このスレッドはSS速報VIPの過去ログ倉庫に格納されています。もう書き込みできません。。
もし、このスレッドをネット上以外の媒体で転載や引用をされる場合は管理人までご一報ください。
またネット上での引用掲載、またはまとめサイトなどでの紹介をされる際はこのページへのリンクを必ず掲載してください。

超電磁砲は夢をみない - SS速報VIP 過去ログ倉庫

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

1 : :2012/07/24(火) 11:18:36.24 ID:d42ujU9K0






――あなたの夢はなんですか?――







SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1343096316
【 このスレッドはHTML化(過去ログ化)されています 】

ごめんなさい、このSS速報VIP板のスレッドは1000に到達したか、若しくは著しい過疎のため、お役を果たし過去ログ倉庫へご隠居されました。
このスレッドを閲覧することはできますが書き込むことはできませんです。
もし、探しているスレッドがパートスレッドの場合は次スレが建ってるかもしれないですよ。

こんな恋愛がしたい  安部菜々編 @ 2024/04/15(月) 21:12:49.25 ID:HdnryJIo0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713183168/

【安価・コンマ】力と魔法の支配する世界で【ファンタジー】Part2 @ 2024/04/14(日) 19:38:35.87 ID:kch9tJed0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713091115/

アテム「実践レベルのデッキ?」 @ 2024/04/14(日) 19:11:43.81 ID:Ix0pR4FB0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713089503/

エルヴィン「ボーナスを支給する!」 @ 2024/04/14(日) 11:41:07.59 ID:o/ZidldvO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713062467/

さくらみこ「インターネッツのピクルス百科辞典で」大空スバル「ピクシブだろ」 @ 2024/04/13(土) 20:47:58.38 ID:5L1jDbEvo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713008877/

暇人の集い @ 2024/04/12(金) 14:35:10.76 ID:lRf80QOL0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1712900110/

ミカオだよ。 @ 2024/04/11(木) 20:08:45.26 ID:E3f+23FY0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1712833724/

アルミン「どうやら僕達は遭難したらしい」ミカサ「そうなんだ」 @ 2024/04/10(水) 07:39:32.62 ID:Xq6cGJEyO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1712702372/

2 : :2012/07/24(火) 11:20:36.21 ID:d42ujU9K0

そうだなぁ。今より一歩先に行くことかな。
勿論『自分の力』で前進するよ。楽しちゃ駄目ってのはイヤって言う程身にしみたし。


先ずはとある方の背に追いつきその隣に並び立つことですわ。
そこがわたくしのスタートライン。


これくらいしか取り柄はないけど。
何かの――いいえ。誰か為に役立てられるなら、もっと深く学んでみようかと思っています



    ああ、そんなもの。痛いし死にたくなるし――大嫌いだよ。


    これから見つけていくものですね、とミサカは曖昧な回答をかえします。
    でも、お姉さまが一緒に探してくださるから不安はありませんよ、とミサカは言葉を続けます。


    えっとね。あの人とずっと一緒にいれたらなってミサカはミサカは願っているの。



……特にねェよ。そンなもン。
 
 
笑顔を忘れない人生を過ごせるお手伝いできたら。それはとても素敵だって思うんだよ。


「幸福だー!!」って叫ぶ日がきたらいいな。うん、切実に。
3 : :2012/07/24(火) 11:25:05.09 ID:d42ujU9K0






 「――夢? そんなの決まってるじゃない」

 「ママの夢は、貴女そのものよ、美琴ちゃん」





4 : :2012/07/24(火) 11:28:54.43 ID:d42ujU9K0

 『超電磁砲は夢をみない』


  ――――
  このssはとある魔術の禁書目録及び、とある科学の超電磁砲の二次創作です。
  特定のカップリングは予定しておりません。 片思いくらいはあるかも。
  御坂美琴を中心に、妹達(主に打ち止めや番外個体など)一方通行について書いていけたらと思っております。
  最後までお付き合い頂いたら幸いです。

 ※以前、禁書目録の総合スレに投下した「金平糖の空」という短編ssを序章としています。
 ※半年程前にスレをたてそのままエターしてしまいました。その際は大変申し訳ありませんでした。
  エターせず最後まで完走する所存です。再度お付き合い頂けましたら、これ以上にうれしいことはありません。
   
5 : :2012/07/24(火) 11:32:31.29 ID:d42ujU9K0
序章 金平糖の空

母は常日頃、それこそ四六時中。
呑気で陽気で楽観的な人間だと他人からは思われているだろう。
アルコールを体内に流し込めば百発百 中酒に飲まれること間違いなし。
「ダメな大人」と言えなくもない、三十路をとうに過ぎた女。

曰く博愛主義を掲げる彼女は、確かに情を注ぐ対象が多いと言えるだろう。
花の香りのフラグレス。
体にフィットする皮パンツ。
水の中を掻っ切るように泳ぐ瞬間。
ごつごつとした掌で己の身体を抱き締める男。
本人の遺伝子を九割以上受けついだのでは? と思いたくなるほど彼女の面影そのままに生まれてきた娘――。

忙しなく過ぎる日々の中で彼女は常に愛を謳った。

日常を形成するパズルのピース全てを、慈悲の母性で満たそうと生きる人。
それが美琴の中で形成された母の輪郭だ。

自他ともに認める愛多き女がこよなく愛するものは。
多分、自分でも父でも。
勿論、アルコールでもない。
きっとそれは。

金平糖が散らばった満天の星空に違いないのだと、一四になった美琴は信じて疑わない。
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/24(火) 11:33:49.80 ID:LsdECsWDO
ふむ、期待
7 : :2012/07/24(火) 11:38:59.19 ID:d42ujU9K0
◆◇◆◇◆

美琴が四歳五歳といった年頃。
扇風機は必要ない過ごしやすい夏の夜のことだ。

やさしい風が頬に気持ちいいだろうと 涼みを兼ねて部屋から出たベランダには、立派な笹飾りがあった。
父が珍しく日本に戻って来た時に、たまにしか会えない娘のご機嫌の取りの手段として
「美琴ちゃ〜ん。おみやげだよー!」 と上擦ったテナーボイスと共に美琴に送られたもの。

笹の葉の重なる音が響く。
カサリカサリと乾いた掠れの音に誘われるままに視線を動かし「ソレ」が視界に入るや否や、美琴は眉をしかめる。

『あまのがわをママとパパとみことでみれますように。 みちかみこと』

短冊に書かれた字は所々ガタガタでミミズのようにうねっていて、「さ」の部分が「ち」になっている。
覚えたての、生まれたての文字。
お昼は幼稚園の先生と一緒に、夜は母 と一緒に。
練習して練習して練習してようやく美琴が取得した(と本人は思っているが、まだ完璧ではない)というのに。
流れ星も天の川も美琴の囁かな願いを聞き入れず、とうとう七夕当日を迎えてしまった。

「お星さまが美琴ちゃんの願い事をか なえてくれるんだぞ!」という父の言葉を信じなければ良かった。
少女の頭の中を例えようのない不平不満がぐるぐると駆け巡る。
「大人の事情」という、子供ならば避けては通れないこの世の理不尽さを口を膨らませながら噛みしめる。
8 : :2012/07/24(火) 11:49:09.39 ID:d42ujU9K0
年相応に涙ながらに父を嘘つきと罵倒できれば、とも思う。
内在する悪態がきれいさっぱり掃除できる事くらい本能的に感じ取っていたが出来たら苦労はしない。
美琴がイヤイヤと泣くだけで、一人娘に甚大な愛を降り注ぐ両親は悲しそうに目尻を下げるのだ。そんなの簡単に予想がつく。
美琴は隣に居る母にも、何処にいるかわからない遠い地にいる父にも、特に文句を言う気は無かった。
だって、大好きな人達の涙は見たくない。

しかし。
娘の些細な変化に気付かないほど母も鈍感な人ではなく。
今にして思えば、ぷくっと頬を膨らませてぶーたれている美琴の横顔を彼女が見逃すはずもなかった。

気がついたからこそ、彼女は娘に語りかけるように歌を歌いだしたのだろう。

「きらきらひかる、おそらのほしよ」

静寂の夜に浮かびあがる歌声に、少女の耳はピクリと動く。

美琴は耳慣れしたこの曲の正体を知っていた。
季節が穏やかな春から太陽きらめく夏へと移り変わろうとしはじめた時期から、
幼稚園の先生がオルガンを弾きながら皆に歌い聞かせるようになったお歌。

すぐに曲名を思いだす。

「きらきらぼしっ!」

それ、私、知ってるよ。キラキラと目を輝かせて、美琴は音を奏でる母親につげた。

「すごいね。美琴ちゃん。物知りだぁっ!」

「あのね。あのね。おほしさまのおうた、だよね!」

褒められた事に上機嫌になった少女は知る限りの知識を母親に提示する事に躍起になる。
あのね、あのね、と。
つたない舌使いで大げさな身ぶり手ぶりを添えて、
自分よりもずっとずっと背 の高い母親の顔を見上げて美琴は話し続ける。
美琴の腹の中の虫は、何処かへ飛んで行ったらしい。
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/07/24(火) 11:49:39.80 ID:jhmQXkC+0
見てるぞ
10 : :2012/07/24(火) 11:57:10.69 ID:d42ujU9K0
目尻を弛ませて、「うん、うん」と相槌を打つ母。
両の肩で息をするほど全力でおこなわれる幼子の演説。
 
演説を聞き終えると、母はしなやかな両腕を広げた。
美琴を抱き寄せ 「すごい! すごい!」と白い歯を惜しげもなく見せ笑う。
わしゃわしゃと。せっかく整えた髪が豪快に乱れる程に頭を撫でられた。
気恥ずかしさを紛らわそうと、美琴はこっそりと母の胸元に顔を隠す。
けれど歓喜の波に勝てるはずもなくて。
少女の緩んだ口元から漏れるひひひという笑い声は、母親には丸聞こえだったそうだ。

「みこと、このうただいすきっ!」

「ママもこのお歌大好きよ」

「ママも?」

「きっと、パパもだーい好きだよ」

「っ!」

母も父も。自分が好きな歌が大好きだという。
それだけで美琴の内側から高翌揚が湧き出てくる。自然と頬が桃色に染まった。

無自覚にとくとくと刻まれる心の音にすら気付かずに、美琴の瞳は目の前の景色をそのまま反射させる。
彼女の瞳はまるで鏡のように、目の前に広がる光景をありありと映し出した。

