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あやせ「-------------------あなたのことが好きです」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 : ◆36m41V4qpU [saga sage]:2012/05/16(水) 04:24:50.39 ID:HWhlZu0P0
※10巻の多少ネタバレあり

あやせの告白直後を勝手に続き

まとめサイトには何度か書いたけど、個別スレのお作法は分からないので
ミスったり、グダってもご容赦。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1337109890(SS-Wikiでのこのスレの編集者を募集中!)
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旅にでんちう @ 2024/04/17(水) 20:27:26.83 ID:/EdK+WCRO
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木曜の夜には誰もダイブせず @ 2024/04/17(水) 20:05:45.21 ID:iuZC4QbfO
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いろは「先輩、カフェがありますよ」【俺ガイル】 @ 2024/04/16(火) 23:54:11.88 ID:aOh6YfjJ0
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【MHW】古代樹の森で人間を拾ったんだが【SS】 @ 2024/04/16(火) 23:28:13.15 ID:dNS54ToO0
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こんな恋愛がしたい  安部菜々編 @ 2024/04/15(月) 21:12:49.25 ID:HdnryJIo0
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アテム「実践レベルのデッキ?」 @ 2024/04/14(日) 19:11:43.81 ID:Ix0pR4FB0
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2 : ◆36m41V4qpU [saga sage]:2012/05/16(水) 04:27:57.05 ID:HWhlZu0P0

"lie lay rain/(lain)"



"I've told a lie not to get laid with him in the rain."



"If it had not rained, she would have lied and she would not
have laid herself on my chest."
3 : ◆36m41V4qpU [saga sage]:2012/05/16(水) 04:29:35.09 ID:HWhlZu0P0
-----------------------------------------------------------------------------


『嘘を吐いた』 

『雨が降った』 

『キスした』


それが俺が経験した これから話すことの全てだ。

実際のところ 今でも、これらの事がお互いにどんな風に関連していて 
何が原因で何故こんな結果になったのか? 
経験した俺自身も未だによく分からない。

でも俺は思う 
原因なんてものは、 結局のところ、 それほど大して重要な事じゃない。
原因と結果は………………単なる時系列に従った事実の羅列に過ぎない。

起きた事実そのものが何よりも大切で、 起こった順番にはさして意味はない



『事後』に追憶する場合は、特にそうだ。

起きたことは起きてしまったし、 起きてないことは起きてない

起きたことを、 起きなかったコトには出来ないし 

起きなかったことも、 起きたことにはもちろん出来ない
4 : ◆36m41V4qpU [saga sage]:2012/05/16(水) 04:31:26.16 ID:HWhlZu0P0

というよりも
今から遡って過去を変えるどころか ある瞬間を切り取って 自分の意図に従って
相手の気持ちを自由に変えたり 或いは 完全に相手の気持ちを理解するなんて事が
ほとんど不可能に近い、 全くの奇蹟みたいな行為だし、

更に、身も蓋もない言い方をしちまえば、自分自身の事ですら自由には
(自分の思ってることを変えたり、自分の気持ちを完璧に理解する事すら)
出来ないんじゃないのか?って俺はつくづく思うのだ。

ただ----------------ただ 起きたことを 後から眺めて 
ああでもない こうでもないって言うのが(まさに俺がやってるみたいに)関の山だ。


これから俺が話すことも 上の法則を 何一つ破るものじゃないし
俺の数ある『ああでもない こうでもない』のひとつだって理解してくれて構わない


だから例え、原因や結果を後から時系列に並べる事に何の意味がないとしても
まずは最初から語り始めたいと思う。


-----------------------------------------------------------------------------
5 : ◆36m41V4qpU [saga sage]:2012/05/16(水) 04:33:27.11 ID:HWhlZu0P0


"雨宿り"





「-------------------あなたのことが好きです」

日だまりみたいな温かい優しい微笑みのまま、 あやせはそう言った。


「………………………………」

でも あやせの告白を聞かされた瞬間 俺が最初に思い浮かんだ感慨は
全然----------------全然、あやせ本人には関係ないものだった。


(その時)、俺の記憶がまるで風みたいに囁いたのは

黒猫のこと
『私と付き合ってください』


「あ、あの--------------お兄さん?」



(その時)、俺の意識がまるで優しく抱きしめられた様に温もりを感じたもの

麻奈実のこと
『わたしも、きょうちゃんのこと好きだから』


「---------------------・・・・・・・・え、 えっと」



(その時)、心がまるで残照の如く煌めいたもの

桐乃のこと
『あ.た.し.が.一.番.じゃ.な.きゃ.イ.ヤ.!』


「---------------いきなりこんなことに言われても、お兄さんだって困りますよね?」
6 : ◆36m41V4qpU [saga sage]:2012/05/16(水) 04:34:56.95 ID:HWhlZu0P0


違う………………だろ
俺よりもずっと 困ってるのは 辛そうなのは 悲しい顔をしているのは

間抜けにも本人を目の前にして、ずっと別の事を考えていた俺は
あやせの悲痛な言葉と表情でやっと ちゃんと視線をあやせに向けた。

あやせに何か声をかけてやらなきゃいけない。
前みたいに

前._み._た._い._に._?

好きと言われたのに、肯定も否定もせずにただ都合良く保留したまま
それでも………………黒猫は構わないと、俺のことを待つと言ってくれた。

だから あやせに 黒猫に言ったみたいに言うのか?


