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隊長「学園戦隊ねぇ……」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/06(月) 23:57:43.22 ID:XpsM/3/zo
教師「我が校でも優秀な人材を輩出するにあたり、集団による事件解決能力を高めるフィールドワークを行うことになった」

教師「要するに、パーティーを組んで学園内外の様々な作戦を遂行する実習ということだ」

生徒「はい」

教師「色々と適正判断試験を重ねた結果、えーと、君が指揮官の素質ありというわけだ」

生徒(嘘だろそれ)

教師「特に、いわゆる盤面作戦試験ではトップの結果を」

生徒(あのボードゲームのルールを他のやつらが知らなかっただけなんだがなぁ)

教師「君は他の成績はそれほどでもないが、そういった素質を重視して」

生徒「つまり、どうなるんです?」

教師「学園戦隊実習の二十八番隊の隊長を務めてくれたまえ。はい、隊長バッジ」

隊長「……はい」

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バームくんへ @ 2025/06/11(水) 20:52:59.15 ID:9hFPsRzXO
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秘境 @ 2025/06/10(火) 00:47:53.81 ID:BDVYljqu0
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【安価】上条「とある禁書目録で」鴻野江「仮面ライダー」【禁書】 @ 2025/06/09(月) 21:43:10.25 ID:qDlYab/50
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1749472989/

ツナ「(雲雀さん?!)」雲雀「・・・」ビショビショ @ 2025/06/07(土) 01:30:36.87 ID:AfN9Rsm0O
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【安価コンマ】障害走を極めるその5【ウマ娘】 @ 2025/06/06(金) 01:05:45.46 ID:RaUitMs20
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貴様たちの整備のお陰で使いやすくしてくれてありがとう @ 2025/06/04(水) 20:56:21.03 ID:QjuK6rXtO
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阿笠「わしの乳首に米粒をくっ付けたぞい」コナン「は?」灰原「は?」 @ 2025/06/04(水) 04:01:13.39 ID:ZjrmryLdO
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レッド(無口とか幽霊とか言われるけどまだ電脳世界) @ 2025/06/02(月) 21:21:00.13 ID:ix3UWcFtO
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2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/06(月) 23:58:39.10 ID:XpsM/3/zo
ぼちぼち長めに続けるつもりで。

なんか途中で選択肢とか。
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/06(月) 23:59:05.86 ID:XpsM/3/zo
教師「組むパーティーはランダムに選択されているはずだ」

教師「それから、ちょっと学園の周りが騒がしい。すぐに作戦の通達が来るかもしれないので、急いで顔合わせしてくれ」

隊長「はい」

教師「……君が一番最後だったのは、まあ、いろいろ難航してしまってな」

隊長(要するに、よその調整優先で、最後に余った連中なんだろう)

隊長(めんどくせぇ……)

隊長(……まあ、ふけちまってもいいが、金になるかもしれん)

隊長「誠心誠意務めさせて頂きます!」

教師「ありがとう。君ならそう言ってくれると思った」

教師「部屋を出て奥の控え室に行ってくれ。よろしくな」

隊長「はい!」

隊長(はぁ、もうヤル気が起きない)
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/06(月) 23:59:38.64 ID:XpsM/3/zo
廊下。

隊長「学園戦隊ねぇ……」パラ

隊長「メンバーは、剣士、工兵、術士、救護員か……」

隊長「剣士、剣の腕は立つな。全生徒の中で二番目だ」

隊長「けど、こいつは性格が悪くて、話を聞かないタイプの男だったな」

隊長「工兵……ってなんだ? ああ、学園に新設されたコースの」

隊長「武器防具の整備や、機械の工作に長けている……ただし、俺のとこに来たのはその能力も大して高くない」

隊長「術士、成績は中の下。でも、顔が好みじゃない」

隊長「方陣に数字を当てはめた術を習っている。召喚、発声魔法は落第した……」

隊長「……救護員。顔は好みだが、救護員なんて養成コースないぞ?」

隊長「成績がどれも中途半端だから、振り分けに困って適当にやってもらってんのか」
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/07(火) 00:00:29.98 ID:U0LIwuJyo
隊長「……なんか未調整っつーか、ぶっこんだ感じ」

隊長「そりゃ冒険者の養成学校だから、全員プロってわけじゃないんだが」

隊長「ぶっちゃけ、これでいきなりパーティー組め、リーダーやれって言われたら投げ出すね」

隊長「実際そういう状況だけど。ほぼ」

隊長「あいさつもしたくねぇ……」

隊長「だが、相手は同じ学生だ。おだてて成長に期待しないといけない」

隊長「はぁ、俺自身も未熟なのにな」

隊長「……いかんな、独り言も一貫性がなくなっている」

隊長「……」

隊長「お、控え室か」

ガラッ。
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/07(火) 00:00:57.01 ID:U0LIwuJyo
隊長「こんにちは」

救護員「うわ」

隊長(うわって言ったぞこいつ)

隊長「みんな揃ってるね。このメンバーが二十八番隊、らしいね」

剣士「おせえよ。他の連中はみんなどっか行っちまったぞ」

隊長「俺も呼ばれるのが遅かったんだ。ごめんな」

剣士「ちっ」

隊長(誰が好き好んで遅刻するかよ)

術士「あなたが隊長でいいのかしら。私は術士よ、よろしく」

隊長「ああ、よろしく」

工兵「よろしくー」

隊長(よし、この二人はとりあえずやってけそうだ)

工兵「なんかその、頼りなさそうだね」ボソボソ

術士「指揮能力とかで選ばれたんでしょ、それも多分、余りよ」ヒソヒソ

隊長(前言撤回)
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/07(火) 00:01:23.23 ID:U0LIwuJyo
剣士「お前みたいな、チビで、前髪で隠れてるようなやつがリーダーってか?」

剣士「お笑いだな。まさに余りチームってわけだ」

隊長(ゴミカス確定)

隊長「まあ、そう邪険にしたものじゃないよ。しばらくはこのチームで成績もつくんだしね」

隊長「ちゃんと挨拶がまだだったね。3組の隊長です」

救護員「わ、私、2組の救護員です」

剣士「1組の剣士だ。知ってるだろ」

術士「4組の術士よ」

工兵「特組の工兵だよ。なんだ、みんな別のクラスだったんだね」

隊長「そうだね。それじゃ、一応、自己紹介も兼ねて……」

『あ、あー、校内放送、校内放送、各隊に連絡』

『最初の作戦が開始されます、速やかに校庭に集まってください』

隊長「だってさ、早く行こう」
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/07(火) 00:01:56.74 ID:U0LIwuJyo
作戦1『学園入り口の魔物を追い払え』

教師「えー、以上の通り、間の悪いことに学園の入り口に魔物が集まってきています」

教師「しかしながら、これはチャンスでもある。幸い魔物は弱い小鬼の類なので、各隊速やかにこれを排除してください」

教師「それが最初の作戦になります」

教師「では、開始!」

生徒たち『はい!』

隊長(間の悪いこと、ねぇ……)

生徒「急げ!」

生徒「早くぶっ倒そうぜ!」

だだだだだ……

隊長(おーおー、粋のいいこと)

隊長「……」

隊長「……じゃ、みんな、とりあえず集合して」
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/07(火) 00:02:45.22 ID:U0LIwuJyo
隊長「まず、パーティー編成からいこう」

剣士「おい!? もう他のチームは行っちまったぞ!」

隊長「そうだけど」

工兵「速く移動しないと、減点になるんじゃないの?」

隊長(こいつら、俺を何だと思ってんの?)

隊長「そうだけど、まず二十八番隊はさっき顔を合わせたばっかりだよ?」

隊長「チームとしての動きをするなら、ちゃんとした編成が必要じゃないかな」

術士「同感ね」

救護員「よくわからないんですけど、私はどうしたら……」

隊長「ほら、作戦を決めるために、まず編成をしないと」

工兵「あ、そっか」

剣士「ちっ、魔物退治なんざ俺一人で十分なのに」

隊長(お前、人の話聞いてた?)
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/07(火) 00:03:13.31 ID:U0LIwuJyo
隊長「まず俺を中心に、左前方に剣士、右前方に工兵、∨字型の陣形を取ろう」

隊長「女性二人はその後ろから、三人を盾にするような感じで」

隊長「オーケー?」

工兵「うう、僕も前列か」

術士「これだと、私たちは隊長の指示が聞こえにくいんじゃないかしら」

隊長「ああ。俺も初陣になるし、四人を全員指揮するのは難しい」

隊長「だから、二人は後ろから適切にフォローしてほしい」

救護員「む、難しいですね」

隊長「とりあえずはついて来てくれればいいよ」

剣士「……俺がいりゃあ、どうにかなるだろ」

隊長(はいはい)
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/07(火) 00:03:39.70 ID:U0LIwuJyo
隊長「じゃあ、まず今後の行動だけど」

剣士「行動も何も、正門に行くだけでいいだろうが」

隊長「(ちっ)それだけど、そもそも壁に囲まれた学園をどうして魔物が襲うんだろうか」

救護員「え?」

隊長「普通に考えて、この学園は襲いやすい獲物とは言えないよね」

工兵「えーと、よく分からない」

術士「……不自然であることは確かね。わざわざ塀に囲まれた建物を攻撃するなんて」

隊長「そうだ。不自然だね」

隊長「つまり、その不自然さを納得できる理由を考えるとなると……」

隊長「学園側が餌をまいておびき寄せたか、今正門にいるのは陽動で、別働隊がいるか」

剣士「どっちでもいいだろうが、そんなもん」

隊長(ここまで言っても分からんのかボケナス)
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/07(火) 00:04:06.64 ID:U0LIwuJyo
隊長「今、正門に殺到しているのは二十数隊、総勢百人以上だ」

隊長「いくら正門が大きいとは言っても、あそこに百人いたら、相当な混雑だ」

隊長「つまり、俺達が今から行ってもなんの役にも立たない」

術士「……どうせなら、裏門を確認した方が、陽動の可能性を潰せる、というわけね」

隊長「そういうこと」

救護員「術士さん、頭いい〜」

隊長(俺だろ、そこは)

隊長「まあ、そういうわけで、裏門に全員移動しよう」

剣士「はぁ!? 誰もいなかったらどうするんだよ」

隊長「さっき言ったことを教師に説明して終了」

工兵「ああ、楽でいいなぁ」

剣士「いや、けどな」

隊長「全隊駆け足!」

救護員「はぁい」
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/07(火) 00:04:33.12 ID:U0LIwuJyo
裏門。

門番「うぐっ、ぐあっ」

門番「くそっ、なんだってこんなところへ魔物が」

隊長「大当たりだ。装備の準備はいいね」

剣士「……小鬼じゃねぇな、邪鬼の連中か」

工兵「ごくっ」

剣士「よし、俺が出る!」ダダッ

隊長「ちょっと待て! 勝手に移動するなって」

――剣士の攻撃!

隊長「あーもう! 工兵、移動しよう!」

工兵「うわわ」

術士「隊長」

隊長「隙を見てフォローを!」

術士「後ろからぶっ放すから、合図したら横に飛んで」

隊長「分かった!」
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/07(火) 00:04:58.90 ID:U0LIwuJyo
門番「き、君たち、こんなところへ」

隊長「今は学園戦隊の実習中です!」

門番「実習ってそんな」

  剣士「ふん、うりゃあ!」ズバァッ

  邪鬼「ウグイィィッ」

隊長「ご覧のとおり、引けは取りませんから」

隊長「右方向を中心に行動します。門番さんは、左を」

門番「う、うむ。分かった」

隊長「おい、剣士! 前出過ぎ!」

  剣士「あああッ!」ザクッ

隊長(ホント、聞いてないなあいつ!)
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/07(火) 00:05:25.80 ID:U0LIwuJyo
隊長「剣士! 出過ぎだってば!」

隊長(うわ、でももう三体も斬り捨ててやがる)

隊長「工兵、もっと前に出て! 陣形おっつかない!」

工兵「む、無理だよ、うわっ」

隊長「ち……」

隊長の攻撃! 邪鬼を押しやった。

隊長「早く立って!」

工兵「くう」

救護員「隊長、工兵さん、下げたほうが」

隊長(お前が前線に近づいてどうする)

隊長「……じゃあ、工兵の手当を」

救護員「はいいーっ!」

救護員が工兵を後列に移動させた。
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/07(火) 00:05:51.86 ID:U0LIwuJyo
隊長「剣士ー! 挟み撃ちにするぞ!」

  剣士「りゃああああっ!」(剣を振り上げて、合図)

隊長「分かってんのかな」

術士「隊長! 行くわよ!」

隊長(ここでぶっ放すのかよ)

隊長「分かった! ……剣士! 右側来るぞ!」

術士「術式展開1―3―7」

術士の方術が展開、風の刃が魔物の首を跳ね飛ばした!

隊長(危険な術を選びやがって、こいつ)

  剣士「おらっ」

  剣士の攻撃! 魔物の頭を打ち砕いた!

隊長(こいつも大概だな)

隊長(でも、今ので最後の魔物だ)

―――作戦1終了。
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/07(火) 00:06:23.70 ID:U0LIwuJyo
休憩時間。

隊長(はぁーっ、参ったな。想像以上に大変だぞ)

隊長(俺の指示も的確ではなかったし)

隊長「……」

隊長(とりあえず、裏門の行動は褒められはしたが)

隊長(工兵は負傷させてしまった)

隊長(幸い、応急手当が早かったから、回復が早そうだが)

隊長(後は、他の連中もフォローしないとな)

隊長(しかし、次の作戦があるから、二人くらいか。会えるのは)

隊長(剣士や救護員を褒めるか、工兵を見舞うか、術士と今後を相談するか)

隊長(……こんなところかな)
18 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/07(火) 10:26:36.03 ID:JyZM+5MIO

剣士を褒める
救護員を褒める
▷ 工兵を見舞う
術士と相談する
寝る

隊長「まあ、やっぱり負傷者のお見舞いが優先だな」

隊長「めんどくせぇけどな……」
19 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/07(火) 10:33:02.12 ID:JyZM+5MIO
工兵の部屋。

隊長(見舞い品は果物でいいだろ)

隊長(つっても、特売で余っただけだが)

隊長「……工兵、入っていいかい?」

工兵「え? あ、はい!」

ガラッ

隊長「うおっ」

工兵「あ、あー、ごめん。散らかってて」

隊長(散らかってるっていうか、人間が部屋の部品みたいになってるぞ)

工兵「せっかく寮で一人部屋もらったから、つい」

隊長「そうか」

工兵「片づけようにも片付けられなくなって」

隊長「……元気そうで安心したよ」

工兵「い、いや、役立たずで」
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/08/07(火) 10:38:02.41 ID:lNJqePMf0
期待
21 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/07(火) 10:44:11.09 ID:JyZM+5MIO
隊長「そんなことないさ。俺の指揮にミスがあったんだ」

隊長(役立たずだったのは事実だがな)

工兵「でも」

隊長「これから活躍してもらう、それでいいさ」

工兵「うん」

隊長「ほら、果物」

工兵「ありがとう。隊長は優しいね」

隊長(表面上だけな)

隊長「まあ、それはそれとして……」

隊長「工兵は何をやってたんだ?」

工兵「ああ、動くの辛いから、『小さい手』を作ってたんだ」

隊長「『小さい手』?」

工兵「そうそう、細かい作業をするのに、人間の指だと大きすぎることってあるでしょ?」

隊長「……そうだな」

隊長(あまり思いつかんな)

工兵「そういう時に使えるかなって」

隊長「なるほど。工兵の本領発揮ということだな」

工兵「まあ、魔物を殴るだけなら金槌いっぽんでいいんだけど……」
22 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/07(火) 10:54:42.32 ID:JyZM+5MIO
隊長「わかった。期待しておくよ」

隊長(期待すると、外れもあるんだぜ?)

工兵「ありがとう……」

隊長「どうした?」

工兵「あー、いや、その」

工兵「救護員っているじゃん?」

隊長「ああ」

工兵「彼女、僕の幼馴染なんだ」

隊長「ふーん」

隊長「……好きだから、追いかけてきたってこと?」

工兵「そ、そうなんだ!」

隊長(リア充シャイン)

工兵「正直、迷惑してるんだけど」

隊長「……ん?」

工兵「僕なんか、何の取り柄もないのに」

隊長「……んん?」
23 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/07(火) 11:04:21.89 ID:JyZM+5MIO
隊長「ちょっと待って。追いかけてきたってのは」

工兵「救護員の方だよ」

隊長「へぇえ」

工兵「冒険者なんか無理だって言ったのに」

工兵「……と言っても、今日のは僕が助けられちゃったんだけど」

隊長「救護員が工兵を好きってのは本当なの?」

工兵「よくわからないけど、普通は怪我してるからって寮に泊まるとか、あまり言い出さないと思う」

隊長(やっぱシャイン)

隊長「まあ、好かれてるならいいことじゃないか」

工兵「そうかな……」

隊長(自分が活躍出来ないから引け目を感じてるのか)

隊長(これはNTRあるな。覚えておこう)

隊長「そんなことだと愛想つかされるんじゃないか」

工兵「うっ。そうかもね」
24 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/07(火) 11:07:53.71 ID:JyZM+5MIO
隊長「とりあえず、出て来たが」

隊長「顔合わせの時の印象は払拭できたかな」

隊長「あいつ自身の方が頼りないからな」

隊長「さて、あと一人くらいは会っとくか?」

剣士
救護員
術士
寝る
25 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/07(火) 11:57:35.91 ID:JyZM+5MIO
▷ 剣士を褒める
救護員を褒める
術士と相談
寝る

隊長「やっぱりこれだな」

隊長「ああいう手合いは褒めたがいいか窘めたがいいか分からないから」

隊長「ちゃんと見極めねーと」

隊長「めんどくせぇ……」
26 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/07(火) 12:08:47.70 ID:JyZM+5MIO
剣士の部屋。

隊長「……剣士、いるかー?」

隊長「……」

隊長「物音はするが返事はない」

隊長「おーい」

剣士「……ふっ、ふっ」

隊長「入るぞー?」

ガチャ

剣士「ふっ、ふっ、ふっ」

隊長(全裸で汗を流している)

剣士「……ふーっ」

剣士「勝手に入ってくるな」

隊長「悪いな。返事がなかったから」

剣士「なかったら入ってくるのかよ」

隊長「隊長だから、メンバーの心配をしてるんだ」

剣士「……ちっ」
27 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/07(火) 12:15:23.63 ID:JyZM+5MIO
剣士「それで、心配はともかく何の用だ?」

隊長(全裸で応対するな)

隊長「お礼だよ」

剣士「お礼?」

隊長「ああ。なんのかんの言っても、剣士がいなけりゃ作戦は失敗していた」

隊長「剣士がメンバーで良かったよ。ありがとう」

剣士「……あ? あー」

隊長(なんかだいぶ動揺してるな)

剣士「……あ、当たり前だ」

隊長(なるほど。そういうキャラで行きたいわけだ)

剣士「俺は強くなる、ならなきゃいけない」

剣士「あの程度で立ち止まれない」

隊長(ウザい)
28 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/07(火) 12:24:50.73 ID:JyZM+5MIO
隊長「でも、まあ、俺の指示とかちゃんと聞こえてる?」

剣士「俺の足を引っ張らなければ聞く」

隊長「……」(こいつ……)

剣士「いいか。俺に言わせりゃお前らは素人以下だ」

剣士「子どもにもやられるだろうよ! そのくらい弱い」

隊長「まあ、確かにそれほど剣の腕は立たないやつが多いだろうけどねぇ」

剣士「まるで自分はそこそこやれるような口振りだな」

隊長(うるせーぞクズ。俺だって自分の力量くらい少しは知っとるわ)

剣士「分からないなら言ってやる。俺はお前の指揮が聞こえる程度に加減して戦ってたんだ」

隊長「へー」

剣士「あまりにものろすぎて、前に突出してしまったが」

隊長「そー」

剣士「わざわざ合わせてるのは俺の方なんだよ!」
29 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/07(火) 12:35:22.23 ID:JyZM+5MIO
剣士「……」

隊長「じゃあ、みんなレベルアップしないとね」

剣士「あ? あ、ああ、そうだろ」

隊長「いろいろ考えてくれてありがとうな。確かにバランスが悪いとは思ってたし」

隊長(お前のせいだがな)

剣士「そうだろ……」

隊長(自信なさげになったぞ。こいつホントめんどくせぇ)

隊長「ん……? そういえばその腕についてるのはなんだ?」

剣士「あ、ああ、これは……」バッ

隊長「まじないか何かか?」

剣士「ああ……呪印の類だ。筋力の発揮量が変わる」

隊長(こいつから難しい単語を聞くと違和感を覚える)

剣士「……強くなるためなら、何でもやるんだ」

隊長「そうか」
30 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/07(火) 12:42:06.07 ID:JyZM+5MIO
隊長「……部屋から出てきたが」

隊長「結論:めんどくせぇ」

隊長「あいつマジでなんなんだよ」

隊長「隙は多い気もするが、相手をすることが苦痛」

隊長「メンバーで強くもなかったら、存在をお断りするレベルだ」

隊長「……」

隊長「しょうがねぇな。もう寝るか」

隊長「しかし、あいつずっと全裸だったな」

休憩時間終了。
31 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/07(火) 12:44:27.47 ID:JyZM+5MIO
こんな感じで。
選択肢は適当に提示しますが、その時の気分です。
32 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/08(水) 08:21:44.37 ID:jSPqS2aZo
作戦2『図書館の本棚を整理せよ』

図書館。

隊長「というわけで、パーティー編成から」

剣士「ちょっと待て」

救護員「私も疑問なんですけど……」

隊長「なんだい?」

剣士「なんだいじゃねーよ。なんで俺らが本の整理なんかしなきゃならんのだ」

隊長「他にやるチームがないからだが」

術士「私、それほど本には詳しくないけど……」

工兵「僕も専門分野しか」

剣士「そうじゃないだろ!」

剣士「いいか、俺たちは冒険者の養成コースを受けているんだ」

司書「つまり仕事を選ぶレベルにないわけよ」
33 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/08(水) 08:34:42.66 ID:G6XuYOWIO
剣士「誰だ」

隊長(依頼主に対してこの態度かよ)

司書「隊長くん、今の、評価をマイナスしていいかしら」

隊長「すみません、もう少し待ってもらえますか」

隊長「集合」

救護員「剣士さん、今のはまずいですよ」ヒソヒソ

剣士「けど、こんなのが何の」

隊長「役に立つよ」

術士「私もそう思うわ」

剣士「……じゃあ、納得できる理由を言ってみろ」

隊長(お前も頭を使えや)
34 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/08(水) 09:14:49.52 ID:hYzl9RlIO
工兵「魔物退治だけが冒険者の仕事ってわけでもないよ」

術士「私も……もっと学ぶ必要があると思ってるし」

隊長(よしよし、もっと言ってやれ)

救護員「でも、本棚の整理って力仕事ですよね。別に本読むわけじゃないし……」

隊長(ボケナス)

隊長「あー、なんていうかだね。俺としては司書さんに恩を売っておきたいんだ」

剣士「なんのためだ」

隊長「みんな図書館には本しかないと思ってるようだけど、地図や新聞もある」

隊長「じゃあ、例えば学園外の作戦が来た時、最初の時のように全チームでやれーってなったら?」

救護員「あ……地図、足りなくなっちゃうかも」

隊長「そう。学園外なら、地図は必須だし」

剣士「……なるほど」
35 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/08(水) 10:17:51.70 ID:hYzl9RlIO
隊長「もちろん、どこになにがあるか把握するのも大事だけど」

救護員「なるほどー、隊長の話で初めて納得しました」

隊長(そろそろぶん殴りたい)

隊長「というわけで、失礼なことを言った剣士は俺と一緒に謝ろう」

剣士「な!」

隊長「別に冒険者兼山賊になりたいなら礼儀はいらないけどさー」

剣士「ちっ」

隊長「あー、司書さーん」

司書「はいはい」

隊長「メンバーが失礼なことを言ってすみませんでした」

剣士「……すみません」

司書「よろしい。ちゃんと謝れたからさっきのマイナスは帳消しにしましょう」

工兵「うわー、剣士が謝ってるなんてレアだな」ヒソヒソ

術士「隊長もちょっと見直したわ」ヒソヒソ

隊長(こいつら……)
36 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/08(水) 21:22:52.34 ID:YlNOaB0IO
隊長「じゃあ、改めてパーティー編成だ」

隊長「と言っても今回は横並びでやろうと思う」

司書「私が指揮を執るから、それに従って動いてもらうわ」

隊長「よろしくお願いします」

司書「いかんせん、棚が荒れちゃってねー」

救護員「司書さんは整理してないんですかー?」

司書「もちろん、やってるけどね。ここの利用者数って多いと一日数百人に達するのよ」

司書「正直な話、一人じゃベリーハードよね」

司書「とりあえず、危険な本はないと思うから、さくさく行きましょう」

剣士「……危険な本ってなんだ」
37 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/08(水) 21:32:52.87 ID:YlNOaB0IO
司書「まず、一人一列、背表紙を見て読み音順に並べていって」

救護員「ひ、一人一列?」

術士「端が見えないわね……」

隊長「はいはい、一千冊並べるのもまず一冊、手にとってから」

剣士「ちっ、しょうがないな」

工兵「流れ作業って僕は好きだな〜」ヒョイヒョイ

司書「あ、隊長くんはよく図書館に来てるわよね」

隊長「はい」

司書「じゃあ、分類の間違ってる本を正しい位置に」

隊長「分かりました!」(ふざけんな!)

司書「それ終わったら、目録と貸出票をつっつき合わせたの持ってくるから、現物が破損してたり紛失してるものをチェック」

隊長「了解です!」(こりゃ死んだな)
38 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/08(水) 21:48:20.36 ID:YlNOaB0IO
一時間後。

工兵「一列終わりましたけど……」

救護員「早い!?」

司書「じゃあ、もう一列お願い」

工兵「……」

二時間後。

剣士「こ、今度は文句ないだろ」

司書「背表紙が破れてるのは修理するからマークしといてね〜」

剣士「なにっ」

術士「あ、これ読んでなかった……」

司書「読書はあとにしてね〜」

三時間後。

救護員「私はやれる子私はできる子」ブツブツ

術士「なんか壊れかけてない?」

工兵「司書さん、休憩にしませんか?」

司書「いいわよ〜」

剣士「これは訓練。これは修行。これは拷問耐久法」ブツブツ

術士「こっちも重症ね……」
39 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/08(水) 22:06:47.29 ID:YlNOaB0IO
工兵「おーい、救護員。休憩にしようって」

救護員「私はえらい子」ブツブツ

工兵「……大丈夫?」

救護員「え? ひゃあ!」バンっ!

工兵「ど、どうしたの?」

救護員「い、いたたたたっ、痛い! 本に噛まれたっ」

工兵「ええ?」

工兵「……いや、手を挟まれただけでしょ」

救護員「いたっ、いたいっ、いたいよ! 噛まれて放してくれないの!」

司書「どしたの〜?」

工兵「いえ、救護員が大騒ぎを」

救護員「違うの、噛まれてるの!」

司書「ええ? 悪魔つきの本は取り除いたはずなのに」

隊長「どうした?」

工兵「救護員さんが……」

救護員「いたいよ! ホントに痛いの!」

隊長「救護員、落ち着いて。深呼吸」

救護員「すー、はー」
40 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/08(水) 22:16:11.33 ID:YlNOaB0IO
隊長「よし、痛みは?」

救護員「か、かまっ噛まれてるの!」

隊長「今も痛いんだね?」

救護員「そ、そ、そうなの」

隊長(ただ本に挟まれてるだけのようだが)

司書「困ったわ、こんな本の対処は知らないし」

剣士「……呪印とか呪いの類じゃないのか」

隊長「呪い? 何のために」

剣士「救護員、痛みはひっきりなしに続いているか」

救護員「わからっ、いたっ、ないけど」

剣士「ずっと痛い。断続的に痛い。一箇所が強烈」

救護員「だ、断続的に」

剣士「こりゃ呪術だ。誰かが仕掛けたんだ」
41 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/08(水) 22:26:10.91 ID:YlNOaB0IO
剣士「本のせいじゃない。意識を本から別のものに移せ」

救護員「ええー?」

隊長「……剣士は部屋では全裸」

救護員「ぶっ」

剣士「ふん」バタン!

救護員「あっ」

剣士「おい、隊長よぉ!」

救護員「は、外れた外れた!」

隊長「呪術で外れないように思わされていたんだね」

司書「誰がそんなことを……」

隊長「それは分かりませんが、とりあえず休憩にしませんか」

司書「……そうね。お茶とお菓子は用意したわ」

剣士「痛みはないな」

救護員「そ、そうだね」
42 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/08(水) 22:26:37.89 ID:YlNOaB0IO
今夜はここまで。
もう少し作戦フェイズ。
43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/08(水) 22:56:32.89 ID:WO4vgwd/o
期待してるから頑張れよー
44 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/10(金) 12:03:36.87 ID:eKlAHniIO
ありがとお。じっくりやってきます。
45 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/10(金) 12:04:24.90 ID:eKlAHniIO
図書館準備室。

司書「救護員ちゃん、大丈夫?」

救護員「ええと、はい」

司書「ううん、いろいろ悪いことしちゃったわね〜」

剣士「……仕込んでた呪印はガキでもできる。いたずらだろう」

司書「そうなると、カウンター経由じゃなくて、直接置かれたのね。まったく、人手が少ないとこれだから」

工兵「お一人なんですか、ここ」

司書「そうなのよ〜、まあ隊長くんが時々手伝ってくれてたけど」

術士「……あれ? 隊長は?」

剣士「お茶飲んですぐに、もう少し続けると」

救護員「はぁー、隊長ってすごいですよね」
46 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/10(金) 12:18:51.90 ID:eKlAHniIO
司書「そういえば、集団実習だったわね、あなたたち」

救護員「は、はい」

司書「ラッキーだったわね〜、隊長くんで。彼、短気だけど良い子でしょ」

術士「短気……?」

剣士「良い子……?」

司書「あ〜、まあ、失敗したらちゃんと謝る子だから、私は好きよってこと」

工兵「そう、かな」

救護員「そうですかねー」

司書(反応バラバラねー、彼も苦労してるのね)
47 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/10(金) 12:19:19.98 ID:eKlAHniIO
棚。

隊長(迂闊だった……)

隊長(今回は安全な仕事だと思っていたから、油断していた)

隊長(まだ日の浅いチームだ、単純だが手応えのある作戦で連帯感を高めるつもりだったのに)

隊長「くそっ」

隊長(仕掛けはあれ以外にも二つ)

隊長(俺たちがこの作戦に入るとは限らなかったから、狙いは司書さんか?)

隊長(……個人的な恨みは分からんが、仮に司書さんが攻撃されたら、図書館は止まる)

隊長(だが、それに何の意味がある?)

隊長(罠をばら撒いている……とか?)

隊長(完全にいたずら? その線は薄そうだが)

司書「隊長くん」

隊長「はいっ?」ビクッ
48 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/10(金) 12:19:45.66 ID:eKlAHniIO
司書「ちゃんと休憩したら〜?」

隊長「ああいや、それよりあと二冊もありましたよ」

司書「やだ〜ほんと困る」

隊長「悪質ですから、警備隊に報告したほうがいいですよ」

司書「そうするわ。で、隊長くんの仕事は?」

隊長「まだかかりますよ……」

司書「じゃあ、今日はいいわ。他の子の仕事は終わっちゃったし」

隊長「いいんですか?」

司書「また後で来てくれれば」

隊長「ありがとうございます」

司書「で、で、それよりさぁ」
49 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/10(金) 12:38:23.22 ID:eKlAHniIO
司書「どの子が君の好みなの?」

隊長「は?」

司書「私、好感度上がるようなアピールしといたからさ」

隊長(あー、そうだ。この人めんどくせぇんだよな)

隊長(下手に対応してもめんどくせぇしな……)

隊長「顔は救護員が好みですね。性格付き合いが浅いのでなんとも」

司書「うふ、うふふふ。はっきり答えちゃってまぁ」

隊長「もちろん、司書さんの方が好きですよ」ニッコリ

司書「ガキはお断りだわー」

隊長(うっぜ)

剣士「……おーい、リーダー!」

隊長「おー、終了にするぞー」

作戦2終了。
50 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/10(金) 13:22:27.78 ID:eKlAHniIO
休憩時間。

隊長「……結局、連帯感も何もなかったような気がするな」

隊長「いずれにしても、司書さんに恩を売るのは成功した」

隊長「……おそらく」

隊長「代わりに、より深みにハマった気もするが」

隊長「だが、メンバーはすっきりしてないだろう」

隊長「とりあえずフォローをしてやらんとな……」


剣士を労う
救護員を見舞う
術士と雑談する
工兵を褒める
図書館で残った仕事を片付ける
51 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/10(金) 23:08:01.42 ID:z2DyE2IPo
剣士
⇒ 救護員
術士
工兵
図書館

隊長「うーん……こないだは時間がなかったから、二人には会えなかったしな」

隊長「一応、口実もあるし、まず救護員のところから行くか」

隊長「めんどくせーけど」
52 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/10(金) 23:14:02.29 ID:z2DyE2IPo
女子寮前。

隊長(しかし、よく考えたら女子の部屋に突撃するというのもあれだな)

隊長(……手紙でも書いておくる程度で良かったか)

救護員「あれー、隊長、どうしたんですか?」

隊長「お、ああ」

救護員「もしかして、誰か恋人とか」

隊長「違う違う。救護員の様子が気になってきてみたんだ」

救護員「……ええっと、隊長、私には好きな人が」

隊長「あ? あー、いや、そうじゃないよ」

隊長(色ボケ脳が)

隊長「……今回の作戦、救護員にダメージを与えてしまった」

隊長「簡単な仕事だとたかをくくっていたんだ。ごめん」

救護員「え、え、え?」

隊長「それで、なんといっても呪いを受けただろう。なんともないか、気になってね」

救護員「えーっと、え?」

隊長(なぜ混乱している)
53 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/10(金) 23:18:50.56 ID:z2DyE2IPo
救護員「あのー……要はお見舞ってことですか?」

隊長「そうだけど」

救護員「いやー、私なんかお見舞いされるほどのモンでもないっすよー」

隊長「何言ってるんだ。同じチームの一員だろ」

隊長(そう思われたいなら思っておいてやるがな)

救護員「……」

隊長「なんともないなら、それでいいよ」

救護員「た、隊長って優しいんですね」

救護員「ほんとに、私が好きとかそういうんじゃないんですよね?」

隊長「心配してるだけだよ」

救護員「うー……」

隊長「……救護員が工兵を好きなのは知ってるけど?」

救護員「うひぃっ!?」

隊長(奇声を発したぞ)

救護員「なななななんで知ってるんです」

隊長「工兵から聞いたんだよ」

救護員「う、うー」
54 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/10(金) 23:24:57.30 ID:z2DyE2IPo
隊長「言っちゃまずかったかな」

救護員「いや! いいんです!」

救護員「どうせもう何十回とフラレてますし……」

隊長(分かる気がする)

救護員「で、でも、なんていうか、図書館の時も思ったんですけど」

救護員「け、剣士さんも隊長も、その、優しくしてくれるから」

隊長「……どこが?」

救護員「めちゃめちゃ優しいですよ! こう、私みたいなのに、手をきゅっと」

隊長「そりゃ原因を確認するためでしょ」

救護員「そうなんですかねー。私、ドン臭いから、失敗するとひたすら怒られてましたし」

隊長(その上、反省しなさそうだしな)

隊長「別にアレは救護員が失敗したわけじゃないでしょ。大丈夫」

救護員「うー、うちのメンバーはみんな優しい」

隊長「……惚れちゃう?」

救護員「惚れないですよ!」

隊長(そりゃ良かった)
55 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/10(金) 23:31:16.82 ID:z2DyE2IPo
救護員「んー、でも、今回のってなんだったんでしょうね」

隊長「その点については、警備隊にもきっちり調べてもらうことにするよ」

隊長「やっぱり、不特定多数が利用する施設だしね」

救護員「そっかぁ。なんか、私に対する罰ゲームかと思っちゃいましたけど」

隊長「そう卑屈にならないの」

救護員「うぇっ!?」

隊長(また奇声を発したぞ……)

隊長「そんなに後ろ向きだから、工兵も振っちゃうんじゃないの」

救護員「そ、そそ、それは」

隊長「……ごめん、デリカシーがなかったな」

救護員「あ、ああ、いえ、ホントのことですし」

隊長「とにかく、最初の作戦だって、工兵が早くに復帰できたのは救護員の手当のおかげだ」

隊長「いなくちゃうちのチームは回らないよ」

救護員「そうですかねぇ〜」

隊長(めんどくせぇ……)
56 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/10(金) 23:37:44.39 ID:z2DyE2IPo
隊長「……」

隊長「はぁー、ようやっと逃げ出してきたぞ」

隊長「分かった。やたらマイナス思考のくせに、行動力があるんだな」

隊長「つかまえたらなかなか放さないのに、話す中身は鬱陶しいから」

隊長「あんなループに付き合わされていたら、そりゃあ工兵だって嫌う」

隊長「……救護員の相手は骨が折れそうだな」

隊長「さて、もう時間もなくなってきたし、あと一人会うかどうか……」


剣士
術士
工兵
図書館
57 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/10(金) 23:43:28.21 ID:z2DyE2IPo
剣士
術士
工兵
⇒ 図書館


隊長「……もう一人会いに行くってのは面倒だ」

隊長「術士にはきちんと会ってないが、女子だしな」

隊長「なんとか会える方法を考えておかないといけないが」

隊長「とりあえず今回は、図書館の手伝いを完遂させよう」

隊長「……昨日の今日で、司書さんに会うのはいやだがな」

隊長「あー、めんどくせぇ」
58 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/10(金) 23:46:52.14 ID:z2DyE2IPo
図書館準備室。

司書「あらー、もう来たの。じっくりやるつもりだったのに」

隊長「なんだかんだで、なかなか一人ではやらないでしょう?」

司書「てへり」

隊長(殴りてぇ)

司書「隊長くんって本当に顔に出るわよね〜」

隊長「あまり言われません」

司書「みんな節穴なのかしら」

隊長「みんな結構周りのことはどうでもいいんじゃないですかね」

司書「ふーん……」

司書「そういえば、お仲間が来てたわよ」

隊長「お仲間?」
59 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/10(金) 23:52:39.77 ID:z2DyE2IPo
図書館。

術士「隊長」

隊長「術士、来てたんだ」

術士「うん、まだ仕事が途中だったのにどうしたのかなって」

隊長「残ってるのは俺が頼まれたことだからね」

術士「同じチームでしょう、もっと頼ってくれてもいいのに」

隊長(四六時中、一緒にやってたら俺は間違いなくどこかでキレる)

隊長「まあ、俺が任された仕事だったから」

術士「私、いろいろ手伝うわよ」

隊長「そりゃありがたいけど……」

術士「最近、戦術書も読んでるし、後衛も任せてほしいっていうか」

隊長「いやあ、そこまではいいかな」

隊長(余計なお世話だよ!)
60 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/11(土) 00:03:13.95 ID:YvOvBi8Lo
術士「どうして?」

隊長「指揮が二つもあると混乱するんじゃないかな」

隊長「俺としては、術士にはもっと術を極めてほしいよ」

術士「……でも、最初の作戦の時も」

隊長「うーん、判断力を鍛えるのと、戦術を学ぶのは別だと思うよ」

術士「……」

隊長(ああ、涙目ですかそうですか)

隊長「つまりその、ええと」

隊長「……術士が俺を頼りないと思ってるのも無理もないけどさぁ」

術士「え? そ、そういうつもりじゃないわ」

隊長「ホント?」

術士「そうよ、そうじゃなくて、隊長の役に立ちたいっていうか」

隊長「それなら、今でも十分判断できてるさ」

術士「そうかしら」
61 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/11(土) 00:08:17.36 ID:YvOvBi8Lo
隊長「どちらかって言えば、術士は術の使い方がまだまだ甘いかな」

術士「そう?」

隊長「ああ。例えば、方陣術だけど、書き文字入れれば発動するんだから、わざわざ叫ばなくてもいいと思う」

術士「……発声魔法が羨ましくて」

隊長「だったら今度、発声魔法も練習しよう。付き合うよ」

術士「本当?」

隊長「ああ。術士は術を極めてほしいから」

術士「隊長が言うなら従うわ」

隊長「うん、よろしく」

隊長(この路線でなんとかなったか……)

隊長「それで、図書館の仕事なんだけど」

術士「司書さんに頼まれたことを、ちょっとだけ」

隊長「そっか。じゃあ、二人で分担して行動しよう」

術士「はい」
62 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/11(土) 00:20:07.93 ID:YvOvBi8Lo
しばらくして。

隊長(ん、そろそろ済みそうだな)

隊長(お、これは)

隊長(……呪術の本か)

隊長(そういえば、剣士のやつ、やけに呪いに詳しいんだよな)

隊長(やっぱり、呪印とかやってるからか)

剣士『強くなるためなら、何でもやるんだ』

隊長「……」

隊長(えーと、身体強化……)

隊長(「呪術はネガティブな側面を語られやすいのですが、おまじないを呪いと書くように」)

隊長(「シンプルに願い事を叶える術体系です。もちろん代償は」)

司書「な〜に、読んでるの〜?」

隊長「うおっほい!」
63 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/11(土) 00:25:09.95 ID:YvOvBi8Lo
隊長「急に脅かさないでください!」

司書「ちゃんと終わったら、報告に来ないとー」

隊長「はぁ、あ、もうそろそろで終わります。それと……」

司書「この本を借りたいのね」

司書「なに? 『呪術入門』? はー、隊長くん相変わらず多趣味ね」

隊長「いやほら、例の救護員がひっかかかったのも呪術でしたしね」

司書「知識欲ほうふ〜、あなたのとこのメンバーはホント幸せよね」

隊長「からかわないでください」

術士「司書さん、終わりましたけどー?」

司書「はいはーい、で、隊長くんは?」

隊長「ほぼ終わりました」

司書「じゃ、またお茶にしましょーう」

隊長「ありがとうございます」
64 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/11(土) 00:29:38.99 ID:YvOvBi8Lo
隊長「……」

隊長「やれやれ」)

隊長(ちっ、剣士のやつ)

隊長(「……シンプルに願い事を叶える分、代償も直接的に影響を及ぼすものが多いことも事実です」)

隊長(ちゃんと分かってて呪印なんぞ使ってるのかね)

隊長「……まあ、あとで話しておくか」

隊長「しかし、あれだな。この際だから、術士に会いやすい場所として図書館をチェックしておこう」

隊長「女子寮に押しかけるわけにもいかないしな」

隊長(やれやれ、懸案は尽きない)

隊長(あー、めんどくせぇ)
65 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/11(土) 00:31:33.61 ID:YvOvBi8Lo
今夜はここまで。

こんな感じで進行します。
もう少し人が多ければ安価とかやってみようかなーって思ったんですけど、
無理そうなのでまたひたすらだらだら続けます。
66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/08/11(土) 02:04:24.55 ID:hcujRjN+o
面白いがんばれ
67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2012/08/11(土) 20:07:34.95 ID:e8TszZneo
安価に乗れるほどじゃねーが俺も見てるぞ
エタらない程度に気楽にやってくれ。どうせ人はそのうち増える
68 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/12(日) 00:28:13.00 ID:Tmls0qtqo
作戦3『となり町まで備品の買い出しを行え』

隊長「じゃあ、パーティー編成しよう」

剣士「ちょっと待てや」

隊長「どうかしたのか?」

剣士「どうかしたじゃねぇ! 図書館の仕事はともかく、これは完全におつかいじゃねぇーかっ!」

術士「……カイロ? ドーセン?」

工兵「機械に関する道具だよ。それほど丈夫じゃないけど」

救護員「そういうのって、業者の人が持ってきてくれるんじゃないかしら」

工兵「うーん、量は少ないから、生徒に任せてしまう程度のものではあるんだよね……」

隊長「剣士は嫌なのか、こういう仕事」

剣士「当たり前だっ! 他の連中は遺跡の調査や魔物退治なんかやってるんだぞ!」

隊長「正式な実習、仕事だろうと、おつかいはくだらないってところかな」

剣士「そりゃ……! いや……」
69 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/12(日) 00:29:35.24 ID:Tmls0qtqo
隊長「他のチームが何をやっていようが、俺達には関係ないよ。いや、関係あるかもしれないけど」

隊長「俺なりに、いまの俺達にできる作戦を選んでるつもりだよ」

剣士「……」

救護員「で、でもー、確かにおつかいじゃテンション上がらないかも……」

工兵「いやいや、学園内じゃ作成できない類の精度なんだ。一度、その技術力は見ておくべきだ」

隊長「……まあ、それは置いといても、最近は外で野盗も増えているらしいからね」

隊長「外をうろつくだけで、やっぱり危険はある」

工兵「それは嫌だなぁ」

隊長「第一、となり町って結構距離あるよ。おつかいを舐めてません?」

術士「確かに。前回は油断もして、被害を受けたわけだし」

救護員「……ううー」

剣士「……しかし、こんなに、のたくらして、周りの連中に追いつけるか」

隊長(何を焦ってんだこいつ)
70 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/12(日) 00:30:04.50 ID:Tmls0qtqo
剣士「だが、それなら、野盗のアジトをついでにぶっ潰して」

隊長「ダメ。前回は、依頼者の裁量もあったが、今回は目標がはっきりしているんだ」

隊長「これを、寄り道せず、きっちり素早くこなすのも、大事なポイントだよ」

剣士「なんで回りくどいことを!」

隊長(今のが回りくどい話に聞こえるって、相当重症だなこいつ)

術士「剣士。リーダーの判断にきちんと従うべきよ」

隊長(余計なことを言うなよ……)

救護員「でもー、おかしいことはおかしいって言わないと」

隊長「あー、あのね?」

隊長「みんな上昇志向があって結構なんだけど、俺は全部が全部、役に立つことを選んでるわけじゃないんだけどね」

剣士「ああ?」

隊長「前回は学内の作戦を受けたから、今度は学外の、とかそういう感じさ」
71 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/12(日) 00:31:06.79 ID:Tmls0qtqo
救護員「そんな適当なぁ」

隊長「まったく考えてないわけじゃない。はっきり言って、まだこのチームは弱い」

剣士「だから、俺一人で!」

隊長「剣士は遺跡の調査を任されても一人でやれるの?」

剣士「ぐっ……」

隊長「知識量も経験も少ない。今の学校の実習班でポイントの高い連中は、どこも実地研修なんか腐るほどやってきたセミプロだ」

隊長「俺達には積み上げが必要なんだ。幸い、剣士の腕は確かだし、みんなまだまだ成長する余地がある」

術士「なるほど」

剣士「それはそうかもしれんがな……」

隊長(あー、めんどくせぇ。毎回毎回何が悲しくて演説うたなきゃならんのじゃ)

工兵「……僕も、もっと強くなれるかな」

隊長「強さにもいろいろあるだろう?」

工兵「そうかも」
72 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/12(日) 00:31:34.79 ID:Tmls0qtqo
隊長「んで、今回のパーティー編成なんだけど」

剣士「……ちっ」

隊長「剣士が要になるんだから、そう膨れないでくれよ」

剣士「わかっている。十字の陣形で、俺が先頭に立つってわけだな」

隊長「そのとおり」

隊長(今、『インペリアル・クロス』という言葉が脳内を通り過ぎた)

隊長「工兵は左手、救護員は右手。俺が真ん中で、術士が後ろ。オッケー?」

救護員「き、緊張しますね」

工兵「うん、これなら、無理せずに行動できると思う」

隊長(横の連中に無理してもらう陣形なんだがな)

術士「私は隊長の後ろをついていけばいいのね」

隊長「真後ろだから、指示も簡単だろう。俺が万が一やられたら、全力で逃げてくれ」

術士「分かったわ」
73 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/12(日) 00:32:17.04 ID:Tmls0qtqo
隊長「ほい、で、地図を広げて〜っと」

隊長「学園からとなり町まで、地図だとこっからこう。片道2日、結構近いな」

救護員「でも、数日かかるんでしょ? 野宿もしないとぉ……」

隊長「馬に乗るわけじゃないからな。食料も基本的には片道に少し足した分しか用意されていない」

剣士「寄り道はしないってわけか」

隊長「うん」

工兵「じゃあ、今からでも出発するの?」

隊長「みんな準備は済んでるの?」

術士「隊長は?」

隊長「済んでるよ」

工兵「あれ? でも、食料とテントを背負ったら……」

隊長「俺は荷物係になるつもりだから、自分の持ち物は最低限をさらに切り詰めた」
74 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/12(日) 00:32:43.42 ID:Tmls0qtqo
隊長「なんか質問はある?」

術士「全体の日程をもう一度確認して欲しいんだけれど」

隊長「今日の昼前に出発、野宿を一泊して、翌日の夕方に到着。ここまでいい?」

術士「ええっと、片道2日だから、当日すぐには行動できないから、翌日からで」

隊長「メモあるよ。はい」

剣士「手際のいいことだな」

隊長(ほっとけ)

隊長「町でおつかいをこなすのは、2日を見込んでいる。移動自体は日中の時間帯でやりたいから、2、2、2の6日間、だな」

救護員「えと、えと……」

工兵「6日分を考えなくてもいいんだよ、となり町につけば買い物をするわけだし」

救護員「あー、そっかぁ」

隊長(いかん、今のやり取りで急速に不安になってきた)
75 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/12(日) 00:33:20.10 ID:Tmls0qtqo
剣士「野盗は避けるんだろう」

隊長「いや、あえて突っ切る。街道は見通しもいいから、道を堂々行けば、それほど悪いことにはなるまい」

剣士「なるほどな」

隊長「とりあえず、他にはあるか?」

四者「……」

隊長(ま、やるしかあるまい)

隊長「そうしたら、みんなの準備ができ次第、昼前には出発するよ」

隊長「一時解散!」
76 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/12(日) 00:34:04.57 ID:Tmls0qtqo
今夜はここまで。
77 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/12(日) 22:50:35.03 ID:Tmls0qtqo
しばらくして。

剣士「おう」

隊長(剣士はザック一つか)

剣士「食料もお前持ちなんだろう。なら、先頭で草刈りできるくらいの荷物でいいだろう」

隊長「頼りにしてるよ」


工兵「おまたせ」

隊長「ちょっとそのよく分からない工作台は捨ててきてくれない?」

工兵「ど、どうして?」

隊長(どうしてもくそもあるか。テーブルを背負ってくるとか想定外すぎるわ)

隊長「いくらおつかいの品が工作関係だからって、その場で作業するわけじゃないんだよ」

工兵「そうかもしれないけどさ」

隊長「早く!」

工兵「……はーい」
78 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/12(日) 22:51:28.93 ID:Tmls0qtqo
術士「少し遅れたわ」

隊長(傍目には小さくまとめている気もするが)

隊長「……術士、何冊持ってる?」

術士「五冊だけど」

隊長「置いてきてくれないかな」

術士「でも、道中暇したら」

隊長「旅行に行くわけじゃないんだからさ」

術士「せめて一冊」

隊長「早く!」

術士「隊長がそういうのなら……」

剣士「……おい、俺はいろいろ不安になってきたんだが」

隊長(いまさらかよ……)

隊長「安心してくれ。俺は組んだ時から不安で不安で」

救護員「ごめんなさーい! 待ちましたぁ?」

剣士「でっけぇ!?」

隊長「テント積んでる俺より荷物がでかいんだけど」
79 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/12(日) 22:52:14.09 ID:Tmls0qtqo
隊長「みんな落ち着いて聞いてくれ」

工兵「うん」

隊長「いくら6日間の道程は言え、『手荷物』で十分なんだよ?」

術士「手荷物……」

隊長「うん、術士は魔方陣の配置表とかはいいけど、魔法書を何冊も積むのはやめよう?」

剣士「女は肌の手入れや着替えを気にする前に、身を守るものを整えろ」

救護員「はぁい……」

隊長「もうそろそろ出発しないと太陽も真上に登っちゃう。行くよ」

剣士「おう」

工兵「はい」

術士「……となり町にも本屋ってあるかしら」

救護員「汚れてもいいように、マントと手ぬぐいはきちんとあるし……」ブツブツ

隊長(あー、不安だ。ほんとに)
80 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/12(日) 22:53:26.07 ID:Tmls0qtqo
街道。

剣士「何事もないな」

隊長「そりゃ街道を進んでいるからね」

工兵「隊長、足、速いよ」

隊長(俺が一番荷物を持ってるんだが……)

術士「はぁ、はぁ」

救護員「休憩、しようよぉ」

剣士「まだ遠くに学園が少し見えるぞ。遅いくらいだ」

工兵「そうかも、しれないけど」

隊長「剣士、一応休憩しよう。水分もとっておかないと」

剣士「ちっ」

救護員「あ、あ! 水筒、出しますねぇ」

隊長「ありがとう」
81 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/12(日) 22:53:54.76 ID:Tmls0qtqo
工兵「あー、生き返るなぁ」

救護員「えへへ、二重構造になっていて、冷たさを保ってくれるんだよ」

隊長(それで大きいサイズなのか)

剣士「水筒もいいが、いざという時のために、水を集める方法も考えた方がいい」

術士「そこまでサバイバルをする作戦でもないでしょう?」

剣士「考えたほうがいいって言ってるだけだろうが」

隊長「はいはい、口喧嘩する元気があるなら、すぐ出発するけど?」

剣士「……ちっ」

術士「隊長が言うならそうするわ」

隊長(喧嘩の仲裁までリーダーの仕事なのかねぇ)

救護員「……だから、となり町で二日間でしょ?」

工兵「そりゃ時間があればいいけどさ……」

隊長(あっちはあっちでデートの駆け引きですか……)
82 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/12(日) 22:54:36.62 ID:Tmls0qtqo
剣士「……おい、今どのあたりを通行中だ?」

隊長「まだ全然だよ。今日中にかなりの距離を進まないと、明日は強行軍になるな」

剣士「それだが、明日を強行軍にした方がいいかもしれん」

隊長「なんで?」

剣士「地図上では、この辺りから道に対して森が近くなる」

隊長「……まあ、野盗や魔物が潜むにはうってつけだね」

剣士「夜中に襲われる可能性もある。お前だって、そのくらいは分かるだろうが」

隊長「うーん」

隊長(確かにそうだな。見通しがよいところは、連中の拠点から遠いから、襲われる率も少ない)

隊長(日中疲れてる状態で襲われたら、とも思うが……)

隊長「……分かった。じゃあ、この森の手前までは進もう」

剣士「分かりゃいいんだ」

隊長(一言がうざい)
83 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/12(日) 22:55:23.70 ID:Tmls0qtqo
とりあえず、今夜はここまで。

たかがおつかい任務ですが、多少長くなります。
84 : ◆k.6bdeNTfg :2012/08/14(火) 19:45:46.89 ID:lgT5qf/No
夜。

隊長「今日はもうダメだな。野宿しよう」

剣士「ああ」

工兵「……はい」

術士「……分かったわ」

救護員「疲れた〜!」

隊長(こいつが一番元気そうなんだがな)

隊長「テントの張り方とか、一応、習っているよな?」

剣士「それよりも夜営の見張りを誰にするか決めろ」

隊長「そこまでやる必要があるかな?」

剣士「何があるか分からん」

隊長「しかし……」クルッ

救護員「ああ、もう、ホントに疲れたね〜、はい、おしぼり」

工兵「あ、りがとう……」ハァハァ

隊長(夜営なんかできんのか)
85 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/14(火) 19:46:13.90 ID:lgT5qf/No
隊長「夜営は俺と剣士でやろう。後の三人は無理っぽいし」

術士「できるわ、そのくらい……」ハァハァ

救護員「悪い気がするし〜」

隊長(お前はやれそうだよな。いや、やらせても失敗するかもしれんが)

工兵「そ、それに、二人も疲労が」

剣士「お前らとは鍛え方がちげぇんだよ」

隊長「……明日、町につくんだから、その時にゆっくり休むよ」

術士「でも……」

隊長「じゃあ、テントを張るくらいはお願いしようかな」

救護員「あ、じゃあ、私は夜食準備しておきますね」

隊長「そうだな、よろしく頼む」

剣士「ふん」
86 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/14(火) 19:46:46.12 ID:lgT5qf/No
食後。

剣士「とりあえず、交代でいいだろう」

隊長「……初日から張り切りすぎじゃないの?」

剣士「……」

隊長「実はちょっとワクワクしている」

剣士「そんなわけがあるかっ!」

隊長(してんのかよ、こいつ)

隊長「大体、よくよく考えてみれば、大して荷物も持っていない学生5人を襲う野盗なんかいるもんかなぁって」

剣士「こういうのは、あれこれ試すのも大事なことだ」

隊長(試して失敗しなければいいんだがな……)

剣士「俺達は経験を積むべきなんだろう?」

隊長「自分たちの実力を素直に認めなければ、経験にならないよ」

剣士「……俺が弱いってのか」

隊長「そうじゃないけどさ」
87 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/14(火) 19:47:14.47 ID:lgT5qf/No

救護員「もー、もっとくっついていいのに」

工兵「やめろよ……」

術士「ねぇ、寝るならもっと静かにしてくれない?」


隊長「……彼らも勘定に入れて、強さ弱さを見ないとさ」

剣士「ちっ」

隊長「まあ、他の班のことは気になるけどねー」

剣士「……」

隊長「……」

剣士「なあ」

隊長「なに?」

剣士「お前は他のチームをどう見ているんだ」

隊長「どうって?」

剣士「俺らのチームを未熟だっていうからには、他が羨ましくてしかたがないんじゃないのか」

隊長「そうだねぇ」
88 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/14(火) 19:47:40.96 ID:lgT5qf/No
隊長「まず、うちの学園、あからさまに一番から順に良い連中を組み合わせてるからさ」

隊長「一番隊……はっきり言って、ここは卒業後のスカウトでも引く手数多だろうねぇ」

隊長「実際、プロチームに混じった案件の遂行も受けているみたいだし」

剣士「あっそ」

隊長(なんだその態度)

隊長「……ここに関しては本気で羨ましいな。リーダーは学園トップの生徒会長」

隊長「加えて斧戦士、格闘士、盗賊、魔術師の五人は成績でもトップクラスだ」

隊長「二番隊の魔剣士もすごいよなー、イケメンだし」

隊長(マジで俺が隊長をやっていることを腹抱えて笑い出したくなるレベル)

剣士「……やっぱり、お前も羨ましいか」

隊長「そりゃ、最後に決まった戦隊だとねぇ」

剣士「そうじゃなくて、そいつらが羨ましいのかってことだ」

隊長「……えーっと、組むなら彼らと組みたかったかってことかい?」

剣士「そうだ」
89 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/14(火) 19:48:12.51 ID:lgT5qf/No
隊長「いや、どうかな……」

剣士「……」

隊長「剣士の方こそ」

剣士「あ?」

隊長「そんなに強いのに、うちみたいな隊に組まされて、ひどい目にあってるって思ってんじゃないの」

剣士「……」

隊長「あー、やっぱり思ってるんだな」

剣士「んなわけねぇだろ!」

隊長「じゃあ、どう思ってるの?」

剣士「俺はただ……いや、俺は……」

剣士「どうでもいいだろうが!」

隊長(うるせぇ)
90 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/14(火) 19:48:38.73 ID:lgT5qf/No
朝。

隊長「……結局、何もなかったな」

剣士「ああ」

隊長「一応、今日は朝から移動しよう。うまくすれば昼になる前に森の近くは通り過ぎるかもしれん」

剣士「……起こしてくる」

隊長「頼む」

隊長「……」

隊長「んー」ノビー

隊長「ま、夜警も経験のうちだろう。あー、めんどくさ」

術士「おはよう、隊長」

隊長「うおっ」

術士「あ、ご、ごめん」

隊長「は、速いね」

術士「うん、途中から、起きてたから」
91 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/14(火) 19:49:10.31 ID:lgT5qf/No
隊長「は、起きてた?」

術士「うん、剣士と隊長に任せきりも、と思って」

隊長(いやいや、そんな体力がある方じゃないだろお前)

隊長「それはありがたいけど……」

術士「剣士にはバレたから、隊長が仮眠してる時に、ちょっとだけ一人で」

隊長「あ、あのね、今日は昨日より歩くから、むしろ体を休めてほしかったんだけど」

術士「そ、それは……」

隊長「いや、今日がんばれるならそれでもいいけど、無理しちゃだめだよ?」

術士「でも、私……」

隊長「うん」

術士「二人だけ頑張るんじゃおかしいって思ったから」

隊長(こういう女は特に嫌いだわ、俺は)
92 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/14(火) 19:49:38.84 ID:lgT5qf/No
隊長「まあ、剣士も少し休めたなら良かったかな。一番起きてたし」

術士「私、大丈夫だからね?」

隊長「分かってるよ」

隊長「……ま、今日はとっとと町にたどり着いて、さっさと寝ちゃいますか」

術士「ええ」


救護員「おふぁようございま〜」

救護員「朝ごはんできますよ〜」

剣士「さっさと起きろ!」

工兵「あい」
93 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/14(火) 19:50:06.87 ID:lgT5qf/No

隊長「じゃあ、今日も剣士が先頭で大丈夫?」

剣士「ああ」

隊長「疲れたら、無理せずに言ってね。どうせ、町についたら今日は寝るつもりだし」

剣士「……分かったよ」

隊長「んじゃ、みんな行くぞ〜」

術士「ふぁー」

救護員「おー!」

工兵「……あい」

隊長(ダメっぽいなこいつら)
94 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/14(火) 19:50:56.13 ID:lgT5qf/No
今夜は一応、ここまで。
更新量が少なくてすまねぇ。
95 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/08/17(金) 23:32:23.93 ID:Otab/3rmo
森付近。

隊長「うう……さすがに眠いな」

剣士「ああ……」

隊長「……他の三人は大丈夫?」

術士「大丈夫よ……」

工兵「なんか外で寝ると肩が凝るよね」

救護員「隊長、私、おつかいを舐めてましたぁ……」

隊長(くっそヘタレども)

隊長「まあ、今日一日我慢だ」

剣士「悠長なことを言うな、いつ何が起きるか分からんからな」

四人『はぁ〜い』

剣士「ちっ」
96 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/08/17(金) 23:41:34.60 ID:z1sAjsLIO
隊長「で、実際のところどうだ?」

剣士「それらしい様子はない……野盗の噂は嘘だったかもしれんな」

隊長「……嘘をつくにはそれなりの理由がいるんじゃない?」

剣士「そんなことは俺には分からん」

隊長(頭を使えよ)

隊長「うーん、別の商隊を襲っている、とかもありえるかな」

剣士「そうだな……」

工兵「そもそも、なんで野盗がこの辺をうろうろしてるって言えるの?」

隊長「一言で言えば、領土の境目で警備を起きにくいからさ」

剣士「警備が手薄なら、その隙間に潜り込むのは容易だ」

工兵「そ、そう……」

救護員「なんだか、隊長と剣士さん、仲が良いですね」

剣士「ああ!?」

救護員「ひっ」

隊長(なんで切れんだよ。どうでもいいだろ、そこは)
97 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/17(金) 23:42:01.84 ID:z1sAjsLIO
夜。

隊長「……ついた!」

剣士「……ああ」

救護員「いや、本当に何事もなかったですね」

術士「楽勝……だったわね……」

工兵「い、いやいや、まだ前半戦だよ。みんな」

隊長「そうだな、とりあえず宿を取ろう」

剣士「ああ……」

救護員「ちょ、剣士さん!? ふらふらしてますけど?」

隊長(こいつ、元気だな。思ってたより体力がありやがる……)

隊長「まあ、無理してるっぽかったし、救護員、様子を見てあげてね」

救護員「は、はあ」

剣士「余計な……」

隊長「はいはい、他の三人で宿をとりに行くよー」
98 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/08/17(金) 23:42:38.55 ID:z1sAjsLIO
宿。

隊長「えーっとね、それじゃ明日からの日程なんだけど」

工兵「はい、基本的には僕が品物を見て回るよ。他の人が見てもよく分からないだろうし」

隊長「それは心強いね」

剣士「……同感だ。俺は寝てる」

術士「隊長、休息も必要じゃないかしら」

救護員「賛成ー! 自由行動にしましょう?」

隊長(うるせぇ、馬鹿)

隊長「自由行動は困るけど、隊は分けてもいいかな」

隊長「まず、工兵は俺と一緒でいいかい? 作戦の遂行は確実に行いたい」

工兵「いいよ」

隊長「剣士は、女性陣二人のお守りを」

救護員「えええええ?」

術士「お守り……」
99 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/17(金) 23:43:04.48 ID:z1sAjsLIO
隊長「あーいや、護衛って言うべきだったかな。剣士なら、その点安心だから」

剣士「……ちっ」

隊長(舌打ちだけとか、疲れてるなこいつも)

救護員「私、やっぱり頼りないです?」

隊長「じゃなくて、単純に食料とか救急用品とか、その辺を見繕って欲しいんだ」

隊長「そこに、剣士が護衛につくのって、そんなにおかしいかな?」

術士「確かに、二手に別れた方が効率がいいわ」

救護員「で、でもでも」チラッ

工兵「……まあ、一日目に揃っちゃえば、二日目は多少時間を使ってもいいよね?」

救護員「だよね! ね?」

隊長「あ、ああ。じゃあ、そういう感じで」

工兵「はぁ……」

隊長(お前、自分から泥沼ダイブしてんじゃねぇか!)
100 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/17(金) 23:43:31.31 ID:z1sAjsLIO
翌日。

隊長「……工兵」

工兵「何も言わないでほしい」

隊長「正直、迷惑しているんじゃなかったの」

工兵「そうなんだけど……なんか押されちゃって」

隊長「まあ、パーティー内で恋愛もいいけどさ」

工兵「そ、そんなんじゃないって!」

隊長「じゃあ、なんなんだよ」

工兵「だから、好かれてるってのは、悪い気はしないなぁ〜って」

隊長(ダメすぎる)

隊長「俺は工兵と違ってモテないから偉そうには言えないが、受け身の姿勢はどこかで破綻すると思うよ」

工兵「そうかな……」

隊長(モテないってのは否定しないんだな)
101 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/17(金) 23:43:58.56 ID:z1sAjsLIO
工兵「そ、そういう隊長こそ、術士に随分、好かれて、る?」

隊長「あれは好かれてるっていうのかな」

工兵「なんか、見てる目付きが違うよ」

隊長(俺の見立てじゃ、多分あいつは依存性の気がある)

工兵「いいよね、大人の恋愛っぽくて」

隊長「単に俺が隊長だから、褒めておきたいだけなんだろう」

工兵「そう、かな?」

隊長「そうだよ」

工兵「……僕には良く分かんないや」

隊長「とりあえず、仕事だよ、仕事」

工兵「うん。手に入りやすそうなところは分かるから」

隊長「荷物持ちは任せろ」
102 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/17(金) 23:44:29.76 ID:z1sAjsLIO
しばらくして。

工兵「……」

隊長「……」

工兵「ど、どうしよう」

隊長「いや、ほんとどうなってんのかな」

隊長(どうなってやがる! リストの一覧のものがほとんど揃わないなんて)

工兵「おかしいよ、素材だって手に入りにくいものじゃないのに」

隊長「……これって工兵が作れたりしないのか」

工兵「だから、素材自体が不足してるっぽいんだ」

隊長「……」

工兵「この町って、交易のルートだよね?」

隊長「もう少ししっかり回ってみよう」

工兵「分かったよ」
103 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/17(金) 23:45:02.78 ID:z1sAjsLIO
昼。

工兵「参っちゃったなぁ……」

隊長「……」

隊長(事情は把握できた。野盗が攻撃した商隊が、今回のおつかいの品を多く積んでいたわけだ)

隊長(まさか、その程度で品薄になるとは思われないが……実際、足りない)

隊長「とにかく、もうお昼を回っているから、みんなと一旦合流しよう」

工兵「うう、まさかこんなことになるなんて……」

隊長「俺もだ。移動に気を取られて、こんな展開になるとは予想していなかった」

工兵「実際、手に入らないとなったらどうしよう」

隊長「……」

隊長「高額でもいいから、少ないものを売ってもらうか。野盗の連中をぶっ潰すか、かな?」

工兵「む、難しいねぇ……」

隊長(で、三人は何やってんのか)
104 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/17(金) 23:45:29.45 ID:z1sAjsLIO
救護員「ですから、これとこれはぜぇーったい必要なんです!」

剣士「いらん」

救護員「ええーっ?」

術士「あ、この本……」

剣士「いらねぇだろ。図書館に購入のリクエストしろや」

術士「ここで買わなかったら、手に入らないことも」

剣士「黙れ」

救護員「だって、救護には、身体的な手当と精神的な」

剣士「ぬいぐるみで癒されるのはお前だけだろうがっ!」

術士「私も癒されるけど」

剣士「うるせぇ!」


隊長「くっくっくっ……」

工兵「た、隊長?」
105 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/17(金) 23:46:23.58 ID:z1sAjsLIO
剣士「……揃わないだぁ!?」

工兵「ひいっ」

隊長「怒らないでくれよ、別に工兵のせいじゃない」

剣士「んなこた分かってる!」

術士「でも、どうして?」

隊長「どうも俺達のほしいものと、野盗のほしいものが被ってしまったらしい」

救護員「なんですか、それ?」

隊長「……商隊が野盗に襲われた」

剣士「……ちっ」

術士「ドーセンやカイロなんか、野盗が使うの?」

隊長「たまたま狙った積荷がそれだったって可能性もある」

剣士「どっちにしても、連中を叩き潰せば手に入るわけだろう」

隊長(言うと思った)
106 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/17(金) 23:47:20.01 ID:z1sAjsLIO
剣士「今から野盗のアジトに」

隊長「ダメ」

剣士「なぜだ!」

隊長「はい。野盗が商隊を襲ったのはいつでしょうか」

工兵「……一週間近く、前だね」

隊長「で、よく使い道は分からんものを、そんなに放っておくかな」

術士「売るか、捨てるか、かしらね」

剣士「……」

救護員「あ、でも、その辺に捨てたとしたら」

隊長「野盗のアジトがどこにあるのか分かるの?」

救護員「むぎゅう」

剣士「だったらどうするつもりなんだよ!」

隊長「もう少し、情報を集めよう」
107 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/17(金) 23:47:55.90 ID:z1sAjsLIO
剣士「そんな悠長なことを言ってる場合か!」

隊長「ごめん」

剣士「謝ってる場合かっ!!」

隊長「俺の見通しが甘かった。ハプニングを想定していたのに、この点には頭を回していなかった」

隊長「……このチームで一番未熟なのは、俺だ」

工兵「あ、え、お」

術士「そ、そんなことないわ」

剣士「ちっ」

剣士「……謝れば済むのか? 軽いんだよ、お前は!」

隊長(ぐぬぬ……)

隊長「だから、判断するためにも、情報が」

救護員「……剣士さんは何なんですかっ!?」ガタン
108 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/17(金) 23:48:26.50 ID:z1sAjsLIO
救護員「隊長は失敗したことを認めてるじゃないですか!」

救護員「冷静に判断しなきゃダメだってことも本当じゃないですか!」

救護員「文句があるなら、最後まで聞いてからにしてくださいっ!!」

救護員「……ふんっ」ドスッ

四人『……』

隊長「う、うん」

剣士「おう……」

工兵「そ、そうだね」

術士「そうね」
109 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/17(金) 23:49:04.74 ID:z1sAjsLIO
隊長「えーっと、そうだね。俺の考えを言おう」

隊長「野盗のアジトを襲うのはちょっと難しいと思うんだ。理由は、アジトを見つけられるのか、がまず大きいけど」

隊長「野盗はアジトにいるのかどうかってこと」

工兵「どういうこと?」

隊長「うーん、一週間近く前に襲撃した商隊の荷物が、よく分からない積荷だったとして」

隊長「売るなら出て行かないといけないし、捨てたとしても、次の獲物を狙わないといけないね」

術士「でも、私たちは襲われてないわ」

隊長「そう。また、他に襲撃があったなら、一週間も前の話が残っているってことはないだろう」

隊長「それに、かなりの量を奪ったのだとしたら、捨てるのも手間だ。なんとかして売りたい、と考えるんじゃないだろうか」

隊長「だから、売りに出かけている、と考えるのが正解かな」

救護員「な、なるほどー……」

隊長(頭から煙が出てるぞ)
110 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/17(金) 23:49:45.68 ID:z1sAjsLIO
剣士「……それで?」

隊長「で、どうやって売るつもりなのか、ということなんだけど……」

術士「それが分からないってわけね」

隊長「うん。情報が欲しい」

工兵「えっと……」

隊長「ただ、普通に聞いても、盗賊どもがどこで物を売るのか、なんて分かるわけがない」

隊長「だから、どうしても手に入れたいんだ、という顔をして、買えるルートを探るってのはどうだろうか」

術士「それは、いい考えだと思うわ」

剣士「……待て。要するに、それは裏ルートを探るってことだろう」

剣士「危険だぞ、そいつは」

隊長「素人を騙すつもりなら、結構、ほいほいのってくれると思うけど」

剣士「そりゃそうだろうがよ。俺が言ってるのは、危険性だ」
111 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/17(金) 23:50:17.44 ID:z1sAjsLIO
救護員「でも、他にどうしたらいいんです?」

剣士「お前はどうすればいいのか分かるのか?」

救護員「私だって、ちゃんと話を聞いてたよ!」

剣士「じゃあ言ってみろ」

救護員「えっと、『人に聞く』」

剣士「アホか!」

隊長(俺は泣いていいよな)

工兵「ま、まあ、また二手に別れて聞いたらいいんじゃないかな」

救護員「そ、そーよそーよ!」

隊長「えーっとね……」

術士「じゃあ、お昼、食べ終わったし、午後から回ってみましょう」

隊長「剣士、それでいいか?」」

剣士「……いや。納得した」

隊長(どっちだよ!)
112 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/08/17(金) 23:51:44.44 ID:Otab/3rmo
今夜はここまで。

不安定な天気の中、お疲れ様でした。
113 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/08/20(月) 23:29:44.71 ID:FttC/JK6o
午後。

隊長「はぁ、参ったな」

術士「何が参ってるの」

隊長「読み違いが多すぎて。まさか品不足でつまづくなんて思わなかったよ」

術士「それは仕方ないと思うわ。私も想定外だったし」

隊長(そりゃ、お前は先のことをあまり考えてないからだろ)

隊長(……あー、いや、失態はこっちにあるんだけどな)

隊長「まあ、それだけじゃないんだけど」

術士「ああ。メンバーチェンジしたから……」

隊長「そりゃね。リストが頭に入ってるのを分担しないとダメでしょ」

術士「でも、隊長は私と二人で良かったの」

隊長「俺は自分の身を守れるが、救護員は剣士を護衛につけとかないとと思って」

術士「ああ、そういう」
114 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/20(月) 23:30:16.24 ID:FttC/JK6o
隊長「ただ、逆に不安になってきたんだ」

術士「えーっと、まあ、女一人で男二人って会話つらそうよね」

隊長(あいつに限ってはそんなことはありえないと思うが)

隊長「……むしろ、会話がヒートアップしないでくれることを望む」

隊長「それよりも、ちょっと声をかけてみよう」

術士「そうね……すみません」

商人「あいよ」

術士「ドーセンが欲しいんですが」

商人「なんだそりゃ」

隊長「……あー、崖下商隊って知ってます?」

商人「おお、ここに来る前に襲われた。ここのとこ、盗賊の襲撃なんか少なかったから、かわいそうだったわな」

隊長「そこの荷物にね……」
115 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/20(月) 23:31:08.58 ID:FttC/JK6o
町南部。

救護員「だいたい、人をアホアホ言ってるけど、結局人に聞くんでしょお?」

救護員「ほら、結局あってるじゃないですか。私、正解じゃないですか、結局」

剣士「うるせぇ。あと同じ言葉を何度も繰り返すな」

救護員「どうして?」

剣士「馬鹿に見える」

救護員「なによお!」

工兵「まあまあ……とりあえず、実物は僕が確認するから、その、声はかけてもらって」

救護員「うん! まあ、私ってば人当たりがいいですし〜」

剣士「何も考えてないバカに見えるってわけだ」

救護員「工兵、殴ってもいいよね」

工兵「落ち着いてってば」
116 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/20(月) 23:31:47.59 ID:FttC/JK6o
市場の端。

救護員「あの〜、お兄さん。こういうの探してるんですけどぉ」

太商人「ああ? なんだ、このリストは」

救護員「あのねぇ、なんだかこの町だと品切れになってるみたいでぇ」

救護員「でも、それがないとぉ、学校まで帰れなくってぇ」

太商人「……そりゃあ、大変だなぁ」

救護員「なんとか、手に入りませんかねぇ」

太商人「……う〜ん、そうだなぁ」ジロジロ


  剣士「……ちっ」

  工兵「ちょ、睨んじゃダメですよ」


太商人「お嬢ちゃんが頑張るなら、教えてやってもいいんだけど」

救護員「ええ〜、どうすればいいんですかぁ」

太商人「うへへへ、ちょっとこっちに来てくれよ」
117 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/20(月) 23:32:16.62 ID:FttC/JK6o
救護員「ええ〜、私ぃ、彼氏いるしぃ」チラッ

太商人「まあまあ、俺に任せておけよ。これなら、ちょうど全部揃うからさ」

救護員(ふうん? どういうこと?)

救護員「でも、お兄さんかっこいいしぃ、ちょっとだけならぁ」

太商人「そしたらさ、それがあるところに連れてってやるよ」

救護員「どこにあるですかぁ」

太商人「彼氏なんかおいて一人でおいでよ」

救護員「ええ〜、でも、一人じゃ持ち切れないしぃ」

太商人「大丈夫大丈夫。こっちにも人手おるから」

救護員「じゃあ、行きましょうかねぇ〜」

救護員(えーっと、これやばい?)

太商人「じゃあ、こっちこっち」ぐいっ

救護員(ひいぃぃ)
118 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/20(月) 23:32:53.28 ID:FttC/JK6o
物陰。

剣士「おい、移動するぞ」

工兵「ええと、何、当たり引いちゃったの?」

剣士「隊長を呼んでこい。単なるイタズラ目的なら俺が対処する」

工兵「わ、分かったけど……」

剣士「方向からして、廃屋の方だろう。隊長なら検討つけてくるはずだ」

工兵「た、頼むよ。あいつ、何も考えてない可能性あるし」

剣士「なんだ、知り合いなのか?」

工兵「まあね……」

剣士「まあいい。俺は強いからな」

工兵「頼もしいね。じゃ、さっさと行ってくる」

剣士「……よし」

剣士「会話から察するに、敵は複数と見た」

剣士「なら、それ相応に……」
119 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/20(月) 23:33:25.74 ID:FttC/JK6o
廃屋。

太商人「おーい、連れてきたぞ」

男A「ほー、結構かわいいじゃん」

男B「デブは人当たりだけはいいからな」

太商人「うるせぇカス」

救護員「あのぉ、ここは」

太商人「ああ、ここに積んであるからね」

太商人「それよりも、お嬢ちゃん、お金そんなに持ってないでしょ」

救護員「えぇとぉ、彼氏が持ってるからぁ」

太商人「それじゃあダメダメ。やっぱりちゃんと払える分は払ってもらわないと」

救護員「何を、ですか?」

太商人「体に決まってるだろ」

男A「死にたくなければ、おとなしくしな」

男B「そうそう、我慢してればすぐ終わるよ」

太商人「そりゃてめぇが早漏だからだろ」

男A「ぎゃははははっ」
120 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/20(月) 23:33:51.34 ID:FttC/JK6o
男B「うるせぇよ、ばーか」

太商人「ほら、じゃあ、早く」

救護員「いやあ、ちょっと私の趣味じゃないから」ジリッ

太商人「はぁ? 今更逃げられるとでも思ってんのか」

男A「いいから、殴っちまえ! とりあえず、女は殴れば黙る」

救護員(えーっと、あ、やばい、工兵くんに知らせるの忘れてた」

救護員(ど、ど、どうしよう)

太商人「おらっ、何やってんだよ」

救護員「ちょ、ちょっと待ってってば」

男A「ああ?」

救護員「私、欲しい物があるって言ったんですけど、それって揃うの?」

男B「はぁ? 何言ってんだこいつ」

太商人「いや、揃うよ。ほら、これだってよ」ガッ

救護員「あ、ちょっと!」
121 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/20(月) 23:34:18.74 ID:FttC/JK6o
男A「ああ、おお、おお、ちょうど良かったな〜」

男B「なんだなんだ」

救護員「えっと、何、どういうこと」

太商人「だから、俺ら持ってるからさ、お嬢ちゃんが頑張ればいっぱい売ってあげるから」

救護員「持ってる? なんで? 裏ルートってことですか?」

男A「裏ルートもクソもねぇよ。たまたま持ってるだけ」

救護員「……ああ!」

救護員「あんたらが野盗だってこと?」

男A「おい、とりあえず黙らせろよ」

太商人「おらっ」ゴキッ

救護員「きゃあっ!」

太商人の攻撃!
122 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/20(月) 23:34:51.76 ID:FttC/JK6o
救護員「ちょっと、やめてください……」

太商人「馬鹿か、ここまで来てただで済むと思ってんじゃねぇだろうな」

救護員(やややや、何してるの、みんなぁ、工兵も剣士さんも見てたでしょー!)

救護員「さ、触ったら」

太商人は、救護員の顔を殴りつけた!

救護員「うぐっ」

太商人「ぎゃーぎゃー騒ぐなよ」

救護員「や、やめて……」

男A「おい、俺も混ぜろよ」

男B「ああ、もう一人くらいいりゃあ世話ねぇんだけどな」

救護員「うう、どいてっ! 放して!」

太商人「うるせぇ!」

太商人の攻撃!
123 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/20(月) 23:35:17.68 ID:FttC/JK6o
救護員「うあっ」

太商人「へへへ、黙ってりゃすぐ済むし、ものはちゃんとくれてやるっつってんだろ」

男A「おい、一発目で壊すんじゃねぇぞ」

太商人「分かってるわい」

救護員(嘘、嘘、嘘……)


  剣士「左に撃ちこめ!」

  術士「術式展開――」

  術士の方術が展開――男AとBを吹き飛ばした!


太商人「な、なんだ!」

  隊長「残りはお前だけだ! 死にたくなければ、おとなしくしろ!」

  剣士「……バカがっ! 捕虜以外は潰しておけ!」

  隊長「え、ちょ、剣士!?」

  剣士が猛烈な勢いで、太商人に襲いかかる!

剣士「うおらっ!」

太商人「ちょ、この娘がどうなっても――」

剣士の攻撃!
124 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/20(月) 23:35:43.96 ID:FttC/JK6o
宿屋。

救護員「カンパーイ!」

術士「いえー」

工兵「……おー」

隊長「えーっと、わー」

剣士「ちっ」カツン

救護員「いやあ、ほっぺの傷に染みるよう」

隊長「救護員、大丈夫?」

救護員「大丈夫ですよっ、ギリギリ、ギリギリセーフだったし」

剣士「仕方ねぇだろ。複数人いることは想定できたから、周りの連中から潰していたんだ」

救護員「えー、別に文句言ってるわけじゃないですよぉ」

工兵「えっと、顔も体も大丈夫?」

救護員「……えへへ、まあ、大丈夫」

術士「でも、まさか盗賊が商人を装っているなんて」
125 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/20(月) 23:36:12.43 ID:FttC/JK6o
隊長「いやまあ、考えてみれば盗んだ荷物を自分たちで売るのも、十分ありうることなんだけどな」

隊長「盗賊が商人をやることもあるって言うし」

術士「……襲った商隊も立ち寄るような市場で、堂々と商売してるとは思わなかったけれど」

救護員「めんどくさかったんじゃないんですかねぇ」

工兵「うーん、野盗の時は顔なんか隠してるだろうし、証拠がないって言いはったらそれまでだったろうし……」

剣士「どうでもいいぜ。治安部隊に引き渡す前に、金玉の一つでも潰してやりゃあ良かったがな」

救護員「ああ〜! そんなことなら私も参加したい!」

術士「私も」

隊長「きゅっとなった」

工兵「僕も……」
126 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/20(月) 23:36:47.86 ID:FttC/JK6o
隊長「治安部隊には金を握らせたから、まあ、ただで済ますってことはないだろう」

剣士「おつかいはどうなった」

工兵「……とりあえず、回収できるものは全部したよ。リストは揃うね」

隊長「ただ、問題は襲われた崖下商隊が、すでに町を去っていたことだな」

剣士「大方、あいつらその商隊が失せるまで待っていたんだろう」

術士「それで一週間も、おとなしくしていたわけね」

隊長「支払いは地元の商隊組合と交渉しないといけないな。あとで俺が行ってくるよ」

救護員「……」

隊長「どうしたの? やっぱり痛む?」

救護員「いやあ、みんなが何言ってるのか全然分かんないっすって感じで」

隊長(お勉強をしないといかんな、こいつ……)

隊長「とにかく、救護員が頑張って時間を稼いでくれたおかげで、ほぼ作戦は達成した」

救護員「えへへー」
127 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/20(月) 23:37:17.36 ID:FttC/JK6o
隊長「いずれにしても、代金を組合に支払うことで、リストの品物を揃えよう」

隊長「それで学園に帰れば、とりあえずおしまいだ」

隊長「……それで、ちょっと一つ提案があるんだけど」

術士「何かしら?」

隊長「帰りは馬車で帰ろう」

工兵「賛成!」

術士「私も」

剣士「別に野盗は出なくなったからいいんじゃねぇか」

救護員「でも、やっぱり疲れてるしー」

剣士「……まあ」

隊長「よし、じゃあ、今日は飲めるだけ飲んで、明日荷造りをしよう」

救護員「おー!」

作戦3終了。
128 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/20(月) 23:38:23.15 ID:FttC/JK6o
今夜はここまで。お疲れ様でした。

休憩に入ります。また一回おいときます。

剣士
術士
救護員
工兵
129 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県) [sage]:2012/08/21(火) 12:14:10.94 ID:9MPHqIX7o
こりゃ安価なのか?
安価ならこれまで一番ウザさが薄い術師で

最終的には部隊がうまくまとまるといいんだがねぇ
130 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/08/21(火) 22:59:58.86 ID:+zGK6oBbo
おー、安価みたいなものです。一番早いレスを参照にしようと思ってます。

剣士
⇒術士
救護員
工兵


馬車内。

隊長「……」

術士「隊長」

隊長「ど、どうかした?」

術士「いや、何をしているのかって」

隊長「みんな二日酔い気味だから、見張り」

術士「ああ……」

隊長「剣士は外で馬を借りて並走するって言い出したけどさ、お金が余ったとはいえ、そこまではできないもんね」

術士「そういえば、そうかしらね」
131 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/21(火) 23:00:26.32 ID:+zGK6oBbo
隊長「……まあ、後は反省もしている」

術士「反省?」

隊長「ああ。盗賊を叩きのめす時、最後のやつに剣士が斬りかかろうとしたところで、止めちゃったでしょ」

術士「そうだったかしら」

隊長「そうなの。でも、あれは剣士の判断で正しかった。一瞬遅れていれば、救護員が人質になっていた」

術士「……そんなの、分からないわ」

隊長「それに、一時的にとはいえ、仲間を窮地にやってしまったからなぁ。今回の作戦は反省しきりだ」

術士「隊長はよくやっているわ。どうしてそんなに自分を責めるの?」

隊長「いや、別にそういうつもりじゃ」

術士「剣士にあれこれ言われた時も、あまり反論しなかったじゃない」

術士「私も、救護員が怒鳴ったことは正しかったと思ってるわ」

隊長(何にもわかってねぇ……)
132 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/21(火) 23:00:56.57 ID:+zGK6oBbo
隊長(本来、リーダーが判断ミスをしたら死に直結するんだ)

隊長(こっちゃ相当危機感を抱いているっていうのに)

隊長「……あのさ、剣士の言うことを俺はそれなりに信頼しているんだよ」

術士「信頼って、どうしてよ」

隊長「あいつは強引なところはあるが、それを実行するからな。力量が高いから、信頼できる」

術士「……でも、隊長に楯突いて」

隊長「だから、楯突くとかそういうんじゃないの。口が悪いけど、俺が話をすればちゃんと聞くだろ」

術士「そうかしら?」

隊長(ああ、もう。なんだろうな。こいつ)
133 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/21(火) 23:01:24.25 ID:+zGK6oBbo
隊長「……あのね、俺は、自分が常に正しく判断できてるとは思ってないよ」

隊長「だから、おかしいと思ったらガンガン言って欲しいし、とっさの判断も任せる場面は多いと思う」

隊長「それっておかしいかな?」

術士「……」

隊長「逆に、剣士が間違ってると思ったらこっちも言うよ」

隊長(あいつは妙に抱え込んでるくさいからな)

術士「……」

隊長「だからね」

術士「……隊長がそういうなら、従うわ」

隊長(だぁぁぁあっ、だからそうじゃねぇって!)

