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貧乏神「私がメイドですかッ!?」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/01(火) 19:12:35.10 ID:BKntfQyDO
深夜、とあるアパートの押し入れの中。

?「今日もゴハンがおいしいです〜」

そこで、少女がもりもりと元気にゴハンを食べていた。
だが、そいつはただの少女ではない。
押し入れに積み重なっている色褪せた人形たちと同等の、30センチ未満の低身長。
目の下に不健康そうなクマを色濃く浮かべ、ぼろ布に穴を開けて頭から被っただけの、服とも呼べない服を着た姿。

?「ふんふ〜ん」

そして、ホコリまみれの場所でも居心地良さそうに笑顔を絶やさず、欠けた茶碗にゴハンをよそおい、足の折れたちゃぶ台の前で正座する、そんな異質な存在がただの少女のわけがない。

貧乏神「びんぼー、びんぼー、きんぐぼんび〜」

慎ましい量のゴハンをあっという間に食べ終わり、鼻歌まじりに頬に付いた米粒を指で摘んでペロリと食べる。
この少女こそ、ちまたで有名な貧乏神その人だった。

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全レスゾーンゼロ @ 2025/06/16(月) 17:23:39.88 ID:/JulHR0so
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【安価】上条「とある禁書目録で」鴻野江「仮面ライダー」【禁書】 @ 2025/06/09(月) 21:43:10.25 ID:qDlYab/50
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2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/01(火) 19:31:58.66 ID:BKntfQyDO
貧乏神「ふぅ。ゴハンも食べ終わりましたし、おやすみしますか」

貧乏神は1人でつぶやくと、大きなあくびをした。
が、そこに珍客が訪れる。

?「ちょいと待ちな!」

貧乏神「ふ、ふぁぁッ!?」

ガラッと、突然に押し入れのふすまが開いて、新たに少女が現れた。

?「おねんねはまだ早い……って、何を豆鉄砲食らったような顔をしてんだよ貧乏神?」

貧乏神「い、いきなり押し入れのふすまを開けて現れるからですよっ! 弁財天さん!」

貧乏神がむせながら言い返すと、貧乏神とは対照的に煌びやかな装束を身に纏った少女──弁財天はひらひらと手を振って答えた。

弁財天「あー、わりーわりー」

貧乏神「うぅ……誠意を感じません!」

弁財天「ごめんなさいー、無知で無能、おまけに『ひんぬー』な貧乏神さまー」

貧乏神「戦争ですね!? 受けて立ちますよっ!?」
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/01(火) 19:45:19.71 ID:BKntfQyDO
弁財天「まぁまぁ、冗談はこの程度にして……ほれ」

貧乏神よりもちょっとだけ身長の高い弁財天は、うなる貧乏神を押し留めるように左の手のひらを突き出しながら、右手で自分の豊満な胸の谷間から一枚の紙を取り出してみせた。

貧乏神「何です、これ?」

弁財天「読んでみ?」

貧乏神「えーと、『立ち退き命令書』?」

貧乏神は弁財天から渡された紙に目を走らせる。
……それからたっぷり30秒後。

貧乏神「……」

紙に書かれた文面を読み終えた貧乏神は不健康な色白の顔から血の気を引き、さらに不健康極まる蒼白へと顔色を変えていた。

弁財天「ま、そういうわけだ。悪いことは言わない、出ていきな」

貧乏神「い、イヤですーっ!」

貧乏神は精一杯の大声で拒絶した。
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/01(火) 20:08:05.91 ID:BKntfQyDO
貧乏神「そ、そもそもっ! なんで私が出ていかなければならないんですか!?」

弁財天「貧乏神なんだし、1つ場所に留まるなって事じゃないかなー?」

貧乏神「ここの部屋の住人さんは高齢のおじいさん1人です! 私がいてもいなくても年金しか収入が無いから影響がほとんど無いんですよ!」

弁財天「優しいなー、他人に不幸が行かない配慮かー」

バカにするような間延びした声を出しながら、しかし弁財天は少し表情を曇らせた。

弁財天「ここのじいさんの家、近々娘夫婦が住みに来るらしいんだわ。後ろ、手の込んだ人形あるっしょ?」

貧乏神「……う」

振り返らずとも、長年暮らした押し入れの様子は記憶している。
貧乏神の背後には、色褪せた、しかし今もおじいさんの手で念入りに補修され続けている人形の山がある。
それはあたかも家族の強い絆が途切れていない事を示しているようだった。

貧乏神「……う、うぅ」

弁財天「な? お前も幸せな家族が不幸になるのを見たくないだろ?」

貧乏神「な、ならせめて次の宿くらいは用意してください!」

弁財天「貧乏神の宿は貧乏神しかわからんよ、自分で探しな」

貧乏神「そ、そんなー」

にべもなく突っぱねられ、貧乏神は深くうなだれた。
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/01(火) 20:46:06.42 ID:BKntfQyDO
弁財天「よし、納得してくれたか!」

貧乏神「納得してません!」

弁財天「同じだよ、内容は説明してやったし、選択肢も1つしか残ってない、同じなんだよ」

そう言って、貧乏神は右手を上に伸ばす。
すると、弁財天を囲むようにスピーカーが出現し、ドスンドスンと重い音を出しながら次々に押し入れの中に落着し始める。

弁財天「じゃ、一曲ズドンと行きますか?」

そう言う弁財天の手にはいつの間にかエレキギターが握られていた。

貧乏神「ち、ちょっ!? 待って!」

弁財天「時間は貴重だぜー?」

弁財天はニヤリと笑うと大きく息を吸い、そしてエレキギターをけたたましく弾き始めた。

弁財天「聖歌! 絶唱ーっ!」

その瞬間、激しい音の洪水が堰を切ったように放たれた。
弁財天の指が弾く旋律はシールドを通ってアンプから怒濤の勢いで吐き出され、鼓膜を突き破るような乱暴的な勢いで押し入れを満たしていく。
さらに弁財天の唇が紡ぐ聖なる調べがその曲調に『ある指向性』を与えると、ただの音は術式へと性質を変えていった。

そして──

弁財天「術式完成! バイバイ貧乏ーっ!!」

貧乏神「ひ、ひえぇー!?」

ジャーンッ、と大きく掻き鳴らした音を最後に清浄なる結界が完成。
性質が負である貧乏神の霊体はアパートの壁を突き破って外界へと勢い良く弾き飛ばされた。
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage sage]:2012/05/01(火) 21:50:35.64 ID:BKntfQyDO
〜 街 〜

貧乏神「うぅ……」

トボトボと、ネオンきらめく街を裸足で歩いていく貧乏神だが霊体なので一般人には姿が見えない。
背中には所々が破れた風呂敷を大きく膨らませ、さらにその後ろには足がすべて折れてプラプラと揺れているちゃぶ台を背負っている。
お情けで家具だけは『投げて』返して貰えたが、結界を張られてはもう帰る事も出来なかった。

貧乏神「……あそこほど居心地のいい場所なんて」

貧乏神は歩きながらつぶやき、だがそれ以上は言わずに口を閉じる。

──ありすぎる。

現在は平成の大不況、困窮にあえぐ声は止まない。
貧乏人を見つけるのは容易く、そいつに着いていけば暗く淀んだ居心地の良い場所も腐るほど見つけられるだろう。
しかし、この貧乏神はそれにホイホイと甘んじるのが嫌だった。

貧乏神「……」

貧乏人と貧乏神は最高の相性、結ばれるして然りのパートナー。
だが、青色吐息の貧乏人にとって貧乏神に取り付かれるというのは、それすなわち死神に魅入られるのと同義である。
自分のせいで住人が首を括る、なんて考えたら、いくら貧乏神でも背中に寒気を覚えてしまう。

貧乏神「お金持ちも、小金持ちも、貧乏人も、自分たちが居続けたら最後は首を括る……か」

昔会った先輩がそんな事を言ってた気がして、貧乏神の気が滅入って来る。
貧乏神は頭を振って思考を無理矢理に切り替えた。

貧乏神「いや、年金とか生活保護とか、国家からの支援を受けている人……なら……」

意識の切り替えに失敗。
自分が死肉を漁る醜い怪物のように思えてしまい、それ以降は完全に閉口する。

そして、どれくらい歩いたか。

気が付けば、貧乏神は人気(ひとけ)の無い街の郊外へと辿り着いていた。
まるで、人々の目から逃れるように。
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/01(火) 22:19:32.34 ID:BKntfQyDO
貧乏神「……今日は野宿かな」

足は止めずにため息をつく。
ポツンと鼻先に水滴が落ちてきたのは、それと同時だった。

貧乏神「雨? やだなぁ……」

空を見上げると、深夜の空に曇天が広がっていた。
貧乏神はちゃぶ台を傘代わりに、背中から頭の上へと移動させる。

貧乏神「どこか雨宿りが出来る場所に行かないと」

しかし、今の貧乏神は誰かの家に入り込む気にはなれなかった。

貧乏神「……」

雨を逃れられる場所を探して辺りを見回す。
公園の屋根付きベンチと、木々が鬱蒼と生い茂る山が目に入る。
だが公園のベンチには先客が寝転んでいて使えない。
貧乏神はそれを見て取ると、すぐに山へと向かって走りだした。

だが、数分と立たずに雨足は強くなり、辺り一帯は滝の中にいるようなどしゃ降りの様相を呈して来た。

貧乏神「もうっ! 泣きたいのは私ですよ」

急に泣き出した空に唇を尖らせ、貧乏神はちゃぶ台を傘にして山の中を登って行った。
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga saga]:2012/05/01(火) 22:59:12.86 ID:BKntfQyDO
貧乏神「うぅ……」

道無き道を掻き分けて進み続けるが、一向に雨宿りポイントは見つからない。
いつしか両足は泥まみれ、ちゃぶ台では雨を防ぎきれずに全身ずぶ濡れという有様だった。

貧乏神「……弁財天さんのバカ」

何度目かの愚痴をこぼす貧乏神。
同時、偶然にも雷鳴が天に轟いた。

貧乏神「あっ、あわわっ!」

驚き、そして泥に足を取られて何度目かの転倒。

貧乏神「むぎゅう……」

ヘッドスライディングよろしく、ダイナミックに前方へとずっこけた貧乏神は背負った家財一式に押し潰された。

貧乏神「いたた……」

しかし、足を止めている暇は無い。
早くしなければ本当に風邪を引いてしまう。
貧乏神は頭を押さえ、ゆっくりと立ち上がり、

貧乏神「……あれ?」

稲光に、正確には稲光によって浮き上がる黒いシルエットに気付いて、貧乏神はその動きを止めた。

貧乏神「建物?」

山の中には街の光も届かず、判別もつかない漆黒の闇が広がっている。
だが貧乏神には雷を背景に、建築物らしき物が一瞬だけ見えた気がしたのだった。

貧乏神「廃墟……だったらいいなぁ」

どうせアテも無いのだ。
貧乏神はちゃぶ台を再び頭の上に掲げると、チラとだけ見えた記憶を頼りに建物へ向かって走りだした。
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/01(火) 23:14:47.67 ID:BKntfQyDO
十分後。

貧乏神「お、おおぉぉー」

ちゃぶ台を頭の上に掲げたまま、貧乏神は感嘆の声を上げた。
記憶を頼りに走り続けた貧乏神の目の前には今、巨大な建物が聳(そび)え立っている。
ツタが伸び放題でコケむした石壁。
雑多な草の入り乱れる、手入れのされていない庭。
街を展望出来る崖の際に建てられた西洋造りの重厚な屋敷は、一条の明かりもない完璧な廃墟だった。

貧乏神「ありがとうございます神様!」

自分にありがとうを言いながら、びしょ濡れの貧乏神は迷わずに廃墟へと突っ込んで行った。
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/02(水) 00:14:28.73 ID:qsmW/jvDO
おもしろそうだから期待してる
がんばれ
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/05/02(水) 01:11:59.56 ID:3Mtxv+dIo
悪くない、掴みはまぁまあ。
と言うか、面白そうなので続けやがれください。
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/02(水) 01:35:05.77 ID:oG+WlUYDO
貧乏神「……失礼しまーす」

おそるおそるといった感じに断りながら、霊体になった貧乏神が洋館の扉を透過していく。
当然、明かりの消えた館からは咎める声も無く、外で降り続ける雨音だけが館の中に響いてくるのみであった。

貧乏神「ふう」

黒ずんだ樫の木の扉を完全に通り抜け、貧乏神は実体化して着地。
背負った家財を小さく鳴らし、二階まで吹き抜けの玄関ホールへと侵入する事に成功した。

貧乏神「むふふ、装備一式も運べる優秀なワ・タ・シ」

霊体化の片手間に物も運べるのは流石に神といわれるだけはある。
自分の優秀さにほれぼれとした貧乏神は偉そうに鼻を高くするが、その直後、大きくクシャミをした。

貧乏神「へっくしょいっ!」

濡れた状態まで維持してしまう器用貧乏さも、流石の貧乏神だった。

貧乏神「はうぅ、洋館なら暖炉くらいありますよね?」

貧乏神はガタガタと身震いし、背中の荷物をひとまずその場に置いて洋館の廊下をトテトテと歩き始めた。
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/02(水) 02:19:18.17 ID:oG+WlUYDO
廊下を歩き始めてすぐの事。
ふと貧乏神は首をかしげた。

貧乏神「あれ?」

長い廊下に面していくつもの扉が並んでいるのだが、その内の扉の1つがわずかに開いており、そこから廊下に光が漏れていた。

貧乏神「……先客さんがいたんですかね?」

考えてみれば、こんな優良廃墟が完全放置とは不自然極まりない。
1人か2人くらい先客がいてもおかしくはないだろう。
貧乏神はそう結論付けると、コソコソと忍び足になって、光の漏れている部屋へと近付いていった。

