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梓「世界妹計画……!?」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/06/07(木) 21:24:24.77 ID:jUbRzHHAO
それは、いつもと変わらない日の筈だった。

いつも通りの休日で、

いつも通りの日常で、

いつも通りの……


唯「ふあ〜……ん〜っ!」

休日の昼下がり、私はベッドの上で思いきり伸びを堪能する。

唯「幸せ〜」

この微睡み(まどろ)の中、ベッドの上でごろごろするのはとても贅沢なことだと思う。
いつ寝てもこのやわらか〜い布団が受け止めてくれる。

季節は冬、こんな寒い時にそのまま寝たら風邪引いちゃうって?

チッチッチ、甘い甘い。

私には本当に良くできすぎた妹がいるのだよ諸君!

唯「だからぁ〜このまま寝てもきっと憂が毛布掛けてくれるから心配なくごろごろ出来るも〜ん」

唯「暖房つけっぱなしでも何のその!」

唯「持つべきものは妹だね〜……」

唯「……Zzz」


ガチャリ

憂「……」

憂「オネェチャン、確認」

憂「ソウジキ用スイコミング、起動」

憂「開始まで、5.4.3.2.1....」

憂「開始」

ずぅぅぅううううう

ぽんっ

唯「ん〜……」

憂「オネェチャン、吸い込みます。オネェチャン、吸い込みます」

唯「もぺっ」

ギー太〜そんなにほっぺたに吸い付いたら駄目だよぉ〜。

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2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/06/07(木) 21:26:51.29 ID:jUbRzHHAO
唯「ん〜……ばにこべ(なにこれ)?」

憂「オネェチャン、吸収。オネェチャン、吸収」

唯「う゛、う゛い(う、うい)?! なにやっでりの(なにやってるの)?!」

憂「オネェチャン、捕獲、オネェチャン、捕獲」

目が覚めた私の目に飛び込んで来たのは……掃除機のようなもので私のほっぺたを必死に吸い付くそうとする妹の姿だった!

唯「ぞんがごとしでも吸い取れないよぼぉ(そんなことしても吸い取れないよぉ)」

唯「ほっぺたどれ゛ち゛ゃうよ゛〜やめ゛てよ゛う゛い」

憂「オネェチャン、ほっぺた、あんまん。オネェチャン、ほっぺた、あんまん」

その時だった────

「そこまでですっ! 」
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/06/07(木) 21:29:19.99 ID:jUbRzHHAO
唯「この声は!」
憂「!?」

ガシャアアアアンッ

私の部屋の窓ガラスを割って入って来たのは────

左右対等(ついとう)のおさげ、

小さな体、

桜が丘高校の制服を纏った……

唯「あずにゃん!?」

私の後輩のあずにゃんだった。

梓「唯先輩、伏せてください」

唯「え、あっ、うんっ」

言われた通りすぐさま伏せるとあずにゃんは華麗に回転しながら、

梓「たぁっ!」

憂「あう」

憂を蹴り飛ばした……って。

唯「あずにゃん!!? 憂になんてことを!」
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/06/07(木) 21:30:49.37 ID:jUbRzHHAO
梓「話は後です! とりあえずあの憂は偽物なんです!」

唯「にせもの? そんなわけないよ! 私が憂を見間違えるわけ……」

憂「オネエチャン、捕獲。オネエチャン、捕獲」ガシャンガシャン

梓「ほら! ガシャンガシャンいってるじゃないですか! そもそも憂はこんなにメカメカしくないでしょう!?」

唯「う〜ん……?」

憂「オネエチャン、オネエチャン」ガシャンガシャン

唯「やっぱりどう見ても憂だよ!」

梓「こういう人だったっていうの忘れてました……。もうどっちでもいいですから私と来てくださいっ! 早くっ!」

唯「あっ、あずにゃんそんな強引に引っ張っちゃ……」
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/06/07(木) 21:35:49.07 ID:jUbRzHHAO
あずにゃんに手を引かれながら階段を荒々しく駆け降りる。
まるでわざわざ起こしに来てくれた幼なじみみたいだね、なんて少し思ったり。

梓「くっ……!」

唯「なにこれぇ……」

憂「オネェチャン、料理」
憂「オネェチャン、洗濯」
憂「オネェチャン、遊んで」

各々が左右の手に持っているもの。
お鍋、おたま。
洗濯叩き。
車のおもちゃ。
三者一様にそれを動かし威嚇のようなことをしている。

梓「料理洗濯と……後は遊戯型か。これなら何とか……」

唯「ど、どういうことあずにゃん?! う、憂がいっぱいいるよ!」
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/06/07(木) 21:37:21.29 ID:jUbRzHHAO
梓「落ち着いてください唯先輩。今から私が何とかします」

唯「何とかって……。そうじゃなくて何で憂がこんなにいるの!?」

梓「それは……終わってから説明します。安心してください。さっきも言いましたけどこれは憂じゃありませんから」

唯「で、でも……」

憂「オネェチャン、オネェチャン」ワシャワシャ

梓「今は私を信じてください、唯先輩」

いつもと同じつぶらな瞳、けれど何処か憂いを感じた。

唯「……わかったよ。他でもないあずにゃんが言うことだもんね。信じるよ私」

梓「唯先輩……ありがとうございます」
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/06/07(木) 21:45:53.26 ID:jUbRzHHAO
少しだけ表情が和らいだと思った途端、それはさっきより険しいものに変化する。

梓「少し下がっててください、唯先輩」

事態はさっぱり飲み込めないが、信じると決めた以上あずにゃんの言うことに従おう。

ゆっくりと階段の側まで下がると、リビングで対峙する三人の憂とあずにゃん。

タンッ…タンッ…タンッ…。

するとあずにゃんはステップを刻み始めた。
大きくもなく、小さくもない。
小刻みだけど、時には大きく。

履いている黒のローファーがリビングを蹴る度、タンッ……という渇いた音を奏でている。
というかあずにゃん土足だよ!
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/06/07(木) 21:47:35.83 ID:jUbRzHHAO
そんなツッコミも虚しくあずにゃんは更に様々な動きを繕う。
正直意図は全くわからないけど……何か必要なことなのだろうとただ見守る。

梓「……」クルルンッシュタッ!

四回転ジャンプの後──着地。
本当に必要なことなんだよね……? あずにゃん……。

憂「ピピピ、改変者、感知、改変者、感知」
憂「行動予測開始」
憂「攻撃、排除、排除」

梓「へぇー…もう動きだけでもわかるようになったんだ」

犬が芸を覚えた時、良くやったと褒めてやるような言い方だった。

憂「改変者、妹気質、排除、排除」
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/06/07(木) 21:51:34.13 ID:jUbRzHHAO
車(トラック)のおもちゃを持っている憂があずにゃんに向かって突撃する。

憂「1速 N 4速。アクセル全開、吹き飛ばしマス」

二人の距離が一気に近づく、それでもあずにゃんは動かない。
そして憂の持っている車(トラック)のおもちゃが激突する──

唯「危ないあずにゃ(ry」

梓「──Back」

//////////

あれ……?

憂「損傷」

不思議なことに次の場面で吹き飛ばされているのは憂の方だった。
確かに危なかったのはあずにゃんの方だったのに……。

何かが……ズレた気がした。

憂「排除、排除」

憂「オタマブーメラン、射出」

憂から投げられたオタマは円を描きながらもあずにゃんに向かって飛翔する。
家のはステンレス性……!
当たれば無事は保証できない一撃……!
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/06/07(木) 21:57:47.52 ID:jUbRzHHAO
梓「シッ……」

そのオタマを華麗に蹴り飛ばす。しかし更にもう一人の憂があずにゃんとの距離を詰め、手に持っている我が家の猛者(布団)達を従えた洗濯叩きを振り下ろそうと──

唯「今度こそ危ないっ! あずにゃん!」

梓「──3秒Back」

スカッ──

唯「えっ」

確実に捉えたかと思われた洗濯叩きは虚しくリビングに叩きつけられた。
憂は呆気に取られたようにしばらく停止している、ところを──

梓「はあっ!」

あずにゃんの後ろ回し蹴りが憂をまたまた吹き飛ばす。

唯「なんだかよくわかんないけど……あずにゃんカッコいい!」
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/06/07(木) 21:59:07.80 ID:jUbRzHHAO
憂「っ……!」

最後の憂が咳を切らした様にあずにゃんに向かって来る。

梓「……」ボソボソ

憂「……! 抹殺しマス…!」

荒ぶりながらお鍋をあずにゃんに向かって振り続ける憂。

それをまるでスケートでもしているかのように滑らかにかわして行くあずにゃん。
勝負の行く末は傍目から見ても明らかだった。

次の瞬間──

梓「──54秒Back」

憂「!!!」

あずにゃんが消えたと思えばいつの間にか憂の背後の中空でクルクルと回転している。
あれ……このシーンさっき見たような……?

梓「てやっ!」

憂「あっ…」
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/06/07(木) 22:01:09.29 ID:jUbRzHHAO
気づけば一分足らずで三人の憂は機能を停止させていた。
でも正直いい感じはしない……言葉はあやふやでも見た目はちゃんと憂……(に似てる?)なのに。
あずにゃんは憂じゃないから大丈夫って言ってたけど…。

梓「上のが来る前に行きましょう唯先輩。掃除のはちょっと厄介なので」

唯「行くってどこに? それよりちゃんと説明してよぉあずにゃん!」

梓「行きながら話します。唯先輩、時間って言うものは止まってくれないんです。だから大切に使わないと」

そう冷たく言い放ち、先を行くあずにゃん。私には何のことかわからなかった。


第一章【世界妹計画】
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/06/07(木) 22:02:39.76 ID:jUbRzHHAO
唯「待ってよぉ〜あずにゃ〜ん」

スタスタと先を歩いて行くあずにゃんを追い縋る。

梓「……」ピタッ

唯「やっと止まってくれたよぉ……。あずにゃんって歩幅小さいのに歩くの早いよね〜」

梓「……」

唯「どうしたの? あずにゃん」

梓「信号機……」

唯「ん? 信号機が……ってこの信号肝心の信号部分がないよ!
これじゃただの機だよ!」

本来ある筈の赤、黄、青色のランプがそこには存在していなかった。
これでは交差点はさぞ大パニックだろう。

唯「ってあれ? ……一台も車が通ってない」
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/06/07(木) 22:05:26.60 ID:jUbRzHHAO
梓「……」スタスタ…

唯「あっ、待ってよあずにゃ〜ん!」

────

それからもあずにゃんは時々止まっては壊れた車やビルの割れた窓ガラスを眺めていた。
そんなあずにゃんを見て心配になり、たまらず声をかける。

唯「あずにゃん……どうしちゃったの?」

梓「……」

唯「私には何がなんだかよくわからないけど……あずにゃんが不安そうな顔するのやだよ。
話してくれないかな? この街で何があったのか……あの憂は何なのか」

あずにゃんはその小さな顔を少し俯かせた後、呟く。

梓「──世界妹計画」

その言葉を皮切りに、あずにゃんはゆっくりと話始めた。
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/06/07(木) 22:08:48.01 ID:jUbRzHHAO
梓「それがこの街……いや、もしかしたら……」

唯「世界妹計画?」

ニュアンスからだと何だかみんな幸せになれそうな計画みたいだけど……。

梓「はい。今は多分初期段階ですけど……」

唯「???」

梓「実は私も完璧に知ってるわけじゃないんです。なので覚えている範囲で説明します」

そう言って向き合うと軽く腕を組み、足を片方休ませて立つあずにゃん。
長くなるのだろうか、私もそれを真似してみる。
お互い鏡合わせの様な形になった、ところで気が付いた。

あずにゃんの左右の手にグローブの様な物が装着されていることに。
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/06/07(木) 22:10:40.59 ID:jUbRzHHAO
右は拳の部分になにやら仰々しい鉄の塊がついている。
私の見たことがある中では、めりけんが一番近いだろうか。

問題は左手。右と同じように黒のグローブがあずにゃんの手を被ってはいるが右手の様な攻撃性はない。

ただのグローブ、が、その下、腕の部分に何かある。
電卓の液晶ディスプレイみたいなものがいくつもついている様に見えた。
ここからじゃ良く見えないがあれは一体何だろう。時計……じゃないよね?


梓「世界妹計画、簡単に言えばみんな妹持ちにしようって計画です」

唯「ん〜? みんなに妹が出来るってこと?」

梓「簡単に言えばそうなります」
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/06/07(木) 22:16:11.00 ID:jUbRzHHAO
唯「それって悪いことなの?」

梓「表面上は……そうは思いませんよね。私も思いました、けど……」

あずにゃんは少し迷った後、その口から……

梓「──その妹は憂なんです。全員……ね」

告げた。

唯「え? どういう……」

ここでさっきの風景を思い出す。憂が一人……二人……三人。
さっきのは……。

梓「そうです。あの憂こそ世界妹計画の要、憂verαです」

私が心で考えたことに答えるあずにゃん。

唯「憂……バージョンあるふぁ……?」

梓「簡単に言えば機械で作られた憂……ってとこですかね」
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/06/07(木) 22:17:27.89 ID:jUbRzHHAO
唯「憂が……なんで?」

梓「私にもそれはわかりません。ただ今はその世界妹計画を止める為に私は動いてます」

唯「あずにゃんはどうして……誰から聞いたの?」

本当に目の前にいるのはあずにゃんなのだろうか。
こんな事になっていると言うのに凄く淡々としている。

私の知ってるあずにゃんはここまで冷静を貫ける子だったろうか……?

梓「ムギ先輩に聞きました……」

唯「ムギちゃんに? ムギちゃんは今どこ?」

梓「正確には三日後のムギ先輩にですけど」

唯「は……?」

梓「唯先輩。私は三日後から来たんです。多分…」
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/06/07(木) 22:18:59.98 ID:jUbRzHHAO
そう言いながら左腕の裾を捲りそれを見せるあずにゃん。
さっき私が気になっていたあの端末だ。
その前に気になることが一つ……。

唯「多分って…?」

梓「はい……実は記憶が曖昧なんです」

唯「それって記憶喪失ってこと…?」

梓「そこまで極端なものじゃないですけど……。三日後の出来事はほとんど覚えていないんです」

唯「でもあずにゃんはそれを使って来たんだよね?」

梓「いえ……気付いたらここにいました。この時間の……桜ヶ丘高校の中庭で寝ていたんです」

唯「うーん……何がどうなってるのかさっぱりだねぇ」

ほんと、聞いてばかりだ。
何もわからない自分が嫌になる。
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/06/07(木) 22:26:36.80 ID:jUbRzHHAO
梓「私が三日後から来たと言うことがわかったのは色々な要因がありますが……一番はこのチェンジャーですかね」

唯「チェンジャー?」

梓「この機械の名前……だったと思います。これの二番目のところを見てください」

唯「んん?」

7セグメント方式の液晶ディスプレイに浮かび上がっているのは羅列した数字。
上から、何桁でも入りそうな長いディスプレイ、その下に短いディスプレイ、更にその下も同じ長さのディスプレイがついていた。
その下にも更に二つのディスプレイがついているが、こっちの二つには数字は浮かんでいなかった。
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/06/07(木) 22:30:20.55 ID:jUbRzHHAO
あずにゃんが見るように促した二番目のディスプレイには259,200という数字が表示されていた。

唯「これがどうかしたの?」

梓「こっちは止まってるのにこの下のは動いてますよね?」

そう言って今度は三番目のディスプレイを指差すあずにゃん。

唯「うん。1,800ってなってるね」

梓「それは私がこっちに来て1,800秒経ってるってことなんだと思います。
ほら、1秒づつ増えていってますから」

唯「1800秒……! ってどれくらいだっけ??」

梓「受験大丈夫ですか……。約30分ですよ……全く。つまりですね。この上の259,200って言うのは丁度三日後なんです」
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/06/07(木) 22:31:27.67 ID:jUbRzHHAO
唯「へーぇ……」

梓「良くわかってないでしょ唯先輩!」

唯「わ、わかってるよぉ!」

梓「本当ですかね…。まあいいです。三日後の私が何故こんなところにいるのか、何で世界妹計画なんてものが発動されようとしてるのか、そして何故その妹が憂なのか……。
わからないことはいくつもあります……けど、私はこれを止めないといけない……そんな気がするんです……!」

唯「あずにゃん……」

唯「わかった! 私も協力するよ!」フンスッ!

