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姫「勇者を探しに行く」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/22(火) 17:54:16.13 ID:7++Ln/UDO
姫「状況を報告せよ!」

伝令「はい! ヘイムダル隊の〈ギャラルホルン〉によって戦端が開いた模様!
友軍のエインフェリアル隊が突撃を始めました!」

姫「よし、我々は予定通りに戦域を迂回し、敵軍の後背を突く!」

騎士1「……お待ちください! 敵部隊がこちらに向かって来ます!」

騎士2「あの軍旗は……フェンリル隊ッ!?」

姫「ふんっ、鼻の良い連中だ」

騎士1「……姫、どういたしますか?」

姫「当然、蹴散らすのみだ!!」

姫は『騎獣』の手綱を鞭のようにしならせ、渇いた音を一つ大きく鳴らした。

姫「今こそ真価を見せるぞ! ウィーザル隊、突撃ィイィィッ!」

……………………

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木曜の夜には誰もダイブせず @ 2024/04/17(水) 20:05:45.21 ID:iuZC4QbfO
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いろは「先輩、カフェがありますよ」【俺ガイル】 @ 2024/04/16(火) 23:54:11.88 ID:aOh6YfjJ0
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【MHW】古代樹の森で人間を拾ったんだが【SS】 @ 2024/04/16(火) 23:28:13.15 ID:dNS54ToO0
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こんな恋愛がしたい  安部菜々編 @ 2024/04/15(月) 21:12:49.25 ID:HdnryJIo0
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アテム「実践レベルのデッキ?」 @ 2024/04/14(日) 19:11:43.81 ID:Ix0pR4FB0
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2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/22(火) 18:04:38.09 ID:7++Ln/UDO
〜 王宮、姫の部屋 〜

姫「むにゃむにゃ」

侍従1「失礼します」

ガチャと、扉を開けてメイド姿の侍従たちが部屋に入って来た。

侍従1「……姫はまた夜更かしですか」

侍従2「先日、ラグナロク大戦の下巻が出たばかりですからね」

侍従3「とにかく、起こしましょう。
姫さま! 朝ですよーッ!」

姫「むにゃッ!? 敵襲か!?」

侍従1「ここは王宮です! 寝ぼけないでくださいまし!」

姫「む、むぅ……」
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/22(火) 18:21:49.00 ID:7++Ln/UDO
侍従たちはテキパキと動き、あっという間に姫を寝間着姿からドレス姿へと変えた。

侍従1「朝はハープ、ピアノ、そしてダンスの練習です」

侍従2「昼からは社交会の先生方と……」

坦々と、侍従たちが今日の予定を告げていく。
しかし、椅子に座った姫は侍従に銀色の髪を梳かされながら、不満そうに唇を尖らせていた。

侍従1「おや、どうされましたか姫様?」

姫「……最近、剣と騎術の稽古が無い」

侍従2「それは、姫様はもうお嫁入りのお年頃ですので……」

侍従3「やんちゃは避けるべきですよ、貰い手が居なくなります」

姫「……歴戦の勇士である騎士団長に1対1で勝った時、お父様は泣いて喜んでいたのに」

侍従1「悲嘆に暮れていたんですよ、教育を間違えたと」
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/22(火) 18:30:56.77 ID:7++Ln/UDO
侍従1「それと、お見合いの件ですが」

姫「受けないぞ、私は」

侍従2「そ、それが……」

姫「うん? どうした?」

侍従3「受けないなら勝手に決める、と王様がおっしゃっておられました」

姫「な、なぬっ!?」

侍従1「世の中、諦めが肝心です」

侍従1はそう言い、梳かし終わった姫の髪からクシを外した。
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/22(火) 19:05:38.13 ID:7++Ln/UDO
侍従1「それでは、授業の用意が終わり次第すぐにお呼びに参りますので」

侍従たちは一度頭を下げ、姫の部屋から退出していった。

姫「……」

茫然自失。
姫は椅子の背もたれに体を預け、力なくうなだれた。

姫「……はぁ」

知らず、ため息が出た。

姫「私はダンスとか社交会とかよりも、騎術や剣技を磨きたいのに」

昔は良かった。
父王も、周囲の皆も姫の男まさりな考えに理解を示してくれていた。
しかし、今は違う。
少しずつ、姫の考えや個性を矯正しようとしてくる。
それは少し前からの授業の傾向にも見て取れ、そして今日ときたらお見合い強制と出たもんだ。

姫「まるで、私はカゴの中の鳥だな」

周囲を固められ、個性を奪われ、束縛される。
だからといって自由なカゴの外に飛び出た所で、ぬくぬくと温室で育った鳥に待ち受けるのは餓死か敵の牙による死……

──いや、本当にそうか?

ふと、否定の言葉が姫の頭に浮かんだ。

姫「……私には剣がある」

それは姫が今までの人生で築いてきた努力と血と涙の結晶。
絶対の自信だった。

姫「……イケるか?」

ゆえにそれは、途方も無い計画の根拠と成り得てしまった。
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/22(火) 19:20:48.09 ID:7++Ln/UDO
〜 妹姫の部屋 〜

姫「妹ーッ!」

ドガァーンと、はやる気持ちをぶつけるように姫が勢い良く扉を開けた。

妹姫「うぉっ!? ……て、お姉さま?」

姫「うむ、お前に話がある」

妹姫「私に、ですか? し、しかし急ですね……」

姫「実際に急いでるからな。それと、本題だが……」

姫は話しながら自分自身を指さした。

姫「私はどうだ!?」

妹姫「……は?」

姫「頭の良いお前から見て、私は外の世界で生きていけそうか?」

妹姫「外の世界? ……まあ、お姉さまなら大丈夫では?」

姫「そうか! なら今すぐ旅立ちだな!」

妹姫「た、旅立ち? ちょっと話について行けません。少しだけ説明してもらえませんか?」

姫「む、わかった!」

……………………
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/22(火) 19:35:00.72 ID:7++Ln/UDO
〜 数分後 〜

