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P「無題」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :バッコス ◆rEnZuhXifY :2012/07/06(金) 00:17:11.17 ID:/VCekl+io
「終わりました……」
俺は光を鈍く反射している課長の禿げた頭を眺めながら告げた。
「ん?ああ……終わったの?」
課長は中間管理職特有の卑屈な笑みを顔に浮かべながら言った。
顔は笑っているが目は笑っていない。
俺は猜疑心に満ちて小動物のように忙しなく動くその目が好きじゃなかった。
「何か手伝うことはありますか?」
「ん……いや、今日はもう帰っていいよ」
「はい……」
「あ、ところでP君はもうウチに慣れた?」
課長はポケットから取り出した薄汚いハンカチで額の汗を拭いながら俺に聞いた。
「はあ……もう半年になりますから……だいぶ」
「そう……それは良かった良かった」
課長は朗らかに笑ってみせた。
それがアピールであるのは分かっていた。
もう半年も経っているのだ。
今更のことだろう。
課長の笑って細くなった目は俺のことを静かに観察している。
俺は一礼して課長に背を向けた。

課長の粘ついた視線を背に受けながら荷物を手早くまとめる。
仕事が終わったなら、こんなところに長居したくはなかった。
若い営業の連中はいないから今は課長と2人きりだった。
中年と一緒にいて喜ぶ趣味はない。

「お先に失礼します」
「はい、お疲れさん」
課長は突き出た腹を掻きながら、俺にねぎらいの言葉をかけた。
俺はそのままオフィスを出た。

夕暮れの街は日中の熱がまだ残っていた。
まだ梅雨が明けたとは聞いてないが、すでに風は夏めいている。
定時を一時間ほど過ぎたビジネス街は俺と似たようなスーツ姿の男で溢れていた。
誰もが叩き売られている果物のような萎びた顔をしていた。
たぶん俺も同じ顔をしているのだろう。

仕事は以前より楽になった。
休みのないプロデューサーに比べたら、定時で帰れて土日が休みの事務など仕事のうちに入らない。
だが、今の俺は以前よりも疲れていた。
仕事に張りがなくなったせいだろう。
書類との格闘など本気にならなくても頭を空っぽにして機械的に処理するだけだ。
アイドルと真剣に向き合ってた頃が懐かしい。
あの頃の俺に比べたら、これはもう抜け殻同然だった。

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佐久間まゆ「犬系彼女を目指しますよぉ」 @ 2024/04/24(水) 22:44:08.58 ID:gulbWFtS0
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全レスする(´;ω;`)part56 ばばあ化気味 @ 2024/04/24(水) 20:10:08.44 ID:eOA82Cc3o
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君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
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笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
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【安価】貴方は女子小学生に転生するようです @ 2024/04/22(月) 21:13:39.04 ID:ghfRO9bho
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ハルヒ「綱島アンカー」梓「2号線」【コンマ判定新鉄・関東】 @ 2024/04/22(月) 06:56:06.00 ID:hV886QI5O
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713736565/

2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(西日本) [sage]:2012/07/06(金) 00:28:35.60 ID:7j8EDLavo
詰め込みすぎで読みづらいよー
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/07/06(金) 00:41:49.96 ID:0tDp/DO4o
その文章量なら三レスくらいに分けてもいいかも
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/06(金) 01:00:06.24 ID:WtOv06RSO
だが面白そう。期待
5 :バッコス ◆rEnZuhXifY :2012/07/06(金) 01:14:15.88 ID:/VCekl+io
駅に向かう人の流れに沿って歩く。
通勤は比較的好きだ。
何も考えなくても勝手に身体が動いてくれる。
ルーティンを繰り返すだけなら嫌なことは思い出さずに済む。

しかし、街に溢れかえってる不快なモノを完璧に遮断することはできない。
それは暴力的な手法で俺の耳や目に無理矢理突っ込んでくる。

視界に入ったビルの壁面についたディスプレイには竜宮小町が映っていた。
3人は笑いながら、高いところから俺を見下ろしている。
どうやら新曲のPVのようだ。
プロデューサーをやめてからはそんな情報は一切入って来なくなった。
以前は欠かさずチェックしていた歌番組は見なくなったし、
最近は竜宮小町をテレビで見かける機会も増えてきたからテレビ本体を捨てた。
もちろんNHKとの契約も解約した。
この前、竜宮が新聞に大きく広告を出してるのを見つけたから新聞も取るのをやめた。

竜宮の名前を聞いただけで憎しみと劣等感と悔しさで頭がどうにかなりそうだった。

俺は勝てなかった。
竜宮小町に。
そして、律子に。

だからプロデューサーを辞めた。
俺が駄目なだけならまだ許せる。
しかし、俺に才能が無いせいでアイドルにまで迷惑をかけるのは耐えられなかった。

「もうすぐ発売日だよね〜!」
「私はちゃんと予約したから大丈夫だよ」
「え?マジで?私も予約しとこっかな」
「じゃあ、今から行こっか!」
「うん!今回の特典ってさあ……」

