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光成「・・・パラサイトじゃと?」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/14(土) 00:05:45.78 ID:oPI76kVIO
ざわつく都会の喧騒を、ししおどしが岩を打つ音がかき消してしまう程の、なんとも広大な庭園の中央の屋敷の中。

二人の男が向かい合い、座っている。

「ミンチ殺人、ニュースや新聞などで御覧になられたことがあると存じますが」

一人の男は、巨大な身体をダブルのスーツに詰め込み、座布団の上に丸太のような脚を小さく折り畳んでいた。
プロレス界で、いや、日本に住んでいるのであればこの男を知らぬ者はいないであろう、一流の格闘家であり、最高のエンターテイナー、アントニオ猪狩こと猪狩完至である。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1342191945
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クリスタ「かわいいだけじゃだめですか?」 @ 2025/07/19(土) 08:45:13.17 ID:AK1WfFLxO
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八幡「新はまち劇場」【俺ガイル】Part1 @ 2025/07/19(土) 06:35:32.67 ID:BGCulupRO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1752874532/

【安価・コンマ】力と魔法が支配した世界で【二次創作】 @ 2025/07/18(金) 23:44:57.84 ID:Xc8IdKRvO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1752849897/

どかーんと一発 @ 2025/07/18(金) 21:10:10.35 ID:CEsRuBor0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1752840609/

冒険者育成学校 @ 2025/07/18(金) 01:36:01.28 ID:PkrtUMnv0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1752770160/

たてづらい部!! @ 2025/07/17(木) 23:24:46.15 ID:o3A0TqwG0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1752762285/

ゼンレスゾーン淫夢要素ゼロ @ 2025/07/16(水) 18:57:50.86 ID:RQSyJ1Qxo
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【ギルデッドエネミー】ウルフ「まるでじゃんけんだ」 @ 2025/07/16(水) 01:49:20.03 ID:ryYxoR/vO
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2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/14(土) 00:15:05.24 ID:oPI76kVIO
「『口だけ頭』じゃな、髪の毛を引っこ抜いて人間かどうか判別するんじゃ」

向かい合うもう一人の男は、つるりと見事に禿げ上がり、紋付き袴を身に纏っている。

この精力に満ちた老人こそ、屋敷の主であり、財界切っての実力者でもある、大富豪、徳川光成である。

「お詳しいことです、それでその口裂け男ですが」

「『口だけ頭』じゃ、猪狩おぬしこそテレビみとるんか」

「お恥ずかしい限りです」

「それに今髪の毛の話で、ワシの頭をチラッと見たじゃろう」

「いえ」
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/14(土) 00:18:29.13 ID:oPI76kVIO
「あの頭じゃ判別できんなあ、と思ったじゃろ」

猪狩は、その通りですと言う言葉を喉の奥に押し込んだが、口角が意思と反して持ち上がってしまった。

「ほら、笑っとる、ほら」

光成は立ち上がり、猪狩のたくましい顎の端を握り引っ張った。
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/14(土) 00:49:15.29 ID:oPI76kVIO
「御老公・・・パラサイトの話を」

「・・・試合か」

指先を離すと同時に、光成は猪狩の言葉を食って言った。

「化け物を捕まえて来て、ウチの闘技者と闘わせると」

「いえ、少し違います」

猪狩がおいと合図を出すと襖が開き、男達が室内に入って来ていそいそと作業を始めた。

「映写機をお借り致します」

「プロジェクターじゃ!おぬしは古いのお」
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/14(土) 00:49:56.87 ID:oPI76kVIO
車一台程も包み込めそうな、巨大な布が天井から現れると、室内の明かりが落ちた。

間も無くして映し出されたのは、高速で左右に振られている風景。

「・・・酔ってしまいそうじゃ」

「咄嗟に撮影を始めたそうで、少々ご辛抱を」

光成がもう一言苦言を吐こうと口を開くと、揺れの収まった画面がそれを制した。

「特撮じゃ・・・ないのう」
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/14(土) 02:11:30.31 ID:oPI76kVIO
服装や身体付きから察するに、映された人物は、男。

問題は首から上である。

血液が染み込んだ、ワイシャツの襟から伸びていたのは、この世の物とは思えぬ物体だった。

例えるなら、肌色の蛸の脚、そしてその先端はナイフのように尖っている。

その付け根から数本伸びる触角のような部位の先には、人間の眼球らしき物が蠢いていた。
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/14(土) 02:12:04.30 ID:oPI76kVIO
特撮とは程遠いリアルを感じさせる、絶え間なく動き続けるそれ等、異形の物体。

