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バカとキセキと恋姫†無双 2 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) :2012/05/28(月) 07:28:18.73 ID:1U/RiEmE0
続き


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少し暑くて少し寒くて @ 2024/04/25(木) 23:19:25.34 ID:dTqYP2V2O
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渾沌ゴア「それでもボクはアイツを殺す」 @ 2024/04/25(木) 22:46:29.10 ID:7GVnel7qo
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二次小説の面白そうなクロス設定 @ 2024/04/25(木) 21:47:22.48 ID:xRQGcEnv0
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佐久間まゆ「犬系彼女を目指しますよぉ」 @ 2024/04/24(水) 22:44:08.58 ID:gulbWFtS0
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全レスする(´;ω;`)part56 ばばあ化気味 @ 2024/04/24(水) 20:10:08.44 ID:eOA82Cc3o
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1713957007/

君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
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笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
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2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) :2012/05/28(月) 07:31:24.60 ID:1U/RiEmE0
白装束・最終決戦編
第154話 真実と策と得意科目
「どういうことだ!? ご主人様に何をした!?」

 私の問いかけに、目の前に居るメガネの男……于吉は、さして動揺した様子も無く答える。その横に居る、左慈に関しても同様だ。
 そしてその間には……どうやら護衛と思しき兵隊達が立ちはだかっている。しかし……居間までの白装束連中とは違う感じだ。
 服装は白装束でなく、紺色の頭巾と外套を羽織り、ほぼ全員を隠しているこの集団……刃物ではなく鈍器を手にして行く手を阻むこやつらのせいで、于吉の胸倉をつかめない。
 というか、こいつらは一体何なのだ? 先ほどから斬っても斬っても湧き出してくる。まるで……戦の時の白装束の兵隊達だ。
 しかも何やら、訳のわからないことを叫んでいるし……
 ともかく聞かせろ于吉!? 今の発言はどういう意味だ!?
「どういうことも何も……言ったとおりですよ。こことは違う場所に飛ばした『天導衆』の皆様には、それぞれが最も苦手とする、もしくは因縁のある人物達をぶつけて、足止めをお願いしています。もろもろ適当な理由を付けて、ね」
「ああ。もっとも……対価は安くはなかった。そいつらがこの世界に『存在』するための環境を整えるために、『正史』のルールに乗っ取って召喚獣戦闘プログラムを構成しなけりゃならなかったし、こんな大規模に空間構造を改変せざるを得なかったしな……」
 どういうことだ……!? 意味がわからん……

「まあ、内1人……久保利光氏に関しては、ある共通点から個人的に応援したい、という私情も多分に入っているのですが……ふふ、うまくいっているといいですねえ……」

 今のは特に意味がわからなかった。
 よくわからんが……こいつから曹操や貂蝉のような不可思議な感じがするのはなせだ?
「ふ……もはやデリートへのスイッチは押されたのです。あとは、我々は時間を稼ぐだけでいい。デリートまであなた方に時間をつぶしていただき、接続端子であるあの鏡を守りきれば……この外史は終わりを迎える。それだけのことです」
「ほう……それはいいことを聞いた」
 と、その時、何やら星がしてやったりといった風の笑みを浮かべた。
「? いかがしました、趙子龍殿?」
 于吉の問いに、星は槍を構えなおしながら答える。
「貴様今、『この鏡を守れば』……と言ったな。つまり……その鏡、『儀式』とやらを行うにいたって、重要な役割を果たしているようだ。すなわち……」
「ああ……その鏡、ぶっ壊してやればいい!」
 と、翠。その視線は……教卓らしき机に置かれている丸い『鏡』に注がれている。
 そうか……なるほど、単純明快だ。あの鏡、やはり儀式に必要なものらしい。つまり、アレを奪うか……できれば壊してしまえば……儀式は帳消しにできる!
 鈴々の他、並んで立っている我ら文月の将軍達の目の色が一様に変わる。それはそうだ、目的は、定まったのだから。
 あの……鏡の破壊に。
 しかし、武器を構え直す我らを見てなお、于吉の顔色は変わらない。頭巾を被り、表情がうかがい知れない、護衛と思しき連中たちにしてもだ(もっともこいつらは斬っても斬っても復活するのだが)。
 そして、目を細め……言い放った。
「くくく……まあ、別にかまいませんよ。それが知られた所で……あなた方は手出しできませんからね、この鏡には……。それに、あなた方のご主人様たちも……彼らには勝てません。もはや……終わりなのですよ」

「おやおや、ずいぶんと自信満々なことですね」
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) :2012/05/28(月) 07:34:20.41 ID:1U/RiEmE0
「「「!?」」」
 突然響いた声。それに気付いて、我々も、于吉と左慈もとっさに声のしたほうを見る。
 見ると……部屋の、黒板とは反対側の端のところに、綿のほとんど無い座布団を2,3枚重ねて敷いて、吉井玲殿がにっこり笑って鎮座していた。
 ……!? どういうことだ!? 『天導衆』は皆、別の場所に飛ばされたはずでは……
 すると于吉が、
「……ああ、あなたは特に『召喚獣』と何の縁もありませんでしたね……強制転送システムが反応しませんでしたか」
「だが……同時になんら脅威がないということでもある。別に気にすることもあるまい」
 ため息混じりに左慈が吐き捨てたセリフを、玲殿は何ら気にした様子の無い笑顔を向けて無視。ある意味これも『一蹴』と言えるのだろうか。
 その玲殿はと言うと……
「そうですね……私にできることはなさそうですし……ここで1つ、見学でもさせていただきましょうか」
「おや、随分と余裕ですね、吉井玲殿」
 于吉のその問いにも、玲殿は笑みを返すのみだ。
「ええ。なんと言っても……私には、心強い味方がいますから」
「そういうことだ。貴様らの相手は我々……玲殿が気に掛けることは無い」
 私の声に、左慈と于吉は振り向く。
 武器を構える我らを見て、左慈は侮蔑したような、面倒くさげな目をむけた。
「ふん……たかが傀儡が、生意気なことを言う」
「傀儡、か……。ならば貴様らこそ大変だな、すまし顔? 我らのような口うるさい傀儡の相手をする羽目になって……。仕事だか何だか知らんが、ご苦労なことだ」
 ああ、口の悪さなら星も負けていなかったか。
 今の星なら、何を言われてもさらりと流して3倍返しにできるだろう。こいつの憎まれ口がこんな形で頼もしく見えるとは。
 と、ここで于吉が奇妙なことを言い出した。

「やれやれ……やはり厄介ですね……。糸の切れた傀儡は……」

 ……糸の、切れた……?

 それは……私たちのことか? そういえば貴様ら、私たちが『物語の登場人物』だなどと言っていたが……。
「そういやそのセリフ……孫呉の城でも言ってたな……どういう意味だ?」
「糸の切れた傀儡……まるで、私たちはもとは糸が付けられていたかのような物言いですわね?」
 と、翠と紫苑。
 それを聞き、于吉は顎を抱えた。

「ふむ……いいでしょう。丁度もう物語も終わるところですし……冥土の土産というわけではありませんが、教えて差し上げましょう」

「……?」
 糸の切れた、ということの意味……か?
「そもそもあなた方は……この『武将全員が女性の『三国志』の世界』の登場人物でした。そしてあなた方は本来、自分にあらかじめ用意された地位を持ち、用意された筋書き通りに生きるはずでした。筋書き通りに発言し、戦い、死ぬ……これがそのままいっていれば……夏候淵将軍も、美周郎殿も、関羽将軍、あなたも……この世に居ないはずだった」
「仮定の話などするだけ無駄だ。私は今、現にここに生きている」
「そうですね……シナリオの全てが狂っています。それもこれも……」
 于吉はそこで一拍置いて、

「全て……吉井明久の存在によるものです」
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) :2012/05/28(月) 07:35:01.23 ID:1U/RiEmE0
「くっ……つ、強ェ……!」
「くそっ、3人ともただのクズなのに……」
「おい、お前俺たちが勝ててる時くらい気の利いたコメント出せよ!?」
「先輩に対する敬意ってもんがねーのか!」
 うるさい黙れ蠅共!!
 くっ……けど、現にあいつらが勝ってるわけだし……。ここで下手に何か言っても、逆に色々余計にいじられるだけ……。こいつら3人とも、一応学年でも上級ランクに位置する実力はある、ってわけか……。
 現在、僕と雄二は、常夏コンビ&根本くんの3体の召喚獣を、僕のをダブル二重召喚で2体にし、無理矢理3対3で戦ってる……って状況だ。
 この世界に来てから、いつ二重召喚の機会が来ても対応できるように訓練はしてたから、2体操作して戦う分には問題ないんだけど……
 ……さすがに……この3人の相手は、技術云々じゃなくって点数的にキツい……っ!!

 吉井明久  &  坂本雄二 
 世界史  146点 & 277点

       VS

 常村勇作  &  夏川俊平  &  根本恭二
 物理  381点  &  379点  &  209点

 くっ……何なんだ、これは……!?
 そもそもが色々とめちゃくちゃだ。さっきまで『干渉』のせいで召喚獣が使えなかったはず……っていうのはともかくとしても、個人個人で科目がバラバラ……っていうのもルール無用だ。僕らは世界史なのに、相手は物理……どちらも得意科目だ。
 が……それだけに、クラスごとの点数の差が如実に出てる……って感じがする。
 修行の成果もあってか、どうにか戦えてる感じはあるけど……さすがに状況が……
「へっ、肝試しの時の威勢はどうしたんだよ、吉井に坂本」
 ここぞとばかりに言いつつ、坊主先輩が召喚獣を走らせる。
 突進と同時に剣で突きを繰り出すその召喚獣の一撃を、僕の召喚獣を操作してどうにかかわす。
が……同時に体にズシッと重い感触。くっ……やっぱりダメージは少なくはないか。
 横に視線を飛ばすと、雄二もかなりキツい感じの表情だった。体感ダメージはなくても、やっぱり戦いの厳しさにはかわりはないようだ。これは……本気でマズい……!
 アイコンタクトで雄二に問いかけるけど、それに対しても雄二は首を横にふるばかり。
 まあ……既に戦況が切羽詰まってるこの状況で何か策を実行……ってのも無理あるだろうしなぁ……。
 相手がクズ3人だけなら、例え召喚獣で負けても、解除したタイミングを見計らって昏倒させて突破、っていう選択肢も一応あったけど……その後ろにいる学年次席の久保君が問題だ。
 俗物的な考え方を持たない彼に対して拳を震うのは、いくらなんでも抵抗があるし……かといって、召喚獣バトルだと余計に勝ち目がないし……久保君が相手だと特に。
「へっ……勝負は見えたな、バカ2人」
「ああ。ったく……がっかりさせてくれるぜ」
「くっくっく……そうですね、先輩。俺たちの前じゃこんなバカコンビなんか……」
「「お前は黙れ!!」」
「だから何で俺の時だけボロクソに言われるんだよ!?」
 根本という名のゴミ野郎のセリフは気にせずに、ふと僕らの視線は久保君にいった。と、向こうもそれに気付いたのか、メガネキャラにおなじみのメガネを直す仕草と共に僕らの方を見つめ返し、
「悪いね……吉井君。坂本君も……でも僕は、君たちを止めなければならないんだ」
「久保君、どうして……」
「すまない。わかってくれとは言わないけど……僕には使命があるんだ」
 たたずまいを直し、久保君は続ける。
「僕自身、戸惑ってはいるんだ。いきなりのことだったし……説明もごくごく簡単なものだったから……。しかし、これだけは言えるよ。僕は……この戦いを制し、君たちを止めなければならない。君を討ち取ってでも、ね……」
 そして一拍おいて、


「ただ……愛のために」
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) :2012/05/28(月) 07:35:36.20 ID:1U/RiEmE0
なんだろう? 今、背中を凄まじい寒気が……。
 使命感に満ち溢れたような、しかし、どことなく不気味というか……嫌な感じがするというか……。おそらく青い顔になっているであろう僕と、なぜか三白眼の雄二。
 しかし、その視線など届いていないかのような様子の久保君は、1人陶酔するかのように演説(?)を続ける。
「あの于吉という人には感謝しているよ……。理由は細かくはわからないけれど構わない……僕は……僕は君のために、勝たなければならないんだから! 君を……君を失わないために!」
 誰か教えてくれ! なぜ久保君が言葉を紡ぐたびに、僕の体温が少しずつ奪われていくんだ!?
 なぜだろう!? 今僕は、白装束達よりも恐ろしい誰かに、何か大切なものを奪われそうになっている気がする……!! くそっ……こんな感覚はほどほど久しぶりだ!
 頬を上気させた久保君の視線に何か危ない煌めきを感じるこの頃、僕の心拍数はストップ高(悪い意味で)。
 それを知ってか知らずか、そろそろ終わりにするか、とでも言いたげなモヒカン先輩が口を開いた。
「さて……そろそろ終わりにするか」
 ホントに言ったよこの人。
 くっ、でも、ホントにそろそろ終わりそうな感じだ……次に全員(久保君以外の、だけど)でまとめて攻撃されたら……!

 と、その時、

「はぁ〜い、お助けキャラ、参上よん☆」

「「「!?」」」

 野太い声が響き渡った瞬間……僕らの体が光に包まれた。

                        ☆

 えっと……コレ……何?

 何故か……僕と雄二が居るのは、補習室。
 そして……僕らと同じ感じで、今の光でワープさせられてきたのか……姫路さんたちも同じように同じ部屋に居た。そして、同じように机についている。机のあるこの部屋に入った覚えも、イスに座った覚えも無いんだけど……。
 そして何より違和感があるのは……黒板の前に立っているこの男……

「んふ、全員揃ったみたいね」
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) :2012/05/28(月) 07:36:02.94 ID:1U/RiEmE0
 いや……なんで貂蝉?
 しかも……いつものビキニパンツ姿ではない。Yシャツ、スーツ(女物)、ネクタイ、指示棒、そしてなぜかメガネを装着した、完全ないわゆる『女教師』スタイル。
 ……着てる本人以外はまともだ。
 で、その……なんで僕ら、さっきまで常夏コンビ&ゴミ&学年次席と戦ってたはずなのに……この見慣れた補習室にいるわけ?
 聞けば、姫路さんも美波も、霧島さんも工藤さんも秀吉もムッツリーニも、同じように誰かに足止めされてて……しかしこれまた同じように光に包まれて、気がついたらここに居たらしい。
 つまり、もしかして……ここに僕らをワープさせたのって……
「そういうこと、私よん」
 やっぱり、貂蝉か。
 ていうかお前……そんなことできたんだ? どっかのエスパーみたいじゃん。
 あ、もしかして……あの邪魔軍団も戦わなくていいようにしてくれるの?
「残念、それはできないの」
「どうして? こんな、こう……PSIみたいな超能力でワープさせて助けてくれたのに?」
「『PSYREN』を知らないひとが困惑するネタはやめましょご主人様。まあ理由はって聞かれると、私も于吉ちゃんたちと同様の存在だからよ」
 ふう、とため息交じりの貂蝉。同じコスチュームの本物の女教師がやったらまともに見えるんだろうけ ど……ビジュアルがアレだからかなり暑苦しい感じがする。あ、いや、それは今もう言うのはやめにするから……理由聞かせて?