梓「本当ですかっ!?」

唯「何の役に立てるかわからないけどね……」
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/06/07(木) 22:33:06.88 ID:jUbRzHHAO
梓「そんなことないですよ! 憂を助ける為に唯先輩の力がきっと不可欠になると思います」

唯「憂を助ける……? !!!!!! あれが偽者の憂ってことは本物は!!??
本物の憂はどこにいるのあずにゃん!」

梓「お、落ち着いてください唯先輩!」

気づけばあずにゃんの小さな肩を掴み、揺らすようにして問いただしていた。
そしてそのまま小さな体を抱きしめる。

梓「唯先輩……?」

唯「あずにゃん……憂を……憂を助けて」

腰に小さな手が回るのがわかる。
抱き締め返されたのだと気づくより先にあずにゃんが「大丈夫です、必ず助けますから……泣かないでください」

そう優しく呟いてくれた。
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/06/07(木) 22:36:14.83 ID:jUbRzHHAO
梓「憂は私にとっても大切な友達ですから。二人で必ず取り戻しましょう」

唯「うん……うんっ……!」

溢れ還った涙を鼻をすすって堪えていると、あずにゃんが「もう、唯先輩は……。はい、ちーんしてください」

唯「」ちーん

と優しく鼻をかんでくれた。
三日後? とかちぇんじゃー? とか世界妹計画? とか正直良くわからないことだらけだけど……やっぱりあずにゃんはあずにゃんだよね、あずにゃん。

梓「行きましょう、唯先輩。憂を取り戻しに」

唯「うんっ!」

世界妹計画、一体誰がそんなことを……何のために始めたのだろう。
私には到底わからないけど……憂を悲しませる人は絶対に許さないよ!

絶対に絶対に助け出すから……もうちょっとだけ待っててね、憂。
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/06/07(木) 22:45:52.43 ID:jUbRzHHAO
────

見慣れた桜ヶ丘の街を歩くこと数十分……。

唯「誰ともすれ違わないね……」

梓「……そうですね」

唯「みんなどこに行っちゃったのかな?」

梓「さあ……どこでしょう」

唯「そう言えばムギちゃん達は?」

梓「……わかりません。この時間のムギ先輩達がどこで何をしてるのかは私も知りたいところなんですが……。
連絡がつかないしどこにいるのかわからないんです」

唯「うーん……三日後のムギちゃん達があずにゃんをたいぷすりっぷ?させたなら今のムギちゃん達が何か知っててもおかしくないと思うんだけど……」
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/06/07(木) 22:47:32.07 ID:jUbRzHHAO
梓「!!?」

急に顔を強張らせるあずにゃん。

唯「どうしたのあずにゃん!?」

梓「……すいません。唯先輩が余りにもまともなことを言ってたので驚きました」

唯「ひどいよぉあずにゃん!」

プンスカと怒りながら抱きつくとあずにゃんは少し照れくさそうに笑う。

梓「ふふ。とは言ってもこれはタイムマシンとはちょっと違うんですけどね」

唯「ほえ? そうなの?」

梓「基本的には同じ何ですが……戻ることしか出来ないみたいなんですよ。
後は自分の思う通りの場所に戻れるってわけでもないんです」

唯「ふぅ?」
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/06/07(木) 22:49:45.56 ID:jUbRzHHAO
梓「見せた方が早いですかね。ちょっと見ててください」

そう言うとあずにゃんはチラッと左腕のディスプレイを見た後、スタスタと何歩か歩き、呟く──

梓「3秒Back──」

唯「おおっ!」

するとあずにゃんは歩く前の場所に瞬間移動していた。
今まで見たどんな手品より華麗で思わず手なんか叩いてしまう。

唯「ブラボーだよあずにゃん! 凄いよ! 立派なマジシャンになれるよ!」

梓「ふふ、ありがとうございます。でもこれには本当に種も仕掛けもないんですけどね」

あずにゃんはもう一度左腕を捲り、それを見せながら言った。

梓「これがBack、この機械の力なんです」
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/06/07(木) 22:50:46.56 ID:jUbRzHHAO
今日はこれぐらいで

なるべく毎日投下しようと思ってます

けいおんSS久しぶりだけど頑張ります
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(滋賀県) [sage]:2012/06/07(木) 22:54:23.98 ID:Qmj8IjRAo
>>28
応援してるよ

俺もなんか書きたくなってきた
こんな風なかっこいい系は書けないけど…
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/07(木) 22:58:30.51 ID:aU5O3zVSO
ギャグコメディーだな
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/08(金) 12:02:24.83 ID:yUU9v22bo
憂ちゃんはすぐ増えるな
期待
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/06/08(金) 21:08:56.44 ID:0hZNURcAO
唯「ばぁっく?」

梓「これもチェンジャーと一緒で頭に断片的に残ってた言葉です…。多分この装置を発動させるトリガーか何かなんでしょうね。他の言葉も試して見ましたけど駄目でした」

唯「……」

梓「唯先輩?」

唯「あずにゃん、こっちにおいで」

梓「? 何かわかったことでも……あ……」

唯「よしよし」ナデナデ

梓「なんですか……急に、もう……」

唯「あずにゃんが急に遠いとこに行っちゃったって思って……」

梓「……」

唯「それにあずにゃんも不安そうだったから」

梓「不安……」
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/06/08(金) 21:11:40.23 ID:0hZNURcAO
唯「うん。わからないことづくしなのに……何でかあずにゃんは凄く必死になってる気がする」

梓「……それはきっと憂の助ける為ですよ」

唯「うん……でも無理しないでね? あずにゃん」

あずにゃんはそれに素直に頷いて見せた。でもやっぱりそれは、今まで部室で見せて来たそれとは異なっていた気がする。
どこか物悲しいというか……。

「オネェチャンから離れろ────」

梓「っ! 唯先輩!」
唯「わっ」

急に飛んで来た何かから庇う様にあずにゃんが私を押し倒す。

顔を反らして見るとその僅か斜め前、アスファルトに刺さり込む包丁が目に入った。
この憂達は私達を……!
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/06/08(金) 21:13:32.58 ID:0hZNURcAO
梓「逃げましょう唯先輩! 料理人型憂はただの料理憂とは危険度が全く違います!」

唯「よくわからないけどわかったよあずにゃん!」

すぐ起き上がるとあずにゃんの小さな手が私を引っ張りあげる。

憂「」ギリッ

それを見て何故かお料理憂が酷い歯?機械?ぎしりをした。

憂「オネェチャンに近づくなぁ!!!!」

憂がどこからか取り出した料理包丁を投擲してくる。

梓「唯先輩! こっちです!」
唯「うん!」

それを路地に入って回避。
何だかハリウッド映画みたいだね〜あずにゃん!
なんて言ったらきっと怒られるだろうなぁ〜。
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/06/08(金) 21:14:54.46 ID:0hZNURcAO
梓「この先は多分さっきみたいな(機械の)憂が邪魔してくると思います。本物の憂が近い証拠です!」

唯「でも危ないよあずにゃん! さっきの憂だって私達を……」

梓「……はい。世界妹計画を企ててる人はよっぽど私達が邪魔みたいですね」

唯「みんな大丈夫かな……」

梓「少なくとも軽音部の皆さんは大丈夫です。三日後にいるってことは今も無事なはずですから」

唯「じゃあ今は一刻も早く」

梓「憂を助け出す、これに限ります。……なので」

あずにゃんは何かを見つけるとニヤリとした。
梓「ちょっと急いで行きましょうか」ニコリッ
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/06/08(金) 21:17:42.58 ID:0hZNURcAO
ブルゥンブルゥン──

唯「ほんとにいいの〜あずにゃん?」

梓「運転なら大丈夫です! バックアシストプログラムが作動してますから!」

唯「そうじゃなくてこれ他の人のだよ〜?」

ブルゥンブルゥン──

梓「後でちゃんと返します! それに今は世界のピンチなんですから! みんなに協力してもらわないとです!」

唯「世界のピンチ……」ワクワク

唯「なら仕方ないねっ!」

梓「はい! あ、ヘルメットしっかり被ってくださいよ?」

唯「は〜い」

梓「しっかり捕まっててくださいね! じゃあ一気に抜けますっ!」

ブルゥンブルゥン……

ブォォォッ──────
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/06/08(金) 21:24:14.17 ID:0hZNURcAO
バイクというものに乗るのは初めてだけど、こんなにも速いものなんて知らなかった。
車とは違う、自ら風を裂いて進むカンジ。
自転車とは違う、凶暴性を秘めたスピード。
何もかもが別世界だった。
そんな別世界に、ただ一人同席しているのが自分の後輩で、その小さな腰に捕まってると思うと何処かこそばゆい。

唯「えいっ」ギュッ

ちょっと強く抱きついてみたがあずにゃんは気にもしてない様子。
最初に危ないから強く抱きついてくださいと言われていた時から思ってたけど……バイクとはなんと素晴らしい乗り物だろうか!
ビババイク!だよ!

そうだ! 何もかも終わったらバイクの免許を取ろう。
そして後ろに憂を乗せて、一緒にドライブするんだ。

あずにゃんも隣にいて……三人で、一緒に。
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/06/08(金) 21:25:57.85 ID:0hZNURcAO
憂「オネェチャン……」
憂「オネェチャン〜」
憂「オネェチャン!」

梓「くっ!」

一方のあずにゃんはクレイジーモーターサイクルよろしくで次々と憂の攻撃をかわしつつ進んでいた。

しかし、

唯「あずにゃん後ろから何かきてる!」

梓「!!!」

憂「オネェチャンー待ってー」
憂「オネェチャン忘れ物〜」ガシャンガシャン
憂「オネェチャンとドライブ〜」

梓「バイク憂、お届け憂、ドライビング憂……!」

ブォォォッ──

あずにゃんが一層スピードを上げた。

梓「しっかり捕まっててください!」

39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/06/08(金) 21:29:53.04 ID:0hZNURcAO
少し登った道を行くとそこは桜ヶ丘高速入り口。
普通の料金所レーンはどれも封鎖されており、唯一残っているETCレーンに爆走──

バイク用のETC等もあるのだろうがこのバイクにはついていないようだ。
バーが上がらぬまま、しかしあずにゃんは速度を下げることなく突っ切る。
私はあずにゃんのしようとしていることを察し、より一層強く体を抱き締めた。

バァッンッ──と衝突音がし、バーがその役割虚しく弾き飛んだ。

そのままハイウェイに侵入、後ろの憂三人、バイク1台とターミネーターみたいな走り方のと車一台もついて来ている。

それをあずにゃんもミラー越しに一瞥した後更に加速、

ガチャンッ

小さな足で器用にギアチェンジする姿はとても勇ましく見えた。
40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/06/08(金) 21:35:02.98 ID:0hZNURcAO
ハイウェイをひたすらに爆走して行く。
差は徐々に詰まって来ている気がする。
あっちの方がこちらのバイクより僅かにスピードが出るようだった。

唯「あずにゃん追い付かれちゃうよ!?」

フルフェイスヘルメット越しにそう叫ぶと、あずにゃんは「大丈夫です!」とだけ言い残し、また運転に集中し出した。

しかし、距離はみるみると縮まり……。

憂「オネェチャン、一緒にツーリングしよう」

唯「私が一緒にドライブしたいのは本物の憂なんだ。ごめんね」

手が届きそうな所にまで来たところだった。

梓「ここだっ!」

あずにゃんが急にハンドルを逆車線へと向ける──
41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/06/08(金) 21:37:57.38 ID:0hZNURcAO
唯「あずにゃん!?」

そこには当然ガードレールがあり、この速度で行けば間違いなく衝突コース。
一瞬一瞬がコマ送りに目視され、正に、ガードレールに乗り上げようとした時だった──

梓「唯先輩!!! 体重を後ろにっ!!!」

唯「!」

咄嗟に後ろに体を傾ける──、

梓「上がれえええぇぇぇっ!」

ブルゥゥゥンッ────

瞬間──、空を舞った──。

視界に染まる青い空を眺めながらの空中遊泳。
そのまま私達のバイクは逆車線に着地、今までとは逆方向に進んで行く。

三人の憂達との距離はあっという間に開き、見えなくなって行った。


?「・・・へぇー……」
42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/06/08(金) 21:44:37.53 ID:0hZNURcAO
唯「凄いよあずにゃん!」

減速したバイクの上で先程あった活劇を振り返る。

梓「そう……ですかね」

何故か元気がないあずにゃんだったがそれにお構い無しに褒め称える。

唯「そう言えばあそこのガードレールだけ何か窪んでたよね! 事故とかの跡なのかな?
それを瞬時に見てあんなことするなんて凄いよぉ〜」

梓「……」

何故かあずにゃんは俯きながら辛辣な表情を見せた。

梓「……急ぎましょう。憂が待ってます」

少しだけ微笑んだ後、またあずにゃんは前に向き直った。

唯「あずにゃん……?」

梓「……!!!」

梓「まだみたいです……! 唯先輩!」

唯「っ!? あれって……!」

憂「オネーチャンー」ブォォォォ

梓「あれは……! トラックの憂ちゃん……!!!」
43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/06/08(金) 21:46:01.32 ID:0hZNURcAO
憂「うへへオネェチャ〜ン」

大型のトラックがグングン私達のバイクへと迫って来る……!

唯「あずにゃんっ」

梓「っ……!」

その小さな手で握るアクセルは既にフルスロットルだった。
合流地帯からすでに加速していたトラックと、逃げ延びた安心感から速度を落としていたこちらとじゃスピードが違う……!

このままじゃ追い付かれる……!

そう思った時だった、

梓「唯先輩……ちょっとだけ運転出来ますか?」

唯「え……? あずにゃん……?」

梓「このままじゃ追い付かれて二人ともぺしゃんこです……だから」

梓「止めて来ます」

決意に満ちた表情で告げた。
44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/06/08(金) 21:46:42.86 ID:0hZNURcAO
唯「止めるって……そんな危ないよ!」

こんな小さな体であんな大きなものをどうにか出来るわけがない。
しかし、あずにゃんは少しだけこちらに振り向いて微笑んで見せた。

梓「今の私にはこれがあります。だから、大丈夫です……!」

チェンジャー。
時を逆行する力、今の彼女の力、その身には余りにも大きな……。
でも今は彼女を信じるしか道はない。後輩に頼るしかないという歯痒い思いを圧し殺しながら私は小さく頷いて見せた。

梓「もっと前に寄って後ろからハンドルを!」

私は言われるままにあずにゃんとの距離を更に狭める。
45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/06/08(金) 21:48:55.74 ID:0hZNURcAO
前のめりになりながらも何とかハンドルを握る。

梓「ギアはこのままでいいのでアクセルだけ強く握っててください! すぐ戻りますから……多分」

最後の方がよく聞き取れなかったが、今はこの初めて操縦するバイクで手一杯だった。

完璧に操縦権を私に委ねると、あずにゃんはバイク上で立ち上がる。

唯「わゎっ! あずにゃん前見えないよ!」

梓「大丈夫です! 後5kmは真っ直ぐの直進ですから!」

私の目の前で灰色のスカートがはためく。
ちらっと上を見ると、あずにゃんは10mほど後ろにまで迫ったトラックを睨み付けていた。
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/06/08(金) 21:50:42.91 ID:0hZNURcAO
左手にあるチェンジャーにチラリと目をやるあずにゃん。

梓「……」ボソボソ

何かを言っているが上手く聞き取れない。

そして次の瞬間────

高く飛び上がった。

唯「あずにゃん!!!」

後輩の余りにも突飛な行動に危険も省みずその行方を見る為振り向く。

異様な光景だった。

加速から解放されたあずにゃんの体が後方に流れて行く、いや、行きながら体制を変えて行っているが正しいのだろうか。

高さの頂点、落下する手前にちょうどトラックに乗っている憂と同じ高さ。
二人の視線が……ぶつかった気がした。

────
47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/06/08(金) 21:59:50.85 ID:0hZNURcAO
────

運転を唯先輩に任せ立ち上がる。トラックとの距離はおよそ10m。
差はジリジリと詰まっている。

梓「(カウントそろそろ5400……あれから1時間半か……」

梓「(このバックシステムの記憶が曖昧な今……これからやることはかなり博打に近いけど……)」

唯「……」

下には守らなきゃいけない人がいる。

なら──

梓「(やることは一つ!)」

カウント5400──

その瞬間に飛び出す

風に流された体が凄い速度で唯先輩との距離を生む。

梓「くっ!」

このままじゃ体勢が悪い、捻りを加えてトラックに背を向ける。
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/06/08(金) 22:01:27.66 ID:0hZNURcAO
ちょうど高さの頂点に来たとき、体は完璧にトラックに背を向けた。
更に膝を抱え、体を縮める。

梓「(到着座標に物があった場合……体が消し飛ぶ可能性もある……)」

それでもっ……!

