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奏「極上生徒会です」紬「軽音部です」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/05(木) 09:51:54.02 ID:ak0JbB91o


奏紬「「 よろしくお願いします 」」


奈々穂「よし。
    会長同士の挨拶が終わったところで、我々の自己紹介といこう」

梓「いえ、会長は――」

律「いいから」スッ

梓「え?」

久遠「クスッ」

奈々穂「私がこの極上生徒会・副会長を務める、金城奈々穂だ」

久遠「同じく、極上生徒会・副会長を務める、銀河久遠ですわ」

唯「よろしくですわ」

まゆら「会計の市川まゆらです」

奈々穂「そして、私が統括する遊撃部の飛田と角元だ」

小百合「飛田小百合です」

れいん「角元れいんっす! よーろしくっすー!」

唯「よろしくっす!」

梓「唯先輩、適当に合わせないでください」

奈々穂「他にも居るが、まぁ、追々紹介することでいいだろう」

久遠「それでは、極上生徒会・隠密部を紹介いたしますわ」

唯「甘くて美味しいよね〜」

律「それはあんみつな。って、隠密!?」

聖奈「そうで〜す。隠密部のリーダーやってます、桂聖奈で〜す♪」

梓「も、もしかして……NINJAですか?」

聖奈「私は違いま〜す♪」

律「なんだ、発音が外国人みたいだったぞ、梓」

梓「少し、気が急いてしまって……」

奈々穂「気が急いだら発音がよくなるのか」

唯「私はってことは……いるんだね! 視線を感じるよりっちゃん!」

律「どこだ!?」

唯「あっちだよ!」

聖奈「違いま〜す♪」

律「あっちじゃないらしいぞ」

唯「知ってたよ」フフン

律「少し、しずかにしていてくれ、唯」

久遠「勘がいいのかどうか、判断しかねますわね」


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木曜の夜には誰もダイブせず @ 2024/04/17(水) 20:05:45.21 ID:iuZC4QbfO
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いろは「先輩、カフェがありますよ」【俺ガイル】 @ 2024/04/16(火) 23:54:11.88 ID:aOh6YfjJ0
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【安価・コンマ】力と魔法の支配する世界で【ファンタジー】Part2 @ 2024/04/14(日) 19:38:35.87 ID:kch9tJed0
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2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/05(木) 09:53:03.06 ID:ak0JbB91o

れいん「ねーねー、立ち話もなんだから座ろうよ〜」

唯「そうだよ、ロングジャーニーでフットがスティックだよ!」

久遠「?」

梓「長旅で足が疲れたそうです」

小百合「どうぞ」

唯「ありがと〜。はぁー、どっこいしょ」

奈々穂「そうだな。こちらの紹介は粗方済んだ。
    紅茶とお茶請けを持ってこさせるから座ってくれ」

唯「ティータイムだね!?」

和「こちらの紹介がまだなので、それは後にいただきます。おあずけよ、唯」

唯「」ガーン

律「お、やっと口を開いたな、我が学校の生徒会長」

奈々穂「なに……?」

久遠「奈々穂さん、情報不足ですわよ」

聖奈「それでは、あの特別ステージにて自己紹介をお願いしまーす!」

律唯「「 おぉー! 」」

梓「えぇー……」

まゆら「ちょ、ちょっと待ってください。いつの間にあんな豪華なステージを用意したんですか?」

聖奈「昨晩でーす♪」

まゆら「また予算を使ったんですね!?」

聖奈「そうでーす♪」

まゆら「」サラサラサラ

律「石化して風化してるけど、大丈夫か?」

奈々穂「あぁ、問題無い」

まゆら「ありますよ! いつも言っていますが、会計の私をちゃんと通してください〜!」

和「桜が丘高校・生徒会会長を務めます、真鍋和といいます」

まゆら「ステージ使ってくださいよぉ!」

和「いえ、あれは少し恥ずかしいので、遠慮します」

聖奈「あら〜、ざんね〜ん♪」

まゆら「そんなぁ〜……」

奈々穂「待て、奏会長と話をしているあの人、そちらの生徒会の人間ではないのか?」

梓「琴吹紬、愛称はむぎと呼ばれている軽音部のキーボード担当の雰囲気の柔らかい上品な方です」

小百合「……え?」

れいん「へ?」

久遠「早口で聞こえませんでしたわ」

和「文法も滅茶苦茶ね」

律「聞こえてたんかい」
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/05(木) 09:54:45.76 ID:ak0JbB91o

梓「放課後に部室でティータイムをいただく時、むぎ先輩が用意してくれるのですが、
  これがまた上品な味わいで、のんびりとした空気を包んでくれて、素敵な時間を共有できます」

まゆら「え?」

純「え?」

奈々穂「えっと……?」

律「いや、おまえは知ってるだろ、純」

純「どうして私がここにいるんですか?」

律「知らねえよ!」

奈々穂「軽音部の部員ではないのか?」

純「チガイマス」

律「じゃあ帰宅しろ」

純「あぁ、今だけ! 今だけ軽音部ということで!」

律「しょうがないな、今日だけだぞ」

久遠「あら、それはベースですわよね」

純「一応持ってきました」ブイ

れいん「注目、着目、スポットライト! みんな! ステージ見て!」

唯『みなさんこんにちは、軽音部、ボーカルとギターの平沢唯です! どうぞ盛大なる拍手を!!』パチパチパチ

奈々穂「……」

久遠「……」

聖奈「……」

小百合「……」

まゆら「……」

梓「なんで純が来てるの?」

純「暇だったから」

律「わ、わぁー、ゆいさんすてきー」パチパチパチ

唯『りっちゃん、静粛に』

律「おいッ!」

和「生徒会室にステージを設けるなんて、凄いですね」

久遠「えぇ、基本的になんでもありですから」フフッ
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/05(木) 09:56:53.89 ID:ak0JbB91o

奈々穂「宮神学園極大権限保有最上級生徒会。略して――」


ガチャ


りの「お、遅れてすいませ〜ん!」

奏「りの!」

紬「?」


ガッ


りの「うわぁ! なにもないところで蹴躓いちゃったー!」

プッチャン「状況を説明してる場合かよ」

純「あの歳で腹話術師か……多才だ」

奈々穂「飛田! 角元!」

小百合「御意」サッ

れいん「がってん!」サッ


スッ


りの「わぁー、転ばぬ先に布団だよぉー」

律「なんでだよ」

奈々穂「しまった! 枕が間に合わないッ!」

和「……」


シュー

ストン

モフッ


りの「ふぁ〜、暖かくていい気持ち〜」

プッチャン「最高だぜこりゃあ」

聖奈「なんとか、間に合いましたね〜」チラッ

???「……」コクリ

シュッ


奈々穂「よし。そのまま部屋の端っこまで寄せておけ」

れいん「がってん承知でアイアイサー」

小百合「了解」

りの「むにゃむにゃ」ズサー

プッチャン「世話かけるな」

小百合「気にするな」
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/05(木) 09:58:35.11 ID:ak0JbB91o

香「大変です副会長!」


ドンッ

ポロッ


小百合「めがね、めがね……」

香「あっ、ごめんなさい! 小百合先輩!」

梓「和先輩、メガネ貸してくれますか?」

和「?」スチャ

梓「どうですか?」

和「視界が悪くなっただけで、手探りで探すほどじゃないわね」

梓「ですよね。お返しします」

純「和先輩のああいうお約束事、見てみたい……!」

小百合「めがね、めがね」

れいん「こっちだよ、小百合」

小百合「うむ、かたじけない」

れいん「いいってことよー」

奈々穂「ふむ、一段落着いたな。香、そちらの方は誰だ?」

香「そうです! 不審者を連れてきました!」

澪「……」

律「……あ」

唯『じゃじゃーん、ぎゅぃぃん』

梓「誰も見ていませんから、降りてきてください」

唯『えぇー!?』

香「ほらっ、歩きなさい!」

澪「い、いや、私はだな……」

奈々穂「私服で構内を歩いていたのか、確かに不審なヤツだ」

香「そうなんですよ!」

澪「せ、制服は……」チラッ

律「島流しにしましょうぜ、旦那」

奈々穂「うむ」

久遠「そうですわね」

澪「おいッ!」

聖奈「あらあら〜♪」

純「澪先輩に対する不届き千万、成敗致す!」サッ

れいん「おっ、中々いい動きするねぇ」
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/05(木) 10:02:11.73 ID:ak0JbB91o

香「な、なんですか?」

純「澪先輩には指一本――」

プッチャン「はむっ」ガブリ

純「ふぎゃー!」

小百合「なにをしている」

プッチャン「目の前に足があったら噛まずにはいられないのさ」

小百合「客人に無礼を働くな」

プッチャン「へへっ、すまねぇな」

律「いやいや、あのメガネの子、人形と自然に会話してるぞ」

奈々穂「今寝ている人形の持ち主蘭堂りのとは別に、人形自身が意思を持っています」

律「意思ねぇ……。ってすごいな」

奈々穂「まずは不審者をどうするか、だな」

律「無人島に一人で一泊、というのはどうだ?」

澪「いい加減に紹介しろっ!」ゴスッ

律「いひゃい!」

聖奈「こちらの方は秋山澪さん。みなさんと同じく、軽音部所属ですよ〜」

奈々穂「な、なんだと!」

久遠「……」

香「あ、そ、その、ごめんなさい!」ペコリ

澪「いや、気にしないでくれ」

香「で、でも……もう少しで島送りになるところでした」

澪「それくらい、どうってこと――」

れいん「あー……あそこの島かぁ……。夜に変な声が聞こえてきて怖かったぁ」ブルブル

小百合「うむ」

澪「ど、どど、どうってこととどと」

律「どうってことないそうです」

奏「それじゃあ、行きましょうか」

紬「まぁ、楽しそう〜」

まゆら「ちょ、ちょっと待ってください。……今からですか?」

奏「えぇ。軽音部のみなさんも招待いたしましょう」

奈々穂「いえ、会長。みなさんにも都合ってものが」

唯「そうです。私たち受験生ですから」フフン

梓「八月の前半、丸々消費したじゃないですか」

唯「思い出作りだよ! 無人島だよあずにゃん!」ヒャッホゥ

梓「乗り気じゃないですか! 先輩方はもっと勉強をですね――」

紬「あら、ダメ?」

梓「行きましょう」

純「おいっ」ビシッ
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/05(木) 10:03:37.39 ID:ak0JbB91o

奈々穂「会長、こちらも予算の都合というものがありまして……」

まゆら「副会長……」キラキラ

奏「ダメ?」

奈々穂「行くぞ! 極上生徒会、全員に告ぐ! これから無人島探検だッ!」

聖奈「船のチャーター完了しました〜♪」

まゆら「珍しく副会長から常識的な意見が出たと思ったのに」シクシク

れいん「よっしゃー! 夜が来なければなんとかなるなる〜!」

小百合「それはない」

久遠「やれやれ、ですわね」

香「あぁ、行きたいけど、行けないぃ〜!」

わかな「私にいい考えがあるわ」

香「わかな先生……?」

紬「みんなの予定はどう?」

律「暇」

純「右に同じく」

梓「しょうがないですね」ピッピップ

trrrr

澪「なにをしにここまできたんだ……?」

紬「せっかくだからお言葉に甘えましょう〜」

和「そうなんだ、じゃあ私生徒会行くね」

唯「どこの生徒会行くの!? 唐突すぎるよ和ちゃん!?」

りの「うへへ、もう食べられないよ〜」ムニャムニャ

プッチャン「能天気だな、まったく」

紬「気持ちよさそうに寝ている彼女は?」

奏「書記の蘭堂りの、です」ニコ

8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/05(木) 10:06:46.57 ID:ak0JbB91o

………

…………


――― 無人島 ―――


さわ子「なんでここにいるのよォ!」ブンッ

ペチン

律「そう言い放ち、彼女は無人島のしおりを非情にも地面に叩き付けた」

純「怒りである」

りの「あぁ〜、船の上で一生懸命制作したのにぃ〜」シクシク

プッチャン「生徒の苦労を無にするとは、教師の風上にも置けねえな」

さわ子「ッ!」ギロッ

プッチャン「俺に脅し入れようってのかぁ? 女だからって容赦――」

さわ子「……」パシッ


シュルルル

パサッ


プッチャン「」

りの「プッチャン!」ガーン

律「彼女が無慈悲に叩いた人形は、硬いアスファルトの上に無惨にも横たわるのであった」

純「怒りである」

律「純、ワンパターンになってるぞ。もうちょっと捻りを入れないとだな……」

純「はい、勉強させていただきます」

さわ子「なんなのよあなたは、人形なんかに代弁させて。失礼じゃない」

りの「え、えっと……」

歩「その人形はただの人形ではありません」

りの「アユちゃん! あれ、でも、バイトで来れないはずじゃ……?」

歩「シフト変更してもらったの☆」ウィンク

律「ただの人形じゃないってどういう意味だ……? 腹話術にしちゃ巧すぎると思っていたけど」ヒョイ

歩「ダメですっ! それを手にはめては!」

純「律先輩、ご教授を放棄しないでください」

律「あぁ……、これでも読んで勉強しとけ」

純「はい。って、これ無人島のしおりじゃないですか!」ブンッ

ペチン

りの「ひどいぃ〜」シクシク
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/05(木) 10:08:29.90 ID:ak0JbB91o

プッチャン「まぁ、今日の予定表を即席で作っただけの代物だからなー」

律「うわっ! 喋った!?」

純「律先輩上手ですね」

律「ちげえ! この人形が勝手に喋るんだよ!」

プッチャン「世の中には知らないでいい事がたくさんあるんだ」

さわ子「……」

律「なんだこれ、離れねえ……!」グググ

歩「だから言ったのに……」

プッチャン「それはそうと。おい! メガネ教師!」

さわ子「……」パシッ


シュルルル

パサッ


プッチャン「」

りの「プッチャン!」ガガーン

梓「すいません、ここにむぎ先輩来ていませんか?」

歩「私と同じ髪型……?」

律「怖ぇ……! この人形怖ぇ!」

梓「なんですか、また妖怪の類ですか」ヒョイ

りの「プッチャンは妖怪じゃないよー」プクー

さわ子「……」

歩「だから、なんで手にはめようとするんですか!」

プッチャン「やれやれ」

梓「え?」

プッチャン「なんだよ、俺がそんなに珍しいか?」

梓「純、キャッチボールしよう」

純「おっけー」

りの「?」

梓「えいっ!」ブンッ

純「ボーク!」

梓「外れないか……」

プッチャン「俺をボールにするんじゃねえ!」
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/05(木) 10:10:44.75 ID:ak0JbB91o

さわ子「それで、どうして無人島なんかにいるのよ」

律「いや……話せば長いようで短いんだけどな」

さわ子「なら話しなさいよ」

律「宮神学園に招待されたのは知ってる?」

さわ子「聞いてないわ。生徒会を通して軽音部が招待されるなんて」

律「違う違う。招待されたのはむぎなんだよ」

純「あ、そうなんですか」

プッチャン「むぎぃ? へっ、麦芽100%のアルコール炭酸飲料かよ」

梓「……」パシッ


シュルルル

パサッ


プッチャン「」

りの「プッチャン!」ガガガーン

歩「りの、早く拾って」

さわ子「どうしてむぎちゃんが招待されたのよ」

律「生まれた病院が一緒なんだと」

さわ子「???」

梓「生徒会長の神宮司奏さんとはお会いになりましたか?」

さわ子「えぇ、一応ね」

梓「むぎ先輩と奏さんが生まれた病院が一緒なんです。
  むぎ先輩の6日後に奏さんという順ですね」

純「……へぇ」

りの「凄い偶然だよね〜!」

さわ子「それだけの理由なの?」

律「あぁ、それだけの理由らしいぜ」

さわ子「それだけの為に、私はここまで引率者として呼ばれたって訳なの?」

律「……そうなるな」

さわ子「フフ……」ユラリ

プッチャン「お互い大変だなぁ、手のかかる娘たちでよぉ」

りの「私、プッチャンの娘じゃないもん!」

歩「心中お察しします」

さわ子「緊急で呼ばれて、飛行機に飛び乗り、特急で学園まで行って、ヘリに乗せられ、
    たどり着いた先は無人島……」

りの「きっと、お役に立ちますよこのしおり」ニコニコ

歩「叩きつける気持ちにもなりますね」

律「まぁな」

純「あれ、梓がいない……」キョロキョロ

プッチャン「アイツなら、伝えるだけ伝えてどっか行きやがったぜ」

11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/05(木) 10:21:02.07 ID:ak0JbB91o

――…


奈々穂「おい久遠」

久遠「なんですの?」

奈々穂「おまえも手伝え」

久遠「残念ですわ。私、頭脳派ですの」

唯「私もですの」

奈々穂「いえ、お客に手伝わせるつもりはありません。座っていてください」

唯「了解!」ビシッ

澪「あれ、律はどうした?」

香「律さんなら、引率の先生がいらっしゃるということで、ヘリポートへ向かいましたよ」

澪「テント設営逃げたな……律ッ!」

まゆら「へリ……? ヘリってなんですか?」

唯「空を飛ぶ乗り物だよ」

まゆら「そ、それは知ってます。ヘリのチャーターまでしたんですか?」

久遠「操縦はシンディさんでしてよ」

まゆら「ね、燃料費が……」

れいん「えっさ、ほいさ」セッセ

小百合「……」セッセ

澪「……よく働いている」

奈々穂「あぁ、私たちが誇る遊撃部の精鋭だからな」

澪「座って待っているだけでは悪いな。私たちも手伝おうか、唯」

唯「……あいたたた、持病の虫歯が」

澪「食後のケーキはおあずけか」

唯「わたしにも指示を下さいな」

久遠「そうですわね。和泉さんと組んでもらいましょうか」

唯「香ちゃんと一緒だね。お任せあれ」

テッテッテ

澪「持病の虫歯ってなんだ……」

奈々穂「それでは、せっかくなので澪さんは小百合と組んでもらいましょうか」

澪「は、はいっ、かしこますりますたっ」

奈々穂「噛んだ……。というか、どうして急に固くなったのですか?」

久遠「情報によると、澪さんは男性が苦手とありますわね」

奈々穂「どういう意味だ、久遠」ギロッ

久遠「そういう意味ですわ」フフン

澪「え、えっと……その、一人で島流しされそうだったので……思い出したというか……」モジモジ

梓「トラウマですか。聞こえていないみたいですよ」

奈々穂「夜の肝試しで勝負だ!」

久遠「望むところですわ」
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/05(木) 10:22:20.11 ID:ak0JbB91o

澪「不吉なワードが聞こえたような……?」

梓「むぎ先輩、知りませんか?」

澪「見てないけど、料理班じゃないかな」

梓「そうですか、それでは」

唯「あずにゃ〜ん」シクシク

梓「うっ……」

唯「足手まといにされちゃったよぉ〜」シクシク

梓「……しょうがないですね」

奈々穂「香! 客人を戦力外通告とはどういうことだ!」

香「ち、違いますよ!」

唯「うぉ〜ん」シクシク

奈々穂「うちの部下が失礼なことをした。すまない」

梓「いつものことですので、気にしないで下さい」

唯「どういう意味なのあずにゃ〜ん」シクシク

奈々穂「私もフォローするので、作業に戻りましょう」

唯「了解!」ビシッ

久遠「では、私は澪さんの方へ参りますわ」


香「私悪くないのに〜」ションボリ

梓「唯先輩、なにをやらかしたんですか?」

香「このポールがありますよね」

梓「テントに使う骨組みですか」

香「そうです。中に伸縮するゴムが入っているので、両方を引っ張って」

グググ

香「離す」

ジャキーン

香「こうやって、繋ぐ作業をしていたんです」

梓「指を挟んだ、と」

香「いえ、それなら痛みを訴えるじゃないですか」

梓「そっか……」

香「その手前、指を挟みそうになるので、止めさせたという訳です」

梓「……うん、間違ってない」

13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/05(木) 10:23:22.80 ID:ak0JbB91o

唯「こうやって〜」

グググ

奈々穂「……」ハラハラ

パキッ

唯「あり? 香ちゃんみたく、巧くできないね」エヘヘ

グググ

パキッ

唯「難しいな〜」

奈々穂「……」ハラハラ

グググ

パキッ

唯「むむ……」

グググ

パキッ

唯「なんですと……?」

奈々穂「……」イライラ

グググ

ジャキーン

唯「やったよ!」

奈々穂「すまない、戦力外だ」ポン

唯「通告!?」

14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/05(木) 10:25:10.07 ID:ak0JbB91o

久遠「向こうは楽しそうですわね」

澪「唯は周りを楽しませる才能があるから」

小百合「それは羨ましい」

れいん「はりー、急げー、超特急ー! 日が暮れちゃうよー!」

久遠「そうですわね。では、組み立てていきますわ」

澪「うん」

小百合「……」サッ

れいん「ちょちょいのちょーい、ってねー!」

久遠「完成ですわね」

澪「そんなバカな……!」

久遠「なにかおかしな点でもありまして?」

澪「いや、あれ……? 私の目がおかしいのかな。短時間ってレベルじゃないぞ」ゴシゴシ

れいん「これくらい、余裕、楽勝、絶好調ー!」

小百合「うむ」

奈々穂「よし。あとは虫が入ってこれないように網をひと回り貼り付けるだけだ」

れいん「はーい、はーい! あっしがやりまーっす!」

奈々穂「うむ、ではれいん、頼んだぞ」

澪「よし、作業工程を見逃さないようにするぞ」グッ

梓「それじゃ、料理班に行ってきます」

澪「あぁ、行ってらっしゃい」

れいん「完了!」

澪「はは……」

律「乾いた笑いだな。どうした?」

澪「目を離した一瞬で完了したんだ」

律「うむ、……さっぱり分からん」

プッチャン「お、手際がいいな、もうテントを設営し終えたのかよ」

りの「わぁー、この中でみんな寝るんだね〜」

さわ子「人数はいくつですか?」

奈々穂「極上生徒会からは、
    奏会長、私、久遠、まゆら、りの、小百合、れいん、香、聖奈さん、みなも、シンディさん、
    歩、プラス1、の13名です」

さわ子「大所帯ね……」

律「こっちは部長の私、ベースの澪、唯、キーボードのむぎ、ギターの梓、顧問のさわちゃん、
  会長の和、ジャズ研の純……」

唯「ちょいと、りっちゃんやい。わたしのギー太をお忘れかい」

律「姫子の9人だな」

唯「姫ちゃん来てるの!?」

さわ子「料理班にいるはずよ」

久遠「二名、ヘリに乗っていらしたそうですわね」

まゆら「」
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/05(木) 10:25:50.89 ID:ak0JbB91o

唯「行ってくるよ!」

ダダダッ

律「ウソだけどな」

奈々穂「料理が得意だと聞いて、料理班に向かわせたんだが……」

香「誰が得意なんですか?」

れいん「話の流れで分かるっしょー?」

香「???」

久遠「唯さんの妹さんですわ」

小百合「ほう……」

りの「なにを作ってくれるんでしょうか、楽しみです〜」ワクワク

プッチャン「キャンプの飯は大体相場が決まってるじゃねえか。カレーだろう」

香「な、なんですとぉー!!」

ダダダダッ

澪「?」

律「どうして香が勢いよく走って行ったんだ?」

久遠「妹さんに負けまいということでしょう」

奈々穂「あぁ……。香のカレーに対するこだわりは半端なものじゃないからな」

れいん「うむ」

小百合「うむ……真似をするな」

れいん「えっへへ〜」
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/05(木) 10:29:23.42 ID:ak0JbB91o




憂「じゃがいもを入れて……」

香「ちょっと待ったぁぁあ!!」

憂「!」ビクッ

香「はぁ……っ、材料……余ってますかっ?」

憂「は、はい……」

香「よ、よしっ。私も作りますっ!」

憂「えっと……」

和「鍋はこの大きい物、一つしかないけど」

香「な、なんですと」

シンディ「ノー…プロブレム……」

和「!」ビクッ

シンディ「ビッグ・鍋……持ってきた」

香「シンディさん! ナイスタイミングです!」

シンディ「グッ」グッ

香「イエーイ!」グッ

憂「……」ニコニコ

和「真鍋和です」

シンディ「シンディ・真鍋」

プッチャン「真鍋同士が、鍋を争っていたわけか」

香「争ってなんかないわよ。邪魔よ邪魔」シッシッ

りの「匂いに誘われてきました〜」クンクン

憂「まだルーを入れていませんけど……」

りの「ありゃ〜」アハハ

プッチャン「おい、あの戦力外がいねえぞ」

りの「プッチャン、そんな言い方しちゃだめだよ〜」

和「唯はまだ来てないわよ?」

プッチャン「誰を指しているのかどうして分かるんだよ」

和「……私と唯は幼馴染なのよ」

プッチャン「そうか、幼馴染ってのは伊達じゃねえな」

憂「和さんと人形が普通に喋ってる……! お姉ちゃん?」

香「そういえばそうね……。先にここへ走っていったのに……梓さんもいない」

和「梓なら、むぎを探しに行ったわ」

プッチャン「けっ、あのツインテールは要注意だぜ」

シンディ「…………好み……?」

プッチャン「バカ言ってんじゃねえ!」メラッ

シンディ「ソ、ソーリィ」アセアセ
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/05(木) 10:31:51.98 ID:ak0JbB91o