「説明するわね? まず、今までご主人様たちが戦ってたクラスメート君たちだけど……彼らは于吉ちゃんたちが、現実世界からその人の『意識』だけを持ってきて、この世界で構築した体を使って行動させているある種のアバターよ。彼らの肉体は現実世界にあるけど、意識だけは飛んできてここで戦ってる……そうね、映画『マトリックス』シリーズとかを例にとってもいいわ。あれと似たような状態」
「つまり……あの久保君たちは本物なの!?」
「そういうこと。ご主人様たちと違って、肉体ごとこの世界に来てるわけじゃないけどね。そして彼らを呼び寄せた于吉ちゃんたちの目的は……あなた達の足止め。それも于吉ちゃんたち自身が手を下さないことで、デリート作業への余計な影響を出さないように」
 自分達は裏で糸をひいたまま、僕らの始末は久保君たちにつけさせる……って魂胆か、くそっ! 面倒なまねを……。
 でも、確かに有効な手ではある。ここまできたら、別に僕たちを殺さなくても……時間稼ぎをするだけでいい。それを考えると……召喚獣戦闘は確かに有効だ。みんな手馴れてきてる頃だから、戦闘に時間がかかるし……戦う相手は、同じだけかそれ以上の力を持つ召喚獣。おまけに、僕らがまければ、規定にのっとってそのまま補習室送りになる……
 ………………って…………

「あの……もしかして、西村先生も来てるんですか?」

 ぎくっ ×4

7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) :2012/05/28(月) 07:36:31.00 ID:1U/RiEmE0
みんなの嫌な予想を代表して、姫路さんが挙手と共に言ったそんな疑問。同時に、仕方の無い条件反射で男子勢4人の方がぶるっと震える(ムッツリーニは倒れたまま)。
 貂蝉の答えは……
「いえ、どうやら鉄人……もとい、西村宗一先生は、個人の意志の力が強すぎたために、于吉ちゃんたちでも召喚できなかったみたいなの」
 あの人ホントに何者!? バケモノ!? あの白装束たちのみょうちきりんな術はねのけるとか……絶対人間じゃないよね!?
 い、いや、まあ……前向きに考えよう。鉄人……あの補習の鬼は来てないんだ、うん。
「しかし……そうなるとつまるところ、面倒なことに変わりはないのう。于吉たちと同じ理由で貂蝉はこの戦いに介入できん。つまり、ワシらを助けることもできんわけじゃ」
「……結局の所、私たちは自分の力で、彼らを倒すしかない」
 秀吉&霧島さんの言う通りだ。これじゃあ、何の解決にもなってない。
 かといって、また同じように彼らを相手取った所で、状況はかわらないし……

「そ・こ・で・私の出番、ってわけよ、ご主人様」

「「「貂蝉?」」」
 えっ、でも……あんたは結局、直接は戦いに介入できないんだよね?
「そうね、でもある程度のサポートはできるわ。例えばほら、あなた達の目の前……机の上に、何が置いてある?」
 机の上?
 話に夢中で気付かなかったけど……うーん……見た感じ、『シャーペン』と『消しゴム』、それに、『予備用のシャーペンの芯』。
 あれ? コレってどこかで見たような……あ!
 もしかしてコレ……補充試験の用意?
「そう……ご主人様達には今からここで、補充試験を受させてあげるわ。私の力で、ね」
 補充試験……試召戦争で点数が減った召喚獣を再び戦えるようにする、すなわちテストの点数を補充する試験だ。そのまんまだな。確かに……これを受ければ、点数の回復は可能だ。僕らの召喚獣はまた前みたいに戦える。
 戦える、けど……根本的に解決してない。
 だって、もともと僕らの点数じゃ、しかも得意科目のMAX状態でも太刀打ちできなかった相手だ。常夏コンビの物理の点数はもとより……まあ、根本はクズとしても……召喚獣バトルで久保君に勝てるわけが無い。
 霧島さんたちだって例外じゃない。学年一位と二位とはいえ、それに近い点数を持つ生徒数十人が相手。秀吉もお姉さんが、美波も清水さんが、ムッツリーニと工藤さんも、大島先生と小暮先輩(この人だけ勝てない理由が違う)が相手だ。今更補充試験受けたって、何にもならないよ……
 しかし、貂蝉は気持ち悪い笑みを浮かべるばかり。本人は自然体なんだろうけど……元が元だから気持ち悪いもんは気持ち悪い。
 そのモンスター(with女教師ルック)が言うには、
「そうかしら、あなた達の本当の得意科目を使えば……十分に勝てると思うけど……?」
 なんてことを言ってくる。
 あのね貂蝉、だから何回も言うように、その得意科目で勝ち目が無いんだって。
 僕の世界史然り、美波の数学然り、その点数でもって相手にされなかったんだよ。だから今更その科目の点数を補充したって、戦えるような点数にはなりっこないってば。
 というか、こっちの世界に来て長いし、姫路さんたちと定期的に勉強会してはいたけど、むしろ内容忘れて点数悪くなってるよ多分。設備も無かったし、こっちに来てから勉強なんてどの教科も全然してな……



 ……………………………………まてよ?
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) :2012/05/28(月) 07:37:07.61 ID:1U/RiEmE0
途端に、僕の頭の中に1つの事実がよぎった。

 勉強……科目……日常…………
 たしかに……こっちの世界に来てから、ろくに勉強できなかった。問題集とかもないし。いやまあ、霧島さんが持ってたやつはあったけど。
 それに、勉強する暇がそもそもなかった。政務とか軍務とか、死ぬほど忙しかったし。まあ、社会勉強にはなったかもしれないけど……

 ………………けど………………

 そんな中でも……僕らは1つだけ、1教科だけは、確実に勉強していた。

 勉強以前に……この世界における日常生活の中で、普通に使っていたんだ。
 最初は、できなくて苦労した。けど……今は、慣れもあってか、普通に使えるようになった。僕だけじゃない、姫路さんや霧島さんなんかはもちろん、秀吉や美波だって。
 そうそう……勉強会やるってきいて、脱走したこともあったっけ。どうにもわからなくなって、愛紗や朱里に助けてって泣きついたり。
 でも……今の僕たちは……それがもう怖くなくなってるんだ。普通になってるんだ。

 ……それが、現実世界基準で考えたら……どれだけ普通じゃないか、ってことにも気付かない内に……。

 そのことに……周りに居る、僕以外の『天導衆』メンバーも気付いたみたいだ。
 自分達がこの世界に来てから会得した……貂蝉の言う『真の得意教科』に。
 それを察知し……薄く笑って、貂蝉は僕らにわかりきったことを聞いた。
「さて……それじゃあ補充試験を始めましょ? 科目は何がいいかしら?」
 何がいいかって? そりゃもちろん……



「「「『漢文』!!!!」」」




                       ☆

「お? 戻ってきたか」
「よ、吉井……今お前、一瞬消えなかったか?」

 補充試験を終えて、(ワープで)戻ってきた僕らに、常夏コンビはそんなふうに声をかける。根本君は向こう側で呆れてて、久保君は変わらぬたたずまい。
 ……ああ、そういえば貂蝉が、補充試験の間は時間を止めてるとかなんとか言ってたっけ。つまり常夏コンビたちには、僕らが一瞬消えて、そしてまた戻ってきた感じに見えたんだ。
 実際はその間、別室でテスト中だったんだけどね……。
 一瞬僕らが消えたことに戸惑った様子だったけど……すぐそれも引っ込んだようだ。まあ、僕らが思いも寄らない手を使うのは日常茶飯事だしね。自分で言うのもなんだけど。
 気を取り直して、といった感じで、先輩達が構える。
「……ん? お前ら、いつの間にか召喚獣消えてるぞ?」
「さっさと出せよ、ぶっ潰してやるからよ」
 ……やれやれ……言いたい放題だな、腹が立つ。
 その奥の方でニヤニヤしてる根本君にはもっと腹が立つ。
 ま、いつまでも引っ張ってても仕方ないし……思えば時間もあまりないんだっけ。言われたとおり、とっとと再開しますか。
 いらないとは思ったけど、一瞬雄二との間にアイコンタクトを交わして、
「「試獣召喚(サモン)!!」」
 呪文と同時に現れる僕と雄二の召喚獣。
 いつも通り、僕のは改造学ランに木刀。雄二のは、改造学生服にメリケンサックだ。
 そして……遅れて表示される、僕らの科目と点数。

「ん? 科目がさっきと違う……何ィ!?」
「あぁ!?」
「何だと!?」
「………………っ!?」

 久保君を含む敵4人の表情が驚きに歪む。
 まあ、無理も無いだろうけど……ね。なんたって……


 吉井明久  &  坂本雄二 
 古文  411点  &  582点

         VS

 常村勇作  &  夏川俊平  &  根本恭二
 物理  381点  &  379点  &  209点


 …………………………さぁて、

 ……ぶっ潰されるのはどっちかってことを……教えてあげないとね……。
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) :2012/05/28(月) 07:37:46.65 ID:1U/RiEmE0
白装束・最終決戦編
第155話 糸と台本と大逆転
「さて、どう説明したものでしょうか……」
 えらそうに顎に手を当てて言ってくる于吉。
 ……本当ならその首、今すぐにでも斬り落としてやりたいところだが……あいにく状況は膠着状態にあるのは事実……か……。この謎の覆面兵士たち、妙に手ごわい……。
 我々からの返事を待たずに、于吉は話し続ける。
 ……いいだろう、聞かせてもらおうか……。もともとは我らが『死ぬ』はずだったその筋書きとやら……その変質と、ご主人様と……どう関係があると言うのだ?

「今申し上げました通り、そもそもあなた方は、決まった筋書き通りに動いていただけるはずでした。役者が台本通りにお芝居をこなすように……ね。あなた方は傀儡……そのお芝居のための役者であり、それを鑑賞するのが、正史にいる人間達……というわけです」
 それはさっきも聞いた。
 つまり……この『外史』という世界で、我々は用意された筋書き通りに生き、戦い、死ぬ予定だった……。
 にわかには信じがたいが、今反論をはさんでもらちがあくまい。無視しよう。
「ところが……彼、吉井明久が正史からこの世界に乱入したおかげで、あなた方を導く台本そのものが狂い始めました」
「!? お兄ちゃんが……?」
「ええ。吉井明久以下『天導衆』の皆々様方は……皆さん、もとは『正史』の人間……その全員が『外史』をつくり、そして編纂する力をもっている……同人作家などが、好き勝手に物語を作って発表できるように、ね」
 淡々と、于吉は話す。
「その『作る側の世界』の存在である吉井明久が、どうやったのかは知りませんが、この世界に入り込み……物語に干渉し始めた。当然、本来いないはずの登場人物が絡んできたのですから、芝居はめちゃくちゃです。徐々にシナリオが、そして歴史そのものが狂い始め……やがて、当初のものとは全く別の物語(ストーリー)を作り上げてしまいました」
「同時に……関羽、お前たちにも異変が起こった」
「何!?」
 と、于吉の言葉に続く形で言った左慈のセリフに、私は反応した。
 私に……異変? どういうことだ?
 その言葉に最初に答えを返したのは……左慈でも于吉でもなく、星だった。
「おそらく、それが『糸の切れた傀儡』の言う意味ではないか?」
「ふ……賢いな、趙子龍」
 と、左慈。
「その通り……台本通りに動くはずのお前達傀儡は……吉井明久と出会い、触れ合い、そしてシナリオを超越した展開を共に歩んできたことで……変質した。それに従って動くはずだった台本を捨て、好き勝手に、それも吉井明久をストーリーの中に組み込んで、自分の意思で動き始めた」
「言うなれば、台本のない、アドリブだけのステージ……最初は関羽殿、あなたに始まり……次第にそれは広まった。今では文月の将軍が全員に、曹操殿や孫権殿までも……台本を捨て、自由気ままな物語を紡いでいます。まあ……無理もありませんがね……。この世界、既に当初の面影が影も形もないくらいに変わり果てたものになっていますから」

 ……なるほど…………そういうことだったのか……。

10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) :2012/05/28(月) 07:38:20.70 ID:1U/RiEmE0
つまり……こうだ。ご主人様達の来訪は、我々の決まりきっていた運命を根底から大きく変えた。死ぬはずのものが生き残り、あるはずのない国ができた。
 その世界は……当初予定されていたものとは明らかに違うもの……我々にとって幸せなそれも、白装束たちにとってはとんだ邪魔ものだったわけだ。
 それを、元通りの決まった運命を紡がせるために……白装束たちは動いていたのか。
「ご名答。坂本殿が参戦したあたりから、それは顕著になっていましたね……。これ以上物語を改変されてはかなわないと、我々も手を尽くしたのですが……だめでした」
「暗殺はことごとく失敗に終わった。多少のリスクを覚悟で俺たち白装束の『剪定者』が表舞台に出てきたこともあったが……それすらもことごとく失敗した」
「結果的に、我々が無茶をして表に出てきてしまったために……より大きな混乱を招く結果を呼びこみました。時空に歪みができ……予定外のことが次々とおこった」
 つまり……少々危険ではあるが、自分たちが出向くことで確実にご主人様を殺そうとした時(洛陽の時や、曹魏の最終決戦の時、孫呉の周瑜戦の時などだろう)もあったわけだ。しかし、我々の奮戦とご主人様達の奇策・新兵器の数々により……それはかなわなかった。
 結果、無茶をやったために、この世界に『白装束との戦い』というさらなる余計な歴史を作り、また1つ物語をゆがませてしまったわけだ。
 その『歪み』の影響というのは……ひょっとすると……
「ええ、さまざまな新たな悪影響を誘発しました。携帯電話の使用可能化………欧米の野菜であるはずのトマトの出現………孫呉先代君主・孫策殿の霊体での帰還………そして、『予言』に無かった『9人目』、吉井玲殿の来訪も、おそらくはそれ……」
 ……? 孫策殿がどうこうというのはよくわからんが……今まで起こった(ご主人様いわく)不可思議な出来事……その全てが、貴様らの行動の反動によるもの……ということか……?
 こやつらが捨て身で挑んだ、ご主人様抹殺の計画……それら全てが失敗した結果が……今のこの世界……。
 すると、今までじっと黙って話を聞いていた玲殿が、久方ぶりに口を開いた。
「だから、最後の手段として、強制終了を?」
「ええ、ここまで見事に物語そのものを書きかえられてしまっては……最早修正も不可能ですからね。いっそ、全てをなかったことにしよう、というのが私たちの結論と言うわけです」
「そうですか……くすくすっ」
「…………何がおかしい、吉井玲?」
 と、左慈が何やら玲殿の態度に引っかかりを覚えたように言った。
 いや、実の所……私も少々、不思議に思っていたところだ。先ほどからの……玲殿のこの余裕の態度を。
 まるで……すでに勝負を諦めているのか……それとも…………

 勝利を……確信しているかのような…………

 その玲殿はと言うと、我々(白装束含む)の視線に少しも動揺することなく、
「まあ、ずいぶんと難しいご説明ご苦労様でした。ですが……その苦労が生かされることはないでしょうね」
「……ほう? 我々の仕事は徒労に終わると?」
 と、于吉。続けて左慈も、
「ふん……何だ? 勝てる算段でもあるのか? 戦えもしないくせに……」
「ええ、私は戦えませんよ。ただ……戦える方の人間に位置する……私の弟は黙ってはいないでしょうが」
 ……ご主人様が……何とかして下さると?
 于吉の説明を聞く限り、既に手に余る状況に置かれつつある……この世界を?
「ふふふ……聞いていなかったのですか? ことがこうなった以上、例え『作る側』である彼らとて、理論的に考えてこの強制終了の運命を変えることは……」
「あなたこそ聞いていなかったようですね?」
 と、于吉のセリフを遮って玲殿は言った。
「色々とご高説を……さらには小難しい理論やら仕組みやら述べていただきましたが……それを踏まえても、私の弟を止めることは不可能でしょう」
 そして、目を丸くする于吉に向かってにっこりと笑いつつ、
「あの子はそんな難しいこと理解できないでしょうし、理解しようともしません。そして何より……」
 そこで一拍、

