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心理定規「スクールは私が建て直す」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/10(木) 16:04:05.59 ID:XheKj3SL0
・時系列は旧とある22巻と新約とある1巻の間(主が新約1巻までしか読んでないからですごめんなさい)
・タイトル通り心理定規が頑張って自分でスクールを建て直してアレイスターと対面しようとするお話
・シリアスっぽいかも、でも肩が凝るような話しにはしたくない
・ここでSS書くのは初。決して執筆は得意じゃない。許して。
・スレ立て自体初、いつもはROM専。掲示板の使い方よく分からない、スレがちゃんと立ってるかすら疑問
・キャラ崩壊注意。

はじまります

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トーチャーさん「超A級スナイパーが魔王様を狙ってる?」〈ゴルゴ13inひめごう〉 @ 2024/04/23(火) 00:13:09.65 ID:NAWvVgn00
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【安価】貴方は女子小学生に転生するようです @ 2024/04/22(月) 21:13:39.04 ID:ghfRO9bho
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2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/10(木) 16:05:55.98 ID:XheKj3SL0
心理定規「スクールは私が建て直す」

電話の相手『なんだと?』
心理定規「言葉通りの意味よ。私が一人で勝手にスクールを建てなおすわ」
電話の相手『ふざけたことを言うな』
心理定規「第三次世界大戦が終わってもアナタ達が一向に組織を建てなおしてくれないから、私が勝手にやるというだけの話よ」
電話の相手『勝手に組織を作るなど、学園都市への反逆にもなるぞ』
心理定規「構わないわ。これ以上待っても私の目的は果たせそうにない」
電話の相手『覚悟はできているのだろうな?』
心理定規「覚悟なんて、この道に進んだ時点でできてる。私は私のやり方でスクールを再建して、アレイスターとの直接交渉権を手に入れるわ」
そう言って心理定規は電話を切る。
心理定規「さて、と。まずは統括理事会からの後ろ盾が必要ね」
そう楽しそうに言い、心理定規はとある高校へ向かう。
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/10(木) 16:07:48.81 ID:XheKj3SL0
とある高校の正門の前に着くと、心理定規は腕時計に目を落とす。そろそろ下校時間だ。

心理定規「このあたりよね」

鐘が鳴り、生徒達がぽつぽつと校舎から出てくる。

生徒に混じって小学生のような体型をしたピンク色の髪の少女が出てきたり、青髪にピアスをした男子生徒も見かける。

校則はどうなっているのか不明だ。

心理定規「ここで間違いないわね。問題は、目標がどこにいるのか、だけれど」

校門を通ろうとすると、警備員らしき男が近寄る。

警備員「コラ、君、部外者だろう? なんだねその格好は。そんな格好で学校に入れると」

心理定規「入れて欲しいな」

心理定規(私と警備員の距離単位35に強制設定)

心理定規がウインクすると、警備員は頬を赤らめて道を開ける。

警備員「と、通るが良い」

心理定規「ありがとう」

心理定規は何度か別の警備員や教師に止められそうになるが、同じ手段で校内へと足を勧める。
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/10(木) 16:10:31.78 ID:XheKj3SL0
心理定規「さて、どこにいるのかしら?」

校舎の中に入った心理定規は、しばらく歩いていると、一人の女生徒が現れる。

雲川「心理定規だな。校内に入るのは簡単だったように見えるけど」

心理定規「と、いうことは、あなたが貝積継敏のブレインである雲川芹亜ね。私が来るのを知っていたのかしら?」

雲川「所属していた組織を抜けてスクールを建てなおすために後ろ盾を探しているのだろう? 私と貝積を選ぶのは少し予想外だけど」

心理定規「そこまで知っているのなら、話は早そうね」

雲川「そうだな、だがその前に――」

教師「おいそこの派手なドレスを着ている奴と女生徒! 廊下で何をしている?」

教師が注意をしようと近づくが、突然携帯電話が鳴り、連絡をもらった教師は血相を変えてきた道を戻る。

教師「後で戻ってくるからそこで待ってなさい!」

教師が走り去って行く。

心理定規「あら、今のはあなたの仕業?」

雲川「さぁな。とりあえず、場所を変えたほうが良いけど」

二人は学校の視聴覚室へと場所を移す。
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/10(木) 16:13:45.80 ID:XheKj3SL0
視聴覚室に入ると、雲川が部屋に設置された機械を操作して画面に貝積が現れる。

貝積「この子か」

雲川「あぁ。私達のバックアップが欲しいのだと」

心理定規「ここまで話がトントンと進むと恐いわね」

貝積「幾つか質問させてくれ。君の目的はなんだ?スクールを再建させるだけではないのだろう?」

心理定規「そうね。私が欲しいのはただ一つ、アレイスタークロウリーとの直接交渉権」

雲川「それを手に入れるために私達の元で汚い仕事を引き受け続けるということだな?」

心理定規「あり体に言うとそうね」

貝積「すまないが、私は武力で物事を解決することにあまり賛成できない」

心理定規「あら、個人の力を持っていなかったことで、世界中の原石を保護する際に手間取ったと聞いたわよ?」

貝積「……」

雲川「ハハ! 一本取られたみたいだな。私も個人用に武力行使をできる組織を持つのは賛成だけど」

貝積「……そうか。なら、条件がある」

心理定規「何かしら?」

貝積「こちらの指示に従うこと。我々の指示なしで動くことを禁ず。依頼する仕事はほとんど原石に関する依頼となる。良いな?」

心理定規「交渉成立ね」
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/10(木) 16:16:39.59 ID:XheKj3SL0
雲川「残念だけど、貝積は甘い男でな。さっきも言ったがこいつは金はあるくせに武力行使をできるような部隊を持っていない」

心理定規「つまり、現場でのバックアップや装備を揃えてくれる下部組織がいないのね?」

雲川「そういうことだけど」

心理定規「それなら問題ないわ。当てはあるの」

心理定規は小さな画面付き電子端末を雲川に見せる。

画面にはとあるテロリストの犯行予告が書いてある。

雲川「ほう、その情報を持ってきたか。情報収集能力も高いな」

心理定規「どう?」

雲川「良いけど。これをお前への最初の依頼とする。問題ないな? 貝積」

貝積「あぁ」

心理定規「ありがとう」

雲川「それと、この依頼にもう一つ依頼を追加する。詳細は後で教えるけど、まずはここへ向かえ」

そう言って雲川は視聴覚室の画面に地図を出し、ある場所を教える。

心理定規「ここは?」

雲川「留置所だ。ここにスクールのメンバーとして迎えられる奴がいるけど」

心理定規「あら、それはどうも。行ってみるわ」

心理定規は電子端末を雲川から返してもらい、部屋を出ようとする。

雲川「ところで、どうして私達と交渉した時に能力を使わなかった?」

部屋を出る前に立ち止まり、心理定規は雲川とまだ画面に映ってる貝積に微笑む。

心理定規「ポリシーよ」
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/10(木) 16:20:24.65 ID:XheKj3SL0
とある留置所にて

看守「二度と戻ってくるなよ」

?「それはそうですよ。また牢やに入りたい何て思う人はそうそういないんじゃないですか?」

そう言って、留置所から金髪で長身の女が、車の前に立つ心理定規へと歩く。

心理定規「あなたがステファニー=ゴージャスパレスね」

ステファニー「そうですよ。あなたが私を留置所から出したんですね?」

心理定規「そうよ」

ステファニー「目的はなんですか? 私に交渉する相手にまともな奴なんていないんですけど、貴方もそうなんじゃないですか?」

心理定規「その通りよ」

そう心理定規が言うや否や、ステファニーは腰の裏に隠していたらしい銃をすばやく取り出し、
心理定規もすぐに反応し、同じく銃を取り出す。

心理定規「あら? その銃はどこからくすねたのかしら?」

ステファニー「警備の人から頂戴しました」

心理定規「留置所の前で騒ぐのはどうかと思うけれど?」

留置所の入り口を見張る看守にバレないよう、二人は密着して銃を向け合う。

ステファニー「どこの誰だか知らない奴についていくよりマシじゃないですか?」

心理定規は質問には答えないが、怪しく笑ってゆっくりと言葉を零す。

心理定規「砂皿緻密」

その一言で、ステファニーの顔が険しくなる。
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/10(木) 16:23:32.55 ID:XheKj3SL0
ステファニー「私の事をある程度調べたのなら知っていると思いますけど、砂皿さんを餌に私を利用しようとした奴がどうなったか知ってます?」

心理定規「別に彼をどうこうしようとはしてないわ。むしろ元依頼者として助けてあげたいのよ」

ステファニー「元依頼者? まさか貴方が、暗部抗争が起こった時に砂皿さんを雇ったスクールのメンバーですか?」

心理定規「その通りよ。私はスクールのメンバー、心理定規<メジャーハート>とでも呼んで」

ステファニー「……それで? 砂皿さんを助けたいという意味は?」

心理定規「彼は未だに生命維持装置で回復へ向かっているそうだけれど、学園都市制の医療機械って馬鹿にならない費用じゃない?」

ステファニー「……」

心理定規「長い事留置所に拘束されちゃって、資金も底を尽きかけてると思うのだけれど?」

ステファニー「何が言いたいんですか?」

心理定規「スクールのメンバーとして貴方を雇いたい。報酬はもちろん、砂皿緻密の治療もサポートするわ」

ステファニー「車の中で詳しい話を聞こうじゃないですか」

心理定規「それが良いわね」

二人は車に乗り込み、心理定規が運転する
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/10(木) 16:26:21.47 ID:XheKj3SL0
ステファニー「なるほど、それで今はまだメンバーを集めている段階なんですね」

心理定規が運転する車の中で、これまでの経緯をステファニーは聞いた。

心理定規「そう。入ってくれる気にはなったかしら?」

ステファニー「考えさせてもらいます。とりあえず、仕事を一件手伝いますよ。留置所から出してくれた借りがあるじゃないですか」

心理定規「ならちょうど良いわね、今からさっそく依頼を一つこなしに行くわ」

ステファニー「え!? 今から!? 私まだ留置所から釈放されたばかりじゃないですか!?」

心理定規「えぇ、急なのよ。本当は一人で行こうと思っていたのだけれど、さっき依頼主から追加で出された依頼で予定を変更したわ」

ステファニー「というと?」

心理定規「私達はこれからとある原石を狙う反逆因子の制圧に向かってるわ。それと、追加の依頼が、その狙われてる原石を保護すること」

ステファニー「保護、ね。追加の依頼が貴方一人ではキツイと判断して上の人が私を紹介したのだろうけれど、正解じゃないですか?」

心理定規「そうよ。私の狙いは反逆因子の方なのだけれど、うまくいけば原石の方もどうにかなってしまうかも」

ステファニー「それで? その反逆因子と原石とは何者なんですか?」

心理定規「いけば分かるわ。そもそも、原石の方は元々私達の手なんて必要ないでしょうけれど。それと、反逆因子の方は貴方も知っていると思うわ」

ステファニー「楽しみじゃないですか」

車はさらに加速し、学園都市のとある倉庫街へと向かう。
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/10(木) 16:29:15.83 ID:XheKj3SL0
とある倉庫街にて

心理定規「着いたわ」

心理定規とステファニーが車から降りると、少し遠くで爆発のような音が夜の倉庫街に鳴り響く。

ステファニー「あら。もう既に始まってるんじゃないですか?」

心理定規「えぇ。すぐに行かないと、私の目標が撃破されてしまいそうね」

そう言ってトランクから大きめのケースをステファニーに渡す。

ステファニー「嬉しいですね。久しぶりに相棒に会えた気分です。持ってくるのに苦労したんじゃないですか?」

心理定規「まったくよ。かなり重かったわ」

ステファニーがそのケースを開けると、中から改造された軽機関散弾銃が現れる。

ステファニー「ふふ、久しぶりに楽しめそうですね」

心理定規「私達の任務は反逆因子の制圧と原石の保護よ。命は取らないこと」

ステファニー「貴方がやろうとしている事がよくわかりませんね。もう少し詳細を教えてくれても良いんじゃないですか?」

心理定規「そうね。反逆因子の正体は貴方が以前に手を組んでいた迎電部隊(スパークシグナル)よ」

心理定規「あぁ、フラフープでテロを起こした奴らですか。手を組んだというより、私が彼らを利用したと言った方が正しいんじゃないですか?」

心理定規「それもそうね」

ステファニー「それで、迎電部隊の目的は?」

心理定規「彼らが狙っている原石は貴重な素材よ。原石を人質にでも取って学園都市に話を持ちかける気でもいるのでしょう」

ステファニー「となると、奴らの目的の原石は……」

心理定規「そう、学園都市に七名しかいない超能力者、第七位、ナンバーセブン、削板軍覇よ」
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/10(木) 16:32:31.01 ID:XheKj3SL0
倉庫街にて、コンテナの一角

迎電A『目標は尚も倉庫街の中心で我々と交戦中、至急応援を求む』

迎電B「了解、すぐにそちらに向かう」

通信を終えた迎電Bは後ろに振り向く。

迎電B「目標の超能力者に増援はないと判断した。我々もこれから本隊に加勢する」

迎電C「了解」迎電D「了解」

迎電B「よし、いくぞ!」

そう言って迎電Bが先行してコンテナの一角から道へ出た瞬間、ズギャアアという豪雨のような音が鳴り、迎電Bが吹き飛ばされる。

迎電C「班長!」

迎電D「敵襲だ!応戦しろ!」

迎電Dはコンテナの一角から上半身だけ出し、攻撃が来た方向に銃を乱射する。

迎電D「い、いない?」

注意深く道の先を凝視するが、あるのは暗がりに広がるコンテナの山だけだった。

迎電C「ぐあ!」

突然後ろに居た仲間が叫び、迎電Dが後を見ると、1メートル近くの大きさの軽機関散弾銃を持った金髪の少女が立っていた。

その少女の銃の先には鉈のような刃物が着けられており、おそらくそれで迎電Cを攻撃したのだろう。

迎電D「お、お前は……フラフープテロの時に我々と組んだ……」

ゆっくりと少女は近づいてくると、銃を迎電Dに向ける。

迎電D「ステファニー=ゴージャスパレス!」

ステファニー「ゴム弾とは言え、痛いですよ」

迎電Dが反撃する間もなく、ステファニーは引き金を弾いた。
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/10(木) 16:35:45.96 ID:XheKj3SL0
別のコンテナの一角にて

遠くで銃撃が聞こえてくる。

心理定規「勝手に先に行ってしまったわね。あの身勝手さと協調性のなさは、暗部にぴったりね」

心理定規は倉庫街の外回りを見張る迎電部隊をまずは制圧しようとステファニーに伝えたのだが、
ステファニーはそれを聞いて一人で先行してしまった。

雲川『おかげで楽ができて良いと思うけど?』

心理定規の電話から雲川がそう言う。

心理定規「それもそうね。このあたりを見張ってる迎電部隊を片付けたら倉庫街の中央へ向かうわ」

迎電E「おい、そこのお前。ここは立ち入り禁止だ」

そう言って遠くから見張りの一人が心理定規に近づいてくる。
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/10(木) 16:38:09.58 ID:XheKj3SL0
心理定規はすぐに電話をポケットに収め、少し驚いたような表情をする。

心理定規「え? なにかあったんですか?」

演技で迎電Eに近づき、不安な顔をする。

迎電E「あぁ、危険物に引火してしまってな、ここは危険だから――」

迎電Eがそう言いかけた時、心理定規は迎電Eの右腕を掴むと、すぐに腕の間接を抑え、
足をすくって無理やり跪かせると迎電Eの首をもう片方の腕で締める。

迎電E「ぐ……ぁ……侵、入……者か?」

だが心理定規は答えず、迎電Eの意識が失われたのを確認すると、迎電Eの体を近くのコンテナの一角に隠す。
ポケットから、まだ通話状態の携帯電話を取り出す。

雲川『おみごと。能力を使わなかったようだけど?』

心理定規「今回は使う気はないわ。CQCだけで十分よ」

雲川『腕っ節にも自信があると、頼りになるな』

心理定規「ふふ。ともかく、これから削板軍覇の保護へ向かうわ。結果は後で報告する」

雲川『あぁ、せいぜい頑張ってくれ』

心理定規は通話を切ると、倉庫街の中央へと向かう。
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/10(木) 16:42:30.47 ID:XheKj3SL0
倉庫街の中央

削板軍覇は二十名ほどの迎電部隊と戦っていた。

迎電部隊全員が削板を囲み、包囲射撃を行っている。

削板「すごいパーンチ!」

そう叫び、削板が拳を地面に叩きつけると、地面から衝撃がそこら中に響き渡り、
土が舞いあがると迎電部隊の視界を奪う。

迎電F「くそ! 土煙から離れろ!」

迎電部隊は土煙に巻き込まれないよう離れるが、少し遠くで別の隊員達の悲鳴が聞こえてくる。

土煙の中、削板が散らばった隊員達を各個撃破しているのだろう。

迎電F「集まれ!」

近くの建物の入り口に着いた迎電Fは無線で指示を飛ばす。

すると、七名ほどの隊員が迎電Fに向かって走ってくる。

土煙の向こうからは銃撃が止まず、隊員たちの悲鳴と削板の怒号が聞こえてくる。

迎電Fは削板の予想以上の強さを目の前に、どう対処したら良いか思考を巡らすが、
どうにか土煙から脱出した隊員達が横から降ってきたショットガンのゴム弾で弾き飛ばされるのを目撃する。

迎電F「な、なんだ!?」

弾が飛んできた方向を見ると、ステファニーが隊員達に向かって走りながらショットガンを乱射してきていた。
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/10(木) 16:45:53.53 ID:XheKj3SL0
迎電F「ステファニー=ゴージャスパレスだと!? 捕まったのではないのか?」

かろうじてステファニーの攻撃から耐え抜いた仲間を助けようと迎電Fが一歩前へ出た瞬間、
後頭部に銃口を突き付けられた感触がした。

心理定規「やっと追い付いたわ」

迎電F「な……お、お前らは何者だ?」

心理定規「教えてあげてもいいわよ。でも、貴方達と話すのは後回し」

銃の底で迎電Fの後頭部を打ちつけ、意識を刈り取る。

ちょうどステファニーの方もさきほどの隊員達を全員倒した。

心理定規「さて、ここからね」

土煙が風で去ると、向こう側に削板が立っていた。

削板「ん? 誰だ、お前達は?」
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/10(木) 16:48:32.99 ID:XheKj3SL0
心理定規「こんばんは。削板軍覇ね?」

削板「そうだ。で、お前達二人は誰だ?見たところ俺を襲ってきた奴らを何名か倒してくれたみてぇだけど」

心理定規「とある依頼であなたを保護しに来たわ」

削板「保護、か。悪りぃが俺は誰かに守られて生きていくほど根性無しじゃねぇぞ」

これまで何度も言われたことがあるのか、特に驚くわけでもなく削板は淡々と答える。

ステファニー「そう言わずにおとなしく保護されてくれませんか?私、数時間前に釈放されたばかりで早く落ち着いた場所で休みたいんですよ」

削板「なら帰えるんだな。見ての通り、俺は保護なんてなくても自分自身を守れる。なんせ俺の根性は天下一品だからな!」

満面の笑みで笑う削板。

心理定規「確かに、それほどの力があるのなら、保護なんて受ける必要もないでしょうね。
     だけど、だからと言って私達はこのまま退けないのよ。初仕事にして失敗というのも嫌だし」

一歩削板に近づき、心理定規は笑う。

心理定規「なら、私から一つ提案があるのだけれど」

削板「?」

ステファニー「?」

心理定規「スクールに来なさい、削板軍覇」
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/10(木) 16:52:22.95 ID:XheKj3SL0
削板「スクール? なんだそれ?」

心理定規「原石を中心にあらゆる依頼を引き受ける小組織よ。今のところ、構成員は私とこの子だけだけれど、バックには統括理事会の一人が付いてるわ」

ステファニー「私まだ入るとは言ってないじゃないですか」ボソ

削板「どう聞いても暗部に関係していそうだな。俺はあの根性の腐った奴らと関わる気はねぇぞ!」

心理定規「そうね。私達は原石やそれらに関係する者達を守るためにそのうち汚い仕事も引き受けるでしょうね」

ぱさりと金色の髪をかきあげ、心理定規は今一度削板を一瞥する。

心理定規「けれど……汚い手を使ってでも守る、それは貴方の言う根性が備わっている者でしかできないことじゃないかしら?」

削板「へ、良い台詞を言ってくれるじゃねぇか。けど、それでも断ると言ったらどうする?」

心理定規「なら、貴方をスカウトするのではなく保護する方向で全力を尽くすしかないわね」

削板「力尽くでも断ると言ったら……どうするつもりだ?」

そう言うと、能力を使ったのか、削板を中心に地面にヒビが入り、土埃が少しだけ舞う。

ステファニー「やる気ですか」

ステファニーは軽機関散弾銃を構える。

削板「まずはお前達の根性を見せてみろ。なーに、女に手を上げるほど俺は根性が腐っちゃいない。俺を捕まえられたらお前らの勝ちだ」
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/10(木) 16:56:10.14 ID:XheKj3SL0
ステファニー「なら、少し怪我をしても良いですよね?」

先手を打ったのはステファニーだった。軽機関散弾銃が何連発も発射される。

削板「ふ」

ゴム弾により威力が低下しているとはいえ、常人が受ければ入院すること間違いなしの威力だ。

だが、マガジンに入った弾を全て撃ち終え、削板が立っている方向を見ると、そこに既に削板はいなかった。

ステファニー「……逃げた?」

心理定規「いいえ、向こうよ」

心理定規が見た先には、いつの間にか建物の屋上にまで上り詰めていた削板がいた。

削板「ふん、容赦なく全力で撃ってくるとは良い根性だな! が、俺の根性の方がお前の根性より一枚上手だったか!」

心理定規「さすがに早いわね」

ステファニー「く、あの野郎、急に調子に乗り出しましたね。これは実弾で挑んでも良いんじゃないですか?」

心理定規「まぁ、レベル5相手に手加減はできないでしょう」

ステファニーはゴム弾から実弾に替え、建物に向かって銃口を向ける。

削板「はは! 散弾銃で遠くの敵を仕留める気か?」

ステファニー「うるさいですね!」
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/10(木) 16:59:09.65 ID:XheKj3SL0
フルオートに切り替え、銃弾を横一文字に発射すると、銃弾の雨は鞭のごとく削板が立つ建物の屋上の一角を抉り取る。

削板「な!?」

足場ごと屋上から落ちてくる削板に、ステファニーはゆっくりと照準を合わせる。

ステファニー「いらっしゃーい」

削板が有効範囲射撃にまで落ちてきた瞬間に、ステファニーは散弾銃を乱射する。

が、当たる直前、削板はわずかに残った足場を踏み台に飛び、弾を避ける。

ステファニー「ちっ! 早い!」

心理定規「なるほど、音速の速さで動いてるのね。流石はレベル5と言ったところかしら」

削板「そんな調子で俺を捉えられるか? 俺の根性に追い付けるか!?」

ステファニー「うざったいですね!」

ステファニーは削板の動きを先読みして銃を撃つが、削板のあまりの速さに攻撃が全く追い付かない。

ステファニー「ちょっと、心理定規! 少しは手伝ってくれても良いんじゃないですか!?」

削板を捉えるのに苦戦しているステファニーだが、心理定規は気絶している迎電部隊の一人から何かを探っていた。

心理定規「そのまま続けて。今、探し物をしているのよ」

ステファニー「な、何を呑気な」
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/10(木) 17:02:41.44 ID:XheKj3SL0
攻撃を続けるステファニーだが、一向に銃弾が削板を捉える気配がない。

ステファニー「あ・た・ら・な・いいぃ!」

削板「どうしたどうした! お前の根性はその程度か! もっと熱くなれよ!」

ステファニーの猛攻は止まらず、倉庫街の建物の一部がみるみると抉り取られていく。

心理定規「あった」

お目当ての物を拾った心理定規はステファニーの隣に立つ。

ステファニー「何してたんですか? 早く手伝ってください!」

心理定規「えぇ。削板をここまで引きつけられるかしら?」

ステファニー「人使いが荒いですね!」

ステファニーは削板がいるあたりの建物の一角を攻撃し、落下物を利用して削板の行動範囲を狭める。

削板「ぬるい! 攻撃がぬる過ぎるぜ!」

相変わらずの速さだが、確実に削板はさきほどよりも二人に接近していた。

心理定規「今ね」

ステファニー「へ? きゃあ!?」

心理定規は唐突にステファニーのTシャツを無理やり巻くしあげ、ピンク色のブラが露わになる。
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/10(木) 17:05:10.57 ID:XheKj3SL0
削板「ぶっ!」

突然のサービスに削板の目線はステファニーに向いてしまう。

だが、削板とステファニーは気付かなかった。

心理定規がステファニーのTシャツを巻くし上げた瞬間、迎電部隊から奪った閃光弾を同時にステファニーの足元に落としていた。

カッ! と眩しすぎる光が夜の倉庫街を照らし、不意に襲ってきた猛烈な光に削板とステファニーの視界が奪われる。

削板&ステファニー「目がぁ〜、目がああぁぁ!」

突然襲ってきた光に視界を奪われ、削板は音速の速さで建物に激突した。

さすがのレベル5でもある程度はダメージがあったのか、削板は建物の壁に埋もれてなかなか動けないでいた。

ステファニーを盾にし、閃光弾を凌いだ心理定規は優々と削板が激突した建物に歩く。

心理定規「捕まえた」

後ろでよろめいているステファニーを放り、心理定規は壁に埋まっている削板の胸にそっと手を添える。
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/10(木) 17:08:41.85 ID:XheKj3SL0
削板「くおおぉぉ! 俺としたことが! 一瞬根性が揺らいだ!」

ステファニー「ぐっうぅ、心理定規、なんてことをしてくれるんですか」

心理定規「こうでもしないとレベル5なんて捕まえられないわ」

ステファニー「貴方が脱げば良いんじゃないですか!? あと、どうして能力を使わなかったんですか!?」

削板「能力を使ってない……だと?」

突然削板の表情が曇る。

削板「つまりなんだ、手加減してたって事か? 本気で根性をぶつけてきたわけじゃないのか!?」

心理定規「違うわね。私は私のポリシーに従っただけよ」

削板「ポリシー?」

心理定規「私は味方や味方になるだろう者には絶対に能力を使わない。例えレベル5が相手になろうとも」
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/10(木) 17:12:17.24 ID:XheKj3SL0
削板はその一言で大げさに涙を流す。

削板「な、なんて見上げた根性なんだちくしょう! 」

ステファニー「味方の服を脱がすのはポリシーに反すんじゃないですか?」ボソ

心理定規「削板軍覇。貴方の力が欲しい。スクールの一員として協力してくれないかしら? 貴方が望む物は大抵手に入ると思うわよ」

削板「アンタのこだわり、他の暗部共とは違うようだな。根性も気に入った」

壁から抜け出し、削板は心理定規に右手を差し伸べる。

削板「けど、きな臭い仕事をしていそうにも見える。アンタの根性を認めて協力はするが、少しでも根性の曲がったような事をするようなら降りさせてもらう」

心理定規「それで構わないわ」

削板の手を握り、心理定規は頷く。
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/10(木) 17:14:35.86 ID:XheKj3SL0
ステファニー「これはまたうまく削板軍覇を引き入れましたね」

心理定規「お褒めのお言葉、ありがとう」

削板は撃破した迎電部隊を一か所に集めるために行かせ、心理定規とステファニーは
迎電部隊のリーダーが目を覚ますのを待っていた。

迎電「ぐ……ぅ、くそ」

心理定規「お目覚めのようね」

迎電「……そうか、俺達はまた負けてしまったのか」

ステファニー「そんなんだから簡単に利用されたりするんじゃないですか?」

迎電「ステファニー=ゴージャスパレス。今回はその女に着いたのか?」

ステファニー「どうでしょうね。まだ検討中ですけど、当分の食いぶちはここで稼ごうかと思いますけどね」

迎電「くそ。もう俺達はお終いということか。どこへとでも突き出すと良いさ」

心理定規「あら、私は貴方達にもチャンスを上げる気でいるわよ」
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/10(木) 17:17:33.90 ID:XheKj3SL0
迎電「なに?」

心理定規「スクールの下部組織として迎電部隊を引き入れたい」

迎電「なぜだ?」

心理定規「人手が足りないのよ。うまくいけば貴方達全員学園都市へ復帰できるどころか、捕まってしまった貴方達の仲間だって解放することが可能かもしれないわよ?」

迎電「……」

心理定規「選択肢は二つに一つ。このまま捕まるか、私達に協力して学園都市に復帰するかのどちらかよ」

迎電「お前達の犬になれと言うのか」

心理定規「どう捉えるかは貴方達の勝手よ」

迎電「……甘んじて受けよう」

心理定規「そう」

迎電「だが、俺達は心までは売っていないことは忘れてくれるな」

心理定規「お好きなようにどうぞ」
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/10(木) 17:18:49.54 ID:kllzMV8IO
重複多い
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/10(木) 17:20:34.29 ID:XheKj3SL0
とあるレストランにて

心理定規は料理が運ばれてくるのを待っている間、雲川と通話をしていた。

雲川『やってくれたな。迎電部隊を下部組織として迎え入れるのは構わないが、削板まで入れるのか』

心理定規「あら、私は彼が保護を受けるのを拒むからスクールに迎え入れたのよ。そちらとしても目の届く所に貴重な原石を置いておきたいでしょう?」

雲川『お前がいつでも削板に手を出せると言う風に聞こえるけど?』

心理定規「想像にお任せするわ」

雲川『まぁいいけど。次の依頼は後ほど連絡しよう』

心理定規「わかったわ」

心理定規は通話を切り、携帯をバッグに収める。

心理定規「形にはなってきたわね……あと一人スクールのメンバーとして引き入れたい所だけれど」

窓から見える数々の建物を眺めた後、心理定規は静かに目を伏せる。

心理定規「私は絶対にスクールを、メンバーを誰一人欠かすことなくアレイスターとの直接交渉権を手に入れるわよ……垣根」
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/10(木) 17:25:05.36 ID:XheKj3SL0
今日はここまで。次頑張ります。

>>26
アドバイスありがとうございます。もう少し配慮します
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2012/05/10(木) 17:27:30.58 ID:TQdeV5AL0
削板最高だな


30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/10(木) 20:22:01.10 ID:BwKBU/oco

今後期待


留置所に行ったのをみて、絶対等速さんが出てくるかと思った
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2012/05/11(金) 00:53:59.76 ID:VwpmHnlAO
爆音爆発すら気にしない軍覇さんが閃光で止まる気がしないww
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/05/11(金) 12:26:00.48 ID:zevKeTG50

33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/11(金) 17:12:10.02 ID:Z+cnD9Wl0
ただいま。
スローペースながら再開

レスくれた方々ありがとうございます。
削板は正直倒せる気がしないw
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/11(金) 17:13:37.52 ID:Z+cnD9Wl0
三日後、とあるパーティ会場にて

山荘にある巨大な屋敷を貸し切り、数々のセレブ達が集まっていた。

学園都市の重役、統括理事会のメンバーが数名、学園都市に協力している会社の取締役等、多くの者が集まっていた。

このパーティの主催者、潮岸の退院祝いらしいのだが、それだけでこれほどの重役達が集まるのも不思議だ。

そんなパーティの中、心理定規、雲川、そして貝積が会場のテーブルの一つで飲み物を飲んでいた。

心理定規「大層なパーティね」

雲川「あぁ、まったくだ。食事の一つ一つがそこいらの学生の家賃より数倍はする値段だろうな」

貝積「仕方ないさ。これがセレブ達の遊び方だ。」

雲川「学園都市の重役が集まるこの場を遊びと言うお前は、やっぱり大した奴だよ貝積」

心理定規「さて、そろそろ離れるわ。警備のチェックを済ませないといけないから」

貝積「ボディガード等、いらないと思うがな」

雲川「そう言うな。せっかく手に入れた力だ。使わない手はないと思うけど」
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/11(金) 17:16:29.74 ID:Z+cnD9Wl0
一旦パーティ会場から離れた心理定規は廊下を一人歩く。

心理定規「ステファニー、そちらの状況は?」

心理定規は耳に仕込んだ無線を使い、屋敷の外で待機しているステファニーに連絡する。

ステファニー『異常なし。というか、私にこのポジションは性に合わないのですが』

どうも配置された位置に不満があるのか、若干ふてくされているかのように言うステファニー。

心理定規「仕方ないでしょう。限られた者しか屋敷に入れないのだから。ゲストとして私一人が入るのが精一杯だったのよ」

ステファニー『はぁ、気は進まないですが、我慢しましょう。削板の方はどうしてるんですか?』

心理定規「彼は元々レベル5の能力者としてこのパーティに呼ばれているから私よりは行動範囲が広いわ。貝積から付かず離れずの位置で待機しているはずよ」

ステファニー『そうですか。このまま異常がなければパーティを満喫してください』

そう言って無線を切り替え、次に迎電部隊に連絡をする。

心理定規「そちらの様子は?」

迎電『屋敷の周りに異常なし』

心理定規「引き続き警備をお願いするわ」

一通り警備との連絡を済ませ、心理定規は廊下を歩き続ける。

心理定規(この様子だと何も起きそうにないわね)

そう思い、廊下の角を曲がった瞬間、心理定規に誰かがぶつかる。
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/11(金) 17:19:17.32 ID:Z+cnD9Wl0
?「きゃ!」

心理定規「あら、ごめんなさい。大丈夫?」

?「い、いえ!大丈夫です! あ、違った。大丈夫でございましてよ!」

心理定規にぶつかった少女はどこかの学校の制服を着ており、緊張した面持ちでお嬢様言葉を発しているが、どうもその言葉づかいに慣れていない様子だ。

心理定規「可愛い花飾りね」

?「えへへ、ありがとうございます。あ、じゃなくて、お褒めにお預かり、光栄でいましてよ」

心理定規「ふふ、そんなに無理して話す必要はないわよ」

?「うぅ、やっぱりバレちゃいますか? すみません、やっと念願のお嬢様達が集まるイベントに参加できて舞い上がってしまって……」

心理定規「皆が皆、お嬢様言葉を使うわけじゃないわよ」

?「あ〜、やっぱり一人じゃこのパーティに参加するのは荷が重いです……」

心理定規「あら? 一人で来たの?」

?「いえ、友達に招待してもらって来たのですが、はぐれちゃって……」

心理定規「ならちょうど良いわ。私時間を潰さないといけないから、ついでだし貴方の友達を探してあげるわ」

?「ほ、本当ですか!」

心理定規「えぇ。私の事は心理定規と呼んで。貴方は?」

初春「初春飾利です。皆からは初春と呼ばれてます!」
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/11(金) 17:22:13.52 ID:Z+cnD9Wl0
心理定規と初春が会ったちょうど同じころ、屋敷から少し離れた林の中で、何名かの黒ずくめの男達が集まっていた。

黒ずくめ「杉谷隊長、全員配置に着きました」

黒いスーツとサングラスを着用した角刈りの男、杉谷は頷く。

杉谷「合図をしたら全員言われた通りに作戦を実行しろ」

無線越しから隊員から返事を聞くと、杉谷は無線を切る。

黒ずくめ「『フリゴリフェロ』を使って屋敷ごと爆破したほうが早いのでは?」

杉谷「そうもいかない。あの屋敷にはレベル5が二人もいる。同時に邪魔をされては厄介だ。アレを使うのは最後の手段だ」

部下の提案を却下し、杉谷は再び無線を取ると回線を全部下と繋げる。

杉谷「聞け、猟犬部隊《ハウンドドッグ》。最低条件を達成したのち、目標を貝積継敏と親船最中に切り替える。統括理事会共の覇権争いとやらに一石を投じるとしよう。作戦開始だ」

猟犬部隊『了解』

命令を下し、杉谷も屋敷へと向かう。

月が雲に隠れ、闇夜は深くなっていく。
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/11(金) 17:25:13.35 ID:Z+cnD9Wl0
初春「それじゃあ心理定規さんもゲストとして招かれたんですか?」

心理定規「そうね。知り合いがせっかく誘ってくれたから来てみたのよ」

初春「あはは、私は友達に無理を言ってここに来ました。本当はこのパーティに参加する気はなかったみたいですけれど」

初春は申し訳なさそうに頭を掻く。

この子は素直な子だ、そう心理定規は思う。

長い事闇の世界に浸かっていたからか初春のように正直で真っすぐな者と話すのはどこか新鮮だった。

もしも自分が暗部にはまったく関係もない、普通の学生として学園都市の能力者でいられたら……そう心理定規は考えてしまう。

いつの間にか初春と話すのが楽しくなっている事に心理定規は気付かなかった。

おしゃべりを初めてしばらく経ち、心理定規はふと何かに気付く。

初春「どうしました?」

心理定規「……いえ、少しだけ屋敷の外が静かになったような……」

心理定規は胸騒ぎを覚えた。学園都市の闇に触れてきた者だけが分かる、負の匂いが少しずつ屋敷に充満しているような錯覚を覚える。

心理定規「少し待っていて」

そう言って初春から少し距離を置いて無線の回線を開く。
39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/11(金) 17:27:47.01 ID:Z+cnD9Wl0
心理定規「ステファニー、削板、迎電部隊、全員聞こえるかしら?」

ステファニー『聞こえますよ?』

迎電『こちら迎電部隊、どうした?』

削板『根性?』

心理定規「何か異常はないか今すぐ周囲を見てみてちょうだい」

ステファニー『うーん、これといった異常はないんじゃないですか?』

迎電『こちらも屋敷周辺に異常はない』

削板『おうぇのふぉうもいじょぅわねぇじょ』

ステファニー「削板、食べながらしゃべらないで」

削板『――っゴク……すまん。こっちも異常はねーぞ。貝積と雲川は俺の視界内にいる』

心理定規「……そう」

削板『なんかあったのか?』

心理定規「悪い予感がする。ステファニーはそのままの位置で待機、迎電部隊は警備範囲を広げて、削板は護衛対照から離れず会場の様子を見ておくこと。
     全員何かあったら私に報告しなさい」

全員『了解』
40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/11(金) 17:29:50.52 ID:Z+cnD9Wl0
心理定規は無線を切って初春に向き直る。

初春「あ、あの、何かあったんですか?」

心理定規「少しね」

胸騒ぎが治まらない心理定規はこのまま初春から離れるべきだと思ったが、すぐに行動に移せないでいた。

初春と話したこの数分間は心理定規にとってかけがえのない時間だった。

心理定規はいつの間にか初春の事を気に入っており、不穏が立ち込める中、彼女を一人にできなくなっていた。

初春「急ぎの用でしたら無理に私と付き合わなくても大丈夫ですよ。私一人でも友達を見つけられますし」

心理定規「いえ、このまま貴方を一人にする気はないわ。管理室へ行きましょう。そこから貴方の友達を見つけられるかもしれないわ」

予め屋敷の構造を把握しておいた心理定規は管理室の場所を知っていた。

パーティ会場の様子を見るついでに初春の友達を見つけることもできるはずだ。

二人は管理室へと向かう。
41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/11(金) 17:31:25.77 ID:Z+cnD9Wl0
管理室の前に着いた心理定規と初春だが、心理定規は扉の前で立ち止まる。

初春「どうしました?」

心理定規「人の気配が多い割に物音が一つしない」

いよいよ悪い予感が的中し、心理定規は初春に振り向く。

初春「気のせいではないんですか?」

少し心配している面持ちで初春は言うが、心理定規は首を横に振る。

心理定規「少し下がっていて」

批難させるべきだが、敵の規模が分からない状態で初春を野放しにはできない。

初春が扉から離れたのを確認して、心理定規は扉を蹴破る。

管理室の中には数々のモニターが設置されているが、モニター以外の明かりは消されていた。

部屋の中には四人の黒ずくめが立っており、床には三名ほどの職員らしき者達が血を流して倒れている。
42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/11(金) 17:34:08.42 ID:Z+cnD9Wl0
心理定規(猟犬部隊!?)