香「ま、そのうち来るでしょう」サッサッサー

りの「わぁー、和泉さんの包丁さばき、いつみても凄いねぇ〜」

香「これくらい当然よぉ〜」フフン

憂「〜♪」サッサッサー

シンディ「グレート」

憂「えへへ」

香「奏さまに褒めてもらうんだからぁ!」メラメラ

みなも「チョコも入れようよー!」

シンディ「ナイス、アイディーア」

和「あら……?」

りの「あ、和さんにはみなもちゃんのこと紹介していませんでしたね」

みなも「6期生、桂聖奈の妹、桂みなもで〜す!」

憂「6期生?」

プッチャン「早い話が、会長や聖奈、シンディが高校三年生の1期生。ソイツは中学1年生ってことだ」

和「なるほど」

憂「みなもさん、今までどこへ行っていたんですか?」

みなも「みなもねー! 果物採ってきたよ! ジャジャーン!!」

憂「わぁ……」

香「げげっ!」

みなも「トゲトゲしてて運ぶの大変だったよ〜!」

プッチャン「おい、これは……」

りの「プッチャン、私、この果物見たことないよぉ」

香「ドリアンじゃないの! 元あった場所へ置いてきなさい!」ギャー

みなみ「えー、お願い! 今度はちゃんと世話するからぁ!」

香「ダメよ! あんた、この前もそういって仔犬を拾ってきて、結局私が世話をすることに――って、
  なにやらせんのよ!」

プッチャン「小動物拾ってきた設定のドラマかよ」

シンディ「ワンダフル」

香「拾ってきたのは仔犬でわんわんワンダフルって、やかましいわ!」

みなも「きゃはは」

りの「お腹空いちゃった〜」

憂「〜♪」サッサッサー

和「唯はどこへ行ったのかしら」

18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/05(木) 10:35:09.61 ID:ak0JbB91o




???「……!」

シュッ


梓「あれ? 誰かがいると思ったんだけど……?」

「まぁ、そうですか」

梓「あ……いた」





奏「えぇ、楽しい生活を送っているわ」

紬「楽しそうな仲間ですね」ニコニコ

奏「とても、恵まれました」

紬「……」





梓「出るタイミングを外したなぁ……」コソコソ


???「……」





奏「奈々穂さんと出会うまでは、諦めていました」

紬「……」

奏「こんな生活を送ること。普通の人生を、歩いていくことに」

紬「……」





梓「しまった……。退散しよう」


???「……」チャキン





奏「力なんて欲しくは無かった」

紬「……」





梓「力……?」


???「っ!」スッ

***「それを納めてください、琴葉さん」

琴葉「断る」

***「琴葉さんの背中に突きつけているもの、なんだか分かりますか?」
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/05(木) 10:37:42.96 ID:ak0JbB91o

琴葉「人差し指」

***「正解です」


梓「?」


琴葉「!」サッ

***「!」サッ


梓「話し声が聞こえたような……?」


シュタッ

琴葉「神宮司家の秘密は漏らしてはいけない」

***「それは知っています」

琴葉「私は任務を遂行するのみ」

***「……」

琴葉「邪魔をするなら、貴方とて排除せざるを得ない」スッ

***「……」スッ

聖奈「は〜い、そこまで〜」

琴葉「聖奈さん……」

聖奈「琴葉ちゃん、投剣はしまってくださいね〜」

琴葉「……」

***「……」

聖奈「歩ちゃんも、ね?」

歩「……はい」

聖奈「よろしい♪」


ガサガサッ


琴葉「!」サッ

歩「!」サッ

梓「あれ……?」

聖奈「どうかしましたか〜?」

梓「聖奈さんの他に誰か居ませんでしたか?」

聖奈「ふふっ、どうでしょう〜」

梓「?」

聖奈「道に迷いましたか?」

梓「いえ、むぎ先輩を探していたんですが」

聖奈「……」

梓「奏さんと話し込んでいるようなので、邪魔しちゃいけないと思って声をかけるの止めました」

聖奈「なにか、聞きましたか?」

梓「……」

聖奈「……」
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/05(木) 10:39:16.97 ID:ak0JbB91o

梓「多分、重要なことだと思いますけど」

聖奈「けど?」

梓「忘れることにします」

聖奈「……どうして、ですか?」

梓「質問が多いですね」

聖奈「大事なことですので♪」

梓「それを言われると、重要性が高くなるような気がするんですが」

聖奈「うふふ♪」

梓「その重要なことに触れると『奏さんの今』を壊してしまいそうだから、忘れることにします」

聖奈「そうですか」

梓「……それでは、私は戻ります」


スタスタスタ


聖奈「……だ、そうですよ♪」


シュタッ

琴葉「……」


ガサガサッ


琴葉「ッ!?」

唯「あり?」

聖奈「まぁ、唯さん。どうしてここに」

唯「あずにゃんの匂いに引き寄せられたんだよ」クンクン

琴葉「……気配を感じなかった」

唯「後ろからむぎちゃんの気配を感じるよ」キラン

紬「あら、こんなところでどうしたの?」

唯「むぎちゃん、料理班ってどこか知ってる?」

紬「えっと、向こうに煙が立っているでしょ?」

唯「あ、ほんとだ〜」

紬「道に迷ったのね」

唯「ち、違うよ、冒険してたんだよ」

紬「みんなのところに戻りましょうか」

唯「助かるよ〜」


スタスタスタ

21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/05(木) 10:39:44.51 ID:ak0JbB91o

聖奈「迷っていたんですね〜」

琴葉「何者?」

聖奈「さぁ♪」

奏「私たちも、参りましょうか」

聖奈「そうですね」

琴葉「……会長」

奏「分かっています。彼女になら、知られても平気でしょう」

琴葉「……」

聖奈「琴吹さんとどんなお話を?」

奏「ただの世間話です。他愛の無い……世間話をね」

聖奈「そうですか♪」

琴葉「……」

奏「琴葉も、行きましょう」ニコ

22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/05(木) 10:42:06.25 ID:ak0JbB91o

――…


りの「アユちゃん、どこ行ってたの?」

歩「ちょっとね、デザートの果物を採ってきたの」

プッチャン「おい、そりゃあ……」

りの「わぁ、ドリアンだぁ」

香「置いてきなさい!」

歩「持ってくるの大変だったんだけどな」

香「ダメなものはダメよ! 家の家計が苦しいの分かっているでしょ!?」

歩「???」

プッチャン「いつまでトレンディードラマやってるつもりだよ」

香「こ、こほん」

律「まぁまぁ、ものは試しだ。食してみようぜ」

和「はい、包丁」

律「私が切るのかよ。……まぁ、いいけど」スッ

憂「律さん、向こうの台でお願いします」

香「行ってらっしゃいませ」

律「う、うん。……匂いがキツイとは聞いていたけど、そこまでなのか?」

みなも「さぁ〜? みなも知らな〜い」

りの「わたしも知らな〜い」

プッチャン「おいりの、引き返せ! 俺を巻き込むんじゃねえ!」

歩「私も気になるな」

シンディ「ノー、プロブレム。グッバイ」

りの「シンディさんも問題ないって言ってるよ?」

プッチャン「大有りなんだよ! 別れの言葉使ってたじゃねえか!」

唯「どうしたの〜?」

紬「りっちゃんが持ってるそれは……」

律「今から田井中律の解体ショーが始まるぜ」

紬「憂ちゃんの手伝いしてくるね!」スタコラサッサ

律「マジかよ……」

歩「あ……」

琴葉「……」

奏「あら……」

聖奈「み、みなもちゃん?」

みなも「どうしたのお姉ちゃん?」

聖奈「そ、それをどうするつもりなの……!?」

みなも「律さんのドリアン解体ショーで〜す♪」

律「……」
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/05(木) 10:44:30.89 ID:ak0JbB91o

奏「りの、向こうでリリアンしましょう?」

りの「奏会長……、すいません、後でいいですか?」

奏「りの……」

聖奈「そうだ、久遠さんと打ち合わせをしなくちゃ」スタコラサッサ

奏「奈々穂さんと来月の定例会議の日程を決めなくては」スィー

歩「行かないの?」

琴葉「……私も失礼する」

りの「琴葉先輩も見ていきましょうよ」ガシッ

琴葉「ッ!?」

プッチャン「へっへっへ、そのまま離すなよりの。道連れは多い方がいいからな」

律「よし……。やるか……」

唯「りっちゃん、こんな大きい果実を切るなんて凄いね」

律「えっと、唯が切るか?」

唯「?」

みなも「りつさ〜ん、早く〜」

律「うーん……みんなの反応を見ると、切るのに抵抗が生まれたんだよなぁ」

歩「はやく〜」

琴葉「ッ!!」フルフル

りの「はやく〜」ルンルン

律「まぁ、大丈夫だろ」スッ


サクッ


律「おぉ、こんな――」


モワァ〜


律「散れッ!」サッ

歩「!」サッ

琴葉「!」サッ

みなも「ふぎゅっ!?」

りの「ふぎゃぅ!?」

プッチャン「うわ、やっぱ臭ぇ!」


ザザッ

律「あっぶねぇ、制服に匂いでも付いたら純になにを言われるか……。
  二人ともいい反射神経だな、っていないし」







梓「ここはどこ……」



24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/05(木) 10:45:28.78 ID:ak0JbB91o
つづく
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/05(木) 21:08:27.99 ID:ak0JbB91o

澪「よいしょっと……」

純「これで人数分は用意できましたね」

小百合「助太刀、感謝します」

れいん「はぁー、疲れたー、しんどー、ヘビィだったー」

純「重力関係はないね」

れいん「じゅうりょく?」

純「……通じないか」

奈々穂「みんなご苦労だった。どうぞ、むぎ茶です」

澪「ど、どうも」

小百合「ゴクゴク」

れいん「ぷふぁー、うんまぁーい」

純「ヒンヤリしてて気持ちいいですね」

澪「あぁ……」

奈々穂「夏も後半にさしかかるが、まだまだ暑さが厳しいな」

久遠「奈々穂さんもどうぞ」

奈々穂「うむ、すまない」

澪「……」


シュタッ

歩「……ふぅ」

琴葉「……悪夢だ」

澪「!」ビクッ

久遠「どうかなさいましたの?」

歩琴葉「「 いえ、なんでもありません 」」

久遠「様子がおかしいですわね」

純「澪先輩、見てください」

澪「綺麗な夕陽だな……」

小百合「絶景だ」

れいん「それより腹へったー!」

奈々穂「れいんは花より団子だな」

琴葉「少し、聞きたいことがあるのですが」

澪「え? わ、私?」

琴葉「はい」

歩「……」
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/05(木) 21:09:40.62 ID:ak0JbB91o

澪「な、なにかな?」

琴葉「中野梓……さんについて」

純「なんでも答えましょう。弱点から大好物まで」

澪「じゃ、弱点?」

奈々穂「そんなことを聞いてどうする?」

琴葉「いえ、弱点ではなく」

久遠「中野梓、桜が丘高校2年生。軽音部に所属し、リズムギターを担当」

奈々穂「リズムギターってなんだ?」

小百合「分かりません」

れいん「んもぅ、ダメだな〜。リズムギターっていうのはですね〜」

奈々穂「ふむ……」

小百合「……」

れいん「えっとぉ……」

純「っていうのは?」

れいん「リズムギターっていうのはぁ……」タラタラ

澪「リズムを取りながらギターを弾くことだ」

れいん「そうそう、そういうことっすよ〜。リズムが大切〜」

奈々穂「なるほど」

久遠「リズムを取ることは音楽にとって欠かせない要素ですわ」

純「そうそう。リズムギターに限ったことじゃない」

小百合「れいん、本当は知らなかったな」

奈々穂「なんだと! れいん!」

れいん「うわっ、トラップ、トリック、策略!」

歩「話が逸れてる」

久遠「特性はネコで、大好物はたいやき。部室には梓さん専用のティーカップがある、というデータが」

純「……」

澪「……」

奈々穂「おい久遠、二人が引いているぞ」

久遠「お、隠密は情報を活かすことを得意としていますので」アセアセ

琴葉「副会長……」

久遠「琴葉さんまで……って、あなたが調べたことですのよ?」

琴葉「……」

歩「意外とノリがいいんだね、矩継さんって」
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/05(木) 21:10:49.99 ID:ak0JbB91o

れいん「副会長〜、いくらなんでもぷらいばしーってもんがあってですねぇ……」

小百合「副会長、私もいささか衝撃を隠しきれない」

奈々穂「ええい! 私に向かっていうな! 副会長違いだッ!」

澪「ふふっ」

純「あははっ」

琴葉「……」フフッ

歩「あ、矩継さんが笑った……」

れいん「えぇっ?!」

琴葉「……」シーン

奈々穂「久遠しか見ていないという、半ば伝説化している琴葉の笑顔だと……」

純「そんな伝説があるんですか」

久遠「ありませんわ、みなさんがからかっているだけですのよ」

澪「……」

れいん「ほれほれ、もう一度笑ってみなさいよ〜」ツンツン

小百合「ほれほれ」ツンツン

琴葉「過ぎるぞ、二人とも」チャキン

れいん小百合「「 すいません 」」

純「手裏剣!?」

澪「ほ、本物?」

久遠「えぇ、もちろんですわ」

歩「私のはクナイ」ボソッ

奈々穂「妙に張り合うな、歩」

歩「えへへ」


ガサガサッ


琴葉「!」

小百合「!」

れいん「!」

奈々穂「いや、構えを解け三人とも。梓だ」

梓「あ、あれ……?」

歩「……」

純「道に迷ったか、迷子の仔猫さんめ……」

梓「森の中に太い縄に巻かれた木がありましたけど、あれは神木ですか?」

久遠「そうですわ。あの神木には色々と謂れがありますので、お近づきになりませぬよう、
   お気をつけ下さいませね」ニコニコ

梓「……そうですか」

澪「い、謂れってなんですか?」ブルブル

奈々穂「なに、大したことでは……。詳しく聞きたいのであれば食事の後にでもしましょう」

梓「できれば今、聞きたいです」

澪「あ、梓……」
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/05(木) 21:12:57.56 ID:ak0JbB91o

純「このワガママネコ娘っ!」シュッ

梓「っ!?」


ピト


梓「……なにを、投げたの純?」

純「手裏剣さ」

梓「……なんだ、引っ付き虫か。その年で忍者ごっこ?」シュッ

歩「う……」グサッ

純「ふふ、ここまで届かなかったな。ごっこに負けたということだ」ニヤリ

梓「……」

れいん「はいはーい! あっしも参戦〜!」

小百合「れいん、おまえは命中率が高いから――」

れいん「秘技、乱れ虫!」シュシュシュシュシュッ

奈々穂「うわ! やめろれいん!」ピト

久遠「きゃっ」ピト

琴葉「……」ササッ

歩「ごっこ、かぁ……」ピト

澪「懐かしいな、小さい頃よくやったよ」ピト

純「あっ、澪先輩に悪い虫が付いた!」

梓「悪いのは純でしょ」ハァ

歩「……」

小百合「おい、れいん、私にだけ集中していないか」ジリ

れいん「気のせいじゃない?」ジリ

小百合「度を越えた戯れは感心しないな」カチャ

れいん「へぇ、琴葉に同じことをした、あんたがそれを言うんだぁ」スッ

梓「え……」

純「えっと……」

澪「かかか、刀……!?」

奈々穂「いえ、刀ではなく木刀です」

梓「あの二人の空気が……」

奈々穂「いつものじゃれ合いだ、気にしないでくれ。久遠、先に三人と一緒に料理班へ向かってくれ」

久遠「それはかまいませんが……。奈々穂さん」

奈々穂「……なにかあれば連絡する」

久遠「えぇ。それでは行きましょうか」

純「あの、ふざけた私が言うのもなんですけど、大丈夫ですか?」

久遠「いつものことですわ。後でお詫びをさせますわね」ニコ

澪「……」

歩「私たちもいますから」

琴葉「深刻なことではありません」

梓「そう、ですか」
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/05(木) 21:18:10.02 ID:ak0JbB91o

――…


久遠「近くには温泉が沸いておりますので、ティータイムの後にでも、みなさんと参りましょう」

純「温泉! やった!」

澪「……」

梓「あの、久遠さん、一つ聞いてもいいですか?」

久遠「なんでしょう、なんでも答えましてよ」

梓「二人はどうして残ったのですか?」

久遠「二人……とは?」

純「?」

梓「琴葉……さんと、歩さんです」

久遠「……」

梓「……」

澪「……あ」

唯「あずにゃああん!」ガバッ

梓「あぶないっ」サッ

澪「うわっ!」

唯「どうして避けるの!?」スリスリ

梓「残暑が厳しいので」

唯「まだ八月だよっ!?」スリスリ

澪「唯、離れてくれないか」

唯「でへへ〜」

「あずさちゃ〜ん」

梓「むぎせんぱ〜い!」

テッテッテ

唯「しくしく」シクシク

久遠「ふふっ、あの二人、まるで姉妹のようですわね」

純「この夏に色々あって……、梓が紬先輩に懐いているだけなんですけどね」

久遠「奏会長とりのを見ているようですわ」

澪「……あの――」

律「なんだ、梓はそっちにいたのか」

澪「う、うん」


ザザッ


律「メーデー、メーデー。りの、応答せよ」

『はい、なんでしょう、りっちゃんさん』

律「梓は無事、帰還した。戻ってまいれ」

『了解で〜す』
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/05(木) 21:19:09.73 ID:ak0JbB91o

澪「そうか……。一応言っておくけど、メーデーは遭難信号だぞ」

律「……え」

純「律先輩……ある意味、遭難していますね」

律「うるさい。ってか、どういう意味だよっ」

久遠「クスッ」

紬「あずさちゃん、引っ付き虫が付いてるわ」ヒョイ

梓「あ、まだ付いていたんですか」

紬「森の中を歩いていたの?」

梓「いえ、通りすがりの髪がボンバーな人にやられました」

紬「まぁ、そうなの。見当が付くけどね」ウフフ

梓「困った人ですね」アハハ

純「……」


ガサガサッ


プッチャン「ちゃんといやがったか」

りの「よかったぁ〜」

和「……森で彷徨っているのかと思ったわ」

さわ子「迷惑な子ねぇ」

律「4人と1体で探していたんだぞ」

梓「お騒がせしました」ペコリ

奏「りの、お疲れさま」

りの「あ、奏会長〜。わたくし、しっかりと捜査をしてまいりました」ビシッ

奏「捜査、じゃなくて捜索ね。……動かないで、引っ付き虫が」ヒョイ

りの「わぁ、気付きませんでした〜。ありがとうございます」

奏「どんどん付けて来ていいのよ」ウフフ

りの「私だけ付いてるなんて、おっちょこちょいですね」アハハ

澪「これがデジャヴというものか」

まゆら「多分、違います……。
    みなさん、座って待っていてください。準備は私たちでできますから」

律「それは申しわけない。唯と梓が手伝おうじゃないか」

梓「手伝います」

純「唯先輩の代わりにわたしが行きます」

唯「りっちゃんのデザートはドリアンにしようね。ヒソヒソ」

純「そうしましょう。ヒソヒソ」

律「ヒソヒソってバッチリ聞こえているんですけどー」
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/05(木) 21:20:33.71 ID:ak0JbB91o

澪「梓がどうかした?」

律「あぁ、ちょっと所在が分からなかったから探しに行ってもらってたんだ。
  暇だったしな」

澪「」ヒソヒソ

和「そ、それは本当なの……?」ゴクリ

澪「……」コクリ

律「な、なんて言ったんだ?」

和「なんでもないわ、気にするほどのものではないから」

律「すいません、私も働きますから仲間外れにしないでください」

澪「……」

和「本当ね、自ら働きだしたわ」

律「まんまと乗せられたよ!」

さわ子「どう、うちの子達は」

プッチャン「フン、認めないわけにはいかねえな」

さわ子「意外と物分りいいのね」

プッチャン「俺を侮るんじゃねえぜ……?」

さわ子「フフ……」

プッチャン「フッ……」

シンディ「グレート」

奈々穂「なにがだ」

れいん「腹減ったー!」

小百合「……」

香「よっしゃあー! 香特製、インド人もビックリしてスプーンを使い出すカレー、出来たぁ!」

憂「こっちも出来ました」

香「名前はなんですか?」キラキラ

律「早くもバトルの火花が散っております」

憂「はちみつリンゴカレーです」ニコニコ

香「つ、強い!」

れいん「管理人さんの料理も凄いんだぞー!」

小百合「今日は来れなくて残念だ」

和「確か、小学五年生だったわね」

律「……マジかよ、すげぇな、ここ」

れいん「へへーん、どんなもんでーい」

小百合「れいんが威張ることじゃないだろう」

れいん「えっへへ〜」

純「雰囲気が落ち着いてますね」

澪「……うん、よかった」

奈々穂「迷惑かけた、すまない」

純「いえいえ」
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/05(木) 21:21:49.03 ID:ak0JbB91o
>>30-31 しくじりました。
33 :30訂正 :2012/07/05(木) 21:24:42.19 ID:ak0JbB91o

澪「梓がどうかした?」

律「あぁ、ちょっと所在が分からなかったから探しに行ってもらってたんだ。
  暇だったしな」

澪「そうか……。一応言っておくけど、メーデーは遭難信号だぞ」

律「……え」

純「律先輩……ある意味、遭難していますね」

律「うるさい。ってか、どういう意味だよっ」

久遠「クスッ」

紬「あずさちゃん、引っ付き虫が付いてるわ」ヒョイ

梓「あ、まだ付いていたんですか」

紬「森の中を歩いていたの?」

梓「いえ、通りすがりの髪がボンバーな人にやられました」

紬「まぁ、そうなの。見当が付くけどね」ウフフ

梓「困った人ですね」アハハ

純「……」


ガサガサッ


プッチャン「ちゃんといやがったか」

りの「よかったぁ〜」

和「……森で彷徨っているのかと思ったわ」

さわ子「迷惑な子ねぇ」

律「4人と1体で探していたんだぞ」

梓「お騒がせしました」ペコリ

奏「りの、お疲れさま」

りの「あ、奏会長〜。わたくし、しっかりと捜査をしてまいりました」ビシッ

奏「捜査、じゃなくて捜索ね。……動かないで、引っ付き虫が」ヒョイ

りの「わぁ、気付きませんでした〜。ありがとうございます」

奏「どんどん付けて来ていいのよ」ウフフ

りの「私だけ付いてるなんて、おっちょこちょいですね」アハハ

澪「これがデジャヴというものか」

まゆら「多分、違います……。
    みなさん、座って待っていてください。準備は私たちでできますから」

律「それは申しわけない。唯と梓が手伝おうじゃないか」

梓「手伝います」

純「唯先輩の代わりにわたしが行きます」

唯「りっちゃんのデザートはドリアンにしようね。ヒソヒソ」

純「そうしましょう。ヒソヒソ」

律「ヒソヒソってバッチリ聞こえているんですけどー」
34 :31訂正 :2012/07/05(木) 21:25:23.07 ID:ak0JbB91o

澪「」ヒソヒソ

和「そ、それは本当なの……?」ゴクリ

澪「……」コクリ

律「な、なんて言ったんだ?」

和「なんでもないわ、気にするほどのものではないから」

律「すいません、私も働きますから仲間外れにしないでください」

澪「……」

和「本当ね、自ら働きだしたわ」

律「まんまと乗せられたよ!」

さわ子「どう、うちの子達は」

プッチャン「フン、認めないわけにはいかねえな」

さわ子「意外と物分りいいのね」

プッチャン「俺を侮るんじゃねえぜ……?」

さわ子「フフ……」

プッチャン「フッ……」

シンディ「グレート」

奈々穂「なにがだ」

れいん「腹減ったー!」

小百合「……」

香「よっしゃあー! 香特製、インド人もビックリしてスプーンを使い出すカレー、出来たぁ!」

憂「こっちも出来ました」

香「名前はなんですか?」キラキラ

律「早くもバトルの火花が散っております」

憂「はちみつリンゴカレーです」ニコニコ

香「つ、強い!」

れいん「管理人さんの料理も凄いんだぞー!」

小百合「今日は来れなくて残念だ」

和「確か、小学五年生だったわね」

律「……マジかよ、すげぇな、ここ」

れいん「へへーん、どんなもんでーい」

小百合「れいんが威張ることじゃないだろう」

れいん「えっへへ〜」

純「雰囲気が落ち着いてますね」

澪「……うん、よかった」

奈々穂「迷惑かけたな、すまない」

純「いえいえ」
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/05(木) 21:30:38.12 ID:ak0JbB91o

