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もしP3のアイギスがフルメタの相良宗助軍曹っぽかったら - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/08(火) 03:15:49.47 ID:HEO+BsUlo
新学期とは、新たな始まりである。
そんな希望と夏休みが終わったという絶望をミキサーでかき混ぜたかのような
奇妙な雰囲気の中、2−F担任の鳥海先生は新たなる学友を迎え入れるべく、
自身の隣に立つ少女に自己紹介を促した。

「はーい、今日からこのクラスの一員になる、転入生よ。それじゃ、自己紹介お願いね」

鳥海先生の言葉と共に、クラスの中はどよめきに包まれた。
金髪に、透き通った青い瞳。制服の裾と袖から見え隠れする白い肌。

西洋人形か何かと見まごう程に美しい少女は、
おもむろに教壇から一歩前へと踏み出すと、自己紹介をすべく口を開いた。

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諸君、狂いたまえ。 @ 2024/04/26(金) 22:00:04.52 ID:pApquyFx0
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少し暑くて少し寒くて @ 2024/04/25(木) 23:19:25.34 ID:dTqYP2V2O
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渾沌ゴア「それでもボクはアイツを殺す」 @ 2024/04/25(木) 22:46:29.10 ID:7GVnel7qo
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二次小説の面白そうなクロス設定 @ 2024/04/25(木) 21:47:22.48 ID:xRQGcEnv0
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佐久間まゆ「犬系彼女を目指しますよぉ」 @ 2024/04/24(水) 22:44:08.58 ID:gulbWFtS0
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全レスする(´;ω;`)part56 ばばあ化気味 @ 2024/04/24(水) 20:10:08.44 ID:eOA82Cc3o
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君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
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笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
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2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/08(火) 03:16:34.20 ID:HEO+BsUlo


「アイギスであります!」

「あら、元気があって良いわね〜。
 それにしても、アイギスさんって珍しいお名前ね、海外の生まれなのかしら」

アイギスに関するプロフィールは事前に渡されていたのだが、
それを読む事をしなかった鳥海先生はアイギスという聞き覚えのない名前に、
自分も知らない外国の名前なんだなと当たりをつける。

しかし、アイギスから帰ってきた言葉は、とても奇妙な表現だった。

「いえ、私は国内で生産されたであります!」

「せい……? えっと、面白い表現するのね。
 確かに日本語もお上手みたいだし、親御さんが外国の生まれってことでいいのかしら?」

「肯定です。中にはアメリカ生まれの研究者も居ました」

「あ、ご、ごめんなさいね。私まだアイギスさんのプロフィールちゃんと見てなかったから、家庭環境とかも知らなくて……」

「いえ、お気になさらず。教官殿」
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/08(火) 03:17:05.28 ID:HEO+BsUlo


何だかかみ合ってないように見えるが、なんか会話が成り立っている2人。
するとここで鳥海先生が持ってきていた書類を開く。

「ええっと、他に特記事項は……人型、戦術兵器?」

「肯定であります! 特技は制圧射撃、趣味は銃弾発射機構の整備でありますので、
 機械の操作はいくらか習得しているであります、教官殿!」

その言葉に、教室は固まった。

アイギスが自己紹介しているからその間は黙っていようとか、
そのようなチャチなものではなく、文字通り固まった。

アイギスが学校へ来る事に対して、不安しかなかった岳羽すら、固まった。
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) [sage]:2012/05/08(火) 03:18:06.93 ID:DlXMNXkbo
順平とゆかりが苦労しそうだなww
5 :宗助じゃなくて宗介だった :2012/05/08(火) 03:18:17.65 ID:HEO+BsUlo


「冗談が上手いのね、アイギスさんは。見たもの聞いたもの全てが正しいなんて思っちゃ駄目よね」

そんな中、シャットダウンされた思考をいち早く再起動させたのは担任である鳥海先生。

よく言えば寛容、悪く言えば大雑把な彼女からしたら、
書類の内容が何かの間違いであり、アイギスの言葉は冗談か何かのように思えたようだ。

「いえ、教官殿。私は―――」

「そうです、教官殿! 彼女はミリタリーボケをしてるだけであります!」

アイギスが空気を読まず否定しようとしたところに、岳羽が言葉をかぶせて誤魔化した。
しかしよっぽど慌てていたのだろう、アイギスのような口調になっているのに彼女自身気がつくことなく一気に捲くし立てる。

6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/08(火) 03:18:46.20 ID:HEO+BsUlo
そんな岳羽の言葉に、「分かってますよ」といった具合に一度頷いた鳥海先生は次の話に進むべくキョロキョロと教室全体を見回した。

「さて、兎に角アイギスさんの席は……あ、丁度有里君の隣が空いてるわね。あそこ行ってもらっていい?」

「え、センセ、そこの席はたまたまサボってるだけじゃ……」

「何行ってんの、こんな日にサボる方が悪い。それじゃアイギスさん、あそこの席ね、いいかしら?」

「はっ! ありがとうございます、教官殿!
 自分は、彼と共にあることが一番の大事でありますから!」

両の手を後ろで組み、両の足を肩幅ほどに開き、
胸を張って言い放ったその言葉と共に、視線は有里湊へと向けられている。

そんな視線を辿った生徒達の、絶対零度に冷たい視線を全身に浴びて、
有里湊はあらかじめ胃腸薬を用意しておいて良かったという場違いな安心と共に諦念した。
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/08(火) 03:20:24.10 ID:HEO+BsUlo


・・・

朝である。新しい朝、すなわち希望の朝だ。
だというのに有里湊の表情は重たい。喜びに胸を開く事もなく、大空を仰ぐ事なく、下足箱の前で押し倒されるという珍事と共に、周囲の驚愕と羨望と嫉妬が入り混じった視線を全身に浴びて、新しい胃薬の効用を試す時がもう来たのかと、どこか呑気な思考と共に諦念した。

どうしてそんな事になっているのか。
何故下足箱の下に敷かれているすのこに寝そべっているのか。

それは有里の上にまたがっている金髪の少女に起因する。

「大丈夫でありますか、湊さん!?」

「むしろ大丈夫じゃないと思っているのか、アイギス」

「それはいけません! ……まさか、敵の罠によって怪我を!?」
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/08(火) 03:21:38.78 ID:HEO+BsUlo


有里の上でうろたえる少女の名は、アイギス。



一見して容姿端麗な女性に見えるアイギスであるが、
その実態は桐条グループの生み出した対シャドウ用戦闘車両という名称の、
とどのつまりロボット的なあれだ。


しかしそんな事を言ったところで誰も信じてくれるわけもなく、
そもそもその事実は秘匿せねばならない。

故に何も知らない周囲の学生からしたら、
朝から美少女に押し倒されるうらやまけしからんクソ野郎がいる、
というようにしか受け取られないのだ。


さて、有里の"大丈夫じゃない"というのはアイギスに押し倒されているという現状なのだが、
対するアイギスはその言葉を妙な方向に捻じ曲げ理解していた。


怪我をしたとかしてないとか、勝手に勘違いしたアイギスが有里の全身をまさぐる中で、
有里は落ち着いた様子でアイギスの手を止め、疑問を口にする。
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/08(火) 03:22:41.80 ID:HEO+BsUlo

「ところで、罠って?」

とはいえ、アイギスの行為は基本的に有里の為に行われている。
そして悪気など1ミクロンも含まれていないのでなおのこと性質が悪い。

良かれと思って現状を悪化させているようなものである。
つまりは今回こうして押し倒されているという事実も、
あくまで有里の身を案じての事であり、決して有里を社会的に抹[ピーーー]る為のものではないという事を注釈しておく。

