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うたわれるゴロー 〜孤独な男のグルメ旅〜 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/29(金) 23:25:10.63 ID:mNu1rcNSO

 キィン キィン キィン キィン ♪


身体を何処かに強くぶつけたかのような痛みが襲う……


 「うっ……イテテ……」


アツイ…… アツイ…… だが……ソレよりもなにより……


 「ハラが減った……」


 タッタッタ… ギッ…ギッ…

周りに人の気配がする……。一人…いや、二人くらいか……


?@「うんしょ、うんしょ… 目が覚めましたか。良かった〜」

?A「まったく、これで二人目じゃな。近頃は行き倒れが流行っとるのかのう」

?@「おばあちゃん!」


……ここは一体? この声の主の家だろうか?
だが…あぐゥ! イテテ…

痛みで身体を動かせないし、周りが暗くてよくわからない……


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木曜の夜には誰もダイブせず @ 2024/04/17(水) 20:05:45.21 ID:iuZC4QbfO
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いろは「先輩、カフェがありますよ」【俺ガイル】 @ 2024/04/16(火) 23:54:11.88 ID:aOh6YfjJ0
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【安価・コンマ】力と魔法の支配する世界で【ファンタジー】Part2 @ 2024/04/14(日) 19:38:35.87 ID:kch9tJed0
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2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/29(金) 23:28:37.08 ID:mNu1rcNSO
……ちょっと部屋が暗すぎやしないか?


?@「あっ……ごめんなさい。今、明かりを点けますね」


……声に出していたかな なんか、悪いことしちゃった気分。
別にそういうワケじゃないのに……

その後、なんとなくだが明かりのおかげで周囲が見えてきた。
明かりの付近はどうなっているのだろう……。

あの明かり、おかしいぞ……どうして石のような物が光っているんだ? ライトはないのか?

それにこの建物だ。いくらなんでも古い。木や土で造られた家って……
田舎の家だってこんな昔の村みたいな建物はないぞ。


?@「具合はどうですか〜」ソーッ


とりあえず今は話をしないと……
この人と話を……


 「す…………エッ?」


俺の思考はここで一時停止した。
その驚きと薄ぼんやりとした明かりの中、
俺はこれだけの事しか言えなかったのだ……


 「あなたの……耳…なんですか、その毛むくじゃらの……?」

?@「……おばあちゃん! この人も!」

?A「……そうじゃな。もしかすると『ハクオロ』に縁ある者かもしれん」

  「お主、名は覚えておるか?」


俺の……俺の名前は……


 「イノガシラ ゴロウ…… 」



うたわれるゴロー 〜孤独な男のグルメ旅〜


第一話 「集落 ヤマユラのモロロ粥とキママゥ汁」
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/29(金) 23:31:19.51 ID:mNu1rcNSO
 〜 ヤマユラ 〜

ケナシコウルペ國にある小さな集落。
特に見所もないが、自然が豊かで村の人々が優しい。

 『深夜、明け方近く……』

 〜 家の中 〜

 (アダダダ……)


 一体ここはどこなんだ…。どうして俺がこんな所に……


?@「動いちゃ駄目です! 傷が開いちゃいますよ」


 このコ…やっぱり耳がヘンだ。
 獣みたいなフワフワした耳……
 ちょっと触ってみるかな。

  スッ サワ サワ

?@「きゃっ!」ビクッ

  「何するんですかぁ〜! …でもハクオロさんも同じ事を……」ブツブツ


 俺に背を向けてなにやら考えこんでいる…んっ?

  パサッ…パサッ…

 シッポだ……。このコ、耳だけじゃなくシッポまであるぞ。
 目の前でこんな規則的にパタパタされると……

  サワッ サワッ…

?@「ひゃん!!」ビクン


 どうやらここも弱いみたいだ。頭にメモしておこう。


?@「女の子のシッポを勝手に触らないで下さい!」


 セクハラだったか。失敗失敗。
 あの耳とシッポ、モノホンって事か。


?@「……とにかく! 安静にして下さい!」

  「今からお薬を塗り直しますから……」


 怒らせたか。考えたら、この状況で軽率な行動をするべきじゃなかったな。

 ……
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/29(金) 23:34:14.92 ID:mNu1rcNSO

?@「……つまり、アナタは名前以外で自分の事は思い出せないと…」

 「ああ。どうやらそのようだ」


 まいったなァ……。こんなワケの解らない状況だってのに……
 俺自身の記憶までまともに解らないとはね……


 「そうだ キミ、名前は?」

?@「『エルルゥ』です。よろしくお願いしますね。えっと…」

  ガララ…

?A「そやつは『ゴロー』でよかろう。
   『イノガシラ』は代々伝えられる家の名らしいからの」


 なるほど。この婆さんがこの家の主のようだ。
 貫禄たっぷりって感じだな。


?A「わしの名は『トゥスクル』じゃ。この村で村長兼薬師をしておる」

ゴロー「村長(むらおさ)…… そして薬師(くすし)ですか……」

トゥスクル「いかにも。孫のエルルゥに聞いとらんかったのか?」

エルルゥ「だってこの人……。無理して起き上がろうとして……。
     話をする機会が無くなっちゃって……」

トゥスクル「まだまだ未熟じゃのう。薬師の仕事は薬を作るだけじゃないわい」

  「相手にわしらを信頼して貰い、体と心を癒す……。基本中の基本じゃ」

  「手当てをしつつ 安心できるように尽し、話をするのも大切じゃよ」

エルルゥ「ハーイ…」シュン


ゴロー(面白いな。気持ちが沈むと耳とシッポも垂れ下がるのか)
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/29(金) 23:36:34.14 ID:mNu1rcNSO

トゥスクル「さて ゴローとやら、お主はこれからどうする?」

ゴロー「……まずは身体を治します」

トゥスクル「そうじゃな。それが一番良い」

  「ならば治療をさせて貰うからの、エルルゥ!」


エルルゥ「 ! ハイ!」シャキーン

トゥスクル「傷に効く薬を作るぞ。手伝いなさい」

エルルゥ「はい、おばあちゃん」

  トテ トテ トテ…


ゴロー「ふう……」


 厳しい婆さんだ。エルルゥさんは薬師の見習いってとこだろうか。
 でも、あの婆さんみたいな人は医者みたいな仕事に向いてる。
 多くの人を救いもするし、同時に多くの人が死ぬ所も見る仕事だ。
 エルルゥさんは出来るだけあの婆さんから色々学ぶべきだな……


 ……
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/29(金) 23:39:03.31 ID:mNu1rcNSO

 手当てのおかげでだいぶ身体の痛みも減った気がする。
 だけど……そのせいで腹が本格的に減っちまったぞ。
 夜からずっと寝ないで、明け方を過ぎたし……


ゴロー「ハラがペコちゃんだなあ……」


 ギッ…ギッ…

 (ジーッ…)


 ん? ……なにか視線を感じる。


?B(ジーッ……)

ゴロー( …… )


 なんとなくエルルゥに似てるな……。妹さんかね?
 そんなに俺をジッと見てても面白い事なんて出来ないぞ。


?B「……だれ?」ジッ

ゴロー「俺は……」

  グーッ!

ゴロー「 …… 」

?B「おなか すいてるの?」

ゴロー「ああ 腹が減って死にそうだ……」

?B「…………ん」スッ

ゴロー「これは…蜂の巣かい? ありがとう」


 確か蜂の巣って食えるんだよなあ……
 とりたての蜂蜜のあのキュッとした甘さで……ウマイと本で見た事がある。
 巣のままでも美味しいって自然って凄いもんだな。

 ……あれ、見間違いか? 蜜なんて見当たら無いんですけど……


ゴロー「……えっと」

?B「そこ はちしかなかった あげる」

ゴロー「あ、ありがとう……」


 まあ こういうのは気持ち 気持ち……


ゴロー「……キミ、お名前は?」

?B「……」ギッギッ…


 行っちゃった……なんだったんだ? わざわざ梯子まで登って…
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/06/29(金) 23:40:43.74 ID:oZaOayCh0
ちょうどDVDで孤独のグルメ見てた
期待
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/29(金) 23:43:57.33 ID:mNu1rcNSO

 【 蜂の巣 】

エルルゥの妹(?)がくれた蜂の巣。
中身は蜂の幼虫とサナギだけだった。
蜜はほとんどない。


ゴロー「いただきます」


 記憶がない俺が言うのもおかしいが、どうもこの家…いや、村か。
 あまり拓けた集落じゃないようだ。
 近くの窓から村の様子が確認出来る……

  はぐり もぐ…

 ……うーん、虫ってこんな味してんだな。

  むしゃ むしゃ

 食えないモンじゃないけど……。
 味はちょっと甘いエビみたいな…あまり感じん。
 これだけじゃあ ただ栄養を補給するだけの食い物だよ。


ゴロー「……」


 少しだけ残しておこう。
 エルルゥさんにさっきの女のコの事を聞きたいし……

 ……

 …ふう 何かが足りない。……いつも食後は何かしてたんような。


  テク テク… ギッギッ…

エルルゥ「おはようございます」アフゥ…


 いかにも眠そうだ。なんだか申し訳ない。


ゴロー「ああ、どうも。深夜にすいませんでした」

エルルゥ「いえ、気になさらないで下さい。治療は薬師の仕事ですから」ニコ

ゴロー「ちょっと聞きたいんだが… エルルゥさんに妹さんっていますか?」

エルルゥ「いますよ、『アルルゥ』と言います」

  「森に生える姉妹草から名前をつけられたんです」


ゴロー「へぇー…彼女にこれ、貰ったんだけど」


 そう言って俺は先程貰った蜂の巣の残りを見せる。


エルルゥ「えっ!……アルルゥが知らない人に蜂の巣をあげるなんて」

ゴロー(人見知りが激しいコなのかね?)


 ……
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/29(金) 23:45:24.79 ID:mNu1rcNSO

 あの後、婆さんや彼女と話す事でいくつか情報を得られた。
 簡単にまとめておこうと思う。

 @ ここは『ケナシコウルペ國』の西にある『ヤマユラ』という集落。

 A 俺は昨日の朝、森で倒れていたのを見つけられた。
 大きな切り傷が一つついていて、それ以外は打撲傷だったらしい。

 B 俺の着ていた服はエルルゥさんの見たことない素材で出来ていた。

 C 服に傷はなく、血に濡れていただけなので洗濯中らしい。

 D なんでも少し前、同じように傷だらけの男が森で倒れていた。

 E ソイツも記憶喪失で『ハクオロ』と婆さんが名付けた。
 この家で世話になっていて、昨日の夜は村人との話し合いに行っていたので
 家にいなかったそうだ。そろそろ帰ってくる。


エルルゥ「いけない! すっかり忘れてました!」ピョコン

  「今すぐゴローさんの朝ごはんを持ってきますね!」

  タッ タッ タッ タッ…

ゴロー(ようやくメシか。一体なにが出るんだろう)

 ……
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/29(金) 23:50:03.38 ID:mNu1rcNSO
エルルゥ「はい、どうぞ。『モロロ粥』です」ストン


 【 モロロ粥 】

モロロとはこの世界で採れる芋のような食べ物である。
この世界の住人はこの食材を主食としている。
様々な調理法で料理し、食べる事が出来る。
今回はモロロをやや粗めに潰し、それを粥にした。



ゴロー「……『お米』って言って通じますか?」

エルルゥ「 ? なんですか、それ?」


ゴロー(事態は非常に深刻だ。米がない)

  (つまり、この村では白いメシなんて食えない……)

  (いくらなんでも酷だ 残酷です)


エルルゥ「ゴローさん? どうしましたか? まだ具合が……」

ゴロー「いえいえ。大丈夫ですから……いただきます」


  ズズウ むしゃ むしゃ

 あれ、意外にうまい。病み上がりの身体に染みるじゃないか。

 むしゃ もぐ ごくん

 お粥だから味付けは塩だけだってのに、全然飽きない。

 がつがつ むしゃむしゃ


エルルゥ「ゴローさん、慌てなくても無くなりませんよ」クスクス

ゴロー(空腹は最高の調味料とだれが言ったか…)


 むしゃ もぐ もぐ

 だけど、うまいモンはうまい。嬉しい誤算だ。

 この食べ物はイモっぽいな。こいつが甘味をだしてるからこうなるのか。
 イモ自体も複雑で……不思議な味だ。でも美味しい。


ゴロー「これが『モロロ』?」

エルルゥ「ええ。細かくして食べやすくしました」

ゴロー「美味しいです これ 本当に」

エルルゥ「ありがとうございます」ニコリ


 ……
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/29(金) 23:55:00.08 ID:mNu1rcNSO
ゴロー「ふう… ごちそうさまでした」

エルルゥ「お粗末様でした。身体の調子はいかがですか?」

ゴロー「痛みは平気ですよ。少し村を散歩したいくらいです」

エルルゥ「うーん……それはちょっと……」


?C「いいじゃないか、エルルゥ。心配なら自分がついていくよ」


 誰だ? あの白い仮面の男は。
 エルルゥたちの父親……というには若すぎるな。
 あ、もしかして


エルルゥ「『ハクオロさん』!」


ハクオロ「ついこの間まで、自分も似たようなものだったからな」

  「幸い 彼も元気そうだし、誰かがついていれば何かあっても大丈夫だ」


 ほーお、こんな男だったのか。仮面でわからんが顔も良さそうだ。
 身体つきも悪くない。名前もわからないほど記憶がないらしいが……


ハクオロ「自分はハクオロといいます。よろしくお願いします」


 何故かこの一見怪しい仮面男は手を差し出してきた。


ゴロー「ゴローと申します。こちらこそよろしく」ガシッ


 握手で良かったんだよな? 文化とかはわからないぞ。


エルルゥ「ハクオロさん! まだ私は許可してませんよ!」

トゥスクル「じゃあ わしが許可しよう」

エルルゥ「おばあちゃん!」

トゥスクル「見たところピンピンしとるし、二人とも記憶喪失なんじゃ」

  「様々な景色や事柄に触れて、記憶を思い出さないとの」


エルルゥ「……わかりました。ハクオロさん、昼には戻って下さいね」

ハクオロ「わかった。会えたらアルルゥにもそう伝えておく」


 ……
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/29(金) 23:59:51.07 ID:mNu1rcNSO
 トゥスクルさんが俺に合いそうな服を貸してくれた。
 着物や袴と似た造りをしている。
 俺はハクオロに手伝って貰い、着替えをしていく。

 よく服を見ると目の前の仮面男が着ている服と同じ造りだった。
 だが、白と赤を基調とした色合いが違っている。
 ……俺には似合わない。
 ついでに寸法もイマイチ合っていなかった。
 とりあえず今日のところは借りておく事にする。

 ハクオロが言うには、この服はエルルゥたち姉妹の父親の物らしい。
 あの姉妹の両親は既に亡くなっている事も聞いた。
 ……やはり自分の服が乾いたら、返そうと思う。


 ……

 ハクオロに案内されて村を見て廻る。
 やっはり皆、動物みたいな耳やシッポをしていた。
 若い女性がそういう格好なら嬉しく思うが……
 ごっつい男や爺さんまでそうだとアリガタミがない。

「ハクオロ〜」「次の畑の整備ももう少しだ〜」
「これであそこの畑も良くなるんだな〜」


ハクオロ「わかった。此方も準備を進めておくよ」

  「ああ、心配しないでくれ。もっとモロロが採れるようにするから」

  ガヤガヤ ペチャクチャ…

 彼、この村に来たのは少し前だってのに 慕われてるんだなぁ。


 ……
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/30(土) 00:03:16.84 ID:DOuP+d7SO
 〜 村の外れ・カカエラユラの森の付近 〜

ハクオロ「このあたりが村の外れです。森は深いので入らないほうがいい」

  タッ タッ タッ…

?D「おーい! アンちゃん! 隣が森で倒れてたってヤツかい?」

ハクオロ「ええ。彼は……」

ゴロー「ゴローと申します。初めまして」ペコリ

?D「おう、そんな堅っ苦しくなくていいぜ!」

テオロ「俺はテオロだ。よろしくな!」


 緑茶色で胸元が空いた袖無しの服を着た男に挨拶をする。
 背も高くガタイもいい。茶色のヒゲが渋いなぁ。
 典型的なオヤジって人だ。手には頑丈そうな『斧』を持っている。


ハクオロ「おやっさん、キママゥはどうでしたか?」

テオロ「ああ、畑を荒らしはしてねぇが 近くに小さな群れがいるみてぇだ」

  「村のモンが何人か襲われてる、特に男が森に入るとな…」

  「どうする? またこの前の作戦でいくか?」

ハクオロ「……いや、次は逆にしましょう」

  「罠に追いたてるのではなく、自分が囮になって罠まで引き付けます」


テオロ「……? よくわかんねぇな。囮なんて使う必要があるんか?」

ハクオロ「小さいとはいえ、群れのキママゥだ。なぜ何も食料を盗らない……」

  「恐らく、前の作戦の生き残りが群れにいる。同じ手は食わないだろう」

  「そして目的は人、しかも男だけになっている」

  「これは推測だが…奴らは復讐をしているんじゃないか?」


テオロ「おいおい、キママゥがんな事を考えるワケねぇだろぅ?」

ハクオロ「いや、類人猿は知能が高い。恨みという概念が
     有ってもおかしくないはずだ。早めに罠の準備を整えなくては……」

14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/30(土) 00:07:17.13 ID:H84IhPdW0
なんて貴重なんだ
期待せざるえない
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/30(土) 00:07:31.38 ID:DOuP+d7SO

 害獣退治の話か。こんな農村じゃ、荒らされたりしたら大変だもんな。
 そう思いながら、ハクオロ達から離れて少し辺りを見回してみる。

  キョロ キョロ

 おや? ……猿みたいな生き物がこっちを見ているな。


ハクオロ「ゴローさん どうされました?」

ゴロー「いや、あそこに猿みたいな生き物が……」

テオロ「マズイ! キママゥだぞアンちゃん!」

ハクオロ「しまった…! こんな所まで……!」

  「「ギャッギャッギャッ…」」


 虐げられし獣の鳴き声が俺達を囲む……


 《バトルパート・状況説明》

  味方ユニット

 ・ゴロー ・ハクオロ ・テオロ

  敵ユニット

 ・キママゥ×5


キママゥ四匹がハクオロ・テオロを囲むように陣取る。
もう一匹はやや離れてそれを見て、三人の様子を窺っている。
ハクオロ・テオロは背中合わせになり、防御体勢をとれた。
だが、ゴローは二人から分断されてしまっている。

16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/30(土) 00:10:07.14 ID:DOuP+d7SO

 あの猿みたいな生き物…『キママゥ』達にこちらは不意を突かれた。
 最初の一匹がハクオロに向かって飛びかかり、引っ掻きを仕掛ける。


ハクオロ「ぬぅん!」 ビシッ!


 ハクオロは攻撃に対し、腰に差していた武器…
 あれは……『鉄扇』か 珍しい武器を使うなァ。
 それをキママゥの頭に向けて振り下ろす事で答える。
 キママゥはハクオロの一撃をモロに受けて地面に叩きつけられた。

 一連の動作を終えたハクオロの隙を突き、
 テオロの横にいた二匹目がまたもハクオロを狙い、飛びかかってくる!


テオロ「アンちゃんはやらせねぇ!」ブォン!


 テオロの斧がキママゥに直撃。
 袈裟斬りにされたその身体は血をぶちまけながら真っ二つになる。

 三匹目はやや冷静だった。この二人が武器を持つ事を理解していたのだ。


 こういう狡猾なタイプの思考をする生き物って、
 確実に弱そうな獲物を狙うんだよな……

 そう考えた矢先、コイツは武器を持たない俺に向かってその爪を繰り出す。


ハクオロ「…っ!」 テオロ「ヤベエ!」


 二人は懸命に三匹目のキママゥに向けて駆けるが……
 四匹目・五匹目のキママゥが二人の疾走を妨げる……


 キママゥの鋭い爪が俺の身体に届く――――

17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/30(土) 00:13:33.65 ID:DOuP+d7SO

 ―― 瞬間、身体が意思を離れて動いた。

 ヤツが爪を届かせる為に伸ばした腕……
 俺は無意識のうちにその腕を避け 掴み 拘束する。


 「ギャアアアア!」

  バキッ!


 加減の必要はない。腕を折った動きのまま、背後に回り込んで頸を絞める。


  ボキッ…


 断末魔の声すら出させずに仕留めた。


ハクオロ「おやっさん!」

テオロ「おう! でぇりゃああああ!!」ブン!

ハクオロ「ハアッ!」バシッ!


他のキママゥ達もハクオロとテオロさんが片付けたみたいだ。


テオロ「ふぃ〜 あんた、やるじゃねぇか!
    武器無しでキママゥを仕留めるなんてよぉ!」

ハクオロ「ゴローさん、怪我はありませんでしたか!?」

ゴロー「ええ 大丈夫。そちらは?」

テオロ「心配ねぇよ。……ヤベェのはうちの母ちゃんの拳骨さ」

  ダハ ハ ハ…

ハクオロ「ああ、帰る約束は昼でしたね。自分も説教になりそうです」

  ハ ハ ハ ハ…

ゴロー「……門限がありましたからね」ハ ハ ハ…


 三人の笑い声が透き通った青空と深く暗い森にこだましていった……


 ……
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/30(土) 00:16:54.17 ID:DOuP+d7SO
 『少し昼を過ぎて……』

テオロ「いやぁ〜アンちゃん二号も強いねぇ!」ムシャムシャ

ゴロー「アンちゃん二号って……」

エルルゥ「皆さんどうぞ、キママゥ汁です」コトン


 【キママゥ汁】

以前仕留めたキママゥの干し肉を使った汁物。
今日仕留めたキママゥは解体して村人に分配した。


トゥスクル「まったく……無茶しよって」

ハクオロ「まあまあ。何事もありませんでしたし」

エルルゥ「アルルゥ、美味しい?」

アルルゥ「おいし〜い」モグモグ


 一同が集っての昼食会。
 テオロさんの奥方は別の家で昼をいただいているらしく、
 お顔を拝見出来なかった。そのうち会う機会もあるだろう。


ゴロー「へえ キママゥの肉って しっかりしてんだな」モグモグ


 野生のケモノの引き締まった肉質。
 やっぱり味は単調だけど、命を食ってるって満足感がある。


テオロ「よぉーし ちいっと早ええが酒飲むか〜!」
  「アンちゃんもアンちゃん二号も飲むだろ?」


ゴロー「あ… わた…俺、酒飲めないんです」

テオロ「んな堅てぇ事言わねえでさぁ〜」

ハクオロ「おやっさん。この人、本当に飲めないみたいですよ」

エルルゥ「真っ昼間からお酒なんていけませーん!」

トゥスクル「エルルゥ、食事中は静かに」

  ハ ハ ハ ハ…ワイ ワイ…

 楽しい食事だ。こんな風に飯を食うのはずいぶんと前だった気がする。


アルルゥ「……」ジィーッ

 あのコ、また俺を見てる。俺ってそんなに面白い顔をしてるのだろうか。


アルルゥ「……ペコちゃん」

 ……今、なんだって?


ゴロー「ん?」

アルルゥ「さっき…いった。……なまえ」

ゴロー「聞いてたんだね。それは一人言だったんだ」

アルルゥ「……じゃあ なまえ、なに?」

 「俺の名前は『ゴロー』。よろしくね」ニコリ


 第一話「招かれたもの」

  続く!
19 : ◆M6R0eWkIpk [sage]:2012/06/30(土) 00:22:47.42 ID:DOuP+d7SO
このお話は『うたわれるもの』と『孤独のグルメ』のクロスSSです。

前作を書いている時に思い付き、書いてみました。
現在は四話の半分まで書き貯め済み。

アニメとゲームのうたわれ設定、時系列で普通に話が進みます。

では失礼します。
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/06/30(土) 00:28:30.23 ID:PQ57sH0S0
とゆうことは……村の皆(;ω;)
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/06/30(土) 00:29:31.81 ID:PQ57sH0S0
是非とも完結していただきたい
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/30(土) 01:59:11.99 ID:JDYUN93IO
激しく期待
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/06/30(土) 06:44:35.60 ID:vvy605RW0
面白い!
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2012/06/30(土) 18:29:46.44 ID:KtWDDYALo
期待
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/06/30(土) 18:57:20.21 ID:7ZPpTe4k0
>>24

sageろsageろ aじゃなくてeだから
26 : ◆M6R0eWkIpk :2012/07/01(日) 21:55:01.55 ID:Nuz7c+WSO
修正部分
>>9 情報のまとめ@
ケナシコウルペの『西』にあるヤマユラ →『東』にあるヤマユラに

ゲーム画面みたらどこからどうみても東ですよね
なんでwikiには西ってあるんだ?

第二話も投下するのでお待ち下さい。
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/01(日) 22:45:15.55 ID:Nuz7c+WSO

第二話「森の主×ゴロー×ヤマユラの民 ヤマユラSOS!」


 このヤマユラという小さな集落に着てから数日が経過した。

 ここの人たちは俺みたいな怪しいヤツにも優しい。
 普通、村とか集落ってのはよそ者を滅多に受け入れないものだ。
 受け入れたとしてもソイツへの陰口などで集落の雰囲気が悪くなる…
 このヤマユラの人々はそういうのを一切出さず、俺に対して接してくれる。
 住民みんなが互いに支えあい、細々と暮らす『優しい』集落なのだ。

 ここで俺はハクオロが改良した畑を住民と一緒に耕したり、
 エルルゥさんに森を案内して貰って、
 薬草や毒草を覚えたり……なかなか忙しい。

 そうそう、ハクオロが指示を出して改良した畑からモロロが収穫できた。
 どれも大粒で食べごたえがありそうだ。
 モロロを見た瞬間、『ジャガイモ』と言う言葉が頭に浮かび上がる。

 自分の事はサッパリなのに
『コメ』や『ジャガイモ』という言葉を思い出すって……

 これはどういう事なんだろうか……


 ともかくこれでここも少しは豊かに……と思った矢先に、

 近隣の集落を巻き込んだ『とある事件』が起こったのだ……


28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/01(日) 22:48:32.40 ID:Nuz7c+WSO
 〜 広場 〜

  ガヤ ガヤ…

「税の取立てか…」 「くそっ どんどん増やしやがって…」


?@「お前ら! ギャーギャーうるせぇ!」

  「まったく、田舎者が……。税ってのは上が使うためにあんだよ」ブツブツ


エルルゥ「『ヌワンギ』!」

?@改め ヌワンギ「エルルゥ! 元気してたか〜?」

エルルゥ「こんな……前より税がずっと多くなってるじゃない!」

ヌワンギ「へっ! んな事は大したことねぇって」

  「それよりよぉ、返事を聞かせてくれ」

  「あっちならお前にももっと綺麗な服・愉快な暮らしをさせてやれるぜ!」


エルルゥ「わ、私は…」


ハクオロ「ん? どうしたんだいエルルゥ」ヒョコ

ヌワンギ「……あっ! テメェ! まだ居やがったのか!」

エルルゥ「ハ、ハクオロさん……」

ヌワンギ「……おいおい、エルルゥの親父さんの名前じゃねぇか」

  ザッ

トゥスクル「わしがつけてやったんじゃよ」

  「久しいのぅ、ヌワンギ。あの寝小便坊主がずいぶんと傲慢になったもんじゃ」


ヌワンギ「げっ! ババア! あっ…」

トゥスクル「……ほう お主、赤子の頃から面倒を見てやったわしを
     『ヴァ ヴァ ア』と呼ぶじゃと……」


ハクオロ(な、なんて殺気……)

  ピシャーン ゴロゴロ…


29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/01(日) 22:51:46.63 ID:Nuz7c+WSO
 ……なんだか面白そうな事になっている。


ソポク「え? ああヌワンギね。昔この村に住んでたんだよ」

  「この國の皇(オゥルォ)の弟……この辺りの藩主なんだけど……
   ソイツの息子なのさ。昔はあんな子じゃなかったけどねぇ……」


ゴロー「そんなヤツが何故この集落で生活を?」

ソポク「藩主…『ササンテ』ってんだけど、ソイツの下女が産んだ子なんだ」

  「その人はここが故郷でね、正妻に町は追い出されて帰ってきたわけ」


ゴロー「なるほど、それで『ここで育った』ね…」


 ソポクさんはテオロさんの奥さんだ。
 あんなむさ苦しい男がこんな美人を嫁にするとか……後でアームロックだな。


ソポク「正妻の子が亡くなって… あの子が藩主の館に連れてかれて」

  「あんなにひねくれちゃってさぁ……」ハァ

 複雑な家庭環境だな。多分アイツ、エルルゥさんの事を好きなんだろう。

ソポク「そうそう。何回かエルルゥを連れてくって ここに来てるわけさ」


 また声に出てたかな……


ソポク「少し前の時はハクオロが追い返したよ。あの時は格好良かったね」

  「『その子は自分の恩人であり……家族だ!』なんて言ってさ」


ゴロー(そうかなぁ? 家族って便利な言葉だと思うぞ)


 ……結論を保留するには具合のいい言葉だと思う。
 そもそも発言がクサいよな うん。

 おや、終わったようだ。取立てが済んだら 即帰る位
 トゥスクルさんが苦手なんだな。

30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/01(日) 22:54:59.40 ID:Nuz7c+WSO
 ――

 〜 森の入口・霊宿(タムヤ)のあたり 〜

ヌワンギ「チクショウ! なんなんだ! なんだってんだよ!」ガン!

  「あのバ…婆さんにあの男……」

  「あいつが来てから……クソッ!」ガン!

  「痛って! あいつに折られたとこが……クソッ!」ガン!

  「霊宿(タムヤ)だかなんだか知らねぇが こんな汚ねぇモン!」ガン!

  ピシッ ゴロン

『グオォォォォォォッ!!』

ヌワンギ「ヒッ!」ビクッ

  「うっ…ウワァァァァ!」タタタタ…


 ――

……一対の赤い瞳の輝きが森を駆ける
その生き物は森の外れに現れ、月の光を受け明るく照らされた……

黒白の縞模様、身体を覆う体毛はまるで針のように尖る
体格のいい男の腿ほどの太さを持つ脚…
視点を脚元にずらすと武器である鋭い爪を確認出来た

どれほどの命をその力で貪ったのか……
この集落の住民もその数に加えられるだろう……


 『グルルルル……』


その生き物の口腔には真っ白な牙が見れる
おそらく、数分後には血で赤く染まる


その生き物は森の主――『ムティカパ』


 ……この生物をこちらの言葉で言うならば『白虎』 伝説上の獣である

この世界でも、この白虎は『ヤーナゥン・カミ(森の神)』
の使いとして伝説のような扱いをされている

彼か彼女かは解らない。ただ言える事は一つ


 この怒りは森の母(ヤーナマゥナ)無くして収まらぬ……


 ……
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/01(日) 22:57:37.86 ID:Nuz7c+WSO
 ――

 周辺の集落がなにかに襲われたという話は瞬く間にヤマユラを駆け巡った。
 当然それは村長であるトゥスクルさんや俺たちの耳にも入るわけで……

 さらに霊宿(タムヤ)が壊されていたという、村人からの情報で
『森の主 (ムティカパ)』の仕業であるという結論が出た。

今、俺たちは壊された霊宿(タムヤ)の修復作業をしている。


ハクオロ「ゴローさん、ここにその石を」

ゴロー「はいよっと……」ズシン

トゥスクル「うむ、ご苦労」

  「これでムティカパ様のお怒りが鎮まればよいが……」


ハクオロ「……」スッ チラリ

ゴロー「ハクオロ、それは?」

ハクオロ「毛だ。おそらくムティカパの……」

ゴロー「めちゃくちゃ鋭いな。針代わりに使えそうだ」

ハクオロ「触ってみますか?」スッ

ゴロー「どれ……。ほーぉ少し固いな。毛って感じではあるが」サワサワ

ハクオロ「…『刃も通らぬ』って話は本当だろうか?」

ゴロー「そんな怪物なのか? ……まいったな」


エルルゥ「……お二人が喋ってると、どっちがどっちか解らなくなりますね」

ゴロー・ハクオロ「「???」」


 ……
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/01(日) 23:00:39.61 ID:Nuz7c+WSO

 〈 ヤマユラ・夜 〉


 もうそろそろ火を落として休もうという頃、それは聞こえた。


『グオォォォォォォン!!』


 夜の静寂をただ一度の咆哮が切り裂く。


ハクオロ「この叫び……」

トゥスクル「来てしまったようじゃの…」

アルルゥ「ん……」ガシッ

エルルゥ「おばあちゃん……」

トゥスクル「心配せんでええ。静かにしておれば大丈夫じゃ……」


  バキバキ… 『キャアアアア…』


エルルゥ「ひっ」ビク


  『た…助け……ガッ』ゴキリ ドサッ


アルルゥ「う〜〜」フルフル


 …………静かになったな。


ハクオロ「少し様子を見てきます」ガタン

トゥスクル「駄目じゃ。危険過ぎる」

ハクオロ「それでも……自分は黙っていられません!」

  ダッ… タッタッタッ…

ゴロー「……俺も行ってきます。アイツだけじゃ心配なので」

  「夜道は危ないので火を借りていきます」

  パチパチ…

  ダッ… タッタッタッ…

33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/01(日) 23:03:25.74 ID:Nuz7c+WSO

 ……

ハクオロ「ハッハッ……」

ゴロー「無茶するなよ ハクオロ。油断は禁物だ」

ハクオロ「ああ、わかっています」

  タッタッタッ…

ゴロー「……なんて有り様だ」


 家に大きな穴が開けられている。
 夜の闇で家の中をはっきり確認出来ないのは不幸中の幸いか。


ハクオロ「くっ」スッ

ゴロー「待て、耳をすませろ……」


『……ゴキュ ガリッ バキィ ベキ……』


 ……これはマズい。ヤツの“食事”の時間だったか。


 『グルルルル…』


 あっちゃー 邪魔されて気がたってますね……
 お邪魔ついでにお姿を拝見……

 あ、こりゃ無理だ。無理無理。出せる力が違いすぎる。
 あんなデカイ虎相手にするのは不可能だ。

 ……まぁ、向こうさんが見逃してくれないわけだが。


ハクオロ「くっ…このっ」ヒュッ


 ハクオロさーん!? 鋤だか鍬だか解らんが効いてませんって。


ハクオロ「やはり駄目か……」


 おいおい ムティカパの攻撃対象がハクオロにいっちゃったじゃないか。


ムティカパ『グアォォン!』


 ムティカパはその太い腕をふるい、ハクオロに一撃を食らわせた。

34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/01(日) 23:07:21.68 ID:Nuz7c+WSO

ハクオロ「がハっ!?」


 その威力は防御として出した鉄扇を弾きとばし、
 そのままハクオロを遠くにふっとばすほどだった。


ハクオロ「……ぐっ」


 体が受けたダメージは深刻なようだ。起き上がれていない。

 ……仕方ないか。


ゴロー「おーい、こっちだこっち!」


 わざとらしくムティカパを挑発する。
 カオス理論とかよく解らない言葉が浮かんできた。


ムティカパ『……グルルルル』


 流石は主と言われるだけはある。未だハクオロに狙いをつけつつ、
 俺への警戒を怠らない。間違ってはいないが……


エルルゥ「ハクオロさん! 早く…逃げましょう!」


 エルルゥさん!? この危険な状況で?
 なんとかハクオロを逃がそうとしている。

 ムティカパがその様子に気を取られはじめた。

35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/01(日) 23:09:06.78 ID:Nuz7c+WSO

ゴロー「…ここだっ!」ヒュッ!


 俺はさっきから持っていた松明を投げつける。
 ムティカパも生き物、ましてや毛で覆われている。炎は弱点のはず……!


 『ガァァァァ!』


 苦しんでいる。いいぞいいぞ……
 あら? だんだん火が弱くなってきたような…


ムティカパ『ガルルルル……』


 こいつの体毛、炎を受けて焦げてすらいないぞ。
 逆に頭に血を昇らせてしまったようだ。


ゴロー「ハクオロ達は……上手く逃げたか」

  「ここで人生終わりか…… せめて米が食いたかったな……」


ムティカパ『グォォァァ!』

  ポツリ ポツ ポツ…  ザァァァァ…

 雨か…… 最期の瞬間にはふさわしいか。


ムティカパ『 …… 』

  サッ ダッダッダッ…

ゴロー「……行っちゃった。俺、助かったのか」


 はぁァァ… どっと疲れた。腹も減ったし……

  タッタッタッ…

テオロ「アンちゃん二号! でぇじょうぶか?」

ゴロー「テオロさん、それはやめて下さい」


 ――
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/01(日) 23:11:44.11 ID:Nuz7c+WSO

ゴロー「うーん…なんでムティカパはあの時去って行ったんだ?」

テオロ「わっかんねぇよなぁ……」

ハクオロ「……とりあえず今はこの『毛』を調べましょう」


 翌日、俺達は作戦会議を行う。
 だかアイツをなんとかする方法が思うように見つからない。


  キィン! キィン!

テオロ「……ハァー 俺の斧じゃコイツは切れねぇ」

ゴロー「ふん! ……千切れない」ギギッ

ハクオロ「火で炙っても効果なしとは……」


三人「「「うーん…」」」


エルルゥ「皆さ〜ん お茶がはいりましたよ」

  「あっ ハクオロさん! ちゃんと休んで下さい!」


ハクオロ「そうも言ってられない。今晩にでも主は現れるかもしれないんだ」

エルルゥ「それはそうですけど……」

  ヒョッコリ

アルルゥ「おちゃ もっていく」ヒョイ

エルルゥ「あっ…転ばないようにね……」

  コケッ ビシャ

ハクオロ「あ゛ーーーーーーーっ!」

エルルゥ「ハクオロさん! 大変、早く冷やさないと!」

ゴロー「ハクオロ大丈夫……ん?」


 さっきまでピンと張ってたムティカパの毛が……

  ヒョイ ググッ

ゴロー「……えい」ブチッ!


一同「「!!」」


テオロ「おおっ! あの毛が千切れやがった!」

ゴロー「やった自分も驚きです」


ハクオロ「……濡れたから」ポツリ フキフキ

  「ムティカパが逃げたのは『濡れるのが嫌だった』から」

  「ヤツの体毛は濡れるとその強靭な防御力を失う……!」フキフキ

37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/01(日) 23:17:16.27 ID:Nuz7c+WSO

ゴロー「…確かに辻褄が合うな」

ハクオロ「よくやったぞアルルゥ」ナデナデ

アルルゥ「んふ〜〜」ニコニコ

 撫でて貰って満足そうなアルルゥ。なにか思い付いたのか、部屋を出ていった。


エルルゥ「……」ムスーッ


 一方こちらは不満げなエルルゥさん。撫でて欲しいなら言えばいいのに。


ゴロー「じゃあこの事を村の人に伝えてきましょう」

テオロ「おう! 俺がひとっ走り行ってくるぜ!」


 そう言ってテオロさんは出ていく。次は村としてムティカパをどうするか、
 話し合わないといけない。トゥスクルさんは何か知っているようだったが。


ハクオロ「……」

ゴロー「ハクオロ、何を考えてる?」

ハクオロ「……いや、後で話すよ」

  ピコ ピコ ピコ ピコ

アルルゥ「おと〜さん」


 アルルゥが何かを入れた壺を持ってこっちに近づいてくる。


ハクオロ「どうしたんだいアルルゥ?」


 あ、なんか嫌な予感。
 そう思った俺はハクオロから距離を取ることにした。


アルルゥ「ん〜〜〜」


 あの瞬間、ハクオロは全てを理解した顔をしていた。
 ……そして、気がついた時にはもう遅かった。

  ザァーーーー!

 アルルゥにはどうして自分が褒められたのかわからない。
 彼女のした事は『熱いお茶をかけた』事なのだ。
 それを褒めたなら…もっと褒めて欲しくて『熱湯』をかける……


ハクオロ「ア゛ーーーーーーーーッ゛ーーー!!」

   チーン

 不幸な事故だった。トゥスクルさんにはそう伝えよう。


 ……
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/01(日) 23:21:23.05 ID:Nuz7c+WSO

 話し合いはハクオロの一声でムティカパ討伐の方向で決定した。

 あの短期間(+少々ヤケドしながらも)で討伐の作戦を考える
 あの頭の良さ。ハクオロはなかなかやるぞ。
 そして、作戦の要である陽動係は俺とテオロさんが立候補した。


  ピューピューピュー♪

 ハクオロが口笛を吹いていた。
 下手だけど。


ゴロー「その口笛は?」

ハクオロ「ああ。一応準備完了を知らせる合図を決めたんです」

  「これは没になった案ですよ」ピュー♪


ゴロー「口笛なら無事の確認とかにも使えるかもな」

ハクオロ「じゃあ私達の間の無事の確認に使いましょうか」

ゴロー「でも今回は使わないぞ?」

ハクオロ「まあ…あって損はないでしょう」


 ……
39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/01(日) 23:26:23.34 ID:Nuz7c+WSO

 明日に決行と決まり、俺は早めに床につく。


 …目が覚めた。どうやら誰かが外に出たらしい。俺も外に出てみよう。

 外ではハクオロとトゥスクルさんが月を見ながら話をしていた。


 ……トゥスクルさんの姉は主を鎮める巫女としての力を持っていて、
 前にムティカパが暴れた時に生け贄となったらしい。

 そして今この辺りで生け贄となりえる血筋はエルルゥとアルルゥだけ。

 つまり、明日の作戦が失敗したらこの二人の内どちらかを……

 なるほど確かにこれは俺や村人の前では言えない。

 ……決意は固まった。


ゴロー「やれやれ。明日はなんとしても成功させなくちゃな」


 ――
40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/01(日) 23:29:19.99 ID:Nuz7c+WSO
 《バトルパート》

作戦内容 水を貯めた落とし穴までムティカパを誘う


出撃ユニット ゴロー・テオロ


敵ユニット ムティカパ

 勝利条件 罠の少し手前の地点まで到達

 敗北条件 二人の撃破



ゴロー「テオロさんまで陽動係をしなくても」

テオロ「なぁーに アンちゃん達にばかり頼ってられねぇってだけさ」

ゴロー「はぁ……ところでアンちゃん二号ってのはやめてくれませんか」


テオロ「んっ…じゃあオメーも俺の事は『オヤジ』か『おやっさん』と呼びな」

  「俺たちはもう村の仲間で家族みたいなもんなんだ。
   んな他人行儀な呼び方はくすぐってぇよ」


ゴロー「わかりました。『おやっさん』」

テオロ「そうだ。んじゃあ……オメーさんは年上ぽいし…」

ゴロー「えっ? おやっさん年下!?」

テオロ「あり? 言ってなかったか? 俺は〜〜歳だぞ」

ゴロー「じゃあなんで皆におやっさんとか言われてるんだ……」

テオロ「そりゃオメー、俺が頼りがいのある男だからにきまってんだろ!」

  ダーッハッハッハ…

ゴロー(後でソポクさんに聞いてみるか)

41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/01(日) 23:32:34.61 ID:Nuz7c+WSO

 ……

ゴロー「うっひゃ〜〜〜〜!」

テオロ「ぬおおおお〜〜〜!」

ムティカパ『ガァァァァッッ!』


さて、命をかけた鬼ごっこの開始である。

ゴローとテオロは挑発しながら罠までムティカパを引き寄せる。

あとはひたすら目的地まで突っ走るだけなので罠にかけるまで一気に省略する。

気になる方はアニメかゲームのうたわれるものをやってみてね



ゴロー・テオロ「「うおおおおっ!!」」


 小高い崖から上手く落ちる。ムティカパも同じように跳びだした。


ハクオロ「今だっ!」


 ハクオロの合図で村人たちが仕掛けを作動させる。
 着地したムティカパは水を大量に入れられた落とし穴に落下する。


ムティカパ『グォォァァッッ!』


 勢いも手伝い、ムティカパの全身が水に浸かった。


ムティカパ『グアアアッ!』


ハクオロ「来るぞ!」

テオロ「おう!」

ゴロー(……ハラヘッタ)グゥー


 ムティカパは落とし穴から脱出、防御を弱める事には成功した。
 しかし、まだヤツの攻撃力は健在だ。油断出来ない。

42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/01(日) 23:37:55.92 ID:Nuz7c+WSO
 《バトルパート》

出撃ユニット ゴロー・ハクオロ・テオロ

敵ユニット ムティカパ


勝利条件 ムティカパの撃破

敗北条件 ゴロー・ハクオロの撃破


最初の攻撃は俺、ゴローだ。

 ゴロー スキル… 〔ハラヘリ〕
(腹が減っていると術防御以外が二倍の強さに。速さも上がる。
 しかし、変わりに気力が25%以上に増えない)


 走ったせいか腹が減っている。こいつを倒して早いとこメシにしたい。

 俺はムティカパに向かって駆け出す。ムティカパも俺に向かって来る…


村人「うおおおっ!」


 グサッ! 『グアッ!?』


 村の誰かが投げた農具が上手くムティカパに命中し、
 ヤツの気を反らした。その隙を逃さず、俺は後ろに回り込む。


ゴロー「大型のネコ科生物ってのは……前輪駆動車みたいに前が重いはず」


 危険を犯して回り込んだのは後ろ脚のほうが
 体重がかからず、前よりは力がないと考えたからだ。
 前脚を拘束するのは難しいが後ろならっ……!


  ガシッ! グイッ! 

ムティカパ『グアアアッ!』


 そうだ、それでいい! 暴れろ暴れろ。その力を利用して…今だ!

  ボキッ!!

ムティカパ『ガアアアアアアア!!』


 やった…一本だけだが折ってやったぞ。


ムティカパ『ガルルル……』


・ムティカパこのターン行動不能。ハクオロへ

43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/01(日) 23:41:20.77 ID:Nuz7c+WSO

ハクオロ「ハアッ!」ビシッ

 動きを止めたムティカパの脇に回り、ハクオロは自慢の鉄扇を振るう。
 仕込まれた刃がムティカパの身体に傷をつける。


ムティカパ『グォォ…』


テオロ「次は俺だぁっ!」

  「ぬぅぅりゃぁぁっ!」ブンブン!


 テオロはハクオロと反対の反対の脇に回り込み、得意の斧を振りまわす。


ムティカパ『ガォォンッ!』


 流石に斧による攻撃は効いたらしい。斬ったあとから血が大量に流れ出す。


ゴロー「腹が減りすぎて動けないから何か食おう」ゴソゴソ


 ゴロー スキル… 〔食事〕
(携帯しているモロロを食べて気力を回復。
 1ターンに3つまで・1つ食べて25%回復する)


  むしゃ むしゃ

ゴロー「焼いただけのモロロもまた一興なり」モグモグ


ムティカパ『……!?』

ハクオロ「はいぃ?」

テオロ「なんてヤローだ……」


 呆気にとられてはいたがムティカパは流石森の主、
 俺に構わずハクオロに牙を向ける。(※ゲームでハクオロは狙われやすい)


ハクオロ「くっ……しまった!」カキン


 牙を向けた突進を防御出来たが勢いは殺せず、鉄扇を弾かれた。


・ハクオロ行動不能。テオロへ

44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/01(日) 23:44:18.93 ID:Nuz7c+WSO

テオロ「うおぉりゃぁっ!」ブン!

ムティカパ『ギャォォォッ!』


 テオロの攻撃がムティカパの首付近に直撃。
 悲痛な咆哮をあげるムティカパ。


村人達「う、うわあああ!!」

  グサグサグサグサ!

 村人達はこの声に何かを感じたのか、一斉に脇腹に農具を突き立てる!


ゴロー「よし、食った食った。『おやっさん』! 行きます!」

テオロ「おう! 行くぜ『ゴロー』!」



 《 協撃!》

 《オヤジたちの宴》


テオロ「さあて…終わったらパーッといくぜ!」

ゴロー「メシだけなら付き合いますよ」


 「うりゃうりゃうりゃうりゃぁっ!」

  ザシュ ザシュ ザシュ ザシュ!


 「……でも無理に酒を飲ませるやつにはこうだっ!」

  ゴキ ボキ バキ メキッ!!


ゴロー「わかりました?」

テオロ「お、おう気をつけるぜぇ……」

45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/01(日) 23:47:14.34 ID:Nuz7c+WSO

ムティカパ『…………ガァッ』グラリ

  ズッシーン!

 俺とおやっさんの『協撃』が決まり、
 巨大な白虎はついに神の使いの任を解かれた。


「やった…のか」「やっちまった…」「ムティカパ様を…」

  ザワ ザワ…

ゴロー「……」

テオロ「無理もねぇ。これまで自分らが祀ってきたモンをぶっ壊したんだ」

ハクオロ(あれ? 私、いいとこない?)


 ……

 〜 ムティカパの巣穴 〜

ゴロー「おっと、ここだここだ」

 なんとなく、気になってここにやって来てしまった。
 ハクオロやおやっさんは他の村人と一緒に先に帰っている。
 この巣にやって来たのは俺の独断だ。


ゴロー「……ん?」


 鳴き声がする……。行ってみよう。

 巣穴の中はわりと広い。その奥の外敵から最も見えない所にソイツはいた。


ゴロー「ムティカパの子 そういうのもあったか……」

子ムティカパ『ミャゥ』


 この子どもを生かしておいたら、また集落が襲われるかもしれない……
 そう考えた俺は……


  ガサガサ… シャッ!

 突然その子どもを横から飛び出してきた何者かに奪われる。


ゴロー「……アルルゥ?」

アルルゥ「……だめ」

子ムティカパ『ミャ?』

アルルゥ「このコは だめ」ジッ

ゴロー「……」

アルルゥ「おとーさんのとこ…いく」 タッタッタッ…


 俺も甘いな。甘甘だ。あの娘のあの目……。見覚えがあるような……


ゴロー「ふう……やっぱり何か足りない」

  キラン キラン

 おや? 奥になんか光る物が……取れた。


ゴロー「変わった石だな。紫色で 握りこぶし位の大きさだ」


 ……これくらいはいただいてもいいだろう。
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/01(日) 23:51:45.91 ID:Nuz7c+WSO
 ……

 その夜は村の広場で大きな炎を焚き、ムティカパを送った。

 俺は村を見渡せる道ぞいでメシを食う事にする。


 【キママゥ焼き】

この前仕留めたキママゥの肉を串に刺して焼いただけの料理。
村の貴重なたんぱく質です。

 【モロロのスープ】

モロロをごろっと入れたスープ。とろみが少しついている。


ゴロー「あたたかくていいなぁ このスープ」

  ズズウ もぐもぐ

 食べると元気になる味って言うのかな。
 シンプルでいいぞ。


ゴロー「キママゥもいい焼き加減だ」ジュルリ

  はふはふ むしゃむしゃ……

 こういうのはそのままガブッと食わないと。
 あー うまい。弱肉強食ってこれこれ。


ハクオロ「やあ」スタスタ…

ゴロー「おう」ムシャ…


 ハクオロがやって来た。独りで食いたかったのになぁ。


ハクオロ「こんな所にいないでもっと広場のほうに来ればいいのに」

ゴロー「たまには静かに食いたい時もあるってことさ」

ハクオロ「ハハッ ……ムティカパの子どもをアルルゥが連れてきたよ」

ゴロー「ふぅん」モグモグ

ハクオロ「……受け入れて良かったのだろうか」

ゴロー「いいんじゃないか、深く考えなくても」

  「村の奴に聞いた。お前の言葉なら『命ってのは無垢なもの』だろう」

  「出来るだけ、大切にする……そんな感じでいいんだよ」ムシャ


ハクオロ「……ゴローさん、貴方が居てくれて良かった」

ゴロー「あー…次からはそういう相談やら愚痴はエルルゥさんに聞いて貰え」

ハクオロ「? どうしてですか?」

ゴロー(あーあ。この鈍感男、だめだな)ズズッ

ハクオロ「???」


第二話「ヤマユラのキママゥ焼きとモロロのスープ」

  続く!
47 : ◆M6R0eWkIpk :2012/07/01(日) 23:53:42.90 ID:Nuz7c+WSO
投下完了です。

大体週に一回投下していきます。

ではまた次回に。
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/07/01(日) 23:55:21.74 ID:rO8/i3Ko0
紫の石?って原作にあったっけ?

オリジナル?
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/07/02(月) 00:07:10.10 ID:2D0J6q6No
乙!
50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga sage]:2012/07/02(月) 01:43:00.99 ID:kl+49sKmo
51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/02(月) 02:03:37.42 ID:2ayNYPQIO
>>48
それ以上いけない。
数話待つといいと思う。
52 : ◆M6R0eWkIpk :2012/07/04(水) 19:48:23.28 ID:QKl2rcxSO
21時前には投下します

『地の文』は一マス空けない形、
 『ゴローの考える事』はこのように一マス空ける形

こんな風に分けていますのでご注意下さい
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/04(水) 20:41:55.74 ID:QKl2rcxSO
第三話 「カカエラユラの森の赤い木の実とシゥネ・ケニャ」

   ザワ ザワ ザワ ザワ…

 ムティカパを倒した後だってのに、どうもこの村は慌ただしい。
 別の國からの落人が大量に逃げてきた影響だ。

 トゥスクルさんの鶴の一声で、受け入れる事にしたのはいいが……
 いくら畑が改良したといっても村の食い物だってそれほど多くはない。


ゴロー「ふぅふぅ。ちょっと重いな」ドスン


 俺は今『炉』を造る作業を手伝っている。
 ハクオロが何故か『鉄』の製法を知っていたため、
 村の貿易品として『鉄』を造る事に決まったのだ。

 ハクオロ…… アイツは一体何者なんだろうか。


ゴロー「考えてもしょうがないや」フゥー


 今は村を豊かにしないと。人手は大量にあるってのが救いだ。


テオロ「お〜い ゴロー! そっちも休もうや〜!」

ゴロー「おやっさん、新しい家造りはどうですか?」

テオロ「おう、順調順調! アイツら一生懸命働いてくれてるぜ!」


 それはそうだろう。命を救ってくれた集落なんだ。
 俺だってこういう形で恩返しをしているわけだし。

 ……
54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/04(水) 20:46:44.82 ID:QKl2rcxSO
 夜はトゥスクルさんやエルルゥさんから薬草について学ぶ時間だ。
 専ら先生はトゥスクルさんだけど。


トゥスクル「よし、次はそれをほんの少ぉしだけ入れるんじゃ」


   ソッ… カサリ

エルルゥ「少しって……これくらい?」

   カサカサ スッ

ゴロー「いやいや、このくらいでしょう」

   ビシッ ビシッ!

エルルゥ「痛いっ」  ゴロー「右に同じく…」

トゥスクル「エルルゥは多い。ゴローは足りん!」

エルルゥ・ゴロー「「はーい……」」


 こんな感じで厳しい。
 だが、寝る前にトゥスクルさんは……


トゥスクル「ゴロー。知識はともかくカンはいいのぅ」ヒソヒソ

  「実はあれ、お主の取った量位がちょうどええんじゃ」

  「ただ、薬を作るというのは正しい知識と経験が不可欠じゃ。
   だからさっきはお主に注意したんだよ。エルルゥには秘密じゃ」ヒソヒソ


 ……なるほど これからも勉強に励めって事ですか。
 わかりました 努力します。
55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/04(水) 20:50:33.09 ID:QKl2rcxSO
 ――

 深夜、誰かの物音と話し声で目が覚めた。
 ハクオロとエルルゥさんがひそひそと話をしている。


エルルゥ「おば……ゃんが…い…くなっ…」オロオロ

ハクオロ「わ…っ…。自分…見て……う」ダッ


 家を出ていくハクオロ。
 俺もその様子から飛び起きて後を追うことにする。


エルルゥ「あ……」

   タッタッ…

ゴロー(一体どこに……?)キョロキョロ


 周辺を見回すと、トゥスクルさんを乗せたウォプタル
( ※この世界の馬。見た目は中型の恐竜)の後ろ姿が確認出来た。


ゴロー「……誘拐か」


 このヤマユラの村長を誘拐する意味はよくわからんが……
 後をつけてトゥスクルさんを奪還しなくてはな。


 …………

黒い外套(アペリュ)を纏った男がポツリと呟く。


「……尾(つ)けられているな」

「はい。若様、どうなさいますか?」


答えるのは若き弓使い。この外套の男の家来と言える存在だ。
白い服がこの月光を反射し、よく映える。
男性なのか女性なのか解らない容貌であった。


「……尾行しているのは二名。先行するのは仮面の男。
 その後ろに中年の男だそうです」


……報告は続いた。より詳しい情報がもたらされていく。


外套の男は少し考え

「……この先の道で待ち伏せるか」

……結を出す。

―― その人はこのまま先に行かせろ。俺達は尾行者をくい止める ――

合図を先行する仲間に送り、外套の男と家来は停止した。


「俺は前の仮面をやる。後ろの中年は任せた」


外套の男はそう言い放ち、森と夜 二つの暗闇に身を溶かす。


「はっ。若様、御武運を」


白い弓師も森の中に消える。


今 ここに獲物を狙うケモノ達が潜み、敵の到着を待つ……

56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/04(水) 20:54:58.24 ID:QKl2rcxSO

  ドッ ドドドッ……

ゴロー「どこまで行く気だ……」


 俺はハクオロの後を追う形で追跡をしている。
 ウォプタルという生き物、考えていたより乗り心地が悪くなかった。
 以外と横幅があるからドッシリ座っていられる。


ゴロー「……嫌な予感がする」


 トゥスクルさんにも言われたな。『カンがいい』ねぇ……

  ヒュン  ブスッ!

ゴロー「嫌な予感、的中!」サッ


 反射的にウォプタルから飛び降りる。
 俺のウォプタルの真ん前の地面に矢が刺さった。
 ウォプタルはそれを見て急停止、派手にこけてしまった。


ゴロー「間一髪か」スッ


 ハクオロの方に目をやると、同じ罠に嵌められていた。
 俺はウォプタルから運よく降りたが…… アイツは落ちたようだ。痛そう。


ゴロー「……なんだ? あの男は」


 ハクオロの首元に刀を押し付ける黒い外套の男。
 何か喋っているようだがここからは聞こえない。


ゴロー「助けにいかないと……」

  ヒュン  カッ!

??「若様のところには行かせません!」

ゴロー(……部下か。しかも弓使い、さっきの矢はこいつか)

  (不利な相手だし……一旦森に逃げよう)ザッ


 俺は脇の茂みに潜り、森の中に身を隠す策をとる。


??「くっ…… 抵抗しなければ傷はつけない! 大人しく出てこい!」

ゴロー(その言葉は信用出来ないぞ)


 それにしても……女か? あいつ、かなり可愛い。
 こんな状況じゃなかったら口説きたいものだ。


??「……わかった。これからお前を捕まえさせて貰う」


 そう言うと、敵も森に入ってきた。
 多分この森は向こうさんのホーム 状況は不利。勝機は近接戦のみ。


ゴロー(やるしかないか……)

 俺は森の奥へ足を向ける事にした。


 《バトルパート》

出撃ユニット ゴロー

敵ユニット ??(弓使い)
57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/04(水) 20:58:26.16 ID:QKl2rcxSO

 とにかくこういう時は情報が大切だ。
 相手に居場所を特定されないように静かに動かないと……


ゴロー(……)キョロキョロ

   ヒュン ヒュン

ゴロー(くっ! もう見つかった!)サッ


 真っ直ぐ放たれた二発の矢が俺の居た場所に着弾する。


ゴロー(なかなか腕がいい。だがこれで大体の位置の見当が……)

  ザザザッ… ヒューゥ カツ カツ!

ゴロー(なにっ!?)サッサッ


 今度は木々の上を越え、二本の矢が降り注ぐ。
 回避はなんとか出来たが……


ゴロー(この森の中でこんな技が出来るとは……)


 相手はかなりの手練。そして俺にとってアウェー。
 なんて厄介な事態だ まったく。


ゴロー(おっと…)ヒラリ

   ブスッ!

 水平に射たれた矢は木に外れる。
 ここでようやく敵の姿を一瞬だけ視認した。


ゴロー(すぐ大木に隠れたが……あの位置なら…)スッ

  ヒュー… カッ カッ!

ゴロー(…あの大木の下のから山なりに上に射ってこっちを狙うだと!?)

  サッ ヒラリ チッ!

ゴロー(ぐうっ! かすった!)


 ケガは大したことじゃないが……
 おかしい。なにかヘンだ。
 あれだけデカイ木の下から見えないはずのこっちを狙って……


ゴロー(…………読めたぞ)タッタッ…

  ヒュン ヒュン ヒュン…


 ……
58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/04(水) 21:08:15.90 ID:QKl2rcxSO
あいつを追い詰めた。そこから先は行き止まりだ。

ゆっくりと歩を進めて敵を逃がさないようにしよう。

居たっ。こっちは森を熟知してるんだ。

あんな派手な服じゃあ 隠れてもバレバレだね。

そう、そんな所に隠れても無駄さ。このまま射ってやる……

  ……今だっ!!

   ヒュン  カッ!

??「なにっ! 手応えが!」

 「悪いがこれで終わりだ」

   ガシッ! グッ!

??「うわああああッ!」

ゴロー(上半身裸)「服が派手で良かったぞ。おかげでいいカモフラージュになった」


 俺は弓使いを背後から拘束。両腕を抑え、いつでも折れる状態にする。

??「くうっ……離せ! さもないと…」

ゴロー「おっと、そこから先は言わなくていい」

  「弓使いの『もう一人』!! 居るんだろう! 出てこないとコイツを……」

  ガサガサッ…ザッ

 予想バッチリ。今日は冴えてる。


?A「……いつ気がついた?」


 今、俺が捕らえた敵と瓜二つの姿をした奴が現れる。


?@「『グラァ』! 何してる!」

グラァ「『ドリィ』……。僕達の負けだよ」

ゴロー「どうも妙に思えたもんで……
    気がついたのは身を隠すドリィ…君(?)の姿を見てからだ
    山なりにこっちを狙うなんて、枝葉を広げた木があっちゃ無理だろう」

ドリィ「……見られていたのか」

ゴロー「二人いるとわかったら辻褄が合ってな。一人が下、
    もう一人は木の上から俺を狙ってるって推測出来た」

グラァ「くっ……。だけどこのまま膠着状態なら若様が……」

ゴロー「えーっと……別に君ら(?)に危害を加えるつもりはないんだが」

ドリィ・グラァ「「はい?」」

ゴロー「どうしてトゥスクルさんを拐ったのか聞かせてくれれば……」

   ピューゥゥ♪

ドリィ・グラァ「「若様の口笛!」」

ドリィ「向こうが終わったって事は若様が来るぞ!」

グラァ「よし! ならこのまま……」

   ピューピューピュー♪

ドリィ・グラァ「「??」」

ゴロー「これはあの仮面の男の合図なんだ」

  「向こうも双方無事みたいだし、案内してくれ。『若様』の所に」ニヤリ
59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/04(水) 21:10:12.18 ID:QKl2rcxSO

?B「……ドリィ! グラァ! キサマァー! ドリィを離せぇぇ!」

トゥスクル「止めんか! 『オボロ』!」

オボロ「ハイッ!」シャキーン


ゴロー「……あの暑苦しいのが『若様』?」

ドリィ「そうです」 グラァ「僕達の…」

ドリィ・グラァ「「大事な人です」」


 ……双子なだけあって息ピッタリだな。


ハクオロ「ゴローさん! 大丈夫って……血が!」

ゴロー「あ、あのかすった傷だ」

トゥスクル「……ゴロー。あれを持っとるかい?」

ゴロー「……! 俺が作った薬ですか? 確か……」ゴソゴソ


 【ゴロー作、シゥネ・ケニャの薬】

シゥネの芽を摘んで薬にした。
舐めて一時的に痛みを抑え、傷に塗りこむ。
ちなみに口に入れると少し苦い。


ゴロー「……これ、不味そうな色なんですけど」

トゥスクル「『良薬 口に苦し』。薬の常識じゃよ」

ゴロー「うへぇ」ペロッ


 ウーン、マズイ! もう一口…… なんて言える味じゃないぞ。
 変な感じだ。でも痛みがなくなった気がする。

 残りは傷に塗って……っと。あ、結構 気持ちいい。


トゥスクル「さて、紹介がまだじゃったな」


 ……
60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/04(水) 21:11:56.06 ID:QKl2rcxSO

 この先にある隠し砦にこの若者…『オボロ』の身内がいるそうだ。
 トゥスクルさんはその人の診療に行っていただけらしい。
 ……人騒がせにもほどがある。


オボロ「着いたぞ。お前達はここで待て」ザッ

トゥスクル「ハクオロ、ゴロー。来なさい」

オボロ「トゥスクルさん! こんな訳のわからん奴等を入れる事はッ……」


トゥスクル「ゴローは薬師見習い。ハクオロは……。
      とにかくわしの言うことが聞けんのか?」


オボロ「うっ……わかりました……」

   ギィィィ…

ハクオロ(あれ? また 私が影薄くないか?)


 ……
61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/04(水) 21:15:43.16 ID:QKl2rcxSO
 〜 砦内・誰かの部屋前 〜

オボロ「二人はここまでだ」ザッ

トゥスクル「……同じ事を二度言わせる気かぇ?」

オボロ「くっ……」スッ

?C「お兄さま? どうなさいましたか?」

オボロ「なんでもないよ。『ユズハ』」

ユズハ「この匂い……トゥスクル様ですね。今晩は」ペコリ

トゥスクル「おや、バレてしまったのう」ニコリ

ユズハ「あ…… 今日は違う方の匂いがします……
    土の香りのする方が……」

ハクオロ「自分はハクオロ。よろしくユズハさん」ニコッ

ユズハ「もう一人…… 美味しそうな香りの方が……」

ゴロー「えっ?」ムシャムシャ


 【 赤い木の実 】

ゴローが携帯食料として持っていた果物。
私たちの言葉で言うなら『リンゴっぽい』果物。
アルルゥの好物でもある。
ゴローはさっきの薬の口直しに食べている。


一同「「 」」ポカーン

ユズハ「面白い方ですね……私も何か食べたくなってきました」クスクス

ゴロー「もう一つあるからどうぞ」スッ


ユズハ「…………」スッスッ


ゴロー(このコ……)

   (目が……見えていない……)

  「はい。甘くて美味しいよ」ギュッ


 少女に木の実を握らせてあげる。


ユズハ「ありがとうございます。えっと…」

ゴロー「『ゴロー』だ。トゥスクルさんの手伝いさ…」

ユズハ「ありがとうございます。ゴローさま」ニコリ

   「いい香り…」スゥーッ


ゴロー(このコ……優しいコだ。気配りも忘れない)

 (ちょっと神様って奴にアームロックをかけたくなってきたぞ)


 ……
62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/04(水) 21:21:59.42 ID:QKl2rcxSO

 『トゥスクルさんがユズハの治療中……』

 オボロ以外の男性陣は追い出され、
 俺はさっきの弓使い……『ドリィ』『グラァ』に謝られてしまった。


ゴロー「気にしないでいい。些細な誤解だったんだし」

  「でも…もしお礼をしてくれるんなら……」


ドリィ・グラァ「「まさか体をっ!?」」サッ

ゴロー「いやいや、お礼=夜の相手って発想はおかしい」

  「君たちみたいなコに迫られるのは悪くないけど
   ……もう少し歳上が好みなんで」


ドリィ・グラァ「「若様は駄目です!」」

ゴロー「……なんでそうなる」

グラァ「じゃあ…」チラリ


ハクオロ「うん?」


ゴロー「いや待て、男から離れろ」

ドリィ「え、だって僕らに迫られるのも悪くないって……」

ゴロー「……君たち、もしかして男?」

ドリィ・グラァ「「はい!」」

ゴロー「 え 」


 ……世界は広いなあ

63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/04(水) 21:27:25.57 ID:QKl2rcxSO
 ――

 トゥスクルさんとオボロがユズハちゃんの部屋から出てきた。


トゥスクル「終わったよ。さあ、ゴローも傷を見せなさい」

  「ハクオロ、あの子の話相手になっておやり。オボロはわしと来るんじゃ」


オボロ「なっ…待ってください! こんな得体の知れない…」

トゥスクル「……三度目。これ以上は……」

オボロ「……わかりましたよ。来い、こっちで手当てしてやる」スタスタ

ゴロー「すまないな」

 ……

 トゥスクルさんに手当をして貰いながら、
 仏頂面をした男に話しかける。
 スラリとした身体つき、尖った耳に鋭い眼光。
 死線を潜り抜けてきた人間であるとわかる。
 俺を警戒しているようだ。


ゴロー「オボロさんだったか。別に何もしないさ」

オボロ「……信用出来ん。……それにお前はあの二人を捕まえた男だ」

トゥスクル「困ったもんじゃの。無理もないが…」

  「手当も済んだし、ちょっと厠を借りるぞい」ガタタ


 トゥスクルさんがいなくなり、部屋に二人きりにされる。


ゴロー「捕まえたのは一人だって……」

オボロ「それでもお前が危険な事にかわりはない」

ゴロー「まいったなあ…なんでこうなる」

オボロ「ふん、この砦では大人しくする事だ。そして二度とここに来るな」

  ダダダダダダダ… ガラッ

ハクオロ「トゥスクルさん! ユズハの容態がっ!」

オボロ「なにっ! キサマァッ! 何をしたっ!」

ハクオロ「自分は話をしていただけだ! 今はそんな場合じゃない!」

トゥスクル「どうしたんじゃハクオロ?」

ハクオロ「トゥスクルさん! あの子が熱をっ」

トゥスクル「わかった。オボロ、お湯を用意しておけ。わしはユズハの部屋に行く」

  「ゴロー、お主も薬師見習いじゃ。わしと来い」

ゴロー「はい」ガタッ


 …………
64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/04(水) 21:32:56.81 ID:QKl2rcxSO

オボロ「あああ…ユズハぁ……」

ユズハ「ハァッ… ハァッ… ハァッ…」

トゥスクル「火神(ヒムカミ)がこれ程むずつくとは……発作じゃな」

オボロ「トゥスクル様! 早くユズハを!」

トゥスクル「当たり前じゃ ゴロー、準備はっ」

ゴロー「こっちは問題ありません! 後はお湯を……」

  ガラッ

ドリ・グラ「「お湯をお持ちしましたっ!」」

トゥスクル「ご苦労。ゴローよ、後はわしがやる。お主達はユズハを見ておれ」

オボロ「トゥスクル様! どうか…どうかユズハをぉぉ」ズリズリ


トゥスクル「頭を上げよ、誇り高きお主が土下座などするでない」

  「このトゥスクル、命に代えてもこの子を見捨てるような真似などせぬ」


 トゥスクルさんは手早く薬草をすりつぶし、薬を作っていく……


ゴロー「すごいな……」

オボロ「当たり前だ! トゥスクル様はこの國に名を轟かす薬師だぞ!」

ゴロー「國にか! それはすごい」

トゥスクル「オボロ・ゴロー、五月蝿くするなら出ておゆき」

オボロ・ゴロー「「スイマセン……」」


 瞬く間にお椀一杯分の薬が完成した。
 トゥスクルさんは自分のかけていた首飾りを手に持ち、
 付いている飾りの玉を割る。
 中から紫色をした粉末が出てきた。


ハクオロ「トゥスクルさん。それは?」

トゥスクル「紫琥珀(ムィ・コゥーハ)じゃ」

ゴロー「紫琥珀?」

グラァ「一欠片あれば一生遊んで暮らせると言われる品……」

ハクオロ「……」


 俺はトゥスクルさんがそんな物を持っていた事に驚きを隠せない。
 ハクオロも何か考え込んでいる……
 その紫琥珀の粉が先程の薬に入れられ、緑だった椀の中身は紫に変わる。


トゥスクル「あとはこれに布を浸け……」ピチャ

  「落ち着くまで布から薬を飲ませるんじゃ」


オボロ「わかりました! ほらユズハ……」


 ……
65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/04(水) 21:37:07.24 ID:QKl2rcxSO

トゥスクル「……どうやら落ち着いたようじゃの」


 部屋にホッとした空気が流れる。
 オボロが涙を流しながらトゥスクルに礼を言う。


オボロ「トゥスクル様ぁ…ありがとうございます…ありがとうございます…」


 オボロ涙ポロポロ……なんてギャグが浮かんだが空気を読んで言わない。


トゥスクル「……オボロ、よく聞くんじゃよ」


 ……トゥスクルさんが告げた事は余りにも残酷な真実だった。


 ユズハちゃんの発作はこれからも度々起こる事。

 その度に紫琥珀(ムィ・コゥーハ)を入れた薬を使わねばならない事。

 トゥスクルさんが持つ紫琥珀はあと数回分しかない事。

 そして……薬が作れなくなった状態で発作が起きたら……



 あのか弱い少女の命が尽きる事を……



66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/04(水) 21:39:54.70 ID:QKl2rcxSO

一同「「……」」


 その場の皆が何も言えなかった。


ゴロー「……」ツゥーッ…


 今日会ったばかりの幼い少女にどうしてここまで心を動かされたのか…
 バレないように目尻を拭う。


ユズハ「う……」

オボロ「ゆ、ユズハ ユズハァァ」タッ

ユズハ「……お兄さま? どうされたのですか?」キョトン


 このコ……さっきまでの事を覚えていないのか?

 ……オボロにとって妹の目が見えていない事が良かったと思える日は
 これが初めてかもしれない。今のアイツ、溢れ出る涙を止められないから…


オボロ「……ユズハ」

トゥスクル「そろそろ帰るからの、挨拶に来たんじゃよ」

ユズハ「あ…そうでしたか……」


『何もなかった』ユズハちゃんの為に、そういう事にしなきゃならない……
 ここにいる全員でユズハちゃんを偽る……
『残酷な真実より甘い嘘』…… そんな言葉を思い出した。


ハクオロ「ああ。じゃあなユズハ」ニコリ

ユズハ「はい、ハクオロさま」ニコッ

ゴロー「今度来るときはハチミツを持ってくるよ」

ユズハ「ハチミツ… よくわかりませんが楽しみにしています」ニコッ

  「お兄さま……?」


オボロ「……」


 ハクオロがオボロを肘で小突く。
 オボロに対し、ハクオロが目で語る

 『笑え』と。

 この純粋で無垢な少女に心配をかけない為に。


オボロ「ああ、食べ過ぎるなよユズハ。お兄ちゃんにも分けてくれ」ニコリ


 涙を流しながらだが…不器用な笑顔でオボロは妹にそう言った。


ユズハ「……はい」ニコッ


 ……
67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/04(水) 21:43:20.29 ID:QKl2rcxSO

 夜が明ける前にウォプタルに乗って砦を後にする。

 なんて哀しい後味だろう。
 さっきの薬の苦さのほうがよっぽどマシだった。


ハクオロ「…………」

トゥスクル「…………」


 俺達は道中で一言も喋らずヤマユラへの帰り道を往く……


 ――

 エルルゥさんへの説明はハクオロが上手く誤魔化した。
 自分たちは特に危険な事をしていない…と。
 ただ診療に行っていたとだけ伝えて、少し身体を休める。


ゴロー「……ハァ」


 こういう時、何か口にくわえたくなる。
 そうだ……『煙草』だ、思い出した。

 という訳でエルルゥさんに『煙草』について聞く。


エルルゥ「煙草? ……ごめんなさい、ちょっとわからなくて」

ゴロー「そうですか……
    乾燥させた葉に火を着けて吸うモノなんですが……」


エルルゥ「あっ! なんだあ『煙管(キセル)』の事ですね!」

  「確かおばあちゃんが持ってるはずですよ」ニコ


 ……
68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/04(水) 21:46:15.17 ID:QKl2rcxSO

トゥスクル「煙管を使わせて欲しい? 構わんよ」

ゴロー「ありがとうございます」

トゥスクル「ちょっと待っておれ…… ゴロー、お主は何を考えておる?」


ゴロー「煙管の話ですか?」

トゥスクル「違う。これからの事じゃ」ゴソゴソ

  「今は薬の作り方を学んでおるが、薬師になるのが目的ではあるまい」


ゴロー「……お見通しでしたか」

トゥスクル「ほれ。煙管と……葉じゃ」スッ

  「長年生きとるからの。わしに隠し事はきかん」

  「例えば……アルルゥが何を作っているか知っておるか?」


 この前アルルゥが機織り機で何か作っている所を見たような…
 でも何かはわからないな。


ゴロー「えーっと…何かしてるのは知ってますけど……」

トゥスクル「あの子はハクオロの帯(トゥパイ)を作っておる」

  「あれはわしの息子の古着じゃからの。帯が傷んでおったでな」


ゴロー「へぇ……」

トゥスクル「お主の服も傷んでおるの、どれ縫ってやろう」

  「煙管を吸いながらでも構わんから、もう少しここに居なさい」


ゴロー「あ、ありがとうございます」


 ……ここから脱け出せなくなった。これが狙いか。

69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/04(水) 21:48:45.23 ID:QKl2rcxSO

トゥスクル「それで? お主の目的はなんじゃ?」ヌイヌイ

ゴロー「……」


トゥスクル「まぁ見当はついておる」ヌイヌイ

  「薬や薬草を知るのは誰かを治し、癒す事じゃ」

  「じゃが誰かの為以外にも使い道がある。つまり『自分の為』じゃ」

  「……ゴロー、お主は独りで『旅』に出るつもりなんじゃな?」

  「薬術は自分が怪我をした時や体調不良の時に役立つからの」


ゴロー「……大正解です。トゥスクルさん」


 なんて婆さんなんだ。ホントにその通り。


トゥスクル「まったく、それならそうと早く言えば良かったんじゃ」

  「わしの薬術特別授業をミッチリ叩き込んでやったのに」ニィ


ゴロー「まだ先立つ金がありませんから。しばらく居るつもりです」ハハハ


 話の区切りがついたので、煙管で一服……

   スゥー… フゥー…

 覚えている味とは違うがうまい。ようやく心が落ち着いたぞ。

70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/04(水) 21:51:22.13 ID:QKl2rcxSO

ゴロー「あ、そうだ。トゥスクルさんに見て貰いたい物がありまして」


 そう言って俺は以前ムティカパの巣で手に入れた紫色の石を取り出した。


トゥスクル「どれ…… ぬぬっ!?」

ゴロー「どうしました?」


トゥスクル「……どうやら残っておった問題も解決じゃの」

  「これは紫琥珀(ムィ・コゥーハ)の結晶じゃ。特大のな」


 ――

 最初の塊を半分に割り、半分はユズハちゃんの薬用としてトゥスクルさんに。
 もう半分は俺に渡され、これの一部を売った。

 トゥスクルさんが呼んだ商人は金勘定はちゃんとした男らしく、
 ボッタクリはなかったようだ。

 そして……少したって……

71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/04(水) 21:53:38.02 ID:QKl2rcxSO

テオロ「寂しくなるぜぇ…… 元気でなぁ」ズズッ

ソポク「あんた、鼻水出てるよ。ほらこの布切れで拭きな」

テオロ「おう、すまねぇ母ちゃん」ズビー


「またいつでも帰ってくるダニ〜」「元気で…」
「また遊んでくれよ〜」

   ガヤガヤ…

エルルゥ「ゴローさん……」

アルルゥ「……」

ハクオロ「ゴローさん、本当に行くんですか…」

ゴロー「ああ。記憶を取り戻すには旅が良いと思うんだ」

トゥスクル「その服と煙管はお主にやろう。他の物は持ったかい?」

ゴロー「はい。地図・薬道具・食料…… 準備は出来てます」

エルルゥ「……いえ、まだ渡してない物があります」

 エルルゥさんはそう言うと『ある物』を持って来てくれた。


ゴロー「これは……」


 ……
72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/04(水) 21:56:30.78 ID:QKl2rcxSO

 この集落の人々が見たことの無い……
 『スーツ』『ネクタイ』『ワイシャツ』『ベルト』『ズボン』『靴』…
 一目見ただけで名前が浮かんでくる。

 それらの着方もすぐに思い出した。
 袖を通す。……懐かしい。
 記憶が無いはずなのにこの格好に違和感がない。


ゴロー「いつもの姿ってやつかな」


 独りの旅にはいいかもしれない。


テオロ「へぇ〜 それがゴローの着てたって服か」

ハクオロ「よく似合ってます……って言うのも変かな」

エルルゥ「でも凄く自然な感じですね」

アルルゥ「ペコちゃん、おもしろい」

ムックル『ミャウウ!』

トゥスクル「最初はどこに向かうつもりじゃ?」

ゴロー「そうですね…まずはこの國の都に行きます」

トゥスクル「そうか…その格好はタトコリの関までにするんじゃよ」

  「あそこから西は皇(オゥルォ)の力が強いからの……」


ゴロー「わかりました。皆さんお元気で」ペコリ


 ウォプタルに跨がり、ヤマユラを後にする。
 本当にいい村だった。次に来るときはきっと豊かになっている事だろう。

 気になる事ややり残した事は多い。
 でも村の事やオボロ達の事はハクオロがなんとかするだろう。
 俺もこの旅で記憶を思い出して……


ゴロー「あとは『米』を見つけられたらいいなァ……」


 なんて思いながらウォプタルで道を駆けて行った……


 第三話「出発」

  続く!
73 : ◆M6R0eWkIpk :2012/07/04(水) 21:58:23.37 ID:QKl2rcxSO
ようやく完全装備になったゴローちゃん。
これからどうなるのか……
とりあえず投下完了。
74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/07/04(水) 22:00:59.12 ID:pQ3FMHga0
紫の石はこれだったのか
乙 ユズハが心配だ
原作知ってるから尚更
75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/04(水) 23:16:54.17 ID:cgn4gD9IO
一欠片あれば遊んで暮らせる紫琥珀の拳大の結晶とかやべぇな

半分だとしても用心棒雇って死ぬまで全国をひたすら食べ歩いても釣りが来るんじゃないか?
76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/07/04(水) 23:57:50.59 ID:y+bQHBhto
ゴローちゃんは別にハクオロの立ち位置を食うわけじゃないのか
今後が楽しみだ
77 : ◆M6R0eWkIpk :2012/07/05(木) 00:21:41.11 ID:sR9LLs0SO
 〜復活! うたわれるものらじお・in SS速報VIP〜

キィン! キィン! キィン! キィン!

 ♪BGM:夢想歌


エルルゥ・ハクオロ「「うたわれるものらじお〜 in SS速報VIP!」」


エルルゥ「皆さん今晩は♪ 司会の私、エルルゥと」

ハクオロ「本編でどんどん影が薄くなっていく…同じく司会のハクオロです」

エルルゥ「ハクオロさん! うたわれるものSSですよ!」

ハクオロ「まさかこんな所で復活するとは思ってませんでしたね」

エルルゥ「本当ですねっ! このSSを見て下さってる読者の皆さんも
    『懐かしっ』とか『古っ』とか思ってるかもしれませんよ」

ハクオロ「元々のPCゲームが2002年、アニメが2006年だったな」

エルルゥ「でもP○Pは2009年発売でしたし、うたわれ2だって…」

ハクオロ「そうだな。こんな風にSSを書くファンやSSを見てくれる方もいる」

ハクオロ「嬉しいものじゃないか」


エルルゥ「そうですよね。ケモミミの代表的作品ですもんね!」

ハクオロ「さて、話を戻そう。エルルゥよろしく頼む」

エルルゥ「ハーイ。ここは『うたわれるもの』を知らない方に用語解説をする
     オマケコーナーです。知ってる方は>>1が間違ってたら叩いて下さい」


ハクオロ「本当はwikiを見てくれ……と言いたかったが」

エルルゥ「wikiには物語の核心が載ってますから知らない方に勧められなくて……」

ハクオロ「そんなわけで急遽このコーナーが用意されました」

エルルゥ「今日は一話〜三話までのうたわれ用語
     + キャラクターを解説していきますよ〜」

78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/05(木) 00:25:13.00 ID:sR9LLs0SO
 《 第一話 》

エルルゥ「記念すべき第一話!」

ハクオロ「このSSはサブタイトルが二つある」

  「『孤独のグルメ』の食べ物タイトルと『うたわれ』のタイトルだ」

エルルゥ「第二話は有名な特撮のタイトルのパロディですのでご注意下さい」

ハクオロ「解説に入ろう。アシスタントのRさーん」

R「ちっす。今回はコチラ〜」

 《キャラクター紹介》

ハクオロ「そういう事らしい。では始めよう」

●ハクオロ…『うたわれるもの』の主人公。記憶喪失ではあるが博識。
     髪は肩にはかからないが長く、素顔は変な仮面に隠され見えない。

ハクオロ「最初は主人公の私、ハクオロだ」

エルルゥ「ハクオロと言う名前は私たち姉妹のお父さんの名前です」

ハクオロ「記憶のない私はトゥスクルさんにそこから名前をつけられた」

エルルゥ「武器は鉄扇。仕込み刃や毒を塗る溝がついてます」

ハクオロ「私については本編でも情報が出る。だからこれ位にしておこう」

エルルゥ「漢字にすると『白皇』そのままです」


●エルルゥ…薬師。正統派メインヒロイン。意外に嫉妬深い。


エルルゥ「うたわれるものの正ヒロインは私です!」

  「エルンガーとか言わないで下さい!」

(※ エルンガー…厠にいる禍日神(ヌグィソムカミ)。浣腸してくる
 /アルルゥがエルルゥに対して言う)


ハクオロ「わかってるよエルルゥ。説明に入ってくれ」

エルルゥ「私は薬師の見習いで、ゲームではパーティー唯一の回復役です」

  「アニメだと戦闘に加わらないので地味だったかもしれません」

エルルゥ「掃除・洗濯などの基本的な家事はお任せ!
     いつでもハクオロさんのお嫁さんになれます!」


ハクオロ「エルルゥ…」

エルルゥ「ハクオロさん…」

ハクオロ「話を戻してくれるかい?」

エルルゥ「……はい。名前の由来はおばあちゃんのお姉さんです」

ハクオロ「同じ名前だったそうだね」

エルルゥ「はい、元々は花の名前なんです」

ハクオロ「アルルゥはエルルゥの花の近くに咲く花の名前だ」
79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/05(木) 00:27:30.21 ID:sR9LLs0SO

エルルゥ「キャラクター紹介を続けますね」


●アルルゥ…エルルゥの妹。ハチミツ大好き。木に登ると怖くて降りられない
      人見知りが激しく無口。だか慣れると甘えん坊になる。


エルルゥ「SS本編ではアルルゥを木の上から助けるイベントが済んでます」

ハクオロ「だから最初から私は『おとーさん』と言われているよ」

エルルゥ「こういう事が度々ありますのでご容赦下さい」


●トゥスクル…姉妹の祖母。高名な薬師でヤマユラの村長。


ハクオロ「かなり厳しいが良い人だ」

エルルゥ「おばあちゃんは謎が多いですね」

ハクオロ「あの鉄扇もトゥスクルさんが私に渡した物だしな」

エルルゥ「うたわれるもの/zeroの企画を待ってます」

ハクオロ「いいのかいエルルゥ? 多分出られないぞ?」

エルルゥ「……やっぱり止めます」


●テオロ…実は若い。親父や親っさんと言われるのは老けてるから(ソポク談)


ハクオロ「豪快な男だ」

エルルゥ「アニメでの呼び方変更イベントは第二話で使いました」

ハクオロ「彼がいなかったら村も戦えなかったかもしれない」

エルルゥ「凄い人ですよね。格好も他の村人と違いますが…」

80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/05(木) 00:30:07.07 ID:sR9LLs0SO
R「第二話入りまーす」

 《第二話》

●ヌワンギ…ケナシコウルペ國の皇(オゥルォ)の甥。
      武器は鉈を使う。エルルゥが好き。


エルルゥ「ヌワンギ……」

ハクオロ「元服(コポロ)前に連れて行かれて性格が曲がってしまった男だ」

エルルゥ「誕生(アックン) 元服(コポロ) 婚姻(ハシェク) 葬儀(ハハラ)」

  「余談ですがうたわれ世界での行事はこう呼びます」


ハクオロ「ゲームで父・ササンテとの協撃に驚いた方もいるだろう」

エルルゥ「ヌワンギ砲ですね」

ハクオロ「この技のおかげか、親子ともギャグとして人気キャラだ」

エルルゥ「でもインカラ皇のアフロヘアーほどじゃないですよ?」

ハクオロ「インカラは後に紹介する」


●ムックル…子供のムティカパ。アルルゥになつく。成長が早い。


ハクオロ「SS本編で名前を出すのが三話だった。申し訳ない」

エルルゥ「アルルゥには森の母(ヤーナマゥナ)という力があります」

  「動物と心を通わせる力で、おばあちゃんの姉もこの力を持っていました」


ハクオロ「ある意味巫女としての力とも言えるな」

エルルゥ「だからムックルと仲良くなったみたいです」

  「でももっと可愛い名前がいいのに……」


ハクオロ「お気づきの方もいると思うが、大体の用語の意味は漢字でわかる」

エルルゥ「ちょっとルビが違うなってだけですのでご安心下さい」
81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/05(木) 00:33:00.25 ID:sR9LLs0SO
 《第三話》

●オボロ…痩せ型の双刀使い。過保護シスコン。
     実はケナシコウルペの先代皇の血縁者。


ハクオロ「ゲームでは速く、攻撃力も高く、移動距離もある万能キャラ」

エルルゥ「アニメ等ではネタキャラになるという美味しい存在です」

ハクオロ「噛ませだったりオボロボロボロだったり…」

エルルゥ「私はハクオロさんが言った『オボロ防壁!』が好きです」

ハクオロ「段々キャラ紹介から離れているような……」


●ドリィ・グラァ
 …弓を使う双子。オボロの部下。袴が赤いのがグラァ、青いのがドリィ。


エルルゥ「アニメではオボロさんとのベッドシーンを見せてくれました」

ハクオロ「ああ、もう紹介のノリじゃなくなってる……」

  「誤解のないよう言いますが、あの二人は
   酔っぱらったオボロと一緒に布団で寝てただけですよぉ〜!」


エルルゥ「わかってますよ。ハクオロさん」

  「これは『らじお』なんです。危ない発言には……」


 【キィン! キィン!】


エルルゥ「これが入りますから♪」

ハクオロ「そ、そういえばそうだった。忘れていたよ」

82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/05(木) 00:35:48.80 ID:sR9LLs0SO

●ユズハ…オボロの妹。目が見えない。体の神々がいがみ合う病。
     発作が起こると危ない、抑える為に紫琥珀が必要。

エルルゥ「私達は体に神を宿している…という設定です」

ハクオロ「どちらかと言うと属性のほうが近い言葉だな」

エルルゥ「火神(ヒムカミ) 水神(クスカミ) 土神(テヌカミ) 風神(フムカミ)」

ハクオロ「性格を表すのにも使うぞ。私にはないが」

エルルゥ「私達の宗教については後の回で説明します」

ハクオロ「さっき出た禍日神にだけ触れておこう」

※禍日神(ヌグィソムカミ)…凶事を起こすといわれる忌み嫌われる神々や、
この世(ツァタリィル)に留まった死した人などの魂の事。


ハクオロ「オボロ達について加える説明がある」

エルルゥ「オボロさん達は『義賊』なんです」

ハクオロ「村の税が帰ってくる話が省略されていたのでこっちで紹介する」

エルルゥ「だからおばあちゃんも私達に教えなかったんだと思います」

ハクオロ「SS本編で商人に売られた紫琥珀。あれは更に藩に売られ、
     オボロが盗みに行った…となって本筋に戻るよう設定された」

エルルゥ「あの人のファンの方はごめんなさい。少し待ってて下さいね」

ハクオロ「今回はこんな所か」

エルルゥ「次回はどうなるんですかね?」

ハクオロ「なんでも四話には【キィン!】が出るらしい」

エルルゥ「ネタバレにも音声が入りますから注意して下さい」

ハクオロ「……はい」


  続く?
83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/05(木) 00:43:03.53 ID:sR9LLs0SO
>>70の下の文訂正

「トゥスクルさんの呼んだ商人は、幸い金勘定を誤魔化すような者じゃなかったようだ」に

文章が変ので差し替え。
あとオマケを投下。
三話ごとにやっていきたいと考えてます。

オマケのハクオロさんとエルルゥは本編外のキャラなので混同しないよう
お願い申し上げます。
ではお休みなさいませ。
84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/07/05(木) 00:45:58.93 ID:elVwKG0y0
お休み
85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/05(木) 07:20:34.63 ID:JCTJwSfSO
頑張ってるね
86 : ◆M6R0eWkIpk [saga sage]:2012/07/06(金) 23:57:54.87 ID:facY0QGSO

 第四話「戻る道」

   ザァァ…… ヒュン

ゴロー「ふわぁ〜〜あぁ。釣れないかぁ…」


 ハァ…眠いなぁ…… 退屈過ぎて……

 俺は今日の昼メシ狙いで釣りをしている。
 なんでこんな事をしているかと言うと……

   ガサガサ

?@「ゴロー殿、どうでしたか? 某(それがし)はサッパリで……」


 コイツがその原因だ。
 薄い茶系で流麗な服、腰に刀を携え……
 顔は外套(アペリュ)で隠している。
 声から判断すると女のようだが……。
 この前女の子みたいな男もいたので性別について判断するのは早計だ。


ゴロー「こっちも駄目だ。場所を変えるか」


 俺達はそこを後にし、他の良さそうな場所を探す事にした。


87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/07/07(土) 00:00:00.08 ID:facY0QGSO

 『回想…数刻前』


 〜 タトコリの関 〜

 タトコリの関はこのケナシコウルペ國のやや中央に位置する関所だ。
 交通の要所なので、高い通行料を課せられている。


ゴロー「それでも安全に都や町に入るには使わざるを得ないわけか…」


 この國って森や山が多いから道を外れると途端に危険になる。
 商人とかは命も大事だが積み荷も大事だし。
 そこを抑える関所というのはかなり厄介だよなぁ……


ゴロー「皇(オゥルォ)ならもっと道の整備くらいしろ……」


 どうもこの國の上の奴らは腐っているらしい。
 ここ数日、旅をして様々な集落から情報を得て知った事だ。

 皇なんて女を侍らせて毎日贅沢三昧な生活をしているそうだ。
 羨ま……じゃない とにかく國をまともに運営し、仕事をしているのは
 侍大将(オムツィケル)だけ――とも村人や旅商人達から聞いた。

 そんな事を思いながらウォプタルから降りて、
 関を越える順番待ちをしていたら……

88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/07/07(土) 00:01:52.12 ID:LW/3gOlSO

兵A「貴様…ふざけているのか? その程度の金でここを通れると思ったかっ」

兵B「それにその外套(アペリュ)だ。とっとと外せぇ!」


?@「……断る」

兵A「ナニィ?」

?@「某(それがし)が顔を見せるのは『義』ある者にのみ……」

  「お主達のような者に素性を明かす必要などない」


兵C「こやつ! 言わせておけばっ!」

 あーあ こういうの、困るんだよな。
 ああいう奴らに刀を抜かせるなよ…

 ……いい加減この列で待ち続けるのも飽きてきたし
 仕方ない。助けてやるか。


ゴロー「おーい、なんだ先に行ってたのか〜」

兵A「何者だぁ!」チャキ


ゴロー「た、旅の薬師でございます……。あそこの者は私の連れでして…」

  「連れがご迷惑をおかけしたようで……
   これはほんの気持ちですが……」チラリ


 こういう面倒な奴らには少し金を握らせればいい。
 下手に揉め事を起こすほうがマズイしな。


兵B「ほほう、お主話がわかるではないか」ニヤニヤ

兵C「へへっ」ニヤニヤ

ゴロー「こちらは私が煎じた薬でございます…」スッ

  「夜の精力剤『摩訶敏敏(マカビンビン)』といいます…」


兵A「……おほう、お主気に入ったぞ。通るがいい」

ゴロー「ははぁ では失礼いたします。行くぞ」


 次はこの面倒そうな奴を動かす。
 ただこの正義感に溢れるタイプは別の方向で扱いやすい。


ゴロー「ちょっとお前に用がある。来い…」


 出来るだけ悪漢のような演技をし、向こうの注意を惹き付ける。
 小声でぼそっと話すのも効果的だ。


?@「……わかった」

89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/07/07(土) 00:06:18.01 ID:LW/3gOlSO

 ……

ゴロー「ふう やれやれ。おかげで早めに関を抜けれた」

?@「それで某に用とは……」


 めちゃくちゃ警戒されてるな。


ゴロー「おいおい。殺気を抑えてくれ。別に用なんてないから」


?@「はっ?」


 まぁ唖然とするのも当然だ。


ゴロー「アンタみたいのがいると時間がかかってしょうがない」

  「あの関は交通の要所なんだ。順番待ちをしてた人も多かったろうが」


?@「しかしっ!」


ゴロー「……仮定の話をしてやろうか」

  「もしあの列に酷い病気の子を持った親が居たとしよう。
   早く薬や医者を連れて来ないと子の命が危ない。
   あそこでアンタが暴れて親が関所を通れなくなったら、
   その子は亡くなっていたとしたらどうだ?」


?@「なっ…それは……」

ゴロー「仮定だ。でもアンタの『義』で並んでた奴らが困ってたのは事実だぞ」


?@「……だが」

  グ〜…

?@「……///」カァッ

ゴロー「……ハラが減ると怒りっぽくなる。メシにしましょう」

90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/07/07(土) 00:09:12.66 ID:LW/3gOlSO

 ……

  ガツガツ ムシャムシャ ハグハグ ゴクン…

ゴロー「 」ポカーン

?@「ふぁ〜 久しぶりにまともな食事にありつけ……あっ」


 こいつ、外套のままなのに上手く食う…とか考えてる間に…
 俺の昼メシまで食いやがった!


?@「も、申し訳ありませぬ! つい……」


ゴロー「……」

   「……許せん」ユラリ


 コイツが何者だろうが関係ない。
 食べ物の恨みは恐ろしいという事を教えてやる…


?@「そ、某、釣り道具を持っているので貴殿の昼は今から採って…」アタフタ

ゴロー「……釣り。その手があったか!」


?@(良かった、これで某が大量に釣れば許して貰えるだろう…)

?@「…そういえば名を言っていませんでした。某、『トウカ』と申す」


ゴロー「ゴローだ。よろしく」


  『回想終了…』

91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/07/07(土) 00:12:36.72 ID:LW/3gOlSO
 パチパチと薪が音を立てて燃え上がる。
 そこで一本の串に刺さった魚が焼かれている。
 なかなか大物で食い応えがありそうだ。


ゴロー「う〜ん いい薫りだ」


 ……俺が釣った魚を見ながらいじけているアホを除けばいい昼飯なのだが。


トウカ「……」


 沈んでるなァ……


ゴロー「いやあ、よかったじゃないか」

  「一匹だけとは言え、釣れたんだから…」


 どうして腹が減って怒っていた俺がコイツを慰めなきゃならないんだ。
 釣ったのも俺なのに……


トウカ「『某、釣りが趣味ゆえお任せあれ』なんて言わなければ…」


 あー もう面倒くさい奴だ。
 自分がボウズだからってそんなにウジウジするなよな……


ゴロー「……そろそろいいかな」


 【 焼き魚 】

川で釣った魚を焼いただけの一品。
味は塩をかけて食べる。


ゴロー「いただきます」

トウカ「おや? 大神(オンカミ)への言葉はよろしいのですか?」

ゴロー(……さっきアンタも忘れてたじゃないか)


 ここではある神が信仰されている。
 宗教的な話になるので簡潔に説明しようか…


  ――大神ウィツァルネミテア――

 人々を解放し、その行く末を見届け、導く大神(オンカミ)。
 この神に向かって食事前に感謝の言葉を述べたりする。
 ヤマユラに居た時、俺とハクオロはその言葉を知らなかったもんで
 適当に『感謝を』としか言ってなかったな。
 他にも誕生とか葬儀とか……冠婚葬祭にも必ずこの神の名前は使われる。
 神を奉る『オンカミヤムカイ』とかいう國があるらしい……

 この位の事しか覚えなかった。詳しく知るなら
 その『オンカミヤムカイ』に行くしかないだろうし。

   むしゃ むぐ

ゴロー「焼きたての魚はウマいな、ウマすぎる」


 とりあえずトウカの存在は無視してメシを食う事にする。
 ほのかな火の暖かい味っていうのかな。
 サッと塩をかけただけなのに、うまい。
 これでモロロが残っていれば……
 俺の昼飯の全てを食べた犯人……を見ながらそう考えた。


トウカ「ゴロー殿? どうなされた?」

ゴロー「……なんでもない」ムシャモグ
92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/07/07(土) 00:15:33.40 ID:LW/3gOlSO

  ピクリ…

 何か居るな。トウカも異変を感じたらしく、戦闘体勢をとる。


  「そこの者達! 動くな」

   ザッ ザッ ザッ

 出てきたのは先程見た兵士達と、その纏め役みたいなヤツだった。


関守「俺がタトコリの関で一番偉い関守だ」

  「お前ら俺には何も寄越さないのか?」ニヤッ


兵A「へっへっへ。身ぐるみ全部置いてきな」

兵B「そうするなら命は助けてやるよォ」

兵C「今ここでお前達を殺しても『國に仇なす賊を討った』で済むからねェ」


トウカ「貴様ら……」

ゴロー「まったく…人の昼飯の邪魔を……」


関守「おいおい抵抗する気か?」

兵B「なら又『賊』として処分ですな」ニヤリ

ゴロー「……質の悪い奴が偉いさんだとロクな事がない」

トウカ「……ゴロー殿。一飯の恩、ここでお返しいたす」


 そう言い放つとトウカは刀を抜いた。


ゴロー「まあ殺さない程度にな…」

   (……大丈夫かな?)


 《バトルパート》


出撃ユニット ゴロー・トウカ

敵ユニット 関守(騎兵)・兵士×3(歩兵)※


敵は四角形の形でゴロー・トウカを囲んでいる。
騎兵の前にゴロー。背中合わせにトウカ。

93 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/07/07(土) 00:21:09.41 ID:LW/3gOlSO
ゴロー「まだ全部食ってなかったのに…」

 スキル… 〔ハラヘリ〕発動

 俺はウォプタルに乗った騎兵を避け、自分の左横の兵士に向かって駆ける。


兵A「でぇい!」ブン

 兵士にしては刀の振りが悪いな……
 そう思いつつ、攻撃を避けて腕を拘束。


兵A「あぐぁァァッ! あっ…」ドサリ

 痛みを与えつつ首を上手く絞めて気を失わせた。


トウカ「ふっ!」シャキン

  スッ スッ… ドカッ! ベシッ!

 おお、これは凄い。華麗な足捌きで攻撃を回避し、
 兵士二人、ほぼ同時に倒すとは。


トウカ「安心しろ。峰打ちだ」

ゴロー「さてアンタはどうする?」

関守「……ハハッ ナメるなよ」パン!

   ザッ ザッ ザッ…

 うわっ セコいなぁ。二人相手に増援か。


トウカ「卑怯なっ…! 十人も…」

関守「くくく…コイツらは賊だ! 引っ捕らえろォ!」

ゴロー「流石に厳しいか……」

関守「くぁっ! 死ねぇ!」ブン!


トウカ「ゴロー殿! ちぃっ!」ダッ

   ドンッ ビリッ!

ゴロー「おい! トウカ! 大丈……」


 伸ばした手が止まる。 俺を庇ったトウカの外套(アペリュ)が破れ、
 その顔が木漏れ日の光の中で明らかにされた。


関守「ヒュー♪ いいおんな……な、ナニィ!?」


 顔はどこか幼さを残した容貌。
 だがその眼光は鋭く、目の前の『悪』に対し燃えている。
 そして一番周囲の目を惹いたのは…

 『耳』だ。それは『鳥の翼』のような耳だった。


関守「え、『エヴェンクルガ』だとぉぉぉ!?」


 さっきまでニヤついていた関守が怯え始める。


トウカ「名乗らせて貰おう」

『エヴェンクルガ』の戦士が関守や周りの兵、そして俺に向けて叫んだ。


  「某の名は『トウカ』、『エヴェンクルガのトウカ』!」
94 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/07/07(土) 00:25:21.10 ID:LW/3gOlSO

  ザワ ザワ ザワ…

 増援で来た周りの兵に動揺が走っていく。
 どうやら最初の三人以外には俺達は『賊』としか教えていなかったようだ。



どうしてこうなったか説明しよう。

『エヴェンクルガ』…… それは何処かの高地に住まう少数民族。

武芸に秀でた一族で、何よりも『義』を重んじる存在……
戦において、エヴェンクルガが共に参戦するということ……
それはその國の『義』がエヴェンクルガと共にある事を示す。



 今、他の兵士はエヴェンクルガが敵になっている事に動揺している。
 それで『不義』は自分達の方と混乱している訳だ。


関守「ええい! 何をしている! 続けぇ、続かんか!」

ゴロー「ただの旅人から荷物を奪いとろうなんてよく言ったもんだ」

   ザワ ザワ…

 これは勝ったな。完全に他の兵士は動けていない。 あの関守、人望がないようで助かった。


トウカ「大人しく退け。他の者も殺してはいない。連れて帰れ」

関守「くっ……おりゃぁぁぁ!」


 関守がトウカに走る。
 トウカは向かってくるウォプタルを…


  『跳び越えた』


関守「なっ!」グイッ


 方向転換をしようとする関守だが
 ウォプタルが転換について行けず、ずっこけた。


関守「ヌワァァッ!」ボキッ!


 関守は転倒に巻き込まれて足を折ったようだ。
 いい音が聞こえたぞ。


ゴロー「痛みで気絶したか……。おーい早く運んでやれ」


 周りの兵士が四人を運び出す。
 そのうちの一人に打ち身用の薬を渡し、俺達は去った。

95 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/07/07(土) 00:29:37.34 ID:LW/3gOlSO
 ……

 二人と一匹(俺のウォプタル)で道を歩く。


ゴロー「エヴェンクルガねぇ。見るのは初めてだ」

トウカ「旅の間は隠していたかったのですが…」

ゴロー「修行の旅ってやつか?」

トウカ「ええ。某はまだ未熟ですから」


 『未熟』か。ならトウカに伝えておきたい事がある。


ゴロー「……君はもう少し『義』について考えた方がいいかもしれない」

トウカ「どういう事ですか?」

ゴロー「世の中って今日みたいな善悪がわかりやすい事ばかりじゃない」

  「さっきの例え話みたいな事は普通にあり得るからな」


トウカ「…………」

ゴロー「君達の『義』だって自分で考えた基準で決めてる」

  「だから自分が騙されたりしていないか…… 考えてから行動しないと」


トウカ「ゴロー殿は某の義を疑うのか」


 まったく、身体はいいのにガキ臭い奴だ。
 そんなにカッカするなって。


ゴロー「そうは言わない。旅をするならその間に自分を確立しろって事だ」

  「これは過去の記憶がない俺からの忠告さ」


 少し忠告が沁みたのか、考え込むトウカ。


トウカ「ゴロー殿は……いえ、なんでもありません…」

 トウカがなんと言いたかったか、俺にはわからない。
 続けて俺は自分にも言い聞かせるよう、言葉を選んで呟いた。


ゴロー「……自分で見つけるんだ。そう、自分でな……」

96 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/07/07(土) 00:31:29.91 ID:LW/3gOlSO
 ――

 二股の道に出る。片方は町へ、もう片方は他國へ繋がる道のようだ。

ゴロー「ここで別れ道か」

トウカ「ゴロー殿。某は一度この國を出ます」

  「先程の兵からエヴェンクルガがいたと連絡が行くでしょう」

  「この國の中を動き辛くなりそうなので、
   他國を通って『シケリペチム』へ向かいます」


ゴロー「シケリペチム……。武で成り立った三大強國だったか」

トウカ「はい。自身を見つめ直すには、あの武の國が良いかと」


 ちょっとは考えてくれたみたいだ。


ゴロー「あまり無茶をするなよ」

トウカ「ゴロー殿こそ。良い旅を」ニコリ


 こんな綺麗に別れてたまるものか。
 あんな兵士を倒した位で俺の昼飯を食った事を帳消しにしてはやらん。


ゴロー「言っておくが昼飯の恨みは忘れてないぞ」

トウカ「くぅっ……では次に会った時に必ず借りを返しましょう」


ゴロー「ああ そうだな。約束だ」

トウカ「はい、約束です」ニコッ

 こうして俺はトウカと別れた。
 ただなんとなく……次に会うのはそう遠くないような気がしていた。

 ――
97 : ◆M6R0eWkIpk [sage]:2012/07/07(土) 00:33:14.77 ID:LW/3gOlSO
明日、後半投下します。
sage進行にしたのは全部投下出来なかった為。

では失礼します。
98 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/07/07(土) 01:14:08.40 ID:r01DSmQeo
孤独のグルメしか知らないけど面白いな
期待
99 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/07/07(土) 19:03:29.57 ID:L4OGjbSDo
100 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/07(土) 19:59:31.99 ID:LW/3gOlSO
 ――

藩主の館……ここの庭で、一人の男が刀を振るう。


 「ハァッ!」


最近思いっきり戦える相手がいなかったのだろうか
彼は戦いに赴きたくて仕方ない様子だ。
そんな退屈を紛らわせる一報がやって来る。


 「ほ、報告です!」


兵士が早馬から伝えられた事項を伝えに来た。


 「おう、どうした。ヤケに慌ただしいじゃねぇか」

 「あと何回か素振りすっから、そこで喋ってくれや」


鍛えられた肉体、浅黒い肌。
通常の規格とはやや異なる大きさの刀を振りながら、
その男は兵士から話を聞く事にした。


 「はっ。タトコリの関の関守が負傷!」

 「他数名の兵士が同じように負傷。関の防人に混乱が生じております!」


男は報告を聞き、さらに問いかける。


 「いってぇどこのどいつがあの関守を負傷させたんだ?」

 「馬の扱いは下手だが、剣術はそこそこだったはずだぜ?」


彼の中の『そこそこ』とは一般的に『強い』と言われるレベルである。


 「それにやった奴はどうした? 取り逃がしたってんじゃねぇよなぁ?」


当然、その疑問にぶち当たる。
しかし、返答は予想を超えるものだった。


 「それが…相手が『エヴェンクルガ族』だったらしく……」

 「『エヴェンクルガ』だとぉ!」

   グォン! ズン!

つい余計な力が入り、地面に刀を叩きつけてしまう。
報告している兵士も震え上がる。


 「それで? ソイツには逃げられたか。……混乱って言ったもんなぁ」


『エヴェンクルガ』相手じゃ、ただの防人には荷が勝ちすぎる……
彼はそう考えると、荒げた態度を落ち着かせた。
見た目から誤解してはいけない。

この男、戦闘が好きである。が、それ以上に優秀な武人なのだ。
頭の切れも悪くはなく、部下からの信頼も厚い。

101 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/07(土) 20:02:36.12 ID:LW/3gOlSO

ただ…そんな彼もこの場所で一番強く、一番偉いわけではない。
それ以上の武芸の才・知性・カリスマ性を兼ね備えた存在が
このケナシコウルペ國、そしてこの館に居るのである……


 「無理もないでしょう。……その負傷した兵の名を教えて下さい」


……噂をすれば来たようだ。
ケナシコウルペでも別格の強さを誇る武人。

他の兵と違う、侍大将(オムツィケル)の証…白き鎧を装備した男。

騎兵衆隊長、『ベナウィ』が。

彼は兵から負傷者の名を聞き、持っていた木簡を見ながら呟く。


 「成る程、やはりそうでしたか。ご苦労、下がってください」

 「大将! 何がわかったんですかい?」

 「クロウ。これを見てくれますか」


先程の厳つい男――『クロウ』はその木簡を渡される。


 「どれどれ…… おっ! あの関で悪さしてた奴の名簿ですかぃ」

 「……中心人物に負傷した兵士達の名前がありやすね」


どうやらクロウも合点がいったらしい。


 「おそらくあの者達はエヴェンクルガと知らずに旅人を襲ったのでしょう」

 「賄賂を獲られなかったか…それとも鬱憤を晴らす為か……」


 「大将ぉ〜 どちらにしても褒められた事じゃないですぜ」


こんな状況でも侍大将は動じない。彼は今ある状況を利用し、最善の手をうつ。


 「これであの関の悪習を絶ったと思いましょう。
  後任の人事を考えなくては……」

102 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/07(土) 20:04:26.13 ID:LW/3gOlSO

 「……とりあえず私達が兵の混乱を収めに行くとしましょうか」

「いいんですかい大将? あの藩主の警護が目的なんでしょう?」


あの藩主……この館の主である『ササンテ』の事である。
数日前から何かに怯え、兄である『インカラ皇』に警護を要請してきたのだ。


 「……ではクロウ。貴方が先に関に向かって下さい。私は後から追います」


いくら気に入らないとはいえ、一度に手練が二人いなくなるのは不味い……
そう考えた彼はクロウに言い放つ。


 「わかりやした。ところであの『子鼠』はどうしてやす?」

 「牢の中です」


ベナウィは素っ気なく答えた。
子鼠と言われた本人も、クロウも互いを覚えていないようである。

……ベナウィは先代の皇を思い出す。
そして今の皇が國の…いや、民の為の治世をしているかを考え込む。


 「ありゃりゃまた考え込んじまった。大将、んじゃあ行ってきやす」

 「兵たちを十名ほど連れてきやす。あっちの兵が使いものになるまで、
  ソイツらで関を動かしますんで」


クロウは庭から去っていった。


  「…………」


ベナウィは考える。
この國を守る侍大将として。
この國の民に仕える武人(もののふ)として。

強い風が吹いた……


 「嵐の予兆でしょうか……」

 「……暖かい嵐である事を祈りましょう」

103 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/07(土) 20:11:29.55 ID:LW/3gOlSO
 ――

二人が話したその日のうちに、この藩主の館は落とされた。


もし、数日前に藩主が『ある集落』に行かなければ……


 「おばあちゃんを放せ!」


もし、あの時子供が藩主に石を投げつけなければ……


 「バアちゃん!!」

もし、あの時 藩主の息子が部下を静止出来ていたら……


だが事態は起こってしまった。

  ……ある人物の『死』。


そこから集落は動き出す。


記憶を失った男を巻き込んで……


 …………
104 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/07(土) 20:14:36.85 ID:LW/3gOlSO
 ――


 「ササンテ!」

村、隠し砦の猛者達が藩主を追い詰めた。

 「ぷにゃ…にゃも…」

 「な、何なんだテメエら!」


 「……この状況を理解出来ない程 お前は愚かなのか」


贅を貪り丸々と肥え太った赤衣の男……
これが現藩主の『ササンテ』だ。
隣には息子の『ヌワンギ』がいる。
これだけの人数に囲まれながらも虚勢を張る元気はあるらしい。


 「愚かぁ? ……ッ まさか……」

 「そのまさかだ。オメエ達はなぁ、
  絶対にやっちゃいけない事をやっちまったんだよぉ!!」


ヌワンギに対し、屈強な男が叫ぶ。


 「あ、あのババアがくたばったとでも言うのかぁ!?」


 「…………」


……その場に居る者達の沈黙。
それが答えだった。


「…ぁあッ う、嘘を吐(は)くんじゃねぇよ… バアちゃんが…そんな…」


あまりの驚きに言葉を間違えるヌワンギ。


「あんなババア一人の為にこんな事を仕出かしたにゃも!?」


そんな息子を知らず、感情を逆撫でする発言をする藩主。


「……ァァァ ウァァァッッッ!!」


そして……ヌワンギは逃走した。


「ヒァィイィア! ヌ、ヌワンギ! ヌワンギィィィー!!」

「知らん! にゃもは何も知らんにゃもぉぉォォォ!!」


息子に置いていかれ、藩主は男達に命を乞う。



 「ぐぁっ……っぁ…………」


それが出来るなら最初からこんな真似はしない。
この反乱を指揮した男の武器……


 「ぬぅぅぅ…… ゃぁ!」


『鉄扇』が藩主の命を奪い取った。


105 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/07(土) 20:18:34.34 ID:LW/3gOlSO
 ――

 俺は町に入る時、最初に飯屋に行くことにしている。
 旅の疲れを食べ物で癒すというのも理由だが、それだけではない。
 旅において大事な『情報』を町の人間や、商人の話から得る為でもある。

 ……何故か商人という言葉に惹かれるモノがあるな。
 これは俺の記憶に関わる事なのだろうか。


ゴロー「でも酒は飲めないから少し入り辛いんだよなァ…… こういう店」


 一度、ヤマユラとは違う集落で少し飲んだが駄目だった。
 それ以来、酒は絶対に口にしない事にした。


「はーい、らっしゃ〜い」


 若い店員がやって来る。
 とりあえず適当な品を頼み、周りの話に聞き耳をたてる。


「…ナ・トゥン…」「シケリ……」「この國は…」「ケッチャ…事件」

「…ミヤリューが…」「トゥスクル……」「子供が産まれる…」


 ……今、よく知っている単語が出てきたぞ。

 すかさず俺はその話をしていたヤツに近寄る。


?A「……どちら様でしょうか?」

ゴロー「……私は旅の薬師でして。今、師匠の名を聞いた気がしたんですよ」

?A「……貴方、耳がいいんですネェ」


ゴロー「まぁ一杯奢りますんで話を聞かせて貰えませんか?」

?A「ふふっ 酒は結構。商人を動かすのは金でございます」ニヤリ


 コイツ……。かなりやり手だ。一筋縄ではいかない。

106 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/07(土) 20:21:39.81 ID:LW/3gOlSO

ゴロー「ああ、名を言うのを忘れていた。私はゴロー、よろしく」

チキナロ「チキナロと申します、ハイ。
     人身売買以外、なんでも取扱いいたします〜」

ゴロー「じゃあ金で情報を買わせて貰おうか」

チキナロ「いえいえ、今回は無料でお教えいたします、ハイ」

ゴロー「……胡散臭いな。理由があるのか?」


チキナロ「貴方様の持つ紫琥珀(ムィ・コゥーハ)で
     儲けさせて頂きましたから……」


 ……この男、俺の事を知っているのか。トゥスクルさんが呼んだ商人って


チキナロ「トゥスクル様にはよくして頂きました、ハイ。
     『あんな事』になって残念です」


 『あんな事』? 俺が旅に出てから一体何があった!


チキナロ「お、落ち着いて下さい〜 言いますから〜」


 いかんいかん。コイツが何かした訳じゃないのに。
 今は話を聞かないと……



 次にコイツが口にした言葉は……

 俺にとってあまりに衝撃的で…

 どうしてあの時旅に出てしまったのか……

 ただ後悔するしか俺には出来なかったのだ……



 「……トゥスクル様は逝ってしまわれました」


107 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/07(土) 20:24:08.11 ID:LW/3gOlSO
 ――

 これほどまでにウォプタルが遅いと感じた事はない。
 これまで駆けて来た道を全力で走っているのに。



一度旅立ったあの集落を目指し、独りと一匹は行く……


 ――

 俺がヤマユラに戻ったのは村での葬儀が終わった後だった。
 トゥスクルさんの亡骸は既に墓に入れられていた。 ソポクさんや他の村人も帰ってきた俺を慰めてくれた。
 自分たちだってまだ辛いだろうに……


 だが俺は立ち止まってはいられない。

 チキナロから得た他の情報で、
 ハクオロ達が元藩主の館にいる事を知った。


 俺は会わなくちゃいけない。エルルゥさんやアルルゥ。おやっさん、オボロ…


 ……そしてハクオロに。

108 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/07(土) 20:27:26.25 ID:LW/3gOlSO
 ――


ハクオロ「……」


 私は考えなくてはならない。
 これから先…この國を相手にした戦いの為に。

 トゥスクルさんの仇討ちから始まったこの戦い、
 ササンテを討っただけでは止まらない。
 弟が殺されたのだ、当然朝廷も動くだろう。
 此方の勝機は如何に他の集落と連携出来るかにかかっている。
 オボロ達が周辺の集落に協力を求め、交渉している。

 確かに現在の皇の圧政に不満を持つ集落は多い。
 だがわざわざ大軍を相手に戦う集落がいくつあるか……

 不安要素だらけだ。


ハクオロ「………ぬるいな」


 エルルゥに煎れて貰った茶が冷めていた……

 村の者達には館の修繕をして貰っている。
 私はトゥスクルさんの死後、村長となり戦いを指揮した。
 今回の戦いで何人か見知った顔の者を失って、
 犠牲者の家族に死を報告する自分……
 その時だけ、私は自分が禍日神(ヌグィソムカミ)なのではないかと思えてくる。

 私は……戦いが終わるまでにどれだけ血塗られるだろうか……

109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/07(土) 20:31:40.24 ID:LW/3gOlSO

 「駄目だ、待ってくれ!」「ハクオロは今っ……!」
 「うわぁっ!」「いてぇぇェェ!」


ハクオロ「敵襲かっ! 早すぎる!」ガタッ


 「ハクオロぉぉぉ!!」


 懐かしい声だった。自分とそっくりの声。
 共に笑い、共に闘い、共に哀しみ……

 そして…共に同じ食事をした『あの人』がやって来た。


ハクオロ「ゴローさん……」

ゴロー「歯ぁ食いしばれぇぇぇ!!」


 俺の渾身のパンチがハクオロの……仮面に直撃する。

 …当然仮面が壊れたりする事なく、ハクオロは勢いで吹っ飛んだ。


ハクオロ「うっごぉっ!!」


 私は吹き飛ばされながら…… 拳を痛がるゴローさんを見た。


ゴロー「あぐう〜〜ッ!!」


 ((……これは引き分けって所か))


 騒ぎを聞き付けたエルルゥさんが部屋に飛び込むようにやって来た。


エルルゥ「ハクオロさん……っとゴローさん?」

  「二人して何やってるんですか!!」


ゴロー・ハクオロ「「喧嘩さ」」

エルルゥ「なっ…こんな時に…」

ハクオロ「大丈夫。もう終わったよ」

ゴロー「ああ、少しはスッキリした」

ハクオロ「それは私もです。……ありがとう」


ゴロー「ハァァ… ハラが減った。エルルゥさん、食事をお願い出来ますか?」

ハクオロ「エルルゥ、私の分も頼む。今日はゴローさんと二人で食べるよ」

エルルゥ「???」


 女の子にはわからない世界だよなァ……


 ……
110 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/07(土) 20:34:04.86 ID:LW/3gOlSO

ハクオロ「暫くはこっちの事を手伝ってくれるそうだ」

エルルゥ「あ、ゴローさんがですか?」

ハクオロ「ああ。旅で寄った周辺集落に交渉もしてくれるらしい」

エルルゥ「そうですか…… ハクオロさんもそろそろお休みになって下さい」


ハクオロ「…エルルゥ。子守唄(ユカウラ)をお願いしてもいいかい?」

エルルゥ「またですかぁ〜。ふふっ 嘘ですよ♪ そんな顔しないで下さい」

ハクオロ「じゃあ頼むよ」

エルルゥ「はい」スーゥッ…


「静かに 訪れる 色なーき 世界……♪」


「すべての 時ーを止め 眠りにつく……♪」



 ああこの唄だ。以前聞いた時、何故か不思議な光景を見たな……


111 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/07(土) 20:37:34.49 ID:LW/3gOlSO

「悲しみ 喜びを 集めーて 人は……♪」


  『焦るんじゃない 俺は腹が減っているだけなんだ』

  『うーん…ぶた肉ととん汁でぶたがダブってしまった』


「流れし 時ーの中 安らぎ見る……♪」


  『ラストの2枚……あれが効いたな』

  『この「煮込み雑炊」をひとつください』


「生まれ生きー 消えてゆくー 人の運命(さだめ)の中……♪」


  『さて…いくらのどぶ漬けはどう使うかな』

  『俺にお似合いなのはこういうもんですよ』


「誰もみなー 空の星にー 微かな願い 託す……♪」


  『ジェットのせいで歯車がズレたか……』

  『ああ…俺の座る場所がどこにもない街』


「密かに 輝ける 満天の星……♪」


  『うおォン 俺はまるで人間火力発電所だ』

  『長いコートを着てたからシーズンオフだったと思う』


「地平の 彼方へと 流れ消える……♪」


  『追加でいわしと大根のカレーライスください! 大盛りでね!!』

  『このワザとらしいメロン味!』

112 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/07(土) 20:38:32.42 ID:LW/3gOlSO

「色づき 始めた 大地の上を……♪」


  『人の食べてる前で あんなに怒鳴らなくたっていいでしょう』

  『そうだ 太 おまえはエースなんだ』


「無情な 時だけが 吹き抜けてく……♪」


  『絶対大盛りで食おう』

  『うわあ なんだか凄いことになっちゃったぞ』


「風に揺るー 緑の先ー 明日へと続いて……♪」


  『ここでは青空がおかずだ』

  『こういうの好きだなシンプルで ソースの味って男のコだよな』


「新しきー 時の中ー 笑顔の花を 咲かす……♪」


  『これでライスをやっていないなんて…残酷すぎる』

  『この野沢菜マジメな味』


「生まれ生きー 消えてゆくー 人の運命の中……♪」

  『ごちそう食って 反省してる馬鹿もなし、だ』

  『地球の裏側の味という距離感がまったくない!』


「誰もみなー 空の星にー 微かな願い託す……♪」


  『今飲むと爽やかっていうより おばあちゃんの味だな』

  『アゴが疲れてきた 食べてるんだか 処理してるんだか』


「静かに 訪れる まばゆき世界……♪」


  『こんなコバラベリーには 案外 ちょうどいいかもしれぬ』

  『なんだか響きからしてソソるじゃないか』


「すべての 時ーを生み 咲き乱れる……♪」


ハクオロ「シリアスが台無しじゃないか!!」ガバッ

エルルゥ「きゃっ!」


第四話「タトコリの関付近の焼き魚」

  続く!
113 : ◆M6R0eWkIpk [sage]:2012/07/07(土) 20:41:42.74 ID:LW/3gOlSO
うたわれるものファンに確実に怒られる投下内容…

原作の子守唄(ユカウラ)のシーンはぜひプレイして見て欲しい。
プレイ済みの方もまた見て欲しいです。

それでは失礼します。
114 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/07/07(土) 21:11:38.35 ID:Yo0AljIp0
115 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/07(土) 23:29:56.10 ID:BF9Vl7HDO
台無しだwwwwwwwwww
116 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/07(土) 23:33:15.87 ID:4QkzoRDIO
この思い出に相応しいのは子守唄じゃねえwww
「ゴロ〜♪ゴロ〜♪ゴロ〜♪イ・ノ・ガ・シ・ラ♪フゥ〜〜♪」
だわwww
117 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山形県) [sage]:2012/07/08(日) 09:54:28.53 ID:krGTqhdPo
ユカウラ聞いただけで涙腺やばかったはずなのにくそwwwwwwwwww
118 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/08(日) 11:57:54.30 ID:RR99UiBA0
このゴローちゃんは虹裏の大惨事世界大
戦潜り抜けてそうなw
119 : ◆M6R0eWkIpk [saga sage]:2012/07/09(月) 22:43:49.90 ID:dkuqefSSO

第五話「叛軍の拠点 ネゥの乳入りモロロのスープ」

 ハクオロ達がこの館を手にいれてから数日が経過した。
 俺は最初、交渉役として他の集落に向かうつもりだったが……
 何故かそれ以外の仕事をさせられる事が多い。

 例えば薬造りだ。
 現在、ある程度効果のある薬を造れるのは エルルゥさんと俺の二人だけ。
 そうすると必然的に負傷者の看病等をするはめになってしまう。
 傷薬は量を作って置いておく事も出来る為、
 起きている時間の三分の一はこれに費やされる。

 次の仕事は館の修理・改良だ。
 この元藩主の館は防御に向いた地に建てられており、
 ハクオロはここに反乱軍の陣を敷く事にしたらしい。
 すると侵略の時に破壊した障害物や柵を作り直さないといけないわけで…
 これが結構重労働で大変なのだ。

 まだまだ仕事がある。これは俺というよりウォプタルの仕事だ。
 ヤマユラからの支援物資の運搬及び護衛……
 本当はウォプタルだけ貸しても良いのだけど…
 俺の……メスだったんで『サユキ』と名を付けたウォプタル。
 コイツが俺以外をまったく乗せない。
 ウォプタルは輸送に必要不可欠なので
 俺がコイツに乗り、村に行かねばならない。


ゴロー「恨むぞ、ハクオロ……」


 アイツはなぜか暇そうにしている時が多い。
 指揮官の仕事は情報の整理なのはわかるが、
 俺が忙しく働く最中にのんきに歩いてる姿を見る事があった。

 俺はそんなアイツにアームロックをする事で憂さ晴らしをしている。
 これまで三回くらいアームロックをしてやったかな……

120 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/07/09(月) 22:47:46.30 ID:dkuqefSSO
 ――

 今日は朝からハクオロ・オボロ達と一緒にあの隠し砦に向かっている。

 考えれば当たり前だが、ユズハちゃんを
 薬師が誰もいない場所に置いておけない――
 オボロとハクオロの意見で俺は朝っぱらからウォプタルに乗っていた。


オボロ「大兄者!」


 おい、今なんて言った。


オボロ「エルルゥから聞いた。大兄者がユズハの為に紫琥珀をくれた事を!」


 あ、あれか。確かにそうはしたが……


オボロ「俺は最初、貴方がよくわからなかった」

   「ドリィとグラァを負かしたと思ったら何故か二人と仲良くなるし!」


 あー…なんか慕われてるんだよなぁ。
 理由がわからないんだが。


オボロ「ユズハに会うのは一度だけだったのに、
   『ハチミツ…食べてみたいです』とユズハは貴方を待っていた!」


 それは悪い事をしちゃったな。
 今度、アルルゥとハチミツを採りに行こうか。


オボロ「そして紫琥珀だ。本当なら自分だけの物にしたい宝を……」

  「貴方は全てユズハの為にトゥスクル様に預けた!」


 全てじゃないって……
 間違ってるけど突っ込む気にならない……


オボロ「俺は兄者と大兄者の為に力を使う!」

  「俺に出来る事があるなら何でも言ってくれ!」


ゴロー「……ハクオロが兄者?」

オボロ「そうだ」


 俺はこれまで会話に入らなかったハクオロの方に目をやる。


ハクオロ(私も不本意だが呼ばれているんだ。貴方も巻き添えにさせて貰う!)


 あいつ…あの目……
 完全に俺を巻き込む態度じゃないか。
 どうやらアレだけやったのに懲りてなかったらしい。

 ……エルルゥさんにアームロックを教えておこうかな。


ハクオロ「……ゴローさん、実は……」ボソリ


 これまでの空気をぶち壊す話をするハクオロ。

 ……大人の役目は辛い。俺達がやるしかないけれど…

121 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/07/09(月) 22:51:55.72 ID:dkuqefSSO
 ――

 ユズハちゃんを大型の馬車に乗せ、砦を後にする。


ユズハ「ゴローさま、お久しぶりです」

ゴロー「おはよう。ユズハちゃん」


 馬車の中の彼女と話をしながら歩く俺とウォプタル。
 ハクオロ達は前の方にいる。


ユズハ「旅に出ていらっしゃったのですか……」

ゴロー「うん。もうすぐ都って所まで行って……」

ユズハ「そうだったのですね。ユズハの事をお忘れになったのかと…」

ゴロー「ははっ それは無いよ。寧ろオボロの事は忘れてたかな」

ユズハ「まぁ…」クスクス


オボロ「……」

ハクオロ「クッ……フフッ……」


 アニジャァァァー! ボウリョクハンタイ!


ユズハ「前が騒がしくなりましたが……」

ゴロー「気にしたらいけない」


 ……上手く誤魔化せた。

 ここで移動する間はトゥスクルさんが亡くなった事を教えられない…

122 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/07/09(月) 22:55:32.01 ID:dkuqefSSO
 ……

 昼頃、ユズハちゃんを館に入れる。
 オボロ達に部屋の準備をさせ、俺は外で一服する事にした。


ゴロー「……ハァ」フー


 あの少女に俺は本当の事を伝えなくてはならない。

ゴロー「……憂鬱だ」

  『ムギャオ?』


 ……声の方を振り返ると『ムティカパ』がいた。


ゴロー「うわあっ!」


 思わず跳び上がりそうになる。


アルルゥ「ペコちゃん。どした?」

ゴロー「アルルゥ……って事は…『ムックル』か!?」

ムックル『ンギャオ!』


 いつの間にこれほどでかくなったんだ……
 もうアルルゥより大きいじゃないか。


アルルゥ「ごはんだよー」

ゴロー「そうか。昼飯を配りに来てくれたのか」


 アルルゥから椀を受け取った。


 【モロロのスープ(その2)】

前回はすまし汁のようなスープだったが、
今回は『ネゥ』という動物の乳を入れている
その為、まろやかな味わいを楽しめる



   ズッ ズズウ

ゴロー「おっ 口ざわりがとても良い」


 味は甘めに仕上がってる。
 ネゥの乳を入れたんだな。
 これがモロロと合わさって複雑な甘味を出しているぞ。

  ずず… むしゃり

ゴロー「このスープは疲れた身体にいい」


 元気が出るな。あ、そうだ。アルルゥに礼を…


ゴロー「ありが……もういないか」


 ……最近独りでメシを食ってなかったから気楽でいい。


ゴロー「でも、なんか寂しいな……」


 どうも調子が狂っているようだ。

123 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/07/09(月) 22:58:44.18 ID:dkuqefSSO
 ……

 昼飯の後、ユズハちゃんの部屋に行く。
 中ではハクオロとオボロがユズハと談笑していた。

ゴロー「やあ……」

オボロ「大兄者……」

ハクオロ「……」


 三人が揃い、空気が変わる。
 先延ばしにしていた話題を語る時が来たようだ。


ゴロー「ユズハちゃん……実は」

ユズハ「……トゥスクルさまの事でしょうか」


 その場にいる男達皆が息を呑む。


オボロ「し、知っていたのかユズハ」

ユズハ「変だと思っていましたから……」

ハクオロ「……」

ユズハ「トゥスクルさまは……常世(コトゥアハムル)へ旅立たれたのですね」


オボロ「……そうだ」

   「いつから気が付いていたんだい?」


ユズハ「お兄さまが何かを必死に隠そうとしていたから……」

   「だから……だからユズハはそれが何かを知りたくて…」

   「皆さまの所に行けば……きっと…わかる…と」ポロポロ


 ……彼女は俺達が考えている以上に強かった。
 ただ今だけはこの涙を止めてはいけない。
 オボロを残し、俺達は部屋を出た。


ハクオロ「すまないゴローさん。少し…外す」

ゴロー「……墓参りか」

ハクオロ「……二人を連れて行ってくる」

ゴロー「夜までには帰れよ。ユズハちゃんを二人に紹介しないとな」

ハクオロ「……ああ」

124 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/07/09(月) 23:02:03.25 ID:dkuqefSSO
 ……

 夜は各々が様々に時間を過ごす。

 ユズハちゃんとエルルゥ、そしてアルルゥとの出会いはまずまずだ。
 人見知りをするアルルゥとは上手く喋れなかったようだが。

 ハクオロは地図を机に広げて眺めたり、
「食糧の計算が合わない…」等とこの時間は忙しい。

 オボロは…別にいいや。
 特に大したことはしてないだろう。

 ああ…… 俺が夜をどうしてるかって?


 ……言葉にすると『泥棒』かな。

 小さな相棒とその子供が一緒…… いや、むしろ主犯だ。


アルルゥ「ムックル〜 いいよ〜」

ムックル『ギャウ!』ムシャムシャ


ゴロー「やれやれ…」フゥー


 蔵の前に立ち、一人と一匹の犯行を手伝う。
 きっかけは前に蔵の中でオヤツを盗み食う所をアルルゥに目撃された事だ。

 それ以来、この少女は俺を


アルルゥ「いっしょにたべる」

    「そうしないと、おとーさんとおねーちゃんにいう」


 こんな風に脅して来たのだ。

 正直、ハクオロに言いつけるだけなら問題ない。
 ただエルルゥさんは不味い。
 彼女に言いつけられたら……
 この館でメシを食えなくなるかもしれない……


ゴロー「早く捕まえて欲しいような…そうじゃないような……」


 それにしても……ムックルがどんどんデカくなっている。
 そろそろ親のムティカパ位になりそうだ。

125 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/07/09(月) 23:04:23.16 ID:dkuqefSSO
 ――

 また夜がやって来た。
 今宵のムックルもメシに飢えておるわ……


ゴロー「ふわぁぁ〜〜」コックリコックリ


 「…異常なーし」「…異常なーし」
 「兄者様だ」「兄者様だ」


 ドリィとグラァの見張りの声でなんとなく覚醒する。


ハクオロ「おや、ゴローさん。蔵の前でどうしました」

エルルゥ「寝るならちゃんとお布団で寝ないとダメですよ?」


ゴロー「あー…いや、前にハクオロが食糧の計算が合わないって言ってたから
    自主的に見張りをしようかなぁ〜と」


ハクオロ「……あれ? ゴローさんにその話をしましたか?」

エルルゥ「……もしかしてゴローさんが犯人だったり?」

ゴロー「ハハハ! そんな馬鹿な。いくら食べ物が好きでも
    そんな計算が合わない程食べはしません」


エルルゥ「そうですよね……」

ハクオロ「……だがどうも怪しい。ちょっと中を見ますから退いて下さい」

ゴロー「ついさっき見たけど何もなかったぞ」

   ガタン!