貧乏神「さささっ、と」

貧乏神は素早く、かつ無音の歩法で廊下を駆けていく。
その技はとても素晴らしい。

……とても素晴らしいのだが、ただ貧乏神の黒一色の容姿と相まって、スリッパで叩き潰してしまいたくなるような衝動を見る者に与えること間違い無しな走り方になっていた。
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/05/02(水) 06:02:12.08 ID:sJJLN/WTo
ボロ布の貫頭衣着てるゴキブリとか。
ミ・フェラリオの落ちぶれたようなイメージで想像してたのに( )
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/02(水) 08:44:54.16 ID:T63pMpeSO
ふむ期待
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/02(水) 10:03:53.02 ID:CB2EScYDO
紅葉かと思った
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/02(水) 13:47:31.96 ID:ZbSh22QIO
貧乏神とは分かってるな
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/02(水) 19:17:15.89 ID:oG+WlUYDO
カサカサという擬音がこれほど無く似合う走り方によって、光の漏れる部屋との距離を一気に詰めた貧乏神。
そのまま木製のがっしりとした造りの扉に背中を押し当て、扉の隙間に向けて首を伸ばした。

貧乏神「扉の向こうに誰ぞいる、っと」

おどけた調子で言いながら、こっそりと部屋の中の様子をうかがう。
すると、部屋を照らす薄ぼんやりとした橙色の明かりがまず貧乏神の目に入った。
どうやら暖炉に火をくべているらしく、明かりはゆらゆらと揺らめいており、パチパチと木の爆ぜる音も聞こえてくる。
部屋の内装は屋敷の外観と同じく洋式。
天井から壁まで一面白く漆喰塗りで、壁の下部1メートルほどの高さまで真四角の木板が並んではめ込まれている。
また床に張られた板は厚く、明らかに質が良い。
それは少しくらい跳んでも軋みさえしそうに無いほどだった。

貧乏神「……おぉ」

部屋を見ながら、つい声が漏れる。
昔、住人の片隅から見ていたテレビに、貴族の館というものが映っていたが、この部屋と似たような造りだった。
自分には一生縁が無いものだとばかり思っていた貧乏神だが、なかなかどうして、縁というものは味なものである。
内装はかなりの年を経ているようで少しばかり黒ずんでいたりするが、それがむしろ趣を添えており、薄ぼんやりとした明かりの暖色によって陰影を作られる様は、貧乏神を何とも言えない心持ちにさせた。
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/02(水) 21:44:44.68 ID:oG+WlUYDO
しかし、暖炉に火が灯っているという事は、この部屋には確実に誰かがいるということに他ならない。
人か妖怪か幽霊か、それはまだわからないがここは廃墟。
相手が悪霊の類ならば万が一もある。

貧乏神「……ごくり」

自分の状況を思い出した貧乏神はツバを飲み込む。
そして緊張の面持ちで、再び視線を部屋の中に走らせ始めた。

部屋の四隅……いない。
中央……いない。

ざっと見渡して誰もいない事を確認する。
そしてそのまま、炎が揺らめく暖炉の方へと、貧乏神が視線を動かした時だった。

貧乏神「……!」

──いた。

暖炉の前、渋みのあるアンティークなロッキングチェアが、前後にゆらゆらと揺れ動いている。
だが、そこに座っているのは人でもなく、幽霊でもなかった。

貧乏神「……人形?」

ロッキングチェア──揺りイスに座っていたのは、金髪碧眼の、小さな少女人形だった。
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/02(水) 22:04:42.87 ID:oG+WlUYDO
人形はイスの前部にちょこんと浅く腰を掛け、正面の暖炉で揺れている炎に碧い瞳を向けている。
そして、人形はしばらくそのまま揺りイスの上で揺られ続け、やがて眠くなってきたのか大きなアクビを──

貧乏神「って、動いてるぅっ!?」

自分が隠れている事も忘れ、貧乏神はつい叫んでしまった。
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/02(水) 23:53:16.09 ID:oG+WlUYDO
人形「だれッ!?」

人形が大声と共に貧乏神の方へと勢いよく振り返った。

貧乏神「ひっ!?」

声の迫力に思わず扉の前から跳び退く貧乏神。
しかし、それがいけなかった。

人形「待ちなさい!」

貧乏神が逃げようとしていると勘違いしたのか、人形はますます声を荒げ、揺りイスから腰を上げて床板へと飛び降りた。
その人形の獲物を追うような素早い身のこなしと、貧乏神自身が館へ不法侵入した後ろめたさを持っていた事が災いし、そして何よりも正体不明の相手が迫って来るというシチュエーションが致命的だった。

貧乏神「ご、ごめんなさーいっ!」

貧乏神は謝りながら猛ダッシュ。
その場から逃げるように、というよりも事実逃げながら、来た道を全速力で引き返し始めた。
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/03(木) 18:46:54.76 ID:TG4BReSDO
人形「こらーっ! 待ちなさい!」

貧乏神「すーみーまーせーん!」

逃げる貧乏神、追う人形。
雨音響く洋館の廊下に、2人の駆ける足音がやかましく重なる。
そんななか、2人は走る足を止めずに、大声で叫び合っていた。

人形「止まりなさい! ドロボーッ!!」

貧乏神「な、何も盗ってませーんっ!」

人形「なら何で逃げるのよ!」

貧乏神「あなたが私を追いかけているからですぅー!」

人形「なら、『せーの』で一緒に止まりましょ! それなら文句無いでしょ!」

貧乏神「わ、わかりました!」

人形「せーの!」

ズダズダズダズダ……

人形「何で止まらないのよ!」

貧乏神「そっちだって止まってませーん!」
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/03(木) 23:23:23.52 ID:TG4BReSDO
2人の追い掛けっこは尚も続く。
荒い息を吐きながら逃げ続ける貧乏神に、人形も息を荒くして、着ているエプロンドレスの裾を振り乱しながら叫んだ。

人形「はぁ……はぁ……、どうあっても止まらないつもりね! なら、こっちにだって考えがあるわ!」

貧乏神「ぜぃ……ぜぃ……、か、考え?」

人形「こういう事よ!」

そう言うや否や、人形は左手を水平に構え、それを横に薙払った。

人形「来なさい!『チェス・アーミー』!」

人形が叫ぶと同時、廊下に面した部屋のドアが一斉に開いた。
そして、何かの群れがワラワラと廊下へ歩み出て来る。

貧乏神「こ、駒っ!?」

現われたのは貧乏神の半分程度の大きさのチェス駒たち。
円柱状の石に彫られたチェス駒たちには足なんて無いのだが、ふわふわと浮遊する事で移動を可能にしていた。

人形「全員突撃! そいつをとっ捕まえなさい!」

貧乏神「ちょっ!?」

そして人形の号令一下、チェス駒たちが貧乏神目がけて突撃を開始した。
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/04(金) 03:24:25.81 ID:C7I537lDO
チェス駒が勢いよく飛び上がり、四方八方から貧乏神に迫る。

貧乏神「きゃーっ!」

だが、敏捷さなら貧乏神も負けてはいない。
チェス駒から体当たりを食らう寸前に貧乏神は足を止め、さらに身を深くかがめて回避。
結果、チェス駒は貧乏神の頭頂部すれすれを掠め、

人形「ああッ!?」

四方八方から迫っていたチェス駒たちが次々に激突して自滅。
そして弾かれたチェス駒の1つがクルクルと回転しながら棒切れのように見当違いの方向へと飛んでいき、ガシャーンとガラス窓を突き破った。

人形「あーっ!?」

貧乏神「あっ」

人形「あ、あなた! よくも私の館の窓をッ!」

貧乏神「え? い、いや! さっきの私のせいですかっ!?」

人形「あなたが避けたから割れたのよ! あなたのせいだわ!」

貧乏神「そんなムチャクチャなー!?」

握り拳を振り上げる人形。
逃げ出す貧乏神。
そして2人は再び追い掛けっこを始めた。
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/04(金) 14:33:06.82 ID:C7I537lDO
人形「追えー! 追えーっ!」

貧乏神「きゃー! きゃーっ!」

ガシャーン。

人形「囲めー! 囲めーっ!」

貧乏神「にゃー! にゃーっ!」

パリーン。

人形「チャージ! チャージッ!」

貧乏神「もう堪忍してぇーっ!」

ドンガラガッシャーン。

チェス駒が次々と貧乏神に襲い掛かるが、そのたびに上手くいなされてあらぬ方向へと飛んでいく。
そして飛んでいったチェス駒の先には、お約束のようにツボや花瓶など『高そうで割れやすい物』の姿。

いつしか、貧乏神の回避の回数=出来上がったガラクタの数、という式が生み出されていた。
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/04(金) 15:25:58.24 ID:gugeLQADO
この貧乏神さん一流だな
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/04(金) 17:42:43.51 ID:C7I537lDO
そして、貧乏神はチェス駒たちの猛追から何とか距離を離し、やっとの思いで玄関ホールまで辿り着いた。

貧乏神「は、早く逃げないと……はっ!?」

そのまますぐに館の出口へと向かおうとした貧乏神だったが、駆け足を止めて急ブレーキ。
その目に映ったのは、玄関ホール脇に下ろした自分の家財たちの姿だった。

貧乏神「……」

思案に一秒。
すぐに貧乏神はきびすを返して方向転換すると、自分の家財(時価総額百円未満)へと素早く駆け寄り、両手に掴んで一気に背負った。

貧乏神「私の全財産を置いては行けない!」

ワンコインで集められる全財産のために足を止める貧乏神。
そんな貧乏神に待ち構える帰結は、当然と言えば当然のものだった。

人形「レイドアターック!」

貧乏神「ふぇっ!?」

追い付いた人形の掛け声が玄関ホールに響く。
遅れて、大量のチェス駒が天井から貧乏神に向けて降り注いで来た。

貧乏神「あ、あわわっ!?」

逃げようとする貧乏神だが、背負った荷物のせいで明らかに動きが鈍い。
そんな状態で無数に降り注ぐチェス駒を避けられるわけもなく、貧乏神の体は一瞬にしてチェス駒の雨に押しつぶされた。

貧乏神「あべしっ!?」

外から雨音響くなか、砕け散る家財の音が鬼ごっこの終わりを告げた。
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/04(金) 21:20:08.32 ID:C7I537lDO
そこに出来上がったのは小高い山。
一番上には満足そうな笑みを浮かべる人形が腰を下ろし、その下にチェス駒と貧乏神の家財が散乱。
さらにその一番下にはそれらすべでに押し潰され、石床にうつ伏せで四肢を投げ出す貧乏神がいた。

貧乏神「あうぅ……」

人形「さーて、っと……どうしてくれようかしら?」

山の頂点に座る人形が、腰掛けるチェス駒にパンプスのかかとを当ててコツコツと小気味よい音を刻む。

貧乏神「うぅー、許してくださいぃぃ〜」

人形「ギロチン、火あぶり、縛り首、はりつけ、串刺し、どれがいいかしら?」

貧乏神「どれもイヤですぅ〜」

人形「なら、首を縛りながらはりつけ、その後串刺しにしてギロチン、終わりに火葬でフィニッシュね?」

貧乏神「た〜さ〜な〜い〜で〜」
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/05(土) 13:10:51.72 ID:VFxwHF9DO
おろろんおろろんと瞳に涙を浮かべながら貧乏神が命乞いをする。
しかし、その様子が楽しいのか、人形は口元を吊り上げてイタズラっ子のような笑みを深めるだけだった。

人形「どうしようかしらね? あなたが壊したガラス窓に花瓶にツボ、結構高くつくし……」

貧乏神「だから、それは私のせいじゃ……へぷしっ!」

貧乏神がチェス駒たちに押し潰されたまま小さくクシャミをした。

人形「あら? どうしたの?」

貧乏神「うぅ、雨で全身びしょ濡れなんですぅ。このままじゃ、頑丈な私でも風邪を引いちゃいますぅ」

人形「あら、まあ」

貧乏神「誰も住んでないと思って雨宿りに来ただけなんですぅ。盗みに入ったわけじゃないんですぅ。許してください〜」

人形「……ふーん、へぇー」

貧乏神の言葉を聞き、人形はどこか面白そうに瞳を細める。
そして人形は少しの間考えるように腕を組んでみせた後、貧乏神の上に積もったチェスの山から音もなく飛び降りた。

人形「ま、いいでしょ。とにかく着いてきなさい」

人形はふわりとスカートの裾を揺らし、重力を無視した動きで軽々と着地しながら、組んだ腕を解いて指を鳴らす。
すると貧乏神の上に積もっていたチェス駒たちが一斉に飛び上がり、貧乏神を拘束から解き放った。

貧乏神「……へ?」

人形の意図がわからず、貧乏神は床に這いつくばったまま目をぱちくりさせる。
対する人形は、そんな貧乏神の前まで悠然と歩み寄り、ゆっくりと腰を下げて右手を貧乏神の顔前に差し出した。

人形「私がいた暖炉の部屋に戻るのよ、服が濡れてるなら、まずは乾かさないといけないわ」

貧乏神「ゆ、許してくれるんですか!?」

貧乏神は少しだけ嬉しそうに声を上げた。
だが人形は何も言わず、ただ笑みだけを返して貧乏神に応えた。

人形「さ、行きましょう」

貧乏神「はい!」

許されたと解釈した貧乏神は立ち上がり、人形に手を引かれるまま、先ほど一緒に駆けた廊下を引き返し始めた。

……この時、一も二もなく逃げれば良かったと貧乏神が思うようになるのは、もう少し後のこと。
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/05(土) 21:20:12.38 ID:VFxwHF9DO
〜 暖炉の部屋 〜

貧乏神「はー、生き返ります」

貧乏神は暖炉からちょうどよい距離を保ち、ぽかぽかと床の上で暖まっていた。

貧乏神「でも、さっきの人形さんはどこに行ったんですかね? ここで待つように、って言ってましたけど」

今からほんの少し前、人形に手を引かれて暖炉の部屋に案内された貧乏神だったが、案内した当の人形は貧乏神を置いてどこかへと席を離したのだった。

貧乏神「でも、意外に良い人らしくて助かりました。タオルも渡してくれましたし」

言いながら、貧乏神は人形から渡されたタオルを頭からかぶる。
清潔感あふれる乳白色に、ほのかにお日様の香りがしているタオルは人間用の物のようで、貧乏神の体を苦も無くすっぽりと覆った。

貧乏神「おうぅー」

布団のように大きいタオルにふんわりと包まれ、えもいわれぬ幸福感。

──このまま眠りに落ちても、私は私を許そう。

そう貧乏神の理性があっさりと陥落し、人様の館で眠りこけようと瞳を閉じ始めた時だった。
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/05(土) 22:07:05.55 ID:VFxwHF9DO
貧乏神「……む」

