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P「七六五物語」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/06/01(金) 03:36:27.24 ID:xcmNLGFIO

元はvipで『P「たかねクラブ」』で書いてましたが書き直して投下します。

アイマス×化物語です

原作の流れに頼ってしまいがちですが、たかねクラブ以降はそうならない様にします。

原作通り、「たかねクラブ」→「やよいマイマイ」→「ひびきモンキー」→「いおりスネイク」→「ほしいキャット」で進行します。

至らない所多々あるかと思いますがどうぞお付き合いよろしくお願いします。

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【安価】上条「とある禁書目録で」鴻野江「仮面ライダー」【禁書】 @ 2025/06/09(月) 21:43:10.25 ID:qDlYab/50
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ツナ「(雲雀さん?!)」雲雀「・・・」ビショビショ @ 2025/06/07(土) 01:30:36.87 ID:AfN9Rsm0O
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阿笠「わしの乳首に米粒をくっ付けたぞい」コナン「は?」灰原「は?」 @ 2025/06/04(水) 04:01:13.39 ID:ZjrmryLdO
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2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/01(金) 03:43:01.72 ID:xcmNLGFIO
001

そろそろ語らなくてはならない頃だと思う。
俺にはその義務がある。


765プロダクションに入社して早半年。学生達が“春休み”という長期休暇になった頃。

俺はあるアイドルの『秘密』を知ってしまった。

それは衝撃的な出会いであったし、また壊滅的な出会いでもあった。

いずれにしても俺は運が悪かったと思う。

ーー勿論、俺がその不運をたまたま避けられなかったのと同じ様な意味で、その不運を偶々避けられてきたとしても、俺ではない他の誰かが同じ目にあってきたかと言えば、多分そんなことはないだろう。
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/01(金) 03:45:26.78 ID:xcmNLGFIO

運が悪かったなどと言うのはあるいは、非常に無責任な物言いであり、俺が悪かったと素直に言うべきなのかも知れない。

結局あれは、俺が俺であったが故に起きた、そういう一連の事件だったのだと思う。







「は、春香……これはだな。お前が転んだから見えた訳であってな……決して見たかったからでは……」
「プロデューサー」
「…….はい」
「謝ってください」
「ごめんなさい」




七六五物語 〜たかねクラブ〜
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/01(金) 03:53:18.76 ID:xcmNLGFIO

002

四条貴音は765プロにおいて、所謂不思議ミステリアス系の女の子という立ち位置である。

貴音とはこれまでにも何十回と仕事をしてきたが、俺は貴音のことをよく知らない。また貴音がステージの上以外、つまりプライベートなところで響や真の様に活発に動いているところを見たことがない。

それは学校のクラスで言う、教室の隅、または自分の机で一人、難しそうな本を読む知的ミステリアスとは違いーーーー単純に俺は四条貴音を知らないのだ。

知らない事。それは両親やら、住まいやら、出身やらと上げたらキリが無いくらいだ。

本人にそれを尋ねれば「とっぷしーくれっと」とか言われて結局俺は四条貴音の素性を知らないのだ。
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/01(金) 03:55:02.39 ID:xcmNLGFIO

だからこそ妄想想像で貴音を補う。

ここからは俺の独断で判断された個人的な貴音の印象なんだが……まず頭は相当回る方だと思われる。確証はないが。

学校には行ってないみたいだが、雰囲気が知的だ。
それが響と貴音が一緒にいる所を見ると更に知的見えてしまうのだ。貴音が。

これは決して響が“バカ”という訳ではない。それだけは弁明しときたい。

まぁ個人的見解の雰囲気と印象と響が、俺の中で貴音に知的なイメージを与えているのだ。

でもそういった雰囲気が近寄り難さを醸し出すかと思いきやそうではないのだ。
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/01(金) 04:07:56.94 ID:xcmNLGFIO

学校の教室を思い浮かべて欲しい。

休み時間教室で静かに難しそうな本を読む少女がいたとしよう。



うん、可愛かった。



ではなく。知的な雰囲気の奴はたいてい、友達いなかったり壁を作ったりと孤立するのがデフォルトだが貴音は違う。

初対面は確かに近寄り難さは個々に寄って差はあると思うが、まぁ少なからず近寄り難いキャラではあるだろう。美人だし。
あの天下のジュピターさんでお馴染みのあまとうさんも彼女を苦手視しているくらいだ。

ただ事務所内での貴音の周りには不思議と人が集まっている。
年下のアイドルからは姉的扱い。
年上アイドル……まぁあずささんしかいないが頼る。
プロデューサーである俺も頼る。

知的でありながら頼れるお姉さん、それが俺が貴音に抱いている印象だ。



そしてこれは、そんな四条貴音に纏わる物語である。
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/01(金) 04:15:22.28 ID:xcmNLGFIO

003

例によって俺が遅刻気味に、俺が事務所への階段を駆け上がろうとしていたところに、丁度踊り場から“何か”が降ってきた。

俺はそれを受け止めた。

突然、“何か”が降ってきたら普通は避けるだろう。だが降ってきたのがただの“何か”じゃなかったのだ。

銀色の髪をしたミステリアスな女の子であり、我が765プロに所属するアイドル。

四条貴音が降ってきたのだ。

避けるよりは正しい判断だった。
いや間違っていたのかも知れない。

何故なら、貴音の身体がとても、とてつもなく軽かったからだ。

洒落にならないくらい、不思議なくらい、不気味なくらい、腕の中で収まるはずの貴音がまるでここに無いかのように、軽かったのだ。

そう、四条貴音におよそ体重と呼べるものが全くと言って良い程なかったのである。

つまり人間の形をしていながら軽いのだ、軽すぎたのだ。
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/01(金) 04:19:14.28 ID:xcmNLGFIO



「今度のライブ、順番はこんな感じで良いですかね?って言っても竜宮小町がラスト飾るのは変わりませんが……」


季節は春。
春はあけぼのなんちゃらと言う様に事務所にはどこかのんびりとしたムードが漂っている。

双海姉妹はゲームをし、雪歩はお茶を淹れ、あずささんは煎餅と睨めっこをし、美希は俺の背中に抱き着き、伊織は雑誌を眺め、やよいはベロちょろの中身を数えてはため息を吐き、真はこそこそと隅っこで本を読み、響はハム蔵と戯れ、春香は転んでいた。

そして俺は律子と次のライブの話し合いをしていた。

うん、いつもの日常だ。
背中側に感じる感触以外は日常的だ。
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/01(金) 04:24:21.82 ID:xcmNLGFIO

「ねぇねぇハニー」

「なんだ?今大事な話をしてるんだが……」

「たまには美希がラストやりたいかも。で、あずさとか亜美とかデコちゃんよりもキラキラしたいの!」

「いや、このままで良いんじゃないか?765プロで1番売れてるんだし、ラストを飾れるだろ」

「むーっ……その言い方だと美希が売れてないみたいなの」


星井美希。
765プロ内で最強のルックスを誇るアイドル。
ダンスも歌唱力もスタイルも良く、持ち前のカリスマ性から女性ファンからの支持もある、アイドル中のアイドルだ。
難点をあげるなら、サボり癖と悪い意味で甘えん坊であり、究極のゆとり思考だろう。

甘えたい時は甘え寝たい時は寝る、猫みたいな奴だ。

「じゃあミキは何番手なのー?」

ギュギュッと背中に当たる感触が強まるが、我は紳士。反応はしない。
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/01(金) 04:28:58.05 ID:xcmNLGFIO