「パラサイト・・・『口だけ頭』どころの騒ぎではないわ」

「御覧頂きたいのはこの後です」

映像の中で、不意に蛸の脚が目にも止まらぬ物凄いスピードで、大きく振られた。
その直後、近くの大木が、粘土に糸を巻きつけ、一気に引っ張った時のように輪切りにされた。
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/14(土) 02:14:05.97 ID:oPI76kVIO
「なんと!見えんかった」

「異常な程のスピードです」

「ん・・・足元、死体か」

「恐らく・・・この生物に捕食されたものと思われます」


「人喰いか・・・これを捕まえて闘技場に放すと」

「いえ、それでは余りに色モノでしょう」

「なんじゃ?それでは誰を・・・」

光成の言葉を遮る様に、画面に現れた少年。

人間技とは思えないスピードで、蛸の脚を躱し続けていた。
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/14(土) 02:18:42.12 ID:oPI76kVIO
やがて少年は、その生物の懐に飛び込み、何やら右手の武器らしき物で、人間の胴体から蛸の脚を切り離した。

「なんと!人間か」

「はい・・・いや、正確には半分人間です」

「ん?どう言うことじゃ?」

切断された蛸脚部分は、顕微鏡で見る微生物の様に動いていると思ったら、突然少年に飛びかかった。
が、それを弾き飛ばした少年の右手。
そして、先端を尖らせ、ゴムのように伸びて、落下したそれを地面に縫い付けた、右手。
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/14(土) 02:41:06.14 ID:oPI76kVIO
「あれは・・・右手だけ、パラサイトか」

「その様です・・・本来この生物は人間の頭部に寄生し、脳を支配して身体を乗っ取ると聞いています・・・しかしこの少年が寄生されたのは右手、人間の脳を残したまま共存しているようです」

「そして人間部分の身体能力も桁外れておる・・・右手の影響かの」

「流石、お察しが早い」

「見たところ高校生、刃牙と同じくらいかのう」
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/14(土) 02:41:47.55 ID:oPI76kVIO
「泉新一、都内の高校に通う少年です」

『ミギー、早く行こう』

『待てシンイチ、まだ生きている』

その身を尖らせたまま、戦闘体制を解かない右手はポコリと目玉と唇を出現させ、言葉を発した。

「そして・・・ミギーか」

瞳を輝かせた光成が思わず立ち上がると、ししおどしが乾いた音を庭園に響かせ映像が終わった。
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/14(土) 02:49:01.54 ID:oPI76kVIO





気迫、威圧感、オーラなど様々な言葉で形容される強者が発する、熱。

合気の達人は飛びかかる愛弟子達を次々と指一本触れずになぎ倒して行く。お約束の中で。

「師は偉大」「師に敵う筈も無い」「師に恥をかかせてなるものか」などなどの心積もりを抱きながら道場の床に投げ飛ばされてゆく愛しき門下生達。

並々ならぬ自己暗示は師範の「熱」を肥大させ最強の武闘家を作り出していた。


13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/07/14(土) 10:08:57.28 ID:aHhPZELjo
だが、それらの事柄は、私達一般人には縁の無い話であり、テレビ番組の『世界の奇術』のそれを視て鼻で笑いながら、憐れみの眼差しを送るのが常である。

しかし、お約束に縛られているのは私達も例外では無かった。

「身体の大きい男は強い」「反社会的な見なりの者は危険」

暗示、と言うよりは暗黙の了解。

眼前よりそれらしき風体の者が、こちらに歩みを進めて来たら、当然お約束の中放出される「熱」を肌で感じ、肩をすくめ道をあける。
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/07/14(土) 10:09:55.13 ID:aHhPZELjo
合気道場の門下生が、見えない力で投げ飛ばされるのと同じように、我々は強面の男に道の端に追いやられているのである。