──服が湿っていて、なんだか不快。

そう感じた貧乏神の判断は早かった。

貧乏神「んしょ、んしょ」

大きなタオルで全身を隠せるので特に恥も感じず、貧乏神は服代わりの黒いボロ布をスポンと一気に脱ぎ捨てた。

貧乏神「ふぃーっ」

不快に湿った服から解き放たれ、貧乏神はすっきりとした笑顔でそのままタオルにくるまった。

貧乏神「おやすみなさーい」

そして誰に言うでもなく、就寝のあいさつをして瞳を閉じ──

人形「起きろ」

貧乏神「ふぎゃっ!?」

いつの間にか戻って来ていた人形に背中から蹴り跳ばされた。
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/05(土) 23:09:09.25 ID:VFxwHF9DO
貧乏神「あたた……」

人形「ったく、勝手に人の館で眠りこけるなんて、いい度胸ね」

貧乏神「す、すいません」

貧乏神はタオルにくるまったまま、恥ずかしそうに顔を伏せる。
すると、人形が呆れたように切れ長の瞳を細め、ため息混じりに口を開いた。

人形「ところで、さっきまであなたが着ていたボロ布だけど……」

貧乏神「あっ、はい。まだ少し湿っていたから、脱いで乾かそうと思って」

人形「そう、斬新な乾かし方ね」

貧乏神「……斬新?」

はて、と貧乏神は首をひねる。
ボロ布は床に脱ぎ捨てただけで、特に手はかけていない。
貧乏神の考える限り、斬新と呼ばれる所以が見つからなかった。
なので、確認するように自然と貧乏神の視線はボロ布へと向かう。

貧乏神「……あれ?」

が、無い。
床の上からボロ布の姿が忽然と消えていた。

貧乏神「えーと」

キョロキョロと辺りを見回す貧乏神。
その背中に、人形がポツリと告げた。

人形「暖炉よ」

貧乏神「暖炉?」

人形に言われ、貧乏神は視線を暖炉に向けてみる。
暖炉の中では組まれたマキが燃え盛っており、そこにある物はすべて炎の赤一色に染まっている。
そう、それが例え貧乏神のボロ布であろうと、情け容赦なく。

貧乏神「きゃーっ!?」

貧乏神の叫ぶ声もむなしく、ボロ布は一瞬でチリとなって消えた。
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/05(土) 23:50:48.88 ID:VFxwHF9DO
貧乏神「わ、私の服がー!?」

人形「あらら」

貧乏神「あうぅ……、私の唯一の服だったのに……」

貧乏神はタオルに身を包んだまま、がっくりとうなだれた。

人形「あなた、服はあんなのしか持っていないの?」

貧乏神「……はい、アレだけです」

唯一の服を「あんなの」呼ばわりされているが、実際そんな感じだから仕方ない。
それよりも、これからどうするかが問題だった。

貧乏神「……あの」

貧乏神は捨てられた子犬のような瞳で人形を見ながら、自分をくるむタオルをギュッと強く握り締めた。

人形「あげないわよ、タオル」

しかし、ぴしゃりと問答無用にあしらわれてしまう。

貧乏神「はうぅ……、このままじゃ私、着る服が無い痴女になっちゃいます。必ず返しますから、少しだけタオルを貸してください!」

人形「大変ねぇ」

貧乏神「何気ない言葉に静かな拒絶が込められてるぅぅ!?」
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/06(日) 01:36:40.13 ID:Lyi6ImxDO
人形「ま、冗談はさておき」

不意に人形が貧乏神へと何かを投げてよこした。

貧乏神「え、……っ!?」

貧乏神はそれを反射的に受け取り、そして目を丸くした。
ひらひらとスカート揺れる黒いワンピースに、白いエプロン。
人形から投げ渡された物は、折り畳み、丸められた洋服だった。

貧乏神「これは……」

人形「さっき、それを取りに行ってたのよ。あなたに着せるためにね」

貧乏神「私に?」

『なぜに?』と貧乏神が視線で問うと、人形は満面の笑顔で答えた。

人形「女の子があんなボロボロの格好をしてはいけないわ、そう思って持って来たのだけれど、正解だったようね」

貧乏神「……っ!」

貧乏神の胸を衝撃が貫いた。
他人に蔑まれ、罵倒される事はあっても、優しくされる事はここ十数年ほど経験していなかった。
ふと、貧乏神の目頭が熱くなってくる。

人形「あら、どうしたのかしら目を潤ませて?」

貧乏神「へへ、ワサビがしみただけですよ、女将」

人形「……誰が女将よ」

照れ隠しに珍妙な言葉を放ちながら、すんと鼻を軽く鳴らす貧乏神に、人形が呆れた顔を向ける。
だが、人形は気を取り直すように一つため息をついて続けた。

人形「さ、とりあえず着てみなさい。せっかく持って来てあげたんだから、着るのが礼儀よ?」

貧乏神「はい!」

貧乏神は立ち上がり、包まっているタオルをスルスルと落として、一糸纏わぬ体を……

人形「って、何でタオルの下がいきなり全裸なのよ! あなたはっ!?」

貧乏神「ひいっ!?」
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sagd]:2012/05/06(日) 14:05:39.14 ID:Lyi6ImxDO
〜 数分後 〜

再度、部屋を往復してきた人形が、持って来たパンツを貧乏神へと手渡した。

人形「ほら、穿きなさい」

貧乏神「すいません、下着まで用意していただいて」

人形「いいのよ、どうせ着る者もいない余り物だから。それより、ちゃっちゃっと早く済ませなさいな」

貧乏神「はい、わかりました」

人形に答え、貧乏神は渡された衣類を着始めた。

人形「……」

人形を前に、貧乏神の色白な肌が踊る。
ささやかな胸に、ふっくらとした尻。
女同士とはいえ、少し開けっ広げ過ぎな貧乏神の行動に、人形が小さくため息をついた。

人形「はぁ……少しくらい隠しなさいよ」

貧乏神「はい? 何か言いましたか?」

人形「何でも無いわよ、……ふぅ」

貧乏神「?」

笑顔で答えてくる貧乏神に、人形は西欧人のように肩をすくめた。
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/06(日) 15:17:03.56 ID:Lyi6ImxDO
〜 さらに数分後 〜

貧乏神「着替えました!」
貧乏神は両手を上げ、その場でクルリと回る。
その動きに合わせ、貧乏神の着ているスカートがフワリとはためいた。
今の貧乏神はもう、ボロを着たみすぼらしい格好ではない。
黒を基調とした半袖のワンピースを着こなし、同じく黒の二ーソックスで足下まで完全武装。
そして、そんな黒いワンピースの上にはフリルがついた純白のエプロン。
色のコントラストが絶妙な味わいをもたらす、人形と同じエプロンドレス姿だった。

貧乏神「どうですか!」

人形「……」

貧乏神「どんな感じですか!」

人形「え? ま、まあ、似合ってるんじゃないかしら?」

呆然と貧乏神を見ていた人形が、ふと我に返ったように言葉を返した。

貧乏神「やったーっ!」

その言葉を聞いた貧乏神は心底嬉しそうに、人形の前で飛び上がった。
すると、貧乏神の動きに合わせて、その長い黒髪までもが波打つ。
それはしっとりと艶やかな、とても柔らかそうな美しい黒髪だった。
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sagd]:2012/05/06(日) 16:06:00.03 ID:Lyi6ImxDO
だが、それだけではない。
不健康に見える貧乏神の色白の肌は、しかしキメ細やかでまったく荒れていない。
優麗な曲線で構成された体のラインは、胸こそ残念なものの、はつらつとした躍動美を余すところ無く現している。
そして、濃いクマが印象的な顔には、磨きぬかれた黒瑪瑙のようなくりくりと丸い瞳に、流れる鼻梁。
整った輪郭の上に配置されたそれらは奇跡的なバランスで上手く噛み合い、愛らしくも美しい貧乏神の容貌を形作っていた。

人形「……」

貧乏神「? どうしました?」

再び惚け始めた人形に向かって小首をかしげる貧乏神。
貧乏神の眼の下にある色濃いクマは印象的だが、よくよく見てみればそれすらも容貌に組み込まれ、憂いを含んだどこか切ない美貌に変換されており……

人形「はっ!?」

そこで突然、人形は我に返る。
そして有無を言わさずに貧乏神をバチコーンと突き飛ばした。

貧乏神「あみゃーっ!?」

突き飛ばされた貧乏神が、後ろ向きにゴロゴロと床を転がって行った。
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/06(日) 17:01:22.01 ID:teRRZEoSO
こいつらのサイズをcmで表すとどんくらいなんだ
39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/06(日) 17:29:38.16 ID:IVlIZ6epo
紅葉じゃないのか…
40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/06(日) 19:16:05.65 ID:Lyi6ImxDO
人形「あ、あぶない……もう少しでこの娘のオーラに取り込まれてしまう所だったわ」

人形が、驚愕に固まった自分の顔に流れる汗を軽く拭いながらつぶやく。
そして一転、小さく口元を細めて、悪企みをするように鋭い微笑を浮かべた。

人形「でも、この娘なら色々と使い道が……」

貧乏神「ちょっと! いきなり突き飛ばすのは酷いですよ!」

立ち上がり、戻って来て急に話へと復帰する貧乏神。

人形「あ、あら? ごめんなさい、手が滑っちゃって」

貧乏神「明らかに突き飛ばしてましたよ!」

人形「待って、私とあなたの服を見てみなさいな」

貧乏神「服?」

人形「あなたは膝上までのミニスカートだけど、私は足首近くまでのロングスカート、つい足に絡まって転びそうになったのよ。ごめんなさいね?」

貧乏神「……ウソくさい」
41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/05/06(日) 19:23:49.26 ID:/k53mTJVo
>>38
一番最初のレスに黒髪の方の身長のひんとがあったように記憶している。
42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/06(日) 20:05:39.85 ID:Lyi6ImxDO
人形「ま、お遊びはこれくらいにして……」

言いながら人形が指を鳴らすと、どこからともなく一枚の紙切れが舞い降りて来た。

人形「これを見て頂戴」

人形はその手頃な大きさの紙をつかみ取り、貧乏神に向けて差し出した。

貧乏神「……」

だが、貧乏神は紙切れを受け取らない。

人形「……どうしたのかしら?」

貧乏神「いえ、何となくデジャブが……それもごく最近あった嫌な出来事とダブるデジャブが私に警鐘を……」
43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/06(日) 21:48:52.86 ID:Lyi6ImxDO
人形「なら、私が声に出して読んであげるわ」

コホンと一つ咳払いして、人形が紙に書かれた文字を読み上げ始めた。

人形「当方、以下『甲』はあなた、以下『乙』に対して下記の通りの損害賠償を請求します」

貧乏神「……っ!?」

人形「ガラス窓七点、花瓶四点、皿やツボなどの陶器類十数点……」

貧乏神「ち、ちょっと待ってください! 許してくれたんじゃないんですか!?」

人形「あら? 私、一言でも『許す』と言ったかしら?」

貧乏神に向けて、にんまりと人形が笑みを浮かべた。

貧乏神「そ、そんなぁ……」

人形「……そして、私の精神的苦痛と、あなたの服の代金も合わせて……」

貧乏神「この服、買わされてたのっ!?」

人形「総額は……自分の目で見てもらった方がいいわね」

貧乏神「ちょっ、私の言葉はスルーですか!?」

人形「もう、いいからちゃんと見なさい」

騒ぐ貧乏神に、人形は持っている紙切れを押し付けた。
44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/06(日) 22:17:22.99 ID:Lyi6ImxDO
貧乏神「えーっ、と」

渡された紙に書かれた数字を目で追いながら口にする貧乏神。

貧乏神「いち、じゅう、ひゃく、せん」

この時点で、すでに貧乏神の全財産を優に越えている。
だが、数字の0はまだまだ続く。

貧乏神「まん、じゅうまん、ひゃくま……」

そこまで数えてから、貧乏神はゆっくりと口を閉じた。
なんせ、0があと二つほど残っていたからしょうがない。

貧乏神「……」

人形「……」

おもむろに顔を見合わせる二人。
満面の笑みを、静かな緊張の下でぶつけあう。

──やがて、二人は同時に動いた。

貧乏神「ダーッシュッ!」
人形「『チェス・スクラム』!」

貧乏神の行く手をチェスが駒が並んで立ちはだかり、アメフトよろしく貧乏神を挟み潰した。

貧乏神「あべしっ!?」

人形「これでタッチダウン、だったかしら?」

うろ覚えの知識で語り掛けながら、人形は貧乏神に向けて不敵な勝利の笑みを見せた。
45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/06(日) 22:50:57.04 ID:Lyi6ImxDO
貧乏神「う、うぅ〜」

逃げそこなった貧乏神が、チェス駒に押し倒された姿でうめき声を上げる。
すると、人形が貧乏神の鼻先に歩を進め、ヒザを曲げて貧乏神の顔を見下ろしながら口を開いた。

人形「で、ちゃんと耳を揃えて払ってくれるわよね?」

貧乏神「こんなぼったくりの値段設定、無理に決まっているじゃないですかーっ!」

人形「ぼったくりとは失礼ね、あなたが破壊の限りを尽くした物品は、すべて王室の至宝と呼ばれた物たちなのよ。正当な請求額だわ」

貧乏神「ぜったいウソですーっ!」

じたばたと、貧乏神はチェス駒の下から這い伸ばした両手を駄々っ子のように暴れさせる。
それを見た人形は何をするでもなく、ただ悲しそうにつぶやいた。

人形「払う気が無いのね、なら私も強硬手段に訴えないといけないわ」

貧乏神「強硬手段?」

人形「ええ、あなたがお金を払わないって駄々をこねるなら、もう身売りしかないわ」

貧乏神「身売り!?」

人形「そうよ、地下の王国で死ぬまで穴を掘り続けたり、高い所を命綱無しで橋渡りしないといけないのよ」

貧乏神「何のためにッ!?」
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/06(日) 23:17:06.37 ID:Lyi6ImxDO
人形「さて、あなたがお金を払ってくれないし、あなたを引き取ってくれる業者を呼ばないといけないわね」