姫「……というわけだ」

妹姫「自分の生き方を探す旅、ですか……」

姫「うむ、剣の道や騎術、私は自分の興味を捨て切れない。
このまま全てを奪われ、なし崩し的に人生が決まってしまったら、私は一生後悔すると思うのだ」

妹姫「だから旅に出る、と?」

姫「うむ!」

妹姫「……」

姫「……ダメか?」

妹姫「いえ、ダメと言うつもりはありません。ですが、代わりにアドバイスがあります」

姫「アドバイス?」

妹姫「ええ、アドバイスです。私が止めた所でお姉さまは勝手に出ていくでしょうし、……もう旅立つと心に決めているのでしょう?」

姫「ふふ、わかってるじゃないか妹よ!」

妹姫「もう、お姉さまはまったく……」
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/22(火) 19:50:10.68 ID:7++Ln/UDO
妹姫「まず、旅はお金が必要です」

姫「うむ」

妹姫「次に、日程を決めましょう」

姫「日程?」

妹姫「ええ、旅をするなら移動範囲や期日などを決めるべきです。
……お姉さまの旅は自分探しが目的。少しばかり日程の作りにくい不明瞭な旅ですけど、せめて『最終目標」は作るべきです」

姫「最終目標、なんかすごく良い響きだ」

妹姫「……この脳筋が」

姫「……何か言ったか?」

妹姫「いえ、なんでも」
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/22(火) 20:05:09.99 ID:7++Ln/UDO
姫「それなら、うん。最終目標が出来たぞ!」

妹姫「はやっ!」

姫「『伝説の勇者』を探し出して、そいつと1対1で戦うのが最終目標だ!」

妹姫「なぜにっ!?」

姫「伝説の勇者が相手ならば私は持てるもの全てをぶつけて戦えるだろうし、それであっさり負けたら諦めもつくからな」

妹姫「マジで脳筋ですね」

姫「聞こえてるぞ」

姫は両拳を妹姫のこめかみに当てて、それをぐりぐりと回した。

妹姫「いたい! い〜た〜い〜っ!」
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/22(火) 20:26:45.70 ID:7++Ln/UDO
妹姫「いたた……」

姫「で、次に必要なのは?」

妹姫「もうっ! 最後に必要なのは仲間ですよ!」

姫「……仲間、か」

妹姫「そうです、欠点を補いあえる相手がベターです」

姫「欠点か、私の欠点は思慮が少しばかり足りない所だな」

妹姫「自覚はしているんですね」

姫「ああ」

そして姫は目を細め、じーっと妹を見やった。

妹姫「何ですか、その目は?」

姫「いや、目の前に欠点を補える奴がいるなー、と」

妹姫「イヤですよッ!? 昔、お姉さまに無理やり剣術させられて、左手首をあさっての方向に曲げられて以降、お姉さまとの同室はノーサンキューを貫いているんですよ!?」

姫「越えようよ、2人の溝を」

妹姫「無理です! 溝が深い上に幅があるから、墜落死確定です!」

姫「下から登ってこい、私の所まで」

妹姫「テメェーが降りてこいやッ!!」
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/22(火) 20:37:19.44 ID:HZVstPHr0
面白そうなスレハケーン
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/22(火) 20:38:04.44 ID:7++Ln/UDO
姫「じーっ」

妹姫「う、うぅ……」

姫「じーっ」

妹姫「わ、わかりました」

姫「よし! これで旅に……」

妹姫「違います! 今の『わかりました』はYESの『わかりました』ではありません!」

姫「……では何だと?」

妹姫「私の部下の1人に、お姉さまの旅に適任という人がいる事を思い出したんです。少し待っててください、命令書を作ります」

妹姫は机棚を開くと上質な紙を一枚取り出し、それに素早くペンを走らせ始めた。
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/22(火) 20:56:04.78 ID:7++Ln/UDO
〜 地下工房 〜

錬金「さて、どうしたものか」

1人の男──錬金術士は机の前で帳簿とにらめっこをしていた。

錬金「王様の痔の薬を調合して一儲け出来たが、完治してからはお呼ばれ無し。
研究費用は先細る一方だ」

ふう、と嘆息して天井を見上げる。

錬金「錬金術士なのに、行動するには莫大な金が必要という矛盾。
何かこう、降って湧いたような儲け話は無いものかね?」

?「あるぞ!」

錬金「だ、誰だ!?」

姫「私だーッ! 姫だーッ!」

錬金「なんなの!? そのハイテンションッ!?」
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/22(火) 21:12:18.59 ID:7++Ln/UDO
姫「かくかくしかじか」

錬金「なるほど、姫の旅に私を……ですか」

姫「うむ、そうだ!」

錬金「……」

姫「ん? どうした?」

錬金「姫様、申し訳ありません。お断りさせていただきます」

姫「なん……だと……!?」

錬金「私には宮廷錬金術士としての使命があるのです。残念ですが、姫様については行けません。
それに外の世界は危険も多く、姫様の身に万一の事があれば大問題。姫様もこのような無謀な事は……」

クドクドクドクド……

姫「……読め」

錬金術士のくどい話に耐え兼ね、姫は妹姫からの命令書を突き出した。

錬金「妹姫様からの? 拝見させていただきます」

命令書『姉姫についていけ、YESなら特別報酬、NOなら工房から即刻退去な』

錬金「わかりやすッ!?」
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/05/22(火) 21:27:29.52 ID:4/xVBdqZo
妹姫黒いwww
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/22(火) 21:35:35.41 ID:7++Ln/UDO
〜 夜、城門前 〜