新宿歌舞伎町。
日が落ちてからのこの通りを闊歩する筋者達に、進路変更を余儀なくされた方もいるだろう。

この街で十年、クラブ『桜』の呼び込みを続ける小柄な中年、川本誠は誰よりも早く異変を察知した。

ネオンの影にある路地裏への入り口、それを中心に描かれる人垣の半円。

なんの事件かと身軽な身体を利用して、ひょいひょいと通行人の合間を縫って、その中心に近づいていくと不思議な状況に息を飲む。

誰一人、立ち止まっていない。
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/07/14(土) 10:10:40.15 ID:aHhPZELjo
そしてその流動する人垣の中心には、何も、無い。

「どう言うことだ?こりゃあ・・・」

人々は無意識にこの路地裏を避けている。

目や耳で確認したわけでもなく、肌で「何か」を感じ回避している。

川本はそこで足を止めたため、通行人に何度も肩をぶつかられながら、薄暗い路地裏の奥を凝視するが、何も見え無い。

意を決し半円に足を踏み入れようと踏み出すと、川本を背後を追い越す形で乗り出して来た影。

「すっげえなあ、ここかあ」
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/14(土) 11:17:15.00 ID:oPI76kVIO
自分より少し背の高い後ろ姿に、待てと声を出そうと一歩踏み出すと、顔面が焼け焦げるかと思うような熱風に尻餅をついた。

「大丈夫かい?おっちゃん」

ティーシャツにジーンズの、あどけない表情の少年が、心配そうに手を差し伸べる。

咄嗟に握り締めた掌は、少年のそれとはかけ離れた雄雄しい闘士のものだった。

「よく気付いたね」

図らずも初対面の握手、少年は悪戯に笑いながら親指で背後の「熱」が噴き出す路地を指刺した。
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/14(土) 11:18:20.17 ID:oPI76kVIO
「こりゃあ・・・どう言うことだ?」

眉間を通る油汗を拭うことすら許されぬ空気の中、川本が必死に絞り出したのは先ほどの自問だった。

少年は暫らく川本の瞳を見据え、やがてニコリと笑い話し始めた。

「小学校の頃さ、先生に怒られたことあるかい?教室で皆が席に座ってて」

諭すような涼しい口調が、高速で振られていた鼓動の針を遅めてくれた。

「ああ、しょっちゅうだったよ」

不意に蘇らされた、幼い頃恫喝された記憶。
川本は少し笑い、自らの頬を軽く張ってみせた。
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/14(土) 11:18:58.19 ID:oPI76kVIO
「教壇の上から怒鳴るんだよね、これやったの誰だって・・・生徒達は目を伏せ身をすくめ、圧倒的な恐怖の前に事が過ぎるのを祈るように待つ」

少年は路地の奥へ振り返り、背中を見せ、続けた。

「幾度もその試練を乗り越え、やがて大人になる・・・本能的に学んだんだよね、知恵を身につけ体力を養って、恐怖を遠ざけることを・・・でも、もし大人となった今、世間の荒波から身につけた、この知力と体力の鎧をいとも簡単に吹き飛ばす程の「熱」を感じてしまったらどうするかな?」

川本は先程より一層強い熱風を全身に感じた。
すると人垣の半円が大きく広がって行く。
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/14(土) 11:19:56.15 ID:oPI76kVIO
通り過ぎる人々は変わらず、こちらを見向きもしない。

「意に介さない・・・いや、意に介せないと言ったほうが正確か、恐怖の度合いが強過ぎると、脳は現状を受け入れる機能をシャットダウンしてしまうんだ」

再度高まる鼓動は、川本の言葉を詰まらせる。

「そ・・・それで、よく気付いたね、か、一体あの向こうに何があるって言うんだ?」

「見るかい?喧嘩」

「喧嘩だと?」
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/07/14(土) 12:49:34.75 ID:aHhPZELjo
この熱風を生み出しているのが、そこらをうろつく街のチンピラだと言うのか。

怪訝な目で少年を見るが、発言を撤回する様子は全く無い。

喧嘩などこの街では日常、アクビが出る程見て来た。

馬鹿馬鹿しいと言い捨てようと、口を開くと同時に響き渡る破壊音。

ビルの撤去作業などで聞く、崩れ落ちるコンクリートがぶつかり合う音。

「お、始まっちゃたかな?」
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/07/14(土) 12:50:11.30 ID:aHhPZELjo
少年はバッグでも小脇に抱えるように、川本の胴体に逞しい腕を巻き付けそのまま「熱」の中心、薄暗い路地裏へ突入した。

