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妖精さん「ぼくをおたべ」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/08/10(金) 02:04:34.22 ID:q/ehUOle0
ご注意。
これでもかと地の文を書いておきながら台詞の前の名前は何なのかと
苦言を述べたくなると思います。が、SSにおいて台詞に付く名前は
いわば挿絵の代わり、漫画でいう絵に当たるものと認識しております。
原作の力に依存するのがSSなればこそ。
ゆえに読者にあってはカギ括弧の前に名前らしきものがあったならそこでアニメなり
ラノベなりのキャラクタを思い浮かべていただければと思います。

ご注意2。
このSSは原作を知らない作者がアニメ『人類は衰退しました』を6話まで視聴した後、
ガガガ文庫のWEBページに行って7巻までのそれぞれ数十ページだか十数ページだかの
『立ち読み』を読んだだけの知識で書いています。
したがって上記に無い設定は全て>>1の想像。
原作との齟齬が無いわけがありません。
むしろ見つけ出して>>1の脳のお粗末さを笑うなりして楽しむのが正しい読み方です。

以下、本編

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1344531873
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寝こさん若返る @ 2024/05/11(土) 00:00:20.70 ID:FqiNtMfxo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1715353220/

第五十九回.知ったことのない回26日17時 @ 2024/05/10(金) 09:18:01.97 ID:r6QKpuBn0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1715300281/

ポケモンSS 安価とコンマで目指せポケモンマスター part13 @ 2024/05/09(木) 23:08:00.49 ID:0uP1dlMh0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1715263679/

今際の際際で踊りましょう @ 2024/05/09(木) 22:47:24.61 ID:wmUrmXhL0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aaorz/1715262444/

誰かの体温と同じになりたかったんです @ 2024/05/09(木) 21:39:23.50 ID:3e68qZdU0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1715258363/

A Day in the Life of Mika 1 @ 2024/05/09(木) 00:00:13.38 ID:/ef1g8CWO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1715180413/

真神煉獄刹 @ 2024/05/08(水) 10:15:05.75 ID:3H4k6c/jo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1715130904/

愛が一層メロウ @ 2024/05/08(水) 03:54:20.22 ID:g+5icL7To
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1715108060/

2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/10(金) 02:07:25.16 ID:q/ehUOle0
妖精さん「いちようせいぶんのこううんではいかんともしがたいのです」

わたし「それはつまりこの度のトラブルに妖精さんの加護は及ばないと?」

妖精さん「めいうんつきたのです」

なんてこと。非常時に助手さんと別れ別れになってしまうのは良くあることとしても、
今回は妖精さんを一人随行員に抜擢するのに成功して「これで勝てる」と内心豪語していた
出発前のわたしを思わず恨んでしまうようなこの事態はなんなのでしょう。

今は妖精さんが一人いる状況。これを「1f」と呼ぶのですが。
ちなみにfというのがフェアリーの頭文字で妖精さんの密度を現す単位だそうです。
それでこの1fの環境下では突発的な危機に対してご都合主義的に救済される確率が高まるだとか、
なんらかの回避手段を講じればそれが高確率で成功して助かるなどという現象が起きるとされています。

しかしです。
今回の危機は突発的ではなく真綿で首を絞められるようにじわじわと訪れたものであって、
なにか道具一つで回避できるようなものでもありませんでした。
妖精さんの確保に遁走していてその事前準備が十分でなかった報いなのでしょうか。
もちろん限られた時間で可能な装備は揃えたつもりなのですが、こんな絶望的に何もない状況に
陥るなんて想定外もいい所です。見積もりが甘かったと言えばそれまでですが、
この「それまで」はわたしの人生が「それまで」になってしまう程の重たい「それまで」なのです。

妖精さん確保を最優先にしたわたしの判断は決して誤りではないと信じたいのですが、
今回陥ってしまった状況はたった一人の妖精さんには荷が重過ぎたということなのでしょうか。
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/10(金) 02:08:54.87 ID:q/ehUOle0

妖精さん「ていあんがあります」

わたし「はい。なんでしょう? わたしがついに秘められた力を発現させるとかですか?」

そんな不毛なことを試す気力はもうとうの昔に尽きてますが。

妖精さん「ひめられたちからはきかんげんてい。いまはきせつはずれなのです」

旬の野菜や果物ですか。しかもつまり季節ならあると言ってますよこの人。
いつが旬なのか気になりますが、判った所で今は何の役にも立ちそうにないので忘れることにします。

