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キミの世界は、ボク一人 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY [saga]:2012/06/29(金) 06:18:15.48 ID:VnDjIfXUo
※この物語は>>1の空想です
用法用量を守って正しくお読みください

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少し暑くて少し寒くて @ 2024/04/25(木) 23:19:25.34 ID:dTqYP2V2O
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渾沌ゴア「それでもボクはアイツを殺す」 @ 2024/04/25(木) 22:46:29.10 ID:7GVnel7qo
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二次小説の面白そうなクロス設定 @ 2024/04/25(木) 21:47:22.48 ID:xRQGcEnv0
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佐久間まゆ「犬系彼女を目指しますよぉ」 @ 2024/04/24(水) 22:44:08.58 ID:gulbWFtS0
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全レスする(´;ω;`)part56 ばばあ化気味 @ 2024/04/24(水) 20:10:08.44 ID:eOA82Cc3o
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君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
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笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
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【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part10 @ 2024/04/23(火) 17:32:44.44 ID:ScfdjHEC0
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2 :卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY [saga]:2012/06/29(金) 06:18:46.06 ID:VnDjIfXUo
ボクはよく喋る。
喋ることは自分を守ることだからだ。
黙っていたら、相手は勝手にこちらのことを想像する。
もっと黙ってたら、勝手な想像は少しずつ悪い方へ向かう。
喋らなければ、そのレッテルも覆せない。
だからボクは、よく喋る。
3 :卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY [saga]:2012/06/29(金) 06:19:16.13 ID:VnDjIfXUo
ねぇ、キミ

「……」

横に座るキミが、ボクの方を向く。
真っ白な髪が耳にかかるのを、手で押さえながら。

キミは夕焼け、好き?

赤く染まる空を指差して、ボクはキミに問いかける。
キミは少し首を捻ってから、小さく頷いた。
ボクも夕焼けは好きだ。
ボクはキミと並んで、夕焼けを見ていた。
いつもと変わらない夕焼け。
ふとキミを見ると、キミはボクに微笑みかけていた。
ボクも微笑む。
こういう何気ない感じ、嫌いじゃない。
4 :卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY [saga]:2012/06/29(金) 06:19:45.74 ID:VnDjIfXUo
「おい、山口。ここの数式を解いてみろ」

数学教師がボクの名を呼んだ。
ボクは立ち上がり頭を掻き、ホワイトボードを眺める。
分子と分母にある数字よりもアルファベットの方が多い物を数学と言い張るのはどうかと思うのだが。
もちろんこんなものボクに解けるわけもないので、ボクは先生に頭を下げて廊下に出た。
今日の天気は曇りのち雨。
雨に濡れるのは、小学生までは好きだった覚えがある。
5 :卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY [saga]:2012/06/29(金) 06:20:12.77 ID:VnDjIfXUo
キミは、いつもと変わらずそこにいた。
ボクの気配に気付くと、キミはこちらに向かって走ってきた。
胸元へと飛び込んできたキミをそのままの勢いで高い高いすると、キミはにっこりと笑った。

よかった、元気みたいで

「……?」

ボクの言葉に、キミはいつものように首を傾げた。
色んな感情をひっくるめて首を傾げるのが、キミ特有の動作なのだ。
6 :卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY [saga]:2012/06/29(金) 06:20:38.73 ID:VnDjIfXUo
くもり、だったなーと

キミはくもりが嫌いなのだ。晴れでも雨でもない感じが、雨より嫌いだと。
ボクの言葉に、キミは辺りを見回して、少し不機嫌な表情になった。
どうやら今まで気付いていなかったらしい、悪いことをしてしまったかな?