人形が腰を上げて立ち、貧乏神に背中を向ける。
その静かな脅しに、貧乏神はたまらず声を上げた。

貧乏神「ま、待ってください!」

人形「あら、払ってくれるの?」

貧乏神「い、いえ、少しだけ割り引いてくれたら何とかなりそうで……」

人形「割引? いくらくらい?」

貧乏神「えっと……今の百万分の一くらいなら、なんとか」

人形「……」

貧乏神「……ダメ?」

人形「さて、一番高く買い取ってくれそうな業者はどこだったかしら?」

貧乏神「ごめんなさいぃぃッ! でも、おちょくってるんじゃないんです! リアルにその程度の返済能力しかないんですーっ!」

貧乏神は涙を流しながら両手を伸ばし、人形の足にしがみついた。
47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/07(月) 00:58:39.61 ID:9BKLJtJDO
人形「ちょっと! 離しなさい!」

貧乏神「イヤですぅぅ!」

人形が貧乏神の両手を振りほどこうとするが、貧乏神は必死になってあらがい、そして大きく叫び声を上げた。

貧乏神「お願いしますぅぅ! 何でもしますから、地下王国だけは勘弁してくださいぃぃー!」

涙混じりの懇願。
切って捨てられるような命乞いの文句だが、それは人形に思わぬ効果を発揮した。

人形「あら、本当に?」

貧乏神「ふぇっ?」

ピタッ、と人形が足の動きを止め、貧乏神の前で再び腰を曲げた。

人形「さっきの『何でもします』って本当かしら?」

貧乏神「は、はい! 本当です!」

人形「そう、ならこの紙にサインして」

その手にはどこから出したのか、一枚の紙が握られていた。

貧乏神「……これは?」

人形「労働契約者、お金を払わない代わりに、あなたはこの館で一定期間働くのよ」

貧乏神「一定期間……どのくらいですか?」

当然と言えば当然の貧乏神の問い。
しかし、その言葉を聞いた人形は、悲しげに顔を歪めた。

人形「私はあなたを助けてあげたいのに、そうやって疑うなんて……」

貧乏神「わわっ!? わかりました! サインします!」

人形「ならここにフルネームで、あと親指で拇印を……」

人形は紙を握りしめたまま、貧乏神に作業を進めさせた。

──その人形の親指の下、貧乏神に見えないようにした箇所には『無期限』という記述があったが、今の貧乏神には到底知りようもない事だった。
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sagd]:2012/05/07(月) 10:16:24.96 ID:9BKLJtJDO
〜 翌日 〜

貧乏神「ぐー、ぐー」

ドタドタドタドタ……。

遠くで足音が響くなか、貧乏神は一人安らかな寝息を立てていた。

貧乏神「すぴー、すぴー」

ドタドタドタドタ……。

貧乏神の寝ている場所は、ひんやりと涼しい暗室。
外界と隔絶されたそこは、貧乏神が昨日のうちに見つけだしたベストプレイスだった。

ドタドタ、ドタ……。

しかし、その快適空間も、すぐに終焉を迎える。
先程まで響いていた足音が急に止み、貧乏神の寝ている暗室にふと光が射し込んできて──

人形「なんでクローゼットの中で寝ているのよ!? あなたはっ!」

貧乏神「みぎゃーっ!?」

人形の怒声が貧乏神を叩き起こした。
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/07(月) 12:02:50.08 ID:4rsKPELSO
>>41
あらホントだ

人形ひでぇ悪徳だwwwwwwww
クーリング・オフを申し出てもいいレベル
50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/07(月) 17:07:57.80 ID:9BKLJtJDO
〜 食堂 〜

人形「いただきます」

貧乏神「いただきまーす!」

人形と貧乏神の二人は食堂にて朝食をとり始めた。
メニューはトーストにバター、そして卵焼きに、色とりどりの野菜をふんだんに盛ったサラダ。
低身長の二人は木目調が趣(おもむき)ある長テーブルを床代わりにして、さらにそこで自分たちの身長にあった小型のイスとテーブルを用意するというややこしい事をしていた。

貧乏神「ふもっ、はふっ」

人形「落ち着いて食べなさい」

貧乏神「はひっ、ふぉふぉほへほふぉほふひはほうひふぁんふぇふは?」

人形「口に物を入れて話さない」

貧乏神「……ん」

頬張っていたトーストをコップの水と共に嚥下し、貧乏神は再び口を開いた。

貧乏神「ところで、このヨーロッパちっくな食事はどうしたんですか?」

人形「ヨーロッパちっく、って……私が作ったのよ、悪い?」

貧乏神「あ、いえ! そうじゃなくて、食材はどうやって集めたのかなぁ……と」

貧乏神の見たかぎり、この館に人間は住んでいない。
それは物流という人間たちの力を利用する事が出来ず、食材も独自に集めるしかないという事になる。
そして、いま貧乏神の目の前にある何気ない食事でも、個人で揃えるとなると結構な労力を要するに違いなかった。

人形「ふむ」

人形は食事の手を止め、思案するように天井を見上げる。
そして数秒の後、貧乏神へと視線を戻した。

人形「そうね、食事が済んだら教えてあげるわ」

貧乏神「食べ終わりました!」

人形「はやっ!?」

人形が顔を上げていたわずかな隙に、貧乏神の食事は食器の上から綺麗さっぱりと無くなっていた。
51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/07(月) 18:59:10.55 ID:9BKLJtJDO
……………………

その後、食事を終えた二人は並んで廊下を歩いていた。

人形「ったく、あなたは食事くらいゆっくりと出来ないの?」

貧乏神「私って、自分の手を離れた物はすぐに無くなってしまうんですよ」

人形「……だから、なに? 早く食べないと食事も無くなってしまう、と?」

貧乏神「はい! 服だって、今はこんな上等な洋服を着せてもらってますけど、パンツとか上着とか、干していたら確実に飛ばされて無くなります!」

貧乏神は自慢気に鼻を高くした。

人形「ああ、だから昨日はノーパンだったわけね……ちなみに、まさかその服、昨日からずっと着ているの?」

貧乏神「はい!」

人形「……そうよね、クローゼットで寝ていた時からその服ですもんね……」

元気よく答える貧乏神を見て、人形は疲れたように肩を落とした。
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/07(月) 19:22:09.08 ID:9BKLJtJDO
貧乏神「ところで、いまどこに向かっているんですか? 食材の調達方法……ですよね?」

歩きながら貧乏神が尋ねる。
てっきり屋外に農園でもあるのかと思っていたが、人形が向かっている先は貧乏神の知っている玄関と逆の方向だった。

人形「もう着くわよ、ほら」

すると、人形はアゴ先を軽く上げて廊下の奥を指し示した。

貧乏神「……?」

貧乏神がつられてそちらに視線を動かすと、そこには壁に埋まっている何の変哲もないドアがあった。
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/05/07(月) 21:11:48.63 ID:hQH6ycDCo
おもろいやん
54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/07(月) 22:04:11.48 ID:9BKLJtJDO
貧乏神「このドアの先、ですか?」

人形「そうよ」

人形がうなずくのを横目に、貧乏神はドアを見上げる。
ドアは木製でこそあるが、その表面には年経た渋味のある黒を湛えており、ぱっと見で重量感がある。
造りから見てドアの厚さも特に薄そうというわけではなく、しかし他に出入り口は見当たらない。

貧乏神「はあ、一仕事みたいですねぇ」

立ちふさがる壁をにらみ、そう貧乏神が肩をほぐすように両腕を高く伸ばした時だった。

人形「開け」

言いながら、ぱちりと人形が指を鳴らした。
その瞬間、壁に埋まっているドアがひとりでに奥へと動き始める。

貧乏神「おおぅっ!?」

貧乏神の見ている前で、ドアは軋んだ音を奏でながら、やがて完全に部屋の内側へと開き切った。

貧乏神「……」

人形「あら、どうしたのかしら?」

貧乏神「えと、……自動ドア?」

人形「そんなわけないじゃない」

貧乏神の言葉に、人形は少し得意気な顔で腕を組んだ。
55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/07(月) 22:48:10.93 ID:9BKLJtJDO
〜 部屋の中 〜

貧乏神「ぽるたーがいすと?」

ゴトリ……

人形「そう、私は何でも自由自在に動かせるわ。この館の中でしか使えない能力だけどね」

ゴトリ……

貧乏神「でも、すごい能力ですよ! カッコいいです!」

人形「ふふ、もっと褒めていいのよ?」

ゴトリ……ゴトリ……。

貧乏神と人形の前に、中に液体の詰まったビンが並んでいく。
それは地面に空いた深い穴から、人形の能力によってひとりでに浮き上がって来ていた。

貧乏神「ちなみに、この地面の穴とビンって……」

人形「ここは元々、床下にワインを保管しておく場所なのよ、今は冷蔵庫代わりだけど。そして、ビンは酒ビン……貢がれ物ね」

貧乏神「貢がれ物?」

人形「むかし、この館を壊そうとする不届き者たちがいたのよ。そのとき私が一人残らず追い払ってやったら、定期的に館の前に置かれるようになったのよ。謝罪という事ね」

貧乏神「……お酒が定期的に?」

人形「いえ、他にも茶菓子とか白いお花とか線香とかもあるわよ? 腐らせるのもアレだから、ちゃんと貰ってるけど」

貧乏神「それって……」

──人形さんが悪霊の類(たぐい)と思われてるんじゃ……。

人形「……なに?」

貧乏神「いえ、なんでもないです」

世の中、知らなくていい事もある。
貧乏神は人形に首をふると、頭に浮かんだ予感をさっさと忘れる事にした。
56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/07(月) 23:07:22.17 ID:9BKLJtJDO
〜 玄関 〜

人形「で、これらを物々交換に出すわけ。私はお酒なんて飲まないから」

貧乏神「なるほど、山には色々な方が住んでますからね、特にお酒は人気がありますし」

食材調達の謎が解けたと、貧乏神はうなずく。
……が、ここに来て別の疑問が貧乏神の頭に浮かんで来た。

貧乏神「……ちなみに、何でさっきから玄関口に立ったまま何ですか?」

人形の能力で酒ビンたちを玄関に移動させ、入口のドアも押し開いた。
流れ的にはこのまま酒ビンを物々交換とやらに持って行くはずなのだろうが、人形はニヤニヤと貧乏神を見てくるだけで、一歩も館の外に出ようとしない。

貧乏神はなんだか、とても嫌な予感がした。
そして数秒後、その予感は的中する。

人形「言ったでしょ、私の能力は『館の中』でしか使えないのよ?」

人形は屈託の無い笑顔で、貧乏神の左肩に右手を置いた。
57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/05/08(火) 00:01:19.19 ID:rJKcCRweo
>>49
ていうか、まあ人間なら公序良俗に反する契約は無効、っつーのがあるけど、化物(人形)と、神だからなあ
58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/08(火) 00:03:08.31 ID:2Fq+GRDDO
〜 山 〜

人形「おーえす、おーえす」

貧乏神「ひぃ……ひぃ……」

山を登る二人。
人形は悠々と軽い足取りで、貧乏神はその後から荷台を重い足取りで引きながら。

人形「ちょっと遅れているわよ? 加速しなさい」

貧乏神「ムーリーでーすーっ! 重量的にも大きさ的にも、私の限界を超えています!」

人形「精神力で無理なくカバーしなさい」

貧乏神「そんなご無体な!」

荒い息をつく貧乏神の後ろの荷台には、三本の酒ビンが倒されて三角の形に積み上げられている。
それも一つ一つが貧乏神の身長の倍近い高さを持つ酒ビンであり、重量も相応にあった。

人形「ふふ、頑張って働いて、早く借金を無くしましょうね?」

貧乏神「うぅ……」

それを言われては何も言い返せず、貧乏神は馬車馬のように渋々と荷台を引いていくしかないのだった。
59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/08(火) 02:26:39.96 ID:2Fq+GRDDO
〜 湖 〜

人形「はい、とうちゃーく」

二人は小一時間ほど山を登り、山の頂上付近にある湖のほとりにたどり着いた。
湖の広さは五十メートル四方はあり、湛える水は底まで見渡せるほどに澄んでいる。
すると、貧乏神は荷台を後ろに、湖のほとりにて力尽きたように倒れ込んだ。

貧乏神「あぐぅ……」

人形「あら、そんな所で寝ると服が汚れるわよ?」

貧乏神「もう、いいんです……どうせ私なんてボロ雑巾(ぞうきん)みたいになって、最後はゴミ箱にポイの人生なんです……」

貧乏神はつぶやき、剥き出しの地面の上に丸まってうじうじと愚痴り始めた。

貧乏神「前の住みかは弁財天さんに追い出されるし、私の家財道具はチェス駒に潰されて全部バラバラだし、人形さんは苦しむ私を見て喜ぶ鬼畜だし……」

人形「いや別に、喜んではいないわよ?」

貧乏神「……ふんっ、だ」

貧乏神は怒ったように息を吐いて寝返りを打ち、人形に背中を向けた。
その姿は拗ねる子供とまったく変わりない。

人形「……少しシゴキすぎたかしら?」

機嫌を損ねた貧乏神の様子に、人形が人差し指を下唇に当て、困ったように小首をかしげた時だった。

?「また、なんとも面白いことをしておるのう」

誰かの声が、湖の周囲に響き渡った。
60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/08(火) 23:20:22.26 ID:2Fq+GRDDO
そして、突然に湖の中央から水柱が立ち昇った。

貧乏神「きゃーっ!?」

水柱は二人の見ている前で勢い良く吹き上がり、しかし、やがて重力に負けて落ち始めると、水しぶきとなって湖の周辺に降り注いで来た。

人形「回避」

貧乏神「ちょっ!?」

人形は華麗にバックステップして水しぶきを避けるが、寝転がっていた貧乏神はさすがに避けられない。
そのまま貧乏神の姿は、滝のように降り注いでくる水の奔流に飲み込まれてしまった。

人形「……本当に運が無いわね、あの娘」

弾けた水煙が視界にくすぶる中で、人形は呆れたように肩をすくめた。
61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/09(水) 01:33:35.93 ID:hCraR4DDO
貧乏神「ところがどっこい神回避っ!」

