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春香「永遠に」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) :2012/05/13(日) 19:42:06.78 ID:EeGI337Uo
落ちたのでこっちでやろうかな、と

前の部分はタイトル同じだから検索して

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1336905726(SS-Wikiでのこのスレの編集者を募集中!)
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少し暑くて少し寒くて @ 2024/04/25(木) 23:19:25.34 ID:dTqYP2V2O
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1714054765/

渾沌ゴア「それでもボクはアイツを殺す」 @ 2024/04/25(木) 22:46:29.10 ID:7GVnel7qo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1714052788/

二次小説の面白そうなクロス設定 @ 2024/04/25(木) 21:47:22.48 ID:xRQGcEnv0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1714049241/

佐久間まゆ「犬系彼女を目指しますよぉ」 @ 2024/04/24(水) 22:44:08.58 ID:gulbWFtS0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713966248/

全レスする(´;ω;`)part56 ばばあ化気味 @ 2024/04/24(水) 20:10:08.44 ID:eOA82Cc3o
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1713957007/

君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713885444/

笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713869982/

【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part10 @ 2024/04/23(火) 17:32:44.44 ID:ScfdjHEC0
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2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2012/05/13(日) 20:14:21.63 ID:9Imhlqpwo
きたか
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) :2012/05/13(日) 20:30:47.55 ID:EeGI337Uo
「春香ちゃーん!」

「……あ、はーい。分かりました」

ここ、「ウド」はお金持ち向けの会員制風俗だ。

私は、元アイドルという事もあり、人気はトップクラスだ。

「こんにちは!」

「ああ、春香ちゃん久しぶり」
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) :2012/05/13(日) 20:38:26.62 ID:EeGI337Uo
「Dさん!お久しぶりです!」

Dさんはいつも私を指名してくれる常連さんだ。

お父さんが病院の院長で自分も医者だと以前来た時に言っていた。

Dさんが前に来たのはいつだっただろうか?

一ヶ月前?一週間前?それとも昨日?

こんな生活をしていると時間の感覚もおかしくなっていく。
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/05/13(日) 20:42:58.82 ID:EeGI337Uo
「今日もよろしくね」

「はい!早速始めましょう!」

「じゃあ、春香ちゃん。胸見せて」

「はい!分かりました!」








6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/05/13(日) 20:53:08.24 ID:EeGI337Uo






「失礼します」

声をかけて病室に入る。

プロデューサーさんの部屋は個室だ。

南向きの良い部屋で、今の季節は春の柔らかな日差しが差し込んでいる。

7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/05/13(日) 21:03:33.12 ID:EeGI337Uo
この病院の面会時間は9時ぐらいから始まるので嬉しい。

プロデューサーさんはまだ眠っているようだ。

ベッドは東側の壁にくっついている。

私は、ベッドを迂回して窓から外を眺めた。

外はもうすっかり春めいてる。
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/05/13(日) 21:09:40.11 ID:EeGI337Uo
この病院では、ちょうど今の時期に桜が咲く。

私はカーテンを閉める。

光が入りこまないように。

この病室は特にものがない。

あるのはベッドとテーブルと椅子が二脚。

私はプロデューサーさんの頭に近いほうの椅子に腰掛ける。

プロデューサーさんは、奇跡的に顔はあまり火傷しなかった。

だから、髪の毛もフサフサだ。
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/05/13(日) 21:19:24.21 ID:EeGI337Uo
私はそっと、プロデューサーさんの長いヒゲが生えた頬にキスする。

プロデューサーさんはいつからヒゲを伸ばし始めたんだったっけ?

うまく思い出せず、少し頭を悩ませる。

その時、ノックの音がした。

「どーぞ!」

「失礼します」
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) :2012/05/13(日) 21:24:55.57 ID:EeGI337Uo
入ってきたのは千早ちゃんだった。

「千早ちゃん!久しぶり!」

「ええ、久しぶりね。春香は元気だった?」

「うん。元気だったよ」

「でも、ごめんね。プロデューサーさんはまだ寝てるんだ……」

「……そう」
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/05/13(日) 21:29:49.85 ID:EeGI337Uo
千早ちゃんはベッドの上のプロデューサーさんを見ると、悲しそうな顔をした。