今回こそは!

首だけ振り返り、その時を待つ。

憂「邪魔ダヨー梓チャン♪」

憂と視線が衝突する、そして本当の意味での衝突、──間際、私は発した。

梓「3秒Back!!!」

体が遠くへ行ってしまう、ううん、違う。
私自身が、どこかへ遠ざかって行くような感覚。

暗く、遠い、何もない世界に行ってしまうんじゃないかという不安、あの人を置いて。
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/06/08(金) 22:12:04.97 ID:0hZNURcAO
────

憂「やったよオネェチャン。これで二人きりになれるネ……」

「駄目だよ憂。高速道路にも制限速度があるんだから」

憂「!!!」

憂が凄い速度で隣に振り向くと、助手席にさっき跳ね殺した筈の梓の姿があった。

梓「ちゃんと守らないと、ね?」ニコッ

不敵な笑み、

憂「!」

憂が気づくより早く梓の手が伸びる。

憂「やめっ」

ギュ゙ァ゙ッッッッッ──

梓がサイドブレーキを引き上げた為にトラックに急激な制動が襲いかかる。

憂「」ギロッ

梓「……」
50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/06/08(金) 22:24:36.08 ID:0hZNURcAO
そんな中でも梓は冷静にチェンジャーを見つめる。

梓「(現在5432秒……40秒ぐらいでいいかな)」

梓「40秒Back──」

憂「オネェチャンの妹は私だけ……な、」

梓「(唯先輩の妹は確かに憂だけだよ、でもそれはお前のことじゃない……)」

消え行く意識の中で、思いだけでそう返した。

────

Back中も何故かしっかり意識があった。体が軸移動する感覚を確かめながら降り立つ40秒前をイメージする。

「(40秒前はちょうどバイクの上から飛ぶ前……っ!!!)」

この時、自分がとんでもないミスをしでかしたことに気がついた。
40秒前に戻ると言うことは、自分の環境さえも戻してしまうんじゃないか? という懸念。

いくら詳しくわかってないとは言え博奕を打ち過ぎた……!
もし40秒前そのままなら……トラックもそのまま、私と唯先輩はそのままぺしゃんこだろう。

このチェンジャーを作ったのがムギ先輩なら……どうか私達に力を貸してください……!

────
51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/09(土) 15:12:54.43 ID:DmboC+78o
唯梓いいね
もっとやれ憂を蹴散らせー
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/06/14(木) 03:18:22.35 ID:sfutzrNAO
────────
────
──

40秒前、梓が飛ぶ前、そこにはバイクがあり、後方にはトラックがあった、はずだった。

梓「ッ!!!」

梓が降り立つそこには、バイクもトラックもなかった。
しかし、悠然に構えられる状況でもなかった。
何故なら……。

梓「なんでっ……!」

地上との距離は丁度バイクの高さ分、普通に着地すれば難無く降りられる高さだ。

しかし──

梓の体は押されていた、いや、40秒後に直せばそのままの意味で、加速していたが正しいだろう。

つまり、40秒後の梓そのもの状態にチェンジャーはBackしたのだ。
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/06/14(木) 03:20:20.92 ID:sfutzrNAO
梓「くッ!」

咄嗟に受け身を取る。
出始めとはいえ速度で言えば90キロはくだらないスピードだったろう。
それから飛び降りた時に働く内力は想像がつかない。

滑空しながら地面へと落ちる梓、頭を手で覆い、足は真っ直ぐ伸ばし、道路に転がりやすい用内力のかかっている方と体を平行に保つ。

徐々に地面との距離がなくなり、やがて

梓「(食いしばれっ……!)」

舌を噛まないように歯を食い縛り、衝撃に備える。

接触──

梓「がッ……」

渇いた呻き声が漏れる。梓の軽い体はその衝撃に耐えきれずバウンドし、尚、衝撃は止まらない。
54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/06/14(木) 03:22:46.94 ID:sfutzrNAO
このまま転がっていけば恐らく自分は死ぬ────

そう悟った梓は第二接触前に叫んだ。

梓「300秒Back!!!!」

吐き捨てる様に叫んででもチェンジャーは確かにそれを汲み取り、梓を300秒前に降り立たせる。

梓「300秒前は……」

また、中空、

梓「……」スタッ

しかしさっきに比べれば高さも速さも段違いに低かった為、楽に降りられた。

地に足をつけるということがこんなにも難しいことだと思い知らされる。

梓「うぐっ……」

梓「(さっきのダメージがかなり残って……)」グラッ……

突如──

襲いかかる圧迫──

梓「ぅ……ぇぇぇぇ……」

それに耐えきれず嘔吐する。
55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/06/14(木) 03:26:46.19 ID:sfutzrNAO
気持ちが悪い……、乗り物酔いの様な、いや、これはもはやそんなレベルではない。
臓器と云う物が全て握り潰され、逆流を促してるのではないかと思うぐらい、何度も、何度も、何度も、吐瀉が押し寄せてくる。

胃液だけになってもそれは止まない。

視界はぐるぐるする。

それでも……行かなければならない。

私が行かなければ……何もかも進まないのだから。

梓「……唯先輩が……待ってる」

フらつきながらも歩き出す。
ガードレールを伝い歩き少しづつ前に進む。

梓「唯……先輩」

梓「今……行きますから……待って……て」バタッ


ブロロロロロ────
56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/06/14(木) 03:30:38.47 ID:sfutzrNAO
────

梓「ん……」

唯「気がついた?」

梓「唯先輩……? なんで……」

唯「トラックが追って来なくなったから引き返してあずにゃんを探しに来たんだよ。
トラックの中にもいなかったからまたバックを使ったのかなって。来た道をずっと戻ってたんだ」

梓「そうだったんですか……」

唯「あずにゃん……肩、怪我してる」

梓「……ちょっと擦りむいただけですよ。さ、憂を助けに行きましょう。もう目と鼻の先まで来てる筈です」

唯「……ほんとに大丈夫?」

梓「はい、ほんとにほんとです」

ほんとに、唯先輩はいつでもいつまでも優しかった。

時がいくら移り変わっても、どんな状況になろうとも、唯先輩だけは変わらないのに私は安堵した。
57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/06/14(木) 03:42:26.38 ID:sfutzrNAO
────

それからしばらく憂の追っ手もなく、私とあずにゃんはバイクで目的地を目指した。
そしてある廃工場の前であずにゃんはバイクを停止させる。

梓「着きました」

唯「ここに憂が……」

そこは何の変哲もない工場に見えた。しかし、あずにゃんが言うのならここに確かに憂はいるのだろう。

梓「……」

唯「あずにゃん」

梓「はい、行きましょう」

二人で廃工場の中へと進行する。
物音はない。
シン──と静まり還った工場は見た目と相まって不気味だった。

梓「唯先輩……」

あずにゃんが小さく言葉を漏らす。

梓「約束してください。私のことは構わずに、憂を助けに行くと」

その目は否定を許さない、自らが決定を下した事柄をただ述べたものだとわかった。

心配だった。

でも、今の彼女にとって私は足手まといにしかならないことはさっきのことで十二分にわかっていた。
私がいることであずにゃんが傷ついてしまう、なら私は私の出来ることをしよう。

私はその問いに、静かに頷いた。

あずにゃんはそれを見て歩を進める。
私もその後を追った。
多分、あずにゃんは知っているのだろう。これから起こることについて……。
そんな気がした。
58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/14(木) 03:45:03.94 ID:4EhSwRvYo
憂ざまぁ
59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/06/14(木) 03:52:29.19 ID:sfutzrNAO
────

暗い。
印象を言えばその二文字だけだった。
外はまだ明るいというのに中は暗闇に目が慣れてないと全体を見通せない。
冬の寒さと重なって不気味と震えてしまう。

梓「……」

あずにゃんが手で私を静止させた。

梓「あっち側の通路から奥に、憂がいるところに行けます。憂を助けてあげてください」

唯「あずにゃんは……?」

梓「私はこれ以上進めません……。彼女を倒すまで……」

唯「彼女……?」

梓「今は何も聞かず行ってください、唯先輩。さっき約束したでしょう」

どうやら今がその時らしい。
聞きたいことはいくつもあるが、聞いてばかりじゃ駄目だ。
あずにゃんの為にも、憂の為にも、自らが行動をして知らなければならない。

唯「あずにゃん、無理だけはしないでね」

そう言い残し、右側の通路から奥へ進む。

待ってて、憂。

お姉ちゃんが今助けに行くから!
60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/06/14(木) 04:02:20.93 ID:sfutzrNAO
────

それは思ってたよりすぐ見つかった。

その一室だけラボのように改造された部屋、その中心、何かのカプセルのような物の中に私の妹、憂がいた。

唯「憂っ!!!」

すぐに駆け寄って声をかける。ガラス張りのカプセルを強く叩き、何度も呼び掛けた。

「……」

返事はない。

唯「憂……」

情けないことにこの状況を見て初めて事の重大さに気づかされた。
私の妹が誰かによって複製され、それで世界をどうにかしようとしている人がいる。

漠然とした妄想の中ではそこまで悪いことじゃないのではないか?
なんて思ってたりもした、けど……!

今の憂の姿を見ればそんな妄想は消し飛んだ。私の妹をこんな箱に押し込んで、それで世界がもし幸せになったところでなんだと言うのだ。

世界を幸せにする本人が不幸でいいなんて世界的概念なんてどうでもいい。

私の憂を、返せ!!!

唯「憂! 今助け出すから!」

絶対に、助け出すから!
61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/06/14(木) 04:06:08.18 ID:sfutzrNAO
「唯……?」

途端、声がした。

唯「えっ……」

それは、知ってる人の声。

振り返ると、そこにいた人物は。






和「唯……あなた……どうして」

私の幼馴染みだった──
62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/06/14(木) 04:19:09.13 ID:sfutzrNAO
科学者の様にキッチリと着込まれた白衣が、私の中の和ちゃんと乖離させる。

唯「どうして和ちゃんが……」

私とあずにゃんみたいに助けに来てくれた?

……違う。

ならこんな場所に馴染んだ格好はしていないだろう。

それはつまり──

和「……」

唯「そんな……」


和ちゃんこそが──



この世界妹計画の主導者、または関係者と言うことだ。

和「……」

唯「嘘……だよね? 和ちゃんは憂を助けに来たんだよね……?」

聞かずには要られない、そうであって欲しい願望問を投げ掛ける。

和ちゃんはそれに、顔を背けて答えた。

唯「なんで……? なんでなの和ちゃんッ!!!」

激昂する。

そうせずには要られない。

憂を大切にしているであろう人の中でも1.2位を争う筈の和ちゃんが……憂にこんなことをしていることが信じられなかった。

私も、憂も、和ちゃんは裏切ったのだ。

なんで?理由は?

その口からそれが漏れることを期待したが、和ちゃんの発した言葉はそんな期待をも裏切るものだった。

和「何も知らないあなたに、答えるものはない」
63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/06/14(木) 04:29:35.75 ID:sfutzrNAO
唯「なにを……!」

和「今はただゆっくり眠ってなさい。迎えが来るまで、ね────」

唯「ふざけないでっ……ぇ……ぁ」

和ちゃんが何かを口走った瞬間、私の意識は微睡んだ。

唯「ナに……を……」

和「後も 少 、 う しで 成す か 。そ まで なたは っくり いて、唯」

意識が離れて行く──

和「あ た  の姉 し  臨 る で、あ しの 抱だ ら」

和「待ってて、唯」

私の覚えてるのは、ここまでだった────

64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/06/14(木) 04:42:47.69 ID:sfutzrNAO
────

唯先輩が奥の通路へと向かう。
これを見たのはもう何回目か……。

「ハハッ。また来たんだ、あんたも懲りないね、あーずさ」

梓「純ッ……!」

だだっ広い廃工場の奥、積み上げられた木材体の上に足を組ながら座っているのがさっきの声の主、私の同級生で、友達でもある純だった。

純「悪いけどこれより先には行かせられないから。行動も、時間も……ね」ニヤッ

純の左腕にある黒いものが闇の中で光る。

なんでこんなことをするのか?どうして?戦いたくない。

そんなことはもう何回も言った。

だからそれが無駄なことなのはわかってる。
彼女は嘗ての純じゃない。

私と同じく改変者で──

チェンジャーの使い手で──

倒すべき敵──

今は、ただそれだけだ。

私は世界妹計画を止める者。
彼女は世界妹計画を進める者。

違いは明白だった。

梓「行くよ、純」

純「いつでもどうぞ」

そうして、改変者同士の戦いが始まる──
65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/06/14(木) 05:04:10.63 ID:sfutzrNAO
────

梓「……」シュッタンックワットワッテゥッ

純「……」フッハッタァッヨイショックルクル

二人は工場内をただ闇雲に動き回ってそろそろ一時間という所だろうか。
近接、遠距離攻撃、会話、それらは一切ない。

色々な場所、時間に行動を『置いて』行く。
それが改変者同士の戦いだった。

梓「……(カウント6400からそろそろ10000……この辺りが限界か……)」

梓は敵である純を睨む。

純「ふふふ……」クルクル〜

さっきからもう遊ぶような動きしか見せていない。
こっちを待っているのか、それとも舐めきっているのか。

梓「ッ!!!」

それが勘に触ったのか、いよいよ仕掛ける梓。

ガンッ──

梓が近くにあった鉄製のバケツを蹴り飛ばす。
バックアシストプログラムにより筋力を上方修正された一撃、それは鉄製のバケツをアルミ缶の様にひしゃげさせつつも純に飛来する。

純「随分遅かったじゃん」

それを難無く蹴り落とす純。─その数秒前、梓「48秒Back」

これより先、世界は停止する。
誰であろうと彼女達より先に行くことは出来ない。
そしてまた、彼女達の時間も、1秒も進むことはなかった。
66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/06/14(木) 05:11:07.76 ID:sfutzrNAO
梓「てりゃっ!」

純の後方にBackした梓、48秒前、回し蹴りの為にターンしていた為Back後即座に攻撃に移れた。

純「ふんっ!」

それを肘でガード、返す刀で右拳を突き出す。

梓「14秒Back」

梓「おぉっ!」

更にBackし、純の後方から殴りかかる。

純「甘いっ!」

純は咄嗟に屈みながら足払いを繰り出す、

梓「くっ!」

それに掬われた梓は勢い余って綺麗に前転し、背中から地面に落ちる。

梓「かっ…は」

背面強打で一瞬呼吸が出来なくなる、そこを

純「ほらほら! 危ないよぉ!?」

純が踵落としで強襲。
遠慮の欠片すらない顔面狙いに、梓は青ざめながらも体を横に回転させ回避。

ズゥンッ──という鈍い音がその破壊力を物語っていた。
67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/06/14(木) 05:24:24.47 ID:sfutzrNAO
梓「はあ……はあ……」

純「惜しいな〜♪」

肩で息をする梓と、笑いながら先の攻防を評価する純。
端から見てもその実力差は明らかだった。

梓「それでも……! 負けられない!」

純「そうそう。私を倒さないと唯先輩はいつまで経っても憂を助け出せないもんね〜?」

梓「はあっ!」

不慣れにも手数を出す梓。
それを難無くかわす純。

梓「っ! 142秒Back!」

純「……」スゥ

梓「!」

純「142秒前、正確には204秒前、梓は工場にある鉄パイプを持ち上げて素振り」

鉄パイプで強襲をかけたつもりだったのが、梓の手には何もなかった。
純の手には梓が使うはずだった鉄パイプが握られている。

純「改変者の起こした行動を改変出来るのはまた改変者のみ、常識じゃない」

純は、その鉄パイプを容赦なくスイング。

横腹に吸い込まれたそれは梓の肋骨を叩き割った。
68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/06/14(木) 05:31:33.49 ID:sfutzrNAO
梓「ゴガッ……ギァァァグゥゥゥゥゥ」

脇腹を押さえ込みのたうつ梓。

純「ちょっと折れたぐらいで大袈裟だなぁ梓は」

鉄パイプを肩にかけながら梓に迫りよる純。

梓「ひぃっ……」ガクガク

そこにはもうさっきまでの勇ましい梓は居らず、降りかかる恐怖を目の前にした、ただの女の子だった。

純「もう終わり? ちょっとさぁ〜……早すぎでしょ〜? まだ204秒しか使ってないじゃん。
無駄にピョンピョコピョンピョコ飛び回ってた残り3396秒、使っていこうよ〜ねぇ?」ニヤリ