猟犬A「誰だ!」

四人の男達が振り向くと同時に心理定規は持参していたスモークを放り、煙が部屋を一気に覆い尽くす前に拳銃を二発撃った。

弾は二人の黒ずくめの喉元、心臓へとそれぞれ当たった。

猟犬B「く、くそ!」

猟犬Bは煙が立ち込める中、心理定規がいたあたりに銃を乱射するが、心理定規は煙が噴射された時にはすでに猟犬Bに向かって走っていた。

心理定規「遅い」

猟犬Bの横から現れた心理定規はナイフを猟犬Bの急所に刺す。

倒れていく猟犬Bだが、それを冷静に見ていた猟犬Aが心理定規の後から銃を向ける。

同時に心理定規も持っていた銃を振り向きざまに猟犬Aに向ける。

お互いが額に銃を突きつけ、硬直する。

猟犬A「お前は……心理定規だな。本当に暗部を抜けたのか」

心理定規「まさか貴方達がこんなパーティに出てくるなんて……目的はなんなのかしら?」

猟犬A「言うとでも思うか?」

心理定規「吐かせるまでよ」

初春「あ、あの、何があったんですか!」

が、さすがに部屋から煙が出てきたり銃弾の音がしたからか、恐る恐るといった様子で部屋の扉から初春が様子を見ていた。

管理室にはまだ煙が漂っており、初春は中の様子を見れないでいる。
43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/11(金) 17:35:30.60 ID:Z+cnD9Wl0
猟犬A「ふん、一般人の連れか? 俺は構わず撃つぞ」

心理定規「それはどうかしら?」

心理定規は銃を持っていない方の手で指を鳴らす。

パチン、と音が鳴ると猟犬Aは銃を心理定規に向けたまま動かなくなった。

猟犬A「く……これは」

心理定規「今の貴方の私への距離単位は25。あまりこの能力に頼りたくはないのだけれど、当たりね」

心理定規の能力により、今の猟犬Aの心は心理定規に惚れこんでいる状態となっている。

頭の中では心理定規を敵と認識しており、今すぐ撃つべきだと思っているが、猟犬Aの体がそれを許さない。

心理定規「ふふ、さすがに猟犬部隊にいるというだけはあるわね。常人ならここまで距離単位が近いと本心を私の能力で塗りつぶされて私の言うがままの奴隷になっているわ」

猟犬A「く、そ……」
44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/11(金) 17:37:21.49 ID:Z+cnD9Wl0
管理室の煙が完全に無くなり、初春が部屋に入ってくる。

心理定規は初春に見られる前に拳銃をしまった。

初春「大丈夫ですか!? て、死体!?」

初春は足元に転がっている男達の死体に慄く。

パニックを起こすか? そう思った心理定規だったが、初春はすぐに我に返ったかのように部屋のあたりを見て棒立ちとなっている猟犬部隊の隊員を見る。

初春「その人がこの人達を襲ったんですか?」

心理定規「そのようね。今は私の能力で縛っているわ」

初春は死体と縛られている猟犬Aを交互に見据え、頷く。

初春「警備員《アンチスキル》に連絡します。警備員が来たら心理定規さんはすぐに避難してください」

心理定規「一般人が何を言っているの? 避難するのは――」

すると初春はポケットから腕章を取り出した。

初春「ジャッジメントです。ここから先は私に任せてください」

そう言って初春は管理室に設置されたコンピューターに向かい、座る。
45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/11(金) 17:40:03.20 ID:Z+cnD9Wl0
心理定規「待って。きっとコンピューターにセキュリティが設置されているはずよ。使えるとは……」

だが、初春はポケットから取り出した携帯ゲーム機のような物を使い、ものの数秒で屋敷の管理システムを掌握してしまった。

初春「甘いですね、ここのセキュリティ」

そう言い放ち、初春は屋敷の全ての監視カメラをコントロールし、会場の様子を伺う。

心理定規(この子……できる)

初春「心理定規さん、警備員と連絡が付きました。避難する準備を――」

心理定規「悪いけれど、私も一般人ではないわ」

初春「へ?」

心理定規「詳しくは言えないけれど、私はこのパーティに出席しているとある重役の護衛よ。彼らを無事この屋敷から避難させる義務がある」

ここまで来たら一般人を装いきる必要はない。心理定規は

初春「……分かりました。私はどうすれば?」

心理定規「電波傍受はできるかしら? 敵の位置を知りたい」

初春「はい。この人が持っている無線を使えばいくらでも知ることができると思います」

そう言い、初春は棒立ちの猟犬Aから無線を取り上げる。

猟犬A「ふん、もう遅い。定時連絡はとっくに過ぎている。部隊は異常に気付いているだろうよ」

心理定規「それをどうにか対処するのが私の仕事よ、貴方にも手伝ってもらうわ」

心理定規は猟犬Aの額に人差し指を当てる。
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/11(金) 17:43:12.56 ID:Z+cnD9Wl0
心理定規(こいつの私と初春さんに対する距離単位、15に強制設定)

能力を発動すると、猟犬Aは銃を下ろし、視線も床に落とす。

心理定規「これで貴方は本心を塗り替えられて私と初春さんの言いなりになったわ」

初春「へ? どういうことですか?」

疑問を浮かべる初春だが、猟犬Aは勢いよく顔を心理定規と初春に向ける。

猟犬A「はいいぃぃ!!! この卑しい犬めは心理たんと初春たんの飼い犬だおおぉぉぉ!」

心理定規&初春「…………」

おそらくこれが猟犬Aが愛する者にだけ見せる一面なのだろう。

初春「き、気持ち悪い」

心理定規「やり過ぎたかしら? まぁいいわ。私は管理室あたりにいるこいつらの仲間をおさえるわ。貴方は敵の位置を把握して私に伝えて」

初春「了解しました」

初春に携帯の番号を教え、心理定規は猟犬Aを部屋の前を護衛させる。
47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/11(金) 17:44:51.45 ID:Z+cnD9Wl0
初春「心理定規さん!」

管理室を出ようとする心理定規を呼びとめる。

心理定規「何かしら?」

初春「気をつけて」

心理定規「えぇ、ありがとう」

部屋の外に出た心理定規は無線を取り出す。

心理定規「『スクール』に伝える、緊急事態よ。別暗部が屋敷に入り込んでいる。これよ別暗部の掃討に入るわ」
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/11(金) 17:47:14.98 ID:Z+cnD9Wl0
杉谷は屋敷の地下通路を出ると、屋敷の地下に設置されている貨物室に出た。

何度か管理室を制圧したはずの隊員に連絡を取るが、反応がない。

杉谷「もうバレたというのか? 仕方ない。猟犬部隊全員に通達」

猟犬部隊『ハッ!』

杉谷「管理室の隊員と連絡がつかない。おそらく屋敷の警備か重役の護衛の誰かに撃退されたのだろう。目標を逃がされるわけにはいかない。プランBに変更する」

猟犬部隊『了解!』
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/11(金) 17:49:53.11 ID:Z+cnD9Wl0
うぅ、ちょっと体調悪いので一旦休憩します。
後でうpしに戻れるよう頑張ります。
50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/11(金) 19:21:17.78 ID:jf/5Z1NDO
とりあえず乙
51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/11(金) 19:29:12.18 ID:ZgiC7OBDO
ただでさえ化け物なのに能力を理解した軍覇さんはどれくらい強いんだろ


とりあえず乙
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/11(金) 20:37:42.17 ID:cJVzrIPt0
あまりない感じなので期待。
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/11(金) 23:07:23.97 ID:Z+cnD9Wl0
ただいマンモス
レスありがとうございます。
いけるとこまで行ってみます。
54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/11(金) 23:10:38.34 ID:Z+cnD9Wl0
廊下を歩いてパーティが開かれている大広間へと向かう心理定規に初春から連絡が入る。

初春『心理定規さん、大変です!』

心理定規「どうしたの?」

初春『監視カメラが設置されていない部屋から次々と黒ずくめの人達が出てきています!』

心理定規「監視カメラが設置されていない部屋から……」

間違いない、屋敷の者の誰かが暗部を手引きしている。

初春『そちらに十名ほど接近しています!』

心理定規「……そう」

心理定規が曲がり角を曲がると、一本道の通路の先に男達が次々と現れる。

心理定規「これは急いで会場に戻らないといけないようね
55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/11(金) 23:13:32.89 ID:Z+cnD9Wl0
猟犬C「目標の護衛と思われる者を発見!撃て!」

男達が一斉に銃を心理定規に向ける。

心理定規はすぐに右手を彼らに向けて指を鳴らすと、全員がピタリと止まった。

心理定規「距離単位、20」

心の距離を強制的に近づけさせられた隊員たちは、心理定規を疑似的に惚れてしまう。

だが、十名のうち四名ほどが別の隊員達を押しのけて前へ出る。

猟犬C「なんでだ!なんでなんだ!」

四人とも涙を流して心理定規に銃を向ける。

心理定規「これだから能力に頼りきれないのよね」

疑似的に相手を惚れさせたところで、相手によっては愛しすぎて愛する者を殺しにかかってきたり、
能力により心理定規を愛しても心理定規が敵であるという認識を残した者は裏切られたという気持ちにかられ同じく殺しにかかってくる。
56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/11(金) 23:15:11.99 ID:Z+cnD9Wl0
心理定規「……ステファニー」

耳につけた無線は心理定規の声を正確に拾い、屋敷の外に待機していたステファニーに心理定規が合図を送る。

ステファニー『りょーかい』

四人の男達が心理定規を撃つまさにその直前だった。

窓の外から四発の弾が飛来し、男達を正確に撃ち抜く。

心理定規「流石スナイパーから銃を教わっただけはあるわ」

屋敷を見渡すことのできる小山に待機しているステファニーに心理定規は賛辞を送る。

ステファニー『何度も言いますが、私の性格からして狙撃なんて性に合わないじゃないですか? これっきりにして欲しいですね』

心理定規「仕方ないわ。こうなってしまっては今から屋敷に向かうよりもそちらから狙撃してもらった方が早い。外の位置から見える範囲で敵の排除をお願い」

ステファニー『はーい』
57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/11(金) 23:20:19.06 ID:Z+cnD9Wl0
心理定規は通路を曲がり会場へと向かう。

すると、通ってきた道から心理定規を追うかのように敵が現れた。

心理定規「どこかの部屋に隠れていたのかしら?」

敵に能力をかけようとした数瞬前に敵の目の前に設置されていた緊急シャッターが勢いよく下ろされ、心理定規を銃弾から守った。

心理定規「!?」

初春『心理定規さん!無事ですか?』

心理定規「初春さん? これは貴方が?」

初春『はい。モニター室から心理定規さん見えてますよ。屋敷のセキュリティは全て掌握したので少しばかりなら援護できます』

心理定規「ありがとう」

初春『それよりも、会場が騒ぎになっています。黒ずくめの人達が会場に現れてます。バンダナを巻いている人が奮闘してますけど、一般人を守りながら戦っていて苦戦してます』

削板だろう。雲川と貝積だけを護衛したらいいものの、おそらく削板の性格からして他の来場者を放ってはおけないのだろう。

心理定規「二階のパーティ会場がそうなのだとしたら、下の階も無事ではないでしょうね」

初春『一階の方は心配ありません』

心理定規「どういうこと?」

心理定規が聞いた瞬間、彼女の少し前の通路の床から一筋の閃光が貫き、屋敷の天井を撃ち抜いてゆく。
58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/11(金) 23:22:34.08 ID:Z+cnD9Wl0
心理定規「っ!?」

初春『心配いりませんよ、私の友達です』

心理定規はゆっくりと床と天井を撃ち抜いた正体を見る。

下の階には常盤台中学の制服を着た茶髪の少女が猟犬部隊と戦っていた。

銃弾が四方八方から襲ってくるにも関わらず、茶髪の少女は体から電撃を放ち、猟犬部隊を薙ぎ倒して行く。

間違いない、資料でしか見た事がないが、あれは常盤台中学のレベル5だ。

初春『本来は一般人に事件に関わらせるのはいけないのですが、今回は緊急事態ですので警備員《アンチスキル》が来るまでは協力してもらいます』

心理定規は初春に戦慄する。

一介のジャッジメントにしておくには勿体ないほどのハッキング能力を持つどころか、学園都市に七名しかいないレベル5とのコネクションを持っているのだ。

心理定規(初春さん、貴方は一体何者?)

心理定規は初春に色々聞きたかったが、今は疑問を全て放っておく。

心理定規「一階と二階に戦える能力者がいるなら私がそこへ向かう必要はないわ。初春さん、頼みがある」

初春『なんですか?』

心理定規「敵に指示を送っている者を割り当てて欲しい。黒幕を叩くわ」

初春『分かりました。少し待っていてください』
59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/11(金) 23:25:14.37 ID:Z+cnD9Wl0
削板「根性オオオオォォォ!」

叫び声がパーティ会場に木霊し、削板の怒号が彼に向けられた銃弾を弾き飛ばす。

猟犬D「く、くそ。どうして銃弾が弾かれる!?」

削板「ふっふーん。俺の口の前に念動力の膜を張り、そこに俺の声をぶつけることで音を数百倍にも増量、拡散させて強力な衝撃波を作って銃弾を弾いたのだ!」

自身満々に言う削板に猟犬部隊は慄く。

雲川「いやいや、そんな理論ないけど」

削板の後でテーブルの上にゆったりと座り、パーティ用に作られた豪華な食事を食している雲川が冷静に突っ込む。

削板「ん? それじゃあどうやって俺は銃弾を弾いたんだ?」

猟犬D「ふざけるな!」

猟犬Dは削板の不意をついて削板の頭に銃弾をブチ込む。

削板「イテーなおい!」

猟犬Dに攻撃を加えようとするが遠くで別の猟犬部隊がパーティに来ている重役達に発砲していた。

削板「チッ!」

銃弾よりも早いスピードで移動し、削板は次々と人々に撃たれている銃弾を自らの体で防ぐ。
60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/11(金) 23:27:34.55 ID:Z+cnD9Wl0
貝積「苦戦しているようだな」

雲川の隣で椅子に座っている貝積が言う。

雲川「良くやっている方だよ」

テーブルの上に横たわった雲川はブドウを自分の口へ運ぶ。

貝積「それよりもこの騒ぎ、明らかに誰かが手引きしている」

雲川「ま、十中八九潮岸の仕業だと思うけど」

貝積「理由は?」

雲川「屋敷の管理は警備員《アンチスキル》に全面的に任せ、各重役も護衛を引きつれているにも関わらず敵に侵入されすぎている。
   明らかに屋敷の主である潮岸の手引きだろう」
61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/11(金) 23:30:08.86 ID:Z+cnD9Wl0
貝積「目的は?」

雲川「聞くまでもない。統括理事会メンバーを蹴落とすためだろう。お前を含めてな」

貝積「……私も同じ意見だ。現に本人がいち早くいなくなっている」

猟犬部隊が現れる少し前に潮岸はいなくなっていた。

貝積「隠す気は毛頭ないのだろうな」

雲川「皆殺しにする予定だったんだろうけど……他に目的があるような気がしなくもない」

パニックが会場を漂う中、二人はのんびりと削板が戦う様子を眺めていた。

雲川「ま、戦闘員でない私達が今できるのは無事生き残ることだけだ」

そんな雲川に少し遠くから猟犬部隊の一人が銃を向ける。

雲川「削板ー、こっちだー」

削板「うおおおおぉぉぉ! コーンージョオオオオオォォォ!」
62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/11(金) 23:32:49.57 ID:Z+cnD9Wl0
心理定規は初春に指定されたとおり、潮岸の私室に入っていた。

ここに辿りつくまで心理定規は拳銃を抜くことは一度もなかった。

心理定規の能力による敵の束縛、ステファニーの狙撃、初春の的確な道案内と援護のおかげで無傷で済んだ。

セキュリティを掌握した初春は、会場が混乱の渦となっている中、遠く離れた潮岸の私室が開けられたのを見逃さなかった。

指示を飛ばしているらしい人物も潮岸の私室が開けられてからは何も反応を示さなかったので、そこにいると予測した。

心理定規は潮岸の私室の前にいた猟犬部隊を能力で縛り、部屋に入ると奥に置かれていた棚を押しのけ、隠し扉を見つける。

心理定規「この奥ね」

心理定規はそっと扉を開き、中へと入って行く。

隠し部屋には窓や家具は設置されておらず、少し広いその部屋の奥に宇宙服のようなパワードスーツを着た潮岸が椅子に座っていた。
63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/11(金) 23:35:28.06 ID:Z+cnD9Wl0
心理定規「やはり、この一連の出来事は貴方の仕業ね?」

潮岸「ふん、貝積のゲストとやらか。どうせ護衛だろうとは思っていたが、まさか貝積の傍にはいず私の所に来るとはな」

心理定規「貴方の行動は全てバレてしまうでしょうね。まぁ、あまりにも派手にやり過ぎていると思うけれど?」

潮岸「暴かれないならそのままで良かったのだが、バレてしまうならそれもそれで構わないのさ」

心理定規「あら、今のところは貴方の予測範囲内とでも言いたいのかしら?」

潮岸「あぁ、そうさ。この状況もな」

そう言い終えるや否や、心理定規の真上から男が勢いよく降りてくる。

咄嗟に後へ飛んだ心理定規は間一髪で男の踵落としを避ける。

潮岸「やれるか? 杉谷」

杉谷「問題はないでしょう」

男、杉谷は心理定規を前にして構える。

心理定規「貴方が猟犬部隊に指示を出していたのね」

だが杉谷は心理定規に何も言わず、変わりに力で彼女に答える。
64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/11(金) 23:39:04.83 ID:Z+cnD9Wl0
素早く心理定規と距離を詰めると、杉谷のすさまじい攻撃が始まる。

眼にも止まらぬ速さのパンチと、スーツのどこに隠されていたのか分からない投げナイフが心理定規を襲う。

だが、心理定規は持ち前のCQCを駆使し、杉谷の拳を丁寧にガードし、投げつけられるナイフは避け続ける。

心理定規も時に杉谷に拳や蹴りで反撃し、一見互角の戦いに見えるが、心理定規から苦悶の表情が浮かび上がる。

杉谷の拳を防御する度に心理定規の顔から汗が噴き出て行く。

杉谷が着用しているグローブは一目見ると皮制に見えるのだが、学園都市により作られた鉄製のグローブなのだ。

防御する度に鉄の塊による衝撃を受ける心理定規の両腕が悲鳴を上げる。

心理定規「くっ!」

心理定規は両腕による防御を捨て、杉谷の右ストレートを屈んで避けると足払いで杉谷のバランスを奪う。

一瞬よろけた杉谷に心理定規は腰のホルスターから銃を引っ張り出す。
65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/11(金) 23:41:24.27 ID:Z+cnD9Wl0
杉谷「むん!」

だが、杉谷はバランスを崩して床へ倒れて行く中、左足を軸にして右足で心理定規の銃を宙へ蹴り飛ばす。

勢い余って杉谷は床へうつ伏せに倒れ、心理定規に自らの脊を晒し、心理定規はその隙を見逃さない。

腰の後からナイフを取り出した心理定規は杉谷の背中にナイフを突き立てる。

だが、スーツに刺さったナイフから伝わってくる手ごたえは肉を刺した感触ではなく、木製の床を貫いた感触だった。

心理定規が刺したのは床に捨てられた杉谷の黒いスーツだった。

杉谷「珍しいか? 変わり身の術だ、小娘」

宙に浮いていた銃をキャッチしていた杉谷は心理定規の後ろに回り込み、彼女の後頭部に銃を向ける。
66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/11(金) 23:44:14.07 ID:Z+cnD9Wl0
心理定規「悪あがきはさせてもらうわよ」

そう言った心理定規は右手の指をパチンと鳴らす。

心理定規(この男の私に対する距離単位を15に強制設定)

ぴくり、と肩を震わせた杉谷だったが、ナイフを床に突き立てて屈んでいる心理定規の頭を蹴り、地面にひれ伏させる。

心理定規「っ!」

杉谷「これが心理定規《メジャーハート》か」

心理定規「残念ね。やっぱり恋より仕事を選ぶ男は私と相性が悪いわ」

立ち上がろうとする心理定規だが、杉谷は彼女の頭を踏みつけ、床に押し付けられる。

杉谷「俺は私情を任務に持ち込まない主義だ」

心理定規「貴方の部下はそうでもないらしいけれど?」

苦し紛れに心理定規が杉谷を見上げて言うと、突然部屋に入ってきた二人の猟犬部隊が潮岸と杉谷にそれぞれ銃を構える。

猟犬E「銃を下ろせ!でないと潮岸を撃つ!」

猟犬F「助けに来たよ心理定規ちゃ〜ん、ぐへへへへぇ」

杉谷は部下に銃を向けられ、ふむ、と一言漏らすと心理定規に付きつけていた銃を床に捨て、両手をあげる。
67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/11(金) 23:46:19.67 ID:Z+cnD9Wl0
杉谷「俺を部屋の入り口から遠ざけるために俺と取っ組み合い、術に落ちた部下が入るスペースを作ったか」

心理定規「使える即席の部下を持って私は幸せよ」

心理定規はゆっくりと立ち上がって床に落ちた銃を拾う。

心理定規「この部屋に逃げ込んだのが仇になったわね。見たところ部屋の出入り口は一つだけ、それも抑えた。」

勝利が見えた心理定規は杉谷を睨む。

心理定規「貴方達の目的は何かしら? やはり統括理事会の派遣争いかしら?」

潮岸「ふん、それはついでだ。最低の目的は果たせた」

心理定規「どういうことかしら?」

潮岸と杉谷は答えない。

捕まえて尋問するしかない、そう心理定規が思った時、杉谷がゆっくりと口を開く。

杉谷「来い、《フリゴリフェロ》」
68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/11(金) 23:49:15.11 ID:Z+cnD9Wl0
途端、部屋の一角がすさまじい衝撃波で吹き飛ぶ。

心理定規「な!?」

謎の衝撃波は上から降ってきたらしく、屋敷の屋上から地上まで一気に押しつぶす。

隙を見た杉谷は、上げていた両腕の袖から投げナイフを取り出し、銃を向けていた己の部下の喉元に投げつけ絶命させる。

心理定規「くっ!」

すぐに対応しようとした心理定規だったが、衝撃により反応が一瞬遅れてしまい、杉谷の回し蹴りを腹にモロに喰らってしまい、部屋の壁に叩きつけられる。

痛みに耐える中、心理定規は壁と屋根が吹き飛ばされ露わとなった夜空に衝撃波を放った正体を発見する。

それは白い翼を生やした銀色の箱だった。厳密には銀色の冷蔵庫の後から翼が生えており、冷蔵庫の側面からは人間の腕が一本ずつ、下部には人間の足が二本飛び出ている。

そして、人間の頭というべきパーツが冷蔵庫の上部から飛び出ていた。

それはまるで人間一人が小さめの冷蔵庫を着ているようだった。

心理定規「ふ……ふふ。よく似合ってるわよ、垣根帝督」

そう言われた冷蔵庫《フリゴリフェロ》、垣根帝督は元仲間である心理定規に不敵な笑みを零す。

垣根「言ってくれるな、自覚はしている」
69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/11(金) 23:51:00.24 ID:Z+cnD9Wl0
今日はここまで。
次回からはレスする量は減るかも。
完全復活する垣根をイメージできない。
70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/11(金) 23:52:19.07 ID:8sFh4xEdo
                    , <  ̄   、
                    /            ヽ
                       /           丶
                   '                 i
                       ′           ,  !
                  /    /  二≠z   斗 リ
                  /   ///V弋チ7ヘ tィ 乂
                /// ィ ヽ/ 〈      ヘ从ソ
                  //∧  ィヽ   、  _'/ /     「言ってくれるな、自覚はしている」
                ┌イィ彡//≠ >、 ̄ イ─‐┐
                 l     (ノ     `^i )     l
                 |     ̄ ̄TTT ̄     |
                 |_________________|
                ./|==========iト、
                ../ |                   .|| .\
              /  l    D A R K    .|ト、   \
    r、       /   .!〕              || \  \        ,、
     ) `ー''"´ ̄ ̄   / |   M A T T E R  ||   \   ̄` ー‐'´ (_
  とニ二ゝソ____/   |                  ||    \____(、,二つ
                       |              ||
                       |_____________j|
                 |´ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄`i|
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                       |〕                ||
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71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/11(金) 23:56:16.61 ID:Z+cnD9Wl0
>>70
早すぎる反応に感謝
挿絵としてはまさにそんな感じw
72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/11(金) 23:57:07.60 ID:llF13oBDo
くそwwwwww普通にシリアスだったのに不意打ちで吹いたwwwwwwww
草も生えるわwwwwwwww
73 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/12(土) 07:41:35.34 ID:AVAlHz9DO
なかなか面白いな


でも垣根の姿が間抜けすぎるwwwwww
74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/05/12(土) 11:13:56.69 ID:083ImqNB0
面白いSSだ


くっそwwwwwwふざけんなwwwwwwwwww
75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/05/12(土) 12:17:02.00 ID:BeOR+nSj0
まさかの帝凍庫くンwwwwwwwwwwwwwwww
76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/12(土) 20:00:16.96 ID:LFbwiDJA0
短くなりますが、再開します。
垣根は冷蔵庫似合うよね
77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/12(土) 20:01:49.03 ID:LFbwiDJA0
状況は絶望的だった。

敵は三人、内一人は戦いに参加しないとしても、猟犬部隊を率いている杉谷、そして学園都市第二位である垣根に心理定規一人で適うはずがなかった。

心理定規「垣根、貴方が関わってくるとなると、この一連の事件が暗部によるものとは思えなくなってきた。貴方が仕組んだの?」

垣根「さぁな。お前に教えることはなにもないさ」

そう言い、垣根は白い翼を大きく振りかぶり、心理定規目がけて振りおろそうとする。

その時、遠方より弾丸が飛来し、垣根の胴体、冷蔵庫に直撃する。

ステファニーによる援護射撃だ。

垣根「狙撃か?」

垣根は狙撃主がいるであろう小山に体を向ける。

銃弾は何度も垣根に襲ってくるが、幾ら撃たれても弾が冷蔵庫を貫通することはなく、全てが弾かれる。

垣根「防弾跳び箱が出回る世の中だ。この冷蔵庫も防弾に決まっているだろう!」

狙撃ポイント目がけ垣根は羽を飛ばす。

数々の羽がステファニーが潜伏しているであろう場所に絨毯爆撃かのごとく降り注ぐ。

狙撃が止み、心理定規は悪寒を覚える。
78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/12(土) 20:03:16.14 ID:LFbwiDJA0
心理定規「ステファニー! 応答しなさい、ステファニー!」

心理定規は無線に向かって必死に呼びかけ、ノイズの嵐が鳴る中、かすかに返事が帰ってくる。

ステファニー『……ぐ、どう――生きて――が、銃を破壊さ――した。こ――以上――援護は――ませ――』

ぶつりと回線が切れ、心理定規はステファニーの無事を確認できただけでも幸いと判断し、無線をしまう。

垣根「はは! 時間稼ぎにもならなかったな。残念だがここまでだ」

垣根は心理定規へ強烈な殺気を放つ。
79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/12(土) 20:06:20.99 ID:LFbwiDJA0
その時だった。屋敷の外から幾つものサイレンが鳴り、数々の足跡が聞こえてくる。

杉谷「ち、警備員《アンチスキル》の増援か」

潮岸「垣根、杉谷。退くぞ、ここにもう用はない」

杉谷「了解」

垣根「分かったよ」

垣根は屋敷に降り立ち、杉谷と潮岸が垣根に歩みよる。

二人を抱えて飛び去るつもりだろう。

心理定規「く、待ちなさい!垣根!」

垣根「時間もねぇから見逃してやるよ、心理定規」

杉谷と潮岸の体を掴んだ垣根は興味なさげに心理定規を見るが、突然笑みを浮かべる。

垣根「とでも言うと思ったかあああぁぁぁ!」

狂気の笑みと共に垣根が巨大な翼を心理定規目がけて振りおろす。

心理定規「――っ!」

避けられない。
80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/12(土) 20:08:15.12 ID:LFbwiDJA0
覚悟を決めた瞬間、心理定規の少し前の床が突然吹き飛び、下の階から誰かが飛び出てくる。

削板「だああああああらっしゃあああああああい!!」

妙な雄たけびと共に削板の渾身のアッパーは垣根の白い翼を轟音と共に押し返す。

垣根「ちっ!」

苛立たしげに垣根は舌打ちする。

削板「大丈夫か、心理定規!?」

心理定規「えぇ。良いタイミングだったわ」

削板「会場にいる暗部の奴らを一通り倒したら知らない女の子が無線で俺にここへ向かうよう指示したんだ」

初春のことだと気付いた心理定規は、通話状態だった携帯に耳を向ける。

初春『心理定規さん!心理定規さん!!無事ですか!?』

心理定規が答える前に初春がいる管理室の扉が蹴破られる音が鳴り「初春さん、早く避難するわよ!」と入ってきた何者かが無理やり初春を連れ去って行く音がした。

おそらく一階にいた常盤台のレベル5が初春を迎えに来たのだろう。

ひとまずピンチを切り抜けた心理定規は垣根を睨む。
81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/12(土) 20:08:51.49 ID:LFbwiDJA0
垣根は未だ戦闘態勢を崩しておらず、削板と心理定規を見据える。

潮岸「垣根!退けと言っているだろう!」

杉谷「クライアントの命令は聞け、垣根」

垣根「あぁ、あぁ、分かったよ」

仕方ないとでも言いたいような面持ちで垣根は翼を広げ、杉谷と潮岸を抱えて飛び立つ。

垣根「またな、心理定規」

心理定規「……垣根」

そう言い残し、垣根は夜の空へと消えて行った。
82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/12(土) 20:10:52.36 ID:LFbwiDJA0
潮岸の屋敷で起こった事件から三日後、心理定規、ステファニー、削板はとある高校の教室に雲川より招集されていた。

雲川は教室の教卓にねっ転がり、三人が来た事を確認するとゆっくり口を開く。

雲川「さて、三日前の事件の後に分かった事を説明する前に……入れ」

そう言うと教室の扉が開き、花飾りをつけた女の子が教室に入ってきた。

初春「り、理事会の依頼により学園都市特別保安部隊のお手伝いに参りました、初春飾利です!」

かなり緊張しているのか、初春は顔をこわばらせて教室にいるスクールの面々を見渡し、心理定規を見てさらに驚く。

初春「心理定規さん!?」

心理定規「また会ったわね初春さん。これからは仲間としてよろしくお願いするわ」

初春「嬉しいです、また会えるなんて」
83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/12(土) 20:12:42.57 ID:LFbwiDJA0
本当に感激しているのだろう、初春は心理定規に握手し、ステファニーと削板に挨拶する。

心理定規は初春に気付かれないように雲川に話しかける。

心理定規「雲川、学園都市特別保安部隊って『スクール』のことを指しているのかしら?」

雲川「そうだ。お前の要望通り初春をスクールに引き入れたが、こいつは暗部や学園都市の闇に全く関わりのない純粋な学園都市の住人だ。
   理事会メンバーである貝積の依頼で彼女を呼ぶということにでもしないと我々に関わらせることなどできない」