わたし「どんな提案なんですか? もう一歩も動ける気がしないのですが」

冗談を言って妖精さんを楽しませることが出来ればf値を底上げすることも出来たのでしょうが、
気がついたらもはやその気力も尽きていました。どうにもなりません。

妖精さん「とてもかんたん。あなたにもできるです」

わたし「判りました。もうこの際だから出来ることなら何でもしますよ」

妖精さん「ぼ く を お た べ」
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/10(金) 02:10:10.49 ID:q/ehUOle0

わたし「……」

わたし「……ああ、そうですね。
     一歩も歩けないといっても休めばもうちょっとは歩けるかもしれないですね。
     疲れてるとはいえ、ちょっと鬱入って動きたくなくなっただけかもしれませんし」

妖精さん「わかりにくかったですか。まずてでつかんでもちあげてくちのまえにはこびくちを
       あけてくちにいれてそしゃくしてのみこむです」

はい。

判ってますとも。わたしの身体はまだ幻聴を聞く程の危機は訪れていません。
つまり、この妖精さんは今は無き大昔の映像文化にあったという
食品で出来た顔をもつ正義のヒーローみたいなこと言ってやがるようです。
聞き間違いじゃないかとも疑いましたが。

妖精さん「さあおたべ」

やっぱり聞き間違いなんかじゃありません。
現実逃避も空しく、妖精さんはあどけない顔をして情け容赦ない提案を突きつけています。

わたし「で、で、できるわけないでしょー!」

妖精さん「はてなぜにして」

わたし「わたしに食人の習慣はありません!
     いくらお腹が空いたからって妖精さんを食べるだなんて。
     第一本当に食べてしまったら、妖精さんいなくなっちゃうじゃないですか!
     0fになったら、わたし死にます!」
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/10(金) 02:11:15.47 ID:q/ehUOle0

妖精さん「いなくはなりませぬ」

わたし「はい?」

妖精さん「にんげんさんもしにませぬ」

わたし「ど、どういうことですか……?」

妖精さん「いるだけではげんかいがありますゆえ、しょくしてかくじつにするです」

わたし「ええと、妖精さんの加護のこと?」

妖精さん「いえす」

わたし「死なないんですか?」

妖精さん「いきたままごぞうろっぷにいきわたるです」

わたし「……」

非常識です。
まあ予想の斜め上を軽く飛び越す妖精さんですから十分ありなんでしょうけど。

わたし「それはそれでなんか怖いんですけど」

妖精さん「りょうやくちににがし」

薬なのかい。

わたし「そ、それでわたし、助かるんですか?」

妖精さん「かくりつがあがるだけですが」

妖精さん正直です。泣けてきます。
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/08/10(金) 02:11:47.50 ID:E/2RXgodo
あーっとここで俺が痛恨のレスをぶちかます! それは微妙にだが七巻でやっtくぁwせdrftgyふじこ
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/10(金) 02:14:39.55 ID:q/ehUOle0

妖精さん「さあぐいっとひといきに」

わたし「えーと、そのまえに、つまり妖精さん可視範囲におよぶ1fの領域を
     わたしの身体に集中させるってことですよね?」

妖精さん「ざっつらいっ。そのとおり〜」

なにやら得意げです。

わたし「それなら別に口から入れなくてもいいのでは?」

さっきも述べた通り妖精さんは地上のあらゆる物質にするりと影のようにとけ込めるという性質があります。
実体があるんだかないんだかよく判らない性質です。

そしてとけ込まれた物質は人類の予想からかなり外れた変質を遂げ、
そこで巻き起こった様々なトラブルは現人類と旧人類の間を取り持つ調停官であるわたしに
ことごとく降り掛かってくるわけですが。