「もう!アンタはどっかに行ってなさい!話が進まないでしょっ!?」

「ヤなの!律子……さんとハニーが2人きりで話すなんて絶対ヤなのっ!」

最近の美希はまるでコバンザメの如く、まるで母猿に抱きつく小猿の如く、まるでイソギンチャクがクマノミに纏わり付くかの如く、俺から離れないのだ。

この例えだと共存関係が成立している様に思えるがそんなことはなく、美希からの依存関係の成立とでも言っておくべきだろう。

要はくっ付いて離れないのだ。


「ハァ……美希。冷蔵庫にイチゴババロアがあるから食べて良いぞ」

「ホントっ!?ありがとうなの!」

そんな美希を離す方法は一つ。
好物の食べ物で誘導するしか他ないのだ。
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/01(金) 04:36:25.89 ID:xcmNLGFIO

「まったく……プロデューサー殿もプロデューサー殿ですよ。美希を甘やかせ過ぎです」


律子は少しご立腹なご様子。


「いやぁ……アイツは本能で生きてるから……」


睡眠欲、食欲、割愛。
美希は人間三大欲、どれにでも忠実に行動しそれを満たそうとする。
うん、自分に素直で良い子じゃないか。

閑話休題。

「そういえば……」

「どうしたんですか?」

「いや……貴音が見当たらないなぁって……」

こののんびりムードの事務所に銀髪美人の四条貴音の姿が見えないのだ。

「あぁ……貴音なら……」

律子は何かを悟るような、悩みを吐き出すような複雑な表情をしながら言うのだ。


「フードファイトに行きましたよ」
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/01(金) 04:38:55.67 ID:xcmNLGFIO

「アイドル以前に女の子なんだからもう少しカロリーとか食生活とか気にして貰いたいモノなんですけどね……」

確かにあの食いっぷりは色々心配せざるを得ない。

まぁそんな心配する必要はないんだが。
むしろ重くなるより異端な現象に見舞われているのだから。

「今までだって放任してたんだから今更厳しくするのは流石に……」

「そりゃそうですけど……ただアイドルが1人で……ねぇ?」

まぁ律子の言いたいことも分からなくもない。

「あっ……そうだ。美希が離れたうちに……」

「分かってますよ。1時間で戻ってきてくださいね。多分それくらいが私にもあの子にも限界ですから」

美希を止める限界が1時間が美希の我慢の限界が1時間ってことね。
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/01(金) 04:51:00.86 ID:xcmNLGFIO

004

律子に許可を貰い昼食を摂る為に外出、という名目で貴音を探していた。
そのお目当ての人物の行き先は分かっていた。と、いうよりそこしか無いのだ。

あの事務所の、のんびりムードが似合わないとまでは言わないが、まぁあの空間にいるよりは此方の方が貴音にはお似合いの場所。


『ラーメン三郎』


最近開店したばかりで大盛りワンコインのサラリーマン御用達のラーメン屋である。

その暑苦しい店内でひときわ目立つ銀髪の少女、四条貴音はカウンター席に座り、注文基対戦相手を待っていた。

その表情は少しだけ暗く、儚さを何処かに感じ、ラーメン屋でこれからラーメンを食べるお客様には似つかない表情だ。

どうかしたのだろうか。
いやどうかしているのだ。
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/01(金) 04:51:58.04 ID:xcmNLGFIO

貴音の隣の席が空いたのを確認し、俺はそこに座る。
それと同時に貴音の所にラーメンが届く。

相変わらずの量だ。
律子が悩むのも無理無い。

俺も注文を済ませ、貴音の食いっぷりを観察する。
相変わらずのスピードである。
あの量が何処に行き何処に貯まるのか非常に気になる。

そしてあの量がどう消化され加算されるのか気になる。


食べてる間も貴音は俺を一瞥することなく、黙々と食べ続ける。


「なぁたか」

そんな沈黙に耐えきれず、そして今朝のことが気がかりで仕方なく、貴音に話しかけようと口を開いた瞬間

「動かないでください」
「ぬぇ?」

貴音に口の中に何かを突っ込まれた。
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/01(金) 04:52:53.95 ID:xcmNLGFIO

限られた視界の届く範囲から察するに、口内に突っ込まれたのはカッターナイフみたいな凶器ではなくーーーー蓮華だ。

ホッチキスみたいな凶器でもなくラーメンのスープを飲む道具ーーーー蓮華だ。

スープと一緒に具や麺を食べる時に使う道具ーーーー蓮華だ。

「あぁ違いますね。動いても宜しいですけど……とても危険だと言った方が宜しかったですね」


蓮華の危険性が分からなくて頭が混乱する。


「全く……好奇心というのはこの世界でいう“ごきぶり”とやらにそっくりです」


その単語は飲食店では禁句だぞ貴音。


「人の知られたく無い秘密にこぞって寄ってくる、プロデューサーと言えど流石に鬱陶しく思えます」


貴音は蓮華で俺の左側の頬肉を抉る様にグリグリと押し付ける。
この感触は……凄く不快だ。
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/01(金) 04:53:31.15 ID:xcmNLGFIO

「……うぉい」

「なんでしょうか?右側が寂しいのでしょうか?」

いや、そんなことは一切無い。
むしろ口内は貴音の蓮華によりお祭り並の大盛況だ。

「そうなら言ってくれれば……」

と、貴音はカウンターにある胡椒を取り、そのフタを開け、そのまま俺の口に突っ込んだ。

喉を通り鼻から胡椒の香りがする。

「これで寂しくはないと思われます」

貴音は冷めた無表情を俺に向けながら言う。
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2012/06/01(金) 06:16:28.32 ID:5EiCsUnKo
ほしいキャット…だと
見るしかないじゃないか
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山陽) :2012/06/01(金) 07:59:40.25 ID:/t0Mja6AO
正直、化物語を知らないんだけど、文章から受ける雰囲気がいい。

支援したい。
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/06/01(金) 08:09:14.73 ID:iUQv+0E3o
俺得な組み合わせ。支援
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/06/01(金) 08:57:08.37 ID:xSqxML+0o
vipの頃から見てるぞ
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/06/01(金) 14:46:15.62 ID:6RzAprA3o
こっちに来てたか

見てるからがんばってほしい
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/01(金) 14:48:21.08 ID:CjkQqRA10
がんば
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/01(金) 17:15:22.67 ID:xcmNLGFIO

「まったく私も迂闊でした……まさかあんな所にバナナの皮が落ちているなんて……」

あぁ……だから貴音は降ってきたのか。

「犯人は真美か亜美でしょうけど……」

と、ここで蓮華が1グリ。
オエッという嘔吐感を感じる。

「プロデューサーも気付いておられると思いますが私にはーーーー『重さ』がありません」

確かに貴音には……無かったのだ。重さが。
女の子相手に重さうんぬんはデリカシーに欠けるが、そういう類いではない。

貴音の公式プロフィールによると彼女は49kg無ければならない。
が、降ってきた貴音を受け止めた時に感じた衝撃は……まるでゴムボールを胸に当てられたような柔らかな衝撃だったのだ。

「と、言っても全く無い訳ではありませんが……私の身長ですと平均体重は40kg後半らしいのですが……実際は5kgです」
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/01(金) 17:16:14.82 ID:xcmNLGFIO

という事は普段の公式の貴音の体重は平均という訳か。その大食らいでそれは反則だ。

しかしとなると。
そこに疑問を生じさせざる得ない。
貴音を受け止めた際に俺は、それほどの重さを感じなかった。
5kgにしては衝撃が軽すぎるのだ。

「あくまで私の全体が5kgなのでこの数字もあんまり当てには出来ませんが……」

なるほど。
重さが一箇所に固まったダンベルのようなものが降ってきたら俺はダメージを負っただろう。
が、分散された全体で5kgの貴音ならゴムボールのような衝撃も頷ける。

バラエティで見る上からスポンジやら紙吹雪が落ちてくる罰ゲームの様なものだ。
あれが5kg分、全部のし掛かって来たとしても重くは感じないのだ。
バラバラにスカスカな5kgなのだから。
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/01(金) 17:17:36.83 ID:xcmNLGFIO