人形「あら?」

ぴんぴんとした貧乏神の声に、人形は怪訝そうに目を細める。
声は聞こえるものの、荷台の前に倒れていたはずの貧乏神の姿はきれいさっぱり消えていたのだった。

人形「声は聞こえるのに姿は見えず……思いの外、未練がましい性格なのね、ちゃんと成仏しなさい」

貧乏神「そこ! 勝手に殺さない!」

貧乏神はツッコミながら人形の前に姿を現した。……荷台の下からカサカサと這いずり出てきながら。

貧乏神「ふぅ……機転の利くオンナなんですよ、わたし」

立ち上がり、パンパンとスカートの裾をはたきながら貧乏神は得意気に胸を張る。
それを見ていた人形は小さくポツリとつぶやいた。

人形「……ゴキブリ」

貧乏神「ん? 何か言いました?」

人形「いいえ、何も」
62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/09(水) 18:52:46.77 ID:hCraR4DDO
貧乏神「でも、なんでいきなり水が……」

と、顔を上げた貧乏神の動きがピタリと止まる。
その目は湖の中央に向けられたまま固定された。

貧乏神「……」

湖の中央には、いつの間にか一本の巨大な棒が突き立っていた。
そして、それはただの棒ではなく、ウロコのようなモノが生えていて、なおかつ空高くの先端部分がヘビの頭のように丸まっていて……

?「これ、他人の体をじろじろと見るものでもないぞ」

貧乏神「しゃべったーっ!?」

突然に話し掛けられ、貧乏神は叫んだ。
湖の中央に突き立っているのは、まごうこと無き巨大なヘビの体だった。
63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/09(水) 19:11:27.66 ID:hCraR4DDO
人形「やかましい」

ベチコーン、と人形が貧乏神の頭を叩いた。

貧乏神「ぐべらっ!」

人形「申し訳ありません水神様、部下が失礼を」

そして人形はヘビに向き直り、恭(うやうや)しげに頭を下げる。
しかし、ヘビ──水神は事も無げに笑い声を上げた。

水神「くっくっくっ、よいよい、包み隠さない正直な反応は心地よいものじゃ」

シワがれた、男とも女とも取れない声で答え、水神はニヤリと口元を上げた。
64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/09(水) 19:37:53.86 ID:hCraR4DDO
貧乏神「水神様……ですか?」

人形に叩かれた頭を押さえながら、おそるおそる貧乏神が声を上げる。
水神はヘビ頭をこくりとうなずかせて口を開いた。

水神「うむ、この山の皆からはそう呼ばれておる。『竜に成り損なった』ヘビの身ではあるが、一番の長生き……年寄りは敬われるものじゃからな」

水神は『竜に成り損なった』という点を殊更(ことさら)に強調しながら説明する。
それはまるで、貧乏神にその点を突いて欲しいように含みのある話し方だった。

貧乏神「竜に……成り損なった?」

そして、貧乏神は促されるように聞き返した。聞き返してしまった。
……それがトラップだと気付かずに。

水神「ほう? 聞きたいか?」

するとその瞬間、水神の瞳が嬉々として輝き、同時に貧乏神の隣で人形が小さくため息をついた。

水神「よし! 話してやろう! ……少し長くなるぞ」

やけに機嫌良さげにそう前置きすると、水神は流れる水のように淀み無く話し始めた。
65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/09(水) 19:48:48.85 ID:hCraR4DDO
〜 十分後 〜

水神「長く生きて、かつ霊力を持ったヘビは山に三百年間、その後は海にて百年過ごして竜になるのじゃ」

貧乏神「そうでしたっけ?」

水神「少なくともワシはそう聞いた。おそらくは修行という事じゃろう、地域によっては他にも方法があるかもしれん」

貧乏神「なるほど」

尋ね、答え、表情を変える。
会話のキャッチボールは出来ていた。
確かにここまでは。
66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/09(水) 19:55:25.52 ID:hCraR4DDO
〜 三十分後 〜

水神「しかし、ワシは山から離れる事が出来なかった」

貧乏神「……」

水神「長く寝ている間に、しっぽの先が岩盤に押し潰されていたのじゃ」

貧乏神「……」

水神の話は続く。
67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/09(水) 20:05:27.40 ID:hCraR4DDO
〜 一時間後 〜

水神「ワシは悩んだ。しっぽを岩盤から引き抜く事は容易(たやす)い。しかしあろうことか、しっぽの挟まった岩盤は水脈を大きく左右する場所じゃった」

貧乏神「……」

水神「しっぽを引き抜いたら、水の流れが大きく変わってしまう。山の生き物はもとより、付近で田畑を耕す人間たちにも影響が出るのは間違い無かった」

貧乏神「……」

水神「……何で人間の心配をするのか聞かんのか?」

貧乏神「あ、えっと……何で人間の心配をするんですか?」

水神「それはじゃな、語るも涙、聞くも涙の悲しい恋の物語じゃ」

貧乏神「……」
68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/09(水) 20:24:35.14 ID:hCraR4DDO
〜 一時間三十分後 〜

水神「山伏に傷つけられ、調伏されかかったワシを村のある若者が何も言わずに助けてくれたんじゃ」

貧乏神「……」

水神「しかし、当時ひねくれていたワシは思った。脆弱な人間に助けられるなぞ恥の極み。ワシの傷が癒えた時、真っ先にこの若者を殺そうと」

貧乏神「……」

水神「そして数年後。傷が癒えたワシは若い女に化けて若者の元を訪れたのじゃ」

貧乏神「……」

水神「しかし、若者は優しかった。素性の知れないワシを快く迎えてくれた」

貧乏神「……」

水神「一緒に畑を耕し、釣りに行き、……そうじゃ、都に連れて行ってもらった事もある!」

貧乏神「……」

水神「気が付けば、『あなた』『おまえ』と言い合う仲になっておっての……」

貧乏神(……助けて)
69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/09(水) 20:39:53.40 ID:hCraR4DDO
〜 二時間後 〜

水神「しかし、ワシは人ではない。長くいたらボロが出る」

貧乏神「……」

水神「村の娘がワシの正体に気付いてな、村人たちが総出でワシらに襲い掛かって来た」

貧乏神「……」

水神「ワシらは山に逃げ込んだ。しかし、その途中で若者はワシに言ったのじゃ」

貧乏神「……何をですか?」

時間経過によって、貧乏神も相づちのタイミングが分かって来ていた。

水神「『オレが皆を説得する、おまえは先に頂上にある湖まで逃げてくれ』と」

貧乏神「……それで?」

水神「止めるワシの言葉も聞かず、若者は走り出してしまったのじゃ」

そして、水神はどこか遠くを見る目になった。
70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/09(水) 20:55:00.68 ID:hCraR4DDO
〜 二時間三十分後 〜

水神「村人たちは殺気立っておる。まともに話を聞かれる事もなく、若者は妖怪に惑わされたと殺されるのがオチじゃ」

貧乏神「……」

水神「気が付けば、ワシはヘビの姿に戻っておってな、若者の先へと回り、村人たちの中に飛び込んで大暴れ」

貧乏神「でも、それじゃ……」

水神「うむ、ワシの姿に若者もすっかり怯えておった」

水神はヘビ頭で表情も良くわからないが、悲しんでいるという事だけは貧乏神にも伝わって来た。

水神「それからワシは若者を口にくわえて遥か遠くの村まで運び、一人でこの山に戻って来た……もしかしたら、あの時言った通りに迎えに来てくれかもしれないと秘かに期待してな」
71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/09(水) 21:45:45.03 ID:hCraR4DDO
〜 三時間後 〜

水神「というわけじゃ」

貧乏神「は、はい。よくわかりました」

水神「何か質問は?」

貧乏神「い、いえ、別に……」

水神「若者の事を聞かんのか?」

貧乏神「えーと……」

水神「若者の事を聞け」

貧乏神「命令ッ!?」

水神「ワシが恋した若者はじゃな、それはそれは気の優しい……」

貧乏神「しかも勝手に始まった!?」
72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/09(水) 23:02:43.07 ID:hCraR4DDO
長話地獄が再び幕を上げたと、貧乏神がおののく。
しかし、そこに救いの声が割り込んできた。

人形「申し訳ありません、水神様」

水神「む?」

唐突に上がった人形の声は水神の話をふさぎ、素早く言葉を紡いでいく。

人形「久方ぶりにお酒を持って参りました。よろしければ交換をお願いしたいのですが」

水神「むう」

さすがに三時間も話せばノドが枯れてきたと見え、水神は人形の言葉を無視する事もなく話を止める。
しかし、素直に人形の言葉に賛同するわけでもなかった。

水神「今やワシは山のヌシじゃ。タダで貢ぐのも悪くないぞ?」

人形「代償の無い幸福は幸福と呼べません。飢えの一時を知る者が呑んでこそ、美酒は美酒足り得るのです。
その湖の水がすべて酒では毎夜酔いが醒めず、月の美しさを肴に舌鼓を打つ事も出来ないでしょう?」

水神「代価を支払うのはワシのためでもある、と?」

人形「はい、支払う物がより良い物であるほど、酒の味は引き立つでしょう」
73 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/09(水) 23:20:12.21 ID:hCraR4DDO
水神「……」

人形「……」

貧乏神「あ、あわわ」

しばし見つめ合う二人、そしてその間で不安そうに二人の顔へと視線を行き来させる貧乏神。
場の空気が、自然と張り詰めていく。

水神「……ふぅ」

だがやがて、水神が静かに息を吐いた。
それに合わせて、緊張していた場の空気も一気にたゆんでいく。

水神「……このごうつくばりめ」

水神は小声で一人ごちると、湖の中に頭を戻す。
そして再び──今度は水しぶきを上げないようにゆっくりと──頭を出した時、その口には人形や貧乏神たちと同じ程度の大きさの水晶がくわえられていた。
74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/05/10(木) 00:26:34.38 ID:AXWA59Y4o
そ、それはさすがに暴利だろ・・
75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/10(木) 01:40:22.71 ID:tEy3GP1DO
〜 帰り道 〜

その後、二人は荷台の酒と水晶を積み換えて水神と別れた。
今現在、来た道を引き返して山を降りている最中である。

貧乏神「一時はどうなるかと思いましたよ」

荷車を引きながら貧乏神は言う。
すると、隣を手ぶらで歩く人形は貧乏神に答えた。

人形「ああいう手合いを相手にする時は退いてはダメよ、けど意地を張って退かないのもダメ」

貧乏神「……退くと退かない、どっちなんですか?」

貧乏神は困ったように眉をしかめる。
その表情を横目に見た人形は、腕を組んで得意満面に説明した。

人形「いい? ああいう相手は常に品定めをしているのよ」

貧乏神「品定め?」

人形「ええ、だけど見た目じゃないわ。品定めをしているのは中身……そうね人格といった所かしら?」

人形は視線を空に上げながら続ける。

人形「こんな話をしたら相手はどう答えるか? どんな反応を見せるか? それを値踏みしているのよ」

貧乏神「それは、また面倒な」

人形「ええその通り、しかもそれが趣味になってるから、なおのこと面倒くさいのよ。
まったく、あの年寄りは……、どうやったらあんなにひねくれるのかしらね?」

貧乏神「……人形さんもいい線行ってますよ?」

人形「何か言ったかしら?」

貧乏神「いいえ、何にも」
76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/10(木) 02:49:45.87 ID:5QW2cH0DO
ふむふむ
77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/10(木) 19:29:19.32 ID:tEy3GP1DO
貧乏神「けど、こんなに大きい水晶を渡してくれるなんて、意外にいい人なんじゃないんですか?」

貧乏神は後ろの荷台を振り返りながら話を続ける。
そこには、貧乏神とほぼ同じ大きさの水晶がトゲトゲの体に光を透過させながら鎮座していた。

人形「さて、どうかしら?」

貧乏神の言葉に、人形も水晶に視線を移しながら口を動かし始める。

人形「大きいけど、透過度はそれほどでもないし、なによりあの老人は金脈を掘り当ててるのよ? 水晶一つ誰かに渡すくらいは軽いものだわ」

貧乏神「金脈!?」

初耳だと驚く貧乏神。
人形は組んでいた両腕を解き、左手の人差し指を立てて続けた。

人形「水晶は石英の別称、というよりも石英の中でも透過度の高い物を水晶と言うわ。
そして金脈だけど、金脈は原則として石英に寄生する。
……言いたい事はわかるわね?」

貧乏神「……私たちが交換した水晶は、金の採掘ついでに見つけた物?」

人形「ぴんぽんぴんぽん大正解ー、おめでとー」

パチパチと手を叩きながら、人形は棒読みで貧乏神を祝福した。

人形「ちなみに、金脈のあるここら一帯はあの老人のテリトリー。
さっきの長話の最後にあった大暴れがヘビ神伝説として人間にも広まっていて、近年までこの山は手付かず。
金脈の存在が人間に知られる事もなく、あの老人は私腹を肥やしているわ」

そこまで言った人形は空を見上げると、しかしなぜか憎々しげに眉根を寄せて、一気に声のトーンを落とした。

人形「……竜になれないのは溜め込んだ金が重すぎて飛べないからだっての。
金を後進の私たち……いや、私をメインに譲り渡してさっさと飛び去ればいいのに……」

貧乏神「後半に本音が出てますよッ!? それもドス黒い特上のヤツが!」
78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/10(木) 21:17:05.78 ID:tEy3GP1DO
人形「でもあなた、もしかしたら水神に気に入られたのかもしれないわね」

貧乏神「私が?」

人形「イエス、あなたが」

貧乏神「何で?」

人形「あの年寄り、私には滅多に水晶とか渡さないのよ。
なら、あなたが理由と見るのが普通でしょ?」

貧乏神「うーん、わたし、何か気に入られることをしましたっけ?」

荷車を引きながら考えてみるが、貧乏神には理由がとんと思いつかなかった。
なんせ終始、水神の話に相づちを打つ程度の事しかやっていない。
首をひねって悩む貧乏神だったが、そこに人形があっけらかんと答えた。