梓「(殺され、る……! に、にげないと! 何秒戻れば逃げられる……!? この悪魔から逃げたい……早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く)5、00秒Back!!!!」

純「あらあら……無駄遣いしちゃって」

純「96秒Back」

────
69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/06/14(木) 05:42:01.50 ID:sfutzrNAO
梓「(逃げるために純に見つからない物陰を仕込んでおいて良かった……これで少し回復するまでは逃げられ)」

純「次はかくれんぼかな? あ〜ずさ」ニコッ

梓「ひぃぃぃぃぃぃっ」ガタガタ

梓「300秒Back!!!!Back!!!!Back!!!!」

純「42秒Back」

純は梓の背後に立つ。

梓「850秒Back!!!!」

純「624秒Back」

純は梓の背後に立つ。

梓「せぇんにひゃくびょうとんで!早く!Back!!!!Back!!!!」

純「15秒Back」

純は、梓の、背後に立つ。

梓「嗚呼ああああああああああ」

純「うるさい」

純は鉄パイプで梓の右足を叩き砕く。

梓「ふんぐぅぅぅぅぅァァァァァアアアアア」

梓「痛いぃぃぃぃぃ痛いよぉぉぉぉぉぉ」

純「梓、あんた弱すぎ」

興味無さげに呟いた後、鉄パイプを大きく振りかぶる。

純「もういいから死んで」ブゥンッ

梓「ひゃっ! 100秒Back!」

スッ─

純「……」

何もいない虚空を見て、

純「かくれんぼの次は鬼ごっこか。ま、それが私の役割だけど、さ」

純はそう呟いた。
70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage saga]:2012/06/14(木) 05:52:41.89 ID:sfutzrNAO
純「早く逃げないと死んじゃうよ〜? 殺しちゃうよ〜?」ブンッ

梓「うわああああああ600秒Back!!!!」

後は繰り返しだった。

梓が逃げ、純が追いかけ。

純「ほらほら!」ガッ

梓「1000!!!!いや1500秒Back!!!!早くしてよ!!!!」

梓はもはや錯乱状態で、ただ純から逃げる為にBackし続ける。

梓はとうとう工場からも出て、工場に来る前にまでBackする。

梓「い、いない……よね? 工場出たし……」

梓「よ、よかった……」

安堵からかへたりこむ梓、しかし。

純「休むなよ」ブンッ

ガッ──

鉄パイプにより道路のコンクリートの一部が砕け散る。

純「逃げないと殺すよ。本当に」

梓「な、なんでいるのよぉぉぉぉぉ1300秒Back!!!!」


純「……1667秒Back」

────
71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/06/14(木) 06:07:41.52 ID:sfutzrNAO
戻る、戻る、戻る。

この時間に来て3000秒、唯と二人でバイクに乗っていた時間も遡り、

梓「1000秒Back!!!!」

純「1924秒Back」

唯と二人で歩いていた時間にも遡り、

梓「来ないでよぉ!!! 1500秒Back!!!!」

純「2460秒Back!!!!」

いくら戻っても、そこには誰もいない、ただ、自分を殺そうとする友達だけしか。


そして、

梓「946秒Back!!!!」

純「……」

カウントが、0に戻り、佇む。

梓「はあ……はあ……はあ……」

桜が丘高校、軽音部。

その部室へと、また、一人で。
72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/06/14(木) 06:08:21.06 ID:sfutzrNAO
第一章 完
73 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/06/14(木) 06:12:43.41 ID:sfutzrNAO
今回はこんなもんで

完璧自分設定なのでわからないことはいっぱいあると思いますがそんなもんか〜的な感覚で見てもらえれば嬉しいです
どうもメモに書くのは向いてないっぽいんで時間が出来た時に即興でやります
なので投下はある程度時間かかるので投下終わってから読んで感想とかくれたら嬉しいです

自分のメモ帳みたいになってるけど流行りものに負けず頑張って完結させます。

では、また
74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/14(木) 06:29:49.01 ID:BHezZnMT0

設定すげえな 
75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/14(木) 13:43:15.37 ID:IWxutgxQo

唯梓のようなので支援
76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/18(月) 12:47:07.42 ID:8LynIHBIO
おもしろい
77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/21(木) 00:48:39.77 ID:+29Jhun/0
また黒幕或いは元凶がムギとかさわ子とかそういうのじゃないだろうな?
78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/06/28(木) 07:48:25.22 ID:JUe8PbdAO
────

──────

──!

────────!!!

────……

──


――――――――――

目覚めた時、とても寒かったことを覚えている。
冷たい床に横たわる様にして倒れていた私は、どうしてここにいるのかも、何をしてたのかもわからなかった。
右手に違和感があり、左手にも見覚えがない物が装着されている。
いや、見覚えはないが、私はこれを知っている。

『チェンジャー』

世界を変える力、そして……。

私は、ただ、何かに突き動かされる様に部室を後にした。
その場所に、関心することもなく──
79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/06/28(木) 07:50:54.53 ID:JUe8PbdAO
外には雪が降っていた。
薄い白雪。
積もることもない。残ることもない。ただ、今だけ在る物。

私も多分、そうなのだろう。
そんな気がした。


──────

無意識化の内に私は工場に来ていた。見覚えはない、いや……似てる所には、来たことかあった気がする。

中に入ると、ある、人がいた。

純『あの人が言った通り……ようこそ。梓』

梓『純……』

純『止めに来たんだ、やっぱり』

梓『何を……?』

純『……? あんた何も覚えてないの?』

梓『わからない……けど、止めないと』

そうしなければいけない気がするから。
80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/06/28(木) 07:52:28.49 ID:JUe8PbdAO
純『そ。じゃあ私はそれを全力で止める』

梓『っ!』


それから始まったのは、蹂躙だった。
Backの基本さえ知らず、ただそういうモノだと云うことしかわからない私が純に勝てるわけがなかった。
それに友達を殴れる覚悟もなかった。

でも、純は違った。

梓『ぐっ……ぎっ……』

純『ほら、早く逃げないと死んじゃうよ』

私を片手で軽々と持ち上げて締め上げる。
口から泡が吹き零れそうになる寸前、彼女は言い放った。

純『世界妹計画は誰にも邪魔させない。それがあの人の願いだから』

梓『ッッッ!!!!!!!!!』
81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/06/28(木) 07:53:18.51 ID:JUe8PbdAO
その言葉を聞いた瞬間、弾けた。

梓『っあああッッッ!!!』

純『ぐぅっ』

膝で純の顎を跳ね上げ、空中で後転する。

梓『ッはあ……はぁっ……』

純『……ペッ。やれば出来るじゃんか』

血の塊を吐き出す純。怯んだ様子は全くない。

それでも……。

梓『純……! 今は無理でも、全力に……その計画だけは止める!』

純『無駄だよ梓。あんたの時間はこの先から動くことはない』

梓『必ず……止めてみせる。何度でも……あなたに挑んで』

純『……梓』

梓『……Back』

それから、私と純の戦いは始まった。
82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/06/28(木) 08:04:28.20 ID:JUe8PbdAO
それから何度も何度も挑んでみたものの、Backを使いこなす純に手も足も出ずここに戻っては一人で泣いていた。
この現状、この絶望に、何度も何度も打ち拉がれながらも……それでもやめなかった。

三日後の私を私は忘れているけれど、胸に宿る意思だけは残っていたのかもしれない。
この状況の打破の為に軽音部の先輩達にも協力してもらおうと思い立ったのはいいが、見つかったのは唯先輩だけだった。

この現状に詳しそうなムギ先輩や律先輩なら心強かったけど……。

けれど、世界妹計画の妹が憂なのを見ても唯先輩にも無関係なことじゃない。
それに誰かを守る為なら、きっと強くなれる。
あの時はそう思っていた。

でも……それがどれだけ言葉だけにすがった物か……それを何度も純に思い知らされた。

━━━━━━━━━━


梓「どうすればいいのかな……」

部室、いつも私が座っている席で独り言つ。
ここにはサボってばかりの部長も、カッコよくて練習熱心な先輩も、優しくて気遣い上手な先輩も、天然だけど暖かい先輩も……いない。

私一人だけだ……一人だけ……。

私が使っていた猫のティーカップを見て思わず呟く。

梓「ムギ先輩が居れば暖かいお茶が飲めるんだけどな……」
83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/06/28(木) 08:20:44.88 ID:JUe8PbdAO
────どうしても……望む願いが、欲しい結果があるのなら

いない筈の人の声が聴こえる……。

──その力を使って

いつも彼女が座っていた席に、私は幻を見た。

『梓ちゃんならきっと、変えることが出来るから』

梓「ムギ……先輩」

それは確か私に伝えられていた言葉。
三日後の私がムギ先輩に託された思い。

記憶が蘇る度歯痒く感じる……。
先輩達の思いを受けて今の私はいるんだ……それを忘れるな中野梓!

三日後のムギ先輩。
記憶は曖昧だけれど、悲しい顔をしていた気がする。

梓「ムギ先輩。どうしても望む願い……欲しい結果は……」

今、ここにある。

待っててくださいムギ先輩、必ず三日後に行きますから。
そしてこの世界妹計画を止めて憂を、軽音部の皆を助ける!
84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) :2012/07/02(月) 16:41:40.93 ID:yXdMQTQGo
どこに着地しようとしてるのか分からん、いい意味で
85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/07/03(火) 09:23:35.52 ID:MXAWYfsAO
第ニ章【 】

唯「今日は雨か……家でのんびりしようかな」

サァァァァァァァ

唯「……」

ピンポーン

唯「誰だろ?」

トトトト、ガチャ

梓「こんにちは、唯先輩」

ザァァァァァァァ……

唯「あずにゃん……?」

唯「どうしたの傘も差さずに……」

梓「……お話があります」

髪から滴が落ちる。
雨に降られたあずにゃんはまるで、

梓「……」

泣いているみたいだった。


唯「とりあえず入りなよ。風邪ひくよ」

梓「はい」

唯「お風呂沸かすからちょっと待ってて」

梓「ありがとうございます」
86 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/07/03(火) 09:25:23.40 ID:MXAWYfsAO
────

梓「……唯先輩家のお風呂……暖かいな」

梓「……戻る度に状況が変わるのは前からわかってたけど……雨が降ってたのは初めて」

梓「……」

梓「チェンジャー……防水加工で良かった」

梓「……」

梓「雨の日はロボ憂達も出歩かないのかな……唯先輩の家に先回りされてないのなんて初めてだし」

梓「……」

梓「……やめよう、色々考えるのは」パシャ

「あずにゃ〜ん」

梓「は、はいっ」

「着替え置いとくねー」

梓「あ、ありがとうございますっ」

梓「……やっぱりこんな時でもちょっとだけドキドキする……唯先輩の家の……お風呂」ブクブク……


唯「…………」
87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/07/03(火) 09:26:55.18 ID:MXAWYfsAO
────

『昨夜のニュースです……』

梓「お風呂ありがとうございました」

唯「どういたしまして。それ私のパジャマなんだけど……やっぱりあずにゃんにはちょっと大きかったね」

『……による法案が賛成多数により可決され……』

梓「い、いえ。確かにちょっと大きいけど……大丈夫ですから」

唯「制服は今乾かしてるからちょっと待ってね」

梓「はい」

チーン

唯「あ、出来た出来た。パン焼いたんだ。あずにゃんもどーぞ」

梓「何から何まですみません……」

唯「気にしないの。ジャムでいい?」

梓「おまかせします」
88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/07/03(火) 09:29:06.49 ID:MXAWYfsAO
サクッ

唯「」モグモグ

サクッ

梓「」モグモグ

『次のニュースです……昨夜未明にかけて○○県では大雨、波浪警報が……』

梓「……あっ、あの」

唯「ん? どうしたの? そんな改まって」

梓「う……憂は……?」

唯「……出かけちゃったのかな。私が起きたらもういなかったよ。てっきりあずにゃん達と遊んでると思ったけど」

梓「……お話があります」

唯「……なに?」

何だろう、唯先輩……今までとはどこか雰囲気が違うような……。
もしかしたら同じことを繰り返す度に私みたいな朧気な記憶があるのかもしれない……。
もしかしたら……何も出来ずにここに戻ってくる私に……呆れてるのかもしれない。
89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/07/03(火) 09:36:36.93 ID:MXAWYfsAO
私が三日後から来たこと、チェンジャーのこと、世界妹計画のこと、その妹が憂だと言うこと、憂を助けるために力を貸してほしいこと、全てを話した。

唯先輩は最初こそびっくりしたような反応だったが話を聞くにつれその表情は真面目さを増し、全てを聞き終えた後、ただ小さく頷いた。

唯「憂のいる場合は……?」

梓「桜ヶ丘の廃工場です」

唯「じゃあすぐに行こう。そこなら歩いても30分かからない」

梓「はい」

唯「制服はもう乾いてると思うから、ちょっと待ってね」

梓「はい……」

何だろう、この違和感は。
何かが違う、そんな気がする……。

『次のニュースです。一昨日に起きたハイジャックの犯人と思われる人物が今朝未明、遺体で発見され……』

梓「」モグモグ

普通にニュースがやってるってことはまだ世界妹計画は桜ヶ丘内部の段階なのかな。
90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/07/03(火) 09:38:25.27 ID:MXAWYfsAO
────

少し乾き損ねた制服を身につけ、チェンジャーとナックルを装着。
唯先輩も準備し終え、二人で玄関口に向かう。
ローファーを履き終えると唯先輩が傘を貸してくれる。
ピンク色の可愛らしい傘だった。
唯先輩のが赤だから、もしかしたらこれは憂のかもしれない。

玄関の照明が落とされると、朝だと言うのに外は薄暗く、二人は灰色な外光に照らされる。

唯「いこっか、あずにゃん」

梓「はい」

これで終わりにしよう。
純を倒し、必ず憂を取り戻す。

唯先輩の為にも……。
91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/07/03(火) 09:39:36.26 ID:MXAWYfsAO
────

何事もなく工場まで辿り着けた。予想してた通り彼女達は雨は苦手らしい。
どれだけ超人的な機械でも、水は元来から変わらず天敵と言うことだろう。

梓「唯先輩……この先何があっても……憂を助けることを優先してください」

唯「……わかった」

もう、私は戻らない。
この先に必ず行くんだ……ムギ先輩がくれたこの力で。

工場内部に侵入する。

雨のせいか湿気が高く、冬なのに肌にまとわりつくものがあった。

純「今回は運がよかったね、梓」

梓「純っ!」

やはり、いつも通りに彼女はそこに鎮座していた。
92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/07/03(火) 09:45:53.79 ID:MXAWYfsAO
梓「唯先輩……あっちの通路から憂の所へ行けます」

唯「うん……あずにゃんも頑張って」

それだけ言い残し、通路の奥へ消えていく唯先輩。
今回は何も聞き返されなかった……もしかしたら本当に記憶が持ち越されてるのかもしれない。
いや、今はそんなことより……。

梓「純、今日こそ終わりにするから!」

純「ハッ! おかしなこと言うね梓。ずっと“今日”の出来事じゃない!」

梓「私は明日へ行く。これで終わりにするから……純!」

純「聞き飽きたよその手のセリフは!」ガッ

もはやBackを使うまでもなく捩じ伏せられる自信があったのだろう。
真っ直ぐ突っ込んでくる純。

私はこの先の未来が欲しい!!!!!!!

だから、求める!!!

