜美のことを1番分かってるのは真美なんだから……」

 そういって真美は駆け出す。不安がいっぱいで仕方がない、たった一人の妹のもとへ。
54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/28(土) 02:21:34.12 ID:NzeVi3pF0
涼「えっと、良いですか? 遺族会からも有るんですけど……」

 貴音さんの話が終わると、涼ちゃんがおずおずと手を挙げる。

涼「この場にはいませんが、会長の甲斐はこう言うでしょう。残された時間を遺族会会長として、彼らの時間が限られたものであるなら、かけがえのない時を過ごしてほしいと思っているだけ、と。起きてしまってからじゃ遅いです。だからこそ、今乗客として402便に搭乗していた皆様の望みを出来るだけ叶えたいんです。それが甲斐の願いですから」

律子「望みね……。そうね、どうせ消えるんなら、悔いなく消えたいわね。記憶に残らなくても、やり残したってのは気分が良いもんじゃないわ」

涼「幸いまだ日は有ります。事情が事情ですから、大体の願いは通じると思います。たとえば……」

涼「生っすかを復活させるとか。武田さんの力も借りることになると思いますが、快く協力してくれると思います」

 生っすかサンデー。私たち765プロ全員が出た最初の番組。あの頃は楽しかったなぁと感傷に浸ってみたけど、よくよく考えたら、私たち消えた組からすると収録自体数日前なわけで――。

涼「これはあくまで一例です。ですが、僕たち遺族会はできるだけの協力をしたいと考えています」

やよい「えーと、なんでもいいんですよね?」

涼「ええ、なんなりと」
55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/28(土) 02:30:28.87 ID:M2Ycxese0
やよい「えっと、私のお父さんを探して欲しいかなーって」

涼「お父さん? ああ、そういうことですね……」

 プロデューサーさんから聞いた話によると、やよいの両親は離婚したみたい。やよいからしたら寝耳に水だっただろうな。誰よりも家族を大切にしていたやよいらしい望みだと思う。

涼「分かりました。責任を持って、捜索いたします」

伊織「私も手伝うわ。遺族会だけじゃ出来ることが限られてしまうでしょうし。スポンサーにつくわ。私たちだって遺族みたいなもんだし」

涼「助かります。それではやよいさん、お父様の写真はございますでしょうか?」

 てきぱきと行動する涼君を見て感心する。女装アイドルなんてことをしたからか、それとも芸能界に一度大喧嘩を売ったからか、最初のころの印象と全然違う。可愛いじゃなくて、格好いい大人になったんだ。

やよい「ありがとう、涼ちゃん、伊織ちゃん」

涼「いえ、これも皆様のためですから」

伊織「別にいいわよ。好きでやってんだし。それに、あんたんとこの長男、長介がいつまでもふてくされてるのが気に食わないのよ。確かにやよいの父上殿は弁解しがたい行動をとったわ。本を売るだけならまだしも、その金でギャンブル。離婚してから消息も取れてないみたいだし……。娘の非常事態に何やってんだか」

 涼ちゃんと伊織という強力な助っ人を得て、やよいのお父さん捜索は始まりました。
56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/28(土) 02:31:29.95 ID:M2Ycxese0
ここまで! 今日は寝ます。この後もドラマをなぞったりオリジナルだったりしながら書いてこうと思います。
読んでくださった方、ありがとうございます。
57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/28(土) 07:19:49.63 ID:1ydNbWbSo
面白そうなドラマだね
今度みてみよう
58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/04/28(土) 08:58:07.86 ID:cBYc8zkHo
ラストまでどうオリジナルを盛り込むか期待
59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/28(土) 09:26:23.62 ID:M2Ycxese0
投下します。

P「見た目が変わっても、やっぱり美希は美希だな」

 思った通りだ。池を泳ぐ鴨を見ながら、静かにたたずむ美希を見て、少しホッとする。

P「御嬢さん、暇なら俺と、お茶しない?」

 字余り。川柳のようなリズムで声をかける。

美希「え? なんだ、プロデューサーか……」

P「なんだとはご挨拶だな。そこの人よりかはましだけどさ」

美希「そういやそう呼んでたことも有ったっけ? かなり昔だけど」

 素晴らしい才能を持ちながらも、初めて会った頃の星井美希はアイドル活動に本気になることが出来ずにいた。マイペースに現場を掻き乱し、その度に俺が頭を下げに走った記憶がある。今となっちゃいい思い出だ。

美希「10年ってさ、長いよね……。カモ先生も死んじゃって、今は二世が泳いでるんだ。変ったのは私だけじゃないの。みんなみんな、変っちゃった」
60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/28(土) 09:42:00.54 ID:NzeVi3pF0
 美希は寂しそうに言う。

美希「けど変わることは決して悪いことではなくて、良い方向に転ぶことも有る。でもさね、私は奪っちゃったんだよ? 仕方ないって言ったら律子さん達に怒られそうだけど、春香は違った。本当に消えるべきは私だったのに……。私知ってるよ? プロデューサーが春香に指輪渡そうとしていたこと」

P「美希……」

 指輪、それは言ってしまえばエンゲージリング。あれだけ16歳だから――、なんてことを言ってたのに、実のところ俺は春香を手放したくなくて仕方がなかった。

美希「ごめんね、あの日部屋に入ったとき見つけちゃったの。プロデューサーが本当に春香を大切にして、愛してるって証拠を。それが悔しかった。未練がましいって言っちゃえばそれまでなんだけど、昔の私は本当に馬鹿だった。あわよくば春香から奪おうとして、取り返しのつかないことをしてしまったの。そんな私が春香に会う資格なんて……」

P「落ち込んでるところ悪いが、会う資格ってのはな、美希が決めることじゃない。相手が決めることなんだ」

美希「え?」

P「昨日さ、春香心配してたんだ。美希がアイドルを引退したのって私のせいじゃないかって」

美希「違う! 春香は悪く……」

P「なら本人の前でそう言ってやってくれ。そうすれば、少しは美希が背負った苦しみも晴れるんじゃないかな?」

美希「……そうだね、いつかはちゃんと向き合わなくちゃって思ってた。けど逃げてたの。超常現象を言い訳にして、後悔したまま生きようとしていた。でもそれじゃダメだもんね、春香たちが帰って来たのは、神様が私にもう一度向き合うチャンスをくれた。そう思うとね、全部蹴りをつけなくちゃって思って」

P「そうか。なら帰ろうか」

美希「うん、ちゃんと謝らなくちゃ」

 悪い方にばかり進ませはしない。これは俺たちにとっても、春香たちにとっても最後のチャンスなんだから。
61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/28(土) 09:51:33.57 ID:oPrnATGo0
真美「13歳か……」

 逃げた亜美を探しながら、ふと10年前を思い出す。あの頃の私は、亜美と一緒にやんちゃを繰り返していた。兄ちゃんことプロデュ−サーにどれだけの迷惑をかけたか、思い出すだけで申し訳なくなる。すみません、あのころは若かったんです。大人になるにつれて、少しずつ落ち着きだして、今では親の病院を継ぐために医者の勉強中、あの頃の私は馬鹿キャラだったのに。これも進研ゼミのおかげかな? まあそれは冗談として、人生というのはどうしてかな、何が起こるか分からないものだ。同じ日、同じ母から生まれたはずなのに、私は男も逃げてく医大生、かたや妹は13歳のままこの時代に舞い降りた。相も変わらずやんちゃな妹を見て、なおさらすまない気持ちでいっぱいだった。765のみんな、各種関係者の皆様、私双海真美は馬鹿でした。今になってよーく分かりました。

真美「亜美の行きそうなところ……」

 亜美の行きそうなところを検索する。

真美「やっぱあそこっしょ!」

 根拠はない、しいて言うなら、私は亜美の姉で、亜美は私の妹だから。それで十分っしょ?
62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/28(土) 10:02:02.82 ID:M2Ycxese0
真美「ホントにいたよ。双子恐るべし……」

 私の見立ては間違ってなかったみたいだ。亜美は辛いことがあると、いつもここに来る。あまとうこと天ヶ瀬さんに負けた時も、亜美は1人ここで泣いていた。そういや私にとっては10年前のことでも、亜美からしたら去年の話なんだね。

真美「お嬢さん、暇なら俺と、お茶しない?」

亜美「え?」

 声を低めに、ダンディさを演出。

亜美「何やってんの。全然渋くないよ?」

真美「うっ、素で返されるときついものがあるね……」

 出鼻をくじかれた私を、亜美は面白くなさげに見る。

亜美「亜美さ、分かってはいるよ? お姫ちんも損な役回りをして、亜美たちのためを思っての行動だってこと、中学生でも分かるって」

真美「亜美……」

 本来なら誰も責めることが出来ない事象だけど、お姫ちんはわざと貧乏くじを引くような真似をした。それは誰かがしなきゃいけないことなんだけど、偉い学者の先生でも、航空会社の人でもなく、元アイドルの准教授が全てを背負った。当然お姫ちんも辛いはずだ。かつての仲間に死刑宣告を下したようなものだから。ああ、数年後私も似たようなことをするのか。
63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/28(土) 10:13:21.43 ID:M2Ycxese0
亜美「分かっているけどさ、納得いかないんだ。どうして亜美は消えちゃうんだって。頭では理解してるけど、理解したくないっていうか」

 13歳の小さな体に、その事実は残酷すぎた。これはドラマでもなんでもない、紛れもない現実なんだ。

真美「でもさ、今日死ぬわけじゃないじゃん。まだ7日もある。お姫ちんもそれまでに何かしてくれるよ!!」

 励ますように、明るく務める。

亜美「真美はわかんないんだよ! 事故にもあってないし、消えちゃわないから!! 怖い思いもしていないし! だからそんなこと言えるんだよ! 真美達に亜美の気持ちが分かるわけないよ!」

真美「分かるわけない? そっちも分かんないでしょうよ! 残されたみんながどれだけ不安だったか! 知らないでしょ? 亜美が事故にあった後、お母さん食事が喉も通らないほど憔悴しきってた! 世界が終わったみたいな顔をしていた! お父さんだってそう! 見てて痛々しいぐらいだった!! 私たちの気持ちが亜美にわかるわけないでしょ!?」

 ぶつかり合う感情。あれ、姉妹喧嘩なんていつ以来だろ……。最後にしたのはプリンを食べられたと勘違いした亜美が真美に怒ったんだっけ。結局犯人はお父さんだったけど。仲良し姉妹で通ってたから、当時の双海姉妹を知る人が見たらびっくりするんじゃないかな、これ。
64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/28(土) 10:22:21.78 ID:ucw5Fp8K0
亜美「真美の頓珍漢!!」

真美「と、頓珍漢!? 言ってくれたなこのペチャパイ!!」

亜美「は、発展途上だもんね! 千早お姉ちゃんよりはあるし!」

真美「千早お姉ちゃん……、あははは!!」

亜美「何がおかしいのさ!」

真美「亜美、実は千早お姉ちゃん、サイズが上がったんだよ?」

亜美「嘘! エターナル・セブンティツーが!?」

真美「といっても73に変わっただけだけど」

亜美「Oh…」

 本人は気にしていないと言っているけど、バストが1上がったらしいときは、喜びのあまりアメリカの自由の女神にのぼろうとしたらしい。日本でも少し話題になったっけ。

亜美「なんか千早お姉ちゃんのこと思うと、イライラしてたのも馬鹿らしくなってきたや。ゴメンね、真美。辛かったのは、亜美たちだけじゃないんだね」

真美「ううん、こっちこそゴメン。なんかさ、自分に酔ってた」

 不幸な目に合う妹を助ける姉、三文脚本もいいとこだ。

亜美「少しすっきりしたかな、もう大丈夫」

真美「そっ、んじゃ戻りますか」

 ほらねお姫ちん、私の妹はこんなことでひるまないって言ったっしょ?
65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(熊本県) [sage]:2012/04/28(土) 10:50:42.26 ID:ABcw9usWo
原作とドラマでオチが違うんだっけ
66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/28(土) 10:54:30.70 ID:ucw5Fp8K0
亜美「復活したよー!!」

真美「元気になったらこれなんだから……。子守がどれだけ大変かよーく分かりました。小児科だけは辞めとこ」

 しばらくすると、亜美と真美が帰って来た。吹っ切れたような顔を見るに、どうやら真美の言ったことは正しかったようだ。

律子「後はプロデューサー殿と美希ね……。大丈夫かしら?」

春香「大丈夫です! だってプロデューサーさんですから!」

律子「理由になってないわよ。まっ、でもそう言われたら大丈夫な気がしてきたわ」

 根拠はどこにもないけど、彼なら大丈夫、きっと上手くやれる。そう信じてやまないのです。

P「ただ今戻りました!」

美希「……」

 亜美たちが戻ってきてから10分もしないうちに、プロデューサ−さんたちも帰ってきました。美希は私たちの方を申し訳なさ気に見たけど、意を決したように口を開く。
67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(奈良県) [sage]:2012/04/28(土) 12:24:23.89 ID:cKumoGQH0
>>1難航してるのかなww
支援。ゆっくりやればいいと思うよ。
68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/28(土) 12:36:14.50 ID:ucw5Fp8K0
>>66 うん。ドラマはなんとなく覚えてるけど、原作どこにも置いてない……。

美希「今まで逃げててごめんなさい。みんながいなくなったって聞いたとき、私すっごく後悔した。最後までわがままを言って、結果春香が私の役割を受けて……」

 苦しそうな顔を見せる美希。きっと彼女は、私がずっと許さないままでいると思っているんだ。私にとっては24時間ぐらいの話でも、美希は10年間、ずっと一人で背負いこんできた。誰かに言えるわけでも無く、ただ自分で自分を責め続けて。

春香「もう、十分だよ」

美希「はる……か」

 自分でも無意識のうちに、私は美希を抱きしめていた。暖かな体温、リズムを刻む鼓動、ああ、私はここに生きているんだ。

春香「美希は十分苦しんだよね? でももう大丈夫、私はあなたを赦すから」

美希「そんな……」

春香「良いの。これは偶然でもなんでもない、必然なんだから。私はプロデューサーさんに選ばれたけど、神様は美希を選んだ。それでおあいこだよ」

美希「春香!!」

 そう、それで良いんだ。たとえこの記憶ごと私が消えたとしても、美希はあの日のままの笑顔になるんだから。
69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/28(土) 12:47:32.38 ID:oPrnATGo0
>>67 ゴメン、書き溜めまでは良かったけど、続きかなかなか書けない。

P「選ばれたか……」

 そんなわけはない。美希が俺に選ばれたとしても、春香のことだ。きっと席を譲るに決まっている。

春香『美希と一緒に帰ってください! 私はもう少しお土産見ますから!!』

 そんなことを言いながら。でも俺は悲しんでいられない、春香も亜美も、辛い事実を自分なりに受け入れたんだから。残された人間が、悲しんだままだと彼女たちに顔向けができないからな。

律子「全員揃ったわね。それじゃあさっきの続きといきましょうか」

P「さっきの続き?」

律子「あー、そう言えば美希を追っかけたからいませんでしたね。亜美真美にも説明しなきゃいけないか。涼、あんたから説明お願い」

涼「あっ、うん。えっと僕たち遺族会からの提案なんですけど……」

 涼君の話はこうだ。残された期間を有意義に使ってほしい、社会復帰もそうだけど、7日間を悔いの残らないような日々にしてほしいという遺族会からの願い。美希は春香たちが再び消えること、記憶も消えて奇跡は俺たち遺族にしか残らないという事実を黙って聞いていた。なんとなく覚悟はしていたんだろう、取り乱すことなく、涼君の話に耳を傾けた。

美希「ねえ貴音、これはどうしようもないんだよね?」

貴音「ええ、現段階では。しかし私も出来る限りのことはするつもりです。神はサイコロを振りません、でも私たち人間はサイコロを振れるんです。限りなく0に近くても、皆様が消えゆく刹那までに、この消滅を食い止める方法を探していきたいと考えています」
70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/28(土) 12:55:34.41 ID:oPrnATGo0
 貴音の静かな決意に心が引き締まる。皆の思いを無駄にしたくない。そのためにも俺が出来ることをしないと……。

 あれ、俺何が出来るんだろ? 頭脳労働は貴音、遺族関係は涼君と伊織、俺の出る幕がないんじゃないか?

春香「そんなことないですよ、プロデューサーさん!」

P「うわ! 心を読んだのか!?」

春香「ええ、タイムスリップと同時にエスパーに目覚めました! もちろん嘘ですけどね」

 春香はニヒヒと悪戯に笑う。

春香「プロデューサーさんは私たちの支えなんです。私たちが何でも相談……、そりゃデリケートな話題はNGですけど! 言っちゃえばカウンセラーなんですから。それもいるだけで効果があるスーパーカウンセラーです!」

P「なんじゃそりゃ」

 まあ、意味はいまいち分からないが、求められてるってことだろうか?

 その後は方針を話し合い、入用になれば涼君に連絡する、という形で話が終わった。現段階で出ているのは、やよいの父の捜索、生っすかの復活、そして……。
71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/28(土) 13:00:46.05 ID:ucw5Fp8K0
涼「僕の結婚式!?」

律子「当たり前でしょ。あんた達のことだから、どうせ私が幸せになれなかったのに自分たちが幸せになっていいのかって思ってるんでしょ? 良いに決まってるじゃない」

涼「で、でも急な話じゃ……」

律子「遺族会は遺族の願いを聞いてくれるんじゃなかったけ?」

涼「うう……、そりゃ僕も夢子ちゃんと結婚したいよ? でも式場がとれるか……」

伊織「それなら大丈夫よ。世の中には親友の死刑執行に間に合わせるため、妹の結婚を速めた猛者だっているんだから」

涼「それはメロスでしょ〜!!」

伊織「まぁ安心しなさいな。少し便宜図ってあげるわ」

律子「話が早くて助かるわね」

涼「ぎゃおおおおおん!!」

 奥さんのいない間に結婚式の話が進んでいく。さすが涼君、歳を取ろうとも、律子には勝てないように設定されている。

小鳥「ブーケはもらうわよ!!」

 もう一人乗り気な人がいた。

教習とバイトで夜遅くまで帰ってこれません。再開はその辺で。
72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/28(土) 18:17:53.66 ID:xEeOVqBDO
期待

原作は後味悪めにあっさり終わって、ドラマはハッピーエンドっぽく見せたかったんだろうな、って印象
どっちも見たのは随分前だから、なんとなくだけども
73 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2012/04/28(土) 22:27:39.35 ID:xblThZUh0
携帯からちょっと投下。

春香「生っすか24時間って頑張りましたね…」

P「流石にそこまでやるとは思わなかったな…」

そう。無理を通した結果、生っすかを24時間放送すると言う暴挙に出たのだ。実はあの頃から、765プロで24時間テレビを! と言う声は有った。しかし年齢的な問題からか、そこまでの力が無かったからか、実現することは無かった。今は半分以上が18歳以上だが、それでも一部のメンバーは途中退場しなければならない。と言うことで、24時間耐久響チャレンジはお蔵入りになってしまった。

響「流石に一日丸々は無理だぞ!!」

完璧娘でも無理なものは無理らしい。そりゃそうか。
74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2012/04/28(土) 22:44:13.22 ID:xblThZUh0
そしてもう1つ。これは恐らく誰もが望んだことだろう。

765プロサヨナラライブ。消えることを運命付られたアイドル達の、最大にして最後の願い。俺としても最後に大舞台に立たせて、ちゃんと引退させたい。

しかし、現実として可能だろうか? 涼君はこう言う。

涼「場所の確保は何とかなると思います。武道館ほど大きいのは難しいと思いますが、それでも皆様が満足する舞台を提供しましょう。ですが、それを行うには解決しないといけない問題が有ります」

真「問題?」

涼「はい。402便に乗られた方は、体感として一晩過ぎたぐらいでしょう。しかし、残された皆さんは違います。歌手として活動している千早さんを除いて、皆様既に引退されて第二の人生を歩んでおられます。1週間、いやそれよりも短い期間で10年間のブランクが何とかなる保証は有りません」
75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/29(日) 00:14:05.10 ID:k1OC4Iwt0
 涼君が言うことも最もだ。あずさんさんは2人の子供がいるし、他のみんなもアイドルを離れて久しい。唯一活動している千早も、

千早「いや、私は歌手一本に転向したから、ダンスとビジュアルに関してはみんなと同じぐらいのブランクがあるわ。ごめんなさい」

春香「千早ちゃん……」

 よくよく考えたらそうだ。ここにいるのは、よみがえったゾンビアイドル、ゾンドルと、現役歌手、主婦、医大生、小説家、OLというかつての輝きはどこへやら、それぞれ別々の道を歩みだした元アイドル。ライブを開こうにも、まず体力を取り戻さないといけない。本来なら何ヶ月もかけて調整するのだが、今回ばかりはそんな悠長に待っていられない。

涼「もちろん僕達も出来る限りのお手伝いをします。これは遺族会というよりかは、同じステージで歌い踊ったかつての仲間としての立場になりますね。きっと愛ちゃんや冬馬君も力を貸してくれると思います。ですから、あとはみなさんの気持ち次第かと」

春香「私は……」

 春香のことだ、私はやりたいと言いたかったんだろう。しかしそれは、かつての友人の言葉で遮られる。

雪歩「ごめんなさい、私には出来ない」
76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/29(日) 10:10:27.36 ID:yJun0COF0
真「雪歩……」

雪歩「だってそうでしょ? 私はもうアイドルじゃないんだよ? それに……、みんなの記憶が消えちゃうなら、やったって虚しさが残るだけだと思うの。その時のことを話せる人はもう隣にいないんだよ?」

 雪歩は涙ながらに語る。

雪歩「それに今からやったって間に合うのかな? 私鈍いのみんな知ってるでしょ? それにアイドル辞めてからほとんど動いてないし……」

真「でも!」

雪歩「ゴメンみんな。私もあのころとは違うの。今の私はアイドルじゃなくて、しがない小説家。生っすかはまだしも、日陰者にはライブなんて出る価値ないよ。お願い、私に期待しないで……」

 私に期待しないで。それは……。

伊織「あんたまだあれを引きずってるのね」

雪歩「忘れるなんてできないよ。引退ライブで大きなミスをしたんだよ? 最後の最後までダメダメで、みんな私なんか望んでないの」

 雪歩の引退ライブは、お世辞にも成功したといい難い。それでもファンのみんなは、彼女の引退を惜しんだのだが、その声も雪歩には届かなかったのだろうか?
77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/04/29(日) 16:36:33.42 ID:bvvjTPBFo
面白い 待ってるよ、
78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/01(火) 03:55:44.13 ID:Cf/x70vIO
うまいな
79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2012/05/01(火) 23:01:55.27 ID:qzhsdSF7o
まだかな?
80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/02(水) 02:55:47.50 ID:MT6Pl/dl0
1です。元ネタが非常に良く出来ているので、いじるのもとても難しいんです。少し難航していますね。ふらっとあらわれて1レス、ってなるかもしれませんが、気長にお待ちいただけたと思います。ごめんなさい。


雪歩「だからゴメン……」

真「違うよ! そんなの僕が知ってる雪歩じゃ……」

雪歩「真ちゃん、何度も言わせないでよ……。10年間、忘れようとしてきたのに……」

真美「ゆきぴょんの言うことも最もだよ。まだ私は若いけどさ、あずさお姉ちゃんは……」

あずさ「若くないって言いたいのかしら?」

真美「ひぃ! そ、そんなんじゃないよ! 子供もいて、こっちに費やす時間がないんじゃないかってこと!」

 あずささんが見せた鬼のような表情。あれはトラウマもんだな。年齢の話はしないようにしよう。

小鳥「どーせ私は40で未婚ですよ! ああもう、リア充死ねー!!」

 この人もいるんだし。

あずさ「ううん、子供がいるからこそ、私もう一度舞台に立ってみようかなって思うんです」

響「あずささん?」

 それは意外な答えだった。あずささんはライブにも乗り気なようだ。

あずさ「私の子供たちって、実際にお母さんがアイドルをしていたところを見てたわけじゃないんです。だからってことでもないんですけど一度ぐらい、あの子たちの前でアイドルしてみようかなって思えたんです。たぶん、舞さんもこんな気持ちだったんじゃないでしょうか?」
81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/02(水) 03:06:12.92 ID:dHupMuBD0
 あずささんの決心に言葉をなくす。

雪歩「あずささんは強いんですね……」

あずさ「ええ、子供を産んだら、嫌でも強くあろうと思ってきますから。そうでなきゃ、叱れませんから」

美希「ねえ雪歩、どんな嫌なことでも、忘れようとしちゃいけないんだと思う」

雪歩「美希ちゃんは私に苦しんでって言うの?」

美希「違うよ。私も十分苦しんできたし、そんなことを強いる気はないよ。でも、雪歩は逃げているだけだよ。あの頃の自分からも、忘れようとしてた10年前からのみんなからも。私はもう逃げないって決めたの。だってさ、記憶も何もかも無くなっちゃうのに、みんな前向きに今を生きようとしているんだよ? だったらさ、私たちもそれに応えないと。じゃないと、私たち死んでないだけの人間になっちゃうから」

雪歩「死んでないだけ? ゾンビみたい」

美希「いいや、ゾンビみたいに這い上がることも出来ない、呼吸をしているだけの空っぽな抜け殻だよ。今の雪歩はそう見えるな」

雪歩「空っぽかぁ。そうだね、私は空っぽなの。何にもない、価値のない空っぽな箱」

真「でもさ、空っぽな箱なら、いくらでも入れれるよね」

美希「これから取り戻したらいい、違う?」
82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) :2012/05/05(土) 15:09:46.20 ID:uoffsRy+o
私待つわ
83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2012/05/05(土) 17:21:51.21 ID:10Q9ZATuo
3日なら待つわ
84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/05/09(水) 13:53:45.52 ID:oO9tjxHdo
そして1週間が経過した…
85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/05/11(金) 20:18:44.80 ID:yUDX0I4ro
それでも土日になれば
86 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/13(日) 22:17:33.46 ID:DaZTg45h0
遅れてしまい申し訳ございません。1です。少々ごたついていて、こちらに来れませんでした。続きですが、少しずつ書いていきます。本当にお待たせして申し訳ございませんでした。
87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/13(日) 22:30:20.88 ID:DaZTg45h0
 空っぽな箱――。よほど人を指すと思えない言葉だ。

雪歩「いくらでも入る、か……。みんな、気軽に言い過ぎだよ……」

真「そんなつもりじゃない!!」

 どこまでも後ろ向きな彼女に、真は声を張り上げる。しかし届けたい相手は、未だに前を向こうとしない。

雪歩「そうだね、今度の作品はそれで行こうかな。空っぽな人間に、周りが希望を与えていくの。でもね、最後の最後で、それは絶望へと変わる。逆パンドラの箱ってやつかな?」

美希「難しいこと言って逃げるの?」

雪歩「難しくなんかないよ? だって、真ちゃんともう一度お別れしないといけないんだよ!? その日のために今までのブランクを埋めて、やり遂げたとして……」

真「雪歩!」

雪歩「真……、ちゃん?」

あずさ「あらあら」

小鳥「懐かしい光景ね……」

 震える雪歩のちんちくりんな体(本人談)を、強く抱きしめる真。雪歩は驚きを隠せていないようだ。
88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/13(日) 22:43:20.99 ID:JIVFk91p0
雪歩「やめてよ、もうそんな歳じゃないのに……」

真「知らないよ、そんなこと。ボクが抱きしめたいから抱きしめてるんだ」

雪歩「そういうの、いまどき携帯小説なんかでも言わないよ?」

真「うっ、臭かったかな……」

雪歩「他の女の子に言ってごらんよ。みんな、真ちゃんのことを好きになっちゃうから」

真「雪歩は違うのかい?」

雪歩「昔らから好きだったよ? 私にとっての王子様だったから……。どんなときも隣にいてくれて、ずっと一緒にいると思ってた。お互いに結婚しても、お年寄りになるまで一緒だと思ってた。そう願ってたの」

真「……ゴメン、雪歩」

雪歩「真ちゃんが謝ることじゃないよ」

真「ボクは、雪歩が羨ましかった。どこまでも女の子で、守ってあげたくなるような可愛さを持ってて。ボクなんか、いつも誰かを守る方だったから。でも今、ボク達は守られる側になっている。消えてしまう未来から、ね。そうでしょ?」

貴音「ええ、変えることが出来るか。非常に確率は低いですが、幸いまだ時間は有ります」

真「1週間あればできる、よね?」

貴音「これはこれは……。ぷれっしゃあを感じますね」
89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/13(日) 22:57:27.72 ID:DaZTg45h0
 貴音はおどけて答えるが、その瞳からは強い決意を感じる。そうだ、こいつらはまだ諦めちゃいない――。

真「ボク達は消えたりなんかしない。そんな運命なんか、蹴飛ばしてやる!」

雪歩「ふふっ、ライトノベルの主人公みたいだね、真ちゃん」

真「雪歩、ようやく笑ってくれたね」

雪歩「笑っちゃうよ。みんな馬鹿みたいに、0に等しい可能性を信じてさ……」

雪歩「そんなの見たら、私もやらなきゃって思うじゃん」

真「そうだよ、雪歩。仮に、本当に仮にだよ? 万が一、いや億が一ボクらが消えたとしても、みんなの中から消えちゃいはしない。ボクらはそれで十分だ」

雪歩「何も残らないのに?」

真「何も残らないからこそ、皆には残っていて欲しい。どんな些細なことでも、ボク達を見失わないで欲しいんだ」

 たった一つ、幸福なことがあるのなら、俺たちは憶えていること。いや、もしかしたらそれは虚しいことで、不幸なのかもしれない。でも、そうは思いたくなかった。

真「一緒に行こう、雪歩」

雪歩「うん、真ちゃん」

 それを支えに、俺たちは生きていけるのだから。誰かが生きたかった未来を、その思いを背負って歩いて行けるから――。
90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/13(日) 23:05:24.32 ID:+YOIKXO1o
きたか
91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/13(日) 23:08:11.19 ID:OslzC3Qt0
涼「雪歩さんは了承とみてよいですね」

雪歩「はい。最後までみんなと行きたいですから」

涼「そうですか。他の方は……」

春香「ようやく言える! 天海春香、ドームで……!」

 春香が元気よく言おうとした時、事務所のドアが勢いよく開く!!

?「春香さん!!」

春香「へ? どちら様……」

?「会いたかったです!!」

春香「こ、この爆音は……」

 事務所を揺るがさんばかりの大ボリューム。10年で見てくれこそは変わっても、根本的なところは変わっていないようだ。

春香「愛ちゃん、なの……」

愛「はい! 日高愛です!!」
92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/13(日) 23:17:29.91 ID:DaZTg45h0
??「俺もいるけどな」

??「私も、いる?」

??「なんで疑問形なんですか……」

??「良いじゃないか。人間はみんな自分の存在を疑問視して……」

??「だああ! わけわかんねえよ! 北斗!」

春香「あ、あ……」

??「へん! 10年前から成長したのはそこの豆タンクだけじゃねーぜ」

春香「天の川君?」

天の川「そうそう、織姫と彦星が……、って違うっつーの!!」

春香「あっ、ゴメン。天ヶ瀬君だよね?」

冬馬「分かってるなら最初からそういえよ……」

春香「いやぁ、喉元まで出てたんだけど、脳が勝手に間違えろって信号を……」

冬馬「便利な脳だな、おい!!」
93 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/13(日) 23:21:23.25 ID:BJx7zGP90
 天ヶ瀬冬馬。かつて俺たち765プロと凌ぎを削った最大のライバル。名前を間違えられやすいのは、彼の芸風だろう。

やよい「翔太君?」

翔太「久しぶりって言えばいいのかな、こういう時。まぁあのころに比べたら、僕も背が高くなって、声も低くなったから、?がつくのも仕方ないかな?」

やよい「大きくなっても翔太君は翔太君です!」

翔太「なんか年下に言われるのも変な感じ……」

真「ってことは君は……」

北斗「チャオ☆ 久しぶりだね」

真「変わってないね……」

北斗「俺はあの頃のままさ」

??「あれ、私忘れられてる?」

伊織「あまり関わりないからね、絵理は」

絵理「ちょっと悲しい?」

伊織「いつまでその口調なのよ。あんた今プロデューサーでしょ? 自信持ちなさいよ」

絵理「私はこれがデフォルト?」

伊織「知らんがな……」
94 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/13(日) 23:28:18.89 ID:BJx7zGP90
 ジュピターのみんな、876プロのアイドル達。感動の再開は嬉しいが、どうしてここに? そう考えていると、涼君が答えをくれた。

涼「僕が呼びました。最後の希望として、みなさんはライブを望むと思いましたので」

P「お見通しってことかい?」

涼「さぁ、どうでしょうか?」

 変なとこだけ律子に似やがって。

律子「今へんなこと考えませんでした?」

P「気のせいですよー」

 おお、怖い怖い。


涼「では、みなさん揃いましたね」

やよい「あれ? 夢子ちゃんはいないんですか?」

 やよいの疑問に、涼君は少し頬を染める。なんだかんだ言って初心なようだ。

涼「ゆ、夢子ちゃんは身重の状態ですので……。あまり負担をかけたくないんです。」

やよい「子供生まれるんですか!!」

涼「そうですけど……。い、今はその話を置いておいて!! これからの話です、これからの!!」
95 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/13(日) 23:38:23.19 ID:DaZTg45h0
涼「先ほども言いましたが、みなさんのブランクを埋めるのは非常に大変なことになると思います。ですので、特別トレーナーとして彼らを呼びました」

冬馬「涼の頼みだしな。それに、俺はあんたらにいくつか借りがある。それを返す前に消えられちまったんだ。10年分の借り、一気に返させてもらうぜ」

愛「私たちは皆さんに教えて貰ってきましたから! ここで恩返しをしたいんです!!」

 876もジュピターも気合が入っている。これは相当きついレッスンが待っているんだろうな。

翔太「幸い、僕らは得意分野がバラバラだ。ダンスレッスンは僕と涼君が担当するよ」

涼「ええ。ですが僕は遺族会の方も有りますので、基本的には翔太君が皆さんの指導に当たります」

ダンスレッスン 御手洗翔太 秋月涼

絵理「私はビジュアル担当?」

北斗「みたいだね。俺はダンスが苦手だからな。その分こっちでみんなの力になろう」

ビジュアルレッスン 伊集院北斗 水谷絵理

愛「私たちはボーカルですね! ピピンさん!!」

冬馬「ピピンって誰だよ!!」

ボーカルレッスン ピピン板橋(天ヶ瀬冬馬) 日高愛

P「こりゃ豪華なメンバーだな……」
96 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/13(日) 23:47:28.41 ID:JIVFk91p0
 あまりの布陣に呆然としていると、天ヶ瀬君が口を開く。

冬馬「んじゃ早速行くかね……」

亜美「もう行くの?」

冬馬「たりめーだろ。時間がねえんだ、突貫工事で行くぞ」

雪歩「ど、どうしよう……。まだ心の準備が……」

冬馬「んなもん後からでもどうとでもなんだよ。じゃあ涼、行ってくるぜ」

涼「皆を頼むよ、冬馬君」

 天ヶ瀬君に連れてかれて事務所を出ていくアイドル達。

涼「あっ、やよいさんは残っていてください」

やよい「私だけですか?」

涼「ええ、お父様関係のことです。なるべく時間は取らせませんので」

やよい「分かりました」

 涼君はやよいから、行方不明の父親の情報を聞き出している。どのような人物か、写真はあるか、必要であろう情報を細かく聞いていく。

涼「了解しました。僕達が責任を持って、捜索いたします」

やよい「お願いしまーす!」

 両端のガルウイングがお辞儀とともに揺れる。少しばかり懐かしくて、涙が出そうになった。
97 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/14(月) 00:03:57.10 ID:2n+9kDyJ0
貴音「では私も、どうにか運命を変えることが出来ないか、抗ってみるとしましょうか」

 貴音はそういって、俺たちに背を向ける。

P「レッスンは、出来そうにないか……」

貴音「いいえ、心配なさらず」

 俺の心配をよそに、貴音はその場で華麗に舞ってみせる。

P「驚いたな……、現役の時以上じゃないか」

涼「凄い……。貴音さん、あなた10年間何を……」

貴音「来る日のために、日々鍛錬していた。そう言えば満足なさいますでしょうか?」

P「ああ、パーフェクトだ」

涼「本当に、底が知れない人ですね……」

貴音「ええ、全てはとっぷしーくれっとですから」

P「良く分からないが、貴音は大丈夫そうだな」

貴音「私は私の役割を果たす。それだけです」
98 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/14(月) 00:09:34.56 ID:MUouyeVZ0
涼「では僕も、自分の役割を果たすとしましょうか」

P「やよい父の捜索かい?」

涼「ええ。それ以外にも、僕は遺族会の方も有りますので。こちらだけに時間を割くわけにもいかないんです」

P「それはまた、大変そうだな」

涼「いえ。僕は皆さんに、律子姉ちゃんにもう一度会えた。それだけで十分です」

P「そっか。じゃあ、頼むよ」

涼「ええ、任せてください!!」

 いつかのヘタレた女装少年は、頼れる漢へと成長していた。

P「じゃあ、俺もレッスンを見に行くかな……。社長、小鳥さん。後はお願いいたします」

社長「うむ、行ってきなさい」

小鳥「行ってらっしゃい、プロデューサーさん」

P「行ってきます」

 軽い足取りでレッスン場へ向かう。10年ぶりに、あいつらを見れるんだから。

99 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/14(月) 00:15:33.40 ID:2n+9kDyJ0
とりあえずここまで。今までゴタゴタ、と言うよりも話の展開が全く思いつかず、慣れる意味でも色々VIPでも書いてましたが、こっちをおざなりにし過ぎたので、強引にでも話を動かしていきます。待ってくださった方、ゴメンナサイ、そしてありがとうございました。まずは仮免試験受からないと……。
100 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) :2012/05/14(月) 00:18:08.69 ID:n2XU8Nf3o
待ってた!
101 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(奈良県) [sage]:2012/05/14(月) 00:21:31.16 ID:zmenXDrk0

おかえり。戻って来てくれて嬉しいよ。
こっちはこのSSみたいに時間がゆっくり流れているからww、気長にやればいいよ。
続き待ってる。
102 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(熊本県) [sage]:2012/05/14(月) 00:24:16.97 ID:d3pEmj5/o
あっちでも書いてたのか、気になるな
ゆっくりでも完結してくれればいいさー
103 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/14(月) 01:40:49.64 ID:j+bIx/AT0
眠れないから少し書く。

P「こ、これは……」

 差し入れにシュークリームを人数分買って、レッスンスタジオを覗くと、

P「ここは地獄か……?」

あずさ「ぜぇ……、ぜぇ……」

千早「はぁ……、はぁ……」

雪歩「む、無理ですぅ……」

伊織「な、なかなかきついわね……」

真美「限界だよ〜」

 ブランク組が、今にも気を失いそうな状態で倒れていた。

冬馬「ったく、こんぐらいでへばってちゃざまぁねえぜ。なぁ、765のプロデューサー?」

P「俺には一応立派な名前があるんだが……。まぁ良いか。にしてもブランク組は大変なことになってるな」

冬馬「まずは体力チェックってことで、一通りのレッスンをさせたんだが、まぁ見ての通りだ」

P「ブランクは予想以上に大きいな……」

冬馬「10年間続けた人間と、そうでないやつの違いは思ってるよりも大きいぜ」

愛「まだまだ余裕ですよー!!」

春香「うん、そこまでしんどいかな、これ?」

真「もっときついことしてるからね」

響「楽勝だぞ」

P「これはこれは……」
104 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/14(月) 01:48:45.46 ID:j+bIx/AT0
 天ヶ瀬君の言うように、ブランクは俺達が思っている以上に埋めにくいものなのかもしれない。

冬馬「まぁ、悪いことだけじゃねえ。あいつ、やっぱりバケモンだわ」

P「マジっすか……」

 指を指す方向には、1人激しく舞い踊る美希の姿があった。

美希「ふぅ、もう1回お願い」

翔太「まだやんの? 少し休んだ方がいいんじゃ……」

美希「私は大丈夫だから」

翔太「はぁ、僕が休みたいって言っても聞いてくれないんだろうなぁ」

北斗「みたいだな」

絵理「美希さん、さすが?」

冬馬「黒井のおっさんが欲しがったのも分かるぜ。ホント、なんで引退しちまったんだか。俺には分かんねえよ」

 ぶっきらぼうに言うが、自分にも他人にも厳しい彼なりに、美希のことを評価しているのだろう。ただ、素直に褒めることが苦手なだけだ。
105 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/14(月) 01:57:40.05 ID:jY3If3Dg0
P「美希、そろそろ休んだらどうだ? 少しは休憩も必要だぞ」

美希「ありがとう、プロデューサー。でも私は……」

P「休憩しろ、な? シュークリームもあるぞ。まぁイチゴババロア味なんてものはなかったが、ワイドショーでも話題になっている店のやつだ。美味いぞ」

美希「そこまで言うなら、少しだけ……」

P「休憩とっても大丈夫かい?」

冬馬「ああ、構わねえよ。で、そのシュークリーム俺の分もあるんだろうな?」

P「そりゃ全員分かって来たからな」

冬馬「へへっ! 嬉しいことしてくれるじゃねえか!」

P「あっ、でも君らの分は事務所に請求しておいたから」

冬馬「なんでだよ! むしろおごられる立場だろ、俺達!!」

P「俺男におごる趣味ないし」

冬馬「俺もねえよ!! クソっ、いくらだ?」

P「冗談だって。俺だってそれなりに稼いでるんだ。こういう時ぐらい全額払うさ」

 765、876、961(元)が一堂に会する。これ、なかなか貴重な空間じゃないか?

P「あいつらにも見学させとけばよかったかな?」

春香「あいつら?」
106 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/14(月) 02:05:59.28 ID:MUouyeVZ0
P「ああ、今俺がプロデュースしてるシンデレラガールズだよ」

翔太「ああ、あの子らね。良くもまぁ、あれだけ強烈な娘達をプロデュース出来るもんだな感心しちゃうよ」

春香「強烈ですか! どんな子たちですか?」

P「そうだな……。働きたがらないニート、背の高いメルヘン女、厨二病、普通、ぽっちゃり、無口、ギャル、ナルシスヘタレ、猫娘、花屋の娘、ロック……。うん、揃いも揃って強烈だな」

春香「ふ、普通って……」

P「ああ、なんとなく春香に似てるぞ。今度会ってみるか?」

 確か向こうも尊敬するアイドルは春香だったはずだ。話が合うんじゃないだろうか?

春香「そうですね、今プロデューサーさんが見ている子たちも気になりますし! それに」

P「それに?」

春香「浮気とかしてませんよね?」

P「し、してません!」

 耳元でボソッとつぶやかれる。春香さん、怖いです。
107 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/14(月) 02:07:05.40 ID:MUouyeVZ0
本日2度目の寝ます!! 続きはまた明日、明後日に。地の文が難しいです、はい。
108 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/14(月) 04:10:23.85 ID:JouupdIoo
>>106
>P「そうだな……。働きたがらないニート、背の高いメルヘン女、厨二病、普通、ぽっちゃり、無口、ギャル、ナルシスヘタレ、猫娘、花屋の娘、ロック……。うん、揃いも揃って強烈だな」

杏、きらり、蘭子、奈々、かな子、雪美、姉ヶ崎、輿水、みく、凛、リーナ
でいいのか?
109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2012/05/14(月) 13:17:38.25 ID:5FU22ZBE0
>>108 一応島村さんと楓さんのつもりだった。後は同じです。教習から帰ったら書くつもり。
110 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/05/14(月) 13:44:09.61 ID:DaKm7Tdco
乙にょわー
111 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/14(月) 17:46:53.66 ID:j+bIx/AT0
再開します。

春香「まぁ、聞いてみただけですよ。ちゃんと信頼してますからね!」

P「そ、それはどうも……」

 まさか担当アイドルに手を出すなんて馬鹿な真似……。

美希「そうかな? 結構まんざらでもなさそうだよ?」

P「み、美希ぃ!! 適当なことを言うんじゃない!」

美希「私は事実を言っただけだよ。みんなべったりだし。やっぱり若い子の方がいいの?」

P「あ、あれはあいつらが勝手に……」

春香「ねえ、美希。そこんとこ詳しく教えて欲しいなぁ」

 春香さん、滅茶苦茶怖いです。

春香「場合によっちゃ教育的指導もしなきゃね……」

P「う、うちのアイドルに手を出さないでくれ!」

冬馬「あんたら何やってんだよ」

愛「漫才じゃないですか?」

 焦る俺、怒れる春香。周りのみんなは冷めた目で俺たちを見ている。
112 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/14(月) 17:56:05.46 ID:jY3If3Dg0
冬馬「んじゃ休憩終わりだ。バシバシ行くから覚悟しろよな」

亜美「ほーい」

真美「後2分だけ……」

冬馬「その2分が何十分にもなるだろうが。ほらっ、俺より若いんだからもっとしっかりやりやがれ」

真美「口元にクリームついている人には言われたくないなぁ……」

冬馬「さあレッスンを始めよう!!」

 口元を拭きながら言う天ヶ瀬君。うん、格好悪いな。

 その後もレッスンは続く。19時を過ぎたころ、ようやく本日のレッスンが終了する。

一同『お疲れ様でしたー!!』

愛「お疲れ様でーーす!!」

絵理「愛ちゃん、声大きい?」

冬馬「疑問形にするまでもねーだろ……」
113 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/14(月) 18:09:06.13 ID:2n+9kDyJ0
真美「疲れたよー。あまとう、ジュース買ってきて」

冬馬「自分で買え! それとまだ俺のことあまとうって言うのな」

真美「天ヶ瀬って言いにくいし」

冬馬「突っ込む気にもなんねえぜ」

亜美「ねー、あまとう」

冬馬「んだよ」

亜美「亜美たちお腹すいたんだよね」

冬馬「それがどうしたんだよ」

真美「ここは男を見せて奢るべきっしょ!」

冬馬「はぁ!?」

真美「こんな可愛いアイドルと医大生が誘ってんだよ?」

冬馬「自分で可愛いとか言うんじゃねえよ! 2人でファミレスにでも行きやがれ」

亜美「またまた〜」

真美「いい年して彼女の一人も出来てないんでしょ? 私と一緒にいれば自慢できるよ! 付き合う気はないけど」

冬馬「ど、ど、童貞ちゃうわ!! 彼女なんか何人もいるしな!!」

真美「うわっ、サイテー」

亜美「ハリケ○レッドかよ!!」

冬馬「一緒にすんな!」
114 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/14(月) 18:16:09.33 ID:jY3If3Dg0
冬馬「俺は忙しいんだよ。だからてめぇらに付き合っている暇なんか……」

亜美「そっか、そうだよね……」

冬馬「あ?」

亜美「亜美、もうすぐ消えちゃうから……。あまとうとの思い出も欲しかったな……。グス……、グス……」

真美「ゴメンね、亜美。あまとうはシャイだから……」

冬馬「急に暗くなりやがって……。分かった分かった! どこに行けばいいんだ?」

亜美「ホント!? じゃあ……」

真美「この辺で一番高いところ!」

冬馬「おい、お前は払えよな」

真美「レディに払わす気!?」

冬馬「レディにカウントした憶えねえよ!! ったく、行くって言った途端泣き止みやがって……」

亜美「諭吉で笑顔が帰るなら安いもんだよ!」

冬馬「そんなに払わなきゃなんねえのか!?」
115 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/14(月) 22:54:50.51 ID:MUouyeVZ0
あずさ「私も夕食を……。ってもうこんな時間ね。お父さんが作ってくれているかしら?」

響「それってさ、にぃにぃのこと?」

あずさ「ええ、そうね。あの人も料理が得意だから大丈夫だと思うけど……」

響「ね、ねえあずささん」

あずさ「なんでしょうか?」

響「邪魔じゃなかったら、自分も行っていいかな?」

あずさ「良いわよ。だって響ちゃんは、私の義妹なんだし」

響「やっぱり変な感じがするぞ」

あずさ「あら、ごめんなさい……」

響「ううん、あずささんは悪くないよ。自分の気持ちの問題さー」

あずさ「じゃあ、帰りましょうか」

響「ああ! 姪っ子たちも見ておきたいからな!!」
116 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/14(月) 23:05:08.34 ID:MUouyeVZ0
律子「それじゃあ私たちも帰りましょうか。あら、メール……。なにかしら?」

律子「はぁ、私桜井さんとそこまで関わりあるわけじゃないんだけどな……」

P「涼君から?」

律子「ええ。遺族会関係でで今日は帰れないみたいなので、桜井さんと一緒にいて欲しいって」

P「桜井さんと言うより、秋月さんって言った方がいいんじゃないか?」

律子「まだ結婚してませんから。まぁ、今週するんですけどね」

P「涼君たちにしても、今が一番いい時期だろうしな」

律子「私がいるうちに、涼の晴れ姿を見ておきたいなぁと思ってたんで」

P「ドレス着せるなよ?」

律子「まさか! そんなことするわけ……、いや、意外と有りか?」

P「やめておいてあげた方がいいぞ。さすがに可哀想だ」

律子「冗談ですよ。では、私もこれで」

P「ああ、また明日な」
117 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/14(月) 23:36:29.36 ID:MUouyeVZ0
とぎれとぎれでごめんなさい。今日はここまでです。話が進まず申し訳ありません。
118 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(熊本県) [sage]:2012/05/14(月) 23:49:54.72 ID:D3Wfszlyo
おつ
このSSの裏にドラマの人たちがいると思うと感慨深いな
119 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/05/14(月) 23:50:46.99 ID:ebjuMg1uo
おつおつ
ゆっくりでいいので
無理しないでください
120 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(奈良県) [sage]:2012/05/15(火) 00:16:12.10 ID:5cXtUuQ20

飛行機に乗っていたアイドルがどういう基準で選ばれたのかちょっと聞いてみたいな。
のんびり続き待ってます。
121 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/17(木) 15:15:17.23 ID:gQVpdE7e0
雪歩「私たちも帰ろうか」

真「そうだね、じゃあボク達も帰ります!」

P「ああ、じゃあまた明日な」

伊織「やよいはどうするの?」

やよい「うーん、家でみんな待ってるから。伊織ちゃんも来る?」

伊織「良いの? 私が行っても邪魔なだけじゃない?」

やよい「みんな気にしないよ! ほらっ、行こう行こう!」

伊織「分かったわよ。だから押さないで……」

P「春香はどうするんだ? 家に来るの?」

春香「あっ、それなんですけど……」

千早「すみません。今日は春香とご飯を食べたいと思いまして」

美希「私もいるよ」

P「ああ、そうだな。久しぶりだろうし、楽しんで来い」

春香「はい! あっ、でも終わったら帰りますからね」

P「んじゃ後でな」

P「皆行ったか……」

 さっきまで入りきれないほどの人数がいたレッスンスタジオは、人の気配を残していない。ここにいるのは俺一人。電気を消し、管理人さんに終了の旨を伝えると、俺は一度事務所に戻ることにした。
122 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/17(木) 15:36:41.84 ID:gV5gLki20
小鳥「あっ、プロデューサーさん。お疲れ様です」

P「お疲れ様です」

小鳥「なんかプロデューサーさんが心なしか若く見えますね。久しぶりにあの子たちと活動できてうれしかったですか?」

P「若くって……」

小鳥「うらやましい……」

 小鳥さん、そんな目で見ないでください。

P「小鳥さんも若く見えますよ」

小鳥「そんなの気休めですよー! アラフォーの独身事務員なんて誰も貰ってくれません! プロデューサーさん、浮気しましょう!」

P「しません! 春香にばれたらえらいことになります!」

小鳥「まぁ冗談ですけどね」

P「とてもそうは見えませんでした」
123 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/17(木) 15:44:16.29 ID:gQVpdE7e0
 小鳥さんも高望みしなければ、いくらでも相手がいるだろうに。理想が高すぎるんだよな、漫画みたいな人を求めてるし。

小鳥「でもプロデューサーさんが春香ちゃんの思いを受け止めるなんて正直思ってませんでした」

P「そうですか?」

小鳥「アイドルの恋愛自体あまり褒められたものじゃありませんからね。プロデューサーさんは、春香ちゃんの好意を跳ね除けることが彼女のためになる、って思ってそうでしたし。あっ、責めているわけじゃないんですよ?」

P「まあそうなんですけどね……」

 俺はそこまで高尚な人間になれなかった。春香のまっすぐな想いを、断れるほどの勇気がなかったのだろう。そして誰よりもそばにいた彼女を、いつの間にか愛おしく思い始めていたんだ。きっかけはなんだったか、憶えていない。

小鳥「その、後1週間ぐらいだと思いますけど、春香ちゃんを幸せにしてあげてくださいね」

P「ええ、もちろん」

 彼女に残された時間を、最高のものにしてあげたい。例えそれが、なかったことになっても、だ。
124 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/18(金) 21:46:30.84 ID:Hv3L4UAM0
P「今俺がすべきことは……」

 誰もいない家に帰り、シャワーを浴びてデスクに向かう。PCを起動し、自分に与えられた課題を再確認する。

・やよい父の捜索
・コンサートの手配
・レッスンの指導
・シンデレラたちのプロデュース

P「こんなとこかな……」

 やよい父の捜索に関しては、あまり出る幕がなさそうだが一応頭に入れておく。家族を誰よりも大切にしていたやよいがいなくなったことで高槻家は崩壊した。なんともやりきれない話だ。

P「あいつらどうすっかね……」

 765プロ初期メンバーのことに手いっぱいだが、シンデレラガールズのプロデュースをしている以上、彼女たちのプロデュースにも本気で取り掛からないといけない。当然のことだが、合計何人だ? 13人(律子込)+11人……。

P「どんな大所帯だっての」

 48人以上をプロデュースした男を心から尊敬する。
125 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/18(金) 21:54:06.12 ID:Hv3L4UAM0
 明日の予定をあれこれ組んでいると、調子外れの春香の歌声が、着信を知らせる。

P「もしもし、どうした春香?」

春香『あっプロデューサーさん! 私です! えっとですね、今日は千早ちゃんの家に泊まろうと思いまして……』

P「別にかまわないけど、親御さんに連絡しろよ?」

春香『分かってますよ。じゃあ私たちは脱衣麻雀をするんで、来たければどうぞ〜』

P「ば、誰が行くかバーロー!」

春香『冗談ですって! あっ、今私の裸体を想像しました? 想像しますよね? てかしてください!!』

P「切るぞー」

春香『冗談ですって! じゃあお休みなさい、また明日』

P「ああ、お休み。愛してるぞ」

春香『あ、愛してるって……。急に言わないでくださいよ! こっちだって、愛してますから。って千早ちゃん、これはね……。美希もそんな顔しないでよー! じゃあお休みなさい!!』

P「あわただしい奴」

 一晩過ごしたぐらいなのに、春香がいないと少し寂しい。今までとなんら変わらないのに――。
126 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/18(金) 21:59:53.15 ID:Hv3L4UAM0
P「脱衣麻雀ってなぁ」

 不意に裸の春香が脳裏に浮かぶ。付き合っていたが、そこまではしていなかった。したいという欲求は有ったが、春香が大人になるまで、そう決めていたから。

P「あいつ、着やせするんだよな……」

 美少女と美女が入り乱れる、脱衣麻雀――。







P「ふぅ……」

 最低だ、俺。

 時計を見ると、0時5分。今日も終わってしまった。残された日にちは、後6日――。
127 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/05/18(金) 22:03:38.15 ID:Ggd/Co3mo
ふぅ……
128 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/18(金) 22:08:54.46 ID:/c1K9NU50
――これは夢だ。

春香「○○さん! 起きましょうよ!」

 春香は俺のことをプロデューサーさんと呼んで、下の名前でなんか呼ばない。だから夢だ。って俺の本名知っているのか、あいつ?