妖精さん「にんげんさんにはいりぐちからしかはいれませぬ」

わたし「いりぐちとな?」

妖精さん「せいぶつはいりぐちとでぐちがきまっているです」

わたし「ああ、つまり口から食べて……(てんてんてん)ということですか」

無機物なら何処からでもとけ込めるけど、口を持った生き物は口から入るしかないと言いたいようです。

わたし「あのー、大幅に譲歩して口に入れるとして、噛み砕かなきゃ駄目ですか?」

妖精さん「よくかんだほうがきゅうしゅうがよいです」

わたし「うわー」
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/10(金) 02:20:37.41 ID:q/ehUOle0
>>6
いーんだ。新刊ラノベのタイトルと紹介文だけから想像で話書いて、
買って読んでからかぶったとこと違うとこを見てあーだこーだする遊びの延長だから。
あとで7巻読んで転げ回るのは>>1だし。
とりあえず諸事情でGWあけまで読めぬ。
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/08/10(金) 02:23:01.58 ID:E/2RXgodo
GW明けとか凄いなおい、来年か。面白いぞ
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/10(金) 02:23:32.39 ID:q/ehUOle0

妖精さん「かむのだめですか」

わたし「勘弁してください」

妖精さん「まるのみだとこうかははんげんですが」

それで今後負うであろうトラウマはおそらくその半分よりずっと大きな不幸です。きっと。

わたし「丸呑みってことで」

妖精さん「まるのみだとそのまましたからでますが」

わたし「下からっ……!!」

もうどうでも良くなってきました。
一ついえることは年頃の娘さんにこの仕打ちはあんまりだってことです。

妖精さん「そういえばしたにもいりぐちがありま」

わたし「しゃらっぷです!」

妖精さん「でぐちとけんようでおすすめですが」

わたし「……」

無言で妖精さんをわしっと掴みます。もう大胆にわしっと掴みます。
わたしの色々なパラメータがもう限界なのです。DPとかSAN値とか。

妖精さん「どしましたか」

わたし「……口からです」

妖精さん「いいですか」

わたし「はい。でも、噛みませんよ」

妖精さん「ではめしあがれ」

どうにでもなれです。
わたしは目をつぶって妖精さんを一気に口に放り込みみました。

わたし「あれ?」

小さいとはいえあのサイズですから飲み込むのは難儀だと思っていたのですが、
口にほおばったと思った瞬間、すっと消えてしまったように感じました。

いや、消えてしまったのは私の意識だったようです。
だってそこからどうなったのか全然覚えていないのだから。
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/10(金) 02:28:36.32 ID:q/ehUOle0
>>9しまったお盆あけの間違いだ。暑さにやられた
そんなに待ったら何巻までまとめ読みするハメになるやら
いやそでも問題ないかも。とりあえず立ち読みとアニメで満足してるし。
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/10(金) 02:32:31.16 ID:q/ehUOle0

次に気がついたのはどこか別の世界?

見回すと視界に入る見慣れたようで全然見たことのないようでもある
巨大に繁茂した植物群とかは専門外なのでスルーして。

とりあえず目の前には大きな石造りの壁があります。
造作的には自然物と見まごうような岩山なんですが、
よく見ると一辺がわたしの身長くらいもある巨大な直方体の岩がいくつも整然とまでは行かないにしても
見るからに人為的な配列で、これでもかというくらいの高さまで積み上げられているのです。

旧時代の文化遺産にしては雑な作りですが明らかに人工物のようです。
そしてその壁は右も左も遥か彼方まで続いているのです。

このような巨大構造物を作り上げる技術はとうの昔に廃れてしまっている筈ですが、
こんな巨大な物が朽ち果てずに残っていたなんて驚きです。

わたし「どこのいせきなのでしょう」

おや?
自分の発した言葉がどこか口調が舌足らずです。気絶してたせいで頭が本調子ではないのでしょう。
それはともかく、どういうわけか体力が回復してます。
とりあえず遺跡の壁にそって歩いているのですが疲れが感じられません。
これが強化された妖精さんパワーなのでしょうか? まだまだ何十キロでも歩けそうな雰囲気です。

ところで、少し歩いてみて判ったのですが、この遺跡どこかで見たような気がします。
いえ、このような石で出来た遺跡なんて一度も遭遇したことはないのですが
遺跡ではなくてもっと身近な所で見たような気がするのです。
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/10(金) 02:35:37.19 ID:q/ehUOle0

わたし「はて? どこでみたやら」

「……」

わたし「はい?」

「……」

それはホラー映画の比ではありませんでした。
わたしはその時、何やら妙な気配を感じて振り返ったのです。

わたし「△※★%&$$!!」

「……」

巨大な顔が覗き込むようにして上からわたしを見つめていました。
そう、それはまるで、

わたし「きょだいじょしゅさん!?」

いまだに口調が舌足らずなのですがそれどころじゃありません。

巨大助手さん「……」

いや。めずらしい妖精さんとか言われても困るのですが。
これは我々旧人類を妖精さんと見るような未知の巨人種と遭遇してしまったのでしょうか?