兎にも角にも、有里は疑問を解消すべくアイギスに尋ねた。
ただし、すのこの上に横たわったまま。

「はい。それがですね―――」

「朝っぱらからなぁにやってんのよあんた達はぁ〜〜!?」

スパァン!!と良い音でアイギスの頭をハリセンではたいたのは、
騒ぎを聞きつけ朝練から舞い戻ってきた岳羽ゆかりだった。
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/08(火) 03:24:10.89 ID:HEO+BsUlo

あれほど騒ぎは起こすなと、口すっぱく言ってきたというのに
始業式から早一週間、様々なトラブルをアイギスは巻き起こしていた。

教室には数発分の銃創が残っており、化学実験室は未だに使用不可のまま。
家庭科室にある刃物は全て刃が潰されている有様である。
もちろん全てアイギスが関わっている、というよりは原因であり、
トラブルが起きる度に岳羽や伊織順平が騒ぎの鎮火に右往左往させられていた。

そして今回もまた、アイギスが何かやらかしたそうだと聞いて岳羽は弓道袴のままここまで駆けつけてきたのだ。
しかし、アイギスは何故こんなにも岳羽が怒っているのか理解できない様子である。
しばらくの間考えるそぶりを見せたアイギスは、ハッと何かに気づいたように岳羽に視線を向けた。

「確かに事情を説明せねば、今現在私達が置かれている危機的状況は分からないでありますね……」

普通の学生生活において、どうして危機的状況が発生するのか。
アイギスの持つ常識は有里と岳羽のそれを大きく超越している。勿論斜め上に。
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/08(火) 03:25:11.41 ID:HEO+BsUlo

それ故アイギスの考えは彼女自身の口から述べられなければ理解できないのだ。納得できるかどうかは別として。

そしてゆっくりと立ち上がったアイギスによって、
ようやくすのこから背中を離れさせる事に成功した有里は、
身体についた汚れを払いながらアイギスの言葉を待つ。

「これは私の髪の毛です。湊さんの帰宅後に設置しておきました。
 簡単な工作ですが……これで湊さん以外の人間が勝手に下足箱を開けたか否かを判断できるであります」

どうだと言わんばかりに胸を張るアイギスだったが、
当然2人にはなんのこっちゃ分かったものではない。

そんな2人の様子を見てアイギスも何で分かってくれないのかとばかりに首をかしげた。

「つまりこれが何を意味するかというと……恐らく、湊さんに対して悪意を持っている第三者が、この下足箱に罠を仕掛けた可能性がある、という話です」

「……んなもん、ないに決まってるじゃない!?」
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/08(火) 03:28:23.14 ID:HEO+BsUlo


声高々にツッコミを入れざるを得なかった。
一体どこのどいつがどうしたって一学校の一学生に対して罠を仕掛けるのか。

アイギス曰く、中には爆弾があるかもしれないし、開けた途端に毒ガスが噴出されるかもしれないし、
はたまた散弾によって有里の顔面が吹き飛ぶ恐れすらあると説いた。

そんな事あるわけないのに、"あるかもしれない"という可能性を危惧して、爆破による対処を行おうとしていた事を告白した。

「そういえば、聞いたことがある……シュレディンガーの猫、という話を……」

「何の事よ!?」

アイギスの弁を聞いて、岳羽は最早何も言うまいとばかりにうなだれる中で、
有里の言葉にさえツッコミを入れる姿は、最早この場における最後の良心だろう。

続いて有里は、今までの話を聞いてなかったといわんばかりに下足箱を開いた。
当然ながらこの対応は正しい。有里の命を狙った罠など入っているわけがないのだから。

そんな有里の対応に驚愕の一色に染まるアイギスだったが、
当然のように爆発はしないし、毒ガスもでないし、銃口だって向けられてはいない。

その代わり、中にあったのは一通の手紙だった。
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/08(火) 03:29:08.67 ID:HEO+BsUlo



第一話「エルゴから来た女(性型ロボット)」





 
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/08(火) 03:31:13.91 ID:HEO+BsUlo
これはアニメフルメタルパニックふもっふを見て衝動的に書いてしまったものです。
唯一悔やまれるのはスレタイが宗助ではなく相良宗"介"軍曹だったという話。
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮崎県) [sage]:2012/05/08(火) 04:12:47.10 ID:uJt7BS2To
大至急続きを書きなさい
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/08(火) 09:50:22.54 ID:HEO+BsUlo
「……で、なんて書いてあるの?」

2−Fの教室。
朝練以外にもさんざん動き回る羽目になって1限前だというのに既に疲労困憊な岳羽は、
疲労を押し隠そうともせずげっそりとしたまま有里に尋ねた。

その質問にこたえるべく彼が手にしている便箋の、
ハート型のシールで閉じてあるそれを開くべく手を便箋に添えたのだが、
アイギスによって便箋を開くことを止められてしまう。

「どうした?」

流石に手紙の中に爆弾や毒ガスなんか仕込めるわけがない。
今度は一体何があるのだと有里が尋ねると、アイギスは彼の持つ便箋に右手をかざした。

その行為に何の意味があるのかは知らないが、下手に動いて面倒になったらあれだ。面倒だ。

一瞬にして思考を巡らせた有里は、合理的判断により
アイギスが満足するまで好きにさせてやろうと手紙を渡す。

それを受け取ったアイギスは再び右手をかざしてゆっくり上下に動かした。

「ねぇ、アイギス何やってるのかな」

「さぁ」

二人してしばらくの間その光景を眺めていたところ、何かを終えたように右手を手紙から離した。
ポカンとする二人にアイギスは「中身をスキャンしました。今のところ異常は見当たりません」と返答する。

たかだか手紙に異常などあってたまるかと二人は思ったが、
既に突込みを入れる気力がないので何も言わずアイギスの言葉に耳を傾けた。
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/08(火) 09:50:56.72 ID:HEO+BsUlo
「この文書は見ての通りただ一言、"放課後、体育館裏で待っています"と記載されていました。
 恐らくはあらかじめ体育館裏に罠を設置しておき、湊さんを暗殺……」

「んなわけないじゃない、それ。女の子の字だもん」

「これは恐らく筆跡鑑定を逃れる為にプロが女性の字を真似て書いたと思われるであります」

「なんかそんなの居たら嫌過ぎるプロね……ていうかラブレターでしょ」

案の定一般常識が欠如している代わりに物事を最悪の方向に予測する事に長けているアイギス。

「ラ・ブレター? イタリア人女性の事ですか?」

呆れ返った様子で返答する岳羽の言葉に、
聞き覚えのない単語が混じっていたため今度はアイギスがきょとんとする。
外国語に一定の理解があるのかないのか分からないような発現に、岳羽は更にげんなりとする。

「説明しないと分からない勘違いはやめて……」

「……? よく分かりませんが、この文書には当然ながら筆者の名前が書かれておりません。
 当然でしょう、暗殺をするのに手がかりを残すわけには行きませんから」

「今度は何をする気?」

アイギスの口ぶりからして何か行動を起こそうとしているのは明白である。
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/08(火) 09:51:28.03 ID:HEO+BsUlo
しかしまたしても問題を起こされては困る。
故にこうしてストレートにアイギスの今後の行動を尋ねるのだ。
アイギスは問われた内容に嘘はつかないというのが唯一の救いだろうか。

