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メイド「お嬢様……いえ、女さん」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/19(土) 16:41:47.17 ID:dKRA6F0go

魔王が滅んでから数十年。

人々は魔族のもたらす混沌、そして人には扱えない「魔法」の恐怖から解放されました。

そして魔王城跡地から馬車で二週間ほどにある大都市――。

ここは、ある国の国境にほど近い場所に築かれた、領主様たちが住むお屋敷です。

下町には多くの傭兵と商人と建築家と労働者と……多大な雇用を生み出していました。

しかし繁栄は長くないことを、彼女は知っています。

不穏な影が、視界の隅をうごめいているのです。

屋敷のお嬢様は、言いようのない焦りを振りほどくように、読書に没頭するのでした。

……。

――パチン――

暗くなってきた室内に、ランタンの明かりが灯ります。


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少し暑くて少し寒くて @ 2024/04/25(木) 23:19:25.34 ID:dTqYP2V2O
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渾沌ゴア「それでもボクはアイツを殺す」 @ 2024/04/25(木) 22:46:29.10 ID:7GVnel7qo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1714052788/

二次小説の面白そうなクロス設定 @ 2024/04/25(木) 21:47:22.48 ID:xRQGcEnv0
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佐久間まゆ「犬系彼女を目指しますよぉ」 @ 2024/04/24(水) 22:44:08.58 ID:gulbWFtS0
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全レスする(´;ω;`)part56 ばばあ化気味 @ 2024/04/24(水) 20:10:08.44 ID:eOA82Cc3o
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君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
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笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
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【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part10 @ 2024/04/23(火) 17:32:44.44 ID:ScfdjHEC0
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2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/19(土) 16:44:09.99 ID:dKRA6F0go
すみません。最後のリンクが2行になっちゃいました。

注意
・途中まで書き溜めしました
・濡れ場はたぶんないです
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/19(土) 16:45:20.56 ID:dKRA6F0go
【ティーカップに涙は溜まらない】

コンコン

メイド「お菓子が出来ましたわ。入ってもよろしいですか?」

お嬢様「構わないわ」

メイド「……おや、読書をされておられるのですね」

お嬢様「有名な悲劇なのだけれどね……これは名作よ、あなたも読むべきだわ」

メイド「すみませんお嬢様……私は読み書きに疎いもので……」

お嬢様「なら、私が教えてあげるわ」

メイド「ありがたきお言葉です」

お嬢様「それはそうと、お茶にしましょ。せっかく持ってきてくれたのだから」
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/19(土) 16:46:25.78 ID:dKRA6F0go
【真面目で謙虚な堕落メイド】

メイド「いかがですか?」

お嬢様「ええ、このクッキー、硬い歯ごたえと淡白な味がなんとも言えず、新感覚だわ」

メイド「気に入っていただけましたか?」

お嬢様「もちろんよ!! 下町のお菓子を作らせた甲斐があったわね!」

お嬢様「とても美味しいし、素朴な味わいがクセになりそう!」

メイド「ふふふ……興味を持っていただき、幸いです」

メイド「この料理の名前は『旅行風クッキー』」

メイド「砂糖をあえて使わず、味付けはナッツのみです」

メイド「水分も少なめにしたので、とても硬いはずですが……大丈夫ですか?」

お嬢様「なに言ってるの、そこがいいんじゃない」
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/19(土) 16:48:10.68 ID:dKRA6F0go

お嬢様「砂糖や油分をふんだんに使った「お貴族料理」よりはぜんぜんマシよ」

メイド「ふふふ、お嬢様は庶民の文化が大好きですね」

お嬢様「今更ね、それ」

メイド「ふふふっ、存じ上げておりました」

お嬢様「私が庶民好きってこと、周りにはヒミツにしてるわよね?」

メイド「勿論、誰にも口外しておりません」

お嬢様「当然……当然ね。あなたが口外したら、「メイドがお嬢様を堕落させた」ことになる……」

メイド「……」

お嬢様「せいぜい、あなたの身のために、ヒミツは守ってね」

メイド「重々、承知しております」

お嬢様「ありがとう……危険な橋を渡らせてしまったわね」
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/19(土) 16:49:33.07 ID:dKRA6F0go

メイド「これは私の選択でもありますから」

お嬢様「恩に着るわ……ところで、クッキーが3枚残ったわ」

メイド「後で召し上がられますか?」

お嬢様「いえ、貴方が食べて良いわよ。……朝から何も、食べてないんでしょ?」

メイド「…………では、ありがたく頂戴いたします」

お嬢様「時間をとらせてごめんなさい。仕事に戻っても良いわ」

メイド「はい……それではお夕食の時間にお迎えに参ります」

お嬢様「わかったわ」
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/19(土) 16:50:21.50 ID:dKRA6F0go

【ワインの赤色は血脈を生む】

メイド「ディナーはいかがでございましたか?」

お嬢様「……ふぅ、小食を装うのもラクじゃないわね」

メイド「ええ、見てるこちらのほうがハラハラとしました」

お譲様「勝手に食べてれば良いのに、どうして毎回私に勧めるかしらね」

メイド「きっと、お嬢様が食わず嫌いをなさっていると思われているのでしょう」

お嬢様「甘いわね」

メイド「と、言いますと?」

お嬢様「お酒よ。お酒で酔わせて、私をモノにしたいのよ」

メイド「……そういった世界は、よく分かりません」
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/19(土) 16:52:20.22 ID:dKRA6F0go

【タネ無しマジック】

お嬢様「……つまんない」

メイド「そうですね。何かいたしましょうか」

お嬢様「いいわね。何が出来るの?」

メイド「手品を少々」

お嬢様「まあ! 今からドキドキするわね!」

メイド「では……このロープとナイフを使います」

お嬢様「……」ワクワク

メイド「ロープを結びました。確認してください、普通の固結びですね?」

メイド「輪っかになったロープを、ナイフで切ります!」ズバッ

メイド「切れました。ふふふ……手をかざすと…………」
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/19(土) 16:56:37.51 ID:dKRA6F0go

お嬢様「……! わぁ……♪」

メイド「ご覧の通り、元に戻りました」

お嬢様「分からないわ……どんな魔法を使ったのかしら?」

メイド「努力の賜物です」

お嬢様「努力の領分を越えているようにも見えるわ」

メイド「人の努力とは、時として魔法じみてくるものです」
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/19(土) 16:58:32.22 ID:dKRA6F0go

【許す人許される人】

兄上「やあ、読書は捗っているかい?」

お嬢様「あら、」

兄上「ああ、いいよ、座ったままで。ちょっと様子を見に来ただけだから」

お嬢様「兄様が忙しい間もね、何もするなって」

兄上「ごめん……寂しかった?」

お嬢様「いえ。メイドがいるもの……」

お嬢様「でも、私が謝るべきだわ! どうして兄様のお手伝いが出来ないのか……!」

兄上「僕が、僕がこの家の跡取りだから、これは僕にしか出来ないんだ」

お嬢様「……この数ヶ月で、だいぶ忙しくなったわよね」
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/19(土) 16:59:09.49 ID:dKRA6F0go

兄上「あぁ……」

お嬢様「それは領主様が……」

兄上「それ以上言うな!!」

お嬢様「ぅ……ごめんなさい」

兄上「……ごめん、どうかしてた」

兄上「……君に当たるつもりは無かった……」

お嬢様「いえ、私でよければ……いつでも話を聞くわ」

兄上「ありがとう……執事が呼んでる。行かなきゃ」
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/19(土) 17:01:22.16 ID:dKRA6F0go

【日没】

メイド「いかがなさいましたか?」

兄上「僕が……この僕が、妹に当たってしまうなんて」

メイド「そういうこともありますわ」

兄上「そうかな」

メイド「そうでございます」

兄上「……おや、これは?」

メイド「わたくしめの昼食にございます」

兄上「このパンが一枚だけ?」

メイド「そうでございます」

兄上「半分ほど残っているようだが?」

メイド「えぇ」

兄上「どちらにせよ、これだけでは十分な栄養にならないよ」

兄上「見習いコックが食堂で何やらやっているらしい。手伝ってきてくれ」
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/19(土) 17:02:48.11 ID:dKRA6F0go

【姉は強し】

見習い「うーん……塩が多いのかな……」

メイド「どーしたのかなっ。弟くん!」

見習い「姉さん。どうしてここに、」

メイド「屋敷の若旦那に聞いてね」

見習い「ちょうど良かった! これ食べて!」

メイド「鶏肉?」

見習い「東のスパイスで味付けしてみたんだけど……どうにも味が濃くてさ」

メイド「……ふむ。味は悪くないね。けどダメだよ。ターメリックとコショウが多い」

見習い「塩は?」

メイド「他のスパイスを減らせば、そのままでも大丈夫」

見習い「そうだったのか……」

メイド「うん。あとね、この部位は焼くとスジっぽくなるから、あらかじめ切れ込みををね……」
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/19(土) 17:05:37.20 ID:dKRA6F0go

【軍資金】

メイド「きゃっ!」ガシャーン

お嬢様「すごい音ね」

メイド「すみませんお嬢様! カップを割ってしまいましたわ!!」

お嬢様「待って」

メイド「……?」

お嬢様「この欠片が良いんじゃない……」

メイド「はい?」

お嬢様「メイド、命じるわ。今すぐこのカップの欠片を1つ、更に粉々に砕きなさい」

メイド「いったいどういう……」
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/19(土) 17:12:23.11 ID:dKRA6F0go

お嬢様「まあやってみなさいって。きっと面白くなるわよ」

メイド「それじゃあやってみますね」

お嬢様「……出来たみたいね。ほら、どこかおかしいとは思わない?」

メイド「これは……金の粉末、ですか?」

お嬢様「そう。そうなのよ。陶器に砂金を混ぜてるの。うちはこうやって財産を隠してるってわけ」

メイド「……どうしてそれを私に?」

お嬢様「ここに、同じデザインのカップがあるわ。おととい市場で買わせたの」
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/19(土) 17:13:13.74 ID:dKRA6F0go

【バイオレンス】

騎士団長「……はい?」

兄上「いや、すまない。おかしな話だろうが、これは事実だ」

お嬢様「ということよ!」

騎士団長「いえ、真偽を疑っているわけでは……」

兄上「ということで、後は任せたよ」

騎士団長「は、はあ……お嬢様に剣術を……」

お嬢様「どの剣を使おうかしらねえ……ふふふ」

騎士団長「いえ、ですが、お怪我をなされたら……」

お嬢様「私の腕を触ってみて」
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/19(土) 17:17:40.19 ID:dKRA6F0go

騎士団長「はい? 今なんて……」

お嬢様「いいから触りなさい」

騎士団長「は、はい、では…………えっ!?」

お嬢様「どぉ? 力には自信があるのだけれど」

騎士団長(触らないと分からないがこの筋肉量、今後戦闘に価値を見出すかもしれない肉体……これが生ける宝石というヤツか)

お嬢様「もう、見とれちゃって。でも分かってもらえたわね?」

騎士団長「はい……」

お嬢様「ここは今から戦場よ」

18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/19(土) 17:18:45.70 ID:dKRA6F0go

【大脱走計画】

メイド「お帰りなさいませ、お嬢様」

お嬢様「私はお疲れなのよ」

メイド「まあ! 指を怪我されてますね」

お嬢様「それだけで済んで良かったわ……」

メイド「指を出してください、軟膏を塗りましょう……それで、何をなさったのですか?」

お嬢様「ちょっと騎士団長に剣術指南をしてもらったの」

メイド「騎士団長……剣の腕前は騎士団一だとか」

お嬢様「聞いてたわ。でも、いい勝負したのよ」

メイド「お嬢様……剣術も嗜んでおられたので?」
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/19(土) 17:19:12.16 ID:dKRA6F0go

お嬢様「いいえ、まったく。手加減してくれたのかしら」

メイド「さて、どうでしょうか」

お嬢様「そうそう、メイド。貴方の『お仕事』は順調?」

メイド「えぇ。このカップ1つあたり、金貨2枚分の金が入っていたようです」

お嬢様「まあ、綺麗な砂金…………金貨2枚……下町で遊ぶには、十分でしょうね」

メイド「豪遊できる金額です」


※この世界では金貨1枚=15万円ぐらい
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/19(土) 17:20:05.10 ID:dKRA6F0go

【病魔】

領主「お、おおぅ……来てくれたか。レミダグ」

メイド「申し訳ありませんが、その名が知れてしまいますと……」

領主「すまない。だが私も長くはない。最期くらい、な」

メイド「……はい」

領主「もっと近くに寄ってくれ。顔を見たい」

メイド「……」

領主「おぉ……ずいぶんと……美しくなった……久しく見ないうちに立派になったなあ……」

メイド「……すみません。本当ならば、領主様のお傍で日々を過ごしたいのです」
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/19(土) 17:20:42.85 ID:dKRA6F0go

メイド「まだこの胸に抱えた恩義の心を打ち明けきれていません。このご恩に報いたいのです」

領主「……若者の青春は短い。レミィ。まだやることが残っているのではないかな」

メイド「えぇ……」

領主「すまん……私の娘を頼んだぞ……」

メイド「命に代えても……では」

バタン

領主「それにしても……あの小さかった忌み子がな……」
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/19(土) 17:22:09.79 ID:dKRA6F0go

【暇つぶし】

お嬢様「……暇だわ。雨のせいで外にも出られないわね」

お嬢様「きゃあっ!!」

お嬢様「……ふぅ。この私が雷ごときに恐れをなすなんて」

コンコン

見習い「すみません。メイドさんはいらっしゃいますか?」

お嬢様「いないわよ」

見習い「そうでしたか……ありがとうございます」

お嬢様「待ちなさい」

見習い「えっ?」

お嬢様「あまりに暇だから、話し相手になりさない」

見習い「は、はあ……」
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/19(土) 17:23:01.91 ID:dKRA6F0go

【上下ある雑談】

お嬢様「ええと、あなたどこかで見たわね……ええっと……」

見習い「ここで、見習いのコックとして働かせていただいております」

お嬢様「そう。この生活は楽しい?」

見習い「それはもう最高です!」

お嬢様「ずいぶんとはっきり言うのね」

見習い「はい。辛くもありますが、それでも僕はこの生活が好きです」

お嬢様「殊勝な人ね。気に入ったわ」

見習い「ありがとうございます」

お嬢様「そう……で、うちのメイドを知ってるかしら?」
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/19(土) 17:23:46.02 ID:dKRA6F0go

見習い「はい! 僕の姉なんです!」

お嬢様「そうだったの……」

見習い「へへ、僕たちあまり似てないでしょう?」

お嬢様「ええ、確かに似てないわね。ふふふっ。……それで、姉のことをどう思うかしら?」

見習い「世界で一番大好きな姉です」

お嬢様「そう……」

見習い「あーっと。すみません。そろそろ仕事に戻ってもよろしいでしょうか?」

お嬢様「あら残念ね。次はもっとあなたのことが知りたいわ」

見習い「ええ、ではまた!」

バタン

お嬢様(あの目。姉のことを語るときに、確かに目が泳いでいた)

お嬢様(これは何かあるかもしれないわね)

お嬢様(まあいいか。弟くんは私の好みじゃないし)
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/19(土) 17:53:21.31 ID:dKRA6F0go

【会いたくて】

兵士「ふッ! はッ!」

騎士団長(あまりにも。まるで魔族のような強さを持った少女だった……この領主様のご令嬢は……)

兵士「そこかッ! ふッ!」

騎士団長(それに引き換え、ウチの弱さはなんだ? ……緊張が保てていない。こういう輩は足を払えばいい)

兵士「ぐあッ」

騎士団長「たるんでおるッ! 立て!」

兵士「はい!」

騎士団長「近年、東のエラディト国との関係が険悪であるッ! さらに、いつ魔族が再来するか分からんのだ!」

兵士「はい!!」

騎士団長「勇猛果敢にして潔白なる貴君らには、いずれ祖国の未来を背負ってもらわねばならない!! 分かっているだろうッ!」

兵士「はい!!!!」

騎士団長(もう一度だけ、ご令嬢と一戦交えたい! 知らぬ間に、そんな思いが膨れ上がっている!)
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/19(土) 18:11:24.78 ID:dKRA6F0go

【まな板の上のウサギ】

お嬢様「ふふふ、やっぱり才能かしら」

コック「えぇ! 素晴らしゅうございます!」

お嬢様「ふふん」ドヤァ

メイド「あ、」

お嬢様「あら、メイド。どうしたのかしら?」

メイド「いえ、たまたま通りかかったんですが……」

メイド(お嬢様……料理は素晴らしいけど、それ私のディナーになる予定のウサギ肉じゃない?)