女子高生らしき2人連れがそんなことを話していた。
小綺麗な少女達だった。
短いスカートから伸びる足が眩しい。
俺への当てつけかと思って苛立った。
大声で叫びながら飛びかかって殴りたい衝動に駆られる。

だから、嫌なんだ。
と心の中で呟く。

街に出ると誰かが、俺が目を背けたいモノを嬉しそうに見せてくれる。
それなのに見たいものはどんなに努力しても見せてはくれない。
世界は残酷だ。



俺は再び竜宮小町を眺めた。
相変わらず俺を見下ろして笑っていた。

もう半年経った。
だがまだ半年だ。

もはや戦うことすらできないが、未だ炎は消えない。

ビルの向こうに登りたての月が見えた。
6 :バッコス ◆rEnZuhXifY :2012/07/06(金) 01:50:56.34 ID:/VCekl+io
人でごった返した改札を抜けて、ホームで電車を待つ。
手に持った携帯を無表情で眺める大人が列を成している。
俺はその最後尾に並んだが、携帯は取り出さなかった。
ネットで得たい情報もなければ、連絡を取りたい相手もいない。

少し早足で歩いたせいか、汗が額に浮いていた。
しかし、それを拭うのが酷く億劫に感じられて放っておいた。
風で汗が冷えて気持ちいい。
風邪を引くかもしれないという考えがよぎったが、別に一日ぐらい休んでも仕事に支障が無いことを思い出した。
俺はそれを可笑しく思ったが、笑みは零れなかった。
どこかから流れてくる美味しそうな香りで腹が鳴る。
だが、食欲はあまりなかった。

アナウンスが電車が近いことを告げる。
列はゆっくりと前へ向かって這う。
俺はいっそのこと飛んじゃおうか、と考えた。
前に並んだ人々を追い越して線路に躍り出たら見ている人たちは笑うだろうか?
本当に逃げたいならそうすべきなのかもしれない。
彼岸へは誰も追いかけて来れないのだから。

最近の俺は何をやっても楽しいとは思えなくなっていた。
酒を飲むのはやめたし、趣味もないから休日はいつも暇だった。
なんのために生きているのだろうと寂しさを覚える。
以前は胸を張って仕事のために生きていると言えた。
担当のアイドルをトップアイドルにするために全力を尽くしていた。
それこそ睡眠時間も削って。

ならばプロデューサーをやめた俺は何のために生きているのだろうか。
生きる意味もなく生きるなら、それは死んでるのと同じではないだろうか。

そんなことを考えているうちに電車はホームに入ってきてしまった。
安堵するとともに自分に失望する。
この優柔不断さがプロデュースを失敗させていたのだろう。
もし、俺に少しでも律子のような思い切りの良さがあったならと思う。
無いものねだりをしてもどうしようもないが。

電車は動きを止める。
一拍おいてから小気味良い音と共にドアが開いた。
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/07/06(金) 09:30:21.84 ID:1JyFNGNYo
期待
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/07/07(土) 00:04:35.30 ID:T/jnnn37o
読ませるね。期待。
9 :バッコス ◆rEnZuhXifY :2012/07/07(土) 18:30:34.71 ID:kzeDDsvEo
律子がいた。
電車の中に。

咄嗟に逃げ道を探すがもう遅い。
俺の前に並んでいた人達はすでに電車に乗り始めていた。

律子は俺を見ていた。
俺も律子を見ていた。
2人の目は合ってしまった。

足が震えていた。
それに呼応するかのように手も震え、鞄の金具がぶつかりあって音を立てた。
だが、今更律子に背を向けて逃げる気にはならなかった。
これ以上醜態を晒したら、もう耐えられない気がした。

俺は諦めて電車に乗った。

「久しぶり」
つり革に捕まりながら夕刊を読んでいる白髪の男が声に反応して俺を見た。
しかし、すぐに興味を失ったのか再び新聞に目を落とす。

「律子に会うのも半年ぶりだな」

俺は努めて明るく言った。
顔には笑みなども浮かべながら。
大人になったと思う。
学生時代の俺はここまでうまく本音を隠すことはできなかっただろう。
余りにも感慨深くて、胸の中では虹色のヘドロが渦を巻いていた。

「プロデューサー……元気でしたか?」
「ああ、もちろん」

元気なはずはなかった。
むしろ仕事をやめてから体調は悪化した気がする。
この半年で5kg減った。
眠れない日も多い。
心療内科にも依然通い続けてる。

治す方法は分かっていた。
しかし、再びそこに飛び込んで行く勇気はそう簡単には湧いてこない。

何しろ俺はもう若くはないのだ。
そう自嘲的に心の中で呟いた。

「律子は元気だったか?」

俺は律子に質問される前に尋ねた。

「ええ……以前より仕事は増えましたけど」

そう言って律子は黙った。
黙ったまま上目遣いで俺を見ている。
怒っているようには見えない。
おそらく距離感を掴みかねているのだろう。
だが俺はこんなジャブでは動じない。