左手を突き出して、叫んだ──

梓「Gain!!!!!!!」

ギィィィィィィィガガガガガガ

左手から白い空間が広がったと思うと、

それは、全てを飲み込んだ。
93 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/07/03(火) 09:47:10.15 ID:MXAWYfsAO
──────

唯「憂……ごめんね」

憂「……」

唯「いっぱいいっぱい待ったよね……ごめんね……」

唯「やっと思い出したんだ……何度も何度も助けようとして……でも、出来なくて……気がついたら家に居て……何も出来なくて……」

憂「……」

唯「でも……もう大丈夫だから。お姉ちゃんが助けてあげるからね……憂」


「唯……?」


唯「……」


「どうしてあなたが……」

唯「……遅かったね、和ちゃん」ニコッ


和「!!?」


和「あなたまさか……!」


唯「」ニヤリ


──────
94 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/07/03(火) 09:49:27.75 ID:MXAWYfsAO
それを口にした瞬間──、世界が白く堕ちた。

『なに、これ』

左手のチェンジャー、その上から四番目のセグメントがバグを起こした様に数値を羅列して行く。

『そ、そうだ! 純は……』

白い世界の中で、ただ止まっていた。

『これがGainの能力……?』

時を止める能力……?
だとしたら……それはもう……神に等しい。

『死なない程度にっ……』

私は攻撃を開始した、
殴る、
ただ動かない友達を、
右手のナックルで、殴る、殴る、殴る、
反応がないのでどれぐらい効いているのかもわからない。
それでも殴る、今までの分を返すように。

梓「純……ごめんね」

ガスッガスッ……ゴッ!!!!
95 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/07/03(火) 09:51:04.81 ID:MXAWYfsAO
グニャリ━━

『!?』

突如、異音が響く。
それは純からではない、

・・・・・・・
私の左腕からだ

『な゛っ』

セグメントの数字が
99999999999999999999
という気味の悪い限度数値を弾き出している。

そして、次の瞬間──

グニャリ━━━━

『がっぁ……っぁ……ぁぁぁああああ嗚呼ああ』

左腕が関節から螺曲がり、途端、チェンジャーに吸い込まれた。

腕が無くなったのにも関わらず、チェンジャーはそのまま中空に浮かんでいる。
更なる異音を発し、次は左肩から胸部の辺りまでゴッソリ持って行かれた。
96 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/07/03(火) 09:52:09.14 ID:MXAWYfsAO
『何これ何これ何だよこれッッッ!!!!!!!』

純の事などもはやどうでも良くなっていた。
それよりも早くこれを止めないと、、、厭な予感がする。

『止まれ!止まれ!止まれ!止まれ!止まれ!』

グチャリ、ギィィィ、クチャ━━━━

左足が無くなる。

もはや痛みなのかさえわからない。

『止まってお願いだから助けてムギ先輩……』

震える様な声で懇願しても止まる様子はない。
とうとう右側にまで侵食し、体の6割が無くなる。
真っ白な世界に、段々自分が溶け込んで行く……。

これが私の……望んだ結果なのだろうか……。
97 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/07/03(火) 09:53:16.09 ID:MXAWYfsAO
さようなら、ムギ先輩、律先輩……澪先輩……。

体のほとんどがもう、無い。

私の存在が消えかけているのがわかる。

ごめんなさい、唯先輩……。

私は……また……。

もはや瞳だけしか残っていない私は、最後に目を閉じた。
いくら世界が白く染まろうと、私がこれまで過ごして来た日々までは消させない。

楽しかった、軽音部のみんなで、ただがむしゃらに音楽をやってるあの頃が。

私はもう一度、あそこに帰りたかっただけなのに……。

━━━━━、

願わくば、あの時へ

Back────
98 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/07/03(火) 09:57:24.25 ID:MXAWYfsAO
────────
──────
────
──

梓「ん……暖かい」

唯「起きた? あずにゃん」

梓「唯先輩……」

唯「ほんとは私の家まで戻ろうと思ったけど雨も降ってたから」

梓「それで……焚火ですか」

唯「あずにゃんが風邪引かないようにと思って。燃えそうなものはいっぱいあったから」

工場の中で焚火なんて危ないんじゃないか、とか……色々思ったけれど。
そんなことより、私が居て、唯先輩が居て、時間が先に進んだことが……何よりも、嬉しかった。

[    63072621]
[259200]
[ 43155]
[        ]
[////////////////]

第ニ章【Gain】 終
99 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/07/03(火) 10:05:33.53 ID:MXAWYfsAO
第五章ぐらいまでを予定してるのでこれで1/3ぐらいですかね
色々ハショるかもなのでもうちょっと短くなるかもです

もっと投下出来るように頑張ります
思ったこととか感想とかのコメントくれたら嬉しいです

>>89
憂のいる場所は?

ですね
誤字すみません
100 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/03(火) 13:04:29.89 ID:PBLUUQQYo
なんか壮大だな

どう繋がるのか楽しみ
101 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/03(火) 14:19:55.38 ID:j9Q/16cSO
スレタイ詐欺、シリアス的な意味で
でも面白そう期待
102 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) :2012/07/23(月) 03:29:29.68 ID:Pvq9owOKo
そろそろか?
103 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/07/30(月) 02:45:34.32 ID:43RJMJVAO
第三章 先輩達

唯「ずっと眠ってたから心配したんだよ」

梓「えっ……」

時計代わりにチェンジャーを見てみると、ここに来て43000秒、約12時間も経過していた。
見事に最長記録中だ。

梓「っ!! あの! 純は……!?」

唯「わからない。私がここに来たときにはもういなかったから」

梓「そう……ですか」

結局Gainとは何だったのだろうか。
夢……にしてはリアルだったような。

梓「……違う」

夢じゃない。

私はあるものを見てそれを確信する。
純が立っていた辺りには夥しい血の跡が残されていた。
Gain、もうあれを使うのはやめよう。
あの感覚が夢じゃないのだとしたら、次に使った時本当に戻って来れないかもしれない……。
104 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/07/30(月) 02:46:27.11 ID:43RJMJVAO
梓「……憂は」

唯「……」

唯先輩は焚火を見つめたまま話そうとはしない。

梓「……何があったんですか?」

ここから先は私にもわからない。だからどうしてもこれは聞かなければいけなかった。

唯「……」

目に火を宿していた唯先輩が、ようやくこちらに振り向き、言った。

唯「……世界は、憂によって改変される」

梓「え……?」

唯「真のお姉ちゃんによる真の世界平和の為に造られたのが憂ver.α……そして」

梓「」ゴクリ……

唯「その憂ver.αを作ったのは……」


唯「私の幼馴染みの和ちゃんだった」
105 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/07/30(月) 02:47:24.38 ID:43RJMJVAO
梓「和先輩が……世界妹計画の……」

あり得な……くは、ない。
唯先輩の次に憂に近い人は間違いなく和先輩だ。
技術的にも知識は一番兼ね備えているだろう。
でも、だからって唯先輩も自分も大切にしている憂にこんな仕打ちをするだろうか?

それに世界を平和にする?

確かに世の中全てが平和なわけじゃない。けれど自分の最愛の人を利用してまで世界を平和したいと思うのだろうか……?

わからない、……本当にわからないことだらけだ。

唯「……あずにゃん」

虚ろな瞳で私を覗いて来る唯先輩。
106 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/07/30(月) 02:47:58.20 ID:43RJMJVAO
唯「どうしたら……いいのかな」

すがるように答えを求めてくる……。
それの表情が余りにも辛辣で、絶望で、迷いで……。

梓「……」

梓「」ギュッ

唯「あずにゃん……?」

消えてしまいそうだったから────

梓「私は、ここに居ます」

唯「っ!」

梓「唯先輩の味方ですから」

唯「……」

唯「ありがとう……あずにゃん」

すすり泣く唯先輩を優しく撫でる。
今私に出来ることは……これぐらいだから。
107 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/07/30(月) 02:49:09.61 ID:43RJMJVAO
唯「もう大丈夫だよ……ありがとう」

そっと離れて行く体温がいとおしく思えた。

唯「」ゴシゴシ

唯「止めないと」

梓「はい」

唯「どんなに大切な人でも……間違っていたらそれを止めないと駄目だよね」

梓「はい! それにちゃんと話せば和先輩もきっとわかってくれます。なんたって唯先輩の幼馴染みなんですから」

唯「うん……!」

唯「この先にある山の麓の工場、そこに和ちゃん達は本拠地を構えてる」

梓「……」

唯「どうするか決めたら来なさいって言われたけど……もう、決めたから」

梓「……行きましょう!」
108 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/07/30(月) 02:51:45.68 ID:43RJMJVAO
再びバイクに跨がり走らせる。
郊外を抜け、田園地帯を抜け、朝焼けをバックに私達は山の麓を目指し、ただひたすら進む。

憂達による妨害もない。雨は上がっているので機械的な問題でもないだろう。
恐らく和先輩は本拠地に唯先輩が来るのを待っているのだ。

『真のお姉ちゃんによる真の世界平和』

唯先輩はそう言っていた。きっと和先輩が唯先輩に迫った決断と関係があるのだろう。

和先輩がどうしてこうなってしまったのかはわからない。

しかし…世界妹計画、その首謀者がようやく見えた……。

終わりの時は近い、そう思えた。
109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/07/30(月) 02:53:22.62 ID:43RJMJVAO
ついに道が途切る。唯先輩が言う目的地はこの樹の根が張り巡る先らしい。

梓「バイクじゃここまでしか進めませんね……歩いて行きましょうか」

唯「うん」

借り物なのでしっかりとキーは抜いておく。こんな辺鄙なところに人がいるとは思えないけれど。
雨上がりの冬の森はとても冷たく、吐く息は二人とも真っ白に染まった。

梓「……」

無言で歩くと更に寒さが増す気がするので何か話そう、

唯「……」

と思ったが唯先輩の辛辣な顔を見るととてもじゃないが軽口を叩ける雰囲気じゃなかった。当たり前だ、大切なものが二つとも抜け落ちているのだから。

今私に出来ることは、唯先輩の側にいることぐらいだろう。
110 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/07/30(月) 02:55:32.84 ID:43RJMJVAO
唯「……あそこだよ」

30分ほど歩いたところで森が拓けてる場所に出た。
建設地なのだろうか、クレーンやらダンプカーが平野に置き去りにされているのが目につく。

およそ2平方キロメートル程にも切り取られ、出来た平野の真ん中にそれはあった。
パッと見た感じではあの工場と似ている、けれどあそこほど古くさくもなく規模もあの比ではない。
ふたまわりは大きいだろうか。

梓「……あそこに和先輩が……」

おそらく純もあそこにいるだろう。和先輩の何に共感して私の妨害をしてたのかはわからないが、繋がってるのは間違いない。
111 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/07/30(月) 02:56:19.26 ID:43RJMJVAO
梓「行きましょう……」

唯先輩は小さく頷き、私達は工場へ向かって歩き出す。
世界妹計画の全容は把握しきれないが、ムギ先輩がこの時間に私を送り込んだ理由はおおよそ分かった気がする。
改変者を止めることが出来るのは改変者しかいない。
だからチェンジャーを使って何らかの過去を改変しようとする二人を止める為に私が選ばれた、齟齬はあってもあらましはこんなところだろう。
世界妹計画がどんな理想的であれ憂が利用されている、それだけで排想していい計画だ。
憂が同意してるわけもない。だって憂が唯先輩と別意見なんてありえないのだから。
112 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/07/30(月) 02:58:39.13 ID:43RJMJVAO
これが終わったらムギ先輩達を探しに行こう。記憶損失気味で真相だけ解決したのではわからないことだらけで納得出来ない。

そう決め、歩も進み入口が見えてきた時だった。

唯「!!!!!」

唯先輩が何かに気づき立ち止まる。私も思考を現実に戻し唯先輩が見ている方を見てみると、

憂がいた。

今までのようなメカメカしい憂じゃない、顔も私達と同じ、桜が丘の制服から伸びる手足も綺麗な肌色で、私達となんら変わりはない。

梓「憂…………っ!!!」

一瞬本物かと思いかけた、が、しかし。

ただの一点、明らかに憂とは異なる部分があった。
113 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/07/30(月) 02:59:33.86 ID:43RJMJVAO
憂「ありがとう、梓ちゃん」

瞳が、

憂「お姉ちゃんを連れてきてくれて」

真っ赤な紅色だった。

梓「憂……なの?」

憂「そうだよ、梓ちゃん。憂だよ」ニコッ

ギリッ

唯先輩から歯ぎしりのような音がする、しかし表情は伺えない。

梓「憂の目はそんな紅くなかったと思うけど」

憂「カラーコンタクトだよ〜」

少しおどけながらそう誤魔化す憂。

唯「あずにゃん」

梓「わかってますよ」

友達を見間違えるわけがない。
つまりあの憂も今までの憂と同じ、ロボットの憂なのだろう。
しかし格段に進化している……。
114 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/07/30(月) 03:00:22.72 ID:43RJMJVAO
世界妹計画は次の段階に進んだと見て間違いないだろう。

憂「」ニコニコ

あの憂を見る限り、とてつもなく嫌な方向に。

憂「じゃあいこっか。お姉ちゃん」

ゆっくりとこちらへ近づいて来る偽の憂。

唯「……」

梓「唯先輩は渡さない」

唯「あずにゃん……」

憂「……へー。和お姉ちゃんの言う通りなんだね」

梓「どういう意味?」

憂「ふふっ」

憂「邪魔者ってことだよ」

梓「────っ!?」

速い──、

梓「グゥッ」

咄嗟に視界に入って来た攻撃を腕で防ぐも、余りの反動に体ごと吹き飛ぶ。
115 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [saga]:2012/07/30(月) 03:01:52.21 ID:43RJMJVAO
憂「チェンジャーって固いなぁ。あれで画面に傷一つないなんて」

梓「……」

息を整える梓。
この憂はこれまでの憂とは桁違いな程に強いのはさっきのでわかった。
その上でどう勝つかを思考して行く。

梓「(Gain……はダメだ。次やったら本当に戻って来れなくなるかもしれない)」

梓「ならっ!」

今度は梓から仕掛ける。
砂利を踏み締め加速、勢いを乗せた渾身の右のストレート。

ガキッ、と機械音をたてヒットするも……

憂「なぁにこれ? 梓ちゃんもっと本気でやらないと死んじゃうよ」

梓「なっ……!」

まるで効いた様子がない。
116 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [saga]:2012/07/30(月) 03:04:01.92 ID:43RJMJVAO
梓「15秒Back」

憂「あ、純ちゃんと一緒だ。凄いな〜」

梓「(今までの憂より更に固い……このナックルぐらいじゃへこみもしない……ならどうする……)」

思案する暇もなく憂が駆けてくる。

梓「このっ」

梓は飛んでくる拳を腕で打点をずらしながら器用にかわす梓。

憂「ふふふ」

徐々に後退する梓を見て気を良くしたのか拳の速度を上げる憂。

ピチャ……

梓「!」

梓「」ニヤッ

憂「ほらほら〜どうしたの梓ちゃん」ピチャピチャ

梓「てやっ」

憂「!?」

昨日降った雨がもたらした唯一の水源、水溜まりを梓は蹴り上げた。
跳ねた水は憂に浴びせられる。
117 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [saga]:2012/07/30(月) 03:05:26.13 ID:43RJMJVAO
憂「うぅ」

よろよろと後退し、水のかかった顔を手で覆し踞る。

梓「どんなに憂に似せても所詮は機械!」

もらったと言わんばかりに駆け寄り仕留めにかかる。
拳を一番装甲の薄そうな後頭部へ打ち下ろし、

憂「なんてね」

梓「あっ……」

急に浮遊感が梓に襲いかかる。それが自分の足を憂に払われたからだと気付いた時にはもう、

憂「梓ちゃんってバカだよね」

ゴスッ───

憂の拳が梓の顔面にめり込んでいた。

衝撃で少しバウンドした後、突っ伏したまま動かない梓。

憂「機械が水に弱い時代なんてとっくに終わったのに。フフフ」

唯「あずにゃんっ!」
118 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [saga]:2012/07/30(月) 03:06:32.78 ID:43RJMJVAO
憂「さ、いこ。お姉ちゃん。和お姉ちゃんも待ってるよ」

唯「……」

憂「早く私達のお姉ちゃんになってよ、ね?」

唯「……私は」

梓「──ckッ!!!!!」

ズォッ

唯の隣に居た憂が仰け反る。

梓「唯先輩に近づくな……偽物」

憂「……いい加減鬱陶しいよ梓ちゃん」

梓「ハァ……ハァ……」

唯「あずにゃん……」

憂「純ちゃんには殺すなって言われてたけどいいよね。この場合はふかこうりょくだよね」

唯「あずにゃん……もう」

梓「唯先輩は……私が守るんだ」

梓「私が……みんなを」

唯「……。」
119 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [saga]:2012/07/30(月) 03:22:21.71 ID:43RJMJVAO
憂「ふへへへへへへへへへへへへへへへ」