遠ざかって行くネオンに向かって「降ろせ」「離せ」と喚く川本の声は、少年の恐ろしく速く回転する両脚を止めることは出来なかった。

細長い道のポリバケツやビールケースが何度も頬をかすめる中、いい加減にしろ、となんとか手を伸ばし握りしめたシャツの背中を、渾身の力を込めて引くと、それはいとも簡単に裂かれた。

「あ!ひっでえなぁ」

速度は緩まなかったが、替わりに現れたのは異形の背中。

脅威的に発達した少年の広背筋は、鬼の形相を連想させた。

「・・・化け物か」
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/07/14(土) 12:51:24.93 ID:aHhPZELjo
観念した川本は、バケツに掛けられた雑巾のように身を預けた。

みぞおちに感じる振動のリズムはやがて徐々にピッチが弱まって行き、やがてアスファルトに擦られるスニーカーの裏の音と共に停止した。

この路地の奥は、ビルの薄汚れた背中に囲まれた袋小路、まさに都会の死角である。

川本は脳内の地図を広げ、確かに喧嘩をするには格好の場所だと思った。

「おや?これはこれは」

筋者特有の、腹に響く低い声が聞こえて来た。

「木崎さん久しぶりです!」
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/07/14(土) 12:51:56.35 ID:aHhPZELjo
少年の腕がほどかれ、声のするほうに尻を向け、誰も居ない所にお辞儀をする形で着地した川本は、先程嵐のように吹き荒れるていた熱風が止んでいることに気付いた。

「終わっちゃたみたいだね」

あきれたような少年の声に振り返ると、スーツに金バッジ、オールバックの男と対面した。

見るからにヤクザ、みなりから見て幹部級だろう。

だが、その男にひるむ間もなく目に飛び込む光景。
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/07/14(土) 12:52:45.49 ID:aHhPZELjo
男の数は十人。

崩れたブロック塀に埋もれた男、重なり合い呻き声を上げる男達、地面に五体で大の字を描いている男。

様々なスタイルで敗者を表現していたが、皆統一して、屈強な大男だった。

だが大きく目を剥いた川本の焦点は、それらすべてをぼやかしてしまった。

「・・・刃牙」

こちらに呟いた。

漢。
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/07/14(土) 12:54:27.32 ID:aHhPZELjo
デカい、サイズで言うならばそこに転がっている男達と差程変わらないだろう。

しかし、違う。

ダブルのスーツの上からでも解る、質の違う筋肉。

斜め十字に傷痕が走る貌。

そして、拳。

今は握られていない、拳。

煙草を挟む指が、雄の野性を物語る。

あの指達がついさっきまで圧縮されていた。それが凶器、いや兵器と化して。

川本は頬を伝う涙を感じた。
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/07/14(土) 12:55:35.07 ID:aHhPZELjo
「忙しそうだね、親分」

少年の名は刃牙、先程と変わらぬ調子で話しかけると、その男は口角を少し持ち上げた。

それが合図のように、木崎と呼ばれる男は話し始めた。

「いまどき果たし状も無いもんですよ、喧嘩日本一がナンボのモンですって、わざわざ来てみりゃこの様です」

親分、喧嘩日本一、この街でしのぎを削る人々がこの言葉から連想する人物は唯一人。

川本は目を見開いたまま、伝説を目の前にしていることに気付き、思わず口に出してしまう。

「花山・・・薫」
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/07/14(土) 12:56:49.39 ID:aHhPZELjo
持って生まれた腕力だけで極道の世界をのし上がって来たと言う、受け入れ難いほどのシンプルなスタイル。

それゆえ、憧れる。

ただそこに立っているだけで跪き、地面に頭をこすりつけたくなる。

「たまにあるんです、噂を聞いた腕自慢からのお誘いが・・・今回はプロレスラーだったかな?いつもは相手にしないのですが、ご丁寧に余所の組の名前入れてたモンで・・・まあ、本職くずれの用心棒ってとこでしょう」

木崎の懐から雑に取り出された封筒には、二人の胸元で光る菱形の物とは異なる、円形の代紋が記されていた。

花山が、足元でちょうど良い高さで重なり合う男達に腰かけると、漏れてくる呻き声。
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/07/14(土) 12:57:27.62 ID:aHhPZELjo
「・・・わざわざどうした?」