心理定規「そう、よね。配慮に感謝するわ」

雲川「まぁ、私としても初春がいるおかげで事件の調査が進んだのだからこいつを入れるのは歓迎だ……そろそろ事件のあらましを説明しよう」

そう言うとステファニー、削板、そして初春が雲川に注目する。
84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/12(土) 20:14:33.43 ID:LFbwiDJA0
雲川「事件の首謀者は潮岸で間違いない。奴は貝積や最中の抹消はついでだと言っていたが恐らく本当だ」

削板「どういうことだ?」

雲川「事件後すぐに発覚したのだが、何名かの重役が事件が起こってから行方不明となっている」

心理定規「……」

雲川「行方不明となった者達には二つの共通点がある。技術開発に携わっていること、そして全員履歴から何かの開発に関わっていた事を消された後がる」

ステファニー「興味深いじゃないですか。」

雲川「潮岸の行方は目星が付いている。初春の協力のおかげだ」

心理定規「流石ね、初春さん」

初春「えへへぇ」
85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/12(土) 20:16:15.08 ID:LFbwiDJA0
雲川「潮岸は己の立場を利用して世間から自分の悪事を隠している。けど、我々だけは奴の行為を知っている」

削板「俺達に潮岸を捕まえさせる気か?」

雲川「そうだけど。貝積は統括理事会の中で唯一原石である者達を守っている。貝積がいなくなれば学園都市に集めた原石達が一斉にあらゆる組織から狙われることになるだろうさ」

心理定規「そうさせないためにも早く手を打つ必要があるわね」

雲川「こちらもいろいろ準備を急ぐ。二日は待って欲しいけど」

心理定規「分かったわ。なら、今日は解散でいいわね?」

雲川が頷き、心理定規と他三名は教室を出ようとする。

そこで、雲川が心理定規に意味深に目配せし、それを見た心理定規は前を歩く三人に言う。

心理定規「私は雲川に確認することがあるわ。先に行っててちょうだい」
86 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/12(土) 20:18:24.09 ID:LFbwiDJA0
心理定規「それで? 私だけを残して何を話したいのかしら?」

雲川「なに、さきほどの潮岸確保任務に少し内容を付け足すだけだけど」

心理定規は教室を一瞥するが、どこにも外部にこの会話が聞かれているようには見えなかった。

恐らく雲川が心理定規に持ち込んでいる内密な話なのだろう。

心理定規「一体、どんな内容なのかしら?」

雲川「お前だけに課す任務さ……潮岸の処分の、ね」

処分、この場合だと暗殺。

大方予想していた通りの内容だった。

心理定規「理由を聞いても?」

雲川「理由は単純だけど。潮岸は捕まえたところですぐに牢からでてくるさ。そして今度こそ貝積を仕留めにくるだろう」

心理定規「殺られる前に[ピーーー]、ということね」

雲川「ものは言いようだけど。それで、この任務は受けてもらえるのか?」

心理定規「あら、私に選ぶ権利があるのかしら?」

雲川「当然だけど、断ればお前をスクールから外すことになるな」
87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/12(土) 20:20:03.03 ID:LFbwiDJA0
心理定規「でしょうね。なら、一つだけ聞かせてもらうわ」

雲川「なんだ?」

心理定規「私はいつ、アレイスタークロウリーとの直接交渉権を獲得できるのかしら?」

雲川「その交渉権の価値は、統括理事会の四、五人の首でも足りないさ。もしくは、原石を永劫守ることでもできればあるいは叶うだろうさ」

心理定規「あら? それは交渉権はずっと得られないという意味?」

雲川「時間がかかる、と言っているだけだけど」

心理定規「……、そう。一応信じておくわ」

雲川「お前の仲間に追加の依頼を伝えるかどうかは、お前に任せる」

心理定規「まぁ、ステファニーになら言えそうだけれど、初春と削板には言えないでしょうね」

雲川「方や闇とは無関係の存在に、方や闇と悪事を嫌う根性馬鹿だからな」
88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/12(土) 20:22:36.86 ID:LFbwiDJA0
心理定規「ともかく、依頼は受けるわ。他のメンバーに伝えるかどうかは考えておく」

雲川「よろしく頼む」

そう言って心理定規は教室から出ようとする。

雲川「あぁ、それと、お前に頼まれていた物だ」

ひょい、と雲川が手のひらサイズの金属製の箱を心理定規に投げ、それを心理定規が受け止める。

潮岸の屋敷での一件後、雲川に注文していた物だ。

雲川「本当でそれを使う気?」

心理定規「まぁ、垣根が出てくるとなると、考えるまでもないでしょう」

中身を確認し、心理定規は一つ頷く。

心理定規「サポートも充実しているし、優秀な構成員達のおかげで理想の小組織が完成したわ。あとは……」

雲川「目的の物だけ、だろ?」

心理定規「仕事はするわ。けれど、報酬はきっちりもらう」

そう言い残し、心理定規はこんどこそ部屋を出た。
89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/12(土) 20:24:13.05 ID:LFbwiDJA0
教室から出ると、長い廊下の窓際で、ステファニーが一人ぽつんと立っていた。

心理定規「あら? 先に帰っていたと思っていたけれど」

ステファニー「ちょっとね……削板と初春は帰りましたよ。あぁ、初春ならここから見えるかも」

そう言ってステファニーが指す窓の外を見ると、学校の校庭を歩く初春と、隣に三人の女の子が連れ添っているのが見えた。

一人は潮岸の屋敷での一幕で一役買ったレベル5だ。他にはツインテールの女の子と黒髪ロングの女の子が居た。

楽しそうに笑う初春を見て、釣られて心理定規も笑ってしまう。

心理定規「良いものね、友達って」

ステファニー「あら、欲しいんですか?」

心理定規「悪くはないわね。貴方は私の友達になってくれるかしら?」

ステファニー「馬鹿言わないでください。一度闇に染まったらそんな関係作れるはずないじゃないですか」

そう、と心理定規はつぶやき、ステファニーが本題に入りましょうと言う。

ステファニー「貴方と雲川の内緒話が気になりましてね」

怪しく笑い、ステファニーが心理定規を見やる

ステファニー「大方、潮岸の始末か何かを頼まれたんじゃないですか?」

心理定規「さすがに分かるわよね」
90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/12(土) 20:26:12.27 ID:LFbwiDJA0
ステファニー「それで? どうするんですか? 削板がこの事を知ったら恐らくスクールを辞める所か壊滅に追い込むと思いますけど」

心理定規「そうね。かと言ってこの依頼を蹴ると雲川からのサポートを無くしてスクールの存続に関わるわね」

ステファニー「まぁ、私に暗殺の件を任せてくれてもいいじゃないですか」

心理定規「それはなぜかしら?」

ステファニー「簡単な話ですよ。私はあくまで心理定規、貴方に雇われている身です。私の独断で潮岸を殺ったことにしたらいいじゃないですか」

心理定規「使い捨てろ……ということ?」

ステファニー「それ相応の報酬はもらいますけどね」

心理定規「……止めておくわ」

ステファニー「どうしてです? 私が裏切るとでも?」

心理定規「違うわ。私は次にチームに入るか作るとしたら、誰一人メンバーが欠けないチームが欲しいと思っていたのよ」
ステファニー「は?」
心理定規「メンバーを使い捨てるようじゃ組織の未来なんて短いものよ。それに、人が少なくなると寂しいもの」
91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/12(土) 20:27:21.40 ID:LFbwiDJA0
ステファニー「まさか、本気で友達が欲しいとか?」

心理定規「……どうかしらね」

未だ窓から見える初春と彼女の友達を見て心理定規は小さく呟く。

心理定規「暗部のやり方にうんざりしてきたのかも」ボソ

ステファニー「ん? 何と言いましたか?」

心理定規「何でもないわ。ともかく潮岸の件は私に任せて。貴方も大切なスクールのメンバーだから、無駄に汚い仕事をさせたくないのよ」

ステファニー「ん、なんだか気味が悪いじゃないですか」

少しばかり頬を赤らめるステファニーだが、心理定規はそれに気づかず、学校を後にする。
92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/12(土) 20:29:30.36 ID:LFbwiDJA0
今日は短めでここまで。
レスをくれた方々ありがとうございます。本当に続きを書く励みになります。
93 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/12(土) 21:03:39.21 ID:qFxK5ZWLo
面白いです
メンバーはこれで固定かな? それとも、もう一人くらい前で戦える奴が入るかな?
94 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/12(土) 21:23:30.95 ID:3xdptQXDO
垣根のせいで吹いてしまうよ…
モツ鍋さんを仲間にしよう
95 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/05/12(土) 23:33:12.84 ID:Hv0Vw9Aro
帝凍庫となネタにしかならないと思っていたオレが阿呆だったのか
96 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/13(日) 18:11:15.87 ID:8zEbJ0UD0
ではでは再開します。
スクールのメンバーはこれで揃った感じ。あとでメモがてらスクールの構成員書こうかな。
垣根がこんなに反応されるとは正直予想外です。
97 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/13(日) 18:13:01.18 ID:8zEbJ0UD0
ステファニーと別れ、雲川のいる学校から少し歩いたところに心理定規は拠点としている貸しアパートに着く。

疲れが溜まっていたのか、心理定規は眠気を感じ、軽くシャワ―に入り、寝巻きであるネグリジェに着替えるとベッドに横たわる。

すぐに睡魔が襲い、心理定規はそれに抗うことなく眠りにつく。

脳裏に昼方見た初春が友達と歩く姿を思い出し、そのせいか心理定規は夢を見た。

彼女の、過去の夢を。
98 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/13(日) 18:17:43.63 ID:8zEbJ0UD0
激しい雨が降る中、少女は拾ったボロ布にくるまり、廃墟となった建物の屋根下で雨宿りをしていた。

その建物はシャッターが閉まっており、中に入ることができず、少女はボロ布を必死に体にくるまり、冷たい雨と風から己を守った。

少女は今より幼い頃に学園都市に両親が入学させたが、その後行方をくらまし、学費を払えなくなった少女は学校と住居から追い出されてしまった。

しばらくそこでじっとしていると、一台の車が建物の前に止まり、数人の黒服の男達が車から出て少女に近づく。

少女「おじさん達……誰?」

黒服達は答えず、一人が持っていた無線を取り出す。

黒服A「置き去り《チャイルドエラー》を発見……これより保護する」

黒服はそう言うと、少女の腕を無理やり掴み、乗ってきた車へと引っ張る。
99 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/13(日) 18:20:05.43 ID:8zEbJ0UD0
とある研究所に連れて来られた少女は、幾つかの検査をした後、質素な服を宛てがわれた。

研究者らしき男が検査室で少女の前に座る。

研究者「行き場のない君は我々学園都市が保護することになったよ」

少女「そう……なんだ」

研究者「しかしね、こちらもタダで君を保護することはできないのだよ」

少女「え……でも、私、お金持ってない」

研究者「別にお金を取ろうというわけではないよ。ただ、学園都市のために働いて欲しいのだよ」

少女「学園都市のために……働く」

研究者「そのためには君の名前や戸籍を抹消する必要がある。つらい仕事も押し付けられる、だがそれも君が生き抜くためだ。どうすかね?」

少女「私……生きたい」

研究者「良い返事だ」

研究者はそう言ってにこりと笑う。
100 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/13(日) 18:23:20.90 ID:8zEbJ0UD0
少女はそれから様々な研究の実験体になり、時には情報収集の任務を任された。

だが、少女は一向に能力を発現することもなく、情報収集のほうも成果をなかなか上げることはできなかった。

そんなある日、少女は黒服の男と共に任務から帰還し、定期検査のために研究所を訪れる。

そこでとある少年が何名かの研究員に両腕を掴まれて無理やり引っ張られる光景を見る。

少年「やめろ! 離せ!」

研究員「抵抗しても無駄だ。来なさい!」

嫌がる少年を研究員が無理やりどこかの部屋へと連れて行く。
101 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/13(日) 18:25:00.65 ID:8zEbJ0UD0
少女「あ、あの……あの子、どこへ連れて行かれてるんですか?」

黒服「ん? あぁ、おそらく実験開発室だな」

少女「能力開発研究とは違うんですか? なんだか怖がってるみたいでしたけど」

黒服「……本当は言ってはいけないのだが、これを知ってお前が成果を上げられるのだとしたら良いかもな」

黒服は少し躊躇したが、一度頷くと、まだ背の低い少女の目線に合わせて腰を落す。

黒服「いいか。我々研究機関『プロデュース』はいろいろな仕事を引き受けているが、それもこれも研究費を稼ぐためだ
   そしてその研究費はパーソナルリアリティ、自分だけの現実がどこに宿っているのか探るために使われている」

少女「探るって、どうやってですか?」

黒服「簡単に言えば実験体の脳をクリスマスケーキのように切り分けて調べる」

黒服の言葉に少女はぞっとする。
102 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/13(日) 18:28:26.14 ID:8zEbJ0UD0
少女「き、切り分けるって……」

黒服「あぁ、確実にその実験体は死ぬな。だからこそ、我々研究機関は行き場もなく、何の役にもたたない
   チャイルドエラーを真っ先に実験対象とする。この意味、わかるか?」

最近はなんの成果も挙げられていない少女は黒服の男の意図していることが理解できた。

少女(役に立たなきゃ次に実験対象となるのは私だ。)

それからというもの、少女は命懸けで任務に取り組んだ。

その間にもたくさんのチャイルドエラーが実験開発室という名の処刑場へと連れて行かれた。

少女は人の顔色を伺い続け、相手との心の距離を慎重に定め、任務を遂行し、どうにか実験開発室行きを免れ続ける。

それだけでは危機を免れず、少女は時に任務を共にする仲間を使い捨て、成果を独り占めにして生き延びた。

その行いを続けたせいか、ついに能力に目覚めた時、その能力の効果に少女はさほど驚かなかった。

その能力は己が生きるための術であり、己の心の本質であり、自分だけの現実だった。
103 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/13(日) 18:30:58.93 ID:8zEbJ0UD0
検査を終えた少女の前で、研究員がにこりと笑う。

研究者「君にとって朗報だ。君の能力が買われて、上から引き抜きがあったよ」

少女「じゃ、じゃあ」

研究員「あぁ、もうこの研究所に来ることもない。君はこの学園都市のさらなる闇に潜り、戦ってもらう」

それは果たして少女のためにとって救いなのか、さらなる地獄へむかっているのかは分からなかった。

研究員「それにあたって、君に新しい名前を与えよう」

そこまで言うと、だんだんと周りの風景が霞がかり、研究員の顔もおぼろげに見えてくる。

夢が覚める前兆だ。

研究者「――ちゃん、今日――君――新し――名前――」

研究者の言葉が途切れとぎれになるが、夢の中の少女は研究者からもらった新しい名前をはっきりとした声でつぶやく。

少女「心理定規」
104 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/13(日) 18:35:10.11 ID:8zEbJ0UD0
目を覚まし、心理定規は窓の外を見る。

昼寝のつもりが、長いこと寝ていたのか、外はもう既に暗くなっていた。

寝覚めが悪く、未だにじっとりと汗がにじむ。

心理定規は枕を抱きかかえ、さきほどの夢と昼間の初春と彼女の友達との光景を思い出す。

あぁ、やっぱり私は彼女を羨ましがっているのだろう。

潮岸の館で彼女と話した時、初春は彼女の生活をいろいろ話してくれた。

その話一つ一つが心理定規がずっと経験したことのないようなことばかりで、そしてずっと避け続けた世界でもあった。

枕に顔を埋め、心理定規はぐっと己の感情の渦を押し込める。

すると、ベッドの隣に置いていた携帯デバイスが鳴る。

どうやら雲川から次の任務の詳細データが送られてきたらしい。

心理定規はそれにゆっくり手を伸ばす。

今、私はこのやり方でしか生きていけない。けど、いつか……あの子のように……
105 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/13(日) 18:43:36.50 ID:8zEbJ0UD0
数日後の夜、心理定規は貸しアパートの前で立っていた。

すると、一台の黒い車がアパートの前に止まる。

心理定規はそれに乗り、車はすぐに発進する。

バンには既に初春、ステファニー、そして削板が乗っていた。

運転しているのは迎電部隊の隊員だ。

心理定規「全員、雲川から送られてきた任務内容は確認したかしら?」

全員が頷き、心理定規は任務前のブリフィーングを始める。

心理定規「潮岸の潜伏先が判明したわ。奴は学園都市の最南端に設置されている地下実験場に隠れている」

心理定規は小さな画面付きデバイスで基地の地図を出す。

心理定規「私たちの任務の第一優先事項は潮岸に連れ去られた要人の救出、そして次に潮岸の確保よ」

心理定規「作戦は、まず私とステファニーが施設内に侵入して施設への工作を終えたのち待機。そして初春が実験室の管理室にハッキングする。
     要人の位置と潮岸の位置を把握次第迎電部隊と共に奇襲をかける」
106 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/13(日) 18:46:19.99 ID:8zEbJ0UD0
地図は研究室が三階層になっていることを示し、要人は二階層目、そして最下層に潮岸がいるのではと予測している。

削板「ちょろちょろとするのは俺の根性に合わないな」

心理定規「心配しなくても、貴方は奇襲部隊と一緒になってもらうわ。騒ぎが起きれば必ず垣根が出てくるはずよ」

垣根の相手をしろ、と暗に言われた削板は両拳をガシリと打ち鳴らす。

削板「それなら問題ねーな。同じレベル5なら相手に不足はねぇ」

心理定規「私とステファニーは施設内に幾つか爆弾を設置するわ。
     奇襲と共にそれを起爆させて相手を攪乱させる内に要人救出と潮岸の身柄を確保する」

皆が頷き、心理定規がデバイスをしまうと、ちょうどバンが研究施設から少し離れたところに停車する。

心理定規「作戦……開始」
107 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/13(日) 18:59:58.44 ID:8zEbJ0UD0
スクール構成員

心理定規
リーダー。からめ手を使った中距離戦闘型。能力の使いどころが難しい。

ステファニー=ゴージャスパレス
接近戦担当、遠距離戦も一応可。もう少しいろいろ活躍させたい。

削板軍覇
近中遠距離戦闘なんでも有りのチートキャラ。彼が負ける姿が思い浮かばない……

初春飾利
支援・ナビゲーション担当。マスコットキャラ

雲川/貝積
スクールのスポンサー、後ろ盾。

迎電部隊
スクールのパシリ

当初は初春ではなく婚后さんを入れようと思ったけど、それじゃ強すぎると思って初春に変更。
108 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/13(日) 19:01:49.21 ID:8zEbJ0UD0
今日はここまでです。
もう少し書こうと思ったけど、割と長くなりそうなので
区切りの良いところで終わってみる。
レスくれた方々ありがとうございます。
109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2012/05/13(日) 23:25:21.00 ID:OlRYMFq40
まあ乙
110 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/15(火) 09:24:58.30 ID:wY2lVpiIP
金剛さん能力は強いけど本人がうっかりさんだから暗部は厳しいと思うの
111 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/17(木) 13:55:18.61 ID:6vN6cDjl0
ただいまー。
うぅ、風邪が厳しいっす。皆さんも気をつけてね。
確かに婚后ならうっかりやらかしそう。萌えるよね

ちょっとだけ再開します。
112 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/17(木) 13:57:15.25 ID:6vN6cDjl0
学園都市最南端に位置する地下実験場入口に、二人の警備員が立っていた。

二人はただの警備員ではなく、潮岸に雇われた猟犬部隊でもある。

硬い扉の前に立つ彼らは何人たりとも通さないとでも言うかのようにライフルを両掌にしっかりと持ち、暗闇を睨む。

すると、夜道の中、一人の女性が彼らに向かって歩いてくる。

闇の中に溶け込みそうな、肩あたりまで伸びた黒い髪に、整った顔をした女性だ。

女性はどこかおどおどとしており、警備員二人を見つけると、少し明るい顔をして歩み寄ってきた。

女性「あ、あの、すみません!」

少し警戒した様子で警備員の一人が女性に対応する。

警備員A「ここは立ち入り禁止区域だぞ」

女性「す、すみません。この施設に知り合いがいると聞きまして、会いにに来たのですが」

そこで警備員は女性を怪しんだ。
113 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/17(木) 14:04:55.71 ID:6vN6cDjl0
今施設内にいるのは拉致してきた要人数名と技術者が数名、後は猟犬部隊と潮岸の直属の部下二名だけだ。

警備員A「……アポはとってあるのか?」

女性「は、はい。アイシャと言えば伝わると思います」

警備員A「確認を取ろう」

そう言って扉の横についたコンソールへと向かう警備員Aの後ろをアイシャがついていく。

警備員Aがコンソールに手を触れ、管制室へと繋いだ瞬間、突然アイシャが警備員Aを後ろから押して壁に叩きつけた。

警備員A「くはっ!」

その瞬間、アイシャはポケットからなにかしらのデバイスを抜き取り、それをコンソールへと繋ぐ。

警備員B「貴様! 何のつもりだ!」

異常事態と見た警備員Bがアイシャに銃を向ける。
114 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/17(木) 14:05:30.13 ID:6vN6cDjl0
アイシャ「そんなものを私に向けないでちょうだい」

そう言ってアイシャ、またの名を、心理定規は警備員Aの頭に手を置きつつ空いている手で指を鳴らす。

心理定規(この二人の心と私の距離を25に設定)

二人の警備員の心は心理定規へと釘付けとなる。

途端、警備員二人はぴくりと動きを止め、隙を見た心理定規は抑えていた男とのポジションを入れ替える。

つまりは、警備員Aが心理定規を壁に押さえつけるような形となる。

警備員A「な、な!」

押さえつけられた心理定規はきゅ、と唇を押さえ、後ろで呆けているように見ている警備員Bにうるうるとした目を向ける。

警備員B「お、お前その子に乱暴するんじゃねぇよ!」

警備員A「す、するわけねぇだろ! ヤキモチ焼いてんじゃねぇよ!」

警備員B「は!? 何言ってんだよ!」

警備員A「気色悪いな、あっちいけよ!」

警備員B「やるのかこら!」

勝手に喧嘩を始めた警備員Aは心理定規を離し、警備員Bへ振り向く。

すると、二人は突然殺し合いを始め、互いに懐からナイフを取り出し、切り合う。
115 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/17(木) 14:07:35.90 ID:6vN6cDjl0
心理定規「初春、聞こえるかしら?」

初春『は、はい』

心理定規「管理室へのハッキングはどう?」

初春『心理定規さんのいるところの監視モニターは掌握しました。これから徐々にセキュリティ全体をハックしていくつもりです』

心理定規『ありがとう』

無線越しの初春の言葉はぎこちなかったが、おそらく後ろで行われている殺し合いに怖がっているのだろう。

できることならこんなところは見せたくないのだが、こればかりは仕方ない。

心理定規「ステファニー、出てきて良いわよ」

回線を変え、ステファニーに指示を出すと、少し遠くからステファニーが歩いてきた。

ステファニー「ずいぶんとエグイ方法を使うじゃないですか」

心理定規「弾と体力を節約するためよ」

ちらりと心理定規が後ろを見ると、未だ二人は闘っていた。
116 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/17(木) 14:08:53.18 ID:6vN6cDjl0
ステファニー「……仕方ないですね」

ステファニーは争う二人に近づくと、持っていた愛用の機関銃の銃底で二人の頭部をすばやく殴る。

意識を刈り取られた二人は地面にくたりと倒れた。

ステファニー「生かしておけるうちは捕まえておいて、情報を搾り取りましょう」

心理定規「優しいのね」

そして心理定規はまた別の回線へと無線をつなげる。

心理定規「迎電部隊、我々が実験施設へ侵入後、入口近くの敵隊員を確保せよ」

迎電『了解』
117 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/17(木) 14:11:08.23 ID:6vN6cDjl0
心理定規「さて」

そう言って心理定規は着ていたドレスを脱ぎ出す。

ステファニー「ぶっ! 何してるんですか!?」

心理定規「何って、この男達の服に着替えるのよ」

ステファニー「だからと言って、ここは外じゃないですか! 今初春達がここの監視カメラをハックしてますが、初春達には見えてるんですよ!」

厳密に言うなら初春の後ろにいるであろう迎電部隊の男達のことだが。

すると、無線の向こうで喉太い声が聞こえてくる。

削板『安心しろステファニー! 俺が映像を根性で抑えている内に着替えろ!』

迎電『何言ってるんですか削板さん! アンタこのお宝映像を独り占めにしようとしてるだろ!』

初春『もー! みなさん今だけ外に出ててください!』

騒がしい音声が無線から響き、ステファニーは苦虫を潰したような顔をする。
118 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/17(木) 14:12:43.16 ID:6vN6cDjl0
心理定規「何してるの? 潜入任務なんだから迅速に行動しなさい」

既に下着一枚となった心理定規が何くわぬ顔で言う。

寒い夜だというのに心理定規はその白い肌を現わにし、美しいくびれを晒し、白い下着は整った胸を完璧に隠している。

ステファニー「くっ……やるしかないじゃないですか!」

羞恥心を今だけは封印し、ステファニーは勢い良く服を脱ぎ出す。

ちょっとしたストリップを終え、心理定規とステファニーは無事猟犬部隊の服へと着替え終えた。
119 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/17(木) 14:14:20.27 ID:6vN6cDjl0
施設内に侵入した心理定規とステファニーの行動は迅速だった。

初春のガイドに従い、施設の所々に設置されているコンソールにデバイスを差込、セキュリティの掌握を図る。

初春は心理定規とステファニーが歩く道筋に設置されている監視カメラをハッキングし、二人の姿をカメラに写さないように細工する。

猟犬部隊の服を着ているとはいえ、なるべく人と接触しないよう行動し、二人はとうとうこの施設の一階層目の奥へたどり着く。

心理定規「おそらく管制室と潮岸がいるのは一番下の三階層目、要人は二階層目で実験をさせられているはずよ」

ステファニー「私が二階層目に侵入し、要人を探しつつ起爆装置を設置する。貴方は一階層目で仕掛けを施す、ですね?」

心理定規「その通りよ。終わり次第、削板達奇襲部隊がこの施設を襲撃するわ」

二人は頷き合い、その場で別れた。
120 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/17(木) 14:19:37.47 ID:6vN6cDjl0
三階層目の管制室にて、杉谷と潮岸は幾つものモニターを眺めていた。

潮岸「欠損情報<ロスト・データ>の復元はどこまでできた?」

杉谷「報告によると93%だとか」

潮岸「ふむ。なかなかに早いな。で、他の理事会共の様子は?」

杉谷「血眼になって貴方を探してますよ。ここが割られるのも時間の問題かと」

潮岸「それまでには完成するさ……とろこで垣根は?」

杉谷「施設のどこかをほっつき歩いてますよ」

潮岸「まったく、あいつは……」

杉谷はモニターを睨み、一通り施設内を見る。

杉谷「ここが既に見つかっており、敵に侵入される可能性は大いにある。警戒は怠らないようにしますよ」

潮岸「頼むよ杉谷君。我々は今学園都市のファーストプランに干渉しようとしているんだ。ここが正念場だ」
121 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/17(木) 14:23:03.12 ID:6vN6cDjl0
ステファニーは二階層目で計画通りに起爆装置を設置すると、無線機を取り出す。

ステファニー「初春、こちらの準備は完了した」

初春『了解です。後は心理定規さんを待つだけですね、一階層が一番広いですから、あと少しかかると思います
   二階層目の様子はどうですか?』

ステファニー「要人の場所は把握しましたよ。全員奴隷のように扱われてましたね。何かの機械を作らされてる感じでしたが」

初春『機械……ですか。五分前の心理定規さんの報告だと一階層目では兵器開発がされているらしかったですが……』

が、そこでステファニーが初春の言葉に割り込む

ステファニー「待ってください、誰か来ます」

狭い廊下ということもあり、ステファニーは隠れるところがないので、ここは自然に振舞ってすれ違おうと思った。

思ったのだが、廊下の曲がり角から現れた人物に反応せざるをえなかった。
122 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/17(木) 14:26:55.54 ID:6vN6cDjl0
曲がり角から出てきたのは一言で言うと人間冷蔵庫だった。

赤い2ドアの冷蔵庫に身を包み、男は両腕両足、そして頭だけを出している。

茶髪の髪を揺らし、男はゆっくりとステファニーへと近づいてくる。

ステファニーは男の奇抜な格好に反応しないように目を伏せ、男が通りすぎるのを待つ。

あの人間冷蔵庫は作戦会議時に心理定規に教えられた垣根帝督だ。

まともに戦って勝てる相手のはずがない。

黙って垣根が通りすぎるのを待つが、すれ違いざま、垣根が足を止める。

垣根「お前……見ない顔だな」
123 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/17(木) 14:28:22.09 ID:6vN6cDjl0
垣根の言葉にステファニーの肩に力が入る。

ステファニー「本日付で増援として呼ばれました」

垣根「……聞いてないな。お前、ID出せ」

今から無線機で初春に指示を仰ぐこともできるはずもなく、ステファニーは今着ている服の持ち主、猟犬部隊のIDを垣根に差し出す。

もちろん、そのIDにステファニーが登録されているはずがない。

垣根は胴体に付いている冷蔵庫の上の扉を開き、カードリーダーを取り出す。

カードリーダーがステファニーが取り出したIDを読み取り、名前と顔写真を映し出す。

垣根「……名前は?」

ステファニー「リーサ・ピアソン」

もう一度カードリーダーを一瞥し、垣根は面白くなさそうにIDを返す。

垣根「ふん、返すぜ」

カードを受け取り、ステファニーは安堵の息をつく。
124 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/17(木) 14:36:49.64 ID:6vN6cDjl0
どうやら初春のハッキングは隊員情報の改竄が可能になるまでセキュリティを掌握したらしい。

おそらくギリギリ間に合ったのだろうが、おかげで命拾いした。

ステファニー「良い冷蔵庫ですね」

垣根「分かるか? MORIT●製のMR-F11●MBだ、俺のサイズに合わせたオーダーメイドだがな。
   他の機種のバイオレットやマゼンダカラーはもちろん、1ドアから4ドアまでは持っているが、
   今の一番のお気に入りがこれだ。このイタリアンレッドカラーがこのシンプルモダンに良く合う、だろ?」

ステファニー「は、はい」

垣根は髪をかきあげ、悠々とその場を去っていく。

緊張の糸が切れ、ステファニーは壁によりかかる。

ステファニー「あ、危なかったじゃないですか」
125 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/17(木) 14:38:37.80 ID:6vN6cDjl0
管制室にて、散歩に出ていた垣根が帰ってくる。

杉谷「垣根、どこへ行っていた?」

垣根「散歩だ、暇だしな」

杉谷「せめて三階層に待機していろ。何かあった時にすぐに行動を共にする必要があるかもしれないぞ」

垣根「は、お前が誰かと行動をするタマかよ。それに、優秀そうな猟犬部隊の隊員もいることだしな」

杉谷「ほう、お前がそういうのは珍しいな」

垣根「今日増援として来たらしいけどな。女で体は細いが、隙は見せないところ、実践経験は豊富だろうと見えたな」

杉谷「女……」

垣根「IDはちゃんと調べたさ。ちゃんと猟犬部隊に登録されている隊員だったな」

杉谷「……」

杉谷は何も言わず部屋の扉へと向かう。

垣根「どこに行くんだ?」

杉谷「散歩だ」
126 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/17(木) 14:40:10.21 ID:6vN6cDjl0
心理定規は心の中で恐怖を感じていた。

侵入が発見される可能性に恐怖しているのではない、この一階層目で開発されている兵器にだ。

あれはとあるレベル5をベースに作られている量産型の軍用兵器だ。

あれを実用にまで持ち込まれれば心理定規達の戦力では太刀打ちできず、潮岸を止めることは不可能になる。

この任務で確実に潮岸を仕留めなければならない。

心理定規は起爆装置を設置すべき最後の場所へと向かう。

第一階層の中央に位置されている巨大兵器開発室の一角で、心理定規は技術者に見つからないよう屈んでいた。

ここで起爆装置を設置すれば、あとは電撃作戦で終了だ。
127 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/17(木) 14:42:25.51 ID:6vN6cDjl0
その時だった。

心理定規の後ろで誰かの気配が漂う。

杉谷「久しぶり、でもないか」

心理定規が後ろを振り向くと同時、胴体に強烈な衝撃が走る。

杉谷の回し蹴りが心理定規を吹き飛ばし、兵器開発室の中央へと押し出される。

部屋の中央へ晒された心理定規は、待機していたのであろう猟犬部隊約十二名に囲まれる。

心理定規は無駄に抵抗するわけもなく、両手をゆっくり上げる。
128 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/17(木) 14:44:50.38 ID:6vN6cDjl0
杉谷「やはり、既にこちらの所在を把握していたか」

心理定規「面白そうなことしているから、遊びに来たわよ」

杉谷「ふん、存分に見学できたか?」

心理定規「えぇ、なかなかに楽しめたわ。人間の脳を演算コアにしてAIの稼働を行い、機械的にレベル5の能力を再現、超越
     させる兵器、Five_Over.Modelcase_"RAILGUN" なかなかにエグイ物を作るわね」

杉谷「まだ試作段階だ。お前にお披露目することはないだろうがな」

心理定規「あら残念。是非私の仲間にも見せてあげたいのに」

杉谷はそこで心理定規の腰にぶらさがった無線機を見た。

緑色に点滅しており、今回線がオンになっていることを現している。

心理定規「ねぇ、削板?」

瞬間、杉谷の背筋がぞわりと寒気を感じ、すぐに右手を上げて部下に命令を下す。

杉谷「総員、撃――」
129 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/17(木) 14:46:43.36 ID:6vN6cDjl0
削板「コオオオンジョオオオオウウウウウウ!」

杉谷の言葉は最後まで出なかった。いや、突如天井を突き破った削板の大音量がかき消した。

心理定規の隣に派手に着地した削板の周りに色とりどりの煙がボンと放たれ、周囲へと広がる。

心理定規「初春さん! 少し早いけれど今すぐ起爆させて!」

無線機へと指示を飛ばすと、「は、はい!」という返事が聞こえると同時に、周囲から爆発音が突如として発生する。

心理定規と削板を囲んでいた猟犬部隊の何名かが爆発に巻き込まれ、施設内全体が揺らぐ。

第一層と第二層にて同時爆発が起こったからだろう。

その隙をついて削板は右拳を振り上げ、勢い良く床へと叩きつける。

謎のオーラを纏ったその拳は地面に衝撃を広がせ、第一層と第二層の間にある床をぶち抜く。

第一層のど真ん中に大穴が開き、心理定規と削板はその穴へと落ちていく。

杉谷「逃すか!」
130 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/17(木) 14:48:28.51 ID:6vN6cDjl0
杉谷は部下を置いて一人だけ命綱なしに大穴へと飛び込む。

下へと落下していくなか、杉谷は先に落下している心理定規と目が合う。

心理定規「削板! このまま第三層まで行きなさい!」

削板「お前はどうする!」

心理定規「奴を足止めするわ。恐らく第三層に……あいつがいるわ」

その言葉だけで削板は心理定規の言わんとしていることが分かった。

削板は隣で落下中の心理定規の腕を掴み、ブンと勢い良く上方の杉谷へ投げつける。

心理定規は急な上方向への飛翔を利用し、回転を加えた蹴りを、落下中で無防備の杉谷のわき腹へと直撃させる。

心理定規と杉谷はそのまま距離を取るかのように空中で離れ、第二層の床へと着地すると同時に削板がまたしても大穴を作る。
131 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/17(木) 14:50:15.77 ID:6vN6cDjl0
削板はそのまま第三層へと落ちていき、第二層の実験場には杉谷と心理定規だけが残る。

第二層の実験場は第一層と同じく白く広いドーム状となっており、唯一の違いは人一人が入れるようなカプセルが数え切れないほどあることか。

心理定規は杉谷を睨み、周りの状況を把握する。

心理定規「さっきの蹴りのお返しよ、痛いでしょ?」

杉谷「ふん、さほど問題でもないさ」

杉谷はスーツを脱ぎ捨てる。

杉谷「しかし、どうする? 削板を垣根に当てるのは正解だが、私の部下がそのうちこちらに援護に来てお前を始末するぞ?」

心理定規「問題ないわ、ご心配なく」
132 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/17(木) 14:52:44.68 ID:6vN6cDjl0
その頃、遥か上にあるこの施設の屋上から幾つものロープが投げ入れられた。

そしてそのロープを伝い、重火器を装備した何人もの男達が施設へと侵入する。

猟犬C「あ、あれは、迎電部隊だ!」

誰かがそう言い放ち、第一層で待機していた猟犬部隊が迎電部隊の迎撃に移行する。

迎電A「これより敵拠点への奇襲、および要人の退避ルートを確保する!」

合図と共にさらに大量の迎電部隊が屋根から侵入し、さらに心理定規とステファニーが開けておいた施設の入口からも

隊員達が攻撃を仕掛ける。

スクールと潮岸の軍勢の戦いが今切って落とされた。
133 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/17(木) 14:55:49.64 ID:6vN6cDjl0
今日はここまでです。
読んでくれる方、レスしてくれる方、本当にありがとうございます。

初春の花飾りを取ってやりたいと思う今日このごろ。ではでは
134 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/17(木) 15:47:00.53 ID:ceEWOOcdP
それを とるなんて とんでもない!
135 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/05/17(木) 16:19:19.41 ID:hCePagU0o
本体になんてことを!
136 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/24(木) 16:27:13.15 ID:+3x0+6Db0
ただいま、やっと戻ってこれた。
初春の花飾りを自分の頭に着けるのが夢です。
では行けるところまで書いていこうと思います
137 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/24(木) 16:29:33.72 ID:+3x0+6Db0
潮岸「何事だ!」

第三層の管制室で潮岸はモニターを見ながら部下に異常事態の詳細を聞く。

モニター状では警報音が鳴り響いているというのに誰も警戒態勢に入っておらず、平常通り見張りを続行している。

猟犬D「ど、どうやら我々のモニターがハックされていたみたいです。現在第一層と第二層で爆発があったらしく、杉谷氏も侵入者と戦闘中とのこと」

潮岸「ち! 研究データをすぐに渡せ! 私はすぐに緊急脱出ルートから出る!」

猟犬D「そ、それが……緊急脱出ルートはさきほどの爆発で破壊されたらしく、第三層と第一層をつなぐエレベータも機能を停止してます」

潮岸「なんだとおおお!」

垣根「まぁまぁ、落ち着けよ潮岸のおっさん」

潮岸「……垣根」

垣根「あんたはいつもどおりパワードスーツでも着てここで事態が収まるまで待ってろ。俺がヤツらを始末してきてやる」

垣根がそう言うと同時、猟犬Dが無線から得た情報を報告する。

猟犬D「第三層の天井から何者かが侵入!場所は実験場!」

垣根「ま、こんなにも早く来れるのはあいつくらいだろうな」

そう言って垣根は管制室から実験場へと向かった。
138 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/24(木) 16:31:42.16 ID:+3x0+6Db0
ステファニー「少しだけ奇襲のタイミングが早いじゃないですか!」

ステファニーは誰にも聞こえない程度に愚痴る。

要人が確保されている部屋を見つけたは良いが、その少し前に奇襲が始まってしまい、部屋の中では既に警戒態勢がしかれているだろう。

このままではこのあたりに敵の増援がすぐに来て要人達をどこかへ連れていってしまう。

ステファニー「仕方ないですね!」

ステファニーは持ち前の巨大な銃を肩へ背負い、代わりに両腰に吊ってあったハンドガンを二丁取り出す。

室内で散弾銃を乱射すれば要人に当たる可能性は高いからだ。

扉を蹴破り、ステファニーは一瞬で部屋全体を見渡す。
139 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/24(木) 16:34:47.85 ID:+3x0+6Db0
ステファニー(敵四人! 狭い! 障害物多い!)