姫「準備は出来たか?」

錬金「はい、……って、鎧を着ているのですか姫様?」

姫「ああ、外は危険らしいからな。万全を期して重装鎧が良かったのだが、今回は軽鎧の身軽さを重視してみたぞ」

そう言う姫の外套の下から、月光を浴びて鈍い光沢を放つ胸当てが覗く。
そして、腰には当然のように騎士剣の鞘。
少しばかりアグレッシブな格好の姫に、錬金術士はなんだか頭が痛くなってきた。

錬金「……はい、わかりました」

姫「む、なんだか返事がぞんざいだぞ。そういうお前は何を持って来たのだ?」

錬金「私は工房から使えそうな物を掻き集めて来ただけです、はい」

姫「腰にさしているのは何だ? 剣……ではないな?」

錬金「ちょっとした研究品です、自衛用の武器ですよ」

姫「ふぅん、武器……ねえ?」
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/22(火) 21:50:47.58 ID:7++Ln/UDO
錬金「ところで、王宮は警備が堅いのですが、どうやって外に出るつもりですか?」

姫「うん? 正門突破に決まっているだろ?」

錬金「無理!」

姫「やれば出来る、やらなければ……一生出来ない」

錬金「格好良く言っても無理!」

妹姫「何をコントやってるのですか?」

姫「うぉっ!? いきなり現れるな妹よ!」

妹姫「話は聞いていましたよ。まったく、お姉さまはもう少し思慮を持ってください……」

姫「むう、ならば妹も交えて正門突破ならば」

妹姫「だから正門突破から離れろって言ってんだろが! あと勝手にパーティーに組み込むな! 全力で泣くぞ!?」
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/22(火) 22:08:44.74 ID:7++Ln/UDO
錬金「その様子ですと、妹姫様は何か策がおありの様ですね」

妹姫「……コホン」

ナイス機転で錬金術士が話を戻す。
妹姫は一つ咳払いをして説明を始めた。

妹姫「正門の警備は厳重、それは身分の高い人や使者が不意に来るかもしれないため仕方がない。
しかし、使用人たちの使う裏門も警備は厳重。一見すると抜け道は無い……ですが!」

妹姫は人差し指を立て、姫と錬金術士を見た。

妹姫「ここの王宮は増改築を繰り返した年代物。
設計上、不備のある箇所があるのですよ」

姫「不備のある箇所?」

妹姫「ええ、こちらです。ついてきてください」
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/22(火) 22:34:29.99 ID:7++Ln/UDO
妹姫「鐘楼の途中の窓から外を眺めると、アラ不思議」

姫「おお、建物の屋根が階段のようになってる」

妹姫「ここから東に向けて降りて行くと、城壁の外に余裕で出られます」

錬金「なんつー不備だか」

姫「今回はその不備に助けられたな。……ところで、妹は」

妹姫「はい、お姉さま。ここでお別れです」

姫「そうか」

姫がうなずく。
だがそれは残念そうではない、納得のいった表情だった。

妹姫「それと、これを」

姫「この袋は?」

妹姫「王国金貨です、百枚入っています」

錬金「ひゃっ……!?」

王国金貨一枚の価値は、中流階級の一般家庭が稼ぐ半年間の収入に当たる。
それが百枚。

錬金「……」

ざわ・・・ざわ・・・

妹姫「そこ、ざわめかない!」
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/22(火) 22:50:49.38 ID:7++Ln/UDO
錬金術士と姫の2人は妹姫と別れ、建物の屋根を足場に城の外へと向かっていた。

錬金「よっ」

姫「足を踏み外すなよ」

錬金「はい、気をつけます」

姫「おっ、城壁を越えるぞ」

錬金「馬小屋……なるほど、搬入路を増設したから屋根が外に繋がったのか」

姫「よし、降りていくぞ」

錬金「はい」

姫「……」

姫は最後に鐘楼を振り返る。
そこには、笑顔で手を降り続ける妹姫がいた。

錬金「……戻りますか?」

姫「いや、行こう」

姫は即答する。
そして、姫は鐘楼の妹姫から目を離すと、錬金術士に先んじて城壁を降り始めた。心焦がれる自由の大地を目指して。
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/22(火) 23:01:55.36 ID:7++Ln/UDO
……………………

妹姫「……行ったわね」

姉が消えたのを見て、妹姫はパチンと指を鳴らす。
すると、その背後にいきなり気配──妹姫の部下の1人である隠密者が現れた。

隠密「参上しました」

妹姫「首尾は?」

隠密「上々」

妹姫「よし、お姉さまがいないうちに、少しでも勢力図を書き換えるわよ!
旅を長引かせるために貴重な王国金貨を百枚も渡したのですものね!」

隠密「しかるべき後には……」

妹姫「下剋上! 次女だからって永遠の二番手と思わない事ね、お姉さま!」

隠密「くくく……」

妹姫「おーほっほっほっほーっ!!」
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福島県) [saga]:2012/05/22(火) 23:09:18.21 ID:uuD9ujX70
高笑いする悪役は大抵コケるというGN−Xもといジンクスがあってだなwww

これからの展開を楽しみにしてます。
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2012/05/22(火) 23:17:20.61 ID:Yj4pLmgwo
妹姫はギャグキャラに落ち着くんだな
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/22(火) 23:18:57.28 ID:7++Ln/UDO
〜 城壁の外、姫 〜

姫「到着!」

錬金「つ、疲れた……」

姫「何をジジくさい事を言っている。私たちの旅はまだ始まったばかりだぞ」

錬金「そうですね、明日になったら姫が抜け出したのがバレて大事です。夜の間のうちに王宮から距離をとっておきましょう」

姫「そういう事だ、走るぞ!」

錬金「ちょっ!? どこへ向かうか決めているんですか?」

姫「北だ! 北には伝説が多い! 勇者もいるはずだ!」

錬金「それ、アバウト過ぎやしませんか」

姫「少しばかりアバウトでも構わんさ。
それも私の選択だからな、私は自分で選び、掴み取って行くんだよ! これからな!」

錬金「それと無計画は別では……」

姫「ええい、ウジウジしてたら置いていくぞ! ダッシュダッシュだ!」

ドギャーンと、土煙を上げながら姫が走りだした。

錬金「うお、早っ!? ま、待ってくださいよ!」

遅れて、錬金術士も後を追って走りだした。
夜はまだ深い。
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/22(火) 23:32:30.21 ID:7++Ln/UDO
〜 早朝、北の村 〜