「……」

あは、は……

無言の視線に耐えられなくなったので、ボクは腰を下ろした。
あぐらをかいたボクの膝の上に、キミも腰を下ろす。
そのまま二人で、ボーッと過ごした。
風がゆっくりと流れていく。
流れるキミの髪にそっと指を絡めると、キミはくすぐったそうに目を細めた。
時間が、流れてく。
ボクはここが、好きだ。
7 :卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY [sage]:2012/06/29(金) 06:21:04.89 ID:VnDjIfXUo
とりあえずこのぐらいで
書き溜めはしたりしなかったりなんで大した期待はせずに待ってネ
8 :卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY [saga]:2012/06/30(土) 17:47:03.77 ID:gwpd/9xMo
「部長!」

放課後の教室で佇んでいると、ボクを呼ぶ声がしたので振りかえった。
そこにいたのは、ボクの部活の後輩の女の子。

やぁ、どうしたの?

「どうしたの?じゃないですよ!部活来なくなって、もう何日目ですか!」

後輩ちゃんがボクの眼前まで駆け寄り、指を思い切り突き出す。
その指の先に指を合わせて少し微笑んで見せた。
こんな宇宙人が、いた気がする。
9 :卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY [saga]:2012/06/30(土) 17:47:30.38 ID:gwpd/9xMo
「っ!」

顔を真っ赤にしながら、後輩ちゃんは指を素早く引いた。
だが指は引かせても後輩ちゃんの勢いを引かせることは出来なかったらしく。

「今日こそは、部活に来てもらいますよっ!」

あ〜れ〜……
10 :卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY [saga]:2012/06/30(土) 17:47:58.26 ID:gwpd/9xMo
「お、部長連れてきたのか!」

「ぶいっ!」

どうやら既に他の部員は集まっていたらしい。
と言っても、ボクを含めて3人しかいないけど。
ボクが所属するアニメーション製作部は、部員5人の弱小部だ。
まぁそもそもアニメーション部に弱小も何もあるか知らないが、人数少ないと何故か弱小と言いたくなる不思議ってやつ。
ちなみに今いない二人は常にいないし、今後来ることもない……そんな感じの部員。
本当は今いる二人もそんな感じの部員になる予定だったのだが……現在進行形でこういうことなってるわけで。
11 :卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY [saga]:2012/06/30(土) 17:48:25.41 ID:gwpd/9xMo
「設定、考えてきてもらえました?」

もう一人の後輩くんが、携帯とボクを交互に見ながら訊ねてくる。
後輩ちゃんはと言うと、ボクをガッチリとホールドした状態だ。背中に何も感触が無いのが実に寂しい。

それについては、承諾した覚えがないんだけど?

「……おい、どういうことだ葵っ!」

「う……わ、私に怒鳴らないでよ!丸投げしてきたのは、翼の方でしょ!」

「なにぃ……?」

「なによぉ……?」

相変わらず仲がいいな、この二人は。
小学校からの幼馴染らしいが、これは多分……
まぁ、それを言っても否定されるだけだし言わないけど。
12 :卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY [saga]:2012/06/30(土) 17:48:54.58 ID:gwpd/9xMo
でもやっぱりここまで見せつけられると、自然と言葉が出てしまう。

もう二人で作っちゃえば、いいんじゃない?

ボクは少し皮肉っぽく言ってみる。
こういう風に言うと返しは決まって……

「「こいつとなんて無理です!」」

ほらね、仲良し。
13 :卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY [saga]:2012/06/30(土) 17:49:21.54 ID:gwpd/9xMo
そもそもボクがこの部に入ったのは、前任の部長から数集めに入れられたそんな感じの部員要員としてだ。
その部長が卒業すると同時にボク以外の部員がいなくなったから、ボクも同じことをしただけ。
それが何故かアニメの設定を考えてくれ、なんてことを頼まれるなんて……
楽しい学園生活、夢あふれるファンタジー、壮大なSF。
ボクにとってはどれもこれも想像も出来ないような世界だ。
人間が想像出来ることは大体実現できるって言葉を聞いたことがあるけど、それならボクは出来ないことだらけかもしれない。
少なくとも、アニメの設定なんてものは考えられないな。
14 :卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY [saga]:2012/06/30(土) 17:50:08.82 ID:gwpd/9xMo
「……♪」

なんだか今日は、嬉しそうだね。

ボクの声に、キミが振り返る。だけどボクを見つめる瞳もなんだかいつもの半分と言った所。
これにはボクもさすがにムッとくる。

何かあったの?