「人類を超越したバカですからね、アキくんは」
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) :2012/05/28(月) 07:38:48.06 ID:1U/RiEmE0
「「「………………は?」」」

 白装束のみならず、我々の分も声がそろった『は?』に対しても、玲のどのは笑みを返すのみだった。

「そんなバカを相手に常識で物事を考えていると……噛みつかれますよ?」

 にっこり。

                        ☆

「くっ、くそぉ……俺たちが……」
「バカな……こんな……!」
「吉井、坂本、お前ら……一体どんな汚い手を使いやがったんだ!?」

 ふん……負け犬の遠吠え、ここに極まれり……ってとこか。
 そのことは……目の前に広がっているこの光景が物語っている。


 吉井明久  &  坂本雄二 
 古文  378点  &  554点

        VS

 常村勇作  &  夏川俊平  &  根本恭二
 物理  DEAD  &  DEAD  &  DEAD


 常夏コンビ&根本君、全滅。
 まあ……無理もないだろう、この点数の僕らの召喚獣が相手じゃ。
 最初こそ彼らは『何かインチキしたんじゃないか』って勘繰ってきたけど……そんなことはないとすぐに分かった。試験校であり、試験による『召喚獣』を最大の売りにしているこの学園のことだ、カンニングなんかの不正行為はどうやってもできないよう、相応の設備と警戒態勢が整ってることくらい誰でも知ってる。
 ゆえに、この点数はまぎれもなく僕らの実力だ。まあ……信じられないだろうけど。
 しかし、僕らからしたら至極当然のことだったりする。
 なにせ……この世界に来てから、『天導衆』の仲間内で使う文書以外の全ての書類が漢字であり……漢文だったんだ。それを日常用語として使わなければならない以上……僕らは死に物狂いで漢文を勉強する必要があった。しかも……政務なんていう複雑な仕事にも使えるだけの、相当につっこんだ実力まで(この時代の普通ランクだろうけど)。
 最初はもうちんぷんかんぷんだったけど、人間、学習能力とか適応力ってのはあるもんで、勉強して、使って、仕事して……ってまあこんな暮らしをしてるうちに、僕らの漢文の実力はメキメキと必然の上達を遂げていった。
 結果……日常生活で普通に漢文を読み書きできる、っていうのが今の僕らだ。もうほとんど朱里達に意味とかを聞かなくても独力で文章を読み、自分の仕事を処理できる。
 その僕らにとって……わざわざ日本人用に簡単な構成の漢文を採用してある『高校生の試験問題』なんてのは、バカバカしいくらい簡単なわけだ。今の僕らには、漢文も日本語もほとんど変わらない。普通に読めるんだから。
 ……というわけで、僕らは貂蝉の教科選択の問いかけに『古文』を選択した。
 高校生の古文の問題は『古典』と『漢文』の2つからなるけれど、『古典』(『源氏物語』とか『枕草子』とか、ああいうやつ)の部分を全部飛ばして、漢文の部分だけをひたすら解いていって……この点数にいたる、というわけだ。
 古文を丸々解いてないから得点率は低いだろうけど、用は『合計得点』がよければいいわけだから、得点率はこの際どうでもいい。
 もっとも、『古典』の部分を飛ばしてたのは僕や秀吉や美波とかで、きっちり勉強してた霧島さん達は普通に解いてたみたいだけどね。
 ……その結果が、この点数だ。
「やれやれ、勝負にならなかったな」
「ぐ……」
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) :2012/05/28(月) 07:39:29.30 ID:1U/RiEmE0
超見下し態度の雄二のセリフに、坊主先輩が悔しそうに顔をゆがめる。その視線の先で、鎧ごと粉々に粉砕された先輩たちの召喚獣が、輪郭から薄くなって消えていく。得点が0になった召喚獣の末路だ。僕が根本君のを瞬殺し、次いで雄二とのタッグで常夏コンビの召喚獣を葬った。以上。
 いきなりの点数変化に戸惑ってたせいもあっただろうが……やはりというか、この点数の僕らの召喚獣が相手じゃ、先輩達はまともに戦えもしなかったな。
 余談だが……僕らの召喚獣は2人とも400点を超えてたけど……腕輪は装備されてなかった。現実世界で取ってる点数とあまりに違うから無理があるんだろうか? 残念。

 さて……モノローグでのおしゃべりはこの辺にしようかな。
 ザコ3人の後ろから……正真正銘の強敵が出てきたから。

「……試獣召喚(サモン)だ」

 ポンッ   ←   久保君の召喚獣登場

 黒銀の鎧に、2振りの大鎌を携え……更に腕には金色に輝く腕輪をつけた、久保君の召喚獣が出現、僕らの前に立ちはだかる。
 こいつは厄介だな……いくら点数で勝ってるとはいえ、振り分け試験の点数の関係で、僕らの召喚獣と久保君のそれの装備は天と地の差だ(鎧と学生服だし……)。加えて、久保君のは腕輪の特殊能力をも使える。
 おまけに、久保君はたしかガチガチの文系だったはず……恐らく、選択した『古文』も彼にとってはホームグラウンドだろう。雄二は点数で勝ってて、僕が操作技術で勝ってるとはいえ、その差をカバーするのは難しくない。
「君たちの点数は、失礼ながら確かに不思議だけど……考えるのはやめることにするよ。それよりも今は……勝負に集中した方がよさそうだ」
 言いつつ、久保君は召喚獣に鎌を構えさせる。うう……やっぱすごい迫力……。
「大切なものを守るために……僕は……戦う! 例え吉井君、君が相手でも!」
 アレ、何だまたこの感覚は? せ、背筋に寒気が……。
 何だろう、この戦い……僕にとっても何か色々と大切なものがかかっているような気がする。
 その隣でなぜかあきれ気味の雄二だけど、
 気を取り直して、

「勝負だ吉井君! 坂本君!」
「ああ、久保君……行くよっ!」
「よし……行くぜっ!」


 吉井明久  &  坂本雄二 
 古文  411点  &  582点

       VS

 久保利光
 古文  442点


 ここからが……本番だっ!

                       ☆

「そ、そんな……お姉さま……!」
「か、勝った……!」

 島田美波
 古文  297点

    VS

 清水美春
 古文  DEAD

 さっきまで160点オーバーだった美春の点数だけど、ウチが貂蝉さんの補充試験からあ帰って来てから勝負を再開するやいなや、この結末にあいなった。
 や、やった……やっぱりウチら、古文はすごくできる感じになってた……! 今までウチ、古文の点数ひと桁だったのに……漢文だけで、こんなに点数とれるなんて! 夢みたい!
 ……まあ、『古典』の方は相変わらずだったけどね。『いとおかし』とか知らないし。
「こ……こんなの嘘です! 美春が、美春の愛が、召喚獣の点数ごときに負けるなんて……!」
 いや、負けるも何も、試召戦争のウエイトは点数10割でしょうが。
 はあ……まったく、この子は勝っても負けても全然変わらないんだから……。この辺考えると、負けたら潔く『負けた』、って言える曹操さんの方がまだいいかも。
「じゃあ美春、ウチ急いでるから……行くわね?」
「ああっ、待ってくださいお姉さま! くっ、進めない……!」
 負けつつも性懲りもなくウチに飛びかかってこようとした美春は、ウチの召喚獣が展開しているフィールドの防壁に阻まれて前に進めずにいた。召喚システムさまさまね。
「待ってくださいお姉さま! 美春を……美春を置いていかないでください!」
「いや、置いていくも何も……もともとアンタが邪魔してたんでしょうが」
「そんな、冷たい……美春は邪魔という名の愛情表現でもってプロポーズの代わりにしてお姉さまとの蜜月と結納の……」
「何言ってんのよさっきから?」
 あのさ……なんか色々ごっちゃになってて日本語メチャクチャよ? ていうか……帰国子女のウチに日本語指摘されるってどうなの?
「お姉さま! 美春を置いていかないで! あの夜の約束を忘れてしまったのですか!」
「どの夜よ」
 約束も何もないでしょうが。
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) :2012/05/28(月) 07:39:55.46 ID:1U/RiEmE0
「それはもちろん、お姉さまが美春に見せるために髪留めと水着を新調して鏡の前で似合うかどうか内緒で確かめていたあの夜の……」
 ちょっと待った美春! 何であんたがウチの超プライベートな私服チェックのこと知ってんのよ!? 
 多分それ……海に行く前に水着と髪留めが似合ってるかどうか見てた時のやつで……っていうか、アレはあんたじゃなくてアキに見せるために……その……
「それを見て美春は、お姉さまがそれを見せてくれたらすかさず布団を出して準備しようと心に誓っていたのですよ!?」
 何の準備!? 水着着たところに布団敷いて何するつもりだったのよ!?  ていうか『約束』ってそれ……あんた個人の勝手な決めごとじゃないの!
 あーもう……付き合ってたら日暮れるわね、悪いけどもう行かなきゃ。
「お姉さま!? お姉さまぁ―――――――――っ!!」
 無視無視。行こ行こ。


「姉上よ! 次で決めさせてもらうぞい!」
「こ、こんなことが……!? あたしがあんたなんかに……っ!?」


 木下秀吉
 古文  343点

   VS

 木下優子
 古文  311点


 向こうも……そろそろ勝負つきそうだしね。僅差だから危なかった部分もあるみたいだけど、向こうの世界で武官相手に修行してた木下(妹)が有利だったみたい。
 木下(妹)の召喚獣が、長刀で木下(姉)の召喚獣を盾ごと一刀両断するのを目視で確認してから、ウチは一足先に歩き出した。

「…………む? 今、何やら勘違いをされたような気配がしたのじゃが……」

                   ☆

 そして、体育館と保健室でも……


「ぐ……さ、さすが代表……」
「お見事です……!」

 霧島翔子、姫路瑞希のペアは、強化された召喚獣で数十体の敵召喚獣を一掃し、

「……急ごう、瑞希」
「はい、翔子ちゃん! あ、あの……では私達、次の仕事がありますので失礼します!」
「あ、はい。頑張ってくださいね、代表に……姫路さんも」

                   ☆

「全く……お前たちときたら……」
「あらあら、残念……負けてしまいましたね」
「へへーんだ、ボクには色仕掛けは通用しないよ。となれば……あとは普通に召喚獣勝負だもんね」
「…………耐えた……」

 ムッツリーニと工藤愛子は、工藤が小暮を、ムッツリーニが大島教諭を、という役割分担のもと、約一名出血多量に苦しみながらも敵を撃破した。

「わかった、この教室は通ることを許そう。模擬試召戦争……頑張れよ、工藤、土屋」
「はーい、ありがとうございます、大島先生(なるほどね……そういう設定で大島先生をだましてたわけだ……)」

14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) :2012/05/28(月) 07:40:29.43 ID:1U/RiEmE0
「……見事だ、吉井君……」
「はぁ……はぁ……か、勝った……!」
「くっ、やっぱりというか、てこずったな……」
 僕&雄二のコンビVS久保君。結果は……このとおり。

 吉井明久  &  坂本雄二 
 古文  199点  &  302点

     VS

 久保利光
 古文  DEAD

 死闘の中で点数だいぶ減らされたけど……どうにか勝った。さすが久保君だ。
 まあ……装備の差に、腕輪の特殊能力までかいくぐって勝ち取った戦果と思えば、上出来と言えるだろう。
 みると、久保君は……ショックではあるようだけど、ある程度予想はしていたようだ。落ちついた雰囲気でたたずんでいる。
 えっと……久保君? その……僕ら勝ったから……そこ通っていいよね?
「……ああ、もちろんだ。今すぐにでも通ってくれて構わないよ」
「よかった……じゃあ、お言葉に甘えて。行こうか雄二」
「ああ、時間もねーしな……そういうわけだ、失礼するぜ先輩方」
 と、雄二、きっちり置き土産。ったく……意地の悪い。
 にやりと悪意の籠った雄二の視線を受けて、脱落済みの常夏コンビは顔をしかめた。が……まあ、実際負けているわけだからだろう、何も言い返せずにいる。
「けっ、調子に乗るんじゃねえよ」
「さっさと行っちまえ」
 とザコ的なセリフ。
 そして、その一歩向こう側にいる根本君はというと、
「ふん……ま、せいぜい……」
「「おらあぁっ!!」」

 バキィ!! ×2

「ぐはぁっ!?」

 何か言う前に僕と雄二の拳が顔にめり込み、数メートル飛ばされて壁にたたきつけられた。
「な、何で……俺だけ……殴られ……?(ガクッ)」
 特に理由はない!
 恐らく脳震盪を起こしているんであろう、ぴくぴくと痙攣している根本君を盛大に見捨てて、僕と雄二は召喚フィールドの解除された廊下をダッシュした。


「……吉井君、僕は諦めないよ……。きっとこれは、僕がまだまだ甘い青二才だっていうことを神様が教えてくれたんだ……。だから、僕はもっと頼れる男になって……いつか君を迎えに行くから……」


 背筋に今日何度目かの寒気を感じながら。
 いやホント……これ何なんだろうね?

 ともかく……目指すはFクラスの教室だ。そこにみんないるって……貂蝉が教えてくれた。
 今度こそ……ケリをつけてやる!!
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) :2012/05/28(月) 07:41:01.97 ID:1U/RiEmE0
白装束・最終決戦編
第156話 合流とヒガミと最後の仲間
「…………っ!? これは……まさか、貂蝉が……!?」
「? どうかしたか、于吉?」
 何やら先ほどまで余裕ここに極まれりだった……于吉の様子が変わった。
 教壇の横で、何か予想外の出来事が起こったかのように……わずかではあるが、顔に焦りを浮かべている。
「まさか……このような手があるとは……!」
「おい、于吉!? どうした!? 吉井達が何かしたのか!?」
 その問いかけに答えたのは……問いかけられている于吉ではなく、玲殿だった。
 おそらく、何が起こっているのか直接把握などはしていないのだろうが……その表情には、余裕と……そして、確信が見て取れる。
「言ったでしょう? 私の弟をなめていると……」

 瞬間、

 ドゴオオォォオン!!