久遠「そうだ、梓さん」

梓「……?」

久遠「先ほどの質問に答えていませんが、少しよろしいですか?」

梓「……うん」

久遠「質問の意図が理解できていませんので、もう一度仰っていただきたいのですが」

梓「えっと、なんだっけ……?」ハテサテ

久遠「琴葉と歩、二人があの場に残ったことについて、ですわ」

奈々穂「なんだ、それは?」

久遠「お静かに」

奈々穂「……」

梓「れいんと小百合の二人が睨み合っている場面で、どうしてあの二人が残るのか、単純に気になっただけです」

久遠「それだけ、ですか?」

梓「???」

久遠「いえ、よくある、なんて言いましたが、本当のところは滅多にありません。
   あの二人があんな空気を出すこと自体が」

梓「……」

奈々穂「おい、変に気を遣わせるようなことを――」

久遠「奈々穂さん、もう見抜かれていましてよ。あれが茶番だってこと」

奈々穂「……そうか」

梓「茶番……、なるほど」

久遠「三人を先に帰らせて、作戦を練っただけのこと、ですわね」

梓「肝試しですか」

久遠「そういうことですわ」

奈々穂「まったく、それを言ったら警戒されてしまうじゃないか」

久遠「いいではありませんか。それを上回る演出を行えばいいだけのことですから」

奈々穂「まぁ、な」

梓「……それじゃ、手伝ってきます」


スタスタスタ


久遠「……」

奈々穂「……」

聖奈「巧い交わし方ですね〜」

久遠「聞いていたのなら、誘導の手伝いをしてくださってもよかったのに」

聖奈「わたしはそこまで巧く交わせませ〜ん♪」

久遠「……ふぅ。それで奈々穂さん、ご神木の方は……」

奈々穂「問題ない。変わった様子は無かったからな」

歩「はい。梓さんは遠目にあの木を確認しただけだと思います」

琴葉「範囲内に入った形跡はありませんでした。大丈夫です」

久遠「そうですか……。ご苦労様ですわ」
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/05(木) 21:31:38.97 ID:ak0JbB91o

奈々穂「今回の件はただの偶然なのかどうか、分からないな」

久遠「会長の気まぐれではない、と?」

聖奈「どうでしょう〜」

奈々穂「まぁいい。肝試しでコースを外れさえしなければな」

久遠「そうですわね」

唯「おまたせ! カレーフルコースだよ!」ドンッ

奈々穂「大盛り……ですね」

唯「りのちゃんが、ういと香ちゃんの両方のカレーをミックスしちゃったんだよ〜」

奈々穂「それとこれとは関係が無いと思うが……」

聖奈「みなさん、行き渡りましたか〜?」

「「「 はーい! 」」」

聖奈「それではみなさ〜ん」

みなも「両手を合わせて〜」

律「いよぉー!」


パンッ


澪「違うだろ!」

みなも「きゃははっ!」

プッチャン「見事なほど全員がやりやがったぜ」

奈々穂「極上生徒会の団結力を甘く見ないことだ」

純「軽音部の団結力を――」

聖奈「いただきま〜す」

奏「いただきます」

りの「いただきま〜す!」

紬「いただきます」

梓「……いただきます」

「「「 いただきまーす! 」」」

37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/05(木) 21:33:30.07 ID:ak0JbB91o

――…


「「「 ごちそうさま〜! 」」」

香「ハァ……。奏さまに褒めてもらいたかったのにぃ」ションボリ

律「おいしかったぞ、憂ちゃん、香」

憂「お粗末さまでした」

香「……どうも」

まゆら「憂さんはお家でも料理されているんですか?」

憂「はい。母の手伝いをしています」

唯「わたしの妹です」

澪「この場にいる全員知ってるぞ」

まゆら「とってもおいしかったです」

れいん「ほんとほんと、絶品だったさ〜」

憂「そんな、私なんてまだまだですよ。もっと頑張りたいです」

律「唯も頑張らないとな」

唯「はいよ」

香「ハァ〜……」ボケー

奏「おいしかったわ、憂さん、香」

憂「ありが――」

香「いよっしゃぁぁあああ!!!」ガッツ

憂「!」ビクッ

律「……」

奈々穂「……」

まゆら「……」

みなも「……」

澪「……」


シ ー ン


香「そんな、私なんてまだまだですよぉ。
  もっと腕を磨いてぇ、食べてくださった人たちを幸せにしたいなぁ、なんて思ったりしてますぅ」モジモジ

律「だれだ、こいつ」

奈々穂「そういえば、紹介がまだでしたね。遊撃部所属、和泉香です」

香「それでぇ、わたしの心が奏会長に届いたらいいなぁ、なんて」テヘ

奏「あら、むぎさんとりのはどこへ行ったの?」

久遠「梓さんと聖奈さんを連れてテントの方へ向かいましたわ」

奏「そうですか」

律「声すら届いていないぞ」

香「りの……! 何度わたしの邪魔をするのよ……!」メラメラ

奈々穂「それでは諸君。お風呂に入る前に肝試しを始めよう」

澪「すいません、そろそろかえらないとおやがしんぱいするのでわたしはこれでしつれいします」
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/05(木) 21:35:38.37 ID:ak0JbB91o

まゆら「小学生が作文を音読したような棒読みっぷりですね」

れいん「わたしもかえってべんきょうをしないといけないです」

小百合「れいんもか」

奈々穂「なんだ、二人とも怖いのか?」

澪れいん「「 はい、こわいです 」」

奈々穂「正直だな。悪いが全員参加だ。諦めてくれ」

澪「よいしょっと。船は何時の出港かな?」

律「諦め悪いな」

久遠「船は明日までありませんわね」

れいん「なら、泳いで帰ります」

憂「この距離をですか?」

れいん「楽勝、常勝、一等賞」

小百合「動揺している。いつもの切れが無い」

奈々穂「夜の海を渡るには、お前達にはまだ早い」

唯「昼ならいいんだね。凄いねりっちゃん、かっこいいねりっちゃん」ワクワク

律「う、うん。私に何を期待している、唯」

澪「灯りを確認しながら泳げばいいんだ」

律「烏賊か」

澪「烏賊だ」

律「……認めやがった」

れいん「イカ?」

小百合「習性の話だ。座れ、れいん」ガシッ

れいん「あぁ! 捕まった!」

奈々穂「それでは、説明を行う」


……

………


奈々穂「――と、いうことだ」

純「なるほど、指定場所にあるお札を取ってきてここまで戻ればいいわけですね」

奈々穂「あぁ。道中、仕掛けを用意してあるから心して行くがいい」

奏「まぁ、怖いわね」

香「はいはい! 奏さまは私と行きましょう! 悪霊なんてぶっ飛ばしますよ!」

奏「頼もしいわ」ニコニコ

香「よ、よぉし!」メラメラメラメラ

聖奈「では、くじ引きを始めまーす!」

香「えぇー! くじですかぁー?」ブー

奈々穂「四人一組だからな。自分の運を信じろ、香」

まゆら「くじ引きは定番ですよ」

香「は、はい。……ソウデスヨネ」
39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/05(木) 21:38:09.45 ID:ak0JbB91o

聖奈「それでは、会長から。1〜5の数字が書かれた紙が入っていますので、引いてください♪」

奏「それでは」ガサゴソ

りの「何番ですか? 何番ですか? 奏会長〜」ワクワク

プッチャン「落ち着け、りの」

奏「1番ね」

香「1番ですね……!」

さわ子「わたしはパスするから、一組は5人でいいんじゃないかしら」

久遠「21人を5チームに分け、余った一人を5番チームにしましょう、奈々穂さん」

奈々穂「そうだな。5番を一枚取ってください、聖奈さん」

聖奈「は〜い。えっと……」

ガサゴソ

聖奈「これかな?」

ピラッ

聖奈「正解でした〜。紬さん、どうぞ♪」

紬「では」ガサゴソ

律「あれ、なんで誰も驚かないんだ? 今、聖奈は一発で5番を引き当てたんだぞ?」

純「凄いですね」

律「……私の持ってる常識ってなんだろう」シミジミ

梓「五人チームを引いてくださいむぎ先輩!」

紬「ごめんね、1番だったの」

梓香「「 えぇー!? 」」

久遠「最初から引き合うなんて……」

和「21分の2の確率ね」

聖奈「さぁ、どんどん引いてくださ〜い♪」

琴葉「3番」

歩「2番」

憂「4番です」

小百合「4番だ」

れいん「あー、小百合と別だよ〜。あっしは3番!」

みなも「5番だよ〜!」

久遠「3番ですわね」

唯「5番だす!」

シンディ「フォー」

りの「あちゃ〜、奏会長とはぐれちゃいました。ざんね〜ん」

奏「何番なの?」

りの「2番です。アユちゃんよろしくね!」

歩「うん」

プッチャン「そこの二人がほくそ笑んでるぜ」

梓香「「 よしよし、まだ1番は出てこない 」」ウッヒッヒ
40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/05(木) 21:39:50.09 ID:ak0JbB91o

和「4番ね」

純「3番!」

まゆら「5番ですね」

聖奈「みなもちゃん、今の状況分かる?」

みなも「うん。残るは1番、2番、5番が二枚づつ空いてて、3番4番は決定だよ!」

聖奈「は〜い、ありがと〜♪」


ヒュッ


聖奈「あら?」

奈々穂「では、取ります」

聖奈「奈々穂さん、今、取りませんでしたか?」

奈々穂「いえ、まだ取っていませんが……?」

澪「ヒィッ!」

聖奈「気のせいですね。澪さんもどうぞ♪」

澪「は、はい」ゴクリ

香「2番を引け、2番を引け」ブツブツ

梓「1番を残せ、1番を残せ」ブツブツ

律「なんの呪いだ」

久遠「奈々穂さん、澪さん。引いても開かないままでお願いしますわ」

奈々穂「ふふっ、そうだな」

澪「わ、わかった。おばけなんてこわくない!」

聖奈「あとは梓さんと律さん、香さん、私の4人で〜す」

みなも「じゃあ、お姉ちゃんの分取っちゃうね!」

聖奈「ありがとう〜、あ! みなもちゃん!」

梓「!」

みなも「お姉ちゃんは5番で〜す!」

香「はぁ、びっくりしたぁ……」ホッ

律「それじゃ引くぜ」

梓「り、律先輩! 私から引きます!」

律「お、おう……」

梓「こいこい」ガサゴソ

香「先に引きますね」

律「まぁ、残り物には服着たるっていうしな。なんつって」


シ ー ン


梓「早く引いてください」

律「なんだよ! 言葉で分かるのかよ今のギャグ!」
41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/05(木) 21:41:16.99 ID:ak0JbB91o

梓「そんな諺ありません」

香「みなさん待ってますよ」

律「ピリピリしてんな、この二人……」

聖奈「どうぞ♪」

律「こうなったら私が1番引いてやる……って、あれ、無いぞ?」スカスカ

聖奈「???」

りの「一枚足りな〜い」ドロドロドロ

プッチャン「へっ、怪奇現象なんてそうそうあるわけねえぜ」

香「あんたが言うな!」

律「誰か二枚取ったか……?」

澪「律の驚かせるための小芝居だから、放っておこう」

奈々穂「では、一斉に開くぞ」

梓「1番を……!」ゴクリ

香「お願い! 奏さまと肝試し!」


ペラッ


梓「」 

香「」

奈々穂「1番か」

澪「1番だ……ごめん、梓」

律「誰も取ってないのか……?」

久遠「1番チームは、奏会長、紬さん、奈々穂さん、澪さんですわね」

聖奈「2番チーム、りのさん、香さん、歩さん、梓さん」

久遠「3番チーム、私、琴葉、純さん、れいん」

聖奈「4番チーム、小百合ちゃん、憂さん、和さん、シンディさん」

久遠「5番チーム、みなも、聖奈さん、まゆらさん、唯さん……となりますが」

律「……」

さわ子「りっちゃん、一人ね」

42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/05(木) 21:42:44.93 ID:ak0JbB91o

――…


さわ子「行ってらっしゃい」

律「ほんとに一人だもんなー……」

さわ子「どこにでも合流できるという条件付けてもらったじゃない」

律「まぁ、梓と香が譲れとうるさかったくらいだからな。ある意味特別だぜ」

さわ子「うん、前向きでいいわね。後ろ振り向いちゃダメよ?」

律「それは人生教訓? それとも脅し?」

さわ子「ほらっ、さっさと行きなさい! 一人でビリになったら大変よ!」

律「うわ、それは嫌だ! 行ってくる!」

テッテッテ

さわ子「罰ゲームは皿洗い。……あの量を一人でやるには気が重いわよね」

43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/05(木) 21:45:27.20 ID:ak0JbB91o


― 5番チーム ―


唯「そろそろ、りっちゃんがスタートしたころだね」

みなも「律さんを待ってよーよ! 5人で皿洗いした方が楽だって!」

聖奈「あら、負ける気でいるの?」

みなも「そうじゃないけど〜」

まゆら「コースは自由ですから、ここで待っていても律さんが通る可能性は高くありませんよ」

みなも「そうなんだ、じゃあ進もうよ」

唯「ふふ〜ん、ららら〜ん」ルンルン

聖奈「唯さん、楽しそうですね〜♪」

唯「楽しいよ〜♪」

みなも「怖くないの〜?」

唯「みんなと一緒だから平気さ」キリ

みなも「わ〜! 心強〜い!」

まゆら「そういうみなもちゃんも怖くなさそうですね」

みなも「お姉ちゃんがいるもんね! 私も楽しくなってきた〜!」

唯「むふふ、いい事思いついちゃった〜」

みなも「なになに? 教えて!」

唯「りっちゃん見つけたら、闇討ちしよう!」

まゆら「洒落になりませんよ……」

聖奈「あらあら〜。あら?」チラッ




律「!」ササッ




まゆら「どうしたんですか、聖奈さん……?」

聖奈「いえいえ、なんでもありませんよ〜」

唯「みなもちゃん、りっちゃんが現れてもこの懐中電灯で照らしちゃダメだよ?」

みなも「どうして?」

唯「持ち前のおでこで反射するからだよ!」

みなも「えー! すっごーい!」




律「聖奈に気付かれたっぽいな……。勘がとてつもなく鋭いってことか。
  次のチームに行くべさ。唯、あとで怖い思いをさせてやるからな」プンスカ




44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/05(木) 21:47:09.22 ID:ak0JbB91o

― 4番チーム ―


シンディ「スキャリー」ブルブル

憂「森の中を歩くって、雰囲気ありますね」

和「6つのコースも最終的には指定場所に着くのね」

小百合「その通りです。陽が高いうちにコースを作りましたので抜かりはありません」

和「コースから外れるとどうなるの?」

小百合「今は夜なので足場が悪く歩きづらくなります」

シンディ「ロングコース」

憂「足元を奪われて、ショートカットのつもりが逆に時間がかかるということですね」

小百合「はい」

和「憂、向こうを照らしてくれるかしら」

憂「こっちでいい?」

和「えぇ、ありがとう。……あの紐で立ち入り禁止にするには少し頼りないわね」

小百合「それほど危険性は高くありませんが、それぞれのコースに戻れなくなるのでそうしています」

和「そう……」

シンディ「デンジャラス」

憂「触ると鈴が鳴る仕組みですよね」

小百合「はい」チラッ




律「?」


45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/05(木) 21:48:13.59 ID:ak0JbB91o

小百合「コースの手前で脇にそれ、相手を待つ。という手もあります」

憂「驚かされるってことですね」

シンディ「スキャリー」ブルブル

和「……」




律「やれと言われた気がした」チョンチョン


チリンチリン


律「!」ビクッ




チリンチリン


「ぎゃぁああ!!」

和「あの叫び声は……」

小百合「れいんだな」

シンディ「ドントクライ」

憂「それにしても、いいタイミングで鳴りましたね」

小百合「向こうに人の気配がありました」

和「……律ね」

46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/05(木) 21:50:49.31 ID:ak0JbB91o


― 3番チーム ―


れいん「やだぁ、もぉ帰る〜!」

純「大丈夫だって、誰かのイタズラだから気にしないで」

れいん「ほんと……?」

純「うん。多分、律先輩が誰かを驚かせようとやったことだから。ほら手を掴んで」

れいん「……うん」ギュ

久遠「頼りになりますわね」

純「怖がる人がいると、逆に冷静になるから。……澪先輩とか」

琴葉「鳴り止みません」


チリンチリン


純「律先輩はこんなにしつこくないはず……。これは仕掛けの一部?」

久遠「いえ……、そのようなはずは……」


チリンチリン


琴葉「少し、様子を見てきます」

れいん「ダメダメダメ〜! 人数が減ると心細い〜! 繊細、ナイーブ、乙女心!」ギュウ

純「……こんな妹もいいな」ホンワカ





律「確かに悪路だったな。
  でも、梓と香と澪を驚かすまでは合流しないぞ!」メラメラ


チリンチリン


律「一度鳴らすとずっと鳴るのか、これは……?
  お、あれは3番チームか」




琴葉「誰かに見られています」チャキン

久遠「それを仕舞いなさい、琴葉」

琴葉「しかし」

久遠「人だったらどうするのですか?」

琴葉「……はい」

れいん「はやく! はやく進もうよ〜!」ギュウ

純「……」ホンワカ

47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/05(木) 21:52:03.54 ID:ak0JbB91o



律「え、なにあの子。手裏剣で私を攻撃するつもりだったのか?」


チリンチリン


律「身の危険を感じるから他を探すべし。純を驚かせたかったけどしょうがないな」コソコソ




琴葉「見てきます」

スタスタ


れいん「え〜、もぉやだぁ〜! 人の話聞いてよ琴葉〜!」ギュウウ

純「痛い痛い!」

れいん「あ、ご、ごめんなさい〜……」

純「見た目を裏切る握力……。でもあの子、慎重すぎないかな」

久遠「……」


ポチッ

琴葉「……?」


バサバサバサバサ


琴葉「上から!?」ササッ



れいん「!」ササッ

久遠「!」ササッ

純「いや、大丈夫だから。木の上からナニカが落ちてきただけだから」

れいん「充分怖いって!」ブルブル

久遠「だ、だれがこんな仕掛けを」ブルブル

琴葉「誰もいませんでした。どうして純さんの後ろに隠れているんですか?」

久遠「こ、こほん」

れいん「やだやだぁ〜! 琴葉ナニカ持ってる〜!」ブルブル

純「それは、ナニ?」

琴葉「わら人形です」

久遠「」

れいん「ぎゃぁぁああ!」
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/05(木) 21:54:15.67 ID:ak0JbB91o


― 1番チーム ―


「ぎゃぁぁああ!」


奈々穂「む、あの声はれいんか」

紬「あっちから聞こえましたね」

奏「えぇ……」

紬「奏さん、どうかしましたか?」

奏「少し、胸騒ぎが……」

奈々穂「とりあえず、指定場所まで行きましょう。すぐそこです」

澪「……」

紬「仕掛けに掛かりませんでしたね」

奈々穂「大体の仕掛けは把握していますから、ご心配なく」

紬「そうですか」ションボリ

奈々穂「……」

奏「……」

奈々穂「奏?」ヒソヒソ

奏「どうしたの、奈々穂?」

奈々穂「具合でも悪い?」

奏「ううん、そうじゃないの。鈴の音が鳴り止まないでしょ?」

奈々穂「恐らく、誰かが驚かそうとしているのだと思うけれど」

奏「ずっとよ?」

奈々穂「……」


チリンチリン


紬「白い人影が見える……あれも仕掛けですか?」

澪「……」

奈々穂「いえ、指定場所にはないはず……」

白い影「ふっふっふ……」

奏「あ……」

白い影「お前らが来るのを待って――」

澪「さわ子先生〜!」キラキラ

白い影「――え?」

澪「さわ子先生がここにいるってことは、指定場所はここですね! 札をください!」キラキラ

白い影「なによそれっ! こんな仮面意味無いじゃないのよ!」ブンッ

ペチン

紬「そう言って彼女は付けていた仮面を地面に叩きつけたのであった。……お終い」

さわ子「話を終わらせるんじゃないわよ! ほら札を持ってさっさと行きなさい!」プンスカ

奈々穂「自棄だ……」
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/05(木) 21:56:15.67 ID:ak0JbB91o

澪「むぎ、ごめん。服伸びてないか?」

紬「大丈夫よ。でも歩きにくいから手を繋いでいきましょう」

澪「迷惑をかけるな……」ギュウ

紬「目を瞑って歩いていたら危ないものね」ニコニコ

澪「うん、頼りにしてるよ。着いたら教えてくれ、むぎ」

さわ子「ここまで目を瞑って歩いてきたの、澪ちゃん?」

澪「はいそうです。帰りもそうします」

さわ子「逆に勇気あるわね」

奏「……」

奈々穂「では行きましょう、会長」

奏「……」

紬「奏さん……?」

さわ子「どうしたのよ、向こうになにかあるの?」


チリンチリン


奈々穂「会長が見ている先は……まさか」

奏「奈々穂」

奈々穂「さわ子先生! 照明一式持って来ていますよね!?」

さわ子「え、えぇ。車でそのまま来たから、降ろしていなければ」

奈々穂「取って来ます! 待っててください!」

ダダダッ

澪「しゅ、出発しないのか?」

紬「澪ちゃん、目を開いた方がいいわ」

澪「え?」

50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/05(木) 21:59:34.36 ID:ak0JbB91o


― 律 ― 


チリンチリン


律「なんで鳴り止まないんだこれ……? 
  演出なのかな? 真っ暗な中で聞く鈴の音は確かに怖いけども……」


スタスタ


律「おかしいな、このコースには2番チームがいるはずなんだけど……追い越したか?」


チリンチリン


律「うーん……。あり……?」


チリンチリン


律「これって、立ち入り禁止の区域だよな……」

奈々穂「律さんッ!」

律「うわっ! びっくりした!」

澪「り、律?」

紬「どうしたのりっちゃん、こんなところで」

律「いや、別に――」

奏「奈々穂、紐が切れているわ」

奈々穂「律さんが!?」

律「ち、違うぜ。私じゃないですぜ」オロオロ

奈々穂「本当ですか!?」

澪「しどろもどろになっているから、嘘は吐いてない……」

奈々穂「じゃあ、誰が……!」

律「てか、眩しい!」

奈々穂「あ、あぁ、すいません」

紬「あら、このコースって2番チームのコースよね?」

奏「……そうです」

律「そっちはゴールから来たのか?」

澪「うん、そうだぞ」


チリンチリン


律「鉢合わせしないのは変だよな……」

奏「……」

奈々穂「もしかして、りの達はこの区域に入った……?」

紬「危険区域だからと近づくなって、説明でしたね」

奈々穂「いえ、正確にはそれほど危険な場所ではありません」

律「?」
51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/05(木) 22:06:54.47 ID:ak0JbB91o

奏「行きましょう、奈々穂」

奈々穂「そうですね。軽音部のみなさんは指定場所に戻っていてください」

紬「2番チームにはあずさちゃんがいるから、私たちも探します」

澪「うん」

律「……そうだな」

奏「分かりました。では、参りましょう」

奈々穂「みなさん、足元には気をつけて」

紬「わ、分かった!」


チリンチリン


律「あのさ、聞きたいことがあるんだけど」

奈々穂「なんですか?」

律「あの鈴の音、どうして鳴り止まないんだ?」

奈々穂「……それは…………」

奏「なにかが紐に絡まって揺らしているのでしょう」

律「あの紐って、区域を囲むようにひと回りしてんのか?」

奈々穂「……いいえ」

澪「!」ビクッ

紬「本当のことを言っても平気ですよ。怖がっていられませんから」

奈々穂「そうですね。即席で作った仕掛けですので、コースに面していない所に紐はありません」

律「と言うことは、だ……。途切れた箇所以外の両方から聞こえてくるのは不自然なんだよな」

純「どういうことですか?」

律「一本の紐に一定間隔で鈴を取り付けるとするだろ?」

れいん「ふむふむ」

律「だけど、紐を二つに分断して、揺らすとどうなるか」

純「揺らされた紐の片方しか鳴らない……」


チリンチリン    チリンチリン


澪「聞こえない聞こえない」

れいん「つまり、どういうこと?」

紬「鈴が両方から聞こえてくる今の状況は異変が起きているということ」

久遠「そういうことですわね」

れいん「うひゃぁ……」

純「怖くない?」

れいん「い、今は緊急事態! 怖がってなんかいられないって!」

奈々穂「お前達、ナチュラルに混ざったな」
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/05(木) 22:13:24.90 ID:ak0JbB91o

久遠「琴葉、どうでしたか?」

琴葉「4番、5番チームは確認できましたが……」

奏「2番チームだけ確認が取れていない」

琴葉「はい」

奈々穂「歩もいるのに、なぜ入った……!」

久遠「もう少しで辿り着くはずですわ」

律「あのさ、もう一つ聞いていいか?」

奈々穂「?」

律「危険な場所じゃないってどういう意味だ?」

久遠「それは……」

紬「あら……?」

澪「ど、どうしたむぎ?」

紬「鈴の音が鳴り止んだわ」



純「あ……本当だ」

奈々穂「この島には危険な動植物は生息していません。
     むしろ人体に優しい環境だから整備して人を呼び込むほうがいい」

律「……」

久遠「一つ、昔からの言い伝えが無ければ、の話ですが」

奏「この島には、古くから神木と呼ばれる大きな木が存在しています」

奈々穂「会長」

奏「この話をしなければみなさん落ち着かないでしょう、奈々穂?」

奈々穂「……」

琴葉「辿り着きました。この木です」

紬「この木は……」

澪「この島に来る途中、船の上から確認できた木だな」

奈々穂「夕方の茶番は、紐を結ぶ作業を急ぎたかったからです」

れいん「梓さんがこの木に近づきそうになったんで、あっしらは慌てたってわけです」

純「……なるほど」

紬「近くで見ると存在感がすごいわ……」

律「すげぇな、木の根元部分が大きな空洞になってるぜ」

澪「り、律、勝手に入るな」

律「だいじょーぶだって。危険な生き物は居ないって言ってたじゃんか」

久遠「この木に近づけさせない理由が一つあります」

紬「それは……?」


奏「神隠し」


紬「神隠し……?」

奈々穂「そうです。この辺りから謎の失踪者が出ている」

純「え――」
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/05(木) 22:15:52.86 ID:ak0JbB91o