プロデューサーさんのお見舞いにきてくれるのは、千早ちゃんだけだ。

他の人は1人も来ない。

みんな忘れてしまったのだろう。

千早ちゃんは持ってきた果物を机の上に静かに置いた。
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) :2012/05/13(日) 21:35:22.41 ID:EeGI337Uo
椅子に座ってベッドの上のプロデューサーさんに目を向けながら、私に聞いた。

「それで……経過はどうなの?」

「お医者さんはまだ難しいって……」

「でもコミュニケーションが上手く取れないけど、だんだん快方に向かってるって」

「……そうなのね……」

「プロデューサーさん、私が話しかけても返事してくれないけど、私は気長に待つよ」

「それに、私はプロデューサーさんが生きていてくれるだけで嬉しいから」

「ずっとそばにいるって約束したし」
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) :2012/05/13(日) 21:43:46.24 ID:EeGI337Uo
「……春香。一つ聞いていいかしら?」

「なに?千早ちゃん?」

「あなたは、いま幸せなの?」

「幸せだよ。アイドルじゃなくなったけど、私の幸せはプロデューサーさんと一緒にいる事だから」

「……そう、そうなのね」

「ふふ。二人の時間邪魔してごめんなさい。私そろそろ帰るから」

「もっといていいんだよ。千早ちゃんは」
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/05/13(日) 21:49:46.15 ID:EeGI337Uo
「ごめんなさい。この後仕事があるの」

「ううん。こっちこそごめんね。わざわざ来てもらって」

「良いのよ。私と春香の仲じゃない」

「えへへ、ありがとう」

「今度はいつ来れるかな?」

「そうね……一ヶ月後ぐらいになるかしら」
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) :2012/05/13(日) 21:50:45.61 ID:EeGI337Uo
「うん、分かった。また来てね」

「ええ、また来るから、それじゃ」

そう言って、千早ちゃんは帰っていった。


16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) :2012/05/13(日) 21:54:26.62 ID:EeGI337Uo




外はかなり良い天気だ。

プロデューサーさんも起きたみたいだから、散歩に連れて行ってあげよう。

看護師さんを呼んで頼みごとをする。

「すみません。車椅子を貸して貰えますか?」

「車椅子?」

看護師さんは怪訝な顔をした。
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) :2012/05/13(日) 21:57:06.46 ID:EeGI337Uo
「はい。プロデューサーさんを散歩に連れて行ってあげたいんです」

「……ちょっと待ってね。先生に聞いてくるから」

看護師さんは車椅子を押しながら、直ぐに戻ってきた。

「先生から許可が出たから良いわよ」

「ありがとうございます!」

私はプロデューサーさんを車椅子に乗せる。
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) :2012/05/13(日) 22:06:24.39 ID:EeGI337Uo
冷えないようにプロデューサーさんに膝かけをかけた。

「春香ちゃん、その格好じゃまだ寒いからカーディガン着て行きなさい」

看護師さんが私にカーディガンを着せてくれる。

「あんまり遠いところや危ないところに行っちゃだめよ?」

「それと、一時間ぐらいで戻ってきなさい」
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/05/13(日) 22:11:35.19 ID:EeGI337Uo
「分かりました。いってきます!」

「はい、いってらっしゃい」






プロデューサーさんの車椅子を押してゆっくりと桜の木の下を歩く。

「プロデューサーさん!桜ですよ!桜!」

「……」

「すごい綺麗ですね!」
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/05/13(日) 22:13:20.71 ID:EeGI337Uo

「……」

「みんなと一緒に花見したいなー」

「……」

「今は千早ちゃんぐらいしか来てくれませんけど」

「……」
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/05/13(日) 22:18:20.45 ID:EeGI337Uo
「次に千早ちゃんが来る時には散っちゃってますね」

「……」

プロデューサーさんは私の言葉に答えてくれない。

でも、私は幸せだ。

プロデューサーさんと一緒にいるだけで満ち足りた気分になるのだ。
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) :2012/05/13(日) 22:36:47.61 ID:EeGI337Uo







「ただいまー」

私は自分の家に帰ってきた。

夕食は外で済ませてきたから、今日はもう寝るだけだ。

お風呂から上がって、パジャマを来て寝ようと思ったとき、唐突に思い出した。

伊織がくれたぬいぐるみ。

そういえば、最近あれを見てなかった。
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/05/13(日) 22:44:35.17 ID:EeGI337Uo
どこにやってしまったのだろうか。