笹の葉と睨めっこしていた視界はいつしか世界を変える。
 
広がるのは、 満面の笑みを浮かべる母と、
真っ白な金平糖が沢山散らばっていると思わせるような、満天の星空だ。

わあ、と感嘆の吐息をはいた後に。

「ねえねえ、ママ。おそらがこんぺいとういっぱいで、おいしそう」

なんという大発見だろう!
ウキウキと、お月さまに浮かぶウサギの如く跳ねる心のままに教えてあげた。

そんな美琴の言葉を聞き目をパチクリとさせた母は、
途端に腹を抱えて笑いだした。

「ぶっ、あっはっはっはっ!」

美しい曲線を描く眉をへの字に曲げ、目尻に涙まで浮かべて爆笑した姿は今でも鮮明に覚えている。
この件関しては中学生になった美琴も許してはいない。
失礼だと思っている。
別に、根に持っていはいないけど。……持ってないけど!
11 : :2012/07/24(火) 12:01:43.99 ID:d42ujU9K0
「マーマーッ!!」

「ごめんごめん。美琴ちゃんがあんまりにも可愛いこと言うからさ」

「むー」

「そっかそっか。美琴ちゃんにはお星様が金平糖に見えるんだね」

「……へん?」

「ううん。変じゃないよ。とーっても 素敵よ」

金平糖が詰まっているビンは、美琴にとって宝箱とも宝石箱とも思えるものだった。
淡い色の宝石は美琴の乙女心をくすぐる何かがあった。

その「何か」は何だったのか。
一四の美琴には見当もつかない。
川辺の石を勇者の証だ見せびらかす男の子が居た。
露店で買った玩具の指輪を永遠の愛の証だと信じた女の子がいた。
 
子どものころに感じた見えない特別な幸せは、一人一人違っていて、
美琴にとってそれは金平糖の詰まったビンだったのだ。

だから。
ぎゅっと金平糖が詰まったビンが空に落ちて、
ぱらりぱらりと中身が散らばったような天の川が流れていく星空は、
美琴にとって、とてもとても焦がれる空で、
美味しそうな空で、キラキラの全てだと、心に、瞳に、刻まれていく。
12 : :2012/07/24(火) 12:03:06.52 ID:d42ujU9K0


 
 きらきらひかる よぞらのほしよ

 まばたきしては みんなをみてる

 きらきらひかる よぞらのほしよ

 

 きらきらひかる よぞらのほしよ

 みんなのうたが とどくといいな

 きらきらひかる よぞらのほしよ


13 : :2012/07/24(火) 12:04:58.97 ID:d42ujU9K0
「ねえ、美琴ちゃん」

歌を歌い終えた後、美琴を抱きあげた母は彼女の耳元で語る。
夜八時を回り、羊の誘いに負けそうになる美琴。 子守歌のような囁きが更に眠気を強くした。

「ママね、きらきらぼしが大好き。満天の星空が大好き」

ぽんぽんとリズムよく叩かれる背中に絶対の安著が押し寄せてくる。
ねんねんころり、と赤子の頃に注がれた母の慈悲が、呼びかえったのかもしれない。

「美琴ちゃんはいったよね。 お星様、アナタはいったいだあれ? って。
 ママね、お星様はきっと、大好きで大切で掛け替えのない人がお星様だと思うの」

ここに居ない、あの人にも届けばいいのだけれど。
と、ボソリと聞こえてきた記憶がある。

「ママにとってのお星様。

 それは、パパであり、

 そして、美琴ちゃん―――――あなた、よ」
14 : :2012/07/24(火) 12:05:54.00 ID:d42ujU9K0
お星さま、きらきら輝くお星様。

私が見ている星空を、遠いあの人も見ているだろうか。

お星様、きらきら輝くお星様。

私の声が、この子の声が 聞こえますか。

私には、この子には、あの人の声は聞こえますか。

お星様――あなたは一体何ものですか?
15 : :2012/07/24(火) 12:08:55.68 ID:d42ujU9K0
◆◇◆◇◆

時は流れたが、変わる事もあれば変わらない事もある。
父は相変わらず破天荒に世界を飛び回る、あやしさ100%のおじさん。
母は相変わらずアルコールに白星を上げることが出来ない、駄目……というか残念な大人。

美琴は小学校低学年の時にはすでに両親のもとから離れ、学園都市で生きることを選択していた。
学園都市に来た理由は単純だ。
ただ単に超能力と言うものに憧れを抱いたから。
かつて、金平糖のつまったビンに心が奪われたように、超能力と言う新たな宝物に目を奪われてしまった。

能力開発を受け、美琴は『電撃使い』と分類される事となる。

「御坂さん。こう人さし指と人さし指を向かい合わせて、そこに意識を集中させて……」

開発担当の研究員の言葉を思い出しながら、深夜、布団にくるまり能力を行使した。
パチッと小さな弾ける音。

「わっ!」

一筋の紫電が指の間を駆け巡る。
瞬時に脳裏に浮かぶ景色。
暖かい眠りの中で聞いた『満天の星空が大好き』の囁きと彼女の横顔。

それはきっと、何処かの誰かの大切な人。

「……」

「……」

「……、お星さま、みたい」

紫電に重ねるのは、空に散らばった無数の金平糖。

いつか。
いつか、もっともっと。
金平糖のような、キラキラひかる星のような光を、空いっぱいに浮かべる事が出来るようになれば。
美琴のお星様――美琴の大切な、掛け替えのない人達は喜んでくれるだろうか。

「……うん」

「がんばって、みようかな」

自他ともに認める愛多き女がこよなく愛するものは、
多分、自分でも父でも。
勿論、アルコールでもない。
きっとそれは、金平糖が散らばった満天の星空に違いないのだと、一四になった美琴は今でも信じて疑わない。

ポツリと呟いた決意こそが、美琴の超電磁砲へとスタートだった、と。


彼女は今にして振り返る。
16 : :2012/07/24(火) 12:15:35.28 ID:d42ujU9K0
一章 鉄橋にて空を仰ぐ

学園都市に住まう全ての学生が恋焦がれ待ち焦がれた日が訪れた。
終礼のチャイムが校内に鳴り響くと同時に、脱兎の勢いで教室から抜け出した学生は一人や二人ではなかった。
もはや季節の風物詩ともなった少年少女達の行動を横目に、
教師たちは『今年こそ、何も起こらなければいいのに……』と内心でため息をついた。
 
数多の教育機関が軒を連ねるこの摩天楼には、
現在、身の軽さに背中に羽をはやした(ような気分に浸っている)生徒が大量発生していた。
 
第五学区では怒涛の期末試験の嵐を乗り越えた金髪頭の不良大学生が。
第十三学区では赤いランドセルを背負い、短めの髪をカチューシャまとめた小学生が。
第七学区の柵川中学では、枝毛一つない黒い長髪を撓らせ、
右手に作りし握りこぶしを高々と天へ掲げた、セーラー服の女子中学生が宣言した。


「「「私は(俺は)、自由の身となったのだぁあああああッ!!!」」」


つい先日までの通常試験並びに身体検査(システムスキャン)で心身ともに疲弊していた彼らの姿は何処にも見当たらない。
その眼にうつすのは、明日からはじまる魅惑の楽園(パラダイス)な日々だけである。
 
少年少女達は今日をもって解放された。
 
こめかみが痛くなる算数や数学も、
『ここは日本なんじゃー、ボケー!!』と放り投げたくなる英語や第二外国語も、
ジレンマにかられる開発術も、
今の彼ら彼女らを悩ます要因とはなりえない。
 
普段の学生生活の中で悩みの種となる全てから、『自由』になった彼ら彼女に、今や立ちふさがる障害などありえなかった。

第五学区の金髪頭の不良大学生が。
第十三学区のカチューシャ小学生が。
第七学区の柵川中学の女子中学生が、輝くばかりの笑顔で再び吼えた。


「「「「ビバッ! 夏休みッッッ!!!!!」」」

 
堅苦しい校長のスピーチは聞いた。
容赦なく笑顔で現実を突きつけてくる担任教師から愛の鞭、もとい、成績表授与式にも涙を呑んで耐えた。
耳にタコが出来るほどに聞き飽きた『長期休暇中の諸注意』を右から左へと受け流せば、
遠距離恋愛の恋人よりも恋しかった終礼のチャイムが鳴り響く。
歓声を挙げて廊下から教室へと流れ出ていく生徒達の後姿の神々しさといったら。

七月十九日。
本日は晴天なり。
四月二日よりはじまった一学期の最終日。
全ての学生のスイートハニー&マイダーリンこと、みんな大好き『夏休みさま』が明日、七月二十日から盛大に開始される。
17 : :2012/07/24(火) 12:21:23.40 ID:d42ujU9K0
◆◇◆◇◆

学年が上がろうと、学校が変わろうと、少女達が集う秘密基地は変わらない。
白井黒子が通う常盤台中学と、佐天涙子と初春飾利が通う柵川中学のほぼ中間地点にその店は在った。
第七学区の某有名ファストフードチェーンのお店の一角が、美琴達のお決まりのたまり場である。

一年近く通いつめると、注文するメニューも定番化してしまうものだ。
それぞれが好みの飲料を頼み、他には特大サイズのポテトを一つ注文して、 均等にそれを山分けするのが暗黙のお約束事項だった。

店側からしてみれば小さめのサイズを人数分購入する方が良いに決まっているのだろうが、
どれだけ小さかろうと、一つのもの一人で完食してしまうのは、大変心苦しい行為に思えて仕方なかった。
総合的に摂取する量が同程度でも、「皆で分け合って食べた」という事実(言い訳)が乙女心には必要で。
『ダイエットは気になるけど、まあ、皆食べてるし』なんて現実逃避くらい見逃してほしい。

よく言うじゃあないか。赤信号みんなで渡れば怖くない。

「うう〜…、受験なんてモン、滅んでしまえばいいんだ」

投げやり気味にテーブルの上に突っ伏した佐天は、配分されたポテトをもしゃもしゃと頬張りつつ、恨み節を溢す。
彼女の片手には担任から授与されたばかりの成績表がぐしゃと潰された状態で握られていた。
 
先刻まで教室の中で『ビバッ! 夏休み!』と浮かれていた佐天の姿をこの場で知るのは、クラスメイトの初春のみ。
 
学生生活からは開放されても受験生活からは逃れない。
悲しいかな、中学三年生。
夏休みへの高翌揚は成績表という名の現実を見た瞬間に飛び散った。
 
受験までラストスパートと言えるこの時期で躓くのは手痛いだろうに……、と、迎えの椅子に腰かける白井と初春が同情の視線を佐天に向ける。
唯一、一足先に受験地獄から抜け出した美琴だけが、呑気な口調で佐天の話に耳を傾けている。
18 : :2012/07/24(火) 12:28:46.66 ID:d42ujU9K0
「そんなにヤバかったの?」