「「「!!?」」」
「後悔します……ってね」
 玲殿のセリフを受けながら、我々の後ろの壁が轟音とともに吹き飛び……そして、その土煙の向こうから……

「よっしゃあ! 吉井明久、ただいま到着っ!!」
「はっ、懐かしい教室だな。今更嬉しくもねェが」
「ホント……もう1度ここを見ることになるなんてね」
「まあ、そう邪険にせんでもよかろう。ワシらのホームといえばそうなのじゃ」
「…………邪険にするなら……他にいいのがいる」
「はいっ! もうここまできたら、やることは1つですっ!」
「ふふふ……ラスボス戦ってやつカナ?」
「……準備万端」

 おそらく突入直前に合流したのであろう、ご主人様達『天導衆』の全員が……おのおのの召喚獣を従えて……その姿を現した。

                     ☆

 ついに……見つけたッ!
 戦の口上の時に見かけて以来だった、自ろ装束幹部格の2人……左慈と于吉!
 ……えーと、蹴りが左慈で、メガネが于吉……だったよね、うん。
「おいこら吉井! 今何迷った!?」
「ああもう! せっかく思いだしたとこなんだから話しかけないでよバカ!」
「何だお前『思い出した』って!? くっ……こいつは相変わらず……」
 ったく……毎度毎度自分勝手な奴だ。
 ともかく……ここで会ったが百万年目だ! 左慈に于吉……覚悟しろ! この世界を終わらせたりなんか、絶対にさせないからなっ!
 目的は……あいつらの後ろにある、鏡の破壊! あれぶっ壊せば、この強制終了のプログラムも止まるんだ!
「やれやれ……つくづく予想通りにいかないものですね、あなたたちは」
「当然だ。てめえらなんかに一挙手一投足予想されてたまるかバカ」
 面倒くさそうに、しかし得意げに胸を張る雄二。次いで、手を振りかざして、後ろにいる僕らに合図を送る。
 前もって決めておいた……陣形の展開だ。迅速かつ確実に鏡を破壊するために。
 一気に半円を描くように展開し、于吉たちの目の前に立ちふさがる。その意図は、于吉たちにもあきらかだろう。そして……それを察し、僕らの乱入(壁を破壊しての)に驚いて硬直していた愛紗たちも、それぞれが武器を構えなおす。
 すると、于吉はやれやれと言った風に首を横に振り、
「やれやれ……仕方ありませんね、もう一度……彼らに頑張っていただきましょうか」
 その直後、于吉の周囲に……空間から滲みでたかのように、数人の兵士たちが姿を現した。くっ……新手か!
 まだ余剰戦力がいたとは予想外だけど、今まで愛紗たちを抑え込んでたんだし……そりゃいるか。しかし……愛紗たち相手に防衛線を張れるとなると……結構な腕前だな。
 けど、いきなり現れたっていう登場の仕方から考えて、こいつらも恐らく召喚獣のたぐいのはずだ。なら……こっちの召喚獣の攻撃も当たるはずだから、応戦でき……る……

 …………………………あれ?
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) :2012/05/28(月) 07:41:33.67 ID:1U/RiEmE0
召喚獣に指示を出そうとした瞬間、そいつらの姿が僕らの目に飛び込んできた。
 白装束かとも思ったがそうではない、しかしローブに覆面という、似たような格好をしているその兵士たちの正体とは……


「これより……異端審問会を執り行う!」
「「「愚者に裁きを!! 罪人に罰を!!」」」

「「「いやお前らかいいィィィィ!!?」」」


 濃紺のローブと目だけが開いた覆面に身を包み、手に手に鈍器を持った……懐かしき異端審問会のメンバーたちだった。
 ちょ……何で!? 何でこいつらが、しかも召喚獣としての扱いで于吉たちの所に!?
「いやはや……あなた達と応戦する際の切り札として召喚したのですが……これがまた使えるというか、持て余すというか……」
 于吉には珍しく、冷や汗なんか浮かべながらそう言ってくる。
 いや、その……人材は選ぼうよ、于吉さん!? いくらなんでも、この連中を召喚って……
 するとここで愛紗が忌々しそうに顔をゆがめ、
「ご主人様お気を付け下さい! こ奴ら……斬っても斬ってもすぐに復活するのです!」
 え? 斬ったの?
 どうやら愛紗たち、僕らがここに来るよりも前に、彼らと一戦交えてたらしい。
「はい、こやつら……『リア充滅殺!』とか『逆恨み凄惨しますッ!』とか『殺っちゃうヨー、骨の髄まで殺っちゃうヨー』などとわけのわからないことを叫びながら暴れまわりまして……さして強くはないので全員でかかって斬り伏せたのですが、次の瞬間すぐに再生するのです」
「ああ……そのようだな」
 と、コレは左慈。
 え? そのようだな、って……そういう設定にしたの君らじゃないの? 死んでも行き帰るように(っていうか、厳密には彼らは『精神』が来てるだけで、斬られても死んだことにはならないんだっけ、そういえば)。
 要するに彼らは、HP無限設定の、どれだけ攻撃されても消えない召喚獣……って扱いになってるもんだと思ったんだけど……違うのかな?
「ああいえ、設定は確かにそうしたんですがね? ただその……再生力の源というのが、精神体そのものの意思の強さというか……それが彼らは異常に強靭というか……」
「……まあ、平たく言うと……お前のこの状況(女に囲まれてハーレム状態)に嫉妬全開で、その嫉妬心のせいで俺らにとっても予想外に手がつけられん、ということだ」
 …………ああ、そういうことなの……
 なんていうか……状況はさっぱりよくなってはないけど、みんないつも通りで安心したよ。やっぱりFクラスはFクラス……


「「「吉井を殺せえええええええええっ!!!!」」」
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) :2012/05/28(月) 07:42:16.37 ID:1U/RiEmE0
 ってよくないっ! 今の……つまり、彼らの戦闘力とか再生力以前に、僕が狙われてるってことじゃないか!! ああもう、ホントいつも通り!
 ちょ……待ってよみんな! ハーレムとか異端者とかちょっと待って! 僕この世界でそんなおいしい思いしてないから! むしろ生きることにいっぱいいっぱいで大変な……ああだめだみんな目の色が変わってる!
 くっ……クラスメイト相手であんまり気が進まない(なんてこともない)けど、ここは召喚獣で応戦させてもらうしかない……!
「よっしゃあ、全員……戦闘準備!!」
「「「応!」」」

 号令とともに、みんなの召喚獣が臨戦体勢に入り、補充試験でパワーアップした召喚獣の点数が表示される。


 吉井明久  &  坂本雄二 
 古文  199点  &  302点

 島田美波  &  木下秀吉
 古文  297点  &  343点


 うん、僕と雄二だけじゃない。美波と秀吉の召喚獣も段違いにパワーアップしてるや。僕らの召喚獣は戦闘で点数を消耗してるけど、戦力としては申し分ないし。
 聞いた話、美波は清水さんを、秀吉はお姉さんを撃破してここにいる……って言ってたっけ。まあ、これならさして不思議でもない点数だろう。

 …………けど…………


 姫路瑞希  &  霧島翔子
 古文  883点  &  932点


 この2人は……ホントに凄すぎというか……。
 ま、まあ、強いに越したことはないわけだから、いいけどね、別に!
 ともかく、みんなみんな古典のおかげで段違いにバージョンアップを遂げて……


 土屋康太  &  工藤愛子
 保健体育  691点  &  520点


 あれ、この2人だけ得意科目のままなんですけど?
 ……どうやらこの2人……あれだけ勉強したにも関わらず、未だに古文より保体の方が得意らしい。どんだけだよ、君らのそっち方面の知識は……。
 と、ともかく! これで形勢逆転だ! いくらお前たちとはいえ、この最強状態の僕らの召喚獣には勝てない! 異端審問会であろうとも同じだ!
 そんな僕らの闘志を察したのだろうか、異端審問会の連中の包囲網がじりじりと狭まり始める。フン……開戦、ってわけか。
 おそらく白装束以前に、コイツらとの戦いが壮絶極まりない死闘になるだろうが……いいだろう! 不死身だろうが何だろうが、二度とこの僕を敵に回そうなんて思えないように徹底的にやってやろうじゃ……

「ちょっと待て、お前ら」

18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) :2012/05/28(月) 07:42:51.17 ID:1U/RiEmE0
…………あれ?

 出鼻をくじかれた形で……激突直前になって、なぜか雄二が割って入った。
 誰もがいよいよ戦いが始まると思っていた場面だけに、ちょっと拍子抜けだ。えーと……何?
「何だ、坂本。何か言いたいことがあるのか?」
 と、覆面集団の1人が言う。この声の感じからして……恐らく異端審問会の会長・須川くんだろう。
「減刑なら聞かないぞ? 吉井が一番の重罪ではあるが、それに加担したお前と土屋も同罪だ。女に囲まれてへらへら喜ぶなど……男の風上にも置けん!」
「「「そうだそうだ!!」」」
「「「罪には罰を!!」」」
 仲良く返すヒガミ集団。
「………………ワシはなぜ責められとらんのじゃ?」
 と、なぜか秀吉が呟いていた。……今の、秀吉が言うセリフ?
「ああ、それはもう構わん。ただ……諸君らに1つ、知っておいてもらいたいことがある」
 そう言って、雄二はなぜか携帯電話を取り出していじり始めた。何だ? また何かの時間稼ぎだろうか? この窮地を打破する作戦が?
 と思ったら、不意に雄二はその画面をこっちに向ける。えーと……何?
「これは俺が、とあるルートを経由して手に入れた……ある人物からCクラスのとある女子へ向けて発信されたメールだ」

 瞬間、

 時間が止まった。

 それと同時に……異端審問会のメンバーの一人が『びくっ』と反応したのを……僕とムッツリーニは見逃さなかった。
 ……おい、一体どういうことだコラ。
 作戦通り、とでも言いたげな雄二は、お得意の外道の笑みを浮かべて、そのメールを声も高々に読み上げる。

「えー……『こんにちは、○○さん。昨日は委員会の仕事、手伝ってもらっておりがとうございました。○○さんって何でもテキパキこなせてすごいですね。僕のクラスでも評判です。それはそうと……実は僕、商店街の福引で映画の招待券が当たったんですよ。でも、一緒に言ってくれそうな友達がいなくて……昨日のお礼ということで、よかったら一緒に行きませんか?』……とまあ、こういうことだ。ちなみに彼のいう商店街で……福引なんてもんはやっているという情報はない」

 ……………………ほほう。
 つまり……これはデートのお誘いと言うわけだ……。
 その事実を誰もが認識し、ふつふつとわき上がってくる殺気。
 その出所が、そしてその動機がわからないらしい愛紗たち。そりゃそうだ、君たちが普段出してる類の殺気とは種類も何もかも違うからね……。おそらくこの殺気を理解できるとしたら……春蘭か桂花あたりか。
 例えるならそう、腹をすかせた肉食獣の檻みたいな状態のこの部屋で……雄二が次にはなったのは、まさしくトドメの一言。

「そしてメールはこう続く。『お返事待ってます。………………近藤』」

「さらばだっ!!」

「「「殺せえっ!!」」」
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) :2012/05/28(月) 07:43:21.97 ID:1U/RiEmE0
言い終わる前に、覆面の一人が装束を脱ぎ捨てて逃げ出し、ほとんど同時に他の審問会員が反応した。
「逃がすな! 近藤に制裁を、いや処刑を下せ!」
「追撃部隊を組織しろ!」
「残った者で処刑設備を整えておけ!」
 打ち合わせもしてないのに、本場の、それこそ僕らが率いてきた軍隊と比べても遜色ないぐらいに統率のとれた動きで対処するFメンバー達。
 その様子に唖然とする愛紗たち&白装束の2人。当然だ、一体何が起こってるのかすら、彼ら彼女らにはわかっているまい。
 そんな様子を、『計画通り!』とでも言いたげな雄二は笑いながら見ている。
 さすがだ……雄二、
「ふ……ちょろい奴らめ。さて、これで俺らは……」

「逃がすか近藤君ッ!!」
「…………愚者に、裁きを」

「待て待て待て! お前らは行くな!」
 と、護身用の短刀と、スタンガンを両手に構えて突撃する僕とムッツリーニの襟首を、あわてて雄二がつかんで止めていた。何だ! 放せ雄二!
「何をするんだ雄二! これから僕たちはあの裏切り者に血の制裁を加えなければならないのに!」
「…………悪は、滅すべし」
「バカ言ってんじゃねえ! アレはあのバカ共を一掃するために俺がわざわざやったんだろボケ! お前らまで行ったら本末転倒だ! てか俺らは他にやることがあるだろ!」
「「男には時に、全てを捨ててでもやり遂げならないことがある!!」」
「今言うな今!! ていうかもっともらしく言ってるが動機が普通に最悪だ!」
 ああもうわからずや!
 まあ……そこまで言うならいいだろう。
 近藤君へのサブミッションメドレーはまた今度に回すとして……今はこいつらに生贄になってもらおうか。
「おい坂本! 吉井と土屋が明らかにさっきと目が違うぞ!?」
「は、ははは……一応聞きますが、今の一件と私たちは無関係でしょう?」
「誰かが言った」
「…………時として、人の怒りは……」

「「あたりにいる全ての悪に向けられる正義の刃となる!!」」

「カッコよく言うな! お前らそれ要するに八つ当たりだろうが!!」
「否定はしない! しないからとりあえず[ピーーー]!」
「開き直るなバカ! おい坂本お前コレ何とかしろ!! こいつら目がイッてんぞ!?」
「あーいや、これはもう別にどうでもいいというか」
「ふざけんな! 敵対するのは別にいいとしても、お前これこんな不純な怒りの中で戦うとか理不尽っつーか嫌すぎだろうが!!」
 だんだん左慈のセリフが雑になってきた気がする。
 そんな一見正当に聞こえるけどもう僕らにとってはどうでもいい抗議をさらりと流して、最終決戦を開幕しようとしたその時、

 バタァン!!

「吉井っ! 生きているか!?」

「「「!?」」」

 教室のドア(引き戸)を蹴っ飛ばして粉砕し……なんと、姿を見せたのは……

「春蘭!?」
「おお、無事だったか!」
「な、何でここに……」
「あら、ホント、やっぱりというか……しぶといわね。ホントに」

20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) :2012/05/28(月) 07:43:51.45 ID:1U/RiEmE0
 驚いていると、その後ろから……さらに華琳、秋蘭、季衣、桂花まで現れた!?
 すると同時にもう片方の扉もはじけ飛び、蓮華、思春、穏、冥琳、小蓮までもが入ってくる。その後ろからは……詠と月も。何で!? 何でいきなり全員集合!?
 何で扉を普通に開けるって言う選択肢が出てこなかったんだろう、っていう疑問はまずおいといて……考えろ……。
 この人達が全員集まった、ってことは……この人達が戦場にいなくてもよくなった、ってこと……つまり、外での戦いにケリがついたんだ! さすがみんなだ!
 と、いうことは……ここにいる人達は全員、僕らの援軍だ!!
 ちなみに袁紹がいないのは気にならない。大方、華琳に上手く言いくるめられて、戦いの後始末でもさせられてるんだろう。適材適所。
 一気に背中があったかくなったのを感じる。これでもう……左慈達がどんな手を使ってこようと、僕らが負けるいわれはない!
 おそらく、左慈達もそれを悟ったのだろう。やれやれ、とでも言いたげな表情で、首を振っている。
「やれやれ……これでは我々に、勝ち目はありませんね……」
「そういうこと。物分かりがいいじゃない、メガネ。さて……大人しくしてもらおうかしら?」
 と、華琳。
 以前に拉致られて利用されたこともある彼女の怒りたるや、推して知るべしだ。仇といってもいい于吉を前に、その声に込められた威圧感は尋常じゃない。
 そしてそれは……
「これまで、だな。潔く投降してもらおうか!」
 謀略によって国内をひっかきまわされた蓮華にも、そしてその後ろにたたずんでいる、戦友の妹と戦わせられることになった冥琳にも言えること。
 傍らには、いかにも『怒ってます!』って感じの穏と小蓮、そして今にも斬りかかりそうなほどに静謐なオーラをまとっている思春。もう、ホントに怖い。
 その状況を確認し、愛紗は……締めとばかりに、言いきった。


「左慈、于吉……この勝負、我々の勝ちだ」



 僕らにとっては待ちに待った、白装束の2人にとっては聞きたくなかった宣告が……勝ち誇った響きとともに、2−Fの教室に響いた。



 ……………………が。



「………………ふふっ」
「「「!?」」」

 なぜか……于吉は笑うことをやめない。
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) :2012/05/28(月) 07:44:36.99 ID:1U/RiEmE0
 それを不快に思ったのか、はたまた何かを感じ取ったのか、華琳が眦をつりあげる。
「……何がおかしいのかしら、BL共?」
「ちょ! 待、俺は違……」
「ふふふ……さあ、何だと思いますか?」
 左慈、完全無視。
「あなた達……まさか、いかな術を使えるとはいえ……この状況下で勝ち目があるとでも思ってるのかしら?」
「いえいえ、そんなことは……。三国の猛将たちが一堂に会しているこの局面に置いて、我々にできる反抗など微々たるもの。勝ち目など、微塵もないでしょう」
「ならばなぜ……」
 と、于吉は不敵にメガネを光らせながら……次の句を次いだ。
「勝てはしませんよ。しかし……我々にとって、この戦いは……引き分けで十分なのです」
「何!? どういうことだ!?」
 愛紗が語気を荒くして問いかける。あ、それ僕も気になる。引き分けでいいって……? 
 この面子を前にしての落ちつきようは……まあ、この2人、どこか達観してるような雰囲気というか、そんな感じのがあるから……別に負けて死ぬことが怖くないとか、そういうことだろう。それは僕でもわかる。
 でも……今の言葉の意味はちょっと微妙だ。引き分けって……何の引き分け?
 戦いそのものにおいては、僕らの完全勝利で揺るがない。となると、コレも違う。
 敵の作戦……ことごとくこっちが破った。いや、引っかかりはしたけど……召喚獣バトルも、貂蝉の協力で何とか全部勝てたし。
 その他に、引き分けになりそうな事柄っていうと……
 ……うーん……何だろう? 思い当たらないな……。
 ダメもとで英訳とか、色々してみる。引き分けは英語で……ドロー……あとは、相討ち……ステイルメイト……共倒れ…………………………ん?