『おまえの気持ちは嬉しい。でも今は誰とも付き合うつもりはない』ってさ


黒猫に(もちろん、あやせにも)悪くてそんな台詞を言えるわけが無ぇだろ。


結局、 何と答えて良いのか何も思い浮かばず
何も言えずに俺はただ押し黙ったまま、 その場に立ちつくしていた。

「なーーんて。 
・・・・・・・・・冗談ですよ 冗談っ!驚いちゃいました?
ふふ------------お兄さんってほんとうに相変わらず単純ですね。
こ、こんなに簡単に騙されるなんて---------------」

太陽みたいに明るかった表情は急速に陰り……………目に貯めていた涙が


「----------------騙されるなんて。
本気にしちゃって、こんなの冗談なのに。
わたしがお兄さんを好きだなんて、冗談に決まってるでしょう?
もぉ!そんな顔をして----------------まったく、 すぐに引っかかり過ぎ。
本当に、 お兄さんって---------------迂闊ですねっ」


「あやせは冗談や嘘は大嫌いだった……………よな?」

「こ、これは・・・・・・お返しですっ!
散々わたしに嘘言ったり騙したりしたから!だからっ だから--------だから」

7 : ◆36m41V4qpU [saga sage]:2012/05/16(水) 04:36:56.84 ID:HWhlZu0P0

「……………あやせ」

今、この瞬間 俺が何を考えてたか?
これを吐露したら多分、いや間違いなくヘタレだって言われちまうんだろうけど
俺はあやせと桐乃を仲直りさせる為に、馬鹿をやったことが ふいに頭を過ぎった。

桐乃のやつを抱きしめながら、大好きだって絶叫した時のことだ。
俺は死ぬ気で(……………親父に殴りかかった時みたいに必死に)
仲違いした親友同士を和解させる為に頑張ったつもりだ。

でも今考えると
誰か(あやせ)の目の前で 誰か(桐乃)を(に)好きって言って
結果 喧嘩してた二人が仲直りするキッカケになるってことは………………

俺が近親相姦上等の変態兄貴って誤解された状況(実はあやせは知ってたけど)
になったとしても、 今のこの状況に比べたら実はなんて気が楽だったんだろうって
心の底から感じるわけだ。

確かに あやせと俺はその嘘のせいで、 色々すれ違ってきたわけだし
辛かったり嫌な思いをしたのは認める。

しかし今回は………………………………
誰かを好きって言ってみたり、その好意を受け入れたら……………あの時とは正反対に
仲が良い親友同士の友情にヒビが入ったり、疎遠になっちまうんじゃないのか?

多分 黒猫は特別なんだ。
あいつは俺の為に 俺._ら._兄._妹._の為に 俺の言葉をちゃんと理解して
納得して受け止めてくれた。

だけど あやせは--------------きっと、 黒猫とは違う。 
今度ばかりは、 前みたいに下手な嘘を吐いたとしても全てが都合よくはいかない。
俺はそのことを考えれば-------------考えるほど、石みたいに固まってしまう。

8 : ◆36m41V4qpU [saga sage]:2012/05/16(水) 04:38:32.94 ID:HWhlZu0P0

「さよなら----------------お兄さん。
わたし応援してますから、受験頑張ってくださいね・・・・」

あやせの声はか細く震えていて、 気丈に激励されている俺の方がよほど
あやせを励まさなきゃいけない気がしてくるほど、 不憫に見えた。

なのに俺はずっと葛藤したまま、 沈黙なんて手段としちゃ最低の消極的な否定を
あやせに与えたままで。今にも、 あいつは振り向いて歩き出そうとしている。
同時に俺の出すべき解答も時間切れになろうとしていた。

俺の足はあまりにも重くて あやせに歩み寄ることはなく
俺の手はあまりにも力なく あやせに触れることもなく

     「……………………………………………………」


ちゃんと頭では分かっているんだ

今 何か言わなきゃ---------------絶対に 後悔するって

でも同時に気持ちはこんな風にも思う

たとえ 何を言ったとしても----------------必ず 後悔するんだろうってさ


結局 俺の口はあまりにもカラカラに渇いていて あやせにかけようとする言葉が
(本当にそんな言葉が俺の中にあるとすればの話だけど)出てくる前に

あやせの頬から 大粒の涙がこぼれ落ちてしまった。


あやせの姿を茫然と地蔵の様に眺めていたとき 今度は俺の視界もぼやける


そしてほとんど間を置かず

    「------------------------・・・・・・雨」

あやせがポツリと呟いた。


気付いた時には、冬特有の冷たくて静かな氷雨が 俺自身や俺が見えるもの全てを
----------------あやせを、あやせの髪を、あやせのダッフルコートを、あやせの頬も
その頬に流れていた涙も---------------全てを均しく濡らしていた。
9 : ◆36m41V4qpU [saga sage]:2012/05/16(水) 04:40:05.12 ID:HWhlZu0P0

もう あやせは何も言わなかった。ただ--------ただ ずっと空を眺めていた。
まるで見つめている虚空に何かを祈るみたいに………………
特別な何かが降ってくることを、ずっと待ちこがれて願うように………………

いくら待ってたって、冷たい雨粒以外に何かが落ちてくるわけなんてないのに……………


最初は霞のカーテンだった雨は、俺がぼんやりそんな事を考えている間に
どんどん勢いが増してきて、今は土砂降りとなって激しく俺たちを打ちつけていた。

一瞬、ほんの一瞬だけ あ._い._つ._の顔が思い浮かんだけど……………

ずっと俺の下手な嘘に騙されたフリをしてくれた
妹の趣味を葛藤しながら認めてくれた

俺の勉強の為に、 生活の世話を甲斐甲斐しく焼いてくれてた
俺(ら)のせいで、 勇気を出した告白を冗談と悲しい笑顔で誤魔化した 
目の前のこいつは 涙と雨で頬を濡らし続けてる………………………

この先、 後悔しても……………今この瞬間 何もやらない後悔よりはマシだよな?
この後に、 俺たちに何が起こったとしても 何が起._き._な._か._っ._た._としても

相変わらず 足は重いし 手に力は入らない………………
でも俺は出来るだけ口を大きく開くと雨粒を口に含んで 思いっきり飲み干した。


「あやせ………………雨宿りしよう」

「え?」

「ほら! このままじゃ風邪引いちまうぞ」

俺はロクに返事も聞かず、強引に手を握ると有無も言わせずに
空き部屋になったばかりの、(元)俺の部屋にあやせを連れて行った。

10 : ◆36m41V4qpU [saga sage]:2012/05/16(水) 04:44:14.76 ID:HWhlZu0P0

つづく
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/16(水) 05:20:25.85 ID:KngJXa0ko