とはいえ、いくら言ってもアイギスは自分の考えを信じて疑わない為、
どうせまた面倒事の火消し役になるんだろうなと岳羽は諦念した。

「はい。この文書に記載された文字のインクの成分からどの製品か特定後、
 その製品がどの店舗で売られているのかを調べた後に誰が買ったのかを把握し、犯人の特定を……」

「どんだけ気長な作業する気なのよ!? その間に有里君が体育館裏行くわ!!
 てかどうせそこらにあるようなボールペンでしょ、分かるわけないじゃない!?」

「疑わしきは罰せよ、です。スパイは疑いをかけられた瞬間にスパイとしての価値を失うであります」

スパイ映画でよくある爆破だの人を[ピーーー]だの、そのような目立つ行為をした時点でスパイ失格である。

スパイはスパイであるという事を秘匿し続けなければならない。
だというのに、手紙という形で情報を見せ付けるとはなんと愚かな行為だろうか。

手紙の送り主をひとしきりこき下ろしたところで、岳羽は駄目だこいつ早く何とかしないと、と思った。

しかし岳羽の言葉よりも、有里が言った方が効果的であるというのは明白で、
イライラを隠そうともせず頭をバリバリとかき乱しながら岳羽は有里に視線を送った。
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/08(火) 09:51:58.25 ID:HEO+BsUlo
「ああ、もう! ねえ、有里君も何とか言ってよね!」

「考える事をやめれば、きっと楽になる……」

「ちょ、なに不穏な事口走ってるの!? もう少しがんばってよ!」

アイギスが騒動を起こすのは全て有里の為である。
故に騒動の中心にはいつも有里がいた。

だからこその諦念。だからこその慣れというものだろう。
事情は分かる。岳羽もまた苦労し続けていたのだから、有里の気持ちが痛いほど分かる。

だがしかし、諦めたらそこで試合終了だろう。

「ホラ、根気良く説明したらきっと分かってくれるわよ……」

「そう、かな……」

何とか共に頑張ろうではないか、そんな風に手を取り合う2人だが、
そんな2人の前には本来居なければならない存在が居なかった。

有里の机にはラブレターと思しき手紙は消え、
その代わりに「しかしゆかりさんの言い分も最もであります。故に、先手をうつであります」という手紙だけが残されており、
とどのつまりいつの間にかアイギスの姿が消えている事に気がついた。

「「……あれ?」」

互いの気持ちを再確認し、再び頑張るべく立ち上がろうとした矢先にこれである。

「……まぁいいや」

「良くない!!」

手紙の内容は把握している。アイギスについては後の自分に任せよう。
そんな風に考えた有里はとりあえず懐から胃薬を取り出すのだった。
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/08(火) 09:52:55.70 ID:HEO+BsUlo
・・・

伏見千尋という女生徒は奥手である。
いや、奥手というよりは男性恐怖症であり、そんな情けない自分を何とか変えたいと思っていた。

故に生徒会という、生徒と関わる機会の多い職務を希望し、
男性恐怖症を治そうと頑張る決意をしてここ月光館学園に入学を果たす。

そんな折である。
有里湊と出会ったのは。

普段はあまり口を開く人間ではないが、不言実行とでも言おうか、有里は何も言わずに伏見を引っ張っていった。

ある時は古本屋に付き合ってもらったり、ある時は勉強を見てもらったり、
ある時は窃盗疑惑をかけられたときに、周りが信じなくとも有里だけは信じてくれたり。

そんな有里のお陰で男性に対してビクビクする事もなくなり、自信もついた。
手紙という形で呼び出してしまったというのは、ただ単に気恥ずかしかっただけである。

呼び出すのは手紙という形であるが、伝えたい気持ちは言葉にする為に、
名前などの情報はあえて記載しなかった。

後は放課後を待ち、有里にこの高鳴る気持ちを届けるだけだ。

そして現在、放課後。
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/08(火) 09:53:58.47 ID:HEO+BsUlo



伏見千尋は命の危機にあった。

「命まではとらないであります。名前と所属、それに目的を速やかに自供せよ」

「え……!? あの……えっと……」

終礼が終わるなり体育館裏へと直行した伏見は、背後から何かを突きつけられ、
更には背後に居ると思しき女性に命令され、叫ぶ事も振り返る事も許されないという状況に陥っていた。

突きつけられているのは拳銃だろうか。

ゴリゴリと押し付けられている冷たいそれは、
刃物とは違って命を奪った瞬間を感じ取る事なく生命を刈り取る事ができる為、
近代においては非常に有用な武器として扱われてきた。

「もう一度問う。湊さんに手紙を送ったのはあなたでありますか?」

「え……み、なと、さん……?」

何故背後に居る人が、"あの人"の事を名前で呼んでいるのだろうか。自分だってまだ苗字呼びなのに。

恐らく背後の人物は女性であり、そして下の名前で呼び合う程度には仲の良い間柄という事だろうか。
それはすなわち、自分などが入り込む隙間なんか、端からなかったという事だろうか。

その事実に行き当たったとき、気がつけば彼女の頬から涙が伝わり地面へと落ちていた。

「恐怖に当てられたのでしょうか。感情を露にするのはスパイ失格であります」

「だーかーらー、スパイじゃないって言ってるでしょうが!!」

瞬間、先ほどまでとは別の女生徒と思しき声と共に、
スパァン!!とやたらと良い音が体育館裏を包み込んだ。

一体何が、と思ったら、そこには拳銃を手にした金髪の女生徒に、
ハリセンを手にしたカーディガンを羽織った女生徒に、それだけでなく伏見の想い人の姿があった。

「有里、さん……」

「ごめんね、大丈夫だった?」

有里は非常に後悔していた。
アイギスの真意にいち早く気づいていれば、伏見をこんなにもおびえさせる事もなかっただろうに。
というか、軽くトラウマものだろう。

「……私、ごめんなさいっ!」

一体なんと声をかけたものか、そんな事を思案しながら涙を流す伏見の元へと歩んでいく有里だったが、
伏見は逃げるようにその場を走り去っていく。

彼女を追いかけるべく有里は背後に足を向けるが、それは叶わなかった。
というのもそれと共に、有里の脳内にタロットカードのアルカナ"正義"の逆位置が思い浮かんだからだ。



完全に、コミュリバース状態である。



これでは会話もままならないだろうと、有里は諦念した。
しばらくの間、悲しみに耽る伏見の心を取り戻す事に専念する羽目になったのは、言うまでもない。
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/08(火) 09:56:03.91 ID:HEO+BsUlo
第一話終わり。
千尋ちゃんごめんね
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/05/08(火) 13:06:06.62 ID:0dEEbbCH0
千尋ちゃんカワイソすぎる……
ていうかコミュリバースとか洒落にならんわwww
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/08(火) 17:52:06.82 ID:HEO+BsUlo
第二話始まるよ!
読んでる人いるか知らないけど自己満だから良いもんね!
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/08(火) 17:52:43.22 ID:HEO+BsUlo
無音。アイギスは目の前に広がる
工場区画の中にあるコンテナを利用して物陰に隠れている。

敵に見つからないように息を潜め、気配を消し、
敵を殲滅する算段をつけていた。

だがしかし、そんな静寂はすぐに破られる事となる。

「ッ!!」

敵兵に見つかり、サブマシンガンをこちらへと向けられた。
応戦するには引き金を引くしかなく、アイギスは躊躇いなく敵兵を撃った。
だがしかし、それによって発生した銃声によって次から次へと敵兵がこの場へやってくる。