あれから、数時間探したが見つからなかった。

諦めて今日はもう寝る事にした。

今度、時間がある時にゆっくり探そう。
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/05/13(日) 22:50:07.40 ID:EeGI337Uo






5/12

今日もプロデューサーさんのところにお見舞いに来た。

空いていたカーテンを閉める。

部屋の電気もつけていないため、薄暗い。

プロデューサーさんはまた眠っていた。

プロデューサーさんの頭に近い方の椅子に腰掛ける。

そして、私はプロデューサーさんの頭を撫でた。

さらさらした毛が気持ちいい。

窓から入ってくる風がカーテンを揺らす。
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) :2012/05/13(日) 22:53:01.67 ID:EeGI337Uo
ぽかぽかした陽気で、何だか眠くなりそう。

ここは静かだ。

静かすぎるほどに。

聞こえるのは風が木を揺らす音だけ。





そうして、ぼんやりと時間を過ごしているとドアをノックされた。

「どうぞ」

「春香久しぶりね」

「千早ちゃん!」

千早ちゃんは一瞬複雑そうな顔をした。

「プロデューサーさんはまだ寝てるよ」

「……そう……」
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) :2012/05/13(日) 22:54:44.58 ID:EeGI337Uo
千早ちゃんは私の向かいに座った。

「春香、何だか暗くない?」

「そうかな……?」

「カーテンを開けてもいいかしら?」

「だめ」

「え?」
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) :2012/05/13(日) 22:56:02.45 ID:EeGI337Uo
「だめだよ。カーテンは開けちゃだめ。どうしてそんなこと言うの?」

「ご、ごめんなさい」

「じゃあ電気をつけてもいい?」

だめ。だめ。だめ。

カーテンを開けること。

電気を着けること。

この二つのことが私には不快に感じられる。

どうして?

分からない。

理由は分からないけど、何かが終わってしまう恐怖感で体が震える。
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) :2012/05/13(日) 22:57:49.69 ID:EeGI337Uo
「お願いします!カーテンを開けないで!電気もつけないで!」

千早ちゃんは驚いている。

私が大きな声を出したからだろう。

でも、これは大切なことだ。

これを守らなければ、世界が滅んでしまう。

私は守らなければ。
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) :2012/05/13(日) 22:58:47.18 ID:EeGI337Uo
守らなければいけない。

何を?

私は何を守ろうとしているのだろう?

目の前に座った千早ちゃんに目を向ける。

千早ちゃん?

千早ちゃんって誰だっけ?

目の前に座ってるこの人は誰?
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) :2012/05/13(日) 22:59:48.78 ID:EeGI337Uo
その時、大きく風が吹いた。

私は窓を開けたままだったことを思い出す。

致命的なミスだ。

なぜ窓を開けていたことがミスなのだろう?

風がカーテンを揺らす。

大きな隙間ができたことで、朝の日差しが差し込んでくる。
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/05/13(日) 23:00:41.39 ID:EeGI337Uo
差し込んできた光はちょうど千早ちゃんの顔に当たる。

一瞬その光を千早ちゃんの目が反射した。

「千早ちゃん、泣いているの?」

「えっ?」

眩しそうに目を細めている。

そうだ。

泣いていなくちゃおかしい。

泣いているんだ。
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/05/13(日) 23:01:15.40 ID:EeGI337Uo
目に涙が溜まっていたから反射したんだ。

そうに違いない。

しかし、私は別の可能性を思いついた私はそうだ私は、私が私の
私は
私は
私は
私は
私はそのまま意識を失った。
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) :2012/05/13(日) 23:06:11.30 ID:EeGI337Uo






5/13

風が気持ちいい。

柔らかな風がフェンスの前に立った私の体に当たる。

疲れた体を癒してくれる。

ここまでくるのに、結構時間がかかった。

何しろ、私の部屋の窓が誰かに細工されていたから。
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/05/13(日) 23:08:05.79 ID:EeGI337Uo
誰なんだろう。

私の部屋の窓に鉄格子をつけたのは。

取り外すのにとても時間がかかった。

取り外してしまえば、後は楽だったが。

私の部屋は4階だったから、今いる屋上までそんなにかからない。
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) :2012/05/13(日) 23:09:36.60 ID:EeGI337Uo
これが2階とかだったら4階分も雨樋を登らなくてはいけないから大変だっただろう。