人形「さぁ? あの年寄りは人を見るのが趣味だから、短い間でもフィーリング的に来るものがあったんじゃないの?」

貧乏神「フィーリング的に来るもの? 例えば?」

人形「うーん、そうねぇ……」

人形、しばし熟考。
やがて答えが出たのか、人形はおもむろに口を開いた。

人形「長話というシゴキをものともしない忍耐力、かしら?」

貧乏神「なんか、あまり喜べないような……」

人形「あら、そう? 私も好きなのに、あなたのそういうところ」

貧乏神「えっ?」

頭を沈めかけた貧乏神は、反射的に顔を上げる。
しかし、そこにあった人形の顔には、イタズラ娘の作る物と同質の表情が浮かんでいた。

人形「実際、私もあなたのそういうところに助けられている事だし、今現在もね」

そう言い残し、人形は貧乏神と荷車をその場に置いて、一人で道なき道の先を走りだした。

貧乏神「あっ! 待ってくださいよ!」

人形「ほーらほら、加速よ! か、そ、くっ!」

人形は嬉々とした声を上げながら、道の先で両手を高く振って貧乏神に応えてくる。

貧乏神「今は緩やかな下り道なんですよ!? コースアウトからコイン略奪のコンボが決まっちゃいます!」

貧乏神も負けじと声を張り上げるが、しかし人形は貧乏神を無視。
そのまま貧乏神に背中を向けて走り去っていく。

貧乏神「ちょっ! 待ってくださーいッ!」

貧乏神は荷車を引きながら急いで人形を追いかけ始めた。

二人の掛け合う声は人里離れた山中にやかましく響き渡り、辺りにたゆたう静寂をわずかの間塗り潰していったのだった。
79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/10(木) 22:16:55.85 ID:tEy3GP1DO
〜 竹林 〜

貧乏神「置いていくなんてヒドイですよ!」

道外れの竹林の前で足を止めた人形に、やっとこさ追い付いた貧乏神が不満の声を上げた。

人形「ふふ、ごめんなさいね?」

貧乏神「ふんっ! 謝るなら最初っからイジワルしないでください!」

人形「なら、もう謝らないわ」

貧乏神「開き直らないでッ!?」

だが、そんな貧乏神の悲痛な叫びを人形は華麗にスルー。
貧乏神の見ている前で、テクテクと竹林の中へと歩を進めていく。

貧乏神「どこへ行くんですか?」

人形「物々交換よ。その水晶を更に交換するの」

それだけ言って、人形は竹藪の開いた場所を身繕いながら器用に進み続ける。

貧乏神「ま、待ってくださーい!」

貧乏神も再び置いてかれまいと、荷車を引いて走り出した。
80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/10(木) 23:17:02.76 ID:tEy3GP1DO
貧乏神「う、わぁ……」

竹林の中へと踏み入った貧乏神は、その自然の景観に思わず声を漏らした。
いくつもの竹がまるで先の先を争うように空を目指して縦横無尽にそびえ並び、はるか見上げる空には三日月形の葉が造る緑の天井が揺らめいている。
そして地面。
風にざわめき、ときおり舞い落ちる葉は鮮やかな緑を濁す事無く、瑞々しくも明るい彩りのまま林床となって、貧乏神の足下から竹林の向こうまで余す所無く大地を緑で埋め尽くしていた。

貧乏神「はぁ……」

葉の発色する緑のおかげで、差し込んで来る光量に比べて独特の明るさを持つ竹林。
物寂しくも気分が暗く落ち込むわけでもない、なんとも言えない気分になった貧乏神は足を止め、再び感嘆のため息をついた。

人形「何をよそ見しているの? 本当に置いていくわよ」

が、そんな貧乏神の心象風景なんぞ知ったこっちゃないとばかりに、先を歩む人形が急かす声を上げる。
それに気分を害した貧乏神は、ムッと頬を膨らまして抗議の声を上げた。

貧乏神「もう、風情もへったくれもない人ですね!」

人形「風情? 私はまだマシな方よ? あの人たちに比べたら」

貧乏神「……あの人たち?」

貧乏神が頭の上に「?」を作って聞き返す。
すると、人形は竹林の先を指差して言った。

人形「ええ、あの人たちよ」

貧乏神「……?」

貧乏神は視線を人形の指し示した先へと飛ばし、口を閉じて耳を澄ませた。

?「らっしゃい! らっしゃいッ!!」

?「安いよー、安いよーッ!」

──なんか、やかましい奴らがわんさかと居た。
81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/05/11(金) 00:54:25.40 ID:eizWTgE2o
空(上)を目指して「たてよこ(縦横)」無尽ってのも変じゃねーかな、と
82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/11(金) 01:31:42.22 ID:Bf8L8XQDO
言葉があやふやになってしまい申し訳ない。
縦、横、高さの三点を意識して密集している様を表したかったのですが、文章力が全体的に足りませんでした。
可能な限り、分かりやすく努力します。

ちなみに、紅葉、紅葉とレスが続くのを不審に思い、ググッたのですが……いたんだね、貧乏神。それもメジャーで。
吐きそうです、泣きゲロを。

それと、レスを返すのはこれを最初で最後にして、すべては物語を終えてからにしたいと思います。

色々と勝手なところがありますが、どうかご容赦ください。
83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/11(金) 02:09:10.80 ID:Bf8L8XQDO
人形「じゃ、行くわよ」

貧乏神「あ、はい!」

先導するように前を歩く人形の後ろに貧乏神が続いていく。
貧乏神は荷車を引きながらだが、そもそも二人のサイズ自体が人間と比べて小さすぎるので、乱立する竹も難なく抜けて行く事が出来た。

貧乏神「あの人たちが商人ですか?」

石壁のように立ちはだかる竹を、荷車を引きつつ上手く右へ左へと避けながら貧乏神が尋ねる。
というか、今でも竹林の向こうから届いて来るやかましい声は、セリフからして商人以外に思いつかなかった。

人形「あら、わかる?」

貧乏神「そりゃ、まあ」

しかし、そんな軽いやりとりも終わらぬうちに竹藪が途切れる。
代わりに、二人の前には開けた広場が現れた。
84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/11(金) 16:02:51.82 ID:Bf8L8XQDO
途端、音を遮る物も無くなり、広場の喧騒が一気に二人の所まであふれかえってきた。

商人1「安いよー安いよー」
商人2「珍しい物いっぱいあるよー」
子妖怪「母様、アレ欲しい!」
爺妖怪「メシは……メシはまだかのぅ……」
娘妖怪「おじいちゃん、さっき食べたでしょ?」

広場には老若男女を問わず、また多種多様な姿の者たちが所狭しと集まっていた。

貧乏神「ほへー、すごい活気ですね?」

人形「そうね、この山で市といったらここしかないから、当然と言えば当然だけど」

貧乏神「山で唯一の市ですか……」

貧乏神は足を止めて広場の様子をうかがってみる。
貧乏神と人形が進んできた竹藪の中と違い、広場では足下の竹の葉が広場の隅に寄せられ、整地された平たい地面が代わりに茶色い肌を剥き出しにしている。
そして、その地面にゴザやシートを広げて商人たちが露天を開き、その並んだ露天の列の間に人々の歩く往来が出来上がっていた。
85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sagd]:2012/05/11(金) 16:45:07.83 ID:Bf8L8XQDO
貧乏神「でも、本当に人が多いですね。右も左も人であふれていますよ」

人形「そうね、でもこれには理由が……」

そう人形が貧乏神に説明しようとした時だった。

商人1「嬢ちゃん! ずいぶんと立派な水晶を持ってるね?」

貧乏神「ふぇっ?」

座って露天を開いていた商人の一人が、腰を上げて貧乏神たちの方へと近付いてきた。
……まだまだ貧乏神たちは広場の端に立ったばかりだというのに。

商人2「おっ、綺麗な黒髪だねぇー、惚れちまいそうだよ!」

商人3「色白の肌とメイド服を組み合わせるたぁ、憎いねぇー」

貧乏神「えっ? えっ?」

一人、また一人と商人たちが腰を上げていく。
気が付けば、広場の端にいる二人を中心に巨大な商人の輪が出来上がっていた。

貧乏神「に、人形さん! こ、これは!?」

人形「良かったわね、あなたの人徳の為せるわざよ」

貧乏神「絶対ウソです! 全員の目が明らかに獲物を狙う肉食獣のそれになっていますよッ!?」
86 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/11(金) 17:31:07.83 ID:Bf8L8XQDO
商人1「どうだい! その水晶をオレと交換しないかい!?」

商人2「オレなら物々交換だけじゃなくて、日本円とも交換出来るぜ!」

商人3「おじさん、いっぱいオマケしちゃうよ?」

貧乏神「あ、あう、あうぅ……」

四方八方から言葉を浴びせ掛けられ、貧乏神は目を回し始める。
すると、そんな貧乏神の隣に立つ人形が、一人ゆっくりと息を吐いた。

人形「……ふぅ、遊ぶのはこの程度にしときましょうか」

そして、人形は自分の腰に両手を当てると、いきなり大声で叫んだ。

人形「洋館の主が来たわよ! 早く迎えに来なさーいっ!」
87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/11(金) 19:34:23.24 ID:Bf8L8XQDO
?「……もう来てる」

貧乏神「きゃっ!?」

突然、貧乏神の後ろ、荷車の下から少女の声が聞こえてきた。

貧乏神「だ、だれ?」

貧乏神が荷車から飛び退き、距離を取る。
そのまま貧乏神がおそるおそると荷車に振り返ると、荷台の下のほうから何かが這い出て来た。
そして、その姿は、

貧乏神「は、はこ?」

箱。木箱だった。
木箱は左右にガタガタと揺れながら器用に前へと進んでいる。
そして、木箱は荷台の下から完全に這い出ると、そこでピタリと動きを止めた。

貧乏神「……」

人形「相変わらず唐突に現れるわね、あなた」

木箱「箱ですから」

唖然とする貧乏神を置いて、人形と木箱の話が弾む。
その打ち解け合っている二人の様子を見た商人たちは瞬時に自分たちに勝ち目が無いと悟ったのか、残念そうに肩を落とすと、元いた露天へと無言で戻っていった。
88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/11(金) 21:08:15.26 ID:Bf8L8XQDO
喧騒から少し時を置き、人形と木箱は商売のやり取りを始めていた。

人形「一階廊下のガラス窓、……寸法は分かるかしら?」

木箱「一度見たことは忘れない」

人形「さすがね、それを7……いや、予備を入れて10枚頼むわ」

木箱「まいど」

貧乏神「……」

そんな二人のやり取りを、少し離れた位置から貧乏神は半目でじっとりと見ていた。

貧乏神「……」

──箱。木箱。……中身は?

人形「あら? どうしたのかしら?」

貧乏神「え、いや、そちらの木箱さんはどういった方なのかなー、と」

貧乏神は内心で思っていた事を隠すように、あわてて取り繕って答える。
そんな貧乏神に向かって、木箱は坦々とした口調で説明した。

木箱「私は行商人、彼らと同じく定住しない一族」

貧乏神「彼ら?」

人形「そう言えば、さっき言い掛けて邪魔が入ったわね」

人形は一つ咳払いをして貧乏神に話し始めた。

人形「今ここにいる商人たち全員、この山の住民じゃ無いわ。
色んな場所を定期的に回る行商をしていて、こうやって商売を数日間だけして次の場所へと向かうのよ。
山の中で手に入る物は限られているから、行商人たちの数日間の滞在期間中に買い逃さないため、この広場にはこんなに人が集まっているのよ」

貧乏神「な、なるほど……ながい」
89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/12(土) 17:19:36.33 ID:u7CKPIMDO
人形「ちなみに、山の住人は懇意にしている行商人が一人か二人は居るわ。
顔見知りの方が色々とやりやすいからね」

人形はそう言って腰を曲げると、膝ほどの高さにある木箱を手のひらで軽く叩いた。

人形「で、こいつが私の懇意にしている行商人よ。
見た目は奇抜だけど、中身は確かだわ」

貧乏神「……中身」

──見たのか? 見たんだな!?

そんな貧乏神の心の声だが二人に聞こえるわけも無く、話は続いていく。

木箱「私を奇抜と言ったら、あなたも随分と奇抜」

人形「あら、そう?」

木箱「キャラバンには、私よりもっと商売上手がいる」

貧乏神「キャラバン?」

耳慣れない言葉に貧乏神が首をかしげる。
すると、木箱が平坦な声で言った。

木箱「キャラバン、商隊、まとまって移動する商人たちの事を指す」

人形「あなたたちのキャラバンは確か……」

木箱「キャラバン『オオイナリ』……よろしく」
90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/12(土) 18:01:36.83 ID:u7CKPIMDO
〜 さらに数分後 〜

人形「さて、と……こんなところかしら?」

一通りの注文を終えた人形は、木箱に向かって尋ねた。

人形「支払いはこの水晶でやりたいのだけれど、どんな感じかしら?」

木箱「大きさA級、透過度E級。
今日の注文と今までのツケをすべて払って、まだまだお釣りがくる」

木箱がぱっと見の査定する。
だが、人形はそれに異を唱えた。

人形「あら? 透過度はBってところじゃないかしら?」

木箱「それはない、絶対にEから動かない」

人形「なら、間を取ってAね」

木箱「なめんな、ごうつくばり」

人形「あら、あなたの目は節穴なのかしら? 木箱だけに」

木箱「……くく」

人形「……ふふ」

貧乏神「……」

──同族だっ! 面の皮の下は同じなんだっ!