春香「今日はピクニックに行くんでしょ? ほら、――もパパにべったりしない! そこはママの指定席なんだから!」

 俺と春香の間には子供がいない。だから夢だ。子供が出来たら日高舞の再来だっただろう。悪い意味で。

春香「え? おはようのキスですか? もう、甘えん坊なんだから……」

 夢なら何をしてもいい。春香と寝たふりをする俺の唇が触れる瞬間、

アラーム「どんがらがっしゃーん! プロデューサーさん、朝ですよ、朝!」

P「ですよねー」

 暖かな夢はいつまでも続かない。けたたましく響く目覚まし春香によって、慌ただしい現実に引き返されるのだった。どうやら夢の中でもキスをさせて貰えないようだ。

8月21日。期限まであと6日
129 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/18(金) 22:14:39.30 ID:Jb5Z/P9w0
少し休憩。>>120で飛行機に乗ったアイドルの選考基準があるのかってレスがありますが、双子やゆきまこみたいに対比と、やよいみたいに時間が過ぎて行ったことで大きく環境が変わるだろうアイドルを選びました。
130 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/18(金) 22:34:29.43 ID:Hv3L4UAM0
 事務所に着くと、シンデレラガールズが揃っていた。初期組は朝からレッスンだ。

杏「あっ、プロデューサー来たんだ。帰っていい?」

P「はえーよバカ」

 事務所に来て早々、ニート(正式には雇用をしているから、ネット?)が戯けたことを抜かす。

蘭子「煩わしい太陽ね……(おはようございます)」

P「ああ、おはよう」

きらり「やっほー☆Pちゃん元気してるー? にょわー☆」

P「きらり、朝から元気だな……」

卯月「プロデューサーさん! ちょりーっす!」

P「卯月、なんだそれは?」

卯月「チャラ系のキャラを目指してみました!」

P「滑ってるぞ、それ」

凛「だから言ったのに」

かな子「やっぱり卯月ちゃんはそのままが一番だよ?」

幸子「そうですよ。無個性だって個性なんですから」

卯月「あぁ!?」

幸子「ひぃ!」

李衣菜「朝からロックですね」

あずさ「あらあら〜」

楓「…おはようございます」

莉嘉「おはー☆」

P「ふぅ、全員揃ってるな。んじゃ今日の活動予定だけど……」
131 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/18(金) 22:45:15.70 ID:/c1K9NU50
P「杏ときらりはラジオ収録、卯月は服屋のCM、凛、かな子、楓さんと莉嘉は雑誌の取材、後のメンバーはレッスンだな。……あずささん、何ナチュラルに来てるんですか」

 一瞬気づかなかったが、よくよく見るとひとりだけ世代が……、

あずさ「にこにこ」

P「ごめんなさい」

 口でにこにこって言われました。絶対怒ってるよ、あれ。

あずさ「えーと、家を出るときは響ちゃんと一緒だったのよ? でも気づいたら響ちゃんがいなくなって……」

P「多分それ逆ですね。おっと、着信か」

響『あっ、プロデューサー? そっちにあずささん来てない?』

P「ビンゴだ、迷子になって事務所に着いたよ」

あずさ「事務所に行こうと思うと迷うんですけどね……」

響『自分が迎えに行くから、あずささんを拘束しておいて! じゃっ!』

P「拘束って大袈裟な……」

あずさ「お手洗いはどっちだったかしら〜」

P「そっち玄関です! きらり! あずささんをハピハピして良し!」

きらり「キュンキュンしちゃうよー☆」

あずさ「あら〜」

 きらりに抱きしめられて、満更でもなさそうなあずささん。あれ一度されたけど、骨がメキメキ言ったんだよな……。

響「迎えに来たぞ! って何やってるんだ?」

P「拘束?」

 響が来るまで、何とも言えない空気が事務所を支配していた。
132 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/05/18(金) 23:24:42.23 ID:aC8iK5H10
なんでみんな消えてしまうん・・・?
それはともかく続きに期待してるぜ。ゆっくりでもいいから完結までがんばってくれ
133 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/21(月) 01:25:42.99 ID:CRzZWcvt0
あずさ「響ちゃんごめんなさいね〜」

響「はぁ、プロデューサーや律子の苦労がわかった気がするぞ。リードでもつければいいのか?」

P「それはやめておいた方がいいんじゃないか? いくら家族でも」

 あずささんの手を取り、レッスン場へ戻る響。これじゃあどっちが年上か分からないな……。

凛「ねえ、プロデューサー。さっきの人って」

P「ああ、うちの元アイドルだよ。いや、一時的に復帰だな」

凛「そうじゃなくて、我那覇響さん。あれって、ドッキリじゃなったんだね」

P「……そうだな」

 間近で見ていた自分ですら、信じれないときがあるぐらいだ。テレビ越しに見ていた人は、特撮か何かと思っただろう。

P「それじゃあ各自移動だ。俺は杏ときらりに同行だな。みんなは先方に失礼の内容にな」

杏「じゃあ帰ろうか」

P「きらり、杏をハピハピしておいてくれ。車出してくっか……」

きらり「にょわー☆」

杏「痛い痛い! 痛いよ馬鹿野郎!!」

 今日も慌ただしい765プロの一日が始まる。
134 :話が作れないよ……。 [saga]:2012/05/21(月) 01:39:36.72 ID:KJPrPEwc0
 私はレッスンが好きだった。しんどいし、辛いこともあったけど、それは成功への糧と思えば苦じゃ無かったかな。

春香「〜♪」

愛「うーん、春香さん。もう少しこう歌った方が……」

 年下だった子に教えられても、恥ずかしいことじゃない。むしろ少しうれしい。

愛「そうです! 春香さんいい感じですよ!!」

 あの時公園で泣いている彼女は、立派に成長し、師匠(的なポジション?)な私を指導している。交流自体はそこまで深くなかったけど、結果として私が彼女にきっかけを与えたんだ。それを口に出すのは少し厚かましいから、心の中に留めておく。

愛「どうしました?」

春香「なんにもないよ? ただ愛ちゃんに初めて会った日のことを思い出しちゃって」

愛「あ、憶えててくれたんですね!!」

 愛ちゃんにとっては、10年前のことかもしれないけど、私からしたらここ1年の話だったりする。それにあの大声を忘れるわけがない。もし記憶をなくしても、鼓膜には残っていそうだ。
135 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/21(月) 01:53:56.95 ID:jd4Ajakh0
雪歩「疲れましたぁ……」

あずさ「30過ぎると、結構来ますね」

千早「歌手に転向して、アイドル時代のことを忘れてしまうなんて、情けないわね私」

美希「私はまだまだいけるよ?」

真美「ミキミキは別格なんだよ……、あまとう、ジュース買ってきて」

伊織「私オレンジジュース果汁100%ね」

冬馬「自分で買えよ!! ったく、こんなんで何曲も歌えるのか? 俺ですら最近きつくなってきたってのによ」

 美希以外のブランク組は、2時間程のレッスンですでにライブを終わらせたみたいに、疲れ切っている。まだお昼にもなってはいないんだけど、大丈夫かな……。

冬馬「こうなるのは見えていたけどよ……」

北斗「プログラム編成も、彼女たちの体力に合わしていかないとダメだな」

翔太「それは765のプロデューサーの仕事じゃない? まっ、歌いたい曲があるなら、せめてライブをやりきるぐらいの体力を取り戻さないとね」

絵理「でも時間がない。かくなるうえはドーピングバイ水瀬製薬?」

伊織「そんな都合の良い薬はないわよ!!」

 そうだ、プログラムだ。コンサートをするなら、それも決めないといけない。プロデューサーさんのことだから、抜かりはないと思うけど……。
136 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/21(月) 02:05:50.16 ID:KJPrPEwc0
きらり「Pちゃん何悩んでるのー? きらりが癒してあげよっか?」

P「遠慮しとくわ、うん」

 コンサートのプログラムをどうするか。運転しながら考えていた。ラジオからは、いつかの春香の歌が流れている。

杏「あっ、今私の家の前通った! バックバック!」

P「戻らねえよ!」

 プログラム構成はどうするか? レッスンの状況と相談しなくてはならない。正直なところ、ブランク組は最後まで歌いきれるかは分からない。激しいダンスと共に歌い続けるのは中々にハードだ。律子がなかなか再デビューに首を縦に振らなかった理由の一つでもあろう。

P「春香たちの比重を増やすか?」

 恐らく最も現実的な方法だ。彼女たちは10年をスキップしたから、体力も技術もあの頃のまま。今すぐにコンサートを開いても、彼女たちなら戦えるだろう。

P「どうしたものか……」

 今すぐにでもプログラムを決めて、レッスンを行わなければならない。俺はきらりと杏の漫才を聞き流しながら、そのことだけを考えていた。

P「あいつらに決めさせるべきなのかな……」

杏「何が? 私の引退?」

P「残念、お前の引退を望んでいるファンはいないんだな」

杏「ここにいるぞ!」

P「自薦はダメな」
137 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/21(月) 02:07:07.41 ID:nPwc13yM0
あまり投下できなかったけどここまで。話が思いつきません……。放置にだけはしたくないんですが、すみません。超鈍行で進ませていただきます。
138 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/21(月) 12:04:06.78 ID:CRzZWcvt0
P「おや、電話がかかって来てたな」

 2人のラジオ番組収録中、携帯をふと見ると、天ヶ瀬君から電話がかかっていた。ちょうどこちらも彼に用があったから、ナイスタイミングだ。

冬馬『おい、プロデューサーか?』

P「いきなりおいとはご挨拶だな」

冬馬『別にあんた以外が出るわけじゃないだろ? あんたに言っておきたいことがあるんだ』

P「俺も君に聞きたいことがあったよ。たぶん、思ってることは同じだろうな」

冬馬『ああ、プログラムはどうするつもりだ? 時間がねーぞ?』

P「それなんだが……、今日のレッスンの出来次第で変わってくるな。いくつかセットリストの候補は立てたんだが……」

冬馬『いつごろ来れそうだ?』

P「今ラジオ番組の収録中で、この後はシンデレラガールズのレッスンも見なくちゃいけない。だから早くても夕方ごろになりそうだ」

冬馬『売れっ子プロデューサーは大変なこった。あんたはおっさんみてえなことしてねえよな?』

P「するわけないだろ! 捕まりたくないし」

 そういえば黒井社長はもう出所したのだろうか? 逮捕されてから、嫌がらせなんて起きてないから、出所したにしてもどこで何をしてるのやら……。
139 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/21(月) 12:14:01.52 ID:jd4Ajakh0
冬馬『そろそろ休憩の終わりの時間だ。俺はそろそろレッスンに戻るぜ』

P「ああ、よろしく頼むよ。それとだけど、一応セットリストの候補は君に送っておくよ。ライブ映像つきだから、少々重いくなるよ」

冬馬『助かるぜ。じゃあな』

P「また後で」

 天ヶ瀬君はそういって電話を切る。俺は車内で構成していたセットリストの候補を書き込み、ライブ映像を添えて送信する。10年前の非常識が、今の常識だ。全く持って便利な世の中になったものだ。

P「車が空を走ることなんてないけどな」

 恐らくあと100年ぐらいしないと出来ないだろう。それまで、この星が残ってるかは謎だけど。

P「また電話だ」

 送信するとほぼ同時に、ブルブルと震える。今度は涼君のようだ。

P「もしもし」

涼『あっ、プロデューサーさんですか? 僕です、秋月です』

P「涼君、どうしたんだい?」

涼『えっと、何点か決まったことを連絡しようと思いまして』
140 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/21(月) 12:26:09.85 ID:KJPrPEwc0
涼『まず、コンサートの日時ですが、8月27日です。それより前にとるのは実現できませんでした。申し訳ありません、最後の日になってしまって……』

P「いいや、十分だよ。たぶん今の状態なら、ギリギリの方がいいだろう」

涼『時間は早めからを予定していますので、夜には皆さんは自由になります。どのような結末を迎えるか分かりませんが、僕としては最後にいたい場所にいて欲しいですから。プロデューサーさんも、春香さんと過ごしたいでしょうし』

P「そ、それは助かるなぁ……」

涼『ホールですが、小林ホールになります。武道館はさすがに取れませんでしたね』

P「小林ホールか……。そうだな、きっと彼女らも喜ぶよ」

 小林ホールと言うと、武道館ほど大きくはないが、俺達765プロのライブを何度も行ってきた場所だ。それぞれに思い入れがあるだろう。

涼『それと最後にですが……。やよいさんのお父さんのことです』

P「高槻さんか……」

 やよいが消失した後、高槻父は本をだし、一躍時の人となった。遺族の代表として、テレビに出ることもあったが、長介君の話を聞くと、そのお金をギャンブルに費やし、結果最初より貧しくなったという。現在は離婚して、長介君たちは母方の姓を名乗っている。

涼『ええ、高槻さんですが……。申し訳ありません、消息は依然つかめませんでした……』

P「そうか……」
141 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/21(月) 12:33:03.43 ID:KJPrPEwc0
涼『信じたくありませんが、もしかしたらもう既にこの世から……』

P「それはないんじゃないかな?」

涼『え?』

P「うん、根拠と言う根拠はないけどさ、やよいのお父さんだぜ? あんなに元気な娘がいるのに、そう簡単にくたばりはしないんじゃないか? それに、彼だってやよいに会いたいと思っているだろうし。その思いだけで、生きていけるもんじゃないのか?」

涼『凄い理論ですね……』

P「前向きにポジティブに行かないとな」

 そうでもしないと、折れてしまいそうだった。やよいの悲しむ顔を見たいと思うほど悪趣味でもない。出来るものなら、高槻家に団欒をもう一度与えたいものだ。

涼『僕の方も捜索を続けます』

P「そうだ、指名手配みたいに顔写真張ったらどうだ? それなら目についた人が連絡くれるかもしれないぞ。見つけてくれた人は、やよいとハイターッチが出来るって売り文句でさ」

涼『それは……、いたずら電話が殺到しそうなのでやめておきます』

P「ですよねー」
142 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/21(月) 12:47:30.17 ID:KJPrPEwc0
涼『では僕は継続して捜索を続けます。プロデューサーさんも、何かあれば連絡くださいね』

P「ああ、分かったよ。色々尽くしてくれて申し訳ない」

涼『いえ、僕が好きでやってることですので。実は遺族の中に、もう一人やよいさんと同じ境遇の子がいるんです。10年後の世界では、両親は離婚していて……。10歳の子供には、重すぎる現実です……』

P「そんなことが……」

 搭乗していたのは、アイドル達だけじゃない。神童と呼ばれたピアノ少女、駆け出し芸人も片割れ、定年間近の教師夫婦。当時の新聞に書かれていたと思う。その人たちも今思い思いで過ごしているんだ。そう思うと、なおさらライブを成功させなきゃと思えてくる。

涼『では僕は戻りますね』

P「ああ、お願いするよ」

きらり「Pちゃん何話してたのー?」

杏「今日の仕事は終わったから、次の仕事は1年後だね」

 涼君との電話を終えると、収録が終わったのか、杏がきらりに持ち上げられる形で待っていてくれた。
143 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/21(月) 12:47:53.85 ID:CRzZWcvt0
夜にまた投下します。
144 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/05/21(月) 18:42:18.69 ID:1IjrMqHz0
みてれぅ〜
145 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/05/21(月) 20:48:26.67 ID:agvw+RP8o
面白い!
支援支援
146 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/22(火) 00:07:58.92 ID:Iz/Bkdrs0
杏「プロデューサーってあれだよね、悩んでても私たちには見せないよね」

P「当然だ。お前たちが不安になるだろ。って悩んでなんかないぞ」

杏「そう? 何悩んでるか知らないけど、たまになら聞いてあげるよ。その代わり、1週間の休暇を要求する!」

P「却下だ!」

きらり「Pちゃん悩んでるの!? じゃあここは……」

P「やめてくれ!! 俺は悩んでない!」

 二人とも俺を心配してくれてるのは分かるが、休日を求めたり、骨が軋むぐらい抱きしめるのは遠慮してほしい。しかし悩んでいるのが顔に出ていたか。気を付けなくては。

P「それじゃあレッスン場に行くぞ」

杏「それじゃあ帰るね」

P「きらり、ホールドアップ」

きらり「にょわー☆」

杏「イタイイタイ!!」

 相変わらずなやり取りに安心する。もしもの話、杏かきらり、どちらかが消えてしまって、10年後再び会ったとき、彼女たちは今までどうりでいれるのだろうか……。

杏「ぎぶっ! ギブッ!!」

きらり「杏ちゃんとはずっと友達だよ?」

 まっ、考えるだけ無駄か。
147 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/05/22(火) 00:08:21.37 ID:N9i9RirI0
C
148 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/22(火) 00:21:54.46 ID:qkHZG7x+0
 あんきらを連れて、レッスン場へと入る。終始杏は逃げたそうだったが、きらりに抱きしめられて動きが取れずにいる。普通の女の子なら、喜んで杏と変わるんだが、残念ながらパワフルアイドルきらりとなると話は別だ。

P「うーっす、調子はどうだ?」

蘭子「闇に飲まれた!(疲れました)」

李衣菜「なかなかロックですね」

幸子「意味が分かりませんよ、それ?」

トレーナー「あっ、765のプロデューサーさん。お疲れ様です」

P「お疲れ様です。えっと、調子はどうですか?」

トレーナー「ええ、いい感じですよ。みんなレッスンにも慣れてきて、自分の良さを出しています」

P「そうですか。よし、そんなお前たちに差し入れがあるぞ! どうだ、近くの店で買ってきたんだ!」

幸子「随分安上がりですね。100円のドーナツなんかで奢った気にならないでください」

P「じゃあ幸子の分は無しな」

幸子「貰います! 折角安月給でも買ってくれたんだから、食べてあげますよ」

P「あぁ!?」

幸子「ひぃ!」

李衣菜「これもまたロックですね」

杏「だりーなのロックの基準がわからない件について」
149 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/22(火) 00:30:17.18 ID:5rDJY5W7o
>蘭子「闇に飲まれた!(疲れました)」
新しいな…
150 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/22(火) 00:36:33.55 ID:OpKrkeTy0
P「それじゃあ後はよろしくお願いしますね」

トレーナー「はい、任せてください」

 休憩後、彼女たちのレッスンに少し付き合ってから、初期組のレッスン場へと移動する。

貴音「……」

P「何してるんだ、お前?」

貴音「ヒッチハイク、とうものですね」

P「アメリカで覚えたのか?」

貴音「ええ、皆良い人ばかりでした」

 やや渋滞気味の道を走っていると、貴音が手をあげて待っていた。渋滞してたから気付いたものの、すいすい進んでたら間違いなく気付かなかっただろう。

P「はぁ、どうも貴音だけは分からないんだよな……。住所も二十郎本店の住所だったし……」

貴音「それは違います、あなた様」

P「ん?」

 ぼやいたのが聞こえたのか、貴音は真顔で反論する。

貴音「わたくしたちは、完全に理解しあうことなんかできないのですから。だからこそ、分かりあおうとするのですよ」

P「……かもな」 

 車内は沈黙が続き、レッスン場に到着するまで、ラジオから流れるあんきらのコントが虚しく響くだけだった。
151 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/22(火) 00:45:20.45 ID:RELQFzJV0
冬馬「おう、ようやく来たか。ってあんたも一緒なんだな」

貴音「ええ、先ほど拾ってくださりましたので」

響「貴音は捨てられてたのか?」

あずさ「それは違うのではないかしら……」

 あずささんに突っ込まれるなんて、余程だぞ。

P「ヒッチハイクだよ、ヒッチハイク。冬馬君、首尾はどう?」

冬馬「それはあんたが直接見た方がいいだろ。どうすんだ? 送られてきたデータの曲なら、再生できるぜ」

P「そうだな……。広めとはいえ、13人が一斉に動いたらキツキツだし、何組かに分けるか」

 13人のアイドルの顔を見渡して、一組目を決める。

P「まずは春香と真と響、やってくれ。曲はそうだな、エージェントで」

響「いきなり自分らか?」

P「ああ、スキップしたからブランクがないといっても、一応確認しておきたいしな」

春香「真と響ちゃんに囲まれたら、自分の運動音痴が際立っちゃうな……。それにエージェントってダンス向きだし」

 辛いとき、春香のアップアップしてるダンスを見ると癒される自分は、閣下に踏みつぶされた方がいいのだろうか。

P「それじゃあ流すぞー」
152 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/22(火) 00:57:26.46 ID:qkHZG7x+0
P「ふむ……」

翔太「さっすがだよね、約一名可愛いことになってるけど」

P「そこが良いんだよ」

翔太「なにそれ、のろけ?」

真「〜♪」

響「〜♪」

春香「〜〜〜!」

 ダンスが得意で歌唱力も事務所ではトップクラスだったひびまこは言わずもがなだが、春香も最初に出会ったころに比べるとかなり成長している。ドーピングレベル、とまではいかないけど、オーディエンスを笑顔にさせるぐらいには。最初は苦笑いレベルだったからな。よくぞここまで来れたな、と妙に感慨深くなる。10年間見ていなかっただけなのに。

春香「ど、どうでふか……」

P「うん、合格だ。3人とも、あの頃のままだな」

真「喜んでいいのか……」

響「悲しんでいいか分からないぞ」

P「そ、そうだな……。喜んでおけ、さもないと小鳥さんが怒るぞ」

真「う、嬉しいなぁ!」

響「や、やっぱり自分完璧だぞ!」

 音無小鳥オーバーフォーティー、威力は抜群だ。
153 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/22(火) 01:14:02.76 ID:OpKrkeTy0
P「次は亜美! やよい! 律子!」

真美「オーズみたいに言わなくても!」

伊織「変わった組み合わせね。竜宮にやよいって」

P「とりあえず、曲はキラメキラリで」

千早「ピクッ」

P「千早、楽しみなのはわかるけど、近すぎないか?」

千早「いいえ、これがベストポジションです」

P「さよか……。んじゃ流すぞ」

 蹴られても文句が言えない距離で見つめる千早。いっそ蹴られた方が良いんじゃなかろうか? やよいに蹴られるなら、千早も本望だろう。

やよい「千早さん、少し近いです……」

律子「やよいが困ってるじゃない」

千早「あっ、ごめんなさい」

P「あっ、意外と諦めが早い」

亜美「早くやろうよー」

P「あっ、悪い。それじゃポチッとな」
154 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/22(火) 01:22:02.21 ID:RELQFzJV0
亜美「〜♪」

律子「〜♪」

やよい「〜♪」

P「こちらもなかなか……」

冬馬「竜宮のプロデューサーには驚かされたぜ。アイドルを引退して、プロデューサーに転向したって言うのに、現役クラスのスペックをもってやがる」

P「いつでも再デビュー出来るよう、鍛えてたからな」

やよい「キラメキラリ 一度リセット」

律子「しませんよ!!」

P「まだ曲流れてるぞ……」

冬馬「ナイスタイミングだな……」

律子「へ? あっ! 〜♪」

 あわてて歌う律子に少しほっこりした。にしても、あずささんの代理で舞台に立ってから、体力作りを欠かさなかった当たり再デビューも満更じゃなかったんじゃだろうか? 今となっちゃそれも叶わぬ話なんだが……。

千早「〜♪」

春香「千早ちゃん、上機嫌だね……」
155 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/22(火) 01:46:46.12 ID:RELQFzJV0
P「そこまで! 3人とも流石だな。特にやよいは持ち歌だけあってか、完璧だったぞ」

やよい「すっごく嬉しいです!」

律子「はぁ、結構来るわね……」

亜美「んふっふっふ〜、真美は亜美を超えれるかな?」

真美「ばっ、姉なめんじゃないよ! 私だってやればできるの! にいプロデューサー! 次私が行く!」

P「そうか? じゃあブランク組に移るか。やる気満々の真美と、雪歩、あずささん行きましょう」

雪歩「だ、大丈夫かな……。歌詞を間違えたりしたら……」

あずさ「あまり激しい曲じゃなかったらいいけど……」

 雪歩とあずささんは体力面で心配があるが、ここは心を鬼にして動きのある曲を選択しておく。

P「流すぞー」

雪歩「〜〜♪!」

あずさ「〜〜♪?」

真美「〜〜♪」

 若いだけあってか、真美の動きは見張るものがある。踊って歌える医大生、有りじゃなかろうか?

愛「やっぱりブランクは大きいですね……。雪歩さんもあずささんも平均以上には動けているけど、この後もう一曲って言われて歌えるか分かりませんね」

 冷静に判断する愛ちゃんに少し違和感があるが、彼女の言うとおりだ。失われた体力はそう簡単に戻らない。子育て中のあずささんに、インドアな小説家の雪歩。まだ見ていないが、千早と伊織も心配だ。美希と貴音は、前回の動きを見るに大丈夫だろうが。
156 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/22(火) 01:47:10.09 ID:Iz/Bkdrs0
寝ます。また明日投下しますね
157 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/22(火) 01:50:23.31 ID:1NzyYhZyo
乙です
158 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/22(火) 01:54:52.68 ID:FsfsD0HB0
のってるねえww 楽しみにしているよ。乙
159 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(西日本) [sage]:2012/05/22(火) 02:00:22.65 ID:fK9Mb7nno
楽しみにしてる!
160 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/22(火) 07:23:40.12 ID:0R0+0TPIO
追いついた、支援支援
161 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/22(火) 10:04:20.14 ID:Iz/Bkdrs0
P「そこまで! うーん、ゆきほとあずささんはスタミナにやや難がありますね。この後もう一曲って言われても厳しそうですし……」

あずさ「こ、これでも精一杯なのよね……」

雪歩「に、肉食って力尽けますぅ」

真美「ねープロデューサー。私どうだった?」

P「ああ、真美は上出来だったぞ」

真美「それでも結構来てるけどね。でもまあ医者も体力勝負だし、これぐらいなら何とか……」

 それでも、万全と言うわけじゃない。真美だってそう何曲も続けて踊ることが出来そうにないな。

P「そうか。3人とも、ゆっくり休んでください。次は……千早と伊織」

美希「プロデューサー、私は良いの?」

P「美希は次に貴音とやって貰うよ。十分戦えるコンビだな」

美希「うん、分かった」

伊織「これでもいい年なんだし、楽なの頼むわよ?」

千早「ええ、ボーカル楽曲とか……」

P「それじゃあ意味ないんだよ。体力を見ているんだから」

 2人の期待を無視して、これまた激しいダンスの曲を選ぶ。
162 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/22(火) 10:16:29.32 ID:RELQFzJV0
千早「〜♪」

伊織「〜♪」

絵理「クオリティ高い?」

P「だね」

 現役バリバリ歌手の千早、万能タイプの伊織。この2人は流石と言うか、見事にこなしている。特に千早は、ブランクがあるといっても歌手だ。体力は大丈夫だろう。ただ、ダンスは拙いのが残念だ。歌手になって、踊る機会が減ったんだろうなと言うことが良く分かる。伊織はどちらかと言うと、真美と同じように、何曲も続けて踊るのは大変そうだ。それでも、今流れている曲に関しては、最高のパフォーマンスを見せている。

P「そこまで」

千早「いかがでしたでしょうか、プロデューサー」

伊織「はぁ……、はぁ……」

P「そうだな……。体力だけで見ると、千早は問題ないだろう。伊織は1,2曲続けてが限界そうだな」

伊織「そ、そうね……。良くて後一曲かしら……」

P「ゆっくり休んでおけ。後千早は、ダンスレッスンを重点的に。歌唱力は言わずもがなだけど、ビジュアルに関しても合格点をあげれるレベルだな」
163 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/22(火) 10:23:13.14 ID:RELQFzJV0
千早「ありがとうございます」

P「伊織は体力作りだな。疲れが出るとボーカルが揺れてくる。ビジュアルは元々得意分野だから、いい感じに魅せれているが……」

伊織「わ、分かったわよ……。スタミナ料理作らせるわ……」

P「それ、すぐに効果でないだろ……。最後に、美希と貴音。用意してくれ」

美希「うん」

貴音「ええ」

 現役時から高いポテンシャルを持っていた2人だが、果たして……。

P「それじゃあ行くぞ」

美希「〜♪」

貴音「〜♪」

P「……これは驚いたな」

冬馬「ああ、この2人、どこかで踊ってたんじゃねえのか?」
164 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/22(火) 11:32:22.39 ID:qkHZG7x+0
 冬馬君が驚くのも無理はない。片方はアイドル事務所の事務員、それも俺が知りうる中でも最悪の終わりを迎えた元アイドル、片方はアメリカで物理学の研究をしていた女性、アイドル活動とは離れていたはずだが、10年のブランクをものともしない完成度に俺も心を奪われていた。いや、ブランクどころじゃなくて、あの頃以上の出来だ。

美希「どうだったかな?」

貴音「最善を尽くしたはずですが……」

P「ああ、パーフェクトだ。お見事、とでも言っておこうか?」

美希「本当!?」

貴音「ふふっ、継続は力なり。ですね」

冬馬「これで一通り終わったな」

北斗「ああ、皆魅力的だったよ」

翔太「これ、オーディションじゃないよ?」

P「そうだが、個人個人課題があるのは事実だ。それと、コンサートのセットリストだけど、たった今決まったよ」

春香「え!? もう決まったんですか?」

P「もう、というよりも、正直遅いぐらいだが……」
165 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/22(火) 11:44:37.28 ID:Iz/Bkdrs0
P「コンサートの日程だが、……8月27日だ」

伊織「後6日ってわけね……」

P「ああ、貴音の言う期日ギリギリだ。なあ貴音、時間は分かるか?」

貴音「ええ、恐らくですが、8月28日0時、その時間で全ては収束すると思われます」

真「うーん、後2日待ってくれたらよかったのに……」

雪歩「真ちゃん、8月29日生まれだからね」

P「それとだが、生っすかの日程が決まったぞ」

響「え? でも日曜は今日だぞ?」

P「そうだけど……、まあ正確には生っすか!? ウェンズデーってとこだな」

春香「水曜日ですか?」

P「そうだな。8月24日〜25日は、24時間生っすかだ!」

雪歩「ほ、ほんとにするんだ……」

P「ああ、テレビ局と調整して何とかなったよ。局としても、数字が見込めると判断したんだろう」
166 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/22(火) 11:52:27.61 ID:OpKrkeTy0
 よくこんな無茶な話を聞いてくれたものだ。その日に流れるドラマを楽しみにしている人も当然いるだろう。そんな人たちのためにも、今日は見れて良かったと思えるん番組でありたい。

伊織「ねえ、そんなに急なら台本も作れないんじゃないの?」

P「そこはあれだよ、馬車馬のようにスタッフを……」

伊織「それは流石に同情するわ」

P「と言うのは冗談だ。いや、こっちの方が事実の方が良かったんだろうか……」

千早「嫌な予感がしてきたわね……」

真美「まさか?」

亜美「アドリブ?」

 アイドル達が俺を見つめる。俺は一つため息をこぼし、あんまりな事実を伝える。

P「うん、前代未聞の24時間台本無しの生放送なんだ」

春香「のヮの……」

一同『ええええええ!?』

P「て、テヘペロ?」

伊織「テヘペロじゃないわよ!!」
167 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/22(火) 12:04:47.61 ID:OpKrkeTy0
P「いや、これは本当にゴメン。向こうのスタッフも忙しいし、そうせざるを得なかったって感じ?」

響「やりたいって言ったけど、24時間台本無しはどうかしてるぞ!」

P「響はあまり関係ないかな。24時間耐久響チャレンジだし」

響「な、何をするんだ……?」

P「そうだな……。24時間耐久ドミノ倒しとか」

響「そ、それはしんどい!」

P「特別ゲストに、響が過去に共演した動物園の仲間たちがやってくるぞ」

響「うぎゃああ! 嬉しいけど嬉しくないぞ!!」

P「まぁ確定はしていないが……。って響は労基上22時以降まで働いちゃダメなんだよな、一応」

響「そうなのか?」

 労働基準法では、18歳未満は22時以降撮影の仕事をしてはいけない。えなり君も生放送じゃ帰っていたはずだ。

P「この中で18歳未満なのは……」

真「ボクは18歳ですね」

春香「私も18歳だね」

亜美「亜美は無理だよ!」

やよい「私もです」

響「自分も無理だぞ」
168 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/22(火) 12:11:11.49 ID:OpKrkeTy0
P「のようだな……。この3人は22時以降は出れないな。翌日の5時まで仕事をしちゃいけないんだ」

響「24時間チャレンジはなくなったかぁ」

P「ああ、マラソンも考えたが……。まあ別の局がその週の今週の土日にするもんな、全く同じ時間のテレビを」

愛「愛は地球を救います!」

絵理「愛ちゃん頑張ってね?」

春香「どういうことですか?」

愛「えっと、今年は私が24時間走るんです」

春香「嘘! 立派になっちゃって……」

愛「12時間で終わらせちゃいます!」

P「いや、そこは空気を読んであげて欲しいんだが……。って愛ちゃん、こっちに時間裂いていいのかい?」

愛「はい、準備は万全ですから」

 24時間テレビの3日前にするなんて狂気の沙汰じゃないっが、せっかくもらった時間なんだ。有効に使わせてもらおう。
169 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/22(火) 12:32:31.99 ID:qkHZG7x+0
P「とりあえず今はライブの話に戻るか。それじゃあセットリストを発表するぞ」

 先ほどの状況をかんがみて決めた曲目を発表する。プログラム通りに進めばいいが、実際のところ何が起こるか分からない。その時その時の状況に臨機応変に対応していかなきゃいけないのがつらいところだ。

愛「プロデューサーさん、必要なら私たちも出ますよ?」

冬馬「ああ、レッスンしてて分かったが、連続して出るのがキツイアイドルもいる。その休憩のために他のアイドルが連続で出て、かえって疲れちゃざまぁねえからな」

絵理「でも男は需要無い」

冬馬「う、うっせーよ! そりゃファン層から離れてるけどよ……」

P「気持ちは嬉しいよ。でも、愛ちゃんはその日の夕方から24時間マラソンじゃないか」

愛「マラソンの前にテンションあげるんです!」

冬馬「まあいらねーって言うんだったら別に良いけどよ。俺たちは現役だ」

絵理「私はプロデューサーだけどね」

愛「でも絵理さん、今でも踊れるの知ってますよ? たまに動画投稿してるじゃないですか」

絵理「あ、あれは……。私じゃなくて……。サイネリア?」

愛「鈴木さんネトア時代のことを忘れたいって嘆いてましたよ?」
170 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/22(火) 12:43:23.21 ID:OpKrkeTy0
P「まあそれは置いておいて、曲目は――。以上だ。場合によっては変更するだろうが、レッスンの際はその曲を重点的に行うぞ」

一同『はい!』

P「うっし、それじゃあもうひと頑張りするか!」

 その後もレッスンを再開する。ついつい夢中になって、レッスン場が閉まる時間まで続けた。

春香「あっ、プロデューサーさん」

P「おっ? なんだ?」

春香「今日は一緒に帰れますね」

P「あ、ああ。そうだな……」

春香「どうしました?」

P「い、いいや……。何でもないぞ」

 昨日の脱衣麻雀のイメージが頭から離れない。そしてそれでしてしまった自分が嫌になる。春香、色々ゴメン。俺はもう、穢れ切っちまったんだ……。

春香「折角だし、どこかで食べて帰りませんか?」

P「外食か? どこでも好きなところに連れて行ってやるよ」
171 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/22(火) 12:43:51.30 ID:qkHZG7x+0
とりあえずここまで。夜にでも続きを書こうかと
172 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/05/22(火) 16:52:48.86 ID:dAOgrof70
がんばってくれ。楽しみに待ってるから
173 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/23(水) 00:57:32.64 ID:ixX1A2YD0
 確かに好きなところに連れて行くといった。ある程度高いのは覚悟していたし、それなりに売れているプロデューサーだ、相手を満足させる店なんぞ、いくらか知っている。しかしだ……。

春香「ここ一度行ってみたかったんですよ! 忙しくて行く前にタイムスリップしちゃいましたし」

P「そ、そうか? 足りるのか、これ」

春香「プロデューサーさん! スカイツリーですよ、スカイツリー!!」

 10年前に出来た東京の新たなるシンボル、スカイツリー。その中にある、超高級レストランに俺たちはいた。

春香「私はスカイツリーのならどこでもよかったんですけど、ちょうどいいところに超高級レストランがあるではありませんか! これは行かなきゃ損ですよ!」

P「あ、あのな……。出来れば俺の財布事情もかんがみてくれると嬉しいんだけど……」

春香「大丈夫ですよ。私だってお金持ってますし、自分の分は自分で払えますよ」

P「それは俺のポリシーに反するんだよ。女性に払わせるなんて、紳士じゃないぜ。それにだ」

春香「それに?」

P「昨日千早とどこで食べた?」

春香「え? 千早ちゃんの家ですけど」
174 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/23(水) 01:01:39.32 ID:U/xWHzXa0
P「なるほど、じゃあお金を使ってないんだな」

春香「いや、小銭は使いましたけど、お札は使ってませんね」

P「それだ。実はな、10年の間にお札に書かれている人が変わったんだ」

春香「ええ!? ほんとですか!?」

P「ああ、諭吉さんがな……」

春香「誰になったんですか!? まさか新渡戸稲造の逆襲!?」

P「日高舞になった」

春香「えええええ!?」

P「だから春香の諭吉は使えないんだよ」

春香「し、知らなんだ……。って舞さん凄すぎるでしょ……。それ、ホントですか?」

P「ああ、ホントだ」

春香「じゃ、じゃあ見せてくださいよ! 舞さんが写った万札を!」

P「ちょっと待ってろよ……」

春香「マ、マジ?」
175 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/05/23(水) 01:04:16.84 ID:3DU6MpcY0
舞さんすげえ・・・
176 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/23(水) 01:08:25.57 ID:9TZcmBFw0
P「さぁ、驚け!」

 俺は財布から、日高舞さんの顔が書かれた万札を春香に見せる。もちろん、おもちゃのお金だ。偽札ってわけではないはず。

春香「ほ、本当に舞さんだ……。ってこれ、おもちゃのお金じゃないですか!!」

P「ははっ、ようやく気付いたか」

春香「だますなんて悪趣味ですよー! 10年間で何が変わったか私全然知らないんですよ? 今の総理って誰です?」

P「総理はな、10年前大阪で知事をしていたよ」

春香「ちゃ、茶髪の風雲児……」

P「アメリカじゃ俳優出身の知事も大統領だっているんだ。弁護士出身の総理も珍しくなんかないぞ?」

春香「い、いや……。なんというか意外というか納得できるというか……」

P「それよりも、注文しようぜ。ちらちらとウェイターがこっちを見てるよ」

春香「水だけで過ごすって思われてるんですかね?」

 早く注文を決めて欲しそうなウェイター君に心の中で謝り、日本語で書かれていないメニューの解読に苦労しつつも、なんとなく美味しそうなものを注文する。
177 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/23(水) 01:15:37.16 ID:9TZcmBFw0
春香「ミラノ風ドリアとかおいてないんですね」

P「当然だろ。そもそもあれ、ミラノ風って着いてるけど別にミラノ風じゃないからな」

 料理が来るまで、他愛のない話をする。特に空白の10年のことは春香にとって驚きの連続のようだ。さっきの舞万円みたいに嘘を言っても信じてくれそうなぐらいには。

春香「今のアメリカの大統領ヒラリーなんですか!?」

P「ああ、アメリカ初の女性大統領だな」

春香「まだコナン君続いてるんですか……」

P「何年やってるんだろうな、あれ。ワンピとかはとっくに終わったぞ」

春香「そうなんですか? 単行本とか持ってたりします?」

P「一応全巻そろえたぞ」

春香「じゃあ帰ったら読ませてください!」

P「構わないぞ」

 おしゃれな雰囲気には合わない、騒がしい2人。静かであることを義務付けられる場なため、周囲からの目線が多少痛い。

ウェイター「お待たせいたしました。ごゆっくりどうぞ」

 ウェイター君が料理を運んでくる。名前を何というか知らないが、財布泣かせのお値段に見合った味であることを心から願いたい。これでまずけりゃ裁判を起こしてやろうか?
178 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/23(水) 01:27:43.15 ID:U/xWHzXa0
春香「ほ、本当に食べていいのかな……」

 ここを選んだのは他ならぬ春香だが、流石の彼女も気負っているみたいだ。

P「頼んだんだから食べないとな」

春香「じゃ、じゃあいただきます……」

 ぎこちなくフォークとナイフを操る春香。ボリューミーなステーキを小さく切り、人々を魅了する歌をつぐむその口に入れる。

春香「……」

P「ど、どうだ春香?」

春香「う、美味い!」

 テーレッテレーと聞こえそうなリアクション、ありがとうございます。あっ、ウェイター君も嬉しそうだ。君作ってないけどね。

春香「プロデューサーさんも! 食べてみてくださいよ! ほっぺたが落ちますよ!」

 むしろそうでないと困る。期待を胸に膨らまし、口に入れる。

P「美味い!」

 テーレッテレー! って何やってんだ、俺。
179 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/23(水) 01:38:38.90 ID:ZMlrLB7p0
春香「でしょ!」

P「ああ、今まで食べて来たものはなんだと言いたくなるな」

春香「どうだ参りましたか!!」

P「なんで春香が威張るんだ?」

 どこまでもマイペースに、ディナーを取る。時折外を見ると、飛行機が光りながら飛んでいくのが見える。634mの世界から見る夜景は、とてもとても綺麗で。もし俺が女性だとして、ここでプロポーズされたなら、ムードに流されて首を縦に振るような気がする。

春香「はぁ、こんなところでプロポ−ズされてみたいなぁ。チラっ、チラッ」

P「チラチラ口に出すな!」

 2つのリボンの間ぐらいを軽くチョップする。

春香「いで!」

P「馬鹿言ってないで食べなさい」

春香「プロデューサーさんのいけず……」

 ジト目で俺を見る春香を無視して、食べ続ける。
180 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/23(水) 01:41:19.54 ID:ixX1A2YD0
最悪だあああああ! 致命的なミスを犯してしもた……。春香の年齢設定が16だったり18だったり……。どーしましょ……。2の時から始まって、飛行機事故がその1年後、それで10年だから……。色んな人の年齢設定を間違えて来たんじゃなかろうか……。冷静になるため、今日はこれで終わります。下手こいた……
181 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/23(水) 06:43:12.62 ID:aoTfTnWCo
おつ
182 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/23(水) 14:41:38.40 ID:ixX1A2YD0
バイトまで少しだけ投下します。それと混乱しそうな年齢設定ですが、8月28日までに生まれたアイドルは1準拠+2(春香18歳)、それ以降は+1(真18歳)で行きましょう。(ひびたかは2の年齢−1スタート)10年後の皆は、11歳上で。
183 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/23(水) 14:49:01.70 ID:9TZcmBFw0
春香「いやぁ、美味しかったですねー」

P「おかげで俺の財布はすっからかんだがな……」

 美味しかったが、いかんせん値段が高すぎる。目が飛び出そうになったぐらいだ。恐らくもう行くことはないだろう。

春香「ねえ、プロデューサーさん」

P「? なんだ?」

春香「あずささんの結婚式ってどんな感じでした?」

P「あー、それかぁ。仕事の都合で行けなかったんだよな。後々写真は見せて貰ったけど、ウェディングドレスが似合ってたよ。旦那様もイケメンだったから、傍から見たら理想の夫婦なんだろうな」

春香「……そうですか」

 なぜか影を落とす春香。さっきまでの元気はどこへやら、テンションは一気に下がる。

P「どうした、春香?」

春香「い、いえ! 何でもないですよ! はぁ、あずささんのお子さんだから、すっごく可愛いんだろうなぁ」

 何でもないというが、一瞬だけ見せた苦い顔を俺は見落とさなかった。もしかしてこいつは……。

P「引け目、感じてるのか?」

春香「え?」
184 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/23(水) 14:59:30.57 ID:U/xWHzXa0
春香「プロデューサーさん、いきなり何を……」

P「いや、あずささんだけではないな。美希だってそうだ。少なくとも、彼女たちは俺に惚れていた。春香が俺を好きになったように」

春香「自意識過剰ですね……」

P「そういうなよ。もっとも、気付くのに相当時間がかかったけどな」

 あずささんが望んだ、運命の人に俺はなれなかった。いや、なろうと思えばいつでもなれただろう。でも俺が選んだのは、隣で歩く彼女なわけで――。

春香「わっ!」

 ネガティブになりつつある恋人を抱き寄せる。肌から伝わる体温が心地良く、いつまでもこうしていたいぐらいだ。

P「あのな、春香。俺はお前を選んだ、運命の人だと思った。それで良いじゃないか」

春香「プロデューサーさん……」

P「俺と結婚できなかったあずささんは不幸せなのか? それは違うと思う。経緯は確かになし崩し的だったかもしれないけど、2人の子供に恵まれて、きっと彼女も後悔していないはずだよ。俺が言うのも変な話だけどな」

春香「……そう言ってくれると、嬉しいかな?」

 小さく笑顔を見せる春香。俺達は何も話すことなく、手を繋いだまま家へと帰る。週刊誌が怖いが、今更彼女たちをネタにする物好きもいないだろう。掲載される頃には、もういないんだから……。
185 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/23(水) 15:10:31.01 ID:9TZcmBFw0
 10年と言う時間は、沢山のものを奪って、沢山のものが生まれたんだ。辛いとき一緒にいてくれた家族は、寿命には勝てず、天国から自分たちを見守ってくれているだろう。あずささんやにぃにぃの飼育が良かったのか、それとも寿命が長いのか、オウ助やワニ美、ブタ太はまだ生きていた。それでも、寄る年波には勝てないのかな、ブタ太はすっかり弱り切っている。元気なのは寿命自体が相当長いオウムのオウ助とワニのワニ美、自分と一緒にタイムスリップをしたハム蔵だけ。なんとも淋しい家族構成になっちゃったな。

 でも悪い話だけじゃなかったぞ! にぃにぃが結婚して、2人の子供を産んだんだ。あっ、これじゃあにぃにぃが出産したみたいだぞ。

あずさ「響ちゃん、入っていいかしら?」

響「あっ、あずささん。構わないぞ」

 あずささんと結婚したなんて、予想も出来なかったけどな。
186 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/23(水) 15:21:47.35 ID:9TZcmBFw0
あずさ「ごめんなさいね〜、寝ようとしていたかもしれないのに……」

響「なんくるないさー。少し考えことしてて、眠れなかったんだ」

 生っすかのこと、最後のライブのこと、色々あるけど、それよりも……。

響「ねぇ、あずささん」

あずさ「なにかしら?」

響「どうして、にぃにぃと結婚したの?」

 理由はなんとなくわかる。あまり言いたくないけど、同じ悲しみを持つ者同士が互いを慰めあった結果。そう思えてしまうんだ。そうだとしても、嘘を吐いてほしかった。にぃにぃとは事故の前から付き合っていた、実は小さいころからの友達だった――。下手糞な嘘でもいいから、あずささんの口から真実だけは聞きたくなかった。

あずさ「響ちゃんのお兄さんは、とてもいい人よ。優しくて、頼りになって。みんながいなくなったとき、悲しみに暮れていた私を励ましてくれたの。年齢が近いってのもあったと思うけど、彼も私たちと同じ、遺族だったから……」

響「……本当に、それで良かったの?」

あずさ「え?」
187 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/23(水) 16:08:18.21 ID:9TZcmBFw0
響「本当ににぃにぃが、運命の人だったの?」

あずさ「そ、それは……」

響「分かってるよ……。だってあずささん、プロデューサーのことばかり見てたもん」

あずさ「響ちゃん……、私は……」

響「ご、ごめんなさい……。そんな責めるわけじゃなかったんだ」

 目に涙を浮かべるあずささんを見て、なんて愚かなことをしたんだと後悔する。きっとあずささんも悩んできたんだ。ずっと運命の人と思ってきたプロデューサーは振り向いてくれず、きっとにぃにぃからプロポーズを受けた時も、あずささんのことだ。どこかしら罪悪感があったんだろうな。にぃにぃをプロデューサーの代わりとしてみてないか、自分だけ幸せになっていいのか。そしていなくなった自分のことも。自分なんかには計り知れないぐらい、あずささんだって苦しんできたのに。

あずさ「仕方ない、のかしら……。でもね響ちゃん。私はこうも思うの。切っ掛けは響ちゃんの消失だったかもしれない、でも偶々それが切っ掛けになっただけで、響ちゃんが事故に遭わなくても、きっと私とあの人は出会ってたと思うの。今と変わらない、温かな家庭を作って。それが運命だったのよ。だから……、響ちゃんは悪くない」

響「あずささん……」

あずさ「それでも自分を責めるなら、デコピンしてあげましょうかしら?」

響「デコピン!?」

あずさ「ええ、娘達には効くのよね〜」

響「じゃ、じゃあ今後気を付けるぞ……」

 怒ったら怖そうだしなぁ。クワバラクワバラ……。

あずさ「ふふっ」
188 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/23(水) 16:13:06.42 ID:ZMlrLB7p0
あずさ「じゃあお休みなさい」

響「うん、お休み。あずささん……。ってあずささん、何か用があったんじゃないの?」

あずさ「用? えっと……、忘れちゃったわね〜」

響「そう? じゃあまた明日ね。今度は迷子にならないでよね!」

あずさ「き、気を付けるわね……」

 あずささんは苦笑いをしながら部屋を出る。この部屋には、自分とハム蔵だけ。

響「なぁハム蔵」

ハム蔵「キュ?」

響「自分、馬鹿だったぞ」

ハム蔵「キュキュ」

響「何をいまさらって、こらぁ!!」

ハム蔵「へけっ!」

 慰めや同情だけで、家族なんか出来ないもんな。あずささんとにぃにぃ、すっごくお似合いだぞ!
189 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/23(水) 16:22:45.84 ID:9TZcmBFw0
続きはバイト後でも。にしてもVIPのカルーアで酷い目にあってきたわ、うん。何言っても自演扱いとか……。
190 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長野県) [sage]:2012/05/23(水) 17:23:30.05 ID:8ncRs+h7o
一先ず乙
待ってる
191 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/05/23(水) 17:33:35.20 ID:3DU6MpcY0
へけっ!ってハム太郎思い出すなあ
192 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/23(水) 21:37:28.35 ID:LHLntFb+0
ダメだよ今あっちに行ったらww
最近はあっちはちょっと過敏になっているから、しばらく様子を見ておく事をオススメする。
193 :投下するよ [saga]:2012/05/23(水) 23:54:50.63 ID:ixX1A2YD0
 家に着いた俺たちは、まったりと時間を過ごす。今日も1日ハードだったな、お疲れ様。

春香「プロデューサーさん! お風呂湧きましたよ」

P「ああ、ありがとう。先に入ってくるよ」

春香「行ってらっしゃーい。ふふっ」

P「な、なんだ?」

春香「何でもないですよーっだ」

 明らかに何かある顔をしている。隠し通そうとしているんだろうけど、思いっきり顔に出ているぞ。まぁ偶には乗っかってやるか。何を考えているかは知らないが(まぁ碌なことじゃないだろうな、うん)、それ以上何も言わずに、風呂場に入る。8月も終わりで、ちょっぴり涼しくなってきたが、それでも汗はかく。クールビズでも暑いものは暑い、だからこんな風にシャワーを浴びて、熱い風呂に入るのは至高にして他に代えがたい空間だ。

P「ふぅ……」

 普通の湯船につかっているだけだが、1日の疲れが流されていく。
194 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/24(木) 00:05:28.45 ID:i0bG7B0y0
P「ババンババンバンバンババンババンバンバン」

 今の若い子は知らないんだよな、ドリフ。たったそれだけでジェネレーションギャップを感じてしまう。かく言う俺も、全盛期をリアルで見て来たわけじゃないけど。それでも大爆笑は見てたっけか。

P「ババンババンバンバンババンババンバンバン」

春香「アビバノンノン」

P「ババンババンバンバンババンババンバンバン」

春香「ハーアアビバノンノン」

P「良いっ湯っだな」

春香「アハハン」

P「良い湯っだな」

春香「アハハン」

P「湯気が天井から……」

春香「ポタリと背中に、ですよ?」

P「な、な、な……」

春香「何で知ってるかって? おじいちゃんと良く見てましたから!」

P「なんでいるんだよおおおおおお!!」
195 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/24(木) 00:13:37.26 ID:ISHSzjlm0
春香「何でって、お風呂に入りに来たんですよ。問題ありますか?」

P「大ありだよ! 今俺入ってるだろうが!」

春香「プロデューサーさんってお風呂は1人で入る派ですか? 淋しいですね、折角彼女がいるんだし、ほら! 裸の付き合いもなかなか趣があって……」

P「そういう問題じゃないって! な、なんで裸なんだよ! 目のやり場に困るって!!」

 急いで両目を、指の間から見えないように手で覆う。しかし、見てしまった強烈な映像は脳内にこびりついてしまった。今、春香は裸だ。18歳の瑞々しい体、程よい大きさの胸、スベスベの足……。その全てを俺は見てしまったんだ。

