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友「俺明日旅立つわ!」僕「えっ」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県) [saga]:2012/08/03(金) 21:25:26.75 ID:vIzBvvPJ0
「行って、きます」

誰にともなく呟く。

空は紺碧。
恐怖を覚える程に広い空の下、砂漠を駆ける影が一つ。
街はどんどん遠くなる。
後ろは振り返らない。
振り返ってはならない。
それはルールだった。
この街の掟。
前だけを、見据えて。
さよなら。





…さよなら。


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■ 萌竜会 ■ @ 2025/06/20(金) 21:04:05.72 ID:sMr/Yf+to
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2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県) [saga]:2012/08/03(金) 21:26:49.25 ID:vIzBvvPJ0

街は彼を見送る。
街には大きな門が一つ。
その門の遥か上部の壁面は、不釣り合いな程に立派な細工を凝らした装飾で街の名前がくり抜かれていた。
いつ誰が作ったものなのかさえ定かではない。
ここは、古い、古い街。
街は、彼を見送る。



見送る。
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県) [saga]:2012/08/03(金) 21:27:35.84 ID:vIzBvvPJ0
街の中心部。


ふぁぁ、

退屈の余り欠伸が出てしまった。
どうせここを通る人間なんてそう多くない。

彼は自らの任務を全うすべく、誠心誠意仕事に取り組む意欲はある。
あるが、しかし。


すること、ねぇなぁ。
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県) [saga]:2012/08/03(金) 21:28:25.91 ID:vIzBvvPJ0
慢性的な退屈を抱えた彼の視界の中に、息を切らして走る少年の姿が飛び込んで来た。

あっ、あいつ、また来やがった。






この街は大きな円形をしている。
その円形の街は周りをぐるっと高い高い塀で覆われており、街の周りは不毛の砂漠。要するに塀は砂除けだ。
街の外はどこまでも続く砂漠地帯。この街の有史以来、誰も砂漠の向こうを見た事がないらしい。
この街はいつからかここにあり、いつからか人々は砂漠の向こうを夢見るようになった。
それは必然だったのだろう。

人は希望を求める。
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県) [saga]:2012/08/03(金) 21:29:13.63 ID:vIzBvvPJ0
少年の姿は目前に迫っている。

おう、来るなら来い!
そう簡単に突破されてたまるか!
いくらあいつが運動神経抜群だったとしても!
戦闘術に特化していたとしても!

なにしろ、俺は門番。
通したら職務怠慢。

…今までに何度も突破されてるけどな。その度に減給されてるし。
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県) [saga]:2012/08/03(金) 21:30:09.79 ID:vIzBvvPJ0
「ここは通さねぇ!!!」

「あっ、今日は正式に通りたいんだけど」

「正式?ふざけんな!散々強行突破しといて何言ってやがる」

「そりゃ今までの事は悪かったと思ってるけどさー。仕方ないじゃん?この先に友達いるわけだし。たまに会うくらい許してよ」

「知るか!その度に減給食らってんだぞこっちは!」

「出世払いするから」

「当てになるかぁ!!!」

「…それが、なるんだな」

「はぁ?」
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県) [saga]:2012/08/03(金) 21:31:00.20 ID:vIzBvvPJ0

「おっちゃん、今日は正式に通して貰うよ。ーほら。通行証。」

「…これは…本物だな」

「当たり前じゃんか」

「お前、前に偽造してただろ」

「あはは、違う違う。あれは俺の親友が作ったんだよ。俺、文字の読み書きってできないしさ。あんな器用な事もできねーし」

「ふん…まぁいい。通れ。」

「うわー正式に通るの初めてだ」

「通行証が本物なんだから仕方ないな」

「さんきゅー」
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県) [saga]:2012/08/03(金) 21:31:49.23 ID:vIzBvvPJ0
そう言うと少年は再び走り出す。
忙しない奴だ。

門番はため息をついた。

ーあいつ、この街を出るのか。
ー寂しくなるな。







この街には伝説がある。
なんとかとかいう名前の理想郷が、世界のどこかにあるんだという伝説だ。
人は、希望を求める。
例えそれが偶像だったとしても。

希望を求める。

9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県) [saga]:2012/08/03(金) 21:32:39.81 ID:vIzBvvPJ0
「おーい!いるかー?」