しかし成る程それならこの巨大構造物の存在も判ります。きっとこれは彼らの手による物なのでしょう。

『ある操作』によって強化された妖精さんの加護はわたしをこの巨人種の生存領域へと運んでくれたのでしょう。
きっとそうです。そうに違いありません。
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/10(金) 02:37:55.45 ID:q/ehUOle0

巨大助手さん「……」

あの人に似てるとか言ってますよ。この助手さんに良く似た巨人種の人は。

それにしても大人しい性格の人で助かりました。
そこは妖精さんの幸運バイアスがかかっているのでしょう。

そういえば、だいぶ前にはぐれた助手さんはもう家に帰っているころでしょうか。
もしかして心配しているかもしれません。早く帰らないといけませんね。

などと考えているとその巨人種の人が手を伸ばしてきて、

わたし「えええ」

わたしはひょいとつまみ上げられてしまいました。

わたし「なにするんですかー」

そして、そのまま横に置いてあった巨大な買い物袋に放り込まれてしまったのです。

それにしても買い物で物品の確保とはこの巨人種の生態は旧人類に酷似してますねー。
ほら。袋の中の物品もサイズが大きいだけでわたしの住んでいる楠の里のそれとそっくりです。

その助手さんに良く似た巨人種の人はわたしの入った巨大な買い物袋をに抱えあげて、
先ほどの巨石構造物にそって歩き出しました。
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/10(金) 02:40:51.45 ID:q/ehUOle0

巨大物品を足がかりに巨大買い物袋から顔を出して外を見ていると見えてきました。
あれはまさしくおじいさんの事務所をそのまま巨大にしたような巨人種の家。

あんな大きな建物を建築するなんて巨人種の技術は妖精さんに匹敵するのかもしれません。
というのは構造物が同じ断面積で支えなければならない重量というものは
スケールに比例して増加するからです。つまり大きな建物ほど建造が困難になるのです。

かつて繁栄してた頃の旧人類は様々な軽くて丈夫な素材や構造を開発して大きな建物を
建造していたと聞きます。いまは見る影もなくすっかり廃れてしまった技術ですが……。

家に入るともっと年配の巨人種の人がいました。
ちょうどわたしのおじいさんを巨大にしたような容姿ですね。

巨大なおじいさんはわたしの収まっている買い物袋を覗き込んでいます。

巨大おじいさん「うん? 買い物に妖精を頼んだ覚えはないが」

巨大助手さん「……」

巨大助手さんはわたしをつまみ上げると巨大なだけでそれ以外は見覚えのあるテーブルの上に放りました。

……。

……。

……ええ。

判ってますとも。

そろそろ現実を直視しなければなりません。
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/10(金) 02:43:51.72 ID:q/ehUOle0

そう。
家や物資や皆さんが巨大なんじゃありません。
ここはまぎれもなく楠の里の調停官事務所です。

え? いつから判ってたかって?

わたしだって伊達に妖精さんの相手をして来たわけではありません。
この程度の斜め上の展開なんてお手のもんなんです。

目が覚めて石垣と植え込みのサイズが巨大に見えた時点で判ってましたとも。

つまりこれはわたしが妖精サイズになったということだったのです。
いや、おじいさんの台詞からするとサイズだけでなく容姿も妖精そのものなのでしょう。

そのおじいいさんは会合があるとかで出て行ってしまいましたが。

助手さん「……」

わたし「ええ。もちろんわたしですとも」

助手さん「……」

わたし「おしてしるべしです。ようせいさんのふしぎぱわーでこんなことになってしまったのですよ」

助手さん「……」

わたし「もとにもどるには? それがわかればとっくにしてます」

心配してくれるのはありがたいのですが、それだけでは何の役にも立ちません。

妖精さんに会えればなんとかしてくれるかもしれませんが、
この家ではまったく妖精さんが現れない今日このごろなのです。

今回も出発前に妖精さんを求めてあちらこちら走り回ったくらいですから。
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/10(金) 02:46:36.73 ID:q/ehUOle0