「先日、北海道でてれび撮影がありました」

「確か響と一緒だった……」

律子同伴のグルメツアーのロケだ。

「そこで私は……蟹に出会いました」

まぁ北海道のグルメロケなら魚介類は必須だな。

「私は……その蟹に根こそぎ体重を持っていかれました」

「……」

思考回路一旦停止。
再稼働思考開始。
検索結果意味不明。


「まぁもっとも……プロデューサーがこれを理解しようとしなくても良いのです。ただ何が起きているのかを把握したうえで、これ以上の詮索を避ける為に教えたまでです……プロデューサー」

「ただ単に私には『重さ』がありません。私には『重み』がありません。『重み』というものが一切ありません」

意味深な何かを感じずにはいられない。
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/01(金) 17:18:08.78 ID:xcmNLGFIO

「さて……私はプロデューサーにこの事を皆に黙って頂く為に何をすべきでしょうか?」

「私は私の為に……何をすべきなのでしょうか?」

「プロデューサーが口が裂けてもこの事を喋らないと誓って貰うにはどうやって封じればいいでしょうか?」

「くっ……」

卑怯だ。
蓮華に胡椒なんて……逃げるに逃げれないじゃないか。

「とにかく私が欲しいのは……私のぷらいべーとに関して沈黙することと、無関心であることだけです」

「もしあなた様が了承して頂けるなら……そうですね。二回頷いてください。それ以外の動作は……敵対行為と見なします」

貴音の氷の様に冷たい睨みが俺を貫く。
俺は即座に二回頷いた。
蓮華は危ない。
胡椒も危ない。
何より貴音が危ない。
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/01(金) 17:18:43.04 ID:xcmNLGFIO

「そうですか……誠にありがとうございます」

そう貴音は言うと俺の口から蓮華を引き抜き、テーブルの上に置く。
そして次は胡椒瓶。

「……うがぁっ……がぁぁっ……」

ウインクと同時に胡椒の入った瓶をワンプッシュ。

信じられないことに貴音は喉に直接、胡椒の塊が放り込んだのだ。
喉に胡椒が絡みつき気管やら食道やらを侵食する。その痛みにテーブルに突っ伏してしまう。

「……悲鳴をあげないのですね。賢明な判断だと思います」

悲鳴はあげてる。
だが喉をやられて声が出ないだけなのだ。
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/01(金) 17:20:21.13 ID:xcmNLGFIO

「今回はこれで勘弁してあげます。ですが、次に私のぷらいべーとを詮索しようとしたら……」

テーブルに突っ伏す俺の目の前にトンと胡椒瓶を置かれる。
それにビクッと反応してしまう。

「……がぁっ……だがねェ……」

どうしてくれる、明日から胡椒が怖くてシチューにかけられねぇじゃねぇか。


「プロデューサー……明日からは普通に仕事仲間として接してください……それでは……」


気付くと目の前には貴音はいなかった。

残ったのは貴音が平らげたラーメンの器と、俺が頼んだスープを吸い伸びきったラーメンだけだった。
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/01(金) 17:22:18.19 ID:xcmNLGFIO


場面変わりラーメン三郎トイレ個室にて。

「ぐそっ……なんでやづだ……」

喉に纏わり付く胡椒が発声する度にスパイシーになり声が枯れやがる。
でも大丈夫……この程度なら俺は大丈夫。

顔面の向きを便器に向ける。
右手を喉に左手を鼻にセットし、同時に指を突っ込む。

「オエェェェエブックシュンッ」

ゲロと共にくしゃみで気管やら食道やらに詰まってる胡椒を全部吐き出した。

ほら……大丈夫。
喉からも鼻からも胡椒の感覚はない。
変わりに喉も鼻も胡椒の時とは違う痛みがあるが。

とりあえず……貴音を追いかけよう。
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/01(金) 17:23:20.56 ID:xcmNLGFIO


「貴音っ」

貴音にこの後の予定は確か無かったはず。そうなると帰る場所は事務所しかない為、帰宅ルートは限られる。
案の定、貴音はすぐ見つかった。

「なんと面妖な……流石に呆れま……いえ素直に驚いたとでも言うべきでしょうか」

貴音は蔑む様な視線を俺に向ける。

「あれだけの事をされといてまだ反抗精神があるのですね」

「貴音」

「分かりました。あなた様がその様に出るならーーーー」

ふぅと息を吐き、キッと俺を睨みつけた瞬間、貴音の手には蓮華から始まり、菜箸、水切り、中華鍋、お玉、中華包丁、まな板etc……

数々の鈍器やら凶器やら調理器具が生えたのだ。
何処にそれを隠してたんだうんぬんはファンタジーなのだろう。

そして全身から料理人となった貴音は俺を睨み付け一言。


「戦争をしましょう」
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/01(金) 17:23:59.63 ID:xcmNLGFIO

貴音は妖艶な笑みを浮かべている。その笑みは俺をチキンにさせるには十分過ぎる威力だ。

「ち、違う。戦争をしに来た訳じゃない!」

「……しないのですか。では何故私の所に?」

まずその両手に一杯生えてるブツでどうやって戦争をするつもりなのか聞きたい。

「お、お前の力になれると思って……」

「力?何をふざけたことを申しているのですか?」

貴音の声色、表情から本当に不機嫌になり不愉快な事なのだと伺える。
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/01(金) 17:25:07.19 ID:xcmNLGFIO

「先ほども申しましたが、私のぷらいべーとに無関心でいれば良いものを……」

貴音は一歩、俺に近付く。
その気迫は虎の如く、龍の如く。まぁ恐いってことだ。


「これ以上は優しさであり……敵対行為とみな……えっ?」

と、貴音の殺気に満ちた瞳は一瞬で驚き、迷いに満ちた。
それと同時に両手にある数々の武器は音を立て地面に落ちる。

「な、なんで……普通に声が出せる……ですか……」
「プロデューサー……それはどういう……」

貴音から敵意は完全に消えた瞬間だ。


そう俺には効かないのだ。
“人間”の類いが出す攻撃は。
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(西日本) [sage]:2012/06/01(金) 19:30:24.26 ID:cG4NiuTto
一旦区切るなら一言プリーズ
とりあえず乙
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/01(金) 19:41:06.68 ID:xcmNLGFIO
あ、そういうルールがあるのね
スマナイで
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/06/01(金) 20:56:29.67 ID:WRly/4slo
ルールというか終わったかどうか知らないと乙もいえないからね
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/06/01(金) 23:54:17.95 ID:sk0CAZdpo
ここ始めてなのかな
VIPとは違って投下中は極力邪魔しないのがマナーだからね
支援してないわけじゃないぞ
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/02(土) 04:07:51.99 ID:bUpwx9YIO

005


「高木殿が……ですか……」

事務所への道のり。
貴音と横に並んで足を進めていた。

「そうだ。社長のお陰で俺は普通に戻れたんだ」

もっとも。
普通に戻るまでの経緯は大変困難であったがそれは割愛しておく。

「その時の後遺症なのか知らんが……それなりに身体は丈夫だな」

実際今現在、胃酸で焼けた喉のイガイガする痛みもない。

「そうですか……高木殿はそういった現象に詳しい方なのですね」

「まぁ詳しいというか……」

色々とあのオッサンも謎が多いからな。水瀬財閥にコネがあったりなんなりと。
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/02(土) 04:08:20.15 ID:bUpwx9YIO

「高木殿は私を助けてくださるのでしょうか?」

「そればっかりは何とも言えないな……」

「と言うと?」

「解決出来るかは貴音次第ってこと」

ホラー番組やらファンタジー小説やら。
結局は主人公の意志次第で物語は変化する。

ハッピーエンドだろうとバッドエンドだろうと。こればかりは主人公、貴音が決めることなのだから。

俺はそれに助言をするくらいしかできないし、まず助けてやれるほどの力はない。
39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/02(土) 04:09:01.99 ID:bUpwx9YIO