隊長「あー、術士も、間違ってると思ったら、もっとガンガン言ってくれよってこと」

術士「そう?」

隊長「そう」
134 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/21(火) 23:01:52.43 ID:+zGK6oBbo
術士「隊長に言われて以来、術も練習したわ」

隊長「そういえば、何も言わずに発動させてたね」

術士「体に護符として効果を発揮させるものもあるわ」ゴソゴソ

隊長「おお、すごい」

術士「……もちろん、微弱だけど」

隊長「まあ、効き目がありすぎるのも困りものだからな」

術士「今度は、この方陣を足に張り付けて、素早く移動できるようにしたらどうかしら」

隊長「それはうれしい。戦略の幅が広がるから」

術士「ふふっ」

隊長(褒めて伸ばすしかないな、この手のタイプは)

隊長「で、発声魔法は?」

術士「……」

隊長「ダメなのね……」
135 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/21(火) 23:02:28.54 ID:+zGK6oBbo
術士「……私、やっぱりダメな人間かしら」

隊長「何言ってるんだよ。術士がいてくれないと、背中が怖い」

術士「本当?」

隊長「ほんとほんと」

術士「良かった」

術士「……ねぇ、隊長」

隊長「なに?」

術士「私、冒険実習で、足手まといになったことがあるの」

隊長「そう」

術士「私のせいで友だちがひどい怪我を負って、学校をやめたわ」

隊長(そりゃ自業自得だろ。全部そうだとは言わんが)

術士「それ以来、チームの実習は避けてきたから……」

術士「か、勝手が分からないの」

隊長「……」
136 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/21(火) 23:03:14.81 ID:+zGK6oBbo
術士「ちゃんとできている? 一人で術も学んでいたから、どのくらいできているのかも、本当はよく……」

術士「それなのに、救護員のこととか、その、ちょっと蔑みの気持ちもある」

隊長「……そう」

術士「隊長、私、がんばるから、その……」

隊長「うん、大丈夫。術士はよくやってくれているよ」

術士「……でも、隊長は剣士の方が信頼出来るんでしょう」

隊長「信頼にもいろいろあるよ。術士は、剣士みたいになりたいの?」

術士「それは無理ね。間違いなく」

隊長「俺もそう思う。だから、術士なりに伸ばせるところを伸ばしてほしいなって思うよ」

術士「……」

隊長「でもま、嫉妬するのはわかるけど、仲間は悪く思わないでやってよ」

術士「し、嫉妬じゃないわよ」

隊長(嫉妬だろ)
137 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/21(火) 23:04:17.81 ID:+zGK6oBbo
隊長(あー、なんとなく分かった)

隊長(こいつは距離感がつかめないんだな、ぼっちだったから)

隊長(だから、俺が褒めたりすると依存気味になるんだ)

隊長(救護員も似たような感じだったな、まあ、あいつは工兵がいるから恋愛脳に傾きまくっていたが)

隊長(めんどくせぇ、自分のことくらい自分で励ませ)

術士「……まだ、学園まで遠いわね」

隊長「ああ、ついたら夕方だな。報告は翌日にしよう」

術士「荷物はどうするのかしら」

隊長「とりあえず男三人でまとめておくよ。寮には泊まらない」

隊長「ほとんど終わったも同然だけど、報告までが作戦だ、一応な」

術士「うん」

隊長(微妙な距離だな。まあ、俺はどうでもいいんだけどよ)
138 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/21(火) 23:05:00.00 ID:+zGK6oBbo
今夜はここまで。

次回、また作戦フェイズに入ります。
139 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/22(水) 11:07:01.95 ID:2CMl0Z3DO
これは良い

乙。
140 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県) [sage]:2012/08/22(水) 11:33:04.18 ID:nrMaSbYWo
こんなに面白いのに人が増えないのは、初期のウザさ加減が酷くてスポイルされちまうせいなのかもな
それも含めて俺は楽しんでるし、計算でウザさを演出できるならそれは高い筆力の証左そのものなんだが
筆者は気にせずやってくれよ 俺は好きだぞ
141 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/08/22(水) 14:30:06.14 ID:74WX/qAYo
ありがとうございます
全員ウザキャラなので無理もないかなーt
142 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/08/22(水) 23:15:49.92 ID:ATatYtb2o
特別作戦「隊長姉を接待せよ」


寮。

隊長「……ただいま」

隊長姉「おかえりー」

隊長「あ!? 姉ちゃん!」

姉「おー、弟よ。勝手に入らせてもらったぞ」

隊長「何してくれてんの!? ここ男子寮なんだが!」

姉「ぎゃーぎゃーうるさい。私は家族に会うために鍵を借りた。オーケー?」

隊長(くっ、理不尽の塊め)

隊長「お前は王国の教育庁に就職したはずだろ!」

姉「お前……?」

隊長「お姉さまは王国にご就職なさったはずですが、いったいどのような御用でいらっしゃったのでしょうか」

姉「弟の顔が気になった」

隊長「嘘つけ」
143 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/22(水) 23:17:10.17 ID:ATatYtb2o
姉「別にそれだけじゃなくってさ、この学園が王国からの出資も受けていることは知ってるでしょ」

隊長(流しやがった)

隊長「……公平性を保つために、卒業者の寄付という形のはずだったが」

姉「出資みたいなもんよ。帝国も、特務機関とかってとこも、その他の国も」

姉「で、今回は王国の特使として、今度から新しく始まった学園戦隊を見学に来たわけ」

隊長「それってありなの? モロに介入じゃねぇか」

姉「他国からも来てるわ。だから問題なし」

隊長「そんなむちゃくちゃな」

姉「どこがむちゃくちゃなの? 介入じゃなくて、見学、文句をつけにきたわけでもないし」

隊長「それは……」

姉「ていうかさぁ、お前、私は外国の特使に当たるんだから、それ相応の接待をしなさいよ」

隊長「だったら特使らしい態度を取れ!」
144 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/22(水) 23:17:36.51 ID:ATatYtb2o
姉「あと、ついでに私、滞在中はこの部屋に泊まるから」

隊長「!」

隊長「……頭がおかしいんじゃないのか」

姉「いや、そんな、血縁に欲情しないでしょ、お前は」

隊長「そういう問題じゃない。女子寮に連絡を入れてやるから、今すぐ考えなおせ」

姉「なんでそこまで毛嫌いしちゃう? あー、すっげー傷つくわぁ」

隊長「それだけでもない。大体、見学ということは、この実習のデモンストレーションが行われるということだろ」

隊長「そこに、身内がいるからということで、特使が泊まる……絶対に周囲からの目は誤った方向に注がれる」

姉「姉弟で学園に通っていた子なんて珍しくないじゃない」

隊長「馬鹿か!? 特使という自分の立場をわきまえろ!」

姉「おい」

隊長「はい!?」
145 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/22(水) 23:18:02.64 ID:ATatYtb2o
姉「お前はこの状況を利用したくないの? 聞いてるわよ、最後に決まったクラス混成チームでしょ」

隊長「……」

姉「私がよく知った弟に、学園戦隊実習の解説も頼みつつ、会ってつもる話をするのはそれほど不自然じゃないわ」

姉「周りの目がどうであれ、私にきちんとアピールすれば評価につながるのは分かるでしょう」

姉「もちろん、戦隊の質が低ければ、それなりの報告をするわ。つーか、お前に肩入れする気はちっともねぇわよ」

隊長「俺も王国に肩入れする気はない」

姉「就職のことを気にしているわけ? それこそバカよね。戦隊のメンバーだって、コネやつながりが欲しい子がいるでしょうに」

隊長「つまり、スカウト目的もあるってのか」

姉「当然。なんのために経費をかけて来ているのよ」

姉「でもね、どうせお前がここから私を追い出しても、別の生徒が接待することになるだけよ。そういう要請をしているもの」

姉「何キレてんのかしらないけど、来るんだったら最大限利用すべきでしょ。私を」

隊長「……」
146 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/22(水) 23:18:53.59 ID:ATatYtb2o
姉「ほら。どっちが正しい?」

隊長「……すみませんでした」

姉「よろしい」

隊長「(チッ)だけど、すべて納得したわけじゃない。いつもみたいな態度で生活するなよ」

姉「分かった分かった。で、お茶は?」

隊長「待ってくれ、今用意する」

姉「はよー」

隊長(別に正しくはない。だが、合理的だとは思う)

隊長(はぁー、ただでさえ戦隊内で頭が痛いのに、足の生えた理不尽も抱えるのかよ……)

姉「エッチな本はないのー?」ゴソゴソ

隊長「おとなしくしとけ!」
147 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/22(水) 23:19:24.36 ID:ATatYtb2o
翌日。

隊長(……ふー、久しぶりにクラス講義か)

隊長(こないだの戦隊のチーム実習が長かったから、肩が凝るな)

生徒A「おはよう」

隊長「おはよう」

生徒B「よう、隊長さん!」

隊長「あはは……(まだ茶化すか)」

B「しばらく戦隊で外部実習してたんだろ。いいよなー」

B「俺なんか草取りだぜ、草取り」

隊長「斧でやったの?」

A「んなわけねーだろ」

B「わはははっ」

担任「おーい、席つけー」
148 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/22(水) 23:19:55.93 ID:ATatYtb2o
担任「今日から、学園戦隊の見学に数名のお客様がいらっしゃった」

担任「といっても、大半がうちの卒業生だがな」

姉「どーもー」

隊長「……」

A「あれ……あれってお前の」

隊長「言うな」

担任「このクラスの隊長のお姉さんだな。案内を頼むぞ」

隊長(クソが!)

姉「よーろしっく」

担任「ちなみに、少ししたら戦隊でチーム対抗の模擬戦も行われるから、準備しておけ」

ざわざわ

隊長「頭が痛い……」
149 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/22(水) 23:20:24.32 ID:ATatYtb2o
昼。

姉「さーて、じゃあ、お前の隊のメンバーを見せてもらいましょうか」

隊長「完全に参観気分だな」

姉「あとはお前が注目してる隊も見に行きましょう」

隊長(それはそれで重要だな。どの程度、相手を把握しているかが問われる)

隊長「だが、俺のメンバーは繊細なんだ。いじめるなよ」

姉「大丈夫だって」

隊長「ではお姉様、まず1組へ移動いたしましょう」

姉「うむ。苦しゅうない」

隊長「……」

姉「言っておくけど、私も恥ずかしいんだからね」

隊長「じゃあ、やるなよ」
150 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/22(水) 23:20:51.11 ID:ATatYtb2o
1組。

隊長「1組は知っての通り、トップクラスを集めたクラスだ」

隊長「学園戦隊も一から五番隊までは、全員1組に集中している」

姉「知ってるわ。学生のくせして一丁前気取りでウザいクラスよね」

隊長「姉ちゃんも1組だったろ……」

姉「で?」

隊長「やはり一番隊が優秀だな。戦隊としても遺跡調査などプロなみの作戦をこなしている」

隊長「一番隊隊長は……おーい、会長!」

会長「どうしたー?」

隊長「ちょっとこっち来てくれ!」

会長「ああ、今行く!」
151 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/22(水) 23:21:18.05 ID:ATatYtb2o
姉「あなたが一番隊隊長?」

会長「はい、生徒会長も務めさせていただいてます」

姉「そんなに固くならなくていいわ」

会長「ありがとうございます」

隊長「生徒会長で一番隊隊長でイケメンだ。欠点もほとんどないしな」

会長「どうしたんだ、いきなり」

姉「ふーん」

隊長「姉です。王国の教育庁に務めておりまして」

会長「そうでしたか! 今回は学園戦隊の?」

姉「そうですね。模擬戦での活躍を期待してますよ」

会長「よろしくお願いします!」

姉「こいつつまんない」ヒソヒソ

隊長「……礼儀正しくていいじゃないの」
152 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/22(水) 23:21:44.62 ID:ATatYtb2o
姉「他にめぼしいのは?」

隊長「あと、うちの隊の剣士がいるはずだが……」

会長「彼なら、休み時間はトレーニングしてるんじゃないかな」

隊長「あいつ……」

姉「じゃあ、また後にしましょ」

隊長「二番隊の魔剣士にもあってく?」

会長「魔剣士くんなら、二番隊のチームで自主練してるんじゃない?」

姉「ふーん。熱心なのね」

隊長「やつはイケメンだが、それに見合う努力をしてるからな」

姉「イケメンねぇ……」

隊長「悪かったな。チビブサイクで」

姉「お前も髪の毛くらい切りなさいよ」

隊長「やだ」
153 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/22(水) 23:22:13.70 ID:ATatYtb2o
2組。

隊長「2組はサポート、援助などのプロを養成している」

隊長「うちのメンバーは……あいつだな」


  救護員「もう、僧侶ちゃんも運び屋ちゃんもからかわないでよぉ」

  僧侶「だってさ、いくらなんでもお酒とジュースは間違えないでしょう?」

  救護員「変な臭いはするなって思ったけどぉ」

  運び屋「みんなで『飲む』って言ったんでしょー? それで普通は間違えるー?」

  救護員「……お酒って苦いんじゃないの?」

  \あははははっ/


姉「どの子が?」

隊長「アホそうなやつ」

姉「ああ……」
154 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/22(水) 23:22:43.69 ID:ATatYtb2o
隊長「呼ぼうか?」

姉「呼んで呼んで」

隊長「おーい、救護員」

救護員「はー……い?」

隊長「お疲れ様。ちょっと人を紹介しようと思って」

救護員「え、だ、誰ですか?」

救護員「も、もしかして、隊長の、彼女?」

姉「姉です」

救護員「あねぇぇぇっ!?」

隊長(うるせぇ)

姉「おー、新鮮な反応」
155 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/22(水) 23:23:11.25 ID:ATatYtb2o
救護員「……あっ、隊長って養子だったんすねー」

隊長「なんでだよ」

救護員「だって、こんなキレイな……え? 勝ち組?」

姉「面白い子ねー」

救護員「おかしいでしょ!? こんなチビで根暗っぽい人のお姉さんがっ!」

隊長(ウルトラカス)

隊長「身長あまり変わらないよね、俺と君」

救護員「そこじゃないですよ!」

隊長「知ってるから、ちょい落ち着いて」

救護員「うわー……なんかもう、自信無くしますわー……」

姉「あら、どうして」

救護員「だって、なんかもう、美女と野獣って感じで」

隊長「……」
156 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/22(水) 23:23:38.60 ID:ATatYtb2o
隊長「姉さんは王国の教育庁で働いていて、今度母校の教育を見学にきたの」

姉「そうなのよ」

救護員「へー、そうなんですかぁ」

救護員「ただの姉自慢じゃなかったんですね」

隊長「……もともと姉自慢じゃないよ」

救護員「うう〜、なんかもう私、死にたいです」

救護員「世の中には頭も良くて美人で、性格良さそうな……あっ、性格は悪いんですか! ひょっとして!」

隊長(本人の前で聞くなよ……でもGJ)

隊長「うん、すっごく性格悪いよ」

姉「お前と同じくらいね」

隊長「……」

姉「何睨んでるの?」

救護員「えーっとぉ、隊長も嫉妬することがあるんですかぁ」

隊長(うるせぇ)
157 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/22(水) 23:24:13.34 ID:ATatYtb2o
廊下。

姉「いやあ、ほんっとに鬱陶しい子だったわね〜」

隊長「ばっさりだな」

姉「そう? ダメだとは言ってないわよ。深い付き合いをしたくないだけで」

隊長「ちゃんと伝えておくよ」

姉「もしかして、他のメンバーもあんな感じなの?」

隊長「方向性は違うがあんな感じだ」

姉「お察し」

隊長「俺は深い悲しみに襲われた」

姉「で、2組やお前のクラスには面白いのはいないの?」

隊長「いないな。平均的に作戦をこなしている連中ばかりだ」

姉「あ、そ」

隊長「3組は通常の戦士タイプを養成しているからな。サポートもそうだが、目的意識的に行動するやつらが少ない」

姉「自分は違うって言いたいわけ〜?」

隊長「さあね」
158 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/22(水) 23:24:42.14 ID:ATatYtb2o
4組。

姉「そういえば、随分、猫を被ってるみたいね」

隊長「学園生活を円滑に進めるためだ、仕方がない」

姉「仲間にもそうなの?」

隊長「叱れば聞いてくれる連中じゃないし。それに、抑制的に振舞ったほうが、思考がスムースに行く」

姉「でも正直、あんたらしくないわよ」

隊長「俺にはらしさなんてないよ」

姉「そ? まあ、私に見せていたのも、一面だけなのかもね」

隊長「……とりあえず、4組は術士系統を養成している。面白い戦隊も結構この辺に集中しているな」

隊長「やはり、術式を扱うのと、作戦を練るのが似ているからじゃないか」

姉「ふーん、たとえば?」

隊長「召喚士だな。召喚系統がトップの成績のやつだが、仲間の扱いもうまい」

隊長「召喚した魔物は、時限的にしかこちらの世界では行動できないから、隊の運営も時間制限的に考えている、そうだ」

姉「どいつ?」

隊長「あそこで談笑しているやつだ」

姉「ひょろながっ」
159 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/22(水) 23:25:08.13 ID:ATatYtb2o
隊長「呼ぼうか?」

姉「うーん」


  召喚士「だから、それは媒介となる物がその役目を果たしていないからだよ」

  魔法使い「だけどね、そんなこと言ったらあの遺跡にあるものは、普通の岩石だったよ?」

  召喚士「ノーノーノーだ。岩石というのは、元々強く結合した石、つまりここでは意志のことだが、を表している」

  召喚士「つまりだな、普通の岩石がどんな性質を持つかを知らなければ……」


姉「めんどくさそうだからパス」

隊長(クズ)

隊長「……他で言うなら、算術士や天測士なんかはすごいぞ」

姉「あ、そういえば、お前の隊のメンバーもいるのよね」

隊長「いよいよもって何のために来たのか」
160 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/22(水) 23:25:44.63 ID:ATatYtb2o
室内。

術士「……」パクパク

術士「……」ズズ

呪術士「あのう……」

術士「……何かしら」

呪術士「なんだか、おたくの隊長さんが呼んでるみたいだけど」

術士「隊長が?」ガタン

術士「……あ、ありがとう」

呪術士「いえ……」パッ


  歌手「どうだったー?」

  呪術士「めっちゃ緊張したぁ」

  歌手「あの子、暗いよねー、いつも一人でご飯食べてるし」

  呪術士「呪術使いの私より暗いとかどんだけ……」


術士「……」
161 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/22(水) 23:26:19.25 ID:ATatYtb2o
術士「隊長」

隊長「ああ、術士。紹介しますよ、こちらが王国の教育庁からいらっしゃった姉」

姉「よろしくねー」

術士「……よろしくお願いします」

隊長「姉って言ったけど、ホントの姉だ」

術士「そう……ですか」

姉「ねぇ、術士ちゃんはどんな術が使えるの?」

術士「もっぱら魔方陣にばかり……」

姉「へぇぇ、召喚術とかは使わないのかしら」

術士「召喚は苦手で……方陣術なら数字を入れて力ある言葉を書付ければ、バカでも発動できますので」

術士「……隊長、お姉様はどういった目的で?」

隊長「聞いてると思うけど、学園戦隊の見学に来ているお客様の一人だ」

術士「そうでしたか。知らずに失礼しました」
162 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/22(水) 23:26:45.39 ID:ATatYtb2o
姉「なんかお前の隊員にしてはすごくまともね」ヒソヒソ

隊長「繊細なんだ」

姉「ぼっち飯してたけど」ヒソヒソ

隊長「ああ……見ちまったよ。見なかったことにしたいわ」ヒソヒソ

術士「あの……」

隊長「な、なんだい?」

術士「それで、私はどうしたらいいのかしら」

隊長「ああ、ただの挨拶だ。それから、今度模擬戦があるから、後でまた作戦を立てようってことを伝えたくて」

術士「分かったわ。私も、備えて術の勉強をするから」

隊長(コミュニケーション能力をあげる勉強した方がいいんじゃないの)

姉「弟をよろしくね〜」ギュッ

術士「は、はい」
163 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/22(水) 23:28:24.32 ID:ATatYtb2o
今夜はここまで。 特別作戦後、作戦4に以降の予定。
164 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/08/23(木) 00:15:11.17 ID:KsfquxmM0
今追いついた
期待
165 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県) [sage]:2012/08/23(木) 00:31:33.53 ID:nSVwXoYio
×スムース
◯スムーズ

ほんと英語のスペリングはクソ不可思議やでぇ……
ちょびっと気になったから書いとく。続き期待しとるよー
166 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/08/23(木) 00:51:25.77 ID:vlNGNjG3o
スムースでも大丈夫でしょ
167 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/23(木) 11:53:59.42 ID:zcnRxCito
面白い。乙だわ
168 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/08/23(木) 21:34:13.16 ID:BBhGNZDso
特組。

隊長「特組だ。あまり関心がなかったんだが、他クラスに収まらない冒険者の養成を行なっている」

姉「ふうん、最近できたやつね。どんな人を養成しているわけ?」

隊長「忍者……スパイ技術者だな。旅芸人、踊り子、商人、機械工、鍛冶屋……」

姉「それ、冒険者?」

隊長「もともと芸能技術を持ち合わせている弟子たちが、冒険技術を学びたいということで入ってくることが多い」

隊長「教育の外部化だな。本来、忍者などは組織内で秘密裏に育成されてきたが、組織自体が壊滅させられたりして……」

姉「うそくさー。商人だって、商隊内で育てた方がよっぽどいいでしょうに」

隊長「別の考え方もある。色の少ない冒険者に仕立てることで、フリーに情報を集められる立場に置くということだ」

隊長「がっちり体制の固まっている組織も強力だが、自由に移動できる戦士も必要だ、ということだろう」

姉「……ふうん」
169 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/23(木) 21:34:42.55 ID:BBhGNZDso
隊長「まあ、そういう連中だから、特組には学園戦隊に組織されていないやつも多いな」

姉「ま、最悪、卒業しても古巣に戻ればいいんだもんね」

隊長「そうだな。戦隊にいる連中といえば、うちの隊の工兵とか、踊り子とかかな」

隊長「……踊り子さん!」

踊り子「あれ、隊長くんじゃん」

隊長「うちの工兵はいる?」

踊り子「ああ〜、実験室から帰ってきてないねぇ。そのままご飯食べてるのかも」

隊長「そりゃ参ったな」

踊り子「あ、ひょっとしてそちらの方は……」

姉「姉です」

踊り子「あらまあ、初めまして。お噂は聞いています」

姉「悪名の方?」

踊り子「うふふ、どっちでしょうね」

隊長(居心地の悪い……)
170 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/23(木) 21:35:10.79 ID:BBhGNZDso
踊り子「今度、模擬戦じゃん? あ、ひょっとして、お姉さんは」

姉「そ。王国の特使として、模擬戦を見学するわよ」

踊り子「ううん、そうなると、悪い顔は見せられないですね」

姉「別に気軽に話してくれていいわよ〜」

踊り子「……じゃあ。あの、私って戦闘には向いてないじゃない? どう転んでも模擬戦で活躍できないんだよね」

隊長「それは仕方ないよ。剣舞でも披露してあげれば?」

踊り子「踊り子だからなんでも踊れるわけじゃないし、剣舞なんて儀式的な意味しかないものー」

姉「別に活躍だけを見ないわよ。チームとしてのまとまりとかも見るつもりだし」

踊り子「そうかもしれないですけどねー」

姉「でも、どうして冒険者の学校になんて入ろうと思ったの?」

踊り子「あ、あー、えっと……」
171 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/23(木) 21:35:42.82 ID:BBhGNZDso
隊長「言いたくないなら言わなくてもいいよ。こいつの聞くことなんか」

姉「こいつ?」

隊長「プライベートに関する質問は、特使といえど謹んでいただけますでしょうか」

姉「なにおー」

踊り子「ん、んー、いや、大したことじゃないんだけど……」

踊り子「芸人一座にしてもそうですけど、踊り子って性接待しないといけないみたいな風潮があるんですよね」

踊り子「その点、冒険者としての技術を身につければ、多少は待遇が良くなるかなって」

隊長「……そうか」

姉「なるほどね。確かに、女で冒険者ってキツイものがあるものね」

踊り子「ああ〜、でも、お姉さんみたいにどこかに就職しようかなぁ」

姉「あら? 宮仕えもめんどくさいわよ」

踊り子「そうですか? ふふふ」

姉「ふふふ」
172 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/23(木) 21:36:09.97 ID:BBhGNZDso
隊長「おい! 地雷踏んでんじゃないのか」ヒソヒソ

姉「どうしてよ。勇気を出して話してくれたのに、お前の態度の方が不誠実でしょ」

隊長「……いや、うん。そうかもしれないけど」

姉「ほれ、アヤマーレっ、アヤマーレッ」

隊長「うるせぇ!」

踊り子「……?」

隊長「あ、あー、踊り子さん。なんだ、嫌なら辞めちまえってことだと思う、よ」

踊り子「仕事は好きでやってるんだけどねー」

隊長「……。で、そういえば、戦隊内はどうなの?」

踊り子「ふふふ、うちのメンバーはすごいよー。十七番隊だけど、チーム順位は上位に登ってきたしねー」

隊長「は? チーム順位?」

踊り子「え、知らないの?」
173 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/23(木) 21:37:02.54 ID:BBhGNZDso
姉「そんなのがあるの?」

隊長「いや、聞いたことが……」

踊り子「あ! ご、ごごごめん」

隊長「……」

隊長(姉ちゃんの方を見て否定したな。ということは、正式なものではないということか)

隊長「……教師陣の評価シートを盗み見るなどして、ランキングを作っている」

踊り子「あう」

隊長「当たりか。となると、それを売買している可能性もあるな」

姉「ふーん」

踊り子「そそそ、そんなことは」

隊長「あるの?」

踊り子「うっ……」

姉「ま、証拠はないからねぇ。ただ、評価の対象にはするよ?」

踊り子「いやあああっ」
174 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/23(木) 21:37:37.70 ID:BBhGNZDso
廊下。

姉「裏ごとを知ってると、なかなか抜け出せないのよねー」

隊長「追及しなくて良かったのか」

姉「無駄でしょ。どうせもっと地下に潜るだけだわ」

隊長「……学校側も管理が甘いな。確かに成績をチェックするからには、順位も当然出るだろうが」

姉「素人のランキングなんか役に立つのかしら?」

隊長「姉ちゃんの立場なら知りたいだろう?」

姉「どうかしら。自分の目で見ないとなんともねー」

隊長「うちの学園の知名度から言って、個人単位ではなく、チームとしての完成度を知りたい連中もいるかもしれん」

隊長「大体、学園側としても、個々人の能力にプラスして、集団戦術の向上を目指しているようだから、そういう要望があるんだろう?」

姉「……突っ込むわね。確かに国が冒険者を雇う時は集団で雇う時もあるわ」

姉「だから、そういう要望があるのは確かよ」

姉「でも、そんなランキングごときで測れるくらいなら、見学しにはこないでしょ」

隊長「それはそうだろうが」
175 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/23(木) 21:38:07.54 ID:BBhGNZDso
工兵「あれ? 隊長!」

隊長「おお、工兵。ちょうど良かった」

工兵「どうしたのって……あ、初めまして」ペコリ

姉「初めまして〜」

隊長(こいつら、俺相手には初対面でお辞儀もしなかったくせに……)

工兵「その紋章は王国の方ですよね? 見学に来たんですか?」

隊長「ああ、そういうことか……」

姉「ふふ、そうなんです。いつも弟がお世話になりまして」

工兵「え! お姉さん、ですか」

隊長「ああ。もう聞いていると思うけど、模擬戦があるだろう? それも見学するから、媚を売ったほうがいいよ」

姉「おい」

工兵「あ、あはは、いやでも、お綺麗ですね」

隊長「売り方が下手だね」

工兵「そういうんじゃないって!」
176 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/23(木) 21:38:42.40 ID:BBhGNZDso
隊長「それで、食事にも戻らずに、何をしていたの?」

工兵「えっと……発雷装置を」

隊長「発雷装置?」

工兵「ん、救護員が襲われたじゃない? やっぱり、腕力がない女の子に、いざという時の武器は必要かなって」

隊長「……かえって危険になりそうだが」

工兵「当然、一人で戦えることを前提にしてないよ。だけど、一瞬、動きを止めるってのは大事だと思う」

隊長「ううん、あの状況を想定しているなら、俺の落ち度だよ」

工兵「選択肢を増やすのは、大事だと思うよ?」

隊長「救護員に持たすとかえって狭まりそうなんだけどなぁ……」

工兵「それは言えてるなぁ」

姉「なかなかぶっ飛んだものを作るのねー」

工兵「あはは、まだ試作品ですから」
177 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/23(木) 21:39:25.81 ID:BBhGNZDso
姉「それにしても、機械工? 珍しいお仕事ね」

工兵「召喚術で異世界から流れこんでくる物品を調べてたのが始まりらしいです」

隊長「ふうん」

工兵「ただ、体系だって流れてくるわけじゃないので、なんていうんですか、飛び飛びにしかわからないんですよね」

姉「へぇー」

工兵「師匠が、お前は外の仕事をする方が向いているってんで、町から出されちゃったんですけど……」

隊長「それって見限られたんじゃ」

工兵「言わないで! 考えたら恐ろしいことになる!」

姉「ちゃんとお師匠様とは連絡は取れているの?」

工兵「手紙でやり取りはしてますけど……」

工兵「僕も、未熟ですから、早いところ冒険稼業ができるようにならないと、工房に顔も出せないですよ……」

姉「なるほど、なるほど」
178 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/23(木) 21:39:53.83 ID:BBhGNZDso
隊長「そうだ、あと、剣士は見なかったか」

工兵「ああー、彼ならそこのトレ室に、えっと、彼に会うつもり?」

隊長「なにか不都合でも……」ハッ

隊長(あいつ、トレーニング中は全裸だったな)

姉「どうしたのよ」

隊長「いや、もう一人いるが、まあ、いいだろう、あいつは」

姉「なあに、気になる振りを残して」

隊長(い、いや、さすがに学園内で全裸はないか)

隊長「……トレーニング中で汗臭いだろうから、後でいいだろう」

姉「ふーん?」

ガラッ。

剣士「ふー……」

隊長「服を着てくれ、今すぐにだ」

剣士「あ?」

特別作戦 終了。
179 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/23(木) 21:40:22.77 ID:BBhGNZDso
ちょっくらフロ入ってくるで。
180 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県) [sage]:2012/08/23(木) 22:00:48.06 ID:nSVwXoYio
てらー
181 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/23(木) 22:19:09.60 ID:BBhGNZDso
再開。なんかキャラが増えてきてごめんなさい。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
作戦4『模擬戦に勝利せよ』

教頭「あー、知っての通り、現在各国からお客様がお見えになっている」

教頭「新しく始まった学園戦隊の実習の見学というわけだ。そこで、これまでもチームによる作戦を行なってもらっていたわけだが……」

教頭「模擬戦という形で、分かりやすく見ていただくことにした」

教頭「模擬戦と言っても、五人で戦闘を行うわけではなく、ちょっとしたレースをしてもらうだけだ」

教頭「校庭からスタートして、学園の敷地内にあるカラーボールを取って、戻ってくる」

教頭「その速さを競う、それだけだ」

教頭「なお、お客様からのご挨拶については、どの方も自由に見学したい、ということで省略させていただいた」

教頭「何箇所かに分かれて見学なさっているが、あまり失礼のないように」

教頭「……私への質問は受け付けん。なお、スタートするのは、私の話が終わってからとする」

教頭「それでは話を終わる」

生徒『うおおおおっ、急げええええええ!』ドドドドド
182 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/23(木) 22:19:40.16 ID:BBhGNZDso
隊長「……あー、パーティー編成を行う」

救護員「ねぇねぇ、隊長隊長」

隊長「なに?」

救護員「お姉さんが見てるんでしょう、緊張しないんですかぁ?」

隊長(うるせぇぞ)

剣士「それより、また編成かよ」

隊長「まあ、周りをよく見てよ。一番隊もまだスタートしてないだろ?」

工兵「そうだね」

隊長「なんでかって言うと、ひとつは目的の『カラーボール』が何なのか分からないし、どこにあるかも分からない、その上、何個あるのかも分からないってことだ」

術士「確かに。敷地内ということと、カラーだから、色鮮やかっていうことくらいかしら」

隊長「色鮮やかどうかも分からないけどね。速度を競うレースとはいえ、何を目標にしていいのか分からないから、冒険者向きのレースだってこと」

剣士「ちっ、めんどくせぇな」
183 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/23(木) 22:20:11.66 ID:BBhGNZDso
隊長「ただね、方法は数パターンに集約されると思うけど」

救護員「えーっ? 探しに行くしかないんじゃないですか?」

隊長「カラーボールを取って、戻ってくる。提示された条件はこれだけだ」

隊長「一つ、探して戻ってくる。一つ、取ってきた人から奪う。それから……」

剣士「全員ぶちのめす」

隊長「……現実的じゃないでしょ」

工兵「でも、奪うなんてそんな」

隊長「いや、普通にあると思うよ。模擬戦だからって言って、武器も木の杖とかだし」

剣士「……木刀で命は奪える」

術士「物騒ね」

隊長「どの方法を取るかで、陣形や動きも変わってくると思うけどね」
184 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/23(木) 22:20:39.14 ID:BBhGNZDso
一番隊。

会長「じゃあ、どうしようか」

盗賊「ま、普通に考えて、影も形も分からないものを探せってのはおかしいっしょ」

格闘士「やっぱり、先生に聞くのが一番の近道だよねー」

魔術師「だろうな。教頭『以外の』先生に聞くのが早いだろう」

斧戦士「……ああ。『私への』と言っていたから」

会長「そうだね。探す物を確定させること、そしてあわよくば場所を聞き出すこと。それさえ出来れば、俺達より速いチームはないだろう」

会長「では、手分けしていこう」

おう!


二番隊。

魔剣士「……留まっていた方が手っ取り早いが、ペナルティを食らいそうだな」

魔剣士「よし、探している連中の跡をつけるぞ」

四人『いえっさ!』
185 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/23(木) 22:21:06.89 ID:BBhGNZDso
七番隊。

天測士「……見えた。西の方角」

天測士「くふふふ。探し物など、私にかかれば簡単よ」


八番隊。

短パン「うおおおおおおおおっ、森の奥へいそげぇえええええええ!」

呪術士「早いよー……」

短パン「物を隠すならきっと森の中! スピードが勝負なんだっ、この戦いはあああああ!」


十三番隊。

召喚士「つまるところだ。カラーボールとは何を意味しているのか」

商人「知らないわよ」

召喚士「色のついた球体など、何も表していない、教頭の裁量に任されているにすぎない」

召喚士「一瞬で本物を持ってきても、これは違うと跳ね除けられればそれまで、逆に、私がカラーボールを創作しても、信じこまさせれば勝てる」

商人「……それで?」

召喚士「そう、選択肢の一つには『作る』が含まれているのだ。ここから導き出される結論とは――」

召喚士「教頭に『質問』以外ならやってもいいということだ!」

商人「まったく話がつながってないわよね、それ」
186 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/23(木) 22:21:55.94 ID:BBhGNZDso
二十八番隊。

隊長「俺としては、やはり待っていても減点対象になるだけだろうし、どうせなら探して持ってきたほうがいいと思う」

剣士「なら早く言え!」

隊長「ストップ! ただし、何の考えもなしに爆走したって見つからないだろ?」

術士「それは確かにそうだわ」

隊長「じゃあ、質問だ。先生が生徒に隠したものを探させるとしたら、どんなところに隠すかな?」

剣士「見つけてほしくないわけだな……」

救護員「う、う〜ん」

術士「……みんな、どんどん移動していくわ」

工兵「あ、焦っちゃうからそういうのはやめようよ」

剣士「徹底的に遠くに隠すか、すぐ近くに隠す。見つけてほしくないなら、そうだろう」

隊長「オーソドックスに遠くにするか、あえて意図の裏をかくわけだね」

術士「……でも、百人近くが動くわけでしょう?」

工兵「そうだね、そんなにたくさんが移動したら、どんなに巧妙に隠してもすぐバレちゃうんじゃない?」
187 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/23(木) 22:23:13.47 ID:BBhGNZDso
隊長「そうかもしれないな。だとしたら、よほど自信のあるところにおかない限りは、近い場所には置かないかもしれない」

救護員「あ! 自分で身に着けているってのはどうですか?」

隊長「ありえなくないな」

救護員「ま、マジッスか! 私が当たり!?」

隊長「……教頭はどこに行ったか分かる?」

工兵「一応、校庭の朝礼台にいるけど、他の隊に囲まれているよ」

隊長「じゃあ、身に着けていたらあそこに取られちゃうな。とりあえず、保留にするとして」

剣士「……おい、隊長」

隊長「どうした?」

剣士「いまの状況は、お前の言う情報が足りてないんじゃないのか」

隊長「まあ、そうだけどさ」
188 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/23(木) 22:24:01.71 ID:BBhGNZDso
剣士「大体、あんなクソみたいな情報量で一体何を探せと言うんだ」

剣士「前日の作戦会議とやらでも、精々が装備だけはしっかりしておくくらいしか有益な話はなかった」

剣士「……もっと言ってやろうか?」

剣士「教師どもや他の連中が求めているのは何だ? 訳の分からんボールを探してウロウロしているガキの姿が見たいのか?」

剣士「違うな! 殴り合いが見たいんだ! どいつが殺しあいでも役に立つか、それが知りたい!」

剣士「そのための模擬戦なんだ! 戻ってきた連中をブチのめすのが一番早いことくらい分かるだろうが」

隊長「……」(はあ?)

救護員「あ、あの、何いってんですか?」

剣士「……いいチャンスだ。お前らにも言っておく。俺は殺したいくらい憎い奴がいるんだ」

剣士「これはチャンスだ。うっかり、模擬戦闘でそいつが死んじまっても……」

隊長「やめてくれないかな」
189 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/23(木) 22:24:46.51 ID:BBhGNZDso
隊長「どうも妙な方向で張り切ってるなと思ったら、そういうこと?」

隊長「確かにこの模擬戦と称したレースは、生徒同士の戦闘を誘導するようなものになってるけど、それに乗っかるのが正しいとは思えないよ」

術士「その通りよ。だって……」

隊長「術士、ちょっと黙ってて」

術士「た、隊長?」

隊長「剣士。冒険者ってのは、人殺しをする仕事なの?」

剣士「……請け負うならな」

隊長「俺らは請け負ってない」

剣士「だが、目的を達成できなければ、どんなに優秀と言い張ろうが、無能も同然だ!」

隊長「だから、達成できる方法を考えているんでしょ?」

隊長「それに、剣士は仕事に乗じて、それ以外のことをしようとしているじゃん」

隊長「依頼を軽視しているって言わない、それ?」

剣士「……」
190 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/23(木) 22:25:32.27 ID:BBhGNZDso
隊長「……」

剣士「……ちっ」

工兵「あ、あのさ! 険悪なのはいいけど、作戦を進めない?」

救護員「そ、そうですよぉ、私達くらいですよ? まだここにいるの」

術士「……」

隊長「うん。じゃあ、校舎に行こうか」

工兵「こ、校舎?」

隊長「えーと、剣士が言う、情報が不足しているってのは間違いないんだ」

術士「……森に飛び込んでも、情報は降ってこない、わよね」

隊長「その通り。教師から情報を集めるにしても、人がいるところに行かないと、不足は補えない」

隊長「……いいよね、剣士」

剣士「……ああ。指示には従う」

剣士「俺は二十八番隊のメンバーだからな」
191 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/23(木) 22:27:03.06 ID:BBhGNZDso
隊長「とりあえず、室内なら隊列を組んでもしょうがない」

隊長「俺が先頭で行くから、みんなはそれについてきて」

隊長「分かった?」

工兵「おおー」

救護員「お、おー!」

術士・剣士「……」

隊長「じゃあ、行こうか。とりあえず、校舎の中に入った隊は少ないけど、他の先生から情報を集めるってのはどうかな」

工兵「そ、そうだね」

救護員「……こ、工兵くん。もっと明るく言って」ヒソヒソ

工兵「そ、そうだねー! 何人かで手分けして聞いたらどうかなー!」

隊長「分散はいいけど、万が一襲われることもないはないからなぁ」

術士「……とりあえず、職員室に押しかけましょう」

隊長「そうだね」
192 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/23(木) 22:27:41.54 ID:BBhGNZDso
職員室。

教師A「おお、なんだなんだ。今、模擬戦じゃなかったか」

教師B「そうだぞ、こんなところでウロウロして」

救護員「それなんですけどぉ、そもそも、私、カラーボールってなんなのかよく分からなくてぇ」

教師A「……」

教師B「……」

隊長「先生、とにかく、どういうものなのか教頭から聞いていませんか?」

教師A「あ、あー、しょうがないなぁ」

教師B「教頭も、聞かれたら答えていいって言ってたし」

隊長(ビンゴだ!)

工兵「ど、どんなものなんですか?」
193 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/23(木) 22:28:13.12 ID:BBhGNZDso
教師A「模擬戦用って、マークが書いてあるボールだよ」

教師B「この位のな。ちょっと大きいだろ?」

隊長「そんなサイズなら、身に着けていたら分かっちゃうな」

教師A「ふっふっふ。ボールが丸いとは限らないだろ」

教師B「もちろん、丸いのもあるけどな」

隊長「……?」

救護員「えー、じゃあ、空気入れで膨らませないと行けなかったり?」

教師A「おっと、ちょっとヒントを出しすぎたな」

教師B「あとは自分たちで考えろよ」

教師A「それにしても、二十八番隊が一番隊と同じようなルートで来るとはねぇ」

救護員「えっ」

教師B「先生たちもびっくりしてるぞ」

工兵「あ、ありがとうございます」
194 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/23(木) 22:29:16.82 ID:BBhGNZDso
廊下。

隊長「……なるほど」

救護員「ふわぁ、私達、一番隊と同じようなルートを辿ってるんですって!」

工兵「うーん、それはちょっと、にやけちゃうかも」

剣士「……チッ」

術士「……隊長、何がなるほどなのかしら」

隊長「うん、空気入れで思い出したんだけど」

隊長「カラーのボールを隠しましたって言われて、一番思いつかなそうなところってさ……」

剣士「……体育倉庫か」

隊長「そう。まさかボール置き場にそんなもの置いてないんじゃないかなっていう」

救護員「おお〜!」

隊長「それに、先生たちの弁によれば、ボールは膨らんでないものもあるらしい」

隊長「だったら、倉庫で空気入れを取りに行ってもそこまで無駄ではないんじゃないかな」
195 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/23(木) 22:29:46.50 ID:BBhGNZDso
救護員「い、急いで行きましょう!」

隊長「まあまあ、校舎内を走ったら騒がしいから、一旦外に出て――」


―――ひゅばっ!

突然の投石攻撃! 隊長の顔面に直撃!


隊長「うっ!」

剣士「! 下がれ!」

工兵「な、なになに」

術士「隊長!」

救護員「た、隊長……血が、血が出てますよ!」
196 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/23(木) 22:30:47.20 ID:BBhGNZDso
今夜はここまで。
197 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/23(木) 22:44:46.68 ID:BBhGNZDso
キャラが増えてきたので、作者も忘れないために、一応イメージを。

二十八番隊。
隊長:チビ。キタロー系ヘア。中身が漏れやすいけど、自分では演じているつもり。
剣士:肉体派。なんかキレ気味。剣技はうまいというより恐い系。
術士:依存気味。ボサロン毛。メガネ。普乳。モテる要素皆無。
工兵:普通。
救護員:トップレベルのウザキャラ。

司書:おっぱいは小さい。
姉:姉は怖いです。理不尽です。

他。
会長:テンプレしかしゃべれんのかこいつ。
踊り子:もう少し出ます。
なんかいろいろ:今のところどうでもいい人が多すぎるので、あまり気にしないでください。
198 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(熊本県) [sage]:2012/08/24(金) 08:26:56.94 ID:U3kO7PMTo

199 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/24(金) 09:46:19.78 ID:xG9NUwdko
おつ
200 : ◆WPwc2pN1N6 [saga]:2012/08/29(水) 12:45:11.68 ID:15sFwh4lo
工兵「ど、どうしよう」

剣士「下がれ、まだ来るぞ!」


どかどかどかっ!


術士「……救護員、隊長の様子は」

救護員「ええと、血が出てます……」

術士「もっとくわしく」

救護員「い、いえ、傷が深いわけじゃないですけど……目を直接やられたわけじゃ……」

救護員「えーと、隊長、その、目は見えますか?」

隊長「……血ぃが入ってきて見えない」

救護員「し、失明状態、ですかね。一時的な」

術士「隊長……!」

隊長(くそ、まさか、「全員ぶっ潰す」を地で行くやつがいるとはな……)

隊長「……みんなには、怪我はない?」

工兵「だ、大丈夫だよ。それより、隊長の方が」

隊長「無事、ではないな」
201 : ◆WPwc2pN1N6 [saga sage]:2012/08/29(水) 12:45:44.64 ID:15sFwh4lo
剣士「クズどもがっ! 狙い方が完全に殺すつもりだったじゃねぇか!」

隊長「……」

工兵「隊長……」

術士「隊長、大事を取りましょう? 正直、下手に動くのは危険よ」

救護員「動かないでくださいねー、手当しますからねー」

隊長「……」

隊長「剣士、投石はどちらの方向からきた? 相手の狙いは分かる?」

術士「隊長!」

剣士「……林の影だ。影は移動した」

隊長「複数いた?」

剣士「……。撃ったのは一人だが、影はおそらく複数だったな。戦隊の連中であることは間違い無いだろう」

救護員「隊長……あの、もう棄権、してもいいんじゃないですか」

工兵「そ、そうだよ。結構、血が出てるよ?」
202 : ◆WPwc2pN1N6 [saga sage]:2012/08/29(水) 12:46:18.22 ID:15sFwh4lo
隊長「その連中は、どうして俺たちを襲ったんだろうか」

術士「あ、あの……」

工兵「隊長……」

剣士「……ボール狙い、とは思えねぇな」

隊長「そうだな。俺達は一番遅く行動を開始した。では無差別に攻撃してきたってことかな?」

救護員「隊長、あの、落ち着いてください?」

救護員「隊長は怪我しているんですよ?」

隊長「……ああ。最悪の失敗だ」

隊長「どうしてこう、浮かれっちまうんだろう。うかつな失敗が多すぎる」

隊長「今のがより殺傷力のある武器だったら、一発でおしまいだった」

隊長「……くそっ」

四人『……』

隊長(……やはりそうだな。このパーティーで一番未熟なのは……)
203 : ◆WPwc2pN1N6 [saga sage]:2012/08/29(水) 12:46:45.44 ID:15sFwh4lo
隊長「……」

隊長「救護員、俺は棄権しなきゃならないほど、傷はひどいか?」

救護員「目が見えないならうろうろ動きまわるの、難しいと思います……」

隊長「片目が見えないだけなんだよな」

救護員「おんなじですよぉ!? あー、こすっちゃダメですってば!」

工兵「……救護員、僕が隊長を支えるよ」

救護員「ええーっ、でも」

隊長「素早く移動するのは無理でも、目標は分かっているんだから、大丈夫だろう」

隊長「剣士、悪いが先頭に立って誘導してくれ」

剣士「分かった」

術士「隊長、私……」

隊長「どうした?」

術士「ま、負けたみたいで悔しいかもしれないけど、休んでちゃんと手当してもらった方がいいと思う」

隊長「そうだな……」
204 : ◆WPwc2pN1N6 [saga sage]:2012/08/29(水) 12:47:13.34 ID:15sFwh4lo
隊長「分かった。やることをやったらすぐ休もう」

救護員「あのねぇ! 術士ちゃんは隊長のことを考えて言ってるんですよ!」

救護員「だから、その」

隊長「ありがとう。だが、片目が見えない以外は幸い、ピンピンしてるからな」

隊長「それに、このままリタイアはあまりにも悔しいし」

術士「わ、分かったわ。でも、無理はしないで」

救護員「そんなぁ……」

工兵「救護員、途中で布を取り替えるなら、言って」

救護員「もう、分かりましたよ! 好きにすればいいんです!」

剣士「足手まといになるなよ」

隊長「ああ。悪いけど、剣士が頼りだ」

工兵「……それと、防御手段で、発雷装置をつけるかい?」

隊長「いや、遠距離の攻撃が中心だろうし……いや、やっぱりつけてくれ」

工兵「うん」カチャカチャ
205 : ◆WPwc2pN1N6 [saga sage]:2012/08/29(水) 12:47:52.47 ID:15sFwh4lo
隊長「……教室内から行くと遠回りになるが、体育倉庫にはたどり着ける。相手が誰であれ、それが一番いいな」

剣士「なら、こっちが速い。実習棟経由で」

工兵「隊長、足もとちゃんと気をつけて」

隊長「ああ。二人もついてきてる?」

救護員「いますってば」

術士「ええ」

隊長「よし……」

隊長(冷静に考えて、全員潰す、雑魚から潰す、というのは作戦上あまり意味を感じない。倒しきれなければ、時間がかかりすぎる)

隊長(いろいろ言っても、これは競争だからな)

隊長(相手が余程のバカなのか、そうでなければ……俺達に恨みがあるか)

隊長(図書室でも嫌がらせがあったな。結局、誰が仕掛けたのか不明のままだが、あれと結びつけるにはさすがに無理があるか?)

隊長(ああ〜、いろいろ考えていたら、腹が立ってきたわ)
206 : ◆WPwc2pN1N6 [saga sage]:2012/08/29(水) 12:48:39.67 ID:15sFwh4lo
隊長(大体、なんで真面目にやってる俺を狙うんだよ、本気で腐れ根性の肝無し豚ってことじゃねぇか)

隊長(そっちがその気なら、発覚したら容赦なくぶっ潰してやる。男だったら陰部に釘打ち百、女なら腹に丸太三だな)

隊長(はっ、そういえば戦隊だったな。グループ同士でやらせてやろう、連帯責任ってやつだ)

剣士「おい、足もと!」

隊長「うおっ」

工兵「おおっと、杖があるんだから、しっかりしてよ」

隊長「悪い、考え事だ」

術士「……何を考えてたの?」

隊長「さっきのはなんのための攻撃かってことと、ここまで許可されてるとしたら、ちょっと俺たちに勝ち目が薄いってこと」

術士「そんなこと……」

隊長「どうでもよくはないよ。術は禁止されてたっけ?」

術士「……模擬戦だからと言って、方陣は没収されているわ。その場で手描きするしかないわね」
207 : ◆WPwc2pN1N6 [saga sage]:2012/08/29(水) 12:49:39.48 ID:15sFwh4lo
剣士「戦闘はなるべく避ける。それでいいだろうが」

隊長「そうだね。まあ、正面からなら、剣士に敵う相手は少ないと思うけど」

剣士「お前は黙ってついてこい」

隊長(隊長なんだが)

剣士「待て! 全員止まれ」

隊長「どうした?」

剣士「……一番隊だ。かち会いたくない」

救護員「えーっと、一番の人たちなら、最低ランクなんか見向きもしないと思うんですけどぉ」

剣士「ちっ。それをきっちりやるから連中は一番なんだ……」

工兵「そ、そう」

隊長「ま、一番隊が近くを通ったってことは、正解に近いかもしれないってことかもね」

隊長(ラッキーだな。会長なら話が通じる)

剣士「……」
208 : ◆WPwc2pN1N6 [saga sage]:2012/08/29(水) 12:50:55.20 ID:15sFwh4lo
救護員「でも、正直、隊長も怪我してますし、同じ隊同士で協力しちゃいけないなんて理由も……」

剣士「黙れ」

救護員「えーっ、会長さん、いい人でしょ?」

剣士「バカか!? そりゃ良い顔してりゃ、自分の利益に叶うからだ! 競争相手なら、やつは容赦なく叩き潰すに決まっている!」

術士「……うるさいわ。静かにしてくれない?」

盗賊「そうそう、隠れててもバレちゃうぜ」

工兵「わわわ」

剣士「ちっ!」チャキ

隊長「剣士!」

会長「盗賊、どうしたんだ……って、君等は」

隊長「どうも」

会長「怪我してるじゃないか、大丈夫か?」

隊長「片目だけだよ。悪いけど、一番隊様に敵うわけないから、攻撃するつもりなら降参する」

会長「バカ、そんな怪我をして軽口を叩くもんじゃない」
209 : ◆WPwc2pN1N6 [saga sage]:2012/08/29(水) 12:52:08.09 ID:15sFwh4lo
剣士「……近づくんじゃねぇ」

盗賊「何をキレてんだ、こいつ」

隊長「剣士、多分勝てないし、戦っても意味ないから」

剣士「だっ……!」

隊長(一人ならともかく、全員剣士レベルを相手になんか出来ないし)

隊長「剣士」

剣士「……」

剣士「頼む。見逃してくれ」

会長「見逃すも何も、そんな実習だっけ?」

斧戦士「模擬『戦』だからな。大方、その怪我も別の戦隊にやられたんだろう」

会長「……。あ、隊長くん、ちょっと包帯を見せてもらえる」

隊長「いいよ」(上位陣はこちらを舐めてくれるから、かえってありがたい)

会長「……なる、これじゃちゃんと止血になってないよ。ほれ」キュッ

隊長(満足に手当もできてねぇだと……)

救護員「あ、あー。そ、そうですかぁ?」
210 : ◆WPwc2pN1N6 [saga sage]:2012/08/29(水) 12:52:55.17 ID:15sFwh4lo
会長「これでよし」

隊長「ありがとう」

救護員「あ、あ、あの! 会長さん、もしよかったら握手を……」

会長「と、隣のクラスじゃないか。まあ、いいけど」

魔術師「にやにや」

格闘士「くすくす」

会長「声に出して言うな!」

救護員「うわあ、触っちったー。しばらく自慢できるぅ」

術士「……」

隊長「……会長、そっちは順調?」

会長「順調。こっちに来たってことは、君も同じ方向を目指しているんだ?」

隊長「そうみたいね」

会長「ううん、さすがに、盤面試験で一番になったやつはすごいなぁ」

隊長「実技面じゃこのザマだけどね。それに、ボードゲームなんて、ルールを知ってる者勝ちだったから」

会長「そうかな。君の強みは、そうやって自分を過大評価しないところだね」

隊長「褒め言葉として受け取っておくよ」
211 : ◆WPwc2pN1N6 [saga sage]:2012/08/29(水) 12:53:42.32 ID:15sFwh4lo
会長「それにしても……その怪我。正直、実習でそこまですることあるか?」

盗賊「甘い甘い、こいつは就職活動も兼ねてるんだ。そりゃ本気で来るっしょ」

格闘士「そんな狡いことしても、評価しないと思うけどねー」

会長「俺達も余裕を見せている場合じゃないな」

斧戦士「……それが分かったなら、とっとと進軍だ」

   魔術師「……」

   術士「……」

   魔術師「大丈夫、攻撃なんかしないって」

   術士「魔封じは使ったくせに」

会長「早く行くぞ!」

   魔術師「ああ!」

隊長「ああ、会長も気を付けろよ」

会長「肝に命じておく。じゃあな!」
212 : ◆WPwc2pN1N6 [saga sage]:2012/08/29(水) 12:54:26.53 ID:15sFwh4lo
工兵「い、行った?」

剣士「……ああ」

救護員「いやあ、一番隊さんはさすがに貫禄がありますよね」

術士「剣士。殺したいほど憎い奴って、ひょっとしてあの中にいるの?」

剣士「……」

隊長(いるんだな。分り易すぎだろう)

剣士「どうでもいいだろうが。俺のことなんざ」

救護員「ひょっとして、会長さんに対抗意識を燃やしているんですかぁ? それはちょっと身の程知らずっていうか」

ガッ。

剣士「黙れ!」

救護員「いだだだだだだっ」

工兵「ちょちょちょっと、怒らないでよ!」

剣士「てめぇに、てめぇらなんかに分かるかよ!」

隊長「分からないから、放してあげて」
213 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/29(水) 12:55:08.34 ID:15sFwh4lo
隊長(つーか、こいつ、マジで会長を?)

救護員「あー、痛かった……こんなことで怒らないでくださいよ、そんなだから、剣技でも負けちゃうんでしょ」

救護員「会長、剣技実習で一位だもんね」

剣士「この!」

工兵「やめなって!」

剣士「……くそっ!」

隊長(まさかとは思うけど、こいつ、会長を嫌ってるせいで二十八番隊とかになったんかな……)

隊長(会長、教師からも人気あるもんな。事あるごとに反発しているせいで、評価が低くなったとか?)

隊長「剣士の恥ずかしい話は置いといてさ、早く先に進んでくれないかな」

剣士「……俺は、言い訳はしない」

隊長(だからなんだよ)

術士「……隊長、一番隊が行っちゃったってことは、もうボールはないんじゃないかしら」

隊長「ああ、その可能性もあるね。ただ、さっきも行ったように、なんらかの手がかりはあるはずだから」
214 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/29(水) 12:56:13.35 ID:15sFwh4lo
やっちまった……まあ、いいか 
215 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/29(水) 13:52:51.76 ID:15sFwh4lo
術士「隊長、それと……ごめんなさい、さっき魔封じをかけられたから……」

隊長「分かった。ちょっと休憩しよう」

剣士「ちっ」

救護員「ふうぅ、緊張しっぱなしで疲れちゃいましたぁ」

工兵「術士、今の内に魔方陣を書いておいたら……」

術士「ダメよ。ちゃんとした素材がないから、威力の弱そうな術にしかならないわ」

隊長「弱い術でも、工夫次第だよ」

術士「……た、たとえば、なに?」

隊長「麻痺とか毒とか、そういうトラップは?」

術士「7番系統の術は……ダメ。無視できる程度の威力にしかならない」

隊長「少し隙を作れれば、剣士が斬り伏せて」

剣士「頭が回ってねぇようだな。斬り合っている瞬間ならともかく、罠にかけるならそれなりの威力がないと無駄だ」

隊長「……」
216 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/29(水) 13:53:39.83 ID:15sFwh4lo
隊長「じゃあ、こういうのは……」

術士「それは、魔法の使い手なら意味があるかもしれないけど」

隊長「カードはたくさん持っておくべきだよ。小さくするだけでも十分意味があるだろうし」

剣士「……ちっ」

救護員「あの〜、ところで、隊長」

隊長「なんだい?」

救護員「隊長ってもしかして、会長と知り合い?」

隊長「そうだけど?」

救護員「えええ〜!? なんで! なんでです?」

隊長「なんでって、盤面試験ってあったじゃん。戦隊編成のための」

工兵「ああ、あのボードゲーム」

隊長「そうそう。あれの決勝戦で、仲良くなった」

救護員「嘘! 隊長ごときが!」

隊長(うっぜぇ)
217 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/29(水) 13:54:05.28 ID:15sFwh4lo
隊長「部隊指揮のシュミレーションだって言ってたけど、あれ、ルールを知ってれば、知らん人はこてんぱんにできるから」

術士「隊長、一位だったのよね」

救護員「うっそ」

隊長「……なんか、前にも言ったような気がするけど」

工兵「ということは、会長にも勝ったんですか?」

隊長「一応ね、で、その時に結構話し込んだ。お人好しっていうか、正義感が強いやつだよな」

剣士「……お前は騙されてやがる」

隊長「何がだ」

剣士「あいつは、他人を見下しているんだ」

救護員「哀れまれちゃったんだ」

剣士「うるせぇッ」

隊長(めんどくさいやつだな。そんなことで殺したいほど憎いのかよ)

剣士「そんなことじゃねぇよ……」

工兵「救護員、あまりいじめちゃだめだよ」

剣士「……ちっ!」
218 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/29(水) 13:54:34.09 ID:15sFwh4lo
とりあえず、ここまで。今夜もやるよ。
219 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/08/29(水) 16:20:13.85 ID:i6N9PfOfo
救護員うざいなー。犯されてたら良かったのに。
220 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/08/29(水) 19:45:15.73 ID:3TH4KcxVo
体育倉庫。

隊長「……どう?」

工兵「ううん。どれも普通のボールだよ」

救護員「木を隠すなら森の中って言いますけどぉ」

術士「……ねえ、隊長。やっぱり」

隊長「剣士! そこのしぼんだのも集めておいて」

剣士「……ちっ」

隊長「工兵、空気入れでちょい膨らませてみてくれる?」

工兵「いいけど、しぼんでる奴にも文字なんか書いてないよ?」

隊長「いいからいいから」

工兵「分かったよ……」シュコー……

救護員「おお〜、膨らんでいきますねぇー」

剣士「当たり前だろうが」

救護員「……なんなんですかぁ?」

救護員「会長を勝手にライバル視して、勝手に負けてる剣士さんに何か言われると不愉快ですぅ」

剣士「勝手にじゃねぇよ! ……おい、こいつ黙らせてもいいか?」

隊長「救護員、まじめにやろうね」

救護員「……隊長が言うなら」
221 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/29(水) 19:45:50.13 ID:3TH4KcxVo
工兵「いくつか、膨らませたけど」

術士「何も書いてないわ。何だったのかしら……」

隊長(失敗か? いや、確かに教師は「丸いとは限らない」と言っていた)

剣士「別に、膨らませたらどうってことじゃない」

救護員「うーん、なんか新品なのに潰れてるってのも妙ですねぇ」

隊長「新品か。じゃあ、やっぱりこれが正解に近いはずだけど」

工兵「……あ! ひょっとしてだけど」

隊長「何か分かる?」

工兵「……表面上に……」

隊長「ああ……でも、そんなに……」

工兵「特殊な、暗号とかで使われるんだ」

隊長「なるほど……それでカラー……」

救護員「な、なんで内緒話してるんですかっ」

術士「……」

  魔剣士「よーし、そこまでだ」
222 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/29(水) 19:47:52.43 ID:3TH4KcxVo
剣士「失せろ」

魔剣士「失せるのはお前らだ」

弓兵「設置しました!」

魔剣士「ありがとう。いいか、今、目の前に爆雷管を設置したぜ」
 
魔剣士「そこで逆らおうとすれば、逃げ場のない倉庫で黒焦げになる」

救護員「な、な、なんなんですか」

魔剣士「ええっと? お前ら何番隊だっけ?」

隊長「……万年二位の二番隊か」

魔剣士「うるせぇっ! 会長がいなければ俺が一番だ!」

隊長(要するに永遠の二番手なんだろ。色も緑色だし)

魔剣士「まさかボール置き場にカラーボールが隠されてるとは思わなんだが……」

魔剣士「一番隊もこちらに来ていたしな」

魔剣士「よし、お前らがカラーボールを探して取ってこい」

剣士「断る」

魔剣士「俺はリーダーに聞いてるんだ! なあ?」

隊長(……おいおい、まさか、こいつらか? 俺を攻撃してきたの)

隊長(弓兵もいる、条件は合ってそうだが)
223 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/29(水) 19:49:07.76 ID:3TH4KcxVo
士「……隊長」

隊長「なんだい?」

術士「誰なの、こいつら」

剣士「知っておけ。魔剣士一人のワンマンチームだ。一番隊の影で目立たないが、連携が得意で、いつも5人で行動している」

術士「……なるほど」

救護員「えーっと、いつも5人って、相当寂しがり屋なんですね?」

工兵「そういう意味じゃないよ」

魔剣士「……お前ら、人の目の前でよくぞまあ」

弓兵「リーダー、どうします?」

魔剣士「だから、俺はそっちのリーダーに聞いているんだ。隊長バッジをつけているし、お前で間違いない、だろ」

隊長(一番隊に比べりゃ、舐められてる分、こっちが有利だ)

隊長(連携に引きずり込まれれば、それで終わるかもしれんが)

隊長(ただ、それよりも……)

隊長「……。その前にさ。いつから後をつけてきたの?」

魔剣士「ああん?」
224 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/29(水) 19:51:36.43 ID:3TH4KcxVo
隊長「俺ら、最後に出来た寄せ集め隊だよ? まさか、そんな連中の尻を追っかけまわしてきたわけじゃないでしょ」

魔剣士「そんなことに答える義務はないわな」

隊長(確かにそうだ)

救護員「勝手にやってきて、えらそうに!」

魔剣士「弓兵」

弓兵「はい!」ヒュンッ

救護員「うわっ」

魔剣士「分かるだろうが、拒否したら痛い目にあうぜ。嫌なら従え」

術士「……隊長」

隊長「もうちょい待って……分かったよ。でも、一つだけ聞かせてくれ」

剣士「おい!」

隊長「いいから。さっき、俺の目をやったのも二番隊なのかな?」

魔剣士「ああ? 知らねーよ」

隊長(素直なやつだな、これが二番手ってのもな……)
225 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/29(水) 19:52:22.41 ID:3TH4KcxVo
隊長「違うならいいや。じゃあ、工兵、その膨らませたやつを」

工兵「え、いいの?」

隊長「ああ、術士、剣士、よろしく頼む」

術士「……」コク

剣士「ちっ」

魔剣士「妙な動きをするなよ。分かってると思うが」

隊長「ああ。で、多分、これが例のカラーボールなんだが」ぽいっ

魔剣士「おっと」

術士「……展開」


術士は術式7−5−7を展開した! 魔剣士の声を小さくした!


魔剣士「なんっ……」パクパク

弓兵「リーダー!?」

隊長「よし、剣士! ダッシュ!」

剣士「おらあっ!」


剣士は一直線に魔剣士に近寄った!
226 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/29(水) 19:53:10.72 ID:3TH4KcxVo
剣士「らあああっ!」 ガキッ

魔剣士「……! !!」 キィン

弓兵「あ、あ、リーダー?」

隊長(無音術、正確には音を小さくする術式だが、発声魔法の使い手でなくても十分だ)

隊長(ワンマンチームはボスを黙らせればおしまいだからな)

隊長「どいてろ!」

弓兵「うわっ!」


隊長の攻撃! 弓兵は倒れこんだ!


工兵「隊長! 発雷装置を!」

隊長「おう!」


隊長は爆雷管を蹴っ飛ばすと、発雷装置のスイッチを引っ張った!
バリィっという音に続いて、火薬が激しく燃え上がる!

二番隊は飛び退った!


弓兵「うわああっ」
227 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/29(水) 19:54:12.77 ID:3TH4KcxVo
隊長「よし、全員突破! 校庭へ逃げるぞっ!」

救護員「あ、はい!」

工兵「術士も早く」

術士「ええ」

剣士「ああああああっ!」


剣士の攻撃! 木刀で魔剣士の頭部をガツンと殴った!


弓兵「り、リーダー!」

剣士「ふうううーっ」

隊長「剣士、早く早く!」

工兵「隊長、杖、杖」

術士「前見えているの!? ちゃんと工兵につかまって!」

剣士「……集中が足りねぇな」

魔剣士「……」ハァハァ


剣士は魔剣士が投げ捨てたボールを拾い上げた。
228 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/29(水) 19:56:19.53 ID:3TH4KcxVo
校舎裏。

隊長「おっどろいた」タッタッタ

剣士「こっちの方だ! 爆発させやがって!」

工兵「あれは炎上だよ。爆発じゃないんだ。爆雷管って言ってたけど、あれは魔雷管だね」

工兵「魔法で発動するから、そんなに爆発しない、派手に燃えるけどね」

救護員「ひ、一言いってほしかったなぁーって」

術士「……腰抜けそうになった」

工兵「案外すぐに鎮火するんじゃない。相手だって、燃やした後を考えてないわけないだろうし」

隊長(どうかな)

工兵「でも、隊長こそ、ボールを敵に渡すんじゃないかと」

救護員「え、で、でも、さっきのは」

隊長「本物。工兵、それでカラーボールには出来るの?」

工兵「どの塗料を使うかに寄ると思うけど、まあ、大体予想はつくかな」

術士「……カラーボールに、「する」の?」

隊長「そうそう。特定の塗料をぶっかければ、文字が浮かび上がる」

隊長「それが要するにカラーのボールってわけだ」
229 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/29(水) 19:56:55.06 ID:3TH4KcxVo
校庭。

教頭「……む」

隊長「どうも」

教頭「君たちは、何番隊だね?」

隊長「二十八番隊です」

教頭「ほう、かなり遅い数字にも関わらず、相当早く来たな」

隊長「はい、で、これがカラーボールですけど」ペカッ

教頭「うむ……『模擬戦用』の字がはっきり浮かんでいる」

教頭「ほうほう、塗料を塗って見つけ出したのか」

教頭「よし、君たちは四番目の到着だ! 文句なしの上位陣だ」

隊長「ありがとうございます!」

教頭「……確か、お姉さんが王国にいたね」

隊長「あはは」

教頭「お姉さんに恥をかかさずに済んで良かったな、誇っていいぞ」

隊長(うるせぇハゲ)

作戦4 終了。
230 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/29(水) 20:04:58.63 ID:3TH4KcxVo
休憩時間。

隊長「……保健室に寄っていたら、もう暗くなったな」

隊長「結局、俺に小石を当てたやつは分からずじまいか……」

隊長(四番目の到着か、成績はよくわからないが)

隊長(だが、二番隊を出し抜けたのは収穫だ。相手の隙がでか過ぎたのが勝因だがな)

隊長「それよりも、今回はちょっとうちのメンバーの悪い面がかなり出てきたな」

隊長(剣士からいろいろ聞き出すか? 会長と何があったのか)

隊長(それとも、救護員をちょっと叱るか。あいつ、調子に乗っててウザい)

隊長(術士か、工兵あたりとだらだらしてもいいが……)

隊長(あるいは、姉に媚を売っておくか)

【選択】以下からお選びください。当レスより下2つ見ます。

剣士に何があったのか聞きに行く
救護員を叱る
術士とだらだらする
工兵と飲む
姉に媚を売る
231 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/08/29(水) 22:06:27.45 ID:i6N9PfOfo
救護員を締めよう
232 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(熊本県) [sage]:2012/08/29(水) 22:08:18.12 ID:LBvC3LmEo
救護員〆
233 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/29(水) 23:47:22.09 ID:3TH4KcxVo
よーし、それじゃ叱るぞぉ。
―――――

剣士
⇒救護員
術士
工兵



隊長「……」

隊長「うん。やっぱり、救護員をちゃんと叱ったほうがいいな」

隊長「大体、この、この……応急処置。ちゃんと出来てなかったとか」

隊長「俺が未熟で足を引っ張っているのは間違いないが、次点であいつがヤバい」

隊長「……進級できなかったらどうするんだ?」

隊長「とりあえず、女子寮から救護員を呼び出すか」

姉「まあ、待ちなさい」

隊長「!?」
234 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/29(水) 23:47:51.81 ID:3TH4KcxVo
姉「いやー、お疲れ様。今日の実習は遠くから魔法で見ていたわよ」

隊長「なにしに来たの? 俺は怪我してるし、お前の相手なぞしてらんねぇんだけど」

姉「お前?」

隊長「私めはお姉さまのお相手を務めるほどの状態ではございません」

隊長「また、今後の隊の運営のため、隊員への面接を行う予定でございまして」

姉「なんか意味不明な言葉になっているわよ」

隊長「疲れてるんだ。後にしてくれ」

姉「気を使わなくていいってば」

隊長「あのな、これは俺の戦隊の問題なんだ。姉ちゃんがついてきたら、まじめに聞かないかもしれないだろ」

姉「だから、やり過ぎないように、ちょっと遠くで見てあげるわ」

隊長「……」

姉「お前は本当に頭が固いわね」

隊長「柔らかいとすぐ崩れちまうだろ」
235 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/29(水) 23:48:18.27 ID:3TH4KcxVo
隊長「分かった! とにかく降参するから、邪魔しないでくれていいか?」

姉「せっかく、今回の観戦で分かった情報を教えてあげようと思ったのになあ」

隊長「……頭、おかしいんじゃないのか」

姉「なんで?」

隊長「それって情報漏えいだろ」

姉「違うわよ。評価自体は学園側に渡すつもりだし、公表もされるわ」

姉「どこの誰が言ったかはわからないけどね」

隊長「……ふー」

姉「ま、姉ちゃん、ほら、知り合いがこっちの国に来てくれると嬉しいし」

隊長「めんどくせぇな」

姉「その口癖、良くないわよ」

隊長「知ってるよ。だから、あまり人前では言わないようにしている」

姉「あははっ」
236 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/29(水) 23:48:56.19 ID:3TH4KcxVo
隊長「まあ、後で聞くから、今は救護員だ」

姉「ああ、あの子ね」

隊長「……本当に邪魔するなよ?」

姉「わかってるわかってる」

隊長(結局、押し負けるんだな、俺は)

隊長「……寮にいればいいと思ったんだが、ひょっとして外出してるかもしれないな」

姉「じゃあ、呼び出しすれば?」

隊長「それはそれでちょっと……」

姉「お前こそめんどくさいわね。おーい!」

呪術士「はい?」

姉「2組の救護員ちゃんって知ってる?」

隊長「お、おい」

呪術士「あ、あ、お探しですか?」

姉「そうそう。この先のカフェで待ってるって言っといて」

呪術士「い、いいですよぉ」タッ

姉「よろしくね〜」

隊長「……ひでぇ」
237 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/29(水) 23:58:14.47 ID:3TH4KcxVo
カフェ。

姉「んじゃ、彼女が来る前に、今回の作戦の私の総評を話しましょうか?」

隊長「いらない。公表されるところで確認すればいい」

姉「……じゃあ、何か聞きたいことでもあるの?」

隊長「注目株と、後は俺を襲った隊は分かるか?」

姉「あー……その話? 正直、後者は教えたくないんだけど」

隊長「……」

姉「お前には復讐なんて向いてないわよ」

隊長「万が一、出くわした時に心構えをしておきたいだけだ」

姉「……そういう子じゃないって知ってるけどさ、不安よ。私は」

隊長「似合わないことを言うと鳥肌が立ちますわ」

姉「殴られる? 蹴られる?」べチッ、ケリッ

隊長「じゃあ、前者だけでいいから!」
238 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/29(水) 23:58:40.49 ID:3TH4KcxVo
姉「ま、一番隊は言うまでもないわね。ただ彼らはそのまま冒険者を目指しているらしいから、ちょっともったいない」

姉「株を下げたのは明らかに二番隊、お前の隊程度に出し抜かれるなんて意外すぎ」

隊長(正直に言いすぎだ)

姉「後は普通に七番隊。ここのチームは一位で到着したわ」

隊長「七番隊……天測士か」

姉「お前の言うとおりね。占いで探し物を正確に当てるなんて」

隊長「占いじゃないよ、彼女のは」

姉「そうらしいけど、はっきり言ってオカルト気味よね」

隊長「……空を観測できないと発狂するからな」

姉「なんなの? 天井があると暴れだすの?」

隊長「さあ」

姉「……ま、他は似たり寄ったりね。でも、あとはこの……」

救護員「おまたせしましたぁ〜!」

姉「……じゃあ、ここまでね」

隊長(タイミング悪っ)
239 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/29(水) 23:59:06.21 ID:3TH4KcxVo
救護員「あ、あれ? なんで隊長がここにいるんですかぁ?」

隊長「もともとは俺の方が用事があったからかな」

姉「そういうこと」ズズー

救護員「はあ? えーっと、あの、私、隊長のお姉さんに呼ばれて」

隊長「だから、俺が用事があったんだけど、姉ちゃんが人を呼んだんだ」

救護員「だから、私はお姉さんに呼ばれたわけですよね?」

隊長「……」

姉「救護員ちゃん、元気?」

救護員「は、はい! 元気ですぅ! 今日はちょっと大変でしたけど」

姉「そうなんだ。じゃあ、私は救護員ちゃんの元気な顔を見るって用事が済んだわ」

救護員「は、はあ……」

姉「はい、バトンタッチ」

隊長「……ありがとうよ」
240 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/29(水) 23:59:36.84 ID:3TH4KcxVo
救護員「あのー……」

隊長「うん、とりあえず、コーヒー頼もうか」

救護員「あ、お酒でもいいですよ! お酒!」

隊長(酒癖、めちゃくちゃ悪いくせにこいつ)

隊長「アルコールはダメだ。それより、ちょっと話をしておこうと思って」

救護員「な、なんですか」

隊長「いや、なんか最近は明るくなったね」

救護員「そ、そうですか? えへへ、隊長が卑屈になるなって言うから……」

隊長「……」

隊長(おい、まさか、俺のせいとか言うんじゃないだろうな)

救護員「ま、まあ、私は何もしてないですけど、一番隊とも仲良くなりましたし」

救護員「その上、二番隊もやっつけてゴール! すごいじゃないですか〜」

隊長「……」

姉「……ねぇ」

隊長「考えてるから、口出ししないでくれ」
241 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/30(木) 00:00:04.26 ID:qdiuB4x0o
隊長「まあ、今日は、俺自身はそんなによくなかったが、いい方に転んでくれて良かったよ」

救護員「あ、あ、目は大丈夫ですか?」

隊長「保健医さんに処置してもらったから。目を直接やったわけじゃないし、大丈夫」

救護員「よかったぁ……」

隊長「うん。救護員も、今日はお疲れ様」

救護員「は、はい!」

救護員「……」モジモジ

隊長「どうかした?」

救護員「あ、あーいや、えーっとその」

救護員「……それにしても、その、なんていうんですか」

隊長「なに?」

救護員「そそそそういえば、剣士さんにはがっかりっすよね。なんか、すっごくダサいってゆーか」

隊長「……」
242 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/30(木) 00:00:31.49 ID:qdiuB4x0o
救護員「会長になんか勝てるわけないのに、勝手にライバル視してて」

救護員「それで、私達にはえらっそーにぐだぐだ言ってたんですよ?」

隊長「……そうだな」

救護員「せっかく、そこそこ剣の腕は立つのに、あんなんだから」

隊長「まあ、そこまで言うことはないんじゃないの」

救護員「だあって、あの人、明らかに今日は異常でしたよ、イジョー」

救護員「何が『俺には殺したいくらい憎い奴がいる』って言うんですか?」

隊長「……」

救護員「あはははっ、ホントに、ちょっと……ウケるっていうか……」

隊長「なに?」

救護員「あの……」

隊長「俺は面白くないけどね」

救護員「そ、そうですか?」

隊長「うん」
243 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/30(木) 00:00:57.71 ID:qdiuB4x0o
救護員「あ、あーっと、そういや」

隊長「あのさ」

救護員「ひゃひぃっ!?」

隊長(奇声あげんな)

隊長「今日の作戦、真っ先に反省しなくちゃいけないのは俺たち二人じゃないの」

救護員「えっ、え?」

隊長「今回、俺は隊長でありながら、不覚を取って怪我をしちまった」

救護員「だって、あんなの、剣士さんだってきっと」

隊長「油断ってやつだ。そのせいでみんなに負担をしいたのは間違い無いだろ?」

救護員「そ、それは」チラ

姉「そうねー、その件については減点対象ね」

隊長(やはりチェックはしているだろうな)

救護員「だ、だけど……」
244 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/30(木) 00:02:01.71 ID:qdiuB4x0o
隊長「それに、救護員も、反省することはあるだろ」

救護員「え、えっと」

隊長「応急処置があまり的確じゃなかった。包帯の締め方も緩かったし」

隊長「それだけじゃなくて、不必要に剣士を煽ったりしていたよな」

救護員「それは、だって……」

隊長「今回、うちの隊できちんと役目を果たせていたのは、俺達以外の三人だ」

救護員「……」

隊長「武器を木の枝に変えられたとは言っても、それ以外は違っていた。救護の道具とかはね、いつもと同じだったし」

救護員「……」

隊長「……救護員。ちゃんと基礎基本だけでも、やり直したほうがいいんじゃないの」

救護員「!」

隊長「俺も、部隊指揮のためにも基礎練をやり直すよ」

隊長「だから、剣士のことはいいからさ、自分をもっと高めないと」

救護員「……」ポロ

隊長(……泣いてんじゃねーよ)
245 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/30(木) 00:02:29.62 ID:qdiuB4x0o
救護員「ヒッ、ウッ」

隊長「……」

救護員「うっ、ぐすっ、ふうぅぅ」

隊長「……あのさ」

救護員「あ、私、わたしぃ」グスッ

救護員「私、そんな、私、うっううううう」

救護員「私、だって、剣士が……」

隊長「いや、剣士は関係無いでしょ」

救護員「ある、あり、あるもん!」ヒクッ

救護員「だって、たいちょが、私、褒めてくれたから」

救護員「なのに、剣士、が、たいちょーを、貶して、う、うぐっ」

隊長(はあ? 俺のせいにすんなよ)

救護員「会長に、そんな、突っかかって、おか、おかしい、から、だから、そ、そんなので、隊長にっ」

救護員「も、文句言うなーって、えうっ」

隊長「……」

救護員「ごめんなざい……ごべんなさいぃぃぃ……」
246 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/30(木) 00:02:55.52 ID:qdiuB4x0o
救護員「うあああああぁぁぁぁぁ……」

姉「あーあ、泣かした」

隊長「俺のせいじゃないだろ……」

姉「あんたのせいでしょ。せっかく、あんたを立てるために頑張ってたのに」

隊長「意味が分からん」

姉「私も理解したくないけどね、こんな心境なんか」

隊長「……」

隊長(いや、だって、俺はソフトに叱ったはずだし……)

隊長(とりあえず、泣けばいい的なのがホントにむかつくっつーか)

店員「……こ、コーヒー、おまちど」

隊長「置いといて」

隊長「……」

隊長(くそっ、めんどくせぇええええ!)

姉「……」
247 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/30(木) 00:03:21.57 ID:qdiuB4x0o
姉「おい」

隊長「……!」

救護員「うっ、ひっく」

姉「泣けばいいと思ってんの?」

救護員「!」

隊長「……あー、ちょっと待ってもらえる!?」

姉「いや、だってさ」

隊長「あのさ、これは俺たちの隊の問題だ。姉ちゃんじゃ説教にしかならない」

姉「は。ああ、そう」

隊長「そうだよ! あーっと、その……ごめん」

姉「……ま、いいけど」

隊長「うん。で、さ、救護員」

救護員「はい……」グスグス

隊長「なんか、術士も勘違いしていたんだけどさ、剣士は、短気なだけだ」

隊長「……俺を貶しているわけでもない」
248 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/30(木) 00:04:14.07 ID:qdiuB4x0o
救護員「……」

隊長「俺も、最初は、こいつホントに人の話を聞かねぇなって思ってたんだけど」

隊長「なんていうの、その時は人見知りしていただけで、今はこう、もっと、ちゃんと聞くときは聞いている」

救護員「……」ズッ

隊長「大体、あいつだって、自分がおかしいってことに自覚はあるよ」

隊長「会長にだって、憎いって言っておきながら、頭も下げたし」

隊長「だからこそ、その、俺はそれなりに、信頼している。口が悪くて、腹たっちゃうけどさ」

救護員「……」

隊長「だから、あいつが、俺を貶している、なんてことは、ない」

救護員「……ごめんなさい」

隊長「うん」

救護員「謝ります。あとで……」

隊長「ああ、その方がいいよ」

救護員「……」
249 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/30(木) 00:04:39.94 ID:qdiuB4x0o
救護員「やっぱり、私、ダメですね、なんか」

救護員「く、クズっていうか……」

隊長「いや、だから、もっと基礎基本をさ」

救護員「……」

救護員「こんなだから、また振られちゃったのかな……」

隊長(そっちかよ!)