研究所で専門書を読み漁っていると、聞き慣れた声が耳に届いた。
ちょ、どうやってここに?
また門を強行突破して来たの?
後で散々怒られるって分かってるのに…

僕は読みかけの本に栞を挟み、その声に応えた。

友人の嬉しそうな声が聞こえる。

友「今、そっち行く!」

僕「えっ!?」
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県) [saga]:2012/08/03(金) 21:33:19.67 ID:vIzBvvPJ0
次の瞬間、僕の所属する研究所の窓から、勢いよく飛び込んで来る友人の姿があった。

ーいやいやいや、何でそんな所から来るんだよ。

推定何mあるんだか。

謎めいた跳躍力だ。
ていうか入り口から入れよ。


…あ、でも入り口からは入りにくいか。
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県) [saga]:2012/08/03(金) 21:34:20.32 ID:vIzBvvPJ0
この街は、円状の街を真ん中から半分に割るように壁が建造されていて、そこに門が1つだけある。
そこには門番が常駐している。

何でそんなふうに街を二分する必要があるのかと言うと、
複雑な事情があるらしいけど、
ごくごく簡潔に言うと、
「喧嘩をしているから」
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県) [saga]:2012/08/03(金) 21:35:06.45 ID:vIzBvvPJ0
この街は、1つの街の中に2つの派閥がある。
1つは戦士たちの派閥。
もう1つは学者たちの派閥だ。
それぞれ生活は独立していて、それぞれ内部で自給自足が成立している。
もちろん、どちらの派閥にも属さない普通の人々が殆どで、そういう人達は普通に門をくぐって行き来して生活しているけど。

戦士の派閥と学者の派閥はすこぶる仲が悪い。
何故かと言うと、戦士は戦闘術を、学者は知識を、
それぞれ独占しているから。
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県) [saga]:2012/08/03(金) 21:35:52.84 ID:vIzBvvPJ0
両者が目指すものは同じ筈なのに、なぜそうなってしまうのか。


僕が思うに、どちらにしろ理想論者だ。
どちらにしたって、方法が異なるだけで、結局同じものを探している。
目指すは、遥か遠き理想郷。
その名は「lug quod」
この名すら、学者たちしか知らないのではないだろうか。
何と読むのかも分からない。

古い古文書に記された理想郷。

14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県) [saga]:2012/08/03(金) 21:36:36.98 ID:vIzBvvPJ0
友「なぁ、これ見てくれ」

僕「…これは…」

友「ああ。とうとう選ばれた」

僕「…すごい…」

友「だろ?」

彼が手に持っていたのは選抜されたもののみが持てる通行証。
通行証には2種類あって、まず、どちらかの派閥に属する者がもう一方の派閥の領域に入る時、一時的に発行されるものがある。
そしてもう一つは、永続的なもの。街の内部にある門だけでなく、街の外へと繋がる門を通る事のできる通行証。
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県) [saga]:2012/08/03(金) 21:37:21.80 ID:vIzBvvPJ0
この街では、何年かに1度、1人が選ばれる。
戦士と学者の派閥が協力し合う唯一の機会。
両派閥の中から1人だけを選び、外の世界へ旅立たせる。
冒険を強く希望し、体力や精神力を十二分に持っている事。それを条件に、街の偉い人達が厳しく審査をする。

と言っても、近年は全く選ばれなかった。なぜかと言うと単純に該当者がいなかったから。
体力や精神力が欠けており、選抜できなかった事も多かったらしいけど、もとより希望する者が殆どいない。
というのも、正直な所、無駄死になのだ。
無事に帰ってきた者は少なく、帰ってきたとしても酷く憔悴してしまうらしい。
希望を奪われた者の末路は如何なるものか。
…願わくば、僕の友人はそうありませんように。どうか、希望を見つけられますように。
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県) [saga]:2012/08/03(金) 21:38:12.04 ID:vIzBvvPJ0
友「明日出発するんだ」