それにしてもわたしが妖精化してしまったのが『あれ』の副作用だとすれば、
強化された妖精さんの加護はまだ有効な筈です。

ならば元に戻る方法も非常にくだらない幸運で判明しても良さそうなんですが。

助手さん「……」

わたし「なんですか」

助手さん「……」

わたし「ほん? わたしがだしたのですか?」

助手さんはわたしが何かマニュアルめいたものを出したと主張しています。
覚えがないのですが、確かにいつの間にか一辺が今のわたしの身長の半分くらいはある一冊の本が
すぐ横に置いてあります。これを開いて読めばいいのですね。

一ページ目の見開きにはこうありました。


『もとにもどるにはたいりょうのおゆにつかる』


……。

これだけかい。

でも判りました。妖精パワーは健在のようです。

わたし「じょしゅさん、おふろをわかしてください」
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/10(金) 02:50:39.43 ID:q/ehUOle0

さて、何を思ったかお鍋にお湯を沸かして来た助手さんに駄目出しをしたりとか色々ありましたが、
なんとか無事に普通のお風呂の用意ができました。

助手さん「……」

放り込んでいいのかですって?
もちろんです。何も考えずに妖精さんの指示に従うのがこの世を生き残る秘訣なのです。

そのとき思わぬ被害に遭うこともありますが、いや高確率で理不尽な目に遭うのですが、
まず死ぬことはありませんから。

わたし「ひとおもいにやってください」

助手さんはそれはもう無慈悲に無造作についでに無表情に
いい感じに沸いたお風呂にわたしを放り込んでくれました。

良い湯加減です。

わたし「おお。一瞬で戻りましたね」

巨大湯船で水泳体験なんてする暇もなく、あっというまに巨大だった周りの景色が普通の大きさに戻りました。
お湯をかぶってしまいましたが。

わたし復活です。長い旅でした。
おじいさんに報告しなければいけませんね。

助手さん「……」

助手さんはすぐ傍にいますが何故か背を向けています。
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/10(金) 02:51:37.61 ID:q/ehUOle0

ちらっとこちらに横顔を見せて何か言ってます。顔が赤いですね。

わたし「え? 服を持ってきますって? ……あ」

つまり――。

わたしは今お風呂に入るに相応しい格好をしているわけでして。

わたし「!!!//////」

見られた? 見られてしまいました?

やはり理不尽な副作用はあったのでした。
衣服はおそらく色々用意した装備と一緒にあそこに置いて来てしまったのでしょう。

まあ命が助かってこうして無事もとに戻れたのだから贅沢を言うつもりはありませんが、
どうしてこう妖精さんは毎回不意打ちのように予想外のトラブルを見舞ってくれるのでしょうか……。

しかし、これで済むと思っていたわたしはまだまだ甘かったのです。
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/10(金) 02:53:41.80 ID:q/ehUOle0

さて。
折角だからとゆっくり風呂につかったあとで、ようやく服を身に着けて人心地付いたところで。

助手さん「……」

わたし「なんですか? それはさっきのマニュアルですね」

助手さん「……」

わたし「何か書いてあるって? マニュアルに続きがあったんですね」

助手さん「……」

わたし「意味が分からない? どれどれ……」


『そしてじゅうにじかんほどでしたからでます』


わたし「あ……」


(とりあえずおわる)
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/10(金) 02:59:21.47 ID:q/ehUOle0
>>11嘘です見栄張りました満足してません。
お盆開けたら羞恥に転げ回る>>1が見られることでしょう。
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福島県) [saga sage]:2012/08/10(金) 06:37:42.12 ID:zyOm5X3U0
乙です
>>1の羞恥を煽るためにもう1つ。
「わたし」の身体が妖精さんサイズに…は原作2巻でゲフンゲフン
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/10(金) 17:22:39.23 ID:zhGHW7vIO
パクリだらけだな
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/10(金) 17:30:01.79 ID:jCNkkkUA0
いいぞもっとやれ



…とか言って>>1の黒歴史増やす作戦
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage saga]:2012/08/11(土) 16:31:47.08 ID:xbwyRxoP0
アニメしか見てない新参者の俺は純粋に楽しんでるよ
26 ::VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/08/18(土) 22:53:40.29 ID:HdgbG7ht0
もっとssかかないですか?
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県) [sage]:2012/08/18(土) 23:09:13.35 ID:3ELHEWsco
おぼんあけたから>>1がころげまわってるです?
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/28(火) 21:50:40.06 ID:OWMyB8jR0
1、2、7巻読みました。
感想:ああ、なんでもありで良いんだ