お嬢様「そんなに私の腕前、華麗だったかしら?」

メイド「あ、あはは。はい、素晴らしい技量です」

お嬢様「何よ。ケンカ売ってるの? その態度……」

メイド「いえ! 滅相もない!」
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/19(土) 18:12:44.91 ID:dKRA6F0go

お嬢様「そぉ? 素直になりなさい。何か隠してるわね。あなた」

メイド(ああもう忘れてた! お嬢様、カンが鋭いんだった!)

コック「〜♪」

メイド(コックさ〜ん。私に任せないで〜! 皿洗いから戻って〜!!)

メイド(よし、しょうがない。喋ろう。もう朝から何も食べてないんだ)

メイド「あ、あのですねっ……」

お嬢様「あ! 分かったわ!!」

メイド「えっ?」

お嬢様「メイドのために作ったんだったわ」
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/19(土) 18:54:11.25 ID:dKRA6F0go

【英雄】

弟「あそびにきたよ〜」

お嬢様「あら、珍しい」

弟「ぼく、いつもはガッコだもんね〜」

お嬢様「そうねぇ。学校はどう? 楽しい?」

弟「うん!」

お嬢様「それは良かったわねえ……さて、今日も遊びに来たのかしら?」

弟「ううん。ちがくて。今日は絵を教えてもらいにね!」

弟「じゃじゃーん☆ どぉ? かっこいーでしょー!」

お嬢様「まあ! いいわねぇ。魔王を倒した英雄?」

弟「よくわかんないけど、じゃきーんっ! って、わるいまものをたおしたんだって〜」

お嬢様「えぇ、そうよぉ。この人は、昔、1人で頑張ったすごい人なのよ」
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/19(土) 19:02:18.69 ID:dKRA6F0go

【無名英雄】

あるとき、北の大地より悪魔が降り立ち、人々を喰らい、その勢力を拡大していった。

悪魔は大地に多くの死を振りまき、そしてついに大陸を制する。

魔族のために労働しないものは殺され、進んで奴隷になったものだけ生き残る世界。

幾度となく日が昇り、そして落ちていった。

そして光明が、我々の瞳に飛び込むことになる。

名の知れぬ、一人の若者が立ち上がった。

助けを必要とせず、単身奮起。

彼は魔族のみを殺し、魔族の拠点を分解し、北の果てへと上り詰めた。

魔王城――魔族の本拠地は、名もなき英雄により崩壊。

名もなき男は物言わず、そのまま霧になった。

―――――――――――――『光明勇者叙事伝』より。
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/20(日) 00:19:13.01 ID:JeHZLufWo

【小さな客員教授】

お嬢様「いいわねえ。いいわよお。うっとりするわ」

メイド「お嬢様」

お嬢様「あ、あぁ。貴族たるもの、常になんたら、ってやつね」

メイド「さようにございます」

お嬢様「でもね、数々の英雄の中で、『無名英雄』様だけは別格よ!」

メイド「なんでまた急に」

お嬢様「うふふ。弟くんが来たのよ。一緒に、無名英雄様の絵を描いてたの」

メイド「弟様、いらしてたんですか!?」
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/20(日) 00:19:43.93 ID:JeHZLufWo

お嬢様「そうよ」

メイド「どうしてもっと早く言ってくれないんですか?」

お嬢様「どうして私の肩を掴むの?」

メイド「はっ! ……すみませんお嬢様!!」

お嬢様「今度面白い本を紹介してくれたら許すわ。で、弟に何か用でもあったのかしら?」

メイド「い、いえ……その……///」

お嬢様「気になるわね」

メイド「……下町の遊びを、教えてもらってるんです」

32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/20(日) 00:20:27.15 ID:JeHZLufWo

【歴史の証人】

兄上「用事とはなんでございましょうか。父上」

領主「おまえも……大きくなった。立派になったな」

兄上「……ありがとうございます」

領主「これ、執事や。席を外したてくれ」

執事「……」

領主「それで……本題に入るが、だ。その前に、魔族と戦ったことはあるかな?」

兄上「いえ……魔族は父上の代に滅びたのでは?」

領主「魔王という単一固体が消えただけで、他の全ても死ぬほど、魔族は甘くない」
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/20(日) 00:20:53.49 ID:JeHZLufWo

兄上「ですが現に、魔族の象徴とされる『人型』で『赤いツノ』と『黒く無毛の翼』を持つものは見られなくなりました」

領主「そう……我々の魔族という定義が、甘かったのだ。その特徴は……『ヘルデーモン』という種類の1魔族に過ぎない」

兄上「魔族とは、もっと多種多様な存在だと?」

領主「そうなる」

兄上「どうして分かるんですか?」

領主「それは私が、ここの領主だからだ」

兄上「……」

領主「……少し、昔の話をしよう」
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/20(日) 00:37:48.47 ID:JeHZLufWo

【ファンクラブNo.1】

お嬢様「やっと晴れたわ。いい天気ね」

メイド「ええ。ここ数日、雷雨続きでしたから」

お嬢様「今日は……どんな運動しようかしら」

メイド「そうですね……剣術はいかがですか?」

お嬢様「この前やったからパス」

メイド「残念ですわ。お嬢様の華麗な剣術が見れると思ったのに」

お嬢様「今度見せてあげるわ……いいものね。こういうのは、何をするか選ぶまでが最高に高翌揚するのよ」

メイド「決めたら冷めるんですか?」

お嬢様「逆よ。本気になりすぎて、他のことが考えられないから……」

お嬢様「……そういう時の私は、醜いわよぉ? 本気だし、ルールをきっちり守った上で、最大限効率的に勝つわ」

メイド(容赦なく冷徹かつスマート。一見してドSの所業、それが一部の人のハートを直撃……『お嬢様ファンクラブ』なんてあるんですよね)

お嬢様「どうしたの? 頬が緩んでるわよ」
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/20(日) 07:53:28.21 ID:JeHZLufWo

【恋愛結婚】

お嬢様「そういえば、あなたって結婚してたかしら?」

メイド「いえ、するつもりはありません」

お嬢様「どうしてまた、」

メイド「……時がきたら、話しましょう」

お嬢様「もったいぶっちゃって。昔失恋したわね?」

メイド「……ノーコメントで」

お嬢様「ごめんなさいね。調子に乗ってたわ」

メイド「いえ、構いませんが、」

お嬢様「お詫びに、私と結婚してもいいわよ」

メイド「結婚したくないメイドと、身分違いの同性結婚……超えるべきハードルはくぐればよろしいのでしょうか」

お嬢様「逆ね。ハードルは高いほど、超えたときの達成感がいいんじゃない」

メイド「では、ハードルを更に高くしましょう……そのときは、私が求婚いたしますわ」
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/20(日) 07:54:08.55 ID:JeHZLufWo

【紅茶の紅は友情を生む】

メイド「どうですか? お紅茶の香りの方は」

お嬢様「茶葉変えた?」

メイド「えぇ。エラディト国経由だけではなく、最近はレメン経由での貿易路も開拓しているようでして」

お嬢様「新規の交易路は、信頼性に欠けるわね」

メイド「確かにそうでございますわ」

お嬢様「私はその毒見ということかしら?」

メイド「いえ、そのようなことは一切……」

お嬢様「問答無用よ。毒見をするなら、あなたも一緒に飲みなさい」
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/20(日) 07:55:14.64 ID:JeHZLufWo

【ケンカ売りのお嬢】

お嬢様「なにかしら、新しいわね。これ」

メイド「ですね」

お嬢様「このボールを相手のコートに打ち返すのかしら?」

メイド「ええ、この『棒状の先端に楕円の輪を持ち、そこに固い網の張られたもの』の、網の部分で打ち返すようですわ」

お嬢様「ちょっと待ってくださる? 言葉を正確にしたいのは伝わるけど、余計に意味不明だわ」

メイド「じゃあ、単純に競技名をお教えしますので、あとはやりながらルールを覚えてください」

お嬢様「暴挙ね」

メイド「お嬢様ならできます……この競技は『テニス』といいます。スペルはTennisです」

メイド「西方の国の言葉で、『保持する』という意味のTenirが語源のようです」
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/20(日) 07:55:44.62 ID:JeHZLufWo

メイド「がんばって、ボールを打ち漏らさずに保持してくださいね」

……。

お嬢様「ふふん、何よ。あっさり2ゲームもいただいたわ。この調子で3セットも楽勝ね!」

審判「1セットゲームですよー」

お嬢様「知ってるわよ。こんな相手、何度やっても一緒だと言いたいの」

対戦相手(この私がこうもあっさり初心者に……! ここから巻き返すぞ!)

メイド(ファンクラブの会員も集まってきた……これは面白くなりそうだね)
39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/20(日) 07:56:25.82 ID:JeHZLufWo

【説教】

お嬢様「はっきり言うと、私は無敵よ。初めてやったスポーツでも、熟練者に楽勝なんだもの」

メイド「ですが……敵を作るような発言は……」

お嬢様「あら、私、敵を作ってたかしら」

メイド「例えば、『あなたの五年間、私が五秒で超えたわ!』とか」

お嬢様「だって事実だもの」

メイド「自分の実力を過信してると、いつか痛い目にあいますよ」

お嬢様「敗北を知りたいわね」

メイド「その敗北で、命を落としても?」
40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/20(日) 07:58:36.53 ID:JeHZLufWo

お嬢様「何よ。その本気な目」

メイド「お嬢様に死なれたくないんです。越権行為ですが、説教させてください」

お嬢様「……分かったわ」

……。

お嬢様「グスッ……ごめんなさい。確かに出すぎた真似だったわ」

メイド「分かれば良いのです。ですが私も、出すぎた言葉でした」

お嬢様「誰も私を叱ってくれないんだもの。あなただけが頼りよ」
41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/20(日) 10:11:26.75 ID:JeHZLufWo

【ブラッドコイン】

お嬢様「ところでさ。あの砂金はどうなったのかしら? いつごろコインになるの?」

メイド「あと3日で金貨になりますわ」

お嬢様「ずいぶんとかかるのね」

メイド「造幣局の方にコネクションがあるのですが、そこの彼が療養中でして」

お嬢様「ふーん」

メイド「私が持っていてもおかしいですから、砂金はお返ししますね」

お嬢様「ありがとう。 ……胸ポケットに入れてたの? 危なっかしい」

メイド「案外、そうでもないんですよ?」

お嬢様「それにしても、その制服って胸が小さく見えるわよね。締め付けちゃって苦しくない?」

メイド「それで得することもございます」

お嬢様「……そういった世界はよく分かりませんわね」
42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/20(日) 10:13:27.05 ID:JeHZLufWo
すみませんが、今日はここまでです。
ここから先は、何とか暇を見つけて投稿したいです。

コメント、感想など、いつでも歓迎いたします。

ここまでご覧いただき、まことにありがとうございます。

では、お疲れ様でした。
43 : ◆x6bdzvN93g [sage]:2012/05/20(日) 10:15:52.89 ID:JeHZLufWo
トリップ付けてみようかな。できてたら、このトリップで行きます。
44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/20(日) 10:16:39.10 ID:I4QY8gtYo
乙乙
期待してるよ
45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/20(日) 12:02:40.84 ID:CaxHtyvqo
期待してます
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/05/20(日) 13:25:40.67 ID:0kWAewuQo

なんかファイアボールみたいな
47 : ◆x6bdzvN93g :2012/05/25(金) 00:41:48.66 ID:vKdZlvaao
トリップはこれで合ってたかな。合ってたら、今から少し投稿します
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/25(金) 00:42:29.23 ID:vKdZlvaao

【男とは、】

貴族男「明日はいよいよ『霧雨祭』だね」

お嬢様「ええ、そうね」

貴族男「ところで、ワインの具合はいかがかな」

お嬢様「んー……。美味しいわね」

貴族男「それは良かった。僕のワインセラーから、最高の逸品をね」

お嬢様「ありがとう」

貴族男「……浮かない顔をしているね。君の横顔は三日月のように美しいのに、薄い雲がかかってしまったようだよ」
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/25(金) 00:43:05.24 ID:vKdZlvaao

お嬢様「三日月は沈み、日輪いずる頃合でございますわ」
    (意訳:おうちかえりたい)

貴族男「落ちたなら四日月、半月、望月と過ごし……次の三日月まで待って見せよう」
    (意訳:ストーキングしてやるぜヒャッハー!)

お嬢様「三日月は地上の民でなしに、明星に見惚れているのかもしれませんわね?」
    (意訳:お前なんて大っ嫌いだよバーカバーカ)

貴族男「それは嬉しいね……ところで、明日の霧雨祭、一緒に話さないかい?」
    (意訳:明星って僕のこと?)

お嬢様「よろしくってよ」
    (意訳:5分くらいで終わるとかさあ……気を利かせなさいよ?)
50 : ◆x6bdzvN93g :2012/05/25(金) 00:44:11.42 ID:vKdZlvaao

【女とは、】

お嬢様「うわぁぁん。つかれたわよ〜」

メイド「どうしたんですか、ガラにもない甘えっぷりですね」

お嬢様「もう嫌よ〜。男なんて面倒なのばっかじゃない」

メイド「決め付けるのは早計ですが、つまり、何があったのですか?」

お嬢様「貴族男さんと会ってきたの。彼はお父様と面識もある豪商。商談があると思ったら……」

お嬢様「結局は、霧雨祭でお喋りしない?って口説かれたのよ」

メイド「……おつかれさまでした」

お嬢様「何よ。その寂しそうな目……ごめんなさい、承諾してしまったわ」

メイド「いえ……そんなつもりでは」

お嬢様「だって……私が断ったら、お父様の味方が減ってしまいますもの……」

お嬢様「ごめんなさい…………うぅぅぅ…………」

メイド(……メイド服がお嬢様の涙で濡れちゃったね)
51 : ◆x6bdzvN93g :2012/05/25(金) 00:44:57.72 ID:vKdZlvaao

【日陰者たちのゆりかご】

魔族A「おい聞いたか?」

魔族B「あぁ? んだよ」

魔族A「近々、お偉いさんがこっちまで視察に来るらしい」

魔族B「ほぉ。うちの隊長?」

魔族A「いや、もっとすごいらしい!」

魔族C「おいおいお前ら、何の話だよ」

魔族A「あぁそれがな。うちの隠れ家に、どっかのお偉いさんが……」

魔族C「あー! それ知ってるぜ! 『主任』が来るんだよ!」

魔族B「主任だって!?」

魔族C「あぁ。死ぬ覚悟しとくか?」
52 : ◆x6bdzvN93g :2012/05/25(金) 00:46:33.87 ID:vKdZlvaao

魔族A「ごめん、その主任ってヤツを知らないんだけど」

魔族C「バッカお前! そんなこと言ってると早死にするぞ!!」

魔族A「ごめん、でも知らねえんだよね」

魔族B「主任様は、魔王様がお隠れになられたのの後進だよ。もっぱら、魔王様より強いって噂さ」

魔族A「つまり、その人が2代目の魔王様ってわけ?」

魔族B「いやいや、案外そうでもないらしい。今は人間の生活に溶け込んでおられるとか何とか」

魔族A「はぁ!? 魔族の誇りは……」

魔族B「いや、何かお考えがあってのことだろう」

魔族C「魔王様の死後、俺らも威張れなくなったしな」
53 : ◆x6bdzvN93g :2012/05/25(金) 00:47:01.91 ID:vKdZlvaao

【め が さめて】

数十年前、魔王が死にました。

絶大なカリスマが音を立てて消失し、魔族たちの権力の拠り所は失われたのです。

魔族たちは歴史の表舞台から姿を消し、新たなカリスマの出現を待ちました。

――主任。

主任という、魔王の側近がありました。

主任とは、人間風に言えば、『将軍』と呼ばれる職業です。

彼は強い力を持ちながらも謙虚で、圧倒的な統率力、明晰な頭脳、そして決断力……。

魔王の死後、彼が第二の魔王になるのは、どの魔族から見ても当然でした。

……しかし彼は今、いずこかへ失踪しているのです――。

――――魔族史研究家の手記。
54 : ◆x6bdzvN93g :2012/05/25(金) 00:47:38.46 ID:vKdZlvaao

【狂った主従関係】

お嬢様「あーーーあああーあーああーー」

メイド「どうかなされましたか?」

お嬢様「……ちょっと、喉に魚の骨がチクチクするのよ」

メイド「まあ! それは大変ですわね」

お嬢様「うぅぅ……痛いぃぃぃ」

メイド(これはこれで……かわいい)

お嬢様「ぁに見てんのよぅ……はやくなんとかひなはい〜〜」

メイド(涙目、上目遣い、舌足らずっぽい感じ……あざとい! これはあざとい!!)