ボクが聞くと、キミは嬉しそうに地面を指差した。
そこにはめ込まれた四角い板には、どこかで見たことあるアニメーション。
未来から来た青色ロボットが、冴えないメガネ君を助けるストーリー。
懐かしいなぁ。ボクはこれが大好きだったっけ。
しかもキミが見ていたのは、ボクがその中でも一番好きだったエピソード。
おばあちゃんが出てくる話だ。
こんな話が自分も作りたいって思った時期も、あったっけ……
15 :卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY [saga]:2012/06/30(土) 17:50:35.43 ID:gwpd/9xMo
「……」

ん?どうしたの?

気付くとボクも熱中していたようで、キミの手がボクに触れるまで意識が完全に画面にいっていた。
キミはボクの頬をそっと撫でると、そこにあった液体をぺろりと舐めた。
どうやらボクは、泣いていたらしい。
そういえば、ボクは相当泣き虫なんだ。いつから泣かないように頑張ってたんだっけか?
16 :卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY [sage]:2012/06/30(土) 17:51:15.16 ID:gwpd/9xMo
来週もまた見てくださいね

じゃーんけーん

ぐー
17 :卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY [saga]:2012/07/02(月) 00:06:40.35 ID:PH1yCrPZo
「部長?部長!」

……揺すらなくても、起きてるよ

「……起きてるなら起きてるって言ってくださいよ!もう翼のやつ、帰っちゃいましたよ」

もうそんな時間かと思って外を見たが、空は相変わらず暗いまま。
でも確かに少し暗さが増しているような気はする。
18 :卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY [saga]:2012/07/02(月) 00:07:13.40 ID:PH1yCrPZo
君は帰らなかったわけ?

「……」

ボクの言葉に、後輩ちゃんは不機嫌さを隠さずボクを睨み付けた。
後輩ちゃんのこういうざっくばらんな所、嫌いじゃないが好きにもなれそうにない。
ボクは感情をストレートに出す人は好きだが、自分に向けられる敵意にはめっぽう弱いから。
19 :卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY [saga]:2012/07/02(月) 00:07:46.79 ID:PH1yCrPZo
……これは?

「……今日、誕生日ですよね部長」

あー……そういえばそうだっけ?

「……自分の誕生日、覚えてないんですか?」

後輩ちゃんの目が、くるりと丸くなった。
少しオーバーなリアクションに、短く整えられた髪が動きに合わせてなびいた。
20 :卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY [saga]:2012/07/02(月) 00:08:13.42 ID:PH1yCrPZo
「部長らしいですね……」

後輩ちゃんはクスッと笑うと、ボクの腕を引いて無理矢理立たせた。
前のめりに倒れそうになったが、すんでの所でボクは持ちこたえる。
後輩ちゃんがまた少し不機嫌そうな顔をしていたのが疑問でしょうがないが、年頃の女の子は思い悩むことが多いらしいし、そっとしておいた方がいいだろう。

「さ、帰りましょ、部長っ」

そうしよっか

これでもう少し幸せな感触があればなぁ、と贅沢な感情を秘めながらの下校となった。
21 :卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY [saga]:2012/07/02(月) 00:08:45.15 ID:PH1yCrPZo
「……」

……ん?

ボクの気配に気付いているはずなのに、今日のキミはこちらを無視しているようだ。
流石のボクもこれには年頃の女の子が〜などとは言っていられない。
素早くキミの正面へと回って、表情を見ようと試みた。
ボクの咄嗟の行動についてこれなかったらしく、ワンテンポ遅れてキミはぷいっと顔を背けた。
何故だか分からないがご機嫌ナナメモードらしい。
22 :卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY [saga]:2012/07/02(月) 00:09:42.19 ID:PH1yCrPZo
えーと……何で怒って……いらっしゃるんですか?