錬金「ゲホッゲホッ」

姫「鍛練が足りないな」

錬金「荷物を……背負いながら……夜間ぶっ通しで走り倒す鍛練なんて……した事ないっス。
というか、何で姫様は息も上がってないんですか」

姫「鍛えているからな」

錬金「……脳筋」

姫「何か言ったか?」

錬金「いえ、脳ミソが筋肉だと疲労も感じないのかなー、て」

姫「……ほう」

錬金「しまったーッ!? 疲れでつい本音がッ!?」
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/23(水) 00:00:10.99 ID:I/XMjLHDO
〜 村、中央広場 〜

姫「おお、人が多いな!」

錬金「王宮都市の目前ですからね。
通過点ゆえに村の規模にしては賑わっているのでしょう」

あの後、宿をとった2人は正午まで仮眠した。
ちなみに1つ屋根の下で男と女のハプニング、という事態は錬金術士の気絶(物理攻撃によるもの)により回避されていた。

姫「まったく、軽くチョップした程度でダウンするとは軟弱だぞ。
気絶したお前を宿に泊めて、おかげで6時間ほどのタイムロスだ」

錬金「頭頂部から体の芯が砕けていく感覚は初めてでした。二度としないでおねがい」

姫「わかったわかった、次はカカト落としにする」

錬金「打撃力が増した!?」

姫「もしくは延髄蹴り」

錬金「二者択一、デスor御臨時じゃないですか、やだーッ!」
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/23(水) 00:13:53.76 ID:I/XMjLHDO
錬金「しかし、こんなに人が多い所に来て良かったのですか?」

姫「うむ、バレる時はどうせバレる。それに、早い段階で旅の準備を整えておいた方が良いと判断した」

錬金「一応は考えているんですね」

姫「殴るぞ」

錬金「ごめんなさい殺さないで」

姫「まったく、お前は一言多い。
それと、渡した金貨はちゃんと持って来ているな?」

錬金「はい、万が一に備えて金貨は3つの袋に別けてあります」

姫「こまかいな」

錬金「金は重要ですからね。無くなったら旅の終わり、くらいには考えていてください」

姫「うむ、わかった」
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/23(水) 00:35:00.20 ID:I/XMjLHDO
男「おら! さっさと動け、デクの坊が!」

大トカゲ「キュー! キュー!」

……………………

姫「む、あれは」

姫は足を止めて往来の真ん中に視線を向ける。
そこにはムチ打つ男と、ムチ打たれるトカゲの姿。
男の方はいかにもな商人の格好だが、しかしトカゲの方は高さ2メートル、体長は7メートル近くもある化け物サイズだった。

錬金「トカゲ……色と形態からして砂漠の土トカゲですね。
騎獣としてはストレスに弱くデリケートで、軍から民間まで運用には適さないと……」

姫「そんな事は聞いていない! あのトカゲはイヤがっているではないか! なぜ誰も止めない!」

錬金「そりゃ、騎獣は『物品』扱いです。他人の物には手が出せませんよ」

姫「むう、ならば私が止める!」

錬金「あ、ちょっと! 姫様!?」
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/23(水) 07:30:38.13 ID:I/XMjLHDO
姫「貴様! 何をやっている!」

男「も、申し訳ありません! すぐに道からどかします……から?」

姫「うん? どうした、変な目を向けて?」

男「い、いえ、何でもありません。……と、ところで貴女は?」

男がチラチラと姫の服装を下目に見ながら尋ねる。
姫は外套の下に軽装鎧を着た出で立ち。
この時点で一般人と一線を画しているのだが、問題は姫の着ているそれらが明らかに上質『過ぎる』事だった。
姫の外套は厚く、いくらでも水を弾きそうな強靭さと、落ち着きながらも上手く整った色艶を合わせ持っている。
そして細かい紋様を刻んだ軽装鎧は白銀。
どちらも普通なら、いや、生半可な上流階級でも持っていないような物品である。
商人である男がうろたえ、姫の身分を確かめるのも仕方なかった。

姫「うむ! 私は姫だ! つまり、この王国の王女……」
錬金「あーッ!あーッ!あーッ!あーッ!あーッ!あ────ッッ!!」

そして身分バレがヤバイ事を知っている錬金術士が姫のセリフを塗り潰すように叫ぶのも、やはり仕方ない事だった。
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/23(水) 07:41:10.77 ID:I/XMjLHDO
錬金「少しばかり耳を貸してください!」

姫「なんだ?」

そして、2人はヒソヒソと声を抑えて話し始めた。

錬金(身分がバレたら、すぐに追手に見つかってしまいますよ。
それでは困るでしょう?)