なんとなく、この二人の仲が良い理由がわかった貧乏神だった。
91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/12(土) 18:46:04.45 ID:u7CKPIMDO
〜 さらにさらに数分後 〜

木箱「では、Dで」

人形「ちっ」

交渉の末に、人形が悔しそうに舌打ちする。

貧乏神「で、でもっ! 元々はEだったんですし!」

貧乏神は人形をなだめるように言うが、しかし人形はつまらなそうに唇を尖らせた。

人形「私の見た感じ、もう少し『遊び』が残ってるわ」

貧乏神「遊び?」

人形に言われて、貧乏神は小首をかしげた。
遊びとは、前もって残す余裕のことである。
つまり、木箱にとって『絶対にこれ以上は譲れない』値段と『交渉を想定しておいて序盤にふっかける』値段との間にあった余裕がまだ残っている、と人形は言っているのだろう。
そして、そんな貧乏神の考えは正しかったようで、人形は静かにつぶやいた。

人形「交渉終了までに詰め寄れ無かった私の負け、ね」

木箱「まいどあり」

肩を落とす人形に、ぬけぬけと木箱が答えた。
なんだか、少しだけ嬉しそうに。
92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/12(土) 21:18:03.20 ID:u7CKPIMDO
貧乏神「これでもう帰りですか?」

人形「そうね、……いや」

貧乏神の言葉に、しばし人形は考えるように空を見上げる。
だがやがて人形は顔を貧乏神に戻すと、一言だけ口に出した。

人形「あなた、好きなものを一つだけ買っていいわよ」

貧乏神「えっ?」
木箱「えっ!?」

人形「……なんであなたまで驚くのよ?」

人形が目を細めて木箱を睨む。
木箱は少し間を置くと、元の坦々とした声で答えた。

木箱「いや、あなたらしく無いと思った」

人形「私らしく無い?」

木箱「ええ、あなたはお金になるなら、たとえ罪の無い人々でも煉獄の炎で焼き払えるような魔王のマインドを携えているものだとばかり……」

人形「ほぅ……私が? へぇ……」

貧乏神「人形さん!? ドス黒い殺意が滲み出ていますよッ!?」
93 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/12(土) 21:48:53.95 ID:u7CKPIMDO
貧乏神「と、ところで! 木箱さんは、いったいどんな物を扱っているのかなー!」

貧乏神は話題を変えようと、わざとらしく声を上げた。

木箱「あそこ、私の露天」

言いながら木箱の角が持ち上がり、広場の隅を差し示す。

貧乏神「わーお! 中央から離れたユニークな場所ですねー!
ちょっと見てきまーす!」

そして、貧乏神は木箱の露天を目指して走りだした。
94 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/12(土) 22:31:33.17 ID:u7CKPIMDO
……………………

人形「まったく、あの娘は騒がしいわね。ほんと」

腕を組み、人形が呆れたように息をつく。
そして人形はそのまま、遠くの露天を動き回る貧乏神を見ながら、木箱を横目に口を動かした。

人形「あなたも、変な事を言わないように。
私だって、おごる事くらいはあるわよ」

木箱「うん、ごめん」

人形の言葉に、木箱は素直に謝る。
その殊勝な態度に、人形はおやっと思って、首を木箱へと向けた。

人形「あら? 随分と正直に謝るわね」

木箱「確かに、少し言い過ぎたから。
でも、それだけ本気で驚いていた」

人形「……なによ、私が守銭奴みたいな言い方じゃないの」

木箱「……違うの?」

人形「いい根性してるわ」

人形は「ふんっ」と木箱からそっぽを向き、貧乏神のいる露天へと顔を戻す。
どうやら貧乏神は気に入った物を見つけたらしく、ゼル伝よろしくこちらへ向けて高々と頭の上にツボを掲げていた。

人形「バカ話は終わりね、次はいつ来るの?」

木箱「一ヶ月半後」

人形「そう」

木箱「……ふふ」

人形「……何よ?」

木箱「あの娘を見るあなた、なんだか楽しそう」

人形「……」

木箱「……」

人形「ふんっ」

……………………
95 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/13(日) 01:18:31.22 ID:rNdoxNNDO
貧乏神「これにしまーすっ!」

貧乏神は両手でツボを掲げ、人形たちの元へと走り戻る。
ツボの中には、貧乏神の好物である味噌が大量に詰まっていた。

貧乏神「えへ、えへへー」
果たして、これだけ大量の味噌を手にした事は貧乏神の記憶にも無い。
自然、頬がゆるむ。
まだ食べてもいないというのによだれを垂らしながら、貧乏神は恍惚とした笑みを浮かべていた。

人形「走ったら危ないわよ」

そこに人形の忠告。

貧乏神「ふふふー、私が転んだりするわけないじゃないですかー?」

と、貧乏神がフラグを立てる。
そしてその足が向かう先には、地面から少しだけ頭を出した石の姿。
当然、お花畑を飛んでいる心地の貧乏神がそれに気付くわけも無く、

貧乏神「あっ?」

見事に足を引っ掛け、

貧乏神「はぶらばっ!?」
盛大にずっこけた。
96 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/13(日) 01:51:51.65 ID:rNdoxNNDO
人形「あーあー」

サッカーのスローインの要領で、ツボがあらぬ方向へと飛んでいく。
このままではツボが割れてしまうのは確実と思われた。
だが、ここで奇跡は起きた。……悪い方に。

人形「あー、あ?」

ツボが飛んでいく先に、商人がいた。
それも、大量の段ボール箱を両肩に抱え上げた商人が。

商人「ぐはぁッ!」

ツボがお約束のように商人の背中に直撃。
商人の両肩の段ボール箱が地面に次々と落下して、『中に詰まった陶器類が割れるような音』が一斉に辺りに響き渡る。
そして、バランスを崩した商人はそのまま露天の一つに突っ込み、こちらもまた丁度よく積み上げられた段ボールの山に激突。
崩れていく段ボールの山は、さらに隣の露天の段ボールの山を目指していき、さらにその先にはまたまた段ボールの山が……

結果。

商人たち「ぎゃあぁぁーっ!!」

広場に、何かが立て続けに破壊されていく音と、商人たちの絶叫が響き渡った。

貧乏神「あ、あわわ……」

人形「……」

木箱「……」

阿鼻叫喚の大惨事。
しかし、立役者であるツボは無傷で、コロコロと上手く人形の足下に転がって来た。
人形はそのツボを無言で拾い上げ、木箱の上に置いた。

人形「これ、返品で」

木箱「了解」
97 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/13(日) 07:43:19.60 ID:rNdoxNNDO
〜 洋館、暖炉の部屋 〜

向かい合う二人。
片方は、人間用の揺りイスにちょこんと腰掛けた人形。
もう片方は、その前で土下座する貧乏神。

人形「さて、何か言うことは?」

貧乏神「ごめんなさい」

人形「地下と橋渡りと灼熱鉄板どれが好き?」

貧乏神「堪忍してください」

人形「あなたがやらかした失態で生まれた借金だけど、お金の無いあなたの代わりに私が肩代わりする事になったわね」

貧乏神「頭が上がりません」

人形「ふふふ、……あなたも笑っていいわよ?」

貧乏神「滅相も無い」

貧乏神は土下座しながら震えた。
というのも、洋館に着くまでの帰り道、人形はずっと口元を『引きつらせて』笑っていたのだった。
それも、こめかみを震わせ、碧の瞳に暗い炎を揺らめかせつつ、貧乏神を射殺さんばかりに睨みながら。
おそらく話している今現在も、人形は同じ状態なのだろう。
そう思うと、貧乏神の全身は戦慄におののいてしまうのだった。

貧乏神「な、何でもします、だから許してください」

震える声で、貧乏神は本日何度目かになる謝罪を述べた。

人形「……」

貧乏神「……」

そして、互いに沈黙。
時刻は夕暮れを越えた辺りで、もう部屋には夜の闇が色濃く忍び入っている。

暖炉に火は灯っておらず、代わりに太陽の残り火が斜に射して来るだけで、他に光源という光源もない。

貧乏神「……」

このままではらちがあかない。
貧乏神は意を決して顔を上げる。

人形「……」

人形と、目が合った。
赤い陽光でうっすらと顔に光と影を作りながら、人形は貧乏神の方をじっと見ていた。
98 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/14(月) 02:22:45.63 ID:njG/t3QDO
ふむふむ
99 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/17(木) 00:56:58.86 ID:lLVnJtWDO
床に土下座の貧乏神に、人間用の揺りイスに座る人形。
見上げ、見下ろす視線が交差する。
しかし、そこで貧乏神は思わず目を丸くした。
というのも、人形の顔に浮かぶ表情は怒りでも失望でも無かったからだ。
人形の表情。
そこに浮かんでいるものは、戸惑い、だった。
何か、悩むような困ったような考え直すような、内面の葛藤を表しているかのように表情がわずかに揺れ動いている。
少なくとも、帰宅の道すがらにずっと貧乏神に向けられ続けていた殺意の視線は完全に鳴りを潜めていた。

貧乏神「……」

貧乏神は内心で首をかしげる。
人形があれほどの怒りを抑え、あまつさえそんな表情を自分に向けてくるかが分からない。
ただ、少しばかり距離が開いているので、光の加減でそう見えているだけかもしれなかった。

──はっ! まさか、私を一番高く売れる取引業者を頭の中で選考しているのでは!?

やがて、キュピーンとそんな考えが貧乏神の頭に飛来してくる頃。

人形「はっ、と」

人形が揺りイスから音も無く飛び降りた。
100 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/05/21(月) 12:38:54.55 ID:l01QKOEIo
〜〜〜落下中〜〜〜
101 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/26(土) 14:02:44.30 ID:9zOzslNDO
まだぁ〜
102 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/06/07(木) 17:43:33.51 ID:u6aAYOtDO
飽きちゃったの…楽しく読んでたのに…
103 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/06/07(木) 18:31:27.48 ID:45LQLayDO
俺も期待してる
104 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/06/21(木) 19:55:48.30 ID:Ay33vPTfo
期待してる


繰り返す期待してる
105 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/04(水) 18:43:12.42 ID:YmIRPAcDO
期待している!


続き読みたいんだーな
106 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/07/17(火) 00:09:01.86 ID:eJeE0UfDO
貧乏神「ぐべらっ!?」

 そして、人形は貧乏神を着地台にして衝撃を殺し、悠々と床へと降り立った。

貧乏神「げほっ、げほっ」

人形「あら、ごめんなさい」

貧乏神「ひ、ひどいですよ! 人を踏み台にするなんて!」

人形「いえ、ね。あなた、何か失礼な事を考えてたみたいだからツッコミを入れないといけない気がして……」

貧乏神「エスパーですかっ!? というか、それってワザとですよねっ!?」

 軽く咳き込みながら貧乏神が立ち上がる。
 だが人形はどこ吹く風とばかりにそんな貧乏神を無視すると、そのまま部屋のドアへと向けて歩を進め始めた。

貧乏神「ど、どこへ行くんですか?」

 貧乏神が聞く。
 すると、人形はちらとだけ貧乏神を振り返り、そのまま視線を横へと動かして窓の外を見やった。

人形「もうこんな時間よ、夕飯の準備をしないといけないわ」

貧乏神「え? ゆ、夕飯?」

人形「あなた、料理は得意かしら?」

 と、そこで貧乏神はなんとなく話の流れを理解した。

貧乏神「はい! 料理は得意です!」

 ゆえに、貧乏神は満面の笑みで頷いた。

人形「そう、なら厨房までついて来なさい。お手並みを拝見してあげるわ」

貧乏神「イエッサー!」

 人形にどんな事情があるかは分からないが、今は機嫌が直ったらしい事が分かっただけでも、貧乏神には喜ばしい事だった。
107 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/26(木) 18:18:58.19 ID:3LXGChSSO
キテター
108 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2012/08/01(水) 01:57:09.01 ID:Q6VMqQrCo
まだー?
109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) :2012/08/09(木) 13:47:48.39 ID:pYvtuR7oo
まだー?
110 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/11(土) 01:01:47.48 ID:mLZhiMaDO
〜 十分後、館の外 〜

貧乏神「はぁ……」

 貧乏神は一人で庭を掃いていた。

貧乏神「私の料理が残飯だなんて……ひどいですよ人形さん」

 貧乏神の料理の腕前を見た人形は顔色を変え、貧乏神を台所から追い出したのだった。

貧乏神「はぁ……ん?」

 そんな貧乏神が小さくため息をついた時だった。

弁財天「おっ?」

貧乏神「あっ」

 ここにいるはずの無い、もとい、会いたくないヤツと目が合った。
111 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/11(土) 01:45:55.08 ID:mLZhiMaDO
弁財天「お前……貧乏神か!?」

貧乏神「へ? 貧乏神って誰ですか? 神違いですよ?」

 つかつかと洋館に近づいてくる弁財天に、貧乏神は汗をだらだらと流しながら目を逸らした。

弁財天「ほー、へー、神違い?」

貧乏神「はい、私はただの名も無き手伝いでして……お仕事があるからもういいですか?」

弁財天「ああ、ごめんごめん。でも最後に一つ」

貧乏神「はい、なんでしょう?」

弁財天「びんぼーびんぼー」

貧乏神「きんぐぼんび〜!」

弁財天「やっぱり貧乏神じゃねえかッ!」

貧乏神「し、しまったァーッ!?」
112 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/11(土) 07:03:06.34 ID:mLZhiMaDO
弁財天「しっかし……似合わねぇ格好だなッ! 貧乏神がおしゃれかよッ!」

貧乏神「わ、笑わないでください!」

弁財天「ゲラゲラゲラゲラ」

貧乏神「うぅ……いじめっ子です……そ、それよりも弁財天さんはどうしたんですか! こんな夕暮れ……というかもう夜ですよ!」

弁財天「夜に庭掃除するお前もなかなかの……いや、夜行性だから普通かお前にとっては」

貧乏神「話をはぐらかさないでください! 
 ……はっ!? まさかまた私の居場所を奪いに来たのでは!?」

弁財天「はい、そうです」

貧乏神「いやぁァァーッ!? 堪忍してぇーッ!」

弁財天「うっさい。冗談だ」

 弁財天のゲンコツが貧乏神の頭に落ちた。

貧乏神「ぐべっ!?」

弁財天「……こほん。この山に『悪いモノ』が入り込んだ可能性があると連絡が入ったから私が来たんだ。けど、それがお前なら大丈夫だろ。なんせ山には妖怪しかいない、金とは縁が薄い連中ばかりだからな」

貧乏神「せ、説明ありがとうございます……」

弁財天「よし、情報の見返りにメシをおごれ」

貧乏神「貧乏神からタカるんですか!?」

弁財天「いや、な? いい匂いが洋館から漂って来てるじゃないか」

 弁財天は貧乏神の首に腕を回し、ほっぺたをすりすりと寄せてきた。

弁財天「なぁ……頼むよ?」

貧乏神「こ、断ったら?」

弁財天「野外ライブ決行だな。貧乏神が山から弾き飛ばされるくらいの」

貧乏神「うぅ……やってる事がおどしと変わりません……」

 あわれ、貧乏神に選択肢は無かった。
113 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/08/11(土) 08:33:19.69 ID:T9XPDGR2o
おはよ乙
114 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/11(土) 16:41:04.38 ID:mLZhiMaDO
〜 洋館・台所 〜

人形「……つまり、友人を見かけたから喜び余って招待しちゃったわけね? 使用人の分際で」

貧乏神「す、すみませ〜ん……というか、半ば強制ですけど……」

弁財天「まあまあ、ここは私の顔に免じて、な?」

人形「……面の皮の厚そうな友人だこと」

貧乏神「は……はは……」

 貧乏神はもう苦笑いしか浮かべられなかった。

人形「でも、少し困ったわね。おかずに魚を焼いてみたのだけれど、数が足りなくなるわ」

弁財天「あー、大丈夫大丈夫。こいつは魚が嫌いだからな」

 弁財天は貧乏神を親指で差し示しながら言った。

貧乏神「え? 私は別に魚が嫌いではありませ……」

弁財天「嫌いだよな?」

貧乏神「……」

弁財天「嫌い、だよな?」

貧乏神「は、はい……」
115 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/11(土) 17:15:24.86 ID:mLZhiMaDO
〜 食後 〜