これは気になる
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2012/05/16(水) 07:43:39.79 ID:oLz5xWfAO
半角ハイフンとかが鬱陶しい
もっと記号減らしたほうが良いぞ
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/16(水) 08:53:38.93 ID:NZcxuWbto
――――――――――
----------
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2012/05/16(水) 10:40:09.57 ID:tA4jhPbA0
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/16(水) 11:55:14.52 ID:mn3lx4dIO
所々で.-の記号散らしてあるのは文字化け…じゃないよな
強調位置の失敗?
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/16(水) 17:25:23.92 ID:jOglPSg6o
キリトリセンの多いスレだな
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/16(水) 17:56:32.65 ID:NZcxuWbto
ハイフン-よりダッシュ―で繋げた方がいいよ
あとドット.よりスペース で空白開けた方が見栄えがいいね
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/16(水) 22:54:45.33 ID:pNx+/GtIO
あやせエンドならどーでもいいやもう
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/05/17(木) 11:29:56.25 ID:50/6/jLk0
-------------------キリトリ-------------------
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2012/05/18(金) 00:39:38.46 ID:ea7DXisI0
間違いなら悪いけどあやせの中学受験の家庭教師を京介がするSS書いてた人?
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/05/19(土) 12:09:49.10 ID:+WlOweBgo
>>20
kwsk
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/19(土) 12:58:28.26 ID:eVj+IE/Zo
>>21
http://morikinoko.com/lite/archives/51536210.html
23 : ◆36m41V4qpU [saga sage]:2012/05/23(水) 23:55:31.20 ID:E0GEMDtS0

雨は尚も降り続け………………と言うよりも照明も点けてない
薄暗い部屋では雨音だけが響いていた。

気まずい沈黙……………………
こんな微妙な雰囲気にする為に連れ込んだわけじゃないんだ、 俺は



「参ったよな。雨、全然止みそうにもねぇなぁ」


「一体ど、どういうつもりです?――――――――――い、いきなり連れ込んで」



「取り合えず、そのコートは脱いだ方が良くないか。ずぶ濡れじゃないか?」


「ッ―――――――――――!!!
へ、へ、変態!部屋に連れ込んで――――――――――服を脱がせて。
あ、あなたは・・・・・・わたしに何をするつもりなんですかっ?」


「別に何もするつもりはないけど………………」



「え?・・・・あっ!
――――――――――逆に、わたしに何かをさせるつもりなんですねっ?
この変態っ! 変態ッ!! ド変態ぃい!!!」


「へいへい………………ほら脱がすからな」

24 : ◆36m41V4qpU [saga sage]:2012/05/24(木) 00:00:16.09 ID:w4CBsTK40

「穢らわしい――――――――――!!!
あっ な、な、何をするんですか?!ちょ、ちょっとぉ・・・・・・・・えぇっ?
――――――――――――い、い、いきなりィ? せ、セクハラァすると・・・」


「………………………………」


「ぶ、ブチ殺・・・す・・・・す・・す――――――――――か、顔が近いからっ!
――――――――――お、お兄さん、ちょっと わたし まだ心の準備が・・・・・・・」


何事か一人で盛り上がってる様子(目を瞑って、歯を食いしばってた)のあやせを
無視しつつ、俺はコートを脱がせた。


「だから別に変な意味じゃねぇって」


「・・・・・・・・・(ぷい)」


「まぁとにかく、タオルあるから拭いてくれよ。
この前みたく、 都合よく着替えまでは用意してないけど………………………」


「お、お兄さん・・・・・お先にどうぞ」

「な、何で?」



「だって・・・・・・・
『・・・・・これがあやせの匂いかぁ。クンクン スハースハー』とか?」


「す、するか!」



「お兄さんのことはデフォルトで・・・・信用してないンです、 わたし!」

「おまえ………………俺のこと好きって言ってなかったっけ?」


「あ、あれは・・・・・・・・仕返しって言ったでしょう。
いつまで、 年下の女の子のたわいもない嘘に騙されてるンです?」



「そりゃ、悪かったな。ったくほらよ」

俺は速攻で拭くとタオルをあやせに放り投げた。

25 : ◆36m41V4qpU [saga sage]:2012/05/24(木) 00:02:32.35 ID:w4CBsTK40

その時、稲光がして薄暗い部屋が一瞬、煌々と光ったかと思うと 
ちょっと間置いて大きな爆音と共に雷が落ちる音がした。

『キャァァ』

雷に驚いたあやせは悲鳴を軽くあげて、 俺に抱きついたのだが
俺の顔の顔を見ると、 さっきよりも大きい声を出して俺を突き飛ばした。

「痛ってぇ」


「す、すみません・・・・・。
セクハラされちゃう――――――――――――かもって思ってしまって」


「おまえ…………まだ、 俺が本当に中学生を空き家に連れ込んで
何かするって思ってんのかよ?」


「お、お兄さんのことをそんな風には思ってないですよ、 今は・・・・もう。
でも思ってないけど――――――――思ってはいないけど、 少しちょっぴりだけなら
思っていない事もないと言うか――――――――思ってるのかも・・・・とか?」


「時々……………………おまえ、 一_も意味が分からない時があるな」


「知りませんっ!(ぷいっ)とにかく―――――――――――と、とにかくです。
次にわたしの許可なく、わたしに触れたら確実にブチ殺しますからっ!
・・・・・・・わ、分かりましたね?!お兄さんっ!」


ってか自分から抱きついてきた癖に、 たく、 相変わらずの理不尽な天使様だよな
26 : ◆36m41V4qpU [saga sage]:2012/05/24(木) 00:04:31.81 ID:w4CBsTK40

「なら…………………許可が有ったら、 触れても良いの?」

「お、お兄さんに、 そんな許可する筈ないでしょ!バカ、ばか、馬鹿、莫迦ァ!!!」


「そりゃそうか。まぁでも……………」

「何ニヤニヤしてるんです? 気持ち悪い――――――――――――」


「あやせっておもしれぇよな、やっぱ」



「―――――――――――どっ、どういう意味ですか、 それっ?」


「おまえに怒られるのも、 案外悪くないかな?って意味」


「わたしに虐められるのが好きって特殊な性癖のカミングアウトのことですか?
そうなんですね!―――――――――――気持ち悪い」


「当たらずとも遠からずなのかな。おまえは、怒ってる顔も愛嬌たっぷりだしさ」


「あの――――――――――もしかして、 わたしのことからかってますか?」


「結局、 いつもこんな風になっちまうけどさ………………俺はこんな雰囲気でも
全然、 嫌いってわけじゃねーんだ、多分」



「・・・・・わたしは、 お兄さんのこと嫌いでした。
いつも優しい癖に、 本当は全然――――――――――全然、 違う癖に。
わたしの前では――――――――――いつもふざけて、 冗談ばかり言って、
いつも真剣に話してくれない意地悪な人で・・・・・・」