姫(……そうだな、すまない)

錬金(謝らなくていいです。ですが、姫様の身分は地方の騎士という事にしておきましょう)

姫(私は嘘が下手だ)

錬金(私がカバーします)

姫(わかった、頼む)

錬金(はい、頼まれました)
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/23(水) 07:58:27.92 ID:I/XMjLHDO
男「えっと……」

錬金「待たせて申し訳ない。
こちらは王国南部の貴族である騎士様におわせられる」

姫「うむ、王国南部の貴族である騎士だ」

男「は、ははーッ!」ペコペコ

錬金「これこれ、頭を下げて平伏せずとも良い」

姫「うむ。それに私はお前に聞きたい事があるのだ。顔を上げよ」

男「わ、私に聞きたい事ですか?」

姫「うむ、なぜその大トカゲを虐待していたのか、それを私に説明して欲しい」

男「虐待!? い、いえ! 私は虐待など!」

姫「くどい! 私は両の瞳で貴様の所業を見ていたぞ! それとも貴様は私の目が曇っていたとでも言うのか!?」

男「め、滅相もありません!」ペコペコ
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/23(水) 20:11:19.08 ID:I/XMjLHDO
錬金「ま、待ってください騎士様」

姫「む、なんだ?」

錬金「この男が大トカゲをムチで叩いていたのは確かです。
しかし、大トカゲは男の物。
法律上は何ら問題なく、また騎獣は畜馬と同じで、つまりムチで叩くのを虐待とは……」

姫「何だと! お前はこの男の味方をするのか!」

錬金「いえ、そうではなく。事を穏便に……」

周囲に人が集まって来ていた。
元々、目立つ大トカゲがいる上に、姫の罵声で好奇心旺盛な野次馬たちが引き寄せられ始めている。
正体がバレる恐れがあるため、錬金術士はさっさとこの場を収めておきたかった。
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/23(水) 20:38:07.87 ID:I/XMjLHDO
男「そ、そうですよ! そちらの従者の方がおっしゃる通り、私は何もやましい事はしていません!」

姫「む……」

男「私は自身の潔白を誓います! 国王陛下の名の下に!」

姫「……」

2人に言い説かれ、男に誓いまで立てられたらさすがの姫も口をつぐんでしまった。

錬金「騎士様、ここは厳重注意という事で1つ」

姫「……むう」

大トカゲ「きゅーきゅー」

男「へへ……申し訳ありません。ほら、お前も早く動かないか!」

大トカゲ「きゅー!」

姫「……」
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/23(水) 21:02:49.41 ID:I/XMjLHDO
ふと、姫が錬金術士に振り返った。

姫「金貨の袋は持っているか?」

錬金「え? はい、ここに……」

姫「よこせ」

むんずと、姫が金貨の入った袋を1つ、錬金術士の手から奪い取る。

錬金「ちょっ! 何を……」

姫「ルールがあるなら、そのルールに従うまでだ」

そして、姫は金貨の入った袋を男に投げ渡した。

姫「その大トカゲを買い取りたい、金はそれで足りているか?」

錬金「ちょっ!?」

錬金術士は絶句した。
金貨1枚で中流階級の半年分の稼ぎ。
3つの袋に別けて入れておいたため、男に投げ渡した袋には33枚ほどそれが詰まっている計算になる。
騎獣は馬より高いのが一般的だが、目の前にいる大トカゲならよくて金貨3枚あればおつりが来る。
レートが明らかに釣り合っていなかった。
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/23(水) 21:18:42.03 ID:I/XMjLHDO
男「こ、これは王国金貨っ!?」

姫「30枚はあるはずだ、売ってくれるか?」

錬金「ま、待ってください!」

だが、商人である男の判断は早かった。

男「売った!」

姫「買った!」

錬金「待った!」

常識的な判断力を錬金術士が持っているのを察した男は瞬時に姫と商談を済ませ、そそくさとその場から逃げ出した。

男「大トカゲの積み荷もオマケしちゃうぜ! アバヨ!」

錬金「ま、待て!」

姫「おお、オマケをしてくれたぞ! いいヤツだな!」

錬金「ひめ……騎士様も何を間抜けな事を言ってるんですか!」

姫「む、何かマズいのか?」

錬金「何から何までマズいですよ! あぁ……もう!」
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/23(水) 21:30:46.83 ID:I/XMjLHDO
姫「むう、でも積み荷のオマケがあるぞ?」

錬金「そんなの、どうせ二束三文にしか、……っ!?」

姫「どうした? 積み荷の袋を見て?」

錬金「これは……姫様、ちょっと待っていてください!」

姫「お、おい! いったいどうしたのだ!?」

声を上げる姫をその場に置いて、錬金術士は男を追って走り出した。
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/23(水) 21:48:56.93 ID:I/XMjLHDO
〜 路地裏 〜

男「ふへ……ふへへ……」

デブ男「おいおい、大儲けじゃないか!」

チビ男「どうしたんだこれ!」

男「世間知らずのお嬢様が交換してくれたのさ、あのデクの坊と積み荷とな!」

デブ「積み荷と?」

チビ「トカゲの方はわかるが……積み荷はマズくないか?」

男「南部の貴族様らしいからな、北部までそんな影響力は無いはずだぜ。
まあ、当分は鳴りを潜めておかなきゃならないがな」

デブ「まあ、これだけ儲けりゃ、当分は余裕で過ごせるな」

チビ「どちらにせよ、王宮都市に密輸という危ない橋は渡らずに済んだわけだ」

男「ああ、あのデクの坊が道の真ん中で立ち往生した時はどうなるかと思ったが、オレは神に祝福されているようだな!」

デブ「おいおい、オレ『たち』だろ」

チビ「ちげいねぇ!」

男「がははははっ!」
デブ「がははははっ!」
チビ「がははははっ!」
錬金「がははははっ!」

男・デブ・チビ「1人多いぞッ!?」
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/23(水) 22:05:10.47 ID:I/XMjLHDO
男「はっ! お前はさっきの貴族の従者!?」

錬金「話は聞いた、密輸を企んでいたとはな!」

男「な、何の事やら?」

デブ「み、密輸を企んでいたとしても、まだ持ち込んでいないわけだし」

チビ「そうだ! 無罪だ!」

錬金「……トカゲの積み荷だが、アレは西部山岳ヤギの角だな?」

男「……っ!」

錬金「西部山岳ヤギの角は高価な薬になる。
だが、そのために乱獲されて数が激減。
家紋にもしている西部領主が国王に要請し、王国での取り引きは全面的に禁止されている。
つまり、持っている時点で犯罪だ!」