久遠「三人もですわ」

澪「三人!?」

奈々穂「戦前や大正時代まで遡るから、気にするほどでもないと思ってはいるんだが」

琴葉「ダメです。この付近に4人の姿は見当りません」

律「あのさ……、空洞の中からこれが見つかったんだが」

プッチャン「」

奏「!」

奈々穂「それは……!」

れいん「……」

純「え、え? りのは?」

律「…………いない」

奏「……っ」フラリ

紬「奏さん!」

奈々穂「奏!」

琴葉「久遠さん、歩はこのこと、どこまで知っていたのでしょう」

久遠「……分かりませんわ。けど、無闇に近づかないようにと念を押しておきましたが」

律「澪、これ持っててくれ」

澪「あ、あぁ……なにをしてるんだ?」

律「梓たちの所持品が無いか探してみる。もう一つ照明を貸してくれ」

澪「う、うん。気をつけろよ」

「大丈夫。……ここでナニカを祀ってたのかな」

奈々穂「まだそうと決まったわけじゃない。ここを中心に徹底的に――」

プッチャン「おい! おでこを止めろ!」

澪「うわっ! 勝手に喋った!」

プッチャン「いいから止めろ! アイツも居なくなるぞ!」

澪「え?」

純「律先輩!?」

「聞こえてるっての!」

プッチャン「バカ野郎! 聞こえてるなら出てきやがれ!」

奈々穂「おい、人形、なにがあった?」

プッチャン「消えたんだよ! りの達が目の前でな!」

純「り、律先輩……!」

澪「り、律ッ!」



澪「い、いない――!」

紬「そんな!」

奈々穂「みんな退がれ!」

久遠「そんな……人が…目の前で……」

奈々穂「しっかりしろ久遠ッ!」

久遠「そ、そうですわね……!」
54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/05(木) 22:19:47.99 ID:ak0JbB91o

れいん「えー、律さんがからかってるんじゃないのぉ?」

奈々穂「バカッ! 入るな!」

れいん「じゃあ、木の周りを調べてみます」

奈々穂「琴葉と一緒に周るんだ。絶対、木には触れるなよ」

れいん「はいっ」

琴葉「はい」

澪「……」

プッチャン「……茫然自失だな」

久遠「プッチャンさん、なにが起こったのか、情報をいただけるかしら」

プッチャン「あぁ、覚えてる限り話してやるよ。全てな」

久遠「では、りのが目の前で消えたのは事実ですか?」

プッチャン「あぁ。なんの前触れも無く消えやがった」

奏「プッチャンさん……。りの以外にも……?」

プッチャン「あぁ、その通りだ。りのが空洞に入って消えた後、
       追ってきたツインテールが消えた」

紬「あずさちゃん……!」

プッチャン「二人が消えたのを不思議に思って入ってきた歩と香、二人は同時に消えたぜ。
       俺の後ろで気配が消えたってだけだから、消えたってのも語弊があるかもな」

久遠「いえ、あなたをここに置いてく理由がありませんわ」

奈々穂「一応、可能性として訊くが、これは悪ふざけではないだろうな」

プッチャン「アイツらに聞けば分かることだろ?」

れいん「ダメ、入り口はそこしかないし」

琴葉「抜け出せる穴もありません」

プッチャン「そういうことだ」

奈々穂「……」

久遠「では、どうしてあなただけがここに残されたのか」

純「た、確かに……」

プッチャン「簡単なことだ。
      魂の上に精神が宿り、肉体がそれを象る。俺には二つ足りてねえからな」

奏「……」

プッチャン「早い話が人形だからってだけだ。他に理由はねえはずだぜ?」

久遠「そのようですわね」
55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/05(木) 22:20:16.98 ID:ak0JbB91o


ザザッ


奈々穂「応答してください。金城奈々穂です」

『は〜い、どうしましたか〜?』

奈々穂「緊急事態です。急いで指定場所へ行き、さわ子先生と待機をしていてください」

『はい、了解しました』


ザザッ


奈々穂「琴葉、指定場所へ行き、事情を説明。
    聖奈さんと一緒に、以前に起きた神隠しの情報をリサーチしてくれ」

琴葉「了解しました」

奈々穂「あと、警察へはさわ子先生に任せる、と」

琴葉「はい」サッ

純「……」

澪「……」

紬「失踪した三人は未だに見つかっていないのですか?」

久遠「いえ、一人だけ戻ってきたとありました。
   あとの二人は……」

紬「……」

56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/05(木) 22:23:56.79 ID:ak0JbB91o


― 指定場所 ―


みなも「えー!? やだよぉ〜早く行こうよ〜!」

唯「やだやだ〜」

聖奈「困りましたね……」

まゆら「さっきの無線はなんだったのですか?」

聖奈「詳しくは分かりませんが、緊急事態だということです」

まゆら「ま、まさか……! 巨額の費用を使った仕掛けが作動しなかったとかじゃないですよね!?」

聖奈「うーん、そういう事態ではないと思いますけど……」

唯「早く戻って1位の豪華デザートをいただきたいんだよ!」

みなも「そうだそうだ! ケーキ! ケーキ!」

和「あら、唯たちが先に来ていたのね」

唯「和ちゃん後ろだよっ!」

白い影「ふっふっふ、お前達が来るのを――」

和「さわ子先生、札はどこですか?」

さわ子「……っ」ブンッ

ペチン

シンディ「こ、怖い」ビクビク

さわ子「仮面取ったわよ!」

唯「さわちゃんは、素顔が一番怖いもんね」

憂「山中先生でしたか……」ホッ

さわ子「三人には車に乗せてあったケーキをあげるわ」キラキラ

小百合「かたじけない」

憂「わぁ、どれでもいいんですか?」

さわ子「えぇ、どうぞ」ニコニコ

シンディ「ベリーサンクス」

みなも唯「「 えー!? 」」

さわ子「唯ちゃんが悪いわ」

みなも「唯さん〜!」

唯「ひどいよさわちゃんっ」
57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/05(木) 22:28:18.48 ID:ak0JbB91o


シュタッ

琴葉「聖奈さん」

聖奈「状況は?」

琴葉「4名……いえ、5名が消息を絶ちました」

聖奈「……本当なの?」

琴葉「はい。にわかに信じられませんが、一人、律さんが私たちの目の前から消えたのを確認しています」

聖奈「……」

琴葉「情報収集をするようにと。あと、さわ子先生に警察への連絡判断を委ねられています」

聖奈「琴葉ちゃんは先生に事情を。私は過去の記録データと新聞を当たります」

琴葉「はい。伝えた後、私も収集に入ります」

聖奈「よろしくね」





みなも唯「「 ん〜♪ おいしい〜! 」」ホンワカ

まゆら「管理人さんが作ったケーキですね、おいしい〜」

憂「ほんと、おいしいです」

琴葉「さわ子先生、こちらへ来てください」

さわ子「どうしたの?」

和「?」

琴葉「実は……」





聖奈「あとは、発電装置があれば……あった」

まゆら「そ、それは小型の発電装置! 見るからに高級品ですけど!?」

聖奈「購入しました」

まゆら「あ、あれ? どうしたんですか、聖奈さん……なんだか深刻そうですね……」

聖奈「……」カタカタカタ

まゆら「生徒会のサーバにアクセス……? ……神隠し……ですか」

聖奈「今、起きた出来事です」

まゆら「そ、そんな! 一体誰が!?」

聖奈「2番チームと、律さんです」

まゆら「5人も……そん…な……」

聖奈「まゆらさん、そこに関連の記事がありますから、情報を」

和「神隠し、ね」ペラッ

聖奈「……」

まゆら「あ……和さん……」

和「事実なの?」

聖奈「はい。2番チームと律さんが」

和「……そう」
58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/05(木) 22:29:05.43 ID:ak0JbB91o

まゆら「わ、私は新聞を調べます」

聖奈「……」カタカタカタ

和「唯、こっちにきて」

唯「ん〜?」モグモグ

和「律と梓。りのと香、歩の5人が神隠しにあったわ」

唯「え……」

聖奈「……」カタカタカタ

唯「えっと……」

和「これは肝試しの演出じゃないわよ」

唯「そ、そうなんだ……。えっと……」

和「……」

唯「どうすればいいかな?」

和「まずは情報を探しましょう。まゆらさんがみている記事の量が多いから手分けして、ね」

唯「分かったよ」

和「聖奈、神隠しと断定するからには、以前にも似た事例があったのよね?」

聖奈「はい。三名が失踪し、一人が戻ってきているみたいです」

和「聞いた唯?」

唯「うん。その一人が見つかった状況を重点的にだね」

和「えぇ……」

聖奈「助かります」

さわ子「三時間で見つからなければ捜索願を出すわ」

聖奈「……はい」
59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/05(木) 22:29:47.39 ID:ak0JbB91o
つづく
60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/06(金) 00:04:19.41 ID:qgwL0ic9o
極上生徒会とか懐かしいな

期待してる
61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) :2012/07/06(金) 02:54:44.85 ID:7cZh4gEAO
待ってるよ乙
62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/06(金) 03:08:41.53 ID:5uXh0lbUP
クロス対象が極上生徒会で紬梓風味とか、どう転んでも俺得
63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/06(金) 20:43:14.46 ID:iYhv8rJXo


― 神木 ―


プッチャン「止めとけ、同じ場所に出るとは限らねえぞ」

澪「で、でも……!」

プッチャン「行って戻ってこれる保証もねぇんだ、軽はずみな行動はお勧めしねえぜ」

澪「……」

純「軽はずみなわけないでしょ!」

プッチャン「こっちだって、りの、歩、香が消えてんだ。そんなこと分かってるさ。
      だからこそ安易に動くなと言ってんだ」

純「っ……!」

奈々穂「今は午後九時だ。どうして逢魔時や丑三つ時ではないこの時間帯なんだ?」

プッチャン「そんなもん俺が知るかよ」

小百合「4番チーム、5番チーム共に指定場所で待機しています」

れいん「小百合!」

小百合「私は遊撃だ。こっちの方が合っている気がしてな」

プッチャン「けっ、力でどうこうできることじゃねえだろうが」

小百合「……」

奈々穂「ここまで攻撃的なのも珍しいな。焦っているのか?」

プッチャン「たりめーだ!」

奈々穂「それなら落ち着いて、消えた時の事を鮮明に思い出せ」

プッチャン「あぁ?」

奈々穂「4人が消えた状況に共通点は無かったか?」

プッチャン「俺の目は前に付いてんだよ、後ろで何が起こっているのか確認できねえよ」

奈々穂「……ふむ。では、なにか聞こえたか?」

プッチャン「……」

奈々穂「……」

プッチャン「そういえば、りのはナニカを拾っていたな」

奈々穂「……それはなんだ?」

プッチャン「分からねえな。だが、他の3人も消えた後にナニカが落ちる音を聞いた」

奈々穂「そのナニカに触れた可能性があるな。見てくる」

タッタッタ

澪「律もそれを拾ったのか」

プッチャン「多分な」

久遠「梓さんが森の中で迷っていたのは、夕方でしたわね」

れいん「そうさね、その後に小百合と決闘の雰囲気を出したからね」

小百合「……」コクリ

久遠「その時に、さっきの紐を破っていたということは……。ありませんわね、距離的に」
64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/06(金) 20:45:59.65 ID:iYhv8rJXo

純「あ、でも、その時に神木のこと聞いてたよね、梓……」

久遠「……えぇ」

れいん「遠くから見ていたってことだったね」

小百合「これだけでは確たる事実に辿り着けない」

久遠「破られた紐、鳴り止まぬ鈴の音……」

澪「?」

久遠「私たち以外に、誰かがいるようですわ」

れいん「!」スッ

小百合「!」カチャ

プッチャン「推測だけで物を言ってんじゃねえ。消えたのは木の下なんだぞ」

久遠「誘われている、とは感じませんの?」

プッチャン「へっ、どこの酔狂野郎がそんなことしてんだよ」

久遠「だからこそ、警戒は怠らないようにするべきですわ」

小百合「その可能性があるなら、指定場所から離れるべきではなかったな」

れいん「だ、大丈夫じゃない? 琴葉もいることだし」

小百合「戦力が傾きすぎている。私は指定場所に戻ります」

久遠「えぇ、お願いしますわ」

小百合「はい」ササッ

プッチャン「誘われると言えば、りのが声を聞いたと言っていたな」

久遠「具体的には?」

プッチャン「さぁな。本人が消えた以上、それしか分からねえ」

久遠「……」

純「あの二人はずっと何をしているんでしょう……?」

プッチャン「会話じゃねえか?」

65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/06(金) 20:48:37.08 ID:iYhv8rJXo


奏「……」

紬「……」

奏「寂しい、と言っています」

紬「この木が……ですか?」

奏「えぇ……」

紬「……」

奈々穂「会長! この勾玉に見覚えはありませんか!?」

奏「……え?」

奈々穂「デジカメで木の空洞内を撮影したんです。不自然なんです、この勾玉」

紬「……」

奏「いいえ。初めて見ました」

奈々穂「そうですか。……それでは!」

タッタッタ

紬「……あれに触れたのかしら」

奏「えぇ、恐らく」

紬「……」

66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/06(金) 20:50:46.83 ID:iYhv8rJXo


― 香 ―


香「かだでざばぁ〜」ボロボロ


香「ごごどごぉ〜」ボロボロ


香「ひっく……」


香「なんだか……疲れちゃった……」グスッ


香「……」


香「歩いても……歩いても……景色は変わらない……」


香「誰にも声が届かない……」


香「……」


香「りのが居なくなって、梓さんが目の前で消えて……」


香「隣に居たはずの歩が居なくなってて……ここに……居て……」


香「あー! もうっ! 全部りののせいじゃない!」


香「りのが極上生徒会に入りさえしなけりゃこんなことにはならなかったのにぃ! ムキー!!」


香「りのに会ったらギャフンと言わせるんだから!」


香「……会ったら…………」


香「りの……どこに行ったのよぉ……」


香「みんなどこに行ったのよぉー!」


香「……」

67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/06(金) 20:54:30.15 ID:iYhv8rJXo


香「もう疲れたー! 歩くの止めたー!」ゴロン


香「……」


香「さっきまで夜だったのに、青空が見える」


香「……」


香「雲が流れていない」


香「……」


香「ここって異次元ってヤツなのかなぁ……」


香「ははは……」


香「そんなバカな……」


香「……」


香「お風呂入りたいなぁ」


香「奏さまのお背中を流したりなんかして」フヘヘ


香「…………ハァ、虚しい」


香「……」


香「どうしよう」


奏「香、ここにいたのね」


香「あ、あれ? 奏さま……?」

68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/06(金) 20:58:07.94 ID:iYhv8rJXo


― 梓 ―


梓「むぎせんぱ〜い!」


梓「唯せんぱ〜い!」


梓「律せんぱ〜い!」


梓「澪せんぱ〜い!」


梓「和せんぱ〜い!」


梓「純〜! 憂〜! さわ子先生〜!」


梓「りの〜!」


梓「……」


梓「唯先輩のお菓子、勝手に食べてすいませんでした〜!」


梓「律先輩のカチューシャ、勝手に使ってすいませんでした〜!」


梓「澪先輩のピック、勝手に使った挙句割ってしまってすいませんでした〜!」


梓「和先輩のメガネ、勝手に借りてすいませんでした〜!」


梓「ごほっ……」


梓「懺悔してるみたいだなぁ」


梓「……ハァ」


梓「さっきまで夜だったのに、夕方かな、それとも朝日……?」


梓「見たことあるようでない景色……」


梓「……」


梓「喉渇いたなぁ……」


梓「……りのがいなくなってから……どうなったんだっけ」


梓「あの時にナニカが起こったのは確実……」


梓「でも解決方法は全く分からない……」


梓「……」


梓「風は無いのに、何故か爽やかな気分になる」


梓「景色が綺麗だからか、心が落ち着いていく」

69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/06(金) 20:58:46.86 ID:iYhv8rJXo

梓「だから! ここにいてはいけないって分かる!」


梓「ここから離れられなくなるから!」


梓「唯せんぱ〜い! 一緒に美味しいお菓子食べましょう〜!」


梓「律せんぱ〜い! 一緒に遊びましょう〜!」


梓「澪せんぱ〜い! 一緒に演奏しましょう〜!」


梓「和せんぱ〜い! 純〜! 憂〜! さわ子せんせ〜い!」


梓「ハァ……喉が渇く……」


梓「むぎせんぱ〜い! 紅茶淹れてくださ〜い!」


梓「みんなでティータイムしましょう〜!」


梓「ごほっ……喉が痛い……」


梓「むぎ先輩の淹れた紅茶で……」


梓「たくさんたくさん……ティータイム……しましょう……」


梓「……」


梓「……なんだか、疲れる」


梓「どうでもよくなってくる」


紬「ティータイムしましょうか、あずさちゃん♪」


梓「むぎ……せんぱい……」


70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/06(金) 21:00:08.78 ID:iYhv8rJXo


― りの ―



りの「うわぁぁああん!」ボロボロ


りの「アユちゃぁん! 香ちゃぁん!」ボロボロ


りの「どこいったのぉ! 一人にしないでよぉおお!」ボロボロ


りの「梓さぁん!!」ボロボロ


りの「やだよぉ、独りぼっちはいやだよぉおお!!」ボロボロ


りの「ぷっちゃぁん! やだ、やだよぉおお!」ボロボロ


りの「もう独りになるのはいやだよぉぉおお!!」ボロボロ


りの「うわぁぁあああん!!!」ボロボロ


奏「りのは独りじゃないわ」


りの「か、奏会長ぉぉお!!」ガバッ


奏「りのは泣き虫さんね」ナデナデ


りの「ぐすっ、そうですよぉ、私には頼る人がいないんです」ボロボロ


奏「ほら、涙を拭いて」フキフキ


りの「ぐすっ」


奏「私がりのを抱きしめてあげるから、落ち着くまでこのままでいましょう」ギュウウ


りの「あ、ありがとうございますぅ」ボロボロ


奏「あら、またなの?」


りの「安心したら涙がとまらなくなったんですぅ!」ボロボロ


奏「あらあら、しょうがないわね」


りの「私はしょうがない子なんですぅ!」ギュウウ

71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/06(金) 21:12:00.45 ID:iYhv8rJXo


― 歩 ―


歩「わぁ! あっちにはサグラダファミリアが!」


歩「あっちにはノートルダム!」


歩「凱旋門まである!」


歩「世界一周した気分〜♪」


歩「ってこれ、確実に私の精神に反映されてるじゃないの」


歩「あの山はマチュピチュで、シドニーのオペラハウス」


歩「ぜーんぶ、旅行雑誌でみたものばっかり。並んで見てもつまんないよ」


歩「……」


歩「……良くない世界だって分かっているのに、居心地がいいのはどうしてかなぁ」


歩「このまま、ずっとこうしていたいなぁ」


歩「……なんて」


先生「それならずっとここにいよう、桜梅」


歩「せ、先生! どうしてここに!?」


先生「迎えに来たんだ。さぁ、行こう」


歩「む、迎えに来たって……先生は、聖奈さんと……」


先生「桂のことか? 実は俺、彼女より桜梅のことが」


歩「!」シュッ


先生「うわっ! 危ないな!」


歩「その顔で、その声で、聖奈さんを傷つけることを言うと、赦さない」


先生「……」

72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/06(金) 21:15:05.07 ID:iYhv8rJXo


歩「今度傷つけることを言ったら、クナイが足元じゃなくて、体に刺さると思ってください」カチャ


先生「フフッ、アハハハハ」


歩「あなた、誰ッ!?」


「ボクが誰であろうと、そんなことはいいじゃないか」


歩「……!」カチャ


「無駄だよ。そんな物でボクを倒せるわけが無い」


歩「!!!」


「フフッ、君は賢いね。瞬時に状況を把握できる力を持っている。だから、ボクの力も分かるはずだ」


歩「わ、私を……私たちをどうするつもり?」


「さぁ? それは個人が決めることでボクが決めることじゃないよ」


歩「みんなに手を出したら――」


「本当は気付いているんだろう?」


歩「?」


「君の本心を」


歩「な、なにを……!」


「君の心の中に居た先生。彼は君を助けてくれる可能性があった人物だ」


歩「――!」


「忍者の名家に生まれて、才能のある君は縛られた人生を、望まない世界を歩み続ける運命にあった」


歩「……」


「そんな境遇から救い出してくれるはずの先生」


歩「…」


「その先生が、君を裏切った」


歩「」


「もう、逃げることは出来ない」


歩「ニゲラレナイ」

73 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/06(金) 21:18:47.13 ID:iYhv8rJXo

「それなら、一生をここで過ごそうよ」


歩「ズット、ココデ」


「そうさ。逃げられない現実から逃げられるのはここだけ」


歩「ココダケ」


「あの先生さえ叶えてくれなかった世界がここにあるよ、桜梅歩」


歩「ウン、ワタシ、ココニ――」


「歩! しっかりしろ!」


歩「!」


「な、なにッ!?」


歩「り、律さん!」

律「惑わされるな!」

歩「あ、あれ?」

律「ってか、おまえ! 人の心盗み見てんじゃねえ!」

「ど、どうして……お、お前は呼んでないぞ!」

律「ひょっとして……もう一人、ここに入り込んでいる人物を知らないのか?」

「くっ!」


シュウウ


律「あっ! 待て!」

歩「ね、猫……?」

黒猫「ニャー」

律「あ、あぁ。そいつが私をここまで誘導してくれたんだ」

歩「……」

律「その猫が居なければ、壁ってヤツを突破できなかったけどな」

歩「……あ、あの」

律「ん?」

歩「さっきのは……その……」

律「あぁ、大丈夫だ。誰にも言わねえよ」

歩「わ、私……」カァアア

律「こ、これが中学生の乙女心か……可愛い」キュルルルリン

黒猫「ニャー」

律「あ……そうだな。あと三人見つけないと」

歩「……」モジモジ

律「それにしても、お前の相棒、あの学ラン男どこへいったんだよ?」

黒猫「ニャー」
74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/06(金) 21:28:35.01 ID:iYhv8rJXo

――…


香「さぁ、お背中洗い流しますね〜♪」

奏「お願いね」

ザバァ

香「あぁ〜、幸せ〜」パァアア

奏「ふふ、私も幸せよ、香」

香「か、会長……!」

奏「ずっと、ここにいましょう」

香「あぁ〜それって最高〜♪」ルンルン

奏「ズット、ネ」

香「……」

奏「香?」

香「……ごめんなさい、それは無理なんです」

奏「え?」

香「家で、弟たちが待っているんです。だから――」

奏「重荷になっているんじゃなくて?」

香「――!」

奏「両親がいなくていつも大変しているでしょう?」

香「――ッ!」

奏「放課後にはすぐにお家に帰らないといけないから、本当は辛いのよね」

香「……」

奏「兄弟なんて、居なければいいのにって――」

香「早く変身を解けよ」

奏「ッ!?」

香「私は奏さまのことを会長とは呼ばない。偽者だって気付いていたんだよ。
  その顔を傷つけることは出来ないからさ、素顔を見せろよ」

「な、ななななんでっ!?」

香「奏さまがそんなこと言うわけないだろ。いい加減にしろよ?」

「せ、性格が変わった――!?」

香「人の心を見くびるな」

「くっ」


シュウウ


香「まてこらぁあああ!!」

律「お、おい! 正気を保て!」

香「絶対に許さないッ!!」ゴスッ


ミシミシ
75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/06(金) 21:29:47.63 ID:iYhv8rJXo

ミシミシミシッ


歩「わぁ、建物にひびが……」

律「やばいんじゃないか、これ」

香「あの薄らボケぇ! 捻り潰す!」

律「いいから出るぞ、香!」ダッ

歩「服着るのはあと!」

香「わ、分かってるわよ!」

タッタッタ



ガシャン

ドカァン

ドゴォン



律「銭湯が……瓦礫の山に……」ゴクリ

歩「はい、服」

香「あ、うん……ありがと」

律「我を見失ってたぞ」

香「私の中のナニカが切れちゃいました」エヘヘ

律「うむ、正直だな」

香「利用してなんですけど、なんなんですか、アレは」

律「まだよく分かってないんだけどな」

黒猫「ニャ、ニャー」

歩「黒猫ちゃん、照れてない?」

黒猫「ニャー」フルフル

香「言葉を理解できるのね、この猫」

律「あとは、梓とりのか」

76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/06(金) 21:34:27.68 ID:iYhv8rJXo


――…


黒猫「ニャー」

律「この辺りか?」

黒猫「ニャ」

歩「律さん、この仔の言葉が分かるんですか?」

律「いや、なんとなくだ」

香「向こうに部屋が見えますね」

律「この造り、私らの……部室か……?」

歩「軽音部の……」

律「二人とも知ってると思うけど、ここは」

香「深層心理世界……ってところですか」

律「うん、そうだと思う」

歩「私の望んでいることが反映されていましたから。無意識な部分も一緒に」

香「え、無意識な部分もなの?」

律「まぁ、香は自分に正直なんだろ」

香「そ、そうなんですかね」

歩「……」

律「あ……、気にするなって、私にもそういう部分はあるからさ」

歩「……はい」

律「う……」

歩「ふふ、大丈夫ですよ。もう気にしていませんから」

律「……」

香「中にいるのは紬さんと梓さんですね」

律「いや、むぎはこの世界に来ていないはずだから」

香「よし、潰すッ!」

律「待て待て。黒猫、壁を破ってくれ」

黒猫「……」カリカリ

律「?」

黒猫「ニャー」カリカリ

香歩「「 か、可愛い 」」

律「まさか……」

香「どうかしたんですか?」

黒猫「……」カリカリ

律「壁を破れないのか?」

黒猫「ニャ」コクリ

歩「そ、そんな……!」

77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/06(金) 21:36:58.91 ID:iYhv8rJXo