メイド「口をお出しください。骨をお取りしましょう」
55 : ◆x6bdzvN93g :2012/05/25(金) 00:48:31.33 ID:vKdZlvaao

【正しい上下関係】

メイド「ううぅぅぅ」

お嬢様「許さないわよ」

メイド「許してください〜」

お嬢様「ダ〜メ。あと3ページ、文章の書き取りよ」

メイド「1ページ増えてます〜」

お嬢様「口ごたえする度に1ページずつ増えるのよ」

メイド「そんな〜」

お嬢様「やるんなら本気で行くわよ。文字の勉強がしたいと言ったのは貴方でしょ?」

メイド「ありがとうございます」

お嬢様「礼には及ばないわ。さて、あと10ページよ。頑張りなさい」

メイド(そんなに口ごたえしたかしら!?)
56 : ◆x6bdzvN93g :2012/05/25(金) 00:49:04.14 ID:vKdZlvaao

【不穏な影】

執事「領主様、」

父上「わかっている……時が来れば、切り捨てる……」

執事「あれが官邸内での公務職についていると知れれば……」

父上「良くて失脚、かね?」

執事「はい。そして運が悪ければ、この都市は消滅します」

父上「……それで済めばよいがな」


コンコン

父上「入りなさい」
57 : ◆x6bdzvN93g :2012/05/25(金) 00:52:52.28 ID:vKdZlvaao

騎士団長「失礼いたします」

父上「お主の活躍は聞いている。お主の鎧に刻まれた、ディクレンツァの紋章に恥じぬ働きだと……」

父上「部下への剣術指南、領土防衛手段の提言、個人資産による兵器購入などだ」

騎士団長「ありがたきお言葉です」

父上「そこでだ。お主のそういった能力に期待して、一つ、重要な仕事を任せたいと思う」

父上「……都市近郊に、盗賊の旅団が潜伏しているようだ。見つけ出し、生け捕りにするのだ」


※ディクレンツァ
主な舞台となっている国です。魔王との戦争では最前線であり、真っ先に制圧された国でもあります。
ちなみにお嬢様の父上、領主様は、その中でも『ウィジス』地域を仕切っています
58 : ◆x6bdzvN93g :2012/05/25(金) 00:55:55.03 ID:vKdZlvaao

【亡き母のためのレクイエム】

メイド「お嬢様、ご結婚なされるんですか?」

お嬢様「ちょっ、何見てるの!?」

メイド「いえ、随分と絢爛なウェディングドレスだと見とれておりました」

お嬢様「……ちょっと、着てみたくなったのよ……」

メイド「母上様のおさがり、ですか」

お嬢様「らしいわねえ。私、お母様の顔も覚えていないの……知ってるわよね」

メイド(お母様は、お嬢様が生まれてすぐに亡くなられましたものね……)

お嬢様「もうちょっと、着ていたいわ……お母様の遺した物だから」

メイド「……1人で着ると、背中の紐は結べないようですね。手伝いますよ」

お嬢様「ありがとう」

お嬢様「……お母様のために、歌を捧げてもいいかしら」

メイド「名案です……」
59 : ◆x6bdzvN93g :2012/05/25(金) 00:56:37.22 ID:vKdZlvaao

【『味覚殺し』――テイスト・ホッパー・ホワイト――】

メイド「やめてよね、そんな怖い事」

見習い「いいじゃん。姉さん、ひょっとして臆病?」

メイド「そうじゃなくてさあ……生クリームに塩をそんなに入れるなんて……」

見習い「生ハムにメロンを掛け合わせたのは、美味しかったよね」

メイド「それは認めるよ。塩気が絶妙なアクセントになって、奇跡的だったってのはね?」

メイド「でもさあ……そんなに塩入れることないじゃない……」

……。

見習い「よしッ! 出来たッ! 姉さん、美味しくてもマネしないでよ」

メイド「……美味しかったら、マネしないわよ」

見習い「美味しくなかったら?」

メイド「マネする理由がない」
60 : ◆x6bdzvN93g :2012/05/25(金) 00:57:18.73 ID:vKdZlvaao

【ブリーフィング】

メイド長「ここ、大食堂に集められた629の勇士たちよッ! 私の声が届くだろうかッ! 貴君らの骨の髄まで私の声がッ!!」

総メイド「聞こえております! メイド長どのッ!」

メイド長「明日は待ちわびし『霧雨祭』であるッ! 貴君らには限界を超えた努力と、期待を超える結果を求める!

メイド長「私の言葉、1言も聞き逃すな。これよりベースブリーフィングを開始する。」

メイド長「明日、1630時、我々の働き次第だが……霧雨祭の開会式とともに領主官邸は歓喜と嬌声に包まれる。」

メイド長「それの下支えが我らの任務である。よって、開会式に先立ち0945時、我々の任務が始まる。」

メイド長「各部署は、私が簡潔に説明した後、部署長より詳細な説明が渡る。いかなる場合でも、命令と任務内容は遵守せよ」

メイド長「まずは調理部から説明する」

……。

メイド長「そして最後に、領主一家専属メイドたち。貴君らは通常通りの職務で構わない」

メイド長「以上でベースブリーフィングを終了する。各部署は、部署長の指示に従え」

メイド(ふぁ〜。終った。毎年この調子なんだから)

61 : ◆x6bdzvN93g :2012/05/25(金) 00:57:43.77 ID:vKdZlvaao

【忙しさの流刑地】

お嬢様「あら、」

メイド「ふふふっ」

お嬢様「霧雨祭の準備で忙しいんじゃなかったかしら?」

メイド「……開会式まで、ずっと一緒ですよっ!」

お嬢様「えっ」

メイド「ですから、メイド長から任務をいただきました。『通常通りの業務をせよ』とだけ」

お嬢様「私ね、したいことがたくさんあるの……ねえ……『通常の業務』で私を満足させられるかしら?」
62 : ◆x6bdzvN93g :2012/05/25(金) 00:58:06.23 ID:vKdZlvaao

【きり さめ】

……。

この地域は昔、雨に恵まれぬ不毛の土地であったという。

しかし、神の遣わせた天使がそれを憂いた。

天使は――やさしい霧雨をふらせた。

……それ以降、人々はその日を『霧雨の日』とした。

霧雨の日には決まって祭りをし、それが『霧雨祭』である

――――――――図解 北部の祭事より


63 : ◆x6bdzvN93g :2012/05/25(金) 01:09:49.82 ID:vKdZlvaao

ひとまずここで区切ります。
遅くなりましたが、

>>44
>>45
>>46

期待のお言葉、ありがたく頂戴いたします。
砕けた言葉で言うなれば、めっちゃ嬉しいです!
この調子で、スローペースながらも頑張らせていただきます。

また、>>46様の書き込みを受け、ファイアボールを視聴しました。
……初めてこの作品を見ましたが、私が求めていた雰囲気でした!
今回の作品の構造や設定は崩せませんが、次回作を……などという気の早い夢をみてしまいそうです!!

感想、叱咤のお声、要望などございましたら、気軽にお願いしますっ!

ではではっ!
64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/25(金) 07:51:27.20 ID:KAceWv5no
世界観が作り込まれているのかな
今後も楽しみに見るよ乙
65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/05/26(土) 22:50:02.63 ID:B1KrkB25o

意外と世界観しっかりしてるのね
期待してる
66 : ◆x6bdzvN93g :2012/06/02(土) 21:32:27.37 ID:6iWraIBKo
お久しぶりです。今から少しだけ投稿しちゃいますよ。
今日で【第一部】が完結します。明日に少しだけ番外編を投稿してから、
そのまま【第二部】になだれ込む予定です!


>>64
>>65
本来、最初のノリで延々進めていくつもりだったんです……。
でもいつものクセが出て、シリアス路線も交えつつ、なんて。
設定をある程度練ったら、あとは基本的に行き当たりばったりなんですよね〜。
書いてる人がいい加減なんで、まったりと読んでいって欲しいっす。

ではでは、気を取り直して投稿しますよ〜!
67 : ◆x6bdzvN93g :2012/06/02(土) 21:34:03.63 ID:6iWraIBKo

【ウワサ】

お嬢様「ねえ、ここは何色にしたらいいのかしら……黄色か、薄い黄色か……」

メイド「この植物の花は、実際には黄色でございますが……真夏のこの日照では、ほとんど白ですね」

お嬢様「ふふふ……題材なしで、想像で描いてみるのもいいものね」

メイド「ええ……」

お嬢様「ええっと、ごめんなさい。ちょっとお手洗いに行ってくるわ」


……。


お嬢様(話し声が聞こえるわね。……聞いてみるかしら)

声1「……ってことで、結局ルシアさんの愛犬が見つかったってわけね」

声2「なるほど。……それはそうとして、あの領主の令嬢の話だけど……」

声1「なに? あの子また誰かにケンカ売ったの?」
68 : ◆x6bdzvN93g :2012/06/02(土) 21:34:31.24 ID:6iWraIBKo

声2「まあそれもあるけど、……最近、お付きのメイドにそそのかされてるらしいんだよね」

声1「ふーん」

声2「いや、小さな事じゃないよ。令嬢がウィジスを潰しかねないんだからさ」

声1「なんだってまた」

声2「下賎のメイドに毒された令嬢が外に嫁いでみてよ。ウィジスの品位が落ちるわ」

声1「それはたしかに……」

声2「でしょ? ……ただでさえ領主の衰弱でうちらの評判わるいのにね」

声1「今度の霧雨祭に紛れて、親子もろとも刺しちまうか?」

声2「あんた怖いわね……」
69 : ◆x6bdzvN93g :2012/06/02(土) 21:35:25.07 ID:6iWraIBKo

【雨降って地固まる】

主任「……こんなものかね? 反旗を翻すには、あまりにも弱いじゃないか」

魔族B「あ。ああああぁぁぁ……」

魔族A「す、すみませんでしたぁっ!! どっ、どうか命ばかりは……」

主任「すまないね。[ピーーー]つもりはないんだ。代わりに働いてもらうよ」

魔族C「よろこんで!」

主任「まずは味方が必要かな……『黒い木漏れ日』には、まだ魔族がいるのかい?」

魔族A「……いえ、残念ながら全て駆逐されました」

主任「じゃあ『祝われの岩窟』には?」
70 : ◆x6bdzvN93g :2012/06/02(土) 21:44:29.23 ID:6iWraIBKo
フィルターにびっくりしたww

一応、

>>69
主任「すまないね。[ピーーー]つもりはないんだ。代わりに働いてもらうよ」

を、

主任「すまないね。始末するつもりはないんだ。代わりに働いてもらうよ」

に脳内変換よろしくです。
71 : ◆x6bdzvN93g :2012/06/02(土) 21:45:33.01 ID:6iWraIBKo
==============================================================================


魔族A「少なくともウィジス中の魔族拠点は、ここ以外あらかた壊滅でございます……」

主任「君ら以外は、散り散りになって密かに生活していると?」

魔族A「そうでございます」

主任「……君らは、ここでじっとして、時を待て。……幸いにも我々魔族は、獣と交わることでも数を増やせる」

主任「君らは地下に潜伏しつつ、私の命令を確実にこなす。それでいいね? 君らが死ぬようなことがあってはいけないと思う」

魔族A「あ……主任様、どちらへ行かれるのですか?」

主任「ちょっと屋敷に用があってね」

72 : ◆x6bdzvN93g :2012/06/02(土) 21:46:26.13 ID:6iWraIBKo

【共鳴魔法】

キィィィン

お嬢様「きゃっ。何?」

メイド「? どうかなされましたか?」

お嬢様「いえ、少々、耳鳴りが……」

メイド「……お嬢様も、今の耳鳴りを聞いたのですか?」

お嬢様「えっ……」


……。
73 : ◆x6bdzvN93g :2012/06/02(土) 21:46:56.96 ID:6iWraIBKo

騎士団長「くぅぅ……何処だ。盗賊団の拠点というのは……」

騎士「やっぱデマなんじゃないっすか?」

騎士団長「かもな……だが実際に盗賊はいる……激増した犯罪件数がそれを照明している……」

騎士「けど、いねえもんは仕方ないっすよ」

騎士団長「騎士の職務を侮辱……」

キィィィィン

騎士団長「くっ、うぅ……」

騎士「どうしたんすか!? 大丈夫ですか!?」

騎士団長「いや……大丈夫だ。少し疲れてるだけだろう」

騎士「あと鐘が3回鳴れば、別働隊が帰ってきます。それまで広場で休憩しましょう」

騎士団長「ならん……なんとしてでも彼奴らを狩りだすのだ」


……。
74 : ◆x6bdzvN93g :2012/06/02(土) 21:47:33.79 ID:6iWraIBKo

兄上「……。」

兄上「……。」

秘書「ッ!? ……子息様? 子息様!?」

秘書(目を離した隙に……気絶なされてる? ……呼吸はある、死んではいない)

兄上「……大丈夫だ……今何が起こった? 頭痛と共に、意識が薄れて……」


……。
75 : ◆x6bdzvN93g :2012/06/02(土) 21:48:06.40 ID:6iWraIBKo

見習い「す、すみませんっ! 今すぐ……」

コック「てめえはもう仕事すんなッ! どおしてこんな簡単な料理ミスるんだよ!?」

見習い「すみません……」

見習い(はぁ……今日はコックが一年で一番忙しい日……せっかくの霧雨祭だっていうのに……)

見習い(仕事外されちゃったよ。久々に下町の商店めぐりでもするかな)

キィィィィィィィィン

見習い「くっ。な、何だ?」

主任「動くな。死にたくなければ、このまま前に進むんだ」

見習い「誰だッ!? ……居ない?」

バシュン!!

見習い「っぐ。、あぁぁ!!! いてええぇ」

見習い(ちくしょう、腕から血が。なんだってこんな目に……行けば良いんだろ、行けば)
76 : ◆x6bdzvN93g :2012/06/02(土) 21:48:51.77 ID:6iWraIBKo

※領主=父上です。

【開会式――Open――】

メイド(お父様、おられるのですか?)

お嬢様(せっかくお父様が開会の挨拶をなされるのよ。無碍にはできないじゃない)

メイド「間に合いましたね」

お嬢様「えぇ。そろそろ開会式ね」

……。

兄上「……といったゆかりがあり、ここウィジスは、天使ミディオムの霧雨に祝福された地なのです」

兄上「我々が祝福を受けた民ならば、その庇護に感謝するのは当然です……こうして『霧雨祭』は始まったと言われています」

兄上「以上です……では、我が父上、ドランキニスタ・レデク・イ・ウィジス様より、開会のお言葉を賜りたく思います」

父上「みなさん、こんばんわ。今日のために準備をしてくださったメイドさんやコックさん、多くの方々に、感謝の言葉を述べます」

父上「また、何よりもこの場に足を運んでいただいた参加者のみなさん、来てくださりありがとうございます」

父上「お生憎の晴天ですが、挨拶はこの程度にして、この『霧雨の日』を楽しみましょう!」

ワー! パチパチパチ
77 : ◆x6bdzvN93g :2012/06/02(土) 21:49:18.27 ID:6iWraIBKo

【レデク家】

お嬢様(私が魔族の次に嫌いなものは……このカロリーと欲望にまみれた『お貴族料理』……)

お嬢様(本当は食べたくないのだけれど、ダメよね?)