「御坂さんが勉強を教えてくれているおかげで、なんとか第二志望は合格圏までいけそうなんです。
 ただ、どうしても第一志望の判定があがらないっていう……」

「そういえば、佐天さんの第一志望ってどこだっけ?」

「…………、わ、笑いません?」

「失礼ね。私は友達の進路を鼻で笑うような人間じゃないっての」

「……き、」

「き?」

「き、霧が丘、です」

「へえ。霧ケ丘、かあ」

美琴はズズ、と注文したジュースをストローで飲みながら相槌を打った。

霧ケ丘女学院。第七学区に在る女子高等学校だ。
希有な能力の発掘・育成を得意とし、能力育成部門においては常盤台中学と並ぶとまで言われる学園都市屈指の名門校。

常盤台中学のように受講者全員が、能力(レベル)基準による試験ではなく、
一部の高位能力者を除き、霧ケ丘女学院は一般の学校と同様に筆記試験にて大部分の生徒を募っている。
つまり、無能力者の佐天にも門戸は開かれているのである。
唯一にして最大の懸念事項は、めちゃくちゃ偏差値が高い、ということ。

「あ、そうだ。確か、白井さんって霧ケ丘にお知り合いがいませんでしたっけ?」

御坂と佐天の会話を聞き、初春はふと思い出した事を、視線を己の右手に集中させていた白井に尋ねた。

「ええ、まぁ、」

指先についた少量の塩を取ろうと親指と人さし指を擦り併せ悪戦苦闘している白井は、中々落ちない指先のヌメリに眉を潜めつつ、

「霧ケ丘を卒業された方なら存じていますけれど」

「え、マジですか?」

「マジですの」

予想だにしない白井の交友関係に佐天は驚き目を見開く。
がばりと、テーブルに沈めていた身体を起こすと、マジマジと白井の顔を見返す。
「これで良かったら」と初春から手渡されたウェットティッシュで手元を拭うツインテール少女に、佐天はテーブル越しにズズイと迫り、

「白井さん!!」

「……な、なんですの?」

「その人、紹介してくださいッッ!!」

 と、意気消沈していた瞳を輝かせた。
19 : :2012/07/24(火) 12:34:47.62 ID:d42ujU9K0
歓喜と悲哀の表情をくるくると回転させる佐天。
他三名が直ぐに内面を読み取ってしまう程にわかりやすく、彼女の顔にこう書かれていた。
『試験を簡単に突破するコツを教えてもらえれば!! この勉強地獄ともおさらば!!! お帰り私の夏休みぃっ』

「えーと、佐天さん?」

「はい! なんでしょう御坂さん!」

「すごぉーーーく喜んでいるみたいだから、その、ちょっと言いづらいんだけど……」

「乗らなきゃダメだろこのビックウェーブに」とでも言い放ちそうな暴走中学生に「待った」の声。

声の持ち主は、眼前二〇センチまで迫られて引き気味の白井ではなく、
仲よし四人組只一人の上級生にして、ここ最近は受験を控えた三人娘の相談役兼家庭教師役を務めている美琴。
どうにも歯切れの悪い口だったのは、彼女なりに立ち上がった少女を想ってのことか。

「黒子が知っている霧ケ丘の卒業生って、私の知り合いでもあるんだけど。
 結標さんって言う人でね。……多分、能力で選抜された人、だと思う」

「あっ」

美琴の言葉に初春が小さな反応を返した。
好物のメロンソーダを飲もうとしていた手が止まる。

耳に聞こえてきた『結標』の名は初春にも心当たりがあった。
 
記憶をたどれば、直ぐに当時の光景が眼に蘇ってくる。
二年前の夏休み明け。
風紀委員(ジャッジメント)として関わり、圧倒的な機動力・攻撃翌力をもって現場を駆けた相棒が、
自分のサポート不足によって大けがを負ってしまった、今でも思い出すのが忌まわしい、あの事件の関係者として挙がった名は――、

「結標淡希」

「およ? もしかして、初春もそのムスジメさんを知ってるの?」

「……いえ、直接お会いした事はありませんよ。書庫(バンク)で見たことがあるだけです」
 
霧ケ丘女学院にかつて在籍し卒業生となった結標淡希は、「空間移動(テレポート)」系能力者の最高峰に鎮座する高位能力者である。
大能力者(レベル4)に分類されるが同ランクである白井との実力差は歴然としたもの。
超能力者(レベル5)に近い大能力者、と評すればいいだろうか。
20 : :2012/07/24(火) 12:43:13.58 ID:d42ujU9K0
「書庫によれば、彼女は大能力の空間移動能力者ですね」
 
初春は率直にそれだけを佐天に伝えた。
空間能力という学園都市内に百もいない希有な能力と、超能力者に次ぐ高強度(レベル)。
誰がどう考えても、結標が筆記による試験で名門校のドアを叩いたとは思えなかった。

「……うぐぅ」
 
目の前に現れた希望の灯は非情にも瞬殺された。
ドサリ、と。再び佐天の上半身がテーブルの上へと舞い戻る。

「うふ、うふふふふふふふ」

授業中に腕を組んで居眠りに興じる学生のような体制で、佐天は力ない笑い声を漏らした。
ああもう、畜生、お手上げだよと言いたげな声色と、困ったように寄せられる眉間の皺。

はっはー、現実はヘビィだぜ」 

ため息交じりの佐天の独り言。
同時にぐしゃっと握ってしまった成績表の残骸が視界に入る。
 
第一希望の合格圏に手が届かない成績結果が記された紙。
バクバクと柄にもなく緊張の面持ちでソレを受け取った際、
中学一年生の頃からの担任教諭の大吾からは『霧が丘はまだ遠いが、佐天はがんばってるな』と褒められたことを思い返す。

事実、 受験本番の半年も前に、佐天は第二希望の学校の合格確定圏まで手が届きそうな所まで学力を上げていた。
霧ケ丘に及ばなくとも、第二希望とて名門と呼ばれるに相応しい高校だ。

学園都市は良くも悪くも完璧な実力主義が根付いている土地。
年齢も性別も人種も国籍も人格すらも、何もかもが関係ない、正常でそれでいて異常な街。
幼児から学生の全員に不公平はなく総じて平等に的確に「個人」が評価されていく。

個人の実力。
その者だからこそ持ち得た力。
それこそが、「自分だけの現実(パーソナルリアリティ)」に代表される学園都市における価値基準。

「嫌に、なっちゃうねぇ」

『頑張っている』からこその苦い味なのだろう。
ポテトの味でいっぱいだった口内は、いつしか鉄くさい愚痴の味が広がる。

類は友を呼ぶそうだが、はて、自分はそれに当てはなるのだろうか、と佐天はつくづく思う。
 
学園都市の五指に入る常盤台中学に通う空間移動能者の白井黒子。
知力体力超能力は平凡。けれども、特化した情報処理能力で風紀委員試験の壁を打ち破った初春飾利。
そして、学園都市が世界に誇る、七人の超能力者の序列第三位にして、「発電系能力者(エレクトロマスター)」の頂点にいる御坂美琴。

向かえと右隣に当たり前のように居る面子の濃さに、脳内が麻痺してしまいそうになる。
 
佐天は「無い、無い」とばかり言っていた。
美琴や白井のような強力な超能力も、初春のような一転突破な能力も「無い」。
可愛いねと時たま褒められる容姿も一般論での物言いで、芸能人並に飛びぬけては「無い」。
運動神経も芸術的センスも料理の腕も「人並」で括れてしまう程度でしか「ない」。
佐天涙子は何処にでもいそうな普通の女の子。
形容詞の付けがいが無い人間だと、自分自身で思ってしまうほどに「普通」。
麻薬(幻想御手)でもいいから―――、と。現実逃避をしたのはいつだったか。 

少女は「無い」からこそ「有る」ものに焦がれる。焦れる。
だからこそ、満足いかない現状に打ちひしがれ、軽い気持ちで横道に逸れ、また打ちひしがれて、


「嫌になるくらい、悔しいーーーーーー!!!」


また、立ち上がる。
21 : :2012/07/24(火) 12:55:13.38 ID:d42ujU9K0

「へっ!」

「「「佐天さん……?」」」

唾を吐き捨てるような肉たれ口を放つ佐天。
軽く凹んでいた佐天を心配そうな面持ちで見ていた友人たちは置いてけぼりをくらう。
さっきまで少ししんみりしてしまっていた空気は何処へ行った。
行方不明になるには早すぎではないか。

「どーせどーせ、私は馬鹿ですよー!
 どーせどーせ、人の三倍勉強してもこの程度ですよー!
 いーもんいーもん、三倍で足りないなら五倍十倍泣きながら勉強してやるんだからーっ!!」

さよならバイバイ元気でいてね、夏休み。また来年、ねっとりたっぷり逢瀬といこうぜ。 
うがああああああ、とうめきながら心の中で愛しいマイダーリンに別れを言って。
気分はさながら天の川に居る織姫だ。
一年後の再会に想いと願いを馳せて織姫(佐天)は地道に機織り(受験勉強)に精をだそうではないか。

「御坂さん!」

「ふぁいぇっ!?」

名前を呼ばれた美琴は、突然の対応しきれずに中途半端な声を出した。
恋愛面以外でこんな素っ頓狂な声と面をする彼女は、貴重だったり、なかったり。

「これからも、ご指導ご鞭撻お願いしますね!」

『開き直った女は強い』
そんな言葉を残したのは誰だったろう。
今頃第五学区で真っ白になったジョーみたいに灰になった金髪大学生だった気もする。 

今の今まで確固たる自分自身の実力を形成している友達らに、
丸裸になるまで努力する姿を見せるのは気恥ずかしくて言えなかったり、 結果が出てから驚かせたかった見栄もあった。
『受験だから勉強を教えてほしい』とだけ言い、ひたかくしにしていた『霧ケ丘への受験』であったが……、

(ばれてしまった以上は仕方ない)
 
試験を簡単に突破する当ては無いと知り、
形振りかまう間柄でもないか、と今更ながらに思考転換をした佐天は、

「神様仏様御坂美琴様! 私を霧ケ丘に連れてって!」

今まで以上に、スーパー家庭教師御坂美琴(十六にして大学卒業レベル)に勉学のアドバイスを要求するのだった。
22 : :2012/07/24(火) 13:00:15.12 ID:d42ujU9K0
◆◇◆◇◆

スキー場でも甲子園でもなく、霧が丘女学院なのね。 内心で感想を溢したのはご愛嬌。
友人の頼みを無下にする選択肢は花から存在せず、美琴は佐天の頼みを一言二言で快諾した。
 
『よし、任された!』

大船に乗ったつもりで安心しなさいとばかりに胸をはる。
「それじゃあ早速」と美琴は益々教えがいの増した教え子に、
次に会うときまでに受験用に持っている問題集全てを最低3周分解いてきてね、と厳命した。
 