「お使いだよ、徳川のじっちゃんの、花山は何処におるう!って」

両拳を挙げてヒステリックな老人の形相を模写した刃牙に、軽く俯いて息を漏らす花山。

「事務所に電話したら、街のどこかに腕ならしに行ってますって言うからさ・・・探したよ、携帯ぐらい持ち歩こうぜ?花山さん」
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/07/14(土) 12:57:57.40 ID:aHhPZELjo
不似合いとわかりつつ進めてくる刃牙に、花山は肩をすくめて見せた。

「・・・お連れさんは?」

突然の木崎の一言に姿勢を正した川本は、適切な自己紹介をしようと脳内のありとあらゆる引き出しを引っ張り出し言葉に出そうとするが、大太鼓を連打するような心拍に混乱し、結果唇を開け閉めするだけに至った。

「ああ・・・この人は」

刃牙の救いの一言に、川本はすがるように視線を贈った。

「誰だっけ?」

花山の指先からフィルターだけを残して、灰がアスファルトに落ち風に消えた。
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/14(土) 14:58:22.41 ID:oPI76kVIO





空の端から端まで雲の欠片も無い、快晴。
教壇から聞こえる数式らしき羅列は、教室の後列、窓際の席に座る新一を浅い眠りへと誘っていた。

「シンイチ、シンイチ」

不意に至近距離から呼ばれる自分の名に、大きく返事をし立ち上がるが、それが失態だと気付くのに時間はいらなかった。

「泉、なんだ?質問か?」

「いえ・・・あの」

「夢の中でも尻に敷かれてるのか?」

教師の一言にどっと盛り上がる教室、顔を赤らめながらすいませんと席に着く。

「急に話しかけるなよミギー、恥かいたじゃないか」
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/14(土) 14:59:08.36 ID:oPI76kVIO
「居眠りなどする君が悪い、シンイチ正門の方を見ろ」

「すげえ車、なんだっけあれロールスロイスだっけ?」

「そんなことではない」

「まさか・・・仲間か」

「いや、それとも違う」

「なんだ、それじゃあ平気じゃないか」

「あのような高級車が、こんな何の変哲もない学校を訪れることに、疑問が沸かないのか」

「好奇心旺盛だねえ」

「・・・気になる」

運転席から降りて来た黒いスーツの男が、手際良く後部座席の扉を開くと、紋付袴の小柄な老人が現れた。
新一は目を見張った。
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/14(土) 15:06:17.91 ID:oPI76kVIO
「あ・・・あれ、徳川、テレビで見たことある」

「・・・嫌な予感がするな」

「予感?ミギー予感なんかするのか?」

「当たり前だ、君達人間より優れている」

やがて校舎から、二つの影がグラウンドの中央を横切り全速力でそちらへ向かって行った。

「おお、校長と教頭が走ってるよ、無理しちゃって」

「身分の違いと言うやつか、あのように頭を上下させれば優位に立てる訳でもあるまい」

「ウチみたいなどこにでもあるような高校に、一体何の用があるって言うんだろうね?」

手首の関節で、小さく開いていたミギーの目が見開いた。
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/14(土) 15:07:25.24 ID:oPI76kVIO
「どうした?ミギー」

「シンイチ、あそこの会話聞き取ってみろ・・・今、あの老人の唇の動きを読んでみたら、君の名前を言っていたようだぞ」

またまたご冗談をと言いたい所だったが、ミギーがこんな嘘をつく筈が無い。
シンイチは目を閉じ、校門の会話に意識を集中させた。

『はい、泉新一は間違い無く我が校の生徒でございます』

『最近みなりが悪くなって来ていると聞いていますが、もしや徳川様に何か御迷惑になるようなことでもしでかしましたでしょうか?』

「本当だ・・・しかし好き勝手言ってるなあ」

「悠長にかまえている場合か、あそこで君の名前が出ていると言うことはだな」

「泉、今度は目を開けたまま寝言か?」

新一は教師の不意の一言に、教室内の視線を一身に浴びていることに気付き、シャキンと姿勢を正した。
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/14(土) 15:08:42.71 ID:oPI76kVIO





「成る程・・・いいだろう」

筋者達の集まるビルの一室、いわゆるヤクザの事務所。

そして、横一列に整列している組員達の前に前に立っているのは、今、言葉を発した制服姿の女子中学生だった。

ありがとうございますと深々と礼をする一堂の中には、組長らしき男の姿もあった。
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/14(土) 15:10:33.94 ID:oPI76kVIO
「食堂と餌の確保・・・迅速に行動を起こさねばこの場所をそれにする、すぐに連絡をしろ」