男「くっ!」

錬金「素直に縄につくんだな!」
39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/23(水) 22:37:10.28 ID:I/XMjLHDO
男「こ、こうなったら!」

デブ「叩きのめしてやる!」

チビ「3対1だ! 余裕だぜ!」

錬金「ほう、やる気か」

男「何を余裕ぶっこいてやがる! 勝てるつもりかよ!?」

錬金「ああ、もちろん」

そして錬金術士は腰の鞘──剣を収めるには少しばかり浅い革製の鞘──から、黒光りする鉄の塊を取り出した。

男「あぁっ!? 何だそりゃ!」

錬金「少しばかり改良しているが『タネガシマ』という武器だよ。
騎獣の発達していない東の国で生まれた武器さ」

そう言って、錬金術士はタネガシマを男たちに向け、トリガーを引いた。
瞬間、爆音。
火縄を使わずとも良いように改良されたタネガシマは、薬室で火薬を発火し、弾頭を加速させる。
取り回しの良いよう、ナイフ程度の長さに切り詰めた銃身を高速移動した弾頭は銃口から勢い良く外界に飛び出し、そして路地裏の一部、男の隣に立つ木の柱に着弾した。

男「ひぃぃぃぃッ!?」

男の顔のすぐ横にある木の柱が、木っ端微塵に吹き飛んだ。

錬金「ふむ、威力を高めたのは良いが、反動が強くなってしまったか」

震えあがる男と対照的に、錬金術士はひどく落ち着き払って結果を冷静に観察していた。
40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/23(水) 23:00:16.57 ID:I/XMjLHDO
デブ「ま、魔法だ!」

チビ「勝てるわけねぇ! 逃げろッ!」

男「お、おい! 置いていかないでくれ!」

錬金「お前1人置いて逃げるとは、ずいぶんと仲間思いな奴らだな」

男「う、うぅ……」

錬金「さて、金を返して貰おうか?」

男「あ、あの……せめてトカゲの分の代金として、金貨を何枚かは分けて貰えないでしょうか?」

錬金「ほう、この期に及んで、まだそんな口を開くか?」

錬金術士は男に歩み寄り、改良タネガシマの銃口を男の眉間に押し当てた。

男「ひぃっ!」

錬金「言いたい事がある」

男「な、何でもどうぞ!」

錬金「少し前、道の真ん中で、お前は身の潔白を国王陛下に誓ったな?」

男「え? あ、あぁっ!?」

錬金「誓いは破られた、国王陛下の侮辱は重罪だ。殺されても文句は言えまい」

男「お、お許し……」

錬金「王国を舐めるな」

言い終えると同時、錬金術士が蹴りを放つ。

男「ぐぇっ!?」

錬金術士の爪先が男のこめかみに突き刺さると、男は短くうめき声を発し、地面に崩れ落ちてそのまま昏倒した。

錬金「さて、金貨は……っと」

こうして金貨の袋を取り戻した錬金術士は、何事も無かったかのように元来た道を戻り始めた。
41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/05/23(水) 23:13:28.15 ID:vXTVQyqso
錬金さん、かっけぇ
42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/23(水) 23:18:43.69 ID:I/XMjLHDO
〜 広場 〜

商人「騎士様! 果物が安いですよ!」

商人2「騎士様! 肉類なんてどうでしょう!」

商人3「騎士様! このハチミツは特上ですよ!」

帰ると、姫がカモられていた。

錬金「うおおぉぉーいッ!?」

姫「おお、遅かったな。旅に必要な物を買いそろえておいたぞ」

錬金「え? この木箱の山、全部買ったのですか!?」

姫「うむ、よくわからんから、新鮮な食品をメインに買っておいた」

えっへんと胸を張る姫。
さあ誉めろ、とそんなオーラを放っている。が、

錬金「新鮮って、ナマモノは2週間と持たずに腐りますよッ!?」

姫「な、なんと!?」

錬金「えぇい! 返品! 全部返品です!」

商人「おっと、用事が」
商人2「持病の耳鳴りが」
商人3「家で家族が」

錬金「あっという間に全員いなくなった!?」

姫「おお、商人は足が速いな」

錬金「感心するところじゃありません!」
43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/23(水) 23:30:53.96 ID:I/XMjLHDO
錬金「し、仕方ない。1人1人の商人を今から捕まえて返品……」

子供「ママー! あの女の人、見た事あるー!」

母「あら、本当。でも誰だったかしら……」

錬金「うおぅ!? 正体がバレ始めている!」

姫「む、私はあまり公務に出ていないから、あまり顔は知られていないはずだが」

子供1「この前の武闘大会で活躍していた人だー!」

子供2「最後まで残っていた人だー!」

姫「ああ、なるほど、それなら」

錬金「納得していないで用意を整えてください! すぐに移動しますよ!」
44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/23(水) 23:44:29.57 ID:I/XMjLHDO
姫「む、待て。ならばこのトカゲと食品の山はどうする?」

錬金「置いていくしかないでしょう」

姫「むう、勿体ない」

錬金「トカゲが動くとかなら話は別ですが、ムチ打たれても微動だにしない奴です。諦めてください」

姫「……トカゲが動いたら良いのか?」

錬金「はい?」

姫「よっ、と」

姫はトカゲのゴツゴツした体を素早く駆け上り、トカゲの背中に座るとそのまま手綱を握り締めた。

錬金「姫様、無理ですよ。乗り手を選ぶ騎獣の中でも、土トカゲはデリケートで扱いが……」

姫「立て」

トカゲ「きゅー」

錬金「立った!?」

姫「回れ」

トカゲ「きゅー」

錬金「回った!?」

姫の手綱さばきに合わせて土トカゲが嬉々として動き回る。
唖然とする錬金術士を尻目に、姫は満足そうにうなずいた。

姫「よし、コイツに荷物を積もう」

錬金「は、はい……」
45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/24(木) 00:19:32.13 ID:GqizOqNDO
〜 村の外、野原 〜