私は庭を見下ろす。

桜がとても綺麗だ。

プロデューサーさんにも見せてあげた。

「……」

相変わらずプロデューサーさんは何も言ってくれない。
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) :2012/05/13(日) 23:13:30.21 ID:EeGI337Uo
でも、それでもいい。

私にとっての幸福はプロデューサーさんのそばにいる事だから。

別に話をしてくれなくてもいい。

『千早』「春香!?おい!?」

後ろでフェンスを揺する音と私の名前を呼ぶ声がする。

でも。

もう千早ちゃんなんてどうでもいい。
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) :2012/05/13(日) 23:14:34.70 ID:EeGI337Uo
だって、私のプロデューサーさんは腕の中。


「プロデューサーさん」

「私と約束して下さい」

「ずっとそばにいるって」

「私はプロデューサーさんの事を愛してます。だから、永遠に一緒にいて下さいね?」















グシャ

第二部完
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) :2012/05/13(日) 23:17:14.89 ID:EeGI337Uo
第三部










まだ五月とはいえ、午後2時を回った今は汗ばむ程だ。

この長い石畳を登るのは、何年も運動していない身には辛い。

そして、俺は今、水の入った桶を持ってるから、なおさら辛い。

息を切らしながら、一段一段登っていく。

今日であれから十年だ。
39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/05/13(日) 23:18:04.69 ID:EeGI337Uo
春香がクマのぬいぐるみと一緒に、俺の目の前で落ちていってから10年だ。

まるで、昨日のことのように思い出せるのに。

10年という時の短さに愕然とする








春香は耐えられなかった。

俺へ精神的に依存し過ぎていたために。
40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/05/13(日) 23:19:46.66 ID:EeGI337Uo
俺が、新しいプロダクションを設立してからは会えない日が続いた。

俺はなんとか時間を作って限界ギリギリまで春香のそばにいるようにした。








それでもダメだった。

春香はおかしくなった。

現実と妄想の区別がつかなくなったのだ。

日常生活に支障をきたす程に。
41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) :2012/05/13(日) 23:20:43.89 ID:EeGI337Uo
こうなっては、アイドルどころじゃない。

春香は北のほうの空気が綺麗な病院で療養することになった。




しかし、それも無駄だった。

結局、春香は自ら命を絶ってしまった。

俺の目の前で。
42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) :2012/05/13(日) 23:21:38.68 ID:EeGI337Uo






長い石畳を登り終えてようやく着いた。

高い場所にある分、見晴らしがいい。

寺の門のところに立っている桜がよく見える。

春香の墓を訪れる人は少ない。

両親も思い出したくないようだ。
43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) :2012/05/13(日) 23:22:17.00 ID:EeGI337Uo
春香の友人たちも、来にくいのだろう。

昔は何人か来ていたこともあったが。

十年という時間はあまりに短いが故人を忘却の彼方に送るには十分だ。

もうみんな忘れてしまったのだろう。

それを責めることはできない。

覚えておくにはあまりに辛い記憶だ。

それでも、俺が忘れるわけにはいかなかった。
44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/13(日) 23:23:15.88 ID:+YOIKXO1o
なんてこったい
45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) :2012/05/13(日) 23:23:31.18 ID:EeGI337Uo
だから、こうして毎年春香の命日にはここに来る。






掃除を終えると線香に火をつけて手を合わせる。

一人で春香の冥福を祈る。

その時、後ろから声をかけられた。

「プロデ……社長」

俺は思わず振り返ってしまった。
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) :2012/05/13(日) 23:26:07.48 ID:EeGI337Uo
俺の後ろに立っていたのは千早だった。

「どうかしましたか?」

俺の顔に走った動揺を察して千早は訝しんでいる。

「なんでもない、手を合わせてやってくれ」

「はい」

千早は社長になった俺のことを今でも間違ってプロデューサーと呼ぶ。

そして、必ず言い直す。

プロデュースも続けているからプロデューサーでもいいんだが。

俺にはその理由が分かっていた。

おそらく、あの頃の事を思い出してしまうからだ。
47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/05/13(日) 23:27:17.13 ID:EeGI337Uo
「プロデ……ここで社長と会うのは5年ぶりですね」