やるからには徹底的に。
本気ならば絶対的な結果を手に入れられるまでに。
求めるもの為なら泥をも被る努力を惜しまない彼女だからこその、第三位の今がある。 

理想は5周だけど。 そう、付け足した美琴の笑顔を見て、佐天の体が氷のように固まったのは気のせいだろう。
仮定の話だが。御坂美琴が教員や塾講師になったならば、受け持った生徒は皆がスパルタ式で鍛えられるに違いない。

「バス、来ないわね」

「こんな暑い中、日よけもないバス停に居るなんていっそ拷問にも思えますの」

「まったくもって同意」

佐天のめまぐるしく変化していく百面相に圧倒されつづけた放課後のガールズトークは三十分前に終わっていた。
四人で分配したポテトがすべて消費されれば解散の流れとなるのはいつものこと。
柵川中学の寮へと戻る二人とは大通りの十字路で別れ、
元・常盤台コンビは各々が暮らす学生寮まで行く路線バスを待っている。 

「佐天さんも頑張っていらっしゃるし、私も負けていられませんわね」

美琴の隣で白井が口を開く。
一つ下の後輩は、ゆるやかな向かい風にさらわれそうになる髪束を鬱陶しそうに手で押さえるも、
コンクリートに照り返る夏の日の暑さから開放される刹那の時に目を細めた。

「黒子」

「なんでしょう、お姉さま」

「アンタさ、本気でウチの高校を目指すの?」

「ええ。本気ですの」
23 : :2012/07/24(火) 13:03:50.39 ID:d42ujU9K0
ミーンミーン、ミーンミーン。
ミーンミーン、ミーンミーン。
蝉の歌声が鼓膜を震わせ、上がりに上がった体感温度を更に助長させる。
聴覚から与えられる情報に過ぎない蝉の歌声に、「ウルサイ」とコメカミが痛くなり「暑苦しい」と汗が出る。
一つの感覚を刺激することで二つ以上の感覚を会得する事を、共感覚性と言うが、
これもまた共感覚性の一種か、とソフトクリームのように溶けた脳で考える。

美琴が流れる汗をワイシャツの肩口で拭う姿に、白井は「お姉さま、品がありませんわ」と小言をいい、
「もうお嬢さま(常盤台のエース)」じゃないんだから別に良いでしょうと美琴は返した。

数秒、間が空いた後に。

「あえて聞かなかったけどさ」

「なら、今も聞かなければよろしいでしょうに」

「んー、そうなんだけどね」

「何か不安でも?」

「不安、というか……」

学園都市内に蔓延る学生たちの歓喜に呼応するかのような温度だ。
夏場はノータイ・ノーリボンで首もとの開放感があった常盤台の制服が恋しい今日この頃。
胸元に視線を落とせば、きっちり結ばされているタイが目に映る。

「長点上機。目指してみる価値はありますもの」

美琴よりかは猛暑から逃げ道ができている首元が涼しげな白井は、さらりと言った。

「夏になると最悪よ、この制服」

「制服で進学先を決めるタイプではありませんので」

美琴が身にまとう制服は、在籍する女学生に夏の地獄を容赦なくお見舞いする、長点上機学園のもの。
 
「何で、長点上機?」

「『夢』の為、としか」

段々と単語が略されていく会話の原因は、暑さのせい。
24 : :2012/07/24(火) 13:05:23.84 ID:d42ujU9K0








 「――――、夢、か」

 「ええ。夢、ですの」







25 : :2012/07/24(火) 13:06:29.13 ID:d42ujU9K0
中等教育機関が集中している第七学区には、思春期の蜃気楼に飲まれる少年少女が多く居る。
彼ら彼女らは幼いながらに過去を懺悔し、成長しながら今を苦悩し、大人になる明日を恐れていた。 

 
正しさとは。
自分とは。
乗り越えるべきものは。
切り捨てるべきものは。
生きるとは。
死ぬとは。
日常の幸せとは。
非日常の不幸せとは。
 
―――手に入れたいと、枯渇するものは。

 
いったい、なんなのだろう。
26 : :2012/07/24(火) 13:12:37.94 ID:d42ujU9K0
「佐天さんも?」

「「欲しい」と、努力してらっしゃいます」

「初春さんってどこ希望?」

「断崖大学の付属ですの」

「電子情報系に強いトコ、だったかしら」

「特技に更に磨きをかけたい、とか」

「……それも、一つの「形」よね」

「勿論。立派な夢の形ですわね」

「そうね」

『はじまりの橋』
そんな愛称をつけられるほどに学生たちに親しまれるアーチ型の大きな鉄橋がある。
 
『大覇星祭の最終日に行われるナイトパレードをこの橋で好きな人と見ると、想いを遂げられる』とか、
『夏の夜、橋で流れ星を見つけることができれば、その願いはかなう』とか。
土地と土地を分断する巨大な川の上に道を通し、交通の要として設立された橋は、
季節を一巡二巡三巡と過ごし、時の流れとともに、定番の都市伝説スポットと成った。

何故、はじまりなのかは定かではない。
『「恋がはじまるから」、らしいですよ』、噂好きの友人談だが真相は闇のそこ。

そんな、第七学区の住民ならば誰でも知っている鉄橋付近にあるバス停で、美琴は久方ぶりに空を仰いだ。

そよぐ風に流されていく綿あめ雲。
真夏を痛感させられる白の太陽。
遠くにあって、小粒ほどにしか見えない、大型液晶付きの飛行船。

遠く遠くどこまでも。
心凪ぐ平和な空が染まっている。

嗚呼。
けれど。
 
真昼の空に星はない。
とてもとても焦がれる空も。 美味しそうな空も。キラキラの全てが、ない。
27 : :2012/07/24(火) 13:13:44.41 ID:d42ujU9K0

「お姉さまは、私が長点上機に進学するのに、反対なのですか?」

「え? なんでさ」

「なんでって。『本気?』なんてお聞きになるから、てっきり」

「……言葉のあや?」

「自分で発言なのですから、疑問系で返さないでくださいまし」

まあ、折角の機会ですし、と白井が続けた。

「黒子は決して、盲目が故に長点上機にいくのではありません」

美琴が眺める空を白井も眺める。

「お姉さまが居るから私も――、と。焦がれる一つの背中を追うために選んだのではありません」

重なる言葉は強い意志の表れ。

「能力がなくとも、特出した一芸さえあれば入学が許される学校と聞き及んでいます。
 言い換えれば、「実力」がなければ早々に蹴落とされる、強者のみが居る学校ともいえる長点上機学園(ソコ)でならば、
 こうなりたい。 こうでありたいと願う『白井黒子』に、成れる気がするのです」

いつの間にか耳を占領したのは、少女の澄んだ決意の紡ぎ。

「そっか」

美琴は顔を固定したまま、それでいて、いつもの口調で切り返した。

「黒子は強いね」

きっと白井の眼はありのままの空を素直に映しているだろう。
現実の空を眺める白井を羨ましくも思い、虚空ばかりを追う自分に苦笑ばかり浮かぶ。

「まだまだですわ。たどり着きたいと切望する、スタートラインにすら立てていません」

「スタートライン?」

「お姉さまにも、これだけは、秘密ですの」

「あらー、残念」

「と、思っているのならば、もう少し残念そうな顔をして欲しいものです」

「ごめーん」

軽口の言い合いには慣れた間柄。
トントンと会話のキャッチボールのテンポが良いと、爽快感さえ生まれて。
これもまた共感覚性と言えなくもないだろう、と新たな認識も生まれて。

「真夏の空、だねえ」

「真夏の空、ですわね」

そうして、決して『今』も悪くはないのだ、と気づかされる一方、

(悪くない。悪くないのに)

金平糖が散らばった痕跡すらも見つけられない青のキャンバスに、
『昔』に引きずられてありもしない痕跡を探すために真昼の空ばかりに視界が奪われていく矛盾に、

こっそりと、胃液が沸きそうになった。
28 : :2012/07/24(火) 13:14:35.71 ID:d42ujU9K0
(アイツと喧嘩したのも、)

二年前の今日。ツンツン頭の学ラン男子高校生と言い争い雷を落としたのも、この鉄橋。

(守ると決意したのも、)

二年前の夏休み最終日。繰り返される悲劇に終止符を自らううつと決めたのも、この鉄橋。

(こんな馬鹿でも救われると知ったのも、)

さらに同日。己を血を持って贖罪しなければならなかった罪人が救われたのも、この鉄橋。

(―――そして、)



 十四の御坂美琴が、金平糖の空を見失ったのも、この鉄橋。



(はじまりの橋とは、よく言ったものね)

『はじまりの橋』。
第七学区にある大きなアーチ型の鉄橋。
皮肉にも、十四の御坂美琴にとって、『はじまり』の全てはこの鉄橋だった。
29 : :2012/07/24(火) 13:16:16.51 ID:d42ujU9K0
「黒子」

「なんでしょう、お姉さま」

「私にもね、小さいころそれはそれは可愛い『夢』を見たの」

「可愛い夢?」

「笑わないで聞いてくれる?」

「私もお姉さまと一緒です。友人の夢を鼻で笑う人間ではありませんの」

「金平糖」

「こんぺいとう……?」


「金平糖の空。

 金平糖ががたくさん散らばった、

 キラキラで満点の星空がね、

 私の夢『だった』の」


第七学区の鉄橋にて空を仰いだあの日から、超電磁砲は夢を見ない。
30 : :2012/07/24(火) 13:28:56.16 ID:d42ujU9K0
以前投下した序章・一章を多少直してものを投下しました。
時間軸は本編二年後。御坂さん高校一年生、白井さん佐天さん初春さんらが中学3年生です。
ここまでお付き合いいただきましてありがとうございます。

――――

next→『二章 さよならだけが人生か』

思わず声が出た。
 
朝日を見てそう思うのか。
絶望の果てへと沈みいく夕日に酷似した、痛々しい程に白い太陽を見て、そう思うのか。

「馬っ鹿みたい」

可笑しい。 可笑しすぎる。
率直な感想が喉を通して空気中へと放たれた。

「くくっ…、ははっ」

漏れる笑い声とともにべっとりとした不快な感覚で覆われている目元を両手でぬぐう。
両の手には、いつの間にか枯れ果てたらしい雫の残骸がまとわりついた。
自制しなければ、この身は今にでも高層マンションの自室の窓から身を投げ出すだろう。
激痛を伴う衝動が全身を駆け巡り、最悪で最高の朝がやってきたことを自覚する。

何が、希望の朝なのだろう。

「ははっ! あはは!」

狂ったように笑う女だな、と言った白い頭の少年の言葉は実に的を得ていた。
番外個体は嬉しいときも楽しいときも寂しいときも怒り狂ったときも、狂ったように笑う女で、

「ふふ、ふはは。ミサカにとったら、『最悪な朝』だっての!」 

目が覚めたときに死んでしまいたくなる、切なさで全身が押しつぶされる『夢』を見た朝でさえも、笑うことをやめない女だった。

――――

次回投下予定は一週間後の24日(火)です。
夏休み初日の番外個体さんが書けたらと思います。
最低でも週一で各章を投下していく予定です。


31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/24(火) 13:45:45.84 ID:4ZpX88/0o