錬金「ふう、まさか姫様にこんな才能があるとは」

姫「ふふ、褒め称えて良いぞ?」

錬金「商人たちにカモられた挙げ句、食料品だけに金貨十枚も払っておいて威張らないでください!」

姫「む、むう……それは確かにすまなかった」

しゅんと姫はうなだれる。
そのしおらしい様子が心苦しく、錬金術士は思わず目を逸らした。

錬金「ま、まあ、コイツのおかげで腐らせずには済みそうですがね」

トカゲ「きゅー!」

姫「お、おお! 美味そうに食べているではないか! コイツは何でも食べるのか?」

錬金「雑食ですからね、基本的に何でも食べるはずです」

姫「そうか、何でも食べるのか。元気だな、うむ」

錬金「でも、木箱はさすがに消化出来ないと思いますが……」

トカゲ「きゅー!」

バリバリと木箱ごと食料品を食べていたトカゲが、それはそれは満足そうな鳴き声を1つ上げた。
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/24(木) 01:07:07.35 ID:GqizOqNDO
錬金「ですが姫様、いったいどうしたのです?」

姫「なにがだ?」

錬金「いえ、さっきから何だか姫様の機嫌が良いものですから」

姫「そ、そうか、わかってしまうか!」

錬金「?」

姫「その、なんだ……このトカゲは私の愛馬、もとい愛トカゲで良いのだろう?」

錬金「愛トカゲって……まあ、そうですね、コイツは姫様の物です」

錬金術士は姫の言い様に苦笑いするが、一応うなずいた。
どうせ、あの男がこのトカゲを取り返しに来ることも無いだろう。
トカゲの所有権が姫様に移ったところで、何ら問題は無いはずだった。

姫「よ、よし! やったーっ!」

すると突然、姫は木箱をむさぼるトカゲに、両手を広げてひしっと抱き付いた。

錬金「ひ、姫様?」

姫「私の騎獣だ! お前は私の初めての騎獣なのだ!」

トカゲ「きゅー?」

姫「誇りに思え! 私もお前を誇りに思ってやるぞ!」

トカゲ「きゅー!」

錬金「姫様……」

子どものようにはしゃぐ姫を見て、錬金術士は小さくほくそ笑むのだった。

姫「よし、名前を付けてやろう! グベラッチョというのはどうだ!?」

錬金「ネーミングセンス悪ッ!?」
47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2012/05/24(木) 10:01:46.13 ID:6Gmeo8Um0
錬金は姫に物の相場だけでも教えなきゃ
旅なんてできないだろうwww

つーか金貨は銀貨とかに換金しておかないか、普通?
露店で王国金貨で買い物とか無理でしょw

とか思いついたことをつらつら言ってすまない
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/24(木) 13:41:58.27 ID:GqizOqNDO
>>47
無理やり過去追記@

姫「広場で日用品の買い物を済ませるぞ!」

錬金「? ……」

錬金(そうか、この村は王宮都市に近い。必要な買い物を済ませるには早い方がいいしな)

錬金「両替商は……いや、初対面だとふっかけられる。
まずは馬とかの高価な買い物をして、それで金貨のおつりを銀貨や銅貨に変えるなりした方が良いか……」

姫「?」

錬金「もしもの時は私のポケットマネーを使えばいいか。……よし、それでは行って来ます姫様」

姫「何を言っている? 私も行くのだぞ?」

錬金「……へ?」

姫「買い物なんて初めてだ、ワクワクするぞ!」

錬金「えっと、やめた方が……」

姫「さあ、行くぞ!」

錬金「ち、ちょっと勝手に!? もう……」

錬金(むう、私が上手くやるしかないか)
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/24(木) 14:43:08.34 ID:GqizOqNDO
無理やり過去追記A

錬金術士から姫に金貨の袋が渡される記述を忘れていました。

よって、>>36の後半部分書き直し+です。

〜 広場、トカゲの積み荷に気付いた錬金術士 〜

錬金「これは……姫様、ちょっと待っていてください!」

姫「お、おい! いったいどうしたのだ!?」

錬金「これ、渡しておきます!」

困惑の声を上げる姫。
しかし急いでいる錬金術士はその問いに答えず、代わりに残りの金貨の袋を姫に渡し、男を追って走り始めた。

姫「……むう」

商人1「……」
商人2「……」
商人3「……」

商人1(騎獣に金貨を30枚……)
商人2(今はその袋が2つ、従者はいない……)
商人3(世間知らずの金持ちが1人で俺たちの目の前に……)

商人たち(奇跡のカーニバルの幕開けだ!!)

商人1「騎士様! 珍しい絵画があるのですが!」

姫「うおっ!? いきなりなんだ!」

商人2「このツボはかの有名な工匠が作った物でして……」

姫「待て! 私は旅をしているのだ、そんな物を持って行く余裕は無い」

商人3「旅を? では食料品なんかはいかがでしょう? 取れたての新鮮ですし、大量に買って貰えれば安くしますよ!」

姫「大量に買うと安く?」

商人1「そうですね、もしも……もしもですが、金貨1枚で丸々支払いをしてもらえるのならば、なんと1割り引き!」

姫「おお! 1割り引き!?」

商人2「おつりが面倒だから貨幣の価値を合わせてもらいたいんだけど、騎士様なら別です!」

姫「私は別なのか!」

商人3「どうです!?」

姫「買った!」

商人たち「よっしゃ!」
50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/24(木) 17:24:02.01 ID:GqizOqNDO
本編に戻ります。
51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/24(木) 18:49:54.63 ID:GqizOqNDO
〜 >>46から小1時間後 〜