エルルゥ「今の音は?」

ハクオロ「失礼!」


   ガラッ!

アルルゥ「う?」 ムックル『ぐぉ?』


 万事休す……

126 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/07/09(月) 23:09:22.98 ID:dkuqefSSO
 怒りの雷が落ちた。

エルルゥ「この大切な時に大事な食糧を勝手に食べちゃ駄目でしょう!!」

    「ゴローさんもです! いい大人が子供と一緒になって
     こんな事をしないで下さい! いいですか!!」


ゴロー「はい…… 返す言葉もございません……」

ハクオロ「フッ…フフッ……」


 この野郎、いい気味だと笑ってやがるな……


エルルゥ「ハクオロさん! 何が可笑しいんですか!」

ハクオロ「ご、ご免なさぁい……」


 とばっちりでハクオロにも雷が落ちる。


ムックル『グルルルッ……』

エルルゥ「あ゛あ゛ッ!?」ギラリ

ムックル『くぅ〜ん』サッ


 エルルゥさんがムックルを睨み付ける。
 ムックルは震えあがり、アルルゥの後ろに隠れてしまった。
 ムティカパサイズなのに中身はまだ子供なんだな。


アルルゥ「う〜〜〜」

エルルゥ「『うー』じゃありません!」


 アルルゥはハクオロの後ろに隠れる。
 ハクオロの後ろが大盛況……


ハクオロ「あ、あのエルルゥさん? 二人と一匹も反省してますし…」

エルルゥ「……ハクオロさんはアルルゥに優しすぎます!!」


 再びハクオロに雷が直撃。
 怒りの矛先は対象を鈍感仮面男に変える。


エルルゥ「いつもいつも……! ハクオロさんは!
     そうやってアルルゥだけ甘やかして!
     ユズハちゃんの髪の毛の件だって……! もう許しません!」

   グイッ ガシッ

ハクオロ「がああああああああ!!」


 あっちゃー 『腕絡め』教えて良かったのか悪かったのか……
 綺麗に決まったなー。うん。


アルルゥ「おねーちゃん、コワイ……」

ムックル『みゅぅーん……』


 ここに新しいヒエラルキーが完成した。


ゴロー「さ、これ以上は目の毒だ。お休み」


 ハクオロ、お前の犠牲は忘れない……

 ――
127 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/07/09(月) 23:13:56.78 ID:dkuqefSSO

 そんな惨劇(?)の翌日。

 以前から考えられていた『他の集落への協力依頼』の為、
 ハクオロ・オボロ・ドリィ・グラァ達は
 ヤマユラと交流のあった『チャヌマウの集落』に向かった。

 おやっさんと俺、エルルゥさん、アルルゥは留守番である。
 今日の仕事はハクオロの残した木簡の整理だった。


ゴロー「……アイツ、結構仕事はしてたんだな」


 結構な量になっている木簡を時系列順に整理する。


ゴロー「……飽きた。退屈だ」ゴロン


 俺…なにやってんだろ。
 そう思いながらふと庭に目をやると……


アルルゥ「ん〜…ほどけない……」

ムックル『ぐぉん…』


 アルルゥがムックルの首にかけられた縄をほどこうと頑張っていた。
 ムックル…昨日の事であんなにされちゃって。


ゴロー「どれ。手伝ってやるか」 ガタン


 庭に出た。アルルゥは少し驚いた表情で俺を見上げる。


アルルゥ「アルルゥのこと、おこる?」

ゴロー「怒らない怒らない。手伝ってあげるから」


 アルルゥもムックルもちょっと可哀想なので縄をほどいてやった。


ムックル『ぐぉっ!』

アルルゥ「ムックル〜 きゃっほぅ!」


 良かった良かった。これで遊ぶ事は出来…


アルルゥ「じゃあ おとーさんのとこ、いく」

ムックル『がおん!』

ゴロー「……」


 今なんて言った?


アルルゥ「ペコちゃんもいっしょにくる!」

ゴロー「いや、さすがに……」

アルルゥ「おねーちゃんにいう。ほどいたのペコちゃんって」

ゴロー「…………はい」


 末恐ろしいコだなあ……

 そんなわけで少し遅れて、
 俺とアルルゥはムックルに乗り館を出る事になった。

128 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/07/09(月) 23:21:06.26 ID:dkuqefSSO
 ――

焼かれた家、傷付き倒れた人々。
誰にやられたのかはわからない。
ただ一つの事実があるだけだ。
『チャヌマウ』と言われた集落は既にない。


 「ぐわっ…! くっ……!」ザザッ


 双刀使い――オボロが弾き飛ばされる。


 「どうしたぁ? テメェの力はそんなモンか!」


屈強な騎兵が叫ぶ。
わざと挑発するような言葉で。


 「殺(シャッ)!」 ダッ!


その挑発を受け、オボロは再び攻撃を仕掛ける。


 「「若様! お待ち下さい!」」


弓を構え、矢を放ちつつ、ドリィとグラァはオボロの下に走る。

だがそれは他の騎兵に妨害された。


 「ぬぉぉっ!」 キィン!

 「ふんっ!」 カッ!


容姿端麗な騎兵と仮面の男が打ち合う。
互いにウォプタルに乗ってはいるが
そもそもの前提条件が大きく異なっている。


ケナシコウルペ騎兵衆(ラクシャライ)
彼らはウォプタルに跨がり、戦う…いわばプロフェッショナルだ。
今、ここにいるのは侍大将にして騎兵衆の隊長、ベナウィ。
それと騎兵衆の副長、クロウである。

他にも騎兵が約十機。
最低限の人員・戦闘準備だけだったハクオロ達はまともに戦えない。


ハクオロ「くっ……」

ベナウィ「筋は良いようですが、これまでです」


ドリィとグラァ、オボロはそれぞれ騎兵に囲まれた。
ハクオロは幾度もの激突の衝撃でウォプタルから落とされ、
ベナウィに槍を突き付けられてしまった。

129 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/07/09(月) 23:24:42.66 ID:dkuqefSSO

ベナウィ「……先程の降伏を受け入れて頂きたかった」

ハクオロ「悪いがそれは出来ない話だ。我々も後には退けない」

ベナウィ「……では」


槍を構えるベナウィ。


 『グオオオォォォォッ!!』


巨獣の咆哮が戦場に轟く。


ベナウィ「!?」

クロウ「なんでぇなんでぇ!」


壊された家を突き破り、新しい『森の主』が騎兵衆の前に現れた。

その背に幼い少女と中年男を乗せて……


アルルゥ「おとーさんをいじめるなぁぁぁぁ!」


ゴロー「大人が乗るにはちょっと無理があるんじゃないのぉぉぉぉ!」


 ……

 酷い目にあった。ムックルがこれほど速いとは。


ハクオロ「アルルゥ! ゴローさん!」


ベナウィ「ムティカパ!?」

クロウ「おいおい、コイツぁ ズルくねぇか?」


 敵が混乱している。
 交戦してたみたいだし、出てきて正解だったようだ。


ベナウィ「驚きました。まさかこんな隠し玉があるとは」

ゴロー「……お兄さん、どちら様?」


 話が通じそうな男なのでちょっと聞いてみる。

130 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/07/09(月) 23:30:56.77 ID:dkuqefSSO

ベナウィ「この國の侍大将(オムツィケル)を務める『ベナウィ』と申します」


ゴロー「ああ! ケナシコウルペで一番マトモな人って話の侍大将さん!」

   「へえ… 若いなあ。格好いいし、モテるでしょう」


ベナウィ「……ありがとうございます」ペコリ

クロウ「大将〜 今は戦闘中ですぜ」

ゴロー「貴方は?」

クロウ「俺は騎兵衆(ラクシャライ)の副長、クロウってんだ」

ゴロー「これはご丁寧にありがとうございます」ペコ


クロウ「で……ここに来たって事はアンタは俺の敵でいいのかい?」


 いい歳なんだろうからそんなに熱くなるなって。
 オボロ、トウカ、コイツ…… 刀使いは無駄に熱苦しいのか。


ゴロー「うーん…基本的にどちらでもないただの薬師なので…」

   「ちょっと知人の時間を稼いだだけですよ」ニヤリ


ベナウィ・クロウ「「?」」


 《 協撃!》

 《 影縫い乱舞 》


オボロ「あれをやるぞ!」

ドリィ・グラァ「「はい!若様!」」


ドリィ・グラァ「「影縫いの雨!」」

  「「なんじらを捕縛せん!!」」


 ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン
 ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン

 ダ ダ ダ ダ ダ ダ
 ダ ダ ダ ダ ダ ダ

  「「若様っ!」」


オボロ「爆破ぁっ!!」

   「吹き飛べぇぇぇぇ!!」

   ドゴォォォォン!!

131 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/07/09(月) 23:36:13.42 ID:dkuqefSSO
 俺が二人と話をしている間に
 ムックルによって統率の取れなくなった兵の隙をつき、
 オボロがドリィ・グラァを連れて攻撃…… よく上手くいったな。


ベナウィ「なっ…他の兵が…」

クロウ「ムティカパの影響もありやすぜ!」


 ムックルでウォプタルは混乱、協撃で騎兵にもダメージか。


ベナウィ「……退きましょう。皆の者! 撤退です!」

クロウ「わかりやした! オイ撤退だ! シャキッとしろぃ!」


 喝を入れられたウォプタルや兵が退いていく。


オボロ「キサマァ! 逃げる気か!!」

ベナウィ「はい、今日の所はこれで失礼します」


 ふーん この大将、やり手だ。
 この場・状況で戦うのは不利と感じたらパッと撤退か。


ベナウィ「…ですが、その前に一つ……いえ、二つだけ聞かせて下さい」


 ハクオロを見定めながら言う。


ハクオロ「…何だ」

ベナウィ「貴方は自分のしていることが正しいと、信じていますか?」


 ……この男。軍人とは思えんな。


オボロ「当たり前だ! 『義』は俺達にある!」

ベナウィ「貴方に聞いていません」

オボロ「 」ボローン

ハクオロ「……もし地獄(ディネボクシリ)
     と言うものがあるのなら、私はそこに堕ちるだろうな」

ベナウィ「それが…答えですか」


ハクオロ「もう一つは?」

ベナウィ「貴方の名を……」

ハクオロ「……ハクオロ」

ベナウィ「ありがとうございます。……貴方の名も」

ゴロー「ゴローだ。今度会ったら、一緒に飯屋に行かないか?」

クロウ「おっ! いいっすねぇ大将!」

ベナウィ「でしたら美味しい『チマク』を出す店をお教えします」

ゴロー「『チマク』! それはいいぞ」

オボロ「俺は…」

一同「「聞いてない」」

オボロ「 」ボローン

ドリィ・グラァ「「僕達は聞きますから〜!」」
132 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/07/09(月) 23:38:38.66 ID:dkuqefSSO
 ――

 チマクかぁ… 確かオヤツだよな。
 あー思い出したらツバが出てきた。
 俺は甘い物に目がないんだ。


ハクオロ「チマク…食べた事がないなぁ」

オボロ「兄者は知らないのか? 結構旨いぞ」

ゴロー「俺は旅の時に一度食べただけだが美味かったな」


 さっきまでの緊張感はどこへやら。
 頭が甘い物の事でいっぱいになる俺。


ハクオロ「……あそこが壊された事で他の集落も危機を感じるだろう」

ハクオロ「多くの集落が此方につく可能性が増えた……」


ゴロー「…愚痴とかは俺達に言うな。エルルゥさんに言え」


 言いたい事がなんとなくわかったので釘をさした。


オボロ「? どういう事だ大兄者?」

ドリィ「若様、あそこに綺麗な花が咲いています」

グラァ「ユズハ様の手土産にいかがでしょうか?」

オボロ「おお! それはいい案だ! よし、採ってくる」タッ


 よくやった二人とも。
 この双子は本当にオボロの部下なのか?
 空気の読み方が絶妙だぞ。

 ハクオロは繊細な奴だ。
 この出来事を自分達の有利になるよう利用する判断……
 それに何か言いたくて誰かに聞いて欲しかったってところだろう。

 ……でも前に進むしかない、それが残された俺達の一番の仕事だ。

133 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/07/09(月) 23:42:35.38 ID:dkuqefSSO
 ――

ケナシコウルペ皇城

……そこは贅沢を貪り、民から税を奪う悪政の中心である。


「一度ならず、二度も謀叛を起こした者どもから逃げ帰るにゃもとは…」


丸々と太った肉達磨が喋っている。
特徴的な『アフロヘアー』が醜さに拍車をかけていた。


ベナウィ「……申し訳ありません」


「申し訳ないで済む問題じゃないにゃも!
 おみゃあがそんなだから朕が愚民共にナメられるにゃもよ!」


この『にゃも』のつく口調に聞き覚えがあるだろう。
ベナウィと対峙するこの男こそ、
現ケナシコウルペ國皇(オゥルォ)『インカラ』である。


インカラ「まったく、やはりおみゃあじゃ駄目にゃも。
     別の兵どもは集落を潰して来たにゃもよ」

ベナウィ「な…あの集落は確か謀叛に加わっていなかったはず…」

インカラ「『疑わしきは罰す』にゃも」

ベナウィ「…………」

インカラ「そうにゃも、おみゃあに言っておく事があったにゃも」パン!


太った手が音を鳴らす。


 「おう、どうした叔父貴」


藩主の館から逃走した後、彼は真っ先に庇護を求めて皇城にやってきた。
その道のりは辛いものだったようだ。
鼻の辺りに横一筋の傷が見てとれる。
彼もまた、後には退けない。
自分の親を見捨て、逃げ出したのだから。


インカラ「おみゃあの次の侍大将の『ヌワンギ』にゃも」

ヌワンギ「よろしく。元侍大将さん」ニヤリ


インカラ「おみゃあが負けて帰ってくる間に
     ヌワンギは敵集落を幾つも潰したにゃも」

    「だからおみゃあは降格にゃも」


ヌワンギ「って事なんで、元侍大将さんにはタトコリの関に行って貰いますよ」

  「あそこの防人が足りませんからねぇ」ニヤニヤ


ベナウィ「……わかりました。失礼いたします」


第五話「森の娘の手下・ゴロー」

  続く。
134 : ◆M6R0eWkIpk [saga]:2012/07/09(月) 23:45:06.93 ID:dkuqefSSO
投下完了。
ではまた次回
135 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/07/09(月) 23:51:01.23 ID:9cvf3bGUo
おつ
136 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/07/09(月) 23:58:47.48 ID:bA71S6El0
137 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/07/10(火) 16:05:23.11 ID:P4L76/3Ro
138 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [saga sage]:2012/07/10(火) 17:48:24.68 ID:AoFLTOZO0
中々に面白いな
139 : ◆M6R0eWkIpk [sage saga]:2012/07/12(木) 20:57:43.47 ID:sC9RleeSO
第六話「集いし者達」

 皇軍による集落の襲撃、その影響が現れた。
 これまで静観をしていた集落がどんどん此方の味方になる。

 俺が旅をしている最中に世話になった人達もやって来た。


ゴロー「……ハァ」フゥー


 煙管を吸いながら溜め息を吐く。
 彼らを争いに巻き込んでよかったのか……
 俺はハクオロのような人間じゃない。
 ……つい、考えてしまう。


ゴロー「関わると決めたから、なんとか貫くが…」


 ふっ切る事は出来ない。
 だけど今は頭の片隅に追いやる事にした。


「怪しい奴だ!」「敵か!」「逃がすな!」

ゴロー「……なんだこの声?」


 騒がしい。物思いに耽っている暇もないようだ。


 「ヒィ〜〜〜〜!」


 あ、どこかで見た顔の男が追い詰められた。
 ……誰だったか。えーっと…


 「あああっ! ゴロー様でしたよね! あっしですぅ! チキナロですぅ!」


 そいつは俺を見つけるとそう言って助けを求めるような仕草をする。


ゴロー「チキナロ……思い出した。トゥスクルさんの事を教えた…」


チキナロ「ハイ! 元々こちらの館にはご贔屓にして頂いてまして…」

    「今日も品物を売りに参りましたら門番の方が変わって……」


「なんだゴローさんの知り合いか」「んじゃあ見逃していいのか?」


ゴロー「……いや。一応縄で縛っておこう」

チキナロ「ひぃ〜〜〜! そんなぁゴロー様ぁ〜」


 胡散臭いのは事実だし。
 コイツ、ここの主がハクオロだと知っているのに
 嘘をついたからな。念には念を……
 よし、ハクオロに知らせるか。

140 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/07/12(木) 21:00:28.86 ID:sC9RleeSO
 …………

ハクオロ「商人か」


チキナロ「そうです、ハイ! 人身売買以外はなんでも扱いますよぉ〜」


テオロ「なんか信用出来ねぇぜ、アンちゃん」

オボロ「確かにな。やはり斬ったほうが…」

ハクオロ「はぁ…商人というのはそう見えるものだ」

ゴロー「コイツは色々と扱うみたいだから使い道はあるぞ」


 男ばかりが雁首揃えてチキナロ一人を囲む。
 この絵面、どうもむさ苦しい。
 救いは円の外にエルルゥさんがいる事だ。
 ドリィ・グラァも居るが、男なので除外する。


チキナロ「そうです、ハイ。便利です便利です!」


ゴロー「これが荷物だ。どうする?」

ハクオロ「見せて貰ってもいいかな?」


チキナロ「どうぞどうぞ! お子さまの遊び道具から薬の材料、
     女性の装飾品まで様々に取り揃えております、ハイ!」


 輪が少しバラけ、エルルゥさんやドリィ・グラァが品を見に来た。

141 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/07/12(木) 21:02:57.64 ID:sC9RleeSO

エルルゥ「薬の材料…… あっ、これちょうど欲しかったんです!」

チキナロ「それでしたら格安でお譲りいたしますです」

ゴロー「これは?」

エルルゥ「あ…マポッティの」

チキナロ「よくご存知で。このあたりでは中々目にしない一品で御座います」

ハクオロ「エルルゥは薬師だからな。ゴローさんは半人前の薬師だが」


 ……事実とはいえ、他人に言われると頭に来る。
 トゥスクルさんの特別授業で覚えた腹痛薬でも飲ませてやろうか。


チキナロ「それはそれは。でしたら小棚の上から二段目に珍しい品が御座います」

テオロ「どれ…… コイツかぁ? なんじゃこりゃ?」


 何か変な形のシロモノが出てきた。


エルルゥ「…ッ///」カァッ

チキナロ「そちらは海に住むヘラペッタの【キィン!】で御座います」


 何故かチキナロの言葉の一部に刀の打ち合う音が入った。


ゴロー「一般向けか……」

オボロ「大兄者?」

ゴロー「いや、なんでもない」


 荷物を見つつ、周りを見る。
 ハクオロはでんでん太鼓を。
 おやっさんは先程のヘラペッタのあれをじっと見つめている。

 何故か女性用の装飾品を身に着けるドリィとグラァ。
 オボロはこれらの品に興味がなさそうだ。
 エルルゥさんはまだ顔が赤い。

142 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/07/12(木) 21:08:26.58 ID:sC9RleeSO

チキナロ「あの〜それでワタシの処遇は…」

ハクオロ「ああ、特に何もない。不躾な真似をしてすまなかった。
     ここは戦場になるかもしれないから早く出たほうがいい」


チキナロ「またまたご冗談を。こんなに
     可愛らしいお嬢さん方がいらっしゃるんですから」


 言われればエルルゥさんやアルルゥ、
 さらにユズハちゃんまで居るんだよな…
 信じられないのも無理はない。

 …………

 あの後、放されたチキナロは館の様々な所に赴き、
 そこに居合わせた人々と商売をしていた。

 ハクオロが一緒に歩いていたが…大丈夫だろうか

 ――


……大丈夫ではなかった。ハクオロは仕込み刀を突き付けられてしまう。


チキナロ「もしワタシが刺客でしたら……
     既に貴方のお命、頂戴しておりました」


ハクオロ「……刺客なら、な」


チキナロ「……そうそう、お近づきの印にこのヘラペッタの○○をどうぞ」

ハクオロ「いや、そんな……」

チキナロ「ではそろそろ失礼いたします。ハイ」

ハクオロ「……」


 ――
143 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/07/12(木) 21:11:50.77 ID:sC9RleeSO

 その後、食料と水を渡してチキナロを送る事になった。

 少し周辺國の話をしながら山道を共に歩く。


ゴロー「この辺でいいか。すまなかったな。色々と」


チキナロ「いえ、食料と水も頂きましたので…」

    「商いもさせて貰いましたし、こちらの目的は果たせました」


 俺も話を聞けたし、良かったぞ。


チキナロ「では……」スッ

ゴロー 「!」 パシッ


チキナロ「……驚きました。腕の動きからよく気付きましたね」


 仕込み刀をつきつけようとした奴の手を
 上手く押さえつける事ができた。


ゴロー「そりゃどうも。じゃあ痛い目にあってくれ」


 いつもの通り、アームロックをかける。


チキナロ「……痛いですねぇ。本気でなくてもこれですか」

ゴロー「お望みなら折ってもいいぞ」

チキナロ「……ではワタシの指を見て頂けますか?」


ゴロー「指?」チラリ


 なんだ、何かある。指輪か?


    ボオッ!

ゴロー「うわっ! 熱つっ!」


 指輪が光った瞬間、身体を炎が襲う。
 すぐに転がって服についた火をはらった。
 これは一体なんだ?

144 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/07/12(木) 21:14:09.71 ID:sC9RleeSO

チキナロ「この指輪は『ヒムカミの指輪』と呼ばれる物です、ハイ」

    「一人を対象として火の『法術』が使えます」

    「『オンカミヤリュー』でないワタシのような者でもね」


ゴロー「……食えない男だ」

チキナロ「よく言われます、ハイ」ニヤリ


 さて、ここから接近してアイツに組み付こうにも
 あの指輪が俺を対象にすればまた攻撃を受けるわけか。


チキナロ「どうぞ」スッ

ゴロー「は?」


 ……指輪を差し出してきた。


チキナロ「これは先程、館を廻らせて頂いた時に見つけた物で御座います」

  「ワタシが持つ物ではありませんのでお返しいたします、ハイ」


ゴロー「やけに親切じゃないか。裏があるんだろう」

チキナロ「元々ワタシが藩主に売った品ですから。
     既に利益は出ておりますので……」

ゴロー「………」


 確かに俺は戦だと、騎兵に手が出なかったから……
 こういう攻撃方法が増えるとありがたい。


ゴロー「……礼はまた後日」パシッ


 チキナロから指輪を受けとる。


チキナロ「お待ちしております、ハイ」

  「その指輪は一度の戦闘で三回しか使えませんのでご注意を」


ゴロー「わかった。覚えておく」

チキナロ「では……ハクオロ様によろしくお伝え下さい」ペコリ


 そう言い放つとチキナロは去っていった。


ゴロー「……負けた」


 本当に世界は広い。
 『法術』かぁ。気をつけよう。

145 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/07/12(木) 21:17:34.94 ID:sC9RleeSO
 ――

日が落ちたばかりの頃……
月が妖しく輝き昇る中、男達は密談をしていた。

一人は明るく照らされる位置、
もう一人は暗がりに潜みながら。


ベナウィ「ご苦労。それで如何でしたか」

チキナロ「不思議な方ですねぇ。お二方とも」


商人とベナウィ。
ハクオロとゴロー… 彼が調査させたこの二人について、話を始める。


チキナロ「ハクオロ様は叛軍の頭脳であり、他の方からの信頼も厚いです」

ベナウィ「やはり彼が中心人物でしたか」

チキナロ「ゴロー様とは少し手合わせする事になりました」

    「彼にとって有利な状況で戦わないほうがよろしいかと」


ベナウィ「と言うと?」

チキナロ「彼は歩兵には非常に強いと思われます、ハイ」

    「ワタシが腕を掴まれ、危うく折られるところでした」


ベナウィ「わかりました。これが報酬です」スッ

チキナロ「ハイ。頂戴いたしました。御用がありましたら申し付け下さい…」


商人は消え、ベナウィは思考を開始する。


ベナウィ(正直なところ、彼らの正体が突き止められない)

    (ハクオロ……という者は人格的に優れているようですが)

    (ゴロー… こちらは見当がつきません)

ベナウィ(おそらく敵と言えるでしょう。しかし、エヴェンクルガ…)

    (薬師と共にいたという戦士、その薬師が『ゴロー』だったら…)

    (その戦士が向こうについているとも考えられます……)

ベナウィ(前回の戦いであの男だけだったのは……策でしょうか)

    (機を狙って此方の軍にエヴェンクルガで動揺を誘う…)

    (そういった策かもしれません)


ベナウィ「あのムティカパなら森でも動けますし……」

    「エヴェンクルガなら森を通るなど造作もない」

    「叛軍は少人数。……奇襲を警戒しなくては」

    「各地の防人達に伝令を出すべきでしょう」

    「少々此方の手が薄くなりますが……私とクロウなら…」


流石は侍大将。しかし最悪のケースを想定しすぎたようだ。

146 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/07/12(木) 21:19:54.11 ID:sC9RleeSO
 ――

 〜同時刻 タトコリの関 〜

クロウ「まったく、あのチンピラがぁ」


日も沈み、この関で退屈にしているのは休息時間のクロウのみ。
ベナウィもここでの任についてはいるが、
『客がある』と言い残し、外に行ってしまった。


クロウ「あんな腰抜けが侍大将たぁどうかしてやがるぜ」


今朝の出来事を思い出す。
ヌワンギにベナウィの事を馬鹿にされ、逆上した自分の事を。


クロウ(よく考えりゃ、ありゃ不味かったな)


自分に被害が及ぶだけなら構わないが、
自分の部下、そしてベナウィにも害が及ぶかもしれない。


クロウ(……少し落ち着くか)


そう考えた彼は
『エヴェンクルガ』にやられたという兵の話を考える事にした。


クロウ(……そのエヴェンクルガと一緒にいたって男)

   (確か兵は薬師だとか言ってやがったな)


クロウの頭に薬師の男は一人しか浮かばない。
つい先日出会った男。
『飯を食いに行こう』といった中年男である。


クロウ(あの男がエヴェンクルガと一緒にいた?
    兵どもには『連れ』と言ってたらしい)

   (エヴェンクルガを用心棒にしている…… これはないか)


クロウ(用心棒ならあの時一緒に来ないのはおかしいからよぉ)

   (だとすると…本当にたまたまか)


クロウ「大方、とっとと関を通るのに利用したってとこかねぇ」


大雑把な考え方だがこちらが正解である。


クロウ「ま、考えても埒があかねぇや」

   「あの男、結構楽しませてくれそうだしな」ニヤッ


強者を求める彼。
未知なる敵に身体が熱く煮えたぎる。


クロウ「なんか燃えてきちまったし、眠れねぇ。ちょっくらアレに行きますか!」

   「へっへ〜 怪我した兵からいい薬貰っちまったしなぁ〜」


ちなみに『貰った』ではなく、『脅迫して奪った』が正しい。

今日の関所は平和だった。
明日以降はわからないが……
147 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/07/12(木) 21:22:31.76 ID:sC9RleeSO

男が駆け抜ける。
皇の暴挙から身を守る為。
集落の仲間を守る為。

東と西を二分する、タトコリの関を越えて走る。

ベナウィ「………」

白いウォプタルに乗った騎兵に気付かれてはいた。

だが見逃された。
その真意はわからない。
男は幸運だったのかもしれない。


 ……

 ついに次の作戦が決まった。

 『タトコリの関』

 そこは國の中央にある厄介な関所だ。
 トウカとのんびり釣りをしていたのが随分と前の出来事に思える。

 その関を越え、西の集落からやって来た男。
 この男の話でここを攻める策は決まった。


ハクオロ「タトコリの関を落とす!」

    「決行は明朝、日の出!」

 ……

 俺とエルルゥさんはボロボロになった西の集落の男を看病してやる。


男「うっ……痛い」

ゴロー「痛いって事は生きてる証だ。我慢しろ」

男「そうですね… まだ俺にはやる事がありますし……」

エルルゥ「ハクオロさん…… こんな怪我人に何をさせる気ですか」

ハクオロ「……この人でないと出来ない事だ。……行けるか」

男「わかってます。ありがとうお嬢さん」

ゴロー「じゃあ後は任せたぞ。終わったら旨いメシだ」

男「はい、では」ペコッ


 男は部屋を出て外に去っていった。


エルルゥ「……」

ハクオロ「では私達も出陣(で)よう」

ゴロー「そうだな」


 立ち上がり、窓から外を眺めると
 綺麗な月が少しずつ沈みはじめていた。

148 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/07/12(木) 21:26:36.41 ID:sC9RleeSO
 ――

 「グアッ」「うぅッ」

門の前に居た兵が倒れる。

 「あ…」「どう…」

見張り台の兵も射たれた。

それらを合図に戦いが始まった。

ヤマユラ、ユタフ、エプカラ、サン、ワッカイ。
様々な集落から集った男衆が尖った丸太で関の壁を打ち続ける。

関の兵士も槍を突きだし、応戦する。


ベナウィ「門を開けてはなりません! 中で陣を! 歩兵は槍を持ちなさい!」


そんな中、ベナウィは自分の腹心の不在に気付く。

あのクロウがこの非常時に何をしているのか。


ベナウィ「…クロウはどうしたか、知っている者は居ますか」

兵「はっ、急激な腹痛により、近くの兵舎まで運ばれたもようです!」

ベナウィ「何があったか知っていますか」

兵「申し訳ありません。それ以上は…」

ベナウィ「わかりました。今は目前の敵に集中しましょう」


さて気になる方も多いだろう。
一体クロウはどうしたのか……
少しだけ時間を戻す。

149 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/07/12(木) 21:29:09.00 ID:sC9RleeSO
 ――

タトコリの関から離れた所にある宿場町。
ウォプタルならばわりと早く到着する位置にある。

以前ゴローがやって来て
トゥスクルの訃報を聞いた所と言ってもいいだろう。

クロウは【キィン! キィン!】をする為に、
この町のエロい飲み屋にやって来ていた。


クロウ「へへっ、姉ちゃんキレイじゃねぇか」

女「もう、奥さんに怒られちゃうわよ」

クロウ「なーにいってやがる。俺は『ひげ独身』だぜ」

女「ひげなんてないじゃないのさ」クスクス

クロウ「ありぃ?」

女「なら遠慮なくいけちゃうのね。うふっ逞しい……」

クロウ「今日は燃え上がってるぜぇぇぇー!」


そして二階の部屋に消える男と女。

ここで少し思い出して欲しい。
クロウが言っていた『薬』の事を。

……怪我をした兵士が持っていた『薬』。

この薬は一体なんだったのか……

150 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/07/12(木) 21:32:46.03 ID:sC9RleeSO

第四話を見てみよう。
ゴローは兵士に『精力剤・摩訶敏敏(マカビンビン)』を渡している。


クロウ「コイツを含んで…… 水で飲むっと」

女「あら、お薬を使うなんて」

クロウ「今夜は寝かせねぇぜ」キリッ


クロウが飲んだのはこの時の薬であった。


クロウ「ヌガッ!!」

女「あら? どうしました?」

クロウ「いや、なんかハラが… へっぶぅ!」


……実はこの薬、精力剤なんかでは無い。
ゴローがトゥスクルさんの特別授業で作れるようになった

…………『腹痛薬』なのだ。


 【ゴロー特製 腹痛薬】

乾燥した様々な草を細かくし、粉状にしたモノ。
具体的にはワプアプ・ケスパゥ・テクヌクイ・ネコンが入っている。
(これらは全てゲーム『うたわれ』の薬術で
 敵ユニットにマイナス効果を与えるモノ)


クロウ「……す、すまねぇ。ちょいと…」

   「  あ  」


女「キャァァァーーーーー!!」


國に名を轟かせていたトゥスクルさんの調合に基づいて作られたこの薬……
飲んだら三日三晩は腹痛でまともに動けないだろう。
クロウはすぐさま近隣の兵舎に送られ、養生する事になった。


 〜 どこかの兵舎 〜

クロウ「た、大将…申し訳ありやせ…ん……」

   ガクリ

薬師「クロウ様、安静になさって下さい!」


……まぁ間接的にではあるが、ゴローがクロウを倒したと言えよう。

余談だが…
倒れたクロウを部屋の入口から心配そうに見つめる女がいた。


 「クロウ……あちしが……」

 「……にゃも」


わざわざ都からやって来たらしい。
片思いの女性は大変である。
151 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/07/12(木) 21:36:13.20 ID:sC9RleeSO
 ――

 一部の防壁は破壊され、関内部での戦が開始された。

オボロ「ハァァァーーッ!」


 刀と槍が激突する。


ハクオロ「はっ!」


 鉄扇と槍が交差する。


ベナウィ「……」


 白いウォプタルに乗る騎兵はそれでも倒れない。


ゴロー「うーん。あの侍大将、強いなあ」

(※ ゴロー達はベナウィが降格されたのを知りません)


兵「ギャアアアっ!…あっ」ガクリ


 兵士の関節を痛め付けながら
 頸を絞めて気絶させてやった。


テオロ「アンちゃん! 加勢するかい!」ブン

ハクオロ「大丈夫だ! おやっさんは他の兵を!」

   スッ フッ

ベナウィ「余所見はそれが出来るだけの技を磨いてからにして下さい」


 槍がハクオロに振りおろされる。

   カッキィーンッ!

オボロ「悪いが兄者はやらせん!」


 再びまみえるオボロとベナウィ。
 何か因縁があるのかもしれない。


ベナウィ「太刀筋に迷いが無くなりましたか」

オボロ「ああ キサマのおかげでなっ!」

ハクオロ「オボロ! 一人で突っ込むな。二人で攻めるぞ」

オボロ「わかっている。……いや、三人になるようだ」

   ザッ…

ゴロー「待たせたな。そろそろ混ぜてくれ」


 三対一。一見しただけでは此方の優位。
 だが相手は騎兵。しかも侍大将。

 ……油断はできない。

152 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/07/12(木) 21:40:28.04 ID:sC9RleeSO

ベナウィ「……行きます」

 ハクオロに向かい、走るウォプタル。


オボロ「兄者はやらせんと言ったろうっ!」サッ


 ハクオロの前に立つオボロ。


ベナウィ「『シシェ』! 」


 ベナウィがそう呼び、手綱を操ると
 ウォプタルが身体を直角に曲げ急停止する。
 停止の直前に鞍を蹴り、その勢いのままオボロに突進するベナウィ。


オボロ「なっ……」


 ウォプタルでの突撃を考えていたオボロは反応が遅れた。


ベナウィ「はあっ!」キィン!

オボロ「くっ……」ズザァァ…ガクッ


 槍の攻撃はなんとか防御した。
 しかしその一撃はオボロに膝をつかせた。


ベナウィ「まだです!」


 すぐに槍を構え、ハクオロを再び狙う。
 いかん、攻撃距離内だ!


ゴロー「これだっ!」 ピカッ

ベナウィ「なっ!」

   ボオッ

 『ヒムカミの指輪』がベナウィを炎に包んだ。


ベナウィ「くっ…中々です。シシェ!」


 転がって火を消すと同時に
 ウォプタルを呼び、守りの体勢を取らせる。
 見事なウマとの連携だ。


ハクオロ「ゴローさん、それは…」

ゴロー「話は後だ。跨がったぞ」


 ベナウィは即座に戦闘体勢に戻っていた。


ベナウィ「ヒムカミの指輪…… やりますね」


ベナウィ(よりによって私の不得手な属性…)

オボロ「ちぃっ」

ベナウィ(彼はなんとかできますが…)


ハクオロ・ゴロー「「……」」

ベナウィ(あちらはまだ手を隠していそうです)
153 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/07/12(木) 21:43:20.76 ID:sC9RleeSO

考え、策を練るベナウィだったが
どうやら『時間切れ』のようだ。

日が差しはじめ……
それと共に、作戦の成功を示す音が反対側の防壁から響く。


 「「うおぉぉぉぉーーーーっっ!」」

   ドスン バキバキ…

ベナウィ「!」

ハクオロ「よし、間に合ったようだ」

ゴロー「あの双子は役に立つな。オボロの部下には惜しい」


 俺達が打っていた策……
 西の集落との連携による関への攻撃が発動した。

 関の両側から攻め込まれれば兵士達もたまらないだろう。


ベナウィ「……っ!」

ハクオロ「予想外だったか」

ベナウィ「やはり…エヴェンクルガに森を抜けさせたのですか」

ハクオロ「はい? エヴェンクルガ?」

ベナウィ「え?」

ゴロー(ああ。本当に軍へ情報が回っていたんだな)

   ヒュン ヒュン ヒュン…

ベナウィ「くっ…」サッ


ドリィ・グラァ「「兄者様!」」


 双子が疲れた様子でコチラにやってくる。


ゴロー「お前達でないと森は抜けられなかった。お疲れ」

ハクオロ「向こうの集落から来たあの者は?」

ドリィ「向こうで先陣をきって戦っています」

オボロ「上手くいったな兄者!」

ベナウィ「森をその者達に抜けさせた? なぜそのような無茶を」

ゴロー「あー…実はエヴェンクルガのアイツとはたまたま一緒だっただけで」

ハクオロ「何を言っているかはわからんが あの二人が適任だっただけだ」


ベナウィ「……深読みし過ぎたというわけでしたか」
    「……撤退です!!」

 …………

テオロ「いいのかアンちゃん。追わないで」

ハクオロ「目的は関の破壊だ。それに……」

オボロ「含みがあるな兄者。何をしたんだ」

ハクオロ「いや、私がするんじゃないさ」

テオロ・オボロ「「?」」
154 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/07/12(木) 21:46:17.88 ID:sC9RleeSO
 ――

 〜 どこかの兵舎 〜

ベナウィ「まったく、よくわからない薬なんて飲むとは…」

クロウ「すいやせん、大将。ちいっとばかりお供できやせん」

ベナウィ「…いえ、良かったかもしれません」

クロウ「どういう事ですかい?」

ベナウィ「……養生して早く戻りなさい」

クロウ「うぃっス!」


 ――

 おっ来た来た。
 兵舎には入れないからな。待っていて正解。


ベナウィ「……何故貴方がここに居るんです」

ゴロー「美味しい『チマク』の店を教えてくれるって言ったじゃないか」


ベナウィ「貴方は……どちらの味方なんです?」

ゴロー「さあな。侍大将さんが考えてくれ」

ベナウィ「今は侍大将ではありません」

ゴロー「そうか。じゃあ行こう」

ベナウィ「……ハァ」

 ――

 〜 ケナシコウルペ皇都 〜

 【 チマク 】

原作内ではオヤツの扱い。
笹の葉っぱみたいな物にくるまれている。
甘かったり、甘酸っぱかったり、家によって違う美味しさらしい。


 チマクを買って、二人で店先の長椅子に腰掛ける。


ベナウィ「この店のチマクが一番昔を思い出す味なんです」

ゴロー「へぇ…うん これは美味い」

   むしゃ もぐ

ゴロー「何も入ってない団子とか饅頭的な甘さだ。『すあま』みたい」

ベナウィ「?」

   もぐ もぐ

ゴロー「あ、わからないか」


 でももう少ししょっぱさが欲しいな。
 そうなったら…チマクじゃなくて『ちまき』になるのかな。

155 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/12(木) 21:50:47.38 ID:sC9RleeSO

ベナウィ「敵と一緒にチマクを頬張る……私は何をしてるのでしょうか」


ゴロー「これ、お土産にいいかもな」

   むぐ むしゃ ごくん

ベナウィ「あ、止めたほうがいいですよ。出来立てが美味しいんです」

ゴロー「そうか……残念だ」ムシャ モグ


ベナウィ「……最期に食べる物だったら母上のチマクがよかった」

ゴロー「……皇(オゥルォ)に罰せられるのか」

ベナウィ「まだわかりませんが」ズズッ

ゴロー「あんた、俺達を試しているだろう。
    見定めている……のほうが合ってるか」ズズウ


ベナウィ「ええ。というより、今の國に疑問があるのです」

    「民から多量の税を取り…独裁的な政治をする皇に」


ゴロー「……やっぱりあんたは侍大将だ」

ベナウィ「そうですか」モグモグ


 …………


ゴロー「さて…話せてよかった」

ベナウィ「私はこれで失礼します」ペコッ

ゴロー「俺を捕らえないのか?」

ベナウィ「最初はそのつもりでしたが、止めます」クルッ


 別れか……慣れないよな。慣れたくもないが。


ゴロー「またいい店を教えてくれ」

ベナウィ「…………」 ザッザッ…


 何も言わないか。


ゴロー「生きてて欲しい男だな……」


第六話「腹痛薬とチマク」


  続く。
156 : ◆M6R0eWkIpk [saga]:2012/07/12(木) 21:55:42.01 ID:sC9RleeSO
投下完了。

『うたわれるもの』を知らない方もSSを見て下さっているのは嬉しい。

面白いと感じた方はレンタル等でもいいのでアニメを視聴して頂けたら
……と思います。モブの戦闘も気合い入ってますから!

ではまた次回に。
157 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2012/07/12(木) 22:25:14.90 ID:CtO0eXVho

むしろうたわれしか知らないけどなかなか面白いな
158 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/07/13(金) 01:22:28.21 ID:8aNB80Fqo


どちらも知ってる自分としてはすごく楽しみにさせてもらってる
159 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/07/13(金) 17:33:46.02 ID:J6BnKmiho
160 : ◆M6R0eWkIpk [saga]:2012/07/13(金) 22:59:26.96 ID:4yv6NUkSO

   キィン! キィン! キィン! キィン!


エルルゥ・ハクオロ「「うたわれるものらじお in SS速報VIP!」」


エルルゥ「皆さん今晩は、うたわれ正ヒロインで司会のエルルゥです♪」

ハクオロ「大将なのに前に出すぎと言われる、司会のハクオロだ」


エルルゥ「ハクオロさんは本当に前に出ますよね」

ハクオロ「多くの者を先導するのが大将の役割だからな」

エルルゥ「でも……無理しすぎないで下さい。心配なんですから…」


ハクオロ「ありがとう、エルルゥ。さあ始めよう」

エルルゥ「この番組はSSをご覧の皆さんの提供でお送りします♪」


 〜 CM明け 〜


ハクオロ「さて、このオマケ解説コーナーも第2回だ」

エルルゥ「今日もハクオロさんと二人きり〜♪ ふふっ♪」

ハクオロ「今日はゲストを呼んである」


エルルゥ「  」ガーン


ハクオロ「エルルゥ? どうしたんだい?」

エルルゥ「……お、女の子ですか?」

ハクオロ「そうだが? それでは入って貰おう」

    「ユズハ〜 入っていいぞ〜」


ユズハ「お、お邪魔します…… ハクオロさま、エルルゥさま」

ハクオロ「やあ ユズハ。今日は体調も良さそうだね」ニコリ

エルルゥ(……ユズハちゃんの前じゃ怒れないよぉ)


ユズハ「エルルゥさま? どうかなさいましたか?」


エルルゥ「な、なんでもないから大丈夫大丈夫!」

ハクオロ「それでは四〜六話のキャラクター紹介だ」

161 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/13(金) 23:04:48.04 ID:4yv6NUkSO
 《四話》

●トウカ…エヴェンクルガの女戦士。放浪の旅の途中。
     釣りが趣味で、本当は腕もいい。戦闘の時は技術で闘う。


ハクオロ「トウカの登場は本編より早い」

エルルゥ「アニメでは11話終わりでの登場でした」

ハクオロ「旅=トウカの図式があったのだろうか」

エルルゥ「通称は『うっかり侍』。酷いと思いません?」

ハクオロ「実際、どこか抜けているからなぁ」

ユズハ「トウカ様の原作エピソードは楽しいのが多くていいですね……」

ハクオロ「『クケェー!』と『ヲイデゲェー!』だな。懐かしい」

エルルゥ「……初めて『うたわれるもの』に触れた人には
     解らないネタばかりじゃないですか?」


ハクオロ「うーん……」

    (片方の話は私が原因だったりするからな……)



●クロウ…ケナシコウルペ騎兵衆(ラクシャライ)副長。
     少し大きな刀を振り回す。図体に合わず、しっかり者。


ハクオロ「クロウは本編内で説明が入ったからこれくらいでいいだろう」


ユズハ「お兄さまを『若大将』、ハクオロさまは『総大将』と呼ぶ方なんです」

エルルゥ「ゴローさんはなんて呼ぶんでしょうね?」


ハクオロ(……というか、この話、ネタバレじゃないか?)

162 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/13(金) 23:07:14.01 ID:4yv6NUkSO

●ベナウィ…ケナシコウルペの侍大将にして騎兵衆の隊長。
     槍の名手として他國にも名を知られている。


エルルゥ「ベナウィさんはお仕事でいつも忙しそう…」

ユズハ「そのせいか余りお話をしたことがないです…」

ハクオロ「インカラの独裁政治の間は結構まいっていたのかもな」


エルルゥ「チマクが好物。意外にゴローさんに近い方なのかも!」

ハクオロ「色も似てるな。白く輝く鎧に赤色系の服のベナウィと
     私の服の色違い版を着るゴローさんで」


エルルゥ「ゴローさんが『スーツ』で歩くのは本編だとないんですか?」

ハクオロ「あの服は異質過ぎる。小さな集落なら他国の服で誤魔化せたが
     町規模になると誤魔化せないし、怪しくなるからな」


エルルゥ「じゃあ今は最初に着てた服なんですね」


●ササンテ…ヌワンギの父、現皇インカラの弟


エルルゥ「『にゃも』が口癖の藩主です」

ハクオロ「丸々と太っているわりには強い武人だが……」

エルルゥ「前回も話をしましたね」


●チキナロ…商人。脇キャラなのに出番が多い。


ハクオロ「裏がある商人だ。情報に長けており、役には立つ」

エルルゥ「ハクオロさん! 六話で無茶しすぎです!」

ハクオロ「言われてみればあれは迂闊だった。気をつけよう」

ユズハ「この方とハクオロ様は今後もお付き合いが続きます……」

163 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/13(金) 23:10:23.29 ID:4yv6NUkSO

 《五話》

●インカラ…現ケナシコウルペ國の皇。丸々太ったアフロヘアー。
      その髪を維持するために、財を惜しまない。


ハクオロ「城で優雅な暮らしを続け、民から多くの税を取る君主か」

エルルゥ「まだ六話までなのでちょっと語れませんね」


ユズハ「あ…… この三話分の皆さまの紹介が終わりました……」

ハクオロ「そうか。早く終わったな。では次は…」

エルルゥ「あ、前回でちょっと付け足しが
     私達の身体の神についてです」


ハクオロ「では私が話そう。火・水・風・土の四種類があるのは前回説明した」

    「これらは火>水>風>土>火…と強さのバランスを保っている」

    「円になった図で思い浮かべてくれ」


エルルゥ「他にも 光・闇が属性にありますよ」

ユズハ「本編でゴロー様が使ったヒムカミの指輪は
   『火の法術』なので『水』のベナウィ様に強かったようです…」


ハクオロ「これらの神々の指輪や腕輪はゲームで手に入るアイテムだ」

エルルゥ「これを持たせて戦うと、誰でも法術が使えます」

    「指輪は単体に、腕輪は範囲内に法術攻撃が出来るんです」


ハクオロ「ただ他の指輪や腕輪は基本的に出ないと思う」

    「今回の話で出た指輪はゴローさんの強化アイテムとして出された」


ユズハ「ゴロー様は… 近くの相手には強いけれど、
    遠距離や高さのある相手が苦手だそうです」

ハクオロ「今は協力して貰っているので指輪を預けているんだ」

エルルゥ「あと……宗教用語についてはもう少し後で詳しくやりましょう」

ハクオロ「次は世界観について説明しよう」

164 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/13(金) 23:14:02.83 ID:4yv6NUkSO

 《『うたわれるもの』の世界観》


@『亜人』について


ハクオロ「世界観を語るなら『亜人』について最初に話そう」

エルルゥ「『亜人』とは尻尾が生えた、耳が獣のような人間の事です。
     このお話の『人間』は『亜人』の事を指します」


ユズハ「耳の他にも、翼の生えた種族の方もいるみたいです……」

ハクオロ「画像を検索するとわかるな。皆、可愛らしい耳をしている」

エルルゥ「ハクオロさんは誰の耳や尻尾がお好きですか?」

ハクオロ「……黙秘権を行使する」


A文明について


ハクオロ「基本的に『戦国時代』という言葉を思い浮かべてくれればいい」

ユズハ「ただ…『鉄砲』というモノ…… でしたか? それは無いそうです」

エルルゥ「遠距離は弓、近接も刀と槍。時代はもっと古いんじゃないですか?」

ハクオロ「背景の要素を含んでの言葉だ。國と國が争い、傷つけ合う……
     この言葉が一番わかりやすく、想像しやすいと思われるからな」


エルルゥ「一般生活では、既に麹の存在が認識されています」

ユズハ「お酒…があるんですよね。お兄さまはあまり飲めないそうです…」

ハクオロ「ある程度まで文明は発達している……というわけだ」


エルルゥ「うたわれ世界の明かり、『発光石』は広く庶民に伝わっています」

ハクオロ「水に浸けると光だす石…… そういう物があるというのは不思議だ」

エルルゥ「SS第一話の明かりはこれでした。薄ぼんやりした光なんですよ」

165 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/13(金) 23:16:52.11 ID:4yv6NUkSO

B風土について

エルルゥ「この世界は常に暑すぎず・寒すぎずの気候で、過ごしやすいんですよ〜」

ハクオロ「だから衣替えはないようだ」

エルルゥ「でも葉っぱか赤く色づいたりしますから…… 四季はあるんじゃ?」


ハクオロ「アニメやOVAのオープニングではそうだったな」

エルルゥ「とりあえず、温度変化があまりないと覚えておいて下さい」

ユズハ「お外のお話は…… ちょっとわかりません……」

ハクオロ「いずれ、ユズハも外で遊ぶさ。オボロには私から言っておく」

ユズハ「ありがとうございます、ハクオロさま…」


エルルゥ「……すいませーん、『アレ』準備して下さーい」ボソリ

 ……

エルルゥ「最後にウォプタルについて説明しましょう」

ハクオロ「ウォプタルと言うのは、うたわれ世界のウマだ」

    「恐竜…というのだったか。そんな生き物によく似ている」


エルルゥ「優れた騎兵になるには何年も修行が必要なんですって」

ハクオロ「扱えると頼もしいぞ。『シシェ』は良いウマだしな」

ユズハ「『シシェ』とはベナウィさまの乗るウォプタルの名前です」

エルルゥ「緑色が普通のウマですが、『シシェ』は白いウォプタルなんです」


ハクオロ「ゴローさんの『サユキ』は普通のウォプタルと同じ緑色だ
     気性が荒いからゴローさん以外は乗りこなせない」

 …………

エルルゥ「そろそろお別れの時間ですね」

ハクオロ「ありがとうユズハ。帰りは危ないから送るよ」

ユズハ「ありがとうございます……」

ハクオロ「なあに、ユズハの為ならこれくらい構わないさ」キラッ


エルルゥ「…………」ソッ  ∋─━⊂スッ

   プスッ!

ハクオロ「あーっ! 懐かしの痛みっ!」


(※エルルゥの『フォーク』…本家「うたわれるものらじお」のネタ
  本編内で洋食器は一切でません、箸はありますよ)

  続く?
166 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/13(金) 23:19:28.02 ID:4yv6NUkSO
解説コーナーを投下。
『らじお』にあった事は小ネタとして、SS本編中にも散りばめてます。

では失礼します。
167 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/07/13(金) 23:46:40.13 ID:8aNB80Fqo
168 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/07/14(土) 22:26:32.86 ID:hytX+euSo


SSが面白いからうたわれるもののDVDを借りに行ったら
見つからなかった
TSUTAYAじゃ取り扱っていない?
明日買いに行ってみるか…
169 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/15(日) 00:43:08.27 ID:luAoYVVSO
>>168
確かバンダイチャンネルで見れるはず…
170 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/15(日) 11:10:22.41 ID:luAoYVVSO

第七話「鶏肉と野菜の味噌(?)炒めと味噌(?)汁」

 東と西、二つを分けるタトコリの関が破壊され、
 これまで組む事の出来なかった集落とも連携が取れるようになっていった。

 皇軍は見境なしに集落を潰し始めたらしく、
 この叛乱の空気はますます強まっていく。
 ハクオロ達は少しずつ國軍を撃破し、勢力圏を広げているようだ。
 最近は皇(オゥルォ)を早めに見限った藩や豪主が
 ハクオロ達と手を組んだという話もある。


ゴロー「順調な流れのようでなにより」

チキナロ「そのようです ハイ」


 俺はベナウィと別れた後も皇都に留まり、
 情報収集と物資の買い付け、そして『ある事』の準備をしていた。

 チキナロと一緒に居るのは


チキナロ「あなた方のほうについたほうが得ですから……」


 などとこの男が言うので使う事にしたのが理由だ。


ゴロー(でもこの男、役に立つから助かる)


 都での情報はコイツが居なかったらわからなかったかもしれん。
 ヌワンギが侍大将になった事。
 騎兵衆副長のクロウが病気から回復し、都に戻った事。
 ベナウィが度重なる失敗と皇を戒める発言をしたせいで
 牢屋に入れられてしまった事もわかった。
171 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/07/15(日) 11:14:00.62 ID:luAoYVVSO

ゴロー「よし、今の状況を確認しよう」


 ここでは貴重な紙を使った地図を広げる。
 旅に出る前に買っていた品だが、値段が高いんだコレが。


チキナロ「ここと…ここ。この集落も……」スッ スッ


 チキナロが地図を指し、協力する藩や集落をまとめる。


ゴロー「驚いた……国土の五、いや六割が叛軍の味方か」

チキナロ「順調に増えれば確実に今の皇を討てるはずです、ハイ」

ゴロー(……いや、わからん。向こうは兵、此方は農民)


 小規模な戦では数で勝っていても……戦いの練度が違う。人数も違う。
 これまで勝てたのも不思議なくらいだ。
 それに…敵にはベナウィとクロウが居る。
 ベナウィ、かなり強いからな。
 クロウとやらはわからないが。

 ――

クロウ「ビェックショイ!!」

   「大将のとこが寒かったかぁ? 牢屋だもんなぁ」ズズッ

   「…あの馬鹿皇に腑抜けチンピラがふざけやがって」

  ――

ゴロー「あとは…食べ物の調達だ」

チキナロ「物資はあればあるほど良い物です、ハイ」

ゴロー「とりあえずまた紫琥珀の一部を渡しておくぞ」

チキナロ「ハイ、では食糧の買い付けをいたします」ペコリ


 使ったなぁ… 紫琥珀。
 でもまあ良しとしよう。 まだ結構あるしな。


チキナロ「そうそう、何やら軍がキナ臭い動きをしております、ハイ」

ゴロー「……あのヌワンギか」

チキナロ「ええ。おそらく大規模な進軍の準備かと」

ゴロー「ハクオロ達にも伝えておいてくれないか?」

チキナロ「畏まりました。では失礼……」


 チキナロは部屋から出ていく。
 ついに大軍が動き出すのか。


ゴロー「……頭を使ったら無性に腹が減った」


 何か食いに行こう。

172 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/07/15(日) 11:17:49.41 ID:luAoYVVSO
  ――

翌日…


ハクオロ「ゴローさんから連絡が入った。
     皇軍が進軍の準備をしているらしい」


オボロ「今度こそあの男をっ……」

ハクオロ「今、ベナウィは牢屋だ。それも情報にあった」

オボロ「なにっ!」

ハクオロ「……皇軍の侍大将は『ヌワンギ』」

エルルゥ「えっ……う、嘘ですよね」

ハクオロ「嘘ではないようだ。潰された集落の生き残りの証言にも一致する」

テオロ「あんニャロぅ! アンちゃんどうする!」

ハクオロ「此方も物資の補給に時間がかかる。
     関の跡地に残っている者達に情報を送り、進軍に備えよう」


エルルゥ「ヌワンギ…」

  ――

時は戻って…


 〜 高級食事処 〜


ヌワンギ「ククク……」

    「ついに…ついにあの男を……」


追い詰められし者…
一度死の恐怖を感じ、逃れた者。
あの館に有った隠し通路。それを使って森の中を必死に逃げた。
自分を殺そうとする者達の怒号が至るところから聴こえる……
その時、ヌワンギは地獄(ディネボクシリ)を感じた。
そして逃げた、逃げて逃げて逃げて……
彼は生き残った、父を置いて。
それ故の『狂気』。もう止まりはしない。


ヌワンギ「待ってろよエルルゥ……お前の為の力だぁ…」

    「エルルゥ……」


曲がってしまった愛。
彼にはもうわかりはしない。
彼女が本当に望んだモノは何なのか……
173 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/07/15(日) 11:25:21.36 ID:luAoYVVSO

そんな彼を見つめる中年男が独り。


ゴロー(……アイツ、もう引き返せないんだな)


 この店は都の…重要な話に使われたりする、座敷のある店なんだ。
 だから軍の上の奴に会うかも…と思いやって来た。
 ……まさか侍大将を釣り上げるとは思わなかったが。


ゴロー(話をしようと考えたけど…… あの様子じゃ聞かないだろう)


 深く考えても仕方ない。メシだメシだ。


「お待たせいたしました」


 【鶏肉と野菜の味噌(?)炒め】

 【味噌(?)汁】


ゴロー(来たぞ〜 俺のメシが)


 実は少し前から味噌っぽい物があるのは知っていた。
 藩主の館で食べられていたようで、蔵の中にあったのだ。
 エルルゥさんの手作り味噌(?)汁も飲んだ事がある。


ゴロー「うーん これだよ この匂い!」


 この味噌(?)もモロロで作られてるのか?
 ちょっとわからん。

174 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/07/15(日) 11:26:44.92 ID:luAoYVVSO

ゴロー「いただきます」


 やっぱりご飯が欲しい……
 米がないのが本当に残念だ。
 粗めに潰したモロロで我慢しないといけないのが辛い。

   ずずう……

ゴロー「……旨い」


 懐かしいとかそんな次元じゃない気がする。
 エルルゥさん、味噌(?)汁一回しか作ってくれなかったし……
 使い方がわからないせいか薄かったし……


ゴロー「農民には手が出ない値段なんだっけ」

   むしゃ ごくん

 んー…よく味わうとこの汁は濃いな、ヘンに濃い。 旨味が足りない気がするぞ。


ゴロー「たくさん使えば良いってもんじゃない」


 高級な店らしいが、わかってないな。


ゴロー「炒め物もちょっと単純すぎて……」

   むしゃ むしゃ…

 鶏肉は旨いのに、宝の持ち腐れだ。
 ヤマユラでもあのニワトリっぽいの、飼っていたが名前は忘れた。
 卵が旨かったのは覚えている。


ゴロー「……卵かけご飯が食いたい」


 でも……『米』と『醤油』がないや……


ゴロー「ああ、俺の好物がどこにもない國」


……どちらの男も届かぬ物に手を伸ばしていた


ヌワンギ「エルルゥ……」

ゴロー「米ぇ……」


175 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/07/15(日) 11:42:17.81 ID:luAoYVVSO

  ――


ハクオロ「始まったか」


ヌワンギ率いる軍勢が動きだしたと報告を受けた叛軍。


テオロ「うぉっし! いくぜぇ!!」


度重なる争いの中で力をつけていった村々の民。


オボロ「見せてやる! 俺達が虐げられるだけじゃない事を!」


結束した力が動く。


ドリィ・グラァ「「弓衆(ペリエライ)、戦闘準備!」」


様々な思惑を内に秘めて。


  「「「ウオオオオオッ!」」」


この戦は最終局面へと近づく。


ハクオロ(ゴローさんが食糧を援助してくれたおかけで、
     資金を軍備に回す事が出来た)


ハクオロ「よし、あとは作戦通りに!」

オボロ「おう! 行くぞ!」


エルルゥ「…………」

アルルゥ「おねーちゃん?」

ハクオロ「エルルゥ、逃げても構わないぞ」

エルルゥ「……いえ、ハクオロさんの側に居たいですから」

ハクオロ「……二人には辛い光景になるかもしれない」

エルルゥ「…………はい、わかってます」

アルルゥ「みんな、まもる」

ムックル『ぐおんっ!』

アルルゥ「ムックルも『がんばる』って」


ハクオロ「……わかった」


そして舞台は回り始める。



……それを高空から眺める白き翼があった。


??「『空蝉(うつせみ)』よ」

  「そうだ、更に高みへ導け。それが我等の望み……」


  ――
176 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/07/15(日) 11:44:19.56 ID:luAoYVVSO
 ――

元藩主の館に攻撃を仕掛ける皇軍。
しかし、館に通じる一本橋は叛軍により強固に守られていた。


ヌワンギ「何してやがる! 攻め込め! 兵ども!」

兵「し、しかし…壁と堀で……攻め難くて」

ヌワンギ「橋はまだ制圧出来ねぇのかよ!」

兵「それが…敵も強く」

ヌワンギ「ガタガタ言わねぇで矢を放てぇ!」

兵「ハッ? あの混戦状態でですか?」

ヌワンギ「いいじゃねぇかよ。思いっきり射ってやれ」

兵「今の状況では味方の兵に当たります!」

ヌワンギ「チッ…じゃあ館の敵弓衆に向けてだ、いいな」

兵「ハハッ!」 伝令兵「侍大将! ムティカパです!」

ヌワンギ「あんだって? ムティカパぁ〜?」

伝令兵「はい。橋を守るように。……ウォプタルが言うことを聞きません!」

ヌワンギ「かーっ! ならウマなんざ降りて戦いやがれ!」

伝令兵「しかし、それでは兵が簡単に矢の餌食に……」

ヌワンギ「だぁーっ! いいから行けやぁぁ!」ビシッ

伝令兵「ぐっ……はい……」ダダッ…

ヌワンギ「どいつもこいつも…… テメエら! 突っ込みやがれぇぇ!」


「一番後ろに居るくせによく言うぜ…」
「おい、黙ってろ。処罰されるぜ…」

   ダッダッダッ……



ヌワンギ「あんな館、國の全軍なら簡単に…」


ハクオロ「久しぶりだなヌワンギ」

177 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/07/15(日) 11:46:53.91 ID:luAoYVVSO

ヌワンギ「……は?」

ハクオロ「ふん!」ビシッ!


ヌワンギ「ぷにゃもッ!」

   ズテッ!

ヌワンギ「な、なんでテメーがここにいんだよ!」

ハクオロ「おいおい。自分の居た館の事を覚えていないのか?」


ヌワンギ「あ アアアアアアアッ!!」

ハクオロ「そう、お前が使った隠し通路だ」

   「そして……」スッ


   ブオオオオーン♪

辺りの森に潜ませた叛軍の猛者達が、皇軍を包囲していた。


ハクオロ「同じように隠し通路で移動させた者達だ」


ヌワンギ「あ、ああ…」

ハクオロ「包囲されている…… これがどれだけ不利かわかるか?」


皇軍兵達「これはヤバくないか」「逃げようか」「おい、あの侍大将に…」
    「きっと真っ先に逃げたさ」「……じゃあ」
  「撤退ィィィー! 撤退ィィィーッ!!」


ハクオロ「一部の包囲網はわざと薄くした。これで逃げやすくなる」

    「死を意識した人間は強い。だがそれ故に動きが読みやすい」


ヌワンギ「おい! オマエらァ! 戦え! 俺の命令だぞ!」

ハクオロ「誰も応えはしないようだが」


ヌワンギ「う、う、う、ウワアアアアアア……」

178 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/15(日) 11:50:14.22 ID:luAoYVVSO
  ……

「アンちゃん、コイツをどうするんでぃ」


「トゥスクル様の仇、俺に討たせてくれ兄者!」チャキン


「…………」


「へっ、どうした怖じ気づいたのかよぉ」


「キサマッ!」


「止めろオボロ。……エルルゥ」


「な…エ、エルルゥ……」


「……ヌワンギ」


「どうした…笑えよ」

「婆ぁがあんな事になって、俺を恨んでんだろ?
 惨めな姿を見て、さぞ気分がいいだろうな!」

    …パァン!

「え…………」


「馬鹿ぁ… どうして… どうしてわかってくれないの……」ポロ…

「綺麗な服も…高価な飾り物も…
 贅沢な暮らしなんか出来なくたっていい… 私、何もいらなかった…」

「貧しくたっていいの… ただ、皆で一緒に暮らして……
 少しだけ幸せがあれば、それで良かった…」グスン

「アナタだって…昔そう言ってたじゃない……忘れたの?」


 「あ、あ…………」


「そんな…不器用だけど、純朴で優しいヌワンギが……好きだった」

「どうして……ヌワンギの馬鹿ぁ……」


「俺はただ…お前と一緒に…… お前を…幸せに……」


「そんなの…幸せなんかじゃない。ぜんぜん…幸せじゃないよ……」


「お、俺は…何をして……」



「……恨んでなんか…ないよ」

「恨めるわけないじゃない……
 あの時…おばあちゃんのこと、
『バアちゃん』って言ってくれたのに…… 」


 「…………」


「さよなら…………」


 ――
179 : ◆M6R0eWkIpk [sage]:2012/07/15(日) 11:54:04.02 ID:luAoYVVSO
一時停止。
夜に後半を投下します。
180 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山形県) [sage]:2012/07/15(日) 13:33:44.61 ID:quwvvXqAo
ヌワンギどうなんのかなぁー
181 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2012/07/15(日) 17:19:36.92 ID:Q3IIkmMy0
ヌワンギはゴローちゃんがいることでどうなることやら
182 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/15(日) 19:29:44.72 ID:luAoYVVSO
  ――

 ハクオロ達があの大軍を退けたという情報が入る。
 これから、更に周囲の協力を得るだろう。


ゴロー「……ということはそろそろか 『あれ』の準備はどうだ?」

チキナロ「出来ております、ハイ。……しかしこれは軍に任せても」

ゴロー「ベナウィが大将ならそうしたが… とにかく頼む」

チキナロ「わかりました。では……」

    スーッ…タン

ゴロー「あとは連絡待ちか…… 煙管吸おう」

    フーゥ…


  ――

大軍との戦により、叛軍の勢力は疲弊した。
しかし皇軍には、もう それを機として攻める者がいなかった。

時が経過し、より多くの集落や藩が叛軍側につく。
叛軍の疲弊も回復し、戦は再び動き始める。

ついに残すは皇都のみ……
そして……決断が下される。



  「……出陣!」



183 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/15(日) 19:33:11.71 ID:luAoYVVSO
  ――

 〜 牢屋 〜


クロウ「大将! お迎えに参りやした」

   「あと、槍と……鎧っす」


ベナウィ「戦況はどうなっていますか」

クロウ「アイツが率いた軍はほとんど戻ってやせん。アイツも行方不明っす」

ベナウィ「城下の様子は」

クロウ「それが……目立った混乱も無く」

ベナウィ「……どういう事ですか」

クロウ「街のモンが自力で、しかも安全に避難し始めた…… ようでして」

ベナウィ「混乱も無く…… おそらく誰かが上手くやっているのですね」

クロウ「大将? なんでそんなに嬉しそうなんですかい?」

 ――

 誰もいない町にて、煙管で一服。

   スー フゥー…

ゴロー「『城下の住民の避難』は完了…と」


 頼まれていた仕事はこれで終わりだ。
 敵さんもここから引いたようだから、あとは……


ハクオロ「ゴローさん!」 ドッドッ…

ゴロー「おう、ハクオロ。大所帯だな」


 この男待ちだったわけだ。


ハクオロ「これから皇城を包囲する。来るか?」

ゴロー「立派な大将みたいな言い方をするじゃないか」


 上に立つ者らしくなっちゃって。


ハクオロ「ハハッ、そうだな。……で、どうする?」

ゴロー「ああ、付いていくぞ」


 結末は見届けてやらなければ……な。

184 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/15(日) 19:39:13.25 ID:luAoYVVSO
 ――

城の中で話す、二人。
ベナウィとクロウ。

この國を護るべきか否か…… 問いかける者と答える者。


クロウ「大将、本当にいいんですかい? 気付いてるハズですぜ。
    この國にはもう護るべき価値は何もないって」


ベナウィ「そうですね。もはやこの國の崩壊は必然でしょう」


わかりきった事を確認していく。


クロウ「だったら、どうして!! 大将なら、
    どの國だって高く受け入れてくれやす。いや、大将さえその気なら」


ベナウィ「クロウ、そこまでです」

クロウ「大将……」


ベナウィが言う事は、彼の象徴たる『侍大将の白き鎧』が代わりに語る…

――それでも私はこの國の侍大将(オムツィケル)なのです。と


ベナウィ「……残った兵を集めて戦の準備を。城で迎え撃ちます」


クロウ「……ういっス! 久しぶりに暴れますぜ!」


それしか言えない。
クロウにはわかる、彼が何をする気なのか。


ベナウィ「兵には分が悪くなったなら投降しろと伝えて下さい」

クロウ「……わかりやした!」


だが止められない。
クロウに出来る事は彼の生き様に最後まで従う事のみ。

『ケナシコウルペ』での二人の最後の戦が始まろうとしていた。

185 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/15(日) 19:42:24.09 ID:luAoYVVSO
 ――

 戦が始まった。
 國を守る者、國を攻める者、それぞれがぶつかり合う。


ゴロー「ハクオロ、まだ行かないのか」

ハクオロ「上の弓兵と城門。これをなんとかしてからだ」

ゴロー「…………」

ハクオロ「…………」


 梯子が城壁に架かった。
 上から射たれても射たれても、男達は進み続けている。

 梯子を伝って、民兵が壁の上に到達した。
 弓兵達は斬られ、上からの攻撃が止まる。


テオロ「今だぁ!! 門を壊せぇ!!」

  「「おおおおォォォォ!!」」


 丸太が打ちつけられる。
 あの奥では兵士が門を必死に押さえつけているだろう。
 それも長くは続かなかった。

 門は壊され 皇と民、二つを分け隔てたモノが無くなった。

 此方の歩兵が次々と城内に雪崩れ込む。


ハクオロ「……出陣(で)るぞ!!」


 白い仮面の男の号令が響く。

 戦の終わりが近いようだ。

186 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/15(日) 19:45:30.48 ID:luAoYVVSO
 ――

 ハクオロとオボロ、そして俺は皇(オゥルォ)を討つため、城内に侵攻する。
 後ろからも、仲間がやって来た。
 これだけ人数がいれば……


 しかし……


ベナウィ「…………」

クロウ「今日の俺は絶好調だぜ!」


 簡単には行かせてくれないか。


クロウ「さて…他の奴等も来やがったし……」

   「先に雑魚を片付けやすかねぇ!!」



ハクオロ「やるしかないか……」

オボロ「俺はこっちだ!」

ベナウィ「貴方達は私が相手です」


クロウ「そこの『ゴロー』とやらは俺が相手になるぜ!」

ゴロー「男に指名されてもなァ……」



  《バトルパート》

 ゴロー・叛軍民兵VSクロウ

 ハクオロ・オボロVSベナウィ

187 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/15(日) 19:51:00.79 ID:luAoYVVSO

クロウ「おらァッ!」

   ボカッ! ブンッ!

民兵「ぐへぇあ!」「うぐおっ!」

ゴロー「……どうして刀を抜かない?」

クロウ「お前さんに合わせてんだよ」

   「雑魚は戦いの邪魔だしな」

クロウ(ま、本当は大将に民を殺すなって言われてるだけだけどよ)


ゴロー「ふーん… そうか素手か……」

クロウ「おら、来いよ」

ゴロー「……じゃあ遠慮なく」


 俺はクロウとやらに向け、走る。


クロウ「おっと…」サッ

ゴロー「!」


 ……バレてるな。俺の戦い方が。


クロウ「相手が攻撃した後の隙をつき、間接を極める……」

   「養生してる間、暇だったんでな。調べさせて貰ったぜ」ニヤッ


ゴロー「あっちゃー……」

 このタイミングでバレたか。


ゴロー「じゃあ…これはどうだ?」


 ヒムカミの指輪の力を解放。


クロウ「そいつぁ下策だ…… ヌゥン!」バチッ

   「俺には土神(テヌカミ)が宿ってんだ、火の力に強ええ!」

   「……って、ありゃ? どこへ…」


188 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/15(日) 19:53:46.12 ID:luAoYVVSO
   ガシリ…

ゴロー「指輪は不意討ちに使っただけだ」

クロウ「ほーぉ… だが…んな簡単に極めさせねぇな!!」

    グググ…

ゴロー「ぐううっ…」 クロウ「ウオオッ…」


 流石に力じゃあっちが上か。ならば…


ゴロー「……やめた」パッ

クロウ「おわっ!」ズルッ

ゴロー「反対側にかけよう」ガシッ

    グイッ!

クロウ「痛ってえええぇぇぇぇ!!」


ハクオロ「うわっ…痛そう……」

   キィィン! カキッ!

オボロ「余所見をするな兄者!」

ベナウィ「精進したようですね……」

オボロ「今日こそはっ!」


ゴロー「ふんっ!」

    グリン!

クロウ「ウオッ……!」

   ズガッ ドスン

クロウ「あの技から…投げかよ…… イチチ…」

ゴロー「まだ立つのか」

 「「ウオオオォォォ!!」」


 更に此方の味方が城内に侵入したようだ。


ベナウィ「……ここまでです」ダッ!


ハクオロ「追うぞ!」ダッ!

オボロ「待てッ! 逃げるな!」


クロウ「おっと、大将の邪魔はさせねぇ」スラッ

   「一人行っちまったが、他はここで足止めだ。悪りぃな」


オボロ「……殺(シャ)ーーーッ!!」

ゴロー(ちょっと小腹が減った……)

189 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/15(日) 19:56:25.40 ID:V5qR+1xDO
うたわれはわかるし好きだけど
ゴローがなんなのかわかんない
残念
190 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/15(日) 19:57:41.91 ID:luAoYVVSO
 …………

「ふはぁー……にゃも」


「……お迎えに参りました」


「べナウィ、戦況はどうなってるにゃも? 朕の軍の勝利にゃも?」


「いえ、遺憾ながら私達の敗北です」


「…………にゃも?」


「もはやこの戦況、覆す事は不可能でしょう。
 彼らがここに押し寄せてくるのも時間の問題です」


「だ……だったら何を落ちついてるにゃも、
 ならば急いで朕をつれて逃げるにゃも!!」


「何処へお逃げになるのです。
 もう取り囲まれて、逃げる事は不可能です」


「にゃも……にゃも……朕はどうなる……」


「おそらく、磔(はりつけ)の上にさらし首になるかと」


「ヒィッ! おみゃあ、おみゃあ… 何故そんなに落ち着いているにゃも!」


「……貴方はあまりに好き勝手にやりすぎました。
 …………もう充分ではありませんか」

「とはいえ、その様な死にざまは
 皇(オゥルォ)としての誇りが許さないでしょう。
 割腹なされるとよろしいかと。
 僭越ながら私が介錯を務めさせていただきます」


「お、おみゃあは、忠義を誓ったこの朕を、み、見捨てると言うにゃもか!」


「いえ、私が忠義を尽くしてきたのは貴方にではありません」


「……に、にゃも?」


「私が尽くしていたのは…… この國そのもの」

「この國に平和と繁栄を。それが私の願いであり使命だと、自負してきた為」

「貴方に従ってきたのも、仮初めながら
 平和を維持するのに不可欠だったからです」
191 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/15(日) 20:00:51.70 ID:luAoYVVSO

「そして叛軍の鎮圧行動も、この國の戦乱を鎮め、
 多くの犠牲を出したくなかったから…」

「ですが今なら、彼らはこの國を良き方へ導いてくれると確信しています。
 そして我々は、この國に巣くう蟲だということも…」

「さぁ この國の明日の為、人々の幸せの為、
 我々は消えるといたしましょう」チャキッ


「い、嫌にゃも…嫌にゃも……」

「朕はまだ死にたくない……死にたくにゃい。
 美味しいものをもっと食べて、美しいおなごともっと遊ぶにゃも。
 だいたい、どうして朕がこんな目にあわなければならないにゃも。
 朕は悪くない、なにも悪くないにゃもよ!!」


「…………だからこの国は滅びた事に、まだ気付きませんか。
 今となっては既に手遅れですが……」


「いやにゃも……嫌にゃもーーー!!」


「……お見苦しい真似はそれくらいでいいでしょう。
 皇たる者、最後は潔く果てるべきではありませんか」


「あ、あ、イヤにゃも…イヤにゃもォォ…」


「………仕方ありません」

「ならば、この手でお送りする事を、最後のお務めとさせていただきます」


「ヒッ!! 誰ぞ、誰ぞおらんにゃもぉぉォォ!」


「ご安心を。一瞬の事ですので」


「ぎゃぁぁァァァァァァァァァァァァァっ!!」


 ……

ハクオロ「……」


ベナウィ「ご覧の通り…… 皇は…崩御されました」

    「…………後の事はよろしくお願いします」

   スッ… カキンッ!

ベナウィ「死なせてはくれないのですか……」

ハクオロ「勝手に逃げる気か」

    「お前には最後まで見届ける責任があるはずだ」


ベナウィ「私に……生き恥を晒せと?」

ハクオロ「…………」

ベナウィ「……わかりました」

192 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/15(日) 20:03:05.50 ID:luAoYVVSO

  ……

クロウ「おっ」 オボロ「兄者!」 ゴロー「終わったか」

ベナウィ「行きましょう」

ハクオロ「ああ」


ゴロー「アンタ、顔がスッキリしたな」

ベナウィ「……ベナウィと呼んでくれて構いません」

ゴロー「そうか、これからはそう呼ぶ」

ベナウィ「ええ」


  ……


ハクオロ「インカラは死んだ! 戦は終わったのだ!」


「俺達…勝ったんだ!」「ああ! 勝った!」「叫びてぇ〜」


「「「うおおおぉぉぉぉっっ!!」」」



 ふー… ようやく終わった。

 ……でもよく考えたら怪我人達を治療しなきゃならないのか。


ゴロー「これからが忙しいぞ……」


193 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/15(日) 20:05:06.34 ID:luAoYVVSO
 ――

クロウ「なんてザマだよ、情けねぇ。…イテッ!」

エルルゥ「ハーイ、動かないで下さいね。固定しますから」

クロウ「戦ってる時は気付かなかったが、まさか折れてるとはねぇ」

エルルゥ「多分折れたんじゃなくてヒビが入っただけだと思いますよ」


   ワイワイ ガヤガヤ

ドリィ・グラァ「「若様! 傷だらけで…」」

オボロ「なに、大したことはな……」

テオロ「おう! 元気そうだなッ!」バシッ

オボロ「ーーッ!!」ピシーン

テオロ「あり? …ダーッハッハッハ!」


アルルゥ「ごはん、くばるよ〜〜」

ムックル『ぐぉん!』


   ザワザワ… ワイワイ


ベナウィ「貴方との約束。どうやら果たせそうです」

ゴロー「ん?」

ベナウィ「『また美味しい店を教えろ』と」

ゴロー「そうだったかな。じゃあ頼むぞ」

ベナウィ「はい。『ゴローさん』」

194 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/15(日) 20:06:54.65 ID:luAoYVVSO
   ヒョッコリ

ハクオロ「私は誘ってくれないのか?」

ベナウィ「ハクオロ殿…… いや、『聖上』」

ハクオロ「な……」

ベナウィ「貴方は國を治めるのですからそう呼ばせていただきます」

   「聖上にはこれからの國についてやっていただきたい事が山程あります」

 「まずは…………」クドクド…

ハクオロ(助けてゴローさ〜ん)

ゴロー(……煙管吸いに行こう)

 ――

ハクオロ「皇の最初の仕事は新しい國の名付けか」


ベナウィ「でしたらキッカケの……」ヒソヒソ

オボロ「兄者! 俺の意見も聞いてくれ!」ヒソヒソ

テオロ「これがいいと思うぜぇ」ヒソヒソ

エルルゥ「あ…あの、私は……」ヒソヒソ


ハクオロ「……驚いたな。全員一致とは」

    「新しい國の名は『トゥスクル』に決まりだ」


テオロ「ところで…ゴローはどうした?」

    ヌゥッ…

チキナロ「ゴローさまは食事に行かれました、ハイ」

ベナウィ「チキナロ? 何故貴方がここに?」

チキナロ「新しい皇様にゴローさまの代わりとして
     作戦の請求書をお持ちしました。ハイ」


ハクオロ「ああ、城下の避難の報酬か。どれ」スッ

    「あのう……桁が多くありません?」


チキナロ「食糧の代金、卸せる紫琥珀、避難・治療などなどの作戦経費……」

    「あとはワタシとゴローさまへの報酬となっております。ハイ」


ハクオロ「……ベナウィ」

ベナウィ「……削減出来る物を減らしてなんとかしましょう」

    「………聖上にはこれから休み無しで政務を行っていただきますが」


ハクオロ「」ガーン


第七話「國家樹立」

  続く!
195 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/15(日) 20:16:50.62 ID:luAoYVVSO
>>189様、
ゴローは『孤独のグルメ』という漫画の主人公です。
仕事のついでに街を散策し、様々な所で食事を取ります。
一般的な食べ物漫画と異なり、味の描写は少なく
主人公の『井之頭 五郎』の心情を掘り下げて描写した漫画です。

ちなみにドラマCD・TVドラマにもなっています。
196 : ◆M6R0eWkIpk [saga]:2012/07/15(日) 23:06:01.01 ID:luAoYVVSO
ヌワンギのその後を投下。
これで今日の投下は終わります。
197 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/15(日) 23:08:12.53 ID:luAoYVVSO

ヌワンギ「ハハッ……俺、ホントに馬鹿だぜ……」


あの後――
エルルゥの意見により、解放されたヌワンギ。
森の中をフラフラと さ迷い歩く。


ヌワンギ「俺みてぇな奴に『この先の集落に行け』……なんてよぉ」


これまで自分の命令で数々の集落を潰してきた彼。
そんな自分が他の集落に逃げ、生き延びて良いのか……


ヌワンギ「……いっそのこと、この森の中でくたばるってのも有りか」

   ガサガサ!

ヌワンギ「!!」ビクッ

山賊A「おっ、人じゃねぇか」


ヌワンギは知らなかった。
この森の付近には山賊が居る事を。
現れた三人の山賊がヌワンギを包囲する。


山賊B「兄ちゃん、身ぐるみ全部置いてきな。そしたら命は助けてやんよ」


ヌワンギ「…………」

198 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/15(日) 23:09:40.28 ID:luAoYVVSO

山賊C「……待て。コイツの顔どっかで見たぜ」

山賊A「ん、言われりゃあ……」

山賊B「あ! コイツ新しい侍大将ですぜ!」

山賊C 「おい、ホントか?」

山賊A「お、そーだコイツだ! 名前はわかんねぇけどよ」

山賊C「……だったらコイツの首を叛軍のとこに持ってきゃ、
    まとまったカネになるんじゃねぇか?」


山賊B「なるほど! ついでにアッチに入れて貰えば…」

山賊A「名を売れるってワケか」ニヤッ

ヌワンギ「……っ」ギリッ


反論は出来た。『自分はその叛軍に逃がされてここまで来た』と。

……だが敵の大将を何もせずに解放するなどあり得ない。
正しい事を言っても無駄。このまま死を待つのみ…

これが今のヌワンギの状況だった。


ヌワンギ「……ウワアアアアアッ!!」ドンッ

山賊A「がっ…!」ゴロン

   ダッ タッタッ…

山賊C「逃げやがった! 追えッ!」

山賊B「待ちやがれぇぇ!」

199 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/15(日) 23:12:04.99 ID:luAoYVVSO
 …………


ヌワンギ「はぁ… はぁ… 」


ヌワンギは走った。
死の恐怖に立ち向かう逃走……
後ろ楯のない『ヌワンギ』として、戦う為の走りだった。
先程の言葉はどこへいったか、
『生きていたい』という思いが身体から沸き上がっていく。


   ヒュン  ブスッ!

ヌワンギ「あが……」ドサリ


しかし、そう上手くはいかない。
ひたすら逃げ続けたヌワンギも一発の矢で崩れ落ちてしまう。


山賊C「手こずらせやがって……」

山賊A「くっそ! オラッ!」ゲシッ

ヌワンギ「がはっ!」

山賊B「どうぞ、刀っす」

山賊C「うっし、じゃあテメーらしっかり抑えとけ……」

ヌワンギ「……イ、イヤだ」ボソリ

山賊A「あん?」

ヌワンギ「生きてえ… 死にたくねぇよぉ……」


……それは魂からの声であった。


山賊C「おいおい、命乞いなんて通じねーよ」

   「じゃあなッ!」スッ
200 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/15(日) 23:13:09.02 ID:luAoYVVSO





  〔 それが汝の願いか? 〕






201 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/15(日) 23:14:50.82 ID:luAoYVVSO
   スパッ……

Cの首「え…… なんで、俺の身体が…あんなトコに…」

   ドサリ…


??「……」 バサ…

ヌワンギ「……ア、アンタ 助けてくれんのか!」

??「…………『生きたい』。それが汝の望みか?」


白い翼を持った白髪の男が問いかける。


ヌワンギ「あ、ああ! 俺はこんなところでなんて…死にたくねえ!」



??「その身体、血肉、髪の毛一本、魂に至るまで汝の全てを我に捧げよ」

  「そうするならば汝に力を与えてやろう」

  「さあ、答えよ。“契約”を結ぶか、否か!」



ヌワンギ「お、俺は――『契約する』! だから……」

202 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/15(日) 23:17:35.20 ID:luAoYVVSO

山賊A・B「「何をごちゃごちゃとッ!!」」

??「…………消えよ」キュイーン…

   ドゴォォン…

ヌワンギ「す、スゲえ。アンタ『オンカミヤリュー』か!」

    「法術… あいつらまとめて吹き飛んじまった!」


安堵の表情を浮かべるヌワンギ。
翼を持つ男は彼に向かい、何かを差し出した。


??「……さて、汝には『コレ』をつけてやろう」スッ

ヌワンギ「な、なんだよソレ……
     ア、アイツの『仮面』じゃねぇか!」


ヌワンギが見たのは…『仮面』だった。
あの男…『ハクオロ』の着けていた物と寸分違わず同じ……


??「正確には複製品だがな」

ヌワンギ「じ、冗談じゃねえ!! なんで俺がそんなモンを…」


??「む? 拒否など出来ん。契約の破棄が出来るのは我が方のみ」スッ

ヌワンギ「ガッ! 身体が動かねぇ…」ギギッ


??「安心するがいい。これを着ければ、汝の望みは叶えられる…」カツ カツ

  「痛みも愉悦も…何も感じない存在として生き続けられよう……」ピタリ



ヌワンギ「ヒイッ! なんだよ…なんなんだよアンタ!」

203 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/15(日) 23:18:54.72 ID:luAoYVVSO


ディー「我は…… 今は『ディー』と名乗っておこう。汝の主だ」スッ

   「さあ、これまでとは異なる自身を、存分に堪能するがよい」カチャッ





 「あ、あ、あ、あ…… アアアアアアアアアアアアアアアアア…………」


 「…ア゛…ア゛…ア゛」


ディー「ふむ、やはり『シャクコポル族』以外でも精神は壊れるか」

   「肉体の強度はどうなったか、後で確かめるとしよう」スッ


  キュイーン… フッ…



……森から二人は消え去る。


この日から『ヌワンギ』は消息不明となった。
204 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/15(日) 23:21:35.95 ID:luAoYVVSO
投下終了。
ヌワンギを気にする方、多いんですね。
原作・アニメのヌワンギのフェードアウトを改変。

後の回に出番を与えます。
205 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/15(日) 23:22:14.07 ID:V5qR+1xDO
>>195
これはこれはご丁寧に
応援するよ
206 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2012/07/15(日) 23:27:26.27 ID:Q3IIkmMy0
ネタバレになるからあれだけど原作だとね……ヌワンギ
207 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/07/16(月) 01:38:49.39 ID:xMZTZC+qo
ヌワンギが契約…
アニメしか観てないけど、原作だと契約するルートもあったりするのかな?
208 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/07/16(月) 01:41:12.32 ID:BDbnTFF1o
原作にルートなどなかった気がするよ。
209 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/16(月) 22:37:07.47 ID:XU78P1CDO
洗濯CG(せんたくしーじー)を出す選択肢(せんたくし)があるよ
210 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/07/17(火) 03:17:59.03 ID:A+E7kUjAO
>>209
モルダー、アナタ疲れてるのよ…
211 : ◆M6R0eWkIpk [saga sage]:2012/07/20(金) 20:03:45.41 ID:8OKa2LsSO

第八話「調停者との一時」

そこは陽の光を取り入れない洞窟のような空間だった。
巨大な発光石なのだろうか…
それに近い物が明かりとなり、空間を照らしていた。


「……報告は以上です」


「ふむ また一つ、國が滅んだか」


老齢の男二人が話し合う。一方は報告を、もう一方はそれを受けて言葉を紡ぐ。


「新しい國は『トゥスクル』と……」


「おぉっ…『トゥスクル』? その國の皇(オゥルォ)の名は……」


「申し訳ございません。それ以上は……」


「……そうか、では『ムント』よ。使節団の派遣、そなたに任せる」


新しい國に使者を送る事で話は終わった

……かに見えたが、どうやら違うようだ。


?@「賢大僧正(オルヤンクル)」

  「そのお役目、わたくしにお申し付けくださいませんか?」


物陰から女性が現れる。
金に近い色をした流れるような長い髪、慈愛に満ちた蒼色の瞳。
上半身の白、下半身の薄緑。着ている服からも不思議と暖かみを感じる。

……彼女を初めて見る者は、きっとこんな感想を持つ。

ああ、なんて立派な『胸』と『翼』なんだ……と。


ここは『オンカミヤムカイ』。
大神を奉り、争いを忌む「宗教國家」。
そして最も古い歴史を持つ「始まりの國」。
この地に住まうは『オンカミヤリュー族』。
『法術』を使うことが出来る唯一の種族であり
この世界に存在する種族の内、身一つだけで大空を舞える者達でもある。

212 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/07/20(金) 20:09:11.22 ID:8OKa2LsSO

ムント「なりませぬ! 姫様! かの地は以前、我等を拒んだ土地でございます」

ムント「何より戦乱後間もない地。未だ混沌が続いているかもしれませぬ」


?@「大丈夫よムント」ニコリ

賢大僧正「巫(カムナギ)であるそなたが言うのならば、
     何か思うところがあるのだろう」


?@「ありがとうございます」

ムント「な、そんなぁ…… お待ち下さい! せめてこのムントを供に…」

?@「もとよりそのつもりです。ではお父様、行って参ります」

賢大僧正「うむ、『ウルトリィ』よ。行くがよい」

ウルトリィ「はい」ペコリ


『かの國』へ集約する人の意思。
彼女は何を感じとったのか……


そして、陰に潜むのはもう一人。


?A「うふふっ♪ 良いこと聞いちゃった〜♪」


黒き翼の少女が可愛らしい悪巧み顔をして、その場から去って行った。

213 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/07/20(金) 20:13:18.78 ID:8OKa2LsSO
  ――

 おやっさん達、ヤマユラの皆が帰る事になった。


ハクオロ「どうしても帰るのか」

テオロ「ああ、出来る事なら一緒に居たかったんだが……」

   「俺達は生まれも育ちもヤマユラだからなぁ。だから、死ぬときも……」


アルルゥ「う〜…」

ソポク「じゃあねアルルゥ。おかしな物を食べてお腹を壊すんじゃないよ」


 ソポクさんが寂しそうなアルルゥを撫でてやる。


アルルゥ「……」ダキッ

ソポク「あっ…よしよし。いつでも帰っておいで」ギュッ

エルルゥ「あ……」

ソポク「……」トコトコ… ギュッ

エルルゥ「……」ギュッ


 エルルゥさんも抱きしめてあげた。
 ……こんないい嫁さんを貰ったおやっさんにはアームロックをかけてやろう。


テオロ「痛てえええ!」


ソポク「エルルゥ、頑張り過ぎないで 辛い時は素直に甘えること」ナデナデ


 俺達の事は気にせずに話すソポクさん。辺境の女は強い。


エルルゥ「……っ」ギュウッ

214 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/20(金) 20:17:10.69 ID:8OKa2LsSO

 こうして…おやっさん達は村に帰っていった。


ハクオロ「寂しくなるな……」

ゴロー「おやっさん達も行ったし、俺もそろそろ旅に……」


   ガシッ


ベナウィ「聖上とゴローさんには政務があります」


ハクオロ「まだあるのか!? 昨日大量に印を捺したぞ!」


ベナウィ「はい。お二人にはやっていただきたい事が山のように」ペコリ

    「例えば聖上の言う『肥料』。あれを國の農政として集落に作らせ、
     安定した食の供給を行えるようにせねばなりません」


ゴロー「……俺はいらないんじゃ」

ベナウィ「貴方は様々な事柄にお詳しいと……聖上が」

ハクオロ「ここまで来たなら地獄(ディネボクシリ)まで共に行こう!」キリッ

ゴロー「ハ、ハクオロ! オマエッ! そんなに俺が嫌いか!」

ハクオロ「当たり前だ! 貴方のせいで一体どれほどの睡眠時間が削られた事かっ!」


ベナウィ「さあ参りましょう」

    「聖上は朝堂へお願いいたします。エルルゥ様も」


エルルゥ「ハ、ハイ!」


クロウ「それじゃ、総大将は俺が」ガシッ

ベナウィ「ゴローさんは私が」ガシッ

   ズル ズル…


 俺達に人権はあるのだろうか……

215 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/20(金) 20:20:12.59 ID:8OKa2LsSO
  ……

「ハクオロ皇! 御出座であーる!」


 城に勤める文官達の前、
 皇(オゥルォ)の席につくハクオロ。


ハクオロ「…………」

エルルゥ「ご報告申し上げます……」


 エルルゥさんの報告。
 前に比べると上手くなったもんだ。


ゴロー「最初は緊張しっぱなしだったな……」


 何事もなく、都・町・地方の戦後復興について報告されていく。
 もう少しで終わりか。


エルルゥ「では最後の報告に参ります」

    「おねーちゃんが寝言でおとーさんを呼んでハァハァしてた。ブキミ」


ハクオロ「 」ブッ!


「どうやら…」「またですな」「くっくっく…」
「エル姉…」「やっぱりな」


エルルゥ「……アルルゥ!!」


「やはりコレがありませんと」「そうそう。朝が来た気がしませんな」
「皇女様は元気が一番じゃて」「癒されるの〜」

  ハッハッハッハッ…


ゴロー(……この國の皇女は元気過ぎるぞ)

216 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/20(金) 20:22:58.19 ID:8OKa2LsSO
 ……

ハクオロ「……」ペッタン ペッタン

ゴロー「次は歓楽街の……」


 書斎で黙々と印を押すハクオロ、木簡を要約して伝える俺。

 ベナウィは別室でコチラに回す仕事の精査。
 クロウは療養…多分しないで刀を振っているか。
 オボロ、ドリィ・グラァは調練中。
 アルルゥは庭でムックルと遊んでいる。
 エルルゥさんは城内で家事をしているらしい。
 エルルゥさんとアルルゥは皇女様なのに、自由だよなぁ。


ハクオロ(小腹が空いたな……)

    「ゴローさん、少し厠に行ってくる」ガタッ


ゴロー「あれ、そういえば皇専用の厠はどうした?」

ハクオロ「あんな金銀輝く、だだっ広い悪趣味な厠で用がたせるか。
     無駄を省くため、真っ先に潰したさ」

    (溶かした金をゴローさんへの報酬に使ったのは黙っておこう)


ゴロー「……逃げるなよ」

ハクオロ「ハハッ すぐ戻る」

   スタスタ…

ハクオロ(この人と一緒だと私がオヤツを食えないかもしれんからな)

217 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/20(金) 20:26:17.40 ID:8OKa2LsSO
 ――

お腹を空かせたハクオロ皇がどうなったか。

一部を抜粋して教えよう……


 「ないなぁ…」ゴソゴソ

 「フッ… 兄者、エルルゥがそんなところにオヤツを置くと思うか?」カタッ

 「隠し扉! そういうのもあったのか!」

 「おっ チマクだ。兄者も」ヒョイッ

 「ほお…甘酸っぱくて旨いな」ムシャ

 「…誰か来る! その瓶(かめ)の中に隠れよう!」


 「あーっ! 無くなってる!」

 「あれ、傷んでたから別のところに置いておいたのに…」


 「兄者……ウッ」ギュルルル

 「わ、私もだっ…」ギュルルル

   ダダダダ……

 「ハクオロ、遅いなァ。厠を見たけどいなかったぞ」バタン

 「ゴローさん!」 「大兄者!」

 「なんだ今から厠か。なぜオボロと?」

 「ご託はいい!」スッ そこを退いてくれ!」チャキン


 「な、なんで武器なんか抜くんだ……」

  「「ヌォォッ!」」ギュルルル

 「二人ともどうした……」


 「ゴローさん、頼む…」 「大兄者は俺の尊敬する人だ… だから…」

 「まるで話がわからないんだが……」

    ピコ ピコ ピコ…

 「おと〜さ〜ん〜!」


 「「『オボロ防壁ッ!!』」」

 「どすっ…」
       「どすっ…」
             「どすっ…」


 「    」ピクピク


 「さあ! 退いてくれゴローさん!」

 「いや あの… 状況の説明を……」

  ピコ ピコ… ガチャッ

 「あ、アルルゥ! アルルゥさーん! 頼む! ハチミツあげるから…」


 「??? なんなんだ……」スタスタ…


 「アーーーーーーーッーーーーー!!!」

218 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/20(金) 20:30:21.06 ID:8OKa2LsSO
※前レスにカギ括弧の付け忘れあり。申し訳ない。

  ――

 翌日…『オンカミヤムカイ』から使者がやって来ると伝えられるハクオロ。


ハクオロ「『オンカミヤムカイ』…?」

ベナウィ「我らの大神、ウィツァルネミテアの総本山にして、
     『調停者』を名乗っている者達です」


ゴロー「『調停者』? それは知らないぞ」


ベナウィ「彼らは國や部族間の仲介や災いを防ぐ事を自らの役目としています」

    「その為に各地を見張り、必要とあらば干渉してくるのです」


ハクオロ「それで『調停者』という事か……」


 ふーん 宗教というか、監視役なのかな。


ゴロー(どんな人が来るんだろ)


 ――
219 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/20(金) 20:33:14.04 ID:8OKa2LsSO
 ――

ウルトリィ「お初に御目にかかります、ハクオロ様。
      この度、オンカミヤムカイから使節の命を授かりました
     『ウルトリィ』と申します」


ムント「『ムント』に御座います」


ハクオロ「遠いところ、ご足労をおかけした」

ベナウィ「……ウルトリィ皇女のお越し、恐悦至極にございます」


 まさか皇女がわざわざ出向くとは……


ゴロー(……やっぱり皇女様はああいう感じだよな)

 俺はハクオロ側の柱の影に隠れて様子を伺っている。

 ここの皇女はハチミツを巣ごと食べるし、ちょっとした事で怒るし…
 なんと言うか子どもっぽくて……


ゴロー(それに比べてあの皇女…… こう…スゴいな。ドコとは言わないが)

220 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/20(金) 20:35:17.31 ID:8OKa2LsSO

ハクオロ「皇女ともあろう御方が、我が國にどういった御用件で参られたのか」


ウルトリィ「友好を」


ハクオロ「友好?」


ウルトリィ「はい。私共は御國との友好を望んでいます」ニコリ

     「その為に、まずはお互いを理解していきたいと考えております」


ゴロー(友好か。ま、そうだろうな)


 この國の前身…ケナシコウルペには
 オンカミヤムカイの國師(ヨモル)がいなかった。
 インカラみたいな者がそんな者を入れる訳がない。

 じゃあアッチの最終目的は國交の回復と國師の派遣か……


ゴロー(今日は國の様子見だろうな)

221 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/20(金) 20:38:43.58 ID:8OKa2LsSO
 ………

  「失礼します」

  ガララッ… スーッ…


エルルゥ(……)ペコリ

ウルトリィ「まぁ、此方には可愛らしい女官さんがいるのですね」

ハクオロ「ウルトリィ殿、エルルゥは私の家族です」

ウルト「まぁ…申し訳ありません。皇后様でいらっしゃいましたか」

エルルゥ「!」ピクッ

ハクオロ「いえ、私は独り身です。この娘は妹のようなものでして……」

エルルゥ「……」シュン

ウルト「そうでしたか……」

エルルゥ「そ、粗茶ですがよろしければ…」

ムント「……姫様、どうやら我らは歓迎されていないようですな」


エルルゥ「え……」 「美味いのに……」


ムント「うん? 扉の向こうから声が……」


ウルト「……」ズスッ

   「……美味しい!」

222 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/20(金) 20:44:30.59 ID:8OKa2LsSO

ムント「姫様? …………」ズズウ

   「ほう! これはなかなか美味な茶で……」

   「このような場で遜(へりくだ)るとはお人が悪い」ニコリ


エルルゥ(わ、私 失敗しちゃってた!?)

ゴロー「……失礼いたします」ガララッ

ハクオロ・エルルゥ「「ゴローさん!」」

ムント「む? こちらの方は?」

ゴロー「初めまして。ゴローと申します」ペコリ

ウルト「初めまして。私達に御用ですか?」

ゴロー「数々の無作法、申し訳ありません。私の教育が足りず、不手際を……」


エルルゥ「ちょ……うぐ」

ハクオロ「シィッ…」

    (混乱を更に混乱させてなんとかする…大丈夫か? ゴローさん?)


ムント「……となると貴方は皇女様の教育係でしょうか?」

ゴロー「はい。私の教育が至らず、申し訳ありません」ペコッ


 ここは俺が責任をとって… なんとかしよう。
 あちらの反応は……


ムント「……わかります! 貴方のお気持ち、わかりますぞ!!」ガシッ

ゴロー(ハイ? なぜ握手?)

ムント「私ももう一人の皇女様には苦労をしております……
    勉強の時間だというのに外に遊びに行ったり……」クドクド


ウルト「ふふっ」クスクス

ゴロー(な、何はともあれ上手くいったか…な?)


 ……
223 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/20(金) 20:49:26.96 ID:8OKa2LsSO

 その後、『ウルトリィ』さんの要望で
 俺とエルルゥさんが城下を案内する事になった。
 ハクオロも行きたそうにしていたが…
 やっぱりベナウィが許さなかったようだ。


ムント「これはまた盛況な……」

ウルト「ここには他にない活気があります」ニコッ

   「抑圧から解放され、今は安心して商いに励んでいるのですね」


ゴロー「他國との貿易も増えております」


 実際、関所の通行料を下げたら通行人が増えたからな。
 昨日の仕事も大半がそれに関する内容だった。


 「へっへー」「うわーい」

   ブチ! ブチ!

ムント「はぐっ!」


 ……ムントさんの羽根が子どもに抜かれた。


ムント「こらぁ! クソガキぃ、何をするかぁ!」ムキー!


ゴロー「あ、素の言葉は結構汚いんですね」

エルルゥ「ゴローさん!」

ウルト「ふふ…良いのです。ムント、気をつけなさい」

ムント「ははっ! 失礼をいたしました!」

ゴロー「いや、お二方ともくだけた態度で構いませんよ」

エルルゥ「そうですね。私もそうしていただけると……」

ウルト「……ハクオロ皇の前でもいいのですか?」フフッ

エルルゥ「!」

ウルト「ふふふっ」ニコッ


ゴロー(……好敵手出現か)

224 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/20(金) 20:53:39.65 ID:8OKa2LsSO
 ……

 〜 夜・湖のほとり 〜


ゴロー「あー…今日も綺麗な月だ」


 月夜の一服、気持ちいいんだよ。


ゴロー「……ふう」フー


 エルルゥさんの部屋、ウルトリィさんが居たような…
 二人は仲良くなったのか。それとも戦線布告だったのか。


ゴロー「恋せよ乙女……か」

   スー ヒラリ

ゴロー「……ん」

   「……なんだ?」



  「キャハハ……フフッ……」



 湖で『黒い翼』が舞い踊っていた。


ゴロー「あれ… オンカミヤムカイの人…だよな?」


 そいつ……いや、シルエットから女とわかる。


ゴロー「これ又デカイ。今日は幸運だ」


 月の光が彼女の銀髪を照らしている。
 派手な髪色なのに、服装は暗い。
 紺や黒の服装……何故か月夜にふさわしいと感じる。


ゴロー「てっきり翼は白いもんだと思ってたが」


 黒の翼もあるって事は茶色とかもあるのかな。
 意外と奇抜な色の翼もあるかもしれない。

   スィー……


ゴロー「あ、行っちゃった」


 顔は……子どもっぽかった。
 しかし『あのサイズ』で子どもだったら…


ゴロー「オンカミヤリューの男は羨ましい」

225 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/20(金) 20:58:24.98 ID:8OKa2LsSO
 ――

 翌朝…
 朝食後、ハクオロの部屋に男ばかり集められる。


ハクオロ「客が増えた」

ゴロー「は?」

ベナウィ「ご説明をお願いします」

ハクオロ「ウルトリィ殿の妹君だ。紹介しよう」


ウルト「ほら、『カミュ』。ご挨拶を」

カミュ「う……お、おはようございます」


ゴロー「 あ 」

クロウ「どうしやした? メシ大将」


ゴロー(なんだその呼び名)

   「いや昨日、湖で飛んでたコだなぁ…と」


カミュ「げっ! 見てた人がいたのっ!」

ウルト「カミュ、今はちゃんと挨拶しなさい」

カミュ「カ、カミュと申します。皆様よろしくお願いします……」


オボロ「羽根が黒いんだな」

ハクオロ「そう言われれば……」

ゴロー「翼が茶色の人もいるんですか?」


ベナウィ「この人達は……」プルプル

クロウ「大将、まあまあ。落ち着きやしょう」


ウルト「この娘は始祖様の力を濃く受け継いでいるのです」

   「茶色の翼を持った者は…… わたくしの知る限りではいないかと」


226 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/20(金) 21:01:32.56 ID:8OKa2LsSO

ゴロー「そうかァ… 茶色、いないのかァ……」

ベナウィ「ゴローさん、知らなかったのですか」

ハクオロ「スマン、言い忘れていた。ゴローさんも記憶喪失なんだ」

オボロ「兄者! 俺も大兄者が記憶喪失なんて知らなかったぞ」ガタン

ゴロー「なんか順応してたし… ハクオロ程じゃないから自分でも忘れてた」

クロウ「へーえ… メシ大将も記憶がないんすか」

ゴロー「いや、その呼び名はなんだ。変だぞ」


   ワイワイ ガヤガヤ……


ベナウィ「……騒々しいところをお見せして申し訳ありません」

ウルト「いえいえ。賑やかで楽しいではありませんか」ニコッ

カミュ「お姉さま…この人達 カミュの事、気にしないね」

ウルト「先に紹介した女性の皆さんもそうだったでしょう」

カミュ「ここ……なんだか楽しくなりそう!」ニッコリ


●ちなみに先に紹介された方々

ドリィ・グラァ「「僕らは男なんですけど……」」

エルルゥ「わかってますよ?」

アルルゥ「あーん」スッ

ユズハ「あーん… 美味しいです…」

ムックル『ZZZ…』

227 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/20(金) 21:05:02.62 ID:8OKa2LsSO
 ……

 カミュちゃんか。凄いモノは持っているがまだ青い。


ゴロー「五年後が楽しみだ」フゥー

   「……噂をすれば」


 アルルゥを追いかけるカミュちゃんを発見。


アルルゥ「……」ダッ

カミュ「あ……またダメ……」


 ……俺ってお人好しだな。


ゴロー「どうしたカミュちゃん?」

カミュ「あ…えっと……」

ゴロー「ゴローだ。よろしく」

カミュ「じゃあ……
   『ゴロゴロ』…『ゴロっち』『ゴローおじさま』……」ブツブツ


ゴロー「……三つ目でお願いします」

カミュ「ゴローおじさま。何か用でしょうか?」

ゴロー「アルルゥに避けられてるのかい?」

カミュ「はい……」シュン


 アルルゥと仲良くするなら…
 …わからん。俺ってアルルゥの事、詳しくない?


ゴロー「どうしたら仲良くなれるか、ハクオロに聞いてみたらどうだい?」

カミュ「皇様に? 忙しくないのかなぁ?」

ゴロー「多分そのうち仕事を放って息抜きをするさ」


 俺も息抜き中だし、アイツならそうするだろう。

228 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/20(金) 21:11:30.11 ID:8OKa2LsSO
 ――

ベナウィ「次は南の集落の……」スタスタ…


ベナウィはいつもの様に木簡を持っていく

一人なら抜け出しても、二人なら抜け出さない

そう考えた彼はハクオロとゴローを同じ書斎で仕事させた


ベナウィ「失礼いたします、こちらも……」


……そして、その見通しは『甘かった』


ベナウィ「……また…ですか。しかも二人とも……」


  ――

カミュ「ありがと〜 ゴローおじさま〜!」タッタッ…


 カミュちゃんはハクオロを探しに行った。

 上手くやってくれたらいいが……


ゴロー「少し不安だから、一肌脱いでやるか!」


 俺も異國との友好に何かしたいと考えていたからな。


ゴロー「なにをするか……」


 こう…人が集まってする事だろう……
 やっぱり会食みたいなのがいいかなあ。
 でも、いつもの奴等だけで人数が多いから……
 あれだけの大人数で楽しみながら食事……

 おっ おおおっ!?


ゴロー「! そうだ…コレだ!」

229 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/20(金) 21:15:49.73 ID:8OKa2LsSO
  ――

 「『鍛冶司(かぬちづかさ)』と『氷』? 『氷』とは?」


 「ああ、これの事でしたか。ではこれと…」


 「あとネゥ一頭分の肉? ハイ、わかりました」


 「鍛冶司(かぬちづかさ)は北方におります。ハイ」




 「へい、どうも。仕事ですか?」


 「刀よりやや厚い鉄板? 何に使うんで?」


 「いや刀に比べりゃ作りやすいんでいいんですが……」


 「……出来るだけ四角に。大きさもかなり…っと。へい了解!」


 「期限がある? その日ですな。わかりました!」


 「今後もご贔屓に……うちはなんでも作りますぜ!」


  ――
230 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/20(金) 21:18:21.52 ID:8OKa2LsSO
 ――

後日、皇城の庭。
昼時にハクオロ達が呼び出された。


ハクオロ「ゴローさん、何をする気なんだ?」

エルルゥ「さぁ……」

ウルト「わたくし達も呼ばれましたが…」


カミュ「アルちゃん、ユズっち。何か知ってる?」

アルルゥ「ううん」

ユズハ「私も…ちょっと……」


オボロ「『食事の皿は出しておけ』と言われたが」

ドリィ「何をするのかな?」

グラァ「大兄者様はたまにわかんないね」


クロウ「こんな長え炉みてえなモンも用意して…」

ベナウィ「野菜の準備も出来ています」


ムント「おや、ようやく来ましたぞ。何やら大荷物ですが」

ハクオロ「ウォプタルを何頭も使って何を?」


   ガララ… ガララ…
231 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/20(金) 21:21:46.34 ID:8OKa2LsSO

ゴロー「皆さんお待たせしました」

   「クロウ、着火の準備は?」


クロウ「へい! 薪もたっぷりありやすぜ!」

ゴロー「じゃあ…オボロ達でコレをあの炉の上に」ポン

オボロ「なんだ? 鉄の板か?」グッ

ドリィ「見た目は薄いけど…」 グラァ「ちょっと重いっ…」

ベナウィ「手伝います」グッ

   ヨイショ ヨイショ ドスン

ゴロー「では…次にこれを」スッ

ムックル『ぐお?』クンクン

アルルゥ「お肉のにおい?」

ユズハ「何をなさるんでしょう?」


ゴロー「エルルゥさん、この肉の塊を、薄く一口大に切って下さい」

   「あと、野菜も食べやすいよう切って下さい。
    肉塊もいくつかあるので全てお願いします」


エルルゥ「は、はい!」

ウルト「手伝いますわ」

ムント「では、このムントも」


 《しばらくして…》


ハクオロ「ゴローさん、何を……」

クロウ「メシ大将! 鉄の板、熱くなってきやした!」


ゴロー「よし、エルルゥさん達の方は?」

エルルゥ「ハイ! 終わりました!」

ウルト「もしかして…」


ゴロー「では切った野菜と肉を鉄板の上にどんどん並べて」

   ジュー… ジュー…

アルルゥ「おぉーーー」

カミュ「わーあ…いい匂い!」

ユズハ「お腹が空いてくる音ですね…」


ゴロー「肉はひっくり返して、両面とも色が赤くなくなったら食べる。
    野菜はあまり焦がさないよう気をつける」

   「これで『焼き肉』の完成です」

232 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/20(金) 21:24:02.48 ID:8OKa2LsSO

 《 焼き肉 》(オリジナル)

ゴローが思い付いた会食料理。
ネゥを一頭丸々使ったので量はたっぷり。
基本は保存の為、塩漬け肉。
氷(貴重品)を使って持って来た分はあまりないが
それには味がないので味噌(?)をつけて食べる。


ハクオロ「どれ… 旨い!!」モグモグ

エルルゥ「あ、本当。美味しい!」ムシャムシャ

アルルゥ「お〜〜〜♪」ハグハグ


ベナウィ「なるほど。切った食材を自分で板に乗せて焼くのですね」モグモグ

クロウ「こりゃあうめぇ!! 精がつきそうだ!」ムグムグ


オボロ「ユズハの分はお兄ちゃんが焼いてやるからな〜 ほら、あーん」

ユズハ「あーん。わぁ…食べやすくて美味しい…」ムシャ

ドリィ「若様っ♪」 グラァ「若様っ♪」

  スッ…『焼いた野菜+味噌(?)』

オボロ「ウッ……」

ユズハ「お兄さま?」

オボロ「ええい! ……あ、旨い」モグモグ

ドリィ・グラァ「「若様が野菜を食べたっ!?」」


ムント「ほほう… これは美味で……う〜む」ムグムグ

ウルト「あらあらうふふ。楽しい食事ですね」モグモグ

カミュ「うん! お友達と一緒のご飯って、こんなに美味しいんだねっ!」


ムックル『ぐおっ♪』ムシャムシャ

ハクオロ「うおォン 私は…… あれ? 続きはなんだったか?」

   キョロ キョロ

エルルゥ「そういえばゴローさんは?」


233 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/20(金) 21:26:56.14 ID:8OKa2LsSO
 ――

 〜 庭のどこか・木々の影 〜

   ジュー…


 だいぶ熱くなったな。


ゴロー「向こうが楽しんでるうちに…」


 氷を使ってなんとか運んできた内臓系を……


   ジュー ジュー…

ゴロー「一人用の鉄板も作って貰って正解だった」

   「いただきます」


   ぱくり むしゃ…

ゴロー「くーっ これですよ」


 ぷにっとした柔らかさ、これがクセになるなぁ。


   もぐ もぐ…

ゴロー「よく焼かないと腹に良くないから…」パクリ

   「う〜ん うまい。焼肉は一人で忙しく食うのが最高だ」


   はぐ はぐ

ゴロー「米はなくてもモロロで……」


   むしゃり…

ゴロー「うん、合う合う。これなら大丈夫」


   ジューゥ……

 適当に追加しながら焼いて……
 本当はタレがあると嬉しいのに。
 ちょっとこの味噌だと味に深みがないんだ。


ゴロー「おっと、野菜が焦げたか…… どうも苦手だ」

   「失敗の味はほろ苦い」


   ジュー… むしゃ もぐ…

ゴロー(うおォン 俺はまるで人間火力発電所だ)


第八話「トゥスクル國皇城の焼き肉」


 続く!
234 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/20(金) 21:29:12.74 ID:8OKa2LsSO
投下完了。
うたわれるもの再構成クロスSSだけど、
第八話は焼肉回にピッタリ。
では失礼します。
235 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/07/20(金) 21:55:48.02 ID:vXkcEvZAo
236 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/07/20(金) 21:55:53.33 ID:jLjuvTLk0
乙!
237 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/07/21(土) 19:19:41.08 ID:EVvCEvsmo
238 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/07/25(水) 00:59:23.79 ID:9Qq132Wuo
ドラマでは8話が焼き肉回だったからか
239 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/25(水) 08:22:41.69 ID:s1xojDNSO
いいぞその調子だ
240 : ◆M6R0eWkIpk [saga sage]:2012/07/25(水) 22:28:19.54 ID:kqmGZWQSO

第九話「トゥスクル國 南の集落の卵かけモロロ」


 オンカミヤムカイの皆さんとの楽しい時間も終わり、彼女達は帰って行った。

 ウルトリィさんから聞いた話だが……
 トゥスクル國は今のところ、平和で暮らしやすい國となっているそうだ。


ゴロー「出張で地方の集落を見て廻る仕事はいい。
    なんとなく、俺らしい気がするぞ……」


 そんな國で俺は『薬師』兼『農耕指導者』の仕事に就いている。
 各地の集落にハクオロの言う『肥料』の作り方を教え、
 村人の生活を改善・安定させるという仕事だ。
 城中での勤務に飽きていた俺にピッタリ。


ゴロー「次に行く村は…… おっ、あの味噌っぽい物を作っているのか」


 特産品がある集落なら、あまり俺の仕事もないかも……


ゴロー「……そうだ。あの味噌(?)、なんで味に深みがないんだろう」


 俺の知る限りでエルルゥさんに味噌(?)を使った料理を教えたが……
 どうしてか味がイマイチで……
 作っている所に行きたかったんだよ。


ゴロー「理由がわかるといいが……」

241 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/07/25(水) 22:30:40.77 ID:kqmGZWQSO
  ……

 目的の集落に到着した。しかし、村人から不思議な目で見られてしまう。


ゴロー「皆さん、こんにちはー」ペコリ


村人A「あんの服なんだべぇ?」

村人B「都で流行っとるんだべか」

   ザワザワ…


ゴロー(うーん… スーツは受けが悪いな…)


 着替えるべきだったろうか?
 仕事といったらスーツのような気がしてたんだけどな。


ゴロー「私は皇城から参りましたゴローと申します」ペコリ

   「作物がよく採れるようになる薬の作り方を広めております」


村人B「うつの村はモロロがあんま採れねっけんども…」

村人C「もっと採れるようになるべか?」

ゴロー「ええ。詳しい話をするので村長様にお会いしたいのですが…」

村人A「んだばオラが案内すべぇ。どんぞ、コッチだす」

   スタ スタ…


 ちょっと方言がキツイけど……
 友好的な村で良かった。

 一応 戦乱時の同盟集落にお邪魔してはいるが、
 余所者が嫌いな集落もあるだろう。
 その点、今日は幸運だった。

242 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/07/25(水) 22:35:10.49 ID:kqmGZWQSO
  ……


村長「ほーぉ、遠いトコからわざわざご苦労さんだす」

ゴロー「はじめまして、ゴローと申します」ペコリ


 村長との話し合い。
 家の周りを村人が囲んでいる。
 無理もない。怪しい男だし。


ゴロー「こちらが……皇(オゥルォ)からの委任状です」スゥッ

村長「……たすかに。ご用件はなんですたかね?」

ゴロー「薬を作って畑を良くするのが目的です。
    少し畑を見たいのですが……」


村長「そんの薬というのはオラ達で作れるんけ?」

ゴロー「はい。私は作り方を教えに来たので」

村長「おー! そかそか! イヤ、うつの村さ『ケラトゥ』作っとるで
   けぅ(食う)モロロがあんまなかったでよぉ。えがった」


ゴロー「『ケラトゥ』?」

村長「土みてえで汁にいれっぺ! 皇様にだすとっただよぉ」

ゴロー「あ、はい。いただきました」


 『ケラトゥ』…多分味噌の事かな。
 そんな名前だったのか。

 この村はモロロの代わりに、豆類を主食にしてきたのかもしれない。


村長「んだば畑を見せっぺ。ゴローゆったかオメさん」

ゴロー「はい」

村長「あっこ(あそこ)に居るワシの孫娘に案内させっからぁ」


 村長が近くに居た年頃の女性を指差す。


ゴロー「よろしくお願いします」

孫娘「へい、頼んますだぁ。どんぞ外へ」

243 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/07/25(水) 22:37:54.80 ID:kqmGZWQSO
  ……

 畑を見せて貰い、肥料の材料を村から集めるよう
 細かく指示を出していった。

 モロロは育ちが早いから栄養たっぷりの土に
 苗を植えれば数日で収穫出来る。
 ヤマユラでもそうだったし、モロロって不思議な食べ物だ。


ゴロー「あとは…『ケラトゥ』を作っている所がみたいな」

孫娘「そぉれはちょっと無理だぁ、お爺の許しがいるぅ」


 となると日も沈んできたから……今日の仕事、ここまでか。


ゴロー「そうですか。じゃあ今日はこのへんで…
    どこか泊めてくれる家はありませんか?」


孫娘「ほぅならオラん家はどうだべ? お爺とも話せっぺよ」

ゴロー「ありがとうございます」ペコリ


 ……田舎に泊まろう。何故かそんな言葉が浮かんだ。

244 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/07/25(水) 22:40:13.29 ID:kqmGZWQSO
  ――

一方、同日……


  〜 皇城 〜


ハクオロ「『シケリペチム』から使者?」

ベナウィ「はい。……ほぼ小規模な軍団と言えますが」

ハクオロ「……」

    「何にせよ使者だ。まずは丁重に対応する」


ハクオロ「他の者達へも通達を頼む」

ベナウィ「はっ!」


  ……


『シケリペチム』とは
皇の武力を用いて周辺地域をまとめあげた、三大強國の名だ。

強大な力を有する大軍隊で敵集落や國を蹂躙し、領土を増やしている。

『トゥスクル』から南西に位置する國であり、
『とある地図』ではほぼ中央部に位置している。


「聞けィ! 我等がシケリペチムの天子たる『ニウェ』の御言葉である!」

「これよりこの地は、天子ニウェが統括する事となった!」

「天子ニウェに従い、絶対の忠誠を誓えぇい!」


245 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/07/25(水) 22:42:14.55 ID:kqmGZWQSO

そんな國の使者からもたらされたのは、一方的な従属要求。


ハクオロ「……御言葉、確かに頂戴つかまつりました」

    「私どもは天子たるニウェに刃向かうほど愚かではありません」


ハクオロ「従えと仰るのなら従いましょう。
     ですが…急な話ですので、詳しい話はまた後日と言う事で」


ハクオロ「本日は宴でも楽しんでいって下さい」ペコリ


ハクオロ皇を臆病者と言う者もいるかも知れない。
しかし相手は軍団を率いているとはいえ、
仮にも使者なのである。丁重に扱うのは当然。

そしてシケリペチムは軍事強國。
下手に怒らせては國が危ない……
この対応は正しい判断であった。

後にハクオロは、シケリペチムがトゥスクルの『三倍』の國土と
『十倍』の兵力を有する危険な國であると知る。

そんな國と戦うほど、トゥスクルの力は回復していない。

再び高まる戦の気運。
平和な日常が少しずつ壊されていく……

246 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/07/25(水) 22:45:52.43 ID:kqmGZWQSO
 ――

  翌朝…

  チュン チュン…

 煙管を吸いながら隣に視線をずらす……


孫娘(姿は想像に任せる)「ゴローさぁん///」ムニャムニャ


ゴロー(あー…いかんなぁ…いかんいかん)フゥー


 昨晩はつい……
 結婚(ウソだけど)してるって言ったんだが…


ゴロー「とりあえず味噌っぽい物を作ってる蔵は見れるからいいか」


 村長が交換条件でこうするように言ったんだしな。


ゴロー「それにしても…… なんであんな事を言ったんだ?」


 俺が知らない事は多いのかもしれん。


孫娘「///」ZZ…

  ……

 〜 蔵の中 〜

ゴロー「おお、これは味噌だ!」


 ちゃんと大きい桶にいれていて……
 本格的じゃないか。


ゴロー「見た感じ、俺の知っている味噌の作り方と変わらないようだ……」


 じゃあ、何故あんな味に?


孫娘「ゴローさぁん、そろそろ献上用のを出すます〜」

ゴロー「どれ…… んんっ?」

   「あの…なんでこれを混ぜないんですか?」


 桶の中を見ると、『黒い液体』が残っていた。


蔵の人「こんな黒くて汚ねぇ水なんだぁ。混ぜるわけねぇべ」

ゴロー「えっと……これは『たまり醤油』と言いまして……」


 あれ…今 俺なんて言ったっけ。


ゴロー「…………あ 『醤油』発見!!」

孫娘「??」キョトン

247 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/07/25(水) 22:48:37.63 ID:kqmGZWQSO
  ……

孫娘「その黒い水、何に使うんだぁ?」

ゴロー「これを薄めてちょうどいい味にして…」ブツブツ


 ここにもあのニワトリみたいな鳥がいるから…


ゴロー「今日の昼飯は……絶対大盛りで食おう」ジュルリ

 ……

 【卵かけモロロ】(オリジナル)

いつものやや粗めに潰したモロロ(お椀にいれてある)に
『醤油』と『卵』をかけてみた。単純だけど旨い。


ゴロー「いただきます」

   はぐっ もぐ…

ゴロー「……これだあ。この味!」


 食えないと思っていた物に出会えた。

   むしゃ むしゃ…

ゴロー「卵が濃厚で…… 旨いぞ」


 まさか『醤油』を捨てていたとは。
 たまり醤油だから厳密には違うが。


ゴロー「でもやっぱり、醤油は醤油だよな、うん」


 これがないなんて生活、俺には考えられん。


孫娘「こりゃうんめぇ!」
   もぐ もぐ…

村長「ほうじゃのう! あの黒い水がええ味じゃ!」


 村の人にも好評。


ゴロー「この『醤油』の作り方も教えるので、ぜひやってみて下さい」


 簡単に作り方を教える。
 材料は『ケラトゥ』と同じで、桶に入れるタイミングが違うだけだ。


村長「わかった。作ってみんべ」コクン

ゴロー「代わりと言っちゃなんですが、
    私の水瓶の中に醤油を入れて貰えませんか」


 せっかくだし、城に持ち帰ってやりたい。


ゴロー「皇に新しい特産品として売り込みをしたいのですが
    勿論代金は払いますので……」

村長「よかよか、持っていってええぞぅ」


 瓶三つ分くらいは貰っていこう。


ゴロー「ありがとうございます」ペコリ

248 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/07/25(水) 22:57:09.53 ID:kqmGZWQSO
 ――

 〜 シケリペチム・皇城 〜

城の調練場で隊列を組んだ多くの兵士達が訓練をしている。

一糸乱れず木刀を振るう様は、兵の練度の高さを示している。



……城の内部ではトゥスクルから帰って来た
三人の使者による報告が始められていた。


「トゥスクルという國、通ってきた関の様子から見て、
 少数の兵が各地に分散しているもようです」

「皇(オゥルォ)に交戦の意思は無く、簡単に従属させられる事でしょう」


「張り合いもない」


「ハッハッハ! …あの皇(オゥルォ)は腰抜けだったなぁ!」

「わしらが何を言っても怒りもせず、宴まで開いてくれおったわ」


三人の使者がそれぞれ感じた事を述べあう。


 「うつけどもがぁ……」


御簾の向こう側から声が響く。


 「それだけ虚仮にしても尻尾を見せぬか……
  中々面白い男のようだな、その『ハクオロ』とやらは」

 「だが飼い慣らせぬ犬はこの『ニウェ』に必要ない」


御簾の先にいる、赤い鎧を着た男……
白い髭をたくわえている年齢にも関わらず、
その身体の気に衰えは感じない。
この者こそ『シケリペチム』の皇、『ニウェ』である。


ニウェ「ならば精々楽しませて貰うとしよう…」ニヤリ


凶悪な武力がトゥスクルに目をつけてしまった。


ニウェ「兵どもに伝えよ! 出陣じゃあ!!」


「「「ハハッ!」」」

249 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/07/25(水) 23:00:54.02 ID:kqmGZWQSO
  ……

クロウ「報告しやす! ウパッコの関がシケリペチムの襲撃を受け、陥落!」

   「明日にはシシハル藩への進攻が予想されやす」


トゥスクル國に凶報がもたらされた。


ハクオロ「……そうか。皆を招集してくれ」

ベナウィ「承知しました」サッ

  ……

招集された者達で國内の地図を眺める。
敵軍に対する策を練らねばならない。


オボロ「…防人に出している連中を全て呼び戻したらどうだ?」


トゥスクル國となり、歩兵衆(クリリャライ)隊長
兼侍大将となったオボロが考えを言う。


ベナウィ「國境の隊を移動させれば… シケリペチムの進攻に乗じて
     更に他の國からも攻め込まれる恐れがあります」


文官達にもどよめきが走る。


だが皇は動じない。彼には『策』があるようだ……


ハクオロ「シシハル・キヌハンの防人へ通達。
     各陣を放棄し、撤退。後方のホゥホロ城へ集結させよ」

ハクオロ「ベナウィ、ホゥホロ城に防御陣を敷く。
     三日間だけでいい、何があっても死守させよ」

ベナウィ「はっ!」

オボロ「兄者、俺は……」

ハクオロ「お前には特別にやって貰いたい事がある」

オボロ「おう!」

  ……

その日の夕刻、ハクオロはあの商人に仕事を依頼する。

ハクオロ「……以上の物を用意してくれ」

チキナロ「ウーン… 明日の夕刻まででしたら…」

ハクオロ「明朝までだ。それ以上は待てない」

チキナロ「……やれやれ。承知いたしました」サッ


この二人のやり取りを建物の陰から聞く者がいた。


エルルゥ「……」


彼女は用意させる物を知っていた。
ただ具体的な事は知らない。
今は亡き祖母から聞いた事のあった混ぜ合わせ。
それに使われる品物をハクオロは頼んでいた。


エルルゥ「ハクオロさん…… いったい何を……」


 ――
250 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/07/25(水) 23:04:55.26 ID:kqmGZWQSO

「どうした、エルルゥ?」


「また……戦が…始まるんですか……」


「……ああ」


「さっきチキナロさんに頼んでた薬って…」


「……聞いていたのか」


「昔 おばあちゃんから聞いた事があります。
 あれには『禁忌』とされた混ぜ合わせがあるんです」


「……エルルゥはその理由を知っているのか」


「理由は教えてくれなかったけど……
 おばあちゃん、『絶対に混ぜちゃいけない』って。
 きっと何かよくない事が起きるんだと思います…」


「そうか」


「ハクオロさんは知ってるんですか……」


「それは…… エルルゥには知る必要のない事だ」


「…………」


  …………
251 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/07/25(水) 23:07:22.06 ID:kqmGZWQSO
 ――

ハクオロ皇の命令通り、キヌハン城は無傷で放棄された。


「中には誰も居りません!」


探りに行かせたシケリペチム兵が叫ぶ。


「我らに恐れをなして、尻尾をまいて逃げ出しおったわ!」


「「ハハハハ」」


兵士達が嘲笑う。


「警備の為の一部の兵を残し、先に進む!」

「ここは蔵として使うぞ! 荷を運び込め!」


シケリペチムの兵達は、この城を倉庫代わりに使うようである。


「これでだいぶ楽に戦えよう」


「ヒヒヒッ…」


「やはり、最高だな。弱者を踏みにじる快感はぁ」


強者は弱者を喰らい、好きにする……
國と國との争いの絶えない……
この世界で唯一つの真理だった。

252 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/07/25(水) 23:10:43.13 ID:kqmGZWQSO
  ……

騎兵が二人、森を進む。
ベナウィとクロウ、いつものコンビである。


  ザッ ザッ ザッ…

クロウ「せっかくの城を無抵抗で明け渡すなんて
    うちの総大将は何を考えてんすかねぇ」


ベナウィ「いずれにせよ、キヌハン城では敵の攻撃に持ちこたえられません」

クロウ「それにしたって…… 無傷で敵にくれてやるってのは
    どうぞお使い下さいってモンじゃないっすか」


ベナウィ「……それが狙いかもしれません」


ほんの少しだけ、彼は笑みを浮かべた。


クロウ「はぁーん… ま、何をするかまではわかりやせんがね」

ベナウィ「見えてきました、ホゥホロ城です」

クロウ「ヒュー♪ こいつぁ凄え。堅そうな城塞っすね」


岩と石で出来た堅固な壁。
この壁が四方を囲む高台に、目当てのホゥホロ城はある。


ベナウィ「はい、ここなら防衛戦に適しています」

クロウ「えーっと、確か弓衆は……あの双子か指揮するんすか」

ベナウィ「いえ、私が指揮します。ドリィとグラァはオボロと共に」

クロウ「総大将の任務ねぇ……」

253 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/07/25(水) 23:13:53.81 ID:kqmGZWQSO
 ――

ハクオロ「この作戦はお前達にかかっている」


オボロ「任せておけ!」

ドリィ・グラァ「「はい、兄者様!」」


ハクオロがこの三人を選んだ理由……
それは彼らが『義賊』であった事と関係がある。

この三人は体躯も比較的小柄であり、腕も立つ。
ハクオロの『策』の遂行に最も適していたのだ。

三人が部屋を出た後、人払いをさせ、ハクオロは『ある薬』を作り始めた。


ハクオロ「……やるか」

  ――

ゴロー「敵が攻めて来た?」

村人C「んだんだ。コッチには来てねぇけんど、こっから西は危ねぇ」

村人A「キヌハンの辺りを根城にして、ホゥホロ城を襲ってるそうだす」


 俺は村の寄合に混ぜて貰い、話を聞く。


村長「ここも危ねぇかもしんねぇ。皆、どうするべぇ」

村人D「この村はオラ達の村だぁ、ここを離れても暮らせるかわかんね」

村人B「そんだなぁ…… でも逃げれば、また村は作れるべさ」

   ワイワイ ガヤガヤ…

ゴロー「…………」

村長「ゴロー殿は、どうすっか? 今から都に帰っても危ねぇだよ」

ゴロー「……私は、一度いくさ場に向かいます」


 ハクオロ達が居るかもしれない。少し心配だ。


村長「……わがった。気をつけてくんなぁ」

ゴロー「はい…… ありがとうございました」ペコリ

254 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/07/25(水) 23:17:21.36 ID:kqmGZWQSO
  ……

ゴロー「荷物は…仕方ない、置いていこう」


 ウォプタルで集落を出る準備をする。


孫娘「ゴローさん…… どうしても行くんだべか…」


 厩に村長の孫娘がやって来た。


ゴロー「ああ、無事だったら戻ってくる。醤油を取りに」

孫娘「そうかぁ、じゃあオラは待ってるよぉ」ニコリ

ゴロー「じゃあな」ヒラリ


 ウォプタルに乗り、馬屋を出る。


孫娘「ここ出て、少し森をいくと、キヌハンが見えっ高台につくからぁ〜」

ゴロー「わかった。ありがとう」

  ダッ ダッ ダッ…


 ――

ハクオロ「では行ってくる。二人とも留守を頼むぞ」

アルルゥ「アルルゥもいくっ!」

ハクオロ「駄目だ。留守番をしていてくれ」ナデナデ

アルルゥ「ん……」

エルルゥ「ハクオロさん…… 気をつけて…帰って来てくださいね」

ハクオロ「ああ」ニコッ


……二人の男は時を同じくして出発した。

255 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/07/25(水) 23:21:34.16 ID:kqmGZWQSO
 ――

日が落ちた。戦の時が来たようである。

  ザッ ザッ ザッ…


ベナウィ「敵は此方の五倍以上の兵……ですか」

クロウ「城の上から見ると嬉しくねぇ事もわかりやすね」


城の正面に次々と集まるシケリペチム軍。
歩兵を中心とした編成ではあるが、
この世界において、数に勝る力はほとんどない。
普通に戦うならば間違いなく、敗北だろう。


ベナウィ「弓衆、戦闘準備。クロウは正門へ回りなさい」

クロウ「ういっす!」


信じるしかない。
自分達の皇、ハクオロを。

 ――

同時刻… キヌハン城


「見張りは二人… 同時に仕留めろ」

「「はい…」」 キリリ…


    ピシュン!