事務所に着くとすぐに美希が襲いかかると思いきや、そんな事はなく。
皆レッスンやら仕事やらで事務所内は閑散としていた。
これはこれで好都合だ。

音無さんに社長室に行って来ますと伝え、貴音を連れて社長室に入る。



「これはこれはキミィ、四条クンと一緒とは珍しいじゃないか。どうかしたのかね?」

高木社長。
我が765プロダクションの社長であり、俺をティンとキタという謎の理由で雇ってくれた社長。
そして俺を助けてくれた社長。

高木社長はイスに座りながら笑顔で俺達を迎えてくれた。


「高木殿。プロデューサーから高木殿のお話を教えて貰いました」

「ふーん……そうかいそうかい」

社長は何回か頷くと、まぁ座ってくれたまえと、社長室にあるソファーへと俺たちを誘導した。
40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/02(土) 04:10:42.56 ID:bUpwx9YIO

「それで早速なんですが社長。コイツの話を……」

「プロデューサー。身分が上だとしても女子にコイツ呼ばわれは如何なものかと思います」

「そ、そうか。じゃあなんて呼べば……」

「そうですね……“貴音様”なんて如何でしょうか?」

貴音は楽しそうに笑みを浮かべながら言う。

「自分で言うのも変だと思いますが、貴音様って響きは良いと思いますし、私のきゃらくたー的に似合っているとも思います」

本当に自分で言うのもアレな話だな。
41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/02(土) 04:11:24.44 ID:bUpwx9YIO

「んじゃ、まぁそのタカネサマがですね……」

「カタカナ読みはいけずです」

「…………貴音ちゃん」

と、ふざけた所で視界がブラックアウト。

「目がぁぁぁぁ目がぁぁぁぁぁぶぇっくしゅんっ」

「流石にその呼ばれ方は不愉快さを感じます」

コイツまた……また胡椒を使いやがった……しかも眼球に。
42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/06/02(土) 04:12:41.26 ID:LWMsEQuqo
うむ、こっちに来てたか、頑張ってくれ
43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/02(土) 04:13:24.17 ID:bUpwx9YIO

「何をしやがるっ!下手したら失明するぞ!?」

「プロデューサーが失言するからです」

「なんだよその等価交換は!?」

「水1000cc、鶏がら2分の1羽分、にんじん4分の1本、玉ねぎ4分の1個、煮干10g。
ねぎの青い所10cm1本、生姜5g、にんにく半片、醤油大さじ1杯、日本酒小さじ1杯、砂糖小さじ1杯、塩小さじ1杯、コショウ小さじ4分の1、ラード適量、ごま油適量、個人的不快感からの攻撃97kgで先程行動が錬成されています」

「殆ど個人的な不快感からじゃねぇか!」

しかも残りはラーメンのスープおよそ一人前の材料だった。
44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/02(土) 04:14:05.68 ID:bUpwx9YIO

「それはそうと……あなた様、アレは……」

「あぁアレは、気にしなくて良い」

アレ。
貴音が指差す先にいる人物。
社長室の隅っこに体育座りをしながら俯いているーーーー天海春香。

「影も形も特徴も特出することも特にない、まぁ普通の可愛いアイドルだ」
「プロデューサー!?なんかヒドくないですか!?」

「いやいや天海君も頑張っているじゃないか」

なんか騒いでるがとりあえずアレは無視しとく。
45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/02(土) 04:15:38.38 ID:bUpwx9YIO

が、貴音はイマイチ納得がいかないらしく首を傾げながら俺をジッと見てくる。

まぁそれはそうだろう。
自分の所属事務所のアイドルが社長室の隅で体育座りをしていたら些か疑問に思うだろう。

「まぁなんでもないんだよ……」

そう、貴音には本当になんでもないのだ。

天海春香。
天然キャラであり元気ハツラツなキャラクターを装う、小悪魔。
よく転ぶが下着の類を一切見せない、男を焦らしに焦らし誘惑する、淫魔。
そして俺との共存関係である。なんて言ったところで貴音に理解出来るとは思えない。

「そうですか……何でもないのですか……」

渋々と言った所か。
貴音は了承してくれた。
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/02(土) 04:16:26.19 ID:bUpwx9YIO

「それで……高木殿は私を助けてくださると聞きましたが……」

「助ける?それは違うぞ四条クン。君が勝手に助かるんだ」

「えっ」

貴音は理解できなかったらしく、
俺をチラッと見る。
生憎その困ってる表情に俺は応えることは出来ない。

この問題は貴音自身の問題なのだから。



「まぁ四条クン、とりあえず何があったか話してくれないか」
47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/02(土) 04:18:01.76 ID:bUpwx9YIO



「毛ガニ、いやズワイガニか……」

「は?」
「へ?」

全く持って意味が分からなかった。

「北海道でよく水揚げされてるカニだね」

そんなことは知ってる。
俺たちが聞きたいのはそんなことじゃない。

「四条クン、カニは美味しかったかい?」

「え、えぇ……まぁ誠に美味でした」

「何匹……食べたかね?」

「……沢山召し上がりました」

そりゃあ沢山食べるだろうな。
ロケだからお金は番組持ちだし。
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/02(土) 04:19:10.57 ID:bUpwx9YIO

「そうか……じゃあ……どんなカニ料理を食べたのかね?」

「カニラーメン……カニしゃぶ……毛ガニの味噌汁……あとはーーーー水揚げされたばかりのカニを召し上がりましたね」





後に律子から聞いた話だと、貴音は新鮮さを求めて、水揚げされたばかりの生きたズワイガニの足をその場でへし折り、食べたそうだ。
あと蟹味噌を食べる為にこれまた生きたままのズワイガニの頭を剥ぎ、召し上がられたそうだ。
寄生虫やら何やらを恐れず、食欲の赴くままに。
響はそんな光景を泣きながら見ていたとか。「もうやめるんだ……カニ介が苦しんでるじゃないか……」とかなんやら。


まぁ単純な話。
貴音はカニに怨まれたのだ。
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/02(土) 04:20:37.55 ID:bUpwx9YIO

「生き物ってのは何かしら神様扱いされやすくてね。狐とか蛇とかね。犬だって猫だって神様扱いされる。勿論蟹も神様扱いされてる所はある」

星座にも蟹座ってあるくらいだしな。確かに言われてみれば納得が行く。

「四条クンの食べ方に神様はお怒りなのかも知れないねぇ」

「はぁ……」

貴音はイマイチ釈然としてないみたいだ。
それはまぁ当たり前な反応だろう。

「まぁ色々思う所はあるだろうがね。分かった。君の力になってあげよう」

社長は碇パパの様に両肘を付き、手を組んでいた。

相変わらずその格好が様になる人だ。
50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/02(土) 04:22:49.42 ID:bUpwx9YIO

006

貴音の造形やら立ち振る舞いやら口調から、俺は何故か貴音をお嬢様と思っていた。

が、そんなことは無く実際の住まいは普通のワンルームマンションであり、普通の一人暮らしだった。

玄関を開けたら初老ダンディーな執事が出てくるとかそんなことはなく、普通に明日捨てる為に置いてあるであろうゴミ袋が俺を出迎えてくれた。


『一旦家に帰って冷水で身体を清めてくれたまえ。そうしたら清潔な服に着替えて……そうだねぇ。12時頃にまた来てくれるかね?』

貴音は社長の言いつけ通り、家に帰り現在、シャワーを浴びているのだ。

そして俺。
貴音の家でただただ何もせず正座していた。
51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/02(土) 04:24:30.95 ID:bUpwx9YIO