 …………『共倒れ』……?



 ……………………!! まさか!!

「愛紗! 今すぐ鏡を確保……」
「もう遅いっ!」
 最悪のパターンを危惧して僕が叫んだ次の瞬間、于吉は恐れていた行動に出た。
 後ろにおいてあった『鏡』をむんずとつかみ、そのままフリスビーの要領で……なんと、開いている窓の外に投げ飛ばした!
「「「!!!!」」」

 …………や、やられた……っ!! そういうことだったのか、コイツらの余裕は……!!

 あまりのショックに、鏡が飛んでいくこの映像がスローモーションに見える。
 ここに来てから結構時間がたってるんだ。儀式という名のプログラミング……その完了まで、そう長くはかからないはず。
 そうなれば……あとは、于吉たちにとっては簡単。僕達に……鏡を壊させなければいいんだ。それだけ。方法は……問わない。

 そう、例えば……鏡を外に投げてしまって、時間内に僕らに触れさせないようにするとか……!

 そうなれば、僕らが慌てて外に出て鏡を探し出す頃には、もう完全にタイムアップ。プログラミングは遂行され、晴れてこの『外史』はデリートされる。僕らや……于吉達ごと。
 それこそ……共倒れ、『引き分け』だ。
 くそっ、こんなことが……!!
 僕らがみんな、驚愕に染まった表情で、飛んでいく鏡を見ている。

22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) :2012/05/28(月) 07:45:08.13 ID:1U/RiEmE0
嘘だろ……? さ、最後の最後で、こんな……こんな終わり方ってないだろ!

 誰もがそう思っているに違いない。しかし、その希望を否定し、鏡は飛んでいく。

 そして……ゆっくりと落下し、窓のせいで視界が狭まっている僕らの視界から消えていく。

 くっ……このスローモーション映像のせいで、余計にこの場面が残酷なものに感じられる。僕らの絶望をあざ笑うかのように、鏡はゆっくり、まるで止まってるみたいにゆっくりと落ちて行くんだ。
 それを……僕らは、悔しさをかみしめながら見送っている。そうするしかできない。
 それにしてもホントにゆっくりだ。いつまでもいつまでも、窓の淵から出て行かない。くっ……走馬灯と似たようなもんかこれは……!? 何て嫌みな演出……

 ………………ん?

 あれ、ちょ、さっきからコレ、マジでやけにゆっくり過ぎると思ってたんだけど……


 ………………ホントに止まってない?


「「「………………………………???」」」

 一同、唖然。

 気のせい……じゃない。
 ホントに、窓の外で宙に浮いて止まってるんですけど……え!? 何コレ!?
 何で、確かに投げ飛ばされたはずの鏡が、そんなとこで誰かにつかまれてるみたいに静止して……
 と、その時

「やれやれ……もう、結局出てきちゃったじゃない」

 そんな緊張感に欠ける声とともに、窓の外の……空中に、1人の女性が現れた。
 空間から滲みだすように、まるで今まで透明だったように現れたその女性は、空中浮翌遊しながらその手で鏡をしっかりとキャッチしてて……

 ………………って、


23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) :2012/05/28(月) 07:45:39.47 ID:1U/RiEmE0
「「「雪蓮!!?」」」
「はぁーい、お待たせ♪」


 窓の外で……幽霊らしく浮翌遊しながら、幽霊らしくないにこやかな笑みを浮かべている雪蓮がいた。
 え!? あんた来たの!? こんなとこまで!? どこまで自由人!?
 あ、それよりもしかして今のって……幽霊らしく透明になってた雪蓮が、気付かれないように窓の外に回り込んで、投げ飛ばされた鏡をキャッチしてくれたのか!! GJ!!
 ていうかそんなことよりそれ! あなたがキャッチしたそれその……鏡、その……
「わかってるわよ、ほら!」
 と、何もかもわかっているかのように言い、雪蓮は鏡を投げる。
 その鏡は……綺麗な放物線を描いて、僕の手の中に収まった!!
「ふふっ、あとは……あなたたちの仕事よ!」
「き、貴様……っ!!」
 と、左慈の声が聞こえ……それにつられてか、みんなが続々と正気を取り戻す。
 そして……僕が鏡を手にし、まだ破壊可能な状況にある……ということを認識し、

「「「よぉし!!!」」」

 歓声が上がる。
 それと同時に……僕も思った。


 ……………………この戦い……勝てる!!

24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) :2012/05/28(月) 07:46:10.88 ID:1U/RiEmE0
白装束・最終決戦編
第157話 バカとキセキと完全決着
 ガギィン!!

「硬ッ!?」

 渾身の力で鏡を壁にたたきつけた僕の口から洩れたのは、そんな一言。
 え、ちょ……マジで!? 雄二か鉄人を撲[ピーーー]るつもりで全力で叩きつけたのに……この鏡、ヒビ1つ入ってないんですけど!?
 いや、そういえばさっき……于吉は外に投げ飛ばしてこの鏡を避難させようとしてたんだっけ。だったら……そうじゃん。それくらいの強度はあってしかるべきだ。簡単には破壊できない……か。さすがは魔法アイテム。
 けど、それでも……希望ならまだ全然ある。于吉がこれを避難させようとしたってことは……壊せないわけじゃない、ってことなんだから!
 その于吉はというと、今の雪蓮のファインプレーに一瞬唖然としてたけど、すぐに悔しそうな顔に変わる。
 直後、もう一人の方……左慈が突っ込んできた。
「くっ……破壊されてたまるか! 吉井! それをこっちに渡……」
「明久、こっちだ!」
 と、サイドから聞こえてくる、こんなときだけ頼もしい声。おおっ、雄二!!
「ヘイ、パス雄二ッ!!」

 ぽいっ、ぱしっ!(僕 → 雄二)

「くっ……坂本……!」
「よっしゃあ! 唸れ俺のハリケーンシュート!!」
 言うやいなや、雄二はサッカーか何かでもするように鏡を蹴飛ばして教室後ろのロッカーに激突させる。
 ガゴォン、と凄まじい音がしたけど、やっぱりまだ鏡は壊れていなかった。
 しかし、僕らの攻撃はまだ終わりません。

 ひゅん、ぱしっ!(雄二 → 秀吉)

 それを受け取ったのは、今度は秀吉だ。秀吉はそれを空中に放り投げると、
「くらうのじゃ!」
「ウチもよっ!」

 ガガゴォン!!

 美波と協力して、両側から召喚獣で一撃。おお、コレは強烈だ。
 更にその後、落ちてきた鏡にもう一発入れて吹き飛ばすと、その先には……

 ぱしっ!(秀吉&美波 → 翠&鈴々)

「おっしゃあ! あたしらもやるぜっ!!」
「うにゃー! 壊すのだー!」

 ぽいっ、ガギギギギギギギギ……

 と、鈴々&翠、なんとその得物を使って、打ち飛ばして打ち返して……って要領で鏡に攻撃を与え続ける。一方の攻撃で飛んできた鏡を、もう一方がまた攻撃して打ち返して……
 まるでそう……鏡をシャトルに見立ててバドミントンでもやってるみたいだ。
 宙を舞うたびに金属音が鳴り響く。もうそろそろ壊れてもよさそうなもんだけど……

 と、

 ――――――ぴしっ

25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) :2012/05/28(月) 07:46:42.09 ID:1U/RiEmE0
「おおっ! ひび入った! ひび入ったぞご主人様!」
 ホントだ! すごい、さすが翠&鈴々!
 今まで傷一つつかなかった鏡だけど、今の攻撃の応酬には流石に耐えきれなかったのか……わずかにだけど、小さな亀裂が見て取れた。よし、その調子だ!
「くっ……させるか!」
 と、左慈が2人の方に突っ込むけど、
「へっ、やらねーよ! 恋っ!!」

 ひゅん、ぱしっ!(翠&鈴々 → 恋)

「くっ、呂布か!」
 今度は恋にパスが回る。
 恋は手に取った鏡を軽く目の前に放ると、
「………ふっ!!!」

 ガギョオォン!!!

 耳をつんざく轟音とともに、大上段に構えた方天画戟で鏡を真上から打ちすえる。
 とてつもない威力の一撃を受けた鏡は、ワンバウンドパスのバスケットボールみたいに床をはねて……

 かん、かん、かん……ぱしっ!(恋 → 春蘭)

「やりなさい、春蘭!」
「御意っ!! 行くぞ季衣! はあああああああああ―――――――――――っ!!!!」
「りょーかいですっ! やああああああああ―――――――――――っ!!!!」
 華琳の号令を受け、積年の恨み、とでも言わんばかりの春蘭の一撃が、さらにその横にいた季衣の鉄球も一緒に閃く。

 ガゴォン!! ガゴンガゴンガゴンガゴガゴガゴガゴガガガガガガ………………!!

 床にたたきつけ、そのままその上から得物の剣で滅多斬り。&滅多打ち。
 そのプロセスの中で、徐々にひびの範囲が広がってきている。いいぞ、さすが重量級!
 すると、その春蘭と季衣に、鬼の形相で左慈が迫る。どうやら……だんだん余裕が無くなってきてると見た。
「くそ、これ以上はさすがに……それを渡せっ、夏候惇!」
「ふんっ、誰が渡すか! 次は……」
「こちらです! 夏候惇将軍!」
「おうっ!」
 と、とっさに春蘭が鏡をパスした先には……

 ひゅん、ぱしっ!(春蘭 → 于吉)


 …………………………………………………………てオイ。
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) :2012/05/28(月) 07:47:12.66 ID:1U/RiEmE0
「……………………あ」

 春蘭、そんな声を上げるけども……時すでに遅し。

「「「アホ―――――――――――――ッ!!!!」」」
 全員の魂のシャウトが響き渡った。
 ちょ、何やってんのさ春蘭―ッ!! 何まんまとはめられて勢いで敵にパス出してんの!?
「しゅ・ん・ら・ん…………?」
「ひいいっ!? す、すいません華琳さまっ!!」
 スタンド使いもかくやって感じの怒気をまとう華琳。そのとてつもない覇気を前に、さっきまで鬼神のごとき勢いを見せていた春蘭は、借りてきた子猫がさらにその家の飼い犬(柴犬)にガンつけられました……って具合のハンパない震え方をしていた。
 ……ってそんなとこ気にしてる場合じゃなくて! やばいって! また于吉に鏡がまわっちゃたよ!
「于吉、どうだ!?」
「はい、銅鏡の耐久強度は……残り41%……デリート完了まで、残り78秒……少々危なかったですね……。……ですが、これならまだ間に合います!」
「よし、さっさと投げ捨てろ!」
「言われるまでもなくっ!!」
 言いながら、于吉は窓の方を振り返る。やばい……外に投げ捨てる気だ!
 しかも、雪蓮がキーパーとしてスタンバってる窓とは別の窓……まずい、何とかして止めないと! でもどうやって!?
 横目で見ると、紫苑と秋蘭が弓を構えようとしてるけど……間に合わないだろう。よしんば間に合ったとしても、左慈が盾になる可能性もある。確実とはいえない。
 どうすれば………………………………!

 その瞬間、

 僕と雄二の目が合い、瞬時にアイコンタクトが交わされる。

 ……どうやら……考えていることが同じのようだ。
 そうだ……この状況下、于吉を止められるとしたら……この作戦しかないっ!
 確信すると同時に、僕と雄二は走る。

 于吉でなく………………左慈のいる方に。


「これで終わり……」
「「于吉っ! これを見ろッ!!」」
「む……!?」


 ばっ!   ← 鏡を投げようと振りかぶる于吉


 ずるっ!  ← 僕と雄二が左慈のズボンを脱がす音


 ぴたっっ!  ← 于吉フリーズ & ガン見


「「「………………………………」」」

「隙ありッ!!」


 ばしっ!   ← 思春、凄まじい速さで鏡を奪取


 …………よし、成功。

27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) :2012/05/28(月) 07:47:42.80 ID:1U/RiEmE0
「…………おや?」
「『おや?』じゃねえこのホモメガネがぁ―――――――――――――ッ!!!」

 血の涙を流しそうな勢いで叫ぶ、どこか悲しげな左慈のシャウトが疑似2−Fに響く。
 なんか色々と左慈に申し訳ない作戦だったけど、とにかく今は無視して鏡の方を追おう。
 さっきのセリフから……時間的余裕も残り少ないことが分かったんだから。さっき78秒だから……今はだいたい、残り1分くらいかっ!?
 奪還に成功した思春はひとしきり剣で滅多打ちにした後、それを放り投げ……鏡は…………よし、真打だっ!!

 ひゅるるるるる…………(思春 → 姫路さん&霧島さん&工藤さん)

「行きますっ! えい――――――っ!!」
「……斬る」
「ボクもいくよーっ!!」

 キュボッ!!  ギュリィッ!!  ドガゴオォォオン!!

 立て続けに炸裂する、姫路さんの熱線、霧島さんの真空波、工藤さんの電撃斬り。
 凄まじい衝撃に、鏡の表面はついにひびでいっぱいになった。あと、およそ40秒くらい……よし……行ける!!
 攻撃の衝撃で鏡は再び宙を舞い……よっしゃあ、僕らの所へ来たっ!!
 それを見て、左慈も僕らの方へ走ってくる。憤怒の形相(怒りの1割くらいは于吉に向けられてるだろうけど)まさにクライマックスにふさわしい演出だけど……
「くそっ、もうよせお前達! それ以上は本当に鏡が……」
「左慈! 何か言うのは構わないけどその前にズボンをはけ!」
「脱がしたのテメーらだろうが! っていうかはいてる時間がもったいねーンだよ!!」
「いや、それはそうだけど……」
 あんたがその恰好(下半身パンツのみ)でいる限り、何をしてもシリアスさが微塵も感じられなくなっちゃうから……地震に驚いてトイレから慌てて出てきたみたいになってるし……そのせいで走り方とか超面白いし……何気に泣きそうだし……
 ていうかコレ、はたから見たら完全にいじめの現場だよね?
 と、そんな僕らのやり取りを世代に無視して、

「おらァッ! 砕け散れぇっ!!」

 ガゴォン!!