敵兵「「ぐぁ……」」


見張り台の兵達が同時に沈黙する。


オボロ「よし、侵入するぞ」

ドリィ・グラァ「「はい」」


鉤縄を木の城壁にひっかけ、三人はキヌハン城に潜り込んだ。


オボロ「お前達はこの通路を、俺は蔵に向かう」タッ


戦いの鍵を握る任務。
この三人の働きにこの戦の全てがかかっている。

256 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/07/25(水) 23:27:10.02 ID:kqmGZWQSO
 ――


   ピシッ

エルルゥ「あっ……」


『嫌な予感』、多くの者が感じる不穏な空気。
自分の使っていた椀が、突然ひび割れる……
このような事から人は負の想像を働かせてしまうものだ。


エルルゥ「…………」


   ガラッ タッ タッ タッ…


ほんの些細な事と思う。よくある事かもしれない。

しかし、彼女は走り出した。


アルルゥ「……ムックル!」

ムックル『グオッ!』

   ダッ ダッ…

少女もそんな姉の姿を見て、森の主と駆ける。


アルルゥ「おねーちゃん! 乗るっ!」スッ

エルルゥ「アルルゥ!」グッ


姉妹が白虎の背に乗る。
白虎の動きは二人の重さを感じさせない力強さであった。

ただ一人の男のもとへ、姉妹と一匹は駆ける。
257 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/07/25(水) 23:29:44.25 ID:kqmGZWQSO
  ――

 〜 キヌハン城付近の高い崖 〜


ハクオロ「…………」


 オボロ達は上手くやったか……
 ならば、そろそろ頃合いだ。


エルルゥ「ハクオロさん!」

アルルゥ「おとーさん……」

ムックル『ぐおおっ…』


ハクオロ「お前達、何故ここに……」

エルルゥ「私、不安なんです……」

    「ハクオロさんが禁忌を犯してまでする事って…… なんなんですか」


ハクオロ「……人が生きていく為に必要な物はなんだと思う?」

エルルゥ・アルルゥ「「えっ?」」


アルルゥ「……あ、ごはん!」 「メシ!」


一同「「「んっ?」」」


ゴロー「皆さんお揃いで……」

ハクオロ「ゴローさん! ……そうか、この辺りに来ていたのか」

ゴロー「……話を続けろ。俺はわかるから、二人にわかりやすくな」


ハクオロ「……食糧・水・空気。この一つでも欠けたら、
     人は生きていく事が出来ないんだ」

    「人の集まりである『軍勢』では、特に食糧の調達が死活問題となる」


エルルゥ「ハクオロさん……?」

ゴロー(……あとでアームロック確定)

258 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/07/25(水) 23:34:51.42 ID:kqmGZWQSO

ハクオロ「……これが、『禁忌』の答えだ」


  カッ ピキーン チュドォォーン ドォン ボッ ボボーン


 放棄された城が一瞬輝き、炎上した。


エルルゥ「な、なにが……!」


 爆発…… 火薬の類いかな。いや、もっと酷い有り様だし、
 ニトロみたいな物だろうか……


ゴロー「だから『禁忌』か。聞いてはいたが…」

ハクオロ「後は残った敵の輸送隊を殲滅すれば…… 我らの勝ちだ」

    「あの炎の下では、何百という兵が犠牲になっただろう」


ハクオロ「だが二人にはそれを…… 知らないままでいて欲しかった」

エルルゥ・アルルゥ「「……」」


ゴロー(……俺は良いのか)

  ――

各々の戦場に、禁忌の余波が伝わっていく。


「何っ! 退却の合図だと!」

「チッ、命拾いしたな」

「くうっ…」

   ダッ…

クロウ「へっ、こっちの台詞だぜ。大将と俺に手も足も出てなかったじゃねぇか」

ベナウィ「止めなさいクロウ。本当の事ではありますが」

    「聖上の策が上手くいったようで、何よりです」


クロウ「これで敵もしばらく来ないでくれりゃいいんすけどねぇ」

ベナウィ「詳しい話はまた後で聞きましょう。今は兵の収容を」

クロウ「わかりやした!」ダッ

  ――

オボロ「おいおい、これは凄いな……」

ドリィ「あの瓶の中身って……」

グラァ「あんなに危ない物だったんだ…」

オボロ「だからこそ、俺達だったんだろう。元盗賊で荷の扱いに長けた…な」

ドリィ・グラァ「「はいっ!」」

オボロ(……俺達が要らないとかじゃないよな? 兄者……)

259 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/07/25(水) 23:36:57.79 ID:kqmGZWQSO
 ――

ハクオロ(違うぞ、オボロ。お前達ならやってくれると思ったからだ)

エルルゥ「ハクオロさん?」

ハクオロ「す、すまない。変な電波を受け取ったんだ」

    「では、私は行く。ゴローさんはここで二人を頼みます」


ゴロー「……わかった」


エルルゥ「待ってください!」

    「ハクオロさんは知って欲しくなかったかもしれません……
     でも私は…知っていたい! ハクオロさんの事…なんでも……」


エルルゥ「だって……私達は家族なんです!!」

    「家族は…その喜びも苦しみも分かちあうものなんです!」


エルルゥ「家族はいつも一緒なんです!!」


ハクオロ「……後悔、しないな」


エルルゥ「はい」 アルルゥ「うん」


ゴロー(俺には聞かないのか……)

260 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/07/25(水) 23:39:16.20 ID:kqmGZWQSO
 ――

 ……キヌハンでの戦いは一方的なものだった。

 荷を運び出す敵軍に兵を差し向け、次々と倒していく……


ハクオロ「終わったか」

ゴロー「……」

オボロ「兄者!」タッ


ハクオロ「オボロか。ご苦労」

    「これでこの戦いも……」



 「くぁっ かっかっかっかっ…………」



 炎が上がる城の中、まだ火の手がない辺りから笑い声が聞こえた。


ニウェ「はぁぁっ!」ダッ!


 なんだなんだ、爺さんがウォプタルに乗って此方に突っ込んで来たぞ!


ハクオロ「!?」

オボロ「何者だ!」サッ

ニウェ「どけぇ! 小童(こわっぱ)ぁ!」

   ガッ ドカッ!

オボロ「ぐわっ!」ズザッ

ゴロー「オボロ! ……いかん!」


 指輪の力を使う。

261 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/07/25(水) 23:44:10.14 ID:kqmGZWQSO

 爺さんとウォプタルの身体を法術の炎が包む。

ニウェ「カッカッカッ! よい加減の火ではないか!」パァン

ゴロー「き、効かないだと……」


 悶えるウォプタルを置いて、ハクオロに攻撃を…
 あの武器は…青龍偃月刀のようだ……
 リーチが長いから下手に動けん。


ハクオロ「くっ……」スチャッ

   キィン! ググッ…

ニウェ「その程度かぁ? もっと余を楽しませるのではないのか!」

ハクオロ「キサマ……まさか『ニウェ』か!」

ニウェ「そうよ…シケリペチム皇『ニウェ』よ……」
   バッ

ニウェ「そのほうか、ハクオロという者はァ!」

   「陣ごと糧を焼き払う…… 平然とこのような策を使うとはなぁ」ニヤリ


ハクオロ「……」

ゴロー「ハクオロ! 上だ!」

ハクオロ「!」サッ ニウェ「むぅ!」サッ


 燃え盛る城から大きな破片が落ちてきた。
 どちらも回避したが、破片により二人の皇は隔てられてしまう。


ニウェ「……ハクオロ! また会おうぞ!」ザッ


 ……あの爺さん、言うだけ言ってとっとと去りやがった。


ハクオロ「……」

ゴロー「ハクオロ。どうする?」

ハクオロ「……荷をまとめよ。我らも退く」

トゥスクル兵達「「はっ!」」

   ザッ ザッ ザッ…


エルルゥ「ハクオロさん……」

アルルゥ「おとーさん……」

ハクオロ「…………」



第九話「禁忌を犯す者」

 続く。
262 : ◆M6R0eWkIpk :2012/07/25(水) 23:47:30.09 ID:kqmGZWQSO
投下完了 >>240から今日の投下分

『ケラトゥ』は造語です。アイヌの『ケラ(味)』と『土(トゥトゥ)』の合体。

これからは漢字の「味噌」として表記します。

ではまた次回に。
263 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/26(木) 00:40:07.00 ID:Q067q0uSO
264 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/07/26(木) 00:48:07.84 ID:1ZQxd7Fxo
265 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/07/26(木) 02:03:57.95 ID:MmSg3mpxo
266 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/07/26(木) 07:35:41.32 ID:nvxla5Bb0
今更なんだがネゥって何?
267 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/26(木) 18:22:50.62 ID:AQ6CNXySO
>>266
正しくは『ネウ』、大文字でした。申し訳ない。
原作では詳しい描写がありませんが、
おそらく牛・山羊の類いと思われます。
268 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/07/26(木) 19:41:09.67 ID:GbxmPJeh0
>>267

へー ありがとう
269 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山形県) [sage]:2012/07/27(金) 13:11:13.59 ID:MCq8j2JMo
ゴローさん ゆうべはおたのしみでしたね
270 : ◆M6R0eWkIpk [saga]:2012/07/28(土) 22:41:25.08 ID:xEQrYAqSO
PSP版「うたわれるもの」を買ってきて今日やっとクリアしました。

午前1時までには投下します。
271 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/07/28(土) 22:42:46.64 ID:SeS8HFEz0
やってなかったのか
272 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/28(土) 22:44:31.30 ID:xEQrYAqSO
>>271
PS2は持っていまして、
寝転がりながらやりたくなったのです。
273 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/07/29(日) 00:29:43.42 ID:hep8fQpSO
第十話「新たなる好敵手」

  ビュオオ… ビュウウウ…


嵐の中を船が進む。


「まったく…酷え嵐だぜ」

「船は大丈夫か?」

「……わからん。ケナシコウルペに着けば……」

「あそこに入っちまえば、関に多く金をだして國まで行けるが…」

「はぁ……正直、貧乏くじだよ。奴隷(ケナム)を連れてくるなんて…」

「知らねぇ土地に行って拐うからな。コッチも命かかってんのがな……」

「そういや…あの牢の一番奥の女、エライ美人じゃねーか?」

「止めとけ、あれは危ない。つまみ食いなんてできねーよ…」

「オメー、どうしたよ? いつもなら……」

「……アイツ、戦場で見つかったらしいけど、
 倒れそうなあの女の周りに何十もの死体があったんだと…」


「……だからあんな厳重に」

「下手すりゃちょん切られちまう……」


  ザッパーン! ビシビシッ!


「おい……」「今のは……」


「船が壊れたっ! 全員降りる準備だっ!」


「……だけど運がいいぜ、陸が近え」

「ふぃ〜 やっぱ命が大事だもんなぁ〜」

「儲けはねぇから船長、カンカンだろーがな」

「ハハハ、違えねぇ」


彼らは知らなかった。
この船から降りたその時に、自分達の命の火が消え去る事を……


?「…………」ジャラン

 「ハアアアアアアッ!!」


   バキッ! バキッ!


鉄鎖の縛りなど、目覚めた彼女に何の意味もない。


?「……これは着けておきましょうか」


首に鉄輪をつけたまま、彼女は動き出した。
274 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/07/29(日) 00:34:18.31 ID:hep8fQpSO
 ――

 〜 トゥスクル皇城 〜


ハクオロの書斎…
そこはトゥスクルの政務の中心。
なのに何故か皇の他にも誰かがよく居る空間である。

今日はハクオロ・エルルゥ・ベナウィが
茶をすすりながら仕事をしていた。


ベナウィ「シロトゥクの海岸付近に船が座礁していました。
     おそらく嵐に流され暗礁に乗り上げてしまったものと思われます」


酷い嵐による國内の被害報告に混じり、その報告が皇に届く。


ベナウィ「ただ その船、少々厄介な問題が。報告による外見からして、
     おそらくその船は『ナ・トゥンク』のものと見て間違いありません」


ハクオロ「ナ・トゥンク? まさか……」

ベナウィ「はい、奴隷船と思われます」

エルルゥ「……酷い」


奴隷売買…… それは名目上、行ってはならない事。

しかし『ナ・トゥンク』という國は違う。
トゥスクルの南方に位置するこの國は、
未だ奴隷売買を事業としているのだ。

勿論、表立ってはしていない。
けれども悪名は『噂』として様々な地域に伝わっている。

275 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/07/29(日) 00:37:28.24 ID:hep8fQpSO

ハクオロ「詳しい話を聞きたい」

ベナウィ「オボロとクロウを調べに向かわせております。
     もうじき、戻るかと」


ハクオロ「わかった。……ところでゴローさんはどこへ?」

ベナウィ「彼は被害の酷い北部集落へ赴きました。
     報告をまとめて戻ってくるでしょう」


ハクオロ「そうか、ご苦労だった」グイッ

エルルゥ「あ、お茶のおかわりをお持ちしましょうか」

   ガラッ… ドスドス…

オボロ「兄者ぁぁ!」  クロウ「総大将!」


ハクオロ「のわっ! なんだお前達か」

オボロ・クロウ「「報告だ(っす)!!」」

オボロ「どけっ! 俺が報告する!」

クロウ「五月蝿え! 鶏ガラ野郎が! 俺がすんだよ」

オボロ「なんだと! この鳥頭!」


ベナウィ「……二人とも、無駄に張り合わないでください」

エルルゥ「なんだか妙に仲がいいんですね」クスクス

ハクオロ「と、兎に角 報告を頼む」

クロウ「へい。やはり船はナ・トゥンクのもの。
    船内にいた奴隷(ケナム)は皆……」


ハクオロ「……うむ。舟人は?」

オボロ「陸には上がっていたが…… 全滅だった」

ベナウィ「どういう……?」

クロウ「よくわかりやせん。ただ…女がいまして」

ハクオロ「女? 舟人の中に女性がいたのか」

オボロ「違う、奴隷だ。首に鉄輪をつけられていた」

ベナウィ「……その者が舟人を全て殺したと?」



?「当然の報いですわ。あの人達、鎖に繋がれた私達を誰一人助けようとせず、
 さっさと自分達だけで逃げ出すんですもの」


一同「「「!!」」」

276 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/07/29(日) 00:41:08.63 ID:hep8fQpSO

女が居た。上半身に赤い衣、

下半身は太股を露出する短い腰巻き。

身体の線も美しく、引き締まった筋肉を服の上からでも確認出来る。

ただ異様なのは鉄の首輪……

これが彼女は奴隷(ケナム)と、はっきり主張していた。


オボロ「キサマッ! いつの間に!」


カルラ「きさま…とはご挨拶ですわね。
    わたしにも『カルラ』という名がありますの」スタスタ


クロウ「衛士はどうしたぁ?」


カルラ「ああ… あの人達ならお昼寝中ですわ」


クロウ「あいつらを…… へぇ、やるねぇ」ニヤッ

オボロ「そうやって舟人達もっ!」チャキン


カルラ「しつこい男は嫌われますわよ。言ったでしょう、『当然の報い』と」


ハクオロ「オボロ、待て」


カルラ「あなたがこの國の皇(オゥルォ)様かしら?
    ……それでわたしはどうなりますの?」

   「ナ・トゥンクに引き渡すのかしら? それともここで切り……」


   ダッ…

ゴロー「ハクオロ! そろそろ休み寄越せぇぇ!! ……うん?」

   シーン…


277 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/07/29(日) 00:44:12.90 ID:hep8fQpSO

 あれ、なんだこの空気。


ハクオロ「ゴローさん…… この雰囲気、見事に壊しましたね……」


その他一同「「「……」」」


 あれ、何か失敗したかな。
 俺が喋ると空気の流れが止まってしまうようで ちょっとツラい。

 おお、でも……


ゴロー「……見たことない人がいる。凄い胸だ」

エルルゥ「……思った事が声に出てます」

ゴロー「 え 」

カルラ「フフッ… 面白い方がいらっしゃいますのね」クスクス


ハクオロ「いや、まぁ… 貴女の処遇だが、そう結論を焦る事はない」ゴホン

    「まずは傷を癒すといい。エルルゥ、手当てを」


エルルゥ「はい。さあ、どうぞ」ニッコリ

カルラ「では失礼いたしますわ、皇様と愉快な仲間の皆様…」クスクス


   スタ スタ…


ベナウィ「……はぁ」

オボロ「大兄者ぁぁ!」

クロウ「俺らまで変なくくりにされちまったじゃねぇっすか!」

ゴロー「……すいませんでした」


ハクオロ(この様子を見たら、『愉快な仲間』というのもわかる……)


278 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/07/29(日) 00:47:49.25 ID:hep8fQpSO
 ――

 〜 地下牢 〜

エルルゥ「本当にごめんなさい。失礼な事を……後でちゃんと謝らせます」

カルラ「いえいえ、皆様の事が良くわかりましたわ」クスクス

外から見える部分の手当てをしながら、二人は会話をする。


エルルゥ「……この國に流れついてよかったですね。ハクオロさんなら
     カルラさんを引き渡したりしないと思いますから」


カルラ「好きなんですのね……あの皇(オゥルォ)様が」

エルルゥ「そ、そんな事ないです。皇はそういう人ですから」アセアセ

カルラ「フフッ 貴女、可愛らしいんですのね…」

エルルゥ「///」カアッ

    「ち、治療をしますので、服を脱いでください」


カルラ「そっちの趣味があるんですの…… 貴女みたいな方なら……」スッ

エルルゥ「ち、違います! 違います! ちがいまぁーす!!」

カルラ「あら、冗談ですわ。はい…」スウッ

エルルゥ「わぁ……」


彼女の身体には傷などない。
出るところは出て、細いところは細い。
筋肉もついた戦う者の美しい身体……
この身体がエルルゥの瞳に焼き付いただけだった。


カルラ「ご満足? もっと詳しく知りたいなら貴女もお脱ぎに……」

エルルゥ「え、あ、いや、その…く、薬を作ります!」


衛士(何故だ! 何故後ろを見ちゃいけないんだ!)


世の中の男性の代表として、衛士はそう思ってくれた。
279 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/07/29(日) 00:50:28.54 ID:hep8fQpSO
  ……

薬を作るエルルゥ、それをじっと待つカルラ。
二人の話は続く。


エルルゥ「カルラさんはどこの國の人なんですか?」
    「私はヤマユラの出です。この國の…ずっと端にある小さな集落…」


エルルゥ「何にもないけれど…… とってもいい所なんですよ」カチャカチャ

    「みんな…どうしてるかな……」


カルラ「貴女のような方が生まれ育った地なら……
    本当にいい所なんでしょうね」ボソッ


エルルゥ「? 何か言いましたか?」

カルラ「いいえ何も。國…そんなモノは忘れましたわ」


聞かれたくない事、そうなのだろう。
エルルゥは話題を変えてみる。


エルルゥ「……その鎖、外しましょうか?」

カルラ「鎖? ああ…」ジャラン

エルルゥ「ここはナ・トゥンクじゃないんですよ?」ニコッ

    「だから、そんな物は取っちゃいましょう!」


カルラ「……有難いのだけど、それは無理だと思いますわよ」

エルルゥ「そんなのやってみなくちゃわかりません!!」


カルラ「…………」

   「ありがとう、『エルルゥ』」


エルルゥ「へっ?」

カルラ「合ってますよね…… そのお気持ちだけで十分ですわ」ニコッ

280 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/07/29(日) 00:52:47.76 ID:hep8fQpSO
 ――

 数日後……

 〜 皇城・外 〜


 煙管を吸いながら、あの奇妙な女…『カルラ』について考える。


ゴロー「彼女を牢から出す…… ま、いいか」フゥー


 エルルゥさんの希望で、そう決まったらしい。


ゴロー「美人さんだったなァ……」


 ……正直、わりと好みだ。


アルルゥ「キャッホ〜ゥ!」ピコピコ…

ゴロー「お、アルルゥ。綺麗な花の首飾りだな。お姉ちゃんに作って貰ったか?」

アルルゥ「ううん。あのひと」スッ


 アルルゥの指の先にはエルルゥさんとカルラ、
 その二人が庭に座って喋っていた。


アルルゥ「ユズっち、つれてくる!」ピコピコ…

ゴロー「元気でなにより。……どれ」


 庭の二人に向かって、歩く。


エルルゥ「あ、ゴローさん」

カルラ「この間はどうも〜」ヒラヒラ

ゴロー「あの時はスイマセンね、お話の途中で」

カルラ「構いませんわ。大した話でもなかった事ですし」

ゴロー「ゴローと申します。よろしく」

カルラ「ご存じと思いますが、カルラです。コチラこそ」

エルルゥ「じゃあ、カルラさん。今晩 部屋にお酒をお届けしますね」

カルラ「なんでしたら今からでもよろしくてよ?」


 この人、酒飲みか……


エルルゥ「今からですか!? はぁ…じゃあ倉に行ってきます」スッ テクテク

281 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/07/29(日) 00:55:02.26 ID:hep8fQpSO

カルラ「貴方もどうです? ご一緒しません?」

ゴロー「私、酒がダメでして……」

カルラ「それは残念。無理強いはしませんけれど。
    飲めない方に飲ませるなら、わたしのお腹に入れた方がいいですもの」


 そうそう。楽しく飯を食ったり、酒を飲むなら構わないんだよ。

 ヘンに絡んできたりするのがいけない。
 そういう奴にはガシッといってやる。


カルラ「ところでゴロー、貴方は皇(オゥルォ)の親族か何か?」

ゴロー「……そんな所ですかね」

カルラ「声がよく似てますこと…… 皇様もお酒はダメなのかしら?」

ゴロー「いや、ハクオロは飲めますよ。そのうち誘ったらどうです?」

カルラ「そうですわね…… いいかもしれませんわぁ」ニッコリ


ゴロー(再び、好敵手出現。頑張れエルルゥさん)


   ドス ドス…


 ムックルに乗って、アルルゥとユズハちゃんがやって来た。


アルルゥ「このひとにもらった」スッ

ゴロー「アルルゥ、ちゃんと名前で呼びなさい」


アルルゥ「…カルラお姉ちゃん」

カルラ「いい子ですわね」ニコッ
282 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/07/29(日) 00:58:24.58 ID:hep8fQpSO

ユズハ「カルラさま、でよろしいでしょうか。ユズハと申します」ペコリ

カルラ「ご丁寧にありがとう、ユズハさん。
    あなたには花の冠を作りましょうか?」

ユズハ「わぁ……嬉しいです。お願いします」


 器用に冠を作るカルラさん。上手なモンだ。
 すぐに出来上がり、ユズハちゃんの頭にのせられる。


ユズハ「ありがとうございます……」

ゴロー「よかったな。似合う似合う」

アルルゥ「お〜〜〜」パチパチ


カルラ「えっと……そちらの翼の生えたお嬢さんも、かしら?」


 え?


カミュ「はいはーい! お願いしまっす♪」


 今、此処にはいないはずの人の声が……


ゴロー「か、カミュちゃん!? なんで此処に!」

カミュ「ゴローおじさま、アルちゃん・ユズっち! 久しぶり〜!」

アルルゥ「カミュち〜!」 ユズハ「カミュちゃん!」


カミュ「びっくりした? 國師(ヨモル)の補佐として帰って来ました〜!」

ゴロー「……皇への挨拶は?」

カミュ「あっ! 忘れてたぁ〜! 行かなきゃ……」

   「アルちゃん・ユズっち! また後でね〜」バサッ

   ヒュー…


ゴロー「なんだったんだ……」

カルラ「フフッ…ホント、愉快な所ですわ。退屈しないですみそう」クスクス


 ――
283 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/07/29(日) 01:00:48.23 ID:hep8fQpSO
  ――

ウルトリィ「國師(ヨモル)ウルトリィ。お招きにより、ここにまかり越しました」


カミュ「補佐となります、カミュでございます」


再びやって来たウルトリィ・カミュ・ムント。
正式に派遣された國師(ヨモル)として、
トゥスクルの皇(オゥルォ)への謁見が行われた。


ハクオロ「ああ、此方こそよろしく頼む」ペコリ

カミュ「じゃあ……カミュはこれでっ!」タッタッ…


 補佐って、肩書きだけか……
 実際は遊びに来ただけなんじゃあ……


ムント「ひーめーさーまぁー! お待ちくだされぇーー!!」ダダッ…

ハクオロ「相変わらずというか……」ハァ


 離れた所ではエルルゥさんとウルトリィさんが話をしている。


ウルト「エルルゥ様、またよろしくお願いいたします」ペコリ

エルルゥ「はい、こちらこそ」ニコッ

ゴロー(仲が良いな。でも…どんどん恋敵が増えてるぞ)


 そのうち修羅場が見られるかもしれん。

284 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/07/29(日) 01:05:25.80 ID:hep8fQpSO
 ――

 今日は話し合いが行われる。

 ベナウィ・クロウ・オボロ・ウルトリィ
 そしてハクオロ・カルラと俺。

 議題はこれからの事とカルラの処遇についてだ。


オボロ「あの女を正式に配下に加えるっ?」

ベナウィ「シケリペチムは今のところ、沈黙しています。
     ですが不穏な動きがあるのも事実。國師(ヨモル)を通じ、
     周辺國とも連絡を取っています」


ウルト「はい。現在、近隣諸國で同盟に向け交渉をしております」コクリ

ベナウィ「同時に万が一に備え、兵の増強も國としてせねばなりません」

クロウ「いいじゃねぇか、俺は賛成だ。腕も立ちそうだしな」

オボロ「……所詮は余所者。信用できん!」


カルラ「あら、わたしはそんな恩知らずじゃありませんわ」

   「こちらの皇(オゥルォ)には命を助けて貰いました」


カルラ「その恩返しくらいはさせていただきますわ」ニコリ

   「それに…わたし、こう見えて剣奴(ナクァン)でしたの。
    いくさ場では……役に立ちますわよ?」


ゴロー(剣奴(ナクァン)…闘技場で戦わされる奴隷か)

285 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/07/29(日) 01:08:24.95 ID:hep8fQpSO

ハクオロ「ではまず、その力を見せて貰おう」

オボロ「ならばっ、俺が相手を……」

クロウ「いや、俺にやらせて貰いやせんか?」


 おっ、この流れは。ならば……


ゴロー「ここは俺が……」

ベナウィ「いえ、私がお相手しましょう」

ゴロー(がーん だな……)


 この前の反省を生かして、場を和ませるために
 最近流行りのギャグ、頑張ってやってみたのになァ……

 ――

「数年前、まだ幼さの残る少女が闘覇者に君臨したそうです。
 ですが、あまりに強すぎた為に恐れられ、死組としていくさ場に送られた。
 しかし、少女は生き残り、今でも戦場を渡り歩いているという……
 その少女は絶滅したと言われる『ギリヤギナ族』の生き残り……
 という噂を以前、耳にした事がありました」


カルラ達が外に出た後、
皇(オゥルォ)と侍大将(オムツィケル)が会話する。


ハクオロ「……それがあの女ではないかと言うのか」

ベナウィ「はい。そうだとしたらオボロやクロウ、
     ゴローさんには荷が勝ちすぎるかと」


ハクオロ「確かに。ところで『ギリヤギナ』とはなんだ?」

ベナウィ「……その部族の者は生まれながらにして強靭な肉体を有し、
     全ての部族の中でも最強とも言われた種族……と」


ハクオロ「……あの三人、危なかったな」

ベナウィ「ええ」コクリ


……ゴローはベナウィにより、命の危機から救われていたのだった。


ハクオロ「まずは手加減して組手を行え。
     噂ほどの強さなら、すぐに気が付くはずだ。
     向こうが此方をどう見ているか、それを確かめたい」


ベナウィ「御心のままに」


外の調練場に向かう二人。
どうやら、ベナウィが戦うという話は城中に広まったらしく、
バタバタと多くの兵が調練場へ駆け出していた。

286 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/07/29(日) 01:11:47.93 ID:hep8fQpSO
  ――

 〜 城・外の調練場 〜

   ザワザワ ガヤガヤ


 ベナウィとカルラ。城内の兵のほとんどが二人の組手を見にやって来ていた。


ベナウィ「構えないのですか?」


 ベナウィはいつもの槍を構えつつ、遠くからカルラの様子を伺う。


カルラ「ええ。どうぞ」


 あっちは刀をダラリと下げたまま、気だるそうに返事をする。


ベナウィ「……」

   ダッ! タタタタ…

 うわっ、声もかけずに突っ込んでいった!


カルラ「……」


 彼女、防御の姿勢もとらないぞ!


   ヒュゥォン! カキッ!

ベナウィ「……」ギギッ

カルラ「……」ギッ


 真っ直ぐ振り下ろす……ように見せかけて
 横からの斬撃に変えたのに、アッサリと刀で受けきった。


クロウ「何ぃ!」  オボロ「受けやがった…」


 この二人、なんだか解説役みたいだ。


ベナウィ「……」


 一旦、距離をとるベナウィ。……何か違和感が。


カルラ「…………」クルリ

   「確かに私は剣奴(ナクァン)。けどナクァンには
    ナクァンなりの意地がありますわ!」

   「本気でかかって来ない相手と戦う気はありませんわよ」


クロウ「大将が手を抜いただとぉ?」


 言われてみれば… そんな感じはあった。

 そもそも一度防がれた程度で攻撃をやめたりはしないだろう。

287 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/07/29(日) 01:14:34.11 ID:hep8fQpSO

ベナウィ「……」チラリ

ハクオロ「……」コクリ


 なるほど、ハクオロが命令してたらしい。
 ちょっとコッチに出てくるのが遅かったのはこれか。


ベナウィ「失礼しました。ここから先は本組手といきましょう」スッ

カルラ「そうでなくては……」

    チャキン …ヒュン!

   「面白くありませんわ!」ニコッ


    ダッ!! タタタタ…


ゴロー「速い!」


    ガキッ

カルラ「ヤァァァッ!」グッ

ベナウィ(な! 槍の長柄が…… くっ!)

   サッ スパッ ブン!

カルラ(……いい腕ですわ)


   ザザァァ ドゴォン!
   …ダダッ!!


ベナウィ「ふっ!」  カルラ「ハッ!」


  『スパッ』   シーン…

「「おぉ…」」「「す、凄え…」」「「ベナウィ様が斬られた?」」


    ザワザワ…


カルラ「……あら、刀がさっきの衝撃で折れてましたの」 ボロッ


 あ、あのう ちょっとあの二人、強すぎではないでしょうか…
288 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/07/29(日) 01:17:46.89 ID:hep8fQpSO

クロウ「大将が剣撃を受け流した後…」

オボロ「あの女は即座に斬り返して、ベナウィの服に傷を…」


ゴロー「ベナウィはすかさず槍でカルラさんを勢いそのままに弾いて……
    カルラさんは身体の勢いを殺す為、刀をブレーキ代わりに……」


 そして…… そのまま振り返ってベナウィに一閃。


ゴロー「折れてなかったら不味かったな……」


 刀を地面に打ち付けて土煙がもうもうと上がるなんて……

 カルラさん… 力、強すぎじゃないか?


   カツ カツ カツ…

カルラ「……ちょっとそこの兵士さん、腰の物を借りますわよ」

   スラッ スラッ カチャカチャ

カルラ「……ああ、鍔(つば)が邪魔ですわね」

   ニギッ… バキィン!!


一同 「「「 え 」」」


カルラ「さあ… 続けますわよ!!」チャキ

ベナウィ「……どうぞ」スッ

「ヤアァァァッ!!!」  「ハァァッ!!!」


   ビュオン! キィン カキィン!!

   ……ドゴォン!!


 ……また土煙だ。


カルラ「はぁ… 二本をまとめても駄目でしたわ」ボロッ…


ゴロー(……あの時、俺が戦うはめになってたら死んでたかも)

289 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/07/29(日) 01:20:09.10 ID:hep8fQpSO
 ――

 翌朝…

 あの後、実力を認められたカルラさん。

 とにかく力が強いので合う武器を探すのも一苦労。

 結局、鍜冶司にカルラさんの注文通りの品を作らせる事になった。


ゴロー「『絶対に折れず、曲がらず、刃毀れしない刀』…」


 極太の鉄塊みたいな刀が出来上がりそうな注文内容だ。


ゴロー「チキナロ、困るだろうな。さてと、朝メシ……」

    ガララッ

エルルゥ「あ、ゴローさん。おはようございます」

アルルゥ「ペコちゃん、おそい」ムグムグ


オボロ「おう、大兄者。先に食べてるぞ ……それは俺のだっ!」

クロウ「おいおい。早ええ者勝ちだろう?」ハグッ


ドリィ・グラァ「「ユズハ様、どうぞ」」スッ

ユズハ「ありがとうございます……」

カミュ「ユズっち〜! これも美味しそうだよ〜」


ウルト「今日の朝食はゴロー様が以前持って来て下さった品なのですよね?」

エルルゥ「はい。シロトゥクの海の幸ですよ」

290 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/07/29(日) 01:21:58.17 ID:hep8fQpSO

 【海藻の味噌汁】

しっかり旨味を含んだ味噌に
北への出張から持ってきた小魚をダシ、海藻を具に使った。



 【 干し魚 】

海の香りがたまらない一品。
味は下手につけずにそのまま食べる。
干しても脂がのっているので旨い。
味か濃いので肴に良い。



ゴロー「あれ、ハクオロとベナウィは?」

カルラ「『あるじ様』ならお仕事中ですわ〜」グイッ

エルルゥ「カ、カルラさん! こんな朝早くからお酒は……」

クロウ「大将は総大将と一緒にメシを食うって、膳を持っていきやした」モグ


 ――


ハクオロ「旨いな… この汁。疲れた身体に染みる……」ズズッ

ベナウィ「聖上、カルラの件に関する書類の偽造はまだ終わっていません」

ハクオロ「わざわざ偽造せずとも……」

ベナウィ「『ナ・トゥンク側にばれないよう、手をうて』
     とおっしゃったのは聖上です」


ハクオロ「ハァ……」


 ――
291 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/07/29(日) 01:29:23.39 ID:hep8fQpSO

ゴロー(……仕事しながら食事はしたくないぞ)

   「なにはともあれ、俺もいただこう」

   …ずずう ずっ

 ……やっと、やっと
 ようやく『味噌汁』を食えた……


ゴロー「旨いっ!」

エルルゥ「あ、ありがとうございます」ペコ

ゴロー(長かったなあ…… ここまで)ズズッ

   むしゃり もぐ…

 モロロにもバッチリ。
 なんと言うか…達成感がある。


カルラ「う〜ん♪ この魚、よい肴ですこと……」


 酒は飲めないが、酒の肴はなんでも好きだ。
 だから酒を飲む人にも合う品を買ってきたが…


ゴロー(まさか、朝から酒を飲む女性がいるとは思わなかった)

ウルト「カルラ、わたくしにもお酒を頂けますか?」

カルラ「ええ、どうぞ」スッ

ゴロー「お二人、いつの間に仲良くなったんですか?」

カルラ「……ついこの前ですわ。わたしが一杯やっている時に…ね」グイッ

ウルト「ええ。彼女とはよく一緒に飲んでいます」

エルルゥ「へぇ… ちょっと意外ですね」

カルラ「エルルゥもどう? 今夜あたりに」ヒラヒラ

クロウ「あー 姐さんは結構強いっすからねー」

カルラ「あら、それは楽しみね。じゃあ今夜は寝かせませんわよ…」フゥー

エルルゥ「キャッ! 耳に息を吹かないでください!」

   ワイワイ キャッ キャッ…

ゴロー(騒がしいけど…… もう慣れたな)モグモグ

ゴロー「あれ? 俺の魚はどこですか?」キョロキョロ

エルルゥ「あ、はい…… あらっ? ない…」

ゴロー「えっ……」

エルルゥ「カ、カルラさん! あのお魚はゴローさんの……」

    「あーっ!! 居なくなってるー!!」

ゴロー「……」

 いいとこ、ないなァ……
292 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/07/29(日) 01:45:14.83 ID:hep8fQpSO
 ――

さて、あの食事の場に『もう一人』いない者がいるのに気付いたろう。

その人は何をしていたか、少し時計を進めよう。


 同日、夕刻……


   バサバサ…


ムント「ハヒィー… 疲れましたわい」


そう、居なかったのは『ムント』である。


彼は今、対シケリペチムに向けた同盟國を探し
トゥスクル周辺國を飛び回っている。


ムント「先の『クッチャ・ケッチャ國』との交渉は上手くいきませんでした…」

   「ですが、世の中のため! このムント、
    なんとしても周辺國との交渉を成し遂げてみせましょう!!」


ムント「そろそろ次の國に行かなくては!」

   トゥ! バサバサ…

使命に燃えるムント。
この情熱を彼の教え子であるカミュにも見習って欲しいものだ。


そして、熱にあてられたのは彼だけではない。

その日から戦いの火種が本格的に紅く輝きはじめてしまった。


『憎しみ』という火が新たな戦の幕を開ける。

293 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/07/29(日) 01:47:06.76 ID:hep8fQpSO
 ――

 〜 クッチャ・ケッチャ 移動式皇都 〜


「やはり… やはり生きていたのか『ラクシャイン』!!」

「わざわざ西のシケリペチムにまで出向いて正解であった!」

「我が義弟にして裏切り者! あやつの情報をあの皇が知らせてくれるとは!」

「おまけに頼もしいお方が我等の味方となって下さった!」

「いよいよだ! 待っておれ『ラクシャイン』!」


   シャッ

「『オリカカン殿』、今宵はもう遅い。ゆっくりお休み下さいませ。
 外は某(それがし)が見張っておきますゆえ」


「おお、『トウカ殿』。かたじけない」


「ところで… よろしかったのですか?
 今朝方来たオンカミヤリューの使者を門前払いになどして……」


「トウカ殿! これを見て下され!」バッ


「こ、これは…同盟を結ぶ地が……」


「そう! あの『ラクシャイン』の居る『トゥスクル』!
 彼の地で儀が執り行われるのです!」

「おそらく近い内に儀がありましょう!
 その時、我等は他の國に警告せねばなりません!」

「『ラクシャイン』率いるトゥスクルに組してはならぬ…と!」

「ひいてはこれが我が國だけでなく、他の國の『義』の為であります!」

「トウカ殿! どうか今少しそのお力をお貸し下され!」


トウカ「承知しました、オリカカン殿」ペコリ

   「この『エヴェンクルガのトウカ』、『義』に従い、
    悪漢『ラクシャイン』を討つ手助けをさせて頂きます!」



第十話「海藻の味噌汁と干し魚」

  続く!
294 : ◆M6R0eWkIpk [saga]:2012/07/29(日) 01:49:32.05 ID:hep8fQpSO
投下完了。>>273から今回のスタート。

オマケは日曜日の夜に投下するので、お待ち下さいませ。
295 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/07/29(日) 07:41:58.76 ID:jKHP/ckq0



………そろそろか
296 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/29(日) 08:30:26.18 ID:nHofP1OSO
297 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/07/29(日) 20:54:48.69 ID:hep8fQpSO

   キィン! キィン! キィン! キィン!

エルルゥ・ハクオロ「「うたわれるものらじお in・SS速報VIP!」」


エルルゥ「皆さん今晩は。司会のエルルゥです♪」

ハクオロ「同じく司会のハクオロだ」


エルルゥ「この解説オマケも3回目ですね」

ハクオロ「このコーナーに皆さんついてこれているだろうか……」

エルルゥ「それは脇に置いて…… ようやくファミリーが揃ってきました!」

ハクオロ「ああ。それぞれ魅力に溢れた者たちが集まったな」

    「そうそう。今日もゲストが来てくれている」


エルルゥ「…………女の子ですか?
     男でもベナウィさんとクロウさんはイヤです」


ハクオロ「いや、違うぞ。今日は『2人』だ」

エルルゥ「……まさかっ!」


ドリィ・グラァ「「お邪魔しま〜す!」」


エルルゥ「……2人の絆で頑張りますっ! 書くもの書くもの…」

ハクオロ「エルルゥ。本家らじおを聞いた方しか判らないネタだ……」

(※『ドリィとグラァに挑戦しようのコーナー』のこと)

298 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/07/29(日) 20:58:10.26 ID:hep8fQpSO

ドリィ「あ、それなんですが……」

グラァ「実はお土産があるんです」ヨイショ

エルルゥ「こ、これは……」

ハクオロ「再び姿を見せたか!」


エル・ハク「「『忌まわしき黄金ボックス』!!」」


  バァーン!

ド・グ「「コーナーの尺が余ったらどうぞ」」

エルルゥ「『らじお』っぽくなりました!」

ハクオロ「尺、余るのかなあ……」


 《 第七話 》

●インカラ…再度紹介。言いたい事を喋り、ベナウィに首を斬られた。


エルルゥ「あのシーンはベナウィさんの見せ場でしたね」

ハクオロ「そうだな。ベナウィの人物像が丸々詰まったシーンだった」

ドリィ「若様の見せ場はいつ来るかな?」

グラァ「……そもそも来るのかな?」


●ディー…オンカミヤリュー族の哲学士。詳細不明。


エルルゥ「オンカミヤリューは背中に大きな翼を持った部族です」

ハクオロ「その部族は『法術』という、特殊な力を使える」

グラァ「以前紹介された『四属性』の法術を一般術兵は使います」

ドリィ「術兵ってズルいよ。飛んでるし」


エルルゥ「この『ディー』って人は【こどものこ〜ろのゆめ〜は〜♪】」

ハクオロ「【いろあせない〜 らくがきで〜♪】」

ドリィ・グラァ「【おもう〜まま〜 かきすべ〜らせて♪】」

ハクオロ「【えがく〜 みらいへと〜 つながる〜♪】」


エルルゥ「な、なんかご免なさい……」シュン

ハクオロ「つい、のってしまったこっちも悪かった……」

ド・グ「「反省してます……」」
299 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/07/29(日) 21:00:50.24 ID:hep8fQpSO

 《 第八話 》


●ウルトリィ…宗教國・オンカミヤムカイの第一皇女。
       元医学士志望。薬つながりでエルルゥと仲良くなった。


エルルゥ「私の部屋にウルトリィ様が来ていたのは
     おばあちゃんを知っていたのが理由です」

ドリィ「皇女様だとやっぱり……」

グラァ「普通の仕事に就くのは難しいよ」

ハクオロ「アイリ……あ、間違えた。ウルトだウルト!」

エルルゥ「……私のことは間違えないで下さいね♪」

ハクオロ(やけにウキウキしたな……)


●カミュ…オンカミヤムカイ第二皇女。自國に友達がいなかったが
     トゥスクルに来て、アルルゥ・ユズハと仲良くなる。


ハクオロ「アルルゥとの友情は、共にハチの幼虫を喰らうことから始まる」

ハクオロ「2人を仲良くさせる為、原作で言った台詞だ」

エルルゥ「三人とも無茶しないようにね!」

ドリィ「ユズハ様がいなくなると……」

グラァ「若様が『ユーズーハー!』って探し回ります」

ハクオロ「カミュは少し変わったコでな。私は【キィン!】れた」

エルルゥ「アニメだとホントにちょっとだけ出ましたね」

ハクオロ「最終的に皆にばれるが、それで関係が壊れる程弱い絆ではない」

エルルゥ「SS内でも多分描写がありますので隠させていただきました」


●ムント…僧正(ヤンクル)の地位を持つオンカミヤリューの老人。


グラァ「若様が『ユーズーハー!』なら」

ドリィ「僧正様は『ひーめーさーまー!』だね」

ハクオロ「あのカミュの教育係は大変だろう……」

エルルゥ「アルルゥにもそろそろ教養を覚えさせたほうがいいですか?」

ハクオロ「いや、子どもはのびのび育てよう」

ド・グ「「……お二人共、夫婦みたいで素敵です!」」

エルルゥ「すいませーん、この2人に最高級のお茶をお願いしまーす!」

ハクオロ「賢大僧正(オルヤンクル)のワーベ殿については後に紹介する」
300 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/07/29(日) 21:03:32.34 ID:hep8fQpSO

  第九話

●ニウェ…シケリペチムの皇、戦闘狂。自ら『天子』と名乗る。
     もとは狩猟部族の出。知識・武双方に優れた皇でもある。


ハクオロ「あの笑い声は忘れられない……」

エルルゥ「一人だけ『中国?』でしたっけ。そんな國の武装みたいです」

ドリィ「声優はあの秋元羊介さん!」

グラァ「東方不敗!? 勝てる気しないよ!」


 《 第十話 》

●カルラ…ナ・トゥンクの奴隷船に捕まっていた女性。
     絶滅したとされる『ギリヤギナ族』。


エルルゥ「ハクオロさん、ギリヤギナって何ですか?」

ハクオロ「ベナウィから聞いた話だが… かつて大陸全土を支配しようとした
     大國の皇がその部族だったそうだ。
     力が異常に強く、戦において最強の部族らしい」


グラァ「カルラ様はやるときはやるよね」

ドリィ「いつもお酒飲んでるけどね」

ハクオロ「ちなみにギリヤギナの者はどれだけ飲み食いしても太らない。
     戦いに適した肉体になってしまうらしい」


エルルゥ「カルラさん…… 私を羨ましいって言ったのはそういう……」


ド・グ「「キャラクター紹介はここまで!」」

ハクオロ「次はこちらのコーナーだ」

301 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/07/29(日) 21:06:16.07 ID:hep8fQpSO

エルルゥ「『うたわれるもの知りコーナー SS編』!」

ハクオロ「このコーナーでは『うたわれ』世界を解説する」

    「今日は『國』と『遺伝』について説明しよう」


 その@ 『國』

ハクオロ「私が皇になってから様々な國の名が出てきたな」

エルルゥ「今日はそんな國を簡単にまとめますよ〜」


トゥスクル…

皇は『ハクオロ』。
皇の叡知(+皇の莫大な仕事量)により急速に発展。
まだまだ中規模の國ではあるが、民は段々増えている。


シケリペチム…

皇は『ニウェ』。三大強國の一つで軍事國家。
多くの中小國や集落をその軍事力によってまとめる。


ナ・トゥンク…

奴隷國家。誘拐した人々を売って、國の財としている。
しかし、近々『何か』起こりそう。


オンカミヤムカイ…

宗教國家。民に根付いた『ウィツァルネミテア信仰』のもと、
國と國の争いを憎み、和平を求める。

『法術』を使えるオンカミヤリューが主な種族。
オンカミヤリューの戒律は厳しく、
その力を他國の侵略に使わない。
ちなみに自衛の為になら法術を使う。
皇(賢大僧正)は『ワーベ』。
ちなみにこの賢大僧正の位は女性が受け継ぐべきもの。


ドリィ「これらはゲーム・SS本編内でも説明があります」

グラァ「クッチャ・ケッチャについては次回分だそうです」

302 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/07/29(日) 21:07:50.02 ID:hep8fQpSO

 そのA 『遺伝』について


ハクオロ「うたわれ世界は『母系遺伝子優位』のルールがある」

ド・グ「「若様とユズハ様は良い例です」」

エルルゥ「オボロさんとユズハちゃん、耳の形が異なってますね」

ハクオロ「耳や尻尾は母親からの遺伝で決まる……
     つまり、産まれた子どもの耳・尾は必ず母親と同じになる」


ハクオロ「オボロとユズハは異母兄妹とわかるわけだ」

ハクオロ「かといって男性の遺伝も全くないわけではない。
     遺伝子はちゃんと子どもに受け継がれる」


エルルゥ「ゴローさんが九話で……したのもこれが理由です」

グラァ「村としては外の遺伝子も欲しかったって事」

ドリィ「濃くなり過ぎるのもダメだしね」


ハクオロ「……この遺伝で劣等感を抱えた男がいたな」

エルルゥ「クンネカムンの【キィン!】さんですね」

ハクオロ「トウカが旅を許可された理由もこれだったりする」

    「エヴェンクルガは閉鎖的な少数民族なので、
     外に出た女性は優秀な遺伝子を里に入れるよう期待されるらしい」


エルルゥ「……なんでそんな事を知ってるんですか?」

ハクオロ「ああ、ゲン……知り合いから聞いたんだ」

エルルゥ「ふーん……本当に?」ゴゴゴ

ド・グ((エルルゥ様がコワイ……))

  ……

ハクオロ「おっ、そろそろ終わりの時間だ」

ド・グ「「本日はありがとうございました!」」

エルルゥ「皆に『ハクオロさんとエルルゥは仲良しだった』って言っておいてね♪」

ド・グ「「は、はい……」」スタスタ…

ハクオロ「うわぁい(笑) もう、愛がね…なんか重い(笑)」

エルルゥ「ハクオロさん♪ やっと二人きり…」ギュッ

ハクオロ「ではまた次回にお会いしましょう!」

  ウワァァン! ムシサレター!

  ゴメンヨ エルルゥ

  続く?
303 : ◆M6R0eWkIpk [saga]:2012/07/29(日) 21:28:56.24 ID:hep8fQpSO
オマケ終了、失礼します。
304 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/07/29(日) 22:32:23.17 ID:IPw+IyDLo
おつ
305 : ◆M6R0eWkIpk [saga sage]:2012/07/31(火) 20:52:38.51 ID:XUxUnZXSO

第十一話「永久の別離」


 俺は城に遣えている雇われの身ではあるが、
 他の者達と違ってトゥスクル中をウォプタルで走り回る事が多い。


ゴロー「ふう… よいしょっと……」ドッドッ


 今日は以前行ったことのある、あの南の集落に出向く。


村人「ゴローさぁ〜ん、久しぶりだべぇ〜」ブンブン

ゴロー「こんにちは。こっちの方、嵐の被害はどうでしたか?」

村人「北はひでかったらすいなぁ。ここはそれほどでもねえ」

ゴロー「それは良かった。今日はちょっと伝えたい事がありまして…
    村長さんはご自宅にいらっしゃいますか?」


村人「あー おらはわかんね。孫娘ちゃんが畑さ行っとるから」

ゴロー「そうですか。じゃあ畑に行きます」

村人「おー また都の話、聞かすてくんだせぇー」


306 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/07/31(火) 20:55:46.34 ID:XUxUnZXSO
  ……

 あの後、孫娘ちゃんに会い、村長の居場所を特定。
 そこで村長と商談をする事となった。
 売る側ではなく、買う立場としてである。


村長「うつの味噌を売ってほすい?」

ゴロー「はい。トゥスクルで今度、周辺國を集めた儀式が執り行われます」

   「各國の代表の方に土産としてお渡しする品に、こちらの味噌を…と」


村長「ほぇ〜 ええんかのぅ? こんな村のモンで?」

ゴロー「他の集落と比べても、この村は味の良い味噌を作っております。
    ここで出来た味噌汁を飲んだ皇(オゥルォ)が『ぜひ』と」


 ……これは半分本当で、半分ウソだ。

 ハクオロが気に入ったのは事実だが、
 味噌って地域で味の違いがあるから、比較が難しい。

 ここの村の味噌、味は悪くない。それと桶樽の数が多い。
 ある程度条件を満たしていたので、交渉に来た……というわけ。


村長「いやぁ〜 皇(オゥルォ)様のお気に入りとは嬉しいべ〜
   わがった! どんどん持っていぐがええ!」


ゴロー「ありがとうございます。代金を……」スッ
 
   「あと、こちらの味噌を城下、他の街・集落に宣伝しておきます」


村長「ホンドに助かっとるよぉ。評判、グングン上がっとるでな」

ゴロー「はい、では一度失礼します。荷馬車を連れて戻りますんで」

村長「ほうか、ほうか。いつでも来んさい」

 …………
307 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/07/31(火) 21:00:41.16 ID:XUxUnZXSO

  ドッドッドッドッ…

 ウォプタルに揺られ、村を後にする。


ゴロー「代表の皆さんは数日間滞在するそうだから……
    儀式の日に荷を入れて…… 帰る日に渡して……」


 そうすると…… あの村から都までどれくらいの道のりかな。
 馬車だと時間がかかるだろうか……


ゴロー「……あ、醤油を持って帰ってくるのを忘れていた」


 仕方ない。また直ぐ来るんだし、
 その時に一緒に持ってこよう。


ゴロー「買い付けの分も合わせて、瓶(かめ)が十個くらいあればいいかな…」


 ウルトリィさんかハクオロに参加國の数を聞いておこう。

308 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/07/31(火) 21:04:24.94 ID:XUxUnZXSO
 ――

 〜 皇城・カルラの部屋 〜

 当初は牢屋にいたカルラさん。
 今は眺めのいい部屋を貰い、外を見ながら酒を飲んでいるそうだ。

 旅から帰って来たムントさんによると、
 ウルトリィさんは度々ここを訪れるらしい。


    トン トン


 「わたしのお酒の時間をジャマするのはどなた〜?」


ゴロー「ゴローです。ウルトリィさんは居られますか?」


 「はい、よろしければ部屋へどうぞ」


 いたいた。カルラさんとは違う優しい声がしたぞ。


ゴロー「失礼します」ガラッ

カルラ「折角の一時を… 無粋な殿方ですわ」グイッ

ゴロー「……あの刀。あんな無造作に置いていいんですか?」


 床にごろりと横たわる鉄の塊。
 届いた彼女の武器は、力自慢が五人位で運ばないとならない重さだった。

 ……この人はそれを片手で振り回して、庭の大岩を真っ二つにしたが。


カルラ「あれがいいんですの。下手に置くと床が抜けますから」クゥー

ゴロー「そうですか… ウルトリィさん、お帰りなさい」ペコッ

ウルト「はい。戻りました」ニコッ

ゴロー「周辺國の説得は如何でしたか?」

ウルト「ええ。ムントが脈のある國をまとめてくれましたから。
    あとは此方の思いを伝えていくだけでした」ニコリ


 ……大変だったであろう事を苦もなかったように語る。
 『調停者』の名前は伊達じゃない。
309 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/07/31(火) 21:07:04.49 ID:XUxUnZXSO

ウルト「それで… わたくしに何か御用件がお有りになるのでしょう?」


 おっと、いかん。言い忘れたままだった。


ゴロー「……うん?」キョロキョロ


 この部屋、何か違和感が……


ゴロー「……もしかして、ハクオロが来てます?」


    「ギクッ!」


カルラ「……あるじ様ぁ〜 バレましたわよ」

    ガタタッ…

ハクオロ「ふう… ベナウィには内緒にしてくださいよ」

ゴロー「また脱け出したのか。……気持ちはわかるがな」

ウルト「わたくし達に付き合って頂いてまして」

カルラ「怖〜い侍大将に軟禁されるから、
    お酒は飲んで下さいませんけど」グイッ


ハクオロ「素面じゃないと、明日の朝までずっと仕事にされるからな……」


 ハクオロ、苦労しているなぁ。


ウルト「ところで御用件は……」

ゴロー「そうでした、儀式の日に集まる國は幾つでしたか?」

ウルト「えっと… ハマンテ、ヤパクク、ホンロロ、タイサイ、
    ヌシェシェ、マウタラン、シェワッカ、トゥスクル……」


ハクオロ「ここを外して七つですよ」

ゴロー「なら瓶(かめ)を十ほど用意すれば足りるな」

ハクオロ「ああ、そっちも交渉は成功したか。それだけあれば大丈夫」

ゴロー「はい、皇様」ペコリ

ハクオロ「よして下さい、貴方にまでそう言われるのは……」

ゴロー「冗談だ」ニッ

   ハハハッ…

カルラ「男の友情というのも良い肴ですわ…」グッ

ウルト「ええ。ハクオロ様も楽しそうです」ニコリ

310 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/07/31(火) 21:09:24.97 ID:XUxUnZXSO
  ――

ゴロー「今日は曇りか。月が見えない」フゥー


 煙管を吸うのが夜だけの日課になりつつある。
 國が変わって、毎日忙しいせいで
 夜しか落ち着ける時間がないからだ。


ゴロー(人も増えたし、豊かになった)


 集落も収穫が増えたから、國の収入も安定した。

 関所も税を減らしたが、他國から来る人が増えたから以前並の収入がある。

 嵐の復興に金を出せる國に変わった。

ゴロー(……この平穏な日々が続けばいいのに)フゥー


 シケリペチムは沈黙を続けている。
 ……そろそろ何か動きがあるかもしれん。


   スッ… ガサリ…

ゴロー「……あれ、ハクオロ?」


 こんな夜更けにどこへ行くんだ。


ゴロー(……ちょっと尾行(つ)けてみるか)スタッ

311 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/07/31(火) 21:14:13.70 ID:XUxUnZXSO
  ――

森の中を、男達は歩く。


ハクオロ「今日は随分と遠回りをしますね」ザッザッ

?@「何者かが尾行しておりました故」スッスッ


眼帯をした老人が答える。
その姿は歴戦の武士、鎧が既に身体の一部となっているようだった。

鳥の翼のような耳を持つ『エヴェンクルガ族』
この老人はその中でも生ける伝説とされる存在。

名は『ゲンジマル』。

彼はハクオロを『ある方』の所へ案内していた。

少しすると彼等は開けた場所に出る。

平べったい岩の上、白い外套(アペリュ)で顔を隠した人物が彼等を待っていた。


?A「どうしたゲンジマル。遅かったではないか!」プンプン


外套越しにその人物の声が伝わる。


ゲンジマル「申し訳ありませぬ、聖上」ザッ

ハクオロ「ああ、私のせいなんだ。すまない『クーヤ』」

クーヤ「む? 其方(そなた)のせい? 余にはわからんぞ」


『アムルリネウルカ・クーヤ』。それがこの人物の名である。

ハクオロは長いので、『クーヤ』とだけ呼んでいるが……

この人物、三大強國の一つ『クンネカムン』の皇(オゥルォ)である。


ハクオロ「私の家臣が後をつけていたようでな。それを撒いていたそうだ」

クーヤ「……それは仕方ないな。其方と余が会うのは秘密なのだから」


今はこの國、この皇について語りはしない。
まだ時は満ちていないのだ。
この二人の皇(オゥルォ)の他愛もない会話を妨げるのは止める。


 〜 森の中 〜

ゴロー「……ここ、どこだ?」キョロキョロ


……この程度の被害なら、許してやろう。

312 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/07/31(火) 21:18:24.64 ID:XUxUnZXSO
  ――

 いよいよ『調印の儀』の当日となった。
 数名の兵と荷馬車を連れ、南の集落を訪れる。


ゴロー「積み込み完了……っと」パンパン


 荷物を馬車に載せていく。
 あとはこの荷を、城の倉に入れれば終わりだ。


ゴロー「……運動したからちょっと何か入れたいな」

(※ 孤独のグルメ語『入れる』=『腹減った』
 同じ意味で『腹がペコちゃん』『コバラベリー』がある)


ゴロー「そういえば…… 朝をあまり取ってなかったぞ」


 少し早いが、作って貰った弁当を食おう。

   ガサ ガサ


 【モロロまんじゅう】

挽いたモロロの粉を使い、饅頭状にした携帯食料。
お弁当サイズなので、持ち運びやすい。
ちなみにエルルゥお手製。二個入り・玉子焼き付。


    はぐっ むしゃ


ゴロー「ん、これは淡白な味だね」


    もぐ… むしゃり

 噛み続けると、モロロの持つ特有の甘味が広がる。


ゴロー「主食にはいいか」ゴクン


 玉子焼き、形はイマイチだけど…
 でも綺麗に整えようとしてくれたんだ。


    ひょい ぱく…


ゴロー「うん、いい焼き加減。醤油、ちょっと使おうかな」

313 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/07/31(火) 21:23:10.82 ID:XUxUnZXSO

 少し離れた所で、村の人が手を振っている。


村人「ゴローさぁーんー! お茶ありますけー! どうだすかぁー!」


ゴロー「お願いしまぁーす!」

   タッタッ… タッタッ…

村人「どーぞ」スッ

ゴロー「ありがとうございます」カチャ

村人「うんまそうなメシですなぁ〜」

ゴロー「ちょっと食べます?」

村人「いやいや、大丈夫だす……」

村人の妻「あんたー! ちょっとー!!」

村人「ありゃ、母ちゃんだべ。んじゃあ、おら戻りますんで」


   タッタッタッタッ…

ゴロー(すっかりこの村にも慣れたぞ)


 お茶も来たし、もう一つの饅頭に手を出すか。

   ばくっ……

ゴロー(……こっち、肉入ってたか。しかも味噌漬け)


 何も入ってないほうを残しておくべきだった……
 お茶がなかったら、この濃さは辛かったかも。


ゴロー「この肉、キママゥかな」モグモグ


 農法を変えて収穫が増えたせいか、各地で出没しているらしい。


ゴロー「……なんだかヤマユラの飯が懐かしくなってきた」


 この村の雰囲気にあてられたかな。

 東に行く用事があったら…… 寄っていこう。

314 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/07/31(火) 21:26:13.49 ID:XUxUnZXSO
  ――


その日は生暖かい曇り空だった。

予定した國の数とは異なったが、近隣六國がここ『トゥスクル』に集う。


ウルトリィ「……」ペコリ


シケリペチムに対抗する、同盟の儀式が始まった。


 「クシャ アヌゥマヤ オン アビタウン ヌ・トゥスクル」


トゥスクルの國師(ヨモル)が祝詞を唱え、
各々の國の代表者や皇(オゥルォ)が頭を下げる。


ハクオロ(……少し足りないか)


 ……強く期待していたわけではない。

 『やはり調印に参加できない……』
 そんな國も出てくるのは承知していた。


ハクオロ(仮想敵國は『シケリペチム』。あの強國の力に怯える國もあろう)


 祝詞の文面は変わらないが、
 紙で造られた調印書は六つの印を捺せるよう、刷り直させた。


ハクオロ(……今はこれだけでも集まった事を感謝しよう)


 もうじき、祝詞も終わるようだ。


 「イオマカンオルヤナ…… 我ら奉りし、大神(オンカミ) ウィツァルネミテア」


 「「「…………」」」


朝堂にいる者達、全てが祈る。

   カツ カツ カツ…

ウルトリィ「では、この書に……印(しるし)を」


國の政(まつりごと)を決める印。
これを各國の人間が捺す事で同盟は成立する。


ウルトリィ「大神ウィツァルネミテアの下…… ここに調印の儀を……」

315 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/07/31(火) 21:29:00.61 ID:XUxUnZXSO

   ……筈だった。


   カン! カン! カン!

   ザワ… ザワ…

ハクオロ「この音は!?」


兵士「これ以上行かせるな!」

 「どおぉぉぉけえぇぇぇ!! それどころじゃねえんだ!!」ブン!

「ぐわっ!」「くそう!」

 「俺はアンちゃんに用があるんだよぉ!!」


ハクオロ「その声… おやっさんか!?」

テオロ「大変だ! アンちゃん!! 敵襲だ!」タタッ

オボロ「なんだと! シケリペチムかっ!」

テオロ「ドコのどいつか知んねえが、いきなり襲って来やがった!」

ベナウィ「儀の警備の為に防人を動かしましたが…
     その隙を突かれてしまったようですね」


テオロ「ヤツラ、すぐソコまで来てやがんだ! 急げアンちゃん!」

ハクオロ「皆は… 村の皆は無事なのかっ!」

テオロ「心配すんな」ニッ

   「皆、とっくに逃げおおせたさぁ」


テオロ「んな事より急げぇぃ!」

ハクオロ「出陣(で)るぞ!!」

オボロ「おうっ!」 ベナウィ「御意!」

  ダッダッダッダッダッ…

ハクオロ「エルルゥ、アルルゥ達を連れて奥に避難してくれ!」

エルルゥ「は、はい!」タッ…


兵士達が外へ駆け出していく。


ハクオロ「おやっさんも早く避難を!」

テオロ「ッ… ふぃー… ここまで突っ走ってきたから流石に疲れちまったぁ」

   「俺はちいっと休んでから行くぜぇ」ドスン


斧を降ろし、柱にもたれるテオロ。


ハクオロ「わかった! 私は行ってくる!」タッ


  「アンちゃん!」


ハクオロ「ん?」クルッ


テオロ「…負けんなよ!!」グッ

ハクオロ「…ああっ!」ダッ

  「…………」
316 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/07/31(火) 21:35:17.76 ID:XUxUnZXSO
戦の火蓋が切って落とされた。

敵騎兵達「「ヌェリャアアア!!」」ドドッ

敵はただひたすらトゥスクル皇城へと、森を駆け抜ける。


兵「敵、捕捉しました! 現在、正面の森!」

見張り台の兵士が大声で警戒を促した。


ベナウィ「聖上、門を閉じますか?」

ハクオロ「いや、『あれ』を使う。 ……準備はいいな」

クロウ「ういっす!」ダッ

兵「…森を抜けましたっ! 来ます!」


城へ続く橋を越え、雪崩れ込む敵騎兵。


クロウ「よぉし! 砦柵(さいさく)起こせぇ!」

   ガコン ガコン ガコン

 「ヌォォッ!」「げはっ!」「うおぃ!」


ウォプタルの機動力。
それは接近戦主体の世界にとって、脅威的な力の一つである。

ベナウィやクロウ達のような手練れの騎兵衆に攻め込まれる危険……
ハクオロはこれを警戒し、城内や城下町にカラクリ仕掛けの砦柵を設置。
この巨大な柵に邪魔され、敵騎兵は城の正面に足止めされた。


オボロ「今だっ! 弓衆(ペリエライ)前へ!」

ドリィ「蒼組、構えっ!」 グラァ「朱組、構えっ!」

  キリリリッ… キリリリッ…

トゥスクルの弓衆が停止した敵兵に狙いを定める。


オボロ「射てっ!!」


   ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン

 「グアッ」「ナァッ!」「ごふっ…」「ぎゃあっ!」

   ドサッ バタッ…

そんな中でも、侍大将は冷静に敵の武装を見極める。


ベナウィ「……彼等はシケリペチムの兵ではありません」


これまで戦ってきたシケリペチム兵と異なる装い…
強襲者達は黒地の兵具を装着していた。


ハクオロ「……敵兵よ! これ以上は無駄だ!
     武器を捨て、投降せよ! 生命の保障はする!」


  「「「ワアアッ」」」ドドド…


ハクオロ「くっ… 奇襲に失敗したのに、何故止まらない……」

ドリィ・グラァ「「第二波! 構え!!」」キリリ…

オボロ「射てぇ!!」

   ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン…
317 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/07/31(火) 21:40:20.68 ID:XUxUnZXSO
  ――

 〜 城内・朝堂 〜

   ワアァァァァ…


「や〜れやれ、なんとか間に合ったみてぇだなぁ……」


柱にもたれたテオロの背中から少しずつ紅いものが滴り落ちていく…


「アンちゃん、すっかり皇(オゥルォ)の貫禄ってヤツが出てきたと思ったら…」


「ダハハハ… まだまだだなぁ…」


「やっぱ… アンちゃんは俺達が一緒じゃねぇとな……」


「ま、エルルゥとアルルゥ。それに…ゴローも一緒なんだ… 何とかなんだろ…」


   ズルリ… ポタポタッ…


血だまりが床につくられていく…

彼にもう立ち上がる力は残されていなかった。


「しかし今度ばかしは… さすがに疲れたぜぇ…」


「まったく…無茶なことばかりさせるからよぉ……」


   ダダダダ…


「だれでぇ… まだ中に残ってたヤツがいたのかよ…」
318 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/07/31(火) 21:44:08.86 ID:XUxUnZXSO

??「おやっさん!」ダッ

テオロ「なんでぇ… ゴローじゃねぇか……」

ゴロー「な、何があったっ! とにかく早く手当てを!」


 倉に荷を入れ終え、儀式の様子を見に来たら…
 これはいったいどういう事だ……


テオロ「敵がこの國に攻めてきたんだ…」

ゴロー「喋らないでくれ! さあ背中をこっちに!」

テオロ「……へっ このくれぇはかすり傷よ…」

ゴロー「いいから…」グイッ

   「な、なんで… こんなに……」


テオロ「なんか…眠くなって…きやがった……」

ゴロー「おやっさん! 眠るな! 気をしっかり持てよ!」

   「ソポクさんはどうするんだ! あんなイイ女、滅多にいないぞ!」


テオロ「見えねぇんか… カァちゃんは…そこに居るじゃねぇか…」

ゴロー「え……」


 ……居るわけがなかった。俺達以外、誰も……


テオロ「迎えに来てくれたのか……」

   「どうでぇ…… 約束は守ったぜぇ……」


ゴロー「……まさか、ヤマユラが」

テオロ「なんでぇ…おめぇ達も来てたのか……」

   「んじゃ…… 『還る』とすっか……」


ゴロー「おい、おい… おやっさん……」


テオロ「みんなでパアッとやろうぜ…………」

   「ゴローもたまには俺と一杯やろうや…」

   「あぁ? いいじゃねか…こんな時くらいケチケチすんなって……」


ゴロー「おやっさん! 俺、一緒に飲むぞ! だから…逝くな!!」


テオロ「じゃあな… アンちゃん…ゴロー……」

ゴロー「おやっさん!!」



テオロ『がんばれよ…… おめぇ達…………』



ゴロー「おやっさん…… おやっさん!!」

319 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/07/31(火) 21:47:25.04 ID:XUxUnZXSO
 ――

 ……静寂の中、嗚咽だけが漏れている。


エルルゥ「うッ…うぅぅぅ……」

    「えぐっ、うぅぅぅ……」



アルルゥ「おやじ〜」ユサユサ…

    「おやじ〜 おきる…」ユサユサ…


ハクオロ「………っ」


 おやっさんの背には、矢じりが複数刺さっていた。それもかなり深く……
 俺達に心配をかけまいと、箆の部分は折っていたようだ。

(※ 箆(の)…矢の棒の部分のこと)


ハクオロ「……何故、気付かなかった」

ウルト「ご自分を責めないで下さい。誰も…気付けなかったのですから……」

ゴロー「…………」

   タッタッ… スッ

クロウ「今戻りやした」


 集落に向かわせたクロウが帰る。


ベナウィ「ご苦労様です。現状の報告を……」

クロウ「ういっス。敵は撤退、一帯に敵影はありやせん」

ハクオロ「ヤマユラは…… あの集落はどうなっていた」

クロウ「……いいんですかい?」チラリ


 視線の先に、エルルゥとアルルゥ。ヤマユラの姉妹が映る。


ゴロー(聞かせたくない……か)

ハクオロ(だが、隠していてもいずれわかる)

ゴロー(それにもう…)



ハクオロ・ゴロー((……もう遅い))


320 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/07/31(火) 21:49:54.70 ID:XUxUnZXSO

ハクオロ「ああ」コクリ


クロウ「……わかりやした、報告しやす」

   「集落の周囲に防壁が積まれ、奴等と交戦したものと――」


ハクオロ「回りくどい事はいい。結果は――どうなった」

クロウ「……集落は炎上。生存者……ありやせん」


エルルゥ「――――!!」


一同「「「…………」」」


アルルゥ「おやじ… おやじぃ〜…」ユサユサ


ゴロー(アルルゥ……)

ハクオロ「アルルゥ、もう…そっとしてあげるんだ」


アルルゥ「どうして?」

    「おやじ、ねてる」

    「ねてるだけ……」


ハクオロ「おやっさんはもう…目を覚まさないんだ」

アルルゥ「……おきないの?」

ゴロー「うん……」

ハクオロ「トゥスクルさんの所へ…行ったんだよ」

アルルゥ「おばあちゃんの…トコ?」

ハクオロ「ああ…… みんなと…一緒に」

アルルゥ「……」フルフル

ゴロー「アルルゥ……」


アルルゥ「ねてるだけ……」

    「おやじ、ねてるだけ……」

  ユサユサユサユサユサユサ…

アルルゥ「おやじ… おきる……」ユサユサ


カミュ「アルちゃん…」

321 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/07/31(火) 21:52:58.03 ID:XUxUnZXSO

ハクオロ「もういい… もうやめるんだ……」

アルルゥ「やだ…」


ゴロー「アルルゥ」


アルルゥ「やだ…やだ…やだ…やぁだ……」

    「やぁだぁ――――ッ!!」ビェェ!

    「ヒッ… おばぁちゃーん… おばぁちゃーん!」ビェェン


ハクオロ「アルルゥ!」ガシッ


 ハクオロの腕の中、泣きながら暴れだすアルルゥ。


アルルゥ「ヤァ―――ッ!ウッ ヤァ―――ッ!!」バタバタ


ゴロー「くっ… エルルゥさん! これを!」スッ

エルルゥ「それ…… はい」パッ

アルルゥ「ヤァダ! ヤァ――――ッ!!」


エルルゥ「……」スウッ

アルルゥ「う、う゛〜〜ッ! …………」ガクッ

ハクオロ「それは…」

エルルゥ「お薬で…眠らせたんです」


ゴロー(……睡眠薬。作っておいて良かったのか悪かったのか……)


 今、彼女に渡した白い布切れ。
 それに薬を染み込ませておいた。


エルルゥ「悲しみで心が… 潰されないように……」フラッ

ハクオロ「エルルゥ!」ガシ


 ハクオロが倒れそうなエルルゥさんを支える。


ハクオロ(エルルゥ… お前も…そんな青白い顔を……)

エルルゥ「私は大丈夫… だいじょうぶですから……」


ゴロー「……ハクオロ」

ハクオロ「……ああ。エルルゥ」スッ


 ハクオロが布切れをエルルゥさんの口にやる。


エルルゥ「…………」ガク


 この姉妹を… 神ってやつはどれだけ嫌っているんだ……

322 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/07/31(火) 21:56:04.34 ID:XUxUnZXSO
  ――

ハクオロの書斎に男衆が集う。


ハクオロ「ベナウィ。奴等が何者か、調べはついたか」

ベナウィ「はっ、遺品から『クッチャ・ケッチャ』の者かと」

オボロ「兄者! 俺に奴等の討伐命令をっ!」

クロウ「落ち着け、そう感情を表に出すんじゃねぇ」

オボロ「な! お前はそれでいいのか!」

クロウ「……俺も腹が煮えくりかえりそうなんだよ。フツフツとな」ギリリッ

ベナウィ「……真相が明らかになるまでは動くべきではありません」

    「戦は民を巻き込みます。事は単純ではない!」


ベナウィ「……貴方も一人の将なら、分別を付けなさい」

オボロ「チッ―― 反吐(へど)が出そうな正論だな」

ベナウィ「反吐を吐くだけでよいなら、いくらでも吐きなさい。
     その程度ですめば安いものです」


オボロ「クッ… 兄者! 命令を! みんなの仇を――!」

ハクオロ「……静まれ」

オボロ「兄者ぁ! みんな殺されたんだぞ!!」

ハクオロ「……黙れ」

オボロ「おやっさんを殺され、何とも思わないのか!!」



ハクオロ「黙れっ!!」

    「黙れ……」



一同「「「…………」」」


ベナウィ「クッチャ・ケッチャに使者を送りました。それまではこのまま…」

ハクオロ「わかった。私は仮眠を取る、一人にしてくれ……」

323 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/07/31(火) 21:59:41.72 ID:XUxUnZXSO
  ――

しかし皇が一人になる時間は訪れない。


ハクオロ「…………」

ゴロー「…………」


対峙する二人、禁裏の空気が冷たくなっていく。


ハクオロ「……ゴローさん、歯をくいしばって下さい」

ゴロー「…………」グッ


    ガッ!


ハクオロ「……何も言わないのか」

ゴロー「八つ当たりに何か言うことがあるか」


    ガッ!


ハクオロ「……すみません」


ゴロー「おやっさんを看取った俺に何か言いたいのはわかるさ。
    俺もあの時、何も出来なかった自分に腹が立って仕方なかった」

   「ちょっと頼みがある。外の見える場所に行かないか」


  ……


そんな様子を覗きみる女。


カルラ「まったく… 折角わたしが皇様の話し相手に……と思いましたのに」

   「今日はダメそうですわね… ゴロー… この貸しは大きいですわよ」

  スタ スタ…


324 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/07/31(火) 22:02:56.03 ID:XUxUnZXSO
  ……

 昼間の厚い雲はなくなり、星が瞬く夜空となっていた。

 俺は外の見える縁側に座り、酒を取り出す。


ゴロー「おやっさんとさ、『飲もう』って約束したんだ。最期の時に」トクトク

ハクオロ「……飲めない貴方が、か」

ゴロー「お前の事、心配してたぞ。 ……よし、次は俺の分を」

ハクオロ「……自分が注ぎます」

ゴロー「じゃあ頼む」

ハクオロ「…………」トクトク


ゴロー「こっちの猪口にも注いでくれ」スッ

   「そうしたら…… この斧の前に」ゴトン


 おやっさんの使っていた斧を手すりに立て掛ける。


ハクオロ「陰膳…いや、陰酒……か。 ……おやっさん」スッ


ゴロー「男三人だけなんてむさ苦しくて寂しい宴で悪いな」


 『いいってことよぉ! これはこれで楽しいモンだぜぇ!』


ハクオロ「おやっさん…… あっちで皆と仲良くやって下さい……」


 『ダーッハッハッハ! 当ったりめぇよ! 皆で楽しく騒いでるってぇの!』


ゴロー「じゃあ…」 ハクオロ「ああ」



  『「「いただきます」」』



325 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/07/31(火) 22:07:41.79 ID:XUxUnZXSO
  ――

――時間が少し経った。

城の朝堂で今後の同盟の儀について話をするハクオロ皇。


ハクオロ「もしや、奴等の狙いは同盟の破綻だったか……」

ウルト「襲撃で各國はだいぶ揺れております。
    同盟について考え直すという國も……」


ハクオロ「まんまと敵の思惑はめられたか……」

クロウ「総大将、使者が戻りやした!
    バカヤロウ! まだだ! くたばるんじゃねぇ!」


クロウに支えられながら、兵が御前に現れる。


クロウ「テメェはなんだ! 務めを果たさずにくたばる腰抜けか!
    漢(おとこ)なら見事務めを果たしてみやがれぇ!!」ズリズリ


使者「ク、クッチャ・ケッチャ… 我ら使者を襲撃……
   じ、自分を残し、みな…う、討ち死にぃ!」

  「ど、どうか…仇を…… あっ…」ガクッ


クロウ「……よく務めを果たしたな」スッ


ハクオロ「…………決裂だ。ベナウィ、文句はないな」

ベナウィ「はい、御心のままに」ペコリ

ハクオロ「全軍に知らせよ!! クッチャ・ケッチャに進軍する!!」


 「「「オオッ!!」」」

  ――


 城門の前、俺はハクオロに話しかけた。


ゴロー「悪い、俺は行けない。おやっさんを埋葬しに行くつもりだ」

ハクオロ「そうか」

ゴロー「今度の敵は騎兵が主力。俺では役に立たないだろう」

ハクオロ「……では、村の事を任せる。頼んだぞ」

ゴロー「畏まりました。皇(オゥルォ)様」ペコリ

ハクオロ「…………」ザッザッ…

アルルゥ「おとーさん… コワイ……」

エルルゥ「ハクオロさん、どうか御無事で……」

ゴロー(あいつ… 相当頭にきてるな。上手く隠したつもりだろうが)


 嫌な予感がするってのに……



第十一話「モロロまんじゅうと弔い酒」

  続く。
326 : ◆M6R0eWkIpk [saga]:2012/07/31(火) 22:14:33.05 ID:XUxUnZXSO
投下完了。>>305から今回の始まり。

いよいよクッチャ・ケッチャ編に突入しました。

この話が終わってうたわれメインキャラが勢揃い。


原作ではクーヤとゲンジマル、結構早く出てます。
今回の登場はそのため。

ちなみに『還る』の字は誤字ではありません。
『土に還る』から来ています。
ゲームだとハクオロとの会話でこういうものがあるのです。

327 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/07/31(火) 23:09:23.43 ID:kDCAW9BSo
328 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/31(火) 23:19:31.76 ID:rdan4IBSO

家庭用は、中盤から地味にOPが替わってて好き
329 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/07/31(火) 23:41:51.71 ID:MVGzUMzWo
330 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/01(水) 06:54:50.82 ID:HgQJ822a0
ついに来たか
331 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/01(水) 12:40:40.52 ID:HzIUDVS3o
味皇(アジオロ)様の出番はまだですか
332 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/02(木) 02:05:23.58 ID:zt5ehpdIO
超面白いわホント
ゴローとうたわれ世界が違和感無く溶け込んでるのがすげぇ


それはそうと、この瀕死の伝令とクロウのシーン良いよね。なんかジワっとくる
333 : ◆M6R0eWkIpk [saga]:2012/08/02(木) 19:43:35.99 ID:SwZBsheSO
投下予告です。21時過ぎたら開始予定。

>>331
ミスター味っ子の味皇ですよね?
あるキャラをその人に似せるので暫しお待ち下さい。
(具体的にはシケリペチム編最初の辺りまで)


>>332
ありがとうございます。

でも全体を見るとゴローちゃん、余り出てない気が……
中盤過ぎたら出番増えるはず!
334 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/02(木) 20:47:29.98 ID:SwZBsheSO

第十二話「アルルゥ監修・現地調達食事セット」



ゴロー「……」ザクザク


 ヤマユラの集落の惨状を目の当たりにする。
 村人は全滅、建物も大半は焼けて崩壊していた。



ゴロー「…………」


 かつて貧しいながらも賑わい、そして俺のような男を受け入れてくれた…

 そんな集落はこの世界に存在しない。


ゴロー「くうっ……」ポロ…


 泣いてもどうしようもない事はわかっている。
 だが、感情を抑えられない。


ゴロー「どうして… どうして抵抗なんてしたんだ……」

   「逃げたり…降伏してくれれば…… また会えたかもしれないのに」


 ほんの小さな可能性。
 『生きてさえいてくれれば……』と強く思う。


近隣の村人達「「……あのう」」

ゴロー「……ああ、手伝ってくれてありがとうございます」


 近くの村から手伝いに来てくれた人々。
 彼らがいなかったら、作業にならなかったろう。
 俺の手、止まってばかりだったから……


村人「墓を作り終えたそうですので…… 亡骸を埋葬してあげましょう……」


ゴロー「……はい」スクッ

335 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/02(木) 20:51:32.21 ID:SwZBsheSO
 …………

 〜 集落・墓所 〜

 淡々と…… 村人だったモノを墓に埋めていく。


ゴロー「…………」ザックザック


 おやっさんはソポクさんの横に埋葬した。
 家族がわかる遺体は出来るだけ近くに。


ゴロー「…………っ」


 俺では家族構成がわからない遺体もあった。


ゴロー「この村…… こんなに人が居たんだな」


 以前の村を知る人を誰も連れて来なかった事を悔やむ。

 あの姉妹は駄目だ。今は落ち着いたが
 あの惨状を見せられる程、心は回復していない。

 オボロの率いる隠し砦の者も、それほど詳しくはないだろう。
 あいつ自身は仇討ちに熱くなっていたから呼べなかった。


村人「……終わりました」

ゴロー「そうか…… ありがとうございます」ペコリ


 ……他の仕事もせねばならない。


ゴロー「襲撃された集落は他にありますか?」

村人「……申し訳ありません。私達も詳しくなく……」

ゴロー「……いえ、今日はわざわざ手を貸して頂きありがとうございました」

村人「この村は…… 本当に良い村でした」

ゴロー「……はい。人の暖かみがある…優しい村だったと思います」


 ……ここでの仕事は終わった。

 墓参りを済ませたら、他の集落の被害状況も確認しなくてはいけない。


ゴロー「もう一度、村の跡を見なくてはな……」


336 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/02(木) 20:55:20.42 ID:SwZBsheSO
 ――

 〜 クッチャ・ケッチャ 〜


ハクオロ「方円陣!!」

    (迂闊だった… クッチャ・ケッチャは平原の多い國。
     罠を張られているとわかっていながら……
     心の何処かで『罠など正面から打ち破る』と考えていたっ……)


トゥスクル軍は広い平原の中、クッチャ・ケッチャの軍隊に包囲されていた。


トゥスクルの東に位置する『クッチャ・ケッチャ國』。

この國は國土の大部分を平原が占めるという珍しい國である。
そして、陣や皇都も移動式の天幕で作られている。

いわば、國全体が『流浪の民』のよう。一般國とは全く異なるのだ。

そんな國の主戦力……クッチャ・ケッチャ騎兵衆(ラクシャライ)。

機動力を活かした怒濤の攻め。
それに対しどう対処するか――
戦の肝となるのはこの点であった。


 《 協撃!》

 《 騎兵 前へ 》


ベナウィ「クロウ!」ザッ

クロウ「待ってやしたぜ!」ザッ


ベナウィ・クロウ「「ぬおおおおおおッ!」」ダダダッ!!


ベナウィ「我らが心に曇り無し!」ズザッ

クロウ「我らが前に……敵も無しぃっ!」ザザッ

  ズドドドドドーン…


337 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/02(木) 20:58:23.52 ID:SwZBsheSO

――負けてはいられない。

トゥスクル騎兵最強と言える男達のの十字突進。

この二人の気迫に触発されたか……
トゥスクル兵も槍や弓矢で反撃に転じる。

しかし、敵総大将の言葉が戦場を大きな混迷へ誘う。


オリカカン「待っていたぞラクシャイン!! 我が義弟にして裏切り者よ!」

ハクオロ「な……なんだと……裏切り者とはどういう事だ!」

オリカカン「その罪、忘れたとは言わさん! この戦は貴様への断罪である!」

そして… 翼のような耳を持つ武人(もののふ)が更に事態を悪化させる。


トウカ「悪漢ラクシャイン! この『エヴェンクルガのトウカ』が
    お前を成敗してくれるっ!!」ヒュン


   カキッ キィーン!!

カルラ「……面白そうな相手ですわ」ギギッ

トウカ「邪魔をする気か!」ギギッ

オボロ「兄者!!」スパッ ザシュッ!

敵兵ら「「ぐわああっ!」」

罠に嵌めたとはいえ、クッチャ・ケッチャの兵も
トゥスクル兵の激しい抵抗に徐々に押されつつあった。


トウカ「地の利を持つ我々をここまで追い詰めるか! ……オリカカン殿!」

オリカカン「退くなど出来ぬ! 目前に我が宿敵がおるのだ!」

トウカ「今オリカカン殿を失うわけにはいきませぬ!
    先の敵騎兵の攻撃で手傷を負われたのでしょう!」


オリカカン「ムゥゥ…… 総員、撤退!!」

  ダッダッ…ダダダダ…

ハクオロ「待て! 貴様は…私の事を知っているのか!」


オリカカン「記憶喪失などと誤魔化してもこのオリカカンには通じんぞ!」

     「何度でも言ってやる! 貴様はラクシャイン!
      己が妻であった我が妹と同胞を手にかけた忌むべき裏切り者だ!」

   ダッダッ……


ハクオロ「……感情に流された報いか」


この戦は『痛み分け』に終わった。
トゥスクルに大きな『楔』を打ち込んで……
338 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/02(木) 21:02:47.77 ID:SwZBsheSO
※ 前レス訂正、『男達のの』× 『男達の』○

 ――――

 〜 皇城・書斎 〜


ハクオロ「……」

ゴロー「……襲撃による被害報告は終わりだ」


 軍がクッチャ・ケッチャへの遠征から帰って来た。

 こちらの報告を終え、ハクオロの反応を伺う。


ハクオロ「……すまない、先に休む。ベナウィ、対処を任せた……」ガタッ

ベナウィ「はっ」

エルルゥ「……」スッ


 ハクオロとエルルゥさん、二人が出ていく。


ゴロー「……一体何があったんだ」

カルラ「敵将が… あるじ様が裏切り者だ。……とかおっしゃってましたわ」

ゴロー「! あいつの過去を知っている奴がいたと?」

ベナウィ「はい。それで聖上が取り乱しました」

    「……あの集落の責が御身にあると感じていらっしゃるのでしょう」


ゴロー「他には?」

カルラ「あの女ですわね。……エルルゥのお茶は美味ですわ〜」グイッ

ゴロー「あの女?」

ベナウィ「エヴェンクルガ族の女性が敵軍に助太刀をしていました」


ゴロー「『義』を背負う部族…… 兵の士気に関わるな」

   「ん? エヴェンクルガの女…… 名前とかわかるか?」ズズウ


カルラ「大声で『エヴェンクルガのトウカ』と名乗ってましたわ」

ゴロー「 」ブーッ!

ベナウィ「……かかりました」フキフキ

ゴロー「……そいつ、知り合いだ」

339 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/02(木) 21:05:59.34 ID:SwZBsheSO
  ――

 月は出ていない。空の闇に吸い込まれそうな夜だ。

 少数精鋭の隊にクッチャ・ケッチャを調べさせると決まり、
 オボロ組とクロウが再び敵の國へ出発した。


ゴロー「報告待ちだと手持ちぶさた……」フゥー


 しかし、トウカ……
 あの頑固が服着て歩いてるような女が敵にいるとは。


ゴロー「……次向こうに行く時はついていくか」


 アイツには貸しがある。そろそろ返して貰わないと。


ゴロー「……あ、あれ」


 アルルゥとカミュちゃん。ムックルも一緒か。


アルルゥ・カミュ((……))ソローリソローリ


ゴロー「お嬢さん方、どちらへお出かけですか」


カミュ「……見えてます?」クルリ

ゴロー「姿を隠す法術を使ってたのか?」

カミュ「はい。やっぱり、姿を消す術は苦手だな……
    ゴローおじさま! お願いっ、黙って見逃して!」スゥッ


ゴロー「そうは言っても……何をする気だ?」

アルルゥ「カミュち、だいじょぶ。ペコちゃんも連れてく」


 ……だから目的を言ってほしい。

340 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/02(木) 21:10:25.87 ID:SwZBsheSO
 少し質問を変えてみる。


ゴロー「……どこに行くつもりかな?」

カミュ「この國から東に進むと綺麗な花の咲く場所があるみたいでして…」

アルルゥ「お花、みんなのとこに」


 ……アルルゥなりのやり方で村の皆を弔うってわけか。


ゴロー「はぁ… わかった。保護者として同伴しましょう」フゥ

カミュ「ホントっ? ありがとー ゴローおじさま♪」

アルルゥ「じゃあ乗る!!」

ムックル『ぐおっ!』スッ


 『ムックルタクシー』出発進行。


ゴロー「しかし國境だぞ。一日近くかかるだろうに」

アルルゥ「へーき。ムックル はやいから」


 ――

 〜 トゥスクル國外・花畑 〜


 は、速すぎる……

 バレると不味いから森の中を駆け抜けたのに…
 今、ちょうど昼くらいの太陽の高さだ。


ゴロー「腹減ったぞ……」

アルルゥ「ムックル〜♪」ナデナデ

ムックル『ぶおぅ』グルグル

カミュ「ムックルってタフだよね〜」ナデナデ


 流石は森の主。


ゴロー「成長したから乗り心地もよくなったな」


 でも腹が減った。

 二人が花を摘む間、この空腹に耐えなきゃいけないのか……

341 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/02(木) 21:14:42.94 ID:SwZBsheSO

 二人は花を摘み終えた様子だ。
 そして、アルルゥは服の中から袋を取り出す。


アルルゥ「う〜んと…」ガサゴソ

    「ペコちゃん、あれ」スッ


 指の先には彼女の大好物である『蜂の巣』が木に垂れ下がっている。


ゴロー「……あの蜂の巣、俺に採れと?」

アルルゥ「うん」コクン

    「これ、道具」


ゴロー「布袋と薪か…」


 巣を燻して採ればいいのか。


ゴロー「よし……」ソローリ


   ブーン ブーンブーン ブーン


 ……無理です。


ゴロー「おおおぉぉぉぉ!!」ダッ!


   ブーン ブーンブーン…


アルルゥ「♪」スポッ

カミュ「アルちゃん、ゴローおじさまを囮にしたね……」

アルルゥ「ハチミツ、ハチミツ〜♪」

342 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/02(木) 21:17:28.00 ID:SwZBsheSO
 …………

 【紅皇バチの巣(蜜)】

ハチミツの中でもとびきり質の良い甘さを持つ。


カルラ「ふふっ、ずいぶんと綺麗事を仰るのね。ハチミツのように甘いですわ」

   「特に紅皇バチの蜜のような(以下略)」


という原作ゲームにある言葉が由来。
人を惹き付ける何かがあるのだろう。


 【何かの幼虫】

甲虫系の生き物の幼虫。
アルルゥは生で食べられる。
結構ビックサイズ。


 【キノコ】

山育ちのアルルゥは食べられるキノコと
食べられないキノコを区別するのが得意。


アルルゥ「あ〜ん」パクン

   モグ モグ


ゴロー(躊躇なく幼虫にいったぞ……)

カミュ「カ、カミュはちょっと幼虫は止めよっかな〜」タラリ

アルルゥ「ん」ズイッ

ゴロー「…………いただきます」


 噛みきるよりは一口で含んだほうがいいだろうか…


   グッ…

 か、噛みたくない! 口の中で動いてる!


ゴロー(これなら蜂の幼虫のほうが遥かにマシじゃないか……)


   ぐにゅ もちゅ…


 ……土の味がほのかにするなぁ。

 生温い体液が口の中を侵食してくる。



 ……二度と幼虫なんて食わない。

343 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/02(木) 21:21:27.79 ID:SwZBsheSO

カミュ「キ、キノコは焼くと美味しいよ!『ヒム・トゥスカイ』!」

   ボッ

カミュ「よし! こっちは成功!」

ゴロー「法術か。ちゃんとしたのを見たのは初めてだ」

アルルゥ「カミュち〜 かっこいい!」

カミュ「へへっ! ……でも『可愛い』にしてほしいなっ」


 どれ、キノコを一口…… うん。上等上等。


   むしゃり むぐ

ゴロー「何もつけないで食うのは単純だけど」


 でもさっきの幼虫に比べたら…食える食える。

 次に二人は蜂の巣に手を伸ばした。


アルルゥ「ハチミツ〜 きゃっほぅ♪」モグモグ

カミュ「甘くておいし〜!!」

ゴロー「俺にも少しくれないか?」

アルルゥ「ん」スッ

ゴロー「ありがとう」パクッ


 おお! このハチミツ、美味い。


ゴロー「どことなく気品があるようだ」ペロッ


 これを御菓子に使ったら美味いだろうな。
 カリンカ(果実のハチミツ漬け)とか……

 豆と合わせて食うのもいいぞ。

 そうだ…… 寒天でも作れないだろうか。

344 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/02(木) 21:22:53.29 ID:SwZBsheSO

アルルゥ「!」ピクン

カミュ「アルちゃん? どうしたの?」

アルルゥ「ひと……近い。 ウマ、いっぱい」

ゴロー「クッチャ・ケッチャかもな…… 静かに」シッ

カミュ「ちょっと待って……」

   『δξσθψλφ……』ブツブツ…


 法術の呪文……
 カミュちゃんが聞いた事のない発音で言葉を紡ぎだした。


 お、おお! 四肢の先から透き通っていく!


カミュ(透明)「やったっ!成功! 声も聴こえなくなるから大丈夫だよ♪」

アルルゥ(透明)「カミュち すごい!」

ムックル(透明)『ぐおおぉっ』

ゴロー(透明)「よし、このままやり過ごせば……」

アルルゥ「……ヤダ。ついてく」

ゴロー「駄目だ、危ない」


 このコ達が危険に近づく必要はない。


アルルゥ「……ムックル!」ヒラリ

ムックル『グオオオッ!』ズザッ

カミュ「え、あ、うあ!! アルちゃん!」ヒョイ

  ダッ ダダッ……


 ……まずいぞ。


ゴロー「……洒落にならん」ダッ!


 俺、あのムックルに追い付けるかな……

345 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/02(木) 21:28:35.16 ID:SwZBsheSO

彼女らが出掛けた翌日の夕方。

敵國から諜報活動組が戻ったので、軍議を開始。

現場に向かったオボロとクロウの報告が済み、皇の頭が動きだす。


ハクオロ「此方が向こうの敵陣を探そうとすると…
     あの『エヴェンクルガ』が邪魔をする」


オボロ「あの女…… 俺の攻撃を軽くあしらいやがって……」ギリッ

ベナウィ「敵にエヴェンクルガが居る事で兵の間に動揺が走っています」

クロウ「敵は細かく陣地を移動しているようっす」

ベナウィ「小規模の部隊が敵國境近くで我が軍の前線部隊と交戦……
     此方の別部隊が到着する前に撤退を済ませる……」


ハクオロ「騎兵の機動力を存分に生かした戦法……か」


打開策を考える男達。


エルルゥ「あのう……皆さん!」

ハクオロ「エルルゥ…」


何故か指で天を差しながら彼女が喋る。


エルルゥ「おばあちゃんが言ってました。『悩みで行き詰まった時、
     その事ばかり考えてたらかえって抜け出せないって』」

エルルゥ「『そんな時はお茶を飲んで寛ぐのが一番だ』って」ニコリ


ハクオロ「……そうだな。そうかもしれない」


ハクオロはエルルゥのお茶を飲みながら、情報を整理し始めた。

346 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/02(木) 21:34:33.98 ID:SwZBsheSO

ハクオロ「……一つ、腑に落ちない点がある」


そう言うと彼は地図を広げた。


ハクオロ「クッチャ・ケッチャはほとんどの國土が平原となっている」

    「その中を縦横無尽に駆け巡るが……」スッ


彼は地図の一点を指差し、違和感を提示する。


ハクオロ「ここだ。國の中央にある『渓谷』。これが國を両断している」

ベナウィ「下から回り道をせねば通れない深さのようです」

ハクオロ「なのに奴等は簡単に行き来可能…… 妙だと思わないか」


ドリィ・グラァ「「失礼します」」ガラッ


オボロ「ドリィ・グラァ、戻ったか。お前達の報告を頼む」

ドリィ「はい、僕達で敵の後をつけて移動路を調べたのですが……」


双子はもう一枚の地図……渓谷を少し詳しく描写したものを見せた。


グラァ「このあたりで何度か見失ってしまうんです」スッ


指し示されたのは朱で囲われた谷の広範囲。
霧が立ち込める事も多く、ハッキリと全貌を掴ませない地帯。


ドリィ「そしたら、いつの間にか敵の姿が谷の向こう側にあって……」


ハクオロ「橋か何かがあるのだろう。だが具体的な位置が掴めていないと…」


手当たり次第に襲撃する方法もあるが……
動きがばれては警備を厳重にされる。
逆に橋を囮として、策を請ずられる危険もあった。


――奇襲。それが行える最良の方法。
だがその為の情報が欠けていた。
347 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/02(木) 21:38:24.16 ID:SwZBsheSO

……偶然とは恐ろしい。

一人の子どもの行動がこの戦局を打破するキッカケとなるのだから。


アルルゥ「ここっ!!」グイッ


停滞した会議に乱入するアルルゥ。
少女の指は朱に囲われた部分……その中の一点を示していた。


ハクオロ「アルルゥ。どうした、そんなに土まみれになって」

エルルゥ「どこに行ってたの! 姿が見えないと思ってたら……」

ハクオロ「いや、待て。『ここ』とは?」


アルルゥ「ここに橋、ある! におい追ったらあった!」

ゴロー「ああ、俺も確認した。間違いないぞ」


オボロ「大兄者! 擦り傷だらけだ!」

ゴロー「仕方ないじゃないか……」


 ムックルに乗せて貰うのに時間がかかったんだよ…

(尾行を認めるまで、ムックルに乗せて貰えず森を進んだため)



カミュ「カミュも見たよ!」

ムックル『ぐごぉ〜』


ウルト「……それで? 貴女達は城を抜け出して何処へ行ってたのかしら?」

エルルゥ「二人(+一匹)とも! そこに座りなさい!!」

348 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/02(木) 21:42:30.62 ID:SwZBsheSO

アルルゥ「う〜…」  カミュ「ご、ごめんなさい…」  ムックル『……』


ゴロー「あ、このコ達は……」


 弁護をしてやろうとすると……


アルルゥ「おばーちゃんのトコ……」

ハクオロ「…………ヤマユラに」

ゴロー「國の外に綺麗な花が咲く場所があってな。
    そこまで墓前に供える花を摘みに行ったんだ」


ハクオロ「そうか…… きっと、皆も喜ぶ」ニコリ

アルルゥ「おとーさん」トコトコ

ハクオロ「なんだい?」

アルルゥ「お花、みんなで」スッ


 摘んできた花を差し出すアルルゥ。


ハクオロ「……」ギュッ

アルルゥ「ん〜〜…」ギュッ


ハクオロ「ありがとう…… ありがとう」

アルルゥ「ん〜」スリスリ


 この場に居合わせた全員が優しい笑顔をした。


ゴロー(家族か。なんだか…………悪くない)


ハクオロ「召集をかけろ! 出陣(で)るぞ!!」


 「「「 応っ!!!」」」


 ――――
349 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/02(木) 21:45:42.55 ID:SwZBsheSO
 ――

 場所を匂いで追えるアルルゥが部隊を先導し、
 俺達はウォプタルに揺られて敵國の渓谷に到着した。

 この谷、霧が深いなぁ……



カルラ「ゴロー。あなた『トウカ』と顔見知りなんですの?」

ゴロー「ええ。旅をしていた時に偶然」


 カルラさんが話しかけてきた。


カルラ「その時もあんな感じだったのかしら」

ゴロー「『あんな感じ』がわかりませんが……多分そうです」

カルラ「ふーん…… でもイジりがいがありそうでしたわ」

ゴロー「あー確かに。刀の腕は強いんですが、こう…隙があるんです」

カルラ「フフッ…ちょっと楽しみになってきましたわね……」ニヤリ

ゴロー(この人、Sだ)


オボロ「見えたぞ! 橋だ!」

ベナウィ「ええ、戦いです。既に敵兵が橋に」


 俺達の前にいる侍大将コンビが危機を伝える。

 ……敵複数が橋の上で待機中。
350 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/02(木) 21:52:00.84 ID:SwZBsheSO
※前レス訂正、最初の部分。
『場所を知っていて、鼻の利くアルルゥ・ムックルが先導』にします。

 …………


トウカ「いつかは知られると思っていたが、予想より早かったな」


オボロ「キサマッ! 今日こそは!!」チャキッ

ベナウィ「……」カチャリ

クロウ「エヴェンクルガ… 手合わせしてみたかったぜ」スラッ

ハクオロ「ウチには鼻が利く仲間がいてな」

ムックル『グルルルッ……』

アルルゥ「む〜…」


トウカ「子どもを戦場に出すとは…… やはり貴様は悪漢だ!」シャキン


ゴロー「おーい、トウカ〜 元気にしてたか〜」ブンブン


トウカ「!? ゴロー殿!? 何故(なにゆえ)敵軍に!!」


ゴロー「いや…これが…」


トウカ「ハッ! そうかラクシャイン! 某の知人を人質に……
    なんて卑劣な! 暫し待たれよゴロー殿、某がお助け致しますゆえ!」


ハクオロ・ゴロー((駄目だこの人。全然話を聞かない))



 《 バトルパート 》

勝利条件…トウカの撃破。

敗北条件…ハクオロの撃破。

351 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/02(木) 21:56:44.81 ID:SwZBsheSO

オボロ「はぁぁぁっ!!」キィン ザシュッ

敵「ぐふぅッ!」


クロウ「ちっ、こう狭いとウマが使えねぇ」ブン

敵「ぐひぇ!!」


ベナウィ「嘆く暇はありませんよ」カッ スパッ

敵「ごでゃへっ!」


トウカ「ひとつ、ふたつ、みっつ!!」ザシュッ スパッ ビシュッ

トゥス兵ら「「「げはっ…」」」


カルラ「はぁ…… 人が多過ぎて邪魔ですわ」

ゴロー「行かないんですか?」

カルラ「……少しだけ貸しを返して貰いましょうか」ボソリ

ゴロー「え……」



 《 協撃?》

 《ここではカルラさんがおかずだ》


カルラ「さあ、お願いしますわ」ガシッ

ゴロー「あ、あのう… 俺を抱えて何を……」

カルラ「ハァァァッ!!」ブォン


ゴロー「投げられたァ―――!!!」ヒューン!!

トウカ「!!」


    ドカッ!! 


トウカ「」(☆ピヨピヨ)

ゴロー「」


カルラ「お疲れ様ですわ〜」ザッ

ゴロー(下からの視点で胸を見るって素敵だな……)ガクリ

(※効果 敵一体を必ず『状態異常・気絶』にする。そしてゴローも気絶する)



敵兵「トウカ様が! 我等の同士を維持でも守れえええ!!」

敵兵達「「「ウオオオオ!」」」

352 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/02(木) 22:02:01.04 ID:SwZBsheSO

 俺とトウカ、ほぼ同じタイミングで目を覚ました。

トウカ「ぐうっ……な、同志たちが……」

ゴロー「痛てて… 酷い目にあった……」


ハクオロ「他の兵はもういない!
     エヴェンクルガの武人(もののふ)よ、降伏せよ!」

トウカ「……例え独りであろうと『義』のために戦う!」チャキン


トウカ「かくなる上は…… ラクシャイン! 貴様に一騎討ちを申し込む!!」


ゴロー「あ、それ 俺が受けた」ハイ


この場に居る皆「「「……はいぃ??」」」


トウカ「な… ゴロー殿は人質ではないのですか!」

ゴロー「俺、トゥスクルで仕事してるから雇い主にいなくなられると……」

トウカ「くっ…貴方とは戦いたくなかった……
    だが立ち塞がるなら斬るしかない!」チャキッ


ゴロー「待て、刀は使うな」

トウカ「は?」

ゴロー「ご覧のとおり、俺は素手。
    そんな相手を武器で斬るのか『エヴェンクルガ』は?」


トウカ「なるほど、ならば某も素手で戦いましょう!!」スッ

ゴロー「違う違う。これからは『言葉』で戦うんだ」

トウカ「平和的な話し合いの段階は過ぎ……」

ゴロー「昼メシの貸し、忘れたとは言わせないぞ。
    約束もしたのに借りを返さないのは『義』に反しないか?」


トウカ「……良いでしょう。某が勝ったらラクシャインと一騎討ちをさせて貰う!」


ゴロー「ハクオロ、その条件でいいかー?」

ハクオロ「あ、ああ。了承した」


一同(((何をする気だ……)))

353 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/02(木) 22:04:39.06 ID:SwZBsheSO

トウカ「して、何をもって勝利とする」

ゴロー「『あの男がラクシャインかどうか』話し合おう」

トウカ「な、何を馬鹿な!! あの男はラクシャイン!
    クッチャ・ケッチャの民草を幾人も殺した極悪人だ!!」


ゴロー「……それが違うんだ」

トウカ「な、何が違う!」






ゴロー「実はな…… あいつ、俺の弟なんだ」



   シーン……



一同(((ナ、ナンダッテーー!!!)))


354 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/02(木) 22:07:02.56 ID:SwZBsheSO

トウカ「そんな出鱈目を!!」


ゴロー「よく見ろ。あいつと俺、耳がそっくりだろ。毛がない」

   「まだ証拠はあるぞ、声だ。ハクオロ、ちょっと喋ってくれ」


ハクオロ「ああ、えーと…『こんにちは』」

ゴロー「『こんにちは』……どうだ? そっくりだろう」

トウカ「……た、確かに似ている。しかし、あの男は記憶を失っていたのでは!」

ゴロー「だから旅をして探していたんだ。○ヶ月前、急に居なくなったから」

トウカ「ほら! 居なくなった間にクッチャ・ケッチャに……」

ゴロー「いや行っていない。クッチャ・ケッチャの事件は△ヶ月前だ」

トウカ「え……」

ゴロー「旅をしていた時に商人から聞いた。
    その頃、ハクオロは『ヤマユラ』という集落に拾われていた」

   「証人もいる。エルルゥさん、アルルゥ。二人がそうだ」


エルルゥ「そ、そうです! ハクオロさんはその時ヤマユラに居ました!」

アルルゥ「うん」コクリ


トウカ「な、う、嘘だ! ほかの証人… ヤマユラの民をもっと……」アワアワ

ゴロー「……クッチャ・ケッチャの軍に襲われて皆、亡くなった」

トウカ「え……」ピタリ


ゴロー「……戦に『義』なんてない。勝っても負けても人は死ぬ」

355 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/02(木) 22:10:16.34 ID:SwZBsheSO

トウカ「…………そ、それがし」

   「いや、まだだ…… そちらの言う事には決定的な証がない!!」


ゴロー「……それ、此方も言えるんだよ。トウカ」

   「ハクオロを『ラクシャイン』と結び付ける事が、今この場で出来るか?」


トウカ「あ、オ、オリカカン殿に……」

ゴロー「その皇の話、真実か? 証があったか?」

トウカ「い、いいえ……証言だけ」


ゴロー「そもそも一体何処であの皇に会った?
    確か『シケリペチム』に行くと俺に話をしたよな」


一同(((!!)))


トウカ「……シケリペチムで野営していたオリカカン殿と話をして」


ゴロー「なるほど… 担がれたか」

トウカ「担がれた… そ、それはどういう……」

ゴロー「シケリペチムはトゥスクルを欲している。
    近隣の國と争わせ、國力が弱まった所を狙うつもりだろう。
    裏にあの國が絡んでいるとは……」


トウカ「な、だが今の話は……」

ゴロー「じゃあ話を戻そう。ハクオロがラクシャインである証は?」

トウカ「…………な、ない。証が……」

356 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/02(木) 22:19:56.40 ID:SwZBsheSO

ハクオロ(正直……ほとんどハッタリだよな)

ベナウィ(此方の出した証は身内の物でした。しかも向こうと同じ証言のみ)

エルルゥ(た、確かにハクオロさんは△ヶ月前、ヤマユラにいたけど…)

カルラ(他にも突っ込み所は多々ありますが…)

オボロ「ははっ! そうだ! 証を見せろー!」

クロウ「よっ! メシ大将! 男前!」

この二人以外(((……)))

ハクオロ(とにかく混乱させて情報を引き出したかった……ということか)


トウカ「な、ならば某は……」ヨロヨロ


 呆然として橋縄に寄り掛かるトウカ。


  ギシッ ギシッ ピン!

ゴロー「あ」


  ピン! ピン! ピン!

ゴロー「トウカ! 危ないっ!!」

トウカ「へっ!?」


  ブチッ ブチッ! バキン!!

トウカ(空中)「…………へ?」

トウカ(空中)「あわわわわわわ」ジタバタジタバタ!


  「ハあああああああァァァァァッ!?」ヒューン!



 橋が落ちた……


一同「「「……(呆然)」」」


ゴロー「……死にはしないだろう」

ハクオロ「と、とりあえず目的は達成したから引き上げ……」

  ガシッ ガシッ ガシッ…

  ガシッ ガシッ…

トウカ「くっ……」フラフラ


一同(((崖を登ってきたぁ――!!)))


トウカ「……ムギュウ」バタン

ハクオロ「……疲れたんだな、色々と」(主に精神的な意味で……)

ゴロー「連行するって事で命は助けてやってくれ……」

ハクオロ「あ、ああ。エルルゥ、移動しながら診てやってくれ」

エルルゥ「は、はい」


第十二話「舌戦?」  続く!
357 : ◆M6R0eWkIpk [saga]:2012/08/02(木) 22:26:02.17 ID:SwZBsheSO
今回のトウカ、もとい投下は>>334から。

「情報を聞ければハッタリでOK!」とゴローちゃんは考えてました。

トウカを守ったクッチャ・ケッチャの兵、
きっと彼女の親衛隊だったのでしょう。

アニメだとカッコいいのに、ゲームだと『うっかり侍』。
そんなトウカは私も好きです!

358 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/02(木) 22:33:25.65 ID:SwZBsheSO
あと、ちょっと聞きたいことが。
ネタバレ単語は書かないでお聞きします。


@女性陣(+ハクオロ)と行く、白いお花観賞ツアー

A男性陣と行く、トゥスクル歓楽街ツアー


どっちにゴローちゃんを行かせます?

@はアニメ・ゲームのシナリオ。
AはPS2・PSPゲームの追加シナリオ。

第十四話の最後でちゃんとした形でまた聞きます。
今は参考程度に。
359 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/08/02(木) 22:39:58.90 ID:5YShTr90o
2がいいな
360 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/02(木) 22:55:18.79 ID:oUXSZBtD0
1
361 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/08/02(木) 23:03:40.80 ID:qleKFiay0
2
362 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/08/02(木) 23:03:53.54 ID:ovq/YTRIo

2で
363 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/02(木) 23:05:16.50 ID:ByOvR6ISO
1だと、下戸なゴローちゃんがまた孤独のグルメしちゃう…
364 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/03(金) 00:49:01.30 ID:KIcIRzjIO
1かなぁ
2で『俺ってつくづく酒の飲めない日本人だなぁ…』をしたい気もするけど

両方書いても…いいのよ?
365 : ◆M6R0eWkIpk [saga sage]:2012/08/04(土) 00:05:41.47 ID:xhDip7oSO

第十三話「謀られた戦(いくさ)」

 〜 トゥスクル皇城・地下牢 〜


 アルルゥと共に、捕虜への食事を運ぶ。


アルルゥ「よいしょ、よいしょ」

ゴロー「アルルゥ、平気か?」

アルルゥ「ん、だいじょぶ」コクン


 アルルゥは兵の詰所や地下牢に食事を配りに行く事が多い。
 自分もハクオロの役に立ちたいと思っているのかもしれん。


アルルゥ「ごはんだよ〜」スッ

トウカ「かたじけない」


 牢屋越しに見知った顔……『トウカ』に話しかける。


ゴロー「身体の調子はどうだ?」

トウカ「まだ本調子ではありませぬが…… 問題はないかと」


 今日はトウカと話す為、俺もついて来た。


ゴロー「……頭は冷えたか」

トウカ「……某(それがし)には判りませぬ。
    どちらが真実を語っているのか……」

   「いったい大義はどちらにあるというのですか!」


ゴロー「……『義』に関して考えが甘いな、お前」

トウカ「……エヴェンクルガの誇りを貶すのは許せませぬ」ジロッ

ゴロー「別に貶してはいない。お前の考えの浅薄さに呆れただけだ。
    俺は人を殺す戦いに、義があると思えない」


ゴロー「今まで『俺』は人を殺していない。
    けど、俺が気絶させた兵は他の者に殺される……」


ゴロー「……俺は弱い人間だ」


 自分は手を下していないと、そう思い込んで。
 命を奪う行為を黙認している。

 ……命を弄ぶ事に、慣れてはいけない。

366 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/04(土) 00:09:37.42 ID:xhDip7oSO

トウカ「……」

アルルゥ「……ん」スッ

トウカ「花…… ありがとうお嬢ちゃん」

アルルゥ「ん!」ピコピコ…


 牢から出ていくアルルゥ。


トウカ「良い娘さんですな。しかしこのような場所に入らせるのは……」

ゴロー「そう言ってはいるけど、本人がやりたいらしい……
    あと、アルルゥは俺の娘じゃないぞ。
    ハクオロの子になるのかな……」


 「んだとぉ!?」


 向かいの牢から男が叫ぶ。 声の主はクッチャ・ケッチャの捕虜だった。


捕虜「ちっ! あのガキ、ここの皇のガキか!
   だったら身代(ひとじち)にすりゃあよかったぜ!」


トウカ「なっ、お主! それでも誇り高きクッチャ・ケッチャの兵か!」

捕虜「うるせぇ! 俺には家族が居るんだ! くたばるワケにはいかねぇ!」

ゴロー「……でも森の母(ヤーナ・マゥナ)を相手にそれが出来るか?」

トウカ「森の母…… あんな子どもが!」

捕虜「なんだそりゃ?」


 『ガルルルッ……』


捕虜「へ? ……う、ウワアアアアア!!」

ムックル『グオルル…』ガシッ

  ペシッ メシッ…

捕虜「ヒィィ!! 牢が、牢が壊れるぅぅ!!」

ゴロー「流石に森の主を相手にしたら、無事ではすまないと思うぞ」

トウカ「あの者に代わり、謝罪する! だから…主を引かせてくれ!」

ゴロー「……ムックル、アルルゥはもう外に行ったから。お前も行きな」

ムックル『……ぐおっ!』ノシノシ

捕虜「……」ガクリ

トウカ「……恐怖のあまり気絶したか。ゴロー殿、恩に着る」ペコッ

ゴロー「この男が悪いわけじゃない、この事は黙っておく」

トウカ「かたじけない。 …以降、彼女を来させないようにして下さい」

ゴロー「……わかった。じゃあな」

   カツ… カツ……

 ムックルの食事が始まらないでよかった。
 アルルゥに注意しておこう。

367 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/04(土) 00:12:03.15 ID:xhDip7oSO
  ――

ハクオロの書斎。
皇と侍大将が戦の情勢について語り合う。


ハクオロ「あの橋を制圧してから、敵の動きをだいぶ制限できた」

ベナウィ「規模の小さな衝突で敵の力を削ぐ策、上手くいっているようです」

ハクオロ「うむ。オボロ達の歩兵衆・弓衆がよく働いてくれている」

ベナウィ「聖上、そろそろ我等も進行を」

ハクオロ「……そうだな。よし、兵に遠征の準備を。明後日に出発する」

ベナウィ「御意」スッ


    パタン…


ハクオロ「…っと、こんな時間か。湯(とう)に入るか」

368 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/04(土) 00:15:14.87 ID:xhDip7oSO
 ――

 〜 城内・大浴場(男) 〜

城の中に設置された男湯。
城に仕える者ならば、誰が入ってもよいこの場所に……

今は皇(オゥルォ)一人。


ハクオロ「ふぅ……」チャポン


外の景色も楽しめる癒しの空間だというのに、皇の顔は暗かった。


ハクオロ「……」ザブン


湯の中に潜るハクオロ、一体何を思うのか。

そこに現れる筋肉質な身体。


ゴロー「失礼します…… なんだハクオロか」

ハクオロ「プハアッ… なんだとは酷いな」


ゴロー「この風呂に皇が入っていいのかね……」

ハクオロ「皇専用の湯(とう)など、無駄だろう」

ゴロー「内勤組がこの時間に風呂を使わないのはコイツのせいか……」

ハクオロ「私としては構わんのだが」

ゴロー「ハァ…… 皇と一緒に風呂に入って落ち着く臣下はいないだろ」

ハクオロ「オボロ・ベナウィ・クロウ・ドリィ・グラァ……結構いる」


 そいつらは例外だろう……
369 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/04(土) 00:20:10.64 ID:xhDip7oSO

ゴロー「……」ザパッ

ハクオロ「……」ザプッ


 しばらく無言で浸かっていると、隣の女湯から声が聞こえてきた。


  『アルちゃん! 流しっこしよ〜』

  『うん! ……カミュち〜、おっきい』

  『わぁ… 本当ですね……』

  『キャ! ユズっち! 急に触らないでよ〜』

  『ウルト、さっ一献どうぞ』

  『ありがとうカルラ…… 美味しいですね』

  『皆さん静かにしましょう! アルルゥもほら、体洗って!』

  『おねーちゃん…… ない』

  『……ア・ル・ル・ゥ? 今なんて言ったのかなぁ?』


ハクオロ「……騒がしくなったな」

ゴロー「出るか」ザパッ

ハクオロ「賛成だ」ザブァ

 ――

 夕食の後、皇の書斎でハクオロと今後について話す。

ゴロー「じゃあ俺は明朝、クッチャ・ケッチャに向かえばいい……と」

ハクオロ「そうだ。移動してオボロ達と合流してくれ」

ゴロー「ウォプタルなら一日あれば行けるな」

ハクオロ「任せたぞ、潜入用の服はこれだ。では私は休む」スタッ


ゴロー「人使いの荒い皇(オゥルォ)だ」


 さて、準備するか。
 服を仕舞って…… あ、弁当を頼まないと。


 「失礼します」スーッ

エルルゥ「あ、ゴローさん。ハクオロさんは……」

ゴロー「あいつはもう寝室に。酒ですか?」

エルルゥ「はい。それじゃあ、そっちに持って行きますね」

ゴロー「あ、すいません。明日の昼の弁当をお願いします」

エルルゥ「はい、わかりました。お仕事ですか?」

ゴロー「ええ、まぁ…」

エルルゥ「明日の朝、正門でお渡ししますね」

ゴロー「はい、了解しました」

   パタン…

 クッチャ・ケッチャか。
 どこかでメシを食いたいものだ。
 平原地帯だから放牧で家畜を育てているかもしれない。


ゴロー「何が食えるかな……」
370 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/04(土) 00:24:51.12 ID:xhDip7oSO
 ――

 〜 ハクオロの寝室 〜

普段以上に酒を飲むハクオロ。
だが、彼は酔わない。酔いたくとも酔えない。


エルルゥ「……飲み過ぎですよ。お身体が心配ですから止めましょう」

ハクオロ「……ふぅ」

ハクオロ「ここ毎日、エルルゥは同じように叱ってくれる……」

ハクオロ「母がいたら、同じ事を言うのだろうか」

    「父ならば…… 怒鳴り付けてくれるのだろうか」


エルルゥ「ハクオロさん……」


皇の寝室、そこでハクオロはエルルゥに己の苦悩を打ち明ける。


ハクオロ「自らの記憶を持たない私が… エルルゥ、君を母のように思う」

エルルゥ「あ……」

ハクオロ「自分が何者かわからぬ不安に怯えるなんて…… 滑稽じゃないか!」

    「私は……私は何者なのだ!」


   ……ギュッ

ハクオロの手を握るエルルゥ。
互いの体温がじわりと伝わる。


エルルゥ「ハクオロさんが誰かなんて、どうだっていいんです」

ハクオロ「どうだっていい……?」

エルルゥ「私にとってハクオロさんは…… ハクオロさんなんです」

ハクオロ「エルルゥ…」グイッ

エルルゥ「きゃっ!」


ハクオロは少し強引にエルルゥを引き寄せた。
371 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/04(土) 00:27:43.76 ID:xhDip7oSO

エルルゥ「え、あ……」

ハクオロ「君は私が怖くないのか……」

エルルゥ「……」

   タッ……

ハクオロ「……」


彼は強く目を閉じた。
自分は拒絶されたのだと思って。


   ギュゥ……

ハクオロ「!」


目を閉じてもわかる、暖かな薬草の香り。
それは彼の最も近くにいた人の香り――


エルルゥ「私がハクオロさんを怖いと思うなんて…… 絶対ありません」


ハクオロは後ろから抱き締められていた。


エルルゥ「大丈夫です、大丈夫……」

ハクオロ「私は……」

エルルゥ「……明日、私に付き合って下さいね」

    「森に薬草を摘みに行きましょう」ニコリ

   タッ タタッ……


ハクオロ「エルルゥ……」

    「ありがとう」


372 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/04(土) 00:30:08.05 ID:xhDip7oSO
 ――

 翌日の夕刻…


 〜 クッチャ・ケッチャ 西の外れ〜


ゴロー「ふぅ、ようやく着いた」


 クッチャ・ケッチャはウォプタルで移動しやすくていい。


ゴロー「今日は遅いし、合流は明日にして宿をとるか」


 そう思いなんとなく進んでいると、ボンヤリとした灯りが見えて来た。


ゴロー「……牧場みたい。家畜がいるぞ」


 服装はこれで平気か?
 ここの服に着替えたほうがいいのかな……


 「あああ! 坊や!」


 ……叫び声が聞こえる。


 「薬がないわ!! ああどうしたら……」

 「ハァ… ハァ…」



ゴロー「!」ダッ!

   バサッ!!

ゴロー「どうしました!」


女「な、なんですかアナタ! 勝手に家に…」

ゴロー「私は旅の薬師です! 薬が必要でしたらお渡しできます!」


 向こうも必死だったらしく、
 すぐに返事が返ってきた。


女「わ、わかりました。私の子を助けてください!!」


 彼女の近くには酷く赤い顔をした子どもが寝ていた。


子「うーん… マーマ……」ハァハァ

ゴロー(詳しい病がわからんが……今は対処療法でなんとかする)


 どうしようも無いときは紫琥珀の霊薬を使うぞ。

373 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/04(土) 00:32:16.29 ID:xhDip7oSO
 ……

 幸い、大した病ではなかったらしく
 熱が落ち着くと、子どもは気持ち良さそうな寝息を立てた。


ゴロー「よし、大丈夫。直に良くなります」フー

女「ありがとう、ありがとうございます……」ボロボロ


 涙を流して感謝される。


ゴロー「では、これで。お代は結構ですから」スタッ

女「お待ち下さい! まだ何も礼をしておりません」

ゴロー「はぁ…」

女「辺りも暗くなって参りましたし、
  よろしければ今宵はコチラでお過ごし下さい」


ゴロー「…いいんですか?」

女「はい。アナタ様は恩人でございます!」

ゴロー「では今晩だけお世話になります」ペコリ


 これは運がいいぞ。


 ……


 【肉の腸詰め】

なんの肉かわからない。
串に刺してあるからかぶり付いて食べる。


 【 スープ 】

中には麺のようなモノが入っている。
スープの色は白。


374 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/04(土) 00:35:21.63 ID:xhDip7oSO

女「申し訳ありません、恩人にこのような粗末な食事で……」

ゴロー「いや、そんな。美味しそうな食事ではありませんか」


 どれ、最初に腸詰めからいただこう。


   かりっ! むしゃ


 いい肉汁! たまらん!


ゴロー(旨い、少ししょっぱい位がまた食欲をそそる)

女「お気に召したようで……」

ゴロー(『じゅわっ』と出てくる汁が、アツウマい)

   むしゃ もぐ…


女「私どもは人を雇って牧場・加工業をしておりまして」

ゴロー「なるほど、だから腸詰めが出せるわけか……」

女「ですが戦で働き手が皆徴兵され、仕事が進まず…… 私の夫も……」

ゴロー「……」


 気まずい……


女「申し訳ありません、湿っぽい話を。ささっ、どうぞ」


 次は汁物を食べよう。
 麺とスープ…… スープからだ。


   ずずっ!

ゴロー(! これ、骨でダシをとってる!?)

   「このスープ、骨を強く煮込んで味をつけてますか?」


女「ハイ、近くの屠畜場からウマの骨を」

ゴロー「ウマ…… ウォプタルの骨?」


女「ええ。腸詰めの肉もウォプタルでございます」

 「この牧場はウォプタルとネウを飼育してまして」


ゴロー(……ウォプタル、意外にウマイな)


(※ 食べるのは怪我して走れなくなったウォプタルが主です)

375 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/04(土) 00:36:37.53 ID:xhDip7oSO

   ずるずる…

ゴロー(麺はかなり太いな。細めのほうが汁が絡んで旨くなると思うけど)


女「オリカカン様、どうしてしまわれたのか…」

ゴロー「他國の者なので詳しく知りませんが、
    ラクシャインという男が関係しているそうですね」


女「死んだ筈の方が生き返るわけないですのに…」

ゴロー「え? その男は生死不明なのでは?」

女「いえ、主人の亡くなった父君が死体を見たと」

ゴロー「じゃあ… どうして言わないんですか?」


女「……私は元奴隷(ケナム)です。主人が身請けしたおかげで、
  こうして人並みに暮らせておりますが……
  そのせいで主人にも苦労をかけて……」


ゴロー(更に気まずい……)


 身分が低いから皇に謁見出来なかったのか。
 又聞きだから確実な情報ではないけど…


ゴロー(これは良い話を聞けたぞ)


 ――
376 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/04(土) 00:39:13.57 ID:xhDip7oSO

 翌日、部隊と合流する。

 オボロ・クロウが出迎えてくれた。


オボロ「大兄者! 遅かったな」

ゴロー「こっちに着いたの、昨日の夕方だぞ」ドスン


 ウォプタルの背から荷を下ろす。


クロウ「おっ! さすがメシ大将。しっかり食糧確保しちゃって」

ゴロー「道中で人助けをしてな。礼として貰ったんだ」


 ウォプタルの腸詰めを沢山いただいてしまった。


クロウ「俺達の昼はコイツにしやしょう」

  ……


ゴロー「ハクオロ達は今日出発する筈だ」


 貰った腸詰めを食べながら、今後の事を話し合う。


ドリィ・グラァ「「では、いよいよ」」

クロウ「正面衝突…ってワケですかい」ハグリ

オボロ「む、この肉ウマイ」ムシャムシャ

ゴロー「ウォプタルの肉らしい」

オボロ「……何?」ピタ

クロウ「あん? 知らなかったのか?」ゴクリ

オボロ「おい待て、クロウ。騎兵がウマの肉を食うのはいいのか?」


クロウ「なーに言ってやがる。ウマ乗りってのはな、
    事故やら戦やらでウマを失ったとき、肉をとってから埋葬すんだ」

   「そんで、皆でその肉を食う。大切な食糧って意味もあるけどよぉ」

クロウ「俺達の為に散った命を忘れないって意味もあんだよ」ムシャ ゴクン


ドリィ・グラァ「「クロウさんが真面目な事を言ってる……」」

ゴロー(……ホントだ)


377 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/04(土) 00:43:15.68 ID:xhDip7oSO
 ――

時は進み、皇(オゥルォ)率いるトゥスクル軍が合流。

クッチャ・ケッチャを落とす軍議が開かれた。


ハクオロ「敵は焦っている。この機を逃すわけにはいかない」

オボロ「兄者! なぜこの優位な状況でそんな策を!」

ハクオロ「私が餌となりあの男…… オリカカンを誘いだす事か」

オボロ「そうだっ!」

ベナウィ「私も承服しかねます…… ですが……」

ゴロー「ハクオロの過去を知る為には必要…か」

ベナウィ「はい。ゴローさんの情報の真偽を確かめる為にも」

ハクオロ「……まず、細工などせず真っ向から戦う。
     次に敵将オリカカンに私を追わせ、
     沼地に誘い込み、ウォプタルの機動力を失わせる」


クロウ「それで誰が総大将の護衛をするんで?」

ハクオロ「……護衛はいらん」

一同「「「はぃ???」」」


ハクオロ「正確にはお前達を使わないという意味だ」

ベナウィ「我らは敵の軍勢を引き付け、聖上は他の兵と行動する……と?」

ハクオロ「そうだ」コクリ

オボロ「――ッ! 何故だ!」

ハクオロ「お前達は戦場で目立つ。それを活かした策だ」

オボロ「……」  クロウ「総大将を信じようや」ポン


オボロ「……わかった。無事に戻ってくれよ」

ハクオロ「ああ」コクッ

378 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/04(土) 00:47:30.21 ID:xhDip7oSO
 ――

平原…… 空が青く、陽もやわらかい。洗濯日和だった。

こんな平和な場所で
トゥスクルとクッチャ・ケッチャ、
二國の意地が激突する。



ハクオロ「決着をつける!」バッ


ハクオロは自らの鉄扇を振り下ろす。



オリカカン「望むところぉ! 喰い破れぇぇ!!」


オリカカンは鉄棍を構え、兵と共に駆ける。


「「「うおおォォォォォォォォォォ!!!」」」


  ドドドドドドドドド……


最初に互いの騎兵同士がぶつかり合う。


オリカカン「ラクシャインっ!! どこだっ!」ブン!


鉄棍を振るい、兵を薙ぎ倒しながら彼は進む。


ク兵?「オリカカン様! あそこを!!」スッ

ハクオロ「……」ダッ!!


オリカカン「待ぁぁてぇぇ!!!」ダッ!



ク兵達「「お待ち下さい、オリカカン様!!」」ダッ!



ク兵?「……よし、次だ」ダッ…


379 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/04(土) 00:50:20.14 ID:xhDip7oSO
 ――

オリカカンの側近達は皇の行方を見失ってしまう。


ク兵A「オリカカン様はどちらに!」

ク兵B「わからない! ラクシャインはどこだ!」

ク兵C「おい! あの後ろ姿!」

ハクオロ?「……」ダッ!

ク兵D「待てぇ! オリカカン様はどうした!」ドド

ハクオロ?「……片付けた」ボソリ

ク兵E「な、ナニィ!! キサマァァ!!」ドドッ


追いかける騎兵達。
男は急にウォプタルから降り、自身の脚で駆け出した。


ク兵E「バカめ! 人の脚でウマに敵うか!」


たちまち追い付かれる男。


ハクオロ?「……もう君達には何も出来ない」

ク兵B「な、なんだ! 沼だとお!」ズボォ

ク兵C「し、しまった! 止まれ!!」ズザッ


一騎は沼にはまったが、他の騎兵は沼の前で動きを止める。


ハクオロ?「ついでに言うと俺は『ハクオロ』じゃない」クルリ

   パッ

ゴロー「あの二人は別の所に向かった」

ク兵達「「「な………」」」

ゴロー「おっと、動かないでくれ」


  ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン


ク兵A「くそう!! 後ろから矢だ!」

 「ウマがっ!」 「ぎゃっ!」 「肩をッ!」


ゴロー「これでどうも出来ないだろう。投降してくれ」

ク兵達「「「……無念」」」

380 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/04(土) 00:52:18.23 ID:xhDip7oSO

 《 回想 》


ゴロー「囮は二人?」

ハクオロ「そうだ。オリカカンは私、他は貴方に」

ベナウィ「でなければ私が反対するに決まっています」

    「沼地に誘うのはゴローさんの役目。
     ゴローさんには弓衆朱組を、聖上には蒼組……」


   ガサッ ガサガサ……

エルルゥ「……ハクオロさん!」

アルルゥ「おとーさん」

ハクオロ「な、二人とも何故! 留守を任せたはず!」


   バサッ バサバサ……

ウルト「ハクオロ様、失礼いたします」スッ

カミュ「えへへ… 来ちゃった」テヘ

ハクオロ「な……」

ウルト「わたくし達は一方に加担する事は出来ませんが……
    オリカカン皇に停戦和平を求める為に参りました」


カミュ「だいじょーぶ! こう見えてカミュ達は強いから!」

ハクオロ「……」

ベナウィ「……」

エルルゥ「平気です! できるだけ戦場には近付きませんから…」

アルルゥ「おとーさん、いっしょがいい」スリスリ


ゴロー(あらら。男二人とも呆然としちゃって)

 《回想終わり》

381 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/04(土) 00:54:31.61 ID:xhDip7oSO
 ――


ハクオロ「ハァッ!」キィン

オリカカン「てりゃああっ!!」キィン


鉄扇と鉄棍、皇の持つ武器が火花を散らす。

ウォプタルで駆けながら、ハクオロは目的地までオリカカンを誘う。


オリカカン「待てぇっ!」ダダッ

ハクオロ「くっ……」ダダッ


そして彼は壁に囲われた場所に追い詰められる。


オリカカン「追い詰めたぞ! ラクシャイン!!」ブンッ

ハクオロ「くっ…ウマを……」 バッ スタッ!

オリカカン「この時を待っていた!」ビシッ

     「どうした、怯える心もとうに無くしたかぁ!」


ハクオロに対し、鉄棍を突き付けるオリカカン。


ハクオロ「ここに来たのも策のうちだ。
     こうでもしないと、貴様と話が出来ないと思ったのでな」


オリカカン「話だとぉ!! むっ! この音は!」


 バサッ バサッ バサッ バサッ…

二人の近くにゆっくりと天使が舞い降りる……
オンカミヤムカイ第一皇女『ウルトリィ』が。


ウルト「ハクオロ皇、オリカカン皇、これ以上の流血は無益です。
    どうか争いをお止め下さい」

382 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/04(土) 00:59:03.03 ID:xhDip7oSO
※追い詰められた部分の『壁』を『岩壁』に修正。



オリカカン「オンカミヤムカイといえど、この戦に口出しは無用!」


ウルト「ハクオロ皇は話し合いを望んでおられます」

   「どうか一度だけ寛大な御心を……」


オリカカン「今さら何を話し合うことがあろうか!!」

ウルト「オリカカン皇!」

オリカカン「くどいっ! 邪魔立てするなら姫君といえど容赦しませんぞ!」

ハクオロ「やめろっ!」サッ


オリカカン「貴様のおかげで多くを失った……」

ハクオロ「……」

オリカカン「貴様だけは地獄に連れていく… 必ずだ!」

ハクオロ「お相手しよう、オリカカン皇。だが、多くのものを失ったのは
     あなただけではないという事…… 覚えておけ!!」


オリカカン「わかったような口をォォォォ!!」ブオン!!

ハクオロ「てぇい!」ガシッ


ハクオロは振られた棍を寸前でかわし、
次の攻撃の為に一瞬停止した棒の部分を掴む。


ハクオロ「はっ!」グイッ


   ドシッ!