弁財天「あー、食った食った」

人形「さて、食器洗いくらいはやって頂けるわよね?」

弁財天「……アタシが?」

人形「ユーが」

弁財天「いやいや、せっかく使用人がいるんだからさ、こき使ってやらないとさ」

貧乏神「うぅ……」

人形「もちろんさせるわ。でもこの娘、まともに家事一つ出来ないのよ。だから貴女が面倒を見て上げてちょうだい」

弁財天「アタシがこいつの面倒を?」

人形「ええ、友人なんでしょう? 好き嫌いを知っている程度には」

 人形は弁財天の顔を見ながらにっこりとほほえんだ。

弁財天「……ちぇっ、仕方ないな。よっと」

貧乏神「はうっ!?」

 弁財天は立ち上がると、座っている貧乏神の首根っこを掴んで自分と同じように立ち上がらせた。

弁財天「食器を流しまで運べ、手伝ってやっから」

貧乏神「は、はい」

弁財天「……転ぶなよ?」

貧乏神「はい!」

──すてーん。

貧乏神「はうッ!?」

──がしゃーん。

弁財天「……」

人形「……」
116 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/11(土) 18:03:08.35 ID:mLZhiMaDO
貧乏神「……はぁ、人形さんも呆れて部屋を出ていってしまいました」

弁財天「ま、貧乏神の本領発揮ってヤツだな。おっと、破片に気をつけろよ?」

貧乏神「あ、どうもすみません」

弁財天「しっかし、九十九神(つくもがみ)とは昨今じゃ珍しいよな」

貧乏神「へ?」

弁財天「なんだ、相変わらず一般常識に疎いな。物に魂が宿ったのが九十九神、あの人形の事だよ」

貧乏神「人形さんが九十九神?」

弁財天「ああ、九十九神が生まれる条件は長い月日の経過と、道具として持ち主の感情と多く接するという経験だ。
 最近は物が溢れているからな、感情を注がれて九十九神になる前にゴミの山行き。ああいうのは珍しいんだよ」

貧乏神「弁財天さんは物知りですねぇ……」

弁財天「お前が知らなすぎるんだよ、バカ」

 ぺちーん、と弁財天は貧乏神の頭を軽くひっぱたいた。
117 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/08/12(日) 22:22:06.13 ID:gFof/yo6o
118 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2012/08/19(日) 02:07:57.11 ID:9sQj1jyuo
乙乙!
119 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/04(火) 16:03:56.09 ID:L7ou4OkIO
マダー
120 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/20(木) 11:02:47.30 ID:Xqg999hBo
まだ〜?
121 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/29(土) 16:21:40.07 ID:6eMxyESDO
生存報告か打ち切り宣言はしたほうが良いよ

一回「エタった作者」のレッテル付くと誰も読まなくなる
122 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/10/01(月) 06:33:56.43 ID:gxR41lMDO
 書きたくないわけじゃないの。
 ただ、いざ書こうとすると『似ている』かつ『メジャーな話』が存在することに大きなプレッシャーを感じていつも止まってしまうの。
 書き始める前に『貧乏神 漫画 アニメ』で検索を掛けなかった自分のせいだけれど、もしこのまま続けていっても最後は『パクリ乙』で終わりそうで……。

 と、言い訳が終わったら楽になったのでボチボチ書いていきます。
123 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/10/01(月) 07:57:55.06 ID:gxR41lMDO
弁財天「で、アタシの部屋はどこだ?」

貧乏神「なにをさも当然のように泊まろうとしてるんですか! さっさと帰ってください!」

弁財天「お届けしようかな〜? 文明開化の音を辺境の皆にお届けしようかな〜? 特に貧乏くさい奴へと重点的に」

貧乏神「暴力外交反対ッ!」

弁財天「さて、家主さんに一つ許可を取ってくるとするか」

貧乏神「いきなりスルーしないでください! それに人形さんはケチですからタダで泊めてくれるなんて事はありませんよーだ!
 ボッタクリ価格を提示されるのがオチです!」

弁財天「ご忠告ありがとさん」

貧乏神「ふんっだ!」

 弁財天がひらひらと手を振りながら、人形の去っていった方へと廊下を進んでいく。
 貧乏神はどうせ人形に許可されないだろうとタカを括り、不機嫌そうに腕を組んで弁財天の背中を見送った。が、数分後──

弁財天「泊まるのオッケーだってさ」

貧乏神「うそーん!?」

弁財天「全財産だと言ったら、二万で折れてくれた」
 そう言うや、ニヤニヤと他人を小馬鹿にするような笑みを浮かべながら財布を服の裾から取り出す弁財天。
 財布はブランド物のしっかりした皮の作りで、これみがよしに開かれた財布の中身も万札がズラリと重なっていて外面に劣らぬ偉容を誇っていた。いやがった。

貧乏神「人形さーんッ! コイツ、もっと金を持っていやがり──はぶぅッ!?」

 言ってる途中、弁財天のボディーブローが貧乏神のみぞおちにクリーンヒット。
 貧乏神は膝からその場に崩れ落ちた。

貧乏神「ぐ、ぐふっ……物理攻撃は……反則……」

弁財天「うっせ、ソロライブすんぞ。……で、アタシの部屋はどこだい? 従業員さん?」

貧乏神「……私も昨日来たばかりだからよく分かりません」

弁財天「じゃあアンタの部屋に連れてけ。お互い、色々と話したいこともあるからな?」

 そして弁財天は床にへたり込む貧乏神の肩を抱き、体を支え、曲げ、自分の両肩の上へと貧乏神の体を仰向けに倒し──

貧乏神「わ、私は別に話したいことなんて……って、何でアルゼンチン・バックブリーカーの体勢になってるんですかーッ!?」

弁財天「めきめき〜、めきめき〜」

貧乏神「ぐべっ!? ギブ! ギブしますからもう許してー!」
124 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/01(月) 08:37:01.00 ID:oG3L0YBvo

様式美だっていいじゃない
125 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/01(月) 19:42:01.76 ID:Xx1fzqcHo
乙だとも
126 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/10/01(月) 23:57:37.90 ID:gxR41lMDO
〜 貧乏神の部屋 〜

貧乏神「ここが私の部屋ですよっ……と」

 貧乏神はドアと壁の隙間に腕を差し込んでドアを動かし、隙間が大きくなると今度は肩をひねり込んで体全体を使ってドアを開いていく。
 猫のような小さな身体では、やはりどうにも人の建物というのは勝手が悪い。 だがやがてドアに加速がついてくると、ドアはおのずと貧乏神の肩から離れ、軋んだ音を上げながらひとりでに開き始めた。
 一仕事終えた貧乏神は軽く肩を回し、一息ついてから廊下の弁財天に振り返った。

貧乏神「さあどうぞ、強欲魔神のBさん。……あれ? どうしたんです?」

弁財天「ん? いや、少し気になる事があってな」

 弁財天は自分のアゴを人差し指の腹でさすりながら、天井を見上げていた。
 そしてそのまま弁財天は顔を降ろして、貧乏神へと視線を戻してくる。

弁財天「なあ、あの人形とお前以外、この館に住んでいる奴はいないのか?」

貧乏神「え? あ、はい。この館で人形さん以外に意思を持っている方は……まだ見ていませんね」

 昨日はチェス駒やらが空を飛んでいたが、それは人形の力だと本人から説明を受けている。
 貧乏神は弁財天にうなずいてみせた。
 すると、弁財天も貧乏神にうなずいて返してみせ、言葉を続けた。

弁財天「わかった。それじゃもう一つ……あの人形が誰かに危害を加えた話とか知らないか?」

貧乏神「はい、昨日は追いかけ回されました、私」

 右手を上げて元気良く答える貧乏神。
 しかし、弁財天は特に顔色も変えずに言った。

弁財天「貧乏神を追いかけ回すのは当然の行動。それ以外で」

貧乏神「私を追いかけ回すのが当然の行動!? か、神差別です! 訴えてやります!」

弁財天「はいはい、それで他には?」

貧乏神「軽くあしらわれた!?」
127 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/10/03(水) 07:09:55.24 ID:hOKECn9DO
弁財天「ん? そろそろ暗くなってきたな」

 そう言うや弁財天は手のひらから人魂のような発光球をいくつか生み出し、それらを自分の周囲で回転させ始める。
 蛍火に似た淡い光が、暗闇に浸っていた廊下を薄らとした蒼白さで照らし上げた。

貧乏神「おー、やはり神力を使えるのは便利ですねー」

弁財天「お前も使えるだろうが」

貧乏神「私がゴッドパワー……もとい神力を使おうとすると、なぜかこういう黒い球体が……」

 そう言って貧乏神が手のひらから出したのは、弁財天の麗しき光球とは打って変わったどす黒い球。
 弁財天の高級な水晶細工のような光球に比べたら……という以前に、比べようもなく貧乏神のはドブ川のゴミボールそのものだった。

弁財天「なんだよ!? その『世の不浄を煮詰めたような禍々しい負のオーラ』を爛々と放つ汚物塊は!?」

貧乏神「汚物塊!? 言うに事欠いて私のゴッドパワーが汚物塊!?」

弁財天「それゴッドパワーじゃなくてケガレだ! それもガッツリとした悪性の! つーか、さっさと引っ込めろ!」

貧乏神「ちぇー」

 貧乏神は唇を尖らせ、渋々ながら黒球を引っ込ませた。

弁財天「はぁ……はぁ……辺りに塩まいとけ、塩」

貧乏神「私に塩は効きませんよ? それに弁財天さんも一度ケガレてみて、貧乏神ライフを満喫してみるのはどうです? 意外に悪くありませんけど……」

弁財天「耐性ゴキブリめ! 近づくな!
 今のお前の顔は『ボンビラス星へ招待してあげよう!』と言ってくるアレと同じ顔だ!」

貧乏神「ちぇー、根性なし……ぶぼらっ!?」

 弁財天のボディーブローが、今度は貧乏神のわき腹にめり込んだ。
128 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/10/06(土) 08:05:49.54 ID:hDyqzwLDO
弁財天「それで話を戻すが、あの人形は誰かに危害を加えたりはしていないんだよな?」

貧乏神「げほっ、げほっ、……は、はい、多分……あっ、そういえば」

弁財天「ん? なんか思い出したか?」

貧乏神「はい。確か人形さんは、この館を壊そうとした人たちを追い払った事があるそうです」

弁財天「そいつらって業者? それともイタズラに来たチンピラ?」

貧乏神「業者さんだと思いますけど……」

 チンピラがお供え物を定期的に置いていくのもあり得なくは無いが、ちょっとばかし絵面が想像しにくい。
 貧乏神が答えると、弁財天は「ふむ」とつぶやいて、何事かを考えるように天井を仰いだ。

弁財天「それは……無視出来ないな」

貧乏神「無視出来ない? えっ? それって……まさか弁財天さん! 人形さんを○すつもりじゃッ!?」

 貧乏神がそう言った瞬間、弁財天の放った裏拳が貧乏神の腹部にめり込んだ。

貧乏神「ぐべっ!」

弁財天「あたしを何だと思ってるんだよお前は! 殴るぞ!」

貧乏神「う、うふふ……殴るぞって、もう何度わたしに拳がクリーンヒットしたことか……」

 産まれたての子鹿のように脚を震わせながら、貧乏神は不気味な笑みを浮かべた。かなり、ボディーにキてる。

弁財天「うっ……わ、悪かったよ、ごめん」

貧乏神「いいんですよ、わたしは気にしていません。
 むかし、弁財天さんのデスメタルで寝不足になって、それが原因でノイローゼになりかけたりして、弁財天さんにどうかデスメタル演奏をやめてくださいと頼みに行ったら『ごめーん! あたしってガサツでさー! あっ、ひよこ饅頭食べる?』って言われてブチ切れそうになった記憶が蘇りましたけど、わたしは全然気にしていませんから」

弁財天「あーもう! わかった! わかったからネチネチと恨み事を言わないでくれ!」

 弁財天はそう両手を上げて降参したのだった。
129 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/06(土) 08:11:48.60 ID:jx2SiI52o
乙(腹パン
130 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/10/17(水) 09:30:30.00 ID:yJfYq2ADO
………………………

弁財天「あの人形だが、下手をすると悪霊になるかもしれない」

貧乏神「悪霊に? 人形さんが?」

弁財天「あくまで、かもしれないっていうだけだがな」

貧乏神「そ、そんな……人形さんは確かに欲深で情け容赦なく冷酷で無慈悲で金のためなら他人を質草に流すド外道なオーラを放っていますが、それなりに良い方です! 悪霊になんて……」

弁財天「前半のセリフと結論が不協和音を上げまくってんぞ」

貧乏神「と、とにかく! 人形さんは、最低の一線だけは越えない方です!
 悪霊なんかにはならないと私が保証します!」

弁財天「人売りは最低の一線じゃないのか……」

貧乏神「はうっ!? で、でも……」

弁財天「まあ落ち着け。知識の無いお前からは、アタシがあの人形に難癖つけようとしてるって見えるかもしれないが」

貧乏神「違うんですかっ!?」

弁財天「……」

貧乏神「……」

 その瞬間、弁財天の腕が雷光の速さで空を走り、貧乏神の頭をがっちりと左右からホールドした。

貧乏神「はうっ!」

弁財天「こめかみを……ぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐり」

貧乏神「いたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたい」
131 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/11/15(木) 13:35:47.57 ID:rfqWUEUDO
生存
132 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/11/16(金) 09:35:30.74 ID:9tix8cQ/o
戦略!!
133 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/03(月) 08:49:36.12 ID:wSRwtdCIO
まだか
134 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/04(火) 17:10:38.03 ID:aznkA2cro
     ...| ̄ ̄ | < 続きはまだかね?
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135 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/12/17(月) 04:33:04.36 ID:V/mlyui8o
136 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/12/17(月) 06:26:01.05 ID:+4xAjejM0
137 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/12/17(月) 06:52:22.28 ID:Vyh50dXDO
あ〜ぁ
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