P「お、お願いだからタオルか何か巻いてくれ!」

春香「えー。恋人同士なんだし、気にしなくてもいいのに」

P「なるの! りゅんりゅんしちゃうの!」

春香「え?べ、別に気にしませんよ! 仕方ないことですし……。それに、私でなったって少しうれしいかも…・・」

P「あああああああ!!! 巻いてくれ! さもなきゃ俺は俺でいられなくなる!!」

春香「わ、分かりましたよ……。はぁ、別に暴走してくれてもよかったのに」
196 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/24(木) 00:24:56.12 ID:i0bG7B0y0
P「き、危険な戦いだった……」

 ビジョンだけでなく、春香の言葉の誘惑に打ち勝った俺は、1人気を落ち着かせるために湯船につかっていた。悩ましすぎる18歳、春香はと言うと、残念そうな顔をしてタオルを巻いてはいってきた。彼女としては、背中流し合いっこやら一緒に湯船に入るやら、恋人同士の戯れをしたかったようだが、鋼の精神力で何とか押し切った。それも不満そうだったから、後で何らかの埋め合わせをしておこう。

P「まさか本物の裸を見ることになるとは……」

 世の男性諸君なら、願ったりかなったりだろうけど、立場上そうもいかない。恋人である前に、俺達はプロデューサーとアイドル、恋愛なんてタブーなんだから。春香からしたら、恋人の方が先に来そうだが、俺からしたら譲れない所だ。例え週刊誌にばれる心配がなくとも。

P「これから耐えなきゃいけないんだよな、これを……」

 30過ぎて、悶々と夜を過ごすことになるなんて思ってもなかったな。実際のところは、女性経験がないわけじゃない。それでも、初心なのは間違いないだろうな。水着とかはまだいい、こっちも仕事と割り切っていれるから。でも生まれたままの姿となると話は別だ。なんというか、刺激が強すぎる。

P「熱膨張しちゃったよ……」

 どうやら俺に安住の地はないみたいだ。
197 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/24(木) 00:31:48.83 ID:ISHSzjlm0
春香「むー」

P「怒るなって春香。な?」

春香「プロデューサーさんの、ヘタレ」

P「ヘタレで結構だ!!」

春香「どーせ私は見る価値もない普通な女の子ですー」

 風呂から上がった俺を、パジャマ姿の春香が迎える。折角一緒に風呂に入ったのに、俺が何もしなかったのが不満なんだろう、ほっぺたをリスみたいに膨らまして拗ねている。

P「はぁ、どうしたら赦してくれるんだ?」

春香「そんなの、自分で考えてください! 私に聞いてどうするんですか?」

P「困ったな……」

 春香は一度起こると結構引きずるタイプだからなぁ。そういう時は……。

P「良し分かった」

春香「何がです? ジュース奢るとかそんなのじゃ春香さんは許してなんかあげませんからね!」

P「一緒に寝るか」
198 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/24(木) 00:39:36.04 ID:8Y2t0pEL0
春香「そんなので納得いく……、プロデューサーさん、今何と仰われましたでしょうか?」

P「敬語が無茶苦茶だぞ。一緒に寝るかって言ったんだ」

春香「……性的な意味で?」

P「普通に寝るだけだこの発情期!」

春香「あだっ!」

 予想通りの返しに、デコピンで返す。

春香「痛いですよ、もう」

P「これでも、春香ちゃんは許してくれないのか?」

春香「クッ……」

 千早みたいに悔しがると、春香は観念したような顔をする。

春香「やっぱりプロデューサーさんには勝てないですね」

P「当たり前だ。そうアイドルに負けるほどやわじゃないっての」

春香「仕方ないですね。プロデューサーさんが寂しそうだし、隣で寝てあげますよ」

P「別に淋しくないから、無理にとは言わないぞ? 嫌々っぽいし、俺はソファーで……」

春香「寝ましょう! 一緒に寝ましょう!!」

 こういうところは単純で扱いやすいな、こいつ。俺としても、断られたら少しショックだったな。高速を逆走するぐらいにはショックを受けるだろう。
199 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/24(木) 00:49:23.70 ID:i0bG7B0y0
 とまぁ、順調に春香の機嫌を取っていたんだが……。俺は馬鹿だった。一緒に寝るということが、何を意味するかと言うことに。

春香「プ、プロデューサーさん……。近いですよね……」

P「そ、そうだな……。これ1人用のベッドだしな……」

 初夜を迎えるカップル見たくぎこちない2人。それもそのはず、望んだものの、いざベッドに入ると思いのほか密着してしまい、風呂場以上に春香を近くに感じてしまうから。裸じゃないのが救いだろうか? いや、そんなことはなかった。

P「は、春香? そ、その……当たってるんですが……」

春香「あ、当てちぇるんです!」

P「ね、寝れるのか、これ……」

春香「お、おやすみなさい!」

P「ああ、お休み……」

 気恥ずかしくなり、眠りに逃げる。しかしだ、すぐ隣には魅力的な女の子が無防備に寝ているんだ。寝ようにも眠れるわけがない。向こうだってきっと……。

春香「すぅ……、すぅ……。ドジリンピックってなんですか……」

P「ね、寝るの早!!」
200 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/24(木) 01:00:07.14 ID:8Y2t0pEL0
 春香は可愛らしい寝息を立て、気持ちよさそうに寝ていた。邪魔するのが野暮なぐらい、まるで御伽話の眠り姫のように。

春香「やったぁ、金メダルだ……」

P「なんの夢を見ているんだ、一体? オリンピック?」

春香「そ、そんな……。銀メダルに降格なんて」

P「何が起きた!?」

 寝言だけは、意味不明だが。

春香「すぅ……、プロデューサーさん……、むにゃ」

P「夢の中にも出てるんだな、俺」

春香「そこはダメでしゅ……」

P「何してるの俺!?」

 寝言に反応したら、相手は死ぬなんて科学根拠もない都市伝説があるが、ここまで面白い寝言をされるとついつい反応してしまう。寝言を言う春香と、それに突っ込む俺。誰も見ていない、ボケに至っては無意識なコントは、俺が眠くなるまで続くのだった。

8月22日、期限まであと5日。
201 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/24(木) 01:02:31.70 ID:8Y2t0pEL0
3日目終了。少し休みます。もしかしたらそのまま寝落ちするかもしれませんが、明日起きたら書くつもりです。
響とあずささんの話をもう少し掘り下げれないものか……。本編であまり絡みのなかった2人だけに、進めにくいですね
202 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/24(木) 01:21:57.27 ID:FekCqAcRo
奇妙な……
203 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/24(木) 01:56:21.27 ID:ISHSzjlm0
 朝目が覚めてふと思う。もしの話、俺が春香と結婚するとしてだ。戸籍ってどうなってるんだろうか? 法律上で一度死んだ人間だ、いわば戸籍がない。それは、法律上結婚が不可能と言うことではないか? そもそも春香は消えてしまうのに……。

P「って寝起きから何を考えているんだ俺は」

 いつも朝起きた時は霞がかったかのようにボーっとしているが、今日は妙に頭が冴えている。少なくとも、朝から戸籍なんて話題が出るぐらいには。恐らく、その原因は……。

春香「おはようございます!」

 俺の隣で寝ていた彼女だろう。存在を意識すると、ドギマギしてしまって寝てもすぐ目が覚めてしまう。おかげで頭すっきりだ。

P「ああ、おはよう」

春香「すみませんね、すぐに寝ちゃって。本当はプロデューサーさんと色々お話ししたかったんですけど……」

P「いいよ、疲れてたんだろうしな」

 あれだけハードなレッスンをこなしてるんだ。そして、2日後には生っすか!? 24時間スペシャルと言う大仕事が待っている。こういう時はしっかり休んで、疲れを十分癒して欲しい。

P・春香『いただきまーす』

 春香の愛妻? 料理を頬張りながら、俺はテレビをつける。テレビはやはりと言うか、1040航空の話題で持ちきりだった。いくらキャスターが懇切丁寧に説明しても、俺達当事者や遺族以外の人間からしたら、ファンタジーの世界だろうに。
204 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/24(木) 02:03:25.99 ID:i0bG7B0y0
P「なぁ春香」

春香「なんでふか? プロデューサーさん」

 二人仲良くパジャマのまま歯を磨く。さっき気付いたが、いつの間にか俺のコップにピンク色の新品歯ブラシが置かれていたみたいだ。もちろん、桃色を好む人間は我が家に1人しかいないが。

P「いやさ、シンデレラガールズに会ってみたいって言ってただろ?」

春香「シンデレラ……。えっと、プロデューサーさんが今プロデュースしている子たちですよね」

P「中には春香より年上、いや二十歳過ぎもいるんだが、彼女たちの刺激にもなるかと思って、明日のレッスンと生っすか!? に彼女たちも出そうと思うんだ」

春香「それは楽しみですね! どんな子たちなんだろ? 皆可愛いんだろうなぁ。再確認しますけど、浮気してませんね?」

P「してません! っとそれよりそろそろ時間だ、行かないと」

春香「あっ、ホントだ! プロデューサーさんの車で行くんですよね」

P「ああ、マイカー通勤だしな。歯を磨いたら着替えていくぞ。今日もレッスンなんだし」

春香「でも午前だけなんですよね? どうしてですか?」 
205 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/24(木) 02:12:52.35 ID:utDUY4Fz0
P「お前、親御さんと過ごせてないからな。俺の家か千早の家に泊まってるんだし、昼から明日まで家族水入らずの時間を過ごしてこい。もっと時間が取れればよかったんだがな……」

春香「大丈夫ですよ! それだけあれば、お父さんもお母さんも喜びます。それに」

P「それに?」

春香「長い間いたら、家族が恋しくなって消えちゃうのが怖くなりますから。……きっとこれで良いんです」

 寂しそうに言う春香。でもな、春香。もっとさびしがっている人だっているんだぞ?

P「いや、ダメだ」

春香「え?」

P「俺はご両親にお前を託された。最後にいて欲しいと思ったのは18年間育ててきた親じゃなくて、どこの馬の骨か分からないような男だって。でもな、あの人たちは俺たち以上に辛く寂しい思いをしてきたんだ。実の娘が死んだのと同じなんだ、きっと俺が思っているよりも悲しい思いをしてきただろう」

春香「……」

P「だから、きちんと謝ってこい。寄り道してごめんなさいって、育ててくれてありがとうって。10年分甘えてこい。それがあの人たちの願いだと思う」

春香「そうですね……。私、見ないようにしていました。悲しくなるだけだ、だからせめてアイドルのみんなと、プロデューサーさんと一緒に最後を過ごそうって」
206 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/24(木) 02:24:41.12 ID:i0bG7B0y0
春香「でも、ちゃんと向き合わなきゃダメですよね。私を誰よりも愛してくれた両親と。それが別れであっても……」

 家族の思い出が春香の中でリフレインしているのかな、目から大粒の雫がポロポロとこぼれる。俺はそっとハンカチでそれを拭く。

P「春香」

春香「なんですか?」

P「俺達は最後まで諦めない、そうだろ? きっと貴音が救ってくれるさ。だから、今際の別れなんかじゃない。そう、次もあるんだ。次は……、そうだな。8月29日、その日真の誕生日だけど、春香の両親に会おうかな」

春香「それって……」

P「あー、あれだよあれ。お付き合いさせてもらっている者です、ってね。流石に結婚のあいさつはまだ早いかな……」

春香「プロデューサーさん」

P「ん?」

春香「約束、ですからね」

P「ああ、約束だ」

 見る人すべてを魅了する100%の笑顔を俺に向ける。約束、か。俺に何が出来るか分からないけど、それでも今を全力でプロデュースすることはできる。ライブに向けて前向きに頑張るアイドル達を、遺族のため粉骨砕身働く涼君達を、運命を変えようとひとり戦い続ける貴音を。俺は最高のパフォーマンスが出来るように、持てるもの全てを尽くそう。
207 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/24(木) 02:31:36.24 ID:i0bG7B0y0
春香「あれ、しませんか?」

P「あれ?」

 すっかり泣き止み、メイクを終わらせた春香はおもむろにそんなことを言う。あれ……。何を指すんだ?

春香「あれですよ、あれ! 指切りげんまん!」

P「指切りか……」

 子供のころ、約束をするときに良くしたっけ。針を千本飲ますのか、ハリセンボンを飲ますのかどっちなんだと無駄に悩んだこともあったっけ。

春香「あはは、なんか子供みたいですね」

P「何を言うんだ。俺は常に童心を忘れちゃいないぜ? それに、春香だって子供だろ?」

春香「もう18歳ですって!」

P「俺からしたらまだまだ子供だっての。じゃあ行くか」

P・春香『指切りゲンマン嘘吐いたらハリセンボン飲ーます』

P・春香『指切った!』

 約束は果たさないとな。今のうちにご両親が好きなもの聞いておくか。 
208 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/24(木) 02:37:37.83 ID:ISHSzjlm0
 春香とともにレッスン場に着いたとき、形態が光ってるのに気づく。どうやら着信があったようだ。履歴を見ると、涼君の番号が。

P「悪い春香。先行っててくれ」

春香「はーい」

 春香を先に行かせ、俺は涼君に電話を返す。

涼『はい、秋月です。えっと、プロデューサーさんですか?』

P「ああ、連絡があったから返したけど、どうしたんだい?」

涼『少しこちらに動きがありまして。今大丈夫ですか?』

P「ああ、大丈夫だよ」

涼『ありがとうございます。えっと、要件なんですが……』

涼『高槻さんのお父様の有力な情報を得ることが出来ました』

P「それは本当か!?」

涼『わっ!』

P「ゴメン、大声を出し過ぎた」

涼『いえ、愛ちゃんで慣れてますから……』

 嫌な慣れだな、それ。しかし驚くのも無理がないと思う。数年前行方不明になったやよい父の情報が、ここになって入って来たんだ。なんとか、タイムリミットまで間に合うんじゃないか?
209 :高槻さん→やよい、形態→携帯。誤字脱字多すぎて嫌になる [saga]:2012/05/24(木) 02:50:23.42 ID:utDUY4Fz0
P「涼君、やよいのお父様の居所は……」

涼『すみません、そこまでは分かりませんでした。ですが、遠くにはいないと思います』

P「そうなのか?」

涼『ええ、高槻氏ですが……』

P「? 何か言いにくいことでもあるの?」

 涼君の息遣いが電話越しに伝わる。意を決したように深く息を吐くと、涼君は信じがたい事実を告げるのだった。

涼『これはやよいさんの耳に入れるべきか悩んでいるところなんですが、高槻氏は……、ホームレスのようです』

P「へ?」

 今、何って言った? ホームレス?

涼『件の本の印税をギャンブルに使ってしまい、離婚したと聞いていましたが、そこから彼は実家に戻らなかったようです。やよいさんのお爺さんもお婆さんも、高槻氏の消息は知らないと言っておられましたし』

P「じゃ、じゃあなんでホームレスって分かるんだ!?」

涼『半年前のことですが、○○公園でやよいさんの曲が流れることがあったそうです。結構な音量で流してたみたいで、住民と争うこともあったと聞いています』

P「その人が、やよい父だってこと?」

涼『ええ、恐らく。住民の方に顔写真も見せましたが、写真の人物と一致したとのことです』
210 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/24(木) 03:02:04.63 ID:8Y2t0pEL0
P「じゃ、じゃあその公園にまだいるんじゃ!?」

涼『いいえ、現在は撤去命令が出て、多くの方が近隣の駅に移動されたそうです。もっとも、高槻氏もそちらに移動したと限りません。居所が分からないというのは、そういうことです』

P「そうか、分かった。今すぐ駅に行こう」

涼『そうですね。ですが、まずは公園に向かいましょう。もしかしたら、まだ居られるかもしれません』

P「やよいには伝えた方が……、良いのか?」

涼『生存を確認できれば、と思いますが……』

 確かに、見つからなかった場合、やよいをぬか喜びさせるだけだ。そして高槻氏の問題は、やよいだけじゃない。むしろこっちの方が深刻だろう。

涼『ただ、やよいさんのご家族は会いたがらないかもしれません。こういう言い方をするのも気が引けるのですが、高槻氏の行動で家族がバラバラになってしまった、特に長介君は複雑な感情を抱いていますし』

P「ああ、それも課題だな……。でもそう言っている間にも移動するかもしれない、○○公園だね、俺も今から行くよ」

涼『え? レッスンの方は……』

P「天ヶ瀬君に任せる! じゃあ後で!」

 みんなには悪いが、こちらも解決しなければいけない問題だ。アイドル達を天ヶ瀬君らトレーナーズに託し、俺は○○公園へと車を走らせる。
211 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/24(木) 03:03:14.68 ID:8Y2t0pEL0
すみません、眠いのでここまで。誤字やらが多いので、ちゃんと校正してから投下します。ではおやすみなさい。
212 :ちょっぴり投下 [saga]:2012/05/24(木) 10:46:31.51 ID:ISHSzjlm0
涼「プロデューサーさん!」

P「涼君、ここに高槻氏がいたのか?」

涼「恐らくは。可能性は低いですが、現在もここで仮住まいをされているかもしれません。探しましょう!」

 涼君と手分けして、高槻氏を探す。トイレの中、土管の中、隅々まで探すもいるのは子供とその母親だけ。高槻氏どころか、ホームレスの姿すら見当たらない。

涼「すみません! こっち来てください!」

 涼君は愛ちゃん張りの大声で俺を呼ぶ。お母様方が何事かとこっちを見たが、無視して涼君の元へと駆けよる。

P「何か見つかったのか?」

涼「ええ、これ見てください」

P「これは新聞か? 2012年8月20日……。事故の翌日の新聞じゃないか!!」

 風で飛ばないように四隅を石で抑えられている新聞。それには、忌々しい事故の記事が書かれている。

涼「ここは元々ホームレスの仮住まいとして使われていたみたいですが、幸いにも402便の記事が1か所だけありました。屋根もありますし、雨にぬれずに状態を維持できたんでしょう」
213 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/24(木) 10:55:35.03 ID:ISHSzjlm0
涼「これは推測にすぎませんが、やよいさんの曲、402便の事故記事。この2つは高槻氏がここにいたことの証拠とみていいでしょう」

P「じゃあ高槻氏は……」

涼「駅に向かったのかもしれません。撤去命令が出たのがここ1年らしいので、まだ生存している可能性は高いでしょう。それにここ、飛行機が良く見えるんですね」

 俺たちの頭上高くを飛ぶ飛行機。方向的に羽田に帰るところだろうか?

P「そうだな……。きっと高槻氏もここから飛行機を見ていたのだろう」

涼「なおさら、高槻氏はここにいたんでしょうね。いつ402便が帰って来てもいいように、良く見える場所からやよいさんの帰りを待っていたんだと思います」

 娘の死を商売に使ったといわれる高槻氏も、本当はそんなつもりがなかったはずだ。もう少しだ、もう少しでやよいたちは再び家族を取り戻すことが出来る。

P「よし、駅に向かおう!」

涼「はい!」

 高槻氏が生きているだろう有力な情報を得た俺たちは、駅へと車を走らせる。車内のラジオは偶然にも、やよいの歌が流れていた。
214 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/24(木) 11:04:25.80 ID:ISHSzjlm0
 駅の駐車場に止め、俺達は高槻氏の捜索を再開する。

P「高槻さーん! 高槻○○さんはいませんかー?」

涼「高槻さん!」

 道行く人に奇異の目で見られながらも、俺達は高槻氏の名を呼び続ける。この場にいないにしても、何らかの情報が手に入れば良かった。

モブA「ねぇ、あれ秋月涼じゃない?」

モブB「ほんとだ! すみませーん! 秋月涼さんですよね! サイン貰えますか!?」

涼「ええ!? い、今は……」

P「書いてやりなよ涼君。そんなに時間は取らないだろ?」

涼「そうですね。えっと、何に書けばいいかな?」

モブA「じゃあこれに書いてくれます?」

モブB「私はこれに!」

涼「あはは、ちょっと待ってね……」

 苦笑いを浮かべサインをする涼君。今はアイドルと言うより、遺族会の一員という印象があるが、彼だってトップアイドルの1人だ。むしろこうやって遺族会や俺達に協力を惜しまないのはありがたいが、アイドルの仕事、どうしてるんだろ?
215 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/24(木) 11:11:30.75 ID:utDUY4Fz0
涼「すみませんね、捕まっちゃって」

P「気にしてないさ。涼君だってトップアイドルの1人なんだし、まあ仕方ないさ。有名税として受け入れなよ」

涼「はぁ、ちゃんと変装しておけばよかった。今後気を付けます」

 秋月涼即席サイン会は、最初の2人で終われば良かったが、涼君の存在に気付いたファンの皆様がサインを求めようと行列を作ったため、かなりの時間を食ってしまった。人気者は辛いな、うん。俺も一応名の知れた人間だが、プロデューサーにサインを求める人間もまぁいないだろう。

P「よし、再開するか」

 気を取り直して捜索に取り掛かる。駅前の大きな時計が、12時の合図を知らせた時、俺はある物に気付く。ゴミ箱を覗き込む顔。それは、写真に写る顔とどことなく似ていて……。

涼「いや、どうでしょうか……」

 涼君は違うんじゃないかと言う顔をしている。俺はそれを無視して、男性の元へ駆け寄る。

P「すみません、高槻さん……、ですよね?」

?「!?」

P「ちょ、高槻さん!!」

 名前を呼ぶと、男性は驚いた顔をして逃げ去る。
216 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/24(木) 11:18:17.63 ID:i0bG7B0y0
また致命的なミスをしてしまった……。死にたい。1から書き直したいぐらいだ……。だめですよね、はい。

P「これは新聞か? 2012年8月20日……。事故の翌日の新聞じゃないか!!」

P「これは新聞か? 2022年8月20日……。あの日の翌日の新聞じゃないか!!」
217 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/24(木) 11:26:04.40 ID:ISHSzjlm0
涼「これはビンゴですね!」

P「どうやらそうみたいだな! 高槻さん! 待ってください!」

 全力で逃げる高槻氏を追いかける。周囲は何事かと俺達のチェイスを見るが、すぐにどうでもよさそう歩き出す。

P「高槻さん! 新聞見たんでしょ!? やよいが帰って来たこと知ってるんでしょ!?」

 やよい。その言葉に反応して、高槻氏は足を止める。

?「あ、あんたは……」

P「急に押しかけてすみません。高槻やよいのプロデューサーです」

?「そうか……。どうりで見覚えがあると思ったわけだ」

涼「はぁ、はぁ……。高槻さん、やよいさんは生きているんです! 帰って来たんです! あの時のまま何も変わらず!」

?「あの頃のまま、か……。やよいはそうかもしれないが、周りの環境は大きく変わってしまったよ」

P「高槻さん……」

高槻「こういう時、なんといえば良いんだ? 娘が世話になった。違うか……」
218 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/24(木) 11:32:48.44 ID:utDUY4Fz0
 写真に写る顔とは似ても似つかない。厳しい生活を強いられているからか、やせ細っており、髭も整えられず生えっぱ、髪の毛も脂ぎって伸びきっている。何日も風呂に入れていないのだろう。鼻を通る臭いがそれを物語っている。

高槻「プロデューサーさんだっけか? 俺を探してるってことは、俺がしてきたことも知っているんだろ? 俺は姿を見せちゃいけないんだ。やよいには死んだってことで伝えてくれよ……」

P「ええ、あなたの行動は長介君から聞きました」

高槻「長介か……。懐かしい名前だな。つけたのは俺なのによ」

P「やよいは……、もう一度家族全員で過ごしたいと思っています。高槻さん、これを伝えるのは心苦しいのですが……。やよいに残された時間は、残り5日です」

高槻「なに? どういうことだ?」

 ハトが豆鉄砲を食らったかのような顔をする高槻氏。当然だろう、プロデューサーさを名乗る男が、娘の命は後5日なんてことを言うんだ。驚かないわけがない。

P「それも踏まえて説明したいんですが……」

高槻「ちょ、ちょっと待ってくれ! その前に」

涼「その前に?」

高槻「風呂、入らせてくれねえか?」

 なるほど、それは最優先事項だ。……風呂掃除大変なんだろうな、うん。
219 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/24(木) 11:41:47.84 ID:8Y2t0pEL0
 高槻氏の生存を確認した俺は、レッスンが終わっただろう春香に電話をかける。

P「もしもし、春香か?」

春香『プロデューサーさん! 急にどこ行っちゃったんですか!』

P「すまないな、少し新たな展開があってな」

春香『新展開ですか?』

P「やよい父が見つかったんだ」

春香『本当ですか! ねえ、やよ』

P「ストップ。やよいにはまだ話さないでくれ」

春香『何でですか?』

P「色々と複雑なんだ。下手なことをして、最後のチャンスをつぶしたくないしな」

春香『分かりました。じゃあ私はこれで……』

P「ああ、しっかり親孝行してこい!」

 そう締めて、春香との電話を終わらせる。

P「ご両親にも連絡いれとかないとな」
220 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/24(木) 12:02:17.62 ID:utDUY4Fz0
 春香の両親にも一方いれた俺は、ソファーに座り一息つく。まだ昼過ぎと言うのに、どっと疲れが出る。年甲斐にもなく全力で走ったからだろうか? 明後日ぐらいに来るんだろうな、筋肉痛。俺もいい歳だ。過ぎて行った栄光の日々を懐かしく思っていると、インターフォンが鳴る。涼君が戻ってきたようだ。

P「お疲れ様、涼君」

涼「えっと、こんなもので良いんでしょうか? サイズが合うか分かりませんが……」

P「大丈夫じゃないか?」

 涼君には高槻氏の服を買ってきて貰っていた。話を聞くと、何年も服を着替えていないようだった。俺には想像したくない話だ。風呂自体も何年振りだろうか? 余程気持ちいいのか、なかなか上がってこない。

涼「じゃあ僕お昼つくりましょうか?」

P「ええ? そこまでしてもらわなくても」

涼「良いんです。料理は僕の得意分野ですから。えっと、台所借りちゃいますね」

P「そう? じゃあお願いしちゃおうかな」

 涼君はそういって、料理に取り掛かる。流石オトメンと言うべきか、手際は非常に良い。

P「なんかこういうの、新婚さんみたいだな……」
221 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/24(木) 12:08:35.91 ID:utDUY4Fz0
涼『ねえ、あなた。起きてよ〜』

涼『じゃーん! 今日は結婚して2週間記念日だから、豪華な料理作っちゃった! りゅんりゅん♪』

涼『おかえりなさい! ご飯にする? お風呂にする? それとも、私?』

P「ってなったり……」

P「ってちがああああああああう!!!!」

涼「ど、どうしたんですか!? 急に大声出して?」

P「い、いや……。雑念を振り払おうと頑張って……」

 何を考えてるんだ俺は! 涼君は、男の子だろうが!! それ以前に俺には春香と言うハニーが……。

 懺悔します。私は昔、涼君(女装)でしたことがあります。本当にすみませんでした。

高槻「えーと、すみません。着替えは……」

P「あっ、今行きます」

 高槻氏の着替えを風呂場へと持っていく。
222 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/24(木) 12:09:06.27 ID:utDUY4Fz0
とりあえずここまで。続きはまた夜にでも。
223 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/05/24(木) 12:23:38.53 ID:Ec9y2zR0o
おつです
224 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/25(金) 00:08:04.24 ID:gKUYHHug0
高槻「良い湯だった、掛け値なしに。髭もそったのは、いつ振りだろうな」

P「そ、そうですか……」

 お風呂から出てきた高槻氏は、雑草のように生えていた髭を綺麗に剃り(俺の電動髭剃り使ったんだろうな)、さっぱりとした顔になっていた。写真と見比べると、やせ細ったぐらいだろう。

高槻「えっと、プロデューサーで良いんだよな」

P「ええ、お好きに呼んでいただいて結構です」

高槻「プロデューサー、さっき言っていた、やよいに残された時間が5日って言うのは、どういう意味だ?」

P「……言葉通りの意味です。信じがたいと思いますが、402便の乗客は5日後、元いた場所に戻ります」

高槻「元いた場所?」

P「402便は再び、時空のはざまに閉ざされるんです」

高槻「悪い、俺は難しい話は苦手なんだ。もう少し分かりやすく説明してくれないか? 時空のはざまなんて、フィクションの世界じゃないのか?」

 俺は貴音の説明を掻い摘みながら高槻氏に説明する。俺自身原理やら何やらの意味を分かっていないため、質問されたところで何も返せないんだが……。高槻氏は俺の話を相槌を打ちながら静かに聞く。
225 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/25(金) 00:19:16.92 ID:8ohezgsJ0
P「以上が、今俺から説明できること全てです」

高槻「難しいことは分からないが、やよいが後5日でドロンしてしまう、それだけは分かった」

涼「ド、ドロンって……」

 そんな忍者みたいに消えるわけじゃないと思うが……。

P「だからこそ、やよいに、長介君たちに会ってほしいんです。これが家族の揃う最後のチャンスなんですよ」

高槻「プロデューサー」

P「はい」

 高槻氏は、申し訳なさそうに口を開く。

高槻「やっぱり俺には、やよいに、家族に会う資格なんてない」

涼「高槻さん!」

高槻「やよいが今の俺を見たら何と思う? 俺は最低の父親だ。生活が苦しいから、やよいはアイドルになり、俺は仕事も長続きしない、ギャンブルに溺れる、挙句の果てに娘の死を商売にしたんだぞ? 長介たちの反応が俺のしたことを物語っているんじゃないか?」
226 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/25(金) 00:29:24.57 ID:IATauVbR0
涼「でもあなたは、やよいさんが帰ってくることをずっと待っていた! 公園付近の住民から聞きました。ずっとやよいさんのCDを流し、飛行機のよく見える場所で、402便が空の向こうから帰還するのをずっと待っていたはずです!」

 普段の涼君からは想像もつかないぐらいの、強い声。そうだ、この人はずっと待っていたんだ。やよいが帰ってくるのを。それならば、簡単な話じゃないか。

高槻「君たちに何がわかるんだ! 俺は父親失格なんだ! 離婚してあいつらと別れて清々してるぐらいだ! 何に縛られることなく、自由に生きて……」

P「ええ、あなたは父親失格です。やよいだけじゃない、家族から逃げたんですから」

高槻「そうだとも! 逃げたんだよ俺は! 笑えよ……」

P「ですが、それを決めるのはあなたでもない。ましてや俺達でもない。あなたの、家族です」

高槻「俺は全てを失った、やよいが見てきた俺じゃない。今の俺を見て、あいつはなんと思う?」

 躊躇いがちに言う高槻氏。彼は怖いんだ。自分の死を商売にした父親を恨んでないか、迎えてくれるのか。

P「やよいに会いたかったんじゃないんですか? やよいのこと、ずっと思ってたんじゃないんですか? だったら……」

高槻「プロデューサー、あんたも分かるだろ? 10年はよ、長すぎたんだ……」

P「分かるからこそ、やよいに会って欲しいんです。後悔して欲しくないんです」
227 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/25(金) 00:42:42.51 ID:8ohezgsJ0
高槻「俺は……、どうすればいいんだ?」

P「今は会いたいって気持ちだけで十分です。どうか何も考えず、抱きしめてあげてください。謝るのは、その後からでも遅くないと思います」

涼「やよいさんはきっとこう思いたいんじゃないでしょうか? 10年後に来て良かったと。仲間に、大好きな家族に会えてよかったと、今ここにいてよかったと。悲しいですが、僕達には分かりかねますが……。でも、やよいさんですから。きっと前向きにいますよ」

高槻「なあ、君達。何歳だ?」

P「えっと俺ですか? 33歳ですけど……」

涼「26歳ですが……」

高槻「つまり俺は、自分の半分ぐらいの子に喝を入れられたってわけか……。情けない、本当に情けない」

 高槻氏は自嘲的に笑う。そして俺たちの目を見据えて、決意を新たにする。

高槻「お願いだ、プロデューサー。俺を……、やよいたちに合わせてくれ」

P「覚悟、決まりましたか?」

高槻「ああ、父親失格なら、今から挽回すればいい。向こうが拒んだとしても、俺は認めてもらえるまで、謝り続けるよ」

P「分かりました。それでは、やよいに会いに行きましょう」

涼「ええ」

 俺達3人は小さく笑い合い、やよいの元へと移動する。
228 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/05/25(金) 00:45:54.68 ID:/swPq6pY0
まだ見てたいけど寝る!
お休みー
229 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/25(金) 00:50:20.41 ID:IATauVbR0
高槻家

長介「姉ちゃん、電話なってるよ?」

やよい「あれ? あっ、プロデューサーからだ」

 レッスンを早く終わらせて、今日は家族水入らずの時間を過ごしてます。本音を言うと、お父さんもここにいて欲しかったかな?

やよい「はい! 高槻やよいです!」

P『やよいか? 俺だけど……、お前に朗報だ』

やよい「ろーほー?」

P『ああ、探していたお父様だが見つかったよ』

やよい「ええ!? お父さんが見つかったんですか!?」

長介「えっ?」

P『でだ、お父様はやよいに、家族に会いたがっている。やよい、会ってくれるか?』

やよい「もちろんです!!」

P『それは良かった。じゃあ一度お父様に変わるな』
230 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/25(金) 00:58:31.88 ID:IATauVbR0
 電話越しに、プロデューサーと誰かが話している声が聞こえます。そして少しして……、

高槻『や、やよい……、なのか?』

やよい「おとう……さん?」

高槻『そ、そうだ……。お父さんだぞ?』

やよい「どこに行ってたの馬鹿!!」

高槻『のわっ!』

 思わず大きな声を出しちゃったみたい。でも私は溢れ出る気持ちを抑えることが出来なかった。

やよい「馬鹿! 馬鹿! 馬鹿!! ばああああああか!!!」

高槻『か、返す言葉もない……』

やよい「すっごく心配したんだから! 何で、なんで勝手にいなくなっちゃうの!!」

 なんか弟たちに怒ってるみたいだけど、お父さんだからいいんです! いい年して子供なんだから!!

高槻『その、すま』

P『はい、そこまで。やよい、馬鹿馬鹿言う方が馬鹿なんだぞ?』

やよい「知ってます!」

 プロデューサーも馬鹿です!
231 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/25(金) 01:08:17.08 ID:gjeCrvCF0
P『感動の再会は、電話越しじゃなくて直に会わないとな』

やよい「お父さんに会えるんですか!?」

P『元々そのつもりだっての。じゃあ○○公園で待っているぞ』

やよい「はい!!」

 お父さんに会える、それだけで心は弾みます。だけど……。

長介「姉ちゃん、あいつに会うの? 俺は会いたくない……。あいつのせいでっ!!」

 長介は複雑な顔をしています。お母さんも、かすみも。みんなお父さんを許せずにいるんだね……。でもね、いつまでも仲が悪いのは、嫌だな。

やよい「長介が会いたくなくても、私が会いたいの。きっとお父さんも同じことを思ってるよ」

長介「そんなわけないだろ! あいつは自己満足したいだけなんだ! 勝手に本にしてごめんなさい、そのお金でギャンブルしてごめんなさい。姉ちゃんにそう言って終わりだよ!」

やよい「長介!!」

長介「悪い……、姉ちゃん」

 久しぶりかな、こうやって長介を怒鳴るの。いつの間にかしっかりして来たと思ってたけど、やっぱりまだまだ子供なんだ。でも実際は私の方が子供だから、ちょーっと変な感じがします。
232 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/25(金) 01:17:16.19 ID:IATauVbR0
やよい「会ってもないのに、そう言っちゃダメ! だから会うの。何言われるか分からないし、私も何言っちゃうか分からないけど……。それでも! 家族は一緒にいなきゃ!」

長介「はーあ、姉ちゃん何言っても聞かないだろうしな……。俺も行くよ」

やよい「長介も?」

長介「……悪いかよ」

やよい「ううん。長介も、前に進もうと思ったんだよね!」

長介「俺は! ……あいつを1発殴るだけだ」

やよい「暴力はいけません!!」

長介「いでっ! げんこつ付きで言うセリフじゃねえよ! 説得力ねえっての」

やよい「きょーいくてきしどうです!」

長介「それ、意味分かって言ってる?」

 もちろん、分かりません!! 私と長介は、お父さんがいるという公園へと向かいます。
233 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/25(金) 01:31:30.28 ID:IATauVbR0
公園

高槻「く、来るんだよな? な?」

P「そう言ってるでしょうが……。そわそわし過ぎですよ、高槻さん」

涼「緊張しているんですか?」

高槻「あ、当たり前だろ! こんなに緊張するのは、やよいが産まれるとき以来だ」

涼「産まれるとき以来?」

高槻「ああ、自分に子供が出来る。それはそれは緊張するもんだぞ。どんな子が産まれるのかな? 俺に似てるのか、母さんに似てるのか? そわそわしてて看護師に注意されたっけか」

涼「そうですか……。そんなこと聞いたら、こっちまで緊張しちゃいますね……」

 涼君は物思いに沈む。そういえば涼君ももうすぐ父親になるんだっけか。この中で子供がいないのは、俺だけか。なんか仲間外れって感じ。

???「お父さん……?」

高槻「え?」

 男3人他愛のない話をしていると、不意に後ろから声が聞こえる。振り向くと……。
234 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/25(金) 01:52:52.02 ID:8ohezgsJ0
高槻「やよい?」

やよい「はい! 高槻やよいです!!」

高槻「やよい!!」

やよい「わぁ!」

 高槻氏はやよいを強く抱きしめる。もう2度と、離れないように……。

やよい「お父さん……、強いよ……」

高槻「ゴメンな……、ゴメンな……」

長介「……」

 親子の再会を苦い顔で見守る長介君。彼が最も憎んでいる父親と、大好きな姉。長介君は心の整理がついていないようだ。

P「やあ、長介君」

涼「久しぶりって言えばいいのかな?」

長介「プロデューサーさんに、涼さんですか……。久しぶりって程でもないっすけど」
235 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/25(金) 02:04:22.29 ID:gKUYHHug0
涼「えっと、オレンジジュースで良いかな?」

長介「すみません、気を使わせちゃったみたいで」

 俺たちはベンチに座り、缶ジュースを開ける。

長介「なんって言ったら良いんですかね……。頭では分かってるんですよ、でもまだ許せそうにはないっす」

P「それは本を出したことかな? それともそのお金で自堕落な生活を送ったことかな?」

長介「そんな単純なものじゃないです。今はまだ、分かりそうにないですよ」

P「そうか。ならじっくり考えればいいさ。そして、受け入れていくんだ。いつまでも意地を張っていても、しんどいだけだからな」

長介「意地だなんて!」

P「良いじゃないか。今は家族が元に戻るんだから。長介君だって望んでたんじゃないのか? もう一度全員が揃うその日を。お父さんと、やよいが帰ってくる時を」

長介「そ、それは……、否定しませんけど……」

涼「長介君、君はお父さんのことを最低の父親だって思ってるんだよね?」

長介「だってそうでしょ!? あいつは!!」
236 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/25(金) 02:14:29.33 ID:8ohezgsJ0
 公園中に響き渡るほどの大声を出す長介君。顔を真っ赤にして、息を整えている。

長介「すみません、大声出しちゃって」

涼「ううん、別に気にしてないよ。長介君、僕は高槻さんが父親失格だなんて思えないな」

 涼君は長介君を嗜めるように柔らかい声色で言う。 

長介「なんでそう言えるんです?」

涼「うーん、何でって言われると返答に困るけど……。高槻さんね、ずっとやよいさんの曲を聴いていたんだって。この公園でね」

長介「この公園で? それ、どういうことですか?」

涼「あっ」

 涼君はしまった! とわざとらしく口に手を当てる。長介君は知らないんだよな、離婚した後、彼がどのような運命にあったかを。

長介「涼さん、さっきのは」

高槻「長介、それは俺から話そう」

 泣き疲れたのだろうか、高槻氏の手を握るやよいは顔を真っ赤にしていた。弟たちや俺たちの前では涙を見せないやよいが、父親の前では感情を抑えきれなかったんだろうな。
237 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/25(金) 02:26:33.70 ID:gjeCrvCF0
長介「なあ……、あんたいったい何をしていたんだ? 教えてくれないか?」

高槻「でもその前に、これだけは言わせてくれ。ただいま、長介」

長介「……お帰り」

 聞こえないぐらいの小さな声で出迎えのあいさつをする。とはいえ、高槻氏の目を見ようとしていないが……。

高槻「何から言えば良いか……。その、すまなかった。俺のせいで、お前たちに苦労をかけて」

長介「……別に。なんともねえよ」

高槻「俺は離婚した後、恥ずかしい話だが、浮浪者をしていたんだ」

長介「なっ!? そんなの、聞いてねえぞ!」

高槻「実家に帰るなんて選択肢もあったはずだが、俺はどうかしていたんだ。帰る家をなくして、この公園にずっと住んでいた。家から持ち出せた古いCDプレイヤーと、やよいのCDだけを持って。後はその日暮らしだ。水道の水で喉の渇きをいやし、ゴミ箱を漁り、空をゆく飛行機を見つめるだけの毎日だった。どうだ、軽蔑したか?」

長介「そんなこと言ってよ、俺はどうすればいいんだよ……」

高槻「お前が考えて、決めるんだ。俺はやよいにも長介にも会えた。それだけでもう十分だ」
238 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/25(金) 02:41:41.71 ID:gKUYHHug0
長介「……十分じゃねえだろ。まだまだ十分じゃねえよ! 何俺と姉ちゃんに会えたから自分の仕事終わりみたいな顔してんだよ! あんたは償わなきゃなんない。今まで俺達に苦労かけたと思ってるんなら、最後まで家族に償うんだ。許されるかどうかは知らない。現に俺だってあんたを許せないと思う気持ちと、過ごしてきた境遇に同情している気持ちの2つがせめぎ合っているんだ。てか反則だろ、身の上話は」

高槻「聞いてきたのはお前だろ」

長介「そ、それはオヤジが勝手に! あっ」

P「ほう、」

涼「今」

やよい「オヤジって言いました!」

長介「い、言ってない!! 誰がこんな奴をオヤジって……、って抱き着くな!」

高槻「悪かったな……、本当にすまない……」

長介「泣くんじゃねえよ! ああ、もう! このクソオヤジは……」

 うんざりしたように言うが、その顔は満更でもなさそうだ。

長介「姉ちゃんが悲しむからな……。言っとくけど、俺はまだあんたを許してないからな!!」

 精一杯強がる長介君。それが何となくおかしくて、俺達はケラケラと笑った。止まっていた高槻家の時計は、動き出したんだ。
239 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/25(金) 02:43:46.91 ID:8ohezgsJ0
キリも良いのでここまで。これからもちょいちょい更新してきます。出来れば明日もしたいかなーって。ではでは
240 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/05/25(金) 04:26:24.72 ID:Mk/Pz2fro
おつー
たのしみにしてるよ
241 :ちょっぴり投下 [saga]:2012/05/25(金) 10:39:45.02 ID:8ohezgsJ0
涼「行きましたね」

P「そうだな、ここからは俺達が入る場所じゃない。高槻家の問題だ」

 高槻氏は俺達に軽く会釈をして、2人の子供とともに高槻家へと戻る。彼がもう一度父親に戻ることが出来るか、それは分からないが、願わくばもう一度もやし祭りでも出来たらいいなと思っている。

涼「では僕はまだやることがありますので」

P「大変だな、遺族会も」

涼「いいえ。元々誰かの世話をするのは好きですから。プロデューサーさん、付き合わせてしまってすみません」

P「おいおい、別に謝ることはないだろ? 俺だって高槻家は気にかけてたしね」

涼「そうですね。ってあれ? 電話だ。すみません。もしもし? り、律子姉ちゃん!?」

 涼君は俺に断りを入れると、かかって来ていた電話にでる。どうやら涼君の天敵の鬼畜従姉から電話がかかって来ていたようだ。

涼「どうしたの? へっ? 意味分からないんだけど……」

P「何話してるんだろ?」

 見る見るうちに涼君の顔は真っ青になっていく。一体律子は何を伝えたんだ?
242 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/25(金) 10:47:38.25 ID:IATauVbR0
涼「そ、そんなぁ! それまで決めって切れちゃった……」

P「涼君、何があったの?」

涼「はぁ……、それがですね……」

 涼君はたまらないといったような顔をしている。律子のことだから、また無茶ぶりでもしたんだと思うが……。それは俺の予想以上の内容だった。

涼「結婚式の日取り、決まっちゃいました」

P「へ? 結婚?」

涼「はい、ウェディングです」

P「いや、言い直さなくても分かるよ?」

涼「25日、生すっか!? で結婚式を中継するって……。僕の意思はどこなんだろ……」

P「そ、それは災難だな……。同情するぜ」

涼「本当にメロスを再現しちゃうなんて……」

 涼君は深くため息を吐く。そりゃそうだ、3日後結婚式ですなんて言われたら困惑するに決まってる。涼君の言うように、現代版走れメロスだな。律子がメロスで、涼君がその妹。暴君も人質の親友もいなく、あるのは消滅期限だけ。律子の気持ちもよーく分かる。ただ、涼君はなんというべきか……。
243 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/25(金) 11:04:55.80 ID:gKUYHHug0
涼「でも、僕も覚悟を決めなきゃいけないんですよね……。子供までできたんだし、それに律子姉ちゃんには見ていて欲しかったから」

P「ああ、それがいいだろうな」

 きっとこれを逃すと、涼君も桜井さんも後悔するだろう。だから多少強引でも、これが良かったんだろうな。そしてこれは、律子の最後のプロデュースだろう。涼君が女装を告白した後、律子はこんなことを言っていた。

律子『本当のことを言うと、私涼をプロデュースしたかったんですよね。なんだかんだ言っても、あの子には光るものがありましたし。でも876で良かったんだと思います。きっと私じゃ、あそこまでプロデュースできませんでしたから』

 物悲しそうに言う律子の顔が、今でも思い起こされる。

涼「夢子ちゃん知ってるかな……。電話しておこう。それじゃあプロデューサーさん、僕はこれで」

P「頑張れよ?」

涼「はい。って何を頑張ればいいんだろ? ケーキ入刀の角度?」

P「いや、違うんじゃないか。それ」

 どこかずれたことを言いながら、涼君は去って行った。

P「あいつらが、時間を動かしているんだよな……」

 壊れた家族の再生、結婚と言うプロデュース。10年前から来たアイドル達が、今を生きている人に大きな影響を与えている。それだけで、彼女たちがここに来たことは無駄なんかじゃなかったといえる。

P「さて、どうすっかな」

 差し入れを買って、シンデレラ達のレッスン場に向かうことにする。そうだなぁ。ドーナツでいっか。またかって言われそうだけど。
244 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/25(金) 11:13:21.55 ID:gKUYHHug0
P「うっす、差し入れ買って来たぞ」

凛「プロデューサー。遅かったね」

P「悪いな。少々家庭の事情でな、ほれ。ドーナツだ。トレーナーさんもどうぞ」

トレーナー「あっ、ありがとうございます」

みく「プロデューサチャン! 酷いのにゃ〜」

P「へ? どうしたニャース」

みく「ニャースじゃない!! 前みくのことスルーしてたにゃ!?」

P「前……。ああ、あの時か。あずささんが迷い込んだ日」

みく「みくだけ台詞がなかったにゃん!」

P「はいはい、ゴメンな、後そういうこと言わない」

 素で忘れてたなんて言えない。

杏「ねえプロデューサー」

P「なんだ? 帰りたいいてのは無しな?」

杏「先手を取られたか! じゃなくて、その子誰?」

??「ドーナツ美味しいね!」
245 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/25(金) 11:20:58.50 ID:gjeCrvCF0
凛「えっと、あんた誰?」

??「私? 私は椎名法子だよ?」

幸子「椎名法子? まさかプロデューサー、あなた誘拐したんじゃ」

P「違うって。なんというか、ドーナツ買ったらついてきた」

楓「?」

莉嘉「ど−ゆーこと?」

P「えっとだな、新人アイドル?」

卯月「何で疑問形?」

法子「椎名法子です! ドーナツみたいにみんなを幸せにするアイドルになりたいな!」

杏「ドーナツみたい? それって穴の開いた……。まさかビ」

P「言わせるか! きらり! 杏を好きにしてよし!」

きらり「にょわー☆」

杏「いだだだだ!」

 ふぅ、危ないところだった。でもまぁ、ドーナツみたいなアイドルってなんだ?

かな子「ドーナツ美味しいです」

P「お前は食べすぎるなよ?」
246 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/25(金) 11:31:34.41 ID:gKUYHHug0
 アイドル達は混乱しているので、俺の口から彼女について説明する。

P「法子は俺が良く行くドーナツ屋の常連客なんだ。今日も差し入れにドーナツ買おうとしていたんだが……」

P『えっと、新作ドーナツか。人気なのかあと1つしかないな』

法子『わぁ! 新作だ!』

P・法子『え?』

P『えっと、このドーナツ食べたいの?』

法子『もちろんです!!』

P『じゃ、じゃあ食べなよ。別に今日買わなきゃ死ぬわけでもないし』

法子『じゃあいただきます! そうだ! 一緒に食べませんか? ドーナツは1人で食べてもおいしいけど、みんなで食べるともっと美味しいよ!』

P『俺急いでるんだけどなぁ』

法子『じゃあ私がそっちに行けばいいんだね!』

P『い、いやそんなわけでも』

法子『良いからいいから! そう言えば結構この店で見る顔だね。何してるの?』

P『俺? 一応近くの芸能事務所でプロデューサーをしてるけど……』
247 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/25(金) 11:37:50.09 ID:IATauVbR0
法子『アイドル? ってことはドーナツのCMも来るの?』

P『CMなら来るんじゃないか?』

法子『決めた! 私、アイドルになります!』

P『ほえ?』


P「ってわけだ。法子を連れて事務所に行ったら、」

李衣菜「社長がティンと来たと」

凛「なら仕方ないね」

P「そういうことだ。実力は未知数だが、今日からみんなと同じアイドルとして頑張ってもらうから、よろしくな」

法子「よろしくお願いしまーす! はい、これ親愛の証のドーナツ!」

蘭子「真理の地平を夢見し穴、なんと美味であることか……(ドーナツ美味しいです)」

かな子「うん! これはいくらでも食べれるや」

凛「食べ過ぎじゃない?」

 どうやら法子もすぐに馴染んだようだな。休憩をはさみ、シンデレラガールズのレッスンを行う。
248 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/25(金) 11:48:17.62 ID:IATauVbR0
P「なかなかいいぞ。これなら、アイドルとしてもやっていけそうだな」

法子「ドーナツのためなら何でもするよ!」

杏「この子のこと、ドナキチって呼ぶね」

P「ドナキチ?」

杏「ドーナツキチガ」

P「きらり! きゅんきゅんぱわー!」

きらり「がんばるにぃ☆」

杏「アーッ!!」

法子「仲良いんだね!」

凛「そうだね、仲良いね」

 なんだかんだ言って、杏もきらりと仲がいいからな。うちの事務所きっての迷コンビだろう。
249 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/25(金) 11:51:35.68 ID:IATauVbR0
幸子「不思議と羨ましくないのは何ででしょうか……」

楓「若いって……、素敵?」

卯月「楓さんも若いですって」

李衣菜「ロックですね」

莉嘉「楽しそうだね! 莉嘉も混ぜてー!」

みく「またみくにゃん空気にゃん!」

蘭子「生命のカケラの絆と表現するのは福音に満ちているであろう(友情と言うのは素晴らしいですね)」

かな子「ドーナツうまー」

 どこまでもフリーダムなシンデレラの皆様。ってかな子、レッスン中にドーナツ食べるな!!

P「よーし、みんな聞いてほしい。明日のレッスンだけど、あるアイドル達のレッスンを見学してもらう」

杏「見学? じゃあ行かなくていいよね」

P「最後まで話を聞きなさい。むしろ帰ったら後悔するぞ?」

 彼女たちにとって、いい刺激になるだろうしな。是非ともその目に焼き付けて欲しいものだ。10年前のアイドル全盛期のトップを走り続けた彼女たちを。
250 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/25(金) 12:03:12.66 ID:gjeCrvCF0
凛「それって……」

P「10年前の遺産だよ。うち6人は、生きた化石だけどな」

李衣菜「成程、そういうことですか」

幸子「例の事故のことですね」

P「お前たちにはまだ話してなかったが、27日にサヨナラライブを開く。それは10年前出来なかったことだ。そして今、彼女たちはライブに向けて必死で頑張ってるよ。ブランクを埋めようと、最後に大きな花火打ち上げようと。その姿をお前たちにも見て欲しいんだ。自分たちの先輩の姿を余すことなく」

 シンデレラたちは静かに俺の話を聞く。

P「トレーナーだって豪華だ。お前たちも知っている現役アイドルが着いているからな。非常に濃度の濃いレッスンを見ることが出来るだろう」

トレーナー「すみません、それ私も行っていいですか?」

P「そうですね。得るものはあるかと。だから明日のレッスンは見学にしたんだ。集合場所は○○レッスンスタジオ。時間はまた連絡する。遅れるなよ?」

一同『はい!』

杏「はーい」

P「杏、お前はちゃんと来いよ?」

杏「信頼無いなぁ。明日は行ってあげるよ」

P「はぁ、まぁ何でもいいけどな。じゃあ再会するか。トレーナーさん、お願いします」

 1人1人何か感じることがあったんだろう、今日のレッスンは効率の良いものになった。
251 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/25(金) 12:04:10.88 ID:gjeCrvCF0
少し休憩します。遅筆で申し訳ない。
252 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/05/25(金) 12:31:08.48 ID:/swPq6pY0
遅筆・・・?
253 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/25(金) 13:50:46.84 ID:8ohezgsJ0
高槻家

高槻「みんな、すまなかった。俺のせいで迷惑をかけて……」

 お父さんと長介と、我が家に帰りました。かすみもお母さんも、お父さんの顔を見て言葉を失いましたが、すぐにお帰りなさいと言ってくれました。お父さんは頭を地面につけて謝り続けています。土下座って言うんでしたっけ?