もはや拳の体裁を成していない打撃が梓の右腕を砕き飛ばす。

梓「ンギィィッ……」

更にハンマーの様に降り下ろした拳が梓の肩を直撃、四つん這いになって倒れ込む。

憂「梓ちゃん梓ちゃん梓ちゃん梓ちゃん梓ちゃん梓ちゃん梓ちゃん梓ちゃん梓ちゃん梓ちゃん梓ちゃん梓ちゃん梓ちゃん」

顎を蹴り上げる。
浮いた体を腹の辺りから叩きくの字に折り曲げ、寝転んだところで腹を蹴り苦しみもがいてるとこを頭を踏みつける。

憂「駄目だよ梓ちゃん嘘ついたら。梓ちゃんは弱いんだから誰も守れないんだよ?」ニコニコ

梓「」ギッ

梓「25秒Back!!!!!!!!」

25秒前、今の憂の背後に自分が居たのをわかって梓はBackした。
今までの憂達はそれで後方を取れていた、だが、

憂「梓ちゃんってほんとバカだよね」

ゴズッ────

Backした瞬間後方に合わせられ、憂の拳は梓の鳩尾に綺麗に突き刺さった。

梓「ッ……ガッ……ァ」

そのまま前のめりに倒れ込む。
120 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [saga]:2012/07/30(月) 03:22:54.35 ID:43RJMJVAO
憂「次起きて来たらほんとに殺すから。もう死にそうだけど」

憂「お待たせお姉ちゃん。早くいこ」

唯「……わかったよ、憂」

梓「!」

憂「お姉ちゃんに名前呼ばれた……嬉しいな」ぴょんぴょん

憂「手握っていい?」

唯「……うん」

憂「やったぁ♪」

仲良く手を繋ぎ工場の入口へと向かう二人。

梓「ゆ゛い゛せん゛ぱぁい……」
121 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [saga]:2012/07/30(月) 03:24:00.19 ID:43RJMJVAO
私は、私のままだ。

周りばかり気にして、伺って、合わせて……弱いままだ、ずっと。

誰も救えない、誰も守れない。

一番大切な唯先輩のことも……。

梓「……守れないまま死ぬぐらいなら、いっそ」

唯「あずにゃんダメ!!!」

梓「……Gai」

唯「あずにゃん、大丈夫だから!」

梓「唯……先輩」

唯「大丈夫。世界は……」

唯「憂によって生まれ変わる!!!」

唯「平和で……優しくて……誰も争わない世界に、きっとして見せるから」

唯「だから……あずにゃんはその世界で幸せに生きて、お願い……だから」

唯「もう……傷つかないで、あずにゃん」

そう言い、もう、振り向くことはなかった。
そして今の私には、その背中をただ見守ることしか出来なかった。
消えてしまってでも助ける勇気も、
さっきの唯先輩の言葉に返すことも出来ない。

自分の弱さが歯痒くて、悔しくて、涙がボロボロこぼれる。
朦朧とする意識の中でただ、強くなりたいと願った。

また、いつもの日常で
軽音部で音楽をやるあの日々に

戻せるだけの力が、強さが、

欲し…か…っ……た。。。。。。

━━━━━━━━━━
122 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [saga]:2012/07/30(月) 03:24:46.01 ID:43RJMJVAO
────

憂「純ちゃんには殺すなって言われたけど私とお姉ちゃん達の邪魔されたら困るからやっぱり殺すね、梓ちゃん」

憂「もちろんお姉ちゃんには内緒だよ。お姉ちゃんは梓ちゃんのこと大切にしてるみたいだったから」

憂「でもね梓ちゃん。お姉ちゃんの妹は私一人でいいんだよ」

憂「だから、死んでください」ギュゥゥゥ

梓「……ングッ」

憂「じゃあね、梓ちゃん」

バァン────

憂「あ、れ、何で、体が、、、うごかかかかかかかか」バタリ

「全く世話のかかる後輩だな……よっこらせ」

ザッザッザッザッ……
123 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [saga]:2012/07/30(月) 03:25:17.78 ID:43RJMJVAO
──────

何だろう、懐かしい匂いがする。

梓「ん……つっ」

「まだしばらくは横になってなきゃ駄目よ」

梓「え……あ、あの……もしかして」

「おはよう、梓ちゃん」

梓「ムギ……先輩っ!」ギュッ

思わず抱きついてしまう。そのままだと泣いているのがバレてしまうから。

紬「……ごめんね、梓ちゃん」ナデナデ

梓「ずっと……探してました。何もかもわからなくて……聞きたいことがいっぱいあって……」

紬「……ごめんね」

そう何度も言い、ムギ先輩は私が落ち着くまでずっと側にいてくれました。
124 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [saga]:2012/07/30(月) 03:25:43.82 ID:43RJMJVAO
梓「もう大丈夫です。すみません」

紬「ん、ちょっと待っててね」

そう言い残し、白衣を揺らして部屋から出ていくムギ先輩。

梓「なんだか大人びて見えたな……」

白衣を着ていたからだろうか。
周りを見渡すと様々な薬品が置いてある棚が目に入った。
白を基調にした落ち着いた空間は学校の保健室を連想させる。
私が寝ているベッドの横には大張りな窓があり、今は少し開けられており風でレースのカーテンがほんのり揺れていた。

紬「寒かった? ごめんね。ちょっと空気の入れ替えしてたの」
125 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [saga]:2012/07/30(月) 03:26:19.79 ID:43RJMJVAO
梓「いえ、大丈夫です」

紬「そう。はいこれ。暖まるよ」

梓「ありがとうございます、ムギ先輩」

差し出されたティーカップの側面を見ると、猫の模様が描かれている。

梓「これ……私の」

紬「うん。梓ちゃんの」

梓「学校にあったはずじゃ……」

紬「みんなでいつでもお茶出来るように持って来たの。ふふ、さっそく梓ちゃんと出来て嬉しい」

やっぱり、ムギ先輩だ。
変わってない……こんな時でも。
みんなを想って、優しく支えてくれている。
このレモンティみたいに、暖かかった。
126 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [saga]:2012/07/30(月) 03:26:46.80 ID:43RJMJVAO
ようやく気持ち的にも落ち着き、さて、何から話せばいいものかと思案する。

梓「……そう言えばここはどこですか? 見たことない部屋ですけど……」

紬「私の家の別荘よ。倒れてる梓ちゃんを運んで来たのはりっちゃん」

梓「律先輩もいるんですか!? じゃあ澪先輩も……」

「澪はいないよ」

声のした方を振り向くと、丁度部屋に入って来た律先輩と目が合う。
黒いダッフルコートに空色のマフラーと云う出で立ちが様になっていた。
頭の黄色いカチューシャは相変わらずだったがどこか雰囲気が変わってた気がするのは気のせいだろうか。
127 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [saga]:2012/07/30(月) 03:27:59.70 ID:43RJMJVAO
律「よっ、梓。久しぶりだな」

梓「律先輩……」

律「色々聞きたいことがあるのはわかる、けど先にそっちであったことを聞かせてくれないか?
じゃないとこっちも話を整理しにくい」

淡々とそう語る律先輩。

梓「わかりました」

──────

私は二人に今まであったことを話した。
気づいたらチェンジャーをつけたまま三日前の部室に飛ばされていたこと。
記憶が曖昧なこと。
おぼろ気な記憶を便りに世界妹計画を阻止しようとしたこと。
純に妨害されたこと。
唯先輩と協力し合ったこと。
和先輩が首謀者、もしくはそれに近い人なこと……そして、唯先輩がさらわれてしまったこと。

私が無力なせいで……。
128 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [saga]:2012/07/30(月) 03:28:36.58 ID:43RJMJVAO
梓「私が弱かったせいで唯先輩が……」

小さく拳を握り締める。そうだ、私が弱かったから唯先輩はああするしかなかった。
私を守るために自分を犠牲にして……!

律「……」

紬「……」

二人はしばらく押し黙っていた。
私の話した内容が余りにも突飛過ぎて信じきれていないのだろうか。
そもそもこの二人はどこまでこの異常を知っているのだろうか。
考えれば考えるほど不安は波を立てて広がる。

律「やっぱり記憶がない……か」

紬「りっちゃん……」
129 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [saga]:2012/07/30(月) 03:29:06.80 ID:43RJMJVAO
梓「だから教えて欲しいんです。私が三日前に飛ばされた意味、この機械のこと、世界妹計画のこと、そして……これからどうしたらいいのか……」

律「……。」

律先輩がポケットから何かを取り出し、ベッドの上に置く。
それはどう見てもただ石ころのようなものだった。

律「チェンジャー、世界妹計画、この全ての発端はこの石から始まった」

梓「……?」

律「見せた方が早いな。梓、私が合図したら3秒Backしろ」

梓「は、はあ」

そう言うと律先輩は左手にその石、右手にコインを持つ。
130 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [saga]:2012/07/30(月) 03:29:43.28 ID:43RJMJVAO
それを同時に中空へ放ると、

律「梓」

梓「3秒Back」

言われた通りにすると、次に目に入ったのは驚くべきものだった。

3秒前には確かに両方律先輩の手のひらにあった物が、

左手の石ころだけはまだ浮いたままだった。

律「今ので大体わかっただろう」

律「この石、琴吹石、時空石、名前は色々あるが……私達は紬石って呼んでる」

紬「……」

梓「紬石……」

名前の由来からムギ先輩に深く関わりがあるのだろうがそれは今は聞かないことにしよう。
律先輩が説明を続ける。

律「この石は時間に干渉してないんだ」
131 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [saga]:2012/07/30(月) 03:30:22.56 ID:43RJMJVAO
律「年月によって朽ちたりすることもない。時間から完全に切り離されてる石なんだ」

梓「そんなことが……」

律「最近見つかってわかったらしくてな。それを見つけたのが琴吹グループ、ムギの親父さんだ」

紬「……」

律「で、だ。まあこれだけならただこの石を加工、製品化して永遠に時間では朽ちることのない物が出来る、ぐらいで済んだんだけどな……もう一つの性質があってだな」

律「梓が持っているチェンジャーっていう機械、それの効果はなんだ?」

梓「Back……時間を逆行する効果……?」

律「そう。それが今回の異常の始まりだ」
132 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [saga]:2012/07/30(月) 03:31:29.23 ID:43RJMJVAO
律「そのチェンジャーにはこの紬石が使われてる。原理とかその辺は私はわからないから後でムギに聞いてくれ」

律「これは厳密に言えばタイムマシンなんかとは違うんだが時間を戻るって意味じゃ変わらない。それがわかった途端国と国との取り合いってわけさ。なんせ過去に戻れたら歴史改変やりたい放題だからな」

梓「そんなことが……」

律「そしてそれを収める為に打ち出された計画が世界妹計画。文字だけならバカっぽいが実際の内容はとんでもないものだよ」

紬「りっちゃん……なんで」

律「ムギ……」

二人は一度だけ見合った後、律先輩はまた説明を再開する。
133 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [saga]:2012/07/30(月) 03:32:25.20 ID:43RJMJVAO
律「さっき見た通りこの石には時間に干渉しない効力がある。つまりこれを持っているものが人や物を護衛すれば過去に戻り改変を行うものを阻止出来るんじゃないか?
という結論が出たんだ」

梓「すいません、もうちょっと噛み砕いて説明してくれると助かります」

律「例えばだ。梓が1日前に戻って今さらわれてる唯とまた合流し、直接ここに来ると言うことがチェンジャーには出来る」

梓「!!!!!!!! そうだ……そうすれば唯先輩を助け」

律「無理だよ」

梓「なんでっ……!」

律「間違いなく紬石を持たされて時間から遮断されてる」
134 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [saga]:2012/07/30(月) 03:35:41.78 ID:43RJMJVAO
律「今1日前に戻ったところで唯の今いる現在地が変わることはないんだ」

梓「そんな……」

律「それが改変者対策、世界妹計画だ。これにより世界はまた平和を保った……」

梓「……」

大体合点は行く、でも……ならこの状況はなんだろう。
チェンジャーを持つのは私で、世界妹計画を進めるのは和先輩で……もしかして私のやってたことは……。

律「話は最後まで聞けよ梓」

表情を読み取ったのかそう付け加え、また説明続ける。

律「政府は琴吹グループの身近にいて一番妹に適していた憂ちゃんをモデルに指定してきた。
あんまり選ばれて気がいいものじゃないがあの性格だ、憂は二つ返事で協力してくれてな……」

梓「憂らしいです」
135 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/07/30(月) 03:38:14.89 ID:43RJMJVAO
今日はこの辺りで

ちょっと色々立て込んでました
次はもっと早く落とします
136 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/30(月) 10:39:46.67 ID:QTHkhe2IO
おもしろい
137 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/08/03(金) 03:13:30.18 ID:xvJnoRag0
がんばれ
138 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/08/05(日) 15:22:53.34 ID:sBPk8D4AO
律「でもそれに意を唱えるものがいた。それが和さ」

梓「和先輩が……」

律「和は世界妹計画の支柱になる憂verαの製作に協力したいと言って来た」

律「そして完成した後……、憂verαとチェンジャーを持って逃走、政府に世界妹計画を中止するように要求した。
でなければチェンジャーを使って政府を改変すると」

律「だが政府も世界から目をつけられてるんだ、退ける筈がない。ならどうする?」

梓「……」

律「そう。私達や、琴吹グループの人達で何とかしろ、が答えだ。そうして今に繋がる」
139 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/08/05(日) 15:23:44.50 ID:sBPk8D4AO
律「改変者は普通の奴じゃまず触れもしない。そこでもう一つチェンジャーを作って和を拿捕する計画が上がったんだが……」

律「チェンジャーには適性があったんだ。最初は私が行く予定だったんだけどな……どうやってもBack酔いが消えなくて断念したよ」

梓「Back酔い……?」

律「そこら辺は後で話すよ」

律「それで一番適性だった梓に託された。そしてお前と和は限界時間を越えて……」

梓「……大体はわかった気がします」

律「大体わかれば合格だ。それに梓と合流出来た今、やることは一つだけだしな」
140 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/08/05(日) 15:24:20.24 ID:sBPk8D4AO
梓「チェンジャーと唯先輩と憂の奪還、ですね」

律「……そうだ」

律「今や世界妹計画は和が推し進める政府改変プロジェクトのことを指してる。様々な分野の憂verαを量産してるのもその為だ」

梓「全ての人間の妹に憂が……」

律「そうすることで全てが平和になると思ってるんだ……あいつは」

梓「……でも、ほんとに憂がずっと隣に居てくれるなら、平和になりそうですよね」

ほんのちょっと、思ったことを口にしてみただけのつもりだった。

律「」キッ

律「ほんとにそう思ってんのかよ!!!?」

梓「あ、あのっ……」
141 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/08/05(日) 15:26:00.70 ID:sBPk8D4AO
律「待ってるのは全て統制されて、抑制された世界だ……!
確かに犯罪も欲望も上も下もない……!
けど……それが本当に幸せなわけ……」

紬「りっちゃん。梓ちゃんはそんなつもりで言ったんじゃ」

律「わかってる。わかってるさ。記憶がないんだ……そう思っても無理ない」

梓「すみません……何か怒らせるようなことを言って。ただ憂のことを思い出したら……側にいるだけで暖かかったなって。そう思っただけです」

律「確かに憂ちゃんは良い子だよ。良い子過ぎるぐらいに。世界がそれで平和になるのなら自分の存在が消えてもいいって言うぐらいにな」
142 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/08/05(日) 15:29:55.79 ID:sBPk8D4AO
梓「……そう、ですよね。軽口でした」

律「……もうあんまり時間はない。和が提示している真の世界妹計画発動時限時刻はちょうど明日の12時だ」

梓「そんな! もう時間がないじゃないですか!」

律「ああ。だから明日、私と梓で必ずチェンジャーを取り戻さなきゃならない」

梓「……」

唯先輩や憂よりこの機械が優先なのだろうか……こんなものが。

律「今から梓にチェンジャーの使い方を説明する。昔の梓なら戦闘型に劣るはずないからな。失ったチェンジャーの記憶を取り戻してもらわないと」

戦闘型……あの目の紅い憂のことだろうか。
143 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/08/05(日) 15:31:12.07 ID:sBPk8D4AO
紬「今からってそんな……。まだ梓ちゃんは体が」

律「BAPが働いてるだろ。動けないほどじゃないはずだ」

紬「りっちゃん……!」

律「ムギ!!!!!」

紬「」ビクッ

律「いい加減わかれよ。もう遊びで済まされる問題じゃないんだよ」

紬「でも……」

梓「大丈夫です、ムギ先輩」

ベッドから飛び降りると軽く屈伸してみせる。

梓「もう大体は治ったので」

紬「梓ちゃん……」

梓「律先輩。チェンジャーのことを教えてください!」

律「ああ。後輩に初めて教えることがこれとは……皮肉だけどな」
144 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/08/05(日) 15:31:52.15 ID:sBPk8D4AO
律「悪い梓。ちょっと準備するから先に出ててくれ」