救護員「……」

隊長「あのさ……」

救護員「はい」

隊長「もうちょっと、強くなろうよ。お互い」

救護員「……おたがい」

隊長「そう。やっぱり、圧倒的に足りないものが多いよ。俺達は」

救護員「……」
250 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/30(木) 00:05:05.69 ID:qdiuB4x0o
隊長「だから、とにかく、剣士に足りない面はフォローしてやるぜってくらいのさ」

救護員「……」

隊長「あいつだって、自分にできないことは頼りにしてくれるさ」

救護員「……」

隊長「だから、そのー……」

救護員「……うん。はい」

救護員「は、恥ずかしくない、程度に、なりたい……」

隊長(ああああ、極端なやつだな、ホント)

隊長(でも、分かった。普通に褒めるんじゃダメなんだわな)

隊長「……」フーッ

姉「ふうん……」
251 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/30(木) 00:06:24.62 ID:qdiuB4x0o
生活棟。

隊長「ああ、つっかれた」

姉「ほんとよね」

隊長「……もう一人くらい、会おうかな」

姉「ムリしない方がいいわよー?」

隊長「いずれにせよ、突っ込んだ話は、今からだとできそうもないな……」



【選択】とりあえず、関心があれば、選んでください。なお、今夜はここまでです。
剣士
術士
工兵
もう寝る
252 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/30(木) 00:24:07.04 ID:zo5PcL0IO
まあ剣士だわな
253 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/08/30(木) 04:09:13.06 ID:t3ICs7/5o
乙。 次も楽しみに待ってる
それにしても救護員うざい
254 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/30(木) 06:00:06.64 ID:qdiuB4x0o
好感度は下がったが、今後、救護スキルが成長する、みたいな感じで考えてもらえれば。
性格が変わるわけじゃないんですけどねー。
なお、作戦中も些細なことで好感度が上がったり、テンションが下がったりしてるとか考えてます。
数値化しているわけじゃないですが、その辺も楽しんでください。
255 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/30(木) 09:35:47.52 ID:csTspWLFo
乙。
突っ込んだ話が出来ないなら工兵か、もしくは寝る
256 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/30(木) 12:28:06.32 ID:CXKbWjQuo
ある程度ちゃんと話ができるなら剣士
あっさりなら工兵かな?
257 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/30(木) 22:01:49.74 ID:qdiuB4x0o
⇒ 剣士
術士
工兵
寝る



男子寮。

隊長「……なあ、おい」

姉「どうしたの?」

隊長「どうしたじゃなくてな。なんでまだついてきているの?」

姉「あら、さっきは私がいるのに女の子を泣かせてたっていうのに」

隊長「そりゃ、泣くとは思わなかったから」

姉「ああいう詰め方をしたら泣くわよ」

隊長「なんなんだよ! ああいう子は嫌いとか言っておきながら!」

姉「嫌いだけど、ああしたら泣くだろうなって大体分かるじゃない。わざとやったんでしょ?」

隊長「いや、だから……」
258 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/30(木) 22:02:43.62 ID:qdiuB4x0o
姉「いいんじゃないの? もっとビシッと言ってやったほうが良かったと思うけどね」

隊長「……ビシッと?」

姉「『お前がいちばん足引っ張ってんだよ! この馬鹿女!』みたいな?」

隊長「そんなこと言えるわけないだろ」

姉「説教にしかならないって、説教しなきゃ意味ないじゃない」

隊長「それは罵倒じゃねぇか!」

姉「ま、内心でバカにしているなら、どこかで破綻しちゃうわよ〜」

隊長「……。まあ分かったからさ、とりあえず、剣士とは二人で話させてもらえない?」

姉「え? ホモ?」

隊長「あのね……」

姉「まあ、あの半裸の子でしょ。半裸はちょっとね〜」

隊長「寮内じゃ全裸だ」

姉「露出狂なの?」

隊長「脱ぎ癖が、あるだけだろうが……」
259 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/30(木) 22:03:20.32 ID:qdiuB4x0o
隊長「まあ、なんだ、あいつもいろいろと抱えているものがありそうだしな」

隊長「なるべく早めに、ケリをつけた方がいいかと思って……」

姉「偉そうに」

隊長「とにかく! こっからは男同士の話合いで、女人禁制ってことで頼む」

姉「……しょうがないな。じゃあ、部屋の鍵」

隊長「ん」チャリ

姉「とりあえず、お前の金でお菓子買ってくるから」

隊長(スイーツ患者め)

隊長「……すー、はー」

隊長「剣士、いるか?」トントン

隊長「……」

隊長「おーい……」トントン

隊長「……」

隊長「……もう寝てるのか!?」
260 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/30(木) 22:03:47.84 ID:qdiuB4x0o
術士
⇒ 工兵
寝る


隊長「いや、まあ、深夜だけどよ」

隊長「そりゃ仕方がないっつーか、なんつーか……」

隊長「……」

工兵「あ、隊長!」

隊長「お、ああ、工兵、か。夜遅くまで」

工兵「隊長こそお疲れ様」

隊長「何していたんだ?」

工兵「例の発雷装置もそうだけど、みんなの武器防具を整備しておこうと思って」

隊長「……いや、こんな夜遅くまで」

工兵「実際のところ、僕は戦闘じゃあまり役に立てないもの」

工兵「剣士は触らせてくれないけど、隊長は武器にこだわらないでしょ?」

隊長「そうだね」

工兵「だったら、もっと、山歩き用のナタとか、旅用の杖がいいんじゃないかと思って」
261 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/30(木) 22:04:24.40 ID:qdiuB4x0o
隊長「ナタに杖か……」

工兵「正直、隊長だってそんなに強いわけじゃないもんね……って言ったら怒る?」

隊長「怒る」

工兵「うぐ」

隊長「けど、事実だからね。はははっ」

工兵「……へへへ。じゃあ、ちょっと丈夫な素材で作ってみたから、明日にでも届けるよ」

隊長「うん。ありがとう」

工兵「今日はその、疲れたね」

隊長「ああ。そうだな」

工兵「怪我は大丈夫? 鉢金とか、やっぱり必要かな……」

隊長「保健室でしっかり処置してもらったから、とりあえずは。鉢金は、どうするかな、カッコ悪いよね」

工兵「そうかなあ」
262 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/30(木) 22:05:15.35 ID:qdiuB4x0o
工兵「……こんなこと言うのもなんだけど、救護員、役立たずだろ」

隊長「どうしたんだ、急に」

工兵「えっと……いや、今日は特にだけど、足引っ張ってないかなって」

隊長「一番、足引っ張ってるのは俺だよ」

工兵「隊長がいなかったら動かないじゃんか」

隊長「そうかな? 剣士もいるし、工兵もいる」

工兵「……みんな、隊長が方針を決めてくれるからでしょ。あーだこーだ言えるの」

隊長(黙ってついてこいよ)

工兵「ん、いや、いない人の陰口を言うのは、良くないな」

工兵「救護員にも良い所は、あるし……多分」

隊長「また振ったんだって?」

工兵「な、なんで知ってんの」

隊長「さっき本人から聞いたよ」
263 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/30(木) 22:11:43.05 ID:qdiuB4x0o
工兵「そ、そのー、なんだ、嫌いだって思ってるわけじゃなくて!」

隊長「分かってるって。別に言い訳だとかも思わないし」

工兵「なんなんだろうな〜、僕の何がいいんだろ」

隊長「刷り込みじゃないのかね」

工兵「刷り込みねぇ。餌付けをした記憶はないんだけど……」

隊長(こいつも、大概失礼なやつかもしれんな)

隊長(確かに、救護員はアホかもしれんが)

工兵「餌付けと言えばね、昔、救護員がトカゲを飼ってて、ドラゴンだドラゴンだっていうから」

隊長「論破したの?」

工兵「違う。町の近くにドラゴンの巣が出来たからって噂を聞いた時に、ほら、ドラゴンがすぐそこまで来てるらしいよって言ったんだ」

隊長「……なるほどね〜」

工兵「じゃあ、このトカゲがドラゴンだって証明するって言って、行方不明」

工兵「もう、みんな大騒ぎ。実際のところは、山道の途中でトカゲを逃しちゃって、泣いてただけなんだけど」
264 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/30(木) 22:12:11.99 ID:qdiuB4x0o
工兵「……なんていうかな、妹、じゃないけど、身内みたいな感じがするんだよね」

工兵「だから、救護員がアホなことをしでかすと、すっごく恥ずかしく感じるんだ」

隊長「分かる。余計なことをしゃべるんじゃないーって思う」

工兵「でしょ!? ……あー、ダメだ、また陰口を……」

隊長「まあ、まだ成長の余地があるって考えればいい」

工兵「成長、するのかな」

隊長「……」

隊長「ところで、今度、剣士に稽古をつけてもらおうかと思っているんだが」

工兵「えっ」

隊長「いや、いろいろと考えてさ。もっと一人ひとりが強くなる必要があるしね」

工兵「ぼ、ぼ、僕は嫌だよ! 剣士の訓練ってヤバいんだから!」

隊長「……ついでに救護員も一緒に混ぜてやって」

工兵「死んじゃうよ!? やめなよ、マジで!」

隊長「しかし、このままではなぁ……」
265 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/30(木) 22:12:41.90 ID:qdiuB4x0o
工兵「わ、分かった。救護員には、応急手当の訓練が必要だもんね」

工兵「ぼ、僕も、医療系簡易機器とか、を、作ってもいいかもしれない」

隊長「剣士を何だと思ってるんだ?」

工兵「……彼、単独で魔物の巣に潜入したりしてるんだけど」

隊長「……」

隊長(ばっっっっかじゃねぇの、あいつ)

工兵「ちょっとした訓練とか言ってね。彼がうちの隊で控えめに行動しているのも分かるでしょ?」

工兵「ぶっちゃけ異次元です」

隊長「……なんでそんなに詳しいんだ?」

工兵「あ、ああ。トレーニング室が、工作室の隣にあるから」

隊長「そういえばそうだったな」

工兵「とにかく、おすすめはしないけど……や、やるなら呼んでね」

工兵「仲間内で訓練中に死んだとか、洒落にならないでしょ」

隊長「分かったよ。深夜に長話してごめん」

工兵「ううん、いや、おやすみ」

隊長「おやすみ」
266 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/30(木) 22:14:19.10 ID:qdiuB4x0o
隊長「……」

隊長「剣士、いや、強いとは思っていたが」

隊長「しかし、工兵と話が出来たのはラッキーだった。装備の新調についても話せたし」

隊長「……杖術ってあまりやったことがないな」

隊長「少し、軽めの作戦を当てて、訓練の時間を増やそう」

隊長「そうだ。後、今度、兵法書の類でも読むかな」

隊長「国際情勢もやらないと……姉ちゃんはいつまで滞在する気だか……」

隊長「あああ、やることが多すぎて分からねぇ」

隊長「今日は寝る!」


休憩時間終了。
267 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/08/30(木) 22:15:39.72 ID:qdiuB4x0o
短いですが、今夜はここまで。
次回より作戦5へ移行。
268 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/31(金) 12:43:09.14 ID:lNIimFfDO
乙。
269 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/09/03(月) 00:01:42.91 ID:THS+bcw5o
これは面白い。期待
270 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/09/03(月) 23:43:10.99 ID:ednIPeRxo
作戦5「来客用のお菓子を作れ」


教師「お姉さんも大変満足されていたぞ」

隊長「そうですか」

教師「君の隊の評価も非常に高まっている。全員中間試験合格は間違いないだろう」

教師「……と言いたいところだが」

隊長「救護員ですね?」

教師「そうなんだよ。彼女の成績……まあ、座学はもとより、実技もあまり良くなくってね……」

教師「もちろん、同じ戦隊だからといって、そこまで面倒を見てもらうのもおかしいが……」

隊長「評価材料がほしい、と」

教師「さすがに隊長なだけはあるな。で、彼女にすでに聞き取りはしていてだね……」

教師「得意分野は何かと聞いたら――」
271 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/09/03(月) 23:43:56.67 ID:ednIPeRxo
調理室。

隊長「というわけで、パーティー編成だ」

剣士「おい」

工兵「あー……のさ」

救護員「うーうー、すみません」

術士「……ほら、泣かないの」

隊長(こっちが泣きたいわ)

剣士「お前まさか、こんなのも冒険者の仕事だなんて、言うつもりはないだろうな……?」

隊長「まあ、ぎりぎりのラインかな」

剣士「だったら、俺までいる必要はないだろうがよっ!」バンッ

術士「……うるさいわ。隊の作戦として与えられたんだから、全員で取り組むのが当たり前でしょ」

工兵「そうかなぁ」

隊長「俺も全員でお菓子を作ればいいとは思っていない」

術士「た、隊長……」

救護員「うっ……」
272 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/03(月) 23:44:24.59 ID:ednIPeRxo
救護員「たいちょぉ、やっぱり、私のこと……」

隊長「あー、そういう訳じゃなくってだな。今回の作戦をもう一度説明するぞ?」

隊長「……依頼者は学園の外務課から。今回、各国からの接待の際に食事について意見があったそうだ」

隊長「ちょっとしたお菓子もそのひとつだ。これらを文化的な面からフォローしつつ、量産できる見通しを立てる」

隊長「……救護員がお菓子作りが得意だというので! この仕事になったわけ」

剣士「……チッ」

工兵「こないだ大暴れしたんだから、ちょっとは落ち着いてほしいなぁ」

剣士「ああ?」

工兵「だ、だからさ。そういう睨めばいい、的なのはやめてくれって思ってたんだけど」

剣士「……俺が冷静を失っているように見えるか」

術士「舌打ちが怖い」

剣士「舌打ち?」

四人(自覚がないのか……)
273 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/03(月) 23:45:09.24 ID:ednIPeRxo
隊長「とにかく、だ。お菓子作りと言っても、作るのと調べるのとを並行で行いたい」

隊長「それが、全員でお菓子作りをするわけじゃないって意味だ」

工兵「ま、まあ、そういうことなら」

隊長「救護員は当然お菓子作りとして……」

救護員「は、はい、はい!」

隊長「なに?」

救護員「あの、あの、一生懸命やりますから!」

隊長「口じゃなくて腕を見せてほしいな」

救護員「ぬぐ。じゃあ、見せてやりますよ!」

隊長「……で、工兵と術士は」

工兵「時々、手伝ってるからいいよ」

術士「……私は、料理はちょっと」

隊長「じゃあ、図書館に行って調べ物だ」

術士「……いいの?」

隊長「ああ、構わない。で……」

剣士「……」
274 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/03(月) 23:45:53.13 ID:ednIPeRxo
隊長「剣士、どっちがいい?」

剣士「お菓子作りだ」

救護員「ええーっ!?」

剣士「……文字を追うのは苦手だからな。火を使うなら、慣れている」

隊長(こいつ、せっかくいろいろ聞こうと思ってたのに……察したか?)

隊長「……じゃあ、お菓子班と」

工兵「剣士って甘いものオッケーな人?」

剣士「寒天系とか、デンプン餅みたいなのが好みだ」

工兵「へぇ。僕もパイとかよりはそっちの方が好きかな」

救護員「えーっとぉ……じゃあ、いつも焼いてきたのは……」

工兵「しまった」

救護員「ひどい! おいしいって言って食べてくれてたのに!」

工兵「お、おいしいにはおいしいよ」

隊長「あー、とりあえず、二人と三人に別れる。この編成でいいよな」
275 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/03(月) 23:46:25.96 ID:ednIPeRxo
隊長「基本的には何種類かを、好きに作ってくれていいよ」

隊長「で、俺達はどんなお菓子が好まれてるのかとか、どんな制約があるのかとか、そういうのを調べる」

救護員「制約ってなんですか?」

隊長「国によってはお菓子でも食べることが禁止されている材料とか、あるかもしれないし」

術士「……そこまで突っ込めるのかしら」

隊長「どうかな。とりあえず各国ガイドとか探っておこう」

救護員「あ! 特務機関の方たちってどこ出身なんですかねぇ」

隊長「ああいう機関は、毒が入ってなければなんでもいいんじゃないかな」

剣士「バカを言え。ああいう連中ほど、かえって味に好みが現れるもんだ」

隊長「……知ってるのか?」

剣士「あ、ああ?」

隊長「ま、いいけど。で、姉ちゃんほか、何人かに試食をしてもらってアドバイスを頂く」

隊長「それで満足していただければ、作戦は終了だ」

工兵「じゃあ、結構簡単なのかな」

隊長「ああ。まさか、料理の材料を奪ってくるようなやつはおるまいし……」
276 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/03(月) 23:47:20.01 ID:ednIPeRxo
図書室。

隊長「……」

姉「ってわけで、もうなっさけないんですわー」

司書「あー、なんかいろいろ考えてる割にはすーぐカッカしちゃうしね、彼」

姉「まあ、こないだは随分がんばったみたいですけどね」

司書「聞いてるわよー、二番隊を出しぬいたんでしょ? 頑張ったじゃない?」

司書「ほら、噂をすればなんとやらで」

隊長「なんでいる」

姉「お世話になった人のところに来てちゃいけないわけ?」

隊長「お前特使だろうが!? こんなところで油売ってて……」ハッ

術士「た、隊長……?」

姉「お前?」

隊長「自由に行動し過ぎではないでしょうか、お姉様」

姉「うーん、教育庁職員としては、この学園の図書館クラスのやつが欲しいから、しっかり見ておきたいのよね」

隊長「明らかに世間話をしてましたよねぇ!?」
277 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/03(月) 23:47:48.72 ID:ednIPeRxo
司書「あはは、やっぱり、お姉さんには地色が出るのね〜」

隊長「地色とか言わないでいただけますか」

司書「じゃあ、シスコンモード」

隊長「……」

姉「で、お前こそ何しに来ているわけ?」

隊長「仕事だよ。というか、外務課から後で手作り菓子を振る舞いますって連絡は行ってないのかね?」

姉「学生のまっずい菓子を食わされるとか罰ゲーもいいとこ」

隊長「今、俺が何を考えているか分かる?」

姉「姉ちゃんと近親相姦したいハァハァ」

隊長「司書さん、警備課に連絡入れていただけますか?」

司書「いいけど、国際問題になっちゃうわよ」

隊長「別に構いません」

姉「私が構うわよ」

術士「……あの」

隊長「あー、悪い。相手が悪ノリするもんだからついつい」
278 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/03(月) 23:48:17.15 ID:ednIPeRxo
術士「すみませんが、私達は戦隊の作戦中でして」

姉「分かっているわ。邪魔するつもりはないわよ」

隊長「……ほー」

姉「お前が勝手に突っかかってきているだけじゃないの。ほら、女の子を待たせるなんて、男として最低よ」

隊長「ああ、分かったよ。それじゃ、司書さん、すみませんが調べ物を……」

隊長「いや、待て。姉ちゃんにもいくつか聞いておきたい」

姉「ほう?」

隊長「つまり、今回の作戦は、各国の来賓向けのお菓子を作ることで」

姉「なるほど、王国で流行っているものを教えて欲しいと」

隊長「流行りでなくていいんだが、注意すべきところとか」

姉「そうね〜、まずお菓子は犯し、つまり……」

術士「……あの、お姉さんは女性ですし、とりわけそういった流行にお詳しいと察します」

術士「ぜひ、教えてください」

姉「ボケを潰されたわ」

隊長(こいつ……)
279 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/03(月) 23:48:52.17 ID:ednIPeRxo
姉「まあ、そうは言っても、お菓子で気をつけたことなんてないわ」

姉「王国内にも結構、異国の地からやってきて登用されている人はいるけれど、そこまで問題になったこともないし」

隊長「しかし、現に来賓でお菓子についてクレームがあったと……」

姉「ああ、あれ。だってちょっと乾いたケーキとかむかつかない?」

隊長「お前かよ!」

姉「お前?」

隊長「お姉様は何にご不満を抱かれたのでしょうか!」

術士「隊長のキャラがおかしい……」

司書「割りとお姉さんの前ではいつもこんな感じよね〜」

隊長(クソが!)

姉「いやだから、客に向かって乾いたケーキはないだろと」

隊長「……えーっと、生菓子の保存状態が良くなかった、と?」

姉「そうそう」

隊長(明らかに外務課の責任だろ、それは……)
280 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/03(月) 23:49:31.77 ID:ednIPeRxo
姉「多分、卒業生が多かったから、気を使うようで使わなかったのね」

姉「これが国賓級だったら、学園取り潰しとかあるある」

隊長「……まあ、そうしたら最初から乾いているお菓子を」

姉「シケっているのも嫌よ」

隊長「そんなこと言われてもな」

術士「……つまり、保存のしやすいお菓子があれば」

隊長「あるいは、保存をする道具があればってところか」

司書「まあ、それだったら普通に焼き菓子よね〜」

隊長「焼き菓子ねぇ」

司書「それと、保存容器とかだったら……確かねぇ〜……」ペラペラ

姉「でもさぁ、大体焼き菓子って飽きが来るのよ。味も似たり寄ったりだし」

隊長「……」

術士「……隊長。眉間にシワが」

隊長「俺が今、何を考えているか分かる?」

術士「ブン殴りたい」

隊長(思ってたらすでに殴っているな〜、きっと)
281 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/03(月) 23:50:22.46 ID:ednIPeRxo
調理室。

救護員「えーっとですね、帝国では砂糖が貴重品なので」

剣士「甘すぎるのはかえってアウト、か? だったら、いっそのこと、塩味の菓子がある」

工兵「考え過ぎないで、適当に作れそうなのから作ったらいいじゃない」

剣士「おい待て! オーブンの調節は俺がやる」

工兵「……いや、機械類は僕のフィールドでしょ」

救護員「じゃあ、剣士さんはどんなのがいいんですか?」

剣士「だから、デンプン餅」(ゆべしみたいなもん)

救護員「とりあえず作って見せてくださいよー」

剣士「……」ゴオォォ

工兵「うわー、砂糖を火にかけるの?」

剣士「デンプンを溶き入れる。木の実類を混ぜて、冷まして固める」

救護員「そんな適当な」

剣士「……携行食で。よく作ってくれていたから」

救護員「へ?」

剣士「チッ、なんでもねぇよ」
282 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/03(月) 23:50:51.42 ID:ednIPeRxo
図書室。

隊長「……」パラパラ

術士「……」

隊長「ふむ。鉄製の保存容器か」

術士「少し、もったいない気もするわ。それなら武具に使ったほうが有用では……」

隊長「実際、鉄の加工はまだ発展途上と言っていいしね」

隊長(……いやまて? 工兵が鉄の加工品を作っていたような)

術士「……」

隊長「お、こっちは各国のうまいものガイドか」

術士「……あの」

隊長「どうした? 何か気になることは見つけたか?」

術士「そうじゃなくて、その……」

隊長「あの三人のことは俺も不安だが」

術士「……そうじゃなくて」
283 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/03(月) 23:51:18.91 ID:ednIPeRxo
隊長「俺の姉ちゃんのことなら、仕方ない。昔からあの性格だから」

術士「あ、いや、えーっと、面白い方よね」

隊長(関わらなければそれで済むがな)

隊長「……そういえば、術士にも兄弟とかいるのかい?」

術士「わ、私は……いるわ」

隊長「ああそう。年上? 下?」

術士「……うえ」

隊長「ああ、そうなんだ。分かる。年下って辛いよね」

術士「……そうね」

隊長「……なんか、その、最近、元気ないね」

術士「そうかしら。体の調子が、あまり良くないのかも」

隊長「……」

隊長(なんだ? こないだ何かあったっけな)
284 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/03(月) 23:55:24.57 ID:ednIPeRxo
調理室。

救護員「ん〜! これ結構、おいしいじゃないですかぁ!」

剣士「味を目的にしたものじゃない」

工兵「確かにね。持ち運び、日持ち、そういうのを重視している感じかな」

剣士「携行食っつったろう。元は蜂蜜とかで味をつけていたみてーだし」

剣士「……けど、腹減ったらこればっか食わせてもらってたし」

工兵「もらってた?」

剣士「なんでもねぇよ!」

救護員「なんか隠していることがあるなら言っちゃったらどうなんです?」

剣士「けっ、偉そうに食いやがって!」

救護員「……はい! 私もクッキーできましたよん!」

救護員「飽きないようにぃ、ジンジャーとか果物の皮とか混ぜてるんですよぉ!」

工兵「あー、なるほどね」

剣士「……中が少ししっとりしてんな」

救護員「サクサクしすぎはかえって邪道です!」

剣士「ふーん」
285 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/03(月) 23:55:54.40 ID:ednIPeRxo
工兵「でも、みんな結構おいしそうだよね」デロデロ

剣士「待ちやがれ」

工兵「え?」

剣士「その手に持っている物体はなんだ」

工兵「ちょっと酸味があるムース状のお菓子だけど」

剣士「青緑色じゃねー―かッ!」

工兵「ゲテモノ風」

救護員「うっわー、まさか再現できたとは」

工兵「練れば練るほど美味しくなるんだけど」

救護員「うまい!」テーレッテレー

剣士「やめろ! 近づけるな!」

救護員「いや、結構、美味しいんだよ」

工兵「騙されたと思って」

剣士「……斬るぞ」
286 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/03(月) 23:56:28.81 ID:ednIPeRxo
救護員「結構、いろいろ作ったけど、どうかしら」

剣士「一つ、変なものが混じってるけどな」

工兵「おいしいのに……」

救護員「んー、隊長たちまだかなー」

工兵「案外、いい雰囲気になって、戻ってこないかもよ」

剣士「はっ、あのチビがそれはありえねぇよ」

救護員「……あのね」

剣士「バカにしてる訳じゃねぇ。隊長は、俺達のことを一歩引いて見ている」

救護員「……そ、そうかしら」

工兵「そう……なの? 結構親身になってくれてると思ってたけど」

剣士「内心はどう思ってるんだか知らねぇよ。だが、あいつはできる限り全体を見ようとしている」

剣士「一人の人間に深入りするようなことはしねぇだろ」

救護員「そ、そんなの!」

剣士「なんか言われたか? だが、それはやつの本音じゃねぇだろ」

救護員「隊長はそんな、嘘つきじゃないもん!」
287 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/03(月) 23:57:03.11 ID:ednIPeRxo
剣士「誰が嘘つきだっつったよ。ただ全体を見て発言しているだけだってことだ」

剣士「やつが腹の底では何を考えているかなぞ、分からんわ」

救護員「うぐううぅぅぅ」

工兵「救護員、落ち着いて。別に剣士は文句言ってるわけじゃないし」

救護員「もう、どうして! どうして剣士ばっかりかばうんですか!」

救護員「あ、えっと、じゃなくて、ううん」

剣士「……チッ」

救護員「ご、ごめんなさい……」

剣士「言いたいことがあるなら言ったらどうだ」

工兵「剣士も煽らないでってば」

救護員「……でも、私は弱いから」

剣士「弱者だろうが誰だろうが、言いたいことを言う権利は誰にでもある」

剣士「ただ、人に何か言う時は覚悟が必要なんだよ」

救護員「……」

剣士「お前にはあるのか? 覚悟」
288 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/03(月) 23:58:39.08 ID:ednIPeRxo
救護員「あ、あります」

剣士「本当に?」

救護員「……そういう、剣士さんこそ、どうせ最後は俺一人でなんとかなるし〜とか思ってるんじゃないですか」

剣士「あ?」

救護員「どうせ、こんなバカがいるようなチーム、最悪潰れたっていいと思ってるんじゃないですか」

剣士「……」

工兵「救護員、あの……」

救護員「俺は強い、合わせてやってる、だからここがダメでも別のところでうまくやれるって……」

救護員「わ、私は、どうせ、冒険者に向いてませんよ」

救護員「でも、私、私、工兵くんについてきて、隊長がいっしょに強くなろうって言ったし」

救護員「か、覚悟は決めましたから。このチームで、最後まで諦めませんから」

剣士「……」

救護員「てゆーか、あれですよ! こんなに気合入れたのに私のクッキーの感想、スルーし過ぎなんですよ!」

工兵「あの、救護員?」
289 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/03(月) 23:59:07.93 ID:ednIPeRxo
救護員「ほら! ちょっと塩味効かしたのもあるし!」

救護員「食べたんならちょっと天井突き破るくらい感動を表現してくださいってんですよ!」

剣士「意味が分からねぇよ」

救護員「だからー!」

ガラッ。

隊長「すまない、遅くなったな」

救護員「お、おお」

術士「……何この青緑色の」

工兵「おいしいよ」デロッ

術士「……臭いはあまりしないわね」

工兵「人工的な甘味料なんだ」

隊長「どう考えても色合いが危険色だけど?」

工兵「それより、救護員がクッキーを食べてくれってさ」

救護員「……うん」
290 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/03(月) 23:59:55.96 ID:ednIPeRxo
今夜はここまで。

Q:どうしてこんな恥ずかしい事ばっかり言ってるのこいつら
A:まだ学生やし……
291 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2012/09/04(火) 05:25:19.08 ID:JbJG6nYlo
いいね。この雰囲気参考になるわ
292 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/04(火) 09:02:45.71 ID:rZsSBpQDO
乙!

術士が何か言いたそうにしてたのが気になるなぁ
293 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/04(火) 10:59:06.56 ID:LyalopsDO
ねるねるねるねだと…

乙。
294 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/04(火) 22:44:41.31 ID:c2zScLtBo
テーレッテレーじゃねぇよwwww 乙
295 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/09/06(木) 23:16:41.19 ID:5aerHjOvo
隊長「……えーっと、クッキー、煎餅、デンプン餅、それから、ナニコレ」

工兵「異世界からの文献によれば、特殊な粉末を少量の水で混ぜ合わせることでできるお菓子のようだね」

隊長(異世界って頭おかしいんじゃねぇのか)

救護員「不思議な味がするんですよ」

隊長(むしろこれで平凡な味がしたら恐ろしいわ。なんか青緑色だし)

剣士「少し刺激感があったが、特に問題はない」

術士「私たちが調べた文献では想定の範囲外だわ」

剣士「想定してたら恐ろしいぞ……」

隊長「まあ、これは別にしといて。焼き菓子といっても、この煎餅ってのはよさそうだね」

救護員「遠方のお菓子ですけど。なんでも苦味のあるお茶といっしょに食べるらしいです」

隊長「お茶ならいくつか用意したけど……お茶って甘いモノだろ?」

術士「……常識が」

救護員「んー、でも、バリボリ音がなっちゃいますけど、ショーユっていうしょっぱい味のお菓子なので、そのまま食べても」

隊長(それはお菓子というか、携行食じゃないのか?)
296 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/06(木) 23:17:15.58 ID:5aerHjOvo
隊長「他にもいろいろあるけど、誰がつくったの?」

救護員「も、もちろん、私です! 私のために選んでもらった仕事ですから!」

隊長「うん、うん、基本的にはこれ以上、凝ったものを作る必要はないんじゃないかな」

術士「……調べていて感じたのだけれど、お菓子は嗜好品のせいか、瞬間的に楽しむものが多いの」

術士「氷、に色のついた砂糖水をかけるお菓子とか……」

救護員「そ、それってお菓子なんですか?」

術士「細かく刻むと、すごく面白いみたいよ」

隊長「専用の機器があるらしい」

工兵「機械?」

隊長「いや、氷を細かく砕く装置というか。っていうか、さすがにそれを探すのは難しいだろう」

工兵「残念だなぁ。機会があったら作ってみようかな」

隊長(平然と口にしたが、それ多分、異世界の機器だぞ)

隊長(……あれぇ? 成績、そんなに良くなかったよな、こいつ)
297 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/06(木) 23:18:02.79 ID:5aerHjOvo
隊長「それと、これなんかどうかな?」

救護員「えっとー、これは?」

隊長「小麦粉とごまのペーストを混ぜたやつ。蜂蜜とかナッツ類を入れて、固まったのを切り分ける」

救護員「……鉄の『缶詰』?」

隊長「容器に入れるのに、そういうのも使ってるんだって」

救護員「うーん、作ってみましょうか」カチャカチャ

隊長「ええと、じゃあ、無難なお菓子と……」

工兵「無難じゃないお菓子を」

剣士「待てや」

工兵「いや、でも、奇妙なのがあった方が、普通の物が際立つというか」

剣士「アホか!? 各国の代表がわざわざ来るってのに、まともじゃないものを出してどうする!」

工兵「え、大丈夫、ですよね?」

隊長「さすがにこれはまずいんじゃないかな」

術士「学生のお遊びということでは?」

隊長「ジョークが国際問題になったら、俺は嫌だなぁ」
298 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/06(木) 23:19:14.27 ID:5aerHjOvo
工兵「ま、待ってよ。これはね、二種類の粉と少量の水を用意するんだ」

隊長「それは聞いたけど」

工兵「つまり、混ぜ合わせるのを楽しむお菓子であって、そういうジョークに理解がある人からしかやらないと」

隊長「……集合!」ササッ

  隊長「……どうする?」

  剣士「俺はアウトだと思う」

  術士「……味に、問題はなかったんじゃないかしら」

  剣士「味はともかく見た目がやばい」

工兵「こ、ここに砂糖菓子をふりかけることで、食感も加わってさらにおいしく――」

  隊長「一人ずつ作成者を紹介して、万一、失敗したら――」

  剣士「見捨てる気か、こいつを」

  術士「実演するのはどうかしら。場を和ませる――」

  隊長「無理があるんじゃないかな……」

工兵「なんかひどいこと言ってるよね!?」

救護員「できましたよー!」

姉「来たわよ〜」ガラッ
299 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/06(木) 23:20:58.15 ID:5aerHjOvo
ぞろぞろ。

救護員「ひっ、もうきた!」

工兵「うわわ、どうしようか?」

剣士「……」

術士「ええと、お茶は」

救護員「お、お茶も用意しましたよ」

隊長「みんなちょっと落ち着いて。よし、並んで迎えよう」

隊長(よく考えたら、各国特使の接待業務か)

隊長(仕方ない。とりあえず、あるものを並べておかないと)

隊長「……ようこそいらっしゃいました。今回は貴重なお時間を割いていただき」

姉「堅苦しい話は抜きにしましょう。それぞれ自己紹介をしていただけるかしら」

隊長(こいつ……)

職員「ああ、君たち。ご存知のように、戦隊を視察に来た来賓の方たちだ、我が校の卒業生もいるが、失礼のないようにな」

隊長(知っとるわ!)
300 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/06(木) 23:21:25.58 ID:5aerHjOvo
隊長「では。私、二十八番隊の隊長と申します。よろしくお願いします」チラ

剣士「剣士です」

術士「術士と申します。よろしくお願いします」

工兵「あっとー、こ、工兵と申します」

救護員「あ、きゅーごーいんです。よろしくお願いしはす」

隊長(噛んでんじゃねぇよ……)

職員「そうだな。で、こちらの方々が」

姉「王国教育庁から来ました、姉です。もう顔は合わせているわよね」

帝人「帝国人事課の帝人だ。そう固くならんでいい」

特「特務機関から……特でいい……」

隊長(でっけぇな、この人)

職員「御三方は、お忙しいところをわざわざ!」

姉「暇そうにしているやつらを捕まえてきたから、気にしなくていいわよん」

帝人「他の国からは来てないしな。ホントに暇人を集めたのか」

職員「……」

隊長(ちーん)
301 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/06(木) 23:22:03.20 ID:5aerHjOvo
隊長「では、早速、ご試食いただければ」

姉「好きに取っていいのかしら?」

隊長「それはもう。お茶もすぐにご用意させていただきます」

隊長「救護員」

救護員「はい! お茶々ですねぇ!?」

隊長「……そのお茶々をお願いします」

救護員「はいーっ!」ひゅん

姉「面白い子ねぇ」

帝人「二十八番隊ってのは何位にあたるんだ?」

特「……振り分け順からすると、最後位だ……」

帝人「一番隊が最も優れているとすると、推して知るべし、か?」ニヤ

姉「あら、こないだの模擬戦では二番隊を出しぬいたそうよ」

帝人「……君は弟を贔屓しすぎだな。あれは二番隊の質が良くない、ド素人だった」

姉「手厳しいわねー」

隊長(目の前で論評始めちゃったぞ……)
302 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/06(木) 23:22:39.61 ID:5aerHjOvo
工兵「しかし、隊長も偉い人の前だとヘコヘコしてるよね」ヒソヒソ

術士「……正直、カッコ悪い」ヒソヒソ

工兵「やっぱりそう思う?」ヒソヒソ

隊長(うるせえよ、しゃべんなアホ)

剣士「黙れ。客の前だぞ」

工兵・術士「……ごめんなさい」

隊長(よし、よく言った)

隊長「救護員、お茶々はどうかな?」

救護員「ただいまお持ちしましたー!」

隊長「あ、走ったら、ひっくり返す!」ガシッ

救護員「あ……」

隊長は救護員を抱きとめた!

隊長「……気をつけてね」

救護員「す、すみませんです……」

姉「お、ラブ時空?」

隊長(うがあああ、叫べない状況でこれはねぇだろ、こいつ!)
303 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/06(木) 23:23:45.19 ID:5aerHjOvo
救護員「ど、どうぞごゆっくり」カチコチ

隊長(とにかく行き渡ったな)

姉「とりあえず、適当に口に運んでるけど、どうかしら?」

帝人「ふむ。どれも標準的だが、素人の手製にしてはまずまずだな」

姉「お茶々も問題無いわね」ズー

姉「なんかこれだけってのはつまらないわ」

帝人「君、クレームをつけたんだろう。そんな言い方はなかろう」

姉「ちょっと乾いたケーキはありえないと思いましてよ」

帝人「……ふう。君はどうだ?」

特「甘いモノは、好みではない……」

帝人「何しに来たんだ……」

特「これは、美味しい」

隊長「それは煎餅というお菓子ですね。もち米を焼いて、ショーユで味付けしたものです」

特「機関に持ち帰ろう……」

隊長「湿気ますし、量もそれほど作ってはないので、持ち帰るのは……」

特「……」

帝人「しょげないでもらえるか」
304 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/06(木) 23:24:12.26 ID:5aerHjOvo
特「これは、懐かしい……」

隊長「それは、デンプン餅、ですね」

特「ロクムだろう……」

隊長「は?」

特「これを作ったのは?」

剣士「……私ですが」

特「この味は、機関でよく作っている味だ……」

剣士「……そうですか」

特「……」

隊長(……それだけかよ! なんかないのかよ!)

姉「へぇぇ、これが。なんかもちもちしてるわね」

帝人「ほうほう、これが特務機関の味か」

特「……これも菓子と言えば菓子か。それほど甘くはないのだがな……」

隊長「そうですねぇ」
305 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/06(木) 23:24:38.80 ID:5aerHjOvo
帝人「ふう、これでひと通り、か?」

姉「うん、まあまあ、いいんじゃないの? 作り置きしても、そこまで悪くならないでしょ」

姉「ああ、後で改善案として、出しておいてくださいね」

職員「は、はあ。わかりました」

特「毒はないようだ……」

隊長(当たり前だろうが!)

姉「で、これで終わり? まあ、満足とは言わないけど、一応、合格はあげられるわ」

隊長(何様だ)

帝人「……ふむ? 机の端に置いてある、それはどうした?」

隊長「は、えっと……」

工兵「異世界のお菓子ですね!」

帝人「ほーう」

隊長「おい、バカ、やめろ……」ヒソヒソ

工兵「見つかった以上、見せておかないと」ヒソヒソ
306 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/06(木) 23:25:06.38 ID:5aerHjOvo
隊長「いやいやいや、だから、そんな怪しげなものを……」

姉「なあに。何かあるなら、ちゃんと見せなさい」

隊長「いやあ、これはね」

帝人「異世界の菓子、といったか。興味深いな」

特「……」

工兵「それでは、僕が実演して差し上げましょう!」

隊長「おい、おい」

工兵「じゃあん、この粉がお菓子なのです!」

帝人「ただの白い粉にしか見えないが……?」

工兵「ですよね。ところが、これに少量の水を足すと……?」

帝人「おお、色が出てきたぞ」

工兵「さらに、こちらの粉を足して練っていくと……?」

帝人「なんと、色が変わったぞ!」

工兵「ここに砂糖菓子をふりかけて……どうぞ」

帝人「うまいっ!」テーレッテレー
307 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/06(木) 23:25:33.42 ID:5aerHjOvo
姉「へぇー、どれどれ……」

特「……」ムグ

姉「……別に大しておいしくはないわね」

帝人「これは君が作ったのかね?」

工兵「はい! 私が生産者です!」

帝人「はっはっは、こんなくだらない菓子は初めて見たぞ!」

帝人「面白い、謎の粉を水で練り合わせて食べるお菓子か」

工兵「くだらない……」

隊長「あ、あーっと、まあ、あれですね。混ぜ合わせることで、少し遊び心を」

姉「ふーん」

帝人「気に入ったぞ! 私はこれを持って帰る」

工兵「えーっと、じゃあ、後で袋に包みましょうか」

姉「私は普通にクッキーとか、なんか最後に出てきたナッツの入ったやつとかが美味しかったわ」

特「……」
308 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/06(木) 23:26:00.06 ID:5aerHjOvo
隊長「ええと」

特「……懐かしいものは、しかし、警戒心を奪わせるかもしれない……」

特「煎餅が良かった」

隊長「ありがとうございます」

救護員「あっざーす!」

剣士「……」

特「美味しかったよ」

剣士「……ありがとうございました」

姉「というわけで、基本的には満足したわ。帝国人が変な食べ物を好むってことも分かったしね」

帝人「ふふ、練って練るわけだな……」

姉「まだ言ってるわね」

隊長(うむ……思ってたより、調べたことは役に立たなかったな)

隊長(だが、まあ、とりあえずは成功、かな)


作戦5終了。
309 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/06(木) 23:30:41.13 ID:5aerHjOvo
廊下。

隊長「……はぁー」

姉「おい」

隊長「うわあっ、な、なんだよ」

姉「帝人のやつ、おみやげで持って帰ったみたいね。粉」

姉「あれって何なの?」

隊長「俺もよく分からん。食べられるのか?」

姉「はい?」

隊長「いや、俺も知らないんだよ、マジで。で、今回は満足いただけましたか」

姉「ああ、まあね〜」

隊長(えらそうに、こいつ……)

姉「これから、あの三人で飲むつもりなんだけど、お前も来る?」

隊長「なんでだよ。学生に酒をすすめるなよ……」

姉「いや、来ないならいいんだけど?」

隊長「……」
310 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/06(木) 23:38:15.50 ID:5aerHjOvo
隊長(参ったな、懸案はいろいろと片付いていない)

隊長(剣士から事情をあまり聞いていないし)

隊長(なんか、特務機関とやらに関係していたっぽいし……)

隊長(工兵のやつ、なんかやたらと能力が高いような気がしてきたんだよな)

隊長(寮に戻って資料を見たが、やはり成績は大して良くない)

隊長(……救護員も、褒めてやらないといけないし)

隊長(術士がなんとなく、距離を置いているような感じがするし)

姉「おーい。目の前で黙るなよ」

隊長(こいつの相手にも付き合うべきかどうか……)


【選択】以下から選択します。参考にしますのでご希望をどうぞ。下二つくらいを考えます。


剣士からいろいろ聞きたい
工兵を問い詰めたい
救護員を褒めてあげたい
術士の様子を伺いたい
姉に付き合う
311 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/06(木) 23:58:01.19 ID:cWOjAh1Vo
剣士からいろいろ聞きたいが、
特からも剣士のこと聞けそうなんだよなぁ…

ダメだ選べね。さらに↓二つに任せる
いつもとても楽しく読ませてもらってます
312 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/09/07(金) 00:39:54.77 ID:YZCBCGAso
ここは術士で
313 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2012/09/07(金) 01:38:50.62 ID:3ibcoF5Fo
ここは隊長の出世を考えて姉について行かせる方向でだな……隊長マジ救われてくれ
まぁこの隊長のことだから、どーせ剣士の過去に首突っ込んだり工兵の特異な技能を見抜いたり救護員の自己評価高めたり術師にフラグ立てたりしてしまうんだろうが
314 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/07(金) 20:36:09.35 ID:ezB38caSo
ここは剣士で と思ったが遅かったようだ
315 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/09/07(金) 21:28:28.99 ID:VrUkgnzdo
隊長(剣士のことが有耶無耶になりそうなんだが……)

隊長(今度、組手なり訓練なりを申し込む時に聞いてみるか)

隊長「姉ちゃん、その飲み会って何時くらいまでやるつもり?」

姉「まあ、満足するまでかな。お互い、仕事に差し障りがない程度にするでしょうし」

隊長(酒飲みって大体、なんとかなるって思考だよな……)

隊長「……なら、少し、用事があるから、それを済ませてきてからでもいいかな?」

姉「別に構わないけど、早く来なさいよ」

隊長「なんでだよ」

姉「話せる状態じゃないかもしれないし」

隊長「自覚があるならやめろや」

姉「あ? 私以外の連中の話だよ」

隊長「そうですか失礼しました」


剣士
工兵
⇒ 術士
救護員
316 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/07(金) 21:29:23.16 ID:VrUkgnzdo
図書館。

隊長「……来てから気づいたけど、閉館時間ギリギリだな」

司書「なあにー? 誰も来てないわよー」

隊長「ここって規模の割に、利用率が低いですよね」

司書「うん、バカが多いかしら。いろいろ教師の推薦図書に、授業進度に応じた参考図書の配置もしてるんだけど」

隊長「正直、バカ相手じゃねぇ」

司書「そろそろ中間試験、近いでしょ? お仲間連れてきなさいよー。学習室予約取っといたげるから」

隊長「ほ、本当ですか? ありがとうございます!」(おっしゃ! 苦労の甲斐があったな)

司書「ただし、せっかくだから試験で全員上位取りなさいよ」

隊長「無理です。それ」

司書「やる前から諦めてどうするの」

隊長「いや、だって……」

術士「あ……」

隊長「ああ、術士、探していたんだ」

術士「……そ、そう」
317 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/07(金) 21:30:04.84 ID:VrUkgnzdo
隊長「ええっと」

司書「……カップルの密会には学習室は使わせないわよー」

隊長「何いってんですか」

司書「なんか話しにくいなら、少し先の談話室、使用中の札でもかけとこうか?」

術士「あ、お気遣いなく」

司書「何言ってんの。傍から見てもまごまごしてるのに」

術士「そ、そんなんじゃありませんから!」

隊長「いや、このあと用事があるんだ。それに、術士とも話はしたいと思っていた」

術士「わ、私は、隊長とする話なんてないわ」

隊長「なら、俺の話を聞くだけでも良いだろう」

術士「……」

術士「それは、そうだけど」

隊長(めっんどくせぇな)
318 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/07(金) 21:30:30.23 ID:VrUkgnzdo
談話室。

術士「……それで」

隊長(う〜ん。とにかく、こちらがどうしたとかって覚えがないんだよな)

隊長(攻めてみるか)

術士「……」

隊長「今回の作戦はあまりうまく行かなかったね」

術士「……そうね」

隊長「……なんだか、こないだからどうも素っ気ない感じがするんだ」

隊長「言いたいことを我慢しているような感じもする」

隊長(そのくせ、カッコ悪いだのなんだのは言ってるけど)

隊長「もし、何かあったなら言ってくれ。俺にできることがあれば、ちゃんと聞く」

術士「あ、ああ……」

隊長「何か、あるんだな?」

術士「い、いや……これは、私の問題で……」

隊長「話せないことなのか?」

術士「じゃなくって……」
319 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/07(金) 21:30:57.98 ID:VrUkgnzdo
術士「……」

隊長(なんなんだよ。言いたいことがあるなら、早く言えば済むのに)

術士「……隊長、くだらないことだから、気にしないで」

隊長「そのくだらないことってなんなの?」

術士「……模擬戦の時」

隊長「ん? 模擬戦?」

術士「……隊長に、黙ってろって、言われたから……」

隊長「は? え?」

術士「隊長と剣士が喧嘩しそうになってる時、私が、余計なことを言おうとして」

術士「ちょっと黙ってて、って言われた」

隊長「……」

隊長(もしかして、それだけか?)

術士「……ごめんなさい。だから、なんとなく、意見を言うのに、躊躇してただけ、です」

隊長「……えーっと」

術士「それだけ。ごめんなさい。それも、ダメだったんだね。ちゃんと改めるから」
320 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/07(金) 21:31:55.68 ID:VrUkgnzdo
隊長「いや、まあ、ごめんよ。俺の方こそ」

隊長(全っ然覚えてないぞ。本当にそんなこと言ったのか?)

術士「……私、余計な相槌を」

隊長「まあ、あの時は剣士も様子がおかしかったから、俺もそれを相手するのに必死で、ちょっと術士に気を配ってなかったかも」

術士「そんなことはないわ!」

術士「私が悪いし、実際……」

術士「……さっきの作戦でも、私はほとんど、役に立たなかったし」

隊長「あのねぇ……」

術士「私が出しゃばりだったから、良くなかっただけ。隊は、ちゃんとできてるし……」

隊長(自己完結してんじゃねぇよ、ボケ!)

術士「……術も。術も、最近、煮詰まっちゃってる。隊長に、極めてほしいって言われたのに」

隊長(ああー? 俺が言ったことを盾にしてねぇか、こいつ)

術士「私……」ヒクッ
321 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/07(金) 21:32:55.79 ID:VrUkgnzdo
術士「どうしたらうまくやれるんだろうって思ってるのに、できないの」

術士「どうすれば、友達が、怪我をしなかったんだろうって……」

術士「前は、何も言わないのがダメなんだって思ってた。近づいてくるまで、私はオロオロしてるだけだった」

術士「だから今は、が、がんばって、声に出してたの。言いたいこと、なるべく言おうって」

術士「でも、それも、ちゃんと言わないと、ちゃんと言わないとダメなのよね?」

術士「……黙ってろって言われるのよね?」

隊長(知るかああああああ!)

術士「……ごめんなさい」

術士「もっと、がんばるから……もう少し、時間ください」

隊長「……あのさ」

術士「はい」

隊長「なんで謝るのか、よく分からないんだけど」

術士「だって、心配、させて、迷惑をかけて……」

隊長「……黙ってろって言ったの、正直、覚えていないんだよ」

隊長「つまり、その。その時は剣士に対して目が行ってたから」

術士「……はい」
322 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/07(金) 21:34:33.41 ID:VrUkgnzdo
隊長「だから、ちゃんと術士の様子に気を配ってなかった、言葉を選びもしなかった俺が悪いってことだよね?」

術士「そんなこと!」

隊長「違うの?」

術士「違うわ! 私がっ、なんで、こんなことで落ち込んで……」

術士「嫌なの、もう。失敗するのが嫌なの」

隊長「失敗なんか俺のほうがしてるじゃん」

術士「いや、でも」

隊長「その度毎に、落ち込んでるし、悔しいって思ってるよ。進まないと行けないから、その場で倒れたりはしないけど」

隊長「そのたびに、術士は心配したり、もっとしっかりしろよって思うよね」

術士「お、思ってなんか……」

隊長「いや、自分の隊のリーダーがその調子じゃ危ういでしょ。思ってないならそれはそれで困るんだけど」

術士「……」

隊長「もし、術士が、心配させたことをそんなに言って謝るならさ」

隊長「俺はみんなに頭が擦り切れるくらい土下座をしないといけないよね」

術士「だっ……!」
323 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/07(金) 21:35:23.90 ID:VrUkgnzdo
隊長「何? 最後まで言って」

隊長(やべぇ。こりゃ姉のところまで間に合わないかもしれん)

術士「隊長はなんで、そこまでするの……?」

隊長「……意味が分からないけど」

術士「私達、そりゃあ、同じ戦隊に入ったわ。けど、学年が変われば、卒業すれば、どうせ……」

隊長「今だって大事だろ。命がかかってくることだってあるし」

術士「……でも、私が落ち込んでることは、私が頑張れば、済むじゃない」

隊長「……」

術士「私、ちゃんと立ち直るから。自分で、なんとかするから。放っておいて」

隊長「……」

術士「わ、私、反省、するから。できるから」

術士「だから……」

隊長(不愉快)
324 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/07(金) 21:35:54.16 ID:VrUkgnzdo
隊長(こいつ、本当に不愉快)

隊長(何が不愉快かって、俺の言葉に動揺しておきながら、解決策の話では俺とは関係ないって言い切る態度が)

隊長(俺は後悔しているのに……そうだ、この感情には後悔も含まれている)

隊長(もう、あからさまに、だったら勝手に死にやがれとか言っちまうか)

隊長(畜生、こいつ)

隊長「……」

術士「……」

隊長「……術士は俺の失敗も認めてくれないんだな」

術士「へっ?」

隊長「俺達は未熟だ、弱いって何度も言ったよな。あれは、お互い、弱いところは認め合おうって意味も含めているんだ」

術士「……な、なにを」

隊長「俺は何度も失敗している。剣士なんかはそれに怒るし、救護員は、まあ、あいつはバカにするけど……」

隊長「だから、俺もあの二人には結構容赦せずに言ってきたつもりだ」

隊長(言葉は選んでいるが)
325 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/07(金) 21:36:30.32 ID:VrUkgnzdo
隊長「でも、術士は、術士にとって、俺は何つーかどうでもいいのかな?」

術士「いえ……」

隊長「だったら、今度の話だって、自分一人の問題みたいな言い方はおかしいんじゃないの?」

隊長「術士なりに、その場をまとめようとして考えていったんだろ」(多分)

隊長「それを無下にしたことに傷ついたってのは、おかしなことじゃないよ」

術士「……」

隊長「それを一人の問題に回収しちゃうなら……術士を傷つけた俺はなんだっていうの?」

隊長「俺は隊長だからって理由だけで、術士と話しているわけじゃないんだよ」

隊長(大半は義務感だがな)

術士「……」グスッ

隊長「自分一人の問題じゃないと思ったから、言うんじゃないの。どうでもいいと思っているなら、もう何も言わないでしょ」
326 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/07(金) 21:40:00.08 ID:VrUkgnzdo
術士「……」ズスッ

隊長「……」

術士「……」

隊長「……」

隊長(ああああ、また女の子を泣かせちまったよ! くそっ、くそっ)

術士「……私」

術士「そんなに、深く考えずに言った」

隊長「今、深く悩んでいるんだろ」

術士「じ、自分の、保身のために、話している、のかも」

隊長「だったら、今度から、俺のこともちょっとだけ考えて」

術士「……」

隊長「……」

術士「……隊長」

隊長「なに?」

術士「ごめんなさい。それから……」
327 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/07(金) 21:41:01.85 ID:VrUkgnzdo
廊下。

隊長(……くそ、なんでこうなるんだか)

隊長(送ろうかつっても固辞されるし、司書さんに散々からかわれるし)

隊長(でも、術士のことはこれで大きな反省点がついたな)

隊長(考えてみたら、自分のことくらい、自分でやれやって、言ったこともあるかもしれない)

隊長(俺のせいかよ……まったく)

隊長「……」


術士『それから……ありがとうございます』


隊長「ああー、くそっ、この状態で酒場に入るとか、本当にキツイわ」

隊長「……まだ潰れていなければいいが」


剣士
工兵
救護員
⇒ 某国の三人
328 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/07(金) 21:41:39.23 ID:VrUkgnzdo
しばしまて! がんばって酒場編を書いて行きたい!
329 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/07(金) 22:37:54.18 ID:ezB38caSo
乙!

酒場編頑張って!
330 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/07(金) 23:25:48.23 ID:VrUkgnzdo
やっぱり、今夜はここまでのようだ……
明日、投下していきます。

隊長はチビでキタロー系だもん。モテるわけがないよ
331 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2012/09/08(土) 04:13:58.61 ID:ZU1N3WFAO


チビでキタローでもモテモテの妖怪漫画の主人公がおってだな
332 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/09/08(土) 21:04:11.72 ID:A4r0LFlNo
バー。

帝人「だから、君は卑怯なのだ! おかしいと感じたなら行動すべきだ!」

姉「別に行動しないとは言ってないでしょ。それにそこまで言ったら内政干渉よ」

特「……」グイッ

帝人「ふん、それを言うなら、今度の学園戦隊。冒険実習、集団実習が行われている中で、誰がこれを提案したか知っているかね?」

特「特務機関から提案した」

帝人「そう、王国の……え」

姉「あははは、恥ずかしい! お前、本当に恥ずかしいよ!」

帝人「……」

特「元々、特務機関は個人採用をせず、冒険者のパーティーを雇い入れてそこから選抜してきた」

特「……今回の学園戦隊には、教育プログラムで、そうしたパーティーの質が上がるかどうかの研究目的も含まれている」

帝人「推測が、なんらかの問題によって誤っていたことは認めよう」

姉「これって粗相じゃないですか〜?」

帝人「ふざけるのもいいかげんにしろ!」


隊長「うわあ」
333 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/08(土) 21:04:38.03 ID:A4r0LFlNo
姉「おー、来たわね」

隊長「……なんだか、機密的なことを話していませんか?」

姉「大体、公表されている事実しか話してないわよ。無知無知な人はいたけどね」

帝人「侮辱するな! 抗議を入れるぞ」

姉「それってお前がさらに恥ずかしくなるだけでしょうね」

帝人「ギリギリ」

特「……」グイッ

隊長「ええっと」

姉「とりあえず、金は気にしなくていいわよ。マスター、安いやつ!」

隊長「……失礼します!」

帝人「君か。まったく苦労が目に浮かぶよ、彼女の相手をしているとね」

姉「私が相手をして差し上げているに過ぎませんわね」

帝人「黙れ」

特「……」グイッ
334 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/08(土) 21:05:30.27 ID:A4r0LFlNo
帝人「そういえば、今度の戦隊についてだが、君はその一人としてどう見ている」

隊長「うーん、俺のような成績の良くない戦士には、渡りに船ですね。学園側の売り込みでもあるでしょう」

帝人「……強力な冒険者を、各国に売り込む、か?」

隊長「ええ。学園側も、旧大国が崩壊してからこの方、冒険者は増加する一方で、入学者が増えて増えて仕方がない」

隊長「ただし、碌でもない、ろくな成績も取れない連中も入学してくるものだから」

帝人「個人レベルの採用は今までもやってきたことだ」

隊長(……試されてるのかね)

姉「例えば、低位の連中をそこそこ使えるのと混ぜたら、そこそこできるパーティーが出来るわね」

隊長「そうそう」

姉「お前の隊みたいな」

隊長「……そうそう」

帝人「実際のところ君たちの隊は、個々人の成績に見合わない成果を上げている。もちろん、そうでない者もいるが」

隊長(はっきり言ってくれる)
335 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/08(土) 21:05:57.66 ID:A4r0LFlNo
特「……ただの集団ではなく、チームとしての意識を与えると、格段に動きの良くなるグループはある」

特「個々の能力に優れていなくても、補いあうことがひとつ……」

特「それぞれが全体視に努めることで、状況把握能力が高まることがひとつ……」

特「逆に、今まで能力が高かったものが、ある特定の型にこだわり、一挙に崩される場合もある」

帝人「先日の二番隊がそれか。確かに、アレは素人くさい動きが目についた」

隊長「最低位の隊を相手にしたので、油断していたのではないでしょうか」

姉「バカだよねー。順番なんか能力には大した意味もないのに」

特「……一般論だ」

帝人「だが、それにしても君は謙遜がすぎるな!」

隊長(話がつながってねぇよ)

帝人「……無論、君の隊では、剣士だったか。彼がトップクラスだがな」

姉「あの子、特務機関の出身なんでしょ?」

隊長「出身……?」

特「……」グイッ
336 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/08(土) 21:06:34.73 ID:A4r0LFlNo
隊長「つかぬことをお聞きしますが、特さんは剣士を知っておいでですか」

隊長「今日、なんだか、その、お菓子の件で……」

特「……よくは知らない。ただ、例のお菓子を食べてから、彼のプロフィルを見て得心がいった」

特「確かに、私の所属する地域の方から入学したようだな」

隊長「ええとですね」

帝人「知らないのか。まあ、特務機関は国を超えて活動している組織だからな」

特「組織と言うよりは、いまやネットワーク体と言って良い」

隊長「つまり、その、剣士は特さんの住んでいた地域の出身だと」

特「……ああ」

姉「特務機関から出てきた子ってのは優秀なのねー」

特「幼少期から機関でも訓練はするが、伸びるかどうかは個々人による」

特「……戦闘訓練以外も必要だ。学園に入れるのはそういう理由もあるのだが」

隊長「そう、ですか」

特「……」
337 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/08(土) 21:07:47.54 ID:A4r0LFlNo
特「……特務機関は、旧大国の支配が盛んだった時期に作られた」

特「それぞれの王が治める領土、そこに支所を置き、場合によっては各地の王を暗殺する任務まであった」

特「旧大国が潰れれば、組織は瓦解する……はずだった」

隊長(そのくらいは知っているが)

隊長「……冒険者たちの依頼や仕事を受け付ける組織に転身、でしょ」

特「ネットワークを生かした結果だった」

特「別の地方では、冒険者たちが寄り集まって、組合、ギルドを結成しているようだが……」

特「だが、今の特務機関も冒険者たちの組織と言える。まとめて冒険者のチームを雇い、いまや中枢は元冒険者たちだ」

特「家族ぐるみで、組織に身を置いているものも多い……」

隊長「なるほど。それで出身が特務機関、だと」

隊長「いやー、でも、それぞれの国に戸籍はあるんでしょう?」

特「ない。そもそも支所は置いてあるが、機関は土地を所有していない……」

特「生まれても届出をしないこともある。常に移動している職員も多い」

特「同じ地域ですら、顔を合わせない子どももいるものだ……」

隊長(なるほど。なるほど、そういうわけか)

隊長(要するに、剣士は生まれついての冒険者ってことだな)
338 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/08(土) 21:08:46.24 ID:A4r0LFlNo
帝人「で、君は剣士なんかをどう見ているのだね」

特「……荒削りだ。改良の余地がある」

隊長(あれを見て荒削りと申しますか)

特「集団行動の能力は多少は身についているが……」

隊長「本人に言っておきます」

特「……」グイッ

姉「そういえば、会長も特務機関出身なんでしょ?」

隊長「そうなの?」

姉「そうよ。多分、剣士と同じ地域じゃないかしらね」

隊長(幼馴染、というわけか)

隊長(なんとなく糸がつながった気もする)

隊長「……て、ちょっと待ってくれ。そんなのプロフィルに書いてないでしょ?」

姉「書いてあったわよ」

帝人「ああ、そうだな」

隊長(おかしいぞ……最初に渡された資料には、別に……)

隊長(なんだよ。外国の要人には生徒の個人情報をばらすのかよ……)
339 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/08(土) 21:09:15.51 ID:A4r0LFlNo
隊長「はぁ……」

姉「なんなの、ため息をついちゃって」

隊長「いや、別に」

帝人「……話を戻すがな、何れにしても、特務機関が提案したとしても、だ」

帝人「このタイミングでの各国への見学の申し入れ。これは王国の差金ではないのか」

姉「さあ、どうかしら」

特「……」グイッ

特「確かに、機関はともかく、各国では個人レベルの採用が主だな……」

帝人「うむ。それは冒険者頼みの政治をやめようという方針でな」

姉「なら、こんな戦隊なんて逆行しているんじゃないの?」

帝人「だから、それが差金ではないかと言っている。王国は、優秀なパーティーを専属で囲い込むことで」

姉「特務機関じゃあ、基本的にパーティーで採用しているんでしょ」

帝人「国家となれば別だ!」
340 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/08(土) 21:09:42.11 ID:A4r0LFlNo
隊長「まあまあ、言い争いは置いておきましょうよ」

姉「そうだそうだー、酒がまずくなるぞーい」

隊長「姉ちゃんは煽らないでください」

姉「びえー、弟が怒ったー」

隊長(うぜぇ)

帝人「……冒険者として各国を渡り歩くのも、どこかに就職するのも結構だがな、こういう不真面目なところだけはやめておくべきだな」

姉「あら。私が来なさいって言ったら来るわよね? 言わないけど」

隊長「お姉さまにご迷惑がかからないようにいたします」

特「姉弟で同じ道を進む必要はない……」

帝人「なんなら、我が国はどうだね?」

隊長「ご期待に添える能力では……」

姉「それは努力しなさい。分かるわよね」

隊長(酔っぱらいには逆らわないでおこう)
341 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/08(土) 21:10:12.91 ID:A4r0LFlNo
姉「じゃあ、これで学園内では飲み納めかなー」

帝人「そうだな。学園に酒場があるとは、我が国では考えられんが……なかなか良い酒だった」

特「うむ……」

隊長「お帰りですか?」

帝人「ああ。十分、見学もした。明日には出発する」

姉「これで報告書を書くのが面倒なのよね〜」

隊長(真面目にやれ)

帝人「君もがんばりたまえ」ポン

隊長「ありがとうございます!」

帝人「良い返事だ」

特「冒険者たちに希望を」スッ

隊長(宗教的なあいさつか)「希望を」

姉「んじゃ、部屋に連れてきなさーい」

隊長「はいはい……」
342 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/08(土) 21:10:41.01 ID:A4r0LFlNo
廊下。

姉「ところでさ、そろそろ中間試験でしょ。勉強してる?」

隊長「してるけど……」

姉「大変よねー、多分、お前がパーティーの頭脳役なわけでしょ」

隊長「はい?」

姉「試験で点が取れないと、連帯責任で全員追試って聞いたけど」

隊長「いや、クラス違うし」

姉「いいや? 統一試験でしょ。今年」

隊長「は?」

姉「こないだの模擬戦が戦隊レベルの試験だとして、個人の試験も全体実施するものがあるって、ほら」ピラ

隊長「……」フルフル

姉「……お前はそういうところが残念よね」

隊長「うぐう」

姉「姉ちゃん帰るけど、心配だわー」

隊長(やべぇ、やべぇ、うちのメンバーの成績……)
343 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/08(土) 21:11:40.86 ID:A4r0LFlNo
一旦ここで停止。本日のうちに、訓練回を投下予定。

344 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2012/09/08(土) 21:24:04.43 ID:TU117RRjo
良し来た!
345 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/09/08(土) 22:13:56.92 ID:A4r0LFlNo
翌日。

姉「じゃあ、本部に挨拶して、帰るわ」

隊長「ああ。気をつけて」

姉「……」

隊長「なんだよ」

姉「なーんかいろいろ言ったんだけどさ、あんたはあんたの好きに生きたらいいじゃない」

隊長「……」

姉「いろんなこと我慢してるみたいよ、その顔」

隊長「我慢しなくちゃ、うまく行かないんだ」

姉「今もお金を貯めてるの?」

隊長「ああ。戦隊実習が始まってから、きちんと報酬ももらえるし、かなりありがたい感じだぜ」

姉「そんなのに縛られることないのにさ」

隊長「……それこそ、好きに生きてるんだよ」
346 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/08(土) 22:16:23.52 ID:A4r0LFlNo
姉「そ、ならいいけど」

隊長「そういう姉ちゃんこそ、無理してんじゃないの」

姉「あ、やっぱりそう見える〜?」

隊長「……」

姉「じゃあね、またね」ヒラヒラ

隊長「ああ」


隊長「……」

隊長「さて……やることは多いな」

隊長「とりあえず、中間試験まで……あと二週間か」

隊長「みんなを呼び集めて、と」
347 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/08(土) 22:17:26.10 ID:A4r0LFlNo
訓練「試験を突破せよ」


学習室。

隊長「……え〜、ではまず、昨年の進級試験の結果から公表します」

救護員「た、隊長、そういうのは良くないと思いますよ」

工兵「あ、あー、僕もそういう競争心を煽るのは……」

剣士「……」

術士「……」

隊長(術士、ちょっと落ち込んでるな。剣士は相変わらずだが)

隊長「いいかな? 別に俺は上位陣に入るべきだ、という上昇志向で言ってるわけじゃないんだ」

術士「……連帯責任が面倒だと」

隊長「はっきり言うとそうだ。でも、それだけじゃない」

隊長「この間、俺達はいくつかの作戦を通じて、弱点を発見してきたと思う」

救護員「えっとー、仲が良くない、とか?」

隊長「……」

救護員「ひいぃ、隊長が、たいちょーが豚を見るような目でぇ」

隊長「それでね?」
348 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/08(土) 22:18:26.43 ID:A4r0LFlNo
隊長「まず一つ、絶対的な能力、知識不足」

隊長「チームとしての総合力は、あるんだかないんだか分からないけど、これがないために、判断を誤ったことは何度かある」

隊長「……もちろん、大半は俺の責任だろうが」

術士「でも、隊長の判断で成功してきたわ」

隊長「ありがとう。けど、例えば追及しきれていない謎が残ったりしている」

工兵「うーん、そう、かもね」

救護員「謎って、何かありましたっけ?」ヒソヒソ

剣士「いいから黙って聞いてろ」

隊長「やはりそのためにも、こうした知識、能力を引き上げることは必要だと思う」

隊長「そのひとつの目安として、中間試験にかならず合格するということを設定したいと思う」

剣士「……だが、統一試験となれば、俺らに関係ないことも多いだろうが」

隊長「じゃあ、今までのクラス別の試験での成績を見ていこうね」ニッコリ

剣士「チッ」
349 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/08(土) 22:19:21.93 ID:A4r0LFlNo
隊長「まず、俺から。筆記試験平均、78点。剣技、および実技試験、クラス中17位」

救護員「な、ななじゅうはち……!?」

隊長「……剣士。筆記試験平均、57点。剣技、クラス2位。その他、実技は6位」

剣士「……それで?」

工兵「1組はエリート集団だから、それでこの点数、この順位って相当すごいよね」

術士「……剣士って頭もそれなり?」

剣士「うるせぇ! 必要なことだけやっているに過ぎん」

隊長(なお、会長は筆記、実技ともに1位の模様)

隊長「次、術士。筆記試験平均、52点……魔法、方陣術のみ筆記実技ともに80点以上で合格」

術士「……」

隊長「術士さん?」

術士「発声魔法も、召喚術も、難しいから……」

隊長(それにしたって、他が全滅じゃねーか。なんでだ……?)
350 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/08(土) 22:20:02.26 ID:A4r0LFlNo
隊長「えー、工兵」

工兵「は、はい」

隊長「筆記試験平均、62点。ただし、これは一般教養ベースで、特別コースの試験はギリギリの42点」

工兵「いやあ」

隊長「……前から聞きたかったんだけど、工兵ってかなりいろいろ出来ると思うんだけど、なんでこんな」

工兵「出された課題が良くなかったんだよ。武器の硬度を上げるだのなんだの」

隊長「うん」

工兵「その時は僕、映像機を作っていたからさ」

隊長(こいつ、もしかして、自分のやりたいことしかやらないっていう……)

工兵「でも、最近は隊長のために鉄杖も作ったし、なんとかなるんじゃないかなー」

隊長「……工兵、後でちゃんと話そうね」

工兵「え?」
351 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/08(土) 22:20:31.76 ID:A4r0LFlNo
隊長「それから、問題児」

救護員「な、なんなんですかぁ!?」

隊長「ごめん、救護員」

救護員「隊長、最近、私に対して容赦がなくなってきてませんか……?」

隊長(いい加減、優しくしてもつけあがるだけだということを俺は学んだ)

隊長「……筆記試験平均、33点。実技は追試を重ねてギリギリ合格。もちろん、クラス内では最下位の35位」

救護員「えへへ」

隊長「褒めてないからさ」

救護員「ば、バカな子ほど可愛いって」

隊長「俺、救護員の親じゃないんだよね」

救護員「いや、でも、あの」

隊長「……実技試験もか」

救護員「いや、あの、えっと」

隊長「剣士」

剣士「断る!」
352 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/08(土) 22:21:05.61 ID:A4r0LFlNo
隊長「頼む、俺も含めてだが、実技の訓練に付き合ってくれないか」

隊長「その、俺も、座学は手伝うから」

剣士「レベル差がありすぎるって言っただろうが!」

隊長「合わせてくれてるんだろ? なら、それでもいいから」

工兵「や、やめた方が……」

救護員「ふ、怖気づいているのね、私の無能さに」

術士「開き直りにもなってないわよ」

剣士「……」

隊長「頼むよ」

剣士「……確かに、今まで実力を見せないことで、こいつが俺を誤認しているわな」

救護員「はぁあ?」

隊長「お願いできるか?」

剣士「……全員の訓練の方がいいのか?」

工兵「許してください!」
353 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/08(土) 22:21:46.54 ID:A4r0LFlNo
剣士「二週間で出来ることは基礎訓練だ。実戦レベルには引き上げられない」

隊長「それは座学面でも同じだね。統一試験以外にもそれぞれの試験はあるし」

術士「……隊長、もしかして、私も実技訓練を」

隊長「魔法使いにも体力は必要だと思うけど」

術士「……」

工兵「いやだあああああ! 絶対に嫌だあああ!」

救護員「えーっと、ま、その、出来ることはやりますけどぉ」

隊長「じゃあ、座学の方から行こうか」

救護員「え、え、進めるんですか?」

隊長「時間がもったいないから」

隊長「……じゃあ、座学の方だけど。統一試験対策に、俺の方から予想テスト作ってきたから、やって」

工兵「予想……!?」

救護員「テスト……!?」
354 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/08(土) 22:22:20.09 ID:A4r0LFlNo
三十分後。

隊長「剣士、ちょこちょこ思い違いがあったよ」

剣士「チッ……だが、この程度なら常識の範囲過ぎないか」

隊長「統一試験って言うから、このくらいかなって」

隊長「……工兵と術士は、やっぱり自分の関心のある範囲以外は急にダメになるね」

工兵「だって、国名とかそんなのばっかりだし」

術士「……」

隊長「そして、問題児」

救護員「うえぇ!?」

隊長「制限時間内に終わらなかった時点で何も言いたくないんだけど」

救護員「た、隊長……」

隊長「冒険者なら最低限、知っておかないとまずいレベルのも間違ってたし」

救護員「ほ、ほら、私は救護の知識があれば」

隊長「『恥ずかしくない程度になりたい』」

救護員「きゃあああ!?」
355 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/08(土) 22:23:29.59 ID:A4r0LFlNo
隊長「……対策だ。剣士はやっぱり計算が苦手だから、これ」

剣士「計算ドリル、か?」

隊長「あとは剣士は論理問題が弱いね。そういうタイプじゃなさそうなんだけど」

剣士「……剣を振るい、敵を見定める方がマシだ」

隊長(こいつ……あえて深く考えないようにしているのかな……)

隊長「とにかく、論理的思考を要求される問題集を三冊ほど用意してきたから。一日目はこれだけ」

剣士「……」

隊長「眉をひそめないで、しっかりやってね」

剣士「他の連中にはどんなものを出す気だ」

隊長「うん、まあ、それぞれだね……工兵!」

工兵「お、おー」

隊長「自分に興味のないことをやるのは苦痛らしいねー」

工兵「そ、そうだね〜」

隊長「そんな工兵には、これ一冊で分かる全科目問題集だ!」

工兵「どういうこと!?」
356 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/08(土) 22:24:15.76 ID:A4r0LFlNo
隊長「全部、パズル形式で回答するようになっているから」

工兵「パズル! パズルは、好きだなぁ〜」

隊長(だろうと思った。リサーチって大事だよな)

隊長「同じ物が三冊ある。一日目は三冊」

工兵「三冊ねぇ」

隊長「工兵は同じのを何度もやっていれば、そのうち覚えるはずだ」

隊長「一旦ハマれば、おそらく繰り返しの作業の方がやりやすいだろ?」

工兵「んー、僕、そんなに機械的な作業が好きってわけじゃ……」

隊長「好きじゃなくても、出来るよ」(多分)

工兵「し、仕方ないな……」

隊長「それから、興味がなくてもいいから、特組のカリキュラムは全部さらっといて」

工兵「ぜ、全部!? 各人に専用で組まれているのに!?」

隊長「……。自分用に組まれているのになんで成績が悪いのかな」

工兵「や、やぶ蛇だった」

隊長「とにかく、それは後でチェックしておこう」

工兵「うう……」
357 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/08(土) 22:24:45.83 ID:A4r0LFlNo
隊長「術士!」

術士「……うん」

隊長「ええっと。術士は、自分に分からないことをすぐ放棄しちゃうね」

隊長「時間はあるのに、空欄が目立った」

術士「だって……」

隊長「ひょっとしてだけど、自分には無理だって思ったものをすぐ諦めちゃうから、他の魔法は」

術士「そういう風に、人のことを暴いていくのは卑怯だと思う」

隊長(……昨日以来、別の意味で積極的になったかもしれない)

隊長「とにかく、それならやっぱり記述式の問題を中心にやろう」

隊長「つまり、全体の説明の過程で単語の意味をつかむようなトレーニングが必要だと思う」

術士「……」コク

隊長「それから、この……『分かる! 発声魔法!』(白刃も竜破斬も撃ち放題!)と『物語で召喚獣を知ろう 英霊&精霊編』」

術士「ふとい」ずっしり

隊長「ストーリー仕立てになっているから、すごくいい」

術士「……二週間で、読破できるの?」

隊長「一日で読み終えて」

術士「無理です」
358 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/08(土) 22:25:15.60 ID:A4r0LFlNo
隊長「さて……」

術士「えっと、本当に?」

隊長「時間ないから、早く始めたほうがいいよ」

術士「……隊長は本当に卑怯」

隊長(なんとでも言え)

隊長「それじゃあ、救護員」

救護員「は、はい」

隊長「……貴方に対しては、本当にどうしてくれようか、真剣に悩みました」

救護員「は、はあ」

隊長「マンツーマンで個人授業するわ。少なくとも、同じテストを満点取れるくらいには引き上げる」

救護員「ば、バカにしないてくださいよ! 同じ、問題くらい」

隊長「じゃあ、はい」ピラッ

救護員「え、えっとー」

隊長「今、その場でやって、満点が取れたらもう何もしないよ」

隊長「やってみてくれ、もし満点取れたら、俺も自分の勉強したいしさ」ゴゴゴゴゴ

救護員「……」キョロキョロ

工兵「うーん、うーん」

剣士「……」カリカリカリカリカリカリ

術士「……たそがれよりも……悪人にじんけん……」ブツブツ
359 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/08(土) 22:27:23.15 ID:A4r0LFlNo
今夜はここまで。

只今、勉強中……。
360 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/09(日) 03:14:53.05 ID:OdTokgXho
乙!どんどん面白くなるなー!
361 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/09(日) 10:36:46.34 ID:WFPwuiwDO

>術士「ふとい」ずっしり

ちょっとかわいいと思ってしまった



362 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/09/11(火) 20:35:14.65 ID:+AYp8C2Xo
隊長「じゃあ、とりあえず歴史から」

救護員「あの、マジで、私だけその……」

隊長「ギリギリ点数良さそうだったからね。はい、これ」

救護員「なんですか、このカード」

隊長「簡単な歴史の出来事を書いたカードです。正しい順番に並べてください」

救護員「これって子ども用のアレですよね」

隊長「ほら。早く」

救護員「えーと、竜の王・旧大国・冒険者・勇者……」

救護員「……」

隊長「俺は本当に悲しいわ。子ども用って自分で言うたがな」

救護員「ま、任せて下さいよ! 勇者カードが最初で!」

隊長「アウト」

救護員「うぇぇええ!?」

隊長「一番、この土地は旧大国、大きな国がありましたー」

救護員「知ってますけど」

隊長「じゃあ、それが最初だよね?」

救護員「で、ですよねー。じゃあ、次こそ、勇者で!」

隊長「ブッブー」
363 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/09/11(火) 20:35:43.52 ID:+AYp8C2Xo
隊長「二番、そこに竜の王が率いる魔物が現れましたー。この際、旧大国は打撃を受けて崩壊」

救護員「で、ですよねー」

隊長「……次は?」

救護員「こんどこそ、勇者カードを使います!」バッ

隊長「カードゲームじゃないんだけど」

救護員「あ、あってますよね?」

隊長「そうだね。三番、勇者と呼ばれる冒険者が一味を率いて竜の王を倒しました」

隊長「そして、四番、これによって冒険者が各地に広まりましたー」

救護員「おおー」パチパチ

隊長「……もっかい自分で並べてみて」

救護員「ば、バカにしすぎですよ! 旧大国、竜の王、勇者、冒険者、はい!」

隊長「よくできましたね」

救護員「へへへ」

隊長「じゃあ、この調子で全科目行くぞ」

救護員「え、全教科……」

   剣士「なあ、あいつさ……」

   工兵「聞かないでやってほしい」
364 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/09/11(火) 20:36:09.32 ID:+AYp8C2Xo
一時間後。

隊長「もう少し詳しくだ! 勇者が率いたパーティーはなんと呼ばれている!?」

救護員「えーと、えーと」

隊長「討竜戦隊だ、竜の王を討伐したから! では魔法と異世界との関連は何によって作られたか!?」

救護員「け、け、賢者です!」

隊長「賢者の何!?」

救護員「賢者が開発した、召喚術によって、異世界への線が重なりあって――」

隊長「線が重なり合うという言い方は正確ではないらしいが、だいたいあってるからいい!」

隊長「よし、次! 魔法、術式の構成と展開に関わる簡単な数学問題を解いていくぞ!」

救護員「先生、何を言っているかわかりません!」

隊長「カードを用意したから、全部組み合わせなさい!」

救護員「うわあい!」
365 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/09/11(火) 20:36:48.79 ID:+AYp8C2Xo
剣士「………」カリカリカリカリ

剣士「ドリル一冊目はこれで終了か」

剣士「……」

剣士「なんかすごいな、あっち」


術士「……以下の文章の空欄を埋めよ」

術士「……古代語と称されている言語は、単純に文化的な違いによって判読不能になっていることが多い」

術士「大地域では、旧大国という統一大国が存在したにも関わらず、いわゆる中央語は文字によるものだけであり、国が分裂した後は……」

術士「空欄が見当たらないわね。このページには」


工兵「ぶはあっ、こ、これで五分の一、か……?」

工兵「絶対終わるわけないよ……一日でなんて」

工兵「……ツケ、なのかなぁ」

工兵「うーんうーん」
366 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/09/11(火) 20:37:52.11 ID:+AYp8C2Xo
二時間。

隊長「ドロー! 今度は魔法を受けた時の人体にかかる負荷について!」

救護員「私のターン! 必要なカードを選んで並べる!」

救護員「ドロー、筋力!」

隊長「筋力は関係ない!」

救護員「えーと、えーと、『ヒント:魔法が発動するには』……?」

救護員「ま、魔力! 人体の魔力の出入口が重要!」

隊長「そうだぞー、魔力に限らず、魔法や術式が展開するためには、そういうなんかパワー的なのが必要なんだぞー」

隊長「魔法を受けると、そういう魔力自体にダメージを受けることもあるってわけだ」

救護員「はいはい!」

隊長「っしゃあ、次だ次!」

隊長「ドロー!」

  剣士「楽しそうだな……」

  工兵「あれは十歳くらいの子どもがやるやつだからね……」
367 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/09/11(火) 20:38:19.13 ID:+AYp8C2Xo
三時間。

隊長「ドロー……ドロ、ドロ……」

救護員「ひい、はぁ」

キーンコーン

隊長「はぁはぁ、お昼に、なったな……」

救護員「そ、そーですね」

隊長「ええと、そしたら、食事をしたら……」

隊長「剣士! 午後は実技訓練を任せる」

工兵「ひいっ」

剣士「午後からか……」

隊長「みんな、進み具合はどうかな」

剣士「ドリルは終わった。論理問題集は一冊目を半分……」

術士「さすがにこの厚さは読み切れないわ。問題は終わったけど」

工兵「まだ、一周しかしてないよ……」

隊長(十分すぎる。やはり、目標は高めに設定しておいて正解だ)

隊長「……では、実技訓練の後、夜に残ったものを終わらせよう」

救護員「ソウデスカ……」グッタリ
368 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/09/11(火) 20:39:52.50 ID:+AYp8C2Xo
校庭。

剣士「……」

隊長「じゃあ、剣士、よろしく頼む」

工兵「ううう、まさか、こんなことになるとは」

救護員「女の子もまとめてやるんですかぁ?」

剣士「加減はする。容赦はしない」

術士「あまり、無茶はやりたくないわ」

剣士「……いろいろと考えたんだが、この音が鳴る時計を使うことにした」

剣士「簡単に説明する。五分間、一対四で戦う。俺は最初の三十秒間だけお前らを殴る。残りの時間はすべてさばく」

工兵「えーと……」

剣士「大体三十セットくらいやる。俺は素手、お前らも金属系の武器や術式は使用するな。質問は?」

救護員「意味が分からないんですけど」

剣士「最初は俺も積極的に攻撃する、お前らは最初から最後まで攻撃し続けろ」

隊長「組手をやるってことで、いいのかな」

剣士「そういうことだ」

救護員「組手なんてやったことありませんけど」
369 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/09/11(火) 20:40:21.04 ID:+AYp8C2Xo
剣士「一対四だから、ちょうどいいだろ」

救護員「と、トレーニングって筋トレとかそういうのじゃ!」

剣士「三十回、戦闘を重ねれば十分筋トレにもなる」

隊長「……どう攻めてもいいの?」

剣士「構わない。だが、俺は最初の時間でお前らの行動を封じるつもりで殴る」

工兵「む、むむむ、無理だよね」

隊長「みんな、最初から諦めてたらトレーニングにならないよ」

隊長「ほら、木刀なり、杖なり持って」

術士「ん」かしっ

剣士「すー、はー」のびー

隊長(こういう訓練か。まずいな、訓練にならないかもしれんわ)

剣士「よし、スタートだ」

剣士は救護員に詰め寄った!

救護員「ひっ」
370 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/09/11(火) 20:40:52.14 ID:+AYp8C2Xo
剣士の攻撃! 救護員にビンタした!