高槻「大変な時に、火種を大きくして……、挙句の果てにそれをみんなに押し付けて俺は逃げたんだ……。離婚したとしても、家族のことを思っているなら見えないところで助けるべきだった。なのに俺は生きることが精一杯だなんて言い訳をしていた……。本当に、申し訳ない……」

かすみ「顔あげてよ、お父さん」

高槻「かすみ……」

かすみ「ねえ、お父さんは……、絶望の中何に縋って生きていたの?」

高槻「……CDだよ。やよいの歌声だけが、俺にとっての生きる希望だった。ギリギリのところで踏みとどまって生きて入れたのは、裏切った娘の歌なんだ……」

やよい「お父さん……」

 お父さんは泣きながらそう言います。きっとお父さんも寂しかったんだ。自分が悪いって分かってるけど、それでも本当は家族みんなでいたかったんだ。その思いが私に伝わってきます。そしてそれは、みんなにも……。

高槻「俺はどんな断罪も受ける。皆がもう会いたくないって言うのなら、俺は2度と姿を見せない。どうか……、決めてくれ」
254 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/25(金) 14:09:37.22 ID:gKUYHHug0
 お父さんの言葉にみんな静かになります。そんな中、長介が口を開きました。

長介「俺は……、俺はあんたが嫌いだ」

やよい「長介……」

長介「仕事も長続きしない、お金が入ればギャンブル、子供の死を本にする……。押しちゃいけないボタンを全部押してんだよ、あんたは」

高槻「それは……、謝っても謝りきれないと思う。でも俺はみんなが納得するまで……」

長介「最後まで話聞きなよ。俺はそんなあんたが嫌だった。でも同時に、あんたみたいな大人になりたいとも思ってた。なんだかんだ言って、家族のことをずっと思っていた。姉ちゃんのCDさ、全部持ってるんだろ? それだけじゃない、姉ちゃん関係のグッズも。あんたの部屋にあったよ、整理整頓出来てなかったけどな」

長介「だから……、俺は悔しかった。姉ちゃんがいなくなって、頼るべき人間がマイナスベクトルに走って、そのままエスケープされたんだ。きっとそれが悔しかったんだと思う。離婚届も書いてほしくなかった。今更だけどよ……」

長介「もし……、もしあんたが、もう一度家族を望むなら……、俺達は応える。だよな、母さん。みんな」

 長介の言葉に、皆首を縦に振ります。

高槻「お、俺を認めてくれるのか?」

長介「でも、これだけは約束して欲しい。俺達の前からいなくならないでくれ。それが、俺達の願い、姉ちゃんの願いだから」

高槻「みんな、みんな……。ありがとう……」

 みんなポロポロと涙を流します。私も泣きそうになるけど、我慢します。だって私は、長女だから。

やよい「泣いていいんだよ? 長介」

長介「けっ! 誰が泣くか!」

 涙を必死でこらえる長介。きっと一番泣きたいのは長介なんだろうな。でもこれで、家族がそろいました!

やよい「今日はもやし祭りです!!」

 やっぱり家族はみんな一緒が最高です!!
255 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/25(金) 17:04:35.47 ID:gjeCrvCF0
秋月家

 涼の家でゆっくりしてると、慌ただしい様子で家主が帰って来た。

涼「律子姉ちゃん! 説明してほしいんだけど!」

律子「え? なにを?」

涼「とぼけないでよー!」

 顔を真っ赤にして言う涼が少しおかしく、自然と笑みが浮かぶ。まぁふざけるのもこの辺にしておいて。

律子「ああ、ごめんなさいね。でもその前に、挨拶忘れてるんじゃない?」

 涼は

涼「あっ、ただいま」

律子「お帰りなさい」

夢子「涼! お帰り」

 なんだろう、今従弟の夫婦(まだだけど)と一緒に過ごしてるのよね。これっていわゆる小姑になるんじゃないかしら? 年上の従弟夫婦ってなんか嫌ね……。
256 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/25(金) 17:15:51.66 ID:8ohezgsJ0
涼「さて、説明してもらうよ。結婚式のこと」

律子「仕方ないじゃない。日程が合わなかったんだし、それにテレビ局としても数字が見込めると判断したのでしょうね。○○テレビは総力を挙げて結婚式をサポートするみたいよ?」

涼「いや、そんなビジネスライクに言われても! 静かに身内とか876関係者とだけでしたかったのに……」

律子「無理じゃないかしら?」

涼「なんで!?」

律子「だって、あなたの知り合いを挙げてみなさいよ」

涼「えっと、愛ちゃんに絵理ちゃん……」

律子「でも日高さんにはもれなく、はた迷惑なおまけがついてくるわよ?」

涼「そーだった……。あの人がいる限り平和に終わらないよ」

 伝説のアイドル日高舞。彼女の破天荒な振る舞いに涼も何度か振り回されたことがあるみたい。どちらにしても、彼女がいる限り涼が望む形にはならないだろう。ならばいっそ、思いっきり派手にしてやればいいだけの話。
257 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/25(金) 17:31:26.15 ID:gKUYHHug0
律子「これは桜井さんにも了承を取ってるのよ?」

涼「あっ、そうだ。聞き忘れてたんだ……。って夢子ちゃん、これでいいの!?」

夢子「うん、一応私たちだって芸能人の端くれだしさ、珍しいことじゃないわ。紀香さんだって、TKだって披露宴はテレビでしたんだし」

涼「どっちも悲惨な末路辿ってるよ! えっと、もうテレビ局にやっぱなしでって言えないよね」

律子「言ってもいいわよ? ただ、違約金が凄いことになるでしょうけどね。払える?」

涼「ひ、酷いよ〜!」

律子「それにね、これは私たっての願いでもあるのよ」

涼「律子姉ちゃんの願い?」

律子「ええ。私の最後のプロデュースになると思うからさ」

涼「あっ……」

 竜宮小町もサヨナラライブで終わりを迎える。そして私は、プロデューサーとしてでなく、アイドルとしてステージに上がる。だから最後は、従弟をプロデュースしたかった。あの時はまなみさんにてい良く持ってかれたけど、今度は私がプロデュースしてやる。人生最大の晴れ舞台を。
258 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/25(金) 17:42:10.73 ID:gjeCrvCF0
律子「まぁ涼が嫌って言うのなら仕方」

涼「律子姉ちゃん。僕の、僕達の結婚式、律子姉ちゃんにプロデュースしてほしい」

律子「え?」

涼「そりゃ話が強引で困ったよ? でもさ、律子姉ちゃんのプロデューサーとしての最後の仕事なんて言われたらさ、拒絶しきれないよ……」

夢子「私たち、律子さんを信頼していますから。だからその……」

りょうゆめ『お願いします!!』

律子「ちょ、ちょっと! 頭下げることないじゃない!」

 2人仲良く、綺麗な角度でお辞儀をする。傍から見たら私悪役みたいじゃない! って私たち以外に誰もいないんだけどさ。

律子「揃って変に真面目なんだから……。類は友を呼ぶってこういうことかしら? 涼、桜井さん。あなた達の結婚式は、この私が責任を持ってプロデュースするわ。見た人の記憶から一生消えないぐらい、強烈なのをね!!」

夢子「ありがとうございます!」

涼「えっと、お願いするね。律子姉ちゃんなら、きっと僕達も忘れない、いや律子姉ちゃんだって忘れないぐらい素敵な結婚式になると思っているから」

律子「任せときなさい!」

 残り期間は少ない。やることは山積みだけど、こうやってあれこれ考えている瞬間が一番楽しかったりするわけで。大丈夫よ、私。きっと上手くいくわ。
259 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/25(金) 17:43:09.30 ID:gjeCrvCF0
P「ただいまー」

 レッスンを終え、誰もいない家に帰る。春香は親御さんに親孝行できているのだろうか? 高槻家は1つになれたのか? 涼君はどうなるのか? みんな気になるが、俺が入ってああだこうだ言う話でもないな。

P「おっ、メールが来てる」

 コンビニで買った半額弁当を食べ、PCを立ち上げるとテレビ局の方からメールが来ていた。大方内容は24時間生っすか!? のことだろう。加えて律子が手回ししたのか、りょうゆめ夫妻の結婚式の招待状まで来ていた。局の近くの教会で行うらしいな。

P「後4日か……」

 今日ももうすぐ終わる。残された時間は淡々と進んでいき、後戻りなんか出来ない。ボーっとしていても前に進んでしまうんだ。ならば俺達は最後まで頑張っていたい。貴音のわずかな可能性に賭けたい。みんなが笑って終わる、最高の結末を望んでいたいんだ。

P「ひと仕事して寝るか!」

 幸い今日は春香の誘惑もない。心地よく、風呂場で1人の時間を過ごすことが出来そうだ。
260 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/25(金) 17:49:20.94 ID:8ohezgsJ0
 風呂から上がると、携帯が光っている。春香からのメールだ。なんかデータが添付されてるな……。

P「へっ、親孝行できてるじゃないか」

 家族3人で仲良さ気に写る写真。どうやら春香は親孝行がしっかりできたようだ。眩いばかりの笑顔に、こっちまで嬉しくなってくる。

 写真を見つめていると、着信を知らせるバイブ。こんな時間に誰だろうか?

伊織『もしもし、私よ』

P「ああ、伊織。どうしたんだ?」

伊織『どうしたじゃないわよ! やよいの父が見つかったんなら、私にも報告しなさいよ!!』

P「あっ、悪い。忘れてたわ……」

伊織「はぁ、しっかりしなさいよね。あんたと言い、涼と言い、ほうれんそうがなってないんじゃないの? こっちだって探してたんだから」

P「そ、それは申し訳ない……」

 いつの日か貴音に言ったことだが、まさか自分に返ってくるとは。情けないぜ。
261 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/25(金) 18:13:33.29 ID:IATauVbR0
 伊織は電話越しにため息を一つ零し、話を続ける。

伊織「でもまぁ見つかったのは良かったわ。私からも感謝しておくわ、ありがとう」

P「なあ、どうしてそれを知ったんだ?」

伊織「長介から電話があったわよ」

P「長介君が?」

伊織「ええ。ついでに説教してやったわ。全く、女々しい男よね」

 ズバッ! 長介君が一閃のもと、切り捨てられたイメージが頭をよぎる。

P「そう言ってあげなくても……」

伊織「女々しすぎるわよ! オヤジを認められそうにない〜、俺どうしたらいい〜って泣きついてきたの。内心認めようとしているくせに、子供みたいに強がっちゃって。こちとらカウンセラーじゃないんだから……」

P「そのなんというか……、お疲れ様です」

伊織「そういうケアはあんた達がしなさいよね。過ぎたことだからいいけどさ」
262 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/25(金) 19:44:23.15 ID:gjeCrvCF0
P「お嬢様のお手を煩わしてしまい、深くお詫び申し上げます。申し訳ありませんでした」

伊織『キモい! それ滅茶苦茶キモい! 』

P「いや、俺の誠心誠意の謝罪なんだが……。水瀬家ってこんな感じじゃないの?」

伊織『あんたが金持ちに大きな偏見を持っていることはよーく分かったわ』

P「じょ、冗談だって!」

伊織『でもまぁ、これで私も溜飲がおりたわ。うじうじされてちゃこっちも気が気でないもの』

P「上手くいけばいいな」

伊織『行くわよ。やよいがいるんだから。じゃあ私は切るわね、おやすみなさい』

P「ああ、お休み」

 伊織との通話を終え、ベッドに横になる。1人分だとちょうどいいぐらいの大きさだが、昨日の夜を思い出して、少しばかり寂しくなる。心なしか春香の残り香を感じる、なんて言うと変態チックだな。

P「俺も寝るか」

 明日も早いんだ。おやすみなさい。
263 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/25(金) 20:29:55.89 ID:IATauVbR0
 最初に断わっておく。これは夢だ。所謂明晰夢、映画の中に自分が入り込んだような感覚。



 大きなドームに1人、熱気あふれる客席からの歓声を一身に受ける少女がいる。眩いライトの下、笑顔で手を振り別れを告げる彼女を、俺は暗い舞台袖から見ていた。

??「おつかれさまでしたー! 大成功でしたね! みんなあんなに喜んでくれてっ!」

P「ああ、素晴らしいフィナーレだったよ。今日のこと、ファンは、一生忘れないと思う」

??「あのっ、プロデューサーさん。サヨナラする前に、少し外、歩きませんか? 話したいことが」

P「いいよ。……それじゃ行こうか」

 神妙な顔つきで、ドームの外へと出る2人。これには俺の意思はなく、ただ夢の中のプロデューサーの視点から、彼女を見ているだけだ。

??「ふ〜、外の空気、ひんやりしてて、気持ち良いです♪」

P「ステージの上は、すごい熱気だったもんな。……で、話したいことって?」

??「あ、えっと……私、決めました。これから先、どうするのか」

P「お、明日へのヒント、見つけたのか?」
264 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/25(金) 20:52:25.90 ID:IATauVbR0
??「はい! 私……。私、もうアイドル……。辞めてもいいかなって、思ってました。けど、やっぱり続けることにしますっ」

P「……そうか」

??「最後の曲、歌い終わって、思ったんです。これだけの人が、私を応援してくれてる……。なら、このまま、走り続けるのもいいかなって。すこし休んだら、また活動を再開します!」

P「よし、頑張れ。応援しているからな」

??「そ、それで……ひとつ、お願いが。……言っても、大丈夫ですよね? あれだけ、私のこと大切にしてくれてたんだし。よーし」

??「プロデューサーさん! これからも、ずっと私と一緒にいてください! お別れなんてイヤです!」

P「おいおい、いきなり、なんてことを……。もうトップアイドルなんだし、俺の助けなんて……」

??「必要ですよぉ! ここまでこられたのも、全部プロデューサーさんのおかげですし、それに…」

??「も、もし、よかったら……私のこと、今より、もっと近いところに、置いてほしいなって」

P「は? って、おい、それ……ヤバい意味じゃないだろうな?」

??「全然ヤバくないです! だって、これって、自然にわいてきた気持ちだしっ! それぐらい……、プロデューサーさんのそばにいたいんです……」

 一世一代の告白だろう。彼女にとって、それは勇気のいることで。変わることよりも、変わらないことを選んだんだ。でも、俺は……。

P「――」
265 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/25(金) 21:06:57.61 ID:gKUYHHug0
??「――」

 彼女の表情が変わる。でも、それが喜びに変わったのか、悲しみに変わったのか。夢から醒めつつある俺に、判別することは出来なかった。願わくば、この2人に幸せのあらんことを――。



P「はぁ、なんというか、妙にリアルな夢だったな……」

 ひとりの女の子の恋心、トップアイドルの地位。夢の中の俺は、どちらを選んだのだろうか? もう一度その夢を見る? そんな都合の良いこと、出来るわけがない。ただ言えることは、現実の俺は、スキャンダルが来ようとも、世間がなんと思おうとも、あらゆるリスクを冒してまでも、彼女と居続けることを決めた。

P「この選択は、正しかったのかな? ってんなもん決まってるよな」

 そんなもの、今更考えることでもないだろ。

P「今日も1日、頑張るか」

8月23日、期限まであと4日
266 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/25(金) 21:37:14.87 ID:8ohezgsJ0
 新聞もニュースも402便の話題で引っ切り無しだ。奇跡の生還を果たしたピアノ少女、変人教授の説、そして24時間生っすか!? の宣伝。今はこうやって話題になっているが、全てが終わった後、1か月もしないうちにみんな忘れてしまうんだろう。世間は熱しやすいが、その反面非常に冷めやすい。それはアイドルだって同じだ。10年前は星の数ほどいたアイドルも、憶えられているのはほんの一握りだろう。関心なんてものは、それぐらいに移ろいやすいものだから。新しいものが出ると、イヌみたいに走っていく。

P「ほんと、流行だけは何が起こるか分からないな」

 昨日まで流行っていたものが、今日になって飽きられる。そこまで珍しい話でもない。

P「おっ、もうこんな時間か。そろそろ春香を迎えに行く用意をするか」

 今日の朝早くから、春香は電車に揺られてこっちに来るらしい。もう少し親御さんといてもいいんじゃないかと思ったけど、春香の決めたことだ。俺がとやかく言う筋合いはないし、後悔なんかするわけないだろう。何度こけたって、その度立ち上がって歩き出す。あいつは、強いんだから。

P「さて、あいつらどんな顔するかな」

 タイムスリップした、もしくは10年も前に引退したアイドル達と、今を輝くアイドル。この出会いが、良い方向に行きますように。
267 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/25(金) 21:51:25.26 ID:gKUYHHug0
とりあえずここまで。ここは原作にない展開だから、どうしようか悩み中。また日付の変わるころあいに書けたらいいけど……。
268 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/26(土) 00:06:10.35 ID:/SHzyWQA0
やっぱり今日はもう終わります。展開が思いつかないししんどいので、明日の夜にでもまた。
269 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/26(土) 06:23:14.52 ID:NgAuJhFIo
おつ
楽しみにまってる
270 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/05/26(土) 22:50:23.48 ID:W/kV50VCo
待ってるよ
271 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/27(日) 00:15:04.09 ID:Phwm6o8t0
 車を走らせ駅に向かう。春香のことだ、もうとっくに着いているのだろう。駅に着くと、春香と壮年の男女の姿が。仲良さ気に笑い合っているのを見ると、親御さんだろう。昔一度だけ顔を見たことがあったっけか。声をかけようにも、なんか気が引けてしまう。春香にとっては、最後の時間なんだから。しかし向こうはそうでもないのか、俺の車を見かけるや否や、手を振って走ってくる。

春香「おはようございます! プロデューサーさん」

P「ああ、おはよう。っていいのか? 親御さん」

春香「いつまでもいたら遅刻しちゃうじゃないですか。それに、私はもう十分です。お父さんとお母さんに感謝し切れたと思いますから」

 春香は満面の笑顔で言う。

春香父「あなたは……、プロデューサーさんですね。春香がいつもお世話になってます」

P「いえ、こちらの方こそ、春香ちゃんには助けられっぱなしですから」

春香母「あら、春香ちゃんって呼んでるのね?」

P「いや! そういうわけでは……」

春香「ちゃん付けなんて初めてじゃないですか? 悪い気はしませんでしたよ?」

P「こっちが恥ずかしいの!!」
272 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/27(日) 00:23:33.36 ID:MBhX2eKG0
春香父「その……。もしかしたら私たちに悪いと思ってるかもしれませんが、プロデューサーさん。春香には幸せなまま最期を迎えて欲しいんです。それが、私たち親の願いですから」

春香母「ええ、寂しいけど、春香が一番隣にいたい人といて欲しいものね。あんたの幸せが、私たち親にとって何よりの親孝行よ」

春香「ありがとう、お父さん。お母さん……、じゃあ私、いくね?」

春香父「お願いいたします」

P「春香は、俺が責任を持って最後までプロデュースし続けます。それが、プロデューサーとして、恋人として春香にしてあげなければいけないことですから」

 軽く礼をし、手を振る二人と別れる。車に乗り込んでも、2人は依然手を振っていた。

春香「もう、まだ振ってるよ……。こっちまで寂しくなるじゃん……」

P「なあ、春香」

春香「え?」

P「泣きたいなら、今泣いていいぞ」

春香「べ、別に泣きたいだなんて……」

 そう言ってはいるが、彼女の声は弱く震えている。トップアイドルとはいえ、普通の女の子。親との別れがつらくないわけがない。
273 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/27(日) 00:40:48.84 ID:Phwm6o8t0
P「泣いていいって言ったんだ。てか泣け」

春香「泣けって! それ酷くないですか!?」

P「俺の前では!! 強がらなくていいんだよ……。誰もが憧れる強い女にならなくてもいい、ムカつくときには怒って、楽しいときは笑って……。泣きたいときには泣けばいいんだからさ」

春香「プ、プロデューサーさん……」

 気付くと俺は、春香を抱きしめていた。

P「……俺にだって、泣きそうな恋人を抱きしめることぐらいできるんだ。俺のスーツは気にすんな、天ヶ瀬君には遅れるって言ってやる。だから、思う存分泣いてくれ……」

春香「ず、ずるいですよ……。プロデューザーざん。私、我慢しようって決めてたのに……」

P「はぁ、我慢する必要ないだろうが」

 赤ん坊のように泣く春香。我慢していたものが、決壊したように零れていく。俺は春香が泣き止むまで、その体を抱き続けた。

P「よしよし……」

 なんとなく、子供をあやす感覚。俺と春香の子供か……。可愛いんだろうな、うん。

 春香が泣き止むのは数十分後、俺達は完全に遅刻だ。シンデレラ達に時間は守るように言っておいて、自分はこれか。なんとなく、申し訳なく感じる。
274 :↑の「なんとなく」っていらないよね [saga]:2012/05/27(日) 00:52:28.63 ID:Phwm6o8t0
春香「こ、ここに今プロデューサーさんがプロデュースしている子たちがいるんですよね……」

P「そうだ。春香たちの遺志を継ぐ者たち、ってとこだな」

春香「その遺志っての、なんか嫌ですね」

P「すまん、言い方が悪かった」

春香「別に怒ったわけじゃないんですけど……。でも緊張してきました。行きましょう!」

 幸いにも渋滞に捕まることもなくレッスンスタジオへ到着する。もう彼女たちは出会ってしまったのだろう。一体中でどんな化学反応が起きているのか……。期待3割、不安7割でドアを開ける。

春香「た、たのもー!!」

P「たのもー? なんか違うくないか、それ」

冬馬「よ、ようやく来たか……」

P「天ヶ瀬君、お疲れだね」

冬馬「誰のせいだと思ってやがる……。なんでこう765プロは変な奴しか集まらねえんだよ……」

P「採用担当社長だからなぁ」
275 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/27(日) 01:11:14.21 ID:Phwm6o8t0
 ドアを開けるとそこは、ワンダーランドだった。新旧アイドル入り乱れた、ドルオタの皆様からすれば、桃源郷なんだろうが……。収集つくのか、これ?

卯月「あーっ!! あなたはあの超有名アイドルの天海春香さんじゃ!!」

春香「へ? いかにも天海春香は私だけど……」

卯月「私島村卯月って言います! 春香さんみたいなアイドルになりたくて……、うぅ」

春香「ちょ、ちょっと卯月ちゃん? 何で泣いているのでしょうか……」

P「そりゃ会えるわけ無いと思ってたからな。実感が湧かないかもしれないが、お前たちはいわば伝説なんだし」

春香「アイアムレジェンド?」

P「イエース。ユーアーレジェンド」

卯月「そうです! レジェンドですよ、レジェンド!」

春香「じ、実感が湧かない……」

 絶頂期に姿を消したからな。必要以上に神格化されるのは仕方ないか。

卯月「宇宙からの侵略者を歌の力で追いやったとか!」

春香「記憶にございません!!」

 流石にそれはない。
276 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/27(日) 01:23:07.37 ID:bYMI6mzH0
春香「ちょいちょい、プロデューサーさんや」

P「どうした、婆さんや」

 わざとらしくおじちゃんみたいに返す。

春香「ぶっ、ま、まだピチピチの18歳です!」

 あずささんと楓さんが春香をにらんだが、まぁ無視しておこう。

春香「えっと、卯月ちゃんでしたっけ? 何でか分からないんですけど、他人を見てる気がしないんですよね」

P「き、気のせいじゃないか?」

 それは……、否定しきれないな。世間では天海春香2世だなんて言われてるし。うちのアイドルは、その2世と呼ばれるアイドルが多かったりする。例えば……。

幸子「あなたも女子高だったんですね」

真「君も女子高なの?」

幸子「エスカレーター式の○○中ですよ」

真「ほんと!? いいなぁ、名門じゃんあそこ。ボクも行きたかったなぁ」
277 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/27(日) 01:44:03.20 ID:bYMI6mzH0
 輿水幸子、一人称が「ボク」なこともあってか、菊地真2世だなんて呼ばれてる。といっても、2人のキャラクターは全然違う。幸子の見た目は別にボーイッシュじゃないしな。ただやたら自分のこと可愛いと言うから、男の娘疑惑が出たっけか。男の娘で成功したのって涼君ぐらいしか知らないぞ。

莉嘉「がおー! セミだぞー!」

亜美「だぞー!!」

幸子「ひぃ! 莉嘉さん! 背中にセミを乗せないでとあれほど……」

真「こっち来ないでー!!」

 亜美と莉嘉は仲良くなるだろうなと思ってました。妹、姉は不憫……、ってわけでもないか。

響「君……、猫の匂いがするぞ」

みく「わっ、気づいてくれたかにゃ? みくにゃんはにゃん娘アイドルを目指しているにゃん!」

響「なんか仲良くなれそうだな! なっ、ハム蔵……。ってみくはハム蔵を食べないってばー!」

みく「流石にネズミを食べるのはゴメンだにゃん」

きらり「にょわー☆」

やよい「うっうー! 元気になります!」

律子「か、彼女たちが10年後のアイドル達なの……」
278 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/27(日) 01:46:08.62 ID:J+3K2cVO0
キリが悪いですけど、明日早いのでここまでにします。明日の夕方かよるぐらいに顔を見せれたらいいかなと思います。では
279 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/05/27(日) 06:07:09.97 ID:caCbDz+n0
うーん、元ネタドラマはストーリーもそれなりで役者の味がかなり出た良作だった記憶があるけど……
中途半端に知識があると逆に読みづらいかも。誰がどの位置かはよっぽど覚えてる人じゃないと曖昧だろうし、全く知らない人には二次創作としては難しい原作なだけによく分からんだろうし。
役名と役者を主要だけでもいいから上げてくれるといいかもしれない。
横から長文すいません。
280 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/05/27(日) 12:35:42.29 ID:HPWQw5Zuo
元ネタ知らないけど今は二次創作として楽しめているから
役者と役名の説明なら完結してからの方がありがたいなあ
281 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/27(日) 18:04:43.30 ID:dHNmZJbK0
小林聡美とともさかりえと、山本太郎だっけ?
あと成海瑠璃もいたような。そもそも主人公がスッチーだったし、無理矢理役者当てはめなくても
いいのでは?逆に混乱するし、設定を借りた二次創作だと割り切った方が楽しめると思うよ。
282 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/27(日) 18:25:41.71 ID:J+3K2cVO0
1です。役名と役者の当て嵌めだけど、明確にこの役をこのキャラが、ってわけじゃなくて、要素要素を分配したものと思ってくれたら幸いです。>>281の言うように主人公の設定自体が異なるので、設定を借りたものと呼んでくれたらと思います
283 :投下するよー [saga]:2012/05/27(日) 18:43:09.46 ID:bYMI6mzH0
 律子が驚くのも無理はない。彼女がプロデューサーをしてた時に、こんな個性的な面々はいなかったからな。どうにも天ヶ瀬君の言うように、我が765プロにはあらゆるニーズに応えうる人材が集まっているようだ。

凛「ねえプロデューサー。そろそろ始めないと」

千早「時間は有りませんからね」

P「おっと、カオス空間に気を取られてたよ。そんじゃあみんな聞いてくれ!!」

 千早と凛に急かされるように、俺はアイドル達を収集する。新旧765プロ、上はピー歳(あずささん、睨まないでください)、下は12歳と幅も広い。俺は今日のレッスンの目的を説明する。

凛「これってさ、奇跡みたいなもんだよね。こうやって、765プロにいたアイドルのみんなが集まってさ、同じっレッスンをするって」

莉嘉「美希ちゃんがアイドルって変な感じだね」

美希「これでも結構有名だったんだけどな。莉嘉はまだ2歳ぐらいだったし、知らなくても仕方ないのかな」

かな子「事務員の印象が強いからね」

楓「美希さんは……、私たちの世代の憧れの的だったの」

 楓さんの言うように、美希はアイドルの中のアイドルだった。あの事故が起きなければ、歴史に名を残していただろう。尤も、それも過ぎたことなんだが。
284 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/27(日) 19:21:13.48 ID:bYMI6mzH0
P「今日は互いに学んで、これからの活動に活かしてくれ! じゃあ始めるぞ!」

杏「それじゃバイバー……、今日は頑張ろうかなぁ、うん」

P「今日も、の間違いだろ?」

 さすがの杏も、帰っちゃいけない空気を読み取ったのか、レッスン場に残る。さて、レッスンを始めようか。

P「これは……、想像以上だな」

 新旧765プロ合同レッスンは、俺が思っている以上の効果が出たようだ。現役トップアイドル達に、世界で活躍する歌手、10年前から来たダンス系アイドル、伝説のビジュアルクイーン。これ以上ないぐらいのメンバーに囲まれた、最高の環境だろう。今日1日だけと言うのが、もったいないぐらいだ。だからこそ、この一瞬一瞬、真剣にレッスンに取り組んでくれている。気付くとお昼を回っていた。俺もお腹がすいてきた。

P「うっし、休憩するか」

 レッスンを切り上げて、昼食休憩を取る。レッスン場では飲は良くても、食はダメだ。どこかで食べるか。

卯月「あっ、プロデューサーさん! お弁当作って来たんですが……」

 そんなことを考えていると、卯月が俺に弁当を差し出す。たまにこうやってくれるのだが、今日ばかりはやめた方がいい。だって……。

春香「プロデューサーさぁん?」

 閣下がこちらを睨んでいます。
285 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/27(日) 19:37:12.87 ID:bYMI6mzH0
P「う、卯月! 悪い、それはまた今度お願いできるかな……」

卯月「えー。せっかく作って来たのに……」

P「ゴメン! 何でも言うこと聞くから!」

卯月「本当ですか!? じゃあ来月、遊園地に一緒に」

春香「ゴメンね卯月ちゃん、プロデューサーさん、借りてくねー」

P「うわああああ!」

卯月「あっ、行っちゃった……。お弁当どうしよう……」

かな子「私食べようか?」

凛「太るよ、それ」

 春香に引きずられるまま、レッスン場を出る。春香こんな力強かったっけ……。

春香「この節操なし! どうせ若い子の方がいいんでしょ!?」

P「うぐっ! ってお前も十分若いだろ!」
286 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/27(日) 20:40:17.85 ID:bYMI6mzH0
 おばさんみたいなことを言う春香に突込みを入れる。

春香「それに……、卯月ちゃんの目、恋している乙女の目をしてました」

P「そうなんだよなぁ……」

春香「自覚あったんですね」

 流石にそこまで鈍くない。誰かに好意を持たれるというのは、悪い気はしない。相手がアイドルとなればなおさらだ。しかし、俺は彼女の気持ちに応えることが出来ない。春香のことを棚に上げて言うのも、おかしな話だ。お前が言うなと言われても仕方ないだろう。

P「距離が近すぎたんだ。担当アイドルに惚れられるなんて、プロデューサー失格だな」

 相手の恋愛感情を利用しているんだ。時々、これで良いのかと思う時がある。しかし、誰かに恋した女の子は不思議な魅力を持っている。恋愛御法度なアイドルからすると、なんとも皮肉な話だ。

春香「失格だなんて! そんなことありません! 私たちのプロデューサーさんは……、最高のプロデューサーなんですから! 卯月ちゃんの気持ちも分かります。好きになるなって方が無理ですもの」

 俺を元気づけるように言う。屈託のない笑顔で言う春香に、俺は少し救われた気がした。

春香「あっ、でも。浮気は許しませんよ?」

P「俺は春香一筋だ!!」

 もう少し信用してくれないかな……。
287 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/27(日) 20:54:34.86 ID:J+3K2cVO0
春香「折角ですからプロデューサーさん、どこかで食べていきませんか?」

P「なんか卯月に悪い気がするんだよな……」

春香「彼女の前で他の女の子の話しないでくださいよ。ってもしかして、卯月ちゃんは私たちの関係知らなかったり?」

P「アイドルはみんな知らないぞ。聞かれても適当にはぐらかしてるし」

春香「へぇ、どんな感じにですか?」

P「仕事が恋人だ、ってな」

春香「ははは……」

P「まあ何も食べないのもあれだし、どこかで食うか。って電話だ、もしもし」

 テレビ局の方から電話がかかって来ていた。明日の打ち合わせの件だろうか、今すぐ来るように呼ばれる。急な気もするが、そもそも24時間生っすか!? 自体、急な話なんだ。俺は今から向かうと伝え、春香と別れる。

春香「テレビ局ですか? 行ってらっしゃい!」

P「行ってくるよ。シンデレラ達を頼んだぞ」

春香「はい!」
288 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/27(日) 21:23:22.29 ID:Phwm6o8t0
春香「今戻りましたー!」

卯月「あ、あの……。春香さん」

春香「卯月ちゃん、どうしたの?」

 レッスンスタジオに戻った私を、浮かない顔の卯月ちゃんが迎えてくれました。もう、アイドルがそんな顔しちゃ……。

卯月「私、知らなかったんです。プロデューサーさんと、春香さんが恋人同士だったなんて」

春香「へ? なんで知ってるの?」

 さっきプロデューサーさんはアイドルには話してないって言ったのに……。もしかして誰かが教えたのかな?

卯月「その……、春香さんの顔を見てわかりました。あの時、嫉妬してる顔してましたから。分かるんです、私も同じですから……。美希さんにもそう教えてもらいました。春香さんとプロデューサーさんの絆は、そう簡単に切れやしない、私たちには勝ち目がないって……。悔しいですけど、お似合いでしたから」

春香「卯月ちゃん、そのなんといえば良いんだろ……、ごめ」

卯月「大丈夫です! だから、謝らないでください……」

 私から見ても卯月ちゃんは可愛い。私が男の人で、彼女に告白されたら間違いなくOKと言うだろう。それは鋼の精神を持つプロデューサーさんだって……。
289 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/27(日) 21:39:34.75 ID:J+3K2cVO0
 不意にネガティブな感情が私を支配する。私とプロデューサーさんは、10年前に事故に遭わなくても、ずっと一緒にいたのかな? 春香一筋だって言ってくれてるけど、それは本当なのかな? 私がいなくなったから、プロデューサーさんは私と言う鎖に囚われたままなのかな? 一度泥沼に足を踏み入れると、ずぶずぶと溺れていくだけ。

 私は、永遠になってしまったのかもしれない。

千早「春香、春香!!」

 千早ちゃんの声で、現実に戻る。レッスン中なのに余計なことを考えるなんて、やっぱり私はダメだな。

春香「あっ、ゴメン。少しボーっとしちゃって」

千早「島村さんのこと、気になるのは分かるけど、今はレッスンに気を向けましょう」

春香「あはは、バレちゃった?」

千早「分かるわよ、それぐらい。島村さんに罪もないし、春香も悪くない。私はあまり恋愛とかそういうのは分からないけど、そうやって悩むぐらいなら、恋愛はするもんじゃなさそうね」

春香「へ?」

千早「こっちの話よ。レッスンが終わったら、確認しなさい。あなたが何に悩んでるかは知らないけど、きっと春香が思ってる以上に答えはシンプルなものかもしれないわ」

冬馬「話はすんだか? じゃあもっかい行くぞ」

春香「えっと、ごめんなさい……」

冬馬「謝るなら、レッスンで見せてくれよな。後輩たちも見てんだ、無様な姿見せんじゃねーよ」
290 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/27(日) 21:58:09.02 ID:J+3K2cVO0
卯月「あっ……」

 申し訳なさそうにこっちを見る卯月ちゃん。私が情けない姿を見せたから、余計気にしちゃってるのかな。口でいくらでも言っても、伝わらないなら――。

春香「〜♪」

千早「吹っ切れたのかしら?」

冬馬「出来るんなら、最初からやれっての」

春香「〜♪」

 レッスンでも、ライブでも、その時に出来る最高のパフォーマンスをする。それが、卯月ちゃんへの私なりのメッセージ。確かに怖い。プロデューサーさんも、私がいなければ誰かと結婚して、幸せな家庭を築いていたかもしれない。いなくなった私に、気を使っているのかもしれない。でも、変わらないことは1つ。私はプロデューサーさんが大好き。その気持ちは、何年たっても色褪せないと思う。

卯月「す、凄いです……」

春香「ふぅ、卯月ちゃん」

卯月「は、はい!」

春香「私は負けないいからね」

卯月「……こっちこそ!」

冬馬「? なんの話だ?」

千早「まぁ何でもいいですけど」
291 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/27(日) 22:15:23.86 ID:MBhX2eKG0
P「ふぅ、終わった終わった……」

 テレビ局での打ち合わせを終わらせ、レッスンスタジオへと向かう。にしても今回ばかりは、スタッフのみんなに足を向けて寝れないな。こんな急な仕事、それに無茶を良く受けてくれたものだ。武田さんを始め、感謝しても、し足りない。

P「上手くいけばいいけどな」

 そればかりは神のみぞ知る、と言うとこだろう。時間がないため、大まかな流れ以外は、アイドル達のアドリブだ。下手すれば24時間グダグダなまま終わるかもしれない。でも皆なら大丈夫だろう。根拠はないけど、そんな自信が俺にはあった。いつものドーナツ屋により、全員分のドーナツを買って帰る。流石に今日は、法子はいない。っていたら困るんだが……。

P「すまない、今戻ったぞ!」

法子「クンクン……、この匂いは……。ドーナツだね!?」

幸子「好きですね、ドーナツ」

法子「ドーナツ嫌いな人は人間じゃないよ!」

響「さーたあんだーぎーある?」

P「ああ、あるぞ! 天ヶ瀬君、今日の状態はどうだった?」

冬馬「あんたがいなくてもやっていけたよ」

愛「皆さんすごかったです!!」

P「そっか、途中で抜けてしまってすまないな。明日の打ち合わせがあったんだ」
292 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/27(日) 22:30:12.43 ID:bYMI6mzH0
あずさ「24時間生っすか!? ですよね?」

P「ええ、大まかな流れは出来ました。生っすか!? のコーナーのスペシャル版ですね。途中でニュースも入りますけど、基本的にはアイドル主体の番組になる。でだ、急な話で非常に申し訳ないんだが……」

雪歩「なんですか?」

P「途中で歌うことになるんだ」

律子「えっと、もしかして尺が足りなかったとか?」

P「……そう言わないでくれ」

春香「で、でも! ライブにこれない人も見れるし、良いんじゃないですか?」

P「こういう言い方をするのも失礼だと思うけど、本番慣れしておくって意味でも、貴重な時間だろうしな。本当にみんなには迷惑をかけるけど、どうか理解してほしいんだ」

 アイドル達に頭を下げる。時間がないとは言っても、こんな無茶苦茶な話普通あっちゃいけない。24時間電波ジャックする以上、生半可な覚悟じゃいけないんだ。

貴音「プロデューサー殿、顔をあげてください」

真美「てかうちら、昔からいつもアドリブでしてたじゃん」

亜美「そーそー!」
293 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/27(日) 22:39:54.42 ID:J+3K2cVO0
美希「その日に台本なんてこともあったしね」

伊織「良く持ったわよね、あんなフリーダムな番組で」

響「それが良いんだぞ!」

やよい「楽しみです!」

真「そうそう! 菊地真改造計画、楽しんじゃうよ?」

雪歩「無理だと思うなぁ」

あずさ「あらあら〜」

千早「歌えるのでしたら、俄然やる気が出てきましたね」

律子「ま、ある意味歴史に残るんじゃないですか?」

春香「大丈夫ですよ、プロデューサーさん! 1人ではできなくても、みんなとならきっと出来ますから!!」

P「みんな……」

 俺の心配をよそに、アイドル達からはやってやる! と言う気概を感じる。

愛「皆さんならできます!!」

絵理「うん、すごく楽しみ?」

北斗「録画しないとな」

翔太「24時間はきつくない?」

冬馬「仕方ねえから見ててやんよ。感謝しな」
294 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/27(日) 22:49:51.38 ID:MBhX2eKG0
 876とジュピターも太鼓判を押す。ってあれ?

P「え? 聞いてないの?」

冬馬「は?」

絵理「何も聞いてないけど……」

P「その……、明日の番組だけど、アイドルオールスターなんだよね」

愛「どういうことですか?」

P「えっと、765以外で交流のある876、ジュピターもゲストとして出る……、みたいな?」

翔太「ええ!? 聞いてないよ!」

P「すまん! どうも手違いで君たちには連絡がいってなかったみたいだ!」

絵理「急な話は……、少し怖いかも」

愛「問題ないですって! その場のノリで何とかできます!」

北斗「ははは、録画どころじゃないな……」

冬馬「ったく、あんたらとつるんでから碌な目に合わないぜ……」

 渋々ながらな面々もいるが、まぁ了承ってとこだろう。後で両方の事務所にお礼の品を送っておくか。
295 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/27(日) 23:06:36.57 ID:MBhX2eKG0
李衣菜「って765もって事は……」

凛「私たちも?」

法子「法子チャレンジでドーナツ食べ続けるとか!?」

P「所属してまだ2日だろうが……。ああ、といってもアシスタント的な感じだがな。まだ名前は浸透しきってないし、これをきっかけに覚えて貰うんだ」

蘭子「24の刻を告げるスフィアビジョン……、血が騒ぐ……(24時間テレビ楽しみです)」

杏「ぐうたらしていいなら出てあげるよ?」

P「きら」

杏「やりますやります!!」

きらり「頑張ってみんなを癒しちゃう☆」

幸子「24時間もボクの可愛さを映したら、見てる人も困惑しちゃいますからね!」

莉嘉「お姉ちゃんに自慢しとこっと!」

かな子「24時間なら痩せれるかな……」

凛「知らないよ、でも24時間テレビか。頑張らなきゃ」

李衣菜「これもまたロックですね」

みく「頑張るのにゃ!」

楓「……うん、頑張ります」

法子「ドーナツのCMのオファーが来たりして!」

卯月「私たちだって負けませんよ! 新生765プロの意地、見せちゃいます!」
296 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/27(日) 23:18:10.86 ID:bYMI6mzH0
 シンデレラ達も、目に強い意志を見せる。最初に出会ったころに比べて、自信もついてきている。今日のレッスンは、無駄ではなかったんだろうな。

P「すまないな、みんな。そしてありがとう。みんななら、歴史に残る最高の番組を作ることが出来ると思う。明日明後日、長丁場だけどどうか頑張ってほしい。じゃあ今日はここまで! 明日に向けてしっかりと休んでいてくれ。それと、台本にも目を通してくれよな」

アイドル『はい!』

 そう言って、その場は解散する。

莉嘉「ねー、どっかで食べない?」

亜美「いいねー! 真美、奢ってよ」

真美「はぁ!? やだよ! 何で真美が……」


あずさ「この後、少し飲みませんか?」

楓「……ええ、良いですね」


響「へぇ、この子可愛いな!」

みく「みくにゃんの大事な家族にゃ!」


凛「えっと、千早さん。教えて欲しいことが……」

千早「何かしら? 歌のことなら教えれるんだけど……」
297 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/27(日) 23:29:32.41 ID:MBhX2eKG0
 新旧アイドル達入り乱れての交流に、微笑ましくなる。同期ばかりだった彼女たちに、ようやく後輩が出来たんだし、嬉しくなるのも仕方ないか。普段見せない顔を見せている。

卯月「あのっ、プロデューサーさん。少し、良いですか?」

P「卯月? どうかしたか?」

卯月「少し、話したいことがあって……。ダメでしょうか?」

P「えーっと……」

春香「えっと、千早ちゃん! 私も聞きたいことがあるんだけど……。少し長いけど良いかな?」

P「……分かった、外に出ようか」

卯月「はい」

 俺は卯月とレッスン場の外に出る。少し歩くと誰もいない、小さな公園が見えた。俺達はそこのベンチに腰掛ける。

卯月「その……、お疲れ様でした」

P「ああ、お疲れ」

 卯月の顔には、明らかに疲れが見える。今日のレッスンのしんどさを物語っているようだ。
298 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/27(日) 23:36:28.36 ID:MBhX2eKG0
P「卯月、なんか飲むか?」

卯月「え? 良いんですか?」

P「体調管理もプロデューサーの仕事だからな。にしても暑いよなぁ。ア○エリで良いか?」

卯月「じゃあそれで。すみませんね」

P「気にするなよ。とあるアイドルなんか俺が買ってくること前提だったからなぁ。それに比べちゃこんなもの安いもんんさ」

 自販機にお札を入れて、ア○エリとお茶を買う。ひんやりしていて気持ちいい。

P「ほれっ。投げるぞ」

卯月「わっ、ありがとうございます」

P「ナイスキャッチ。じゃあ乾杯でもするか?」

卯月「良いですね、ペットボトルだから雰囲気でませんけど……。じゃあ乾杯」

P「乾杯」
299 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/27(日) 23:44:17.11 ID:bYMI6mzH0
卯月「ふぅ、生きかえります」

P「おっさんみたいなこと言うんだな」

卯月「お、おっさんじゃありません! プロデューサーさんの方がおじさんですよ」

P「うっ、おじさんか……。なかなか堪える、これ」

卯月「そ、そういう意味でも無くて! 格好いいおじさんですよ!」

P「あはは……、でもおじさんに変わりはないのね……」

卯月「もう、プロデューサーさん!」

 あわあわする卯月が面白くて、わざとらしく傷ついたふりをする。

卯月「はぁ、こんなはずじゃなかったんだけどな……」

 大きくため息吐かれる。それはそれで傷つくな。

卯月「プロデューサーさん、聞いてもらっていいですか?」

P「良いぞ。何でも言ってごらん」
300 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/27(日) 23:53:17.41 ID:bYMI6mzH0
卯月「その……、私知っちゃったんです。プロデューサーさんが、春香さんと恋人同士だったことを」

P「あっ……、そうだったのか。黙っていて悪かった」

卯月「いえ、そんなつもりで言ったんじゃありません。成程って納得したと同時に、すごく悔しかったんです」

P「……」

卯月「いつからか忘れちゃったけど、私はプロデューサーさんが好きになりました。最初は憧れだと思ってたんです。年上の出来る大人、そういうのに憧れていましたから」

卯月「でも、いつの間にかそれは恋心へと変わっていって、ずっと振り向いてもらおうって頑張ってました」

P「……ああ、知ってるよ」

卯月「やっぱりバレてましたか……。今日のお弁当もそうです。好きでもない人に、お弁当なんて作りませんから。でも、私は10年前から負けていたんですね。私が憧れた春香さんは、私の初恋の人の恋人で……。そりゃあお似合いなわけです、悔しいぐらいに」

P「卯月……、俺は……」

卯月「プロデューサーさん。私、結構しぶとい人間なんですよ? だから、まだ諦めきれないんです。好きな人には好きな人がいるって分かってるのに……。だから、ここで決着をつけさせてください」

卯月「プロデューサーさん、私はあなたのことが、大好きでした……」
301 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/28(月) 00:11:32.20 ID:0A9hKix00
 卯月の気持ちが、言葉を通して俺の中に入ってくる。アイドルとして、1人の女の子として、彼女が悩んで出した答えなんだ。例えそれが、届かないとわかっていても……。

P「卯月、ありがとう。そんなに俺を思ってくれて……。すごく嬉しい」

卯月「うぅ……」

P「だけど、俺は……。それに応えることが出来ない。卯月が俺のことを好きなのと同じくらい、春香のことが好きなんだ。10年間、ずっと1人だけを待っていたんだ……。だから、ごめん」

卯月「もう……っ、春香さんもプロデューサーさんも謝らないでよ……」

P「卯月……」

 泣き続ける卯月を、俺は抱きしめることが出来なかった。春香に悪いと思ったから? いや、違う。俺に、彼女を抱きしめる資格なんてなかったんだから。

卯月「ごめんなさい、時間取らせちゃって」

P「いいや、気にしないでくれ。もう遅い、送っていくぞ」

卯月「1人で帰れますから。家も近いし。それに、泣いているところ見られたくないから……」

P「そうか、でも気を付けて帰ってくれ。家に着いたら、一報頼む」

卯月「分かりました……。ねえ、プロデューサーさん。最後に、1つだけいいですか?」

P「構わないが……、って」

卯月「ふふっ、いただいちゃいました!」
302 :↑ミス。途中から書き直す。 [saga]:2012/05/28(月) 00:17:43.77 ID:szp/cINd0
P「構わないが……、ってんっ……」

卯月「んっ……、ふふっ、いただいちゃいました!」

P「あ、あああ……」

卯月「あっ、今の私のファーストキスですから!! それじゃあプロデューサーさん! お疲れ様です!」

P「お、おつか……れ?」

 えっと、今さっき何をされた? 気付いたら、桜色の可愛い唇が、俺の唇に触れて……。接吻、英語にしてキス……。

春香「みーたーぞー!!」

 突然後ろから、恐ろしい声が!!

P「ひぃ!! は、春香!?」

春香「はい、あなたの春香です! ってプロデューサーさん、キスしちゃいましたね……。私にはしたことないのに……」

P「し、しちゃいましたじゃなくてされたの!!」

春香「卯月ちゃんったら、最後の最後で大技繰り出しちゃいましたね。さすが恋のライバル」
303 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/28(月) 00:22:35.82 ID:4wojRTr6o
春香さんこえぇwww
304 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/28(月) 00:28:41.80 ID:szp/cINd0
 春香はうんうんと肯いている。ってちょっと待って? こいつまさか……。

P「見てた?」

春香「ええ、覗く趣味はなかったんですよ? たまたま公園に来て……、すみません。気になって後つけました」

P「はぁ……、最初からこうなるのって分かってたのか?」

春香「はい、恋する乙女なら誰でも。でもキスは予想外でした。卯月ちゃんなりの反撃なんだろうな。プロデューサーさん、実は別れた後、卯月ちゃんとちょっとありまして……」

 さっきまでの勢いはどこへやら、シュンとする春香。

春香「卯月ちゃんは自分の気持ちをちゃんと伝えました。でもプロデューサーさんは私を選んでくれました」

P「俺が好きなのは、お前だけだぞ?」

春香「それはすごく嬉しいんです。でも、もし……。もしですよ? プロデューサーさんが私を永遠のものにしてしまっていたらと思うと、不安になるんです」

P「どういうことだ?」

春香「プロデューサーさんが好きって言ってくれてるのは、10年前の私です。でももし、今この場にいる私が、28歳の私だったら……。10年間、ずっと傍にいてくれたのでしょうか?」
305 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/28(月) 01:02:10.96 ID:0A9hKix00
春香「例えば、例えばですよ? ここにリョミオとマコエットがいます」

 なんか嫌な組み合わせだな、それ。って逆じゃないか?