相手は十分に武装を施した敵兵で、こちらの装備はハンドガン一丁と非常に拙い。
それでもヘッドショットを確実に決めていき、攻撃を受ける前に敵兵を次々と撃破して行った。

とはいえ、銃弾には限りがある。
マガジンの最大装弾数分だけ引き金を引いたアイギスは、"画面"の左右に取り付けられたスピーカーからリロードを促された。
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/08(火) 17:53:23.28 ID:HEO+BsUlo


「くっ……!」

しかし、リロードをしている時間はない。
そのように判断したアイギスは手元のハンドガンを地へ捨て右手をかざした。

アイギスは人の手によって造られた機械であり、
シャドウと呼ばれる怪物を殲滅する為に身体のいたるところに武器が装着されている。

そんな中でもアイギスが良く使う武器は両手の指についている銃弾発射機構であり、
それを今まさに放たんとするがアイギスの右手にある5本指からは1発たりとも銃弾は飛び出さなかった。

「しまった……安全装置(セーフティ)が……!」
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/08(火) 17:55:32.75 ID:HEO+BsUlo


というのも、アイギスの銃弾発射機構には―――いや、全身に取り付けられた種々の武器には全て安全装置がかかっており、
これを解除するには月光館学園生徒会長たる桐条美鶴からの許可が必要だ。なぜ安全装置などつけられたのか。


それはアイギスが学園で破壊した器物にある。ここ一週間の間で壊された器物は数え切れない。

故にアイギスを造った桐条グループの次期当主である美鶴が
わざわざ桐条グループのラボに命じて安全装置を造らせたのである。

というか、端から造っておけと言いたいところであるが、
アイギスが造られたのはおよそ10年前の話であり、
当時の研究者達は諸事情によりほとんど居ないため文句すらいう事が出来なかった。
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/08(火) 17:57:18.23 ID:HEO+BsUlo


兎にも角にも一瞬の逡巡が命取りとなる戦場において、
アイギスが生み出した隙は致命傷となりうることを彼女は良く知っている。

覚悟を決めるのとほぼ同時、敵兵から向けられた銃口からは無慈悲にも無数の弾丸が射出され、
画面は"GAMEOVER"と表示されるのであった。

そんな画面を眺めながら、悔やむようにアイギスは右のこぶしを握り締める。

「安全装置さえはずしてあれば……」

安全装置があったから、目の前のシューティングゲームは壊されずに済んだ。

アイギスと共にゲームセンター"ゲームパニック辰巳店"へと来ていた岳羽ゆかりはげんなりとしながら、
あり得たかも知れない未来……もしゲーセンからぶっ壊した筐体の修理費を請求された場合を考えて小さく震える。
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/08(火) 17:58:23.31 ID:HEO+BsUlo


「安全装置は安全の為に付けられてるってのがよーく分かったわ……」

「アイギス、リロードはこう……銃口を下に向けたら勝手に装填されるんだから」

一方でちゃんとした遊び方を教えんとする有里湊の言葉に、
アイギスは何を馬鹿な事をと声を荒げた。

「湊さん、敵から銃口をはずせというのですか!? 
 いざと言う時、あなたをお守りする事が出来ないであります!!」

「あ、ありがとう……」

「いえ、感謝されることではありませんので」

とりあえず、いつまでもこのゲームセンターにいてはそのうちアイギスが何かを壊してしまう恐れがある。

アイギスもひとしきりゲームを楽しんだらしく満足げな表情を浮かべていたので
(ひょっとすると有里のありがとうがうれしかっただけかもしれないが)、
店を出て帰路に着くことにした。
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/08(火) 17:59:05.08 ID:HEO+BsUlo


「しかし、会長閣下も意地の悪い事をするでありますね」

「いや、桐条先輩の判断は正しいと思う……」

アイギスは各武器にとりつけられた安全装置のことを言っているのだろうが、
岳羽からしたらそのような危険物を使うのは、影時間においてのみにしてほしいものである。

ちなみに、影時間とは先述したシャドウという怪物が現れる時間帯の事で、
この時間はある特殊な力を持つ者―――有里や岳羽もそれに該当する―――にしか認知できない為、
この時間中であればアイギスはいくらでも銃火器をぶっぱする事ができる。

但し、器物を破損すると後が面倒なのでやっぱりなるべく武器は使わないでほしいと、2人は同じような事を同時に考えた。
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/08(火) 17:59:49.29 ID:HEO+BsUlo


「成程、武器ばかりに頼って、いざ武装がゼロの際に襲われたとして、
 それに対応できるかどうかを図っておられるわけですね?」

そして岳羽の言葉を曲解するアイギスに、いちいち訂正する気にはならない2人だった。
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/08(火) 18:02:31.52 ID:HEO+BsUlo


・・・

ポロニアンモールがある人工島から有里らが住まう学生寮に帰るには二つの方法がある。

1つはムーンライトブリッジという橋を渡っていくか、
もう1つは学校近くにあるモノレールの駅"ポートアイランド駅"まで向かった後、
モノレールにて巌戸台駅まで戻るかのどちらかになる。

ポロニアンモールから帰るのなら、ムーンライトブリッジから歩いて帰るかバスにでも乗っていった方が早く帰れるのだが、
有里が学校に忘れ物をしたらしく岳羽とアイギスは快くそれに着いていくことにしたので、今日は後者の方法で帰ることにした。

そうして学校を経由してポートアイランド駅へと赴いた3人の視線の先、
そこに見知った顔の人物がいたので有里が声をかけようとするも、アイギスにそれをとめられてしまう。

「待ってください。順平さんの隣に怪しい人物がいるであります」

アイギスが警戒するときは大体無警戒で問題ないのだが、
今回ばかりは2人ともアイギスの言葉に納得してしまった。
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/08(火) 18:02:59.50 ID:HEO+BsUlo


3人の視線の先には、伊織順平というクラスメイト兼影時間の適性者で3人の仲間でもある人物がいた。

そしてその隣にはスケッチブックを手にした、
同年代の赤い長髪のロリータファッションな少女が伴っており、
アイギスが怪しいと称したのはその少女に対してである。

「何あれ、ゴスロリって言うの……?」

「いえ、どちらかといえば甘ロリに分類されるであります」

「……どーしてそーいうどうでもいいことには造詣が深いのよ……」

一般常識には疎いくせに、妙なところやどうでもいいことにはやたらと詳しい知識を発揮するアイギスに岳羽はツッコんだ。
最早ツッコミを入れるというのが習慣になってしまっているらしい。

「とりあえず、様子を伺いましょう。
 もしかすると順平さん、敵スパイのハニートラップに嵌っているやも知れません」

「この間アイギスは"スパイは目立ってはならない"って言ってなかった?」

「その考えを逆手に取ったスパイもいるかもしれない、という話であります」

スパイは目立ってはならないと言ったり、逆に目立つ事を利用するのだと言ったり、
一体どっちがどっちなんだと考えるが、アイギスの言葉をいちいち真に受けていてはキリがない。有里は考えることをやめた。

しかし、意外とアイギスの言葉が間違い出なかったという事は、翌日判明する事となる。

34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/08(火) 18:03:51.23 ID:HEO+BsUlo




第二話「妥協無用のホステージ(というかマター)」




 
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/08(火) 18:04:27.30 ID:HEO+BsUlo
一旦一区切り。
つーかここまでしか書いてない。