ステファニーはすぐさま二丁の銃を二発ずつ放つ。

二発は敵二人の土手っ腹に命中しするが、他は外れる。

突然の襲撃に、幾つものデスクが並ぶ中、要人たちは驚いてしゃがみ、残った敵はステファニーにライフルを向ける。

さすがにすぐに反撃してくる敵の攻撃をステファニーは近くのデスクへと転がる。

だが、デスクの影に体全体が隠れる前に、二発の銃弾がステファニーの右肩を射止める。

ステファニー「くっ!」

ステファニーは構わず右手のハンドガンを捨て、デスクの影を利用して近くの敵へと接近する。

素早く移動するステファニーと、障害物であるデスクの多さもあって敵の銃弾はなかなかに当たらない。

十分に接近したステファニーは敵の顎へと飛び膝蹴りを見舞い、さらに左手のハンドガンを遠いほうの敵へ放つ。

一撃で近いほうの敵の意識を刈り取り、同時に、味方が近すぎるということで援護できない敵へ銃弾が命中する。

どうにか敵四人を沈黙させたステファニーはちらりと右肩に目を落す。

弾は通過しているが、右手がうまく動かない上に出血がひどい。

ステファニーはかぶりを振り、未だ怯えている要人達に目配せする。

ステファニー「助けに来ました。すぐに避難しますよ」
140 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/24(木) 16:36:36.85 ID:+3x0+6Db0
研究施設の最深部、第三層に到着した削板は辺りを見回す。

第一層、第二層の床と天井をブチ抜いてここまで来たが、いずれも似たような白く広い実験室だった。

そして、この第三層もまた同じ造形をした実験室だった。

この実験室の唯一の出入口らしい扉が開き、一人の男が入ってくる。

赤い冷蔵庫に身を包み、冷蔵庫内に何かが入っているのか、歩くたびにガチャリガチャリと音がする。

削板「変な格好じゃねぇか、垣根」

垣根「よー、削板。俺の体、どっかの第一位に滅茶苦茶にされてよ、どうにか内蔵やらを冷蔵庫に押し込むことで出歩くことぐらいはできるようになったぞ」

削板「根性だな」

垣根「愛の力だろ、冷蔵庫に対しての」

すると、垣根は冷蔵庫の後ろから大きな白い翼を生やす。
141 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/24(木) 16:38:00.74 ID:+3x0+6Db0
垣根「それはともかく、お前、心理定規とチーム組んでるが、暗部には関わらないんじゃなかったのか?」

削板「あぁ、俺はこのチームは本来の暗部のように腐った根性で働くような輩ではないと思っているぞ」

垣根「わかってないな。あの女は目的のためなら平気で人の命を奪うぞ」

削板「わかってないのはどっちだ。俺にはあいつが躊躇っているように見えるぞ」

垣根「躊躇う? 何にだ?」

削板「闇に生きることにだ!」

叫ぶと、削板は垣根に一瞬で接近し、右拳を顔面に向けて放つ。

だが、その拳は大きな片翼によって防がれる。

削板「垣根! お前は危険だ、すぐにでも心理定規を闇に引きずり戻そうとする。ここでお前の曲がった根性ごと潰させてもらうぞ!」

垣根「なら来いよ根性馬鹿! あまり俺を失望させないでくれよナンバーセブン!」
142 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/24(木) 16:39:24.54 ID:+3x0+6Db0
ステファニーは己の右腕に応急処置をしたのちに要人を引き連れて第二階層から第一階層へとどうにかたどり着く。

道中に何度か敵と遭遇し、そのたびにステファニーは愛用の軽機関散弾銃で応戦した。

だが、愛用の銃は連続で散弾を撒き散らすということだけはあり、体への衝撃は生半可ではない。

ましてや、肩に傷を負っている身でそれを使えば、当然傷に響く。

巻いていた包帯は真っ赤に染まり、ステファニーは右腕全体の感覚がなくなりつつあった。

初春『ステファニーさん! あと少しです!』

ステファニー「了解、こっちはもうへろへろですよ」
143 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/24(木) 16:41:07.43 ID:+3x0+6Db0
初春『諦めないでくださいね! 今迎電部隊のみなさんを最短距離でそちらに向かわせています!』

恐らく今一番危機に陥っているであろうステファニーだが、自然と笑みが溢れる。

今まで何度も数々の殺し屋や同業者と手を組んで闇の世界で戦ってきたが、初春のように心の底から仲間のためを思って
心配されることなど、なかった。

命のやり取りをする中で、そんなことにかまけている暇があるなら任務に集中するべきなのだが
初春の渾身的な応援はなぜかステファニーに活力を与えてくれる。

狭い通路の先でまたしても猟犬部隊が何名か現れる。

ステファニー「あまり初春を心配させたくないですね!」

ステファニーは軽機関散弾銃を左腕一本で掲げ、豪快にその銃口から火を吹かせる。
144 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/24(木) 16:42:52.33 ID:+3x0+6Db0
早い!

心理定規は杉谷のすばやさについていくのがやっとだった。

杉谷は幾つも並ぶカプセルの影に隠れつつ高速で接近してくる。

心理定規は杉谷がカプセルの影から出てくる度に銃を発砲するが、一向に当たる気配がない。

そうこうしている内に杉谷は着実に心理定規へと接近してくる。

接近戦で勝ち目がないのは潮岸の屋敷で痛いというほど知った心理定規はどうにか杉谷から距離を置こうとする。

だが杉谷がそれを許すはずもなく、カプセルを飛び越えて来た杉谷はすかさず心理定規の脳天にかかと落としを下す。
145 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/24(木) 16:44:40.43 ID:+3x0+6Db0
咄嗟にその攻撃を両腕でガードする心理定規だが、落下の力と杉谷の体重を支えきれず、床に膝をつく。

すぐに杉谷の足を横へと流すが、杉谷の攻撃は緩まない。

立ち上がった心理定規にすかさずボディブローを放ち、痛みで屈んだ彼女にアッパーを見舞う。

心理定規はその攻撃を両手で受け止めると、杉谷を片腕を掴んで背負投をお見舞いする。

だが杉谷はいとも簡単に受身を取り、心理定規が銃を取り出す前にまたカプセルの影へと隠れる。

心理定規「くっ!」

杉谷のファイトスタイルとここの環境が心理定規との相性が悪すぎるのだ。

杉谷「歯がゆそうだな。無理もない。だが、この戦いもそう長くは続かないだろうから安心しろ」

どこからともなく杉谷がつまらなさそうに言う。

杉谷「そろそろアレが自動起動するな」
146 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/24(木) 16:46:05.27 ID:+3x0+6Db0
第一層にようやく到着したステファニーは迎えてくれた迎電部隊に要人を引渡し、どっと背中を壁に預けてその場に座り込む。

ここに来るまでに無茶をしすぎた。

右肩に巻いている包帯はもはや意味はなく、軽機関散弾銃から来る反動により傷口はさらに広がってしまった。

右腕全体の感覚がなくなり、もはやこれ以上の戦闘続行は厳しい。

ステファニーは今第一層の実験場入口付近に座り込んでおり、実験場内部では迎電部隊と猟犬部隊が銃撃戦を繰り広げている。

このままここにいるのも危険と判断したステファニーは、近くで待機している迎電部隊の隊員に顔を向ける。

ステファニー「ちょっとそこの貴方、すみませんが外へ出るのを手伝ってもらえませんか?」

迎電A「……お前、自分が何を言っているのか分かってるのか?」

ステファニー「へ?」
147 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/24(木) 16:47:53.97 ID:+3x0+6Db0
迎電A「ふん、忘れているのなら教えてやる。俺たち迎電部隊はスクールに従っちゃいるが、お前には従ってないぞ、この裏切り者が」

憎しみを込めた目で睨まれ、満身創痍のステファニーは肩をすくめる。

迎電A「フラフープではよくもやってくれたな。おかげでこちらはいつの間にか学園都市なんざのために戦うハメになっている」

ステファニー「自業自得じゃないですか。それ相応の報復を覚悟して学園都市に喧嘩を売ったのでしょう?」

迎電A「黙れ!」

迎電Aは迷うことなく腰のホルスターから銃を抜き、ステファニーへと向ける。

迎電A「今ならお前を撃ち殺しても、流れ弾に当たったとか適当に理由をつけることもできそうだ」

事実、他の仲間は戦場に出ており、初春は別の隊員達に指示を送るので手一杯なので誰も今この状況を見ている者はいない。
148 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/24(木) 16:49:29.67 ID:+3x0+6Db0
ステファニー「……やるなら、やればいいじゃないですか。私も撃たれる覚悟を持ってあんなことをしたんです。けれど――」

瞬間、ステファニーは居合切りのごとくハンドガンを抜き取り一気に引き金を引く。

飛んだ弾丸は迎電Aの銃に当たり、手からはじき飛ばす。

ステファニー「私は受けた依頼を達成するまで死ぬつもりはありません」

互いににらみ合い、今にも戦闘が始まろうとした瞬間だった。

迎電B「うわあああぁぁぁ!」

実験場内で悲鳴が上がる。
149 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/24(木) 16:52:44.83 ID:+3x0+6Db0
ステファニーと迎電Aはすぐに中の様子を見ると驚く。

動かないとばかり思っていた実験場の兵器が、稼働しているのだ。

その兵器はカマキリのような姿をしており、鎌の部分は大きな筒のように物でできている。まるで、何かの銃口だ。

兵器、試作型Five_Over.Modelcase_"RAILGUN"は両腕の鎌から断続的に超電磁砲を放ち、周囲の迎電部隊をなぎ倒していく。

迎電A「くそ!」

隣にいた迎電Aは悪態をつくと、ステファニーを置いて実験場にいる仲間達へ加勢する。

すると、ステファニーの無線が受信音を鳴らす。

初春『ステファニーさん! 大変です!』

ステファニー「見えているわ。敵の兵器が動き出した。コントロールは全て掌握したんじゃないんですか?」

初春『それが、あの兵器だけネットワークから独立していたみたいです。定期的にあの兵器に直接何かしらの措置を行わないと
   自動的に迎撃モードに移行されるよう仕掛けられていたみたいです』

ファイブオーバーは迎電部隊の攻撃を、硬い装甲にものを言わせて真正面から受け止め、お返しとばかりに銃弾の雨を降り注がせる。

ステファニーはそれを見て歯を食いしばって立ち上がる。

ステファニー「私も行きましょう」

初春『む、無理ですよ! 傷が深いです!』

ステファニー「こんな傷対したことないですよ。それに……依頼主の信頼に答えるのがプロの仕事じゃないですか」
150 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/24(木) 16:55:03.79 ID:+3x0+6Db0
削板「ぬぅおおおりゃああああ!」

削板は飛んでくる羽を一枚一枚謎オーラを纏った拳で叩き落とし、前方に立つ垣根へと猛進する。

音速に近いスピードで接近するが、攻撃が当たる直前、垣根もまた削板に負けぬ速さで回避し、削板の側面に容赦なく巨大な翼を叩きつける。

謎オーラを体に張り付かせ、どうにか衝撃を和らげるも、内蔵へのダメージが拭いきれず、削板は吹き飛ばされる。

地面に落ちる直前に、空中で受身を取り、両手で一度ジャンプしたのち、地面に着地する。

すると、垣根は削板に向き直り、大きな翼を広げる。

またくる!

削板は両腕を前へクロスし、大きく息を吸い、叫ぶ。

削板「すごいバリア!」

叫ぶと同時、削板の前に謎オーラの壁が発生し、その直後、垣根の翼から白い閃光が放たれる。

閃光は謎オーラ全てを包み込み、削板の逃げ道を塞ぐ。

形が安定しない謎オーラは時々敵の殺人光線を通し、削板の体の節々へと降り注ぐ。

削板「ぐ! ぬっぬぬぅ、根性!」

削板が両腕を力強く広げると、謎オーラが拡散し、殺人光線ごと周囲を吹き飛ばす。

襲い来る衝撃波を垣根は片翼を振って相[ピーーー]る。
151 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/24(木) 16:57:46.39 ID:+3x0+6Db0
削板「まだだ!」

削板は足を踏み鳴らして垣根へと再接近。

垣根は翼を横一文字に振ってそれを迎撃。

フロア全体を覆うほどに巨大な翼を、削板は高飛びをする要領で上へと回避する。

削板「すごいキーック!」

オーバーヘッドキックでもするかのように振り下ろされた蹴りからは、蹴りの軌道に合わせた波動が飛び、鞭のように垣根へと飛んでいく。

垣根「ふん」

垣根は右手から異質な雰囲気を放つ紫色の石剣を作り出し、その波動の鞭を打ち消す。

石剣の放つオーラのせいか、周りの空間が歪んでいるように見える。

だが削板はそんな物に構わず、攻撃へと転じる。

削板「すごいキックキックキックキックキックキックキックキックキック根性!」

接近しながらも削板は夥しい数の蹴りを放つ。その乱打を垣根は翼二枚と紫の石剣で捌き、打ち消し、はじき飛ばす。

最後の一撃は垣根との距離を詰めたゼロ距離の蹴りの一撃だ。

垣根はその一撃を石剣で受け止める。
152 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/24(木) 17:06:43.12 ID:+3x0+6Db0
鍔迫り合いとなり、削板と垣根は互いを至近距離で睨む。

垣根「ふん。こんなに本気になってまで、あいつのために戦うか」

削板「仲間だからな!」

垣根「笑わせるなよ。あいつがチームを作って日が浅いのは知っている。信頼もクソもお前たちにはないだろ」

削板「信頼なら、できる!」

垣根「は?」

削板「確かに俺はあいつと会って日が浅い。でもな、分かるんだよ。あいつは変わろうとしている!」

ぐぐ、と削板の拳が僅かに垣根を押す。

削板「この潜入任務でもそうだ。現スクールの下部組織である迎電部隊を何名か潜入させて自爆させる。それぐらいの非道は暗部では当たり前に行われている。
   仲間を使い捨てて成功する場面なんざいくらでもあった、けどあいつはそれを一度としてやろうとはしなかった!」
153 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/24(木) 17:07:52.63 ID:+3x0+6Db0
無理やり垣根の石剣を弾き、削板は一旦距離を開ける。

削板「仲間を気遣うあいつが悪だとは、俺にはどうしてもそう思えねぇんだよ!」

垣根「下らねぇな」

垣根は指を一度打ち鳴らすと、空中に幾つもの白い結晶のような物が現れる。

垣根「飽きた。もう消えろ」

開かれた垣根の翼から光線が放たれ、それは直接削板を狙わず、空中の結晶へと向けられる。

すると、光は結晶により乱反射し、近くの結晶へと降り注がれ、その数をさらに増していく。

削板「げっ!」

避けきれねぇ!

心の中で叫ぶ削板の目の前には、数え切れないほどの光が彼めがけて降り注いできた。
154 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/24(木) 17:10:56.44 ID:+3x0+6Db0
またしてもカプセルの影から飛び出してきた杉谷のハイキックが心理定規の両腕を跳ね上げ、
空いた首元を杉谷の肘打ちが捕らえ、そのまま後ろのカプセルへと体ごと叩きつけられる。

心理定規「かはっ!」

首を絞められた心理定規は苦悶の表情を浮かべる。

杉谷「残念だがお前達に勝ち目はないぞ」

杉谷はちらりと右へと視線を向ける。

そこにはさきほど削板が穿った、三層へと続く大穴が開いていた。

杉谷「ナンバーセブンごときで第二位に勝てるとは到底思えん、それに加え……」

今度は視線を上に上げ、第一層で繰り広げられている銃撃戦の音を聞きながら杉谷は薄く笑う。

杉谷「上で戦っているのは結局只人以外誰もいない。ファイブオーバーが今頃起動し、戦局はこちら側に有利になっているだろう」

次に視線を心理定規に戻し、杉谷は首を降る。

杉谷「そしてお前の戦い方は基本的に他人を利用して戦うことだ。お前を倒すのに俺に味方は必要ない。そしてお前に増援は来ない、よって勝利もない」

心理定規の首を抑える力を一層強め、杉谷はさらに付け加える。

杉谷「お前の負けだよ」

首を締められつつも、心理定規は怪しく笑う。

心理定規「私の……チームを……舐めない、で」
155 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/24(木) 17:12:49.56 ID:+3x0+6Db0
とりあえず今日はここまで。
読んでくれている方、レスしてくれている方ありがとうございます。
徐々に冷蔵庫の知識を蓄えていく自分が怖い……
156 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/05/24(木) 17:16:46.37 ID:YMideEc50
削板VS垣根がかっこよすぎて……
そして、迎電Aの憎まれ口はフラグと信じる。
157 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/24(木) 17:18:19.13 ID:VbugAvADO
一つ聞きたいんだけど垣根って下履いてるの?
158 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/05/24(木) 23:40:06.48 ID:FOSdfgydo

メ欄にsagaいれるとピーにならない
159 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/26(土) 15:31:04.25 ID:8rHYgbYP0
ただいま。

>>156
ありがとうございます。迎電Aが思ったよりも出番が多くなった……

>>157
一応履いていると思う。腰まわりは冷蔵庫で隠れている感じです。

>>158
アドバイスありがとうございます、助かります。

再開します
160 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/26(土) 15:34:30.03 ID:8rHYgbYP0
迎電Aは第一層の実験場に入るや、持っているライフルをカマキリ型の試作兵器、ファイブオーバーに乱射する。

銃弾はファイブオーバーになんらダメージを与えるわけでもなく、代わりにターゲットを迎電Aに絞る。

高速で動いて接近してきたファイブオーバーはレールガンを放つ。

放たれる寸前、迎電Aは実験場に放置されている未起動の試作型ファイブオーバーの影へと飛び込む。

だが、放たれたファイブオーバーのレールガンは壁となっている同じ兵器をも貫通し、迎電Aは衝撃で吹き飛び、影から無理やり引きずり出される。

迎電A「ぐ!」

床に倒れた迎電Aに向かってファイブオーバーがゆっくりと近づいてくる。

遠くで仲間が必死にファイブオーバーに攻撃するが、迎電Aにトドメを刺すつもりなのだろう。無視してゆっくりと近づいてくる。

迎電A「く、くそ!」

持っていた銃はどこかへ吹き飛び、もはや無防備となっている迎電Aに、レールガンが向けられる。
161 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/26(土) 15:36:30.58 ID:8rHYgbYP0
ここまでか。

そう思った瞬間、ファイブオーバーの横っ面に、夥しい量の銃弾の雨が飛んでくる。

スゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

低音の効いた銃撃音は、いつのまにかファイブオーバーの横に接近していたステファニーの軽機関散弾銃から放たれており、
散弾銃の弾幕はファイブオーバーの装甲を打ち破りはしないものの、大きく仰け反らすことには成功していた。

ギャギャギガゴゴゴゴ

何かを叫ぶファイブオーバーを放り、ステファニーは迎電Aの腕を掴んで無理やり立たせて走る。

ステファニーの顔には大量の汗が吹き出ている。

ステファニー「距離を取りますよ!」

右腕から大量の血を流しているにも関わらず、ステファニーは迎電Aの腕を引っ張り、走る。
162 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/26(土) 15:41:37.48 ID:8rHYgbYP0
ステファニーは未だ止まっているファイブオーバーを見る。

試作段階ということもあり、AI機能がまだ不完全なのだろう。予想外の攻撃を受けるたびに対応策を計算するが、
答えを導き出すまでに少しだけ時間が掛かり、その間はファイブオーバーの動きは止まるらしい。

十分な距離を取ったステファニーだが、その手を迎電Aが振りほどく。

迎電A「なぜ俺を助けた! 俺はお前を殺そうとしたんだぞ!」

ステファニー「私だって貴方を助ける気はありませんよ、ただ……」

一瞬言葉を切り、再び迎電Aを睨む。

ステファニー「心理定規が言ってたんですよ。誰一人欠かないチームが欲しいってね」

迎電A「は?」

ステファニー「私も下らないと思いました。けどね、彼女は本気なんですよ」

未だ対応策を練るファイブオーバーを見やり、ステファニーは続ける。

ステファニー「けどね、私は不器用ながらも変わろうとしている心理定規や、本当に気を使ってくれる初春を見て思ったんですよ。
       たまには守るために戦うのも悪くはないってね」
163 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/26(土) 15:47:35.64 ID:8rHYgbYP0
ステファニーの脳裏にかつて戦ったとある少女の面影が思い浮かぶ。

窒素を利用して怪力のような能力で挑んできたあの少女は、覚悟を秘めた瞳でステファニーに挑み、そしてステファニーを打ち負かした。

あの少女は、誰かを守るための覚悟を秘めていた。

あの子のようになれれば、もしかしたら、この危機を脱することも、そして将来的には砂皿を助けることができるかもしれない。

さらには、心理定規を、迷子のような表情でいつも何かに思い悩んでいるあの子を少しだけ助けられるかもしれない。

迎電Aに背を向け、ステファニーは突撃の態勢に入る。

ステファニー「それと、こうも言ってましたね。仲間がいなくなると寂しいらしいですよ。
       貴方達もスクールのメンバーなんです。私を恨むのは勝手ですが、それで心理定規を悲しませないでください」

ステファニーは迎電Aを置き、ファイブオーバーへと走る。
164 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/26(土) 15:50:12.54 ID:8rHYgbYP0
戦局は厳しかった。猟犬部隊とファイブオーバーの二勢力を相手に、迎電部隊だけでは勝機は薄い。

そこで加勢したのはスクールの主要メンバーにして絶賛負傷中のステファニーだけだ。

ステファニー(もう軽機関散弾銃を打てるのもせいぜい一回ぐらいですね。それまでにどうにか対策を立てないと!)

ステファニーは散弾銃を背中に背負い、残る小口径のハンドガンのみで戦いに挑む。

完全な壁にはならないが、未起動の試作型ファイブオーバーに身を隠しつつ猟犬部隊に応戦しつつファイブオーバーの攻略を練る。

すると、ステファニーの視界が削板の穿った穴を捉える。

ステファニー(第三層まで叩き落としてやればあるいは!)
165 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/26(土) 15:53:49.86 ID:8rHYgbYP0
勝機を見出したステファニーは無線を利用して迎電部隊全員に通達する。

ステファニー「私が囮になってファイブオーバーを実験場中央の大穴に引き寄せます、それまで猟犬部隊の相手を。
       合図を出したら一斉射撃お願いします!」

正直ステファニーの指示で迎電部隊が動いてくれるとはあまり思わなかった。だが、今は命のやり取りをしている最中だ。

私情を挟まず戦ってくれると祈り、ステファニーは我が身を実験場へとさらけ出す。

幸いなことに迎電部隊は猟犬部隊との交戦を再開しており、ファイブオーバーは身をのり出したステファニーを捉える。

ステファニー「遅いじゃないですか!」

先に放ったスモークグレネードが一気に舞い上がり、ファイブオーバーとステファニーの間の視界を塞ぐ。

ステファニーは迷わずスモークの中を突っ込み、ファイブオーバーに向かって走る。

さすがの最新鋭兵器ということもあり、ファイブオーバーは赤外線センサーを起動させ、スモーク内のステファニーを捉える。

だが、視界の切り替えをするために生まれた一瞬の時間を利用し、ステファニーはスモークを突っ切り、ファイブオーバーの目の前へと現れる。

直後、ファイブオーバーのすぐ真下、足元へとスライディングする。
166 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/26(土) 15:56:04.37 ID:8rHYgbYP0
すぐ遅れてファイブオーバーのレールガンが放たれ、ステファニーが走った軌道に沿って銃弾が注がれるが、
さすがに己の真下までは攻撃が届かないようだった。

ステファニーはすぐさま起き上がると、またしても走り出し、ファイブオーバーの真下を抜けると、第一層に広がる大穴のすぐ隣へと近寄る。

ステファニー「こっちです!」

残弾数の少ないハンドガンを撃ち、ファイブオーバーの気を引く。

機械だというのに感情でもあるのだろうか、ファイブオーバーはステファニーのいる方向に振り向くと、怒るかのように機械的な音をけたたましく鳴らし、
スラスターを力強く吹かし、ステファニーに急接近。

右腕に装着された鎌のようなレールガンが大きく振りかぶられる。
167 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/26(土) 15:58:05.67 ID:8rHYgbYP0
ステファニー「今です!」

そうステファニーが叫ぶと、猟犬部隊と交戦していた迎撃電部隊が一斉にファイブオーバーへと各々の武器を向け、一斉射撃する。

銃弾が、手榴弾が、ロケット弾までもが撃たれ、吸い込まれるかのようにファイブオーバーの背中へと飛んでいく。

それらの攻撃は全て直撃し、第一層の実験室中に爆風が生まれる。

一斉射撃が始まる直前にステファニーは大穴とファイブオーバーから離れるように飛び、地面に体を伏せていた。

ステファニー(やりましたか!)

半ば祈るかのように爆煙の向こうを見るステファニーだがしかし、ファイブオーバーはさきほど立っていた位置からほんの少ししか動いておらず、
その眼光は強光りしており、ステファニーを見据える。

ステファニー「そ、そんな」

惜しくも大穴に落ちなかったファイブオーバーはまたしても右鎌のレールガンを横に振り絞り、ステファニーめがけてそれを放つ。
168 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/26(土) 16:02:28.36 ID:8rHYgbYP0
削板「くぅおんのおおおお!」

両腕をクロスさせて頭部を守るように走り、削板は垣根目指してダッシュする。

だが、宙に浮かぶ結晶により有効範囲を拡散された殺人光線は第三層の実験場ほぼ全体を覆っている。

音速の二倍で動く削板と光速でそれを追随する殺人光線。

攻防は一秒にも満たなかった。

削板は接近中でも急所を重点的に謎オーラで包みこみ、殺人光線の攻撃を和らげる。

だが、殺人光線はオーラすらも貫き、削板の足や肩、頬、腹の横をかすめ、着実にダメージを与える。

加速する意識の中で、削板は歯を食いしばって耐える。

削板(垣根本人に光線が向かわないように攻撃を放っているはずだ! ヤツに近づきさえすれば!)