メイド「お嬢様、」

お嬢様「わ、分かってるわよ、食べればいいんでしょう?」

お嬢様「ぐっ、けほっ! けほっ!!」

メイド「ゆっくり少しずつ食べましょう、むせますよ」

お嬢様「……もっと早く言いなさい」
78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2012/06/02(土) 21:51:09.32 ID:/4tVYDqAO
スゲーなオイ
79 : ◆x6bdzvN93g :2012/06/02(土) 21:58:18.48 ID:6iWraIBKo

【徒歩三千里未満三千秒以上】

見習い「で。どこまで俺を引っ張り回す予定なんですかね」

主任「しーっ、静かに」

ツカツカツカ

警備兵A「それにしても本当なのか? 賊が入ったって」

警備隊長「バカ野郎、じゃなかったら、どうして俺たちが働いてるんだ?」

警備兵B「そうっすよね、やっぱり」

警備隊長「そうだ。だから黙って探せ!」


……。
80 : ◆x6bdzvN93g :2012/06/02(土) 21:59:10.13 ID:6iWraIBKo

見習い「ふーん。あいつらに見つかったらマズイんだ?」

主任「そして君もな」

見習い「もし見つかったら、証人を作らないために、俺は始末される、と」

主任「いい勘だな」

見習い「そっちこそ、いい作戦ですね」

主任「だが、ちょっぴり不正解かな――」

――。

主任「君には、証人になってほしいんだ」

81 : ◆x6bdzvN93g :2012/06/02(土) 22:00:44.83 ID:6iWraIBKo

【下町の霧雨】

騎士団長「うるさい、どこか他の所に行け」

露天商「まァまァ、そう言わずにダンナ、こいつは上モノの食器ですぜ」

騎士「おい、なに団長様に気安く話しかけてるんだ!」

露天商「団長? サーカスか何かでございやすか?」

騎士「この野郎! 茶化しおって……叩き斬ってやる!!」

騎士団長「落ち着け……おい露天商、次からは『忙しい人間』かどうかを見定めてから売り込むんだな」

騎士「俺たちは忙しいんだよ。クズが!」

……。
82 : ◆x6bdzvN93g :2012/06/02(土) 22:06:28.37 ID:6iWraIBKo

騎士「この時期はいっつもこうですね」

騎士団長「あぁ……年間を通じて、最もウィジスが輝く日だからな」

騎士「一年で唯一、乱痴気騒ぎが黙認され、大道芸人が大はしゃぎ。各地の市民館では無料コンサート……無数の花火に、彩られた町並み……」

騎士団長「ここは元々、何もなかった死の北国。そうでもせんと、辛いのだろう」

騎士「……ですね。特に、霧雨祭で民衆の不満を抑えている面もありますし」

騎士団長「堅苦しい話は終わりにしよう。もうパーティーは始まってるんだ。屋敷に急ぐぞ」

騎士「はい!」
83 : ◆x6bdzvN93g :2012/06/02(土) 22:08:11.28 ID:6iWraIBKo

【おと  を かなで し もの】

楽士団「〜♪」

お嬢様「壮大で良い音楽ね」

メイド「そうでございますね」

お嬢様「この曲について、何か知ってる?」

メイド「曲名『霧雨祭』……フランツナー・ディスクラウンの作ですね。指揮も彼が行っています」

お嬢様「ン〜♪ いいわねえ。これで脂っこい料理を下げてくれたら最高なのに」

メイド「まあまあ。私の弟もがんばったそうですし、どうか。」

お嬢様「ふーん……じゃ、食べようかしら」


……。
84 : ◆x6bdzvN93g :2012/06/02(土) 22:08:48.30 ID:6iWraIBKo

お嬢様「ところで、あなたと弟って、どういう関係なのかしら」

メイド「と、言いますと?」

お嬢様「なんだか怪しい関係よ。実は血が繋がってなかったりしない?」

メイド「えぇ、義理の姉弟です」

お嬢様「そうだったの」

メイド「えぇ。ですが――」

お嬢様「――別々の音が重なって、1つの曲が出来上がるのよね」
85 : ◆x6bdzvN93g :2012/06/02(土) 22:10:31.85 ID:6iWraIBKo

【嫉妬】

貴族男「ン〜。いい香りだ。やはりワインはツィエット産に限る」

お嬢様「そうでございますわね」

貴族男「……やはり君は特別だ! 知的でありながら活動的、領主様の持つような気品がある」

お嬢様「えぇ。領主の娘ですから」

貴族男「ツンとして凛々しいところまで素晴らしい!」

お嬢様「そうでございましたかしら?」

貴族男「そうさ……僕と結婚してくれないか?」

お嬢様「え、ええっと……」
86 : ◆x6bdzvN93g :2012/06/02(土) 22:11:04.75 ID:6iWraIBKo

お嬢様(断りたいけど、父の立場もある……断りたいけど)

メイド「すみませんが、貴族様。おやめください」

貴族男「なんだね君は。メイドの分際でこの僕に逆らうのか」

メイド「えぇ」

貴族男「なんだとぉ!?」

メイド「領主とその家族に付けられる『お付きメイド』正式名称『専属秘書等最高補佐業務従事者』」

メイド「……それが普通のメイドとは異なる権力を持つことをご存知ですよね?」

メイド「たった今、お嬢様の委任を得た私が命令します。貴族様、道をあけてください」

貴族男「ぐっ、くぅぅぅ……」

お嬢様「な、何もそこまで……」

メイド「さあ行きますよ、お嬢様」
87 : ◆x6bdzvN93g :2012/06/02(土) 22:20:17.19 ID:6iWraIBKo

【告白】

どれほど歩いたか。私はメイドに手を引かれ、屋敷のどこかを歩いていた。


お嬢様「ね、ねえっ! 私をひっぱって、どこまで行くの!?」

メイド「お静かに。」

お嬢様「ねえってば!」


バタン
……ワイン倉庫……パーティー会場からずっと離れた地下。


メイド「やっと2人きりになれましたね」

お嬢様「どういうこと!?」

メイド「……最後に、一度だけ……」


従者はそのまま私を押し倒した。
88 : ◆x6bdzvN93g :2012/06/02(土) 22:21:45.42 ID:6iWraIBKo

お互いの唇を重ねるためだ。

キスなんてしたこともない。咄嗟に命の危険を感じ、覆い被さってくるメイド服を払い除けようとする。

しかし――熱っぽく「お嬢様、愛しておりますわ」なんて耳元で囁かれたら――。


お嬢様「そ、そんなに私が好きなの?」

メイド「そうでございますわ」


……私が従者の唇と舌と指先を受け入れてから、どれほど時間が経っただろうか。

ひどく甘美な水音が、倉庫の通路を満たしていく――。


メイド「んはぁ……お嬢様……」


私が全幅の信頼を寄せていた女性はスカートをたくし上げ、そして――。
89 : ◆x6bdzvN93g :2012/06/02(土) 22:23:04.73 ID:6iWraIBKo


右大腿に手を伸ばし、そして鈍い輝きを発する小型のナイフを取り出す。


銀の矛先は――火照りきって、放心状態の私に向けられた。


90 : ◆x6bdzvN93g :2012/06/02(土) 22:23:43.11 ID:6iWraIBKo

メイド「お慕い申し上げておりましたわ。お嬢様」

お嬢様「え……なによ、それ」


流れ出る一筋のきらめきが、ナイフの持ち主の頬をつたう。

得物を持つ手は次第に震え、その呼吸も荒くなってくる。

興奮状態を鎮めるように、メイドはゆっくりと言葉をつむぎ始めた――。



メイド「ですが、残念ながら、ガルミリッタ・レデク・カ・ウィジス……あなたが[ピーーー]ば、歴史が動きます」

91 : ◆x6bdzvN93g [(「あなたが死ねば」→「あなたが消えれば」)]:2012/06/02(土) 22:25:36.54 ID:6iWraIBKo






――りーん、ごーん、りーん、ごーん。
日没を告げる鐘が鳴る。






92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/02(土) 22:25:42.59 ID:yKKg3i2Eo
sagaをメ欄にですね
93 : ◆x6bdzvN93g :2012/06/02(土) 22:26:32.19 ID:6iWraIBKo








――――第1部【霧雨】完――――
94 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/02(土) 22:28:22.69 ID:yKKg3i2Eo
そして乙乙
すまんね割り込んで
95 : ◆x6bdzvN93g [sage]:2012/06/02(土) 22:36:34.43 ID:6iWraIBKo
ひとまず、ここで休憩です! 

>>78
評価ありがとうございます!!
そう言っていただけると幸いです!


>>92.>>94
すみません……入れてるソフトが、sageしたりしなかったり……sageの意味を分かってませんでした……。
つまり、この板ではsageが好ましいのですね。
以後気をつけます……。
あ、あと、割り込み大歓迎なのですよ?


とりあえず今日はここまでです!
見ていただきありがとうございます!

意見、感想、叱責、などなど、お気軽によろしくです!

ではでは!
96 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage saga]:2012/06/02(土) 22:41:16.60 ID:Re3DH4RLo
乙!
雰囲気好きだわ

あと
sag"e"ちゃう、sag"a"や
死ねとかの言葉が表示されるのよ
97 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/02(土) 22:42:18.81 ID:yKKg3i2Eo
そんなsage強要されているわけでもないがね
投下している時に上げている人も多いしいいんじゃないかな
98 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2012/06/02(土) 22:59:37.35 ID:Re3DH4RLo
あ、個人的にsageの方はあんまり気にしないでいいと思います
投下来たのが分かりやすいし
>>1が気にしてそうだったから一応

しかし…もう一度読み返したが面白いすなぁ
引き込まれる感じがある
99 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/06/03(日) 19:57:22.33 ID:ndsQzPCAO
sageとsagaって間違える人多いよな

まぁ作者はsageなくてもいいと思うよ
sagaはつけてほしいが
100 : ◆x6bdzvN93g [saga]:2012/06/17(日) 00:03:05.28 ID:ycEeBAu1o
こんばんは。おひさしぶりです……。
今からちょっぴり投下します!


>>96 >>98
ありがとうございます!
sagaの件、教えてくださりありがとうございます!
あと、雰囲気への評価ありがとうです!
がんばります!

>>97>>99
見てくださりありがとうです!
sagaの件、教えてくださりありがとうございます!
以後、saga投稿を心がけます!


では、投稿を開始します。お楽しみください
101 : ◆x6bdzvN93g [saga]:2012/06/17(日) 00:03:45.15 ID:ycEeBAu1o
――――間奏曲@『断章』――――

執事「なんだとッ!?」

見習い「悲鳴を聞き、駆けつけたときにはもう遅かったんです……」

執事「どうして令嬢がワイン倉庫に……」

兄上「父上ッ! 今すぐパーティーを中止させるべきですッ!」

執事「私も同じ意見です」

父上「ならん……犯人がパーティーに参加していた可能性があるならば……」

父上「無用に混乱させ、犯人を逃がすわけにはいかない……秘密裏に狩り出せ」


……。
102 : ◆x6bdzvN93g [saga]:2012/06/17(日) 00:04:25.51 ID:ycEeBAu1o

騎士団長「結局収穫はなし。か」

騎士「とりあえず、団長殿の具合が良くなったようで何よりです」

騎士団長「そんなことはどうでもいい。問題は、領主様にどう顔向けをするか、だ」

執事「あぁ、君らちょうどいいところに来た。頼みがある」

騎士団長「はッ! いかがなさいましたかッ!」

執事「令嬢がワイン倉庫で、何者かに腕を根元から切り落とされた」

騎士「えっ!?」

執事「令嬢本人は見つからなかったが、腕や指につけていた――指輪やブレスレットから、令嬢だと断定している」

騎士団長「……腕を切断されたあげく、令嬢がどこかに誘拐された、と?」

執事「あぁ……。残念だが、そんな大怪我では助からないだろう……」

騎士「ですが捜索すべきです!」

執事「あぁ、そうだな……誰がやったにせよ――」

騎士・騎士団長「では行ってまいります!!」

執事(――遺体を見つけたほうが、何かと「やりやすい」んでね)
103 : ◆x6bdzvN93g [saga]:2012/06/17(日) 00:05:37.45 ID:ycEeBAu1o

――――間奏曲A『セッション・インタールード』――――

主任、

――あぁ、聞こえてるよ。

魔法による通話も、近頃慣れてまいりました。

報告いたします。任務は成功いたしました。

――よくやった。これでウィジスの人間は大きく混乱するよ。

どうして、ウィジスの地にこだわられるのでしょうか

――魔王が死んだのは、魔王城じゃないんだ。

ウィジスで亡くなられたのですか。

――そうだ、そしてウィジスの領主は、魔王が持っていた「何か」を奪い、隠し持っている。

――大事な宝物かもしれないし、膨大な魔力を秘めた『魔道器』かもしれん。

なるほど……それの場所はお分かりなのですか?

――いや。きっと5年・10年と探し続けるものだろう。まだまだだ。

「何か」を探すにあたり、私が入用になれば、また。

――そうだな。とにかくお疲れ様。しばらく羽を休めてくれ。

了解いたしましたわ。主任――。

――通話を終了するよ。メイドさん。
104 : ◆x6bdzvN93g [saga]:2012/06/17(日) 00:06:30.24 ID:ycEeBAu1o

――――間奏曲B『R.I.P.』――――

汝の肉体は、大いなる父に祝福され――。

霧雨たゆたう大地にかえらん……。

汝の魂は、母なる女神のもと――。

安らぎの時を迎えん……。

汝、ガルミリッタ・レデク・カ・ウィジスを死者として認め、祝福し――。

旅路の安息を祈る……


105 : ◆x6bdzvN93g [saga]:2012/06/17(日) 00:08:08.79 ID:ycEeBAu1o








――――第2部【女】――――








 
106 : ◆x6bdzvN93g [saga]:2012/06/17(日) 00:12:38.32 ID:ycEeBAu1o

綺麗な半月に照らされた、涼しい夜。

宿屋の2階に設けられた自室の窓に肘をついて、うとうとしながら天を仰ぐ。

こんな日は、物語を妄想するのにかぎる。

月をぼーっと眺めて、「あのお月様には、大きなお城があって、中にお姫様がいるのだ」などと考えては口元を緩めるのだ。

こうしていると、なんだか気持ちが落ち着くから……。

ええっと――。

月のお姫様は、私達のすむ地上に興味がわきました。

「一度で良いから、誰か私を連れて行って」

お姫様が願うと、お付きの召使いが、

「それはなりません。お姫様は、月のお姫様なのですから」と。

お姫様は、納得がいきません。

そして遂に、月のお城から逃げ出してしまいます。

――。
107 : ◆x6bdzvN93g [saga]:2012/06/17(日) 00:14:03.47 ID:ycEeBAu1o

ここまで考えて、ふと現実に引き戻される。

玄関のドアノッカーが、私を急き立てるように何度も鳴る。

盗賊かな。

怖いな。

お父さんは、ここの切り盛りで疲れて眠ってる。

「しょうがない。行こう」


――パチン。


薄暗い寝室が、ランタンの明かりで照らされた……。

108 : ◆x6bdzvN93g [saga]:2012/06/17(日) 00:14:50.66 ID:ycEeBAu1o

【アイシクルフォール】

騎士「雪……ですね」

騎士団長「あぁ、そうだな。」

騎士「本当に……令嬢様、亡くなられたんですね……」

騎士「俺、実は令嬢様のこと……好きだったんです」

騎士団長「あぁ、そうだな」

騎士「なんだか上の空じゃありません?」

騎士団長「そんなことない」

騎士「あ、もしかして団長も令嬢様にホの字だったんじゃ……」

騎士団長「無礼者」

騎士「痛っ」

騎士団長「あの令嬢が何だ? だいたい私の妻の方が何倍も麗しい」

騎士「ですよね〜」
   (意訳:愛妻家め)

騎士団長「なんだと?」

騎士「えっ?」

騎士団長「今、『愛妻家』と私を侮蔑したな?」

騎士「いえ、滅相もない。申し上げておりません」

騎士団長(なんだ……気のせいか……?)
109 : ◆x6bdzvN93g [saga]:2012/06/17(日) 00:15:55.41 ID:ycEeBAu1o

【お嬢様の夢の中】

お嬢様……痛いですか?