この言葉を残し、娘はドアを開けその場を去った。

「兄貴・・・本当にあの娘が」

室内の沈黙に耐えかねたのは、一番下っぱの構成員中川良二。

「馬鹿野郎!どこかで聞いてたらどうする、ミンチにされちまうぞ!」

「どうしても信じられないんですよ・・・あんな可愛らしい女の子が化け物だなんて」
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/14(土) 15:14:02.46 ID:oPI76kVIO
「実際にそれを目の当たりにしたのは、オヤジだけだ」

目を移すと顔を真っ青にして、ソファーにへたり込んでいる組長、遠藤宗吉が震える声を抑えながら呟く。

「言っただろう・・・赤羽の須藤の所に俺が出向いた時、皆殺しだぜ?思い出したくもねえ」

「それじゃあテレビで言ってみたいに、でっかい口で飲み込んじまった訳ですか?」

「そんな生易しいモンじゃねえ・・・俺がそこの扉を開けた時にはもう・・・そこらじゅうに首が転がってた!」
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/14(土) 15:15:23.38 ID:oPI76kVIO
冷静さを取り戻そうと遠藤は煙草に火を着けた。

「血の海の真ん中でこっちを見て『テストは終わりだ』だとよ・・・何がなんだかわからねえが必死で土下座して命乞いしたぜ」

「・・・よくご無事で」

「食うのが目的じゃ無かったようだ・・・出て行こうとする所で、頼んじまったよ『うちの客人になってくれ』ってな・・・そこはもう意地だったな」
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/14(土) 15:16:30.95 ID:oPI76kVIO
良二に兄貴と呼ばれた男が、恐縮しながら一歩前に出た。

「人間を食う為の場所と、その人間・・・それが条件で怖い物無しの用心棒が手に入った訳です、感服します」

遠藤はまだ長いままの煙草を灰皿に押し付け、顔を上げた。

「これで・・・花山を始末できる!」

遠藤の襟元の、円形の代紋が光った。
39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/14(土) 15:20:03.42 ID:oPI76kVIO





校長室。
二十畳はある毛の長い絨毯の上に、革張りのソファーと大理石のテーブルを乗せている。
テレビドラマで見たような、どこかの一流企業の社長室を思わせる設備に、腰が落ち着かない新一。

そして何より落ち着かない原因は、目の前の異様なオーラを放つ老人、徳川光成である。

40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/14(土) 15:20:52.46 ID:oPI76kVIO
先ほど校長教頭両名は光成の「二人にしてくれんかの」の一言で渋々部屋を出て行った。

「あの・・・一体僕に何の」

「二人きりじゃの・・・いや三人か」

新一は思わず、咄嗟に右手に目をやった。

「ど・・・どういう」
41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/14(土) 15:23:48.19 ID:oPI76kVIO
「警戒せんでもええ、君達のことを他所に話したりはせんよ」

「・・・なんのことだか」

「まあ、そう来ると思っとった・・・おい」

光成の合図で先ほど運転席から降りて来た黒いスーツの男が、ドアを開け入って来た。
手には書類を持っている。

「君とミギー君が、パラサイトと闘う姿を拝見した」

「・・・え?」
42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/14(土) 15:24:50.51 ID:oPI76kVIO
「経緯は端折るが要は君の・・・いや君達の闘う姿を直に見たい」

人々の好奇の目に晒されるモルモット。

新一は以前ミギーが危惧していることを、話したことを思い出した。

どれだけしらばっくれても、この老人には通用しないと判断し、 一部を観念し、話すことにした。
43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/14(土) 15:26:12.13 ID:oPI76kVIO
「あなたがどこまで知っているかわかりませんが、それは無理です、人目に触れるのは僕が・・・いや僕達が最も恐れることだからです」

「君達がパラサイト達と闘っているは、望んでやっていることでは無く、人食いのあやつ等が君達を発見すると強烈な敵意を持ち襲いかかって来る・・・そうじゃな?」

答えず黙り込む新一。

「お母さん・・・亡くなったそうじゃな」
44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/14(土) 15:27:32.74 ID:oPI76kVIO
新一は光成を睨みつけ、立ち上がり部屋を出ようとした。