救護員「いったぁ!」

剣士「ふっ」

剣士の攻撃! 術士の杖を蹴り飛ばした!

術士「あ」

剣士の攻撃! 術士の腹を蹴り飛ばした!

術士「うっぐ……」

剣士の攻撃! 工兵の顎を手のひらで弾いた!

工兵「ほぐっ!」

剣士の攻撃! 隊長は杖で蹴り足を受け止めた!
剣士の攻撃! そのまま、杖ごと、隊長を蹴り飛ばす!

隊長「うがっ」ズサーッ

隊長(いかん、命令を飛ばしている暇がない)

剣士「三十秒」

剣士「後はかかってこい、と言いたいところだが……」
371 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/09/11(火) 20:41:28.68 ID:+AYp8C2Xo
救護員「ちょ、ちょっとぉ!」

剣士「見ろ」

救護員「な、何をですか?」

剣士「今、完全にぶっ倒れているのが術士と工兵だ。腹と頭を攻撃されれば誰だってそうなる」

術士「おえ……」

工兵「きゅう」

救護員「う、うぐぐ」

剣士「腕や足は斬られても戦える。だが腹と頭、あるいは首だな、ここを取られたら死んだも同然だ」

剣士「お前らはあまりにも、急所に対して無防備だ。分かるか」

隊長(俺にも言ってんのか)

隊長「……救護員! こっちに走ってこい!」

救護員「は、はい!」

剣士「させるか。攻撃はしないが、妨害はする」

救護員「もおお、どいてくださいよっ」

剣士「どくわけねぇだろ」
372 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/09/11(火) 20:41:59.50 ID:+AYp8C2Xo
隊長「術士! まずは固まろう!」

術士「うん……」ヨロヨロ

剣士「チッ」

救護員「移動する、と見せかけて攻撃ー!」

救護員の攻撃! 剣士には当たらなかった!

剣士「目をつぶって攻撃をするんじゃねぇ!」

剣士「……しかも突き、斬り、払いのどれにもなってねぇじゃねぇか」

救護員「そんなの、私に求めないでくださいよぉ」

隊長「救護員、工兵の方へ!」

救護員「はいぃ!」

剣士「敵に背中を見せるな! 相対しているなら、間合いを取るように後退しろ!」

救護員「……こう?」

救護員は後ろ歩きを始めた! バランスを崩して転んだ!

剣士「アホか!」
373 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/09/11(火) 20:42:30.72 ID:+AYp8C2Xo
隊長「術士、大丈夫?」

術士「お腹が痛いわ、剣士、本気で……」

隊長「本気だったらもっとひどいだろう」

隊長(単体で強力な魔物と出合ったら……と想定しよう。見ての通り、相手には広範囲に攻撃する手段はない)

隊長(つまり、機動力は落ちるが、膨らんだ陣形より密集した方が攻守ともに有利だ)

隊長「……そううまくはいかんだろうがな」

隊長「術士、倒れている二人を回収しつつ、剣士を攻める」

術士「攻撃しないとトレーニングにならないんじゃ?」

隊長「相手は素早さを生かして、一対一に持ち込もうとしている。一対一じゃ、力の差がありすぎて、何をやっても捌かれる」

剣士「分かってんじゃねぇか!」

剣士は隊長に接近した!

隊長「くっ、近い!」

剣士「長尺の武器は、接近されたら使いづらい!」

隊長の攻撃! 剣士は武器の軌道を逸らして回避した!
374 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/11(火) 20:43:02.38 ID:+AYp8C2Xo
術士「このっ」

剣士「おせぇ!」

術士の攻撃! 剣士は杖を弾いた!

剣士「普段から術が、魔法が発動するまで待っているから判断が遅い」

剣士「とっさの判断が出来ないから魔法使いは弱ぇんだよ!」

術士「うるさいっ」

剣士「魔法なんざ選択肢だ! これしかねぇと思い込むから実力を発揮できねぇんだよ!」

隊長「術士、下がって!」

隊長の攻撃! 剣士は身を沈めて回避した!

剣士「……隊長、あんたは分り易すぎる」

剣士「模範回答が好きなんだろ!? 行動が読めるんだよ!」

隊長「そろそろ五分か」

剣士「あ?」

隊長「ふんっ」

隊長の攻撃! 剣士は転がりながら、回避した!
375 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/11(火) 20:43:28.42 ID:+AYp8C2Xo
隊長「やっぱりダメか」

剣士「……分かりにくいってのは、そういうことでもねぇよ」

ボーン!

剣士「五分だ。休憩」

隊長「……はい、寝てる人も集合ー」

術士「ふい……」

救護員「もおお、重すぎっ」ズルズル

工兵「ぐええ」

剣士「大体の目安はついた、後は調整してやる」

隊長「息も上がってないね……これでも、戦士組の訓練はこなしているつもりだったが」

剣士「こなしているだけだからだろうが」

隊長「そうかもね。でも、他の三名は……」

救護員「うう、女の子の顔を叩くなんてひどいですよね!?」

術士「ズキズキするわ……」

工兵「」
376 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/11(火) 20:44:51.20 ID:+AYp8C2Xo
剣士「この休憩中に、念のためアドバイスをする」

剣士「この休憩が終わったら、一分間の間隔を置いてトレーニングを繰り返す形式を取る」

剣士「いわゆるインターバルトレーニングだ」

救護員「は、あの、あと二十九本、ですよね」

術士「……こんなに動いたことがないわ」

剣士「後半は俺の動きも悪くなるだろう」

工兵「なんだか、記憶が飛んでるんだけど……」

剣士「三十回飛びたくなければ、死ぬ気でやれよ」

隊長「で、アドバイスっていうのは?」

剣士「ああ。個別に一言ずつな。まあ、三時間の訓練を予定していたんだが、想像以下の体力で、こなしきれるか不安で仕方ない」

救護員「ば、バカにしないでくださいよっ」

剣士「お前は別だ。体力はあるくせに、バランスが悪い、技術が未熟、注意力散漫と負の三拍子が揃っている」

救護員「なにをーっ!」

術士「分かる」

隊長「うん」

救護員「術士ちゃんまで!?」
377 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/11(火) 20:46:14.89 ID:+AYp8C2Xo
剣士「術士は体力不足と経験不足だ。明らかに戦闘に慣れていない」

術士「邪鬼、山賊、模擬戦、ちゃんと戦ってきたはずよ」

剣士「術式はそれなりにタイミングを合わせられるのに、それ以外はダメってことだ」

剣士「状況に対応しろ、術を取り上げられたら何も出来ないというのは、冒険者としては致命的だ」

術士「……」

隊長「ごめんね、前に術士と話をして、もっと術を極めて欲しいと言っていたんだ」

剣士「つまり、お前の責任ってわけか?」

術士「いいえ。あの時はそれなりに正しい判断だったと感じているわ」

剣士「どういう意味だ」

術士「模擬戦の時に、制限をかけられたわ。もし、方陣術の理解が深まってなかったら、まったく完全に無能力になっていたと思う」

隊長(なるほど。そういう見方もあるか)

剣士「……」

剣士「まあ、いい。いずれにせよ、魔法使いの武器は魔法ではない」

剣士「知恵だ。術士は知恵を活かす体を持っていないのがさらに問題だ」

術士「そう」
378 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/11(火) 20:46:49.29 ID:+AYp8C2Xo
剣士「工兵。お前は腰が引けすぎだ」

工兵「ああ、そ、そうっすか……」

剣士「さっきは弱そうな順番に潰して、手数を減らすつもりだったんだ」

剣士「が、結局、お前だけ最後まで立ち上がってこなかったじゃねぇか!」

工兵「そそそ、そんなこと言われましても!」

剣士「いいか? 俺と隊長が前衛を担うとして、お前、お前が後衛を守る中盤として立たないといけねぇんだ」

剣士「ところが、お前が一番不安定で弱点だ。影に隠れて、なんの役にも立ちゃしねぇ!」

工兵「そんなこと」

剣士「ある! 思い返してみろ、お前がこれまで、この戦隊の活動で役立ったことなんてあるか?」

工兵「それは……」

剣士「俺はお前が、ビビって嫌なことからすぐ逃げ出す腰抜けだってことは知っている」

剣士「別に逃げても構わん、が、自覚だけはしろ。そういう立ち位置だってことを」

工兵「うう」
379 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/11(火) 20:47:15.37 ID:+AYp8C2Xo
隊長「言うほど、役立たずだとは思わないけどね」

剣士「お前が甘やかしているからだろ」

隊長「単に好きな事しかやりたがらないからってだけだと思うし」

工兵「いやあ、二人がかりでそこまでボコボコに言われると凹むというか、人生終わらせたくなるよ」

隊長「ううん、でも、工兵も能力としては……」

工兵「いや、そこまでフォローしてくれなくてもいい」

工兵「僕にも、ほら、意地ってものがあるからさ」

剣士「ほう」

工兵「今度は気絶しないように頑張るよ!」

剣士「そこじゃねぇだろ」
380 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/11(火) 20:47:42.92 ID:+AYp8C2Xo
剣士「隊長に関しては……やめた」

隊長「どうしてだよ」

剣士「あんた、真面目だからすぐ吸収するだろ。それがキツい」

隊長「……」

剣士「そもそも、戦闘を主体とする訓練を隊長は受けているはずだ。その教官より俺が教えることなんてあるのかね?」

隊長(……最初は単に生意気なだけだと思っていたが、案外こういう皮肉っぽいのが剣士の本質なのかもしれんな)

隊長(うっっぜぇぇけど)

隊長「剣士」

剣士「なんだ?」

隊長「結局さ、会長とはどんな因縁があるんだい?」

剣士「……それは今聞くべきことじゃねぇだろ」

隊長「動揺させて隙をつくる」

剣士「言ってろ。じゃあ、お前ら、あとは休憩なしの二十九回戦だ」

三人『うぇぇぇ』

隊長「……とにかく、最初の三十秒がお互い勝負だ。さあ、立とう!」
381 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/11(火) 20:48:11.57 ID:+AYp8C2Xo
―――三時間後。

ボーン!

剣士「おらっ! 終わりだぞ、お前ら!」

四人『……』ゼェハァ ウッ グホッゲホッ

剣士「ふん。やはり後半の動きの精度は悪くなるな」

剣士「だが、初日でリタイアするやつがいなかったなら上出来だ」

救護員「術士ちゃんが三回吐きましたけど」ハァハァ

剣士「全回参加しただろうが、それに様子を見たが、死ぬレベルではない」

救護員「工兵くんが九回気絶しましたけど」ハァハァ

剣士「三十回気絶しなかっただけマシだな」

隊長「はぁはぁ……みんな。初日の自学タイムはまだ、終わってないからね」ゲホッ

救護員「ゴクッ、隊長、でも、みんな倒れてますよ?」

隊長(むしろお前はどうして起き上がれるんだと聞きたい)

隊長「救護員は、ぜっはっ、今日はあと、『だれでもなれるぼうけんしゃ』、を、ずっ、読破しといて……」

救護員「え、もうそれだけでいいんですか!? やったー!」
382 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/11(火) 20:49:18.49 ID:+AYp8C2Xo
剣士「おい、隊長」

隊長「ああ、なに……?」ハァハァ

剣士「あいつの体力はちょっと異常だぞ。隊長と比較しても、むしろ無駄が多い分、動いているように見えるんだが」

隊長「ああ……そう、だね……そうかもね」ハァハァ

剣士「……大丈夫か?」

隊長「戦士の、実習は、こんなに、はぁはぁ、チームを指揮して、訓練しないから、はぁはぁ」

剣士「ああ、そうだな。そういうもんか」

隊長「ちょっと待って……」

隊長「すー、はー。すー、はー」

隊長「……よし」

隊長「剣士、救護員、倒れてる二人を運ぶから、手伝って」

隊長「それで、とにかく、残っている自習分を終わらせて、今日は、終わり」

救護員「はーいっ」

剣士「ああ」

二人『……はぁはぁ、ぜひゅっ』


訓練一日目、ほぼ終了。
383 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/11(火) 20:52:44.08 ID:+AYp8C2Xo
隊長(……頭が回らん……)

隊長(一組の訓練ってのは、あれで基礎訓練並なのかね……)

隊長(しかし、別に一組の連中がそんなに強いとは思われなかったし……)

隊長「あー、どうする、かな」

隊長「自習するか。俺も中間試験に向けて」

隊長「それとも、剣士と明日の打ち合わせでもするかな……」

隊長「い、いや、なんか具合がやばそうだった二人を見舞うか」

隊長「救護員に年のため、読了をチェックしてやるか」

隊長「というか、体がですね、動かないんですようまく」


【選択】下二つ
384 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/11(火) 20:55:06.85 ID:+AYp8C2Xo
ミス。

【選択】下二つを採用する感じでいきます。お選びください。
なお、二週間すべては書きませんので、ガンガン省略します。

自習
剣士と打ち合わせ
術士をお見舞い
工兵をお見舞い
救護員の勉強を見てやるぞ


なお、とりあえず、今夜はここまで
385 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/11(火) 23:24:19.33 ID:+r6LBy5zo
乙ー

剣士と打ち合わせで
386 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/09/12(水) 00:48:18.85 ID:FGWJl0Vao
勉強をみてやろうよ
387 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/12(水) 07:36:56.95 ID:bwIaamPDO
おっつおっつ!

ここは剣士と打ち合せっしょー
388 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/09/12(水) 21:19:31.90 ID:S9sEdC8ko
自習
→ 剣士と打ち合わせ
術士のお見舞い
工兵のお見舞い
救護員の勉強を見る




隊長「悩みどころだが……」

隊長「二週間あるし、きちんと剣士とも打ち合わせしないとな」

隊長「なんか、しかし、自分を犠牲にしているような気がする」

隊長「……」

隊長(俺って独り言多いよな)

隊長「ともかく、行こう」
389 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/09/12(水) 21:20:04.12 ID:S9sEdC8ko
寮内、談話室。

隊長「悪いな。出てきてもらって」

剣士「別に俺の部屋でも良かっただろうが」

隊長(お前が全裸になるだろ)

剣士「……まあいい、それで?」

隊長「簡単に言うと、明日からの訓練の日程なんだけどな」

剣士「座学方面はお前に一任する。大体、俺はまだ終わってねぇんだよ」

隊長「ああ、まあね。でも、実技は今日の見ただろ?」

剣士「十分やれてるじゃねぇか」

隊長「いやいや、あのままだと工兵とか逃げるんじゃないの」

剣士「はっ、逃げ出すような」

隊長「同じ隊員なんだから、その辺は考えてやってよ」

剣士「……チッ」

隊長「舌打ちすんな」
390 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/09/12(水) 21:20:59.28 ID:S9sEdC8ko
剣士「考えている」

隊長「へぇ、どんな?」

剣士「明日は軽い訓練だ。重量のある荷物を背負って、たった三時間、敷地内の森を歩くだけ」

隊長「どのくらいの装備?」

剣士「登山道や密林などを想定した装備だ。当然、怪我を防ぐために、着るものもしっかりしたものを身に着けてもらう」

隊長(まあ、そのくらいなら、なんとかなる……か?)

隊長「で、それ以降は?」

剣士「例のインターバルトレーニングだが、今後は最初に姿勢、型の類をやって、二十本を行う」

剣士「戦士でなくても最低限度、武器を持った戦い方くらいは身につけさせたい」

剣士「それを教えるくらいは俺でもできるだろう」

剣士「で、それと散歩とを交互に繰り返す」

隊長「ふむ。まあ、そのくらいなら、基礎体力はつく、かな」

剣士「そうだろう」
391 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/09/12(水) 21:21:26.92 ID:S9sEdC8ko
隊長「でも、単に森を歩くだけなら俺達はあまり訓練にならないかもな」

剣士「その点は抜かりはない。俺と隊長は武器を十五本装備して移動する」

隊長「……えー」

剣士「どんな場面で、どの武器を有効に活用できるか知っておくべきだ」

剣士「俺は腹を決めた。出来る限りのことはやってやる」

隊長「……いや、剣士は剣を使っていれば」

剣士「ハッ、剣一つ取っても、突剣、大剣、刀なんてものもある。大体、俺は剣技はそれほど得意ではない」

隊長(本気で言ってんのか?)

隊長「いや、俺も、得意な武器なんてないけどさ」

剣士「だろうな。鉄杖、だったか。杖術は難しいぞ」

隊長「後はナタだな。野外での活動にはピッタリの」

剣士「武器じゃねぇだろ」
392 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/09/12(水) 21:22:02.99 ID:S9sEdC8ko
隊長「しかし、大柄の武器ってのはとかく扱いにくいし、人を指揮するとなれば、手軽で便利なものがいいしなぁ」

剣士「斧はどうだ。重量もあるし、用途も多彩だ。柄の長いものを使えば、それこそ杖代わりにもなるだろ」

隊長「うーん、柄の長いものだったら杖と変わらないんじゃ……?」

剣士「手入れはそれほど難しくないと思うが」

隊長「そうだなぁ……」

隊長(やべぇ、武器談義をしている場合じゃなかった)

隊長「ま、まあ、それは後で考えておこう。それよりも、ほら、あれだ」

剣士「なんだ?」

隊長「結局、俺についてはアドバイスなしなのかい?」

剣士「あー、そのことか」

隊長「それとも、俺にはあまり言うこともないってか」

剣士「いや、そうだな……」
393 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/09/12(水) 21:22:37.87 ID:S9sEdC8ko
剣士「お前は、正攻法すぎるんだ。頭を巡らせて、優位性を奪っているのに戦術が拙い」

隊長「そうか?」

剣士「そうだ。考えても見ろ。最初に、どう攻めてもいい、と確認しただろう?」

剣士「ところが、そのあと石を投げるのも、目潰しするのもしなかった」

隊長「は?」

剣士「全力で逃げられて、部屋に立てこもって遠くから攻撃、これもなかった」

剣士「そのくらいは頭に入れていたから、できる限り攻撃態勢を取らせないように動き回っていたのだが」

隊長「そんなことを俺らがやったら訓練にならないだろ」

剣士「訓練だからこそ、そこまでやるべきだ」

隊長「そうかねぇ」

剣士「レベル差が違うなら、徹底的に抗戦した方がいいんだ」

剣士「今言ったことは、俺が子どもの時に大人を相手に訓練していた時の戦術だ」

剣士「……前に、お前らなら子どもでも負けるつったのはそういうことだ」

隊長「うむむ」
394 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/09/12(水) 21:23:07.50 ID:S9sEdC8ko
剣士「まあ、俺も体が成長して、かえって戦い方が制限されるようになったところはある」

隊長「その、子どもの時ってのはどこで訓練してたんだい?」

剣士「……あー」

隊長「いや、特務機関出身だってのは、聞いたけどさ」

剣士「……」

隊長「……聞いちゃまずかったかな」

剣士「……チッ」

隊長(ちょっと強引すぎたかな。しかし、言わねぇしな)

隊長「……会長も、同じところの出身だって聞いたけど」

剣士「!」

隊長「まあ、なんだ。おせっかいだとは思うけどさ」

隊長「どうも、剣士がツンツンしてるのって、それが原因なのかなーって思うんだよね」

剣士「知るかよ……」

隊長「正直、最初の頃の人の話を聞かないっぷりってやっぱり……」

剣士「うるせぇ、バカ!」バン
395 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/09/12(水) 21:23:34.47 ID:S9sEdC8ko
剣士「お前には関係ないし、お前らには関係ない!」

隊長「自分で言ってたじゃん。殺したいほど憎いやつだって」

剣士「あれは……!」

剣士「ちょっとした失態だ。どうでもいいことだ」

隊長「あー、アレのせいで、俺も動揺して怪我したんだよね」

ガタン!

剣士「あ?」

隊長「はなせ。くるしい」

剣士「てめぇに分かるわけねぇだろ」

隊長「はなせ」

剣士「分かられてたまるか!」

隊長「苦しいって。胸ぐら……つかむな」
396 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/09/12(水) 21:24:01.00 ID:S9sEdC8ko
剣士「……」

隊長「おい」

ドサッ。

隊長「ってぇ」

剣士「お前らみたいに、努力を放棄しているやつらにはもっと分からねぇだろうな……」

剣士「俺の苦しみがよ……」

隊長(だから、早く言えっつってんだろ! めんどくせぇな!)

隊長「聞くから話してくれ」

剣士「……」

隊長「……剣士はうちの隊の要だ。それが土壇場でキレて、隊全滅なんてことになったら目も当てられないよ」

剣士「だから……」

隊長「隊長命令だ。いや、俺からのお願いだ」

剣士「……」
397 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/09/12(水) 21:24:27.37 ID:S9sEdC8ko
剣士「……俺と会長は特務機関の出身だ。同じ支所を拠点にする冒険者の一団のガキだった」

隊長「うん」

剣士「やつと俺は自分で言うのもなんだが、良いコンビって言うべきかな。大人顔負けの、つもりだった」

隊長「へぇ」

剣士「なんでもやったぜ。二人だけで魔物を退治したこともあるし、荷馬車に潜り込んで帝国の女の子と遊んだこともある」

隊長「へぇ〜、あの生真面目そうな会長がねぇ」

剣士「意外と悪い顔も得意なんだ。ただし、胸糞の悪いやつらも嫌いだったが」

隊長(なんか弱みに……ならなそうだな)

剣士「王国主催の剣術大会も二人で場を荒らした」

剣士「……優勝はいつもやつだったがな」

隊長「うん」

剣士「あいつはいつもそうだ。俺と二人でどこかへ行く。あいつが俺の上に立つ」

隊長「お、おう」
398 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/09/12(水) 21:24:59.83 ID:S9sEdC8ko
隊長(なんつーか……)

剣士「何やってもそうだ! 俺が努力すればするほど、それを上回る!」

隊長(これは……)

剣士「剣技も! 学業も! 冒険者としての素質も!」

隊長(ガチ嫉妬か……?)

剣士「女もそう! 機関からの信頼もそう! 大人は俺を全員無視する!」

剣士「俺がなんで学園に送られたか分かるか?」

隊長「……知らないけど」

剣士「あいつが学園に行くって決まった段階で、他の連中は忘れられてたんだ」

剣士「……あいつが、他の子どもも学園で学ぶべきだって進言して、ついでに行く事になったんだよ! 俺はな!」

隊長「そ、そう」

剣士「二人合わせて活躍していたのも昔だけだ、学園に入ったらますます引き離された」

剣士「……俺はもう、やつの引き立て役ですらねぇ」
399 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/09/12(水) 21:25:32.44 ID:S9sEdC8ko
隊長「でもさ、剣技の実習では二位なわけじゃん」

剣士「それだけは超えてやると思って、血反吐するくらい鍛錬した!」

剣士「……それでも二位だった」

隊長「……いや」

剣士「隊長、お前は、お前は勝ったんだろ? 一度とはいえ」

隊長「あ?」

剣士「ボードゲームで勝ったんだろうが……」

隊長「だから、何度も言うけど、アレはルールを知ってたから勝てたの」

隊長「今からあれやったらまず間違いなく負けるって」

剣士「だが! 間違いなく、お前は一瞬だけでも、あいつに勝った!!!」

剣士「努力しても飛び越せない、何やっても勝てない!」

剣士「何でもいい、あいつが縫い物が苦手だっていうなら、それでもいいから勝ちたい」

剣士「……俺は滑稽か? 見苦しいか?」

隊長「……」

隊長(正直、めんどくせぇ)
400 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/09/12(水) 21:26:01.31 ID:S9sEdC8ko
隊長「なに、そういうのが積み重なって、会長を憎く思っちゃったの?」

剣士「……ああ」

隊長「んんー」

剣士「……決定的なのは、あれだ。今度の学園戦隊の時だった」

剣士「あいつ、あのクズっ……! 早々に組み合わせが決まった時、俺がパーティーにいないと知って、こっちを見たんだ」

隊長「は、はあ」

剣士「剣技試験で負けて以来、目に入れるのも苦痛だったが、その時、俺もやつを見て、ちょうど目が合った」

剣士「そしたら、なんて言ったと思う?」

隊長「……なんて言ったのかなぁ」

剣士「『なんだ、剣士は同じパーティーじゃないのか、残念だな』」

剣士「憐れみやがって、あの、あの……!」

隊長「ああ、そう……」

隊長(こいつ、それでキレてて、俺への態度が最悪だったとか、そういう)

隊長(いやあ、想像以上にくだらねぇ……)
401 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/09/12(水) 21:26:27.70 ID:S9sEdC8ko
剣士「……」

隊長「……」

剣士「以上だ。分かったか? お前らには関係ねぇだろ」

隊長「そうだねぇ」

剣士「だから、これ以上、掘り起こすんじゃねぇ」

隊長「勝手に盛り上がっちゃうから困るんだけどねぇ」

剣士「ああ?」

隊長「えっとさ、剣士は会長に勝ちさえすれば何でもいいわけ?」

剣士「……」

隊長「だったら、それこそ縫い物でも何でもすればいいじゃない。剣技も十分上位層だし、そこに時間費やすより」

剣士「バカいえ! これ自体は、できるだけ続けるつもりだ」

隊長「なんでさ?」

剣士「それは……」
402 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/09/12(水) 21:26:53.57 ID:S9sEdC8ko
隊長「手っ取り早いのは、じゃんけんを何回でもしてごらんよ。そのうち、一回くらいは勝てるだろうから」

剣士「……そういう問題じゃねぇだろ」

隊長「そういう問題でしょ? なんでもいいから勝ちたいってのは嘘なの?」

剣士「お前に分かるかよ……」

隊長「多少は分かるよ。俺も敵わない相手がいるし、嫉妬もよくする」

隊長「それって相手に構って欲しいからなんだよね、大体は」

剣士「そんなわけあるか!」

隊長「あるよ。昔は二人一緒に遊んでたのに、気づけばあっちはドンドン上に行き、自分は最低位の戦隊」

隊長「剣でも勝てないし、女も……えっと、NTR?」

剣士「あ?」

隊長「まあ、いいけど。とにかく、自分が目標にする相手は自分を一顧だにしない」

隊長「違うね。どうでもいいとは思ってないのかもしれない、けど、対等な目線には、自分が立てない」

剣士「……」
403 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/09/12(水) 21:27:20.38 ID:S9sEdC8ko
隊長「でもさ、それ、多かれ少なかれ俺らが剣士に抱いているような感情だよ」

剣士「お前らが? ハッ……」

隊長「そうだよ。俺は、自分のことをそれなりに知っている」

隊長「俺は弱い。剣士の言うように、今日もまたひとつ未熟なところを知ってしまった」

剣士「……」

隊長「全部うまく行けばそれでもいい。でも、失敗して、自分はおろか、仲間まで傷つけることだってある」

隊長「剣士が羨ましいよ。せめて、そのくらいまであの三人を引き上げられれば……」

剣士「引き上げられれば、なんだ?」

隊長「俺がもっといらなくなる」

剣士「……わけ分かんねぇ。いらなくなりたいのか?」

隊長「ああ。俺はどこまで行っても……」

隊長「とにかく、そういう意味で、俺らが剣士を羨ましいを通り越して憎んじゃう日も近いわけだ」

剣士「……バカにしてんのか?」
404 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/09/12(水) 21:27:50.06 ID:S9sEdC8ko
隊長「してない」

剣士「……」

隊長「剣士。俺には何もない。座学だって、隊の中で相対的に点数が良いからやってるだけだ」

隊長「剣士には、少なくとも学園でトップクラスの剣技がある」

隊長「それだけじゃないことも、俺は知っている」

剣士「やめろ」

隊長「会長に勝てなくても」

剣士「やめろっ!!」

隊長「……さすがに談話室で騒ぎ過ぎだと思うな、俺」

剣士「……」

隊長「いいかい? 会長に一度でも勝ったから言うけどな、会長だって普通の学生だよ」

隊長「剣士もそうだ。だけど、それでなんでこんなに違うのかねって、いつも思ってるし、俺も、嫉妬しちゃう」

剣士「……くだらねぇ」

隊長「救護員も、結構、剣士に嫉妬してたよ」

隊長「嫉妬はしてもいいんだよ別に。ただ、周りは自分をどう思っているのか思い返してみ?」

剣士「……」
405 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/09/12(水) 21:28:19.73 ID:S9sEdC8ko
廊下。

隊長「ぐわあああああっ」

隊長「もう、こんな時間かよ! 話しすぎた」

隊長「……ま、間に合うかな」

隊長「あのやろう、最後までへそ曲げやがって」

隊長「明日から大丈夫か?」

隊長「……とにかく、もう一人、ちょっとだけでも顔を出してみるか」


自習
術士
工兵
⇒ 救護員
406 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/12(水) 21:30:05.80 ID:S9sEdC8ko
今夜はここまで。

剣士のモデルはアレです。
この嫉妬大爆発が書けたので、ストーリー上の目標はひとつクリアした……
407 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/12(水) 21:30:37.68 ID:hfS29BUIo
剣士ええキャラやのぅ
乙!
408 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/09/14(金) 22:07:06.96 ID:b9Xkhi85o
女子寮前。

隊長「ああ……そ、そういえば、女子寮にいるんだったな」

隊長「えーっと、えーっと」

術士「……あ」

隊長「あ! 術士、ちょっと!」

術士「隊長、こんな遅くに」

隊長「術士こそ、体の方は?」

術士「うん、まあ、ギシギシいってるけど」

隊長「そうか。まあ、二週間は長丁場だから、無理せずに」(心なしか顔色が青い)

術士「そうね。なんとか……一冊目は読み終わったけど」

隊長「おお、さすが」

術士「ごめんなさい。どうしても二冊目は……飛ばして読んでも読めそうにないわ」

隊長「分かった。ちょっと難読箇所は明日、確認しようと思っていたんだ」

術士「ありがとう。それで、どうして女子寮まで?」

隊長「いや、救護員と話がしたくて……」

術士「……」
409 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/14(金) 22:07:59.48 ID:b9Xkhi85o
隊長(しかし、この様子なら、術士も話ができそうだな、どうしようか)

術士「……」

隊長「あの、呼んでもらったり、ダメかな?」

術士「別に構わないけれど、隊長、救護員には優しいのね」

隊長「は?」

術士「いえ、なんでも」

隊長(……あれで優しく見えるってなら、もう少し厳しくやるかな)

隊長(大体、あいつがこの隊で一番の弱点だからしょうがねーだろうが)

術士「ちょっと待って。あと、ここだと目立つから、寮の裏手にある休憩所の方がいいと思う」

隊長「ああ、分かった。あ、ついでに、『だれぼう』もちゃんと持ってくるように言っておいて」

術士「ええ、分かったわ」

隊長「悪いな、いろいろ」

術士「いいえ、別に」
410 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/14(金) 22:08:34.33 ID:b9Xkhi85o
休憩所。

隊長(……各国事情。帝国が独立した部隊の創設を行い、周辺国に圧力を加えている)

隊長(というよりは、冒険者集団からの反発が強い。現に、荒事好きな連中が、帝国に反対運動と称して略奪を行なっている)

隊長(これに対して、帝国は特務機関を通じて、強盗まがいの冒険者たちを引き渡すよう方針を決定)

隊長(これをめぐって、王国と第二共和国などで懸念の声が上がっている……)

隊長「その割には、人事部の兄ちゃんは随分気さくだったけどな」

隊長「まあ、自国の利益に叶うならってことなんだろうが」

救護員「うわ。新聞読んでる」

隊長「……そういう救護員は、ちゃんと持ってきた? 『だれぼう』」

救護員「もちろんですよ! 工兵くんがこの学園に行くってなった時、これを読んで勉強しましたから」

隊長「それを読んでも、あのザマってことは……」

救護員「もおお、そういう意地悪は言わないでくださいよぉっ」
411 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/14(金) 22:09:10.57 ID:b9Xkhi85o
隊長「で、じゃあ、もう読み通しちゃった?」

救護員「もちろんです! 隊長はちょっと私を舐めすぎですね」フフン

隊長「そしたら、明日からは工兵と同じように問題集をやってもらおうか」

救護員「いやー、私はカード方式の勉強って好きだなー、うん」

救護員「それに隊長のいちいち細かいところをつついてくる教え方も、私にピッタリですしー」

隊長「自分一人で勉強すると眠くなっちゃうんだよね」

救護員「隊長って……エスパー?」

隊長「……」

救護員「まあ、そのー、やっぱり今日みたいなのがいいんですけど」

隊長「じゃあ、とりあえず、三冊用意したから、明日からどれをやるか選んでもいいよ」

救護員「ひぇい!? も、問題集じゃないですか」

隊長「うん。でも、どーしても分からないところは授業するから」

救護員「むむ」
412 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/14(金) 22:09:39.61 ID:b9Xkhi85o
隊長(『冒険者のすごい常識』『うなる救護 身を助けるのは技術である』『ゴブリンですら分かった! ブロック算数学』)

隊長(我ながら恐ろしいチョイスだ)

救護員「うーん……」チラ

隊長「なに? 別にどれを選んでもいいよ。やれるなら全部やるし」

救護員「そ、そーですか」

隊長「っていうか、どうせ全部やるし」

救護員「はぁぁあ!?」

隊長「今のうちに予習しておいていいよってこと」

救護員「そんな横暴な!」

隊長「だって、他の人と違って、救護員は今日の分は終わらせてるじゃん」

救護員「あ、ああ、そういうことなんですか」

隊長(終わらせてるなら、今日はいいじゃん、とは言わんのかな)

救護員「う〜ん、じゃあ、悩みますけど『うな救』でも読んどきます」

隊長「へぇ、そう」
413 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/14(金) 22:10:07.91 ID:b9Xkhi85o
救護員「私も、さすがにその、一応、救護員ですから」

救護員「そういうの、隊長に前に言われた時、やっぱり自分なりに勉強しようと思ってたんですけど」

隊長(意外だな)

救護員「教科書はかなり難しくてぇ……」

隊長「だめだこりゃ」

救護員「ダメって言わないでくださいよぉ!」

隊長「でも、やっぱりパーティーとしての自覚、ちゃんとあるんだなって」

救護員「へへへ」

隊長(褒めてねぇよ)

隊長「じゃあ、明日は実技で応急処置などの訓練も予定するから」

救護員「うっ、いきなりですか」

隊長「二週間しかないんだからね」

救護員「むう〜」
414 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/14(金) 22:10:36.54 ID:b9Xkhi85o
隊長「それじゃ、ちょっと先取りして中身を見ておく?」

救護員「ノーサンキューです!」

隊長「そんなんじゃ工兵もがっかりするよ?」

救護員「あ、工兵、くんは……まあ」

隊長「どうしたの?」

救護員「……ん〜、隊長なら言ってもいいかなぁ。でもなぁ」

隊長(こいつ、なんで俺を軽んじてるんだろうな)

救護員「えっとですね、私、ですね」

隊長「うん」

救護員「工兵くんのこと……諦めまして」

隊長「へぇ」

救護員「その、他に、好きな人が出来ましてですね」

隊長「ふうん」

救護員「なんなんですか、その気のない返事は!?」

隊長「どうして諦めちゃったの?」
415 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/14(金) 22:11:02.91 ID:b9Xkhi85o
救護員「うーん、その、小さい頃から、私ってこんな感じだったので……」

隊長(生まれつきこの有様って泣ける)

救護員「だから、ちょっとやらかした時に助けてくれる人がいなくなって。その時、唯一見方してくれたのが工兵くんだったんです」

隊長(やらかしたって、例のドラゴンか)

救護員「でも、なんていうか、ほら、前に振られたったーって時」

救護員「工兵に、言われた時にさすがに……『僕は救護員の保護者じゃないんだよ』って」

隊長「もっともだね」

救護員「えっ」

隊長「それで、心変わりしたんだ?」

救護員「ま、まあ、そう、です」

救護員「実はその、身近にいる人で気になっちゃう人が……」モジモジ

隊長「……ふうん?」

隊長(え、なにこれ)

救護員「その、その……実は」
416 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/14(金) 22:11:31.96 ID:b9Xkhi85o



救護員「剣士さんのことが好きになっちゃいまして」

隊長「ぶっ」

417 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/14(金) 22:12:00.26 ID:b9Xkhi85o
救護員「汚いですよ、隊長、本気で汚いです」

隊長「ごめん。予想の斜め上だったから」

救護員「隊長でも予測を外すことってあるんですねぇ。まあ、よく失敗してますけど」

隊長「……」

救護員「……まあ、剣士さんだろうと、私じゃ不釣り合いっすかね〜」

隊長「そういう問題じゃなくてさ、今日、顔を殴られてたよね?」

救護員「うーん、容赦ないところもいいですよね!」

隊長「それにしても極端すぎやしないかい?」

救護員「なんていうか、いろいろキツいことを言うのも、ちゃんと考えて言ってることなんだぁとか、隊長に言われてから気になっちゃって」

救護員「ま、まあ、ツンデレ発動して私も意地張っちゃうんですけどね!」

隊長「……」

隊長(まあ、俺にならなかっただけマシか)

救護員「あ、今、隊長、なんで俺には惚れねぇんだよって思ったでしょ?」

隊長「思ってないけど」
418 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/14(金) 22:12:31.65 ID:b9Xkhi85o
救護員「またまた〜、こないだのお菓子作戦の時も、ちょっと私と触れ合ってドキドキしちゃったっしょ?」

隊長「あはは、今、血圧が上がってきたかなぁ」

救護員「でも、隊長は正直、チビだし前髪かかりまくってるし、顔も好みじゃないし」

隊長(すごく……不愉快です……)

救護員「あ、でも、尊敬はしてますよ! リスペクト!」

隊長「そういう軽いリスペクトはいいかなぁ」

救護員「まあ、それはいいんです! とにかく、私は新しい恋に生きるんです!」

隊長「ふーん。そう」

救護員「薄いなー、反応が」

隊長「いいけど、多分、剣士は冒険職につくよ。それもトップクラスの」

救護員「う」

隊長「ついていけるの?」

救護員「そ、それは……」
419 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/14(金) 22:12:58.53 ID:b9Xkhi85o
救護員「……まあ! 憧れってのも、ありますし!」

救護員「秘める恋ってのも、その……」ゴニョゴニョ

隊長「別に、どうしようと構わないけどさ」

隊長「救護員は、自分がかなりのお調子者だって知っているよね?」

救護員「うう」

隊長「剣士だって、真剣にやってる相手で、なおかつ一定水準じゃないと目にも留めたくない感じじゃない」

隊長「そういう人を相手にするんだってことは分かってる?」

救護員「……」

救護員「なんていうか、ほんとうに、ほんとうに隊長、私にだけ容赦なくないですか……?」

隊長「いや、別に」

隊長(お前が言いたい放題だからだろうが、ボケッ)
420 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/14(金) 22:13:24.54 ID:b9Xkhi85o
隊長「うーん、でも、剣士のことは俺もいろいろ聞いておせっかいを焼いてるし」

隊長「……応援してあげようか?」

救護員「マジッスか!? 隊長ぉ!」

隊長「つまり、一組に入るくらいまで救護員のレベルを引き上げればいいわけだよね」

救護員「やっぱり考えなおさせてください」

隊長「面白そうだから、俺もがんばるよ☆」

救護員「い、嫌がらせだ、ただの嫌がらせするつもりだ、この人……」

隊長「嫌がらせだけじゃないよ。救護員の成績が上がれば、うちの隊の総合力は素晴らしいことになるし」

救護員「そう……ですかね」

隊長「そうそう」

隊長(能力だけじゃなくて、後先も考えるようにしてやれば、こいつも恋愛脳が収まるかもしれないし)

救護員「でも、隊長がそう言ってくれるなら心強いっすねー」

隊長「そう? じゃあ、明日もがっつりがんばろうね」

救護員「あああ、明日は三冊、かー」
421 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/14(金) 22:13:56.09 ID:b9Xkhi85o
廊下。

隊長「……」

隊長「……衝撃」

隊長「まあ、剣士に関して言えば、ご愁傷様ですとしか言い様がないな」

隊長「それにしてもあいつ、なんで俺のことをボロクソに言うくせに、時折信頼してますみたいなことを言うんだろうか」

隊長「本気で理解不能だわ」

隊長「しかし、これで二週間、やりきれそうな気がしてきたな」

隊長「……まあ、救護員を重点的に鍛えるとして」

隊長「あとは誰かの勉強も見てやるか」

隊長「テスト範囲もヤマを張らないとな〜」
422 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/14(金) 22:15:06.46 ID:b9Xkhi85o
今夜はここまで。さっくり中間試験を終わらせて、作戦に入りたいです。
423 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/14(金) 22:38:35.62 ID:gd6ddfVDO
おっつおっつ!


それにしても……
救護員wwww
424 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/09/15(土) 00:01:59.03 ID:2LKVXsGXo


なんか剣士が一番まともに見える
むしろ隊長の方が(救護員よりはるかにマシとは言え)ウザったいな
425 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/16(日) 08:34:10.54 ID:A3H9syGco
隊長が猫かぶってるからウザいんだよな、多少素を出しても良さそうだけど
426 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/09/16(日) 18:39:11.09 ID:gaFmEY8yo
2日目。

隊長「じゃあ、まず初日の課題のチェックから、と行きたいところだけど……」

工兵「アタマイテ……カラダイテ……」

術士「……」

救護員「あー、隊長。二人ほど、バキボキです」

隊長「見れば分かるよ」

工兵「タイチョ……マジ、キョウモコノチョウシダト……」

術士「なんか、目が覚めたら金縛りにあったみたいになって」

剣士「うるせぇやつらだなぁ、今日は緩めのトレーニングにするから我慢しろ」

工兵「マジでっ!?」

剣士「荷物背負って、学内の森を行軍」

工兵「マジで……?」

術士「森ってあれよね、樹海」

救護員「剣士さん、うちのメンバーの体力考えてくださいよー」

剣士「ああ? 昨日の様子を見て決めてやってんだよ!」

隊長「まあまあ」
427 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/16(日) 18:39:41.93 ID:gaFmEY8yo
隊長「とにかく、最初に言ったように、基礎学力と基礎体力を作るための訓練だから」

工兵「隊長の目指している基礎ってどんなもんなんすか……」

術士「目標の点数とか、決めたほうがいいんじゃないかしら」

隊長「統一試験で70点以上」

救護員「えっ」

剣士「まあ、そんなもんか」

救護員「あのののの、進級試験の時の二倍以上っていうか」

工兵「まあ、でも、専門知識じゃないなら、僕もできるかなぁ?」

術士「私は……偏らないでちゃんと回答できれば」

救護員「あのあのそのっ、私だけハードル高すぎっていうか」

隊長「だから、勉強しているんでしょ」

救護員「いやでも、こうして具体的な数字をつきつけられるとっ!」

剣士「いいから黙ってやれ」

救護員「いやでもっ!」

隊長「……みっちりスケジュールは立てたぜ」バンッ

救護員「『救護員、試験突破計画』……」
428 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/16(日) 18:40:08.07 ID:gaFmEY8yo
隊長「聞いたよ。救護員、昨年は追試も含めて中間試験で二回、進級試験で三回落ちているんだって?」

救護員「」

隊長「その時の情報をちょっとかっぱらって、それを元に対策立てるし」

救護員「た、隊長! こんな過密スケジュールじゃ、剣士と話す隙もないですよ」ボソボソ

隊長「実技の時に話せばいいと思うよ」

救護員「応援するって言ったのに……」

隊長「だから、学力面で応援するって言ったじゃないか」

救護員「そんな、そんな……」

隊長「こんなことでしか応援できなくて悪いけど、その分、全力で取り組むさ!」

工兵「隊長、ウキウキしてるなぁ」

隊長「死ぬ気でがんばろうね!」

救護員「……ウィ」
429 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/16(日) 18:41:12.07 ID:gaFmEY8yo
隊長「ああ、それと、なんか他人顔だけど、工兵」

工兵「な、なんだい?」

隊長「専門課程のカリキュラム、持ってきたよね」

工兵「こ、これのこと?」ガサガサ

隊長「ふむ……」

術士「隊長、もしかして、工兵のも」

隊長「うん、進み方次第では、専門課程も試験用に組むから」

工兵「いやあ、そこまでしなくてもいいんじゃないかな」

隊長「ダメ」

工兵「ダメって……」

隊長「教養ベースではそれほど成績が悪いわけじゃないもの。工兵は」

工兵「それはそうかもしれないけどさ」
430 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/16(日) 18:42:01.65 ID:gaFmEY8yo
隊長「工兵、いずれは工房に戻るんだろ? だったら、きっちりやっといた方がいいはずだよ」

工兵「それは、そうかもしれないけど……」

隊長「まあ、そんなに根を詰めても、続かないしね」

隊長「あくまで、今回は基礎の基礎を固めるだけ」

剣士「十分すぎるくらいだと思うがな」

術士「……」

工兵「た、隊長がそこまで言うなら、しょうがないね」

隊長「はい。で、昨日の課題のチェックからいくよ……」


術士「……隊長」

隊長「なに?」

術士「無理はしてないわよね」

隊長「いや、なんで?」

術士「……」
431 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/16(日) 18:42:29.63 ID:gaFmEY8yo
午後。

剣士「誰か樹海などと表現した奴がいるが、今回歩くコースはそこまで難しい箇所ではない」

救護員「はい!」

剣士「なんだ、救護員」

救護員「お散歩って聞いたんだけど」

剣士「そうだが」

救護員「フル装備じゃん!」どっしり

隊長「俺と剣士はプラス武器を二十本」

救護員「意味分かんないけど!?」

工兵「いやあ〜……暑くてしょうがないんだけど」

術士「……」ハァ、ハァ

救護員「きょ、教官! 術士さんが早くも息を切らしています!」

剣士「俺が先行して、歩きやすいように道をつくる」

隊長「一応、しんがりは俺ね。様子は、見るけど、大丈夫?」

術士「……心配、しないで……はぁはぁ」

術士「それより、隊長の、ほうこそ。目に隈がある」

隊長「うん?」

剣士「おい、いいから、行くぞ!」
432 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/16(日) 18:43:07.62 ID:gaFmEY8yo
一時間後。

剣士「ダメだな、この剣じゃすぐ切れ味が悪くなる」

工兵「あ、あとで見とくよ。最近、武器のメンテナンスに凝ってるんだ」ハァハァ

剣士「いらん。それより息上がってるぞ」

救護員「お水、飲みますかー?」

  術士「大丈夫、よー!」ハァハァ

  隊長「おー、少し休憩しててくれー!」

  隊長「少しずつ追いつくー!」ハァハァ

剣士「チッ、何をもたついてやがる」

工兵「まあ、まあ、術士、あまり体力ないみたいだしさ」はぁはぁ

剣士「お前もだろうが」

救護員「昨日の今日ですよ? みんな、そう簡単に動けるわけじゃないんですし〜」

剣士「お前は動いているだろうが」

救護員「ふへへ、すごいっしょ?」

剣士「あ?」

工兵「ふー。休憩、休憩」
433 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/16(日) 18:43:33.94 ID:gaFmEY8yo
二時間後。

隊長「やれやれ、意外と、キツいもんだな」

術士「隊長、私に、合わせ、なくても、はぁはぁ」

隊長「いや、やっぱり同じ隊なんだから、そういう、訓練だと思ってね」

術士「……はぁはぁ」

隊長(いや、それだけでもないな。結構、体が堪えているのかもしれん)

隊長「……」

隊長「よし、行けるかな?」

術士「すー……行くわ」

術士「でも、隊長も無理してない?」

隊長「いや、俺は大丈夫だ」

剣士「……だったら、もっと早く移動しろ」

隊長「おう、戻ってきたのか」

剣士「この速度だとさすがに訓練にならない。コースを切り上げて、こっちに移動するぞ」

隊長「ああ。悪いな」

術士「……はぁはぁ」

剣士「術士、苦しくても下を向かずに移動しろ」

術士「わかっ……てるわ」
434 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/16(日) 18:44:29.98 ID:gaFmEY8yo
開始から三時間後。

救護員「ふひゃー!」

工兵「うああああっ! 疲れたー!」

剣士「声があげられる程度の強度に過ぎん」

救護員「もう、剣士じゃないんだから、みんな」

剣士「……隊長たちは、まだか。よし、まだ元気のあるお前らに明日からの前準備をしておく」

工兵「いやいや」ハァハァ

剣士「いいから。明日からは、型、素振りをやってから、二十本の組手」

救護員「なに? 型って」

剣士「簡単に言うと、武器の構え方と振るい方だ」

剣士「昨日も言ったが、戦闘で一番困るのは、腹や首をやられることだ」

工兵「……ええと、つまり」

剣士「当たり前だが、首を狙いにくいように、腹を撃たれにくいように構えることが重要になる」

剣士「獲物を狙う時ならまだしも、急所を晒して戦う愚は避けたい」

救護員「……なるほどー」

剣士「わかってねぇだろ」
435 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/16(日) 18:44:58.59 ID:gaFmEY8yo
剣士「……熊が仁王立ちするところを想像してみろ」

工兵「あー、弱点丸出しって感じ?」

剣士「そうだ。だが、あれは体格差があるし、体の質も違うから、それほど問題ではない」

剣士「いくら腹を打てと言われても、お前らでは熊に一撃入れようとは思うまい」

救護員「そりゃそうですねぇ」

剣士「だが人間は違う。柔らかい。細い。血がいっぱい出る」

剣士「そういったわけで、武術にも幾つかの立ち姿勢があって……それにしても遅いな」

  隊長「……お〜い」ハァハァ

  術士「……ハァハァ」

剣士「ま、それ以前の問題の連中もいるがな」

工兵「隊長も?」

剣士「お前らだよ! 体力だけあって、下手くそな立ち方をしてる」

救護員「立ち方をディスられたのは初めてですわ」
436 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/16(日) 18:45:24.80 ID:gaFmEY8yo
3日目。

隊長「……工兵用に、カリキュラム組んできたから」

工兵「お、おお」

隊長「これ、問題集と解説本……」クァ

術士「……」

救護員「ふふふ、マスターした! 私はマスターしましたよ!」

剣士「何をだ?」

救護員「『うな救』!」

剣士「嘘つけ」

隊長「……ホントだよ。つっても、実戦がまだだから、今日の午後は見てもらいたいんだけど」

剣士「なんだ? 要するに、一人怪我をさせりゃいいってことか?」

隊長「工兵あたりでどうかな……」

工兵「勘弁してください」
437 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/16(日) 18:45:57.13 ID:gaFmEY8yo
4日目。

隊長「これ、術士用に。魔法の発動条件と、その阻害方法について」

術士「……ありがとう」

隊長「昨日はがっつりぶん回したけど、カラダも大丈夫そうだね」

術士「いや、隊長の方こそ」

隊長「あ、それと、剣士」

剣士「なんだよ」

隊長「前からの懸念だった、あの肉体強化用の呪術印だけど」

剣士「……お前には関係ねぇだろうが」

隊長「だから、もっと安全な運用法を……」

工兵「ふたりとも、それよりも前に、僕に何か言うことあるんじゃない……」

救護員「ええ〜? 工兵くんはばっちり手当したじゃない」

工兵「手当したとかしないとかじゃなくてね?」

術士「……」
438 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/16(日) 18:46:39.22 ID:gaFmEY8yo
5日目。

隊長「おはよう〜」

救護員「おはようございまーす……?」

工兵「隊長、こないだもらった問題集だけど、あれ執筆者が間違っているよ」

隊長「どれのこと?」

工兵「ほら! これこれ。異世界関係は知ったかぶりしすぎると痛い目みるって言うのに」

隊長「……このへんは、ちょっと俺には難しいな」

工兵「ううん。ま、いいけど」

隊長「だとすると、この辺は一発論文とか書いてもよさそうだね」

工兵「ろ、論文!? 無理無理、そんな面倒くさい!」

剣士「いいじゃねぇか。別に試験中にやれとは言わねぇし」

工兵「他人事と思ってからかってるでしょ?」

剣士「ハッ、抜きん出ている部分があるのが羨ましいだけだ」

工兵「バカにしてるでしょ?」

隊長「あはは……」ヨロッ

術士「……隊長!」
439 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/16(日) 18:47:16.28 ID:gaFmEY8yo
隊長「な、なに?」

術士「いま、ふらついたでしょう」

隊長「いや、そんなことは」

救護員「ど、どうしたんですか?」

術士「救護員、あなた、サポート役なら、隊長の様子を見て分からないの」

救護員「へ? へ?」

術士「隊長、睡眠時間どのくらいなの?」

隊長「いや、別に……」

術士「毎日のように問題集探して! スケジュールも組んで! 小テストまで自作して!」

術士「それっていつやってるんの!?」

救護員「え、でも、夜、私の勉強を見たら寝てるんじゃ……」

術士「わざわざ付きあわせていたの」

隊長「俺が自分からやってるんだよ」

術士「でも、結局、その後にやっているんでしょう、テストづくりとかは」
440 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/16(日) 18:47:42.63 ID:gaFmEY8yo
工兵「術士、そんなに怒らないで……」

術士「怒るわ。そりゃあ、隊長が私達を信頼していないのはよく分かるわ」

隊長「むぐ」

術士「だけどね、自習ぐらい自分でできるし、初日にあれだけお膳立てされれば、自分の不足くらい、自分で補えるわ」

術士「いいえ、それを差し引いても、隊長がそこまで身を削る必要はないはずよ!」

剣士「うるせぇな、隊長は自分の体の範囲内でやってるんだから、それでいいだろうが」

術士「剣士、あなたも実技でよく見ているでしょ。隊長の動きがどうとかは」

剣士「……確かに、昨日、一昨日と、動きが落ちているのは認める」

術士「だったら、止めるべきでしょう、それは」

剣士「……何の権利でだ」

術士「同じ隊員だからでしょう! たとえリーダーだったとしても、貴方だって言うべきことは言っているでしょう」

隊長「……」
441 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/16(日) 18:48:29.41 ID:gaFmEY8yo
術士「隊長、今日は自分たちでできる範囲をやるわ。隊長は寝てて」

救護員「の、ノゥ! 私には一人は無理っす!」

術士「あなたも自分で考える癖をつけなさい。難しいことはわかりません、というのでなくて」

救護員「な、な、なんなんです?」

工兵「あー、はいはい。怒らない、怒らない」

術士「実技訓練は調子を見て参加不参加を決めてください。とりあえず寮に帰っていただいて」

隊長「いや、それはさすがに出来ないよ」

術士「でもね」

剣士「隊長、要するにお前はどういう状態なんだ。休んだほうがいいのか、動けるのか」

隊長「まだたった5日しか経っていない。この程度なら……」

術士「つまり、ちゃんと睡眠が取れてないのよね?」

救護員「あの……」
442 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/16(日) 18:49:00.31 ID:gaFmEY8yo
救護員「ごめんなさい、私も、さっき見た時、あれ、隊長ヤバいんじゃないかなーって思いました」

隊長「そうかな」

救護員「うん、でも、そのあと普通にしてたんで、気のせいだったかなって思って」

剣士「チッ、そう思ったなら最初から言え」

救護員「だからぁ! 気のせいかなって思ったの!」

隊長「……」

隊長「……分かった。とりあえず午前中はここで毛布を被って寝てる。なんかあったら起こして」

隊長「これでいいかな?」

剣士「そんなもん、意味があるのかよ」

隊長「どこいても、昼間から寝るのは難しいし」

術士「……いいでしょう。そこまで言うなら」

隊長(……参ったね)

隊長(くぁ、やっぱり、疲れているっちゃ疲れているかも……)
443 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/16(日) 18:49:30.15 ID:gaFmEY8yo
しばらくして。

   隊長「ぐずー」

救護員「……」カリカリ

術士「……」シュッ,ピッ,シュザッ

剣士「……」ペラ…

工兵「……」カリカリカリカリ

   隊長「くぴー」

救護員「……あのー」

術士「なあに」

救護員「ここんとこがちょっと分からなくて……」

術士「……? 私もちょっと。一度飛ばして、全部やりきってからにしたら」

救護員「あ、そうかもですね」

   隊長「すーっ、ずっ」

救護員「……」
444 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/16(日) 18:50:12.37 ID:gaFmEY8yo
救護員「隊長、めっちゃぐっすりしてますね」

工兵「あ、そう思う? なんか寝言いうでもないけど、マジ寝なのかな」

術士「あまりおしゃべりして起こさないでね」

剣士「……チッ」

救護員「それにしても、術士さん、いきなり怒ってびっくりしたぁ」

術士「怒ったんじゃないわ。隊長、変だから」

救護員「変、ですか?」

術士「この間、ちょっとあって……言わなきゃいけないことは言わないとって思っているから言ったの」

工兵「何があったの?」

剣士「言い難いことだろ。いちいち突っ込んでやるな」

救護員「でもさー、隊長もなんか妙に自己犠牲の精神が強いっていうかさー」

工兵「救護員、自己犠牲なんて知っているの?」

救護員「……知っているよ! そりゃあ」
445 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/16(日) 18:51:19.10 ID:gaFmEY8yo
救護員「こないだも私のところ来て、そう、なんかね、別に頼んだわけでもないのに、勉強見てやるとか」

剣士「……」

工兵「そうかなぁ」

術士「確かに、それはそうかも」

救護員「前からやたらと会いに来たりするしー」

救護員「最初は、もしかして私に気があるんじゃ、とか思ってたんだけど」

三人『それはないわ』

救護員「なんでよ!?」

剣士「……やつなりに、リーダーとして走らないとって自覚があるんだろ」

剣士「俺は認めていないわけじゃない、そのことは」

術士「私も、だからこそ、言ったの。隊長からも言われたし、おかしいと思ったら、ちゃんと言っていいって」

工兵「ふうん」

工兵「でも、術士が言ってたみたいに、隊長は僕らのこと、信頼してないよね」

救護員「えー、そう?」
446 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/16(日) 18:52:07.96 ID:gaFmEY8yo
工兵「だって、今やっている、訓練? だって、自力で試験を突破するのは無理だろうからって企画しているんじゃん?」

剣士「確かに無理なやつが一人いるようだがな」

救護員「なんで、私の方を見るのよぅ」

工兵「まあ、元々、世話好きというか、そうでもないと身を削ってまでこうはしないと思うけどさ」

術士「……確かに」

剣士「……」

救護員「信頼してないから、わざわざ会いに来たりするんですかねぇ」

工兵「それが不思議なんだよね……」

剣士「別に、それ自体はおかしなことじゃねぇだろ」

工兵「なんでさ?」

剣士「理解できないものを、分かりたいと思うから来るんだ。思惑がどうであれ」

術士「……」
447 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/16(日) 18:52:36.12 ID:gaFmEY8yo
剣士「……話していいものか知らんが」

救護員「な、なんです?」

剣士「こないだ、ちょろっと喋ってたんだ。大したことじゃねーけど」

術士「そう」

剣士「その時も思ったが、なんか隊長は、自己評価が低いんだ」

術士「……あっ」

工兵「それってさ、方便なんじゃないの」

剣士「俺もそう思ってた。でも、なんつーかな……もっと腹の底から、自己否定しているような……」

救護員「そりゃあねぇ、一組様の上位剣士様に相対したら、三組の戦士なんてカスみたいなもんですよ」

剣士「煽りたいだけなら怒る」

工兵「まあまあ」

剣士「……まあ、俺は思うがな。他の隊長連中はここまで面倒見ようと思わないだろうし」

救護員「やっぱり? 私も他の子と話してたら、そんなことまでグチグチ言うなんて、面倒くさいねーって」

工兵「救護員だから言いたくなるんじゃないかな」
448 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/16(日) 18:53:03.08 ID:gaFmEY8yo
剣士「それより、お前ら手が止まってるぞ」

救護員「うーん、だって、そろそろ煮詰まってきちゃったんだもん!」

救護員「隊長ー、隊長に聞かないともう分かんないよぅ」

術士「そうやってすぐに人に頼ろうとするからダメなんじゃないかしら」

工兵「そういう術士こそ、めっちゃ付箋貼りまくっているよね」

工兵「後で隊長に聞くために」

術士「……」

剣士「別に、あいつそこまで術が得意でもないだろ」

工兵「それがさ、全部が全部じゃないけど、なんでそこまで知ってるのってくらい知ってること多いよね」

救護員「言えてる〜」


隊長(……なんか、聞こえてるな)

隊長(今日、夜、話しに行こうかな……いや、疲れているか……)

   隊長「……ぐー」
449 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/16(日) 18:54:39.75 ID:gaFmEY8yo
とりあえず、ここまで。
450 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/17(月) 00:41:11.20 ID:oKC1Cc7/o
――10日目。

隊長「えー、そろそろ試験の分野も発表されましたので、一度、各組に戻ってね」

隊長「つまり、今日はお休みです」

救護員「えーっ!」

工兵「やったーじゃないんだ」

救護員「だって、ぶっちゃけ隊長の方が先生より教え方うまいもん」

剣士「お前は単純に進度が追いついてないだけだ」

術士「私もそう思うわ」

救護員「な、なんでよ!」

隊長「……午後は実技やる予定だけど」

工兵「一日クラスにいます!」

剣士「別に構わん。今日くらい、きっちり休んだほうがいい」

隊長「そう? なら、そうしよっか」

術士「……うん」
451 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/17(月) 00:41:39.69 ID:oKC1Cc7/o
3組。

隊長「おー」

A「お前、久しぶりすぎるだろ」

隊長「Aあらため、槍使い」

槍使い「お前、しばらく戦隊の作戦も受けずに、クラスにも来ないで、何やってたんだ?」

隊長「ちょっと中間試験に向けて訓練をね」

槍使い「あっ」

B「よーっす!」

隊長「おお。Bあらため、斧使い」

斧使い「何いってんだ?」

隊長「いや、さすがに記号はどうかなって」

槍使い「おい、斧」

斧使い「何だよ?」

槍使い「もうすぐ中間試験だぜ」

斧使い「知ってるぜ」
452 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/17(月) 00:42:56.15 ID:oKC1Cc7/o
槍使い「なん……だと……?」

斧使い「だって俺、七番隊だから。ほれ、戦隊ごとにテスト点も評価するんだろ?」

槍使い「マジか」

斧使い「知らないとか……うちのリーダーはしつっこく言ってきたからさ」

隊長「ああ。リーダーはな。自分は良いから、隊員の成績が気になるから」

槍使い「お前、遠まわしに自分が良いって言いたいのか」

隊長「ははは、そりゃそうだろ」

斧使い「笑顔が黒いわー」

槍使い「それで、訓練か。あー、俺も自分とこの隊長に言っとくべきだったか」

斧使い「なんだ、時々校庭内でなんかやってたのはそれかー」

隊長「そうなんだ。この手のは、レベルの低いのが引き上がらないとダメだからな」

槍使い「ううん、どうするかなー」
453 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/17(月) 00:43:25.25 ID:oKC1Cc7/o
斧使い「それにしても、お前のところには剣士がいるんだっけ」

隊長「そうだよ」

斧使い「いいな。一組で二番目に強いわけだし」

隊長「七番隊だって、ほら、その、天測士がいるじゃん」

斧使い「なんであいつを引き合いに出すんだよ! あー、いや、せっかくトップ層からいろいろ教えてもらってるんだろ」

槍使い「なにっ、てことは……今回の試験で狙ってる?」

隊長「どうかな。剣士とは差がありすぎて」

隊長「だってさ、今、一対四で手加減しながら組手やってるんだぜ」

斧使い「手加減って、どっちが」

槍使い「剣士の方だろ。信じたくないけど」

隊長「ああ、そっちだよ」

斧使い「うへぇ」

隊長「いやあ、力の差ってやばいよね」
454 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/17(月) 00:43:52.61 ID:oKC1Cc7/o
斧使い「そういや、隊長」

隊長「な、なに?」

斧使い「もしあれだったら、剣士と手合わせさせてくれよ。うちの戦隊、草取りばっかりでさ」

槍使い「お前の戦隊って草属性なんじゃね?」

斧使い「うるせぇ! 少しでもトップ層とやりあって、勘を戻したいんだよ」

隊長「……まあ、ウチの隊も仕上がりが間に合う、か?」

斧使い「そりゃラッキーだぜ!」

槍使い「隊長、試験は争いだぜ。下手に心をかけてやる必要はねぇよ」

斧使い「お前、友だちじゃん。そういうことは」

隊長「お、担任来るな」

担任「おーい、席付けー」
455 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/17(月) 00:44:19.32 ID:oKC1Cc7/o
午後。

剣士「断る!」

隊長「やっぱりか」

斧使い「ふっ、俺に恐れをなしたか」

剣士「単純な理由だが、相手にならん」

斧使い「偉そうなやつだな」

槍使い「お前が偉そうだからだろ」

隊長「……実際のところ、剣士の実力をもう少し知りたいってのはあるんだよね〜」

剣士「……だったら一組の連中を連れてこい」

隊長「知り合いが会長しかいないけど?」

剣士「チッ」

隊長「三連戦だ。刃引きしてある武器で」

槍使い「えっ、俺もやるの」

隊長「せっかくの機会だし」

剣士「……準備運動はしておけ」
456 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/17(月) 00:44:45.58 ID:oKC1Cc7/o
斧使い「なあ、隊長さんよ。あいつってもしかして、結構気さくなやつなのか?」のびー

隊長「実際のところ、戦いたくてウズウズしてるんじゃないかなと思うんだ」

槍使い「……ひょっとして」

隊長「ちょっと犠牲になってくれ。多分、大怪我まではいかんだろ」

槍使い「ふざけんなよ、お前!」

斧使い「へっ、勝ちゃあいいんだろ」

剣士「……」

隊長「じゃあ、斧、槍、俺の順でいいか?」

槍使い「嫌だ!」

隊長「だったら、斧の次は俺で」

剣士「準備はできたか」

斧使い「おう! どこからでもかかってこい!」

剣士「……あああっ!!」ダッ

斧使い「ちょ、ま」
457 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/17(月) 00:46:15.55 ID:oKC1Cc7/o
剣士の攻撃! 斧使いの顎を木剣で穿った!

剣士「次だ!」

隊長「まだ倒れていないよ」

剣士「ふんっ!」

斧使い「うごっ」

剣士の攻撃! 斧使いは崩れ落ちた!

剣士「次だ!」

隊長「おう!」

剣士の攻撃! 隊長は攻撃を受け止めた!

剣士「受けるな! 打て!」

隊長「じゃあ、どけ!」

隊長の攻撃! 剣士は左に跳んだ!
458 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/17(月) 00:46:43.38 ID:oKC1Cc7/o
隊長(右手方向、薙ぐか払うか)

隊長(いや、接近だな)

……隊長が想像した通り、剣士は接近してきた。

つまるところ、剣士の攻撃とは速さなのだ。
攻めに攻め抜いて、隙をつかせずに斬り殺すタイプの。

隊長は後退せずに、剣士に向かって杖を打ち下ろした!

ガイン!

隊長「おうっ!」

剣士「あっ! おらっ!」

剣士の攻撃! 深く沈み込んで、足払いを狙う!

隊長(それは無駄だ)

隊長(足を刺すには的が小さい)

剣士が右に転がった。そこから、伸び上がって突き攻撃!

隊長「はやっ……」

隊長の腹に、木剣が突き刺さる!
459 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/17(月) 00:47:15.95 ID:oKC1Cc7/o
隊長「うぶっ」

剣士「次!」

隊長「待てや……!」

隊長の攻撃! 杖を剣士に投げつけた!

剣士「無駄だ!」

剣士は木剣で振り払った!

隊長(……槍使いは)

槍使い「おっ」

隊長(バカ、今のはチャンスだったろうが!)

剣士の攻撃! 槍の穂先を叩きつけた!

槍使い「くうっ」

剣士「あああっ!」

剣士の攻撃! 槍を引き抜こうとした相手の首筋に、一撃を与える!

剣士「終わりっ!」
460 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/17(月) 00:47:42.41 ID:oKC1Cc7/o
――しばらくして。

剣士「結論だ。総じて遅い」

斧使い「卑怯だろ、あれは!」

剣士「なぜだ? 相手が待ってくれるわけでもない」

剣士「現に、この間やりあってきたこともあって、隊長は反応できていた」

槍使い「そりゃ、やっていたならそうかもしれないけども」

剣士「お前が最悪だ。槍の」

槍使い「おいおい……」

剣士「前二人を見ていたのに、構えも満足にできていなかった。隊長が隙を作ったのに、それも狙わなかった」

槍使い「いや、でも、そういうのは訓練じゃやらんだろ?」

剣士「……ふん。隊長も見過ぎだ」

隊長「そうかな。ちょっと対応をミスっただけだと思うけど」

剣士「いいや。基本的には一対一想定なら、一人で倒し切るのが当然だ」

剣士「次を考えすぎて、打ち込みが遅れている」
461 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/17(月) 00:48:28.81 ID:oKC1Cc7/o
斧使い「ああー、隊長がいろいろいうから、腹にいいのもらっちまったし」

剣士「お前の使っている斧は大きすぎる。振りももっと早くしろ」

斧使い「おう、こんな感じだろ!」ブン

剣士「もっとだ」

槍使い「俺にはなんかないのか」

剣士「あの時点で武器は捨てろ。地面に刺さったものを抜いている間に殴られるなんて、バカにも程がある」

槍使い「……」

隊長「口は悪いけど、いいやつなんだ」

槍使い「とってつけたようなことを言いやがって……」

斧使い「わはは、俺の方がマシってわけだな」

隊長「うん、そうだな。五十歩百歩だな」

斧使い「ひでぇよ!?」
462 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/17(月) 00:48:55.93 ID:oKC1Cc7/o
剣士「……隊長、実技試験はこいつらと?」

隊長「ああ、まあね」

剣士「なら、言っておくが、隊長のレベルなら打ち合いになったら勝てないぞ」

隊長「……うん、前回もそんな感じだったし」

剣士「なら、速攻で行け。元々、隊長の体格は、待ち戦法向きじゃない」

隊長「流しで、相手の様子を見るのが癖になってるのかも」

剣士「……何をやりたいのかは分かる。が、やめておけ」

剣士「見ての通り、強引に攻めればあっという間に崩される連中だ。そういう風に攻めろ」

斧使い「おい……おい!」

槍使い「目の前で話すなよ、そんなこと……」

隊長「ははは、じゃあ、今回の試験は胸を借りるつもりでやろうかな」

斧・槍(うさんクセェ……)
463 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/17(月) 00:50:03.10 ID:oKC1Cc7/o
今夜はここまで。以下、次回。
464 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/09/17(月) 08:35:10.91 ID:MNBf0beJo
乙乙
465 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/18(火) 12:23:34.85 ID:3q/DFyI+o
466 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/09/18(火) 23:17:56.36 ID:+1zDANfko
14日目、夜。

隊長「……お疲れ様でした」

四人『お疲れ様でーす』

隊長「とりあえず、もう明日からはそれぞれのクラスで試験だから」

隊長(結局、スケジュールはこなせなかったか……クソッ)

隊長「一応、目標としては統一試験70点台だけど、最後のミニテストでは、十分、いけると思う」

隊長「……救護員以外は」

救護員「隊長、大丈夫っすよ!」

隊長「なにが?」

救護員「私、やってみせますよ! 今なら行けますよ!」

工兵「どうも疲れきって、ハイになってるみたいだね」

術士「……ごめんね、隊長」

隊長「あ、読みきれなかったんだっけ」

術士「8冊目までは来たんだけど……」

剣士「実戦で使えなくては無意味だ」

術士「無知なら使うこともできないわ」

剣士「それはそうだろうがよ」
467 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/18(火) 23:18:24.32 ID:+1zDANfko
隊長「剣士はかなり改善されたね。統一試験程度なら多分、満点取れるよ」

剣士「剣技以外に集中力を割きたくなかったんだ」

救護員「うげぇ」

剣士「あ?」

救護員「一つのことに夢中なあなたが好き! とか言って欲しいわけです?」

剣士「全てに置いて集中力を欠くお前に言われたくねぇ」

隊長「……。で、術士はまだ少し不安はあるけど」

術士「術式を中心においたから、しょうがないわね」

隊長「もう少し統一試験対策を取ったほうが良かったかな?」

術士「大丈夫よ。私も無理しない程度には、自習したし」

隊長「そっか」

隊長(積極的で何よりだ。だが、なんとなく皮肉を言ってきているような気がする)

隊長(……術士が姉に似てきているような……いや! 落ち着け! 冷静になれ!)

隊長「こ、工兵は、まあ、元々の成績があるからね」

工兵「まあ、世間常識くらいはねぇ」
468 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/18(火) 23:18:56.02 ID:+1zDANfko
隊長「それから専門科目。一組は結局、スルーしたけど」

剣士「ああ。大したもんじゃない」

隊長(お前はホント、自分のことを面倒がるな……)

隊長「……術士は他の術式も基礎を見てもらったけど」

術士「うん。結構、体系というか、そういうのも考えられるようになったわ」

隊長「だけど、魔術、魔法の類は全然根源が違うものもあるからね」

術士「うん……講義では聞いていたけど、肌でも分かるようになってきたわ」

隊長「で、工兵だけど」

工兵「うん」

隊長「ぶっちゃけ、いろいろと問題集や参考書も探したけど、役立ちそうかい?」

工兵「ああ。十分、十分」

隊長(こいつはこいつで、適当だな……)

隊長「正直、特組の講義なんてよく分からないから」

工兵「うーん、だからさ、基本的にはうちのクラスはバラバラだし、一般常識さえあればいいってことなんだよね」

工兵「でも、隊長が言うように、専科にもそれなりに流用できる知識はあったし」

工兵「ま、だから、この辺は適当でいいのさ」

隊長「そうかい」(ま、しょうがねぇな……)
469 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/18(火) 23:19:31.02 ID:+1zDANfko
隊長「剣士から、実技面では、何かある?」

剣士「ねぇ。あると言いたいところだが、限度いっぱいまで引き上げたつもりだ」

剣士「……それから、それぞれが独自に鍛錬できるような方法は教えてやった」

剣士「お前の望みはそれだろ?」

隊長「ん、まあ、座学もそのつもりでやったしね」

剣士「救護員も処置の手順を少し改善できたしな」

救護員「えっへん」

剣士「バカか? おかげで型が中途半端になってることを忘れるなよ」

救護員「ええ? 褒めてくれないんですかぁ?」

剣士「当たり前だろうが! 同じ事を何回も何回も、何っ回も繰り返させやがって!」

救護員「や、やぶ蛇……」

隊長「ま、じゃあ、あとは明日に備えて、各自寝ること」

救護員「はーい!」

術士「隊長も、ちゃんと寝なさいね」

隊長「うん、まあ」

術士「……まだ、何かあるの?」
470 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/18(火) 23:19:56.60 ID:+1zDANfko
隊長「あー、実はね、例の盤面試験」

工兵「ボードゲームのこと?」

隊長「そうそう。あれの上位陣、っつーか隊長連中で、もう一回やれって言われてさぁ」

隊長「どこかの誰かが、隊長の指揮能力のテストで、リベンジしたいって言い始めたらしく……」

剣士「……」

救護員「なんですか、それ。めんどくさいの」

隊長「だからこれから、ひと通り定石を並べてから寝るよ」

術士「そう」

隊長「うん、みんなはまあ、お休み」

剣士「おい、隊長」

隊長「なに?」

剣士「あの野郎には絶対勝てよ」

隊長「……会長のこと?」

剣士「当たり前だろうが!」
471 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/18(火) 23:20:25.23 ID:+1zDANfko
隊長「悪いけど、何度も言うように、学習能力高いからさ、彼」

隊長「次にやったら、多分、負けると思うな」

剣士「お前は負けて悔しくはねーのか」

隊長「ないね」

剣士「は」

隊長「それより、この二週間は全然、作戦任務を受けなかったからね」

隊長「多分、結構、つまらない仕事を回されるとは思うな」

工兵「いや、でもさ、二十八番隊で唯一誇れるのって、隊長の一番くらいじゃん」

隊長「いや、それは……」

術士「隊長、せっかくだから、私にもそのゲームを教えて」

隊長「……いや、チームの編成の時にやったでしょ」

術士「あの時はルールも分からなかったし」

隊長「ふー……」

救護員「でも、あ、じゃあ、私も!」

四人『お前は寝てろ』

救護員「えええ〜?」
472 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/18(火) 23:21:00.61 ID:+1zDANfko
試験当日。

>3組。

隊長「おはよう」

斧使い「よっ」

槍使い「……お前ら、元気がいいな」

隊長「ああ。だいぶ休めたし」

槍使い「そういう意味じゃなくてな」

二人『勉強やってきた?』

槍使い「やってねー! やってねーよ!」

隊長「統一試験くらいなら、多分、大丈夫だろ」

槍使い「そりゃ、お前はなぁ。進級試験だって楽勝だったんだろ?」

隊長(姉以下の成績だがな)

槍使い「で、お前はなぜそんなに不敵なんだ」

斧使い「ふっふっふ。俺は、パーティーの占い師ちゃんにもらったんだ! この、幸運の鉛筆を!」

隊長「数字が彫ってあるな」

斧使い「これを使えば! どんな選択式も!」

槍使い「穴埋めだったらどうするんだよ……」

隊長「それと、消しゴムはどうしたの?」

斧使い「あ」
473 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/18(火) 23:21:26.30 ID:+1zDANfko
>1組。

会長「おはよう〜」

格闘士「おはようー」

斧戦士「……おはよう」

剣士「……」

会長「……おはよう」

剣士「ああ」

盗賊「うわ、めずらっしー。剣士が久しぶりに会長に口を聞いたわ」

剣士「うるせぇ!」

会長「なんだ、どうしたんだ?」

剣士「どうもしねぇ。まだ試験まで時間があるから、他の連中をみていただけだ」

会長「……そうか」

盗賊「お、お、もしかして、あれっすか、仲直りフラグ」

格闘士「ええー、ホモいなー」

会長「馬鹿なのか、君たち」

剣士(……自分のパーティーが最悪だと思っていたが)
474 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/18(火) 23:22:08.70 ID:+1zDANfko
>4組。

術士「……」ペラ

  呪術士「やばいよー、全然勉強してない」

  歌手「あんた、いっつもそう言ってるよね」

  呪術士「今回はマジなんだって、うちの隊長がきあい気合つって、山登りばっかり……」

  歌手「マジー?」

術士「……」ペラ

召喚士「……随分と古臭い書物を読んでいるものだな」

術士「……」ペラ

召喚士「娘よ、その書物の記述は正確さよりも表面上の手助けにしかならない」

召喚士「つまり、本そのものが術を歪めていると言っていい」

術士「……それは、すごい術ね」

召喚士「うむ。そういうことだ。だから、これを読め」バッ

魔法使い「いや、試験当日だから」

術士「……ありがとう」

魔法使い「受けとんの!?」
475 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/18(火) 23:22:35.37 ID:+1zDANfko
>2組。

教師「それでは。はじめ!」

救護員「……」カキカキ

救護員「……」カキカキ

救護員「……む」

救護員「むむむ」

救護員「これ、隊長のテストで出たところだ!」

教師「黙ってやりなさーい」

\ドッハハハハッ/

救護員「すんませーん」


僧侶(な、なんですって……?)

運び屋(あの、あの救護員が……!)


二人(普通に問題を解いている……ッ!)



救護員(なんだぁ、私もやれば出来るじゃん)カキカキ
476 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/18(火) 23:23:01.35 ID:+1zDANfko
>特組。

工兵「……くぁ」

工兵「……ん」

工兵(今回は、分かるところが多いせいで、すぐ眠れなかったなー)

工兵「先生、終わったんで……」

教師「お前な、って、本当に全部できてる」

工兵「実技まで中庭行ってまーす」

工兵(……?)

踊り子「」コソコソ

商人「」コソコソ

工兵(……。ふーん)

工兵「先生、やっぱり、ちょっと見回りしててもいいですか?」

教師「は? カンニングはダメだぞ」

工兵「もう答案出したでしょ。鉛筆落としたのとか拾うだけっすよ」

数名「……チッ」

工兵「ふふふーん」ニヤニヤ
477 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/18(火) 23:23:27.49 ID:+1zDANfko
>3組実技。

教師「それでは、3組は、従来通り総当り方式の試合を行う!」

教師「一方が有効打と見なされる攻撃を二回打ったら終了!」

教師「では、それぞれ前へ!」


斧使い「いきなりお前とかよ」

隊長「手加減してくれ」

斧使い「おいい!?」

隊長「冗談だよ」

斧使い「……お前、ちょっと変わったな」

隊長「そうかな? 元からこんな感じだよ」

斧使い「手加減はなしだ。こっちもほれ、リーダーがうるさくてよ」

隊長「七番隊だっけ」

斧使い「ああ。テン……なんだっけ?」

隊長「天測士か」(あの偉そうなやつか……)

斧使い「まあ、そういうわけで、一位を取るつもりでやるからよ!」

隊長「よろしくお願いします」ペコリ

斧使い「お、おう」ペコ

教師「はじめ!」
478 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/18(火) 23:23:53.99 ID:+1zDANfko
斧使いが頭を上げたその視線の先に、隊長が飛び込んできた。
剣士の言うとおりに、隊長は先手必勝を選んだのだ。


斧戦士「て、てめっ」

隊長「えいっ」


隊長が木刀を振り下ろす! 斧使いが受け止める!

斧使いが受け止めるのを読んでいたかのように、隊長は回転する。
刀をひるがえし、もう一度攻撃! 尾の戦士の横腹に木刀が突き刺さる。

さらに、斧使いが振り払う前に、引き上げた木刀で顎を打つ!


斧使い「がっ!」

隊長「おらよ」

教師「それまで! 隊長が二点先取で、隊長の勝ち!」

隊長「……ぷう」

斧使い「てめぇ、ず、ずるいだろ」

隊長「大して強くは打たなかっただろ」

斧使い「あー、初戦を落としちまったぁ……」

斧使い「初戦に勝ったら全勝できるって占いが出てたのにぃ」

隊長(アホかこいつ……)
479 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/18(火) 23:24:20.18 ID:+1zDANfko
槍使い「……うげぇ」

隊長「どうしたんだ、さらにげっそりして」

槍使い「お前に追いぬかれたくねぇ……」

隊長「……は?」

槍使い「俺とお前と、斧使いで、3組のバカ3人組としてやってきたつもりだったのに……」

隊長(ぶん殴られてぇのか)

槍使い「勉強じゃ敵わんから、戦闘では負けてないつもりだったのにぃ!」

隊長「いや、知らんし」

槍使い「ふ、ふふ、だがしかし、俺は斧使いよりも冷静だからな」

隊長「冷静な奴が、自分で冷静っていうのかな?」

槍使い「3バカの一番槍として、俺が一番強いところを見せてやる」

隊長(勝手にいれんじゃねぇよ!)


※ 隊長が勝ちました。
480 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/18(火) 23:24:55.66 ID:+1zDANfko
>盤面試験。

天測士「……来たわね」

隊長「お、会長、久しぶり」

会長「やあやあ。実技終わったのか?」

隊長「それが、総当たり方式だから、あと3日はかかる」

天測士「ちょっと待ちなさい!」

隊長「なに?」

会長「ああ、君は……」

天測士「私よ! こないだの模擬戦で一位だった!」

隊長「だから、何のよう?」

天測士「くふふふっ、盤面試験でのこと、覚えているかしら」

隊長「覚えてないなぁ」

天測士「私は覚えているわ! 観測さえ出来れば、絶対にお前みたいなやつに負けなかったのに……!」

隊長(……本当に覚えてないな)

天測士「お前を倒し、そして一番隊の隊長である、会長にも勝利する!」

天測士「そうして、わが天測技術こそが、冒険者の必須スキルであると認めさせるのよ!」

隊長「……で、ルールちゃんと覚えてきた?」

会長「俺ってそんなにゲーム好きじゃないんだよな」

天測士「おい! おまえらぁ!」
481 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/18(火) 23:27:12.99 ID:+1zDANfko
隊長「何度も言うけど、俺はルール知ってるから一位を取れたんだって」

天測士「ふっ、予防線を張る、負け犬らしい根性ね」

会長「おいおい、ルールだけで勝てるゲームなのかい?」

隊長「そうだよ、実際。目の前で何が起きてるか分からなかったでしょ?」

会長「いや、なんとなくは。でも、気づいたときは手詰まりだった」

隊長「あれでも正攻法なんだがなー」

会長「うわ、聞かなきゃよかった。あれよりもひどいの?」

天測士「聞きなさい!」

隊長「有益なことを話してくれてたら聞くよ」

会長「……隊長って、割りとクールだよな」

隊長「今日が冷淡なのは確かかもね」

隊長「……実技やったから体重いし」

天測士「(´;ω;`)」

隊長(ウゼェ……隅っこで涙目になってる……)
482 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/18(火) 23:28:20.52 ID:+1zDANfko
――省略――

隊長「かなり早く終わったな」

会長「……やっぱり負けたか」

隊長「うん。意外だな」

会長「何がだい?」

隊長「みんなルールを知ってれば、どっかで負けると思ってた」

会長「そうでもないよ。というか、君の言うルールってのが深すぎるんだよ」

隊長「……そんなに難しいルールじゃなかったと思うけどな」

会長「シンプルだよ。コマを進める、相手を倒す。でも、倒した相手を味方に出来るってのがなぁ」

隊長「人間、寝返ることなんていくらでもあるだろう」

会長「……」

隊長「ほら、ここで、会長がこう進めたら、多分俺のほうが積んでた」

会長「そんな手は思いつかないよ」

隊長「そうかな?」

会長「君は自分が思っているほど、強いんじゃないかなぁ」

会長「ほら、なんだっけ、さっき突っかかってきた子」

隊長「ああ、天測士か」


※ 天測士は隊長に負けました。
483 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/18(火) 23:28:46.97 ID:+1zDANfko
会長「彼女だって、別に弱くはないだろうに」

隊長「観測とやらをしているから、盤面を見てないんだ」

隊長「要するに、二つのルートがある。どちらを攻めてもいい。って時に、最高のルートを時間をかけて割り出そうとする」

会長「……けど、時間が経ってしまうと、いくら良いルートでも背面に兵を回されてしまうかもしれない」

隊長「そうそう」

会長「そんなことが可能なのは、ルールに熟知してないといけないけど」

隊長「だから、ルールを知ってればすぐ負けるよ。俺は」

隊長「……情報が不足しているときは大体誤った判断をしてることが多いし」

会長「やれやれ、だったらみんな勉強不足ってことかな」

隊長「さあてね」

会長「……」

隊長「……先生、遅いな」

会長「そうだね。もう終わってるのに」
484 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/18(火) 23:29:13.82 ID:+1zDANfko
会長「……あのさ、一つ聞いてもいいかな?」

隊長「なに?」

会長「剣士のやつ、どうしてる?」

隊長「ああ、いろいろ助かってるよ。本人は不満みたいだけど」

会長「そっか」

隊長「特務機関なんだって? 会長と同じ出身で」

会長「あ、やっぱり知ってたんだ?」

隊長「昔は二人で暴れまわってるって聞いたけど」

会長「今でもそうさ! 俺は一番隊、やつは最後の二十八番隊、でも、両方がどちらも話題豊富で絶頂だ」

会長「隊長、君たちの戦隊、最下の番号ながら、かなり注目されてるんだぜ」

隊長(ふーん)

会長「……ただ、やつはきっと快く思ってないんだろうな」

隊長「ああ。嫉妬しまくり」

会長「嫉妬……?」
485 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/18(火) 23:29:39.67 ID:+1zDANfko
隊長「本人に聞いてやらないでくれよ。剣士は、会長がコンプレックスなんだ」

会長「……」

隊長「それが剣士を強くした原因でもあるし、弱点でもある」

会長「……寂しいな」

隊長「なんで?」

会長「昔は、兄弟みたいに、心が通じあってると思ってた」

隊長(ホモホモしいっつったらいいのか、俺)

会長「でも、結局のところは、違うんだな。俺達は」

隊長「似たようなもんだよ」

会長「……そうかな」

隊長「そうそう」

会長「そうだと面白いけどな、多分、月と地面くらいの差はありそうだ」

隊長「思いつめすぎだと思うよ」

会長「隊長は、よくポンポン言葉が出てくるな」

隊長(なんだ? それは褒めてるのか?)
486 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/18(火) 23:30:09.87 ID:+1zDANfko
会長「将来、どこへ就職するつもり?」

隊長「んー……村に帰るかな。土地を買いたいから、その分は稼ぎたいけど」

会長「ふーん」

隊長「そういう会長こそ、特務機関に帰るんじゃないの?」

会長「いや、できれば一番隊のメンバーで、冒険者の戦隊をやりたい」

隊長「ああ、そういう手もあるのか」

会長「ああ。知らないと思うけど、最近、小さな竜が時々出現している」

会長「つまり?」

隊長「『討竜戦隊』の出番だな」

会長「そう! 現代の『討竜戦隊』! これやったらもう、将来安泰だぜ!」

隊長(俗っぽいな。子どもっぽいって言うべきか?)