『どうかしら?』

『むぎ先輩の淹れる紅茶はいつもおいしいです!』

『まぁ、ありがとう〜』

『いつまでもこうやってマッタリしていたいですね』

『うふふ』

『えへへ』


香「な、なんて甘い会話を……!」

律「あ、甘いのか……。いつもこんな感じなんだが」

歩「……」


『りの、こうやってこうするよの』

『わぁ、奏会長、お上手ですね〜』

『うふふ、今度はりのの番よ』

『はぁ〜い』


律「?」

歩「りのと奏会長の声……?」

香「あっ! あっちですっ!」

歩「梓さんと対称的な配置ですね。これも偽者の仕業でしょうか」

律「多分、な」

歩「りの達は生徒会室ですね」

香「りのーっ!」ドンドン

黒猫「ニャ」

律「無駄だ。こっちの声は壁で遮られてるからな」

歩「どうやったら破れるんですか?」

律「黒猫がさっきやっただろ? それでできなかったら、私は分からないんだ」

香「せいやー!」ブンッ


ドォン


香「まるで防弾ガラスを殴ったような感触……」

律「殴ったことあるのかよ……」
78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/06(金) 21:39:55.40 ID:iYhv8rJXo

モワモワ


歩「律さん!」

律「へ?」

歩「あっちです!」

香「ッ!」ダッ


「フフッ、二人がどうなっても――」

香「おりゃぁぁああ!」ブンッ

「ちょちょちょ! 待ってよ!」


スカッ


香「チィッ!」

律「蹴りが貫通したな。実体が無いのか?」

歩「そうみたいですね」シュッ


スカッ


「うわーっ! いきなりクナイを投げないでよ!」

歩「あなたが私にしたこと、ちゃんと分かってるの?」ゴゴゴ

「あわわわわ」

香「随分なことしてくれたじゃない」ゴゴゴ

「た、助けて」

律「じゃあ元の世界に戻せよ」

「フフッ」

歩「!」

香「!」

「そうだ! ボクが戻さない限り君達は一生この中から出られないんだー!」


シュウウ


香「チッ! 逃げたか!」

歩「……」

律「なるほど、な」

歩「なにか分かったんですか?」

律「あの偽者ってさ、子供みたいだよな。自分の力に気付いた途端に偉そうにしやがった」

香「……確かに」

律「やることは酷いけど、純粋さの裏返しとみたら、なぜか納得できてしまう」

歩「……」

律「その純粋さが危険なんだけどな」

79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/06(金) 21:45:37.75 ID:iYhv8rJXo


『りの、ずっとここで遊んでいましょうか』

『でも、勉強しなくちゃいけませんよ?』

『ここにいれば、そんなことしなくてもいいのよ』

『わぁ、それいいですね!』


香「りの!」

律「寂しいんだってさ」

歩「え……?」

律「さっきのヤツがそう言ってたらしい」

黒猫「ニャ」

歩「だから偽者は、ここに留まらせようとしてくるんですね」

香「私達を一旦疲れさせて、気が緩んだ隙をみて心につけこんで来る。常套手段ですね」

律「……」


『ずっと、ここでのんびりとしていましょうか、あずさちゃん』

『いいですね〜。なぜか落ち着きますし、ずっとここにいたいかも』

『いてもいいのよ? 時間に迫られることなんてないんだから』

『ふにゃ〜』


律「見よ、あの緩みきった顔を!」

歩「り、律さん! そんな悠長なことを言ってる場合じゃ!」

香「そ、そうですよ!」


『ずっと、リリアンをしていましょう』

『楽しいです〜!』

『私ならずっと、りのと一緒に、りのの隣に居られるわ』

『奏会長……』

『独りは嫌よね?』

『嫌です!』


香「りのー!」ドンッ

歩「なんで破れないの黒猫ちゃん!」

黒猫「ニャー」

律「多分、この世界の主っぽいヤツがそうさせたんだろうな。
  すでに二回破ってるから」

香「さっきから、どうしてそんな冷静でいられるんですか!?」

歩「か、香!」

律「梓を信じてるからさ」
80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/06(金) 21:48:47.74 ID:iYhv8rJXo

―― あずさちゃん!

―― 梓ッ!

―― あずにゃん!

―― 梓!

―― 梓ちゃん!

―― 一生ネコミミの刑よ!

―― 梓ー!!


歩「この声……」

黒猫「ニャ」

律「なんだろうな、今の声。……さわちゃんだけズレてたけど」


『ユックリ、ノンビリ……トネ』

『ふにゃにゃ〜』


律「聞こえていないのか……」

香「なにか奥の手でもあるんですか!?」

律「ないよ」

香「だったら、なんで――!」

律「梓が望む場所は偽者なんかでは埋められない」

香「え……?」

律「梓がむぎと二人きりでいいと思うなら、部室の椅子は二つでいいはずなんだ」



『ね、ずっといましょう?』

『一つ聞いていいですか?』

『なぁに?』

『唯先輩、澪先輩、律先輩はいつ来るんですか?』

『……えっとね』

『?』

『二人きりじゃ、ダメ?』

『ダメじゃないですっ!』



律「おいッ!」

81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/06(金) 21:50:00.00 ID:iYhv8rJXo


『……でも、5人でけいおん部じゃないですか』

『……』

『……』

『そうね、もうすぐ来ると思うわ』

『そうですか! よかった!』



律「あり?」

歩「律さん……奏会長と紬さんが同時に出ていること……忘れていますよね」

律「あ! しまった! 他の3人は出てこないと思っていた!」

香「ど、どーするんですか!」

律「や、やべえ……!」

香「梓さーん!!」ドンドン



『演奏しようか、梓』

『あっずにゃ〜ん』

『ひっつかないでください!』

『うふふ』

『全員揃ってんな、そんじゃ遊びに行こうぜー!』

『おい! 練習が先だろ!』

『え〜、演奏なんてどうでもいいじゃんか。それよりゲーセン行こう!』

『わーい! ゲーセン!』

『そうね、そうしましょう〜』

『しょうがないな……』

『……』



律「梓は私のこと、こんな風に思っていたのか……」シクシク

香「えっと、どんまいです」

歩「……」

82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/06(金) 21:51:59.61 ID:iYhv8rJXo


『どうでもいい、って何ですか? 律先輩』

『え……?』

『どうしてそんなこと言えるんですか?』

『な、なんだよ。部室で遊ぶより、外で遊ぶ方が楽しいだろ?』

『そうだよ、あずにゃん』

『そうだぞ、梓』

『……』

『違います』

『ずっと、ここにいましょう?』

『ここは、私が居たいと思うけいおん部じゃありません』



黒猫「ニャー!」


バリッ


律「梓ーッ!」

梓「律先輩が二人!?」

香「さぁ、変身を解きなさいよ」

「もうちょっとだったのに!」

歩「……」

「ま、まだだよ!」


シュウウ


香「……ったく」

律「おい中野」

梓「え?」

律「おまえの中で、私はいつもあんなイメージなのか?」

梓「ナンノコトデスカ」

律「しらばっくれるな! 見ていたんだよっ」ギリギリ

梓「いたたたた! ギブッ、ギブです!」

歩「……」

香「……こうなることを信じていた、ってことですね」

律「ち、違うわぃ!」

梓「いつつ、……今のなに?」

歩「深層心理が生み出した世界です。でも、真実ではありません」

梓「真実じゃない……? ここはどこなの?」

律「木が生み出した世界だとさ」

83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/06(金) 21:58:16.47 ID:iYhv8rJXo


― 草之上 ―



りの「むにゃむにゃ」

奏「ぐっすり寝ているわね」

奈々穂「騒動なんて知る由も無く、な」

プッチャン「起きろ!」ペシペシ

りの「いた! いたた、なにするのプッチャン!?」

プッチャン「りののおバカ!」パーン

りの「はぅっ!」

プッチャン「どれだけ心配したと思っているんだ!」

りの「え? どういうこと?」

香「私たち、神隠しに遭ったのよ」

歩「私もね」

りの「カミカクシ?」

香「覚えてないの?」

りの「???」

久遠「でも、無事で何よりですわ」

りの「暖かい夢を見ていたよ、プッチャン」

プッチャン「夢、だぁ?」

奏「どんな夢?」

りの「奏会長と、一緒にリリアンをしている夢です〜」

奈々穂「あ、そう」

まゆら「人騒がせな……」

奏「まぁ……」

りの「ずっと一緒にいたいなぁって思っていたんですけど」

歩「……」

奏「けど?」

りの「極上生徒会のみなさんとも一緒にいたいなぁって思ったら、プッチャンに起こされて目が覚めました」

プッチャン「へっ」

シンディ「グッド」

小百合「何はともあれ、良かった」

みなも「ほんとだよぉ〜、りのってば」

りの「えへへ、ごめんねぇ〜」

聖奈「ほんとうに、良かった」

歩「!」ササッ

聖奈「あら?」

歩「!!!」ビクッ

聖奈「歩ちゃん? どうして隠れるの?」

歩「な、なんでもないです! 律さんのところに行ってきます!」サッ
84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/06(金) 21:59:53.37 ID:iYhv8rJXo

奈々穂「どういうことだ、歩! 待て!」

聖奈「嫌われたのかな……?」ションボリ

みなも「なんだか照れてたみたいだけど〜?」

れいん「これで安心、ハッピー、終わりってことで〜、ふろ入りましょう〜!」

奈々穂「いや、まだハッピーエンドじゃないぞ」

香「どういうことですか?」

奈々穂「律さんがまだ行方不明なんだ」

香「え――」

奈々穂「歩は何を知っているんだ?」

香「律さんが……どうして……」

奏「……」





奏「……」

りの「会長〜、どうしたんですか〜?」

奏「この木と、会話をしていたの」

りの「そうなんですか〜」

プッチャン「おいおい、適当にリアクションすんなよ」

奏「……」

りの「……私も、この木に呼ばれたような気がします」

奏「そう……」

プッチャン「どんな会話をしてんだ?」

奏「律さんの居場所……」

プッチャン「で、なんだって?」

奏「分からない……と」

85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/06(金) 22:01:13.84 ID:iYhv8rJXo


― 坂之下 ―


梓「なんで、律先輩だけ、戻ってこないんですか……!」

紬「梓ちゃん……」

澪「りつ……」

唯「りっちゃん……どこいっちゃったの……」

和「……」

憂「……」

さわ子「……」

「うわっ!」

純「……あ」


ゴロゴロゴロ

ズサーッ


律「いってえ……」

紬「りっちゃん!」

律「お、戻ってこれたか……」

澪「りつのおバカ!」パーン

律「痛い!? いきなり平手打ち!?」

澪「むぎが心配していたんだぞッ!」

律「じゃあむぎが叩けばいいだろ!」

唯「りっちゃんのばがー!」ガバッ

律「うわっ!?」

唯「じんばいじだんだだだでー!」ボロボロ

律「……うん。悪い」

紬「りっちゃん……」

律「無事、帰還しました……」

純「どこ行ってたんですか?」ワクワク

律「好奇心だけ!?」

さわ子「びっくりさせないでよねぇ」

和「そうよ」

憂「そうですよ」

律「あはは、ごめんごめん」

梓「律先輩、すいませんでした……」

律「いや、梓のせいじゃないだろ。あの木が悪い」

86 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/06(金) 22:02:25.57 ID:iYhv8rJXo

シュタッ

歩「あれ、何ですか、この再会の再現ドラマみたいな……?」

琴葉「歩、私たちは場違い」

歩「?」


律「みんな戻ってるみたいだな、本当によかった」

紬「りっちゃんが助けてくれたの?」

律「違う。……忘れ物があるから、神木に戻ろうぜ」

梓「え、えっとぉ」

澪「律、怖くないのか?」

律「大丈夫大丈夫」

純「なんで、坂の上から転がり落ちてきたんですか?」

律「お前たちがこんなところにいるからだよっ! もっと普通な場所に居ろよ!
  おかげで坂道ゴロゴロって、鼻水付いてるから唯!」

唯「ぐすっ」

87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/06(金) 22:07:00.30 ID:iYhv8rJXo


― 神木 ―


プッチャン「止めとけ。また消えたら救いようがねえぞ」

律「だいじょうぶだって〜」

澪「お前はさっきもそう言ったんだぞ」

「えっとぉ……」

奈々穂「消えやしないかしっかり見ていないとな」

久遠「そうですわ」

「な、なんか照れるな。……あ、これこれ」

奈々穂「律さんッ! それに触れてはいけない!」

「だから、大丈夫なんだって」

香「律さーん、いますか〜」

「心配しすぎだっつの」

歩「律さーん」

「はいはい、いますよ!」

純「なにをしてるんですか?」

「この勾玉に宿らせるんだ」

澪「……」

紬「この木は樹齢何年になるのかしら?」

唯「二千年くらいだって」

梓「二千……!」

聖奈「イエス・キリストと同じ歳ですね〜」

香「結構な歳なのに、どうしてあんなことしたんでしょう?」

れいん「隠されていた場所に子供がいたって話しだっけ?」

小百合「歩と香の話ではそう受け取ったな」

りの「子供なんていたかなぁ?」

律「りのは会ってないからな。会う前に自力で帰ってきたんだよ」

りの「そうなんですか。でも、よく分かりません……」

プッチャン「しょうがねえよ、りのだからな」

久遠「前に、神隠しから帰還した一人の証言では、
   探してくれている人が居るから、帰らないといけないと思った。とありましたわ」

律「りのが帰れた理由はそれと似ているんだ」

憂「失踪に共通しているのは、私たちと近い年齢です」

律「マジかよ……」

紬「どこまで知ってるの、りっちゃん?」

律「大体な。梓たち4人は正面から招待された。
  だけど私は裏口から招かれたんだ。だから出口も違うわけだ」

紬「……出口?」

律「まぁ……そこは後でな」

澪「……」
88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/06(金) 22:08:32.46 ID:iYhv8rJXo

奈々穂「その勾玉が原因なのでは?」

律「半分正解で半分違う」

紬「どういうこと?」

律「コイツはさ、友達が三人しかいないんだよ。だから精神的に子供だったんだ」

歩「子供……」

奏「そのようですね」

純「……コイツってドイツですか?」

律「あ、あぁ。この木に宿っていたヤツな」ポンポン

奈々穂「その勾玉に触れても大丈夫なのですか?」

律「うん。木に宿っていたヤツが今はこの勾玉に入っているから大丈夫らしい」

奏「その中に?」

律「うん。今は代わりのナニカがこの木に宿っているから、もう神隠しは起こらないぜ」

奏「そうですか……」

唯「りっちゃんが変なことを言ってるよ」

澪「頭打ったんだな」

律「平常だっ! 聞いた話だからな! 私が感じ取ったわけじゃないからな! そんな力ないからな!
  だから距離を取らないで欲しいな! お願いします!」ペコリ

歩「大丈夫ですよ、私は分かってますから」

律「違うんだ。あれを経験していない人にアレを伝えるのが難しいんだ」

香「確かに」

梓「頑張ってください、律先輩」

律「経験者だろ! 手伝えよっ!」

紬「りっちゃん、私は……。そうね、うん」

律「距離を感じた!」

89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/06(金) 22:11:34.57 ID:iYhv8rJXo


― 温泉 ―


歩「律さん、お背中お流ししましょうか」

律「い、いや、いいよ別に」

香「律さん、紅茶に淹れると疲れが取れるというハーブです」

律「うむ。だがしかし、湯に浸かっている今、それが必要かどうか考えたまえ」

純「律先輩、これ、ただの葉っぱですが。どうぞ」

律「……」ポイッ

純「あ……いくらなんでも酷いんじゃないですか?」

律「この温泉の効能はな、リウマチ、肩こりだそうだぞっ!」バシャ

純「わっ!」

律「へへっ、ざまーみろ」

歩「律さん律さん、みてください」

律「……? 小さく波打ってるな、どうやったんだ?」

歩「水遁の術です」

律「ふーん。どうせ手でやってんだろ……。ん? 水遁の術?」

澪「なにか思い出したか?」

律「和にかけられたような……?」

和「それ、私じゃないわよ」

唯「和ちゃんじゃないの?」

和「……私よ。帰ったらちゃんと勉強するって約束、忘れてないわよね?」

律唯「「 はーい 」」

香「律さん律さん、見てください」

律「……ひよこ?」

香「そうです。家から持ってきちゃいました」

律「あ、そう」

歩「律さん律さん」

律「だー! うるさい! しずかに休ませろよ!」


バシャバシャ


澪「やれやれだ」

紬「りっちゃん、モテモテね」ウフフ

梓「助けてくれた恩人ですからね」

澪「律も照れ隠しで怒ったフリしてるからな。放っておこう」

久遠「歩のあんな表情、見たこと無いですわね」

りの「そうだね。びっくりだよ、アユちゃん」

れいん「あっしらも入っていいですか〜?」

小百合「れいん、持ち場から離れるな」

れいん「だってさ〜」ブー
90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/06(金) 22:13:30.09 ID:iYhv8rJXo

梓「どうして見張りを付けているの?」

久遠「この島に、私たち以外の人物が出歩いているようなのですわ」

梓「……そうなんだ」

澪「え、え?」ブルブル

紬「根拠はなんですか?」

奈々穂「私から説明しよう。この島が私有地になっているのは知っていますか?」

憂「私は知りませんでした」

唯「私も知らなかったよ〜」

聖奈「憂さんが知らないのは当然ですけど、唯さんは船で来たので知ってるはずですよ〜?」

唯「船?」

澪「船で軽く説明を受けたけど……」

唯「イルカを探していたときだね」

和「やっぱり聞いてなかったのね」

梓「奏さんの所有島でしたよね」

奈々穂「そうだ。船を降りた際に看板が目に入ったと思う」

律「あー、見た見た。それで不思議に思っていたんだけどさ」

紬「?」

律「看板には、立ち入り禁止、の文字だけだっただろ?」

澪「うん」

律「普通は、私有地につき立ち入り禁止、と書かれるはずだ」

久遠「その通りですわ。ですが、それほど気になる点でもないと思いますが」

律「地元民は知ってるんだろ? 神隠しの森……正確には神木があるって」

奈々穂「……そうですが」ススッ

久遠「……地元民は全員知っていますわね」ススッ

紬「……」ススッ

律「なんで後ずさってんだよ?」

澪「後ろ」ススッ

律「うんー?」

歩りのみなも「「「 水遁の術 」」」

律「うわ――」


ザッパーン


律「ゴボゴボ」

奈々穂「歩! 術を使うな術を!」

歩「あはは、すいませ〜ん!」

りの「ごめんなさ〜い!」

みなも「きゃはは」
91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/06(金) 22:17:02.11 ID:iYhv8rJXo

澪「だ、大丈夫か律……」

律「ゲホッ、ゲホッ……そんでさ、
  地元民が遠ざかっていた島に、どうして今日、突然行こうと言い出したのかってな」

奈々穂「……それは、会長の意思ですから。私たちには分かりません」

律「その回答なら、納得できたさ。それでいいと思う」ゲホゲホッ

久遠「気になる言い回しですわ」

律「あの経験をしたらさ、奏があの木に呼ばれたのかなって……さ」

梓「……」

奈々穂「会長、どうなんですか?」

奏「月が……綺麗ね」

紬「あ……」

純「月が綺麗ですね」

律「あ、ソウデスネ」

シンディ「アイラヴユー」

唯「太宰治だね」

みなも「へぇ〜文学ですね〜、唯さん」

唯「えへへ」

和「唯……」

聖奈「みなもちゃん……」

唯「美しい日本文学だよ」

奈々穂「本当に、綺麗な言葉だと思います」

澪「えっと……」

梓「早いうちに訂正しないと……!」

聖奈「夏目漱石ですよ〜」

唯「あ、そうなんだぁ、間違えちゃった」テヘ

みなも「我輩は猫である!」

唯「あずにゃん! リピートアフターみーなもちゃん!!」

梓「嫌です」

奏「今回は、ただ理由も無く、みなさんと遊んでみたかっただけです」ニコ

紬「……」

律「なんだ、偶然か」

れいん「副会長〜!」

奈々穂「そうだな、そろそろ交代しよう。れいん」

れいん「やったぁ〜!」

律「なんで見張りしてんの?」

奈々穂「不穏な輩が侵入しているらしい」

律「あ……心当たりがある」

久遠「それを詳しく教えて欲しいですわ!」

律「え、えっと。黒猫だ。絶対」
92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/06(金) 22:21:42.16 ID:iYhv8rJXo

奈々穂「紐を破って、鈴を鳴らし、勾玉を置いたのが、黒猫?」

紬「さっき言ってた黒猫様ね」

律「そう。梓たちが神隠しに遭ったことを知らせてくれてたんだよん。……様ってなんだ?」

久遠「そんなことが……」

聖奈「でも、5番のくじを引いたのはどうしてでしょう?」

律「適任者を探していたっぽいな。うまく誘導させられたんだよ。
  それは聞いてないから分からないけど」

聖奈「なるほど、それなら辻褄はあいますね〜」

れいん「副会長〜? まだ〜? あっし退屈で窮屈で卑屈になりますよぉ〜」

奈々穂「もう見張りはいいぞ、小百合と琴葉にも解決したと伝えてくれ」

れいん「やったね! 小百合〜!」

梓「黒猫……?」

歩「水鉄砲」バシャッ

律「……」フフッ

りの「次だよ、アユちゃん! 水大砲! えーいっ」

歩「えーいっ」


バシャー


律「洗面器ひっくり返しただけじゃねえか!」

歩「わわっ」

りの「にーげろ〜」

みなも「あ〜ん、わたしまだやってないのに〜!」

澪「みなもちゃんが持ってるのはホースか……」

紬「そうね、一網打尽ね」

聖奈「もぅ、みなもちゃんったら」

純「懐かれてますね、律先輩」

憂「大切なことがあったんだね」

香「まぁ、私は律さんの助けが無くても平気でしたけど〜」

律「あ、そうだ。香、弟たちは――」

香「水遁の術!」


ザバーン


律「ゴボゴボ」

純「おとうと?」

香「な、なんでもないですよぉ? オホホホホ!」

奈々穂「もう隠さなくてもいいと思うが」

久遠「彼女なりに思うところがあるのでしょう」

ガラガラッ

さわ子「さっさと上がりなさいよ! 後が詰まってるのよ!」

「「「 はい、すいません 」」」
93 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/06(金) 22:25:50.43 ID:iYhv8rJXo


― テント ―


奈々穂「それでは、灯りを消す」

唯「はいよ」


カチッ


りの「月明かりがあって、暗くは無いですね〜」

プッチャン「へっ、いつまで経ってもおこちゃまだな、りのは」

律「あぁ、温泉で疲れるなんてとんでもないジンクスだよ」

歩「おやすみなさい、律さん」

律「あぁ……みんな…おやすみ……」

歩「律さん律さん、お話しましょうよ」

律「……今、おやすみなさいって言ったよな?」

歩「しましょうよ」

律「……いいぜ。昔々、あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました」

歩「昔話ですか」

律「おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんも山へ芝刈りに行きました」

香「洗濯は誰がするんですか?」

律「……。おじいさんは東の山へ、おばあさんは西の山へ。
  それぞれのライフスタイルがそこにはあった。めでたしめでたし」

りの「え〜!」

みなも「つまんな〜い!」

律「知らん。寝る」

プッチャン「おい、連載打ち切りみたいな終わり方すんなよ」

律「しょうがない、次は梓!」

梓「えぇー!」

律「おねがい♪」

澪「……可愛い声のつもりか」

唯「昔々あるところに」

さわ子「……ちゃんと起承転結考えなさいよ」

唯「あるところに、えっと、桃太郎がおりました」

まゆら「名前で物語が大体分かってしまいました……」

律「それでそれで? 桃太郎はどうするの?」ワクワク

唯「桃太郎は山へ芝刈りに」

律「鬼退治しろよっ!」

唯「桃太郎は鬼にきび団子をあげて悪いことをやめさせました。めでたしめでたし」

久遠「斬新な切り口ですわね」

梓「唯先輩らしくていいと思います」

唯「あずにゃん!」ガバッ

香「うわっ!?」
94 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/06(金) 22:31:22.54 ID:iYhv8rJXo

唯「つかまえた〜」ウヘヘ

香「ちょっ! 違いますから!」

唯「あ、ほんとだ」スリスリ

香「気付いても離してくれないんですか!?」

梓「香、ごめんね」

律「変わり身の術だな」

れいん「むか〜しむかし、あるところに〜。山がありまして〜」

小百合「不安な出だしだ」

れいん「そこには果物がたくさん実っていました〜」

みなも「りんご、みかん、バナナ、さくらんぼと、ありとあらゆる果物が育っていました〜」

奈々穂「気候は関係ないのか」

れいん「りんごを育てたおじいさんは、みかんを育てたおばあさんにこう言います」

純「りんごが美味い!」

奈々穂「自慢か……」

れいん「それを聞いたおばあさんは返します」

純「さくらんぼが美味い!」

律「自分が育てたみかんに愛情持ってねえのかよ」

れいん「次の年、35年間みかんを育てていたおばあさんは、りんごを作ることになります。終わり」

澪「え? りんごを?」

律「さくらんぼ作れよ……って、ツッコミ入れてしまうじゃねえか……もう誰がなにを言ってもスルーだ」

憂「昔々」

律「ッ!?」

憂「私が5歳の頃」

久遠「実話ですのね」

憂「お姉ちゃんが山へ芝刈りに」

律「6歳で!? って、あぁースルーできなかった!」

純「今のはしょうがないですよ」

みなも「唯さん、6歳で芝刈りに行ったんですか?」

唯「」スヤスヤ

みなも「もう寝てる……」

憂「和さんの言うとおりだったね」

和「律は最後まで寝られないでしょうね」

歩「律さん律さん」

律「……」シーン

歩「律さん……?」

律「……」シーン

香「え、律さん……?」
95 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/06(金) 22:36:00.93 ID:iYhv8rJXo