僕「明日!?」

友「だからさー、ちょっと付き合ってよ」

僕「へ?どこに」

友「最後だからさ」

僕「…うん」

友「俺は何度もこっち来てるじゃん?門を強行突破して」

僕「うん」

友「でもお前は学者の派閥を選んで以来、こっち来た事ないじゃん」

僕「もう7年くらい行ってないね」

友「だから今日はお前に、あっち側を案内する」

僕「無理だろ!!!僕には強行突破なんてとてもじゃないけど」

友「大丈夫だよ。お前、学者の癖に体力結構あるじゃん!」

僕「運動系は昔から何やっても友に勝てた事ないけど…」

友「大丈夫!行くぞ」

僕「う…うん…」
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県) [saga]:2012/08/03(金) 21:39:39.43 ID:vIzBvvPJ0
友「あははははは!すげー高いな!すげー」

僕「いやムリ高いコレやばい」


僕等がいるのは街の外壁。
の上。
未だかつてない絶景に心を奪われて昇天しそうだよ。
ていうかコレやばい。
落ちたら死ぬ。
落ちなくても死にそうだし。視覚的に。
地上数十…いや、認めたくないけど2桁じゃ済まないな。とにかくおぞましい程高い外壁の上を器用に歩く友人の後ろ姿。


ああ、こいつなら希望を見つけられるんじゃないかなぁ。
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県) [saga]:2012/08/03(金) 21:40:27.88 ID:vIzBvvPJ0
僕は、彼の助けになりたかった。

同い年で、隣同士に生まれて、兄弟みたいに育って。

同じ夢を見た。

理想郷を探すんだと。

だけど僕は友人には勝てない。
どうあがいても、運動面では勝てなかった。
なら僕は、
彼の助けになろうじゃないか。
知識を得て、彼を助ける。

そう、決めた。
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県) [saga]:2012/08/03(金) 21:41:08.05 ID:vIzBvvPJ0

数十分前。

友「外壁登って向こうまで歩くぞ」

僕「はぁ!?」

友「だからさー切れにくい縄梯子とか登りやすい鉤爪とか作ってくれよ学者!」

僕「僕は何でも屋かよ」

友「できるだろ?」

僕「できるけどさ」

そして今に至る。
やめとけば良かった…
その言葉ばかりが頭をよぎる。
よせばいいのに目はつい下を見てしまう。ああ、怖い。やばい。高い。
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県) [saga]:2012/08/03(金) 21:41:55.04 ID:vIzBvvPJ0
友「下ばっか見んなよー」

僕「そんな事言ったって…」

友「ほら、横見てみ?上見てみ?空がいつもより近いし、一面に続く砂漠が見えるぞ」

言われて空を見る。砂漠を見る。
広い。大きい。
言い表しようのない感動。
訪れる恐怖。そして希望。
様々な気持ちが折り重なって僕の中に積もる。


友「世界はでっかいなー」

僕「…」
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県) [saga]:2012/08/03(金) 21:42:45.33 ID:vIzBvvPJ0
友「おっ、今俺たちは境界線を超えたぞ」

僕「ほんとだ…久しぶりだな、こっち側」




友が満足そうに笑った。
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県) [saga]:2012/08/03(金) 21:44:26.13 ID:vIzBvvPJ0
僕「ここが、街の入り口の真上?」

友「そうそう、この街唯一の外へ繋がる門。大きいよなーこっからじゃ真下すぎて見えねぇけど」

僕「うわっ下見たくない」

友「何だあれ」

僕「?…あっ」

友「壁の一部が大きくくり抜かれてる。うわ、ボロい」

僕「…なにこれ?」

友「ああ、学者側からだと見えねーのかな?確かに、戦士側からでも相当頑張って見上げないと見えないかな」

僕「これ…文字だ」

友「へー。何て書いてあるんだ?」

僕「えーと…boap pul…?」

友「ぼーぷぷる?」

僕「そう書いてある」

友「何だそれ」

僕「この街の名前じゃない?随分痛んでて読みにくい部分もあるけど」

友「ふーん…聞いた事ないなぁ。この街、名前があったのか」

僕「ここは門の真上に位置する。かつて外との交流があった頃に、外から来た旅人に街の名前を知らせる為に、壁に街の名前を刻んだんだねきっと」

友「看板の代わりみたいなもんか」

僕「だろうね」
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県) [saga]:2012/08/03(金) 21:45:13.50 ID:vIzBvvPJ0
友「ふーん…しかしすごいなーここ。特等席じゃん。街を一望できる」