P「別に涼君と真にしなくても、ロミオとジュリエットで良いだろうに」

春香「ほ、本人の希望です! 2人は悲劇的な結末を迎えましたが、永遠の愛を手に入れました。でももし、2人が生きていたら? それでもずっと好きでいられたんでしょうか?」

P「それは、考えたことがなかったな」

春香「私もさっき考えたんです。もしかしたら、目玉焼きにソースをかけるか、醤油をかけるかで揉めたかもしれませんし、互いの趣味の不一致で離婚したかもしれません。吊り橋効果だってこともあると思うんです」

P「……春香らしくないことを言うな」

春香「私は複雑で繊細な生き物なんです! こんな事だって考えますよ……」

P「それは悪かった」

春香「今の私たちは、リョミオ達と同じだと思います。だって私たちは、互いの嫌なところが見える前に別れて、そのままの状態ですから……」

春香「だから、怖いんです。プロデューサーさんは、私のせいで掴めるはずだった幸せを、手放してしまったんじゃないかって。私の存在が、足枷になっているんじゃないかって」
306 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/28(月) 01:16:47.97 ID:0A9hKix00
春香「ごめんなさい……。考えたくはないんです、でも私は自信を持って違うって言えないんです」

 目の前にいる彼女は、俺が見たことないくらいに落ち込んでいる。ステージでは自信に満ち溢れた誰もが羨むトップアイドル、しかし今はどうだ? 俺のことを思って、悲しんでいる彼女をそのままにしておくことは出来なかった。偉そうなことを言えないが、天海春香を抱きしめる資格だけは持ち合わせているつもりだ。だから俺は……。

P「春香っ!!」

春香「プロデューサー、さん。えへへ、また抱きしめてくれましたね」

P「当たり前だろ……。なぁ春香、1つ教えてやる」

春香「え? んっ……」

P「こ、これで……、分かったか? 俺の思いが」

春香「こ、これって、卯月ちゃんと間接キスじゃ……」

P「そこに反応してほしくなかった」

 我ながら卑怯だと思う。それにさっき別の女の子とキスをしたんだ。そのすぐ後に、同じ行為をする。傍から見たら節操がないように思えるだろうな。春香はと言うと、熟したリンゴみたいに顔を真っ赤にしている。

春香「で、でも今の、ファーストキス、ですよね……」

P「そうだな。こんな形でして、ずるいと思うよ」

 伏し目がちに、春香は返す。

春香「プロデューサーさん、思い、伝わりました。でも、もっと伝えて欲しいんです。私が、壊れるぐらいに」
307 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/28(月) 01:27:32.30 ID:0A9hKix00
P「お望みとあらば、何度でもするよ。てか俺がしたい」

春香「んっ……あっ……、ず、ずりゅいですよ……、もう……」

P「壊れるぐらいって言ったのは、春香だろ? 言っておくけど、俺はもう止まらないからな」

春香「ちょ、ちょっと心の準備がんむ……」

 いちいち見せる反応が可愛く、天海春香のこんな顔、こんな声を堪能できるのが世界にただ俺だけと言う事実が、俺を燃え上がらせた。世間も、理性も、この溢れんばかりの感情の前では無意味だった。

春香「キス、上手ですね……」

P「お前とするときだけだよ」

春香「……馬鹿。でも、伝わりました。プロデューサーさんの思いが、十分なぐらいに」

P「さて、帰るか。ってレッスン場に車置いたままだな。行くか、春香」

 レッスン場まで、強く互いの手を握り合う。例え10年間一緒にいても、俺は彼女を愛し続けるだろう。そう言い切れるぐらい、俺は春香にぞっこんだったんだ。
308 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/28(月) 01:42:50.69 ID:szp/cINd0
 きっかけはなんだったのだろうか? 俺が先か、春香が先か。きっと同時に動いたんだと思う。心地よい疲れの中、ふと思い出す。

春香「すぅ……」

P「寝つき良いよなぁ。まるで赤ん坊みたいだ。風邪ひかないようにしないとな」

 隣には、生まれたままの姿で眠る少女。可愛らしい寝息を立てて、夢の世界へダイビング。その夢の中でも、俺が出てくれたら少し嬉しい。

P「……やってしまったんだよな」

 超えてはいけないと、頑なに拒んでいた一線は、いとも簡単に超えてしまった。もちろんそれを後悔するつもりはないし、いつかはこうなると、10年前から思っていたことだ。ただ、親御さんに託されて、担当アイドルに告白されて、恋人と初めてのキスをして……。そして今この状況、今日はいろいろあり過ぎた。軽く自己嫌悪に陥る。

P「……俺も寝るぞ」

 明日は早い。軽くリハを行ったうえで、生っすか!? に移行する。明日は、碌に眠れやしないから、十分睡眠をとろう。ってもう、日付が変わってるけどさ。

P「おやすみなさい」

8月24日、期限まであと3日
309 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/28(月) 01:43:45.60 ID:0A9hKix00
とりあえずここまで。次の投下は明日の夜ぐらいに出来たらいいなと。おやすみなさい
310 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/05/28(月) 01:46:57.18 ID:cz5Vvm9Ao
おつー

Pがもっとはやく踏ん切りついていれば
春香さんと互いにファーストキスできていたものを……

Pのバカ
俺と代わってくれ(だが、仕事は任せる)
311 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/28(月) 01:57:09.01 ID:6iaLmFun0
戻ったあと助かるかは運次第春香真亜美律子からは記憶消えるって感じだろうけど
それだと今の世界の飛行機と春香達の存在が消えることにならないか?
残骸遺体はでてきてないんだ市今いるのは10年前に帰るわけだし

それともこの世界でも10年前消えて戻ってがあったあと普通に発見できなかっただけなのか
312 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/05/28(月) 14:33:49.15 ID:yDXRWIq+0
>>311
時空の狭間に取り込まれてたから、そこに戻るんだろうな
間違っても10年前に戻るわけではないだろう。
貴音が何とかしたら今のまま残ってられる、できなかったら残らず消える。
つまり春香たちにとって現状は目が覚めたら忘れちまう夢みたいなもんだと思う

覚めないことを全力で願う俺がいる
313 :投下します [saga]:2012/05/29(火) 00:01:53.27 ID:IdF94JSU0
P「ふぁーあ……」

 鳥のさえずり、ツクツクボウシの合唱、すぅすぅと心地良い寝息。目覚めたばかりの俺の聴覚はあらゆる音で満たされる。そして同時に、今の自分がどんな格好をしているかも思い出した。

P「って服着てないし……」

 隣を見ると、布団を被ってはいるものの、俺と同じく裸のアイドル。もしこれを、パパラッチされたら、アイドル生命を絶たれ、俺はファンの皆様に殺されるだろう。もう少し見ていたい気もするけど、そろそろ起こしておこう。

P「起きろー、朝だぞー」

春香「んん……、プロデューサーさん、おはようござ……」

P「あっ」

春香「きゃあああ!! 服着てくださいよ!!」

 枕を思いっきり投げられる。

P「いで! 服着ろって今起きたとこだっての! それにそっちだって」

春香「ふぇ? えっとプロデューサーさん……、女性用の服、持ってます?」

P「あっ。完全に忘れてた……」
314 :また間違えた。もう嫌だ [saga]:2012/05/29(火) 00:05:24.00 ID:IdF94JSU0
P「ふぁーあ……」

 鳥のさえずり、ツクツクボウシの合唱、すぅすぅと心地良い寝息。目覚めたばかりの俺の聴覚はあらゆる音で満たされる。そして同時に、今の自分がどんな格好をしているかも思い出した。

P「って服着てないし……」

 隣を見ると、布団を被ってはいるものの、俺と同じく裸のアイドル。もしこれを、パパラッチされたら、アイドル生命を絶たれ、俺はファンの皆様に殺されるだろう。もう少し見ていたい気もするけど、そろそろ起こしておこう。

P「起きろー、朝だぞー」

春香「んん……、プロデューサーさん、おはようござ……」

P「あっ」

春香「きゃあああ!! 服着てくださいよ!!」

 枕を思いっきり投げられる。

P「いで! 服着ろって今起きたとこだっての! それにそっちだって」

春香「ふぇ? えっと、プロデューサーさん……」

P「なんでしょうか?」

春香「どこかは言わないですけど、違和感が……」

P「な、生々しいな……」
315 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/29(火) 00:12:46.59 ID:IdF94JSU0
春香「うぅ……、歩きにくいです。まだ入ってる気がして……」

 見るからにおかしな歩き方。何があったか、勘のいい人なら一発で分かるだろう。って原因は他ならぬ俺なんだが。生放送前日に何をやってんだよ、俺……。

P「その、なんというか……」

春香「でも、ようやく大好きな人と1つになれたんです。きっと忘れてしまっても、この痛みだけは忘れませんよ」

P「あまり嬉しくないな!」

春香「ふぅ……、少しマシになったかな。プロデューサーさん、朝ごはん作りますね」

P「作れるか? 無理しなくても」

春香「大丈夫ですって! 女の子は、プロデューサーさんが思ってるよりも強いんですから! ってうわぁ!!」

P「ほ、本当に大丈夫なのか?」

春香「いたたた……」

 何もないところでこける春香。あまりにも綺麗にこけたもんだから、点数をあげたくなる。10点あげよう。
316 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/29(火) 00:21:45.12 ID:sWnOkfnK0
春香「ふんふんふーん♪」

 のヮの印のエプロンつけて、鼻歌を歌いながら料理に勤しむ春香さん。俺はそれを後ろから眺めていた。上機嫌なのか、リズムに乗っている。それに合わせて、ヒップも揺れて……。

P「って駄目だ駄目だ!!」

 いかんいかん! 性的な目で見てもうた! 向こうは普通に料理してるだけじゃないか!! そんな風に考えるなんて最悪だぞ、俺!

春香「なんかこれって、新婚さんみたいですね。あっ、裸エプロンの方が良かったですか?」

P「ノオオオオオ!!」

春香「ええ!? プロデューサーさん! どうしたんですか!?」

 そんなこと言ったら、裸でしか見れなくなるだろうが!! 落ち着け俺、そうだ、こういう時は小鳥さんのす○ぴんを……。

P「ふぅ」

 危うくオオカミさんになるところだった。ありがとう、小鳥さん! あなたのおかげで、俺は自分を保てました!!

春香「えっと、鼻血出てますよ?」

P「気にするな!」

 なお今日の朝食は、春香がやたらアーンしてきたり、マヨネーズが顔についたりと、あらゆるピンチで、小鳥さんが大活躍することになったのは、ここだけの秘密だ。
317 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/05/29(火) 00:23:42.48 ID:xVqvNHtSo
小鳥さんはアラサーでもかわいい
318 :10年後だと…… [saga]:2012/05/29(火) 00:31:16.04 ID:sWnOkfnK0
春香「わぁ、テレビ局変わってないですね」

P「そこまで大きく変わる物でもないしな。台本は読んだか?」

春香「実はあまり……。ってプロデューサーさんが読ませてくれなかったんじゃないですか!」

P「そ、それを言われちゃ何も反論できない……。ってあの後すぐ寝たのは誰だよ」

春香「さ、さすがにあんなことをした後に、台本読むなんてムードも減ったくれもないことしませんよ!」

P「だから寝てただろうが……」

 局の前で少々不毛な会話を繰り返す。これ、下手したらバレるんじゃないか?

春香「それに、あんなドキドキしたのは初めてです。だから、もう緊張しませんよ!」

 春香はうんうんと1人肯く。そこまで元気なら、俺からも言うことはないな。テレビ局に入ろうとしたところで、後ろから元気な声が聞こえてきた。

卯月「おはようございまーす!」

春香「げぇ! 卯月ちゃん!!」

P「えっと、おはよう卯月……。ってあれ? どうしたんだそれ」

卯月「えっと、心境の変化です!」
319 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/29(火) 00:40:58.33 ID:sWnOkfnK0
 目の前には、ピンク色のリボンを両方につけた卯月が。ってあれ? これって……。

春香「キャラ被り!?」

卯月「えっと、春香さんの真似してみました。こういうの、好きじゃないですか?」

P「ちょ、ちょっと卯月!?」

 卯月は春香に見せつけるように、体を摺り寄せる。なついた猫が擬人化したみたいだ。ってそれはみくにゃんか。

春香「こらー! 卯月ちゃん離れてよー!」

卯月「プロデューサーさん、私は2号さんでもオッケーですからね!!」

 そう言って卯月は、スタジオへと入っていく。

P「あ、あのー。春香?」

春香「あ、あの無個性泥棒猫め……、よりによって私の個性を……。許さない!! 行きましょう、プロデューサーさん!」

P「って引っ張るな―!」

 物騒なことを言っているが、顔はそうでもなく、むしろ恋のライバルとの戦いを楽しんでいるようだ。なんだかんだ言いつつも、似た者同士仲が良いんだろう。

春香「プロデューサーさんは私のもの、私はプロデューサーさんのものですよ!」

P「そういうの、廊下で言わないで欲しいかなーって」

 スタッフのみんなが、何事かと見ているぞ。
320 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/29(火) 00:56:48.44 ID:BovZ0lyQ0
響「はいさーい!」

春香「おはよう、響ちゃん!」

 スタジオには、すでにほとんどのアイドルが到着していた。新旧765に、元961のジュピター、876勢……。収拾がつかなくなりそうなぐらいだ。積極的に目立ちに行かないと、24時間顔が映らないってこともありそうだ。

響「あれ? クンクン」

あずさ「どうしたの、響ちゃん?」

春香「え、えっと……。私、変なにおいする?」

響「なぁ、プロデューサー」

P「おっ? なんだ?」

響「クンクン」

 響は犬みたいに、俺の匂いを嗅ぐ。一応汗とかに気を使ってはいるけど、気分が良いものでもないだろうに。もしかして、加齢臭が……?

響「やっぱりだ。春香と同じ匂いがするぞ」

あずさ「え? でも今は一緒に暮らしてるんだからシャンプーは同じなんじゃ……」

響「そうじゃなくて、なんだろ? 説明しにくいけどむぐっ」

P「はい響は今日の響きチャレンジ頑張りましょうねー」

 響の口をおさえ話をはぐらかす。彼女は気付いていないようだけど、それが意味するのは……。

春香「は、恥ずかしい……」

 ちゃんとシャワーも浴びたぞ? 鼻が良すぎるのか?
321 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/29(火) 01:10:36.69 ID:sWnOkfnK0
 そんなこんなしているうちに、アイドル達は集まって来る。杏は……、よしっ、いるな。

涼「はぁ……」

律子「もう、腹括りなさいよね!」

涼「何から何まで急だよ……。って夢子ちゃんは?」

律子「流石に桜井さんは妊娠してるからね。出番はもっと後よ。その分涼には頑張ってもらうことになるけど」

涼「何するの!?」

律子「それはお楽しみに。ねっ」

あずさ「あらあら〜」

伊織「なんで私まで……」

亜美「んふっふ〜、涼ちん覚悟しなよ〜?」

涼「竜宮小町? い、一体何が……」

 涼君は一切聞いていないみたいだな、鬼畜メガネこと秋月律子の、プロデュースと言う名の悪だくみを。

スタッフ「すみません! それでは流れの説明しますので、みなさんこっちに来てください!!」

 スタッフの声に、30人超ものアイドル達は静かになる。よくよく見ると、あのスタッフは10年前生っすか!? でADをしていたスタッフだ。いつの間にか、番組を仕切るポジションにまで来たみたいだ。アイドル達もそれに気づいたのか、あの人だよね? とひそひそと話している。
322 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/29(火) 01:26:26.15 ID:lTHFHcB50
スタッフ「それでは、リハ行きましょう! 3、ッハイ!」

春香「生っすか!?」

『ウェンズデー!!』

 懐かしいコールがリハの始まりを告げる。尤も、あのころと違ってサンデーじゃなくてウェンズデーだったりする。時期が夏休みで良かったな。司会の3人はあの頃と同じメンバー。ただ春香だけがあの頃のままで、両隣の2人が10年と言う歳月を物語っている。この光景だけで懐かしく感じて、不思議と涙が出て来そうになってくる。

美希「みんな、お久しぶり! 星井美希なの!!」

千早「如月千早です」

春香「そして私が、天海春香! 私たち3人は、眠らずに頑張りますよ! って美希、大丈夫なの?」

美希「春香、私=寝坊助キャラっていう先入観は違うと思うよ?」

千早「これから24時間、今までのテレビの歴史を塗り替える企画を続々とやっていきます。最後まで、お楽しみに」

春香「それじゃあここで一曲! 私達3人で、MEGARE!!」

323 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/29(火) 01:33:57.38 ID:lTHFHcB50
春香「どうでしたか、プロデューサーさん!」

P「ああ、良かったぞ。それと、大丈夫か?」

春香「はい、なんとか。って思い出させないでくださいよ!」

 休憩のさなか、春香が声をかけてくる。ダンスのキレも歌も文句はなかったが、やっぱり例の部分が気になっていたりする。

春香「でもやっぱり楽しいですね。まだリハでこれだもん、本番はもっと楽しそうじゃないですか?」

P「そうだな、期待しているよ。見ている人に、最高の番組を見せてやるんだ!」

春香「はい!」

 元気な挨拶をして、司会席へと戻っていく。節電でスタジオも少々暑い。水分を取ろうと、ペットボトルに口をつけると、

美希「ねえ、プロデューサー」

P「ぶぅ!」

美希「あっ、ごめんなさい。脅かす気はなかったんだけど」

P「い、いや悪くないぞ……」

美希「ねえ、1つ気になったんだけどね」

 不意に声がして、水を吹き出してしまう。仕方なくハンカチで拭きながら、美希の話を聞く。

美希「プロデューサー、春香と寝たでしょ?」

P「ゴッホゴホ! チミは急に何を言うんだい!?」
324 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/29(火) 01:45:06.01 ID:BovZ0lyQ0
P「そ、そんな破廉恥なこと……」

美希「嘘吐くの、下手ですよね。って本番前日にするのは流石に引くよ? 寝たって行っただけなのに、破廉恥って言うし……。やっぱり黒?」

P「な、なんでわかったの?」

美希「ってマジだったの?」

P「そんなにひかないで欲しいな……」

 美希は真顔で一歩後ろに下がった。それはそれで傷つくぞ。

美希「まぁいつかの私も、こんな感じだったから、偉そうなこと言えないよね。春香とプロデューサー、気付いてなかったのかな? なんか通じ合ってるって感じが強かった。アイコンタクトってやつ? 愛コンタクト……、我ながら寒いの。こんなので笑うのは、千早さんぐらいかな」

 そこまで笑いの沸点が低いわけじゃないぞ? 美希が言うには、俺にそんなつもりはあったかどうかは別としても、正直にも春香の姿だけ目で追っていたようだ。

美希「流石に嫉妬しちゃうな」

P「き、気を付けます……」

美希「別に良いよ? 春香以上のパフォーマンスをして、目を奪えばいいだけなんだし。んじゃ後でね!」

 ウインクと投げキッス。一瞬だけキュンとしたが、すぐに鋼の自制心で自分を取り戻す。

スタッフ「なぁ、今美希ちゃんに投げキッスされたぜ?」

カメラ「ああ、俺達にしてくれたんだ!!」

P「は、はは……」
325 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/29(火) 01:49:11.40 ID:IdF94JSU0
すみません、あまり進みませんでしたがここまで。遅くても来週中には終わるかと思いますが、最近また忙しくなってきたので、思うように書けないかもしれません。どうかご容赦お願いいたします。水曜日は朝から書けるかと思います。遅筆で申し訳ありません。
326 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/29(火) 02:25:35.40 ID:5FyUZpGlo
スレは落ちないんだからゆっくり頑張ってくれ
327 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/29(火) 03:14:24.32 ID:lp/gP1r+0
この美希春香が消えた後に寝取る気ですね
むしろ自分が消えるのわかってるのに縛る方があれだが
328 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/05/29(火) 05:58:55.39 ID:YYH1sRrro
リアル大事に

ちゃんと完結してくれさえすれば
無理に投稿を早めなくてもおけ!
329 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/05/29(火) 13:17:50.64 ID:8CfVStjI0
原作道理にいくとは限らんよ・・・
是非ともハッピーエンドにいってほしいものだ

330 :寝る前に少しだけ [saga]:2012/05/30(水) 01:24:45.77 ID:EmRVnaSl0
美希「〜♪」

千早「上機嫌ね、何かあったの?」

美希「内緒!」

春香「もう、隠さなくてもいいじゃん!」

 司会席に戻った女子3人は、ガールズトークに勤しむ。緊張もせず、自然体でいてくれて助かる。

貴音「プロデューサー殿」

P「貴音? リハは良いのか?」

貴音「台本に目を通していただけたら、わたくしの出番があまり多くないことも確認できると思いますが?」

P「あー、悪い。そういやそうだったか」

貴音「ええ、らぁめんを食べるだけの、簡単かつ魅力的な企画ですので……。それよりも、1つ伝えなければいけないことがあります」

 相変わらずラーメンのイントネーションはどこかおかしい。といってもアメリカ暮らしのおかげか、発音はだいぶマシになってるが。

P「え? 今聞く話?」

貴音「このタイミングで言うのも気が引けますが……、大きな進展がありましたので、ホウレンソウ、です」

P「分かった、聞こう」
331 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/30(水) 01:40:49.43 ID:n3sZmSeB0
貴音「助かる可能性があるんです」

P「なっ!? 本当か!?」

貴音期待してくださったところ悪いのですが、限りなく低いかもしれません。ですが、現段階で考えうる中で、最良の手段ではないかと思います」

 貴音と局のカフェに座り、彼女の話を聞く。『助かる可能性がある』、その言葉で、俺の心臓は止まりそうになる。ついに見つけたのか? 絶望の中の、一握りの奇跡を。

貴音「事故にあった方の中に、物理学を専攻されている方がいました。その方と、加藤教授、わたくしが導き出した、とっておきの切り札です」

P「教えてくれ! 一体どうすればいいんだ!?」

 周りも気にせず、勢いに任せて貴音に詰め寄る。傍から見ると、別れ話を切り出されたみたいに見えるのだろうか?

貴音「落ち着いてください。切り札とも言いますが、非常に分の悪い賭けです。一か八か、八の出る可能性の方が高いでしょう」

P「つまり、何も変わらず、402便とともに消えてしまうってことだよな」

貴音「はい。しかし切り札は、その運命を乗り越えることが出来るかもしれません。それが分かるのは、期日のその瞬間。日付の変わるその時、事故被害者たちが消えていなければ、わたくしたちの勝ち。何もかも消えてしまえば、神の勝ち。そう捉えてください」

P「……聞かせてくれ、その切り札とやらを」

貴音「では、説明いたします」
332 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/30(水) 01:58:27.36 ID:EmRVnaSl0
貴音「まず10年前に戻ると言うことですが、加藤教授によると、402便はマイクロブラックホールに吸い込まれた後、時空のはざまに戻るわけではなく、それに囚われる前に戻るという計算結果を示したそうです」

P「つまり、マイクロブラックホールに入る前に戻るってことだよな?」

 それは、402便が現象を回避し、無事に目的地、羽田に着けば死ぬという運命から逃れることが出来るということを意味する。成程、元凶たるマイクロブラックホールにぶつからなければ、こうやって10年後に来ることもなくなり、時空のはざまに囚われることもない。

貴音「マイクロブラックホールに巻き込まれたのは、3時37分から3時40分の3分間です」

P「その3分間で、奇跡を起こせるって言うのか?」

貴音「ええ、少なくとも、わたくしはそう信じたいです」

P「ちょっと待て、でもそれって……」

貴音「お察しの通りです。これは、わたくしたちにどうにかできる話でもないのです」

 例えば402便が過去に戻るのなら、メモを書くだろう。何時何分にマイクロブラックホールが、だから避けてくれ。機長席に残す。しかし、402便、乗客はこの時代で得たものは過去に持って帰れない。今着ている服はどうなるか知らないが、その時着ていた服に戻り、思い出も何もない状態になるんだ。

貴音「加えて、回避したところで何も起きないとは考えられません。必ず、なんらかのアクシデントが乗客を襲うことでしょう」

P「ファイナルディストネーションってやつか」

 死神の刃から逃れても、奴らはしぶとく追ってくる。死ぬタイミングがずれただけ。

貴音「死に直結するとは考えませんが、記憶や経験はもちろん全ての現象もその時点の状態に戻ってしまいます。つまり、彼女たちはいなかったことになるんです。ここではなく、飛行機の中にいる。わたくしたちとの時間も、シャボン玉のようにはじけて消える、夢幻のようなものです。嬉しかったことも、悲しかったことも、憶えているのはわたくし達だけ」
333 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/30(水) 02:18:57.16 ID:XnbotvyX0
 それは初めから分かっていたことだ。俺だけが憶えている、一方通行の思い出。改めて言われると、今やっていることもむなしく思えてしまう。そんな後ろ向きな自分を殺し、出来るだけポジティブに考えるよう。

 しかしそれは、すぐに打ち砕かれる。現実は、いや非現実は俺が思っているよりも複雑で、残酷だった。

P「でもその時は、過去の俺達と、新しく思い出を作ればいい。そうじゃないか? むしろ13人そろって……」

貴音「古来より、たいむすりっぷというのは、あらゆる媒体で描かれました。小説、漫画、映画。しかしそのどれもが、実際に起こった出来事ではありません。今わたくしたちが対峙しているこの不条理は、前例のない出来事なのです。映画で良くあるたいむぱらどっくす、創作の世界通りに行くか? それは分かりません。誰もしたことがないんですから。恐竜の色を誰も知らないのと同じことです」

P「シュレディンガーのネコか? 何が言いたい?」

貴音「これは私の仮説ですが、10年前のわたくしたちと、今のわたくしたち。遺伝子レベルでは同じ。しかし、全く同じなわけではありません。むしろ、別物です」

貴音「10年前のわたくしたちと、事故被害者たちが対峙したとします。彼女たちからしたら、飛行機が揺れたけど羽田に着いた、それぐらいの感覚でしょう。ではここで1つ疑問が産まれます。わたくしたちと、事故被害者たちが10年間共に過ごしたとして、その記憶はわたくしたちにはあるのでしょうか?」

P「すまん……。頭がこんがらがって来たぞ」

貴音「分かりやすく説明するのは、難しいものですね。10年前のあなた様と、春香が結婚したとします。春香の旦那様は、他ならぬあなた様です。10年と言わず、永久に仲睦まじく過ごすのでしょう。それをAとします。しかし、今ここにいるあなた様、Bと、Aは別物です。一緒だとすれば、10年間の記憶の違いは、どうなるのでしょうか?」

P「それは……、俺と春香が結婚した記憶に……」

 そこまで言って気付く。これは、あまりにも怖い話だということに。

貴音「そうです。事故そのものがなくなって、春香との日々の記憶が埋め込まれる、そう考えるのが妥当でしょう。しかしそれは、あなた様の10年間を否定することになるのです。同じように、他の皆も」
334 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/30(水) 02:38:16.23 ID:n3sZmSeB0
P「じゃ、じゃあ!」

貴音「三浦あずさと響の兄上様の結婚は? 2人の間に生まれた子供はどうなるのでしょうか? 美希は事務員になっていたでしょうか? かの伝説のアイドルに並んでいたかもしれません。やよいの父は家族を裏切ることがなかったのでは? 本なんて書く理由もありません。 雪歩も最後のライブで失敗しなかったのでは? 音無嬢も結婚……、は違いますね。わたくしたちだけ記憶が残る、と言って来ましたが、助かった場合、わたくしたちさえも記憶が変わるのかもしれません。24時間生っすか!? も普段通りの番組を放送しているでしょう。尤も、これは全て推論です。最良の方法とはいえ、それを確認するすべすら持ち合わせていないのです。説明が拙くて申し訳ありません……」

P「いいや、なんとなく分かった……」

 なんと皮肉な話だろうか? 彼女たちが消えると、俺達はそのまま過ごせ、彼女たちが消えなかったら、俺達はそれに迎合される。いつの間にか、結婚した記憶が出来て、いつの間にか子供がいて。でもそれは最初からある物と思っていて……。

P「死んでいるのと同じじゃないか……」

貴音「ですが、全ての人は救われます。最良、というのも語弊がありましたね。誰も消えない、と言う意味では最良ですが、ある意味では最悪と言われても仕方ありませんね」

 貴音は水を飲み、一息ついて続ける。

貴音「しかしこれも可能性の一つです。奇跡なんて、いつどこで起こるか分かりません。これ自体、考え過ぎと笑える未来が来るかもしれません。そういう未来が、来て欲しいものですけどね」

P「神のみぞ知る、か……。ありがとう、俺達のために、色々考えてくれて」

貴音「感謝されることでもありません。むしろ、恨まれて当然だと思っていました。わたくしがなんとかするなんてこと言っておいて、結局は神頼みになってしまうんですから。神はサイコロを振らないと言いますが、こういう時ぐらいは振って欲しいものですね」

P「俺達人間に任せてるんだよ。振り出しが出る目を出さなきゃいいんだ、少なくとも6分の1ぐらいで最良の未来が来ると思うがね」

貴音「そう言って頂けると、わたくしも気が楽になります。では、わたくしはリハに向かいます」

P「ああ、頑張ってラーメン食えよ?」

 貴音はこちらに一礼して、局の外にでる。神はサイコロを振らない、か……。神の倫理に従わなきゃいけない道理が、どこにあるってんだ。
335 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/30(水) 02:40:26.78 ID:472oZ31S0
ここまで。続きはまた明日。まずこの理論はフィクションです。理系の方やSFファンの方が見たら、噴飯ものだと思いますが、どうかご容赦ください。自分ではこうだと整理していますが、言葉にすると難しいです。こんな分かりにくい説明で申し訳ございません。おやすみなさい。
336 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/30(水) 03:04:36.93 ID:6J6miixX0
>>335
いや、タイムトラベルの鉄板だし分かりやすかったよ。
むしろこの理論じゃなきゃ俺はしっくり来ないww 続き待ってます。
337 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/05/30(水) 07:36:08.37 ID:q9lfHUAXo
ピヨちゃんはどの世界線でも結婚できる可能性がないなんて……
338 :投下します [saga]:2012/05/30(水) 10:48:57.39 ID:EmRVnaSl0
 今の今まで俺達は勘違いをしていた。記憶がなくなるのは、イレギュラーたる10年前からの乗客だけ、俺達はそれを背負って生き続けなければならないと。しかしそんなに都合の良い話があるわけじゃない。消滅の運命が消えた時、今度は俺達の今の記憶が消滅して、新しい記憶に疑問を抱かないまま生きていくことになる。35人の乗客のために、世界は変革を余儀なくされるのだ。

 それは、死を意味する。生きてはいる。しかし、それは俺ではない誰かだ。同じ名前、同じ顔。しかし歩んできた道は別物だ。

P「どうすればいいんだろう」

 飛行機に乗っていない人間にどうにか出来るわけでもない。402便を運転していたの機長、副機長がマイクロブラックホールから逃げる運転をする。俺には何も出来ない。最後まで、俺は外野なのだ。しかし、俺にも出来ることがある。機長やCAが、最後まで乗客を届ける義務があるように、俺にはは最後の最後まで、みんなをプロデュースし続けなければならない。

P「戻るか」

 貴音の話は心に留めておく。今はまだ、話すべきじゃない。お冷を飲み干し、スタジオへ戻る。
339 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/30(水) 11:02:31.54 ID:EmRVnaSl0
スタッフ「あれ、プロデューサーさん。どこ歩いてたんですか?」

P「ああ、すみません。少しSF談義をしてまして」

スタッフ「はぁ……」

 スタッフに謝り、リハーサルを見学する。スタジオの真ん中で、千早が1人歌っている。圧倒的な歌唱力を持っていた彼女だが、アメリカでの武者修行により、これまで以上の歌唱力を身に着けた。この国最高の歌い手の1人とカウントしても良いだろう。生で聞くのは数年ぶりだが、彼女の息遣い、空気の震え、思いがひしひしと伝わってくる。やはり歌はテレビよりもライブに限る。

凛「凄い……」

 そう思っているのは俺だけじゃなく、後輩アイドル達も彼女を肌で感じ、心を奪われていく。聴く人すべてを圧倒する、それが如月千早だ。彼女を目指す歌手やアイドルも多い。

千早「ありがとうございます」

春香「はい、千早ちゃんで約束でした! この曲はいろいろ思い出がある曲だね」

千早「私が再び歌えるようになった曲だから……。今でも鮮明に憶えています」

春香「素晴らしい曲の後に、このコーナー! 四条貴音のらぁめん探訪24!! それじゃあ中継とつなぎまーす! 貴音さーん!」

貴音『ずるずる……、なんと、繋がってましたか』

P「今から食べたら後で食べれなくなるんじゃないのか……」

 本当に謎な存在だ。いや、頭を使うからお腹が減るんじゃ? そういうことにしておこう。
340 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/30(水) 11:14:37.82 ID:472oZ31S0
 リハーサルは大きな事故が起きることなく進み、昼食休憩の時間になる。先ほどのカフェに戻り、日替わりランチを取る。局の中ということで、大御所芸能人も来るからか、味は一級品だ。その割に値段も安めなのがありがたい。

千早「そういえばプロデューサー、途中いなくなりましたが、どちらへ?」

P「あー、ちょっと他の仕事関係の電話がかかって来ててな。今すぐにって言うものだから、抜けさせてもらったんだ。すまないな」

美希「折角私のステージもあったのに、見てくれないなんてショックだよ?」

P「悪い悪い……。ほら、俺のプチトマトあげるからさ」

美希「そこはおにぎりかイチゴババロアが……、って無いよね」

春香「むぅ……」

P「いだ! 足を蹴るなぁ!」

春香「〜♪」

P「知らんぷりっすか……」

 4人で談笑(約一名絶賛嫉妬中)しながら、休憩を過ごす。カフェの外では、慌ただしく走るスタッフたち。別の番組のスタッフだと思うが、朝から夜までご苦労様と言いたいな。そういう人たちの縁の下からの助力があってこそ、番組が成功する。心の中で彼らに感謝をし、プチトマトを頬張る。

千早「そろそろ時間ですね。戻りましょうか」

 時計を見ると、本番開始まで残り5時間を切っていた。否応なしに緊張が体に走ってくる。
341 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/30(水) 11:22:56.72 ID:XnbotvyX0
 その後もリハは続いていく。スタッフもアイドルも慣れたもので、時間が遅れることなく進行する。ただ、一部のアイドル達を除いて。

卯月「き、緊張する……」

凛「こういう大きな番組、初めてだからね」

杏「胃が痛い……。これは現代医学では治せない病気だよ、寝たら治るから寝ていい?」

きらり「大丈夫かにぃ? 杏ちゃんを癒すにょ!!」

杏「いだいいだいいだい!!」

かな子「うぅ……、食べ過ぎました……」

P「はぁ……、大丈夫か?」

 まだ彼女たちは経験も浅い。露出が全くないわけでもないが、それでもこんな大きな番組は初めてだろう。アシスタントとはいえ、緊張するのも無理はない。それに、スタッフに無理を言って、彼女たちのステージも用意した。普段のレッスンを見て、大丈夫だと判断した結果だが、揃いも揃って体がガチガチだ。クールな凛ですら、どこか浮ついて見える。

春香「みんな緊張してますね」

P「適度な緊張は良いんだけど、下手すれば右手と右足を同時に出しそうなぐらいガチガチだからな……」

春香「でも懐かしいです。私も最初はこうでしたから」

卯月「え? そうだったんですか?」

春香「うん、逆に緊張しない人なんていないよ? みんな最初は怖いんだ。初めてのオーディション、初めての番組、初めてのライブ。今では自信持ってやっていけるけど、私だってみんなと同じ。むしろみんなよりひどかったかも」
342 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/30(水) 12:01:03.41 ID:n3sZmSeB0
P「そうだぞ? なんせ入る瞬間からずっこけて、全国放送でパンチラをやらかしたんだからな。あれでファンが増えたんだけど」

杏「それなんてどこのちゃん澪?」

春香「も、もう! 言わないでくださいよ!」

P「いでっ!」

 げしっ! 太ももを蹴られる。日に日にバイオレンスになってやしませんか?

卯月「春香さんでも失敗するんだ……」

春香「そこまで凄い人じゃないよ? それに、リハはいくらでもミスをしていいの。むしろここでしとかないと、本番でしたら結構へこむよ?」

P「先輩の言うとおりだぞ。ミスを恐れちゃ、前に進めないぞ? そんなに気になるなら、今のうちにミスしておけばいいさ。本番で同じミスをしないように、な」

千早「その通りよ。硬いままじゃ、いいパフォーマンスは出来ないわ。気を楽に、ね」

凛「千早さんにそう言われると、気が楽になりますね」

春香「えー? 私も言ったのに……」

凛「春香さんも、です」

卯月「そ、それじゃあ! 765プロ、いって来まーす!」

 卯月の号令で気合を入れ、ステージへと昇る。

卯月「ってうわぁ!」

 どんがらがっしゃーん。

千早「ほんと、似てるわね」

春香「あははは」
343 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/30(水) 12:06:50.42 ID:n3sZmSeB0
 シンデレラ達のリハーサルが始まる。歌詞を間違えたり、ステップを外すなど小さなミスはいくつか見えたが、リハでこれだけできるんだ。自信を持てば、きっと最高のステージを作れるだろう。

千早「昨日教えたこと、いかされてるわね」

美希「若いっていいなぁ、みんな素直で……。あっ、プロデューサー。その節はご迷惑をおかけしました」

P「い、今言うことか、それ?」

春香「こういうの見ると、こっちも負けてられるか! って気持ちになりません?」

P「そう思ってくれると嬉しいな。よし、テンションあげてくぞ!」

 昨日のレッスンの効果が早くも発揮されたようだ。そしてそれが刺激となり、春香たちを燃え上がらせる。無駄になんかしたくないな。

P「なおさら、悩むな……」

 春香たちが助かった場合、彼女たちはうちの事務所に所属したのだろうか? この瞬間と同じメンバーが集まっているのだろうか? ええい! 変なことを考えるんじゃない、俺!!

卯月「どうでした?」

P「良かったぞ。その調子で、本番もぶちかましてやれ!」

シンデレラ『はい!』
344 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/30(水) 12:16:24.55 ID:n3sZmSeB0
 他のアイドル達もスタジオに戻ってくる。ここにいないのは、中継組だ。さて、そろそろだな。心の中でこっそりカウント。57、58、59、0。

春香「生っすか!?」

一同『ウェンズデー!』

春香「はい、始まりましたよ! 生っすか!? ウェンズデー! 土曜日じゃないからウェンズデー! 土日は24時間テレビを見ましょうね」

美希「それ、他局だよ?」

春香「そうだっけ?」

千早「もう、早く進めましょう」

美希「みんなー、久しぶり! 星井美希なの!!」

千早「こんばんわ、如月千早です」

春香「千早ちゃん、固いよ? そして私が、天海春香! 私たち3人は、眠らずに頑張りますよ! って美希、大丈夫なの?」

美希「春香、私=寝坊助キャラっていう先入観は違うと思うよ?」

千早「これから24時間、今までのテレビの歴史を塗り替える企画を続々とやっていきます。最後まで、お楽しみに」

春香「24時間ですよ、24時! それじゃあここで一曲! 私達3人で、MEGARE!!」
345 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/30(水) 13:17:26.98 ID:472oZ31S0
 ステージを舞い歌う3人。テレビの向こうの反応は分からないけど、揃うことがないと思われた3人が再び集まったんだ。ファンのみんなが、望んでいたことだろう。彼女たちの最初のファンの俺だって、同じだ。生っすか!? は長い休止期間を経て、復活したんだ。それはとてもとても嬉しいことで、まだ始まって10分もたっていないのに、涙が流れそうで。

春香「さぁ、どんどん行きますよー! まず最初の企画はこれ! 響チャレンジ24!! 中継繋がってるよね? 響ちゃーん! あずささーん!」

響『はいさーい! みんなー、アンシミィドゥーサヌ(久しぶり)! 我那覇響だぞー!』

あずさ『我那覇……、じゃなくて三浦あずさです。皆さんお久しぶりですね〜』

美希「あずさの隣にいる子ども達は?」

あずさ『私の子供です。ほら、挨拶しましょうね?』

千早「きゃ、きゃわいい……」

春香「こらこら! あずささんのお子様可愛いですねぇ。さて、ここで今回の響チャレンジの発表です!!」

『24時間で、ドミノを完成させろ!!』

美希「ドミノ? これは大変そうだね」

千早「というより、これ本家と同じじゃ……」

響『なんくるないさー!! なんせ自分、完璧だからな』

春香「まぁ実際には、22時以降から翌日5時までは響ちゃんは動けないんだけどね。ドミノの駒はなんと5万! それをひたすら立てて貰います」
346 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/30(水) 13:27:31.66 ID:472oZ31S0
響『自分にお任せ! デザインは……』

あずさ『これかしら?』

響『ありがとうあずささん! それじゃあ、やってくぞ!』

あずさ『えっと、私も少し手伝うわね。途中でいなくなっちゃうけど。2人も邪魔しちゃだめよ?』

春香「知ってる人は知ってますが、響ちゃんとあずささんは義姉妹なんですよねー。こうやって見ると、本物の姉妹みたいですね」

 2人の間の距離は縮まっていた。互いにわだかまりもなくなって、家族になれたんだろう。

千早「お次はこのコーナーの紹介を。ってこちらもある人が24時間チャレンジします」

『木星チャレンジ24!!』

美希「中継の……、えっと誰だっけ?」

冬馬『天ヶ瀬冬馬だ!! 忘れるんじゃねえよ!!』

美希「ごめんなさい、台本にそう書いてたの」

冬馬『悪意しか感じねーよ!!』

春香「まあまあ。いま日本で一番売れている男性アイドルグループジュピター。彼ら3人には、24時間でこちらの企画を!」

『24時間トライアスロンリレー!』

千早「水泳、自転車、マラソンの順番でジュピターの3人に挑戦してもらいます。順番はどうなさいますか?」

冬馬『北斗が水泳、翔太が自転車、俺がマラソンだ』
347 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/30(水) 13:37:20.11 ID:472oZ31S0
北斗『チャオ☆』

 いい男が水着姿で現れる。吹き出しそうになったが、ファンからしたら失神ものなんだろう。北斗君も30ぐらいなのに、無駄のない筋肉を持っている。まだまだ現役としていやっていけそうだな。

北斗『翔太は向こうで待ってるよ。まぁしばらく待ってくれ。直に翔太にバトンを託すよ』

冬馬『つーこった。まぁ俺達ジュピターの結束、見せてやんよ』

千早「以上、マーズからでした」

冬馬『ジュピター! ってあんたも間違えるな!』

千早「いや、台本通り……」

冬馬『責任者出てこ』

北斗『じゃあ行くよ?』

 バシャン! 水しぶきを上げ、北斗君は泳ぎだし、彼を追うボートもエンジン音を響かせゆく。夜を泳ぐのは危ない気もするが、北斗君自体の体力をかんがみてか、水泳自体はそこまで距離がない。現役とはいえ、流石にきついとの判断だ。むしろ陸上の2つの方がメインだろうな。

美希「頑張ってねー!」
348 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/30(水) 14:10:08.83 ID:XnbotvyX0
春香「まだまだ素敵な企画はたくさん! カップルは、結婚できるのか!?」

『走れ涼!!』

千早「中継が繋がってるわね。中継先の秋月さん?」

涼『はい、秋月涼です!』

美希「走れ涼って、一体何が始まるの?」

涼『それは僕にも……』

律子『それは私から説明するわ。実は明日、涼と桜井さんの結婚式を行うんだけど』

春香「けど?」

律子『拉致っちゃった。テヘペロ!』

涼『はぁ!?』

律子『桜井さんを助けたければ、挙式の時までに竜宮小町と私と勝負して、勝つことね』

涼『勝手に挙式の日程を決めて、それで勝手に拉致って酷くない!? それにまだ拉致問題生き』

春香「あれ? 切れちゃった。でも結婚かぁ、良いなぁ」

千早「無事出来るのかしらね?」

美希「でも律子さんだからどうなるか分からないよ? でも頑張ってね」
349 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) :2012/05/30(水) 14:11:39.68 ID:a3TwwqZAO
これ読んで貴音と美希に惚れ直した

すごく面白いし、最後が気になるよー
350 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/30(水) 14:23:33.46 ID:472oZ31S0
 番組はリアルタイムで進んでいき、響のドミノを映し、北斗君の泳ぐ姿を映す。合間合間にアイドルのステージが入るのだ。雪歩真が歌い終え、テレビの前のみんなに一礼をする。

雪歩「ありがとうございましたぁ!」

真「この後もじゃんじゃんやってくよ! その前に、響ー! どうだい?」

響『うぎゃあああ!』

あずさ『大変、止めないと! って駄目でしょ! ドミノを倒したら』

響『こ、これぐらい大丈夫さー。姪っ子たちには罪はないぞ』

あずさ『でも……』

響『まだ始まってすぐじゃないか、いくらでも挽回でき……、って犬!? こらあああ! ドミノを倒さないでえええ!』


春香「これは前途多難ですね!」

美希「春香、他人事だね……」

千早「早速可哀想になって来たわ……」

 ドミノを立てても、動物に姪っ子、思わぬ妨害(当人たちに悪意はないけど)が入り無情にも倒れていく。これが後何時間も続くのだ。史上最長にして、史上最悪最凶、ある意味歴史に残るドミノとなるだろうな。というかこれ、放送できるのだろうか……。

春香「おや? ここで涼君の方に動きが出たみたいですね、律子さーん!」
351 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/05/30(水) 14:30:03.41 ID:QQo7X1vC0
りっちゃーん!
352 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/30(水) 15:01:16.46 ID:472oZ31S0
律子『はーい、律子ですよー。今涼はね、竜宮最初の刺客、双海亜美と対峙しています!』

亜美『んふっふ〜、全国の兄C、姉C、久しぶり〜』

真美『お久しぶりです。って私、いる意味あんの?』

涼『えっと、これは……』

亜美『涼ちん、結婚するんだってね〜。でもぉ、そう簡単にいかないのが、夫婦生活だよ?』

涼『そういうの、亜美ちゃんには言われたくないかな』

亜美『年下だからって馬鹿にして―! 涼ちん、今からホールインワン決めてよね!』

涼『ええ!?』

亜美『ほらほら、夢っちにもホールインワン決めた痛い!』

真美『これ生放送でしょうが! ゴメンね、涼ちん』

涼『い、いや。なんでもいいけど……、ゴルフなんてしたことないのに』

律子『入るまで、次の場所に行けないわよ? じゃあ構えて構えて!』

涼『えっと、こうやって……。アイ、キャン、フライ!』

律子『あら、結構飛ぶわね。これが一発で入るまで、よ? なるだけテレビの映ってるとこで決めてよね』

涼『無茶言わないでええええ!』

 涼君の悲鳴で、VTRが途切れる。しかしホールインワンって……、24時間以内にできるのか?
353 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/30(水) 15:31:38.78 ID:EmRVnaSl0
やよい『高槻やよいのー、突撃、隣の晩御飯!!』

伊織『わーわー!』

やよい『皆さんお久しぶりです、高槻やよいです!』

伊織『水瀬伊織よ』

やよい『今夜はここ、とある、元アイドルのご家庭にお邪魔しようとしています』

伊織『40過ぎて、独り身をこじらした元アイドルよ。お付き合いしたいって人は、ぜひとも765プロに電話して頂戴ね。ニヒヒっ!』

 また勝手なことを言って。しかもあの家って……。

やよい『うっうー! お邪魔しまーす!!』

伊織『遊びに来たわよ、小鳥』

小鳥『ええ!? ちょ、私すっぴ』

プツン!

 おれはなにもみていない。

美希「ほ、放送事故なの」

春香「思っても言わないの!!」

千早「こ、ここでCM!!」
354 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/30(水) 15:38:38.42 ID:EmRVnaSl0
CMということで、とりあえずここまで。続きは夜に少し書けたらいいな。明日も早いから、そんなに書けないと思う。
355 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(熊本県) [sage]:2012/05/30(水) 18:25:29.94 ID:lbusya61o
小鳥さんの扱いについて話し合おうか
356 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/05/30(水) 20:37:11.76 ID:AXNbH3gWo
舞台は10年後なら
小鳥さんはまだ3X歳のはずでは……

ところで、連絡先はどこかね?
357 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/05/30(水) 23:21:44.52 ID:QQo7X1vC0
>>356
お前の心の中に浮かんだ番号だよ
358 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/30(水) 23:53:13.67 ID:XnbotvyX0
春香「そう言えば小鳥さん、まだ3×歳なんじゃ……」

美希「残念ながら、昨年40の大台を乗ったよ?」

 ……別にオーバーじゃなかったな。しかし、すっぴんはネタにはしてるけど、普通に同じ年齢の人と比べたら、かなり若々しい方だろう。ただ、普段の行いが残念なので、いきり立っても萎えてしまうんだが……。

小鳥『じゅ、準備できましたっ!』

伊織『じゃあCMあける準備お願いねー』

春香「へ? な、生っしゅか!?」

 カメラがCM休憩と油断していた春香を映す。この光景、どっかで見たぞ……。

美希「小鳥さんの準備が出来たみたいだね」

千早「現場の高槻さん、水瀬さーん」

伊織『はいはーい! 水瀬伊織でーす!』

やよい『準備が出来たので、今日の晩御飯は、こちらの方です!』

小鳥『あっ、えっと……、音無小鳥、です……』

P「ぶっ!!」

 テレビには小鳥さんの下に、テロップが用意されていた。結婚希望の方は、こちらに電話を……。ホントにやりやがったよ!! 010745102……、おとなしことに?

359 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/05/31(木) 00:09:11.79 ID:4+9Xpn150
テレビ番組に私情を挟みすぎだろ音無さん
360 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/31(木) 00:14:18.60 ID:nanx4tMT0
春香「小鳥さ−ん、聞こえますかー? この観客席の歓声! 小鳥さんの現役時代のファンの皆様ですよ!」

小鳥『あ、あ、ありがとうござひゅ!』

観客「ババアになっても可愛いぞおおおおお!!」

川島「私の方が可愛いわよ!!」

観客「可愛い可愛い! 小鳥可愛い!!」

小鳥『うぅ……』

 凄い熱気だ。地味にアイドル達より盛り上がっているんじゃないだろうか? 純粋にファン層の違いか。未だに小鳥さんの再デビューを望む声もある。日高舞の時代で、あまり日が当たらなかったが、彼女は隠れた人気を持っていた。かく言う俺も、事務所に入社してから知ったことなんだが……。

伊織『さぁ小鳥、今夜の晩御飯は何かしら?』

やよい『晩御飯くれなきゃ悪戯します!!』

小鳥『ええ!? やよいちゃんの悪戯なら大歓迎だけど……、って急に現れられても。さすがに紹介できないわよ?』

伊織『どういうことよ?』

小鳥『だって……、わたくし音無小鳥の晩御飯は、こちらです』

 小鳥さんはそう言って、おずおずとカップラーメンを差し出す。

 ……独身女性の、生活を垣間見てしまった。
361 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2012/05/31(木) 00:15:17.81 ID:T7bUmMXEo
分 か る わ
362 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/05/31(木) 00:19:13.06 ID:4+9Xpn150
というか765プロで料理できんのって誰がいるよ?
363 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/31(木) 00:23:17.08 ID:PW7WI3GD0
伊織『……自炊しないの?』

小鳥『だってぇ、時間無いし……。それにこういうのは事前に教えてくれないと!』

伊織『それじゃあドッキリ企画の意味ないでしょ!』

 中継先はてんやわんやだ。いや、これは完璧にこっちに非があるんだが……。

観客「生活感のないところも可愛いぞ!」

 観客だけは異様に盛り上がる。絶対テレビ見てる人はポカーンとしているんだろうな。小鳥さんは知らないが、勝手に特設電話番号用意されるわ、元アイドルのすっぴん映るわ、晩御飯はまさかのカップラーメンと来た。生放送ならではのハプニングだが、苦情が来てもおかしくないぞ……。

春香「ティンと来た!」

 もう一度CMに移そうかと考えた時、春香は何か閃いたようだ。頭の上に豆電球が見える。

春香「ねえやよい、冷蔵庫の中見て」

やよい『冷蔵庫ですかー? お邪魔しまーす!』

伊織『あら、食材が無いわけじゃないのね』

小鳥『やろうやろうと思って買うんだけど、いつも忙しさを理由にインスタント生活です……、はい』

春香「小鳥さん、今から作りましょうか」

小鳥『へ?』
364 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/31(木) 00:33:54.17 ID:xNp9d6nJ0
春香「やよい、折角だから、ここで作っちゃお! 突撃、隣の晩御飯を作る! って感じで!」

やよい『分かりましたー!! 家事は任せてくださーい!』

伊織『そうね、私たち料理番組してたんだし。今夜限りの復活よ!!』

P「ナイスだ春香!」

春香「えへへ……」

 俺にこっそりとウインクをする。もともと料理番組を持っていたやよいと伊織だ、卒なくこなしてくれるだろう。春香の機転でピンチを乗り切る。おまけにアイドルの活躍の場を増やし、ファンの期待にも応えれている、と最高の展開へと進んだ。ただ、独身女性の尊厳を犠牲に……。この番組、カップラーメンの会社スポンサーついてない、よね?

やよい『それじゃあお料理、スタートです! 伊織ちゃん、そっちお願いね』

伊織『分かったわ! 小鳥、しっかり見てなさいよ!!』

小鳥『はは、ははは……』

 これには小鳥さんも苦笑い。結婚と言うゴールは、まだ遠そうだ。

春香「どんな料理が出来るか楽しみですね! ここで響ちゃんにも動きが! どうなったんだろ? 中継先のみくにゃーん!」
365 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/31(木) 00:45:55.96 ID:PW7WI3GD0
みく『はいはーい! こちらドミノコーナーにゃん! 今我那覇選手は、なんとカンガルーと対峙してるにゃん!』

P「か、カンガルー?」

 VTRに映されているのは、カンガルーとボクシングを繰り広げる響。ドミノが倒れないように、なるだけ遠くで戦っている。……何が起きた?

あずさ『あっ! ストッパーで何とかなったわね〜』

響『くぃどるるるる……、そのコマを返してくれー!』

 どうやらカンガルーにコマを盗まれたみたいだ。最初から見ていないから、一体何が起きたか分からない。ただそこには、カンガルーと少女の、譲れない戦いが繰り広げられていた。

あずさ『えっと、これを……』

千早「あずささん、マイペースね……」

 義妹がカンガルーと闘っている間、あずささんは淡々とコマを並べる。非常にシュールな光景だ。時間も結構経ったからか、お子様たちはうとうととしている。

響『ほらっ! 話せば分かるぞ! な? アンマ―(お母さん)も泣いてるぞ?』

 どこの刑事ドラマだ。人質ならぬ、コマ質を取られた響は、思うように動けずにいた。しかし相手はすでにお母さんなんだが……。

響『そうそう、良い子だぞ! 今日から家族の一員だぞ! カンガルーの、ルー香なんてどうだ? 春香みたいで可愛いぞ』

 説得の末、カンガルーのルー香親子からコマを返してもらった。貴重すぎるカンガルーと人間の握手シーンが、カメラを通して日本全国へと流れる。

響『これで再開出来、ってうぎゃあああ! 足が当たって倒れてくぞおおおお!!』

みく『果たして時間内に終わるのか!? こうご期待にゃん!!』
366 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/31(木) 00:56:19.04 ID:PW7WI3GD0
美希「壮絶な戦いだったね」

千早「ええ、人類と有袋類の、種を超えた友情……、全米が泣くわね」

 アメリカの涙腺の弱さの基準がイマイチわからない。

春香「いや、ルー香に突っ込んでほしかったんだけど……、そこスルーっすか!?」

『ウェンズデー!!』

春香「あっ、乗ってくれた」

美希「ここでやよいたちに戻すよ!!」

やよい『はーい、スタジオのみなさーん!』

伊織『こら! 包丁持ったまま映っちゃだめよ!!』

春香「そっちの首尾はどう?」

やよい『美味しそうな匂いがしてます! スタジオやテレビの向こうのみんなに伝わらないのが残念です』

伊織『まぁそれは、小鳥のリアクションでお楽しみくださいってとこね』

小鳥『あははは……』

 小鳥さんは情けなく笑っている。2人の料理は進んでいき、やがて音無さんちの晩御飯が、テーブルの上に姿を現した。
367 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/31(木) 00:58:41.58 ID:Y06MUzjT0
>>362
春香やよい雪歩真は少なくともできるはず
あとは知らん
368 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/31(木) 01:02:45.21 ID:xNp9d6nJ0
やよい『うっうー! 完成しました! こんばんわ、晩御飯!!』

伊織『明日の朝はおはよう朝ごはんになるのね』

小鳥『わぁ!! こんなしっかりした晩御飯、いつ振りかしら……』

伊織『まあこれに懲りたら、自炊もすることね』

小鳥『き、気を付けましゅ……』

やよい『それじゃあいただきまーす!!』

 テレビ映えするような高価なものではない。むしろ素材はスーパーで売ってるようなものだし、内容も高槻家の晩御飯だ。しかし、それには温かみがある。遠く離れていても、こっちまでいい匂いがしてきそうだ。

伊織『我ながら美味しいわね。テレビの向こうに、ちゃんと伝わっているかしら?』

小鳥『うん、美味しいわ! ねぇ、うちの専属料理人にならない?』

やよい『自分で作らなきゃメッ! ですよ? お料理はすっごく楽しいんですから!』

 今の一言で、自炊人口が増えそうだな。

小鳥『は、はーい……』

やよい『以上突撃、隣の晩御飯! でしたー! スタジオに返しまーす!』
369 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/31(木) 01:04:58.63 ID:xNp9d6nJ0
明日も朝早いので、短いですがここまで。料理は伊織はアニメOPの描写から出来るんじゃないかと。まぁいおりんは何でもそつなくこなしますし。響も自炊してますね。あずささんも出来そうな印象。中の人が下手なだけであって。明日はバイトないので、昼過ぎぐらいから顔を出せるかと思います。では
370 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2012/05/31(木) 01:43:06.00 ID:T7bUmMXEo
貴音も自炊してるよ、よ
ビーフシチューとか作れるよ、よ
371 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/05/31(木) 07:45:10.50 ID:eF4kBwVxo
アイマス2エクストラエピソードでは
あずささんも料理を振る舞ってます
372 :投下 [saga]:2012/05/31(木) 14:39:53.97 ID:PW7WI3GD0
千早「高槻さんきゃわわ」

 カメラが映していること、気付いてないのだろうか? 夢見心地でいる世界的歌姫。油断し過ぎだ。

春香「って返ってるよ千早ちゃん!」

千早「へ? あっ、生っすか!?」

『ウェンズデー!!』

美希「ここで涼ちゃんの様子を見てみるの」

律子『はいはーい、りっちゃんですよー』

亜美『ねーねー、そろそろいれよーぜー?』

真美『いや、難いっしょ……』

涼『ちゃーしゅーめん! ってあれぇ?』

 どこかで聞いたことのある掛け声とともに、ボールを天高く飛ばす涼君。しかし思うようにホールに入らない。惜しいとこまで行っているのだろうか、ちらほらとホール付近にはボールが落ちている。初心者と言うが、良くやっていると思う。

涼『これ、何球目だろ……』

律子『200球は超えてるわね』

涼『うへぇ、センスないよー』

春香「苦戦してますねー。おっと、ここで中継です。シンデレラのみなさーん!」
373 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/31(木) 14:51:44.23 ID:ujFN75Ak0
 中継先は……、どこかの教会だ。そこに映っていたのは……。

李衣菜『はい、こちら教会ですが……、随分ロックなことになってますね。どうですか、旦那様の頑張りは?』

夢子『涼ー!早く迎えに着なさいよー!!』

涼『夢子ちゃん!?』

 なぜか椅子にロープでグルグル巻き(まぁ妊娠してるし、かなり緩いけど)というなんともロックな格好の夢子ちゃんが、不甲斐ない旦那様に檄を飛ばす。

春香「涼君は果たして夢子ちゃんのもとにたどり着けるのか!?」

千早「何でもいいんだけど、桜井さんいつまであのへそ出し服着てるのかしら?」

美希「涼ちゃんのお気に入りなんだって」

夢子『わ、悪いですか!?』

李衣菜『いやいや、ロックで好きですよ?』

夢子『あんたのロックは絶対何か間違えてるわよ!! とにかく、涼! 私を、私たちを早く助けて!』

涼『ゆ、夢子ちゃん……。僕、やるよ!! 行きます!! チャーシューメン!!』

 勢いよく振られたクラブによって、ボールは夜空を高く高く飛んでいく。そして、流れ星のように落ちていき、静かにホールへと吸い込まれていった。
374 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/31(木) 14:58:14.38 ID:PW7WI3GD0
涼『は、入ったの?』

律子『ええ、入ったみたいね……』

亜美『ぐふぅ! や、やられたぁ』

真美『もう少し感情込めなよ……』

 棒読みでその場に倒れる亜美。

涼『これで第一の関突破か!』

律子『ええ、続いては第2の関、明日の朝からよ』

涼『今すぐじゃないの!?』

律子『夜道で、あずささんを見つけれる?』

涼『無理です……』

 早く終わらせたそうだが、相手はあずささんと言うことで断念した。何をするか分からないが、あずささんを見つける、と言うことからウォーリーを探せ的なゲームに挑戦させられるのだろう。しかし相手はワープのSPECホルダーだ。比較的明るい夏の夜でも、探すのは一苦労だ。追いついても、気付けば全然違う場所にいる。ある意味、402便レベルの不思議な現象だと思う。

律子『それじゃあスタジオに返すわねー』

真美『真美はそっち行くかんね!!』
375 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/31(木) 15:12:35.24 ID:xNp9d6nJ0
春香「涼ちゃん、見事だったね!」

千早「あれが愛の力、なのかしら?」

愛「呼びましたかー!?」

絵理「呼んでないと思うな」

 スタジオに響く爆音。彼女の辞書には疲れと言う言葉がないのか?