「……」

返答は無し。
その返答代わりなのか、こちらをジト目で見つめ返してきている。
正直、天使過ぎてぎゅって抱きしめたくなるだけなのだが。
23 :卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY [saga]:2012/07/02(月) 00:23:29.30 ID:PH1yCrPZo
「……」

……おっと

気付いたら抱きしめてた。
華奢な体から感じる、確かな息遣い。
僕の腕が、拒まれる気配はない。
キミは黙って、抱きしめられていた。
無言は肯定がジャパニーズの基本理念なので、その理念にしたがいボクはキミを抱きしめつづけた。
ゆっくり時間が、流れていく。
24 :卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY [sage]:2012/07/02(月) 00:24:40.10 ID:PH1yCrPZo
続く
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/02(月) 07:28:00.73 ID:krFvCpzDO

いい雰囲気だ
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北陸地方) [sage]:2012/07/04(水) 02:24:28.05 ID:nMeFzVMwo
がむば
27 :卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY [saga]:2012/07/09(月) 12:18:16.81 ID:pjljpuy1o
ピピピピッ ピピピピッ

……んぁ?

無機質なアラームの音が部屋に響いている。
ここはボクの部屋、そして確か今日は学校は休み。

アラーム、切り忘れてたのか……
28 :卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY [saga]:2012/07/09(月) 12:19:02.31 ID:pjljpuy1o
自分のとんでもない失態に気付いても、時はすでに遅し。
ボクは二度寝というものが苦手で、どうしても二度寝すると寝すぎてしまうのだ。
だからと言って、休日にいつもの登校時間で起こされてスッキリした目覚めなわけもなく……

……はぁ、やっぱり二度寝かなぁ

そう思ってふと見た携帯。
メール受信、一件。送信者『後輩ちゃん』
どうやら、二度寝はしない方がよさそうだ。
29 :卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY [saga]:2012/07/09(月) 12:24:14.62 ID:pjljpuy1o
「……あ」

やぁ、おはよう

「おはようございます、先輩」

ふわふわの毛が付いた少しゆったりめのコートを来た後輩ちゃんが、白い息と共にボクに挨拶を返した。
一方ボクの方は大した防寒をしているわけでもない。
決して寒さに対して強いとかそういう訳ではないのだが、暑いより寒い方がいい……ただそれだけ。
30 :卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY [saga]:2012/07/09(月) 12:25:52.12 ID:pjljpuy1o
「マフラー……付けてきてくれたんですね」

うん

なんだか丈が異様に長くて、巻くのが大変だった……というのは黙っておこう。
きっとこういうのを作るのに慣れてなくて、丈の調節を間違えたのだろう。

「……」

……?

何故だか後輩ちゃんの視線が重い気がした。
気がしただけだと思うから、気にしないでおくけど。
31 :卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY [saga]:2012/07/09(月) 12:33:09.32 ID:pjljpuy1o
並んで歩くボクと後輩ちゃん。
どこへ向かっているのか、ボクは知らない。
メールの中身が『遊びに行きましょう、先輩!』だけだったからだ。
今までこうして誘われた経験なんて数えるほどもないものだから、何を話していいのか分からずボクは黙ってついて行く。
きっと後輩ちゃんは、こういうの慣れてるんだろうし。
32 :卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY [saga]:2012/07/09(月) 12:38:09.87 ID:pjljpuy1o
「先輩、着きましたよ」

ここは……映画館?

後輩ちゃんが指を指した先には、少し古びた映画館が一軒。
周りの建物の近代感に抵抗するかのように建つそれに、ボクは親しみが沸いた。
映画館なんて来るの、いつぐらいぶりだっけ……?