気が向いたらまた書くます。
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福島県) [sage]:2012/05/08(火) 19:45:48.58 ID:q8b4dDjA0
乙です!ふもっふベースということは本格的な戦闘シーンはないんですかね。
???「コッペp…もとい、一刻も早い再開を要求する!」
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) [sage]:2012/05/08(火) 19:58:00.06 ID:DlXMNXkbo
乙ー
しかし思ったいじょうに感情ゆたかな鬼太郎だったw
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/09(水) 04:12:40.41 ID:ovvVJCfao
・・・

満月の夜。
影時間は有象無象の区別なく、"力"なき人間を"棺おけ"に変貌させた。
これを象徴化と呼び、逆に一部の"力"のある人間だけはその限りではない。

そして影時間中に現れる、便宜上タルタロスと呼んでいる巨大な塔があり、

これが影時間をなくすための鍵を握っているのではと、
力のある者達……ペルソナ使い達はそのように考えていた。

また、原因は不明だが今年の4月から毎月の満月の日に"大型シャドウ"と呼ばれる、

普通のシャドウよりも数段強力な怪物が現れており、
研究によるとその大型シャドウは12体現れるらしい。

その12体をどうにかすれば影時間を終わらせられるかもしれない、ということで、本日は9月の満月。

S.E.E.S―――特別課外活動部の面々は、
満月の夜ということで大型シャドウの討伐の為にポロにアンモールまで出張っていた。

その中には岳羽ゆかりや有里湊、アイギスも含まれており、伊織順平なども同じ部に所属している。

兎にも角にも、今回の大型シャドウはポロにアンモールの一角にある、
"エスカペイド"と呼ばれるクラブだった。

どうやらここの地下に昔使われていた発電施設があったらしく、
大型シャドウはその施設を乗っ取って操っているらしい。

そんなわけで特別課外活動部全員ではなくその中から4人を選抜してシャドウの駆逐へと赴いたわけだが―――
39 :ポロにアンモール、じゃなくてポロニアンモール :2012/05/09(水) 04:14:06.20 ID:ovvVJCfao
「ギェエエエ!」

奇声を発しているのは、発電施設の地下ケーブルを一つに束ねてそれを両手足として扱ってい"た"大型シャドウ。

そしてその大型シャドウの扱っていた地下ケーブルを全てちぎりとり、
そのケーブルを利用して亀甲縛りにした上でシャドウを天井から吊るすという、ぐうの音の出ないほどの鬼畜はというと。

「全く、電撃を放って湊さんを危険な目に合わせるとは、本当に良い度胸をしているでありますね」

「ギエェェエ!!」

「何、心配することはない。いずれ楽になるであります」

抑揚のない声色で、表情一つ変えることなくアイギスはシャドウに向かって銃弾を放った。

勿論その銃弾は縛ったケーブルが千切れないように、
ケーブルの隙間を縫うようにしてシャドウの体を正確に撃ちぬく。

その度に地下室を包み込むシャドウの奇声に、
岳羽は耳をふさぎながらも、流石に可哀想だと少しだけシャドウのことを哀れんだ。

「こういうときは頼りになるのに……」

「もう帰っていい?」

「駄目。アイギスが地下施設壊さないか見張らないと」

早く帰りたい、みたいな表情を浮かべながら岳羽に問うた
有里の言葉を、彼女は一も二もなく切り捨てた。

そして4人でこの地下施設へともぐりこんだので
あともう一人仲間が居るわけだが、その人物はというと。
40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/09(水) 04:15:20.83 ID:ovvVJCfao

「もういいだろ、アイギス。楽にしてやれ」

「ギッ……!」

アイギスを軽く押しのけて、シャドウの首を落とした。
なかなかに凄惨な光景ではあったが、ある意味では救いだっただろう。
ボトリ、と首が地面に落ちると同時に縛られていたシャドウの身体は跡形もなく消え去っていた。

「荒垣さん。邪魔をしないでほしかったであります」

「馬ァ鹿。倒せるんだったらさっさと倒しちまった方が良いんだよ」

「確かに、獲物を前に舌なめずりは三流のする事でしたね。申し訳ありません」

「ふん……」

あのアイギスを言いくるめるとはこの男、やはり出来る。
シャドウに引導を渡した優しい男の名前は、荒垣新次郎。
つい最近特別課外活動部に"戻ってきた"男である。

その辺の事情についてはここに居る面々の与り知らぬところなので、
詳しいことは本人が口を開かねば分からないだろう。

しかし、見ての通り荒垣という男は強かった。
そんな訳でシャドウを撃破した面々はさっさと帰ろうとばかりに地下施設を後にした。

翌日、エスカペイドの店員が地下室に入ったとき、
亀甲縛りのケーブルが天井から吊るされていることに大層驚いたというのはまた別の話である。
41 :荒垣真次郎だよ!! :2012/05/09(水) 04:16:48.64 ID:ovvVJCfao


「結局、じゅんぺーこなかったわね」

岳羽は呆れた表情を浮かべてなにやってんだかとぼやいた。

今回戦闘に参加した4人の他にも数人の仲間が居り、
こういう重大な戦いには基本的に全員参加が義務付けられている。

にも拘らず、伊織は何故か参加しなかった。
というより、特別課外活動部の面々が住まう学生寮にすら帰ってきていなかったのだ。

「風花、じゅんぺーの奴どこにいるか分かんない?」

『うん、ちょっと待ってね。今調べるから……』

無線越しに風花と呼ばれた少女は祈るように両手を組むと、突如として淡い光が彼女を包み込んだ。
これこそがペルソナと呼ばれる"力"であり、シャドウと戦うための術でもある。

そして彼女のペルソナ"ルキア"はいろんな物事を感知する力に特化しており、
普段シャドウという怪物と相対して戦えているのは彼女からのナビがあるからである。

『……居ました。って、あれ……? 学生寮に居るけど、どこか様子が……?
 寮には理事長も居るんだし、大丈夫とは思うんだけど』

「とりあえず、戻ろうか」

「そうですね」

山岸からの報告が気になるところだが、いずれにせよ寮に戻らねば始まらないと、
一同は学生寮へと足を向けるのだった。
42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/09(水) 04:17:40.37 ID:ovvVJCfao
・・・

学生寮の屋上。
伊織順平は両手を縛られて屋上のコンクリートの上に転がされていた。
別に変な趣味があるとかではない。

それを行った張本人は、伊織の目の前にいるのだから。

「……もう、作戦は終わってしまったみたい」

「……!? わかんのかよ?」

何かに気がついたように空を見上げてつぶやいた赤毛の少女の言葉に伊織は驚きを示した。

「分かる。メーディアが教えてくれるから」

対する少女はその言葉に肯定を示した。
メーディアというのはひょっとすると、ペルソナの事だろうか。

だとすると山岸と似たような力かもしれないと、
頭の中で考えながらも自分は騙されてしまったのだろうかと自嘲する。

元々、この赤毛の少女とはつい最近知り合ったばかりだ。
ポートアイランド駅前広場にある花壇の縁に座ってずーっと絵ばかり描いている、不思議な少女だった。

しかし、何故か放っておく気になれずに気がつけば話しかけていた。
最初は邪険に扱われていたものの、徐々にその態度も軟化していき、仲良くなれたと思っていたのだ。

だが、それがこの様である。
無様を通り越して哀れ過ぎるだろうと、自身を嘲笑う。
43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/09(水) 04:18:34.53 ID:ovvVJCfao