鉄で作られた先端部を地に落とし、
鉄扇を力点として棍を自身の体の方向に引っ張った。


オリカカン「ぬごぉっ!」


棍から手を離す暇もなく、ウォプタルから引き下ろされるオリカカン。


オリカカン「うぐっ……」ドサッ


背から落下し、痛みに顔をひきつらせた。


ハクオロ「……ここまでだ」チャキ


鉄扇をオリカカンの顔に構え、いつでも攻撃出来る状態を作る。
383 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/04(土) 01:01:21.69 ID:xhDip7oSO

オリカカン「フ、フフ…クハハハハ……」

     「どうだ今の気分は……」

オリカカン「己が妻を殺し、子を殺し… 余から全てを奪い、晒し者にする」

     「さぞ、最高の気分なのだろうな!!」

オリカカン「さぁ、どうした! 殺すがいい!
      我が妹にしたように貴様の手で殺すがいい、ラクシャイン!!」


ハクオロ「違う! 私はハクオロだ!! ラクシャインなどではない…」

オリカカン「戯言を……」

     「例え記憶を無くしてようと、貴様の罪は消えぬわ!!」



ハクオロ「違う…… ちがう… 違ウ……」



彼の心が業火で紅く染まっていく……



 「違います!!」


 ―― 声が聞こえた ――



エルルゥ「この人はハクオロさんです!
     ラクシャインなんて人じゃありません!」


ハクオロ「……ハッ! エルルゥ! 戦場には来ないと!」


正気を取り戻したハクオロ。


オリカカン「小娘が何をほざくかっ!!」

     「この男は卑怯で愚劣で非道な我が義弟よ!!」


エルルゥ「……たは……んですか?」ボソッ

オリカカン「何?」

384 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/04(土) 01:03:34.24 ID:xhDip7oSO


エルルゥ「あなたは…違うんですか……?」

    「それじゃあ、あなたは違うんですか!!」


オリカカン「ぬぐ――」


エルルゥ「何の罪もない人達を襲っておいて……」

    「あなたの言うその人と、あなたの何が違うって言うんですか!!」

エルルゥ「返してください……」

    「ソポク姉さんを… テオロさんを… みんなを……」

エルルゥ「私の家族を返してください!!!」ボロ…


それは気持ちを絞り出すような… 痛々しい叫びだった……


オリカカン「……う、ううっ な、な…にを…」

エルルゥ「ひどいのは… ひどいのは……」ポロポロ

ハクオロ「エルルゥ、もうよすんだ」

    「お前は憎しみに囚われてはいけない」


エルルゥ「……はい」ゴシゴシ

エルルゥ「私はハクオロさんを信じます」

    「ハクオロさんはラクシャインなんて人じゃありません」


   キィン……

オリカカン「まだぬかす……な、なんだ……?」

     「誰だ… 貴様は何者だ!?」


ハクオロ「何っ?」


オリカカン「違う、ラクシャインなどではない……」

     「これはどういう…… やつめ、影を使ったか!?」

385 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/04(土) 01:07:19.20 ID:xhDip7oSO

ウルト「惑わされましたね」

オリカカン「――――!?」

ハクオロ「惑わされる?」

ウルト「相手に強い暗示をかけ、偽りの記憶や映像を信じさせる事です」

   「かけられた相手が暗示を事実として望むほど、術は解けにくくなります」


オリカカン「ば、馬鹿な…… そんな事信じぬぞ!!」

     「いや……まさか、まさかあの男……」


  オーイ オーイ!


オリカカン「お、おのれェェェェ!! 余を謀ってくれたな!!」


  オーイ! アッ… ズデッ!!

  ヒュン!  ヒューン…

オリカカン「あれはすべて余を…… ぐげあっ!!」


   ぼかーん☆


ハクオロ「!?」

エルルゥ「え、えっと……ゴローさん?」

ゴロー「最近… 空を飛ぶなぁ……」キュウ…

オリカカン〈ピヨピヨ☆〉


ハクオロ「オリカカン皇? 口から泡を吹いて気絶している……」


?「ちっ!」ガサッ


ハクオロ「ドリィ! 何者かが居る! 追え!!」

ドリィ「ハッ!」ガサッ

エルルゥ「ハクオロさん! これ……」

ハクオロ「針! 吹き矢か」

エルルゥ「さっきまであの人が立ってた地面に……」

ハクオロ「エルルゥ、針に毒はあるか?」

エルルゥ「は、はい… 多分塗られてます」ジッ

ハクオロ「私も、この男も… 踊らされていた……」

エルルゥ「……そんな」

ハクオロ「何の… 何のために… ヤマユラのみんなは……」

エルルゥ「うっ… ううっ……」ポロポロ

ハクオロ「……」ギュウッ

エルルゥ「う、うゎぁぁぁぁぁぁぁぁ!」ポロポロ


ゴロー「」ガクッ


第十三話「ウォプタル肉の腸詰めとウォプタル骨スープ」

 続く。
386 : ◆M6R0eWkIpk [saga]:2012/08/04(土) 01:11:26.33 ID:xhDip7oSO
>>365から投下分。

クッチャ・ケッチャ編、駆け足だったが終了。
ハクオロ対オリカカンはアニメで見たほうがわかりやすい。


今日のゴロー、喰われるはずの捕虜を救う。
死ぬはずのオリカカンをウォプタルでずっこけて救う。

ではまた。
387 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/04(土) 01:18:16.67 ID:xCax8XpVo
初めてリアルタイム遭遇した…
乙です、面白いこれ
388 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/04(土) 07:17:28.83 ID:Cu211/940
ゴローいるだけで大分変わるなwww
389 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山形県) [sage]:2012/08/04(土) 10:05:18.52 ID:+T9x/VgHo
ムックルの貴重な食事シーン
390 : ◆M6R0eWkIpk [saga sage]:2012/08/04(土) 19:59:03.93 ID:xhDip7oSO

第十四話「カルラ手製のお茶」


エルルゥ「失礼します。オリカカン皇とトウカさんをお連れしました」


トゥスクル皇城・朝堂にて、さきの戦の処理が行われる。


ハクオロ「オリカカン殿、体は痛みませんか」


オリカカン「いえ、お気遣いは無用であります。
      この度の戦、誠に申し訳ありませぬ……」グリグリ


床に顔を押し付け、土下座をするオリカカン。


トウカ「某(それがし)も数多の無礼、謝罪いたします……」

   「事の次第、耳にしております。
    全ては誤解から始まった事であると……」


ハクオロ「……頭を上げてください」


オリカカン「ハクオロ殿、このオリカカン、死んでお詫びを!!
      かわりにどうか…… クッチャ・ケッチャの民はお救い下され!」

トウカ「某も武人として自らの命をもって償いをいたしまする!!」


ハクオロ「……駄目だ。あなた方には生きて罪を償っていただく」


オリ・トウカ「「!!」」


ハクオロ「オリカカン殿、まだ戦後の処理は残っている」

ベナウィ「まずは捕虜を解放いたします。処理が済みましたらお戻り下さい」


オリカカン「……ははっ!!」

トウカ「……某の処遇は! 如何なる罰も受けましょう!!」



ハクオロ「……少し待ってくれ、ゴローさん」

ゴロー「はい」スッ

ハクオロ「あの女、ここから連れ出して欲しい。
     話し合いの邪魔になりそうだ」ヒソヒソ

ゴロー「畏まりました」

   「トウカ様、別室へ」

トウカ「は? はぁ……」

  スタ… スタ…
391 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/04(土) 20:06:45.66 ID:xhDip7oSO

ハクオロ「よし、まずは國についてだが……」

オリカカン「ハクオロ皇、そなた様に一任いたします」


ハクオロ「判った。形式的にクッチャ・ケッチャはトゥスクルとする。
     民はそのまま、賠償は互いの國交という形でしようと思う」

ベナウィ「よろしいのですか? そのような軽い……」


ハクオロ「失った命は戻らない。今やるべきはこれからの事なのだ」

    「あそこは平原が多く、トゥスクルとは異なる産業を行える」

    「此方の國力を増やす為、様々な産業を推進していきたい」


ハクオロ「……問題は分裂だ。壊れた國は簡単に瓦解する」

    「これ以上の軋轢を生まない為にも、此方の軍を出さないほうがいい」


ハクオロ「オリカカン殿には、かの地の混乱を収めてもらう」



オリカカン「ははぁーっ!!」


ハクオロ「さて… 問題はあの女……『トウカ』だ」

    「領地を持つ者でもないし、あの者は放免という事で……」

392 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/04(土) 20:11:10.77 ID:xhDip7oSO

   ダダダッ!!

トウカ「不服にございます!!」

ゴロー「あっ、こら!!」

ハクオロ「な……聞いていたのか」

トウカ「エヴェンクルガとして、償いはせねばなりませぬ!!」タッ

兵士「お、俺の刀!」

ゴロー(刀を盗った!)


 自分で首を切るつもりか!


トウカ「ッ……」スッ

   カ キィン!!

 ハクオロの投げた鉄扇が、トウカの刀に命中。

 弾かれ、落ちる刀と鉄扇。


ハクオロ「死んで罪を償うな! 生きて償え!!」


 ……やるじゃないか。

 そもそも謝る気ならここで首を切らないよな。


ハクオロ「死ぬ事で罪の意識から逃げるな」

トウカ「……ならば、ならば某はどうすれば!」

ゴロー「……ここで雇ったらどうだろう」ボソリ


一同「「「……あ!」」」


 また、ヘンな事を言ってしまったのだろうか。


ベナウィ「……確かに、そうすれば此方の士気も上がります」

ハクオロ「な、なにぃ?」

オリカカン「おお、それは名案!」

ハクオロ「は、はぁ?」

トウカ「そうです、某を末席に加えて頂ければ! 厠の掃除でもなんでも…」

ハクオロ「エヴェンクルガに厠の掃除などさせたら
     私が『無能皇』と謗りを受ける!」

トウカ「う、うう……ならやはり某の首を……」スッ

ハクオロ「だーっ!! 待て待て! わかった、わかったから!」


ハクオロ「雇う、雇いますよ……」ガクリ

トウカ「あ、ありがたき御言葉!! では早速、厠を掃除して参ります!」タッ!

ハクオロ「ま、待て! それはやめてくれぇ!!」

ゴロー「……もう行ったみたい」

ハクオロ「時々自分が本当に皇(オゥルォ)なのか判らなくなる……」


 ……ハクオロって、押しに弱すぎるような気がする。
393 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/04(土) 20:13:54.69 ID:xhDip7oSO
 ――

 〜 トウカの部屋 〜


ハクオロ「部屋が出来たか」

トウカ「はっ このような御心遣い、感謝の言葉もございませぬ」ペコッ

ハクオロ「おいおい、そんなに堅苦しくしないでいいぞ」

    「ここでは誰も、そんな事は気にしない。私も苦手だしな」


ハクオロ「出来れば、皆を家族と思ってくれると嬉しいんだが」

トウカ「ですが……」

ハクオロ(生真面目だな。もう少し気楽にすればいいんだが)

    (……というか、他の者達がこの上なく気楽に居座ってる気が……)


 《同時刻、倉にて》


カルラ「♪〜♪〜〜 ふふっ。肴、見つけましたわ」パシッ

オボロ「あまり持ち出すな。足が付く」ゴソゴソ

カミュ「ん〜と、確か前のハチミツ漬けが…」ゴソゴソ

アルルゥ「ここ。たべごろ」スッ

クロウ「ん〜 美味ぇ。さすが姐さんだ、いい腕してる」ムシャ

ゴロー「急げ、そろそろ勘付かれる頃だぞ」ヨイショ


カルラ「肴肴肴〜♪」

カミュ「フヤト〜、ニュチプ〜、チムチ〜♪」

アルルゥ「ハチミツ、ハチミツ、ハチミツ〜♪」

ムックル『う゛ぉ〜♪』

394 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/04(土) 20:16:45.41 ID:xhDip7oSO

   ガチャッ!

エルルゥ「な、なにコレぇぇ!!」

ゴロー「バレた! やむを得ない、全員名乗りをあげろ!」



カルラ「お酒と肴はいただきましたわ! 『カルラレッド』!」シャキーン

オボロ「隠れたつまみを見つけ出す! 『オボロブラウン』!」シャキーン

カミュ「美味しいオヤツはカミュのモノ! 『カミュブラック』!」シャキーン

アルルゥ「う〜? ハチミツ、すき〜 『アルブルゥー』!」シャキーン

クロウ「好き嫌いはねぇ! 『クロウイエロー』!」シャキーン

ゴロー「食事の邪魔は許さない。 『ゴローホワイト』!」シャキーン


ゴロー「そして、俺達の秘密兵器! 『ムックル』!!」

ムックル『ぐおおぉぉ!』



一同「「「我ら、『食事戦隊! タベルンジャー』!!」」」



エルルゥ「」ポカーン


カミュ「今だよアルちゃん! みんなも後ろについてきて!」

アルルゥ「うん!」コクリ


一同「「「応ッ!!」」」

395 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/04(土) 20:19:29.95 ID:xhDip7oSO

 《 協撃!》

 《ムックル悶絶爆炎弾!!》


アルルゥ「カミュちー、のる!」

カミュ「よぉ〜し、行くよアルちゃん! 熱い友情の合体技!」

   「ひ〜っさぁつ! ムックル・悶絶・爆炎弾!!」


ムックル『……ヴォ!?』


アルルゥ「どした? ムックル、いく!」


ムックル『ヴォォォ!?』


アルルゥ・カミュ「「たあぁぁぁぁぁぁぁ!!」」


  ドゴゴォン!! ダダッ!!



エルルゥ「……ハッ、派手さに気をとられたぁ! 倉の壁が……」

    「他の人もいなくなってるぅ〜!!」

    「もぉ――――――――!!!」


  …………

 コラー! マチナサーイ!!


ハクオロ「…………」

トウカ「そ、某もあのように気楽に……」


ハクオロ「いや、トウカはそのままでいいぞ。うん」


(※ 壁の修理代はゴロー・オボロ・クロウ・ハクオロに請求されました)
396 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/04(土) 20:23:08.88 ID:xhDip7oSO
 ――

数日後……


ハクオロ「国境付近の賊の討伐でおかしな物を見た?」

ベナウィ「はい、一つだけ壊さずに持ち帰る事が出来ましたのでご覧下さい」

ハクオロ「外にあるのか、よし」ガタッ

 …………

ゴロー「なんだ、これは?」


 よくわからない代物が、調練場に置かれていた。


ハクオロ「ゴローさんも来たか」

ベナウィ「聖上、あまり近づかないで下さい。火を噴きます」

ハクオロ「あ、ああ。これは一体?」

クロウ「なんか、敵さんは『デグカパ』とか言ってやした」


 デグカパ、ムティカパみたいな名前だ。


ハクオロ「ふむ…… 仕組みはどうなっている?」

オボロ「前に立つと火を噴く。破壊すると、爆破・炎上して調べられん」

ゴロー「面倒な置物だ」

ハクオロ「とりあえず、他の兵は近寄らせないように」

ベナウィ「はっ。今後はどういたしますか」

ハクオロ「出来ればでいい。出所を知りたい」

ゴロー「チキナロを呼ぶか?」

ハクオロ「それも手だが… 次に賊が出たら、誰かに足取りを追わせてくれ」

オボロ「わかった。ドリィとグラァにやらせよう」

397 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/04(土) 20:26:14.75 ID:xhDip7oSO

ハクオロ「本当は上手く解体出来れば良いのだが……」

ゴロー「特殊な法術がかかってるかもな」

ハクオロ「こういった物の造りや法術に詳しい存在……」

    「やはりチキナロを呼んでくれ。あの男なら、
     そういった人物に心当たりがあるかもしれん」


クロウ「ういっす! あ、総大将。ナ・トゥンクの叛乱、ご存知ですかい?」

ハクオロ「ナ・トゥンクで?」

ベナウィ「初耳です。何故早く報告しなかったのですか」

クロウ「今さっき聞いた話なんすよ。奴隷(ケナム)が起こしたらしいっす」


  スタ スタ スタ スタ…

カルラ「へぇ…… 詳しいお話、聞きたいですわ……」グビッ


 おっ、カルラさん。調練場に来るなんて珍しい。
 この人、どこに行くのにも一升瓶持ってるな。


クロウ「いえ、スンマセン。詳しい事はまだ……」

カルラ「そうでしたか……」スタスタ


 ……行っちゃった。


ハクオロ「ナ・トゥンクは比較的近い國だ。情報が入り次第、報告を頼む」

ベナウィ「ははっ」  クロウ「ういっす!」


ゴロー(皇(オゥルォ)って忙しいもんだな)

ハクオロ「……カルラには秘密にしておくか」


398 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/04(土) 20:29:18.35 ID:xhDip7oSO
  ――

 〜 ゴローの部屋 〜


 『週刊トゥスクル』本日創刊!


 ―― 女官は見た! オボロ侍大将、人体実験に使われる? ――


 ―― 水飲み場の怪! 怪しげな女の子の声! ――


 ―― 恐怖! 森の主に食べられる少女! ――


 ―― 好色皇の夜、お相手はだれ? ――


 ―― いたずらっ子にご用心。被害者は語る ――


 ―― 昨日の組手結果、ベナウィ侍大将○…オボロ侍大将× ――



ゴロー「こんな所かな」フゥ…


 トゥス日(この國の瓦版)の編集長から、
 頼まれて作って見たけど……


ゴロー「予想外にちゃんとした週刊誌になりそうだ」


 というか、これ本当に出していいんだろうか。


ゴロー「ま、いいか。給料引かれたしな」フゥー


 しかし、ネタの多い城だこと。


ゴロー「く…… ちょっと疲れたな……」


 「どうぞ、お茶です」


ゴロー「どうも……」ズズッ

   「……ゲフッ! ガッハ、ペッ! ペッ!」


ゴロー「ナメッとさてヌルッとして苦しょっぱくて甘酸っぱい!!」


カルラ「非道いですわ、せっかく煎れましたのに」


ゴロー「カルラさん! これ、なんですか!!」

カルラ「お茶ですわ。闘士に伝わる元気の出るお茶……ね」

   「お茶の葉とモッチョモ、ホッコモッコで作られてますの」

399 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/04(土) 20:32:53.35 ID:xhDip7oSO

 【お茶(カルラ特製)】

よくわからない物が入ったお茶。
ハクオロに煎れたお茶は+愛の隠し味。
ツーンとした香りがする。


ゴロー「……全部飲めと?」

カルラ「いえ、ちょっとあるじ様に『また』煎れる前に試しただけですわ」ニコッ

ゴロー(……この人、一度飲ませたのか。コレを)

カルラ「あら、『トゥス日』ですの?」スッ

ゴロー「ええ、それ以外にも最近の報告を」


カルラ「……ナ・トゥンク叛乱、叛軍劣勢。……物資不足」

   「叛軍の将、『デリホウライ』……」


ゴロー「あ、ハクオロに言われて……しまった!」ハッ

カルラ「皆さんがこの事を話さなかったの。あるじ様のせいでしたのね」

ゴロー「こ、この事は内密に……」

カルラ「ちょっと頼みを聞いて頂けたら取材源は秘匿いたしますわ」ニヤッ

ゴロー(拒否権、無し。終わった……)


カルラ「……服を直して欲しいのです。大急ぎで」ニコッ

ゴロー「そ、そんな事でよろしいんですか?」

カルラ「ええ、それで十分。この服を明日以内に」スッ

ゴロー「わかりました、やらせます……」


 とほほ、せっかくの原稿料が女官さん達への依頼でパーだ……

 この人、最初から俺にこの事を頼む気で来たのか。


ゴロー(カルラさんとは相性悪いなァ……)


 ――
400 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/04(土) 20:36:52.95 ID:xhDip7oSO

 〜翌日・ハクオロの寝室にて〜


カルラ「お願いがあり、参りました」パサッ


そこに居たのは、一見すると『カルラ』のようではなかった。

束ねた髪を下ろし、着物も普段の物と違う。
白地の布の上、目立たない程度に金色の紋を入れた服。
ただ、首の鉄輪で彼女がカルラである事がわかった。


ハクオロは酒や八珍を楽しみながら話を切り出す。


ハクオロ「着物一つで、随分と変わるものだな」グイ

カルラ「お願いに来たのですから、正装は礼儀ですわ」


……本題の話を始めたのはハクオロからだった。


ハクオロ「……ナ・トゥンクだな。物資の支援か」

カルラ「……あるじ様はいけずですわ。わたしに黙っているなんて」


ハクオロ「出来る事ならなんとかしてやりたい。
     だが、その為にこの國を戦禍に巻き込むわけにはいかない」


他國と同盟和議を再び行おうと、幾度交渉をしても良い返事が得られない。

故に、今為すべきはシケリペチムとの戦に備え、國を磐石にする事。

物資の援助…… 簡単な事に思えるが、それは民の生活を圧迫する。
國の体制を揺るがす危険があるのだ。

そして叛軍に援助をする事は、ナ・トゥンクや周辺國に良い印象を与えない。
最悪、ナ・トゥンクとの戦になりうる……

皇の言はそれらを危惧してのものであった。
401 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/04(土) 20:39:31.92 ID:xhDip7oSO

カルラ「……勿論、只で『支援を』なんて蟲のいい事は言いませんわ」

ハクオロ「では、どうすると?」


カルラ「わたしの全てを差し上げます」ニコリ


ハクオロ「全て……とは?」



カルラ「髪一本から血の一滴にいたるまで。そして、この魂を……」


   「そう、『ウィツァルネミテアの契約』を……」



大神ウィツァルネミテアの名を冠す契約。それは……


―― ある者の願いを叶える代わり、未来永劫その者の全てを拘束する ――


……と言われる『違えてはならない契約』であった。
402 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/04(土) 20:42:20.23 ID:xhDip7oSO

ハクオロ「……何を言っているか、わかっているのか」

カルラ「ええ」ニコリ

ハクオロ「馬鹿な。私が死ねと命じたら死ぬのか」

カルラ「それがあるじ様のお望み?」ニコッ

ハクオロ(――ッ、カルラは本気だ。何か訳があるな)

ハクオロ「いいだろう。そこまでの覚悟があるのなら、望みを叶えよう」

    「物資だけだぞ。それ以上は支援しない」


カルラ「契約成立ですわね」

ハクオロ「ん、いやそうではなく… そこまで覚悟があるなら…叶えると」

カルラ「ですから契約成立ですわ」ニヤリ

ハクオロ「いやだから、契約は関係なくだな……」

カルラ「それはいけませんわ。代償を支払わなくては、契約と言えませんもの」

   スルリ パサッ…

ハクオロ「ま、ま、待て!! 何故脱ぐ!!」


カルラ「恵んで貰おうと思ってはいませんわ」スタスタ

   「あるじ様のおつもりはなんであれ、
    代償を支払わない限り、わたしにとっては恵んで貰うのと同じ……」


カルラ「これ以上、恥をかかせないで下さいな」ペロリ

ハクオロ「ね、狙ってますよね!」

カルラ「ふふっ……」スウッ

ハクオロ「なあっ!!」

   パタッ……


カルラに押し倒されるハクオロ。


カルラ「わたしは『カルラゥアツゥレイ』。
    大神ウィツァルネミテアの名において、
    貴方様にこの名を献上いたします」


カルラ「この身体は御身に寄り添い、この魂は御心に付き従う。
    それこそ我が最上の喜びであり、永久(とこしえ)の誓い――」


ハクオロ「なぁぁぁ… 耳元で囁くなぁぁ……」

カルラ「うふふっ…… さあ最上の膳を味わって下さいませ……」スッ


 『ここから先は見せられないよ!』

403 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/04(土) 20:46:55.94 ID:xhDip7oSO

……なんて事にはならないのでご安心。

もしここがカルラの部屋ならば美味しくいただかれていたであろう。

しかし、この場はハクオロの寝室。


   トコ トコ…

エルルゥ「ハクオロさ…………」

ハクオロ(上衣脱がされ)「……」  カルラ(下着姿)「……」


 「「「…………」」」


見つめあう三人。エルルゥの瞳は何を映したか……


エルルゥ「……」トコトコ…

ハクオロ(何も言わず、去っていった……)

カルラ「さあ続きを……」


   タッ タッ…

ゴロー「おい! エルルゥさんが……」

ハクオロ「……」  カルラ「……」


ゴロー(……差し替えだな。『関係者は語る。 好色皇を巡る三角関係!』)

ハクオロ「た、助けて……」

カルラ「二度目は興が覚めましたわ……」スッ

   「あるじ様、次はわたしの部屋で……」

  サッ バサッ! スタスタ…

ゴロー「あ、すまん。邪魔したな」

ハクオロ「エルルゥより早く来て下さいよ……」

ゴロー「 ? 」

 ――

ハクオロ「エルルゥ、おかわりを……」

エルルゥ「……」カチャカチャ

 ………

ハクオロ「エルルゥ、洗濯の途中ですまんがちょっと……」

エルルゥ「……」パサッ

 ………

ハクオロ「エル……」

エルルゥ「……」スタスタ

 ………

ハクオロ(通路の真ん中ならば無視できまい)


ハクオロ「や、やあ」

エルルゥ「……」スッ スタスタ…

ハクオロ(駄目か……)ガクッ
404 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/04(土) 20:50:00.35 ID:xhDip7oSO
 …………

 《ウルトリィの部屋》


ウルト「皆様、こんばんは。本日のお悩み相談を始めます」

ウルト「最初はゴローさまからですね。相談事はなんでしょう」ニコリ

ゴロー「先日、戦隊を結成したのですが……
    どうしても足りないものがあり、困っています」

ウルト「戦隊…がよく判りませんが、『足りないもの』とは?」

ゴロー「……巨大ロボットが足りないのです」

ウルト「申し訳ありません、仰ることの意味が判り難く……」

ゴロー「あ、そうでした。そうか… 知らないか……」

ウルト「諦めなければ、いつかきっと何とかなると思いますわ」ニコリ

ゴロー(いやいや。多分無理だろう……)

  パタン スタスタ…


ウルト「次の相談者の方はこちらです。あら、ハクオロ様」

ハクオロ「最近、エルルゥに避けられています……」

ウルト「まぁ… 何かお心当たりでも?」

ハクオロ「ない…… とは言えません……」

ウルト「ですが、いい機会かもしれませんね」ニコッ

ハクオロ「は?」


ウルト「もっと他の女性に目を向けるのも良いと思われます」

   「例えば…… わたくしなど如何でしょうか」ニコッ


ハクオロ「あー… うー…」

ウルト「あらあら、困らせてしまいましたか」フフッ

ハクオロ「……なんだ冗談か」ホッ

ウルト「冗談ではありませんけど」ボソッ

ハクオロ「ん?」


ウルト「なんでもありません。それでは皆様、ご機嫌よう〜」フリフリ


405 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/04(土) 20:50:58.65 ID:DlBgx9NSO
いいぞ
406 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/04(土) 20:54:51.38 ID:xhDip7oSO
 ――

 《別の日、朝堂》


クロウ「総大将、戻りやした」


物資の援助の為、ナ・トゥンクに向かわせたクロウが帰る。


ハクオロ「ご苦労。様子はどうだ?」

クロウ「正直、旗色が悪いですぜ。初めは良かったんでしょうが、
    今はほとんど敗走状態。森の奥に立て籠ってやす」


ハクオロ「潰されるのも時間の問題か」チラリ

カルラ「……」グイッ

ハクオロ「下がっていいぞ。ゆっくり休んでくれ」

クロウ「ウイッス!」


ハクオロ「聴いてのとおり。私に出来るのはここまでだ。……わかっているな」

カルラ「わかっていますわ」グイッ

ハクオロ(……やけに素直だ)


カルラという女を測りそこなった事に
彼が気付くのはその日の夜であった。
407 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/04(土) 20:57:02.66 ID:xhDip7oSO
 ――

 さーて… 今日も何かオヤツを……


ベナウィ「……」


 なんて厄介な番人を。


ベナウィ「やはりありませんね」


 あ、違うのか。よかったよかった。


ゴロー「何を探しているんだ?」

ベナウィ「ゴローさん。最近、倉で怪しい者を見たことがありませんか」

ゴロー「……ごめんなさい」

ベナウィ「いえ、食糧の事ではありません」

    「豪族達の倉から宝や武器が盗まれる事件を知っていますか」


ゴロー「その話は聞いた事があるぞ。痕跡がないそうだな」

ベナウィ「……この城もやられたようなのです」

ゴロー「……本当か」


 俺達で考案した錠前を破った賊がいるなんて。


ベナウィ「あの錠前を開けた跡がない…… というのが不可解でして」

ゴロー「犯人が法術を使ったとか? 透明になって侵入したり」


 透明になったりすれば……
 これは駄目か。透明でも錠を破らないといけない。


ベナウィ「法術…… その線は当たってみる価値がありそうです」

    「ご協力、感謝します」ペコリ

   ザッザッ…

ゴロー「……ベナウィって、色々仕事してるんだな」

 俺は…『薬師』『農政担当者』『ハクオロの影武者』
 『雑誌の記者兼編集』『諜報』

 ……結構仕事してるぞ。
408 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/04(土) 21:01:32.05 ID:xhDip7oSO
 ――

 《その日の夜》

ハクオロ「……おい、これはどういう事だ」

カルラ「あるじ様を簀巻きにして運ぶところですわ」ニコッ

カルラ「この前の夜の続きを、邪魔の入らない地でしようと思いまして」

ハクオロ「まさか…… ナ・トゥンクか! モガッ!!」

カルラ「夜は静かにするものですわ」ニッ


布団で簀巻き、口に猿ぐつわ。
パッと見て誘拐以外の何物でもない。


ハクオロ「もがっ、モガガッ!」

カルラ「♪〜♪〜」


  「お待ちなさい」


夜の黒い帳に一点、白い輝きが舞い降りる。


ウルト「やはり、行くのですか」

カルラ「ウルトリィ…」

ハクオロ(よし! ウルト、得意の術でこの女を止めてくれ!)

ウルト「わたくしはこの國の國師(ヨモル)です。わかって下さい」

カルラ「……仕方ありませんわ」フゥ

ハクオロ(やった! 流石ウルト! そこにシビれる! 憧れるゥ!!)

ウルト「では、旅支度をしてまいります」ニコッ

   バサッ バサッ…

ハクオロ「……モガ!?」

カルラ「二人きりではなくなりましたわ〜」


ウルト「お待たせしました」

エルルゥ「え、え!?」

アルルゥ「アルルゥも〜」

ムックル『ぶおぉ〜』

カミュ「どこ行くのかな〜 楽しみ♪」

ユズハ「ハイ……」

トウカ「僭越ながら、御供させていただきます」ペコリ


カルラ「人数が多いのも楽しそうで良いですわね」

ハクオロ「ムガーッ!!」

カルラ「ふふっ……お休みなさい……」スッ

ハクオロ「!?」

   (なんだ… 意識が…… 薬か…… ああ……)


カルラ「さあ、行きますわよ〜!」
409 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/04(土) 21:03:50.09 ID:xhDip7oSO

皇、誘拐。

しかし他の女性陣も同時にいなくなったので、城の中では


 『皇様、いないな』

 『ねぇさん達もいないから物見遊山にでも行ったんじゃないか?』

 『そういやベナウィ様も、そんな事言ってたな』


……などと、軽い扱いだった。


そして、物語は分岐する。

女性陣が出ていく様子を、煙管を吸いながら眺める男……


ゴロー「面白そうな事になっているぞ」



 さて、俺はどうするかな……


 @…女性陣についていく。
  《ナ・トゥンク(アニメ・ゲームの)ルート》


 A…男性陣と城に残る。
  《ゲーム限定・第六話にちょっと出たあの人のルート》


第十四話「拉致」


  続く!
410 : ◆M6R0eWkIpk [saga]:2012/08/04(土) 21:08:19.03 ID:xhDip7oSO
今日の投下は>>390から

この一週間で五話分投下した事に今日気がついた。

では@・A、お好きなほうをお選び下さい。
〆切は今度の水曜日までの予定。

失礼します。
411 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/04(土) 21:13:52.72 ID:DlBgx9NSO
412 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/08/04(土) 23:14:28.40 ID:l6BpQbii0
乙でした

ここは敢えての
A

413 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/08/05(日) 00:38:44.12 ID:ny3UNcxAo

お前のせいでアニメDVD全部レンタルして見ちゃったぞ
次はPSP版をプレイすることになりそう

あ、Aでお願いします
414 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/05(日) 02:14:03.55 ID:kJAmwYCIO
YOU、両方書いちゃえYO

むしろ書いてくださいお願いします
415 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/05(日) 02:55:45.89 ID:Ob4MnhHDO
1で!
416 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/05(日) 04:38:58.51 ID:1iDvIqRIO
ここは両方期待するしかあるまい
417 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/05(日) 08:47:15.83 ID:ivZGERb00
1
418 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/08/05(日) 08:59:53.38 ID:C1kaiwTqo

Aでお願いします
419 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/05(日) 09:10:05.21 ID:g9rKsB1ao
Aでお願いします。
420 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/08/05(日) 14:23:38.24 ID:IjJYxUFAO
3.両方書かなければいけない。現実は非情である
421 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/05(日) 15:14:11.37 ID:4Cf4qUWlo
@かな
422 : ◆M6R0eWkIpk [sage saga]:2012/08/05(日) 23:12:09.19 ID:/zl683aSO

 キィン! キィン! キィン! キィン!


ハクオロ「うたわれるものらじお in・SS速報VIP!」

ハクオロ「今晩は。司会のハクオロだ」

    「男だけですまない。今日はエルルゥが休みなんだ」

ハクオロ「『もっと薬師の腕を磨いてくる』だそうで……」


ハクオロ「そのかわり、ゲストは呼んでくれたらしい」

    「それではお呼びしよう。……どうぞ〜」


トウカ「聖上、失礼いたしまする」


ハクオロ「お、今日のゲストはトウカだったか。まぁ妥当だな」

トウカ「本家らじおではエルルゥ殿と共に語らせて頂きました」ペコリ

ハクオロ「確か……私がいなかった時だったよな」

トウカ「はい。あの時は……」

ハクオロ「『二次元が初恋じゃ…』」


トウカ「…………ク」

ハクオロ「く?」




トウカ「クケェェェェェ――ッ!!!」




ハクオロ「ぬああっ!」



 《暫くお待ち下さい》



ハクオロ「と、というわけで今日も始める……」ボロッ

トウカ「まずは十一話から十四話の登場人物を紹介いたしまする」
423 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/05(日) 23:14:36.16 ID:/zl683aSO

《十一話》

●テオロ達、ヤマユラの民

クッチャ・ケッチャの襲撃を受け、全滅。
アニメなどのニウェの発言から、シケリペチムが襲わせたようだ。


ハクオロ「親っさん……」

トウカ「……某が語れる事ではありませぬ」

ハクオロ「いや、私も語れない……」


●アムルリネウルカ・クーヤ

三大強國『クンネカムン』の皇。
クンネカムンは大陸に住む民族で最弱と言われる、
『シャクコポル族』のみで形成された國家。


ハクオロ「クーヤの名は呼びにくいな、しかし」

トウカ「外套を被っておられるので素顔はまだわかりませぬ」

ハクオロ「後に詳しい紹介をしよう」


●ゲンジマル

クンネカムンに仕えるエヴェンクルガの武人。
かなりの巨体で、ゲームだと身体が一部見れない。


トウカ「ゲンジマル殿!!」

ハクオロ「エヴェンクルガでは『生きる伝説』とされる武人(もののふ)だ」

トウカ「ああ… あのギリヤギナの皇との七度に渡る戦いのお話……」

   「いつ聞いても心踊りまする」ウットリ


ハクオロ「これ、ネタバレじゃないの? あ、そう。平気なんだ」

424 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/05(日) 23:17:46.33 ID:/zl683aSO

《第十二話》

●オリカカン(クッチャ・ケッチャ皇)

本編物語内では矢や毒針で死んでいる。
憎しみに囚われると、こうなるという見本。


トウカ「オリカカン殿でありますか」

ハクオロ「おそらくラクシャインという男が事件を起こしたのは真実だろう」

    「始末もつけたのに、心の中で仇を求めてそれに付け入られた」


トウカ「某がもっと事実関係を調べていたら…」

ハクオロ「暑苦しい男だが、なぜか放っておけない人間だ」

トウカ「オリカカン殿の武器は鉄棍…… としたが厳密には違う」

ハクオロ「本当は木製の棍の両端に、棘のついた円柱状の鉄塊がつけられている」

トウカ「この物語では判りやすく『鉄棍』としたそうだ」


●トウカ

エヴェンクルガの女戦士。
アニメだとカッコいいのにゲームだとカッコ悪い。


ハクオロ「比較してみよう。橋が落ちるシーンだ」



《ゲーム》

トウカ「ハあああああああッ!?」

《アニメ》

トウカ「ラクシャイ――ン!!」



ハクオロ「橋の部分は他にも異なっているぞ」

    「ゲームなら『うっかり侍』と呼ばれるのも無理なかった」


トウカ「くっ……」

ハクオロ「ちなみにこの後、私の側付(護衛)になる」


ハクオロ「おっと、新しい人物はもういないのか」

トウカ「名無しの方々を紹介いたしますか?」


ハクオロ「いや、名無しは名無しの良さがある」

    「今日もあのコーナーをやるとしよう」
425 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/05(日) 23:21:10.09 ID:/zl683aSO

ハクオロ「『うたわれるもの知りコーナー SS編』!」

トウカ「今回は我らの住む大陸にいる『部族』についてであります」



『うたわれ世界の部族について』


ハクオロ「有名所は『エヴェンクルガ』『ギリヤギナ』『オンカミヤリュー』」


トウカ「こちらで細かく説明された部族ですな」

ハクオロ「この三つは武才や術に秀でているという特徴がある」

    「……残念ながら『ある部族』は違う。負の特徴を持ってしまっている」


トウカ「『シャクコポル族』の者達でありますか」

ハクオロ「そうだ。この部族は『ウサギ』のような長耳をしている」

トウカ「垂れている方とピンとしている方がいて…… 可愛いにゃ〜〜」


ハクオロ「……トウカ? どうした?」

トウカ「ハッ! いえ、何でもありませぬ」

ハクオロ「話を続けよう。彼らシャクコポル族は身体的にも最弱らしい」

ハクオロ「そんな彼らがどうして國を作れた、
     しかも三大強國と言われる國となったのか……」

    「それは本編のお楽しみということで」


トウカ「ず、ずるいです! 聖上! 某に教えて下さい!」

ハクオロ「駄目だ」


トウカ「良いのですか、聖上。エルルゥ殿に某と湯に入った事をお伝えしますよ」


ハクオロ「…………やめろ」

トウカ「あの時の聖上は……ぽっ」


ハクオロ「含みを持たせるな! 何もなかった!」

    「ええい! こうなったらこのコーナーだ!!」バン
426 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/05(日) 23:23:37.18 ID:/zl683aSO

《SS版・ドリィとグラァに挑戦しようのコーナー》


ハクオロ「よし! 前回貰ったこれをやろう!」

トウカ「おや、懐かしい響きでありますな」

ハクオロ「このコーナーは本家らじおのコーナーそのままだ」

トウカ「知らない方の為に某が説明いたす」



@ 人数が二人必要。

A 紙と書く物を用意。

B 忌まわしき黄金ボックスからお題となる紙を引く。

C そのお題で思い浮かぶ事を個人個人で紙に書く。

D 見事二人が同じ答だとポイントゲット!

E ポイントが貯まると……何が起こるんでしょう?



ハクオロ「ポイントは…… 何に使おう?」

トウカ「お食事などは如何ですか?」

ハクオロ「ほお、それはいい。しかしよく考えたらオマケの話数があまりない」

トウカ「でしたら、当たったら何かしらのオマケをやるというのは」

ハクオロ「まぁ、それもいいだろう。じゃあお題を……」
427 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/05(日) 23:26:57.69 ID:/zl683aSO

   ガサゴソ…


ハクオロ「お題は『一人の食事』……」ペラッ

トウカ「おお! これはなかなか!」

ハクオロ「うむ。面白いお題だな」

トウカ「それでは書きましょう」


 《書いております、暫くお待ち下さい…》


ハクオロ「これ、考えると難しいぞ」

トウカ「はい、某達で考えたらよいのか… クロス先で考えるか……」

ハクオロ「トウカは自分の場合を考えたらどうだ?」

トウカ「良いのですか?」

ハクオロ「構わないさ」

トウカ「でしたら…」サラサラ

ハクオロ「私は……」サラサラ


ハクオロ「終わったぞ」

トウカ「某もです」


ハクオロ「同時に見せよう」

トウカ「せーの!」


   バン!


ハクオロ[ 魚 ]


トウカ[ 釣った魚 ]



  ピンポンピンポンピンポン♪


ハクオロ「よし! 当たりだ」

トウカ「聖上! 覚えていて下さったのですね!」

ハクオロ「部下の趣味くらい把握しておかんとな」

トウカ「聖上……」ウルッ


428 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/05(日) 23:29:01.09 ID:/zl683aSO

ハクオロ「さて、当たったので今回のオマケを」

    「これもボックスから引くのか」ゴソゴソ


ハクオロ「今回のオマケは『先取り・十七話の没シーン』だそうだ」ペラッ


トウカ「おお! それは凄い!」

ハクオロ「では…… スタート!」


 《 開始 》

ハクオロ「ハッ、トウカァー! 抜刀術にその名前はマズイ!!」

トウカ「な、何がでござる?」オロー

ハクオロ「それだよ! その終わりの! 語尾のヤツ!」

トウカ「しかし……某の憧れなのです!!」バーン

ハクオロ「だからってシリアスでそれは駄目ぇー!!」

 《 終了 》


ハクオロ「うん、これは没だな」

トウカ「…………」

ハクオロ「トウカ?」



トウカ「……結局それかァァァ!!!」

   「クケェェェェェェェェェ!! キィィィィィィィィィ!!!」



ハクオロ「ぎゃあああっ!!」


(※ 十七話のどこに入るかはSSをお楽しみに)



 《暫くお待ち下さい…》


ハクオロ「と、というわけで、本日はこれで終了だ…」ボロボロ

トウカ「も、申し訳ありませぬ……」

ハクオロ「それでは皆さん、また次回〜」

トウカ「ゴロー殿がどちらに行くかも募集中であります〜」


 続く?
429 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/05(日) 23:32:42.56 ID:/zl683aSO
sage進行でオマケはひっそりと。

ネタがわからない方は『うたわれるものらじお』『名言』で検索を。

ちなみに現在(>>421まで)のルート票数

@のルート・4票

Aのルート・8票

両方・3票

430 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/06(月) 03:07:11.92 ID:vPFybc4IO
両方以外に有るまい
431 :名無しNIPPER [sage]:2012/08/06(月) 07:50:57.96 ID:4oyIPZpt0
両方
432 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/06(月) 21:45:06.29 ID:/qYZqFZc0
両方
433 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/07(火) 06:13:07.92 ID:GNtHelzbo
集計されると両方って言いたくなるじゃないですか

両方
434 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/07(火) 14:41:40.27 ID:uo7fIAjIO
両方で
435 :名無しNIPPER [sage]:2012/08/07(火) 19:40:38.49 ID:rF+uwyjw0
436 :名無しNIPPER [sage]:2012/08/07(火) 19:41:04.78 ID:rF+uwyjw0
ミスった……

両方
437 : ◆M6R0eWkIpk [sage]:2012/08/07(火) 20:36:49.55 ID:dBhh41fSO

 『汝ラノ望ミ、叶エヨウ……』


そんなワケなんでちょっと早いけど締めましょうか。
両方投下、了解!ただし、正規ルートはAとします。
@にあった事は十六話以降に引き継がれないという事で。
438 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/07(火) 20:45:33.09 ID:dBhh41fSO

第十五話「過去と現在 〜滅びし國の皇女@〜」


 馬車に揺られて旅する俺たち。
 目的地はトゥスクルの南方にある、
 大陸南の海岸に接した國……『ナ・トゥンク』だ。


ハクオロ「……なんでこんな事に」


 俺とハクオロは横に並んで手綱を持ち、ウマを操っていた。


ゴロー「ナ・トゥンクかあ…… 何が食えるかな」

ハクオロ「……叛軍につく事になるでしょうからマトモな食事は出来ませんよ」


 え…………


ゴロー「……じゃあ帰ります」


   ガシッ!

ハクオロ「今更逃がすものかァァァ!!」

ゴロー「く、放せ!」


カルラ「手綱を握る者がそんな事をしないで頂けません?」ギロッ

ハクオロ・ゴロー「「す、すいません……」」


 それから暫くして、エルルゥさんが話しかけてきた。


エルルゥ「ゴローさん、交代しましょうか」

ゴロー「……」


 ハクオロと喧嘩してたエルルゥさんが…
 仲直り、したかったのかな。


ゴロー「わかりました」スッ

エルルゥ「よいしょ…… きゃっ!」ガタッ

ハクオロ「エルルゥ!」ダキッ

エルルゥ「あ……」

ハクオロ「平気か?」ニコリ

エルルゥ「///」カアッ



カルラ「なんだか暑くなってきましたわ〜」

ゴロー「まったくです」

439 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/07(火) 20:48:40.38 ID:dBhh41fSO
 ――

 馬車内に引っ込んだ俺は、子供たちと遊ぶことにする。


ゴロー「なるほど、そういう決まりなんだ」スッ

カミュ「そうそう… ユズっち、ゴローおじさまは《六の二》だよ」

アルルゥ「《二の五》」スッ

カミュ「《五の五》で重(かさね)!」スッ

ユズハ「《五の四》と《五の六》……二重(ふたがさね)です」スッ

ゴロー「よし、なら二重返しだ」スッ


アルルゥ「う〜…ない」

カミュ「こっちも……」


ユズハ「…………」

ウルト「ユズハ様。そう、それを出せば……」

カミュ「お姉様! ユズっちの後ろで物騒なこと言わないで〜!」

ウルト「遠慮はいけません。勝負で手を抜く事は相手に失礼ですから」ニコリ

ユズハ「《零》… 四重返しです……」

ゴロー「……え」

アルルゥ「これ、ペコちゃんいき〜」


   ジャラジャラ…

ゴロー「う〜ん、初心者に厳しい」


 トランプのような…ウノのような… 変わった遊びだ。


ユズハ「ごめんなさい……」

ウルト「勝者が敗者にかける言葉はいりませんよ」ニコッ

カミュ「お姉様、ひどいぃ〜」

ゴロー「これでコッチの組は三連敗か。すまない、カミュちゃん」

カミュ「いいよいいよ、遊びだもん。でもユズっちは初めてなのに強いね〜」

ユズハ「ありがとう……」

ゴロー「歳には勝てないな」

ユズハ「こんなに楽しいの……こんなに嬉しいの…初めて」ニコッ


ゴロー(今頃、オボロは……)

440 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/07(火) 20:51:04.22 ID:dBhh41fSO
 ――――

 〜 そのころのトゥスクル皇城 〜

城内を駆け回る二人。


オボロ「ユ―――ズ―――ハぁぁぁ――!!」

ムント「ひ―――め―――さ―――まぁぁぁ――!!」


あまりの衝撃に放心する侍大将。


ベナウィ「ニゲラレタ… ニゲラレタ… ニゲラレタ……」ブツブツ


今日のトゥスクルは平和であった。


 ――――

ハクオロ「そろそろ國境だ。何があるか判らないから気を付けて行くぞ」


 どうやらナ・トゥンクに入るようだ。


ゴロー・ユズハ「「あ……」」

カミュ「どうしたの?」

ユズハ「人の……」  ゴロー「悲鳴か?」


カルラ「……見てきますわ」スタッ

ハクオロ「待て、カルラ! お前達は馬車に!」タタッ


 カルラさんとハクオロが馬車から降りる。


エルルゥ「は、はいっ!!」

ゴロー「悲鳴はこっちの方だ!」タタッ


 ついでに俺も降りる。


ハクオロ「判った!」タタッ
441 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/07(火) 20:55:35.65 ID:dBhh41fSO
 …………


女の子「ハァッ… ハァッ……」タタタ

男A「ヒャッハー!! 足がふらついてるぜぇ!」


少女が逃走している。


男B「久しぶりの獲物だぁ。もっと楽しませろぉ」

男C「ホラホラ〜 早くしないと捕まっちゃうぞ〜」


それを下品な笑いを浮かべながら追う男達。


女の子「あっ!」コケッ!

   「あうッ!!」


男C「あーあ、終わっちまった〜」

男A「じゃあ仕方ねぇな」スラッ

男B「なんだよ、やんねぇのかよ」ニヤニヤ



カルラ「…………」ザザッ


そこに現れたカルラ。表情を一切変えず、男どもを眺めていた。


男A「なんだテメェ?」


女の子「た、たすけ、助けて下さいっ!」


男B「コイツ、はぐれだぜ。首輪ついてやがる」

男C「だけど…いい身体だぜぇ」ギラギラ


男達の視線を気にせず、カルラは少女に


カルラ「お行きなさいな」ニコリ


優しい笑顔で語りかけた。


女の子「あ……」グッ

   タタタタタタ…

男A「極上もんが来てくれたしなぁ」ニヤニヤ

男C「あんなガキはどうでもいいやな」ニヤニヤ


男達は下卑た笑いをカルラに浴びせる。


ハクオロ・ゴロー((知らないという事は、ある意味幸せかもしれん))


二人の男はこれからの惨状を脳裏に描いた……

442 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/07(火) 20:59:25.12 ID:dBhh41fSO

カルラ「聞いてもよろしいかしら?」

   「その刀の血糊、先程までに何人殺しまして?」


男B「さぁなぁ、わざわざ数えねぇよぉ」

  「女子供を殺るのが好きなもんでね。さっきは結構……」


  ブオン!!

 男 | B「」バタ…



カルラ「わたしも……よく覚えていませんわね」

   「これまで殺してきたあなた方みたいな下衆の数なんて」

   「はああああああああああああああっ!!」



ハクオロ・ゴロー「「しばらくお待ち下さい」」

 ――――

無惨な姿になり果てる男達、ただ一人の生き残りは失禁しながら命乞いをする。


男A「た、助けて…… 命ばかりは……」

カルラ「……そうですわね。今までに見逃した人達がいたなら
    わたしは手を下しませんわよ」ニコッ


男A「は、はい! 何人も見逃しました!」


 ……そうか、カルラさんの意図、読めたぞ。


ゴロー「ふーん、なるほどそういう事……」

ハクオロ「ああ。どうしようもない」


 ハクオロもわかっていたようだ。


男A「本当だ! だから……」

カルラ「そう…… じゃあお行きなさい」


男A「ひ、ヒィィィィ!!」ダダッ!



カルラ「あなたの言う事が本当なら、茂みの中の方々も見逃してくれるでしょう」


  ブスッ! ブス! ギャアアア…


443 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/07(火) 21:03:00.59 ID:dBhh41fSO

ゴロー(例の叛軍か)  ハクオロ(おそらく)


 男達が此方を包囲するように姿を見せる。

 その中から先程の女の子を連れ、一人の男が前に出てきた。


ゴロー(あのコ、俺達に頭を何度も下げてる)


 前に出てきた男、誰かに似ている……


??「これをやったのは貴様等か。これだけの輩を、たった三人でとは…」

ゴロー「あ、あの耳。ギリヤギナの……」

??「無礼な男だな。だが同胞を救った者だ。名乗ってやろう」

デリ「俺の名は『デリホウライ』。叛軍『カルラゥアツゥレイ』を率いる者だ」

ハクオロ(成る程…そういう

ゴロー「あ、そうか。似てるなぁ、カルラさんに」


ハクオロ・カルラ「「……」」

ハクオロ(この人は……なぜ雰囲気を壊せるんだ……)


デリ「? 何を言ったか判らんが次はこちらの質問に答えてもらう。貴様等何者だ」

ハクオロ「(ホッ、聞こえてなかった)我々は旅の雇兵でしてね。
     戦いがあると聞き、貴方等にこの腕を買って貰おうと思いまして」


デリ「雇兵(アンクアム)か。我等には必要ない」

ゴロー「どうしてです? 兵はいらないんですか?」

デリ「離れた所にいる馬車、あれに乗っているのもお前達の連れだろう」

  「女子供を引き連れている者など、邪魔なだけだ」


女の子「……」ギュ


 自分は違うのか? あのコ、お前の服にしがみついてるぞ。

444 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/07(火) 21:04:53.27 ID:dBhh41fSO

ゴロー「なぜ馬車の事を?」

デリ「悪いが囲ませて貰った。敵かも知れなかったからな」

ハクオロ「な……なんてことを!」

デリ「安心しろ、危害は加えん」

ハクオロ「違う! あなた方が危ないのだ!!」

デリ「何?」



  グォォォ! ウワァァ!  ギャアアア! グヘェ!



デリ「な、何の音だ!」


ハクオロ「……猛獣使いに、一流薬師」

ゴロー「オンカミヤリューの高位術士やエヴェンクルガの武人まで」


ハクオロ・ゴロー「「如何です。これでも役に立たない女子供ですか?」」


 むしろ、トゥスクルの最強パーティーだろう。


デリ「…………」

カトゥマウ「デリホウライ様、囲んでいた兵が皆負傷を……むむっ!?」

デリ「……他の者の力は借りぬ! これは我等の戦だ。とっとと消え失せろ!」ザッ


 行っちゃった。


ゴロー「ところで、この爺さんはどちらさま?」

カトゥマウ「……おお、あなた様は」


カルラ「久しぶりですわね、カトゥマウ」

445 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/07(火) 21:13:01.78 ID:dBhh41fSO
 ――――

 〜 夜 ナ・トゥンク 〜

 あの爺さん、カルラさんの知り合いだった。

 彼の話によると、あの『デリホウライ』って奴、
 生き別れになったカルラさんの弟らしい。


ゴロー「あんな姉さん、俺なら嫌だな」フゥー


 怖いんだもの。


トウカ「ゴロー殿、こんな所に」ガサッ

ゴロー「わっ!! ……カルラさんかと思ったぞ」

トウカ「おわあっ! 大声をあげないで下さい! 某(それがし)が驚きました!」

ゴロー「すまない、何か用か?」

トウカ「はい、食事が出来たそうです」

ゴロー「そうか」

トウカ「今日は活きの良いヘビが大量に取れましたよ」

ゴロー「……え」


 …………


 【ヘビの白焼き】

ヘビを開いて串に刺しただけの料理。
人数分あるので一人一本。


 【ヘビのスープ】

ヘビ肉・ヘビの血を少々入れて煮込んだ汁物。
味を変えたくなったら用意された葉(苦い)を使う。
446 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/07(火) 21:16:24.23 ID:dBhh41fSO

ゴロー(今日の食事は精力がつきそう)スッ


一同「「「……」」」ブツブツ


 感謝の祝詞もなんとなく覚えてきた。


ゴロー「いただきます」ガブリ


 ……なんだ、うまいじゃないか。


ゴロー(身の少ない鶏肉みたいで、これは悪くない)

   あぐっ むしゃむしゃ

ゴロー(骨ごと食えるから歯応えも楽しめる)

   こりっ… ぽりぽり


 この味が いいぞと俺が 言ったから


ゴロー「今からこの日、ヘビ記念日」


 字数が合わない。


カミュ「?」モグモグ

ウルト「この汁は何かを入れて、味を変えたほうがよろしいかと」ズッ

エルルゥ「あ、少し苦いんですがこの葉を使って下さい」

ハクオロ「普通の味噌汁が食べたいなあ」ズズッ

ゴロー(どれ、汁は……)ズズウ


 うん、ウルトリィさんの言うように何かで血の味を薄めたいかも。

 味を変える為に入れる葉っぱも苦いけど…
 これはこれで好きな人はいるかもしれない。


カミュ「カミュはこの汁好きだな〜 そのままでも」グッ

ユズハ「私は葉を入れたほうが……」

アルルゥ「草、ニガイ……」ウェー

ゴロー「ユズハちゃんは苦い食べ物が好きなのか」

ユズハ「はい……」コクン

ハクオロ「トウカ〜 こんな所に来てまで毒味しないでくれぇ」

トウカ「いえ、聖上の口に入る物はしっかり調べねばなりませぬ」ジッ パクッ

   「よいヘビであります。身の付き方、締まり、脂も程よい」モグモグ


カルラ「…………」

エルルゥ「カルラさん?」

カルラ「何でもありませんわ」ムシャリ
447 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/07(火) 21:18:48.12 ID:dBhh41fSO

そんな食事の時は長く続かなかった。



 「カルラゥアツゥレイ様!!」



カルラ「この声は……カトゥマウ!? ちょっと失礼!」タタッ!

ハクオロ「カルラ!」


 先程の爺さんがこっちにやって来る。


カトゥマウ「し、失礼いたします! デリホウライ様が進軍を!」

カルラ「奇襲ですのね?」

ハクオロ「あなた達の人数は?」

カトゥマウ「それが…………」

ハクオロ「少数で……か」

カルラ「……あるじ様、ちょっと散歩に行きません?」ガシリ


   ズリズリ…


ハクオロ「引っ張っているくせに……」

エルルゥ「わ、私も――」

ゴロー「エルルゥさん達はユズハちゃんを。俺が行きます」

トウカ「某も御供します!」シュタ

448 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/07(火) 21:22:42.12 ID:dBhh41fSO
 ――――

ナ・トゥンクの陣に攻め込もうとするデリホウライ。
しかしその途中の森で彼を待っていたのは他ならぬナ・トゥンク兵達だった。


デリ「ぬぅっ!? 待ち伏せだと! 何故わかった?」


ナ・トゥンク兵「ククク…… 馬鹿な奴よ」


一人、叛軍側からナ・トゥンクの兵士達に駆け寄る者がいた。


 「こ、これでいいだろう。約束通り、妻と子に合わせてくれ!」


デリ「タムァ! 女子供を人質にとられた程度で裏切ったか!!」


部下の裏切り。脇の甘さを敵に突かれたデリホウライ。


タムァ「よ、弱い者の気持ちなど、ギリヤギナのアンタに判りはしないだろう!」

   「お、俺には家族が――」


デリホウライに向き直り、自身の思いを叫ぶタムァ。


   ズパッ!!


彼の言葉は、刃が身を斬る音により遮られる。


タムァ「あ……な、何故……」

ナ兵「ククク… 約束を守るだけさ」ニヤリ

  「常世で待ってる妻と子に会ってきな」


タムァ「な…う、うあああああ!」


  ズパッ! ブスッ!


タムァ「」ドサリ…


部下「デリホウライ様! ここは不利です! 急ぎ撤退を!」

デリ「断る! ギリヤギナに、敵に向ける背など無い!!」

ナ兵「ならばここで散れぇぇ!」



  「ええ、あなた達がね」


449 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/07(火) 21:26:49.85 ID:dBhh41fSO

……そこから先は惨劇の幕開け。

飛び散る肉片、赤い雨。
ナ・トゥンク兵は次々とその命を消し飛ばされていく。


「ギャア!」「ひ、ひやあああ!」「ば、ばけもんだ!」

カルラ「こんな美人を化け物なんて…心外ですの」ニヤ

縦横真っ二つ、斜めに袈裟斬り。
首だけ無くなる身体や両足を同時に潰される者。
投擲された石ころでその身に風穴を空けられる兵。

カルラの目についた敵兵達は、もの言わぬ死体となって積み重なっていった。


ゴロー(……目を瞑っておいてよかった)

ハクオロ「間に合ったようですね」

デリ「余計な真似をしてくれたな……」


デリホウライは傲慢な態度のままハクオロ達を、
そして裏切り者・タムァの死体を見た。


デリ「愚かな男だ。どのような理由であれ、裏切り者には相応の末路しかない」

弱き者を気にも止めない、強き立場からの発言。
その場の皆が憤りを感じる……そんな中、

我慢できない『二人』から教育的指導が行われた。


ゴロー「燃えろや〜 燃えろ〜」キラン

デリ「ホアチャァァァッ!?」ボオオッ


カルラ「指導と言う名の体罰!!」ドゴッ

デリ「ひでぶっ!?」

450 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/07(火) 21:32:27.10 ID:dBhh41fSO

  ズガッ! ズザザ…

デリ「き、キサマら……」

ゴロー「最近やってないから今日はやるか」コキコキ


 さっきのヘビで精力有り余ってるぞ。


デリ「ふざけた真似をぉぉ!!」ブン

ゴロー「直情型って、ラクでいい。攻撃が読みやすい」スッ

  ガシリ… グイイッ!

デリ「ぐああああっ!?」

ゴロー「力は利用出来るけど…… 身体が頑丈だから余り効かないか」

デリ「お、おのれ……」

カルラ「では次はわたしが……」ズイッ

デリ「ギリヤギナの俺があんな男に……」ギリリ

カルラ「ギリヤギナね……」フゥ

   「その強さ故に高慢で、弱い者の痛みを知ろうともしなかった一族」


カルラ「……だからこそ、滅んだ者達」

デリ「貴様もその末席であろう! それ以上の侮辱は許さん!」

カルラ「……だったら教えてあげますわ」

  「ギリヤギナのこと、そして…弱い者の気持ちというものを」


デリ「ふん、いいだろう。この俺様と戦うというのだな」

カルラ「ふふっ……」クスクス

デリ「何が可笑しい!」


カルラ「貴方、自分が『弄ばれる』ことを『戦う』と言いますの?」


デリ「……構えろ」チャキッ

カルラ「…………避けなさい」


  ズゴォンッ!! ゴロゴロゴロゴロ……


ゴロー「……人が空中に吹き飛ばされるのは知ってるけど」

ハクオロ「空中で『縦回転』しながら転がるのは初めて見た」


カルラ「はぁ…… 知らないですのね」

   「ギリヤギナに『構え』などありませんのに」


カルラ「じゃあたっぷりと教えてあげますわ。
    自分が如何にちっぽけな存在かということを……」


デリ「ひ、ヒイイイイ――――!!」


「テリャテリャテリャテリャテリャテリャテリャテリャテリャテリャァァァ!!」


「…………」バタッ
451 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/07(火) 21:42:37.48 ID:dBhh41fSO

《デリホウライが殴られてから数日後の夜》


ナ・トゥンク皇城、玉座の間。

一人の男が静かに、それでいて熱く『とある女』を思い続けていた……


「やっと……やっと帰ってきてくれたのね」

「ああ……私のカルラ……」


赤い帯を頭に巻き、紺の装束を身に付ける彼の名は……



「カルラ! カルラ! カルラ! カルラぁぁああああああああああああん!!
 あぁあ…ああ…あっあっー! あぁあ!! カルラカルラカルラぁぁあああ!!!
 あぁ貴女を思い切りクンカクンカしたいよぉぉ! クンカクンカ!
 スーハースーハー! スーハースーハー! 貴女と見たこの花、いい匂いだわぁ…
 んはぁっ! カルラゥアツゥレイたんの青みがかった髪をクンカクンカしたいわぁ!
 クンカクンカ! あぁあ!! 間違えた!モフモフしたいわ!
 モフモフ!モフモフ!髪髪モフモフ! …きゅんきゅんきゅい!!(以下略)」



……失礼した、彼の名は『スオンカス』。

こんなのでも歴としたこのナ・トゥンクの皇である。


スオンカス「ああ…失ったはずの【キィン】が甦るよう……」

     「早く会いたいわ、カルラ!! 私の日天之神(ラヤナソムカミ)!」
452 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/07(火) 21:46:23.18 ID:dBhh41fSO

スオンカス「あまりにも貴女を想い過ぎて絵画を始めちゃったわよ!」

     「そこのアンタ、私の絵はどう?」ピラッ


ナ兵「は、ははっ! 非常に個性的であります!」

  ヒュン!! グサッ!!


スオンカスの放った暗器が兵士の首を突き、彼の命を刈り取る。


ナ兵「な、なぜに……」バタリ


スオンカス「暗に『下手』って言う奴が一番嫌いなのよ!!!」

    「ああ、待っていてね。カルラ…… 貴女に相応しいもてなしの準備を……」


諜報兵「失礼いたします!」タタッ

スオンカス「戻ったわね! さぁ! 早く見せなさい!」バッ

諜報兵「ハッ! 先日叛軍に入った雇兵らの似顔絵です!」スッ

スオンカス「やはりこれはカルラよぉ。美しいわぁ……」ウットリ

諜報兵(……この技能のおかげで俺、生きてるんだよな)

スオンカス「死体は片付けておいて。あとこの玉座の間、模様替えをするから」

諜報兵「ははっ! 人手を用意いたします!」

スオンカス「違うわ。誰も入れないように人払いをするのよ」

諜報兵「し、失礼いたしました!」

スオンカス「うふ、貴方だから生かしているの。さぁ、早く出ていきなさい!」

諜報兵「ははぁー!(もうヤダ、この仕事……)」

スオンカス「カルラカルラカルラ…………」ブツブツ

453 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/07(火) 21:49:06.89 ID:dBhh41fSO
 ――――

  ゾクッ…

カルラ「な、なんだか寒気がしますわ……」ブルッ


ハクオロ「ええ。このように陣を敷けば……」

デリ「ふむ、なるほど……」


ゴロー(何だかんだあったけど、叛軍は俺達と組む事になった)


トウカ「では締めに素振り千本!!」


叛軍達「「「……」」」


ゴロー「トウカ、無理がある」

トウカ「そ、そうでしたか。では五百……」

ゴロー「明日、別の敵部隊と交戦に行くんだからもっと軽く……」

トウカ「では百本で!」ニコッ


叛軍達「「「……ハイ」」」


ゴロー(訓練はいいと思うけど、こいつに教官をやらせちゃ駄目だろう……)


 ……それにしても、叛軍の武器や防具、
 なんだか見たことある武装のような……


ゴロー(うーん……どこで目にしたんだっけ)

454 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/07(火) 21:52:07.64 ID:dBhh41fSO
 ――――

この出来事から少しだけ時が経過した。

陣から離れるハクオロとデリホウライ。


デリ「あの女……カルラを俺に譲ってくれ!!」

ハクオロ「は、はいぃぃ?」


デリホウライの話に驚くハクオロ。


デリ「この戦が終わったら何でも譲る! この通りだ!」ズザッ

ハクオロ「そこまで言うならどう――」

  ヒューン… ボカッ☆

ハクオロ「あ、痛っ!!」

    (カルラ、隠れて聞いているな…… 石が飛んできたぞ)


ハクオロ「そ、そういう訳にはいきませんので…」

デリ「……あの女は生き別れの姉上に似ている気がするのだ」

  「美しく、しとやかで、優しくて、可憐な……」

デリ「そうだ、生き物の世話が好きだった優しい姉上様に……」

ハクオロ「嘘はいかんぞ――」

  ヒューン… ボクッ☆

ハクオロ「ガッ! ……ッッ」

デリ「俺の理想、ああ姉上…… 姉上以上の女性など見たことがない……」

  「今、何処におられるのですか……」


ハクオロ(語りに入り込んで帰ってこない……)

 …………

 〜 近くの茂み 〜

ゴロー「敵は大きいな。頑張れ」

女の子「はい……」コクン

カルラ「大丈夫、貴女はとっても強い子」ナデナデ

   「もっと大きくなったらあんな男はイチコロですわ」


女の子「が、頑張ります!」

ゴロー(恋する乙女はこんな所にも)
455 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/07(火) 21:55:27.14 ID:dBhh41fSO
 ――――

別の日の昼……


ハクオロ「やはり戦力差が大きすぎる」

ウルト「兵の皆さんも随分と疲れています」

ゴロー「いつものように何かの作戦はないのか?」

ハクオロ「うーん、こういう時は直接敵の親玉を首を狙うのが一番なんだが」


カルラ「じゃあ、そういたしましょうか」ニコッ


一同「「「……なんだって?」」」


デリ「正面から攻めるのか!」

カルラ「貴方、馬鹿ですわね。わたしが城の抜け道を知っているだけですの」

ゴロー「それ、どうして言わないんですか……」

カルラ「女は秘密を持つほど美しくなるものですわ〜」

エルルゥ・トウカ「「おお! ふ、深い……」」

ハクオロ「それで、その抜け道はどこにある」


カルラ「地下湖、あの城はそこから城の水を汲み上げますの」

   「そこにある水路を使えば潜入できますわ」


カルラ「ただその路が狭いから少人数でしか行けませんし、
    抜け出る場所は敵の真ん中。これをどうにかしませんとね」
456 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/07(火) 21:57:42.50 ID:dBhh41fSO

デリ「ならば総攻撃を仕掛け、これを囮として精鋭が敵将の首を取ればいい」

ハクオロ「それは一度しか使えない策です」


ゴロー(確かに。被害は大きいだろうし、下手をすればそのまま総崩れだ)


ハクオロ「自棄になっての玉砕覚悟なら考え直しを……」

デリ「違う。皆の体力はもう限界に近い。おそらくこれ以上長丁場の戦はできん」

  「しかし今、勝機のある策がここにある。逃すわけにはいかん!」


デリ「辛く、苦しい戦いになる」

  「だが、これが最後だ!」


デリ「これに勝利し、我等は皆の望む自由を手に入れる!!」


ハクオロ「フッ……いいか


ゴロー「いい顔付きになったじゃないか」

   「だったら何も言う事はない。その道を貫くのが漢ってヤツだ」


デリ「ゴロー… 貴様は一体……」

ゴロー「通りすがりの……只の旅人さ」



エルルゥ「ハクオロさん、落ち込まないで下さい」ナデナデ

ハクオロ「…………いい所を取られた」ズーン

457 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/07(火) 22:00:09.64 ID:dBhh41fSO
 ――――

エルルゥ・ユズハを除き、湖を抜け、水路の入口に到着した一行。
その水路から、白い蓮のような花が流れ続けていた。


ゴロー「お、風情がある。花が城から流れてきてるぞ」

カルラ「……懐かしい花ですわ」ボソッ

デリ「この路で良いのだな」

カルラ「ええ、穴キママゥに気をつければ城の下に……」

ハクオロ「それを先に言えぇぇ!!」キィン

穴キマ達『『『ゲゲッゲゲッ!!』』』

トウカ「容赦は無用、立ち塞がるなら斬るのみ!」チャキッ

カミュ「待ってトウカ姉様! お姉様、あれやろうよ あれ!」

ウルト「ではわたくし達がなんとかしましょうか」ニコリ


 そう言うと前に出るウルトリィさんとカミュちゃん。


ゴロー「お二人が戦うところ、初めて見ます」

ウルト「うふふ、目を細めて下さいね。眩しいですから」

カミュ「じゃあやりま〜すっ!」


 《 協撃!》

 《 究極術法 》

カミュ「我等はオンカミヤリュー」キュイイン

ウルト「我等は架け橋」

   「人々を安息に導く者なり」キュイイン

    カッ!!

カミュB・ウルトB「「均衡を乱す者よ」」

カミュA・ウルトA「「大神ウィツァルネミテアの名において……」」

      「「「「調停せん」」」」キィィン…


    ゴオオオオオオッ!!


黒紫の鈍い輝きと純白の鋭い輝き。
分身した二人を含めた四本の光線がキママゥに直撃した。


ゴロー(……ビーム攻撃じゃないか)

ハクオロ「す、凄いな。分身までして……」

ウルト「高位の術者しかできない術です」ニコッ

カミュ「よし、今日は成功っと♪」

ゴロー「ところで……あの力技のどこが調停なんです?」


キママゥ達「「「 」」」チーン


ウルト「言って聞かない方々には大神の裁きが下るのですよ」ニコリ

ゴロー(怖い人がもう一人……)
458 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/07(火) 22:04:57.17 ID:dBhh41fSO
 ――――

 〜 ナ・トゥンク皇城 〜

   ガタッ…

トウカ「大丈夫、敵は居りませぬ」パッ


隠し通路から出てくる一行。


アルルゥ「……ムックル、つまった」

ムックル『ヴォォォォォ!?』


 予想出来た事だなぁ…


ハクオロ「一番最後でよかったというべきか……」

カルラ「引っ張りますわ」ガシッ

デリ「俺も手を貸そう!」ガシッ

カルラ・デリ「「はああああああああああああ!!」」

  ベキィ!

ムックル(+床板)『…………』


 ムックルの真ん中位で止まる床板。


ゴロー「く、くくっ……」

ハクオロ「ゴローさん、そんなに笑っ…ふふっ」

トウカ「か、可愛いにゃ〜」フニャ

アルルゥ「ムックル」(・ω・)d グッ

ムックル『ぐお……』

カミュ「……って、和んでる場合じゃないよ!」

ウルト「ですが、あの大きな音でも気づいていないなんて……」

ハクオロ「ああ、本当に兵がいないか……」

カルラ「罠……かもしれませんわね」

トウカ「ハッ! そ、某が先行いたしますゆえ、皆様は後から!」タタッ

459 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/07(火) 22:12:24.17 ID:dBhh41fSO
 …………

トウカ「ここが玉座に繋がる扉ですな」

ハクオロ「鍵はかかっていないようだ」

デリ「よし、行くぞ」ズイッ

トウカ「いえ、ここは某が行きます」スッ

   「敵の罠があるやも知れませぬ。デリホウライ殿はお下がりください」


ゴロー「今日はしっかりしてくれよ……」

トウカ「む! ゴロー殿、某を侮辱しているのですか!」

ゴロー「してないしてない」

アルルゥ「トウカお姉ちゃん、がんば」(・ω・)d グッ

トウカ「……お姉ちゃん、一人っ子の某にとって良い響きでございまする」ジーン

   「エヴェンクルガのトウカ! 参る!!」タタッ

  ギギッ… バーン!


 『のわあああああぁぁぁぁ!?』


ハクオロ「トウカァ―!!」タタッ

ゴロー(やっぱり……)


 急いで駆けつけると……


ハクオロ「トウカ! 無事か!?」

トウカ「せ、聖上……、あれらは……」ガタガタ

カルラ「こ、これは…………」

ゴロー(な、なんだこの水墨画は……)


 それは…『圧巻』としか言い表せない光景だった。

 大・中・小、様々な大きさの紙に人の姿?をした『ナニか』が描かれていたのだ。
460 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/07(火) 22:16:05.99 ID:dBhh41fSO

「如何かしら? 私の描いた『カルラゥアツゥレイ』は?」


 中央にある階段の上から女言葉をした男の声が聞こえる……


スオンカス「素晴らしいでしょう? カルラ、貴女を迎える為に必死で描いたのよ」

カルラ「スオンカス…… 貴方、懲りてませんでしたの」ハァ…

ハクオロ「ちょっと待て、この見るからに禍々しいモノがカルラなのか!?」

スオンカス「凡人は天才の気持ちが判らないというのは本当ね」フゥ

ゴロー「へえ…… これはピカソ的な絵だな。よく見ると味がある」ジッ

スオンカス「あら、貴方。判ってるわね。それは二番目にお気に入りよ」コツコツ

ゴロー「誉められてもな……」


 俺の知識はこういう方面にはない。


デリ「いや、これなんか非常に良く描けている」ジィー

スオンカス「驚いたわ… 私の最高傑作を一目で見抜くなんて!!」コツコツ

デリ「この女性的なしなやかさを『剛』の線で表すとは……」

スオンカス「認識を誤ったかしら『餌』から昇格させてあげるわ」

デリ「何ぃ?」

スオンカス「そう、そこのお坊っちゃんは餌なのよ」

     「そこにいるカルラの為のね!!」


カルラ「……性根が腐ってますわ。
    イチモツを潰してから少しはマシになったかと思いましたけど」


男性陣「「「おう!?」」」キュッ

スオン「カルラ…… 貴女には感謝してるわ、
    おかげで不浄な雄の呪縛から解き放たれたんですから!」


ゴロー「なんて人だ……」
461 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/07(火) 22:20:08.10 ID:dBhh41fSO

スオンカス「さあ、お話はここまでよ。カルラ、私の下に帰ってきて!」


カルラ「お断りですの」


スオン「な、何故! かつての大國『ラルマニオヌ』の皇宮……
    いいえ、それ以上の贅沢をしたくないというの!」


カルラ「ふふふ……判ってませんのね。あんな生活、退屈なだけですわ」

   「人はその日生きていけるだけの糧と、虫達の子守唄(ユカウラ)を
    聞きながら大地の寝床に横たわれれば、それで十分」


カルラ「そして、戦場を駆け、猛者と戦い、気心の知れた友と酒を交わし、
    愛しい漢に身を委ねる…… 本当の贅沢とはそういうものではなくて?」


スオン「そう言うと思ってたわ。何者にも縛られない、貴女らしい言葉ね」

   「だからこそ……手に入らないからこそ、貴女は美しい」


スオン「でも甘いのよカルラ。そこの僕ちゃんを助けに来たのだから」

   「貴女は自分の苦痛には耐えられても、近い者の苦しみには耐えられないの」

スオン「そこにいる他の者達の命は保障してあげる。だから……」


デリ「……」ソーット…


カルラ「でもお断りですわ」ニコリ

スオンカス「な、何故!!」


カルラ「だって……わたしはもう……」

   「この御方のものですから」グイッ

ハクオロ「は?」ズルズル


ゴロー(やっぱりそういう関係か)
462 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/07(火) 22:22:50.18 ID:dBhh41fSO

カルラ「イヤですわ〜 あるじ様ったら、こんな所で……」グググッ

ハクオロ「痛たたた! 手を引っ張るな!!」

カルラ「わたしのあんな所に指をなんて……あるじ様ったら」ポッ

ハクオロ「ぬぐあああっ!! ゆ、指があらぬ方向にっ!」ギギ


トウカ「……ハッ! そ、そんな破廉恥な!」ジッ

ゴロー(なら目を閉じるか止めるべきだろう……)

カミュ「わ、わぁー わぁー…… あんな事しちゃうんだぁ」チラチラ

ゴロー「子供は見ちゃいけません」サッ

ウルト「カルラ〜 腕が逆ですよ〜」

ゴロー「ウルトリィさんってボケ側だったんですか……」

アルルゥ「おとーさん、アルルゥも撫でる……」

ゴロー「はいはい、代わりに撫でるから」ナデナデ

アルルゥ「ん〜…イマイチ」

ゴロー「」ガーン

 …………

エルルゥ「むむっ! 何か感じるっ! 浮気の気配!」ピーン

ユズハ「エルルゥさま? どうかされましたか?」

エルルゥ「な、なんでもないから! む〜ん……」

 …………
463 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/07(火) 22:26:16.42 ID:dBhh41fSO

ハクオロ(な、なんだ? ここに居ないはずのエルルゥの気配を感じる……)


エルルゥ(生き霊)『ハ〜ク〜オ〜ロ〜さ〜ん〜』ドロドロ


カミュ「あ、何か見える」

ゴロー「なんとなくエルルゥさんっぽい」

トウカ「某にはサッパリ見えませぬ…… まだ未熟なのでしょうか……」




スオンカス「アンタ達! 無視しないでよ!!」

デリ「そうだそうだ!!」


トゥスクル勢「「「あっ……」」」


スオンカス「ちょっとあの人達、本気で私達の事忘れてたわよ」ヒソヒソ

デリ「俺様を放置して勝手にあんな……」ワナワナ


 すっかり忘れてた。
 何故かあの二人仲良く並んでるんだけど。


カルラ「デリ! 何をしているの!! 隣の男をぶん殴りなさい!!」


スオンカス・デリホウライ「「あ」」


スオンカス「……」

デリ「……と、とりあえず」ゴホン


 《デリホウライ・必殺連撃!》

デリホウライ「ギリヤギナの拳、喰ろうてみるか?」

デリ「タァァァァリャリャアアラララライッ!!」

  ズガバキボコベキ!!

デリホウライ「ふん、他愛もない」スチャ


ゴロー(今さらカッコつけてもな……)

464 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/07(火) 22:29:30.99 ID:dBhh41fSO

スオンカス「ぐあはっ!!!」ズザザ

スオン「ま、まだよ…… まだ倒れるワケには……」

   「兵士達!! コイツらを殺…… いいえ!」


スオンカス「あの白い花の苗床にしてやるわ!! 半殺しにしなさい!!」

白い花(やっと名前がでたよ……)

兵士達「「「ハハッ!!」」」ズラズラ


カルラ「ウルト、行きますわよ」

ウルト「判りました」


 《 協撃!》

 《 美しき野獣 》


ウルト「チェカイメラ、ヤムイウンカミ…… カルラ……」キィィィン

カルラ「ええ、よくってよ」スウッ!

   「さあ、とくとご覧あそばせ。常世(コトゥアハムル)へ誘う花の舞を……」


ウルト「はっ!」パアッ!


ウルトリィの水の法術がカルラの刀に集約する。


カルラ「たああああああ!!!」ブオン!

  バチバチバチバチ…!!

術によって更に強められた一撃が衝撃波となり兵士達を襲う。


兵達「「「グアアアアアッ!!」」」


ゴロー「……凄いと言うより、怖い」

ハクオロ「あ、ああ……」


トウカ「聖上!」スパッ

ハクオロ「呆けている場合ではないな」キィン! バシッ!

兵「アグッ!」ドサ…


アルルゥ「ムックル!」  ムックル『グオオオォォォ!!』

兵「ば、バケモンだぁぁぁ!」
465 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/07(火) 22:32:05.73 ID:dBhh41fSO

スオンカス「な、なんですって……」

カルラ「覚悟はよろしくて?」ニコリ

スオン「……あんな者達はどうでもいいわ。だって貴女が私の目の前にいる」

   「貴女をこんなに近くで感じられる喜び! 命のやりとりをする至福!」

   「どんな富にも替えがたい一時…… そう、まるで夢のようだわ」ウットリ


カルラ「貴方の夢に付き合うつもりはなくてよ」

スオンカス「貴女のそういう態度…… 愛してるわァァァァ!!」チャキッ

     「むぅん! 踊りなさい!!!」シャッシャッ!


カルラ(暗器!)

デリ「姉上様!」ザザッ

  キィッン! グサ

デリ「く、脚に…… な、身体がうごか……」

スオンカス「暗器に毒を塗るのは当然よ。命を奪う類いじゃないけれど」

カルラ「本当、意地の悪い男」

スオンカス「ああ! もっと罵って! 見下して!! 蔑んで!!!」ハァハァ

カルラ「……やる気が削がれますわね」

スオンカス「もっと! 私に貴女の感情をぶつけて!!」

ハクオロ・ゴロー「「うるさい」」バシッ! ボカッ!

スオンカス「あふんッ!!」


カルラ「ケウトゥアマンを飲んで……」サラサラ

(※ケウトゥアマン……気力を最大まで回復する薬。一種の興奮剤)
466 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/07(火) 22:34:45.84 ID:dBhh41fSO

カルラ「ハアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

   ブン! ブオッ! ゴオッ!!

スオンカス「くう……なんとか、かわす……」ドカッ

     「か、壁ですって!!」


 《カルラ・必殺連撃!》

カルラ「わたしの胸でお眠りなさい――――」


  ブオン!!!

スオンカス「ギャアアアアアアアアア!!!」


スオンカスの身体に赤く、太い刀傷の線が入る。
浅い一撃だったが、その攻撃は十分致命傷の域であった。


スオンカス「……」

カルラ「……」

デリ「おのれ… まだ倒れぬかぁ……」クラクラ

ゴロー「デリホウライ、治療するから待つんだ」

デリ「ゴロー、何故止める……」

ゴロー「あの男は……もう……」


スオンカス「か、カ……ルラ……」フラフラ

     「わ、た……の……日天之神(ラヤナソムカミ)……」ガクリ


カルラ「……今、この時だけ。貴方を誰よりも愛してあげる」

   「お眠りなさい、スオンカス。貴方の事、嫌いではありませんでしたわ」


スオンカス「…………」スウッ

467 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/07(火) 22:36:59.62 ID:dBhh41fSO

ナ・トゥンク皇城の決戦は終わった。

デリホウライは泣きそうになりながらカルラに言葉をかける。


デリ「姉上様だったのですね……」

カルラ「違います」

デリ「え、でもさっき僕を昔みたいに『デリ』って呼んでくれました!」

カルラ「……あんなワケの判らない絵を上手いと言う弟なんて知りませんの」


デリ「」


ゴロー「あーあ。放心しちゃった」ペシペシ

カルラ「直に気がつくでしょう。あるじ様、帰りましょう」ニコッ

ハクオロ「いいのか? アレ(デリホウライ)を放置して?」

カルラ「いいんですの」ツカツカ

ウルト「では私達も」スタスタ

カミュ「……ねぇねぇ、アルちゃん」ニヤリ スッ

アルルゥ「んっ」コクリ スッ

ゴロー「筆? まさか…………」

 ――――

ナ・トゥンクと叛軍の激突地点。
漢がスオンカスの首をかかげ、叫んだ。


「ギリヤギナのデリホウライ、ううっ…怨敵スオンカスを討取ったりぃ……」

「俺達は自由だ。ずずっ…もはや何人も俺達を縛り付けることは出来ん……」

「今ここに『カルラゥアツゥレイ』の樹立を宣言する……」グスン


デリホウライの名前を聞いて活気づく叛軍兵士達。


「「「おおおおおおお……お?」」」


「「「お前は誰だぁぁ!?」」」


デリ(顔に落書き済)「ううっ…… 姉上様……」グスリ



第十五話「ナ・トゥンクのヘビの白焼きとヘビのスープ」

 続く。
468 : ◆M6R0eWkIpk [saga]:2012/08/07(火) 22:43:12.41 ID:dBhh41fSO
投下終了。>>438から開始。


スオンカス→絵を見ていた時に階段中程まで降りる。

デリホウライ→カルラとスオンカスの会話の間に背後を取ろうと階段に行く。

そしたらあんな事になり、お互い頭に血が昇って
近くに敵がいるのを一瞬忘れた。

明日はAのルートをやります。
469 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/07(火) 22:47:21.53 ID:iHeXnF9vo
ふむ
470 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/08(水) 01:17:08.84 ID:J7RYxyBSO
471 : ◆M6R0eWkIpk [saga sage]:2012/08/08(水) 20:11:16.95 ID:lWrVOwoSO

「いらっしゃ〜い、可愛いコと楽しい一時を……」

「そこのダンナさま、如何〜……」



ゴロー「華やかな街、そしてべっぴんさん……」


 赤・青・緑やその他の着物が店の灯りや街灯に照らされる。

 俺の少し前の男、他國の商人だろう。
 可愛い女の子の客引きに迫られ、
 『よーし、今日はパーっとやるか!』
 なんて感じに顔が綻んでいた。


ゴロー「本当に人が多いなぁ」

  カツ… カツ… カツ…


♪推奨BGM『Jiro's Title』
  (ドラマ・孤独のグルメ サントラより)


時間や社会にとらわれず、幸福に空腹を満たすとき

つかの間、彼は自分勝手になり「自由」になる

誰にも邪魔されず、気を使わずものを食べるという孤高の行為

この行為こそが現代人に平等に与えられた最高の「癒し」といえるのである………



うたわれるゴロー 〜 孤独な男のグルメ旅 〜


第十五話「過去と現在 〜滅びし國の皇女A〜」

472 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/08(水) 20:14:28.39 ID:lWrVOwoSO

 ここはトゥスクル歓楽街、この國の中でも多くの人々が集う地の一つだ。


ゴロー「賑わってるな……」


 この歓楽街、実は少し他國と異なる。
 普通に見て歩くだけだと違いはわからないと思う。

 通路や橋、特定の場所を注視すると子供でも謎が解けるだろう。


兵士「……」

ゴロー(兵士が立ってるんだよ)カツカツ


 そう、この歓楽街は『國営』なのだ。

 これは皇…… つまりハクオロの案なのだが…

 人の欲は一つ満たしたから満足、というものではなく
 あれもやりたい・これもやりたいと高まってしまう。

 それを満たそうと様々な事・ものが産み出される。

 歓楽街のようなものは代表格と言える。
 厳しく風紀を取り締まったところで黒い部分が無くなるわけじゃない。


ゴロー(それならいっそ、國で管理して闇を潰す……だそうで)カツカツ


 実際、この案は大正解だった。

 ベナウィ達の働きにより、此方に取り入ろうとする悪徳業者は大半逮捕。

 國を挙げて造られた歓楽街という話を聞き、
 他國から商人や金を持った者達が次々と集まる。

 集まった金が國の益になるし、そこから歓楽街を発展させる事もできる。


ゴロー(人や金のサイクルが上手いよな……ハクオロって)カツカツ


 さて……なぜ飲めない俺がこんな所に居るかというと……

473 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/08(水) 20:16:44.42 ID:lWrVOwoSO

 《 回想 》


ゴロー「歓楽街の調査……ねぇ」

ベナウィ「はい。ゴローさんならば顔を割れていないでしょうから」

ゴロー「顔が割れてちゃ不味い事があるのか?」

ベナウィ「先日話した倉泥棒の話、覚えておられますか」

ゴロー「ああ、痕跡がないのに盗まれたっていう」

ベナウィ「貴方の意見を聞いて『法術』の線で調査をしたところ……」

ベナウィ「ある店に『オンカミヤリュー』が出入りしている事が判明しました」

ゴロー「オンカミヤリュー……」

ベナウィ「いずれ我等も行くつもりですが……」

     「聖上に…… ニゲラレタ、ニゲラレタ、ニゲラレタ……」


ゴロー(昨日の事なのにまだ吹っ切れてなかったのか……)

ベナウィ「……ともかく聖上が『物見遊山』に出かけて、仕事がたまっていまして」

ゴロー「それでまずは俺か……」

ベナウィ「様子見程度で構いませんのでお願いします」

ゴロー「わかった。経費、落ちるよな?」

ベナウィ「……一飯分なら」

ゴロー「充分だ。じゃあ今日の夜にでも行ってくる」

 《回想終了》

474 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/08(水) 20:21:41.38 ID:lWrVOwoSO

ゴロー「このへんだよな……」ザッ


店の娘@「いらっしゃーい! 可愛いコがいっぱいいますよ〜」

店の娘A「美味しいお食事とお酒もございます〜」

店の娘B「常世のような時間ヲ過ごしマせんカ〜」


 目当ての店の前に来ると、女の子達が元気に客引きをしていた。


ゴロー(上から、並み・巨・貧か)


 予想より顔のレベルが高いぞ……
 でもここの潜入先の店、キャバクラみたいなもんで
 下の意味では楽しめないんだったか。


ゴロー(ちょっと残念)フゥ

店の娘@「そこの素敵なお方! 如何ですか?」

ゴロー「うーん… どうしようかな……」

店の娘A「まぁまぁ、そう言わずに〜」ムギュン

ゴロー(おお! 胸が腕に!)

店の娘B「楽しいヨ〜」スリスリ

ゴロー(このコは胸がないや……)

  ワイワイ キャッキャッ!!


?@「おまえたち、何を騒いでおるの?」


(※イントネーション注意。綺麗な京都弁ぽく?)


娘達「「「お姉様!」」」


?@「店では女将と呼べと何度言うたら判るん」ハァッ

娘達「「「ご、ゴメンナサイ」」」
475 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/08(水) 20:26:41.36 ID:lWrVOwoSO

女将「まぁ、ええ。お客様、うちの妹らが失礼いたしましてぇ」ペコリ

ゴロー「いや、特に何もなかったので」

女将「おおきになぁ。そちら様もよい男でありますぇ……」

ゴロー(お、この女将。わりと好み)


 桃色の着物、頭はお団子ヘアー。
 六角形のボルトみたいな髪留めで維持している。
 目の形は狐的で『綺麗』なタイプの顔付きだ。

 見た目から年齢が高いように思うヤツもいるだろうが……
 そこまで他の娘達と差があるようでもない、よく見ると化粧が薄めだぞ。


女将「お騒がせしたお詫びに是非寄っていって下されや」

  「タダでとは言えまへんが、目一杯おもてなしさせて頂きますに」


ゴロー「そうだな… じゃあ寄らせて貰うか」

女将「おおきになぁ。それではこちらへ」ニコリ

  「ご案内いたしますぇ」


ゴロー「腹ペコだ…」


   ザッザッザッ…


娘@「この方法、お客様いっぱい入るね」ヒソヒソ

娘A「みんなで騒いでお客を集めて、お姉様で釣り上げる」ヒソヒソ

娘B「でもウソは言っテないヨ〜。みんな可愛イし、料理おいシーね」ヒソヒソ


   キャッキャッ…

476 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/08(水) 20:31:09.06 ID:lWrVOwoSO
 ――

 案内されて、店に入る。
 わざわざ個室を用意してくれた。


娘B「ドウゾ、お寛ぎ下さイ」

ゴロー「いい感じの店内じゃないか」

娘@「んふ〜 そう思いますよね」

娘A「ウチと同じくらいのお店は、この界隈ではちょっとありませんよ〜」

ゴロー「へえ……」


 女の子達と世間話をしていると、女将が部屋に入ってきた。


女将「お待たせいたしましたぁ。まずは、一献」スッ

ゴロー「私、酒飲めませんので」

女将「あらぁ… でしたらお食事だけで?」

ゴロー「はい」

女将「畏まりましたぁ。みな、こちらに膳を」


娘達「「「はーい!」」」


ゴロー「元気な娘さん達ですね」

女将「はい。ほんにええ妹達ですぇ……」

ゴロー(……)


 ――――


 【尾頭付き】

鯛のような魚の尾頭付き。わりと大きい。


 【煮モロロ】

醤油などで味付け。
他の國から調味料を輸入しているようだ。


 【まんじゅう】

再度登場。この形にしたモロロは店などでよく出される。

477 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/08(水) 20:38:28.71 ID:lWrVOwoSO

ゴロー(品数は少ないが、なかなかに豪勢)

   「いただきます」


 あれ、醤油があるぞ。


ゴロー「これは?」

女将「醤油で御座います。魚の身を食す時におつけ下さいませ」

ゴロー「見たことない調味料だ(嘘)」

女将「他の國では一般的なものですぇ」


 なんだ… 醤油はもともと有ったんだ。


ゴロー「どれ……」スッ パクリ


 うんうん。いい刺身。


   もぐ ぱく…


 身に脂がのっていて…
 白身魚なのに舌の上で溶けるようだ。


ゴロー「…………」モグ

   むしゃ はぐ

女将「惚れ惚れする食べっぷりやわぁ」

ゴロー「美味しいです。ホントに……」

  もぐもぐ… がつがつ…

 こういう雰囲気で酒を頼まないのは、ちょっと迷惑かな。

 酒が飲めない人や子供も来れるような店があるといいのに。

 あと……『あの店』がないな。


娘@「お姉様、私達は……」

女将「そうさねぇ、おまえたちは呼び込みをやっておいで」


娘達「「「は〜い」」」タタッ


ゴロー(女将と二人きりになった)
478 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/08(水) 20:41:35.65 ID:lWrVOwoSO

ゴロー「…………」ムシャリ

女将「お客様、確かお城に勤めておられる方でありましたよねぇ」

ゴロー「へえ…ただの文官をよくご存知で」

女将「……最近変わった事なぞありますかいやぁ?」

ゴロー「変わったこと…… 皇がある女性に無視され続けてるとか…」

女将「まぁ…皇様はその女(ひと)に何をしたんです?」

ゴロー「……浮気現場を目撃されてました」


 あいつも皇なんだし、室を作っちゃえばいいのに。


女将「それはいけませんなぁ。女は…怖いものですから……」

ゴロー「男は女に勝てません」ズズッ

女将「あらぁ、そんなことは…ありまへん」

   「恋の戦は惚れたもんの負けで御座いますぇ」


ゴロー「女将さんも誰かに恋を?」

女将「にゃもっ! ……い、いいえ〜そんなことは〜」


 にゃも? 変わった口癖だ。


ゴロー「そうですか。さてと……本題に入りましょう」


女将「……本題とは?」


ゴロー「『ノポン』というオンカミヤリューに覚えは?」

女将「さぁて… 翼をお持ちの方は知りまへんなぁ……」

ゴロー「そうでしたか。チキナロが言うにはここに出入りしていると…」


女将「……城の用ではないみたいやなぁ」


ゴロー「今は城勤務ってだけでして」パクッ

479 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/08(水) 20:44:12.23 ID:lWrVOwoSO

女将「あちしを担ごうって輩かぃ?」

ゴロー「違います。単純に法術に詳しい『天才』に用があるだけで…」


   ピシャッ!!

?A「ぬふふふ〜 ボクちんの事を天才と認めてくれるとはいい人です〜!」

?B『ギゲッ!』


 オンカミヤムカイの青の僧服に赤い鼻、
 ピンと張ったヒゲを生やした男と
 赤い腰巻きをつけたキママゥが姿を見せた。


女将「出てくるなというに!!」ピシッ!

?A「あでべしゃ! 鞭は痛いですぅ〜 お嬢様〜」

女将「ちょっと持ち上げられたからってイイ気になるんじゃないよ『ノポン』」

ノポン「ハヒィ〜〜」

?B『ギャッ! ギャッ!』ムシャムシャ

ゴロー「あ、こら! それは俺のだ! キママゥが食うな!」

?B『ヴギャーッ!!』

ゴロー「キママゥって呼んだら怒ったぞ」

女将「『ゴムタ』! 客のものに手を出すんやない!!」ピシッ

ゴムタ『ギャッ! グゲェ……』

ゴロー「皇城に負けず劣らず個性の強い方々で…」


 事前に情報を仕入れてなかったらもっと驚いたろう。


女将「あんさん、あちし達の事を知ってますなぁ」


ゴロー「……この『トゥスクル』の前身、『ケナシコウルペ』」

    「その皇『インカラ』の息女、『カムチャタール』さん……ですね」


ゴロー「初めまして。ゴローと申します」ペコリ

女将改め カムチャタール「……」


 インカラの首は見たことあるけど、
 あんなのからこんな綺麗な娘さんが……


カムチャ「……悪いけど、そのまま帰すわけにはいかなくなりましたなぁ」

ノポン「にゅふふ〜」

ゴムタ『ギギッ!』

ゴロー「……お茶がうまい」ズズ


 ――――――――

 ―――――

 ―――
480 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/08(水) 20:54:02.05 ID:lWrVOwoSO

二日後の昼、トゥスクル皇城にて、
いつもの騎兵コンビが何やら話していた。


クロウ「メシ大将がいなくなった?」

ベナウィ「……失策でした」

クロウ「そういやここんとこ見てねぇな」

ベナウィ「二日前に倉泥棒の調査を頼んでから姿を見ていないのです」

クロウ「あのオンカミヤリューが出入りしてるって店に行かせたんですかい?」

ベナウィ「私やクロウと違い、顔を知られていないと思っていましたが…」


『何かあった』…そうとしか考えられない。


クロウ「……今晩、潜入しやす」

ベナウィ「わかりました。他の者…オボロ達も連れて行きなさい」

クロウ「……デカいヤマになりそうですぜ」

ベナウィ「私も政(まつりごと)が終わったらそちらに合流します」バッ


クロウ「ういっす!!」ドスドス…

481 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/08(水) 20:57:01.54 ID:lWrVOwoSO
 ――

 〜 歓楽街 〜


オボロ「ちょっと待て! 何故飲みにいく為にこんな場所へ!」

ドリィ「クロウさん…」

グラァ「不潔です…」

クロウ「なんかオメーらに言われると妙にグサッとくるな…」

    「いいじゃねぇか、たまにはパーッとよう!!」


店の娘@「いらっしゃー… あーっ!!」タタタッ

オボロ「お、お?」

娘@「ひょっとして侍大将のオボロ様じゃありませんか!」

オボロ「あ、あ

ドリィ「違います」  グラァ「人違いです」


クロウ「いやー バレちまったら仕方ねぇな〜」

ドリィ・グラァ「「!!」」

娘@「やっぱり〜 みんな〜 オボロ様だよ〜!」

娘A「次はベナウィ様に勝ってくださーい」

娘B「オ薬の後遺症ハ大丈夫デスカ〜」

オボロ「え、あ、なんのこと?」キョド


この娘達、『週刊トゥスクル』の読者のようである。


娘A「オボロ様の追っかけなんです〜」ムギュ

オボロ「お、あ、む、ムネ……」


ドリィ「若様……」  グラァ「不潔……」


カムチャ「おまえたち、何を………にゃも!?」

クロウ「あん?」

カムチャ「い、いえ、何でもありまへん。ウチの娘が迷惑を……」

     「お詫びと言ってはなんですが…… よろしかったら
      ウチで飲んでいって下さいまし。奉仕いたしますに」

クロウ「おっ、いいねぇ。んじゃそうさせて貰おうかい」

カムチャ「さ、おまえたち。ご案内差し上げなさいなぁ」


娘達「「「四名様ご案内〜!」」」

482 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/08(水) 20:59:48.19 ID:lWrVOwoSO
  …………

娘@「どうぞ、オボロさまっ♪」トクトク

オボロ「お、おう…」グイッ

ドリィ「若様っ♪」トクトク

オボロ「は、はぁ…」グイッ

娘A「盃が空ですよ〜」トクトク

オボロ「へ、へい…」グイッ

グラァ「僕達が酌をしますから」トクトク

オボロ「……」グイッ

娘B「オボロサマ〜」トクトク

オボロ「ひ、ひっく…」グイッ


娘達「「「……」」」VSドリィ・グラァ「「……」」

   バチバチバチバチ…


クロウ「おうおう。人気だねぇ、さすが侍大将」

カムチャ「またまたご謙遜を… 貴方様も
      戦場を駆ける騎兵衆副長・クロウ様ではありまへんか」

クロウ「へぇ、よく知ってるじゃねぇか」グイッ

カムチャ「あげた武勲は数知れず、皇(オゥルォ)にも信頼が厚いと……」

クロウ「こそばゆい事を言ってくれるねぇ」

カムチャ「貴方様ほどの武人とあれば戦の他にも
      過酷な命を申し付けられるのでありましょう?」


クロウ「さぁてねぇ。楽じゃねぇが、大変とも感じねぇな」グイッ

    「己の腕を買われたって事もあるが、戦やらに行けば強い奴等がごまんといる」

クロウ「そんな奴等と戦えるんだ。心踊って大変なんて感じる暇も無いねぇ」

    「武人(もののふ)ってのは、そんなもんさ」グイッ


カムチャ「武人の生き様、というものかいや。漢(おとこ)やなぁ」

クロウ「ま、ここ最近は別の意味で大変ってヤツかねぇ」

カムチャ「おや? それは?」

クロウ「退屈な見回りばかりで腕をふるう機会がねぇのさ」

   「情勢が安定したからなぁ。いいこったが、身体が鈍るぜ」

483 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/08(水) 21:02:42.69 ID:lWrVOwoSO

カムチャ「ふふっ、何かと思えば…… さあさ、どうぞ…」トクトク


クロウ「おっと……」グッ

    「しかもワケの判らん賊が出没してるみてぇでな」


カムチャ「……面白そうな話やなぁ。その話、是非聞かせて貰えまへんかえ?」

クロウ「うぃ〜…いや、ソイツは極秘で…… 酔っちまったなぁ…」ヒック

カムチャ「さあさ、盃が乾いてしまいますぇ……」トクトク

クロウ「ぷはぁ〜うめぇ……」

カムチャ「まぁまぁちょっとだけでも聞きたいわぁ」トクトク

     「ウチには若い娘が多いし、心配やわぁ」


カムチャ「誰にも喋ったりせんに、お願いしますぇ」
     「クロウ様でないとこんな事、お願いできへんわぁ」


クロウ「そ、そうかい? だったら……」ヒック


 「最近、富豪や豪族の、ヒック! 倉のモンがいつの間に盗まれ、ヒック!」

 「ついに、ヒックウィ… 城の倉もやられてなぁ」

 「寝ずの番がいるし、総大将が考え ヒック! 頑丈な錠前もある……」

 「そんな状況だって、ヒック! のに痕跡一つねぇ」

 「まぁ、とりあえずは…ウィック! ここの娘さんに危険はねぇから…」

 「それに…もうすぐ解決する……」ヒック!

484 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/08(水) 21:05:53.26 ID:lWrVOwoSO

カムチャ「……解決?」ピタリ


クロウ「おお、賊の中に術を使うヤツがいる…」ウィ…


 「ヒック! オンカミヤムカイの高位術者並のな…」

 「だから今度、こっちも術で結界を張る……」ヒック

 「さすがにオンカミヤムカイの巫(カムナギ)、ウルトの姐さんにゃあ歯が立たねぇだろ」


カムチャ「…へ、へぇ」タラリ

クロウ「姐さんも早けりゃ明日には帰る…ヒック!」

   「そうすりゃ…一網打尽……ヒックウィ〜」

   「な、んか今日は……酔いが早ええ……」



カムチャ「おやぁ もしもし?」

クロウ「…………ぐお〜 ぐお〜」ZZZ…


ドリィ・グラァ「「クロウさん?」」

オボロ「アッハハハ、オレが飲めにゃいとか
     いうくへに、先に潰れウとは情けないニャー」

ドリィ・グラァ((この語尾は……いいっ!!))キラン

オボロ「ニャハハハ…ハ…………」バタンキュー


カムチャ「お二人とも潰れてしまいましたなぁ」

     「店の奥は宿も兼ねてますぇ、休んでらしては如何ですぅ?」


ドリィ・グラァ「「……」」

娘達「「「あ、じゃあオボロ様は私達が世話を……」」」

ドリィ・グラァ「「お邪魔しました」」

 ――――
485 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/08(水) 21:29:48.00 ID:lWrVOwoSO

 〜 歓楽街・入口付近 〜

グラァ「クロウさんが重いよ〜」

ドリィ「ジャンケンで決めただろう、我慢してよ」

グラァ「僕だって若様をおんぶしたいよ! こんなムサいのはヤダよ〜」

クロウ「……ムサくて悪かったな」ムクリ

ドリィ「わわっ!!」

クロウ「ここまで運んでくれてありがとよ」

グラァ「酔い潰れてたんじゃ?」

クロウ「フリだよ。潰れたフリ。ちっとばかりヤバかったがねぇ」

    「なにしろ、一服盛られてたからよ」


ドリィ・グラァ「「えっ?」」

クロウ「オメェさん達は何も飲み食いしてねぇから判らねぇさ。
     酒か料理に舌を軽くする類いの薬が入ってやがった」


クロウ「姐さんに解毒薬を作って貰っておいて正解だったぜ」

ドリィ・グラァ「「じゃあ若様も…」」

クロウ「ありゃただの飲ませ過ぎだ。若大将が酒に弱ええの知ってるだろうよ」

ドリィ・グラァ「「だって……」」

クロウ「よし、この姐さん特製酔いざましを……」

ドリィ・グラァ「「飲ませるんですね!!」」

クロウ「お、おう。ほら」スッ


ドリィ「いいですよね」ジュルリ   グラァ「緊急事態ですもんね」ジュルリ


クロウ「あ、ああ……」


グラァ「ングッ……」   ぐいっ、ぶちゅ〜


オボロ「オゴ…」


ドリィ「ムグ……」   ぐいっ、ちゅ〜


オボロ「グム…」


ドリィ・グラァ「「ふぅ…………」」

クロウ(……この二人、ヤベぇ)

オボロ「ぐぉエエ! 頭、ガンガン… うぐぇ!」

   「な、なんだ?」キョロキョロ


クロウ「ほれ、行くぞ」

オボロ「ま、待て。状況を説明しろ!」

ドリィ・グラァ「「そうですよ」」

クロウ「歩きながら話してやる」スタスタ
486 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/08(水) 21:33:48.70 ID:lWrVOwoSO

 《歩きながら状況説明中……》

ドリィ「つまり、今までの事は泥棒への偵察で…」

グラァ「揺さぶりをかける為に結界を張るなんて嘘を…」

ドリィ・グラァ「「クロウさんが凄いです!」」

クロウ「オメェ達の俺の評価はどんだけ低いんだよ……」

オボロ「待て! そんな話、俺は聞いてないぞ」



 「貴方に言ったらバレるでしょうに」



クロウ「大将! 上手くいきやしたぜ!」

オボロ組「「「ベナウィ(さま)!?」」」

ベナウィ「蟲は付けましたか?」

クロウ「ういっす! ツガイ蟲、しかと付けやした」

ベナウィ「これまでの策は私が考えた事です」

ドリィ・グラァ「「なーんだ、クロウさんの案じゃないんだ」」

クロウ「地味に凹むじゃねぇか……」

ベナウィ「ゴローさんも偵察に行かせましたが、行方知れず」

    「我々で本腰を入れて追跡をします」


オボロ「大兄者が! ベナウィ!」

ベナウィ「お静かに。おそらく命は無事でしょう」

    「行方が判らなくなって二日。その間にあの店を張らせましたが、
     特に変わった動きはありませんでしたから」

ベナウィ「兎に角、動きます」キュポン

    ブーン…

※ツガイ蟲(トゥスクル民明書房刊、『不思議な動物図鑑』より抜粋)……

その名の通り、一度ツガイとなると生涯ずっと同じ相手と過ごす蟲。
雄と雌を引き離すと、雄が必ず雌のもとに向かう。
どんなに距離が遠くとも、雄はツガイの雌の元に帰るため、
この蟲を夫婦の絆の象徴とする地方もある。
487 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/08(水) 21:38:50.83 ID:lWrVOwoSO
 ――――

開けた山中に出る五人。

話し声が聞こえたので、茂みに隠れて様子を伺う事にする。


ノポン「ハァ、ハァ… 休ませて下さい〜」

カムチャ「黙りや、ノポン。明日からは城から頂戴出来なくなるんだよ」

     「喋る暇があるなら、はよせいや」


ノポン「お嬢様ってば、人使いが荒いんだからもぉ〜」

ゴムタ『ウマ、ウマ』モシャモシャ

カムチャ「ゴムタ! 勝手に食べるな!」

ゴムタ『ウギャ〜…』



オボロ「やはり、あの女将が敵か」

クロウ「そうみてえだな」



ノポン「それでは… 行きますよぉ〜」

    『ζμξρ…』

    『τψδθηκλ………』

彼が呪文を唱えると、何もなかった空間から箱が現れた。


ベナウィ「……転移術! 成程」

ドリィ「凄い……」  グラァ「初めて見たよ…」



ノポン「ハヒィー…これで終わりです〜」

カムチャ「それじゃあ、あちしは先にあそこに戻るからねぇ」

     「あの場所まで荷物を持ってくるんだよ」

   カツ カツ カツ…


ノポン「お嬢様は厳しいなぁ〜」

ゴムタ『ヴキッ』コクリ

ノポン「でもお嬢様は優しいお方、行く宛のないボクちん達を……」

ゴムタ『ギッギッ』コクコク


様子を見ていた五人も立ち上がる。


オボロ「よし、あの二人組の後を……」

クロウ「おう……んっ、葉が…顔に…」

    コショコショ…

ドリィ・グラァ「「まさか……」」

クロウ 「ぶえッくしょイ!!!!」

オボロ「なっ――!?」


ノポン・ゴムタ「『!!』」
488 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/08(水) 21:41:49.93 ID:lWrVOwoSO

ノポン「おやおや〜 そこに誰かいるんですかぁ?」


クロウ「あ」

ベナウィ「何をしているのです……」

クロウ「いや、ちとムズッと……」

ベナウィ「仕方ありません。出ます!」


   ザザザッ!!


ノポン「どこの誰かは知りませんが、見てしまいましたねぇ〜」

ゴムタ『ウギッ! ウギッ!!』


 《バトルパート?》


ノポン「あれ? どこかで見たような〜」

クロウ「……そういやあ」

ノポン「気のせいだ〜ね〜」  クロウ「気のせいだな」


ゴムタ『ウギャ―――!!』バッ プゥ…

オボロ「ぐあっ! 俺の顔面に屁をッ!」

ドリィ・グラァ「「若様っ!!」」タタッ


ゴムタ『!!』ピピーン!!

   『グギャッ! グギャッ!』


ドリィ「なんか血走った目でこっちを見てる……」

ゴムタ『フンハ! フンハ!』カクカク

グラァ「別の意味で身の危険を感じるよぉ〜!」



ノポン「ん〜 こっちの人は誰だったかな〜」

ベナウィ「まさか……なら」ヒュッ


ノポン「まぁいいや! コテンパンに〜…」ピタッ

    「あれ? そういえばぁ〜 戦闘員の皆さんは?」

    シーン…


ノポン「……あ」

   「そうだったぁぁぁぁ〜!! ちょっと別の仕事してもらってたぁぁぁ〜!!」
489 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/08(水) 21:44:42.79 ID:lWrVOwoSO

ベナウィ「……さて、色々吐いていただきますよ」

オボロ「囲んでいる。逃げ場はない」スチャ!

クロウ「そういうワケでな。捕まってくれや」チャキ

ドリィ・グラァ「「お覚悟を」」キリリ…


ベナウィとクロウはノポンの正面を、
オボロ・ドリィ・グラァはゴムタと呼ばれるキママゥの前に立つ。


ノポン「う、ううう〜〜」

ゴムタ『ギィー…』


  キランッ ボオオオオッ!!


突如、ベナウィとクロウ、二人の前に炎があがった。


クロウ「あんだぁっ!?」

ベナウィ「……」


ゴムタ『ギャーッ!!』ブリッ!

   ベチャ……

オボロ「あ? ……うぐあ!?」

ゴムタ『ギィーッ!!』

  ベチャ ブチュ ビチュ…

ドリィ「若様が…」  グラァ「汚物まみれに…」

   ヒュン!

オボロ「うばァッ!? め、目にィィ――ッ!!」


クロウ「今日の若大将、光ってんな…… あの姉ちゃんの身になんかあったか?」

 ―――

 〜 ナ・トゥンク 〜


トウカ「クシュン! うぅ? 風邪ではないはず……」

   クシュン!!

 ―――
490 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/08(水) 21:47:30.11 ID:lWrVOwoSO
 ―――

ノポン「今です〜!!」パアアッ!!

ゴムタ『ウギッギィ!』スッ

   キューン… フッ…


転移術を使い、消失する一人と一匹。


クロウ「しまった! 逃げられやしたぜ!」

ベナウィ「……クロウ、これを」スッ

クロウ「コイツは…ツガイ蟲!」

先の戦い(?)でもう一対のツガイ蟲を付けたベナウィ。
トゥスクルの知将としての一面を見せる。


ベナウィ「貴方は後を追いなさい。私もすぐに追いつきます」

クロウ「ういっス!!」ダダッ!

オボロ「目がぁ! 目がぁっ!!」タタタタ…

ドリィ・グラァ「「僕達は若様をなんとかしてから行きます!」」

ベナウィ「……なら、これを」カチャ

ドリィ「これ……」  グラァ「地図ですか?」

ベナウィ「推測ですけれど、この地点が賊の根城でしょう」

ドリィ・グラァ「「わかりました!」」タッ!



ベナウィ「……さて、どういう事ですか。『ゴローさん』」


   ガサガサ… ザッ


ゴロー「あ、やっぱりベナウィにばれてたか」


ベナウィ「一度受けた攻撃ですから。ヒムカミの指輪のね……」

ゴロー「チキナロに情報を聞いたら余計な事まで教えてくれてな……」


 ――――――――

 ―――――

 ―――
491 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/08(水) 21:57:07.13 ID:lWrVOwoSO

ツガイ蟲の導きに従い、とある邸宅に到着したクロウ。


クロウ「ここは……」


そう、この場所は彼等にとっての因縁の地。



 「『ケナシコウルペ別邸』。懐かしの場所やろぅ?」



故インカラ皇の邸宅だった。


クロウ「何者だ!」ザッ


カムチャ「久しいなぁ、クロウ。ここで遊んで貰ろうたこと、
      ずいぶんと昔のことに思えてくるわぁ……」


クロウ「へっ、糸を引いてた女将が直々に相手をするのかい」

カムチャ「……もしかして、忘れとるん?」


クロウ「へ?」


カムチャ「ここで! 毎日!! あちしの遊び相手になってくれたやないの!!!」


クロウ「……えっと」

カムチャ「『カムチャタール』! インカラの娘の『カムチャタール』や!」


クロウ「え、えええええええ!!!」

    「あんなちっこくて可愛かった姫さんが、こんな老けて――」


カムチャ「ふ、老けて――――」グサッ!

492 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/08(水) 22:02:45.41 ID:lWrVOwoSO

クロウ「あ、いや、その」

カムチャ「……他の娘と大して歳の差がないのに」ブツブツ

    「みんなから『お姉様』、歳上の娘からも『お姉様』……」ブツブツ


カムチャ「あちしの… あちしのことを老けたやてぇ……」プルプル


クロウ(ヤベ、墓穴掘っちまったかな)


カムチャ「許さない…… 許さないぇ!!!」ゴゴゴ


ドリィ「うわ、なんか」  グラァ「大変なことに」

オボロ「ソイツはいい! あのキママゥ!! ドコだぁ!!!」


ゴムタ『ヴギ――ッ!!!』タッ

オボロ「待てぇぇぇぇ!!!」

ドリィ・グラァ「「若様っ!!」」

   バサバサ…

ノポン「おおっとお嬢さん方。ここから先は行かせませんよ」キリッ

   「貴女方のような美しい花を傷つけたくありませんから」キリッ


ドリィ・グラァ「「僕達、男ですよ」」


ノポン「…………えっ? ホントにぃ?」

ドリィ・グラァ「「ハイ」」コクリ


ノポン「…………」プツン

    「だぁぁぁまぁぁぁさぁぁぁれぇぇぇたぁぁぁ!!!」

ノポン「チクショ〜!! ボクちんの純情を弄ぶなんてぇぇぇ!!!」


ドリィ・グラァ「「ええー……」」

493 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/08(水) 22:09:50.59 ID:lWrVOwoSO

カムチャ「クロウのアホ! トンマ! 女心を大切にせえや!!」ビシッ


クロウ「おわっ、鞭捌きが見事なことで」ヒラリ


カムチャ「ムキィ〜〜〜!! ノポン! あれを出しなさい!!」

ノポン「は、ハイィ!」スッ

   「ポチッとな」ポチッ


    キューイイ… ズシン!


クロウ「コイツぁ…」


デグカパ「……」

ノポン「ぬふふ〜! ボクちんが改造したデグカパ!
    『自走デグカパ(某青タヌキ風に言う)』だよ〜ん」

    「ボクちん天才なんだも〜ん! コレを動くように出来ちゃったもんね〜」


ドリィ・グラァ「「ホントにスゴい……」」



 「成る程、ではその力は國の為に役立て貰いましょう」



ノポン「へ?」


  スパッ ザシュッ! ドカッ!

デ|グ/カ\パ「」


   ドゴォォン…

ベナウィ「ちょうどアレを解体出来る者を探していました」スタッ

クロウ「大将!!」


カムチャ「ベナウィ……」
494 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/08(水) 22:13:29.31 ID:lWrVOwoSO

ベナウィ「カムチャタール様、お久しぶりです」ペコリ

カムチャ「ふんっ」プイッ

ベナウィ「諦めて投降して下さい」スチャ


カムチャ「……そうしなければ父のようにあちしも送ると?」

ベナウィ「知っていましたか」

カムチャ「あのゴローという男に聞いてねぇ」


ベナウィ「……それだけではありません」

     「この國には未だに叛意を持つ不穏分子が残っています」


ベナウィ「才もなく、努力もせず、没落した後も
      過去の栄華に囚われ、幻想を追い求める者達が」

ベナウィ「貴女はそんな者達にとっての旗印になりえるのです」

     「……言わば、貴女の存在自体がトゥスクルにとっての争いの種」


ベナウィ「故に、私の心は揺れています」

     「貴女を捕らえるべきか…… 存在そのものを闇に葬るべきか」


カムチャ「――っ」ギリッ

ベナウィ「私には後戻りなど出来ません」

     「貴女の父君、インカラ皇をお送りしたその時から……」


カムチャ「……正直な話、父とは袂を分かってたからなぁ」

     「あの男が下克上で滅んだ事も盛者必衰、しょうがないさぇ」


クロウ「んじゃ――」

カムチャ「……だけど、愉快な話ではないねぇ」

ベナウィ「……」
495 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/08(水) 22:17:13.11 ID:lWrVOwoSO

クロウ「……姫さん、この先は命の奪い合いになる」

   「姫さんとは戦いたくねぇ。ですから――」


カムチャ「『武人は戦いに生き様を感じる』。そう言うてたあんさんがなぁ…」

     「……あんさんがそう言うなら」



クロウ「姫さん!」



カムチャ「……尚更引けないさね!」ビシッ

ベナウィ「……その首、頂戴します」ダッ!


交錯する過去と現在。
滅びし國の皇女と、その滅亡を見届けた侍大将。

結末はすぐに訪れた……


   スパッ!!


カムチャ「鞭が……!」

ベナウィ「はぁっ!」ドガッ!

カムチャ「くはっ……」ズザッ

ノポン「お嬢様ぁ!」  ゴムタ『グギギッ!』


ベナウィ「ここまでです」チャキッ


ウマでの体当たりの後、ベナウィは倒れたカムチャタールに槍先を突きつけた。


ベナウィ「カムチャタール様、私のこの顔をお忘れなきように」

     「これが貴女の父君を… そして、貴女を送った者の顔です」


ベナウィ「お覚悟を」スッ


カムチャ「――ッ!」



彼は槍を振り、過去の亡霊を消す――



  ヒュンヒュン… カキィン!!
496 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/08(水) 22:22:04.91 ID:lWrVOwoSO

ベナウィ「…………やはり」

カムチャ「…………え?」



槍は……『大刀』によって阻まれ、命を穿つことなく停止した。



クロウ「――っ、ふ〜ぅ。間一髪ってな」ニコリ

カムチャ「……クロウ?」

ベナウィ「クロウ、何故止めるのです」


クロウ「いえね、姫さんにはちいっと借りがあるんで」

   「姫さんにとっちゃ、自分らは裏切り者で親の仇。狙われて当然っす」


クロウ「なのに姫さんはそうしなかった。
     あの時、毒を盛れば簡単に逝けたってのにねぇ」

クロウ「そいつは、十分に借りがあるって事なんじゃないですかい?」ニッ


カムチャ「べ、別に、そういうわけじゃないさぇ」ツンツン

     「そ、そう! これからもクロウに密告させてやろうと思っただけ!」


説明を忘れていた。
この娘、うたわれ世界で極少数しかいない『ツンデレ』なのである。


カムチャ「だ、誰がクロウなんかっ///」

クロウ「そういう事にしておきやすか」ニッ

カムチャ「……///」カアッ

クロウ「ってなわけで、見逃してやって貰えやせんか?」



ベナウィ「…………一言、よいですか」



    ゴクリ……

周りが息を呑む。
この場における最強の存在が何を語るかと――――
497 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/08(水) 22:24:35.17 ID:lWrVOwoSO







ベナウィ「…………実はここに来てからの事、半分は芝居です」







498 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/08(水) 22:28:37.37 ID:lWrVOwoSO

一同「「「ハアぁぁぁぁッ???」」」


   ガサガサ……

ゴロー「くっくっ… ベナウィは演技が上手い」スッ


オボロ組「「「大兄者(様)!」」」

クロウ「ど、どういう……」



  「「「お姉様ぁ〜!!」」」タッタッ



ゴローの後ろから、店にいた娘達が飛び出してくる。


カムチャ「おまえたち! 何故ここに!」

娘@「お姉様がこんな事をしてたのは私達の為なんです!」

クロウ「と、とりあえず話してみな」

娘A「私達や店の者は皆、奴隷(ケナム)だったんです」

娘B「それヲ、お姉様が身請けシテくれて」

娘A「その為には大金が必要です。最初は私財を売って
    お金を捻出していましたが、でもすぐに尽きて…」

クロウ「だから倉を…… ってそれと大将の演技に何の関係が…」

ゴロー「さっき俺がベナウィにこの人達の情報を教えたんだ」

   「他にもこのカムチャタールさん、インカラの死後に
     働き口を失った人の世話もしててな」

オボロ組・クロウ「「「!?」」」

カムチャ「ふ、ふん! 男どもが頼りないからあちしがまとめてるだけさね」


ゴロー「この人がそういう奴等を束ねてたおかげで
     トゥスクルも平和になったんじゃないか?」

ゴロー「そういう事をベナウィに話したら……」


『これは〈面倒事が大好きなあの人〉にお任せしましょう……と』


  ――

 〜 再びナ・トゥンク 〜

ハクオロ「へぇっきしょい!」


エルルゥ「風邪ですか?」

ハクオロ「うーん、冷えたかな……」

エルルゥ「でしたら風邪薬を!」ズイッ

ハクオロ「やけに苦そうな…薬だね」

エルルゥ「ハチミツをいれましょうか?」

ハクオロ「……そのまま飲むよ」

499 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/08(水) 22:32:36.24 ID:lWrVOwoSO
 ――――


一同「「「……」」」


ベナウィ「城の倉から品を盗み出したのですから、少しお灸をすえました」


ゴロー「その為の演技って事だ。騙して悪い」

    「俺は俺でやりたい事があってな。さっき帰って来たんだ」


カムチャ「うちの男は役に立てそうでしたかぃ?」

ゴロー「ああ、オリカカンさん達『クッチャ・ケッチャ』に預けてきました」


オボロ「大兄者、旧クッチャ・ケッチャに行っていたのか?」

ドリィ・グラァ「「あそこで何を?」」


ゴロー「歓楽街を見廻って気がついたが…」

    「あそこには足りない物がある……」

500 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/08(水) 22:35:26.94 ID:lWrVOwoSO

 《回想・ゴローの二日間》


 〜 旧クッチャ・ケッチャ 〜


オリカカン「ゴロー殿! 我が命の恩人! よくぞ参られた!」

ゴロー「お久しぶりです。オリカカン様」ペコリ

オリカカン「そのような他人行儀、我らの間には要りませぬ」ハッハッハ

ゴロー「実はお願いがごさいまして」

オリカカン「このオリカカンに成せる事ならば!」

ゴロー「牧場を経営させていただけませんか?」

オリカカン「牧場?」

ゴロー「はい。西の牧場、あそこの拡大を考えております」

オリカカン「何かと思えばそのような事でしたか! どうぞお使い下され!」


 ――

 〜 西の牧場 〜


女「貴方様は…!」

男「ゲッ! あの時の!!」

ゴロー「あ、ムックルに喰われそうになった捕虜じゃないか」

男「い、いったい何の用だ! 俺の家族に手を出したら…」

女「あなた、こちらの方に子どもの薬をいただいたのよ!」

男「は?」

ゴロー「実はここの経営をさせて頂く事になりまして…」

男・女「「えっ?」」

ゴロー「といっても、経営は形だけになるでしょう。
     ネウやウマを優先的に卸して頂ければ結構ですので」


男「は、はいぃ?」

ゴロー「あと… 人手不足との事でしたから、人員を連れて来ました」


戦闘員(だった)皆さん「「「よろしくお願いします!!」」」


男・女「「えええええ!!」」

 《回想終了》

501 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/08(水) 22:39:32.36 ID:lWrVOwoSO
 ――――

ゴロー「牧場の準備はした、歓楽街の一角も確保した……」

   「そう、俺は歓楽街に『焼肉屋』を建てるつもりなんだ」



一同「「「……な、ナニィィィィ!!」」」



ゴロー「カムチャタールさん、店の運営お願いします」

カムチャ「は、はぁ……」

ゴロー「ゴムタには色々な果物を探して貰い、肉に合うタレを作る」

ゴムタ『ウギッ!』

ゴロー「ノポンは頭を活かして空調設備を作ってくれ。協力はする」

ノポン「ぬふふ〜 頭脳労働ならまっかせなさ〜い!」


ゴロー「それで彼等を捕まえさせるわけにいかなくてな」


オボロ「大兄者……」

ドリィ「どおりで…」  グラァ「お城にいなかったわけだ…」


ベナウィ「我々を心配させて……」ゴゴゴ


ゴロー「じゃあ、ちょっと申請書類を書かなきゃいけないから… 失礼」タッ

サユキ『グワァァァ!』ザッ

ゴロー「よっと…… はっ!」

   ダダダダッ…


ベナウィ「……逃がしません!」

   ダダダダ…

502 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/08(水) 22:43:19.23 ID:lWrVOwoSO

クロウ「……メシ大将、ある意味すげぇや」

カムチャ「クロウ、一つ聞いても… いいかえ」

クロウ「なんです?」


カムチャ「……あちしが城を出るとき、どうして一緒に来てくれんかったのや」

     「あちしはずっと… あんさんが来るのを……」


クロウ「俺は武人なんすよ、姫さん。戦場でしか自分の生き様を見出だせない」

    「そんな俺なんかが、一緒にいるわけにはいきやせんから」

クロウ「だけど……正直、俺を必要としてくれたのは嬉しかったですよ」


カムチャ「クロウ……」ウルッ

クロウ「そんじゃ」クルリ

   ダッ…

カムチャ「ク、クロウ様… あ、ありがと……///」モジモジ


クロウ「ん? なんか言いやした?」ピタッ

カムチャ「――ッ! クロウの……アホ――ッ!」

  タッ! タタタタタ…


ノポン「お、お嬢様〜」  ゴムタ『ギッギィ〜!』

   タタタタタ…


オボロ「一体何がどうなってる?」

   「わからん、サッパリわからん……」


ドリィ「クロウさんは格好良かったけど」

グラァ「若様はいつも通りだね」

ドリィ・グラァ「「でもそんなところが…………」」


 ――――――――

 ―――――

 ―――

503 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/08(水) 22:46:53.95 ID:lWrVOwoSO

 〜 トゥスクル皇城・書斎 〜


ハクオロ「ハハハッ、そうか。そんな結末になったか」

ベナウィ「帳簿を確認しましたところ、戦具は他の國、
     宝物は豪族の所と確認が取れました」


ハクオロ「うむ、ご苦労。ちなみに戦具はどこに卸していた?」

ベナウィ「ナ・トゥンク叛軍……いえ、『カルラゥアツゥレイ』にです」

ハクオロ「そうか、ハハハッ。ならばこの件は咎なしだな」

    「いずれ金は返して貰うとしよう」


ベナウィ「その件ですが…… これをゴローさんから預かっています」スッ


ベナウィが出したのは、美しい光沢を放つ紫の……


ハクオロ「紫琥珀…、そうかまだ持っていたかゴローさん」

ベナウィ「……全く、お人好しばかりの國です」


ハクオロ「そうだな。だが、この國は……良いだろう」


ベナウィ「……はい」ニコリ

ハクオロ「しかし、ベナウィ。そんな事をしてまで私の仕事を増やすのは…」

ベナウィ「気のせいです」

ハクオロ「もっと私に優しく……」

ベナウィ「では追加の書類を」ガチャン!

ハクオロ「ベナウィ〜!!」


第十五話「トゥスクル歓楽街の尾頭付き」


 続く!
504 : ◆M6R0eWkIpk [saga]:2012/08/08(水) 22:52:16.14 ID:lWrVOwoSO
投下終了、>>471から今日の分。


この十五話のゴロー的正解ルートはAだったのです。

こっちを先に書いたら予想よりコメディになって…
そのままナ・トゥンク編もコメディになってしまった……

デリホウライとスオンカスファンの方々、申し訳ありません。
デリホウライはまた出すから許して下さい。
失礼します。
505 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/08/08(水) 23:12:04.40 ID:80Wx4JuAO
うぉぉん うぉぉん
506 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/08(水) 23:19:10.29 ID:Ite0KjgIO
ゴローちゃんがシリアスなうたわれに清涼剤になっているな。
ここでは腹ペコがオカズだ。
507 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/08(水) 23:39:43.25 ID:paFo3B4IO
スオンカスの荒ぶりにクソ吹いたwww

なんかカムチャタールが原作より可愛く見えてくるのはなんでだろう。
508 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/08/08(水) 23:41:16.66 ID:LxEZILBo0
焼肉屋ならしかたないなww
509 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/08/08(水) 23:48:11.71 ID:8hMmAY+go
乙でした
510 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/08(水) 23:52:52.04 ID:4BSIgrA90
投下早いね乙
511 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/11(土) 22:17:42.09 ID:NYpBC/kSO

第十六話「茹で豆とスルメイカ」


 《週刊トゥスクル・第二号》

 ―― 『ナ・トゥンク』、『カルラゥアツゥレイ』に ――

新興國の皇、ハクオロ皇と謁見。(最初の記事)

会談は和やかな雰囲気で行われた。
本誌記者の独占会見は二枚目以降。


 ― 二枚目 ―

『國の名は愛する姉上様から頂いた』

デリホウライ皇、心中を語る。

『この國には世話になった。民の皆にも礼を言わせてくれ――』



 ―― アトゥ族とヤタム族、未だ続く確執 ――

 ―― 侍大将、来店! 今週のオススメ店舗 ――

 ―― 奇行? 深夜に度々いなくなる○○○○皇 ――

 ―― 公告 お子様への贈り物に木彫り人形はいかが? ――

 ―― 求人公告 乳母を募集中。詳しくは皇城まで ――

 ―― 満月の怪! 血をすする女! × ――



ゴロー「最後は枠が足りない。オカルトは評判も良くなかったし、没だな」


 創刊した『週トゥス』、なかなか好評だったらしい。

 ただ… あまり売れ過ぎるとハクオロやベナウィにバレるから……


ゴロー「今回のは少し大人しめにして……」


 よし、原稿完成。


ゴロー「じゃあ、トゥス日の人に渡すか」スクッ
512 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/11(土) 22:24:28.96 ID:NYpBC/kSO
 ――

ナ・トゥンクから帰ったハクオロ皇。
今日も旅の間にたまった仕事を片付ける為、
侍大将・ベナウィに軟禁されてしまっていた。


ハクオロ「ハァ…… 仕事が多い……」ペタン

ベナウィ「聖上は『物見遊山』に行って……」

ハクオロ「ハイハイ…… やりますよ……」サラサラ

    「そうだ、ベナウィ。『デグカパ』の件、何か掴めたか?」ピタッ


ベナウィ「……西の方から入って来たと報告を」

ハクオロ「シケリペチムか」

ベナウィ「確証はありません」

ハクオロ「どちらにせよ、クッチャ・ケッチャとの戦い、
     糸を引いていたのはあの國だ。……『ニウェ』のな」


ベナウィ「オリカカン殿の証言を信じた場合です。
     一度 暗殺されそうになった彼が、以後狙われずに生きている……」

ベナウィ「彼の証言が『偽り』故、放置されていると考えられるのでは」


ハクオロ「うむ。ベナウィ、お前の冷静さは心強い」

    「しかし、まだは磨ける。基本を見直すんだ」


ベナウィ「基本……ですか?」


ハクオロ「ああ、今回は『敵を知る』事とも言えるな」

    「『ニウェ』は一代であれほどの大國を造り上げた男。
     武力だけではなく、知力にも長けている」
513 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/11(土) 22:29:31.39 ID:NYpBC/kSO
前レス、後ろ5行目。「まだ戦術は磨ける」に訂正。



ハクオロ「先程のような考えでは奴の掌の上だ」

     「当初は情報を封じる為、暗殺するつもりだったのだろう」


ハクオロ「だか運よく此方に保護され、口を塞ぐ事が出来なかった」

     「ベナウィ。お前が暗殺者ならば、オリカカンを再び暗殺するか?」


ベナウィ「……いえ、今更口を封じても…… 成程」

ハクオロ「そうだ、そんな余計な事はしない。逆に生かしておく事で、
      容易く彼のした話の信憑性を弱める事ができる」


ハクオロ「これも机上の空論だから、正解とは限らんがな」コキッコキッ

ベナウィ「シケリペチムの目的さえ、掴めたならば……」

ハクオロ「そうだな、未だに奴の目的がわからん。
      戦の後なのに攻め込んで来てはいない……」パラッ


ベナウィ「……そうでした。デグカパの件ですが、
      とある『オンカミヤリュー』の協力の下、解体作業中です」


ハクオロ「ほう。誰がその者についている?」

ベナウィ「クロウが監視をしております」

ハクオロ「判った、ならば心配ないな」

514 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/11(土) 22:32:44.35 ID:NYpBC/kSO
 ――

調練場の片隅で工具をいじる音がする。
翼を持つヒゲの男が『デグカパ』の解体作業をしていた。


ノポン「ハヒィ〜… ベナウィしゃんは人使いが荒いです〜」カチャカチャ

クロウ「すまねぇな、わざわざ呼び出してよ」

ノポン「まぁ、構わないですぅ〜 ボクちん、『天才』ですから〜
     デグカパを動けるように改造出来たワケですし〜」カチャカチャ

ノポン「これで報酬も頂けるんですから〜」カチッ


しばらく時間が過ぎ、ゴローが盆を持って二人に近づいてきた。


ゴロー「おーい、お茶持ってきたぞー」コトン

クロウ「メシ大将、わざわざすいやせん」ズズッ

ノポン「ゴローしゃんは優しい方です〜」ズズ…

ゴロー「ノポン、解体はどの位進行した?」

ノポン「なかなか面白いですねぇ〜 法術がかかっているのは
     人を探知する『目』と対象に向かって火を噴く『口』でした〜」


クロウ「はぁーん、それで誰も近くに居なくてもボゥッといくワケかい」

ノポン「ハイ〜 あと…… 熱を発するのはこの石みたいで〜」スッ


 発光石みたいなモノか。


ゴロー「これ、危険はないのか?」

ノポン「今はボクちんが術で抑えてますから〜
     同じ術でデグカパの口内でも制御されてます〜」


ゴロー「……口内で制御?」

ノポン「この石、ちょっと危ないんでし〜
    ちょっと術に綻びが入ると、ボカーン!・ボボゥッ! ……ですね〜」


クロウ「あ、木偶の中にあるこの印みてぇのがその術かい?」ジッ

ノポン「ハイ〜 さっすがクロウしゃん!」

    「……そんな風にお嬢様のお気持ちにも気付いて欲しいですね〜」ボソッ


クロウ「なんか言ったか〜?」

ゴロー「……苦労するなぁ。クロウ相手だけに」ポン

ノポン「ハイ……」
515 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/11(土) 22:37:04.19 ID:NYpBC/kSO
 ――

 〜 ウルトリィの部屋 〜

 荷物を届けに、ウルトリィさんの部屋を訪れる。


ウルト「ほ〜ら『フミルィル』〜、高い高〜い」


赤子「きゃっ、きゃ!」バタバタ


 ……世話、してるなぁ。


ゴロー「失礼します… よいしょ……」ストン

ウルト「あら、ゴローさま。ごきげんよう」ニコッ

ゴロー「こんにちは。えっと…… 赤ちゃんの着替えと替えのオシメです」

ウルト「はい。ありがとうございます」ニッコリ


 状況を思い出してみよう。

 数日前、ハクオロがウルトリィさんと城下町の様子を見に行った。
 その後、少し経って戻ってきたら赤ん坊が一緒だった。


ゴロー(最初は驚いたぞ。間を省いたわけだからな)


 まあ、母親が子どもを預けていなくなったというだけだが。


ゴロー(……その気になれば何時でも親と連絡取れる)


 今回の記事にした地方豪族の『アトゥ族とヤタム族』。

 あの『フミルィル』という赤ん坊、
 その両家の息子と娘の間にできた子どもらしい。


ゴロー(対立関係にある家だから子どもが危ないって事)


 当人達には悪いが陳腐な話だ。


赤子「ふぇ、ふぇぇん!」

ウルト「あら、オシメが濡れてまちゅね〜」スッ


ゴロー(……手慣れたもんだ)


 正直、彼女は深入りし過ぎていると思う。
 エルルゥさんもカルラさんも、彼女の入れ込み様を止められない。


ゴロー(心配だ……)
516 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/11(土) 22:44:58.96 ID:NYpBC/kSO
 ――

 気苦労の絶えない夜は、お気に入りの場所に行く。

 〜 湖 〜

 スー… フゥー…

ゴロー「湖に映る月を眺めて一服……」


 まったりと独りの時間を味わう。


ゴロー(朝・夜は全員一緒に食べるからなぁ)


 この開放された感覚が独り飯の良さだ。


ゴロー「さて、夜食でも食うか」ゴソ…


 厨房や倉から適当に取ってきたのは……


 【 茹で豆 】

オツマミその1。
枝豆に近い種類と思われる。


 【スルメイカ】

オツマミその2。
一匹の半分だが、ちょっとデカイ。


ゴロー(酒を飲まないのに…… これ、持ってきてしまった)ヒョイッ

   ぱく ぱく 


 うん、豆は悪くないや。
 時間を置いたせいで豆が冷めたこと以外は。


ゴロー「スルメはなァ…… 単体だとちょっと……」
 だが食べる。


   くちゃ はむ…


 音、聞こえてないよな?