しかし、垣根との距離を詰めるに連れ、先読みされて放たれていた光線の量は徐々に増え、張られていた謎オーラを突き破って
削板へのダメージが蓄積していく。
169 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/26(土) 16:05:41.09 ID:8rHYgbYP0
削板「〜〜〜っ! 根性おおおおぉぉぉぉ!」

痛みに耐え、ようやく光線の弾幕を突き破った削板を迎えたのは垣根の両翼と石剣の三連撃だった。

削板はそこでさらに前へと加速し、両翼の攻撃が削板のすぐ後ろへと下ろされる。

もはや見切れぬレベルで削板は垣根の懐に潜り込み、垣根の石剣を掴み取る。

削板「ふん!」

気合と共にその石剣を握りつぶし、垣根は驚愕の色を現す。

削板「ここじゃ狭くて不利だ。場所を変えるぞ!」

アッパーを繰り出す削板の攻撃を垣根は両腕で受ける。

だが、削板は構わず、垣根を体ごと打ち上げ、さらに己も爆炎を上げて真上へと飛ぶ。

空中でもう一撃垣根のガードの上から拳を叩き込むが、削板の勢いは止まらない。

二人はとてつもないスピードで真上へと上がり、そのまま第三層の天井の穴から上へと舞い上がった。
170 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/26(土) 16:07:33.66 ID:8rHYgbYP0
爆音と共に二つの影が心理定規と杉谷の横で下から上へと通りすぎる。

影は第二層全体に衝撃波を生み出し、心理定規を押さえつけていた杉谷がのけぞる。

心理定規「くっ!」

一瞬の隙を見出した心理定規は左フックを杉谷の横っ面に叩き込む。

無理やり引き剥がされた杉谷はすぐに心理定規から距離を取り、さきほどの衝撃波を生み出した影のあとを見る。

杉谷「今のは、垣根か?」

心理定規「それと削板ね。ふふ、熱くなってるわね」
171 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/26(土) 16:10:37.72 ID:8rHYgbYP0
突然下から飛び出してきたのは、まさしく烈風が如くだ。

今まさに振り下ろさんとしたファイブオーバーの右鎌は、削板が開けた穴の上に重なった。

その瞬間、下からアッパーをかまして垣根ごと上昇してきた削板はファイブオーバーの鎌を根元から打ち砕き、尚も空へと上昇していった。

ファイブオーバーは、ガギゴガガギゴゴ、と不規則な機械音を鳴らす。まるで、ちぎれた右鎌が痛むかのように。

ステファニー「削板……助かりました」

ステファニーはまだのたうちまわっているファイブオーバーを尻目に周囲を見渡す。

整備中らしい他の試作型ファイブオーバーは起動する気配はない。

そして、床には起動中の試作型ファイブオーバーのレールガンが倒れている。
172 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/26(土) 16:13:12.71 ID:8rHYgbYP0
ステファニー「初春!」

初春『は、はい!』

ステファニー「ファイブオーバーから落ちたレールガンを使えるようにすることは可能ですか?」

初春『えっと、どの程度損傷しているかによりますが、可能ではあると思います! レールガンに指示を送る信号さえ解析できれば……』

ステファニー「分かりました。解析して使えるようにしておいてください」

ステファニーは後ろにいる迎電部隊を一瞥する。

ステファニー「迎電部隊! 私が時間を稼ぎます。初春がそこのレールガンの解析を終わらせたらファイブオーバーに照準を合わせてください!」

迎電A「お前はどうするんだ!」

ステファニー「時間を稼ぎます」

ファイブオーバーに体を向けると、ファイブオーバーは片腕で戦う作戦を計算し終えたのか、またしてもステファニーに残ったレールガンを向ける。
173 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/26(土) 16:16:47.29 ID:8rHYgbYP0
第三層から第一層の天井までも突き抜け、削板は垣根と共に夜空へと飛んだ。

下を見れば潮岸の実験場を見渡すことができ、侵入の際に穿った穴が小さく見える。

垣根「ちっ!」

舌打ちした垣根は再び紫色の石剣を作り出し、削板に切りつける。

だが、削板は垣根の体を突き飛ばすことでそれを回避し、重力に従って下へと落ちていく。

削板「ソォラ!」

気合と共に削板は足に謎オーラを作り、それを踏み台に空中でジャンプする。

垣根「空中戦も無茶苦茶だな」

削板「無茶苦茶こそ俺の根性だ!」

蜃気楼のようなオーラを体中に纏わせ、削板は空中を文字通り蹴り、前方の垣根へと突っ込む。

削板「てりゃあああ!」

スピードの乗ったストレートパンチを放つ削板の攻撃は、あっさりと垣根の胴体部分、冷蔵庫の表面に直撃する。
174 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/26(土) 16:19:26.72 ID:8rHYgbYP0
垣根「ぐっ!」

冷蔵庫が大きく凹み、冷蔵庫の中に入っていた何かが嫌な音を立てる。

しかし、それを狙っていたのだろう。垣根は削板の腕を左手で掴むと、石剣を持った右手を振り下ろす。

銃弾に撃たれようが何のダメージも受けない体に、さらに防御力が上がるはずの謎オーラを纏っている削板に攻撃が通るのかは疑問だ。

だが、削板は垣根の石剣による攻撃に嫌な予感を浮かべてその攻撃から逃れようと必死に体を引く。

そう、削板の力が未知数であるのと同じように、垣根の作るダークマターの武器もまた未知数の攻撃力を秘めている。

悪い予感が確信へと変わる瞬間だった。

削板の左肩から右わき腹を石剣が難なく通り抜ける。

派手に切られた傷口を追うかのように鮮血が迸り、削板は意識を失いかける。
175 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/26(土) 16:22:10.81 ID:8rHYgbYP0
削板「ぐっは!」

体を少しだけ後ろへと反らし、体を真っ二つにされることは免れたものの、ダメージは深刻だった。

垣根「は! 防御力に頼りすぎたな!」

だが、削板は空から落ちる中、体を反転させ、再び垣根に向かって飛ぶ。

体を纏っていたオーラが右拳に一点集中し、これまでにないほどの量の気迫が放たれる。

削板「だったら防御を捨てればいいだけの話だろ!」

慌てて両翼に己の前を覆わせる垣根だが、削板の全能力を注ぎ込んだ拳の一撃は両翼を貫き、垣根の頭部へと直撃する。

垣根「ぐぉ!」

垣根は目にも見えない速さで後方へと吹き飛ぶ。

貫かれた翼を一旦解除し、もう一度新しい両翼を作り直すと、垣根はよろよろと夜空をホバリングする。

垣根「は、やってくれるじゃねーの……だったらよ」

垣根は削板から視線を外し、遠く下に広がる地上を一瞥する。

そこには垣根が守るべき研究所があり、そして、その研究所のすぐ外に何台か見慣れぬ黒い車が停められている。

スクールの後方支援部隊だ。

垣根は右翼から羽を飛ばし、空中にいる削板を釘付けにする。

そして左翼を広げ、真下へ向かって白い羽を矢のように放つ。

削板は垣根の攻撃から身を守りながら、下へと落ちていく羽の向かう先を見て驚愕する。

削板「初春!」
176 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/26(土) 16:24:23.76 ID:8rHYgbYP0
初春はステファニーに言われたとおりファイブオーバーから切り離されたレールガンの解析を行なっていた。

新型の試作品というだけのことはあり、解析に手間取ったが、九割方は終わっている。

後はレールガンへ命令信号を送るプログラムを即時に作り上げるだけだ。

初春は指を高速で走らせ、小さなパソコンの画面上に大量の文字列が打ち込んでいく。

その時、初春の無線から叫び声が降り注ぐ。

削板『初春!』

初春「削板さん? 少し待ってください、今ステファニーさんの戦闘の援護を……」

削板『違う! 今すぐそこから逃げろ!』

初春「……え?」

削板の言葉の意図が読めず、呆けるように答えた瞬間、車全体を何かが襲った。
177 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/26(土) 16:26:46.14 ID:8rHYgbYP0
衝撃は車の外から襲来し、垣根の放った羽は黒い車をズタズタに引き裂き、派手に横転した車の屋根に穴を穿ち、
そこから転がるように初春が車からはじき出された。

初春「きゃ!」

初春は地面に転がり、ゆっくりと胸元に抱える物を見た。

携帯パソコンだ。

衝撃が来た瞬間、初春は咄嗟に身を屈め、パソコンを両手で守るように抱きかかえたのだ。

おかげでさきほどまでプログラムを組み上げていたパソコンは無事だが、初春の体のあちこちが痛みで悲鳴を上げる。

ステファニーや削板のダメージと比べると微々たるものだが、元々戦闘を専門としない初春にしてみれば耐え難い痛みだった。

初春「く……ぅ」

歯を食いしばり、どうにか起き上がった初春は攻撃が飛来した頭上を見上げる。
178 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/26(土) 16:29:04.52 ID:8rHYgbYP0
すると、空からまたしても接近してくる物体があった、それは……

初春「……冷、蔵庫?」

二枚の大きな翼を携えた冷蔵庫、垣根帝督は初春を一瞥すると鼻を鳴らす。

垣根「いつかの暗部抗争の時の一般人か!」

両翼を広げ、一瞬にして初春との距離を詰めた垣根は右手に持っていた石剣を振りかぶる。

すると、垣根のすぐ後ろで、虹色の爆炎を両足から爆発させながら飛んでくる削板が叫ぶ。

削板「させるかあああぁぁぁぁ!」

垣根が初春の目の前に着地する。初春はパソコンを抱えて後ろへと後退する。

だが、互いの距離はすでに目と鼻の先で、垣根の放った石剣の突きが初春の体の中心へと向かう。

瞬間、二人の間に空から降ってきた削板が割り込み、初春の盾となった削板の腹部に石剣が突き刺さる。

削板「ぐふっ!」

初春「削板さん!」

吐血する削板に、初春が悲鳴を上げる。
179 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/26(土) 16:32:08.88 ID:8rHYgbYP0
垣根「暗部に落ちたというのならもう見逃してやる理由はないよな!」

狂気を含めた瞳を初春に向ける垣根。

初春「あ、暗部?」

聞きなれぬ言葉を発せられ、一瞬怪訝な顔をする初春だが、垣根は構わず背中に控えさせていた両翼を、削板と初春の左右から押しつぶすかのように挟み込む。

だが、削板は力を振り絞り、両手を左右に広げ、襲い来る翼を謎オーラを纏わせた手のひらで受け止める。

削板「く、あああぁあぁ」

苦悶の表情を浮かべる削板。両腕に力を込めると、腹部に突き刺さる石剣からの痛みが増す。

初春は今削板から離れれば垣根に瞬殺されるのを察知し、その場から動けないでいた。

すると、削板がゆっくりと視線だけを初春の向けてくる。
180 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/26(土) 16:38:46.87 ID:8rHYgbYP0
削板「初……春、ステファニーの、援、護……を」

削板の必死の守りを目に焼き付け、初春は涙を浮かべてレールガンへの偽造命令プログラムの仕上げをその場で続行する。

垣根「はは! この状況になっても味方の心配か! 人間できてるな削板!」

垣根は石剣を削板にさらに押し込める。

垣根「けどな、お前達がどんなに仲間を大事にしようと、今のスクールのリーダー、心理定規のヤツがお前らに心開くはずがない」

削板「んだと」

初春「スクール? 一体何を言って……」

垣根「あいつはずっと一人で生きてきた。元々人を率いて何かを成し遂げるような奴じゃない。これまでも他人を裏切り、利用し、生き残ってきたような女だ。
   元スクールのメンバーとして教えておいてやるよ。あいつは魔女だ。お前達は利用されるだけ利用されて捨てられる」

石剣を刺す力をさらに込め、削板の痛みが増す。
181 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/26(土) 16:43:45.64 ID:8rHYgbYP0
ステファニーは左手一本で持った軽機関散弾銃でファイブオーバーとの接近戦を繰り広げていた。

一つだけしか残っていないマガジンを撃たず、銃の先に着いた刃を利用し、剣を振るかのように巨大な敵に立ち向かう。

ファイブオーバーの足元に居続けることにより、レールガンの攻撃を最小限に抑えるが、ファイブオーバーの放つ蹴りの連打を捌くのに必死となる。

後ろでは、落とされたレールガンをいつでも撃てるように構える迎電部隊と、それを阻止すべく襲撃する猟犬部隊が戦闘を繰り広げている。

ステファニー「く、まだですか初春」

呟き、ステファニーは全集注力を持って戦闘に専念する。

戦局はこちらが圧倒的不利だ。

外にいる初春には何かが起こってしまい、レールガンの解析は遅れており、
そしてこちらでは肝心のレールガンが使えるようになったとしてもファイブオーバーに向かって構える隙が現れそうにない。

下では心理定規が敵の足止めを食らっている。

これ以上戦闘が長引けば任務続行は不能どころか、最悪全滅に陥る。

ステファニー(心理定規、貴方ならこの戦局、変えられますか?)
182 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/26(土) 17:15:12.46 ID:cmAV+1GDO
ん?
183 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/26(土) 17:17:30.68 ID:8rHYgbYP0
ちょっと離れてました。再開
184 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/26(土) 17:18:05.38 ID:8rHYgbYP0
削板「ち、が……う」

垣根「あ?」

石剣に刺され、両側から圧力をかけてくる翼を抑えながらも、削板は垣根を睨む。

削板「違う、つってんだよ、この根性なし野郎。心理定規は……変わろうとしているんだ、目を見りゃ分かる」

初春「そうです! 私は心理定規さんと会って日は浅いですが、あの人は私達を使い捨てようとなんてしない! 前の屋敷の事件の時も、あの人は
   護衛するべき人だけと逃げず、全員を救うために貴方たちと戦いました!」

削板(心理定規、これがお前が変われるかどうかの瀬戸際のはずだ。お前の根性が出す答えを見せてみろ!)

初春(心理定規さん! どうか、どうか皆さんを救ってください!)
185 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/26(土) 17:21:07.77 ID:8rHYgbYP0
心理定規は杉谷が放ったミドルキックを後退して回避すると、一気に距離を詰めて左のストレートを放つ。

だが、杉谷はほぼバランスを崩しかけている無理な態勢だというのに、己の体を回転させ、心理定規の左腕を巻き込むかのように両手で絡み取り、
勢いを利用して掴んだ心理定規の左腕を本来曲げてはいけない方向へと曲げた後、彼女を後方へと投げる。

何かが折れる音を鳴らして飛ばされた心理定規は床へと倒れる。

杉谷「健闘はしているが、もはやここまでだな」

心理定規は肩を上下させて立ち上がる。

ここまで幾度も接近戦に持ち込まれ、心理定規は防戦一方となっていた。

未だ突破口を見いだせず、とうとう左腕を折られてしまった。

杉谷「このままお前を始末し、潮岸氏を外へと脱出させる。上もまだ交戦中だろうが通り抜ける隙ぐらいあるだろう」

事実、ここで杉谷に破られれば任務は失敗となる。

さらには、第一層での戦闘はどうやら未だ続いているらしく、増援は期待できない。
186 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/26(土) 17:23:20.66 ID:8rHYgbYP0
逃すわけにはいかない。

そう確信した心理定規は覚悟を決め、動く右手を使ってポケットを探る。

ここに侵入する際に入口で警備兵の服に着替えたが、これだけは持ってきた。

心理定規「確かに近接戦闘で貴方に勝てる見込みは私にはないわ」

そう言って心理定規は小さな銀色の箱を取り出す。

心理定規「結局は私は能力者らしい戦い方でしか貴方に勝てないわ」

銀色の箱からこぼれ落ちたのは小さな白い飴のような物だった。

金平糖によく似ている。

杉谷「……それは、体晶……」

心理定規「あら、知ってるのかしら?」

杉谷「能力を暴走させることで一時的に威力を上げる薬だろう。だが、使用者への負担が大きいとも聞いたな」

心理定規「詳しいわね」

杉谷「そんな物に頼ってまでお前はこの任務を成功させたいというのか?」
187 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/26(土) 17:26:34.38 ID:8rHYgbYP0
心理定規「えぇ、おかしいかしら?」

杉谷「私利私欲で動く暗部なら、全滅寸前など切り捨てて一人でも逃げる。それとも、今の組織に情でも移って仲間の期待にでも答える気か?」

心理定規「そうね、でも、今の私には戦うことでしか仲間に答える術を持たない。」

心理定規は体晶を口に含み、一気にそれを噛み砕く。

体中に体晶が染み込む感覚が心理定規を襲い、彼女の目が赤く染まる。

杉谷「言ったはずだぞ。お前の能力は俺には効かない!」

杉谷は袖からナイフを取り出すと心理定規に接近する。

だが、心理定規は慌てることなく右手を杉谷に向ける。
188 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/26(土) 17:29:14.98 ID:8rHYgbYP0
心理定規(杉谷のナイフへの信頼、距離単位83に強制設定)

念じると能力が発動し、杉谷は振りかざしたナイフを下ろさず、そのままの形で止まる。

杉谷「な……に?」

何が起こっているのか分からない杉谷にカウンターの右ストレートをお見舞いする。

拳は完璧に杉谷の鼻っ面にヒットし、杉谷はのけぞるように後退する。

杉谷「一体何が……まさか」

杉谷は己に起きた現象を一瞬にして検証する。

体晶の能力強化効果により、心理定規の心の干渉範囲が広がったのだ。元々は心理定規と敵との心の距離だけしか捻じ曲げられなかったはずが
今はどうやら他人と物体との心の距離まで能力の効果が届くらしい。

つまりは、武器や装備への信頼に干渉する。

さきほどの能力発動により、杉谷はナイフが心理定規を切ることができないという確信が突如生まれた。

徐々にそのナイフを持っている事自体に身の危険を感じ、杉谷はナイフを捨ててしまった。

恐ろしいことに心理定規の能力は、間接的に敵の装備を放棄させることができるようになったようだ。
189 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/26(土) 17:31:54.40 ID:8rHYgbYP0
心理定規は折れていない右手を額にそっと当て、何かを探しているかのように目を左右に泳がせる。

心理定規「第一層に敵が二十三……味方で戦闘可能状態なのがステファニーを含めて残り九……外にいるのは、削板と垣根と……初春さん」

その呟きを聞いた杉谷はまたしても驚く。大幅に強化された心理定規の能力は、遠くにいる者の詳細を感じ取る事ができるようになったらしい。

と、いうことは。

杉谷は珍しくも瞳に焦りを現し、心理定規を仕留めんと駆ける。

だが、心理定規は右手を前へ向け、パチンと指を鳴らし、乾いた音は反響するかのように第二層全体に響き渡る。

心理定規「心理干渉拡大、距離単位強制設定」
190 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/26(土) 17:33:46.91 ID:8rHYgbYP0
ファイブオーバーの踏みつけ攻撃を、ステファニーは体を床に転がせてかろうじて回避する。

だが、持っていた軽機関散弾銃が少し遠くへと飛ばされ、小さく舌打ちする。

ステファニー(まずいじゃないですか!)

だが、それと同時にステファニーはある事に気づいた。

銃撃音が一部だけ鳴りやんだ。

厳密に言えば猟犬部隊から放たれていた攻撃が止まった。

未だ攻撃を続けるファイブオーバーから一瞬だけ目を離し、ちらりと後方を見る。

すると、猟犬部隊は恐怖でも感じているかのように持っていた銃を投げ捨てていた。

ステファニー(心理定規! 貴方の仕業ですか!)

ステファニー「迎電部隊! レールガンを!」

突然の展開を好機と見た迎電部隊が一斉に落ちていたレールガンを全員で拾い上げてファイブーバーへと向ける。

ステファニー「初春! 今です!」
191 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/26(土) 17:35:18.53 ID:8rHYgbYP0
ステファニー『初春! 今です!』

初春の耳にかけていた無線から、ステファニーの合図が漏れる。

垣根「何をする気だ?」

不信がった垣根が石剣と両翼に力を込めるが、負けじと削板が体中のありったけの力を込めてそれを抑える。

削板「てめぇに邪魔はさせねぇ!」

力を入れれば入れるほど削板は激痛に襲われ、血は溢れ、意識を失いそうになる。

削板の健闘もあり、とうとうプログラムを完成させた初春が右手人差し指でパソコンのエンターキーを押す。

初春「撃ちます!」
192 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/26(土) 17:38:27.38 ID:8rHYgbYP0
青い閃光が第一層の実験場を横切る。

残存する迎電部隊が業火の如く弾を撃つレールガンを必死に抑える。

だが、衝撃はあまりにも強く、実際にレールガンを支えられたのは五秒ほどだ。

だが、その間、狙いは綺麗に定められていなかったとはいえ、無数に放たれた弾丸はファイブオーバーの装甲を貫き、その巨体を大穴へと大きく押しやる。

ゲギガゴガギゲギゴゴゴゴ

またしても痛みに叫ぶファイブオーバーはスラスターと足を数本損傷する。

だが、穴へと落ちるあと一歩というところでその大きな体は止まる。

迎電A「くそ! ダメか!」

ステファニー「まだです!」

叫び、飛んだのはステファニーだ。

レールガンが放たれた時に己の愛銃を拾い上げたステファニーは一気にファイブオーバーの頭部へと駆け上り、銃口をファイブオーバーの目らしい部分に突きつける。

ステファニー「落ちなさい!」

両手でしっかりと軽機関散弾銃を構え、トリガーを引く。

断続的に弾丸を撃ち放ち、強烈な衝撃がステファニーの肩の傷口を襲う。

だが、同じ衝撃がファイブオーバーを襲い、最後の踏ん張りとばかりに床へ食い込ませていた足がゆっくりと離され、穴へと落ちる。

ここぞとばかりにステファニーは肩口から大量の血を吹き出すのも構わず、マガジンが空になるまでトリガーを引く。

とうとう、ファイブオーバーの体全体が風を切る音を鳴らし、引きずられるかのように闇が広がる大穴へと全体を沈める。
193 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/26(土) 17:39:47.35 ID:8rHYgbYP0
杉谷の一直線の攻撃を回避するのに、心理定規は何の焦りもなかった。

だが、杉谷の右ストレートをかわそうとした瞬間、脳内に強烈な痛みが発生する。

体晶の副作用だ。

心理定規「ぐっ!」

集中力が切れ、杉谷の拳が先ほどのお返しとばかりに心理定規の顔面に食い込む。

さきほどとはまったく逆の構図で心理定規が後ろへと仰け反ると、足の片方が床を踏まずに重力に従って落ちようとする。

心理定規「なっ!」

真後ろには削板が穿った大穴が広がっていた。

心理定規は未だ伸びきったままの杉谷の右腕に噛み付き、杉谷ごと穴へと落ちようと試みる。

杉谷「っ!」

心理定規の意図を読み取った杉谷はすぐに引き離そうとするが、心理定規は咄嗟に抜いたハンドガンを杉谷の足めがけて撃つ。

弾丸は杉谷の足へ着弾し、ダメージを負った杉谷は床への踏ん張りが効かず、心理定規に引っ張られるように大穴へと落ちる。
194 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/26(土) 17:41:22.18 ID:8rHYgbYP0
心理定規の視界には、共に落ちる杉谷と、その遠く後ろに第一層から落ちてくるファイブオーバーが見えた。

このままでは両方ファイブオーバーに押しつぶされる。

心理定規は杉谷を下敷きにするべく体を移動させようとするが、杉谷もまた同じ発想をしたらしく、心理定規の試みを食い止める。

落ちながらもみくちゃになる二人だが、第三層の床はもうすぐそこまで迫っていた。

杉谷が右手の指をまっすぐに広げ、手刀を作ると心理定規に突き立てようとする。

この距離では回避できない。

だが、心理定規は恐れず、折れた左腕を無理やりに己の前へと掲げる。

使えなくなった腕を盾にし、恐るべき威力を持った手刀は心理定規の左腕を貫くだけで留まり、
代わりに心理定規は右手に持っていたハンドガンで杉谷の腹部に何発も発砲する。

二人は同時に第三層の床に落ち、その衝撃で杉谷の手刀が抜けた瞬間に心理定規は前へと転がる。

数舜後、第一層から落ちてきたファイブオーバーが轟音を打ち鳴らして第三層へと墜落する。
195 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/26(土) 17:43:11.37 ID:8rHYgbYP0
削板は必死に垣根の攻撃から初春を守り続けたが、そろそろ限界が近かった。

ずっと痩せ我慢していたが、とうとう視界がかすみ始め、意識は遠のいてくる。

拮抗が崩れ去ろうとした瞬間、垣根の耳に装着されていた小型無線機から通信音が聞こえてくる。

削板の超人的肉体だからこそ盗み聞くことができた。

猟犬A『報告! ファイブオーバーが撃破された! 杉谷隊長との連絡も沈黙! 総員マニュアル通り機密情報を回収しつつ撤収!』

その通信にぴくりと垣根の眉が動き、削板は隙を見出す。

削板「おおおぉぉぉ!」

気合の咆哮は削板の謎の能力により衝撃波を生み、垣根の両翼と垣根の体を遠くへと押しやる。

突き刺さったままの石剣は抜けず、削板は片膝を地面に着ける。

垣根「ち、杉谷の野郎、逝っちまったのか? 欠損情報《ロスト・データ》の回収と解析は間に合ったんだろうな……」

ぶつぶつと何かを呟き、垣根は削板と初春に背を向ける。

削板「どこに、行くつもりだ」

もはや虫の息だというのに削板が垣根を呼ぶ。

垣根「時間が無ぇ、これ以上邪魔されたらたまった物じゃねぇからな。引かせてもらう」

削板「潮岸の元へ行くつもりか?」

垣根「もうあいつにできることは何もない。それよりも必要な物がある」

そう言い残し、垣根は何処かへと飛び立った。
196 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/26(土) 17:51:59.17 ID:8rHYgbYP0
ギリギリだった。

心理定規のすぐ真横にはファイブオーバーの足が投げ出されており、少し遠くには機体の胴体に下半身を押しつぶされた杉谷が横たわっている。

杉谷「ぐっ……ぐほ!」

血を吐き出し、杉谷はずり落ちたサングラス越しに心理定規を睨む。

杉谷「まさか……こんな形になるとは、な」

心理定規「仲間の力、とでも言うのかしらね? ほぼ偶然だけど、」

杉谷「ふ、仲間の力……お前に似合わない言葉だ」

心理定規「……」

杉谷「俺の最後の言葉だ。心理定規。お前が、本当の意味、で、他人との距離を近づくことなど、でき……ない。お前は……俺と、同じ……闇に染まり、き……て――」

それを最後に、杉谷はしゃべらなくなった。

心理定規「うるさい」

悲痛な顔を浮かべ、心理定規は息を引き取った杉谷を見下ろす。

心理定規はまるで道を失った少女のように、両手を胸の前で組み、恐怖を心の奥に止めるためか肩を震わせる。
197 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/26(土) 17:55:02.21 ID:8rHYgbYP0
すると、何者かがファイブオーバーの上を歩く音がする。

心理定規は慌てて平然を装い、黒に染めた髪をかきあげる。

ステファニー「元気そうですね」

心理定規がゆっくりと上を向くと、ファイブオーバーの足を伝ってステファニーが降りてきた。

真っ赤に染まった右腕を引きずらせながらステファニーは笑みを浮かべる。

ステファニー「紐なしバンジージャンプはこれっきりにしたいじゃないですか」

相当無理をしたのだろう、ステファニーはその場で床に倒れ、息も切れ切れに肩を上下に激しくゆらす。

心理定規「すぐに医療班を呼ぶわ」

心理定規の体内では既に体晶の副作用が発動しており、体の節々が悲鳴をあげている。

未だ体晶により能力は上昇しており、外の状況はそれとなく把握できている。

垣根は退散する猟犬部隊と合流しているらしく、研究所から少しずつ離れて行っている。

潮岸を見限ったのだろう。

心理定規は無線で第一層にいる迎電部隊にステファニーの回収を要請し、痛む体に鞭を打って第三層の奥の部屋へと向かう。

ステファニー「……実行する気ですか? 誰にも言わずに」

不意に、後ろからステファニーが問いかける。

これから対面する者の命をどうすのかを。

心理定規「……さてね」

答えになっていない返事をし、心理定規は潮岸のいる部屋へと向かう。
198 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/26(土) 17:58:49.94 ID:8rHYgbYP0
ふいー、今日はここまでです。
読んでくれている方、レスしてくれる方、
親身になってくれた方々、ありがとうございます、助かりました。

やっとこさ一番長い戦闘が終わった。物語も折り返し地点を越そうとしているはず。
199 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/26(土) 18:00:13.30 ID:cmAV+1GDO
>>1乙
200 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/26(土) 18:07:36.70 ID:c18ohzIDO
乙!
201 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/05/26(土) 18:23:01.58 ID:qlFVUCI5o
乙でした
202 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/28(月) 17:27:04.96 ID:DIuXVX8d0
ただいま。
今日はちょっと少なめかもしれないけど頑張るぞー。
203 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/28(月) 17:29:07.43 ID:DIuXVX8d0
実験場第三層の一番奥の部屋、つまりは管理室の扉が開くと同時、控えていた猟犬部隊二人は一斉に銃を発砲――
できず、突然心の中で発生した銃への不信感と疑心に包まれ武器を床へと捨てる。

部屋に入ってきたのは猟犬部隊と同じ服で変装し、髪を一時的に黒に染めた心理定規だった。

猟犬部隊はすぐに素手による心理定規の制圧を試みるが、心理定規は頭を抑えながら二人を睨む。

心理定規(この二人の心の距離を90に強制設定)

すると、今度は猟犬部隊二人の敵意が心理定規から味方であるはずの相棒へと向けられる。

理由の分からない怒りが襲い、さきほどまで肩を並べていた猟犬部隊は互いを殴り合い始める。

その一瞬で起こった光景を、潮岸は訳も分からず眺めていた。
204 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/28(月) 17:30:53.87 ID:DIuXVX8d0
潮岸「な、何をしているんだお前達! 敵はその女だぞ!」

パワードスーツに身を包んでいる潮岸の表情を外から見ることはできないが、潮岸の声を聞くだけで相当に焦っていることが伺える。

心理定規「無駄よ、二人とも私の術中の中」

ゆっくりと潮岸に近づいた心理定規はパワードスーツ越しの相手にウィンクする。

心理定規「そして貴方も」

心理定規(潮岸のパワードスーツに対する愛着・信頼を90に設定)

ドクン、と潮岸の心臓が跳ねる。

今着ているスーツへの嫌悪感と恐怖が湧き、今すぐにスーツを脱がないと気が狂いそうになると直感する。

潮岸「ひぃ!」

潮岸は慌ててスーツを脱ぎ始め、最後に取ったヘルメットを部屋の壁へと叩きつけるように投げる。

潮岸「く、クソ! 何がどうなっているんだ!」

心理定規は答えず、潮岸の前に立ち、床に尻餅を付いている潮岸を見下ろす。

心理定規「質問をするのは私。この研究所で何を研究していたのかしら?」
205 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/28(月) 17:32:50.39 ID:DIuXVX8d0
潮岸は気丈にも口を閉ざし、心理定規をにらみ返す。

心理定規「過去の実験履歴を抹消された研究員、第二層にあったカプセル、連想されるのは呪われた計画……」

ゆっくり、しかし確実に潮岸が隠そうとしている事柄を当てるが如く、心理定規は小さく囁くかのように潮岸の眼前に顔を近づけて言う。

心理定規「クローン実験」

潮岸の目が一瞬揺らぐ。

心理定規「心が少し揺らいだわね。当たらずも遠からず、といったところかしら」

見抜かれた事が悔しいのか、潮岸は固く握り締めた拳を床に打ち付ける。

潮岸「お前の目的はなんだ!」

心理定規「今のスクールの目標は原石達を守り、そして貝積を守ること」

潮岸「違う! お前自身の目的だ! 学園都市のためにお前達暗部の者が働くはずがないだろう!」

心理定規「よくご存知で。まぁ、正直に言うとアレイスタークロウリーとの直接交渉権が欲しいわね」

潮岸「ふ、ふふ、そうかなるほど。それなら良いことを教えてやる。私の元へ来い! この場を見逃せばお前の欲しい物を用意してやろう!」

いやらしく笑う潮岸だが、心理定規は眉一つ動かさない。

心理定規「……できない相談ね」
206 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/28(月) 17:36:01.52 ID:DIuXVX8d0
潮岸「な、なに!?」

心理定規「今の私の能力を舐めないで。貴方の私に対する思いは恐怖と憎悪と嘘しかない」

図星を言われた潮岸は歯噛みする。

心理定規「それとね、私は今のチームが好きなの。私にはまだ能力を使わずに他人との心の距離は測れないけれど、少しずつチームとの信頼を作れていると信じたい。
     だからこそ、私は今のチームを大切にしたい」

潮岸「一丁前に善人にでもなるつもりか!? 無理だよお前には! お前は既に暗部に、学園都市の闇に染まりきっている! お前が人並みに他人との信頼が築けるはずがない!」

潮岸は心理定規に向かってかざした拳を力強く震わせる。

潮岸「見ていろ! この後捕まろうと牢から出る方法などいくらでもあるのだ! そしたらお前とお前のチームの薄っぺらい信頼など粉々にしてやるからな!」

心理定規「そうはさせない。私は、仲間を誰一人失わずに目的を達成してみせる」

潮岸「できるものか!」

心理定規「やるわ……そのためなら、手段も選ばない。もうこれからは自分のためにこの力を使わないわ。でも、仲間のためなら私は迷わない」

何か覚悟を決めた心理定規は潮岸に一歩近づく。

潮岸「な、何をする気だ!?」

心理定規「己自身に深い絶望を感じた者がどうなるか、知っているかしら?」
207 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/28(月) 17:39:21.19 ID:DIuXVX8d0
潮岸「ひっ!」

背筋が冷たくなるような感覚が潮岸を襲い、急いで立ち上がるが後ろは壁だった。

心理定規「これほど強力な心理の書き換えをするには、相手の頭を直接触れる必要があるけれど、その条件も十分クリアできそうね」

逃げる場所のない潮岸に、心理定規はハンドガンを取り出し、潮岸の両足に一発ずつ銃弾を撃ち込む。

潮岸「ぐぅあ!」

壁際で倒れ、うずくまる潮岸のすぐ横にハンドガンを放り、心理定規は屈むと潮岸の頭に手のひらを乗っける。

心理定規「さ・よ・な・ら」

心理定規(潮岸の己への愛着、距離単位100に強制設定)

潮岸を襲ったのは激しい自己嫌悪と生に対する絶望だった。

これまで積み上げてきた実績や自信が一気に消え去り、変わりにネガティブな感情が滝のようにこぼれてくる。

己の感情が塗りつぶされる。偽りの感情が体を乗っ取る。何が本当で何が嘘なのかわからなくなる。

頭がぐちゃぐちゃに掻き回される錯覚に陥り、気づいた時には潮岸は右手に持っていた銃を己のこめかみに当てていた。

もう、生きる意味はない。

乾いた発砲音が一発、実験場の奥深くで鳴る。
208 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/28(月) 17:44:12.87 ID:DIuXVX8d0
雲川は一体どこからこの作戦全体を眺めていたのか、作戦が完了すると同時に待機させていた迎電部隊に直接指示を送って
心理定規やステファニー達潜入部隊および奇襲部隊を実験場から回収した。

今回の作戦で負傷者を多く出したスクールは、病院の一角全体を貸し切ったらしい雲川の計らいにより早急に治療を受けることができた。

一番軽傷だったのは初春で、軽い手当で済んだが、ほかのスクールの主要メンバーはそうはいかなかった。

ステファニーは出血が酷く、肩がちぎれ取れんがかりに傷口も大きかったこともあり、輸血をした後もしばらくは安静するよう言い渡された。

心理定規は左腕の損傷は学園都市が開発した最先端技術により短期間の内に完全回復すると断言されたが、体晶による後遺症が未だ把握しきれないらしい。

そして一番危険な状況に陥っているのが削板だった。

胴体部分を大きく斜めに切られた傷と、腹部を石剣で貫かれた傷が深く、集中治療室に運ばれたが、未だ意識は戻らない状態だ。

迎電部隊にも重傷者は多数見受けられ、このままでは死者も出るであろうと思われたが、幸い、否、奇跡的にも病院に運ばれた者の中で一人も命を落す者はいなかった。

それもこれも、名も知れないカエル顔をした医者の腕による物だと、心理定規は後に雲川から知らされる。
209 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/28(月) 17:51:24.70 ID:DIuXVX8d0
入院するよう言われて一週間が経ち、心理定規は言い加減病院食にうんざりしかけていた。

心理定規「まったく、後どれくらい検査をするのかしら」

ステファニー「まぁまぁ、後三日の我慢じゃないですか。ここは学園都市の医療技術を賞賛しましょう。本来なら長期間の入院になっているはずです」

隣のベッドで体を倒しているステファニーが返す。

現在二人は同じ病室で寝泊りしており、短い間とはいえ共に生活を過ごした。

ステファニー「……それで、心理定規。確認しますが、潮岸の顛末に……貴方は本当に関わっていないんですか?」

おもむろに口を開いたステファニーは至極真面目な顔で聞く。

任務の事の顛末は雲川から聞かされていた。

潮岸は追い込まれたことにより錯乱し、自殺したとスクール内、そして統括理事会内で発表された。

だが、ステファニーだけは心理定規に言い渡された追加任務の内容を知っているがために、雲川の報告が嘘だとすぐに見破る。
210 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/28(月) 18:01:23.77 ID:DIuXVX8d0
ステファニーはこれまでの任務と、そして病院で過ごした心理定規との生活を通して、少しばかり彼女の事を知ることができたように思えた。

いつもは済ました顔で任務に取り組み、己の目的のためにのみ行動しているように見えるが、その実、心理定規はこれまで仲間を失うような行動は一切行わなかった。

その気になればスクールの全メンバーを能力の使用により完全操作できるだろうが、そうするわけでもなく、さらに潮岸の屋敷の任務でも潮岸達の直接の護衛という
一番危険なポジションを心理定規は自ら買って出た。

そして前回の任務で負傷者を大量に出した際、心理定規は無理やりにでも他のメンバーから先に治療するように医者に半ば脅すような強行に出た。

一番軽傷である初春にまで先に治療させ、それを見終えると心理定規はその場で気絶し、彼女が己のダメージを我慢していたことが伺えた。

ステファニーはそれからというもの、心理定規をこの一週間ずっと観察していた。心理定規という少女の本質を。

そして導き出した答えは実に簡明だった。用は不器用なのだ。

他人を気遣うが、そのやり方を知らず、最終的には己を傷つけて他人を守る。自己犠牲の鏡とはこのことだ。

だからこそ見ていられない。ステファニーは心理定規の理解者、もしくは相談者となるべく、今彼女の心に近づこうとしている。

ただ一言、今秘めている事を教えてくれるだけで良かった。
211 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/28(月) 18:19:41.68 ID:DIuXVX8d0
心理定規「……」

躊躇うかのように口を閉じる心理定規にステファニーは心配した表情で聞く。

ステファニー「心理定規、私は……その、貴方の事を少し誤解していました。貴方は貴方なりに仲間の事を想って行動している。
       闇の中で生きている私では実行するには難しいです。けれど、そんな私ですら今、貴方の役に立ちたいと思っている。
       別に誰かに言いふらすために聞いているんじゃありません。もし貴方が抱えている事があれば、私は仲間としてその重荷を軽くしたいだけです」

心理定規は一瞬口を震わせ、言葉を発す。

心理定規「何も……本当に何もなかったのよ」

完全に信頼されてはいないのですか。

ステファニーは心の中で呟く。

少しだけ気まずい空気が流れると、不意に病室の扉がノックされ、申し訳なさそうにゆっくりと開く。

初春「あ、あの、お邪魔します」

雲川「邪魔するぞ」

いつもの花飾り着けた少女、初春が病室に入り、フルーツがたくさん盛られた籠を心理定規の隣に置かれたテーブルに置く。

後ろから入ってきた雲川は勝手に椅子に座る。
212 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/28(月) 18:21:09.11 ID:DIuXVX8d0
心理定規「初春さん、それに雲川、わざわざ来てくれてありがとう」

雲川「おいおい、私は呼び捨てか? 別にいいけど」

ふんと鼻息を鳴らし、雲川は改めて心理定規、ステファニー、そして初春を見る。

雲川「朗報だ。削板の意識が戻った」

その言葉に初春は両手で口を抑えて驚きの顔を見せた後、くしゃりと笑顔を浮かべる。

ステファニーもまた安堵の息を吐き、ちらりと心理定規を見る。

心理定規は「そう」と言いつつ、いつものポーカーフェイスで冷静を装っているが、よくよく見ると瞳に涙を浮かべ、口の端は少しだけつり上がっている。

ステファニー「死者ゼロ。やったじゃないですか、心理定規。ここは一つ大泣きして喜ぶのもありじゃないですか?」

少し茶化してやろうと心理定規をつつくが、当の本人は金色の髪をぱさりとかきあげ、「泣かないわよ」と答える。
213 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/28(月) 18:24:47.07 ID:DIuXVX8d0
一頻り喜びを分かち合うと、雲川が徐ろに咳払いを一つ出す。