「メーディア……?」

「私の、友達……」

「チドリ……」

とはいえ、本当にペルソナなのだろうか。
確認の意を込めて尋ねたが、確証となる言葉は引き出せなかった。

「……それより、どうして作戦中止命令を出さなかったの? 命より、作戦の方が大事なの?」

伊織から"チドリ"と呼ばれた少女は、眉をひそめて威圧するように尋ねる。

そもそも伊織がこんな目に遭っているのは、
チドリとの会話の際に特別課外活動部での働きをうっかり漏らしてしまったからだ。

それについてチドリから深く尋ねられた伊織は、
人知れず怪物と戦っているだとか、自分が活動におけるリーダーだとか、あることないことをチドリに教えたのだ。
勿論チドリに良い格好を見せるために一部嘘をついた。

それが嘘だとは思いもしなかったチドリは、満月の夜に伊織を浚って
作戦を中止するように脅したのだが、伊織は言うことを聞かなかった。

人知れずシャドウと戦っているのは事実だが、その活動における指揮権は有里湊が持っている。

普段ぼんやりしている有里だが、実はかなり強い。
といってもアイギスが参入してからは大体彼女がシャドウを殲滅していたのだが。
44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/09(水) 04:19:17.95 ID:ovvVJCfao
さて、話を戻そう。
元々チドリが伊織と知り合ったのは本当に偶然だ。

しかし、彼女が所属するストレガというグループは特別課外活動部とは敵対関係にあるため、
こうして情報を漏らしてしまった伊織から、チドリが情報を引き出そうと試みるのは当然のことである。

「いや……命令したくても出来ねーっつーか、あれ、嘘なんだ……」

「嘘……どうして……? 理解できないわ……」

ええかっこしいの嘘がばれたせいか、伊織はばつの悪そうな表情を浮かべてうなだれた。

対するチドリは騙されたのだと勘違いしてうろたえる。

しかし、伊織もまたチドリに騙されたんだな、としょんぼりしながら口を開いた。

「なあ、一個だけ教えてほしいんだけどさ……ハナから、何もかも芝居だったのか?
 絵とか、腕の怪我とか……はは、そうだよな。あの怪我がすぐに治るわけないもんな……」

「あれは……」

歯がゆいすれ違いが繰り広げられている中、突如として屋上へ向かうための扉が音を立てて開かれた。

「順平!?」

腕を後ろに組まされ縛られているその様は、どうみてもピンチな状態だった。

寮へと戻ってきた一同は、月光館学園の理事長兼特別課外活動部の顧問たる幾月修司に伊織の所在を尋ねたが知らないと答えた為、
何かあったのではと彼の姿を探してこうして屋上までやってきた次第である。
45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/09(水) 04:20:02.23 ID:ovvVJCfao

「ッ……! もう戻ってきたの……?」

いずれにせよ、今度はチドリがピンチになってしまったといえよう。
屋上にやってきた面々に視線を這わせた後、チドリは懐から拳銃を取り出した。

「おいで、メーディア……」

チドリが手にしたのは拳銃ではなく、
召喚器と呼ばれる銃器の形をしたペルソナを召喚するためのデバイスである。

「……! やめろ、チドリ!!」

自分達以外にもペルソナ使いが居ることに驚きを示す面々だったが、
チドリの背後に居た伊織が隙をついて彼女の手から召喚器を弾き飛ばした。

それを素早く拾い取ったアイギスは、チドリに両手をむけて銃弾発射機構に弾丸を装填させる。

「くっ……動かないで、この男が、どうなっても良いの……!?」

対するチドリは懐からナイフを取り出して伊織の首に歯を向けた。

ここでアイギスがチドリを撃ちぬくのは簡単だが、
それよりも早く伊織ののどが掻き切られてしまう恐れがある。

「まず、武器は捨てて頂戴」

ナイフに軽く力を込めると、伊織の首筋からは血がにじみ出てきていた。

小さいながらも鋭い痛みに思わず伊織は顔をしかめ、
そんな様子に一同はチドリに従わざるを得ないといった様子で召喚器や各々の持つ武器を足元に置く。

そんな中でゴトンゴトンと音を立てながら次々と武装を解除していくアイギスを待つこと1分半。

ようやく武装が解除できた頃には明らかにアイギスの持つ体積よりも武器の方が多かった。
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/09(水) 04:21:41.29 ID:ovvVJCfao
「次は……メーディアを、返して」

そんなアイギスの武器の数々にチラチラと視線を送りながらもチドリは自身の召喚器をを返す用に促した。
しかしアイギスがチドリの召喚器を手にしているのだが一向にチドリへと渡す気配がない。

「どうしたの? 早く返してっ!! この男がどうなっても良いの!?」

ギリ、とナイフの柄を握り締めて威嚇するチドリは、いつ暴発するか分からない状況にあった。

だがしかし、対するアイギスの返答はというと。

「―――[ピーーー]でありますか? しかし、それも已む無しであります」

驚く一同。
それに続いて再び口を開くアイギス。

「テロリストには譲歩しない。これは国際常識であります」

「んえ!?」

こればかりは人質になっている伊織も驚かざるを得なかった。

「順平さん。申し訳ありませんが、この召喚器と運命を共にしてください」

「やだよ流石に無機物と同列に扱われるのは!?」

「止めて! メーディア、返してっっ!!」

アイギスの言葉に伊織だけでなくチドリもうろたえた。それはそれは酷くうろたえた。

「ちょ、アイギス!?」

「大丈夫です、ゆかりさん。彼の遺族には私が責任もって手紙を送ります」

「送るな!!」

「なんと、遺族に何の説明もなしに済まそうというのですか!? 非常識ですよ!?」

「あんたのその考えが非常識だっつーの!!」

「メーディアを返してよぉ!!」

一瞬にして場の空気が弛緩してしまった。
しかし、その空気はアイギスの手によって再び引き締められる。
47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/09(水) 04:22:36.47 ID:ovvVJCfao
「では女。選ぶと良いであります。どちらも助けるか、どちらも失うか」

まるで悪役の台詞を、さも正義のように語るアイギスの目は、感情の欠片も込められていなかった。
しかし、ここで折れてしまったところで、ここから逃げ切れるとは限らない。

何よりアイギスの瞳がそれを雄弁に語っていた。

しばらくの間均衡状態が保たれるが、驚くべきことにそんな均衡をアイギスが再び破ることとなる。

「仕方ありません、ではこうしましょう。私は召喚器をここに置き、この場を離れます。
 あなたは召喚器を拾って、順平さんを解放します。その後逃げようが戦おうがそれはあなたの自由であります」

その言葉とともに手にした召喚器をコンクリートの上に置き、アイギスは屋上を後にした。
一同はその行動に疑問を浮かべつつも伊織が解放されるならと、一歩後ろに下がって距離をとる。

チドリは警戒しながらも、恐る恐る召喚器を手にした。

「……おいで、メーディア」

とはいえ、ここから逃げ切るにはやはりペルソナの力が必要だ。
そのように判断したチドリは、召喚器を額に押し付けて引き金を引いた。

すると、パンッ!と甲高い音が鳴ったと思ったら、チドリが地面へと倒れ伏すのであった。
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/09(水) 04:23:13.35 ID:ovvVJCfao

「……は? おい、チドリ! おいって!」

銃声が鳴ったということは、あれは召喚器ではなかった?
アイギスは元々召喚器を返すつもりなど毛頭なかった?