 スルメの味は良い。
 干されて旨味がギュッとされてて……

 ……でも、豆と塩系の味でかぶってしまっている。

 おまけにちと固い。


ゴロー(アゴが疲れてきた。食ってるんだか、処理してるんだか)


 モロロでも食うか。


  ガササッ! 


ゴロー「誰だ!」
517 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/11(土) 22:50:03.56 ID:NYpBC/kSO

 ガサガサ… ヒョコ


動物『クルルル…』


 ヘンな動物を発見。


ゴロー(リスのような… それにしては大きい)


動物『クルルル?』チョコチョコ…


 何故か寄ってきたぞ。


ゴロー「ちょっと食うか?」スッ


 スルメを動物に差し出す。


動物『クル?』


 反応がない。


ゴロー「豆なら食うかな……」ジャプン


 水につけて塩をおとしてやった。


動物『クルルッ♪』ムシャムシャ


 これは食えるらしい。


ゴロー「スルメは片付けないとな……」ハムハム


 結局、独りで食ってないや。

518 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/11(土) 22:53:36.10 ID:NYpBC/kSO
 ――

翌朝、凶報がトゥスクルに舞い込む。


ハクオロ「シケリペチム軍が進行を!?」

ドリィ・グラァ「「はい!!」」

オボロ「まだ規模が小さい部隊のようだが……」

ベナウィ「それでも我らの軍とほぼ同規模……ですか」

ハクオロ「……遂に来たか。敵の進行状況は?」

ベナウィ「はっ、このまま東に真っ直ぐ我が國に向かい進行しているようです」

ハクオロ「……ならば手がある」

    「この國の西は広く樹海に覆われている」


ハクオロ「奴らは危険な森を越える前、樹海近くに陣を形成するはずだ」

     「我々は樹海を抜けて敵を奇襲、最初の敵部隊を殲滅する」


ハクオロ「トウカ、先鋒はお前に任せる」

トウカ「はっ!」

ハクオロ「……危険な樹海を通る。正面から戦い多量の死者をだすか……
      それとも少数の犠牲を覚悟で敵を討つか……」


ハクオロ「命を数で計る事は出来ない。お前達の意見を聞きたい」

オボロ「何を聞く必要がある。兄者は一言『行け』と命じればいい」

クロウ「ま、そういうこってす」グッ

トウカ「この命、果てるまで――」

ドリィ・グラァ「「どこまでも、お供いたします」」

ベナウィ「どちらを選ぶかと問われるのなら、迷う事はありません」

カルラ「この程度の事、何も尋ねる程のものでもありませんわ」

エルルゥ「また置いていくなんて言いませんよね」

アルルゥ「いっしょ」


ハクオロ「皆…すまない……」

    スウッ…

  「出陣(で)るぞ!!」


ゴロー「ZZZZ……」(非戦闘員)
519 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/11(土) 23:01:52.25 ID:NYpBC/kSO
 ――

トゥスクル西の國境付近。
ここにシケリペチムの一番部隊が駐留をしていた。


見張り兵「ふぁ〜… 立ち番かったりぃな。こんな所に敵が来るはずねえのによ」


数の余裕だろう。兵力十倍という、圧倒的な差。

敵國が近いのに、見張りは一人ということから部隊の油断が見てとれる。


見張り兵「いい気なもんだ。自分らだけで酒盛りして熟睡なんてな〜」


彼等は判っていない。
戦において全兵力の差が物を言うのは……

『総力戦』だけなのだという事を。

小さな競り合いでは…… 兵量よりも兵質・策が――――


 「それは気の毒だ」


兵の背後から女の声がした。


兵士「うわ!?」

トウカ「ならば皆平等に与えてやらねばならないな」

    「貴様等によって謀られ、散っていった者達の無念を」


兵士「おっ、おま… 敵し――」


   ズパッ!!  ドサリ……


一太刀。見張りは役目を果たさず、散った。


ハクオロ「……行けぇ!」ブン


 「て、敵襲! 敵襲ぅ―!!」

 「うわああっ!」

520 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/11(土) 23:07:33.61 ID:NYpBC/kSO
 ――

シケ兵「ご報告します! 先陣が敵襲を受け全滅! 増援を……」

ニウェ「その必要はない。下がれ」

シケ兵「は? ははっ」サッ

ニウェ「クククッ……」ニヤリ


ディー「煮え湯を飲まされたというのに嬉しそうだな」


その笑いを眺めるのは、『ディー』と名乗るオンカミヤリュー。


ニウェ「貴様にはわかるまい。この喜びを」

    「礼を言うぞ。又とない獲物を与えてくれた事にな」


ディー「ふむ… 狩猟部族の血が騒ぐか」

    「だが、狩人は時に獲物に喰い殺される。侮らない事だ……」


ニウェ「くくく… それも一興よ」

    「クククッ…カーッカッカッカッ…… カーッカッカッカッカッ……」

 ――

最初の部隊を退けたトゥスクル軍。
だが、その後もシケリペチムの侵攻は続く。

トゥスクル軍は戦の度に皇の策や兵の働きにより、連勝を続けた。

だが長い戦によって兵士は傷付き、幾つか國境の集落が焼かれてしまう。

犠牲も増え続けていく。

親がいなくなった子ども、子が殺された親、
共に戦場を駆けた友を失った兵士、伴侶の命を奪われた人……

皇(オゥルォ)は夜空を眺め、『夢』を思い出す。



彼の『夢』。……現実の世界、彼が目指すべき争いのない平和な日々を。

彼の『夢』。……夢の世界、彼の命令や自身の手で死んでいった多くの骸を。



 「…………」


自らの手に視線をやる皇。

ほんの一瞬、その手が血にまみれた……

 ――
521 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/11(土) 23:12:33.36 ID:NYpBC/kSO

ハクオロ「……うっ」

エルルゥ「ハクオロさん? どうかしましたか?」

ハクオロ「なんでもな……」

     「……いや、君には話そう」フゥ


ハクオロ「私の言葉一つでこの國の明日が決まる。
      多くの苦難を強いる事がわかっているのに皆は私を信じてくれる……」


エルルゥ「…………」


ハクオロ「エルルゥ。私はこれまで好きな人達を、
      皆の暮らしを守りたくて戦い続けてきた」

    「なのに戦は終わらない。そればかりか… 
      この國を新たな戦雲に包もうとしている」


ハクオロ「守りたかった人を失って…… その屍を越えて進む……」

    「私のしている事は何なのだ……
      私の足は本当に平和へ向かっているのか……」


エルルゥ「……私には判りません」

     「でも私はハクオロさんを信じています。皆もそうです」


エルルゥ「どんな時でも、何があっても…… 絶対に」ニコリ

ハクオロ「エルルゥ…… 私は…不安なんだ」


エルルゥ「足が間違った方に進むなら、皆でそれを正します……」

     「だから…… ハクオロさんは安心して下さい」ギュ
522 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/11(土) 23:26:34.98 ID:NYpBC/kSO
  ――

 〜 シケリペチム皇城・闘技場 〜


ニウェ「かっかっかっ…… よい素材が揃ったようだな」


様々な地域から選りすぐりの武人を闘わせるニウェ。

椅子に腰掛け、煌々とした眼(まなこ)で闘技場を眺めていた。


ニウェ「あやつを迎えるには、今の駒だけでは足らぬ……」

    「貴様もそう思うだろう?」


彼は振り返る事もせず、後ろの『翼を持つ者』に語りかける。


ディー「…………」

女官「皇様、食事で御座います」スッ

ニウェ「ほう…… これは……」


ディー「私が用意させた品だ。『冷やし担々麺』という」


ニウェ「クカカッ…貴様の考案した料理、全て余の好みぞ」

   ズルズッ…



ニウェ「……お、おおおおおおお!!」ゴゴゴ


    「う―――ま――ぁ―――い―――ぞ――ぉ―――!!!!!」

523 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/11(土) 23:28:40.71 ID:NYpBC/kSO

  カッ!! ピキューン!!

彼の口から数多の光線が溢れだす。
その光線は、瞬く間に城を貫いた。


 「なんだ!」「お、おいなんか足下が…」



  コ゛コ゛コ゛コ゛コ゛…………



「「「城が浮いてるぅぅぅ!!!」」」



ニウェ「おおおお!! 見よ!! この『躍・動・感』!!!」ババッ

   「老いたこの身が真っ赤に燃えるようではないかァ!!!」ブン!


兵士「ニウェ様!? ぐへぇぃあ!」バタッ

兵士「うわああああっ! あ……」シュルン… ズパッ!


ニウェ「ははは! 只の布切れで人を切り刻めるぞぉ!!」

    「どれ、もう一口……」パクッ


  ピカッ ゴロゴロ…

ニウェ「麺は冷たいというのに辛さで身体が熱い!!
     この味はぁ! 肉味噌のせいなのカァ―!!」


ディー「否、『山椒』の力だ」ズズル

ニウェ「一癖も二癖もあるこの油ぁ!! 実にうまいぞぉ!!!」

    「山椒がこれほど合うとは!! カーッカッカッカッ!!!」


ディー「喜ぶのは良いが、少し静かにして貰おう。
    暴れたせいで食事が台無しではないか」ズルズル

ニウェ「ぬうっ……」ストン

    「ぬあっ! 余の城がぁ!! 穴だらけにぃ!!」


ディー「汝の責だ。私は関与せん」スッ

   「……ご馳走さまでした」


ニウェ「復旧をせねばならぬ。あの男に相応しいもてなしの為にも……な」ニヤリ

524 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/11(土) 23:38:42.46 ID:NYpBC/kSO
 ――

 〜 トゥスクル皇城 〜


ハクオロ「敵軍の侵攻は止まらない……」

ベナウィ「此方の兵は消耗。敵は小部隊を編成して戦闘を仕掛ける……」

ゴロー「ちょっと面倒な状況だな」

ハクオロ「ドリィ・グラァ。敵兵の陣地は掴めたか」

ドリィ「はい。此方をご覧下さい」パサッ

グラァ「シケリペチム領内『ハンサナ』と呼ばれる地域です」


ゴロー「ここを爆薬で一発やるか?」

ハクオロ「……駄目だ。その手は警戒されているだろう」

ベナウィ「では直接攻め込みますか?」

ハクオロ「……結局その手が良いかもしれん」

     「オボロ・クロウ・ドリィ・グラァは國に留まらせる」


ハクオロ「他の者は私とハンサナを落としに向かう」

ベナウィ「聖上! それは危険です」

ハクオロ「少数でここを落とすしかない。ベナウィ、お前が私を護衛せよ」

ベナウィ「……わかりました」ハァ

ゴロー「俺はどうする?」

ハクオロ「ゴローさん、機が来たら貴方にはシケリペチムの都に行って貰う」


ゴロー「……戦場には出さないか」

ハクオロ「緊急時を除いてはな」コクリ

     「今は負傷者の手当てを任せる。頼んだぞ」


ゴロー「畏まりました」


 『緊急時』の判断は俺がしよう。
 例えば皇の不在時に敵が攻めてきたら『緊急時』だよな。

525 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/11(土) 23:42:42.49 ID:NYpBC/kSO
 ――

 〜 シケリペチム皇城・地下牢 〜

この『ディー』と呼ばれるオンカミヤリューは
城の地下牢を使い、『駒』を造り続けていた。

牢に入れられた人間達は既に正気を失わされ、
ただひたすら『死人』に変わっていく。


ディー「…………」



「あ……う、あああ………」
  「おおおお… おお…………」
    「コロス、コロスコロスコロス――!」


ディー「活きがよいな」


 「ヌガアアアッ!!」バキッ


ディー「ほう。檻を自力で破るか」


 「ニクニクニクゥゥゥ――!!」ダッ


    ザシュッ!


 「ア…… ア……」バタッ


仮面兵「…………」

ディー「その肉の塊を片付けておけ」

仮面兵「…………」ガシッ

ディー「あれを迎えるには良い頃合いだ」

    「お前にも闘って貰うぞ。その牙を研いておけ」


仮面兵「……」コクリ



ディー「さて、『空蝉』よ。再び我等の争いの始まりだ」

    「この戦、まだ前菜に過ぎぬ。これを食せぬようなら……」

526 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/11(土) 23:45:34.33 ID:NYpBC/kSO
 ――

 〜 シケリペチム・ハンサナ 〜

雨が続くなか、川は穏やかに流れている。
ハクオロ達は敵の攻撃と長雨により、動きを止められていた。


  ザァァァァァァァ……


ハクオロ「……厄介な地に陣を布いてくれたものだ。」

    「かれこれ六日、足止めされている。ズルズルと引き延ばすのは不味い…」


 まさかこれほど雨の降る地とは思わなかった。


エルルゥ「ハクオロさん。風邪を引いちゃいますから、中に……」ピタッ

ハクオロ「どうした?」

エルルゥ「いえ、何かヘンな感じがして……」

ハクオロ「ヘンな感じ?」

エルルゥ「よく…判らないですけど、違和感が」

     「雨の日って、こんな感じだったかなって……」


  キリリッ… ヒュン!


ハクオロ「!」バシッ!

エルルゥ「きゃっ!?」

527 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/11(土) 23:48:42.45 ID:NYpBC/kSO

  カン! カン! カン!


戦を告げる鐘が響く。


ハクオロ「敵襲だ!」

カルラ「さぁ〜て、お仕事ですわ」ザッ

トウカ「いざ、参る!」スラッ

ベナウィ「弓衆は敵部隊に攻撃! 歩兵は我らと共に!」

アルルゥ「ムックル?」

ムックル『ヴォ〜…』イヤイヤ

アルルゥ「水、がまんする」


向こう岸に、敵の部隊が並ぶ。


敵将「ハクオロ皇! その首、貰い受ける!!」

   「いけえ!!!」

 「「「うおおおおっ!!」」」 ドドド…



ハクオロ「こちらも……」

     「……いや、待て!!」ピタリ


ベナウィ「!? 聖上、敵が!」

ハクオロ「弓衆は攻撃を続けよ! 歩兵は待機だ!!」


 何日も雨が続いたのに、何故これほど川の流れが穏やかで低い……


ハクオロ(普通ならもっと流れが速く、水かさも増しているはず……)


 だったら増えるはずの水は…… 鉄砲水!


ハクオロ(我々が知らないのは当然だ。では足止めに使った兵は?
      あの皇ならば……ここの特徴を知らない訳がない!!)


 ニウェ!! あの男! 知っていて兵を見殺しにする気か!!

528 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/11(土) 23:51:28.44 ID:NYpBC/kSO

 ドゴォン!! グラグラ…


トウカ「地震か!」

ハクオロ「違う! 両軍、退け―――ッ!!」

    「全力で岸まで撤退だ、大水が来るぞ!!!」

一同「「「!!!」」」


  ダダダダ…



  ドドドドドドドド……



敵兵ら「なんだこの音?」 「あ、あれ……」



 ザパッゴアアアアアオオオオオオオオオ!!!



敵兵「うわあああっ!」

ハクオロ「何をしている!上がれ! 私に掴まれ――っ!!」

敵兵「た……す…



 ゴオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォ…………



ハクオロ「な………」

エルルゥ「み、みんな流され……」

ベナウィ「……間一髪でした。もう少し遅れていたら……」


ハクオロ「あの男、自分の臣下まで犠牲に……」

    「その代償は高くつくぞ……」


ハクオロ「……我々の目的は達成した! 撤収する!」

529 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/11(土) 23:54:21.10 ID:NYpBC/kSO
 ――

 〜 トゥスクル國境付近の集落 〜


満月が昇る夜、トゥスクルの集落が炎で朱に染まった。


オボロ「ハァァァァ!!」スパッ

クロウ「ウリャアッ!」ザクッ

兵士達「「「ウオオオオ!!!」」」



敵将「奴等は少数! 厄介な者はいない! 攻めろォォォ!!」

敵兵達「「「オオオオオオ―ッ!!」」」


オボロ「おのれ! 兄者達の不在を狙って夜襲とはっ!」

クロウ「ガタガタ吐かす暇があんなら手を動かせや!!」ズバッ


オボロ「それもそうだ!」ザシュ!

クロウ「いくぜ!!」

オボロ「応ッ!!」


 《 協撃!》

 《 漢(おとこ)の花道 》


オボロ「やるぞ! 脳筋(のうきん)!」

クロウ「失敗すんなよ、脳筋(のうすじ)!」

オボロ「誰に言ってるんだぁ?」

クロウ「へっ、テメェこそなぁ」


クロウ・オボロ「「はぁああああっ!!」」


  ザシュ! ザシュ! ザシュ! ザシュ! ザシュ!


クロウ・オボロ「「てりゃあああああ!!」」


   ズバァァッ!!


クロウ「まっ、こんなものだな」ザザッ

オボロ「こんなとこだな」スタッ



敵兵ら「「が……」」バタ…

530 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/11(土) 23:56:54.04 ID:NYpBC/kSO

ドリィ「グラァ! 僕達も!!」

グラァ「ドリィ! やろう!!」


 《 協撃!》

 《 双子技その壱!》

ドリィ「例え一人の想いは小さくとも!」

グラァ「二人合わされば無限大!」


ドリィ「届け…」  グラァ「届け…」

ドリィ・グラァ「「若様の胸にっ!!」」

  ピシュッ ピシュッ ピシュッ

ドリィ・グラァ「「そう! 愛は無限大っ!!」」


  ザクッ! ザクッ! ザクッ! ザクッ! ザクッ! ザクッ! ザクッ! ザクッ! ザクッ!


ドリィ・グラァ「「よし、練習終わりっ♪」」



敵兵「ほ、ほとんど告白やん……」バタ

敵兵達「「言われてみてぇ……」」バタバタ



ゴロー「オボロ! 隙はできたか!」

オボロ「ああ、大兄者は早く集落の者を避難させてくれ!」

ゴロー「了解! さあ皆さん、こっちです!」タッ


 村人達を急いで避難させる。


カミュ「ゴローおじさま! こっち!」パタパタ


 集落の近く、森と接するところにカミュちゃんがいた。


ゴロー「カミュちゃん! 何故ここに!?」

カミュ「だって! 皆の仲間だもん! 心配なんだよ!!」

ゴロー「危なくなったら飛んで逃げろよ!」

カミュ「うん! 村の皆さん、ここを真っ直ぐいけば……」バサッ


敵兵達「「逃がすかぁ!!」」ダダッ


  ヒュン ヒュン ヒュン


ゴロー「危ないっ!!」ドン!


  グサ! グサ! グサ!

531 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/11(土) 23:59:25.19 ID:NYpBC/kSO

カミュ「おじさまっ!」

ゴロー「ぐっ… 早く、逃、げろ……」ガクッ


村人達「「「ウ……アアアアアッ!!」」」ダッ!!


カミュ「――――ッ!! 『みんな』! 助けて!!」


 ウォォン… ウォォン… ウォォン…


敵兵達「「な、なんだ!?」」


 《カミュ・必殺連撃》


カミュ『ヌグィ・ヤクァ・イャソムクル……』


カミュ『いっしょに遊ぼう……』スゥ

  ウォォン… ウォォン…


 黒い小さな塊や白い小さな塊がカミュちゃんの上げた手に集まる……


カミュ『フフフッ… いっしょに遊ぼうよ……』


 それは禍々しい巨大な黒の球体となった。


敵兵達「「あ、ああ、ああああああああ!!」」


 黒い球体に包まれる敵兵達。

 そして… 彼等は『消えた』。


  ズズズ…… スゥ…


ゴロー「ぐっ…カミュちゃん…… あれは一体……」

カミュ「皆が禍日神(ヌグィソムカミ)って呼んでるもの……」

   「お姉様は神様が見える巫(カムナギ)なのに……」


カミュ「カミュには神様なんて見えない…… 見えるのはこの子達だけ…」

    「って言っても、おじさまには見えないよね」


  ● フヨ…  ○ フヨ…


ゴロー「なんか黒かったり光ったりしてる球状の物体なら見えるぞ…」

カミュ「へっ!? おじさま! 見えるの!!」

ゴロー「あ、コイツらがそうなの。ふーん… イテッ!」


カミュ「あ、ゴメンね。手当てしなきゃ!」

    「あ、怪我………… 血が…………」ピタリ
532 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/12(日) 00:01:26.14 ID:bzZjA88SO





 ドクン
        ドクン
                ドクン





533 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/12(日) 00:04:18.79 ID:bzZjA88SO

ゴロー「どうした?」


……この場にハクオロ皇が居たのならば、
『あの出来事はやはり夢じゃなかった』と言ったであろう。


……それは満月の夜にのみ、起こる出来事だった。



カミュ『いただきます……』

ゴロー「なに?」


  カリッ ペロッ


ゴロー「がっ………!?」

 矢傷を抉られる。
 目の前の少女に――


カミュ『……ゴローおじさまの血。おじさまの血より不味いけど……』

    『なんだか後をひく味だね……』ペロリ


ゴロー(な、何が起こった…… これはカミュちゃんなのか?)


 蒼の瞳はいつの間にか紅玉のような朱に。
 犬歯が尖り、その姿は……まるで……


ゴロー「き、吸血鬼…………」

カミュ『……あ』フラッ


  パタッ…


ゴロー「おい、カミュちゃん? どうした!?」


 アニジャー!! メシダイショウー!!


ゴロー「二人とも! 早くこっちに! 俺も怪我人…… く……」


  バタ……


第十六話「進展」


 続く。
534 : ◆M6R0eWkIpk [sage saga]:2012/08/12(日) 00:06:31.98 ID:bzZjA88SO
投下完了 >>511から投下分。

味皇さま本人は出せませんが、
これでリクエストは達成したと思って頂けたら……
失礼します。
535 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/08/12(日) 00:16:13.65 ID:k4C52RmAO
ニウェ似合いすぎワロタwwwwww

あとカミュが「翌日温めなおしたスキヤキのようだ」とか言い出さなくてよかったわー
536 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/12(日) 02:15:44.27 ID:cngbzlyIO
おいふざけんなニウェのリアクション見たら辛いモノ苦手なのにどうしても冷やし担々麺食いたくなってチャリで近くのコンビニ駆けずり回ってどこにも無くて仕方なく普通の担々麺で妥協したらやっぱり辛くてキツかった上に普段食べ慣れない唐辛子で腹が痛くて仕方ないぞ



でも冷やし担々麺食ってみてえええええええええ!
537 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山形県) [sage]:2012/08/12(日) 16:26:37.84 ID:e5IqNrbYo
あー腹が減るなぁもう
538 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/12(日) 17:02:37.58 ID:bzZjA88SO
 キィン! キィン! キィン! キィン!



エルルゥ「うたわれるものらじお in SS速報VIP!」


エルルゥ「皆さん今日は♪ 司会のエルルゥです」


エルルゥ「前回はごめんなさい! 本当は間に合う予定だったんですけど…」

     「ちょっと方薬に手間取ってしまいまして……」


エルルゥ「オボロさんにハチミツを入れた二日酔いの薬を飲ませたら……」



(※ オボロ「一瞬、大きな川が見えた。トゥスクル様に会えた気がする」)



エルルゥ「やっぱりまだまだなのかなぁ……」シュン


ウルトリィ「そんな事はありませんよ」ニコリ

      「エルルゥ様は良い薬師だと思います」


エルルゥ「ありがとうございます。ウルトリィ様」

     「そんな訳で! 本日のゲストは『ウルトリィ』様です」

539 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/12(日) 17:04:13.85 ID:bzZjA88SO

エルルゥ「前回、司会をしてくれましたハクオロさんですが、ナ・トゥンクに
      行っていた間の仕事が貯まっている為、今日はお休みです」


ウルト「……本当はハクオロ様に会いたかったのですが」

エルルゥ「また二人きりになるつもりですか! 本家らじおの時みたいに!」


ウルト「あらあら、そんな気はありません」ニコニコ


エルルゥ「く……(やはり強敵!)」

ウルト「さぁ、そろそろ始めましょう」

エルルゥ「そ、そうですね。ではいつもの人物紹介から!」

540 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/12(日) 18:18:12.18 ID:bzZjA88SO

 《第十五話@》


●デリホウライ

ナ・トゥンクの叛軍を率いるギリヤギナの男。カルラの弟である。


エルルゥ「本当は選ばれなかったルートの方がゲストになる予定だったんですよ」

ウルト「結局どちらも投下されてしまいましたね」

エルルゥ「武器は旋棍(トンファー)に近いものみたいです」

ウルト「ああ! それを持って蹴撃を繰り出したりする……」

エルルゥ「……ちょっと違うんじゃないですか?」

ウルト「そうそう。少し気になる事があるのですが……」

エルルゥ「はい。どうぞ」

ウルト「どうしてあの方はギリヤギナの戦い方を知らなかったのですか?」

エルルゥ「追われる身になったのがまだ幼い子供の時だった所為ですね」

     「自分の身は自分で守れるようにカトゥマウさんが体術を教えたそうです」


ウルト「あと……彼はお姉様が大好きなのでしたね」

    「『姉上様、僕だよ! デリだよ!』……一人称が『僕』になるほどに」

エルルゥ「オボロさんほど突き抜けてはいないですけどね」



●カトゥマウ

デリホウライの付き人みたいな初老の男。


エルルゥ「カルラさんにデリホウライさんを任された方です」

ウルト「昔のカルラ達を知る数少ない人物なのでしょう」
541 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/12(日) 18:21:04.82 ID:bzZjA88SO

●スオンカス

ナ・トゥンク皇。武器は暗器など。
カルラを愛するド変態さん。
【キィン】を潰されても想いは止まらない。


エルルゥ「……ある意味最強でした」

ウルト「……愛は狂気と紙一重なのかもしれません」

エルルゥ「説得力がありますね……(貴女が言うと特に)」

ウルト「…………」

エルルゥ「玉座の間にある『白い花』は動物の亡骸を苗床に育ちます」

ウルト「彼いわく、『特に人間、それも生きながらにして
     花の苗床にすると美しい花が咲く……』らしいです」

エルルゥ「嫌な話です……」


●カルラ(カルラゥアツゥレイ)

滅んだ大國『ラルマニオヌ』の皇女だった。
崩壊する國の中、デリホウライをカトゥマウに託し、
自らは囮となって捕まるが、後に逃亡。


エルルゥ「カルラさんって本当に捕まってたんですか?」

ウルト「一応そうだったんでしょうが……」

エルルゥ・ウルト「「…………」」

ウルト「ああ、皆様が想像しているような事はなかったでしょう」

エルルゥ「潰されますもんね……」

ウルト「わたくし、カルラに会ったのはラルマニオヌがあった時なんですよ」

エルルゥ「カルラさんが皇女だった時ですか?」

ウルト「ええ。とても強かったです」

エルルゥ(た、闘ったんですかね……)


●女の子

ナ・トゥンクの兵から逃げていた少女。
ゲームではちゃんと立ち絵がある。


エルルゥ「デリホウライさんに尽くす女の子です」

ウルト「そんな気持ちを知らないで、デリホウライ様は
     彼女の淹れたお茶をカルラにすすめます」

エルルゥ「……あの人はもげていいです」
542 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/12(日) 18:23:01.67 ID:bzZjA88SO

 《第十五話A》

●カムチャタール

ケナシコウルペ皇・インカラの息女。
本人は度々『楽して生きたい』と言う。
その割には奴隷を引き取ったりするツンデレ娘。
クロウに淡い恋心を持つ。


エルルゥ「彼女のほうが父親より皇に向いてますね」

ウルト「行動に人を惹き付ける魅力があるのでしょう」

エルルゥ「自分が年齢より上に見られるのが最近の悩みだそうです」


●ノポン

オンカミヤムカイの破戒僧。
常に十徳工具を持ち歩くほどカラクリに詳しい。
得意な法術は変わったモノばかり。
ちなみに彼も『分身の術』が使える。


ウルト「我等オンカミヤムカイの厳しい戒律を守れなかった僧ですか……」

エルルゥ「……というより、自分の術を認めて貰えないから飛び出したのでは?」

ウルト「モロロに命を吹き込み動かす事のできる方らしいです」


(※ 普通は人形に命を吹き込みます)


エルルゥ「金を塩に変えるって…… 逆なら凄いはずですけど……」

543 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/12(日) 18:24:05.13 ID:bzZjA88SO

●ゴムタ

カムチャタール一味のキママゥ。
何故か自分を人間と思い込む。
爪を使って器用に絵を描く。しかも上手い。


エルルゥ「人に慣れるキママゥって珍しいんですよ」

ウルト「近くのキママゥを招集する事も出来るそうです」

エルルゥ「OVAではアルルゥと相互理解に成功」

     「ムックルだって私達の言葉が完全に判るわけじゃないのに…」


ウルト「こちらの言葉がわかるキママゥなら、対話できますね」


●店の娘達(三人)

娘@は赤め茶色の髪に並みの胸。娘Aは巨乳黄系茶髪のシャクコポル族。

娘Bは黒髪貧乳の女の子。喋り方はちょっとたどたどしい。けどそれが可愛い。
振る舞いが少し幼く、子供っぽいかも。


エルルゥ「あーあ、これ作者の好みダダ漏れですよ」

ウルト「ラブプ○スでリンカレさんらしいですから」

エルルゥ「この三人も立ち絵がありますよ」

ウルト「PS2・PSPのイベントCGにも脇役でいます」


エルルゥ「こんな所ですか?」

ウルト「はい。少し早いですが、このあたりでお仕舞いです」ペコリ

エルルゥ「ドリグラはやらないんですかね?」

ウルト「今日は時間がとれなかったようでして」

エルルゥ「そうですか、それではこのへんで〜」

ウルト「ルート選択に協力して頂き、ありがとうございました〜」

 続く?
544 : ◆M6R0eWkIpk [saga]:2012/08/12(日) 18:26:15.64 ID:bzZjA88SO
今日書けたらこの二人でオマケ料理教室やりたい……
一時的に投下終了。
545 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/12(日) 22:35:47.33 ID:bzZjA88SO

「エルルゥ!」  「ウルトの〜」

エルルゥ・ウルト 「「お料理教室〜!!」」



エルルゥ「さぁ、何故か始まったこのコーナー!」

ウルト「わたくし達は厨房に立ちますので、配役は完璧ですね」

エルルゥ「毎日欠食児童並みに食べるお城のみんなの為、
      新しいメニューを作ってみましょ〜う!!」



エルルゥ「このコーナーは『うたわれるもの』の設定を『無視』してお送りします」


 〜 CM開始 〜
546 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/12(日) 22:37:59.49 ID:bzZjA88SO

 〜CM開け〜


エルルゥ「はい、今日は『ころっけ』という食べ物を作るそうで〜す」

ウルト「>>1がオマケ投下の途中でいなくなったのは
     夕食を作っていたからなんですって」


エルルゥ「材料となるのは……」



『ころっけ』(五人分)


●ジャガイモ…『キタアカリ』中型のサイズ約十個。

●牛豚合挽き肉… 牛だけでも豚だけでも良いけどね。300グラム位?

●玉葱…大きめのものを一つ。

●卵…二つ。

●小麦粉…適量。

●パン粉…適量。

●植物油…適量。

●塩コショウ…適量。



エルルゥ「ほとんど適量ですね」

ウルト「目分量とも言えますよ。足りなければ足せばよいのです」ニコリ

エルルゥ「料理はほどよく適当にやりましょう」

ウルト「味を小まめに調べていけば大丈夫です」

(※ 皆で食べるようなので三倍量にします)
547 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/12(日) 22:40:29.24 ID:bzZjA88SO

エルルゥ「最初は二人で皮を剥きます」

エルルゥ・ウルト「「…………」」


 ペリ… ムキムキ ムキムキ…


エルルゥ「次に、この『ジャガイモ』を茹でやすい大きさに切ります」


  ザク ザク ザク…


ウルト「わたくしは『玉葱』をみじん切りにしますね」


  ザク ザク ザク…


エルルゥ「あれ、ウルトリィ様は目が痛くならないんですか?」

ウルト「涙が出ないように目を守る術をかけていますから」フフッ

エルルゥ(……ちょっとズルいような?)


ウルト「切り終えましたら、玉葱はこの『ふらいぱん』という器具で炒めます」


  ……ジュー


エルルゥ「私はお鍋でおイモを茹でておきます」


  グツグツ…


ウルト「玉葱がヘタってきたら挽き肉を投入しますよ」


  ザッ ジュージュー…


エルルゥ「赤い部分が無くなるまで、よ〜く炒めて下さいねっ」

ウルト「エルルゥ様、そちらはどうですか?」

エルルゥ「あ、そうですね。おイモは菜箸が簡単に刺さる位まで茹でます」

     「こっちは…… 茹で上がりました」ツンプスッ
548 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/12(日) 22:42:59.67 ID:bzZjA88SO

エルルゥ「お鍋の湯を捨てて、おイモを入れたまま再び火にかけます」

ウルト「ジャガイモの水分を飛ばす為です。
     ちゃんとしないとベチャっとした仕上がりになるかもしれません」


エルルゥ「あっ、そろそろ塩コショウを振らないと!!」

ウルト「そうですね。お肉がなんとなく炒まったら塩コショウを入れましょう」


  パッ パッ パパパッ


ウルト「目分量ですけど…この位ですか?」

エルルゥ「いいんじゃないでしょうか」

     「おイモの水が飛んだら、形が判らなくなるよう潰します」


ウルト「炒めて炒めて……」ジュジュゥ

エルルゥ「潰して潰して……」グッグッ


エルルゥ・ウルト「「終わりましたぁ〜」」フィー


エルルゥ「じゃあ、お肉・玉葱とおイモを混ぜますよ〜」


  チャチャッ…


ウルト「これも混ぜ混ぜ〜 楽しいですね」ニコニコ

エルルゥ「……うーん」

ウルト「どうしましたか?」

エルルゥ「お肉とおイモ、熱そうだなーって……」


(※ 素手で成形する場合、冷ましたほうがよいでしょう)
549 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/12(日) 22:45:31.74 ID:bzZjA88SO

ウルト「では、形を作りますね」

エルルゥ「まだちょっと熱いけど…… 平気そうです」


ウルト「今日は基本的な俵や丸型にしましょう」ペタペタ

エルルゥ「ぺったんぺったん〜 ……はっ!!」ペタペタ


ウルト「エルルゥ様?」ボイン

エルルゥ「…………」ペターン

     (墓穴掘った…………)


 …………


エルルゥ「形を作り終えたら、これに小麦粉をまぶします」パッパッ

ウルト「お化粧のようですね」パッパッ

エルルゥ「全てにまぶし終えてからが早さとの戦いです……」

ウルト「卵を割っておきました〜」

エルルゥ・ウルト「「ではっ!」」

エルルゥ「タネを卵液にパッと浸けて!」パッ

ウルト「直ぐにパン粉をまぶすのです!」パパッ


エルルゥ・ウルト「「…………」」モクモクモクモク…


ウルト「はい、終わりました」フゥ
550 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/12(日) 22:47:10.80 ID:bzZjA88SO

エルルゥ「油の準備はできましたっ!」

ウルト「大きな戦になります……」ゴクリ

エルルゥ「いえいえ、油で揚げるだけですからね?」


ウルト「…………」ソーット

  ポチャン… ポチャン…

ウルト「やりました〜! 油が跳ねませんでしたよ!」

エルルゥ「ゆっくりやれば油も怖くないですよ」


  ジュジュジュジュジュジュジュジュ……


エルルゥ「暑いと思いますけど……」

ウルト「目を離さないように……」

(※ 色をよく見てひっくり返したりしましょうね)


  ジュジュジュジュジュジュジュジュ…


エルルゥ「わぁ……綺麗なきつね色に……」

ウルト「食欲をそそられる色ですね〜」

エルルゥ「油を何か(キッチンペーパーなど)できったら…」

ウルト「手の空いた時間で千切りキャベツも〜」


   「「出来たっ!」」


エルルゥ・ウルト「「『ころっけ』の完成で〜す!!」」

  パチパチパチパチ…


エルルゥ「それでは、試食を……」

ウルト「……」ブツブツ

 〜 感謝の祈り中 〜

エルルゥ「いただきま〜す」

ウルト「いただきます」ペコリ

  パクン!

エルルゥ「うわぁ…ほっくほっく! 衣もサクサクぅ〜!!」

ウルト「はぁ… できたての『ころっけ』、美味しいものですね……」

エルルゥ「このおイモから出る湯気、くぅ〜! おいしいっ!」サクッ

ウルト「この音も良い響きでございます。五感で味わうお料理とは……」

 …………

エルルゥ「おっとっと、皆さんの所に持っていかなくちゃ!」

ウルト「そうでした。今日は一人何個にします?」

エルルゥ「一人三つまでにしましょうか」

ウルト「制限が守られると良いですね」


 オマケおしまい!
551 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/12(日) 22:47:59.89 ID:bzZjA88SO
ではまた次回に。
552 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/12(日) 23:33:25.05 ID:WjfOpLC40
乙!
腹減った
553 :スタープラチナ :2012/08/13(月) 22:56:48.68 ID:vRcal16h0
激しく乙!
うォおん、俺はまるで超級覇王電影弾のようだ
554 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/14(火) 02:04:56.54 ID:cC2s5jtIO
糞コテが湧くとは……夏か
555 :名無しNIPPER [sage]:2012/08/14(火) 02:49:18.19 ID:3sRjgOwAO
あ…あうあうあ…

アウトォォーー!!!←褒め言葉

しまった、夜中に1から550まで読むんじゃなかった! お腹減った!
待ってます
556 :世界 [sage]:2012/08/14(火) 13:24:15.58 ID:zQR+wk6AO
>>553
乙るのはいいがsageような。
557 :スタープラチナ [sage]:2012/08/14(火) 16:06:52.80 ID:5yvdH5Em0
>>556
む、すまんかった。
558 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/14(火) 23:47:28.86 ID:cC2s5jtIO
二匹共臭い
559 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/08/15(水) 00:23:32.95 ID:YODF4jUEo
どうせ自演だろ
片方携帯だし
560 : ◆M6R0eWkIpk [saga sage]:2012/08/15(水) 23:14:18.39 ID:dbNwfybSO

第十七話「遠い記憶」




 空腹で意識が覚醒する。


ゴロー「う、うーん…… 腹減った……」



  『オジサマ……』



 あのコの声が――――




「あ、ゴローおじさま。気がついた?」


 ゆっくり目蓋を上げると……
 カミュちゃんが俺を覗きこんでいた。


ゴロー「……やぁ。調子はどうだい?」

カミュ「うん、元気! この前は勝手に危ない事してごめんなさい!」ペコッ

ゴロー「あれは……覚えてないのか……」


 あの血のように朱く染まった眼……
 あの瞳を……見たことがあるような――


カミュ「? 何のこと? あのコ達に助けて貰ったのは覚えてるけど…」

ゴロー「それは覚えてるのか……」


   グウ〜〜…


カミュ「おじさま、お腹ペコペコだね♪ エルルゥ姉様呼んでくる!」


   タタタタッ…


ゴロー「あれは何だったんだ……」


 そして、あの声は一体……

561 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/15(水) 23:18:28.51 ID:dbNwfybSO
 ――

 飯を食べ終え、ハクオロの書斎へ出向く。


ハクオロ「ゴローさん! 身体は……」

ゴロー「平気だ。自分でも見たが大した傷じゃない」

ベナウィ「では貴方も並んで下さい。今、二人を叱っていた所ですから」

オボロ「なっ! 一刻も説教してまだだと!」

クロウ「大将、勘弁して下さいよ…」


ベナウィ「……」ギラリ


オボロ・クロウ「「うっ……」」

ゴロー(黙って座ろう……)ストン


 《一刻(一時間)後…》


ハクオロ「ベナウィ、そこまでにしておけ」

ベナウィ「御心のままに」


三人「「「 」」」チーン


ハクオロ「さて、軍議を始めよう」

ベナウィ「はっ、此方がここ数日の情勢をまとめた書類です」スッ


 木簡を見ながら、考え込むハクオロ。


ハクオロ「……ハンサナでの一件以来、敵軍に乱れが生じたか」カチャ

ベナウィ「元々シケリペチムは小國を集め、創られた大國。
     皇の求心力がそれを可能としていました」


ハクオロ「離反、寝返り…… 國土はほぼ同じ規模まで分裂したか」

ベナウィ「旧クッチャ・ケッチャからの兵達も良い動きをしてくれています」

ハクオロ「うむ、騎兵衆は味方にすると心強い」

562 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/15(水) 23:25:52.39 ID:dbNwfybSO

ベナウィ「ですが……兵力はまだ敵軍が有利」


 確か最初は十倍だった。今はわからないが。


ハクオロ「……此方が勝利する策はある」


 多分、アレだろう。


オボロ「なんだと!」ガバッ


ハクオロ「……お前達に苦難を歩ませる策ではあるぞ」


クロウ「なーに、もう慣れましたぜ」ニッ

ベナウィ「聖上、その策とは」


ハクオロ「……ゴローさん!」

ゴロー「お、おう」ガバ

ハクオロ「シケリペチム皇都への潜入を。総攻撃を察知したら知らせて欲しい」

ゴロー「畏まりました」スサッ


ハクオロ「我等の策…… それは敵の総攻撃で生じた隙を突くことだ」

    「此方も全兵力で敵軍を迎え撃つ間に、
     精鋭がニウェの居る城に直接攻撃を加える」


ハクオロ「奴がこれまでの戦で一度も出陣していないのが気になるが…」


一同「「「…………」」」


ハクオロ「おそらく勝機はこの策でしかない」


オボロ「ふっ、兄者の策なら俺は信じるさ」

クロウ「そうそう」コクン

ベナウィ「囮となる此方の全軍。この指揮は私が執りましょう」


ハクオロ「お前達……」

ゴロー「全く… いい臣下に恵まれた皇様だ」

ハクオロ「ああ!」

ゴロー「よし、それじゃあ出発するか」ガタ

オボロ「大兄者、もっとゆっくり休んでから……」


ゴロー「いや、先に行きたい所があるんだ」

    「ハクオロ、お前も来るか? 墓参り」


ハクオロ「そうだな。エルルゥとアルルゥも連れて行くか……」

563 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/15(水) 23:29:13.93 ID:dbNwfybSO
 ――

 〜 元ヤマユラの集落・墓地 〜


ハクオロ「……」  エルルゥ「……」
アルルゥ「……」  ゴロー「……」


 四人で墓の前に立つ。


ゴロー「……」

ハクオロ「さあ、二人とも」

エルルゥ「そうですね……」  アルルゥ「ペコちゃんは?」

ハクオロ「ちょっと皆とお話したい事があるそうだ。私達は待っていよう」

アルルゥ「ん……」コクッ

ハクオロ「いい子だ」ナデナデ

エルルゥ「……」

ハクオロ「エルルゥ、大丈夫だ」ナデナデ

エルルゥ「……はい」



ゴロー(……あの男はあのような手法で他の女もたらしこんでいます)


 こんな冗談はさておき。


ゴロー(行ってきます。村の皆さん)


 見守っていて下さい……

 ん?  視線を感じる……


 気のせいか。


ゴロー「…………」ザッザッ…





ディー「……そうか。『空蝉』の下に行けたのだな」

    「ならば…… そうだ『約束』であったか」


ディー「果たしてやらねばなるまい……」

  スゥッ… フッ……

564 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/15(水) 23:33:55.17 ID:dbNwfybSO
 ――

 〜 シケリペチム皇都 〜


 碁盤の目状の町並みが美しい。
 トゥスクルもこういう造りではあるけど…


ゴロー「こっちのほうが規模が大きいから綺麗」キョロキョロ


 この皇都のど真ん中に敵の城がある。
 町を眺めながら、そこまで歩く。

 道を守るようにトラの置物が並べられていた。


 少しして俺は城の正門に到着する。

 人足達の話声が聞こえてきた。


 「城門が二つあるから移動がめんどくせ〜」

 「だよな、二重堀とかもうちの國なら必要ねぇ」

 「なんてったって最強の國だしな」


ゴロー(攻め難い城だ。堀が二つあるなんて)


 普通の戦ならば難攻不落って城だ。


ゴロー(奇襲だし、少数だから関係ないが)


 見たところ、城は改修工事中のよう。
 やけに人の出入りが激しかった。


ゴロー(なんか… 所々に穴や亀裂が……)


 何かあったのかもしれない。
 修繕しているのだから、皇は無事なんだろうけど。


人足「どいたどいた〜!!」ドン!

ゴロー「おわっ!」

人足「悪い! 急いでんだ!」ダダッ

ゴロー「慌ただしい町だこと」


 気をつけて歩こう。

565 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/15(水) 23:37:00.57 ID:dbNwfybSO
 …………

ゴロー「そろそろ腹が減ってきたな」


 大通りを避け、脇の道に入る。


ゴロー(良さそうな店は……)キョロキョロ


 俺がメシを入れるような店はないか……


  ザッ ザッ ザッ…


ゴロー(……少し広い通りに出たぞ)


 よく考えたら、こういう町並みでは
 飯屋って広い通りに多いんだっけ。


ゴロー(無駄足だった……)


 仕方なく、その通りをブラブラ歩き回る。

 すると…………


ゴロー「??? なんだこの店は……」


 通りの終わりに気になる店があった。

 これまでの飯屋とは何か異なる雰囲気を発している…


 暖簾があるのは普通だ。

 建物だって隣近所と変わらない。

 ただ、その暖簾に『中華料理』と國々の共通文字で書かれている。


ゴロー「これ…… 共通文字だけど…… こんな言葉は」


 ……違う、俺はこの響きを知っている。


ゴロー「……入ってみるか」

  ガラララッ…

566 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/15(水) 23:43:06.35 ID:dbNwfybSO

店員「いらっしゃーい!」

 木で出来た戸を開けると、店員の威勢のいい挨拶が耳に入る。

 店主と店員は耳が『ウサギ』みたいに白くて長かった。


店員「お客さん、こちらに……」



 「すまん、彼は私の客だ。店主よ、ここに通してくれるか」



店主「へーい。お客さん、アッチの方がお待ちですよ」クイッ


 店主の指の先には、オンカミヤリュー族の男がいた。
 金の紋を入れられた濃紺で染められた長い服。
 髪の毛は白くなっているが、肌ツヤは若い。


ディー「ここへ。どうした、座らないか」

ゴロー「……」ガタン

店員「どーぞ、お冷やです」

ゴロー「あ、すいません」


 一口、水を含む。

 ふー……ウマイ。
 歩き回った後の冷えた水って、最高だよ。


ゴロー「あな……」

ディー「今は汝の問いに答えられぬ」グイッ

    「一つだけならば答えてやれる事はあるが……判るかな?」


ゴロー「……その答えられる事ってのは、この店のオススメか?」


ディー「うむ、正解だ」ニッ

    「店主、彼に『麻婆豆腐』を」


店主「はいよ! 辛さはどうします?」

ゴロー「あ、辛さは普通くらいで」

ディー「私は追加で包子(パオズ)を頼む」


店主「へいよ〜」ジャアアッ!!

 油の旨そうな香りが鼻を刺激する……

567 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/15(水) 23:54:15.59 ID:dbNwfybSO
 ――――

 【 麻婆豆腐 】

この世界に『存在しない』はずの一品。
どうしてあるのかはまだ語られない。
使う材料は探せば見つかる。
前回の『冷やし担々麺』もこの店の品。


 【包子(パオズ)】

中身は甘い餡。これは普通にオヤツとして多くの人々に食べられている。
大きめのモノ、二個入り。



ゴロー・ディー「「いただきます」」

ゴロー「!!」

ディー「驚く事もあるまい。食物に感謝をするのは至極当然」

ゴロー(まるで意図が読めない……)


 とりあえずメシにしよう。

 レンゲを手にとり、麻婆豆腐を掬う。


  ふー… はふっ


ゴロー(新鮮な味だぁ…… 口の中、辛さでお祭りみたいだ)


  はむっ むしゃ…


 どうしてこの食べ物がこんな場所にあるか…
 その不思議をスッカリ忘れてしまいそう。


ゴロー(うん… 旨い、旨いぞ)


  かちゃ もぐもぐ…


 だが…… 主食がない。
 この辛さで口直しがないのはツラい。


ゴロー「すいません、お冷やおかわり。あと、ライスを…」

店主「うちはライスないんだ。そもそもライスってなんだい?」

ゴロー「あ、そうでしたか……」


 麻婆豆腐はあるのに、ご飯はやっぱりないんだな。


ディー「……」ムシャ…


 向かいのあの人は一心不乱にパオズを食べてるし……


店員「お冷やです」コトン

ゴロー「ありがとう」グイッ


 うん、口の中がサッパリした。
568 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/16(木) 00:00:03.83 ID:EKmdGUxSO

ディー「……」ニヤリ

ゴロー「!!」


 あ、あああっ! しまった!

 か、か、辛い!?

 この店の辛さ! 水を飲むと酷く感じるタイプだ!


ゴロー(く、くう〜… 涙が出そうだ……)

ディー「ふっふっふ……」ニヤリ

ゴロー「お、お前…… 知ってて」

ディー「何、汝が来る前に私も同じものを食べたのでな」

    「それを食べ終えたら、このパオズを食せ。少しは和らぐ」スッ

ゴロー「はぁ……ありがとうございます」


 …………

ゴロー「ふぅ、ごちそうさん」

ディー「勘定だ。私が払おう」

ゴロー「いえ、そうは……」

ディー「いや、汝では払えぬのだ」スッ チャリン

店員「ありがとうございましたー」

  ガラララッ…

ゴロー「……さて、あんたは一体?」

ディー「問いには答えられぬ。これからもな」

    「次に我と汝がまみえる時はなかろう」


ディー「三日後、この國の軍が侵攻を始める。あの男に伝えるがいい」

ゴロー「……何故わかる」

ディー「後ろを見れば判る」スッ

ゴロー「後ろ? さっきの店が……」クルッ

    「…………『なくなった』?」


ゴロー「おい、こ…… あの男もいない」


 俺は夢でも見ていたのか……

 ……いや、それはない。


ゴロー(この満腹感が何よりの証拠だ)


 旨かったなぁ、麻婆豆腐。じゃあ食後の煙管を……


ゴロー「……あっちゃぁ。羅宇(らう)にヒビが入ってるよ」


 さっきぶつかったせいだろう。
 近くに羅宇屋があるといいけど……
569 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/16(木) 00:03:56.73 ID:EKmdGUxSO
 …………

 幸い羅宇屋はすぐに見つかり、店の中に入る。
 玄関にある小さなトラの置物以外はいたって普通の羅宇屋だった。


店の人「いらっしゃいませ」ペコリ

ゴロー「羅宇が壊れたようなので、修理を頼みます。あと掃除も」

店の人「はい、お預りいたします…… おい、コッチに」クイクイ


 店員に呼ばれ、『ウサギ』みたいな耳のコが出てきた。


兎耳「いらっしゃ……キャッ」コケッ

店の人「おい! 気をつけろ。たく……これだから『シャクコポル』は…」

兎耳「は、はい。スミマセン……」

店の人「この吸口と雁首を掃除しておけ」

兎耳「はい……」トボトボ

ゴロー「…………」

店の人「はい、確かにヒビがありますね。
     お客様、羅宇を替えられてはどうでしょうか」


ゴロー「……そうだな。見せて貰おう」

店の人「では…こちらの羅宇は如何でしょう?」スッ


 店の男が羅宇を見せる。

 コイツ…… ちょっと聞くか。


ゴロー「材質は?」ジッ


店の人「白檀で御座います」

兎耳「あ、それ……」

店の人「……」キッ

兎耳「あう……」


ゴロー「おい、ぼったくろうったってそうはいかないぞ」

    「その羅宇、何処から見たって竹製じゃないか」
570 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/16(木) 00:10:16.49 ID:EKmdGUxSO

店の人「……いやはや御目が高い! こちらはどうですか?
     これは店一番の品で正真正銘、黒檀で御座います」


 ……腹が立った。


ゴロー「……掃除の金は払う。吸口と雁首を返して貰うぞ」

    「二回も騙すような店で買い物をしたいとは思わないんでね」

店の人「……チッ、おい! お帰りだ! さっきのを持って来い!」

兎耳「ハ、ハイ! …どうぞ」スッ

ゴロー「どうも……」

店の人「たく、てめえがあそこで変な声ださなけりゃあ! この役立たず!」

兎耳「ひっ!」ビクン


ゴロー「……仮にも客の前でそんなことを言うな!」


  ガシッ! グイッ!

店の人「がああああ!!!」

   「痛いィ〜 折れるゥ〜〜」

兎耳「やめて!」

ゴロー「……」ピタ

兎耳「それ以上いけない」

ゴロー「……邪魔したな」スタスタ

 …………

ゴロー「はぁ…… あのコ、あの目……」


 どうしよう。羅宇がないんじゃ、煙管を吸えないぞ……


 「ま、待ってくださーい!」タタッ!


ゴロー「キミ、さっきの店の……」

兎耳「ハァ… ハァ…ありがとうございました」

ゴロー「え?」

兎耳「私の為に怒って下さって……」

ゴロー「いや、気にしないでいいから」

兎耳「あ、あの! 良ければコレ……」スッ

ゴロー「これは… 羅宇じゃないか」

兎耳「わ、私が作った羅宇なんで… シャクコポルの物ですいませんが…」

ゴロー「竹製だけど…… 造りが丁寧だ。朱に塗られているのもいい」

   「くれるのかい? ありがたくいただくよ」ニコッ


兎耳「あ……ううっ……」ポロリ

ゴロー「ど、どうした!?」

兎耳「いえ、嬉しくて…… 涙が…」ポロポロ
571 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/16(木) 00:13:30.43 ID:EKmdGUxSO
 …………

 大きな通りに戻り、変わったトラの置物に腰掛ける。


ゴロー「『シャクコポル族』か…」ムシャ

兎耳「はい。私達は他の部族から迫害されてきた部族なんです」ムシャ


 焼きモロロを食べながら、彼女の話に耳を傾けた。


兎耳「力も弱いし、法術だって使えない。
    だから生きる為に手に職をつけないとならないんです」グスッ


ゴロー「…………」

兎耳「ご免なさい、こんな話。湿っぽくなっちゃいましたね」テヘヘ


ゴロー「……ちょっと待っててくれるか?」


兎耳「えっ?」

ゴロー「俺の仕事が終わったら、君をもっと生きやすい場所に連れていく」

    「だからそれまで……」

兎耳「ふふっ、期待しちゃいますよ……」フィ

ゴロー(こんな女の子が諦める目を……)

兎耳「ありがとうございました! また会えるといいですね!」ピョコン

   「では…えっと……お名前は……」


ゴロー「……ゴローだ」

兎耳「ゴローさん、また会えたら私の名前を言います!」

   「そしたら…… 連れて行って下さいね」


ゴロー「ああ」ニコッ

  タッ! タタタタタ…



 トクン…
       トクン…
             ズキンッ!!
572 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/16(木) 00:15:00.67 ID:EKmdGUxSO







 『どうして………』

 『どうして…… あのこを連れていったの……』






ゴロー「がっ!?」ズキッ


573 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/16(木) 00:17:43.46 ID:EKmdGUxSO




 『ダレ……』



 『……驚いた。まさかそんな状態でコンピュータに強制介入出来るとは』



 『……』



 『安心しろ、ミズシマや他の者にバレはしない』

 『……というより、俺は君とは違う場所に居るから大丈夫なんだ』

 『君は……63号。だったか……』



 『違う』



 『うん?』



 『違う…… “ムツミ”…』



 『ムツミ…… そうか君が。それは“アイスマン”が着けた名前か』

574 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/16(木) 00:19:39.37 ID:EKmdGUxSO




 『トウサマ……』



 『君は……彼に会いたいのかい?』



 『……』



 『今は無理だと思う。だからそれまで……』

 『……俺の事をアイツの代わりにしないか?』



 『……アナタは』



 『俺の名前は――――』



ゴロー「ぐっ… なんだ、これは……」


 頭が混乱する……


575 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/16(木) 00:22:32.22 ID:EKmdGUxSO




 『トウサマから聞いたことがある名前……』



 『俺みたいなおじさんがアイツの代わりってのもヘンだけど……』



 『“オジサマ”』



 『え?』



 『トウサマとは呼べないけど… オジサマとは呼んであげる』



 『……まぁ、いいか』

 『通信回線は開いたままにしておく。寝るときは閉じるから』

 『それ以外は話しかけていいぞ。最近は暇で暇で仕方ない』

 『持っていたコレクションもアイツと見直したばかりだしな』



 『……わかった』



 『それじゃあ…これからよろしく、“ムツミ”』



 『―――オジサマ……』




ゴロー「ハァ…ハァ…ハァ……」

町人「あんた、大丈夫か?」

ゴロー「え、ええ。平気です……」


 今のはいったい……

 俺の…… 無くした過去なのか?

576 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/16(木) 00:25:05.25 ID:EKmdGUxSO
 ――

 〜 トゥスクル皇城・禁裏 〜


  バサバサ… バサバサ…


ハクオロ「来たか……」ガタッ


ハクオロ「『三日後、総攻撃』… 伝書鳥の移動時間も含めて実質二日後か」

     「ん、追伸がある『“ノポン”を急いでこっちに寄越せ』」


ハクオロ「『居場所はクロウに聞けばわかる、なるべく早く』…」

ハクオロ「全く、皇使いの荒い臣下なこって」

     「クロウ! クロウはどこだ!?」

 ――――

 〜 シケリペチム皇都 〜

ゴロー「……ノポン、早く来い」

 まさかあんなシロモノが町中に堂々とあるとは。


ゴロー(アイツがいないと…… この都が危ない)


 羅宇屋の玄関、大通り。
 この事に気がついたのは手紙を書き終えた後だ。

 すぐに宿、他の通り、開いていた店を調べた。


ゴロー「ムティカパを模した兵器……『デグカパ』」


 小型化した物は店や家に、大きな物は通りに。


ゴロー「敵の撃退用なら、店や家に設置する必要はない……」


 詳しい事は『ノポン』が来ないとわからない。


ゴロー「ただこれだけは言える……」


 早く手を打たないと、この都が大変な事になる……

577 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/16(木) 00:26:53.78 ID:EKmdGUxSO
 ――

トゥスクル國境。河を挟んで両軍が対立する。

霧の中で浮かぶ、トゥスクル全軍とシケリペチムの全軍。
戦いの全貌はまだ見えない。


アルルゥ「霧、はれる……」


うっすらと陽の光が両軍を照らす。


クロウ「……一万ってとこか」

オボロ「いや…… 三万だ」


オボロが発した言葉の後、霧は完全に消失した。

規則正しく並ぶシケリペチム軍。

分裂があったにも関わらず、
その数はトゥスクル軍を大きく上回る。


ベナウィ「安心しました。敵の主力を引き付けるという目的は果たしましたね」


この戦の目的は『敵の皇を討つまで、敵を引き付け戦線を保つこと』。

今の段階で目的の大部分は達成していた。


クロウ「よっしゃあ、心置き無く暴れまわってやりやすか!!」スチャ

オボロ「応っ!!」チャキン

ベナウィ「ええ」カチャッ

ドリィ・グラァ「「はいっ!!」」

アルルゥ「む〜〜」  ムックル『ヴオオオオォォ!!』


これまでで最も大きな規模、そして最も困難な戦が始まろうとしていた。

578 : ◆M6R0eWkIpk [saga]:2012/08/16(木) 00:33:20.20 ID:EKmdGUxSO
VSシケリペチム編・前編を投下。

羅宇(らう)と言うのはキセルの管の部分の事。
主に竹製で高級品は黒檀らしい。
ゴローの持ってた以前のキセルは黒塗り・竹製の羅宇です。


羅宇屋が出たのはきっと四月一日君のせいです。
可愛いよね、兎の羅宇屋さん。
狐のおでんも食べたいなぁ……

では失礼します。
579 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/16(木) 21:02:03.42 ID:bFHtBbrIO
580 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/16(木) 21:58:53.61 ID:DB/EyQZSO
581 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/16(木) 22:15:36.93 ID:EKmdGUxSO

 〜 シケリペチム皇都 〜


ハクオロ「目指すはニウェの首のみ!! 突破するぞ!!」


 「「「おおおおおぉぉぉ!!!」」」


トゥスクルの皇・ハクオロ。
彼の声に兵達は吼える。


カルラ「テリャァァァァ!!!」ブオン

  ドゴォォォン!!


亡國の皇女、そして元奴隷・カルラ。
彼女の一振りは道を切り拓く。


トウカ「エヴェンクルガのトウカ! 参る!!」

  スパッ スパッ スパッ!!


少数部族エヴェンクルガの女・トウカ。
彼女の抜刀術は一瞬のうちに敵を切り刻む。


エルルゥ「えいっ!」フワッ


失われた辺境の薬師・エルルゥ。
ハクオロの背を守る彼女の薬術は敵を狂わせる…かな?


敵兵達「「逃がすかぁっ!!」」


エルルゥ「む、向かって来ないでくださーい!!」バサバサ


敵兵達「「ぐわあああ! ……☆*※◎???」」


薬師の撒いた香煙が兵士達を混乱させていった。


ハクオロ「流石大國、道が広いからウマで走りやすい!」


  ダダダダ……


ハクオロ(しかしどういう事だ? 都の守りがほとんどない)

    (本当に全軍をあちらに送ったのか? それとも……)


ハクオロ(それにゴローさん、貴方はどこに行ったんですか……)


この場にいない者、ゴロー。
彼は彼でやらねばならない事がある……
582 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/16(木) 22:21:07.60 ID:EKmdGUxSO

……暫くして彼等はたどり着いた。

シケリペチムの皇城、第一城門。

あの皇、ニウェのいる本拠地に……


ハクオロ「門がかなり固そうだ」

     (弓兵などによる妨害もなくここまで…… やはり罠か?)


カルラ「ちょっと失礼……」スゥ

    「ハアアアアアアアアアッ!!!」ズンッ!


   ブオォォォン!!!!

  バキッ!! ズウゥゥン…


カルラ「ふぅ……あら、殿方がたくさん」


敵兵達「「……」」カチャッ


扉を壊すと、刀や槍を構えた兵達が彼等を待ち受けていた。


敵将@「おや、誰かと思えば腰抜け皇ではないか」


ハクオロ「……確か使者の方々だったな」


敵将A「ふふ、あの男達がいないのは残念だが」

敵将B「すぐ片付けてやる」


カルラ「あるじ様、ここはわたしが引き受けますわ」

ハクオロ「しかし!」

カルラ「平気ですわよ。名もない敵に負けるわたしではありませんわ」


敵@「な、ナニィ!」

敵A「俺達にも名前はある!」

敵B「ころしてやる…」


カルラ「あるじ様!」



ハクオロ「く…… 皆の衆! 突っ込めぇ!!」


 「「「ウオオオオ!!!」」」


  ズドドドド…
583 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/16(木) 22:29:35.47 ID:EKmdGUxSO

カルラ「さて……弄んであげますわ。名無しの三人さん」ニヤッ


敵将@「おのれぇぇ!!」

敵将A「なんだとぉぉ!!」

敵将B改めイコル「俺はイコルだ」キリッ

敵将@・A((先に言いやがった!!))


カルラ「そうでしたか」 ブン!!


敵将@「お……」 ガキッ ベキッ!


敵 | 将@「 」ブシュー…


カルラの一刀を受けきれず、大男の敵将が縦に真っ二つにされる。


敵A・イコル「エムロォォ――――!!」


カルラ「あら、そんなお名前でしたの」

   ブオオン!!


敵将A「は……」

敵/将A「」ブシュー…


肩から脇にかけて切断される細男。


イコル「イナウシぃぃぃ!!」


カルラ「最初に名乗ってよかったですわね」ニコリ

    「あのお二人より長くこの世にいられましたわ」

  ブン! ブォッ!!


イコル「へ……」

イ/コ|ル「さ、三分割……」ブシュゥー

   ドサリ…


最後の小柄な男は首・上半身・下半身にぶった斬りにされた……


カルラ「三人揃うと厄介……だったかしら?」グビッ

    「おっと、まだ終わってませんわね」タッ…



※カルラVS三人組(エムロ・イナウシ・イコル)はアニメを見ましょう!

584 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/16(木) 22:33:53.99 ID:EKmdGUxSO
 ――

弓兵、歩兵、騎兵。敵の攻撃をなんとか掻い潜り、
ハクオロ達は第二城門を抜けて本丸に突入した。


 〜 皇城内部 〜


ハクオロ「止まれ!」

     「何かいるぞ!! 気を付けろ!」



 「「「…………」」」 ユラリユラリ…


ソコに居たのは『人』であった。

死人兵達「「「アー…アー……」」」


白目が充血し、どんよりとした朱色の眼。
その足取りに意思を感じない存在を『人』と言えるのならばだが……


死人兵達「「「アー…アー…」」」


エルルゥ「な、なにこの人達……」

トウカ「エルルゥ殿、お下がりください!」スパッッ!!


死人兵「アー… アー…」ブシュッ

    「アー…… アー…」ズリズリ


トウカ「何!? 斬りつけたはず!」

ハクオロ「コイツら痛みを感じていないのか!」



  「だったら……」


  ブオン!! グシャッ!!


カルラ「叩き潰せばいいんですの」ニコリ

ハクオロ「カルラ! 簡単に言うなよ……」

トウカ「某達は関節を狙って攻撃しましょう」

兵士達「「「ハハッ!」」」

585 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/16(木) 22:36:40.65 ID:EKmdGUxSO






  「………………コ、ロ、―」


      スタッ!!




586 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/16(木) 22:43:38.00 ID:EKmdGUxSO

天井から『何か』が着地する。
真下にいた兵は――――


兵「あれ……俺の……」バタッ


  「…………」グチュリ


その上半身裸の男に肝を抜かれて絶命した。



エルルゥ「ひぃっ…」

ハクオロ「なんだ、『アレ』は……」


 ドクン ドクン… ブチュルッ!!


トウカ「素手で肝を……!」

カルラ「お気をつけなさい。かなりの手練れですわ」

   クルリ…

仮面兵「…………ア、ア」


ハクオロ「あ、あれは……仮面」

エルルゥ「ハクオロさんの仮面そっくりです!」

仮面兵「……コ、ロ、―、―」

  ダッ!!

ハクオロ「私にっ!」サッ

カルラ「あるじ様の下にはいかせませんわ!!」


  ブン  ガシッ!


仮面兵「………コ、ロ、―、―」グググ

カルラ「わたしの刀を受け止めたですって!?」


トウカ「ハァァァ! 翔(しょう)!!」スッ ズガァッ!

仮面兵「……」

トウカ「く、腕の筋で刃を止めたか! 首を狙えぬ!」


仮面兵「……コ、ロ、シ、―、ク、―」


エルルゥ「えっ?」

ハクオロ「どうしたエルルゥ。私の後ろに隠れていろ!」

エルルゥ「いえ、あの人…… 泣いてるようで……」


ハクオロ「…………何?」
587 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/16(木) 22:48:21.70 ID:EKmdGUxSO

仮面兵「…………コ、ロ、シ、テ、ク、レ」


カルラ「あら、自殺願望でもありますの?」ヒュン

トウカ「次は倒す!」スチャ


仮面兵「オオオオオオオオオオ!!!」

  ダッ!! ダダッ!!


カルラ・トウカ「「しまった!!」」


ハクオロへ向け、駆け出す仮面の敵。


ハクオロ「!!」


それを……


エルルゥ「ハクオロさん!! 危ないっ!」サッ


少女が身を呈して――――


ハクオロ「エル――――」




彼の耳に命の散る音は――聴こえなかった。

仮面をつけた『男』の拳は、
薬師の少女の前で完全に止まっていたのだから。


仮面兵「…………」

エルルゥ「…………あれ?」パチクリ


そして……
588 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/16(木) 22:50:13.80 ID:EKmdGUxSO






  「え、る、る、ぅ………………」






589 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/16(木) 22:56:00.63 ID:EKmdGUxSO

震えるように、ソレは目の前に立つ少女の名前を……


エルルゥ「え…… その声…『ヌワンギ』!?」

ハクオロ「何っ!」


仮面兵「コ、ロ、して、コ、ロ、シ…… え、る、る、ぅ」


エルルゥ「その声! ヌワンギでしょう!」

ハクオロ「エルルゥ! 離れろ!!」


仮面兵「え、る、る、ぅ………な、ん、で…」


エルルゥ「え…」


仮面兵「く、る、し………た、す……」


カルラ「ヤァァァァ!!!」ブン

    パシッ


仮面兵「コ、ロ、シ、テ……」ギギッ

カルラ「死にたい者の態度じゃありませんこと!!」

仮面兵「ぐ、ガアアアアア!!」

   シュッ

トウカ「槌(つい)!!」ガッ

仮面兵「ゲアア……」ザザザ


跳躍からの体重をのせた斬撃が腕の防御ごと仮面の敵を後退させた。


トウカ「よし、こっちは効いた!」



ハクオロ(さっきからトウカの技はなんだ?)


(※ 第十七話ボツシーンはここに入ります)
590 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/16(木) 22:58:51.19 ID:EKmdGUxSO

仮面兵「コ、ロ……」

トウカ「まだ倒れないなら…… 巣(そう)!!」


  ズガガガガガガ!!


ハクオロ「全身への斬撃!」


仮面兵「グアアアアアアアア!!」

カルラ「デェヤアアアアアアアアア!!!」

   ブォン!!

   ブチッ! バコォン!!

仮面兵「ギャアアアアアアア!!」

カルラ「これでやっと腕一本ッ……」


仮面兵「コ、ロ、シ、テ!!!」


ハクオロ「うおおおっ!!」カキン


カルラ「あるじ様!!」 トウカ「聖上!!」


ハクオロ「この男が…… 『ヌワンギ』ならば……私が決着をつける!!」キィン


仮面兵「*◎★#……」

ハクオロ「言葉も無くしたか! ヌワンギ!」

仮面兵「きさなはこらし、つ、えるるぁと……」

ハクオロ「ふん! はぁっ!! てぇい!!!」


 《ハクオロ・必殺連撃!》


ハクオロ「この名、胸に刻んで逝くといい……」


  バシ! バシバシバシバシバシ!!


鉄扇の連続攻撃が仮面の男の全身を討つ。


ハクオロ「…………滅せよ!!」


591 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/16(木) 23:00:43.97 ID:EKmdGUxSO









        カッ――――

592 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/16(木) 23:02:44.69 ID:EKmdGUxSO

仮面兵「…………」

ハクオロ「…………」



仮面兵「…………」フラフラ


その者は血塗れになりながらも、ハクオロへ向け歩む……


カルラ「この……」

ハクオロ「待て」スッ


仮面兵「…………」


向かい合う二人、二つの仮面。


仮面兵「……」ブン


    ボカッ…


ハクオロ「……いい拳だ。痛かったぞ」

593 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/16(木) 23:06:42.34 ID:EKmdGUxSO



  ペキッ… バキィン…


顔を覆う仮面の複製品が……砕け散る。



ヌワンギ「そ、う、か、よ……」グラリ



彼は、あの時山賊に殺されるはずだった彼は……

愛した少女の目の前で永い眠りについた――――


594 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/16(木) 23:10:56.68 ID:EKmdGUxSO

エルルゥ「ヌワンギ!」ササッ

ヌワンギ「」


ハクオロ「……事切れている」

エルルゥ「そんな…… また会えたのに……」ウルッ

ハクオロ「エルルゥ、ここに残れ」

エルルゥ「でも……」


ハクオロ「今は泣いてもいいんだ。エルルゥ」

     「……私の分も泣いてやってくれ」


   タタタッ…


エルルゥ「ハクオロさん!」


追おうと思った。でも彼女は動けなかった。

自分の家族だった者を失った所為だったのかもしれない。



カルラ「……邪魔者はご遠慮していただきたいわね」スッ

トウカ「我等にはやる事があるぞ」チャキン


死人兵達「「「アー……」」」


臣下の者に支えられ……
仮面の皇は一人、敵の皇のもとへ駆ける。

595 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/16(木) 23:12:50.81 ID:EKmdGUxSO
 ――――

シケリペチム、玉座の間。
遂に対面する『狩人』と『獣』


ニウェ「待っておったぞ、ハクオロ!!」


ハクオロ「ニウェぇぇ!!」


ニウェ「先程の贄、舌にあったようだな!」


ハクオロ「何っ!」


ニウェ「そうよ、贄よ。クッチャ・ケッチャも! この戦も!!」

   「其方の内に眠る『獣』を育て上げる為の『贄』にしたわ!!」


ハクオロ「キサマァァ! 人をなんだと思っている!!」


ニウェ「余の獲物に決まっておるわ!」


ハクオロ「戯言をォォ!!」


ニウェ「まだだ、まだ足らぬ。ならば…… 『余興』を見せてやろう!!」


ハクオロ「!?」


ニウェ「カーッカッカッカ!! どうだ! 素晴らしい『余興』であろう!!」

    「この都全てを炎に包んでやったわ!!」


ニウェ「聞くがいい! 炎に焼かれ、逃げ惑う者どもの声を!」

596 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/16(木) 23:13:57.52 ID:EKmdGUxSO






     シーン……






597 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/16(木) 23:18:57.29 ID:EKmdGUxSO


ハクオロ「お前は何を言っている……」

     「炎の音も、民の声も聞こえないぞ!!」



ニウェ「カーッカ……カァッ!?」

    「馬鹿な! そんなはずはぁ!!」ダッ



窓辺に向かうニウェ。

彼が見たのは……夜の闇に包まれた都の姿。
そう、城下は燃えてなどいなかった。



ニウェ「……何故だ! 何故なにも起こらぬ!!!」


ハクオロ「まさか、ゴローさんが…」


 ――――――

 ――――

 ――


ニウェ「あ、ありえん… 何故こんな…」


ハクオロ「降伏しろニウェ!! 無駄な血は流したくない!!」


ニウェ「ぬぅぅ! だが、これは知るまい!」バッ!


   ボオオオオッ!!


ハクオロ「な、城に火を放ったのか!!」


ニウェ「カーッカッカッカッ!!」バッ!

    「ついてこいハクオロ!!」ダッ


ハクオロ「逃がすかぁぁぁ!!」

598 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/16(木) 23:21:43.31 ID:EKmdGUxSO
 ――――


ハクオロ「でぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

ニウェ「カァァァァァァァァァッ!!」


鉄扇と偃月刀、打ち合う二つの金属音。


ハクオロ「あぁぁぁぁぁぁッ!」

ニウェ「ぬうぅぅぅぅぅぅッ!」


燃え盛る城。祭の終焉は近い。


ニウェ「やはりキサマは最高の獲物よォォ!!」キィン


ハクオロ(熱い…… 炎が咽を焼き、髪を焦がし、肉を炙る……)

      (だが、この高揚感はどうだ……)


ハクオロ(疼く…… 身体が疼く)

     (燃える… 血が煮えたぎるぞ――)


ニウェ「カァーッ!!」


ニウェの一撃がハクオロに――


ハクオロ「ガッ――」

     (痛ミすら心地よイゾ……)


ニウェ「討ち取ったりィィィ!!!」


偃月刀が獣の肩を――




  『オオォォォォォ――――――!!!』




ニウェ「カァッ!?」



――――貫けない。

599 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/16(木) 23:27:22.03 ID:EKmdGUxSO


――黒い霧が仮面皇を包む。



ハクオロ『満足カ……』

    『コれがキサマの望ンでイた結末カ……』ガシッ


『霧』に握られた偃月刀が腐敗し、砕ける。



ニウェ「な……」



ニウェは知った、自分の敗北を。
そして、自分が起こしてはならない獣を目覚めさせた事を……




  『コンナ事の為に何千何万ノ命ヲ……』



ニウェ「お、お前は……」


  『弄ンダトイウノカ――――!!!』



600 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/16(木) 23:35:03.05 ID:EKmdGUxSO
 ――――

焔の赤、鎧の赤、血の赤。
その中心にニウェはいた。


 「カ、カッカッカッカ……」


 「やはり…この目に狂いは……なかった……」


 「キサマこそが…最高の獣よ……」


 「さぁ…喰らうがいい…」


 「我等の間に存在するは、喰うか喰われるかよ……」


 「クク…カーッカッカッカッ…カーッカッカッカッ……」



  ……ブチュィッ!


 ―――

もう一人の皇が意識を取り戻す。


ハクオロ「これは、一体……何が……」


焔の赤、鎧の破片の赤、血の赤、細切れにされた肉の赤。

先に加え、骨の『白』もあった。



ハクオロ「な、なんだ、コレは……」



……『ニウェ』だったもの、その肉塊が彼の前に。



ハクオロ「私が……やったのか……」



 ……番外編へ続く。
601 : ◆M6R0eWkIpk [saga]:2012/08/16(木) 23:37:41.91 ID:EKmdGUxSO
明日は番外編。「ゴローは何をしていたか」を投下します。

では失礼します。
602 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/16(木) 23:48:39.82 ID:99xBJZ+X0
603 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/17(金) 00:00:06.92 ID:bVS1yQR80
ボツネタって何レスにあったっけ
604 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/08/17(金) 00:00:39.58 ID:RoVaxLZs0
HAPPYBIRTHDAY!! 凛子!!
605 : ◆M6R0eWkIpk [sage]:2012/08/17(金) 00:07:24.28 ID:RoVaxLZs0
ヒャッハー! 誤爆したぁー!!
>>603様、>>428番目のレスでした…
606 : ◆M6R0eWkIpk [sage saga]:2012/08/17(金) 23:47:05.96 ID:wriaj9RSO

 ※注意書き※

●ここから始まる第十七話番外編ではこの時に出ないはずの方々が登場します

●この話を御覧にならなくとも、前回までで話は終了しておりますので、
 『うたわれるもの』ネタバレ展開OKという読者の方にのみ推奨いたします

607 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/17(金) 23:51:48.33 ID:wriaj9RSO




第十七話番外編「つわもの共の祭」



時間は戻り、シケリペチム皇都……


ゴロー「遅いぞ! もっと早く来い!」

ノポン「そ、そうは言われましてもですね〜」

ゴムタ『グゲッグゲッゲー!』


 大きな戦が始まるその日、ようやくノポンが到着した。

 本題を早速切り出す事にする。


ゴロー「デグカパを止める方法は?」

ノポン「ハイィ?」

ゴロー「……この都を見てくれ。至るところにデグカパがある」

    「術に綻びが出来ると爆発・炎上すると言ってたよな?」


ノポン「た、確かにそうですね〜」

ゴロー「この都、危ないんじゃないか……
     と思ってお前を呼んだんだ」


ノポン「じゃあ、ちょっと見せて貰って〜」スッ


 工具で道の脇にあるデグカパを調べていくノポン。

608 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/17(金) 23:54:54.14 ID:wriaj9RSO





ノポン「…………」カチャ

    「………あ」ピタリ

 ……動きが止まった。


ゴロー「どうだ?」

ノポン「そ、それではぁ〜ボクちんは失礼しまっす!」バサッ

ゴロー「……」ガシッ


 逃がさない。


ゴロー「何がわかった」


ノポン「……時限式の法術がかけれていて、今日の夜にはボオッ…です……」


 ……なんてことだ。


ゴロー「……止める方法は?」

ノポン「術が強力なので天才のボクちんでも〜…」

   「大量の水のある場所にデグカパを落とせば…なんとか〜…かなぁ?」


ゴロー「湖……いや、ない。海もないか……」

    「……堀。そうだ、堀ならどうだ!」


ノポン「は、ハッキリとはわかりましぇん…
     第一、いくつデグカパがあるんですかぁ〜」


ゴロー「俺達だけじゃ無理……」

ノポン「ね、ゴローしゃん。逃げましょうよ〜」

ゴムタ『ギギッ!』

ゴロー「……やるだけやってみる」ダッ!

 …………
 ………
 ……
609 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/18(土) 00:02:37.61 ID:T061lCySO

 …………
 ………
 ……


ゴロー「はぁ、はぁ……」ボチャン


 シケリペチムの服を手に入れておいてよかった。
 デグカパを運び出すのに少しは怪しくない……

 大きな荷車に載せ、一機ずつ木偶を堀に落としていく。


ゴロー「しかし……数が多すぎる」ゴロゴロ


 どうにもならないのか……



 「ふ〜ん! 動かせないよぉ」



 女の子の声……


ゴロー「君、羅宇屋の!」

兎耳「ゴローさんのお仕事って… これを堀に落とす事ですかぁ」ウーン

ゴロー「今はそうだ!」ググッ

 なんとか二人でデグカパを荷車に載せて……


  ゴロゴロ… ボチャン…


兎耳「まだいっぱい……」

ゴロー「だけど……」


 誰かがやらないと……


兎耳「ゴローさん、そろそろ町の人から怪しまれてますよ!」

ゴロー「それでも…… なんとか……」ググッ

兎耳「……何があるんですか?」

610 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/18(土) 00:06:15.05 ID:T061lCySO





ゴロー「この置物が爆発・炎上して、この都が… 燃やされる……」ゴロゴロ

兎耳「え…… む、無理ですよ! 都、スッゴく広いんですよ!」

ゴロー「これが都中、至るところに置かれてる」

    「今日の夜には…………」


兎耳「で、でもゴローさん独りじゃ!」

ゴロー「やらないとたくさんの人が死ぬ…」ボチャン

    「せめて少しでも……数を減らしたい」


 戦場に出てない人々を犠牲にさせるわけにはいかない。


兎耳「他の人に話をしたんですか!」

ゴロー「……駄目だった」

兎耳「……でも皆を避難させたほうが早いです!」

ゴロー「……信じてくれるだろうか」


 この都が炎に焼かれますって言って。


兎耳「……わ、私! 頑張って知らせてきます!」

  タタッ…

ゴロー「……くそっ」ガン


 無力。俺もあのコと似たようなものかもしれん。


町人A「た、大変だ! 敵が来たぞ!」

町人B「なぁーに、すぐやられるさ」


 ハクオロ達が着いたか。
 だけど…… 今のあいつらには頼れない。


ゴロー「……俺は俺でやらないとな」ガッ

611 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/18(土) 00:09:47.74 ID:T061lCySO
 ――

シケリペチムの上空に、独りの男が羽撃く……


  「……よくやる」

  「だが、私がこの戦に直接介入する事はできぬ」



ディー「……友よ」

   スゥッ…


 ――

   ボチャン…

ゴロー「はぁ、はぁ、はぁ……これでこの道は終わりだ」


 アツさで身体か焼けるよう。


ゴロー「やっぱり駄目なのか……」


 敵の小さな部隊が入り込んだのに、
 この都の人達は気にせず生活を続けている。


ゴロー「どれだけあの皇を過信しているんだ…」ギリッ


 本当に助ける意味が……



 「ボクちんのような天才に! 不可能はな〜い!!」


ゴロー「あの声…」タッ

    「ノポン!」


ノポンA「ゴローしゃん!」

ノポンB「頑張ってますよ〜」

ノポンC「水の法術は得意ですから〜」


ゴロー「なんだそれ……」


 ノポンがたくさんいる……
612 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/18(土) 00:12:38.37 ID:T061lCySO





ノポンA「ぬふふ〜! ボクちんは分身できちゃうのさ〜」

ノポンB「天才だからね〜」

ノポンC「ゴムタも頑張ってるよ〜ん」


ゴムタ『ギギッ! ギキーッ!!』

キママゥ達『『キギー!!』』


 おい、これは……


キママゥA『グギィ〜?』ヒョイッ

町人C「き、キママゥだぁ!」

町人D「逃げて兵士を呼ぶんだ!」

キママゥB『キィッ キィッ!』ポイッ!


 キママゥ達が家の中の小さなデグカパを持ってきて、堀に捨てている。


ゴロー「お前達… 結構かっこいいぞ」

ノポンA「ぬふ、ぬふふっ! これで女の子にモテモテだぁ〜!」

ゴムタ『ヴキッギーッ!!』カクカク

ゴロー(ゴメン、ちょっと撤回)



 「「「ウオオオオオオ!!」」」



  ドドドドドドドド…

613 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/18(土) 00:16:03.41 ID:T061lCySO





ノポンC「な、なんですかぁ〜 二十ほどの騎兵が向かってきますぅ〜」

ゴロー「シケリペチム兵か!」



 「おのれぇぇ!! ニウェ! この『オリカカン』を謀りおってぇぇ!!」



 違った、どこかで聞いた声。


ゴロー「オリカカンさん!!」

オリカカン「おお! ゴロー殿。シケリペチムに攻めるならば、
       前もって我等に一報下さればよかったのに」ズザッ


オリカカン「新生騎兵衆、ここに参りましたぞ!」

騎兵達「「「オオッ!!」」」


ゴロー「城に攻め込む前に頼みを聞いていただけますか?」

オリカカン「どうぞどうぞ。命の恩人の頼みを断る薄情者ではありませぬ」

ゴロー「通りにある変な置物を堀に投げ込んで下さい!」


オリカカン「成程! 堀を埋めて攻めやすくする策ですな!」

     「皆の者ぉ! やるぞぉ!!」


騎兵達「「「うおおっ!!」」」

   ダダダダダ……


ゴロー「なんだか凄い事になっちゃったぞ」

614 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/18(土) 00:19:33.95 ID:T061lCySO





ノポンB「こ、今度は別の方角から軍勢が〜」



 「トゥスクルが戦なのに何故あの皇は俺達に助力を求めんのだ!」


 「デリホウライ様、我々も建國間もないですから…」


デリホウライ「トゥスクルにはなぁ!! 姉上様が居られるのだぞ!!」

デリ「姉上様の助けをせずに何が『カルラゥアツゥレイ』だ!」


ゴロー「デリホウライ様!」


デリ「おお、確か記者のゴローだったか! 俺の勇姿をしかと記したか?」


ゴロー「お願いがございます! 変わった置物を堀に投げ込んで頂きたいのです!」


デリ「あのデグカパの事だな! よし、壊そう!」

カトゥマウ「デリホウライ様、壊すのではなく堀に捨てるのです」

デリ「面倒だと思うがな……よっと」ヒョイ


ゴロー(ギリヤギナって凄い……)


 一人で大きなデグカパを持ち上げられるとは……

 なんだか、諦めの気持ちが吹き飛んじゃったぞ。


ゴロー「……やるか!」

615 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/18(土) 00:22:00.04 ID:T061lCySO




 ――――

様々な家をシャクコポルの少女は訪ねていったが、
誰もまともに話を聞こうとしなかった。
姿すら見せずに追いやられた事もあった。


兎耳「ダメ… みんな話を聞いてくれない……」

   「もう夕方、早くしないと日が沈んじゃう……」



 『このままニゲヨウよ』



兎耳「――ッ!」


黒い囁きが彼女の心に生まれる。


 『あんな人は放ってさ、逃げないと』

 『あそこにいて良い事あった?』

 『虐められて、殴られて……』

 『今だって、大声で威圧されたり』

 『水をかけられそうになったよ?』

 『それでもあの國の人を助けたい?』

 『自分が大切だよ。混乱に乗じてクンネカムンまで逃げよう?』

616 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/18(土) 00:24:28.78 ID:T061lCySO


誘いをかける、己の暗い部分。


 『あの國なら皆がシャクコポル、もう苛められない』

 『蔑まされない』

 『さぁ、早く……』


兎耳「……そうだね」


 『そう、だから――』


兎耳「――――でも、諦めない!」


 『な――』


兎耳「だって、あの人戦ってるもん!」

  「私だって! 戦う! 私なりのやり方で!」


 『いいの?』

 『本当に?』


兎耳「私の嫌な部分…… あなたを認めて、あなたと戦う!」

   「今を必死に生きていれば! きっと眩しい明日がくるもん!!」



彼女の心の声が消え、別の――



  『…………ならば助けよう』

617 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/18(土) 00:29:42.57 ID:T061lCySO





兎耳「……へっ?」


彼女の目の前に、いつの間にか『翼を持つ者』が現出していた。

それは『ディー』と呼ばれる独りの――


ディー「あの男、何故か判らぬが……好かれるな」


兎耳「あ、あなたは?」


ディー「シャクコポルは我が眷族。手を差しのべるのもたまには良かろう」


  スゥッ… フッ…

  ブゥン…


転移術を受けシャクコポルの少女は……


兎耳「あ、あれ? ここドコ?」キョロキョロ



 「如何なされたお嬢さん?」



兎耳「あ……お、お願いします!! 助けて下さい!」


ゲンジマル「むぅ?」



シケリペチムの北西、『クンネカムン』に到着していた。

618 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/18(土) 00:34:33.99 ID:T061lCySO
 ――――


 太陽の橙が薄くなっていく。


ゴロー「不味い… 陽の光が」

ノポンB「避難に移ったほうがいいのでは〜」

ゴロー「く……」


そんな状況の中、飛行し周囲を見ていたノポンの本体が叫びだした。


ノポンA「な、なんでぇすか〜 あれは〜!!」

    「都の北に何だか判らないモノが現れましたぁぁ〜!!」



  ズシン!
        ズシン!



「なんだありゃあ!」「に、逃げろぉ!」「兵士はいないのか!」


逃げ惑う町人達を気にせず、『ソレ』は通りを行く。



ゲンジマル「聖上! 足下にお気をつけ下され!」


 『うむ、判っている』



あの武人、ゲンジマルは『ソレ』の掌中で吼える。


『ソレ』は人の形をしてはいたが家より大きい。


白銀の鎧兜を装備した巨体がシケリペチムの都を進む。

619 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/18(土) 00:39:04.84 ID:T061lCySO





武人は巨体の手から降りると、指示を出す。



ゲンジマル「目的は民の避難と変わった置物の破壊で御座います」


 『それの破壊は上に放ってなら問題ないか?』


ゲンジマル「おそらく」


 『どれ……握り潰してみよう』


   ガシッ ギュッ! ボボン!!

 『うむ、両手で潰せば問題ないな』

 『わざわざ武装を汚すこともない。この方法で破壊する』


ゲンジマル「ここの者達の避難は如何されますか」


 『避難は“アヴ・カムゥ”を見た者から勝手にするだろう』


ゲンジマル「はっ」


 『余の初陣が人助け、それもウィツァルネミテアの信者を救う事とは』


ゲンジマル「それを願ったのもシャクコポルの民。お忘れなきよう」


 『ああ、わかっておる。行くぞゲンジマル』


ゲンジマル「御意」サッ!



 ズシン!
       ズシン!



ノポンB「ゴローしゃん〜 重いですぅ〜…」パタパタ

ゴロー「き、巨大ロボット……」


 ウルトリィさん、なんとかなっちゃいました……


620 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/18(土) 00:45:18.62 ID:T061lCySO

 ―――――
 ―――
 ――


その様子を愉快そうに見つめる『ディー』。


ディー「くくくく… この世(ツァタリィル)はこうも面白い」

    「まるで祭ではないか。ならば……こちらも」スッ


手を何も無い空間に向け、転移術を使うと……


   スゥッ… ブォン


カミュ「あれ? ここは……」キョロキョロ


黒曜石のように黒い翼を持った少女が現れる。



 『ちょっとだけ、身体を借りるね……』


カミュ「あ……」キィィ…


何かの声と共に、カミュの身体が白い光に包まれていく。


   パァァン キィィン!


その光が散ると、中から黒い翼を持つ少女が降臨した。

そう、『頭上の光輪』・『朱の瞳』を持った少女が……



???『……』バサリ


ディー「残りの木偶の掃除を頼む。姿は見せるでないぞ」


ディーは少女に祭の後片付けを命じた。


???『……変わりましたね』


ディー「そうだな… 変わったかもしれん」

    「毒された… とも言えるか」


???『でも……』


ディー「そうだ。目的は忘れておらぬ」




???『行ってきます、“お父様”』バサリ


ディー「行くがよい“ムツミ”。我が娘よ」

621 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/18(土) 00:48:13.14 ID:T061lCySO

 ――――
 ―――
 ――


誰にも知覚されないよう、まず彼女は『透明化』していく。


ムツミ『…………』バサッ

   キュイイン…

次に娘は己の手に小さな黒球を生み出した。

オンカミヤリューの高位術……
それは天候や重力、自然の力を操る術(すべ)。



ムツミ『ハッ!』ピシュン!


   ガッ  シュン!


ムツミ『ヤッ!』ピシュ!

   シュン… シュン…


産み出された極小の重力球が木偶を消失させていった。



ムツミ『……』バサッ…



 「なんか、いたか?」

 「気のせいじゃない? それより逃げよう!」

 「敵が攻めてきてるもんな!」



ムツミ『…………』


  バサッ バサッ…



622 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/18(土) 00:50:57.50 ID:T061lCySO





……数多の命を奪うはずだった炎は消え去った。



ノポン「ええぃ!」  ゴムタ『ウギャッギャー!』



オリカカン「オオッ!」  デリ「まとめて三機ッ!」



『たぁぁっ!』  ゲンジマル「ぬぅん!!」



ムツミ『……』  ゴロー「よいしょ… 腹が減ってきたぞ」



そして日が沈み、城が炎に焼かれ、
この『つわもの共の祭』は終わりを迎える。





『ウオオオオオオォォォォォォォ――――――――――!!!』





この祭の最後を飾る、『うたわれるもの』の咆哮によって……



  続く。
623 : ◆M6R0eWkIpk [saga]:2012/08/18(土) 00:57:14.07 ID:T061lCySO
番外編も投下して十七話は御仕舞い。

十七話の最初は>>560からです。

まぁあれだ。やっちゃった、ファンサービス。
細かい所は無視してノリを楽しんで頂けたら……と思います。
では失礼します。


誤爆はすみませんでした……
624 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/18(土) 01:29:02.65 ID:6l1HvY2IO

羅宇屋の兎耳ちゃん可愛い
625 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/18(土) 03:12:21.43 ID:l/6xUkiIO
これは正ヒロイン確定だな
626 : ◆M6R0eWkIpk [saga sage]:2012/08/20(月) 22:58:19.91 ID:1H1EdaCSO

第十八話「粥とカリンカ(果実のハチミツ漬け)」


 〜 トゥスクル皇城 〜


 シケリペチムとの戦が終わってから一月が経った。
 トゥスクル側の被害も大きなものではあったが、
 今は多くの集落が復興に向けて働いている。



ゴロー「元シケリペチム皇都の被害は一割程度、
     オリカカンさんやデリホウライに礼を言っておいてくれ」


ハクオロ「わかった」

ゴロー「戦による負傷者は三割回復、あとの者は少し時間がかかる」

ハクオロ「恩賞を出さんとな…… ベナウィ、あちらの賠償は進んだか?」

ベナウィ「皇城以外の倉にあった宝物は接収いたしました」

ハクオロ「……できるならば取りたくはないものだが」

ゴロー「そういうわけにもいかない。此方の勝利で戦は終わったんだ」


ハクオロ「民の不満を無視できない……か」フゥ

     「領土の問題はどうなってる?」

627 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/20(月) 23:01:21.80 ID:1H1EdaCSO

ベナウィ「シケリペチムだった領地は、殆どが以前の小國体制に戻りました」

ハクオロ「中央の皇都はそのままだったか」

ベナウィ「はい。名目上、我等の管轄としておりますが」

ゴロー「そのほうが周りの豪族達の牽制になるからな」


ハクオロ「確か……誰もここから派遣していないな」

ベナウィ「いえ、國師(ヨモル)を派遣いたしました」

ゴロー「ウルトリィさんとムントさんか……」

ハクオロ「そろそろウルトには戻ってきて貰いたい」

    (……フミルィルがぐずって仕方ないそうだ)


ベナウィ「代わりの者を?」

ハクオロ「ああ。誰を送るか」

     「それなりに有能で、ある程度仕事を任せられる……」


ハクオロ「ベナウィ、お前が行かないか」


ベナウィ「…………」


 無言の圧力。
628 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/20(月) 23:04:09.72 ID:1H1EdaCSO

ハクオロ「そ、そうか。まだ軍の処理がまだ終わっていなかったな」

    「オボロ…… クロウ…… この二人は駄目だ。政事に向かん」


ベナウィ「聖上、あの方をお忘れですか?」

ハクオロ「ん? 誰だそれは?」

ベナウィ「ゴローさんです」


ゴロー「 え 」


ハクオロ「そうだ。良い案だぞ」ポン

    「ゴローさん、貴方が彼処を治めてくれ」


ゴロー「お断りします」


 なんで俺がそんな仕事をしなきゃいけない。


ハクオロ「トゥスクル皇としての命令だ。拒否は許さん」

ゴロー「首でも結構です」

ハクオロ「焼肉屋の営業許可・牧場経営等を取消すと言ってもか」

ゴロー「く……酷い皇だ……」


 こいつの事だからやらないとは思うが……


ハクオロ「さて、どうする?」


ゴロー「……拝命いたします」ペコリ


ハクオロ「安心してくれ、出発はウルトが戻ってからだ」

629 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/20(月) 23:07:25.71 ID:1H1EdaCSO
 ――――

 〜 湖 〜


 こんな気分の時は散歩が一番。
 気の向くまま歩いていたら今日もここに来てしまった。


ゴロー「昼間にここを訪れるとは」フゥー


 煙管で落ち着く事にする。


ゴロー「ん……うまい。羅宇が違うと変わるもんだな」フゥー


 材質は変わらないはずなのに。
 気持ちの補正があるのかもしれん。


動物『クルル?』ガサガサ

ゴロー「お、またお前か。でも今日はエサを持ってないんだ」

動物『キュ〜〜』スリスリ


ゴロー(そういえば……この動物、旨いのかな)ジッ


動物『!』キィーン!!

ゴロー「い、痛い! なんだこれ!」


 超音波か?


ゴロー「わ、悪い! 食べないから!」

動物『クル……』ピタ

ゴロー「よしよし…」ナデリ

動物『キュ〜……』ウトウト


 撫でてやったら気持ちよさそうにする。
 小さな目も段々閉じてきた。


動物『ZZZ……』

ゴロー「寝たか。俺も昼寝しようかなぁ」


 こんなにいい陽射しだと、眠くなる……


「痛たた…… 今のは一体なんでしょうか……」


 誰か近くに居たようだ。

630 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/20(月) 23:11:12.76 ID:1H1EdaCSO

ゴロー「ん、その声はチキナロか?」

チキナロ「おや、ゴロー様。お久しぶりでございます、ハイ」

 この前会ったのは……

ゴロー「そうだ。歓楽街の情報を聞いて以来か」

チキナロ「ところで、先程のは一体?」

ゴロー「いや、なんだかコイツがやったみたいで」


動物『ZZZ……』


チキナロ「おや……珍しい。『ミキューム』ですよ」

ゴロー「それが名前なんだ……」

チキナロ「シ、シィー… まさかゴロー様、名前をつけたりは……」

ゴロー「してないぞ」


 野生動物に名前をつけてどうする。


チキナロ「ああ、良かった。でしたらワタシに売って頂けませんか?」

ゴロー「……幾らで売れる?」

チキナロ「このミキュームは……」ゴニョゴニョ

ゴロー「この動物がそんなにするか?」ヒソヒソ

チキナロ「ハイ。ミキュームは幸運の象徴ですし、
     その肝は如何なる病も治すと……」ヒソヒソ


ゴロー「迷信っぽいなぁ」

チキナロ「そこまではワタシもわかりませんです、ハイ」

ゴロー「……でも止めておく。気分がのらないんだ」フゥー

チキナロ「そうでしたか……」ガックリ

631 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/20(月) 23:14:27.59 ID:1H1EdaCSO

ゴロー「そうだ。代わりに今度の戦利品をやる」

    「俺が貰えるのは『チャッカ織り』の特級〜二級品だったかな……」


チキナロ「よ、よろしいのですか? そんな高価な……」

ゴロー「俺は女物に興味ないから、上手く売ってくれ。
     儲けはお前が八割、俺が二割で」


チキナロ「……ありがとうごさいますです、ハイ!!」

     「では、ワタシは城下へ。失礼いたします、ハイ」ペコリ


ゴロー「現金なヤツ……あれ?」


 あのミキュームとかいう動物がいないぞ。


アルルゥ「お〜〜」  カミュ「わ〜 可愛い〜」

動物『クルルッキュ〜!』


ゴロー「二人とも、なんでここに?」


 あの動物、いつの間にか子供達のところにいた。


カミュ「この湖ってカミュ達のお散歩途中にあるんだ〜」

アルルゥ「きゃっほう〜!」

カミュ「ねぇねぇ、ゴローおじさま、この子は?」


ゴロー「一緒にメシを食った仲って言えるのか……な?」


アルルゥ「ガチャタラ〜」ナデナデ

ガチャタラ『! クルルルル〜!』スリスリ

632 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/20(月) 23:16:44.13 ID:1H1EdaCSO

霊獣ミキューム(トゥスクル民明書房刊『不思議な動物図鑑』より抜粋)……


大切にすると幸運を招き、災いから護るとも言われる生き物。

人が足を踏み入れる事のできない渓谷に住んでおり、
その肝は様々な病の薬となると薬師の間で伝えられる。

この霊獣の不思議はそれだけではない。

一つは『刷り込み』である。名前を着けた者を主人と認識し、
その者から引き離そうとすると酷く抵抗する。

もう一つは『特殊な鳴声』だ。身に危険を感じると、
これを出して周囲の者を攻撃する。なお、普段は大人しい。

633 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/20(月) 23:18:59.56 ID:1H1EdaCSO
 ――――

 数日経って、ウルトリィさんが城に戻った。
 その為、俺は出発の準備で城内を行ったり来たり。


ゴロー「薬の原料が足りないかも」


 補充の為、エルルゥさんの部屋にお邪魔する。


ゴロー「すいません、ゴローです」トントン


 『あ、はい。どうぞ』


ゴロー「失礼します」ガラッ

エルルゥ「ゴローさんが食事以外でここに寄るのは珍しいですね」スッ

ゴロー「あ、髪をとかしてましたか」

エルルゥ「もう終わりますから…… あとはこの髪飾りを……」カチャ


 綺麗な白輪の髪飾りだよな。


ゴロー「その髪飾りって……」

エルルゥ「あ、これは私の家に代々伝わってる物なんですよ」


ゴロー「へえ…… ガッ!?」ズキン!


 また…… この痛みだ……

634 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/20(月) 23:21:35.82 ID:1H1EdaCSO






 『よう、“ミズシマ”、研究は順調か?』


『また来たのか、――――さん』


 『お前が鍵を俺に渡したんだぞ。……あれはマスターキーか』


『ああ、机の上のか。ちょっと借りていてな』


 『いいのか? 上がうるさいぞ』


『私は“アイスマン”や“マルタ”の研究で様々な場所に行くのでね』


 『忙しいなぁ。こっちはそれほどでもないのに』


『ご指摘の通り、私は忙しい…… 用事を済ませてくれないか』


 『ああ、ちょっと畑を耕すつもりなんだが……』





 「ゴローさん!!」



ゴロー「あ、ああ、はい……」

エルルゥ「どうしました? 体調が優れないんですか?」

ゴロー「い、いえ。大丈夫です。今日は薬の材料を借りに……」


 あれも…俺の記憶なのか?

635 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/20(月) 23:23:50.10 ID:1H1EdaCSO
 ――――

ハクオロの寝室。皇はシケリペチムで受けた傷の手当てを受けていた。


エルルゥ「ハクオロさんの傷はだいぶ良さそうですね」

ハクオロ「エルルゥのおかげさ。毎日助かっているよ」


エルルゥ「いえ、そんな…… そ、そういえばゴローさんが変なんです」


ハクオロ「ゴローさんがおかしい? いつもの事ではなくか?」

エルルゥ「はい、頭痛が酷いみたいで……」

ハクオロ「うーん、旧シケリペチムの都に行かせるのを保留するか……」

エルルゥ「それがいいと思います」


ハクオロ「ああ。じゃあ明日にでも伝えておこう」

     「ところでエルルゥ…… 今日はもう寝るだけかい?」


エルルゥ「……ハクオロさん、遠回し過ぎですよ///」

ハクオロ「じゃあ真っ直ぐに…… 君をまた抱きたい」


エルルゥ「はい!」

636 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/20(月) 23:29:21.22 ID:1H1EdaCSO
 ――――


ゴロー「ふわぁ〜あ いい天気だ」

 洗濯日和。普段着を女官さん達に出してきた。

 ついでにちょっと城内を歩き回ってみたら……



ウルト「……!」

カルラ「…………?」



 ウルトリィさんとカルラさんが言い争っていた。



ハクオロ「…………」ジィッ

 それを物影から覗く皇(オゥルォ)って……


ゴロー「格好悪いなァ」

ハクオロ「ゴローさん? 何か言いました?」

ゴロー「いや別に。あの二人、どうしたんだ?」

ハクオロ「ああ、実は……」


 フミルィルの世話に入れ込み過ぎているウルトリィさん。
 見かねたカルラさんが遠回しに深入りするなと警告したが……
 ウルトリィさんは既に情を移してしまっている様子らしい。


ゴロー(そういえば旧シケリペチムから帰る度、
     真っ先にあの子のもとに向かっていたっけ)


 今じゃ赤子を滅多な事では手放せないそうだ。


ゴロー「……本当の両親を連れてくるしかないだろう」

ハクオロ「それしかないか……」ハァ

ゴロー「アトゥ族とヤタム族に話を聞くのか?」

ハクオロ「地方の豪族の対立に皇が首を突っ込むのは……」

ゴロー「まぁ、いいじゃないか」


 当の両家では皇とオンカミヤムカイ皇女の手を
 煩わせたなんて知らないんだろうな。

637 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/20(月) 23:31:11.91 ID:1H1EdaCSO

ハクオロ「……そうだ。貴方の都行きは保留にする」

ゴロー「え?」

ハクオロ「エルルゥから聞いたぞ。体調が悪いそうだな」

ゴロー「あ、ああ。少し……」


 記憶喪失を気にする男に『記憶が戻り始めた』とは俺でも言えん。


ハクオロ「だから具合が良くなるまでは保留にする。仕事も程々にやってくれ」

ゴロー「わかった。……ぬぐっ!?」ズキッ






『ハァ… ハァ…』


 『馬鹿な! あの食物に副作用だと!!』

 『なんとか… あのマルタを……』


『程々にしませんとお身体に……』


 『あのマルタは苦しんでいる! 俺達の作った食物でだぞ!』


『ですが、まだそうと決まった訳では……
 実験例も多数の中の一つにしか過ぎません』


 『く…… そういう問題じゃない!』


『そういう問題です。マルタは“人”ではありませんから』

『〔私達に感染しないのであれば大した事ではない〕が上層部の決定です』

638 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/20(月) 23:32:30.07 ID:1H1EdaCSO



 「ゴローさん!!」


ゴロー「ハッ! ハ、ハクオロ……」

ハクオロ「……今日は休んでくれ。本当に調子が悪いようだから」

ゴロー「……すまない」


 ――――

 〜 ゴローの部屋 〜


ゴロー「休めと言われると、何かしたくなる」


 週トゥスの三号目でも作るかと、筆を握ったが……


ゴロー「筆が進まないぞ……」


 ネタはあるんだがなぁ。

 例えば『オボロ侍大将、重傷』、『城の怪奇! すすり泣く女の声』
 城下で話題の『街道の禍日神』とか……


 ――――


トウカ「クシュン! クシュン! クシュン!!」

    「これは風邪かも知れませぬ、エルルゥ殿に薬を頂いてきましょう」


 ――――
639 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/20(月) 23:36:08.39 ID:1H1EdaCSO

  コン コン!


 部屋の扉を叩く音が聞こえた。

ゴロー「どうぞ」


ドリィ・グラァ「「失礼します」」ガララ


ゴロー「お、珍しい。何の用だ?」


ドリィ「体調が優れないと聞いたので食事を持ってきました」

グラァ「若様の分を運ぶついでですし」


ゴロー「わざわざありがとう」


 どれ、今日の食事は……


ゴロー「今日は……お粥かぁ…… いいんだけどさぁ」


 もう少し何か食いたい。


ドリィ「あ、でしたら……グラァ」

グラァ「……エルルゥ様には秘密にして下さいね」スッ


 グラァは何か小さな壺を俺の前に出した。


ゴロー「……おおっ、カリンカじゃないか!」



 【カリンカ(果実のハチミツ漬け)】

一般家庭でも作られている御菓子。
基本的に饅頭などの中に入れて食べる。
原作ゲームでトウカがアルルゥを餌付けするのに使った。

640 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/20(月) 23:37:31.12 ID:1H1EdaCSO

ゴロー(こういうのがあると、気分が明るくなる)


 このままモロロ粥をいただこう。


  ぱくん……


ゴロー「熱っちッ!!!!」

ドリィ・グラァ「「大兄者様っ!?」」

ゴロー「だ、だひほうふ……」


 舌がヒリヒリする……

 水を口に含んでなんとか誤魔化した。


ゴロー(次はよく冷まして食おう)


  ふー ふー… はぐ……


ゴロー(やっぱり旨い粥だ。久しぶりの味)


 細かくされたモロロが食べやすい。

 そう言えばこのお粥、俺がヤマユラで最初に食べたマトモな食事だ。


ゴロー(あえての原点回帰。これこれ)ズズズ…


 何が『これ』かは気にしない。


 粥を食べ終えたので、カリンカを摘まむ。


ゴロー「ん〜 ハチミツと果物の甘さ、顔が笑っちゃうぞ」


 いい感じに浸けられているから、どちらの甘みもわかる。


 壺に入っているから残してもいいのに、
 つい食べ過ぎてしまいそうだ。


ゴロー(食後のデザートには大大大正解)モグモグ

641 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/20(月) 23:41:52.56 ID:1H1EdaCSO

ドリィ・グラァ「「……あ、これ週トゥスだ」」


 俺の机の上を二人に見られてしまった。


ゴロー「読んだ事があるのか?」

ドリィ「僕は弓衆の部下から教えて貰いました」

グラァ「僕はドリィから借りて見ました」

ゴロー「結構口コミで広がってきたなぁ、書いてる身としてはありがたい」

ドリィ・グラァ「「大兄者様が書いてたんですか!?」」

ゴロー「あ、ああ……」

ドリィ「あーあ、外れちゃったか〜」   グラァ「僕もだよ〜」

ゴロー「どういう事だ?」

グラァ「これって、城の事を細かく書いていますから……」

ドリィ「誰が週トゥスの記者なんだろうなって」

ゴロー「……ああ、賭けに使ってたのか」

ドリィ・グラァ「「ハイ……」」


ドリィ「兄者様の記事が多いからベナウィ様だと思ったのに」

    (いつもの嫌がらせの延長かな〜と。大穴で)


グラァ「こっちは女性の皆さんの共作に賭けてました」

    「大兄者様はよく外に出歩くから違うと思ったのに」


ゴロー(……俺、影薄いのかな)

グラァ「あ、でも当ててた人はいたような……」

ドリィ「誰だったっけ?」


 ―(当てた人達)―

カルラ「あんな変わった事をするのは、ゴローですわね」グイ…

    「当たれば酒・肴を他の兵士から頂けちゃいますわ〜」



カミュ「多分これを書いてるの、ゴローおじさまだよね〜」

ウルト「カミュー、ちょっとフミルィルと遊んであげて頂戴」

カミュ「ハーイ」

642 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/20(月) 23:45:03.83 ID:1H1EdaCSO
 ――

ゴロー「ふーん……」

ドリィ「いいなあ、僕も何か書いてみたいなあ」

グラァ「大兄者様ぁ、僕達にも記事を書かせてもらえませんか?」

ゴロー(……条件としては悪くない二人だ)

 女官さん達とも仲が良い、諜報活動は俺より得意。

 ここは……


ゴロー「そうだな、俺が居なくなったら二人に任せようか」


 このへんが落とし所だろう。


ドリィ・グラァ「「やったぁ! ありがとうございます!」」

ゴロー(居なくなる事があるのかどうかわからないが)


……この二人が『週トゥス』担当記者になるのは、そう遠い話ではない。

しかしこの二人が担当後、『週トゥス』はハクオロ皇の目に止まり、


ハクオロ「なんだこれはぁぁぁぁ!!!」

ベナウィ「週トゥスですね。知ってはいましたが敢えて放置していました」

ハクオロ「違う! 流石にこれはいかんですよ!!」バッ

ベナウィ「……か、官能小咄。しかも男同士の……」


これがキッカケとなり、廃止されてしまう。

以後は記者も変わり、単なる城内用の瓦版になったが……

彼ら双子はコネや経験を生かし、
男性同士の禁じられた恋愛を描いた雑誌を創刊。

トゥスクルに留まらず、多くの國の女性達に夢(?)を与えたという。


ユズハ「人類は衰退しま…………」

アルルゥ「ん? ユズちー、どした?」

ユズハ「いえ、なんでもないです……」

    (今のはなんだったんでしょう?)




  『ここはどこです?』   『まちがえたみたいですな』
  『ふたりともこえがにてるせい』  『いろいろまぎらわしいです』

643 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/08/20(月) 23:46:56.31 ID:TE0TJ79lo
同類誌w
644 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/20(月) 23:49:28.95 ID:1H1EdaCSO
 ――――

ゴロー「うーん……」


 部屋の中にずっといるのも退屈なので、少し散歩をする。


ゴロー「やっぱり元シケリペチムに行こうか……」


 あの消えた男とか、店の事が気になるしなぁ。


ゴロー「……おや、何か聴こえる」


  『♪〜…♪……』


 唄、だと思う。
 おそらく子守唄。


ゴロー(ウルトリィさんの部屋からだ)カツカツ


 あのフミルィルちゃんに歌っているのだろう。

 彼女の部屋の前に行くと……


ゴロー(……) 

ハクオロ(……)


 この皇は仕事をしているのだろうか。いやしていない。


ゴロー「入らないのか?」

ハクオロ「今はちょっとな…… 目のやり場に困るから一度出たんだ」

     (母乳が出ないのにしゃぶらせていたとは……)


ハクオロ「わ、私はちゃんと入室許可を取っていたんだ。
      あの赤子にだって『パーパ』と呼ばれて……」


ゴロー(……ならウルトリィさんは『マーマ』だ)


 本格的に疑似家族になりつつある。


ゴロー「あの問題に首を突っ込んだほうがいい」

ハクオロ「……そう思うか」

ゴロー「……いずれは引き離すんだ」

ハクオロ「そう……ガッ!?」


   チリーン……



ゴロー「ハクオロ?」

ハクオロ「……あ、いやなんでもない。只の立ち眩みだ」

     「あの両家の件に介入するよう、ベナウィに言っておく」スタスタ…


ゴロー「……?」
645 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/20(月) 23:52:33.14 ID:1H1EdaCSO
 ――――

数日後、ハクオロ皇の書斎。


ハクオロ「ご苦労だった。ベナウィ」

ベナウィ「はっ。明日にでもアトゥ族とヤタム族、両家は出頭するでしょう」ザッ

エルルゥ「あの…フミルィルちゃんの両親の話ですか?」

ハクオロ「そうだ。ベナウィ達が出頭の口状を突きつけに……な」

クロウ「いや〜 凄かったですぜ。一族の頭が涙と鼻水垂らして土下座しやした」

ベナウィ「些かやり過ぎだったかもしれません。まさか命乞いまで……」

ハクオロ「待て、私はあの赤子が両親と暮らせるように威圧するだけでいいと……」

     「そうか、カルラか…… 先回りして脅しをかけたな……」


四人の会話が途切れた直後……
噂の女が鉄鎖の擦れる音をさせながら、書斎を訪れる。


カルラ「……あるじ様、予想通りになりましたわ」

ハクオロ「……ウルトとあの児がいなくなったか」

エルルゥ「そ、それって……『予想通り』ってどういう」

ハクオロ「そのままだ。ウルトがフミルィルを連れて逃げる事を予想していた」

エルルゥ「え――」

ハクオロ「ベナウィ、クロウ。行くぞ」スタ


ベナウィ「ははっ」ザッ   クロウ「ういっス」ガタ


カルラ「……」スタスタ…

エルルゥ「み、皆さ――」


ハクオロ「大丈夫だ。きっとウルトもわかってくれる」

エルルゥ「…………」


ハクオロ「あの聡明なウルトが…… これ程身を焦がすとは」

     「情愛とは…… 母とは美しくも悲しいものなのだな」

646 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/20(月) 23:54:42.09 ID:1H1EdaCSO
 ――

夜月の光を受け、羽ばたく白の翼は煌めいていた。


「ハァ、ハァ、ハァ…… ここまで来れば……」


山の中、少しだけ拓けた平原のような場で彼女は息を整える。


赤子「スースー…」スヤスヤ

ウルト「フミルィル…… 」ギュッ

    「大丈夫ですよ…… あなたはマーマが守ります……」


彼女は児の母ではない。
だが、それ以上に愛を注いだ。

この付近に『結界』、即ち内と外を隔てる力……
それがかけられていたのに気付かぬほど。


 「勝手な言草だな」


やせぎすの男――『オボロ』が言い放つ。
彼にとってウルトリィの追跡が復活して最初の仕事だった。


ウルト「ハッ―――!? この気配、結界!」


オボロ「気付くのが遅かったな。アンタは同じ山道を回っていただけだ」

    「……愛は盲目か。アンタほどの女が……な」


トウカ「ウルトリィ殿、大人しくなさって下さいませ……」ザッ

647 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/20(月) 23:58:38.92 ID:1H1EdaCSO

ウルト「ううっ…あ…」タッ


オボロ・トウカに背を向け、逃げる――


ドリィ「申し訳ありません」ザザッ

グラァ「ここから先はお通しできません」ザザッ


――双子に阻まれた。


ウルト「左……」クルッ


ベナウィ「……」

クロウ「こっちも通行止めですぜ」


――騎兵達に阻まれた。


ウルト「なら右……」クルリ


カルラ「ウルト……」

エルルゥ「ウルトリィ様……」


――友に阻まれた。


ウルト「かくなる上は…… 空!」バサッ


カミュ「お姉様…… ダメだよ、こんな……」バサバサ


ウルト「カミュ!! これも無理……」


――妹に阻まれた。


ウルト「どうして……」

    「どうしてそっとしておいてくれないのですか……」


ウルト「わたくしは…この子と静かに暮らしたいだけなのに……」


オボロ「……兄者の命令だ」


ウルト「な―― そんな、嘘…… あの方がそんな――」

    「ハクオロ様もこの子を愛して下さってます!」


ウルト「それなのに…そんな事を言うはずがありません!」


滅多に大声を出さないウルトリィ、
その彼女の悲鳴に似た叫びは『男達』に届く。
648 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/21(火) 00:02:28.40 ID:oigxcvKSO

ゴロー「ウルトリィさん、ハクオロにはあいつなりの考えがあるんです」


双子のいる方角から『ゴロー』が対峙する。


ウルト「嘘です! 嘘です!! 嘘です!!!」


 「ウルト、本当だ」


オボロ・トウカの居る方角から――


ウルト「あ―― ハクオロ様――」


ハクオロ「……追いかけっこは終わりだ」


『ハクオロ』が彼女に向き合った。


カルラ「いつまで駄々っ子してますの、ウルト」


ウルト「…………」ガクリ


カルラ「さぁ、その子を……」スッ



  『渡さなイ……』



その声は『叫び』や『慟哭』。


  『コの子ハ渡さナい!!!』カァァッ!!


一同「「「!!!」」」


カルラ「……くッ!」ザザァッ!


衝撃波の直撃を受け、包囲の輪から外れるカルラ。

空気が異常に振動する中で、ウルトリィは……


ウルト『…………』ゴゴゴゴ…


ゴロー(天使の…輪?)


オンカミヤリューの真の力が解放された――


ウルト『だれ……』

    『ワタクシからこの子を奪ウのハ……ダレ!!!』


ハクオロ「ウルト…ッ!」


 あれは…愛ゆえに憎悪を剥き出しにする禍日神のようだ……


ゴロー(こ、怖い……)

649 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/21(火) 00:04:49.27 ID:oigxcvKSO

ウルト『邪魔ヲ……しなイデ!!!』キィィィィッ!!


 ゴゴゴゴ…ゴゴゴゴ…


大地が震え、亀裂が走る。
その裂け目から爪のような石柱が何本か飛び出した。

カミュ「お姉様っ! それは使っちゃ――」



ウルト『――――封印(リィヤーク)!!!』



  キュイイン… ズオン!!



ハクオロ「ぐああっ!?」  エルルゥ「きゃあああっ!!」

オボロ「ぐほぉぉっ!」  ドリィ・グラァ「「わぁぁぁッ!」」

ベナウィ「ぐうっ…」  クロウ「な、なんでぇこの力は…」

トウカ「か、身体が地に叩きつけ…」  カミュ「お、おねえ……」


ゴロー「く、……引力を強めている……のか?」


 こんな…法術って何でもありなのか……


ウルト『…………』ゴゴゴゴ


カルラ「ふふっ… ふふふふふふふふふふふふふふふふふふ……」

    「あははははははははははははははははははははは!!」


カルラ「だからあなたって大好き。とっても素敵ですわよ」ニヤリ

    「さぁ! 初めましょう!!!」ダッ!



ウルト『ハァァァァッ!!』  カルラ「ヤァァァァッ!!」


 ブオン! バゴォン! ズガッ キィィ… 


術と刀が衝突し、破壊を繰り返す。
650 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/21(火) 00:07:22.03 ID:oigxcvKSO

ゴロー「な、なんとか止めて……」ギギッ


ハクオロ「な、グッ! 頭が……」ギギギギッ


  コエが……



  『カエシテ……』  やめろ…



  『カエシテ… ワタシノ……』  やめロ…



  『カエシテ… ワタシタチノ……』  やメロ……





ハクオロ『ヤメロッ!!』

ウルト『――ッ!?』  カルラ「――ッ!?」



ハクオロ『静マレ……』




ウルト「はっ―― わ、わたくしは……」

エルルゥ「痛た… 元に戻ってくれました……」

カミュ「イチチ、よ、良かった〜 あのままじゃ…」

オボロ「」ピクピク  ドリィ・グラァ「「若様ぁぁ!!」」

ベナウィ「これがオンカミヤリュー。敵にしたくはありませんね」

クロウ「おーおー、派手に暴れたねぇ」

トウカ「くきゅ〜」ピヨピヨ


ウルト「ああ、こんな……」ヨロッ

    フラッ…


ハクオロ「ウルト!」ズザッ!


カルラ「つい…調子にのってしまいまし…わ」ハァハァ

ゴロー「なんて人達ですか……」


第十八話「カルラVSウルト」

 続く。
651 : ◆M6R0eWkIpk [saga]:2012/08/21(火) 00:16:59.27 ID:oigxcvKSO
投下終了。>>626から投下分。

この後、フミルィルは無事に両親の元に帰りました。
ウルトさんは思いきりハクオロさんの胸で泣いた後日、
孤児院の運営をさせてくれと頼みます。

イベント的にゴローちゃんが間に入る意味無いので省略。

本日のネタゲストは『人類は衰退しました』から。



さて……待たせたな! 全国のシャクコポルファン達!
次回からいよいよクンネカムン編だぁ!!

クンネカムン勢のLOVEなせいで文量が多くなっちったァァ!!

では失礼します。
652 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/21(火) 00:26:22.23 ID:+fjHJNzr0
煙管屋のうさ耳ちゃんはなにしてんの?
653 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/21(火) 01:54:21.46 ID:F1iIRYMIO
多分ゴローちゃんの子供育ててるよ。
味噌の村の娘と同じで。
654 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/21(火) 03:05:53.25 ID:QATTkjgN0
煙管屋のうさちゃんの参考画像頼む
655 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/21(火) 08:32:27.26 ID:zci9nocSO
656 : ◆M6R0eWkIpk [saga sage]:2012/08/23(木) 21:22:10.54 ID:eyoNbPjSO

第十九話 「邂逅」


 〜 クンネカムン皇城『開陽殿』〜


三大強國『クンネカムン』。
この國はシャクコポル族のみで形成された単一種族國。

その皇城内・禁裏にて、一人の少女が御付に髪を結われている。
薄い金色の長髪と碧色の瞳を有する少女……

彼女がクンネカムン皇『アムルリネウルカ・クーヤ』その人だ。


クーヤ「うむ…… ここのところ会っていなかったし、
     もう戦の処理も大半終えたろう。今日あたりトゥスクルへ赴くか」


?@「クーヤ様はあちらに度々行きますね」スッスッ


髪を結うのは、クーヤより少し歳上といった程度の少女。

桃色に近い茶の長髪が、着ている紺色の服に不思議と合う。


クーヤ「良いではないか。余も皇としては若輩、ハクオロから学ぶ事は多いのだ」

    「あの者は面白いぞ。何せあのオンカミヤムカイの……」


?@「はい、長〜い説法の途中で船を漕いでいたんですよね。
    クーヤ様ったら、そのお話は何回も聞きましたよ」クスリ


皇に向かってこのような口調を……と思われるかもしれない。
しかし、こう見えて彼女はクーヤに長く仕えた御付。

ある種の姉妹に近い関係性なのかもしれない。

657 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/23(木) 21:25:06.14 ID:eyoNbPjSO

クーヤ「むぅ、余に語らせてくれないか。『サクヤ』は意地が悪いぞ」ムスッ


サクヤ「ご、ご免なさい…… はい、結い終わりましたっと」キュッ


クーヤ「うむ。素直に謝る臣下に、余は寛大である」エッヘン

    「そうだ。話は変わるが……
     サクヤ、あのシケリペチムから来た娘は知っておるな?」


サクヤ「ああ、おじい……大老(タゥロ)が連れてきたあの子ですか?」

    「今は私の補佐として、雑務を覚えて貰っています」


クーヤ「あの娘、以前『ゴロー』という者を気にかけていたろ?」

サクヤ「はい。恩人みたいな方らしいです」

クーヤ「それがな… 今日知ったのだが、その者はトゥスクルの城勤めだそうだ」

    「同胞を救って貰った礼を言いたいのでな。それで……」

サクヤ「『それでトゥスクルに〜』とか言って〜
     ハクオロ様に会いたいだけではありませんかぁ〜?」


クーヤ「サクヤ…… 戻ったら『くすぐりの刑』だ」


サクヤ「申し訳ありませんでしたぁ〜!!」



658 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/23(木) 21:29:06.27 ID:eyoNbPjSO
 ――――

そこから少し時が進み、トゥスクルに視点を戻す……

 〜 夜・湖のほとり 〜


ゴロー「よーし、いいぞー」スッ


カミュ「よっしゃ〜! 魔球・『カミュフォーク』!!」 ピシュッ!!


黒翼の少女から放たれるのは黒く禍々しい球体。


   ギュルルル…! パシンッ!!


それほど球威のない直球は、『落ちずに』捕手のゴローの手に収まる。


ハクオロ「待て待て待てぇい! フォークなら落ちるんじゃないのか!?」


長い棒を持ち、打者となったハクオロから指摘を受けると


カミュ「はっはっは〜 投げたカミュにもどう変化するか判らないのだぁ〜」

ゴロー「たまに俺も捕れないけどな」


このバッテリーはサラリとツッコミを流した。


ハクオロ「だったら普通の球を使いましょうよ!
      なんで禍日神を使ってるんですか?」


  ●<ギッギッ…


カミュ「おじ様はわかってないな〜 そのほうが楽しいからだよ」

ゴロー「そうそう」


ハクオロ「なんてワケの判らん遊びなんだ……」

     「だが… アルルゥの血を吸ってしまった事を少しでも…」ボソリ


ゴロー「ちゃんと仲直りもしたんだ、あとは子ども等に任せてやれ」ボソ

    「俺達にできるのは別の事でカミュちゃんを癒してやるってだけさ」

659 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/23(木) 21:32:42.06 ID:eyoNbPjSO

 《 回想・二日前 》


ハクオロ「アルルゥがカミュに噛まれた?」

エルルゥ「怪我は大したことないんですが……」


ウルト「カミュ……」


ゴロー「カミュちゃんがいなくなったというわけだ」

ハクオロ「手分けして探そう」ガタッ

アルルゥ「アルルゥも探す! ムックル・ガチャタラ! いくっ!」

   ダダダダ…


  …………

 カミュちゃんは倉の中で独り、泣いていた。
 ハクオロと俺は彼女に戻るよう説得する……


カミュ「やっぱり夢じゃなかったんだ…… おじ様達の血を吸った事……」

ハクオロ「……『達』?」

ゴロー「そう言えば俺も吸われたな」

ハクオロ「……早く言いましょうよ」

ゴロー「血を吸いたくなるのに何か理由があるのかい?」

カミュ「わかんない……」グスッ

    「やっぱりカミュ、皆と違うから……」


ゴロー「でも禍日神(ヌグィソムカミ)は俺も見える」

ハクオロ「あ、あの黒いヤツなら私も見えるぞ」

カミュ「ホント? ホントにホント? じゃあ…試すね……」

    「今、カミュの肩と足元にこの子達がいくついる?」


  ● ● ● ● ● ●<ギッ…ギッ…


ハクオロ「ああ。カミュの肩に二つ…… 足元に四つだ」


カミュ「おじ様も見えてる……」

    「でも……おじさま達はカミュみたいにならない……」

660 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/23(木) 21:36:48.83 ID:eyoNbPjSO

カミュ「カミュ、皆と違うからずっと独りぼっちだった」グズッ


    「だけど この國に来て、アルちゃんやユズっちとお友達になれて…」

    「でも……なのに、あんなコト……」


カミュ「始祖様の黒い翼…… カミュ、こんな…こんなのいらない……」

    「カミュはお姉様みたいな真っ白くて暖かい翼がいい!!」


カミュ「それなら、きっとあんなコトしなかったよ!」

    「あんなコトして、アルちゃんに嫌われちゃった……」


カミュ「ヤダよ…… アルちゃん、ユズっち…… 皆に嫌われたくない!」

    「ホントの…初めての友達なの!!」


 明るく無邪気な少女の、暗い影が垣間見えた気がする。


ハクオロ「カミュ、自分を追い詰め…… 何?」


   ポフポフ…


カミュ「…………え?」

ゴロー「暖かいと思うけどな。カミュちゃんの翼も」ポフポフ


 ちょっと失礼だけど、黒い翼を撫でてやる。

カミュ「あ……」

ゴロー「カミュちゃんの気持ちはわかるようで…… わからない」

    「だけどちょっと違ってるくらいは大したことじゃない」


カミュ「え?」


ゴロー「俺なんて城で一番着てる服(スーツ)は皆と違う……
     なのにお城の人達は気にしないぞ」

    「耳はフサフサしてないし、尻尾だってない」


カミュ「それは……ちょっと違うような……」


ゴロー「そんなに違うかい? 俺やハクオロのほうがよっぽど変だぞ」

ハクオロ「ははっ、確かにそうだな。私達のほうが変わってる」

     「だからカミュが何であれ、私達は気にしない。アルルゥもそうだ」
661 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/23(木) 21:40:43.16 ID:eyoNbPjSO

ハクオロ「アルルゥはな、カミュの事を一生懸命探している」

     「嫌いになった相手をあんなに必死に探したりはしない」


ハクオロ「だから、気にするな。何も心配ない」


カミュ「…………」


  カタン…


 倉の入口から音がした。


アルルゥ「…カミュち〜?」


ハクオロ・ゴロー((アルルゥ……))


カミュ「ア……アルちゃん」


アルルゥ「みつけた〜」ピコピコ


 手を握ろうとするアルルゥ……


カミュ「!!」ビクッ


 一瞬驚いて振り払うカミュちゃん。

 アルルゥはじっと、見詰めて……


アルルゥ「……アルルゥのこと、キライ?」


カミュ「ち、違――」

アルルゥ「トモダチ……ちがう?」

カミュ「そ、そんな! トモダチだよ!!」

アルルゥ「んふ〜 トモダチっ」ギュッ ニコッ

ゴロー(優しい子じゃないか)

カミュ「アルちゃん……」ウルッ



 「そう、皆お友達なんだからっ」



ハクオロ「エルルゥ、それにユズハ!」

エルルゥ「ねっ♪」

ユズハ「ユズハも…トモダチです……」


カミュ「エルルゥ姉様、ユズっち…… どうして」


ハクオロ「簡単さ。みんな、カミュの事が好きなんだ」

ゴロー「心配する事なんて無かったな」

エルルゥ「そうそう。大げさなんだから」ニコッ
662 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/23(木) 21:42:55.84 ID:eyoNbPjSO

ユズハ「カミュちゃん…… これ……」スッ


 ユズハちゃんは白黒の何かを渡した。


カミュ「これ……ムックルのぬいぐるみ……」

ユズハ「エルルゥさまとユズハと……他の皆さんも編んだぬいぐるみ…」

    「次はカミュちゃんとアルちゃんの番だよ……」ニコリ


 針を通し、ゆっくりゆっくり縫い進める二人。そして……


カミュ「…………」スッ  アルルゥ「ん〜〜 できた!」スッ


カミュ「……うっ」ジワリ


 出来上がったぬいぐるみを見て、翼の少女は――


カミュ「う…ぅ…うわぁぁぁぁぁぁん!!」ポロポロ


 ――大きな声で、泣き叫んだ。


アルルゥ「はり、ささった?」ナデナデ

カミュ「ひっく、ちが……うっううぅぅぅぅぅぅ……」ポロポロ

アルルゥ「いたいのとんでけ、いたいのとんでけ」ウルウル

ユズハ「泣かないで……」ポロ…

エルルゥ「う…う……」グスン

カミュ「うわぁぁぁぁぁぁん!! みんな、みんな……ぅぅぅぅぅぅ…」


ハクオロ(行こう)  ゴロー(そうだな)コクリ


 目だけで合図し、揃って倉を出たら……


ウルト「カミュ……あの子は、本当の友達と出会えたのですね」ウルウル…

オボロ「うおおお!!」ダバァー

クロウ「泣かせるじゃねぇかよぉぉ」グスン

ベナウィ「……」フキフキ

ドリィ・グラァ「「若様…泣きすぎですよ…」」ポロポロ

トウカ「……くぅぅぅぅ。素晴らしい友情でありまする!」ポロポロ

カルラ「ちょっぴり目尻が濡れましたわ」ウル


ハクオロ・ゴロー((全員盗み聞きか……))


 《 回想終了 》
663 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/23(木) 21:48:37.24 ID:eyoNbPjSO
 ――――

ハクオロ(……と、まぁそんな事がありまして。何故か『野球』をしている)

     (禍日神が見える私達が付き添って、
      特別という感覚を薄めるのが目的らしいが……)


ゴロー「そうだ、カミュちゃん。君はエースなんだ」

カミュ「よ〜し! 目指せ! 三振!!」ブンブン


ハクオロ(まったく気にしてないように見えるのは何故でしょうか……)


ハクオロ「かかってこぉ〜い!! (こうなればヤケだ!!)」


カミュ「いくぞ〜! 大リーグカミュボールニ号!!」ピシュ!