「ごめん」

27 : ◆36m41V4qpU [saga sage]:2012/05/24(木) 00:08:15.37 ID:w4CBsTK40

「嘘―――――――――――・・・・・・・・嫌いじゃない」



「『結婚してくれ』とかって嘘で、 おまえに死ねって言われちまったけど。
あやせとあんな風にふざけ合うのって、 結構楽しかったんだなって今は思うんだ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「あやせが焦ってたり、慌ててる姿を見たくて、 おまえに色々言ってた気がする」

「や、やっぱり嘘っ――――――――――お兄さんなんて大嫌い」


「俺はそうじゃない」

「・・・・・・・・・・・・・」



「だから、 おまえとゆっくり話したい」

「・・・・・」


「別の誰かの為じゃない。何かの悩み相談でもない。関係ない口実はもう必要ないんだ」

「ふぅ〜ん・・・・・・だ、だから、 中学生の女の子を無理やり連れ込むんだ?」



「だって雨にザアザア降られたままじゃ、 おまえとゆっくり話も出来ないだろ?」

「もう話す事なんて―――――――――」

28 : ◆36m41V4qpU [saga sage]:2012/05/24(木) 00:11:42.82 ID:w4CBsTK40

「こっちにはあるんだ。
だからあやせには悪いけど、どんな罵詈雑言を言われても…………ちゃんと話すまでは
絶対に、 おまえを帰すつもりはない!」


「一体どうしちゃったンですか? 
これって明らかに、 未成年者略取、 監禁、 恫喝・・・・・・犯罪行為ですよ?
ヘタレのお兄さんらしくもない――――――――――」



俺が何か言いかけた時に、『電話』とあやせに言われて話は一時中断する。


「もしもし、 お母さん。うん、 今はね・・・・・・雨宿りしてます」


あやせを見ながら、 俺は確かに全く俺らしくないと我ながら思っていた。


「平気だから心配しないで・・・・・・・わたし、 大丈夫だから」

何故かあやせは嬉しそうな表情で話していた。


そういや……………相手が小学生とは言え、 ストーカー騒ぎが有ったんだよな。
あやせの親が心配するのも無理はない。

29 : ◆36m41V4qpU [saga sage]:2012/05/24(木) 00:13:32.33 ID:w4CBsTK40

電話が切れた後

「なぁ………………やっぱり帰ろうぜ。話なら、 また今度すれば良いから」

「ど、どうしてですか?」


「おまえの家は歩いてすぐ帰れる距離なんだし、俺が送って行くからさ。
このまま……………雨がひどくなったら洒落にならないしな」



「さっきのは訂正します。やっぱり、 あなたは正真正銘ヘタレさんです。
また――――また、いつもの優しいだけのお兄さんに逆戻りしちゃうんですね、結局」

「えっと………………………………」

いつの間にか(いつの間にかというか、いつもどおりだな)
あやせの攻勢のせいで、 俺は酷い言われようなのに、全く反論もままならない。


「さっきまでの勢いはどうしたンです?
わたしを強引に無理やり―――――――――連れてきたくれた・・・・・癖に」

       連れてきてくれた………………癖にか

30 : ◆36m41V4qpU [saga sage]:2012/05/24(木) 00:15:42.96 ID:w4CBsTK40


「俺はおまえが心配で………………だから」

「あーそうですか!
もう良いですっ!――――――――――――お望み通りに帰ります、 わたし。
ちゃんと一人で帰れますから安心して、 お気遣いは無用に願います。
それでは―――――――――――さようならッ!」


あやせが立ち上がった時に

あやせを、 これ以上濡れ鼠にしない為に、 雨宿りの為に
俺はこの空き部屋に連れてきた。

この部屋にはもう何もない、 何も残ってはいない………………。
引っ越す為に、 家具やら何やらの荷物は全部運びだしたから当然だ。
すでに俺が生活した匂いは全部消えちまってる。


でも目の前に、 あやせ本人とあやせに馴染んだ風景を見ていると
俺の印象は全く違ったものに変わっている事に気付く。


本当は全然――――――――全部、 消えたわけじゃない。
それどころか………………何よりも大事な物が、 一番大切なものが、
実はまだ残ってるんじゃないのか?

本来ならガランとした、空虚で、淋しいだけの寂寥感に溢れた筈の空き部屋の風景を
温かく、懐かしく、 優しく、 愛しいものに変えたもの。


      それはきっと、 いくら時間が経っても

   
    絶対に、 忘れない あやせと過ごした記憶の残照

31 : ◆36m41V4qpU [saga sage]:2012/05/24(木) 00:18:27.30 ID:w4CBsTK40


『あっ♪お兄さん――――――――お帰りなさい』

『こら!お兄さん・・・・服をそのまま脱ぎ捨てて、 お行儀が悪いです』


『フンフフフ♪♪♪
キャッ・・・・・もう何ジロジロ見てるンですか(怒)!
ご、ご飯はもう少しで出来ますから!
だから・・・・・お兄さんは良い子でお勉強しなさい!』

『じゃじゃ〜ん!
今日は・・・・・・お兄さんの好物のハンバーグにしてみました。
どうぞ召し上がれ♪』

『お兄さん・・・・お野菜も食べてくださいね。
もうぉ!バランスを考えて作ったんだから、 好き嫌いしちゃダメだぞ!(プンプン)』

『あ・・・あ〜ん?・・・・す・す・すっするわけないでしょっ!もう変態ッ』

『エッヘン★それは美味しいに決まってるでしょう?
だって、だってっ・・・・・魔法のスパイスが効いてるンですから。
え?・・・な、何のスパイスかは・・・・内緒・・・・ないしょです、 ふふ』


『お見送りはしないで結構です。お兄さん、 お勉強・・・頑張ってください。
でも、でもっ根を詰め過ぎない様に・・・・絶対に、無理はしないでくださいね』

『・・・・また明日来ます――――――――――おやすみなさい』


『きょ、京す(け)サ・ン・・・・・・おっ、お・兄・さ・ん――――ファイト♪』



32 : ◆36m41V4qpU [saga sage]:2012/05/24(木) 00:20:20.90 ID:w4CBsTK40

俺はあやせの甲斐甲斐しい生活の世話だけじゃねぇ………………
こいつの笑顔に、思いやりに、 ずっと助けられてたんじゃねぇか。
そんな事は…………………本当は最初から、 ずっと前から分かってた筈だろ?