会長「無論、竜の王が復活でもしないと、そこまでは呼ばれないだろうが」

隊長「そりゃ、会長が戦うなら、俺達は安心だ」

会長「隊長もやれよ。二大巨頭で有名になろうぜ」

隊長「器じゃないし、多分無理だな」

会長「けっ、つまんないの」
487 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/18(火) 23:30:57.29 ID:+1zDANfko
スパーン!

天測士「三位決定戦はまだかー!」

隊長「……」

会長「あ、はい」

天測士「な、何よ。やっぱり終わってるじゃないの」

隊長「いや、終わってるよ。終わってるけど、先生が来ないんだもん」

天測士「問答無用よ! 早くどかないと私が勝てないでしょ!」

会長「勝つ気なんだ」

天測士「くふふふっ。勝利など、私にかかれば簡単よ!」

隊長「敗北もあっさり決まったもんね」

天測士「うきゃああああああっ!!」ダンダンダン

隊長(うるせーよ、サルが)


※ 天測士は四位に決まりました。
488 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/18(火) 23:31:24.00 ID:+1zDANfko
今夜はここまで。
489 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/09/19(水) 00:22:00.90 ID:MDllZqFho
>>482
×思っているほど
◯思っている以上に

ですね。すみません
490 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/09/19(水) 14:42:14.40 ID:WvCjZxDvo
乙ー。

天測士グダグダじゃねーかww
491 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/20(木) 09:58:45.02 ID:dO8lAU4DO
将棋かそれに似たようなもんか…?

492 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/20(木) 17:48:37.57 ID:9UHjp4P9o
>>491
将棋っぽいイメージでやってます
ボードが渓谷とか沼地とか、いろいろなのがあるイメージですが

今日は投下あやしいですぬ…
493 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/20(木) 21:48:32.54 ID:is8Kun3co
術士成長したなぁ…
494 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/09/21(金) 20:26:07.14 ID:StEQbBjxo
>1組、実技。

教師「えー、では、1組の実技は戦士組と術士組、それに補助員組に別れて試験を行う」

教師「実技の統一試験は昨日の体力測定に続いて、それぞれ……」


剣士「……」

会長「よう」

剣士「……なんだ」

会長「今日の試合、自由組手だろ。やらないか?」

剣士「チッ」

会長「どっちだよ」

剣士「……勝ち数の積み上げで競うんだから、もっと雑魚から狩ってこい」

会長「一番、強い相手と一番いい状態で戦いたいだろ」

剣士「ふぅー……」

会長「なんだ、怖気づいてるのか」

剣士「うるせぇよ、バーカ!」
495 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/21(金) 20:26:39.63 ID:StEQbBjxo
会長「今日は話してくれるんだな」

剣士「……」

会長「なんか、なんで怒ってんのか、俺にはよく分からねぇけど……」

剣士「うるせぇな、やるならとっとと武器を取れ」

会長「……そういえば、昨日の盤面試験だけど」

剣士「……」

会長「あ、先生! 組手やるんで、審判を」

剣士「言えよ!」

会長「だって、聞きたくなさそうだし」

剣士「聞かないとは言ってねぇだろうが!」

会長「え〜、ほんとうに聞きたいのかい?」

剣士「ああ、聞きたい。うちの隊長のことだろ?」

会長「うん。優勝したよ、彼」

剣士「……お前には、勝ったのか?」

会長「ああ。決勝で俺が負けたよ」
496 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/21(金) 20:27:05.63 ID:StEQbBjxo
剣士「そうか……あいつ、勝ちやがったか……」

会長「にやにやしてんなぁ」

剣士「してねぇっ!」

会長「成長したなぁ。いつも俺にくっついてくるだけだった剣士が、こう、他人に興味を持つってのが」

剣士「誰がくっついてくるだけだって?」

会長「お前だろ」

剣士「ハッ、バカを言うな。お前がミスをして、俺が尻拭いをするってのが定番だったんだ」

剣士「いいか? 優等生ヅラしているが、本当は一番始末に終えないってのが機関での評判だったんだ」

会長「優等生も何も、TPOをわきまえているだけさ。バカをやる時は思いっきりやるってだけ」

会長「それとも何か? 他の人と仲良くしてて寂しいようってわけかい?」

会長「本当は俺の尻を舐めたくてしょうがないってこと?」

剣士「……剣を抜け! 知力でも剣技でも、敵わない相手がいるってことを教えてやる」

会長「それ、君のことだろ?」
497 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/21(金) 20:27:36.58 ID:StEQbBjxo
斧戦士「……おい、会長」

会長「なに?」

斧戦士「剣士とやりあう気か? やつは……」

会長「いいの、いいの。今回は試験の点数は度外視だよ」グッグッ のびー

格闘士「先に僕がやろうかー?」

会長「殺気立ってるから、やめた方がいいよ」


剣士「……」ゴゴゴゴゴ


格闘士「でも、こないだはけっこう痛めつけられたからねー、リベンジリベンジ」

会長「別に、三対一でもやってくれるんじゃない?」

格闘士「冗談よしてよ」

斧戦士「やめておけ。あの男は、感情で剣先が鈍るタイプではなかった」

会長「そうそう」

会長「……よし、行くかな」
498 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/21(金) 20:28:05.38 ID:StEQbBjxo
教師「では、前へ!」

教師「準備は?」

剣士「……よろしくお願いします」

会長「よろしくお願いします」

教師「それと、その、真剣はちょっとどうなんだ?」

剣士「刃引きはしてある」

会長「大怪我はしない程度にやります」

教師「……気をつけろよ。では……はじめ!」


剣士は言葉と同時に接近した! 会長も前へ飛ぶ。
剣士の攻撃! 会長は右方向に攻撃を流すと、さらに踏み込んだ。


剣士「ああっ!」ゴッ ギン

会長「おおっ!」ガチッ


剣士はしかし、踏み込んだ相手に頭突きするように顔を近づけた。
額を会長にこすりあてながら、流された刃を引き戻して、腹に突きさそうとする。
会長は体の間に剣を差し込み、それを受け止める。

一瞬の間の後、もう一度音を立ててると、二人は互いに飛び退った。


斧戦士「……本気で殴りあってるじゃないか」
499 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/21(金) 20:28:52.41 ID:StEQbBjxo
剣士「ふうぅぅーっ」

会長「あああっ!」


会長の攻撃! 目一杯に剣を振り下ろしたが、剣士は横に飛んで回避。

剣士が回り込みながら、突進の構えを取る。
剣士の突進! 構えよりもさらに低い姿勢を取りながら、接近する!

会長はその顔面を斬り払うように、剣を下に振るう!


剣士「……だあっ!」


剣士が急ブレーキを、いや、強く地面を踏んで、飛び跳ねた。
そのまま会長の顔に飛び込んで、殴りつける!

会長は剣を手放して、剣士の頭に手のひらを叩きつけた!

ゴロゴロッと剣士が地面を転がっていく。
500 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/21(金) 20:29:20.63 ID:StEQbBjxo
会長「サルみたいな戦い方しやがって!」ヒリヒリ

剣士「……チッ、鼻血が」ボタボタ

会長「魔物相手にもそんな戦法を取っているのかい?」

剣士「お前相手なら、多少オーバーに動いたくらいがちょうどいい」

会長「まったく、どっちがやんちゃなんだか」

剣士「お前だろ!?」

ピピーッ

教師「そこまで! 剣士が二点取った!」

剣士「ああ? 一発ずつだろうがっ!」

会長「……あー、最初の頭突きっぽいのがカウントに入っちゃったかな」

剣士「ノーカンだ! あと一撃入れさせろ」

会長「このままなら、君の勝ちになるじゃん」

剣士「……ふざけるな!」

会長「怒るなよ。そんなに負けたいなら、もう一撃やろうか」

教師「いや、しかしだな……」

会長「先生、このまま続行します!」ダダッ

教師「ちょっと、待ちなさい!」
501 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/21(金) 20:29:46.72 ID:StEQbBjxo
剣士「おおあっ!」

会長「やあああっ!」

ガッチィッ!


格闘士「うひー、会長までマジな目をしてるよー」

盗賊「何やってんだ、あいつら」

斧戦士「……ふーむ」

格闘士「なんつーか、本気でじゃれてるって感じだけどねー」

魔術師「ほー、随分派手にやってるじゃないか」

斧戦士「よし、俺も少し、準備運動しておくか」

格闘士「えー、斧くんもマジなら、僕ちょっと厳しいわー」


※ 結局、会長が勝ちました。
502 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/21(金) 20:30:12.83 ID:StEQbBjxo
>4組、実技。

術士「……」

魔法使い「あ、術士、ちゃん?」

術士「……」ペコリ

魔法使い「いや、お辞儀されてもね。昨日はうちのリーダーが迷惑をかけたみたいで」

術士「……何かしら?」

魔法使い「ほら、なんか絡んでたじゃん?」

術士「ええ、思わず頂いてしまったけれど、後で返すべきよね」

魔法使い「あ、いーのいーの。本人、好きでやっているから」

術士「そう」

魔法使い「術士ちゃん、実技は何受けるの?」

術士「隊長の方針で、全科目、もう一度ひと通り受けようかと」

魔法使い「マジで!? 私はダメだわー、発声だけ」

術士「そう。じゃあ、始まるまで、練習してましょう」

魔法使い「え? い、いやあ、そこまでせんでも」

召喚士「魔法使い!」

魔法使い「ひっ、出たぁ!」
503 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/21(金) 20:30:59.39 ID:StEQbBjxo
召喚士「ふむ。何をしている、召喚の試験が最初だったろう」

魔法使い「わ、私は受けないって言ったでしょ?」

召喚士「何を言う。魔の道は複雑でいて、魅力的なもの……」

召喚士「その根本は、まさに召喚にあるのだ。そう、魔とはこの世ならざるものを呼び覚ますことにある」

魔法使い「わーかったから! 今、この人と話しているし、ね?」

術士「私も、全科目受けるから、行くわ」

魔法使い「あ、そう?」

召喚士「ふーむ?」

術士「なにかしら?」

召喚士「ふむ、ふむ。これまで君にあった、迷いや揺らぎが減じている」

術士「……はあ」

召喚士「良い状態だ。この世ならざるものを引き込むには、こちらがしっかりと立たねばならぬ」

召喚士「つまり、この世と異なる法則にとっての正がまったく異質であるからこそ、異常な力が発現するのだからな」

召喚士「そう、揺らぎに身を任せるのではなく、正対することで、魔を操ることができるのだ」

術士「長いわ」
504 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/21(金) 20:31:29.28 ID:StEQbBjxo
魔法使い「えっと、まあ、要するに、最近落ち着いてきていいねって言ってるのね」

術士「……そ、そうかしら」

召喚士「うむ。では、共に行こう、我らが試練の間へ」

魔法使い「ごめんねー? リーダー、ダイブおかしいから」

術士「いえ、別に構わないわ」

魔法使い「そうなんだ。でも、なんていうか、術士ちゃん、変わったね?」

術士「……私には分からないわ。でも、好意で助けてくれるなら歓迎よ」ニコッ

魔法使い(うひょー、何この子。ちょっち暗めだけどめっちゃくぁいいー)

召喚士「魔法使い、君も悪い癖が出ているな」

召喚士「分かるか? よだれがこぼれている。これは比喩ではないのだ」

魔法使い「はっ」ジュル

召喚士「私のチームが申し訳ないことをしている。私も未熟なところがあるのだ」

術士「……お互い様にしておきましょう」

召喚士「それはありがたいな。今度、交流をしたいものだ」

術士「どうかしら? 他のメンバーは嫌がるかも」

召喚士「魔法とは、異物をぶつけあうことに近いものだ。君の隊長に言っておこう」

術士(半ギレになるんじゃないかしら)
505 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/21(金) 20:31:56.25 ID:StEQbBjxo
>2組、実技。

救護員「ふー、はー」

救護員「どやっ!」

教師「……よし、きちんと固定できている」

救護員「一発合格!?」

教師「ああ、いっていいぞ」

救護員「いえー! 僧侶ちゃーん!」

僧侶「ちょ、まだ私は試験中!」

救護員「ごめんなさい……」

僧侶「でも、そこまで出来たなら、今度は蘇生魔法でも覚えてみる?」

救護員「ええ〜? 魔法は難しいよねぇ」

僧侶「一つだけ覚えているだけでも、随分違うはずよ」

教師「僧侶! ちゃんと対象を見なさい」

僧侶「す、すみません」

救護員(……魔法、魔法か〜)
506 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/21(金) 20:32:47.78 ID:StEQbBjxo
救護員(うーん、魔法ねぇ)

救護員「……」


隊長『え、救護員が回復魔法を!?』

術士『すごいわ。正直、見なおしたわ』

工兵『うん、惚れ直しちゃったよ』

剣士『お前になら背中を預けられるな』

救護員『へへへ』


救護員「……うん、ないわ」

救護員「でも、術士に相談してみるってのはありかなぁ」

救護員「応急処置だけじゃ、限界があるしー」

救護員「うーんうーん、でも、魔法かー」

教師「救護員、魔法は分かったから、試験が終わったんなら出ていきなさい」

救護員「へいっ!?」
507 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/21(金) 20:33:16.65 ID:StEQbBjxo
>特組、実技。

工兵「……んー」キィィィ

工兵「……」バチッ バチッ

教師「えー、工兵くん」

工兵「はい?」

教師「確か、試験内容は武器の手直しのはずだったが……」

工兵「ええ。これでかなり強化されるはずですけど」

教師「……」

工兵「……」キュィィィン バチッ

教師「今日中に終わりそうかね?」

工兵「後少し……」

教師「……」

工兵「まあ、最硬度というわけには行きませんけど」

教師「そ、そうかね」


――試験、終了。
508 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/21(金) 20:34:16.96 ID:StEQbBjxo
隊長「……くあーっ」

隊長「ん、んー」

隊長「疲れた」

隊長「……十位に入れるとは思わなかったからな」

隊長「実技がこれだけ行ってるんだし、座学の試験も、なんとか」

隊長「でも、本当に、疲れたな」

隊長「他の連中は大丈夫かね」

隊長「顔、見に行こうかな……」


【選択肢】以下の中から、お好きなモノを選んでください。今回は下一つを見たいと思います。

剣士に試験の様子を伺う
術士と答え合わせをする
救護員に試験をちゃんとやったのか質す
工兵に試験の出来を聞く
509 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2012/09/21(金) 21:21:00.98 ID:Z2e/ngiso
術師で
510 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/21(金) 21:48:23.56 ID:StEQbBjxo
術士好かれてるなー
書いてきまうす
511 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/09/21(金) 23:17:04.33 ID:StEQbBjxo
剣士
⇒ 術士
救護員
工兵


隊長(術士に会っておくか)

隊長(一回、キレ……もとい、怒られたからな)

隊長(関係を修復しておくべきだろう)

隊長「……」

隊長「……そうか、そんな風になったのか」

隊長「怒られるような関係に」

隊長「……術士はどこかな」

隊長「そういえば、試験が終了したし、図書館開放されてるんだった」

隊長「多分、いると思うんだが」
512 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/21(金) 23:17:54.99 ID:StEQbBjxo
図書館。

隊長「こんばんはー」

司書「ん、おー、試験ご苦労」

隊長「はい、すみません、試験勉強に」

司書「いいのいいの。ちゃんとばっちり取れそう?」

隊長「自分はまあまあでした。隊員がなんともわからないですね」

司書「ふーん」

隊長「なんですか」

司書「いやあ、ちょっと、隊長くん、柔らかくなったねぇ」

隊長「……」

司書「もうちょっと、こう、カッカしてなかった?」

隊長「疲れてるだけじゃないですかね」

司書「あ、そう? そういえば、メンバー二人ほど来てたわよ」

隊長「えっと、二人?」
513 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/21(金) 23:18:22.37 ID:StEQbBjxo
準備室。

救護員「だからさ、こう、私も必要なんじゃないかと思って!」

術士「別に構わないけど、私は蘇生魔法の系統は知らないわ」

救護員「えー、でもぉ」

術士「うーん、でも、そういう心がけは大事よ。隊長に相談してみましょうか?」

救護員「ええー? ダメダメダメ、たいちょーに言ったら絶対にバカにされそうじゃないですかぁ」

術士「そうかしら?」

救護員「絶対、バカにしますよ! あの人、きっと私がトカゲと竜の区別もできないと思ってるんですよ!」

隊長(実際できてなかっただろお前)

救護員「とにかく、こう、秘密裏に習得して、いざって時にぱっと使って、尊敬の眼差し! どうですか?」

術士「隠さないほうがいいでしょう、多分、なぜ隠してたんだって怒るんじゃないかしら」

救護員「う……」
514 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/21(金) 23:18:56.48 ID:StEQbBjxo
隊長「……いいかな〜?」

救護員「うわっ、隊長が来た!」

隊長「そうだね、隊長だよ」

術士「あ、隊長。こんばんは」

隊長「こんばんは」

救護員「い、今の聞いてませんよね?」

隊長「蘇生魔法がどうとかってこと?」

救護員「うわっちゃ、聞かれてたー」

隊長「応急処置が完璧に出来るようになってからの方がいいと思うけどね〜」

救護員「だって、でも……」

隊長「それより、今回の試験はどうだったのかな? ちゃんとやった?」

術士「お陰様で」

救護員「ま、待ってくださいよ!」

隊長「……なに?」

救護員「普通、『できた?』じゃないですか、『やった』ってなんですか!」
515 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/21(金) 23:19:28.03 ID:StEQbBjxo
隊長「まあ、それは置いといて」

救護員「置いとかないで!」

隊長「じゃあ、どのくらい出来たのかを聞こうかな」

救護員「う」

術士「なら、どうかしら。統一試験の答え合わせでも」

隊長「お、いいね。自分の回答は覚えている?」

救護員「あ、私、今日は疲れちゃったんで」ガタッ

隊長「おい」

術士「救護員」

救護員「は、はい?」

術士「回復魔法のことは考えておくわ」

救護員「え、は、まあ」チラッ

隊長「ん? 本人がやる気なら、俺も付き合うよ」

救護員「そ、それなら……じゃ、じゃあ、お休みです!」テテー

隊長「おやすみー」

隊長(回復魔法、あいつがね……)
516 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/21(金) 23:20:00.54 ID:StEQbBjxo
隊長「で、どうする? 答え合わせ」

術士「遠慮するわ。隊長も、実は疲れているんでしょう」

隊長「む……」

隊長(いかんな、なんとなく、鋭くなってきたし)

隊長(剣士とは別の意味で、手強い存在になってきたぞ)

隊長「そうだね、実は」

術士「ふふ。まあ、私はなんとか、目標には行きそうよ」

隊長「俺もだ。逃げ帰ったやつが一番危なそうなんだが」

術士「でも、試験を終わってすぐに次の勉強をしようだなんて、すごいじゃない」

隊長「……そうだね」

隊長(目移りしすぎなんだよ。きちんと抑えるところを抑えてから考えればいいんだ)

隊長(……俺もか)
517 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/21(金) 23:20:31.41 ID:StEQbBjxo
術士「隊長、結局あまり休めてないんでしょう。今日くらい、きっちり休んだほうがいいと思うわ」

隊長「うん、そうするよ」

術士「テスト結果が出たら、次の作戦、かしら」

隊長「そうだね。今度回ってくる依頼は、あまり選り好みできないかもな〜」

術士「でも、ちゃんと体づくりもしたし、きっとなんとかなると思うわ」

隊長「うん……」

術士「あ、これ? 実は、同じクラスの人から、召喚系統だとこっちを読んだ方がいいって」

隊長「へぇ」

術士「私も、次を見据えて頑張るわ」

隊長「そうだね、それはいいと思う」

隊長(うわー……次を見据えて、なんて想像だにしなかったセリフだわ)

隊長「……すごいな」

術士「え?」
518 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/21(金) 23:21:05.86 ID:StEQbBjxo
隊長「うん、術士、すっかり変わったね」

術士「そ、そ、そうかしら」

隊長「うん。俺のことを考えてくれ、なんておこがましかったかな」

術士「……そんなことないわ!」

隊長「お、おう」

術士「私、が、ちゃんとやろうと、思ったのは……隊長のことを考えているからよ」

術士「隊長がしっかり、見ているから、私も落ち着いて考えようって、できているの」

隊長「わ、わかった」

術士「ふー、ふー……」

隊長(……俺のため、か? それなら、結局依存しているんじゃねーかって言いたいところだが)

隊長「どっちにしても、術士が変わったのは、嬉しいよ」

隊長「それに、俺にダメ出し入れてくれるのはありがたいしな」

術士「……そう。嬉しい、の。ふふ」
519 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/21(金) 23:21:46.32 ID:StEQbBjxo
隊長「しかし、クラスで浮いていると思ってたのに、本をもらうほど仲良くなったんだねー」

術士「そういう、ひどいことは言わないで」

隊長(ホントのことじゃねーか)

隊長「ごめんごめん。でも、誰にもらったのさ」

術士「召喚士、だけど」

隊長「あいつか……」

術士「知ってるの?」

隊長「そりゃねぇ。試験中も、盤面試験の時に、やたらブツブツ呻きながら対戦してたよ」

隊長「学園戦隊の隊長連中は、なんかキャラが濃いんだよな」

術士「隊長もキャラが濃いと思うわ」

隊長「どこが?」

術士「……自覚がないの?」

隊長「剣士や救護員と比べて考えてみてくれ」

隊長(どこが濃いんだよ、マジで)
520 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/21(金) 23:22:12.45 ID:StEQbBjxo
隊長「でも、あいつは確か、十三番隊か」

術士「気になる?」

隊長「いや、俺はそこまで他隊を気にしたりはしてないけど……」

術士「ランキングがどうのって言っていたじゃない。きっと試験結果もそういう形で評価が出るわ」

隊長「確かにな……」

隊長(そいつが問題だ。これほど長期のチーム実習で学力の向上効果ありと判断されたら、おそらく来年も続くだろう)

隊長(だが、それが正しいのか、よく分からない)

術士「……隊長、何を考えているの?」

隊長「うーん、この戦隊がどういう扱いになるのか、未だに見えないんだ」

術士「扱い?」

隊長「『集団による事件解決能力を高めるためのフィールドワーク』……」

隊長「実際に、冒険者たちはパーティーを組んで活動する」

隊長「でも、ここで組んだ隊で将来も冒険するわけじゃない」

術士「え……あ……」
521 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/21(金) 23:22:54.03 ID:StEQbBjxo
隊長「もちろん、会長なんかは、その気があるみたいだけど……」

隊長「全隊が良い成績を出せるわけじゃないし、従来通り個人で就職することもあるだろうし」

隊長「……術士は、どうするんだっけ?」

術士「えっ? わ、私は……」

隊長「まあ、まだ少し先の話しだしね」

術士「……た、隊長は、どうするつもりなの?」

隊長「俺? 俺は、まあ、里帰りできればいいかなって思ってる」

術士「冒険者、やりたくないの?」

隊長「ちょっと土地を買いたくてね。そのために金を稼ぐから、しばらくは冒険稼業をやるだろうけど」

術士「私は……できれば、このチームで」

隊長「そうかい? けど、剣士なんかは特務機関に戻りたいんじゃないかな」

術士「そ、そう」
522 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/21(金) 23:23:21.27 ID:StEQbBjxo
隊長「工兵は工房に戻りたいだろうし、救護員は、分からないけど」

術士「そう……残念ね」

隊長「……」

隊長(あ、やばい? もしかして……)

隊長「あー、でも、まあ、みんなきっちり進路を決めてるわけじゃないだろう」

術士「そ、そうよね」

隊長「術士も、記録に残る賢者みたいになれるかもしれないし」

術士「どうかしら? 賢者なんて、天上人みたいな感じがするわ」

隊長「案外、漏れ聞こえるところだと、ドジっ娘だったって噂があるよ」

術士「……私がドジだってこと?」

隊長「ちょっと抜けているとは思うけど?」

術士「ひどいわ」ぷい

隊長「ごめんって」
523 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/21(金) 23:23:49.93 ID:StEQbBjxo
廊下。

隊長「なんか、妙なところで機嫌を損ねちまったな……」

隊長「だが、正直な話、術士があれだけしっかりしてくると、もう成長がどうのなんて考えなくてもいいな」

隊長「そういう意味では、術士にあえて会う必要も減るだろうな」

隊長(上から目線で接していたことも、そのうち見透かされるだろうしよ。あー……)

隊長「しかし、救護員、魔法を習いたいなんてどうしたんだ?」

隊長「そんなに試験の出来が良かったと思っているのかね」

隊長「……」

隊長「分からん、何を考えているのか」

隊長「今日はもう寝よう。疲れちまった」
524 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/21(金) 23:37:47.91 ID:StEQbBjxo
寮部屋。

隊長「……ん? 次回の作戦依頼書か」

隊長「……えーと、『次回は二隊合同作戦となっており』」

隊長「」びびぃーっ

隊長「うえぇぇおお!?」

隊長「おい、ふざけんなよ! せっかく自分の隊がまとまってきたっていうのに、また面倒なものが来るのかよ!」

隊長「『前回の模擬戦の結果を踏まえ』……」

隊長「ぐ、ぐぬぬ……こっから選べってか」

隊長「どこも地雷臭しかしねぇ……」


【選択肢】次回の合同作戦の部隊を選べます。なければ、自動で決めるよ!

七番隊:天測士率いる、陽気な冒険者チーム
十三番隊:召喚士がいる、奇妙な冒険者チーム
二番隊:因縁浅からぬ、統率の冒険者チーム
525 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/21(金) 23:38:44.64 ID:StEQbBjxo
今夜はここまでですよー。
526 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/22(土) 00:09:21.49 ID:gk8HN8guo


僕は、天測士ちゃん!
527 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2012/09/22(土) 00:50:01.18 ID:3ZnWTgp9o
術師が好きっていうよりは他が安定し始めてたからなー
剣士と会長の過去がスポ根で片付いたのには正直拍子抜けだったが、それでも解決は解決だし
工兵はヘタレなだけで能力も精神も安定してる
そして救護員が剣士に惚れて向上の意思持ち始めたとなると、あとはもう術師と隊長本人しか解決すべき問題がないのかなぁと

というわけで俺は二番隊に窮地に追い込まれてキャラ崩壊する隊長が見たいです!
っていうか隊長マジお前いいやつなんだから仮面かぶる必要ねーよ
528 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2012/09/22(土) 03:03:32.08 ID:0TA/52RAO
乙 召喚士の隊は面白そう
529 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/09/22(土) 11:33:46.48 ID:cKXduFcwo
ここは召喚士の隊だろなー
530 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(熊本県) [sage]:2012/09/22(土) 12:10:44.79 ID:EkalyJYYo
天測士が好きだから7で
531 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/09/22(土) 21:09:58.40 ID:Ffle9P5fo
うわっ、結構分かれたΣ(゚д゚ )
では申し訳ないですが、先着のもので行きたいと思います

今日の投下は難しいですが、そろそろ中盤なので、もう少しおまちを
532 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/09/22(土) 22:20:15.39 ID:vLkI0szBo
試験結果。

隊長「えー……次回の作戦の前に、中間試験の結果をお知らせします」

隊長「まず、俺から」

救護員「わくわく」

隊長「統一試験平均、80点。専科試験の点数は76点、実技は10位だ」

剣士「……」

工兵「すごいねー」

隊長「言うほどすごくはない、3組の統一試験の平均は72点だ」

救護員「おかしい……脳筋クラスがなぜ……」

隊長「言いたいことは分かる気がするけど、戦士職は冒険者の要だから」

隊長「切った貼ったから、依頼交渉まで。当然それなりに出来ないとダメなんだ」

術士「で、他の人はどうだったの?」

隊長「……剣士。統一試験平均、98点」

救護員「うぇぇぇぇ!? うぇぇぇぇぇっ!?」

剣士「うるせぇ!」

隊長「常識問題だったし、統一試験の方は体力測定も入っているからね。むしろ、俺の筆記は危うかったなぁ」
533 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/22(土) 22:20:52.39 ID:vLkI0szBo
隊長「で、剣技は……3位?」

剣士「……どうでもいいだろ」

隊長(会長には勝てなかったとして、なんかあったのかね)

隊長「まあ、次。2組の救護員、統一試験平均、58点」

救護員「やっ……! あれ?」

工兵「ダメじゃないの?」

術士「ダメよね」

救護員「あれー?」

隊長「……確かに、進級試験からすると大きく前進したね、けど、目標には」

救護員「ちょ、ちょっと待って下さい! 私、めっちゃ解いてましたよ!?」

隊長「ああ、そうだね。だが、ちょっと不審なのは、2組の平均が意外と悪くて、65点ってところもある」

救護員「ええー!?」
534 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/22(土) 22:21:33.20 ID:vLkI0szBo
工兵「……あのさ」

隊長「どうしたの?」

工兵「もしかしたらだけど、救護員があまりにも自信満々に試験を受けているのを見てさ」

工兵「みんな動揺してまともに受けられなかった可能性が」

隊長「ああ」

救護員「おかしいよ!」

術士「確かに……」

救護員「術士ちゃんも!?」

剣士「まったく否定出来ねぇ」

救護員「ふざけんな、おい!」

隊長「……実技は意外と点数が高いな。71点となっている」

救護員「お、おお、おおおおっ」フルフル

隊長(取ったことがない点数を見て震えている……)
535 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/22(土) 22:22:06.03 ID:vLkI0szBo
隊長「よくやった、というべきだね」

隊長「先に言っておくと……救護員がこの点数を叩いたので、連帯追試はありません!」

救護員「うおおおおおおっ」ガタッ

剣士「座れ!」

工兵「良かったねー」

術士「おめでとう」パチパチ

救護員「ありがとうございます! これで実家からの仕送りを堂々と受け取れます!」

四人(自分で稼げよ、そのくらい……)
536 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/22(土) 22:22:47.79 ID:vLkI0szBo
隊長「で、術士。統一試験平均は、71点」

術士「ぎりぎり、上回ったわけね」

隊長「専科は、全魔法科目を受けてるから、平均は52点だけど」

術士「ええ。これから、もっとがんばるわ」

隊長(うーん、確かに、術士はほどほどに落ち着いた感じがする)

救護員「ちょっと! 私より実技低いじゃないですか!」

隊長「方陣術では満点取ってる」

救護員「……そっすか〜」

術士「ぶい」

隊長「特に言うべき点はないけど、それ以外の術についてはまだまだ課題だね」

術士「できるだけ早く、実戦レベルにまで引き上げたいわ」

隊長「うーん」

剣士「……焦る必要はねぇ」

術士「そう?」
537 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/22(土) 22:23:18.92 ID:vLkI0szBo
隊長「それから、工兵は、何? この点数」

工兵「うん?」

隊長「……統一試験平均、82点。まあ、これはいいとして」

隊長「実技112点」

救護員「はい!?」

工兵「ああ、制限時間ギリギリだったけど、ちょっと武器の改装で新技術を盛り込んだんだ」

工兵「ただ、いかんせん手間と時間と、何より場所とお金と道具が必要ってのがね」

隊長(特組は理解を越えているな、完全に……)

剣士「お前はもう少し、普段から真面目にやるべきじゃないのか?」

工兵「僕が必要だからやっただけさ」

工兵「でも、装備の改修なんてつまらないよねぇ、やっぱり」

術士「隊長……」

隊長「うん。工兵、今後も我慢してがんばるんだよ?」

工兵「いやだなぁ……」
538 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/22(土) 22:23:53.58 ID:vLkI0szBo
隊長「それで、だね。えー、お陰様で正式な学園戦隊の順位も出てきたんですが」

救護員「はい、はい」

隊長「9位です」

救護員「マジッスか!」

隊長「こないだの模擬戦の結果も入っていると思うんだけど、試験結果を総合するとそこそこ良い点数だったみたいね」

術士「わー」

工兵「へぇえ、すごいねー」

隊長「……以下に君たちが本気を出さず、好き勝手に生きていたのか、よく分かりますな」

救護員「た、隊長?」

隊長「いや、今後とも、気を抜かずにやろうってこと」

隊長「剣士も、その、まあ、相手になれるくらいまでは俺も頑張るさ」

剣士「……チッ。それどころじゃねぇんだが……」

隊長(なんだよ……まだ不機嫌なのか?)

隊長「……で、とにかく、だ。次の作戦はそれを踏まえて、二つの部隊の合同の作戦になってまして」

四人『え?』
539 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/22(土) 22:24:42.58 ID:vLkI0szBo
作戦6『竜の谷(?)を、調査せよ』


隊長「この作戦は、最近、街道奥の、学園よりの谷のほうで、竜が確認された、というものだ」

救護員「……えーっと、竜ってあれですよね。国を滅ぼしたっていう」

術士「それは竜の王と呼ばれている存在ね」

工兵「けど、そ、それにしたって、もし本当に竜だとしたら?」

隊長「未確認だからよくわからないけど、空を飛ぶ魔物はよくいるはず」

隊長「見間違いの可能性の方が高いが」

剣士「……俺が聞きたいのはそういうことじゃねぇ」

隊長「合同のこと?」

剣士「当たり前だろうがっ! ただでさえ5人でまとまってねぇのに、10人なんかもっとおかしくなるわ!」

隊長「まとめさせない筆頭に言われると説得力あるね」

術士「隊長、目が死んでる」

隊長「ははは」
540 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/22(土) 22:25:38.46 ID:vLkI0szBo
隊長「だけど、この作戦が終わったら、長期の休みに入れるんだ」

隊長「少し頑張って我慢して、終わらせよう」

救護員「はい!」

隊長「なんだい?」

救護員「どこと組むんですか?」

隊長「……二番隊か、七番隊、十三番隊」

剣士「断る」

隊長(俺も断りてーよ)

術士「これ、どれか選んでもいいの?」

隊長「ああ。といっても、相手も承諾する必要があるけど」

工兵「ふーん。ひょっとして、この四組で谷を見に行くってことなのかな?」

隊長「そうそう。二分して行動するわけだ」

術士「隊長は、どう考えているの?」

隊長「……みんなの意見から先に聞いてもいいかな」

四人(相当、悩んだんだな……)
541 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/22(土) 22:26:06.72 ID:vLkI0szBo
術士「じゃあ、私は、十三番隊がいいと思うわ。召喚士さん、面白いし」

隊長(一番、危険な奴を出してくるな……)

工兵「僕はどれでもいいかな」

隊長(お前、そればっかじゃねーか!)

救護員「私はぁ、占い師ちゃんがいるから、七番隊がいいな〜」

隊長(……友達気分で決めるなよ)

剣士「二番隊」

隊長「こないだ殴りあったばっかりですよね?」

剣士「こないだの試験で負けたから、リベンジしてぇ」

隊長「……剣士、合同作戦って分かってる?」

剣士「じゃあ、お前はどう思うんだ? 正直、他の隊の連中なぞ、興味がない」

隊長「……じゃ、みんなあまりこれと言って理由は内容だから」


⇒ 七番隊
十三番隊
二番隊
542 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/22(土) 22:26:34.43 ID:vLkI0szBo
隊長「まず、戦力から言えば二番隊だろう」

隊長「いくら一度出し抜いたとはいえ、二番隊の実力は本物だ」

隊長(……正直に言えば、それが気がかりだ。つまるところ、本物を入れるというわけだから……)

隊長「ただ、彼らはリーダーを中心に動いているから、どちらが主導権を握るかで気を揉まなくてはいけないかもしれない」

隊長「模擬戦の件もある。できれば組みたくない」

隊長「次、十三番隊」

隊長「ここは、召喚士がネックだ。術士は仲が良いみたいだが、俺には何を言ってるのかよく分からない」

隊長「隊長同士で話した時に、会話が通じるのかどうかってのは重要だ」

隊長「ただでさえ行動を共にしなくちゃいけないのに、意思疎通でつまづきたくない」

隊長「七番隊は、その点、まだ与し易い」

隊長「隊長の天測士はこの間、何度か会って話したが、かなり分かりやすい性格をしている」

隊長「……俺の知り合いも隊の中にいる」

隊長「ちょっと個人的な理由だけどね」
543 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/22(土) 22:27:02.68 ID:vLkI0szBo
隊長「どうだろうか」

術士「……良いと思うわ。確かに隊長同士が仲が良くないとまずいわ」

剣士「適当にしろ」

救護員「じゃあ、じゃあ、占い師ちゃんにいろいろ聞こーっと」

工兵「んー、七番隊ってどんなパーティーなんだっけ?」

隊長「天測士、占い師、斧使い。それから、狩人と忍者だ」

工兵「そっかー」

隊長(一挙に興味をなくしたな、こいつ……)

隊長「……ともかく、顔合わせとともに、出発するから、こないだのように準備をしないとね」

四人『はーい』

隊長「こないだみたいに、無駄に荷物持ってきちゃダメだからね」

救護員「へーい」
544 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/22(土) 22:28:19.31 ID:vLkI0szBo
短いですが、今夜はここまで。

皆様も風邪を引かぬよう……
545 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/09/23(日) 02:11:04.89 ID:BnWjaZu/o
毎回楽しみにしてます。終わるたびに続きが待ち遠しいです。
546 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/23(日) 03:03:46.99 ID:w4uZ5zBXo
乙!天測士可愛かったし期待
547 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/23(日) 08:27:34.65 ID:q8UfljODO
>>492
回答ありがと

将棋より実戦に近い感じになるのかなー
なんか楽しそうだわ

乙。
548 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/09/25(火) 19:04:40.24 ID:fmkgMEAno
しばらくして。

隊長「じゃあ、隊長同士で挨拶から行こうか。これからしばらく、よろしくお願いします」

魔剣士「……チッ、よろしく」

天測士「くふふふ。私にかかれば、竜退治など簡単よ! お前らはおとなしく従うべき!」

魔剣士「いらねぇよ」

隊長「けど、今回は、二隊ずつ合同して行く事になるわけだし」

魔剣士「いらねぇっつってんだろうが」

隊長「はぁ」

魔剣士「いいか? こないだは不覚を取った。しかし、それでもだ。俺の隊がこのメンバーで最も優れていることは言うまでもない」

隊長(めんどくせぇ)

召喚士「どの隊が最も優れているか、それはこの際、重要な論点ではない」

召喚士「二隊合同の作戦であること、そして、10人が全力を発揮して作戦を成功させること、それが最も優れた論点ではないかね?」

隊長「……まず、あいさつからしてくれないかな」

隊長(疲れる……)
549 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/09/25(火) 19:05:06.35 ID:fmkgMEAno
召喚士「十三番隊、召喚士だ。知っての通り、今回の作戦は、竜が住まうという谷を調査することにある」

召喚士「正確を期せば、竜らしき魔物、であるが。このらしきというものが曲者なのだが」

隊長「……で、今回の合同の分け方だけどさ」

召喚士「隊長君、情報を統一しておくべきではないかな?」

隊長「そういうのは魔剣士がやるべきじゃないかなー。この中で一番優れているんだし」

魔剣士「ああ?」

天測士「何を言っているのよ。私の天測技術にかかれば」

魔剣士「お前、調子に乗るなよ。こないだの試験でも、俺はついにお前のところの剣士を抜いたしな」

隊長(ふーん……そう言えば、三位って言っていたな)

隊長「そうだねぇ、じゃあなおさら魔剣士から説明してもらわないと」

魔剣士「俺たちには俺達なりのチームワークがある。お前らから情報を頂戴する気はない」

隊長(そういうことじゃねぇだろうが、ボケが。ボ剣士が)
550 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/25(火) 19:05:33.16 ID:fmkgMEAno
隊長「じゃあ、魔剣士は聞かなくてもいいから、二人の方から、端的に説明してもらっていいかな?」

召喚士「ふむ……そうだな」

天測士「端的も何も、竜の谷をせめおとせばいいんでしょう?」

隊長「全く違うね」

召喚士「今回の作戦は、調査だ。調査にある」

召喚士「では、調査とは何を意味するのか」

隊長「……つまり、竜っぽいものが何なのかを調べればいいわけだね」

隊長「ただの飛ぶ魔物であれば、町を襲うようなものかどうかを確認する」

隊長「とにかく、学園に近いところの谷にあるから、下手に刺激して、学園にまで来られても困るわけだし」

召喚士「……そういうことだな」

魔剣士「……ふん。わかりきっていることだ」

隊長(わかってない奴がいたようだったが?)
551 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/25(火) 19:06:00.50 ID:fmkgMEAno
隊長「ただし、二隊合同だから、班分けをしないといけないからね」

隊長「で、提案なんだけど、二番隊と十三番隊、七番隊と二十八番隊で行くってのはどうかな?」

天測士「ふっふっ! どうやら、私の実力を認めたというわけね」

隊長「まだマシだと思ったんだ」

召喚士「……ふむ」

魔剣士「どこが来ようと、俺達には関係がない」

召喚士「隊長君、ちょっといいかな?」

隊長「なに?」

召喚士「確かに、戦士系のリーダーと術士系のリーダーが分かれていることはみるべきだ」

召喚士「しかし、この分班、決してバランスが優れているというわけではない」

隊長(む、まともなことを)

召喚士「七番隊は、どちらかと言えば戦士職が少ない。二番隊と組ませておいた方が自然ではないか」

隊長「それはそうなんだけどねぇ……」
552 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/25(火) 19:06:26.64 ID:fmkgMEAno
天測士「心配無用よ! それに、番号の早いものと遅いものを分けたほうがいいじゃないの」

天測士「実力だって、その方が拮抗しているわ!」

隊長「……まあ、そう言えなくもないかな」

召喚士「それならば、良いだろう。ただ、これは運命の分かれ道になるかもしれないのだ」

召喚士「分けるとは、安易にしてはならないことなのだ。分隊、分裂、すなわちそれはひとつのものを二つに分けること」

隊長「ここにいるのは元々四つの隊だけど」

召喚士「分けたものを、もう一度集め直すことは難しいと言いたいのだ」

隊長(……誰か翻訳してくれ)

召喚士「ならば、魔剣士君、彼らとはルートが異なるだろうから、打ち合わせをしようではないか」

魔剣士「だから、俺達は一隊で十分だっつってんだろうが」

召喚士「それは、異なことだ」

隊長(分かれ道、ねぇ……)
553 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/25(火) 19:06:58.22 ID:fmkgMEAno
天測士「くふふふ。どうやら、ついに、いよいよ、私を認めたようね!」

隊長「全然違うけど、今回の作戦については理解しているの?」

天測士「当たり前よ! 早速、天測するから、こっちに来なさい!」

隊長「いや、いらないよ。それより、まず谷の位置を確認しておきたいんだけど」

天測士「なに言ってるのよ! そんなの当然調べてあるに決まってるじゃない!」

隊長「通るルートと、行動計画も作ってきたんだけど」

天測士「それは天測してからでしょ」

隊長(何でそこまでこだわる)

天測士「さあ、器具は準備したわ。まずはついて来なさい!」

隊長「いや、メンバーの顔合わせからでしょ」
554 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/25(火) 19:07:26.61 ID:fmkgMEAno
学園門前。

隊長「というわけで、まずパーティー編成だよ」

  救護員「わー、占い師ちゃん〜」

  占い師「あら〜、救護員ちゃん〜、テストばっちりだったみたいね〜」

  救護員「そうなの!」

斧使い「おう、あんたが一組の剣士だったな!」

剣士「……チッ」

斧使い「舌打ち!? いきなり舌打ちされたぞ!」

狩人「まあ、落ち着いて。単にうざいって思われただけだから」

忍者「ですな」

斧使い「ひどいぞお前ら!」

  工兵「へー、これが天測機」

  天測士「ふふふ。どうやら、話が分かる奴がいたようね!」

隊長「……」
555 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/25(火) 19:07:53.40 ID:fmkgMEAno
術士「隊長」

隊長「うん、分かってるよ」

隊長「あー、二十八番隊の諸君! こっちに注目!」

三人『はい』

隊長「合同で作戦を行う人達と交流はいいけど、まず自己紹介をしないとね」

隊長「じゃあ、天測士。うちのメンバーに挨拶を」

天測士「言うまでもなく、私にかかればあらゆる事象の正道など、簡単なことよ!」

隊長「天測士さんだ。七番隊の隊長」

天測士「挨拶の途中じゃない!」

隊長「基本的には、どちらかが10人をまとめるんじゃなくて、それぞれが並行して進むことになってるけど」

隊長「仮に俺がいなくなったら天測士に従ってね」

四人『はーい』

天測士「ふ、ふふふ。そ、そうよ、いざという時は私を頼りなさい!」

隊長「……チッ」ボソリ

四人(隊長があからさまに舌打ちした)
556 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/25(火) 19:08:20.16 ID:fmkgMEAno
天測士「じゃあ、私の部下たちよ、早速挨拶しなさい」

占い師「部下じゃないですけど〜、占い師です」

天測士「占い師よ! 極めてオカルティックな面から、私の天測をフォローしてくれるわ!」

斧使い「斧使いだ、隊長とは同じクラスでな」

天測士「斧使いよ! 我が隊唯一の筋肉役で、天測機を運んだりもしているわ!」

狩人「狩人です、よろしく」

天測士「狩人よ! 目端が利き、天候にも詳しく、私の天測をフォローしてくれるわ!」

忍者「忍者です」

天測士「忍者よ! 私の天測にいかなる関わりがあるかは不明だわ!」

五人(全員、目を逸らしまくってる……)
557 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/25(火) 19:08:48.54 ID:fmkgMEAno
隊長「じゃあ、こっちもだ。隣から、剣士、術士、工兵、救護員だ」

隊長「剣士は腕が立つ、斧使いと両輪で前衛に立ってもらうだろう」

剣士「……適当にしろ」

斧使い「お、おう、よろしく!」

隊長「術士は方陣術が得意だ。占いや天測とやらは分かる?」

術士「星見なら知ってるわ。魔法や術とは別種のものだけれど」

占い師「ぜひよろしゅう〜」

隊長「工兵だ……ええっと、その荷物は?」

工兵「竜を相手取るにはと思って、いろいろ持ってきたんだ」

隊長「置いてこい」

工兵「じ、自分で運ぶからいいだろう?」

隊長「……まあ、このとおりだ」

救護員「ちょっと隊長! 私の紹介がまだでしょ」

隊長「以下略」

救護員「うぇぇぇえ!?」
558 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/25(火) 19:09:17.23 ID:fmkgMEAno
隊長「で、これから谷に向かうわけだけど、大体キャンプを含めて10日間で出来るようなルートを考えてきました」

天測士「えっ」

隊長「地図を開くよ。そらっ」バサッ

天測士「いや、天測、テンソク……」

隊長「学園からいわゆる、谷までこのルートが最短」

狩人「川沿いだね」

隊長「つっても、崖になっているから、落ちないように気をつけて」

隊長「で、目撃情報はこの当たりだから、2日かけて移動して、ココらへんでキャンプ」

剣士「妥当だな。それ以上、深く移動すると、テントを張るどころじゃなくなるだろう」

狩人「草木も生えにくくなるだろーし」

隊長「そこから、数日かけて調査。何日か余らせるとしても、ある程度情報がまとまったら撤収」

隊長「オーソドックスだけど、これが一番ベストだと思う」

斧使い「うおお……隊長が隊長やってる」

隊長「そうだよ、隊長だよ」

天測士「(´・ω・`)テンソク……」
559 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/25(火) 19:09:43.60 ID:fmkgMEAno
隊長「何か質問は?」

忍者「この計画ですと、行軍速度がいささか早すぎるのでは?」

隊長「キャンプ地の選定に時間をかけた方がいいと思ったんだけど」

斧使い「だろうな、テントって結構ちゃんとしたところに張らないと」

剣士「……討伐はしなくていいのか」

隊長「依頼内容は、もし可能であれば、だからね」

狩人「うーん、あ、そうだ。洞窟とか、そういうのはチェックしておくべきじゃないかな」

隊長「どうして?」

狩人「空を飛んでる獲物が一番狩りにくいんだ。飛んでるってだけで、当たりやすさは全然違うから」

狩人「そうなると、追い込んだり、あるいは逃げ隠れたり出来るようなポイントがあるといいなーって思う」

隊長「そうだね。キャンプ地も、周囲に狙われやすいところより、洞窟を利用するのがいいかも」

  救護員「ふぉぉ、まるで私達が要らない子みたいですわ」

  占い師「ね〜」
560 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/25(火) 19:10:11.27 ID:fmkgMEAno
隊長「他にある?」

占い師「あの〜、全然別の話なんですけど〜、私達、占いと天測をしていて〜」

隊長「うん」

占い師「それを〜、やらせてほしいんですよ〜」

隊長「どうぞ?」

占い師「あ、いいんですか?」

斧使い「おま、なんか信じてないかもしれないけど、占い師ちゃんのはすげぇ当たるし、リーダーのテンソクも結構当たるんだぜ!」

隊長(ハズレがあるのかよ……)

隊長「まあ、そちらなりのやり方は尊重するから、その間に荷物をチェックしておくし」

占い師「ありがとう〜、ほら、リーダー!」

天測士「……はっ」

占い師「早くやって先に進みましょうよ〜?」

天測士「く、くふふ。正しいルートなど、私にかかれば簡単よ」

天測士「ちょっと待ってなさい! 斧使い、機材準備!」

斧使い「へいへい……」
561 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/25(火) 19:10:41.10 ID:fmkgMEAno
天測士「経緯入力、風向、風量の確認!」

工兵「へー、数字を入れ込んで回していくタイプか」

天測士「光量測定! 天候の変移に応じて、ルートを選択する!」

斧使い「ほいほい」

天測士「竜に至る道を測るのよ……」

隊長「何を言ってるのかよく分からんが、すごい迫力だ」

工兵「元々膨大な数値が入力してあって、それに現在の値を照らし合わせるタイプなんだね」

隊長「ふうん?」

工兵「内部構造は見てないけど、多分、基礎数値が毎回更新されているみたいだ」

隊長「……手伝ってきてもいいよ」

工兵「本当に? よしよし」ダッ

隊長「……毎回、これをやっているのか?」

斧使い「しょうがないだろ。かなり精度はいいから」
562 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/25(火) 19:11:07.38 ID:fmkgMEAno
天測士「……」ガリガリガリ

天測士「……出たわ!」

天測士「くふふ、これよ! このルートが竜に至る道よ!」

隊長(一部、曲がりくねっているようだな)

天測士「ええと、これを、さっきの地図に照らしあわせていくわね」

天測士「キャンプ地の選定に至るまでの、このルートがまずいわ!」

狩人「……うーん、地図上だと少し開けている場所だーね」

隊長「しかし、ここを通過しないと、大分ロスになってしまうよ」

天測士「私が正しいの!」

狩人「この点に関しては、リーダーを支持。上から急襲されたらお陀仏だし」

斧使い「俺もだ」

忍者「ですな」

隊長(妙な連帯感だな)

隊長「……占い師さんは?」
563 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/25(火) 19:11:39.53 ID:fmkgMEAno
占い師「……困りましたね〜」

術士「何が出たのかしら」

占い師「ううん、この作戦を行うのはかなり困難だと出ていまして〜」

隊長「しかし、やらないわけには行かないでしょ?」

占い師「隊長さん、ひょっとしたら、あなたは誰かを見捨てないといけないかも」

隊長「へっ?」

救護員「ええ……そんなこと言ったら、真っ先に私っぽいじゃないですかぁ」

隊長「……」

占い師「どうしますか〜?」

隊長「……なら、そちらのリーダーを見捨てますよ」

隊長「そうしたら、そっちはそっちで勝手にやるでしょ?」

占い師「それは面白い考えかもしれませんね〜」
564 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/25(火) 19:12:46.04 ID:fmkgMEAno
天測士「占い師、他には?」

占い師「えっと〜、帰りが大変かもしれないですね〜」

天測士「なるほど、退路の確保が重要ってね」

斧使い「じゃあ、荷物も最大でも俺が全部を持てる分くらいでいいだろ」

狩人「そーだね。そのくらいがベストかな」

忍者「ですな」

天測士「ふ、見なさい! このチームワークを!」

隊長「隊長が頼りないと、チームが成長するんだよね」

七番隊の四人『うん、うん』

天測士「なに言ってるのよー!」

剣士「……なんでもいいから、行こうぜ」
565 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/25(火) 19:13:26.21 ID:fmkgMEAno
森。

隊長「……ふう。ここを抜ければ、そろそろ谷に入るな」

剣士「そうだな……」

隊長「剣士、大丈夫か?」

剣士「何がだ」

隊長「なんか、試験以来、元気がないから」

隊長(また会長に負けたのがショックだったのか?)

剣士「……チッ。どうでもいいだろ」

隊長「良くないよ」

剣士「これは、俺の問題なんだ、どこまでいこうとな」

隊長「剣士の問題は、隊に直結するんだよ。悪いんだけど」

剣士「ああ?」

  斧使い「うおーい! 待ってくれよー!」

隊長「おー!」

剣士「……れが」

隊長「ん?」

剣士「何でもねぇ、言うべき時に言う」

隊長「……それじゃ困るんだけどなぁ」
566 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/25(火) 19:13:55.15 ID:fmkgMEAno
狩人「森はもうすぐ抜けられるーって」

天測士「は、は……そ、そうね! 私に、かかれば……かんったんよっ」

占い師「ふひ〜、はひ〜」

救護員「大丈夫? 持ってあげようか?」

占い師「救護員ちゃん、急に、強く、なってる?」

術士「このくらいは、まあ、こないだ訓練したから」

工兵「いくら技術に優れていても、基礎体力がなければねぇ」

天測士「なく、なく、ないわよ!」

斧使い「ふー、めんどくせぇなー」ガシッ

天測士「きゃわっ!?」

斧使い「ほれ、おとなしく。せっかく導き出したルートもたどり着けないんじゃ意味がないっつーに」

天測士「おおおお、下ろしなさい!?」

工兵「さすが戦士組だね、体力すごいね」

斧使い「はっはっはっは」
567 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/25(火) 19:14:21.35 ID:fmkgMEAno
隊長「よし、一旦、休憩!」

救護員「はーい!」


占い師「……ふい〜」

救護員「大丈夫?」

占い師「うーん、私、やっぱり冒険者には向いてないのかなぁって」

術士「体力はつけられるわ」

占い師「そ、そうね〜」

救護員「そうそう、私達もさぁ、荷物を背負って樹海を行進させられたりしたんですよ、こないだ」

占い師「聞いただけで気絶しちゃいそう……」

救護員「お水、お水」

占い師「ありがとう〜」
568 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/25(火) 19:14:53.00 ID:fmkgMEAno
斧使い「よ、隊長さん」

隊長「ん、ああ」

斧使い「なんつーか、本当に隊長やってんだなぁ、お前」

隊長「どういう感想だよ」

斧使い「そのまんまの意味だよ。こう言ったらなんだけど、お前ってリーダーの器っぽくないじゃん?」

隊長「まあ、チビだしね」

斧使い「そこかよ」

隊長「人生の半分くらいは身長で決まるんじゃないかと思う」

斧使い「ははは、アホか!」

隊長(真剣に思っているんだが……)

斧使い「でも、今回の作戦ってどう思う?」

隊長「二番隊も出張ってきているんだ、俺達はあまり出る幕がないと思うな」

斧使い「あ、そっち? まあ、さっさと出発しちゃったしな」
569 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/25(火) 19:15:22.46 ID:fmkgMEAno
隊長「そっちじゃないって言うなら、なんで合同作戦なんかやるんだってことか?」

斧使い「そーそー! お前、そういう陰謀論得意だろ」

隊長「陰謀論じゃなくて、ただの推論だけどさ」

斧使い「なぁんか妙なんだよなぁ〜」

隊長「どこが?」

斧使い「だって、今までもチーム実習はやってきたわけだろ」

斧使い「それが学園戦隊だ、番号の割り振りだ、ランキングだ、で、合同作戦?」

隊長「軍隊化、のような感じもするな」

斧使い「あー? そう、か?」

隊長「あるいは健全化、かな。これまでも冒険者は単独で依頼を受ける奴もいたし、学園側も個人を鍛えることを中心にしてきた」

隊長「けど、最近は冒険者が集まって徒党を組むと、すぐに盗賊になったりする」

斧使い「貧乏だからなぁ。冒険者って」

隊長「だから、学園側としても、いかにして盗賊に崩れないかを考えて指導を入れてくるだろ」

斧使い「あー」
570 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/25(火) 19:15:50.54 ID:fmkgMEAno
隊長「もっとも、盗賊団から冒険者を目指している奴も入学してきてるけど」

斧使い「おお、一組の」

隊長「そうそう」

剣士「……あいつは、別に盗賊団から入ってきたわけじゃない」

斧使い「うおっ!? いつの間に?」

剣士「隊長、そろそろ休憩は終わりにして、先に進まないか」

隊長「そうだね」

斧使い「元気なやっちゃね」

剣士「それと、お前らの仲間。なんとかならんのか」

斧使い「誰のことだ?」

剣士「忍者とか言う奴、気がつくといないくせに、こっちに視線を送ってやがる」

斧使い「あー、あいつ、あんまり近くに来ないからさ」

剣士「だったら視線を送るのはやめさせろ」

斧使い「いや、俺はここにいますよーっていう合図なんだよ」

剣士「……チッ」

隊長「斧使いのところも変なのばっかりだね」

斧使い「や、やっぱりそう思うよな!」
571 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/25(火) 19:16:30.67 ID:fmkgMEAno
今夜はここまで。

風邪、引きました。
皆様もお気をつけて。
572 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/25(火) 21:08:15.46 ID:jRPH3qXDO

お大事に



天測士って聞いて星天停止的なアレができる術士の上位職みたいなんかなと思たんだけどなんか違うぽい

なんかこう…気象予報士+αみたいな感じなんやろか
573 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/25(火) 21:08:37.65 ID:Pzl8NGeDO
乙!季節の変わり目で風邪多いね。お大事にー
なんか天測士がバカワイイw
574 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/09/25(火) 22:33:12.47 ID:ZINrA4a3o
天測士は大技が使えるというよりは、天候・ルート予測・行動予測が得意なタイプかなーって
もちろん、一定魔法も使いますけど、リーダーに選ばれたのはその辺の能力の高さに寄りますねー

やはり冒険者にはフィールド魔法必須ですよ!
575 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/09/26(水) 00:43:01.28 ID:x8VN3hEQ0
今一気読みし終えたった
召喚士と会話して適度に相槌をうってヒートアップさせてみたいです
576 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/09/26(水) 01:10:06.81 ID:H2Ngv9poo
七星剣(グラン・シャリオ)ぐらい使って欲しいな
577 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/26(水) 01:13:42.54 ID:V1+HSXKfo
僕も天測士ちゃんと天体観測がしたいです!
8月の流星群を見届けた俺に死角は無い
578 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/26(水) 09:12:12.22 ID:rwxMcSeDO
天測士が大げさな荷物背負ってきて始めようか天体観測ほうき星を探してなんですねわかります


魔法は使えるのねー
戦闘力皆無でバトル中はわーきゃーわーきゃー言ってるだけとかもあり得ると思ったんで
その辺は良かった
579 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/09/26(水) 22:49:12.24 ID:PwAS7JmHo
2日目。

隊長「……で、ここから迂回か」

天測士「あんたのルートからはね。私の測定結果によれば、この崖道を通ると確実にお陀仏よ」

隊長「随分と自信があるんだね」

天測士「自信ではなくて、事実だからよ! 天測機には賢者が生み出した『レコード』と接続してあってね――」

隊長「そういうのは工兵に言ったほうが喜ぶなぁ」

天測士「ふん! それと、注意することね。これから四つの時を刻むと雨が降り出してくるから」

隊長「それを早く言ってくれ。四つの時?」

天測士「ほら、時計!」

隊長「数字が書いてあるだけだが……」

天測士「光ったり、音が鳴ったりして知らせてくれるの」

隊長「……身を隠している時はどうするんだ?」

天測士「そ、そんな、隠れているような任務は負わないわ。あんたと違ってね」

隊長(……。目玉をぐりぐりしてやろうか、こいつ)
580 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/26(水) 22:49:39.45 ID:PwAS7JmHo
隊長「とにかく、ここから岩山をぐるりと廻るようにして移動だ」

隊長「各自、落下物には注意して進もう」

斧使い「おう!」

狩人「いや、こういうところに気がついてくれるリーダーっていいねー」

天測士「な、なに言ってるのよ!?」

占い師「うふふ、テンソクちゃんは空のことばかりだもの」

天測士「ら、落下物に注意するような予測は出てないもん」

剣士「しゃべってねえで、進め」

狩人「は、はい」

剣士「口が回るのと同じくらい、足も動かしてもらいたいもんだ」

斧使い「おーおー、言うねぇ」

隊長「ごめんね、こっちは口も回るんだ」
581 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/26(水) 22:50:16.69 ID:PwAS7JmHo
しばらくして。

天測士「ぜひゅ〜、ぜひゅ〜」

隊長(ダメだ、こいつ……)

ピロリロリン♪

天測士「ほ、ほらぁ、四つ鳴ったわ!」

ポタ、ポタ……

ザアァ――

隊長「はぁ、はぁ、そーだね。降ったね」

天測士「これこそ、天測、技術っ、の、真骨頂よ!」

隊長「ゴクッ……天候を操ったりは出来ないのかい?」

天測士「出来なく、はない、けど、すごい、すごい魔力を、使う、のよ?」

天測士「ハー……別に、私がここでぶっ倒れても良いって言うならやるけど」

斧使い「やめてくれ! 俺もいい加減疲れてるんだから!」

隊長(やれんのか、こいつ……)
582 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/26(水) 22:50:47.02 ID:PwAS7JmHo
隊長「ふー。よーし、この辺の窪みが影になってるから、ちょっとここで休憩しよう」

占い師「セひゅっ、ふひゅー」

狩人「は、早いよ、おたくの隊は」

隊長「いや、2日目で、キャンプを張りたいって言ってたのに、まだ半分だし」

術士「けほっ。えっと、大丈夫?」

占い師「だ、だいじょ、ぶ、じゃない」

救護員「はいはーい、お水いる人ー」

救護員「全身は冷やしちゃダメですよー、無闇に雨に濡れちゃいけませんよー」

隊長(覚えたてのなんとやらか)

天測士「はぁ、はぁ、な、なかなかやるわね!」

隊長「いや、見栄を張らないで座ったら?」
583 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/26(水) 22:51:14.66 ID:PwAS7JmHo
隊長「……ふう」

術士「隊長、ムリしないで。落ち着いて行きましょう」

隊長「う、焦っているみたいだ。ありがとう」

剣士「おい、隊長」

隊長「なに?」

剣士「あいつらにわざわざ合わせる必要はあるのか?」

隊長「合同作戦だからしょうがないでしょ」

剣士「はっきり言うが、練度が違う。忍者はともかく」

隊長「別に戦闘だけが目的じゃないしね」

剣士「本音を言え! 俺はこじつけた理由を聞きたいんじゃない!」

隊長「……剣士もウザいなー」

術士「剣士、隊長もイライラしてるんだから、追い詰めないで」

剣士「チッ」

隊長「実際のところ、竜を相手取るとしたら俺達だけじゃ不足がある」

剣士「足手まといの間違いじゃないか」
584 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/26(水) 22:51:43.94 ID:PwAS7JmHo
隊長「天測士の予測はそれなりに役に立つ」

隊長「忍者は偵察が上手いだろうし、先制的に動けるチームなんじゃないだろうか」

隊長「たとえば、罠に引っ掛けたり、そういう手は使えるんじゃない?」

剣士「……」

工兵「天測士はいい子だよね」

隊長「お?」

工兵「どうもあの天測機、異世界の技術や魔法が複合的に組合わさっているものみたいなんだ」

工兵「素晴らしいよ、内部構造もかなり掴みつつあるみたいだし」

隊長(キラキラしていやがる……)

剣士「お前の好き嫌いはどうでもいい」

術士「でも、足並みが揃わないのは問題だわ」

隊長「そうだねぇ」

救護員「大丈夫ですよ!」
585 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/26(水) 22:52:10.59 ID:PwAS7JmHo
隊長「うん?」

救護員「占い師ちゃん、意外とタフなんですよぉ?」

救護員「占いのために、山にこもったりしますしぃ」

隊長「息切れしてたけど」

救護員「意外と底力あるってことですよ! 持久力はそんなにないけど」

剣士「……しかし、連中に合わせてもな」

隊長「もう少し考えよう。狩人は遠距離、天測士も占い師も遠目から行動したほうが得意そうだ」

隊長「俺達が前衛を取るなら、あっちは遠距離からフォローしてくれる、かもしれない」

隊長(……というか、それしかない)

術士「そもそも、戦闘を目的としてないわけでしょう」

剣士「……」

隊長「剣士、落ち着けよ。焦っても、いい結果は出ないよ」

剣士「……分かっている!」
586 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/26(水) 22:52:41.57 ID:PwAS7JmHo
ポポロポーン♪

天測士「あ、鳴った」

隊長「まだ止んでないけどね」

天測士「このまま降り続けるわよ」

隊長「……じゃあ、待っていたら暗くなってしまうよ」

天測士「う……でも、おかしいわね。確かに予測は正しいけれど、こんなところでこうすぐに雨が降るとは」

隊長「そりゃ、そうだ。空の状態からしても、そこまで不安定ではなかったはずだし」

天測士「うーん、そうね……」


   ギャァァァァァァッ


天測士「……」

隊長「……聞いた?」

天測士「ええ、近くはなかったけど」

隊長「竜のお出ましかね」
587 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/26(水) 22:53:10.45 ID:PwAS7JmHo
占い師「はや〜」

天測士「どうしたの、占い師」

占い師「記録によれば、竜は天候を操ることもできるそうです〜」

隊長「……へぇ」

天測士「確かに、天候を操る魔法はあるけど……」

隊長「だとしたら、下手に動くのもそうだが、ここに留まるのもまずいな」

天測士「ど、どうしてよ」

隊長「雨が続けば、この土の具合だと崩れる可能性もある」

天測士「む」

占い師「ええと〜、もう一度、天測してみては〜?」

天測士「そうね、よし、ぬかるみの中でも正道を探してみせるわ!」

隊長「いや、手短に頼むよ」

天測士「任せなさい! 斧使い! 機材!」

  斧使い「へーい」
588 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/26(水) 22:54:15.27 ID:PwAS7JmHo
ピロリロリン♪

天測士「待たせたわね!」

隊長「……おう」

天測士「この雨の中だけど、進む道が見えたわ! 岩を回りこむのではなく、少し右手の方に進路を決めて、直進する!」

隊長「ふーん」

天測士「そうすると、多少頑丈な洞穴にぶつかるはずだわ!」

隊長(地図では……うん、確かに、別の崖にぶつかることになっているな)

隊長(少し開けちゃうけど、天候不順だから、魔物や竜に見つかるってことも、まあ少ないだろう)

天測士「くふふふ、御覧なさい、道を探すなど、私にかかれば簡単よ」

隊長「……よーし、じゃあ出発するよー」

全員『はーい!』

隊長「テントとか食料とか、濡れるとまずいものは全部布か何かでくるんだよね?」

全員『はーい!』

天測士「ちょっと! 少しは褒めなさい! たたえなさい!」

隊長「天測士はすごいなぁ、僕にはとてもできない」

天測士「くぬぬぬ……」
589 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/26(水) 22:54:42.09 ID:PwAS7JmHo
雨の中。

サァァァ――

天測士「くっ、はぁはぁ、はぁはぁ」

隊長「……」

天測士「……まだ、よね」

隊長「わかってるなら、しゃべらない方がいいんじゃない」

天測士「……はぁ、はぁ」

天測士「早、すぎない?」

隊長「雲のせいもあるけど、暗くなるのが早い。もう少し、先に進みたいんだ」

天測士「……はぁはぁ」

隊長「……」

天測士「……あ、あんたに、言っておくことが、あるわ」

隊長「なに?」
590 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/26(水) 22:55:13.14 ID:PwAS7JmHo
天測士「私、あんたのこと、結構、バカにしてたわ」

天測士「最低の、番台だし、大した、こと、ないと思ってたし」

隊長「……」

天測士「盤面、だけ、勝てないのが、悔しくて」

天測士「でも、やっぱり、隊長な、だけ、あるのね」

隊長「仲間に恵まれてるだけだよ」

天測士「それは、私、の方が、恵まれて、るわ」

隊長「俺は、天測士の思ってるとおりだよ。大したことない」

天測士「はぁはぁ、ふん、今、さら、ごきげん、取られても」

天測士「こないだ、っから、さんざん、バカに、された、あと、はぁはぁ、なんだし」

隊長「……」

天測士「きゃわっ」

隊長「あぶない」ぎゅっ


隊長は天測士を抱きとめた。
591 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/26(水) 22:55:45.46 ID:PwAS7JmHo
天測士「あ、ありがと」

隊長「いいから喋ってないで、歩くのに集中して」

斧使い「……おっとぉ、こいつはあれですかぁ?」

救護員「まさか、隊長に春が……春がっ!」

隊長「お前らも歩くのに集中しろ」

二人『うひょー!』ダカダカダカダカ

天測士「はぁはぁ、ま、まあ、いいじゃない、別に」

隊長「いや……」


その時、遠くで激しい閃光が立ち上った。
一瞬の間の後、雨が光を沈めるようにまた降り始める。


隊長(……なんだ、今の)

天測士「いまの、割りと、近かった、わね」

忍者「報告」

隊長「うわっ!」
592 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/26(水) 22:56:18.16 ID:PwAS7JmHo
天測士「に、忍者。ちょっと、待って」

忍者「はい」

隊長(こいつ、いつの間に)

天測士「……ふぅー。いいわよ、何か?」

忍者「先行した二隊が竜と交戦中」

二人『交戦!?』

忍者「ただし、すでに負傷者多数、今の光が登る前の話ですが」

隊長「……とすると、雷じゃなさそうだな」

天測士「そ、それで、それって本当に竜だったの?」

忍者「予め説明を受けた竜そのものです。なお、私が確認した限りでは十五を数えました」

二人『十五!?』

忍者「は。それから、この直線方向に、洞穴も発見……」


……風が吹いてきて、雨が顔に飛び込んでくる。
忍者の報告を聞きながら二人が顔をあげると、
何か黒々としたものがこちらに向かって飛んでくるのが見えた。
593 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/26(水) 22:56:55.16 ID:PwAS7JmHo
天測士「全隊、停止ーッ!」

隊長「武器を準備しろ!」

剣士「おう」チャキ

斧使い「おー、こんなに早いとは思わなかったぜ」

隊長(くそっ、どうする……? 十五も数がいるんじゃ相手にならないだろう)

忍者「竜が来ます」

天測士「忍者は、洞穴まで先行するのよ!」

忍者「承知」

隊長「天測士……!」

天測士「とにかく、洞穴まで走りましょう! ルートは決めたのよ!」

隊長「天測で、これは出なかったのか」

天測士「ちょっとズレがあったみたいね」

隊長「褒めて損した」

天測士「褒めてないでしょ!?」
594 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/26(水) 22:57:25.83 ID:PwAS7JmHo
隊長「竜に見つからないうちに、まず走れ!」

剣士「……おい、やらねぇのか」

隊長「態勢を整える方が先だ、洞穴へ急ぐ」

工兵「しょうがないな」

狩人「ひぃ、ひぃ」

占い師「ダメよ、一匹来るわ!」


占い師の言葉どおり、正面の道を塞ぐようにして、黒い塊が地面に降り立とうとする。


  斧使い「うおぉりゃっ!」ガッ

  斧使いの攻撃! 竜に斧を弾き返された!

  斧使い「おっ、おう」


天測士「馬鹿馬鹿! 私の指示に従うの!」

隊長(まずい! 先行してる救護員と斧使いが)

隊長(相手がでかすぎる……くそっ)
595 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/26(水) 22:57:52.56 ID:PwAS7JmHo
救護員「あ、は、はは……」

斧使い「バカ、ボケっとするんじゃねぇ!」

剣士「チッ!」


剣士の攻撃! 竜の爪を受け流した!


剣士「早くそいつを連れて、右手へ回り込め!」

斧使い「分かった!」

剣士「……隊長!」

隊長「剣士、表皮じゃ相手にならない!」

剣士「目だな!?」

隊長「いや、下がれって!」

剣士「あああっ!」ガイン

隊長「あのバカ……!」
596 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/26(水) 22:58:34.22 ID:PwAS7JmHo
竜は、斬りかかる剣士に構わず、大きく息を吸込む。
薄暗い雨の中で、その口の中だけが、赤く光をふくらませていく。

隊長は悟った。
次に何が来るか、そして、間に合わないということも。


隊長「あ、ち、散らばれーっ!」


叫んだ。
だが、周りは動けていない。

そこへ、術士が駆けつけた。


術士「展開! 術式、1―3―9―7―1……」


術士の方術が展開される。
緑色の風のドームが全員をすっぽりと覆った瞬間、竜の口から火炎が放たれた!
597 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/26(水) 22:59:23.98 ID:PwAS7JmHo
轟音。

隊長は、炎と風がぶつかった衝撃で頭を振った。
周りを見渡すと、竜も反射した炎でのけぞったようだ……


隊長「……術士!」


術士は、最後に目にした場所から遠い位置にいた。
真正面から相対したためか、衝撃で跳ね飛ばされたのか。

それよりも隊長の目には、術士が血に汚れているように見えた。


隊長「うぐっ」

天測士「……聞け!!」

隊長「おい……」

天測士「七番隊、これより竜を出し抜く行動に入る!」

『おう!』

天測士「相手は怯んだ! 私にかかれば、万物の運命など、簡単なことである!」
598 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/26(水) 23:00:09.26 ID:PwAS7JmHo
天測士が機械のレバーを回す。
回して回して、筒状の先端から光がこぼれ落ち、地面に何事かの図を描いていく。


天測士『三手予言!』

占い師「ふ、フォローします!」

天測士「相手、頭を振り、足元をなぎ払う! 雲を呼ぶ! 剣士の攻撃!」

占い師「斧使いさん、倒れた人を救ってください! 先んじれば、抜けられます!」

斧使い「分かったぜ!」

狩人「僕はどーしよ!」

天測士「銀をつがえ!」

狩人「了解!」


狩人が頷いた瞬間、竜が右の爪で剣士を薙ぎ払った。
大振りに剣士が飛ばされる。

それから、竜が空に向かって吠えると、あたかもその意に従うかのように、黒雲が集まり始めた。
599 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/26(水) 23:01:04.99 ID:PwAS7JmHo
雨が激しくなり、周囲を暗く染めていく。

そこに天測士はあえて叫んだ。


天測士「来るが良い! 雷よ!」


ビシャアッ、という音。
呼んだはずの黒雲から、激しい稲光が竜を貫いた!

そこに加えて、怯んだ竜の爪の間に、さっくりと剣士がカタナを差し込んだ!
600 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/26(水) 23:01:32.45 ID:PwAS7JmHo
隊長「……どうやら、見捨てられそうなのはこっちだな」

斧使い「おう、隊長! ちょっと、やばいぞ」

隊長「分かってる!」

救護員「ああ、あ、じ、術士さんが血を流している」

隊長「見りゃ分かる」

斧使い「俺は洞穴まで彼女を運んでくる! そこの子も、手当の道具持ってるだろ!」

救護員「え、えと」

隊長「救護員、斧使いについていくんだ。安全なところで手当をした方がいい」

救護員「……はい!」

隊長「……剣士は前か。工兵は?」

工兵「ん」

隊長「工兵!」

工兵「とりあえず、斬撃系統は狙いが難しいようだね」
601 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/26(水) 23:02:17.76 ID:PwAS7JmHo
隊長「ああ、何か手はあるかい?」

工兵「隊長こそ、一応、竜のことは調べているんだろう」

隊長「硬い鱗、巨大な体、空を自在に動き回る翼……」

隊長「まともにやりあってたら、勝ち目なんかないね」

工兵「……」

工兵「つまり、卑怯な手を使って、身動きを取れなくさせるしかないってことかな?」

隊長「……何かあるかい」

工兵「投網なんかじゃ無理だろ」

隊長「魚じゃないんだから……」

工兵「じゃあ、別の手だ」

隊長「……実を言えば、術士に動きを封じる方陣を仕掛けさせるつもりではあった」

工兵「なるほどね。手が失われたわけか」
602 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/26(水) 23:03:02.13 ID:PwAS7JmHo
工兵「なら、僕から提案だけど、さっきの炎をもう一度撃たせるってのはどうかな」

隊長「冗談だろう?」

工兵「大真面目だ。で、そこに爆雷管を仕掛けておく」

隊長「ダメだ、こっちが巻き込まれる」

工兵「……だったら」

  天測士『三手予言!』

  天測士「相手、飛び上がる! 顎を向ける! 爆発!」

  占い師「た、食べられちゃいますよ〜」

  狩人「……移動しながら、位置取りするよ!」ザザッ


竜が翼を広げる!
ばさり、と一振りするたびに、猛烈な風が戦隊に襲い掛かってくる。
603 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/26(水) 23:04:00.88 ID:PwAS7JmHo
剣士「隊長! 向かってくるぞ!」

隊長(ど、どうする)

工兵「湿気ない爆薬」ポン

隊長「投げるぞぉ――――っ」


隊長の攻撃! 大口を開けた竜に向かって、爆薬を投げつけた!

ずど、という爆発音。
竜の口腔内で、炎が燃え上がる。


天測士「今!」


狩人の攻撃! 銀の矢が、赤い瞳を貫いた!


  ぐぉぉぉおおおおおおおん!