というわけで、SSに向かってパクリとか言われても反応に困りますが
下手な劣化コピーを見せられて文句の一つも言いたくなる気持ちが
判らないではない今日この頃いかがお過ごしですか>>1はとりあえず元気です。

文庫本三冊も読んだら案の定妄想という名の駄文が大いに増殖しました。
なので以下本文。
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/28(火) 21:53:43.66 ID:OWMyB8jR0

その2 ようせいさんのりょーしろん
(続いてます)


下から出る?
そんなもので済む筈がありません。

結局、どうなったかというと。

おじいさん「……現人類に孫娘を奪われるとはな」

苦々しい表情でおじいさんは言い捨てるように言いました。

わたし「そんな言い方しないでください」

おじいさん「その膨れた腹はおまえが妖精に身体を許した結果であろう」

わたし「だからそんな誤解を招く言い方をですね」

おじいさん「お前が言ったのであろう?」

わたし「わたしは経過を正確に報告しただけです」

おじいさん「とにかく早々に里から出て行ってもらおうか」

わたしが外の誰かさんといけないことして身籠ったあげくとうとう家から勘当された……、

……かのように聞こえますが全然違いますから。
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/28(火) 21:57:27.74 ID:OWMyB8jR0

先日わたしの任務中に起きたとある一つの事象により、
何にでも文字通りとけ込んで対象物に非常識的な変異をもたらす性質を持つあの妖精さんが、
わたしの身体に入り込んでしまったんです。

これに関しては、まったくをもって致し方が無い状況えあったことは明らかで、
つまりこれに関しては全くわたしに責任はありませんです。はい。

ただ……。

――――
――

わたし「妖精さん、妖精さん」

『よびましたです?』


十二時間程で出て行くとは書いてあったのでそのまま余計なことはせずに、
大人しく時間をつぶしてれば良かったんです。

でもその出て行き方があんまりだったから、

だって、ええと、いわゆる『あれ』ですよ?

そんなわけで、なんとかそれ以外の方法で出て行ってもらえるように妖精さんに
話をつけようと、あれこれ策を講じたんです。

それがあんな結末を招いてしまうなんて……。
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/28(火) 21:59:27.89 ID:OWMyB8jR0

わたし「……ああ、やっぱりこの本で会話できるんですね」

『この本』とは妖精化したわたしが元に戻る方法が書いてあったあの小さなマニュアルのこと。

出てきかたからして不自然だったのでよもやと思い話しかけてみたら案の定、
本を通した文字コミニュケーションという形で返事が返ってきました。

わたしが話しかけるとあの本に文字が浮かび上がるのです。
整合性も必然性もその欠片も感じないのですが『そういうもの』と納得する以外ありません。
だって妖精さんですから。

わたし「お願いがあるんですが聞いてくれますか?」

『とりあえずきくです』

わたし「ええと『下から出る』っていうのを何とかして欲しいんですけど」

『したからでませんか』

わたし「できれば避けてほしいかなって」

『どうしたらうれしいです?』

わたし「ええと、ほら丸まって口からぽいっと出て行ってくれたら理想的なんですが」

『まるくならないです』

わたし「どうして?」

『にんげんさんのなかたのしいです』 

わたし「え」

まずいです。
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/28(火) 22:00:53.11 ID:OWMyB8jR0

それは非常に不味い傾向でした。
妖精さんは楽しいことが大好き。
一歩間違えばすぷらったな人間の内蔵さんの何処に楽しみを見いだしたのやら。

これは可及的速やかに退出願わないとわたしの身体が一大事です。


わたし「ええと、わかりました。さっきのお願いは撤回しますから、
     もう下でも上でもとっとと出て行ってくださいな」

『たすけたです』

わたし「はい?」

『ほうしゅうにあまいものほしいです』

そうでした。
どうしようもない遭難から救ってくれたのは確かに妖精さんです。

わたし「じゃあお菓子をごちそうしますから早く出て来てください」

『したのほうはにがいです』

いや、生々しいこと言わないでください。

わたし「だから口からぽいっと」

『うえはすっぱいです』

はい。胃液ですね。じゃあ、どうしろと?