ったく………やっぱ俺は大馬鹿野郎だ。


何かをしても―――――――――――何をしなくても後悔することは分かっている。
もうすでに、 覚悟は決めたんじゃないのか?


もう一度、 あやせを豪雨の中に晒すなんて真似……………死んでも絶対に出来るかよ

33 : ◆36m41V4qpU [saga sage]:2012/05/24(木) 00:21:45.89 ID:w4CBsTK40
つづく
34 : ◆36m41V4qpU [saga sage]:2012/05/24(木) 00:26:27.45 ID:w4CBsTK40
補足

確か--------------よりは
―――――――――――の方が良い気がして来たんでそれは参考にして変えた。

記号だらけで見にくいのはそういうのが書きたいって事で。


強調の仕方は試行錯誤中なので勘弁してくれ。文字化けじゃない。


こうやって途中で変わるのが個別スレの醍醐味だと思うんで
ご意見等は歓迎
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/24(木) 00:57:21.26 ID:4oJdhWiCo

期待してるから頑張って
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/24(木) 01:02:28.84 ID:iEwLXPS2o

余計なことだけど、文章中の記号って、文章の一部だと思う
“……” と “――” とでは意味合いも使われ方も違うことだけは
確認しておいたほうがいいと思う
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/24(木) 11:06:20.25 ID:GrodDVPIO


・・・と…はどっちか片方にすべきだろ
そして数を減らすべき
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/05/26(土) 00:43:00.95 ID:9z7DCkWI0
んはわざとか?
ンのたびにアクセラレータが頭に浮かぶ・・・
39 : ◆36m41V4qpU [saga sage]:2012/06/13(水) 00:58:19.52 ID:gfJUulNA0
またまた補足
ニュアンスだけでも伝わればイイと思ってたが
全く伝わってないんで、本来文章で伝えるべき所を
説明するのはどうかと思うが
―――――――――――――はあやせが視線やら注意を京介に
向けてるイメージで書いてた。長さはその強弱に比例

個人的に動いてる、特に声が出るあやせが好きだから
動きがある感じで書いてるつもりだが、やっぱ難しい。
40 : ◆36m41V4qpU [saga sage]:2012/06/13(水) 01:01:43.19 ID:gfJUulNA0


「待ってくれ、 あやせ!
未成年者略取、 監禁、 恫喝………………どうせ俺は極悪な重罪人だからな。
今更ジタバタしたって始まらねぇし、 毒を食らわば皿までって言うじゃねぇか。
この際、 極刑に処されちまうまで……………俺は罪を重ねるわ」


「――――――――――――どうぞご自由に。
どうせ、 すぐに途中で罪を悔いて反省するんでしょうし・・・・・・」

「もし、 そうならなかったら?」



「きっとそうなります。さっきだって・・・・・」

「………………………これでも、 そう思うか?」



「――――――――――――・・・・・・・・・・変態」

立ち上がろうとしていたあやせを、 無理やり床に座らせると
まだ濡れたままのあやせの髪を、 タオルで強引に拭いてやる。



「――――――――――――強制わいせつ罪ですよ、 コレ」

「誰かさんの許可待ってたら、 おまえが風邪引きそうだったからな」


「へぇー性犯罪者の分際で、 随分お優しいんですね」

「今後………俺の呼び方はデフォルトで、 犯罪者になっちまうのか?」



「同意なく無理やり部屋に連れ込んで、 その上に脅迫までして。
更に今は―――――――――――勝手にわたしの髪に身体に触れてる癖に。
これが犯罪じゃなかったら、 他にどんな罪があるって言うんです?」

「………………そりゃ、 そうか」



「ねぇ、 ねぇ、 どうしても呼び方がお気に召さない様でしたら、 わたしが
お兄さんが犯罪者じゃなくなる方・法・――――――――教えてあげましょうか?」

「………………………………」

そんな方法とっくの昔に分かってるさ。
俺の本当の罪は………………未成年者略取でも監禁でも恫喝でも無いんだ。


本当の罪は………………あやせに、 これ以上この質問の答えを求めないことだ。
一旦求めてしまえば、 『絶対に後戻りが出来ない問いと答え』がある。

41 : ◆36m41V4qpU [saga sage]:2012/06/13(水) 01:03:20.58 ID:gfJUulNA0

「(ぷい)もう別に・・・・・・・良いです。
それに犯罪者の癖に、 たとえ咎人のお兄さんでも、その手って温かいし――――――」

気が付けば、 あやせは………髪を拭いてやっていた俺の手に自分の手を
俺の右手(指)に左手(指)を――――――――左手(指)に右手(指)を、
まるで俺に何かの手解きをするみたいに、 とても優しく添えてきた。


「お、おまえの手は冷たいな………………」



あやせは手を重ねたまま、 暫く黙っていたのだが………………


「―――――――――――違う」と口を開いたかと思うと


    あ__な__た__の__手__が__温__か__い__ン__でしょう?