天測士「竜が怯んだわ! 仲間が来る前に、駆け抜けるの!」

占い師「はい〜!」

狩人「リーダーも、早く」

天測士「だ、だいじょうぶよ!」タタタッ
604 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/26(水) 23:04:49.09 ID:PwAS7JmHo
隊長「よし、俺らも抜けるぞ」

剣士「まだだ!」

隊長「おい、剣士?」

剣士「……っぐ」

隊長「何やってんだ、態勢を、ととのえ、ないと……」


破けた袖の下に、赤い筋が何本も模様を描いて走っている。
隊長は、少しだけ戸惑って、それから理解した。


隊長「……呪術印か?」

剣士「しびれが出てきてる。だが、竜とやりあう程度の腕力を作るには――」

工兵「……隊長! まだ全然動くよ、こいつ」

剣士「チッ」
605 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/26(水) 23:05:37.36 ID:PwAS7JmHo


剣士が走る。
走りながら正確に腕の呪印をなぞると、赤い筋が雨の中で光った。

剣士の、攻撃。

竜の首が跳ね飛んだ。
606 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/26(水) 23:06:27.03 ID:PwAS7JmHo
今夜はここまで。
607 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/09/27(木) 12:25:06.97 ID:LmW+iEBno
乙!
608 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(熊本県) [sage]:2012/09/27(木) 17:29:46.93 ID:BBqeoY54o
剣士強えええ・・・
609 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/09/28(金) 20:20:33.52 ID:o811vaeFo
隊長「剣士!」

剣士「ぐうっ」

隊長「工兵は先に行ってくれ」バチャバチャ

工兵「はいよ」バチャバチャ……

剣士「寄るな!」


剣士の腕は、真っ赤に腫れていた。
いや、血管が破裂して、腕が赤黒く膨らんでいるのだ。


隊長「……立てる?」

剣士「問題ない!」

隊長「もうひとつ、聞いてもいいか」

剣士「……」

隊長「もしかして、魔剣士に負けたってのは……」

剣士「まだ、あの時はしびれだけだった」

隊長「冗談は止してくれよ。剣士が剣を振るえないってんじゃ」

剣士「……まだ歩ける。行くぞ」ジャバッ
610 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/28(金) 20:21:22.93 ID:o811vaeFo
――洞窟。

隊長「ぶはっ」バシャッ

斧使い「おお、お前で、最後だな」

隊長「すまん、遅れた」

斧使い「いや、いいんだ。助かったよ」

剣士「……」ポタ、ポタ……

狩人「血ぃ、出てるよ?」

剣士「救護員は?」

斧使い「奥のほうで、お前さんとこの術士ちゃんの怪我を見てるよ」

隊長「俺も行く。様子はどうだ?」

斧使い「あまり、良くはないな」

天測士「……こら、出入口からもう少し下がりなさい!」

斧使い「へ〜い」
611 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/28(金) 20:21:49.14 ID:o811vaeFo
洞窟奥。

救護員「……ううう」

忍者「打ちどころがまずかったようです」

隊長「……」

工兵「気絶しているだけなんでしょ?」

忍者「全身を打っており、出血もあります」

救護員「……ごめんなさい、私の力不足で」

隊長「いや、忍者の言うとおり、打ちどころが悪かっただけだよ」

隊長「それより、剣士の方の手当もしてもらえるかな?」

救護員「は、はい!」

剣士「……死んでるわけじゃねぇ。落ち込むのは筋違いだ」

救護員「は……はい」
612 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/28(金) 20:22:41.22 ID:o811vaeFo
隊長(術士、青ざめている……)

術士「はぁ、はぁ」

隊長「……息はあるけど、自分で歩いて行くってのは無理そうだね」

占い師「まずいといえば、まずいです。この人の道がわかれています」

隊長「生か死かってこと?」

救護員「え、縁起でもないこと言わないでくださいよ!」

隊長「……」

占い師「見ての通りだと思います……」

忍者「このままではまずいですな。安全なところまで運ばないと……」

隊長「いずれにせよ、作戦は中止だな」

救護員「さ、作戦作戦って……!」

剣士「うるせぇ! こっちの処置に集中しろ!」

隊長(剣士も傷ついている。しかし、どう逃げるかが問題だが)

天測士「……ちょっといいかしら」
613 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/28(金) 20:23:07.26 ID:o811vaeFo
さらに奥で。

隊長「……お疲れ様」

天測士「……言ってる場合じゃないでしょ」

隊長「そうだね、一体仕留めるのに、全力費やした」

天測士「あんたのところ、満身創痍じゃない!」

隊長「ちょっと無駄な特攻をしたかもしれないしねー」

天測士「……私の方も、天測の結果は絶望的よ」

隊長「なんて出てる?」

天測士「これから、晴れ間が出るわ」

隊長「それは好都合じゃないの」

天測士「つまり、相手は星の導きを頼りにして、私達を探すことになっている」

天測士「ここで一泊してもいずれ見つかるし、出ていって逃げるルートを探っても、見つかるわ」

隊長「……」
614 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/28(金) 20:23:36.83 ID:o811vaeFo
天測士「そっちのけが人はどうなの?」

隊長「術士の怪我が、思ってたよりもひどい」

隊長「それから、剣士だ。竜の首を刎ねるほどの腕力と引き換えに、もう腕から血が出まくりだよ」

天測士「はぁー……まあ、生かしてたら追いかけられてたでしょうし、倒したのは間違ってなかったけど」

隊長「確かに、今は静かだしな」

天測士「おそらく、私達が逃げおおせたのに気づいて、相手も作戦を練り直しているんでしょう」

隊長「で、どうする?」

天測士「どうするって、なにが」

隊長「ご自慢の天測では竜を予測出来なかったし、今後の展望は絶望的で、どうするってこと」

天測士「こんな時に、嫌味を言わないでほしいわ!」

隊長「……」
615 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/28(金) 20:24:10.67 ID:o811vaeFo
天測士「私から言わせてもらうわよ」

隊長「どうぞ」

天測士「今回の作戦、少なくとも竜は本物だった、そして十五匹以上はいる、ということが分かったわ」

隊長「……忍者が見ただけだが」

天測士「信頼出来るわよ。それに、忍者なら、先行して学園に帰ることもできるでしょう」

隊長「彼を一人で先に戻すってことか」

天測士「それで、救援を待つ!」

隊長「無理だね」

天測士「なんでよぉ!?」

隊長「待っててもどうせ見つかるという結果なんだろう? ということは、救援が来る前にやられる可能性は大だ」

隊長「あ、いや。作戦としては、全滅するより、忍者だけでも報告者として回すってのはありだよ?」

天測士「ううん……」
616 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/28(金) 20:24:39.03 ID:o811vaeFo
隊長「それ以外の方法で言うと……そうだね、うちのお荷物を見捨てて、全力で逃げる」

天測士「……あんた、本気?」

隊長「可能性としては大きな案じゃない? 正直、負傷者を抱えて脱出するよりマシだと思うけど」

天測士「本気で考えているなら、ぶん殴るわよ」

隊長「戦隊の隊長なら、あらゆる可能性は排除しちゃダメだと思うけどね」

天測士「いいわ! だったら、時間ギリギリまで、全員が助かる道を探してみせるわ!」

天測士「くふふふ、その程度、私にかかれば簡単よ!」

隊長「……他にも可能性はある」

天測士「たとえば何よ?」

隊長「地理的に言えば、この谷は川沿いだ、川に逃げ込めば、あるいは」

天測士「……うーん、川の魚を漁るドラゴンは聞いたことがないし、可能性はあるかもね」

隊長「ただ、ここからだと川までの距離が遠い」

天測士「そうね……」
617 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/28(金) 20:25:10.77 ID:o811vaeFo
隊長「……ごめん」

天測士「何が?」

隊長「今度のこと、明らかに行動の軸を二つにしていたのが失敗だった」

天測士「どういう意味よ」

隊長「天測士のルートと、俺の想定していた日程を、無理矢理に合わせたのが失敗だったんだ」

隊長「どちらかが、きっちり相手に合わせるべきだったんだ」

天測士「……そ、そんなこと」

隊長「おそらく、あのタイミングで竜を予測できなかったのは、俺が無理な行進を強いたからじゃないか」

天測士「……」

隊長(……先発隊に追いつきたかったんだが)

天測士「……ふ、ふふふ」

隊長「ん?」
618 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/28(金) 20:25:39.06 ID:o811vaeFo
天測士「馬鹿馬鹿しい! そんなことを言ったら、先発した二隊はどうなるの」

天測士「調査するどころか、交戦して、はい、おしまい。無駄死もいいところじゃないの!」

隊長「……別に、死んだとは限らんだろ」

天測士「ふん! 交戦が終わったから、こっちに飛んできたんでしょうよ。つまり、全滅したとしか思えないわ」

天測士「別にあいつらをバカにしたいわけじゃないけど、こちらは一体を屠ってまだ死者はなし」

天測士「最低でも学園への報告は出来る見通しはあるわ!」

天測士「どうなの、え!?」

隊長「いや、そう言われてもな」

天測士「そんな、まるで私に合わせたから失敗したみたいな言い方はやめてくれる!」

天測士「あんたは私に盤面試験で先んじてんのよ! もっと胸をはりなさい!」

天測士「それとも、何、自分は周りに気を使ってるから、いつも本気が出せないんですぅとか言いたいわけ!?」

隊長「……」
619 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/28(金) 20:26:06.50 ID:o811vaeFo
隊長「ああ、そうだよ」

天測士「なんっ……!」

隊長「四隊が出ること、二隊合同であることにこだわりすぎていた」

天測士「あ、あ、そう」

隊長「隊長連中は全員、自己主張ばっかりで頭が悪いし」

天測士「おい」

隊長「だが、協調する気もない学生に、こんな危険な仕事を押し付けた学園側も何考えているんだか」

天測士「知らないわよ、そんなの」

隊長「……」

隊長(めんどくせぇな、ホント)

隊長(隊員を成長させようなんて無駄に考えたり、うまく折り合いつけようなんて無駄に考えたり)

隊長(挙句の果てにはそれに文句つけられたり)

隊長(なんで、こんな……)
620 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/28(金) 20:26:52.69 ID:o811vaeFo
隊長「……とりあえず、二手に別れよう」

天測士「お、囮になれってこと!?」

隊長「単純に頭が二つは良くないってことだ。天測士は独自のルートで脱出してくれ」

隊長「……怪我人も引き受けてくれると助かるな」

天測士「なに、その、ハズレクジ状態」

隊長「こいつは信頼だ。安全なルートを予測出来るんだろ」

天測士「……ふ、ふふん。そりゃ、もちろん」

隊長「じゃあ、それで行こう。俺はメンバーと話し合ってくる」

天測士「あ、ちょっと!」

隊長「頼んだよ!」
621 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/28(金) 20:28:04.37 ID:o811vaeFo
隊長「……集合したね」

救護員「は、はい」

剣士「……」

隊長「まず、剣士と術士はこのまま天測士の部隊とともに移動してくれ」

剣士「なんだと?」

隊長「工兵と救護員は俺と一緒に行動。危険だが、二番隊と十三番隊の生き残りを確認して脱出しよう」

工兵「うわ、けっこキツいね、それ」

剣士「ふざけるな!」

隊長「何が?」

剣士「俺を、役立たず扱いするつもりか!」

隊長「竜を一匹倒したんだ。十分、役に立ったろ」

救護員「で、で、でも、ドラゴンってすごーく強いじゃないですか」

隊長「別に戦うわけじゃない」
622 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/28(金) 20:28:43.07 ID:o811vaeFo
隊長「それに、相手を一匹倒したのは大きい。相手がこちらに気づいても、うかつに攻撃してはこないんじゃないの」

剣士「そんなもん、ただの推定だ!」

隊長「だけど、いずれにしても10人で固まって行動することに意味はない」

隊長「少人数なら、小回りは聞くし、他の連中よりは体力がある」

工兵「ううん、ただ、相手だって空を飛べるし、機動力はあるしね」

隊長「正面突破しなければいい。撹乱は有効なはずだ」

剣士「バカじゃねぇのか、そんなことで竜を相手取れるわけがねぇだろうが!」

隊長「相手にしないって言ってるんだよ」

救護員「う、うう」

剣士「俺はまだ戦えるんだよ!」

隊長「いや、だからね……」

剣士「……お前も、俺を置いていくのか」

救護員「け、剣士さん」
623 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/28(金) 20:30:09.30 ID:o811vaeFo
剣士「俺は強くなるんだ、ならないと、ダメなんだ」

剣士「そうでないと、あいつに追いつけない……!」

隊長「……」

剣士「腕はまだ動かせる、お前らとだって、体力差はある」

剣士「俺は足手まといなんかじゃない!」

救護員「お、落ち着いてください」

剣士「うるせぇ! お前らみたいなのに、まで、抜かされて、どうやってあいつに追いつけるんだ!」

剣士「俺は竜だって殺せる、そうだろうが!」

剣士「俺がいなかったら、お前ら」


隊長「聞き分けのないこと言ってんじゃねぇ」
624 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/28(金) 20:30:45.40 ID:o811vaeFo
救護員「た、隊長?」

隊長「つまんねー対抗心で自分を削るのは止めにしろ、バカじゃねぇのか」

隊長「追いつくも何も、命がかかっている状況なんだよ、今は」

隊長「お前が考えなくちゃいけないことは、全力で逃げて、腕を治すことだ」

剣士「だっ……!」

隊長「お前は、全力で、逃げろ。聞こえなかったか?」

剣士「な……! そ……!」

隊長「隊長命令だ」

救護員「……」

工兵「……」

剣士「う、お……」
625 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/28(金) 20:31:11.46 ID:o811vaeFo
隊長「……というわけだけど、文句ある?」

工兵「……ま、しょうがないね。なるようにしかならないでしょ」

救護員「ううっ、やだなぁ、こういうの」

隊長「救護員も、付きあわせてすまんね」

救護員「まあ、剣士さんと術士ちゃんに比べたら、私はねぇ」

術士「んう……」

隊長「術士?」

術士「ん、んぁ……」

隊長「よし、しゃべらなくていい。簡潔に伝えるぞ」

術士「ん……」

隊長「作戦は、中止だ。撤退することにした」

隊長「術士は、怪我しているから、剣士と一緒に、脱出」

術士「ん」b

隊長「よーし、俺は別で動くが、もちろん死ぬつもりはない」

術士「……」クタッ

隊長「剣士」

剣士「……クソが」
626 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/28(金) 20:31:43.25 ID:o811vaeFo
洞窟出口付近。

隊長「工兵、ちょっと装備の確認をしよう」

工兵「うん。この際だ、ばら撒くよー」

隊長「だな。これが最後になるかもしれんし」

救護員「や、やめてくださいよー、そういうの」

工兵「とりあえず、発雷装置だ。雨にぬれても大丈夫型」

隊長「ふむ」

工兵「エアバッグ。瞬時に気体を発生させて袋が膨らむ装置。衝撃吸収用」

隊長「ほう」

工兵「ただし、作り方が悪かったせいか、衝撃が強すぎて自分も吹っ飛ぶ」

隊長「役に立つんか、それ」

工兵「発光爆弾。めちゃくちゃ光るから、ひるませるには最適」

隊長「そいつは向こうの隊にも渡しておこう」

救護員「なんでもありますねー」

工兵「お菓子。剣士が作ってくれたやつ」

隊長「食っておこう」モグモグ

救護員「あっ!? 隊長、ずるい!」
627 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/28(金) 20:32:09.82 ID:o811vaeFo
工兵「これはどうかな。爆発によって生じた圧力でピストンを押し、回転運動に利用することで、推進力になる」

隊長「意味が分からん」

工兵「足につけるとすっごく早く進めるよ、ただし、すっ転びやすいと思うけど」

隊長「よし、いざって時に使おう」

救護員「ほえぇ」

工兵「……んー、隊長」

隊長「なんだ? できれば、天測士と最後の打ち合わせがしたい」

工兵「なんていうか、さっきのって、本性?」

隊長「さあねぇ」

救護員「めっちゃ怖かったっすけど……」

隊長「下手になだめても、言うこと聞かないじゃん」

工兵「日頃の恨みつらみ的な……」

隊長「ああ、そうかもね」

救護員「隊長、普段からイライラしてたんですねぇ」

隊長「……そう思ってんなら、聞き分け良くなってほしいなー、俺は」
628 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/28(金) 20:32:52.86 ID:o811vaeFo
出口。

ピロリロリン♪

隊長「……その音、なんとかならんのか」

天測士「……と、とにかく、御覧なさい、空が晴れてきているわ」

隊長「ああ。じゃあ、俺はこっちだ」

天測士「いいけど、死なないでよ」

隊長「お前こそ、剣士と術士を見捨てたら、一生恨むぜ」

天測士「ふふん、任せなさい。私にかかれば……」

斧使い「じゃあ、隊長、また学園でな」

隊長「ああ、そうだな」

天測士「ちょっと……!」

斧使い「しーっ、隠密行動!」

天測士「わ、わ、わかってるわよ」

ガサガサ……


隊長「――さてと」
629 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/09/28(金) 20:33:25.48 ID:o811vaeFo
今夜はここまで。
作戦中止? まだもう少し続きます。
630 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/29(土) 06:25:31.50 ID:JUqYALr5o
乙ー
やっぱり天測士ちゃんを選んだのは間違いじゃなかった!
631 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/10/02(火) 13:45:44.50 ID:B4wFXBc5o
追いついた
面白い
632 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/10/03(水) 00:33:32.85 ID:BgN4DlKIO
もうちょい待ってくだされ…
明日くらいにはなんとか…
633 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/10/03(水) 22:17:28.26 ID:cFOYNAufo
隊長「では、今後の作戦を説明する」

救護員「は、は〜い」

工兵「それなんだけど、隊長、ちょっといいかな?」

隊長「なんだ?」

工兵「さっきは、生き残りを確認するって言ってたけど、実際、危険じゃん」

工兵「生き残ってる保証もないし、それこそ、囮にでもなる……?」

隊長「いや、囮は考えているが、別に俺達が囮になるわけじゃない」

隊長「発雷装置と爆雷管を使用する。時間差で巻き込むように」

工兵「時間かかるよ」

隊長「ああ、計画は、一応立てた。竜の巣がある方向から推測して、三箇所に」

工兵「……うーん」

隊長「それに、生き残りはいるんじゃないかと思う」

救護員「ほ、ほんとですかねぇ」

隊長「考えてくれ」

隊長「なぜ、さっき竜がこちらの行く手を阻んだか」
634 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/10/03(水) 22:18:00.35 ID:cFOYNAufo
工兵「こっちを察知したからじゃないの」

隊長「雨の中、視界も良くないのに?」

救護員「……あ、雨の中でもよく見えるんだ!」

隊長「なら、晴れる前から行動してるはずでしょ」

工兵「……生き残りを追いかけていた」

隊長「その通り」

隊長「あの光の柱は、別働隊たちの、おそらく最後っ屁みたいなもんなんだろう」

隊長「あれが発動するより前に、逃げ出した奴がいるってわけだ」

隊長「それを追いかけて、たまたまちょろちょろ動いている俺達を見つけた、だから正面に立ちふさがったんだ」

隊長「おそらく……あの柱から、竜が移動していた方向から考えると……」


隊長は、暗い草地を指さした。


隊長「……あの辺りから、こっち方面が中心だろう」

救護員「おお〜……」
635 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/10/03(水) 22:18:31.42 ID:cFOYNAufo
隊長「じゃ、まず、発雷装置と爆雷管の組み合わせを三個用意して」

工兵「分かった」

救護員「む、むむ」

隊長「救護員は、出来たものから順に背負って」

救護員「了解です!」

隊長(星が出てきたな……)

隊長(竜の生態は不明だ。勇者が討伐したことによって、謎が深まった)

隊長(稀に出てきても、一匹が関の山だったから……)

隊長「……黄泉が近いな」

二人『え?』

隊長「なんでもない」

隊長(姉ちゃん、こっちの方が先にくたばりそうだぜ)
636 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/10/03(水) 22:18:57.94 ID:cFOYNAufo
数分後。

工兵「……よし」

救護員「う、なんか、声がしてきたような」

隊長「あまり言葉で命令は出さないから」

隊長「――出発」

コクコク。

隊長「……」ザッザッザッ

救護員「……」サク、サク

工兵「……」


隊長は、身を低くしながら先頭で歩き方の手本を見せる。

空から眼下の獲物を狙うには、いくら星の明かりが強烈とて、難しい。
加えて、隊長は、直線的に移動するのではなく、風の吹く方向に沿いながら行動することを考えた。
背丈の高い草が風に揺れる方向を加味しながら、それに紛れて移動するのだ。


  グルォォォォォォンン―― グァァァァァ


咆哮だか、掛け声だか分からない声が聞こえる。
637 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/03(水) 22:19:30.72 ID:cFOYNAufo
―――草地中心部。

隊長「……停止」

隊長「……周囲、よし」

隊長「設置はじめ」

工兵「……」コク

救護員「……えっと」

隊長「落ち着いて、下ろして」

工兵「遠隔は無理だからね、時限っつったって限界がある」

隊長「しっ」

工兵「ん」カチャカチャ

救護員「……うう、ドキドキする」

工兵「……できた」

隊長「よし。移動準備」

隊長「移動再開」
638 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/03(水) 22:20:09.36 ID:cFOYNAufo
―――林、付近。

隊長(もう一つ、設置は出来た)

隊長「……停止」

隊長「……周囲確認。ちょっと待て」


ガサッ!


救護員「ひっ」

工兵「しっ」

隊長(魔物か? くそっ! こんな時に)


はぁはぁ、という息遣いが近づいてくる!


隊長「武器、準備」

工兵「ん」チャキ

救護員「ううう、うそ、うそ」

隊長「救護員、木の影!」ヒソヒソ

救護員「は、はい!」

隊長「来るぞ!」
639 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/03(水) 22:20:41.80 ID:cFOYNAufo
――商人が現れた!


隊長「!? おい、ちょっと待て!」

商人「ひゃああああっ!」

工兵「えいっ」


工兵の攻撃! 商人は頭を殴られた!


商人「ひいっ、ひいぃ……」

救護員「ひ、人! 人ですよ」

工兵「あ、ごめん」

隊長「しーっ、しーっ!」

工兵「なんだ、商人じゃん。特組の」

商人「いやああ、もういやああ!」グスグス

隊長「ば、バカ! 泣いてる場合か!」
640 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/03(水) 22:21:30.67 ID:cFOYNAufo
商人「来てるの! そこまで!」

救護員「き、来てる!? ドラゴン!?」


犬「アオォォン!」

ゾンビ犬が現れた!


三人『……』

隊長「……俺が殴る。派手に音を出したら困るし」


隊長の攻撃! ゾンビ犬は崩れ落ちた!
641 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/03(水) 22:21:58.05 ID:cFOYNAufo
隊長「ええっとね……」

商人「な、なによ、一人で怖かったんだからぁ!」

救護員「そういう問題じゃないでしょ」

工兵「あ、隊長、確か、商人は十三番隊に所属してたはずだよ」

隊長「ふーん、生き残りか」

商人「いきのこ……」

隊長「まあ、待て。とにかく、ここで騒いでいたらまずい」

救護員「ふうぅ、脅かしやがって」

工兵「まったくだ」

商人「なに。この扱い……!」

隊長「とにかく、俺の指示に従ってくれ。俺は二十八番隊の」

商人「あ、う、しろ……」パクパク


風を感じた。

三人が、振り返ると――――


竜「ギャオオオオオオオオオオオン!」


竜が現れた!
642 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/03(水) 22:22:26.70 ID:cFOYNAufo
隊長「全員、目を閉じろ!」

隊長「……工兵、発光弾!」

工兵「おお!」くるり


工兵は発光弾を発射した! 閃光が辺りを包み込む!


竜「グギャァアアアアアアア!」

隊長「……南方へ向かって走れ!」

工兵「おお!」ダダダッ

商人「ひぃいやあああああ!」

救護員「わああああああああ!」

隊長「叫ぶな! 走れ!」

隊長(くそっくそっ、早すぎだ!)

隊長(設置した囮も役に立たねぇぞ――)
643 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/03(水) 22:22:58.74 ID:cFOYNAufo
隊長「はっ、はっ、はっ!」

工兵「ぜっ、はっ、はあっ!」

商人「へひゅっ、ひゅごっ」

救護員「げほっ、がはっ!」

隊長「頭を、下げろ! 三歩、先! 窪地に、飛び込め!」


工兵のヘッドダイビング! 続けて、二人が飛び込む!


工兵「ぐへぇ」

商人「きゃあっ!」

救護員「ごぼぉ」

隊長(後ろは!?)


隊長は振り返る、先ほど出くわした竜は、姿を見失ったか、見当たらず。

空を見上げる。
飛んでいる竜の姿は見当たらない。


隊長(まいたか……?)
644 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/03(水) 22:23:31.17 ID:cFOYNAufo
工兵「隊長」ハァハァ

隊長「……待て」

商人「ひぃ、ひぃ……」

隊長「……声はする」

救護員「あの、あの、ここ」ケホッ

隊長「うん?」

救護員「ここ、もしかして、なんか光が立ち上っていたところじゃないですか……?」

隊長「なんだって?」

工兵「……うん、そうだ」ゼェハァ

工兵「この窪み、自然に出来たものじゃない」


工兵が、飛び込んだ穴を触って確認している。

確かに、不自然なほど滑らかに、その窪みはえぐれていた。
ごっそり空間を切り取ったかのごとく、円状の窪みができている。
645 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/03(水) 22:23:59.30 ID:cFOYNAufo
隊長「救護員、水は残っている?」

救護員「イエスです、隊長!」

隊長「みんなに、水を回して。警戒はしながら」

救護員「了解!」


救護員が水を配りながら、四人ともが息を吐く。
窪みで身を低くしつつ、ではあるが、呼吸を整えていく。


隊長「……商人」

商人「こ、こここ、ここよ」

隊長「ここが竜との交戦地か」

商人「お、思い出したくない、わ」

救護員「……どんな感じだったわけ?」
646 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/03(水) 22:24:25.62 ID:cFOYNAufo
商人「どんな感じも何も! 突然、ぶわーっと現れて、こっちが応戦する間もなく、しっぽで張り飛ばされたわ」

商人「二番隊は戦ってたけどね……召喚士は、早々に諦めて、負傷者を集めていたけど」

救護員「あなたは何してたんですか?」

商人「わ、私は……」

隊長「待て」

工兵「どうしたの?」

隊長「交戦地だとして、死体は? 負傷者は?」

工兵「……なにもないね」

救護員「焼き払われちゃったんじゃないですかぁ」

商人「怖いことを言わないで」

工兵「この手触りからすると、炎の形跡はないね」

救護員「……あの光の柱は、周囲を巻き込む自爆の魔法だった、とか」

商人「そんなわけないでしょう!」
647 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/03(水) 22:24:57.11 ID:cFOYNAufo
隊長「何か、心当たりでもあるのか?」

商人「いや、その、えっと……」

商人「……彼は、最後まで諦めない人だったし」

隊長「ふうん」

隊長(話が通じないやつだとばかり思っていたけどな……)

救護員「要するに、商人は諦めて逃げちゃったんでしょ?」

商人「そんなこと、ここで言わなくてもいいじゃないの」

工兵「地面ごと、えぐるような、例えばどんな魔法?」ブツブツ

隊長「……工兵、もう十分だ」

工兵「いや、でも」

隊長「交戦地だとすると、もう生き残りがいるとは考えにくい」

商人「う」

隊長「……それにその、ここで交戦していたってことは」


ぶぁさっ! ばさばさっ!

  ギャォォォォォオオオオオオ!


隊長「……来たか」
648 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/03(水) 22:25:47.58 ID:cFOYNAufo
救護員「あ、あの、隊長」

商人「な、な、なにか、囲まれてない!?」

隊長「水筒は捨てておけ、まともにやりあうな」


竜が現れた!

竜が三匹現れた!


隊長「……多いな」


竜が二匹現れた!

竜が現れた!

巨竜が現れた!


隊長(……追い込まれたのか? いや、そんな知恵を持ってるようには……)

工兵「……いっぱいいるね」

商人「どう、ど、どうするの! 切り札とかなんとか、ないの!?」

隊長「切り札なんかない」

隊長(あったらとっくに使ってる)
649 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/03(水) 22:26:33.76 ID:cFOYNAufo
隊長「工兵、時間は?」

工兵「もうそろそろ」

隊長「よし、囮のタイミングに応じて、一発めくらまし」

隊長「その後、さらに南方向へ撤退」

隊長「……当初の予定通りだ」

商人「よ、予定って……」

隊長「見ろ、連中はこちらを警戒している。光の柱のこともあるのだろう」


竜は様子を伺っている……


救護員「は、はは。生ドラゴンは、もう一生分見ましたよ」

工兵「救護員、僕の背中に」

隊長「……まだ動くなよ」


ズン、と巨竜が一歩、近づいた!


隊長(……まだか!)
650 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/03(水) 22:27:00.50 ID:cFOYNAufo
巨竜が、口を開く。そのクチの中に、青白い炎が膨らんでいる――

   その時、ドン、と遠くで、火柱が上がった。


隊長「……工兵!」

工兵「いくよ!」


工兵は閃光弾を投げつけた――
651 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/03(水) 22:27:31.82 ID:cFOYNAufo
―――七番隊。

天測士「よし、ここの崖から降りるのよ!」

斧使い「ええ〜? けが人がいるんだけど?」

狩人「仕方ないねー。リーダーの予言は絶対だから」

占い師「ひぃ、はぁ。やっぱり、か、体、鍛えなきゃ〜?」

斧使い「おっと! 俺が運んでやるぜ」

占い師「あ、ありがとう〜」


天測士「ほら、あんたたちも降りなさいよ!」

剣士「……」

術士「……」

剣士「抱えるぞ」

術士 コク

剣士「……チッ」
652 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/03(水) 22:27:59.63 ID:cFOYNAufo
天測士「大丈夫、これから先、竜を引き付ける何かが発生するから」

天測士「そこに寄せられて、私たちは逃げられる」

斧使い「それって、あいつらが……」

狩人「……仕方ないねー」

剣士「くだらねぇことを言うな」

術士「……」

      ―― ドン!

斧使い「!」

狩人「あー……」

天測士「振り返らない! 私たちはけが人を抱えているの」

天測士「全力で脱出!」

      ―― ドン!
653 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/03(水) 22:28:25.73 ID:cFOYNAufo

      ―― ドォォォン!!

天測士(……三つ目!)

天測士(二つは予測、できていたんだけど……)

占い師「……リーダー、何か、あり、ました?」ハァハァ

占い師「私、みま、しょう、か?」

天測士「いらないわ」

天測士「こういう時は、行動をぶれさせちゃダメ!」

天測士「自分に関することは、一切予測できている、はず!」

天測士「私にかかれば……」

剣士「……斧使い、前方に注意しろ」

斧使い「なんだ?」

剣士「竜の食い散らかしを狙っている魔物だ」

天測士「ん! 予測できているわ!」

剣士「なら、早く指示を出せ」

天測士「分かってるわよ!」

天測士(……隊長、死ぬんじゃないわよ)
654 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/03(水) 22:29:48.17 ID:cFOYNAufo


その後、七番隊は夜明けまでに、無事に谷の周辺地域から離脱した。

二十八番隊は―――


作戦6、終了。
655 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/03(水) 22:37:09.74 ID:cFOYNAufo
【選択肢】作戦が終了しましたが、隊長の安否が確認できていません。
一旦、以下のどれかの視点でお届けします。


剣士:呪術印によって傷ついている。戦力外も宣言されたので傷心

術士:バリア張ったけど、勝てなかったよ……絶賛療養中

その他:天測士、学園側へ怒りの交渉/会長、「討竜戦隊」で意気込む


今夜はここまでです。
遅筆でごめんよ
656 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/10/03(水) 23:05:10.83 ID:F+PH6rLC0
天測士見たいかな
657 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(熊本県) [sage]:2012/10/03(水) 23:24:00.70 ID:UX0Eex8Lo
天測士ちゃんだわ
658 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/03(水) 23:29:24.83 ID:bAA3vrbao

やはり天測士ちゃんかな
剣士も気になるけど
659 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/10/03(水) 23:46:43.58 ID:vh6V7F2Mo
おつん
俺は剣士だな
660 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2012/10/04(木) 11:20:11.14 ID:3mDo2MeAO
剣士と天測士
チームの内と外で両方見たいな
661 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/04(木) 16:10:14.33 ID:3lqdf/Fro
天測士も捨てがたいけど剣士で!
662 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/10/04(木) 23:07:22.67 ID:ek2j9trso
では、半々くらいで。みんな天測士好きだなぁ。

天測士「(*゚∀゚)b やるじゃない、あんたたち!」

こんな感じで喜んでいるに違いない。
663 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/04(木) 23:07:50.94 ID:ek2j9trso
――天測士。

天測士「……5日経ったわ」

斧使い「そうだな」

天測士「あんたたち、何も思わないわけ!?」

占い師「う〜、そりゃあ、あっちは大変だと思いますけど〜」

天測士「そうじゃなくて!」

狩人「はっきり言ってくんなきゃわかんねーだよ」

忍者「二十八番隊の残った三人の安否、それに、今回の作戦以後の学園側の対応に不満があるのですな」

天測士「そう! 忍者くんは本当に物分かりがいいわね」

斧使い「そんな話で俺ら全員集めたの?」

天測士「当たり前じゃない、抗議しに行くのよ」

斧使い「パス」

狩人「僕もだねー」

天測士「どうしてよ!?」
664 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/04(木) 23:08:26.18 ID:ek2j9trso
占い師「……不満はあるけど、一人でやるのは怖い、って出てますよ〜」

天測士「占うな!」

忍者「上層部に問うには、我らには荷が重過ぎますな」

天測士「冷静に判断しない!」

斧使い「しょうがないだろー?」

天測士「ふん、あんた、隊長とは友達だったんでしょ? 友達がいのないやつ!」

斧使い「……うるせ」

天測士「私も分かっているわ。竜が、十匹もいたら、うちの学生が相手になるわけないもの」

忍者「十五匹です。確認できた数のみで」

占い師「……よく、生きて帰ってこられたわね〜」

天測士「でも、だからって、プロを集めるのに時間がかかってるからって、安否の確認に人もやらないだなんて……!」

斧使い「不用意に近づいたら、やられるだけだろうに」

狩人「あまり先生も追い詰めちゃダメだよ。二隊全滅、一隊は二人だけしか残らなかったなんて、学園としても大失敗なんだから」

天測士「こっちは一匹落としたのよ!」

狩人「剣士くんがね」
665 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/04(木) 23:08:57.73 ID:ek2j9trso
天測士「ああ、怒りが収まらない!」

斧使い「あのなぁ、もう5日目なんだぜ?」

天測士「だから何よ! あの二人は大怪我しているんだし、そういうのも代弁して上げるべきじゃないの!」

斧使い「だからって、日参して先生問い詰めてもしょうがないだろ……」

天測士「……」ウロウロ

占い師「でも、今度の件、正直に言って、私達……」

天測士「そうよ! 予測を徹底させて、大怪我はしなかったものの、どう考えても足手まといだったわ」

忍者「ですな」

四人(あんた以外の話だけどね)

天測士「……傷ついたとはいえ、よ」

天測士「さすが一組の剣士、竜を倒した」

天測士「術士ちゃんは竜の火炎を防いだ」
666 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/04(木) 23:09:29.60 ID:ek2j9trso
天測士「他の連中も頑張ってたし、何より体力が違ってたわ」

狩人「僕も目に命中させたんだけどなぁ……」

天測士「そこはさすがだったわ! あの雨の中で」

狩人「えへん」

天測士「でも、とにかく、このままでは、竜を相手取ることはとうてい無理よ」

斧使い「……相手取るつもりなのか?」

天測士「当たり前じゃない。恐怖を恐怖のままにしておく、それよりは、立ち向かう手を考えるべきよ!」

占い師「で、でも〜」

天測士「……このまま黙ってて、本当にいいの?」

天測士「私達、これでこの作戦関係は終わりにしていいわけ?」

忍者「終わりも何も、調査自体は終了しました」

天測士「だけど! 一緒だったパーティがバラバラで、それを助けることもできないじゃない!」

天測士「見に行きたいって言っても、足手まといだからダメだって言われるし!」

四人(言ったんだ……)
667 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/04(木) 23:09:57.96 ID:ek2j9trso
天測士「だったらせめて、追いつけるように、鍛えたりしないと!」

占い師「き、鍛える……」

狩人「わー、一番いやな響きの言葉だー」

斧使い「まあ、いいんだけどよ。作戦が出来ないなら、そういうのしかないわけだし」

天測士「賛同してくれるのね!?」

狩人「よ、余計なことを」

天測士「そうね! たとえば忍者の訓練法とかどうかしら」

忍者「私の、訓練法ですか?」

天測士「そ、そうよ! その、秘密ならしょうがないけど……」

忍者「それほど秘密でもなく、難しい方法でもありません」

斧使い「へぇ〜?」

忍者「単純に五感を鍛えるのですよ」
668 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/04(木) 23:10:28.07 ID:ek2j9trso
忍者「普段は農作業をします。食料生産は忍びの要ですから」

天測士「……えーっと、そこは重要なわけ?」

忍者「走力を鍛えるために長い布を腰に巻いて、地面につかないように走ったりします」

斧使い「なんか変な訓練だな」

忍者「まあ、走力と言うよりは転ばないように走る訓練ですかね」

忍者「後は遠目とか、夜目を鍛える訓練、味や臭いで毒物を判断する訓練もやります」

忍者「毒は意外と見抜けないですからね」

狩人「分かるわ。きのことか難しいもんねー」

忍者「あとは、砂の入ったツボに指を突き入れて、指先を鍛えます」

占い師「え〜?」

忍者「足の指だけで、天井が歩けるようになったら、一人前ですね」

天測士「どこのびっくり人間よ……」
669 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/04(木) 23:10:59.83 ID:ek2j9trso
忍者「まあ、後はこれくらいですかね」 ドサッ

斧使い「ちょ……」

占い師「重り……ですか〜?」

忍者「普段からつけています。矢を防ぐために、鎖で出来た衣服で、鎖かたびら、と言います」

狩人「えっと、普段からって」

忍者「訓練にもなりますから」

斧使い「おい、リーダー、持ってみろよ」

天測士「……おもい」どっしり

斧使い「わははは、持ててねーじゃん!」

忍者「着せましょうか」

天測士「む、無理無理無理無理!」

狩人「訓練だよー、リーダー」

天測士「あ、あんた達!? 自分に見合った訓練をしないと!」

忍者「それでは竜に勝てませんぞ」

天測士「いやああああああっ!」
670 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/04(木) 23:11:26.14 ID:ek2j9trso
ガラッ。

呪術士「ええっと……」

斧使い「わーっしょい! わーっしょい!」

天測士「助けて!」

呪術士「ううんっと、先生が呼んでるからって頼まれたんだけどね」

狩人「そー、なんだ? そー、いやっ、ソイヤッ!」

天測士「わ、分かった! 分かったから!」

呪術士「とりあえず、隊長格だけでいいって」

天測士「ほ、ほら、あんた達、呼ばれてるから! 私、呼ばれてるから!」

忍者「まったく我が隊は不真面目ですな」

天測士「……はぁはぁ」

呪術士「……」

天測士「ちょっと待って」

天測士「……お前もだろうがっ!」ぺし

忍者「はは」
671 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/04(木) 23:12:00.10 ID:ek2j9trso
職員室。

天測士「天測士、来ましたけど」

教師「ああ、来たか」

天測士(なんだ? なにか、空気が妙ね)

天測士(……天測してくればよかったわ)

教師「ご苦労さんだった。お前たちの隊だけでも残って、本当に良かった」

天測士「……」

教師「で、まあ、なんだ。七番隊は、昇格して、六番隊となる」

天測士「はぁ……」

教師「そういうわけだ。二番隊が、まあ、あれだからな……」

天測士「……ちょっと待って下さい」

教師「どうした?」

天測士「ひょっとして、今回でいなくなった戦隊を、抹消するってこと?」

天測士「二十八番隊は? 二人いますし、残り三人の安否確認がまだです」

教師「……解散する」

天測士「ふざっ」
672 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/04(木) 23:12:26.26 ID:ek2j9trso
天測士「ふざっけんじゃないわよ!」

教師「な、なんで怒ってるんだ?」

天測士「私達が無事に脱出できたのも、そこの隊のおかげなんです!」

天測士「二人はいるし、三人だって、きっと無事だわ!」

天測士「まだ解決もしてないのに、その、解散だなんておかしいじゃない!」

天測士「……おかしいですよ!?」

教師「いや、それはそうかもしれんが」

天測士「だったら、はっきりと安否が確認できるまで、留めるべきよ!」

教師「そんなことになったら、残された二人が宙に浮くだろう?」

天測士「彼らはまだ休養中なの!」

天測士「そこに、そんな、そんなこと言ってみてご覧なさいよ」

教師「もう、伝えてある」

天測士「……!」
673 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/04(木) 23:12:56.62 ID:ek2j9trso
天測士「ふ、ふふふ……」

天測士「……学園は、戦隊で売り込みたいのかもしれないけどね」

天測士「肝いりで始まったものが失敗したからって、体面取り繕うために、抹消措置とか」

天測士「バカにしてんのか!」 バンッ!

教師「落ち着いて、話を聞いてくれ。お前たちには何も悪いことはないだろう」

教師「……番号が早い順から、就職先に声がかかるようになっているんだぞ」

天測士「死にくされ!!! くされチ○ポ野郎がっ!!!!」

教師「しっ……!」

教師陣『……』

生徒『……』

全員(すごいこと言ったぞ)
674 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/04(木) 23:13:38.85 ID:ek2j9trso
短いですが、今夜はここまで。
剣士視点⇒合流と続きます。
675 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/10/05(金) 08:27:39.19 ID:WhKm1CSX0
ええ子や
選んで正解でしたわあ
676 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/05(金) 19:21:50.51 ID:vxmgkQjJo
流石俺たちの天測士ッ!ありがとうございます!
677 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/10/05(金) 22:43:53.90 ID:QHO7XdIPo
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
過去。

おっさん「あー、ダメダメ」

幼剣士「なんでだよ」

幼会長「えー?」

おっさん「だからよー、体を開かないの」

おっさん「いいか? 獣は四足歩行、腹を地面に向けている。人間は立ってるから腹が無防備」

おっさん「内蔵詰まってるし、腹は柔らかい。殴られたら痛い、攻撃されたら死んじゃう」

おっさん「腹を守る!」ポンポン

幼剣士「……こう?」サッ

おっさん「ダメー。体を真横にして、顔だけ向けてみろ」

幼会長「こうだ!」

おっさん「そうそう」
678 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/05(金) 22:44:23.71 ID:QHO7XdIPo
おっさん「他にも、両手持ちに武器を持ってみろ」

幼剣士「……こうだ」ガシッ

おっさん「そうそう。そういう時でも、持つことに精一杯じゃなくて、相手を見据える」

幼剣士「……」すすす

おっさん「そう、相手が移動したら、真正面に来るようにこっちも回転する」

幼剣士「よし!」

おっさん「バカ」ぽこん

幼剣士「おいた!」

おっさん「横からの攻撃に強いわけじゃない、構えたら相手と距離を詰めるつめる」

幼会長「むむむ。うごくなよー!」

おっさん「はっはっはっは」
679 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/05(金) 22:44:50.96 ID:QHO7XdIPo
幼剣士「はぁ、はぁ、おっさん、強すぎ」

幼会長「ひぃ、ふう」

おっさん「いんや、ま、俺が見てきた中ではお前らは強くなれる方だな」

幼会長「ほんとか!?」

おっさん「ほんと」

幼剣士「……でも、おっさんにまけるし」

おっさん「そりゃ、これから頑張れば強くなれるし、何もしなければ、体だけでかくなる」

幼剣士「ちっ、からかってんだろ」

おっさん「はっはっはっは。からかってるけど、嘘じゃねーしなー」

幼会長「……ほんとは、りゅうをたおしたなんてうそなんだろ?」

おっさん「それもほんと」

二人『うそだー』
680 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/05(金) 22:45:59.39 ID:QHO7XdIPo
おっさん「……ま、どっちでもいいさ。あらかた倒しちまったから、お前ら一生会わないかもしれないし」

幼剣士「でも、どうやってたおしたんだ」

おっさん「そりゃ、竜だって生き物だ。強靭な皮膚、鱗、だけど爪の間とかはどうだ? 意外と斬れる」

おっさん「魔法を跳ね返す? 口の中に爆弾でも放り込めば一発だ」

おっさん「血管もあるし、首筋がそこまで硬いわけじゃない。俺は無理だけど、戦士とかやってたし」

幼会長「ええー?」

おっさん「……何より、竜は弱くなってたんだ」

幼剣士「ふーん?」

おっさん「本当だぜ。竜は元々強いからな。魔法だって使えたって話がある」

おっさん「はるか昔には悪魔と戦ってたらしいからな。だが、敵がいなくなれば、そういうのは廃れる」

幼会長「……よくわかんない」
681 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/05(金) 22:46:29.27 ID:QHO7XdIPo
おっさん「うーん、そうだなー……」

おっさん「……今まで剣の腕を磨いてたのに、平和になっちまった」

おっさん「そうしたら、剣の使い方より、お金の計算が出来る方が人生で役に立つわけだ」

幼剣士「えー?」

幼会長「なるほどー」

おっさん「もちろん、道場を開いてお金を稼ぐとかが考えつければ別だけどよ」

おっさん「そういう、一個だけ磨くってのは、案外恐ろしいもんよ」

幼剣士「でも、おれはけんがつよくなりたいよ!」

おっさん「別に悪いわけじゃない。でもな、世の中には、剣の腕が大したことなくても、強い奴がいるんだよ」

幼会長「ほんとにー?」

おっさん「たとえば、俺だ。俺は戦士よりも剣の腕はしょぼい」

幼剣士「……ふーん」
682 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/05(金) 22:47:19.56 ID:QHO7XdIPo
おっさん「だが、自分の力量をちゃんと理解して、相手を良く見ていたからな」

おっさん「誰にも負けなかったし、竜だって倒した」

おっさん「……お前らの周りにもいるだろ? 喧嘩は苦手、計算も不得意、だけどこっちをよく見ててさ」

おっさん「『俺なんかまだまだ』とかいうやつさ」

幼会長「いる、かなぁ?」

おっさん「いるんだよ!」

幼剣士「どうかなぁ?」

おっさん「うるさいぞ、お前ら!」

おっさん「……とにかく、そういうやつは化けることもあるんだぜ? 魔物にもたまにいるんだ」

おっさん「よーく、こっちを見ている奴。そんなやつほど、成長するんだ」

おっさん「竜もそうだ。俺があらかた倒したことで、もしかしたら、次のやつらはより知恵をつけているかもしれん」

二人『……』ごくっ

おっさん「ははは、ビビッてんじゃねぇ―よ」

幼剣士「び、ビビってなんかない!」
683 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/05(金) 22:47:48.19 ID:QHO7XdIPo
特務機関職員「……あ! ……さん、こんなとこにいた」

おっさん「おうおう、どうした?」

特員「こんなところでサボってないで、もう他所の土地に行かれるんでしょ?」

おっさん「後進の育成も大事なことだぜ」

特員「そう言われましても……」

幼会長「おっさん、行っちゃうの?」

幼剣士「まだだ! おれたちがかつまで!」

おっさん「まあ、もう少し付き合ってやるよ」

幼会長「おっさんみたいに、つよくなる!」

おっさん「おお、頑張れ頑張れ」

幼剣士「バカにしてんの?」

おっさん「してないさ。だが、お前らは挫折を味わったこともないだろ?」

おっさん「そういうガキには、強くなれって言っても伝わらないよ」

二人『え〜?』
684 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/05(金) 22:48:29.75 ID:QHO7XdIPo
おっさん「これはホントさ。ホントに強くなれる時ってのは、挫折の瞬間だ」

おっさん「勝てそうもない相手にあった時、実際に負けた時、なんでもいい。立ち止まる時がくる」

おっさん「あるいはみじめに追い返されたりしてな。ははは!」

幼剣士「そんなこと、ない!」

おっさん「あるある」

幼会長「おっさんも、そういうこと、あったの?」

おっさん「あったとも。いくらでも。けど、俺は諦めなかった」

おっさん「そういう時に諦めないと、とんでもないことをやらかす人間になれるんだ」

特員「それって、悪い意味にも取れますよね」

おっさん「ははは! その通りに決まってんじゃん!」

特員「なに、子どもに教えてんですか!」

おっさん「いいんだよ。どっちだって」

おっさん「諦めない奴が強いのは、善悪関係ないからな」

特員「もう、勇者さんは……」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
685 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/05(金) 22:49:04.02 ID:QHO7XdIPo
談話室。

呪術士「……し。剣士?」

剣士「あ?」

呪術士「あ、じゃないわよ。せっかく診ているんだから、ちゃんと聞いて」

剣士「聞いている」

呪術士「……いいけどね。呪術痕、診させてもらったわ」

剣士「どうなんだ?」

呪術士「……あなた、これ、自分一人でやったのよね?」

剣士「独学だ」

呪術士「はっきり言うわ。解析にかなりの時間がかかる」

剣士「だからなんだ」

呪術士「だから、治療がどうのとかは難しいの」

剣士「症状は話したはずだ。慢性的な軽いしびれ。発動した際の反射で自身への攻撃」

呪術士「だから、聞いてもよくわからないのよ。一部は私でも分かるような術式が使用されているけど」
686 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/05(金) 22:49:35.45 ID:QHO7XdIPo
剣士「単純にそれの組み合わせだと思うんだが」

呪術士「そんなものにはなってないわ」

呪術士「あなたの、その、感情っていうのかしら。それが、かなり呪いを増幅しているところはあるし」

剣士「……」

呪術士「正直なところ、解呪って、相当難しい術なの。下手に解いても、命ごと開放しちゃうかもしれないし」

剣士「要するに、俺はどこまで治る?」

呪術士「普通に治療すれば怪我は治るわ。呪術については、二ヶ月くらいもらえれば、なんとか……」

剣士「……チッ。わかった、いらねぇ」ガタッ

呪術士「な!」

剣士「要は、持病みたいなもんだと思えばいいんだろう」

呪術士「あ、あ、あなたねぇ」

剣士「……いいんだ。どの道、呪われているようなもんだ」

呪術士「はあ?」
687 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/05(金) 22:50:10.84 ID:QHO7XdIPo
剣士「……」スタスタ

呪術士「ちょっと待ちなさい!」

剣士「なんだ?」

呪術士「私にもプライドがあるわ! せめて、一週間!」

剣士「遅すぎる。隊長を探しにいかないといけねぇ」

呪術士「あ、あ、あのねぇ」

剣士「それとも、あんたも来るのか?」

呪術士「いや、私だって、自分の戦隊があるし」

剣士「そうだろ」

呪術士「いや、でも、あの」

剣士「……」クルッ

呪術士「お、思いが残るわ。私の、悔しいって思いが」

剣士「ありがとう」ペコッ

呪術士「……へ?」
688 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/05(金) 22:50:54.55 ID:QHO7XdIPo
剣士「……」スタスタ

呪術士「ち、ちょっと!」

剣士「……」

剣士(『諦めない奴が強い』)

剣士(隊長は生きているはずだ。だが、そのままにしておいて生き残れるとは思えない)

剣士(……テーピングはキツくした。武器を触れないわけじゃないし)

剣士(いざとなれば、魔物を避けて、隊長のみ救い出すって手もある)

呪術士「待ちなさい! 私も自分のところの隊長に言ってくるから!」

剣士「あ?」

呪術士「大体、その、独学であそこまで複雑なものを作られちゃ、悔しくてしょうがないっての!」

剣士「いらねぇよ」

呪術士「……まあ、自分の戦隊長が苦手ってのもあるけど」

剣士「いらねぇーって」
689 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/05(金) 22:51:21.41 ID:QHO7XdIPo
廊下。

会長「……ん、おい!」

剣士「……」スタスタ

会長「剣士、剣士ってば」

剣士「……チッ」

会長「なんだよ、また、だんまりになって」

剣士「……お前、俺に気を使え」

会長「なんでさ」

呪術士「ちょっと……早い……はぁはぁ」

剣士「分かるだろうが!? いちいち言わせる辺りが、本当にお前は無神経なクズだな!」

会長「いや、知らないけどさ。今度の、竜退治、俺達も行くんだ」

剣士「……!」

会長「けど、プロの邪魔になるだけかもしれない」

会長「だから、隊長を……」

剣士「いらねぇ。隊長は自力で帰ってくる」
690 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/05(金) 22:51:54.08 ID:QHO7XdIPo
会長「なんでそんなことを言うんだ? 剣士だって、隊長のことは好きなんだろ」

剣士「俺は事実を述べただけだ!」

剣士「隊長は強いんだ、あいつは、最後まで、諦めたりしない……!」

会長「……」

剣士「失せろ。お前の顔を見ていると、むかむかする」

剣士「自分に絶対に勝てない相手を、上からヘラヘラ笑って見ている、そんな感じがする」

会長「……そんなつもりはない」

剣士「俺がどう感じるかだよ! はっ」

会長「そんなこと、言われても」

剣士「……俺の腕はな」

会長「なに?」

剣士「呪術で、使い物にならないかもしれん。お前に対する憎悪の念が強すぎて、自分に受けるダメージが強すぎたんだってさ」

会長「知るかよ」

  呪術士「えっと……」
691 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/05(金) 22:52:24.05 ID:QHO7XdIPo
剣士「……最強の一番隊様が、俺なんかに何か言うのはやめろ」

剣士「お前を見ているだけでも不愉快だ」

会長「僻んでんじゃねーよ」

剣士「あ?」

会長「俺がどんな気持ちで、ここにいるのかも分かんねーのか」

剣士「……『なんでこいつが生き残ってんだ』」

会長「はあ?」

剣士「『隊長の方が、よっぽど面白いやつだったのに』」

会長「お前、殴られたいのか?」

剣士「お前の首は竜より硬いか? 腕を台無しにするならな、俺はお前を殺せるぞ!」チャキ

会長「バカも休み休み言え!」

会長「……はっ、確かにな。お前みたいなやつを割り当てられた、隊長がかわいそうだ」キン

  呪術士「ちょっ、やめなさーい!!」
692 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/05(金) 22:52:51.70 ID:QHO7XdIPo
剣士「言ってろよ……」

会長「……あーあー、はっきり分かったぜ」

会長「隊長がバカだったんだな。お前ごときを、制御できない」

剣士「!」

会長「生き残りの確認? 囮? 最下番台とはいえ、身の程知らずって言えるんじゃないの」

剣士 プルプル

会長「ま、立派に務めを果たしたわけだ。せめて自分たちより優秀な七番隊だけでも……」

剣士「あいつをバカにするな!」

呪術士「呪法、転ばし!」


呪術士は、呪法で二人をすっ転ばせた!


剣士「うおっ」

会長「わわっ」

呪術士「……一組の人は頭おかしいんですか? こんなところで喧嘩して」

呪術士「みなさんが成すべきことはなんなんですか?」
693 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/05(金) 22:53:21.12 ID:QHO7XdIPo
呪術士「こんなところで喧嘩していれば、何か願いが叶うんですか?」

呪術士「まったく……」

      短パン「お、呪術士!」

呪術士「ひっ」ビクッ


      短パン「おおおおおおおい! そんなところでっ、会長たちと、なにやってるんだぁああああああああああっ!!!!」


呪術士「と、と、とにかく、喧嘩はダメですからね!」ダッ

呪術士「あと、剣士さんは、勝手にどっか行かないで、私も、師匠とかに」ダダダッ


     短パン「どうしたんだぁあああああっ! 今行くからなあああああああああああ!」

  呪術士「どうもしてないから、近寄らないでぇぇぇぇぇぇぇ……」


会長「……えーと」

剣士「……」
694 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/05(金) 22:53:48.72 ID:QHO7XdIPo
会長「……とにかく、無理すんなよ」

剣士「……チッ」

会長「行くからな」

剣士「……」

会長「ったく」

剣士「……爪の間も、斬れた」

会長「あ?」

剣士「口の中に、爆弾を放り込んだのも、効いていた」

剣士「首も……落とせた」

会長「……」

剣士「『竜だって生き物だ』」

会長「……」

剣士「……知恵をつけているかもしれん」

会長「ああ。肝に命じておく」

剣士「……」
695 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/05(金) 22:54:14.46 ID:QHO7XdIPo
病室。

剣士「術士はいるか?」

術士「いるわ」

司書「まだ療養中なのに、逃げるわけもないでしょうに」

剣士「……」

術士「あ、ありがとうございました」

司書「はいはい、おばさんは退散しますよっと」ガタッ

術士「いえ……」

剣士「……すみません」

司書「あら。謝っちゃってまあ」

司書「ちゃんと謝れる子は、私は好きよ」

剣士「……チッ」

司書「おい」
696 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/05(金) 22:54:43.95 ID:QHO7XdIPo
剣士「何の話をしていたんだ?」

術士「召喚のこと」

剣士「話が見えん。なぜだ」

術士「説明が少し、必要だから。後にしてもいいかしら」

剣士「……分かった」

術士「それで、どうかした?」

剣士「正式に解散指示が出た。二十八番隊もこれで終わりだ」

術士「そう」

剣士「俺は自由に動いてみる。隊長を探りたい」

術士「無理してない?」

剣士「そんなことはない」

術士「その腕、まだ治ってないでしょう」

剣士「……」
697 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/05(金) 22:55:13.84 ID:QHO7XdIPo
術士「どうなの?」

剣士「解析するまでに二ヶ月らしい」

術士「だったら、待てばいいわ」

剣士「待ってられるか。持病みたいなものだと思えばいいんだ」

剣士「どうせ、俺には敵わない相手なんかいくらでもいるんだ」

術士「……」フー

剣士「なんだよ」

術士「……隊長なら、どう説得したかしら」

剣士「……うるせぇな」
698 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/05(金) 22:55:39.97 ID:QHO7XdIPo
剣士「解析して、もし二度と治らないってなったらどうする?」

術士「逆に、治療に専念すれば完治するってなったら?」

剣士「ならねぇよ。なんとなく分かる」

術士「いずれにせよ、もう少し待つべきだわ」

術士「情報が足りてないもの」

剣士「……情報ってのは何の情報だ?」

剣士「待ってたら、舞い降りてくるのか!?」

術士「……うまく、言えないわ。だけど、隊長を探しに行くのが、最善とは思わない」

剣士「救助を待っていたらどうするんだ!」

術士「そうね。3日前なら、助けられたかもしれないわね……」

剣士「……」

術士「仮に、救助を待つような状態なら、5日間は長すぎだわ」

剣士「そんなことはねぇ……」

術士「私は、隊長は脱出していると思うわ」
699 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/05(金) 22:56:11.23 ID:QHO7XdIPo
術士「脱出しているとしたら、ここに戻ってくるまで、もっと時間がかかることもあり得る」

剣士「そんなものは願望だ!」

術士「願望かもしれないわ。けど、救助を待っているなら、もう助けられない状態」

術士「つまり、何をしても無駄だわ。どちらにせよ、別の手段で情報を集めるべきよ」

剣士「……チッ」

術士「……」

剣士「チッ、クソが」

術士「舌打ち、しないで」

剣士「あ? あー、すまない」

術士「……私も、信じたくない。隊長は……」

剣士「やめろ」
700 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/05(金) 22:56:37.34 ID:QHO7XdIPo
剣士「俺も怖がっている。死んでいるかもしれないってことは……ある」

術士「……」

剣士「なら、お前は何をすべきだってんだ?」

術士「剣士は、治療に専念することと、学園内外の動きを探ってほしいの」

術士「仮に、竜が復活したとなれば、そこら辺の冒険者、プロでも普通レベルなら無理でしょ」

術士「国も、動くはず……」

剣士「一番隊も行くはずなんだがな」

術士「そんなに、すごいの? あの人達」

剣士「……二番隊が潰れても学生を出すっていうことは、そういうことなんだろう」

剣士「本人らの希望もあるんだろうが。まあ、お前より強いことは確かだ」

術士「ふーん」ムッ

剣士(むくれやがった)
701 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/05(金) 22:57:10.69 ID:QHO7XdIPo
剣士「で? お前は何の調べ物をしていたんだ?」

術士「……召喚の基礎」

剣士「何のために?」

術士「最後の、光の柱。あれは召喚術のはずよ」

術士「この間、召喚魔法は少し勉強したから、知っているの」

剣士「……それで?」

術士「ところが、あそこに何か召喚されたのかしら」

剣士「知らねぇよ。よく見てないんだから」

術士「少なくとも、あの光の柱が上がってから、竜は別の場所に移動したりしていたわ」

術士「つまり、あれは何かを呼び寄せて始まりを告げたんじゃなくて」

剣士「終わりの焚き火だった、ってわけか?」

術士「そう」
702 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/05(金) 22:58:01.87 ID:QHO7XdIPo
術士「で、召喚の基礎を思い出していたの」

術士「まったく異なる世界から来れば、その世界の法則そのものが、彼らにとっての害毒になるかもしれない」

術士「だから術者は、異世界よりきた者たちの負担を背負わなくてはならないの」

剣士「ふうん?」

術士「術自体も、異世界から力を借りて、終わったら帰ってくれ、という送還の術とワンセットになっている」

剣士「……」

術士「術自体はそういう構成になっているんだけどね……」

術士「みんな普通はどこからどこまでが召喚で、負担で、送還になっているかは、まるごと暗記しちゃうから分からないわけ」

剣士「ああ、なるほど」

術士「うん」

剣士「召喚士が、その送還のみの術を使ったってことか」

術士「あるいは、異界渡り、かもしれない」
703 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/05(金) 22:58:28.47 ID:QHO7XdIPo
剣士「それは、その……」

術士「召喚も送還も、相手を呼んだり、還したりする術よ」

術士「だけど、自分を送り出したら」

剣士「バカじゃねぇのか。目の前の相手を異界送りにすればいいのに」

術士「自分たちより強大な竜を、十五匹も?」

剣士「……まあ、そりゃそうだな」

術士「怪我人もいて、絶体絶命となった時に、とっさに思いついたのかも」

剣士「ふうん」

術士「どの道、全員死ぬよりは、と思ったのかもしれない」

術士「毒がどうの、ということも、考えられたんでしょうけど……」

剣士「で、それを調べてどうするつもりだ」

術士「それよ」
704 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/05(金) 22:58:55.39 ID:QHO7XdIPo
術士「もう、二番隊も十三番隊も、全滅のような扱いになっているわ」

剣士「……それによれば、なってない、可能性もあるってわけだな」

術士「ええ。逆に入った時点で死んでしまっているかもしれないけれど」

剣士「考えたくもねぇ」

術士「それで、もう少し詳しく載ってないかしらと思って、調べていたの」

術士「仮に、自分たちを送れたとしても、帰ってこられないところなのかも」

剣士「つまり……」

術士「ええ。召喚士たちを異界から召喚すればいい」

剣士「……」

術士「そんな、突拍子もない事は言ってないとおもうんだけれど」


ドタドタドタ……

 バターン!!!

天測士「ちょっとぉ!」
705 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/05(金) 22:59:26.82 ID:QHO7XdIPo
今夜はここまで。
706 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(熊本県) [sage]:2012/10/06(土) 00:35:11.53 ID:Gmj/oi+Jo
キリのいいとこでやめやがって・・・
乙!
707 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/06(土) 08:46:04.15 ID:1jPff7tDO




術士話すようになったなあ…
708 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/06(土) 22:40:21.51 ID:AL2hFIfIO
二ヶ月…長々とすみません。
明日にはまた投下していきます

キャラ大目ですが、どんなのが愛されるんですかね…
709 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/10/07(日) 00:17:46.53 ID:lXNzBzzpo
ここまで読んで、やっぱ隊長うぜえとしか思えねえ・・・
人を見下しすぎなんだよ、ただの根暗クズ野郎だ
710 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/07(日) 20:48:45.42 ID:orlSQD7/o
>>709
もっと嫌いになっていくと思うんで、程々にお付き合いください

投下していきまーす
711 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/07(日) 20:49:18.52 ID:orlSQD7/o
術士「……」

剣士「なんだ?」

天測士「あんたたち、何をぼさっとしているの! 行くわよ」

剣士「どこへだよ」

天測士「決まってるでしょ! あんたたちの隊長のところへよっ!」

術士「……! 場所が分かったの?」ガタッ

剣士「おい、落ち着け」

天測士「そ、それは、これから天測してからだけど」

術士「なんだ。じゃあ、いいわ」

天測士「いやいや、それどころじゃないでしょ!? 隊が解散になったんでしょ!?」

天測士「このまま黙ってていいと思ってんの!」

剣士「思っていない。だが、見ろ。術士は動ける状態じゃない」

天測士「ですよね!」

術士(剣士もだと思うけど……)
712 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/07(日) 20:49:44.47 ID:orlSQD7/o
天測士「でもね、あんたたち、悔しくはないわけ」

天測士「あのクソ教師どもに自分のところの隊長を馬鹿にされて!」

剣士「なんでそうなる」

天測士「だって、どうせ死んでるんだろうと思って処理されてるんでしょ!」

天測士「それもこんなに早く、確認もしないで!」

天測士「そういう……そういうムカつくのは、私は許せないわけよ!」

術士「……」

剣士「戻ってきて、恥をかくのは学園側だ。俺はどうでもいい」

剣士「生きているのかどうか、そして、帰ってこれるのかどうか、問題はそこだ」

術士「ええ」

天測士「むがーっ!」

剣士「うるさいやつだな。こんなのでも隊長になれるのか」

術士「そちらの隊員はストレスフルなんじゃないかしら」

天測士「あれであいつらがストレス溜まってるなら、私は血管を大爆発させてないといけないわよっ!」
713 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/07(日) 20:50:11.67 ID:orlSQD7/o
剣士「だが、天測とやらで、安否を確認してもらえるのはありがたい」

術士「そうね。お願いできるかしら」

天測士「い、いや、だから、助けに行こうって、一緒に行こうって」

剣士「だから、術士は動けねぇって言ってるだろうが」

天測士「いや、その、あ、あんただって、気になっているでしょ!?」

剣士「……ついさっき、その話しをしたところだ」

剣士「俺も……行きたい、探したい、とは……思う」チラ

術士「……」

剣士「だが、足手まといになるのであれば……ここでなすべきことを、なす」

剣士「あんたの天測も手伝おう、まずは情報を集めるのが先だ」

天測士「……えー」

剣士「えーってなんだ」
714 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/07(日) 20:50:44.24 ID:orlSQD7/o
天測士「いや、だって、考えなしに行動しそうなタイプだと思ってたから」

天測士「そこそこ腕は立つし、ちょろいと思っていたのに……」

剣士「ああ?」

術士「剣士はそういう人じゃないわ」

天測士「とにかく、怒りとか、あるでしょ!?」

天測士「爆発させろよ、その思いを!」

術士「周りをよく見るべきよ。危険な時こそ、冷静に情報を集めないと」

剣士(……なるほど)

剣士(こいつ、隊長の『代わり』のつもりか)

天測士「ふ、ふふん。そんな情報を集めるなんて、私の一番得意なことよ!」

術士「じゃあ、お願いします」

天測士「任せなさい! でも、その前に、教師を殴るのよ!」

二人『……』
715 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/07(日) 20:51:10.35 ID:orlSQD7/o
ガラッ。

斧使い「ちわー」

剣士「チッ」

斧使い「え、見るなり舌打ち?」

術士「こんにちは」ニコ

斧使い「どうも、うちの、アホが来てたと思うんだけどねぇ」

天測士「……誰がアホだって?」

斧使い「もちろん、うちのリーダーだよ」

天測士「おい待て」

斧使い「あのな、いつものリーダーなら、他所様に迷惑かけたりまでしてなかったろ?」

斧使い「だから、こういういけないことはめーってしないとダメだと思うんだよ」

天測士「はぁぁぁああ!?」

剣士「ここは病室だ」チャキ

斧使い「あっ、病室で武器を握らないで」
716 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/07(日) 20:51:40.48 ID:orlSQD7/o
天測士「私はっ、悔しいだけよ」

斧使い「まあまあ」

天測士「……あの隊長、危険な方をわざわざ選んだ」

天測士「怪我人を押し付けて、隠れながら進むだけなら、あんな爆発はいらなかったでしょ?」

天測士「わざわざ別ルートで、まあ、目算があるみたいだったけど」

天測士「そこまでやるような相手をバカにされて、あんた達は悔しくないわけ?」

剣士「……どうでもいい」

天測士「本気で言ってる?」

術士「本気じゃないわ。でも、きっと、そんなことより、知りたいの」

剣士「そうだ。もっと優先すべきことがあるだけだ」

天測士「あ、あのね〜……」ワナワナ

斧使い「ま、まあまあ」
717 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/07(日) 20:52:09.79 ID:orlSQD7/o
術士「でも、剣士は行きたいんでしょ? さっきは息巻いていたし」

剣士「……」

天測士「なにっ」

剣士「それに関しては、お前の説得に応じることにした」

術士「そう?」

天測士「何よ! このチキン野郎!」

剣士「剣が握れなくても、殴れないわけじゃないんだが」ググッ

斧使い「あっ、拳を握らないで」

術士「私は、消えた十三番隊のことを調べるわ」

術士「天測士さんは、隊長の行方や学園の動きについて、いろいろと調べてもらえないかしら」

天測士「……十三番隊?」

術士「ええ。光の柱、調べてみたいの」

天測士「……ふん」
718 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/07(日) 20:52:37.78 ID:orlSQD7/o
術士「いずれにせよ、七番隊の調査能力は優れたところがあるわ」

術士「お願い、私だって悔しいわ。でも、それは……」

術士「……隊長を失った方がもっと悔しくなるから」

天測士「……」

斧使い「……あいつ、いつのまにモテモテになってたんだ?」ヒソヒソ

剣士「そういうことじゃねぇだろ」

斧使い「……でも、死んでから好かれてもなぁ」ヒソヒソ

剣士「そういうことじゃねぇって。あと、死んでるかどうかは」

天測士「やかましい!」

天測士「ちょっと男どもは出ていきなさい!」

斧使い「ええ?」

剣士「……調査には、後で俺も加わるから、呼べ」

天測士「分かったわよ」
719 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/07(日) 20:53:10.74 ID:orlSQD7/o
術士「……」

天測士「その、あの、悪かったわね、怒鳴りこんで」

術士「もう少ししたら、体の具合も良くなると思うわ」

術士「そうしたら、もっと詳しく話しましょう」

天測士「ええ。それにその、学園側の動き、気になるわ」

天測士「竜があれだけいた、ってのにはびっくりしてるみたいだけど、何隊か捨てたことに関しては気にしてないみたいだし」

術士「……どういう意味?」

天測士「だから、学園戦隊は使えないから、学園としてプロを雇って……」

天測士「ん? どうしてそうなるのかしら?」

天測士「あの谷は、学園に近いとはいえ、別にうちの敷地ではないわよね」

術士「……確かに、それは妙ね」

天測士「どうも、外国の様子が気になってきたわ」

術士「うん」

術士(だから、それを話していたのに)

天測士「ああ、もう。分かりにくいったらありゃしないんだから」
720 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/07(日) 20:53:36.91 ID:orlSQD7/o
天測士「とにかく、私なりに調べてみるわ。学園のことも、いろいろ」

術士「あ、あの」

天測士「なに?」

術士「……隊長のこと、天測、お願いします」

術士「頼りに、してるから」

天測士「……ふふ」

天測士「くふふふ、ふふっ。そうよね!」

天測士「任せなさい。私にかかれば、あらゆる調査など、簡単なことよ!」

天測士「まったく、うちの連中は、私を頼ってる素振りも見せないんだからっ!」

術士「はぁ」

天測士「いいことっ、あんたもまずはゆっくり休むのよ!」

術士「じゃあ、休むから出ていってね」

天測士「あ、はい(´・ω・`)」
721 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/07(日) 20:54:20.39 ID:orlSQD7/o
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
―――数日前、川原。

救護員「……んぁ」ゆさ、ゆさ

救護員「ん、ん?」

救護員「んぇ?」

救護員「……どらごんはっ!?」ガバッ


救護員が辺りを見回すと、川原にエアバッグが打ち上がっていた。


救護員「あれは……そーだ。全力で逃げて、川に飛び込んだあと、あれを破裂させたんだ」

救護員「えーっと、隊長、工兵くん」

隊長「いるぞ……」ジャブ、ジャブ

救護員「た、たいちょ……うわぁあああああ!」

隊長「……」

救護員「こ、こここ、工兵の、腕が!」

隊長「応急処置をしてくれ」

救護員「た、隊長、隊長」

隊長「竜は振り切ったはずだ……」バタッ
722 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/07(日) 20:54:47.41 ID:orlSQD7/o
救護員「隊長!? うあ、たい、ちょう、も、背中と、足が……」

救護員「……」

救護員「泣いてる場合じゃない、出来ることをしないと」

救護員「ええと、包帯と添え木と、救急キットは落っことしたから」

救護員「あ、商人もいる」

救護員「隊長、その、流されているの、拾ってきたのかな」

隊長「……いいから、処置してくれ」

救護員「あ、あ、意識、あるんですか」

隊長「早く、工兵から」

救護員「はいっ」

救護員「工兵くん、ごめんね。腕が、ちぎれちゃう、なんて」グスグス

隊長「……」

救護員「こ、呼吸! そうだ、呼吸も見ないと」

隊長「……落ち着け。それはさっき見た」
723 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/07(日) 20:55:13.87 ID:orlSQD7/o
隊長「……」ムクリ

救護員「た、隊長?」

隊長「敵が、いないか、警戒してくる」

救護員「ダメ! 隊長も怪我しているんだから!」

隊長「……分かっている。無理はしないから」

救護員「で、でも」

隊長「いいから、頼む」ズルズル

救護員「足引きずっているじゃないですか!」

隊長「いいから」ズルズル

隊長「……」

隊長「生き残った……」

隊長「か……」
724 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/07(日) 20:55:40.89 ID:orlSQD7/o
しばらくして。

隊長「どうだ?」

救護員「状態は、良くないです」

隊長「そりゃ、そうだ」

救護員「とにかく、助けを呼ばないと……」

隊長「……」

隊長「あの谷から流れていた、川の下流。地図のイメージだと、大体……」

救護員「ええっと、地図、ないですけど」

隊長「いや、覚えている。確か、少し歩けば、町があったはずだ」

救護員「川の、近く……あっ」

隊長「どうした?」

救護員「それって、私の住んでた町じゃないですかね!?」

隊長「そうなのか?」

救護員「そ、そういえば、この辺、見覚えがあるかも……」

隊長「よし……案内、頼む」

救護員「任せてください!」
725 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/07(日) 20:56:07.37 ID:orlSQD7/o
隊長「じゃあ、俺が、工兵を背負うから」

救護員「私が商人ちゃんですね」

救護員「……隊長、大丈夫ですか? 顔色が」

隊長「まだ、大丈夫だ。工兵を、放置する、方が、まずい」

救護員「……」

隊長「行こう」

救護員「はいぃ」

救護員「よっと、重いなぁー」ガシッ

隊長「……ふんっ」グイッ

隊長「片手と片足を、体の前に……」

救護員「だ、大丈夫ですか?」

隊長「ダイジョブだ」
726 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/07(日) 20:56:34.40 ID:orlSQD7/o
――数刻。

隊長「……」

救護員「あ、あれ……」

救護員「おかしいな……」

隊長「方角は、合っているかな?」

救護員「ええと……」

救護員「ど、どうですかね」

隊長「……商人を、下ろして。ちょっと遠目に、町があるか、見てくれないか?」

救護員「は、はい!」

救護員「よっと」ドサッ

救護員「あの、あの」

隊長「俺は、二人の様子を見ているから……」

救護員「はいです!」
727 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/07(日) 20:57:34.39 ID:orlSQD7/o
救護員「うーん、この辺りだと思ったんだけどなぁ」

救護員「だって、見覚え、あるもん」

救護員「ん……」

救護員「あ、あれ。町の物見やぐら!」

救護員「やった! 間違いなかったんだ!」

救護員「よし、隊長に、知らせてこないと」

救護員「……隊長!」

隊長「……」

救護員「た、隊長! 町、見えましたよ!」

隊長「……」

救護員「あう、え、隊長?」

救護員「ひっ、お腹にも、血が……!」

救護員「隊長、隊長……?」

隊長「……ん、すまん、少し、眠くて」

救護員「あの、あの」
728 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/07(日) 20:58:01.52 ID:orlSQD7/o
隊長「町か?」

救護員「は、はい。見えましたよ!」

隊長「……ちょっと、動くのは無理そうだ。ひとっ走りしてもらっても、いいかな」

救護員「はい、はい!」

隊長「あと、お金、隊長バッジ」

救護員「えと」

隊長「見せれば、町の人にも分かるだろうから」

救護員「え、あ、う」

隊長「……よろしく、頼む」

隊長「工兵も、商人も、ちゃんと見てるから」

救護員「……」

救護員「寝ちゃ、ダメですからね!」

隊長「ああ」
729 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/07(日) 20:58:42.91 ID:orlSQD7/o
救護員「はぁ、はぁ……!」

救護員「急げ、いそがないと!」

救護員「隊長が、工兵も……!」

救護員「はぁ、はぁ!」

救護員「うあっ」こてっ

救護員「うう……もう……」

救護員「……」グッ

救護員「い、行くんだ!」ダッ

救護員「助け、呼ぶんだ」

救護員「……お、おどぉさぁあああああん! おがぁあさぁあああああん!」

救護員「救護員だよぉおおおお! 助けが、いるのおおおおおおお!」

救護員「誰か来てぇえええええええ!」

救護員「うああああああああああああっ!!」

――――

――

……
730 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/07(日) 21:00:18.39 ID:orlSQD7/o
一旦、休憩
731 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/07(日) 21:53:11.63 ID:mjcyutLzo
尻ASSだぜ・・・
どうなるんだろ
732 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/07(日) 22:20:40.33 ID:orlSQD7/o
夢。孤児院。

男「ちっ、まだ皿洗いが終わらねぇのか」

男「そんなことでどうするんだ!? 世の中には、もっと苦しいことがあるんだ!」

男「早くしろ、ガキども!」

少年「はぁい」ゴシゴシ

男「なんで、そんなちんたら洗ってんだよ!」ボカッ


男の攻撃! 少年は皿をおっことした!


男「あ〜あ、落としちまいやがって」

少年「すみません、せんせい」(死ねよ、ボケ)

男「なんだ? その反抗的な目は」

男「クズがっ、ボケがっ! 拾ってくれた恩は感じないのか!」

少年(謝ってるだろうがよ、クズがっ!!)

少女「せんせー、理事長がきてるけどー?」

男「な、なんだと」
733 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/07(日) 22:21:09.76 ID:orlSQD7/o
男「早くいえ! お茶は出したのか?」

少女「出してますよ」

男「ちっ、割れたのは片付けておけよ!」どたどた

少年「分かりましたぁ」

少女「……ばっかでぇー」

少年「……何」

少女「あんなの、相手にしないで、あしらわないと」

少年「あしらってる」

少女「ああいうのは、あしらうって言わないの」

少年「……」

少女「お前もさ、要領悪いよね。ま、あいつと似たような感じ?」

少年「なんで、俺があいつと似てることになるんだ?」

少女「エライ人にはニコニコしたり、文句言わないけど、裏ではゲロゲロ言ってるところ」

少年「知らねーよ、そんなこと」

少女「あー、悪い影響受けてるわー」

少年「うるせぇな、ババア」
734 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/07(日) 22:21:36.54 ID:orlSQD7/o
少女「私、お前と少ししか違わないけど?」

少年「ババア、ババアのくせに、俺にいちいち文句言ってんじゃねぇ」

少女「ふーん、こっから出る方法を考えてやったのに」

少年「!」

少女「せっかく、同じ村出身だって思って声かけたのになー」

少年「ご……ごめんなさい、お姉様」

少女「私はお前の姉じゃないけど?」

少年「……」

少女「はっ、シケた面して」

少年「……いい」

少女「なに?」

少年「別に、いい。出たければ一人で出れば」

少女「今度はへそ曲げてんの? 言われるまでもないわよ」

少年「どうせ、どこにいたって同じだ」
735 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/07(日) 22:22:02.64 ID:orlSQD7/o
少女「……」

少年「周りは、馬鹿ばっかりだ。先生は表裏激しすぎてうぜぇし」

少年「でも、本当は……」

少女「なに?」

少年「俺が、一番、生きている価値がない、クズだ」

少女「……どこが?」

少年「俺らの、村、滅ぼされて、あいつら、俺らを見下してる」

少年「だけど、俺も、そういう、クズだって、あいつらを見ている」

少年「……クズを馬鹿にするだけの、クズだ」

少女「はあ? 馬鹿にされて怒らない方がおかしいでしょ」

少年「怒ってる、わけじゃない」

少女「ああ、そう」

少年「……めんどくせぇだけだ。お前は、ちゃんと生きられるなら、そうしろよ」

少女「……」ゲシッ

少年「いてぇな!」
736 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/07(日) 22:22:28.63 ID:orlSQD7/o
少女「お前、私まで馬鹿にするわけ?」

少年「はぁ?」

少女「なーにがちゃんと生きられるなら、よ」

少女「自分はクズだと思うんなら、改めればいいじゃない」

少年「……でも、このまま、生きてて、何になるんだ?」

少女「かわいいお嫁さんもらうんでもいいじゃない」

少年「……チビで、ブサイクだって言われた」

少女「はぁー……それは馬鹿なのって言わざるをえない発言よ」

少女「だったら大金持ちになるとかさ」

少女「私は安定収入を得て、楽ちん生活送りたいわー」

少年「……」

少女「適当に理由つけてもいいから、暗くなるのはやめなさい」

少年「……」
737 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/07(日) 22:23:14.77 ID:orlSQD7/o
少年「じゃあ、村に帰りたい」

少女「は?」

少年「村に帰って……」

少女「いや、滅びてんでしょ」

少年「だから、魔物に襲われて、誰も墓を立ててないだろ」

少年「金稼いで、立派な墓を作って……墓守にでもなって」

少女「誰がお参りするのよ」

少年「お前はするだろ」

少女「しないわよ、そんなん」

少女「あー、ほんっと馬鹿よねー」

少年「うるさいな」

少女「そんなくだらないことに縛られてさ」

少年「……別に、いいだろ」
738 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/07(日) 22:23:42.06 ID:orlSQD7/o
少女「まあ、いっか。で、来るの、来ないの?」

少年「……行ってもいいの?」

少女「いいの、いいの」

少女「つーか、皿、片付けないの?」

少年「あ、あ」ガチャガチャ

少女「んむ。では、そのまま聞きなさい」

少年「早く言えよ」

少女「ここはね、冒険者の学校、学園っていうの」

少女「学費はあるけど、全寮制で、何より、依頼が直接来て、冒険者みたいに働けるわけ」

少年「……自分で、金を稼げるのか」

少女「そういうことー」

少年「それ、いいな」

少女「でしょ? ほれほれ、私を崇めなさい」

少年「するわけねーだろ!」

少女「ふん、でね、理事長はお人好しだから、自立したいっつってさ――」
739 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/07(日) 22:24:09.16 ID:orlSQD7/o
……

夢。また夢。

隊長「ここは……」

工兵「あーあ、片腕、とれちゃったよ」

隊長「こ、工兵」

工兵「隊長ってさ、何もかも詰めが甘いよね」

工兵「あの場面、危険な竜がいるところを抜けて、川に飛び込むなんてルート、正気の沙汰じゃないよ?」

隊長「……二番隊と十三番隊を見殺しには出来なかった」

工兵「その代わりに、僕らを犠牲にしたの? ひっどいなー」

隊長「……」

工兵「あれ? 言い返さないんだ。そっか、隊長は優しいもんね」

隊長「……それは、お前らが、そうでもしないと成長しないからだろうが」

工兵「誰もそんなこと、頼んでないじゃん?」

隊長「うるせぇ……」

工兵「剣士も、術士も、隊長に付き合わされてかわいそうー」

工兵「隊長のわがままに振り回されちゃってさ」

隊長「……」
740 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/07(日) 22:24:35.88 ID:orlSQD7/o
剣士「何がつまんねー対抗心だ」

隊長「剣士? あれ、工兵は……」

剣士「お前が不甲斐ないから、術士も俺も命をかけたんじゃねぇか」

剣士「それを、突き放すような言い方をしやがって」

剣士「お前さえきっちりやっていたら、無傷で乗り越えられたんじゃねぇのか!」

隊長「そ、それは……」

剣士「天測だかいう女に気を使って、命をかけてないのはお前の方だ」

剣士「いつまで他人を犠牲にして生きている? 俺は、俺は自分の命を使っているにすぎない」

隊長「いや、だから……」

剣士「お前のしようとしたこと、うまくいく事もある」

剣士「だが、圧倒的に失敗のほうが目立つ。なぜか分かるか?」

剣士「結局のところ、本質では、お前は他人のことなぞどうでもいいからだ!」

剣士「いや? それとも、嫉妬しているのか? 俺たちに」

剣士「だから、ふざけた態度をとるのか!」

隊長「……知らねぇよ」
741 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/07(日) 22:25:04.27 ID:orlSQD7/o
救護員「隊長はですねー、チビのくせに、かっこつけようとしているからモテないんですよー」

隊長「俺がいつかっこつけたよ?」

救護員「つけてるでしょ? こうすればうまくいく、とか」

救護員「私が馬鹿だと思って、いろいろ言ってるけど、こちとらそんな浅い演技は見ぬいてるってーの」

救護員「みんな知ってますよ? 本当は、ビクビクしながら接してるんでしょ?」

救護員「探り探りでちょっとキモいっていうかぁ」

隊長「……」

救護員「言い返さないんですか?」

救護員「そうやっておきながら、こっちが攻められると思ったら、とことん言ってくるんだもん。ひっどーい」

隊長「……うるせぇよ」

救護員「都合の悪いことにだけ押し黙るのはやめましょうよ」
742 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/07(日) 22:25:30.57 ID:orlSQD7/o
術士「隊長。私、頑張ったでしょ」

術士「どうして、認めてくれないの」

隊長「……認めている」

術士「嘘。突き放して、見ている」

術士「私、辛くて、チームの実習なんかやりたくなかった」

術士「だけど、隊長が励ましてくれたから、頑張ったんだよ」

隊長「分かってるよ!」

術士「分かってない。隊長は何も分かってない」

術士「どれだけ、みんな、隊長を信頼しているのか」

術士「隊長は、それに甘えている。絶対」

隊長「違う……甘えてなんかいない……」

術士「ちょっと自分に犠牲を払ったからって、許されないから」

隊長「やめろ……」
743 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/07(日) 22:26:06.20 ID:orlSQD7/o
工兵「自分勝手なのはやめてほしいよ」

剣士「羨ましいんだろ、俺達が」

救護員「馬鹿にしているくせにね」

術士「私達に、依存しないで」

隊長「うるせぇな……」

隊長「うるせぇな……!」

隊長「俺はっ! お前らが嫌いなんだよ!」

隊長「自分勝手なのはお前だろうが!」

隊長「嫉妬しているのもお前!」

隊長「馬鹿にしているのもお前!」

隊長「依存しているのも、お前!」

隊長「だからなんなんだよ!?」
744 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/07(日) 22:26:33.63 ID:orlSQD7/o
隊長「踏み台にでもなんでもすればいいだろうが!」

隊長「どうせ、俺は世間的には死にたくてしょうがないんだ!」

隊長「お前らが、俺のために、戦ってるなんて、虫唾が走る!」

隊長「俺を利用して、とっとと先に進めばいいんだ!」

隊長「お前らが傷つく必要なんてないんだ!」

隊長「手探りなのはしょうがないだろうが、傷つけたくないんだよ!」

隊長「なんで、うまくいかないんだよ!」

隊長「俺は……!」

隊長「……」
745 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/07(日) 22:27:53.31 ID:orlSQD7/o
隊長「……」


隊長「……いつ死んでもいいって思ってたのに」


「じゃあ、死ねば?」


隊長「……死にてぇ。でも、俺が死ぬ前に、あいつらが死ぬ」


「そんな考え方だから、余計にみんな傷つく」


隊長「知っている」


「だったら直せよ」


隊長「……分からない。どうすれば、なくなるんだ?」

隊長「生きるのなんか、めんどくせぇって気持ちは」


少年「馬鹿じゃねぇのか」

隊長「……」
746 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/07(日) 22:28:44.32 ID:orlSQD7/o
少年「誰にも言わずにしまっておいたら、いつか誰か分かってくれんの?」


隊長「……」


少年「それに、お前がしなくちゃいけないことは、もっと別にあるだろ」


隊長「……なんだってんだ」


少年「最後まで責任を持つってことだ。自分と他人に」


隊長「偉そうに……」
747 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/07(日) 22:29:11.81 ID:orlSQD7/o
少年「他人に甘えてはいても、他人の言葉をなぞって生きてきたわけじゃないだろ」

少年「辛い時こそ、冷静に判断しろ。情報を、集めろ」


隊長「……」


少年「いつもやってきたことじゃねぇか。嫌われようが、やるしかないんだ」

少年「早くしろ。みんな、待ってる」


隊長「……そうだな」


隊長「早く、起きないとな」


――――
748 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/07(日) 22:29:41.35 ID:orlSQD7/o
ベッド。

隊長「……」

隊長「……ぐおっ。いってぇ」

隊長「死ぬほど、痛い」

隊長「……」

隊長「腹が減ってる……」

隊長「ベッドの上だ」

隊長「……動く? 足も、体も」

隊長「うわ、動かねぇ。ろくに動かせねぇ」

隊長「うわー、なんだこれ。うわー」

隊長「……」

隊長「助かったみたいだし、人は見に来るだろ」
749 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/07(日) 22:30:07.28 ID:orlSQD7/o
ガチャ。

救護員「……」

隊長「……」

救護員「隊長、すみません」

救護員「私の、力不足で……」

救護員「もう、起きてくださいよぉ……」

隊長「起きている」

救護員「ぶわぁっ!?」ガシャーン

隊長「落ちたよ」

救護員「ど、ど、ど」

隊長「……」

救護員「料理! 持ってきます!」

隊長「あ、拭き掃除、してからで」

ドタバタドタ……
750 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/07(日) 22:30:35.42 ID:orlSQD7/o
隊長「……」

救護員『都合の悪いことだけ押し黙るのはやめましょうよ』

隊長(夢、だよな?)