歩「り、律さん……」ツンツン

律「……」シーン

みなも「そんな……!」

純「目を開けてください、律先輩ッ!」

律「しずかに寝かせてくれ」シクシク

聖奈「律さん」

律「聖奈まで!?」

聖奈「あ、いえ……。三人の友人と仰いましたよね」

律「あぁ、あの木のことか。言ったな」

聖奈「一人は帰ってきましたが、二人はどうなったのでしょう」

律「……」

歩「……」

香「……」

梓「……」

りの「……」

プッチャン「おいおい、結構重たい質問じゃねえか」

聖奈「二人の行く末はどう探しても見つかりません」

律「……うん」

聖奈「今日で長年の勿怪である神隠しが解決されました」

律「……」

聖奈「その中心に居た律さんから、聞かなければいけないと思います」

奏「聞かせてくれるかしら」

律「……そうだな」

奏「……」

紬「……」

律「一人は向こうで生涯を終えて、もう一人は……そこからも消えたんだとさ」

歩「え……」

律「深く考えるなよ? 多分だけど、無理に出ようとすれば違う場所に出てしまうのかもしれない。
  アイツを怒らせたりとかさ。命を奪うようなヤツではない、と思うから」

梓「……」

律「それは外国であり、家であり、学校であり」

澪「坂の上だったりな」

りの「坂ですか?」

律「そう。私が出た場所が坂の上だったんだよ」

純「ゴロゴロゴローって落ちてきましたよね」

律「あぁ、人生であんなに勢いよく転がったのはあれが最初で最後だな」

香「あははっ」

みなも「きゃはは」

れいん「あはは〜」

律「……」
96 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/06(金) 22:37:19.25 ID:iYhv8rJXo

聖奈「ありがとうございます」

律「いやいや」

奏「ありがとう、律さん」

律「別に、私がなにかしたわけじゃねえし。お礼を言われるのは、なんか違う」

りの「りっちゃんさん」

梓「律先輩」

律「だーかーらー!」

りの「おやすみなさ〜い」

梓「おやすみなさいです」

律「挨拶かよっ! お礼を言えよ!」

歩「……いいな」

梓「いいですよ、お礼なんて」

律「いやいや、言うのはおまえだ! なんで受ける立場になってんだよ!」

さわ子「いい加減に寝なさいよ、りっちゃん」

律「はい、すいませんでした」


シ ー ン


律「なんで私が怒られるんだよ」ブツブツ

プッチャン「オブラートに包んだな」

律「……なんで分かるんだよ」

プッチャン「雰囲気で分かるさ。言葉の裏にある真実ってヤツをな」

律「あっそ」

プッチャン「それを理解したおまえの仲間も中々のもんだぜ」

律「中学生には重過ぎる真実だからな」

りの「何の話?」

プッチャン「なんでもねえ、子供は早く寝な」

りの「また子供扱いしてぇ!」プンスカ

律「りのはすげえな」

りの「なにがですか?」

律「……なんでもない」

歩「……」

律「……」

97 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/06(金) 22:42:22.48 ID:iYhv8rJXo


― 月之下 ―


律「……ふぅ」

澪「こんなところで何をしてるんだ?」

律「月の光に輝く海を眺めていたのさ」キラン

澪「綺麗だな」

律「……こんな時間に起きてきたのか?」

澪「そっちこそ。眠たがっていただろ」

律「……」

澪「……」

律「……すぅ……はぁ。……みんなは?」

澪「ぐっすり寝てる」

律「そっか……」

澪「夜の空が明るいな」

律「月のおかげでな。そのせいで星の輝きが見えなくなってるけど」

澪「……」

律「凱旋門はパリだろ?」

澪「うん」

律「ノートルダムは?」

澪「同じくパリだ」

律「サグラダファミリアは?」

澪「スペインの……バルセロナだったと思う」

律「そうか……」

澪「……」

律「マチュピチュはどっかで聞いたんだよなー」

澪「ペルーだな。どうした?」

律「べっつに〜」

澪「……」

律「…………ふぅ」

澪「大体の話は聞いたけど、全部は話してないよな」

律「……あぁ、ちょっと重たい話だからな。さっきはフォローあんがと」

澪「そうじゃなくて、……あ」

律「?」

澪「おいでおいで」

律「歩も起きてきたのか」

歩「お邪魔じゃなかったですか?」

澪「全然。いつも律と二人でいる事が多いから、退屈気味だ」

律「ひ、ひどいっ」
98 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/06(金) 22:45:17.78 ID:iYhv8rJXo

歩「……それじゃ、お隣、失礼しますね」

律「……うむ」

澪「……」

歩「……」

律「?」

澪「……」ツンツン

律「な――」フガッ

澪「……」パクパク

律「……」コクリ

歩「本当に、綺麗な月ですね」

律「お、おう。そうだろ?」

澪「ハァ……」ヤレヤレ

律「……ど、どうした、歩?」

歩「えっと……」

澪「邪魔だったら、席を外すけど」

歩「あ、いえ。宮神学園の人じゃないですから、聞いて欲しいです」

澪「……うん」

律「?」

歩「律さんは、私の心の底にあるものを見ちゃいましたよね」

律「見たぞ!」

澪「……」

歩「あの先生は、夏前に実習で来ていた先生なんです」

律「ふむ」

澪「……」

歩「外から来た人なんて珍しいから、りのと一緒に学園を案内したり、近所を一緒に散歩したりしました」

律「……うん」

歩「澪さん、私ね……」

澪「?」

歩「忍者の末裔なんですよ」

澪「NINJA?」

律「梓と同じ反応かよ」

歩「そうです、NINJA。ほら、クナイだっていつも持ってる」カチャ

澪「……」

歩「驚かないんですか?」

律「……」

澪「驚くより、納得した」

歩「納得?」
99 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/06(金) 22:48:02.43 ID:iYhv8rJXo

澪「極上生徒会のみんなが、中学二年生の女の子に寄せる信頼だな」

歩「それは、私が忍者だからですよ」

律「……」

歩「物心ついたときから訓練させられていたんです」

律「変わり身の術とかできんの?」ワクワク

澪「空気を考えろッ!」スパーン

律「冗談です。ってなんだよその新聞紙は!」

澪「手元にあったんだ」

律「……話を続けてくれ」

歩「続けにくいです」

澪律「「 ごめん 」」

歩「なんて、ちょっと羨ましかったり」

律「……」

歩「忍者の里というのがあってですね、そこで生まれて育って訓練してきたわけです」

澪「……」

歩「時代遅れですよね。今時の女子中学生が忍者やってるんですよ」

律「……ごめん」

歩「?」

澪「変わり身の術なんて、軽い気持ちで言ってごめんって」

律「こと細かく代弁するなよな」

歩「いいな、って思うんです。分かり合えてる二人が」

澪「そうかな。私はまだ律の知らない部分たくさんあるよ」

律「私は澪の知らない部分、たくさん知ってるぞ」

澪「どういう意味だっ、ふざけるなって!」

律「あはは、ごめんごめん」

歩「……」

律「歩にはりのがいるだろ?」

歩「……どうでしょう。りのは口で親友親友って言ってきますけど」

律「親友じゃないのかよ」

歩「だって、りのは私が忍者だって事、知りません」

澪「……」

律「疑うのか?」

歩「深層心理の世界で、香は自分に正直でしたよね。だから惑わされずに済んだと思っています」

澪「……」

歩「香は自分自身で心を守っていました。私は律さんがいなければ……。
  あの世界から抜け出せなかったかもしれません」

律「奏に対して正直だったんだろ。嘘というか、みんなに隠している部分はあったぞ」

歩「それは……」

律「歩と一緒だろ」
100 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/06(金) 22:50:24.45 ID:iYhv8rJXo

歩「でも、香は奏会長を信頼しているから、正直になれているってことですよね。
  私には、そんな人が……」

律「私だって、澪やむぎに隠していることたくさんあるぞ」

歩「……」

澪「……」

律「……」

澪「……」クイクイッ

律「?」

歩「……」

律「あー、あれだ。本当に大切なものは簡単に見つけてはいけない、だ」

歩「それ、誰の言葉ですか?」

律「尊敬する人の言葉だ」

歩「……」

律「りのと一緒に探していけばいいさ」

歩「……他人事ですね」

律「当然だ。私は明日帰るんだからな、無責任なこと言えないだろ」

歩「……ふふっ」

律「なんで笑う」

歩「優しいですね、律さん」

律「かゆいっ」

澪「優しいな、律は」

律「バカにするな――って、新聞紙が無いぞ?」

澪「あ……!」スパーン

律「っ……。おい、叩きすぎだろ」

澪「ごめん、カウンターが止まらなかったんだ」

律「じゃあいいや」

歩「高校を卒業するまでに、見つかるでしょうか」

律「?」

歩「宮神学園から卒業したら、里に戻されるんです」

律「マジか……」

歩「宮神学園に、奏会長に守られているから、私は……今だけ普通の女の子として生活していけるんですよ」

澪「……」

歩「実習の先生なら私をそこから連れ出してくれる――って、心のどこかで思っていたんですね……」

律「……」

101 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/06(金) 22:52:09.24 ID:iYhv8rJXo

――…


歩「」スヤスヤ

律「……」

澪「動くなよ律」

律「?」

澪「カメラ取って来るから」

律「???」

紬「どうぞ」

澪「ありがと……って!」

紬「シー……」

澪「ッ!」

律「さっきの新聞紙はむぎだったのか……」

紬「そうです」キリ

澪「撮るぞ」

律「なんでだよ」

澪「律が膝枕してるんだぞ、これは貴重だ」

紬「うんうん」

歩「」スヤスヤ

律「やめろこら」ヒソヒソ


パシャッ


澪「……よし」

紬「見せて見せて」

澪「……」

紬澪「「 おぉ…… 」」

律「……気になるな」

紬「月に照らされた二人、蒼い光を受けているわ」

澪「自分で言うのもなんだけど、素晴らしいぞ」

律「み、見せろ」

歩「う……ん……」

律「……!」

澪紬「「 シー…… 」」

歩「」スヤスヤ

律「……」ホッ


パシャッ


律「ッ!?」

紬「今の、とても良かったと思うの」

澪「うん。ピュリッツァー賞も夢じゃない」
102 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/06(金) 22:53:20.07 ID:iYhv8rJXo

紬「歩ちゃんを見守るりっちゃんの優しい表情……」

澪「律を頼りながら安心しきっている歩の寝顔……」

紬澪「「 おぉ……! 」」

律「あのな……」

歩「」スヤスヤ

紬「人間万事塞翁が馬、ね」

澪「少しズレていたら不幸なことが起きていたけど、なにが幸福かは分からないもんだな」

律「……」

紬「……」

澪「……」

歩「」スヤスヤ

紬「りっちゃん、寝なくていいの?」

律「……あぁ。今寝たら、悪い夢見そうでな……」

紬「……」

律「今更ながら、怖くなってくる。
  もしも、を考えてしまうんだよ。……もしも、あの時」

澪「今なら、大丈夫だろ? ちゃんと手の中にいるんだから」

歩「」スヤスヤ

律「そうだな……」

紬「蚊取り線香と、虫除けスプレーと、タオルケット」

澪「用意がいいな」

紬「うふふ」

律「眠くなったら、ここで寝るから」

澪「うん」

紬「分かった」

律「……」

澪「……」

紬「……」

歩「」スヤスヤ

律「テントに戻らないのかよ」

澪「律が眠くなるまでいるよ」

紬「うん」

律「そっか……」

103 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/06(金) 22:53:59.94 ID:iYhv8rJXo

――…


奏「むぎさん……」

紬「あら、おはようございます」

奏「どうしてこんなところに……?」

紬「うふふ」

澪「」スヤスヤ

律「」スヤスヤ

歩「」スヤスヤ

奏「歩……」

紬「……」

奏「そういうことでしたか」

紬「……」

奏「お見送り行けなくて心苦しいですが、ここで失礼します」

紬「えぇ」

奏「それでは、さようなら。琴吹紬さん」

紬「それじゃあ、またね。神宮司奏さん」

104 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/06(金) 22:54:48.17 ID:iYhv8rJXo
つづく
105 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/07(土) 00:43:53.13 ID:DWHXASR+o

面白い
106 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/07/07(土) 01:06:39.27 ID:vLZdYlG+o
超期待
一気によんじゃった
107 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2012/07/07(土) 02:49:28.10 ID:0PV+7hkAO
乙!
108 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/08(日) 11:35:35.79 ID:qRNZEyuvo

――…


チャッチャラチャンチャラランラン チャンチャンチャチャーン


ウデヲマエカラウエニアゲテ オオキクセノビノウンドー


イッチニー サンシー


律「ラジオ体操ッ!?」ガバッ

澪「っ!」

律「……あれ?」

澪「驚かすなよ……りつ……」


チャンチャラ チャンチャン


律「ラジオ体操か……」

澪「ふぁぁ……朝か……」

律「腕が鳴るぜ!」

テッテッテ

澪「……背中が痛い」ギシギシ







ヨコマゲノウンドー


唯「いっちにーさんしー」

みなも「ごーろっくしっちはっち♪」

りの「にーにっさんしー!」

れいん「ごーろくしちはち〜」

律「こら、れいん! だらしないぞ!」

れいん「はいっ! すいません、りっちゃん隊長ー!」

歩「おはよーございます、律さん!」

律「うむ、おはよう。元気があっていいな! 人数が足りないけどどうした!」

唯「朝ごはん作ってる人と、テントでさんしー!」

みなも「ごーろっく、寝てるよさんしー♪」

律「そこ! もっと背筋を伸ばせ!」

りの「はいー!」


アシヲヨコニダシテナナメシタニー


律「歩! 足をもっと開け!」

歩「はい!」

律「みなも――」

澪「うるさいっ!」スパーン
109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/08(日) 11:38:41.46 ID:qRNZEyuvo

――…


香「律さんはどうしたんですか?」

澪「一人でラジオ体操やっているから、先に食べていよう」

りの「あれ、奏会長がいないよ」キョロキョロ

プッチャン「昨日の夜に、朝から出かけると言ってただろう」

りの「そうだったっけ?」

プッチャン「朝からボンヤリしてんじゃねえよ」

紬「……」

奈々穂「それでは、いただこう」

聖奈「いただきま〜す」

「「「 いただきま〜す 」」」

梓「おいしいですね、むぎ先輩」

紬「うん。味付けがいいわね」

香「ありがとうございます!」

紬「香ちゃんが作ったのね」

香「そうです! 昨晩のうちに仕込みをしていました!」

久遠「テンション高いですわね」

小百合「味噌汁が食べられるなんて、素晴らしい」

れいん「ホントホント、手間かけてるね〜」

純「たんと召し上がれ」

れいん「料理もできるんですかぁ〜」

純「…………味噌汁だけね」

さわ子「もぐもぐ」

唯「さわちゃん、ご飯食べながら新聞を読むのはいけないんだよ」

さわ子「いいのよ、私は大人だから」モグモグ

唯「大人ってずるいよね」

みなも「ね〜!」

澪「高校三年生と中学一年生が共感してる……」

和「唯のいいところよ」

憂「……」

奈々穂「憂さんは複雑な表情だな」

まゆら「日経株価はどうですか?」

さわ子「え〜と、あらら日本の銀行様が下落してるわね」

久遠「……」
110 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/08(日) 11:40:42.30 ID:qRNZEyuvo

まゆら「先日から下がり始めたようですよ」

さわ子「ふ〜ん……」

奈々穂「聖奈さん」

聖奈「は〜い」ガタッ


スタスタスタ


さわ子「?」モグモグ

プッチャン「ガツガツガツ」

りの「あー! プッチャンそれ私のだよ〜!」

プッチャン「いいじゃねえか、減るもんじゃねえし」

りの「私の食べる分が減ったよー!」

香「どうしたんですか、副会長。箸が進んでいませんが」

奈々穂「いや……なんでもない」

プッチャン「サンドイッチに箸なんて使うかよ」

香「だまらっしゃい!」キッ

紬「りのちゃん、食が進んでいないみたいだけど」

りの「食べるの無くなっちゃいました」アハハ

紬「私のでよかったら、おにぎりをどうぞ」

りの「わぁ、ありがとうございます〜!」

紬「いえいえ〜」

梓「むぎ先輩、律先輩のでよかったらどうぞ」

律「……」

梓「なんてね」

律「なにが、なんてね、だよ。まったく」

歩「どうぞ、お茶です」

律「うん、ありがと。。歩は気が利くなぁ〜」

歩「えへへ」

梓「日経平均株価が大幅下落だそうですよ律先輩!」

律「株に興味ねえよ! 誤魔化そうとするな!」

唯「あずにゃん、銀行が下落したんだよ。
  だけど、このままいけば市場に影響が出ることは間違いないだろうね」キリ

律「誰だおまえは」

憂「今日も暑い一日になりそう」

りの「ほんとにいい天気だね〜、こういう日は海で泳ぐのがいいんだよね〜」

澪「さわ子先生」

さわ子「ダメよ。昼には帰るんだから」

唯「大人って厳しいよね」ションボリ

みなも「帰っちゃうの……?」ウルウル

唯「帰らないよ!」

みなも「やったぁ!」
111 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/08(日) 11:43:17.66 ID:qRNZEyuvo

憂「お、お姉ちゃん」

さわ子「……」ズズーッ

唯「ごめんね、みなもちゃん……」ウルウル

みなも「ううん。みなも、分かってたもん」ウルウル

聖奈「奈々穂さん、こちらへ」

奈々穂「分かりました」

久遠「……」

琴葉「……」

律「一人でラジオ体操楽しかったなー!」ジーッ

澪「……フン」

香「あははっ、律さん本当に一人で体操したんですか」

みなも「きゃははっ、律さん真面目〜!」

りの「あはははっ、けほっ、けほっ」

プッチャン「なにやってんだよ、りの」

紬「はい、お茶」

りの「す、すみません……」

紬「みんなに聞いて欲しいことがあるの」

梓「?」

律「なんだよ、改まって……」

澪「?」

憂「なんですか?」

和「お別れの挨拶ね」

歩「!」

紬「ううん、違うの。奏さんの大切な話」

香「会長についてですか?」

律「ん? 会長って言ってるじゃねえか」

香「アレを引っ掛けるための嘘ですよ」

律「おぉ」

れいん「大切な話ってなにかな〜?」

小百合「さぁ、見当がつかない」

まゆら「……?」

みなも「なになに〜?」

琴葉「……」

久遠「琴吹グループのご令嬢、琴吹紬。神宮司とはどこまで繋がっていますの?」

紬「分かりません」キッパリ

久遠「そうですか。……え? 分かりませんの?」

紬「いえす」

りの「大切な話って、なんですか? 紬さん」

紬「奏さんは、お見合いさせられます」
112 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/08(日) 11:45:44.27 ID:qRNZEyuvo

琴葉「!」サッ

りの香「「 えぇーッ!? 」」

久遠「そ、それは本当なんですの?」

律「マジかよ!?」

紬「はい」

澪「せ、政略結婚なのか……?」

紬「そうみたいね」

和「身近で聞くと、少し戸惑うわね」

憂「う、うん」

梓「奏さんも高校三年生です。きっと色々と事情があるんですよ」

純「この人だけ冷静っ!」

れいん「ぬぬぅ〜! どこの馬の骨とも知らないヤツに〜!」

香「潰すッ!」

さわ子「あら、ナイターで延長の可能性があるわね。録画大丈夫かしら」

まゆら「もう少しこちらにも興味を持ってください〜」

聖奈「紬さ〜ん、こちらへいらしてくださ〜い」

紬「は〜い」

テッテッテ

小百合「大変なことになったな」

りの「好きでもない人と結婚なんて、ダメだよ〜!」

プッチャン「大人は大人の事情ってもんがあるんだよ」

りの「そんなの知らないもん!」

梓「……」




113 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/08(日) 11:49:15.57 ID:qRNZEyuvo

聖奈「虚言、ですね」

紬「……」

奈々穂「政略結婚の話は今までもこれからも絶対にあり得ません」

紬「……」

聖奈「あなたは物事の分別をよく分かっている人物と判断してきましたが。
   改める必要がありそうです」

紬「……」

聖奈「よく考えて返答してください」

奈々穂「……」

聖奈「返答次第では私はあなたを赦しません」

梓「待ってください!」

紬「あずさちゃん」スッ

梓「……」ムスッ

聖奈「なぜあんな嘘を?」

紬「……」

梓「……」

奈々穂「……」

聖奈「答えられませんか」

紬「はい。分かりません」

聖奈「ッ!」

奈々穂「聖奈さん……」

梓「む、むぎ先輩……今のは……その……」

紬「……うん。でもね、どうして政略結婚と言ったのか…分からないの……」

聖奈「……もう、いいです。琴葉さん」

琴葉「はい」

聖奈「シンディさんに連絡を取って、戻ってくるように伝えてください」

琴葉「分かりました」サッ

紬「奏さんが、一人で頑張ってみる、と言っていたの」

奈々穂「奏が……?」

聖奈「……?」

紬「でも、それは誰も臨んでいないような気がして……」

聖奈「……」

紬「みんなで迎えに行くには、どうしたらいいのか考えていたら……」

梓「政略結婚ですか」

紬「……そう。ほら、相手が悪いことが多いでしょ?」

梓「ドラマとかでは……そんなイメージですね。親が勝手に決めたとか」

久遠「敵を作ればまとまって動きやすい。まさにその通りですわね」

聖奈「……」

久遠「船の手配は済ませましたわ。奈々穂さん、相手の情報は分かりますの?」

奈々穂「恐らく、株価が下落した銀行だ」
114 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/08(日) 11:52:46.99 ID:qRNZEyuvo

久遠「確証はありませんのね」

奈々穂「あぁ。この件は全く知らされていないからな、確実とはいえない」

久遠「奈々穂さんは奏会長の幼馴染。極上生徒会が動くには足りる信憑性ですわ。
   シンディさんの準備が出来次第、向かいますわよ」

奈々穂「分かっている。ヘリで先に向かう人選はこっちでする」

聖奈「……」

久遠「なぜ、生徒会以外の人間、紬さんに話したのか。考えてみるといいですわ」

聖奈「――!」

奈々穂「おまえは知っているのか、久遠」

久遠「えぇ、共に過ごしていて、それに気付かない聖奈さんではないでしょう?」


スタスタスタ


聖奈「……」

紬「……え、えっと」

聖奈「先ほどの非礼、お詫びします」ペコリ

紬「い、いいえ」ペコリ

梓「……」

奈々穂「奏会長を迎えに行きましょう」

紬「そうしましょう」キリ

聖奈「……はい」

115 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/08(日) 11:58:25.48 ID:qRNZEyuvo


― ヘリコプター ―


律「私弱いんですけど!?」

奈々穂「訓練は受けていない、と?」

律「当たり前だろ!? ごく普通の女子高生だから! 
  放課後に部室で食って飲んで演奏してるだけだから!」

歩「……」

律「あ、別に嫌味じゃなくてだな」

歩「……そうですよね」

律「う……、なんかトゲがある」


パラパラパラパラ


律「あ、運転手さん。そこ曲がったところで降ろしてください」

シンディ「ノー」

律「なんで私なんだよ! 流れ的にむぎだろ!?」

琴葉「そろそろ着きます。ご準備を」

小百合「相手は大企業の御曹司。護衛も手練揃いだろう」カチャ

律「だよな!? どう考えても私のポジションは香かれいんだろ!?」

奈々穂「シンディさん、奏会長を運ぶとき、何か聞いていませんでしたか?」

シンディ「……ナッシン」

律「あれぇ、なんで無視されてるんだぁ?」

歩「律さん律さん」

律「ん?」

歩「私、街から出たの久しぶりですよ〜」

律「奏にでもお礼言っとけ」

歩「冷たいなぁ……」

律「ってか、ヘリに乗り込む時みんなに変な顔されてたけど、後で説明できるのかよ」

歩「……えっと」

奈々穂「理由はこっちで考えてある。政略結婚というのが功を奏している」

律「? 政略結婚じゃないのか?」

小百合「ではない、と?」

奈々穂「似ているようで、事実は少し違う……」

律「ふ〜ん……」

小百合「奏会長……すぐ行きます」
116 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/08(日) 12:00:35.34 ID:qRNZEyuvo