『キミィが勝手に助かるだけ』と社長はいつもそう言っていた。

貴音はこの言葉をイマイチ理解出来てないみたいだった。
こういう問題は結局は自分自身の問題であり、外野は力を貸すことは出来ても代理になることは出来ないという事だ。

ガチャンと言う音がワンルームのこの部屋に響きわたる。貴音がシャワーを済ませたのだろう。


「しゃしゃわー……すすす済ませせせましたたた……プププロデューサササー……」

「……」

言葉を失う。
唖然俄然呆然。

「こここの季節にすすするれれれ冷水しゃわーとやらはきき鬼畜の所ぎぎょぎょうです」

「服を着ろぉぉぉ!」

タオルを纏う事なく、冷水故に元々白い肌が更に青白くなった肌を露わにして身体を寒さからガタガタ震わせている貴音がそこにいた。
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/02(土) 04:25:39.16 ID:bUpwx9YIO

「ふ、服を着たいので出来ればそこを退いて欲しいのですが……」

振り向くとタンスがあった。成る程。

「って、持って行けよ!」

「わわ忘れてしまいました」

「じゃあタオルで隠せよ!」

「そ、それは……恥ずかしいと言いますか……」

「全裸のが恥ずかしいだろっ!?」

俺は部屋の隅に移動し、貴音に背を向ける。
誰か、コイツに一般常識を教えてやれ。
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/02(土) 04:27:16.00 ID:bUpwx9YIO

「清潔な服……白い方が良いでしょうか?」

「さ、さぁ……」

衣擦れ音とでも言うのか。
普段気にしない音がとてつもなく……エロい。

「白い服を着るとなると下着は白い方が良いんですよね……でも下着は黒しか……」

「静かに着替えろぉぉ!」


コイツわざとやってるんじゃないだろうか。

「もしかするとですがプロデューサー……自分がぷろでゅーすしているあいどるに欲情したりしたのですか?」

「仮にそうだとしても俺のせいじゃねぇ!」
54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/02(土) 04:29:00.35 ID:bUpwx9YIO

「冗談ですよ、プロデューサー。じょーくというものです」

「お前の冗談はシャレにならん」

「ふふっ……プロデューサー着替え終わりました」

「おう、早……なんで下着と靴下だけなんだよっ!つーか白い下着持ってるじゃねぇかっ!」


多分今の貴音の表情は今まで見てきた四条貴音の中でもっとも楽しそうにしている表情だ。
本来はこういうイタズラ好きのお茶目な女の子なのかも知れない。

最も、俺の身体的に精神的にこういうイタズラは勘弁願いたいところだが。
55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/02(土) 04:30:11.82 ID:bUpwx9YIO

「下着姿に靴下は男のロマンと小鳥嬢が申しておりました」

「あの脳内お花畑事務員め!余計な入れ知恵を……」


こういったイタズラも音無さんが犯人だとすれば何故か納得が行ってしまう。


「それにしてもプロデューサーのウブな反応はまるでーーーー“どうてい”とやらにそっくりですね」

「その入れ知恵もアイツか?うん?」

あの野郎、絶対に許さん。
黙認していたパソコンにある画像、全部消してやる。
56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/02(土) 04:31:26.34 ID:bUpwx9YIO

「まぁそんな反応も私は可愛らしいと思いますが……」

「そういう話をしてるんじゃねぇぇぇ!アイドルが童貞とか言うな!」

ん?ここで違和感。

「そもそもなんで俺が童貞という前提で話が進んでるんだよ!」

「違うのですか?」

「その反応!滅茶苦茶傷つく!」

実際童貞なんだけど!
童貞じゃなきゃ美希相手出来ねぇよ!

うん、悲しくなってきた。
57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/02(土) 04:34:06.62 ID:bUpwx9YIO

007

時刻は午前0時。

社長が指定した時間に俺と貴音は事務所の前にいた。
流石にこの時間帯は事務所に誰もいないらしく、社長室以外は窓から見ても暗かった。
その社長室はというと、窓から怪しい光が漏れていた。

貴音も流石に気味の悪さを感じたのか、俺のワイシャツのスソをギュッと握ってくる。

そういえばヘビやらお化けが苦手と響から聞いたことがあったが、この様子からは多分本当なのであろう。

そんな普段見せることの無い、怖がるというギャップ萌え全開な貴音は、白のカーディガンに白のロングスカートという俺から見ても中々清楚な格好だった。
58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/02(土) 04:36:56.17 ID:bUpwx9YIO



「やぁやぁキミ達ぃ、時間通り流石だねぇ」

事務所に入ると、社長がすぐに出迎えてくれた。白ずくめの装束を着た社長が。
確かこういう衣装を“浄衣”というらしい。

「うんうん、四条クン。良い感じに清廉だねぇ。キミィも冷水で清めてきたかね?」

「はい、貴音の家でシャワーを借りました」

アイドルの家でアイドルにシャワーを借りる日が来るなんて思ってなかったが。

「キミィは……もうちょっとどうにかできなかったのかい?これもう一着あるから貸そうかね?」

「嫌ですよ、神職じゃあるまいし」

「神職……」

ここでさっきまで無言だった貴音がやっと口を開いた。
59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/02(土) 04:38:20.18 ID:bUpwx9YIO

「なんだね四条クン」

「高木殿はここの事務所の社長をなさる以前は神職か何かだったのでしょうか?」

社長のその格好なら貴音がそう感じるのも無理無いと思う。

「いや違うよ。これは単なる趣味だ」

「しゅ、趣味ですか」

流石の貴音も少し引いてる模様。
そりゃそうだ。
良い歳したオッサンが白装束着てコスプレ紛いみたいなこと趣味と発言されたら普通は引く。

「まぁ私の素性は良いじゃないか。それより早く社長室に行こうじゃないか。準備は済んでいる」
60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/02(土) 04:39:58.35 ID:bUpwx9YIO

準備。
この言葉に貴音はかなり疑問を抱き不安を覚えただろう。

仮にも摩訶不思議現象の対処であるから、準備と聞かれれば儀式的なモノを想像するだろう。


実際、準備はされていた。

社長室に何故か祭壇があり、その上にデカイ蟹の模型が一つ。

「プロデューサー……てれびで大阪という街に……」

「あぁ……蟹道楽な」

祭壇があろうが無かろうが、ここに蟹道楽があった。
61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/02(土) 04:40:27.20 ID:bUpwx9YIO

その祭壇のすぐ前に卓袱台が一つ。
その側に座布団が二つ、少し離れた所に一つ。

そして卓袱台の上にーーーーグツグツと音を立てる鍋が一つ。

具は……蟹だ。紛れもなく蟹だった。
白菜やら人参やらちらほら他の具材も見えるが、蟹鍋だ。

「あの社長……これは……」

流石の俺も意味が分からなくて社長に問い詰める。

「さぁキミィはここに座りたまえ!私はここで……」

話してくれないので渋々社長の指示通り、卓袱台の側にある座布団に座る。
62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/02(土) 04:41:07.64 ID:bUpwx9YIO

社長も卓袱台すぐ側の座布団に腰を降ろす。

「四条クン、君はそこだ」

そこ。卓袱台から少し離れた所にある座布団を社長は指差した。

「えっ……しょ、承知しました」

貴音も渋々社長の言う通り、卓袱台から離れた座布団に腰を降ろす。

「うむ、それじゃあ食べるとするかね」

「はぁ……まぁ……いただきます」

意味が分からないのでとりあえず、成すがまま社長に言われた通りにしようと割り箸を割る。

「あの……私は……」
63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/02(土) 04:42:01.71 ID:bUpwx9YIO

貴音がおずおずと社長に尋ねる。
うわ……滅茶苦茶物欲しそうな顔してる。


「ん?四条クンは……そこで見てるんだ」


そんな金融機関のチワワに負けない物欲す貴音に社長は残酷な一言を告げた。

「我々が食べてる姿をそこでただただ、見てるんだ」

「何……奴……っ……」

貴音の表情から始まり、顔から身体まで全てか固まっていた。

「キミには食のありがたみを実感して貰わねばならない!キミは食を粗末に扱い過ぎたのだ!さぁどうだね?美味しそうかね?食べたいかね?あげないがね」

「なななんたる屈辱っ……プロデューサー!卑怯ですよ!」

「俺かよ!?」
64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/02(土) 04:43:42.82 ID:bUpwx9YIO