総合で見てた。楽しみにしてます
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/24(火) 13:56:59.09 ID:VrsNKPPIO
よくぞ戻ってきた
なんでエタったのかはあえて聞かないが今回こそはきちんと完結させてくれよ
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/07/24(火) 15:23:44.51 ID:z5f9c0vu0
戻ってきてくれるとは! 大好きなスレだったから嬉しい
期待してます
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/07/24(火) 17:02:18.33 ID:7nqr7tixo
以前期待してたのに失踪したときは残念だったけど、戻ってきてくれてスゲー嬉しい

今後は>>1のペースでいいので頑張って下さい
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/25(水) 10:56:39.66 ID:Eq/Qaxca0
期待してます。初見だけどなぜか既視感のある文章の雰囲気が好きです。
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/07/25(水) 13:54:32.08 ID:ca2uv7m4o
14+1
37 : :2012/07/26(木) 20:02:25.68 ID:6ymGr43Y0
二章 さよならだけが人生か

事前に用意した地雷は役に立たなかった。計算は外れ左脚がもがれた。
九九八一回分の戦闘シュミレートは無駄な努力だったと証明された。
反射的に放った電撃。
だが、相手には届かない。
不自然にねじ曲がった電撃は発信源の己が身へと牙を向く。
瞬時のことに回避は間に合わず、バチンッ! と落雷の音が骨を通して全身に反響した。

「がぁッッッ……!!」

衝撃のあまり意図せず腹から悲鳴が漏れる。まるで、潰れた蛙の鳴き声。
小鳥の囀りには程遠く、安易な扱いしかされないモルモットになんと似つかわしい響きだろうか。

「……はっ、はっ」

浅い呼吸に両肩が上下する。呼吸するのも辛い。
空気が行き来する度に気管支が焼ける。
痛い痛い苦しい熱い。じわりじわり。色々なものが少しずつ削られていく。

体力は根こそぎ奪われ左脚は太ももから先が切り離された。
これ以上はもう無理だ。
戦う事はおろか歩くことすら困難。
切り札が敗れた時点で今夜における実験の勝敗は決し、答えが定まったならば自分の抵抗に意味は無く――何もかもが無体。

本能で理解する。
実験終了まであと少し。寿命を迎えるまであと少し。

胃中の物が逆流しなかったのがせめてもの慰めか。
着用している制服は既に己の血液で汚れており、更に吐瀉物で上塗りしてしまうのは流石に気が引けた。
多少は綺麗なままで逝きたい。

(だって、せっかく、お揃いの服を着ているのですから)

地面へと倒れる最中、自然と左下腹部へと手が伸びた。
最期に。左下腹部にベストにつけた缶バッチの感触を確かめたくて。
微かに残された力を振りしぼり――、


手のひらが宙を切る。
38 : :2012/07/26(木) 20:27:13.66 ID:6ymGr43Y0
「ッッ!!!」

突然の驚愕。
頭の中が真っ白に染まり思考が完全に停止する。
背筋が寒くなる。

(駄目、駄目)

アレはミサカが。
お姉さまから。
プレゼント。
最初で最後。
一緒に遊んで。
落としてしまった。
手放してしまった。

何処に――どうして。

(探さないと、探さないと、探さないと!!!!)

正直、趣味じゃなかった。
設定されている年齢を考慮すればいくらなんでも幼すぎる。
カエルのキャラクターが描かれた手のひらサイズの缶バッジを手に入れて狂喜乱舞するのは、
それこそ、年齢が一桁台のちびっこか、頭の中がメルヘンチック仕様に出来上がっている我が姉くらい。
百円硬貨が二、三枚あれば入手できる廉価なグッズ。
ともすれば道端の隅に落ちているかもしれない、世間的にはその程度の、そんな代物。

高がしれたものかもしれない。
値の張るものじゃないかもしれない。
その場凌ぎの代物かもしれない。

けれど。この場でそのような前提は不必要だった。

(お姉さまから頂いたのに……ッ)

アレはミサカの物。他の誰でもない、九九八二番目のミサカの物。
自分が身につけた時点でバッジの所有権は自分へと移ったのだ。

後頭部に痛みが走る。
瞳の奥が疼いて目頭に奇妙は感覚が生まれそうになり、湧き上がる滴で視界が覆われそうになる、その時。

手前、数メートル。

(見つけた)

カラリカラリと砂利の上を転がる缶バッジの姿を瞳に捉えた。
39 : :2012/07/26(木) 20:55:57.18 ID:6ymGr43Y0
「追いかけっこ、できなくなっちまったなァ」

王手を決めた少年がこちらに話してかけてくるが、耳に入れる余裕はない。

「このままほっといてもくたばンだろォが、ジっと待ってンのもらりィからよォ」

電撃を浴びた身体は地に伏していた。
頭上に見えるのは夜天の空ではなく積み上げられた運搬用コンテナ。
野外とはいえ実験は人目を忍んで行われる為、少女と少年の周囲を照らす外灯は無い。
薄暗い中で砂利に混じった缶バッチを瞳にとらえ、動かない脚の代わりに両腕を動かすだけで精一杯。

「!」

ズルリ、ズルリ。

「あァー?」

きっと見っともない恰好だろう。けど、関係ない。

「まだ逃げンのかよ」

石にすれて血が滲む。喉元からヒューヒューと音が鳴る。

「奥の手でもあンのかよ」

あと少し。
もうちょっと。

「………もォいいやオマエ」

左脚をもぎ取った少年が這いずる私を眼下にして「終りにしてやンよ」と呟いた。

背後から大きな音。
闇夜にもわかる程の影。
迫りくる何か。

(あと、一歩)

震える手で伸ばす。
凹んでしまったけれど、愛らしい笑顔を振りまくカエルの表情はそのままだ。
滑りのあるプラスチックの質感が安っぽさ。その感触が、全てだ。

たった一つ。
この世でたった一つの、ミサカだけの物の存在を胸元で確かめて。


(間に合いました、とミサカは安心します)


微かに口角があがったと同時に――――ミサカ九九八二号の生涯は終る。
40 : :2012/07/26(木) 21:03:41.59 ID:6ymGr43Y0
◆◇◆◇◆

記録もある。
記憶もある。
ミサカ一人はミサカ全員に共有される。

けれどミサカ一人が幸だったか不幸だったか。
主観的な感情は今となっては定かではない。

なぜならば、ミサカ全員は、ミサカ一人には成り変われない。

産声を上げた時から人生の全ては決まっていた。
ゆりかごから墓場までが決定事項だった。

その中で、ミサカ一人は何を見つけ何を信じたのだろうか。

◆◇◆◇◆
41 : :2012/07/26(木) 21:20:58.11 ID:tNPAZWFV0
ミサカネットワーク。
妹達(シスターズ)を個から群へと押し上げる電子ネットワークを指す其処は、
超能力者量産計画と絶対能力進化計画によって生み出された、
ミサカ〇〇〇一号からミサカ二〇〇〇一号までの総勢二万飛んで一人のミサカ――御坂美琴のクローン体の「識別名」――よって形成される。
すべての「ミサカ」の記憶・体験・思考・知識がそれぞれのミサカに自動的に「共有」される仕組みで、
コンソールとして二万人の下位固体をまとめ上げるために製造された上位個体・最終信号(ラストオーダー)とて例外ではない。
ミサカの群としての枠に入らない唯一の例外は、第三次製造計画にて誕生した番外個体(ミサカワースト)ただ一人。

故に、番外個体は妹達の中で最も自由を謳歌している個体だと自負する。
 
たまたま目に映った高校生の恋愛ドラマを惰性で見つづけている最近の習慣も、
ラッシュ時に乗車した際のモノレールの混雑振りにウンザリした朝も、
よいこの代表、我らが打ち止め(ラストオーダー)ちゃんの寝息を邪魔しないように
芳川桔梗や黄泉川愛穂、そして第一位と静かにひっそりと乾杯を交わした夏の夜のビールの味も。
番外個体が自身で、見、聞き、感じ、考え、体験し、学んだことである。

身に着けた習慣、あらわした感情、味わった味覚。
それらは誰にも共有されず、記憶/体験/思考/知識は彼女だけのものとして脳に体に取り込まれ蓄積される。
 
趣向も妄想も思うが侭。
何者にも恥じることなく遠慮することなく、己のためだけを考え、生きることができる。

第一位回収の名の下、研究者らによって、「ミサカネットワークに蔓延る負の感情を拾いやすい」性質を付与された経緯があるが、
他のミサカが持ち得ない『自由』を手に入れた代償と思えば「まあ、仕方ないか」と普段ならば笑ってやり過ごせる程度のことだ。

そう、普段であれば。

「………………朝、か」

重たい眼に朝日がうつる。
外から聞こえてくるラジオ体操の伴奏がわずかに私室まで漏れてくる。
夏休みを向かえ、近くの公園にて児童達が元気に朝の体操に励んでいるのだが、寝起きで思考が定まらない番外個体には関係のないことだった。 
シンと静まり返った室内でその音声は、実際よりもやけはっきりと聞こえたきた。


 
 新しい朝が来た

 希望の朝だ 



「――――ぎゃっは」

思わず声が出た。
 
朝日を見てそう思うのか。
絶望の果てへと沈みいく夕日に酷似した、痛々しい白の太陽を見て、そう思うのか。

「馬っ鹿みたい」

可笑しい。 可笑しすぎる。
率直な感想が喉を通して空気中へと放たれた。

「くくっ…、ははっ」

笑い声とともにべっとりとした不快な感覚で覆われている目元を両手でぬぐう。
両の手には、いつの間にか枯れ果てたらしい水分の残骸がまとわりついた。
自制しなければ、今にでも高層マンションの自室の窓から身を投げ出したくなる。
激痛を伴う衝動が全身を駆け巡り最悪で最高の朝がやってきたことを自覚する。

何が、希望の朝なのだろう。

「く、ははっ! あはは!」

狂ったように笑う女だな、と言った白い頭の少年の言葉は実に的を得ていた。
彼女は嬉しい時も楽しい時も寂しい時も怒った時も狂ったように笑う女で、

「ふふ、ふはは。ミサカにとったら、『最悪な朝』だっての!」 

目が覚めたときに死んでしまいたくなる、切なさで全身が押しつぶされる『夢』を見た朝でさえも、笑うことをやめない女だった。
42 : :2012/07/26(木) 21:31:22.08 ID:tNPAZWFV0
ミサカネットワークを形成するのは二万飛んで一人の妹達。
ツンツン頭のお人よしヒーローに助けられ、現存を許された一〇〇三二号から二〇〇〇一号のみならず、
絶対能力進化計画によって惨殺された〇〇〇一号から一〇〇三一号の、
「過去のものなった」想いも言葉も何もかもが、「今もそのままの状態」でミサカネットワークに点在している。
 