わたし「ええと、妖精さん?」
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/28(火) 22:02:33.31 ID:OWMyB8jR0

これは後で判明したことなんですが、
この上にも下にもどうにもならない事態はどうやら、
わたしが体内の妖精さんに話しかけてしまったことに原因があったようなのです。

あのあと余計な欲を出さずに黙って大人しくしていればマニュアルにどおりに
休眠状態にあった妖精さんが消化器官をスムーズに通過して
私の身体から出て行ってくれたのでしょう。

この時点でもう手遅れでしたが。


『おかしたべるです』

わたし「だからそのためには出てこないと……あ、つまりわたしに食べろと?」

『おいしいはいっしょにかんじるです』


よく判りませんが、どうやら妖精さんは胃と腸の中間に居坐っているわけではなく、
いい感じにわたしの身体と同化して感覚を共有しているみたいです。

そして消化器官経由で出てくるためにはそこで実体化せねばならず、
その過程で胃液やらなんやら美味しくない目にあわなけらばならないと?

いや、それなら実体化する場所をもっと口の近くにするとか出来ないかとも思いましたが、
その辺はよく判りません。よく判らないのが妖精さんなんですよね……。
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/28(火) 22:05:21.78 ID:OWMyB8jR0

わたし「わかりませんがわかりました。
     とにかくお菓子を作って食べますから待ってくださいね」

幸い、お菓子作りの材料は今十分に在庫がありました。

わたし「今から作るのでちょっと時間がかかりますよ?」

『にんたいづよくまつです』

――――
――

卵と牛乳は基本として、
季節の新鮮な果物に保存が利く様々な果物のシロップ漬け。
小麦粉、白砂糖、チョコレート。
その他、数々の調味料香辛料。

今や入手困難な希少な物資も豊富にあります。
‘異種間交流に必要な物資’ということで国際公務員の職権を行使してかき集めましたから。

そんなわけでこんな機会は滅多に無いとばかりに貴重な材料を惜しげもなく使い腕を振るった結果。

一人の妖精さんにあげるには質・量共に少々オーバースペック気味な
ケーキ達が出来上がりました。
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/28(火) 22:06:58.21 ID:OWMyB8jR0

わたし「うんうん。これもいい出来。美味そう」

こんなご時世、甘甘なケーキは贅沢品。
その贅沢品こそ、われわれ旧人類が妖精さん達現人類と交渉するための外交物資なのです。

紅茶を用意して、早速いただきます。

わたし「あああ、甘い。幸せ♪」

いえいえ。これは立派な外交活動です。
調停官の仕事として食べることで妖精さんに味覚を供与しなければいけないのです!

わたし「こんな思いが出来るのなら今回の遭難騒ぎも悪くなかったかもしれませんね」


……なんて思っていた時期もありました。

そんなわたしはやはり甘かったのでした。


ケーキだけに。

36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/28(火) 22:18:32.06 ID:OWMyB8jR0
>>29より1,2,7巻およびアニメ9話まで鑑賞済みで書いてます※
原作との齟齬、設定や経験無視、原作の劣化コピー等は相変わらすだと思うのでお手柔らかに。
あと長くなるとSS内での矛盾もあるかも。あったらやんわり指摘すれば>>1が床で悶えます。
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県) [sage]:2012/08/28(火) 22:25:40.53 ID:x7+7Xn6Zo
乙です?
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/28(火) 22:29:14.77 ID:OWMyB8jR0
続きは近いうちにまた。
39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/08/29(水) 02:56:24.85 ID:2IPJxHDCo
おつおつ!
40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/29(水) 20:45:26.99 ID:7/Pqy7U60

妖精さんと感覚共有という絶好の条件、
つまりわたしが思う存分甘い物を賞味できるという事態につい我欲に走ってしまった訳ですが、
その果報は、まあ順当だったといいますかある意味予想通りでした。

過剰の接待は妖精さんに必要以上の『楽しさ』をもたらしその結果、


増えました。


ええ、大いに増えましたとも。
もちろん、妖精さんが、わたしの身体の中で、です。


わたし「こ、このお腹は……?」

『あまあまけーきおいしいです』『まんぞくなり』『らくえんですか』『らくえんですね』
『ちょくせつしょくするよりなんというか』『あじわいがちがいますな』『にんげんさんのみかく』
『あまさじゅうさんばい?』『おとくです』『とくようです』……以下略。