「さぁキミはドンドン食べるんだ」

「は、はぁ……」

「うぅっ……後生な……酷いです……」

貴音がマジ泣きしていた。
社長のこの儀式?にも驚いたが、貴音のその食に対する執着心にも驚かせられる。


「一口……一口で良いですからぁぁ……」

貴音が哀れで……不憫過ぎる。

「キミィ、与えてはいけないからね。四条クンは今晩、目一杯食べ物に反省し感謝せねばならないからね」

「与えるってペットじゃないんですから……」
65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/02(土) 04:44:37.71 ID:bUpwx9YIO

「ぷろでゅーさぁ……」

やめてくれ貴音。
お願いだからそんな目で見ないでくれ。

「あの社長……貴音も反省してるみたいだしそろそろ……」
「いやダメだ」

ゴメン貴音。
俺には無理だ。

「キミィはいっつも甘いねぇ」

「甘いって別に俺は……」

「まぁこれを見てくれたまえ。キミも教育方針を考え直すだろう」

そう言うと社長は席を立ち、デスクから1枚のDVDを取り出す。それをデッキにセットしリモコンで操作すると、とある映像が流れた。

貴音と響が行った、北海道グルメロケの収録だ。
66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/02(土) 04:45:49.20 ID:bUpwx9YIO

「これがどうしたんですか?」

「まぁ見ていてくれたまえ」

リモコンで早送りされる映像を見ている限りでは問題なさそうなのだが。
響も貴音も楽しそうにロケをしている。

と、ある場面で社長が一時停止を押した。

「どうしたんですか?」

「……私もこのプロダクションの社長だからね。アイドルのイメージというのを大事にしていきたいと思っている」

「はぁ……」

「ここから先は、私が制作会社に頼んで何とかお蔵に入れてもらったシーンだ」
67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/02(土) 04:48:01.57 ID:bUpwx9YIO

そこまで言うと社長は神妙な顔付きになり、再生ボタンを押す。


『た、貴音?何してェ!?』

『そ、それは流石に酷いと思うぞ……いきなり脚を……って言ってる側から!』

『ほら貴音、痛そうにしてるじゃないか……もう楽にさせて……や、やめるんだ!』

『カ、カニ介っ今助け……ギャーーーーーー!!』

『ア、アタマガ……ワレテ……コンクリートデ……』

そこでプツリとテレビが暗くなる。

……こんなの放送したら苦情どころの騒ぎじゃなさそうだ。
68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/02(土) 04:49:24.95 ID:bUpwx9YIO

「どうだね?四条クンのプロデューサーであるキミィに直接感想を聞きたいのだが……」

「なんか……怨まれて当然かなって」

「プロデューサー!?私を裏切るのですか!?」

裏切るもなんもアレはない。
響に会ったら何か奢ってやろう。

「いやお前が食に強欲なのは知っていたが……アレはフォローし辛いというか……うん」

「そ、そんな……どうしたら私の体重は……」

正直な所、この現象をもうしばらく受け入れて反省すべきと思ってしまう。
69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/02(土) 04:50:12.68 ID:bUpwx9YIO

「体重を取り戻したいかね?」

社長が貴音の前に立ち、貴音に問いかける。

「ハイ……戻したい……です……」

「じゃあするべき事があるんじゃないかね?」

「するべき……事……」

「まずは謝らなくちゃね、蟹に」

そう言うと社長は蟹道楽を指差し貴音から離れる。

貴音はもそもそと祭壇の前まで行き、両膝を付き、土下座した。
70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/02(土) 04:52:43.94 ID:bUpwx9YIO

「申し訳ありませんでした……」

まずは謝罪の言葉だった。蟹道楽に。

「それからーーーーご馳走様でした」

そこに、感謝の言葉が続いた。蟹道楽に。
蟹模型に土下座する貴音……かなりシュールな光景だった。

「これからはちゃんと感謝して食べますから……私の体重を……返してください……」

貴音は声を震わせながら蟹道楽にお願いをしている。

シュールな光景なんだが笑うことは許されない、そんな空気だ。
社長はそんな貴音の姿にうんうんと頷いていた。
71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/02(土) 04:54:05.20 ID:bUpwx9YIO

これで解決なのか。
となると呆気なさ過ぎるがこれで良いのかも知れない。











「さてそろそろ本題に入るかね」

そんな訳無かった。
人生そんな謝罪すりゃ許される世界じゃ無かった。

「なん……です……と?」

貴音もこの展開は予想出来て無かった。
俺は何となく予想が出来ていた。
72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/02(土) 04:55:49.52 ID:bUpwx9YIO

「社長……一体どういう……」
「高木殿……それは一体……」

貴音と発言が被る。

「こんな言い方もアレだがね。蟹一匹に怨まれたくらいで人体に影響が出る程の力は無いんだよ」

社長は淡々と話す。
まるで今までの流れが茶番だったように。

「じゃあこの鍋は?この祭壇は?この蟹の模型は?」

意味が分からず混乱する貴音の代わりに俺が質問する。

「こんなのただの雰囲気作りさ。半分趣味」

このオッサン……流石に無いだろ。

「じゃあさっきの貴音の謝罪も」
「それは意味がある」

社長はピシャリと俺の言葉を切る。
73 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/02(土) 04:57:35.91 ID:bUpwx9YIO

「四条クンは確かに蟹に怨まれてた。だから謝罪する。これは前提だよ前提」

「前提……」

貴音が呟く。
少し顔が青くなってるのが気になる。

「まず蟹に許されなきゃ話は始まらないからねぇ」

「社長、回りくどいですよ」

「そうかね?そいつは失礼。じゃあ簡潔に話そうか」

貴音がゴクリと唾を飲んだのが此方からも伺える。

「蟹一匹の恨みじゃ四条クンに影響は及ぼせない。じゃあ何が四条クンの体重を奪ったのか。簡単だよ。蟹の怨みを代弁した別の“怪異”がいたのさ」
74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/02(土) 05:03:10.16 ID:bUpwx9YIO


『呪い釘』

憎い人を呪うときに、藁人形を作って人に知られないように頭の無い4寸ほどの釘を49本打ち終えると呪えるという呪術の一種から派生したモノだ。
本来は樹齢200年の柳の木にしか効果が無いとされるが、この場合は特例らしい。
とにかく『釘』であることが重要なのだ。

実際先程の映像をよく見ると、貴音がコンクリートに蟹を打ち付けた際に、コンクリートに埋め込まれた釘が蟹を貫いていた。

要は食べ物、生き物の怨みは怖いってことだ。
貴音が打ち付けた蟹が偶然、釘に刺さったことにより、蟹の怨みは増幅し、結果。貴音の体重を奪うという現象に辿り着いたのだ。
75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/02(土) 05:04:04.86 ID:bUpwx9YIO

「つまり貴音は……」

「脚を折られ苦しむ上にコンクリートに打ち付けられた。その痛み怨みが貫かれた釘によって今の四条クンの現象に至ったのさ」

たまたま打ち付けたコンクリートに釘が埋められて無かったら、貴音はこんなことにならなかったと社長は言う。



「で、社長。どうすれば貴音は……」

「うむ。四条クン、これを握り締めてくれないか?」

社長はそういうと貴音に何かを手渡した。
76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/02(土) 05:04:56.06 ID:bUpwx9YIO