僕「一望できすぎだろ…僕はもっと慎み深い位置から街を見たい」

友「いやぁいい景色だ」

僕「聞けよ」

友「明日、この街を出ちゃうんだなぁ」

僕「…」

友「なぁ」

僕「うん」

友「俺バカだからさー」

僕「うん」

友「外の世界に出たらさ」

僕「うん」

友「たぶんすぐ死ぬ」
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県) [saga]:2012/08/03(金) 21:46:05.02 ID:vIzBvvPJ0
僕「はぁ!?」

友「最後まで聞け。すぐ死ぬだろうけど…少しくらいなら粘れるかもしんない」

僕「粘れよ死ぬなよ」

友「だからお前も行こうぜ」

僕「はぁ?」

友「お前ならできるよ」

僕「…」

友「できるよ」

僕「…」



友「…この街さー、ちっぽけじゃん。ここから見渡したらすっごい小さいじゃん。でも、こんな街の中だけでもちっぽけな争いがあるわけじゃん」

僕「…」
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県) [saga]:2012/08/03(金) 21:47:05.34 ID:vIzBvvPJ0
友「でもさ、俺、それ、少し変だと思うんだ」

僕「…?」

友「だってそうだろ。争う意味がない。時に協力して俺みたいな奴を外の世界に旅立たせてみたりする割には、お互いの技術や知識を与え合う事はしない」

僕「…まるで、本当は外の世界に旅立たせたくないみたいだね」

友「ああ。その癖、旅立たてみたりもする。おかしいじゃんか」

僕「でも、それはずっと昔からそうだった訳で」

友「…俺には、何かを必死に隠してるみたいに思えるよ」

僕「…」
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県) [saga]:2012/08/03(金) 21:47:49.05 ID:vIzBvvPJ0
友「だからさー、何年かかってもいいから。お前も来てくれ」

僕「え」

友「お前はさー、自分では気がついてないかもしんないけど。こんな所に登っちゃうくらいの度胸と体力を持ってる訳だよ」

僕「お前が連れて来たんだろ」

友「そうだなー。…旅にも連れて行くぞ。何年かかったって連れて行く。ていうか来い。さもないと死ぬぞ俺」

僕「なんだそれ…」

友「俺の武術とお前の知識があれば何とかなりそーな気がしないか?」

僕「しない」

友「俺はする」

僕「…」

友「約束したじゃん」


僕「…したけど」
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県) [saga]:2012/08/03(金) 21:48:28.08 ID:vIzBvvPJ0
僕らはほんの幼い頃、
理想郷の話を聞いて。

そして理想郷に憧れた。

この街で死ぬまで暮らすことは、多分不幸ではないのだろう。


けれど、
僕らは、
少なくとも当時の僕らは、まだ見ぬ理想郷に憧れ、いつか一緒に行こうと約束をした。


いつか、この街から出ると決めた。
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県) [saga]:2012/08/03(金) 21:49:14.35 ID:vIzBvvPJ0
友「なぁ」

僕「ん?」

友「文字教えてくんない?」

僕「いいよ」

友「理想郷の名前、この紙に書いてくれ」

僕「うん」

友「おお、お前達筆だな!わかんねぇけど」

僕「…ってコレ、通行証じゃんか!字を書いちゃダメだろ」

友「まぁ気にすんな」

僕「…ったくもー」

友「今日はあっついなー」

僕「眩しいな。空に近いし」

友「いやしかしお前ほんとに達筆だな」


友が通行証を光に透かしながらしげしげと見ている。



おい、それ裏表逆だよ。
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県) [saga]:2012/08/03(金) 21:50:04.21 ID:vIzBvvPJ0