10 :バッコス ◆rEnZuhXifY :2012/07/07(土) 19:00:21.63 ID:kzeDDsvEo
「新しいプロデューサーは入ったのか?」

俺はあえて聞いた。
入っていないことを知りながら。

「いえ……今は社長にもプロデュースにまわってもらってカバーしています」

「そうか、すまないな。俺が辞めたせいで」

俺は白々しく言い放った。
その言葉に律子は眉をひそめる。
瞳の奥で炎が揺らめくのが見えた。

「ところで、今は何をしてらっしゃるんですか?」

「普通に事務仕事だよ。給料は前と同じくらいで定時に帰れるんだから、時給換算したら大幅アップだな」

「……」

「765プロの労働環境は良くなったか?」

「……いいえ」

律子の声は冷ややかだった。
しかし、表情から怒りが見て取れた。
肩を震わせ、手をきつく握りしめている。
若いなと思った。

「社長も懲りないな。やっぱりしかるべき機関に相談したほうが良かったのかな?」

俺は辞める理由に労働環境の劣悪さを挙げた。
おかげで辞表はすぐに受理された。
765プロは人件費を抑えることでなんとかやっているため、目を付けられたらおしまいだからだ。

「律子も早く辞めたほうがいいぞ」

「……私は765プロが好きですから」

「……」

「それに、私は、自分の仕事に誇りを持っていますから」

律子は俺を蔑むような目で見た。
俺はその目つきが嫌いだった。
その目を見ていると自分の無能さを指摘されているようでいつも劣等感を感じた。

「……」

「……」

2人の間に硬質な沈黙が流れる。
嫌な時間だ。

先に耐えられなくなったのは俺のほうだった。

「律子はこれからどこへ行くんだ?」

「ちょっとテレビ局に」

「……」

11 :バッコス ◆rEnZuhXifY :2012/07/07(土) 19:03:50.05 ID:kzeDDsvEo
「今度、竜宮が新曲出すのでMステに出ることになったんですよ」

律子は自慢げに言った。

「……」

俺の噛み締めた奥歯が鳴った。
律子のさっきまでとは打って変わった晴れやかな笑顔に殺意に似た感情を抱く。
できるものなら八つ裂きにしてやりたいぐらいだ。

電車は少しずつ減速を始めた。
どうやら駅が近づいてきたらしい。
車内の人間もそれに合わせて体を傾かせる。

「プロデューサーは765プロに戻ってくる気はないんですか?」

「……ないな」

「そうなんですか……すごく残念です」

律子は悲しそうな顔をして見せた。
しかし、目だけは俺を見下していた。
その目は明らかに俺を嘲笑っていた。
それが酷く不愉快だった。

「それじゃ、私はここで」

「……ああ、お疲れ」

電車が駅に止まると律子はさっさと降りていった。
そうしてそのまま階段をのぼって、ついに一度も振り返らなかった。
車内には律子との差を改めて知らされた屈辱的な気分の俺が残された。

エアーの音と共にドアが閉まる。
電車はホームから離れ、俺を運んでいく。
用がない人間が留まることを許さないのは電車も芸能界も同じだと思った。
俺は空いた座席に座り、身体を背もたれに預けてから目を閉じた。


<第一部完>
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/07(土) 19:04:43.99 ID:OTbfUwhUo
今日はこれで終わり?
13 :バッコス ◆rEnZuhXifY [sage]:2012/07/07(土) 19:12:33.98 ID:kzeDDsvEo
今日はこれで終わり

最初はこれで終わりにしようかと思ってたけど、続きを思いついたからまだ続ける

だけど、次はいつになるかわからない
他のやつ書きながらしっかりプロット練ることにしたから
ちゃんと続きは書くので気長に待っていて欲しい
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/07/07(土) 19:26:48.10 ID:KBMnsRem0
期待してます
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/07(土) 19:56:40.74 ID:AFOYEyza0
期待
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/07(土) 21:17:40.77 ID:pYZG3OFdo
それはそれとして終わったらhtml化依頼を出してくれ。
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/07/07(土) 23:58:02.16 ID:2dtdF1Qyo
期待
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/08(日) 13:43:36.73 ID:z+vMPrdto
面白い
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/07/08(日) 22:36:52.44 ID:qpT7cLQqo
これはすごいな
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/07/09(月) 06:28:56.97 ID:bB/vJNS/0
気体
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/14(土) 07:15:12.43 ID:TGfD9NVRo
まだかな
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/07/16(月) 03:12:35.19 ID:byFYijC8o
待ち
23 :バッコス ◆rEnZuhXifY [sage]:2012/07/20(金) 22:03:38.32 ID:qtC0cnJNo
最初から題名変えてやり直す
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/20(金) 22:22:43.67 ID:2tmI9empo
マジか・・・期待してただけに残念
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/20(金) 22:49:37.35 ID:kR8RLsR7o
新しい題名をはよ
26 :バッコス ◆rEnZuhXifY [sage]:2012/07/20(金) 23:01:11.86 ID:qtC0cnJNo
P「Dazzling World」

27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/21(土) 00:04:16.14 ID:gPfEKwxjo
移住するわ
頑張れよ
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