と(こんな事言って良いのか分かんねーけど)艶めかしくて、 扇情的な
ぶっちゃけ、 魅惑して誘惑してるみたいな…………ヒリつく熱視線を俺に向けた。



「そ、そう言えば…………あやせ知ってるか?『手の冷たい人は心が温かい』って話」

俺は結局………視線を逸らして、 ついでに何とか話も逸らそうとした。



あやせの髪はロングだが、 (当たり前の話だが)無限に長いわけじゃない。

俺はほぼ、 あやせの髪を全部拭いてやったってのに………………
あやせは、 自分の両手を―――俺の両手から、 離す素振りを全く見せなかった。

俺の掌は……………あやせの前髪、 横髪、 後ろ髪、 毛先を
繰り返し――――――繰り返し
出口のないメリーゴーラウンドみたいに永遠と彷徨い続けている。

考えてみたら………………これって まんま俺自身の事みてぇーじゃねぇか。
答えの出ない質問の迷宮を延々とグルグル回ってる迷子みたいなもんだ。

42 : ◆36m41V4qpU [saga sage]:2012/06/13(水) 01:08:11.05 ID:gfJUulNA0


「――――――――――それで?」

「その説から言うと、 俺はあんまり優しくねぇのかもって思ってさ」



「――――――――――――・・・・・・・(ハァー)、やっぱり」

「へ?」



「もう髪は大丈夫です――――――――――有り難う御座いました」


「ど、どうも致しまして………………」

突然そう言われて、 俺はなるべく早く……………手を離そうとしたけど



「――――――――――――わたしにもお礼させてください」

あやせはさっきより何倍も強い力で、 自分の掌で―――俺の手で握ると



「………………え、えっと」

「お礼――――――――だ、だから・・・・動くなッ―――――動かないで!」

そのまま俺の掌を、 自分の首筋やうなじに問答無用で無理やり密着させた。
あやせの肌は、 しなやかで弾力があって、 それにやっぱりヒンヤリと冷たかった。


「………………………………」


あやせの言うお礼が自分の肌に触れさせて、 俺の手を冷やすことなのか?
それとも
肌にれさせることで、 俺の心と身体の奥を熱くさせることなのか?

その時の俺にその答えが分かる筈も無かった。

43 : ◆36m41V4qpU [saga sage]:2012/06/13(水) 01:09:42.82 ID:gfJUulNA0

「・・・・・わたしのお礼って迷惑ですか?」


「あ、 いや………………全然」

あやせの表情が曇りそうになったのをチラリと見た俺は、 咄嗟にそう言う。


あやせは俺が手を離す気がないのが分かると、 今度は自分の指先を俺の頬に置いて
最後は優しく撫でた。


そして目を逸らしていた俺の顔は無理やり、 あやせの方に向けさせられる。


「――――――――――――本当?」

大くて澄んだ―――――――潤んだ、全てを見透かされそうな双眼の瞳を俺に定めて
まるで、 犯罪者に刑事が……………尋問するかの如くあやせは訊いた。



「全然……………迷惑じゃないよ」

俺の掌は………………もうすっかり温(ぬく)くなったあやせの首筋やうなじから
ゆっくりと離れた。 そしてまた冷たい箇所を探す為に、 あやせの身体を求めて彷徨った。

まるで嘘じゃないって、 指先で語って証明するみたいに



「あっ・・・・・え!?
お、お兄さんって、 許可してないのに勝手にそんな所まで触るんだッ?
あなたみたいな性犯罪者は――――――――――やっぱり、 ブチ殺しますから!」

「ああ…………良いぜ。おまえに処刑されるなら本望だ」



「テヘ★――――――――なーんてね。
お兄さんの手ってやっぱり温かくて、優しくて、 心も身体もポカポカ・・・する♪」


「あやせ」


「(ハァー)あーあ、
もうわたしの下手な嘘では、 遂に・・・・お兄さんを欺せなくなっちゃいました」


「そう…………みたいだな」



「―――――――――――わたし、 もう嘘吐くのに疲れちゃった」

そう言うと、あやせは俺に自分の身体を横たえてきた。

44 : ◆36m41V4qpU [saga sage]:2012/06/13(水) 01:12:55.23 ID:gfJUulNA0

俺は 特に思考せず、 葛藤せず、 逡巡もなく…………

『記憶の囁き』も、 『意識の温もり』も、 『心の残照』も、俺の中で喚起せず

とても――――――――とても、 自然にあやせの肩を抱いて受け止めた。


妹の親友に 今日突然告白されて、雨が降ってきたから雨宿りして、
今はまるで、 愛しい恋人同士みたいに見つめ合って――――――抱き合っている。


一年前、 いや……………告白される直前までだって、
あやせとこんな状況になるなんてことは、 本当に一_も考えてなかった。


けどさ、 結局………………あやせがもう嘘を吐かないと決心しちまったら?
そして そんなあやせを泣かせた自分を許し難いと俺自身が感じてしまったら?

だから………こうなっちまったのが、 それほど不自然な感じがしねぇんだ。



あやせが言った俺が『犯罪者』じゃなくなる………………方法
今みたいにあやせを抱きしめても、 『セクハラ』とか『ブチ殺す』
と言われなくなる関係(まぁ事実……………今も何も言われてねぇけど)



あやせは改めて、 決心した表情で俺を見つめると切りだした。

「―――――――――――お兄さん 
わたし、 わたしね・・・・・・・・」


俺はずっと…………あやせの言葉の続きを待った。
でもいつまで経っても………………あやせの声は聞こえなかった。


  あやせは左手で俺の頬に触れながら、 必死に言葉を探していた。
  
同時に
  
  『あやせは右手でヘアピンに触れながら、 頑なに沈黙を守っていた』



俺も結局、 ずっと黙っていた。

途切れることのない雨音と、 時折轟く雷鳴の響かせる音を聞きながら


今は身体を放さない様に――――――心がここから離れない様に

強く――――――――――強く抱締めて(き)た。

45 : ◆36m41V4qpU [saga sage]:2012/06/13(水) 01:15:03.36 ID:gfJUulNA0



どれくらい時間が経ったんだろう?