腕を切り落としたのです。痛いでしょう?

すみません……本当に。

私が必要なのは、『お嬢様の血がついたナイフ』と、『ワイン倉庫に置かれるお嬢様の腕』です。

お父様が私めを信頼して、この仕事を下さったのです。

……瞬間的に移動しました。

ここは屋敷の頂点、下まで2林(=約124m)くらいはある見張り塔です。

そう、私は魔族で、今の移動術は『魔法』です。

そう、そうなんです。私は、お嬢様が忌み嫌う魔族なのです……。

すみません。黙っていて。

……やはり私に、お嬢様は殺せない。

この見張り塔の高みから転落すれば、死ぬかもしれません。

――天に運命を任せてみたいと思います。

――――――――幸運を。お嬢様――――。

110 : ◆x6bdzvN93g [saga]:2012/06/17(日) 00:18:08.04 ID:ycEeBAu1o

【単身赴任】

女記者「……へぇ」

男記者「へぇ、じゃないよ。こいつは大事件だ」

女記者「でもさあ、今、もっと大きな事件があるんだよね」

男記者「? フランツナーの奥さんが死んだことより大きな事件でも?」

女記者「あなたがここに来てくれたこと」

男記者「……言うようになったじゃないか」

女記者「だってさ。私寂しかったんだよ。向こうで女作ってたんじゃないの?」

男記者「おいおい、勘弁してくれよ。何度も言ったが……俺が首都に行ってたのは、取材のためだって」

女記者「分かってる」

男記者「じゃあ、そっぽ向かないで。許してよ」

女記者「許さない」

男記者(まいったなあ。うちのお嬢様はこうなったらテコでも動かないぞ。同僚たちの生暖かい目線も痛い)
111 : ◆x6bdzvN93g [saga]:2012/06/17(日) 00:19:37.51 ID:ycEeBAu1o

【聖人はあなたの隣に】

女「……ん……」

看板娘「おはようございます!」

女「……あなたは…………?」

看板娘「ただのしがない宿屋の娘ですよ〜」

女「私は怪我を……この包帯、あなたが、診てくださったのですか?」

看板娘「あはは。つたない応急処置ですけど……」

女「ありがとうございます……」

看板娘「礼には及びませんって〜」

女「……本当にありがとう……あなたが聖母に見える……」
112 : ◆x6bdzvN93g [saga]:2012/06/17(日) 00:20:12.08 ID:ycEeBAu1o

【炸薬装填のハンドボウガン】

騎士「11月に入りましたが、今年はドラゴンが0頭。キマイラが0頭。アルタイルが0頭。」

騎士団長「ん?」

騎士「その他まるっと『第7特殊動物』通称『ボーダーナギサ』は先月のオーガ1頭を除いて軒並み発見されてません」

騎士団長「で、そのオーガは君がとどめを刺したのだろう?」

騎士「そうです。交易隊の護衛中、急に襲って来ました。正直、片手剣じゃキツかったので商品のハンドボウガンで応戦しました。」

騎士団長「ご苦労。ただし、武勇伝は聞き飽きた。」

騎士「すみません。ええっと、つまりですね。領主様は、どうして俺たちに『ナギサ』を追わせるんっすかね。もう大体いないってのに。」

騎士団長「……何かお考えがあってのことだろう」

騎士「あ! 何か知ってますね」

騎士団長「……言えんよ」

騎士「ですよね〜。じゃあ、聞きません」

騎士団長「よろしい」
113 : ◆x6bdzvN93g [saga]:2012/06/17(日) 00:21:35.54 ID:ycEeBAu1o

【Yes/No羽ペン】

女記者「…………ねえ、私達がコンビ組んでから何ヶ月?」

男記者「……だいたい半年」

女記者「で、そんな相棒残して首都まで取材とか……ホント空気読めない」

男記者「…………ごめん」

女記者(ヤバい言いすぎた……どうしよ)

男記者「……あのさ!」

女記者「どうしたの?」

男記者「今度、一緒に取材してくれないかな」

女記者「……べ、べつに、構わないけど……///」

114 : ◆x6bdzvN93g [saga]:2012/06/17(日) 00:23:07.70 ID:ycEeBAu1o

【堕落メイドは淫夢を踊る】

主任「娘よ」

メイド「はい。」

主任「昨晩の、下町と領主邸で使った『共鳴魔法』が検知した『魔の生命』は合計で145個だ。」

メイド「……不思議ですね」

主任「あぁ。共鳴魔法は、生きた『魔族』を探し出す魔法……。初回の検知では142の魔族が存在していた」

メイド「えぇ、調べてから、私たち含めて計142人全てを味方にしたのですよね」

主任「そうだが……今回の共鳴魔法では、3つほど多くの魔を検知しているのだ」

メイド「……つまり、3人ほど、まだ我々の味方ではないと」

主任「そして、私ができるのは、探索と恐怖による支配だけだ……もし『3つの魔族』が敵ならば……」

メイド「骨抜きにするのは、『サキュバス』である私が最適、でございますわね」

主任「よろしく頼んだぞ」
115 : ◆x6bdzvN93g [saga]:2012/06/17(日) 00:23:41.72 ID:ycEeBAu1o

【乾燥保存のスープ】

女「……すみません……何から何まで……」

看板娘「いえいえ! 構いませんよ! ほら、困ったときはお互い様って言うじゃないですか」

女「……見ず知らずの私を看病してくださり、暖かいスープとパン、寝床まで……感謝してもしきれません……!」

看板娘「そんな、感謝だなんて……。普通のことですよ」

女「……」

看板娘「?……どうかしましたか?」

女「宿屋の……娘様。なのですよね」

看板娘「え。えぇ。まあ」

女「私を……私をここで働かせてください……」
116 : ◆x6bdzvN93g [saga]:2012/06/17(日) 00:24:57.65 ID:ycEeBAu1o

【半貴族の一部市民】

女記者「あらら、この記事文法が崩れてるじゃん」

男記者「うっわ。マジかよ。仕事増えた!」

女記者「ミスったら仕事来なくなっちゃうでしょ」

編集長「ヘイッ! おめえら! よく聞け」

編集長「……領主の令嬢が、昨晩亡くなったそうだ。」


ザワザワ……ナンダッテ……


編集長「しかし、その死には多くの謎が残る」

編集長「そこで俺は、38人体制での取材班を組むことにした」

編集長「1班から3班は共同で動け。その30人を実働班とする」

編集長「『馬持ち』から8人選べ。内5人を、実働班たちの伝令係に。内3人を遠方調査に回す」

編集長「ほかの奴らはサボんな、通常体制だ。以上!」


――僕らは、『4班』だった。……関係ないさ。

117 : ◆x6bdzvN93g [saga]:2012/06/17(日) 00:26:21.98 ID:ycEeBAu1o

【隣人愛】

宿屋の主人「なるほど……君が例のお嬢さんかな。あぁ、自己紹介がまだだったね。私はギルバートだ」

看板娘「その娘のキャロルです」

女「……私は…………えっ?」

看板娘「どうしたんですか?」

女「私は誰ですか? 教えてください、わたしは……」


……。

看板娘「……落ち着きましたか?」

女「記憶喪失、ですか」

看板娘「そう考えるのが、いいと思います」

女「きっとそうなのでしょう……」

宿屋の主人「さっき君が飲んだのが『スープ』で、ここはディクレンツァ国の『ウィジス』だ……とかは憶えてるのかな?」

女「はい、それは……ですが、私がどんな人生を歩んできて、どんな人と触れ合ったのかは……まったく……」


……。

女「すみません……ご迷惑を……」

宿屋の主人「いやいや、構わないよ。」

看板娘「困ったときはお互い様ですっ!」

宿屋の主人「そうさ。だから、体調が良くなったら、ここで働いてもらうよ」

女「えっ……いいんですか、」

宿屋の主人「いくあてが無いんだろう」

女「はい…………」

宿屋の主人「……とりあえず、私らの仕事でも見ててもらおうかな」
118 : ◆x6bdzvN93g [saga]:2012/06/17(日) 00:27:04.22 ID:ycEeBAu1o

【色彩の昼下がり】

ガヤガヤ

女「あのっ……私になにかできることは……」

宿屋の主人「ついさっき倒れてた子を働かせるわけにはいかないね、」

宿屋の主人「キャロル! 右から3番5番9番テーブル!」

看板娘「は〜い」

宿屋の主人「バーナード! 酔っ払いの相手はいいから、4番テーブルのお三方にソーセージ焼いてやってくれ!」

店員A「はい、ただいま」

女「……」

冒険者A「え〜。キャロりんの焼いたソーセージがいいんだけど〜。ついでに俺のソーセージも、」

冒険者B「バカ野郎」

冒険者C「なんだ。この飲み物。」

冒険者B「あぁ、そいつはな、エールっつってな、味わった通り、酒の一種だ」

冒険者C「僕の地元にはレモンのリキュールしかなかった」

冒険者B「だがここじゃレモンはめっちゃ高級なのさ。ま、諦めてこいつを楽しもうや」
119 : ◆x6bdzvN93g [saga]:2012/06/17(日) 00:34:45.10 ID:ycEeBAu1o

【エッダ・ライオット】

カランカラン

少女「あら、やっぱりいつも通り繁盛してるじゃないの」

宿屋の主人「あぁエッダ、ずいぶん久しぶりじゃないか」

少女「なに、たったの数週間よ」

宿屋の主人「こう忙しいとね。もう何ヶ月も合ってない気分さ」

少女「なぁに? この私を口説いてるのぉ?」

店員B「西方サラダ2つ、レストリア風煮込み1つ、ウェディス3つ!!」

宿屋の主人「あいよ! ……エッダや、そこで座ってなさい。いつものでよかったかい?」

少女「ドレッシングでイルカの絵書くヤツ、あれが見たいわ」

店員D「オジさん! エール4つ、ジャガイモサラダ2つ! ローストビーフ2つ!」

宿屋の主人「あいよ! ……すまないエッダ。ちょっと待ってなさい」

少女「……はぁ。いつになったらイルカは泳ぐのかしらね」
120 : ◆x6bdzvN93g [saga]:2012/06/17(日) 00:39:21.34 ID:ycEeBAu1o

【盗賊ギルド】

カランカラン

ガラの悪い男「よォ……久しぶりじゃねえか」

子分「じゃまするぜぃ!」

宿屋の主人(お譲ちゃん、私の影に隠れて……)

女「……?」スッ

宿屋の主人「いらっしゃいませ」

ガラの悪い男「なんで来たかは分かるよな」

子分「まさか払わねえとは言わねえだろうな!!」

ガラの悪い男「そう殺気立つな。で、どうなんだい?」

宿屋の主人「えぇ、そりゃあもう。ここに今月分用意してございます」

ガラの悪い男「ひぃ、ふう、みぃ……」

子分「おいらも数えやすぜ!」

ガラの悪い男「おう、さっさと数えるぞ」

121 : ◆x6bdzvN93g [saga]:2012/06/17(日) 00:39:47.71 ID:ycEeBAu1o

……。

ガラの悪い男「じゃましたな」

子分「またくるぜ!!」


カランカラン


少女「……まぁた盗賊ギルドぉ?」

宿屋の主人「まぁまぁ、月一回だけだからね」

女「……盗賊ギルドってなんですか?」

少女「まずはあんたが誰よ」

女「……私は…………」

宿屋の主人「あぁ、この子は最近ここに来たんだ。ちょっとワケアリでね」

少女「ふぅん……」
122 : ◆x6bdzvN93g [saga]:2012/06/17(日) 00:41:13.42 ID:ycEeBAu1o

【元商品】

看板娘「きゃっ、お尻触らないでっ!」

剣士A「へへへっ、いいじゃねえかよぉ。エロい尻しやがって」

宿屋の主人「お客さん、困りますなあ。『売りもの』が欲しいなら違う宿屋へ行ってくれませんか?」

剣士A「ちぇっ、しけてんなあ」

看板娘「お兄さん、ゴメンね」

剣士A「謝るんなら売ってくれよ〜」

宿屋の主人「ですから、」

剣士A「あいあい。忙しいとこ悪かったね。釣銭は取っとけよ〜。あと、今度良いヤツ売りにかけとけよ〜」

宿屋の主人「ありがとうございました。またのおこしを」

看板娘「……だから、もう『売り物』じゃないのに…………」

宿屋の主人「……あぁ」

店員F「おやっさん! 7番に炙りコーンサラダ2つと南方ドリア3つ!」

宿屋の主人「…キャロル、作れるかい?」

看板娘「……はい」
123 : ◆x6bdzvN93g [saga]:2012/06/17(日) 00:41:44.93 ID:ycEeBAu1o

【INN=外食屋、居酒屋を兼ねた宿屋】

女「ええと、はじめまして」

少女「あんた、こういう場所初めて? 年は?」

女「……わかりません」

少女「……そう、それが『ワケアリ』ってやつ?」

女「は、はい……」

少女「ちょうどいいや、私の仕事に付き合いなさいよ」

女「えっ?」

少女「私は『冒険者』よ」

女「『冒険者』?」

少女「はぁ? あんた冒険者も知らないの?」

女「ひっ、ご、ごめんなさい」

少女「はぁ……ごめんなさいね。怖がらせるつもりはなかったけど。まあ良いわ、説明してあげる」

少女「あー……外に出ましょ、歩きながら説明するわ」

124 : ◆x6bdzvN93g [saga]:2012/06/17(日) 00:43:24.84 ID:ycEeBAu1o

【冒険者】

足擦って歩いてるけど……大丈夫?

そう……あんたを背負っていくのはイヤよ。

あぁ、冒険者たちの説明ね。

単純に言うと、冒険者たちって言うのは『便利屋集団』ね。

ええと、つまり、お金や『価値あるもの』さえ貰えば、何でもする人たちなの。

行商人の護衛、動物の退治、品物の運搬、仕事の手伝い、危険地域の探索……。とかね。

で、仕事しつつ大陸の色々なところを旅してまわって、情報や品物を『流通』しやすくさせてるってわけ。

だから私らって基本的に『よそ者』だから、わりと評判が悪いのが残念だわ。

あと、地元じゃないからって狼藉をはたらく冒険者もいるしね。

そういった不届き者を取り締まり、冒険者を管理するために生まれたのが『冒険者ギルド』ね。

基本的に『冒険者』は『冒険者ギルド』に所属しなきゃ、痛い目に会うわ。

まあ、基本的な説明は以上ね!

で、そろそろ『冒険者ギルド』に着くわよ。


125 : ◆x6bdzvN93g [saga]:2012/06/17(日) 00:46:11.18 ID:ycEeBAu1o

少なめですが……これで今回の投稿を終ります!
最近リアルのほうがわりと忙しめで……。
けど、なんとか時間見つけたいですね〜。

さて、感想・批評・叱咤・激励のたぐいがございましたら、どうぞ気軽にお願いします!
ではでは!
126 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/17(日) 01:00:08.17 ID:2/VNZr+co
乙乙
視点が沢山出てきて楽しみ
127 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2012/06/17(日) 04:56:56.28 ID:Zp1g9TeAO
128 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2012/06/17(日) 22:45:18.24 ID:2XU533GOo
キテター!!乙!
まあリアルを大切に
いつまでも舞ってるから
129 : ◆x6bdzvN93g [saga]:2012/06/26(火) 10:01:38.68 ID:Ab49kmbeo

出かける寸前に、可能な限り投下します!

>>126
ありがとうございます!
……視点の増加で、テンポが落ちるかもですが、がんばります!

>>127
ありがとうございます!
励みになります!