姫「よし、お前の名前はポチだ!」

ポチ「きゅー!」

錬金「あぁ……トカゲの名前が決まってしまった……」

姫「ところで錬金術士よ、聞きたい事があるのだが」

錬金「はい、何ですか?」

姫「うむ、このポチだが、何か騎獣としての能力は持っていないのか?」

錬金「能力、ですか?」

姫「そうだ、土トカゲとしての能力の他に『神獣』や『幻獣』の様に魔法は使えないか?」

少しウキウキしながら姫が錬金術士に尋ねてくる。

魔法とは、神や悪魔が行使したとされる超常の力。
ラグナロクと呼ばれる最終決戦によって共倒れし、地上から姿を消した彼らだが、魔法を行使する力は一部の獣たちに受け継がれたのだった。
そして現在、魔法を行使出来る騎獣は『幻獣』。
より威力が高い魔法を行使出来る危険度の高い騎獣は『神獣』と呼ばれていた。

錬金「……いえ、土トカゲは魔法を使えません。
得意技は、しいて言えば足が速い事でしょうか」

しかし、すべての騎獣が魔法を使えるわけではない。
むしろ、魔法を使える騎獣の方が稀有な存在である。

姫「なるほど、足が速いのかお前は!」

ポチ「きゅー!」

ポチに魔法は使えないと否定された姫は、しかしそれを特に気にもせず、ポチの長所を褒める。
愛トカゲに魔法が使えない事を姫が気落ちするかと錬金術士は思っていたが、どうやら杞憂だったようだ。

錬金「まあ、魔法は騎獣のスタミナを奪いますし、そう考えると体力のある土トカゲの方が汎用性は上かもしれません」

姫「体力自慢か! お前は私に似ているなポチ!」

ポチ「きゅー!」

姫の嬉々とした声に、ポチも合わせて嬉しそうな声を上げるのだった。
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/24(木) 19:57:38.67 ID:GqizOqNDO
〜 北の大橋 〜

姫「とうとうここまで来たか」

ポチ「きゅー」

ポチの背中の上で、姫はしみじみと感慨深げに頷いた。

姫「この川、大橋を越えたら王国北部のエリア、私たちがいる王国中央エリアとはおさらばだ」

ポチ「きゅー」

姫「ふふ、新たな旅立ち、新たな世界へと一緒に羽ばたこうではないかっポチよ!」

ポチ「きゅー!」

錬金「ノっているところを申し訳ありませんが、姫様」

姫「む、どうした?」

錬金「大橋には通行料を取る関所が設けてあります。橋を渡ると姫様の正体がバレます」

姫「なんと!?」

ポチ「きゅー」

姫「ならば仕方ない、泳いで渡れば……」

錬金「川幅は三百メートルほどありますし、泳いで渡るとかえって目立ちます」

姫「……むう、ならばどうするのだ?」

錬金「ここから少し川を下って行けば、川の流れが大きく分岐しています。
川幅も小さくなりますし、関所の無い橋も多いはずです」

姫「なるほど、大手を振って川を渡れるというわけか。ならばそうしよう」

錬金「はい、では行きましょう」

姫「うむ!」

ポチ「きゅー!」
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/24(木) 20:30:20.91 ID:GqizOqNDO
〜 下流域 〜

姫「ふむ、確かに小さな橋がそこかしこに懸かっているな」

錬金「……ふう」

姫「疲れたのか? ……そうだな、歩き詰めだから無理もない。
ポチに乗ってよいぞ」

錬金「いえ、大丈夫です。お気になさらず」

姫「乗れ!」

錬金「なぜに命令形!?」

姫「お前はアレだ、私に対して少し他人行儀すぎる」

錬金「はあ、ですが姫様にご無礼は……」

姫「その考え方がイヤなのだ。ここは王宮ではない、身分だのなんだのと突き付けられているようで息が詰まりそうだ」

錬金「はぁ、それではどうすれば?」

姫「姫と従者という間柄ではなく、普通に接してくれ、普通に」

錬金「普通に、ですか?」

姫「そう、気さくに、例えるなら友人同士のように」

錬金「いえ、それはちょっと……」

姫「イヤならチョップだ!」

錬金「よ、よう! 姫っち!」

姫「うむ!」

ポチ「きゅー!」
54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/05/24(木) 23:01:07.85 ID:GqizOqNDO
〜 北部 〜

ポチに乗った姫と、その後ろを歩く錬金術士は川を渡って王国北部にたどり着いた。

姫「とうとう北部に入ったか」

錬金「ええ、そうで……だな」

姫「ふふ、お前もわかってきたな」

錬金「おどされ続けりゃさすがに、ね」

ポチ「きゅー」

錬金「それで、これからどうする? 街道に戻るか、それとも……」

姫「旅の目標として、私は伝説の勇者を探さなくてはならない。
それを成す前に王宮へと戻されるわけにはいかないのだ」

錬金「なら、このままコソコソと北上だな」

姫「うむ、ところでお前は北部の地理に詳しいか?」

錬金「多少は、ただ机上の知識だが」

姫「十分だ、私よりはマシだろう」

そう言って姫は笑みを浮かべ、錬金術士を手招きした。

錬金「?」

姫「ポチに乗って先導してくれ、イヤとは言わせないぞ?」

錬金「うっ」

錬金術士は言葉を詰まらせた。
先ほどは上手く断ったのだが、今の姫には笑顔の裏に有無を言わせぬ妙な迫力がある。

姫「ほれ、早く乗らないか」

錬金「……仕方ないな」

錬金術士もバカではない。
これが姫なりの気遣いだとは分かっている。
ここで断るのは逆に失礼だった。

錬金「せいのっ、と」

よって、錬金術士は姫に促されるままポチに手を掛け──

ポチ「きゅー!」

錬金「ぐべらッ!?」

べちこーん、とポチのシッポのフルスイングをくらい、空高く跳ねとばされた。
55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/05/24(木) 23:23:25.90 ID:FOSdfgydo
ポチwww
56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/05/25(金) 06:57:54.23 ID:gxhbC/3Eo
ペットは飼い主に似るとか言うけどねwwww
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