何もないがらんとした 薄暗い空き部屋で 雨宿りだけのつもりが

行き掛かりで 嘘吐きの魅惑的な美少女と 抱き合う結果になったヘタレの男なら

よくありがちな事として 俺の時間の感覚は完全に失われていた。


窓から見える風景は 一面デタラメに混ぜた絵の具をひっくり返したみたいな色

今が何時くらいなのか あやせとこんな風に抱き合って どれくらいの時間が
経過したのか さっぱり見当が付かない。


時間を確認しようと、 俺はポケットから携帯を出す為に体を動かけた時
あやせはとても分かり易く―――――不愉快と不快感と不同意を全身を駆使して
(頬をつねる、 首を横に振る、 睨む、 掌をギュッと握る etc etc)表明する。

当然、 俺が時間を確認する試みはあっさり挫折した。


と言うか今の状況で、 俺が自由に出来ることがそもそも、かなり限定されていた。

俺が 
聞こえる――――見られる―――――触られる―――――鼻腔に感じられるのは
あやせの息遣い――――あやせの視線――――あやせの温もり――――あやせの匂い
だけで俺の五感の全てが、 ほぼあやせに支配されつつあった。

唯一まだ抗って残ってるのは………………緊張でカラカラに渇いて、
今まさに唾を呑み込む瞬間に、 バカデカい音をさせちまった口だけだ。


でもその空しい無駄な抵抗も、 もはや風前の灯火だった。

46 : ◆36m41V4qpU [saga sage]:2012/06/13(水) 01:18:31.81 ID:gfJUulNA0

あやせは俺が立てた音を聞くと、 俺の袖と注意を同時に引いてニッコリ微笑む。
そのチャーミングな仕草や表情に、 思わず俺が見とれていると今度は口を開いて

          
          『覚・悟・――――し・て・』


(声を出さずに 口の動きだけで)囁くと
ずっとヘアピンに触れていた右手と――――――俺の頬を撫でていた左手を
ゆっくり合わせて、 自分の胸の前で組み直す。

さっきほどの表情とはうって変わって、あやせの表情は何処までも真剣そのもので、
その姿は俺に、 神様に聖なるお祈りをしている聖女(天使)の様なものを想像させた。

俺が息を呑んであやせの様子を伺っていると
今まで散々、 俺を睨め付けて威圧して(魅惑していた)大きな瞳を閉じて
何かの合図をするみたいに(捧げるみたいに)ゆっくりと顔を俺の方に向ける。


今日告白してきた時、 俺が地蔵みたいに固まってた時に 雨に打たれながら
空に叶わない願いを祈っていた―――――――――――――あやせとは違う
虚空にあり得ない奇蹟を求めていた―――――――――――あやせとも違う。

俺の腕の中で全てを委ねているあやせを相手に、 この状況でどう考えたって
もう後戻りなんて出来そうにはなかった。


俺は覚悟(?)を決めると、 自分も目を閉じてあやせの柔らかくて濡れている唇に


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
               #♭♪ 
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「「痛ッ」」


触れようとした瞬間に(携帯の音が鳴ったせいで)間抜けにも目測を誤って
俺は無人の空間とキスしてしまい、 俺らはおでこ同士をお互いぶつけてしまった。

まだあやせは祈りのポーズのまま、 目を瞑っている。

いくらなんでも『無人の空間』が俺のファーストキスの相手なんてのは切なすぎる
もちろん、 それはあやせにとっても。

だから、 さっきと俺らの状況は何ひとつ変わっていない(筈だった)


でも本当はちょっと違っていた。
その時、 俺は音だけで、誰__が__ 俺に着信をよこしてるのかを知っていたから。

47 : ◆36m41V4qpU [saga sage]:2012/06/13(水) 01:20:33.15 ID:gfJUulNA0

『え?け、 携帯を貸せ………………だと?
な、何でおまえが彼女が彼氏の浮気をチェックするみてぇな真似をするんだよ?』

『あ〜マジキモ。
あんた、、何、盛大に勘違いしちゃってんの?
誰かさんが、、妹のメールや電話でテンション上がる超シスコンだから
わざわざ、、このあたしが特別に!着信音を設定してあげようって言ってんの』


『いや………………それにしても何と言うか』

『あーそっ!文句あんなら、、今後一切、、京介には電話もメールもしないから!
それで、、本当に良いワケ?!あんた』


『ぐ………………』

『にゃひひ、、シスコンお兄ちゃんだから、、京介は可愛い妹の心遣いを
拒否なんてしないもんねー?」


『分かったよ』

『と、ともかく、、今後はあたしの電話は優先的に死んでも出ること、、絶対!
わかった?』

『……………へいへい、 喜んで』


そう、 何故か最近の桐乃は事あるごとに俺にメールやら電話をして来る様になった。
(あくまで例えの話だが)別に遠距離恋愛してるカップルじゃあるまいし
さっぱり意味が分からない。