ぐるぐると伊織の脳内をめぐる疑問。
それは再び屋上へと戻ってきたアイギスによって解消される。

「心配なさらずとも、その女が撃ったのは召喚器と同じデザインの麻酔銃であります。
 額やこめかみに突きつけることを前提としていますので射出の威力はかなり低いであります」

召喚器は、元々全て桐条グループが生み出したものであり、その全てが同じデザインになっている。
それを逆手に取ったアイギスが独自に作り出した麻酔銃がこれだ。

「ペルソナ使いの全てが仲間になるとは限らないであります。
 故に敵ペルソナ使いの持つ召喚器とこの麻酔銃をどうにかして
 すり返ることが出来れば戦闘も楽になると考えました」

アイギスの背後から高笑いしながらすりかえておいたのさっ!と叫ぶ蜘蛛男が見えた。
今回だけは、アイギスのおかしな方向への警戒に感謝しなければならない……のだろうか?
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/09(水) 04:23:31.12 ID:ovvVJCfao
・・・

「なぁアイギス」

「なんでありますか、順平さん?」

「もしチドリがアイギスの提案を承諾しなかったらさ、どうしてたんだ?」

「……」

「……目ぇ逸らさないでくれよ……」
50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/09(水) 04:24:14.61 ID:ovvVJCfao
第二話終わり。
ごめんねチドリン
51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/09(水) 04:25:11.85 ID:ovvVJCfao
ホステージは人質
マターは物質

まあ日本語じゃなきゃ分からないようなどうでも良い駄洒落みたいなもんです。
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/09(水) 17:03:24.10 ID:ovvVJCfao
>>36まともな戦闘はしません(面倒くさry)ゆえにシリアス予定は0です

といってもこのスレは息抜き用みたいなもんなんで不定期更新になりそうですが、
まぁひっそりと更新することとなるかと思います。
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/10(木) 23:35:18.00 ID:59wIjQoDO
キタローが五股しているなら下駄箱の手紙は暗殺目的の可能性があるな
54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/18(金) 21:58:07.13 ID:TJfdiVNro
気が向いたからちょっと書いてきますわ
55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/18(金) 22:05:47.65 ID:TJfdiVNro
「……なんだね、これは」

「はっ、それは学園の備品に関する修繕費かと!」

生徒会室。
その部屋の中心で両手を後ろに組み、威勢の良い返事をしたのはアイギス。

1枚の紙に記された、破壊された箇所数十件。窓ガラス、トイレ、廊下、etc、etc。
総額40万円を超えたそれをアイギスに見せつけ、声を荒げるでもなく皇帝のように座して威圧するのは小田桐秀利という風紀委員だ。
彼は学園の調和を乱す者は一切合財許さず、とどのつまりアイギスの暴挙に最も腹を立てている人間だった。

そしてこうしてアイギスを生徒会室に呼び出した理由は、まさにその修繕費に関するエトセトラであった。
56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/18(金) 22:06:13.39 ID:TJfdiVNro


「ああそうだ、確かにこれは修繕費だ。今すぐにでも業者を呼び直させねばならないな」

「常に生徒の安全を図る、流石風紀委員長殿です!」

「す・べ・て、君が破壊したものだと言ってるんだ!!」

そう。これは全てアイギスが破壊したものであり、長年の累積などではなく、一月の間に行われた犯行(?)である。
自覚があるのかないのかわからないような態度を取るアイギスに、小田桐は内心頭を抱えた。

有里湊はあれ程までに聡いというのに、その学友たるアイギスとどうしてここまで差があるのか。
その疑問を浮かべた小田桐は同時に、本当にアイギスは有里の友人としてふさわしい人物なのかと訝った。
57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/18(金) 22:06:39.59 ID:TJfdiVNro


「しかし、有里さんの身の安全を確保する為の……!」

「だ・か・ら、明らかに破壊を伴って彼の身に危険が及んでると言ってるんだ!!」

「私はプロですので、そのような事は決して」

「何のプロだ!? そもそも有里君は無傷でも多数の生徒が怪我を負っているんだよ!!」

「はっ、以後気をつけるであります!!」

「ふん……そういってまた問題を起こすのだろう? 大した根性だよ、君は」

「お褒めに預かり光栄です」

「褒めてない!!」

小田桐のアイギスに対する心象はいくら注意しても聞かない、そんな生徒だった。
そのくせ授業は真面目で生活態度も悪くない。ただ、有里湊関連を除けば。

一度有里が何か行動を起こせば周辺に異常がないか探り、異常でもなんでもないごくありふれた風景から粗探しのように異常を抽出し、それを撃破する。
これこそがアイギスの持つ問題点だった。
58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/18(金) 22:07:08.38 ID:TJfdiVNro
例えば、化学実験室で刺激臭を察知したら毒ガスかと勘違いして爆破し、家庭科室で包丁を持った生徒を強盗と勘違いして撃破し、いたずらで有里の事を驚かそうとした男子学生を狙撃した。

しかしこれは飽くまでも一例であり、まだまだアイギスが起こした問題は数え切れないほど残っている。

兎にも角にも、これ以上こんな問題を起こされては風紀に関わる―――というか既に関わっているのでこうして呼び出して注意をしているわけなのだが。

「今日のところは時間もないのでこれまでにしておくが……今度の文化祭で一般人に怪我でもさせてみろ、たとえ理事長が許しても風紀委員長たる僕が許さないからな」

「はっ! 肝に銘じておきます!!」

ギロリと小田桐は目を細めてアイギスをにらみつけたがなんのその。アイギスはどこ吹く風で良い返事を返す。

「……本当に分かっているんだろうな?」

「勿論であります! 節度ある武力を以って、敵を殲滅するであります!」

「するな!!」

しかし小田桐の与り知らぬ事であるが実際のところ、アイギスに肝など存在しないので後々になっていつものように学校の備品の修繕費一覧が彼の元へと届き、そして小田桐の逆鱗に触れてしまうというのは言うまでもない話だった。
59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/18(金) 22:09:52.88 ID:TJfdiVNro





第三話「鋼鉄のカルチャー・フェスティバル」





 
60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/18(金) 22:11:05.75 ID:TJfdiVNro
1500字くらい?
(短くて)すまんな


またそのうち書くわ

61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/06/03(日) 10:37:26.24 ID:WQsHbK/50
期待してんねんで
62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/25(月) 22:55:39.20 ID:R9G5VzJDO
舞ってる
63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/06(金) 03:13:59.33 ID:FI1Z5wObo
結論から言うと、文化祭で外部からの来客がアイギスの魔の手に捕まることはなかった。
いや、誰一人怪我をする事無く文化祭は幕を閉じたのだ。まさに奇跡、神が与えし行幸とも呼べるかも知れない。

「どうやって片付けるんだよ、コレ……」

クラスの一部を率いて校門前にやってきた伊織順平が目の前のそれを見上げながら溜息をついた。

奇跡が起きた理由は単に台風で文化祭が中止になったからというもので、決してアイギスががんばったわけではない。
そしてそれは文化祭の準備をしたは良いが、文化祭は中止になってしまったので片付けだけを言い渡されるという生徒達からしたら不満しか残らない結末であった。

さて、有里湊や伊織、岳羽ゆかりやアイギスらのいつものメンバーを含めた
その他数名のクラスメイト達の班が片づけを命ぜられた場所は、校門前だった。

やはり文化祭だけあり、校門前の入り口は色々と彩られていたというものだ。

そして月光館学園という広大な土地に似合うだけの広く大きな校門を、どのような形で飾り付けたのかというと。
64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/06(金) 03:14:31.03 ID:FI1Z5wObo
「やはり……機能美というものはいつ見ても素晴らしいであります」