美希「相変わらず声がでかいね」

愛「私の取り柄ですから!!」

絵理「他にもあるよ?」

春香「876の愛ちゃん絵理ちゃんですね! これから私たち5人で、某クイズ番組に挑戦してきます! 5人1組の、あの番組ですよ!!」

千早「ネ○リーグね」

美希「それじゃあ行って来まーす! CMどうぞ〜!」

 CMに移り、5人はスタジオを移動する。クイズ番組は現役のころ、あまり出てなかったが、果たして彼女たちは馬鹿キャラになってしまわないか、それだけが心配だ。まぁ絵理ちゃんと千早は大丈夫だと思うが……。

千早「コ」
絵理「ロ」
美希「ン」
愛「ビ」
春香「ア」

『残念! 正解はコロブチカでした!!』

P「お、おう……」
376 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/05/31(木) 15:20:19.06 ID:Y4FpMmk+o
Q,最近、CDが延期し、サイト更新もほとんどないといえば?

                               ,.へ
  ___                             ム  i
 「 ヒ_i〉                            ゝ 〈
 ト ノ                           iニ(()
 i  {              ____           |  ヽ
 i  i           /__,  , ‐-\           i   }
 |   i         /(●)   ( ● )\       {、  λ
 ト−┤.      /    (__人__)    \    ,ノ  ̄ ,!
 i   ゝ、_     |     ´ ̄`       | ,. '´ハ   ,!
. ヽ、    `` 、,__\              /" \  ヽ/
   \ノ ノ   ハ ̄r/:::r―--―/::7   ノ    /
       ヽ.      ヽ::〈; . '::. :' |::/   /   ,. "
        `ー 、    \ヽ::. ;:::|/     r'"
     / ̄二二二二二二二二二二二二二二二二ヽ
     | A |     コ ロ ム ビ ア       │|
     \_二二二二二二二二二二二二二二二二ノ
377 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/31(木) 15:21:58.26 ID:xNp9d6nJ0
 その後も、珍解答、迷解答の連続で、結果は散々だった。テレビの前のみんなが笑ってくれることを祈っておこう。

愛「難しいですよー!」

絵理「みんな、勉強不足」

美希「大学いかないで事務員なったもん、仕方ないよね?」

千早「全く、コロブチカも分からないなんて……」

春香「うーん、千早ちゃんも大概酷かったよ? 関ヶ原なのに……」

美希「千早さんのせいで秋葉原になったの!!」

千早「クッ……」

 ニュースを挟んでの休憩中、先ほどの反省会を行っているようだ。戦犯は……、絵理ちゃん以外の4人だろう。むしろ順調に正解する絵理ちゃんの方が逆に浮いてしまっていたぞ。

絵理「私もボケるべきだった?」

美希「絵理は最後の良心だから、そのままでいいと思うよ。大学行こうかなぁ。枝毛占いがあれば何とか……」

春愛千美絵『はぁ……』

 ため息をつきたいのは、こちらだったりする。勉強との両立、出来てないじゃないですか。
378 :上の秋葉原は、美希も間違えたってことで。 [saga]:2012/05/31(木) 15:56:00.72 ID:ujFN75Ak0
 22時を過ぎて、18歳未満のアイドル達は退場する。これからは、大人の時間だ。お酒を飲みながらのトーク企画に移る。

あずさ「このお酒美味しいですね〜」

楓「……美味しい」

美希「飲みやすいね」

伊織「にしても、こいつらはどうにかならないの?」

律子「これは酷いわね……」

千早「あはははは! 楽しくなってきたじょー!! 春香も飲みなしゃーい!」

春香「ち、千早ちゃん! 私未成年だって!」

雪歩「うふふふふふ、真ちゃーん、アイラビュー!!」

真「ゆ、雪歩ぉ!?」

愛「ママなんて消えちゃえ−!」

絵理「お、落ち着いて愛ちゃん……」

貴音「ふぅ、暑いですね……。服、脱ぎましょうか」

真美「ちょ! 裸になっちゃダメ―!!」

 千早、雪歩、愛ちゃん、意外にも貴音は酒癖が悪いようで、カメラが回ってるなんてことを無視して、暴走する。明日、二日酔いで倒れやしないだろうか?

千早「あははははは!」

雪歩「うふふふふふ」

愛「はなっまるるんるんるるん!」

貴音「裸になって何が悪いですか!!」

P「さ、最悪だ……」
379 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/31(木) 16:33:08.06 ID:PW7WI3GD0
 アイドル達のどんちゃん騒ぎは続く。視聴者からの相談に乗るというコンセプトらしいが……。

雪歩「結婚に踏み込まない? 穴掘って埋めりゃあ良いんですよ!!」

貴音「そんな悩みを持つぐらいなら、裸になりなさい!!」

千早「春香ー、チューしれ」

春香「ちゅ、ちゅー!?」

愛「ガーガー」

絵理「愛ちゃん、まだ本番中だよ?」

 と、まぁBPOが間違いなくキレる内容を、生で放送している。幸いにも、酔っ払いどもも放送禁止用語を使わない。自制心があるのかどうか知らないが、とりあえず出禁になるような真似は遠慮してもらいたいものだ。

千早「蒼いいいい鳥いいいい」

P「あっ、普通に歌えるのね」

冬馬『てめーら! 偶にはこっちの方にも中継繋ぎやがれ!! もうすぐだ! もうすぐだぞ、北斗!!』

 憐れ、完全にジュピターは忘れられている。大丈夫、ここに君たちの頑張りを理解している男はいるから。

春香「って今日終わっちゃった!」

 騒々しく、今日1日が終わってしまった。番組は残り18時間、果たしてどんな結末を迎えるのやら……。

8月25日、期限まであと2日。
380 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/05/31(木) 17:33:44.89 ID:4+9Xpn150
千早中の人駄々漏れじゃないですか
やだー
381 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/05/31(木) 17:53:18.51 ID:hN07Dv2Co
今日はおしまい?
382 :昼寝が長引いていた…… [saga]:2012/05/31(木) 19:30:25.83 ID:xNp9d6nJ0
 0時を過ぎると、全アイドルが一気に登場! と言うことはなく、仮眠休憩を加味してのプログラムが組まれた。まぁ、過去の映像を流したりして、アイドル達の負担を減らしているのだ。いつかの郵パック事件や、チャイルドスモッグのあずささん……。突っ込みどころも満載だが、むしろ懐かしさに感動すら覚えてきた。

春香「すぅ……、すぅ……」

美希「あふぅ」

卯月「ううん……」

P「み、みなすわぁん?」

 俺に身を寄せて眠る春香達。スタッフたちはニヤニヤと見ていて、かなり恥ずかしい。真っ先に春香が起床した場合、修羅場は免れない。

千早「モテモテですね、っ頭が痛い……」

P「あまり嬉しくないシチュエーションなんだけどなぁ」

千早「そうですね。あなたは、春香一筋ですからね」

P「って酔いの方は大丈夫か?」

千早「ええ……、悪酔いするんですが、その分覚めるのも早いみたいですね。すっかり抜けちゃいました。まぁ頭は痛いんですが。えっと、荒れてましたか?」

P「生放送で女性同士のキスが見れそうになったぞ。やよいがその場にいなくて、安心したよ」

千早「クッ……、お恥ずかしい限りです」

 未遂で済んだからよかったが……。でも、見てる人からしたら眼福ものだったんだろう。録画してた人、勝ち組だぞ。小鳥さんにまた借りないと。
383 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/31(木) 19:40:13.51 ID:nanx4tMT0
千早「少し、良いですか?」

P「ああ、なんだ? 言っておくが、寝るから体貸してくれってのは無しね」

千早「自意識過剰ですね」

 笑顔でバッサリと切られる。いや、それが普通の反応なんだが。この3人が特殊なだけだ。

千早「あずささん、上手いですよね」

P「そうだな……」

 「ALIVE」。元々あるアイドルの歌だが、のちにその娘によって歌われる、世代を超えた名曲だ。命という壮大なテーマの曲に、あずささんの持前の歌唱力で、高らかに歌い上げる。深夜で流すというのが、もったいないぐらいだ。

千早「プロデュ―サー」

P「ん? どうした、妙に改まって」

千早「いえ、実は歌手を引退しようかなって考えてたんです」

P「へ? そんなの初めて聞いたぞ?」

千早「ええ、誰にも言っていませんでしたから。今プロデューサーに話したのが、初めてです」

 悪戯が成功したみたいに、にっかりと歯を見せ笑う。
384 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/31(木) 20:06:25.88 ID:nanx4tMT0
P「何でまた……」

千早「私は歌が好きです。それだけが私の存在理由と思ってた時期があったぐらいですから。ですが、みんなに救われて、歌を心から楽しむことが出来ました。ですが、事故の後から、少しずつバランスがおかしくなってきたんです。いつの間にか、いなくなったみんなのために、引退したみんなのために歌う。そう考えるようになったんです」

 あの頃と同じですね、そう自嘲気味に付け加える。

千早「結果、自分を気負い過ぎて、疲れちゃって。引退は言い過ぎにしても、休止しようかと考えてました。何がしたいか、分からなくなっちゃって。でもそんな中、みんなが帰って来たんです。みんなともう一度、ライブに向けてレッスンをしたりしていく中で、考えが変わっちゃいましたけど」

P「そうか、それは良かったよ」

千早「案外、決意なんてものは脆いものですね。止めよう止めようと思っていても、なんだかんだ続けてしまう。もちろん惰性ではありませんが……、私にとって音楽は一種の麻薬みたいになってます。禁煙が成功しない人の気持ちが、なんとなく分かりました。でももし、春香たちじゃなかったら……。こんな風に思わなかったのかもしれません」

P「……かもしれないな」

千早「暗い話はここまでにして……、私は行ってきますね」

P「ああ、行って来い」

 そう言って千早はステージに戻った。あずささんと2人並び、美しいハーモニーを紡ぐ。

春香「すぅ……、格差社会ですよ、格差社会……」

P「随分ピンポイントな夢を見てるな、おい」

 親友の扱いがひどくないか?
385 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/31(木) 20:53:39.55 ID:xNp9d6nJ0
春香「ふぁあ……」

 3人の中で真っ先に起きたのは、春香だった。

P「おはよう、流石に不眠不休は無理だったか?」

春香「えっと、どれぐらい寝てました?」

P「うーん、そこまでだぞ? 1時間程度じゃないか?」

春香「そんなに!? じゃ、今すぐ戻らないと!」

P「っておい! いきなり走ると……」

春香「へ? ってうわぁ!!」

あずさ「あらあら〜」

千早「春香、あなた勇気あるわね……」

春香「へ?」

 寝ぼけてたのだろう、急いでステージに戻ろうとして、ずっこけてしまった。千早とあずささんが歌い終わったと同時の出来事なので、歌の途中で乱入なんてことは避けたものの、誰もが望んだだろうお約束を回収してしまう。

春香「へ? いやあああ!?」

P「グッ……パン……。って待てええ!」

 何年たってもドジはドジ。雀百まで踊り忘れず……。って違うか。カメラにその下着を見せてしまった春香は真っ赤になってその場から逃げだす。って速いな!

千早「えっと、CMです」
386 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/31(木) 20:59:13.09 ID:z7vC57Tbo
あらあら〜
387 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/31(木) 21:02:05.73 ID:xNp9d6nJ0
春香「その……、すんませんでしたー!」

P「はは……、苦笑いしかできねー」

 先ほどの醜態を謝る春香。見ている人の少ない時間帯だったから、まだ被害は少ないだろうが……。

P「ってもう上がってるし……」

 携帯でYOUTUBEを確認すると、早速さっきの出来事がアップされていた。拡散希望って……。こんな時間じゃ権利者削除も出来やしない。明日の朝まで、我慢しなければ……。

P「これだけピンポイントでなかったことにならないかな……」

貴音「無理でしょう」

P「のわぁ! いきなり登場!?」

 さっきまで裸になろうとしていたインテリジェンス痴女に声をかけられ、思わず驚いてしまう。

P「なぁ……、大丈夫か?」

貴音「はて? 何がでしょうか?」

P「いや、憶えてないなら良いんだ、うん」

貴音「?」

 本気で分かっていないようだ。まぁ知らぬが仏って言うしな……。その話題は封印しておこう。
388 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/31(木) 21:13:06.85 ID:xNp9d6nJ0
P「でだ、何食べてるんだよ」

貴音「日○のカップ麺ですが?」

P「いや、そういうことを聞きたいんじゃなくて……、太るぞ?」

 非常に魅力的な体型を持っているが、そんだけ食べたら崩れるだろうに。と言っても当人は気にしていないようで、

貴音「わたくしは頭を使うと、お腹が減りますので。いわば充電中です」

 とあっけらかんと答える。そう言われてしまうと、俺には何も反論できない。402便に関する彼女の理論も、ラーメン有りきと思えてきたぞ。恐るべし、中国4千年の歴史。

P「お前がいいなら良いんだけど……、明日大食い企画じゃなかったか? らぁめん探訪24、24店の店を2時間で回るってやつ」

貴音「ふふっ、問題などどこにもありません。なぜなら、わたくしの宇宙は、胃袋です」

P「……逆じゃないか?」

貴音「……胃袋は宇宙です」

 間違いに気づき、恥ずかしそうに訂正する。

貴音「では、わたくしは……、失礼いたします。残してしまったのは不本意です、どうか食べてくださいまし」

 ステージへと上がる貴音を、カップ麺を食べながら見送る。

P「うへぇ、伸びてるし……」
389 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/31(木) 21:38:48.30 ID:xNp9d6nJ0
 早朝のニュースが流れる。その間にアイドル達は、いつもより早い朝食をとっていた。

P「今日は……、やよいのスマイル体操スペシャル、菊地真改造計画リターンズ、走れ涼……、らぁめん探訪24、ジュピターに響のチャレンジ企画、アイドルM-1グランプリ、結婚式にスペシャルライブ……、盛りだくさんだな。ってM-1?」

 台本に目を通る。今日も今日とてやることは多い。雑用根性が染みついた身としては、何かしておかないと落ち着かなかったりする。嗚呼、哀しいかな。

P「そろそろ時間だぞー。各自持ち場に戻るように!」

一同『はい!』

 ところどころ疲れも見える。無茶だけはして欲しくないが、それでも最大のパフォーマンスをして欲しいものだ。

卯月「行って来ますね!」

 ウインク&投げキッス。お前はどこのミッキーだ。

美希「行くね、ハニー!」

 こちらもウインク&投げキッス。加えてハニー。ハットトリックが決まった。

P「おい!」

美希「冗談だって! じゃねー」

 美希が言うと冗談に聞こえな

P「いでっ!」
390 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/31(木) 21:48:57.22 ID:xNp9d6nJ0
春香「もう、デレデレしちゃって……」

P「だ、だからってわっほい! 上段正拳は……」

春香「私と言う彼女がいるのに、他の子にデレるからですよ!」

 朝っぱらから春香さんは、嫉妬の王国ジェラシットパークに突入したみたいだ。

P「で、デレてないぞ!」

春香「そうですかぁ? 私は見逃しませんでしたよ! ハニーって呼ばれてニヤついたの!」

P「男はみんななるわい!」

 むしろ美希からハニーと呼ばれ、自制心を持ち続けることが出来る人間がどれだけいるだろうか? ここにいる俺か仙人ぐらいだろう。

春香「やっぱり私、無個性だから……、男の人って美希みたいなグラマーな方がいいですよね……」

P「ああ! 面倒だなおい! 春香! ちょい来なさい」

春香「なんですか? 無個性が個性の春香さんは、そう簡単に許したり……」

 うるさい唇を封じるにはどうすればいいか? 答え、口をつければいい。プルンとした唇の感触が俺に伝わる。

春香「見られますよ……」

P「安心しろ、俺たち以外に誰もいないぞ。これで、満足か?」

春香「馬鹿……、んっ」

 互いが満足するまで、何度も、何度も交し合う。時間も忘れるぐらいに……。
391 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/31(木) 21:56:41.50 ID:PW7WI3GD0
 2人だけの時間は、ドアの向こうからの声が終焉を告げた。

スタッフ「春香さん! もうすぐ本番でーす!」

春香「わっ! こんなことしてる場合じゃありませんよ!! 今いきまーす!」

P「こ、こんなことって……」

 傷つくぞ、それ。

春香「急ぎましょう!」

 支度をマッハで済まし、スタジオへと急ぐ。

春香「ってうわぁ!」

P「春香!」

 どんがらがしゃーん……、キャンセル!!

P「走るとこけるだろ?」

春香「プロデューサーさん……」

 俺も慣れたもので、こけそうになった春香の手をとっさに取り支える。

P「こけない程度に急ごう、な?」

春香「はい! ってうわぁ!!」

 今度はキャンセルできなかった。
392 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/31(木) 22:13:47.10 ID:ujFN75Ak0
春香「みんなー、おはようございまーす! 今日も行きますよー! 生っすか!?」

『サーズデー!!』

 ウェンズデーはサーズデーに。時間が過ぎて行っていることを否応なしに実感させられる。毎日を忙しく過ごしてたから、こうやって一日一日の重みを身を持って感じる日が来ると思わなかったな。

春香「まずはこのコーナー! やよいのスマイル体操スペシャル! テレビの前のみんなも、一緒にしようね! 中継先の莉嘉ちゃーん」

莉嘉『がおー! 莉嘉だぞー!』

きらり『にょわー☆ きらりんだにぃ!』

杏『帰りたーい……』

楓『……この服、嫌いじゃない?』

やよい『みなさーん、おはようございまーす!』 

千早「1人、違和感のない子がいるわね……」

美希「逆に1人、どうしようもなく浮いているね」

 そりゃチャイルドスモッグはなぁ……。楓さんに至っては、なんかイメクラだし……。おや? あの先生可愛らしいな。チェックしておこう。

やよい『今日はここ、仁後幼稚園のみんなと一緒に、体操します! それじゃあ行きますよー!!』
393 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/31(木) 22:22:43.31 ID:PW7WI3GD0
春香「私たちもしようか!」

千早「よし来たっ!」

美希「千早さん?」

 スタジオを巻き込んでの体操。思わず俺も体を動かす。こうやってみんなで体操するのって、いつ以来だろう? ラジオ体操を思い出してしまう。

やよい『うっうー! みんなありがとうねー!! えっと、今日の天気予報です! やまばぶでは……』

楓『……さんかんぶ』

やよい『そうでしたー! えっと、漢字難しいです』

千早「漢字が読めない高槻さんきゃわわ」

春香「ち、千早ちゃん……」

やよい『仁後幼稚園からお送りしましたー! お友達の皆、持田先生、ありがとうございましたー!!』

P「持田先生か……、先生系アイドル、ありだな」

 落ち着いたら、コンタクトをとってみようか。それより、今は目の前のことをしないと。

春香「おっとここで、ジュピターにも動きが! 現場の幸子ちゃーん!」
394 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/31(木) 22:35:00.82 ID:xNp9d6nJ0
少し休憩。気分転換に他の作品書きだめしてくる。遅筆で申し訳ない。
395 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/01(金) 00:05:19.81 ID:7r85RgV20
幸子『はい、こちら一番可愛い幸子です。今北斗さんがそろそろ到着しますね』

冬馬『北斗―! もうすぐだぞー!!』

翔太『あと一息だよ!』

北斗『チャオ☆』

 水も滴るいい男、伊集院ホスト、じゃなくて北斗。長い水泳を終え、陸へと上がる。ゴーグルを外した彼の顔は、やりきった達成感に満ち溢れていた。

幸子『今到着しました! そして、たすきを2番手翔太さんに託しまし、出発です』

翔太『北斗君のたすきは受け取ったよ! じゃあ行って来まーす!』

 小さな体で自転車をこぎ、風のように走っていく。

幸子『北斗さん、今のお気持ちは?』

北斗『超気持ちいい! ほぼ逝きかけたよ』

 金メダリストが混ざってるぞ。

幸子『どこかで聞いたことある、捻りのない感想ですね! スタジオに返します!』

北斗『ははっ、なかなか手厳しいな』

春香「北斗さん、お疲れ様でした! 翔太君、頑張ってね!」

千早「ここで1曲お送りします。こうやってステージに上がるのは、久しぶりみたいですね。今やプロデューサー、水谷絵理さんで、プリコグ」
396 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/01(金) 00:20:13.48 ID:dZV9THun0
絵理「久しぶりにカメラの前で歌って、少し緊張?」

P「してなさそうに見えるぞ?」

絵理「さぁ?」

 ステージが終わると、俺の元へとやってくる。現役時はそうでもなかったが、プロデューサー仲間と言うことで、絵理ちゃんとは意外に仲が良かったりする。

尾崎「うぅ……、絵理ぃ……、輝いてたわよぉ」

鈴木「やっぱりセンパイは最高デス!!」

 水谷絵理親衛隊と言う名のストーカーズは、相変わらずの絵理ちゃん馬鹿だ。

美希「ここで響と中継が繋がってるの!! 現場の凛ー!」

凛『はい、渋谷凛です。今こちらでは、響さんが黙々とドミノを立てています。十分に休んでるので、気合も十分ですね』

響『そーっと、そーっと……、あぎゃああ! やってしまったぞ!』

みく『止めるにゃん!』

凛『へ? ってストッパー!!』

 凛がストッパーを挟んだため、全滅は免れるものの、ああ無情、昨日まで頑張った部分も倒れてしまう。響は涙目になるが、頬をパンパンと叩いて気合を注入する。

響『ま、負けるものか―!』

みく『響ちゃんのためにも頑張るのにゃ! 凛も手伝って!』

凛『わ、私も!? えっと、スタジオに返します! って倒れたっ!』
397 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/01(金) 00:32:27.56 ID:5QX/5I7U0
美希「凛、あまり器用じゃないからね」

千早「本当に、終わるのかしら?」

春香「さて、ここでかな子ちゃんに繋がってます!!」

かな子『はい、三村かな子です。今私は、四条さんの控室にいます。この後、2時間で24杯の特大らぁめんに挑戦することになります。四条さん、気合の方は?』

貴音『わたくしの胃袋は、宇宙です。例えどのようならぁめんが来ても、わたくしは残さず、美味しくいただくことを約束しましょう』

かな子『気合は十分ですね! えっ? 私も食べるんですか? やったぁ!』

P「食い過ぎなきゃいいんだけど……」

 またダイエットプランを立てないといけなくなるのかね……。

かな子『それでは、スタートです! まず最初は……、でかっ!!』

貴音『まるで、羅生門ですね。では、いただきます』

かな子『頂きます……』

春香「あ、あんなのが24も来るの?」

美希「炭水化物取り過ぎだと思うな」

千早「四条さんもぜひとも頑張ってほしいですね。って早くない?」

春香「カ○ビィみたいだね……」

 千早の言うように、食べ終わるのに30分はかかりそうなラーメンを、貴音はバキュームカーのごとく食す。歴戦のフードファイター達もこれには真っ青だ。下手すれば一時間で終わるんじゃなかろうか?
398 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/01(金) 00:33:20.60 ID:5QX/5I7U0
すみません、ここまででやめます。パソコンとにらめっこし続けたので、結構しんどい。また明日、続きはかきます。
399 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/06/01(金) 00:37:40.97 ID:MkdhEXL10

毎日更新楽しみにしてます
400 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/01(金) 09:26:09.53 ID:5QX/5I7U0
かな子『うぅ……、お菓子なら自信あるんですけど……』

貴音『ふむ、美味ですね……。出来ることなら、味を噛みしめながらいただきたいのですが、時間が限られてますゆえ』

春香「嘘だぁ、それ、バクバク食べる人のセリフじゃないよ……」

 2時間で24杯、単純計算1時間12杯、5分で1杯と言うハイスピードで特大ラーメンを食べないといけないのだが、スペースストマック貴音は、感想を言いながらも3分で1杯と言う超ハイペースで食べ続ける。大食いキャラが被る(本人曰くお菓子専門らしいが)かな子は、1杯目で限界のようだ。それでもあれを食べきるのは凄いと思うぞ。

貴音『まだまだ足りません。次、お願いします』

かな子『ぎ、ギブ……』

美希「かな子、ここで無念のギブアップ!」

千早「賢明な判断だと思うわ」

 さらばかな子、君の頑張りは忘れない。心の中で、敬礼!

春香「果たして貴音さんは食べきれるのか!? 次はこちらのコーナー! 全女性お持ちかね!? 鬼畜……、間違えた! 菊地真改造計画リターンズ!!」

 鬼畜真デース! って誰だよ……。

美希「現場と中継が繋がってるの!!」
401 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/01(金) 09:46:29.61 ID:7r85RgV20
蘭子『リスポートゥスーは神に選ばれし名を持つ、私がオ=トドゥクェしよう……(リポーターはこの神崎が、お届けします)』

真『準備できたよー!!』

雪歩『嫌な予感がするけど、出来たんだって。それじゃあ、オープン!!』

蘭子『カラミティウォールよ紐解け!(カーテンよ開け!!)』

 ピンク色のカーテンは勢いよく開き……、

真『きゃっぴぴぴぴーん! まっこまっこりーん!! 菊地真ちゃんなりよ〜』

P「やってもうた……」

 悪趣味なぐらいふりふりピンクな服を身にまとい、凛々しい彼女の口からは、どこかピントのずれた可愛い台詞が発せられる。例えるなら、凍てつく波動。スタジオだけでなく、お茶の間も凍らせてしまっただろう。ああ、放送事故。

蘭子『なんと面妖な! 想いが交錯する13日間が終わる時、 彼らの戦いが始まる(リ、リアクション不能です……)』

雪歩『需要無いよぉ! そんなの、真ちゃんの自己満足だよ! 嬉しくもなんともない!! むしろ謝って!!』

真『ええ!? ご、ごめん?』

 雪歩も雪歩で理不尽な気がするが……。真に受けた真は勢いに押され、謝ってしまう。

雪歩『見てよスタジオのあの空気!!』

真『うわぁ……、台風過ぎたみたいになってる……。似合ってるから?』

蘭子『くだらぬ話も休み休み魂に囁きなさい(冗談も休み休み言いなさい)』

真『何だろう! 意味分からないけど馬鹿にされた気分!』
402 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/01(金) 09:56:15.60 ID:5QX/5I7U0
春香「真―、こっち凄い静かになっちゃったんだけど……」

真『ええ!? ボクのせい!?』

美希「それ以外にないよ?」

千早「ええ、ドン引きね。萩原さん、お願いね」

雪歩『承知しましたぁ!』

真『昨日の千早には言われたくない! って雪歩ぉ! 無理やり入れないでアーッ!!』

 真は悲鳴をあげながら、雪歩にカーテンインされる。雪歩の目がこれ以上ないぐらい輝いていたが、厄介なことにならないことを心から祈っておく。

蘭子『魔導力学制御室に返します(スタジオにお返しします)』

春香「え? 今ので返って来たの!?」

美希「蘭子の口調は慣れたら意味が分かるよ?」

千早「数年後恥ずかしがりそうね。ここで1曲、双葉杏さんであんずのうた。って双葉さん?」

P「あのバカ……、また逃げやがったな!!」

 探しに行こうとすると、楽屋の方から杏が姿を現す。きらりにホールドされた状態で……。

きらり「あんずちゃんおっとどけー!」

杏「死ーん」
403 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/01(金) 10:07:54.55 ID:+N56ecYa0
 力強く抱かれてたためか、杏は死体みたいにブランとしている。かろうじて意識はあるみたいだ。

P「おーい、杏ー。本番だぞ?」

杏「む、無理……」

P「生放送だっての。終わったら飴やるからさ。後来週休暇を増やそう」

杏「成程、やらざるを得ないな。キリッ」

P「自分で言うな。ほら、行ってきなさい」

 休むために全力を使う杏には、飴と鞭作戦が効果的だ。褒美がもらえるとわかった杏は、本人よりも目立つ親衛隊とともに、だるそうにステージに上がる。そんな彼女も、ステージに上がれば……。

千早「何かしら? CD音源がそのまま流れているような……」

P「あ、あんの馬鹿……」

 口は動いているが、完璧な口パクだ。では誰が歌っているのか? その独特な歌声は、彼女のぬいぐるみから流れている。ビジュアル系エアバンドはいたが、生放送でエアボーカルなんてアイドル、そうそういないだろう。やれば出来るのに、面倒臭がってやらない。だからこそ、少々悔しい。もし彼女が本気を出せば、向かうところ敵なしなんだが……。覚醒したら、そのうちハニーって言いそうだな。

杏「ありがとーございましたー」

 ちなみにこんなのでもオリコン4位。プロデュースしている俺が言うのもなんだが、これで良いのか、我が国の音楽業界は。

春香「こ、個性的な歌だね……」

美希「鏡を見て同じこと言える?」

春香「う、上手くなりましたぁ!!」

美希「冗談だよ? ここでCM入ります!」
404 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/01(金) 10:26:21.45 ID:7r85RgV20
杏「今日のお仕事終了、んじゃ帰るねー」

P「待てやゴルァ」

杏「あっ、お疲れ様―」

P「お疲れ様じゃない! 替え玉大作戦しやがったな……」

杏「チッ……、バレてたか」

P「バレバレだ! ったく、歌うという選択肢はないのか?」

杏「エネルギー効率悪いし、ないかな? それに、私のファンたちも、また替え玉だなって笑って許してくれるよ。アンチ? 無視してたらいいじゃん」

P「すがすがしいぐらい図太いな、お前……」

杏「ドヤァ」

 腹立たしいぐらいのドヤ顔を披露する。げんこつをお見舞いしたくなる衝動に駆られるが、我慢我慢……。

P「ほら、約束は約束だからな。飴だぞ」

杏「ヒャッハー! 飴だぁ! ねえ、来週のお休みは?」

P「あるわけないだろ馬鹿!」

杏「さ、詐欺だ!! 詐欺を働いたなこのダメプロデューサー!」

P「ダメアイドルには言われたくない!」
405 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/01(金) 10:38:00.78 ID:5QX/5I7U0
千早「生っすか!?」

『サーズデー!!』

春香「さてさて、後半戦も頑張っていきましょう! ここで涼ちゃんにも動きが! 現場と繋がってます!」

卯月『はい、こちら走れ涼の現場ですが……、これから一体何が始まるのでしょうか?』

律子『鬼ごっこよ。ワープし続けるあずささんを捕まえるという、簡単なお仕事よ』

卯月『それは……、無理ゲーなんじゃ』

涼『無理だよ! あずささんには僕達の常識が一切通用しないんだよ!?』

あずさ『あらあら〜』

 物凄い言われようだ。存在が非常識って、涼君もなかなかキツイことを言いなさる。まぁ30過ぎで体操服に身を包む女性を常識ではかれってのも無理がある気がするが。……5年2組三浦あずさ? 誰の趣味だよ……。

律子『それじゃああずささん、逃げてくださいね』

あずさ『えっと、行ってきますねー』

 プルンプルンと揺らし、のんびりと走り出す。普通なら追いつくスピードなんだけど……。角を曲がると涼君の顔色は悪くなる。

卯月『あっ、角曲がりましたね』

涼『ヤバい……、一度見失うと見つけるのは至難の業だ……』

李衣菜『奥さん、一言お願いします』

夢子『早くお姉さまを捕まえないと、海外に行っちゃうわよ!』
406 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/01(金) 10:47:53.72 ID:5QX/5I7U0
涼『か、海外!? それは困るよー! 秋月涼、行きまーす!!』

律子『さてさて、涼は無事あずささんを捕まえることが出来るのかしら?』

卯月『スタジオに返しわぁ!』

律子『島村さん、派手にこけたわね……』

春香「ああ、キャラが被っていく……」

美希「春香と涼ちゃんの運命はいかに!? ここでまた1曲、お届けしちゃう! 双海亜美、双海真美でポジティブ、どうぞなの!」

亜美「んふっふ〜、亜美だよー!」

真美「え、えっと……。真美です、一応……」

亜美「それじゃあいっくよー!」

 双子での久しぶりの競演に、少し胸が熱くなる。10年で真美は大きく成長したから、初めて見る人は双子と思わないかもしれない。しかし、流石双子と言うべきか、息の合ったパフォーマンスを見せる。何年たとうが、2人の絆は切れることはない。同じ日に生まれ、同じ事務所でアイドルになって。そして今、2人は再び舞台に立つのだった。

真美「ありがとうみんなー!」

亜美「まだまだ番組は続くYO!!」
407 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/01(金) 11:05:38.30 ID:7r85RgV20
響『うぎゃあああ!! 手袋付けたらやりにくいぞ!』

 絶賛崩壊中のドミノ。見ると何故か黒い手袋をつけている。やりにくいだろうに……。

みく『響ちゃんは今、ドミノアレルギーになって手袋をつけているのにゃ!』

 なんちゅうピンポイントなアレルギーだよ……。

響『また倒れるぞ!』

凛『させないっ!』

ハム蔵『へけっ!』

 パタパタと倒れ行くドミノを、凛とハム蔵が止める。ってハム蔵!?

響『な、なんとか惨劇は食い止めたぞ。ありがとうな、凛! ハム蔵! も、もう倒せれないぞ……、慎重に、慎重に……』

凛『こ、こんなにドミノが精神的に来るものなんて……』

ハム蔵『きゅぅ……』

みく『響ちゃんの精神は、限界ギリギリだにゃ! テレビの前のみんなも、響ちゃんにエールを送って欲しいのにゃ!』

亜美「ひびきん、亜美らも行くよー!」

真美「私も!? 亜美引っ張るなー!!」

 双海姉妹は響の元へと走っていく。かえって事故が増えるような真似にならなければいいが……。
408 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/01(金) 11:22:21.03 ID:dZV9THun0
ジュピターチャレンジ

翔太『ぜぇぜぇ……』

幸子『現在翔太さんは山間部を走っています。この坂道を、地面に足つけることなく駆け上がります』

翔太『も、もうすぐ山頂?』

冬馬『良いぞ! もうすぐ下り坂だ!!』

北斗『見えて来たぞ!』

 勾配のきつい坂を、一息で駆け上る翔太君。顔は真っ赤で、息は切れ切れ。トライアスロンでブレーキをかけるのは競技終了の時だけと言う。自転車だから楽かと思うと、それは大きな間違いだ。

翔太『下り坂だー! 僕は風になる!!』

冬馬『あんまりスピード出し過ぎるなよー!!』

幸子『ゴールはもうすぐですね。着いたら褒めてあげましょう! では、スタジオにお返しします!』

 下り坂を疾風のように駆け降りる翔太君。あれは気持ちいいんだろうな。機会があれば、俺もサイクリングに挑戦してみるかな。

らぁめん探訪24

法子『ど、ドーナツを……、ラーメンよりドーナツを……』

かな子『気をしっかり! 法子ちゃん、私の分も頑張って!』

貴音『ふぅ、味に独特の深みがありました。わたくしもこのように、深い人間でありたいものですね』

 貴音の横には、積み上げられたお椀が。ひふみ……、1時間で14も食べたの!?
409 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/01(金) 12:31:33.10 ID:7r85RgV20
走れ涼

涼『あずささーん! どこですかー!?』

 神出鬼没のあずささんを追い求めて、市街地を駆け巡る。ゴミ箱を覗いたり、店の中に入ったり、女子トイレに入ろうとしたり。しかし一向にあずささんは見つからない。もしかしたら、既にこの町からいなくなっているんじゃないのか?

涼『見つかるわけないよー! 仕方ないや、一旦戻ろう……』

 トボトボとスタート地点に戻る涼君。いや、こればっかりは仕方ない、相手が悪すぎたんだ。

涼『ってあれ?』

あずさ『あら?』

 スタート地点に、なぜかあずささんがいる。

涼『あずささん、見っけ?』

あずさ『逃げてたのに、見つかっちゃったわね〜』

涼『いや、ここスタート地点なんですけど……』

あずさ『そうだったかしら?』

 どうやら逃げるのは良かったものの、迷いに迷って、元いたところに戻って来たらしい。なんというラッキー。律子は心底悔しそうな顔をしている。

律子『クッ……、やるわね。涼』

涼『いや、これ自滅じゃない?』
410 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/01(金) 14:44:27.05 ID:+N56ecYa0
あずさ『でも〜、捕まったことには変わりありませんよ?』

 イマイチ釈然としない面々に反して、あずささんはニコニコとしている。彼女からしたら可愛い妹分の結婚式でもあるから、あまり邪魔はしたくないんだと思う。

律子『はぁ、こんなはずじゃなかったんだけど……』

涼『第2の関、突破だね!!』

律子『でも、次はうちのリーダーよ。そう簡単にはいかないわ! では、スタジオに返すわね!!』

春香「はい、こちらスタジオです! 早速ですが、菊地真改造計画、新たな展開が来たようですね! 現場の蘭子ちゃん!」

蘭子『これより、カイン・ゾウ・バルバリスクの因果律に移ります(これより、改造の結果に移ります)』

雪歩『今回も自信作です!! それじゃあ真ちゃん、張り切ってどうぞ!!』

 桃色のカーテンが開いて……、

真『ふっ……、プライベート・ライアン』

『きゃあああああああああああ!!』

P「うわぁ!」

 スタジオは黄色い歓声に包まれる。ジュピターよりも多いんじゃないか?

真『う、嬉しくないのに……』

 王子様ルックに身を包んだ真は、心から嫌そうな顔をしている。似合ってるんだから、仕方ない。
411 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/01(金) 15:08:44.60 ID:+N56ecYa0
続きは、夜にでも。
412 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) :2012/06/01(金) 16:35:44.24 ID:8EIW81aAO
投下のテンポいいし、内容も面白いときている


次も期待しております
413 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2012/06/01(金) 18:27:43.83 ID:W/cZBaGlo
遅レスだが隣に…のあずさがALIVE歌うって皮肉なものだな

いやーいつも楽しみに見てるよ
414 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/02(土) 00:04:49.46 ID:+P1cR5G+0
真『ドニ―・ダーゴ……』

『ぴぎゃああああああああ!!』

真『トゥルーマン・ショー……』

『きゃあああああああああ!!』

真『ってこれ、映画の名前言ってるだけじゃ……』

雪歩『いいよいいよ! これこそ真ちゃんだよ! 次、これ着て! ねっ、ねっ!!』

真『ぎゃおおおおん!!』

 お前は涼君か。

蘭子『錯綜するこの感情に、どう名をつければよいものか……(引くわ―)』

 負けず劣らずけったいな格好な格好をしている人が言うもんじゃありません。

『だひゃあああああああ!!』

P「ど、どうかしてるぜ……」

 映画のタイトルを言うだけで、この有り様。確かにプライベート・ライアンとかドニ―・ダーゴって格好いいけどさ。そこまで発狂するもんだろうか? 冷静に見ると、狂気じみた現場だ。

春香「あ、あはははは……、CM、入っていいですか? えっ、ダメ?」

美希「もうどうとでもなればいいの」

 MC達も半ば投げやり気味になっている。どう処理すればいいんだ、これ?

 結局、雪歩と観客(女性の皆様)が満足するまで、菊地真改造計画は続くのだった。
415 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/02(土) 00:12:06.48 ID:+P1cR5G+0
千早「とてもじゃないけど、感想に困る物を見てしまったわね……」

春香「なんと、真はさっきの格好のまま、スタジオに戻ってくるそうです!」

『ひゃあああああ!!』

美希「もうみんな失神してくれた方が、進行しやすいんだけど」

春香「そんなこと言わない!!」

 美希の言うように、数名真にやられて気を失っている。木星の皆の立場が、どんどん悪くなっていく。いっそのこと方向転換したらどうだろうか? 例えば、3人スーツを着てブブゼラを吹くようなアイドルとか。斬新すぎる。

冬馬『おいこら! 偶にはこっちも映しやがれ!』

春香「あっ、忘れてた」

冬馬『扱い雑すぎるだろ!!』

美希「それどころじゃなかったからね」

冬馬『何でもいいけどよ、もうすぐ翔太が到着するぜ』

幸子『そしてそのたすきは、格好いいオタク、天ヶ瀬さんが受け取ると』

冬馬『どんな表現だよ!!』

幸子『減らず口を言う暇があるなら、準備運動してくださいよ。走ってすぐ筋肉痛になったら、笑いものですよ?』

冬馬『急に正論を吐くんじゃねえよ! 来るまで、体操しておくか』

 そういって冬馬君は準備運動をしだす。抱かれたい男No1のスマイル体操、非常にシュールな光景だ。
416 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/02(土) 00:22:04.55 ID:+P1cR5G+0
翔太『ぜぇぜぇ……』

幸子『息を切らし、足腰はガクガク、必死で今最後の坂を上っています。もう少し、もう少しです! 応援してあげましょう』

冬馬『なんで上から目線なんだよ! 翔太―! もうすぐだ!』

北斗『気張っていけー!!』

翔太『着いた―!!』

 チェックポイントまで休まず漕ぎ切った翔太君は、その場に自転車ごと倒れる。

冬馬『ナイスガッツだ! 後は俺に任せておけ!』

翔太『おいしいとこ、持ってっちゃえ!』

北斗『リーダーの意地、見せてこいよ!』

幸子『え? リーダーだったんですか?』

冬馬『知らなかったんかい!』 

幸子『突っ込む暇あるなら、走ってください。それだからあなたはDTなんですよ』

冬馬『なんだよ!? DTってなんだよ!?』

 幸子の口撃に律儀に突っ込みを入れる抱かれたい男No1(ただしDT)。幸子も幸子で、反撃してこないと分かるや否や、容赦なく毒を吐く。ここで壁を殴るなりすれば、涙目で土下座してくれるんだが……。女性に手をあげないあたりは、流石と言ったところだろうか。
417 :今日はこれで終わります。読んでくれた方、ありがとうございました [saga]:2012/06/02(土) 01:01:21.71 ID:ANfMgJH10
冬馬『髪洗って待ってやがれ!』

幸子『それ、ただの洗髪じゃないですか』

冬馬『間違えた! 首だ首!! ネック!』

幸子『頼りないリーダー、無事にゴールできるのでしょうか?』

冬馬『だから一言多いんだよ!!』

 全くだ。

幸子『スタジオに返しますねー』

春香「ジュピターチャレンジも、残すところ冬馬君だけ! 最後まで、頑張ってほしいですね!」

千早「ここで、四条さんと中継が繋がっています。現場のみなさーん」

貴音『ふぅ、美味でございました。では、最後の1杯、心行くまで楽しむとしましょう』

かな子『死ーん』

法子『死ーん』

 涼しげな顔でいるが、横には空のお椀が25。食べ残しも見当たらず、綺麗に食べきっている。って25? よくよく見ると、かな子と法子の分も食べていたようだ。すでに企画終わってるじゃないか……。

貴音『最後はやはり、二十郎らぁめんと来ますか。なかなか、粋な演出ですね』

 豚の餌という、とても食べ物に与えるにはふさわしくない異名を持つ、こってりさMAXなラーメンを恍惚とした表情で、実に美味しそうに食べる。こっちもお腹がすいてきたが、ただあれを目の前に持ってこられると、それだけでお腹が一杯になりそうだ。
418 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2012/06/02(土) 15:16:18.32 ID:nUFhmhxJ0
貴音『ふぅ、完食致しました。失礼、おかわりは……。なんと、ありませんか。が
ーんですね』

美希「まだ食べる気!?」

 おいおい、それだけ食べれば十分だろうに。素晴らしき快挙に拍手を送ろうに
も、かえって引いてしまうレベルだ。冗談抜きで胃袋が宇宙と化しているんじゃ
ないだろうか? 彼女の食生活が心配になってきた。

貴音『では、わたくしもスタジオへと赴くとしましょう。四条貴音のらぁめん探
訪、今日もすばらしき出会いに感謝して、ご馳走様でした』

かな子『死ーん』

法子『死ーん』

 もう限界といわんばかりにうなだれる二人をその場に残し、妙な風格を漂わせ、
貴音はスタジオへと足を進める。

春香「えーと、あの二人大丈夫なのかな?」

千早「いったいどんな胃袋をしているのかしら……」

 俺たちと胃の構造が違うのだろう。そうでもなければ、あれだけの量を食べき
れまい。

美希「ここでお昼のニュースを挟むね!! 番組はまだまだ続くよ!!」

 そう締めて、午前の部を終える。24時間の生放送も、残り6時間だ。ドミノ
は完成するのか? 涼君は花嫁の下にたどり着けるのか? M-1はどうなるのか?
天ヶ瀬君は無事ゴール出来るのか? 不安要素しか残っていないな……。とりあえ
ず小さく悲鳴を上げているおなかに、ロケ弁を入れておく。
419 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2012/06/02(土) 15:16:18.32 ID:nUFhmhxJ0
貴音『ふぅ、完食致しました。失礼、おかわりは……。なんと、ありませんか。が
ーんですね』

美希「まだ食べる気!?」

 おいおい、それだけ食べれば十分だろうに。素晴らしき快挙に拍手を送ろうに
も、かえって引いてしまうレベルだ。冗談抜きで胃袋が宇宙と化しているんじゃ
ないだろうか? 彼女の食生活が心配になってきた。

貴音『では、わたくしもスタジオへと赴くとしましょう。四条貴音のらぁめん探
訪、今日もすばらしき出会いに感謝して、ご馳走様でした』

かな子『死ーん』

法子『死ーん』

 もう限界といわんばかりにうなだれる二人をその場に残し、妙な風格を漂わせ、
貴音はスタジオへと足を進める。

春香「えーと、あの二人大丈夫なのかな?」

千早「いったいどんな胃袋をしているのかしら……」

 俺たちと胃の構造が違うのだろう。そうでもなければ、あれだけの量を食べき
れまい。

美希「ここでお昼のニュースを挟むね!! 番組はまだまだ続くよ!!」

 そう締めて、午前の部を終える。24時間の生放送も、残り6時間だ。ドミノ
は完成するのか? 涼君は花嫁の下にたどり着けるのか? M-1はどうなるのか?
天ヶ瀬君は無事ゴール出来るのか? 不安要素しか残っていないな……。とりあえ
ず小さく悲鳴を上げているおなかに、ロケ弁を入れておく。
420 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2012/06/02(土) 15:39:54.97 ID:nUFhmhxJ0
 お昼のニュースが終わるころには、元気いっぱいのやよい、王子様ルックの真、
それを見てらんらんと目を輝かせる雪歩、物欲しそうにロケ弁を見ている貴音た
ちが到着した。

貴音「……」

P「いや、十分食べただろうが」

貴音「……」

 貴音はロケ弁を食べたそうにこちらを見ている、ロケ弁をあげますか? ノー
orいいえ。

貴音「……いけず」

 何とでも言え。こっちだってお腹すいてるんだって。腹ごなしを済まし、出演
者を集め気合を入れる。

P「後6時間だ! きついと思うが、見てくれている人たちのためにも、最後ま
で気を抜かないで行くぞ!」

 最後のテレビ、派手に行こうじゃないか!!


涼『ぎゃおおおおん!!』

伊織『逃げてばかりじゃ勝てないわよー?』

涼『ボクサーの相手なんて聞いてないよー!!』

律子『負けんじゃないわよー!!』

 涼君は絶賛最後の試練に挑戦中だ。狭いリングの中を、屈強な男のパンチから
逃げていく。……これ、アイドルの仕事だよな?

夢子『涼ー!!』
421 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2012/06/02(土) 16:11:29.32 ID:nUFhmhxJ0
涼『うぐっ……』

 ボクサーのボディーブローが入り、涼君はボールみたいに宙に舞う。アイドル
の生命線である顔を狙わない辺り、向こうも幾分か手加減しているようだが、そ
れでも大の男を吹き飛ばすほどの威力だ。こんなことをしないといけないのなら、
結婚も躊躇してしまう。

律子『立てー! 立つのよ、りょー!!』

P「ぶっ!」

伊織『あんた今の言いたかっただけじゃないの!?』

 いつの間にか左目に眼帯つけてるし……、それにしてもこの鬼畜眼鏡、ノリノリ
である。

夢子『嘘よね……、涼……、涼!!』

 リングに沈んだ恋人をモニター越しに呼びかける。バラエティという目で見て
しまうと、茶番でしか見れなくなってしまうかもしれない。しかし、これには台
本はなく、本気の戦いなのだ。きっとここにいる人たちは、茶番なんて微塵も思
っちゃいない。

伊織『でもまぁ、涼もよく頑張ったわよ。うちの最強のボディガード相手に、4
ラウンド持つんだもの。素人にしちゃ十分すぎるぐらいよ。そろそろ楽に……』

夢子『りょう!!』

伊織『ま、まだ立つの!? もう限界よ!』

 ふらつきながらも立ち上がり、ファイティングポーズをとる涼君に、スタジオ
から煩わしいぐらいの歓声が上がる。

涼『まだ……、まだ終わっていません!!』
422 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2012/06/02(土) 16:23:57.42 ID:nUFhmhxJ0
続きは夜に投下します。出先のPCから投下できなかったんでiPhoneからになりました。読みにくければすみません
423 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(熊本県) [sage]:2012/06/02(土) 19:50:03.73 ID:FLOMfL+Qo
乙です
頻繁に更新してくれてうれしい
424 :こっそり投下 [saga]:2012/06/03(日) 00:38:19.06 ID:ABZsNyqM0
夢子『もういいわよ! 誰もあんたを責めない! お願いだからそれ以上傷つかないで……』

涼『夢子ちゃん、僕は負けたりなんかしないよ。勝って君と結婚するんだ。お父さんが負けたなんて、子供が知ったらショックだろ? 可愛いは嫌だ、格好いい父親になりたいんだ!! やぁ!!』

 細身の体から放たれる、怒涛のラッシュ。今の彼を見て、かつて女装アイドルなんてことをしていたと信じる人がどこにいるだろうか? 愛する人のため、生まれゆく命のため、何度倒れようとも不死鳥の如く蘇る。そんな彼の姿に胸が熱くなる。

P「そこだー! いけー!」

 聞こえるわけがないのに、それでも応援せざるを得ない。両者一歩も引かずの攻防、そして雌雄は決した。

P「クロスカウンター……」

 奇しくも、律子が真似した漫画と同じ結末。互いの顔に拳はぶつかり、両者その場に倒れる。

律子『立て―! 立つのよー!!』

 レフリーがカウントをする。先に立つのはどっちだ!?