雲川「さて、本題に入らせてもらおうか」

任務が終わってからというもの、雲川は心理定規達の前に現れなかった。治療に専念してもらうためだろう。

本来は任務後の報告は心理定規の役目なのだが、今回は雲川が後処理を担当したので報告も彼女が担う。

雲川「任務、ご苦労だった。おかげで要人は無事保護され、潮岸の実験場も解体されることが決定した。けど……」

そこでちらりと心理定規を見やり雲川は改めて皆を見回す。

雲川「潮岸については残念だったな。まさか自殺してしまうとは私も思わなんだ」

病室内に少しだけ重い空気が流れる。

その空気を一番敏感に感じていたのは、意外にも初春だった。

この数日、初春は垣根から聞いた幾つかの不明なキーワードについて調べていた。

『暗部』『スクール』『心理定規の過去』

初春の手にかかればたいてい欲しい情報は手に入るのだが、この三つのキーワードの詳細がどうしても掴めないでいた。

垣根の言動が全て真実なのであれば、今初春が所属している学園都市の特別保安部隊とは表の顔で、真の姿が別にあるのではないかと疑う。

しかし、初春はこのチームを疑いたくはなかった。皆何かを隠しているようにも感じるが、根底ではお互いを想いながら行動をしている。

だからこそ、この悪い空気を打ち破る一言を閃いた時、初春は迷わずそれを言う。
214 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/28(月) 18:26:00.19 ID:DIuXVX8d0
初春「打ち上げをしましょう!」

初春の言葉に病室にいる一同は一瞬の間を置く。

心理定規「打ち……上げ?」

あまり聞きなれない言葉につい聞き返してしまう。

初春「そうです、打ち上げですよ! せっかく皆で頑張ったんですから、皆で労い合いましょう! 」

ステファニー「打ち上げ、ですか。その……そんなことをする機会なんかありませんでしたので、何をどうしたら良いのか……」

初春「大丈夫ですよ、私に任せてください! 皆さんが楽しめるように努力します!」

雲川「皆さん……というけど、それはもしかして迎電部隊全員誘うつもりか?」

初春「もちろんです。広い場所を見つけた方が良いですね」

心理定規「そもそも全員来てくれるのかどうか」

?「それなら俺に任せろ!」

突然外から声がし、病室の扉が勢い良く開かれる。

勢い良く部屋へ入ってきたのは、銀色の車椅子に乗った削板だった。
215 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/28(月) 18:27:32.84 ID:DIuXVX8d0
初春「削板さん! 体は大丈夫なんですか!?」

ステファニー「というかさっき意識が戻ったばかりのはずでは?」

削板「問題ない! こんなもの根性でどうとでもなる!」

雲川「おかしいな、少なくとも数週間は動けないはずだけど」

削板「根性で動いてるからな!」

ステファニー「やせ我慢しているということじゃないですか」

事実、削板はほぼミイラ男状態と言ってもよく、体中に包帯が巻かれている状態だ。

心理定規「無事で良かったわ」

削板「へ、問題ナッシングだ」

薄らと涙を浮かべているように見える心理定規に、削板は元気良く親指を立てる。

削板「ともかくだ! 迎電部隊を連れてくるのは俺に任せろ、必ず全員連れてきてやる」

初春「なら、私に打ち上げの段取りを任せてください! 頑張っちゃいますよ!」

削板と初春は意気投合し、打ち上げの打ち合わせを始める。
216 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/28(月) 18:30:09.75 ID:DIuXVX8d0
一週間後、無事に退院したスクールのメンバーは全員貝積の屋敷へと訪れていた。

初春が打ち上げの場所を探すのを困っていたところ、貝積が快く会場を提供してくれた。

屋敷はどこか潮岸の屋敷と似ており、広いホールにテーブルが幾つも並べられている。

さらに、天井からぶら下げられてるシャンデリアが雰囲気を醸し出す。

屋敷には既に心理定規、ステファニー、削板、初春、そして迎電部隊全員が揃っていた。雲川と貝積も少し遠くで飲み物を飲んでいる。

数々の食べ物や飲み物がテーブルに置かれ、スクールの構成員全員が思い思いにそれを食べる。

ステファニー「いやぁ、まさか本当に全員来るとは思わなかったじゃないですか」

初春「し、正直私もびっくりしてます」

心理定規「良くやったわね削板。戦闘以外で貴方が役に立つなんて嬉しい誤算よ」

車椅子に座る削板が自信たっぷりに胸を逸らす。

削板「まぁな! 野郎共を連れてくる方法なんざいくらでもあるからな! 現に今回だって……あ、いや、なんでも」

突然口を閉ざす削板に首を傾げる一同だが、削板は誤魔化すためか食べ物を取りにどこかへ行ってしまう。

初春「なんだったんでしょう?」

ステファニー「怪しいじゃないですか」

迎電部隊の隊員達と話しを始める削板をステファニーはジト目で睨む。
217 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/28(月) 18:32:46.07 ID:DIuXVX8d0
事件が起こったのは打ち上げが始まって二時間後だった。

削板「さぁ野郎共! 準備は良いか!?」

突然マイクを握り締めた削板が大声で叫ぶ。

屋敷のホールのど真ん中を陣取った削板が高だかと拳を振り上げる。すると、周りに集まり始めていた迎電部隊の隊員たちが
Yeeeeaaaaah! だの、Fooooooo! 等と実にアメリカンな反応をする。

ステファニー「あいつはまた何をする気なんでしょうか?」

初春「ステファニーさん、一緒に近くで見に行きましょうよ!」

少々嫌な予感を覚えるステファニーだが、目をキラキラと輝かせる初春に無理やり手を引っ張られ、二人は群衆の少し近くの椅子に座り、
削板主催のイベントを眺める。
218 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/28(月) 18:34:14.34 ID:DIuXVX8d0
削板「お前ら、今日は来てくれてありがとう! 約束通り、お前達のための催し物は完璧に準備できている!」

「削板ー!」「良くやったぞ!」と迎電部隊の全員が高らかに声を上げる。

いつのまにこいつらはこんなに仲良くなったのだろうかと首を傾げるステファニーだが、削板は構わず司会を進める。

削板「さぁ、止められる前に一気に行くぞ! 闇のオークションの始まりだ!」

ウオオオオオ! と屋敷を揺らがさんばかりの歓声が鳴る。

初春「うわぁ、なんだか気合が入ってますね」

ステファニー「闇のオークションって、大げさな。ていうか止められる前にってどういう――」

言いかけ、ステファニーは削板が取り出した小さな紙らしいものを見て言葉を切る。

削板「まずはこれだ!」

高らかに掲げられたのは一枚の写真だった。

その写真は、夜空をバックにTシャツを脱ぎ、なよやかな体と可愛い下着を晒し、顔を真っ赤に赤らめた金色の髪をした女の子だった。

あの写真は……

削板「前回の任務でゲットしたステファニーの野外生着替えブロマイド! 一万からスタート!」

ステファニー「ちょっ……!」

驚きと羞恥心が同時に襲い、ステファニーはあわあわとパニくる。
219 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/28(月) 18:36:05.03 ID:DIuXVX8d0
しかし、そんなステファニーの羞恥など露知らず、迎電部隊の群衆から「一万五千!」「一万八千!」「甘ぇんだよお前ら! 二万三千!」と声が上げられる。

ステファニー「なななな、あいつら一体何をしてるんですか!?」

初春「と、止めないと!」

だが、二人は男達の群衆の波に阻まれ、削板との距離を詰めることができない。

すると、迎電部隊の一人がゆっくりと片手を上げた。

迎電A「……四万」

削板「値段爆上げ来たああああぁぁぁ! 誰かこれを超える奴はいるか!? いねぇのか!? いねぇんだな!? はい落札!」

落札者の名前を紙に書き留め、削板はすぐに次の商品を出す。

ステファニーは一瞬だけ迎電Aと目が合うが、迎電Aはすぐにその視線を逸らす。
220 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/28(月) 18:38:20.22 ID:DIuXVX8d0
削板「時間がねぇ! 一気に行くぞ! 心理定規の生着替え黒髪バージョンと金髪バーション! 初春のスクール水着! 雲川の体操着! セットで五万から!」

盗撮余裕でしたと言わんばかりに身に覚えのない写真が次々と出され、ステファニーと初春は青ざめる。

初春「な、なんでこんなことに」

ステファニー「削板ー!」

ステファニーの叫びも虚しく、「六万!」「六万五千!」「さらば家賃! 八万!」という声がステファニーの悲鳴をかき消す。

貝積「十万」

いつの間にか群衆の中に紛れていた貝積が澄んだ声で言う。

削板「スポンサー様! ブルジョワステータスを使うなんて汚い! 金の力汚い! セレブに立ち向かう貧民はいるのか? いねぇのかよ! はい落札!」

屋敷はさらなるカオスへと雪崩込み、誰も止めることはできなくなっていく。
221 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/28(月) 18:42:08.58 ID:DIuXVX8d0
ホールの中心から離れた壁際で、雲川は一人椅子に座ってグラスに入った赤色の飲み物を飲んでいた。

心理定規「向こうは盛り上がってるわね」

近づいてきた心理定規はどこか楽しそうに言う。

雲川「バカ騒ぎもたまには良いさ。お前のエロ写真が勝手に売られているけど、良いのか?」

心理定規「魅力的だと思われるのなら、悪い気はしないわね。後で削板から儲けは徴収するけれど」

雲川「はは、その時は私も参加させてもらうとしよう」

ぐいっと飲み物を飲み、雲川の頬が少し赤くなる。

心理定規「高校生がワインを飲んで良いのかしら?」

雲川「何を言う、ノンアルコールのジュースに決まってるじゃないか」

ひらひらと手を振り、雲川はグラスを心理定規に差し伸ばす。

心理定規はグラスに手を伸ばすが、何度もグラスを掴み損ね、どうにか受け取る。

もらった飲み物を一口のみ、心理定規はくすりと笑う。

心理定規「ノンアルコール、ねぇ?」

グラスを返し、心理定規は雲川の隣に座る。
222 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/28(月) 18:45:59.93 ID:DIuXVX8d0
雲川「……やはり、体晶の副作用はきついか?」

心理定規「あら? さすがに気づいたかしら?」

雲川「ま、病院の手配をしたのは私だ。全員の体調を私に報告するようにしてあるから当然だろう」

グラスを回しながら雲川は言う。

雲川「体力の著しい低下、筋力の衰え、視力も少しだけ弱っていると聞いたぞ」

さきほど心理定規にグラスを渡した時にも、心理定規は遠近感をなくしたのか、グラスをすぐには掴めなかった。

さらには、これ以上立っているのがつらいのか、どこか疲れた表情をしている。

心理定規「ここまで適応性がないとは思ってもいなかったわ。使えてあと一回といったところかしら」

雲川「その時は前線には立てなくなるぞ」

心理定規「後方支援ぐらいならできるわよ。あるいは……いえ、なんでもない」
223 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/28(月) 18:48:35.52 ID:DIuXVX8d0
遠くで繰り広げられている騒ぎを眺めながら心理定規はゆっくりと口を開く。

心理定規「それよりも、潮岸達の目的や垣根の動向は何か分かったのかしら?」

雲川「お前も真面目だな。こんな時でも仕事の話しか?」

心理定規「これでもプロだから」

雲川「仕事熱心なのも良いけど」

ジュースらしいものをもう一口飲み、ふぅ、と一息吐く。

雲川「ステファニーが救出した要人やお前があの実験場の第二層で見た情報を総合するに、間違いなく潮岸はあの呪われた計画の情報を引き出そうとしていた」

心理定規「……絶対能力進化実験」

雲川「あの実験に関する情報は全て消されたが、潮岸は当時の研究者を集めてクローン生成装置の欠損データを復元しようとしていたらしい」

心理定規「第三位のクローンを作る気なのかしら?」

雲川「分からないけど、奴は第一位に何かしらのアプローチを試みているはずだ。お前は絶対能力進化実験の後に作られた最後のクローンを知っているか?」
224 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/28(月) 18:50:49.44 ID:DIuXVX8d0
心理定規「確か、打ち止め《ラストオーダー》とかいう個体よね? それがどうしたの?」

雲川「クローン生成情報の復元と同時に、潮岸と垣根はその打ち止めの情報も重点的に探していた」

心理定規「まさか打ち止めのクローンでも作るつもり?」

雲川「恐らくそれは難しいだろう。潮岸というバックアップを失ったからには垣根のできることは極限に少なくなったはずだ」

心理定規「なら、一体垣根は何を……」

雲川「こればかりはこれからの奴の動向を見ねばなんとも……ただ、一つだけ言えることがある」

ちらりと心理定規に視線を送る雲川に気づき、心理定規もゆっくりと雲川に目を向ける。

雲川「垣根自体を正面から止めるのは難しい。なら奴が打ち止めに何かしらのアプローチを駆ける前に打ち止めを……な」

その意味を心理定規は理解し、なるほど、と心の中で呟く。

雲川「潮岸への処置、良くやった」

心理定規「自殺したのよ、あいつは」

雲川「そうだったな」
225 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/28(月) 18:55:15.28 ID:DIuXVX8d0
心理定規と雲川はしばらく会場の騒ぎをただ眺めていた。

二人の沈黙を破ったのは、駆け足で近づいてきたステファニーと初春だった。

初春「心理定規さん! た、助けてください!」

ステファニー「心理定規! あの根性馬鹿を叩きのめそうじゃないですか! 雲川さんも協力してください!」

心理定規と雲川が一体どんな話しをしていたのかも知らず、初春とステファニーは今目の前にある危機に精一杯のようだ。

これから挑むであろう任務の事を考えるのがバカバカしくなり、心理定規はつい笑ってしまう。

心理定規はやれやれと呆れ顔を浮かべると、雲川も似たようなリアクションをする。

心理定規「仕方ないわね、今行くわ」

雲川「確か削板は銃弾を食らっても死なないのだったな」

心理定規と雲川は立ち上がり、宴会の中心となっている渦へと飛び込む。

そこには怒りや憎しみなどどこにもなく、誰もが笑い、楽しみ、馬鹿のように騒ぎ立てている。

その瞬間は心理定規にとって初めての経験で、かけがいのない思い出となった。
226 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/28(月) 18:57:18.84 ID:DIuXVX8d0
今日はここまで。
読んでくれている方、レスしてくれてる方、ありがとうございます。正直ここまで書けるとは……
少し書くつもりが割とたくさん書いたような気がする。
227 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/05/28(月) 19:11:22.57 ID:/G+oF6SX0
おつ〜
228 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/28(月) 19:11:23.96 ID:O/eYaQPDO
乙!
多く投下したと思うよ
にしても削板と迎電部隊最高だな
229 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/05/28(月) 19:21:48.09 ID:rzQ/YvHjo
15万だ…
230 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/05/28(月) 19:37:44.42 ID:Mzsxb7QV0
なら俺は20万だすわ
231 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/05/28(月) 19:48:15.12 ID:tqEZJOEk0
30万だ…
232 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/05/28(月) 20:01:17.47 ID:PkGhR2d6o
迎電Aェ…
233 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/28(月) 20:41:41.75 ID:SeKjmC4oo
すいません、迎電の入隊募集は何処でやってますか?
234 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/08(金) 17:37:30.87 ID:nhlMcgYI0
ただいま。
オークションが始まっててワロタw
迎電部隊は学園都市でテロを起こせば入れるはず。

では少しだけですが、再開します。
235 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/08(金) 17:40:58.43 ID:W+cazQtDO
超待ってました!
236 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/08(金) 17:46:05.26 ID:nhlMcgYI0
宴もたけなわとなり、心理定規達女性メンバーが削板から儲けを巻き上げた所で打ち上げはお開きとなる。

皆が解散し、スクールの主要メンバーは途中まで一緒に帰ることとなった。

初春が削板の車椅子を押してやり、心理定規とステファニーがペースを合わせて横を歩く。

他のメンバーが他愛のない話しをする中、初春は打ち上げが終わった後もずっともやもやしていた。

思い悩んでいるのはもちろん、垣根が残した謎のキーワードだ。

心理定規達が何かしらを隠しているのは濃厚だ。悪いとは思いつつ心理定規の経歴を探ってみたが、手がかりは何一つ見つからなかった。

他人の隠し事を暴くような趣味を持たない初春は打ち上げをすることによりそのもやもやを消そうとしたが、逆に疑問はさらに浮かび上がってしまった。

今日一日中心理定規やステファニーと過ごして、ますます彼女らが普通の女の子にしか見えなくなった。

だからこそ、垣根が言った数々の言葉を否定するためにも、初春は少しでも彼女達の事を知りたくなる。
237 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/08(金) 17:49:25.53 ID:nhlMcgYI0
初春「そういえば、物凄く今更なんですけど、みなさんも特別保安部隊にスカウトされたんですか?」

初春に聞かれ、ステファニーと削板は苦笑いした。

学園都市の深淵を知らない初春に、こちらの事情を全て話すわけにはいかないからだ。

心理定規「私が部隊を発足させて、彼らをスカウトしたのよ」

初春「部隊を発足……どうしてそんなことを?」

探るような目で初春が心理定規を見つめる。

心理定規は特にその視線を気にせず、何くわぬ顔で答える。

心理定規「学園都市のため、と言ったら我ながら胡散臭いわね。とあるお願いをするためよ」

初春「お願い?」

心理定規「ま、そのうち教えるわ」

少し納得のいかないような顔をする初春に、ほぼ私利私欲のために動いている心理定規は少し後ろめたさを感じた。

ステファニー「初春さん、あなたこそ、よくも分からない組織に手を貸そうなんて勇気があるじゃないですか」

助け舟のつもりかステファニーが初春に言う。
238 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/08(金) 17:53:17.04 ID:nhlMcgYI0
初春「私は……ジャッジメントと言っても、結局レベル1であまり実践ではお役に立てません。それでも、学園都市のために私なんかが必要であると
   いうのであれば、私は喜んでどんなことでも手伝いたいんです、だからこの部隊にもお手伝いさせてもらおうと決めたんです」

初春は口調こそ弱々しかったが、瞳には決意の炎が現れていた。

純粋な心で学園都市のために力を尽くそうとしているその少女の決意は、心理定規にとっては眩しすぎた。

今まで闇と共に生き続けた心理定規では到底抱くことのできない考えであり、だからこそ初春の純情に心惹かれ
このチームに引き入れたのだろうと改めて理解する。

初春の思いに心理定規が答える。

心理定規「もし、貴方が正義だと信じている者が、ただ私利私欲のために動いている悪だとしたら……どうする?」

その言葉に初春は一瞬だけ警戒心を現わにする。

だが、己の心の中で浮かび上がった正直な言葉を心理定規に伝えるため、初春はまっすぐ心理定規を見る。

初春「裁くのではなく、正します。悪事を働くことでしか手に入らない物なんてないと、教えてあげたいんです」

初春の率直な言葉が心理定規の心を貫き、一瞬だけ表情を揺らがせる。
239 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/08(金) 17:54:43.96 ID:nhlMcgYI0
心理定規が何かを言おうとした時、「おーい! 初春ー!」と、遠くから女性の声が初春を呼ぶ。

振り向くと、そこには初春と同じ制服を着た長い黒髪の少女が立っており、後ろには常盤台中学の制服を着た少女が二人立っている。

初春「うぁ! いけない、友達と打ち上げの後落ち合う約束をしていたんでした!」

慌てる初春は「すみません! 今日はここで!」と言うやいなや、急ぎ足で遠くで待つ友達へと走り去っていく。
240 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/08(金) 17:57:37.17 ID:nhlMcgYI0
遠くで初春が友達と合流するのをしばらく眺めていたが、その沈黙を削板が破る。

削板「根性のある奴だな。俺は気に入ったぞ」

ステファニー「初めて会ったときは頼りない印象でしたけど、まぁこれからも大丈夫そうじゃないですか」

心理定規「任務遂行のために彼女を招いたけれど、ちゃんと綺麗なまま返すわ。彼女の日常を私は壊したくない」

ステファニー「そうですね。削板は大丈夫ですが、私と心理定規はこちらで色々殺りすぎましたからねぇ」

心理定規とステファニーは苦笑いを浮かべ合うが、二人の後ろでふと削板が車椅子を止める。

削板「……俺は、アンタらがもう普通の生活に戻れないなんて思ってないぞ」

心理定規「……どういうことかしら?」

削板「確かにアンタらはいろいろしでかしたのかもしれないけどな、だからと言って、ハイもう普通の生活に戻るのを諦めますと言うのは俺の根性が許さん」

ステファニー「無茶苦茶言ってますよ。私や心理定規は他人の人生を犠牲にして生きてるんですよ。それなのに普通の生活に戻るなど、できるわけないじゃないですか」

削板「だったら罪を背負え、償え、そして普通の生活に戻れ。普通の生活に戻れないと言って闇の世界で他人の人生を犠牲にし続ける方が根性が据わってないな」
241 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/08(金) 17:59:42.50 ID:nhlMcgYI0
心理定規は今日何度目かの動揺をし、恐る恐る削板に聞く。

心理定規「なぜ、そこまで言うのかしら?」

削板「俺は今まで暗部と何度か戦ってきた。全員が自分勝手で根性がひん曲がったやつばかりだった。でもな、アンタら二人は違う」

心理定規とステファニーを交互に見やり、削板が一度頷く。

削板「これは俺の直感だけどな、ステファニー、アンタは誰かのために戦っている目をしている。誰かのために自分を犠牲にできる、根性のある目だ」

次に心理定規を見る。

削板「心理定規、アンタはどこか闇に染まりきっていねぇ……どこか、闇に染まりきれない迷い……怯えが見える」

心理定規は削板に対し驚く。

そんなことを言われたのは初めてなのだ。‎
242 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/08(金) 18:03:13.17 ID:nhlMcgYI0
削板「ともかく、俺はこのチームが気に入ってるんだ。暗部なのに根性がひん曲がっちゃいねぇ、むしろ他人を守ろうとしている」

削板は再び両手を車椅子の車輪に触れさせ、ゆっくりと二人を追い越す。

削板「このままアンタらも闇から足を洗ってくれると、俺はうれしいけれどな」

そう言い残すと、削板は手を振っ去っていった。

削板の背中を見て、ステファニーが小さくためいきをもらす。

ステファニー「ふう……本当に、勝手ばかり言う奴じゃないですか」

心理定規「そうね。けれど、あんな事を言ってくれるのは、嫌いじゃないわ」

ステファニー「心理定規、この際だから言っておきます。私もこのチームにはそれなりに愛着は湧いてますよ。だから、その……何か抱えている物が
       あったりだとか、重荷に感じることがあったら言ってください。私たちは、えっと、ほら……」
243 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/08(金) 18:05:53.61 ID:nhlMcgYI0
口ごもるステファニーは何度か口をぱくぱくと開閉し、どうにか声を出す。

ステファニー「と、とも……ぃゃ、お、同じチームメイトじゃないですか!」

心理定規との視線を合わさず、ほんのりと頬を赤らめたステファニーの精一杯の思いを、心理定規は十分に感じることができた。

心理定規「ふふ、貴方もずいぶん可愛くなったわね。これも初春や削板の影響かしら」

ステファニー「なっ!」

心理定規「ありがとう、貴方と一緒に仕事ができて私も嬉しいわよ」

ステファニー「〜〜〜っ! と、ともかく何かあったら私に言えばいいじゃないですか!」

良く分からない捨て台詞を放ち、ステファニーは分かれ道で心理定規とは別の道を走っていく。

心理定規「……本当に、ありがとう」

聞こえるはずもないが、心理定規は遠くにいるステファニーの背中に呟く。
244 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/08(金) 18:08:26.52 ID:nhlMcgYI0
――その日の夜

眠りから覚めた心理定規は、部屋のベッドから起き上がり、窓の外を見る。

二十階建の借りアパートからは、様々なビルの光に照らされた夜の学園都市が見える。

また夢を見てしまった。過去、心理定規が様々な人を裏切った出来事がフラッシュバックしたのだ。

夢のせいか、夜中三時に目が覚めてしまった。

恐らく昼に初春や削板に言われた事で昔の記憶が呼び起こされたのだろう。

心理定規はネグリジェ姿のままキッチンへと行き、冷蔵庫から冷たい水を取り出し、ゆっくりとそれを飲む。

脳裏に初春と削板の言葉が浮かぶ。

初春『裁くのではなく、正します。悪事を働くことでしか手に入らない物なんてないと、教えてあげたいんです』

削板『罪を背負え、償え、そして普通の生活に戻れ。普通の生活に戻れないと言って闇の世界で他人の人生を犠牲にし続ける方が根性が据わってないな』

飲み干したグラスを置き、心理定規はゆっくりと目を瞑る。

そう、二人の言うとおりだ。
245 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/08(金) 18:10:44.41 ID:nhlMcgYI0
心理定規はこの学園都市の闇の世界に生きることに疑問を持ち始めている。

生きるために人の心を操り、騙し続けてきた。

だが、そのせいで心理定規は他人との心の距離を縮め理解することをわからなくなってきた。

不意に、昼に初春が友達と共に歩いていく姿を思い出す。

四人とも幸せそうに笑い合っていた。

あの光景こそが、心理定規がずっと羨み、欲しがっていたものではないだろうか。

だが、それが今の彼女には難しいことを悟る。

今まで何度か本当の仲間を手に入れようとしたことはある。

味方には能力を使わないという鉄則の起きてを己につけ、今までずっとそれを守ってきた。

旧スクールに所属していた時もそうしたが、結局は誰もチームワークを作るわけでもなく全滅してしまった。

あの時の事を反省しているとも思えない。

現に今、心理定規はアレイスターとの直接交渉権を獲得するために、表面上は雲川と貝積に全面協力しているが、いつか裏をかいて彼女らを支配しようと画賛している。

ため息を一つ吐き、心理定規はもう一度、窓から外の光景を眺めて考えをまとめる。
246 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/08(金) 18:13:23.84 ID:nhlMcgYI0
削板の言うとおり、自分は闇に染まり切ることに迷い、怯えている。

自分は闇の中で生きる術しか知らず、だが同時に他人を欲している。

己の人生でこれまでずっと悩んでいたことだが、とうとうケリをつける時が来たのだろう。

今の新しいスクールなら、きっと真の仲間になることもでき、心理定規の最終ゴールにたどり着けるような気がする。

そう考えをまとめた時、心理定規のなかにとあるアイディアが浮かんだ。

雲川の裏をかくのではなく、正面から彼女と交渉し、正々堂々とアレイスターと対面する。

心理定規はパソコンを起動し、計画書を作成し始める。

タイトルは「スクール計画」
247 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/08(金) 18:16:13.38 ID:nhlMcgYI0
心理定規が再び起きたのは時刻が午前7時を回った時だった。

外の雲行きは怪しく、灰色の空が広がっている。

テーブルの上に置いていた電子デバイスが点滅しており、メールを着信していることを示している。

心理定規はベッドに寝転んだままそのデバイスを手に取る。

昨日、厳密にいえば今日の真夜中に計画を練っていたので睡眠不足ではあるのだが、恐らく任務の通達だろうと推測し、心理定規は
重い瞼をこすってどうにかメールの内容を読む。

メールの差出人は、匿名となっている。

メールの内容も空白になっているが、心理定規はその空白のメールのある空間をクリックする。

すると、隠しリンクへと繋がり、パスワードを入力すると空白だった空間に文字が現れる。

雲川がいつも心理定規に任務の内容を送る際に使う方法だ。

だが、今回の任務内容はいつもより短い文章で綴られている。

『今日の夜、20時に打ち止めへの対処を』
248 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/08(金) 18:18:23.88 ID:nhlMcgYI0
今日はここまで。
待っていてくれたと聞けてとても嬉しいです、励みになります。

心理定規がウジウジする描写が少し長めになったけれど、最後に向けて頑張ります。
249 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/08(金) 18:31:36.95 ID:W+cazQtDO
乙!
250 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/08(金) 19:14:58.32 ID:c+xM0t3eo
俺は続きを待っている
そしてこれからも続きを待つ
根性のあるゴールが、きっとそこにあるからな
251 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2012/06/08(金) 19:25:52.15 ID:Jh22e1VY0
俺の乙に常識は通用しねえ
252 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/08(金) 19:36:32.49 ID:4F+6PgAWo
心理定規がここまで可愛い(萌え的な意味でなく)SSがあったか?

253 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/06/11(月) 19:01:05.40 ID:p8ddoTvw0
ただいま。
応援してくれている方、ありがとうございます。
根性でこの物語を書ききってやりたいです。
僕も書き始めた当初はここまで心理定規に愛着が沸くとは思わなかった。

再開します。
254 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/11(月) 19:05:30.55 ID:p8ddoTvw0
依頼内容はそれだけで、添付されていたファイルにはターゲットである可愛らしい少女の写真が映されている。

そしてもう一つのファイルにはターゲットが使うであろう帰宅ルートが示されている。

だが、心理定規は今回の依頼内容に少しだけ違和感を抱く。

打ち止めへの対処を決定するのが早急すぎるのではないだろうか。

打ち止めやレディオノイズと呼ばれているクローン達に雲川は大きな借りがあると言っいたではないか。

さらには、いつもならもう少し詳しい指示をしたり、数日前から連絡をしてくれるはずなのだが、今回は当日に急な連絡を入れてきた。

恐らくターゲットを仕留めるのに一番適した日が今日この時間だということを雲川はさきほど知ったのだろう。

打ち止めへの対処も、垣根が相手となると手段を選んではいられないということなのだろう。

そう解釈し、心理定規はすぐに夜の任務の準備をする。

今回の暗殺任務は前回と違い、一人で実行することになる。

予想される一番最悪な状況は、ターゲットである打ち止めといつも一緒にいる学園都市第一位との対面だ。

迅速且つ的確に任務を遂行させる必要がある。

心理定規は躊躇いつつも、打ち止めの帰宅ルートを何度も確かめ、極秘任務の計画を練る。
255 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/11(月) 19:07:57.33 ID:p8ddoTvw0
曇り空が出来上がったのは昼頃に差し掛かった時だった。

ゴロゴロと重低音が空から響き、雲行きが怪しい空から水の滴が落ちてくる。

ステファニー「む、雨が降ってきたじゃないですか」

初春「うわ、本当ですね。最近は樹形図《ツリーダイアグラム》の予測が外れると聞きますが本当ですね」

実は樹形図が既に木っ端微塵状態となっているのだが、ステファニーはそれを初春に教えてあげられるはずもなく、「そうですね」と短く答える。

二人は今、第十五学区へと向かうべく、駅で電車が来るのを待っていたのだが、二人は電車を幾つか目の前で逃している。

それもこれも、心理定規に連絡が着くのを待っているからだ。

初春「うーん、やっぱり当日になって遊びに誘うのが無理な話しだったんでしょうか?」

ステファニー「そうですねぇ。でも、確か心理定規は今日オフのはずですが……」
256 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/11(月) 19:10:06.24 ID:p8ddoTvw0
初春がステファニーと心理定規に遊びの誘いを催促したメールを送ったのが今朝だ。

ステファニーは他人から、というよりも友達とでも呼べそうな知り合いから遊びの誘いをもらうのは初めてで、
しどろもどろになりつつも初春の誘いに応じた。

きっと心理定規も心の中では相当に喜びつつも平然を装って来るものだろうと思っていたのだが、結果は音信不通のままとなった。

とりあえず、しばらく駅で心理定規の返事を待っていようと思っていたのだが、とうとう雨が降り出してしまった。

説明できない不安が、ステファニーの心に渦巻く。

最近はステファニーにとって良い出来事がたくさん起きている。

スクール内でのメンバー同士の関係は良好と言えるだろうし、さらには砂皿の治療も順調に捗っており、回復の兆しが見えてきている。

確実に良い方向へと進展しているはずなのに、心理定規と連絡が取れないというだけで不安が募っていった。
257 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/11(月) 19:12:08.85 ID:p8ddoTvw0
初春「どうしましょう」

ステファニー「むぅ。最終手段として雲川さんに連絡してみる手がありますが」

初春「雲川さんも忙しいでしょうし、もう少し心理定規さんの返事を待ってみましょう」

ステファニー「そうですね」

二人は駅に備えられているベンチに腰掛け、雨を降らす空を見上げる。

初春「土砂降りになりそうですね」

ステファニー「……少し嫌な天気じゃないですか」
258 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/11(月) 19:15:15.55 ID:p8ddoTvw0
午後六時を周り、心理定規は雨が降る中、住宅街である第七学区で一日中待機していた。

情報では打ち止めは今日、第六学区にあるアミューズメントパークへと出かけたらしい。

帰宅ルートを計算し、待ち伏せに一番適した場所を探した結果、今心理定規がいる人気のない小さなトンネル内が最適な場所となった。

心理定規は真っ黒な雨ガッパに身を包み、トンネル内の暗闇に紛れてひっそりとターゲットが来るのを待ち構える。

その間、心理定規はこの任務に対しての躊躇いを感じていた。

闇から抜け出したいと思っている傍ら、この現状は一体なんなのだ。

今こうして実行しようとしていることは、初春や削板、そしてステファニーの気遣いへの裏切りにもなるのではないだろうか。

人の命を刈り取ることで効率よくゴールを目指すことを良しとする自分はやはり、根っからの暗部の住人だ。

こんな自分が足を洗うことなどできるのだろうか。

そう思い悩んでいると、遠くから足音が聞こえてきた。

打ち止め「今日は本当に楽しかったね!とミサカはミサカは素直に今日の感想を言ってみる!」

10歳前後の外見に水玉模様のワンピースを着た少女は隣に歩き、傘を差している男に笑顔を向けている。

暗殺の任務を請け負うのはこれで最後にしよう。

心理定規は心の中でつぶやいた。
259 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/11(月) 19:17:51.27 ID:p8ddoTvw0
打ち止めは帰路を隣にいる白髪の男、学園都市第一位にして最強の能力を持つ一方通行と共に歩いていた。

今日は打ち止めの我が儘を一方通行が受け入れ、第六学区にあるドリームランドという遊園地へと遊びに行った。

嫌がる一方通行に無理やりネズミの耳を着けさせ、「遠足は帰るまでが遠足! だからその耳を取るのは帰ってから!」と言い、
現在は恐怖の学園都市第一位に羞恥プレイを絶賛強要中だった。

当の一方通行は不服そうな顔をずっと浮かべ、黙々と杖を突いて歩き続ける。

打ち止め「また行きたいなぁ、ネズミー可愛かったなぁ、てミサカはミサカは今日の思い出に浸ってみる」

一方通行「ハァ? ワーストが入院中だからってよォ、調子に乗ってまた俺を連れ回すつもりかァ?」

打ち止め「イイじゃん!」

ひし、と一方通行の腰に腕を回す打ち止めのせいで危うくバランスを崩しかける一方通行。
260 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/11(月) 19:19:30.63 ID:p8ddoTvw0
その二人の様子を心理定規は遠くで眺めていた。

まずはあの第一位を打ち止めから引き離さなければ何も始まらない。

一方通行と一対一で戦って勝てる可能性など無いに等しい。

だが、任務を遂行するためにも、心理定規は既に手を打って置いた。

心理定規は一方通行と打ち止めが狭いトンネルの中に入ってきたのを見計らい、
二人が入ってきた反対方向からトンネルを抜け、両手をパンと鳴らす。

すると、トンネルのすぐ外で待機していた十名の能力者が、合図と共にトンネル内へと侵入していく。
261 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/11(月) 19:21:54.46 ID:p8ddoTvw0
心理定規が作戦を決行する数時間ほど前、ステファニーと初春はショッピングを済ませて帰り道を歩いていた。