更に謎が深まるのは、 文章の中のあいつは何だか可愛気があると言うか……………
もしかして誰か別の人がメールを打ってるんじゃないのか?って思う時すらあるのだ。

48 : ◆36m41V4qpU [saga sage]:2012/06/13(水) 01:21:36.61 ID:gfJUulNA0


「―――――――――――桐乃ですか?」

桐乃のことを考えていて、 完全にぼんやりしていた俺にあやせが言った。
そして同時に、 あやせはもう(目を瞑ったままの)お祈りはしてなかった。


「ご、ごめん」


俺らの間に横たわっていた親密な抱擁は解かれて、 代わりに隔絶とした 
よそよそしさだけが、 鳴り響く着信音とともに辺りを支配していた。


「・・・・・・・何で、 お兄さんが謝るんです?」


「………………」

「桐乃も心配してると思うから、 早くお返事返してあげてください」


「………………………………ああ」

俺はあやせを横目に電話に出る。



『おっそい!
あたしが電話したら5コール以内に出るって約束したでしょ!』


「わ、悪りぃ…………」


『アンタ、、何してんの?』


「あ、雨宿り中なんだよ。ひでぇ土砂降りだろ?」

あやせとキスしかけたとは、 死んでも言えるわけがない。


『今、 どこ?』

「え?」


『だ、だから何処で雨宿りしてんのかって意味っ!
あたし傘持って迎えに行ってあげても良いしさ』


「いや、いや、いや………………傘くらいコンビニで買えば良いし
雨が止むまで待ってても大丈夫だからっ!」


『却下!アンタは受験生でしょ? 
もし京介が風邪とか引いたら、 周りに迷惑かけるって分かってんの?』


「屋根がある場所に避難してっから、 だ、だから平気だから安心してくれ」


『えっと、、さ、、今、 近くに誰か居たりする?』

「え゛?」


『あたしの、、、質問、 ちゃんと、、答えてよ』

「ひ、一人だよ」


俺は咄嗟に嘘を吐いた。

49 : ◆36m41V4qpU [saga sage]:2012/06/13(水) 01:24:17.16 ID:gfJUulNA0


「――――――――――――――――――――――――――」

「………………」

チラりとあやせの方を見ると


「・・・・・・・・・・・」

あやせは目を逸らす


『ねぇ、聞いてる? 京介、、、、きょ・う・す・け・』


「あ?ああ………………聞いてるぞ」


『本当に一人?』

「本当に一人」

自分でも驚いた、 桐乃にこんなに意図して嘘を吐いた事なんて今まで無かった。
でもその時の俺は………………


『ふぅ〜ん、、そう』

「………………じゃぁ、またな」


『待って!あ、あたし話あるから、 すぐに帰ってきてくんない?』

「は、はぁ?
だ、だ、だから俺は雨宿りしてるって言ってたんだけど………………?」


『良いから帰ってきて、 もし、、今帰ってこないなら、、(判別不能)、からっ』

「おまえ、 な、何を………………?
さっき言ったよな? 俺は受験生だから風邪引かない様に」


『京介、、あたし待ってるから、、信じてるから』

一方的に桐乃は言い放つと同時に電話も一方的に切られた。

しばらくの間、 あやせと二人っきりでいる事も忘れて俺はずっと
桐乃の事を考えていた。


覚悟して俺は、 あやせを部屋に連れ込んだつもりだった

好きと言わた時、 返事をすることを躊躇って…………その結果あやせが
雨の中で泣きじゃくって、 涙さえ区別が出来ない様になったままにはしたくなかった。
あやせをそのままにしたくなかったから、 俺は敢えて自分でも驚く行動に出た。


けど、散々悩んで腹を決めた筈なのに、 桐乃と話した途端に
そんなことを一瞬で忘れてしまった自分に気付く。

単に雨に濡れてあやせが可哀想だから、 100%同情で連れ込んだだけ、
だった気がしてくる

俺には何の予感も、 ましてやあやせを受け止める覚悟なんて最初から、
そ・ん・な・も・の・は、 全・然・無かった気がしてくる

さっきキスしかけた事すら幻だった様な気すらしてくる

50 : ◆36m41V4qpU [saga sage]:2012/06/13(水) 01:26:05.75 ID:gfJUulNA0

「あのさ、 あやせ 俺………………」


「雨・・・全然上がりそうにないですね」


「あ、雨は良いんだけど、 さっきの………………」


「さっきって、 何のことですか?」


「な、何のことって………………さっきの続きっつーか」


「続きって?」


「だ、だからき、き、 キ………………ス」


「わたし達には・・・・・何も無かった。それで良いじゃないですか?」


「それ、 どういう意味……………だよ?」


「わたしは告白しなかったし、 お兄さんはわたしを部屋には連れ込まなかった。
二人で雨宿りなんてしてないし、 抱き合ってキスしかけようともしなかった」


「そんなわけには、 いかないだろ? 俺はちゃんとおまえのことを」


「ちゃんと・・・・?
お兄さんは、 わたしを・・・・わたしとのコトを"ちゃんと"、 どうするの?」


「いや…………だから」

「―――――――だから?」


「………………だ、だから」

「煮え切らないお兄さんに、 ひとつ良いこと教えてあげましょうか?
例えば、 桐乃がわたしがこんな風に告白することを知ってるとしたら・・・・」

51 : ◆36m41V4qpU [saga sage]:2012/06/13(水) 01:29:43.57 ID:gfJUulNA0

「え?」


「だ・か・ら・例えばの話ですよ」


「………………」


「この状況、 桐乃にどうやって説明するつもり・・・・?」


「………………」

説明なんて出来るわけが無い


「安心してください・・・ちょっとからかっただけ」

「あやせ」


「結婚してくれとか、付き合ってくれとか 嘘ばっかりついたから・・・
お返しの冗談だって、 その意趣返しだって最初に言ったでしょう?」


「だから、 そ・れ・が・全部嘘だっておまえ言った……………だろ?」


「だったら、 わたし・・・・この嘘を本当にしてしまっても良いんです・・か?」


「………………」


「・・・・・やっぱり、 このままが良い」

「………………」

52 : ◆36m41V4qpU [saga sage]:2012/06/13(水) 01:31:27.13 ID:gfJUulNA0


「・・・・―――――――――――――嘘でもほんとうに、 嬉しかったから。 
お兄さんがそうしようって一瞬でも――――勘違いでも――――そうしようって
思ってくれただけで わたし、 すごく――――――すごく嬉しかったから」

「………………」


「だから嘘は嘘のままで、勘違いは勘違いのままで・・・・このままで良いの」


「俺はさ」

「・・・・わたし、 もう帰ります」


「と、とにかく聞いてくれ」

「聞きたくないっ・・・から」


「良いから聞けよっ!俺は………………」

「だったら――――――――――全部、 桐乃言っても良いの?」



「そ、それは………………」

自分で最低だと思った。
結局、 妹の事を持ち出されたらどんな状況でも立ち止まっちまう自分が…………



「大丈夫・・・・・そんな意地悪なんてしない・・・から、 安心してください」

「………………」



「バイバイ・・・・・お兄さん」 

そう言うと、 振りかえりもせず、 あやせは部屋から出て行った。


結局、 あやせをちゃんと受け止める事も出来ず、 雨宿りすら満足にさせてもやれず
………………俺がやったことと言えば、 あやせを余計に傷つけたことだけだった。




俺が暫くして部屋から出た時も、 空は落ちてきそうなくらいどす黒く
何の救いもないみたいに雨は、 ずっと土砂降りのままだった。

53 : ◆36m41V4qpU [saga sage]:2012/06/13(水) 01:32:23.88 ID:gfJUulNA0
つづく
54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/06/15(金) 12:30:33.55 ID:qDUQ4iFno
乙ー
で、続きは?
55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/08/09(木) 22:25:31.43 ID:exnGCOTpo
まだなん?
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