 6、7、8、9……。カンカンカンカン! 金属のぶつかり合う音が響く。死闘の末、リングに両の足で立っていたのは、チャレンジャー秋月涼。アイドルの命である顔に軽い痣が出来るも、彼の顔は達成感に満たされていた。そして力尽きたかのように、再びバタンと倒れる。

律子『見事よ、涼。さぁ、教会であなたを待っている人がいるわ』

夢子『涼……、早く迎えに来て……』

涼『うん、待っていてね……。愛してる』

夢子『馬鹿……』

 モニター越しに繰り広げられる恋人たちの甘い空間。見ててむかむかしてきたぞ。

伊織『ったく、良く出来たプロレスね……。こらぁ! 何ダウンしたまんまなのよ! 減給するわよ!?』

 倒れているボディガードを軽く蹴る。茶番だろうがなんだろうが、彼らの思いは本物だった。日本中がそれを馬鹿にしても、俺は尊敬しよう。

春香「素晴らしい試合だったね! 涼ちゃん、お疲れ様! CMの後は、アイドルM−1グランプリ! お楽しみに!!」
425 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/03(日) 00:51:15.12 ID:HozXd6Tf0
真美「双海真美です!」

亜美「双海亜美です!」

春香「天海春香です! 3人そろって……」

あまみ「あまみだけど、どこか問題がおありでしょうか?」

P「思いっきり先輩芸人のネタじゃないか!! ってトリオかよ!」

 CMが終わると、アイドルM−1グランプリが行われる。アイドル達が漫才を繰り広げるという、またまたハードルの高い企画なんだが……。

千早「千早です……、胸のサイズで小学生に負けました……。千早です……、歌はうまいけど、部のハーモニーを乱すって陰で言われてます……、千早です……、高槻さんが可愛いです!! はーい、イエイイエイイエイイエイ!! ちっはやどえーす!」

やよい「うわぁ……」


真「部活に勧誘されました!」

雪歩「凄い誘ったクラブは男子バスケ!」

ゆきまこ『武勇伝武勇伝……』


P「いたたたた……」

 カンペの指令はただ一つ、『笑え』。実にシンプルだ。しかしだ、どこかで聞いたことのあるネタが次から次へと繰り広げられ、微妙な空気になる。もしネタに著作権があるなら、間違いなくアウトだ。……アドリブに任せた俺達が馬鹿でした。

『わははは!』

 観客の笑いが、どことなく寂しく感じるのは、気のせいだろうか……。
426 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/03(日) 01:07:50.11 ID:odXQWAdO0
千早「楽しかったわ。新しい自分を見つけることが出来た、そう思うの」

美希「千早さんのセンスは、認めたくないの」

千早「この扇子、センスいいわね。潜水にもってこいかしら? ププッ……」

 セルフで笑ってるとこ悪いが、潜水に扇子を使用するシチュエーションなんかない。ふやけるだろうに。

春香「こっちは大火傷したよ……」

 もし俺達の記憶が消えたとしても、このテレビ史に残るであろう惨劇だけは魂が憶えているだろう。……こんなので思い出すのはなんか嫌だ。

春香「はぁ、お見苦しいものを見せてしまいました。箸休めに、ジュピターの様子を見てみましょうか!! 現場にズームイン!」

 おいこら! 突っ込む前にモニターは切り替わり、息を切らし走る冬馬君の姿が映し出される。汗で髪の毛がぬれているが、イケメンは何をやっても映える。涼君といい、ジュピターといいなんと爽やかなことか。羨ましいな。

冬馬『はぁ……、はぁ……』

幸子『走れ走れ―! 良いですよ、駄馬のように走ってください!! ゴールしたらニンジンを買ってあげますよ。経費はそちら持ちですけど』

冬馬『ああ、もう! いい加減黙れよ!! 気が散るだろうが!!』

 相変わらずの漫才を繰り広げる2人。走っているのに無茶させるなと思うが、いちいち反応する天ヶ瀬君も天ヶ瀬君だ。芸人じゃ無いんだから、無理に相手しなくてもいいだろうに。

翔太『ゴールまでもうすぐだよ!』

北斗『もう一息だ!』

 仲間たちの声援と後輩アイドルの罵声を身に受け、冬馬君はより速く駆け抜ける。
427 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/03(日) 01:20:11.26 ID:HozXd6Tf0
 モニターが切れると、司会席の3人はその場に立つ。そうか、もうそんな時間か。

春香「では私たちも、移動します!」

千早「私達3人は、秋月さん達の式場へと向かいます。スタジオには忘れ物をしない限り戻ってきませんね」

美希「でも大丈夫! 素敵な後輩達が、この番組を引き継いでくれるの!! 後輩、カモーン!」

 拍手の嵐の中、3人のアイドルがステージに上がる……。ん?

卯月「島村卯月でしゅ! 至らぬ点がたくさんあると思いますけど、最後まで皆さんと盛り上がっていきたいと思います! どうかよろしくお願いしまーす! あっ、昨日CD発売した……」

凛「長いよ。えっと、みなさん。渋谷凛です。素晴らしい先輩アイドルの後をついで、このステージに立てることを嬉しく思うと同時に、身の引き締まる思いでいます。まだまだ未熟者ですが、よろしくお願いします」

ぬいぐるみ「のヮの」

 美希のいた席には、何故かくたびれたウサギのぬいぐるみ。観客席の人がぬいぐるみになるって言うのは良くある話だが……。

P「あ、あの馬鹿……」

 全ての謎が解けた時、悲鳴とともにぬいぐるみの持ち主が現れる。

杏「痛い痛い! 痛いって!!」

きらり「杏ちゃんお届け―☆」

 現金着払いか? とにもかくにも、3人目のMCが登場した。かなり斬新な形で。

杏「え? いうの? 双葉杏ー、適当に頑張るねー」
428 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/03(日) 01:35:25.15 ID:odXQWAdO0
美希「私でももう少しやる気あったよ?」

春香「まぁまぁ……。私たち、765プロは10年間で大きく変わりました。飛行機に乗ってたら、みんな年を取って、後輩アイドルが出来て……。驚きの連続でした。やよい、真、亜美、響ちゃん、律子さんそれは、ここにいない皆も思っているでしょう」

春香「おかしな話ですが、時間は平等に過ぎていきます。私たちは、乗り遅れちゃったけど。そして、みんなが憧れるアイドルも移り変わります。ちょっと遅くなっちゃったけど、今ここで生っすか!? サンデーの新MC達に、私たちの思いを託します」

春香「これでお別れになんかさせません。ですが、世代は変わっていきます。これからも、765プロを、アイドルのみんなをよろしくお願いいたします!!」

 春香が礼をすると、アイドル達が集まってくる。観客たちは何事かと、ポカンと見ている。

冬馬「ハァ……、ハァ……、待たせたな!」

翔太「僕達を忘れちゃダメでしょ?」

北斗「チャオ☆」

 大勢のアイドルに迎えられ、ジュピターの3人がスタジオに入場する。そして冬馬君は、その体でゴールテープを切った。

響『こっちも忘れちゃダメさー!』

律子『ええ、私たちもね』

 別スタジオにいる響や律子も、モニターを通じて姿を見せる。

春香「それじゃあ皆! 行くよ!! 765プロWithドリームチームで、CHANGE!!」

 そして世代は変わっていく――。
429 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/03(日) 01:50:31.86 ID:odXQWAdO0
響『行くぞー!! はいさーい!!』

 響は掛け声とともにドミノを倒す。カタカタと音を立て倒れていくドミノは、13人のアイドル達の形を作っていき、そして新たなるアイドル達が生まれていく。全てのドミノが倒れた時、世代は交代されたのだ。本当ならもっと前に出来ればよかったが、紆余曲折あって、ようやくシンデレラ達の時代が来たのだ。そして彼女たちは、伝説へとなる。なんか臭いな。

春香「これからもー! 765プロを、アイドルをー!」

卯月「よろしくお願いしま―す!」

アイドル『お願いしまーす!!』

春香「では私たちは式場へ行きます!! ってうわっ!」

卯月「こっからは、私たちのターンですよ!! ってきゃあ!」

 どんがらがっしゃーん×2!! 新旧普通ドジっ子のどんがら共演に、笑い声が上がる。

凛「CMの後も、まだまだ続きます」

杏「CMあけたら帰っていい? えっ、ダメっすか?」

 CMに移り、765プロのアイドル達は式場へと走る。

春香「プロデューサーさんは?」

P「行きたいんだけどなぁ、でも俺にはあいつらを見守る義務があるからな」

春香「そうですね。じゃあ私がプロデューサーさんの分まで、祝福してきます!!」

 俺にウインクをして、投げキッス。春香さん、あんたもかい……。ドキッと来たのは、秘密にしておくか。
430 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/03(日) 01:51:46.04 ID:8+xClfmA0
今日はここまでです。あまり進まずすみません。もう少しモバマス勢との絡みを作るべきだったと反省。後は結婚式と、前日とライブなので、そろそろ終わりが見えて来たぞ。読んでくれた方、ありがとうございました。
431 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/06/03(日) 01:59:25.74 ID:jb9yG+Hco
おつおつ
432 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2012/06/03(日) 02:10:00.09 ID:IpVnz/zLo
乙!
433 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/03(日) 05:11:28.62 ID:CWqOBCeNo

SPECいいよね
434 :投下します [saga]:2012/06/03(日) 13:04:53.04 ID:odXQWAdO0
式場

律子「はぁ……」

伊織「なによ、辛気くさい溜息吐いちゃって。場違いよ?」

律子「いやね、いざ涼が結婚ってなると、変な気がしてね……」

 涼は私にとって、いも……弟みたいなものだ。親族の中で、私より年下だったのはあいつだけだったからか、私も可愛がっていたし、向こうも姉ちゃん姉ちゃんと懐いてた。いつだっけか、あいつに告白されたこともあったっけ? なんと物好きな従弟と思ったものだ。でも私はあいつを従弟以上に見ることが出来ず今に至る。あいつの思いを受け入れても、きっと私たちは長続きしなかっただろうし、今控室でウェディングドレスに着替えている桜井さんを見ると、涼は最高のパートナーを見つけたのだろう。自分のことのように嬉しくなる。

伊織「それはあいつも同じね。さっきまで格好良いと思ったんだけどね」

涼「どうしようどうしようどうしよう……」

 不死身のボクサーはどこへやら、タキシードに身を纏った好青年は落ち着かない様子でうろうろする。

亜美「せいやー! 亜美カックン!」

涼「わぁ!」

 それを見かねてか、亜美が涼に膝カックンを仕掛け、涼はその場に跪く。先ほどの戦いの疲れがまだ残っているのか、なかなか起き上がりそうにない。仕方なく、手を引っ張り起こしてやる。

亜美「りょうちん、覚悟決めなよー?」

涼「わ、分かってはいるんだよ? でも結婚するんだ、夢子ちゃんと一緒に生きていくんだって思うと、急に緊張してきて……」

亜美「りょうちんはヘタレだな〜」
435 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/03(日) 13:12:47.13 ID:8+xClfmA0
律子「別に緊張するなとは言わないわよ。でも花嫁の前ではシャキッとしなさいよね? 桜井さんは格好いい涼をご所望なんだから。ほらっ、そろそろ行きましょうか。ってあずささんは!?」

 まさかまた迷子に……。

亜美「あずさお姉ちゃんなら、夢っちのとこにいるんじゃない?」

伊織「そういえば、妹分なのよね、あの飴女」

涼「あ、飴女って……。間違ってないけど……」

 成程、納得がいく。無事に桜井さんの控室にたどり着けたかは、疑問だけど。

亜美「ま〜楽しみにしてなよ! 竜宮にお任せってね!」

伊織「そうね、あんた達が一生忘れないような結婚式にしてあげるわ、感謝しなさい」

律子「さて、私も最後の大仕事と行こうかしら?」

 軽く気合を入れ、控室を出ようとすると、真剣な目をした涼に声をかけられた。

涼「律子姉ちゃん、ちょっと良いかな?」

律子「私? あんま時間無いわよ?」

涼「うん、すぐに終わるから」

律子「そうね……、亜美、伊織。桜井さんの控室からあずささん連れてらっしゃい」

亜美「りょ→かい!」

伊織「早く済ませなさいよ? カメラも来てるみたいだし」
436 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/03(日) 13:24:31.56 ID:HozXd6Tf0
 亜美と伊織が控室を出ると、涼は口を開いた。

涼「あのさ! これが最後になるかもしれないから、言っておきたいんだ」

律子「最後、ねぇ……。貴音が上手いことやってくれたら、そうでもないんでしょうけどね」

涼「ううん。多分どっちにしても、最後になると思う。今の僕と、今の律子姉ちゃんがこうやって話すのは」

律子「それどういう……」

 私は最後まで聞けなかった。気付いてしまったんだ、もし事故を回避したとしても、記憶が消えるのは私たちだけじゃない。新たな記憶が生まれて、今に戻るんだ。それは、今の私たちではない誰か。どうしてそんな簡単なことに気付けなかったんだろう、今更ながら後悔する。でも、いつまでも後悔してられないわけで。

涼「今の僕が別の僕に変わる前に、律子姉ちゃんがいなくなる前に、伝えたいんだ。今までありがとう、律子姉ちゃんのことが大好きだったって」

 私は涼に感謝される人間なんだろうか? 無理に女装デビューをさせ、いわばあいつの受難は私自身がトリガーとなったのに……。

涼「感謝しているよ、世界中の誰よりも」

律子「馬鹿、今更言わないでよ……。惚れちゃうじゃない。そういう台詞は、桜井さんにとっておきなさいよ」

涼「そうだね、そうするよ。ゴメン律子姉ちゃん、それが言いたかっただけなんだ」

律子「謝ることでもないでしょ。そうね……、じゃあ私からも1つ2つあんたに送るわ」

律子「一生桜井さんを幸せにしなさい、そして……、こんな姉ちゃんを好きになってくれて、ありがとう……」

 そう言ってすぐに部屋を出る。流した涙は見られたくなかった。なのに……。

亜美「亜美カックン!」

律子「にゃっ!?」
437 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/03(日) 13:40:55.25 ID:HozXd6Tf0
 ドアノブから手を放すや否や、膝カックンを食らい、転んでしまう。聞き覚えのある声に振り向くと……。

亜美「んふっふ〜」

伊織「まあ今ぐらいは泣いても良いわよ」

あずさ「ハンカチ、お貸ししましょうか?」

 竜宮小町の3人が私に手を差し伸べていた。私はそれを手に取り……、

律子「あ、亜美ー! あんたって子はー!!」

亜美「わー! 律っちゃんがキレた!! あだだだだ!」

あずさ「それ以上はいけませんよ?」

 渾身の力でアームロック。悪戯娘には、身を持って学んでもらわないとね。

亜美「ギブギブギブ!」

律子「あら、ギブってことは下さいって意味よね? だったらお望み通り、締めてあげるわよ!」

亜美「ぎゃおおおおん!!」

伊織「まっ、それだけ元気だったら大丈夫でしょうね」

あずさ「涼君、素敵に成長しましたね〜。きっと律子さんのおかげですよ」

 まさか。私は切っ掛けを与えただけ、あいつが強くなったのは876のみんな、桜井さんの力だ。それがちょっぴり羨ましいけど、私が全ての始まりと思うと、誇らしく思えてきた。そして、今ここにいる3人をプロデュース出来たことを、何よりも誇りに思う。これが私の、全てなんだから。

律子「さぁ、行くわよ!!」
438 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/03(日) 14:02:32.15 ID:8+xClfmA0
千早「桜井さん、綺麗ね」

美希「悔しいけど、あれには勝てないな」

春香「結婚、か」

 年配の男性に連れられて、ヴァージンロードを歩く夢子ちゃんは、こっちが羨ましくなるぐらい綺麗だ。ウェディングドレス、一度でもいいから着てみたかったな。

涼「夢子ちゃん、凄く綺麗だよ」

夢子「ありがとう、涼」

 牧師様(の姿をした……、社長!?)のもと、永遠の愛を誓う刻がやってくる。

社長「コホン! 新郎、秋月涼君。その健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓うかね?」

涼「はい、誓います」

社長「新婦、桜井夢子君。その健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓うかね?」

夢子「誓います」

社長「では、指輪の交換を」

 涼ちゃんと夢子ちゃんは互いの目を恥ずかしそうに見て、指輪を交換します。銀でコーティングされた飴玉を模した、2人らしいエンゲージリング。飴はいつか溶けちゃうけど、2人の愛はいつまでも溶けないでで欲しいな。

社長「ふむ、では誓いのキスを」

 白いヴェールをあげ、2人は1つになる。

社長「今ここに、新たな夫婦が誕生した!! 盛大に祝いたまえ!!」
439 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/03(日) 14:15:30.49 ID:HozXd6Tf0
 社長の一声で、教会に拍手が響き渡る。割れんばかりの歓声の中、教会の扉が派手に開く。

伊織「ふぅ、間に合ったわね……」

亜美「そうそう、律っちゃんがしぶるから悪いんだよ?」

あずさ「まぁまぁ、律子さんもお似合いですよ?」

律子「忘れてたわ……、こういう時に限って私も出ることになるってことを……」

 青色のパレスオブドラゴンではなく、純白のウェディングドレスに着替えた竜宮小町の4人。また律子さんは強引に連れてかれたんだ……。

伊織「ほらっ、律子! いきなさいよ!」

律子「さっきやったわよ!」

亜美「でもさぁ、まだまだ言いたいことあるんじゃないの?」

あずさ「全部吐き出してしまいましょう、ね?」

律子「はぁ、分かりましたよ……」

 3人に促され、律子さんは中央に来る。

律子「涼、桜井さん! それと今ここにいるみんな、テレビを見ているみなさん! 私からのお願いです。これから先10年間、今よりずっといいものにしてください。特にあんたたち2人は、私のことで悩んだりしないで、この時代を地面に足つけて生きて欲しい。残された時間を、どうか大切にしてください」

夢子「律子さん!」

涼「任せておいて!!」

律子「託したわよ」
440 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/03(日) 14:47:30.32 ID:8+xClfmA0
伊織「それじゃあ行くわよー! 2人の幸せな将来を願って、竜宮小町から歌のプレゼントよ!」

 ノリのよい懐かしのウェディングソングが流れる。私たちも彼女たちに憧れたっけか。今では私たちが憧れられる立場になって、少し変な気がするけど。

『涼、夢子ー! 結婚、おめでとー!!』

 竜宮小町復活ライブに、みんなテンションが上がる。涼君たちもノリノリだ。最高潮の中、結婚式は終わりを迎えるのでした。あっ、余談だけど……。

小鳥「ふっ! ふっ!!」

春香「気合入ってますね……」

小鳥「当然よ! 涼君のような超優良物件はもう二度と現れないかもしれないけど、ブーケだけは貰っていくわよ!!」

春香「は、はは……」

 純粋な疑問。小鳥さんがこの先結婚できる可能性と、私たちが助かる可能性。どっちの方が高いのかな?

『きゃああああ!』

春香「わっ!!」

 夢子ちゃんの手からブーケは投げられ、参列者は押し合いへし合いブーケを奪い合う。

春香「まるで戦場……?」

 誰かの手から飛んできたのかな、小さく弧を描いてブーケは私の手に落ちてくる。

春香「わ、私!?」

小鳥「言い値で買うわ!!」

 血走った眼をする小鳥さん達婚活女子に恐怖し、その場を逃げる。スタジオもそろそろフィナーレを迎える。ブーケを持ったまま、私たちはカメラのもとへ向かう。
441 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/03(日) 15:38:39.57 ID:8+xClfmA0
 17:50、スタジオではシンデレラガールズたちのライブが行われている。初々しくも持ち味を生かしたパフォーマンスを見せる。1から面倒を見てきたから、我が子の晴れ舞台のように思えて、ちょっぴり切なくなる。いつか彼女たちも引退し、次の世代へと受け継がれていく。もし可能なら、俺はそれをずっと見続けていたい。

卯月「春香さーん、聞こえますか―!?」

春香『聞こえるよー!』

千早『そろそろお終いの時間ね。24時間、なんだかんだ短かったわね』

凛「ですがとても楽しい時間を皆様と過ごせたと思います」

美希『みんな輝いてたからね』

杏「疲れたー」

 MC陣が思い思いに感想を言う。名残惜しいが、時間がやって来た。みんな24時間、お疲れ様。ねぎらいの言葉を考えておくか。

春香『最後はみんなで行きますよー! 生っすか!?』

『サンデー!!』

 サーズデーだろって突込みは野暮だな。こうして世代と事務所を超えたアイドル達の一大番組はフィナーレを迎えたのだった。
442 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/03(日) 15:57:44.84 ID:8+xClfmA0
春香「すっごく楽しかったですね!」

P「見てた人は、今日の放送を忘れないだろうな」

 全てが終わり、解散する。車でアイドル達を送っていき、俺と春香は家に帰る最中だ。ラジオからはシンデレラ達のうたが流れている。

春香「プロデューサーさんは見れてないんですよね、涼ちゃんの結婚式」

P「直にはな。まさかあんなサプライズがあると思わなかったが、盛り上がって何よりだよ」

 モニター越しに見ていたが、なんとも楽しそうな結婚式だった。その場に行ってみたかったけど、それよりもシンデレラ達を最後まで見届けることの方が大事なことだ。来週の日曜から、生っすか!? がリニューアルして復活する。彼女たちが新たな風を吹かせることを、心から期待する。

春香「私もあんなウェディングドレスを着れたらなぁ……。もう少しここにいれたら良かったのに」

 物寂しそうに言う春香。結婚、それは全ての女性が憧れる幸せの最終地点。春香はそれが叶うことなく、この世界からいなくなる。助かったとしても、春香が一生を添い遂げる男は、俺じゃないんだ。

春香「どうかしました?」

P「なぁ、春香。ライブが終わったら、遊びまくろうか」

春香「え?」

P「ライブは早い時間に始まるんだ。後片付けとかさ、全部ほっぽり出して、最後に俺に思い出をくれないか? 最後の時間を、俺と過ごして欲しい」

 忘れてしまうなら、忘れないぐらい思い出を作ればいい。これは、俺じゃない俺への最後の抵抗だ。お前の妻を、おれのものにしてみせる。

春香「こちらこそ、プロデューサーさんといたいです」

 ラジオから聞こえるチャイムが、シンデレラ達の魔法をといた。

8月26日、期限まで残り1日。
443 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/03(日) 15:58:18.41 ID:8+xClfmA0
とりあえずここまで。また夜に書けたらいいな。
444 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/06/03(日) 16:05:39.40 ID:fdhC1Uggo
おつおつ
遂にあと1日か
445 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/06/03(日) 18:28:29.57 ID:JKOpyZpD0
後は終わりに向かうだけか・・・
今回も面白かった。乙
446 :投下するよ? [saga]:2012/06/03(日) 23:53:22.56 ID:ABZsNyqM0
P「おはよう、春香」

春香「おはようございます、プロデューサーさん! あっ、手繋いだままでしたね……。話すのがもったいないかなー、なんちゃって」

 眠りについてからずっと手を繋いでいたみたいだ。右手残る暖かさが名残惜しい。寂しいなんてことを悟られないように、俺はキッチンへと向かう。

春香「あれ? プロデューサーさんが作るんですか? 私作るのに……」

P「休んでなよ。一昨日昨日とハードスケジュールだったんだ。もう少しゆっくりしてていいぞ」

春香「じゃあお言葉に甘えちゃおうかな。でもプロデューサーさん、料理できるんですか?」

P「まぁ人並みにはは出来るんじゃないか?」

春香「楽しみにしています!」

 春香の期待の眼差しを受けて、久しぶりの料理に挑戦する。なぁに、男の料理ってやつを、見せてやろうかね……。

春香「り、料理は見た目じゃないですよね!! 味ですよ、味。ほら食べたら……、プロデューサーさん……、もしかして砂糖と塩、間違えましたか?」

P「クッ……」

 料理の天災、ここに爆現。まさかこんなに料理が難しいものとは……。朝ごはん作るだけなのに、てんやわんやの大騒動だった。春香が今にも手伝いたそうにしていたが、男のプライドに賭けて最後までやりきった。その結果が……、

春香「気持ちがあれば美味しいですよ!! それにほら、私甘党ですし!!」

 気を遣わせてしまいました。
447 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/04(月) 00:13:12.34 ID:d0EdWEug0
P「どうせ俺なんて砂糖と塩の区別もつかないダメ男ですよ……」

春香「みんな最初は失敗しますって! 私だってクッキー作って、砂糖と塩間違えた時だってあります! 何事も経験ですよ、経験!」

P「はぁ……」

 春香が精いっぱい励まそうと頑張っているが、かえって申し訳なくなり気が滅入ってしまう。うじうじしているのが気に食わなくなってきたのだろう、徐々に春香の声色が変わっていった。

春香「気にしないでって言ってるでしょうがこの愚民!!」

P「ひぃ!?」

春香「はっ!? 今私、何を言いました?」

P「にゃ、にゃんでもありましぇん……」

春香「たまーにあるんですよねー。意識なくしたと思ったら、何故かみんな跪くってことが。何ででしょう?」

 まさに閣下、総統と呼ぶに相応しい人格が、確かに姿を見せた。ドラマや舞台での役柄に入り込み過ぎる傾向はあったが、まさかまだキサラギを引きずっていたとは……。

春香「次は美味しい料理、食べさせてくださいね!」

P「ああ。次は……、な」

 叶うかどうかわからない。それでも俺は、僅かな可能性に賭けていたい。俺と春香は連れだってレッスン場へと向かう。本番前日、当日にあたふたしないための1日が今始まる。
448 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/04(月) 00:29:59.88 ID:d0EdWEug0
P「昨日の疲れが響いているだろうから、今日は調整程度だ。ただ明日の動きも確認する。本番当日あたふたしまくりなんて嫌だろ?」

亜美「それなんてdo-dai?」

P「ま、まあ何でもいいだろ。それじゃオープニングから流してくぞ!」

 本当ならホールでリハをしたかったが、不運にも今日が休館日だったりする。いくら特殊な事情とはいえ、こちらの都合に合わさせるのも気が引ける。急に借りた身分なんだ、偉そうなことは言えない。

 アイドル達は昨日の疲れを顔に出さずリハーサルに臨む。激しいダンスも、難しい歌も、彼女たちはベストコンディションを保ちながら魅せていく。

P「1週間で何とかなるもんなんだな……」

冬馬「皆が皆そうじゃない。あんたらが例外なんだよ。いくら切羽詰ってるからって、ブランクをこうも直ぐに埋めることが出来るものなのか?」

 天ヶ瀬君は不思議そうに尋ねる。聞かれても答えなんてものはないが、強いて言うなら……。

P「大事なのは、ハートなんだよ。ハートが籠ってれば、ブランクなんてなんのその。塩と砂糖を間違えた料理も気にならなくなるさ」

冬馬「それ味覚がやられただけじゃないのか……。ハートねぇ……、そういうの嫌いじゃないぜ」

P「こっちもさ」

冬馬「へっ」

 互いに拳をぶつけ、笑い合う。

雪歩「P×冬……」

真「雪歩!?」

雪歩「はっ、私はいったい……」

 なんか騒がしいが、気にするほどでもないか……。時計を見るともうお昼だ。昼休憩の時間を取り、俺は差し入れを買いに外に出る。
449 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/04(月) 01:00:09.80 ID:OmIo7unp0
法子「あっ、プロデューサー! ドーナツ買いに来たの!?」

P「おお、法子。良く会うよな。学校は……、って夏休みか」

法子「そうそう、宿題が終わらないんだ〜。で、気分転換にドーナツ食べに来たってわけ!」

 ドナキチと呼ばれるほどのドーナツフリークとばったり会う。といっても、この店に常駐しているのかってぐらいの頻度で会うが……。

P「そんなにドーナツが好きなら、仕事取って来るぞ?」

法子「ほんと!? やっぱりアイドルになって良かったー!」

P「でも、オーディションに勝つためには、レッスンしないとダメだぞ」

法子「ドーナツのためなら頑張れるよ!!」

 彼女にとって、ドーナツは世界そのものなんだろうか。

P「なんでそんなに好きなんだ?」

法子「うん? 色々あるよ? 美味しいし、色んな味があるし……。形が良いよね!!」

P「は? 形?」

 予想外の答えに思わず聞き返してしまう。

法子「うん、形。見てよ、これ! 真ん丸だよね」

P「そりゃあドーナツだからな」

 法子が指差すのは、オーソドックスな味が人気のドーナツだ。チョコもなにもコーティングされておらず、純粋なドーナツと言えよう。
450 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/04(月) 01:12:18.83 ID:d0EdWEug0
法子「ドーナツってさ、丸いんだ。齧らなかったら、ずっとグルグル回ってる、ずっとね」

P「妙に哲学的なことを言うんだな」

法子「そんな難しいことじゃないよ? もっと単純。幼稚園の頃、好きだった先生が転勤することになって、私泣いたの。お姉ちゃんみたいに懐いてたし、その頃はいなくなる=もう会えない、って思ってたの。でもね、先生はドーナツをくれたんだ。それでなんって言ったと思う?」

P「世界はドーナツみたいに、丸いからいつか会える、ってとこか?」

法子「凄い、正解したよ!! 景品にはい、ドーナツ!」

 なんとなくで答えたら、正解だったようだ。法子は自分のトレイからドーナツを俺によこす。まだお金払ってないんだけどな……。

法子「プロデューサーが言ったのと大体一緒。世界はドーナツみたいなもの、サヨナラしても、まっすぐ歩いていたらいつか会えるって。そう言ったんだ。その頃はまだ意味が分からなくて、先生のくれたドーナツが美味しかった、って話なんだ」

P「それが、ドナキチへの第一歩ってわけか」

法子「そういうこと! あっ、アイドルになったら、先生にも会えるかな?」

P「かもな、お前の頑張り次第だぞ?」

法子「よーし、俄然やる気出て来たぞー! じゃあねー!」

 法子はそう言って駆け出した。自主レッスンでもするのかな?

P「ドーナツは世界、か……」
451 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/04(月) 01:35:04.78 ID:d0EdWEug0
 真ん中に穴がぽかりと開いたドーナツを見つめる。402便もこうやって戻ってきた。また別れることになっても、まっすぐ歩いていれば会えるかもしれない、か。いっちょ前に良いこと言っちゃって。

P「あっ」

 ドーナツを眺めていると、あるものに似ていることに気付く。なんで今まで、忘れていたんだろうか?

P「……戻るか」

 ドーナツを人数分+α買い、レッスン場へと戻る。残された時間はあまりない。その分密度の濃い時間を過ごさないとな。


P「よし、そこまで!!」

 一通りの流れを確認し、リハーサルを終える。流石のアイドル達も疲労が見えてきている。今日はこの辺にしておこう。

P「これで明日への準備は終わりだ! 明日のライブは本当のサヨナラライブだ。引退をキチンと出来なかった者、後悔を抱いたまま日々を過ごして来た者、10年間苦しんできた者。全部、明日で清算するんだ。そして、笑ってファンのみんなに、サヨナラをしよう。以上だ!」

春香「ねえ! 皆であれ、やらない?」

 俺の話が終わると、春香が提案をする。あれ、というのはもちろん……。

伊織「どうせ明日もやるんでしょ?」

春香「こういうのは、何回やっても良いんだって! ほらほらっ、みんな円になって!」

 ドーナツのように円を作るアイドル達。ライブの時はいつもこれをやっていたっけか。この場に社長と小鳥さんがいないのが残念だけど、明日になったらいるか。

真美「10年ぶりだね」

亜美「亜美からしたら数日ぶりだけどさ!」

春香「それじゃあ行くよ! 765プロ、ファイト―」

『オー!!』

 気合は十分! 明日は絶対うまくいく、そう確信するのだった。
452 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/04(月) 01:35:52.38 ID:d0EdWEug0
短めだけどこれで今日は終わりです。明日の夕方ぐらいからまた投下します。今週中には終わるはず。ではおやすみなさい。
453 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/04(月) 06:01:15.48 ID:HAEuRO0lo
ドーナツワールド…
平面地図において上にいくと下から出てきて右にいくと左から出てくる世界…

あ、楽しみにしてます。
454 :投下するの [saga]:2012/06/04(月) 15:24:48.23 ID:d0EdWEug0
 夕暮れの中、ラーメンの屋台に見知った顔を見かける。

P「よう、貴音」

貴音「おや、春香は一緒でないのですか?」

P「明日遊びまくるって約束したからな。今夜はアイドル達とお泊り会だとさ。お前はいかないのか?」

貴音「非常に魅力的な提案でしたが、わたくしは論文をまとめなければいけませんので」

P「論文か……。読んでも分からないんだろうなぁ」

貴音「自分でも、無理のある話だと思っています。このようなことを言うのも不謹慎なのかもしれませんが、今回の現象は、結果として人類の夢、タイムトラベルを叶えました。一学者としてなら、それだけでも有意義な現象でした。しかし、アイドルとして、仲間としてみると、これ以上ないぐらい迷惑な話でもありますが」

P「タイムトラベル、ねぇ」

貴音「可能になるまで、あと何年かかるか分かりません。もしかしたら、全人類が消えてなくなるその日まで、解明されないかもしれません。それでも、夢を見ていたいのです。わたくしにも、後悔の一つや二つ、ありますから」

 俺は彼女のことを何も知らない。知っているつもりでいても、次から次へとい謎が生まれる。全てが謎に包まれ、時折人間離れした不思議な行動や発言をすることもあった。尤もそれを売りにしてたのは俺達だが……。だが、最近になって分かったことがある。

P「なぁ、聞いていいか?」

貴音「なんでしょうか? スリーサイズは、とっぷしぃくれっとですよ?」

P「いや、違うって……」

 一応10年前のデータは残ってる。しかしまぁ、まだまだ成長しているみたいだ。ないすばでぃな銀髪の女性が、こじんまりとしたラーメン屋の屋台にいる、、そのギャップがシュールで少しおかしい。
455 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/04(月) 15:44:16.99 ID:42J/YN5T0
P「なあ、何で貴音はそこまでするんだ?」

貴音「そこまでとは?」

P「あー、だから……。アイドルを辞めて、量子物理学だっけ? 准教授になって、神の奇跡としか言いようのない現象に真っ向から向かって行って……。すごく嬉しい、でも何がお前をそこまで突き動かすんだ?」

 俺の問いを貴音はポカンとして聞いている。そして俺の目を見て、クスリと悪戯に笑う。

貴音「確かにわたくしの取った行動は、不可思議なものかもしれません。なんせ私は志半ばでアイドルを辞め、そこから真逆の血球の道へと進んだのですから」

P「アイドルになったのは国の民のため、だよな」

貴音「ええ、わたくしは彼らの希望でなければなりませんでした。例えるなら、そう太陽。そんな私が、月を題材に歌を歌うというのも、少々おかしな話でしたが」

 なるほど、それは皮肉な話だな。正直に言うと、貴音の口から太陽なんて言葉が聞けると思わなかった。その凛とした姿は、冷たき月夜に舞い降りる姫君を連想させたから。貴音は続ける。

貴音「しかし、わたくしはそれを途中で投げ出しました。彼らにとっては寝耳に水をかけられた気分になったことでしょう。裏切り者、逃げ出した。そう言われても反論することが出来ません。しかし、わたくしは望んだのです。今ひとたび、765プロのみなとともに舞台に立てることを」

P「まさかお前……」

貴音「故国の民と同じぐらい、わたくしにとっては大切な者たちです。その他に、理由など必要でしょうか?」

P「ははっ、ないよな」

貴音「ええ、ありません」

 最近になって分かったこと。貴音は俺が思っている以上に熱い人間だ。仲間を助けるため、10年間なんとなく生きてきた俺と違って、一から量子物理学を学び、そして今わずかな可能性を見つけた。感謝してもし足りないぐらいだ。だからまずは、

P「おっちゃん、塩ラーメン一つ。んでこいつにもう一杯、醤油ラーメンを作ってやってくれ」

 ねぎらいに一杯、奢ってやるか。
456 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/04(月) 15:57:14.30 ID:eQRyDigM0
貴音「御馳走様でした」

P「ふぅ、食った食った」

 ラーメンを食べ終え、屋台を後にする。家まで送っていくと言ったが、貴音はと言うと、

貴音「ここから先は、最高機密です」

 そう言って送らせようとしなかった。結局俺は、貴音のことをほとんど知らないまま、最後のライブに臨まなきゃいけないみたいだ。

貴音「あなた様」

P「なんだ?」

貴音「いつか言いましたね。神はサイコロを振りません、しかしわたくし達は振ることが出来る、と」

P「そうだったな。良く覚えているよ」

 アインシュタインの言葉だっけか? その神様の奇跡に、俺達は翻弄されたわけだが。有難迷惑も極めると、ただの迷惑だ。

貴音「最後の機会です。きっと今なら、良い目が出ると思いますよ?」

P「そう信じてるよ」

貴音「では、わたくしはここで」

 長々といたのだろうか、いつしか夕日は沈み代わりに丸いお月様が顔を出している。その月光の下にいる貴音は、この世のものと思えないぐらい美しい。

P「やっぱり、月の方が似合っているぞ?」

貴音「好みはそれぞれですよ?」

 貴音は手を振り別れを告げる。このまま月に帰っていきそうだったが、角を曲がり姿を消した。

P「……よし、振ってみるか!」

 俺はある決意を胸に、家に帰る。今日も残り数時間。出来ることは限られているかもしれないが、一分一秒を無駄にしたくはない。俺は今を生きる、ただそれだけだ。
457 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/04(月) 16:13:42.59 ID:d0EdWEug0
 お泊り会会場

『真―、誕生日おめでとー!!』

 パンパンとクラッカーが鳴り、真はあっけにとられた顔をする。

真「ええ!? ボクの誕生日、まだ先……、ってそうか……」

雪歩「真ちゃん……、ゴメンね。気分害しちゃった?」

 真の誕生日は29日。神様はどうしてこうもせっかちなのかな? 『神様あと少しだけ』だったかな、そんな名前のドラマがあったっけ。せめて後24時間ぐらいは猶予が欲しかったなぁ。

真「ううん、そうじゃないよ。雪歩が気に病む必要なんて、どこにもないよ? でもあんまり実感わかないんだよな。明後日も普通にいて、普通に毎日を過ごしていく、そんな気がするんだ」

律子「余命宣告されたようなものなのに、私たちピンピンしてるからね」

亜美「あっ、それ分かる。なんかさ、変な感じだよね。いなくなるわけないじゃんって感じ?」

真美「……今回は、そうなって欲しいね」

 環境が変わってて、いやでも10年後の世界ってことを痛感してきたはずなのに、未だに夢落ちじゃないかなと考えている私がいたりする。もし夢落ちならば、早いところ覚めて欲しいな。起きて隣に、プロデューサーさんがいてくれたら……、すっごく嬉しい。

やよい「でも私はもう十分かなーって。お父さんにも家族のみんなにも会えましたから」

響「未練がないって言うとウソになるぞ。にぃにぃが父親になって、可愛い姪っ子も出来て……。もっともっとアイドルしてたかったなぁ。でも、こうやってこの時代に来れたことが奇跡なんだよな。たった8日間だけど、楽しかったぞ」

あずさ「響ちゃん……」

響「なんくるないさー。だからねぇね……、あずささんも笑ってお別れしてほしいな」
458 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/04(月) 16:24:40.81 ID:eQRyDigM0
 八重歯を見せて笑う響ちゃん。肩に乗るハム蔵も歯を見せて笑っているように見えた。

亜美「ねぇねぇひびきん、今あずさお姉ちゃんのことねぇねぇって言わなかった?」

響「い、言ってないぞ!!」

あずさ「あらあら、私はねぇねぇで良いですよ?」

響「あ、あずささぁん……」

 亜美に指摘されて、恥ずかしそうに反論する響ちゃんを、ねぇねぇことあずささんは優しく見守っている。

伊織「そうね、笑って終わらせたいわね」

やよい「はい! みんな笑顔が1番です!!」

真美「はぁ、何考えてたんだろ私。いきなりいなくなるわけじゃないのに……」

亜美「真美、難しいこと考えれないんだから、パーッといこうYO!」

真美「難しいこと考えられないってどういう意味!?」

千早「ふふっ、みんな楽しそうね」

美希「でも辛気くさいよりは、この方がうちららしいかな?」

 本番前日と言うことを忘れ、私たちは大いに盛り上がりました。この場に貴音さんがいないのが残念だけど、楽しんできてほしいといってくれた彼女の分まで、楽しむことにします。

雪歩「えっと、お酒……」

千早「買いに行きましょうか」

春香「ダメ! 絶対!!」

 もちろん、ノンアルコールで。生放送での反省を活かします。
459 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/04(月) 16:36:34.18 ID:eQRyDigM0
千早「春香、眠れないの?」

春香「あっ、千早ちゃん」

 誕生日前倒しパーティーを終え、美希が寝始めるとそれを皮切りに、みんな眠りにつく。私もそのつもりだったけど、寝ようにも眠れなかった。仕方なく夜風を浴びていると、千早ちゃんに声をかけられたってとこ。

春香「変だよね、いつもは寝つきが良い方なんだけど、今日に限って眠れないや」

 寝つきの良さはプロデューサーさんのお墨付きをもらっている。いや、だからどうしたって話だけどね。

千早「緊張してるの?」

春香「どうだろ? やっぱり実感が湧かないかな? 明日で引退して、そしてまた消えてしまう。私はどこに行くんだろ?」

 それは神様だけが知っているのかな。

千早「……出来るものなら、ずっといて欲しいわ」

春香「へ?」

千早「先に謝るわ、ごめんなさい」

春香「千早ちゃん? わっ!!」

 突然千早ちゃんが私を抱きしめる。

春香「ど、どうしたの?」

千早「……なの」

春香「千早ち」

千早「嫌なのよ!! もう私の前から、大好きな人達がいなくなることが! 認めたくないの!! 春香が、みんながいなくなるなんて! だから! いなくならないで……」

 壊れるぐらいに抱きしめる力を強める。私も両手を千早ちゃんの背中に回す。互いに痛いぐらいに、思いが伝わるように。
460 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/04(月) 17:00:57.19 ID:OmIo7unp0
春香「落ち着いた?」

千早「うん……」

 ちっちゃな甘えん坊みたいに、私を抱いた手を放さない。普段は見せない弱り切った姿を、可哀想と思うとともに、可愛いと思ってしまう。ひとしきり泣いた千早ちゃんは申し訳なさそうに私を見つめる。

春香「大丈夫だよ、神様だってそんなに理不尽じゃないよ。10年間、みんな辛い思いをしてきたのに、ここでまた同じ思いをさせるなんてそんなサディスティックじゃないって! だから私たちは、きっと助かる。神様が助けてくれる。それでもまだ、不安でいっぱいなら……。千早ちゃん、約束しようか」

千早「約束?」

春香「そう、約束。千早ちゃんの曲で、守るためにするもの」

千早「ふふっ、それぐらい分かってるわよ」

春香「それじゃあ手を出して」

千早「こうやって約束するの、何歳ぶりかしら?」

 互いの小指を絡め合い、引っかけあう。

『指切りゲンマン嘘吐いたらハリセンボンのーます、指切った!!』

千早「約束したわよ?」

春香「うん、私は消えたりなんかしないよ。絶対に」

 どうすればいいか分からない。でも信じていたい。最後は笑って終われると。

千早「私も寝るわ、お休みなさい」

春香「おやすみ」

 もう少しだけ、夜風にあたっておこう。

8月27日、期限当日。残り24時間。
461 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/06/04(月) 17:42:52.52 ID:0zzc4MpC0
乙ー
夜の更新まで待機してます
462 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/04(月) 17:43:14.35 ID:42J/YN5T0
続きはまたあとで。
463 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/04(月) 21:01:49.21 ID:OmIo7unp0
P『ふぅ……、今日からこの事務所のプロデューサーか……。緊張してきたなぁ。よしっ、頑張るぞ!』

 あの時、変なおっさんの言葉に耳を傾けなければ、こんなことになっていなかっただろう。

社長『諸君! 我が765プロにも待望のプロデューサーが誕生した!』

 ドア越しにも分かる少女たちの歓声。13人のアイドル達をトップへと導いていくことになるんだという、重すぎるぐらいの責任を一身に背負い、ドアを開ける。

P『みんな揃ってトップアイドルだ!!』

春香『よろしくお願いしますね、プロデューサーさん!!』

 個性豊かな少女たちの中、リボンの人懐っこい少女が俺に挨拶する。正直言うと、第一印象は『ふつう』。本人に言ったら怒られるかもしれない。

春香『あっ、名前憶えてます? 天海春香ですっ!!』

P『ああ、憶えているよ。よろしくな、天海さん』

春香『春香、って呼んでください! なんか天海さんって他人行儀じゃないですか。私たちはそんな遠い関係でもないですし、名前は呼び捨てで良いと思いますよ!』

P『そ、そうか? じゃあ春香』

春香『はいっ!!』

 それがアイドル天海春香と、プロデューサーの俺の最初の出会いだった。
464 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/04(月) 21:11:48.67 ID:OmIo7unp0
春香『うわぁ!』

 どんがらがっしゃーん。派手な音を立てて、春香はずっこける。おっ、今日は白か。

P『おいおい、何度目だ?』

春香『いたた……、すみませーん』

P『全く、コケリンピックがあれば、間違いなく金メダルだろうに』

春香『いりませんよー!!』

 転んだ彼女の手を轢き立ち上がらせる。最初の内は心配していたが、何度も何度も芸人みたくこけ続けるので、いつの間にか心配もせず、軽口を言えるぐらいに距離は近づいて行った。それは所属アイドル全員に言えることだったけど、どういうわけか春香とは特別と言っていいぐらい仲が良くなっていった。今思うと、彼女のひた向きさにこの頃から好意を持っていたのかもしれない。別に初恋の子に似ているから、なんてことはないぞ、うん。

春香『やりましたよ、プロデューサーさん!』

P『おめでとう、春香。Aランクアイドルだぞ!』

春香『はい、貫録の1番乗りですよ!』

 アイドル達の活動も軌道に乗っていき、765プロのアイドルを見ない日がないと言われるぐらい忙しくなってきた頃、春香がAランクアイドルの仲間入りを果たした。誰もが認めるトップアイドルだ。0から育てたアイドルが、これほどまでの成功をおさめたのが自分のことのように誇らしかった。

P『だがこれでみんなにも火がついたな。ボヤボヤしてると、置いてかれるぞ』

春香『大丈夫ですよ! 私もっともっと頑張りますから!!』
465 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/04(月) 21:22:52.86 ID:42J/YN5T0
 春香のAランクアイドル入りは仲間たちにも火をつけ、事務所のアイドル全員がAランクと言う快挙を成し遂げる。そして春香は、あるアイドル以降生まれていない、伝説のSランクへと挑もうとしていた。

 俺が春香に告白されたのは、彼女の生まれた日のことだった。

春香『お疲れ様です、プロデューサーさん! 今日のライブも最高に盛り上がりましたね! 私、今日の誕生日を忘れません!』

P『そうだな、ファンのみんなも祝ってくれたし、見ている方も楽しいライブだったよ』

 月明かりが満開の桜を照らす。花見客もおらず、桜のシャワーの中2人で歩いている。

P『おっと、忘れるところだった。はいこれ、プレゼントだ』

春香『プレゼントですか!? 嬉しいなぁ、何が入っているんだろ? これは……』

P『どうかな? 俺は似合うと思うんだけどな……。春香をイメージした色なんだけど』

 小さな箱の中から、2つのリボンが顔を出す。顔なんかないけどね。

春香『嬉しいですよ! ありがとうございます! えっと、付けてくれますか?』

P『お、俺が?』

春香『はい! さぁつけちゃってください!』

P『わ、分かった……。くすぐったいかも知れないけど、気にしないでくれ』

 断りを入れて、春香の髪に手を伸ばす。手入れの行き届いた、サラサラで綺麗な髪だ。ふわりといい匂いもしてくる。女の子だからじゃくて、春香の匂い。少し変態チックだったけど、無心にしてリボンをつける。
466 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/04(月) 21:32:43.57 ID:eQRyDigM0
春香『どうですか? 似合ってますか?』

P『ああ、最高に似合ってるよ』

春香『えへへ……』

 褒められて頬を赤らめる。しかし少しすると、息を深く吐いて真剣な眼差しで俺を見る。

春香『プロデューサーさん、お話があるんです。少し良いですか?』

P『あ、ああ。大丈夫だぞ?』

春香『ありがとうございます。それじゃあ少し歩きましょうか』

 公園の中を歩いていると、上空を飛行機が飛んでいく。ここからだと、飛行機が良く見えるんだ。たまに子供たちが、顔をあげて手を振っているのを見たりする。

P『なあ、話って……』

春香『前置きとかそういうの抜きで言います。プロデューサーさん……』

P『なんだい?』

春香『私を、彼女にしてほしいんです』

P『うっ、そう来たか……』

 気付いてなかったわけじゃない。春香の原動力が、アイドルの夢をかなえたいという純粋なものから、いつしか俺に褒められたい、俺に見て貰いたいと言うものに変わっていったことを。Aランクへとんとん拍子に進んだのも、俺への憧れがあったんだと思っていた。俺はそれを利用していたんだ。そう考えて、少し自己嫌悪に陥る。
467 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/04(月) 21:43:14.80 ID:eQRyDigM0
春香『私、プロデューサーさんが大好きです。美希よりも、誰よりもあなたが好きです』

P『春香……』

 呆れるほどまっすぐな彼女の想いに、心が揺れる。こんなに春香って、弱弱しく見えたっけ?