 雄二の召喚獣の拳が鏡に叩きこまれる。すごい音がしたけど……まだ壊れない。
 そして次に、

「…………砕けろ……!」

 ムッツリーニの超高速斬撃……と思ったら、なんと召喚獣が構えたカメラ(装備?)のレンズ部分から、ピンク色の破壊光線が出た!? おお、アニメ版『バカテス』仕様だ。
 流石は最終決戦、補充試験でパワーアップできたり、雪蓮が出てきたり、色々と大判振る舞いだなあ。
 残り30秒。直撃のレーザーで軌道がそれた鏡は、今度は僕の方に飛んできて……

「ハァーッハッハッハッ!!! 闇に呑まれろ、『アイン・ソフ・アウル』――――ッ!!!」

 振りかぶり、振りぬかれた僕の召喚獣の木刀からは、巨大な漆黒の弾丸が放たれ……そのまま鏡を粉砕し……

「いや、それはさすがに無理あるじゃろ。最終決戦でも」

28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) :2012/05/28(月) 07:48:09.19 ID:1U/RiEmE0
 …………だめか。『中の人』つながりで行けると思ったんだけど。
 ん? 『中の人』って何かって? ググれ。
 ともかく、秘奥義はボツくらったんで、普通にガギィン、と木刀で一撃入れさせてもらって……残り20秒。
 そしてその後鏡は……

 ひゅるるるるる…………(僕ら → 愛紗)

 先ほどから静かに力をためていた……文月軍最古参の大将軍のもとへ飛んで行った。
「くっ……もうよせ……っ!」
 左慈の叫びも、おそらく……愛紗には、聞こえてすらいないことだろう。
 飛んで来る鏡を視界にとらえると、愛紗は『青竜偃月刀』を振りかぶり……呼吸を整える。
「……この世界で……私はご主人様に出会うことができた……。戦いの中で、色々なことを学び……仲間を作り……大切なものを守る力を手に入れた……!」
 かっ、と目を見開いて、
「だから……その世界を、その歴史を、思い出を……貴様らに否定させはしない! 今、目の前にある現実のために……大切なものを守るために、私は戦う!! 食らえっ!!!」
 目の前に飛んできた鏡に……渾身の一撃を叩きこんだ。

 ゴガアアァァン!!!

 鏡の周りについていた装飾がはじけ飛び、鏡本体がむき出しになる。
 でも……まだ壊れない! もうひと押しっ!!
 その鏡は……最後の最後に、また僕の所に飛んできた!
 残り10秒……ってことは……これが最後の一撃だっ! ここで……確実に破壊する!!
「もうよせ吉井ッ!」
 鏡をはさんで向こうから、左慈が懇願にも聞こえる怒声を飛ばしてくる。
「何の意味がある!? こんな……こんなハリボテの、偽物の世界を守ったところで……誰に得があるんだ!? お前は……ただむやみに正史の混乱を招くことをやっているだけだと、この戦いにもともと何の意味もなかったのだと、なぜ気付かない!?」
「だぁーもう、うるさいっ! ゴチャゴチャ言うな! 何言ってるかわかんないしっ!!」
「なっ…………」
 聞き流しつつ反論しながら僕は全身全霊を召喚獣に込める。

 するとその時……奇跡が起きた。

 おそらくこれも、『最終決戦』という名目で起こりうるチート的急成長の一つなんだろう。
 正真正銘最後の一撃を叩きこもうとしている僕の召喚獣の体が、光に包まれる。
 それが治まった時、僕の召喚獣の武器は、木刀ではなく……


 …………愛紗のそれと同じ、龍の装飾をもつ長刀……『青竜偃月刀』に、その姿を変えていた。


 はは……こりゃいいや、トドメの一撃には……この物語のクライマックスには、ぴったりの演出
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) :2012/05/28(月) 07:49:12.42 ID:1U/RiEmE0
「「「行けぇ――――――――――ッ!!!!!!」」」
 みんなからの声援を受け、それを胸に、僕の召喚獣は跳んだ。
 正真正銘、最後の最後。
 アニメとかだと、多分テーマソングとか流れてるんであろうこの状況で……僕と召喚獣のボルテージはピークに達した。
 飛んで来る鏡を真ッ正面に見据え、新たな武器である『青竜偃月刀』を……僕がこの世界で今まで頑張ってきた証とも言えるその武器を、大上段に振りかぶる。
「吉井……お前っ! これだけ言っても理解しないのか! この大バカがぁ―――っ!!!!」
「何を今更! そうだよ、僕はバカだ! そんな小難しい理屈なんか理解しようとしないし理解できない! でも……自分の意見くらいはきっちり持ってるつもりだッ!!」
 ここに来るまでに、その類のことなら散々悩んだ! それで……考えても考えてもわからなかった!
 当然だ、一介の高校生に……そんなデカイ悩みを解決しろって方が無理なんだから!
 だったら、やることは1つ……やりたいように、後悔のないようにやる! それだけだ!!




「だあぁぁああらっっっっしゃあああぁぁああ――――――――っ!!!!!!」




 ガシャアアァァアン!!!!




 断末魔にも似た轟音とともに、

 ……………………僕の召喚獣が叩きつけた青竜偃月刀は……鏡を真ん中から真っ二つに粉砕した。


 直後


 世界は―――――そこからあふれ出た光に包まれ、

 僕たちは……一瞬で意識を失った。
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) :2012/05/28(月) 07:50:21.53 ID:1U/RiEmE0
終幕編
第158話 帰還と安堵と前途多難

「…………ん……?」

 なんともいえない倦怠感の中で、私は意識を取り戻した。
 体が……重い。まるで、鉛の重りを全身に付けられているかのようだ。いや、その程度なら私は動けるから、もっと何か……まてまて、そんな比喩対象を模索している時ではないな。
 そもそも私は一体……

『……しゃ……愛紗……!』

 ……?
 空耳か……? 今、鈴々の声が聞こえたような気が……
 体を包むふわふわとした感覚のせいで、それが何なのか……考えるだけの余裕がない。
 ……空耳、か?

『おい、どうすんだよ!? あ、愛紗……目、覚まさないぞ!?』
『落ち着け馬超! 眠っているだけだ!』
『だが夏候惇……確かに変だ。関羽ならば、何か物音がした時点で、即座に飛び起きてもいいはずだ。しかし、こうまで……』
『そ、そんな、愛紗ぁ……』
『でぇーい周瑜! 不安になるようなセリフを吐くな! 鈴々と馬超が泣く!』
『あ、あたしは泣かねーよ!』

 なんだ……さっきから騒がしいな……
 幻聴の類だろうが、鈴々、春蘭、翠、周瑜の声がぎゃーぎゃーと聞こえて落ち着かない。全く……人の夢の中でまで迷惑な奴らだ……。

『ふふ……ここは私の出番ね。4人とも、下がりなさい』
『曹操?』
『華琳さま! 何か策がおありに!?』
『ええ、さっき……玲から対処法を聞いてきたわ』

 ん?
 曹操までいるのか? 全く……

『眠り姫を起こすにはなんと言っても愛するものの口付けが特効薬だそうよ。ちなみに、する側される側の性別や関係は問わないとも言っていたわ。というわけで関羽……』

「敵襲ッ!!?」

 がばっ!!   ←  顔面をガードしつつ飛び起きる愛紗

 な、何だ今の物騒な会話は!?
 夢うつつの感覚の中だが、なぜかじっとしていると私の大切な何かが奪われそうな感覚があったために、急激に意識が覚醒した。
 それだけなのに息が荒い私が、警戒しつつあたりを見回すと、

「「「……………………」」」

 そこには……唖然としてこっちを見返してくる、鈴々以下、さっき聞こえた声の主が全員いた。
 そして、
「うわーん、愛紗―――――っ!!」
「起きるの遅いんだよバカぁ!!」
「ごフッ!?」
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) :2012/05/28(月) 07:50:52.56 ID:1U/RiEmE0
 寝起きの私に対して一切の配慮なく飛びついてきた。り、鈴々……頭がみぞおちに……息が詰まるからよせ……っ!
 いつもならどうということは無いのだが、寝起きでまだ体が本調子でない時にこれはさすがにきつい。輪が妹ながら、いつまでも加減というものを覚えん。
 というか……寝起き?
 寝起きなのに、なぜ……鈴々や翠はともかく、曹操や周瑜や春蘭が……

 と、そこまで考えて……全てを思い出した。

「ご主人様っ!? ご、ご主人様は……!」
 と、焦燥を隠そうともせずに叫んでしまった。
 そうだっ! 白装束との戦いで……ご主人様が放った改心の一撃で、鏡が砕けて……そこから記憶が無い。一体……あの後どうなった!?
 あせりながら周りを見回して……ここで初めて……私は、自分がいたそこが、見覚えの無い場所であることに気付く。

「……ここは……?」

 ……どこだ一体? まったく、見覚えが無い……。

 天井や壁は、土か木で作られていると見えるが……城、ではないな。
 相当に広い部屋だ。城……というには小規模かもしれないが、名だたる豪商の御殿でもこうはいくまい。無論……あの『泰山の神殿』とも……違う場所だとわかる。
 そして、場所以上に不自然なのは……見たことも無いものが、部屋の中に多いことだ。
 まず、床……これは何だ? 触ってみるが……木でも石でも土でもない……いや、見た目は木だが……この異常なまでの滑らかさは……そうだ、左慈たちとの最終決戦で行った、あの場所の床に似た感じがしなくも無い。場所は……違うが。
 家具などの類もそうだ。何に使うのかわからないものが随所にある。
 本棚……はまだわかるが……右を見れば、黒い、やけに薄くて上下に広い箱があり……左手に見える机の上には、似たような形の白いそれが、今度は大き目の普通の(?)形の箱を隣に伴ってある。……飾り物か? 風水か?
 そのほかにも、訳のわからないものが数多くあり……語りつくすのは、不可能だ。
 このようなわけのわからぬ類をつかさどるとすると、白装束なのだが……我々は白装束にとらわれた身で、ここは奴らのねぐら……ということもないだろう、こやつらのこの落ち着きようを見るに。
 いったい、ここは何なのだ……?
 と、その時、
「お、眠り姫がお目覚めか」
 と……部屋の扉を開けて、今度は星が入ってきたが………………!!?
「……星……なんだ、その服は!?」
 目の前で扉を閉める星は、見たことも無い装束に身を包んでいた。
 全体的にふわふわとした……こう、何だ、汗をよく吸い取ってくれそうな服だな。着心地は……まあ、よさそうだが。
 そこに星はさらに、何やら酒と思しき液体が入った、特徴的な形の……あれはたしか、玲殿が天の国から持ち込んでいた……わいんぐらす、といったか? それを、無駄に優雅に手に持っていた。
「ああ、貸してくれると言うので、着てみた。似合うか?」
 ……なんだこの状況は?
 意味がわからんぞ、いろいろと。
 というか、借りたとは……誰にだ? いやそもそも、ここは一体どこ……
「ふむ……まずは現状把握が大事だな。とりあえず……愛紗よ、主に説明してもらいに行くとしよう」
「! せ、星!? ご主人様がいるのか!? 無事なのか!?」
 その事実に、私は飛び起きた。
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) :2012/05/28(月) 07:51:22.39 ID:1U/RiEmE0
「ああ、隣の部屋で……というかいるも何も、ここは主たちの……」
 聞くやいなや、私は駆け出していた。
 まだ何か言っている星をおしのけ、隣の部屋の扉を開ける。
 廊下に出ると、またしても全く見覚えの無い景色が目の前に広がったが、気にならなかった。一刻も早くご主人様の……そのご無事なお顔を確認するために……!
 そして、扉を開けたその先に広がっていた光景とは……

「ご主人様っ! ご無事…………で?」


 ……………………?


 そこには……剣呑な雰囲気でにらみ合っている……ご主人様と坂本殿がいた。
 私が入ってきたことにも、気付いていないようだが……コレは一体何事だ?
 2人とも、微動だにせず、なにやら円筒状の入れ物のような何かを手に持って、静かに時を待っている。
 そして刹那、

「くたばれ雄二っ!!」
「[ピーーー]明久っ!!」

 しゃかしゃかしゃかしゃか!!  ←  2人が全力でコーラの缶を振る音

 ぶしゅううううううううっ!!  ←  発射

 ばたばたばたばたばたっ!!  ←  2人が目を押さえてもだえ苦しむ音

「「目がああああああああああああっ!!?」」

 ……何を見ているのだ、私は……?
「ったく……昨日の今日だってのに、元気ねあんたたち」
 と、いつの間にか私の後ろに立っていた島田殿が呆れていた。

「雄二貴様! 何だっていつもいつも僕にはダイエットコーラを買って来るんだ!」
「黙れ明久、健康に気を使ってやってるんだろうが!」
「うそつけ! 大方じゃんけんで負けて買出しに生かされた腹いせに、僕にカロリーを取らせない気だろ! 小さい男め!」
「何だと!」
「やるか!」

 ……ええと、そろそろ本当に説明願えないだろうか……
 ここは……いや、この状況は……一体何なんだ?
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) :2012/05/28(月) 07:51:53.26 ID:1U/RiEmE0
「こ、ここはそうすると……天の世界なのですかっ!?」

 うん、予想どおりのリアクションだ。
 愛紗が言ったとおり……ここは、そう……僕らがもといた世界なんだ。
 いや、説明が急すぎる、ってのも、意味がわかんない……ってのも、わかるよ? わかるけど……そう説明するしかないんだ。

 そもそも、あの後何が起こったかというと、

 鏡から放たれた光に包まれた僕らは……気がつくと、もといたところにいた。
 具体的には……そう、あの世界にくる直前、姫路さんのサンドイッチを完食した……文月学園の屋上に。
 気がついた僕は、雄二たちなんかも一緒にいることに気付いて……

 ……で、僕らの周りに愛紗や鈴々、華琳や蓮華なんかも全員倒れてたからさあ大変。

 屋上だから誰か来る心配はほとんど無いだろうけど……こんな状況を見られたら異端審問会の標的にされかね……もとい、学校ぐるみで大騒ぎになりかねない。
 ましてや、全員がすっごくかわいい見た目の美少女で、コスプレにしか見えない服装で、おまけにほぼ全員本物の武器を携えてるんだから……下手すると警察沙汰だ。
 あどけない寝顔で寝息を立ててる彼女達に対して湧き上がる煩悩を抑えつつ、携帯で姫路さんたちに救援を要請。
 で、そのあと全員を起こして……どうにか非常階段とか色々使って、見つからないように学校を出た。そこでは、姉さんがまたすごい大きさの車(ほぼバス)を用意して待っててくれた。……どうやって用意したんだろう、あれ?
 疲労が溜まってたのか、愛紗だけは起きなかったから……春蘭と翠が肩を貸して担いできた。
 そのあと、霧島さんの厚意で、彼女の家(広いし)にお邪魔させてもらって……今に至る。つまり、ここは霧島さんの家。

 ひとまず、騒ぎになる前に事態を収束できたわけだけど……問題はこれからだよね。

 と、いうわけで、僕ら『天導衆』に、この世界に来た向こうの世界出身の女の子全員が一同に会し、貂蝉から補足説明をうけつつ、今後どうするかを話し合っていた。
「なるほどね……ひとまず、この世界が、今までいた世界とはまったくことなるそれだ……ということはわかったわ」
 と、貂蝉が絶対に見えない位置と角度で座っている華琳。
 まあ、その姿勢はいつものことだから気にしないとしても……それを除いても、華琳の表情は神妙なものだ。無理も無い、いきなり知らない世界に飛ばされたんだから。
 それを過去に体験している僕らには、その心中がはっきりわかると言うものだ。
 それよりも……状況を理解した所で、これからどうするか……考えなきゃだよな……。
「しゃきっとしなさいよご主人様! 今度はこの世界で、あなたについてきてくれる女の子達を引っ張っていかなきゃならないんだからぁ!」
 ばしんっ、と背中を叩いて叱咤激励(?)してくる貂蝉。
 いや、そんなに簡単に言われても……

 …………いや、それもそうなのか。

 この世界にみんなで来たんだから……今度は、みんなでこの世界で生きていくことを考えなきゃならないのか。
 やれやれ、不測の事態が続いたせいで、すっかり何が起きても驚かなくなっちゃったな、僕。こんな時……今までの僕じゃ、パニクって考えられないのに。
 見ると、どうやら雄二も……同じことを考えたようだ。
「ま……そういうことみてーだな。ともかく今は、これから……この世界でどうやっていくか、ってことを話し合うべきだ」
 そういいつつも、雄二の顔には不安の色は感じられない。
 きっと……僕と同じことを考えてるんだろう。

 違う世界に飛ばされるなんて、とんでもなく大変な事態だ。
 そんな、今までの常識を根本から否定されるような非常識的現象……巻き込まれたら、普通の人なら、それだけでおかしくなってもおかしくない。
 でも……大丈夫だろう。

 だって……みんなと一緒なんだから。

 これまでだって……何度も何度も、絶体絶命のピンチに立たされてきた。

 でも、そのたびに……みんなと力をあわせて、乗り超えてきたんだから。

 見れば、みんなも……そういう目で僕を見返してくれている。うん……この場に、そういう話は入らないみたいだ。

 みんな……思いは1つ。力をあわせて……この世界で一緒に生きていこう……!