工兵「隊長〜? 起きたって本当〜?」

隊長「う」

バタン。

工兵「あ、はは。ホントだ。起きてる、起きてる」

隊長「お、おう」

工兵「一番お目覚めが遅かったみたいだよ」

隊長「工兵、腕は……」

工兵「んー? お、いいところに目をつけたね」

工兵「異世界の技術を駆使して出来た、自分の意思に反応して指先が動く義手さ!」

隊長「義手……」

工兵「ま、ここまで来ると義腕というべきだけどねー」

工兵「だけど、いろんな機能を搭載したんだ」

隊長「あ、ああ」
751 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/07(日) 22:31:01.27 ID:orlSQD7/o
工兵「ほら、ずっと前に、『小さい手』って見せたじゃん?」

隊長「ああ、あったな」

工兵「ふっふっふ。これは、それを利用しているから、常人よりも細かい作業が得意になっているのだ」

工兵「他にも兵装として、発雷装置、爆雷管発射装置、魔物のセンサーもつけたよ」

隊長「あ、ああ」ぐぅ〜

工兵「お、お腹が鳴ったね! 実は音を拾う機能も……」

隊長「すまん、あまり、体が、動かないんだ」

工兵「ん、改造する?」

隊長「先に、ご飯食べさせてくれ……」
752 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/07(日) 22:31:27.71 ID:orlSQD7/o
工兵『誰もそんなこと頼んでないじゃん?』

隊長「……」

工兵「ま、僕は隊長を検査していたから、目を覚ますくらいには回復しているって知ってたけど」

工兵「救護員が、毎日、泣きながら、隊長のいる部屋を掃除するからさ」

隊長「ごめんね。迷惑、かけた」

工兵「今に始まったことじゃないじゃん」

工兵「ど、どっちかってーと、僕らのほうが、かけてなかった?」

隊長「……そうかもな」

工兵「あははっ」

隊長「そういや、検査って……」

工兵「ああ。ここ、僕の師匠がいるから」

工兵「工房でね、医療機器も作ってるから、試作品をちょっと……」

隊長(怪しげなものを使いやがって……)
753 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/07(日) 22:31:57.22 ID:orlSQD7/o
救護員「……隊長! おまたせしました!」

救護員「あ、愛情、愛情たっぷりの病人食です!」

隊長「……うすい」

救護員「下手に濃いめの取ると、お腹がびっくりしちゃいますから」

隊長「ああ、そう」

救護員「とにかく、これ食べたら、も、もう一回、寝てください!」

隊長「いや、でも」

救護員「私はほら、救護の、プロですから」フフン

隊長「……」

工兵「眉間にしわ寄せしないでもいいじゃん」

隊長「まあ少し休むよ、なんかまだ、動けない」

救護員「四日も寝込んでたんですから!」

隊長「……四日も」

工兵「なんつーか、なんだかんだで一番深手だったんだよ」

隊長「しんがりを務めてたからかな」
754 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/07(日) 22:32:23.37 ID:orlSQD7/o
商人「起きたの?」

救護員「……あ! この、女」

商人「なによ、敵視して」

救護員「知ってるんですよぉ、竜から逃げるとき、隊長を盾にしたり!」

商人「そ、それは、しょうがなかったし」

工兵「まあまあ」

隊長「別にいいよ」

救護員「この人が引っ掻き回さなければ、もっとうまく逃げられたんじゃないんですかぁ」

商人「……悪かったわ」

隊長「それより、商人はこの町の交易には詳しいの?」

商人「えっ、いきなり、その」

救護員「隊長、まずは休まないと」

商人「……知り合いがいるから、聞いておくわ」

隊長「学園に、報告書なり、手紙も出さないと」

商人「そうね……」
755 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/07(日) 22:32:52.37 ID:orlSQD7/o
救護員「隊長、痛くないですか?」

隊長「お腹は、痛い」

工兵「随分、怪我してたもんねー」

隊長(なんだ、その言い方)

隊長「ええっと、商人、でなくてもいいか」

商人「なに? 私だって、受けた恩くらい返すわ。格安で」

隊長「……新聞もついでに、買ってきてくれ」

救護員「隊長、だから、すぐ仕事するのはやめましょうよ」

工兵「ま、気になるのもわかるけど」

工兵「でも、竜が出たとか、侵略してきたとか、そういう話題は全然きてないよ?」

隊長「……マジか」

隊長(変だな。夜があけて、そこから四日眠ったとする)

隊長(あの夜から、五日経った。天測士たちが学園に帰ったとして……)

隊長(……竜の話題は黙殺されるほど、小さい話でもない。全く無いってのは)
756 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/07(日) 22:33:20.11 ID:orlSQD7/o
隊長「……うん、寝よう」

救護員「はいはい、早く寝てください」

隊長「みんな、は、怪我大丈夫?」

工兵「ご覧のとおりさ」ガッション

隊長「どう判断すればいいんだ?」

救護員「私は、大丈夫です!」

隊長(こいつが一番恐ろしくなってきた)

商人「……わ、私も? 大丈夫、よ。休んだし」

隊長「じゃあ、また俺が起きたら、作戦を開始したい」

三人『作戦?』

隊長「学園に戻る前に、速達で手紙を出す、竜の情報を集める――」

隊長「何か気になる。情報の広がりが遅い気がする」

隊長「どのみち、傷が多少でも良くなるまで、大きくは動けないから」

隊長「……よろしく、頼む」ペコ


特別作戦『竜に関する情報を収集せよ』
757 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/07(日) 22:34:15.59 ID:orlSQD7/o
今夜はここまで。

なんだかんだで、いろいろカットしようと思ってたところも全部乗っけてます
天測士、剣士サイドも、もっと隠しといた方が良かったかな?
758 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長野県) [sage]:2012/10/07(日) 23:00:00.43 ID:OEZevxFRo
隠すとか隠さないとかは作者の技法にしかすぎないのだから、つべこべ言わず、面白い話しを続けてくれ

楽しみにしてんだ

支援
759 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/10/08(月) 01:04:31.98 ID:XbAEvFzbo
なんだかんだで1人もうざく感じない
完走さえしてくれればどんな路線で行こうが俺は読む
760 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/10/08(月) 01:18:52.26 ID:qbgcd9lBo
うああ続きが、続きが読みたい!!工兵は逆に今回のおかげで強くなりそうだなぁ
761 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/08(月) 03:39:44.52 ID:qTygZDQlo
進めば進むほど、どのキャラクターもどんどん好きになってるぜー
すごく面白い!あと工兵やるじゃん。
762 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/08(月) 23:58:46.07 ID:B07WSFlso

本当の姉弟じゃなかったのね
763 : ◆k.6bdeNTfg [sage]:2012/10/09(火) 09:29:59.69 ID:ZU4d/iAIO
最初はもろに血縁とか言ってるなぁ…
まあ、その辺はあいまいで
764 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/10/12(金) 20:35:07.73 ID:j+KXlgDAo
翌日。

隊長「さて、パーティー編成だ」

二人『わー』

商人「え、パーティー……? なに?」

隊長「作戦を始めるための事前準備のようなものだよ」

商人「そ、そう。うちのはそういうことしてなかったから……」

工兵「なんとなく、これを挟むとやるんだーって感じがするよね」

隊長「まあ、まずは状況確認からだ」

隊長「俺達はとりあえず、とりあえず竜から逃げ出せた。だが、別働隊の七番隊がどうなったか……」

隊長「竜がその後どうなったか、竜ってのはなんなのか。そして、学園と各国がどう対応しているのか」

隊長「これらを把握しないといけない」

救護員「そうですね!」プシュー

商人「なんか煙出てるわよ」

隊長「学園には、報告を出さないと」

工兵「そういうのは、隊長がやってくれるんでしょ?」

隊長(めんどくせぇなぁ)
765 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/10/12(金) 20:35:57.53 ID:j+KXlgDAo
隊長「それから、この町は工兵と救護員の故郷なんだよね?」

救護員「実家があります!」

工兵「え、実家に寄るの?」

隊長「そうじゃなくてさ。いや、滞在費が浮かせられるならそれでもいいけども」

工兵「ここでいいと思うよ?」

隊長「そういえば、ここは?」

工兵「師匠の工房。町を出る前は寝泊まりしてたから」

隊長「……あとでそのお師匠様には挨拶しておかないとな」

工兵「えええ〜!?」

隊長(うるせぇな)

隊長「とにかく、宿もそうだけど、帰る手段とか路銀の調達をお願いしたいんだ」

救護員「親のスネをかじるんですね!」

商人「かじれるものはなんでもかじらないとね」

隊長「……いや、まあ、いいけど」
766 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/10/12(金) 20:36:25.35 ID:j+KXlgDAo
商人「で、私は何をすればいいわけ?」

隊長「商人は情報収集。それから、学園の報告についても、協力してもらいたい」

商人「わかったわ。で、隊が違うわけだから、私に報酬は出るわよね?」

救護員「な、なに言ってるんですか!」

商人「当然じゃない」

救護員「むきーっ、ピンチの時は散々泣きついてきたくせに!」

商人「そ、それは別に、いいでしょ」

隊長「学園への報告は、十三番隊がバラバラになった以上、商人の任務に含まれるだろ?」

商人「それもそうか。でも、情報収集だって、タダじゃないんだから」

隊長「経費として報告してくれ。二十八番隊として支出する」

商人「絶対よ」

工兵「ふーん」
767 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/12(金) 20:36:53.53 ID:j+KXlgDAo
隊長「で、編成について」

隊長「……作戦の性質上、四人でぞろぞろ行く必要はないが、町でも危険がないわけじゃない」

工兵「この町は割りと呑気だからねぇ」

救護員「うーん、野盗なんかは出ないと思いますけど」

隊長「ま、下手に突っ込めば、の話だ」

隊長「いずれにせよ、最低でも二人行動が望ましいってことだ」

工兵「ふ、二人行動か、うーん」チラッ

救護員「あー、からかわれちゃうかもしれないですねぇ」

隊長「じゃ、午前中は俺と工兵で行動しよう。お師匠様、にも挨拶したいし」

商人「え? ホモ?」

隊長(こいつ……)

工兵「あまり調子に乗るなよ?」ガシャ

商人「な、なに!? 変なの向けないで!」

工兵「ちょっとビリっとするだけだからさ」

隊長「まあまあ」
768 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/12(金) 20:38:48.00 ID:j+KXlgDAo
隊長「ま、お昼に一度集まって、午後は俺と救護員でもいい」

救護員「ふぇっ?」

隊長「……町のことがある程度分かる二人は、分けたほうが効率がいいだろう」

救護員「あ、あー、そういうことですか」

救護員「てっきり、隊長が私に惚れちゃったのかと思いましたよ〜、あははは」

隊長「……」

救護員「はは……」

隊長「で、何か質問ある?」

救護員「ボケたんだから、突っ込んでください!」

工兵「リアルボケは置いといて、僕らの方でも、分かる範囲があれば情報は集めるんだよね?」

救護員「工兵くんもひどいよっ!」

商人「何か知ってるの?」

工兵「うちの師匠、勇者に会ったことがあるって言ってたし、竜のことは少し知ってるかも」

隊長「なるほど。じゃあ、まずはそこから聞こうかな」

救護員「……ごめんなさい、許してください……」
769 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/12(金) 20:39:19.83 ID:j+KXlgDAo
隊長「それと、自分がそうだから言うけど、くれぐれも無茶は駄目だよ」

工兵「うん、まだ義腕の調子も完全とは言い難いし」

商人「ええ。気になる点は、お昼に相談してから突っ込むわ」

隊長「そうしてくれ」

救護員「わ、わ、私も頑張りますから!」

隊長「話聞いてた?」

救護員「……無茶はダメなんですよね?」

隊長「そうだねー、ちゃんと聞いてたねー、えらいえらい」ナデナデ

救護員「うへへ」

商人「……ねぇ」

工兵「馬鹿にしてるわけじゃないから」


隊長「それじゃ、作戦開始だ」

三人『おー!』
770 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/12(金) 20:39:54.20 ID:j+KXlgDAo
一階、工房。

隊長「ええと、じゃあ、まず」

工兵「こっちこっち」

隊長「……どの人が師匠なの?」

工兵「あそこで腕組みしている人」

隊長(……女?)

師匠「ん?」

工兵「師匠! ちょっといいですか」

師匠「ダメ」

工兵「まあ、そう言わずに聞いてください。うちの隊長が動けるようになったんで、お礼も兼ねて挨拶したいと」

隊長(工兵が丁寧で若干、違和感……)

師匠「ああ、動けるようにね。良かったね」

隊長「その節は、どうもありがとうございます」

師匠「どうでもいいよ、君の怪我を診たのは医者だし、私は部屋を貸して試作品の実験しただけ」

隊長(まためんどくさいのか)
771 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/12(金) 20:40:25.68 ID:j+KXlgDAo
師匠「それよりも私が言いてぇのは、うちのバカ弟子の腕を何ちぎってんのってことなんだけど」

隊長「……」

工兵「師匠!」

師匠「なに?」

工兵「義腕つけたんだしいいじゃないですか」

師匠「バカじゃねーの。足がちぎれても体を取っ替えても同じ事いうの、お前」

工兵「僕は納得してるってことです」

師匠「私が納得してない」

工兵「けど」

師匠「大体、私はお前に聞いてねぇよ、で、どう思ってんの?」

隊長「……申し訳ないと思ってます」

師匠「ぶっ潰すよ?」

工兵「しーしょーう!」
772 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/12(金) 20:41:06.99 ID:j+KXlgDAo
師匠「さすがにその答えはないわ」

工兵「あのですねぇ」

隊長「……申し開きはできません」

師匠「ん?」

隊長「隊員の怪我は俺に責任がありますから」

工兵「いや、違うって。隊長は最善を尽くしたわけだし」

師匠「……」

工兵「師匠も、やめてくださいよ! 半分からかってるでしょ?」

師匠「バレた?」

工兵「散々、隊長が寝てる間にもやりたい放題したんだから、そういう人の傷口を突くのはやめてくださいって」

隊長(……ふざけんなババァ)

師匠「でも、思っていることは本当だけど?」

工兵「はぁあ、だから、挨拶なんかさせたくなかったんだ……」

師匠「いいからさ、ちょっと三番棚からガラス瓶取ってきてよ」

工兵「……いいですけど、隊長で遊ばないでくださいね!」タッ
773 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/12(金) 20:42:40.16 ID:j+KXlgDAo
師匠「で、どう? 体の調子は」

隊長(何事もなかったかのように……)

隊長「なにぶん、寝っぱなしだったもので、うまく体が動きません」

師匠「あ、そう」

隊長「いろいろとご迷惑をお掛けしまして」

師匠「いーよ、たまには弟子の顔も見たかったし」

師匠「あと、別にそこまで怒ってないから、気にすんな」

隊長(やりづれぇ……)

師匠「むしろ、こっちの方が御礼を言いたいくらいよ」

隊長「は?」

師匠「工兵がここまで他人に関心を持つとは思わなかったから」

隊長「はぁ」

師匠「あいつ、ここに入った時も人の話を聞かないようなやつでね」

隊長(お察し)
774 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/12(金) 20:44:56.83 ID:j+KXlgDAo
師匠「久しぶりに戻ってきたと思ったら、片腕も意識もなくしてやんの」

師匠「で、起きたと思ったら、腕がないから義手つくってくれだって」

隊長「……そりゃあ、なんと言っていいか」

師匠「まあ、私の顔を見るなり、うわって叫んでたけどね」

隊長(なんか、会いたくない筆頭みたいだったしな……)

師匠「でさ、義手をする理由って聞いた?」

隊長「……この際、いろいろ付けられるように、とは言ってましたけど」

師匠「『隊長が見たら、傷つくっぽいでしょ』だって」

隊長「え、と」

師匠「数日であそこまで動かせるようになるようにリハビリもして」

師匠「自分は大丈夫だアピールしたかったみたいよ。あんたのために」

隊長「……」

師匠「ふざけんじゃねぇっつうの、下手してたらお前が亡くなってたわ」

師匠「弟子に目の前で逝かれたら、こっちの方が傷付くっつーのに、別のやつの心配かって」

隊長「……」
775 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/12(金) 20:45:56.63 ID:j+KXlgDAo
師匠「まあ、はっきり言って、今は義手も様子見の段階でね」

師匠「あそこまでガシャガシャ何でもないように動かすのはマズイわけよ」

隊長「普通に考えても、大怪我ですしね……」

師匠「ただあのバカ、私が言ってもなかなか聞きやしないから、あんたからも言ってもらえる?」

隊長「――わかりました。後でちゃんと言っておきます」

師匠「よし」

隊長「……すみません」

師匠「師匠の話を聞かなくさせるよーな相手に、嫌味言いたくなるのも分かるでしょ?」

隊長「その、俺は……」

師匠「ああ、いい、いい。別にあんたに怒ってるわけじゃない」

師匠「そもそも、冒険者の学校に行けって言ったのは私だし、命の危険があるってことも、伝えてたしね」

隊長「そうですか……」
776 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/12(金) 20:47:22.65 ID:j+KXlgDAo
師匠「で、単に挨拶しに来たわけじゃないだろ」

隊長「え、ああ、そうですね」

隊長「工兵が、あなたが竜について詳しいって言ってたんですが」

師匠「あ? 別に詳しくないよ」

隊長「勇者と知り合いだったそうですけど?」

師匠「勇者って、ああ、あのおっさんのこと」

隊長(おっさん。まあ、活躍したのは数十年も前だもんな)

師匠「まあ、あのおっさんは、私がガキの頃から全然変わらなかったしな」

師匠「いなくなる時はふいっといなくなっちまったし」

隊長「はぁ……」
777 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/12(金) 20:48:35.08 ID:j+KXlgDAo
隊長「で、その、竜の王を倒した時の話とか聞いてないんですか?」

師匠「そういや、あんたら、竜に会ったんだって?」

隊長「え、あ、ああ、そうですね」

師匠「……」

隊長「まさか、まだ生き残っているとは信じられませんでしたけど」

隊長「いるとなれば、少しずつでも調べる必要があるなと」

師匠「竜にあって、生き残ったってことだよね、あんたら」

師匠「……」

隊長(なんだ?)

師匠「正直、私がおっさんから聞いたことはそんなに多くはないけどね」

隊長「なんでもいいんですけど」

師匠「んー……」
778 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/12(金) 20:49:08.99 ID:j+KXlgDAo
師匠「あのおっさんは、竜は強い、と言っていた」

師匠「強い生物だってね。巨大な体、堅固な鱗、武器も魔法もまともに通用しない」

隊長「光には弱かったですよ」

師匠「そうだ。生物だからな」

隊長「生物……」

師匠「悪魔族などは生物の枠にはまらないようだからな、その点、竜は別だ」

隊長「ええと、つまり、スケールのでかい野生動物みたいに考えればいいんですか」

師匠「面白い例えだね。だが、竜の王は人語で対話できたようだし、それ以上だな」

隊長(そりゃすげぇ)

師匠「かつては悪魔族と戦っていたというし、王が現れるまでは単に棲み分けしていたに過ぎん」

隊長「……ん? ってことは、俺らが棲み分けしていた竜を刺激したとか……」

師匠「ありうることだわな」

隊長(やべぇ)
779 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/12(金) 20:49:36.35 ID:j+KXlgDAo
師匠「だが、それだけでもないだろ。町ではそれほど噂になってはいないが、竜の姿は何度か目撃されてる」

師匠「これがどういうことか分かるか?」

隊長「えーと、示威行動、ですかね」

師匠「それなら、村の一つでも攻撃しているだろう」

隊長(……なら、なんだ? 姿を見せるメリットなんぞ)

師匠「接触はしてないんだぞ」

隊長「……」

隊長「……偵察」

師匠「よしよし。うちのバカ弟子と違って、察しがいいな」

隊長「体がでかいから、目撃されているだけっていう……?」

師匠「そうだね。そして、偵察をしているということは、なんらかの目的があるということだ」

隊長「もしかして、リーダーがいるってことですか」

師匠「知らん。だが、組織立っている可能性もある」

隊長(そういえば、連中、あの夜もまるであの谷に追い込むような……)

隊長(いや、結論は避けよう)
780 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/12(金) 20:50:03.09 ID:j+KXlgDAo
師匠「しかし、いくつか疑問があるな。あれだけの巨体を支えるための食料、どうしている?」

師匠「また、なぜ最近、行動をはじめるようになったか」

隊長「……」

工兵「……師匠〜? 三番棚、ガラス瓶なんて無いですよ」

師匠「そうだった?」

工兵「どうします? 探しましょうか」

師匠「まあ、ないならいい」

工兵「……なんなんですか」

師匠「とにかく、隊長には説明したが、私は竜には詳しくない」

工兵「師匠もこういう時に知識をひけらかさないと」

師匠「黙れ」

隊長「いや、参考になりました」

師匠「駄目だ」

隊長「え?」
781 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/12(金) 20:51:03.89 ID:j+KXlgDAo
師匠「単なる私の感想を参考にするだけではダメだ」

師匠「もう少し、自由に発想しろ」

工兵「……僕に普段言っていることと違わないですか?」

師匠「私とて人を見て物を言う。お前はコロコロ好きなものが変わるから」

工兵「そんなこと、ないですって」

隊長「でも、工兵には助かってますから」

工兵「そ、そう?」

師匠「そりゃいい傾向よ。人の助けになるかどうかは、大事なことよ」

師匠「異世界の技術は、そういうことと無関係に流れてくるから」

工兵「……なんでもいいですけど」

師匠「工兵、お前の義手、もう少し調整してやる。後で来い」

工兵「はーい」

隊長「いろいろありがとうございます」

師匠「素直な子は好きだよ」
782 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/12(金) 20:51:30.97 ID:j+KXlgDAo
表通り。

隊長「変な人だったね」

工兵「参っちゃうでしょ。金物を直すし、金を出せば手伝うし、腕はいいからお客は多いんだけど……」

隊長「良い人だったね」

工兵「それはないんじゃないかなぁ。どうせ自分の好き勝手やってるだけだよ」

隊長「つまり、工兵と同じか」

工兵「えええ〜? 僕はあそこまで傍若無人じゃないよ」

隊長「ほう?」

工兵「そ、それより、師匠と何話してたの?」

隊長「工兵のこととか、勇者のこととか」

工兵「何か収穫はあったの?」

隊長「うーん、やっぱり、竜とまともに戦うのは難しいよ。それこそ、勇者でもなければ」

工兵「そっかぁ」
783 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/12(金) 20:51:59.83 ID:j+KXlgDAo
隊長「むう、図書室に通っていた頃も、勇者の英雄譚なんかろくに読まなかったしな」

工兵「んー、大体、どうやって倒したのか、なんて載ってるとは思えないけど」

隊長「そうなんだよな……」

工兵「とりあえず、どうする?」

隊長「親御さんへの挨拶はいいのかい?」

工兵「それこそ、冗談でしょ」

隊長「けど、君のお師匠様は、竜は少し前から目撃されていたって言ってたぜ」

隊長「『町の人』に話を聞くのは大事じゃないかな」

工兵「……隊長、からかってる?」

隊長「少しね」

工兵「あー、ほんと困るなぁ」

隊長「はははっ、じゃあ、それは置いといて、少し金策をしよう」

工兵「金策か〜、だったら、師匠に借りるかなぁ」

隊長(あの人にかよ。すげぇなこいつ)
784 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/12(金) 20:52:51.49 ID:j+KXlgDAo
隊長「ま、人に借りるのもいいけど、ここは手っ取り早く――」


隊長は、靴を叩いた。……分厚い靴の底に何かが埋まっている。


隊長「この宝石でも売ったほうが早いだろ」

工兵「へぇえ? そんなもんつけてたんだ」

隊長「意外とバレるけどな、これ」

工兵「でも、この町でちゃんとした宝石商なんてあったかな」

隊長「ああ、そうか。どのみち、商人にお願いした方がよさそうだ」

隊長「じゃあ、集合場所に向かいながら、新聞を買ってこう」

工兵「んー、じゃあ、道案内するよ」

隊長「よろしく、頼む」
785 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/12(金) 20:53:38.52 ID:j+KXlgDAo
今夜はここまで。
786 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/12(金) 23:49:19.30 ID:A+aAx93DO
乙。
787 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長野県) [sage]:2012/10/13(土) 09:04:07.27 ID:bSXMRPV8o


愛のある師匠っていいな
788 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/15(月) 22:57:01.29 ID:fjpC19vCo
工兵「それでね、こっちの方に市場があって」

隊長「ふんふん」

工兵「馬車を借りるなら、こっちの方かなー」

隊長「しかし、馬車を借りるなら、谷をぐるっと囲んで、川も渡らないといけないな」

工兵「そうなんだよね、まあ、徒歩で行っても竜がいるし」

隊長「……そうだな」

工兵「それから、ここは川下といっても、まだ山が近いからね。鉱山の町からも近いし」

隊長「ああ、なるほど。それで煙がもくもくと」

工兵「そ。工房が多いんだ」

工兵「つっても、最近は洗濯物汚れがつくし、人体にも影響があるからってんで、規制もあるけど」

隊長「なるほどねぇ」
789 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/15(月) 22:57:27.17 ID:fjpC19vCo
工兵「あとは、流通業を営んでいる、あ、そうそう救護員の実家がその仕事で」

工兵「えーっと、こっちの方にその家が」


―――バァン!

   救護員「な、なんで怒るの!?」

   救父「当たり前だ! これ以上金をせびる気か、この厄病神!」

   救護員「投資みたいなものじゃない!」

   救父「投げ捨てることを投資とは言わん!」


工兵「……」

隊長「あー、そうみたいだね」


救護員「だって! お金が足りなくなっちゃったんだもん!」

救父「もん、じゃない! 普段から仕送りしているのに、なんだそれは!」

救父「そもそも、あそこの学校では、自分で学費を稼ぐのが普通だと聞いたぞ!」

救護員「予想外なことが多かったから、しょうがないじゃない!」

救父「いいかげんにしろ!」

救護員「なによ!」
790 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/15(月) 22:58:03.87 ID:fjpC19vCo
商人「あ、あのー」

救母「まあ、まあ」


救父「お前がな、見聞を広めるためとか言って、男を追いかけたことは知っているんだ」

救護員「そ、そんなんじゃないもん」

救父「別にそれは、いい。もう、いい」

救父「だが、顔を見せるなり挨拶も抜きに金をよこせだの……」

救護員「緊急にお金がいるんですよ!」

救父「お前に緊急に必要なのは、恥だ!」

救護員「恥も捨てて頼んでいるのに!」

救父「最初から持ち合わせてないくせに、威張るんじゃないっ!」

救護員「じゃあ、どうすればいいのよー」

救父「失せろ! 二度と我が家に顔を見せるなっ」

救護員「なんっ……」


カッカッカッ……
791 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/15(月) 22:59:15.77 ID:fjpC19vCo
救護員「あああ、行っちゃった」

救母「行っちゃったわねー」

救護員「お、お母さん、止めてくれればよかったのに……」

商人「いや、いくらなんでもそれはないわ」


隊長(クズすぎじゃねぇか……)

工兵「……見ちゃいけないものを見ちゃったねぇ」

隊長「……救護員って、お父さんと仲が良くなかったのか?」

工兵「昔はね、とっとと結婚させたかったみたいだよ。町の誰かとか」

隊長「ふうん……」
792 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/15(月) 23:00:01.95 ID:fjpC19vCo
救母「でも、救護員、いったいどうなったのか、話してくれる?」

救護員「うーん、本当はこっちに来る予定じゃなかったの」

商人「あの……数日前からこっちには来ていたんですが」

救母「あら、そうなの」

救護員「私にもね、プライドはあったから」

商人「工兵さんの勤めてる工房で寝泊まりを……」

救母「まあ」

救護員「い、言わないでくださいよ!」

商人「ご家族に下手に隠しておいてもあまり意味が無いわよ」

救母「うふふ、そうね。まあ、甘やかすのも良くないけど、何もなしもかわいそうねぇ」

救護員「で、ですよねー」

救母「じゃあ、お父さんには一言いっておいてあげるわ」

救護員「やった!」

商人「すみません、いろいろ」
793 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/15(月) 23:01:40.49 ID:fjpC19vCo
商人「……はぁ〜」

救護員「ま、まあ、これはこれとして、お金を稼がないと」

商人「あんた、もうちょっと危機感を持ちなさい」

救護員「何を?」

商人「いいこと? あんたのご両親は、もうあからさまにあんたを見限っているわ」

救護員「そうかしら?」

商人「そ・う・な・の・よ!」

救護員「でも、お母さんは」

商人「ありゃ、あそこで食い下がられたら迷惑だからでしょうがっ!」

救護員「ええ〜? そうかなぁ」

商人「……とにかく、あの二人は例の工房の師匠とやらに挨拶するんでしょう。時間がかかると思うわ」

商人「その間に、なんにもなしじゃあ、笑われるにきまっているわ」


工兵「……どーする?」

隊長「もう少し、様子見てない?」

工兵「隊長も趣味が悪いねー」
794 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/15(月) 23:02:06.33 ID:fjpC19vCo
――市場。

商人「えーっと」キョロキョロ

救護員「市場まで案内させて、何を探しているの?」

商人「あんた達、何か手持ちで売れるものはないのよね」

救護員「そうですけどぉ」

商人「じゃあ、こうするしかないでしょ……あ、すみませ〜ん」

防具屋「……あん?」

商人「お兄さん、その鎧ってすごく高そうですねぇ」

防具屋「おお、分かってくれるか! もう、この町の連中はみんな見る目がなくって」

防具屋「この鎧の材質はかの高名な賢者が異世界から取り寄せた不思議な鉱物」

防具屋「軽くて、しかも硬い、竜の吐く火炎ですら防げるというな」

商人「へぇぇ、すごいですねぇ」

救護員「へぇ、本当にすごいんだぁ」

商人「そんなわけないでしょ」ヒソヒソ

救護員「うえっ!?」
795 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/15(月) 23:05:19.75 ID:fjpC19vCo
商人「そんな代物が、こんなアホっぽいやつの手に渡るわけないじゃない」ヒソヒソ

救護員「どういう理屈なんですかぁ?」ヒソヒソ

商人「この町は鉱山からも近く、工房も多いのよ。つまり、武具に関しては目利きが強いの」

救護員「……あーあーあー」

商人「まあ、魔法がかかってるのは確かみたいだけど」ヒソヒソ

防具屋「ど、どうしたんだ?」

商人「……いくらぐらい、するんですかぁ?」

防具屋「金10枚だ」

救護員「ぶふぉっ」

商人(ありえねーわ)

防具屋「そんぐらいの価値はあるぜぇ〜? この鎧はよぉ〜」

商人「……でもでもぉ、見る目がない人達だと、なかなか売れないですよねぇ」

防具屋「あ、ああ、そうだなぁ」
796 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/15(月) 23:05:52.94 ID:fjpC19vCo
商人「良かったらぁ、私達、売ってきましょうかぁ?」

防具屋「はぁ? お前らが?」

商人「私ぃ、こう見えてパパが商人だからぁ、こういうの得意でぇ」

防具屋「……」

救護員「あ、あ、私もぉ、こういう硬いのすっごい興味ありますぅ」

防具屋「はぁ?」

救護員「任せてくださいっすよー」

商人「ちょっと黙ってなさい」ぐいっ

救護員「きゃんっ」

商人「市場なのに、何も売るものがないからぁ、ちょっとパパに怒られちゃうって思ってぇ〜」

商人「お願い! 売れたら、一部は払いますし〜」

防具屋「うーむ」

商人「だめぇ?」もじっ
797 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/15(月) 23:06:19.22 ID:fjpC19vCo
防具屋「わ、分かった。そのかわり、売れなかったら、責任取れよ」

商人「ええ〜、どんな責任〜?」

防具屋「そりゃあ、もちろん、ぐへへ」

商人「やだぁ〜、お兄さんったらえっち〜」

救護員「えっち!」

防具屋「よーしよし。別につり銭はいらんな」

商人「大丈夫ですって」ガチャ

救護員「わ、わ、思ったより軽い」

商人「じゃあ、行ってきますねぇ〜」

防具屋「おう、悪い奴に騙されんなよ!」

商人(どの口が言うんだか)

救護員「いってきまぁす」
798 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/15(月) 23:06:46.29 ID:fjpC19vCo
救護員「……で、で、どうするんですかっ」

商人「そりゃ売るしかないでしょ」

救護員「でも、金貨10枚なんて無理もいいところですよ」

商人「もちろん、普通ならね」

救護員「はぁ?」

商人「あんたさ、私は冒険者である前に、商売人なわけ」

商人「いくら、その……ピンチの時に慌てふためいたとは言え、そこまで馬鹿にされたら怒るわよ」

救護員「怒ったらどうするってんですか」

商人「売春させる」

救護員「す、するわけないでしょー!?」

商人「しなくてもね、遠くで客を捕まえて『あの子、頭とお股が緩いんです』っつって金だけ貰ってトンズラとかさ、いくらでも方法はあるわけ」

救護員「ささ、さいってい!」

商人「だから、方法はあるけど、しないわ。隊長さんには助けてもらったし」

救護員「むー」
799 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/15(月) 23:07:21.07 ID:fjpC19vCo
商人「えーっと」キョロキョロ

救護員「今度は、誰を探しているんですか?」

商人「冒険者の一団」

救護員「あそこら辺で、物色してる人たちとかは……」

商人「よし、行くわよ」

救護員「あ、ちょっと!」

商人「すみませ〜ん!」

冒険者「……ん?」

商人「ちょっといいですかぁ」

冒険者「なんだ、子どもじゃないか」

商人「えへへっ、良かったら、この鎧を買ってほしいなって」

冒険者「悪いが、鎧なんか興味は……」

商人「お願いしますぅ、これを売らないと、お兄ちゃんに殴られたりしちゃうの」

冒険者「そ、そんなこと言われてもな……」
800 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/15(月) 23:07:48.42 ID:fjpC19vCo
商人「それだけじゃなくって、か、体に、ひ、ひ、ひどいこととか」

冒険者「なんだって!」

商人「私を助けると思って、お話だけでも……」

冒険者「む、むう。お兄さんに怒られてしまうものな」

商人「そうなの……でも、冒険者さんにも悪くない話だと思うの」

冒険者「ふうん?」

商人「あのね、この鎧、金貨100枚」

冒険者「ひゃ……!」

救護員「百枚っ!?」

商人「そうなのぉ〜」(余計なリアクションすんなっ)


商人は、見えない位置で救護員の足を踏みつけた!


救護員「ひにゃぁっ」

冒険者「そ、そんな金額はさすがに出せないなぁ」
801 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/15(月) 23:08:17.69 ID:fjpC19vCo
商人「でもねっ、この鎧、ほら、ここのところ、見て?」

冒険者「ん? 何かマークが、あるな……」

商人「これ、勇者一行の賢者が作った鎧、なの。このマークは、そのあかし」

冒険者「へぇ〜?」

商人「それでね? お兄ちゃんは、この鎧を見つけたところに、もっと勇者達の遺物があるだろうって言ってるの」

冒険者「ふうん?」

商人「ただ、腕っ節のある人がいないから、どうしようかなぁって」

冒険者「なるほど」

商人「一緒についてきてくれること込みでなら、金貨50枚ではどうかなって」

冒険者「ふーむ」

救護員「……ちょっと」

商人「何よ」

救護員「嘘じゃないですか」ヒソヒソ

商人「ホントにすればいいのよ」ヒソヒソ
802 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/15(月) 23:08:44.19 ID:fjpC19vCo
冒険者「もし、勇者達の遺物があるとなれば、金貨100枚どころの騒ぎじゃないしなぁ」

商人「本当よぉ、この鎧もね、ほら、竜の火炎にも負けないって言われているし」ガンガン

冒険者「なるほどなぁ」

商人「ねぇ、どうかしら?」

冒険者「しかしその、それは確かなのかい?」

商人「まず、間違いないわぁ」

商人「お兄ちゃんが持ってきたから、詳しくはお兄ちゃんに聞かないとだけど」

冒険者「……」ジロジロ

商人「おねがぁい」

冒険者「ちょっと、その鎧、貸してくれ」

商人「ええ、はい」


冒険者は剣を抜くと、鎧を斬りつけた!


救護員「ああっ!?」
803 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/15(月) 23:09:10.40 ID:fjpC19vCo
冒険者「……なるほど。賢者が作ったかはともかく、傷もついてない」

冒険者「魔法か何かがかかっているということだな」

商人「……」

救護員「……うそぉ」

商人「信じてもらえましたァ?」

冒険者「ああ、じゃ、お兄さんのところへ」

商人「あ、まだ、別のところでお仕事してるからぁ、後で宿屋に行かせますから」

冒険者「そうかい、じゃ、市場の南西の方な」

商人「あぁ、それと、先にお代を……」

冒険者「あ、うーん、どうしようかな」

商人「いま、お手持ちはいくらです?」

冒険者「金貨20枚だ」

商人「そしたらぁ、15枚だけ頂いて、残りはお兄ちゃんに相談するように言っておきますから」

冒険者「……すまないな。ほら」チャリンッ

商人「まいどあり〜」
804 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/15(月) 23:09:40.24 ID:fjpC19vCo
商人「それじゃあ、また後で〜」

冒険者「ああ、じゃあな」

商人「……」フリフリ

救護員「……」

商人「……さ、行くわよ」

救護員「ええーっ!?」

商人「何を驚いているのよ?」

救護員「い、一連の流れが、どうしてそうなったのか、さっぱりわかりませんけどっ!」

商人「……あんたには一生無理ね」

救護員「だ、大体、鎧を斬らせるなんて……」

商人「魔法がかかってたのは見て取れたし、万一本当に壊しやがったら、弁償しろって泣きつけたし」

救護員「うわぁ……」


隊長「……」

工兵「恐ろしいことやってのけたね」

隊長「だねぇ」
805 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/15(月) 23:10:07.34 ID:fjpC19vCo
商人「……というわけで、売って来ましたぁ」

防具屋「ま、まじかよ! 早すぎだろ!」

商人「お兄さん、それじゃあね、金貨1枚」

防具屋「……おいおい」

商人「だってぇ、私達、頑張って売って来たんだしぃ」

防具屋「そりゃそうだが……せめて半分は貰わないと」

商人「ええー? パパに、怒られちゃう」

防具屋「むむむ……」

商人「お、ね、が、い?」

防具屋「し、仕方ないな。3枚だ、3枚で、どうだ!」

救護員「あー」

商人「黙って」ギュムッ

救護員「ひだいっ!?」

商人「……分かったわぁ。7枚なら、パパも許してくれると思うしぃ」
806 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/15(月) 23:10:46.21 ID:fjpC19vCo
商人「ありがとねぇ」

防具屋「……う、うむ」

商人「あとねぇ、パパの友達が、市場の南西の宿屋に、後で来てくれって」

防具屋「ほう? そりゃどういった?」

商人「若いのに、なかなかやるみたいだから、一緒に冒険で探索をしないかってぇ」

防具屋「そ、そうだな。戦える人がいれば安心だし」

商人「んじゃ、夜になってからって言ってたから、よろしくねぇ」

救護員「よろしくお願いしますぅ」

防具屋「はっはっは。任せておけ」

商人「チョロッ」ヒソ

救護員「うん」ヒソ
807 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/15(月) 23:11:27.01 ID:fjpC19vCo
――集合場所、酒場。

商人「……というわけよ」

救護員「ふわー」

商人「ま、これで12枚なら、そこそこのものは買えるでしょう」

救護員「ただのヘタレじゃなかったんですね」

商人「……」

救護員「ど、どうやら、あなたの実力を、み、見くびっていたようね、これからはお互いをライバルとして」

商人「やかましいわっ」ビシッ

救護員「あうっ」

隊長「……喧嘩してるのかい」

救護員「あ、隊長!」

隊長「やあ」

工兵「おまたせ」

商人「……ふん」
808 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/15(月) 23:11:54.16 ID:fjpC19vCo
隊長「いやあ、見てたよ」

救護員「へ、何を?」

工兵「救護員が家を追い出されたり、商人が奮闘しているところとかかな」

商人「ちょっと、待ちなさい!」

隊長「どうしたの?」

商人「そ、それって全部じゃない!」

隊長「商人も、あんな風にかわいい声が出せるんだね」

商人「うわーっ、何なのよ、あんたのところの隊長はー!」

工兵「割りと陰湿かな」

救護員「た、隊長、追い出されたのは、あの、その」

隊長「ちゃんとご両親にはごめんなさいしないとね」

救護員「いやああああああっ!」
809 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/15(月) 23:12:27.91 ID:fjpC19vCo
今夜はここまで。

サクサク話を進めていきたい。
810 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2012/10/16(火) 03:25:16.29 ID:BRDv22IAO


家庭訪問回かと思ったら追い出されてたでござる
811 : ◆k.6bdeNTfg [saga ]:2012/10/18(木) 23:39:33.68 ID:XTS1z/sio
隊長「まあ、それはそれとして」

救護員「うう……簡単に片付けられたぁ」

商人「なんでこう、隊長連中ってのは」ブツブツ

隊長「お金の方は、少しばかり手に入ったみたいだけど」

商人「感謝してほしいわ」

隊長「ありがとう。で、こっちは、新聞」バサッ

商人(普通にお礼を言われちゃった)

隊長「工兵の師匠から、竜についても少し話が聞けたんだが――」

工兵「そうだねぇ」

隊長「まあ、下手に相手にはできない、ということがひとつ」

隊長「もうひとつは、この間、この町の周辺でも何度か目撃されていたってことだ」

商人「目撃? 本当?」

工兵「へぇえ、それであまり話題になってないのかなぁ?」
812 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/18(木) 23:40:01.49 ID:XTS1z/sio
商人「……思ったんだけど、竜が、その、町で暴れてるとかじゃないのよね」

商人「だとしたら、学園側からの情報がメインってことでしょう」

隊長「うん、そうだね」

商人「つまり、その、あんたと合同していた隊が学園に帰ってから、事態が分かるわけよね」

商人「そこに、タイムラグがあってもおかしくないんじゃないの」

隊長「うん……結局、竜を突いたけど、相手はまだ大々的には行動してないってことだ」

隊長「そうなると、あまり話題になってないのも無理はない」

救護員「あー、そりゃそうですよね〜」

隊長(お前はちゃんと分かってるのか?)

隊長「……ただ、そうだとすると、この新聞記事はかえっておかしいんだ」

工兵「うん?」

隊長「今日付けの新聞だ。ひと通り、見てもらってもいいかい」

商人「どれどれ……」
813 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/18(木) 23:40:40.31 ID:XTS1z/sio
――『帝国、ついに軍隊の結成』

――『共和国、軍隊へ懸念』

――『王国の王女に恋人発覚!?』

――『竜の生き残りか、冒険者の卵が犠牲に』

――『新世代の討竜戦隊、学園一番隊が出撃』


商人「……なにこれ」

救護員「へー、王女様って恋人いたんだ〜」

工兵「そこじゃないでしょ、そこじゃ」

商人「……十数の竜が発見されて、学園の生徒が行方不明に」

商人「そこへ、プロの冒険者と一緒に一番隊が。五人のプロフィールまで出てるわ」

隊長「すげぇプッシュだろ」
814 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/18(木) 23:41:13.01 ID:XTS1z/sio
商人「……こっちは早すぎるわね」

隊長「そうだ。えーっと、あの夜から、六日経った。仮に七番隊が帰着したのが、一昼夜歩いたとして……」

工兵「四日前かなぁ」

隊長「四日前としよう。それで、俺らの報告はともかく、一番隊が出撃?」

隊長「その彼らを紹介……新聞の出稿を考えると、帰着してほとんどすぐに記事の情報を流しているって計算だ」

隊長「ここから川をぐるっと回って移動すると、大体徒歩なら三日はかかる」

救護員「……うん、はい。はやい、ですね」プシュー

商人「大丈夫なの、この子」

隊長「……救護員。学園は川の反対側にあるだろ?」

救護員「は、はい」

隊長「竜にやられて、学園へ帰ってくる。その日の内に、一番隊が出撃っていう記事を書かないとここまで届かないよね」

救護員「おおー、結構遠いですもんね」

隊長(……めんどくせぇ)
815 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/18(木) 23:41:45.70 ID:XTS1z/sio

商人「でも、それってどういうことなの?」

商人「もしかして、あらかじめ、知ってたってこと?」

隊長「……」

工兵「よく分かんないんだけどさ、すげー不愉快な感じだよね」

工兵「なんかこの記事だと、僕ら死んでることになってるぽいし」

救護員「へええ、不思議な感じですね」

隊長「……学園が何を考えているのか、正直、よく分からない」

隊長「どうする、商人? 報告書、速達で馬を飛ばしてもいいかなって思ってたけど」

商人「……控えたほうがいいんじゃないの」

隊長「やっぱりそう思うか」

隊長(剣士や術士のこともあるし、合流はしたいんだが……)

救護員「あ、あの〜」

工兵「どうしたの?」
816 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/18(木) 23:42:11.53 ID:XTS1z/sio
救護員「隊長、その、こないだ試験をやったばっかりで何何ですけどねぇ」

隊長「なにかな?」

救護員「一面に載ってる、この、帝国が軍隊をーってあるでしょ?」

隊長「ああ、そのことか。こないだ人事部の人が来てたけど、そこでも聞いたんだ」

隊長「要するに、今は冒険者頼みだったけど、今後は自前の軍事組織を……」

救護員「じゃ、じゃなくて、この帝国とか共和国? ってどういう国なのかなーって」

隊長「あ?」

商人「え……」

工兵「それ、試験で出たよね」

救護員「ちちちちょっとど忘れしただけなんですけどっ!」

隊長「……」

救護員「ほほほほら、復習もしないとですよねっていう!」

隊長「じゃあ、とりあえず、回答してみて」

救護員「うあっ」
817 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/18(木) 23:42:37.80 ID:XTS1z/sio
商人「まさか外はアホ面、中は真性のアホだと……」

救護員「うるさいっ! あんたには言われたくないですー」

隊長「確かに無知で少しおかしいけど、そんなにアホじゃないよ」

救護員「隊長ーっ!?」

工兵「あはは」

隊長「いいところもあるんだ」

商人「どこよ、言ってみなさいよ」

隊長「体力があるところと、空気が読めないところかな」

救護員「それって褒めてますか!? 褒めてないですよね!?」

商人「空気が読めないのが何がいいの」

隊長「うーん、ウチは内向的な性格の人が多いからねー。ぶち壊してくれる人がいるってのはありがたいんだー」

工兵「隊長も根暗だしなぁ」

商人「へぇ。そう。」

救護員「うわーんっ、なんか辱められたぁーっ」
818 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/18(木) 23:43:07.12 ID:XTS1z/sio
隊長「……じゃあね。カードはないから、ステップ式に説明するね」

救護員「しくしく」

隊長「いいかな?」

工兵「あ、その間に、料理を注文してもいい?」

商人「私も」

隊長「じゃあ、俺達の分もよろしく」

工兵「おっけ」

隊長「……簡単に言うと、帝国とか共和国っていうのは、国を誰が運営しているのかって意味なんだよ」

救護員「運営……ふむふむ」

隊長「帝国なら、皇帝が。王国なら、王様が。共和国なら、共にだから、大勢の人が」

救護員「はい! 皇帝とか、王様の違いってなんですか?」

隊長「旧大国、昔の大きい国で一番偉い人が皇帝だったんだ。で、その皇帝に任命されたのが王様」

救護員「えーっと、皇帝が一番えらいってことですか?」

隊長「今は国が分裂しちゃったから、当時の名残ってだけだと思うね」

救護員「……えーっと」
819 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/18(木) 23:44:11.04 ID:XTS1z/sio
隊長「『昔は、俺は偉かったんだぜ〜』って言っているのが今の皇帝」

救護員「じゃあ、王様は?」

隊長「『今は別の国なんだから偉ぶってんじゃねぇ』って言ってる」

救護員「はぁ、仲が悪いんですね」

隊長「そういうこと。それだけじゃなくて、帝国は自前の軍隊を持ちたいわけだ」

隊長「旧大国の時、軍隊の指揮権を持っていたのは皇帝だったから」

商人「帝国は商売がやりにくいのよね〜」

隊長「冒険者も商人もなんだかんだで移動が激しいし、金はかかるしで良いことないからね、自前がいいって思うんだろう」

救護員「わ、私達が、ダメ、みたいな?」

隊長「ダメって言うより、商売も自分たちのところで住んでる人でやるし、冒険者任せにしないで国を作ろうって言ってるんだ」

隊長「きちんとした軍隊を持っていても、竜には勝てなかった。だけど、もう竜はいない」

隊長「……勇者が、冒険者が活躍する時代は終わったんだ、ということでね」

工兵「復活してんじゃん」

救護員「そうですよ!」
820 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/18(木) 23:44:41.13 ID:XTS1z/sio
隊長「そりゃ、まあね。でも、実際に竜が脅威になってるわけでもないし……」

隊長「他の国でも冒険者に対する目は厳しくなってきている」

工兵「そうなの?」

隊長「そうだよ。冒険者は儲からなければすぐ盗賊化するし」

隊長「仕事だから、その国がどうなっても知ったこっちゃない」

隊長「もちろん、元冒険者として国のお抱えにする手もあるけど、下手をすればあっちこっちの機密を握られる可能性だってある」

商人「……ああ、なるほどね。それで学校に行くとき、商隊の他のやつらも止めたわけだ」

隊長「ふーん、商人の間でも、なんかあったんだ?」

商人「そりゃもちろんよ」

救護員「冒険者って、なんか……」

隊長「先のない商売ではあるよね」

工兵「まあ、誰でも彼でもなるものではないよねぇ」

隊長「工兵とか、商人なら、冒険者の技術を身に着けても、別の面で食っていけるだろうけど」

救護員「わ、私……」
821 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/18(木) 23:45:10.40 ID:XTS1z/sio
隊長「救護員は、どうするの……?」

救護員「お、あ、そ、そりゃ! お嫁さん、とか?」

商人「いくらなんでも……」

工兵「金ドブもいいところだよ……」

隊長「それって冒険者関係無いよね」

救護員「だって! 別に冒険者になりたいわけじゃなかったですし……」

隊長(工兵を追ってきただけだもんな……)

商人「思いつきで進路を選択すると、こうなるわけよ」

工兵「なるほどねぇ。僕も、師匠に言われたから来たけど、考えなしだったのかもねぇ」

救護員「うわ〜ん、隊長ぉ」

隊長「……分かった分かった。進路相談してやるから」

商人「大変ね、隊長って」

隊長(報われる気がしない……)
822 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/18(木) 23:45:42.17 ID:XTS1z/sio
――食後。

隊長「というわけで、だ」

救護員「くはー」

工兵「結構、食べたね。隊長も」

隊長「ん?」

商人「……病み上がりが山盛り二杯も食うってちょっと」

隊長「いつまでも足手まといは嫌だからな。で、午後と、今後の行動についてなんだけど」

商人「いずれにせよ、早く帰ったほうがいい気がする」

隊長「俺もそう思う。馬の方が早いと思うけど」

救護員「馬なら、実家が結構持ってますよ!」

工兵「ああ、そういえば、実家が流通業、だったね」

救護員「そう!」

隊長「さっき追い出された」

救護員「そう……見てたんですよね……」
823 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/18(木) 23:46:08.74 ID:XTS1z/sio
隊長「もし、その、家族ってことで格安で準備してもらえるならすごく嬉しいけど……」

救護員「いやあ、無理なんじゃないですかねぇ」

隊長「……ま、一度、挨拶はしないといけないとは思ってたから」

救護員「い、行くんですか!?」

隊長「どの道、午後は救護員と行動する予定だったし、ちょうどいいじゃん」

救護員「ど、どうでしょう……」

商人「あんた、さっきの様子を見てたんでしょ」

隊長「ああ」

商人「……ひっくり返せる公算はあるの?」

隊長「ないな。情報が足りないんだもん」

工兵「しょうがないさ。だけど、そっちを当たってみるのは悪くないと思うな」

隊長「ま、馬を取るのだけが目的ってわけでもないし」

商人「はぁー……」

隊長「どうかした?」
824 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/18(木) 23:46:34.57 ID:XTS1z/sio
商人「……ん、ウチの隊長は、よく分からないことばかり言って、有無を言わせなかったけど」

商人「あんたはあんたで頑固よね」

隊長「そう、かな?」

工兵「ああ、なんだかんだで、隊長は自分の意を通そうとするもんね」

商人「物腰は丁寧だけど、腹は真っ黒って感じ?」

隊長「腹が黒いのは商人の方じゃないの?」

商人「……ぷっ」

隊長(笑うな)

商人「まあ、あんたがそういうなら、私はもう少し情報収集するわ」

商人「さっきの市場では、小銭を稼いだ程度だし」

工兵「じゃあ、僕がついてくよ」

商人「よろしく」

隊長「ああ、頼む」

救護員「ああ、お父さん、怒ると長引くんだよなぁ……」
825 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/18(木) 23:47:00.96 ID:XTS1z/sio

――救護員宅。

救護員「ど、どうぞ」

隊長「お邪魔します」

救母「あらあら、どうぞ。いらっしゃいました」

隊長「いつも救護員にお世話になっています」

救母「迷惑になっています、の間違いじゃなくて?」

救護員「もう、お母さん、隊長の前でまで、そういうこと言わないで」

救母「あら、ごめんなさい。お母さん、ちゃんと知ってもらいたくて」

救護員「なんなの〜?」

隊長(また、クセの有りそうな母親だな……)

救母「……何か?」

隊長「あ、いえ、随分お若いんですね」

救母「ええ、かなり早くに嫁いできましたので」

救護員「隊長! 年上趣味だからって、お母さんを口説かないでくださいよ!」

救母「あらあら」

隊長(ふざけんな)
826 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/18(木) 23:47:41.21 ID:XTS1z/sio
救護員「お父さん、出かけちゃった?」

救母「ええ、けど、少ししたら戻ってくるでしょうから」

救護員「うう……」

隊長「すみません、いろいろと」

救母「遠慮なさらず、応接室にどうぞ」

隊長「よろしくお願いします」ニコッ

救護員「うーわ」

隊長(お前、ここでその反応はねぇだろ)

救母「お茶いれてくるわね〜」

隊長「あ、お気遣いなく……行っちゃったか」

救護員「そんなん、やらなくてもいいのに」

隊長「救護員はやりたい放題だね」

救護員「ど、どうしてですか?」
827 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/18(木) 23:48:13.23 ID:XTS1z/sio
救護員「……それでね、竜がね、ぐわーっと」

救母「その話はもう聞いたわ〜」

救護員「だから、そこで、隊長がビシィッと『爆雷管作動!』ってやって、もう、竜も私達も吹っ飛んじゃったわけよ!」

救護員「まあ、その拍子に私も背骨をぼきっとやっちゃったんだけどね!」

隊長(良く生きてたな……)

救母「それは大変だったわね〜、隊長さん?」

隊長「無我夢中でしたから」

救母「……」

隊長「すみません、お嬢さんを危険に晒してしまって」

救母「そりゃあ、そういう仕事なんだもの〜」

救護員「お母さんも、あまり隊長を突っつかないの!」

隊長「いや、けど」

救護員「もう〜、隊長は自己評価低すぎなの! 私は、隊長を信頼してますから」
828 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/18(木) 23:48:39.63 ID:XTS1z/sio
救母「けどね、一歩間違えれば命を失ってたのは確かでしょ?」

救護員「そりゃそうかもしれないけど」

救母「あなたじゃなくて、隊長さんに聞いてるのよ?」

隊長「命の危険は、確かにありました。でも、やらなくちゃいけないことだとは、思っていましたので」

救母「それはあなたの考えだけど、パーティーはあなただけの問題じゃないでしょう」

隊長「……」

救護員「おかあさん!」

救母「まあまあ」

隊長「……正直に言うと、本当は、自分の判断が間違っていたんじゃないか、と思った瞬間もありました」

救母「ふうん」

救護員「た、隊長……」

隊長「けど、最善を選びました。結果的に、私も重症を負いましたが、命までは失いませんでした」

救母「……」
829 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/18(木) 23:49:05.64 ID:XTS1z/sio
隊長「だから、その、認めてほしい、というわけではなく……」

救護員「た、隊長は、頑張ってるのよ」

救父「……努力がすべて実るものとは限らん」

救母「あら、あなた」

救護員「お、お父さん」

隊長「あ、おじゃましてます」

救父「うむ。ええと……」

救母「救護員の、学園でのお友達よ」

救護員「学園戦隊の隊長なの!」

救父「……? ああ、冒険者のパーティーのことか」

隊長「すみません、こちらに寄ったので、ぜひ挨拶をと」

救父「ふん! 出て行けと行った奴は懲りずに戻ってくるし」

救護員「な、なによ!」
830 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/18(木) 23:49:31.78 ID:XTS1z/sio
救父「大体、私は学園なんぞ最初から反対していたんだ!」

隊長「はぁ……」

救父「君も、大方、学卒資格が欲しくて入ったんだろうが、どうせ冒険者なんか廃れる仕事だ!」

救父「伝説を夢見るのは結構だが、まじめに働いた方がいいんじゃないのか」

救護員「な、なによ、そんな勝手に……」

隊長「おっしゃるとおりです」

救護員「た、隊長!?」

隊長「自分は夢見てではなく、なんとか家から出たくて学園に入りましたので」

救父「……なんだ、それは」

隊長「ええと、まあ、あまり仕事口のあるところではありませんでしたから、親に迷惑を掛けたくなくて、ですね」

救父「冒険者になる方がよっぽど迷惑だろうが!」

救護員「な、何言ってるのよ!」
831 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/18(木) 23:50:10.50 ID:XTS1z/sio
救護員「何が迷惑だっていうの!」

救父「現にここに来たのは、金をせびりに来たんじゃないのか、だったら今も迷惑をかけている真っ最中ではないか!」

隊長(まったく、そのとおりだわ)

救父「冒険者はクズだ! 勝手に運送の仕事を始めるわ、役所に正規の手続きは取らないわ!」

救父「特務機関だって斡旋業者みたいなもので、悪質な連中を取締もしない!」

救父「おまけに盗賊に崩れる連中も多い!」

救父「実害を被っているんだよ、私は!」

救護員「だっ……!」

隊長「よく分かります。連中、金でしか動きませんからね」

救護員「隊長!?」

救父「そ、そうだろう」
832 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/18(木) 23:50:50.37 ID:XTS1z/sio
救父「今後の見通しを見て見給え、帝国は軍隊を持つし、王国も財政状況が安定してきた」

救父「いずれ、冒険者は切り捨てられて、仕事を失う」

救父「そうなったら、どうなる、総崩れで犯罪者になるに決まっとる!」

隊長「間違いないでしょうな」

救父「……いや、だから、君もそれを目指しているんじゃないのかっ?」

隊長「私の姉は、卒業して王国に就職しておりますし、必ずしも冒険者になっているわけではありません」

隊長「学園の生徒の大半は、地元に帰ったり、移動の激しい職業などに就いたりしています」

隊長「冒険者の学園が、冒険者のみを生み出しているわけではないですし」

救父「あー……そうか」

救母「うふふ。あなたの負けですわね」

救父「ま、負けとかそういうのではない!」
833 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/18(木) 23:51:20.39 ID:XTS1z/sio
救母「まあまあ、帰ってきてすぐに、そんなに怒鳴ったら、喉がかわいたでしょう」

救母「お茶を持ってきますわ」

救父「う、うむ」

救母「救護員、あなたも手伝いなさい」

救護員「えええ?」

救母「こういう時は、そういうことが必要なの」

救護員「……お、お父さん」

救父「行け。私は、彼に話がある」

救護員「それはいいわよ。けど、隊長は、昨日まで、重症で、寝ていたの!」

救護員「分かる? いじめないでね!」

救父「うるさい! 早く行け!」

隊長(……父親似っぽいのかな)
834 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/18(木) 23:51:47.03 ID:XTS1z/sio
救父「……救護員から、自慢話のように聞かされた」

隊長「何を、ですか」

救父「君たちが竜にあって、命からがら脱出したという話だ」

隊長「……はい」

救父「私に言わせればな、そんな話は引き受けるべきではなかった」

救父「リスク回避というやつだ。竜はいまや絶滅しているとも思われている種だが、危険は危険だ」

隊長「仕事でしたので」

救父「仕事? ふん! 一人前になったつもりかっ」

隊長「学園では、実際の冒険者のパーティーのように戦隊を結成して、実際に依頼を受けて行動する実習をやっているんです」

救父「そんなままごとみたいなものは無意味だ! 素人が寄り集まっても素人の考えしか出ない」

救父「本来は、プロの近くで仕事ぶりを盗み見ながら、少しずつ経験を積むべきではないか」

隊長(ほう……そういう考えもあるのか)
835 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/18(木) 23:52:57.70 ID:XTS1z/sio
救父「プロであれば、間違いは犯すまい。あるいは、限りなく少ないだろう」

救父「そんなことも分からずに、子どもに武器を持たせるような学園など、推して知るべしだな」

隊長「もちろん、そういう考えも理解できます」

隊長「しかし、実際のところ、竜に対しては誰かが切り込む必要はあったのでは?」

救父「……なぜだね」

隊長「この町に住んでいる人でも、何人か目撃していますし、下手をすれば近づいているとも考えられます」

救父「そのために、真っ先の犠牲になったのは、君たちのような子どもだぞ!」

隊長(うるさい親父だ。子ども扱いするのがうぜぇ)

隊長「……一応、言っておきますが、川上の谷に生息している竜は十数匹以上、いますよ」

隊長「もっと繁殖しているとしたら、人類の脅威になると思います」

救父「大規模に襲われるよりはマシだった、とでも言いたいのか? ふん!」

救父「竜退治が流行るようになれば、また冒険者達の時代になるものだからな」

救父「そうすれば、そう、君も仕事に困らないだろう」

隊長「はぁ……」

隊長(……冒険者たちの、時代、ねぇ)
836 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/18(木) 23:53:28.42 ID:XTS1z/sio
救父「君にとっちゃ、竜が世界を闊歩している時代の方が嬉しいのかもしれん」

救父「だがな、そんな迷惑ごとを冒険者に任せておけるわけがない」

隊長「勇者でもなければ、そうそう太刀打ち出来る人はいないと思いますし……」

救父「あんなものは伝説だ。本当に竜の情報を信じるなら、それを相手取った勇者は化物でもなきゃおかしい」

隊長(化物かもしれんがなぁ)

救父「とにかく! 娘を連れ出すのはやめてほしい」

救父「この際、学園からも引き戻すべきだ!」

隊長「……」

救父「な、何か、言ったらどうだ」

隊長「先程は、お家を追い出されたのですよね?」

救父「……そんなのは、くだらん揚げ足取りだ。冒険者の将来など、目に見えている!」

隊長「そうですか」

救父「そ、そうですかって貴様」

救母「はいはい、お茶が入りましたよ」
837 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/18(木) 23:53:54.93 ID:XTS1z/sio

隊長「あ、ありがとうございます」

救母「まあまあ、白熱しているわね」

救護員「はい、お菓子ですよ〜」

隊長「おお。救護員は得意だもんね」

救護員「へへへ」

救父「……ちっ」ヒョイ、パク ズー

救護員「ちょっと、いただきますもなしに!」


隊長(冒険者の将来、ね……)

隊長(俺は村に、帰るつもりだったが、他の連中は……)

隊長(まさか、あのメンバーでパーティーを組むわけにもいくまい)

隊長(救護員も……)

隊長「あの」

救父「んぐ、んぐ。なんだね」

隊長(あっという間にお菓子平らげたぞ。このおっさん)
838 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/18(木) 23:54:26.84 ID:XTS1z/sio
隊長「……自分では、その、卒業後もずっと冒険者を続けるつもりはないです」

隊長「ただ、他のメンバーのことは、あまり、聞いたことはありませんでした」

隊長「どこへ出しても通用するようには、高め合っている、つもりですが」

救護員「……そ、そうですよ! ほら、こないだの中間試験!」

救護員「万年追試追試アンド追試の私が、一発合格ですよ!?」

救護員「こりゃもう、隊長の教え方が」

救父「うるさいから黙っておれ」

救護員「なによぅ!」

隊長「とにかく、私は救護員に……助けられてきました。救護員は大切な仲間です」

隊長「同じ隊の隊長として、できる限り、責任を持ちます」

隊長「出来れば、今後もよろしく、お願いします」


隊長は深々と頭を下げた。
839 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/18(木) 23:54:52.80 ID:XTS1z/sio
救護員「た、隊長……」

救父「き、君、いやその」

救母「あなた」

救父「うっ、なんだ」

救母「若い人を怒鳴りたいだけなら、もう良いでしょう」

救父「いや、その、しかしだな……」

救母「あなたはどうなさりたいの? こんな危険なことはやめろ、と?」

救父「……」

救母「言えないわね。若い頃は竜なんか目じゃないくらい、もっと無茶したものね〜」

隊長(どんだけだよ)

救母「あまつさえ、私を命の危険に晒したわよね〜」

救父「そ、それは、この場では関係無いだろう! いや、むしろ、大切ならもっと守るべきではないか!」
840 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/18(木) 23:55:20.54 ID:XTS1z/sio
救父「頭を下げれば、解決するものではないんだぞ!」

救母「ふうん?」

救父「そ、そうだ。娘の命がかかっていたんだ」

救父「できる限りも何も、さんざん危険に晒しておいて、責任も何もあるか」

救父「無責任だよ、君は」

救母「あなた」

隊長「……」

救母「ねえ」

救父「……そ、そうだな」

隊長「……すみません」


救護員「――もう、いいですよ。隊長」
841 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/18(木) 23:55:46.33 ID:XTS1z/sio
救父「な、何を言ってるんだ!」

救護員「……隊長は何も、悪くないです」

救護員「お父さん、私がやめれば気が済むなら、私、学園をやめます」

隊長「えっ」

救父「は?」

救護員「そう、その。今、私達、困っているから。馬が欲しいし、旅費も必要なの」

救護員「でも、私達がやったことが、気に食わないんでしょ」

救父「き、気に食わないとか、そういうことではない!」

救護員「私たちは、自分なりに正しいことを選んできたもん。それに、隊長は……」

隊長「え?」

救護員「隊長は、最後まで諦めなかったよ。竜に囲まれても、最後まで指示を飛ばしたし」

救護員「川に流されて、ボロボロになっても、ちゃんと、ちゃんと私を引き連れて……」

救護員「隊長は、隊長は無責任なんかじゃ……」ポロポロ
842 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/18(木) 23:56:13.12 ID:XTS1z/sio
救護員「……お願いします。私、何を諦めてもいい」

救護員「隊長に援助してあげてください」

隊長「救護員? ほら、泣かないで」

救護員「な、泣いてないです」グスッ

救父「……」

救母「あらあら……」

救護員「お願いします……もう、ちゃんと言うことを聞きます……」グスグス

救護員「これで、ワガママは最後にしますから……」ボロボロ

隊長「そ、そういうことじゃないんだよ」

隊長「気に食わないとかそういうんじゃなくて、心配だからとか」

救父「……」

救母「はい」パン
843 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/18(木) 23:56:40.06 ID:XTS1z/sio
救母「はい、この話はおしまいにしましょう」

隊長「えっと……」

救母「救護員、顔を洗ってらっしゃい。泣いてちゃ、せっかくの美人が台無しよ」

救護員「う、うん……」テッテッ

救母「あなた、隊長さんに謝りなさい。さすがに、言い過ぎよ」

救父「う、うむ……すまなかった」

救母「よろしい。あとは隊長さん、この人を許してやってあげて」

隊長「ゆ、許すも何も、気にしてません」

隊長(……ウザかったけどな)

救母「ん、じゃあ、いいわね」

救母「そうしたら、あなた、援助はしてあげるの、しないの?」

救父「……してやってもよい」

救母「するんですって。なら、どのくらい必要なのかは、また後ででいいわね」

二人『はい……』
844 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/18(木) 23:57:41.99 ID:XTS1z/sio
今夜は、ここまで。

概ね、考えてきた方向には進んでいるかもしれませんぬ。
845 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/19(金) 00:16:16.22 ID:3caVlelYo
乙!
いやぁツンデレは強敵でしたね・・・
846 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/10/19(金) 12:44:34.66 ID:U8HYIhnG0
頑固親父や頑固ジジイは実際にいたらウザイだろうけど若者の乗り越えるべき壁として描かれたのを見るのは結構好き
この親父がどうかはようわからんけど
847 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/20(土) 19:44:33.73 ID:SHWbPXzDO




これ、親父さん勘違いしてそうな気が…
848 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/10/20(土) 21:58:12.37 ID:EwhP97DDo
救父「……では、馬車でいいだろう。御者を一人つけるから、学園に戻ったら帰らせろ」

隊長「すみません、そこまで」

救父「別に、いい。私も十分自覚している」

救母「救護員に甘いのよね」

救父「ああ、そうだよ! あれでも一人娘だからな、かわいくて手放したくない」

隊長(そりゃかわいそうに)

救父「だからこそ、冒険者なんていうヤクザな商売はやらせたくないのだ」

隊長「まっとうな商売ではないことは確かですが」

救父「そうだろう! まともな親なら、そんなのを養成する学校に送りたいわけがない」

隊長「はぁ……」

救父「君のご両親もそう思っとるに違いない」

隊長(……いねーんだよ、もう)

救母「……それはご家庭ごとにいろいろ意見があるでしょ?」

救父「む? いや、だからな」
849 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/10/20(土) 21:58:38.20 ID:EwhP97DDo
救父「まあ、いい。娘が……あの子がああして、他人のために泣く姿なんか、見たくなかった」

隊長「……すみません」

救母「別に、あなたのせいじゃありませんよ」

救父「あー、寂しい。あーやっていつかどこかへ嫁いでいくんだ」

救父「待てよ。まさか、貴様……」

隊長「何か勘違いされてるようですが、彼女にとっちゃあ私は対象外ですよ」

救母「そうかしら?」

隊長「そうですよ。いつも言ってますから、チビだし顔も好みじゃないって」

救父「……まあ、それならいい」

救母「うふふ」

救父「とにかく、私は冒険者は嫌いだ」

救父「君もどうやら、その辺は多少冷静に見ているようだが……」

隊長「そうですねぇ」
850 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/10/20(土) 21:59:12.54 ID:EwhP97DDo
隊長「ええとですね、私の村は魔物に襲われたことがありまして」

隊長「その時、冒険者の一団に護衛を依頼したんです」

隊長「でも、その連中は、下見をしたっきり、前金を持ったままで逃げました」

救父「そ、それは」

救母「……災難だったでしょう」

隊長「要するに、下見して、自分たちじゃ手に負えないと思ったからでしょうね」

隊長「できることしかやらない、それが冒険者なんだと思います」

救父「……」

隊長「あ、達観してる、とかではなくて」

隊長「ただ、そういう職業なんだなって」

救父「だが、君は……諦めない人間だったんだろう」

隊長「そうですかね」
851 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/10/20(土) 21:59:48.09 ID:EwhP97DDo
救父「ええい、私は褒めるのは苦手だ!」

救父「娘が認めたんだから、許す! これでいいだろう」

隊長「はぁ」

救母「隊長さんは、随分、謙虚な方なのね?」

隊長「……いえ、こう見えても野望でギラギラしてますよ」

二人『それは嘘』

隊長(突っ込まれた、まあ嘘だが)

救父「だが、学園なんぞ、さっさと見切りをつけた方がよいぞ」

救父「そうでないなら、娘をしっかり守るべきだ」

隊長「それは、もちろん。でも、どうして学園を目の敵にするんです?」

隊長「その、やっぱり犯罪者を量産しているとかなんとか」

救父「……君は知らんようだな」
852 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/10/20(土) 22:00:20.99 ID:EwhP97DDo
救父「私は単に自分の商売を邪魔されたから言っているだけではないぞっ」

救母「へぇ、他にどんな理由があるんです?」

救父「そ、それはだな……」

隊長「……ああ、聞かないほうが良いでしょうか?」

救父「……いや、聞きたいなら聞かせてやる」

救父「私は、あの学園というのがどうにも胡散臭くて仕方がなかった」

隊長「そうですか」

救父「冒険者の養成、そして卒業者は各国で活躍、一見すると中立的に見える」

救父「だが、内実は寄付献金の応酬で、裏では凄まじい攻防が繰り広げられている」

隊長(なるほど、以前、姉ちゃんが公然の秘密、みたいに言っていた気がする)

救父「……王国の友人に調べてもらったのが、これだ」パサッ

隊長「これは?」

救父「王国からの要望書だ。優秀な人材を何パーセント寄越すべし、教育内容もこの方面を充実すべし」

救父「どうかね? 明らかに教育内容への介入が含まれている」

隊長「……」ペラ
853 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/10/20(土) 22:01:07.04 ID:EwhP97DDo
隊長(うわっ、こりゃすげぇ。教科書の記述とか、個々の教師の授業を進める態度にもチェック?)

隊長(監視しているとしか思えねぇな、この内容……)

隊長(――待てよ、姉ちゃん)

姉『遠くから魔法で――』

隊長(日常的に監視する方法が、ないでもない)

隊長(よく考えてみれば、見学と言いつつも、ナチュラルに)

姉『評価自体は学園側に渡す――』

隊長(あそこが、要望と連動していてもおかしくはない)

隊長(あのババァ、自分の仕事のために大嘘ついて……ろくなことしやがらねぇな……)

救父「……そういえば、君のお姉さんは」

隊長「え? ああ、いや、そうですね」

隊長「あ、でも、これは外交庁の作成物ですし、姉は教育庁ですので」

救父「無関係なわけがないだろう」

隊長「……そうですよね」
854 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/10/20(土) 22:02:27.13 ID:EwhP97DDo
救父「まあ、いい。問題なのは、これは王国に限らない、ということだ」

救父「冒険者に頼らないと公言している帝国にも、卒業者はいる」

救父「君、帝国がどのくらい寄付をしているか、知っているかね」

隊長「いえ……」

救父「年間、金貨数万枚だ」

隊長「……まん」

救父「そうだ。もちろん全卒業者たちからの合計金額だが、王国が全体で四千ちょっとであることから考えても、これは異常だ」

救父「だが、その帝国が冒険者不要の軍隊と領土監督機関の結成だ」

隊長「そうなると、学園の意義も薄くなりますね」

救父「帝国は帝国で急激すぎる! そんなことをすれば、冒険者崩れの犯罪者どもの数が増えるばかりだ」

救父「どうだ、ひどい話だろう」

隊長「そうですね……」
855 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/10/20(土) 22:03:55.04 ID:EwhP97DDo

救父「見給え、この報告。王国は、学園側が帝国に抗議し、特務機関の力を借りて『学園戦隊』の教育プログラムを作ったことを確認している」

救父「……冒険者を、これからさらに増やしてどうすると言うんだ?」

隊長「でも、帝国は、それに対して……」

救父「当然、寄付金額は大幅に減少している」

救父「そうなれば、学園側は他からの献金額で補填しようと考える。王国や共和国へのアピールだ」

隊長「なるほど……」

隊長(あの妙な見学会は、そういうことだったのか)

救父「もちろん、王国にもそういうやり方を疑問視する人もいるようだが――」

救父「ああ、私の友人もそのひとりだ」

救父「だがな、どうも引っかかる。そんなアピールだけでどうにかなるとは思えん」

救父「帝国の寄付金は多額だ、それが半分になっただけでも、今のままの経営は成り立たない」

隊長「……失礼ですが、在学者に対する寄付の申し出もあったのでは?」

救父「あった。だが、こっちは学費も寮費も仕送りしているんだ! と追い返してやったよ」

隊長(ふうん)
856 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/10/20(土) 22:05:01.07 ID:EwhP97DDo
救護員「……入っていい?」

救父「む。救護員、こっちへ来なさい」

救護員「は、はい」

救父「あー……」

救母「あなた」

救父「分かっとる! いいか、お前が何をしようとお前の勝手だ」

救父「だが、それは私の、し、心配を引き起こしたり、つまり、何を取っても人に影響を与えることなのだ」

救父「分かるか?」

救護員「……」

救父「正しく生きろとは言わん、まっすぐ生き方を貫けとも言わん」

救父「だが、お前の場合は周りが見えておらん。もっと人を気にしろ」

救護員「き、気にしてる……もん」

救父「もっとだ」

救護員「もっと……」
857 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/10/20(土) 22:05:35.89 ID:EwhP97DDo
救父「馬車は用意する。学園に帰るなら帰れ」

救護員「で、でも」

救父「……引き戻す云々は、売り言葉だ。その、戦隊とやらに入ったなら、そこで責任を果たすべきだ」

救護員「いいの?」

救父「卒業してどうするかは考えておけ。冒険者なら、女性でも自立している人間は多いだろう」

救父「その段になっても、まだ生き方を我が家を頼るようなことは許さん」

救護員「えっと」

救父「認めるんじゃないぞ、恥ずかしい生き方をするな、と忠告したんだ」

救父「分かったら、さっさと行け!」

救護員「あの?」

救母「援助はしてあげるから、一人前になりなさいって言ってるの」

救護員「お父さん……」

救父「……ここを出る前に比べれば、ずっと人の話を聞けるようにはなっている」

救父「私も、その。まあ、なんだ、感情に任せず、もっと伝わるように話をすべきだったな……」

救護員「あの、あり、あり……ありがとう」

隊長「……」
858 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/10/20(土) 22:06:49.65 ID:EwhP97DDo
外。

救護員「ふわぁー」

隊長「疲れたねー」

救護員「あのぉ、お父さんがいろいろと失礼なことを」

隊長「別に、言っていることが間違っていなければ、俺は失礼だとは思わないよ」

救護員「そう、ですかぁ?」

隊長「でも、これで足は確保できた。竜の情報は、結局大して集まらなかったが……」

隊長「各国の情報も多少は手に入ったしね。さすがに流通業を営んでいるだけはあるね」

救護員「うーん、でも、自分は商売ベタだって言ってましたよ」

隊長「確かに、ああ、カッカして、普段はどうしているんだろって思うけど」

救護員「うちは時間がかかっても丁寧を売りにしてますからねー。超貴重品とかをかなりの値段かけて輸送したりしてます」

隊長「へぇ、あまり儲かりそうには感じないけど」

救護員「へっへっへ、ロイヤルなところは相場なんてわかんないですから」

隊長「……納得したよ」

救護員「で、ロイヤルってなんですか? お父さんがよく言ってるだけで」

隊長「おいおい」
859 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/10/20(土) 22:07:46.13 ID:EwhP97DDo
隊長(……しかし、だ。学園側の対応が気にかかる)

隊長(姉ちゃんに連絡を取ったほうがいいのか?)

隊長(うまく、あしらわれそうな気がしてならねぇが)

隊長(王国とのつながりから、学園の裏を見ておく必要はあるんじゃないか?)

隊長(学園に戻る前に、王国を経由――)

隊長(いや、あの記事じゃあ、戻ってきた学生も重症だったと書いてあった)

隊長(剣士にも、術士にも、会って話がしたい)

隊長(というか、ことによったら、学園にいる二人の方が危ないんじゃないか?)

救護員「隊長?」

隊長「……ん?」

救護員「とにかく、明日には出発しましょーよ!」

隊長「明日か……」

救護員「あ、か、体の調子は?」

隊長「う、ん。まあ、戦闘できるような調子ではないが」

救護員「あやー」
860 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/10/20(土) 22:08:16.49 ID:EwhP97DDo

隊長「……けど、行動は起こさないとまずいかもしれないな」

救護員「そうですよ!」

隊長(情報は、待ってればまだ出てくるかもしれない。けど、それじゃ遅いかもしれない)

隊長(相談……してみるか……)


【選択肢】以下のとおり、選んでみてください。

方針>王国を経由して、姉を問い詰める

方針>全速力で学園に帰り、二人と合流する
861 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/20(土) 22:09:11.27 ID:EwhP97DDo
今夜はここまで。
862 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/20(土) 23:27:15.52 ID:sieDCGaro

お姉ちゃんはぐらかしてきそうだから先に合流で
863 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(熊本県) [sage]:2012/10/21(日) 10:08:15.71 ID:SNA92tLso
合流が先だわな
864 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/21(日) 10:09:46.30 ID:vlOu0hODO


直後レスで決定なんだっけ
多数決だったら姉さんに会うに一票入れとく



戦隊でなんやかんやありつつの学園青春ものと思ってたんだけど
キナ臭くなってきたなあ
865 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/21(日) 22:25:38.44 ID:YBviIRrDO
位置関係がよくわからなかったから決められなかった
866 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/10/22(月) 15:25:18.14 ID:3sqPzHuIo
きな臭い状態で王国を訪ねるのもどうかと思うから、ここは合流かな
867 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/10/22(月) 21:30:36.90 ID:wYyelvaro
――夜の酒場。

隊長「ってわけで、馬車が手に入ったよ」

商人「驚き。あの状態から、どうやって手に入れたのよ」

隊長「そりゃ、救護員のお父さん、そのつもりだったみたいだしね」

救護員「そ、そうだったんですか?」

隊長「そうだよ」

工兵「まあ、あのお父さんは甘々だからねー」

商人「つまるところ、昼間は落とし所をつける暇もないほど怒らせたと」

救護員「あー、もうー! だから、そういう風に人を小馬鹿にしてー!」

商人「事実だし……」

救護員「そ、そんなこと言ったら、同行してたけど、全然ダメだったわけじゃないですかぁ?」

商人「あれはあんたがヒドすぎて絶句してたの」

隊長「……まあ、それは置いといて。そちらの方はどうだったの?」

工兵「あまり芳しくはなかったねー」
868 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/22(月) 21:31:18.23 ID:wYyelvaro
工兵「各国の動きなんだけど、今は全然竜なんかに反応してないしー」

商人「学園側も、現代の討竜戦隊! みたいな情報しか出なくてね」

隊長「特務機関とのつながりではどうかな? あとは、帝国の反応とか」

商人「さっきも言った通り、各国の反応は鈍いわ」

商人「学園側のアピールが目立ってるってだけで……あー、特務機関は別記事でこんなのあったわ」


――『特務機関、地方冒険者ギルドの廃止を提案』


商人「要するに、冒険者の作戦任務を斡旋する仕事は、自分たちがやるって言いたいみたいね」

隊長「そりゃ、横暴な感じだな」

商人「……でも、廃止って言っても、職員が変わるというわけじゃなくて、前ギルドを特務機関の支所扱いにするとか、そういう感じよ」

隊長「……」

工兵「隊長、そんな話が何か関係があるの?」

隊長「王国は今回の件では?」

商人「新聞にはなし。ただ商隊に聞いたんだけど、王国は谷に国が接しているから、警戒してるみたいよ」

隊長「なるほど……」
869 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/22(月) 21:31:46.57 ID:wYyelvaro
救護員「隊長、何が引っかかってるんですか?」

隊長「……ああ。最初は、あれだけ恐ろしい竜が、全然話題になってないってことが妙だった」

隊長「だが、それは、その、竜の目撃情報があるってことで納得した」

隊長「つまり、町の人達は、まだ危機感を抱いてないんだ」

工兵「……危機感」

隊長「竜らしきものが目撃された。でも、こちらに危害を加えるでもない、っていうことでな」

隊長「俺達が瀕死で戻ってきても、まるで反応が乏しいってのも、アホがヤブをつついた程度の認識なのかもしれない」

隊長「だが、竜は偵察行動を取っているんじゃないか、という予測をしている人もいた」

救護員「へぇえ、偵察、ですか」

隊長「ああ」

商人「……じゃあ、ひょっとしたら人間に反撃するチャンスを」

隊長「狙っているかもしれない」
870 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/22(月) 21:32:18.47 ID:wYyelvaro
隊長「けど、それは置いておこう。そうだったとしても、四人じゃどうにもならない」

隊長「それに、そんなことを吹聴しても、まず信じてもらえるとは思えない」

救護員「うう〜、なんかムズムズしますね」

工兵「確かにねー。嫌な感じだなぁ」

商人「それで、各国の反応を聞いてるのはどうなのよ」

隊長「……次に思ったのは、学園側の反応がおかしいってことだ」

隊長「学園の生徒が犠牲になっているんだぜ? そりゃ、俺達が生きていることを向こうは知らないさ」

隊長「だけど、だったらなおさら、混乱するんじゃないのか。四隊が出て、一隊と数名しか戻って来なかった」

隊長「そんなの、普通だったら大問題だろ?」

工兵「そういえば、そうか」

商人「……十三番隊は、そんな大した番台じゃなかったでしょ」

隊長「二番隊もいた。いくらなんでも、そこが全滅となったら、一番隊のアピールとかやってる場合じゃない」

隊長「昼間にも言ったけど、記事も出すのが早すぎる」
871 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/22(月) 21:32:45.58 ID:wYyelvaro
救護員「隊長、よく分からなくなってきたんですけど……」

隊長「喋りながら考えているから、もう少し喋らせて」

商人「そりゃあ、その、帝国が冒険者はいらないって言ってるからじゃないかしら」

商人「つまり、いやいや、竜がいるじゃないですか、冒険者いりますよっていう絶好のアピールってことでね」

隊長「真っ先に学生が壊滅させられたのに、か? 仮に一番隊が通用しなかったら……」

三人『……』

隊長「この竜の討伐が、冒険者の評価を上げるものだとしても、だ」

隊長「俺達がやられて、一番隊が倒した、そうなると、プラスマイナスゼロにしかならない」

隊長「学園の評価としてはね」

隊長「……ちょっと救護員の親父さんから話を聞いたんだけど、学園側は帝国の寄付金が大半を占めているそうなんだ」

隊長「学園側は、この減った穴を埋めようとしているが、うまくいっていない」

隊長「経営危機で躍起になっているのか、それとも何かうまくいく公算でもあるのか……」
872 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/22(月) 21:33:21.56 ID:wYyelvaro
商人「考え過ぎじゃないの。単に焦っているだけかもしれないし」

救護員「さっぱりわかりません」プスプス…

工兵「公算ってのがあるとしたら、隊長はどう思うの?」

隊長「それが検討がつかないんだ」

隊長「俺が学園の経営者だとして、帝国からの寄付が減る、冒険者への風当たりを強めている……」

隊長「それをひっくり返すには、竜を討伐しても無駄だと思う」

隊長「だって、一番隊が竜を討伐したのは、一番隊がすごいんであって、学園が優秀であることを証明した事にはならない」

隊長「帝国だって、それで政策が左右されたりはしないはずだ」

商人「……金が欲しいだけなら、帝国専門の養成学校にでもなればいいじゃないのに」

隊長「なるほど、それも手だろうな。だが、学園はそれはしたくないはずだ」

救護員「なんでですか?」

隊長「そりゃ、いくら帝国が莫大だからって、他からもかなりの金額をもらってるからね」
873 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/22(月) 21:33:59.34 ID:wYyelvaro
隊長「帝国所属になるには、他の国の当たりがきつい。でも、放っておけば帝国は抜けてしまうかもしれない……」

隊長「それどころか他の国でも、自前の軍隊の方が勝手は良さそうだ。冒険者はいらない、となるかもしれない」

隊長「学園は取り潰しだ」

工兵「ぼ、冒険者の養成じゃなければ……」

隊長「それこそ、他国が独自の教育機関を持つ方が早い」

隊長「……昔は魔物もいっぱいいて、国の機関や軍隊はそれほど機動力がなかった」

隊長「その分、冒険者が使い勝手がよく、優秀で存在価値がある時代だったんだ」

隊長「でも、今は、竜だって十数匹いたとはいえ、国を滅ぼすほどじゃないだろうし……」

商人「安定した時代には、安定した制度が必要ってわけね」

隊長「その通り。そこまでは考えられる、なんだかんだで学園が冒険者の評価を上げたいと望んでいるのは分かる」

隊長「けど、その方法が分からない……」
874 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/22(月) 21:34:25.63 ID:wYyelvaro
商人「でも、そんなことを調べてどうなるっていうの」

隊長「はっきり言って、自分たちの身の安全を守るためだ」

隊長「学園は俺たちを切り捨てることもあるって分かった」

隊長「……まるで、この動きを見ていると、犠牲になることはわかって今回の作戦を依頼してきたような……」

商人「ちょっと、やめてよ!」

救護員「え? え?」

工兵「僕らに死んで欲しかったってこと?」

救護員「え!?」

隊長「行方不明扱いとはいえ、犠牲者としてデカデカ記事を載っけるのに、学園は了解を出したんだ」

隊長「普通は隠しそうなものを、堂々と公表する……」

隊長(竜の恐怖でも植えつけるような……?)