初春「結局心理定規さんと連絡が取れませんでしたね」

少し残念そうに初春が言い、ステファニーは少し間を置いて頷く。

ステファニー「そう……ですね」

ステファニーが怪訝な顔をして頷いたのは心理定規が来ず残念がっているからではない。

心理定規と連絡が取れなかったことに対して強烈な不安感が生じているのだ。

本来、暗部として生きるのならば、連絡はいついかなる場合にもつかなければならない。

連絡がつかない状況というのは二つしかない。一つは任務中か、もう一つはその連絡先の主が命を落としているかのどちらかだ。

どちらの可能性にせよ、心理定規が何かしら黙って一人で行動している可能性が高い。

ステファニー「初春、私は雲川さんに連絡を取って確認します。貴方は削板に何か知っているか聞いてみてください」

初春「了解です」

ステファニーは初春から距離を取り、会話が向こうに聞こえないだろうと確認すると雲川に連絡入れる。
262 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/11(月) 19:24:00.22 ID:p8ddoTvw0
雲川『私だ。お前から連絡してくるのは珍しいな』

ステファニー「単刀直入に言います。心理定規は今どこで何をしているんですか?」

雲川『心理定規? 知らないな』

ステファニー「彼女と最後に連絡を取ったのは?」

雲川「昨日の打ち上げが終わった後一度も連絡していないけど。昨日の打ち上げが終わった後貝積と共に統括理事会議に出ていたんだ。
   今やっと会議が終わって帰っている途中だ。心理定規と連絡が着かないのか?』

ステファニー「えぇ。貴方ならこの意味、分かりますよね?」

しばらくの沈黙が訪れ、ステファニーは再び口を開く。

ステファニー「雲川さん、貴方が心理定規に前回の任務で極秘の追加任務を与えたのは知っています。今回もその類ですか?」
263 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/11(月) 19:27:34.04 ID:p8ddoTvw0
雲川『ほう……それは心理定規から聞いたのか?』

ステファニー「いえ、私の長年の勘を頼りに心理定規から聞き出しました」

雲川『ふむ。なら正直に言おう。確かに前回私はあいつにとある任務を与え、それをあいつは実行してくれた。
   そして今、似たような任務を依頼するか検討中……と言いたいけど、この手段は本当に他に手が打てない時以外使う気はない』

ステファニー「……それはつまり、心理定規にはまだ何も言い渡していないと?」

雲川『ブレインの名にかけて、と言わせてもらうけど』

ステファニー「その言葉、信じましょう。なら今度はまた別の疑問が浮かび上がります。心理定規と何故連絡がつかないのでしょう?」

電話越しから『ふむ』と返事がくると、雲川はしばらく間を開けたのち、もう一度返事をする。

雲川『喜べステファニー……今、貝積の屋敷の前に着いたけど、原因が分かりそうだ』

ステファニー「え?」

雲川『貝積の屋敷が奇襲を受けた痕跡がある』
264 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/11(月) 19:29:40.22 ID:p8ddoTvw0
貝積の屋敷にたどり着いた雲川はすぐに状況を調査するために迎電部隊を屋敷内の探索に当てた。

屋敷の護衛として配置されていた隊員達は全員倒されており、襲撃が確かにあったことをありありと見せている。

襲撃者は少人数だったらしく、ほとんどの隊員達がどこかからか放たれた狙撃で倒されていた。

幸いなことに貝積は会議に出ていたので襲撃されることはなかったが、敵の目的はどうやら貝積ではなかったらしい。

屋敷の奥の部屋へ行くと、そこには雲川と貝積が仕事で使う部屋が設置されている。

襲撃者は重点的にこの部屋を探っていたらしく、恐ろしいことに雲川のメールアカウントをハックしてとある電子メールを一通送った形跡があった。

その一文を読んだ雲川は珍しく悔しさを表情に現し、机を叩く。

雲川「やられた……おびき出されてしまったか、心理定規」
265 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/11(月) 19:32:56.95 ID:p8ddoTvw0
ステファニーと初春は、学園都市のあちこちに置かれたスクールの拠点にて装備を整えていると雲川から連絡が入った。

雲川から受けた報告に、ステファニーは背筋を凍らせる。

心理定規に送られたメッセージは襲撃者が放った偽りの指示。

おそらくは垣根か、その手先の仕業だ。

心理定規が前回の任務で極秘の依頼を受けていたことだけは伏せ、ステファニーは初春と削板に心理定規が敵の策略にハマり、
現在単独で偽の任務に当たっていると伝える。

初春は偽装任務のターゲットである打ち止めの帰宅ルートから心理定規が待ち伏せしているであろう候補を割り出す。

ステファニー「捜索するポジションを決めます。初春は待ち伏せ候補Aから候補Eまで、私は候補Fから候補Jまで、削板は候補Kから候補Mまでです」

削板『まてまて、なんで俺が一番探す所少ないんだ?』

無線越しから削板の不満な声が聞こえてくる。

ステファニー「当たり前じゃないですか。貴方はまだ傷が治っていない上に車椅子での移動だと遅いんだから」

削板『そんなもの根性でどうとでもなるだろう!』

ステファニー「ならその根性とやらでさっさと調べてきてください。心理定規を見つけ出したらすぐに報告。以上」
266 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/11(月) 19:34:57.12 ID:p8ddoTvw0
無理やり無線を切り、ステファニーは隣に立つ初春に視線を移す。

ステファニー「迎電部隊は屋敷の調査と貝積さんや雲川さんの護衛に回しました。
       初春、貴方にも心理定規の捜査をしてもらいますが、無茶をしないこと。
       心理定規を見つけたら私に報告すること、良いですね?」

初春「了解です!」

駆け足で初春は捜査へと向かい、ステファニーもまた心理定規の捜査にあたる。

ステファニー「心理定規、無事でいてください」
267 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/11(月) 19:39:30.42 ID:p8ddoTvw0
一方通行は打ち止めと共にトンネルに入り、その半ばまで歩くと、前方から十名ほどガラの悪い生徒らしき者が歩いてくる。

打ち止め「なんか、怖い人達が来たよ、とミサカはミサカは少し怯えながら言ってみる」

一方通行「はっ、いつまで経っても喧嘩を売ってくる奴ァ減らネェなァ?」

一方通行は左手で打ち止めを後ろに押しやり、目の前の不良達を睨む。

一方通行「そンで? 団体様でなんの用だ? ドリームランドなら今日はもォ閉店だ」

不良A「頭にネズミの耳つけてる奴が調子に乗ってるんじゃねぇよ!」

一番前に立っていた不良Aがそう言うや否や、彼から緑色の玉のような物が放たれる。

一方通行(あれは……)

能力を発動させようとしていた一方通行の手が止まる。

その瞬間、放たれた玉、チャフグレネードが派手な音を上げて四散する。

学園都市第一位である一方通行には弱点があった。昔、とある事件の後、一方通行は脳にダメージを負ってしまい、
能力の行使はおろか、まともに動くこともしゃべることもできなくなってしまった。

それを補うためにとあるネットワークの代理演算に助けてもらうことになっているのだが、こうして電子的妨害を
受けてしまうと能力が暴走してしまうリスクが生じ、一方通行はどうしても能力を使えなくなってしまう。

不良A「親切な人がお前の弱点を教えてくれてな! これでお前をボコボコにしてやれるよ!」

不良のうちの一人が手を地面に当てると、後ろに立っていた打ち止めと一方通行の間に黒い壁が地面から突き出す。

一方通行「三下にしてはやるじャねェか」

能力と退路を塞がれた一方通行はしかし、特に焦るわけでもなく、不良達を睨む。

一方通行「かかってこいよ」
268 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/11(月) 19:42:48.36 ID:p8ddoTvw0
心理定規は能力により操った不良達がトンネル内に入るのを確認した後、すぐに回り道をし、
一方通行と打ち止めが使ったトンネルの入口へと入る。

すると、ちょうど不良たちの一人が能力を使ってトンネル内に壁を作り、一方通行と打ち止めを離れさせたところだった。

それを確認すると、心理定規はゆっくりと打ち止めに向かって歩く。

心理定規に気づいた打ち止めは、何を思ったのか心理定規へと駆け寄ってくる。

打ち止め「助けてください! とミサカはミサカはあの人の心配と、あの人に喧嘩を売った人達の心配をしてみる!」

慌てた様子で打ち止めは何度も心理定規の雨ガッパを引っ張る。

心理定規「……」

しかし、心理定規は答えない代わりに懐からハンドガンを取り出した。

打ち止め「……え?」

何が起こっているのか分からなかった打ち止めが気の抜けた声を出す。
269 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/11(月) 19:44:12.69 ID:p8ddoTvw0
心理定規は一瞬のためらいの後、ハンドガンを持つ手を握り締める。

が、その瞬間、打ち止めの毛先から電撃が放たれた。

バチリと電撃が当たったハンドガンは弾き飛ばされ、心理定規は咄嗟に手を引っ込める。

打ち止め「っ!」

隙を見出した打ち止めは心理定規の横を走り抜け、トンネルを出る。

心理定規「ちっ!」

舌打ちをするのももどかしく、心理定規は急いで打ち止めを追う。

打ち止め「来ないで!」

トンネルから後少しで出るところで、打ち止めが再び電撃を放つ。

心理定規は急いで両腕を目の前に構え、電撃を正面から浴びる。

だが、電撃は心理定規を避けるかのように空中へと霧散した。

打ち止め「え?」

心理定規「ごめんなさい。電撃対策はしているの。ゴム製の雨ガッパよ」

打ち止めは攻撃が効かないと判断するや否や、再び走り出そうとする。

だが、10歳ほどの身長の子が、心理定規から逃げられるはずがなかった。

雨の中少しだけ走っただけですぐに後ろから心理定規に追いつかれ、地面にうつ伏せに倒される。
270 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/11(月) 19:47:10.10 ID:p8ddoTvw0
打ち止め「きゃ!」

心理定規は打ち止めの頭を後ろから地面へと押さえつけ、懐からスペアとして持っていたもう一丁の銃を取り出す。

倒された衝撃からか、打ち止めは気を失ってしまい、抵抗する気配がない。

心理定規「貴方に恨みはないのだけれど、これも垣根の行動を止めるためなの」

ハンドガンを打ち止めの頭部に当てた瞬間、打ち止めの無垢な表情が見えた。

後は引き金を引くだけ。

だが、指先に力を入れようとした瞬間、後方のトンネルが爆せた。

幾つものコンクリートの断片が巻き散らかされ、心理定規はしっかりと打ち止めを押さえつつ振り返る。

そこには、土煙に薄らと映るシルエットが一つあった。

その人影らしいシルエットの背中からは翼のような物が生えており、一度瞬きした時にはその翼の影は消え、人影のみが残る。

心理定規「あ、あれは……」

理解が追いついていないでいると、土煙が晴れ、そこから一人の男が杖をついて心理定規に向かって歩いてくる。

心理定規「一方通行」

一方通行はさきほど着けていた飾物の耳はどこかに吹き飛んでしまったらしく、それ以外に傷らしい傷は見当たらなかった。

一方通行「ふン、三下程度にあの力を使う気ィなかったんだがなァ」

ギロリと心理定規をにらみ、そして地面に押さえつけられた打ち止めに視線を移すと、一方通行はニヤリと笑う。

一方通行「ちょォど暗部の連中を叩きのめしに回ろォと思っていた所だァ」
271 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/11(月) 19:49:03.82 ID:p8ddoTvw0
ゆっくりと首に巻きついているチョーカーに指を触れさせ、スイッチを押す。

一方通行「久しぶりに頭に来たなァ」

呟き、手のひらに置いていた小石を指で弾く。

すると一方通行の能力であるベクトル操作が発動し、すさまじい勢いで小石が飛び、心理定規の右太ももに直撃する。

心理定規「ぐ、あ!」

あまりの勢いに心理定規は無理やり打ち止めから引き離され地面に転がる。

一方通行「じゃあな」

一方通行が片足で地面を一度踏みつける。
272 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/11(月) 19:51:11.72 ID:p8ddoTvw0
後ろで瓦礫の山となり果てたトンネルの一部が不自然に飛び上がる。

その瓦礫の一角が空中で大きく孤を描き、心理定規の真上へと迫る。

心理定規「く!」

急いで避けようと身を起こすが、さきほど負傷した右足から鋭い痛みが走り、心理定規の動きを鈍らせる。

間に合わない!

瓦礫に押しつぶされる覚悟をしたその時だった。

心理定規を守るかのように人影が飛び込み、白銀の一閃が瓦礫を走る。

落ちてきた瓦礫は真っ二つにされ、心理定規の左右へと落ちる。

心理定規の目の前に現れたのは、同じ金色の髪をひるがえし、己の背丈と同じかそれ以上の大きさの銃を携えていた少女だった。
273 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/11(月) 19:54:35.70 ID:p8ddoTvw0
心理定規「ステファニー」

ステファニー「まったく、貴方という人は……」

ステファニーは体を一方通行に向けたまま心理定規に肩越しに視線を送る。

ステファニー「今この瞬間理解しました。貴方は一人にしていると勝手に死んでしまいますね」

心理定規「どうして、来たの?」

すると、ステファニーはこれまで心理定規に見せたことのない笑顔を向ける。

ステファニー「何か重荷に感じていることがあれば言えと言っても貴方は一向に
       私に相談してくれそうにもないじゃないですか。だから私が勝手に貴方を助けることにしました」

一方通行に銃の剣先を向け、ステファニーは構える。

ステファニー「貴方がまた雲川さんの極秘任務でここに来たのは知ってますが、あれは敵の罠です」

心理定規「な、なんですって?」

ステファニー「貝積さんの屋敷が襲われました。その屋敷から貴方にメールを送ったのは
        恐らく貴方を貶めようとした垣根か、垣根の手先でしょう」

心理定規「く、ハメられた」

ぎり、と歯を食いしばる心理定規。
274 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/11(月) 19:57:27.03 ID:p8ddoTvw0
一方通行「もォ話し合いは終わりでいいかァ? 」

ステファニー「待ってください。私たちが襲ったのは謝ります。ですが、私たちも騙されてこのような事になってしまったんです。
        ここはまず戦闘を中断しませんか?」

一方通行「暗部の言うセリフじゃねェなァ。けどな、ガキを殺しにかかる奴を野放しにするほど俺は寛容じゃねェンだよ」

言うやいなや、再び一方通行の足が地を踏む。

ドゴン、と地響きが鳴り、後方に積まれていた瓦礫の山が一斉に宙を飛ぶ。

数え切れないほどの瓦礫がステファニーと心理定規へと降る。

完全に癒えていないステファニーの腕はまだ軽機関散弾銃の反動に耐え切れないでいた。

銃を撃つことができないステファニーはしかし、臆することなく瓦礫の山に向かって構える。
275 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/11(月) 19:59:58.56 ID:p8ddoTvw0
ステファニー「はぁ!」

気合と共にステファニーが銃を振り上げる。

最初に降ってきたコンクリート片を、ステファニーはさきほどのように銃の先端に装備された刃で横なぎに切り捨てる。

その後に降り注いでくるコンクリート片もまたステファニーは冷静に処理する。

動く左腕一本で縦横無尽に銃を剣のように振り回し、コンクリート片を切り、弾き、砕く。

心理定規とステファニーに襲いかかってくるコンクリート片のみを対処するが、
心理定規は一方通行が遠くから一気に接近してくるのが見えた。

心理定規「ステファニー! 来るわよ!」

襲ってきた瓦礫を全て撃ち落としたステファニーは咄嗟に地面を抉るように銃を振り上げる。

すると、剣先に触れた地面が砕かれ、切り上げられたアスファルトが一方通行の進路を塞ぐように浮く。

が、そんな物など障害にすらならず、逆に一方通行の能力がアスファルトをはじき飛ばし、ステファニーへと弾丸のように飛ぶ。
276 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/11(月) 20:01:16.44 ID:p8ddoTvw0
ステファニー「ちっ!」

対処が裏目に出たステファニーは銃を盾にして己の身を守る。

が、一瞬だけステファニーの動きを止めた隙を狙らわれ、急接近した一方通行の右腕がステファニーの銃を触れる。

途端、一方通行のベクトル操作能力がステファニーの銃の中を駆け巡り、一瞬にして銃が分解されてしまう。

一方通行「さァ、今度はお前がバラバラになる番だ」

悪魔の手がステファニーの頭部へと伸びる。

銃が分解され、仰け反っていたステファニーにそれをかわせるはずがなかった。

一方通行の手がステファニーの毛先に触れた時、ステファニーの真横から心理定規が飛び込んだ。

心理定規はステファニーの横っ腹へと飛び込み、一方通行の腕から逃れる。

心理定規がステファニーの上を覆いかぶさるように地面へと倒れこみ、その二人を一方通行が見下ろす。
277 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/11(月) 20:03:01.86 ID:p8ddoTvw0
一方通行「は、涙ぐましい事この上ねェなァ」

もう能力を行使する必要もないと判断した一方通行はチョーカーのボタンを押し、能力発動モードを切る。

そして腰に吊っていたハンドガンを取り出し、照準を二人に合わせる。

心理定規「一方通行! 殺るなら私にしなさい! この子は関係ない!」

ステファニー「な、何を言ってるんですか!」

だが一方通行は聞く耳持たず、冷酷に二人を見下ろす。

一方通行「安心しろ、二人とも仲良く送って――」

と、言葉を言い終えることもなく、異変が起こった。

ひゅん、と風を切る音が突如として鳴った。

三人ともその音の正体が分からず、一瞬だけ間が空くが、最初に事態の急変に気づいたのは一方通行だった。
278 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/11(月) 20:05:58.67 ID:p8ddoTvw0
一方通行「く! チョーカーを!」

その光景に、心理定規とステファニーは目を疑った。

風を切り裂いた正体は恐らく銃の弾丸。

そしてその弾丸が打ち抜いたのは、一方通行の首に巻きついているチョーカーのベルトだった。

あと数センチズレていれば一方通行の首に直撃していたはずなのだが、信じられないことに弾丸は
狙いすまされたかのようにチョーカーのベルトのみを切ったのだ。

重力に従い、一方通行の首元から離れたチョーカーのコードを、さらにもう一発の弾丸が飛来し、千切り、アスファルトの道に埋まる。

一方通行「な、いぇ、お………あ」

チョーカーが地面に落ちると同時、一方通行もまた地面の上へと転がる。

チョーカーを利用し、御坂ネットワークの代理演算を使ってやっとまともに動くことのできる一方通行だが、
チョーカーを無理やり剥がされ、ネットワークとの接続を遮断されてしまった今では、もはや立ち上がることもしゃべることもできない。
279 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/11(月) 20:08:44.98 ID:p8ddoTvw0
心理定規「な、一体何が……」

万事休すと思われていた状況が一変し、今目の前に
一方通行が倒れていることに心理定規は信じられないという表情を浮かべていた。

心理定規「ステファニー、これは……ステファニー?」

同じように驚いていたステファニーだが、心理定規は彼女が別のことで驚いていることに気づく。

ステファニー「この精密な狙撃、それも二発とも当てるなんて……まさか」

ステファニーは狙撃が行われたであろう遥か遠くを見ていた。

そこにあるのは闇へと続く一本の道しかなかった。

しかし、その闇の向こうからコツ、コツ、と足音がゆっくりと近づいてくる。

足音が大きくなるにつれ、近づいてくる者の姿が見えてくる。

そのいかつい男は迷彩色のジャケットとジーンズを着ており、肩に一丁の長い銃を担いでいた。
280 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/11(月) 20:10:37.23 ID:p8ddoTvw0
ステファニー「す、砂皿……さん?」

その言葉に心理定規はこの状況の異常性に気づく。

学園都市の外で未だ治療を受けているはずの砂皿がここにいるのは驚愕だが、仮に治療が早く終わり、
ステファニーを探しに来たにしても、こんなにもタイミングよく助けに入れるはずがない。

長いこと暗部から離れていた砂皿が己の力のみで暗部の情報を調べる術がないからだ。

さらには、砂皿は学園都市外の武器を持ってきたらしいが、武器を学園都市に持ち込むとなると学園都市内部からの手引きが必要となる。

つまりは、砂皿は学園都市の内部から依頼を受けてこの場に来た可能性が大きい。
281 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/11(月) 20:13:26.51 ID:p8ddoTvw0
ステファニー「砂皿さん!」

ステファニーは目に涙を浮かべて砂皿の名を呼ぶ。

感動の再開であるはずなのに、砂皿は一度ステファニーを見ると、頭を横に振った。

砂皿「そういうことか……俺もハメられたというわけだ」

無表情の砂皿に、ステファニーは首を傾げてしまう。

だが、砂皿は構わず上空を見上げる。

砂皿「垣根! 目標は沈黙させたぞ!」

砂皿が虚空に向かいそう呼ぶと、夜空の一点から赤い閃光が一筋地表へと降りてきた。

轟、と風が鳴り、心理定規とステファニーはそれだけで吹き飛ばされそうになる。

二人の前に降り立ったのは、やはり赤い冷蔵庫に身を包んだ垣根であった。
282 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/11(月) 20:15:25.07 ID:p8ddoTvw0
垣根「よう、一方通行、無様だな」

垣根は心理定規とステファニーを見ることもなく、地面に倒れる一方通行を見下ろす。

一方通行「か、ィ……きィ、ぐ……ねェ!」

一方通行は赤い瞳を一杯に見開き、垣根を睨む。

ステファニーはすぐにでも垣根に対処すべく一歩前に出る。

が、その瞬間、一発の弾丸がステファニーの足元を通る。

ステファニー「な、砂皿さん!?」

砂皿「ステファニー、お前なら分かっているだろう。俺は垣根に雇われてここにいる。
    雇い主の邪魔となるならばお前とも戦うことになる」

ステファニー「何がどうなってるんですか!? 砂皿さんはまだ治療中のはずですよ! 
        それがどうしてまた垣根に雇われてここにいるんですか!?」

砂皿「……言えることは一つだけだ。プロの傭兵は一度雇われればたとえ身内が敵に回ろうとも任務をまっとうする」
283 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/11(月) 20:18:08.52 ID:p8ddoTvw0
「そんな」とステファニーは声を漏らすが、砂皿は地面に倒れる一方通行を拾い上げる。

心理定規「垣根! 貴方の目的はなんなの!」

垣根「はは、俺の罠にかかって流石に頭にきてるといったところか」

そう言いつつ、垣根は少し遠くで倒れている打ち止めへと歩み寄る。

垣根は体の冷蔵庫の扉を開くと、その中に打ち止めを放り込む。

バタンと扉を閉め、打ち止めを取り込んだ垣根は満足そうな笑みを浮かべる。

垣根「以前の暗部抗争の時、俺は自分自身をファーストプランにすべく一方通行を始末しようとした。
    けどな、今回は少し違うアプローチをするつもりだ」

心理定規「なんですって?」

垣根「そのためにもこの打ち止めと一方通行を生け捕りにする必要があったが、お前達のおかげでスムーズに事が運んだ。礼を言うぜ」
284 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/11(月) 20:21:38.34 ID:p8ddoTvw0
すると、垣根が一瞬にして消えると、ステファニーと心理定規の目の前に現れる。

心理定規「く!」

心理定規は咄嗟に銀色の小さな箱を取り出し、中にある体晶を使おうとする。

が、垣根は体晶を取ろうとした心理定規の腕を握り、背中から片翼だけ発生させ、ステファニーを遠くへと飛ばす。

ステファニー「が!」

心理定規「ステファニー!」

ステファニーの元へ駆け寄ろうとするが、心理定規の腕を握った垣根の手がそれを阻止する。

垣根「はは、そう慌てるな。昔の好みだ。お前には特等席を設けて俺の作戦の観戦者になってもらおう」

怪しく笑う垣根が心理定規の腹に振り上げた拳を深々と埋め込ませる。

心理定規「ぐ、ふ」

意識を刈り取られた心理定規はその場で倒れそうになるが、垣根がそれを受け止め、肩に担ぐ。
285 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/11(月) 20:28:45.75 ID:p8ddoTvw0
ステファニー「な、何をするつもりです!」

濡れた地面から起き上がったステファニーは慌てて垣根に挑みかかろうとする。

垣根「うるせぇな」

ステファニーを一瞥し、攻撃すべく片翼を振り上げるが、いつの間にか垣根の前に割り込んだ砂皿がそれを止める。

砂皿「これ以上居住区で騒ぎを起こすわけにはいかない。引くべきだ」

垣根「……それもそうか」

興が冷めたらしい垣根はもう一つの翼を生やし、宙を浮く。

砂皿は最後にステファニーへと視線を送る。

砂皿「ステファニー、俺はこの通り全快した。垣根の計画が終了すると同時にまた学園都市の外で傭兵を続ける予定だ。
    だからお前も今すぐ学園都市から離れろ。俺が復帰したからにはお前がここにいる理由はない。
    それに、これ以上お前にできることは何もない」

ステファニー「そん、な」

砂皿は一方通行を担いだまま、空いた手で垣根の足に捕まると、垣根が一気に空高く飛んだ。

ステファニー「ま、待ちなさい! 待って!」

ステファニーの叫びも虚しく、垣根と砂皿は一方通行、打ち止め、そして心理定規を拐って星一つ見えない空へと消えていった。

ステファニー「心理定規! 砂皿さん!」

その場に残ったのは、悔しさと悲しさに涙を浮かべるステファニーと、彼女の体に容赦なく降り注ぐ雨だけだった。
286 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/11(月) 20:35:05.26 ID:p8ddoTvw0
というわけで今日はここまで。
読んでくれている方、ありがとうございます。
これで終盤に入ったはず。
最後まで書くぞ〜、根性〜
287 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/11(月) 20:36:13.22 ID:wIjyJtJCo
>垣根は体の冷蔵庫の扉を開くと、その中に打ち止めを放り込む。

シリアス場面でスッと爆笑の渦を起こすなwwwwww
乙wwwwww
288 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/11(月) 20:38:48.66 ID:yUbWQOYDO
乙!

>>287
吹いたのが俺だけじゃなくてよかった
289 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/06/11(月) 20:50:03.34 ID:g80tkZpmo
乙ー頑張れ
290 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/11(月) 20:56:19.60 ID:p8ddoTvw0
ありがとうございます。
打ち止めの置き場所がうまく想像できなくて、
とりあえずスペースが豊富そうな垣根の冷蔵庫を使わせてもらったんだ……
291 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/11(月) 23:46:41.85 ID:A9yrjSUzo
打ち止め「うわぁ・・・ていとくさんの中・・すごくつめたいナリ・・・ってミサカはミサカは・・・」
292 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/06/12(火) 18:08:00.51 ID:iOiZMW+so
スイッチ入ってる一方通行のチョーカーベルトに銃弾当てるのムリじゃね?どうやって当てたの?説明ぷりぃーず
293 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/13(水) 17:22:43.18 ID:a7Rhful70
ども、>>1です。質問に答えるためにちょっと帰ってきました。

>>292
一応>>277にて、
もう能力を行使する必要もないと判断した一方通行はチョーカーのボタンを押し、能力発動モードを切る。
と書いてます。この時能力を発動させてないから切れるんじゃね? という感じですね。分かりにくくてごめんさい。
まぁ、それにしても銃弾でベルトを切るなんて神業できるんかいという話しですが……

明日うpしに戻れるよう頑張ります。

>>291
紳士な垣根さんなら温度調節をしてくれるはず、多分
294 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/27(水) 08:35:35.40 ID:deD5fVyDO
私待ーつーわ
295 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/27(水) 23:25:48.81 ID:DvfXLLfjo
いつーまでーも待ーつーわ
296 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2012/07/02(月) 11:50:40.79 ID:y86evMK80
超待ってますよ
297 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2012/07/02(月) 17:36:20.82 ID:hZXHUHhd0
///
298 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/11(水) 20:32:39.27 ID:R4U5CUh20
た、ただいま。
明日帰ってくるから!と言って一カ月、すみません。
本当に少しだけで申し訳ないですが、更新させていただきます。

待っていてくれた方々ありがとうございます。
299 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/11(水) 20:35:20.80 ID:R4U5CUh20
心理定規が連れ去られて数十分後、初春と削板が駆けつけてくれた。

だが、ステファニーはそこから貝積の屋敷までどうやって戻ったのかあまり覚えていない。

屋敷は想像以上に荒らされており、窓は所々割れ、壁には血の後が幾つも残っている。

窓のある廊下に置かれた家具は銃弾を受けて損傷しており、穴だらけとなっている。

ステファニー、初春、そして削板は貝積の屋敷の奥にある作業部屋にて雲川と貝積に今回の事を説明していた。

ステファニーは部屋の真ん中にあるソファに座り、彼女を囲むように皆が椅子やテーブルに座っている。

ステファニー「あの場所で起こったことはこれで全てです……」

頭は終始ぼうっとしていたが、ステファニーはどうにか事の顛末を言い終えた。

さらには初春と削板に心理定規がこれまで何をしてきたのかも説明せざるを得なかった。

なぜ心理定規があの雨の中一人でレベル5の連れを襲ったのか隠しだてする方法などない。
300 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/11(水) 20:39:09.28 ID:R4U5CUh20
削板と初春は心理定規が潮岸の暗殺を成功したのをはじめ、彼女がさらに幼い子供にまで手をかけようとしたことを聞かされ、ショックを隠せないでいた。

初春はとうとう静かに泣き出し、削板は何かを堪えるかのように拳を固く握る。

削板「悔しいな。俺は心理定規の仲間になれていたと思っていたんだけどな……相談すらされなかったか」

しばらくの沈黙が続くが、削板が雲川の目の前まで歩み寄ることで場に緊張が走る。

本棚に背をもたれさせた雲川の前に立った削板が、彼女の後ろの棚に向かって拳を突き立てる。

雲川の顔のすぐ真横を拳が通り過ぎたというのに雲川は涼しい顔をしていた。

削板「……俺は、この組織……スクールを気に入ってたんだ。闇に浸かりきった心理定規が初春に影響されて少しずつ変わっていって、
   その影響でステファニーまで変わり始めて……なのに、お前は心理定規を闇に引きずり戻すようなことをしたってのか」
301 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/11(水) 20:41:28.81 ID:R4U5CUh20
雲川「このスクールという組織はあくまで原石達を守るため、そして学園都市のために作られた暗部だ、社会復帰を手助けするための場所ではない。
    闇の中に存在し、原石や学園都市のために動く。それがお前達だ」

削板「だとしても、潮岸の命を奪う必要はあったのか?」

雲川「潮岸は捕まったところでいくらでも牢から出る方法はある。原石達を守る要である貝積を狙った潮岸を野放しにするわけにもいかなかった」

削板「だから人の命を刈り取るのも良しというのか?」

雲川「結果的に脅威を一つ潰すことができた」

削板「てめぇ!」

怒りで能力が少しだけ発動してしまい、雲川のすぐ後ろの本棚が揺れる。

このままでは削板が暴走してしまうのではないかと、初春が止めに入ろうとする。

が、その前に、貝積が削板の隣に歩み、彼の肩に手を置く。

貝積「すまない削板君。これは私の落ち度だ。私の脳として動いている雲川の独断に私が気づくことができなかった」

貝積は削板に対面すると頭を下げた。

削板「貝積さん……」

貝積は削板にとっては世界中の原石を守ってくれた恩人だ。

その恩人に頭を下げられると、さすがの削板も参ってしまう。
302 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/11(水) 20:45:30.54 ID:R4U5CUh20
貝積「雲川、私のためにお前があんな手段に及んだのは理解した。だが、何かしらの処罰を下さざるを得ない」

雲川「貝積、やっぱりお前は甘い男だよ。私を容赦なく解雇しない所が特にな」

削板「……」

押し黙ってしまった削板は何かを言いたげだったが意を決したかのように部屋を出ようとする。

雲川「どこに行く気だ?」

削板「決まっているだろ、心理定規を探しに行く」

雲川「当てもないのにか?」 

削板「だったらどこかで人助けの一つでもやってるさ、ここにいても胸糞悪いだけだ」

雲川「貝積や私の指示なしにスクールは行動してはいけないはずだけど?」

削板「今のお前にそんな権限ないだろ。それに、貝積さんには悪いが聞く耳持たねぇな」

初春「ま、待ってください削板さん!」

初春の静止を聞かず、削板は一人部屋を出て行ってしまった。
303 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/11(水) 20:47:56.24 ID:R4U5CUh20
削板がいなくなり、場に再び沈黙が流れる。

貝積は少しだけ間をとり、口を開く。

貝積「もはやこんな状況になってしまっては私が直接指揮を取る必要があるだろうが……
   初春君、ステファニー君、君たちはどうするかな?」

初春「どうする、というと?」

貝積「君達はスクールに所属し続け、我々に協力してくれるか、という意味だよ。我々は秘密を抱えていた、特に初春君と削板君に対してだ。
   これ以上我々を信用できず、我々とスクールから離れるというなら私はそれを止めないし咎めない」

初春「……」

初春の内心にはこのスクールへの不満と不信は存分に存在した。

学園都市のためとはいえ、人の命と引き換えに成果を得ていることにたいして、風紀員として、
さらには人としてそれを正義だと認めるわけにはいかなかった。

だが、それと同時に、スクールに対する愛着は多いにある。

構成員達と共に潜り抜けた死線と、その時に抱いた仲間との絆が初春にとって簡単に切り捨てられるものではないと思っている。

初春「考えさせてください」
304 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/11(水) 20:51:32.51 ID:R4U5CUh20
貝積「そうか、分かった。ステファニー君、君はどうする?」

これまでずっと沈黙を守っていたステファニーは虚ろな目で貝積の質問に答える。

ステファニー「……無駄ですよ、これ以上垣根に対抗しても意味はない」

貝積「何?」

ステファニー「奴は恐らく一方通行を何らかの方法で操る気でいる。もしそれが可能ならば、向こうの戦力は二人の
        レベル5と残り少ないだろう猟犬部隊、そして砂皿さん。勝てるはずがないじゃないですか」

無気力な表情を浮かべ、ステファニーは続ける。

ステファニー「私、何のために戦ってたのか分からなくなってきたんですよ。理解し合えてきたと思った心理定規を
       助けることができず、結局は一人で突っ走らせてあんな目に合わせてしまった。そして砂皿さんを助けるためにスクールに
       入ったはずなのに、結局砂皿さんは敵に回ってしまった。挙句の果てには私の事を良く知っている砂皿さんに
       私に出来ることは何もないと断言されてしまった。もう、一体私は何をした良いのか分からないんですよ」
305 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/11(水) 21:05:46.32 ID:R4U5CUh20
苛立たしげに立ち上がったステファニーは雲川や貝積に一度も振り返ることなく部屋を後にしてしまった。

初春「す、ステファニーさん! 待ってください!」

慌てる初春は急いで席を離れるとステファニーの後を追って退室した。

部屋に貝積と雲川だけが残り、何度目かの重い空気が流れる。

貝積「組織はバラバラだな。これは想定内なのかな、雲川?」

雲川「認めよう、垣根にしてやられたよ。潮岸を秘密裏に処分したのが裏目に出た」

貝積「まったく反省しているようには見えんな」

雲川「しているけど。私はスクールのことを、思いのままに動かせる便利な闇の住人だと思っていた。
    けれどそれは違ったということ」

本当に反省と後悔をしているのだろう、雲川はため息をつき、天井を見上げる。

雲川「私はスクールをただの道具としか思っていなかった。結果、私の意見だけではスクールは動かなくなってしまった。
    だが、心理定規は違った。あいつはスクール全員を正面から接し、本当の意味で仲間の信頼を勝ち取ってきた。
    スクールは闇の住人の巣窟だった。けれど、数々の任務の中、泥まみれの世界から脱出しようと抗う集団へと変貌した」

貝積「彼らの力量を測りきれなかったと?」

雲川「その通りだけど」

貝積「なら、どうするつもりだ?」

雲川「私の使命はお前の脳になること、そしてお前の使命は原石を守り、学園都市を守ること。だとしたら、今できることは
    垣根の計画を暴き、阻止することだ。そのためにも……心理定規を救出するさ。
    だが、武力を持たない我々はスクールに頼らざるを得ない。彼女らの信頼を失った今、
    初春達が我々の所に戻ってくるのを待つ他ない。そして彼女達が戻って来た時は、私は本当の意味で彼女らの力になろうと思うけど」
306 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/11(水) 21:09:24.00 ID:R4U5CUh20
今日はここまでです。
パソコンがダメになって、しばらく賢者にでもなったかのように悟りを開いていました。
けれど、待っているという温かいコメントをいただいてもう一度書きなおそうと決めました。
ペースは遅いでしょうが、がんばります。読んでくれている方本当にありがとうございます。
307 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/11(水) 21:18:19.18 ID:PdeeB0TDO
乙!