   シュルルル…


ハクオロ「大リーグボール二号…… 正しく変化するなら……」


   フッ!!


ハクオロ「消えたっ!?」ブンッ


  スパァン!


ゴロー「いい球〜! 打者ダメ〜!」

カミュ「ストライクだねっ♪ にひひっ♪」


ハクオロ(一号なら気合いで打てたかもしれんな…)


カミュ「これで決めるよ〜 おじ様覚悟っ♪」


ハクオロ「次は打つ!!!」グッ


カミュ「やぁぁぁっ!!」ピシュッ!!


ハクオロ「うおおおおおお!!」ググッ

     「なっ!」ガックン


 カミュちゃんの投げた球は……
 打つ気満々だったハクオロを『腰砕け』にした。


ハクオロ「な、ナニィ!! 『超遅球』だとおぉぉぉぉ!?」


カミュ・ゴロー「「秘球・『蝿止まり』!!」」


ゴロー(しかも、この球は普通の球だ。当てても飛ばない!)
664 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/23(木) 21:51:43.63 ID:eyoNbPjSO

   フワフワ… ポコッ!


ハクオロ「しまった!」

ゴロー「俺が取って…… 一塁! あ、しまった。いないよな……」ピシュ!


 ボール、誰もいない森に転々と……


カミュ「おじ様、今のはアウトだよ! 止まってよ!!」


ハクオロ「ハハハ! エラーだろうが当たりは当たり!」ダダダ…

     「このままランニングホームランにさせて貰う!!」ダダダ…


大人気なく、足で引かれた塁線を駆けるハクオロ。



 「ならば、殺させて頂きまする」



森から、声と同時に影が飛び出した……


ハクオロ「はぁ? ゲンジマルぅ!?」

ゲンジマル「先程の球、某の手の内に…… つまり……」スッ


二塁の位置についたゲンジマルは……


   ペシッ…


カミュ・ゴロー「「タッチアウト!!」」

ハクオロ「そ、そんな馬鹿な……」orz ガクリ


調子にのったハクオロを見事に殺したのだった。


ハクオロ「……ってゲンジマル! 何故ここに!?」

ゲンジマル「御迎えに参りました」ペコリ


表情を変えず、答える武人。


ハクオロ「ああ、わかった。すまないゴローさん、カミュ。二人は……」

ゲンジマル「いえ、本日は『ゴロー』殿も共にと」

ゴロー「えっと…… こちらのご立派な方は?」

ゲンジマル「……やはり」ボソリ


ゴロー「??」


ゲンジマル「……某『ゲンジマル』と申す武人(もののふ)に御座いまする」
665 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/23(木) 21:54:45.44 ID:eyoNbPjSO
 ――――


 カミュちゃんには先に帰って貰い、
 俺達は『ゲンジマル』の案内で森を進む。


ゴロー「お前がたまに夜いなくなってたのはこれか……」ザクザク

ハクオロ「まぁ、そういう事でな」ザクザク

ゴロー「こんなガタイのいい爺さんと何を……」


ゲンジマル「…………」ジッ


ゴロー「???」


 なんだか、あのゲンジマルさん。俺をチラチラ見ているな。


ゴロー「どうされました?」


ゲンジ「……昔の知人に似ておられましてな」


ゴロー「そうですか」


 ――――
 ――
666 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/23(木) 21:59:06.08 ID:eyoNbPjSO

クーヤ「遅い。待ちくたびれたぞ」

ゲンジマル「申し訳ありませぬ」ペコリ


 森を抜けると、凛とした白服の人物があの武人を叱りつけた。
 身体は小柄、外套を被っているせいで顔や性別がわからない。


ゴロー(姿を隠す…… どこかの豪族か何かなのか?)


 もう少しじっくり見てみよう。


ゴロー(着ている服は良い造りで、耳が……あれはあの娘さんと同じだ)

ハクオロ「クーヤ、紹介しよう。この人は……」


クーヤ「よい、既に調べさせた。其方(そなた)、『ゴロー』と言うのだろう」


ゴロー(……尊大な態度だな。女の子みたいな声なのに)


クーヤ「……? どうした、何も言わぬのか?」


ゴロー「クーヤ? ……でいいのか? この失礼な人の名前は」

ハクオロ「ゴ、ゴローさん! こちらは……」


クーヤ「礼を失したつもりはない」

    「ハクオロの友と言うから如何な男かと楽しみにしていたが……
     期待したほどの者ではないのかもしれぬ」


ゴロー(態度が腹立つ……)


 何様のつもりなんだ? どこかの皇(オゥルォ)だって言うのか?


クーヤ「余はクンネカムン皇、アムルリネウルカ・クーヤだ」


ゴロー「」ブッ


 本当に皇様だった。
667 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/23(木) 22:01:43.76 ID:eyoNbPjSO

ゴロー「クンネカムン、この國の西にある三大強國の一つ……でしたか」


クーヤ「いかにも。クンネカムンは余の愛する國」


ゴロー「……失礼いたしました」ペコリ

ハクオロ「私からも謝罪する。すまないクーヤ」

クーヤ「構わぬ。ゴローよ、余は其方に礼を言いに来たのだしな」


ゴロー「礼?」


 どういう事だ、俺はそんな所に行った覚えはないぞ。


クーヤ「以前、我等と同じシャクコポルの娘と語った事があろ?」

ゴロー「はい、旧シケリペチムの羅宇屋で働いていた女の子と」


クーヤ「そう、その娘だ。今その者はクンネカムンに戻っている」

    「もしあの時、其方が都を救わなければ……
     あの娘や他の同胞らの命はなかったかもしれぬ」


クーヤ「故に皇として一度其方に会い、礼を言いたかった」

    「ゴロー。我等の同胞を救ってくれた事、感謝する」ペコリ


 なんだ。この人、喋り方が偉そうなだけなんだ。


ゴロー「いえ、こちらこそ先程は失礼いたしました」ペコリ

ハクオロ(やれやれ、これで大丈夫そうだな)


 …………
 ……
668 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/23(木) 22:04:44.79 ID:eyoNbPjSO
 …………

 俺達三人はのんびり話をする事となった。

 この小さな皇様は様々な事を聞きたがるし、喋りたがるらしい。


クーヤ「なんと! 其方も我等が大神『オンヴィタイカヤン』を知らぬのか!」

ゴロー「なんですか? その……」


クーヤ「オンヴィタイカヤンは我等を創造せし、真の大神(オンカミ)」

    「社を建てる際にオンカミヤムカイの歪曲した説法を聞いておらぬのか?」


ゴロー「……あの時は」


 《 回想 》


ウルト「…………」ブツブツ

ハクオロ「ZZZZ…」


ゴロー(今朝は魚を食べたから… 昼は肉かな)

    (あ、だけど夜が肉になるかもしれないし……)

    (エルルゥさんに夜の献立を聞いてから昼を考えようか……)

    (うーん、何にしよう。心が宙ぶらりん)


 《 回想終了 》


ゴロー「昼食の事を考えていて、話は聞いてませんでした」

ハクオロ「ゴローさん、貴方も聞いてなかったんですね……」

クーヤ「……其方達は余を笑い殺すつもりだな」クスクス


 そんなに笑わなくてもいいじゃないか。

669 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/23(木) 22:06:20.59 ID:eyoNbPjSO

ゴロー「あれ? じゃあ『ウィツァルネミテア』ってのはなんなんだ?」


クーヤ「……ハクオロにも言ったが、余の前でその禍日神の名を口にするでない」


 一瞬、空気が変わった。


クーヤ「ウィツァルネミテアはオンヴィタイカヤンを滅ぼし、
     桃源郷(らくえん)を壊し、餓えや争いといった負をもたらした神なのだ」


ゴロー(……宗教的な争いがあるのか)


 一神教なのかと思ってたけど、違うらしい。
 桃源郷とか、宗教的な話はよくわからない。

 それに…こういう話を聞いていると……


   グウ〜……


ゴロー「……小腹が空いてくるんだよなァ」


ハクオロ・クーヤ「「……ふふっ」」


ハクオロ「クーヤ、この話は止めて夜食を取らないか」

クーヤ「うむ、余も少々空腹を感じておった」


 話がわかる皇様達で良かった。


ゴロー「そうそう。試しに作って貰った物が完成したんだ」ゴソゴソ


 いい機会だ。他の人にも試食してもらおう。


ゴロー「これは『サンドイッチ』という食べ物でございます」

670 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/23(木) 22:11:46.79 ID:eyoNbPjSO

 【鳥肉と魚のサンドイッチ】


【パン】モロロを挽くと麦のような性質になる事に気づいたゴロー、
     ならばパンも…と思い、試行錯誤の末に完成形となった。

【鳥肉】家畜の鳥を甘めのタレにつけて焼いたもの。『焼鳥』が一番近い。

【魚】こちらは保存されていた魚。身を細かくしておきました。

【マヨネーズ】卵黄・酢・塩など、材料があったので作らせてみた。
        乳化に苦労したがなんとか完成。量産できないのが欠点。


ゴロー「よろしければ……どうぞ」


ハクオロ「お、なかなか旨そうだ」パクッ

     「これは… 初めて食べる味だ!」


クーヤ「……毒はないようだ。ゲンジマル、良いな」

ゲンジマル「……」コクリ


ゴロー(毒味か、意識してなかったぞ)


 普通の皇なら注意するはずだよな。


ハクオロ「う〜ん、魚もウマイ」ムシャムシャ


 こいつは普通じゃなかったか。


クーヤ「……あっ、そうだった」

ゴロー「ああ、外套(アペリュ)が邪魔ですね」


 着けたままでは食えないよな。


クーヤ「まぁ、よかろう。ハクオロには幾度も見せている」スッ パサッ


 ……白い外套から、可愛らしい女の子の顔が。


クーヤ「ふ〜… 夜風が心地よい。どうした、ゴロー?」

ハクオロ「ああ、すまん。クーヤが女性である事を言い忘れていた」

ゴロー(……この男、外でも女をたぶらかしてたのか)


 女の子っぽい声だったのも当たり前だ。
 なんせ正真正銘、女の子なんだから。
671 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/23(木) 22:15:14.83 ID:eyoNbPjSO

ゴロー(……こんな子が皇(オゥルォ))


クーヤ「無理もない。このような小娘が皇だとは思わぬのが普通だろう」

    「だが…おっと、先に食事をいただこう。話は後に……」パクッ


ゴロー(さて、お口に合うか……)


 小さく警戒するような一口、それが……


クーヤ「…………これは美味である!!」モキュッ


 嬉しそうな笑顔に変わった。
 彼女は再びサンドイッチをかじる。


クーヤ「この肉と絡められたタレ、肉を挟む変わった物にも合う……」

  むしゃ はぐっ

クーヤ「甘くて濃厚、味付けも余の好みぞ」

    「肉があっさりとした鳥ゆえか、タレが濃くともくどさを感じぬ」


 焼肉ダレの副産物だったけど、喜んで貰えてなにより。

クーヤ「どれ、こちらの白いタレで和えられたほうは……」パクン


   もきゅもきゅ…


クーヤ「こ、これは知らぬ味…… しかし、良いぞ」


ゴロー(マヨネーズは知らないだろう)


クーヤ「魚肉だというのに、パサつきがなくまろやかだ。……真に魚かと疑うほど」


  もきゅもきゅもきゅもきゅ……


ハクオロ(両手で掴んで食べる様が可愛いなぁ)


クーヤ「其方の國にこれほど美味な食物があるとは……」

    「ゴロー。この白いタレ、名はなんというのだ?」


ゴロー「マヨネーズと言うものでございます」


クーヤ「ううむ……実に……良い」モキュ
672 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/23(木) 22:18:14.00 ID:eyoNbPjSO

ゴロー「クーヤ様、マヨネーズは鳥のタレとも合います」


 持ってきていたマヨネーズの小瓶を渡す。


ゴロー「こちらの匙を使って、瓶から取り出して下さい」


 ちなみに匙は木製だ。


クーヤ「なにっ! よし、鳥肉に『まよねーず』を…」

  ぺたぺた…


クーヤ「…………おお!」モキュ!

    「おおお! なんと、不可思議な味なのだ!!」


クーヤ「『まよねーず』のまろやかさ、甘いタレ。双方が仲良く和を醸し出す!」

    「まったく、其方は素晴らしい!」


  もきゅもきゅもきゅもきゅ……


クーヤ「今この時、其方は二つのタレを用いて二人の皇を喜ばせたぞ!」

ハクオロ「クーヤ、唇に『まよねーず』がついている」

クーヤ「う? そ、そうか。つい浮かれてしまった」ペロッ

    「むむ… この『まよねーず』、作り方を教えて欲しいものだが……」


クーヤ「だが、これだけの物。他の國に教えるわけにはいかんか……」ガックリ

ハクオロ「それは……」チラリ

ゴロー「いいですよ」

クーヤ「!! 良いのか!!」パァァ


 小動物的な可愛らしさだな。

 兎みたいな耳といい、なんとなく撫でたい。


ゴロー「あ、でも撹拌が大変かもしれません」

クーヤ「撹拌とは?」

ゴロー「それは……」


 説明をする。言ってしまえば簡単なのだが、やるのがキツイ。


クーヤ「むむ…… 我等の非力な腕で作れるだろうか……」

ゴロー「できるとは思います」

クーヤ「いっそ『アヴ・カムゥ』を…… いや、あれは我等が授かりし力……」


 知らない言葉が出てきたぞ。
673 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/23(木) 22:21:22.15 ID:eyoNbPjSO

ハクオロ「クーヤ、『アヴ・カムゥ』とはなんだ?」

クーヤ「おお、アヴ・カムゥは……」


ゲンジマル「聖上、御時間に御座いまする」ザッ


 爺さんに途中で話を遮られてしまう。


クーヤ「そうか、そんな時間か」

    「ではな、ハクオロ・ゴロー。次に来る時もゲンジマルを……」


ハクオロ「迎えに寄越すのだな」

ゴロー(いつの間にか俺も含まれている……)

クーヤ「ゴロー。次は其方の持つ『変わった装束』を見せてくれ」

ゴロー「は、はい。わかりました」


 多分スーツの事だろう。


クーヤ「うむ。ではな」ザザッ

ゲンジマル「…………」ペコリ


 森の奥に消える二人。


ゴロー「あ、俺サンドイッチ食ってない……」


ハクオロ「……(隠そう)」サッ


ゴロー(それにしてもクンネカムン…… くっ…)ズキッ



 またあの痛み。
 今度は――――



674 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/23(木) 22:23:52.73 ID:eyoNbPjSO






 『ゲンジマル、お前に友として頼みたい事がある』



『……クンネカムンを監視する事とは別の任と申されるか』



 『ああ。これは約束なんだ』



『“契約”ではなく“約束”で御座いますか』



 『どちらでもある…… 俺の起きている間だけでは時間が足りないんだ』パサリ

 『ゲンジ、この調理法を使ってあの地を――』



 …………途切れた。


ゴロー「がっ……」


ハクオロ「ゴローさん! まだ体調が……」

ゴロー「いや、問題はない。本当に一瞬なんだ」


 ゲンジマル? 過去の俺はあの武士を知っていた?


ゴロー(今のは……)


ハクオロ「やはり、貴方はしばらく休んでくれ……」

675 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/23(木) 22:27:41.18 ID:eyoNbPjSO
 ――――

 三日ほど経った夜。

 俺達は再びあの皇に呼び出されていた。


ゲンジマル「…………」

ゴロー「……ゲンジマルさん」


 ハクオロ達を二人きりにし、俺はこの武人と対峙する。


ゴロー「貴方は…俺の事を知っていますか」

ゲンジマル「…………」


 答えない。


ゴロー「貴方と俺、何があったんですか」

ゲンジマル「…………」


 答えない。


ゴロー「何も言わない、いや…… 『言えない』んですか」

ゲンジマル「…………この場では語れませぬ」


 ……ならば。


ゴロー「……『クンネカムン』に行けば答えられると?」

ゲンジマル「…………」


 彼の目が『そうだ』と答えた。


ゴロー「……それしかないか」フゥ


ゲンジマル「来られるならば……覚悟されよ」クルッ


 そう言うと彼は俺に背を向け、トゥスクルの城の方角へ消えた。



 …………覚悟か。


ゴロー「…………」


 スーツに着替えよう。


676 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/23(木) 22:30:23.55 ID:eyoNbPjSO
 …………

 語り合う二人の所に向かう。


クーヤ「……其方の『室』にと思ったのだがな」

ハクオロ「ブフォッ! か、勝手に話を――」


 女の子相手に何て話をしてやがる。

 そっと近づいて腕がらめ。


ハクオロ「あだだだだだッ!!!」

クーヤ「おお、ゴロー…… な!?」

ゴロー「どうなさいました?」


 クーヤ様の顔が驚きをあらわに……


クーヤ「ゴロー! 其方は……我等と同じ『クンネイェタイ』だったのか!」


 な、何て言った?


ゴロー「クンネイェタイ?」

クーヤ「惚けるでない! その装束、我等の歴史書にあった!」


ハクオロ「何!?」

ゴロー「この『スーツ』がか?」

クーヤ「そう。其方の服は歴史書に記されていた物に違いない!」

ゴロー「それでその『クンネイェタイ』と言うのは……」


クーヤ「『忠実なる者(クンネイェタイ)』……
    『大いなる父(オンヴィタイカヤン)』の加護を受けし者。
     その装束こそ、其方が我等の同胞だという事を表している!」


ハクオロ「なら、ゴローさんはクンネカムンに関わりある人物だというのか?」

クーヤ「……ハクオロ、余は決めたぞ!」

ハクオロ「な、何をだい?」

クーヤ「この者、ゴローを余の國『クンネカムン』へ連れて行く!!」


ハクオロ「は……はぁぁぁぁぁぁぁ!?」


クーヤ「良いであろ? 頼む! 余の願いを聞いてはくれぬか?」ジッ ウルウル


ハクオロ(う、上目遣いに涙目だと……)

     (な、何かに目覚めそうだ……)
677 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/23(木) 22:33:12.62 ID:eyoNbPjSO

クーヤ「ハクオロぉ…」ジッ

ハクオロ「く、ゴ、ゴローさんの意見を尊重しないと……」

     (きっと断るはず――――)



ゴロー「じゃあ行きましょう」


ハクオロ「――――は?」



クーヤ「よし! 良いなハクオロ!」

ハクオロ「……ええええええええええええ!?」

ゴロー「よろしくお願いします」ペコリ

クーヤ「うむ! 長い休暇と思ってくれればよいぞ!」

ゲンジマル「荷物をお持ち致しました」ザッ

ゴロー「あ、ありがとうございます」

ハクオロ「ちょっと待てぇぇぇぃ!!」

ゴロー「いや、いいじゃないか。長期休暇だ」

クーヤ「ゴローの意を尊重すると言ったではないか」ムッ

ハクオロ「私を置いて話が進み過ぎだろう!」

ゴロー「前に休めって言ったじゃないか。俺は療養しに行くんだ」

ハクオロ「な…………」


クーヤ「では出発だ! ハクオロ、失礼する!」

ゲンジマル「暫しお眠り下さいませ……」スッ

ハクオロ(な、一瞬で後ろに――)


   フワッ…

ゴロー「まあ、俺が眠らせるんだけどな」スッ

ハクオロ「しまった! 薬の染み込んだ布を――――」

ゴロー「他の皆には旅に出たと伝えてくれ」


ハクオロ「…………」ガク


ゲンジマル「ハクオロ皇は某が」スタッ


クーヤ「頼んだぞ。ではゴロー、我等は『アヴ・カムゥ』で」スタスタ

ゴロー「……悪いな、ハクオロ」


 ちょっと自分の記憶を探してくる。

 お前には多くの仲間がいる。俺がいなくてもなんとかなるだろ。


ゴロー「クンネカムンか…… 何が食えるかなァ」


第十九話「鳥肉と魚のサンドイッチ」

 続く!
678 : ◆M6R0eWkIpk [saga]:2012/08/23(木) 22:35:44.16 ID:eyoNbPjSO
急展開? そうでもないか。
今日の投下は>>656からです。

ではこれにて。
679 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/23(木) 22:44:09.31 ID:hi1kLKtt0
乙!
680 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/24(金) 02:00:02.90 ID:DXUKZX1DO

原作も急展開っちゃあそうだったしどってことあるまい
681 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/08/24(金) 06:18:33.48 ID:d4uE+kUCo
682 : ◆M6R0eWkIpk [saga sage]:2012/08/27(月) 19:07:04.30 ID:3S0mQLeSO

第二十話「皇」


ゴローがクンネカムン行きを決めた日の少し前。
トゥスクルより遠い、西の大國で――


チキナロ「がはっ!!」ドカッ!


商人…チキナロが投げ飛ばされていた。


?@「ふん、テメェの命より約束・信用とやらが大事なのか」

?A「カ、カンホルダリ様……」


投げ飛ばした男…『カンホルダリ』は


?@改めカンホルダリ「黙れ。テメェの意見なぞいらん」ギロリ


豪華な黄色の服に身を包んだ貧相な男を睨む。

彼自身は身体の動きを阻害するような派手な服装でなく、
上衣・下衣に濃緑のマントを身に着けているだけである。
背が高く、屈強な肉体を有する『戦う暴君』。

それが『カンホルダリ』だった。


?A改めポナホイ「そ、そのクンネカムンへの品をこちらに渡しなさい!」


不機嫌を自分に向けられては堪らないと、
貧相な男…『ポナホイ』は商人に『チャッカ織り』の着物を要求するが……


チキナロ「そ、それは…出来ません…です」

     「商人にとっ…て、約束は命より……大切に、御座います、ハイ…」


商人の誇り、それは自身の生命より重い。
チキナロは『商人』として、これだけは譲らない。


カンホルダリ「ちっ、そうかよ」クルリ

       「出ていけ」


チキナロ「し、失礼いたします…ハイ…」ヨロヨロ


  バタバタ…

683 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/27(月) 19:17:32.47 ID:3S0mQLeSO

ポナホイ「カンホルダリ様、よろしいのですか?」


カンホルダリ「あんな糞蟲どもの下がりなど、必要ない」


ポナホイ「そ、そうでございます! ささ、あちらに酒と女を……」



『カンホルダリ』と『ポナホイ』。
二人は皇(オゥルォ)である。

ポナホイは『エルムイ』という、クンネカムンと『ノセシェチカ』
二つの強國に挟まれた小國の皇。

カンホルダリは三大強國の一つ『ノセシェチカ』の皇。

エルムイはノセシェチカの属國のように扱われている――
この二人の皇を見ればわかるだろう。


カンホルダリ「糞蟲が……」


……シャクコポル族を嫌う部族の者は多い。

そんな者達は『穴人』とシャクコポルの民を呼び、蔑む。
奴隷……いや、それより酷く扱われる事もある。
カンホルダリのような考えを持つ者等は、
シャクコポル族が単一種族國を作った事を快く思ってはいない。


クンネカムンとノセシェチカ。
二國・部族の隔絶はこんな小さな事件に見られる程深かった……


 ――――
684 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/27(月) 19:21:47.11 ID:3S0mQLeSO

時は戻り、視点は再びトゥスクルへ……

 ――――
 ―――
 ――

 森の中、道無き道を進む俺達。


ゴロー(…………)


 俺はどうも子どもに好かれやすいようだ。
 アルルゥやらユズハちゃんやらカミュち… 『カミュ』やら……

 そんな調子でクンネカムンの皇様にも気に入られた。


クーヤ「♪〜♪〜」


 自慢気な顔と鼻歌。
 そろそろ『アヴ・カムゥ』のある場所に着くのだろう。

 俺達が進むにつれ、木々の不自然な傷跡がだんだん増えてきた。

 そして……


クーヤ「さあ、ゴローよ! 刮目せよ!!」

    「これが我等が授かりし力! 『アヴ・カムゥ』だ!!」


 こ、これは……


ゴロー「シケリペチムで見た巨大ロボット!?」


 片膝をついて主を待つように、その『アヴ・カムゥ』とやらはあった。

 あの日暮れ前のかすかな光でもわかった白銀の鎧兜。
 シケリペチムで見たのと全く同じものが俺の目の前に……


クーヤ「おお、そう言えばゴローもあの場に居ったのだったな」

    「余のアヴ・カムゥの勇姿を見たのであろ?」


ゴロー「あ、あれクーヤ様が動かしてたんですか?」


 この巨体を? この小さな少女が?


クーヤ「如何にも。アヴ・カムゥはシャクコポルの者しか動かせぬのだ」

ゴロー「これがクンネカムンの力か……」

685 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/27(月) 19:23:13.67 ID:3S0mQLeSO
ちょいと夕食タイム。 ついでに投下開始のお知らせ。
686 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/27(月) 20:32:11.70 ID:3S0mQLeSO

 國、しかも三大強國が出来たのだから…… この一体だけではないだろう。


ゴロー「クーヤ様、クンネカムンには何体このアヴ・カムゥがあるのですか?」

クーヤ「それは言えぬ。軍事機密というものだ」


 それもそうか。


クーヤ「ところでゴロー。その呼び方は止めてくれぬか?」

    「余の付のサクヤと被るのだ。出来れば他の呼び方をせんか?」


 他の呼び方でと言われても……


ゴロー「聖上?」

クーヤ「それもつまらん。他の者達と同じだ」


 呼び捨ては流石に不味いし……


ゴロー「…………」


 こういうセンスはないってのに……


クーヤ「……はぁ、もうよい。好きに呼べ」

ゴロー「……ならクーヤさんと呼びます」


 他の人がいる時は『クーヤ様』で。


クーヤ「捻りがないのう。まぁよい。 ……お、ゲンジマル」


 ハクオロを置きに行ったゲンジマルさんが帰ってきた。


ゲンジマル「聖上、急がねば明朝の政務に間に合いませぬ」ザッ

クーヤ「うむ。では」ザザッ…


 そう言うと、近くの木に登るクーヤさん。
 アヴ・カムゥの後頭部付近に華麗な着地をした。


ゴロー(身体が軽いというのは利点のようだ)
687 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/27(月) 20:34:28.35 ID:3S0mQLeSO

クーヤ「よっと……」ズブズブ


 泥みたいな…ゲルみたいな… ともかくそんな音をたてて、
 クーヤさんはアヴ・カムゥの中に消えていった。


白カムゥ(以下はクーヤ)『では二人とも、掌に乗れ』


 …………何?


ゲンジマル「聖上。某は兎も角、ゴロー殿に掌の上は無理でありましょうぞ」

クーヤ『そうなのか?』


 知らないのか……


ゴロー「森を突っ切るんですよね?」


 多分、木々を折りながら。


クーヤ『そうだ。しかも速いぞ! 朝にはクンネカムンに着く!』


 ……無理です。


ゴロー「ちょっと俺の身体じゃあ……」

クーヤ『軟弱者よのう。なら其方もここへ』


 ……あのゲルに?


クーヤ『ゲンジマル、ゴローを連れてくるのだ』

ゲンジマル「ははっ」ガシッ


 一瞬で俺は地から離され、ゲンジマルさんに『お姫様抱っこ』をされた。


ゴロー(男、しかもこんな爺さんにお姫様抱っこ……)


 女の人に簀巻きにされるほうがマシじゃないか……
688 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/27(月) 20:36:07.33 ID:3S0mQLeSO

 などと考えてたら、いつの間にかアヴ・カムゥの背中に入れられた。


ゴロー(……気持ち悪い感覚)ズブズブ


 だけど……『覚えがある』ような……


クーヤ「まったく、二人乗りとは初めてだぞ」フフッ


 この感触の事は後にしよう。


ゴロー「よろしくお願いします」ペコリ

クーヤ「よし、出発する」


  ゴゴゴゴゴ…


 揺れと共にあの巨体が動き出す。


クーヤ「この中に居ると、何もせずとも外が見れるぞ」

ゴロー(本当だ……)


 森を薙ぎ倒しながら、進んでいく感覚が少しある。
 外の景色も知覚出来るようだ……


ゴロー(……これ、ロボットじゃないのかもしれん)


 あの『生』の感触といい、ロボットというか…
 生体兵器のほうが正しい言葉のように思う。

689 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/27(月) 20:44:39.33 ID:3S0mQLeSO
 …………

 暫くすると……


クーヤ「ゴロー。其方はその服を何処で手に入れたのだ?」


 暇になった為か、彼女は唐突に質問してくる。

 そういや、さっきもこのスーツがどうとか言ってたな。


ゴロー「クーヤさんはこのスーツの事をどこで知ったのですか?」

クーヤ「ああ、我等の書に記述があったのだ」

    「何者が書いたのかは知らぬ。ただ今は亡き余の父の印が捺されていた」


クーヤ「我等の装束と異なる腰巻き、上衣、首巻き……」

    「それらを着けた者は我等と同じクンネイェタイと書かれておった」


 父親…… もういないのか。 きっと母親も……
 このコが皇になったのは、そういう事か……


ゴロー「…………」

クーヤ「……其方は見かけによらず優しいのだな」


 心を読まれた?


クーヤ「顔に出ておる」ニコッ

ゴロー(……気をつけよう)

 寂しい女の子。前にそんな――――


ゴロー「……ヌグッ!?」ズキッ!

クーヤ「ゴロー?」

690 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/27(月) 20:48:30.13 ID:3S0mQLeSO






 『……身体が復元されたそうだな』


 『…………あなたに言っても判らない』

 『身体を弄られ、“ジッケン”に使われる苦しみは……』


 『だいぶ抵抗したとも聞いたが』


 『当然。 ………………ねぇ、“マンガ”だっけ。また見せて』


 『……監視が強くなってるんじゃないのか?』


 『あんなの、簡単に誤魔化せる』


 『やれやれ、元気なお姫様だ。……“ドカベン”の続きでいいか?』ピッ


 『オジサマは変わってる……』


 『かつてあったデータを回収、復元している事がか?』


 『ううん、そうじゃな…… やっぱりなんでもない』

 『……この二人もオトウサマがいないんだね』


 『…………やっぱり寂しいか』





「おい! ゴロー! 起きよ!!」


ゴロー「く…クーヤさん……」


 夢うつつのような状態から覚醒する。


クーヤ「具合が悪いのだな! 待っておれ、もうすぐクンネカムンぞ!!」


  ズンズンズンズンズンズン…


ゴロー(……着くのか、クンネカムンに)

    (そして、俺の過去に……)

691 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/27(月) 20:53:34.01 ID:3S0mQLeSO
 ――――

ゴロー「クンネカムンか。それほどトゥスクルと違いがあるように思えない」


 “あの頭痛はたまにある事だ”
 医術士や薬師に診せようとするクーヤさんにそう説明し、
 誰にも邪魔されず、静かになれる部屋を用意してもらった。


ゴロー「ふぅ」フゥー


 窓付きの良い部屋をあてがわれた。
 ここなら部屋の中でも煙管が吸える。


ゴロー「あとは……あのゲンジマルさんの接触待ちなんだけど……」


 なんでも最近、近隣國に不穏な動きがあるらしい。

 ゲンジマルさんは國境周辺の集落まで様子を見に行くそうだ。

 俺の用事は後回し。
 そして一晩中起きていたせいで……


  グ〜〜…


ゴロー「何か食いたいなあ…… 胃にガッとさぁ」


 こんな時になら油タップリの中華料理もいけるだろうに。


 「失礼いたします」


 扉の向こうから可愛らしい声がした。


  スッ… ピシャン


サクヤ「は、初めまして、『サクヤ』と申します」ペコリ

ゴロー「これはご丁寧に。ゴローと申します」ペコリ


 このコがクーヤさんの御付か。

692 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/27(月) 20:59:37.71 ID:3S0mQLeSO

サクヤ「アムルリネウルカ・クーヤ様の命により、貴方様の……」ピタリ


 止まった?


サクヤ「……御世話で良いのかな? うんと…」ブツブツ


 うん。御世話で大丈夫。


ゴロー「とにかく貴女が私の身辺の事を担当する……と?」

サクヤ「は、はい! そうであります!」ビシッ

    「ご要望がございましたら、なんなりとあたし…じゃなくて
     じ、自分にお申し付け下さい!!」


サクヤ「クーヤ様から身を粉にしてお仕えせよと命……イタッ!」


 舌を噛んだ。


サクヤ「〜〜ッ!」ヒリヒリ


 ……なんだろう、先が不安になってきた。


ゴロー「と、とりあえず朝の食事をお願いできますか?」

サクヤ「ひゃ、ひゃい! 只今お持ちいたします!!」サッ スクッ


  スタスタスタ… コケッ!


サクヤ「キャッ! 危ない危ない… 転ばないですんで良かった〜」ホッ


ゴロー(……担当、変えて貰えないだろうか)
693 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/27(月) 21:04:49.19 ID:3S0mQLeSO
 ――――

ゴローの膳が用意されるまでの間、隣のエルムイを見てみよう。


カンホルダリ「気に入らん……」

ポナホイ「な、何がで御座いますか……」


カンホルダリ「ぬぅ?」ギロリ

ポナホイ「ひ、ひいっ!」

この伊達丈夫の機嫌は心底悪い。


カンホルダリ「俺様が気に入らないと言ったら、クンネカムンの糞蟲共の事だ」

ポナホイ「は、はい!」

カンホルダリ「あんな貧弱な糞蟲が、生意気にも皇を名乗る」

カンホルダリ「どんな汚え手を使ったか知らねえが……」

       「下衆で卑劣な方法に違いねえ」グビッグビッ…


早朝から酒をあおる暴君カンホルダリ。


カンホルダリ「テメェ、あの糞蟲共を皆殺しにしろ」

ポナホイ「は、はい?」

カンホルダリ「簡単だろう? ちょいと捻ればすぐ死ぬ糞蟲相手なんざぁ」

      「口答えは許さねえ。とっとと殺してこい」


ポナホイ「は、ハハァッ!」

カンホルダリ「俺はノセシェチカに戻る。手を抜くなよ」

ポナホイ「わ、わ、判りました!」タタッ


皇の部屋で一人……


カンホルダリ「気に入らん……」グビッ


カンホルダリは忌々しげに呟いた。

この三日後、エルムイはクンネカムンに侵攻を開始する……
694 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/27(月) 21:07:45.84 ID:3S0mQLeSO
 ――――





 〜 クンネカムン・謎の集落 〜


クンネカムンの東、海が近い集落にエヴェンクルガの武人の姿があった。


ゲンジマル「この地に、ゴロー殿を……」


國境ではない集落。何故この武人がこんな場所に居るのか……


ゲンジマル「……」カチャカチャ


村人達「「「ゲンジマル様、お帰りなさいませ」」」


鎧の擦れる音を響かせ、村や人々を見て歩くゲンジマル。

そして彼はこの集落の長の家へ入り、話をする。


ゲンジマル「近く、客人を連れて参る。故に準備を頼み申す」

村長「わかりました」

ゲンジマル「……」ペコリ


頭を下げる武人。


村長「……早かったですな。私の命のある内にこの時が来ようとは……」

ゲンジマル「…………」

村長「おそらく、今のあの御方はオンカミヤリュー」

   「前に、店が消えるところを目撃した者が居ります」


村長「その近くにオンカミヤリューがいたと……」

ゲンジマル「……オンカミヤリュー、確と聞きましたぞ」バッ


村長「ゲンジマル様、お気をつけ下され」

ゲンジマル「……我武者羅に歯向かう事は致しませぬ。そう、昔のようには……」

      「……長、貴方様の定食をまた頂きとう御座います」


村長「懐かしい。ですが私は引退した身、子らの店にお寄り下さい」

695 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/27(月) 21:09:41.34 ID:3S0mQLeSO
 ――――

 朝食を運んできたのは……


兎耳「お待たせしました」ペコリ


 シケリペチムで会ったあのコだった。


サクヤ「はい、ありがとう」ニコッ

ゴロー「お、久しぶりだね」

兎耳「あっ! ゴローさん!」パアッ

サクヤ「ゴロー様の知人と伺っておりましたので」ペコッ

ゴロー「わざわざ気遣いをありがとうございます。えっと…サクヤさん」

サクヤ「……『さん』付け。初めてかも……」

兎耳「私からは『サクヤ様』ですから」ヒソヒソ

ゴロー「ああ、成程」ヒソヒソ

兎耳「サクヤ様は素敵な方なんですよ。皇様とも仲良しですし」

   「たま〜にウッカリしちゃう時がありますけど」


ゴロー(……たまに?)

サクヤ「兎耳ちゃ〜ん、聞こえてますよぉ〜」

兎耳「ひゃっ!」ピクン

サクヤ「うりゃうりゃ♪ ここか、この口が悪い事を言うのかぁ〜?」

兎耳「サ、サクヤ様ぁ〜 くすぐったいです〜」クスクス


ゴロー(……良かった。あのコはもう大丈夫だな)


 前に会った時の暗い印象はすっかり鳴りを潜めている。

 だけど……


ゴロー「あのう、イチャつかないで貰えませんか……」


サクヤ・兎耳「「…………あ」」

696 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/27(月) 21:31:23.47 ID:3S0mQLeSO

 【開陽殿の朝食】

内容は小魚のあんかけ、緑菜のおひたし、豆腐、炒り卵。
汁と主食に大根(?)の味噌汁、モロロ。
量は多くないが、自然の味を活かした食事。



ゴロー(うーん、朝ごはんらしいっちゃらしいけど)


 ガツンと入れたい時の品ではないなぁ……


ゴロー(なんとなく、椀が小さいし……)


 ここの人って、あまり食べないのかな。
 でも今はその事以上に……


ゴロー(……気になる)チラリ

サクヤ「…………」ジイッ


 あの兎耳ちゃんは別の仕事の為、行ってしまった。
 サクヤさんは俺の部屋に居るんだが……

サクヤ「どうぞお召し上がり下さい」ジィッ


 そんなに見られてると食いにくい。


ゴロー「……食べたいんですか?」

サクヤ「い、いえ! そうではないんですが…アタシはかん……ハッ!」

ゴロー「かん?」


 かん、カン、監……


ゴロー「……監視役か」

サクヤ「あう〜…ど、どうしよう。おじいちゃんに怒られるぅ〜」

ゴロー「おじいちゃん?」

サクヤ「ご、ご免なさい! おじ……大老に貴方様の事を見ておけと言われて…」

ゴロー「できるだけ目を離すなと?」

サクヤ「ハ、ハイ」


 皇の客に監視をつけさせるお祖父さん……
 大老(タゥロ)という地位が高い人間で、歳を取っている……


ゴロー「もしかして、サクヤさんのお祖父さんはゲンジマルさんですか?」

サクヤ「はい……」コクリ


 ああ、あの人なら納得。なら監視は仕方ない。
697 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/27(月) 21:34:04.87 ID:3S0mQLeSO

ゴロー「……はぁ、まあいいか。いただきます」


 旅の時くらいは独りで飯を食いたかったけど…

 最初は汁からいただこうか。


  ずずう…


ゴロー(……うまい!!)

サクヤ(この人、いい表情してくれるなぁ〜)


  ずず… ずずう…


ゴロー(なんだこれ。味噌か、味噌が違うからか?)


 なんというか、俺に合ってる味噌汁だ。


ゴロー(他のものはどうだ……)スッ


 おひたしをモロロの上に乗せ、余分な水気を取って…


  もぐ… くき くき


ゴロー(こっちは…固くて青臭いのに……)

    (旨くて箸が止まらないぞ)


  くき くき… ごくん


ゴロー(トゥスクルの薬膳は食い難かったけど)


 ここのは苦旨い。


ゴロー(こういうの醍醐味も、旅先でのメシならでは)


 不味いかなと思った食事が予想以上に旨かったり……
 またはその逆もあったりする……

 今日の食事は当たりだ。


ゴロー(魚もいいぞ、甘酢あん。なのにモロロが進む進む)ムシャムシャ

サクヤ「いい食べっぷりですね」

ゴロー(間に入る炒り卵がこれまた……)パク

サクヤ「無視ですか……」シュン


ゴロー「あ、いやすまない。旨かったもんでつい…… あとスイマセンけど」

    「追加でいわしと大根のカレーライス下さい。大盛りで」

698 :前レス醍醐味の前の「の」は余分です [sage saga]:2012/08/27(月) 21:39:08.64 ID:3S0mQLeSO

サクヤ「カ、カレーライス!? それなんですか???」

ゴロー「いかん、また出ちゃった。ライスはないってのに」


 癖になってしまっている。


サクヤ「あれ? でも『カレー』とかおじいちゃんが言ってたような?」

ゴロー「な、なんだって!?」ガチャン!


 ……いかん、茶を溢してしまった。


サクヤ「ひゃい! び、びっくりした!!」

ゴロー「ご、ごめんなさい。驚かせてしまいました……」


 ……しかし、何故あの人がカレーを知っている?


サクヤ「あ、あーっ!! あたしの服にィィ!!」

ゴロー「溢した茶が……」

サクヤ「アワワワワ……」
ゴロー「シミにならないように……」


サクヤ「!! ……と、とにかく脱がなきゃ!」バッ


ゴロー「えっ?」


 なんでそうなる……


サクヤ「あ、あれれ? あ、ああ……」



クーヤ「ゴロー! 調子はど……」ピシャン!


ゴロー「…………」

サクヤ(上を脱ぎかけ)「…………あ」


クーヤ「二人は何をしておるのだ?」キョトン



 「キ、キ、キャアアアアアアア!!!」


699 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/27(月) 21:44:02.57 ID:3S0mQLeSO
 ――――

 事情を必死に説明する。


クーヤ「サクヤはウッカリしておるな〜」

サクヤ「う、ううう〜……」

ゴロー(誤解は解けた…… と言うより、性教育が出来てないのか?)


 今だけはそれに感謝しよう。


クーヤ「して、体調はどうだ?」

ゴロー「ええ。問題はありません」

クーヤ「うむ。ならば余と城を回ろうではないか」

ゴロー「この城をですか?」


 一応、この城の者じゃない俺にそういう事を教えるのは不味いのでは?


クーヤ「なに、ずっとこの部屋に居るのも退屈だろうからな」

    「余とサクヤで案内しようと思うのだが……」


ゴロー(善意で誘ってくれている訳だし、断るのも悪いか)

    「わかりました。見てはいけない所は見ないようにします」


クーヤ「そういった場には行かぬよう、余も気をつける」

    「では行こう。ゴロー、サクヤ」スクッ


ゴロー・サクヤ「「はい」」

700 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/27(月) 21:46:31.89 ID:3S0mQLeSO
 ――――

クーヤ「ここが厨房、あっちが……」

サクヤ「お茶をどうぞ」


 二人に案内されながら、城内を見回る。

 お茶を飲んで暫し休憩。


ゴロー「お、冷たい緑茶」ズズッ

クーヤ「あとは……おお、『ヒエン』」ズズ


 水色と白で染められた鉢金を着けた男がこちらに近付いてきた。


ヒエン「聖上、何をなさっておられるのです」

サクヤ「あ、お兄ちゃ……あっ」

ヒエン「サクヤか。……そちらの方は」ジロリ

ゴロー(警戒されるよなぁ。当たり前の反応だ)

クーヤ「余の客人だ。名をゴローと言う」

ゴロー「初めまして、よろしくお願いいたします」ペコリ

ヒエン「……某(それがし)は『ヒエン』と申す」


 ゲンジマルさんの孫のサクヤさんが兄と言うなら……


ゴロー(某なんて言うのも頷ける)

クーヤ「ヒエンは我がクンネカムンの左大将を務めておる」

ヒエン「聖上! 部外者にそのような事を漏らしてはなりませぬ!」


クーヤ「この通り、堅物でな」

ゴロー(なんだかスイマセン……)


 皇様がまだまだ未熟だから、大変なんだろう。

701 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/27(月) 21:50:59.90 ID:3S0mQLeSO

ゴロー「ヒエンさんが左なら右は……」


?B「おやぁ? 珍しい。僕達と違うお客様なんてねぇ」

   「右大将はこの僕ですよ」


 今度は水色の長髪をした男がこちらにやって来た。


ヒエン「『ハウエンクア』! 朝礼に出ず何処へいた!!」

ハウエンクア「僕は朝に弱いんでね」

クーヤ「ハウエンクア、この者は余の客人だ」

ハウ「ははっ」ペコリ


ゴロー「ゴローと申します」ペコリ

ハウ「『ハウエンクア』です。以後よろしく」


クーヤ「この二人がクンネカムンの将なのだ」


ヒエン「…………」ムスッ

ハウエンクア「ふふふ……」ニヤニヤ


ゴロー(ハウエンクアとか言う奴、なんだか気持ち悪い)


ハウエンクア「……聖上、少々お時間をよろしいですか」

クーヤ「どうした?」

ハウエンクア「いえ、先程受けた定時報告に気になる事が」


クーヤ「わかった。すまぬゴロー、案内は終わりだ」

ゴロー「はい。ありがとうございました」

クーヤ「サクヤ、後は任すぞ」

サクヤ「はい」


  ツカ ツカ ツカ…


ゴロー「もう行っちゃったよ」


 ヒエンとハウエンクアか。
 『ハウエンクア』はなんとなく嫌な感じの奴だったぞ……

702 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/27(月) 21:53:29.94 ID:3S0mQLeSO
 …………


 〜 開陽殿・朝堂 〜


クーヤ「エルムイが進軍準備を?」

ハウエンクア「はい」

ヒエン「おそらく、我等クンネカムンへの侵攻と予想されまする」

クーヤ「……あのような小國が何故」

ハウエンクア「裏があるんでしょうねぇ」

ヒエン「ハウエンクア! 御前であるぞ! そのような口は……」

ハウエンクア「僕の口調がこんななのはいつもの事じゃないか」

クーヤ「ヒエン、今はそのような些事に構ってはおれぬ」

    「ハウエンクアの言うように、裏で糸を引く者がいるはずだ」


クーヤ「其方は國境の集落の民を避難させよ」

ヒエン「御意」

クーヤ「ハウエンクアはアヴ・カムゥで戦い易い地を見立てるのだ」

ハウエンクア「戦ですね」ニヤリ

クーヤ「我等クンネカムンに攻め入るというのならば……」

    「余は皇(オゥルォ)として民草を護らねばならぬ」


クーヤ「では二人とも、戦の準備を整えておけ」

ヒエン・ハウ「「はっ!」」



クーヤ(ハクオロ…… ゲンジマルには暫く外に出るなと言われたが……)

    (戦の前に、其方に会いたい……)


クーヤ(……サクヤを連れて、今宵も赴くか)


703 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/27(月) 21:55:34.19 ID:3S0mQLeSO
 ――――

そしてその日の夜……
トゥスクルの城に忍びこまされるサクヤがいた。


サクヤ「そ〜っと、そ〜っと……」

    「あたしにおじいちゃんの代わりが出来るかな……」


サクヤ「で、でも頑張らないと…… お庭から入って……」コソコソ


そんな健気な彼女が『頑張る』と言った事を撤回するのは、ほんの少し後……


サクヤ「よし……」ヒラリ スタッ


  『ぐお?』


サクヤ「ぐお?」クルリ


後の彼女はこう語る。


サクヤ「あの時、振り返った自分を叱りつけてやりたいです……」ヒック

    「あそこで『アレ』に会って驚いて……」


サクヤ「走って逃げたら資材にぶつかって……兵士さんに見つかって……」

   「振り返えらないでその場をすぐに離れれば……」グスン


サクヤ「もしかしたら髪の毛を切られなかったかも……」


だが後悔しても遅い。


サクヤ「…………え?」

ムックル『…………ヴォ?』

 「キ、キ、キャアアアアアアア!!」


  ダダダダダ… ドンガラガッシャン!!


 「曲者だぁ! であえ、であえぇぇぇ!!」


サクヤ「ヒイィィィィィ!!!」


  ダダダダダダダダダダ……


サクヤ「だから無理だっていったのにぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

704 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/27(月) 22:02:36.72 ID:3S0mQLeSO
 ――――

なんとかハクオロに会えたサクヤ。
二人はいつもの待ち合わせ場所に着いた。


クーヤ「ハクオロ、其方はどれだけ余を待たせれば気が済むのだ」ムスッ

ハクオロ「そう言われてもな……」

クーヤ「お? サクヤ、その髪はどうしたのだ?」

サクヤ「へ? うぇ? うぇぇぇ!?」サワサワ


腰まであったはずの彼女の髪は……肩にかからない長さに。


サクヤ「あ、あたしの髪がぁ〜!!」

    「うわああああああん!!」ボロボロ


ハクオロ(せっかく泣き止んだのに……)

クーヤ「サクヤ、泣くな泣くな。未来の良人(おっと)の前でみっともないぞ」

サクヤ「はひ?」ヒックグスン

クーヤ「ハクオロ、この前の話の続きだ。このサクヤを其方の室に迎えてくれ」


その単語を聞いた瞬間、ハクオロ達を尾行していた者が思わず声を出す。


  「し、室ぅ!?」ズルッ


木の影から盗み見をしていたのは……


ハクオロ「その声、エルルゥ!?」


エルルゥ「は、ははは……」


薬師の少女であった。

705 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/27(月) 22:16:56.27 ID:3S0mQLeSO
 ――――

エルルゥ「ク、クンネカムンの皇(オゥルォ)様?」

クーヤ「だから心配はいらぬ。ハクオロと余は其方の思うような仲ではない」

エルルゥ「べ、別に私はそんな事……///」

サクヤ「ま、待って下さいクーヤ様ぁ! 室の話なんて聞いてませんですぅ!」

クーヤ「うむ。言ってないから当然だ」ニコ


サクヤ「」


エルルゥ(止まっちゃってますが……)

クーヤ「どうだハクオロ、サクヤは?」

ハクオロ「あ、いや……(正直うっかりさんは間に合ってる……)」

クーヤ「サクヤほどの働き者の器量良し、他におらんぞ」

    「しかも……床上手だ!」


エルルゥ「床上手ぅ!?」

ハクオロ「床上手、そういうコもあるのか!」

エルルゥ「……ハクオロさん?」ゴゴゴゴ

クーヤ「うむ。サクヤが寝床を整えてくれると、よく眠れるのだ!」

ハクオロ「……その床上手は意味が違うぞ、クーヤ」

クーヤ「違う? ではどういう意味なのだ?」

ハクオロ「それはだな……」


エルルゥ・サクヤ「「…………」」ジロリ


ハクオロ「い、今は言えん……」


クーヤ「? どうだ? 余の友と言えるサクヤだが、其方になら任せられる」

ハクオロ「しかし、サクヤがいなくなってはクーヤが困るのではないか?」

クーヤ「……あ、そうだな。すまぬがこの話は今一度考えさせてくれ」


他三人(((ホッ…………)))

706 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/27(月) 22:19:57.16 ID:3S0mQLeSO

その話が終わり、クーヤは暗い顔になる。


ハクオロ「クーヤ、今日の話はそれだけではないのだな」

クーヤ「……ハクオロ、暫く会えそうにない」

    「我等クンネカムンに邪な思いを持つ輩が、きな臭い動きをしておる」


クーヤ「近々戦になるやもしれぬのだ」

エルルゥ「戦に……クーヤさんは平気なんですか……」


クーヤ「そんな顔をするでない。余のクンネカムンは万が一にも負けはせぬ」

    「だが……其方の気持ち、嬉しく思うぞ」ニコリ


彼女は……強がっているようにも取れる笑顔をエルルゥに返した。


ハクオロ「……そうだ、ゴローさんは元気にしているかい?」

エルルゥ「ゴローさん? 療養って…クンネカムンに行ってるんですか?」


クーヤ「おお、ゴローなら元気だぞ」

サクヤ「昼餉も夜餉も、モロロを三杯召し上がっておられました」


ハクオロ「……食べ過ぎじゃないのか」

エルルゥ「げ、元気って事ですよ」

707 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/27(月) 22:23:39.47 ID:3S0mQLeSO
 ――――

エルムイがクンネカムンに侵攻し、敗れた
という報告がなされたのはこの出来事の数日後であった。

 ――――


ポナホイ「ハ、ハァ、ハァ、ハァ……」


ポナホイはクンネカムンから逃げ出した。
ただの飾りに過ぎない皇。同じように小國でしかないエルムイの軍隊。
彼等があんな『力』を持っている敵にかなう訳がない。

逃げる足でそのままノセシェチカへ……


ポナホイ「カ、カンホルダリ様!! あれは、あれはなんですか!」

カンホルダリ「……逃げ帰ってきやがったか」

ポナホイ「あの巨大な人に! 我が國の軍は……」

カンホルダリ「使えねぇ糞が。泳がされやがって」

ポナホイ「は、はぁ?」


カンホルダリ「もういい。引っ込んでいろ」

       「戦だ。あの糞蟲共を踏み潰してくれる……」


戦は大國の争いに発展した。


 …………
708 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/27(月) 22:26:26.29 ID:3S0mQLeSO

カンホルダリ「な、なんだあれは……」


『クンネカムンは楽な相手。
 卦体(けたい)な力なぞ、恐れるに足らず』
彼はそう思いこんでいたのかもしれない。


クーヤ『我等に牙を向けばどうなるか…』

    『今こそ世に示す時!!』


散開したアヴ・カムゥの部隊。

左に『ヒエン』の青いアヴ・カムゥ。
右に『ハウエンクア』の赤いアヴ・カムゥ。
中央に『クーヤ』の白いアヴ・カムゥ。

三体のアヴ・カムゥの後ろには、
黒鎧装のアヴ・カムゥが隊列を組んでいた。


クーヤ『行くぞ!!』


 『『『御意!!』』』


月が雲から姿を見せると同時に、
ノセシェチカの平原で強國同士の争いが始まる。


カンホルダリ「狼狽えるな! 糞蟲どものハッタリよ!!」


  ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン…


ノセシェチカの大軍から数多の矢が降り注ぐが――


ハウエンクア『クヒヒ! そんなオモチャが効くわけないだろう?』


全ての矢が『棒立ち』のアヴ・カムゥに弾かれる。


ヒエン『参る!!!』

ハウエンクア『キヒヒヒヒッ!!!』

    『ほ〜ら、逃げろ逃げろぉぉぉ!!』


地を揺らしながら大軍へ迫るアヴ・カムゥの部隊。


「が!」 「うわあ!」 「この……」 「ギャアアア!!」


矢は通じず、刀で斬れず、槍で穿つ事も出来ない。

ノセシェチカの兵士達は……


ハウエンクア『はははははははははははははははははは!!!』グシャ!


血の雨となって戦場の土に還っていく……
709 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/27(月) 22:32:31.46 ID:3S0mQLeSO

カンホルダリ「く、糞蟲が……」


クーヤ『…………』ズシンズシン


いつしか周囲に大軍はいなくなっている。
その場にはカンホルダリのウォプタルとクーヤのアヴ・カムゥのみ。


カンホルダリ「お、俺様が…糞蟲どもに負ける?」

       「そ、そんな馬鹿な事があってたまるかァァァァ!!!」ダッ!


カンホルダリは単騎で白いアヴ・カムゥに突撃する。


クーヤ『クンネカムンは……』

カンホルダリ「ぬおおおお!!!」キィン! キィン!


力の限り大剣を振るうが、鎧に傷をつける事すら出来ない。


クーヤ『負けはせんッッ!!!』


  ズバッ……


ノセシェチカの皇は白の……『クーヤ』の一閃で身を裂かれ、
その血は足下へ溜まっていった……


クーヤ「人が…死んだ…… 余の手で……」


まだ少女と言える皇にとって、実質的な初めての戦。
アヴ・カムゥの内の小さな手は……震えていた。


ゲンジマル「聖上。御心を御持ちくだされ」

クーヤ『わ、判っておる』


臣下の声に支えられ、彼女は――


クーヤ『つまらぬ情は怨恨を生む……』

    『全軍に伝えよ! このまま西へ進軍する!!!』


――ノセシェチカへの追撃を開始する。

710 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/27(月) 22:35:12.50 ID:3S0mQLeSO
 ――――

 〜 トゥスクル皇城・書斎 〜


ハクオロ「……ノセシェチカが三日で陥落か」


クンネカムンの勝利。喜ばしい事。


ハクオロ「だが……」


彼は不安を感じずにいられない。


サクヤ「ハクオロ様、御迎えに上がりました」

ハクオロ「サクヤ……」


以前の時と異なり、神妙な顔をしたサクヤ。


ハクオロ「…………」


異様な雰囲気を感じた皇は…… 何も語らず立ち上がった。

 …………

アヴ・カムゥを横目に見ながら、皇達はまみえる。


クーヤ「久しいなハクオロ。また会えて嬉しく思うぞ」

ハクオロ「……私もだ。クンネカムンの勝利の報告を聞いた」

クーヤ「クンネカムンに敗北はないと言ったであろ」
ハクオロ「…………今日は」


クーヤ「うむ。其方に聞かせてやろうと思ってな! 余が先鋒を駆ける様を!」

    「何を隠そう、カンホルダリを倒したのはこの余である」


クーヤ「正に見事な一刀であった」

    「敗走する兵を蹴散らし、我等は怯まずノセシェチカへ攻め入った」


クーヤ「はは…何が三大強國だ。たかが人の武力が何になる」

    「悲鳴でアヴ・カムゥを止めるとでも言うのか」


ハクオロ(この巨大な力を……クーヤは……)
711 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/27(月) 22:41:19.09 ID:3S0mQLeSO

ハクオロに見えたのは武勇伝を語る女皇の姿ではない。


クーヤ「見せてやりたかったぞ、余の軍が敵の集落を制圧する様を」

    「アヴ・カムゥの力を――」


ハクオロ「もういい、クーヤ。……そんな辛そうな顔で強がるな」


見えていたのは……重圧で押し潰されそうな、弱い女の子の横顔だった。

二人の会話が止まる。重い、数秒。


クーヤ「…………そうか」


張りつめた笑みが、クーヤの顔から消える。


クーヤ「其方には判るのだな……」

    「……初めて人を斬ったのだ」


次にハクオロの目に映ったのは、小さく震えている年相応の少女。


クーヤ「あの感触が…血がこびりついて離れない」

    「敵も民も…どちらの命をも奪う……そして命を駒のように操る」


クーヤ「それがどんなに重く、辛い事か…… 戦で上に立つ者の責が…」

    「幾日か経ったというのに、あの時の事を思い出すと震えが止まらぬ」


ハクオロ「…………」


クーヤ「其方は不思議な男だ。余をこんなにも無防備にする……」

    「こんな気持ちは初めてだ……」

712 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/27(月) 22:47:14.44 ID:3S0mQLeSO
 ――――

 〜 クンネカムン城・書庫 〜


ゲンジマル「……此方で御座います」スッ

ゴロー「これがクーヤさんの言っていた書物……」パラパラ


 俺の過去に関係する用事に付き合って欲しい。
 そうゲンジマルさんに言われ、書庫まで来たが……


ゴロー「……詳しく描写してるわけじゃないな」パラリ

    「クンネカムンの建國記録のような物だ」パラリ


 何冊か本や木簡を見ても、明確な事はわからなかった。
 この服についても、クーヤさんの言っていた事以外は書かれていない。


ゲンジ「かつて、この國は『ラルマニオヌ』という大國の一部で在りました」

ゴロー「それはこれにも書いてある…… 圧政に耐えられず叛を起こしたと」

ゲンジ「……記されない歴史も存在するのでありまする」

ゴロー「記されない歴史……?」

ゲンジ「ラルマニオヌの治世の前。大陸全土を巻き込む、
    大きな戦が起こった事を御存知ありませぬか」


ゴロー「…………いえ」


ゲンジ「その大戦もまた、此度のように双方が
    時を同じくして目覚めた故に起こりし悲劇……」


ゴロー「……話がわかりません」

ゲンジ「覚えておられぬのですな。貴方様も」
713 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/27(月) 22:51:16.26 ID:3S0mQLeSO

ゴロー「……何が言いたいんです」


ゲンジ「……此方の地図を見て頂きとう御座いまする」スッ


ゴロー「普通の地図だと思いますが……」


 墨で土地の輪郭が書かれた紙製の地図だ。
 全國を纏めた物だから少し大きい。


ゲンジ「貴方様ならば…こうすれば御気づきになられましょう」クル


 そう言い放つと、地図を少しだけ傾け――――

 待て、この形は――


ゴロー「…………なんで、これが」


 こ、この地図は……
 混乱してきた……


ゲンジ「思い出されましたか」



ゴロー「この地図は……『日本地図』じゃないか!」



 ……そんな、あり得ない。



ゲンジ「某は大戦より昔に『あの御方』に出逢いました……」

    「その方は某らとは異なる着物に身を包む……変わった方でありました」


 ゲンジマルさんの話が頭に入らない……



ゲンジ「我等は友好を深め、共に戦い、共に食事をするように――――」




  ズキン!

       ズキン!

714 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/08/27(月) 22:56:28.85 ID:3S0mQLeSO






 この記憶は……なんだ?
 何処かの食事処のようだ……


『この大陸が只の巨大な“島”でありまするか!』


 『まあ、信じられないのも無理はない』ズズウ

 『この身にある記憶ではそうなっている』

 『青い空を越えた遥か向こうには“衛星”もあるんだぞ』


『信じられませぬ……』ブツブツ


 『聞いてないな…… 食事を待つ間の暇潰しのつもりだったんだけど』


『はーい! おまちどおさまっ♪』ニコリ


『お、おお。かたじけない///』


 『お? もしかしてゲンジの好みの女の子だったか?』


『ぬおおっ! け、決してそのような事は!!///』


 『……ゲンジ、顔が赤いぞ。隠そうとしても無駄だ』


『むうう!』


 ……話しているのはゲンジマルさん?

 若い頃なのか? 髪の毛が黒いぞ。
715 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/27(月) 23:01:24.07 ID:3S0mQLeSO






 他の品が俺の目の前に広げられていく。

 ……『カレー』と『肉炒め』が。


 『この前の約束通り、今日は俺の試食に付き合ってくれ』

 『いただきます』パクン

 『……うーん。このカレー、味はイマイチ』


『悪かったね! アンタのいうモンは上手く作れないんだよ!』


 店主も店員もシャクコポルの人みたいだ。


 『こっちは旨いぞ。まぁ只の肉炒めだし当たり前か』


『キィーッ! 絶対アンタに吠え面かかせてやる!!』


 『香辛料の配合が違ったかね……』

 『やっぱり契約を果たすのは難しいみたいだな……』ズズ





ゲンジ「過去を…思い出されておりましたか」

ゴロー「……やっぱりこれは俺の過去なんだな」

ゲンジ「その通りで御座いまする」

ゴロー「ゲンジマルさん、貴方は……」

ゲンジ「大陸の事は貴方様の見るべき事実の一部でしかありませぬ」

    「貴方様は他の『遺された事実』を目にせねばならぬのです」


ゴロー「遺された事実……」


ゲンジ「『箱庭』に案内(あない)致しまする……」



第二十話「クンネカムン・開陽殿の朝食」

 続く。
716 : ◆M6R0eWkIpk [saga]:2012/08/27(月) 23:03:54.88 ID:3S0mQLeSO
>>682から投下分です。

原作中の地図は画像検索すると出てくるかもしれませんね。

ではこれにて失礼。
717 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/27(月) 23:04:52.50 ID:q7v0wuao0
718 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/28(火) 09:08:56.51 ID:sOy2xHwSO
719 : ◆M6R0eWkIpk [saga]:2012/09/01(土) 20:00:35.97 ID:Xc6sW36SO

BGM:君だけの旅路

テンテンテンテンテンテンテンテン トオイキーオクヲタドレバ♪


ハクオロ・エルルゥ「「うたわれるものらじお! in SS速報VIP!」」


ハクオロ「いよいよ本編も佳境。司会のハクオロだ」

エルルゥ「導入曲も変わって、気分一新!
     残り6話以内でハクオロさんを落とします!」

    「司会のエルルゥです♪」


ハクオロ「……いや、それがだな」

エルルゥ「何かありました?」

ハクオロ「このクンネカムン編、容量が多くなるから
     残り6話で収まらないらしい」


エルルゥ「そうなんですかぁ。じゃあ、ハクオロさんと
     ラブラブ出来る機会がまだあるって事ですね!」


???『……ダメ。お父様と“らぶらぶ”するのは私……』


エルルゥ「!? その声、なのに喋り方が!?」

ハクオロ「……休めば良かったかもしれん」ハァ

     「……今日のゲストは『ムツミ』です」



ムツミ『…………今晩は』ボソッ



エルルゥ「ハクオロさん! らじお向きのゲストじゃありません!!」

ハクオロ「ま、まあまあ……」
720 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/09/01(土) 20:03:28.42 ID:3W/F6nBc0
ネタバレゲスト過ぎやしませんか?ハクオロさん
721 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/01(土) 20:06:01.28 ID:Xc6sW36SO

ムツミ『……私、あなたの事キライ』プイッ

エルルゥ「な、な、なんですってぇぇ!!」

ムツミ『あなたは、ズルい……』ボソ


ハクオロ「だからこの二人は逢わせちゃいけなかったのに……」


ムツミ『お父様、せめて今日だけはムツミを選んで……』

エルルゥ「ハクオロさん! 私、家族なんですよね!」

ムツミ『……便利な言葉だよ。家族って』ニヤリ


エルルゥ「!? 戦う気まんまんってこと?」

ムツミ『あなたが私に勝てると思うの? お父様に一番近いのが私なんだよ』

エルルゥ「戦うって聞いて殴りあいを思い浮かべるガサツな娘は駄目じゃないかな〜」

ムツミ『…………やっぱり、あなたキライ』

エルルゥ「私はそうでもないけど?」


エルルゥ・ムツミ『「…………」』 バチバチ…


ハクオロ「あ、あのう… 御二人共、よろしいでしょうか……」

722 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/01(土) 20:09:05.28 ID:Xc6sW36SO

 《人物紹介》


・十七話


●ニウェ

シケリペチム皇。罠を仕掛けて都全てを燃やそうとするが失敗。
ハクオロとの一騎討ちで肉片となって死亡した。



ハクオロ「……あれは」

ムツミ『お父様が【キィン!】として目覚めたから』

エルルゥ「ま、待ちなさい! そんな重要な事をサラリと言っちゃダメ〜!」

ムツミ『……どうして?』

エルルゥ「知らない人も見るかもしれないでしょう!」

ムツミ『……努力する』コクン

ハクオロ「ああ、エルルゥが居れば私も人として生きていける……」

エルルゥ「ハクオロさんまでそれを言いますか……」ゴゴゴ



●エムロ・イナウシ・イコル

第九話で使者としてトゥスクルを訪れた三人組。
アニメではカルラと死闘を繰り広げる。



エルルゥ「原作だといない方々ですよ」

ハクオロ「そう言えば……どうしてカルラは苦戦しなかったんだい?」

ムツミ『アニメではクッチャ編→シケリペチム編だけど、
    クッチャ編→ナ・トゥンク編→シケリペチム編だったから』


ムツミ『……間を挟んだ分、レベルが上がってた』

ハクオロ「そういう事か」
723 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/01(土) 20:15:06.44 ID:Xc6sW36SO

●ヌワンギ(仮面兵)

仮面の複製品により、肉体を異常強化されている。
人格が崩壊しなかった事は奇跡。



ムツミ『……と言ってもほとんど壊れてたけど』

エルルゥ「…………」

ハクオロ「あの仮面は一体……」

ムツミ『…………喋りたいけど喋れない』ウズウズ

エルルゥ「律儀なコですね」ヒソヒソ

ハクオロ「話せば判ってくれる娘だろ?」


 《十八話》


●フミルィル

女の赤子。ウルトリィが育てている。


エルルゥ「フミルィルって薬草の名前なんです」

※フミルィルの蜜…エルルゥの薬術。

エルルゥ「皆さんの毒・気絶・混乱等の状態異常を治す働きがあります」

ハクオロ「母の愛は強く、儚い」

ムツミ『ムツミにお母様は……いない』

エルルゥ「ムツミちゃん……」

ムツミ『……私がお母様だから』

ハクオロ「言われてみたらある意味そうだな」ウンウン

     「確かムツミは……おっと、これは禁句禁句」


●ウルトリィ

カルラの本気と戦える数少ない人物。
オンカミヤムカイの最上位術である封印術を簡素ながら一人で使える。


ハクオロ「ウルトは皇女かつ巫(カムナギ)という立場だから……」

エルルゥ「……自由がないんです」

ハクオロ「あの赤子と会って、『夢』を抱くようになったそうだ」

    「小さな集落、小さな家。子供を抱きしめるウルトの隣に私が……」


エルルゥ「……ハクオロさん」

ムツミ『浮気』


ハクオロ(言い訳しても無駄な気がする……)

724 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/01(土) 20:18:06.94 ID:Xc6sW36SO

 《十九・二十話》


●サクヤ

ゲンジマルの孫。潜入時に失敗して、長髪→短髪にされたりするなど、
ちょっと抜けた所が可愛いクーヤの付人。


ハクオロ「出会って数分で泣かれた時は流石にまいった……」

ムツミ『うっかりさん?』

エルルゥ「私に尾行される位ですから……」

ハクオロ「元気やヤル気はあると思うが… 空回りしているのかもしれない」

ムツミ『あの人達はうっかりしてるの?』

エルルゥ「あの人って?」

ムツミ『耳が翼のようになってる者達』

エルルゥ「……トウカさんはそうかな」

ハクオロ「しかしゲンジマルは違うんじゃ?」


※若い頃はうっかりしてたかもしれません。



●アムルリネウルカ・クーヤ

クンネカムンの若き女皇で垂れ耳のシャクコポル族。
亡くなった父はクンネカムンの先代皇。
愛らしい容姿をしている。


ハクオロ「あの上目遣い、危なかったな。落とされるトコロだった」フゥ


エルルゥ「…………」ムスッ

ムツミ『そんなお父様もムツミは許すよ』ニコニコ


ハクオロ(……ムツミはムツミで怖い)

725 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/01(土) 20:23:26.79 ID:Xc6sW36SO

エルルゥ「そうそう。前に兎耳の女の子についてレスがありましたね」

ハクオロ「その件か。ゴローさんは子供に興味無いらしい」

    「好みはウルト・カルラ辺りの年齢、
     ギリギリいけるのがエルルゥ位らしい」


エルルゥ「じゃあ、兎耳ちゃんは……」

ハクオロ「ストライクゾーンの外だ。手は出していない」

ムツミ『……そうなんだ』


ムツミ『>>1の考えている兎耳ちゃんの容姿は、
     ピンと立った耳に黒髪・短髪、髪型はボブっぽく』

   『どこか似てるのは多分……○ャーリー』


ハクオロ「イメージは『黒髪のサクヤ』らしい」



●ゲンジマル

クンネカムンの大老(タゥロ)。ゴローの過去を知っているようだ。


ハクオロ「エヴェンクルガの武士、ゲンジマル」

エルルゥ「シャクコポルの方と婚姻し、孫も二人いるようです」


ムツミ『このヒトは導き手……』

    『おじさまを、記された事実へ案内する』


ムツミ『そして、私は真実の前まで連れていく……予定』
726 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/01(土) 20:25:57.34 ID:Xc6sW36SO

●ヒエン

ゲンジマルの孫、サクヤの兄。
青のアヴ・カムゥが愛機で、その武器は大剣。


●ハウエンクア

クンネカムンの右大将。
専用機は赤いアヴ・カムゥ。武器は手甲に付けられた巨大な爪。



ハクオロ「今現在、二人に関してはこの位だろう」

ムツミ『赤いほうは…残虐なヒト』

エルルゥ「まだあまり説明出来ませんね」

ムツミ『その内、やるから……』



ハクオロ「紹介は終わりかな?」

ムツミ『ムツミとお父様はまた後の回で……』

エルルゥ「根幹の設定に関わる部分ですもん」

ハクオロ「SS本編が長くなってきたな」

エルルゥ「だからズレが生じてきたわけですけど…」

ムツミ『お父様の過去とあのヒトの過去を示す分、増える』

    『今、書き貯めは二十三話の途中』


ムツミ『どの辺りで区切ろうか考えてるみたい』


ハクオロ「……高い次元で話すのは避けてくれないかい」

ムツミ『ご免なさい』ペコッ


ハクオロ「よしよし。いい子だな」ナデナデ

ムツミ『…………///』

エルルゥ「むぅ〜〜」ムスッ

ハクオロ「エ、エルルゥ? 今くらいは……」

ムツミ『……あっかんべー』ベー

エルルゥ「……い〜だっ!!」


エルルゥ・ムツミ「『むむむむむむ…………』」バチバチ


ハクオロ「で、ではまた次回〜!」

 続く?
727 :リ/__・リ < ジャンケン…チョキ! [saga]:2012/09/01(土) 20:35:54.43 ID:Xc6sW36SO
このへんで色々匂わせたほうが真実までスムーズではないだろうか?
アニメは急展開の連続だったから……

23話は文もネタもだいたい出来てるのであとは組立。
完成したら21話を投下いたします。

次回は
●ディー、???を作る。
●ハウエンクア、演技をする。
●ゴロー、○○○○○を食べる。


以上の三本でお送りします!
728 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/09/01(土) 20:43:08.74 ID:3W/F6nBc0
ジャンケンは?
729 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/09/02(日) 00:36:38.43 ID:kFN/6mapo

一気に読んだけど面白いね
730 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/02(日) 05:09:56.57 ID:1/aQTryIO
シャー◯ーのゴロー攻略記になるな……
731 : ◆M6R0eWkIpk [saga]:2012/09/07(金) 22:20:15.82 ID:Vl8JsABSO
明日の夜、二十一話を投下。
今日はうたわれるもので浮かんだネタをちょいとやります……
732 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/07(金) 22:22:38.13 ID:Vl8JsABSO






《クロスSS 一発ネタ》

トウカ「聖上! あいどるですよ! あいどる!」 
ハクオロ「…何?」






733 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/07(金) 22:24:56.14 ID:Vl8JsABSO


ここは…どこかの町、どこかの雑居ビル。

その3階に出来たのは


ハクオロ「おはよう」 ガチャ

エルルゥ「おはようございます! ハクオロさ…あっ、ハクオロ社長!」

アルルゥ「きゃっほう♪ おと〜さん♪」


『8906プロダクション』である!!!


ハクオロ「朝から元気だな。……おや珍しい。全員勢揃いとは」


トウカ「おはようございます。聖上」ペコリ

カミュ「にひひっ♪ 遅いよ、おじ様っ♪」

ドリグラ「「今日もイタズラします!」」((おはようございます!))

カムチャタール「……なんで、ウチがこんなんせな……」

ウルト「今日は子ども達に会わなかったので直ぐに着きました〜」

ユズハ「おはよう…ございます。社長さま…」

サクヤ「皆さ〜ん、お茶が入りましたよぉ〜」

クーヤ「余も淹れたぞ! これで女の子らしくなったであろ!」


あいどるとして12人。社長兼プロデューサーのハクオロ。
営業・総務担当が3人、元あいどるのプロデューサーが1人。
そして……事務員が1人の計18人が集うプロダクションだッ!

734 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/07(金) 22:27:33.25 ID:Vl8JsABSO

ハクオロ「うむ。皆、今日もよい顔だ」

     「……ソファーで二人が寝てるのもいつものことで」


カルラ「あるじ様〜…」ムニャムニャ

ムツミ『ぐう…』スースー


カミュ「私が居ると、ムツミは寝ちゃうんだよね」

ハクオロ「あと…営業の三人は?」


カチャッ…


オボロ「おはようユズハぁぁぁぁ! お兄ちゃんを置いて先に行くなんて酷いぞぉぉぉ!」

ベナウィ「オボロ、少し黙りなさい。社長、お早う御座います」

クロウ「総大将! 今日も男前ですぜ!」


ハクオロ「世辞は要らん。……流石に全員居ると手狭だ」


エルルゥ「私達『あいどる』が13、ハクオロさん達で4の……17人ですから」

ハクオロ「ん? あれ、ミ……」

トウカ「エルルゥ殿、お茶で…」


コケッ!


エルルゥ「キャアアッ!」

ハクオロ「危ない! 『オボロ防壁』!!」サッ


ザパァァァァ…


オボロ「ホワチャアァァアァァ!?」


ハクオロ「無事か! エルルゥ・トウカ!」


エルルゥ「だ、大丈夫です…」

トウカ「そ、某としたことが…またこのような粗相を……」
735 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/07(金) 22:31:05.39 ID:Vl8JsABSO

オボロ「ヌッガアアアアッ!!!」ゴロゴロ


ユズハ「お兄さま…エルルゥさまを庇って……」

クーヤ「おお! 余の茶、のたうちまわる程に美味であったか!」

サクヤ「クーヤちゃん…それは違うような……」


カルラ「……面妖な事態ですわね」ムクリ

アルルゥ「カルラお姉ちゃん、おはよ」

カルラ「おはようアルルゥ。あら? …ムックルとガチャタラは居ませんの?」

アルルゥ「ムックル、大きいからお留守番。ガチャタラもいっしょ」


カムチャ「さて…それじゃあ、今日も仕事に行くとしましょか…」


カミュ「は〜い! 『月華陽星』集合〜!」

ドリィ「物足りないよぉ〜」

グラァ「イタズラしたいよ〜」

ウルト「お仕事から帰ったらオボロさんを好きにして良いですよ」

ドリグラ「「やった!!」」


カムチャ「社長殿、いってまいりますわぁ」


ハクオロ「気をつけてな」

クロウ「お〜う、しっかりオーディション受けてこいや〜」

カムチャ「あ、あんさんに言われんでもこの娘達なら平気や!///」


ガチャ… パタン

736 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/07(金) 22:32:44.15 ID:Vl8JsABSO

ムツミ『……あふぅ』ムクッ

ハクオロ「やっとお目覚めかい? ムツミ」


ムツミ『お父様…おはようのチュー…』

ハクオロ「なにっ!?」

エルルゥ「ハクオロさん! このコにそんなコトを!?」

ユズハ「……私、だけじゃなかったのですか…」

トウカ「ユ、ユズハ殿? 今なんと……」

クーヤ「ハクオロ! 余にも、余にも!!」グイグイ

ハクオロ「ク、クーヤ! 寄るな寄るなぁぁ!」

クーヤ「……おろ〜♪ はくおろ〜♪」スリスリ

ハクオロ「わざと退行するなぁぁぁぁっ!」

クーヤ「……むぅ。落ちぬか、やるのう」

サクヤ「はぅぅ。クーヤちゃん可愛い過ぎだよぉ〜」

カルラ「あるじ様〜、私にも熱い口づけを…」


ワイワイぎゃあぎゃあ…


ベナウィ「……今日の新聞各社です」バサッ

クロウ「どこも…Dプロ一色。あの『グリージョ』が新曲1位の知らせばかりっすね」


 ――――
737 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/07(金) 22:35:51.26 ID:Vl8JsABSO



 〜 Dプロ・社長室内 〜

ディー「では、本日の予定は以上だ」

    「午前の生番組にてゲストの役目、確と果たそうぞ」


ゲンジマル「御意」

ニウェ「カーカッカッカッ! 踊りは任せるがいい!」


ハウエンクア「社長、僕達はぁー?」

ヒエン「……また、あの方のれっすんであります」


スオンカス「アラアラ。そんなに私のれっすんがイヤかしら?」

ハウエンクア「納得出来ない! どうして僕らはデビューさせて貰えないのさ!」

スオンカス「時期尚早なのよ。でも社長は貴方たちに期待してるわ」

     「自分たちのゆにっと、『グリージョ』の後釜としてね」


ヒエン「まさか、あいどるとして社長自らが舞台に上がるとは…」

ハウエンクア「というか、どうしてあんな爺さん達が人気なんだよ…」


 ――――
738 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/07(金) 22:38:53.42 ID:Vl8JsABSO


TV< ハイ、ワダイノグリージョデシタ!



ハクオロ(ディー、お前は変わったな……)

     (二人で組んで仕事をしていた時から……)


エルルゥ「ハクオロ社長? テレビばかり見たらダメですよ」

ハクオロ「……そうだな。私にはプロデュースせねばならない娘達がいる」


エルルゥ「はいっ!」 トウカ「おお?」

カルラ「ふふっ」 アルルゥ「おと〜さん、やる気」

クーヤ「余に任せておけ!」 サクヤ「き、緊張してきた… 堀に浸かってます……」

ユズハ「社長さま…頑張ります…」 ムツミ『キラキラするの☆』


ハクオロ「よし! 8906プロ、出発だ!!」

ベナウィ「では担当の者と共に本日のスケジュール通り行動をお願いします」

一同「「「ハーイ!!」」」


ガチャ… パタン…


《30分後》


キィッ…カチャッ


???「スミマセン、遅れマシタ」

    「アレ? 皆サン、居マセン?」


???「ミコー… チョットサミシイデス……」


 続かない。
739 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/07(金) 22:41:34.72 ID:Vl8JsABSO
ごめんなさい、変な電波を受信しました……。
アイドルマスターは好きだけど、
アニメや二次創作SSしか知らないから書けないYO……


誰かネタ使って書きません?

ではまた明日に。
740 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/09/07(金) 22:43:50.69 ID:ZoHLSY6n0
乙!

741 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/08(土) 15:49:19.71 ID:D3abtczSO
742 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/09/08(土) 19:42:13.02 ID:q2AjySXSO

第二十一話「仕組まれた大封印」


 〜 クンネカムン皇城『開陽殿』・ゴローの部屋 〜


 先日の出来事に頭がついていかない。


ゴロー「この土地が日本って事はわかっても……」


 そもそもピンとこないんだよ。
 ここが日本ってイメージが湧かないとも言える……

 醤油や味噌があるから食物の面ではわかるけど。

 “らしい”建物がないせいかも知れない。


ゴロー「うーん… なんか、森だらけの状態なのが当たり前のような……」


 ゲンジマルさんに頭を整理する時間を貰ったのは良かった。


ゴロー「どうも思い出す事が途切れ途切れで……」


 ……煙管で落ち着こう。


  スゥ…… フー…


ゴロー「……『箱庭』か」


 何を示す言葉なのか……
 あの人は、俺に何を見せるつもりなのか……


ゴロー「わからない事だらけだ」


 ――――
743 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/08(土) 19:46:04.19 ID:q2AjySXSO
 ――――

……オンカミヤムカイの調停による
クンネカムンとエルムイの和解は成らなかった。

クンネカムン皇城の立場ある者達が集い、議が開かれる。

最初に白き外套の皇…アムルリネウルカ・クーヤは問う。


クーヤ「ハウエンクア、何故あのような真似をした……」

ハウエンクア「……あのような真似とは?」

クーヤ「言わねば判らぬか。何故エルムイを潰したと聞いておるのだ」

    「傀儡だったあの者等が抵抗するだけの力は無い」


クーヤ「抵抗しない者には手を出すなと言ったはずだ」


言葉を返すは右大将ハウエンクア。


ハウエンクア「ああ、その事でしたか。僭越ながら申し上げます」ペコリ


ハウ「聖上も仰ったではありませんか。『情は怨恨を生む』と」

   「残した恨みが聖上の御命を狙わないとは言いきれませんので」


ハウエンクア「なれば、元から断ち切るのが道理かと……」ニヤリ


クーヤ「……それで一族郎党皆殺しにしたというのか」

ハウエンクア「全ては聖上の為に……ね」ニヤリ


ゲンジマル「ハウエンクア! そのような言い草、通ずると思うか!!」ガタッ

ヒエン「大老(タゥロ)、聖上の言を」


ヒエンが皇の席を目で指し示し、立ち上がったゲンジマルを取り成した。

744 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/09/08(土) 19:48:45.50 ID:q2AjySXSO

クーヤ「ゲンジマル、よい」

    「厳命せなんだ余にも責がある」


ゲンジマル「…………」ストン

クーヤ「ハウエンクア、其方の言い分は判った。この件は不問とする」

ハウエンクア「寛大な御沙汰、感謝致します」

クーヤ「議は終わりだ。各々――」


ヒエン「聖上、畏れながら申し上げます」ザッ

    「今こそ聖上の御力で全土を統一する時ではありませぬか」


クーヤ「……ヒエン」

ヒエン「このままでは…何時またあのような輩が現れるやもしれませぬ」

   「ならばこそ聖上の御力で全土を統べ、民を導き、
    争いのない真の國をお創りになるべきであります!」


ハウ「へえ〜。たまには良い事を言うじゃないか」

   「確かに全土を支配するのはどの部族なのか、知らしめるべきだねぇ」


ヒエン「…自分達が目指すのは『統一』だ! 『支配』ではない!」

ハウ「僕達シャクコポルの下で一つになるんだ、同じだよ」

ヒエン「民を導く事と支配する事は違う!」

ハウ「違わないさ」ニィィ

ヒエン「貴様ッ…」ガッ!


ゲンジマル「御前であるぞ!」


ハウ・ヒエン「「……」」


クーヤ「……ゲンジマルはどう思う?」

ゲンジ「今は國を磐石のものにするべきかと」ペコリ

クーヤ「まだ余の國は磐石でないか?」

ゲンジ「そう思われまする」


クーヤ「――ゲンジマルの言う通りにしよう」

    「ヒエン・ハウエンクア。先ずは國を磐石なものとする! 良いな」


ヒエン・ハウ「「……ハハッ!」」

745 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/08(土) 19:54:08.67 ID:q2AjySXSO
 …………

議を終えたハウエンクアは開陽殿の隠された地下室で狂ったように語る。


ハウエンクア「あははは……楽しかったなぁ! あの男の顔!」

      「自分の國の民が虐殺される中、皇一人だけ生きる……」


ハウ「調停? 和解? そんな事をするわけがないだろう?」

   「ウィツァルネミテアなんて禍日神を信じる奴等の為にさぁ!」


ハウ「あのお飾りの皇がどう言おうと知った事じゃないね!」

   「もっと……もっとだよ! あいつらの血を……クヒヒッ!!」


ハウ「……だけど、あの老人。やはり邪魔だねぇ」

   「何か手を打っておこうかな」ニヤリ


 「……少々静かにして頂けませんか」


ハウエンクア「あぁ、気に障ったかい? 悪いね『ディー』」

ディー「…………」

ハウ「しかし、ここは死体共の部屋と違うねぇ」キョロキョロ

   「なんだい? 薬かでも作ってるのかい?」


ディー「貴方様の言葉ではそれが近いかと」

ハウ「ふうん……」

ディー「酸化カルシウム(生石灰 CaO)に水を加えると化学反応が起こり、
    発熱する。後に水酸化カルシウム(消石灰 Ca(OH)2)という物質が…」


ハウエンクア「ゴ、ゴメン。何を言っているのか判らない……」

ディー「簡潔に言うならば『加熱式容器』を作っております」

ハウエンクア「???」キョトン

ディー「少し部屋から出ておられたほうが良いでしょう」

    「これから実験を致します故……」


ハウエンクア「あ、ああ。そうするよ……」


  パタン!!


ハウ「死体を弄ってたと思ったら…… アイツ、何がしたいんだか……」


  カツ カツ カツ…

746 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/09/08(土) 20:05:16.44 ID:q2AjySXSO
 ――――

 〜 開陽殿・皇専用湯(とう) 〜


クーヤ「……ふぅ」

サクヤ「クーヤ様、お背中を流します」ザァァ…

クーヤ「サクヤと共に湯に入るのも久しいな」

サクヤ「そうですね」ニコッ


僅かな間の後……


クーヤ「……湯船に浸かる」

サクヤ「はい」


湯に入る二人。


クーヤ「……湯は良いものだな」チャポン

サクヤ「身も心も洗われちゃいますよ〜」フィー


クーヤ(……だが余の心は洗われぬ。血の赤が……取れぬのだ)

    (なんと情けない皇か。脳裏を掠める記憶で冷たく震えておる)


クーヤ(こんなにも暖かな湯に浸かっているというのに)チャプ…

   (余が何も考えず、刻を過ごせるのは、ハクオロの隣に居る時間だけ…)

    (……ハクオロ、余にとって其方は――)


サクヤ「クーヤ様? お顔が赤くなっておりますよ」

クーヤ「……浸かり過ぎたか」

    「サクヤ、湯冷ましにトゥスクルへ向かおうぞ」 ザパッ!


サクヤ「はへ? ま、またですかぁ!?」

クーヤ「二度目は易々と侵入出来たのであろ? 三度目も平気だ」

サクヤ「あ、あたしではなくおじ…大老を連れて……」

クーヤ「ゲンジマルには外に出るなと言われておるのだ……」

サクヤ「じ、じゃあ…」

クーヤ「うむ! 黙って行かねばならぬ!」

サクヤ「……はぁ、判りましたよぉ…… 湯に入ったのに外に行くなんてぇ」


 …………
747 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/08(土) 20:10:55.04 ID:q2AjySXSO
 …………

一方その頃、男湯では……


ゴロー「いい湯だ……」フゥ…

ヒエン「……何ゆえこのような状況に」

ゴロー「文官さん達が先に出ちゃったんです」


ゴローと左大将ヒエン。変わった組み合わせの二人がいた。


ヒエン「客人の部屋には備え付けの湯がありましょう!」ザバッ

ゴロー「広いほうが気持ちいいではありませんか……」

ヒエン「……実は某も同じ理由でこの湯に浸かっている」ザプン

ゴロー「独りでこう…足を伸ばして……」ウーン

ヒエン「酒を楽しみ、身を暖める……」

ゴロー「私は酒を飲めませんけど、ヒエンさんはいい過ごし方だと思います……」

ヒエン「ふぅ……湯に入ると諍いを起こす気にもなりませぬ」

ゴロー「風呂ってもんはそういうもんですから…」チャポ

ヒエン「この國も、全ての民が平和に語り合える湯場のようにならねば……」

ゴロー「立場なんて関係なくですか……」

ヒエン「それを我等が導かねばなりませぬ」

ゴロー「……孤独な道は険しいですよ」

ヒエン「…………」

ゴロー「……それにしても」


二人 「「いい湯だなぁ……」」


語り合う二人。少しだけ親交を深めたようだ。

748 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/09/08(土) 20:14:46.34 ID:q2AjySXSO
 ――――

突然だが、禍日神(ヌグィソムカミ)について説明する。

といっても真面目な話ではない。

村や町の人々に噂として語られ、時には子どもの躾に用いられる――

そういった意味合いでの禍日神の話である。

このトゥスクル皇城に『街道の禍日神』の正体が居る事はご存知だろう。


トウカ「ZZZZ……オイテケ〜……」ムニャムニャ


何か不可解な事柄があると、人々はそれを『禍日神』として処理するのだ。

そして今宵、新しい禍日神がトゥスクルの噂に加わる事となる……


サクヤ「よしよし、今日も見つからない〜♪」ソーット


衛士(バレバレだから。聖上から貴女を見逃すよう言われてるだけなんで)


サクヤ「やっぱりあたしもおじいちゃんの孫なんだなぁ〜」


衛士(もう少し上手く隠れようよ…… あっ! ちゃんと前を見て――)


サクヤ「うえっ!」ズルッ

  ボチャン!!


衛士(……堀に落ちちゃった)

???「………う゛う゛っ」ブワッ


衛士(た、確か… 縄がコッチに……あった!)


  ヒュッ…


???「えうぅ〜 クーヤざまぁ。泥だらげでずよぉぉ〜」ポロポロ

  ポトン…


???「縄? 良がっだぁ〜〜〜……」グイッ


???「あう゛……」

    「えうううぅぅぅぅぅぅ〜〜…………」


衛士(……頑張れ)


こうして愛らしい『泥田坊』の噂がトゥスクルに広まったのである……


ハクオロ「ぬぁっ! なんだ貴様は!!」

???「ひ、非道いでずよぉぉ〜…」

ハクオロ「その声、サクヤ? だよなぁ……」

サクヤ(泥まみれ)「う゛う゛う゛う゛〜……屈辱的でずう〜……」
749 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/08(土) 20:19:47.18 ID:q2AjySXSO
 ――――

クーヤ「……次に余を待たせたらアヴ・カムゥで岩を城に投げようぞ」

ハクオロ「今日は私のせいではない」

サクヤ「あ、あのクーヤ様。あたしが堀に落ちちゃって……」

クーヤ「何!? 怪我はなかったか!」

サクヤ「あ、いえ。エルルゥ様が見てくれましたから……」

クーヤ「どうやら着替えも貸して貰ったようだな。
    ハクオロ、エルルゥに礼を言っておいてくれ」ホッ


ハクオロ「ああ。服はまた来た時に返そう」

サクヤ「本当にすいません、すいません」ペコペコ

クーヤ「さて今宵も話を……」


 ザッ…


「……見つけましたぞ、聖上」


ハクオロ「おや、ゲンジマル」

ゲンジマル「話はお済みですかな」


クーヤ「 」  サクヤ「 」

ハクオロ(二人とも固まったぞ)


ゲンジ「話す事が無いのでしたら、ひとつ某が
    皇たる者の気構えをたっぷり聴かせて進ぜよう……」


  ┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛


ハクオロ(ゲンジマルの怒気が周囲に充満しているッ!!)


クーヤ「……余は故郷に帰ったらあの『さんどいっち』を作らせ、食べるぞ」


サクヤ「三択 ― ひとつだけ選びなさい」

 答え@『可愛いサクヤは反論を思い付く』

 答えA『誰かが助けに来てなんとかしてくれる』

 答えB『お説教から逃げられない。現実は非常である』


ハクオロ(つまり…逃げ場無し……か……)

ゲンジマル「お覚悟はよろしいかっ!!」


 ―――――
 ―――
 ―
750 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/09/08(土) 20:28:33.94 ID:q2AjySXSO

一方、その頃。開陽殿では……


 〜 開陽殿・地下室 〜



ディー「……ついに加熱式容器の完成だ」フゥ

    「若干、水と石灰が多くはなったが」


ディー「一応、二個ほど容器を造れたか」

    「あとはこれに『アレ』を入れれば……」


ディー「よし、『箱庭』へ買いに行こう」


  ブォン… フッ…


 《数分後》


  フッ…


ディー「転移術は地脈に気をつければ実に役立つ」

    「あの『シウマイ』がこれほど早く持ち帰れるのだからな」


ディー(明日、他國へ発破をかけに行く。弁当は必須であろう)ゴソゴソ

    (残念だが、シウマイは冷めても美味いと言える域に達しておらぬ)


ディー(ならば、冷めた品を暖める容器を…と思ったのだよ)フフッ


ディー(旅はじっくり刻をかけてやるもの。転移術など……)



ディー「野暮よ!!!」カッ!



ディー(当日、転移を用いて食事を買うのは…愚の骨頂なり)

    (食を楽しむ者は、前日から準備を欠かさぬ)

ディー(明日に備えて英気を養う為、今宵は『眠りし地』に還る)


ディー「ふふ…我ながら素晴らしい計画だ」ニィッ

    「瘴気で食事が腐っては困る故、ここに置いていこう」


ディー「明朝にまた寄れば良い。さて、どれだけ暖まるか……楽しみだ」


  フッ……

751 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/08(土) 20:33:04.00 ID:q2AjySXSO



  ガチャッ…


ハウエンクア「あれ? ディー〜! いないのかい?」

ハウ「なんだいコレは? さっき言ってた物かなぁ?」パシ


  クン クン クン…


ハウ「食べ物の匂いだねぇ。嗅いだ事がないけど」

   「おや? こっちは何かな? ……白い石と水の入った箱?」


ハウ「紐がついてる。引っ張ってみようか」ズッ ビシャッ!

   「ん? 石に水ががったのかい? ……んんっ?」


  シュウウウウウゥゥゥゥゥゥ!


ハウ「ぐっへ! がっは! ゴッホッ!! け、煙が! 火事ィィ!?」

   「マ、マーマ! 助けて! マーマ!!」



  シュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……


ハウ「……収まったか」フゥ

   「ディーのヤツ、本当に何を……アツッ!!!」

ハウ「さ、さっきの箱が熱い!?」

   「僕の美しい手が火傷しちゃうじゃないか!」


ハウ「……ん? 待てよ……この箱にもさっきの石が入ってる」

   「…………………………」ウーン


ハウエンクア「……なんだか面白い事を思い付いちゃったかもねぇ」ニヤリ


 ――――
752 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/09/08(土) 20:36:54.38 ID:q2AjySXSO
 ――――


 翌朝…


 〜 開陽殿・ゴローの部屋 〜


ゴロー「へぇ〜 そんな事が」

サクヤ「本当におじいちゃんのお説教は辛いんですよぉ……」

ゴロー(自業自得のような気がするぞ)


 そんな他愛のない話を終え、膳を探すが……


ゴロー「そう言えば今朝の食事はどこに……」

サクヤ「クーヤ様が『朝食は余の部屋で取るよう伝えよ』と仰ったのでそちらに」

ゴロー「そうでしたか…… じゃあ行きます」ガタン

サクヤ「ご案内いたしますか?」

ゴロー「いえ、大丈夫です。覚えてますから」


 ちょっとお手洗いに行きたいから……
 空気を読めない俺でも女性を厠の前で待たせるような真似はしません。


サクヤ「では先に失礼します。あたしもクーヤ様に呼ばれていますので」

ゴロー「どういう事ですかね?」

サクヤ「親しい方々を呼んで共に食べる……みたいです」

    「起きたら急に言い出しまして」


 ハクオロにトゥスクルの食事風景でも聞いたかな。


ゴロー「でしたら私が来なかったら先に食べてて下さい」

サクヤ「え、そんな! 悪いですよ!」

ゴロー「いや、多分すぐ行きますから」


  パタン…


 部屋を出て……


ゴロー(……)スタスタスタ


 やや早歩きで厠を目指す……

753 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/08(土) 20:40:11.15 ID:q2AjySXSO
 …………

ハウエンクアの企みが進行する。


ハウエンクア「お嬢ちゃん。これを大老様に渡してくれるかな」ニコリ

兎耳「は、はい! 右大将様!」

ハウエンクア「緊張しないでいいよ〜 使い方は大丈夫だね」

兎耳「覚えました!」

ハウエンクア「うん、いい返事だ。じゃあ頼むね」

兎耳「ハイッ!」


  タタタタタタッ…


ハウ(まぁ、今は驚かせる程度の嫌がらせにしておこうか)ニヤリ


だが、この男の策は思ってもいなかった形に変わる。

大した事にならない些細な悪戯……

これがクンネカムンの上層部に
不穏な影を産み出すとは、誰も気づいていなかった。


兎耳「ゲンジマル様、こちらを」スッ

ゲンジマル「む? これは……『シウマイ』。何処でこの品を?」

兎耳「右大将様が先日のお詫びにと」

ゲンジマル「……毒は」クン パクッ

      「ありませぬな」


兎耳「あ、あとですね……紐を……」ゴニョゴニョ

ゲンジマル「…………」

兎耳「ゲンジマル様?」

ゲンジマル「……ありがとうお嬢さん」ニコリ

兎耳「はいっ!」ニコニコ

ゲンジ(この技術、それにシウマイ。あの御方はハウエンクアの裏か)

    (……あの御方が食事に毒を盛るとは思えぬ)


ゲンジ(ハウエンクアもそこまで腐ってはおらぬだろう)

   (毒味済み故、聖上との朝餉に出しても構わんだろうて)


 …………


ゲンジマル「サクヤか、良い所に居ったな」

サクヤ「あ、おじいちゃ…大老様」

ゲンジマル「これを聖上の席に」スッ

サクヤ「何ですかこの箱?」

ゲンジマル「食事の席にて説明する」

サクヤ「はい。では運んでおきますね」

754 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/09/08(土) 20:43:51.24 ID:q2AjySXSO
 …………

クーヤ「うむ。皆揃った……ゴローはどうした?」

ゲンジマル「はて、某は何も聞いておりませぬ」

ヒエン「某もでありまする」

ハウエンクア「早く朝食を終わらせてくれませんか? 僕達は忙しいんですよ」


ヒエン「ハウエンクア!」

ハウエンクア「し、失礼いたしました」

ゲンジマル(ほう、すぐに謝罪するようになりおったか)

クーヤ「何、構わぬ。しかしゴローが遅いぞ」

サクヤ「あー…ゴロー様は自分以外の方が揃ったら先に食べてよいと……」

クーヤ「そうか…… 我等も忙しい事であるし、
     先に食事を取ろうではないか」

    「そうだ! ゲンジマル、『これ』はなんなのだ?」コトン


ハウエンクア(な、なんで『箱』が……)ギクッ


ゲンジマル「中に入っておりますのは『シウマイ』という料理で御座います」

クーヤ「『シウマイ』…… 知らぬ名の料理だな!」ワクワク

ゲンジ「こちらの紐を引くと箱が暖まり、
     熱い料理を如何なる時でも楽しめる……という代物かと」

クーヤ「おおお! 素晴らしい箱ではないか!!」

    「では早速……」グッ…


  ガラリ…


ゴロー「遅れて申し訳ありません」ペコリ

クーヤ「おお、ゴロー! 今から面白い物を見せようぞ!」

ゴロー「…………あ」


 あ、あれは…『ジェットボックス』!!


ゴロー「クーヤ様! ここでその紐を引いては……!!」

クーヤ「え?」スポッ


 シュウウウウウ…

          シュウウウウウ…


ヒエン「な、なんだこれは! 火事か!」

ハウエンクア「く、臭い!! 肉臭い!!」

ゲンジマル「ぬおおおおっ!!」

サクヤ「ケホケホ… ク、クーヤさまぁぁ〜!」

クーヤ「わ、わ、わ、い、いかん! 蓋を……熱いッ!」ジュッ

ゴロー「炎の煙ではないから大丈夫です! 慌てないで……」

 …………
 ………
 ……
755 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/08(土) 20:47:32.48 ID:q2AjySXSO

一同「「「…………」」」

 美味しそうなシウマイが暖まったのはいい。

 でも……


サクヤ「包帯を結びますから……」

クーヤ「うう……」ウルウル

ヒエン「大老! これは一体どういう事でありますか!」

ゲンジマル「まさかこれ程煙が出ようとは……」

ハウエンクア「あーあ、服に肉の匂いが付いちゃったよ」クンクン


 食事の席が険悪な雰囲気に。


クーヤ「ゲ、ゲンジマルを責めるでない…」グスン

    「迂闊だった余も悪いのだ……」ポロ…


サクヤ「そ、そんな事ありませんよクーヤ様!」

ゴロー「……俺にも責任がある。もっと強く止められていたら……」

ハウ「……そうだねぇ。君が責任を取るのが良いかもねぇ」ニヤリ

   「あそこでもっと強く聖上を止められていれば
    こんな事態にならなかったんじゃないの?」


ヒエン「客人にそのような事を!」

ハウ「おやぁ〜? 庇うんだねヒエン。珍しい事もあるもんだ」

ヒエン「違う! 部屋に来たばかりのこの方には何も出来なかったはず!」

ハウ「確かにそうだよ。だけどさぁ、聖上の所為って他の者達に言えるかい?」

   「ただ…あの箱は僕が大老様に渡した物だからね。
    こう見えて少しは責任を感じているんだよ」


ヒエン「何っ!」

ハウ「だけど、それはこの前のお詫びとして召し上がって貰いたかったからさ」

   「ほら、僕と大老様はあまり良好な関係ではないだろう?」


ゲンジマル「…………」


ハウ「大老様に渡した物をそのまま朝餉に出すなんて、知らなかったよ」

   「第一、この場に皆様が集まる事も知らなかったしねぇ」


クーヤ「た、確かに余が会を思い立ったのは今朝になってからだ……」

756 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/09/08(土) 20:50:08.69 ID:q2AjySXSO

ハウ「手っ取り早く言うとさぁ。僕等の中から責任を取らせる事はないんだよ」

   「『これは事故だった』で済むんです」


ハウ「ただねぇ…聖上が手に火傷を負ってしまいましたから」

   「やはり形式として誰かが責を取らないと皆に示しがつきません」


ハウ「皇に傷を負わせたんですから、普通は極刑ですねぇ」

サクヤ「き、極刑ぃ!?」

ハウ「あくまでもこの國の話で、ですよ」ニイッ

   「ですが…そちらの客人が責を負って下さると言うなら……」


ハウ「皇の寛大な措置で國外退去・永久追放で済むと思いません?」

ゴロー「……事故と説明することは?」

ハウ「いえいえ。説明は出来ますよぉ。ですが民がどう思うかまではねぇ……」


 単一民族國、そこの皇が傷を付けられた。
 皇は事故と言い張るけど……
 怪しい男…シャクコポルではない男が事故の場にいた――

 間違いなく矛先が俺に向く状況か。


ゴロー「…………」

ハウ「少し早いお帰りと思えば……」

ヒエン「ハウエンクア! 其方は民を信じていないのか!」

    「正しく情報を知らしめれば……」


ハウエンクア「甘いねぇ、ヒエン。これだからお坊っちゃんは」

ヒエン「な、なんだと!!」ガタン

ハウエンクア「僕達はさ、様々な國で奴隷以下の扱いをされて来たんだよ」

ハウ「今だってそうだ。この國に逃げて来ても傷が癒えない者はいるさ」

   「そう…僕のようにね」スッ


クーヤ「な、ハウエンクア……」

ゴロー「貴方は……」

757 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/08(土) 20:53:30.60 ID:q2AjySXSO

 灰色の着物の腕を捲り、肌を晒すハウエンクア。
 彼の腕には大小様々な傷や、火傷の跡が生々しく残っていた。


ハウ「脅され、辱しめられ、虐められ」

   「自分の身の丈の倍以上の大人から全力で殴られた事もある」


ハウ「恨んでいますよ、シャクコポル以外の部族全てをね」

   「虐げられてきた民達も同じ気持ちでしょう」

ヒエン「…………」

ハウ「憎しみが正しい情報を正しいと認識させない事もあるんだよ」


ハウ「本当は…こんな醜い姿を見せたくありませんでした」バサ…

   「……話を戻します。此度の事故の責についてですが……」

   「やはり、品をご用意した私が負いましょう」


クーヤ「な、それは!」

ハウ「ですが聖上、僕の命の代わりに……
   どうか! 我等クンネカムンによる全土統一を!!」


一同「「「!!!」」」


ゲンジマル「な、何を吐かすかハウエンクア!」

ヒエン「……聖上、某からもお願い申し上げます」

サクヤ「お兄ちゃん!?」

ヒエン「ノセシェチカとの戦だけでは我等の力を誇示出来ませぬ」

    「何時また他國に攻め入られるか……」


ヒエン「國境の集落は恐れているのです」

    「今こそ! 我等が全部族の平和の為、動くべきなのではありませぬか!」


ヒエン「我等クンネカムンが民を導き、部族間の争いを無くす國を!!」


ゴロー(な、なんだなんだ? 何が起こった!?)


 なんであんな小さな事が戦の話に繋がる!


ハウ「聖上!」  ヒエン「聖上!」


クーヤ「よ、余は……」フルフル


ゲンジ「双方、聖上の御言葉を聞けぃ!!」


一同「「「……」」」


クーヤ「……い、今は駄目だ。國土を広げるより、國を磐石にせねばならぬ…」

758 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/09/08(土) 20:55:49.66 ID:q2AjySXSO

ヒエン「――聖上!」


ハウ「……畏まりました。出過ぎた真似を御許し下さい」ペコ


 ? やけにあっさり退くな。


クーヤ「あ、ああ、許そう。ハウエンクアがこの事故の責を取ることもない」

    「手袋を着け、火傷は誤魔化そう。この事は余の内に仕舞っておく」


クーヤ「今朝の事は内密とする――――」


  ダッダッダッ…


兵士「ほ、報告です! ヌンバニ、ハップラプが國境に侵攻! 集落が……」


クーヤ「何だと!?」ガタッ

ゲンジマル「ヒエン! ハウエンクア! 話は後として今は行くぞ!」

ヒエン・ハウ「「はっ!!」」

クーヤ「余も出陣するぞ!」


  ダダダダダダダ…


サクヤ「あ……ク、クーヤ様!」タタッ


 取り残された……


ゴロー「ジェットのせいで歯車がズレたか……」

    「不味い事になってきたぞ……」


 とりあえず今は飯を食おう。


  もぐ…


ゴロー「うん、旨い。しかし…これはどこまでいってもシューマイだ」


 …………
759 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/08(土) 21:13:52.33 ID:q2AjySXSO

血、血、血……
村人やウマ、侵略者達の骸が見渡す限りに広がる。

……國境の集落は彼等の到着前に焼かれていたのだった。


クーヤ「……うぷっ」スッ


ハウ『これがクンネカムンに牙を向けた者の末路さ……』

ヒエン『…………』


クーヤ「……これが戦、戦なのだ」


自分に言い聞かせるクーヤ。


ゲンジマル「……む、そなた達は」


焼かれた集落の人々が彼等に向かい、土下座した。


村人A「畏れながら申し上げまする!」

    「どうして私達はこうも虐げられなくてはならないのでしょうか!」


村人B「その気になればこの全土を手中に収める力があるというのに!」

   「どうか我等に寧日を! 他族に脅かされる事のない安らかな日々を!」


ゲンジ「……皆の気持ちは判る」

    「しかし、今は國土を磐石にする事! それが……」


村人C「それはいつだ!」

   「その時が来るまで…俺達は殺され続けるのかあ!!」


村人A「落ち着け!」  村人B「皇様の御前だ!」

村人C「磐石になったら!今日殺された、俺の子は帰ってくるのかあああ!!」

    「わあああぁぁぁぁ――――!!!」


慟哭する男……


クーヤ「…………」


言葉をかけられない女皇。

760 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/09/08(土) 21:16:39.27 ID:q2AjySXSO

村人A「私達はオンヴィタイカヤンから選ばれし民!」

    「どうか…どうか私達シャクコポル族の力を!
     クンネカムンの御威光を全土にお示し下さい!!」


村人達「「「お願いいたしまする!!」」」


ハウエンクア「……ヒヒッ」ニヤニヤ



クーヤ「…………」


彼女は何を思うのか……


 ――――


その夜も少女はトゥスクルへ足を運んだ。
サクヤにもゲンジマルにも…
誰にも言わず、一人で……


クーヤ「今夜は月が美しい……そうは思わぬか」

ハクオロ「……そうだな」

空を見上げ、言葉をゆっくりと口にしていくクーヤ。


クーヤ「余は月を眺めるのが好きだ」

    「太陽のように、無遠慮に照らしつけないのが良い……」


クーヤ「月の光はそっと闇を映し、我等を優しく包みこんでくれる……」

    「オンヴィタイカヤンも太陽より月をこよなく愛したそうだ」


ハクオロ「……クーヤ、こっちに座らないか」クイクイ

クーヤ「どうしたのだ?」トコトコ  ストン…


  コロン…


クーヤ「な、何を――」

ハクオロ「いいからいいから」ナデナデ

クーヤ「ふぁ…… い、いかん! このような所を誰かに見られたら……」

ハクオロ「大丈夫だ。私達以外誰もいない」

     「尤も、クーヤが嫌ならば止めるが」


クーヤ「……べ、別に其方がしたいなら許可してもよい///」

ハクオロ「そうか」ニコリ

クーヤ「ほ、他の者には内緒だぞ!」

ハクオロ「ああ、わかっている」

761 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/08(土) 21:18:45.79 ID:q2AjySXSO

クーヤがハクオロの膝に寝転がってから少し経って…


ハクオロ「何事も一人で抱え込まない事だ」ナデナデ

クーヤ「……」


ハクオロはクーヤに語る。


ハクオロ「完璧な者などありはしない」

     「どんな者でも悩み、傷付き、苦しむ。
      そして誰かに頼り、助けて貰いたいと思っている」


クーヤ「ハクオロもそうなのか?」

ハクオロ「勿論だ」ニコリ

クーヤ「エルルゥか?」

ハクオロ「そうだ、私にはエルルゥ達がいる」

    「クーヤにはゲンジマルとサクヤがいるようにな」ポフポフ


クーヤ「あっ……」

ハクオロ「何かあったら二人に話すといい」


クーヤ「……ゴローを忘れておるぞ」

ハクオロ「あの人に話して…気が晴れるかい?」


クーヤ「ふふっ……判らぬ」ニコッ

    「そうか…… 余は一人ではないのだったな……」


ハクオロと居るこの時だけ、か弱い皇の胸の内は暖かかったのかもしれない。

762 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/09/08(土) 21:24:16.22 ID:q2AjySXSO
 ――――

二國を討った筈のクンネカムン。

しかし……


クーヤ「な、またも攻め入られただと……」


彼女は気付かない。
ただ武力を用いて制圧するだけでは、負の連鎖は消えない事に。


ヒエン「聖上の御気持ちはわかります! ですが状況は変わるのです!」

    「我々がこうしている間にも、國境では民が苦しんでいるのです!」


ハウエンクア「そろそろ腹を決めるべきではありませんか?」


クーヤ「う……」


ハウ「皆が聖上に全土を統一して欲しいと言っているんです」

ヒエン「守るばかりでは、臣民を救う事など出来ませぬ!」

    「我等の力……アヴ・カムゥを用いれば、
     全ての部族が安寧に過ごせる國を創れましょう!」


左大将・ヒエンは邪悪な連鎖を後々に無くそうと考える。

右大将・ハウエンクアは連鎖を楽しんでいる。


クーヤ「ゲ、ゲンジマルはどうした……」

ハウエンクア「サクヤを連れ、村の様子を見に行かれました……」ニヤリ


これも小さな彼の策略。
彼の喜びを妨げる者を一時的に退けた。


クーヤ「……うう」


兵士「報告申し上げます! 敵、更に侵攻! 集落が二つ焼き払われました!!」


ヒエン「聖上、ご決断を!」

ハウエンクア「國を磐石にすれば、今日死んでいた民が生き返ると言うのかい?」


全く異なる意図を持つ二人が同じ言を待つ……

763 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/08(土) 21:31:09.51 ID:q2AjySXSO

そして事態は――――


クーヤ「……余は其方らの言に流される事は出来ぬ」

   「皆の者、余は自らの意思で決意した」


クーヤ「全土へと報ぜよ! このアムルリネウルカ・クーヤは……」



 「ちょっと待って頂けませんか」


――――別の動きをし始める。


ハウエンクア「……部外者の客人には下がって頂きたいものですねぇ」

ヒエン「ゴロー殿、如何なされた」

側近「今は重要な議の最中、客人といえど…」


ゴロー「議をしている場合ではないでしょうに」

    「アヴ・カムゥ部隊の展開、敵軍を排除するのが左右大将の仕事のはず」

ゴロー「ヒエンさん、ハウエンクアさん。御二人はなぜこちらに?」


ヒエン「……行くぞハウエンクア」ザッ

ハウエンクア「……」チッ

  カツ カツ カツ…


ゴロー「他の方々も地図を広げる等、軍議の準備をするべきだと思いますよ」

    「クーヤ様、よろしいですか」


クーヤ「あ、ああ。皆の者、頼むぞ」


側近達「「「は、ははぁ…」」」


皇の腰掛ける椅子の前。ゴローは独り、立つ。


クーヤ「ゴロー。其方、余の……」

ゴロー「落ち着くんです。アヴ・カムゥは全土侵攻出来るだけの数がありません」

クーヤ「な! 其方、何故……」

ゴロー「長く城に居ると様々な話を集められるものです」

    「戦線を拡大する程に、部隊の守りが手薄になるでしょう」


クーヤ「判ったような口を!」

ゴロー「知ってるんです。かつてこの全土を支配していた一つの国を」

クーヤ「……どういう事だ。ラルマニオヌは全土統一なぞしておらぬ!」


ゴロー「私の知る国は海の向こうにある巨大な国と戦い、
    少しずつ孤立して敗北していきました」


クーヤ「何を言うておるか判らぬが、クンネカムンは絶対敗けぬ!!」

ゴロー「何故そう言いきれる!」

クーヤ「……ゴ、ゴロー!?」
764 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/09/08(土) 21:33:53.46 ID:q2AjySXSO

ゴロー「戦に絶対なんてありません」

    「クーヤさん、貴女は孤立してはいけない人間なんだ」


クーヤ「ならば、余にどうせよと言うのだ!!」

    「余は…余は皇として懸命に考えておる……」


ゴロー「一人じゃ出来ない事もあるんです」

    「頼りましょう、クーヤさん。俺だって使って下さい」


クーヤ「……其方もハクオロと同じ事を言うのだな」

ゴロー「あいつと同じってのは気に入りませんが」

クーヤ「ゴロー、余を助けてくれるか……」

ゴロー「畏まりました」


  カチャカチャ…


ゲンジマル「只今戻り……むう?」キョトン

ゴロー「遅いです、ゲンジマルさん」


 ――――


 〜 トゥスクル皇城・書斎 〜

ハクオロ「ゴローさんから連絡が入った」

エルルゥ「なんて書かれてたんですか?」

カルラ「大したことではないと思いますわ」グビグビ


ハクオロ「いいや。大したことだ」

    「このトゥスクルにクンネカムンと
     オンカミヤムカイとの会合の仲立を頼みたいとさ」


オボロ「なにっ! クンネカムンだと!」

クロウ「な〜にやってたんすかね」

ベナウィ「聖上、その話をお請けするのですか」

ハクオロ「……クンネカムン皇とも知らぬ仲ではないのでな」

トウカ「それはどういう事でありますか」

ドリィ・グラァ「「僕達も聞きたいです」」

ハクオロ「ああ、実は――」

 …………
 ………
 ……
765 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/08(土) 21:37:22.97 ID:q2AjySXSO

ベナウィ「私に黙ってそんな危険な事を……」


ハクオロ「あ、いや、す、すまない」


トウカ「ゲンジマル殿にお会いしたなんて…
    聖上! 何故某を伴にしなかったのですか!」


ハクオロ「わ、悪かった。(堅苦しさ二倍になるのが嫌だったからだ)」


カルラ「…………」

アルルゥ「カルラお姉ちゃん?」

カルラ「何でもありませんわ……」


エルルゥ「仲立をするんですね」

ハクオロ「そのつもりだ」

オボロ「全土への侵攻には至らなかったか」


ハクオロ「皆、警戒させる事を言ってすまなかった」

クロウ「総大将が謝るこっちゃありやせん」


ハクオロ「よし…… ウルトは……」

カミュ「お姉様は調べたい事があるって行っちゃったよ」

ハクオロ「ではすぐにウルトを呼んで……」


  フッ…


ウルトリィ「あら? 皆様ご機嫌よう」スタッ

ハクオロ「わあっ!! 転移か!」

ウルト「ええ。何かこの城に変わった波動がありましたので調査を」

ハクオロ「変わった波動?」

ウルト「はい。転移の術波動が点々とありました」

    「今もそれを利用して外から城に帰ってきたところです」


ハクオロ「すまんがその調査は後にしてくれるか。仕事を頼みたい」

ウルト「畏まりました。それでわたくしに出来る事は……」


 ――――
766 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/09/08(土) 21:44:38.93 ID:q2AjySXSO

 〜 開陽殿・朝堂 〜

クーヤ「クンネカムン皇、アムルリネウルカ・クーヤだ」

ウルト「オンカミヤムカイ皇女…兼トゥスクル國師・ウルトリィと申します」


 ふう…なんとかなるぞ。


ゴロー(ウィツァルネミテア教の力を借りて、他の國との争いを調停する)


 説得が大変だったけど……


ゴロー(俺が頼むと皆さんすんなり許可してくれたな)

 ここが上手くいけば、次はオンカミヤムカイでの皇同士の会合だ。


クーヤ「良かった。会って貰えぬかとも思っていた」ニコッ

ウルト「ハクオロ様の御友人に失礼は出来ません」ニコリ


 いい雰囲気だ。


ハウエンクア「…………」イライラ

ゴロー(不機嫌なのがバレバレだぞ)


 こいつに注意して動いて貰い、正解だな。

 もう大丈夫だろう。


ゴロー(煙管を呑みにいくかね)

  カツ カツ カツ…

 …………

 一休みして考える。


ゴロー(何故ジェットボックスなんて物があったんだ?)


 戦でうやむやになった事だけど、気になるぞ。


 「ゴローおじさま〜!」


 聞いた事ある声が上から――

  バサッ! ドスン!

 羽撃きと共に、カミュが飛び付いてきた。


ゴロー「痛い……」

カミュ「ご、ごめんね」

ゴロー「まぁ、平気だ。なんでここに?」

カミュ「ゴローおじさまとも遊びたかったんだもん!」


ゴロー「遊んであげられないからな。まだ忙しい」

カミュ「え〜!!」


  ドサッ…
767 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/08(土) 21:48:14.49 ID:q2AjySXSO


 物を落とす音が……


ゴロー「あれ、兎耳ちゃん」

カミュ「おお?」


兎耳「……ゴ、ゴローさん。そちらの方は……」フルフル


ゴロー「ああ。カミュという子なんだ」

カミュ「こんにちは♪」ペコッ


兎耳「わ、私とは遊びだったんですか!」ウルッ


ゴロー「……はい?」


兎耳「そ、そんな…… 信じてたのに」グスン


カミュ「???」キョトン

ゴロー(何を考えてるんだろう……)


彼にとって、初めての『修羅場』だったのかもしれない。



そんな彼等の様子を見る者がいた。


ディー「……見過ごす訳にはいかんか」


呟くディー。


ゲンジマル「何を為さるおつもりでありますか」ザッ

ディー「久しいなゲンジ。我が友よ」

ゲンジマル「…………」

ディー「何故あの男に『箱庭』を見せない」

ゲンジマル「心の整理をして頂いておりまする」

ディー「約束故、汝を縛れぬのが口惜しい」

    「ゲンジ、明後日に『偽り』を『箱庭』へ連れよ」


ゲンジマル「断ると申しましたら……」

ディー「汝は断らぬ。そういう男だ」


  スッ… フッ…


ゲンジマル「…………またも、弄ぶのですか」

768 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/09/08(土) 21:51:34.40 ID:q2AjySXSO
 ――――

 〜 オンカミヤムカイ 〜

遠くを眺める法術により、この國の平原を進む
五体のアヴ・カムゥを確認した賢大僧正(オルヤンクル)。


ワーベ「種の宿命に翻弄されず、争いを止めようとする……」

    「素晴らしき英断であろう」


賢大僧正ワーベは遠見の術で白きアヴ・カムゥを見つめる。


ワーベ「警戒は解かぬようだが、大きな一歩。丁重に出迎えねばならん」


白・赤・青のアヴ・カムゥを見終えたワーベ。
周りの術士達と共に、安堵した表情を浮かべた。


ディー「そうはいかぬのだ」


この者が来るまでは……


ワーベ「ディー? ……違う!」


  キュイイン…


ディー「動くな。我が頭上の光球に焼かれたくないなら我が命に従え」

ワーベ「貴方様は!」

ディー「……大封印(オン・リィヤーク)を発動させよ」

 ――――


オンカミヤムカイの平原を進むアヴ・カムゥ。


クーヤ『あと半刻程で宗廟に着くのだな』


ウルト「はい、もうす


  フッ……


消失する皇女。


クーヤ『ウルトリィ殿! 何処へ!』

ヒエン『聖上! 地面が!』

ハウエンクア『なんだいなんだい?』


 コ゛コ゛コ゛コ゛コ゛……

 ビシッ ズバァッ!


震える大地、隆起する岩柱。爪のような柱が五体のアヴ・カムゥを包囲する。


ウルト「この力の波動は『大封印(オン・リィヤーク)』!?
    お父様、どうして! 話し合いをするのではないのですか!?」


平原から離れた場所に転移させられたウルトリィが叫ぶ。

だか、叫んだところで意味はない。
769 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/08(土) 21:53:47.01 ID:q2AjySXSO


――仕組まれた大封印は始まった。



クーヤ『がはっ! こ、この力は……』

ヒエン『地に引きずり込まれ……』

ハウエンクア『ア、アヴ・カムゥごとッ!』


『大封印(オン・リィヤーク)』。
それはオンカミヤムカイの高位術者達が行う封印術。

複数の岩柱で対象を囲み、地の底へと引きずり込む。


しかし、今回の術は仕組まれたもの。
クンネカムンの皇を戦へと焚き付ける、脅し。


ヒエン『止まった……』

ハウエンクア『アイツら! 騙し討ちを!』

クーヤ『謀られたのか……我等が……』


呆然とするクーヤ。


ハウ『見たでしょう! これが奴等の手です!』

   『友好的に近づいて、騙した!』


ハウ『あの女がアレの前にいなくなったのが何よりの証拠!』


クーヤ『余は……余は……』


ハウエンクア『聖上! このままオンカミヤムカイを制圧しましょう!』

ヒエン『ハウエンクア! それは……』

ハウエンクア『こんな外法な手を使う奴等に情けなどいりません!』


クーヤ『……許せぬ』


ヒエン『聖上! どうか冷静に!』


クーヤ『余は冷静だ。冷静に怒っておる……』


ハウエンクア『…………』ニヤリ


クーヤ『決めたぞ。余は余の意思を自らで……』

    『この地を落としたのち、全土に報ぜよ!』


クーヤ『我等、クンネカムンが全土を統一すると!!!』



第二十一話「シウマイジェットボックス」

 続く。
770 : ◆M6R0eWkIpk [saga]:2012/09/08(土) 21:56:29.72 ID:q2AjySXSO
今日の投下は>>742から。
ジェットのせいで歯車がズレ過ぎ。
では失礼します。
771 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/09/08(土) 22:09:13.59 ID:RbbeF8U30
772 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/09(日) 19:03:14.15 ID:ldLkOVySO
773 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(田舎おでん) [sage]:2012/09/12(水) 21:32:16.26 ID:wQeVo5koo
追いついた
シュウマイは悪くない
774 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/20(木) 07:23:06.89 ID:K3yW/jrSO
775 : ◆M6R0eWkIpk [sage saga]:2012/09/21(金) 13:25:19.46 ID:fkM3gXo70

第二十二話 「遺された事実」


 〜 クンネカムン・??? 〜


 オンカミヤムカイへクーヤさんが旅立った翌日、
 俺はゲンジマルさんに連れられて開陽殿の東の半島
 ……かつて『能登半島』と言われた地にやって来ていた。


ゴロー「随分、海岸線を歩きますね」ザッザッ

ゲンジマル「この近辺には道行く者を迷わせる結界が御座います故、
       某から離れずお進み下され」ザッザッ


 やけに大層な防御じゃないか。


ゴロー「箱庭とやらはそれだけ重要な場所なんですか?」

ゲンジマル「……かの地の術を世に広める程、
       我等の文化は成熟しておらぬのです」


ゴロー「いったい何なんです? 何があるって言うんです」

    「貴方のようなエヴェンクルガの武士が仕える皇を離れ、
     俺をそこに連れて行くだけの場所なんですか……」


ゲンジマル「某は…あの國、クンネカムンの目付に過ぎぬのです」

ゴロー「……クーヤさんに仕えていないと言うんですか。監視しているだけと」

ゲンジ「……そこまでは言いませぬが。……着きまする」ザッ


 俺達の目の前には、侵入者を寄せつけぬかのように壁が立ち憚っていた。
 その壁をよく見ると、隅に人ひとり程のトンネルが掘られている。


ゴロー「この穴を進むわけか……」


 トンネルに入り、ゲンジマルさんの後についた。
 徐々に暗くなる通路内。俺達は発光石をかざして歩を進めていく。

 距離があるな… 疲れてきた。


ゲンジマル「先程の穴は特定の者にしか見えぬよう、
       法術をかけられております」ザクザク

ゴロー「へ? 俺に見えてましたよ?」

ゲンジマル「至極当然。なにせこの地は……抜けますぞ」


 ようやく出口の光が目に入る。
 目を慣らしながら前に足を運ぶと――


村長「お待ちしておりました。ゴロー様」ペコリ

村人達「「「我等の祖、大いなる父。お帰りなさいませ」」」



ゴロー「…………えっ?」


ゲンジマル「ようこそ、我等が守りし箱庭へ。
       ここが貴殿の願いの地で御座います」

776 : ◆M6R0eWkIpk [sage saga]:2012/09/21(金) 13:27:23.72 ID:fkM3gXo70
 ――――


 〜 オンカミヤムカイ・宗廟 〜


アヴ・カムゥにより陥落したオンカミヤムカイ。
縛られた賢大僧正を憎しみの篭った瞳で見詰めるクーヤ。


クーヤ「祖先を祭りし社である宗廟を城に用いるとはな」
    
    「オンヴィタイカヤンを信ずる者ならば考えられぬ」


ワーベ「…………」

クーヤ「賢大僧正ワーべ。何故我等を攻めた」

ワーベ「…………」

クーヤ「……答えよッ!!」

ワーベ「……オンカミヤムカイに課せられし役目は解けぬ」

クーヤ「何を言う! 話し合いに来た者を迎え撃つのが
     お前達ウィツァルネミテアの作法とでも言うのか!!」


ワーベ「…………」



クーヤ「……もうよい」クル

    「ヒエン、ヒエンは何処だ!」


ヒエン「ははっ!」

クーヤ「この男を『サハラン島』に幽閉せよ。其方が尋問役だ」

ヒエン「承知いたしました」ペコリ

クーヤ「……ハウエンクアはトゥスクルへ向ったか」

ヒエン「はい。西方の國々を侵攻しつつ近付いております」

クーヤ「よし、他に変わった事はないか」

ヒエン「…………」


クーヤ「……何があったのだ」

ヒエン「聖上、こちらへ。御覧になって頂きたいモノがございます」

クーヤ「……よかろう」
777 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage saga]:2012/09/21(金) 13:32:50.02 ID:fkM3gXo70
※前レス修正、後ろ6行目の「西方」→「東方」に

 ………………
 …………


『それ』は『ある扉』を守護するかのように座していた。

手入れはされていたのだろう。いつ主が帰っても力を発揮できそうだ。
脚部や腕部。その部分だけ通常のモノとは異なる朱色の鎧甲が、
発光石の光にさらされて皇と左大将の姿をぼんやりと映す――


クーヤ「な、何故だ…… 何故このオンカミヤムカイに」


    「『アヴ・カムゥ』があるのだっ!!」


他のモノと違い、纏う装甲の薄く……
角(ツノ)の無いアヴ・カムゥを二人は見上げた。


ヒエン「某にも皆目見当がつきませぬ……」

クーヤ「尋問ではなんと言っておった」 

ヒエン「『遥か昔に託されたモノ』としか喋らず」

クーヤ「動いたのか?」

ヒエン「いえ。我等が入っても動きませぬ」

クーヤ「……使えぬのか。大いなる父より授かった力を……」


ヒエン「如何なされますか」


クーヤ「……余は一度クンネカムンに戻る。『これ』も連れてな」

    「ではヒエン、賢大僧正を任せるぞ」


ヒエン「御意!」 スクッ タタタタ…


ヒエンが去った後、再び顔を上げるクーヤ。


クーヤ「……お主は誰を待っておるのだ。朱黒のアヴ・カムゥよ」


誰も乗らぬアヴ・カムゥは…答えなかった。
778 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage saga]:2012/09/21(金) 13:34:38.46 ID:fkM3gXo70
 ―――――


 〜 クンネカムン・箱庭内の定食屋 〜


ゴロー「あ、すいません! モロロのおかわり下さい!」

店員「はーい! それと…注文のあった魚の卵のどぶ漬けと、
    岩のり。あと月見おろしうどんです!」カチャ


ゴロー「夢のような集落だなァ」モグモグ


 結構歩いたから腹が減って減って。
 もう何でも、いけちゃうぞ。


ゲンジマル「御気に召されましたかな」

ゴロー「最高です」


 ちょっと町を歩けば様々な『めし屋』がずらり!
 前に見た中華の店もここにあった。


ゲンジマル「某には『すき焼き風肉豆腐モロロ』を」ゴトン


店員「すき焼きまだだっけ?」

店主「まだー」


店員「ゲンジマル様、まだなんですよソレ」


ゲンジマル「むううう…… なれば天ぷら定食モロロ大盛りを頼みまする」


ゴロー(出鼻をくじかれたな)



  ●ゴローの頼んだ品々


 【しょうが焼き目玉モロロ丼】

  卵に肉、紅生姜の彩りが食欲をそそる!
  ご飯がなくても十分旨い無敵の組み合わせ。


 【魚の卵のどぶ漬け】

  おかわりしたモロロに合わせる。
  量多し。


 【岩のり】

  程よい大きさの皿に入れられた海苔。
  残さないで済みそう。


 【月見おろしうどん】

  手打ち麺がしっかりしている。
  葱とおろしと卵が美味しそう。
  七味・一味はお好みの量を。
779 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage saga]:2012/09/21(金) 13:38:15.63 ID:fkM3gXo70

ゴロー「ム… 目玉焼きと、どぶ漬けと、月見うどん……」

    「卵がダブってしまった」


ゴロー(まぁ、いいか)  もぐもぐ

 
 うん! いくらっぽくて旨い。
 モロロにのせていくら丼のルートだ。


   むしゃ… むしゃ…


ゴロー(頭の中でなんとなく思いついた組み合わせが上手くいくと嬉しいよな)


ゲンジマル「少々魚卵を頂いてもよろしいですかな」

ゴロー「どうぞ」


ゲンジマル「天ぷらに至るまでの時をゆるりと待つ。その為にツマミは不可欠」モグモグ


店員「どうぞ、冷やっこです」コトン

ゴロー「あれ? 注文してませんよ?」

店員「ゲンジマル様がいらした時は必ずこれを頼むのです」


ゲンジ「うむ、酒にあう」モグ


 ゲンジマルさん、常連か…… やる…いや、最初に出鼻をくじかれてるから五分五分だ。

 
   ずるずる…


ゴロー(うどん、いい感じだ。意外と腹に入る)ズズ

 
 黄緑色をした葱のほのかな甘み。
 白いおろしが茶の汁へ浸かり、ゆっくりと染まる様。
 そして卵の優しい黄色。
 三つの味が……うどんを紙にして絵を描くよう。


店員「天ぷら定食、お待たせしました!」コトン


ゲンジ「なぬ!」


ゴロー(早くないか?  まさか……)


ゲンジ「…………」ザク


ゲンジ(不満げな顔)「…………」


ゴロー(作り置きの天ぷらだったか……)

    (どうするんだろ。モロロ大盛りだぞ)


ゲンジ「武人は冷えた天ぷらでありましょうぞ…」ボソリ

ゴロー(誤魔化した……)


ゲンジ「…………」 ガツ… ガツ…

ゴロー(見てるこっちまで悲しくなってきた)
780 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage saga]:2012/09/21(金) 13:39:47.80 ID:fkM3gXo70

 ………………


 食事を終えて、話を切り出す。


ゴロー「ところでここは何なんです?」

    「他の國と食事の質が違いすぎる」
 

ゴロー「それにさっきの『願いし地』とはどういう意味なんですか」


ゲンジマル「……某も話に聞いただけ故、
       委細は判りませぬがよろしいか」

ゴロー「はい」


ゲンジマル「といっても、言の葉の意味はそのままであります。
       この土地は貴殿の願いにより作られた町……」

      「ここに住まう者達にとって、貴殿は神に等しき存在でありまする」
 

ゴロー「は、はぁ……」

ゲンジ「それ以上は某の口から語れませぬ。今は御容赦を」ペコリ

ゴロー(この爺さん、知りたかった事を何も話さないんですけど)


 過去の俺が何を願ったとかそういう事を教えて欲しい。


ゴロー(語れない…ねぇ)ジッ


ゲンジマル「…………」


 深い事情がありそうな顔。


ゴロー「あと何か言える事はありますか?」


ゲンジマル「…………北に不可思議な建造物が存在するとしか」

ゴロー「この町の北……」


店員「ああ! あの変わった建物ね!」


 話に割り込んでくるウサギ耳の店員さん。


ゴロー「知ってるんですか?」


店員「ええ。あそこは私達の神様を祀る場所なんですよ」

   「というか…貴方様を祀ってるんですけど」


ゴロー「……………………はい?」

ゲンジマル「…………」
781 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage saga]:2012/09/21(金) 13:50:33.47 ID:fkM3gXo70

 ――――
 

 〜 トゥスクル皇城・書斎 〜


ハクオロ「クンネカムンが東方、つまり此方に向かい進軍中か」

エルルゥ「オンカミヤムカイの方々はどうして攻撃を……」


クンネカムンが全土に報じた開戦。
『介入者』の存在を知らぬ皇達は戸惑いを隠せない。


カミュ「お姉様…… お父様はどうしちゃったの?」

ウルト「私にも判りません……」

カミュ「……お父様は」

ウルト「『絶対、大丈夫』。きっと……」

カミュ「……カミュが落ち込んだ時、お姉様がそう言っていつも励ましてくれたっけ」

ウルト「そう。わたくし達に古くから伝わる祝詞のようなものですから」


気丈に振舞うが…やはり白翼の女性の顔は陰っている。
不安気な表情を浮かべる一同。


ベナウィ「起こってしまった事を憂いても意味がありません」

     「今は我々もクンネカムンの軍に対し、備えを」


ハクオロ「判っている。既に大型の投石器と投槍器の製造をさせている」

オボロ「あれ程の物を使う必要があるのか?」

ウルト「クンネカムンの力、『アヴ・カムゥ』には……」

ハクオロ「うむ。あれだけの大きさでないと対処できまい」

クロウ「どっしぇ〜 そんなに凄えもんなんすか。一度見てみたいっすね」


ハクオロ「おそらく、見れるぞ。それも近いうちにな……」

782 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage saga]:2012/09/21(金) 13:57:26.17 ID:fkM3gXo70
 ――――

 〜 クンネカムン・箱庭の定食屋 〜


ゴロー「不思議な町だよな。シャクコポルの皆さんだけかと思ったら…」


ギリヤギナの村人「畑でこんなにでっかいモロロが採れたぞー」

店主「これは凄いですねぇ」

オンカミヤリューの村人「俺もいい魚が捕れたんで、これで煮魚作ってくれー」

店員「はーい。すみません、お話は後で」ペコリ


ゴロー「あ、はい」


 ホントに俺が祀られてるのか? 神様に対する態度じゃないと思うんだが。


  ガチャ… 

ゴロー(扉が開いた)


店員「いらしゃ…村長様!」

村長「ああ。仕事を続けなさい」ニコリ  「ゲンジマル様は……」キョロ


ゴロー「あの人は城に戻るそうです」

村長「そうですか。ゴロー様、お久しぶりでございますのう」

ゴロー「そう言われましても…覚えていなくて」

村長「あれまあ。この私の事も覚えにないと?」


ゴロー「はい……  ん? すいません、お顔をよく見せて頂けますか」


村長「どうぞ」

 
 この人の顔… どこかで……


ゴロー「 あ   思い出した!! ……カレーの人だ!!」

村長「覚えておられるではありませんか」

 
 記憶の中の―― 俺に吠え面かかせてやるって言ってた店の主!
 よく見るとこの店って……


ゴロー「あの時、ゲンジマルさんと試食をしてた店……」

村長「あの娘とゲンジマルさんがくっついて何十年経ったかのう」

ゴロー「……あの娘って、あの白い耳のピンとした店員さん!?」

村長「ええ」


 ……ちょっと待て。今の俺は何歳なんだ? どうして身体が『老いていない』!?