隊長「……学園のことを調べたいって言ったのは、うん、おそらくそういうところにある」
875 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/22(月) 21:35:05.56 ID:wYyelvaro
工兵「だとしたら、腹をくくらないと行けないかもね」

救護員「な、どうしてです?」

商人「……そりゃ、本当は生きてました、じゃ興ざめじゃない」

商人「学籍を抹消されてたりして」

救護員「ええー!?」

隊長「ま、どうなるかは分からない。で、ここからが本題」

隊長「……学園がもし今回の件を謀略的に進めているとしたら、この町でゆっくり情報を集めている場合じゃない」

隊長「一つ、早急に学園に戻って剣士と術士と合流する」

隊長「一つ、各国の裏に通じていそうな人間と連絡を取って、学園の真意を測る」

商人「裏って、そんなのそうそう見つかるものでもないでしょ」

隊長「俺の姉は、王国の教育庁に勤めているんだ」

隊長「こないだも、学園に来ていたし、各国と学園のつながりを知っているかもしれない」

隊長「下手に突っ込んで行くより、回り道をしたほうが、安全かもしれない」
876 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/22(月) 21:35:48.97 ID:wYyelvaro
隊長「どう、かな」

三人『……』

商人「……私は、回り道をしたほうがいいと思うわ」

商人「っていうか、そこまで言われると、学園に帰るのが恐ろしくなってきたし」

隊長「そうだな……」

救護員「わ、私は、早いところ、戻ったほうがいいと思います!」

救護員「だって、剣士も術士も、怪我、してたわけだし……」

隊長「確かに」

工兵「……急ぐのはいいけどさ。隊長は、自分の怪我はどうなの?」

工兵「帰り道にだって、そんなに急ぐのに耐えられるほどにはなってるわけ?」

隊長「それは、工兵もじゃないのかい?」

工兵「僕? 僕は、ほら、ご覧のとおり」ガショ

隊長「あー、いーいー。そんな振り回さなくて」
877 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/22(月) 21:36:42.84 ID:wYyelvaro
商人「わ、私には、もう戻っても戦隊なんかないし……」

隊長「……」

救護員「も、戻るだけなら、早いほうが、いいんじゃないですかっ」

隊長「……」

工兵「ムリしないのが一番だよ。竜と戦って、まだ一週間だよ?」

隊長「……」

隊長「……分かった」


方針>王国を経由して、姉を問い詰める

⇒方針>全速力で学園に帰り、二人と合流する
878 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/22(月) 21:37:28.05 ID:wYyelvaro
隊長「やっぱり、無理しよう」

工兵「隊長!」

救護員「えーっと?」

隊長「学園に全速力で帰ることにする」

商人「本気なの?」

隊長「自分の怪我も勘案してのことだ。その……やっぱり、戦隊は戦隊として、五人そろった状態を優先すべきだと思う」

工兵「あのさぁ」

隊長「ごめんよ。でも」

隊長(商人を見ていて、やっぱり、パーティーが揃わないと、うまく回らない気がしちまうんだ)

商人「……しょうがないか。寮に、私物とか置いてあるし」

隊長「まあ、そうひどいことにはならないだろう」
879 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/22(月) 21:37:54.37 ID:wYyelvaro
隊長「そうと決まれば、早速、今夜のうちから移動できるようにしよう」

三人『今から!?』

隊長「救護員、御者の人と連絡を取って」

救護員「え、え、は、はい!」

隊長「商人は、必要な荷物をまとめてほしい」

商人「いいけどね、買うもの買ったし」

隊長「ありがとう。残りは工房にあるから、救護員と一緒に馬車に積んでもらって」

商人「はいはい」

隊長「工兵は、その腕、メンテナンスしてもらうんだろ?」

工兵「いや、そうだけど」

隊長「荷物を引き払う必要もあるし、一緒に行こう」

工兵「……はぁー」

隊長「よろしく、頼む」

隊長「それじゃ、各自移動!」

三人『は〜い』
880 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/22(月) 21:38:27.88 ID:wYyelvaro
大通り。

工兵「あ〜あ、起き上がったと思ったらすぐこれだもん、隊長は」

隊長「ごめんよ」

工兵「隊長、無理してるんじゃないだろうね」

隊長「……そういう工兵こそ、無理してるんじゃないのか。義手なんて、そう簡単に動かせるものじゃないだろう」

工兵「ん? いや……」

隊長「お師匠さんが心配してたぜ。下手に動かして怪我したら大変だって」

工兵「師匠が? 参ったなぁー、あの人」

隊長「心配してくれてるんだ、素直に受け取ったらどうだ」

工兵「心配なんて全然だよ。も、無駄に知識豊富なせいで、やりたい放題なんだ、あの人は」

隊長(だから、お前と変わらねーって)

工兵「……うん、そうだって。あの人が、ねぇ?」

隊長「めんどくせぇやつだな」

工兵「うん?」

隊長「いや」
881 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/22(月) 21:39:12.11 ID:wYyelvaro
工兵「でもさ、心配って言うなら、何度も言うけど、僕ら全員、隊長のことは心配したんだぜ」

隊長「そう、かな?」

工兵「そうそう! 隊長ってさ、こっちが信頼してるのなんか、気づきもしないでしょ」

隊長「……」

工兵「術士はなんだかんだで隊長には素直だしー、剣士はさんざん会長にぞっこんだったのが、隊長の言うことは聞くしー」

隊長「いや、何いってんだ」

工兵「僕も隊長には命預けた身だしね」

隊長「……お、おう」

工兵「あと、救護員は、僕から隊長ラブに移ったしね」

隊長「はぁ?」

工兵「だから、救護員は隊長に好き好きオーラ出してるじゃん」

隊長「……はぁああ?」

工兵「だ・か・ら、救護員は隊長に恋してんだけど?」

隊長「はああああああああ!?」
882 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/22(月) 21:40:48.35 ID:wYyelvaro
隊長「あいつ、こないだ、剣士が好きになったって言ってたよ?」

工兵「好きな人の前で、そんなこと言うわけ無いじゃん」

隊長「いや、別の人が好きだって表明する理由がないだろ」

工兵「恋の相談って形で近くにいたいんでしょ」

隊長「いやいやいや、ないない。チビでブサイクってよく言ってたし」

工兵「その割りには僕にまとわりつくより、隊長にばっかり話振るし」

隊長「それは俺がリーダー役だからだ。お前だって、俺によく話してくるじゃないか」

工兵「やれやれ。ああいうわがままっ子が、隊長の言うことだけはよく聞くし、話にも付いて行こうと必死なのを見て、なんで理解できないかな」

隊長「同じ隊員なんだから、話についてきてくれるのは当然だし、救護員なりに頑張っていると思ってるよ」

隊長「だが、それとこれとは別だろう」

工兵「……ま、別に僕は応援する気もないし」

隊長「いや、否定してくれ。恐ろしいんだが」

工兵「そこはいじらしいって言ってあげようよ……本人は吊り合わないと思ってるっぽいんだし……」

隊長(こいつ、とんでもない爆弾投げやがって……)
883 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/22(月) 21:41:17.48 ID:wYyelvaro
今夜はここまで。
884 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/10/22(月) 21:47:40.84 ID:aKluI74fo
続きが楽しみだ
885 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/22(月) 21:49:58.55 ID:8K/A4EwDO
乙です
886 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/23(火) 00:10:05.32 ID:+Pp5hAWDO
乙。
887 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/10/24(水) 22:19:27.29 ID:NqWfSvmfo
工房。

工兵「師匠、今夜には出発します」

師匠「……バカか、お前は」

工兵「メンテするなら素早くお願いします」

師匠「おい、タイチョー。こいつに一言いってやりな」

隊長「すみません、急ごうと言ったのは俺なんです」

師匠「ボケナス」

隊長(ボケナス……)


師匠は奥へ引っ込んだ。そして、すぐさま、怪しげな機械をガラガラで運んできた。


師匠「……この義腕について説明してみ」

工兵「えっと……普通の腕と同じように、頭を使って動かすことができますね」

工兵「ただし、無意識の動作が難しいです」

師匠「そうだ。接続が不完全だからだ」

師匠「この状態で下手に振り回すと、最悪、暴発する。何しろいろいろ仕込んであるから」

隊長(一応、見てくれんのか)
888 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/24(水) 22:20:13.52 ID:NqWfSvmfo
師匠「タイチョー。お前もボケっと見てるな」

隊長「は?」

師匠「はじゃない。片手だけではメンテしきれない部分は、お前が補うのよ」

隊長「は、はあ」タタッ

師匠「よし、では調整に入る」

師匠「接続部分の保護領域を、もう少しソフトで強靭なタイプに取っ替える」

師匠「それから、お前の作った『小さな手』――を、改良したので付け直す」

工兵「ええ? もう改良しちゃったんですか?」

師匠「振動を少なくしただけだ」

工兵「うわぁ、一番大変だった部分をあっさり改良されましたけど」

師匠「……その他、全体的なバランスを取るために、一部の反応を遅くし、別の領域を改善する」

工兵「じゃあ、アーム部分の機能を低下させておきますね」キュウン

隊長(……何をやっているのか、いまいちよく分からん)
889 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/24(水) 22:20:39.44 ID:NqWfSvmfo
師匠「タイチョー。お前の持っている鉄杖も、先端部分に爆雷管を仕込んだ」カチンカチン

隊長「それって、下手に振り回すと爆発するんじゃ……」

師匠「よく分かったな」カチンカチン

工兵「師匠ー、そういうお茶目はダメですってば」ビッ

師匠「ついつい」カチッ

隊長「ついついじゃないですよ! 工兵もそれをお茶目で流すんじゃない」

師匠「いいから持っておけ。人間、一人殺すくらいの火力は必要だ」

師匠「竜の火炎では強すぎるがな」

隊長(完全に発想が武装勢力なんだが……)

工兵「いろいろ、すみません、師匠」

師匠「そう思うなら、師匠孝行なり親孝行なりしな」

工兵「柄じゃないんで」

隊長「したくない、の間違いだよね」
890 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/24(水) 22:21:07.55 ID:NqWfSvmfo
――しばらくして。

救護員「こんばんはー!」

師匠「うるさい娘だな」

救護員「荷物を引き払いに来ましたー!」

師匠「あっち」

商人「すみません、慌ただしくって」

師匠「別に構わない」

隊長「……おっ、結構重いな」

工兵「そりゃね。こっちに被害が被らないように、定期的に武器のチェックはしたほうがいいな」

隊長「ああ、そうだな」

御者「お嬢さーん、荷物はこんだけですかー」

救護員「あ、もう少しありまーす!」

師匠「……」
891 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/24(水) 22:21:34.75 ID:NqWfSvmfo
師匠「工兵」

工兵「はい、師匠」

師匠「人間、死ぬときは死ぬ」

工兵「なんですかいきなり」

師匠「こないだもお前は死ぬところだった。だから言っておくが、お前は一人で生きないほうがいいな」

工兵「はあ」

師匠「一人でオナニーするみたいに工具をいじっているより、今の顔の方が私は好きだな」

工兵「いや、師匠」

師匠「卒業したら、工房に戻って来い。ま、お前は冒険者の方が向いていると思うわ」

師匠「じゃあとっとと行ってきな」

工兵「……はぁ、まあ」

師匠「しまりのないやつ」

工兵「へへへ」
892 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/24(水) 22:22:05.14 ID:NqWfSvmfo
門前。

御者「へい、じゃあ、行きますよ」

隊長「よろしくおねがいします」

御者「……おっとさんに比べると、随分丁寧な方ですね」

救護員「夜も移動するんだから、事故を起こさないでくださいよぉ」

御者「こっちゃおっとさん似だわ」

隊長「ルートはお任せしますが、谷を回り込んで移動するルートしかないですよね?」

御者「橋がありますんで、そこを渡って突っ切っちまった方が早いすよ」

隊長「なるほど……」

御者「四日、いや、大急ぎなら明日から数えて二日にしましょう。馬が保てばいいんですがね」

隊長「ただその、谷に近くなると、竜が……」

御者「これでも御者歴は長いんで。なんともなれば逃げれますよ」

隊長「では、お願いします」


――特別作戦、終了。引き続き、『学園へ帰還し、隊員と合流せよ』
893 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/24(水) 22:22:35.96 ID:NqWfSvmfo
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
学園、校庭。

天測士「さあ、いいこと、あんたたち! ここに学園で二番目に強い剣士がいるわね」

剣士「……」

斧使い「おう」

狩人「あのさ、嫌な予感しかしないけど」

天測士「私達もレベルアップよ! 稽古をつけてもらうってわけ」

三人『アウトー』

天測士「な、なんでよ」

占い師「いや〜、なんと言いますか〜……」

剣士「大したことはしない。基礎体力づくりが中心だ」

天測士「って、言ってるじゃない」

斧使い「って言うけどな、冷静に考えてみろ? リーダーも言ってただろ、二十八番隊との差」

狩人「僕達、全然ついていけなかったもんね〜」

忍者「そうですな」

天測士「あんた以外はね」
894 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/24(水) 22:23:03.25 ID:NqWfSvmfo
天測士「でも、だからこそじゃないのっ!」

天測士「天測で情報を集めるのも大事だけどね、私たちはまだまだ貧弱なんだから」

斧使い「忍者の訓練法でいいんじゃねぇのか」

天測士「……おもりをそうびするのはチョット……」

剣士「やることは変わらんぞ。荷物を背負って、一昼夜行軍してもらう」

占い師「」バタン!

狩人「わあ、占い師が倒れた!」

斧使い「ああ、ああ、しょうがねえなー」

天測士「も、もっと手っ取り早い方法はないの!?」

剣士「……チッ。あるわけねぇだろ」

剣士「俺が隊長たちにやったのは、四対一組手と重装備散歩だけだ」

剣士「天測とやらもやらないなら、俺は帰るぞ」

天測士「あ、あ、ちょっと待ちなさいよっ!」
895 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/24(水) 22:23:31.92 ID:NqWfSvmfo
剣士(……腕がまともに動かねぇ)

剣士(呪印の効果は知っているつもりだったが、強力な効果を発揮すると、ここまで反動がくるもんか)

剣士「とっとと治さないと、いや……」

剣士「治さないでも、振るえるように……する」

剣士「それも必要だな」

剣士(竜を斬る、斬れなくはない。だが、それだけではダメだ)

剣士(生き残り、作戦を達成しなければならない)

剣士「……」

剣士「隊長……」

剣士「……チッ。柄にもねぇ」

剣士「呪術士のところにでも寄るか」
896 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/24(水) 22:23:58.53 ID:NqWfSvmfo
しばらくして。

剣士「あいつ、どこにいるんだ?」

剣士「二組にも、女子寮にもいなかった」

剣士「……」

剣士「医務室か、あの病室の……術士のところ。見舞いに来たがってたし」

ヒソヒソ ヒソヒソ

剣士「……?」

剣士「なんか、妙な雰囲気だな」

剣士「……」
897 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/24(水) 22:24:30.01 ID:NqWfSvmfo
呪術士「……あ、あ、ちょっと!」

剣士「探したぞ、お前」

呪術士「わ、私の方こそ!」

剣士「あ?」

呪術士「あ、あんた、知らないのね!? 知らないのよね!」

剣士「落ち着け。何のことだ」

呪術士「こないだの、竜の谷から帰ってきたメンバーに、拘束命令が出ているの!」
898 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/24(水) 22:25:03.49 ID:NqWfSvmfo
剣士「……わけが分からん」

呪術士「だ、だからぁ! ほら、この、学園の校則で決まっているからって……」

剣士「……『学生同士であえて陥れることを行った者には、拘束の上、停学処分』……」

剣士「誰が誰を陥れたって?」

呪術士「だから、どこの教師かはわからないけど、七番隊と剣士たちが、他のみんなを見殺しにしたって言うのよ!」

剣士「……それは『あえて陥れ』たわけじゃねぇ」

呪術士「だからっ、そう言ってるんだけど……!」

短パン「おおおおっ、呪術士! まさかお前が一番最初に見つけるとはなっ!」

呪術士「いやああああ、もう、来ないでぇえええええ!」

短パン「剣士、見損なったぜっ! まさか、お前が他人を犠牲にして生き残ろうとするやつだなんて」

剣士「……」

呪術士「け、剣士、逃げなさい! っていうか、術士ちゃんが危険でしょ、これ!」

剣士「……お前のところの隊員が逃げろ、と言っているようだが?」

呪術士「のんびりしている場合じゃないでしょっ!?」
899 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/24(水) 22:25:34.25 ID:NqWfSvmfo
短パン「はははっ、呪術士は照れ屋だからなっ!」

呪術士「全然違うわよおおおおおおっ!」

剣士「……だそうだ」

短パン「ちなみに、拘束命令が下ったのは俺の隊だ! おとなしく捕まったほうが身のためだぜっ!」

剣士「……」

呪術士「け、剣士……!」

剣士「先に術士のところに行ってくれ。あいつは、俺と違って動けない」

呪術士「わ、分かったわ! ついでに、七番隊にも知らせてくる!」

剣士「七番隊なら、さっき校庭にいた」

呪術士「分かったわ!」ダッ

短パン「あ、おい! どこへ行くっ!?」

呪術士「ついて来ないでねっ!」

短パン「……相変わらず照れ屋だなぁ」

剣士「……」
900 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/24(水) 22:26:03.15 ID:NqWfSvmfo
短パン「さて、どうする? 悪いが俺も、総合格闘家としての自負がある」

短パン「一遍試してみたかったんだ。格闘士とはよくやり合うが、武器持ちはなかなかやらないだろう」

短パン「ま、もっとも……」

剣士「あ?」

短パン「弱小戦隊に所属していたら、腕もなまっているんじゃないかっ!?」


短パンの攻撃! 剣士は勢い良く殴られた!


剣士「うっ」

短パン「おいおい、手応えがなさすぎるぜっ!」

短パン「このまま、簡単に拘束しても……」

剣士「……」

剣士(どうでもいい)

剣士(どうせ、腕はろくに動かない)

隊長『聞き分けのないこと言ってんじゃねぇ』
901 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/24(水) 22:26:46.04 ID:NqWfSvmfo
剣士「……うるせぇな」

隊長『お前が考えなくちゃいけないことは、全力で逃げて、腕を治すことだ』

短パン「んん?」

剣士「……ああ、はいはい。分かったよ」

剣士「逃げりゃいいんだろう、逃げりゃ」

短パン「ああ?」

剣士「腕を治すのが最優先だもんな」

短パン「何いってんだ?」

剣士「……うるせぇよ、カス闘家」

短パン「」
902 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/24(水) 22:27:30.87 ID:NqWfSvmfo
剣士「戦隊のリーダーのくせに、仲間に慕われてもいない」

剣士「拘束しろって言われているのに、打撃一発しかしない」

剣士「武器も奪えてない。お笑い芸人の間違いだろう」

短パン「なんだとおっ!?」

剣士「じゃあな」クルッ


剣士はその場から逃げ出した!


短パン「あっ、ちょっ、おいっ!?」

短パン「……うおおおおおおおっ! 待ちやがれぇえええええええ!」ドドドドドドド……


……と、見せかけて、剣士は陰に身を隠していた。


剣士(あいつは完全にアホだな。隊員が周りにいなかった)

剣士(先回りや見張りをしているわけでもない、完全に一人で先走ってるんだ)

剣士(なんであんな奴がリーダーなんだ? しかも上位の……)

剣士「……とりあえず、術士のところに行こう」タッタッタッ

剣士「……チッ」
903 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/24(水) 22:27:57.21 ID:NqWfSvmfo
医務室。

術士「……」

術士「……」ペラ

ガラガラ。

僧侶「……術士、いる?」

術士「いるわ」

僧侶「……体の調子はどう?」

術士「あまり、いいとは言えないわ」

僧侶「そ、そう……」

術士「どうかしたの?」

僧侶「ええと……」

術士「……?」

僧侶「術士がどうしてるのかと思って……」

術士「いま、召喚術大全を読み返していたの」

僧侶「へ、へえ」
904 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/24(水) 22:28:42.98 ID:NqWfSvmfo
僧侶「その、それは、どうして……?」

術士「十三番隊、召喚士が隊長の。彼なら、黙ってやられるはずがないと思って……」

僧侶「ああ、あの、変な人」

術士「ええ、まあ」

僧侶「……そ、それで?」

術士「異世界を渡った記録はいくつもあるわ。たとえば、超有名なところでは、勇者一行ね」

僧侶「ああ、賢者がってやつね」

術士「そう。賢者が魔法や術の幅を広げるがために召喚術を使った」

術士「けれど、それを完成させるのはさしもの賢者も難航したようだわ」

術士「何度も異世界に穴を開けた、とも言われている」

僧侶「う、ん」

術士「最終的には、術者への多大な負担、時間制限、召喚と送還のワンセット、などなどによって解決したみたいだけど……」

術士「とにかく、その実験中に、何度か異世界に渡ってしまった」

僧侶「数年間、いなくなったのよね」

術士「そう。そして、帰ってきた時に、『機械』と呼ばれる謎の構造物を持ってきている」
905 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/24(水) 22:30:19.16 ID:NqWfSvmfo
術士「まあ、この際、それは置くわ」

術士「要は、異界渡りについて、それはすでに行われていた」

術士「彼らはそれを利用していた節さえあるわ。時間の流れが違うみたいだし、つい十数年前まで勇者たちは健在だった……」

僧侶「ああ、なんか、すごい若作りだって言われてたみたいね」

術士「それだけじゃない。竜の機動力に対抗するために、この空間移動の術を利用していたんじゃないかしら」

僧侶「そ、そこまでは聞いたことがないけど」

術士「これは推測よ。たった数名で竜の王を倒すとなれば、すべての竜を狩っている暇はない」

術士「だから、そのための秘策が、異界渡りだったのよ」

僧侶「へぇ〜」

術士「というのは、召喚術を研究する術者たちの間では、かなり有名な話のようね」

僧侶「……だから、なんなの?」

術士「やっぱり、十三番隊が生きている可能性は十分あると思うの」

僧侶「あ……」
906 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/24(水) 22:31:02.11 ID:NqWfSvmfo
術士「ただ、とっさのことだから……」

術士「すでに、こちらの世界に戻っているかもしれないし、そうじゃないかもしれない」

僧侶「そう……」

術士「せめて、もう少し、召喚術に詳しい人がいれば……」

僧侶「術士は、その、彼らを助けたいのね……?」

術士「そうじゃないわ」

僧侶「え?」

術士「……召喚術に精通していれば、竜を倒すことも可能かもしれない」

術士「私は、隊長がいない以上、それを考えるしかないの」

僧侶「……」

術士「隊長の、代わりに」

僧侶「あ、あなたの隊は……」

術士「……」
907 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/24(水) 22:31:29.49 ID:NqWfSvmfo
僧侶「……」

術士「……」

僧侶「ごめんなさい、術士」

術士「何が?」

僧侶「実は、あなたに、拘束命令が出ているの」

術士「こうそく」

僧侶「そう。別の隊や、自分の……隊を、わざと見捨てた、という理由で」

術士「……」

僧侶「でも、そんなわけ、ないわよ。こんな風に辛い思いをしてまで、頑張っているのに」

僧侶「それどころか、生きているって信じて……」

術士「……私は、見捨ててないっ!」

僧侶「術士?」
908 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/24(水) 22:32:24.09 ID:NqWfSvmfo
今夜はここまで。
909 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/25(木) 00:25:43.96 ID:6GbdOgVdo
乙!
燃える展開だなぁ
910 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/10/29(月) 22:41:32.91 ID:t9lxS1xao
術士「私は見捨ててなんかない! 隊長は生きているの!」

術士「みんな、諦めたりなんかしてない!」

術士「絶対に、生きている! 私は見捨ててなんかない!」

術士「私は、私は力不足だったから、逃げるしかなかっただけなの!」

術士「私はっ……!」

僧侶「お、お、落ち着いて!」

僧侶(うわー、この子、危ない状態ね、完全に)

術士「……」ハァハァ

僧侶「わ、分かったわ。そうよ、うん、みんな生きているわよ」

術士「……もう、やだ」

術士「私、何もできない……」

僧侶「えーっと」
911 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/10/29(月) 22:42:00.56 ID:t9lxS1xao
ガラッ。

短パン「おおい! そっちはどうなってる!」

術士 ビクッ

僧侶「しーっ!」

短パン「なんだ、いるじゃないか、早く拘束して……」

僧侶「ダメです。許可しません」

短パン「許可しないって……」

僧侶「そのままの意味よ。この子は肉体的にも精神的に傷ついているの」

短パン「いや、俺達は命令を受けた。それを実行するだけだろ?」

僧侶「あなた、そんなんだから、メンバーに嫌われるのよ」

僧侶「そんなおつかいみたいなこと、冒険者の仕事じゃないし、弱っている子を手に掛けるなんてことは、神に誓ってできません」

短パン「な、なんだと」

僧侶「それでも、こっちに文句があるっていうなら……」ゴゴゴ……

短パン「わ、分かった! 分かったから、トゲ付きの鉄球なんぞ向けるんじゃない!」
912 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/10/29(月) 22:42:26.80 ID:t9lxS1xao
短パン「まったく、呪術士といい、俺がリーダーなのに、なんでこんなことを……」

僧侶「あなたも能力だけは高いんだから、もっとちゃんと人の話を聞けばいいのよ」

僧侶「はっきり言って、自分も隊も、あなたのせいで台無しになってるのよ?」

短パン「そんなことはないだろう」

僧侶(なんで自信満々なんだろう……)

短パン「とにかく、それじゃあ、お前が近くで見張っているんだぞ!」

僧侶「はいはい。学園には、ちゃんと監視していますとかなんとか言っておけばいいわ」

短パン「ああ、じゃあな!」ガラッ


バタバタバタバタ……


僧侶「……嵐のように入って出て、行ったわね」

術士「ごめん、なさい……」

僧侶「あーあー、あなたが謝ることなんて何一つないから」
913 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/10/29(月) 22:42:56.80 ID:t9lxS1xao
僧侶「それじゃあ、この調子だと、あなたの隊の……」

術士「剣士」

僧侶「そう、彼。彼も大変なことになってるでしょう」

僧侶「私、探して呼んでくるわ」

術士「……ありがとう」

僧侶「……」

術士「……」

僧侶「大丈夫ですよ。きっと神のご加護があるに違いありません」

術士「……うん」

僧侶「ゆっくり休みなさい。あまり悪いことを考えちゃダメ」

術士「……」

僧侶「じゃあ、行くわ」

術士「……」

術士「隊長……」

剣士「……呟いたら帰ってくるわけでもねぇだろうが」

術士「け、剣士?」
914 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/10/29(月) 22:43:23.35 ID:t9lxS1xao
剣士「あの短パン野郎、俺を嗅ぎつけてきたのかと思ったわ」

術士「ベッドの下から……いつのまに潜り込んだの?」

剣士「そんなことはどうでもいいだろう」

術士(どうでもよくない……)

剣士「まさか、学園側がこんな手を打ってくるとは思わなかった。確実にあのぴーぴーうるさい七番隊のあいつのせいだな」

術士「……そうかしら」

剣士「そうでなくちゃ、なんで学園が今頃になって拘束なんぞ言い出すんだ」

術士「それは……でも、七番隊の彼女が騒いだからって、何になるって言うの?」

剣士「そんなことは知らん」

術士「それに、それなら七番隊だけでしょう。怪我のひどい、私達まで……」

剣士「チッ。連中が何を考えているのかなど、どうでもいいじゃねぇか」

剣士「とっとと身を隠す、いや、学園を脱出したほうがマシだ」

術士「……私たちは、まだ戦えるほど回復してないのよ」
915 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/10/29(月) 22:44:01.11 ID:t9lxS1xao
剣士「だからって武器まで奪われてたまるか!」

剣士「隊長は確かに、俺の腕を直せとは言った、だが、それは体を拘束されても服従してろってことじゃねぇ」

術士「そんなことは知っているわ」

剣士「わかってねぇ! お前、そのまま、動けないままでどうするつもりだ?」

剣士「ヘタをすりゃ牢獄だか懲罰室だかに送られるんだぞ!」

術士「……」

剣士「そこで前と同じように調べ物なんかできるもんか」

術士「わ、私は、大丈夫よ。汚いところでも」

剣士「チッ、そういうことじゃねぇんだよ」

術士「どのみち、学園を出たら調べ物どころじゃないじゃない」

剣士「そりゃ、そうだが……」

術士「どうしろっていうの! 私が出たところで、何になるっていうの!」
916 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/29(月) 22:44:36.71 ID:t9lxS1xao
剣士「だから、再起をはかるんだ。俺たちにはそれしかない」

術士「再起って何? 立ち上がっても、仲間なんかいない」

剣士「いや、それは」

術士「どこかの隊に今更所属なんてできない。拘束されても、逃げ出しても」

剣士「なら、いっそ、故郷なりに帰ればいいだろうが!」

術士「……ダメよ」

剣士「なぜだ?」

術士「私、前に友達を見捨てて逃げたことがあるの。学園をやめて、今、その子は故郷に戻っているから……」

剣士「そんなもの、自由に比べれば安いもんだ」

術士「何が安いのよ! ここからも逃げて、何もすることなんてないじゃない!」

術士「私達は、逃げ出したのよ!? 隊長を見捨てて!」

剣士「あ?」

術士「……いいえ」

術士「……みんなは、私達が見捨てたって言ってたけど」

術士「本当は、やっぱり、私達のほうが隊長に……!」


剣士は術士の胸ぐらを掴んだ!
917 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/29(月) 22:45:03.56 ID:t9lxS1xao
剣士「混乱して、思い込んでいるようだから、言ってやる」

剣士「隊長は、私情を挟む。挟むが、最善を尽くすために行動していた」

剣士「それが間違っていたなら、それを批判すればいい。正しいと思ったなら、それを信じろ」

剣士「だが、見捨てた見捨てられたなんてのは、お前の思い込みだろうが」

剣士「お前、隊長に最後になんて言われたか、記憶にあるか? え?」

術士「……」

剣士「……」

術士「……よく、覚えてない」

剣士「『死ぬつもりはない』って言ってたんだよ、あいつは」

術士「ああ……」

剣士「俺たちを、放り出すようなやつが、そんな一言だ」

剣士「ボロクソに言われてなければ、一発ぶん殴ってやりたかったぜ」

術士「うっ……」

剣士「『こっちだってそんなつもりで言ったんじゃねぇよ!』って」

術士「ううっ……」ポロポロ
918 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/29(月) 22:45:29.45 ID:t9lxS1xao
剣士「自暴自棄になってる場合か」

剣士「……隊が解散しようと、隊長がどういう形であれ、見つかるまでは俺らは二十八番隊だ」

術士「う、うー……」

剣士「だったら、やることやるしかねぇだろうがよ」

術士「ぐすっ、ひぅっ、うあ……」

剣士「……」

術士「……」


ガララッ!


呪術士「ちょっと、術士ちゃん、無事!?」

剣士「……あ?」

術士「……」

呪術士「……!」
919 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/29(月) 22:45:58.46 ID:t9lxS1xao
――しばらくして。

呪術士「い、いやー、胸元はだけてたし、こう、その、モニョモニョだって認識しちゃうのも無理ないと思うんですよ」

剣士「で?」

呪術士「呪法で『頭に釘をこんこん打ち付ける呪い』とかさ、即効性のあるものを使っちゃうのも無理は無いわよ……」

剣士「うるせぇ、バカ」

術士「呪術士さん、ごめんなさい……」

呪術士「ああ、いいのよ! 無事なら」

術士「僧侶さんも来ていたわ。八番隊の」

呪術士「なぁんだ。って、何もされなかった?」

術士「……何も。哀れまれたのかしら」

呪術士「ああー、ま、僧侶もちょっと、ね、頭が固いから」

剣士「なんでもいいが、遅いぜ」

呪術士「……七番隊に知らせようと思ったら、もうとっ捕まってたの」

剣士「チッ」
920 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/29(月) 22:46:24.70 ID:t9lxS1xao
呪術士「……でも、僧侶が見逃してくれたってことは、ここから動かないほうがいいかもしれないわ」

呪術士「下手に動いて見つかるより、ここで安静にしていたほうが」

剣士「だがな」

呪術士「それに、剣士の呪印の解析! 少しでも診ないことにはどうしようもないんだから」

剣士「……」

術士「剣士」

剣士「分かっている。だが、踏み込まれたら、俺は一人でも逃げるぞ」

呪術士「そうしなさい。私も、診るだけみたら、今度のことはおかしいーって言いまわるわよ」

呪術士「……拘束命令なんて、同じ学生同士でやるようなことじゃないわよ」

剣士「ノリノリのリーダーがいたようだが」

呪術士「あああーっ、忘れて。本当に忘れて」

術士「……ノリノリ?」

剣士「ここにも入ってきた短パン野郎だ。八番隊のリーダー」
921 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/29(月) 22:46:50.62 ID:t9lxS1xao
呪術士「……もう、あのリーダーのことは腹をくくるわ。私は全力で抵抗してやるわ」

剣士「……人望がないリーダーもいたもんだな」

術士「どの口が言うの?」

剣士「俺は、隊長については信頼している」

呪術士「ま、まあ! それはそれとして」

呪術士「幸いにして、病室だから近くに解析の……助けになりそうなものはそろってるし」

呪術士「剣士の呪印について、詳しく解析していくわよ」

剣士「……」

術士「お願いします」

呪術士「もちろん、任せてもらうわ」

剣士「ああ」
922 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/29(月) 22:47:25.71 ID:t9lxS1xao
懲罰室。

天測士「……ん〜」

占い師「はぁ〜」

斧使い「……あー」

狩人「あのー」

天測士「ん?」

狩人「なんていうか、何もおとなしく捕まることなかったのになーって」

天測士「だって、八番隊は武闘派じゃない、どっちかってーと」

天測士「こちらには忍者もいたし、どのみち逃げ出そうと思えば逃げられるわ」

斧使い「まあ、実際、やつはさっさとここを抜けだして、荷物を取りに行ってるわけだがなぁ」

狩人「まあ、それはいいんだけどさ、リーダーにしては珍しいじゃん。カーっとなって、わんわんわんわん、って吠えるのかと思った」

天測士「犬か。私は」

三人(犬っぽいけど……)
923 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/29(月) 22:47:52.20 ID:t9lxS1xao
天測士「あのねぇ、いくら私でも、ああして教師を大勢の面前で罵倒した以上、何らかの報復があることくらいは考えているわ」

斧使い「報復にしちゃやりすぎだろ?」

狩人「リーダーの暴走に、僕らも巻き込まないでほしーね」

天測士「な、何よ! あんたたちだって、学園の態度には腹がたってたでしょ!?」

狩人「そうは言ってもさ、こう、先生のお茶に毒を盛るとか、そういう方法でも良かったわけじゃない」

占い師「こ、怖いんですけど〜」

斧使い「なんだよ、その過激さは」

狩人「矢に塗る毒って、結構飲んでも効くんだーね」

天測士「頭痛くなってくるからやめなさい」

天測士「でも、毒ってのは竜にも効くのかしら」

狩人「……どうだろ。なんでもそうだけど、体が大きいと、毒のまわりが遅いって言うしね」

天測士「ふーん……」
924 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/29(月) 22:48:21.92 ID:t9lxS1xao
占い師「そ、それより、これから、どうするんですか?」

天測士「当然、天測するのよ!」

斧使い「……ま、最初からそのつもりだったしな」

天測士「どのくらいのものかって思ってたけど、一室に閉じ込める程度で、まさか、私を止められるとでも」

狩人「窓、ないじゃない」

天測士「……」

占い師「ああ〜」

天測士「斧使い!」

斧使い「武器がないから無理だ」

天測士「ちょっと! 空! 窓! 天井!」

狩人「天井はあるけどさ」

天測士「むきーっ! こらぁあああああっ、出しなさいよぉおおおおお!」

斧使い「今頃気がつくなよ……」
925 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/29(月) 22:48:50.21 ID:t9lxS1xao
占い師「ま、まあまあ、忍者さんが道具を持ってきてくれたら考えましょう」

占い師「その間に、どうです? 空が見えなくても、占いはできますよ〜」

天測士「し、仕方ないわね。そこから始めましょう!」

占い師「はいはい〜」


占い師は懐から水晶玉を取り出した。


斧使い「さすが、占い師ちゃんだぜ。一発で場が和んだ」

狩人「何を言ってるんだかねぇ……」

天測士「じゃ、私達も作戦会議をするわよ!」

狩人「作戦会議?」

斧使い「……ああ、隊長がやっていたやつか」

天測士「ええ。まずは状況の確認よ」

狩人「状況ねぇ。捕まってるけど」

天測士「そうじゃなくて!」
926 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/29(月) 22:49:58.64 ID:t9lxS1xao
天測士「……まず、私たちは、『学園の依頼を受けて、竜らしきものの調査を請け負った』」

斧使い「だな」

天測士「そこで、『十五匹以上の竜を発見、なんとか切り抜けて逃げ出した』」

狩人「うん」

天測士「ところが、『学園は救助隊を出すどころか、竜退治にプロと一番隊を派遣した』」

斧使い「そう……だな」

天測士「その上、『帰らなかった隊を、除隊、あるいは解散してしまった』」

狩人「うん」

天測士「『そのことに抗議をすると、学園側は私達に拘束命令を出した』」

狩人「うーん。こうして見ると、割りと理不尽だよねー」

斧使い「……なんかおかしくねぇか」

天測士「間違ってないわよ」

斧使い「いや、順番とかが違ってるわけじゃなくて」
927 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/29(月) 22:50:28.35 ID:t9lxS1xao
斧使い「普通、その、竜退治だっけ? それに派遣するのが先ってのは変だよな」

天測士「そりゃ、安否の確認に人を出さないのは私だってね」

斧使い「そうじゃなくてさ」

狩人「……あ、そうか。帰ってきた隊の処分が後になってるんだ」

天測士「は?」

狩人「だから、なんかよくわからない、空を飛んでいる魔物がいる、調べてこい、調べてきましたー、竜でしたー、何人か戻ってこれませんでしたー、で」

斧使い「……普通、詳しく聞き取り調査するとか、先に戻ってきた連中にやらないか?」

狩人「そうそう、それもある。とにかく僕らが後回しになってるんだ」

天測士「……」

斧使い「変だよなぁ」

狩人「なんか、知ってたみたいだよね」

天測士「……知っていた」
928 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/29(月) 22:50:59.07 ID:t9lxS1xao
狩人「そう。まるで、竜がそこにいることも、僕らがやられて帰ってくるのも知ってたみたいだ」

斧使い「プロに一報入れて何隊か集めるのも早い」

天測士「……早い、行動が」

天測士「まるで、知っていたみたいに」

天測士「……」

天測士「……その、プロの方々はどこから派遣されてきたの?」

狩人「……特務機関に要請かけて、所属している人が直接来たみたいね」

天測士「特務機関……」

斧使い「やな感じだな、わかってて、危険に晒したなんてこと……」

天測士「……」

  占い師「ひぃっ!」 ガターン!

天測士「占い師!?」
929 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/29(月) 22:51:42.87 ID:t9lxS1xao
占い師「り、り、リーダー……」

斧使い「どうした、占い師ちゃん!」

天測士「け、怪我したの!?」

占い師「じゃなくって……その、占い、したんですけど〜……!」

天測士「落ち着いて、深呼吸」

占い師「すー……はー……」

狩人「大丈夫?」

占い師「あ、あ、ご、ごめんなさい〜」

占い師「……あの〜、すっごく、濁っているんです。未来が」

三人『濁っている?』

占い師「真っ暗闇で……これから、良くないことが起きる……」

狩人「現に、今、閉じ込められているけどね」
930 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/29(月) 22:52:23.76 ID:t9lxS1xao
占い師「わからないですけど、もっと、悪いことが起きます……」

天測士「……悪いこと」

忍者「失礼」シュタッ

天測士「忍者! 悪かったわね」

忍者「天測機を一式、それにめぼしい装備を揃えてきましたぞ」

狩人「ああ、僕の弓矢! これがないと狩人も商売上がったりだもんねー」

斧使い「うえ、俺の斧は……」

忍者「さすがに目立ち過ぎますゆえ」

斧使い「……今度から、手斧にしようかな。斧戦士みたいに」

天測士「そんなことより! 今ひとつ、課題ができたわ――」

天測士「天井に、穴を開けてもらえるかしら、忍者!」

忍者「承知」シュバッ

斧使い「……あいつ、なんでもできるなぁ」
931 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/29(月) 22:53:42.47 ID:t9lxS1xao
――懲罰室には誰も訪れない。周りを見張っていれば、それで済むと思っているのか……。

だが、中にいる者たちは、すでに行動を始めていた。

天測士は、開いた天井の隙間から溢れる光を、天測機の位置に合わせた。
風が少ない、光量も足りない。
そこで占い師の水晶を使って、その「真っ暗闇」の数値を招き入れる。

……機械のレバーを回す。

魔力の粉、あるいは魔法そのものか、天測機からこぼれた光が、図形を描いていく。


天測士「……風、強まる。明日の天気は嵐」

天測士「西側、つまり、竜の谷がある方から吹いてくる強風」

天測士「……だけではない、数カ所から。降雨あり」

天測士「予想外の……」

斧使い「……見ても全然分からん」

占い師「禍々しいです〜……」
932 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/29(月) 22:57:20.80 ID:t9lxS1xao
そして、部屋いっぱいに撒き散らされた光の図形が輝きを失ったところで、天測士は、動きを止めた。

少し、ためらうように、二度呼吸を整えてから、言った。


天測士「……明日、竜が来る」

四人『!!』
933 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/29(月) 22:57:51.63 ID:t9lxS1xao
今夜はここまで。

次回より、再び、隊長視点へ。
934 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/29(月) 23:22:14.39 ID:CDLAmeFDO
乙。
935 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/29(月) 23:30:37.44 ID:SIKSac6so

僧侶が怪力だという風潮 とても良い
936 : ◆k.6bdeNTfg [saga]:2012/10/31(水) 21:50:58.49 ID:+M6esDY5o
――隊長の攻撃! 大木に大ダメージ!

……爆発とともに、隊長も派手にすっ転んだ!


隊長「うわっ!」

工兵「……隊長? 大丈夫ー?」

隊長「大丈夫じゃない。すっごい衝撃だよ」

工兵「ああ、師匠の作った棒付き爆弾か」

隊長(もう鉄杖ですらないのか)

隊長「手が痺れる……こんなもの、使い物になるのかな」

工兵「どれどれ……」

隊長「先端は熱くなってるから気をつけろよ」

工兵「……うーん、師匠もごっついものを作ったなぁ」

工兵「これだと、衝撃で自分まで吹っ飛んじゃうよね」

隊長「かなり強烈だから、確かに強力だろうけどね」

工兵「僕なら、中間部分に爆雷管を仕込んで、鉄棒を射出する武器にするよ。なぎ払いがやりにくくなると思うけど」

隊長「どの道、派手で危険だな……」
937 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/31(水) 21:51:27.36 ID:+M6esDY5o
隊長「どうする? 衝撃を分散させるように手直しとか」

工兵「いいや、これなら、厚手の手袋を多少改造したものがあるから」

隊長「そんなもの、役に立つのかね?」

工兵「あとは、衝撃の瞬間に手を離して逃げ道を作るとかかなぁ」

隊長「それは曲芸の部類じゃないの」

工兵「……取っ手をつけて、こう、輪っか状に。手を離しても輪っかに引っかかるような」

隊長「まあ、指が千切れるほどの威力はないけども、手首は持ってかれそうだな」

救護員「隊長! なんかすごい音が!」

隊長「あー、大丈夫大丈夫」

救護員「本当ですかぁ? 怪我したらちゃんと言ってくださいね」

隊長「悪いね、休憩中に」

工兵(さっきは大丈夫じゃないって言ってたのにねぇ)
938 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/31(水) 21:52:01.34 ID:+M6esDY5o
御者「なんでもいいんすけど、そんなドッカンドッカンやられると昼寝もできねぇすね」

隊長「すみません。まだ半分あるのに」

御者「なんか、寝てる間に空も陰ってくるし……」

隊長(……夜中走って昼に寝てるんじゃあまり意味がないと思うんだがな)

商人「一雨来るにしちゃ、風が強いわ。大雨になりそう」

御者「はぁあ、こないだの予報じゃ、しばらくは雨は来ないって言ってたんすけど」

商人「できれば急いで方がいいと思いますよ」

隊長「……ですね」

隊長(普通に考えれば、竜が活動するためだろうな)

隊長(巨大な竜が移動すると、天候が不安定になることは分かる。もちろん、連中はあまりそれを望んでないようだが)

隊長(竜退治のメンバーに触発されての反応ということだろうか)

御者「ふぁ、しょうがない。行きましょう」
939 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/31(水) 21:52:30.13 ID:+M6esDY5o
馬車内。

ゴトゴトゴトゴト……

隊長「今、道程の半分まで来た」

商人「地図で言うと、このへんね。川の中流、谷に少し近づいた橋を越えて、この辺り」

救護員「ふぇー、結構、早く移動してるんですねぇ」

工兵「夜中にかっ飛ばしたからねー。おかげで、よく眠れてないけど」

隊長「それは、夜中でもごそごそやってたからじゃないかな」

工兵「あはは。義腕が気になっちゃって」

隊長「変にいじるなって、お師匠様も言っていただろうに」

工兵「だって、自分でメンテナンスするよりも格段に動作性が向上しているんだもん」

工兵「ホントに気持ちよく動かせるから、やっぱり理由が気になるじゃん?」

救護員「……猥談ですか?」

商人「この子、おかしいわよね」

隊長「ああ」
940 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/31(水) 21:53:00.76 ID:+M6esDY5o
隊長「それで、学園についた後の動きだ」

隊長「現状、俺達は学園側に報告を出していない。よって、行方不明状態だって思われている」

隊長「だから、堂々と門をくぐるよりは、まず剣士と術士に接触しよう」

救護員「うう、怪我も、気になりますし……」

隊長「……そうだな。それに、信頼出来るのはやはり同じパーティーだし」

商人「……」

隊長「それから、今度の件での学園側の資料を漁ろう」

工兵「資料?」

隊長「俺達への作戦依頼書、まずこれがひとつ。それから、一番隊やプロの冒険者への作戦依頼書、これも確認したい」

隊長「俺達に渡したものについても、合同作戦だとかなんとかは記憶にあるが、学園側にしかない情報もあるかもしれない」

工兵「ふーん、盗んじゃうの?」

隊長「場合によってはね」
941 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/31(水) 21:53:26.48 ID:+M6esDY5o
隊長「それらの依頼書に、日付がきちんと記録されて入れば話は早いんだが、そうでない場合は、学園の成績リスト」

救護員「せ、成績も?」

隊長「今回の合同作戦の選出基準が、どこにあるのか知りたい。学園側が何かを企んでいるとしたら、そこにも秘密があるだろうし」

工兵「なるほどね〜」

隊長「……こういったものを探して確認する必要がある。ただ、場所はどこにあるか、読んで検討できる内容かってことはあるが……」

商人「まあ、職員室にはないわよ」

隊長「知ってるのか?」

商人「……あー、いや、それは、ほ、他に何かある?」

隊長「……竜の情報だな。今度の作戦があるまで、俺たちは竜なんか意識したことがなかった」

隊長「それだけ竜は伝説に近い存在になっていたんだが、実態はそうじゃなかったわけだ」

隊長「何しろ、学園は冒険者の学校だ。冒険者の元祖、討竜戦隊の勇者の時代から情報はあるだろうが、それより何より、竜の情報をどのくらい掴んでいたのかが問題だ」

救護員「そうですよねー」プププシュー

商人「煙出てるけど」

隊長「……えーっとな」
942 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/31(水) 21:53:52.67 ID:+M6esDY5o
隊長「まとめると、学園が何を考えているのかが知りたいわけだ」

隊長「一つ、俺達がこの作戦に派遣された理由」

隊長「二つ、学園側の持っている竜の情報」

隊長「この二つを、二人と合流できた後で、確認する」

隊長「学園への報告は、ま、それからでもいいだろう」

工兵「了解、了解」

商人「……」

隊長「分かった?」

救護員「な、なんとか」

隊長「そんなに難しい話はしてないはずだけど……」

救護員「なんか難しい単語を一遍に言われると、よく解んなくなっちゃうんですぅ」

隊長(『なんか難しい単語』を喋った記憶が一切ないんだけどよ)
943 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/31(水) 21:54:28.49 ID:+M6esDY5o
隊長「とりあえず、そんなところだ。どうかな?」

工兵「そもそも、剣士と術士が無事じゃなかったらどうするの?」

隊長「……」

救護員「こ、工兵くん!」

工兵「いや、結構、ひどい怪我だったじゃん。僕らだって、今でもろくに戦える体じゃないんだし」

隊長「ああ、ベッドから動けないとか、そういう?」

工兵「そうそう。死んでたら、まあ、僕らの話もこれまでだろうなーって思うけど」

救護員「ち、ちょっと!」

隊長「ああ。一応、新聞上では、生きている……はずだ」

商人「容態が悪化しているかもしれないわよ」

救護員「もおおおおお! あんたは黙ってなさいよ!」

隊長「おい、馬車の中で立ち上がったら……」


救護員はずっこけた!


救護員「ふぎゃっ」
944 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/31(水) 21:55:03.48 ID:+M6esDY5o
隊長「大丈夫か?」

救護員「う、うう〜……」

隊長「まあ、あまり悪いようには考えないようにしよう。万一そうだったら、二十八番隊は解散ってことだし」

隊長「……卒業せずに、もうそのまま逆戻りしてもいい」

商人「……」

隊長「あ、いや。商人は、どうするかは考えてないけど」

商人「いいわよ。学園に帰ったら、大人しくしてるわ」

商人「ん……いや、だったら、私が学園に堂々と帰って、あんたたちはその騒ぎに紛れて行動するんでいいんじゃないかしら」

隊長「いいのか?」

商人「構わないわ」

隊長「ごめん。ありがとう」

商人「お代もお礼もいらないわよ」

救護員「あ、当たり前ですよ!」
945 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/31(水) 21:55:30.27 ID:+M6esDY5o
御者「――なぁんかありましたぁ?」

隊長「大丈夫でーす!」

御者「なら、いいすけどー、ぼちぼち雨もぱらつき始めたんで、本降り前にもっと走りますよー!」

隊長「わかりましたー!」

救護員「……も、もっと揺れるんです?」

隊長「工兵あたりを支え棒にして」

工兵「じゃあ、僕は隊長の腕を掴んでおこう」

隊長「……えー、俺は」

商人「いや、普通に荷物を抱えてればいいでしょ」

隊長「まあ、そうだな」
946 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/31(水) 21:55:58.93 ID:+M6esDY5o
隊長「……あー、そうだな。ついでに聞くけど」

商人「な、なに」

隊長「何が職員室にはないって?」

商人「あ、あー、その、なんていうか……」

工兵「あれ、言わないなら、僕が言おうか?」

商人「あ、あんた!」

救護員「何の話です?」

工兵「だって、同じ特組じゃない。何かやってるとか、じーっと見てれば分かるよん」

商人「いや、その、それは」

隊長「……商人が職員室を漁っていたっていうんだから」

商人「あああ〜っ! もう! 分かったわよ!」

商人「学園戦隊のランキング作るのに、成績表を探してたのよ!」

工兵「踊り子とか、特組の連中の何人かだよねー」
947 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/31(水) 21:56:25.53 ID:+M6esDY5o
救護員「はああ!? 犯罪じゃないですか!」

商人「な、なによ! あんたたちだってこれから、やれ依頼書だのを盗むんでしょ!」

隊長「盗賊でもないのに盗みを働くとはね」

商人「うるさい! 私のメインは、ランキングを売る方だったんだからノーカンよ!」

隊長「何がカウントされないのかは考える必要があるよね」

商人「だー!」

工兵「で、どこの国に売ったわけさ」

隊長「帝国辺りだろうな。一番大きいし」

商人「ああもう、これだから、深読みする連中は……!」

隊長「でも、例の模擬戦の前に、王国の特使にバレてたけどな。踊り子が」

商人「……やっぱり、あの子よね。漏らすのは」

救護員「え、猥談ですか?」

商人「湧いてるのはあんたの頭よ!」

隊長(……帝国人事部の人が、姉ちゃんに当たっていたのは、逆切れだったか本当に知らなかったのか)
948 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/31(水) 21:56:52.25 ID:+M6esDY5o
隊長「で、なんでもいいよ。その手の資料はどこに置いてあるっていうの?」

商人「……当初は職員室に置いてあったのよ。でも、コソコソやっているのが勘付かれたみたいでね」

商人「いろいろ探したんだけど、見つけ出してきたやつが何も言わないから」

隊長「誰?」

商人「忍者よ、忍者」

工兵「なるほどねー」

隊長「ってことは、七番隊の……」

工兵「いや、彼も特組だから、そのつながりじゃない?」

商人「……言っておくけど、これ以上は金が絡む話よ。もっと聞きたいなら、ガチでお金出して欲しいわ」

救護員「な、何言ってるんですか! こんなときに!」

商人「やかましい! 商人は商売してなんぼでしょ」

隊長「そうだな……」
949 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/31(水) 21:57:18.76 ID:+M6esDY5o
隊長「俺の姉が王国に勤めているのは知ってるだろ」

商人「え、ええ」

隊長「その関係で、俺は王国に送金して姉に管理してもらっている」

隊長「もちろん、何があるか分からんから、第三者に監査してもらってだが」

工兵「えっ」

救護員「……貯金、じゃないんですか?」

隊長「大体、今のところ、金貨換算で2300枚くらいかな」

商人「!」

隊長(露骨に目の色が変わったぞ)

隊長「……目的あっての金だが、ことここに至ってはだな」

工兵「……どうやったら、そんなにお金を貯められるのかな」ヒソヒソ

救護員「お菓子とかお化粧代で消えますよね……」ヒソヒソ

隊長(うるせぇーよ。一年目に依頼を受けすぎて体壊してんだよ)
950 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/31(水) 21:57:48.93 ID:+M6esDY5o
商人「し、仕方ないわね。交渉次第では、教えて上げてもいいわよ」

隊長「場合によっては四分の一からでもいい」

商人「!!!」

隊長(姉ちゃんの相手をして、勝つつもりがあればな)

商人「け、契約! 契約書を!」

救護員「た、隊長、そんな無理しなくても……」

工兵「そうだよ。そんなにあるってことは、相当大事なお金なんでしょ?」

隊長「……」

商人「うるさいわね! これは二人の問題なんだから!」

隊長「構わないが、基本的には王国にあるってことだからな」

商人「そ、そんなの、一筆貰えれば後でどうにでも……」

工兵「……隊長」

隊長「ん?」

工兵「悪いけど、言わせてねー」
951 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/31(水) 21:58:14.89 ID:+M6esDY5o
工兵「あーのさ。興奮しているところ悪いんだけど、結局、どこに資料があるのかは知らないわけでしょ?」

商人「う」ピタ

工兵「それにー、結局、盗まれたんだから、また変わっている可能性も高いし」

商人「それは……」

工兵「商人がまだ出してない情報は、ランキングを売った相手とか、そのくらいじゃないのかなーって」

商人「そ、それはどうかしらね」

工兵「……まだ隠すなら言っちゃうけどさぁ」チラ

隊長「なんだ?」

工兵「模擬戦の時に、隊長を失明させようとしたの、そのランキング作ったグループでしょ」

商人「!」

隊長「へぇ」

救護員「え、え?」
952 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/31(水) 21:58:44.98 ID:+M6esDY5o
工兵「誰が実行犯になったのかは知らないけど、学園と王国にチクったって理由で隊長を逆恨みしたんでしょ」

隊長(なるほど……)

商人「……そ、それは、私は知らなかったし」

工兵「知らなかったってことは、後からやったのは知ったんだねー」

商人「……」

工兵「特組の人が周りに何も言わないからって、堂々と動き過ぎなんだよねー、君等」

工兵「学園だって、多分、特定していたと思うよ。誰がやったのか、とか」

商人「そ、そんなこと」

工兵「あるある」

隊長「……十三番隊にも、そういや特組が何人かいたな」

隊長「なるほどね。学園もこの機会に、不正な連中を一掃したかったのかな?」

商人「あ、あ、あるわけないでしょ、そんなこと」
953 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/31(水) 21:59:14.46 ID:+M6esDY5o
工兵「別に、僕は責めてるんじゃなくってさ。もう少し考えたほうがいいよってこと」

商人「……」

工兵「で、どうするの? 隊長からお金せびるの?」

商人「……いや」

隊長「もちろん、情報に値するものは払うよ」

商人「……ああ、本当にやんなっちゃうわね」

工兵「自業自得じゃん」

商人「……リーダーにも、同じようなこと言われたわよ」

隊長「召喚士が?」

商人「うん」

救護員「……えっと、とにかく、この女が悪いってことですよね」

隊長「ウン、ソー、アトデ話すから、ダマッテヨウネ」
954 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/10/31(水) 21:59:55.94 ID:+M6esDY5o
今夜はここまで。そろそろ、本気出さないと、もうスレが終わってまう。
955 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/31(水) 23:56:32.21 ID:eExrjv3DO



このスレで終わるのか…?
956 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/01(木) 02:52:37.10 ID:U8mFUaq60


スレは気にせず書きたいことを書ききってほしい
957 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/01(木) 21:56:19.26 ID:I5/AsOaDO
10スレくらい行ってもいいのよ
958 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/11/06(火) 21:46:42.11 ID:jsbyhTLFo
隊長「まあ、どちらにしても、もし知っていることがあるなら、この際出してもらえると嬉しいんだけどね」

工兵「……本音は?」

隊長「めんどくせぇから全部言えよ」

商人「あんた、前から思ってたけど、なんかこう……性格違わない?」

隊長「……」

救護員「それは、あんたが悪いからでしょ!」

商人「あんたは黙ってて」

工兵「まあ、でも、他に何を知っているって言うんだろうね」

商人「……しゃべれって言われると、何をしゃべっていいのか分からないわ」

隊長「学園側の動きについては? 商人なりの情報ルートとかもあるだろう」

商人「こう言っちゃ何だけど、期待されているほど知っていることは少ないわよ」

商人「ただ、ランキングを売る時、少し調べたくらいで」

隊長「それでいいよ」
959 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/11/06(火) 21:47:07.63 ID:jsbyhTLFo
商人「……学園の卒業生の進路について調べたの。どこが一番情報を欲しがるかなって思って」

工兵「それは、やっぱり冒険者になる人が多いんじゃないの?」

隊長「んー、最近は安定志向が高いから、結構、各国に就職する人は多いよ」

隊長「逆に、冒険者の隊を作っても、盗賊に崩れちゃう人も多いし」

救護員「へぇ〜」

隊長(こいつは最終的にはどうするつもりなんだろう)

商人「逆に、国側も優秀な人材をゲットしたいから、この手の情報は絶対に売れると思ったわけ」

商人「一番就職が多いのは、帝国と王国ね。自前の教育機関があるにはあるけど、とにかく国土も規模も他国と比べると違うから」

隊長「そうだろうな」

商人「ただ、帝国は自前の軍隊とかを作ってて――」

工兵「ああ、そうだねぇ。冒険者を雇うより安上がりだし」

隊長(どうかな……)

商人「だから、帝国に情報を売ったわけ」
960 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/11/06(火) 21:49:35.25 ID:jsbyhTLFo
工兵「え、なんで?」

隊長「今年から、学園戦隊の実習が始まったからね」

商人「そうそう。帝国が本格的に軍隊を作り始めたのはついこないだだから、学園戦隊って、それにぶつけるような教育内容でしょ」

商人「ってことは、かえってその内容がどんなものか、知りたいんじゃないかと思って」

救護員「え? は?」

隊長「……えーっとだね。『もう冒険者は必要ない!』って宣言したとするじゃない?」

救護員「はあ」

隊長「そうすると、普通、冒険者は反発するじゃん」

救護員「そうですね。仕事なくなりますし」

隊長「ってことは、そういう反発とがどんなものか、逆に気になって仕方なくなるんだよ」

救護員「……おお!」

商人「……続けていい?」

隊長「どうぞ」
961 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/11/06(火) 21:50:24.76 ID:jsbyhTLFo
商人「で、関係あるかは分からないけど、帝国の外交官の人に……それなりの値段で売ったわ」

商人「ただ、そのあと、少し経って模擬戦でしょ? 各国招待して」

隊長「うん……」

商人「で、こっちが苦労して作ったランキングも、中間試験のあとに公式で作っちゃうし」

商人「だから、一回こっきりの売り物にしかならなかったわ」

隊長「ふむ……」

工兵「ふーん」

商人「多分、学園側も、ランキングの存在をどこかで知って、というところじゃないかしら」

隊長「……それだけじゃないだろうな」

隊長(おそらく、買い取った帝国側の反応や、何かしらのやり取りが学園側とあったんだ)

隊長(たとえば……帝国が、このランキングを突きつけた、とか? いや……)
962 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/11/06(火) 21:51:51.94 ID:jsbyhTLFo
商人「……あとは、竜のことはね、いろいろ聞いてみたけど」

商人「商隊の間では、案外有名だったみたいね。竜が今でも生きているってのは」

隊長「そうなのか」

商人「ただ、襲ったりなんだりはされてないし、きっと竜の王がいなくなってからは、暴れたりしなくなったんだろうって」

隊長「……それも妙な話だね」

工兵「あ、僕もそう思う」

救護員「はい、分かりません!」

隊長「説明してくださいって言おうね、ちゃんと」

救護員「説明お願いしますぅー……」

工兵「あー、うん。王様がいなくなったら、むしろ暴れまわるのが普通じゃない? 指揮したり、止める立場の人、人じゃないけど、いないんだし」

救護員「えっ、竜の王は生きているんですか?」

隊長「違うって」

隊長(いや、ひょっとして違わないのか……?)
963 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/11/06(火) 21:52:36.30 ID:jsbyhTLFo
商人「こういう考えもあるわ。勇者に王を倒されて、人間に対する苦手意識が植え付けられた」

商人「だから、普通に戦えば人間よりめちゃくちゃ強いのに、全然手出しをしようとしてこなかった」

隊長「……ところが、俺達とやりあったわけだ」

救護員「えーと、それって」

商人「そんなの知らないわよ」

隊長「いずれにせよ、竜が何らかのコロニーで繁殖しているってことは間違いないかな」

隊長「社会性のある動物だ、とは、工兵のお師匠様も言っていたし、手出しをしないのも竜なりのルールだったのかも」

工兵「ふーん」

隊長(……学園がそれを知らなかったってことは、まず考えられないか)

隊長(だとすると……やっぱり、今回の件は……)

隊長(そういうことなのか……?)

隊長(学園は、俺たちを使い捨てにするつもりだったのか……?)
964 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/11/06(火) 21:53:09.61 ID:jsbyhTLFo
さぁぁぁー……――

御者「おーい、降ってきちゃったんで、休憩にしますよーっ」

救護員「さっき休憩したばっかりなんですけどーっ?」

御者「無茶言わんでくださーい」

隊長「早く進みたいんだがな……」

工兵「焦ってもしょうがないと思うけどなぁ」

隊長「いや、焦った方がいい」

隊長「いよいよ学園が怪しくなってきた」

商人「そんなこと言われても……」


――びしゃああああん!


救護員「うわっ」

商人「雷も鳴り始めたわよ。強行すればしたで、その分危険なのよ」

工兵「僕もそう思うな」
965 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/11/06(火) 21:53:47.22 ID:jsbyhTLFo
隊長「……けどな、学園側は多分、竜をダシにして、冒険者の価値を高めようとしているんだ」

商人「それがイマイチ分からないわ。ダシにするったって、大半の人にとっちゃそこら辺にいる魔物を倒したところで――」

隊長「そうだ。俺も気になっていた」

工兵「隊長、難しく考えすぎてない?」

隊長「……」

隊長「分かった。推測で申し訳ないが、俺の考えを言っておく」

隊長「学園はもしかして、竜を飼っているんじゃないか」

三人『はあ?』

隊長「そう考えると、まず竜がなかなか人を襲わなかった理由、今度の件についても一番隊の派遣が迅速だった理由なんかも片はつく」

隊長「つまり、最初から仕組まれた作戦だったということだ」

商人「いやいやいや、それじゃ私らはなんだって言うわけ?」

隊長「捨て駒」

救護員「すっ……!」
966 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/11/06(火) 21:55:27.69 ID:jsbyhTLFo
工兵「はい」

隊長「なんだい、工兵」

工兵「仮にそれが正しいとしてもさ、学園はどうするつもりなのさ。一番隊が竜を退治しました、ならそれで終わりじゃないの?」

隊長「竜を自由に操れるなら話は違ってくる」

隊長「例えば、各国の脅しの材料に使える。直接的にじゃなくてもいい」

商人「なに? 竜がまた世界中の脅威になるってこと?」

隊長「そうだ。そしたら冒険者の出番だ、と、こうなる」

救護員「へぇー、すごいですね〜」

商人「馬鹿らしい、大体、学校の敷地のどこに竜がいたっていうのよ」

隊長「別に学園の敷地内じゃなくていい。竜を飼っている……『牧場』があるとしよう。そこの一つがあの谷だったんだ」

隊長「そうだな。『牧場』と考えると、どこかの冒険者が、柵の中から追い出してやる、とかで……」

隊長「竜が広まる。竜の時代の再来、と言っても、竜の王のような存在がいなければ、単に体のでかい危険動物に過ぎない」

隊長(って言ってのけられるかは分からんな……)

三人『……』
967 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/11/06(火) 21:55:54.35 ID:jsbyhTLFo
隊長「飼われていた竜も、俺達の刺激によって、いよいよ死にものぐるいの戦いを始める」

隊長「そうなれば、竜退治の専門家として、冒険者の役割がまた注目され始める」

商人「……軍隊だっているじゃない」

隊長「帝国で言えば、まだまだ出来立てに過ぎないし、あれで想定されているのは対国家だ」

隊長「大人数での戦闘を想定すると、竜との戦いは追いつかないことが多いんじゃないか」

工兵「ま、旧大国は潰れちゃったしね」

隊長「……危険な野生動物と捉えるなら、それこそ軍隊より害獣駆除の専門家が必要だ」

商人「待ってよ……学園が、その、そんなこと考えているっていうの?」

商人「だって、竜って……あ、あんなに、デカかったじゃない」

救護員「死人が出ちゃいますよ!?」

隊長「そりゃあそうだろうな」

救護員「そうだろうなって……」
968 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/11/06(火) 21:56:32.48 ID:jsbyhTLFo
隊長「いや、説明がつくってだけで、実際のところは分からない」

隊長「けど、もしも、この予想が当たりだとしたらだ。焦っても焦り足りない」

隊長「だって、学園は最初からそのつもりだったんだから」

商人「そ、そうかもしれないけど」

隊長「今、着々と行動を起こしているところなんだ。証拠を集めても、間に合わないかもしれない」

隊長「現実に竜が脅威になったら――」


  ――――ギャォォォォォオオオオオオ……


工兵「……あの、今さ」

隊長「――御者さん!」バッ

御者「はい〜?」

隊長「今、なんか聞こえませんでしたか?」

御者「……聞こえたスね」

隊長「ちっ」


隊長は馬車から飛び出した!
969 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/11/06(火) 21:56:59.40 ID:jsbyhTLFo
隊長「雨で視界が悪くてしょうがないな……」

救護員「隊長、雨除け! 笠!」

隊長「ああ、ありがとう」

工兵「冗談だよね……」

隊長「御者さんも聞いたと言ってたぜ」

商人「……本当なの? あんなのの姿を見るのも、私はもういやよ」

隊長「嫌と言ってもな。工兵、遠望グラスある?」

工兵「義腕に仕込んでおいたんだ」

隊長「ちょっと、谷の方角をチェックしてみてくれ」

工兵「ういー」

隊長「救護員、最悪の場合も考えて、荷物をまとめて」

救護員「わ、わかりましたっ」

商人「わ、私は……」

隊長「どうする? 学園に一緒に行く意味は薄いかもしれないよ」

商人「……」
970 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/11/06(火) 21:57:28.10 ID:jsbyhTLFo
御者「あのー、隊長さん」

隊長「ああ、御者さん。どうもここでお別れになるかもしれません」

御者「は、いやその」

隊長「ちょっと待ってていただけますか? 今、工兵が観察してますんで」

御者「それならいいんすけどね」

  工兵「……隊長ーっ、ちょっと来て!」

隊長「分かった! すぐ行く!」

御者「……どのみち、学園まではお付き合いしますよ」

隊長「いや、けどこの雨と状況では」

御者「そんなヤワな馬でも御者でもないんですんで」

隊長「……すみません。ありがとうございます」

御者「お礼を言われるほどじゃないすよ。旦那さんからの直々のご依頼ですし」

隊長「よろしくお願いします!」
971 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/11/06(火) 21:59:09.45 ID:jsbyhTLFo
バシャ、バシャッ。

工兵「……隊長、よく見えないんだけどさ」

隊長「雷も鳴っているしな。だが、竜ともなれば、相当な大きさで」

工兵「うん。黒い塊が動いているのが見える」

隊長「ほ、本当か!?」

工兵「ちょっとグラスを使ってみてくれる?」

隊長「どれどれ……」


工兵の手から、遠望グラスを受け取ると、隊長は雲の奥に目をやった。

グラスのレンズにつく水滴を拭き取ると、雷光がひとつ閃いた。
その光を受けて、はっきりと影が雲に映しだされた。

一つ、二つ……複数いるところまで認めたところで、隊長はグラスを工兵に返した。


工兵「……いたね」

隊長「まずいな」

工兵「うん、急がないと」

隊長「あの方向だと、学園に向かっている」

工兵「へっ?」
972 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/11/06(火) 22:01:32.21 ID:jsbyhTLFo
今夜はここまで。 できる限り早く更新していきます。
973 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/11/07(水) 08:59:46.42 ID:JSisDVHYo
乙乙!
974 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/11/08(木) 22:21:43.60 ID:53zmYc9To
隊長「御者さん!」

御者「ちょっと待って下さいな。ついてくったって、この雨じゃすね」

隊長「これからおそらく、天候は悪くなるばかりです」

隊長「できる限り早く、移動したほうがいい」

御者「いや、いや、その……」

隊長「そうでないなら、歩いていきます」

工兵「隊長……」

隊長「ああ。橋を渡って、今、谷から学園に戻る際の道に入ってきている」

隊長「歩いても、一日……は、かからないだろう」

工兵「まー、雨降ってるけどね」

御者「分かりましたって! そしたらね、ちょいと馬の蹄の滑り止めを見ますから、一緒に手伝って欲しいんですわ」

隊長「あ、ああ、分かりました」

御者「焦らない焦らない、どうしたって、間に合わない時は間に合いやしませんよ」

隊長(うるせぇ)
975 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/11/08(木) 22:22:42.11 ID:53zmYc9To
ざざぁぁあああ!

御者「……うひぃ、雨が激しくなってきたすね」

隊長「うおっ、馬がっ」

馬「ひひん!」

御者「どうどう。困難、危険はいつものことだぞ」

工兵「いつものことって……」

御者「ほい、ちょっと脚の部分をしっかり持って」

隊長「はい、はい!」

工兵「重いよー」

御者「無理に持ち上げなくても大丈夫すよ」

隊長(さすがに手際がいいな……)

御者「悪天候で走るのは、これで十回目くらいすねー。旦那さんの買い付けが失敗した時とか」

工兵「し、失敗して、どうして走るんです?」

御者「別の町に移動してた連中を追いかけて、即金で商品を抑えたんスよ。それも売り切れなかったら、首くくってましたけどね」

商人「綱渡りじゃない……」
976 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/11/08(木) 22:23:16.81 ID:53zmYc9To
御者「よっ……と」

隊長「よし、工兵、もういいぞ」

工兵「ひぃぃ、馬も結構暖かいなぁ」

隊長「この馬は、その十回とも走ったんですか?」

御者「まさか。二頭潰したんでね、こいつは三頭目ですよ」

商人「その割には、随分と擦り切れているような感じがするけど」

御者「八回走ってるすからね」

商人「ほとんどじゃないの」

隊長「じゃあ、その強健な馬でよろしく頼みます」

御者「ほいほい、そんじゃ乗ってください」

隊長(……うん。後半日、竜に追い抜かされたからな……)

隊長(人の足では、もう追いつけないところだった)
977 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/11/08(木) 22:24:17.15 ID:53zmYc9To
御者「そんじゃ、行きますよー!」

救護員「はーいっ!」


 こけっ。


救護員「うわあっ!」

商人「またコケてどうすんのよ」

工兵「あはは」

隊長「……」

救護員「うう、ひどい……」

隊長「……」

救護員「……あの、隊長?」

隊長「ああ、なんだい?」

救護員「なんか転んだのをじっと見つめられると恥ずかしいんですけど」

隊長「ああ、いや、ちょっと気になることが……」

商人「こいつが役に立つのかと?」

救護員「なぁんですか!? あんたはー!」

隊長「うるさいよ」
978 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/11/08(木) 22:24:46.61 ID:53zmYc9To
馬が水たまりを蹴っ飛ばしていく音が響く。
雷が荷台の隙間から光を飛ばし、鳴音が遅れて届く。

……さらに、遠くに、竜の声。

それが聞こえるたびに、身をすくめる。
みな、一様に不安と緊張を表情に貼り付けている。


工兵「……気になることって、なんのことさ」

隊長「うん。単純なことで、なんで竜は学園に向かっているのかってこと」

商人「隊長の説を取るなら、学園を襲うのはおかしいでしょ」

救護員「は、反逆するってやつかもしれませんよ!」

工兵「本当に学園に向かったのかな? もしかしたら、通過して、別の国に移動しているだけかも……」

隊長「それならいいが、そうでないなら、学園についた時の行動も修正しないといけない」

商人「どうするの?」

隊長「とにかく、二人と合流するのが最優先だ。これだけは変わらない」

隊長「あとは、学園側の資料についてだ。証拠集めをしている暇なんてないかもしれない……」
979 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/11/08(木) 22:25:13.66 ID:53zmYc9To
工兵「学園が安全なところじゃなくなってるってことだよね」

救護員「それを言ったら、最近は、魔物が学園を襲ったりしてたじゃないですかぁ」

隊長「ああ、一番最初の作戦」

隊長(そうだ。よく考えれば、あれもおかしなタイミングだった。全隊が組み分けられるのを見計らったかのような魔物の襲撃……)

隊長(図書室などのトラップ……)

隊長(学園側から、競争を煽るような模擬戦、中間試験の連戦……)

隊長(すべて学園側が意図的に配置したものだとしたらどうだろう)

隊長(……考え過ぎか。そこまでして生徒たちを痛めつける理由がない)

隊長(……ないよな?)

隊長(しかし、だが、それにしては、今回の作戦ではあっさり……)

商人「何か考えているなら、口に出してもらえる?」

隊長「……いや、大したことじゃない。それより、突入して以降の――」


ずがしゃあっ! ぎきぃいいっ


救護員「きゃあああっ!」
980 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/11/08(木) 22:25:49.24 ID:53zmYc9To
隊長「どうしました!」

御者「あかんすわー、がけ崩れで」

商人「こんな時に……」

工兵「ドリルとか、使う? 火薬も爆雷管もあるけど」

隊長「いや、下手に吹き飛ばしても、余波が来るかもしれないしな」

御者「『学園』でしたよね? なら……」

隊長「……ちょっと待った」


ざぁあああっ、ざぁぁああああ……


救護員「どうしたんですかぁ?」

隊長「全員、武器を取れ」

商人「えっ」

隊長「囲まれてるぞ!」


――投石攻撃! 隊長は馬車の陰に隠れた!
981 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/11/08(木) 22:26:19.76 ID:53zmYc9To
御者「うわわっ、魔物ですかい」

隊長「雨の中を移動している……小鬼の類だ」


 ひゅん、ひゅんっ、ずがっ!


救護員「わっ、わっ、石を投げられまくってますよぉ!」

隊長「落ち着け、まずは盾を持ってこよう」

救護員「盾って、あの、おっきな木の板……」

隊長「そうそう! とりあえずだ」

御者「まずいまずい、この調子だと馬が興奮して……」

隊長「脱出ルートは!?」

御者「丘を登るしかないでしょうな!」

隊長「隙を作ります! 合図をもらったら馬車に飛び乗りますんで!」

御者「ちょ、ちょいちょっと!」


隊長の攻撃! 近づいてきた小鬼Aの頭を打ち砕いた!
982 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/11/08(木) 22:27:27.32 ID:53zmYc9To
隊長「ふんっ……!」

救護員「隊長!? タテ、カラダ! 無理しちゃダメですって!」

商人「ああ、もう! このっ」


商人の攻撃! 投げられた石を布で絞って振り回した!
小鬼Bに直撃!


小鬼B「ぴぎゃー!」

商人「うっし、あたった」

工兵「……こんなんじゃキリがないよ、隊長!」

隊長「わかってる! 閃光弾は?」

工兵「勿体無いよ――」


隊長の攻撃! 小鬼Cには当たらなかった。


隊長「くっ……重いんだよ、この武器」ハァハァ
983 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/11/08(木) 22:27:57.73 ID:53zmYc9To
工兵「それに、閃光弾だと馬も驚いちゃうかもしれない」

隊長「そんなの、爆発物ならどれもおなじことだろう」

工兵「……こういうのはどうかな?」

隊長「それは、どのみち光るんじゃないのか?」

工兵「だから、雨の中だからさ……」

隊長「……分かった! 取り付けといてくれ!」

工兵「隊長、無理しちゃ駄目だよ!」

隊長「こんなところで死んでられないからね!」


工兵は馬車に引っ込んだ!


隊長「よし、救護員、盾で馬を守るぞ」

救護員「あ、あいさー! アイサー!」

商人「私はっ?」

隊長「さっきみたいに、投石を拾って牽制してくれ」

商人「苦手なのよ、こういうの……!」


小鬼Dの攻撃、商人の足に投石がぶつかった!


商人「ぬぐっ!」
984 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/11/08(木) 22:28:23.99 ID:53zmYc9To
隊長「もう少し、我慢して! 相手も視界が悪いから、闇雲に近づいてきているだけだっ!」

救護員「下がりなさいよ、あんた!」

商人「うるさいっ」

隊長「ちっ、勢いが強い……こんな時に」

   工兵「できたよー」

隊長「早くていいね!」

   御者「こんなんで大丈夫なんすか?」

   工兵「大丈夫大丈夫。試したことはないですけどね」

   御者「……」

小鬼E「ギキィーッ!」

隊長「うるせぇ」 ボカッ

小鬼E「ぬべしっ」

隊長「乗り込むぞ、救護員、商人を支えて」

救護員「了解です!」

商人「あいた、ホントに痛いんだから!」
985 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/11/08(木) 22:29:10.24 ID:53zmYc9To
工兵「それじゃ、行くよ! 魔力ライト点灯〜」カチッ


工兵がスイッチを入れると、馬車に括りつけられたライトが点灯した!
さらに、馬の頭部にも据え付けられており、前方を強く照らす!

……小鬼たちは思わず後ずさった。


工兵「うえへへ、ビビってるビビってる」

商人「……え、これだけ?」

隊長「動きが止まった、相手が怪訝に思っている間がチャンスだ」

馬「ぶるひぃんっ!」ビカー!

御者「よーしよしよし、頭のピカピカは大丈夫みたいすね」

御者「それじゃ、行きますよ」

御者「丘の方へ、疾く!」


ぬかるみに、馬の蹄が突き刺さる。
頭を上下に振って進み始めたため、光もめちゃくちゃに小鬼を照らした。

そして、次の瞬間、包囲網を破って馬車が飛び出した!
986 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/11/08(木) 22:29:36.23 ID:53zmYc9To
――どちゃっどちゃっどちゃっ!


   救護員「ひゃわわわわっ」ガタターン!

   商人「あああああっ」ドッシャーン!

御者「……こりゃ便利ですな、雨の中でも随分と視界が良い」

工兵「魔法陣を利用したライトでね〜」

隊長「御者さん、丘の方を経由するとなると……」

   救護員「ふにゅおおおおおっ」ゴロゴロゴロ……

   商人「うわうわうわっ」ドッテーン!

御者「焦らんでください、坂をぐるっと廻るよーなもんですわ」

工兵「そ、そーですか」


――ずどちゃっじゃっどちゃっ!
987 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/11/08(木) 22:30:02.50 ID:53zmYc9To
   救護員「あうあうあうーっ」ガタガターン……

隊長「うるせぇ、しっかりつかまってろ」

救護員「た、隊長ー」

隊長「工兵も、商人を捕まえといて」

工兵「はいはい」

商人「こ、こんなに揺れる馬車は初めてだから……」

隊長「そうだな。俺も初めてだよ」

商人「ちょっと、何でどこを触っているの!?」

工兵「機械の義腕で、胸を掴んでいるけど」

商人「さ、触らないでよ」

工兵「だったら、もっとしっかり、馬車の荷台にしがみついてほしいな〜」

商人「ああー、もう、乗り物大嫌い……!」
988 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/11/08(木) 22:30:49.75 ID:53zmYc9To
急角度ではなにせよ、雨が川になって降りていくような斜面を、馬車が駆けていく。
上下に揺らす頭、そしてライト。

風雨も魔力光も巻き込みながら、馬車が駆け登っていく。

黙々と登る、その坂がおよそ頂点の見える位置に達したところで、御者は馬にカーブの指示を出した。

――風がひときわ強く吹く。
一瞬、雨も止んだかのように音を失う。

曲線を描いて、馬車が『学園』を見下ろすような地形にたどり着いた時、5人の目に赤が飛び込んできた。


救護員「赤い……」

工兵「隊長、あれさ、学園だよね……」

隊長「ああ」


商人は言葉すら出さなかった。

『学園』は燃えていた。竜の吐く炎によって。
989 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/11/08(木) 22:31:35.85 ID:53zmYc9To
今夜はここまで。

そろそろ次スレ。
タイトルはどうしましょうかね……
990 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/08(木) 23:48:36.42 ID:wd8qc89IO

シンプルに後ろにナンバーを付けるか続編だと分かる程度に台詞に変えるかすれば良いんじゃなかろうか
991 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/09(金) 00:22:33.69 ID:47mYRikqo
乙!
続編だとわかれば、どんなでも好きにどうぞ
992 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/10(土) 11:15:44.30 ID:ZmJ+BmvDO
学園戦隊ねぇ……

学園戦隊かぁ……

学園戦隊なぁ……

とか!
冗談です
993 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2012/11/10(土) 19:00:39.54 ID:KJZ1Rec+o
学園戦隊が……
994 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/11/14(水) 22:56:29.66 ID:FM4Daeiwo
遅れておりましてすみません。

シーンの関係で少しばかり書き溜めを終えてから投下したいと考えており、
次スレでまとまった感じで再開したいと思います。

次スレタイトルは『隊長「よーし、学園戦隊出動だ」』みたいな感じで行きたいと思います。

このスレッドには中途半端になるので、投下はしないっす。
それではいましばらくお待ち下さい。
995 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/14(水) 23:16:32.76 ID:aMw64UfNo
了解、待ってる
996 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/11/25(日) 00:05:43.70 ID:MZhlkD9Go
次スレ →
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1353769473/
997 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/11/26(月) 23:15:22.66 ID:gvy1GFo3o
埋めよう
998 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/11/26(月) 23:15:49.04 ID:gvy1GFo3o
999 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/11/26(月) 23:16:16.32 ID:gvy1GFo3o
1000 : ◆k.6bdeNTfg [saga sage]:2012/11/26(月) 23:17:16.39 ID:gvy1GFo3o
お疲れ様でした
1001 :1001 :Over 1000 Thread
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ここだけ決闘のウエスタン コンマ00で凄腕 @ 2012/11/26(月) 21:56:30.95 ID:TpJb9/af0
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No.11 ビッグアイ 「邪王心眼の使い手だって?」 @ 2012/11/26(月) 21:31:48.34 ID:qDtmI3QS0
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ここだけ魔王の城 コンマ00で魔王様に怒られる @ 2012/11/26(月) 21:12:48.88 ID:UK5fKZUNo
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わかりやすいかんじきょうしつ @ 2012/11/26(月) 21:09:10.22 ID:GBSTJS2yo
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ブーン系遊戯王SS総合スレ(仮) @ 2012/11/26(月) 21:04:10.60 ID:g+Ivw+Dn0
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【雑談質問】小夜の日記帳【大歓迎!】 @ 2012/11/26(月) 20:55:52.41 ID:NT8EDVDV0
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出木杉「0点って良いなぁ。」 @ 2012/11/26(月) 20:48:59.78 ID:366y66TAO
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