決して消えない憎悪/哀愁/殺意/後悔。
未発達ながらに残された「負の感情」の残骸を集約し、その力を以ってして学園都市第一位と対立した、番外個体。

死んでいった個体の無念、生きている個体の激情。
両者の負の感情を番外個体は余すことなく拾い集め『同調』する。
自分でない「ミサカ」が持っていたモノを、まるで己(ミサカ)が体験したモノのように、『同調』する。

ミサカネットワークの枠外に居るはずの個体でありながら、彼女は。
情報として共有するのではなく、感情として同調する傾向がよりいっそう強い個体であった。

だからこそ、強くも儚く、切なくも愛おしい感情を抱いて死んでいった個体の負の感情を享受してしまう朝を、番外個体は好ましく思えない。

「……クソッ」

二年の時間でそれなりに矯正された口調だが、この時ばかりは生まれた当時の荒々しさが表にあらわれた。

「何が――安心した、ってんだ」
43 : [sage]:2012/07/26(木) 21:47:30.03 ID:tNPAZWFV0
以前投下した二章の前半部分を直したものを投下。
かなりフライングしましたが、早めに出来たので投下しました。
番外個体さんは大体外見年齢18歳ぐらいです。

――――

next→『二章 さよならだけが人生か』(だいたい後半)

「そうだね。ミサカとしては、一回くらいなら褥を共にしてもいいかな、って思う程度には好意を持っているよ」

「なんていうか。アンタにしてはオブラートに包んでるけど、
 もーう少し、女の子として恥じらいを持った発言をすべきかと美琴さんは思うのですが」

「何言ってんの。そんなだからお姉さまは未だに地団駄踏んでるんでしょうが」

姉妹の中で一番精神年齢の高い末っ子がばっさりと切りかかってくる。
ぐう、容赦ないぞコイツ。

――――

次回投下予定は多分24日(火)です。
番外個体さんが美琴さんに会いに行きます。
ここまでお付き合いありがとうございました。
44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/07/27(金) 02:46:54.34 ID:d94VbXcOo
次は来年の9月だと・・・
45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/07/27(金) 12:08:01.70 ID:XIRJ70Ub0
乙!
面白い
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2012/07/27(金) 23:56:43.27 ID:Ta5YiOwCo
>>44
調べたんか
47 : [sage]:2012/07/30(月) 20:01:20.56 ID:dGuEZGJs0
>次回投下予定は多分24日(火)

これはひどい……。
申し訳ありません、正しくは『次回投下予定は多分31日(火)』でした。

明日は一章書き終わり次第投下したいと思っています。
恐らく夕方以降です。
48 : [saga]:2012/07/31(火) 18:51:44.33 ID:HhSzDBes0
確かに、夢の中の彼女は安心していた。心を支配したのは安著の念に他ならない。
きっと空への旅路に対しても不安など抱かなかったはず。
死した個体達の情報を何度辿ろうと、口角をあげながら死んだミサカは九九八二号以外見つけ出すことは出来ないのだから。

正番外個体が見る夢は各個体が主観的に得た情報から作られる。
第三者の視点は一切含まれず、九九八二号が笑って死んでいった事を客観的に判断する事は難しい。
故に、『口角あげながら死んだミサカ』というものは番外個体個人の推測となる。
ただ。
その中でもわかっている事柄が一つ。
大きな何かに身体が押しつぶされる直前。バッジを胸元で抱きしめた少女の表情筋がほんの微かではあるが動いた。
口角を上げた感覚が一情報としてネットワークの片隅にそっと保存されている、という事実。
 
九九八二号は実験によって死亡した妹達の中でも比較的『マシ』な終焉を迎えた者だろう。
最期の時を平穏で包まれ、胸の内に負の感情など一欠けらも宿していないであろう個体にも関わらず、何故、自分は彼女の感情を拾い上げてしまうのだろうか?

番外個体は彼女の感情に触れるたび――夢をみるたびに――に疑問に思い続けた。

夢の中の自分は。
……いや、九九八二号番目の、お姉さまの存在をはじめて知ったミサカは。

決められた死は怖くなかった。
左脚がもがれた痛みも麻痺した神経が和らげた。
胸元で自分だけの物を抱いた。

自分には姉がいると言う。
この肉体の基となったお姉さま(オリジナル)。
姉というものは知っていた。ミサカネットワークが擁する知識量は膨大で、妹達は歩く百科事典と言って差支えない存在だ。

姉――きょうだいのうちの、年上の女性。

『アンタ、何者?』

そして出会い、触れあい、貯蔵される知識は飛躍的に増えていった。
49 : [saga]:2012/07/31(火) 19:05:44.16 ID:HhSzDBes0
語るべき事は少ない。
ふりかえる思い出は片手で足りる程度。
共にした時間は半日にも満たない煌めきの一瞬。

『またね』

当たり前のように再会がある事前提で別れの言葉だったが、訂正はしなかった。

『さようなら、お姉さま』

提示した符丁(パス)を答えられなかった姉に己の存在意味を答えることは出来ない。
季節が夏から秋にかわるり、人が生まれ死に、誰かと出会い別れることは、代わりえない自然の摂理。
出会いそして別る。次はない一期一会。ただ、それだけのこと。

それだけの、ことだったのに。

満足のままに生を終えようとした最期。
本当の最期の最期の最期に。

ふと、心の隅っこで、彼女は思った。


姉―――きょうだいのうちの、年上の女性。

ミサカのお姉さま―――御坂美琴、超電磁砲、第三位。

無理やりにでも聞き出せると言った癖に、人を傷つけることを嫌がって。
樹の上で困っている猫を助けることを当たり前と考え、損得なしで行動する。
アイスクリームを簡単に奪われるおっちょこちょいな所があった。
食事をしたことが無いと申告すると、空腹を隠して自分の分まで妹に分け与える人で。

くるくると表情が変わるひとで。
たくさん笑って怒って焦って悩んで―――自分とは違う、生きた、人間。
50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/01(水) 05:10:22.31 ID:eD7GCHuLo
おつにゃー
51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/02(木) 00:31:31.63 ID:ms3Q1NAIO
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/02(木) 08:15:55.65 ID:2GiDbI7IO
おつ
次はいつかなー
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/02(木) 15:28:37.87 ID:fLKrs3m9o
おつです

できたらでいいけど、「今日はここまで」と最後に言ってくれると
まだ何レスか来るんじゃないか…と夜更かししないですむ
54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/02(木) 23:42:16.02 ID:BQ7lnxlGo
にゃー
55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/08/04(土) 17:55:40.05 ID:ZgqTcy0n0
なんかまたエタリそうな気がする
56 : [saga sage]:2012/08/07(火) 21:33:12.29 ID:wrz0rcGr0
お久しぶりです。コメントありがとうございます。
概ね週一の更新なのですが今週は休みがズレましたので次回投下予定は9日(木)です。

>>53
先週は寝オチでしたorz
更新毎の最期には投下終了を兼ねた次回予告を書くつもりでいます。

>>54
最後までつっきっていく所存ですので、お付き合い頂けると嬉しく思います。
57 :1 [saga]:2012/08/09(木) 21:20:20.75 ID:kXKmVuBG0
憧れるのは必然、焦がれるのは当然。
終焉の時。気づかぬうちに微笑むことを知った少女は、少しだけ思い返した。

―――お姉さま。

(きっと、ミサカは『さようなら』ではなく『また明日』と言いたかったのです)

―――ミサカと『同じ』でミサカと『違う』、ミサカのお姉さま。

(だって、)

―――もう一度、

「会いたかった癖に。バカなミサカ」

言葉にすら還元できなかった名もなき感情を番外個体が代弁した。

叶わぬ再会への悲しみが欠片となってデータの大群の中を浮遊する。
姉にもう一度。そんな、二度と実現しない九九八二号の願い。

番外個体はひまわりの咲くこの時期が来る度に彼女の夢を見るだろう。
じーじー、と短い命を燃え盛る炎の如くけたたましく鳴く蝉の声に親近感を覚えた夏を。空を浮かぶ大型飛行船に映った天気予報チェックすらも鮮明に。
八月、蛍よりも激しく命火を燃やし散った一人の妹達の刹那の思い出を脳裏に描く。
それは、ツリー・ダイアグラムに頼らずとも容易くできる確定的な未来予想。

たとえミサカの誰かが御坂美琴に接触したとしても、九九八二号の悲願成就はなされず。
未来永劫、消えてしまった個体の心情は変化しない。
妹達全員が昇天するまでその時までミサカネットーワーク内で存在し続ける。

「……タチが悪すぎる。ああ、最悪だ。今すぐにでも死んでしまいたくなる」

負の感情に馴れている。とはいえ、耐性の無いものには歯を食いしばって耐えるしか手段は無い。
窓から身を投げ出さなかった理性を褒めてくれ。本能をセーブするとか柄じゃないんだ、マジで。

「ったく。ミサカは対第一位専用の個体だっつーの」
58 :1 [saga]:2012/08/09(木) 21:51:58.02 ID:kXKmVuBG0
第三次製造計画。番外個体が作りだされた目的は第一位殺害及び捕縛。
無数の負の感情を蒐集し武器とするにもある程度の効率性が必要だった。
そもそも、未熟なりにも妹達がよくない感情を抱く人間なぞいくらでも居る。
実験相手を筆頭に、実験に関わった科学者、実験を後押しした学園都市の有力者、……遺伝子DNAマップを提供した御坂美琴でさえも、対象となる。
扱う手駒に余計なモノは必要ない。
研究者たちはひとてまを加える。一方通行に対する感情を優先的にくみ取る性質すらも番外個体に手解いた。

対一方通行専用と本人が豪語するように、
彼女が享受する負の感情はかつての殺害対象へ向けられたものが大部分を占める。
誕生した時から忌み子の烙印を押されたも同然の番外個体は、さも辺り前のように第一位へベクトルが向いた感情ばかりに目を向ける。
彼女の根底には、自分が率先して収拾する負の感情は白髪の少年へ贈られたモノでなければならない、という決定づけれられた価値観。

常に集める感情にはいつしか耐性がついてくる。
でなければ、人間の愚かな部分ばかりに身を沈めなければならない境遇の中で彼女が発狂せずに生き続けるのは難しい。
人形とはいえ。クローンとはいえ。身体構造は人間を完璧に模倣しているのだから。

番外個体は馴れすぎた。第一位への負の感情に身を任せる度に少しづつ精神的な抗体を取得した。

他のミサカが一方通行を殺したいと思うならば、第一位の寝首をかく真似をしても面白い。
他のミサカが一方通行を憎いと感じるならば、第一位を思い切り罵倒して笑い飛ばそう。