「ささ、早く入りましょっ」

わっ……とと

よほど見たい映画があるのか、後輩ちゃんは少し興奮ぎみだ。
そんな後輩ちゃんに引きずられ、ボクは中へ入っていった。
33 :卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY [sage]:2012/07/09(月) 12:39:46.29 ID:pjljpuy1o
インスピレーション沸いたらまた夜にでも
34 :卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY [saga]:2012/07/11(水) 20:01:09.24 ID:XCNvRIvjo
中の様子は、概ね建物の外観通りで薄暗く、人の数もまばらだ。
受付には、この映画館と共に歳を重ねたかのようなご老人が座っている。
周りに上映中の映画のポスターなどはほとんどなく、あったとしても色あせた物ばかり。
これでは何の映画をやっているのか分からないのではないかと思うのだが。

「おじいちゃん、久しぶりっ」

「おぉ……楓ちゃんかい、久しぶりだねぇ……すっかり大きくなって……」

後輩ちゃんが気さくに話しかける様子を見る限り、どうやら顔見知りのようだ。
ご老人の口調から察するに長い間来ていなかったようだが。
35 :卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY [saga]:2012/07/11(水) 20:03:51.00 ID:XCNvRIvjo
「今日もやってる?あれ」

「あぁ、いつも通りさ……しかし楓ちゃんも、もうそんな歳になったんだねぇ……」

ご老人が、ボクの方を見つめた。
目が閉じていたので正確には顔を向けたと言った方が正しいのだろうか?この場合。

「ち、違うよおじいちゃん……もうっ」

顔を赤らめながら、後輩ちゃんは奥へと行ってしまった。
36 :卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY [saga]:2012/07/11(水) 20:04:57.25 ID:XCNvRIvjo
あ、映画の料金……

ボクはポケットへと手を伸ばそうとしたが、ご老人は首を振ってそれを静止した。

「人様からお金を取れるほどのことはやってないよ……それよりも」

後輩ちゃんが入っていった扉を、ご老人は指差した。

「早く行ってあげなさい……男が女を待たせるもんじゃないよ」

えと……はい、ありがとうございます

ボクがペコリと頭を下げると、老人は指を人差し指から親指へ替え、ぐっと突出し笑った。
37 :卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY [saga]:2012/07/11(水) 20:12:07.01 ID:XCNvRIvjo
薄暗い館内にはボク達以外にも数人の客がいるようだが、最年少はボク達のようだ。
なので薄暗い中でも後輩ちゃんを見つけるのに、そう時間はかからなかった。

「この映画館、私のお気に入りなんです……週一回だけしか開けてないし、やってる映画は毎回同じなんですけどね」

そうなんだ

なるほど、受付の簡素さもそれで合点がいった。
毎回同じ映画ならポスターもいらないし、週一回固定されているなら上映日の説明も必要ない。

「昔は普通に営業してたらしいんですけど……私が初めて来たときには、もう今の感じでした」

初めて来たのって、いつ?

「いつでしたっけ……もう覚えてないです」

言い方から察するに、かなり昔の事のようだ。
ボクもずっとこの街に住んでいるが、こんな映画館は知らなかった。
高い建物の間にひっそりと建っていた外観を思い出す。
きっと昔はこの建物が高い建物の立場だったのだろう。
38 :卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY [saga]:2012/07/11(水) 20:15:54.69 ID:XCNvRIvjo
ビーッ

耳に付く警戒音のようなものが響き、同時に幕が開く。
どうやら始まるらしい。

(映画館まで映画を見に来るなんて、いつぶりかな……)

ちらりと横目で後輩ちゃんを見る。
画面を真っ直ぐ見つめて、こちらには気付かないようだ。

あまり名前を知らない会社のロゴが、真ん中に現れ消えた。
この映画が始まる前の何とも言えないワクワク感、ボクは嫌いじゃない。
久しぶりに楽しませてもらうことにしよう。
39 :卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY [saga]:2012/07/11(水) 20:22:22.48 ID:XCNvRIvjo
映画の内容を端的に言えば、戦争へ行く男を見送る恋人……と言った所だろうか。
洋画だが、派手な演出などは抑え目に人間ドラマを中心に描いた作品だった。
どこでもよく見かけるような、よくある内容。
冷静な目で見ればB級映画というやつなのだろう。