「これは……釘ですか」

「そうだ。近所のホームセンターで買った五寸釘だ」

……なるほど。
釘であれば何でもいいなら、解呪に至ってもそれは適用されるという事か。


「そうだね、3分間握ってて欲しい。そしたらこの封筒にいれてくれたまえ」

「その封筒には……?」

「塩が入ってる」

「塩……ですか」

貴音は最初からかも知れないが、こういったことに疎いから一々疑問を抱くのは仕方ないだろう。

アレは多分、ここで御焚き上げする為の用意だろう。
簡易的に心霊写真なんかを供養する時に用いられる方法であり、封筒に塩を入れて焼くだけの手軽出来る供養方法だ。
77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/02(土) 05:06:14.41 ID:bUpwx9YIO
ここまでがvipに投下されてた奴です。
とりあえず一旦区切ります
78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/06/02(土) 12:35:38.76 ID:S/xkaJ69o

まっとるべ
79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(西日本) [sage]:2012/06/02(土) 14:40:07.84 ID:gSNxHVdvo
乙だよ
80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/02(土) 23:53:51.53 ID:pN/gLOrIO
乙乙
これはカバー曲通りの人選か。
81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/03(日) 19:54:14.11 ID:zRZl5vIIO

「四条クン、そろそろ大丈夫だろう」

「了承しました」

社長に言われた通り、貴音は握ってた釘を封筒に入れた。

「これはどうすべきでしょうか?」

「ん?じゃあそれを渡してくれないか?」

今からそれを燃やすからね、と言いながら社長は貴音から釘の入った封筒を受け取る。

受け取ると社長は、社長机からガラス製の灰皿を取り出すとそのうえに封筒を置いた。

「これ今から燃やすから四条クンにキミィ、少し離れてくれたまえ。危ないよ」
82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/03(日) 20:16:41.52 ID:zRZl5vIIO

「……?分かりました」

貴音はイマイチ納得してない表情だ。色々思うところは確かにありそうだ。
こんな作業で自分の体重が戻るのかとかーーーーあの封筒を燃やすだけの作業が何故危ないのかとか。

実際俺も疑問はある。
こんな簡単で良いものなのか。
人体に影響を及す類がこんなに簡単な訳ではないはずだ。
それは俺が身に持って経験している。

「さて、燃やすよ。キミィ」

「はい?」

「四条クンを頼むよ」

「は?」

意味が分からないまま、社長はマッチを擦り封筒に火をつけた。
83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/03(日) 21:08:25.54 ID:zRZl5vIIO

封筒がジワジワと燃えているーーーーという訳でもなく火を封筒に付けた瞬間、ボウッっ音を立て、灰皿から火が上がる。

貴音もこの光景に驚いているらしく、俺のスーツの裾をギュッと掴み、俺の腕に隠れる様に後ずさりする。



『危ないよ』
『四条クンを頼むよ』



社長の言葉が妙に頭に引っ掛かる。
火が危ないって訳じゃないし、そもそも危ないなら貴音をこの場に同席させる必要もない。
ただ封筒を燃やすだけなら。


ヒュンという風切り音と共にカツーンという音が俺の耳に入った。
84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/03(日) 21:25:16.95 ID:zRZl5vIIO
今日はここまで
85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(西日本) [sage]:2012/06/03(日) 21:29:51.78 ID:B6xRDvMRo
86 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/04(月) 22:30:00.75 ID:l6Y2uo1IO

ほんの数秒、いや一瞬とでも言うべきか。
舞い上がる火の中に浮かぶ影を見た。
そしてその影は貴音に向かって放たれた。
これがほんの一瞬前の出来事。

社長……危ないってそういう意味ですか。

ちなみに放たれた瞬間に貴音を引き寄せられたので、ギリギリだが貴音が怪我を負うことはなかった。

そしてヒュンっと共にカツーンと音を響かせた物は社長室の壁に深く突き刺さっている。トンカチで叩いた訳でもないのに、釘は壁に深く。
あの威力で貴音に刺さっていたとなると……考えたくない。

「あ、あの……」

「あ、悪い。大丈夫か?」
87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/04(月) 23:06:21.69 ID:l6Y2uo1IO

「苦しいと言いますか……恥ずかしいと言いますか……」

「あ、悪い……」

助ける為にとはいえ、アイドルを抱き寄せていた。
貴音は自分が襲われたと認知していないみたいで、いきなり抱き寄せられたと認知しているらしく、ジタバタと腕の中でもがいていた。

抱き寄せてた腕の力を弱めると貴音はバッと勢いよく離れた辺り、相当恥ずかしかったらしい。うん、そう思いたい。決して嫌がられてるとかそんなんじゃないと思いたい。
88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/04(月) 23:07:29.67 ID:l6Y2uo1IO
今日はここまで。
少量の更新ですいません。
89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/06/04(月) 23:14:29.19 ID:oAreiklko
おつおつ
90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(西日本) [sage]:2012/06/04(月) 23:21:05.53 ID:JxKuKXpxo
91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/06/06(水) 15:51:55.24 ID:i5rXxYg7o
いいスレみつけた
期待してるからゆっくりでもたのむよ!
92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/06/09(土) 09:14:20.37 ID:qiK8VGyeo
vipからきますた(AA略

全力で支援
93 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/09(土) 14:32:17.34 ID:/XXmDrzIO
しばらく更新止まってて申し訳ありません

色々忙しくて更新出来ませんでした
まだ少しかかりそうなんでちょびちょび書き溜めてますのである程度溜まったら投下します
94 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/10(日) 17:41:41.22 ID:t0YZrk9IO
楽しみに待ってる
95 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/06/10(日) 18:01:43.49 ID:SQuTFs/Co
待ってるからゆっくりでいいんだぜ
無理だけはしないでくれ
96 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/06/17(日) 00:57:10.79 ID:oCU+wNj6o
アニソン三昧帰り
97 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/17(日) 12:54:23.53 ID:CJGYYjXIO
書き溜めメモを間違えて消してしまった……

今日一日かけて書いて行くんで遅筆ですがよろしくお願いします。
98 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/17(日) 13:17:14.43 ID:CJGYYjXIO

貴音は嫌だったのか、もしくは彼女の言葉通り俺なんかに身体をくっつけてしまったのが恥ずかしかったのか。
自分の髪を手櫛をかけたり毛先を弄ったりと乙女な反応をしている。

いや女であるから貴音は乙女な訳だが。




「キミィ……まだ終わってないよ」



「えっ……」

社長の言葉で意識が貴音から社長室全域へと移す。
カタカタと後方から音が鳴る。

釘がーーーー貴音を突き刺そうとしていた釘がまた、壁に深く突き刺さった壁がまた、動こうとしているのだ。

「社長っ!」

「落ち着きたまえ……アレはタダの呪い釘だ。四条クンを突き刺そうと怨みを晴らす為に襲ってくるだけだよ」

だけだよ……じゃねぇよ、このジジィ。
99 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/17(日) 13:46:28.83 ID:CJGYYjXIO

「えっ……私を……襲う?」

やっと自分の置かれた現場を理解した貴音は案の定パニックに陥っている。


「プ、プロデューサー!私は何をすれば!」
「お、落ち着け」
「落ち着いてられません!襲うってなんですか!あの釘が刺さったら死んでしまうのですか!?」

ダメだ。
貴音は完全にパニックっている。

「社長、アレはどうすれば……」
「む、簡単さ。アレは今、怨みの塊だよ。アレが怨みの対象を貫けば終わりだ」

全然単純だが簡単じゃない解答だった。

「つ、貫く……わ……私を……」

貴音は雪白肌がさらに蒼白さを増し、自分の腕で自分を抱き寄せガタガタと震えてる。あんな状態の取り乱し怯える貴音は初めて見た。が、あれじゃ恰好の的だ。
そんな第三者視点で観察してる俺も現在進行形で取り乱している。どうすれば貴音が傷を付かずに助かるか。何をすれば呪いは終わるか。いや、それは分かっている。“呪いの対象”を貫けば良いのだ。