律「シンディすげえな、ヘリの操縦までできるなんて。さすが車両部」

シンディ「サンクス」

律「で、君の素性が知らないんだが?」

琴葉「……」

奈々穂「神宮司家の御庭番です」

律「へぇ、すげえなこの面子!」

琴葉「……」

律「……御庭番ってなんだ」ヒソヒソ

歩「幕府から続く隠密の――」

律「オーケー、オーケイ。充分に分かったよ」

シンディ「ダウン」

奈々穂「降下するぞ」

琴葉「……」

小百合「……」

歩「律さんの状況把握力は武器ですよ」

律「ちげえ! 分かったのは場違いだってことだ!」

117 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/08(日) 17:10:33.34 ID:qRNZEyuvo


― 高級旅館 ―


四兄「よぉ」

奈々穂「四兄ぃ……!」

律「誰だお前は!」

四兄「君こそ誰だよ。宮神学園の生徒じゃないみたいだけど」

奈々穂「……」

律「ごめん、大人しくしてる」

歩「無理に出しゃばらないでください」

律「なんだよ、梓みたいな口調だな」

歩「えへへ」

四兄「緊張感無いな。お前達がここにいるってこと、どういうことか分かってるか?」

奈々穂「分かってるよ。国の未来を左右する事態だってことくらい」

律「え……」

四兄「なら引き返せ」

奈々穂「なにが正しいのかは分からないけど、
     奏さまが助けを求めているのなら、私はそれに応えるだけ」

四兄「……」

奈々穂「琴葉、外からで構わないから、状況を見てきてくれ」

琴葉「はい」サッ

四兄「……」シュッ

琴葉「!」


クルッ

シュタッ


奈々穂「四兄……!」

琴葉「……」

四兄「俺が此処にいる理由、教えてやろうか」

奈々穂「どいてよ」

四兄「それはできないよ。俺には神宮司家を守る使命がある」ジリ

奈々穂「私には、奏さまを守る使命がある。通してもらうよ」スッ

小百合「……」

琴葉「……」

歩「……」


チリンチリン


律「!」

四兄「結構キツイが、負けてやるほど甘くはない。お前達4人の足止めくらいはできるぞ、奈々穂」

奈々穂「いつも負けていたあの頃とは違う」
118 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/08(日) 17:12:02.81 ID:qRNZEyuvo

四兄「俺だけだと思うなよ」

奈々穂「!」

四兄「兄さん達も今日は来ている」

奈々穂「な……!」

律「……ダメだ、一般人の私には付いていけねえ。向こうで待ってるからな〜」


スタスタスタ


琴葉「……」

小百合「……」

歩「律さん……」

四兄「なんだ、ありゃ……。隙だらけで浮いた存在だな……」

奈々穂「四兄、一つだけ教えて」

四兄「?」

奈々穂「奏さまが私達に何も言わずに此処に来たってことは……」

四兄「……想像通りだと思うぜ」

奈々穂「!」





律「あの鈴は……」

黒猫「ニャー」

律「やっぱりか。……なんで、ここにいるんだよ」

黒猫「……」ジーッ

律「……」ジーッ

黒猫「ニャー」

律「ニャー」

黒猫「……」

律「ニャー?」

学ラン「……」

律「うおっ!? いつからそこに!」

学ラン「……」スッ

律「?」

黒猫「ニャー」

学ラン「……」

律「喋れよ……。受け取れって言ってるのか?」

学ラン「……」コクリ

律「……なんだこれ、石?」

黒猫「ニャー」ピョン

学ラン「……」サッ
119 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/08(日) 17:16:00.14 ID:qRNZEyuvo

律「塀の中へ入って行った……。ってことは、また助けてくれんのか……?」

歩「律さん、塀の上に居たのって……」

律「あぁ、あっちの世界で助けてくれた黒猫と学ラン男だ」

歩「まだお礼言ってないのに……」

律「また助けてくれるみたいだぞ。理由が分からないけどな」

琴葉「学ラン男?」

小百合「黒猫がいましたね。まさか……」

律「うん。神隠しで会った二人だ。昨日話したのがあの黒猫な」

奈々穂「……そうですか」

律「門の前にはあの人が待機してんのか?」

奈々穂「はい。あれは私の兄です」

律「四兄って呼んでたけど、四人も兄がいるのか……大変だな」

奈々穂「いえ、それほどでもありません。ちなみに兄は六人います」

律「……え、もしかして、あんなのが六人も!?」

奈々穂「全員とは思えませんが、二、三人いると見たほうがいいかもしれません」

律「わたし、いっぱんじんなので、これでしつれいします」

奈々穂「そんなこと言わずに」

律「あのな、跳んでる琴葉を遮るようなヤツだぞ? 
  自慢じゃないけど、私はドラムしか叩けないごくごく普通の女子高生なんです☆」ウィンク

歩「まぁまぁ、黒猫ちゃんが手伝ってくれるならなんとかなりそうじゃないですか」

律「澪ならスルーしないぞ今の……。私になにができるかさっぱりだけどさ。……はい、歩」

歩「貰っていいんですか?」

律「役立つと思う。はい琴葉」

琴葉「……?」

律「小百合と奈々穂にも一つずつ」

小百合「これは、……石ですね」

奈々穂「青白く輝いてるな」

歩「でも、律さんが貰ったものじゃないですか」

律「4つしかないから、君達頑張れっていう気持ちを込めてな! 他人任せ!」

歩「じゃあ、律さんは私が守りますね」

律「頼むぞ」

奈々穂「一つ、訊いていいですか?」

律「?」

奈々穂「律さんから余裕を感じられます。なにか案でもありましたらご教授願いたいのですが」

歩「……」

律「あー、いや。昨日からさ、変な世界行ったりしてるじゃん?」

奈々穂「はい」

律「余裕と言うか、ふざけてるだけなんだよな」

琴葉「……ふざけて…………?」
120 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/08(日) 17:17:33.55 ID:qRNZEyuvo

律「ぶざけて、バランスとってるだけだ。少しでもこの事態を真に受けてしまうと、
  相当へこむだろうからさ。……いつもは唯がいるから、楽になれるんだけど」

小百合「なぜ、落胆を?」

律「非日常すぎるからだよ……。知らない世界に付いて行くって、結構大変だ」

歩「!」

琴葉「……」

小百合「……」

奈々穂「……」

律「それだけ……だ」

歩「昨日の夜って、律さん……落ち込んでいたんですね……」

律「……まぁな」

歩「澪さんがテントから出て行って、
  律さんのところに行ったのかな、と思って付いていったんです」

律「……」

歩「澪さんはそれを、知っていたんですねぇ……」ウンウン

律「こと細かく説明するなっ!」ワシャワシャ

歩「あははっ、ごめんなさい」

小百合「……」

琴葉「……」

奈々穂「……」

歩「あぁ、髪が乱れて……」クシクシ

律「それで、どうすんだよ」

奈々穂「一般人が関与していい問題ではありませんよ?」

律「今更……」

奈々穂「ふふ、冗談です。まず、この石の使い方を教えてください」

律「すまん、知らん!」

歩「えぇー……」

律「すまんと言っただろう!」

奈々穂「コホン。琴葉、この際だ。変装できるな?」

琴葉「はい」

律「え?」

歩「いよいよですね」

小百合「本番だな」

律「誰にでも変装できんの?」

琴葉「はい」

律「……」

奈々穂「奏会長を救うぞ!」

121 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/08(日) 17:19:36.96 ID:qRNZEyuvo

― 裏 ―


五兄「史郎兄さん、持ち場離れてなにしてんだよ」

四兄「わりいな、俺は奈々穂を手伝うことにする」

奈々穂「そこをどいてくれ五兄」

五兄「神宮司家の当主様もお見えになってる」

奈々穂「!」

五兄「お前の出る幕は無い。引き返せ、奈々穂」

奈々穂「……」

五兄「史郎兄さん、自分が何をやってるのか分かってるか?」

四兄「あぁ、俺は今フリーだからな。今は奏様に付いているんだ」

奈々穂「ごめん、五兄」スッ

五兄「その行動が奏様を喜ばせるとでも思っているのか」

奈々穂「!」

五兄「後の事を考えろ。ガキじゃねえんだ」

奈々穂「でも、私は……ッ」

五兄「能力を使うことは不幸じゃない。
   日本がどう転ぶかの瀬戸際でも、お前は同じ行動をとるのか?」

奈々穂「――ッ!」

四兄「行け、お前達は奏様を守るんだろ?」

奈々穂「先に行きます!」サッ

五兄「待てッ!」スッ

小百合「――!」サッ


カキン!


五兄「ぐっ……飛田活生流の……ッ!」

小百合「……ッ」

四兄「コイツを押さえるなんて、やるなぁ」

五兄「チィッ!」ブンッ

小百合「……」ザザッ

四兄「剣術はお前の方が上でも、本気でやらないと痛い目見るぜ〜?」

タッタッタ


五兄「待て四兄ィッ!」

小百合「――ッ!」ブンッ

五兄「ッ!」サッ


ガッ!


小百合「……」

五兄「……俺を相手に木刀でやろうってのか」

小百合「無論」
122 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/08(日) 17:20:46.06 ID:qRNZEyuvo





一兄「おや、奈々穂じゃないか」

奈々穂「!」

一兄「……」

奈々穂「奏さまはどこにいる」

一兄「なるほど、御庭番か」

奈々穂「!」ササッ

一兄「なぜ奈々穂に変装しているのか、理由を聞かない限り通せませんね」

奈々穂「……っ」

四兄「げっ、一兄……」

一兄「史郎……」ハァ

奈々穂「……」スッ

四兄「分が悪すぎるけど、二対一だ」

一兄「矩継琴葉。奈々穂と比べるにはやや劣りますよ」

四兄「う……」


123 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/08(日) 17:23:06.47 ID:qRNZEyuvo

― 表 ―


奈々穂「どうして、正面からなんですか?」

律「礼儀だ礼儀」

奈々穂「……裏から三人回しましたよね」

律「ぴぃ〜ぷぅ〜」

歩「……」


ガラガラガラッ


女将「奈々穂様、どうぞお入りください」

奈々穂「失礼します」

律「……」テクテク

女将「失礼ですが、あなた様は?」

律「わ、わたしだよん!」

奈々穂「?」

歩「?」

女将「???」

律「友人です」

女将「奈々穂様……?」

奈々穂「はい、友人です」カァアア

律「悪いな、奈々穂。恥ずかしい思いをさせちまってよぉ」

歩「ブフッ」

女将「一博様、お連れしました」

一兄「ありがとう」

女将「失礼します」ペコリ

奈々穂「奏会長の居場所は?」

一兄「鶴の間だそうです」

奈々穂「配置はどうなっている」

一兄「奈々穂さんの兄弟以外なら、なんとかいけそうです」

奈々穂「そうか。ご苦労だった、琴葉」


ドロン


琴葉「いえ」

律「ドロンって聞こえたぞ」

奈々穂「琴葉と歩は退路を確保しておいてくれ」

琴葉「はい」サッ

歩「はい」サッ

律「……えっと」

奈々穂「行きましょう、律さん」

律「よ、よし……!」
124 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/08(日) 17:25:53.99 ID:qRNZEyuvo

― 亀の間 ―


律「ここ亀じゃねえか!」

一兄「……」

律「騙されたぜ。なにが、こっちですよ、だ」

一兄「……」

律「聞いてんのか! メガネ兄さんよ!」

奈々穂「律さん……、落ち着いてください」

律「すまん、テンパってしまって」アハハ

一兄「……」

律「あの人、奈々穂のお兄さんだよな?」ヒソヒソ

奈々穂「そうです」

律「目瞑ってなにしてんだ? 明鏡止水?」ヒソヒソ

奈々穂「……似たようなものです」

律「今の内に行こうぜ。奏を見つけないと」

一兄「奈々穂、まだ早いですよ」

奈々穂「!」

律「?」

一兄「あれからそんなに経っていません」

奈々穂「充分経ったよ。私ももう17だ。五年前とは違う」

一兄「それでも、周りからみればまだまだ子供」

奈々穂「それじゃあ、どうしてここまで私たちを通したの?」

一兄「あなた方は敵ではない。それだけの理由です」

奈々穂「……」

律「……」

一兄「桜が丘高校三年生、田井中律さん」

律「なんで名前を……!」

一兄「君は一般人ですね」

律「お、おう」

一兄「外で待っててくれませんか。これから大事な――」

律「人と話すときは目を見て話しましょう〜って学校で習わなかったのか」

一兄「……」

律「目なんか瞑ってよ、礼儀を知らないのか」

奈々穂「……」

一兄「これは失礼しました。田井中律さん、あなたには外で待っていて欲しいのですが」

律「どうしてだ?」

一兄「この建物の大きさをみれば分かると思いますが」

律「バカにしてんの?」

一兄「いいえ」
125 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/08(日) 17:27:55.91 ID:qRNZEyuvo

律「はっきり言えよ。お前はこの場に相応しくないって――」

「失礼します」

一兄「どうぞ」


スーッ


女将「御当主様がお呼びです」

一兄「分かりました」

律「……」ムカッ

一兄「仕事がありますので、これで失礼します」

奈々穂「一兄!」

一兄「まだ早い」


スーッ


律「〜ッ!」

奈々穂「すいません。いつもはあんなこと……」

律「そんなことはいいよ。そんで、どうすんだよ」イライラ

奈々穂「歩と琴葉が戻るまで、しばらく待機です」

律「そうか……」イライラ

奈々穂「……ここに連れて来たことに、理由があるはず」

律「庶民をバカにしやがったぞ」ムカムカ

奈々穂「律さんを煽ったのか、一兄は……?」

律「キャビアよりイクラがおいしいこと教えてやろうか。食べたことないけども」ブツブツ

「失礼します」

奈々穂「どうぞ」


スーッ


女将「お入りください」

小百合「……」

五兄「……」

奈々穂「小百合と五兄……」

律「?」

奈々穂「小百合?」

五兄「能力を使ったんだよ」

奈々穂「――!」

五兄「当主様が、だ」

奈々穂「……っ」

律「小百合〜?」

小百合「……」
126 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/08(日) 17:30:28.27 ID:qRNZEyuvo

律「メガネ取るぞ〜」スッ

小百合「……」

律「心此処にあらずだな。なんでだ?」

奈々穂「それは……」

五兄「なんだ、話してないのか。怖いもの知らずにもほどがあるぞ」

奈々穂「……」

五兄「乗り込んでくるからには、全員知っているものだと思っていたが。
   いくらなんでも甘すぎるだろ、奈々穂」

奈々穂「知らなくていいことは、たくさんあるッ!」

律「……」

四兄「こっちだ二人とも」

律「琴葉と歩……? なんで一緒なんだよ……?」

琴葉「……」

歩「……」

律「二人とも、どうしたんだ……?」

琴葉「……」

律「歩! しっかりしろ!」ガクガク

歩「……」フラフラ

律「おい……どういうことだよ奈々穂ッ!」

奈々穂「そ、それは……っ」

四兄「悪いな、奈々穂。俺は今から当主様の護衛に入る」ザッ

五兄「……」ザッ

奈々穂「……!」ザッ

律「な、なんで畏まってんだよ……?」

奈々穂「神宮司家のご当主です」

律「!」


爺「面を、金城奈々穂」


奈々穂「…………はい」

爺「……」

奈々穂「……」

律「……?」

爺「この部屋から出ることを禁ずる」

琴葉「はい」

小百合「はい」

歩「はい」

奈々穂「かしこまりました」

律「な……!?」


スーッ
127 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/08(日) 17:32:49.14 ID:qRNZEyuvo

バタン


律「お、おい奈々穂? どうしたんだよ急に!」

奈々穂「……」

律「奏のとこに行くんじゃないのかよ!」

奈々穂「……」

律「なぁ、琴葉も返事くらいしろよ……」

琴葉「……」

律「小百合……!」

小百合「……」

律「歩、私をからかってんだろ?」

歩「……」

律「変わり身の術教えてくれよ」

歩「……」

律「おいおい、無視すんなってば」

歩「……」


五兄「見てらんねえ……」

四兄「……」


律「な、なんだよこれ」

歩「……」

琴葉「……」

小百合「……」

奈々穂「……」

律「おい、あのジジィがナニカしたんだよな……?」

五兄「……」

律「答えろよッ!」

四兄「これが裏の世界だ」

律「う、裏……?」

五兄「おい、史郎」

四兄「心配するな。一時間で元に戻る」

律「元に戻るってなんだよ! 歩達に異常が起きてるってことじゃねえか、ふざけんなッ!」

四兄「君が吼えたところになにも変わらない」

律「意味が分からねえよッ!」

一兄「これが神宮司家ですよ。田井中律さん」

律「あぁ!?」

一兄「人の心を操る能力」

律「――ッ!」
128 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/08(日) 17:35:01.95 ID:qRNZEyuvo

五兄「一博! 喋り過ぎだ!」

一兄「代々神宮司家の当主はこの能力を持って日本を裏から支えてきました」

律「……」

一兄「奏様もいづれ――」

律「人を操るってか!? ざっけんなッ!」

奈々穂「……」

琴葉「……」

小百合「……」

律「お前達の妹も! 琴葉も小百合も! 歩も! 操られてんのかよ!」

歩「……」

律「意思のない人形じゃねえんだぞ!」

歩「……」ピクッ

律「奏にも今それをさせようってんだな……!?」

一兄「もう、終わってるころでしょう」

律「ははっ。人の心を踏みにじられるのがどれだけムカつくか、やっと分かったぜ香」

一兄「……」

律「潰すッ!」


バタンッ


律「ジジィーッ!!」

四兄「おいッ!」

律「ふぐっ!?」

四兄「どれだけ危険なことをしてるのか分かってないんだよ!」

律「ふぐぐ」


ドカッ


四兄「ッ!?」

律「ぶはぁ」

四兄「な、なぜだ……?」

律「助かったぜ、歩」


歩「律さんは私が守りますから」


律「鶴の間!」

歩「はいっ!」

ダダダダッ
129 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/08(日) 17:36:09.75 ID:qRNZEyuvo

奈々穂「小百合、琴葉。二人に続くぞ」

小百合「御意」

琴葉「はい」

一兄「10分も経っていないのに……なぜ……?」

五兄「……当主様の能力が低下しているのか、一兄」

一兄「いや……」

奈々穂「私たちには意思があるからだよ、兄さん」





律「操られたんじゃねえの?」

歩「石を持っていたから意志が生まれたんです」

律「こんなときにギャグかよ」

歩「違いますよぉ!」

130 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/08(日) 17:37:46.66 ID:qRNZEyuvo

― 鶴の間 ―


社長「もう1時間も経っているぞ!」

秘書「も、もう少しお待ちを」

社長「大体なんなんだ、これは!」

秘書「そ、それは……」

社長「高校生と爺さんを相手にしてどうするというんだ! 時間の無駄だ、いい加減にしろ!!」

秘書「あ、あと少しだけお待ちを!」

奏「……」

爺「奏、はっきり言っておくぞ」

奏「……」

爺「この人物は社長の立場で動ける器ではない」

社長「な、なんだとぉ!」

秘書「お、落ち着いてください社長っ」

社長「おい爺さん――」

爺「……」

社長「……」

爺「一年は持つ。下がれ」

秘書「失礼します。会社に戻りましょう、社長」

社長「……ウム」


スーッ


バタン



奏「……!」

爺「……」

奏「……っ」

爺「会社が傾けば社員は路頭に迷う。分かるな」

奏「…………はい」


『ジジィーッ!!』


奏「……?」

爺「話を続けるぞ、奏」
131 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/08(日) 17:39:20.22 ID:qRNZEyuvo

奏「……」

爺「アレは自分の器を測れず、社員どころか国民をも脅かしたのだ」

奏「……っ」

爺「ならばこちらで矯正してやらねば誰がやる」

奏「……」

爺「……」


ドタドタドタドタッ


『なんだ君達は』

『ここは子供の――』


ドカッ

バキッ


『ぐえっ』

『うげっ』


ドサドサッ


『スゴイネ……』

『引かないでくださいよぉ』


爺「……」

奏「この声……」


バタン


律「奏! 一つ言っておくことがあるぞ!」

奏「律さん! 戻ってください!」

律「りのは、あの世界から――」

爺「慎め」

奏「お待ちくださいおじい様!」

律「……」

爺「部屋に戻れ」

律「…………はい」

奏「……っ」

132 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/08(日) 17:41:15.54 ID:qRNZEyuvo

爺「……」

一兄「神宮司様、失礼します」

爺「……どうした」

一兄「侵入者です」

爺「分かった」スクッ

奏「……」

爺「何か言う事はないか、奏」

奏「……いいえ」

爺「三月までに決意を固めよ」

奏「分かっております」


スタスタスタ


奏「歩、いるの?」


シュタッ

歩「はい」

奏「律さんは?」

歩「副会長と一緒です」

奏「奈々穂……」

歩「すいません。力を無効にする石に心当たりがあるので、離れてもよろしいですか?」

奏「え、えぇ」

歩「失礼します」サッ

奏「……石?」

133 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/08(日) 17:42:18.57 ID:qRNZEyuvo

― 屋根 ―


黒猫「ニャー」

学ラン「……」コクリ

歩「ここにいたのね」

黒猫「ニャ」

学ラン「……」

歩「お願い、さっきの小石を譲って欲しいの」

黒猫「……」クシクシ

学ラン「……」ゴソゴソ

歩「……」

学ラン「……」スッ

歩「あの、我侭なのは承知の上なんだけど、小石じゃないと……」

学ラン「……」

歩「これでも解くことができるの?」

黒猫「ニャ」

歩「でもこれ――」

「いたぞ! 屋根の上だ!」

歩「!」サッ

黒猫「ニャ!」ピョン

学ラン「……」サッ

134 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/08(日) 17:47:32.10 ID:qRNZEyuvo

― 奏 ―


奏「律さんは……?」

奈々穂「歩が見ているわ」

奏「そう……。奈々穂、石ってなに?」

奈々穂「不思議と気力が満たされたの。これなんだけどね」

奏「普通の石に見える……」

奈々穂「さっきは綺麗に青白く輝いていたのだけれど、力を失ったのかもしれないわ」

奏「入手経路に心当たりがあると歩が言っていたけれど、どこから手に入れたの?」

奈々穂「それは知らなくてもいいことよ、奏」

奏「そう……」

奈々穂「もう用事は済んだの?」

奏「えぇ。大体ね」

奈々穂「それじゃあ、どうしようかな」

奏「……ねぇ、奈々穂」

奈々穂「なぁに?」

奏「おじい様はあなたにも力を使ったのね」

奈々穂「……」

奏「……律さんはいまどこに?」

奈々穂「それを聞いてどうするの?」

奏「……」

奈々穂「力を二重にかけることは相手の心に多大な負担となるはずよ」

奏「でも……」

奈々穂「歩がなんとかできそうだったから、律さんのことは心配しないで」

奏「……」

奈々穂「……奏?」

奏「……こんな力、もう嫌」

奈々穂「……」

奏「奈々穂や律さんを操った、この力――」

奈々穂「奏、どうしてみんながここにいるか分かる?」

奏「え……?」

奈々穂「奏を宮神学園の会長として、迎えに来たからよ」

奏「……」

奈々穂「もちろん、能力なんて関係の無い、神宮司奏、個人としてもね」

奏「……」
135 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/08(日) 17:49:07.92 ID:qRNZEyuvo

「失礼します、奏様」

奏「……どうぞ」


スーッ


奈々穂「お兄様?」

四兄「奏様にお尋ねしたいことがございます」

奏「なんでしょう」

四兄「学ランの制服と学生帽を身にまとった男をご存知でしょうか」

奏「ガク……え?」

奈々穂「少し席を外します、奏様」

奏「え、えぇ」

奈々穂「お兄様、奏様のお相手をお願いします」

四兄「……分かりました」ジロッ

奈々穂「……」ツーン





歩「律さん、これを飲んでください」

律「……」

歩「律さん……!」

律「……」

五兄「お嬢ちゃんと同じ力で縛られてる」

歩「!」

五兄「当主様の命以外は耳に入らないだろう」

歩「……っ」

律「……」

五兄「それはなんだい?」

歩「こ、これは、その……」

五兄「……」

一兄「私からも一つお聞かせください」

歩「……」

一兄「あなたが屋根上でそれを受け取った相手。その詳細をね」

歩「ッ!」

五兄「なんだよそれ、侵入者とこの子達が繋がってるってことか?」

一兄「それを知るための質問ですよ。一つを除いては被害が全くないといっていいほどの腕前でした」

歩「……」

一兄「先々代から受け継いだもので、さほど高価なものではありませんが」

五兄「?」

一兄「現当主を縛る品でもあったのです。それを盗っていく理由が知りたいのです」

歩「りつさん……!」

律「……」
136 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/08(日) 17:51:29.93 ID:qRNZEyuvo

― 鶴之間 ―


四兄「こういう役回りか……奈々穂のヤツ……」

奏「?」

四兄「奏様、少し困った表情をされるとよいかと」

奏「???」





香「あんのヤロウ〜ッ!」ワナワナ

梓「なんだか、困ってますよ」

唯「あずにゃん、わたしにも見せて〜」

梓「どうぞ」

唯「おぉ、はっきりとみえるよ!」

梓「双眼鏡だから当たり前です」

唯「いたよ、奏ちゃん!」

久遠「会長にちゃん付けするのは、唯さんだけでしょうね」

れいん「よっしゃ、始めるとしますか!」

香「意に沿わない結婚は許しません!」

琴葉「では、はりきってどうぞ」

れいん「ものどもかかれー!」トウッ

香「れーちゃん先輩に続けー!」トウッ

タッタッタッタ


梓「続いて行っても、足手まといになる……」

唯「水鉄砲しかないよ〜」ウキウキ

みなも「よいしょとぉ」

純「あっ、もう二人走ってる! 準備まだなのに!」

久遠「煽らないでくださいな」

琴葉「陽動チームはこれくらいがいいのかと」

久遠「なんだか、変わりましたわね、琴葉」

琴葉「そうですか……?」
137 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/08(日) 17:54:30.99 ID:qRNZEyuvo