 そう、ここから……これから、僕らの新たな物語が始まるんだ(ガシャン)。
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) :2012/05/28(月) 07:52:19.43 ID:1U/RiEmE0
この現実世界で、みんなと(パリン)生きていく、新たな世界……(ガシャン)僕らが次に目指(ドシャン)して、次に何を手に入れるのかは(ドサドサドサ)わからないけど、きっと僕らの(グワシャン)ちょっとまった。


 何でさっきからちょくちょく何か物騒な音が割り込んでくるんだ?

「ってぇーっ!? りりりりり鈴々!? 何やってんのさっきから!?」
「んにゃ!? ちょうどよかった、お兄ちゃん手伝って! この箱、中に何が入ってるのかわかんないんだけど……全然開かないのだ!」
 そう言っている鈴々があけようとしている『箱』っていうのは……ちょっと!!
「鈴々それテレビ! 箱じゃなくてテレビだから! あけなくていいっていうか開けないで! 開けるものじゃないんだから……ちょ、だから季衣も加わらないで!」
 今度は季衣まで加わってテレビを左右から引っ張ってて「「んぎぎぎぎぎぎぎ……」」だめだって、それ元々開かないの! っていうか壊れたら大変だから放してってば! てかそれ霧島さんの!
 ていうか、よくよく見れば……さっきから鈴々、気になるものに手当たり次第にさわっていじくってたと見える。そこら中にいろんなものが散乱してた。さ、さっきの音はコレだったのか……
 と、ともかく2人を止めないと……ほんとにテレビが壊れかねない。精密機械なんだから、ただでさえ力が強い+大雑把な君たちが下手なことしたら悲惨なことに……
 そ、そこに掛け算式にやばいのが加わった。
「季衣、どけ、私があける」
「あ、春蘭様!」
「春蘭お姉ちゃん、でもこれ、けっこうかたくて……中で『ミシ』と『パキ』とかいってるし、変なのだ。全然開かない」
「全く……季衣、鈴々。いいか……私は常日頃から言っているだろうが」
 ちょ、頼むから変なこと言わないでよ?
「箱というのはだな、中に見られたくないものが入っている場合、鍵をかけるものだ。つまり、なかなか開かないこの箱には、誰かの見られたくない何かが入っているのだ。つまりだな……」
「「うんうん」」
 そ、そうそう、もうそれでいいから、それ以上……
「そういう時は、意地でも、壊してでもこじ開けろ、ということだ!」
「どうしてそうなる(ドゴシャァアン!!)ああぁぁあ――――っ!! ちょ、春蘭―――!!」
 霧島さんの家のテレビが春蘭の剣で真っ二つにぃ―――っ!?
「? 何だコレは? 何やら訳のわからんものが色々と……大したものは入っていないではないか」
「そりゃそうでしょテレビなんだから! ごめんね霧島さん! こんな……」
「……いい。中古だし、まだいっぱいあるから」
 と、霧島さんの寛大なお言葉。うう……ありがたい……
 そのありがたみをこれっぽっちもわかってないんであろう暴走3人娘は、テレビ(だったもの)の中からいろんなパーツを引っ張り出して首をかしげていた。
 そこにいたって……僕は致命的なことを思い出す。
 そうだ、当たり前のことだけど……
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) :2012/05/28(月) 07:52:54.26 ID:1U/RiEmE0
愛紗たちは、この世界での普通の『常識』ってもの知らないんだ……っ!!



 とか思ってるそばから、
「ちょ、星さん!? そ、それってお酒じゃ……」
「? そうだが……何か問題でも、島田殿?」
 と、ソファに座って……なぜかバスローブでワイングラスにワインをついで貴婦人風にくつろいでいる星が目に入った。
 そうだ、これもだ!
 この世界では20歳未満は飲酒ダメだってことを教えないと! 自販機とかでお酒普通に買って警察に補導されかねない! っていうか、自販機の使い方も教えないと!
 幸いここは家の中だから誰にも見られる心配は無いけど……それでも、これは早めに何とかしなきゃいけない問題だろう……なんてことを、もう酒盛り始めちゃってる人たち(メンバー:星、貂蝉、小蓮、雪蓮、恋、霞)を見ながら思いつく。『来ちゃった記念』とかなんとか、不謹慎な単語が聞こえた気がするけど……。
 しかし、明らかにまだ小学生か中学生って感じの小蓮まで普通に飲んでるこの光景……PTAとか教育倫理委員とかが見たら卒倒するんじゃなかろうか。
 ……ってアレ!? 雪蓮!? 一緒に来て……っていうか生き返ってる!?
「やっほー! 明久、このビールってのおいしいわね!」
 そう言って雪蓮、ビールを一気飲み(ジョッキで)。違和感が! 違和感が無い!
 なんの不思議さも交えずに酒盛りに溶け込んでいる雪蓮。死を知っている妹の小蓮ですら、この光景を不思議に思ってない……恐るべき環境適応力だ。馴染みすぎ。
 そうこうしてるそばから、さらにほっとけないことが起ころうとしていた。

「ちょっ、愛紗!? どこ行こうとしてるの!?」
「? ええ、この屋敷が安全かどうかわかりませんので……見回りに」

 そう、そして……青竜偃月刀持参で。

「だめだって愛紗! そんなもの持ってっちゃ!」
「何を言っているのです? これは、不審者を撃退するのに必要でしょう?」
 いや、それ持ってると明らかに君のほうが不審者になっちゃうんです!
 ていうか、この世界には銃刀法ってものがあって! それ持ってるとそれだけで犯罪だからお願い何とかそれは……まてよ?
 さっきの酒盛りの酒……どこから調達してきたんだ? ま、まさか……武器装備して誰かが買いに行ったんじゃ……!? ど、どうしよう見られてたらっ!?
「大丈夫よご主人様ぁ! このお酒は、私が買ってきたものだからねっ!」
 と、貂蝉。
 ほっ……よかった……貂蝉は特に武器も持ってないし、外に出る分にも……ってよくないわ! お前が行くと銃刀法違反の変わりにわいせつ物陳列で捕まるだろ!
「大丈夫よぅ、この上に1枚コート着て行ったから!」
「ギリギリだよ! そういう雰囲気の犯罪ケースってあるし!」
 仮に職務質問でもされた場合、露出狂と思われても弁明は不可能だろう。

 そうこうしてると……今度は春蘭が口を開いて、

「ところで吉井、聞きたいことがあるのだが?」
「今度は何……?」
 パソコンを手に『開かないのだが』とか無しだからね?
 見ると春蘭は、珍しく真剣そうな顔になって……
「この天の国で、一番偉いやつというのは……誰だ?」
 何いきなり?
 えっと……なんか嫌な予感がするんだけど……
 僕が答えるのを渋っていると、横から工藤さんが出てきて、
「んー……そりゃ、総理大臣じゃないカナ?」
「『そうりだいじん』? そいつがこの国で一番偉いのか?」
「まあ、少なくとも……権力が集中してる、って意味で言えば、そうかもな。んで夏候惇、それがどうかしたのか?」
 と、雄二。
 すると春蘭は、そうか、と言うと、横に座っていた華琳に向き直り、
「華琳様! これより夏候元嬢、『そうりだいじん』を討ち取りに行ってまいります!」
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) :2012/05/28(月) 07:53:26.28 ID:1U/RiEmE0
「何言い出すの!?」
 いきなり暗殺予告!? っていうかむしろテロ予告!?
 何だってそんな物騒なことを言い出すのか尋ねようかと思ったら、向こうから話してくれた。
「知れたこと! 聞けば吉井、この国ではお前も普通の一般市民なのだろう? しかし……華琳様は一般市民などでとどまっているようなお方ではない! かならずやこの国の頂点に立ち、全てを征服するべき器をもつお方なのだ!」
 来たそばからこの世界で戦争始める気か君は!?
 と、それが伝染した……ってわけじゃないんだろうけど、よりによって愛紗もそれに反応し始めた。
「待て春蘭! それは我らが主である明久様とて同じだ! 抜け駆けはさせんぞ!」
「ふっ、だろうな愛紗。だが……これも華琳様のため、譲らんぞ」
「いいだろう……ならば! 私こそが先にその『そうりだいじん』を討ち取り、その位をご主人様にささげてみせる!」
「のぞむところだ!」
「お願いだからそういう雰囲気作らないで! 殺したから勝ちとか、そういう理屈で成り立ってる世界じゃないからここ!」
 そして、僕がテロ未遂の2人をとめてる間にも、

「きゃぁっ!? な、何の音!?」
「蓮華様!? おのれ敵の間者かっ!?」

 ガシャアン!

 ハト時計のアラームに蓮華が驚いて、それを誤解した思春が時計を両断してたり、

「れ、恋さん! そ、そのケーキの下の紙は食べなくていいんですよ!?」
「………味がしないと思った」
「だ……大丈夫なの?」

 恋がケーキを、下に敷いてある薄い紙や銀のアルミホイルごと食べてるのをあわてて姫路さんと美波が止めてたり、
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) :2012/05/28(月) 07:53:58.28 ID:1U/RiEmE0
「ねー翠、こんなもの見つけたんだけど……何だろ?」
「でっけーなー……何かの置物かなんかか?」
「ちょ……お主ら、仏壇を持ち運ぶな! 罰当たりじゃぞ!」

 観音開きの黒光りする仏壇(with位牌、遺影etc)を頭の上に抱えた鈴々が廊下を闊歩して、秀吉があわててたり、

「冥琳様―! 近くの池で鯉を釣ってきましたよー! 今晩のおかずにどうですかねー?」
「ほう、そうか……しかし、随分と派手なのを釣ってきたな……」
「ちょ、他人んちの池で釣りすんなよお前ら」

 穏が霧島さんの家の庭から釣ってきた錦鯉を得意げに冥琳に見せて、雄二が呆れてたり、

 …………か、カオスだ…………。

 幼稚園児以下の常識しかないこの面々の厄介さをあらためて肌で感じる。

 まず彼女達に必要なのは、小学校への入学手続き書類じゃないか、という懸念が頭の中に浮かぶ、今日この頃であった。

 こんな調子で、ほんとにこの先どうなるんだろう……!?

38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) :2012/05/28(月) 07:54:37.94 ID:1U/RiEmE0
終幕編
最終話 バカと恋姫と大団円


 結論から言うと、
 みんなそろって、文月学園に入ることになりました。


 しかも……Fクラスに。


 当然だよね、だって……字、知らないんだもん。向こうに来たときの僕らと同じで。

 編入手続きとかはこっちで、姉さんとかの手も借りてまとめてやったんだけど……さすがに振り分け試験で点数が取れないのは仕方ない。
 そんな中でも、朱里と華琳は雄二(クラス代表)に迫るくらいの点数を取ったらしいんだけど……どこまで学習能力すごいんだ彼女らは。
 ともかく、夏休みの残りの期間、霧島さんの家で僕ら文月メンバー総出でみんなに一般常識を叩き込ん で、どうにかやっていけるようにした。


 そして……夏休み明けの、ある日の光景。



「ごしゅ……じゃなかった、あ、明久くん! お、起きてください、じゅじゅじゅ、授業始まりますよ?」
「んぁ……ありがと、朱里……」


 卓袱台に突っ伏して寝てた僕が目を覚ますと……
 そこには……Fクラスの教室で、文月の制服に身を包み……仲良く僕を見返してくる、みんなの姿があった。

 ははは、いやなんとも、不思議な光景だ。

 つい1ヶ月前まで男子96%だった教室に、今は20人近くの女の子。
 『通っていた学校の廃校による集団転校』っていう事情(大嘘)で彼女達が教室に入ってきた時には、Fクラスのみんなは狂喜乱舞して喜んでいた。右を見ればブレイクダンス、左を見ればリンボーダンス、後ろを見ればカズダンス。……ったく、情けない。
 結果として……Fクラスの人数が一気に増えて、70人ほどになってしまったために、試召戦争におけるパワーバランスがおかしくなっている。なので、夏休み明け間もなくして解禁されるはずだった試召戦争はまた延期になった。
 まあでも……その間に華琳とかにしっかり勉強してもらえば、Aクラス級の戦力になるかもだし……前向きに考えよう。


 ところで、この世界……僕らが来る前の文月学園とは、色々と違う部分がある。
 まあ、彼女達が色々なポジションで入ってきたから……っていうのもあるんだけど、まとめて説明しよう。

 まず、名前。
 愛紗たちは、ここに来る前の『関羽』とか『張飛』とか『曹操』とか、そういう名前を普通に使ってたけど……それに関して誰も不思議に思ったりしない。
 しかも、全員きちんと『真名』の意味まで把握していたため、うっかり華琳の真名を呼んで春蘭に首の骨を折られる、なんてこともなかった。ここ、マジで安心。
 ご都合主義……としか思えないんだけど、まあいいか。

39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) :2012/05/28(月) 07:55:58.83 ID:1U/RiEmE0
次、みんなのポジション。
 ほとんどはみんな、Fクラスの生徒として入ってきたけど……一部は違う。
 まず、璃々ちゃん。さすがに高校は無理があるってレベルの話じゃないので、璃々ちゃんは小学校だ。同年代の子達と一緒に、仲良く勉強していくことだろう。
 次、紫苑と冥琳、そして雪蓮。言っちゃ悪いけど、高校生には見えないので(大学生なら十分通じると思うけど)、3人のポジションは……先生だ。
 紫苑はこの文月学園の養護教諭、冥琳は古典教師、雪蓮は体育教師。3人とも、得意分野で遺憾なく実力を振るってくれている。教員免許とかどうするんだろうと思ったんだけど、貂蝉が学歴とかと一緒に偽造してくれた。……文句あるか。
 そしてその貂蝉は、『学校医』として紫苑と一緒に保健室を守っている。……紫苑みたいな色っぽい先生が来たにも関わらず、保健室の利用客が急増しないのは……美少年を虎視眈々とねらっているこいつがセットで待っているからだというのは、言うまでも無い。
 ……ところで、
 姉妹のはずの小蓮と蓮華が一緒の学年になるのは変な気がするんだけど……そこは貂蝉が何かしたらしい。まあ……だだこねられるよりか、その方がいいけど。