「貴音、とりあえず俺から離れるな」

とりあえずもうすぐ壁から抜けて襲いかかろうとしている釘に向き合い、貴音の壁になるような形を取る。
100 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/17(日) 14:14:16.56 ID:CJGYYjXIO
離席
101 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/06/17(日) 14:16:24.82 ID:2iBOxHTMo
おかえりなさい

sagaは入れないの? あと、sageのままでいいのかな
102 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sagesaga]:2012/06/17(日) 23:25:00.25 ID:vD7Hv5oso
思ったより進んで無いな
頑張ってくれ
103 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/17(日) 23:38:26.67 ID:CJGYYjXIO
久しぶりの休みで爆睡してもうた……
しばらくは余裕あるのでゆっくり更新します

それではおやすみなさい
104 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/06/17(日) 23:45:21.98 ID:2aEcuTgbo
ゆっくりでいいからしっかり続けてくれ
応援してます
105 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/06/18(月) 21:42:09.61 ID:q2NCDstNo
まぁゆっくりでいいから頼むぜ
106 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/19(火) 14:52:51.78 ID:KjXIR5wIO

貴音は指示すると同時に背中に抱き付いてきた。余程今の現状に恐怖を覚えているらしく、ガタガタという震えが俺にも伝わってくる。が、これはこれで動き辛いのも事実。それに密着し過ぎではうんぬん。

けどその衝撃的な柔らかさやらなんやらが逆に緊張感を解き、冷静さが生まれる。が、動き辛い事この上ない。

このまま盾になるのも嫌だが貴音を守れるならその役目は買う。だがあの釘のターゲットは貴音だ。俺が仮に盾になり釘が刺さったとしても俺を貫通して貴音に突き刺さる、なんて展開は容易く想像出来てしまう。


「……貴音。今から全力で俺はお前を守る」
「……はい」
「でもこのままだと守り辛い」
「…………」
「だから少しだけ離れ」
「無理です」


早かった。交渉決裂が早かった。

怖いのは分かる。頼られるのもかなり嬉しい。でもこのままだと俺諸共貴音もやられちゃうよ?なんて説明出来る余裕は俺にあっても貴音にはない。

命を狙われてるのは俺ではなく貴音なのだから。

107 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/19(火) 15:38:55.15 ID:KjXIR5wIO

釘はもうすぐ抜けそうだ。

あの位置から真っ直ぐ貴音に向かってくれれば、俺に刺さったと同時に釘を掴めば時間稼ぎくらいは出来る。俺が怪我を負うくらいなら全然全く微塵も問題はない。が、時間稼ぎは時間稼ぎであって解決ではないのだ。

社長は……頼りにならない。
いや頼りにしちゃいけない。

彼はアイドル業に関することなら全力で支援してくれるが、此方側の業界は“手はある程度貸すが自分の力で解決しろ”と公言してる。

『君が勝手に助かる』と。

今回問題を持ち込んだのは貴音。社長まで誘導したのは俺。貴音と俺の問題なのだ。
108 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/19(火) 15:39:41.95 ID:KjXIR5wIO
家に帰ってから続き書きます
109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/06/19(火) 20:45:25.79 ID:/bQrPKdFo
舞ってるぜ
110 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/19(火) 22:48:23.24 ID:KjXIR5wIO
帰宅難民になったった
今夜は会社で寝泊まりだ……
111 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/06/19(火) 22:55:12.86 ID:vSjVF/KIo
ドンマイ…
もしかして…台風ですかーッ!
112 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/06/19(火) 23:12:36.28 ID:8H4b/F5do
電車止まったらしかたねぇな
暇だろうが頑張れー
113 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/19(火) 23:20:22.02 ID:KjXIR5wIO
会社で寝泊まり→残業出来るじゃん→積んだ

台風のアンチクショー
114 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/19(火) 23:22:14.24 ID:KjXIR5wIO
まぁ明日は午前で上がれるらしいからそこで書くかな
115 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/30(土) 00:31:06.35 ID:7uiLcMEIO

あの釘が貴音を貫けば呪いが終わる。
怨みの対象を貫けば呪いは終わる。
対象を貫けば終わる。

対象を……変えればどうなる?

あの釘は蟹の怨みを代行して貴音を狙う第三者。蟹の怒りを聞き入れただけの代行者。詳しい事情もとい、蟹が貴音を怨む理由を知らないのでは?

頭の中のプラス思考様が労基を無視して働き始める。

だとすればあの釘の矛先、怨み代行の対象を俺に向ければ解決するのではないか?しかも貴音が無傷という最高の特典付きで。


「おい、蟹……いや釘」

一旦深呼吸。

「お前の依頼主、悲惨な死に様だったろ?アレ指示したのな………………俺なんだ」

カタカタ音を立ててた釘が静止する。
呪いにも聞く耳を持つ奴がいることに少し驚いた。

「プロデューサー……何を?」

さっきまで俺の背中に顔を埋めてた貴音が顔を上げて問いてくる。
疑問を感じずにはいられないだろうな。が

「貴音、少し黙っててくれ。大丈夫だから」

貴音の疑問に答えるより、今は貴音が余計な事を言わないのが先決だ。
ネタバレしてしまったら意味がない。


116 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/30(土) 01:43:18.52 ID:7uiLcMEIO

「あの蟹が悲惨な死に方を迎えたのもな。全部俺が貴音にそうしろと指示したんだ」
「そういう演出にすればお茶の間は笑うだろ?貴音の意外な一面にお茶の間は驚き興味を持つだろ?」
「泣きながら止めに入る響もテレビ画面から見る絵的には面白く映るだろ?」

「全部、全部、全部、俺の指示だ。貴音はそれに従っただけだ。だったら貴音を狙うのは違うと思わないか?」



「狙うなら…………俺だろ?」



一瞬の出来事だった。
背中に抱き付いていた貴音を無理矢理引き剥がし、押し、俺との距離を取らせ、背中を盾にし、そして俺の太腿の裏側に、大腿2頭筋、半腱様筋、半膜様筋だがなんだが部位的な位置は知らないが総称ハムストに鋭い痛み、そして焼ける様な熱の様な痛みを感じた。
一瞬だった。

「あっ……がっ……」

ハムストに刺さる釘を引き抜き、それを思いっきり投げ付ける。
引き抜いた所から血が噴き出しているが問題ない。どうせすぐ治癒されてしまうから。

「おい……脚じゃ……俺は……死なねぇぞ」

なんて強がってみるが、脚の痛みから声が震え、途切れ途切れになってしまう。


「プ……プロデュー……サー……なにを……して……」

貴音は訳が分からない顔をしている。
そりゃそうだ。自分発端の呪いを、怒りをいきなり担当プロデューサー庇われて、気が付いたらそのプロデューサーの脚に釘が刺さっていて、そしたらそのプロデューサーが自分を殺してみろよと挑発もとい自殺宣言してるのだから。

117 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/30(土) 01:45:56.70 ID:7uiLcMEIO
とりあえずここまで。
放置しててすみません。
もうすぐ「たかねクラブ」は終わりです。
118 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sagesaga]:2012/06/30(土) 08:07:33.14 ID:IONdDvnDo
胡椒だけだったからよく分からんかったけど一応ちゃんと再生能力なのな
119 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/06/30(土) 23:45:28.69 ID:e0fSj+Fzo
待ってた
120 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/02(月) 01:36:10.25 ID:9Owy7QTIO
訂正
>>44

「プロデューサー!?なんかヒドくないですか!?」

「プロデューサーさん!?なんかヒドくないですか!?」


121 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) [sage]:2012/07/21(土) 13:47:44.64 ID:jIudu3Qoo
まだかなぁ
122 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/18(土) 10:53:35.31 ID:ToUJY3cJo
生きてるー?
123 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/08/21(火) 09:34:23.23 ID:bXYu7vqeo
待ってる
124 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/09/10(月) 23:46:51.02 ID:6G3lRrAMo
そろそろ
125 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/09/13(木) 07:03:44.31 ID:FhWhj9+Do
こいこい!
126 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/09/29(土) 14:40:05.24 ID:Yx11d/3Qo
待つ
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