四兄「無礼を承知で。えー、本日はお日柄もよく〜」

奏「?」

れいん「ちょっと待ったー!」ドンッ

香「お見合いは終わりです!」ドドンッ

四兄「なんだね、君達は」スクッ

れいん「!」

香「!」

奏「二人ともどうして……」

れいん「退がって、香!」サッ

香「はいっ!」サッ

四兄「へぇ、やるな」

れいん「ま、まずいな〜……」

香「隙が無い……」

四兄「者共出会え、侵入者だ!」

黒服「はっ!」

黒服2「お呼びですか!?」


ズラーリ


黒服10「なんだ、ガキじゃねえか」

四兄「手ぇ抜いて返り討ちにでもあったらクビだからなー」

黒服10「……」ゴクリ

れいん「卑怯だよ、男らしくないよー!」

四兄「敵の敷地内でなにを言っている」

れいん「だからって、これだけの人数を集めるなんて臆病だよ腰抜けだよー!」

四兄「……」ピキッ

香「あ、あの……れーちゃん先輩? 火に油を注いでいるような……」

四兄「誰が、腰抜けだって?」

れいん「あはは〜……やばー……」


ザッ


小百合「れいん、援護を」

れいん「任せなさいって!」

四兄「急に活気付いたな」

小百合「二人なら、負ける気がしない」スッ

れいん「そういうこと〜」スッ

四兄「……飛田はいいとして、角元のデータが未知数だな」
138 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/08(日) 17:56:51.78 ID:qRNZEyuvo

五兄「飛田活生流の! さっきの続きをしようぜ!」

琴葉「あなたの相手は私がします」

五兄「君一人じゃ役不足だっての」

香「じゃ、じゃあ、二対一ってことで」

五兄「……」

黒服5「お前達、仲間か?」

梓「もちろんです」

黒服5「なら塀の上から見ていないであいつらを手伝ったらどうだ?」

梓「ここからでも充分です」

黒服5「?」

みなも「えい〜っ」


ピュー


黒服5「な、なんだこれ……うわっ、目がァ!!」

黒服6「バカ野郎! サングラスはいつも付けとけってきつく言われてるだろうが!」

みなも「きゃははっ、おもしろ〜い!」

久遠「シンディさん、いつでも逃げられるよう準備はよろしいですか?」

シンディ「オーライ」グッ

久遠「では私も。えいっ」


ピュー


黒服6「うわっ、辛ッ! 目に入らなくて良かった!」

梓「久遠、あの人喜んでるよ」

久遠「手ごわいですわね」

唯「じゃあじゃあ〜、山葵味の水鉄砲でいくよ〜」

黒服9「遊びのつもりかお前らっ!」

純「こっちは真面目だっての、くらえ!」


ピュー


黒服9「うわぁ!」

純「これは普通の水なんだけどね。心理的に私の勝ち」

黒服9「くそぉ……」ガクッ

梓「むぎ先輩たちは大丈夫かな……」

139 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/08(日) 17:58:55.00 ID:qRNZEyuvo

― 鶴之間 ―


ワァー ワァー


歩「庭でなにが……?」

一兄「本当に心当たりは無いのですね」

歩「はい。手助けをしてくれましたが、行動の真意はわかりません」

一兄「そうですか……」


バタンッ


りの「奏会長ぉー!」

歩「りのっ!?」

プッチャン「ここじゃねえみたいだぞ、りの」

りの「ダメですよぉー! 自分の人生なんですから自分で決めないと幸せがー!」

プッチャン「しっかりしろ。会長はここにはいねえ」

りの「絶対絶対ダメです……あれ、アユちゃん?」

歩「……」

一兄「では、私はこれで失礼します」

紬「りのちゃ――きゃっ」

一兄「おっと」

澪「ヒァッ!」スパーン

一兄「……」

澪「す、すいません!」ペコリ

一兄「いえ……。見事な反応でした」

奈々穂「一兄に攻撃を許させるなんて……」

一兄「それでは」

紬「待ってください」

一兄「?」

紬「りっちゃんに、何をしましたか?」

澪「りつ……?」

律「……」

聖奈「彼は関係ありませんよ」

一兄「聖奈様……」

聖奈「早く戻られたほうがいいかと」

一兄「はい。失礼します」


スタスタスタ


りの「りっちゃんさ〜ん?」

プッチャン「心ここに在らずだな」

律「……」
140 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/08(日) 18:01:11.38 ID:qRNZEyuvo

奈々穂「しばらくすれば……元に戻るはずです……」

聖奈「……」

紬「りっちゃん!」

律「……」

澪「どうした、りつ!」

律「……」

歩「これを飲めばなんとかなると思いますけど……」

紬「それは……」

澪「律ッ! 飲めッ!」ガッ

律「……!」


ゴクゴクッ


律「がはっ、げほげほっ! なにすんだよ澪!」

澪「……よし」

紬「はい、お茶よ」

律「げほっ…さんきゅ。…ごくごく……」

歩「すいません、律さん……早く解きたかったのに、私は……うろたえるだけで……」

律「それを持ってきてくれただろ、充分だって」

歩「……」

律「それに、相手の力を知ってたのに正面から行った私が間抜けだったんだよ」

歩「……っ」

りの「なんだか分からないけど、よかったぁ」

プッチャン「一体どうしたんだ?」

律「分からん。声は聞こえていたんだけどさ、体が動かなくて……」

奈々穂「……」

律「ナニカを待っているだけなんだ。すっげえ嫌だったぜ」

プッチャン「力を使われたか……?」

歩「……うん」

澪「体は大丈夫か?」

律「あぁ。なぜか力が溢れてくる感じだ」

紬「……よかった」

聖奈「それでは鶴の間へ参りましょう」

141 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/08(日) 18:07:29.98 ID:qRNZEyuvo

― 極上生徒会 ―


りの「会長ぉー!」

奏「りの……!」

りの「ダメですダメですっ! 自分をもっと大切にしてくださいー!」

奏「……」

りの「自分の未来を決められないって……そんなの寂しすぎます……辛すぎます……」グスッ

奏「……」

りの「悲しすぎますぅ〜!」ボロボロ

奏「でも、私は……」

律「りのはあの世界から自分の力で戻ったんだぜ」

奏「……!」

りの「?」グスッ

律「みんなと一緒に学園生活を過ごしたいって。その強い心が惑わしから守ったんだ」

奏「……」

律「一人でも欠けたら、りのが望む場所じゃなくなるんじゃねえのか」

奏「……」

りの「そうですよ、奏会長〜!」グスッ

香「奏さまがいなくちゃ宮神学園は成り立ちませんよ!」

聖奈「その通りですよ〜、会長」

れいん「そうっすよ」

小百合「はい」

琴葉「……」コクリ

歩「……」

みなも「そうそう、会長さんがいなきゃつまんないも〜ん!」

シンディ「ザッツライト」

久遠「そうですわね」

奈々穂「帰りましょう、会長」

りの「楽しいことがいっぱい待ってます!」

奏「でも……」

奈々穂「でも……?」

奏「まゆらさんがいないわ」

久遠聖奈「「 え、え〜っと 」」

りの「お留守番です!」

香「そ、そうです、お留守番をしてもらっています!」

奏「まぁ、そうなの」

プッチャン「やっぱり締まらねえな、極上生徒会はよぉ」
142 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/08(日) 18:11:27.09 ID:qRNZEyuvo

― 軽音部 ―


律「私はそう言葉を言い残し、その場を後にするのであった――完」フッ


パシャッ


律「?」

純「かっこよかったですよ、律先輩」

律「なんだ、そのカメラは」

純「良いことを言っていたので、写真に収めたほうがいいと思って」

唯「うんうん、文学者だよりっちゃん」

律「フフン、そうだろ? あとでそのデータ消してやる」

紬「それはもったいないわ」

澪「そうだな。額縁に入れて部室に飾っておこう」

梓「いいですね。写真の下にタイトルを付けるってのはどうですか?」

唯「ナイスアイディアだよ、あずにゃん!」

律「おいこら」

澪「写真のタイトルは――」


紬「良いこと言った田井中律」


純梓澪「「「 それだ(です)っ! 」」」

律「そうはいくか! よこせ純ッ!」

純「紬先輩どうぞ」

紬「よぉし」フンス!

律「わ、渡してくれむぎ」

紬「りっちゃんの頼みでも、それは無理よ」

律「……」ジリ

紬「よいしょぉっ」ピョン

テッテッテ

律「はやっ!」

澪「そうか、走って逃げればよかったのか」

律「待てむぎ!」

テッテッテ

唯「まてまて〜!」

テッテッテ

純「庭を走り回ってますね」

澪「あぁ……」

歩「……楽しそうですね。あんなことがあった後なのに」

梓「あんなこと?」

歩「あ、いえ……」

澪「そろそろ帰るか、私たちの場所へ」
143 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/08(日) 18:13:46.84 ID:qRNZEyuvo

― 神宮司家 ―


一兄「お疲れ様でした」

爺「……」


スタスタスタ


一兄「……」

四兄「一博兄さん、その頬どうしたんだよ」

一兄「フフ、琴吹グループのボディガードにやられましたよ」

四兄「なんで琴吹の……?」

一兄「いえ、なんでも。あなたこそ、その腕、折れているのでは?」

四兄「見た目酷いだけで大して痛くないよ。飛田コンビに負けたわ」

一兄「そうですか。悪役、お疲れ様です」

四兄「ただの蝙蝠野郎だったけどな。……けど、今回の件で奏様の回りは大分固まったよな」

一兄「……」

四兄「もしかして、一博兄さんの手の中だったりしないよな」

一兄「まさか」

四兄「有り得るから嫌なんだよ。
   でも、今回の件で分かったよ。将来、俺ら兄弟を敵に回しても奈々穂は……」

一兄「奏様は奈々穂を信じておられますから、奈々穂も奏様を何があってもお守りする。
   論じるまでも無いでしょう」

四兄「……」

一兄「奈々穂が羨ましい、ですか?」

四兄「違うって」

一兄「この闇は深いですからね。若い人たちには光が必要でしょう」

四兄「……光、ねぇ」

一兄「ですが、私たちは護衛の仕事を全うするのみ。
   奈々穂達とは違いますから、周りを過信して目が曇らないよう気をつけることです」

四兄「はいはい。じゃあな」


スタスタスタ


一兄「今回は運がよかっただけですよ」

144 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/08(日) 18:16:11.74 ID:qRNZEyuvo

― 紬 ―


紬「どうですか?」

さわ子「反応に困るわね。りっちゃんがニヒルな笑いを浮かべながら歩いてるだけじゃないの?」

紬「良いこと言っていたんです」

さわ子「なんて言っていたのよ?」

紬「りっちゃんどうぞ」

律「言わねえよ! 二度目がどれだけ恥ずかしいことか!」

りの「りっちゃんさんのおかげで私たちは一段と結束が深まりました!」

プッチャン「あぁ、聞いている方が赤面するほどの台詞だったがな」

律「おまえの表面は糸だろうが! 変色すんのかよっ!」

唯「人は夢をみることで成長していけるんだよ」シミジミ

和「たしかに今聞くと赤面するわね」

律「言ってねえよ!!」

憂「その時の雰囲気というものがありますよね」

律「ほんと、それは言ってないんだよぉ……」ガクッ

澪「……」

梓「律先輩、テンション高いですね。どうしたのでしょうか」

澪「テンションを上げてごまかしてるみたいだな……」

歩「……」

さわ子「まゆらちゃん、私たちの案内してくれてありがとう。助かったわ」

まゆら「いえ……、私にはそれしかできませんでしたから」

奏「紬さん」

紬「はい?」

奏「よろしければ、宮神学園へ通いませんか?」

紬「……」

梓「え……!」
145 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/08(日) 18:18:01.49 ID:qRNZEyuvo

奏「もちろん、みなさんを歓迎します」ニコ

りの「わ、わっ! 歓迎します!」

みなも「歓迎しま〜す!」

紬「えっと……」

奈々穂「会長。紬さんたちも高校三年生です。それぞれの進路もありますので……」

奏「まぁ、……ごめんなさい」ションボリ

りの「あ、あれ? 白紙なんですか〜?」

プッチャン「そうそう都合よくいかねえよ」

紬「魅力的なお誘いありがとうございます」ニコニコ

律「確かに、宮神に通うのは楽しいかもな〜」

香「当たり前ですよ!」

れいん「そうそう、最高、レッツゴー、絶好調だかんね!」

律「そうか。意味が分からん」

歩「り、律さ――」


『三番線、間もなく列車が到着します。白線の内側にお下がりください』キリ


久遠「列車が参りますわね」

律「お、これか?」

まゆら「そうですよ」

歩「……」

聖奈「少し、寂しいですね〜」

奈々穂「あぁ」

澪「それは私たちも同じだ。たった一日だけど、とても楽しかった」スッ

久遠「お別れの握手ですわね。少し胸を打ちますわ」スッ


ギュ


奈々穂「お元気で」スッ

澪「うん。それじゃ」スッ


ギュ


みなも「唯さん、本当に帰っちゃうんだね」

唯「うん。元気でね」

みなも「とっても、とっても楽しかったよ」

唯「えへへ、わたしも〜!」

シンディ「グッバイ」

唯「good bye」

和「たまに発音がよくなるわね」

まゆら「そっちの生徒会も大変そうですね」

和「だから、退屈はしないわ」

まゆら「そうですね!」
146 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/08(日) 18:18:52.31 ID:qRNZEyuvo

香「また料理対決しましょう!」

憂「ふふ、うん。香ちゃんの料理とってもおいしかったよ」

香「そ、そんなぁ」テレテレ

歩「り――」

律「そういえば、弟は」

香「わーっ!」

律「ふぐっ!?」

香「オホホホホ、律さん飲み物はあっちですよ〜!」

律「ふぐぐ!?」ズルズル

純「なにをやっているんだか」

れいん「純さん、楽しかったっすよ!」

純「うん、私も楽しかった。またね」

れいん「また来てくれるの!?」

純「え、えっと……」

小百合「れいん、困らせてはいけない」

れいん「冗談っすよ〜!」

純「また、どこかで必ず会おうね」スッ

れいん「……もっ、もうっ、我慢してたのにぃっ」スッ


ギュ

147 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/08(日) 18:20:22.08 ID:qRNZEyuvo

ガタンゴトン ガタンゴトン


香「わかな先生の提案で、管理人さんに見てもらってるんですよ」

律「そ、そっか」

香「おかげで楽しめましたけど」

律「……香もすげえな」

香「え?」

律「いや、頑張ってるんだなって思ってさ。そういう人が好きだからな、私は」

香「は、恥ずかしくないんですか?」

律「旅の恥は掻き捨てってな」ウシシ

香「まぁ、私の恥ずかしい部分も見られてますから、おあいこですけど」

律「りのと歩と、仲良くな」

香「善処します」

律「はは……」

「りつー!」

律「そろそろ時間だな」

香「律さん、最後にちゃんと挨拶してくださいね」

律「分かってるって」


紬「りっちゃ〜ん!」

歩「……」

テッテッテ

律「うし、そんじゃ帰るか!」

歩「……!」

澪「ちゃんと挨拶しろ」

律「う、うん」

和「憂、先に乗っていましょうか」

憂「うん」

プッチャン「せいぜい気をつけるんだな」

さわ子「じゃあ、元気でね」

奈々穂「はい。ありがとうございました」

唯「ぐすっ……元気でね……」フリフリ

みなも「もぅ〜、唯さん〜」グスッ

聖奈「みなもちゃん……」
148 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/08(日) 18:21:48.12 ID:qRNZEyuvo

歩「どうして、落ち込んでいるんですか?」

律「へ?」

歩「……」

律「あぁ……。それは……だな」

歩「……」

律「なにも出来なかったからな。
  みんな自分の意思で動いて考えてるのに、私はなにやってんだろうなーって思ったからだ」

歩「そんなこと……」

律「あの黒猫がいなければ、本気でやばかった。運がよかっただけだ」

歩「そんな……こと……」

律「たまたまそこにいただけだ、私は」

歩「……」

律「二つ、借りを作ってしまったけどな」

歩「じゃあ……」

律「?」

歩「じゃあ、私を連れて行ってください」

律「!」

りの「アユちゃん!?」

プッチャン「黙ってろりの」

奏「……」

紬「……」

律「無理に決まってんだろ?」

歩「そう、ですよね。すいません、変なこと言ってしまって」

律「……」

歩「楽しかったです。それでは、お気をつけて」


タッタッタ


律「あれ……?」

梓「律先輩……」ジーッ

久遠「色々と切羽詰っていたのですわ」

奈々穂「律さんが気に病むことは」

澪「バカりつ」

さわ子「りっちゃんは宿題期限延長なしね」

律「な、なんだよ」
149 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/08(日) 18:23:07.20 ID:qRNZEyuvo

梓「もし、歩の立場と純の立場を入れ替えて、澪先輩にあんな風に言われたら、どう?」

純「どうって……歩の立ち位置は分からないし……」

律「……」

純「うー……ん……」

律「……」

純「ハハ……」ズドーン

梓「こうなっているんですよ!」

律「マジかよ」

澪「歩は律に頼っていただろ」

律「分かったよっ!」ダッ


タッタッタ


聖奈「青春ですね〜」

紬「そうですね〜」

奏「……」

純「ハァ……」

澪「わ、私は何も言ってないからな、純」

150 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/08(日) 18:25:20.30 ID:qRNZEyuvo




律「待て!」

歩「え?」

律「あのな、無理なものは無理だろ!?」ゼエゼエ

歩「わざわざ追いかけてきたんですか?」

律「時間が無いから……はぁ、手短に済ますぞ……はぁ」

歩「は、はい」

律「歩のやりたいことは世界を旅することなのか?」

歩「……」

律「深層世界で、世界の有名な場所がたくさんあっただろ?」

歩「は、はい。世界中を旅行できたら楽しいだろうなって」

律「私もな、あの世界で見た景色が忘れられないんだ」

歩「?」

律「私もこれからどうなるか、さっぱり分からないけど、
  世界を歩いてみたいと思い始めている。これは人生の岐路だ」

歩「……」

律「もし、だぞ? 4年後、歩が卒業する年に私が世界のどこかを歩いていたら、
  極上生徒会に手紙を出すから」

歩「……?」

律「その時、外に出たいって気持ちが強く残っていたら、自分の力で出て来い!」

歩「あ……」

律「そのときは一緒に旅をしよう!」

歩「――!」

律「これが澪にも、むぎにも誰にも言っていない事だ!」



prrrrrrrrrrr



律「やっべ! まだ4年あるから! 変わらないでいたらまた会えるからな! 元気でな歩!」ダッ


タッタッタッタ


歩「……」

151 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/08(日) 18:26:27.34 ID:qRNZEyuvo


奏「力を持っていることが今日ほど怖かったことはありません」


紬「大丈夫ですよ。奏さんを守る、もう一つの力がありますから」


奏「えぇ、それがはっきりと分かりました」ニコ


紬「うふふ」


奏「楽しい時間を過ごせました。ありがとう」スッ


紬「こちらこそ。ありがとう」スッ


ギュ

152 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/08(日) 18:29:41.84 ID:qRNZEyuvo


「その列車待ったぁぁあああ!!」


紬「りっちゃん! 急いで!」


律「みんな、元気でなー!」


りの「お元気でー!!」


プッチャン「風邪なんか引くんじゃねえぞ」


小百合「達者で」


れいん「さよなら、元気で、また会いましょうー!」


シンディ「シーユー!!」


みなも「バイバーイ!」


まゆら「さようなら〜!」


香「気をつけてくださいねー!」


琴葉「では」


聖奈「またどこかでお会いしましょう〜♪」


久遠「お元気で」


奈々穂「元気でな!」


奏「……」

153 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/08(日) 18:34:06.13 ID:qRNZEyuvo


ダダダダダッ


紬「りっちゃん! 掴まって!」

律「うぉぉぉおおおお!」


ガシッ


紬「よいしょー!」グイッ

律「うぉぉぉおおお!?」



プシュー



紬「……ふぅ」

律「あ、あぶねえ……」ゼェゼェ


ガタン ゴトン  


ガタンゴトン


唯「りっちゃん! 危ないよ!」

澪「何度駆け込み乗車するつもりだ」

律「しょ、しょうがないだろ〜……」

憂「楽しかったですね」

和「えぇ」

さわ子「席に行きましょ」

梓「あ、皆さん手を振ってますよ」

紬「お元気で〜」フリフリ

純「あ、律先輩!」


律「あ……。へへっ……」


紬「また、どこかで」


律「じゃあな、歩!」グッ

154 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/08(日) 18:37:48.48 ID:qRNZEyuvo

奏「行ってしまいましたね」

奈々穂「えぇ……」

歩「律さん……」

りの「ん〜? りっちゃんさん、親指を突き出していたけど、どういう意味なの?」

プッチャン「知らねえのかよ。あれはグッジョブ! だぜ!」

小百合「それは違うと思う。あの場面で使う意味が分からない」

れいん「親指の指紋を押し付けたとか?」

シンディ「エンジョイ」

香「変なこと言ってないで、帰りましょう」

久遠「そうですわ。そろそろ寮に帰らなくては」

聖奈「たくさんのことが起きましたね〜」

まゆら「あ、結局、生徒会室のステージ使ってない……」

奈々穂「そういえば、会長。どうして紬さんをお呼びになったのですか?」

奏「え? えーっと……どうだったかしら……?」

琴葉「同じ病院で生まれたから、ではなかったのですか?」

奏「そうそう。そうなのよ奈々穂」

奈々穂「……え?」

久遠「紬さんと奏会長とは誕生日が近いですわね」

奏「袖触れ合うも他生の縁、というでしょ?」

奈々穂「それはそうですが……」

れいん「袖だけじゃなくて、思いっきり触れ合ったような気がする〜」

小百合「……そうだな」

りの「お昼ごはんも一緒に食べたかったね〜!」

歩「りのってば、いつも元気で羨ましいな〜」

りの「え〜そんな、照れるよぉ〜」

プッチャン「褒めてねえよ」

香「それで、最後のアレはなんですか?」

聖奈「別れの挨拶ですよ〜♪」

奏「あなたの、幸運を祈ります。という挨拶ね、歩」

歩「――!」

奏「ふふ、帰りましょう」

久遠「いつも以上にドタバタしていましたわね」

奈々穂「そうだな」

奏「えぇ」

りの「楽しかったね〜! プッチャン!」

プッチャン「へっ」





End

155 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/08(日) 18:46:54.55 ID:qRNZEyuvo
終わりです。

稚拙な文でしたが、楽しんでいただければ幸いです。
所々よく分からない箇所があると思いますが、それはあるシリーズ(世界)の一部だからです。
不愉快にさせたのなら申し訳ありません。

学ランの正体を載せて本当に終わりです。
読んでくださった方、ありがとうございました!
156 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/08(日) 18:55:51.37 ID:qRNZEyuvo


― 葛の葉ライドウ ―


黒猫『やれやれ、仲魔の様子をみにこればこの有り様』

学ラン「……」

黒猫『もう用は無いな、ライドウよ」

ライドウ「……」コクリ

黒猫『この国の行く末か。依頼者である神宮司は変わり者だったな』

ライドウ「……」

黒猫『我が手に眠る赤子のその先を案じておったが……、
   自身と似た末裔にそれが渡ろうとするとは、いやはや。何が起こるか分からぬな』

ライドウ「……」

黒猫『しかし、縁は異なもの味なもの。神宮司家の末裔も美しかった』

ライドウ「……」ジーッ

黒猫『その目が訴えるものはなんだというのだ?』

ライドウ「……」フルフル

黒猫『まぁよい。この業斗童子、長年この仕事をやっているが、今回の仕事ほど楽しめたものはない』

ライドウ「……」ジーッ

ゴウト『だからなんだと聞いておる。よもや、不埒なことを考えてはおるまいな』

ライドウ「……」フッ

ゴウト『鼻で笑いおったッ!?』

ライドウ「……」

ゴウト『お主から手引きをしろと言付かったのだ!』

ライドウ「……」

ゴウト『婦人の心理世界は我も苦手だというた筈』

ライドウ「……」シラー

ゴウト『腑に落ちぬが、まぁよい。もう時間が無い。帰るべき時代に帰ろうぞ』

ライドウ「……」コクリ

ゴウト『生まれた時代は異なるが、聖獣シーサーもあの娘を護り行くであろう』

ライドウ「もう俺達と交差することはない」

ゴウト『ほぅ……』

ライドウ「だからこそ、この邂逅が輝く」

ゴウト『面白い。時が許す限り、我は助言の役目を果たそう』

ライドウ「……」コクリ

ゴウト『次の任務まで帝都でゆるりと過ごそうではないか』

ライドウ「……」コクコク





157 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) :2012/07/08(日) 19:38:24.30 ID:YI+gtwqAO
乙!
158 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/08(日) 23:32:35.70 ID:BqJTTdQ8o

ヴェガシリーズですね
159 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/09(月) 03:46:04.13 ID:pWCu/ieoo
乙ー!
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