待ってるんだよ!
308 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/11(水) 22:35:47.53 ID:aPAATll7o


やっぱりより強固な絆を築くためには、こういう風に一度ばらばらにならんとね
たぶん一番盛り上がるだろう仲直りのシーンが楽しみです
309 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/12(木) 18:18:33.91 ID:G26+bC4m0
ただいま。
仲間がバラバラになるシーンってどの作品で見てもいつも鬱々としてしまう。

今回はほとんど説明回になると思いますがご容赦を。
ではでは再開します。
310 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/12(木) 18:22:38.79 ID:G26+bC4m0
初春はステファニーを追って屋敷の外を出たが、結局はステファニーに追いつけなかった。

外は未だ雨が降っており、今の状況をまるで暗示させているようだった。

初春(もう、どうして良いか分からない。心理定規さんは己の目的のためにスクールを立ち上げ、私たちをチームに入れた。
   人道から外れるような手を使ってでも学園都市に貢献しようとしたあの人を正義だとは私は思わない。
   けれど、だとしたらあの人が私達に向けていた信頼や気遣いは嘘だったの? 私は心理定規さんが私に向けていた
   純粋なあの眼差しを信じたい。)

初春の脳裏に潮岸の屋敷にて心理定規と話した時の場面がフラッシュバックする。

心理定規は初春の普段のとりとめのない生活にいちいち驚き、笑い、そして羨んでいた。

初春(確かめなきゃ)

初春は頷き、雨が降る中、一人心理定規が借りているアパートへと一人向かった。
311 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/12(木) 18:25:55.18 ID:G26+bC4m0
心理定規の部屋へ入るのはさほど難しいことではなかった。

その気になれば初春のハッキング能力で入ることは可能だ。

だが、初春はその手を使う気は毛頭なかった。

代わりに、行方不明となった心理定規の部屋に手掛かりがないか探しに来たとアパートの管理人に説明し、鍵を受け取ることができた。

何も汚い手を使わなければ叶わない願いなどない。まさに今初春が正規の手続きで心理定規の部屋に入れたのが良い証拠だ。

初春はこのセリフを心理定規に言ってやった時の事を思い出す。一昨日皆で打ち上げをしたあの日の帰りだ。

あの時心理定規は神妙な表情をしていたが、初春の願いがうまく伝わったのかどうか今では知る術はない。

心理定規の部屋に入った初春は一通り部屋を見渡し、ベッドの近くに置かれていたパソコンに目を落とす。

電源はつけっ放しにされており、何かのドキュメントが開いていた。
312 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/12(木) 18:27:52.80 ID:G26+bC4m0
おそらく雲川からの任務を受け取ってすぐに出かけたまま電源を入れっぱなしにしたのだろう。

初春はそのパソコンの画面に目を落とし、とあるデータに気づく。

初春「『スクール計画』?」

そのデータを開き、しばらくの間それに目を通す。

初春はそのデータに目を通していくにつれ、眉を潜め、そして読み終えると両手を胸の前に祈るように組む。

初春「心理定規さん……貴方は確かに変わろうとしていたんですね」

無駄じゃなかった、確かに私の言葉は心理定規さんに届いていたんだ。

心理定規が悩んだ末にたどり着いた答えの結晶を目の当たりにし、初春は大きく頷く。

伝えよう、削板とステファニーに心理定規の真意を。

そして答えよう、心理定規が自分たちに寄せてくれた信頼に。
313 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/12(木) 18:30:26.89 ID:G26+bC4m0
暗く冷たい部屋にて心理定規は意識を取り戻した。

打ち捨てられた留置場にでもいるのだろうか、鉄格子が設置されている部屋の中央に心理定規は両手両足を拘束されて椅子に座らされていた。

暗さに視界が慣れ、心理定規は部屋に居るもう一人の存在に気づく。

赤く四角い冷蔵庫のシルエット、その側面からは腕が飛び出ており、同じように底からは両足があり、そして上部からは頭が突き出ている。

心理定規「……垣根」

垣根「よう、目を覚ましたか」

垣根は心理定規の前まで歩み寄り、迎え側に置いていた椅子に座る。

心理定規「ここは?」

垣根「おや? 見覚えがないのか? お前はここを知っているはずだぞ?」

焦らすかのように垣根は椅子に縛られた心理定規を見下ろす。

心理定規は鉄格子越しに見える部屋の外の様子をうかがう。
314 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/12(木) 18:32:31.69 ID:G26+bC4m0
円形上のドームになっているらしく、外周には幾つもの鉄格子付きの部屋が並んでいる。

中央には人一人が入れるようなカプセルがいくつも設置されており、一つずつにモニター画面が隣に置かれている。

建物の構造は、以前潮岸を暗殺へと追い込んだあの研究所にどこか似ているが、それよりもこの場所に心理定規は見覚えがあった。

脳裏に幼い頃の記憶が蘇り、以前この施設を歩いていた事を思い出す。

能力にまだ目覚めておらず、日ごとに課せられる任務をどう全うしようか必死だったあの頃を。

心理定規は瞳を震わせ、のど奥からどうにか声を発し、この施設の名を言う。

心理定規「ここは……まさか、特例能力者多重調整技術研究所」

動揺する心理定規を見て満足したのか、垣根はふん、と鼻息一つ出し頷く。

垣根「その通りだ。ここは以前、俺とお前を闇に引きずりこんだ『プロデュース』の連中が使っていた施設の一つ。
    そして、一方通行が九歳までぶち込まれていた所でもあるな」
315 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/12(木) 18:37:37.81 ID:G26+bC4m0
心理定規はしばらくの間放心してしまった。

戻ってきたというのか、幼いころに連れてこられた、闇の入り口となったあの場所に。

何度も夢で出て来た悪魔の施設を前にして心理定規は不安にかられる。

だが、今はそんなことを気にしている場合ではなかった。

心理定規が今できることはなるべく多くの情報を垣根から聞くことだからだ。

心理定規「目的はなに? 貴方はここで何をする気なの?」

垣根「今も昔も変わらないさ。俺の目的はただ一つ、アレイスタークロウリーとの直接交渉権だ」

途端、垣根は右手を己の額に当て、くくく、と笑いだす。

垣根「やっとだ、やっとここまで来た。暗部抗争以来俺の計画に邪魔が入って、結果こんな体になっちまった」

握りこぶしを作り、垣根はそれを己の前に突き出す。

垣根「けどな! 俺は今度こそ絶対の策を練ってきた! 一方通行の完全掌握だ」
316 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/12(木) 18:41:41.80 ID:G26+bC4m0
垣根はかつて一方通行を第一位から引きずり落とすことで自らを学園都市のファーストプランにすることによりアレイスターとの交渉に出ようとした。

だが、一方通行に勝てないと判断したのだろう。今度の垣根の計画は一方通行を完全に支配下に置くことで学園都市との交渉を実行しようとしているのだ。

心理定規「あの学園都市一位の完全掌握? 不可能よ。あの第一位が他人の言うことを聞くはずがないわ」

垣根「奴の弱点を知らないお前じゃないだろ?」

そう言って垣根は自らの頭を指さす。

垣根「奴は脳に深刻なダメージを負い、体を動かすどころかまともにしゃべる事もできなくなった。
    それを改善するためにミサカネットワークに代理演算をしてもらうことでやっと体を動かすことが可能となっている」

垣根は椅子から立ち上がり、心理定規の周りをぐるぐると歩き始める。

垣根「なら、その一方通行に演算処理をしているミサカネットワークを掌握したとしたらどうする?
    ネットワークを利用して間接的に一方通行を肉体的に操作することが可能なんじゃないのか? と、俺は答えに至ったんだ」
317 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/12(木) 18:44:57.97 ID:G26+bC4m0
心理定規「そのために貴方はミサカネットワークの上級個体、打ち止めをさらったというの? 
      けれど、あんな幼い女の子を脅して一方通行を思い通りに動かすなんて骨が折れる話よね」

垣根「何もあの幼女を直接使う気はねぇよ」

そう言って垣根は己の冷蔵庫の扉を開き、小さなモニターデバイスを取り出し、何かしらの資料を開く。

垣根「この施設、特例能力者多重調整技術研究所は多重能力者を開発するために様々な実験を行った。結果は多重能力者の開発は不可能ということだった。
    けどな、こいつらの研究過程の中で面白い物を発見した」

そう言って垣根は小さなヘッドホンのような物を己の体から取り出した。

心理定規「まさか、学習装置≪テスタメント≫」

垣根「……の、改造版だな。学習装置ってのは本来脳に直接情報を書き込む装置だが、こいつは一時的に他人の脳波を己の脳に書き込むことが可能なんだよ」

心理定規「貴方まさか」

垣根「あぁ、そうさ。打ち止めの脳波を俺の脳に書き込み、ミサカネットワークの主導権を握る。それにより一方通行の体を自由に操る寸法だ」
318 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/12(木) 18:47:33.11 ID:G26+bC4m0
垣根は学習装置を耳に装着しつつ説明を続ける。

垣根「これを作るだけでも骨が折れた。潮岸に俺の計画を伝え、出資者となってもらい資金を手に入れた。機材集めと装置の開発段階に入ったが
    脳波のコピーと書き換え技術は学園都市側が禁じ手と認定して完全に封印されていた。そのために俺は潮岸の主催したパーティで出席者の中から
    クローン実験に関わっていた技術者を誘拐し、お前達が乱入してきたあの実験場で改造型学習装置の開発に成功した」

心理定規「そして一方通行と打ち止めを貴方は手に入れ、計画はほぼ完遂した……ということ?」

垣根「あぁ、ほぼ、な。良い物を見せてやる」

そう言うと、ずっと外で待機していたのか、二名の猟犬部隊の隊員が部屋の鉄格子の扉を開き、入ってくる。

その二人が抱えて持ってきたのは、一方通行だった。

一方通行の首にはチョーカーが装着されているが、使用を禁じているのか、一方通行は能力を発動させるどころかまともに歩くこともできそうになく
猟犬部隊二人に引きずられるような形で垣根の前に放られる。
垣根「は、無様だな、一方通行」
垣根はまるでごみでも見るかのように一方通行を見下ろす。
一方通行「いぃ、え、あ……があああ!」
319 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/12(木) 18:49:44.00 ID:G26+bC4m0
憎しみを込めた瞳で垣根をにらむ一方通行だが、まともに動くことができるはずもなく、ただ床でのたうち回る。

そんな一方通行から視線を外し、垣根は心理定規に目配せする。

見てろ、と呟き、垣根は耳に装着した改造型学習装置のスイッチを押す。

イイイィィィ、と機械音が鳴り、改造型学習装置が垣根の脳内に打ち止めの脳波を展開する。

垣根はゆっくりと瞳を閉じ、脳波の展開を待つ。

その時だった。

床に這いつくばっていた一方通行が、のたうち回った際に偶然にも手の一部が首のチョーカーのスイッチに触れ、能力発動モードへと意図せず移行する。

猟犬A「な、しま……」

すぐに抑えようと待機していた猟犬部隊が近付くが遅かった。

一方通行に触れた途端に壁へと吹き飛ばされ、その衝撃で心理定規も椅子から転げ落ちそうになる。

一方通行「垣根えええぇぇぇ!」
320 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/12(木) 18:52:11.81 ID:G26+bC4m0
怒号と共に一方通行が垣根に拳を振り上げる。

が、垣根はさほど慌てる様子もなく、ニヤリと笑う。

垣根「止まれ、と垣根は垣根は言ってみる」

打ち止めの脳波を展開し終え、垣根がボイスコマンドを発声する。

すると、一方通行はまるで何かに止められたかのように拳を振り上げたまま動かなくなる。

心理定規「な、こんなことって……」

信じられない光景だった。これはもはや、一方通行限定とはいえ、垣根は疑似的に精神系能力者と変わらない力を手に入れたことになる。

垣根は一方通行に「前ならえ」や「お手」と命令し、一方通行もその命令に従っていた。

その支配力はレベル4の精神系能力に迫る。

垣根「はっはっは! どうだ見たか! あの一方通行が俺に手も足も出せずにいるぞ! と垣根は垣根は喜んでみる!」
321 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/12(木) 18:55:30.72 ID:G26+bC4m0
一通り楽しんだ垣根は一方通行のチョーカーの電源を落とし、そして自分の改造型学習装置の電源もオフにする。

一方通行は糸の切れた人形のように床に倒れ、またしてものたうち回る。

垣根「まだ簡単な命令しか出せないが、それも打ち止めの脳波を完全にコピーし終えるまでの辛抱だ」

心理定規はそのセリフにぞっとした。

あの支配力がまだ上がるというのか。下手をすれば支配力がレベル5と変わらない威力になるのではないだろうか。

だが、心理定規はふと何かを思ったのか落ち着きを取り戻す。

心理定規「……これが、貴方が私に見せたかったものだというの?」

垣根「あぁそうだ。これで俺の計画が成就される」

垣根は自信ありげに言うが、心理定規はゆっくりと首を横に振る。

心理定規「それはどうかしらね」

垣根「何?」
322 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/12(木) 19:02:09.89 ID:G26+bC4m0
心理定規「他人を騙したり、人を陥れて何かを手に入れることなんて、大抵は失敗するものよ」

現に自分自身がそうだ。

これまでの人生で人を騙し続けて来た結果、今このような状況を招いてしまった。

心理定規は己に苦笑し、そしてふと、とある少女の言葉を思い出す。

心理定規「汚い手を使わなければ叶わない願いなどない、らしいわ」

噛みしめるようにそう言うが、垣根は態度を一切変えない。

垣根「心理定規、俺はお前が立て直した中途半端なスクールとは出来が違うんだよ。
    俺、砂皿、一方通行、猟犬部隊、そして逝っちまったが杉谷と潮岸、この『新生スクール』こそが
    アレイスターとの直接交渉権を手に入れる最初の組織であることを証明してやるよ」

垣根は壁に打ち付けられてボロボロの猟犬部隊に合図し、彼らが一方通行を外へと引きずるのを後ろからついていく。

部屋から出る際に、垣根はもう一度心理定規に振り向く。

垣根「お前はそこでゆっくりと見てるがいいさ」

重い鉄格子が部屋を閉ざし、心理定規は一人だけとなった空間で扉を睨む。

心理定規「垣根、仲間を信じてなどいない貴方が組織を保てるはずがない、以前も、今回も
      ……私のように」

最後の言葉は弱弱しくはき捨てるように言い放ち、心理定規はうなだれるように視線を床へ落とす。

心理定規「……みんな」

唇を噛み、心理定規は浮かびそうになった涙をぐっと堪える。

今更一人が心細いなどと、仲間に頼らなかった自分が言えるはずがない、と心の中で呟く。
323 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/12(木) 19:04:08.92 ID:G26+bC4m0
今日はここまで。
最終ステージはすぐそこのはずなんだけど、実際書くと長く感じますね。
読んでくれているかた、応援してくれているかた、最後までお付き合い願えるとうれしいです。
324 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/12(木) 19:09:09.89 ID:rbzWm9aDO
乙、と垣根は垣根は言ってみるぜ
325 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/12(木) 19:22:27.80 ID:fU7sfX9Io
シリアスなのに垣根は垣根はで笑わせるなよww
いや冷蔵庫ボディで今さらだけどさっ

326 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/12(木) 19:47:25.47 ID:9Zb+L+PNo
さだのりか
327 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/12(木) 23:18:22.55 ID:+uAvNAtn0
さだのりの名を出すな
見るだけでムカつく
328 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/22(日) 10:49:38.37 ID:iOuTXZoDO
待ってるよ
329 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/26(木) 02:25:58.71 ID:avFVRpZDO
シリアスな場面のハズなのに垣根を想像したらコメディになるような気がするのは俺だけか?

C
330 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/03(金) 17:14:15.04 ID:Hyxgfhdm0
ただいま。
待っててくれた方々ありがとうございます。
垣根はこの物語の敵にしてギャグ要員。

では再開します。
331 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/03(金) 17:15:54.73 ID:Hyxgfhdm0
初春は心理定規、ステファニー、そして削板の行方を探したが、いずれも見つけられずにいた。

初春の腕なら大抵の人物は監視カメラを駆使して見つけることができるが、今回は相手が悪すぎた。

心理定規の場合だと、垣根の徹底した情報操作が働き、見つけられないのに合点がいく。

ステファニーは長年暗部の世界で培ってきた技術を駆使しているのか、どの監視カメラにも映らない。

そして、削板の姿は度々カメラに映るが、その場所に移動したころにはすぐにどこかへと消えてしまっていた。

そのまま心理定規が連れ去られて三日が経ち、とうとう初春はステファニーの姿を捕えることができた。

場所は学園都市の出口近く、検問所あたりだ。
332 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/03(金) 17:18:57.58 ID:Hyxgfhdm0
学園都市の出口である検問所が少し遠くに見え、ステファニーはゆっくりとそこへと歩いていく。

この三日間ステファニーは学園都市の外へと出る準備をし、今後の予定を組んでいた。

もうここへ帰ることはない。

しばらくすれば依頼を終えた砂皿が来るだろうし、もうこの都市にとどまる必要もなくなったのだ。

ステファニーは少ない荷物を詰め込んだスーツケースを引きずり、歩みを進める。

すると、遠くから近付いてくる足音がステファニーの耳に届く。

初春「す、ステファニーさん!」

ステファニーが振り向くと、そこには息を切らした初春がいた。

ステファニー「初春……追って来たんですか?」

初春「当然です。ステファニーさん、お願いします、戻ってきてください」

ステファニー「あきらめてください。言ったじゃないですか、私にはもう戦う理由がないんですよ」

初春「心理定規さんを助けるだけじゃだめなんですか!」

ステファニー「不可能なんですよ。相手との戦力差が開きすぎている。それに、心理定規は元垣根の仲間です。悪いようにはされないでしょう」

ステファニーの冷めた一言に、初春は胸を痛める。

初春「ほ、本気で言ってるんですか?」
333 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/03(金) 17:26:52.11 ID:Hyxgfhdm0
ステファニー「元々心理定規は私に助けを呼ぼうともしなかった。私に対して彼女の信頼は無かったということじゃないですか
       大丈夫。向こうには砂皿さんもいるんですから捕虜への危害はきっと――」

と、ステファニーが言い終える前に初春の平手打ちがステファニーの頬に直撃する。

ステファニー「な……」

初春「ふざけないでください!」

初春「心理定規さんは私たちをずっと仲間だと思っていてくれたんですよ! 隠し事もされましたけど、それも全部私たちスクールを守るためです!
   それに気付いてない貴方じゃないでしょう!」

ステファニー「私は……私は心理定規に必要とされたかったんです! 頼られたかった!
        けれど、私は彼女の力にはなれなかった。結局、仲間と生きることなんて私にはできないんですよ」

思いの丈を叫び、ステファニーは自然と握りこぶしを作っていた。

意を決した初春はポケットからメモリデバイスを取り出し、それをステファニーに押しつける。

初春「この中にあるデータを見てください。そこに、心理定規さんの、スクールの今後の計画が書かれています。
   その計画には貴方も必要とされていますし、貴方を闇の世界から救いだそうとする心理定規さんの思いもあります」

ステファニー「え?」
334 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/03(金) 17:28:47.93 ID:Hyxgfhdm0
初春「心理定規さんは十分なほど、私たちに歩み寄ろうとしていたんです。今度は、私たちが答える番だとは思いませんか?」

ステファニーは渡されたメモリデバイスに目を落とし、ためらいがちに目を泳がせる。

ステファニー「わ、私……は」

初春「私は、一人でも心理定規さんを助けに行きます。貴方は、貴方が考えた上での行動をしてください」

待っている、そう言いたかったが、初春はその言葉を飲み込みステファニーに背を向ける。

己の師匠に立ち向かう覚悟を決められるのはステファニーの心の強さだけなのだから。
335 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/03(金) 17:33:22.99 ID:Hyxgfhdm0
貝積の屋敷に戻ってくるのは三日ぶりとはいえ、初春にとって久しぶりに思えた。

屋敷に入り、奥の部屋へと行くと、そこには貝積が椅子に座ってパソコンで作業をしており、
雲川はソファに寝そべって何やら資料を読んでいるところだった。

初春が訪れたことに気付いた雲川はゆっくりとソファに座りなおし、貝積も作業を一旦止める。

雲川「来たか。いや、戻ってきてくれた……と思っていいのか?」

初春はしばらく考えた後、一つ頷いて雲川と貝積を順番に見やる。

初春「現在のスクールのメンバーは私一人です。ですので、一時的とはいえ、私がスクールの総意として
   お話させていただきます」

一拍置いて初春は話を続ける。

初春「雲川さん、貝積さん、私に力を貸してください。」

雲川「ふむ、頼ってくれるのはうれしいけど、私への信頼はもうないんじゃないのか?」

初春「ありませんよ、私個人は」

雲川「お前個人?」

初春「心理定規さんは貴方に信頼を寄せているということです」
336 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/03(金) 17:42:10.11 ID:Hyxgfhdm0
雲川「ほう?」

初春「これを」

初春は雲川にメモリデバイスを渡し、雲川はさっそくそれを近くにあったパソコンにつなげて
とあるファイルを開く。すばやくそれに目を通し、雲川は眉をひそめる。

雲川「スクール計画?」

初春「ご覧頂いた通り、その計画は貴方がた二人の務め、原石をより強固に守ることができます。
    計画に賛同して頂くなら、私たちスクールは垣根さんの撃破にもご助力します」

雲川「報酬は?」

初春「心理定規さんの救出、そして……学園都市最高権力の持ち主、アレイスタークロウりーとの直接交渉権です」

雲川「ふん、飲み込むというのか、私たち統括理事会を」

初春「同等の仲間としてお二人の力が欲しいんですよ」

そこまで聞くと、ずっと黙っていた貝積がゆっくりと口を開く。

貝積「雲川、もう良いだろう。元々私たちには彼女らに大きな迷惑をかけてしまっている。」

雲川「元々協力するつもりだったけど。ほら」

そう言って雲川は幾つかの資料の中から一つを初春に渡した。

雲川「学園都市中で運搬されている荷物、最近まで使われていなかった電力の動き、ありとあらゆる電波を傍受し、
   全てを検討した結果垣根が潜伏しているらしい場所の目星は着いた」

初春ですら引き出せなかった情報を、雲川は最初から予期していたのかそれらを用意していた。

きっとこれほどの情報を集めるのに苦労したのだろう、雲川と貝積の目にくまができていた。

二人の苦労を汲み取った初春は、久しぶりの笑顔を作る。

初春「ありがとうございます。この情報を元に垣根さんの動向を探ります!」

そう言って頭を下げ、初春はすぐさま部屋を後にする。

二人っきりとなった部屋で、最初に動いたのは雲川だった。

貝積「三日間寝ずに作業をしていたというのに、これからどこへ行くつもりだ?」

雲川「決まっているだろう。ちょっとした罪滅ぼしだけど」
337 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/03(金) 17:44:11.41 ID:Hyxgfhdm0
日は沈みかけ、学園都市を覆う空はオレンジ色に染まる。

学園都市の住宅街の中、削板は一人歩いていた。

ここ三日、ほぼやけくその思いで片っ端から人助けをしていた。

何の解決にもならないことは理解しているが、だからと言ってじっとしていられる性格ではなかったからだ。

またも心の中がもやもやとしてくると、ちょうど削板があるく道の先から学生が一人必死の形相で走って来た。

学生「た、助けてください!」

削板「ん? どうした?」

学生「そこの曲がり角でかつあげが……」

削板「まったく、根性のひん曲った奴が多いな、最近は!」

苛立ちを目の前の悪にぶつけるべく、削板は学生を置いて曲り角へと曲がる。

すると、そこには不届き者の影などなく、制服を来た女子がただ一人立っているだけだった。

削板「な、雲川?」

雲川「探したぞ、削板」
338 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/03(金) 17:50:03.76 ID:Hyxgfhdm0
削板「かつあげがあったと聞いて来たんだが?」

雲川「あぁ、嘘だけど。さっきの学生にちょっと脅しをかけてお前をここに来させるようにしただけだ」

おそらく理事会の力に物を言わせてさきほどの学生を少しばかり調べ上げ、弱みでも握って脅したのだろう。

ある意味かつあげより酷い行為に呆れる削板だが、すぐにその表情を険しくする。

削板「どの面下げて俺の前に立っているつもりだ」

雲川「こうでもしないとお前は私に会ってくれるはずもないからな」

削板「まったくだ。お前と話すことなんざないんだよ。じゃあな」

削板はすぐにその場から立ち去ろうとする。

だが、雲川が突然頭を下げ、削板は驚きのあまり歩を止めてしまった。

雲川「すまなかった」

削板「な、なんだかやけに素直に謝るな」

雲川「これでも私なりに後悔しているんだ。見誤っていたよ、お前達がここまで信頼しあっていたとは」

削板「……」

雲川「私はこれまでありとあらゆる手段を講じて今の地位を手に入れて来た。
   それこそ昔の心理定規と同じように他人を利用したりもしたさ。
   だからこそ、心理定規が変わりゆく姿は驚愕であり、羨みもしたさ」
339 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/03(金) 17:52:29.63 ID:Hyxgfhdm0
削板「雲川」

雲川「削板、私は責任を持ってスクールを元の形に戻したい。そのためにも私とお前の間にある
   この微妙な空気を晴らしたい」

削板「どうするつもりだ?」

雲川「削板、私を殴れ、それでチャラだ」

削板「は?」

削板は素っ頓狂な声を発してしまった。

いつもは冷徹で、そして笑顔で人を使うような雲川がこんなことを言うはずがない。

雲川は少し戸惑いを見せつつもちらりと削板に視線を送る。

雲川「その、なんだ。今まで人との関係を修復しようなどとは思ってもいなかったからな
   だから、どうやって仲を戻すかいろいろ調べたんだ」

そう言って雲川が取り出したのはとある有名な熱血漫画だった。

雲川「お前みたいなやつがたくさん出てくる漫画だ。この物語では仲直りの証として
   殴り合うのが定石だからな」

本人はいたって真面目に言っているのだが、削板からしてみればそれはあまりにも面白すぎた。
340 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/03(金) 17:55:12.34 ID:Hyxgfhdm0
削板「く、はははは!」

腹を抱えて大声で笑う削板に対し、雲川は顔を赤らめる。

雲川「む、笑うやつがあるか」

削板「はは、悪い悪い。ついな」

ひとしきり笑った削板はあらためて雲川に向き直る。

削板「その根性、気に入ったぜ雲川。けどな、俺は女を殴らねぇ。俺の根性に反するからな」

謝ってくれただけで十分だ、そう言ってやろうとしたが、その前に雲川が削板の胸倉を掴む。

雲川「ダメだ、それでは私の気が済まない」

削板「な、雲川?」

雲川「女を殴れないというのなら私が手伝ってやろう」

削板「へ?」

またしても間抜けな声を発する削板に、雲川は大きく頭を振りかぶり、
同時に力の限り掴んでいた削板の胸倉を己に引き寄せ、盛大な頭突きを己の鼻っ柱に直撃させた。

削板「痛い!」

雲川「ぐぅ!」

削板は激痛が走ったでこを抑えるが、鼻に頭突きを食らった雲川はその非ではないだろう。

実際、雲川の鼻からは血が一筋滴っている。

雲川「こ、これで、チャラだろう?」

眉をひくつかせて雲川は言う。
341 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/03(金) 18:00:04.76 ID:Hyxgfhdm0
その顔は自然と笑顔になっており、削板は雲川なりに歩み寄ろうとしているのだと理解する。

削板「へ、その根性、気に入ったぜ」

二人は拳を打ち合わせ、一しきり笑いあう。

すると、雲川の無線機に電波を受信した音が鳴る。

貝積『雲川! 雲川!』

雲川「ん? 貝積?」

貝積『雲川、一大事だ!』

雲川「どうした、お前にしては動揺しているようだが?」

貝積『よく聞け』

しばらく雲川と貝積は何やら話しこみ、無線機を切る。

気になった削板は雲川に駆け寄る。

削板「どうしたんだ?」

めずらしく冷や汗をかいている雲川を見て、削板はただ事ではないと悟る。

雲川「初春が単独で垣根の潜伏場所に向かった」
342 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/03(金) 18:04:00.11 ID:Hyxgfhdm0
初春「ここですよね」

初春は元特例能力者多重調整技術研究所へと訪れていた。

雲川からもらった情報を元に垣根の企みを予想した結果、それは最悪な答えを見つける形となった。

垣根は学園都市第一位の体を何らかの電子的ネットワークと学習装置を介して操作し、
それを利用して垣根は学園都市に何らかの交渉をしようとしている。

現在この特例能力者多重調整技術研究所から何らかの電磁波が放たれており、
三日前までは荒かった電波の波が今ではだんだんと穏やかとなっている。

垣根が学習装置の操作とネットワークの掌握に近付いている証拠だ。

もはや一刻の猶予もないと判断した初春は、削板、ステファニー、そして雲川達に情報を
提供し、単独で特例能力者多重調整技術研究所に訪れた。

初春にできることは少ないが、時間が惜しい。

せめて心理定規のいる場所だけでも割り当てることができれば上々だ。

覚悟を決めた少女は一人、大きな力へと立ち向かう。
343 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/03(金) 18:07:33.30 ID:Hyxgfhdm0
垣根に連れてこられて三日、心理定規は水以外に何も口にしていなかった。

三日の断食などさほど苦でもなかったが、体力は着実に減っていく。

すると、牢が開かれる音が鳴り、下げていた首を上げ、入って来た者を見やる。

相も変わらず赤い冷蔵庫に身を包んだ垣根だった。

垣根「よう、元気か?」

心理定規「いいえ、この場所が退屈すぎて困るわ」

垣根「は、相変わらず強きな女だな」

垣根は椅子に縛られた心理定規の正面に立ち、彼女を見下ろす。

垣根「心理定規、俺は学習装置の操作とミサカネットワークの掌握まであともう一息という所まで至った
   そのあとはすぐにでも理事会に脅しをかけてアレイスターとの対面を果たすつもりだ」
344 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/03(金) 18:12:30.05 ID:Hyxgfhdm0
勝ち誇った笑みで垣根は心理定規を見下す。

垣根「俺のスクールに来る気あるか? 昔の仲間として考えてやらんこともないぞ」

その目には心理定規に対する明らかな中傷の色が出ていた。

能力を使うまでもなく垣根との心の距離を測れた心理定規はゆっくりと首を横に振る。

心理定規「垣根、貴方もすでに気付いているでしょう。私と貴方の道はもう違えている。
      貴方は闇に生き続けることで事を成そうとし、私はその手を二度と使わない」

垣根「そうかよ、ならこちらは闇に生きる者なりに捕虜をもてなさないとな」

そう言って垣根は冷蔵庫から小さな銀色の箱を取り出した。

それは心理定規にとって見覚えのある物だった。

捕まった際に取り上げられた、金平糖のような形をした能力増強剤、体晶の入った箱だ。

垣根「この三日間なにも口にしてないんだってな」

心理定規「っ!」

心理定規は嫌な予感がよぎり、とっさに口を噤もうとするが、すぐに垣根が心理定規の口を手でこじ開ける。
345 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/03(金) 18:16:39.09 ID:Hyxgfhdm0
そして体晶を一つだけ箱からつまみだし、それを無理やり心理定規の口へと放り込み、心理定規の口を押さえる。

垣根「十分に味わえ」

心理定規「ん、んー!」

飲み込むまいと必死に抵抗するが、垣根により鼻も抑えられ、呼吸も困難となり、心理定規は止むを得ず体晶を飲み込んでしまう。

それを確認すると垣根は手を離す。

途端、心理定規の体中に激痛が走り、心理定規は大きく目を開く。

心理定規「う、ぐあああぁぁぁ!」

垣根「はは! お前が以前研究所で体晶を使った際に相当のダメージを負っていたのは知っている。
   使用は後一回が限度、副作用で前線復帰は不可ってところだったろう。これでお前はもう戦えない」

体晶の影響で目が赤く染まった心理定規は、その紅蓮の瞳で垣根を捕える。

心理定規「か、き、ねえぇ!」

垣根「底上げされた能力で俺を殺ってみるか?」

そう言って垣根は手に剣のような形をした紫色の結晶を出現させる。
346 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/03(金) 18:20:31.64 ID:Hyxgfhdm0
垣根の能力、未元物質によって作りだされた武器だ。

心理定規(垣根の武器との心の距離を――)

能力を発動させようとした途端、心理定規はとある事に気付いた。

心理定規の能力の発動条件は能力を使う対象を知ること。

人の場合ならただ対象が人であると認知すればいいだけのことだが、物となると話しは別だった。

その物が一体何なのかを知る必要があるのだが、垣根が使う武器となるとそれは困難になる。

それもそのはず、垣根が能力によって作り出した武器はこの世に存在しない物質によって作られているからだ。

理解の範疇を超えた物を知識として取り入れているはずもなく、心理定規の能力は垣根の武器に対して何の効力も持たない。

心理定規(そ、そんな。垣根の武器を封じることができない)

圧倒的不利に気付いた時にはもう遅く、体晶の副作用が再び心理定規を襲う。

頭は二つに割かれるかのような錯覚に陥り、手足は引きちぎれんばかりに筋肉が痙攣する。

呼吸はままならず、体の節々が悲鳴を上げる。

心理定規「うぅ、ぐ、あああ!」

垣根「ま、せいぜい学習装置の最終調整が終わるまで耐えてろ。戻ってきてまだ生意気言えるんならおかわりをやるよ」

そう言い捨て、垣根は悶える心理定規を放り、牢を去る。
347 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/03(金) 18:22:56.50 ID:Hyxgfhdm0
今日はここまで。
やっとこさラストバトル始められそう。
なるべく早く続きを書きに戻ります。
348 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/03(金) 18:45:36.64 ID:l5QbKO90o
乙でした
349 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/03(金) 18:50:46.44 ID:K1hRlBgDO
超乙です!
350 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/21(火) 09:32:45.02 ID:ZDZW/7nDO
待ってる
351 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/11(火) 00:11:46.05 ID:Bmz14qAS0
>>1 乙
352 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/11(火) 20:45:31.11 ID:WRQIk2Cjo
まだか
353 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/10/08(月) 16:18:05.86 ID:0TykSLBA0
続きまだ?
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