「こんなの、どうやって片付けたらいいのよ……」

うんうんと頷くアイギスに対して、岳羽ゆかりは既に疲労困憊のような表情でがっくりと肩を落とした。

目の前にある校門は、最早校門にあらずといった様相を呈している。

マイクロチップ技術を応用し、無線通信により校門を通った来客や生徒、教師などの職員の情報が全てアイギスの脳内へとインプットされるように出来ており、
更には金属識別や金属探知の探査精度・速度の向上を図った電子機器評論家もびっくりな最新技術を搭載した、
ようは"敵が来たらアイギスがそれを撃破しに行く"為の門であり、敵からの遠距離攻撃にも耐えうる耐久性に加え、
確実な情報処理と通信を可能とする為のコンピュータを搭載する為にその門は高さ10メートル、横幅10メートルという、
なんというか巨大な要塞の入り口のような鉄の塊が出来上がっていた。
65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/06(金) 03:14:56.36 ID:FI1Z5wObo
そして申し訳程度の"月光館学園文化祭"と書かれたアーチが
門の真ん中辺りの高さに取り付けられており、これだけで文化祭の予算は吹き飛んでしまったように思える。

とはいえ月光館学園は桐条グループが支えている為、潤沢な資金源のうちいくらかを
頂戴しただけなので文化祭自体に影響は出なかった事だろうがそんな事は関係ない。

文化祭の準備期間中、岳羽が気づいたときには引き返せない程に
アイギスは門を完成に近づけていた所為で結局最後まで作らせてしまったのが裏目に出てしまった。

まさか自分がこれを片付ける側に回るとは思っていなかったという、
岳羽にとっては今年で1位2位を争うほどの痛恨のミスだろう。

「……皆さん、ひょっとしてコレを撤去なさるおつもりでしょうか?」

「あんた今まで先生の何を聞いてたの!?」

「いえ、先程までは門からの定時報告を受けていた為、湊さん以外見てませんでした」

「こらぁ!」

悲しそうな目で岳羽を見るアイギス。その姿はどこか捨てられた子犬を想起してしまい、
思わずどぎまぎしてしまった岳羽だったが、結局盛大に突っ込みを入れていた。というか定時報告ってなんだ。
66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/06(金) 03:15:30.34 ID:FI1Z5wObo
「門に取り付けた監視カメラによる画像処理にて敵の他に
 怪しい人物が居ないか調べてもらっているであります」

直線距離にして1000メートル程までなら鮮明に映像を映すことが出来る高性能カメラを搭載した門は、
校門周辺で他の建物の影になる部分以外は全てを察知する事が出来るのだ。

「よし皆ー、ささっと片付けて終わらせましょう」

「そんな!?」

自信満々に門のスペック語るアイギスを尻目に、岳羽は手を叩いて注目を集めると、早々に片づけを終わらせるべく号令を放つ。

アイギスは彼女のあんまりな言葉に思わずムンクの叫びのように両手を頬に当てて驚愕を露にするが、
そんなアイギスの意見など全て無視されて作業は開始された。

クラスメイト達もアイギスの奇行には慣れている為、このハイスペック門は一体なんなんだなどという疑問をいちいち持つ事などはない。
67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/06(金) 03:16:04.52 ID:FI1Z5wObo
「つってもよー、どーやって壊すんだ? これ」

そんな中で、この班の一員に任命された同じクラスメイトの宮本一志は、
ノックでもするかのようにカンカンと門を叩きながら疑問を呈した。

「あ、いけません! 伏せて!」

「な―――」

何が? 宮本はその短い一言を言い放つ事無く吹き飛んだ。衝撃を感知した門が自衛手段を作動させたのだ。
あまりに杜撰なその対応に、一同は開いた口がふさがらなかった。

「……いけませんね、先程の友近さんの行為がどうやら攻撃行動として判断されたようです」

やれやれ、と呆れた様子でありながらもどこか我が子を慈しむような目をアイギスは門へと向けた。
対する門も、ピー、ガガ、ピー。と音を立ててアイギスの視線に応えている。

「……どーやって壊すのよこんなのー!?」

ハッと意識を取り戻した岳羽は、続いてウガー! と叫ばんばかりにアイギスに掴みかかって思い切り揺さぶった。
しかしアイギスは、自分以外にこの門をどうにかする事は出来ないという事実に思い至り、したり顔をしながら揺さぶられている。
68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/06(金) 03:16:47.11 ID:FI1Z5wObo
(アイギスがお母さん……?)

そんな顔を見せられて更にヒートアップする岳羽の一方で、有里は機械が生み出した機械なのだから、
アイギスが母性本能に目覚めた可能性が微粒子レベルで存在しているのではという考えを脳裏によぎらせていた。

「つーか文化祭中止になって残念だったよなー。お笑いライブとか色々あったのにさ」

友近は近くにあった植え込みの縁に座って溜息をついた。
どうやらあの危険な門を相手に事を構える気はないといった様子だ。

それはさておきどうやらお笑いライブに飛び入りで参加するつもりだったらしく、
己のネタを振るえなかった事を心底残念に思っているようだった。

「へー、マジ? 誰と?」

そんな友近に対して、あわよくばネタを披露してもらおうと伊織は相方が居ないか尋ねる。

「お前と」

「へー……って人の知らんとこで勝手に計画すんなよ!」

間髪居れずに当たり前のように言われた所為で伊織の思考は止まってしまった。
文化祭が通常通り開催されていれば、公開処刑と等しい位の苦い思い出になっていたかもしれない。

「はは、冗談冗談。実は宮本」

へんじがない、ただのしかばねのようだ。

「おいおいだらしねぇな、じゃあ有里と」

「望むところだ」

「お、いい返事! じゃあちょっとやってみる?」

わいわいがやがや。
先の宮本のお陰で門に一瞬でも触りたくないと考えた一同はとりあえず現実逃避することにした。

「ああ、もう好きにして……」

最後の良心とも言える存在・岳羽も、この巨大で強大な門を前に膝を突く他に方法が見当たらず、後で有里から胃薬もらおうと思ったのだった。
69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/06(金) 03:17:23.55 ID:FI1Z5wObo
・・・

「……何だこれは」

文化祭の準備にかかった費用の総計が小田桐秀利に届けられた。
それの中身を眺めていた小田桐は、その中に含まれているありえない数字に思わず二度見してしまった。
          _____
         / ヽ____//
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     /    門 500万円   /  /   /
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「……伏見君、アイギス君を呼んで来い!! 今すぐにだ!!」

「は……はいぃ!?」

ここにも胃薬常用者が一人、増える事になるのであった。
70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/06(金) 03:21:37.04 ID:FI1Z5wObo
第三話終わり。

にじファンの閉鎖が決定しました。あそこでメインのSS書いてただけに残念です。

でもまあそれはそれで改訂してどっか別所に書こうと思ってますので、
相変わらずこっちは気が向いたときに書くだけというわがまま気ままなスレになりますごーめんね。

でも、そうなると50万字改訂の可能性が微レ存……?(ゲッソリ)
71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/06(金) 03:27:58.82 ID:FI1Z5wObo
>>67訂正
before
「……いけませんね、先程の友近さんの行為がどうやら攻撃行動として判断されたようです」
after
「……いけませんね、先程の宮本さんの行為がどうやら攻撃行動として判断されたようです」
72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/07/10(火) 16:35:33.86 ID:VKtL40UCo
p3のssは貴重だから期待して待ってるわ
なん語がちょっと鬱陶しいけどなw
73 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/13(金) 22:17:49.78 ID:Qjb3Xo+IO
まさかのP3SSとは、続き楽しみにしてる!
74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/07/14(土) 04:58:17.84 ID:6g2bhZYH0
にじファン閉鎖マジか
お気に入りに読み切ってないので溢れてるわ
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