梓「わかりました」



律「……」

紬「……」

律「ごめんなムギ。色々悪く言っちゃって」

紬「ううん。いいの」

律「でもわかってくれ。これが最後のチャンスかもしれないんだ」

紬「それは私もわかってるつもりよ」

律「私達じゃもうどうにもならない……。だから」

紬「きっと大丈夫。梓ちゃんなら……。またみんなを一つにしてくれるわ」

律「ああ……。そうだな」

律「じゃあ、行ってくる」

紬「いてらっしゃい」

律「私は間違ってないよな……澪」
145 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/08/05(日) 15:35:40.48 ID:sBPk8D4AO
──────

律「まずはチェンジャーを使う上で一番大切なBAPのことについて説明する」

梓「BAPって乗り物とかに乗るときに乗り方を教えてくれるあれのことですよね?」

律「ああ。BAPはBack Assist Programの略称だ」

梓「!!!」

律「どした?」

梓「あ、すいません。律先輩が英語の発音が良かったのでちょっとびっくりしました」

律「な〜か〜の〜?」

梓「ふふ」

律「私だって英語ぐらいなぁ……っと話が逸れたな。で、BAPってのは意味の如く使用者をアシストするプログラムだ」
146 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/08/05(日) 15:36:24.95 ID:sBPk8D4AO
律「人間の四要素って知ってるか?」

梓「確か特性、知能、技能、習慣ですよね」

律「そうだ。チェンジャーにはその人間の四要素。特性、知能、技能、習慣、それを補ってくれる装置が備わってる。例えば運転だと知能、技能をアシストしてくれたりな」

梓「初めてバイクに乗った時に何故かいつも乗ったことがある気がしたのはこれのおかげだったんですね」

律「いつも乗ったことがある……本当にそう感じたのか?」

梓「はい。そのバイクの癖みたいなのもわかった気がします」

律「……驚いたな」

梓「何がですか?」
147 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/08/05(日) 15:37:31.83 ID:sBPk8D4AO
律「普通アシストされるのは多くても2つまでらしい。特に習慣は一番働きにくい。習慣ってのは慣れだからな。
特に技能と掛け合わせた習慣は体が覚えていないとまず動かない」

梓「へーそうなんですか」

律「さすが適性者だな」

梓「そう言えば適性者とかBack酔いとか言ってましたけどあれはどういう意味ですか?」

律「そう言えばまだ説明してなかったな。Back酔いって言うのはBackした時に起こる乗り物酔いみたいなもんだ」

律「主に連続でBackすると起こりやすいんだがそれが起こる間隔に個人個人差があるらしいんだ。私の場合は10秒だったよ」
148 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/08/05(日) 15:38:34.36 ID:sBPk8D4AO
梓「乗り物酔い……一回だけなったことがありますね」

律「何秒間隔だった?」

梓「んーちょっと覚えてないです」

律「よし、じゃあ計ってみるか」

梓「ええっ!? またあんな苦しい思いするの嫌ですよ……」

律「それがわかってるとわかってないとじゃ戦闘の幅が段違いなんだよ。大丈夫。ムギから特別製の酔い止めの薬もらって来てるから」ニコッ

梓「わかりましたよっ! やってやるです!」

律「頼りにしてるよ。梓」

そう言いながら頭を軽く撫でられる。
その時の笑顔だけは、昔の律先輩だった。
149 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/08/05(日) 15:39:45.88 ID:sBPk8D4AO
律先輩からストップウォッチを受け取り、構える。

律「じゃあまずは10秒から行くか。発声承認は○秒Backの「ク」で承認される。「ク」の部分でストップウォッチを止めてBack明けに確認、酔えばその時間が連続Back出来る間隔の限界ってことだ」

梓「わかりました」

梓「……3秒Back」

───

7…8…9…

梓「3秒Back」

───

梓「ふぅ」

律「何ともないか?」

梓「はい。大丈夫みたいです」

律「ま、私がいけたんだから当然梓もいけるか。こうやって徐々に計って行こう。次9秒」

梓「はい」
150 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/08/05(日) 15:40:27.48 ID:sBPk8D4AO
しばらくそれを続けていると、ふと律先輩が思いついたように聞いてきた。

律「そう言えばなんで3秒なんだ?」

梓「え?」

律「戻る時間の秒数だよ。いっつも3秒だろ? 別に1でも2でもいいんじゃ……」

律「そうか……!」

梓「?」

律「梓、2秒Backしてみてくれないか」

梓「はい、いいですけど……」
律「」じーっ

梓「なんでそんな側に寄るんですか?」

律「いいからいいから」

梓「はあ、……2秒Back」

──√

梓「あ゛が」

律「梓、大丈夫か!?」

地面に崩れ落ちる前に律先輩が優しく支えてくれる。
151 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/08/05(日) 15:41:18.55 ID:sBPk8D4AO
梓「り゛つ゛先輩」

律「喋るな。これを飲んだらだいぶ楽になるはずだ」

無理やり口に押し込まれたものを飲み込むと、さっきまで体を支配していた気持ち悪さが和らぐ。

梓「っ……はぁ……はぁ……」

律「……」

梓「……なんで、泣いてるんですか? 律先輩」

律「泣いてなんかないぞ」

梓「嘘ですよ。だって、」

私の顔に、律先輩の涙があたってるじゃないですか。

律「……多分にわか雨だろ」

そう言って急いで顔を背ける律先輩を、不思議に眺めることしか今は出来なかった。
152 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/08/05(日) 15:48:46.70 ID:sBPk8D4AO
律「大丈夫か?」

梓「はい。薬のおかげかだいぶ楽になりました」

律「そうか」

梓「でもどうして2秒ってわかったんですか?」

律「最小Back秒数だよ」

梓「?」

律「多分だけど間隔と最小Backは比例してる。つまり最小が3秒なら間隔でBack酔いが起こるのもその秒数以下ってことだな
ってことで連続Backも3秒以上はマージンをとってやるように」

梓「わかりました」

律「体が回復次第次は本格的戦闘訓練に入る。梓のBackの使い方何かを再確認しとかないとな」

梓「はい」
153 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/08/16(木) 04:48:54.34 ID:nzFSRhoAO
律「まずはちょっとしたゲームから行くか」

そう言うと律先輩は足で地面に円を描き、その真ん中で手招きして見せる。

律「ここから一歩でも私の足が出たら私の負けだ。
制限時間は5分。最初の予備動作に5分やるよ。その間私は目も耳も閉じてるからさ」

梓「……」

円の大きさはせいぜい半径50cmほど。
しかもこっちはBackによる仕込み時間ありとまで言われている。
今の律先輩がどれほど戦いに長けているのかは知るよしはないが、さすがにチェンジャーの力を甘く見すぎている。

梓「わかりました」

梓「怪我させないように努力します」

律「ほ〜言ってくれるな〜梓」ニヤッ
154 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/08/16(木) 04:49:32.35 ID:nzFSRhoAO
5分が経過し、お互いに構える。

律「じゃあ今から5分な、よーいどん」

梓「16秒Back」

梓は律の背後にBack、仕込んでいた空転からの回し蹴りが1秒かからず繰り出される。

律「」フラッ

梓「!?」

すると律は後ろに凭れかかるように脱力、中空の梓に背中から寄り掛かる形になる。

梓「くっ」

更に律は体を半身梓の蹴りとは逆方向に捻り、完璧に蹴りの威力を殺して見せると梓と向き合った。

律「いきなり目の前から消えたら後ろにいるって言ってるようなもんだぞ、梓」ニコッ

梓「」ムカッ
155 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/08/16(木) 04:50:45.00 ID:nzFSRhoAO
更に攻防は続く。
梓の真っ向からの拳闘。
それをその場で全て捌き切る律。

梓「っ……!(まるで攻撃する前からどこに来るかわかってるみたい……)」

梓「34秒Back!」

再び背後に回り込み、今度は最小限の動きで出した左拳。

梓「(まずは当てる……そこから一気に体制を崩させてからっ)」

この小さな動きならさっきのように凭れかかられても当たる。

律もそれを察したのかくるりと反転しようとするも、僅かに梓の拳の方が早い。

律「」パシンッ

梓「なっ」

しかし律はそれを見るまでもなく弾いて見せた。
まだ体は明後日の方を見ているというのに。

梓「(音だけで攻撃を……!)」
156 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/08/16(木) 04:51:59.15 ID:nzFSRhoAO
梓「このっ……!」

形振り構わず押しに行く梓。
掴みかかるように律へ仕掛ける。

律「……甘い」

素早く梓の右腕を取る。

梓「!」

梓はそれを嫌い右腕を力強く引いた。

律「……」

それを読んでたかの様に一気に押し、更に右足を前に突き出し、引っ掻ける。

梓「わぁっ」

梓の軽い体は一気に浮かび上がりながら後方へ投げ出される。

梓「5秒Back!」

律「シッ!」

梓「あ……」

Back後、目の前に突き出された律の拳、

律「まだ時間残ってるけど、どうする?」

もはや負けを認めるしかなかった。
157 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/08/16(木) 04:52:26.90 ID:nzFSRhoAO
梓「」イジイジ

律「なーに体操座りなんかしてんだよ梓」

梓「まったく歯が立ちませんでした……」イジイジ

律「これでも先輩だからな」

梓「はあ……律先輩。私って弱いんですかね……?」

律「凄く弱いっ!」

梓「そんなあっさり……」ドヨヨーン

律「でも、梓は強いよ。きっと誰よりも……よりも」

梓「どういう意味ですか??」

律「気にしないでくれ。さ、私達の時間は待ってくれないんだ。さっさと続きやるぞ」

梓「は、はい」

律「(待ってろよ……。必ずお前の野望は梓が止める。そして澪の仇を必ず……!)」
158 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/08/16(木) 04:53:11.81 ID:nzFSRhoAO
律「さっきの戦いを見た感じだと梓はBackを隙をついたり死角をついたり距離を取ったりにしか使ってなかったがあれじゃ戦闘型には勝てない」

梓「でも、……それ以外の使い方なんてあるんですか?」

律「あるさ。寧ろBackは進む時の方が強い」

梓「進む?」

律「やった見せた方が早いな。梓、ちょっと走ってみてくれ」

梓「こうですか?」シュタタッ

律「よし、止まって。じゃあ次は3秒Back」

梓「3秒Back」

梓「っとと。それでこれがどうか……あ」

律「そう。Backには慣性が働くんだよ」
159 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/08/16(木) 04:53:46.62 ID:nzFSRhoAO
律「数秒前が走っている時ならその慣性が、回っている時も同じだ」

梓「そう思えばそうですよね……」

律「自然とやってた時もあったけど体が反応してなかったからな。だからこれを知れば梓はもっと前に行ける」

梓「前に……」

律「梓の走る速度はそんな速いわけじゃない。でもそれはあくまでも平均速度の話だ。
Backからの慣性込みの初速なら普通の人間じゃ絶対に出せない程早い」

律「その初速+Back後の動き方+BAPアシスト+鍛練された一撃なら……正直私にもわからないな」

梓「……それを習得出来れば……強くなれますか」
160 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/08/16(木) 04:54:39.03 ID:nzFSRhoAO
律「ああ。肉体的にはな」

梓「これでようやく……」

律「……」

律「なあ、梓。お前はこの変わってしまった私達の世界をどうしたい?」

梓「……私はまた、軽音部のみんなで音楽がしたい、ただそれだけですから」

梓「数日の記憶がないまま……目の前に起きた環境の変化にただ流されるしかなかったけど……それだけは絶対に変わりません」

律「……そうか」

梓「純に殺されかけてやっと話し合いじゃ駄目なこともわかりましたし……ならその理由となってる根源を断つしかないですから。
それをするには力が要ります。とても大きな力が……」
161 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/08/16(木) 04:55:14.82 ID:nzFSRhoAO
律「……チェンジャーが生まれなかったらこうはならなかった、けど……それを作ったムギやムギの親父さんを恨まないでくれ」

梓「……わかってます。今回のことは誰のせいでもないんです。みんな……そうなるのが嫌で抗った結果何ですよね。
だから純や和先輩も元通りになればきっと元通りになってくれるはずです」

律「ああ……。今回のことが終わればチェンジャーを全て破壊して二度と生産出来ない様にするってムギも言ってるしな。
きっとまた元通りさ」

梓「でもそんなことしたらムギ先輩のお父さんの会社が……」
162 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/08/16(木) 04:58:32.99 ID:nzFSRhoAO
律「良くて倒産、悪くて……なんだろうな。想像もつかないよ」

梓「ムギ先輩のお父さんはそれでいいって言ってるんですか?」

律「……ムギの親父さんはもういないんだ。責任を感じたのか自殺して……だから今はムギが琴吹の代表やってる。その決定を出すのもムギってわけさ」

梓「そんな……」

律「ムギも今回のことの被害者なんだ。家族を失い、友達はバラバラになって……それでもあいつはみんなを信じて待ってる」

梓「ムギ……先輩」

律「だからさ……明日で全て終わらせて、また、みんなで帰ろう。あの時間に」

梓「……はい、必ず」

まだ全てが壊れてしまったわけじゃない。

そう信じて、
163 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/08/16(木) 05:08:44.91 ID:nzFSRhoAO
────

『…』

『律ー』

『り〜つ〜』

律「……ん、」

『こんな所で寝たら風邪ひくぞ』

律「み……お?」

梓「律先輩?」

律「ん……あ、ああ……あいつの間にか眠ってたのか……ごめん梓」

梓「いえ、疲れてたみたいでしたし。でも寝るなら家で寝ないと風邪引きますよ」

律「ああ。でも梓だけ頑張らせて私だけ部屋でぬくぬくとは出来ないよ」

梓「……あの、澪先輩のこと……聞いてもいいですか?」

律「……」

律「そうだな。梓には話しておかないとな……。じゃあちょっと休憩がてらに昔話でもしようか」
164 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/08/16(木) 05:16:56.55 ID:nzFSRhoAO
律「どこから話したもんかな……まあこうなってからしばらくしてから話そうか」

律「私達でどうにかしなきゃならないってなった時さ、澪は反対したんだ。澪は和とも仲が良いしな」

律「澪は何度も和と話し合ったんだがやっぱり無理でさ……どうやっても譲り合えないのなら……どうなるかわかるだろう?」

梓「まさか……」

律「違う違う。そう言う意味じゃない」

梓「でも律先輩は澪先輩が死んだって……」

律「……それも違う意味で、だな……。実際には生きてるよ。ただ……それは私達の知ってる澪じゃない」

梓「どういうことですか?」

律「これ、わかるか?」

そう言うと律先輩は左腕につけている腕輪のようなものを見せる。
165 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/08/16(木) 05:28:12.80 ID:nzFSRhoAO
梓「?」

律「覚えてないか。まあ、メモリーって言ってな……記憶を留めておくものらしい」

梓「はぁ」

律「って言われても良くわからないか。簡単に言えばこれがないとその時間軸に沿って記憶が改変されるようになっちゃうんだよ」

梓「ん〜」

律「例えばこの時代の総理大臣が私達が知ってるものとは違う人になったとするだろ?
私達は違うと知っているからそれを改変されたものだとわかる。
けどこれがないとそれが当たり前になるんだよ。なんせ私達の時間の記憶がないからな」

梓「なるほどです」

律「それは改変具合が進めば進むほど強まる。私も今これを外せば今の世界が基準とされた田井中律の記憶に改変されるだろうな……」

梓「……澪先輩は」

律「ああ……これを外したんだ。澪は。この世界で誰も傷つけずに生きる道を選んだ」
166 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/08/16(木) 05:36:11.62 ID:nzFSRhoAO
────

澪『もうやだ……憂ちゃんに似たロボットなんて殺したくない……』

律『そうしなきゃ私達が殺されるんだぞ!』

澪『やだ、やだやだやだやだやだやだ!』

律『澪……』

ガシャ

澪『!?』

憂『こ、ろ、さ、な、い、で』

澪『!!!!!!』

律『こいつ……! まだ生きてっ』

澪『やめて!!!』

律『澪!!! どけ!!! そいつは憂ちゃんじゃないんだ! わかるだろ!』

澪『でもっ……!』

憂『た、す、け、て』

澪『感情がある……。なら……もうこの子は機械じゃない』

律『澪っ!!!』

澪『律……私はもうこんなことはしたくないんだ……だから』

律『澪!? まさか』

澪『さよなら、律……ごめんな……弱い私を許してくれ……』

律『澪……どこに行くんだよおいっ! 澪……澪おおおおおっ!』

────
167 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/08/16(木) 05:45:09.44 ID:nzFSRhoAO
律「そのままそのロボットとどっか行っちゃったよ。ムギの話じゃ隣町にいるらしいけどな……」

梓「澪先輩……」

律「だから実質死んでるも同じなんだ……。次私達が話しかけて覚えてくれてる保証もない……」

梓「律先輩……」

梓「ここまでみんなを追い込んでまで和先輩は……!」ギリッ

律「……あっちにもどうしても退けない理由があるんだろうな」

梓「それでもっ……! 私達が争うようなことだけにはならなかったのに……!」

律「……それをわからせに明日行くんだ。……もうこんな時間か。そろそろ明日に備えて休むとするか」

梓「いえ! もうちょっと訓練してます!」

律「そうか……無理しないようにな」

梓「はいっ!」スタタッ


律「……」

律「……ごめんな、梓」
168 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/08/16(木) 05:59:36.93 ID:nzFSRhoAO
────

梓「……5秒Back」

──梓「はぁっ!」ズンッ

梓「ふぅ……!」


律「見違えたな」

梓「一晩練習しましたから!」

律「練習熱心なのは昔からだなほんと」

梓「律先輩達が遊んでばっかりなだけですよ」

律「そんなこと言う口はこれか〜?」

梓「アイタタタ」

紬「ふふ、駄目よりっちゃん後輩いじめは」

律「これは教育だから問題ない!」

梓「捕まった教師がニュースで言ってそうな弁解ですねそれ」


紬「私はここを離れるわけには行かないから……」

律「ああ。わかってる」

梓「みんな連れて帰ってみせますよ! 唯先輩も、憂も、和先輩も、純も!」

紬「梓ちゃん……きっと、みんなわかってくれるわ。だって梓ちゃんはこんなにもみんなを思っているんだもの」

律「そうだな……みんな戻ってくれば澪もきっと……」

梓「はい! だから……これで終わりにしましょう!」

そしてまた、みんなで始めよう。

あの日々を。壊れてしまったこの世界でも、みんながいればきっと……。
169 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/08/16(木) 06:09:54.61 ID:nzFSRhoAO
────

律「いよいよか……」

梓「はい……」

森の至るところにロボットの憂が動き回っている。

律「入口には多分かなりの数が配備されてると思う。私が何とか突破口を開くから梓は中に入って純ちゃんのつけているチェンジャーを回収が最優先、いいな?」

梓「はいっ!」

律「じゃあ……」カチャリッ

律先輩がどこからか出したショットガンらしきものをリロードする。

律「行くぞ!!!」ザザッ

憂「!」

憂「侵入者発見! 侵入者発」

バァンッ!!!