…裏表、逆…










その時、
僕は、気付いてしまった。
あぁ、



あぁ。



希望はここにあった。


皮肉な事に、
それは絶望を呼んだけれど。

30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県) [saga]:2012/08/03(金) 21:51:35.99 ID:vIzBvvPJ0
翌日、友は旅に出た。
僕は見送りに行けなかった。
街の入り口は戦士側。
僕は行けない。
昨日みたいに壁をよじ登って…とも考えたけれど、僕一人じゃとても無理そうなので諦めた。

人づてに聞いた話では、
彼は僕によろしく、と何度も何度も言っていたらしい。

彼は見送りの人々に一礼すると、踵を返して、真っ直ぐに街を出たらしい。
振り向かずに。
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県) [saga]:2012/08/03(金) 21:52:08.09 ID:vIzBvvPJ0
この街を出る時は街が見えなくなるまで振り返ってはならないという掟がある。
彼はこの掟を忠実に守った。

変わった掟だ。
どうやら、未練を残さない為に作られた掟らしい。








というのは口実だと思う。
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2012/08/03(金) 21:53:54.69 ID:m1ca6Mo20
本当は、気付かれない為。

選抜されて外の世界に行くのは大抵の場合戦士側から選ばれる。
ていうか学者側から選ばれた事はない。
体力的に。
戦士たちは武術特化。
文字すら勉強していなかったりする。


それは保険だったんだ。
学者たちは街の事実を隠したかった。
だから、


だから…。
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県) [saga]:2012/08/03(金) 21:55:14.10 ID:vIzBvvPJ0
僕は、彼を助ける。
絶対に。


この街は牢獄だ。
理想を追いかけ、理想に囚われ、絶望を握って生かされるただの檻。
それがいけない事だとは思わない。
思わないけど…
僕は、有りもしない希望を糧に生きるよりは、不確定でもいい。未知なる希望の元に生きたい。


僕も、外の世界へ。
親友と共に。
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県) [saga]:2012/08/03(金) 21:56:04.52 ID:vIzBvvPJ0
ー1年後


門番「お前まで旅立つのか」

僕「はい。門番さん、初めまして。親友からあなたの話はよく聞かされました。親友が散々迷惑かけたらしいですね。…ごめんなさい」

門番「…いいよ。俺、あいつ結構好きだったしな。俺もお前の話、聞かされたぜ。何でもできる自慢の親友だってな。まさか学者側から選抜者が出るとはな」

僕「…これ、通行証です」

門番「ああ、確かに」
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県) [saga]:2012/08/03(金) 21:56:52.18 ID:vIzBvvPJ0



街の入り口に立つ。


僕は、彼の背を追おうと思う。

開門。
あの日見た砂漠が、今度は眼前に広がる。どこまでも続く黄色。


僕は、真っ直ぐに砂漠へと歩を進める。振り返らない。あの日の彼と同じく。


後ろで門が閉まる音がする。


…今行くよ。僕の親友。
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県) [saga]:2012/08/03(金) 21:58:17.63 ID:vIzBvvPJ0
僕は街を背に、未知へと駆け出した。


街はどんどん遠くなり、やがて一面の黄色の中へと飲み込まれて行く。
僕はその間、一度も振り返らなかった。



僕が16年間住んだ街。
街の名前はboap pul。
ただし、これは街の内側から見た名前だ。
本当は、後ろ向き。
光に透かせば…本当の姿が。



街の名前とは外向きに付くもの。街の外の人間に分かるようにするもの。別の街からの来客を迎える為の表記。



振り返らなくても分かる。
想像できる。


もし僕が振り返ったならば、街への入場者を迎える唯一の門の真上には、古いけれど美しい装飾を携えて刻まれた、街の名前が見えた筈だ。
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県) [saga]:2012/08/03(金) 21:59:13.48 ID:vIzBvvPJ0


そこにはこう書いてある。
「lug quod」



理想郷を背に、
僕は未知へ。






さよなら。
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県) :2012/08/03(金) 22:01:02.36 ID:vIzBvvPJ0


終わり


何か貼ってみたら短かった
39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/03(金) 23:41:54.07 ID:x2ybSJk90
うおーおもしれぇ
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