春香『分かっています、私はアイドルで、プロデューサーさんにも立場がある。今まで積み上げたものを、積み木みたく崩しちゃう。分かっています』

P『なら』

春香『それでも! プロデューサーさんの特別になりたいんです。私、嫉妬深いんですよ? 美希にハニーと呼ばれて顔を真っ赤にするプロデューサーさんにムカッてしたこともありましたし、他の子が褒められていたら、なんかモヤモヤしちゃって……。みんなが思っているよりも、愛が重いですね』

 自分を馬鹿にするように鼻で笑う。

春香『こんなはずじゃなかったのに……。日本一のアイドルになりたいって思ってたのに、プロデューサーさんの奥さんになりたいって思うようにもなったんですよ? 私にとって、プロデューサーさんはそれぐらい大きな存在なんです。夢を叶えてくれて、新たな夢をくれました……。ダメならダメって言ってください、私潔い方……』

P『そこまで愛されてたんだな。俺は世界一の幸せ者だな』

春香『え?』

 ハトが豆鉄砲を食らったかのような顔を見せる。そして俺は、彼女の想いに応えたんだ。

P『正直に言う、俺も春香のことが好きだ。世間がどう思おうと、お前と一緒にいたい。全く、女の子の方から言わせるなんて、情け……、どうした、春香!? 涙を流して……』

春香『嬉しいんですよ……、すごく嬉しくて、私も世界一幸せです!』

P『俺の方が幸せだぞ?』

春香『いいや、私の方が!』

 妙な意地を張りあうが、結局二人とも幸せ、世界一幸せな男と、世界一幸せな女、世界一幸せなカップルということで、その場は収まったのだ。
468 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/04(月) 21:50:52.32 ID:42J/YN5T0
P「まるで走馬灯だな」

 運命の日、俺は昔のことを思い出していた。春香との出会い、告白された日のこと、402便が帰って来た日。初めてのキスと、その先に進んだこと。全てが鮮明に思い出せる。最後のは少々生々しくて、悶々としちゃったけど。

P「うっし、行くか!」

 アイドルのみんなは、伊織邸に泊まっていたらしい。羽目を外し過ぎて、今日何も出来ませーん、なんてことがないように祈っておく。


P「こんな時間から並んでいるのか?」

 小林ホールに着いた俺を、気の早いファンたちの行列が迎える。チケットは指定席で、こんなに早く来ても仕方ないんだけど、ファンのみんなはそれぞれの思い出話に興じているようだ。知らない相手とでも、アイドルと言う話題を通して絆が出来る。世界は案外簡単に、平和になるのかもしれない。歌で戦争を止めえるアニメを思い出した。

P「キラッ☆ なんつって」

 その辺の子供に、白い目で見られてしまった。

春香「あゅ、プロデューサーさん!」

P「おっ、みんなお揃いだな。貴音は……」

貴音「ここにいますよ?」

P「おう! 後ろから来るのは反則だろ……。びっくりした……」

 楽屋にはアイドル達が既に集まっていた。このメンバーで出来るだろう最後のライブに向けて、全員気合が十分すぎるぐらい入っている。
469 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/04(月) 22:02:06.00 ID:d0EdWEug0
冬馬「うっす、来てやったぜ」

涼「えっと、今日はよろしくお願いしますね!」

 ジュピターと876の3人も到着する。

社長「うむ、みんな揃っているようだね。ピンチの時は、私の手品が場を繋ぐよ」

小鳥「練習してましたもんね……。みなさん、頑張ってくださいね!」

 準備運動をしていると、社長と小鳥さんも姿を現せる。

卯月「もちろん私たちもいますよ! ライブ楽しみにしています!!」

 シンデレラ達も登場だ。杏だけきらりに抱きかかえられているあたり、また逃亡を図ったんだろうな。懲りない奴。

P「よし、みんな揃ったな。聞いてくれ。まずは……、そうだな。春香、やよい、真、響、亜美、律子。最後の時間を有意義に使ってほしいんだ。どうか後悔だけは、残さないでくれ」

P「雪歩、美希。リベンジって言い方も変だが、最後のライブの失敗を、ここで乗り越えるんだ! あずささん、お子様たちに格好いい姿、見せてあげてくださいね」

P「千早、伊織、真美、貴音。お前たちも、わだかまりを残さないで欲しい。きっと今日のライブは、人生を楽しく彩ってくれるから」

P「1人1人の力が小さくても、13人いれば無敵だ! みんな、最高のライブにしよう!!」

春香「じゃあ皆、あれやるよ!」

伊織「結局やるのね……、まぁ良いけどね」


470 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/04(月) 22:14:04.94 ID:OmIo7unp0
春香「ほら、ジュピターも愛ちゃんたちも、みんなでしましょうよ! 社長と小鳥さんも!」

 外野にいたみんなも巻き込み、ドーナツは大きくなる。まるで地球儀の上を子供たちが手を繋ぎ合っているみたいな、和やかな○が出来た。

冬馬「けっ、たまには付き合ってやっか」

愛「円陣くむよー!」

凛「なんかこういうの、良いね」

社長「おおう、私は今から泣きそうだぞ!」

小鳥「まぁまぁ、落ち着いてください!」

P「これで全員か?」

春香「それじゃあ行きますよー! 765プロ―!」

冬馬「俺765じゃねーんだけど……」

翔太「空気読みなよ冬馬君!」

北斗「だからお前は、魔法使い一歩寸前なんだ」

冬馬「う、うるせー!! 好きでなりたいわけじゃ……」

春香「……」

冬馬「すんません……」

 流石の天ヶ瀬君も、全員の無言のプレッシャーには勝てないようだ。

春香「気を取り直して……、765プロ―、ファイト―!」

『オー!!!!』

P「よし、皆行って来い!」

 最後のライブの幕が、今開いた。
471 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/04(月) 22:27:35.20 ID:OmIo7unp0
『――!!』

 割れんばかりの歓声を受けて、13人のアイドルが立っている。彼女たちの緊張がこっちにまで伝わってくる。

P「行きます。3、2、1、レディゴー!!」

『――♪』

 会場とアイドル達は1つになり、765プロの世界が繰り広げられる。歌声は心に響き、華麗なダンスは躍動感を与え、ビジュアルアピールで魅せる。ファンのみんなは心を奪われ、地響きが起きんばかりに盛り上がる。

社長「〜♪」

小鳥「ノリノリですね……」

社長「かく言う君も、リズムに乗っているぞ? どうかね、もう一度ステージに……」

小鳥「こ、これは更年期障害です!! もう、アラフォーに何を言うんですか!」

 まだそんな歳じゃないでしょうが。しかしまぁ、乗ってしまうのは仕方ない。踊る阿呆に踊らぬ阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃ損々、なんてね。

春香「みんなー、盛り上がってますかー!!」

『――!!』

伊織「聞くまでもなかったわね」

真「今日はまだまだ続くよー! 皆ついてきなよー!!」

『――!!』

 10年間お預けを食らったファンたちが、そう簡単にくたばるかっての。
472 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/04(月) 22:44:06.76 ID:eQRyDigM0
『――!!』

千早「この盛り上がり、懐かしいですね。歌手に転向してからは、こんな風に盛り上がる曲を歌ってませんでしたから。新鮮にも思えてきます」

P「次は明るい曲でも歌ってみたらどうだ? キラメキラリイングリッシュバージョンとか」

千早「それは……、楽しそうですね」

 眩いライトの中、底抜けに前向きなやよいに心を奪われる。あの頃のままのやよいは、持前の明るさでホールを盛り上げる。

P「おっ、みんなで来てんだ」

 客席を見ると、高槻家が揃っている。長介君と高槻氏が隣同士並んでいるのを見て、やよいの願いは叶ったんだと察する。自分のことじゃなくて、最後まで家族のことを思っていた彼女にとって、家族が揃うということはなによりのプレゼントだろう。

やよい「辛いことがあっても、一度リセットしちゃえばまた頑張れます! 家族みんなで楽しんでくださいね!!」

 やよいらしいメッセージに、会場が湧く。家族連れも結構来ているみたいだな。

『――!!』

 やよいにバトンを託されて、響とあずささんが舞台に上がる。事情を知らないと異色の組み合わせだが、これはこれでなかなかだ。双方歌唱力も高く、キレのあるダンスで魅せる響と、持前のプロポーションとビジュアルアピールで目を奪うあずささんの義姉妹コンビは思っていた以上の化学反応を起こした。

響「みんなー、来てくれてありがとうなー! 今日のライブを、ずっとずーっと忘れないでいてくれよ!!」

あずさ「あの頃子供だった人も、今は親になっているんですね。お父さん、お母さん。子供たちに、受け継いでいってあげてくださいね」

 いくつかの親が反応する。10年間で、ファンのみんなも変わっていったんだ。そして今、アイドルとファンは再び出会う。
473 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/04(月) 22:55:39.89 ID:eQRyDigM0
『律っちゃーん!!!』

律子「わぁ! まだみんな私のファンなの!?」

涼「律子姉ちゃん、自己評価低すぎだって……」

律子「ほんと、物好きよね……。でも今日はそんな物好きな皆に送ります!」

涼「秋月シスター……、って僕男だよ!!」

律子「魔法をかけて!!」

 緑色のサイリウムが小さな光を作ったかと思うと、魔法がかったかのように、それはどんどん広がっていき、ホールを埋め尽くす。

伊織「にしても、相変わらず目に優しい色ね」

P「おっ、秋月夫人発見。涼君に呼ばれてきたのかな?」

 照明が当たって、飴型の指輪がキラリと光った。


亜美「んふっふっふ〜。行くよー、真美!」

真美「んふっふ……、無理があるんだけど……」

亜美「どっちが亜美だ!!」

真美「間違えようがないよね!!」

亜美真美「亜美真美でーす!」

 大きくなった姉、あの頃のままの妹。もしこれが逆だったなら、どうなっていたんだろうか? 考えても仕方ないか。

『――!』

 互いの良いところ、悪いところを知っている2人だからこそ、長いブランクがあっても一心同体でいれるんだ。双子と言う、切っても切れない不思議な縁に結ばれた2人は、息の合ったパフォーマンスで会場を盛り上げる。
474 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/04(月) 23:06:39.50 ID:eQRyDigM0
美希「みんなー、お待たせなのー!」

雪歩「10年前のリベンジに来ましたー!!」

真「な、なぜだろう……。この組み合わせは、どこかまずい気が……」

小鳥「修羅場! 修羅場!!」

P「おいこら」

 真大好きコンビと真と言う、何とも小鳥さん得なユニットだな……。

P「2人とも、吹っ切れたんだな」

 いざ曲が始まると、迷いのないパフォーマンスを見せる。10年間苦しめてきた幻影を、2人は断ち切ることが出来たんだ。そして真は2人をバックに、格好いいダンスを決める。

『きゃあああああ!!』

真「はは、ははは。やっぱり最後まで王子様かぁ……。こうなったらやけだー! まっこまっこ……」

美希「真くん、引っ込まないといけないよ?」

真「み、美希―! 最後までやらしてよー!!」

雪歩「えっと、この後は春香ちゃんが登場です!」

 ファンのみんなは大笑いしている。コントか何かと勘違いしたのだろうか? あれは真なりの可愛い女の子アピールだったんだが……。

真「ボクの可愛さを分かってくれないなんて、みんなダメダメですね!」

P「お前は幸子か」
475 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/04(月) 23:20:36.76 ID:d0EdWEug0
春香「プロデューサーさん、行ってきますね」

P「ああ、行って来い」

春香「天海春香、思い切って行きうわぁ!!」

P「大丈夫か……?」

 舞台裏からずっこけてステージに現れる。ファンの顔を見ると、ああまたか、と優しい笑みを浮かべている。

春香「えっと……、10年間お待たせしましたー! 今日はみんなの記憶から絶対消えないライブをお届けします!! 行きますよー! I want!!」

『――!!』

P「この盛り上がりだけは、他と違うよな……」

春香「そこに跪いて!!」

P「……社長、何やってるんですか」

社長「はっ、体が勝手に……」

小鳥「春香ちゃんに蹂躙される社長……、あり」

P「なわけないでしょうが!」

 人の彼女で何書こうとしているんだこのゾンビ鳥は。

P「しかし……、いい顔してるよな」

 楽しそうに歌う春香を愛おしく思う。色んな顔を見せてくれたけど、やっぱりアイドルを全力で楽しんでいる春香が、一番好きだな。

春香「まだまだ、楽しんでいってくださいねー!!」
476 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/04(月) 23:28:27.46 ID:42J/YN5T0
愛「御手洗さん、ライブですよー!!」

冬馬「俺は天ヶ瀬だよ!!」

絵理「どっちでも一緒?」

冬馬「違うっての!!」

翔太「そうだよ! 冬馬君とだけは間違えられたくないなぁ」

冬馬「どういう意味だよ!!」

北斗「チャチャチャチャオ☆」

涼「北斗さんはぶれませんね……」

 765のアイドル達が着替えている間、876とジュピターが場を繋ぐ。765プロのライブなのに、部外者がと思うファンもいるかと危惧したが、どうやら受け入れられているようだ。ライバルたちにも恵まれたんだな。

冬馬「ここで歌わしてもらうぜ。さぁ恋を」

愛「はなまるです!!」

冬馬「邪魔するなあああああ!!」

春香「こ、この中に入っていくんですか?」

P「なんだ……、思ったより盛り上がってるな」

 むしろ主役である彼女たちが遠慮してしまうぐらいに盛り上げてしまったみたいだ。仕方ない、満足するまでしてもらおうか。

冬馬「ったく、場は盛り上げたぜ」

愛「後はよろしくお願いしまーす!!」
477 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/04(月) 23:38:19.01 ID:OmIo7unp0
春香「765プロ―、ファイトー!」

『オー!!』

 今日何度目かの円陣を組み、765プロ最後のステージが始まる。ここからはノンストップ、最後まで突き進んでいけ!

伊織「24時間生っすか!? もちろんみんな見たわよねー!!」

『――!』

 歓声が答えを示す。

亜美「うむ、見てない兄C、姉Cがいたら、どうしようかと思ったよ!」

あずさ「竜宮小町はあの時限りと思いましたか?」

律子「って私も行くのよね……。竜宮小町は永遠に、不滅よ!!」

 ステージの照明は水をイメージしたかのような青色になり、スモークが焚かれる。

律子『浦島太郎になった気分よ……』

 402便が帰って来た日、律子はそう言っていた。10年をスキップしてきたんだ、まるで玉手箱を開けたかのような感覚に陥ったんだろうな。でも今ステージにいるのは、お爺ちゃんになった浦島太郎なんかではなく、竜宮城のお姫様たちだ。
478 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/04(月) 23:57:39.30 ID:d0EdWEug0
春香「竜宮小町のみんな、お疲れ様―!!」

 竜宮ステージが終わると、アイドル達がステージへと昇っていく。13人は横に一列に並ぶと、社長がステージに……。

P「え?」

小鳥「これは一体……。まさか手品を!?」

 理解の落ち着かない俺たちをしり目に、社長はマイクを持つ。

社長「えー、コホンコホン。まるで校長先生になった気分だ。これより、765プロ卒業式を始める!」

P「そ、卒業式!?」

 会場も何事かとざわめき出す。アイドル達を見に来たのに、行き成り黒いおっさんが現れて、卒業式とか言ったら誰だって驚く。

 しかしアイドル達は分かっているのか、402便に乗っていたアイドルが一歩前に出る。

社長「君たちは今日が引退ライブになるからね。最後は、私から卒業証書を渡そう。秋月律子君」

律子「はい」

社長「事務員兼アイドル、そしてプロデューサーとしてわが社に貢献してくれた。君がいなければ、765プロは始まることすら出来なかっただろう。天海春香君」

春香「はい!」

社長「いつもみんなを引っ張り、太陽のように眩しくみんなを笑顔にしてきたね。そのリボン、良く似合っているよ。我那覇響君」

響「はい!」

社長「沖縄から単身やって来て、不安なことが多かっただろう。でも君はなんくるないさーの一言で、いつも頑張って来た。ここで得た仲間は、最高のものだと思うよ。菊地真君」

真「はい!」

社長「君の望んでいたアイドルとはかけ離れたものを求めてしまって、申し訳なく思うよ。大丈夫だ、君の可愛さは私たちも知っているし、ファンのみんなも理解しているよ。高槻やよい君」

やよい「はい!」

社長「家族のために、良く頑張って来たね。君がいるだけで、事務所の空気は優しく包まれていたよ。みんなを幸せにした君に、私から○をあげよう。双海亜美君」

亜美「はいっ!」

社長「悪戯好きで、色々私もされたが……、事務所を盛り上げ続けてきてくれた。真美君と君のやり取りに、私も楽しませてもらったよ」
479 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/05(火) 00:07:03.50 ID:rq/KYf9c0
社長「以上6名を、今日この場を持って765プロを卒業したものとする! しかし、私たちと君たちの絆が消えるわけじゃない。大丈夫だ、神様がどうであれ、君たちは今を生きていくべきんだ。少なくとも、その権利はある。神様はサイコロを振らなくても、自分の運命を変えることは出来るのだから」

 社長の言葉を、会場は静かに聞き入る。

社長「では、最後の一瞬まで、楽しんでください」

 ファンのみんなに礼をする社長につられ、俺も礼をしてしまう。

春香「社長ー! ありがとうございましたー!!」

『ありがとうございましたー!!』

社長「ふむ、どうやら私は、素晴らしい人材たちを発掘してきたようだね……。ありがとう、みんな」

 拍手に送られながら、社長は舞台裏へと戻る。

P「社長、お疲れ様です」

小鳥「びっくりしましたよ、聞いてなかったし……」

社長「すまないね、言うのを忘れていたよ」

P「わ、忘れてたって……」

社長「しかしだ。私としても、彼女たちが引退出来なかったことを心残りにしてたからね。これで、私もゆっくりできそうだ……」

P「社長、ゆっくり休んでくださいね」

社長「ああ、そうするよ。さて、見届けようか。最後のステージを」
480 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/05(火) 00:20:25.08 ID:Ck0ALuJ30
千早「過ぎた時間は戻りません」

美希「どれだけ後悔しても」

雪歩「無かったことには出来ません」

響「前を向いて生きて行かなきゃいけないから」

やよい「素敵な思い出も」

律子「苦い思い出も」

あずさ「いつかは懐かしく思う時が来るのでしょうか」

真「その時、あの頃のままでいれるのかな?」

貴音「でも案ずることはありません」

伊織「折れそうなとき、隣にいてくれるもの」

真美「手を伸ばせばそこにいて」

亜美「馬鹿みたいに笑い合って」

春香「みんなとなら、どんな出来事も最高の思い出に変わる。だって私たちは」

『ずっと…でしょう?』
481 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/05(火) 00:29:01.16 ID:Ck0ALuJ30
 最高のライブは、最高アイドルから生まれる。俺は彼女たちをプロデュースしてきたことを、死ぬまで誇りに思うだろう。

貴音「では、私は行くとしましょうか」

P「行くって、どこに」

貴音「奇跡をおこしに、です」

伊織「貴音―! 用意したわよ!!」

貴音「ありがとうございます、ではわたくしはこれで。また会う日まで……」

 貴音はヘリコプターに乗り、西の方へと飛んでいく。何をするかは分からない、でも彼女なりに現象に蹴りをつけに行くのだろう。兵隊のように、敬礼をして見送る。

春香「プロデューサーさん! 何やってるんですか!」

P「のわっ! お疲れ様、春香」

春香「お疲れ様です! ってわぁ!」

 不意に後ろから春香に抱き付かれ、バランスを崩しこけてしまう。

P「どんがらするなら巻き込まないでくれ!」

春香「す、すみません……」

P「ふぅ、さてと。行くか」

春香「はい! 私を目一杯楽しませてくださいね!」
482 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/05(火) 00:40:41.34 ID:Ck0ALuJ30
 俺達は残された時間を遊びほうけた。遊園地に入って、年甲斐になくジェットコースターにはしゃいだり、お化け屋敷にビビったり。アイドルとプロデューサーではなく、年の離れたカップルとしての時間を満喫する。

P「みんな今頃、何してるんだろうな……」

春香「あー、今私以外の女の子のこと考えましたね!」

P「そ、そういうのじゃないぞ! ただ俺はみんなが……」

春香「あははっ! 冗談ですよ! そうですねー、みんな何してるか気になりますね。やよいは家族でもやし祭りじゃないですか? 伊織も呼んで。あっ、もしかしたら千早ちゃんも強引に行ってるかも」

P「らしいな。もしかしたら、今日は贅沢してるかもしれないぞ? 真は雪歩と一緒なのかな?」

春香「じゃないですか? それに美希も付いて行ってそうですけどね。響ちゃんはあずささん夫婦と過ごしてそうですね。兄夫婦ですし」

P「亜美と真美は一緒に悪戯祭りかな。真美は無理やりって感じだろうけど。律子は涼君たちと最後を過ごしてるんじゃないかな? 貴音は……、サイコロを振りに行ったよ」

春香「なんだ、みんな最後は楽しい思い出が欲しいんですね。だったら私たちが一番楽しんじゃいましょうよ!」

P「春香らしい論理だな。じゃあ全アトラクション制覇するか!!」

春香「はいっ!!」

 こんなに遊園地って楽しかったけ? ああ、そうだな。春香と一緒だから楽しいんだな。

春香「ほらほら! 次はあそこに行きましょうよ!」

P「ぜぇ……、ぜぇ……。体が追い付かない……」
483 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/05(火) 00:50:04.91 ID:w/TSPtw/0
春香「あー! 楽しみました!」

P「おかげでこっちはくったくただぞ……」

 時計を見るとかなり長く遊んでいたようだ。期限の時刻の0時まで後、1時間もない。もうすぐ、魔法が解けてしまう。だから解ける前に、彼女に伝えたかった。渡したかった。ドーナツに似た絆を。

P「なあ春香、最後に観覧車に乗らないか?」

春香「そうですね、ここ日が過ぎるまで回ってるんですね。ムード期待してますからね」

P「ああ、最高のムードを作ってやるよ。約束する」

 俺達は手を繋ぎ合い、観覧車へと乗り込む。ガコンガコンと音を立て、頂上へと行く。

春香「わぁ……、凄く綺麗です!」

P「俺たちの住んでる町が、こんなに小さく見えるんだな」

春香「あっ、あれ愛ちゃんですよ! 走ってますね!」

P「み、見えるのか!?」

春香「冗談ですよ、冗談!」

 テッペンに向かうにつれて、口数は減っていく。そして頂上に着いた時、事件は起きる。

春香「きゃあ!」

P「な、なんだ!?」

 時計なら0時をしめす場所で、観覧車は止まってしまう。
484 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/05(火) 00:56:26.09 ID:w/TSPtw/0
アナウンス『――』

春香「こ、故障……」

P「大丈夫か、春香?」

春香「はい……、高いところ嫌いじゃないですし。でもこのタイミングで止まるなんて空気が読めてませんね! KYですよ、KY! KAんらんSYAでKYですよ!」

P「む、無理がないかそれ……」

 思わず突っ込んでしまうが、俺にとってはむしろ好都合だった。

春香「時間もないのに……」

P「なあ、春香。隣座るぞ」

春香「は、はい」

 不安定な観覧車の中、立ち上がって春香の隣に座る。少し揺れたが、春香はさほど怖がっていないようだ。

P「その……、なんというんだろうか。このタイミングで渡すことになってしまうが……、春香」

春香「な、なんでしょうか? キス、ですか?」

P「いや、それよりも凄いものだよ。これを、受け取って欲しいんだ」

 ポケットから小さな箱を取り出し、春香に渡す。

春香「これって……」

P「開けてみてくれ」

春香「……はい」
485 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/05(火) 01:04:36.09 ID:kpOWQhYp0
 察してくれたのかな? 春香は震える手で、箱を開ける。

春香「指輪……」

P「ああ、給料3か月分の銀色ドーナツさ。春香、意味は分かるな」

春香「……いいえ、分かりません。ですから、あなたの口から聞かせてください」

P「うっ……」

 当然の反応だ。何まごまごしてんだよ俺! ええい、ままよ!

P「春香! 俺と結婚してほしい。残された時間が少なくても、俺はお前といたいんだ。もし春香が過去に帰って、俺と別の俺と結ばれることになっても、俺は春香と結婚したいんだ!!」

 一世一代の告白。人生でこんなに恥ずかしくて、緊張したことはあっただろうか? そして……、

春香「遅いですよ……、馬鹿」

P「ああ、馬鹿だよ。こんな切羽詰らないと、行動に移せないぐらいのヘタレだからな」

春香「本当に、仕方ないですね。でも嬉しいです。だって私の夢、1つ叶っちゃいましたから」

P「春香!!」

 細く綺麗な指に、銀色の指輪が光る。神父様も、参列者もいない。ブーケもないし、神様は祝福する気なんてない。だけど、こんなに幸せなことは今まであっただろうか?

ガコン!

 空気を読んだように、観覧車は動き出した。
486 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/05(火) 01:14:51.92 ID:kpOWQhYp0
春香「えへへ……、私幸せです。プロデューサーさんのお嫁さんになれたんですから」

P「俺も幸せだ、なんたってこんなに可愛いお嫁さんが、俺のことを好きって言ってくれるんだから」

 誰も見ていない観覧車の中、今まで以上に愛の言葉を交わし合う。誰かが見ていたら恥ずかしいけど、観覧車には俺達しかいない。だから何やっても良いよな? 残された時間はもうない、互いに消えてしまわないように、存在を確かめ合う。

春香「んっ……、優しいキスですね」

P「今のは誓いのキスだよ」

春香「もう……。でも折角なら、教会でしたいと思いません?」

P「なら今から行くか?」

春香「ううん、十分ですよ。あずささんじゃないですけど、私も運命の人、見つけちゃいましたし。もう未練も何もありません。もうすぐ、私は消えちゃうんですね……。やっぱり実感が湧かないなぁ」

P「大丈夫だ、消えなんかしないさ。貴音が運命を……」

春香「良いんですよ。10年分、幸せな日々を過ごせました。もう満足です、だからプロデューサーさん」

P「春香……」

 やめてくれ……、その続きは聞きたくないんだ……。

春香「次好きになる人も、幸せにしてあげてくださいね」

 俺が好きなるのは、春香だけなんだ!!

春香「大好きでした、プロデューサーさん」

3、2、1

P「春香ー!!」

8月28日、0時。
487 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/05(火) 01:17:19.74 ID:Ck0ALuJ30
キリがいいので、今夜の投下はここまで。明日、最後の投下になると思います。読んでくださった方、ありがとうございました。ではまた明日。
488 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2012/06/05(火) 01:17:57.96 ID:2lAqXvoko
いよいよか、乙
489 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/06/05(火) 01:20:53.06 ID:lkkFwnv2o

ここ最近は速報のいくつかのアイマスSSが立て続けに完結してるから寂しいな
490 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(西日本) [sage]:2012/06/05(火) 02:20:19.54 ID:c3l52L6+o
どうなるか気になるな
乙っすか!?
491 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/06/05(火) 07:42:24.87 ID:+HgsWBHdo
乙です
対にクライマックスか…
原作通りなのかそれとも改変するか期待です…
492 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/05(火) 17:57:53.32 ID:LFGUYlNSo
やっぱりここで引くよな…
明日が待ちきれん とりあえず、乙

493 :投下します [saga]:2012/06/05(火) 23:43:40.11 ID:w/TSPtw/0
P「あれ? 俺何してんだ?」

 ハッと気づく。今の今まで、夢を見ていたような……。ダメだ、思い出せない。きっとそこまで大切なものでもないのだろう。

??「もう、デートに誘ったのは貴方じゃないですか。○○さん!」

P「え? あ、ああ。そうだったな……。なんで忘れてたんだ?」

 気付くと観覧車に乗っていた。隣には、最愛の妻が寄り添っている。ああ、思い出してきたぞ。久しぶりのオフで、妻と一緒に遊園地で遊んでいたんだっけ。いい歳して日付が変わるまで遊んでいたとは、2日後くらいに筋肉痛がやってくるんだろうな……。

??「まだ物忘れが激しくなる歳じゃないんですから、しっかりしてくださいよね。遊び疲れちゃいました?」

P「そうかもな……。悪いな、春香」

春香「いえいえ! いつも忙しいんだし、今日も無理を言って休んでもらったんですから。私こそ、子供みたいにはしゃいじゃって。そんな歳でもないんですけどね」

 四捨五入すると30というのに、俺の妻は出会った頃と変わらぬ可愛さを持っている。流石にトレードマークのリボンはつけていないけど。きっとお婆ちゃんになっても、可愛いお婆ちゃんになるんだろうな。なんてったってアイドルだったんだから。

??『プロデューサーさん!』

P「え?」

春香「どうかしました?」

P「いや、今俺のこと呼んだか? プロデューサーさんっ、て」

 違う、頭の中で直接呼ばれたような……。

春香「へ? 呼んでませんよ。にしても懐かしいですね、プロデューサーさんって。昔はそう呼んでましたね。あの時は名前を知りませんでしたし」

 違いますよと言わんばかりに手を振ると、春香は懐かしそうに1人頷いている。
494 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/05(火) 23:47:46.88 ID:kpOWQhYp0
P「何でだ……?」

 少しの違和感を抱いたまま、観覧車は地上に降りる。俺たちは手を取り合い、桜並木の下を歩く。2人の手には、銀色に光る指輪……。

??『次好きになる人も、幸せにしてあげてくださいね』

P「また……、だ……」

春香「あ、あのー。○○さん、大丈夫ですか?」

 頭の中で、また声が聞こえる。知っている声だ。なのにどうしてだろう、何かが違う。とても懐かしく、愛おしいような。忘れてしまっては、いけないはずなのに……。

P「は、春香……?」

春香「はい、なんですか?」

?香『大好きでした』

P「憶えている……」

春香「○○さん?」

P「大切な人のことを……、世界一好きな女の子とのことを……」
495 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/06/05(火) 23:52:44.89 ID:dU5Y6SWYo
世界線変動率が変わった!!
496 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/05(火) 23:55:09.38 ID:kpOWQhYp0
 ハッキリと声は聞こえる。そして俺の記憶が彼女を形作っていく。おっちょこちょいで、何もないところでこけて、誰よりも真っ直ぐで、その癖結構打たれ弱い、最高のアイドル。そして俺の……、

春香『プロデューサーさん』

P「春香!!」

 最高のパートナー!!

春香「きゃっ!」

P「思い出した! 思い出したんだ!! 俺が好きなのは、10年前からやってきた春香なんだ! 俺の記憶が塗り替えられても、心がちゃんと憶えている! 忘れることなんかできるものか!!」

 なりふり構わず抱きしめる。どうしてこんな大切なことを忘れていたんだ俺は! 気がふれたと思われても良かった。腕の中の彼女を失わないのであれば、地位も財産も、何を投げ出してもよかった。幸せに塗りつぶされた記憶でさえ、俺には必要なかった。

P「憶えているさ! 402便の奇跡、24時間生っすか!?も、 サヨナラライブも!! 何なら今ここで思い出を語っても良い! 再現してやっても良い!!」

 10年間の記憶が、息を吹き返し、俺を満たしていく。辛いこと、嬉しかったこと。その全てが俺を構成する。だけど、1つだけピースが足りない。目の前にあるのに、もう少しで届きそうなのに。

春香「い、いきなり何……。○○さん……、どうして泣いているんですか?」

 言われて気付いた。目から一筋の涙が流れ落ちた。だけど俺の瞳に映る彼女も、同じなんだよ。

P「そういう春香、お前もだぞ?」
497 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/05(火) 23:59:52.38 ID:w/TSPtw/0
春香「そ、それは○○さんが泣いているから……、あれ? どうしてだろう……。何かすごく大切なもの、忘れてんっ」

 重なり合う唇。触れ合うだけの優しいキスに、春香は顔を赤らめる。

春香「な、何するんですか! プロデューサー……さん……」

 名前ではなく、プロデューサーさん。数分聞いていなかっただけなのに、凄く懐かしく感じる。

P「思い出したか?」

春香「はい……、全部思い出しました」

 俺は王子様なんかでもないし、目の前の彼女はお姫様なんかじゃない。だけど幸せなキスは、忘却の魔法を解いたんだ。

春香「何でだろう……、忘れていたなんて。私、幸せです。だけど、少し悔しいです。知らないうちに結婚してたなんて」

P「そんなもの、何度でもすればいいさ。何度でも誓ってやるんだ、神様がうんざりするぐらいな」

春香「もう、それじゃあ私たちが何回も離婚したみたいじゃないですか!」

P「言っておくが、離婚する気はないぞ? というより、離す気がない!!」

春香「その前に、婚姻届書いてないですよ?」

P「それもそうだな」

 目と目が合い、笑いあう。ああ、ようやく終わったんだな。
498 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/06(水) 00:02:41.20 ID:ISRx8WDV0
春香「えっと、こういう時どう言えば良いんだろ?」

P「真っ先に頭に浮かんだ言葉を言えばいいんだよ、俺もそうする」

 決まっているさ、帰ってきたらこう返すんだから。

春香「じゃ、じゃあ! これだけは言わせてください。ただいま帰りました! プロデューサーさん!!」

P「お帰り! 春香!!」

 俺たちはもう2度と離れないように、強く抱きしめあう。俺たちは勝ったんだ。神はサイコロを振らない。だけど俺たちは、運命を変えることが出来たんだ。

 重なる2人の上を、飛行機が祝福するように飛んでいく。
499 :エピローグ [saga]:2012/06/06(水) 00:04:40.75 ID:ISRx8WDV0
貴音「まこと、人間というのは分からないものですね。分野が違うとはいえ、わたくしも学者の端くれです。興味は尽きません。解剖してよろしいでしょうか?」

P「おいおい、こっちは今味噌ラーメン食べてるんだ、そういう話はやめてくれ」

貴音「ふふっ、冗談ですよ」

P「お前が言うと、冗談に聞こえないんだって」

 激動の9日間の後、ラーメンをすすりながら貴音はこう語った。

貴音「どうしようもない現象を前にしても、わたくしたちは諦めませんでした。奇跡が起きて、事故がなかったことになっても、記録から無くなっていても、わたくしたちの心だけは憶えていました。長い長い10年間を、そして奇跡の9日間を」

P「だから俺たちは、ここにいるのか」

貴音「ええ。奇跡は神が気まぐれに起こすものではなく、人の手によって作られるのですね」

 消失の運命は、変えられたのだ。あの後、どうやって変えたんだと貴音に聞いても、

貴音「それは、とっぷしぃくれっとです」

 と答えてくれない。まぁ奇跡なんて、タネがないから奇跡なんだ。知ってしまったら、それは予定調和だな。
500 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/06(水) 00:08:32.92 ID:CiXczZLD0
P「しかし、変な気分だよ。10年間の記憶が2つもあるんだ。どっちが本物で、どっちが妄想か。ごっちゃになっちゃうな」

貴音「いいえ。妄想などではありませんよ。正真正銘、どちらもあなた様の記憶なのです」

P「言われてもなぁ……」

貴音「これは、ある種の集団催眠と言えるかもしれませんね」

 402便の事故が無くなったため、俺たちは春香たちが消失しなかった世界の記憶を与えられた。それは俺たちだけじゃない、すべての人間がそうだ。俺たちは知っているから、記憶を取り戻したけど、周りのみんなはそれに疑いも持たず、毎日を生きている。もしかしたら、俺たちが気付いていないだけで、今日もどこかで世界が変革しているのかもしれない。

 例えば、24時間生っすか!? も、765プロサヨナラライブも、記録になんかない。テレビ欄を見ると、いつも通りのプログラムが組まれていたし、765プロのアイドルたちは、10年前に引退していた。9日間のイレギュラーは、全て消されたのだ。だけど、俺たちは覚えている。アイドルたちや関係者たちだけじゃない、見ていた人も完全に忘れたわけじゃない。事務所に質問の電話が殺到したと、小鳥さんと美希が嘆いていたっけか。

貴音「事実を変えることが出来ても、人の心の奥底までは変えることが出来ない。まるで宗教とは逆ですね。しかし、神というのは私たちが作り上げた偶像に過ぎません。こう言うと、有神論者に叱られそうですが」

P「神は死んだってニーチェは言ってたぞ」

貴音「死んでなどいません、最初からいないんですよ。私たちが信じない限りは」

P「違いないな」

貴音「では、わたくしはカレッジに戻るとしましょう。学生たちの課題を評価しなければいけませんので。あなた様と春香の結婚式に参加できず、申し訳ございません。その代わりと言ってはなんですが、祝電を送らせていただきます。ご馳走様でした、ではまたどこかで」

P「ああ、じゃあな。貴音! ありがとう!」

 貴音は軽く会釈をして、空港へと行く。またいつか会える日まで――。
501 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/06(水) 00:13:06.59 ID:CwoJQmVs0
響「ふぅ。ハム蔵見てるか? ジュニアは元気に育っているぞ」

 あの日何が起きたか分からなかったんだ。あずささんとにぃにぃといると、急に変な感じになって、大切なことを忘れて……。だけどすぐに思い出せた。やっぱり自分完璧だから、忘れなんかしないぞ!

 だけど、悲しいこともあった。事故がなくなったから、ハム蔵の寿命が来ていた。思い出した自分の肩には、ハム蔵の子供が。ハムスターの寿命は長くない、知らないうちに天寿を全うしていたんだ。

響「ゴメンなハム蔵……、最期にいてやれなくて……」

 自分とは別の自分、何を言っているかよく分からないけど、とにかくハム蔵の最期を看取れなかったのは悲しいな。

あずさ「あら、響ちゃん。ハム蔵ちゃんのお墓参り?」

響「あっ、あずささん! うん、最後のあいさつ出来なかったからな」

 悲しいことだけじゃない、にぃにぃとあずささんはやっぱり結婚して、可愛い子供がいた。やっぱり、事故が起きたからじゃなくて、最初から2人は運命の人同士だったんだ。それがとても嬉しかった。

響「あずささん、ねぇねぇって呼んでいいかな?」

あずさ「うふふ、良いわよ?」

響「ありがとう。ねぇねぇ!」

あずさ「なにかしら?」

響「呼んでみただけだぞ!」

 家族を亡くし、10年間を奪われた。だけど新しい家族が生まれた。それだけで今は十分なんだ。
502 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/06/06(水) 00:18:19.74 ID:d8BfcLCf0
ああ、これが最後か。
503 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/06(水) 00:23:11.59 ID:ISRx8WDV0
亜美「分かんないよー!」

真美「はぁ……、どこから復習すればいいのやら」

 見た目は大人、ずのーは子供! その名は、双海亜美! って何言わせんのさ! いまだにちょっと変な感じがする。亜美と真美は同じ歳なのに、少し前まで10歳も差があったんだ。真美は大人になって、亜美は子供のまま。で、気づいたら浦島太郎みたいに年取っちゃった。いつの間にか中学も高校も卒業して、真美と同じ医大に通っている。事故の記憶と一緒に。

亜美「なんつーかさ、素直にハッピーって言えないよね」

真美「10年間は戻らないもんね」

亜美「亜美の過ごしてきた10年と、真美の過ごしてきた10年は全然違うじゃんか。亜美には真美がいたけど、真美はぼっちだったんだし」

真美「ぼ、ぼっちって……」

 そー考えたら、神様は意地悪な存在なんだね。あれかな? お地蔵さんに落書きしたの、まだ怒ってるのかな?

亜美「でもさ、これからは1人じゃないし。10年なんか、すぐに取り戻せるって!」

真美「はぁ……、やっぱり亜美に付き合ってかなきゃいけないのかな……」

亜美「だって私たち、仲間だもんげ!」

真美「よーし、仲間なら、甘やかしちゃだめだよね。課題ひとりでやりなよ?」

亜美「そ、それだけはご勘弁をー!!」

 騒がしくも、愉快な毎日が亜美たちを待っているYO! それと、苦役の日々も。トホホ……。
504 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/06(水) 00:31:07.25 ID:CiXczZLD0
伊織「にしてもなんだったのかしらね、あの9日間は。ねえ、これどれだけ作ればいいの?」

やよい「無くなるまでだよー!」

長介「って伊織さん、包むの下手だよね。折鶴折れない人?」

伊織「う、うるさい! 折鶴ぐらい、5mmの誤差もなく折れるわよ!」

長介「いや、それ結構な誤差だよ?」

高槻「ただいまー、帰ってきたぞー!」

やよい「あっ、お父さん! お帰りなさーい!!」

高槻「ふぅ、なかなか堪えるな……」

長介「ったく、これを機に定職についてくれよな?」

高槻「は、はは……。善処する」

 家族みんな揃って笑います。お父さんは新しく仕事を見つけ、みんなのために働いています。本も出なくて、お父さんとお母さんは離婚することもなくなりました。だけど、皆がバラバラになった記憶は残っています。だからかな? みんながすっごく仲が良いのは。辛い時も、悲しい時も家族が一緒なら負ける気がしません!

やよい「用意できたから始めるよー! ほら、伊織ちゃんも座って座って!

伊織「急かさなくても座るわよ!」

長介「あっ、こら親父勝手に食うんじゃねえよ!」

高槻「お父さんは最初に食べれるんだよ!」

長介「なら俺は長男だっての!!」

伊織「はぁ、男って奴は……」

やよい「お父さんと長介、仲良しで嬉しいです!」

 これからも、ずっと一緒です!!
505 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/06(水) 00:41:33.70 ID:CwoJQmVs0
律子「涼、お疲れ様」

涼「ん? どうしたの、律子姉ちゃん」

律子「遺族会、解散したんでしょ?」

涼「あっ、うん。といっても、元々ないんだけどね。事故自体が無くなっちゃったから」

 涼が自嘲気味に笑う。こいつが10年間頑張ってきたことは、一晩の奇跡ですべて消えてしまった。残っているのは、思い出だけ。それはとても虚しいことだ。

涼「でもみんな憶えているんだ。傍から見たら傷を舐め合っているように見えるかもしれないよ? だけど僕たちは必死だった。特に甲斐さんと黛さんには感謝してもし足りないや。黛さん、幸せになって欲しいな」

律子「甲斐さん、黛さんって……。あの尾美としなりと小林聡美に似た人ね。甲斐さんは仲人もしてくれたんでしょ?」

涼「お、尾美としなりと小林聡美って……。いや似てるけどさ」

律子「まぁ何でもいいわね。無かったことになっても、あなたたちの活動はちゃんと記憶に残っている。世界中が褒めなくても、私たちぐらいは褒めてあげるわ」

涼「私たち?」

夢子「そっ、お疲れ様、涼」

涼「ううん。こっちこそありがとう。夢子ちゃんがいなかったら、僕はきっと立っていられなかったから……」

夢子「涼……」

涼「夢子……」

律子「……さて、律子姉ちゃんは退散しましょうかね」

 これから先は若い二人の時間だ。2人とも、私がいなくてもやっていけるんだ。

律子「次は誰をプロデュースしようかしら?」
506 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/06(水) 00:44:52.76 ID:CwoJQmVs0
真「はぁ……、結構きついね、事務仕事」

雪歩「小鳥さんの苦労が分かった気がします……」

美希「まだまだあるよ? 休憩する?」

真「まだ大丈夫、なんか仕事してないと、落ち着かないしさ」

 ボクは765プロの職員になっていたらしい。らしいというのは、実際にそう体験したわけじゃなくて、いつの間にかそうなっていたってこと。事故がなくなった代わりに、ボクたちは10年間の別の記憶を持って帰ってきた。その記憶では、引退ライブで女の子らしい服を着て、会場をまっこまこにしていたんだ。

真「惜しいことしたのかな……」

小鳥「お疲れ様。ごめんなさいね、雪歩ちゃんも手伝わせちゃって」

雪歩「いいえ、次の作品のプロットは考えてますし、締め切りまで余裕がありますから。それに、こうやってみんなといる方が、やる気出るんです。こういうの、情熱って言うんでしょうか?」

真「違いないね」

美希「今の雪歩の方が好きだな。新作って、あの事故のこと書くんでしょ?」

雪歩「うん。みんなの記憶から消えちゃわないように、創作って形だけど、いつまでも憶えていて欲しいことだから」

 やさぐれかけていた雪歩は消えて、生きがいを見つけたように、きらきらと輝いている。30近いだなんて言っても、誰も信じないだろうな。

小鳥「良いわね……、キラキラしてて。どうせ私なんかゾンビ鳥ですよ……」

真「だ、大丈夫ですって! 男の人は皆、小鳥さんの魅力に気づいていないだけですよ!」

雪歩「でも私たち、誰も彼氏いないもんね」

美希「私はハニ、プロデューサー一筋だったもん」

小鳥「よし! 合コンするわよ!! 涼君かジュピターのつてを使って、彼氏をゲットするわよ!!」

真「小鳥さん、落ち着いてください!!」

社長「はは……、仲良きことは美しき、かなぁ?」

 奇跡なんかなくても、ボク達の毎日は、輝いているんだ。
507 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/06(水) 00:46:44.51 ID:CwoJQmVs0
千早「渋谷さん、今の良かったわよ」

凛「ありがとうございます!!」

春香「千早ちゃん、熱血指導だね!」

千早「あっ、春香。どうしたの?」

春香「えーと、プロデューサーさんにお弁当を持ってきたんだけど、レッスン場にはいないんだね」

 お弁当という言葉に反応してか、アイドルの皆はキャーキャーと騒ぐ。

凛「春香さん、困ってるじゃん」

みく「まーまー、あのプロデューサーちゃんも愛されてるなぁって思うと、にやけてくるにゃ」

李衣菜「愛妻弁当ですか、ロックですね」

幸子「多田さん、ロックしか言えないんですか?」

きらり「ラブラブベントーだねっ!」

杏「おやすみー」

かな子「愛妻弁当……、美味しいのかな」

法子「ドーナツは入ってるかな?」

楓「愛妻弁当に、愛のサイン……」

莉嘉「ヒューヒュ−! ヒューヒュー!!」

卯月「愛妻弁当……、だと……」

蘭子「愚者の羨望と憧憬の果てにして常世全ての怨嗟の果てに爆ぜろ(リア充爆発しろ)」

春香「あ、あはは」
508 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/06(水) 00:50:22.94 ID:CwoJQmVs0
 個性的な次世代アイドルたちに冷やかされ、恥ずかしくなってきた。

千早「プロデューサーなら、そろそろ戻ってくるんじゃないかしら?」

P「悪い、少し貴音と話していてな。これ、差し入れ……。って春香?」

春香「はい、あなたの春香です!」

 千早ちゃんが言うように、プロデューサーさんがドーナツ両手にやってきました。

春香「プロデューサーさん、はい。忘れ物ですよ?」

P「忘れ物? って急いでたから、弁当忘れたのか。ありがとうな、春香。いつも作ってくれて」

春香「えへへ。好きな人に作るんですから、いくらでも作っちゃいますよ」

 人目も気にせずいちゃついちゃいます。今まで出来なかった分、取り返さないと!!

卯月「も、もうだめぽ……」

凛「卯月ー!」

春香「勝手にキスしたお返しです!!ベー!」

P「なんか所有物みたいな言い方だな、それ……」

 真っ白になっている卯月ちゃんにあっかんべーをする。プロデューサーさんの周りには、魅力的な女の子がいっぱいだ。そんな中私を選んでくれたんだ。とても嬉しいし、いつまでも見てもらえるように、可愛い女の子であり続けなきゃ!

千早「ありがとうね、春香」

春香「ん? 何が?」

千早「約束、守ってくれて」

春香「当然だよ!」

 やっぱり千早ちゃんの笑顔は、可愛いな。
509 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/06(水) 00:52:45.84 ID:CiXczZLD0
P「ふぅ……、今日の活動終わりっと。帰るかな」

春香「プロデューサーさん! 一緒に帰りましょう!」

P「なんだ、待っててくれたのか?」

 アイドルたちを家に送り、俺も家に帰ろうとしていると、物陰からひょっこりと顔を出した。

P「なぁ春香」

春香「どうしました、プロデューサーさん?」

P「この世界じゃ、俺たちはすでに結婚しているんだよな」

春香「そうですね。お父さんとお母さんも、早く孫を見せなさいってうるさくて……。まだ事故のこと、思い出してないみたいですね。なんか思い出してほしくない気もします、娘が一度死んだなんて、信じたくないでしょうし」

 春香は溜息交じりに言う。よくよく考えると、ハッピーエンドというわけじゃない。失われた過去は返ってこない。春香だって学校の卒業式に出たかっただろうし、成人式にも出たかったと思う。そして結婚式は、もう行われている。たった1度のイベントすら、彼女は体験することが出来なかったんだ。だけど、これから出来ることもある。

P「でもなぁ……、俺きちんと挨拶出来てないしな。それに」

春香「それに?」

P「もう一度、結婚したいなって思って。今ここにいる俺と春香でさ」

春香「変な感覚でしょうね。離婚してないのに、2回結婚だなんて。普通じゃないですよ」

P「だけどその方が俺ららしいかな?」

春香「そうですね、私もウェディングドレス着たいですし! 善は急げ、今から準備しましょうよ! まずは式場を……」

P「ま、また急な話だな……」

 なんとなく涼君の気持ちが分かってきたぞ。また今度酒でも飲み交わそうか。ジュピターの面々も誘っても良いかな。
510 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/06(水) 00:56:55.34 ID:CwoJQmVs0
春香「急で結構ですよ! 残された時間はたっぷりありますけど、死ぬ時まで幸せでいたいじゃないですか! 私とプロデューサーさんなら出来ます!」

P「そうだな……」

 慌ただしい日々は息をひそめ、俺たちはまた日常へと戻る。どうあがいても、過ぎて行った10年間は戻ってこない。だけど今度は違う。最愛の人が隣にいるから。身を持って体験した記憶と、俺達じゃない俺達の記憶がせめぎ合っていても、これからは前にだけ進んでいける。サイコロを振っても、引き返すなんてコマはないんだ。この先何が待っているか分からない。だけど俺たちは素敵な未来を期待しているんだ。

P「春香」

春香「なんですか?」

P「これからも、俺の隣にいてくれるか?」

春香「もちろんです!!」

春香「だって私たちは、ずっと一緒でしょう?」

 止まっていた時間は、もう一度動き出した。
511 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/06(水) 00:58:12.10 ID:ISRx8WDV0
God does not play dice.by A.Einstein.
However, we play dice and we can change fate.by T.Shijo.
AND...Our story dose not finish.
512 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/06(水) 00:59:44.49 ID:H1nO4KZio

よかったよ
513 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2012/06/06(水) 01:00:53.15 ID:bqilcALvo
ついに終わってしまった……
乙!
514 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/06(水) 01:02:06.11 ID:ISRx8WDV0
終わりました!! 1つの物語でこれほどの長編を書いたのは初めてでした。おかげで矛盾がいくつも出ています。後程訂正点を探して修正していきたいと思います。一応原作やドラマとは違う終わり方になります。興味がおありの方は、DVDや小説をお求めください。途中投げ出しそうになりましたが、何とか最後まで書ききることが出来ました。読んでくださった方、レス下さった方には感謝してもし足りません。本当に、ありがとうございました。
515 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(西日本) [sage]:2012/06/06(水) 01:15:27.74 ID:Y8CEwW7Lo

楽しかったよ
516 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/06/06(水) 01:16:24.18 ID:Ey3fdSjTo

凄く面白かった、それだけしか言えない
517 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2012/06/06(水) 01:17:06.70 ID:7oWkimWlo
乙!大作だったな ハッピーエンドでよかったよかった
518 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/06(水) 01:59:21.53 ID:n7hvjajlo
>>511
>AND...Our story dose not finish.
Furthermoreのほうがすきかなぁ

こうあるくらいだからここからつづくんですよね(野暮)
519 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2012/06/06(水) 02:27:11.96 ID:cR1eSvqAO
惜しみない乙を!
まじで面白かった。本当にありがとう!
520 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/06/06(水) 07:24:11.53 ID:Opl1QVxvo
乙です
こんなストーリーを上手くハッピーエンドにもっていってて感動でした
521 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/06(水) 13:21:32.67 ID:ISRx8WDV0
1です。たくさんの感想、ありがとうございます。このスレは訂正等もしたいので、もう少しだけ残しておきます。それとですが、>>278に関して言うと元ネタと言うよりも、近しいポジションを持った登場人物は、

P、雪歩→黛ヤス子(小林聡美)… 東洋航空地上勤務・現在402便乗客のケア係

涼→甲斐陽介(尾美としのり)…遺族会会長

貴音→加藤久彦(大杉漣)…物理学者 402便が再び現れることを予告した人

真→竹林亜紀(ともさかりえ)…ヤス子の親友

春香→木内哲也(山本太郎)…ヤス子の恋人

『乗客たち』
亜美→お笑い芸人を目指していた中武昇子(明星真由美)、真美→浜砂柚子(市川実和子)とコンビ。

貴音→物理学専攻の大学生・甲斐航星(中村友也)

律子、響→小学校教員の神蔵竜蔵(ベンガル)・栄子(大川栄子)

あずさ、我那覇兄→弘美(遠山景織子)

やよい→天才ピアニスト少女・後藤瑠璃子(成海璃子)、1人旅の少年・黒木亮(小清水一揮)

って所ですね。ドラマが結構古いので、思い出しながらとドラマ感想サイトを参考にしました。最初は小鳥さんを主役にしようと考えましたが、紆余曲折あってPをメインにしました。モバマス勢を出し過ぎて収拾がつかなくなったり、中盤冗長になってしまいましたね。次回はそこ直していきます。

さて、次は何を書こうか……。
522 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/06/06(水) 16:23:33.29 ID:d8BfcLCf0
終わったか・・・
乙でした。おもしろかったよ、掛け値なしに
523 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(西日本) [sage]:2012/06/06(水) 16:24:22.97 ID:Y8CEwW7Lo
響メイン待ってます!
524 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/06(水) 16:33:14.49 ID:EJ68db9j0
乙、最近の一番の楽しみが終わってしまった
惜しみない最大の乙を
525 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/06/06(水) 18:17:24.39 ID:d8BfcLCf0
律子メイン待ってます!
乙乙
526 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2012/06/07(木) 00:13:44.41 ID:c9pBsVqi0
乙!
面白かった
527 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長野県) [sage]:2012/06/07(木) 01:04:49.80 ID:1nVNV2pbo
乙です
ドラマ、途中で見るの止めちゃったな
原作図書館で借りて読むか
528 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/06/07(木) 18:31:04.97 ID:ZGjGPrsGo
響メイン待ってる!
529 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) :2012/06/07(木) 19:22:48.98 ID:Rs1sEI/4o
乙!
本当に面白かった
530 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/07(木) 22:21:27.41 ID:9RLXT2vSO

面白かった
531 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/08(金) 00:11:10.17 ID:eHSUxDAV0
1です。訂正箇所が多すぎるので、致命的な部分だけ。
>>28 でもボクの目を一番惹いたのは、かつて同い年だった雪歩だ。26歳というのに、守ってあげたくなるような可愛さは健在だ。きっとラフタイムスクールを着ても違和感はないだろうな。うらやましいや。

でもボクの目を一番惹いたのは、かつて同い年だった雪歩だ。28歳というのに、守ってあげたくなるような可愛さは健在だ。きっとラフタイムスクールを着ても違和感はないだろうな。うらやましいや。

>>29 雪歩「無理だよ。私もう26歳だよ? 四捨五入したら30だもん。もうあの頃みたいに輝くなんて出来ないよ。だから、真ちゃんが羨ましいな」

雪歩「無理だよ。私もう28歳だよ? 四捨五入したら30だもん。もうあの頃みたいに輝くなんて出来ないよ。だから、真ちゃんが羨ましいな」

>>36 同じベッドで寝るのもなんか気が引けて、ソファの上に横になる。恋人同士ではあったが、実は恋人らしいことをほとんどしていない。相手はトップアイドルだからうかつな行動がとれないのもあるが、相手は16歳の女の子だ。

同じベッドで寝るのもなんか気が引けて、ソファの上に横になる。恋人同士ではあったが、実は恋人らしいことをほとんどしていない。相手はトップアイドルだからうかつな行動がとれないのもあるが、相手は18歳の女の子だ。

>>38 「俺が会社に入ったのは、2011年。 東北地方太平洋沖地震が起き、それを元気づけるかのように子役たちが台頭してきて、俺はニンテンドー3DSが気になって、入社式はドッキリという形でお披露目、そのあとの社長との飲み会で多少なりともはじけたことは覚えてる。若かった! そして2021。

俺が会社に入ったのは、2011年。 東北地方太平洋沖地震が起き、それを元気づけるかのように子役たちが台頭してきて、俺はニンテンドー3DSが気になって、入社式はドッキリという形でお披露目、そのあとの社長との飲み会で多少なりともはじけたことは覚えてる。若かった! そして2022。

>>60 美希「けど変わることは決して悪いことではなくて、良い方向に転ぶことも有る。でもさね、私は奪っちゃったんだよ? 仕方ないって言ったら律子さん達に怒られそうだけど、春香は違った。本当に消えるべきは私だったのに……。私知ってるよ? プロデューサーが春香に指輪渡そうとしていたこと」

美希「けど変わることは決して悪いことではなくて、良い方向に転ぶことも有る。でもさ、私は奪っちゃったんだよ? 仕方ないって言ったら律子さん達に怒られそうだけど、春香は違った。本当に消えるべきは私だったのに……。私知ってるよ? プロデューサーが春香に指輪渡そうとしていたこと」

指輪、それは言ってしまえばエンゲージリング。あれだけ16歳だから――、なんてことを言ってたのに、実のところ俺は春香を手放したくなくて仕方がなかった

指輪、それは言ってしまえばエンゲージリング。あれだけ子供だから――、なんてことを言ってたのに、実のところ俺は春香を手放したくなくて仕方がなかった

>>152 音無小鳥オーバーフォーティー、威力は抜群だ。

音無小鳥アラウンドフォーティー、威力は抜群だ。

>>227 涼「やよいさんはきっとこう思いたいんじゃないでしょうか? 10年後に来て良かったと。仲間に、大好きな家族に会えてよかったと、今ここにいてよかったと。悲しいですが、僕達には分かりかねますが……。でも、やよいさんですから。きっと前向きにいますよ」

涼「やよいさんはきっとこう思いたいんじゃないでしょうか? 10年後に来て良かったと。仲間に、大好きな家族に会えてよかったと、今ここにいてよかったと。悲しいですが、僕達には分かりかねます。でも、やよいさんですから。きっと前向きにいますよ」

>>255 律子「ああ、ごめんなさいね。でもその前に、挨拶忘れてるんじゃない?」

 涼は

涼「あっ、ただいま」

律子「お帰りなさい」

律子「ああ、ごめんなさいね。でもその前に、挨拶忘れてるんじゃない?」

涼「あっ、ただいま」

律子「お帰りなさい」
532 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/08(金) 00:38:15.68 ID:eHSUxDAV0
>>353 伊織『40過ぎて、独り身をこじらした元アイドルよ。お付き合いしたいって人は、ぜひとも765プロに電話して頂戴ね。ニヒヒっ!』

伊織『40近くで、独り身をこじらした元アイドルよ。お付き合いしたいって人は、ぜひとも765プロに電話して頂戴ね。ニヒヒっ!』

>>372 涼『うへぇ、センスないよー』

亜美『うへぇ、センスないよー』

>>388 P「お前がいいなら良いんだけど……、明日大食い企画じゃなかったか? らぁめん探訪24、24店の店を2時間で回るってやつ」

P「お前がいいなら良いんだけど……、明日大食い企画じゃなかったか? らぁめん探訪24、24店のラーメンを2時間で食べきるってやつ」

まだあると思いますが、酷いと思ったのはこの当たりかと。こまめに見て行かないといけませんね。HTML化は、明日に出します。それと新スレを立てますので、またそちらもよろしくお願いします。
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