「君達を・・・いや、君達の周りの人々全てを我々徳川財閥が全力で保護しよう!」

新一は足を止めた。

「パラサイトは不死身と言う訳では無いじゃろ?頭部を切り離せば絶命する・・・また人間部分の機能が停止しても同じ、つまりこちらが強い武力を持ってぶつかれば、君達から遠ざけることはそう難しいことでは無いはずじゃ」

黒服の持つ資料は、新一の家周辺及び学校近隣や友人達の家などの近くに点在しているパラサイト達の情報だった。

「これで全てでは無いだろうが・・・とりあえず既に監視は付けておる」

新一は資料の中の一つに目を止めた。

「・・・里美」
45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/14(土) 15:28:18.45 ID:oPI76kVIO
恋人、村野里美の住まい周辺に関する資料だった。

「闘う姿とは、私達が君達の言うパラサイトと闘う姿が見たいのか・・・それともまた別か」

ミギーは親指の付け根部分を唇と化し、親指の先から目玉を覗かせた。

「おお!君がミギー君か」
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/14(土) 15:29:55.51 ID:oPI76kVIO
「ちょっ・・・おまえいいのか?!」

「私は生きる為に生きている・・・身の安全の絶対的確保を約束出来るのなら条件を飲もう」

「・・・ミギー」

「指一本触れさせはせんよ、世界屈指の金持ちが金に糸目を付けずに最強のボディーガードを雇ってやる」

「シンイチ・・・君も父親や村野里美の保護は最優先にさせたい筈だ」

新一は言葉を詰まらせたが、胸の中での答えはほぼ決まっていた。

「闘う相手はパラサイトでは無い・・・こちらで用意する」
47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/14(土) 15:48:33.50 ID:oPI76kVIO
「人間ですか?」

「そうじゃ・・・只の人間じゃないがな」

「わかりました・・・あまり見せ物にはならないと思いますよ、早く済ませてしまうと思うので」

光成は鼻の穴を膨らませ、二重瞼の大きな目を剥いた。

「舐めとったらいかんぞ?小僧」

見事な真円を描いた光成の目は、こぼれ落ちないのが不思議な程だった。
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/14(土) 15:53:46.19 ID:oPI76kVIO





「テスト・・・ですか?」

付き添いを任された、龍牙会の構成員中川良二。
隣を歩く、身長150cm程でありながら異様な威圧感を出す、女子中学生のお供である。

「・・・聞いている筈だ」

髪の毛はポニーテール、そしてブレザーに通学バッグ。
この姿からは想像もつかないような、言葉使いである。
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/14(土) 16:32:46.34 ID:oPI76kVIO
事務所に連絡が入ったのは、彼女が訪れた次の日だった。
内容は、食堂と餌の準備は出来たかと言うこと。
もうすぐ見つかる所です、と言う答えに憤慨した様子も無く「これからいいモノを見せてやる」との返事だった。

疑問符は拭えない。
どこからどうみてもただの女の子。

あえて違和感を挙げるなら整いすぎている容姿。
二重瞼に長いまつ毛、それに挟まれた鼻筋の通った顔。
おもちゃ屋に並ぶキャラクターの人形のような長い脚。

この子が人間を食べる化け物だと。

無理、受け入れられない。

「あのさ、タメ口でいいかな?」
50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/14(土) 19:16:12.52 ID:oPI76kVIO
何故こんなことを。

良二は死を覚悟する程の、後悔を冷たい汗と共に流した。
どう食われるか、頭をもぎ取られるか、全身を八つ裂きにされるか。

しかし返ってきたのは、そのどちらでもなく、想像を絶する相手の反応だった。

「・・・構わん」

「え?」
51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/14(土) 19:16:51.16 ID:oPI76kVIO
「シオリと呼べ」

「は・・・はい」

「敬語をやめるんじゃないのか?」

「え・・・あ、お、おお・・・ええ」

「名前は?」

「じ・・・自分は、いや俺は良二」

こちらに一度も目を向けずに話し続けるシオリと名乗る、娘。

娘の姿をした、人食い生物。

良二はもう考えるのを止めた。
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/14(土) 19:17:44.34 ID:oPI76kVIO
「一体何処に向かってるんだ?」