対一方通行へのマイナスは、第三次製造計画が破たんした以上、番外個体にとって生活の中のスパイスへと化していた。
心への殺傷力を持ったベクトルに、いっそ愛着すら抱くようになって。下品な笑みで相手を見据えることこそ番外個体特有の愛情表現にもなった。
59 :1 [saga]:2012/08/09(木) 22:19:03.31 ID:kXKmVuBG0





―――きれいなものだけに囲まれる生活はいずれ終る。

無知で無垢なひな鳥もいずれ汚れる。

親の手を離れ外界を一人飛び立つようになれば、ずる賢くならなければ、自然の中で生きてはいけない。


ミサカ達も個性を育み人形から人への羽化をする時、善性と同時に人間誰しもが持つ悪性を手に入れる。

しかし、最初から悪性の中で生きてきた末の妹は、


――――人が誰にもが持つ善性を手に入れていかなければならない。



60 :1 [saga]:2012/08/09(木) 22:30:34.64 ID:kXKmVuBG0
汚れこそが生きる意味で醜悪こそが愛である、と。
その価値観を形成することが生きていく術だった番外個体。


だからこそ、だからこそ。


「最悪だ。
 最低だ。
 きれいなんていらない。
 美しいなんてわからない。
 ミサカには必要ない。
 
 負の感情こそがミサカがミサカたる拠り所」


苦手で嫌いで触れなくなくて知りたくなくて死んでしまいたくなるくらいに、訳がわからなくなるのだ。


この胸が引き裂かれそうになる感覚を彼女は知らない。
負の感情でありながら、綺麗すぎる感情を彼女は知らない。

さよならの言葉の裏。
隠された姉妹の後悔。
枯れ果てたと思ったのにいつの間にか涙腺から滴がこぼれた。
震える身体を慰めてくれる相手はいない。―――必要ない。


(綺麗なんて、認めない)
61 :1 [saga]:2012/08/09(木) 22:46:44.37 ID:kXKmVuBG0
安心したのなら、そのまま眠ればよかったのだ。
会いたかったのなら、何が何でも一方通行から逃げて御坂美琴に会えばよかったのだ。

平穏だったのだろう。
負の感情とはほぼ無縁のままに眠れたのだろう。
ならば、そのまま、綺麗なままプラスの感情だけを残して旅立ってくれればよかった。

決して消えない憎悪/哀愁/殺意/後悔ならば歓迎しよう。
投げキッス付の高待遇で向かい入れよう。
率先して『同調』してあげる。共感なんて甘ったるい同意はしない。
貴女のまま、貴女が抱いた感情をそのままに、怒り狂い泣き散らし何もかも踏みにじろう。

綺麗が良い? 
美しいモノが好き?

―――嗚呼、実に結構なことだ。そのままに生きるがいいさ。

他のミサカにまで同じ生き様は求めない。負の感情を拠り所にするミサカは自分くらいで十分だ。
唯一無二の存在理由、趣向も妄想も思うが侭。
何者にも恥じることなく遠慮することなく、己のためだけを考え、生きることができることの代償ならば『仕方ない』。

各々のミサカは好きに生きればいい。番外個体はそう思う。自分も自分らしく好き勝手に自由に生きていくつもりだ。

誰にも指図を受けるつもりはない。指針は常に己が定める。

だから。

















「綺麗な感情を、ミサカに押しつけるのはやめてくれ」


  そんなもの、
         イラナイ。
62 :1 [saga]:2012/08/09(木) 23:12:57.62 ID:kXKmVuBG0
◆◇◆◇◆

午後九時3分前。

朝の情報番組が流す末尾のお天気チェックを眺める。
ここより南の場所の気温と自分が住んでいる地域の気温を見比るのが美琴の癖だった。
「ああ、今日もあそこやむこうよりも、こっちは数度涼しい。まだまだマシなんだ」と、
コンクリートジャングルで見た目も暑苦しい学園都市でも、『南』よりはさほど暑くない、と漠然とした自己満足に心を満たす。
だが、すぐに窓から差し込むの太陽の光の眩しさや、少しでも暑さを和らげるためにと、
普段はクローゼットに仕舞われている中古の少しガタがきている扇風機がウィーンと独特な音をまき散らして首を振る姿を目撃してしまうと、もう駄目だ。
夢眼で「さして暑くないのだ」と自身にかけた、ほぼ無意味と言える魔法というには可愛げのない現実逃避が一瞬にして解けてしまう。

「暑い……」

クーラー様が恋しい。去年までは冷暖房完備の学生寮で悠々自適な夏休みライフを送っていたのに。
美琴が現在住んでいる学生寮は常盤台のように学校が用意したものではない。
いちいち生徒に合わせて用意していたらきりがないのだ。

管理主義が行き届いた乙女の園とは一転して、
「自分のことは自分でなんとかしろ」をモットーに放任主義を貫く長点上機。
無能力者から超能力者までが在籍し、将来は世界王者と目されるアスリートの卵や、IQ180越えの超天才、中には類いまれなるメイド見習い等。
生徒のバリエーションは常盤台や霧ケ丘の比ではなく、一芸突破の天才集団は揃いも揃って曲者揃いと来ている。
学校側がいつしか「勝手にしろ」と生徒を突き放すようになったのは自然の流れ。

63 :1 [saga]:2012/08/09(木) 23:33:27.44 ID:xzB9r2Ct0
中古の扇風機が唯一の猛暑対抗戦線の兵器なのだが、あまり役に立たない。
温められた空気を循環させるだけの機器へとなり下がっている。

「扇風機君。君さー使命は涼しくすること(主に私を)だろうに。サボりはいかんぞーサボりはぁ」

下らない愚痴がこぼれる。
脳味噌が溶けてる今、美琴のまともな思考回路は失せた。
こんな時、流体操作系や大気操作系の能力者が羨ましくなる。
発電能力も非常に使い勝手がよいのだが、水や風に属する自然干渉系能力もまた利便性に富んでいる。

暑さ余っての無い物ねだり。しかし現実は非情である。
どれだけ隣の芝生は青くとも、美琴の自室の扇風機の戦闘能力は上がらないッッッ……!!

「ああもう。こんなことなら家賃代をケチらなければよかった」

後悔先に立たず。反省するのはいつも事が終った時。
64 :1 [saga]:2012/08/09(木) 23:50:03.15 ID:xzB9r2Ct0
「ウゼェ。超ウゼェ。暑い暑いウルサイよ、お姉さま」

暑いよー暑いよーと唸る美琴にとうとう来客からの文句が。

「何よ。そう思うならアンタが頬張ってるアイス寄越しなさいよ。それ、最後のいっこだったのよ?」

「やだ」

うわーい、一刀両断。
妹は姉に優しくしてくれないようです。
冷蔵庫に備蓄されていたアイスの残りは一個だけで、食べようかと冷蔵庫の扉をあけたのが運の尽き。
愛しガリ○リ君の包装を破ろうとした瞬間、窓からやってきた不法侵入者に「ラッキー、コレ頂戴」と奪われた。

「てかさー、今更な質問かもしんないんだけど、なんでお姉さまこんなトコ住んでんの?」

爽やかなブルーのアイスを粗食しながら、アイス強奪犯こと番外個体は美琴へと質問してきた。

「ほんと今更な質問ね」

「だってお姉さまは、見えないけどいいとこのお嬢じゃん?」

「私、別に親から仕送りとか貰ってないけど」

「デジマ? あー。でも、ほら。超能力者レベルなら学園都市から渡される生活費とか学費って、年間で桁十くらいありそうだし」

「返しが古い。……まあ、倹約して損はないかなって思ってるだけよ」
65 :1 [saga]:2012/08/09(木) 23:58:56.90 ID:xzB9r2Ct0
二章だいたい後半部分を投下。
二章が思っていたより難産状態。 もう少しお待ちください。
次回更新で二章終了、三章では一方通行と打ち止めさんの夏休み一日目となります。

――――

next→『二章 さよならだけが人生か』(後半の残り)

「そうだね。ミサカとしては、一回くらいなら褥を共にしてもいいかな、って思う程度には好意を持っているよ」

「なんていうか。アンタにしてはオブラートに包んでるけど、
 もーう少し、女の子として恥じらいを持った発言をすべきかと美琴さんは思うのですが」

「何言ってんの。そんなだからお姉さまは未だに地団駄踏んでるんでしょうが」

姉妹の中で一番精神年齢の高い末っ子がばっさりと切りかかってくる。
ぐう、容赦ないぞコイツ。

 ■

「あしながみことさん」

「やめて。ソレすっげ寒い」

 ■

「ああ、そんなもの。痛いし死にたくなるし――大嫌いだよ」

それは、恋する乙女として正しい答えなのだろうか。

――――

次回投下予定は14日(火)or16日(木)です。
ここまでお付き合いありがとうございました。
66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/10(金) 12:16:54.68 ID:/gHsgLaIO
67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/08/11(土) 16:29:17.75 ID:XN/9FDWv0
いいねえ
68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/14(火) 21:05:41.74 ID:1sevpQ2fo
よいね
69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/08/26(日) 13:17:45.11 ID:hibxfnnT0
待ってるぞ…
70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/09/04(火) 04:50:05.25 ID:HgRQe2GK0
待ってる
71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/09/17(月) 00:28:48.56 ID:vAhKX6vao
今度こそ続けてくれるかと思ったが厳しいか……だが待ってるぞ
72 : [saga sage]:2012/10/05(金) 16:30:28.10 ID:HlFm7web0
「似合わないことやってんね。金は天下の回り物ってしらない感じぃ? 金なんてもんはさ使ってなんぼのもんだと思うけどにゃー」

「堅実な金銭感覚を持っているよいいなさいよアイス強奪犯」

「いーやーだー」

「あーあーあーなまいきな妹だことで」

「なまいきで結構。そういうの遺伝子が原因ってことで一つ!」

シャリッとアイスを噛み切り、サウナ場内の部屋に似つかわしくないほどに鰆かな音を鳴らした番外個体は、それはいい笑顔で言葉を言い放った。
このような切り返しをされると返す言葉が見つからない。美琴はぐうの音を上げる。

しかし、末っ子にしてもほかの妹たちにしても、まあ口がよく回る回る。
およそ一万人の脳を共有している彼女たちは時に姉以上の優秀さを披露し、対長女との姉妹喧嘩において次女以下すべての妹たちの戦跡は圧倒的だったりする。
見た目年齢中学生の下から二番目が、得意げに絶壁の胸をはり、
「はっはっはっ、圧倒的ではないか我がミサカ軍団はー! ってミサカはミサカは勝利宣言をお姉さまにたたき付け悦に入るのだーッ!」、と。
そんな事をのたまいやがりました時は、いろんな意味で打ちひしがれたである。
………つい数日前のことというのがこれまた恐ろしい。あの子の将来は明るいものだといいなぁ……。
73 : [saga sage]:2012/10/05(金) 16:47:12.90 ID:HlFm7web0
1レスではありますが生存報告がわりに更新。