>>128
ありがとうございます!
不定期投下になっちゃってますが……
それでも見に来てくださっているのは本当に嬉しいです!
130 : ◆x6bdzvN93g [saga]:2012/06/26(火) 10:02:23.06 ID:Ab49kmbeo

【Peaceful――幻想に恋した冒険者――】

少女「で、あなた記憶無いんでしょ?」

女「えっ……どうしてそれを……」

少女「なんとなく」

女「そう……ですか」

少女「そうだから、私がひとまずの名前をつけてあげる」

女「……ありがとうございます」

少女「あなたは今日からリンジー・フランカよ」

女「……リンジー…………」

少女「私はフランって呼ぶよ。で、冒険者になってみない?」

女「えっ」

少女「だからさあ、冒険者になって大陸中を見て回りなさいよ。記憶の手がかりもあるかもね」

女「……できるでしょうか……」

少女「楽勝よ! ……なんたって、この私とコンビを組むのだからね♪」

女「……コンビ?」

少女「あぁ。下町で流行ってる言葉で、一緒につるんだり、仕事したりする仲間ってこと」

女「……私なんかに、エッダさんの仲間……務まるでしょうか……」

少女「大丈夫! 私についていけばいいんだから。ほら、笑顔笑顔♪」

131 : ◆x6bdzvN93g [saga]:2012/06/26(火) 10:02:49.79 ID:Ab49kmbeo

【紅茶は庶民のためにあらず。ただ高貴がためにあり】

看板娘「ふぅ……疲れたぁ」

宿屋の主人「皆さん。お疲れ様。夕方まで休憩しておくれ」

店員たち「お疲れ様でーす」


……。


店員A「はぁー。やっぱりキャロりんのスープ美味しいっすね」

看板娘「えへへ。ありがとう」

店員B「俺たちも貴族みたいに紅茶がぶ飲みしてみたいけどね」

店員A「きっとキャロりんの淹れた紅茶も格別なんだと思いますね」

店員D「もう。どれだけキャロルちゃん担ぐのよ」

店員A「いてて。つねるなよぉ」

看板娘「……」

店員D「どうしたの?」

看板娘「……ごめんなさい。疲れちゃった……。お部屋に戻るね」
132 : ◆x6bdzvN93g [saga]:2012/06/26(火) 10:03:36.67 ID:Ab49kmbeo

【死線くぐりの慰めは少々の路銀】


カランカラン


女「……」

少女「やあ、」

受付「おや、いつぞやのオマヌケ少女じゃないですか」

少女「アハハ、何言ってるの? ドタマぶち抜くわよ」

受付「オーケー。悪かった。で、初の護衛任務の感想は?」

少女「野盗って簡単に死ぬのね」


エッダさんが懐から書状を取り出すと、受付の男は、先ほどまでの態度とうって変わって真剣な表情でそれを読みました。

そして書状を読み終えた男の口が開きます。


受付「ヒューッ こいつはクールだ。報酬をくれてやろう」

少女「……銀貨20枚? この程度?」

受付「増やして欲しけりゃ、もう一件こなすんだな」

少女「……わかった。何すりゃいいのよ」

受付「その前に、まず隣の女をギルドに入会させろ」

女「えっ」

受付「この子はいい冒険者になるぞ」

少女「ふふん。それを先に見出したのは私よ」

受付「じゃ、お譲ちゃんがこいつを教育するんだな。……おい、こいつにサインして、血判だ」

女「……血判?」

受付「……。このナイフで指を切って、血で指型を取るんだ」


※この世界では、銀貨に約0.7gの銀が含有され、銀貨1枚=3000円程度。つまり銀貨20枚=6万円。

 2週間も商人護衛の緊張に晒され、徒歩移動と野営ずくしで、実際に3回野盗と交戦して6万円では赤字である。

133 : ◆x6bdzvN93g [saga]:2012/06/26(火) 10:04:43.54 ID:Ab49kmbeo

【形見のファルシオン】

少女「また来るわ」

受付「いつでもこいよ」


カランカラン

冒険者ギルドを出た私は、少女についていきました。
このかわいい少女と一緒に過ごす時間は本当に楽しくて、なかなか打ち解けてきたかな〜。なんて…ふふふっ。
けど、彼女はふと真剣な表情になり、こう言いました。


少女「あ、そうそう……家まで来なさい。渡すものがあるわ」

女「?」

……。

ギィー。バタン。

少女の住んでいる家に着きました。

……。


少女「よし。本題に入りましょ」

女「はい、」

少女「あなたはどんな武器が使えるの? 冒険者には武器が必要なのよね」


ずらり。
少女に案内されて家の地下室へ行くと、たくさんの武器が並べられていました。
剣・ナイフ・ハンマー・メイス・斧・杖・槍・弓・ボウガン……などなど。
剣1つにとっても、10種類近く揃えられていて、ランタンに照らされた金属たちが、てらてらと官能的な表情を見せます。
……私が手にとる武器は……。


女「……このつるぎを……」

少女「……ファルシオン……扱ったことあんの?」

女「いえ……憶えていませんが……なんだろう、懐かしい……」

少女「そう。記憶を失う前に握ったことあるんだろうね」

少女「……わかったわ。大事に使いなさい」


※ファルシオン
刃が緩やかな弧を描き、棟が真っ直ぐな刀剣です
ある程度長く、反りはなく、片刃で断ち切ることを目的としているのです。
この世界では、小イスメキアで生まれた刀とされます。
……私達の住む世界のもので例えると、『軍用マチェット』の刀身を1mくらいにしたものが一番近いです。

134 : ◆x6bdzvN93g [saga]:2012/06/26(火) 10:06:36.00 ID:Ab49kmbeo

【少女の鑑】

少女「あるお偉いさんと一緒に仕事をする予定なんだけど……出発が夕方なのよねえ」

女「そうなんですか、」

少女「それまでヒマだから、あなたの旅支度をコーディネートしてあげる」

女「コーディ……?」

少女「ああ、西の言葉でね……」


……。


武具店主「おぉ、久しぶり」

少女「元気してた?」

武具店主「おかげさまでね。で、何の用だい?」

少女「この子の鎧を仕立てて欲しいの。ほら、例の鎧あんじゃないの?」

女「よろしくお願いします」

武具店主「お譲ちゃん、採寸士に従いなさい、寸法を測ろう」

アルバイト「お嬢さん、肩幅を測るからじっとしててね」

女「は、はい」

武具店主「で……エッダや。さては、1人分のオーダーメイドがご破談になったと聞きつけたな?」

少女「依頼者が死んじゃったんじゃしょうがないでしょ。買い取るわよ」

武具店主「……ふん。いいだろう。ただし銀10枚と仕立て代をいただくぞ」

少女「で、その鎧は誰が依頼したのかしら? よく出来たハードレザーアーマーじゃない」

武具店主「こいつはヒミツだが……ガルミリッタ・レデク……領主の令嬢だよ」

女「……ガルム……」ボソッ

少女「あら、あの子死んじゃったの? まぁいいや。夕方までにこの子のサイズに……」

採寸士「おやっさん、」

武具店主「どうやらピッタリのサイズらしい。仕立て代はいらん、銀10でさっさと持っていきな」

少女「悪いわね〜。あ、着させたいわね」

女「試着室……お借りします」



135 : ◆x6bdzvN93g [saga]:2012/06/26(火) 10:07:11.73 ID:Ab49kmbeo
……。


女「〜♪」

少女「その鎧、ずいぶん気に入ったのね」

女「えぇ。身体にピッタリだけどキツくもないですし、胸部と腹部、肩、左腕などに、補強用の板金が配され心強いです」

少女「貴族令嬢のオーダーメイドにしては、えらく質素かつ質実剛健ね。」

女「なんというか実用的で、私の感性にぴったりはまるんです」

少女「まさか、あなた領主の令嬢だったりして」

女「ふふふ、まさかそんな」


……。


雑貨店主「いらっしゃ……い……」

少女「また来たわよ」

雑貨店主「ひっ、わ、悪かった、俺が悪かった」

少女「なぁに? あたしまだ何も言ってないけど〜」

雑貨店主「な、なんだ、何が望みだ」

少女「彼女が私の新しい相棒よ……これから一仕事あるから、一通りの道具を頂戴」

雑貨店主「ああ、分かった、分かった、だからあの話はヒミツに……」

少女「既に5人ほどに話しちゃったわねえ……私が密告しろと言うか、私が死んだら、この話は明るみになるわ」

少女「ホラッ! さっさと用意しなさい! ブチ殺されたくなければね!!」

雑貨店主「ひぃぃぃっ!」

女「? ……?」

少女「あなたは知らなくていいの……」


……。


女「い、いいんでしょうか。こんなに頂いて」

少女「ま、いいのよ」

女「他に何か、必要なものは……」

少女「あー……後は大丈夫ね。一度戻って、荷物の整理をしましょう」



136 : ◆x6bdzvN93g [saga]:2012/06/26(火) 10:08:25.40 ID:Ab49kmbeo

【サード・セッション】

騎士「にしても遅いっすね」

騎士団長「俺たちが早すぎたんだ、時間まで鐘2つもあるぞ」

騎士「このギルド、活字ばっかりでうんざりしてくるっすよ……」

騎士団長「壁一面に依頼の掲示がされてるとはな……火事にならないのを祈るばかりだ」

騎士「まぁ、紙は燃えやすいですしね」


カランカラン


少女「おはよう」

女「……おはようございます」

騎士「はは。もう昼なんすけどね。エッダさん、お久しぶり。」

少女「えぇ、久しゅうございますわ。ステキな騎士様」

騎士「君らしくないね、お世辞なんて。で、となりが……えっ? ……団長、」

女「?」

騎士団長「……令嬢……ガルム……!?」

騎士「団長、気をしっかり……。えっと、……エッダさんの隣に居る、あなたの名前は?」

女「……」

騎士「? あなたのお名前は?」

少女「あぁ、この子はリンジー。リンジー・フランカ。知り合い?」

騎士「いえ……。ただ、少し友人に似ていたもので……」

少女「そう。で、この子の名前を聞いたなら……」

騎士「あぁ、すまない。私は騎士のアラン・ローゼンタリアン・コ・ウィジスだよ」

騎士団長「……騎士団長、チェルアルコ・カヴェナ・コ・ウィジス……」

少女「顔色悪いけど大丈夫〜? あ、もしかしてこの子にひとめぼれ?」

騎士団長「……行くぞ。計画は改めて道中話す」

137 : ◆x6bdzvN93g [saga]:2012/06/26(火) 10:12:04.59 ID:Ab49kmbeo

【求むるは少々のイコン】

騎士団長「……つまり我々は、『黒い木漏れ日』と呼ばれる遺跡に潜伏する盗賊団を叩く」

騎士「この遺跡は、かつて魔族の砦でもあったんだ」

騎士団長「そうだ。だから、盗賊団の盗んだもの以上に、『魔族の遺したもの』があれば、なんとしてでも回収せねばならない」

少女「ふうん……で、私エッダ・ライオットだけがピンポイントで雇われた理由は?」

騎士「そ、それは……」

騎士団長「野戦技術者が2人も、痛風やチフスとかでロクに作業できなくなったからだ」

騎士団長「それでこの騎士様が、『エッダさんを呼ぼう! 彼女なら百人力だよ!』と、」

騎士「それは言わない約束……」

少女「私、信頼されてるのね。ありがとう」

騎士「い、あ、は、はい……」

少女「可愛いわね……で、その盗賊団の居る遺跡『黒い木漏れ日』の規模と入り口の数は? それをいったいどれだけの人数で攻め落とすの?」

騎士団長「遺跡の入り口は3つ。面積は、城門前広場と同じくらい。全3階。しかし地下もあるそうだ。我々はそれを2個小隊(=約50人)で攻める」

騎士団長「エッダ、君には工作と、弓による援護をお願いしたい」

騎士団長「簡単な説明は以上だ。以上、解散。半刻後(=約1時間)に、城門前広場に集合」


……。


騎士「本当にエッダさんを呼んでも良かったんですか?」

騎士団長「逆に問おう。こばむ必要があるか?」

騎士「えっ。『足手まといはいらない。子供は呼ぶな』と言ってたじゃないですか」

騎士団長「不思議だが、最近私は『人の強さを見定める眼』が育ってきたようだ……あの少女は強い。そうだろう?」

騎士「そうっすよ。エッダさんは強いんです」

騎士団長「だが……あの令嬢に似た娘は……」

騎士「あの子が令嬢なワケないですよ。右腕があるじゃないですか。令嬢は、右腕を切断されてるんですよ?」

騎士団長「何か引っかかる……リンジー、やつがガルミリッタ・レデク。領主令嬢なのだと私の直感が叫ぶのだ」


……。


少女「ねえあんた大丈夫?」

女「……えっ、あ、はい。大丈夫です、」

少女「そんなに震えて大丈夫なワケないじゃない」

女「いえ、大丈夫です。お役に立ちたいんです」

少女「その様子じゃ、記憶を失う前も、人を殺めた経験なんてないわね」

女「おそらく、そうでしょう……恐ろしい」

少女「……大丈夫。あなたは私のフォローをして。」

少女「あなたは絶対、死なせない……!」

女「エッダさん……」

女「すみません、フォローって、」

少女「あぁ、西の言葉でね……」

138 : ◆x6bdzvN93g [saga]:2012/06/26(火) 10:14:06.43 ID:Ab49kmbeo

【眠気を呼ぶ馬車の揺れ】


私達はその後、城門付近で部隊と合流しました。

これは日記ですが、現在の持ち物と、作戦内容を記します。


――作戦目的

「甲(きのえ)ゆく森」中部に位置する遺跡「黒い木漏れ日」を拠点とする盗賊団の殲滅。および戦利品の獲得。


――作戦の計画

@全部隊、遺跡近辺に潜伏。
A爆竹を合図に、弓にて歩哨の暗殺。それらを合図に先行隊強襲。
B突入後、八半刻(=約15分)以内に決着がつかなければ、後発隊突入。
C敵の全滅を確認し次第、遺跡の探索に移る。
D探索終了後、戦利品のチェックを済ませ、本部に帰還。負傷者の治療は本部にて行う。



――装備品。


私(リンジー・フランカ……今日のお昼に名づけられました)
ガルムの鎧、、カヴェナ随行のマント、ファルシオン、多目的ナイフ×2、ランタン、油瓶×2、水筒、
ボウガン、粗悪なボルト×50、治療箱、コンパス、ディクレンツァ北部の地図、携行食糧2人分が2日分


エッダさん(あの小さいけど大人びた少女!)
レザーアーマー、カヴェナ随行のマント、ダガー×2、採集用ナイフ、屠殺用大型ナイフ、ランタン、油瓶×2、水筒、
ショートボウ、粗悪な矢×60、野戦ツールボックス


チェルアルコさん(騎士団長!)
フルプレートアーマー、カヴェナ騎士のマント、バスタードソード、ブロードソード、ナイフ、……あとは分かりませんでした。


アランさん(騎士団長のおとも?)
プレートメイル、カヴェナ随行のマント、ロングソード、カイトシールド、メイルブレイカー、……あとは分かりませんでした。


……。
屈強な戦士たちと一緒に仕事をするため、現地に向かいます。

一晩中、馬車に揺られ、日の出前に起こされました。

――どうやら、森に着いたようです。ここが「甲ゆく森」……ここから先は、徒歩での移動となります。

――――これから私が死ぬかもしれないし、殺すかもしれないなんて……。

139 : ◆x6bdzvN93g [saga]:2012/06/26(火) 10:15:50.61 ID:Ab49kmbeo

これで今回の投稿を終ります!
ちょっと短かったかな?

次回に向けて、執筆がんばります!

感想、意見、叱咤、激励などございましたら、どうか気軽に!
ではでは!
140 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/26(火) 19:11:06.05 ID:O3qQ1g+Jo
乙乙
エッダちゃんいい人
141 : ◆x6bdzvN93g [saga]:2012/07/15(日) 20:58:29.10 ID:y0M6qO1Mo
こんばんは! ちょっぴり投稿します!

>>140
ありがとうございます!
そう思っていただき、作者冥利につきます!!