(……だけどこういうの、弱いんだよね)

帰ってこない男を待つ恋人。何日も、何週間も、何ヶ月も、何年も。
名前も知らない女優さんの演技に、ボクは涙を流した。

「ぐっす……ひぐ、ぅ……」

隣を見ると、後輩ちゃんはボク以上に大泣きしていた。
普段のさっぱりした態度とはうって変わって女の子らしい横顔。

(……)

ドキリとした胸を誤魔化すように、ボクはスクリーンへと視線を戻した。
40 :卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY [saga]:2012/07/11(水) 20:32:14.46 ID:XCNvRIvjo
エンドロールが流れ、館内が少し明るさを取り戻した時、ボクの目は涙で一杯になってた。
こういう時本当に、自分が涙もろい話に弱いこと自覚させられてしまって悔しい。

「ぜんばい……どう、でしだ……?」

涙でくしゃくしゃな顔をこちらへ向けて、後輩ちゃんが訪ねてきた。
ボクも涙で一杯の顔を後輩ちゃんへ向ける。
言葉はいらなかった。

「すいません先輩、お見苦しいところを……」

ボクが渡したハンカチで顔を拭いながら、後輩ちゃんが恥ずかしそうにたははと笑った。
後輩ちゃんに渡されたハンカチで顔を拭っているボクに、偉そうなことを言う権利はないので黙っている。
41 :卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY [saga]:2012/07/11(水) 20:36:53.84 ID:XCNvRIvjo
何故だか少し微笑んでいたご老人の視線を受けつつ、ボク達は外へ出た。
あまりにも薄暗い中にいたものだから、そんなに明るくない外でも目がチカチカしてしまう。

さて……これから、どうする?

ボクは後輩ちゃんの方を振り向き尋ねる。
こういう時、普通なら男の子の方がエスコートするものなのだろうか?
……いかんいかん。さっきの映画に影響されている、ボクらしくもない。

「……あの、もう少しだけ……いい、ですか?」

後輩ちゃんはまだどこか行きたいところがあるらしい。
どうせ休みの日に予定なんてない、ボクは頷き返した。
42 :卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY [sage]:2012/07/11(水) 20:37:21.96 ID:XCNvRIvjo
続く
43 :卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY [saga]:2012/07/14(土) 05:55:02.57 ID:jjXwkWgTo
少し暮れかけの空。
公園のタイヤに二人並んで座り、ボクらはそれを眺めていた。
連れてこられて座らされて、なのに後輩ちゃんは黙ってて。
静かな方が好きなボクだけど、こういう静かさは好きになれそうもない。

「……」

……

「……先輩っ!」

あ、はい
44 :卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY [saga]:2012/07/14(土) 05:55:33.45 ID:jjXwkWgTo
突然立ち上がった後輩ちゃん。口から勢いよく白い息が飛び出す。
座っているボクの目線の前にあるものだから、ついつい顔より一瞬ズボンから覗く生足へ目が行ってしまう。
すぐに後輩ちゃんの顔へと顔を向け直すと、後輩ちゃんは少しムスッとした顔でこちらを見ていた。

「……もう」

……申し訳ない

「……」

いつもならここで、もうちょっと反論してくるのだけど……
後輩ちゃんの様子が、いつもと違う気がする。
目の潤みとか、少し紅潮した頬とか……ボクが滅多に見ない表情の後輩ちゃん詰め合わせのような状態。
そんな後輩ちゃんを、半ば考察みたいな状態で眺めていたので。