パソコンが壊れたりなんやりでなかなかssがかけていませんでした。申し訳ありません。
今後の更新は不定期になるとなりますが、できるだけまとまった投下をしたいと思っております。

第2章さよならだけが人生かできれば今月中に終わらせ、第3章を書けたらいいな、と。

−−−−−−−ー

第3章 冠を捨てた強者と星を探す弱者 予告

女王の位は捨てた。
空虚で出来た冠は空の向こうへと投げ捨てた。

不安も悲しみもある。胸のおくから競りあがる寂しさにきっと泣き叫ぶ日もくるだろう。
それでも食鉢の心に後悔も反省もなかった。かすかに光る希望のともし火さえあれば生きていけると確信している。
幸せばかりの箱庭でぬくぬくと漂うのには飽きてしまったから。



「超能力は誰だって一人だわ。私にしろ、御坂さんにしろ、ね。
 神に近い者としての烙印はね消えたりなんかしないし、むしろ悪魔をひきつける目印でしかないもの」



「どうしても譲れないと思ったものを失ったときどうしればいいのでしょう、とミサカは心のうちを吐露します」

「贅沢な悩み。『どうしても譲れないほどのもの』なんて」
74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/06(土) 00:09:06.23 ID:jCvvoZ8s0
おお,きてた。嬉しい。待ってたぜ。
75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/10/28(日) 10:21:29.86 ID:HE7qkc34o
待ってた甲斐があった
76 :1 [saga]:2012/11/28(水) 21:28:24.98 ID:Tqqru+1y0

 0.5章 深夜24時の恋愛脳


 いつだって、はじまりはお決まりの文句(フレーズ)。

『―――さて。どーも、暇人リスナー諸君。くそつまんねーラジオの時間だ』

 いかにも「面倒だ」とする声色で男性パーソナリティが言葉を放つ。

『パーソナリティはお馴染みのこの俺。
 たまには若い女でもだせ、ってぇ思ってるそこのオマエ、そうお前だ。
 潤いが欲しいなら×××てやってる情報番組でも聴いてろ。
 さもなくば、今すぐラジオの電源を切りやがれ』

 相変わらず愛想もない。

『そんじゃあ暇人諸君、今から1時間ちょっくら俺のくだらないおしゃべりにつきあってくれたまえ』

 そして偉そうである。

 
 かくして、夏休み初日のジャスト零時に、そのラジオははじまった。
77 :1 [saga]:2012/11/28(水) 21:35:09.09 ID:Tqqru+1y0

『なあ、学園都市一の幸福ものってーのは誰だと思う』

お調子者のラジオパーソナリティが電波の向こうの不特定多数へと話しかける。
正式な手続きを踏まず電波ジャックにて不定期で放送されるこの番組の音質は実に粗い。
時折まじる、テレビの砂嵐に似た雑音が聞きづらさを倍増させる。

にも関わらず、

視聴者には男性パーソナリティが投げやりな態度でマイクの前に居る事が、手に取るように分かるのだから不思議なもんだ。

『おっと。クリスマスなんて随分と先の話じゃねえかよ馬鹿野郎、というツッコミは勘弁してくれ。
 そんなことは俺だって分かってるんだよ馬鹿野郎。
 今年こそ可愛い女の子と素敵なイブの夜をキャッキャウフフと過ごすって決意して、
 猛アピールして先週フラレた俺様の繊細なガラスのハートを木っ端微塵にする追い打ちはいらねんだよ!!

 畜生、なんであの金髪ジャージに彼女が居て俺にはいないんだッッ!!! 
 世の中不公平すぎるだろう!!??

 ―――・・・・・・ああ、すまない。
 今、俺の恋バナはいらねーな、うん。
 苦情の電話がひっきりなしにかかって来てるからいい加減にしろ、と音響からクレームが入った。
 すげえ剣幕で俺のこと睨んでくんなよ……。

 まあ、いいや。
 話を戻そう。

 なんで『学園一の幸福者』ことを話すかって事から説明しようと思う』
78 :1 [saga]:2012/11/28(水) 21:48:33.01 ID:Tqqru+1y0

 片手に持つシャーペンをくるくると回しながら、上条当麻はラジオに耳を傾けている。
 日が沈んだ深夜。同居している女の子の睡眠を妨害しないため、懐中電灯の明りだけを頼りに補修用の課題に取り組む。
 最高学年になっても、彼の学校での成績は悪い意味で代わり映えが無い。
 日常に暮らす人々の知らぬところで世界を救った救世主でも、
 3年世話になっている、見た目小学生の合法ロリ教師の評定には勝てなかった。

「学園都市一の幸福もの、ねぇ」

 ラジオから聞こえてきた言葉を繰り返す。
 幸福もの幸福もの幸福もの……。
 抽象的すぎて思い浮かばない。
 
 終りの見えない補習用の課題をほっぽり出して、上条は手ごろな所にあった現実逃避の道を歩みはじめた。

「俺だったら、安売りの卵を買えた時とか、『幸せだ』って思うかなー」
 
 一人暮らし歴十年以上。
 万年無能力者(レベルゼロ)故に培われた貧乏性―又は倹約家魂―からくる願望はなんとも所帯じみている。

 
79 :1 [saga]:2012/11/28(水) 22:00:37.98 ID:Tqqru+1y0
『普段なら、胡散臭い「都市伝説」とやらを俺が主観だけでダラダラとしゃべっているだろ。
 自分勝手な自慰でしかないからよリクエストなんて来るのは稀な訳よ。
 
 あ? 
 さっき苦情が大量発生したんじゃねーのかよって?
 
 違ェよ。番組へのリクエストとかが珍しいんだよ。
 俺に対するクレームは毎度の事。お前らさ、もうちっと俺に優しくできない? 
 ……自分で言って自分で悲しくなって来た。

 あー、んで。

 珍しくリクエストが来たんだ。
 しかも送り主は今を時めく女子高生。JKだよJK。
 やばいね胸が高鳴るね。女子高生って響き好き、俺』

 俺も好きだわ、と上条はうんうんと首を振る。男のロマンとはかくありき。
80 :1 [sage]:2012/11/28(水) 22:04:37.41 ID:Tqqru+1y0
まったく筆が進まずまた一か月が経過してしまいました。
リハビリも兼ねて序章と一章の間に入るような内容の番外編を上条さんで書いていこうとおもいます。
今日はとりあえずここまで。次回投下は明日の夜〜深夜かと。ありがとうございました。
81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/30(金) 20:02:46.93 ID:CpDWtrxIO
おつー

次も待ってるー
82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/12(水) 02:37:28.19 ID:ybs50GEU0
待ってるよ
83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/13(木) 17:20:38.18 ID:ld9z+ZQc0
まだかー
84 :1 [saga]:2012/12/28(金) 20:02:25.15 ID:m2EwShjO0

『それではJKからのお便りを――いや、いいね。お便りって響き。
 正統派番組っぽいことしてると、海賊番組とは思えねーな。
 そんじゃ、改めてJKのお便りをご紹介。耳かっぽじってよぉく聞けよ』

 よかろう。
 そこまで言うのならかっぽじって聞いてしんぜよう。よしなによしなに。

『【パーソナリティのお兄さんこんにちは、とペンネーム匿名希望10032号は挨拶します】
 はーい、ペンネーム匿名希望10032号ちゃん、こんにちは。』

「―――んぐっ!?」

 思いがけない人物の登場だった。
 上条は驚き眼を少しばかり見開く。

 と、同時に、口内の渇きを潤そうと口に含んでいたお茶が喉元に突っかかる。
 降りかかった閉塞を打破するための咳を、二度三度と繰り返す。

「げはごほ……」

 
85 :1 [saga]:2012/12/28(金) 20:12:34.59 ID:m2EwShjO0
(いやいやいや! えええ!? 
 上条さんびっくりですよ!? てか、なにやってんだ、御坂妹ォォォ―――――!?)
 
 わからない人にはわからない。
 しかし、関係者ならばすぐにピンとくるペンネームはあまりにも安直すぎだろう。
 匿名希望もあったものじゃない。
 
 一〇〇三二号と名乗っている時点で半分正体を晒しているも同義ではないか、とか。
 『お便り』なのにミサカ口調はそのままなんだな、とか。(今に限っては匿名希望一〇〇三二号だが)
 
(ダメだ。ええい、気になるが、気になったらダメだ!)

 気になったら最後。ツッコミ専用回路は処理が追いつかずショートしてしまう、気がする。

「……ん〜、んん――――――っ……!」

 訳すなら、『とーま、うーるーさーいー・・・ねむいー・・・』といったところ。

「あ、ごめんな、インデックス。うるさかったよな」

 咳ばらいが思ったより室内に響いていたようだ。
 今日も今日とてベッドを占領し睡眠を貪っていた少女の眠りをさまだげてしまっただろうか。
86 :1 [saga]:2012/12/28(金) 20:33:37.84 ID:m2EwShjO0
『ペンネーム匿名希望10032号ちゃん、ね。
 ……長ったらしくてめんどーなので、以後、『匿名希望ちゃん』って呼ばせてもらうな。

 【いつもラジオ楽しみにしています。】

 ありがとー。

 【あなたの自称キレ味のある毒舌、もとい、愚痴交じりのヘタレ口調に地味に癒されています。
  と、匿名希望10032号はラジオを聴いて日々思っていることを嘘偽りなく伝えます】

 ……わーお。俺ってばイジリキャラのつもりだったけど、実は癒し系だった的な? ははっ……』

 電源をつけっぱなしのラジオから、つつがなく進行している番組が流れてくる。
 男性パーソナリティの声が一段階低くなったのは、たぶん、お便りの送り主からの言葉のボディブローがもろに刺さったから。

「むぅ」

閉じられていた少女の瞼がかすかに開いた。
たどたどしい視線で音のしたほうへを見やる。

「とーま?」

「うん」

「いま、なんじ?」

「12時を過ぎたくらいだ。おこしちまってごめんな。もう日付が変わる時刻だってのに」

「……ねないの?」

 主語がかたっぱしから抜けている。まだ意識の半分以上は眠気に負けているようだ。
87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/29(土) 06:12:50.89 ID:qSZNATwPo
中途半端に終わってた

88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/29(土) 21:00:44.41 ID:DlHgY9Pmo
89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/01/02(水) 15:04:09.66 ID:mMSj5kua0
乙です
あけおめです
90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/11(月) 04:39:24.09 ID:veqMDs4B0
まだか?
73.98 KB   
VIP Service SS速報VIP 専用ブラウザ 検索 Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)