「プロデューサーでいいぞ……俺は毎年来てたがな」

「私は、5年前から来ていませんでした」

「忘れたかったんだろ?仕方ないさ」

「でも、今年は、今年で10年ですから」

「そうだな……」

千早はどこに出しても恥ずかしくない歌手に成長した。

俺は千早をはじめとして音楽プロデューサーとしてそこそこ名が売た。

10年前には想像もつかなかったところにいるのだ。
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/05/13(日) 23:30:22.05 ID:EeGI337Uo







「少し、春香の話しをしてもいいか?」

「……ええ」

「……春香は自[ピーーー]る前の日に倒れたんだ」

「……ええ、聞いてます」

「医者もあの時はなんで倒れたか分からなかった」

「突然、何の前触れも無く倒れた。だから、俺はその日は東京に帰らず残った」

「そして、翌日見舞いに行ったら……」
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [saga]:2012/05/13(日) 23:31:27.86 ID:EeGI337Uo







「少し、春香の話しをしてもいいか?」

「……ええ」

「……春香は自殺する前の日に倒れたんだ」

「……ええ、聞いてます」

「医者もあの時はなんで倒れたか分からなかった」

「突然、何の前触れも無く倒れた。だから、俺はその日は東京に帰らず残った」

「そして、翌日見舞いに行ったら……」
50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) :2012/05/13(日) 23:33:16.49 ID:EeGI337Uo
「ずっとあの時のことが引っかかっていた」

「でも、俺は最近になって気づいたんだ」

「なんでだったんですか?」

「メガネさ。倒れる寸前に風でカーテンがめくれたんだ」

「それとメガネが……?」

「春香の病室は南向きだったから朝日が差し込んでメガネと反射したんだ」

「俺のことを千早と認識していたが、その認識が揺らいだ」

「だから、春香の中の真実に矛盾が生じてしまった」
51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/05/13(日) 23:34:40.12 ID:EeGI337Uo
「部屋を明るくするのを拒んだのも感覚で矛盾に気づいてしまうと分かってたからかもしれない」

「はあ……確かにプロデューサーはメガネのイメージがありますからね」

「春香が、俺だと思い込んでいたクマもメガネかけてたしな」

「医者は春香の心に負担がかかったから倒れたと言っていた」

「俺が思うに、春香はあの時気づきかけたんだ」

「……最後の時はどうだったんですか?プロデューサーのこと気づいていたんですか?」
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/05/13(日) 23:38:07.83 ID:EeGI337Uo
最後の時。

目の前で落ちていく春香は笑っていた。

幸せそうにクマのぬいぐるみを抱えて。

「いや、気づいていなかったと思う」

でも、春香にとってはそれで良かったはずだ。

愛する人が自分だけを頼る状況を生み出さなければ、自分を保てないほどだった春香にとっては。

愛する人、と思っていたものと死んでいったのだから。

53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/05/13(日) 23:39:46.41 ID:EeGI337Uo
春香は幸せなまま死んでいった。

千早と二人で黙り込む。

千早も未だに春香のことを引きずっている。

俺と同じように。





54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) :2012/05/13(日) 23:41:29.68 ID:EeGI337Uo






耳鳴りがする。

あ、来たな、と思った。

久しぶりに来るような気がしていた。

『プロ……デ……ューサーさン……でスよ!……!』

『私のド……ジモ屋……上カら落ちテシま……ウほどダ……トは思イマセん……デしタ!』

『ね……ェネぇ、プ……ロデューサーさ……ン!』







『どうシて返事シてくレナいンでスカ?』
55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/05/13(日) 23:42:07.28 ID:EeGI337Uo
「プロデューサー、どうしたんですか?」

一瞬で悪くなった俺の顔色を見て千早が言った。

「千早……」

「なんですか?」

「俺の後ろになんかいる?」

千早は俺の後ろに目を凝らす。

「何もいませんけど?」

「そうか……」
56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/05/13(日) 23:42:40.13 ID:EeGI337Uo
幻聴はいつも後ろから聞こえてくる。

これが前から聞こえるようになったら、姿も見えるようになるのだろうか。

ポケットからタバコを取り出しながら、千早から少し離れる。

歌手である千早に煙を吸わせるわけにはいかない。

千早のほうに煙がいかないように背を向けて火を着ける。

「あれ、プロデューサーってタバコ吸いましたっけ?」

「千早に話してなかったか……」

吸い込んだ煙を吐き出す。
57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/05/13(日) 23:43:06.83 ID:EeGI337Uo
背を向けながら話し始める。