「……好きです」

後輩ちゃんが発した言葉に、全く備えていなくて。

……え

覚悟した人間の言葉の破壊力と言うものを、味わうこととなった。
45 :卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY [saga]:2012/07/14(土) 05:56:03.16 ID:jjXwkWgTo
大雨降りしきる世界に、ボクは一人で立っていた。
風が強く吹き付け、雷が轟々と鳴り響く。
そんな中でもボクはキミの姿を探すが、影も形もそこにはいない。
当たり前なのは、分かってた。だけどキミに答えを求めようとしてた。
仮にここにキミがいたとしても……きっとキミは困ったようにボクを見つめることしか出来ないだろう。
だってキミは、ボクが教えたことしか知らないし……ボクの考え以上のことを考えることなんて出来ないのだから。
46 :卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY [saga]:2012/07/14(土) 05:57:16.76 ID:jjXwkWgTo
……はぁ

キミと出会ってから、大分強くなれたと思っていたけど……どうやらそれは、キミへの依存で得た力だったみたいだ。
ボク一人になってしまえば、こんなもん。
吹き荒れる風を止めることも、鳴り響く雷を止めることも、出来やしない。

……好き、かぁ

キミ以外からそんな言葉を聞ける日が来るなんて。
理由は聞かなかった。
こういう時理由を聞くことは無粋な気がしたし……なにより、聞くのが怖かった。
後輩ちゃんから見た自分が、どんな理想像の塊なのか。
47 :卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY [saga]:2012/07/14(土) 05:57:43.97 ID:jjXwkWgTo
……あ

「……」

びしょ濡れのキミの瞳が、ボクを見つめる。
責めるようで、憐れむようで、優しいようで。
キミが何を考えているのか分からない……なんて嘘を、自分の中でついた。
そんな嘘に意味がないことなんて分かってた。キミの瞳の色は、ボクの心の裏返し。
ボクはそんなキミの髪をそっと撫でて……そのまま抱きしめた。
ゆっくり時間が、流れていく気がした。
48 :卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY [saga]:2012/07/14(土) 05:58:12.76 ID:jjXwkWgTo
夕方の部室で、ボクは一人本を読んでいた。
昔買って一回読んでから放置していたライトノベル。
読み返してみると意外と細かい部分を忘れているのだな、と思わされる。

「あれ、部長……珍しいっすね、先にいるなんて」

やぁ、後輩くん

寒さで軽く鼻を擦りながら、後輩くんが部室へ入ってきた。
両手に図書館から借りてきた風景画集が抱えられている。
49 :卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY [saga]:2012/07/14(土) 05:58:38.98 ID:jjXwkWgTo
……後輩ちゃんは?

「あいつですか?なんかあいつ、放課後なったらすぐどっか行っちゃってですね……」

大体予想してた答えが返ってきた。
いつもならその横に、後輩ちゃんがいるはずなのだが……まぁ、昨日のあれが原因と考えて間違いないだろうけど。
などと冷静に考えをまとめられているのが自分でも不思議だ。昨日はあれだけ悶々と悩み続けてたのに。
50 :卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY [saga]:2012/07/14(土) 05:59:06.78 ID:jjXwkWgTo
……あ、そうだ。後輩くん

「ん、なんですか部長」

設定ね、少しだけど考えてきたよ。

「え、マジですか?うぉ……先輩、絵うめぇ!?」

そうでもないよ

だって、本当のキミは……もっと綺麗で、可憐で……絵にかけるようなものじゃないし。
だけど、これ以上キミに頼るわけにはいかないから。だから、キミを絵に描いた。
これでもうキミは、ボクにだけ笑いかけなくていいし、ボクが守ってあげなくてもよくなってしまったんだ。
でも、それでいい。
きっとキミといたときみたいに上手くはいかないかもしれないけど、それでも。



「あ」

「……あ」

本当に守らないといけないものをちゃんと、見つけられたから。
51 :卵かけご飯する者  ◆ZZgvzQZhlY [sage]:2012/07/14(土) 05:59:51.35 ID:jjXwkWgTo
終わる
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