では、投稿します。
ごゆっくりどうぞ
142 : ◆x6bdzvN93g [saga]:2012/07/15(日) 21:00:10.23 ID:y0M6qO1Mo

【カゴの中の混乱】


――――時はさかのぼり、領主令嬢の腕が見つかってから四半刻(=約30分)後……。


――腕が発見されたワイン倉庫から出て、屋敷中を捜索している最中……。


騎士団長「これは……ペロッ……血だ。おそらく、令嬢の」

騎士「どうしたんですか?」

騎士団長「ここまで血痕が続き、ここを境に血痕が途絶えている……おそらく、令嬢の血だ」

騎士「そんな……それじゃあ、どこに…………」

医者「娘様は見つからないのですか!?」

騎士「そうだがッ! どこだ? いったいどこへ……ッ!」

医者「この血液量……もう……」

騎士「やめろ! それ以上は!」ガシッ!

騎士団長「医者に拳を向けてどうする!! お前がやめるんだ」

騎士「……クソッ! クソッ! …団長!」

騎士団長「あぁ、探すぞ」


……。


騎士「どうしてここで血痕が途絶える! まだワイン倉庫から出てすらいないんだぞ!」

騎士団長「……それが不可解。くだんの鍵となりうる謎なのだ」

騎士「はぁ!? 『謎解きゴッコ』なんかやってるヒマはないんですよ!! 今はただ探さねば!」

騎士団長「行ってしまった。……アランよ。謎は解かねば、迷宮に出口はないんだぞ」


……。


騎士団長「それにしても……連れ去られたにしては、血痕の途絶え方が……」

編集長「ふむ……こいつは、32年前に死亡した1人の『魔法使い』の手口と似てると思いませんか?」

騎士団長「……君は誰だ?」

編集長「あぁ、私はこういう者です。」

騎士団長「ほう。で、」

編集長「我々の親の世代、レ=スェフという1人の魔法使いがおりまして」

騎士団長「つまり何なのだ? 私には時間がない」

編集長「彼は殺人の前後に、時空間を歪ませるだとか、甘い幻を見せるだとか言われていましたがねえ」

編集長「それがもし、瞬間的に物体を移動させることだったら……ねえ? そうでしょう、」

騎士団長「なるほど、それならこの状況とも一致する。が、バカバカしい。魔法使いは駆逐されたはずだ」

騎士「団長ッ! ペンダントッ! ペンダントです! れっ、令嬢様の!!」

騎士団長「あぁ、今向かう」
143 : ◆x6bdzvN93g [saga]:2012/07/15(日) 21:01:40.17 ID:y0M6qO1Mo


執事「そうだ。お前は、取材を通じて得た情報を、私に全て流せば良い」

編集長「つまり、口止め料をいただいているのに、口外して構わない。と?」

執事「口止め料ではない――契約料だ」

編集長「えぇ。金30枚。しかと受け取りました。ではいってまいります」

執事(発表まで1週間あけるだと? 待てるか。こいつを使って、すぐさまウィジスを混乱させてやる!)


……。


役人「この3件の受注は取り消しだ」

武具店主「へ、へえ……『レザープレイトアーマー』『グリッドファルシオン』『レデクのブリガンダイン』は取り消します」

役人「そしてこの取り消しの事実は、口外することを許さない。もし喋れば……」

武具店主「重々承知しております」

役人「では失礼する」


バタン。


ギィ。


編集長「やってるかい?」

武具店主「やってないよ。日の出すらまだなんだ」

編集長「ふああぁっ。そうだね。霧雨祭の熱気にやられて、深夜だって忘れてたよ」

武具店主「あんたはいいよなあ。『城内』に賓客入りできてさ」

編集長「うん。もっとも、私は豪華な料理なんて食い飽きたがね。ははっ」

武具店主「あの大物音楽家フランツナーも来たそうじゃないか」

編集長「ま、私は料理とか音楽よりも……情報目当てに入ったのですがね、」

武具店主(仕事の時の口調。か。)

編集長「思わぬ収穫がありましてね。……どうでしょうか。先ほどの役人の不可解な注文取り消しの件、真相を知ることが出来ると思えば安いものでしょう」

武具店主「ほら。これでいいだろう」

編集長「えぇ。良質な情報は、良質な金貨にて……。では、」

武具店主「あぁ。」

編集長「――領主の令嬢が、つい先ほど亡くなりました。正確には遺体は発見されていませんが――そのまま死亡したことにされるでしょうね」

武具店主「ほぉ。どういうことだ?」

編集長「――――『都合』。ですよ」

武具店主「はぁ?」

編集長「では、のちほど。」

武具店主「おい、ちょっと待て、わりに合わん……」


バタン。


武具店主「はははっ……金2枚(=約30万円)がふっとんだぞ……」

武具店主(それにしても、男のふりをしてまで……辛くないのかい。モニカ)

武具店主(……権力を掴むには、女のほうが辛い。ってことかね)
144 : ◆x6bdzvN93g [saga]:2012/07/15(日) 21:02:14.60 ID:y0M6qO1Mo


ガルミリッタ・レデクの死は、1週間に渡り秘匿された。

しかし、一部の貴族・騎士・報道関係者・商人などは事実を知る。

ガルムの死を知った者たちは一様に金10枚が与えられ、口封じされた。

……なお、口を開いた者の末路は、一切公式文章には残されていない。

――――ただ1人、私を除いて。


――――――――――クラウディオの手記より
145 : ◆x6bdzvN93g [saga]:2012/07/15(日) 21:03:23.54 ID:y0M6qO1Mo

【不可解な行軍命令】


――夜明け。騎士団長と女『リンジーフランカ』が邂逅するまであと3刻(6時間)――。


――城内、パーティ会場。


〜♪


男貴族「やはりフランツナー氏の演奏は身にしみますな、まるであなたの声のようだ」

女貴族「まあ、お世辞がお上手なのね」

男貴族「そ、そういうわけでは……」

女貴族「ンフフ。あなたのそういうところも好きよ……♪」ダキッ

男貴族「おおっと。肩に手を回して……そんなにくっついてきて、何がしたいんだい……?」


ドン


男貴族「おっと。こりゃ失礼」

騎士団長「……」ザッザッ

男貴族「なんだァ? あいつはッ」

騎士「すみません、お怪我はありませんでしたか?」サッ

男貴族「いえ、謝るほどのことでも……」

騎士「先を急ぎます。失礼します」

男貴族「あぁ……行ってしまわれた。いったい誰だったんだろうか」

女貴族「そンなことよりぃ……♪」


……。


領主「パーティ参加者に、『異変』は悟られてはおらんな?」

騎士団長「はい。彼らは『異変』など無いと言うでしょう」

領主「よろしい。令嬢はこちらで探そう。チェルアルコ、アラン両名へ告ぐ。ガルミリッタ捜索の任を解く。……して、別に任せたい仕事がある」

騎士団長「なんなりとおっしゃってください」

領主「……ついに盗賊のアジトを発見した。『黒い木漏れ日』へと進軍し、これを壊滅させよ」

騎士団長「……え?」

領主「娘の死は、ウィジスの地に混乱をもたらすであろう。混乱に乗じて悪行をはたらく、盗賊どもを殲滅するのが、重要な課題のひとつだ」

領主「今から3刻以内に軍を編成せよ。そして5刻以内にウィジスを発て。詳しくはこの書簡を読め」

騎士団長「謹んでお請けいたします。では……」

146 : ◆x6bdzvN93g [saga]:2012/07/15(日) 21:04:19.56 ID:y0M6qO1Mo

【半魔族――Re:Deck Outer World――】


――――カヴェナ私兵の行軍中、森に到着するまで、あと2刻(=約4時間)程度――。


――城内、『秘アンバー会議室2番』にて。


領主「よく来た。」

兄上「父上……話とは、」

領主「落ち着けとは言わん。事は急を要する。聞け」

兄上「……はい」

領主「渡した本は読んだか?」

兄上「えぇ」

領主「よろしい。では、魔族のことをどこまで理解した?」

兄上「……本の要点をメモにまとめたのですが。読み上げましょう」

兄上「@『魔法使い』とは、『後天的な魔族』である。『魔族の血』を腹中に収めしものは、数日後に魔族へと変貌する」

兄上「A魔族には、無数の種族がある。魔王の種族『ヘルデーモン』もその一種である」

兄上「B魔族の定義とは、『魔法』を操る生命体。ゆえに獣の魔族も存在する」

兄上「その他……アカザネ種、フェアリー種、サキュバス種、スライム種などの50種類以上の種族について、とりあえず把握しました」

兄上「以上です」

領主「素晴らしい……もはや憂いは無用か」

兄上「いえ、不安でいっぱいです……私ごときに『人魔共存』を成し遂げられるかどうか……」

領主「……すまないな。私がしっかりしておればよいものを……」


……。


領主「さて、本題に入るぞ」

兄上「はい」

領主「私の娘、おぬしの妹を、探し出してくれ」

兄上「はい?」

領主「あれは死んではおらん」

兄上「なぜそう思うのです?」

領主「……ひとつ、このナイフの効力。このナイフは『レデク小剣』と呼ばれる家宝……魔力の質と量を自在に探知し、自身も莫大な魔力を吸収している」

兄上「……? ここでどうして魔力が……」

領主「ふたつ、魔族の血を引くものは、身体に魔力を蓄える――――レデクは『半魔族』の家系だ。」

領主「現在『レデクの魔力』は……『黒い木漏れ日』へと向かっている」
147 : ◆x6bdzvN93g [saga]:2012/07/15(日) 21:05:02.90 ID:y0M6qO1Mo

【活発な女たち】


――――そして、現在――カヴェナ私兵たちが『甲ゆく森』に到達した時点の話――――。


――ウィジス城下。平民と貴族の接点。……コーヒー・ハウスにて。


男記者「おっ。編集長!」

編集長「おぅ。どうした」

女記者「仕事終りましたよ」

編集長「で、どうしたい?」

男記者「ちょっと休暇――」

女記者「令嬢の事件を調べさせてください!」

男記者「ちょっ……」

編集長「あの情報は極秘だと言ったろう。まあいい。調べたいのか?」

女記者「えぇ、はい!」

編集長「気をつけてな」

女記者「ありがとうございます!! ほら行くよ!」

男記者「……マジかよ」
148 : ◆x6bdzvN93g [saga]:2012/07/15(日) 21:05:51.51 ID:y0M6qO1Mo

【カンザス・ラブ】


――『甲ゆく森』――。


女「きゃあっ!」

少女「大丈夫っ!?」

女「い、犬……?」

少女「……かわいそうに、こんな場所で……」

騎士「どうしたんだい?」

少女「犬よ。犬の死骸が――吊るされてるわ」

騎士「うっ……けほっ。ひどいにおいだ。誰がこんなおぞましいマネをッ」

少女「動物の臓器を好み、余った肉をツタや杭で吊るして縄張りを守る、半亜人型モンスターといえば?」

騎士団長「……ゴブリン。――この時期のゴブリンは繁殖期に入り、気性も荒い」

騎士「そういえば……勉強したっけ」

少女「えぇ。気をつけましょ」

女「はぁーっ。はーっ。う、うぅぅ」ガタガタ

少女「ごめんなさい……残酷なものを見せちゃったわね……」

女「うぅぅぅ……」

少女「……」


泣きじゃくる私は、ぬくもりを感じて、徐々に落ち着きを取り戻しました。

少女にすがり付いて泣きじゃくっていたことが、急に恥ずかしくなってきます。


少女「どぉ? 落ち着いた?」

女「え、ええ。はい///」

騎士(……ここは死地だぞ。俺が守らなきゃ)

少女「あ、見たわね」

騎士「え、いや、あの」

少女「私達のこと……守ってね?」
149 : ◆x6bdzvN93g [saga]:2012/07/15(日) 21:06:28.39 ID:y0M6qO1Mo

【つのる不満】


兵士1「やっぱりおかしいです」

兵士2「そうだ、おかしい」

騎士団長「なにがだね?」

兵士1「どうして戦場に女子供を入れるのか、ですよ」

兵士2「……慰安婦にもするな。ときた。そんなのに価値があるのか」

騎士団長「残念ながら、野戦技術は彼女に頼らざるを得ないだろう」

兵士1「……」

兵士3「しかし!」

騎士団長「貴君らに、トラップの鑑定・解除。無数に存在する動植物の鑑定などができるか?」

兵士たち「……」

騎士団長「さらに、市街地以外での戦闘経験は? 酔っ払いや盗賊以外を相手取った経験は?」

騎士団長「……戦闘訓練の量だけで言えば、貴君らの方が上だろう……が、残念ながら経験で言えば彼女の方が上だ」

騎士団長「貴君らよりも、彼女が打たれ弱いのも確かだ。彼女から得るのは知識のみ。交戦においては、自らを誇れ。異論のあるものは?」

兵士たち「……」

騎士団長「休憩は終了だ! 荷物を置いた者は担ぎ直せ! 甲冑を交戦可能状態にしろ! 行軍だ! その準備を済ませろ!」

兵士たち「…サー、イエッサー!!」

兵士2(……こちとら慣れない行軍でイライラしてんだ。……あのメスガキ、寝取っちまってもバレねえよな)
150 : ◆x6bdzvN93g [saga]:2012/07/15(日) 21:07:59.12 ID:y0M6qO1Mo

【聞こえるか、ブービー】


兵士1「……」ザッザッ

兵士2「……あと少しで休憩、」ガサッ

少女「動かないでッ!」

兵士2「!?」ビクッ

少女「足元のロープ、トラップ。」

兵士2「……触れちまった……どうすればいい」

少女「皆さん2間(=約4.6m)以上後退して……あなたは足を、ゆっくり、引いてください。」

兵士2「……引いたぞ」

少女「落ち着いて、ここまで歩いてきてください。私が解除に向かいます」

少女「どれどれ……たいしたことないね。……今、安全圏から罠を起動します。吊るされた丸太が、振り子のように落下しますが、特に動かなくてもいいでしょう」


ブチンッ ヒュン! ブオン!!


ブォン、ブン、


無数のトゲをもつ、凶悪な見た目の丸太が勢い良く落ちてきました。


兵士1「素晴らしい!」

兵士3〜49「おぉー!」

少女「お兄さん、大丈夫? ケガは?」

兵士2「……ふんっ。おめえら、関心してねえで行くぞ。団長、指揮を」

騎士団長「それはできんな」

兵士2「なんだって?」

騎士団長「命の恩人には礼が必要だ。なぁ?」

騎士「そうっすね」

兵士2「……くそっ。…ありがとよ」

少女「無事で何よりです」


分かりにくい位置に設置されたロープを、離れた場所から察知したエッダさん。

罠の種類、仕組みをすぐさま理解し、兵隊さんたちの安全に配慮した決断。

……兵隊のみなさんの、私達への不信の念が、和らぎ始めるきっかけになればいいのですが。
151 : ◆x6bdzvN93g [saga]:2012/07/15(日) 21:09:17.97 ID:y0M6qO1Mo

【けもの】


騎士「そろそろ日が暮れますね」

騎士団長「そうだな。どこかを野営地としたいが……くそっ。地図がぼやけて……アラン、見てくれ」

騎士「大丈夫ですか? ……地図によると、ここから10林(=約6km)北に、川が流れてます」

騎士団長「よし、そこを野営地としよう」

騎士「久しぶりの魚にありつけるかも、」

騎士団長「……ん? 何か聞こえる……」

騎士「?」

騎士団長「オオカミだ。オオカミの群れが来るぞッ。総員警戒ッ!!」


兵士たちが、ざわめきます。

部隊は行進を止めました。

隙間無く全方位を防衛する陣形に切り替わりました。

おのおのが武器を構え、緊張した面持ちです。


兵士35「……見えません。いったいどこに……。」

騎士団長「呼吸音が聞こえないのか? 茂みを移動している!」

兵士29「いったいどこの話です!?」

騎士団長「進行方向より9時、3時方向……6時もだ……包囲されている」

騎士団長「距離およそ1林から1林半(=約62〜93m)……数にして………………………40頭以上はいる」

兵士43「よんっ、40頭ものオオカミが……勝ち目ねえよ……」

兵士47「団長。どうしたってそんな精密に分かるのですか?」

騎士「団長が言うなら正しいんだよ」

騎士団長(異常だ……目も耳も……役には立っているが。)
152 : ◆x6bdzvN93g [saga]:2012/07/15(日) 21:12:03.69 ID:y0M6qO1Mo