 と、そんなことを考えていた僕の耳に……そんなにぎやかな三国志ガールズの陽気な声が、今日も飛び込んでくる。



「にゃはー! コレおいしーのだー!」
「お、鈴々、お前の弁当のから揚げ上手そうだな、交換しようぜ?」
「いいよ? じゃ、翠の焼き魚もちょーだい?」
「あ、おチビ! 僕のしょうが焼きとも!」
「………美味しそう」
「オイオイお前ら、なんつー早弁だよ」
 雄二が呆れるそばで、鈴々と翠と季衣と恋はさっそく弁当のおかずの交換……っておい、早弁ってレベルじゃないぞそれ。まだ1時間目始まってないのに。
「いいのいいの、鈴々たちはお弁当4つ持ってるから」
「もって来すぎだっつの。全く……とりあえず鈴々、俺のスコッチエッグとそのから揚げを1つ交換しろ」
 お前もかよ。

そしてこっちでは、



 がらがらがら

「うぃーす、おはよーさん」

「何だ霞、また貴様は遅刻寸前か?」
「全くもう……少し時間に余裕を持って行動したらどうなのよ?」
 呆れる華雄と詠の前で、霞がたった今教室に入ってきたところだ。
「なははは、すまへんすまへん。けど、来る途中でヤンキーみたいのにケンカ売られてもーたさかい、売られたケンカは買わなあかんやろ?」
 そう言われれば、霞の衣服がどことなく乱れているような気が……全く、この世界でまで相変わらずのケンカ狂なのか。
「あ、それとな、その関係で臨時収入入ったさかい、今日みんなで学食行かへん? おごるで?」
 どこからの臨時収入ですかね?
 その隣には、どう受け取っていいのか複雑な顔をしている月もいる。
「全く……一応、風紀委員のあたしの目の前で、そういう会話しないでくんねーかな?」
 と、コレは白蓮。無視されてたけど。
40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) :2012/05/28(月) 07:56:44.90 ID:1U/RiEmE0
あれ、そういえば今日は……



「斗詩、猪々子、今日は袁紹がいないみたいだけど……どうかしたの?」
 いつもあのチクワの両脇に控えている2人に聞いてみる。今日はまだあの『おーっほっほっほっほっ』ってのが聞こえない気がするけど。
 すると2人とも、なぜか気まずそうに……
「あ、あはは……実はさアニキ、麗羽さまなんだけど……」
「昨日、学校にお酒持ち込んで……西村先生に見つかって、停学に……」
 ………………あのバカ、あれほどダメだって言ったのに。



 そしてさらにこっちでは……



「蓮華様、昼食の焼きそばパン、確保してまいりました」
「あ、ありがとう思春……でも、まだ朝なんだし、お昼でもよかったのだけれど……」
「いえ、昼は学食のみならず、『こんびに』も混雑しますゆえ」
「そうね、思春はやっぱりえらいわー!」
 蓮華、思春、小蓮のそんな1シーン。大喬小喬は、たしか……冥琳の手伝いに借り出されてるって聞いたな。
 すると突然、教室のスピーカーから、

『(ピンポンパンポーン)呼び出しです』

「? 何だろ?」
 朝のこんな、始業直前の時間に呼び出し? 一体なんだろう?


『2年Fクラスの孫権さん、甘寧さん、および古典の周瑜先生、大至急図書室までおこしください。Fクラスの陸遜さんが図書室で大変な事になってます』


「「あのバカ!!」」
 聞くやいなや、蓮華と思春はミサイルのごとき勢いで教室を『明久、小蓮お願い!』飛び出していった。
 ……毎回思うんだけど、穏に本がからむと一体何が起きるんだ?



 さらにさらにこっちでは……



41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) :2012/05/28(月) 07:57:16.61 ID:1U/RiEmE0
「そうなると……まずは国会と宮内庁の掌握が必要になるわね」
「はっ。その上で、防衛省、文科省、農水省、外務省をおさえれば……もはやこの国は我々に降ったも同然です、華琳様」
「適宜武力行使をはさみつつ、10年以内には……」
 ……朝から何話してんの君たち?
 見れば、華琳を取り囲み、桂花、春蘭、秋蘭がなにやらぶつぶつと……っていうか、さっきすごく物騒な感じの会話が聞こえたのは気のせいじゃないはずだ。
「見ればわかるだろう吉井。我々は今、いかにしてこの『日本』という国を手中に収めるかについて議論していたのだ!」
「さらっととんでもないことを!?」
 春蘭のセリフに冷や汗が止まらない。
 普通の人が聞いたら『そうですか、あはは』だろうけど、このツインドリルの少女の性格を知ってる僕には、それがバリバリ本気だとわかってしまいます。こ、この前の『内閣総理大臣暗殺宣言』といい、あんたらどこまで……
「当然でしょう? この私が、一市民などと言うせせこましい地位で満足すると思って?」
「……それで、日本征服しようっての?」
「ええ、見なさい」
 言うなり華琳は、テーブルの上に広げた紙を指差す。ええと、そこには……恐ろしいビジョンが書いてあった。


天皇:吉井明久
内閣総理大臣:曹操
内閣官房長官:坂本雄二
文部科学大臣:諸葛亮
防衛大臣:呂布
農林水産大臣:孫権
外務大臣:荀ケ
行政刷新担当大臣:賈駆
警視総監:関羽
警察庁長官:甘寧
国家公安委員長:夏候淵
最高裁裁判長:周瑜
…………etc


 ……こ、この子本気だ……! っていうか、天皇家引きずりおろすつもりか!?
 否定せず、華琳はあんまり無い胸を張る。
 人類史上最大のクーデターを起こしかねない思想の持ち主(超大真面目)を前に、僕は冷や汗が止まらない。
 あ、でも人材そのものはいいのがそろってるのかも。詠とか、無駄な公共事業片っ端から廃止にしてくれそうだし……いい必殺仕分け人かも。
「ちなみにコレはあくまで過程に過ぎないわ。最終的にはアメリカとEUと……」
「お願いやめて!」
 この子が思い通りにやると第3次世界大戦が起きかねない!!

42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) :2012/05/28(月) 07:57:49.38 ID:1U/RiEmE0
 ため息をつきながら、僕はもといた自分の席へ戻る。
「はぁ……前途多難だな……」
「ふふっ、お疲れのようですね」
 お、愛紗だ。
「そりゃ疲れるよ。みんなをこの世界になれさせるだけで大変だからさ〜……」
「焦らずとも、時間ならたっぷりあるでしょう? 大丈夫、皆で力をあわせれば、これからもきっとうまくやっていけますよ」
「そういうことです、我々も全力で補佐しますゆえ、お気を落とされませぬよう」
 星も言ってくれる。
 ふふっ……ホント……頼もしい仲間がいるなあ、僕には。
 そうだ、まだ始まったばかりなんだ。この……彼女達がいる世界は。
 だから僕はこの世界で、これからもみんなと幸せに暮らせるように、がんばらないとね!
 それに……
「この世界にみんなと来て、いいこともたくさんあったしね」
「ほう、たとえば?」
「ん、そうだな……愛紗や星のかわいい制服姿が見れた、とか」
 と、からかいをこめていってみた僕のセリフに、星はにやりと笑い、そして愛紗はみるみる赤くなって……
「やっ、な、何を言うのですか、ご主人様!」




「「「……………………あ」」」




 瞬間、時間が止まった。

 ところで、僕はこの世界で……愛紗たちに、僕に対しての呼称を改めさせていたりする。
 向こうでは、まあ一応君主だったわけだから、『ご主人様』とか『主』でもよかったけど、この世界では僕は一般の高校生。そんな呼び方は無理だ。
 まして、この教室でそんなこと言おうもんなら……


「異端審問会・開廷(キックオフ)っ!! YA―――HA――――ッ!!!」
「「「ぶっ・殺・す!! YEAH――――――――ッ!!!」」」
43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) :2012/05/28(月) 07:58:27.54 ID:1U/RiEmE0
こうなったぁあああああ――――――――っ!!

 手に手に鈍器と刃物を取り出すFクラスの面々。ちくしょうっ、ここは逃げるしかない!
「愛紗、また後で!」
「えっ、あ、ご、ご主人様……じゃなかった……明久さん!?」
 もう遅いです愛紗さん!
 僕は脱兎のごとき勢いで教室を飛び出し、廊下を疾駆していった。


 ☆


「あらご主人様、廊下を走ってはいけませんよ?」
「ごめん紫苑! っていうか黄忠先生!」


 すれちがった白衣の女神にそう返しながら、僕は走る。走るったら走る。
 くそっ……ある程度覚悟はしてたけど……やっぱりこうなったか! いつかは、って覚悟があったとはいえ、みんなの殺気が尋常じゃない!!
 そしてなぜか、僕の隣には……
「っていうか何で雄二が一緒に走ってるの!?」
「あぁ!? 鈴々と季衣がじゃれついてきたのを翔子に目撃されたんだよ!!」
「それはご愁傷さま!」
 僕と同じ理由ならこいつをおとりにして逃れられたんだけど、惜しい。
 見ると、後方に……周辺の光が押しのけられそうな闇をまとって疾駆してくる霧島さんの姿。アレは怖い。
 くそっ……しかしほんとに厄介だなこの状況!
 ともかく、どうにかして彼らを振り切るべく、僕らは走った。
 幸い、向こうの物騒な世界で鍛えられた僕らの運動能力は……この世界にいた頃よりも1回りも2回りも成長している。ゆえに、持久力でも走力でも……時間をかければ、あいつらを撒けるレベルだ。
 その甲斐あって、数分後には何とか、霧島さんを含む追跡者達を撒いたんだけど……



 ……今度は……



「吉井に坂本! きさまら授業開始直前に脱走とはいい度胸だな!!」
「「違(ち)げぇ――――っ!!!」」

44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) :2012/05/28(月) 07:58:56.69 ID:1U/RiEmE0
誤解を伴って鉄人に見つかってたりして。
 しかもあの人、強化された僕らの脚力でも撒けないんですけど!? ああもう、ホント人外生物!! 生まれてくる時代間違えてるよあんた絶対!!
 そしてもう1つ、痛烈な違和感が。


「左慈、お前まで何で一緒に走ってるんだよ!?」
「うるせぇな吉井、何も言うなボケ!!」


 雄二と反対側の僕の隣を併走してる……この人の存在。
 しかもその体に……僕らと同じ、文月学園の制服をまとって。


 そう……実は、于吉と左慈も……この世界に来てるんだ。


 左慈はAクラスの生徒として、于吉は生物教師としてこの学園にいた。どうやら、また何か妙なことが起こらないように監視するつもりのようだけど……ここはシナリオも何も無い『正史』だから、特に僕たちに危害を及ぼすつもりもないんだそうだ。
 それに、できない、とも言える。
 左慈はこの世界に来た際、それまで持っていた愛紗たちクラスの戦闘能力の一切を失い、僕らと同レベルの身体能力になっていたのだ。具体的には、雄二とケンカでいい勝負ができるくらいのレベル。
だから、さして危険な存在ともいえない……っていや、それも別にいいから……何でお前が僕の隣を併走してるんだよ!?
 と、その答えは……後ろから飛んできた。


「左慈っ! 何故逃げるのですか!? 私が特別補習をしてさしあげようと言っているのに!」
「願い下げだアホ! 危険な匂いしかしねえんだよ!!」


 白衣を翻し、鉄人と並んで追いかけてくる于吉。
 以前の左慈にはあいつを撃退するだけの力があったけど……弱体化した今の左慈にその力は無い。だから逃げてるってことか……哀れ。
「おお于吉先生、今度は左慈のやつが何か問題を?」
「ええ、どうにも補習を受けてくれなくて……ふふっ、そこがまたかわいいのですがね」
「はっはっは、于吉先生は心に余裕がある先生ですな」
「違うぞ鉄人! そのバカが言ってるのはそういう意味で無くてもっと醜悪な……」
「誰が鉄人だ、2−A左慈!」
「そこだけ聞き取るんじゃねえよ! くそっ、吉井、アイツほんとに正史の人間か!? 完全に人外生命体の領域だぞ、俺や于吉以上に……」
 どうやら鉄人に対しての認識は異世界でも通用するようだ。
「そうですか于吉先生、ならば私が3人まとめて捕まえましょう。ぬぅううぅぅん!!」
 おわぁっ、て……鉄人がさらに加速した!? 何で!?
「どうも最近貴様らは足が早くなったようだからな、逃がさんように鍛えたのだ!」
「この短期間に!? ポ○モンじゃないんだからそんな簡単にレベルアップしないでくださいよ!!」
「ちなみに具体的には、トレーニングを1割増しにしたり、トライアスロンに出たり、貂蝉先生とレスリングの試合をしたりして、だ!」
「「「………………うぷっ」」」

 ほぼ同時に口もとを押さえる僕と雄二と左慈。
 か……考えるな! 想像するな! 鉄人がレスリングのユニフォームであの貂蝉とレスリングしてるところなんて、血管を浮き上がらせながら2人の筋肉魔人が密着してせめぎあってる所なんて想像するなおえええええええっ!!
 ちなみに于吉は、『まあそれはそれで……』ってマジか。
「わかったか吉井、俺の感じている恐ろしさが」
「なんとなく」
 同情できる。

「左慈、大人しくつかまりなさい! そして補習室で私と愛を語り合……私の愛を受け止めなさい!」
「言い直した意味ねーだろバカメガネ!!」
「そうですか? では率直に、保健室のベッドの上で……」
「もっとダメだろ!!」
「つべこべ言わない! 今の私は先生で、君は生徒なんですよ! 言うことを聞きなさい!」
「てめえの教員免許証は導術で出した偽モンだろーが!! つーか教育者なら教え子に変なことしようとしてんじゃねーよ!」
「吉井に坂本! 今日こそはみっちり補習を受けさせてやるからな!」
「今日も、でしょ!」
「つかまってたまるか! 第一俺らには何も攻められるいわれは無いはずだ!!」
「どの口がそんなことを言う!? 貴様ら反省の色が見えないな……もう今日は放課後まで逃がさんぞ!」
「「ふざけんなぁっ!!」」
45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) :2012/05/28(月) 07:59:29.87 ID:1U/RiEmE0
ったくもー……何で僕は、どこにいってもこういう目にあうんだよぉっ!?
 敵の軍勢よりも嫌な威圧感をまとう鉄人とメガネの追撃から、僕ら3人は絶対に捕まらんと廊下を疾駆する。
 逃げ切れると……その先に勝利があると、信じて。
 この世界……やっぱ僕らには厳しすぎるっ!!

 愛紗たちと楽しく笑い合っていたあの世界での記憶を呼び起こしながら……僕は再び、波乱の日常の中に戻ってきたんだなあ、と実感していた。
 敵兵の代わりに、Fクラスの野郎連中。
 敵将の代わりに、鉄人。
 戦の代わりに、試召戦争。
 そんな……普通で異常な、この世界に……。


「吉井に坂本! 今日こそは絶対に逃がさんぞ!」
「左慈、あなたもです!」
「「「ちっっっくしょぉぉお――――――――――っ!!」」」


 朝の文月学園に僕ら3人のそんな声が元気に響く。その声は、始業のチャイムを掻き消し、廊下に轟き……Fクラスにまで届いていた。
 その声を耳にした愛紗は……少し呆れつつも、ふふっ、と笑っていた。



「ご主人様は……今日もお元気ですね」



 そして、それをBGMに……これからの生活に思いをはせ、まだ教師の来ない教室で、青い空を眺めていた……とか。








   …………『バカとキセキと恋姫†無双』…………
   これにて………………完結。


46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(空) [sage]:2012/05/28(月) 09:58:43.81 ID:waNjHZsM0
コメが何も無いところを見ると、これなろうに投稿されてるやつの盗作じゃね?
47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) [sage]:2012/05/28(月) 16:57:09.34 ID:q3Jk2yQQo
普通にコピペだな
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2012/05/29(火) 01:23:46.70 ID:E30MI2WAO
本人なら「転載です」とか最初に断ってほしいな
話自体は面白かった
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