ゴロー「混乱してきました……」


村長「……覚えておられぬのも無理ありません
    あのときの貴方様は今の貴方様ではなかったのですから」


ゴロー「???」
783 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage saga]:2012/09/21(金) 14:01:04.53 ID:fkM3gXo70
 ――――

巨大な爪により、死体の山が築かれていく―― 東にある何所かの國。


ハウエンクア「ヒヒヒッ! あとちょっとでトゥスクルに着くねえ」ニイ

       「いいよいいよ。僕の思った通りに事態は進む……」


ハウ「トゥスクル皇ハクオロかぁ。楽しい玩具だといいなあ」



中央部……古くは『日本海』と言われし海を渡る船上。


ヒエン「…………」

    「大老。某は貴方のように戦い、大陸に平和をもたらしまする」


ヒエン「例え数多の罪を被ろうと――――」


そして西の大國、クンネカムン。玉座に構える小さき皇(オゥルォ)。
彼女はエヴェンクルガの武士と相対する。


クーヤ「何をしていたゲンジマル。既に戦は勃発したぞ」


ゲンジマル「あの御方…ハクオロ皇のぬくもりをお忘れか!」

      「聖上は自らの手でそれを手放そうとしておられる」


クーヤ「……余はこのクンネカムンの皇だ」

    「我が同胞の為ならば、あの安らぎを手放そう」


ゲンジマル「聖上!」

クーヤ「必要な時に居らなんだ其方が ……いったい何を語るというのだ!!」ドンッ!

ゲンジマル「な…………」

クーヤ「……余の前から消えよゲンジマル」


ゲンジマル「…………」スチャ 

  カチャ… カチャ…


クーヤ「……この玉座の前でひとりになろうとはな」

    「ハクオロと過ごす刻のような至福はもう訪れぬのか……」

    「――――いや、訪れを待つのではない」


クーヤ「今度は余の手で掴み取る。もう一度、あの暖かな手を……」


サクヤ「失礼します、クーヤ様。床の準備が……」スッ

クーヤ「まだ眠るわけにはいかぬ。やらねばならぬ事は多いのだ。下がれ」

サクヤ「……クーヤ様? お疲れの」

クーヤ「――下がれと言ったであろ」

サクヤ「は、はい!」スタタ…



クーヤ「すまぬ…サクヤ」ボソリ
784 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage saga]:2012/09/21(金) 14:03:16.47 ID:fkM3gXo70
 ――――


 〜 トゥスクル皇城・朝堂 〜


ドリィ「敵、北の國境に侵入! 防人衆壊滅!」

グラァ「現在、トウカ様とクロウ様が一部歩兵衆及び弓衆を連れ迎撃中!」


ドリィ・グラァ「「このままだと、あと数刻で皇都に到達します」」


ハクオロ「……ついに来たか」


慌しくなる朝堂内。


ベナウィ「聖上、如何します」

オボロ「決まっている! 俺達も行くぞ!」


ハクオロ「いや、これ以上の抵抗は犠牲を増やすだけだ」

ウルト「では……」


ハクオロ「民に避難命令を出す」

エルルゥ「ハクオロさん! それって……」


皇により下されたのは――命を護る為の策。


ハクオロ「――都を放棄する!!」

     「エルルゥ・アルルゥ・ウルト・カミュは民を先導し、
      この都から急いで避難をさせるんだ」


アルルゥ「おとーさんは?」

ハクオロ「私達は時間を稼ぐ。避難完了までの間、奴等を食い止――」


ウルト「いいえ、ハクオロ様も避難してください」


皇の言葉は遮られる。


ハクオロ「何?」


ベナウィ「彼等の目的は聖上でしょう」

カルラ「お腹の空いた獣の前に、餌を投げ込むようなものですわ」

オボロ「兄者が無事なら再び体勢を立て直す事もできる。
     奴等を食い止めるのは俺達に任せてくれ!」


この場に居る者達、全ての瞳がハクオロを映す。


ハクオロ「……判った」

     「この戦で終わらすつもりはない。皆、必ず生き延びよ」


   「「「応ッ!!!」」」


……東と西。二人の皇の姿は対照的だった。
785 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage saga]:2012/09/21(金) 14:06:56.21 ID:fkM3gXo70
 ――――

 〜 クンネカムン・箱庭内 〜


ゴロー「ま、待ってください。そんないきなり北の建物へなんて…」

ゲンジマル「クンネカムンが全土に宣戦布告した今、既に猶予はありませぬ」


ゴロー「……なんだと」

ゲンジマル「ゴロー殿には一刻も早くかの建造物にて
       記憶を取り戻して貰わねばなりませんぞ」

ゴロー「! やっぱり俺に関係する施設なんですか!」

ゲンジマル「ゴロー殿、失礼致しまする」グイッ


 この体勢は…… またですか。


ゴロー(……お姫様抱っこ、二回目)

   ダダダダダダダダ…

 …………


 ゲンジマルさんの健脚のおかげで、すぐに目的の建物に到着した。


ゴロー「本当に、俺に関係ある場所なんだろうか」

 
 中に入っても何もないぞ。がらんどうだ。


ゲンジマル「こちらを御持ち下され」スッ

 
 ゲンジさんから手渡されたのは……


ゴロー「白い輪……」


 エルルゥさんの髪留めにそっくり。


   ピカッ!


ゴロー「光りだしたぞ!」

ゲンジマル「『声紋認証』……と言われし術と耳に挟み申した」

ゴロー「俺の声に反応したって事?」

  
  ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…


ゴロー「隠し扉! そんなのまであるのか!」


 ……地下への階段が隠されていた。


ゲンジ「ここから先へは御一人でお進みを。既に覚悟はなされた筈」


 言われるまでもない。発光石を水に浸け、探索準備は完璧だ。


ゴロー「……いってきます」


786 : ◆M6R0eWkIpk [saga sage]:2012/09/21(金) 14:09:47.75 ID:gpS4+QHSO

 階段を降りていくと、部屋に着いた。


ゴロー「……覚えがある」


 ……ここは『研究所』だ。

 辺りに紙が散らばっている。しかし雨漏りがあったせいか、
 大半の書類は意味をなさない紙くずになっていた。

ゴロー「電気は……ないに決まってるか」


 使われなくなったコンピュータの前に椅子がある。

 試しに座ってみると……

 少し思い出した事がある。


ゴロー「……確かこの机の裏に」ゴソゴソ


 …………あった。


ゴロー「俺の『日記』だ。厳密には違う気がするけど」

 躊躇いなく、表紙をめくる。
 日本語で文字が書かれていた。


この書■『日記』のようなものである。

■■地に幽閉されてから、■■■たので
これまでの出来■を書き遺すのを思■付いた。

これを■き終■■ら、他の国の言■でも■しておこうと考えてい■。



ゴロー「一部の字が滲んでる……」


 他の言語で書くのは面倒だから止めた筈……
 やっぱり俺はこの日記を覚えている。


ゴロー「……続きを読もう」
787 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/21(金) 14:11:50.14 ID:gpS4+QHSO







■?年■月、“アイスマン”と接■。

ミズシマの紹■で氷の中から目■めた彼に、■面ごしだが■■する。
■分と不思■な男のように思えた。
記憶が無■のは■っていたが、言語などは比較的早く■えたらしい。
後から■ズシマに聞いた■だが、
彼■解凍当初から我■日本人の言■に近い言葉を喋っていた■■。
文字に関するテストもしたいようなので、
私の収■品…漫画を■せてやれとの事だった。
いきなりそん■物に入っていいの■ろうか……
と当■の私は思っていた気がする。



ゴロー「回想しながら書いてたんだよな」


788 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/09/21(金) 14:14:11.44 ID:gpS4+QHSO






同月■日、私の研■していた食■が実質■に完成。

同じ■究をしていた仲■同士で飯を食う。
正直合成■料のメシじゃなく、過去のデータにあるよ■なメ■が食いたかった。

追記・この■糧について記しておこう。
芋のような■見を持ち、土の状■にもよるが、早くて三日で■■る。
私■■主食となりうる食糧だ。
『マルタ』による実食も成功。
マ■タより先に私も簡単に焼いて食■たが、
バターが■しくなったのをよく覚えてい■。
配■の■ターを残しておけばと■悔したのは初めてだった。

話がそれた。この■■は挽いて■状にする■で
麦等にに近い性質を■たせられた。きっと米国の■達にも■ばれるだろう。
米■とか書いたら米が食いたくなった。
私■人類が環■の■変によって■下に潜ってからというもの、
地上への無人■メラには稲■が写らなくなったらしい。
稲も環境が変わり、■滅したのかもしれない……


ゴロー「……そうか。思い出した」


 俺は新しい食物を開発していたんだ。
 遺伝子工学分野でミズシマと知り合って……

789 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/21(金) 14:16:15.06 ID:gpS4+QHSO






○月○日、マルタの一体……いや、一人に■よう。
その■が高熱を伴う発■を起こす。

その時は知らな■ったが、後に私達■作■た食糧の一■成分に過■■応を示した
事が発覚。その成分が体内に蓄■して発作の症■を引き起こしたと推■した。

だが、過剰反■を起こすのは極■少数のマルタだけであり、
人■には影■が無いとされ、症例研究を停止させられた。

……命をなんだと思ってやがる。


ゴロー「これ、確か前に見た記憶だ」



▽月■日、宇■服のように■厚い装■で外に出る。

■下の■備であの芋を作るのではなく、外の土・光・空気で育る為で■る。
独りでは無理なので、ミズ■マからマルタを数人預り、■れてきた。
あの時の自分に馬■と言いたい。
本格的に■査するなら、人手はもっと必要だった。
結果■には約二十■の■ルタを外環境■生活させてみる事になっ■……



『ゴローサマ。ドウゾ』


 『ああ、やっぱりいい出来だ。日光のおかげで身がゴロゴロなる』


『服ガ苦シソウデスネ』


 『仕方ないんだ。俺達は地上に適応出来なくなったから』

790 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/09/21(金) 14:18:24.47 ID:gpS4+QHSO






▽■■日、連れてきたマルタの一人に高熱■状。
これまで共に畑を耕した仲間の■、独■でこの病の研究を再■した。
この研究は今も続けている。


ゴロー「…………」パラリ


▽月○■日、俺が東に派■したマ■タの一団が紫の琥■の欠片を持ち帰る。
巨■な獣がそれを病気の児に与えるのを眼の良いマルタが確■したらしい。

試しにあの病のマルタに粉■状に投与■ると少しだけ■状が和らいだ。
治療の■になるかもしれない。
残り少ない■珀を研究しようと思う。


ゴロー「紫琥珀を手に入れてたのか」


 でもどこまで研究に成功したか覚えていない。
791 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/21(金) 14:21:15.69 ID:gpS4+QHSO







□■4日、……二つ出来■があった。

一つは要ら■くな■たテストタイプ『アベル・カム■』を■った事。



……もう一つはあの病のマルタが亡■なった事だ。

ピンとした兎みたいな耳と短■の黒髪が可愛らし■った。
独身■の行き場の無い父性。その補完対■だったのかもしれない。

今だからこのように書けるが、当時は大■衝撃を受けた■を付け加■る。

■の日は■ズシマに会い、滅多に飲ま■い嗜好品に手を出した。

■かあの時、■達二人は■究者として……
■命の冒涜をしていいのかを長■と■りあった気がする。

そうそう、書き忘れていた。アイ■マンは■の■集品を■々読んでいたそうだ。
酔っぱらった私は、ならば…と
愛読■の『孤独のグルメ』をミズシマに貸してやったらしい……
電子デー■ではない、紙による漫画。
他にも紙の■画持って■いるが、その中でのお気に入りだ。

翌日、■が言うには『3510号』に渡し■しまい、
既にあの漫画はアイスマンの手■にあるとの事。

殺菌・滅■■理等■されたら本が壊れるかもしれないので、
残念だがあの漫画は彼にやろうと思う。


ゴロー「……ぐ」ズキッ

792 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/09/21(金) 14:25:03.05 ID:gpS4+QHSO






 ザザザッ――



???『汝ノ望ミヲ言エ――』


 『オトウサマ、彼は既に喋れない』


???『――ナラバ頭ヲ読ム』


 『私が知ってる。この人の願い』


  ザザザ…


???『――――ナンダソノ願イハ』


 『叶えないの。それとも身体は要らないの』


  ザザザ…


???『……焼ケタコノ身ノ苦シミ、癒サネバナラヌ』


  ザザザ…


 『この封印じゃあ、オトウサマを封じきれない……』


???『別ノ憑代ガ、我ニ必要――』


 あの声は――


ゴロー「今のは研究所の記憶じゃない……」

793 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/21(金) 14:26:44.71 ID:gpS4+QHSO






□月?日、アイスマンが他のマルタを引き■れて脱走。
彼の再凍結前の■内の隙をつかれたようだった。
セキュリ■ィロックを解除したミズシマ■投獄。
アベ■・カムルによるアイスマンを捜索部隊が編成された。

上は数を使って捜索するらしく、
私のアベル・カムルも出る事になった。
その時は私が乗れるように認証形式を
生体認証に変えなければ……と後悔した記憶がある。

ただ、今は変更した行動を褒めたい。



 『ええと、こんな感じでいいかな』

 『他のマルタ達に使わせるわけにはいかないし……っと』

 『お、動いた動いた』



ゴロー「アベル・カムル。訛ったら『アヴ・カムゥ』……」


 通りで乗り心地に覚えがあるわけだ。
794 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/09/21(金) 14:30:08.07 ID:gpS4+QHSO






□月◎■、部■が出発。
私は西に向かう組に参■していた。

どしゃ降りの雨中で周囲を探すと、3510号の姿を発見。
アベル・カムルから降りて尾行し、アイスマンと対峙した。

彼は3510号を……『ミコト』と呼び、必死に逃がそうとしていた。

……本来ならここで捕獲、あるいは応援を呼ぶべきだった。

私は―― 彼等をアベル・カムル掌中に隠し、
他の者に気付かれないよう、部隊から離れたのだ。
そしてその後、あの二人を少し東まで送った。
西より、東のほうが未開の地が多かった為でもある。

ミズシマとアイスマンの友として、行動したのかもしれん。

彼は別れ■に「ムツ……63号を頼む!」と叫び、東へと駆けていった。



ゴロー「このへんから滲みが減ってきたな」

795 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/21(金) 14:32:04.07 ID:gpS4+QHSO






□■■■ 、63号について調べる。

廃棄個体(ロストナンバー)63号。
最もアイスマンに近付けて創られたマルタ。
その程度の事しか私では調べられなかった。

63号は脳髄だけの存在として保管されているのもこの時に知った。

□月■日、独断で部隊を離れた私の処分が決まる。
研究所の北にある施設に軟禁されるらしい。
今この日記を書いているここである。

自分でアベル・カムルに乗り、施設まで移動した。

この日の夜、私は63号とコンピュータを介して接触に成功。
退屈な時間をこのムツミと潰す事にする。


ゴロー「うん。これは思い出していた」

    「これ以降、暫く大した話じゃないはず……」パラパラ

796 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/09/21(金) 14:34:04.27 ID:gpS4+QHSO






☆月○日、ムツミに将棋で二十連敗した。
遊びと平行してあの変わった琥珀の成分研究をしたせいだと思う。

☆月▽日、今日はオセロで二十六連敗した。
今日は専念して挑んだにもかかわらず、
パーフェクト負けを三回ほど喰らったので不貞腐れて寝た。

☆■■日、ムツミが拗ねた。謝っても反応がない。
怒っているようなので私の収集品へのアクセスを許す。

成分研究は進んでいるが、類似成分が見つからない。

☆■◎日、ムツミが漫画を読み耽っているようだ。
どうやら今は『ドカベン』を読んでいるらしい。

……成人向けの作品にはロックを掛けておこう。



ゴロー「……なんでこんな事を書いているんだろうか」


 暇で暇でしょうがなかった所為だけど。

797 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/21(金) 14:35:16.80 ID:gpS4+QHSO






☆月*日、嬉しい事が起こった。前に私と畑を作ったマルタ達が、
何人か仲間を連れて施設に来たのだ。

外に出て彼等と話すと、この施設の周りに村を作るつもりらしい。
私も協力していこうと思う。

本部の情報によると、ムツミはこの日に肉体を復元されたようだ。


☆月#日、ムツミが実験に使われた後は出来るだけ話を聞いてやる。
野球がしたいとか言い出した。

忙しいから無理と言ったら、少し頭が痛くなった。



ゴロー「このころ、音声通信でよく話を聞いてやったなァ」

    「ムツミ、結構我儘だったぞ」

798 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/09/21(金) 14:37:41.35 ID:gpS4+QHSO






☆月■日、ムツミが私のしたい事を聞いてきた。

私の好きな漫画の主人公のように、様々な食べ物を楽しみたいと答える。

その後無言になったけど、何を聞きたかったんだろうか。


ゴロー「そんな事もあったな」



☆月■■、最高に嬉しい事が立て続けに起きた!!
あとは誰かに『これ』を東に持っていって貰うだけだ!

☆月■日、昨日の事について書くつもりだった。
しかし、本部や他の国の研究所と連絡がつかない。

何があったのだろう。
心配なのでアベル・カムルで行ってみる事にした。



ゴロー「日記は…これで終わった」

    「……肝心な所が思い出せない」


 ゲンジさんの事を言えない。


ゴロー「……でも、大体思い出した」


 やっぱりトゥスクルへ帰ろう。


ゴロー「アイスマン……『ハクオロ』とはこの時からの縁か」


 俺の知らない真実は、多分あいつが持ってる。


ゴロー「……上に戻ろう」

 …………
 ………
 ……
799 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage saga]:2012/09/21(金) 14:39:42.33 ID:fkM3gXo70
 ――――

 階段を上り、地上の建物へ戻る。


ゲンジマル「戻られましたか」

ゴロー「はい」

ゲンジ「この地の経緯も思い出されましたな」

ゴロー「詳しくは無理でしたけどね。
     ずっと昔、この研究所に来てくれた人達が
     ここに住まう村人の先祖って事はわかりました」


ゲンジ「それで充分。では選択の刻に御座います」

    「この貴方様の為に用意された箱庭に留まられるか…」


ゴロー「……モノを食べる時はね、誰にも邪魔されず
     自由で なんというか救われてなきゃあダメなんだ」


 魚の刺身、焼きそば、たこ焼き、ハンバーグ、ステーキ、
 餃子、冷やし中華、ハムエッグ、ピザ、スラーメン、
 肉のにんにく焼き、ナポリタン、お好み焼き、ソーキそば……

 このへんはそのうち食おうと思ってた……


ゴロー「独りで… 静かで… 豊かで… 楽しむモノなんだ」

ゲンジ「ならば……」


ゴロー「だけど……あいつらと囲む食卓も楽しかった」



 トゥスクルでの日々を思い出す。
800 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage saga]:2012/09/21(金) 14:40:52.55 ID:fkM3gXo70

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


オボロ「貰ったアアァァァ!!」  クロウ「甘えぇぜ!」

ベナウィ「食事中に跳ねないでください。埃が入るでしょう」

ユズハ「お兄さま…駄目ですよ…」

ドリィ・グラァ「「言っても聞きませんよ」」

カルラ「さぁさ、飲みなさいな」  トウカ「そ、某は毒味を…」

ウルト「美味しいですか?」 カミュ「この菜っぱ、マジメな味」

アルルゥ「おかわり」  エルルゥ「はいはい。お二人はどうしますか?」

ハクオロ「私も頼もう。汁もおかわりだ」 

ゴロー「俺もお願いします」


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


ゴロー「だから今は帰ります。戦が終わったらまた来ますよ」

ゲンジ「……城まで案内(あない)いたしまする。ゴロー殿の足が
    オンカミヤムカイから運ばれております故」


ゴロー「……抱っこはやめてもらえませんか? 三回もされるのは」

ゲンジ「『二度ある事は三度ある』。かつて貴方様から教わりし
     諺で御座います。暫しの我慢を」スクッ


ゴロー(………………はぁ)

801 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage saga]:2012/09/21(金) 14:43:30.98 ID:fkM3gXo70
 ――――――

 〜 トゥスクル皇都・北の砦 〜


黒カムゥ@『おのれ、ちょこざいな!』

黒カムゥA『雑魚共めぇ!』

黒カムゥB『命が惜しくば退け!』


トウカ「某の命は易々とやれぬ!!」 

クロウ「悪りいが帰りを待ってる人が居るんでよ!!」


三体のアヴ・カムゥを攻撃しつつ、砦の前まで徐々に後退するトウカとクロウ。
二人を待っていたのは……


トウカ「援軍か!」  クロウ「助かりやす!」



ベナウィ「足止めだけで構いません! 無理に敵を倒そうとしないよう!!」


兵士達「「「はっ!!!」」」


オボロ「所詮でかいだけの大木! 
    俺の動きについてこれるわけがないっ!!」ダダッ!


カルラ「白いほうの侍大将さ〜ん。突っ走った莫迦がいますわ」

ベナウィ「……もう諦めました」


ドリィ「若様を援護する! 蒼組構え!!」

グラァ「こっちも! 朱組構え!!」


弓衆全てが己の弓を引き絞る。


ドリィ・グラァ「「射てっ!!!」」


弓の雨がアヴ・カムゥを呑みこんだ。 ――が

 
黒カムゥA『ふん、そのような矢が我等の力に効くものか』

黒カムゥ@『期待はずれよ』


全く通じない。


黒カムゥB『油断するな。敵歩兵が来るぞ』



オボロ「てぇやあああああああ!!」バッ


802 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage saga]:2012/09/21(金) 14:45:15.08 ID:fkM3gXo70

跳躍し、アヴ・カムゥの頭部を狙うオボロだが


   カキィン!  バキッ!!


オボロ「ナニィ!!」

黒カムゥB『ちっぽけな刀ではこの鎧甲に傷すら付けれん』ブン

オボロ(刀が折れた! あの巨大な剣から――)サッ


   ガ キィ!!


自分の何倍もの大きさの剣、その一撃を両刀でなんとか防ぐ。


オボロ「――――がはっ!!」


しかし攻撃の勢いには耐えられず、オボロは砦の方向に弾き飛ばされた。


クロウ「若大将!」  ベナウィ「くっ!」



歩兵達「「「うおおおおおおお!」」」キィンキィン



黒カムゥ@『ちっ、どけえ!』ブシュッ


 「ぎゃああ!」「ベナウィ様、早くオボロ様を!」「長くは…ぐは!」


ベナウィ「貴方達、オボロを守ろうと……」

クロウ「大将、若大将は担ぎやした!」 オボロ「グ……」


ベナウィ「……砦の内まで撤退です!!」


トゥスクルの兵士達が一斉に退却する。


黒B『追撃だ。ハウエンクア様が到着する前にカタをつけるぞ』

黒@・A『『了解』』


  ズシン ズシン ズシン…


追うアヴ・カムゥ達。
置かれた障害物を次々に壊し、砦の前に到着した。


黒@『こんなモンで防ごうってのか?』

黒A『ははは、片腹痛い』


二体が手にした大刀で門や壁を粉砕する。
803 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage saga]:2012/09/21(金) 14:48:19.47 ID:fkM3gXo70

黒B『……気をつけろ、何か来るぞ!』



ベナウィ「……今です。石槍、放て!!」


ハクオロが配備した投槍器が始動する。
丈夫な丸太に岩に近い大きさの石を括り付けた即席の槍が、
アヴ・カムゥの巨体を揺らし、大地に叩きつけようとする。


黒A『うおおお!』

黒@『気、気持ち悪く……』


クロウ「投石も開始だ!」


続けて投石器による攻撃が開始。
巨大な岩や石の霰がアヴ・カムゥの全身に直撃。倒れ伏す巨躯。


黒B『……焦りすぎだ』


黒カムゥ@『…………』  黒カムゥA『…………』


沈黙する二体のアヴ・カムゥ。
中の人間を絶え間ない大揺れで昏倒させるという策。


ベナウィ「聖上の読み通りですね」

カルラ「わたしのあるじ様ですもの」


トウカ「残る敵は一体! 弓衆は矢を頭部に!!」


   ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン…


黒B(……成程、弾幕による目眩ましか。今しゃがんで回避すると
    本命の槍か岩の的になっちまう危険がある)

   (寸前でかわせれば……勝機はある)



クロウ「とどめだ!! 石槍発射!!」


黒B『今だ!』サッ


声を聞いた瞬間、彼のアヴ・カムゥは横に跳ぶ。


黒B『かわした――』
804 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage saga]:2012/09/21(金) 14:54:16.43 ID:fkM3gXo70


ベナウィ「――――かかりました! 発射!!」


黒B『何ッ!!』


敵は強いと判断したベナウィ。
数日前に槍の射出合図はベナウィ。投石合図はクロウと
役割を分担する策を前もってハクオロに提唱。
結果、敵アヴ・カムゥは見事にトゥスクルの知将の罠にかかった。


黒B『……負けたか』


急激な跳躍をした反動で止まった巨体へ槍が迫る……



トゥスクルの兵士達は戦の勝利を期待した。
しかし……恐怖はまだ ――終わらない。



 『ハハハハハハハハ! 楽しそうな事をしてるじゃないか!!』



放たれた槍は巨爪を装備した赤いアヴ・カムゥに受け止められる。


ベナウィ「あれを止めた!?」



黒カムゥB『……申し訳ありませんハウエンクア様』


『虐殺者』が到着する。配下の三体を引きつれて――


ハウエンクア『いいよぉ。寧ろ褒めてあげる』

       『アヴ・カムゥを二体も止める相手だ。
        と〜っても素敵な玩具の贈り物さあ』


カルラ「三体は……斥候でしたのね」

トウカ「更に四体増えるとは……」



ハウエンクア『君達の健闘を称えてご褒美をあげるよ……』

       『皆殺しにしてあげよう!!!』


狂気の赤が爪をかざす…………
805 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage saga]:2012/09/21(金) 14:55:52.08 ID:fkM3gXo70

 ――――


皇都を過ぎた南側の森の中。住民達の避難誘導をするハクオロ。


ハクオロ「砦がやられたか……」


黒い煙が北の砦の方角から立ち昇る。


カミュ「皆さん、慌てないで下さいね」

ウルト「わたくしは部隊の撤退地点に合流します」バサ

ハクオロ「頼んだぞ。ウルト」


白の翼が飛翔した。


ハクオロ(しかし不味い、まだ避難は完了していないというのに)

     (……すまない、皆。約束を破る)


彼の皇は――独り駆け出した。


アルルゥ「……おとーさん?」


ムックル『ぐお?』  ガチャタラ『キュルル?』


その様子を一人の少女と二匹の獣に見られているとは知らず……

 
806 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage saga]:2012/09/21(金) 14:58:25.68 ID:fkM3gXo70
 ――――

皇城に侵入する七体のアヴ・カムゥ。

その中でも血のように赤いアヴ・カムゥは――ハウエンクアの操る一体。


ハウエンクア『アハハハハハ! 死んじゃえぇぇぇ!!』


砦の部隊に逃げられた彼は、動くモノを反射的に攻撃する。


ハウエンクア『ほーら、こんなに死んでる。見過ごせるのかなぁ?
        この國の皇様やさっきの人達はさぁ』


爪や鎧が血の赤で濃さを増していく…… 其の最中



    「クンネカムンの者よ!!」


ハクオロ「無益な殺戮は控えるのだ」


ウォプタルに乗り、トゥスクル皇・ハクオロが姿を晒す。


ハウ『おやおや……これはこれは。ようやく大将様のお出ましかい?』

ハクオロ「待たせたようだな」


ハウ『てっきり恐怖に震えて、糞尿たらしながら隠れているのかと思ったよ』


ハクオロ「ほう。人は恐怖に震えると糞尿をたらすものなのか… 知らなかったぞ」


ハウ『へぇぇ、強がり言うじゃないか。怖くて泣き叫びそうなくせに』

   『そうだ! 泣き叫べ。地に這いつくばって命乞いしろよ』


ハウエンクア『そうしたら助けてやってもいいんだよぉ?』


ハクオロ「ほう。泣き叫び、這いつくばって命乞いすれば
      助けてくれるものなのか。それも知らなかった」

    「よくそんな事を知っているな。まるで経験した事があるみたいだ」


ハウエンクア『………………何か…言ったかい?』


ハクオロ「図星か。適当に言ってみただけなんだが… 悪い事をしたな」

     「恐怖に怯え、糞尿をたらしながら這いつくばって
      命乞いをした……なんて言った事は忘れてくれ」
807 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage saga]:2012/09/21(金) 14:59:34.93 ID:fkM3gXo70

ハウエンクア『……アハハハハハハハハハハハハハハハハ――』

       『面白い! お前、面白いねぇ!!』


ハウエンクア『……ちょっとだけ遊びたくなっちゃった』


黒カムゥB『ハウエンクア様』


ハウエンクア『連れてこいとは言われてるけど… 生きたままとか言われてないし、
        ちょっとくらい壊れてもいいだろう?』

       『それに…遊びの邪魔するなら君も潰すよ』


黒カムゥB『……失礼いたしました』


ハウエンクア『お前達は僕の後ろに下がってな』


黒カムゥ一同『『『ははっ!!』』』


ハクオロ(挑発は成功。次だ……)ダダッ


皇は城の東、渓谷地帯へ駆けた。


ハウエンクア『ふぅん。最初は鬼ごっこだね! 僕が鬼だ!!』

       『捕まえたらお人形さん遊びだよぉぉぉぉ!!!』

 
 ――――


 〜 南の森・避難列最後尾付近 〜


エルルゥ「ハクオロさん! これが最後の列です!」

     「……ハクオロさん? どこ?」


エルルゥ「アルルゥ、カミュちゃん! ハクオロさんは……」

カミュ「おじさま? ……ごめんなさい見てなくって」

    「……アルちゃんは?」


エルルゥ「アルルゥもいない…… まさか――」

808 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage saga]:2012/09/21(金) 15:02:22.49 ID:fkM3gXo70

 ――――


アルルゥ「おとーさん、守る!」

ガチャタラ『キュゥルル!!』

ムックル『ヴォォォォ!!』


崩壊した城下町を駆け抜ける一人と二匹。皇城に到着したが……


アルルゥ「いない……」キョロキョロ


時既に遅し。ハクオロ達はいなかった。


ムックル『グルルルルル……』

アルルゥ「ムックル? どした?」


白虎の蒼い瞳の先、西の方角には――



  『………………』



アヴ・カムゥが周囲を見渡していた。


アルルゥ「……おとーさんのてき」


その大きな身体を強く睨むアルルゥ。


ガチャタラ『……クルッ! キュルク〜!』


何かをアルルゥに訴えるガチャタラ。


アルルゥ「てき、違う? どして?」



  『…………あ』


 ――アヴ・カムゥの乗り手はようやくアルルゥに気がついたようだ。

 

 『……アルルゥ! 皆はどこだ!?』



アルルゥ「声…おとーさ…… ちがう! 『ペコちゃん』!!」



朱黒カムゥ『久しぶり』



朱黒のアベル・カムル。その主が帰ってきた――

809 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage saga]:2012/09/21(金) 15:03:53.68 ID:fkM3gXo70
 ――――――

 〜 東の渓谷地帯 〜


ハクオロ(ウマをやられたかっ!)サッ


ハウエンクア『なかなかしぶといねえ!』 ジャオン!


巨爪をかわし、受け流していくハクオロ。


ハクオロ「く……」 カキィン


ハウエンクア『ほ〜らほ〜ら!』 ジャオン!



  ――――ザザッ



 光景が、浮かぶ。  何かの、化石――

 ひび割れ、た――――

 眼、窩から、ひ、か、り――――
 


  ――――ザザッ


ハクオロ(――今のは、ぐあッ!)

     (か、身体が……動かん!)


ハウエンクア『アハハハハハハハハハ!! 疲れちゃったのかなぁ?』

       『ギャハハハハハハハハハハハハハハハッ!!』


   ジャオン ジャオン ジャオン ジャオン ジャオン


連続して繰り出される爪撃。


ハクオロ「がはぁぁぁ!!」


その一撃を受け、ハクオロは岩塊に叩きつけられてしまう。


ハクオロ「ゲホッ、カハッ…ゴフッ――」


ハウエンクア『さぁて、お人形遊びだ。僕はこれをすると
        女の子に嫌われちゃうんだよねぇ』

       『触ってるうちに、手足を壊しちゃうからさぁ』ニヤリ


ハクオロ(――ここまでか)



   「 行けっ!! 」



   『よっこらしょい!』ブン! 
810 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage saga]:2012/09/21(金) 15:08:39.01 ID:fkM3gXo70



ハウエンクア『――あぁ?』


   ズゴォォォォン!  ガシン ガシン…

    ドスゥゥゥン……


ハウエンクア『なあああああああああああッ!!!』


白と黒の巨獣の砲弾が直撃し、赤いアヴ・カムゥに尻餅をつかせた。


ハウエンクア『がっ……何が…… !?』


彼らの目に飛び込んできたのは、一体のアヴ・カムゥ。
専用機でも、量産機でもない。見慣れぬ鎧を装着した姿だ。


ハウエンクア『……な、なんだい! あの朱黒のアヴ・カムゥは!!』


ハクオロ「あるる、と…あの声は……」



アルルゥ「おとーさんいじめるな!!」  ムックル『ガオォォォォォォ!!』


ゴロー『皇(オゥルォ)様、休暇からもどりました。
     これからはアヴ・カムゥ通勤の許可も頂きます」



第二十二話 「クンネカムン・箱庭のしょうが焼き丼等」

 続く。

811 : ◆M6R0eWkIpk [saga]:2012/09/21(金) 15:11:26.92 ID:fkM3gXo70
な、長かった。解説・背景回でもあったせいですが……
また詳しいことは解説コーナーでやるのでお待ちください
では、失礼します。
812 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/09/21(金) 15:38:10.66 ID:TTUAxly80
813 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/09/21(金) 16:58:44.32 ID:i0t/GlOlo

熱くなってきた
814 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/22(土) 00:06:01.03 ID:gk8HN8guo
アヴ・カムゥ通勤!そういうのもあるのか
815 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/22(土) 14:39:07.68 ID:/zbXjzXSO
816 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/24(月) 15:14:05.53 ID:cgK7W/2d0
乙乙
先日読み始めたけど面白かったんで一気に追いついてしまいました
817 : ◆M6R0eWkIpk [saga sage]:2012/09/25(火) 21:01:13.93 ID:mbV5ny5SO

第二十三話 「覚醒」



黒カムゥ@『……アヴ・カムゥだって?』

黒カムゥC『しかも今の声、聖上の客じゃなかったか?』


ハウエンクア『…………まいったなあ。楽しい事がいっぱいだよ』


 他の黒い奴は動揺してるな。
 起き上がった赤いのはそんな素振りを見せないけど。


ゴロー『君達だけが乗りこなせるわけじゃないって事さ』


アルルゥ「ムックル!」  ムックル『グルォオ…』サッ スタッ


 あの巨体を押し倒した後、ハクオロとアルルゥの下にムックルが戻る。


アルルゥ「いいこいいこ」


 背に乗るアルルゥ。


ハクオロ「ふ、二人…と…にげ…」

アルルゥ「やっ! おと〜さん、いっしょ!」フルフル

ゴロー『逃げるべきなのはお前だろうに』

    『じゃあアルルゥはハクオロを連れて――』


ハウ『そんな事をさせると思ったかい?
   ……僕の美しいアヴ・カムゥに傷をつけたお返しをしないとねぇ』

   『ユラ、キゥコ! お前達は逃げ道を塞げ!』


ユラ・キゥコ『『ハッ!!』』 ガシンガシン…


 二体に逃走を防がれた。


ゴロー(勢いに任せてとびだしたのはいいけど… 一対七ってキツイぞ)


ハウ『実はさあ、一度アヴ・カムゥと遊んでみたかったんだよね』

   『武器のないアヴ・カムゥがどれだけ強いか判んないけどさぁ!』ダッ
818 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/25(火) 21:09:39.58 ID:mbV5ny5SO

 爪のでかいアヴ・カムゥが迫ってくる。
 中のあの人…名前なんだっけ?


ゴロー『えーと、左大将がヒエンさん。右は…シャ○エッセン!』

ハウエンクア『ぜんぜん合ってないよ!! 僕はハウエンクアだ!!』


ゴロー『わかってます』 ヒュッ


 挑発にのりやすい人だな。隙だらけだったから懐近くに入りこめた。


ハウエンクア『速い!! だけど! 武器は……』

ゴロー『武器が無い、装甲も薄い。でも……敏捷だ』


 そっちが専用機ならこっちも俺の専用機なんだ。
 つまりこいつの戦い方は……


ゴロー『むん!』バンッ!

ハウエンクア『っ!? 跳ねた!』


ゴロー(両足を使って腕を挟み、そのまま手で押さえながら敵の腕を伸ばす!
    そして、組み付いた状態で体重をかけ、相手を……地につける!)


  ガシィン!!  ググググ…


ゴロー『武術による間接拘束!』

ハウエンクア『ガアアアアアアアアッ!!』


 跳びつき腕十字固めをかける。

 アベル・カムルの弱点、それは関節部位だ。
 人間と同じ動作をする為、ここだけは鎧で覆えない。
 他にも脇腹の一部を攻撃すると、一撃で機能停止に出来る。
 そこを攻めるには刀とかの武器が必要なので今は関係ない。


 ギギ… ズゴォォッ!  ――ビシィィッ!


ハウエンクア『ぎゃああああああああ!!!』

ゴロー『感覚が同調してるとはいえ、そこまで痛くないと思うが……』


 体重をかけて地面に落としてやれば、
 アベル・カムルの重さで、骨か健は使えなくなるはず。
 國に戻らない限り、腕一本は使い物にならないだろ。

 ただ…… この機体には問題があって……
819 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/09/25(火) 21:13:36.02 ID:mbV5ny5SO

  ブオンッ!  ズガァァ!!
 


黒カムゥB『……それ以上は許さん。動きを止めさせて貰うぞ』

ゴロー『ぐぅっ――……』 ググ…


 起き上がる前に左肩に一発食らったか……

 俺のアベル・カムルは今みたいに攻撃が当たると耐えられない……
 試作機と量産機の大きな違いだ。


ゴロー(だから…早く逃げて欲しかった)


アルルゥ「うー……」 ハクオロ「……く」


 さっきの剣撃でこっちは左腕が動かなくなった。
 大将の右腕を潰しただけましか……


黒カムゥC『ハウエンクア様、後は我々に――』


ハウエンクア『――――あ゛』

       『あ゛あ゛あ゛あああああああああああああああ――』


ハウエンクア『コワスコワスコワスコワスコワスコワスコワス――』

ゴロー(……本気で怒ったみたい)


ハウエンクア『クヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ――!!』


   ガション!  ガオンッ!!  ギョォンッ!!!


ゴロー『左だけでよくこんなっ……がはッ!!』 ドガァン!


 胴体の装甲に爪がぶち当たった。
 衝撃で、背後の岩壁に寄りかかるように倒れる。


ハウエンクア『ぎゃははははははははははははははは!!!』ドカッ ドカッ ドカッ


 連続で蹴りを入れられていく――


黒B『ハウエンクア様! これ以上アヴ・カムゥを傷付けては!』

ハウエンクア『五月蝿い!』 ジャオンッ!

黒B『グアアアアアアッ!!』 グオオン…


ハクオロ「仲間、まで攻撃するのか……」


黒B『…………………』


ハウ『誰であろうと僕の邪魔は許さない……
    先に目障りな僕のアヴ・カムゥの偽者からこらしめてやる……』

   『赤いアヴ・カムゥは僕のだけでいいんだよぉぉぉぉぉぉぉ!!!』
820 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/25(火) 21:22:15.54 ID:mbV5ny5SO

 《 アルルゥ・必殺連撃!》

アルルゥ「たたく!」  ムックル『ゴォォォ!』ドガッ


強靭な身体を持つ白虎の爪撃。


アルルゥ「がんばれ!」  ガチャタラ『クルッ!』ピシャアンッ


宙を舞い、小さな雷を落とす霊獣。


アルルゥ「そこ!」  ムックル『ヴオオォォォ!!』ドゴッ


続けざまに跳躍からの叩きつけ。


アルルゥ「おとーさんのてき、ゆるさない!!」

ムックル『ヴオウ!!』  ガチャタラ『キュルル!!』


少女を主とする獣達が赤い巨体の周囲を駆ける。


ハウエンクア『な、なんだい、この“竜巻”は!』


敵の視覚・聴覚を封じる暴風。
その渦に乗り、敵を抉る獣の爪。

ムックル『グオオオォォォォォ!!』 ズゴ ドガッ ズガァン!


普通の人間ならばこの攻撃で倒れるはずだが――


ハウエンクア『そんなモノがこの鎧に通じるかァァァァァ!
        この下等生物がァァァァァァァァァ!!!』


  ギャォォン!!


ムックル『ギャウ――――!!』


ムックルに血でドス黒くなった爪が命中した。
それはつまり――虎の背に乗る幼い少女にも…………


ハクオロ「アルルゥ――――――ッ!!!」

ゴロー『――!!』


薙ぎ払われたアルルゥの身体が鞠のように跳ね転がる。
何度か転がった後、やっと止まるが… その身体は『動かなかった』。


ハクオロ「アルルゥ! しっかりしろ!!」ズッズッ…

アルルゥ「…………」


傷ついた身でアルルゥの元に駆け寄るハクオロ。
しかし、反応は……無い。 そして血が――どんどん広がっていく。


ゴロー「くうう……他の奴等に押さえつけられて動けん……」

黒@『アヴ・カムゥは我等の力』

黒A『拘束し、本國に帰させて貰う!』

黒C『貴様の素性も問いただす!』
821 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/09/25(火) 21:24:49.31 ID:mbV5ny5SO

ハクオロ「アル……ル……? 冗談は止めるんだ」


ハウエンクア『ヒャハハハハ! 死んだ死んだ!
        さっきまで可愛い小さな女の子! 今は只の肉の塊ぃぃ!』


ハクオロ「あ、あ、あ…………」


ハウエンクア『ついでにお前も、アヴ・カムゥで潰れちゃえェェェェ!!!』


   ズシン…………


ゴロー『なっ……』


ハクオロとアルルゥ、二人が居た場所を踏み潰すハウエンクア。


ハウ『次はそこの偽物……おっと、命令通りそいつを連れてかなきゃ』

   『ま、足下の肉片だけだけどねえ。あの飾りには良いんじゃない?』



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜


   ドクンッ…

            ドクンッ…


 『誰か……』    『…………』


 『誰か助けて……』    『…………』


 『止まらない、血が止まんないよ……』    『…………』


 『寝ちゃ駄目…お願い、目を覚まして……』    『…………』


 『お願い……』    『…………』


 『誰でもいいから…誰か助けて……』    『…………』



 『――誰かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』



 『ソノ願イ……叶エヨウ』


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜
822 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/25(火) 21:27:58.88 ID:mbV5ny5SO

 シュォォ… ォォォォ…


ハウエンクア『…………え?』


二人を踏み潰したはずのアヴ・カムゥの脚に、
『黒い霧』が蛇のようにまとわりつく。

その霧が鎧に触れると、赤かった脚の甲は黒く腐り落ちた。


ハウエンクア『ヒ、ヒィィィィィィィ!?』


この異質な事態に動揺し、数歩後退する赤のアヴ・カムゥ。

遺された足跡から禍々しく立ち昇る黒霧。
その霧の大きさがアヴ・カムゥと同じ程になった瞬間――――


 ガシィッ!


ハウエンクア『あ、アアアアアア! 腕っ!?』


赤の巨体の頭部を霧から出でた白腕が掴む。


ゴロー『な、なんだ…… あれは……』


動けぬアベル・カムルに乗る彼が見たのは……
赤いアヴ・カムゥの頭を握り、そのまま振り回す『何か』だった。


ハウエンクア『うあああああっッ!?』


『何か』に投げ飛ばされるハウエンクアのアヴ・カムゥ。


ハウエンクア『うおぉぉあぁぁぁぁ――!!』ズゲッ ゴロゴロ…


少し前のアルルゥのように、大地を転がっていく巨駆。


黒い霧が晴れた――――



 『………………………………………』



沈黙。そして……



 『オオオオォォォォォォォォォォ―――――――――――!!!』



…………咆哮。

遂に目覚めたその存在は――――


『ウィツァルネミテア(空蝉)』

823 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/09/25(火) 21:35:28.75 ID:mbV5ny5SO

空蝉『…………ξψ』


口から紡がれるのは法術に使われる祝詞の源流。

現れた姿は『化け物』としか言い表せない。

上腕部は青い筋肉、前腕部は骨の如く白い巨大な鎧籠手のようだ。
籠手の先は……敵を『穿つ』武器である槍の先端に似ている。
目立たない四本の指先も鋭く尖っており、触れる物を容易く切るであろう。

肩・背中も前腕部同様、白色の硬い物質で守られている。

下半身、膝から脛にかけても骨甲が防御。
青く太い尾が何故か垂れ下がる事無く、浮いている。

頭には後方まで伸びる二本の角。
人の身であれば鼻にあたる突き出た部位の下に口、それと規則正しく並ぶ牙。
煌々とした黄金の瞳は、眼前の立っている六体を『攻撃対象』と認識した。


ハウエンクア『こ、虚仮威しに決まってる……』


傷だらけで起き上がった赤いアヴ・カムゥ。


ハウエンクア『キゥコ、ユラ! 相手をしてやれ!!』

キゥコ・ユラ『『は、はい!』』 ガキンガキン…


二体が剣を振りかざすが……


空蝉『…………』 ガシィッ!


軽々と受け止められてしまう。


ユラ『ひっ!?』

空蝉『…………』   ブン…… メキャアア!!


アヴ・カムゥ『…………』 ズゥゥゥン…


巨腕から繰り出されたのは変哲もない一打。……にもかかわらず、
アヴ・カムゥは振り落とされた腕により上半身を叩き潰された。


キゥコ『このォォォォォォ!!』

空蝉『…………』   グサリ……


アヴ・カムゥの装甲において、最も頑丈な筈の胸部に……
白い腕が深々と刺さり、アヴ・カムゥの赤い体液にまみれ――――


空蝉『――――ζδ』


 ピカァァァ… パァァァン! サァァァ…


あの巨大な身体を内部から爆破、肉片と破片の雨を降らせる。


ハウエンクア『…………………………あ?』


あり得ない光景がアヴ・カムゥと『少女』の十四の眼に映る。


エルルゥ「な、なにあれ…………」
824 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/25(火) 21:41:05.32 ID:mbV5ny5SO

ハウエンクア『ひ、ひ、ひ…… ぜ、全員でかかれぇぇぇぇ!!』


黒@・黒A・黒C『『『は、ははぁぁ!!』』』


命令に従い、ハウエンクアのアヴ・カムゥの前に立つ三体だが……


空蝉『――――アァ』


『ソレ』が頭を反らすと、魔法陣が四体の足下に――


空蝉『――――滅セヨ』



黒@『……あ? アアアアアアアアアアア!?』 バシュウ…


彼等の足下から沸く黒い光線。


黒A『ア――――』  バシュウ…


それに当たり、砕け、腐敗していくアヴ・カムゥ。


黒C『た、たすけ――』 バシュウ…


逃げられない。


ハウエンクア『ぼ、僕の足下にも――――』

  ガンッ!!

ハウエンクア『うわあああああ!? ――あれ?』


黒B『…………お逃げ下さい』


赤いアヴ・カムゥを、最後の黒いアヴ・カムゥが押し出す……


  バシュウ……


……ハウエンクアの連れてきた全ての部下は『消えた』。


ハウエンクア「ハ、ハハ…ハハハ………
       うわあああああアアアアアアアアアアア!!!」ズルズル

 ダダダダダダダダ…

ハウエンクアは絶叫し、己のアヴ・カムゥを置いて逃げる。


空蝉『――――ォォォォォォ』


ハウエンクア「ヒィィィィィ!! マーマ! マーマ!!」


逃走する彼の耳に最後に聞こえたのは――


空蝉『オォォォォ――』  ブチブチ… ベキィ……


彼の『力』が腕をもがれ、頭を握り潰され、胸を貫かれる……音だった。
825 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/25(火) 21:46:03.48 ID:mbV5ny5SO
 ――――

 アベル・カムルから降り、肉眼で今の状況を確かめる。


空蝉『――――ァァァァァァァ』


ゴロー「……何がどうなってるのか、わからん」


 渓谷は地獄(ディネボクシリ)のような有り様。
 トゥスクルに攻め入った七体のアヴ・カムゥ、
 その全てがほんの数分で動かなくなった。


空蝉『…………ア』 ズシンズシン


 何かを探すように周囲を見回す化け物。


ゴロー「何を探して…… ハクオロ、アルルゥ!」ハッ


 早く逃げないと!


空蝉『……………』


アルルゥ「…………」

エルルゥ「こ、この子には手出しさせないから!」


 いつの間にここに来たのかは知らないが、
 エルルゥさんがあの化け物からアルルゥを庇っている。


空蝉『…………υλ』スッ


エルルゥ「え? 霧……?」


 アルルゥの身体を黒い霧が包む。


ゴロー「……この感じ」


 まだ完全に命が尽きたわけじゃない。
 『アレ』はアルルゥの傷を癒している。


アルルゥ「………う」ピクン

エルルゥ「ア、アルルゥ! 大丈夫なの!?」

アルルゥ「……うん」コクリ


ゴロー(…………う)ズキッ
826 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/09/25(火) 21:50:52.89 ID:mbV5ny5SO






 『“契約”するのかゲンジマル。これまで拒んでいたというのに』


『はい。どうしても』


 『……本当はもっと早く目覚めていれば』


『――某の妻の時の事を仰っておられるのですか』


 『そうだ。あの時、俺が起きていたら……』


『過ぎた事に御座います』


 『……悔やんだお前は、自分の子や産まれる孫の為に契約するというのか』


『妻と……別れ際に約束しましたゆえ』


 『――ここに契約は成立した』

 『これで母にも子にも、何事もなく御産は終わる』


『かたじけない』


 『ゲンジ。お前はこの刻より、俺の傀儡だ』

 『人の身では少し弱い。契約にあたり、肉体を強化させてもらった』

 『これから始まる空蝉との戦、お前にも戦って貰わねばならないからな』


『――――御意』


 『じゃあな。……そうだ、孫の名前は考えたか。頼まれてたんだろ?』


『……ヒエンと』


 『ヒエン、なかなか良い名前じゃないか』


  ――ザザッ


 『そんな意味を込めていたか』

 『契約で身体と魂は俺のモノだというのに、唯一“心”は縛れない』

 『ゲンジマル。俺はお前のことを、友と思っているのに』

827 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/25(火) 21:55:42.61 ID:mbV5ny5SO

ゴロー「……だいぶ思い出してきたな」

    「なら、あれは……契約の履行」


 おそらく『アルルゥを助けて』。そんな願いだろう。

 契約したのは…エルルゥさんか。


ゴロー(しかし、妙だな。今の俺はあんな事出来ないぞ?)


 あれはいったい? 俺だけど俺じゃないみたいな……

 そして、あの『空蝉』。いや……


空蝉『コレガ私ノ手カ……』

  『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛
   あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛
   あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛
   あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛――――』

  スウッ…


ハクオロ「…………」バタリ


ゴロー(……やっぱりハクオロだった)


 残った記憶の鍵はこいつだ。


エルルゥ「ハ、ハクオロさん…… ゴローさん……」

ゴロー「エルルゥさん、貴女は『アレ』を知ってますね」

エルルゥ「あ……」パクパク

ゴロー「その反応で充分です。『言えない』事はわかっています」

    「今日の事、ハクオロには秘密にしておきましょう」


エルルゥ「……はい」
828 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/09/25(火) 22:01:01.70 ID:mbV5ny5SO
 ――――

その夜、誰かが夢を見る。
瞳に映るのは、『ハジマリ』の光景

 〜〜〜〜〜〜〜〜


 〜 ???・何かの化石 〜


考古学者「……なんだこれは」


機械に制御された空間。何らかの施設内であろう。
そこに『化石』は安置されていた。


考古学者「恐竜…違う、この骨格は人と同じ…直立歩行する生物の……」

     「しかし、これは明らかに人のものではない」


そこをぐるりと廻る男……考古学者。


考古学者「……なんと禍々しい形相だ。これはまるで――」


その髪は黒く、日本語を喋っている。


男『まるで……何なのかね?』カツカツカツ

考古学者「!!!」ザッ


彼の背後から別の男が現れる。


男『ここには立ち入らぬよう忠告したのに』フゥ

考古学者『人間ってのは禁じられる程、それを破ってみたくなるもんだ』


※二人は別言語(おそらく英語)で会話中。


男『ふむ。次からはもっと気をつけておこう』

考古学者『……何故この存在を隠そうとする』

男『認めるわけにはいかんのだよ。この異質な存在を』

  『こういったモノは何度も発見されてきたが……』


考古学者『真実と誤情報を混ぜ、全てを嘘とするのは貴方達の得意技だろう』

男『諜報員気取りの考古学者か』

  『そんな君に尋ねてやろう。これは何だと思うね?』
829 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/25(火) 22:03:41.45 ID:mbV5ny5SO

考古学者『何らかの突然変異――』

男『0点だ。意外と現実主義なのだね』

  『――ヒトはいつ、サルからヒトになったと思う?』


考古学者『“失われた環(ミッシングリンク)”?
      未だに見つからないモノを何故……』

男『落第確定だ。その答えは我々の目の前にあるではないか』

考古学者『……どういう意味だ』

男『“進化の根源”』

  『この存在がなかったら、我等は未だにサルだったかもしれないのだよ』


考古学者『馬鹿な、この化石が人類を進化させたと?』

     『いったいどんな証拠があってそう仰るのですかな?』


男『ふん、所詮は万の神などとぬかす黄色い猿か』

  『人間は禁じられる程それを破りたくなる……か』


男『そう、それが人間の良い所だ。好奇心が旺盛というね』

  『だが、同時に悪癖でもある。知ってはいけない事まで知ろうとするのだから』


男『……君に贈る言葉だ。覚えておきたまえ』

  「――Curiosity killed the cat(好奇心、猫をも殺す)」スチャ


考古学者「な!?」ス…

  パンッ!

一発の銃声。考古学者の肩が血に染まる。
飛び散った血は彼の近く、化石の頭部に付着した。


男『かわしたか。往生際が悪い――』


トドメをさそうとする男だったが


考古学者「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」ドカッ

男『ぬごわぁ!? キサマ、放せ!』

  パンッ パンッ パンッ…


男「」ドサリ

考古学者「腹に…グフッ! さすがに…こ…はやば……」グラッ


  バタ…………


考古学者「…………」ゴフッ
830 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/09/25(火) 22:08:02.24 ID:mbV5ny5SO

このまま彼は死に逝く筈であった。
だが、これは『過去』の夢……
一人の男と、化石に潜んでいた『何か』の……邂逅の記憶――




 『我ヲ起コスノハ汝カ……』



考古学者「だれ…だ俺を呼ぶ…は…」



 『汝ガ訪レルノヲ何億モノ刻待ッテイタ……』

 『我ハ独リ……我ハ孤独……』

 『我ハ我ヲ理解シモノヲ…同胞ヲ望ム……』



考古学者「何を言って……ガハッ!」ゴホゴホ



 『汝、進化ノ行ク末ヲ我ト共ニ見届ケヨ』

 『汝ガ身体、我ニ与エヨ……』

 『サスレバ…汝ノ望ミ、叶エヨウ』



考古学者「な、ん、だ……と……」



 『汝ノ望ミ、叶エヨウ』



考古学者「苦し……」


 『望ミ、叶エヨウ』


考古学者「もう……」

 『望ミ……』

考古学者「眠らせて…………」


 『――契約ハ成立シタ』

 『汝ノ望ミ、叶エヨウ』


 『我ハ――』



考古学者「汝なり――」



 〜〜〜〜〜〜〜〜


ハクオロ「はっ!?」 ガバッ
831 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/25(火) 22:12:11.38 ID:mbV5ny5SO

ハクオロ「い、今のは…………」キョロキョロ


周囲を見渡すハクオロ。


ハクオロ「ここは…城の寝室……」

     「私の寝床には……エルルゥ?」


エルルゥ「……ZZZ」スヤスヤ


ハクオロ「時間は…明け方、周りには薬道具と空桶、何故だ?」


  スーッ… カララ…


ゴロー「エルルゥさん、失礼……おっ、お目覚めか」

ハクオロ「あ、ああ。久しいな、ゴローさん」

     「……私の手、人の手だよな?」ジッ


ゴロー「寝惚けているのか? まあ一日寝てればそうなるか…」



ハクオロ「……待て。一日?」

ゴロー「あの時、ハウエンクアが攻めてきた日から……」

ハクオロ「――そうだ、アヴ・カムゥは。國はどうなった!?」

ゴロー「シーッ、静かに。エルルゥさんが目を覚ますだろ」

    「一晩中、ずっとお前の側についてたんだ。少し休ませてやれ」


ハクオロ「……だから薬道具が此処にあるのか」

ゴロー「……記憶は戻ってないようだな」

ハクオロ「なに?」

ゴロー「独り言だ。お前もゆっくり休むといい」

    「エルルゥさんも寝てるから一度戻る」クルリ


ハクオロ「……ゴローさん! 待って下さい!」

     「戦況の説明を! そして『アレ』は――」


ゴロー「……今は夢と現実の狭間みたいなもんだ。お前は身体を休ませろ」

    「またすぐに眠くなる――――」


ハクオロ「な、何を…うう……」クラッ

ハクオロ「ま…………わた………………」

 スウッ… スー スー
832 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/09/25(火) 22:13:55.44 ID:mbV5ny5SO

ゴロー「あと二日位は寝続けるかな」


 カツ カツ カツ

 スー パタン


ゴロー「……言えない」


 言おうと思ったはずなのに。


ゴロー「『契約』の効果か?」


 コツ… コツ… コツ…


ウルト「厳密には異なりますが、概ねそうお考え下さい」

ゴロー「……ウルトリィさん」


 話を聞いてたな。


ウルト「――『アレ』についてわたくし達は語れません」

    「貴方の場合は例外ではありますが……」


ゴロー「……大罪を背負う者か。御苦労さまです」

ウルト「それを思い出されているという事は……」


 彼女もこれ以上語れないらしい。


ゴロー「ウルトリィさん、これからちょっと出張します」

    「ハクオロに伝えておいてくれますか」


ウルト「……クンネカムンですね」

ゴロー「アレの描いた筋書をなんとかしないと……」

    「多分、何人か連れて戻ります」


ウルト「?」キョトン

ゴロー「詳しい話は後でゲンさんに聞きましょう。行ってきます!」

 タッタッタッ…


ウルト「……ゲンさんってどなたかしら?」

833 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/25(火) 22:16:19.00 ID:mbV5ny5SO
 ――――

 〜 サハラン島・牢屋 〜

火山から硫黄の臭気が漂うサハラン島。
クンネカムンの領土であるここの牢に、一人の老いた男が監禁されている。


ヒエン「この島は老体に辛いだろう。早く理由を吐いたほうが良いのではないか」


左大将の任は、『監視』と『尋問』。
どうしてあの時、話し合わずに大封印をしたのか……
彼はそれを調べ、皇であるクーヤに報告せねばならない。


ワーベ「……若人よ。今の其方には判るまい」

    「長い月日が経つほど、罪は心の奥に沈む……」


ワーベ「覚えておくがよい。いずれ其方も真実を知り、選ぶ刻が来よう」


賢大僧正…いや、オンカミヤリュー全ての罪。
彼もまた……真実を語れぬ者であった。


ヒエン「……あなたを見ていると我が祖父、ゲンジマルを思い出す」

    「大老としてクンネカムンに仕えているはずなのに、
     時折どこか遠くを思う祖父の事だ」


ワーベ「…………」


ヒエン「その抽象的な物言い、幼き頃から不思議だった……」

    「武士として己の身を置くと決めてから、言い争う事が多く…」


ワーベ「祖父と孫、何を語り合うものか?」

ヒエン「真の武人とは何たるか……だ」

    「エヴェンクルガである祖父と、シャクコポルの某」


ヒエン「種族を比べ、悩んでいた自分に祖父が問うた謎かけであります」
834 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/09/25(火) 22:25:23.65 ID:mbV5ny5SO

ワーベ「……真の武人、か。難しいのう」


ヒエン「……尋問のつもりが、下らぬ話をしてしまった」

    「今日は空気が酷く臭う。詳しい尋問はまた後日」


 スタ スタ スタ


ワーベ「……待たれよ」


ヒエン「喋る気になられたか」ピタリ


ワーベ「さきの話について私事だが意見を述べたいと思うてな」


ヒエン「…………」


ワーベ「真の武人とは…きっと、表立っては其の力を振るわぬ存在」

    「武力を持たずとも、陰ながら人々を救い、
     導く事の出来る者……なのではないか」


一呼吸程の間があいて……

ヒエン「やはり貴方は大老に似ている……」

    「大老もそのような趣旨を自分に言ったものよ」

ヒエン「少しでも人の内にある憎しみの焔を消せる者だ……とな」


 スタ スタ…


ヒエン(……その火を消す為ならば、某の身を投げ出しても構わぬ)

   (自分の身を焼く火を……戦で燃える最後の火とする)


ヒエン(―――の為にも…………)
835 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/25(火) 22:29:53.40 ID:mbV5ny5SO
 ――――

 〜 クンネカムン・ハウエンクアの邸宅 〜


ハウエンクア「――タスケテタスケテタスケテタスケテタスケテ」ブルブル


布団に潜り、怯えるクンネカムンの右大将。


ハウエンクア「眠れない、眠れない…… あの光景が夢に――」

 ガララッ

ハウエンクア「ひぃぃぃぃ!?」


そんな彼の元に来たのは、白き翼の男。


ディー「……ふむ」

ハウエンクア「デ、ディー! 来てくれたんだね!」ガバッ


布団からとびだし、彼にすりよるハウエンクア。


ハウエンクア「怖いんだ……怖いんだよ……」フルフル


ハウ「……こんなのは消えちゃえ。消えちゃえ消えちゃえ……」


ディー『――それが汝の願いか?』

ハウ「そ、そうさ! 怖さなんてイラナイ!」

ディー『契約は成立した』スッ


翼の男は、ハウエンクアの頭に手をかざす。

すると――――


ハウエンクア「ぐひぃッ!? ハ、ハ、ハ…ヒャヒャ……」


シャクコポルの男は、狂った笑みを浮かべはじめた。


ディー『次は……汝のアヴ・カムゥを直すとしよう』スウッ


その様子を少し眺めたあと、ディーは姿を消した――


ハウエンクア「……ヒヒ」

「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ……」


 ―――――
 ―――
 ―
836 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/09/25(火) 22:34:26.34 ID:mbV5ny5SO

この場で語られる『夢』の話はもう一つ…
それは、ヤマユラの少女達を襲った『事故』の夢……


エルルゥ『…………夢じゃなかった』

 ―― 夢ニ在ラズ ――

エルルゥ『私はあの時の事、ずっとずっと夢だと――』

 ―― ナラバアノ娘、ナゼ生キテイル ――

エルルゥ『アルルゥは怪我してなかった……』

 ―― ソレガ汝トノ“契約”――

エルルゥ『だけど……あんなおかしい……』

 ―― 我ノ姿、見タカッタノデハナイノカ ――

エルルゥ『あれは……やっぱり』

 ―― 認メヌナラバ、アノ光景ヲ再ビ目ニスルガヨイ ――

エルルゥ『え――――』


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 「アルルゥー! どこ行ったのー!」


エルルゥ『これ……』


 「また一人でハチミツ採りに……」


エルルゥ『……あの地震の時!』


 ズン! グラグラグラグラ……

 「キャッ!? 凄い揺れ!」


エルルゥ『――――ッ!?』


 グラグラグラグラ… 

 「おさまったみたい」


エルルゥ『ああ…やめて……』


 「! 今の声、アルルゥ!」

 「アルルゥ、アルルゥー!!」


エルルゥ『そっちに行かないで…… もうあんな姿は見たくない……』


 「………………………………え」

 「いやああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


エルルゥ『お願い……やめて……』

     『そう、本当ならあの時アルルゥは木から落ちて――』

837 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/25(火) 22:37:49.67 ID:mbV5ny5SO

 「誰か……」

 「誰か助けて……」

 「止まんない…血が止まんないよ……」

 「寝ちゃ駄目…お願い、目を覚まして……」

 「お願い……」

 「誰でもいいから…誰か助けて……」

エルルゥ(夢)「誰かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


エルルゥ『もういやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』


 ―― 助ケテ欲シイカ ――

夢エル「――!?」

   「だ、誰! 誰なの!?」

 ―― 誰デモ良イト言ッタノハ汝デハナイノカ、小サキ者ヨ ――

夢エル「え……」


エルルゥ『……あの時は、霧に覆われて判らなかったけど』


 ―― ソノ娘ノ命… 助ケタイノカ ――

夢エル「あ、あ…助けて…くれるんですか」

   「お、お願いです! お願いします! アルルゥを助けて下さい!!」


夢エル「どんなお礼でもしますから! だから…だからぁ――!!」


エルルゥ『これは――』


 ―― ナラバ、我ニ汝ノ全テヲ捧ゲヨ ――

夢エル「えっ……」

 ―― ソノ身体……髪一本…血一滴ニイタルマデ ――

 ―― ソノ穢レ無キ無垢ナル魂…… 汝ノ全テヲ我ニ差出セ ――

 ―― サスレバソノ娘ノ命、助ケヨウ ――

夢エル「――あ、あなたは誰なんですか」

    「黒い…煙みたいなものでよく判らない……」

 ―― ソノヨウナコト、知ッテドウスル ――

夢エル「…………」

 ―― ドウシタ…何故躊躇ウ。何デモスルトイウノハ偽リカ ――

夢エル「それは…………」

 ―― ナラバ……汝ニ用ハナイ ――

 ―― ソノ娘ガ肉塊ニ変ル様ヲ、存分ニ眺メテイルガイイ ――

夢エル「――待って! 待って下さい!!」

    「捧げます!! 身も魂も全部捧げます!!」


夢エル「だから…だからアルルゥを……」

    「アルルゥを助けてェェェェェェェェェ!!」
838 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/09/25(火) 22:40:45.31 ID:mbV5ny5SO

 ―― 今ココニ、契約ハ成立シタ。汝ガ願イ、叶エヨウ ――


エルルゥ『……そっか、だからあんな……』


 ―― デハ約束ダ。我ガ命ニ従エ ――

 ―― 汝、永劫ニ傀儡トナリテ、傷ツイタ我ガ身体ヲ癒セ ――

 ―― 永劫ニ傀儡トナリテ、傷ツイタ我ガ身体ヲ癒セ ――



空蝉『永劫ニ傀儡トナリテ、傷ツイタ我ガ身体ヲ癒セ!! 』


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


エルルゥ「…………」バサッ

ハクオロ「……うう。エ、エルルゥ?」


エルルゥ「ここ…ハクオロさんの部屋……」

    「じゃあさっきのは……」


ハクオロ「……つっ。悪い夢でも見たかい?」


エルルゥ「――そうですね。つい寝ちゃったみたいで……」

    「って、そうじゃないです! いつお目覚めに?」


ハクオロ「いや、ついさっきだ。一度起きたが直ぐに眠りについてしまって…」


ハクオロ「――エルルゥ、アルルゥは! 戦況はどうなっている!?」


エルルゥ「は、はいっ。三日前に……」


エルルゥ(……捧げます。私の身、私の魂。そして――――)

839 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/25(火) 22:43:39.35 ID:mbV5ny5SO
 ――――

 〜 開陽殿・朝堂 〜


クーヤ「ハウエンクアの部隊が全滅だと?」

ゲンジマル「何らかの術(すべ)を用いて、あれを斥けたようでありまする」


 ザワ… ザワ…

その言葉にざわつく城の文官、猛者達。


クーヤ「……トゥスクル、いや…ハクオロ。一体何をしたというのだ……」


ゲンジ「聖上。ハクオロ皇はアヴ・カムゥを撃退する策を周辺國に教えましょう」

   「我等もここが引き際ではありませぬか」


クーヤ「…………」


文官A「大老殿! 貴方がそのような弱腰でどうします!」


将兵A「この戦、まだまだコチラが圧倒的優位ですぞ!」

    「何せ我が軍はオンカミヤムカイを落としたのですからな!」


場を包んでいた敗北の喧騒は好戦派の発言で…


 「言われればそうだ!」 「そもそも我等は自衛の為に戦っている!」

 「先に手を出したのは向こうよ!」 「我々の思い……教えてやる」


争いの継続へと方向が変わる。


ゲンジ(……此奴達は判っておらぬ)

   (憤怒で我を忘れておる者が多数…… これでは……)


クーヤ「――退く事は許さない」

ゲンジマル「聖上!」

クーヤ「余の令が聞けぬか、ゲンジマル」

ゲンジマル「…………」

クーヤ「トゥスクルへの進軍は取り止める。そこの者、前線部隊にそう伝えよ」

将兵B「御意!」

クーヤ「一度戦線を立て直す。防御砦の建設を急がせるのだ」

文官達「「「ははぁっ!」」」


ゲンジ(……もはやこれまで…か)
840 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/09/25(火) 22:49:10.77 ID:mbV5ny5SO
 …………

 〜開陽殿・サクヤの部屋〜

ゲンジマル「邪魔をする」ガラッ

兎耳「あ、大老さま!」

ゲンジマル「……む? サクヤは何処か」

兎耳「先程ゴローさまがお見えになり、二人は食事にお出かけに…」

ゲンジマル「……なぬぅ!?」


 ――――


 〜 クンネカムン・箱庭 の定食屋〜


ゴロー「一度知ったらなぁ、やっぱり来たくなるもんだ」


 この町には俺の知る食事、全てが再現されているから。


店員「はーい、カレー丼のお客様!」コトン

サクヤ「こ、これが『カレー』……」ゴクリ


 例えばサクヤさんの前に置かれるカレー丼。
 本来、カレーはご飯に掛ける。しかし、米はないので……


ゴロー「麺やモロロの上にとろみのついたルーを掛けたりするのが主流だ」

サクヤ「へ、へぇ〜 こんな茶色してても食べれるんですね……」タラリ

ゴロー(初めて見る人には敷居が高いか。ウマイけど)


 カレー丼、味付けはそれほど辛くない。
 醤油をいれたカレー用の香辛料に鳥肉を入れ、彩りに緑豆を加えただけだ。


サクヤ「……いただきます」 パクン


サクヤ「んんっ! これ、美味し〜!!」パアッ


 どうやら舌にあったよう。

 別のカレー屋ではなく、いつもの定食屋のカレーなら……大丈夫。
 なんせ、ここは君のおばあちゃんの……
841 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/25(火) 22:51:52.84 ID:mbV5ny5SO

サクヤ「なんて言ったら良いんだろ? ちょっとだけ辛くて……」


  むしゃ もぐもぐ


サクヤ「だけど辛さがしつこくないし…なんか懐かしい気がする」

ゴロー(……俺のメシはまだか。腹減ってきたぞ)


 隣でこんな旨そうに食われたら…辛抱出来ん。


サクヤ「お豆さんも〜♪ 美味美味!」モグモグ

    「なんでこんないい町を教えてくれなかったんですか?」


ゴロー(……ここの術結界、町人の血縁者に効かないんだよ)


 ゲンさん(ゲンジマル)とこの町の女性の孫。
 だったらこの娘さんも入れるわけで……


サクヤ「クーヤ様にも教えてあげようっと♪」

ゴロー「それは出来ない」

サクヤ「……え」ピタリ

ゴロー「ここは、町の出身者達の親類しか入れないんだ……」

    「教えても…クーヤさんは結界に阻まれると思う」


サクヤ「じ、じゃあなんで…あたしを此処に!」ガタン!

ゴロー「……ゲンジマルさんや他の者から話は聞いてるな」

    「この國は…破滅への道を歩んでいる最中なんだ」


ゴロー「今、君はクーヤさんに避けられているはず」

サクヤ「…………はい」

ゴロー「あのコは友達ってなんなのか、わかってない」

    「君の事が大切だから、ツラい自分を見せまいとしてる……」


ゴロー「友達に心配をかけないように……」

サクヤ「クーヤ様……」ウルッ

ゴロー「君は感情豊かな娘だ。クーヤさんも己の心を吐露すれば、
    サクヤさんが悲しむと思ってしまっているんだろう」


ゴロー「だから…今はこの戦を止めなくちゃ」

サクヤ「! 何をするつもり……」

ゴロー「……君とゲンジマルさんにはこの國を出て貰う」
842 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/09/25(火) 22:54:15.74 ID:mbV5ny5SO

サクヤ「――え」

ゴロー「そうする事が、今のクーヤさんにとって一番良い」

    「彼女にもっと自分を、國の事を考えさせる時間をやるんだ」


 ……これは嘘だ。

 ゲンさんやサクヤさん、この二人は…『人質』とされる危険がある。
 『アレ』ならやりかねない。可能性は潰すべきなんだ。

 そしてもうひとつ理由が……


ゴロー「君達がいない間、俺がクーヤさんを見ておく。
    だからトゥスクルにでも――」


サクヤ「嘘ですよね」

ゴロー「!?」

サクヤ「クーヤ様を止める為にですか。ハクオロ様に頼んで…」

ゴロー「……そうだ」コクリ


 万一の場合を考え、クンネカムンの暴走を外部から止めさせねばならない。
 その時…ハクオロ達やオンカミヤムカイの力が不可欠だろう。


ゴロー(君達には、橋渡しをして欲しかった……)

サクヤ「……おじいちゃんとも話をしました」

    「やっぱり、この國から出るべきだって……」

ゴロー「じゃあ」

サクヤ「……今の話で決めました」

    「あたし、この國に残ります!!」


ゴロー「…………」


サクヤ「だって、クーヤ様の気持ち。知っちゃいましたもん…」

    「ほっとけませんよぉ……」ポロポロ


ゴロー「ハァ…説得失敗。凹むなァ」

サクヤ「ご免なさい、だけど…」

ゴロー「いいさ。それなら君には俺の仕事を手伝って貰うから」

サクヤ「それって…何ですか?」

ゴロー「賢大僧正救出は向こうに任せて… 俺達は君の兄貴の説得でもするか」

店員「お待たせしました〜! 辛さ控えめ腸詰めカレーです!」

サクヤ「……え? 辛くないんですか?」

ゴロー「ちょっと辛いのは…やめとこうかなって」


第二十三話「クンネカムン・箱庭のカレー丼」

 続く。
843 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/09/25(火) 23:01:38.14 ID:MeeGTvnLo

カレー食いたくなってきた
844 : ◆M6R0eWkIpk [saga]:2012/09/25(火) 23:04:18.13 ID:mbV5ny5SO
このへんは長いよなぁ。アニメのクンネカムン編は色々省略してたから……

いつもレスを下さる皆様に感謝しつつ、今日は失礼します。
845 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/26(水) 04:57:50.41 ID:OZ+LjhOK0
乙!
ついに空蝉覚醒か
846 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/09/26(水) 06:51:01.90 ID:JE9b5kQN0
今更だけど このゴローは漫画の顔を想像するべきなのか 
ドラマの松重さんを想像するべきなのか……
847 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/26(水) 10:10:50.83 ID:L3gq52DSO
848 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/09/26(水) 10:19:34.95 ID:EEyrGPVQo
849 : ◆M6R0eWkIpk [saga sage]:2012/09/30(日) 15:43:22.84 ID:TOtrVQzSO

第二十四話「心の音」


 〜クンネカムンの東、國境付近〜


 亡命の決行日になった。


ゴロー「二人とも、無事にトゥスクルまで……」

ゲンジマル「ゴロー殿、サクヤをお願いいたしまする」


 頼まれても…本人次第というか……
 危険な事はさせないつもりだけど。


ゴロー「こっちからも。あのコを頼みます」

兎耳「ガ、ガンバります!」

サクヤ「大丈夫! ハクオロ様は優しい方だから」


 あのコも放置しておくのは危険だ。
 サクヤさんなら…まだ逃げる手段があるだろうが
 兎耳ちゃんはそういった後ろ盾がない。
 なのでゲンさんに頼み、亡命がてら伝令役になって貰う事にした。


ゴロー「兎耳ちゃん。向こうに着いたら、この手紙を皇様に見せるんだ」スッ

兎耳「ハイ!」

ゲンジマル「……長く留まるのは危うい。行かねば……」

ゴロー「最初は俺のアヴ・カムゥで追っ手を引き付けます」

    「二人はその間に亡命、サクヤさんは作戦の準備を」


サクヤ「はい! この木簡を港に……」


 ガサガサ…


境の兵士「お前達、そこで何をしてい――」

ゲンジマル「ぬうぅぅぅん!!」ズゴッ!

兵士「グアアアッ!? ゲンジマル様! 何ゆえ……」バタッ


 兵士が気絶させられた。


ゲンジマル「どうやら、猶予は無い模様……では!」

兎耳「じゃ、じゃあ!」

 タタタタタタタ…


ゴロー「アッチが境を越える前に、俺は一暴れ…と」

 スッ… ズブズブ…


朱黒アヴ(ゴロー)『……搭乗完了。仕事を始めますか』


 ズシン ズシン…


サクヤ「ほ、ホントに動かせるんだ……」
850 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/30(日) 15:48:45.58 ID:TOtrVQzSO
 ――――

 〜 トゥスクル皇城・書斎 〜


負った傷が痛々しい男達。ハクオロ、オボロ、ベナウィ、クロウ。
それと紅一点、エルルゥが盆を持って皇の書斎に集まっていた。


ハクオロ「クンネカムンの軍勢は一度退いたが……」

ベナウィ「油断ならない状況です」

オボロ「くそ! 不甲斐ない……」ガッ

ハクオロ「オボロ、そんなに自分を責めるな。命があっただけ有難い」

エルルゥ「皆さんが無事で良かった…… お茶です」コトン

クロウ「お! 毎度お馴染み、姐さんの茶ですかい! 久しぶりっす」

ベナウィ「貴方達は傷が大きかったというのに」

オボロ「鍛え方が違う。これでも将だからな」


ハクオロ(……アルルゥも怪我一つ無かった)

     (あの出来事は…真にあったのか? 今でも判らない)


ハクオロ(エルルゥも…覚えが無いようだ……)

エルルゥ「ハクオロさん? どうされました?」

ハクオロ「あ、ああ。少し考え事をしていた……」

エルルゥ「……そうでしたか」


ハクオロ(……あれが何かは判らん。しかし――)チラリ

エルルゥ「? 私の顔に何か付いてます?」

ハクオロ(エルルゥが居てくれれば、私は…ヒトとして生きていられる気がする)


ベナウィ「兎に角、今は防衛体勢を整え、破壊された砦の修復を」

ハクオロ「北方・南方、双方から攻め入られる危険もあるか」


議は、日が落ちてからも続く……
851 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/09/30(日) 15:51:24.14 ID:TOtrVQzSO
 ――――

そして、夜。明け方近くに……


  カン! カン! カン!


敵の襲撃を報せる鐘の音が城中に響く。


トウカ「聖上!」ガラッ!

ハクオロ「敵襲か!」ガタッ


クロウ「総大将! 國境に数体のアヴ・カムゥを確認したとの知らせ!」

ベナウィ「……誰かを追っているとのことです」

ハクオロ「……? どういう事だ?」

クロウ「そいつ、何かを抱えているにも拘わらず、信じられない程の速さだと……」

ベナウィ「現在、オボロが國境に向かっています」


ハクオロ(……アヴ・カムゥが追っている?)

     (貴重な戦力を、たかが人を追うだけに何体も割くのか?)


ハクオロ(追われているという者が…余程の人物なのか……)

トウカ「聖上、我等は如何なさいますか」


ハクオロ「……踏み荒らすというのなら、迎え撃たねばなるまい」

     「ベナウィ・トウカ・クロウ! 出陣るぞ!」


ベナウィ・トウカ「「はっ!」」

クロウ「ういっす!」

852 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/30(日) 15:54:29.33 ID:TOtrVQzSO
 ――――

 〜 トゥスクル・北西國境付近 〜


 ガシィン ガシィン ガシィン…

黒カムゥ×4『『『…………』』』


ゲンジマル(流石にこの幼き娘を抱えては戦えぬ!)タタタッ…

兎耳「キャアアアアアアアアッ!」

ゲンジマル(何とか…娘を隠さねば……)


「そこの男! 待てえ!!」タタタッ


ウォプタルに跨がり、黒の外套(アペリュ)を纏った人物――
オボロがゲンジマルに並らび、警告を発す。


オボロ「ここは既にトゥスクル國内!
    追われているのは判るが、何の為に此処に来た!」ドドド…


ゲンジマル「トゥスクルの者か! 我等は其方等に用がある!!」


オボロ「ナニイッ!?」


ゲンジマル「良い刻に来られた! この娘を頼む!!」ヒョイッ


兎耳「ふ、ふぇっ!?」ストン

オボロ「この耳…シャクコポル。クンネカムンから逃げてきたとでも言うか!」


ゲンジマル「話は後に! 今はこの場より離れよ!!」ザザザッ


オボロ「チッ…… 娘、舌を噛むなよ!」

兎耳「は、は、はいっ!」


 ダダダダダダダ…


黒カムゥ×4『『『…………』』』


ゲンジマル「……」チャキン


巨躯四体を相手に構える老武士。
『生ける伝説』が、動き出す……
853 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/09/30(日) 15:59:16.38 ID:TOtrVQzSO
 ――――


ハクオロ「オボロ! 状況は!?」

オボロ「判らん! あの追われていた老人、俺にこの娘を託したぞ!」

兎耳「う、うう……」ビクビク

トウカ「前方に…四体、それにあれは……エヴェンクルガ!?」

ハクオロ「エヴェンクルガ? その老人……ゲンジマルか!
     トウカ、詳しく容姿を確認しろ!」


トウカ「……右目に眼帯、あの体躯。ゲンジマル様で間違いありませぬ!
    幼き頃に見た勇姿、見間違えなぞいたしませぬ」


ハクオロ「何故、クーヤの腹心であるあの男が……」

ベナウィ「アヴ・カムゥが剣を!」


黒カムゥ『…………』ブンッ!

ゲンジマル「ぬぅん!」ガギィン!


オボロ「あ、あの振り下ろしを刀で受け止めただと!?」


黒カムゥ『……チイッ』ザオン!

ゲンジマル「狙いが甘い!」サッ

 ズゴォッ!! モクモク…


トウカ「く、土煙で姿が……」


 ズパァッ!!  ゴォン……



黒カムゥ『 』

ゲンジマル「先ずは一体ッ!」

黒カムゥ×3『『『!?』』』



クロウ「う、嘘だろ、オイ。あれとやり合ってやがる……」

ベナウィ「音から判断するに、一太刀でアヴ・カムゥを沈黙させたのでしょうか」

オボロ「……もしや、アヴ・カムゥには弱点があるのか?」

ベナウィ「……成長しましたね。おそらくそうでしょう」

ハクオロ「ぬっ! 囲まれたぞ!」



ゲンジマル「……この追手、既に壊されておるか」

黒カムゥ×3『『『…………』』』

 ブォッ!  ヒュン!  ガキッ!

ゲンジマル「――ならば、某が送ってやるしかあるまいて」

      「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」


 カキィン! ズパズパッ! ザパッ! ズカッ!
 プシュゥ…  ザクッ! スパパッ ドゴォン! 
854 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/30(日) 16:06:57.39 ID:TOtrVQzSO

ハクオロ「な、なんだあの動きは……」

オボロ「は、速すぎて見えなかった……」

トウカ「アヴ・カムゥの腕を切り落とすとは!」

カルラ「……あれがゲンジマル」

ハクオロ「カルラ! 何時来た?」

カルラ「先程ですわ…… あるじ様の後。エルルゥと一緒にね」

エルルゥ「ハクオロさん!」

ハクオロ「エルルゥ! 何故避難しない!」

エルルゥ「心配で……」

トウカ「聖上、終わったようです!」


ゲンジマル「…………莫迦者め」スッ

黒カムゥ達『『『  』』』

ゲンジマル「……ハクオロ皇、居られますな」


ハクオロ「行くぞ、あの男は此方に手を出さん」

 …………

ハクオロ「久しいな、ゲンジマル」

ゲンジマル「御健在にあらせられ、何よりです」

ハクオロ「……何から尋ねたものか」

    「クンネカムン、いや、クーヤに何があった。
     腹心であるお前が、何故追われていたか、説明して貰おう」

ゲンジマル「…………」フッ

ハクオロ(目を伏せた。答えられないという意味合いか)


ハクオロ「……今は聞くまい。直に夜明けとはいえ、未だ夜だしな。
      話して貰えないことには歓迎しかねるが、少し休んでいけ」

ハクオロ「客人としては迎えよう」

ゲンジマル「――かたじけない」ペコリ

オボロ「待て、この娘は何者だ?」

兎耳「あ、あの…」ビクビク

ハクオロ「この娘は?」

ゲンジマル「ゴロー殿と親しき娘子でありまする」


ハクオロ「…………ん?」

エルルゥ「し、親しいって……///」

オボロ「ユズハ位だから無いことはないが……」

ベナウィ「少々、幼すぎるのでは……」

クロウ「現地妻! メシ大将も男だねぇ。
    やっぱ、薬師だから【キィン!】を【キィン!】させる薬とか…」

  ボカッ☆

カルラ「女の子の前でそういう話をするんじゃありませんわ」

兎耳(……悪い人達じゃないのかな?)
855 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/09/30(日) 16:10:22.40 ID:TOtrVQzSO
 ――――

 〜 翌朝、トゥスクル皇城・朝堂 〜


トゥスクルの皇に近い者達、皆が視線を予期せぬ来訪者らと國の皇に向ける。


ハクオロ「二人とも、少しは休めたか」

ゲンジマル「御心遣い、感謝の程を」ペコリ

兎耳「……あ、ありがとうございました!」ペコペコ


ハクオロ「君は下がってくれても構わない。少し、ゲンジマルと話がしたい」

兎耳「で、でしたら…この文を……」スッ


ハクオロ「わかった。ウルト、彼女から文を預かってくれ」

ウルト「はい。では、お預りします」ニコッ

兎耳「は、はい!」


ハクオロ「では…アルルゥ・カミュ、このお嬢さんに城を案内してあげてくれ」

アルルゥ「ん」コクン  カミュ「は〜いっ」

兎耳「よ、よろしくお願いします!」

カミュ「顔見知りだし、緊張しないでいいよ〜。一緒に遊ぼっ♪」


連れ添って、離れる三人。


ハクオロ「……本題に入る」

ゲンジマル「…………」

ハクオロ「お前には聴きたい事が山ほどある…が、
     問詰めたところで話はしないだろうな……」

    「これだけは聞かせて貰う。何の為に…何を目的として此処に来た」


ゲンジマル「……某が主、アムルリネウルカ・クーヤ様をお救いする為に」

ハクオロ「何?」

ゲンジ「クンネカムンは…聖上は破滅の道を歩みつつあります」

   「今は…他族との共存を拒み、他の全てを支配しようとなさっておられる」


エルルゥ「そんな…」


ゲンジ「ですが、単一部族での支配など、どだい無理な話」

   「一時は従える事が出来ても、いずれ歪み、
    最後には多大な犠牲を伴い崩壊するは必定」

ゲンジ「それだけは…何としても避けねばなりませぬ」

   「その為に、多少の犠牲を伴うとしても」


カルラ「…………」
856 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/30(日) 16:14:36.46 ID:TOtrVQzSO

ハクオロ「……私に兵を率いてクンネカムンに攻込めと…言うのだな」

ゲンジマル「御意に。このゲンジマルが、案内役となりましょうぞ」ザッ


ハクオロ(顔からは真意を読めない…か)


ハクオロ「全て語ってはいないな。他に何を隠している」

ゲンジマル「…………」

ハクオロ「クンネカムンに…オンカミヤムカイも。何を隠している」

ウルト「…………」


ハクオロ「――ウルトも答えられないか。今は追及しないでおこう」

     「ゲンジマル、お前のしている事は明らかな謀反だ」


ハクオロ「お前は主を…クーヤを裏切るというのか」

ゲンジマル「例え裏切り者と罵られ、この身が地獄に堕ちようと……」

      「この決意に変わりはありませぬ」


トウカ「!!」


ゲンジマル「誠の忠義とは…… 君主の道を正す事にありますれば」

ハクオロ「――成程。私も、そうは思う。
     お前の話はわかった。だか、信用とは話が別だ」

ハクオロ「お前がエヴェンクルガであろうが、戦となれば鵜呑みに出来ない」

    「しかもお前は、これ以上を語ろうとしない」

ベナウィ・クロウ「「…………」」


ハクオロ「何の理由も話さず、信用しろとは…蟲が良すぎる」

オボロ「……フン」

ゲンジマル「無論、口先だけで信じて頂こうとは思いませぬ」

ハクオロ「ならばどうする」

ゲンジマル「その文を御覧下され」

ハクオロ「……いいだろう。ウルト、読み上げてくれ」

ウルト「はい」


 「『ハクオロ、ゲンさんから話は聞いたか?』」


ハクオロ「ゲ、ゲンさん!?」ズルッ

ドリグラ「「緊張感台無し……」」


ウルト「『まあ、話の通り。信じてやってくれないか』?
    『同封した紙の書類はサクヤさんを末室に入れる同意書だ』」


ハクオロ「はいぃ?」


ウルト「『可愛らしく、よく気が付く娘さんだ。悪くないと思うぞ』」


エルルゥ「……室」

ハクオロ(な、なんだかエルルゥが怖い……)
857 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/09/30(日) 16:29:34.85 ID:TOtrVQzSO

ウルト「『聡明なお前の事だ、意味はわかるだろう』」

ハクオロ「つまり、身代(ひとじち)か。だが、今この場に居ない者では…次を……」

ウルト「……『アヴ・カムゥを一体、トゥスクルに預ける』」

ハクオロ「な!?」

ウルト「『サクヤさんと用事が片付いたらそっちに向かう。
    この交渉、悪い話じゃないと思うぞ。
    アヴ・カムゥの弱点も、ゲンさんが教えてくれるだろう』」


オボロ「それは本当か!」

ゲンジマル「如何にも。あれを行動不能にする術、お教えしましょう」

ハクオロ「……確かに話としては悪くない」

     「しかし、それで信じるかと言われたら……」


ウルト「『もし、これでも駄目なら…お前の弱味をばらす』」

ハクオロ「…………うん?」

ウルト「『俺が知らないとでも思ったか、あの人形……』」

ハクオロ「……書いてあるのか」

ウルト「ハクオロ様…そんな事を……」ジトッ

ハクオロ(……不味い、これは不味いっ!!)

トウカ「せ、聖上? 何が?」オロオロ

ウルト「あと…そ、そんな……///」

ハクオロ「な、何が書かれて……」ビクビク

エルルゥ「ハ、ハクオロさん?」

ウルト「『……などなど色々と公表しようかな〜。…なんて考えている』」


ハクオロ(こ、これは交渉じゃない! 脅迫だッ!)

    (あの男はやると言ったらやる! そういう奴だ!)


ゲンジマル「……どうなされた?」

ハクオロ(ゲ、ゲンジマルは知らない… 自分で読めば良かったっ!)

     (こ、ここは……仕方ない……)


ハクオロ「良いだろう! 我等の命運、汝に預ける!」

トゥスクルの皆「「「???」」」

ゲンジマル「感謝いたしまする」

ハクオロ「さぁ、ウルト。私にその文を……」

ウルト「はい、エルルゥ様。どうぞ」

エルルゥ「……ハクオロさん。そんな……」ジッ…

ベナウィ「ふむ、あれは聖上の仕業……告発文ですか」

オボロ「なんだ? 何があるんだ?」

トウカ「某にも見せていただきたく……」

ウルト「刺激が強いので駄目です」ニッコリ

ハクオロ「\(^o^)/」
858 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/30(日) 16:34:54.85 ID:TOtrVQzSO
 ――――

 〜 クンネカムン・開陽殿 〜


クーヤ「…………ゲンジマルが逃亡だと。行方は判らぬのか」

将「申し訳ありません。追撃部隊も戻らず……」

クーヤ「他に居なくなった者は。……サクヤは居るか」

将「はっ、仕えていた女官が一人。付のサクヤ様は東の港町で目撃されております」

クーヤ「……判らぬな。ゲンジマルがサクヤを置いて居なくなるとは」

    「それにサクヤの行動だ。何故、港町に……」


将「それと東の國境で目撃された、例のアヴ・カムゥですが……」

クーヤ「専ら、今の脅威はそれか。
    我等が動かせぬはずの力、誰が扱っておるのだ」

将「こ、こちらも詳細は不明であります」

クーヤ「……動かぬと思い、警備を甘くしたのは失策であったな」

    「下がれ」


将「ははっ!」ザッ スタスタ…


クーヤ「考えが纏まらぬ…… 誰かに……」

    「――いいや。これは皇である余が為すべき事ぞ」


クーヤ(……助けなど要らぬ)

   (今の余は……サクヤやゲンジマル、ハクオロに甘えていた余ではない)


クーヤ「クンネカムンの皇(オゥルォ)なのだ……」
859 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/09/30(日) 16:41:50.57 ID:TOtrVQzSO
 ――――

 〜 トゥスクル皇城・庭の付近 〜


ハクオロ「うぇぇ……ベナウィめ……」フラフラ

ゲンジマル「ハクオロ皇、如何されましたか」ザッ

ハクオロ(……以前に仕事をふけた事で、今の政務を増やされるとは……
     だが、それを直にこの男に伝えたら…また説教だ……)

ハクオロ「いや、少々政務が多くてな」

ゲンジマル「左様でありましたか」


そんな他愛もない話をする二人に近づく女…


トウカ「ゲ、ゲンジマル様!」カチコチ

ゲンジマル「……其の方は。おお、ウンケイの娘の…トウカであったかな?」


ゲンジマルと同じ、エヴェンクルガのトウカだ。


トウカ「! 某を覚えてて下さったのですか!」

ゲンジマル「うむ。初めて会うたのは其方が小さき頃であったな」

トウカ「はいっ! あのギリヤギナの皇との一騎討ち、
    ゲンジマル様の英雄譚は某の憧れでありまする!!」

ハクオロ「ほう、そんな話があるのか」

ゲンジマル「……そんなものではない」ボソ


 「――お話の途中、いいかしら?」


ゆっくりと、だが針のような空気を醸し出しながら、『カルラ』が姿を見せる。


ハクオロ「ん? カルラ、どうした?」

カルラ「今日の用は…そちらの方ですの」ニコ


彼女の視線は、ゲンジマルに向けられる。


ゲンジマル「ふむ。某か、よかろう」スッ

カルラ「……あるじ様、それでは後程」ペコリ


 スタスタ… カチャカチャ…


トウカ「……ゲンジマル様が某の事を覚えていて下さった」ニヘラー

ハクオロ(……妙だな。カルラの雰囲気が何時もと違う)

    (――待てよ。ギリヤギナの皇?)

    (私が知っているのは…かつて有った大國『ラルマニオヌ』の――)

ハクオロ「ラルマニオヌ…… ハッ! いかん!!」


 ガキィン!!!


ハクオロ「トウカ、今の音は何処からだ!」

トウカ「方角からして外の調練場かと!」

ハクオロ「向かうぞ!」  トウカ「承知しました!」タタタ…
860 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/30(日) 16:45:56.17 ID:TOtrVQzSO
 …………

 〜 外の調練場 〜


二人が駆ける間も、鳴り止まない剣閃の音。


ハクオロ「カルラ! ゲンジマル!! 何をしているッ!」


 キィィッ!


カルラ「何って、見ての通り…稽古ですわ。――フッ!!」


 ガガガッ!


ゲンジマル「ムウッ!」


カルラの鉄塊刀と、ゲンジマルの刀。
火花散る衝突を繰り返す。


トウカ「な…どうみても死合いではないか! カルラ殿、どうしたのだ!」


カルラ「どうもしませんわ」キィン!

    「ただ、あの父を倒した漢がどんな者か知りたいだけ――」


戦いの最中、軽い口調で答えるカルラ。


ハクオロ「……ギリヤギナの、ラルマニオヌの皇」

トウカ「ああっ! で、ではカルラ殿の父上とゲンジマル様が!!」


ゲンジマル「ほう、ギリヤギナ皇の御息女か」


 ギギギッ…


カルラ「鍔迫り合いの途中で語り合うのも…乙ですの!
    生前、あの男が嬉しそうに貴方の事を話していましたわ」

カルラ「正直…妬けましてよッ!!」ガッ


 ガオンッ!


ゲンジマル「なかなかのお手前」ギキィン!


ハクオロ(な、なんて戦いだ。カルラの力も凄いが……)

     (そのカルラの剛剣を、片腕だけで受けきっている!)


トウカ「おお…これは…素晴らしい……」ポケー


ハクオロ(今のトウカは役にたたんッ! 止められんぞ!)


カルラ「なら…これはいかがかしら?」スゥッ…

ゲンジマル「ふむ、その構えは……」

ハクオロ「あの体勢は!」

トウカ「カルラ殿の必殺の構え!!」
861 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/09/30(日) 16:52:19.66 ID:TOtrVQzSO

カルラ「でりやああああぁぁぁぁ!!」


躰を低く、捻り―― 刀剣を自身の右横に構え、
そこから遠心力も利用し、斜に敵を斬り砕く。


ゲンジマル「むっ!」キィン


刀を使い受け流し、後退するゲンジマル。


カルラ「!」


自分の刀に振り回され背を向けるカルラ。


ゲンジマル「……はあッ!」ススッ!


その隙をつき、再度カルラに迫るが――


カルラ「……かかりましたわ」ニヤッ


一撃目は、布石に過ぎない。
カルラの本命は、この二撃目。

最初の攻撃で刀に遠心力を纏わせ、
かわされても回転しながら刀を上方に運び――


カルラ「やあああああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」


振りかぶった刀に、最大の力を込めて……落とす!!

 ギインッ!


……鈍い音が、辺りに響き渡った。


ゲンジマル「ふむふむ。決め手だけなら父君の七分程ですな」

カルラ「なっ!?」


トウカ「ま、まるで利いておりませぬ!」

ハクオロ「なんちゅう老人だ……」


カルラの渾身の一刀を受けたというのに、ゲンジマルの顔は涼しげ。
老武士はわずかだが、笑みを浮かべて……
かつての仲間であり、また敵であった男の姿を思い出していた。
862 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/30(日) 16:55:40.49 ID:TOtrVQzSO

ゲンジマル「では…稽古らしく、某がお教えいたす」

     「本物の父君が技、お見せしよう」スゥッ…

カルラ「!!」


ハクオロ(カルラと同じ構え! 違う、更に低く…捻れている!)

トウカ「――来る!」


 ゴウッ… バキイィィン……

 ズゴォン……


カルラ「………な!?」


これまでの戦いで…ギリヤギナの女を支えて来た力。
多くの者を真っ二つにしてきた鉄塊のような刀。
その刀が……『真っ二つ』に折られた……


ゲンジ「……これで威力は本物の半分程」チャキン

    「あの一連の動作、初太刀は武器破壊とともに敵を砕く為のもの」


ゲンジ「即ち、力を込めるべきは初撃なのです」

    「二の太刀は確実に敵を仕留める為の付随した攻撃に過ぎませぬ」


カルラ「……そうだったんですの」ガクリ


ハクオロ「カルラ!」

トウカ「カルラ殿!」

ゲンジマル「刀が出来ましたら、また何時でも稽古をいたしますゆえ」ペコリ

 カチャ カチャ カチャカチャ…


カルラ「……完敗ですわ」

    「あるじ様、今すぐ新しい刀を注文していただけますこと?」


ハクオロ「ん? 今すぐ?」

カルラ「今すぐ! ですわ」ニコリ

ハクオロ「わ、わかった!」タタッ…

その場から、二人の男が消える。
863 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/09/30(日) 17:03:42.68 ID:TOtrVQzSO

トウカ「カルラ殿…… 聖上の御姿は見えません。だから……」

カルラ「……貴女、たまに鋭いんですのね」ポロ…


残されたカルラの目から――悲しい涙が零れていく。


カルラ「…………えっく、〜〜ッ――」ポロポロ…

トウカ「……某も、よく流した涙であります」ポンポン

今でこそ、エヴェンクルガに恥じぬ戦士のトウカだが……
男の中に交じり、鍛練を重ねていく上で、辛く苦しい事もあった。
そんな彼女だから判る、『敗北』の悔しさ。


トウカ「今は…どうか思いきり……」


カルラ「……〜〜うぅ……」グスッ



そんな女達を…物陰から見ていたのはハクオロだけではない。
(※原作通り、戻ったハクオロが目撃)


ドリィ「うわ〜。なんだか凄いトコロを見ちゃったね」ヒソヒソ

グラァ「前みたいに大兄者様に報せよう」ヒソヒソ


……この双子だ。

描写していないが、先刻ハクオロ達に渡された文には
ゴローが居ない間の事柄も書かれていた。
自分がいない間に起こった事柄を、双子を通して集めていたのである。

様々な話は、伝書鳥によって遠いクンネカムンにも伝えられていたというわけ。


ドリィ「でも…女の人同士も悪くないね」

グラァ「あっ! それ、結構いいかもよ」


この出来事も後々、彼等の創作活動が息詰まった時に役立ったそうだ。
864 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/30(日) 17:10:03.79 ID:TOtrVQzSO
 ――――

 〜 クンネカムン・箱庭 〜


 町が昼メシ時になり、食堂通りは人々で溢れはじめる。


ゴロー「今日の昼飯は…どうしようか」


 こっちに戻って、色々食べれたのは良かった。


ゴロー「ただなぁ。ちょっと洋食系は満足出来ない……」


 単純な話なんだが… 『ソース』がなかなか完成しないらしい。


ゴロー「いろんな部族が協力して、再現しようとはしてくれてるけど…」


 ウスターソースは材料が多い。

 トマトに近いものも含む野菜・リンゴのような果実類。
 これらを濃縮したり、搾ったり、煮出したり、ペーストして元を作る。


ゴロー(それだけじゃない。香辛料の類いも重要だ)


 味に深みを出すため、多くの種類を入れる。
 組み合わせを試行錯誤しなくてはならない。


ゴロー(時間もかかるからなァ…)


 技術的な面の不備もある……


ゴロー(土台のほとんど無い状態から、調味料を作るって…大変だ)


 そんな事を考えながら、ぶらぶらと店を探して歩くが……
 昼時なので、どのメシ屋も人だらけだ。

 並んでまで食べるってのはちょっとな。
 俺は誰かが待ってるって状態で、メシを食いたくないんだよ。


ゴロー(……それに、ソースの試作品を使った物はある)ガサゴソ


 町の中央。石造りの池のあるスポットで荷を広げ、
 町や人々、空を眺めながらメシを取ることにした。
865 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/09/30(日) 17:25:21.52 ID:TOtrVQzSO

 【 カツサンド(試作) 】

ソースっぽく作った調味料に揚げた肉、パン。
見た目は普通のカツサンドのようだが……?



ゴロー(色は問題無い……)

   (匂いは……少し果実を入れすぎたか?)クンクン


ゴロー(どれ……)


 がぶっ…


ゴロー(…ん、少し甘過ぎ。多かったかな、糖分)


 もぐ… もぐっ


ゴロー(不味くはないが…… やっぱり何か違う。メシというより肉のおやつ)


 俺自身の記憶の中に、ソースの味はないはずだけど。


ゴロー(合成食糧ばかりの地下人類だったもんで)モグモグ


 でも…何故か、ソースが違うと言いきれる。


ゴロー(このソースは…女のコの味だな)ムシャ…


 時間的には、そろそろ『待ち人』が来る。
 店を探して歩いてる内に、道に迷ったりしたから
 余計に時間がかかってしまった。


ゴロー(まだ、食べ終えていないんだが……)


 早く食べようか。
 いやいや、でも、う〜ん……

老婆「……お待たせしてすみません、ゴロー様」

ゴロー(うわぁ、やっちゃった。間に合わなかった)

老婆「お食事の邪魔をしてしまい、申し訳ありませんのう」

ゴロー「いえ、構いません。それより……
     貴女がこの町で一番植物に詳しい方なんですか?」

老婆「ええ、ええ。そのおかげで少し前まではここの村長じゃった」


※この箱庭の人は、ここを町と言ったり村と言ったりするが……
 最初に村程度の規模で興った為、長は『村長(むらおさ)』で統一されています。

ゴロー「じゃあ、早速なんですが……」
866 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/30(日) 17:28:50.54 ID:TOtrVQzSO

 〜 トゥスクル・書斎 〜


ハクオロ「皆集まったな」


皇・ハクオロの他は…オボロ、ベナウィ、クロウ、ドリィ、グラァ。
エルルゥ、アルルゥ、ウルトリィ、カミュ、トウカ、カルラ……ゲンジマル。

主要な者達が集い、クンネカムン・侵攻準備の議が始まる。


ハクオロ「ゲンジマルが力を貸すとはいえ、クンネカムンにはアヴ・カムゥがある」

    「闇雲に攻めても、返り討ちが関の山だろう」


ハクオロ「対抗するには、各地で蜂起した叛クンネカムン勢力が必要だ」

     「彼等の力を借り、クンネカムンの兵力を分散させる必要がある」


ベナウィ「ですが、聖上。叛勢力と言ってもそれは……」

クロウ「滅ぼされた國やら豪族やらの生き残りですぜ」

オボロ「そんな小規模多数、兄者はどう統率するんだ?」

ハクオロ「……まず無理だろうな」

ドリィ・グラァ「「ええっ!?」」

ハクオロ「……時間があればともかく、
     悠長な事をしていてはクンネカムンが勢力を取り戻す」

エルルゥ「……今は、小康状態みたいな状況なんですね」

アルルゥ「う〜〜…」

トウカ「聖上、それではどうするのですか!」

ハクオロ「……一人だけ、その統制を可能にする人物がいる」

ウルトリィ「! まさか…」

カルラ「なるほど、読めましたわ」
867 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/09/30(日) 17:44:16.71 ID:TOtrVQzSO

ハクオロ「ゲンジマル」

ゲンジ「ハッ。囚われた賢大僧正をお救いし、御言葉を頂ければあるいは」

カミュ「お姉様っ! お父様生きてるって!」

ウルトリィ「ええ! 言ったでしょう『絶対大丈夫』って」

ゲンジマル「此方の地図を御覧下され」パサッ





※うたわれるもの ポータブルより、原作内世界地図。



ゲンジ「賢大僧正(オルヤンクル)が囚われているのは――」

    「地図の『サハラン島』にある牢に幽閉されております」


ゲンジマル「船を用いて、島に乗り込まねばなりませぬが……」

ハクオロ「この國や周辺國の大型船は先の侵攻で破壊されたそうだ」

    「軍勢を送り込むのは不可能ゆえに――」


ハクオロ「ここにいる者達のみで出陣する」

     「ただ、エルルゥ、アルルゥ、ウルト、カミュ。それとカルラ」


ハクオロ「お前達は城に残るんだ」

カミュ「おじさま!」スクッ

ウルト「カミュ、座りなさい」

カミュ「…………」


ハクオロ「聞き分けてくれ。カルラも」

カルラ「……判りましたわ。出ようにも武器がありませんし」
868 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/30(日) 17:47:22.93 ID:TOtrVQzSO

ベナウィ「オボロ、貴方も武器はないはず。先のように貸した刀でよければ…」

オボロ「……武器庫に先々代皇の双刀があるだろう。俺はそれを使う」


クロウ「どういうこっちゃい?」

ベナウィ「成程、確かにあれは貴方が持つべき物ですね」


ドリィ「若様、それを持つって事は……」

グラァ「逃げないって事なんですね……」


エルルゥ「え? え?」キョトン

ハクオロ「どういう事だ?」


オボロ「俺は…旧ケナシコウルペの皇の孫だ」

ベナウィ「オボロはインカラが下克上を起こす前、皇の直系卑族だったのです」



他一同「「「え、えええええ!!!」」」



ハクオロ「し、知らなかった……」

ベナウィ「ちなみに私とも親族関係なのです。ずっと忘れていたようですが」

オボロ「あっ! まさかお前、最初に俺と対峙した時に見逃したのは!」

ベナウィ「幼い頃に遊んだ貴方の顔を覚えてましたから」

クロウ「いやはや…世間は狭えもんっす……」

ウルト「本当に変わった方々が集まっておられたのですね」

カミュ「うわ〜 びっくり」

オボロ「オレは少し席を外す。武器庫に行かねばならないからな」

ドリィ・グラァ「「お伴しますっ」」

 パタン…

ハクオロ「……そうか。なら、オボロが……」ブツブツ

エルルゥ「…………」



●オボロ→武器『双滅牙』を取得。

《双滅牙》

オボロ専用攻撃力上昇装備。
鉄よりも固い巨獣コゥロナナの牙を削り作られた双刀。

※コゥロナナについて、詳細は不明。多分、ゾウではないかと推測
869 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/09/30(日) 18:24:32.76 ID:TOtrVQzSO
 ――――

 〜 クンネカムン・港町 〜


 日も暮れ、町が橙に染まるなか…
 片隅の路地裏で密かに会う中年男と若い女。

 自分でも思うが、かなり怪しい。


ゴロー「うーん…船の手配が上手くいかないか……」

サクヤ「もうちょっと時間がかかるって、港の責任者の人が……」


 戦争中だから、優先的に物の輸送に使われてしまう。


ゴロー「いっそ、皇の印でも書簡に捺しとけばよかったかな」

サクヤ「ドロボウはいけませんっ!」

ゴロー「いやいや、ほんの少し借りるだけ…」

サクヤ「ダメですよぉ!」

ゴロー(……こういうとこ、融通のきかない娘さんだ)


 アヴ・カムゥを載せる大きめの船。
 調達にはまだ時間がかかりそう。


ゴロー(あっちが島に着く前に到着したいが……)

    「ゲンジマルさんから連絡はありましたか?」


サクヤ「あ、はい。賢大僧正を助けに行くと。数日後に出発するみたいです」


ゴロー(……やっぱり、印を使わないといけないようだ)


サクヤ「あたしは城に戻ります」

ゴロー「送りますよ」


 直接、あの男が手出しする事はない……はず。

 まさかクンネカムンで暗躍するはめになるとは……


ゴロー(ハァ、手当でも貰いたいもんだ)
870 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/30(日) 18:29:14.18 ID:TOtrVQzSO
 ――――

トゥスクルとクンネカムンの双方で、
サハラン島への進行作戦が動き出した。


エルルゥ「…………」

ユズハ「エルルゥさま?」


時は戻り、クンネカムンでゴローとサクヤが密談をした日の午後。
トゥスクルではエルルゥがユズハの診療を行っていた。


ユズハ「エルルゥさま…元気がないみたい……」

エルルゥ「そ、そんな事は……」

ユズハ「だって……」スッ

エルルゥ「私の…手?」

ユズハ「エルルゥさまの暖かかった手が…こんなに冷たくなっています……」

エルルゥ「…………そうかな」


薬師の彼女、その胸の内。

『自分の想い』が契約による偽りのモノじゃないかと、
ハクオロと小さな事で接すたびに感じてしまう――


ユズハ「また、ハクオロさまが暖めてくれます」ニコッ

エルルゥ「え?」


そんなエルルゥに、盲目の少女が語りかける。


ユズハ「だって…手の温もりは大好きな人から伝わるのだから……」

    「お兄さまも、トゥスクルさまも…ハクオロさまも暖かい……」


ユズハ「アルちゃんも、カミュちゃんも…。ユズハのお友達、みんなみんな…」

    「みんな、ユズハの大好きな人たちです……」


ユズハ「ユズハは…ここに来れて、本当に良かったです……」

    「ぽかぽかして、あったかくて……幸せです……」


エルルゥ「ユズハちゃん……」

ユズハ「エルルゥさま、またご本を読んでいただけますか?」

エルルゥ「……うん! 何が良い?」

ユズハ「ユズハの好きな……」

871 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/09/30(日) 18:35:38.57 ID:TOtrVQzSO
 …………

出陣の前日の夕刻。エルルゥの部屋をウルトリィが訪れる。


ウルト「少し宜しいですか? お話がありまして」

エルルゥ「はい、どうぞ」


話をする…と言いながら、窓辺に立つウルトリィ。


エルルゥ「お話って……」

ウルト「……あれは本来、人の身が関わるものではありません」

エルルゥ「! ……どういう意味ですか」


『翼を持つ者(オンカミヤリュー)』の予期せぬ返答。


ウルト「いにしえの時代から、アレは我等を導いてきました」

エルルゥ「…………知っているんですね」

ウルト「わたくしはオンカミヤムカイの巫(カムナギ)」

    「ウィツァルネミテアを崇め、『見守る』のが使命……」

エルルゥ「――初めから判っていたんですね」

ウルト「……ご免なさい。言わずに済むのなら、そうしたかったのです」

エルルゥ「いえ、そちらにも事情があるのは…判ってます」


二人の間を夕陽の赤が照らす。


ウルト「……前より、表情が明るくなりましたね」

エルルゥ「えっ?」


ウルト「あの日以来、エルルゥ様のお顔が優れなかったから……」

エルルゥ「……もう大丈夫です。完全にってワケじゃないんですけど」

     「例え、契約で作られた気持ちでも――」

エルルゥ「私がハクオロさんを愛していることは変わりません」ニコリ

ウルト「……わたくしは要らなかったようですね」ペコリ


エルルゥ「わざわざありがとうございます。ウルトリィ様」

ウルト「あ、でも帰る前に…これだけは一人の女として伝えておきます」ニコッ

エルルゥ「え?」


ウルト「『心』だけは…誰のものでもありません」

     「心は…貴女だけのものなのですよ」


エルルゥ「私の……もの?」

ウルト「そう、神の契約でも繋ぎ止める事が出来ない唯一のもの――」

ウルト「貴女は、心のままに生きて良いのです。……失礼します」 パタン


エルルゥ「……ありがとう。ウルトリィ様」
872 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/30(日) 18:38:35.00 ID:TOtrVQzSO
 …………

 〜 ハクオロの寝室 〜


ハクオロ「傷もすっかり良くなったと思うが」

エルルゥ「ハクオロさんは傷の治りが早いんですね」スルスル

    「うん、もう包帯はしないでいいかな」


ハクオロ「よし。これでのんびり寝れる…」

エルルゥ「包帯が気になって眠れなかったんですか?」クスリ

ハクオロ「笑う事はないだろう。こう見えて私は繊細なんだ」

エルルゥ「ふふっ、自分で繊細なんて言いませんよ」クスクス

ハクオロ「……良かった」

エルルゥ「えっ?」

ハクオロ「最近、ずっと暗かったからな。君には笑っていて欲しかったんだ」

エルルゥ「ハクオロさん……」

ハクオロ「笑って貰えなかったら、駄洒落でも――」

 ギュウッ……


ハクオロの背に、抱きつくエルルゥ。


ハクオロ「エルルゥ?」

エルルゥ「少し、このままで……」


小さな耳を男に付け、そっと――


エルルゥ「聴こえます、生きている音。心の音です……」


 トクン トクン トクン…


彼女は目を閉じ、規則正しい『音』を聴く。


エルルゥ「この音が聴こえているから…大丈夫なんです」

ハクオロ「……そうか。だったら……」スクッ

エルルゥ「?」


 ギュッ…


ハクオロ「向き合って抱き締めあったほうがよく聴こえるだろう」ニコリ

エルルゥ「――はいっ!」ニコニコ


男はエルルゥを抱き寄せ、そして――


ハクオロ「エルルゥ、これからも側にいてくれないか」


想いを告げる。


エルルゥ「当たり前です。ハクオロさんは私の家族なんですから」

ハクオロ「……ああ!」
873 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/09/30(日) 18:40:55.50 ID:TOtrVQzSO
 ――――

 〜 クンネカムン・港町 〜


ゴロー「よし。出発準備はなんとか出来たぞ」

サクヤ「ふぁ〜〜… 夜通しで眠く……」ウトウト


船長「なんせ人手がなかったもんでな! 助かったぜ」

   「んで、確か行き先は……」


サクヤ「ここから東にあるサハラン島です。
    物資の補給と、兵員の交代を皇様に命じられて……」

船長「おう、しっかし…お嬢ちゃんみたいなのが我等の力を扱うのかねぇ」

サクヤ「いやぁ…あたし、結構やりますよぉ〜」

船長「んじゃ、頑張ってくれや! 我等の勝利の為によう!」ガハハ


ゴロー(今だけ、俺は奴隷…俺は奴隷……)


船長「あんたもよく働いたぜ。俺等が全土を治めれば、
   もう奴隷なんてなくなるさな!」


船長「俺も昔、奴隷でよお……」ペラペラ


ゴロー(……一般の民も、皆これか)


 どれだけの人々が、この戦に期待しているんだろう。
 人として生きる為に戦う……のか。
 その戦いは、当たり前のようにも思う。

 許せないのは―― それを後ろから操る存在が居る事――


船長「おっし、そろそろ出ますかい!」

サクヤ「お願いします!」

船員「船長、食糧は?」

船長「それほど時間もかかんねぇし、前の航海の残りでいいだろ」

船員「へい! あとは釣りで魚をとりやしょう!」


ゴロー(…………『アレ』はどう動いてくる)

874 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/30(日) 18:43:05.97 ID:TOtrVQzSO
 ――――

 〜 地下空間・『大神の眠りし地』 〜


暗く、瘴気の漂うこの眠りし地。
生物全てが長居出来ない空間に、独りの男が佇む。

オンカミヤムカイにあった巨大な丸鏡を使い、遠見をする『ディー』がいた。


ディー「『空蝉』、それに『偽り』。双方、抗うか……」

    「向こうの駒が多いな。少々手駒を増やさねばなるまい」


ディー「死人兵・仮面兵共だけでは一品料理にならぬだろう」

    「――右だけでなく、左も掌握すべきか」


鏡に、サハラン島の若い男…『ヒエン』が映る。


ディー「祖父と孫。相反する価値観を有す二人の争い」

   「これならば、第ニの料理となりえる。そして副菜を添えればよい」


ディー「ふふふ…面白くなってきた。気分がよい」

    「久方ぶりに、真の姿を解き放とうぞ」


 ズズ… ズズ…


黒い霧が彼を覆い、辺りが静まる。


 『アア―― 僅カニ、躰ガ重イ――』


霧が晴れ、現れたのは……
ハクオロが変化した姿と瓜二つの存在。
ただ、ハクオロの場合は白かった骨鎧が
『コレ』の場合……『黒曜石より深い黒』。


『ウィツァルネミテア(分身体)』の顕現である。



分身『サテ…我ラノ戦ダ。空蝉ヨ』

   『子ラヲ高ミヘ導コウ』


分身『――ソシテ、我ガ旧キ友“偽リ”。残サレタ刻ヲ好キニスルガイイ』

   『汝ノ身ハ、コノ大地ノ環境ニ耐エラレヌ。近カク――』


第二十四話「クンネカムン・試作品のカツサンド」

 続く。
875 : ◆M6R0eWkIpk [saga]:2012/09/30(日) 18:47:46.99 ID:TOtrVQzSO
投下完了。
昨日、特撮博物館に行ってきました。
興味がある方なら3時間以上楽しく過ごせそうです。

……書きたい、猛烈にネタバレ無しでレポートしたい。記録を残しておきたい。
うたわれキャラを案内役にして、SSっぽく書いて、
ここに投下とか…ダメですか? 小ネタスレに書こうかな……
876 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/09/30(日) 19:03:23.16 ID:p9BLbY7u0
>>1のスレなんだから良いんじゃないか?
877 : ◆M6R0eWkIpk [saga]:2012/10/01(月) 00:26:39.90 ID:E7N3A4kSO
>>875の件ですが、SS総合スレに書き込みました。
よろしければご覧下さい。

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1297600489/
878 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/01(月) 13:43:49.32 ID:CPcITR2+0
乙乙
本編・短編ともに面白かったです
879 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/01(月) 19:15:25.18 ID:NauNTTgSO
880 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/04(木) 21:23:26.61 ID:9vC2iN/SO

第二十五話「サハラン島に向かう途中・船上の刺身朝食」


賢大僧正(オルヤンクル)救出のため、
ハクオロ達は今、帆船三隻でサハラン島へ向かっている。


 〜 一隻目 ハクオロ・ベナウィ・ゲンジマル組 〜


ハクオロ「……しかしまぁ、本当に小さな帆船だことで……」

ゲンジマル「……申し訳ありませぬ」

ベナウィ「ウマを乗せる空間も無いとは……」



 〜 二隻目 オボロ・クロウ・トウカ組 〜


オボロ「これだけ狭いと刀を振るのも苦労するな」ヒュンヒュン!

トウカ「良い風切り音でありますな」

クロウ「若大将、ちいっと組手しようぜ」



ベナウィ「オボロ・クロウ。船を壊すつもりですか」



オボロ「……地獄耳だなベナウィ」

クロウ「すいやせん。暇で暇で……」



ベナウィ「ドリィ・グラァを見習って、船の事をしたらどうです?」


 〜 三隻目 ドリィ・グラァ組 〜


ドリィ「みなさ〜ん、風向きが変わりそうで〜す!」

グラァ「帆の向きを変えて下さい!」



オボロ・クロウ「「…………」」



ハクオロ「うーん。確かに暇か。島まで近いとはいえ……」


トウカ「聖上ー! 釣り道具ならありまするー!」ブンブン


ハクオロ(……敵陣に向かっている筈なのに、緊迫感が欠片も無い)


ゲンジマル「西の海は荒れております。あまり流されぬよう」

ベナウィ「判りました」


……暢気な船旅である。
881 : ◆M6R0eWkIpk [saga sage]:2012/10/04(木) 21:32:13.23 ID:9vC2iN/SO
 ――――

 〜 トゥスクルより北西の海岸線 〜


一方こちらは見送りに来ていた女性陣。


エルルゥ「ハクオロさん、大丈夫かな…」

ウルトリィ「こちらのほうは風も穏やかです。問題無いでしょう」


アルルゥ「ん〜〜 つまんない」

カミュ「みんな、あっちの砂浜で遊ばない?」

ユズハ「ここが…海なんですね……」

兎耳「知らないの?」

ユズハ「はい…… ずっとずっと、お部屋の中に居ましたから…」

 ワイワイ キャッキャッ…


カルラ「子どもは元気でいいですわ」ハァ

ウルト「カルラが不貞腐れているところは初めて見ました」クスッ

エルルゥ「フフッ…そうですね」


ムックル『…………(´・ω・`)(ミズコワイ…)』

ガチャタラ『クル? キュルルッ? (イカナイノ?)』

ムックル『ぶぉ… (ヌレルノイヤイヤ)』フルフル


 ビュウウッ…!


カミュ「風が強くなってきたね〜… んんっ?」

アルルゥ「カミュち〜?」

カミュ「……あそこ、船が」スッ


カミュの指先、やや西の方角に船舶の姿が確認できる。


ユズハ「お船?」


船は…どうやら向かい風で上手く進まぬ様子。
時折、帆を動かして進んではいるが…上手く操船出来ていない。


カルラ「……こっちに近付いてきてません?」

ウルト「言われてみれば……」

エルルゥ「アルルゥ〜! みんな〜! 危ないからこっちに戻ってぇ〜!」

  タッ! タタタ… バサバサ…

近付いてきて判明する船の大きさ。
大型の輸送船らしく、莫大な量の荷を積む事が可能であろう。


エルルゥ「もしかして…クンネカムンの船?」

カルラ「敵の侵攻船かもしれませんわね」


兎耳「様子がヘン……」


船は速度を落とさず、海岸へ向け突っ込んでくる。
882 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/10/04(木) 21:35:20.04 ID:9vC2iN/SO

カルラ「――何してるんですの!」タタッ

 ザプンッ!  バシャバシャ…

ウルト「わたくしも!」バサッ

 ザッ… ヒュゥゥゥ…

泳ぐカルラ。飛ぶウルトリィ。
船の勢いは止まらない。

二人はほぼ同時に船に着いた。


カルラ「この船の船長はどこっ! 早く止め…なっ!?」

ウルト「甲板に…シャクコポルの方々?」


船長・船員「「「ウウ…ッ……」」」


カルラは近くに転がっていた女性を起こす。


???「あうぅ… 気持ち悪いいぃ……」


桃色に近い茶髪の…少女と言っても通じそうな女だった。


カルラ「何がありましたの!」

???「朝食…たべ…少し、した……みん…お腹…痛く…って」

ウルト「おそらく…食事が悪くなっていたのでしょう」

???「ゴ、……さんが舵を…… 船のこと知らないのに…」

カルラ「素人に船舵を! ちいっ!」ダダッ…

ウルト「カルラ!」トトッ…

カルラ「船を止めますわよ!」


 …………

 〜 船内・操舵室 〜


 ドカッ!


カルラ「邪魔しますわ!!」

??男「わざわざ扉を足蹴にしなくても…」


カルラ「そんな事態じゃありません……わ?」

ウルト「失礼します……?」


ゴロー「どちらにしても助かります…えっ?」



三人「「「はい?」」」


 …………
 ……
883 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/10/04(木) 21:39:09.23 ID:9vC2iN/SO

 《回想・明け方の船上》


船員A「食事の用意ができました!」

船長「ごくろーさん。お客さんらもどうっす?」


サクヤ「船酔いっぽいので…お水だけで……」クラクラ

ゴロー「ありがとうございます」ペコ


 【船上の朝食(魚の刺身、塩漬け肉と卵の炒めもの、、モロロ)】


 【魚の刺身】

滅多に釣れない魚の新鮮な刺身。
脂がたっぷりのっていて見るからに旨そう!
年輩の漁師や舟人は何故か食べない魚らしい。


 【塩漬け肉と卵の炒めもの】

卵を割り、肉と一緒に炒めただけの料理。
塩肉の濃い味で、卵は一部トロトロ状態。
前回の航海からそのままだったようだ。

※船長・船員達は酒も呑みます。


ゴロー「これは…『朝』って感じにしては豪勢な……」

サクヤ「美味しそうだけど……」

船長「遠慮しねぇでいっちゃってくだせぇ」グビッ…


ゴロー(酒呑んでるんですが……)

サクヤ「お酒なんて呑んで平気なんですか?」

船長「船乗りはこの位で酔いませんて」グクッ…

船員B「ハハハ、そうですよ」


 ガヤガヤ…


船長「おっ、今日の魚はうめえなぁ〜」モグモグ

サクヤ「あ…今はちょっと酔ってるので……後で……」

ゴロー「脂がスゴいなぁ。旨味、たっぷりじゃないか」


 ……なんだったろう。何か魚について忘れている事があるような。


ゴロー(気のせい気のせい。魚、ウマイ…… ウマイ)ムシャ…


 ぷりぷり、ぷり魚だ。
 舌にのせた瞬間は濃厚なのに、後味は意外とさっぱりしている。
 モロロにのせてかっこむのもいいかもしれん。
884 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/10/04(木) 21:46:19.25 ID:9vC2iN/SO

サクヤ「…あれ? なんだか皆さんお歳若いですね」


船長「人手が集まんなかったんで、若い奴しか居なくてねぇ」

船員C「風も潮も良いから長くかかりませんし、大丈夫ですよ」

船員D「現に、昨日は平気でしたから」

サクヤ「そういえば、そうですね。今日には着きます?」

船長「おうよ。今の感じの風向きと強さなら問題ねえ」

ゴロー「お。肉、これ濃いなぁ。はっきりしたウマさ!」ムシャリ


……さてさて、ゴローが気になった魚の事について語ろう。


皆様は『バラムツ』という魚をご存知だろうか。
深海魚の一種で非常に旨いと言われる魚だ。

船に乗る彼等が食したのはこの魚の近縁種だったらしい。

このバラムツ、美味にも関わらず市場には出回らない。
それは何故か――


船長「ヌゴォオッ!」

船員達「「「げあっ!?」」」


 ぎゅるるる…


この魚の脂は、人間の体内で分解されない。
二〜三切れならともかく、大量に食べると……
すぐ体外に排出されてしまうのだ。

魚を釣った若い船乗りがこの種類の魚を知らなかった事。
料理人も若く、初めて見る魚だった事。

最大の不運は…彼等がシャクコポル族であった事だ。
シャクコポル族の者は肉体が他部族の者より弱い。

その結果……


「ぎゃああああ!」「いてえ…」「で、出る!」
「 」「お、おい…」


船は――地獄と化した!!


サクヤ「ま、まだ船の揺れで気持ち悪い……」フラフラ


幸い彼女は船酔いのせいもあり、刺身を食べなかったが…
操船者が倒れた船は順調に本来の航路を外れて


ゴロー「あれ? 雲行きが怪しく……」←何故か平気


軽い嵐に直撃。動ける者が帆を動かし、ゴローがなんとか舵をとる。
そんな大変な船旅だったのである……
885 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/10/04(木) 21:50:33.98 ID:9vC2iN/SO
 …………
 ………
 ……

 〜 海岸 〜


ゴロー「あれは食べちゃいけない魚だったか…」

エルルゥ「運が良かったですよ。私達がいて、陸が近くて」

ウルト「脂が出てしまえば大丈夫でしょう」

ゴロー(人体で分解出来ない脂がある…魚だったとは)

カルラ「それに、大半の者は精神的に傷ついただけですから」クスクス


 船はカルラさん達のおかげで停まり、俺達はなんとか助けられた。


ゴロー(俺、ニ十切れ位食ったはずなんだが)


 腹が丈夫で良かった。


カルラ「貴女は平気ですの?」

サクヤ「あたしは只の船酔いでしたから……」

ゴロー「でもまいったなぁ。サハラン島に行けなくなっちゃったぞ」


 ヒエンさんの説得に行こうと思ってたのに。


アルルゥ「おっきいお船!」

カミュ「これ位なら皆で乗れたのにね〜」

カルラ「……それ、いい考えですわ」

ゴロー「え?」

カルラ「動かしません? この船」ニコリ

エルルゥ「えええっ!? 人数が足りませんよ!」

カルラ「ギリヤギナのわたしなら十人分位にはなりましてよ」

ウルト「高所はわたくしが見ればなんとかなるかもしれません」

エルルゥ「ウルトリィ様まで!」

ゴロー(ノリのいい女の人達……)

サクヤ「エ、エルルゥ様……」オロオロ

エルルゥ「サクヤさんもゴローさんも、何とか言ってやって下さい!」

ゴロー「多数決で決めないか? 行きたい人は挙手って事で」


●行きたい人…ゴロー、カルラ、ウルトリィ、アルルゥ、カミュ、ユズハ

●反対…エルルゥ(危ないから)、サクヤ(また船に乗るのがイヤ)、兎耳


ユズハ「お船で…海を楽しんでみたくて……」

カミュ「決〜まりっ」


エルルゥ「 」ポカン  サクヤ「ま、また……」ガーン
886 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/10/04(木) 21:54:39.39 ID:9vC2iN/SO
 ――――

 〜 サハラン島 〜


オボロ「くっ…なんだこの島は」

トウカ「酷く臭う……」

ハクオロ「……硫黄臭だ」

ドリグラ「「あっつ〜い……」」

ゲンジマル「長居は体に毒でありましょう。某が牢まで先導いたす」


進む一行。待ち受けるのは火山島ならではの溶岩の熱気と臭いだけではない。


 ヒュンッ! ヒュンッ!


誰も居ないはずの道から、放たれたのは小さな矢。


ベナウィ「矢!?」 カキッ!
クロウ「どうしたこって?」サッ

ゲンジマル「む!? 莫迦な! 何ゆえこの道に『ツーヌ』が!」


ゲンジマルの言う『ツーヌ』とは、一定の位置にいる敵に自動で矢を射る仕掛けだ。
ハクオロ達も戦で何度か目にし、破壊してきた障害物である。


オボロ「上にかなりの数があるぞ!」キィッ!

トウカ「あれを何とかせねば!」スパッ


自身の身やハクオロを守るオボロとトウカ。


ハクオロ「ドリィ・グラァ! 坂の上に向かって射て!」

ドリグラ「「はいっ!」」

 《 協撃!》

 《 双子技その弐!》


グラァ「天駆ける流星……」キリキリ…

ドリィ「降れよ星屑……」キリキリ…


 ヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュ…


グラァ・ドリィ「「星神さま…僕たちのこの願いを……」」

        「「叶えたまえ!」」


グラァが主体となる協撃。
空に向け射られ、降り注ぐ矢の嵐が坂上の罠を次々破壊した。


オボロ「……もう矢は来ないか」フー
887 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/10/04(木) 21:58:23.95 ID:9vC2iN/SO

ハクオロ「よし。ゲンジマル、坂道をのぼるぞ」

ゲンジマル「……この島に獄司は居らぬはず」

クロウ「まあ、こんなトコに好んで住もうってヤツぁ少ないでしょうね」

ベナウィ「なら、何故このような罠が……」

ゲンジ「妖しげな試みに失敗したモノが投棄されているとだけ聞いたが……」

トウカ「妖しげな試み?」

ゲンジマル「詳しい事は某にも判りませぬ。お気をつけ下され」

ハクオロ「……慎重かつ速く牢へ向かわねばな。行くぞ!」

一同「「「はっ!」」」


坂道を駆けるハクオロ達。 だが――


ゲンジマル「!! あれは!」

ハクオロ「……あの巨大な体躯は!」


アヴ・カムゥ達「「「…………」」」


目に飛び込んできたのは鎧を装着していないアヴ・カムゥ。
妖しげな試みとは、新たなアヴ・カムゥの製造……


ベナウィ「……下半身がないのでしょうか」

クロウ「地面に埋まってやすね」

オボロ「路幅が狭いから、アレを倒さないと進めないぞ」

ドリィ・グラァ「「はいっ!」」

トウカ「ゲンジマル様。アヴ・カムゥの弱点をご教授願いたく」


ゲンジ「鎧も無く、動かぬなら皆々様の技で斬り臥せれましょう」

    「立ち上がっておれば最大の弱みである『脇腹』を狙えますが…」


ハクオロ「それは難しいかもしれん」

ゲンジマル「でしたら人の身と同じく、頭部や頸を討つのがよろしい」


ハクオロ「皆聞いたな。念の為、必ず二人以上で囲んでからアレを攻撃する」

     「誰一人欠けることなく、無事に賢大僧正の牢まで向かう!」


 …………
888 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/10/04(木) 22:03:00.75 ID:9vC2iN/SO

槌の如く腕を縦に振るう、失敗作のアヴ・カムゥ達だが…


トウカ「一つ、二つ、三つ、四つッ!」ズパスパザシュスパッ

オボロ「ふん! 動きがトロいぜ!」サッ スッ


クロウ「おらよっと!!」ザンッ!

ベナウィ「単調な攻め手では我等を捉えられません」ヒュンヒュン! ザクリ!