「春香が死んでから一ヶ月ぐらいしてから幻聴が聞こえるようになったんだ」

「ショックでおかしくなっちまったんだ」

「春香が俺に話しかけて来るのが聞こえるようになった」

「……」

「春香が死んだ頃って、プロダクション作ったばかりだったろ?」
58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/05/13(日) 23:43:49.35 ID:EeGI337Uo
「人手もないから俺が車を運転することも多かった。だから、薬を飲むわけにはいかなかったんだ」

「医者に相談して暗示で抑え込むことにしたんだ」

「幻聴が聞こえたら、タバコを吸う。すると、幻聴が収まる、って感じで」

「でも、そろそろだめみたいだな」

「最近、春香が落ちていく光景が頻繁にフラッシュバックするんだ」

「もう、十年になるのにな」

「俺もそろそろ引退だな」
59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/05/13(日) 23:44:25.92 ID:EeGI337Uo
「……」

後ろにいる千早は何も言わない。

俺はタバコを燻らせる。

タバコの先から出ている煙は空へ登っていく。

俺は空を見上げた。

青い空には白い雲がいくつか浮かんでいる。
60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/05/13(日) 23:45:03.22 ID:EeGI337Uo
登っていく煙を見て思い出すのは、春香が焼かれてしまったときのことだ。

あのときも、空に登っていく煙を見ていた。

登っていく煙がまるで春香の魂のように思えたことをはっきり覚えている。

61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/05/13(日) 23:45:43.77 ID:EeGI337Uo








いつも考えていることがある。

こうして登っていく煙はどうなるのだろうか。

空へ登って雲になるのか。

それとも霧散してなくなってしまうのか。

そのどちらかであっても、煙は煙のままではいられないのだ。

それと同じように、もう春香はどこにもいない。

幽霊なんていないから、俺が見るもの、聞くものはすべて偽物だ。

タバコを携帯灰皿に入れて後ろを振り返る。

いつの間にか千早はいなくなっていた。
62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/05/13(日) 23:46:19.60 ID:EeGI337Uo
風が吹き抜けていく。

日はすでに傾き始めていた。

思い返してみれば、おかしいところはあった。

千早は手ぶらだった。

俺がいる事を見越していたとしても、千早の性格なら花ぐらい持ってくるんじゃないだろうか。


俺はため息をついた。

もう、どうでもいい。

たとえ、千早が幻覚だったとしても。
63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/05/13(日) 23:47:27.50 ID:EeGI337Uo

この世界はあまりに疑わしいことをこの10年で学んだ。

ちょびヒゲの哲学者が言っていたように信じられるのは自分くらいなものだ。

俺の心は荒みきっている。

そして、砂漠のように乾ききっている。
64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/05/13(日) 23:48:18.83 ID:EeGI337Uo
それでも、まだたった一つだけ信じていることがある。

春香の最後の言葉だ。


『私はプロデューサーさんの事を永遠に愛しますから、永遠に一緒にいて下さいね?』

あの言葉は間違いなく、春香の本心だ。

春香は俺と一緒にいる事だけを望んでいた。

だから、俺は春香の願いを叶えてやりたい。
65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/05/13(日) 23:49:20.01 ID:EeGI337Uo
心の中で春香に語りかける。

あと少しで一緒にいられるようになるから。

それまで、もう少しだけ待っていてくれ。

多分、永遠に比べたら短いだろうから。







66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岩手県) [sage]:2012/05/14(月) 01:04:15.43 ID:dxP/Kwtgo
67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/14(月) 07:11:07.24 ID:6qOTMv7SO
68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/14(月) 16:07:28.47 ID:hh38y2j1o
69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県) :2012/05/14(月) 16:58:11.95 ID:kJAwCupHo
70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(西日本) [sage]:2012/05/15(火) 00:30:03.20 ID:9sDpYoqBo
ちょっと待って?
結局オチはプロデューサーもおかしくなってたってこと?
71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/17(木) 10:36:42.68 ID:B8smz2/Mo
72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/18(金) 20:48:31.63 ID:HTQhDOdHo
>>70
春香ほどじゃないけど幻覚と幻聴が生じるんだからそうなんじゃない?
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