すんなりと出た良二の言葉に返事は無く、ただシオリは立ち止まった。
目線の先を追うと、大きな建物が街を見下げるように立ちはだかっていた。

「神、心、会、館・・・これはあの神心会の道場か?」

「ここで・・・良二、おまえに仕事がある」

「なんだって?」

「簡単だ・・・そこの扉を開いて、一言言うだけだ」

「な、なんて?」

「看板をくれ・・・と」
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/14(土) 19:18:18.48 ID:oPI76kVIO
今や世界各地に道場を持つと言う、かの有名な神心会館の本部に乗り込み、看板を要求する。

これ程わかりやすい自殺行為があるだろうか。

「そ・・・そ、それは、マジで言ってるのかな?」

良二の問いに対する返事も無く、そのまま一直線に正面の大きな扉に向かうシオリ。

「あっ・・・まって!」
54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/14(土) 19:19:05.18 ID:oPI76kVIO
後を追った良二は足がもつれ、結果シオリを追い越し、勢い良く観音開きの扉を左右に開いてしまった。

出迎えたのは、良二の身体のふた回りはある道着の巨漢、二人組。

「おや、元気がいいな!見学かな?」

「いや、後ろに女の子がいるぞ、付き添いじゃないかな?」

体格とは裏腹な優しい笑顔の二人、恐らく指導員だろう。

「さあ、良二!」

「え・・・あ、うう」
55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/14(土) 19:20:17.93 ID:oPI76kVIO
首元に流れる汗を感じる。
この二人に、あのセリフを言ったら、どういう反応が返って来るだろう。
面白い冗談だと軽く流してくれるだろうか。
激昂し、殴り倒されるだろうか。

良二の頭の中であらゆる事態の想定が巡らされる中で、突然耳元に甘い吐息と共にシオリの言葉が添えられた。

「死にたいのか?」
56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/14(土) 19:21:08.14 ID:oPI76kVIO
いやだ。
良二は今にも泣きそうな表情で、すがるように言葉を発した。

「か・・・か、看板くださあい」

目の前の二人の笑顔が消えた。
そして一人が眉をしかめ、なだめるように良二に話しかけた。

「うんと・・・あれえ?何か間違えてないかな?」

「うちは、看板屋さんじゃないよ?」

もう一方の男の一言で、二人に先程の笑顔が戻り、和やかな空気が流れた、とほぼ同時にシオリの拳が一言を言った男のみぞおちにめり込んだ。
男はそのまま床に倒れ、ピクリとも動かなかった。
57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/14(土) 19:21:57.46 ID:oPI76kVIO
「て・・・てめえ!」

怒りをあらわにし、シオリに掴みかかろうとする、もう片方の男の顔が高速で揺れた。
シオリの床と垂直まで振り上げられた右ハイキックが、目にも留まらぬスピードで繰り出されたのである。
男はそのまま、崩れ落ちた。

「す・・・すげえ」
58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/14(土) 19:22:59.23 ID:oPI76kVIO
良二が看板を要求する言葉を発してから数秒で、目の前の二人の巨漢が床に沈んだ。

「これではテストにならないな、弱過ぎる」

シオリはピクリとも動かない二人を見下ろし、呟いた。
良二は震えながらも、気分は高揚していた。
組の誰かが言った、怖いものなし、と言う言葉を思い出し、急に強気になった。

「オラァ!強い奴出てこい!」

入り口奥のロビーに響いた、良二の怒鳴り声。

そして数秒後、良二は目の前に現れた男達に、現実に戻される。

「オイオイ・・・何事だよ?」
59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/14(土) 19:25:24.75 ID:oPI76kVIO
ロビーの角より出現し、先に口を開いたのは、ここに倒れている二人の巨漢よりもデカイ男、そして間違い無く強い。

「ケッ!だらしねえ・・・練習生からやり直せってんだ」

そして、後からヤクザ顔負けの凶悪な顔付きの男が現れた、今にも噛み付きそうな獣のようである。

「加藤、そりゃあ言い過ぎだぜ?見たところ、二人共一発でのされてる・・・相当な腕だ」
60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/14(土) 23:11:40.78 ID:oPI76kVIO
「わかってるよ、オイ!何者だ!」

良二は加藤と呼ばれた男の威圧的な口調に、戸惑いながらやっとのことで言葉を発した。

「お・・・俺は」

「お前じゃねえ!」

良二の言葉を遮ったのは、大柄な方の男だった。

「末堂・・・わかるか?何なんだ?この娘」
61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/28(土) 04:28:17.78 ID:74afQis3o
もう2週間か
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