ドリィ「矢だと…少しキツイかも……」

グラァ「敵の注意を反らすだけにしよっか」キリ…


まともに動けぬ木偶が、強者達を阻む事など出来はしない。


ハクオロ「はあっ! やっ!」ブンッ! ザクッ!

ゲンジマル(……数が多い。我々が此所に来ることが判っていたかのよう…)

ハクオロ(……どうも妙だ。廃棄されたものとはいえ、
      私達の通る路筋を読んでいたかのような配置をされている……)


疑いを孕みながらもトゥスクルの戦士達は幾多の巨体を倒し、進む。


ハクオロ「……はぁ、はぁ」

オボロ「……ゴホッ! 流石に息が辛い」


邪魔者を倒した彼等の目前に溶岩の川にかかる小さな石橋が見えた。
橋を越えた先、岩壁に掘られた洞穴が彼等の目指す牢屋への入口だ。


ゲンジマル「後はこの橋を渡り、あの岩床を抜ければ……」

ベナウィ「皆、息を整えなさい」

トウカ「……やはりおかしい。ここまであれだけの妨害があって、
     牢付近に一切罠の類いが無いというのは……」ケホケホッ

クロウ「本命は、あの先にあるって感じかもな」ウッホン!

ハクオロ「言う通りかもしれん。一人ずつ、橋を越えよう」

ゲンジマル「では、最初は某が行かせて頂く」スタッ


一行の中で、唯一この劣悪な環境に影響を受けていないゲンジマル。
他の者らを僅かでも休ませようと、時間をかけて橋を渡る……
889 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/10/04(木) 22:11:01.23 ID:9vC2iN/SO

ゲンジマル「橋に異変は見られぬ…か」


老体の武人は橋を越え、岩床に足を着けた。


ゲンジマル「この十間(約20メートル)先に…………」



 『…………待っておりました。大老(タゥロ)』


ハクオロ「上だっ!」


ゲンジマルの上方、噴煙に紛れて見えない岩壁から――


 ズゴォォォオン!


ヒエン『……これより先は通す訳には行きませぬ』


クンネカムンの左大将『ヒエン』の蒼青のアヴ・カムゥが立ち塞がる。


ゲンジマル「やはり其方が来たか、ヒエン」

ヒエン『自分以外、貴方を止められる者が他におりましょうか』


敵は血を分けた孫。だが老武士の眼光は鈍らない。
老若の武士(もののふ)が相対する。


ゲンジマル「退いてはくれぬのだな」

ヒエン『退けませぬ』

    『相手が貴方だからこそ、退くわけにはいかない』


ゲンジマル「武士としては其の心、判る。だが…祖父としては……」


珍しく言葉を濁すゲンジマル。


ゲンジマル「……破滅の道を歩むクンネカムンを見過ごすつもりか」

ヒエン『破滅ではありませぬ。全土は我等クンネカムンに平定され、
     初めて真の理想郷が築かれるのでありまする』


ゲンジ「まだ世迷い言を信じているか!」

    「他者を従属させての平定など、理想郷とは言えぬ!」


ヒエン『従属ではありませぬ。共存であります』

ゲンジマル「誰がそれを理想郷と認める。
       従属させられる側はその戯言を認めはすまい」


ゲンジ「強者が弱者を支配する。過去幾度となく行われてきたヒトの業」

     「だがそれを認めず理想郷と宣(のたま)い、孤立する者に明日など有り得ぬ!」
890 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/10/04(木) 22:14:21.51 ID:9vC2iN/SO

ヒエン『……ならば我等に虐げられたままでいろと言うのか!』

ゲンジマル「……!」

ヒエン『先に裏切り、クンネカムンを欺いた者達に……屈伏せよと仰るのか!』

ゲンジマル「そうではない。あれは…………」

ヒエン『大老、またその瞳ですか。自分らに何かを隠す時の――』

ゲンジマル「…………」

ヒエン『……我等と違う、エヴェンクルガである大老には判らない』


ゲンジマル「……幾度、こんな話を騙りあったろうな」

      「もはや、話し合いもここまでか――」


ヒエン『――貴方に自分の思う“真の武士”の答をお見せいたす』ゴゴ…

    『そして自分は貴方を――超えるっ!!!』


ヒエン『全ては我が主、アムルリネウルカ・クーヤ様の為に!』

ゲンジマル「ならば…其方の祖父でなく、師として応えよう!」


ハクオロ「ゲンジマル!」


ゲンジマル「ハクオロ皇、申し訳ありませぬが、ここは某一人に」


ハクオロ「……いいだろう」

トゥスクル一同「「「…………」」」


柄に手をやり、抜刀体勢をとるゲンジマル。


ゲンジマル「……参れ」

ヒエン『言われずとも!』

 ガシン ガシン ガシン…


大剣を左手に持ち、ゲンジマルに向かう青きアヴ・カムゥ。
891 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/10/04(木) 22:22:05.56 ID:9vC2iN/SO

ヒエン『ハアァァァァァァァァァァァァァァ!!!』


ゲンジマル「おおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


アヴ・カムゥの巨剣とゲンジマルの抜刀術が衝突し、光のような火花が散る。
剣と刀が撃ち合ったのは瞬き一度ほどの刻。

しかしその瞬間で、この場に居た者達は力の差を感じた――


―― この戦い、ゲンジマルの勝利だ ――


ゲンジマル「ぬおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」



老いた武人から放たれたのは九つの刀閃。
青き鎧は砕け、頑強な巨体が体液にまみれ……膝から崩れ落ちた。


ヒエン『ぐっ――がはっ!』ズズウ…

ゲンジマル「…………ヒエン。これ以上は――」


話しかける声。だが……


ヒエン『やはり、自分は……負けるのか』

   『このアヴ・カムゥを持ってしても、大老を超える事は…出来ないのか』


ヒエン『所詮…シャクコポルはシャクコポルだと……』

ゲンジマル「ヒ――! 聞いて――――!」


ヒエンの心に届かない祖父の想い。


ヒエン『…………勝ちたい』

    『某にもっと…力があれば……』


 バァ――z__ン!!


ハクオロ「な、なんだ! 頭痛がッ!」ズキンッ!


静止した時のような感覚。
ハクオロ・ゲンジマル・ヒエンは『ソレ』を認識した。


 『――チカラガ欲シイカ』


ゲンジマル「ぬうっ!」


 『汝、我ヲ求メルカ。小サキ者ヨ』


ヒエン『力があれば…力さえ…………』


 『良イゾ。ソノ渇望。先ノ闘イモ見事デアッタ』

 『素晴ラシイ料理ニ敬意ヲ表シ、少シ“サービス”ヲシテヤロウ』

892 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/10/04(木) 22:25:04.18 ID:9vC2iN/SO

 ゴゴゴゴゴゴ…


ヒエン『!! 立ち上がれぬ筈のアヴ・カムゥが! 動くっ!!』

ゲンジマル「まさかっ!」


ヒエン『でやぁぁぁぁぁぁぁぁァァァァァァァァァァァァ!!!』


 ジャキィッン!!


ゲンジマル「おおおっ!?」ガッ! ズザァァァァァァ…

トウカ「ゲンジマル様!」

オボロ「いきなり立ち上がったかと思えば、アイツを橋まで弾き飛ばしたぞ!」


ゲンジマル「ヒエン……」ヨロッ


ハクオロ「……交代だ。ゲンジマルは休んでいろ」

ゲンジマル「気遣いは無用。ここは某に任せて頂いた筈……」

ベナウィ「エヴェンクルガでも、親馬鹿は変わらないのですね」

クロウ「まっ、そんなもんでしょう。俺達は俺達で戦いやしょうぜ」

ドリィ・グラァ「「この薬で傷を癒して下さい」」スッ


ハクオロ「ゲンジマル、我々の目的を忘れるな。お前の力はまだ必要だ」

ゲンジマル「……むぅ」

ハクオロ「皆、準備は良い」


一同「「「応っ!!!」」」


 タタタタタタタタタ…


ヒエン『――邪魔をするか。トゥスクルの皇よ』


ハクオロ「私達も今更退けないのでな」

ゲンジマル「ヒエン、その力は借り物に過ぎぬ。目を覚ますのだ!」


ヒエン『決闘の邪魔をするのだ。その命、散ろうが文句は無いな』

    『全ては我等の大義の為にッ!!!』ブオンッ!!


ハクオロ「勝手な理想によって歪められた大義に何の意味がある!!」


 ズガッ!!


ハクオロ(―ッ! 紙一重! なんて破壊力!)

893 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/10/04(木) 22:28:42.69 ID:9vC2iN/SO

ヒエン『オオオォォォォォォ!!』


オボロ「シャァァァァァァァァ――ッッ!!」

ドリィ・グラァ「「若様の援護だっ! 食らえ、矢の雨!!」」


 キンッ キンッ キンッ キンッ キンッ キンッ キンッ キンッ…


ヒエン『その程度かっ!』

ベナウィ「関節や脇腹を狙っていますがッ!」ザスッ

クロウ「キズが浅せえ! 体が硬くなってやがんのか!」


ヒエン『かつてないほどの高揚を感じまする! この力!!』


ゲンジマル「この大莫迦者がっ!」ガキィッ!!


ヒエン『今なら、貴方を超えられる!!』ビュオン!!


ゲンジマル「くっ! 力・速さ・守りの全てが強くなっている!」ギンッ!


ハクオロ「ゲンジマル、“借り物の力”とはどういう事だ!」

ゲンジマル「我等に扱えぬアヴ・カムゥの真髄、
      その一端にあやつは触れているのです!」

トウカ「つまり、あの者は制御出来ぬ力に溺れそうになっておられるのですか」

ゲンジマル「……そのとおり」


ヒエン『ハアッ!!』ギィンッ!!


トウカ「……聖上、某達であれを引き付けます。その間に奥の牢へ」タタッ…

ハクオロ「ま、待てトウカ!」


ヒエン『――む、エヴェンクルガ?』

トウカ「ゲンジマル殿の孫と言うから…どんな立派な武人かと思ったが……」

    「――とんだ期待外れであった」


ヒエン『何ッ!?』


トウカ「偽物の力に振り回されている『腑抜け』だったとはな」


ヒエン『何とでも言うがいい。エヴェンクルガに我等の苦悩など判らぬ!』ブンッ!


トウカ「その考え方が『腑抜け』だと言うのだ!」 ヒラリ

オボロ「ふん、確かにな。独りよがりの考えだ」

   (……そう。昔のオレのような――)
894 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/10/04(木) 22:31:21.34 ID:9vC2iN/SO

ヒエン『き、貴様ら……』ゴゴゴ…


トウカ(今です、聖上!)

ハクオロ(よし……)スッスッ…


ヒエン『……そのような挑発にかかると思ったか』ズダッ!


トウカ「!! しまった!」

ベナウィ「? なぜ少し離れた岩壁に?」


ゲンジマル「――あれは! ヒエン、止めよ!!」


ヒエン『もう遅い。……トゥスクルの者達よ。そこから一歩も動くな』

    『もし動いたなら、この岩壁を破壊し、この場を溶岩に飲み込ませる』


一同「「「――!!」」」


ハクオロ「ゲンジマル! あの言葉は真か!」

ゲンジマル「……はい。ヒエンのいる場にある岩は溶岩を塞き止めるもの」

ハクオロ(鉄砲水のように溶岩を噴出させる気か!?)


ヒエン『あなた方がこの島から退くならば、これは壊さぬ』

    『退かぬならば…賢大僧正ごと、島の一部になって頂く』


トウカ「……堕ちましたな。最初の気高き武人から、ただの下衆に」


ヒエン『結構。大義の為ならこのヒエン、幾らでも堕ちてみせよう』


クロウ「お手上げ…すかねぇ」

ドリィ・グラァ「「うぅ…………」」

オボロ「くそっ!」


ゲンジマル「ヒエン……」

ヒエン『大老、貴方の声はもう自分に届きませぬ』


ヒエン『某は――』


……ヒエンの心に祖父であるゲンジマルの声は響かない。


だが、もう一つの可能性がある!

もう一人の彼の『家族』の声がッ!!



 『お兄ちゃんの……アホ――ッ――――!!!』



 キィーン…  ズガァァッ!!


ヒエン『グアアっ!?』
895 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/10/04(木) 22:38:28.70 ID:9vC2iN/SO

ヒエンのアヴ・カムゥに飛び蹴りを食らわせたのは……


朱黒『……おじいちゃんもお兄ちゃんも、どうして仲良く出来ないの?』

   『家族なのに…なんで、どうして……』


ゴローの使う、朱黒のアベル・カムル。


ヒエン『そ、その声は……』

ゲンジマル「サクヤ!?」


 …………

 〜 朱黒のアヴ・カムゥ内 〜


ゴロー「ギリギリ間に合った……」

サクヤ「二人とも…あたしには何も話してくれないし……」ヒックヒック


 ふう。なんて忙しい一日だよ。

 …………


場面は外へ戻る。

ゴロー『女の子を泣かせちゃ駄目じゃないか』


ハクオロ「ゴローさん!」

ゴロー『船が難波しちゃって…… 時間がかかってしまった』

    『他のみんなも来てるぞ』


エルルゥ「ハクオロさん!」タッタッタッ

アルルゥ「おと〜さん」ピコピコ…

ムックル『キュフ〜ン(ニオイイヤイヤ)』

ガチャタラ『キュル〜…』

ウルトリィ「皆様、ご無事でしたね」バサッ…

カミュ「エルルゥ姉様の薬で傷を癒しますっ」バサバサ

カルラ「やっぱり我慢出来ませんでしたの」ニコリ


ハクオロ「……全員来てしまったのか!?」

カルラ「船が手に入りましたから」

ベナウィ「……なんとなく、こうなる予感はありました」

トウカ「しかし、先程の状況から、助けられたのも事実です」

クロウ「ま、運が良かったと考えるか!」


ヒエン『グ…… あのアヴ・カムゥ、まさかあなたが動かしているとは…』


ゴロー(このアベル・カムルは元々俺のモノなワケで)

エルルゥ「ユズハちゃんも、兎耳ちゃんも来ちゃってますけど……」

オボロ「ユズハっ!?」

エルルゥ「ふ、船で待ってますから!」
896 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/10/04(木) 22:45:45.14 ID:9vC2iN/SO

ヒエン『壁の破壊が出来ぬなら…この力であなた方を黙らせるまで!』



ハクオロ「家族を切り捨てたお前に出来るかな。
      私の……『最高』の家族達に」


カルラ「武器が無くても!」

トウカ「その性根、一から鍛え直してくれる!」

ウルトリィ「わたくし達の結束。甘く見ないで下さいね」

カミュ「お父様を返して!」

ベナウィ「行きますよ、クロウ」

クロウ「ういっす。へへっ、面白くなってきやがった」

エルルゥ「まずは皆さんの治癒を……」

アルルゥ「アレやる。アレ〜(エルルゥとアルルゥの協撃のこと)」

ムックル『ヴオッ!』  ガチャタラ『クルルル〜!』

ドリィ・グラァ「「僕達だって、頑張ります!」」

オボロ「…………」ブツブツ


ハクオロ「……? オボロ?」

ゴロー『はぁ、戦うしかないか』

サクヤ『お兄ちゃん……』


ヒエン『……サクヤ、お前はこの場から去れ』


ゲンジマル「これだけの猛者を相手に、勝ち目があると思うか」


ヒエン『やってみねば判りませぬ!!』ガシンッ!



オボロ「……合点がいったァァ!!」ダッ!


オボロが単騎で我武者羅にアヴ・カムゥに向け走り出す。


ハクオロ「オボロ! あの馬鹿者!!」


ヒエン『ハアァァァァァァァァァァッ!!』


大剣による横薙ぎ払いがオボロの痩せた身を襲う。


オボロ「お前のような――!!」ヒラリ

    「『○○○○』に辛く――」スカッ
897 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/10/04(木) 22:50:17.48 ID:9vC2iN/SO

ヒエン『なに! ……だが、その位置でこの振り下ろしはかわせまい!』


 ビュオン!




オボロ「お前のような! 『妹』を泣かせるヤツは俺が許さんッ!!」


 ガキィッ…!


一同「「「…………えっ」」」


圧倒的な重量差を物ともせず、
オボロの双滅牙はアヴ・カムゥの剣を停止させる。


オボロ「何が大義だ! 自分の妹一人幸せに出来ないヤツが何をほざく!!」

ヒエン『!? 何故、某の一太刀を受けきれた!!』

オボロ「そんなもの! オレを励まし、応援してくれる妹が居るからに決まっている!!」

    「お前のように、オレは妹への想いを隠していないッ!!!」


ヒエン『!!!』

サクヤ『はえっ?』


オボロ「キサマの振舞いに、何故か懐かしさを感じた!」

    「お前は……兄者に出会う前のオレにそっくりだ!!」ズバッ

ヒエン『くあっ!』


オボロ「オオオオォォォォォォォォ――ッ!!」


矢継ぎ早に繰り出される双刀の斬撃。
それと……昔の自分に向けるかのような、心への攻撃。


オボロ「どうした! キサマの愛はその程度かァ!!」

    「オレはッ!」ザシュッ!!

    「ユズハを大切に思うあまりッ!」ザクンッ!

    「籠の鳥にしてしまっていた!!」スパッ

    「だが! オレは兄者達に出会い!
     ユズハの気持ちを蔑ろにしていたことがわかったんだァァァァ!!」


 ザシュ ブスゥッ ズシュウッ


ヒエン『ウオオオッ!?』ガクッ!

オボロ「そうだっ! 今のお前のように!!」
898 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/10/04(木) 22:53:38.95 ID:9vC2iN/SO

 ズププゥッッ!!


オボロの一刀が、アヴ・カムゥの鎧の隙間――
最大の弱点である『脇腹』に深く突き刺さる。


オボロ「……これでもう、動けないだろう」チャキン


ヒエン『――くっ』

アヴ・カムゥの手は未だ強く剣を握るが、もう動けない。



ハクオロ「……うわぁい」

ドリィ「流石、若様!」

グラァ「僕らにもその情熱を放ってくださいっ!」

エルルゥ「……なんて言ったらいいんでしょうか」

カルラ「気持ち悪いとかでよいのではありません?」

ウルトリィ「カルラ……言い過ぎですよ」

カミュ「お、お姉様? 顔が笑ってる……」



ヒエン『……何故、某がサクヤの事を愛していると見破った』


一同(((……当たりかいっ!!!)))


オボロ「あの爺の話は聴いてないのに、妹が来たとたん態度を変えたからな」

    「オレほどの者でなければ、きっと気づかなかった」


ゴロー(……わかりたくない)


ヒエン『……少し昔話に付き合ってくれますか』

オボロ「好きにしろ」


ヒエンの独白が始まる……
899 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/10/04(木) 22:56:45.12 ID:9vC2iN/SO

ヒエン『幼き頃から、サクヤは……可愛らしかった』


サクヤ『うぇいっ!?』


ヒエン『気立てもいいし、よく働く。気配りも出来る』

    『だが時々、抜けた事をしてしまう。そこがずっと気掛かりで……』


ハクオロ(……あー、確かに)

ゲンジマル「そうであったとは……」

ゴロー(この爺さん、自分の孫が『うっかりさん』なのを知らなかったのか)


ヒエン『父母にそんなサクヤの事をしかと守れと言われ育ち……』

    『いつしか…某は兄として深く妹を愛すようになっていた』


ヒエン『武士たろうと決心したのもそれが最初のきっかけであった』

オボロ「…………」

ヒエン『けれど、この想いは色恋などではない。純粋なもの』

    『サクヤに我々が虐げられる事のない世を見せてやりたい』


ヒエン『それもまた、某の望む事であります』


サクヤ『お兄ちゃん……』

ヒエン『その為に、自分は力を――』

サクヤ『もう止めてお兄ちゃん! もう十分だよ……』

ヒエン『……サクヤ』

サクヤ『大丈夫。たまにドジをしちゃったりするけど、あたしは元気だから!』

    『だから……家族で争うのなんて止めよう?』

ヒエン『……しかし』


ゲンジ「聖上は某達が止める。クンネカムンの暴走を収め、
     某とも、お主とも違う、共存の道を見つけられるように……」


オボロ「安心しろ。オレ達の兄者は身分なぞ気にしない方だ」

    「國の為に日夜寝る間を惜しんで働いてくれている」


オボロ「それが少し増えるだけだ!」(超いい笑顔)


ハクオロ「勝手に人の睡眠時間を減らす算段をつけるなぁっ!!」
900 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/10/04(木) 23:03:49.75 ID:9vC2iN/SO

ヒエン『……それでもっ』

サクヤ『お兄ちゃん! お兄ちゃんの名前の由来を思い出して!』

ヒエン『……? 某の名の由来?』

サクヤ『おじいちゃん、言ってないの!?』

ゲンジマル「……そうか、あの時喋ったのはヒエンでなくサクヤだったか」


ヒエン『どういう意味でありますか! サクヤ・大老!!』


 ストン

ゴロー「私が教えますか。ゲンさん」


 俺はアベル・カムルから降り、もう一つの家族に対峙する。


ゲンジマル「いえ、これは某の口から言わねばなりますまいて」

 スタスタ…

ゲンジマル「ヒエン、其方の名に込めた意を教えようぞ」

      「ヒエンのヒは『火』、エンは『怨恨』のエン。」


ゲンジマル「某が……戦の火を嫌い、怨むという思いを託し、名付けたのだ」

ヒエン『!!』


 まぁ、驚くよな。武士のゲンさんがそんな意味を含ませるなんて。


ヒエン『な、なぜ! 貴方のような武人がそんな……』

ゲンジ「……其方と似たようなもの。孫を持つ歳になり、変わったのだ
     罪にまみれた某の手と違い、平和に日々を過ごして欲しいと……」

ゲンジマル「音だけではあるが、この言葉を使うことにした」

ゲンジ「だが、國々の戦は尽きず、其方のような若人も巻き込んでしまった」

    「旧き約束に、今を生きる者達を付き合わせてはならぬというのに」


ヒエン『……じ、自分は、そんな……』

ゲンジ「ヒエン。……もうよい、この老身のかつて見た夢を追うでない」

    「理想郷とは……曇った瞳では見つけられぬ」


ゲンジマル「身近にあるものなのだ……」


 ガシャン!


ヒエン『…………』


頑なだった掌中から大剣が離れる。


ヒエン『……某の敗北だ』
901 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/10/04(木) 23:07:03.99 ID:9vC2iN/SO

 ズルズル… ストン…


ヒエン「この身、好きにするがよかろう。死も覚悟している」


ハクオロ「いや……べ


オボロ「この大馬鹿野郎ッ!!!」


 ドゴォッ!


ヒエン「グホウッ!?」ズザアッ!!


オボロ「妹を悲しませるような真似! オレの目が黒いうちはさせんッ!」

ヒエン「……貴方の拳は効きました」ヒリヒリ

オボロ「お前の大義は無くなったかもしれん! だが、お前の夢は残っている!」

    「妹に平和な世界を見せてやるんだろう! なら死ぬな!!」

オボロ「行こうじゃないか、妹を愛するこの道を……」スッ


手を差し伸べる……一人の『兄』。


ヒエン「貴方の……名を、教えていただけませぬか……」

オボロ「オレの名は――『オボロ』だ。よろしくなヒエン」ガシッ

ヒエン「オボロ殿。……良いでしょう、某の夢をあなた方に託しまする」ガシッ

オボロ「任せろ! なあ、兄者!」


ハクオロ「あ、ああ」ススッ

ゴロー(……ドリィ・グラァ、サクヤさん以外の全員が後退ったぞ)


サクヤ「お兄ちゃん……よかった〜」グスン

ドリィ・グラァ「「若様! 素晴らしい説得です!」」


 な、何はともあれ、戦いは終わったか。


ハクオロ「では賢大僧正の救出に……」


 『…………茶番は終わりだ』
902 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/10/04(木) 23:12:05.96 ID:9vC2iN/SO

ハクオロ「ぐあっ!」ズキッ!!

エルルゥ「ハクオロさん!」

ハクオロ「あ、頭が痛いっ!」ズキズキ

ゲンジマル「先程と同じ気配! もしや……」


 バサバサッ…バサバサ… スタッ…


白翼の男が牢の入口に舞い降りる。


ディー「肉親同士が傷付けあうという香辛料で、此度の戦いを味付けしたというに」

    「甘ったるいソースをかけて、料理の味・風味を台無しにするとはな」


ゲンジマル「やはり、貴方様でしたかっ!」


ディー「やはり気紛れにサービスなどせず、契約しておくべきであった」


ハクオロ「貴様、何者だ」

ウルトリィ「ディー? どうしてあなたがここへ?」
カルラ「お知り合い?」

ウルトリィ「はい、オンカミヤムカイで哲学士を……」

カミュ「…………お姉様、違うよ」

ウルトリィ「えっ?」

カミュ「あれは……ディーじゃない……」フルフル


ディー「……空蝉に取り入ったか、ゲンジマル」


ゲンジマル「…………」スッ


ゴロー「久しぶりだな。ディーさん」

ディー「『箱庭』は気に入ったか? 『偽り』よ」

ゴロー「なかなか悪くなかった。あんな進歩ならどれだけやっても構わない」

    「だけど、戦争を裏で操るってのは関心しないな」


ディー「そうはいかぬ。まだ私は目的を達していない」


ゲンジマル「……まだ弄び足りませぬか――ッ!!」


ディー「怒るなゲンジ。もうお前の孫に興味は失せた」

   「私がこの地に来た目的は、アヴ・カムゥの回収」

    「其の者のアヴ・カムゥは返して貰うぞ」スッ


 キュゥゥン… パッ!


ドリィ・グラァ「「青いほうが消えたっ!」」

クロウ「嘘だろおい!」

ベナウィ「いったい……?」
903 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/10/04(木) 23:20:06.40 ID:9vC2iN/SO

ディー「さて、用は済んだな。……何のつもりだ」


ハクオロ「何者かは知らんが、妙な素振りをしないほうがいい」

     「流石に一流の術士といえど、我々の包囲から逃げられないだろう」


戦える者達が、ディーの周りを囲む。


ディー「ふむ。確かに強者達ばかり。普通に闘っては時間がかかる……」


 何か、また忘れている。こんな場合――


ゴロー「……はっ、しまった!!」


ディー『 “動くな” 』


 キィーン…

オボロ「か、身体が……」   ドリィ・グラァ「「動かないっ…」」ググ

ベナウィ「――っ!」ギリッ   クロウ「わ、わけわかんねえ…」ググ

カルラ「わたしの力でも……」   トウカ「ウルトリィ殿の術のよう……」

ウルトリィ「ああ、そんな!」ギギ…   カミュ「……やっぱり」

エルルゥ「は、ハクオロさ……」  アルルゥ「ムックル、ガチャタラもダメ……」ピタッ

ヒエン「ぐぐっ……」ピタ   サクヤ「きゃああああっ!」ピタリ

ゲンジマル「ぬおおおおおおっ!?」ギリギリ…

ハクオロ「皆、どうしたっ!?」


ゴロー「遅かった……」

ディー『どうも妙だな。既に我が憑代でない汝が何故動ける』

ゴロー「お前が身体に居たから慣れたんじゃないか?」

ディー『記憶も大部分が戻ったか。余計な事も思い出したようだが』

ゴロー「そっちも俺の記憶を見ただろう。おアイコだ」

ディー『……その身体も近く限界となろう』

    『汝が望むなら、もう一度契約しても構わぬぞ』


ゴロー「勝手に契約破棄しておいてよく言う。二度とごめんだ」

ディー『そうか。汝も良き友であったのだがな――
     では今生の別れだ。偽りの“イノガシラ ゴロウ”』

ゴロー「『偽り』…お前が俺の記憶から身体を作り変えたくせに」

ディー『声や体格は変えていないぞ。顔くらいのものだ』

ゴロー「次会ったら、必ず関節を極めてやる……」

ディー『フフフ……怖い怖い』 スゥッ…


 段々とディーの姿が薄れていき、他の皆さんの呪縛が解けた。


ハクオロ「ゴローさん、今のは……」

ゴロー「さて、賢大僧正さんを助けますか」
904 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/10/04(木) 23:22:53.66 ID:9vC2iN/SO
 …………

 〜 サハラン島・牢屋 〜

 ハクオロの追及をなんとか誤魔化しながら、牢屋に着く。


ウルトリィ「! お父様!!」


ワーベ「…………」


 ポタリ…ポタリ…


カミュ「お父様の口から……血がっ!!」

ゲンジマル「急いで開けまする!」ガチャ!


ウルトリィ・カミュ「「お父様ぁぁっ!!!」」





ワーベ「ふわぁ〜〜。騒がしいのう、折角良く寝ておったのに」


  ズテテッ!

 全員、見事にズッコケた。


ワーベ「おお、ウルトリィにカミュではないか。何ゆえ床に張り付いておる?」

カミュ「は、ははは……」

ウルトリィ「口から出ている血は……」

ワーベ「これは『とまとじゅーす』という代物でな。なかなか美味であるぞ」


ゴロー(……箱庭の製品だ)


 ディーを名乗るアレが、渡したんだろう。


ワーベ「命を脅した詫びがこれだけと言うのは……物足りぬが」ゴクゴク

ハクオロ「あのう、そろそろ話をしてもよろしいですか……」

ワーベ「ムムッ! ああいやいや、そうであったか! ウムウム」コクン

ハクオロ「え、えーっと……」

ワーベ「お初に御目にかかります。ハクオロ皇」ペコリ

     「詳しい話はまた後日として、今は帰りましょうか」スタスタ


ハクオロ・ゴロー「「ええー……」」

905 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/10/04(木) 23:29:38.02 ID:9vC2iN/SO
 ――――

翌日、トゥスクル皇城・朝堂。


ハクオロ「さて、これからの話し合いだ」

ワーベ「ううむ。しかし、この老体に何が出来ましょう」

ゲンジマル「賢大僧正として叛クンネカムンを纏め……」

ゴロー「ワーベさん。先に手を出したのは本当にオンカミヤムカイなんですか?」

ワーベ「いかにもその通り。経緯は言えませぬが……」


ハクオロ「……そうだ、その問題が残っていた」

ワーベ「調停者としての信用が無くなってしまったかもしれませぬ」

ハクオロ「だとすると…… 勢力を纏める事は――」

ワーベ「……私が賢大僧正を辞すという手があります」

ウルトリィ「お父様っ!!」

ワーベ「その場合、賢大僧正(オルヤンクル)の位は……相応しき女性の元に」

ハクオロ「――ウルトリィかカミュのどちらかに!?」

ワーベ「左様。そして、話合いで次の賢大僧正はウルトリィと」


ウルト「……本来、賢大僧正は始祖様の血を濃く継ぐ者がなるのです」

    「ですが、カミュは位を継ぐのを……」


ハクオロ(あれだけの鬱憤を溜めていたカミュだ、確かに嫌がるだろう)


ハクオロ「そうか、だからウルトは医学士になるのを……」

ウルトリィ「…………」


 スタ スタ スタ スタ…


カミュ「――お姉様、お父様」

ウルト・ワーベ「「カミュ!」」



カミュ「カ……私、賢大僧正に……なります!」

906 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/10/04(木) 23:34:21.33 ID:9vC2iN/SO

ウルト「カミュ……」

ワーベ「……何故そう思うた。カミュ」

    「一度逃げたお前が、この皇の位に値すると考えておるのか」ギロリ



カミュ「……お父様。私はこの國に来て、初めて『友』が出来ました」

    「これまで独りぼっちだった私が、沢山の家族に等しい存在を得たのです」


ゴロー「…………」

カミュ「だけど、楽しかった日々が戦で壊されていきました」

    「……私は、もう家族が苦しむ様を見たくありません」


カミュ「辛かった時、私を支えてくれた……この城の皆様の為に」

    「――私はこの身の役目から逃げず、力を尽くす事にいたします」


 子供ってのは……いつの間にか成長する。


ゴロー(……だか、ちょっとおかしい)


 何か、『カミュではない』存在を感じる。
907 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/10/04(木) 23:36:47.74 ID:9vC2iN/SO

ワーベ「……大きくなったな。我が娘よ」

ウルト「カミュ…… 本当に立派になりましたね」ホロリ


カミュ「お姉様。二回もカミュの我儘で振り回してご免なさい……」グスッ

    「医学士になるって夢を……」


ウルト「気にしていませんよ。それに今は他にやりたい事がありますから」ニコッ

    「学舎を建て、子供達に学ぶ楽しさを知って貰う……
     わたくしが今胸に抱いている、新しい夢です」


ウルト「だからカミュ。貴女は貴女の思う通りにやりなさい」

カミュ「ありがとう……お姉様」ポロポロ


ハクオロ「では……賢大僧正様、全土に報せる文を考えましょう」

カミュ「う〜ん……そういうのはニガテ〜」

ゴロー「草案を一緒に考えるから、頑張れ」

カミュ「ハ〜イ!」

ハクオロ「しっかりな、小さなオルヤンクルさん」ハハハ



ワーベ「我等も少しやる事がある。近隣に居る術士を集めねばな」

ウルトリィ「何をなさるおつもりですか?」

ワーベ「あの巨大な敵に対抗する為、大神の力を借りようと思うておる」

ウルトリィ「! 皆様の装備の強化ですか!」

ワーベ「うむ。まずは……あの弓を持った可愛い双子のおなごに……」


ウルトリィ「お父様、あの御二人は……男の子です」


ワーベ「…………ナンダッテ」

第二十五話「家族」

続く。
908 : ◆M6R0eWkIpk [saga]:2012/10/04(木) 23:43:26.64 ID:9vC2iN/SO
投下完了。アニメだけの方向けに解説。

●賢大僧正(オルヤンクル)は本来女性が継ぐ。

●出来れば、始祖の血を引く者がベスト。

●原作ではカミュが即位せず、ウルトリィが即位する。

あとはSSのままです。

今日は様々な家族の話でした。
また別の機会にいろいろ(ヒエンのキャラ等)書くので、今はこれにて。
909 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/10/04(木) 23:48:58.00 ID:ae5b/+M3o
910 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/05(金) 00:11:54.34 ID:sqqlD6CG0
乙でした
ヒエンさん……
911 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/10/05(金) 07:24:27.24 ID:HQcgFX0P0
乙でした
つーかリンコカレは>>1だろ
912 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/06(土) 22:49:16.84 ID:CvB3JXZSO
913 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/10/08(月) 17:09:59.99 ID:up7PYm2r0
うたわれー!
支援
914 : ◆M6R0eWkIpk [saga]:2012/10/10(水) 19:47:48.43 ID:xWjWB80SO

第二十六話 「皇(オゥルォ)、ふたり」


 〜 トゥスクル・外の調練場 〜


ゴロー「アヴ・カムゥは、脇腹が弱点だ。正確には鎧の隙間のココを……」トントン

兵士達「「「ふむふむ……」」」


 俺のアベル・カムルを用いて『対アヴ・カムゥ』講座を開く。
 カミュの詔(みことのり)により、
 様々な國々から叛クンネカムン軍として人々が集まった為だ。

 正直、面倒臭い。


ゴロー「座っていたり、動きが限定される空間でなら上手く狙えます」

    「また、斬りつけるより突き刺す攻撃にしましょう」


オボロ「なんでだ?」

ゴロー「皆が皆、質のいい刀や剣を使ってはいないからだ。
     斬りかかって弾かれるより、浅くても脚部に刺して、逃げるほうが賢明だろう」

    「逃げる時は、敵の攻撃や踏み潰しに注意するように」


ゴロー「あと…アヴ・カムゥは二足歩行だから、転ばせる類いの罠を使うといいぞ」


ベナウィ「歩兵による波状攻撃・罠が有効というわけですか」

ゴロー「騎兵なら、速さを生かして敵を翻弄出来る。
     ウォプタルに乗れば、その分高くなるから胴体も狙える」

    「座学だけじゃあわからないだろうから、簡単な実戦をやってみよう」


ドリィ・グラァ「「あ、なら僕達が」」


ゴロー「お、強くなった弓の試し射ちか?」


ドリィ「はいっ!」

グラァ「クロウさん、オル…おっとっと、ワーベ様が御呼びです」

クロウ「ヨッシャ。俺の刀が出来たんすね!」スクッ

ベナウィ「私の槍も、そろそろでしょうか」

ドリィ「はい。ベナウィ様も」


ゴロー(アヴ・カムゥと戦えるだけの力……か)


 ここ数日は、オンカミヤリューの皆さんが忙しそうだ。
 訓練が終わったら、差し入れでもやりにいこうかね。


ゴロー「じゃあ、二人は俺と一戦しよう。『旋迅弓』の力、見せてもらう」

ドリィ・グラァ「「はいッ!!」」



●『旋迅弓』

ドリィ・グラァの専用装備。破魔の力を持ち、放たれた矢は雷に変わると言われる。
915 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/10/10(水) 19:55:23.03 ID:xWjWB80SO
 ――――

 〜 ウルトリィの部屋 〜


ハクオロ「私に何か用事があるそうだが……」スタスタ


ウルトリィ達に呼ばれ、部屋に歩を進める皇(オゥルォ)。
部屋の前に立つと……


 カサッ… パサッ…

ハクオロ(……衣擦れの音、これはもしや……)


 〜〜〜〜〜〜


ハクオロ「失礼する」ガララッ

ウルトリィ「きゃあっ!」バッ

ハクオロ「す、すまん!」

ウルトリィ「い、いいえ、こちらこそ取り乱して……///」


 〜〜〜〜〜〜


ハクオロ「……なんて、ウルトの恥ずかしがる姿が――」

    「い、いかんいかん。一國の皇がそんな真似をしては……」


ハクオロ「……隙間から垣間見る位はいいよね?」


駄目だと思う。


 スッ… チラッ

ハクオロ(し、白い服だ。これは……想像通りかぁ?)ゴクッ

     (も、もうちょっとで肌が……)ジッ







ワーベ(着替え中)「いやん///」

ハクオロ「 」ブーッ!!


スケベ心を抱いた結果、爺さんの老いた裸を見るはめになった皇であった。
916 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/10(水) 19:58:33.23 ID:xWjWB80SO

ワーベ「服が汗で濡れましてな。替えておったのですよ」

ハクオロ「ハハハ…… ところで、今日の用事は……」


ワーベ「おお、そうでしたそうでした。
     貴方様に渡す筈であった品を見つけましたので」スッ

ハクオロ「箱ですか。開けてみても?」

ワーベ「どうぞ」


 パカッ


ハクオロ「これは…『鉄扇』? それにしては……刃が美しい」カタッ


ワーベ「『金剛扇』、お気に召されましたかな。
     鉄扇の刃の部位に金剛石(アムル)を施した物であります」

ハクオロ「しかし、このような――」

ワーベ「……トゥスクル様の使っていた品、受け取っては頂けませぬか」

ハクオロ「! この鉄扇以外にも?」

ワーベ「はい。本当なら、早くお渡しすべきでありましたが」


ワーベが思い返すのは、『前大戦』。
今回の戦のように、大國ラルマニオヌに対抗した『仲間達』のこと――


ハクオロ「……使わせて頂きます」

ワーベ「よろしく、お願いいたします」ペコリ


●『金剛扇』

ハクオロの専用強化武器。破魔の力があるらしい。

917 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/10(水) 20:01:34.73 ID:xWjWB80SO
 ――――

 〜 トゥスクル・朝堂内 〜


ハクオロとワーベが話す間、朝堂では『強者達』に新たな武器が渡される。


ウルト「クロウ様。鍛え直した刀、『剛芯直刀』です。ベナウィ様には『烈破槍』を。
    どちらも鍛治の途中に大神への祈りを付与いたしました」


クロウ「へぇー……刀身が厚くなって……」

ベナウィ「後で我々も外稽古をしましょう」



カミュ「えっと、トウカお姉様から預かった刀は……はいっ!」スッ

トウカ「おお。以前のものより軽くなった気がいたします!」ヒュンヒュン!

カミュ「『疾風』にはフムカミ様の力が宿ってるよ
     カルラお姉様の新しい刀は……『覇陣』だね」


ゲンジマル「こちらで御座います」スッ


カルラ「……ありがとう」グッ

    「んっ、前のより少し重さが増したのかしら?」


ゲンジマル「アヴ・カムゥの鎧甲に使っていた物を溶かし、入れさせました」

カルラ「貴方が追われていた時に倒したヤツですわね……」


アルルゥ「アルルゥには〜?」チョコン

カミュ「一応、ムックル用にあるよ。『虎爪牙』と『甲砕き』」


ゲンジ「さほど多くはありませぬが、
    『鎧徹し』も御用意しました。兵の皆様にお配り下され」


 ドサドサッ


ベナウィ「他の兵達の武器まで……感謝いたします」ペコ

ゲンジマル「ゴロー殿が、運びし品物であります。感謝はそちらに」

918 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/10(水) 20:17:05.43 ID:xWjWB80SO
 ――――


ゴロー「くしゅん! 誰かに噂されてるのかなぁ」

エルルゥ「あ、ゴローさん。今日の夕食の献立、何か考えありませんか?」

ゴロー「うーん……『鍋』なんてどうです?」

エルルゥ「『ナベ』?」キョトン

ゴロー「材料はいろいろ……」


 《 武器解説 》


●『剛芯直刀』
クロウの専用強化武器。二重の刀身を有し、
刀にはテヌカミ(土神)の加護が付与されている。


●『烈破槍』
ベナウィの専用強化武器。クスカミ(水神)の力が封じられており、
轟く滝をも斬り裂ききれる槍となった。


●『疾風』
トウカの専用強化武器。フムカミ(風神)の力を持ち、
敵を今まで以上の速さの抜刀術で討つ事が可能になる。


●『覇陣』
カルラ専用強化武器。折れた鉄塊刀に別の鉱石を加えて新しく打ち出された。
神の加護を受けずとも、極めて強力な破壊の刀である。


●『虎爪牙』
ムックル(アルルゥ)専用強化武器。風の力を宿し、
アルルゥ自身の風神と共に、相乗効果で戦場を駆ける為の脚部装備。


●『甲砕き』
ムックルの『対アヴ・カムゥ専用』脚部装備。
名の通り、アヴ・カムゥの鎧甲を破壊する用途で作られた。


●『鎧徹し』
通常規格の刀より薄い、『刺す』為の刀。アヴ・カムゥの鎧の隙間を突ける。


※鎧徹しと甲砕きはゴローが積み荷として船に用意していたもの。

919 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/10/10(水) 20:20:56.69 ID:xWjWB80SO
 ――――

 〜 トゥスクル・厨房内 〜


 この城の厨房、毎日が戦場だ。
 兵の食糧は女官さん達が作る、だけど……
 俺達の食事は、エルルゥさんとウルトリィさんで大部分を作ってくれている。

 今は兎耳ちゃん・サクヤさんも居るけど、なかなか大変そう。


エルルゥ「ええと……小さな器は十八個くらい?」カチャ…

ウルトリィ「今日はムントも居ますから」

兎耳「私が入ってないかも……」

ゴロー「面倒なので二十ほど出しましょう」


 ……食器の量が半端じゃない。


エルルゥ「私の部屋じゃ狭くありません?」

兎耳「だ、大丈夫だと思いますっ」

サクヤ「あたしにも何か手伝わせてくださ〜い」


 俺は味の確認をしたりする為、頻繁に厨房に入る。
 かつて日本で乱世を駆けた武将も、食に関して五月蝿い者が多かったらしい。


ゴロー(だから、この女性ばかりの場に居ても……平気だ、多分)


エルルゥ「作り方は簡単ですね」

ゴロー「入れる物によって、味が変わるというのも鍋の醍醐味です」

ウルト「こちらは魚、あちらは肉……」セッセセッセ

兎耳「えっと、鶏肉を細かく刻んで、丸めて」トントン コネコネ

ゴロー「あ、少しお酒と、卵の白身を混ぜて練り込んでから丸めるんだ」

兎耳「はいっ!」


 しばらく様子を見たが、これ以上は邪魔になりそうだ。


ゴロー「じゃあ、俺は失礼します」ガタッ

エルルゥ「私の部屋の囲炉裏に火を点けておいて下さい。
      もう少ししたら完成すると思いますから」

ゴロー「わかりました。そろそろ全員呼んでおきます」
920 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/10/10(水) 20:26:12.98 ID:xWjWB80SO
 ――――

 〜 エルルゥの部屋 〜


ハクオロ「きょ〜おの食事はなんだろな〜♪」

オボロ「しかし、人数が多いな」

ワーベ「ここ数日の間、私の分は別で御用意して頂きましたが……
     おかげさまで体調も戻りましたゆえ、皆様と共に食事をと」

ゲンジマル「やはり、牢中では空元気であられたのですな」

ワーベ「……恥ずかしながら、私も老いたのです」

ゲンジマル「……某も同じで御座いまする」


ハクオロ(……何故私の両脇はこんな事態に)


上座の位置に國の皇のハクオロ、以下は順に
客のゲンジマル達(クンネカムン・三人)、ワーベ(オンカミヤムカイ四人)
彼等がハクオロの両脇席を占拠。女性らは上座からやや離れた席につく予定だ。

今日は普段と異なり、囲炉裏をぐるりと取り囲む形で座布団が敷かれている。
気になる方のため、簡単に席順を教えよう。

ハクオロ→(右から)ワーベ→ウルト→ムント→カミュ→ゴロー→兎耳→
アルルゥ→カルラ→ベナウィ→クロウ→ドリィ→グラァ→ユズハ→オボロ→
ヒエン→サクヤ→ゲンジマルと輪になり、ハクオロに戻る。


※補足・エルルゥは途中で立つ事が多いので、おかわり分の鍋やモロロの近く、
あとクロウやオボロの居る辺りに適当に座る。
トウカはハクオロの側付として毒味もするので、
ハクオロとゲンジマルのやや後方に位置する。

ちなみに……この席順を決めたのは、『カミュ』である。
(※兎耳はカミュと和解し、ゴローの隣席にしてもらいました)
921 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/10(水) 20:28:21.37 ID:xWjWB80SO

エルルゥ「みなさん、お待たせしました〜! 『ナベ』で〜す!」


一同「「「おおー!!」」」



 【 寄せ鍋 】

人数がいるなら、鍋だろうというゴローの発案・監修で完成。
単純な昆布出汁と醤油の鍋(具は野菜、鳥つみれ、家畜の肉等)・石狩鍋の他、
カレー風鍋(船に積んでた香辛料を使った)を用意。
欠食児童並みに食べるアホが居るため、それぞれ土鍋三つの合計九つ。
囲炉裏に置けるのは三つが限界なので、食べ終えたら厨房から次を運ぶ。


ゴロー「うん、いいぞいいぞ」


 我慢できないニオイ! カレーの匂いが強いけど、他の鍋だって負けてない。


エルルゥ「じゃあ木匙で取分けますね」

サクヤ「あっ! あたしこのカレーにしますっ!」

ゲンジマル「おお…… 懐かしい」

ヒエン「……この異様な匂いのものが食べられるのか?」

オボロ「大兄者はこういう事では外さない。オレとユズハもこれを」

ユズハ「今まで…嗅いだことのないニオイです……」クンクン

クロウ「俺は無難に……肉を喰うぜ。……ぉふぅ、旨え」ガツガツ

ベナウィ「この鶏を丸めたもの、なかなかですね」ムシャ

グラァ「魚がおいし〜」ハグッ

ドリィ「若様、ちゃんと野菜も食べて下さいね」ムシャムシャ

922 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/10(水) 20:30:19.22 ID:xWjWB80SO

カルラ「……ぅ〜ん。お酒、もう一升頂けません?」トントン

アルルゥ「ソレ、おいしいの?」

カルラ「あら? アルルゥもやります?」

トウカ「カルラ殿! アルルゥ殿に酒なぞ飲ませてはいけませぬ!!」ガタッ

カルラ「じょ、冗談ですわよ…… それより、毒味はよろしくて?」

トウカ「……ハッ! 某としたことがっ!
     聖上、すぐに毒味をいたしまする!」ストッ


ハクオロ(……この料理で、どうしたら私だけに毒を食わせられるんだ?)

     (でも、言っても聞かないんだろうなあ……)

ハクオロ(私は、いつこの鍋を食べれるのだろう……)ガクッ


兎耳「ゴローさん、どうぞ!」スッ

ゴロー「ありがとう」


 もぐ… はぐぅ…


 鍋は旨いが……騒がしくてゆっくり味わえないな。


カミュ「……おじさま」ボソッ

ゴロー「ん?」チラリ

カミュ「ご飯が終わったら、あの湖に来て」ボソボソ

ゴロー「……わかった」ゴニョ…


 この席順、どうやらわけありだったらしい。


カミュ「オンカミヤムカイの食事も皆でつまんで食べるようにしようかな〜」

ムント「姫さ……あっ」

カミュ「ふふ〜ん、今は賢大僧正だよ〜。お説教なんて出来るかな〜」フンス

ワーベ「食事を皆で頂くのは構わん。が、皇の権威を笠に着てはならぬ。
     立場の強さを利用して、臣下の忠言を聞かぬなどもってのほか」

ウルト「ムント、これからもカミュの事はどんどん叱って構いませんよ」ニコッ

ムント「畏まりました! カミュ様には皇としてこれから……」クドクド

カミュ「にょわぁぁ〜〜っ!!」



ゴロー(…………)

923 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/10(水) 20:33:47.99 ID:xWjWB80SO

 その日の夕食後、俺は……


 〜 ユズハの部屋 〜


ゴロー「お邪魔します」スッ



オボロ「大兄者、珍しいな」

ドリィ「食べすぎの薬でしたら」

グラァ「エルルゥ様はここには居ませんよ」

ユズハ「ゴローさま……?」



ゴロー「……そうか、ここじゃなかったか。――じゃあな」


 スッ… パタッ…


 ………………

 〜 サクヤ達の部屋 〜


ヒエン「おや、ゴロー殿」

サクヤ「兎耳ちゃんなら……もう寝ちゃってますよ」

兎耳「すぅ……すぅ……」

ゲンジマル「…………」ペコリ



ゴロー「――なら、大した用じゃないし、失礼します」


 ……………


 〜 外の調練場 〜


ベナウィ「はあっ!」ヒュウッ!

クロウ「うりゃあっ!」ブオンッ!



ゴロー「……やってるな」



クロウ「お、メシ大将。何か用事っすか?」

ベナウィ「また、聖上が政務を抜け出しましたか?」



ゴロー「いや、違う違う。エルルゥさんを探してるんだが」



ベナウィ「こちらの方には来ていません」



ゴロー「なら、いい。――邪魔したな」


 ザッ ザッ ザッ…

924 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/10(水) 20:35:32.97 ID:xWjWB80SO
 ………………

 〜 トゥスクル皇城・見張り台 〜


ウルトリィ「あら、ゴロー様」

トウカ「ヒックッ!……ゴローどのが…五人〜〜」フラフラ

カルラ「ちょっと飲ませ過ぎたかしら……? それで、ご用は?」



ゴロー「……いえ、少し風に当たりたかっただけです」


 ………………


 〜 ウルトリィの部屋 〜


ムント「ひ、姫様〜…ムニャムニャ……」

ワーベ「んごおおぉぉぉー…すぴゅぅー……」



ゴロー「……年寄り組は、寝るのが早いなァ」


 カツ カツ…


「……行かれるのですか」


ゴロー「……狸寝入りとは。流石、元賢大僧正(オルヤンクル)」ピタッ



ワーベ「我等では、貴方様を止める事など出来ませぬ」

    「願わくは……大神と共に、安らかな眠りをとは思うておりましたが……」



ゴロー「…………」


 カツ カツ カツ


 ………………


 〜 エルルゥの部屋 〜


エルルゥ「あれ? ゴローさん、どうしました?」

アルルゥ「んー……」コクン コクン



ゴロー「アルルゥが眠そうだな、ハクオロは――」



エルルゥ「ハクオロさんは多分、寝室に」



ゴロー「……じゃあ、そっちに行ってみます。では」ペコリ


 パタンッ スタスタスタ…


エルルゥ「…………?」
925 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/10(水) 20:41:46.76 ID:xWjWB80SO
 ………………


 〜 ハクオロの寝室 〜


 あいつは、寝る前に一杯やろうとしていたようだ。


ハクオロ「おや、ゴローさん。貴方も一杯飲みます?」スッ

ゴロー「そうだな。貰うか」ストン


ハクオロ「……あれ? まぁ、いいか。どうぞ」トクトク…

ゴロー「……ふぅ」グッ ゴクン


ハクオロ「――外は綺麗な、満月ですよ」

ゴロー「『月が綺麗ですね』か?」ハハッ

ハクオロ「貴方にそれを言ってどうするんです」ニッ

ゴロー「……そろそろ、か」


 この言葉の意味が通じるなら――


ハクオロ「……何か、私に言いたいことでも?」グッ

ゴロー「今から、旅に出る。アヴ・カムゥを借りるぞ」


ハクオロ「それは……随分急な話だ」

ゴロー「もしかすると、ここに帰らないかもしれない」

ハクオロ「……穏やかじゃないな。貴方はクンネカムンで何を知った」

ゴロー「言えない」

ハクオロ「ウルトもゲンジマルも……貴方も。何を隠している」

ゴロー「もし、また会う事があるなら―― その時は話す」

ハクオロ「……私は、まだ貴方の話を聞く資格がないのか」

ゴロー「まだ、その時じゃないんだろうさ。……うん」グッ

ハクオロ「…………」


ゴロー「じゃあな、ハクオロ」スタッ


ハクオロ「ゴローさん」

ゴロー「なんだ?」



ハクオロ「また、会いましょう」

ゴロー「……そうだな」

926 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/10(水) 20:45:32.07 ID:xWjWB80SO
 ………………
 …………
 ……


 〜 湖 〜


月の光を浴びながら、銀髪の少女が宙空を舞う。
人を待つ……その『時間』自体を大切に、愛しく想いながら。


 「待たせてすまなかった」



カミュ「――待ってたよ、おじさま」

ゴロー「さて、血を吸いたいから呼び出したってわけじゃないよな?」


 満月の夜、カミュは血を無性に求める筈だが……


カミュ「ハハッ、違うって。……ちょっとおじさまにしたい事があるだけ」



ゴロー「……なんだい?」

カミュ「……本当は、気乗りしないんだ。あまり、いい事じゃないから」

ゴロー「俺みたいなオジサンで、大人の階段を登りたいとか?」

カミュ「ふふっ…こんな時でも、おじさまは私を笑わせてくれるんだね」クスクス

ゴロー「……君が俺にしたい事、見当がついてるからな」

カミュ「ふーん、人生経験の差ってヤツ?」

ゴロー「歳を取るほど、差は無くなると思うぞ」

カミュ「そっか…… カミュも歳をとって、いつかお婆ちゃんになるのかな……」

ゴロー「君はそうだろうな……」

カミュ「ゴメンね、こんな話をして。じゃあ、そろそろ本題に入ろっか」スタスタ…



ゴロー「……どうぞ」


 ――もう、覚悟は終わってる。



 「おじさま、……バイバイ」



  グサッ…………


少女の左腕から伸びた光の刃が、男の腹を貫いた──

927 : ◆M6R0eWkIpk [saga]:2012/10/10(水) 20:49:35.22 ID:xWjWB80SO
本日はここまでとさせて頂きます。

いよいよ今夜! テレビ東京にて「孤独のグルメ」二期が放送!

……それを記念しての更新という事で続きをお待ち下さいませ。

では、失礼いたします。
928 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/10/10(水) 20:50:25.77 ID:m2wb8Frg0
乙!見なきゃ!
929 : ◆M6R0eWkIpk [sage]:2012/10/11(木) 01:16:57.61 ID:5ro+WJtSO
VIPでも孤独のグルメSSが!
いいぞ、いいぞ。…………いいぞぉ!
増えたらいいなぁ、五郎もうたわれも。
930 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/10/11(木) 02:12:15.94 ID:nudqnnPqo
931 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/11(木) 08:35:43.04 ID:+yzF8lOl0
932 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/12(金) 16:21:49.95 ID:aHgdYu/SO
933 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/12(金) 19:12:14.01 ID:YWt0yzQw0
乙乙
934 :第二十六話、再開 [saga]:2012/10/13(土) 21:30:18.57 ID:rHBSkwfSO
 ――――――
 ――――
 ―――


時は流れる。オンカミヤムカイ皇『カミュ』の言葉により、集った叛軍は
、拠点防御に力を裂いていたクンネカムン軍と交戦。

結果、トゥスクル皇『ハクオロ』の指揮する部隊は、大勢の犠牲を出しながらも多数の『アヴ・カムゥ』を破壊し、
クンネカムンが手にした大部分の拠点を奪還する事に成功した。

この戦争情勢により、これまで静観していた國や豪族達が、
叛クンネカムン側に次々と集結し、虎視眈々と旨い汁を吸おうとし始める。


……事態は進む。ハクオロ達トゥスクルの主力部隊がクンネカムンに進軍を決定。
強欲な者達が、我先にとクンネカムンの國境に攻め入る――

そこに……罠が張られていたにもかかわらず……

935 : ◆M6R0eWkIpk [saga]:2012/10/13(土) 21:37:36.28 ID:rHBSkwfSO

 〜 クンネカムン・南東の國境 〜


ハクオロ「こ、この有り様は……」


トゥスクル皇が目にしたのは、焼かれた集落と血にまみれて倒れている骸。


オボロ「ここの村の者達……じゃないっ!?」

トウカ「この装備は、我等の軍の――」


そう、死んでいるのは愚か者共。欲に目が眩み、判断力を失った人間達。


エルルゥ「だ、だったら……」

ウルトリィ「この村の住民達はどこか……ですね」


転がる死体は全て叛軍。村人の死体だけを回収・埋める程の時間は経っていない。


ムックル『……グルルルルル』ザッ

アルルゥ「ムックル、『腐った匂い、近づいてる』って」

ベナウィ「腐った匂い?」

クロウ「なんすかい? 死体が動いたりとか?」


エルルゥ「!!」

ハクオロ「……私は、その匂いを発するモノに覚えがある」

ドリィ・グラァ「「えっ?」」



『グオオオオォォォォォォォォォォォォッ!!』 バキバキ…ズウゥン


家を壊しながら、雄叫びの主が近づいてくる。


カンホルダリ『うごおおおおォォォォ――!!』


元ノセチェシカの皇『カンホルダリ』。
死んだはずの彼が吠え、自慢の大剣を闇雲に振り回していた。


ハクオロ「あれはっ!」

ベナウィ「……カンホルダリ皇だと思われます」

トウカ「まだ何か居ます!」


仮面兵・死人兵「「「ア……ア……」」」


痛みも、何も感じない。ただ敵を攻撃するだけの『モノ』達が蠢く。


エルルゥ「あ、あれ……また……」

ハクオロ「…………今は目前の敵にだけ注意せよ!」

     「敵は頭部を叩き潰すか、四肢を壊す方法でしか無力化できん。
      ……奴等は既に死んでいる者と思えっ!!」


ゲンジマル「せめて、常世に送ってやるのが手向けでありましょうぞ!」
936 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/13(土) 21:42:11.44 ID:rHBSkwfSO

部隊が仮面兵や死人兵と真っ向からぶつかる。
速さを生かし、敵の首を落とす者。


オボロ「ハァァァァァァァッ!!」

トウカ「エヴェンクルガのトウカ、参るッ!」


ウォプタルと共に、死人達を弾き飛ばす者。


ベナウィ「ふっ! せいッ!」

クロウ「おらおらおらァ!! 邪魔すんじゃねぇ!!」


矢を放ち、頭や肝を貫く者。


ドリィ・グラァ「「狙い撃つよっ!!」」


法術を使い、神の御業を繰り出す者。


ウルトリィ「――エネン・ゥンカミ!」

カミュ「――アゥエ・ゥンカミ!」


力を込めた一撃で敵を粉砕する者。

カルラ「さぁ、次に潰されたい方はどなた?」ニヤッ

ゲンジマル「ぬぅん! 油断なされるな!」

アルルゥ「いっけー!」  ムックル『グオゥゥゥッッ!!』


敵は減っていくが……


カンホルダリ『ォォォォォォォォ――!!』ブンブン

ハクオロ「……手に負えん!」キィン


最も厄介なカンホルダリが、未だ暴れている。


カルラ「はぁぁァァァァァァッ!」ザガォン!!

カンホルダリ『うごゥ!』ヒュッ

カルラ「かわした!?」


オボロ「てりゃてりゃてりゃてりゃあっ!!」ヒュッ シャッ ヒュオッ

カンホルダリ『ォォォォ!!』スカッ ガキッ


オボロ「ちいっ! オレの刀がほとんど防がれたッ!」

937 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/13(土) 22:07:46.66 ID:rHBSkwfSO

ハクオロ「……他の死人とは違う反応能力。いったい……」



 『私が其奴の聴覚を強化した』



戦の喧騒の中…… この場にいる全ての者に、『声』が聞こえた。


ウルトリィ「! ディー。いえ……」

カミュ「…………」ジッ

ゲンジマル「……この村の惨状、貴方様の差し金か」


ディー「……お前達があれをどう攻略するか、見させて貰おう」


ハクオロ「キサマ、何を企んでいる!」


ディー「お前達のような強者に、従来の仮面兵や死人共では力不足でな。
     『指導』と新たな駒の実験を同時に行える機会を待っていた」

    「その死体は、特別な措置を施したモノ。
     其方等の筋の音から、次の動きを読み取っている」


ベナウィ「先程から攻めを読まれているのはそういうカラクリですか!」 ヒュッ

クロウ「当たる前にかわされちまうんじゃなっ!」ブォン

カンホルダリ『ガァァァ!!』

トウカ「聴覚……『耳』。なら、奴の動きを封じる方法がある!」タッ!


暴れるカンホルダリに刀を抜いて近付くトウカ。


カンホルダリ『グゴォォォォッ!!』ブンッ!!


トウカ(風の力を宿す、この刀ならば――いけるッ!!)

    「――皆様は耳を塞いで下さい!!」


トウカの言葉を聞き、ハクオロ達は指で耳に栓をする。


カンホルダリ『ごああああっ!!』ブン


トウカ「受けよ、神速の『納刀術』! ――“鳴”!!」


 キィィィィィィン!!


耳を塞いだはずの者にも、鞘と鐔から響く音波が伝わる。


カンホルダリ『ごぐげああああァァァ!?』ピタッ


至近距離で音の攻撃を受けた死人は、耳の内部に変調をきたしたようだ。

938 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/13(土) 22:16:38.48 ID:rHBSkwfSO

トウカ「――カルラ殿!!」

カルラ「判りましたわ!!」ダッ…


 《 協撃!》

 《 力と技 》


カルラ「いきますわよ!」  トウカ「心得た!!」


カルラ「はぁぁァァァ……テリャァッ!!」ズドンッ!!

トウカ「せぇぇぇぇぇぇぇいぃぃッ!!」ズッパシッ!


力と技、戦い方の大きく異なる二人。
カルラの放つ会心の一刀の隙をトウカが埋め、
トウカの高速剣に足りない破壊力をカルラが補う。
ギリヤギナとエヴェンクルガ、二つの部族が紡ぎ出す『究極』の剣技。

意志無き死者ごときに、破られはしない。


カンホルダリ『が………………』バタッ…



ディー「……見事」パチパチ


ハクオロ「貴様、いったい何が目的だ! 何故ここにいる!」


ディー「……他の者も大半は還った。仮面の力は、シャクコポルの者には強すぎたか」


仮面兵「ヴ……」ググ…


エルルゥ「こ、この人は……子どもですっ!!」

クロウ「それだけじゃねぇ…… コイツら、女も混じってやがった……」


ゲンジマル「……兵でもない、ただの平民を。女子供までも!」

ウルトリィ「!?」


彼等が倒した仮面の兵士。その者達は……この集落の生き残り。


ディー「一世代での急な変化に、身体も、精神も耐えれなかった……」


仮面兵(子)「あ゛…う゛あ゛……」ズリ… ズリ…

ディー「……汝等の苦しみ、覚えておこう。安らかに眠れ――」スッ

仮面(子供)「………あ」パタッ…

ディー「…………」
939 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/13(土) 22:22:02.30 ID:rHBSkwfSO

オボロ「待て。……オマエがこれをしでかしたのか!」


ディー「そうだ」


ディー「……略奪・殺し・辱め。この集落の者達がそこの屍どもに受けた事よ」


ベナウィ「先行していた隊……」

ドリィ・グラァ「「で、でも……」」


ディー「……残された者は願い、望んだ。『力が欲しい』と」

    「私はその望みを叶えたにすぎない」


ハクオロ「……このような沙汰をする、お前の狙いはなんだ」


ディー「ここに来たのは、結末を見届けるという理由のみ」

    「そう、この戦の結末をな――」スッ



ハクオロ「! しまった!!」

ゲンジマル「むぅっ!?」

ディーの手から、転移術の光が迸る。
ハクオロとゲンジマルが包まれ……


エルルゥ「ハクオロさん!」タタタッ…


光が消滅する寸前、エルルゥが飛び込み、そして……

 フゥッ…


――三人は消えた。


ディー『……ううむ。いかんな、いかんいかん。
     先に身動きを封じてからにすべきであった』


トゥスクル勢「「「…………!!」」」


サハラン島の時同様、残った者の手足が動かなくなる。


ディー『さぁ、我等も見届けに参ろうぞ』

    『まみえる二國の皇、我が眷族と空蝉の終幕をな』

940 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/13(土) 22:30:03.80 ID:rHBSkwfSO

 キュィィン… パッ!


転移が終わり、三人は『ある建物』に到着する。


エルルゥ「ハクオロさん! ご無事ですか!」

ハクオロ「だ、大丈夫だ。しかし……この場所は……何処だ?」


初めてここに来た二人は、暗さの為にぼんやりとしか周囲が見えない。
建物の中で、広い空間であると、かろうじて判るのみ。
けれど、ゲンジマルはこの場所を知っている……


ゲンジマル「……クンネカムン皇城、『開陽殿』。その外廷に御座います」

ハクオロ「! ならばここに――」


「……思っていたより早かったな。ハクオロ」


闇の中から声がする。


ハクオロ「クーヤ!」  エルルゥ「クーヤさん!」


クーヤ「エルルゥに…ゲンジマルも居るのか」


彼等の目線は女皇の立つ壇上に向く。


ゲンジマル「外廷内で最も広い此処に居られるという事は……」


クーヤ「そうだ。既に覚悟出来ている」

    「ハクオロ、余はこのクンネカムンの皇として、其方と…戦う」パチッ


 ゴゴゴゴ…


白カムゥ『…………』  クーヤ「……はっ!」スタッ ズブズブ…


ハクオロ「……クーヤ」


クーヤ(白カムゥ内)『こんな日が来るとは考えたくなかったが……』

ハクオロ「クーヤ、やはり考え直す気はないのだな」
クーヤ『……以前のように、どちらが正しいかなどと言い争う気もない』


二人の皇の密会。笑い、安らぎ、口論になる事もあった語り合い――
クーヤの脳裏に浮かぶのはそんな平和な時間。
だが、彼女は『突き進む事を選んだ』。


クーヤ『其方が止めるか余が押しきるか、ただそれだけだ』


クーヤが背負うのは國だけではない。シャクコポルという『種族』なのだ。
941 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/13(土) 22:35:22.40 ID:rHBSkwfSO

エルルゥ「クーヤさん!」

クーヤ『エルルゥ、邪魔だてはしないでくれ』

エルルゥ「沢山の國が滅んで、沢山の人が死んで…もう十分じゃないですか!
      ハクオロさんなら、この國の方々の事も……」

クーヤ『虐げられ続けてきた我が一族の悲願達成の為、余は動いている』

エルルゥ「自分達だけが被害者だなんて、そんなの只の思い上がりです!」

クーヤ『…………そうかもしれない。しかし、もう後には退けぬ』

    『ゲンジマル、すまぬがエルルゥと共に少し離れていてくれ』


ゲンジマル「……御意」ガシッ

エルルゥ「やめてっ! ううっ……」ジタバタ


クーヤ『行くぞ……ハクオロ』


 ガシン… ガシン…


ハクオロ(……アヴ・カムゥの得物は剣。あの大きさに対処するなら、懐に――)

     (――待て。何故私は戦う事を選んでいる?)


ハクオロ(激昂しているかと思っていたが、今のクーヤは『冷静』だ。
      話し合いも決して不可能ではないはずなのに……)


 ドクン……


ニウェ『カッカッカ… お前は血に飢えた獣よ……』


ハクオロ( !? )ゾクッ


彼の内に、あの戦闘狂の言葉が浮かび上がる……


ニウェ『お前の進む道は、屍で溢れておるわ……』


ハクオロ(やめろ……)
942 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/13(土) 22:41:52.97 ID:rHBSkwfSO



 『そう、我等は意図せずとも争いを産む』



ハクオロ(やめろ……)



ディーの声が、ハクオロの心を揺さぶっていく。



 『“兵法”“農法”“鉄工”。汝が子等に伝えた術』

 『本来ならば何百もの年を重ねなければ判らぬ技術。それらを教え、何が起こった?』



ハクオロ(やめロ……)



 『汝が大切に思う者達、皆死んでいったのではないか』



ハクオロ(やメロ……)



 『誤魔化しても何も変わらぬ。以前も、汝は……』



ハクオロ(ヤメロ……)



 『――愛する妻を守れなかったではないか』



ハクオロ「――ヤメロオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」



クーヤ『!! ……なんだ?』


ハクオロ「ォォォォォォ――」フッ



クーヤ『消え…… !』    ドガッ!!

クーヤ『な、いつの間に背後……がっ!?』    ズガァッ!

クーヤ『こ、今度は…上、違っ……うわあっ!』    グオングオン…


人の身体を越えた『力』、かろうじて攻撃の瞬間のみ、姿を見る事が可能。
しかし、尋常ではあり得ない速度である事にかわりなく、
アヴ・カムゥに乗ったクーヤは全く対応出来ていなかった。


エルルゥ「ハクオロさん! そんな、私が居るのに!!」

ゲンジマル「! 其方、契約者か!」



ハクオロ「アアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァ――」


彼の雄叫びが、外廷を埋め尽くす……
943 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/13(土) 22:45:03.20 ID:rHBSkwfSO




ディー「いいや、娘よ。汝がいるからアレは人の身を保っている」バサバサ

    「……『ミコト』か。成程、アレがこれまで覚醒せなんだのも判る」


『ディー』が二人の契約者の前に飛来する。


エルルゥ「な、何の事ですか!?」

ゲンジマル「……これ以上、貴方様のお戯れに付き合う気はありませぬぞ」


ディー「ふむ。お前が空蝉に加勢するのは、少々困る。……『動くな』」


 キィィン!


ゲンジマル「ぐっ! またも」ググ…


ディー「お前は老いて腑抜けた。全盛期ならば、枷を解いただろうがな」


ゲンジマル「……甘く見られたものでありますな。むうっ……」ギギッ


ディー「……娘、お前には術をかけぬ。だが、下手に動くと……」スッ


上を指さすディー。天井には


オボロ「……!」バンバン ドリィ・グラァ「「……」」

ベナウィ・クロウ「「……」」

カルラ・トウカ「「……!!」」キィン キィン

ウルトリィ「…………!」

カミュ「…………!」

アルルゥ「……」 ムックル『……』 ガチャタラ『……』


トゥスクルの一行が光球に包まれていた。


エルルゥ「アルルゥ! みんな!!」


ディー「無駄な足掻きをする者達よ。お前達は見ていればよいのだ」


ゲンジマル「ぎぎぎっ……!」ググ…

944 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/13(土) 22:48:24.23 ID:rHBSkwfSO

ディー「む? なんだ、あちらはもう終わったか」



ハクオロ「はぁ、はぁ、はぁ……」

白カムゥ『…………』ガクン


ハクオロの金剛扇が、アヴ・カムゥの体液で赤に染まっている。
巨体の脇腹にはトゥスクルから預かった最初の鉄扇が突き刺さり、
白銀のアヴ・カムゥの動きを完全に停止させたようだ。


クーヤ「う、うう……」ヨロヨロ

ハクオロ「……クーヤ」


アヴ・カムゥから降り、ふらつきながらもハクオロを見据える。


クーヤ「……ハクオロ。まだだ、まだ終わらぬ……」

ハクオロ「…………」

クーヤ「余が倒れたら……シャクコポルの者達が……」

ハクオロ「……なら、私に覚悟を見せてみろ」ヒュン


 カンッ! サーッ…


クーヤ「これは、其方の扇……」


ハクオロ「……それを使って、私を斬れ」


クーヤ「!? なんだと!」

ハクオロ「私を殺せば、この戦況を覆す事が出来るかもしれない」

クーヤ「…………」カチャ… スクッ


幼き皇は、ハクオロから投げられた金剛扇を握り締める。


クーヤ「ぅ……ぅ……」

ハクオロ「どうしたクーヤ、お前の覚悟はその程度か」


クーヤ「…………」

ハクオロ「殺れ。――殺るんだ!!」


 カラララン…


……扇は石造りの床に落ちた。


クーヤ「……余には、出来ぬ。其方は…卑怯だ」ガクッ

ハクオロ「……クーヤ、君は優しい子だ。だから……」

クーヤ「余の気持ちを知りつつ……斬れないと考えて……」

ハクオロ「安心しろ。クンネカムンの民は決して悪いようにはしない。
     私を信じて、剣を収めて欲しい……」

クーヤ「……余はどうなってもよい。だが、民のことだけは…頼む」

ハクオロ「判った」コクリ
945 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/13(土) 22:56:17.77 ID:rHBSkwfSO

クーヤ「……ハクオロ。余は、初めて真の『孤独』を知ったのだ」

    「ゲンジマルやサクヤ…… ヒエン、ハウエンクア。
      余の周りに居てくれていた者達は、いつの間にか消えていたから……」

    「……皆が居らぬとしても、余は皇として民を守ろうとした」


クーヤ「しかし、そうやっていく内に、余は自らの心に気付いたよ……」

    「――独りは、怖い! 寂しい!! 辛いっ!!!」


ハクオロ「……そうか」


クーヤ「……民の為に戦う『皇』と、戦に怯え震える『小娘』」

    「余の中に、矛盾する想いが駆け巡って……迷っていた」


クーヤ「だが今、其方と闘い、話をして『迷い』が吹っ切れたぞ」


ハクオロ「お役に立てて良かったよ」ニコリ


クーヤ「はは…… 負けたというのに、この解放感はなんだろうな」

    「さぁ、クンネカムンは落ちた。戦の終結を報じるといい」


ハクオロ「いや……まだ終わりじゃない」クルッ

     「そうだろう、ゲ……何っ!?」



ディー「……ようやく気付いたか。空蝉」

ハクオロ「エルルゥ! ゲンジマル!」
946 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/13(土) 23:01:37.93 ID:rHBSkwfSO

 フッ


ディー『汝、与えられし機を無にするか』ガシッ

クーヤ「がふっ…!?」ググググ…


ディーは先程のハクオロのように、高速移動をし、クーヤの細い首を掴む。


ハクオロ「クーヤを離せ!」


ディー『先の皇との契約は、未だ続いている。果たさぬのなら……』


ハクオロ(な、なんだ! 先刻とは違うこの圧迫感は!!)

     (ゲンジマルが助けを求めた理由は……こいつかっ!!)


ディー『……責を果たし、戦え。小娘』


ハクオロ「やめろ!」


クーヤ「い、息……が……」


ゲンジマル「――おおおおぉぉぉぉッ!!」


 パキィン!


枷を自身の胆力で解き、ハクオロの下に駆けつけるゲンジマル。


ゲンジマル「お止め下されぇ!!」

ディー『……情にほだされたか。ゲンジマル』


ゲンジマル「先皇が亡くなられた今、クンネカムンとの契約は成り立たぬはず!」

ディー『ならば、我が与えたアヴ・カムゥを返すべきではないか』

    『先代との契約、お前もその場に居たであろう』


ディー『アヴ・カムゥを与える代償に、我が眷族となる契約、忘れたわけではあるまい』


ゲンジマル「……ですが」


ディー『利用するだけ利用して、関係ないとは蟲が良すぎる』

    『そもそも契約に反する事は、我でも出来ぬのだ。
     それに見合うだけの代償を払うならば、契約を破棄しよう』
947 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/13(土) 23:06:34.11 ID:rHBSkwfSO

ゲンジマル「……どうしてもでありますか」


ディー『くどい』


ゲンジ「……なれば、某は貴方様に刃を向かせて頂きましょう」スチャ

    「某の若かりし頃、まだ貴方様と契約していなかった時のように」


老武士は若き頃の自分の姿を思い出す。
幾度となく勝負を挑み、やっと受けて貰った戦いが……


ゲンジマル「『どちらが食事を美味しそうに食べるか』……でしたな」


ディー『憑代の精神に依存していたからだ。あのような――』


ゲンジ「けれど…旅人の某にとって、充実した尊い時でありました」

    「もうあの時には…… 某も貴方様も戻れませぬ」


ディー『――判っているのか! お前には契約の楔が打ち込まれている』


ゲンジマル「判っております。盟主である貴方様を傷つければ…
       某のこの身は……肉片となり砕け散るのでしょう」


クーヤ「な……」

ハクオロ「なんだと!」


ディー『判っているのなら、止めよ! 我はもう……』


ゲンジ「哀れなお方よ。寂しさ故に人を求め、幾つもの時を過ごし、
     人々を導き、己と同じ存在へ進む事を望む……」


ディー『ゲンジマル……』スッ…

クーヤ「!? がはっ、ごほっ!」

ディー『……頼む。もう、この娘は離した。だから――』


ゲンジ「……貴方様は、また同じ事を繰り返す。
     故に、某の命で二度とこのような事を出来ぬよう、貴方を縛るのです」

    「それに……某もまた、振り上げた刀を素直に下ろせませぬ」
948 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/13(土) 23:11:10.48 ID:rHBSkwfSO

ディー『この……堅物がァ!!』


激昂するディー。そんな彼を哀しそうな目で見つめるゲンジマル。


ディー『……もう、私は友も…愛する人も失いたくはないのに』


ゲンジマル「この老いぼれを、友とお呼び下さるのか……」

     「ですが、先程貴方様が言ったように破棄には『代償』が必要」


ゲンジマル「――なれば、某の命を代償にいたしまする」


ディー『――頑固なお前の事だ。もう何を言おうが止まるまい』

    『なら……我が駒を用いて、お前を無理矢理止めてくれよう!!』


 ゴゴゴゴ…


ハウエンクア(赤カムゥ)『ギャヒ、ギャヒ、ギャハハハハハハハ!!』

青カムゥ『…………』


ゲンジマル「むっ!」

ハクオロ「あれは!」


ハウエンクア『ひっさしぶりだねぇ! ハクオロくぅ〜〜ん!』


ゲンジマル「ハウエンクア! 取り入られたのか!」


ハウ『あっひひっひっひっひ〜! 気分はサイコー! 皆潰しちゃえ〜!』


ハクオロ「壊れている……」


ディー『アヴ・カムゥの制御装置を解除した。操手を狂わせ、
     脳内麻薬を異常分泌させれば、限界を超え、アヴ・カムゥを扱う事が出来る』


ディー『青のほうにも同様の措置を施したが……
     操手が……否、機体も異なるか』


ハクオロ「??」


ディー『――いつ入れ替わった? “偽り”』



青カムゥ『……もうバレたか。青いヤツは少し前に海に落としたよ』


ゴロー(青カムゥ)『せっかく、頑張って塗装したのになぁ。ツノも付けたし』



ハクオロ・エルルゥ・クーヤ「「「ゴロー(さん)!!」」」


ハウエンクア『オマエェェ! 僕のアヴ・カムゥの腕を壊したヤツ!』

       『コワシテやるゥゥゥ!……ぐえっ!?』
949 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/13(土) 23:16:20.37 ID:rHBSkwfSO

《 ゲンジマル・必殺連撃!》


ゲンジマル「お覚悟はよろしいかっ!!」


 サササッ…


契約者であるゲンジマルは、己の肉体を極限まで鍛え上げた武人である。

彼の誇る剣技は、全て『速さ』に重点をおく。
高速の摺り足で敵に寄り、抜刀。本気で放つその斬撃は目にも止まらない。


ゲンジマル「ムンッ!」   ザバッ!


ハウエンクア『あひぇ! くすぐったいなぁ! そんな攻撃が……あ?』


 ガガンッ! バキィッ!  ズゴオォォ…


赤のアヴ・カムゥは斬られ、倒れ込む。


ゲンジマル「手脚の腱を装甲こど斬り刻んだ。それで動けるものなら動いてみよ」


ハウエンクア『バカなっ! バカなっ!! バカなっ!!!』

       『うあああああっ! 僕が、ぼくが、ボクが! あああああ!!』


今のアヴ・カムゥに出来るのは、腕や腿を使い、這う事だけ。
ハウエンクアの『戦』は、ここで終わる……



ディー『…………まさか、これほど早く決着がつくとは。……我の負けか』

    『人の力を侮った、報いかもしれぬな……』
950 :ゲンジマルの台詞、「装甲こど」→「装甲ごと」に直してお読み下さい [saga]:2012/10/13(土) 23:21:42.51 ID:rHBSkwfSO

ハクオロ「貴様の正体、知っている事、全て話して貰うぞ」


ディー『ゲンジマル……』


ハクオロの話を無視し、ゲンジマルに向き直るディー。


ディー『……ゲンジ、剣を収めてくれ』

ゲンジマル「目的は、クーヤ様の契約の破棄。まだ達しておりませぬ」

ディー『それは……駄目だ、お前が命を落とす事はない。
     先皇の契約は、皇の子が自らの命で償うべきではないか』


提案は異常なもの。友を失いたくない一心で、倫理を超越した言が飛び出る。


クーヤ「……余が命を絶てば、ゲンジマルは助かるのか」


……彼の提案に、女皇が反応を示す。


ハクオロ「クーヤ!」

クーヤ「……これもクンネカムンの皇の努めか」スチャ


落とした金剛扇を拾い、クーヤは自分の首にあてる。


クーヤ「皆、近寄るな。寄らば、余は……首を切る!」


皆は、クーヤの言葉で動けなくなる。


ディー『……その死に様、せめて記憶に留めよう。我の側に……』


クーヤ「…………」カツカツ…

エルルゥ「クーヤさん!」

ゴロー『クーヤさん! 行くな!』


ディー『……せめて苦しくないよう、散らしてやる。
     クンネカムンの皇よ、如何なる方法で死にたい?』


クーヤ「腹を切る。が、お前の助けは必要ない」


ディー『……汝の隣で見せて貰おう』


ゲンジマル「聖上! お下がり下さい!!」


静止の声は、意味が無い。

彼女は『決断した』。

皇として……初めて自分だけの力で。


クーヤ「……ハクオロ、後の事は頼むぞ!」


ハクオロ「クーヤっ!!」   ゴロー『クーヤさん!!』

951 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/13(土) 23:23:31.93 ID:rHBSkwfSO







 グサリッ…… ポタッ……


血血血血血血……血が、衣を赤に染める。
クーヤの顔が、青ざめていく……




952 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/13(土) 23:31:55.62 ID:rHBSkwfSO





――後には退けない。彼女はやってしまったのだ。



ディー『ガッ……な、に……』ガクッ



クーヤ「……余は、既にこの國の皇ではない。これが答えだ!」タタタッ…


ハクオロの扇で刺されたのは『ディー』。
クーヤはハクオロ達の下に駆け寄る。


ゲンジマル「聖上、何故あのような真似を!」


クーヤ「よ…『私』はもう皇ではない。なら我が儘に物事を決める!」

    「私は私の大切な者を失いたくはない! 勿論、自分の命も!」

    「二者択一なぞ、認めてたまるかっ!!」


立場が人を創るという言葉がある。
……クーヤの場合は少し違うかもしれない。
皇の位を己の手で棄てた瞬間、彼女は…最も『皇』らしく輝いたからだ。


ハクオロ「よく言ったクーヤ。あとは任せろ!」

ゴロー『ここからがメインディッシュだけどな……』



ディー『――――それが汝の答か。娘』ズポッ


扇を引き抜き、クーヤを睨む。


ディー『我ガ憑代ノ身ヲ傷付ケタナ。小サキ者ヨ――』




 『――ソノ罪、死スラ生温イ――』



 ズズズ… ズズズ…


黒霧が白のオンカミヤリューを覆い尽くしていき……


ハクオロ「 !! 」



『大神(オンカミ)』の半身が降臨した――




分身『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
   オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
   オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
   オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!』


第二十六話「トゥスクル、皇城の寄せ鍋」

 続く。
953 : ◆M6R0eWkIpk [saga]:2012/10/13(土) 23:42:29.88 ID:rHBSkwfSO
投下完了、状況説明します。


●エルルゥは下手な事を言えません。(人質を取られているから)

●ハクオロさんは人質に気付いていません。

●ゴローは人質に気付いてます。

●トゥスクル一行は、下の様子もわかっています。
(ディーが「見届け…」って言ってますしね)



次回の話は26話の「附記」として扱います。
(人質の皆が分身を目撃するところからスタート)


誤字・脱字、ごめんなさい。
状況描写が下手で申し訳ありません……

次回の更新でこのスレは終わりかな?
954 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/14(日) 02:48:17.74 ID:DwEltGUu0
乙でした
955 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/14(日) 10:14:51.08 ID:LLTuOKMSO
956 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/10/15(月) 06:43:51.55 ID:ZN8fBY3E0
957 : ◆M6R0eWkIpk [saga]:2012/10/18(木) 19:50:35.88 ID:X6RlITkSO

第二十六話・附記


「大神空中戦 空蝉 対 分身」


黒の霧から出でしは――『解放者』の半身。

手にかけていた眷族に裏切られ、激情に駈られた神の姿――


分身『オオォォォォォォ――――』


その叫びは、天井の光球に閉じ込められた者達にも伝わる。


オボロ「な、なんだ……『アレ』は……」

ドリィ・グラァ「「ば、バケモノ……」」

トウカ「なんと禍々しい……」

クロウ「や、やべぇ。寒気がしやがる……」ブルッ

ベナウィ「震えている場合ではないでしょうが…… くっ……」ゾクッ

アルルゥ「……こわい」



ウルトリィ「…………」

カミュ「…………」


驚く彼等だったが、『翼を持つ者』――
『ウルトリィ』と『カミュ』は全く動じていない。


カルラ「……ウルト。貴女、アレが何か知ってますわね」

ウルト「――はい」

カルラ「答えなさい。貴女達オンカミヤムカイが何を隠してきたかを」

ウルト「ですが、それは――」


カルラから目を逸らし、ウルトリィは……蒼色の瞳で『カミュ』を見た。


カミュ「……話すしかないよ。お姉様」

ウルトリィ「…………判りました。皆様にわたくし達の『大罪』を明かします」


巫(カムナギ)の口から、『真実』が紡がれる時が来た――――


「あの存在こそ…… わたくし達の祀りし『大神(オンカミ)』」

「『大神・ウィツァルネミテア』。その御姿なのです」

958 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/18(木) 19:59:59.89 ID:X6RlITkSO
 ――――

遂にその姿を見せたウィツァルネミテア(分身)。


分身『……憑代ノ身ガ、脆ク弱イ子等ニ傷付ケラレルトハナ』



クーヤ「あ、あ、あ…………」ガクガク

ゲンジマル「クーヤ様、気を確かに」

ハクオロ「大丈夫だ。私達がついている」

エルルゥ「あれは……」


ゴロー(アヴ・カムゥ内)『……お出ましか“分身”』

アヴ・カムゥとほぼ同じ大きさの『半神』だが……
アヴ・カムゥなぞ軽く凌駕する破壊の化身だ。

その『分身』が四人に向け、自らの意思を表明する。


分身『ゲンジマル、ソノ愚カナ娘ヲ我ニ差シ出セ』

   『サスレバ、汝ラ全テノ命、見逃ソウ』


怒りの元凶を『贄』として求めるが……


ゲンジマル「御断り申す!!」

ハクオロ「私も同意見だ!!」



分身『……空蝉ヨ、何ノ理由ガアッテ我ノ眷族ヲ守ルカ』



ハクオロ「クーヤは私の大切な人だ! 私の目が黒いうちは殺させん!」

クーヤ「ハ、ハクオロ…… もしや其方、私の事を……」ドキドキ

ハクオロ「う、うん?」

クーヤ「『うん』と言ったな! 言質はとったぞ!」

エルルゥ「ハクオロ、さん?」ゴゴゴゴ…

ハクオロ(…………うわぁい)



分身『――ソウカ、愛スル者ユエニ守リ、我ト争ウカ』



ハクオロ(……勘違いされてるゥゥゥー!!)

ゴロー(……この天然ジゴロめ)

959 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/18(木) 20:04:22.81 ID:X6RlITkSO

分身『意外ダ。汝ハソチラノ娘ヲ、愛シテイルトバカリ思ッテイタ』



エルルゥ「ほ、ほらハクオロさん! 私達の絆はこんなのにも判るんですよ!」

ハクオロ(……こんなのって)

ゲンジマル「積もる話は後にして頂けませぬか……」

ゴロー『こっちが危機的状況なのは変わらないんだぞ』



分身『イイヤ、コレハ真面目ナ話ダ。我ガ友ヨ』

   『空蝉。“ミコト”が要ラヌノナラ、我ニ寄越セ』



ハクオロ「『ミコト』? 何の事だ! それに、
     先程から私を『空蝉』と呼ぶのは何故だ!!」



分身『……記憶ヲ失ッテイル事ハ知ッテイタガ』

   『コノ名ヲ聞イテモ、マダ思イ出サヌカ!!!』グワッ!!



ゴロー『くっ…皆さん! 俺の後ろに!』

 ……なんて怒りだ。
 アベル・カムル越しでも大気の震えを感じる。



分身『判ラヌノナラ、ソレデモ良カロウ』

   『……我ノ怒リヲ収メル術ハ“三ツ”マデアル。一ツ選ベ』


ハクオロ「……三つ?」



分身『一ツ目、ソノシャクコポルノ娘ヲ殺ス』

   『二ツ目、ソコノ“エルルゥ”トイウ娘ヲ寄越ス』

   『三ツ目、上ノ者達ヲ我ニ差シ出シ、殺サセヨ』


960 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/18(木) 20:11:03.17 ID:X6RlITkSO

ハクオロ「上? …………何ぃぃぃぃぃ!?」


やっと、人質に気付いたハクオロ。


エルルゥ「そ、そうでした! アルルゥや皆が捕まってるんです!!」

ハクオロ「何故それを早く言わないっ!!」

エルルゥ「……にゃん♪」テヘッ

ハクオロ「『にゃん♪』じゃなあぁぁぁぁぁぁい!!!」



ゲンジマル「……クーヤ様。これで顔の汗を」スッ

クーヤ「……今日は妙に暑いからな」フキフキ

ゴロー『このアヴ・カムゥ、空調壊れてるんで俺にも貸して下さい』

ゲンジマル「今は我慢を。手拭いは一つしかありませぬので」

ゴロー『がーんだな……』



分身『……巫山戯タ真似ノ罰ダ、選択肢ヲヒトツ、減ラシテヤル』


 ズズズ… ゴゥゴゥゴゥ…


分身体が口腔を開くと、その身体中から白火が噴出する。
開いた口に吸い込まれ、濃縮されていく白き火炎。



ハクオロ「!! やめ――――」



分身『――――消滅セヨ』


 カッッ!!


放たれた白炎は開陽殿の天井を突き抜け、空を切り裂く光の柱となって……消えた。

あとに残ったものは……何も無かった。

961 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/18(木) 20:14:31.77 ID:X6RlITkSO
 ――――

ウルトリィの告白は、混乱を招く。


「「「…………な」」」


誰もが何か言おうとする。けれど、後の言葉が続かない。


ウルト「わたくし達オンカミヤムカイは、遥か昔から大神を見守り続けてきました」

    「我等の神は……わたくし達をより高みに導く為、
     ずっと昔の頃から世に現れ、人々に技を与えてきたのです」


トウカ「あ、あのような邪な……禍々しい存在が『大神』だと仰るのですか!?」

カルラ「……ウィツァルネミテアは禍日神(ヌグィソムカミ)」

トウカ「カ、カルラ殿?」

カルラ「聞いた事があるでしょう。クンネカムンの者の言葉ですわ」

    「これで、疑問が解けました。そういう事だったんですの」


ウルト「……カルラは判ったようですが、トウカ様の疑問にお答えします」

    「わたくし達の説法の中に、大神の事を語る節が幾つかあります」

    「人に命と、生きる知恵を与える『解放者』としての話と……」


カミュ「その代償として、厄災や病を起こして人々の命を奪う……『禍日神』」

    「私達が禁句にしてきたこと……」


トウカ「カ…賢大僧正殿! 否定なさらないのですか!」


カミュ「うん……」

ウルト「ウィツァルネミテアは恩恵を与えるのと同様、代償として幸福を奪う……」

    「これについては、皆様もご存知のはず」


ベナウィ「ウィツァルネミテアの『契約』ですね……」


カミュ「…………」コクン


クロウ「……あれが神さんってんなら、総大将と姐さん、やべぇんじゃねぇか……」

ドリィ・グラァ「「神様相手に……戦えるわけが……」」

オボロ「ウオオッ! 兄者ぁぁぁ!! そいつから離れろおォォォォ!!」


刀を振り回し、暴れるオボロだったが誰も止めない。
賢大僧正の言葉が、続いていたからだ。


カミュ「……例えお父様自体が望まなくても、契約の代償は払われる」
962 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/18(木) 20:23:07.01 ID:X6RlITkSO

ウルトリィ「……カミュ? どうしたのです?」



カミュ「私達はお父様を封じた地に、宗廟を建て、其処で生きる」

    「世に下ったお父様は、一定の周期で眠らないといけない」

    「その眠りの場所がオンカミヤムカイ(大神の眠りし地)」



カミュ「神であるお父様を『大封印(オン・リィヤーク)』で地の底に封じる」

    「これが、翼を持つ者達の負った『大罪』――」



ウルトリィ「た、確かにそうです。でも! 『お父様』って……」



カミュ『――最初は違った。“私”はお父様を殺してあげたかった』

    『苦しくて、哀しくて……自分で自分を止められなかったお父様』

    『だからお父様は願った“我を滅せよ”と……なのに、私では駄目だった』

    『私に出来たのは、お父様を一時的に封印する事――』

    『……封印をしようとしたその時、“オジサマ”が現れた』

    『“アマテラス”で焼けた身を、お父様は癒したかった。
     だから契約をして、これまでと違う別の憑代と共に日々を過ごした』

    『そしてお父様は“二人の憑代”を持ったまま、私に封印された――』



カミュ『あの時は、こんな状況になるなんて、思ってなかった』

    『だけど、今は感謝してる』

    『……偶然が重なって、ようやく“好機”が訪れたから』



ウルトリィ「――! まさか貴女様は」



カミュ『……さよなら、お姉様』


 キュイン キュイン キュイン… シュバッ!!


 カッッ! ゴオオオオ…………


光球が『転移』して、一秒にも満たない後に、分身の光柱が天を穿つ……

それを認識したのは、攻撃をした分身と……


ゴロー(……ぎりぎりだった)フゥ


彼だけ、だった。
963 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/18(木) 20:27:35.89 ID:X6RlITkSO
 ――――

開陽殿外廷に、夕方の赤光が差す。
遥か昔、『太陽の断末魔』と表された輝きが
完全に消失した天井から、ハクオロ達に降り注ぐ。


ハクオロ「…………」ガクン

エルルゥ「……そん、な」

ゲンジマル「なんと……」

クーヤ「あそこに居た者、皆が……」

ゴロー『…………』

ハクオロ「う、嘘だ……」


分身『……アノ者達ガ消エタノハ事実。サア…ムッ?』


 ズズズ… ゴォォォ…


ハクオロ「――許さない」    『――許サナイ』


 ドクンッ!


エルルゥ「ハクオロさん!」


彼女の呼び掛けも、聞こえていない。


ハクオロ「……殺す」  『……殺ス』


 ドクンッ!


ゴロー『不味いっ!!』



只、目の前の存在を憎悪する。


ハクオロ「オマエは災いの『元凶』だ――」『我ハ災イノ“元凶”ダ――』


 ドクンッ!!


大切な者を失った……嘆き、怒り、憤り、憎しみ。
それらが引き金となり、仮面皇の『内なるもの』は目を醒ます。


ハクオロ『ウオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォ
     ォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ
     オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――!!!』


964 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/18(木) 20:33:25.43 ID:X6RlITkSO

――慟哭の後、弐体の『大神』が、クンネカムンの空に飛び上がった……



分身『今、ココニ、我ト汝ガ存在スル』


空蝉『――否。此処ニハ、“我”シカ居ナイ』



分身『思イ出シタカ。我ガ空蝉ヨ』

空蝉『思イ出シタゾ。我ガ分身ヨ』



“くりかえす 輪廻の流れ辿り”



分身『我等ハ、同ジ時ニ目覚メタ。意味ガ判ルカ』

空蝉『判ル。我等ハ争ワネバナラヌ』



“終わらない 世界の宿命を見つめている”



分身『……本来ナラ、直接争ウノハ法度。シカシ――』

空蝉『ソウダ。最早止マラヌ! 我モ汝モ!』



“くりかえし 『うたわれるもの』たちよ”



空蝉・分身『『 コノ衝動! 抑エラレヌ!!! 』』



“目覚めれば赤子の夢”



黒い少女が己の思いを歌っている――



 『“時を待ち 静かにふたり燃える”』

 『“戻りたくない過去の私の苦しみに”』

 『“時を待つ 願いを叶えたまえ”』

 『“安らいで眠りませと――”』



ムツミ『……そう、“好機”。後は、少し待つだけ』

    『おじさま、約束は守ったよ』



ムツミ『“守られてまどろむ宵――”』


その唄は、選ばれなかった少女の『子守唄』――だったのかもしれない

965 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/18(木) 20:37:29.99 ID:X6RlITkSO

《 回想・湖での一時 》



ゴロー「ぐうっ!」

カミュ「……よいしょっと」シュン


 カミュの腕から出た光刃で腹を貫かれたけど……


ゴロー「……予想はしてたけど、なんで平気なんだろう」

カミュ「ゴメンねおじさま。 確認の為だったの……」

ゴロー「はぁ……今はカミュ? それとも『ムツミ』か?」

カミュ「ん〜…おじさまはどっちと喋りたい?」

ゴロー「……そうだな、ムツミにしようか」


 パァッ!


ムツミ『変身完了……』

ゴロー「何時からこんな事が出来るようになった?」

ムツミ『意識の底であのコと話し合えるようになったのが……大泣きした日』

ゴロー「……あの時か。カミュが自分に向き合うようになったからかな」

ムツミ『私が目覚めたのは、シケリペチムのお掃除の時』

ゴロー「あの國も『分身』が糸を引いてたのか……」

ムツミ『自分で入れ替わるのは、今日が初めて』

ゴロー「よくカミュが許したもんだ」

ムツミ『おじさまがこの國に居ない間、話し合う時間があったから』

    『今度は私の質問。おじさまは何時“私に”気がついたの?』


ゴロー「……カミュが賢大僧正をやる事にした時」

ムツミ『……遅い』ムスッ

    『私が、クンネカムンに行った時に気づいて欲しかった』


ゴロー「無茶を言うなよ。記憶を取り戻したの、その後だぞ」

ムツミ『……なら、仕方無い』


 うん、懐かしいやり取り。
 この少しワガママな女の子。間違いなくあのムツミだ。

966 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/18(木) 20:41:56.92 ID:X6RlITkSO

ゴロー「で、なんで俺は生きてるんだ? 傷だって……」チラッ


 ……やっぱり、塞がっている。


ムツミ『おじさまはお父様と契約した。
   “失われた料理の数々を独りで、静かに、豊かに楽しみたい”、これが望み』


ゴロー「……お前、そんな事を代わりに言ったのか」


 困ったろうなぁ、アイツ。


ムツミ『元のお父様の記憶で食べ物の成分は判っていても……』

ゴロー「一度滅んだ文明の食べ物を再現するのは……骨が折れたろう」

ムツミ『……うん。すぐ叶えられる願いじゃなかった』

    『だけどあの時、お父様はこう考えたの』


 〜〜〜〜〜〜


『憑代ガ必要ダ。我ノ身ヲ癒ス時間ガ要ル』

『ソレニ…ココカラ“子”ヲ探サネバナラヌ……』

『アノ者達ハ、モハヤモノ言ワヌ。研究所ノ知識ガ欲シイ』

『そしテ、コノ者は…わレ…の友……だ。あの肉塊にしたクなイ』


 〜〜〜〜〜〜


ムツミ『だから、この願いでもお父様は契約した』

    『目的を果たした後は、もう一人の憑代として身体に取り込んだの』


ゴロー(いつか、自分が分裂する事がわかってたのかもしれない)


ムツミ『話を続けるよ。願いを叶える為、お父様は貴方を少し作り替えた』

    『貴方とお父様、二人に共通していた存在“井之頭五郎”に』

    『……貴方の心や魂が、近かったからみたい』


ゴロー(……という事は、もしハクオロに“美味しんぼ”を貸してたら)

967 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/18(木) 20:44:27.45 ID:X6RlITkSO

 〜〜〜〜


シロー「このモロロ粥はでき損ないだ。食べられないよ」

    「明日、またここに来て下さい。本物のモロロ粥をお見せしますよ」


 〜〜〜〜


ゴロー「……こうなってたかもしれなかったのか」

ムツミ『……この料理を作ったのは誰だ〜』

ゴロー「…………頭を読むな」


ムツミ『……コホン、と、とにかくある程度文明を進めさせないと
     オジサマの望みは叶えられなくて……』

    『お父様は、先に世界を発展させる事にした……』


ゴロー「意識が別れたのは?」

ムツミ『おじさまの“ヒンシュカイリョー”した食べ物が広く育てられた頃』

ゴロー「モロロか…… 続きを」

ムツミ『元々の…白いお父様はそのまま。おじさまは、黒い方のお父様の憑代になったの』

    『だけど……問題が起こって……』



ゴロー「……俺の身体か」

ムツミ『……箱庭を作り始めた時位から、お父様は異変に気付いた』

    『オンヴィタイカヤンの身体は、今の世界の環境に耐えられない』

    『黒いお父様の起きている時間がどんどん短くなっていった……』

    『お父様達の代理戦争で負荷をかけすぎたのも原因だと思う』


ムツミ『だけど、お父様はまだ貴方の望みを叶えていなかった――』


 《 回想一時停止 》
968 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/18(木) 20:48:36.76 ID:X6RlITkSO

物語において、初めに世界の異変を感じるのは……幼子の場合が多い。


子供「マーマ、あれなあに?」

母親「えっ?」

男「な、なんだあれは! あれも我等の力なのか!」


皇城の上空に浮かぶ『その姿』は、クンネカムンの至る所から確認される。



空蝉『オオオッ!!』ガゴォッ!!

分身『アアアッ!!』ズギャアン!


交差する腕、繰り出される蹴り。
大義名分なぞない、純粋な戦闘衝動。



分身『グウッ――!』  バゴンッ!!

空蝉『ガフッ――!』  ドゲッ!!



空から墜ちる、ウィツァルネミテア達。


男「お、おい…コッチに降ってくるぞ!!」

母親「きゃあああああ!!」

子供「すげー!」

母親「逃げるわよ!!」


双つの神は都の北と南に落下。
強すぎる力を受け止め、地が悲鳴をあげている。



空蝉『我等ハ居テハナラヌ身!!』


分身『我等ハ導カネバナラヌ!!』



立ち上がり、吠える『双神』。



分身『喰ラエ、我ガ光』キュィン キュィン キュィン…


空蝉『受ケヨ、我ガ闇』シュー シュー シュー…



 パウッ!

 ゴオオオオオッ!


僅かな溜めの後……白き神からは闇、黒き神からは光。
放射された二色の光線が双神を結ぶ一本の線になる。

逃げ遅れた人、家畜、荷馬車、建物等は……衝撃波で砕かれ、宙を舞った。

そして、滅びの『紅蓮』がクンネカムン皇都を襲う――

969 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/18(木) 20:52:28.70 ID:X6RlITkSO

 ボォッ ドカァンッ ゴォゥッ



空蝉・分身『『ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!』』



爆炎の渦の中、空蝉と分身は超常の速さで接近し合う。
神々の背後では、焔が火の粉を散らしながら建物を燃やし尽くしていた。



分身『ドウシタ! ソノ程度カ!!』ズガッ

空蝉『グボォッ!』



分身『ソウカ、マダ全テヲ思イ出シテイナイカ!!』バキッ

空蝉『ガッ……!』



分身『ナラ、痛ミデ思イ出サセテクレル!!』


 ブォーン… ズゴォォォ!!


空蝉の顎に向け、分身は下からの強烈な突き上げを決める。
耐えきれず、浮き上がる白の神。



空蝉『グハアッ!!』



瓦板記者「い、今私の頭上に巨大な怪物が吹き飛ばされてきました!」

     「回避する手段はありません! いよいよ最後!」


重力に引かれ、巨大な身が墜ちる……


瓦板記者「さようなら、みなさんさようなら!」



 『……そんな事してる暇があるなら、走って逃げろ!』


空蝉『!!』


ゴロー『ていっ!』ガンッ!!

空蝉『――!? ゲブゥ!!』  ガッ! ゴロゴロ…


アベル・カムルによる横からの跳び蹴りで、空蝉は落下地点を変えられた。


ゴロー『我を忘れて暴れるな! “ハクオロ”!』

空蝉『――くっ、今のは効いた。だが、お陰ですっきりした!』


なんとか『ハクオロ』としての意識を取り戻し、空蝉は起き上がる。
970 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/18(木) 20:57:41.39 ID:X6RlITkSO

ゲンジマル「ハクオロ殿!」タタッ

エルルゥ「ハクオロさん!」タタッ

クーヤ「は、ハクオロ?」ビクビク



空蝉『ゲンジマル、エルルゥ。……クーヤ』


クーヤ「ハクオロなのだな……」


空蝉『……そうだ』


クーヤ「…………私は、今の其方が怖い」


空蝉『――そう、だろうな』


クーヤ「……だから、早くアレを倒していつものハクオロに戻れ」


空蝉『――!?』


クーヤ「わ、私は普段通りのハクオロと閨を共にしたいからな///」

エルルゥ「閨っ!?」ブッ!


※ 閨(ねや)…寝室の事。特に夫婦の寝室を指す。


空蝉『……意味が判っているのか?』


クーヤ「男性の【キィン!】を【キィン!】して私の【キィン!】に……」

エルルゥ「お、女の子が堂々とそんな事を言っちゃいけませ〜〜ん!!」


空蝉『――クーヤにそんな言葉を教えたのは誰だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』



ゴロー『……犯人探しなんてしている場合じゃないぞ』←犯人はこの人です



分身『汝達ガ関ワルト、悲劇ガ喜劇ニナル……』

971 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/18(木) 21:00:49.25 ID:X6RlITkSO

分身『……小サキ者共ヨ。横槍ヲ入レタ所デ、我ニハ敵ワヌ』

   『我等ノ闘イヲ、邪魔スルナ』



空蝉『そうだ、お前達はここから離れろ!』


エルルゥ「嫌ですっ! ハクオロさんの側に居るって、約束しました!」

ゲンジマル「某は御二方を見届けねばならぬのです」ペコリ

クーヤ「役には立たないが、それでも……近くに居たいのだ」


ゴロー『羨ましいなァ。モテるじゃないか』

空蝉『……この大馬鹿者達め』



分身『空蝉ノ言ウ通リダ。矮小ナ存在ニ、何ガデキル』



ゴロー『…………』

空蝉『そんなもの、やってみなくては判らない!!』



分身『――ヨカロウ。愚カ者共ヨ。父ノチカラヲ見セテヤル』

   『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!』


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…


再び噴出する白い炎。今度はその炎を、口元ではなく自分の全身に纏わせていく。



分身『ウォォォ――ン……』フワリ…



炎に包まれたまま、分身は浮き上がった。



分身『耐エラレルカ? “常世(コトゥアハムル)ノ業火”ニ』



空蝉『――全員、私の後ろにッ! “障壁”!!』



 『『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
  オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
  オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
  オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』』

972 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/18(木) 21:04:47.28 ID:X6RlITkSO

 ゴオゥッ! バチッ! バチバチバチ……


空蝉『ぐぐぐ……』バチッ


エルルゥ達を守る為、『障壁』を展開する空蝉。



分身『先程ノ威勢ハドウシタ?』



灼熱の白炎で身を覆い、力任せの体当りを放つ分身。


空蝉『――弐にして壱、対極、鏡合わせの存在。“我が分身”よ、何が目的だ!』



分身『――“安ラギ”ノ為ダ。“我ガ空蝉”ヨ』



空蝉『な!?』



分身『コレ以上、今ノ汝ニ語ル必要ハナイ。汝ノ障壁ハ限界ダ』



空蝉『ぐうっ……』ピキッ…



分身『汝ハ死ナヌガ、背後ノ者達ハ死ヌ』

   『終ワリダ、空蝉。汝ハ、又モ愛スル者ヲ守レナカッタ』

   『再ビ眠リニツクガイイ――』



空蝉『私は、“また”――』



973 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/18(木) 21:08:20.42 ID:X6RlITkSO







 …………チリン♪



ミコト『オカエリナサイ』



エルルゥ「お帰りなさい」ニコッ



 ギランッ! ボオォゥッ!!



空蝉『――オオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォ!!!』


障壁が砕けた瞬間、空蝉は分身と同じように自身を黒炎で包み、
守る者のいない方角に己が片割れを引っ張っていく。

重低音の唸りの中、組み合う双神。
身体を燃やす黒炎と白炎が、クンネカムンの都も焼いていく。

人を超えた存在に壊された建物の破片は
爆風で空に落ちたかと思えば、次の瞬間には地に舞い上がった――



空蝉『クオォォオォオォ――ォ――』

分身『アオォォ――ンンッ!』



鳴り止まぬ爆発を背景音として、獣のように吠える大神達。
クンネカムンは……この神獣達のバトルフィールドと化していた。

974 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/18(木) 21:20:54.26 ID:X6RlITkSO

空蝉『負けるわけにはいかない!!』


分身『往生際ガ悪―― ナニ!?』ガクン!


突如、黒き神が膝から崩れ落ちる。


 ズウゥン……


分身『ナ、何故ダ! 体ガ! 体ガ動カヌ!!』

空蝉『おおおおおおおおおッ!!!』ブンッ

分身『ゲブェアッ!!』  ズジャァッ! ザザザッ!!


……分身の動きは『止まっていた』。


ゴロー『……チャンスが来た』ズン


弐神を懸命に追った所為だろう。塗装が剥げ、
元の朱と黒にゴローのアベル・カムルは戻っている。


分身『……“偽リ”。汝ハ何ヲ知ッテイル。
    我ニ何ガ起コッタ…… 答エヨ』


その疑問に応えたのは、彼ではなかった。


 『今のお父様は、昔のお父様じゃない』


ばさり、ばさり。羽音が炎を切り開く。



分身『――――“ムツミ”!』


ムツミ『……お父様は、ずっとあの子の事を考えてる』スッ

    『私は、選ばれない。選んで貰えない……』


空蝉『お前は…カミュか?』


ムツミ『……もう一人のお父様は、私の事を覚えていない』

    『あの子の側にずっと居たから……』


分身『ムツミ……我ガ娘ヨ。我ヲ助――』



ムツミ『 イ ヤ 』



分身『――ナンダト?』


ムツミ『さっきのお父様達のやり取りで判った
     ……お父様は、ムツミの事を都合良く使ってるだけ』

    『お父様の心に、ムツミは居ないの…… あの子が居るから』


ゴロー『ムツミ〜。他の人達はどこに転移させた〜?』


ムツミ『“箱庭”に置いてきた。作戦の邪魔だったから』
975 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/18(木) 21:23:18.50 ID:X6RlITkSO

 〜 クンネカムン・箱庭 の定食屋〜


アルルゥ「ん! おかわりっ!!」モグモグ

オボロ「……しかし、カミュに任せて良かったのか?」ムシャ

ベナウィ「いえ、あれはカミュ様ではないでしょう。……この菓子、美味です」

クロウ「どういう意味っすか? おい鳥ガラ、それは俺んだ!」ゴクッ ハグハグ

カルラ「……ぷは〜ぁ! このお酒、たまりませんわ〜♪」



トウカ「どうして皆様はそんなに落ち着いていられるのですか!」ダンッ

ドリィ「ト、トウカ様」

グラァ「他のお客さんの迷惑じゃ……」



お客達「「「…………」」」ジー



オボロ「……心配は心配だ。だが、ウルトリィがここに留まれと言うからな」

ウルトリィ「ハクオロ様達は大丈夫です。カミュ…いえ、あの方が付いていますから」

クロウ「そーそー。ところで、『あの方』ってのはなんです?」


ウルトリィ「……わたくし達、オンカミヤリューの『始祖』様です」


976 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/18(木) 21:26:31.29 ID:X6RlITkSO
 …………


ムツミ『約束通り、あの人達は無事』


ゴロー『了解。ありがとう』



分身『……作戦ダト? 我ノチカラガ弱マッタノハ――』


ムツミ『それは違う。お父様はお父様自身の手で“今”を招いたの』


分身『……意味ガワカラヌ』


ムツミ『“契約”の破棄だよ……』

ゴロー『分身、お前は俺の望みを叶える事が出来なかった』

    『少し前に、自分で言ったな?
    “利用するだけ利用して、関係ないというのは蟲が良すぎる”』


ムツミ『この規律はお父様自身にも当てはまる』

    『自分の体を癒し、お父様は望みを果たせた。でも……』


ゴロー『お前は契約している間に俺の願いを叶えられなかった。
     破棄後、箱庭に俺を連れて来る事で“願い”を誤魔化そうとしたんだ』


分身『……ソレガナンダト言ウノダ』


ムツミ『――教えてあげるね。お父様』


 ビュン! ズプッ!


ムツミの左腕から伸びた光刃が、分身の右上腕を貫き……


分身『ナ――!』


 ズパッ!


空蝉『分身の右腕が……斬られた!』


分身『グアアアアアアアアアッ!!!』

   『ダ、ダガ、腕ナゾスグニ―― ……!?』


ムツミ『再生出来る? 無理でしょう。これがお父様が払った“代償”』

    『――お父様は、持っていた力の一部をおじさまに奪われた』


分身『――ソウカ! ダカラ“偽リ”ハ!』


ゴロー『本当なら、この環境に耐えられない筈だったけど……
     お前の力で“不老不死”の体になっちゃったみたいでな……』


一同「「「 !? 」」」


ゴロー『矢傷の治りが早いとか…腹を下さないとか…』

    『アベル・カムルを使って、無茶な速さで動けるのもこれが理由だった』
977 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/18(木) 21:33:07.67 ID:X6RlITkSO

ムツミ『つまり、今この場にお父様は“三人”居る』



空蝉『…………』  /  分身『…………』

ゴロー『…………』


ムツミ『私は、一番私を大切に思ってくれるお父様の味方』

    『だからね、黒いお父様。私は貴方の言う事を聞かない』


分身『――ムツミ』

ムツミ『でも、私はお父様の娘だよ。
     だから、望みを叶えてあげる――』ニコリ


分身『――ヤメロ。ヤメテクレ』ズズ…

ムツミ『ずっと待ってた。この時を』


近づいて来る。


分身『ムツミ、ソレハ空蝉ノ願イ――』

ムツミ『ううん。お父様はお父様だよ?』


黒曜石の翼の少女が。


分身『ヤメヌナラ……』キュイン… プスン

   『!? チカラガ放テヌ!』


ムツミ『最初っから飛ばしすぎなんだよ。
     時間稼ぎと力を削ぐ作戦、上手くいった』


ゴロー(本当は俺がいろいろ挑発する予定だったが…… 結果オーライ)


分身は……初めて『恐怖』を感じていた。


分身『ヒ、ヒイッ!!』ズザッ!

ムツミ『逃げないでお父様』


ゆっくりと歩を進めるムツミ。


分身『……ナラバ!』 スゥッ

ムツミ『“透明化”。私に気づかれない高度な……』


分身〔コレナラ、ワカルマイ! 転移可能ニナルホドマデ、チカラガ回復スレバ――〕


ゴロー『残念。俺には効かない』ガシッ


分身〔 !! 〕


ゴロー『何でかはわからないけど、多分お前の力のせいなんだろうな。
     意識したら、お前の位置がわかるんだ』


分身『グウッ!!』
978 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/18(木) 21:36:35.83 ID:X6RlITkSO

ゴロー『あと、言ったよな…… “今度会ったら”』


 パシッ ガシッ! グイッ!


ゴロー『“関節技を極めてやる”って!』



分身『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』


空蝉『私もさせて貰おうか!』



 《 協撃!》

 《アームロック&レッグロック》


ゴロー『ふんっ!』 ゴキッ

空蝉『はあっ!!』 メキッ



分身『ギャアアアアアアアアア!!!』


左腕は俺が。両脚はハクオロが。
主要な関節を、完全に身動き取れないように折る!


分身『  』チーン



 《 協撃!》

 《浄化の炎》


ゴロー『念のために、上からアベル・カムルで抑えておく』


 ガッ… ググッ…


ゴロー『きつめに抱き締めて……』ギュッ


 よし。……逃げよう。


 ズルズル…


ゴロー「ハクオロー。手に乗せろー!」

空蝉『判った。潰さないように気をつける』スッ


ゴロー「よし、全員でここから離れるぞ。開陽殿まで撤退だ」

空蝉『エルルゥ! クーヤ! お前達も私の手に乗れ!』

エルルゥ「はいっ!」 クーヤ「うむっ!」

ゲンジ「……いつか、某も貴方の所に向かいまする。地獄で会いましょうぞ」


 ズンズン… ズンズン…


空蝉『城に着いたぞ!』

ゴロー「ここなら『アマテラス』の影響は受けない! やれ、ムツミっ!!」
979 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/18(木) 21:45:41.33 ID:X6RlITkSO

ムツミ『……“アマテラス”強制介入。攻撃対象、お父様とアヴ・カムゥ』

    『限界まで発射口を集束。出来るだけ被害範囲を抑える』


彼等の居る地球。その衛星軌道上には、未だに稼働する人工衛星がある。


『衛星兵器・アマテラス』

ムツミは衛星のコンピュータに侵入し、この兵器を制御する事が出来るのだ。


ムツミ『――殺してあげる。お父様』


ムツミは血の瞳を輝かせ、死神の鎌を『父神』にかざす……


『アマテラス』は、主の命令に忠実に従うのみ。

砲身を覆うカバーをゆっくりと収納、機械音と共に、
一段・二段・三段と徐々に砲身が伸びていく。

ハクオロの元の姿である考古学者の居た時代…
『レーザー・ビーム兵器』はSF作品にしか登場しない、夢の兵器の一つであった。
しかし、旧人類が地下に潜っていた頃には、
何らかの方法で大気による拡散を軽減した『実用レーザー・ビーム』が生み出されており、
当時の国々のトップや権力者達が発射権限を有していた。

『アマテラス』はその名の通り、日本人が造り出した衛星兵器。
ムツミによって使われるのは、今回で『二回目』だった。

三段目の砲が伸びきり、全段の砲塔が規則正しく回転を開始。
初めはそれほどでもない回転速度も、
照射エネルギーが蓄積されるにつれ、加速する。


ムツミ『……誘導体角度修正、照準確認、自転によるズレを微調整……』


機械は、命令されねば動かない。
先に述べた通り、アマテラスは本来、国の権力者が発射権限を有する。
ただ、発射の前には必ず準備が必要だ。『コンピュータ』の力が。

衛星自体に搭載されたコンピュータでは、どうしても不足する事がある。
地上にコンピュータがあれば、
衛星とのリンク・発射の誘導等、様々な事柄を代わりに処理してくれる。

しかし現在、この世界に稼働しているコンピュータは『無い』。
なら、衛星を使用するなんて出来ないはずだが……

『ロストナンバー 63号』…『ムツミ』がそれを覆した。

彼女はコンピュータの代わりとして、自らの頭脳を用いる事にしたのである。


ムツミ『おじさまとの約束だから……出来るだけ他の人は傷付けない……』
980 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/18(木) 21:48:26.16 ID:X6RlITkSO

 《 回想再開 》


ムツミ『……わかった? おじさまは今、お父様でもあるの』

ゴロー「な、なんとなく……」

ムツミ『おじさまは、私に協力して欲しい』

    『あっちのお父様を動けなくして、アマテラスで狙い撃つ為の助けを』

ゴロー「…………存在は知ってたけど、かなり危ないよなぁ」

ムツミ『多分、普通に射ったらクンネカムンの都全て壊せる』

ゴロー「……それしか手がないのか? さっきの光剣で倒すとかは?」

ムツミ『お父様は生半可な事じゃ殺せない。
     まず肉体を完全消失させる必要がある』


ゴロー「――じゃあ、これだけは約束してくれ」

   「出来るだけ、被害は軽くすること。
     これを約束出来ないなら、俺はムツミに協力しない」


ムツミ『……わかった。努力する』コクン


 《 回想終了 》


約束の為、『前回』のような略式攻撃ではなく、入念な準備を行うムツミ。


ムツミ『準備、完了。あとは……ん』


衛星から送られてくる電気信号を捉える。


ムツミ『お父様が、少し動きだした』


脳内で映像に変換し、離れた場所に居る『分身』の挙動を確認。

ただし、判ったところで意味はない。
現在、彼女はクンネカムンの遥か上空を飛行しているからだ。
衛星と繋がっている間、自分が無防備になる為、
如何なる攻撃も届かない安全な場所に逃げる。

……つまり地上で何かあっても、手出し出来ない状態に、今のムツミはなっていた。

981 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/18(木) 21:56:52.95 ID:X6RlITkSO

分身『……グウッ!? ウ、動ケヌ!』

   『手足ガ動カヌ! 憑代ニ戻レバ……翼デ……』


分身『駄目ダ! 戻ッタ瞬間、アヴ・カムゥニ押シ潰サレル!』


……作戦が上手くいった為、分身自体に、為す術は無い。

ウィツァルネミテアの片割れは、自分の娘とかつての憑代により……

『詰み』に、はまったのだった。


ムツミ『――お父様、これがムツミの愛です』

    『ずっと昔のお父様のお願い。ようやく果たせます……』


ムツミ『―――受け取って下さい』


 パチパチ… ヒュゥゥゥン…

『死』は、近い……


 …………


日は沈み、夜が来る。
戦場だったクンネカムンの都はまだ紅火で明るい。


エルルゥ「空に……変な星が……」

クーヤ「あんな位置に星があったか?」


開陽殿の外で、二人の少女が空を見上げる。


クンネカムン兵「なんだ……?」

叛クンネ兵「……?」


國境で戦争中の者達も、何故か手を止める。


アルルゥ「お〜?」

ウルトリィ「あれは……『浄化の炎』の……兆候」

他一同「「「…………」」」


箱庭でも、多くの人々が天を注視した。


分身『コノ気配…! ムツミ、アレヲ我ニ使ウツモリカ!!』

   『セメテ、少シデモ動ケバ――』ググ…


分身『ム、無理ダ! コノ木偶人形メェェェェ!!!』

   『――ソウダ。アヤツヲ使エバ、コレヲ退カセラレル!!』

982 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/18(木) 22:01:51.08 ID:X6RlITkSO
 〜 開陽殿・外廷 〜


健を切られ、動けない赤のアヴ・カムゥ。
操り手は既にまともな精神ではない。


ハウエンクア『ああ……あああ……ああああ……』

 『聞ケ、小サキ者ヨ』

ハウエンクア『あ、あ…………』

 『動ケル、汝ハ動ケルノダ』

ハウエンクア『動……く?』

 『ソウダ。我ノ下ニ来テ、我ヲ連レ逃ゲヨ』

ハウエンクア『ぐひっ、動く、うごく、ウゴくぅぅ!!』


 ギギギ… ギギギ…


ハウエンクア『コロス、コロス、コロス、コロス…………』

 『完全ニハ操レヌガ、今逃ゲ切レバ――』

ハウエンクア『ヒャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!』


腕と腿の力だけで再び動き始めた血塗れのアヴ・カムゥ。
分身の事も既に忘れ、目についた者を殺そうと地を這いずる――

 …………


 〜 開陽殿・外 〜


空蝉『……くうっ』 シュオオ…

ハクオロ「ぐは……」ガクリ


空蝉として覚醒した状態が解け、気絶するハクオロ。


エルルゥ「簡単な手当をします!」

クーヤ「私も手伝うぞ!」

エルルゥ「なら、出来るだけ綺麗なお水を!」

クーヤ「判った!」タタタ…


ゲンジマル「これで、終わるのでしょうか……」

ゴロー「……まだわからない。黒いのは倒せても……」

ゲンジマル「…………」


「うわああああああああっ!!!」


ゴロー・ゲンジ・エルルゥ「「「 !? 」」」


 ダダダダダダ…


エルルゥ「ク、クーヤさんっ!」


ハウエンクア『クヘヘヒィヒャハフフヘポ!!』

クーヤ「う……い、痛い……」
983 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/18(木) 22:05:06.93 ID:X6RlITkSO

ゴロー達が声のした方に行くと、城壁に叩きつけられたクーヤが目に飛び込む。


ハウエンクア『キヒヒャハフヘェヒヒ! コロスコロスゥゥ!!』


何故か動いているハウエンクアのアヴ・カムゥ。
動けない元皇を潰すつもりなのか……


ゴロー(これはいけない!)


ゲンジマル「むおおおおおっ!!」


 ズパパパッ! ドパァッ!


ハウエンクア『けふぁ!! ムヒャヒャヒャハハハハハハハハハハハ――』


 グラ、グラッ…


ゲンジマルの剣に首を落とされたアヴ・カムゥ、それと同時に……


ハウエンクア『アヒャ?』  プッツン…

ハウエンクア『アー…………』カクン


ハウエンクアの脳が死を迎え、巨体が『クーヤのいる城壁』に向かって倒れ込む――


ゴロー「しまった!」


ゴローにもエルルゥにも、彼等が居る位置からでは
救えない。


クーヤ「あ……」

ゲンジマル「――おおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


 ドンッ!  ガッ ズゴォォォン!


轟音と共に、巨体と壁の瓦礫が『一人』を飲み込んだ……


クーヤ「ゲ、ゲンジマルッ!!」

ゴロー「ゲンさん!」  エルルゥ「ゲンジマルさん!」


ゲンジマル「…………さ、流石に某でもこうなっては……ごふっ……」


ゲンジマルは瓦礫の間からか細い声で呟く。
ゴロー達からはかろうじて頭が見えているだけであるが……少し目を凝らすと、

彼の身体の大部分はアヴ・カムゥや城壁の瓦礫で潰されているとわかった……
984 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/18(木) 22:07:31.59 ID:X6RlITkSO

クーヤ「ゲンジマル、待っておれ! 今助ける!」

ゲンジマル「…………クーヤ様、もう、よいのです……」

クーヤ「ゲンジマル! 諦めるでない!」ウルッ

ゲンジマル「某は、最後に……貴女を救えて……よかった……」


幾つもの戦場を駆け抜けた武士、ゲンジマル。
戦いの数だけ、多くの罪を重ねた男――


ゴロー「ゲンさん……」


ゲンジマル「ゴロー殿、お願いが、ありま、す……」
      「某の骸は、箱庭、に…… 妻の、墓の隣に……」


ゴロー「わかった。箱庭にはヒエンさんも連れていく。
     俺が教えたから、サクヤさんは箱庭の場所を知っているぞ」


ゲンジマル「そう、でありまし、たか……」


クーヤ「ゲンジマル! 墓なんて言うなっ!! 生きるのだ!!」


ゲンジ「エルルゥ、様、ハクオロ殿に、御伝え下さい……」

    「クーヤ様やサクヤ、後の事をを、頼みまする……と……」


エルルゥ「…………はい」

クーヤ「私は、私の後ろをゲンジマル以外の者に任せたくないぞ!!」ポロポロ


涙が止まらないクーヤ。言葉と裏腹に、心は老武士の死を判ってしまっている……


ゲンジ「クーヤ様、貴女様は、最後に、立派な皇に、なられました…」

    「これから、は、皇でも、只の女でも、好き、な様に、生き、て下さ、れ……」


クーヤ「ゲンジマル! ゲンジマルっ!」


ゲンジマル「ああ――貴方…同じ、…ヴ・…ムゥに…され…、逝け……」


 スゥッ…


エヴェンクルガの『生ける伝説』が『伝説』となった――
985 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/18(木) 22:08:33.13 ID:X6RlITkSO


同じ瞬間、遂に……


ムツミ『ばいばい、お父様』

    『次に会う時はムツミの中だよ――』


 カッ!


極太のビームが、地に堕ちた神に狙いを定め、発射された。



分身『光ガ――』


放たれるレーザーは『光速』。
即ち、見上げる者共の瞳にその『光』が映った瞬間は……


 ゴゥゥゥゥ……!!



 『グアアアアアアアアアアアアアアアアアア
   アアアアアアアアアアアアアアアアアアア
   アアアアアアアアアアアアアアアアアアア
   アアアアアアアアアアアアアアアアアアア
   アアアアアアアアアアアアアアアアアアア
   アアアアアアアアアアアアアアアアアアア
   アアアアアアアアアアアアアアアアアアア
   アアアアアアアアアアアアアアアアアアア
   アアアアアアアアアアアアアアアアアアア
   アアアアアアアアアアアアアアア――』



『死』が神の分身を迎え入れた時であった――

986 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/18(木) 22:14:38.96 ID:X6RlITkSO
 ――――


ハクオロ「う…エ、エルルゥ……」

エルルゥ「…………」グスン


ハクオロ「どうしたエルルゥ、何故――」

ゴロー「……ゲンジマルさんが亡くなられた」

ハクオロ「……な、何だと」

ゴロー「遺体はまだ引き出せない…… アヴ・カムゥの下敷きにされている」

ハクオロ「ク、クーヤは。クーヤはどうした…」

エルルゥ「……ずっと、泣いて。急に気絶して……今は眠っています」

ゴロー「壁に叩きつけられた痛みや、精神的なショックが大きかったんだろう」


クーヤ「…………」スー スー


ハクオロ「ゲンジマル……」

ゴロー「……お前が起きたから、俺は行くぞ」スクッ

エルルゥ「行くって…どこへですか」

ゴロー「……あのコ、『ムツミ』のところだ」


ハクオロ「――ゴローさん、自分も行きます」

エルルゥ「ハクオロさ…」

ハクオロ「エルルゥ、あの者は…私の過去に関係ある者の筈。
      なんとしても、問い質さねばならないんだ……」

エルルゥ「……判りました。必ず、戻ってきて下さいね」

ハクオロ「……行きましょう」ザッ


ゴロー「エルルゥさん、ハクオロは俺が責任もって帰します」ザッ


 ザッ ザッ ザッ ザッ…


エルルゥ「…………」

987 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/18(木) 22:18:36.69 ID:X6RlITkSO
 ――――

 〜 爆心地 〜


……深い窪地がそこにはあった。
アマテラスから放射された『浄化の炎』は、大地を抉る。
遠い昔、そうなった地は未だに窪んだまま。
きっと、ここもそうなるのだろう……

帰ってきたムツミが『最後の仕上げ』に取り掛かる。
協力を取り付けたゴローにも言っていない、『ムツミの望み』を叶える為――



ムツミ『……お父様は、憑代がないと世界に居る事が出来ない』

    『だから、私がお父様の器になって、お父様と永遠を生きる……』


ムツミ『これが私の本当の目的……』


彼女は恍惚とした表情を浮かべ、手を爆心地にかざした。


 シュォン シュォン シュォン シュォン シュォン


巨大な窪みから、『散った分身の力』が少しずつ洩れ出す。


ムツミ『もうすぐ、もうすぐお父様とムツミが一つになる――』


魂だけの存在となり、転生を繰り返しながら…待ち続けた女。

『選ばれなかった』少女の旅路は、終点を――


ゴロー「ムツミ! 何をしてるんだ!!」


……まだ、迎えないようだ。


ムツミ『おじさま…邪魔をしないで』


ゴロー「ムツミ、何をしてる。その黒い煙は……」


ムツミ『これはお父様。私の愛するお父様……』

    『いっぱい集めて、私の中に導くの……』


ムツミ『だから、私の邪魔をしないで。おじさまでも、許さない』


ゴロー「お前、最初からそのつもりで……」

ハクオロ「……『ムツミ』と言ったな! 聞きたい事がある!」


ムツミ『……どうして、もう一人のお父様を連れてきたの』


ハクオロ「君は…私を、私の過去を知っているのか! 応えてくれっ!!」

988 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/18(木) 22:21:49.48 ID:X6RlITkSO

ムツミ『……少し待って。もうすぐ、終わるから』


 シュォン シュォン シュォン シュォン…

煙は既に周囲から消え、ムツミの手のひらに黒紫の渦が残る。
ムツミはその光を、自分のに――

ムツミ『お父様ぁ、私といっしょに……』




 『――グオオオオオオオオッッ!!』 バチッ!!




ムツミ『!? しまった、まだ意識が――』


 ドヒュゥッ!


ムツミの手を離れる黒い渦。


方向を失った『力』は、己に『最も近い存在』へと向かう。


ハクオロ「私のほうにっ!!」


ムツミ『お父様!』


弐だった存在。それが壱に戻る。単純に言えばそれだけの事。
しかし、ハクオロはまだ完全に記憶を取り戻していない。

『記憶』とは……とても不思議なものだ。
羞恥の記憶で、枕に顔を埋め足をばたつかせる事もある。
努力の記憶は、強大な壁にぶつかった時に自身を奮起させてくれる。
様々な経験と感じた思い、全てが『記憶』に含まれる。

――『記憶』とは『人の力』なのだ。
989 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/18(木) 22:26:33.47 ID:X6RlITkSO

ムツミは判ってしまった。
自分が集めた『片割れの力』が『もう一人の父』と融合したら……
ハクオロは『力』に呑まれ、人々を再び裏から支配する『大神』となる事を。


『力の渦』もそれを判っていた。
だからハクオロの『壊れた器』を奪い、『完全な器』になろうとする。


ハクオロ「うおおおっ!?」


ほんの少し、本当に少しだけ、誤算があった。

『分身』の記憶も、『自分』の記憶も……
殆ど全てを思い出していた、独りの中年男が『其処にいた』。


ゴロー「ふんっ!」グッ ブンッ!


ハクオロ「な――――」 ヒューン…




ゴロー「約束、したからな。『帰す』って」ニッ




渦は――『馴染みの器』に戻ってきた。


 カッッッ!


ムツミ『 ! 』


ハクオロ「ゴローさーーーんッ!」


霧が男を包み、収束。
黒のヴェールはすぐに消えた。



ゴロー「…………ムツミ」

ムツミ『……っ、ハイ……』

ゴロー「……逃げるぞ」

ムツミ『……えっ?』

ゴロー「俺達を引き離せ」

ムツミ『!? わ、わかったっ! 転移!!』 キュィィン…


ハクオロ「ゴローさん、待って下さい!」


ゴロー「……ハクオロ、俺に寄るな」

    「いいか、絶対追うなよ。絶対だ。
      後から追おうなんて、考えるな」


ムツミ『……転移します』


 キュィィン… パアッ…


ハクオロ「……ゴローさん」


まだ続く!
990 : ◆M6R0eWkIpk [saga]:2012/10/18(木) 22:31:48.93 ID:X6RlITkSO
自分で書いていて思う。……混沌としてるな、今回。
コメディ・シリアス・ヤンデレ・特撮。詰め込んだらこうなりました。

何か疑問とかありましたら、質問をどうぞ。判りにくい部分もあると思いますので。

次スレの最初は、オマケコーナーから投下となります。
この話の設定面なども、記す予定です。

では、失礼します!
991 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/10/18(木) 22:34:30.18 ID:aeqoxqjE0
乙っしたぁ!
992 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/10/18(木) 22:35:42.60 ID:ZAxNIl2ko
乙!更に面白くなってきた
993 : ◆M6R0eWkIpk [saga]:2012/10/18(木) 22:49:38.76 ID:X6RlITkSO
次スレのご案内。

ハクオロ「うたわれるゴロー!」 エルルゥ「Season2!」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1350567973/

994 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/10/18(木) 23:02:29.63 ID:ZAxNIl2ko

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995 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/10/18(木) 23:46:49.94 ID:1zT3XAHso
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996 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/10/18(木) 23:47:37.40 ID:1zT3XAHso
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997 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/10/18(木) 23:48:06.06 ID:1zT3XAHso
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998 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/10/18(木) 23:49:00.39 ID:1zT3XAHso
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999 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/10/18(木) 23:49:42.64 ID:1zT3XAHso
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1000 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/10/18(木) 23:50:44.62 ID:1zT3XAHso
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