騎士団長「群れは徐々に接近している。およそ1林程度の距離を保っているが、」


ウォォォォオォォォォオオォン……

ヲォォォォォォォォォ……

アォォォォォオオオォォオオォオオォオオオオォォォン


騎士「くそっ。遠吠えかっ。 耳が……」

兵士19「異常な数の遠吠えっすね、こりゃ確かに40はいるわ」

兵士20「くそっ。くそっ。……どうしてこんな目に……」


……。


大量の遠吠えが聞こえてから、四半刻(30分)が経過しました。

オオカミたちはより大胆になり、半林(約31m)程度まで近づくオオカミもいます。

夕暮れ時の暗がりに、オオカミたちの目がぎらり、と光ります。


オオカミA「グルルルルルルルル……」

女「あんなにオオカミが近くに……怖い……」

少女「私から離れないで。ファルシオンは納刀して、ボウガンを構えなさい」

女「う、うん……」

少女(味方が混乱してるときに飛び出すと、味方に斬られるからね)

女「……大丈夫かな。間違ってみんなを撃っちゃわないかな」

少女「大丈夫。訓練した通りに撃ちなさい。あなたなら出来るわ」

女「……うん。がんばる」

兵士23「おいおい、小さいお嬢さん、冷静すぎやしねえかい?」

少女「あらそう? こんな修羅場にも飽きてきた頃よ」

兵士23「へっへへ。言うねえ。……俺はと言えば、情けねえが震えが止まりゃしない」

兵士23「俺……下町にエレナっつー恋人がいてよ……『生きて帰る』って約束しちまったんだよ……」

少女「死なないよ。きっと、」

兵士23「どうして言い切れるかね」

少女「殺気がないもの。あの群れには」
153 : ◆x6bdzvN93g [saga]:2012/07/15(日) 21:13:29.26 ID:y0M6qO1Mo

騎士団長「よしっ。このまま静かに行軍を続けろ。隊列を乱すな。警戒しろ」

兵士たち「……」ガサ、ザッ、ザッ

オオカミB「グルルルルルルル……」

オオカミC「アオォォォォォオオン」

オオカミD「……」ガサ

騎士(飛び掛られたらアウト。交戦の意思を悟られてもアウト……『縄張り』を侵してもアウト……)

騎士(……『縄張り』? 先ほど、ゴブリンが威嚇用に作った『吊るされた犬』を見た……『ここはゴブリンの縄張りだ』そして『ここはオオカミの縄張りなのか?』……)

騎士(ゴブリンは縄張り意識が強い――オオカミも同じ……この二種類の生活圏がカブってるなんてありえるのか?)

騎士(何だ? この胸騒ぎ……)

兵士23「ちくしょう! やらなきゃやられるッ!」

騎士「おいバカ! 今飛び出すなッ!」

オオカミE「ガァゥッ!」ヒュバッ

兵士23「ぐあぁっ!! このっ……」


足を噛み付かれた男は剣を振り上げるも、その腕に1頭のオオカミが。背後からも1頭、足元をすくうように1頭……。

一瞬で4頭の狼に襲われ、なすすべもなく――。


兵士23「おおおおおっ。……エ、レナ……」




バリバリバリ!! 



ガジガジガジッ!



バリンッ!



むしゃ……むしゃ。



べろん。
154 : ◆x6bdzvN93g [saga]:2012/07/15(日) 21:14:50.88 ID:y0M6qO1Mo


ほかの3頭は、さっと木陰に隠れて、1頭だけ残った。


オオカミB「……」


ニタァ。と、いやらしい笑みを浮かべたように見えて、それがまるで悪魔のようで、


女「うわああああああああああああっ!!」

少女「フランッ! ちょっ……フランッ!!」


許せないッ! ボウガンの矢をアイツに!

放った! 当たった! やつの首元を貫いた!


オオカミB「きゃんっ」

女「ハァーッ ハァーッ……けほっけほっ」


倒れたまま動かない。

動かない。――しかし。


ぴくり。痙攣し、


ぐるぅぅっ。私のほうを向き、


ぎょろり。私を睨み、


ぐぐぐぐっ。身体を、


すくっ。起こした。



オオカミB「ふしゅう。グルルルルルルル」



首元をボウガンの矢で貫かれたにも関わらず、あいつは以前にもまして凶悪な表情だった。
155 : ◆x6bdzvN93g [saga]:2012/07/15(日) 21:16:10.52 ID:y0M6qO1Mo


女「ぜーっ。はーっ。う、ああ」

少女「フランッ!」

騎士「リンジーさんッ!」

女「来ないでッ!」

少女「行くわよッ!」

騎士団長「……こいつら……この1頭しか襲ってこない……ちょうどここに『縄張りのライン』があるのか?」

少女「そんなこと今はどうでもッ!」

声「ウールフ!!」

少女「えっ」

声2「キル! キール!!」

騎士「ゴブリンだッ!」

女「ハァーッ! ハァーッ! ハァーッ!」


ファルシオンを抜く。

――ついさっき殺された兵士さんを思い出した。

エレナという恋人がいたんだ。兵士さんの未来を、こいつが奪ったんだ。

ふつふつと、怒りが、


オオカミB「……」スタスタ


背を向けて去るオオカミ。――逃がさない。


女「ぜーっ。はーっ。うおおっ……」



少女「行くなっ!」ガシッ!
156 : ◆x6bdzvN93g [saga]:2012/07/15(日) 21:17:29.80 ID:y0M6qO1Mo

女「う、うあああ……うぅぅぅぅ……」ポロポロ

少女「行くなあっ! ……いかないでっ! 私から離れないで……」ギュッ

ゴブリンA「ウェンデジューニル!! アイウィルキルウルフ!! ウルーフ!!!」

ゴブリンB「ダァーイ!!」

ゴブリンC「ウェンデジューニル!!」

オオカミD「ガルルルルルァァァ!!」

オオカミC「グルルルルルルル」

騎士「か、カムリンジャーン!」

ゴブリンD「カムリンジャーン! エスケープフロムデンジャー。ヒューマン」ニコッ

ゴブリンG「カムリンジャーン! ゴートゥザノーザンリバー。ヒューマン」ニィッ

騎士「……ゴブリン、オオカミと交戦開始! ゴブリン、我々を友軍と判断した模様!!」

騎士「エスケープ、フロム、デンジャー。ゴートゥザノーザンリバー……ヒューマン……西の言葉?」

少女「……乱暴な意訳だけど、『危機から脱しなさい、人間よ』『北にある川まで行きなさい、人間よ』……ってところかしら」

騎士団長「なるほど。……撤退だ! 繰り返す! 撤退だ!!」

騎士団長「このまま気配を悟られず、戦線離脱する。全軍、私について来い!!!」
157 : ◆x6bdzvN93g [saga]:2012/07/15(日) 21:18:58.75 ID:y0M6qO1Mo

【オオカミ】


 野生のオオカミとは、私たちが大自然に関わり生活する上で、なるべく敵対したくない相手です。

彼らは人間を超える運動機能と、人よりもはるかに優れた聴覚や嗅覚を持ちます。

また、基本的に家族単位の群れ(多くて20頭前後)で行動し、それぞれが深い絆で繋がっています。

もし、そんな彼らと敵対した場合は、覚悟を決めなければなりません。

彼らは――剣を回避する動体視力をもち、腕を容易く引きちぎる牙とあごをもち、聴覚や嗅覚でどこまでも追尾し、また、群れはどんな軍隊よりも優秀な統率をもっているのです。

……大自然と関わる人は、基本的には『オオカミと関わりあいにならない』という選択を肝に銘じましょう。

それほどまでにオオカミとは危険な存在であり、また、オオカミと真っ向から勝負をしかけることは死を意味するのです

……では、どうすればいいのか。トラップを作ってみましょう。

――――――――『罠入門』より。

158 : ◆x6bdzvN93g [saga]:2012/07/15(日) 21:19:45.28 ID:y0M6qO1Mo

【カムリンジャーン】

 ゴブリン――。

彼らは、亜人種の代表的存在だ。

赤・緑・紫……多種多様な肌の色をもつが、そのどれもが比較的小柄で、ある程度の知能をもつ。

道具を扱い、人と同じ言葉を喋るが、その多くが人から離れて生活している。

ゴブリンたちは幾度となく人間たちに迫害されてきたため、人間を敵視するゴブリンも多い。

しかし迫害を経験していないゴブリンは、人間に対して友好的な感情を抱いている場合が多い。

彼らの縄張り意識さえ刺激しなければ、そういったゴブリンと良き友人になれるだろう。

ちなみに『ウェンデジューニル』とは彼らの間で『敵意』を示し、反対に『カムリンジャーン』とは『友好』を示す。両者ともに、ゴブリンたちに固有の言語である。

――――――――亜人百科『ゴブリン』

159 : ◆x6bdzvN93g [saga]:2012/07/15(日) 21:20:31.46 ID:y0M6qO1Mo

【北のオアシス――Northern River――】


騎士団長「被害状況は?」

騎士「死者1名、重傷者3名、軽傷者10名」

騎士団長「それぞれの名を」


……。


騎士「以上です。」

騎士団長「……1刻(=約2時間)の小休止を入れる」

騎士団長「重傷者を優先的に治療せよ。軽傷者は、自己治療可能な者は各自治療し、それが出来ない場合はメディックまで」

メディック長「5名体制で、2番荷車にて治療させていただきます。以上!」


……。


女「……」ガタガタ

少女「……もう怖くないよ。」

兵士2「おい、」

少女「あなたは先ほどの、」

兵士2「ほら、」

少女「これは?」

兵士2「心を落ち着かせる木の実だ」

少女(傷だらけになってまで、この木の実を?)

兵士2「では失礼する」

少女「……あの!」

兵士2「なんだ?」

少女「ありがとうございます」

兵士2「……こちらこそ。では。」

兵士2(……あんたら2人のおかげで、目が覚めたよ)
160 : ◆x6bdzvN93g [saga]:2012/07/15(日) 21:21:25.80 ID:y0M6qO1Mo

【ローゼンタリアン】


騎士「やあ」

少女「あら」

女「……Zzz」

騎士「フランちゃんはお休み?」

少女「泣き疲れたみたいね。あと、この子をフランって呼ぶのは私だけよ」

騎士「あはは、ごめん。君は大丈夫? どこか怪我とかない?」

少女「私は大丈夫……それよりこの子よ」

騎士「……そうだね」

少女「……腕、怪我してるじゃない」

騎士「ちょっとドジってね」

少女「ちょっと待ってなさい、今治すわ」


……。


少女「……包帯、きつすぎない?」

騎士「ちょうどいいよ。ありがとう」

少女「よかった」

騎士「……」

少女「……」

騎士「こうしてるとさ。昔を思い出すんだ」

少女「えぇ、そうねえ」
161 : ◆x6bdzvN93g [saga]:2012/07/15(日) 21:22:08.17 ID:y0M6qO1Mo

騎士「……俺、騎士なのに、上位貴族も多い学校に入ってて、周囲から浮いてたんだよね。『騎士の血なまぐさい御曹司が来なすったぞ』ってね」

騎士「で、休憩時間を持て余して中庭で本を読んでると、君が僕の本を取り上げて、」

少女「『へえ……貴族サマは紙の塊にご執心なのね!!』でしょ?」

騎士「うん。君が下町から忍び込んで来たと知っても、なんだか……追い出したり、学園長に言ったりできなかったんだ」

少女「そこから、私とあなたの関係が始まったのね」

騎士「はは。そうだね。とにかく、君のおかげで学園生活はバラ色さ」

少女「ふふふ。ありがとう。でもバラ色って表現……私達、別に付き合ってなかったわよね」

騎士「おいおい、当時僕らは子供だろ? ……今も子供みたいなもんだけどもさ」


少女「……」


騎士「……」



少女「ねえ。試してみない? 本当に子供かどうか」
162 : ◆x6bdzvN93g [saga]:2012/07/15(日) 21:22:43.65 ID:y0M6qO1Mo


騎士「バカなことは言うもんじゃない」

少女「……そうね」

騎士「そんなに『女性』を安売りしたいなら、冒険者になるように言ったのがムダじゃないか」

少女「……あのときは、ありがとう」

騎士「結局、ちゃんと冒険者になってくれたよね」

少女「えぇ。他ならぬあなたのお願いだったからね」

騎士「今の君も、そう言ってくれるだろうか」

少女「……今度は何をお願いするのかしら?」

騎士「死なないでくれ」
163 : ◆x6bdzvN93g [saga]:2012/07/15(日) 21:23:13.02 ID:y0M6qO1Mo

少女「さてどうかしら。自分のミスで前の相棒殺しちゃってさ。正直、後追いたいのよ」

騎士「えっ……どういう」

少女「ほら、話はおしまい。……最後に、こちらからもお願いがあるわ」

騎士「なんだい?」

少女「私とフラン、どっちかしか助けられない状況なら、迷わずフランを助けなさい」

騎士「……わからない」

少女「……令嬢のこと好きになった気でいても、やっぱり私なんだ。忘れればいいのに」

騎士「……」

少女「身分さえなければ、私だって」


ちゅっ。


騎士「えっ」

少女「……団長さんと、今後の行軍について打ち合わせに行くの。一緒に散歩しましょ」
164 : ◆x6bdzvN93g [saga]:2012/07/15(日) 21:23:50.88 ID:y0M6qO1Mo

【琥珀のアミュレット】


兵士15「……兄さん……どうしてオオカミなんかに……」

兵士16「……」

兵士15「副隊長! どうしてお前が生きてて、兄さんが死んでるんだ!!」

兵士16「……すまない。私が不甲斐ないばかりに」

兵士15「ヨハン兄さん……むごい姿に……よくも兄さんを殺してくれたなァ……」

兵士16「…………」

兵士15「うぅぅぅ……ちくしょう……」

165 : ◆x6bdzvN93g [saga]:2012/07/15(日) 21:24:18.42 ID:y0M6qO1Mo

騎士団長「ヨハン・スタンフォード第3分隊長の遺体はどちらに?」

メディック長「こちらでございます」

騎士団長「ありがとう。仕事に戻ってくれ」

メディック長「はい、では」

騎士団長(ヨハン……あれほど慎重になれと言ったのにな……)

騎士団長(ヨハン・スタンフォード……君に代わり、私たち全員で君の弟を守らせてもらうよ)

騎士団長(それと……)

騎士「あ、いたいた。団長〜!」

騎士団長「どうした?」

少女「今後の行軍について打ち合わせしましょ?」

騎士団長「あぁ」

166 : ◆x6bdzvN93g [saga]:2012/07/15(日) 21:24:44.57 ID:y0M6qO1Mo

兵士15「……兄さん……兄さん…………」ポロポロ

騎士団長「カイン。……」

兵士15「……うぅぅぅ……」

騎士団長「聞け! カイン・スタンフォード! お前の兄から頼まれていたことがある」

兵士15「……なんですか」

騎士団長「手紙が3つある。こちらを故郷の母親へ、こちらをエレナ――恋人へ、そしてこの手紙は弟、カインに渡してやってくれ。と」

兵士15「……兄さん……!」

騎士団長「――そして、この『琥珀のアミュレット』を、弟、カインに渡せ。と」

兵士15「これは…………うぅぅうぅ……うああぁぁあぁぁぁぁぁっ。うっ、うぅ」

騎士団長「用件は以上だ。失礼する」スッ

騎士団長(ヨハン……お前の弟は、俺が責任をもって鍛え上げるよ…………今はただ泣け、カイン)

167 : ◆x6bdzvN93g [saga]:2012/07/15(日) 21:26:40.38 ID:y0M6qO1Mo

以上で今回の投稿を終ります!!

それでは、また今度!

お疲れ様でした!

168 : ◆x6bdzvN93g [saga]:2012/07/15(日) 21:27:58.76 ID:y0M6qO1Mo

それと、

感想、意見、叱咤、激励などございましたら、どうか気軽に!

ではでは!
169 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/07/16(月) 01:19:18.39 ID:pQZdAxqmo

世界観しっかりしてるなぁ
170 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/17(火) 01:49:44.52 ID:5i8JrP8DO
流石死亡フラグ、確実に死ぬな
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