律「警戒憂は察知力は良いけど戦闘能力はほとんどない! 本命が来る前に一気に切り抜けるぞ!」

梓「はいっ!」バシンッ
170 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [saga]:2012/08/16(木) 06:35:45.39 ID:nzFSRhoAO
憂「あ、律先輩だー」

憂「ほんとだー」

律「ちっ、思ったより早かったな。戦闘型のお出ましだ」

梓「2..3..4..5……囲まれてますよ律先輩!」

律「大丈夫だ。梓が本気になったら敵じゃないさ。こんな偽物の妹達」

憂「」ムカッ

憂「律先輩殺すー」

憂「殺そっかー」

憂「うふふふふふ」

憂「死んでください♪」

律「……」

まず二体が律に向かって突進してくる。持っている武器はナイフと鉄パイプ。

律は一体に向け発砲、被弾を嫌がり飛び退く。
リロード、しかしその隙にもう一体が律との距離を詰めている。

梓「律先輩っ!」

憂「死んでね」

戦闘型の持ったナイフが銀色の軌跡を残しつつ、律の脇腹目掛け飛来する。

律「甘ぇよ!」

ショットガンの柄をナイフの軌道に被せると、一気に捲りたて弾き上げる。
リロードしているフリをし、敢えて脇腹に攻撃を誘い込んだのだ。

中空にあるナイフを拾うか拾うまいかしている戦闘型に追撃。
銃身を両手で掴みながら一回転、「うらぁっ」と律にしては低い雄叫びをあげながら柄でのフルスイングを戦闘型に浴びせる。

更に今度こそリロード、ダッフルコートから強引に弾を引っ張り出し、ねじ込む。

倒れ込んでいる戦闘型に躊躇なく、──バァンッ 引き金を弾いた。
171 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/08/16(木) 06:44:30.22 ID:nzFSRhoAO
もうちょっと戦闘描写練ってきます

やっと半分ぐらい終わった気がする……

頑張ります
172 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/20(月) 03:15:48.44 ID:5JViOZPoo
え、なにこれ
173 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/09/11(火) 02:03:58.57 ID:t9vQjHAco
まだー?
174 :とにかくがんばれ!!! :2012/09/24(月) 20:13:21.80 ID:ngNKyZEz0
もしかして釣り的なもの?
それとも後は頼んだってやつ?
今、必死に考えてるなら頑張ってって思うけど
今まで見たことある途中までのSSは全て放置してったから信頼が…
175 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/09/30(日) 08:23:28.23 ID:eo3I4YsAO
憂「よくも!」

仲間が撃たれたのを見て危機感を覚えたのか今度は律を左右から挟み撃ちにする。

梓「律先輩!」

憂「行かせない!」

梓「くっ!」


鉄パイプを持った憂が、それを大きく振りかぶり、律の頭目掛けてスウィングさせる。

律「っ……」

律はそれを素早いサイドステップかわすと、今度は左から来る包丁を持った憂の対処へ移行する。

憂「律センパァイ!」

迷いなく差し込まれてくるそれを律は躊躇いもなく左手の平を自ら包丁へ差し出し、突き刺さったのを確認してから包丁の軌道を変えた。
176 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/09/30(日) 08:23:57.47 ID:eo3I4YsAO
憂「なっ」

律「つぅっ」

自らの鮮血が飛び散る中でも律は冷静に次の行動へと体を動かしていた。
ショットガンを手放し懐からガバメントを抜き出すと即座に指かけ発砲、

弾丸は戦闘型の頭を捉え機能を強制停止させる。

更に鉄パイプを持っている憂にも強襲をかける。

バァンッ──
バァンッ──

憂「くっ」

律「さすがに手足はこれじゃ無理か」

ガバメントすらも投げ捨てて見せると後退、

憂「このっ!」

これをチャンスと見たのか逆に憂が仕掛けた。

律「へっ」

律は木々の中でも一つだけ目立って大きな物の横に立つと、軽くコンコン、とノックしてみせた、瞬間─
177 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/09/30(日) 08:24:39.48 ID:eo3I4YsAO
憂「っ! させない!」

憂が焦って前に出る。その焦燥の正体は、木の外壁が剥がれ落ち、中にショットガンが埋め込まれていたことによるものだ。

律「(間に合うか……)」

それを抜き出すと片手で強引にリロード、親指でセーフティを跳ね飛ばし、銃口を向ける。

憂「やあっ!」

律「ぐっ」

しかし、やや憂の方が速度に勝った。銃口を掻い潜り袈裟斬りの如く殴りかかって来る。

が、

ガシャンッ──

憂「なっ」

憂の手元にあった鉄パイプが何かの衝撃で押され手元がブレる。

それが梓の投げた律が最初に持っていたショットガンだと知る前に、憂は機能を停止させた。

────
178 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/09/30(日) 08:25:23.11 ID:eo3I4YsAO
梓「なんであんな無茶したんですか!」

律「今の技術ならこれぐらい簡単に治るから心配す、っつ」

梓「動かないでください。消毒して包帯巻きますから」

梓「ムギ先輩が私に色々渡してくれた理由がわかりましたよ……」

律「ムギのやつ余計なことを……」

梓「……もうやらないでくださいね」

律「……」

梓「じゃないと……ドラム……出来なくなっちゃうかもじゃないですか」

律「〜ッ……なかのぉ! 可愛いやつめ!」ナデナデ

梓「ちょ、やめてください! 私はただまた五人で音楽がしたいだけですから!」

律「そうだな……私も出来ることなら、また力いっぱいドラム叩きたいな……」

梓「……」
179 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/09/30(日) 08:26:00.86 ID:eo3I4YsAO
────

律「入口は……閉まってるか。私が派手に暴れるから中からあいつらが出てきたら中に突入しろ、いいな?」

それに黙って頷く。
また、自分の知らない顔つきに戻ってしまった律先輩。
それでも今はそれに従うしかなかった。
律先輩がどんなに危険な目に会うことになっても……今止めなければ全てが終わってしまう。
そんな気がした。

バァンッ──
ズバァンッ──

律先輩が先行し、派手にショットガンを撃ち散らかすと、すぐにそれらはやって来た。

梓「……どれも青い目」

さっき気付いたことだが律先輩が戦闘型と言っていたさっきの憂達は全て瞳が青だった。私が唯先輩と出会った憂は紅の瞳……何か差があるのだろうか。
180 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/09/30(日) 08:28:22.38 ID:eo3I4YsAO
律「出迎えごくろうさん……」

敵の注意が律先輩へと向いている……!

梓「今だっ」

木陰から一気に飛び出し入口に向かって猛ダッシュする。

憂「!!!」

こちらに気付いた憂が何体か駆け寄ろうとするが、

バァンッ──

律「無視すんなよ」

律先輩がそれを静止させる。
工場内部に入り、自分の足音が砂利音から渇いたものに変わるのを確認すると少しだけ振り向いた。

梓「律先輩……必ず帰って来ます。だから……律先輩も」

所詮は自分だけに向けた決意を言葉にし、更に奥へと向かった。

────

律「梓……唯を頼む」
181 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/09/30(日) 08:29:30.75 ID:eo3I4YsAO
────

景気のいいリズムを刻みながら足音がこちらに近づいて来る。
何回目だろう、これを聞くのは。

でも違う。

今回ばかりは本当の本当に同条件での殺し合いだ。

体がビクッと震える。何かに怯えているような、いや、そんなわけがない。
確かにあの工場では何かをされ、気づけば和先輩に治療を受けていた。
どんな能力を使ったのかは未知数だが、次はもうない……!

私は負けられない。

何故そう思うのか?

それすらもわからないけど、ただ……和先輩の、あの人の命令は絶対なのだ。

だから、私は……!
182 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/09/30(日) 08:30:02.21 ID:eo3I4YsAO
────

広い倉庫なような所を一気に駆け抜けると、今度はコンテナが散乱する区々へとやって来る。
ひやりと冷たい空気が頬を撫でる。

タッ……タッ……タッ……

「ようこそ、梓」

梓「純……!」

コンテナの奥からゆっくりと姿を現す。
私と違い制服ではなく、黒のモッズコートでその身を被っている。
その左手には、やはり私と同じものが装着されていた。

梓「純……チェンジャーをこっちに渡して」

純「駄目だよ。これはあの人からもらった大切な力だから」

梓「純っ!」
183 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/09/30(日) 08:30:34.44 ID:eo3I4YsAO
純「これがあれば何だって出来るんだよ? 梓。世界を変えることも……人を生き返らすことも!」

梓「そんなことして今あるものを壊すつもりなの!? 二人は!」

純「私は……」

梓「私は必ず取り戻してみせる! あの時間を! 軽音部を! 例え記憶がなくったってそれだけは変わらないから!」

純「記憶……ぐぅっ」

梓「純……」

純「なら……もう殺し合うしかないよ、梓」

梓「純っ!!!」

純「勝った方が世界を好きに出来る……それが改変者の力だから!」
184 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/09/30(日) 08:31:09.62 ID:eo3I4YsAO
純が仕掛けて来る。
コンテナとコンテナの狭い空間を突っ切って疾走。

梓はそれを見て迎撃の構え。純を真っ正面から見据える。

純「はあっ!」

駆けていた分勢いの乗った拳、
しかし梓は手の平で純の腕を押しやると、簡単に軌道をずらしてみせる。

純もこれに呼応し、即座に膝蹴りを入れる。
脇腹が空いている所を梓が狙って来ると読んでの膝、しかし梓は深追いせず。

トンッ──

純「なっ」

純のお腹を軽く押すと簡単に転ばせて見せた。
膝蹴りの最中、片足立ちなのを冷静に見て判断している。

純「いつの間にこんな……」
185 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/09/30(日) 08:31:36.92 ID:eo3I4YsAO
梓「純……」

哀れんだような目で手を差しのべて来る梓の手を払いのけ、更に起き上がりながらの下段蹴り。

しかしこれも梓はあっさりとかわす。

純「あんた……何なのよ! いきなりそんな強くなっちゃってさ……何なのよ!!!」

梓「……」

純の矢継ぎ早な攻撃も虚しく空を切る。
弾き、逸らし、流し、避ける。

純「当たらない……なんで……!」

梓「見切(けんき)、相手の攻撃を体全体で読み取り、次の動作を予測、最低限の動きでかわす技」

純「10秒Back!!!」
186 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/09/30(日) 08:32:21.55 ID:eo3I4YsAO
視覚外、後方からの攻撃、

ガッ

純「な……」

純の拳を梓の平手薙ぎ払いが叩き落とす、

梓「聴勁(ちょうけい)、相手の力、勁を読み取り相手の攻撃をかわす技」

更に梓はそのまま背中から体当たりし、純の体勢を崩すとそのまま腰を反りながら拳を打ち込む。

純「ぐぅっ」

梓「これは……酔拳かな」

純「それって……」

梓「BAP。私がずっと忘れてて、でも……思い出したもの」

梓「ずっと前から知ってたんだ……律先輩に教えてもらうずっと前から……」

純「そんなの……私は」
187 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) :2012/09/30(日) 08:33:08.77 ID:eo3I4YsAO
梓「使えないよね。BAPの習慣だけは自分の動きを刷り込むか人のを見て覚え込むしかないんだから」

梓「私はバイクに乗ったこともこの技を練習したこともあったのに……なんで忘れちゃったんだろう」

純「そんなのって……」

梓「純……これが最後だよ。チェンジャーを渡して」

純「私は……」

──あなたは、どっちの味方をするのかしら?

純「私は……!」

──憂? それとも梓ちゃん?

純「負けられない」

──そう、良かった。

──一緒に憂の為に戦いましょう。

彼女達と、ね。
188 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/10/01(月) 02:14:09.25 ID:pY3j/+2Uo
もう来ないかと思ったぞ
189 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/29(月) 02:18:02.17 ID:MDib9n0IO
まだか
190 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/30(火) 02:10:35.99 ID:IAhia+J10
今更こういう、憂天才、ある意味琴吹家元凶、和純が敵っていうSSを出されても何か寒いんだよな。他作品から色々介入させて解決して貰いたくなる。

如月弦太朗(仮面ライダーフォーゼ)「おい和、お前は一つだけ勘違いしているぜ。憂は天才的な少女なんかじゃねぇ!彼女はなぁ、何処にでもいる普通の女の子だ!」

レッドバスター・桜田ヒロム(特命戦隊ゴーバスターズ)「たとえ何者であれ、人類の敵はシャットダウンする」

ビートバスター・陣マサト(同上)「完璧な妹のコピーで、完璧な世界を作ろうってか。ハッ、そんな世界、何の面白みもないぜ」

山野バン(ダンボール戦機)「真鍋さん、何でこんな馬鹿なことをするんだ。今の世界にだって、いい所はいっぱいある!」

オプティマスプライム(トランスフォーマープライム)「真鍋和は危険だ。かつてメガトロンも彼女と同じように考えていた。そして戦争が起こり、我々の故郷サイバトロン星は滅んでしまった」

リンディ・ハラオウン(魔法少女リリカルなのは)「時空管理局は紬石をロストロギアと認定、これより回収・封印に向かいます!」
191 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/30(火) 04:01:50.49 ID:u2LmP1HEo
二次創作ですから
192 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/11/27(火) 18:35:31.17 ID:xVAGJ+zAO
色々あってしばらく書けませんでした
すみません
せっかくここまで書いたので何とか完結させたいと思いますので
とりあえず生存報告
193 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/11/28(水) 04:35:29.49 ID:bZZ1HOiAo
待っている
194 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/29(木) 20:28:01.23 ID:8l4WMQkIO
はよ!
195 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/26(土) 00:14:13.46 ID:2wDmt6Bz0
鬲皮愍
196 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/26(土) 00:14:59.25 ID:2wDmt6Bz0
鬲皮愍謖√■
197 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/26(土) 00:17:25.10 ID:2wDmt6Bz0
鬲皮愍
198 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/26(土) 00:18:21.91 ID:2wDmt6Bz0
魔 眼
199 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/26(土) 00:19:54.99 ID:2wDmt6Bz0
魔 眼 持ち
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