コミュニケーション用の本に妖精さん『達』の言葉が大量に浮かび上がってやがります。

とけ込むことが出来る妖精さんに容積なんて必要ない筈なんですが、
楽しければ増える、蠢く、はしゃぎ回る。そのための空間なのかもしれません。

つまり結論として、
贅沢ケーキを心ゆくまで味わい食べ尽くしたわたしのお腹は
年頃の女の子にあるまじき妊婦さんのようにぷっくりと膨らんでしまったのです。
41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/29(水) 20:46:53.75 ID:7/Pqy7U60

おじいさん「意地汚くがっついたからだろう。
        おまえ山ほど注文していた物資を殆ど消費したのだろう?」

わたし「気がついたらそうなってましたが、
     いいえ、わたしが意地汚いだなんて誤解です冤罪です。
     訂正と謝罪を要求します」


確かにお菓子を作っては食べ作っては食べを延々と繰り返してましたから
はたからみればそう見えたのかもしれませんが。

しかしです。
妖精さんパワーに当てられていくら食べても満腹感を覚えず
どういうわけかいつもより敏感になった味覚が
至高の甘味を味わい続けてしまえる状態になってしまっていたのです。


わたし「だから、決してわたしの過失という訳では……」

おじいいさん「調子に乗って度を超してしまったのは事実であろう」

わたし「うう……」

取りつく島もありません。

なんfあるか判りませんがいまやわたしは妖精さん過密状態。

『妖精さん本』に浮かび上がった台詞の数からして、
数百人規模の数が集積していることは間違いなさそうです。

つまり今までの例から推察するに、わたしの身体は
いつ『童話的災害』を引き起こすか判らない状態なのです。
非常事態宣言なのです。

お腹がふくれる程度で済んでいる今の状態こそが奇跡的といえるでしょう。
42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/29(水) 20:49:53.68 ID:7/Pqy7U60
――
――――

おじいさん「さあ行った行った。場所は判るな?」

わたし「……森の近くの廃屋でしたっけ」

おじいさん「定期的に助手を使いにやって様子を見てやろう」

わたし「外泊用に食料や日用品をそろえる時間を……駄目ですよね」

台詞の途中で睨まれました。

おじいさん「当たり前だ。我が家を災害に巻き込む気か」

わたし「では適当に見繕って助手さんに届けてもらっていいですか?」

おじいさん「ああ、判った判った。早く行ってくれ」

そりゃ、わたしは今や『歩く危険物』ですけどそんなに邪険に扱うことはないのに。

そんなわけで、わたしに言い渡された命令は、

『速やかに人里を離れ事態の沈静化につとめるように』

まあ、簡単に言えば、

『妖精さんたちが飽きて身体から出て行くまで帰ってくるな』

と。
43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/29(水) 20:52:14.74 ID:7/Pqy7U60
(移動中の情景描写は省略されました)


さて。
里から結構離れた所にある廃屋とやらに着きました。

取る物も取り敢えず追い出されてしまったので持ち物が何もありません。

数時間の道のりでしたが不思議と全く疲れなかったのは
わたしの身体に妖精さん達のパワーが上乗せされているからなのでしょう。

妖精さんを一人食しただけであんな効果があったわけですから、
体内で数百に増えてしまった妖精さん達の身体に及ぼす影響なんてもはや想像もつきません。

わたし「もしかしてわたしってもう人間で無くなってるのかもしれませんね」

結構深刻な事態なんですが、何故かこんなのほほんとこんなことを呟いているわたしです。
妙に能天気な思考しか浮かばないのもおそらく妖精さんの影響なんでしょう。

わたし「助手さんが荷物を届けにきてくれるまで暇ですね……」

わたしは廃屋にかろうじて残っていたテーブルと椅子を窓辺に。

といっても窓には扉もガラスもなくただの四角い開口部と化してますが、
とにかく外の長閑な風景が見える場所にそれらを並べそこに落ち着きました。
44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/29(水) 20:53:28.23 ID:7/Pqy7U60

わたし「さてと」

脚が歪んで微妙に傾斜のあるテーブルの上で妖精サイズの小さな冊子を開きます。

例の対妖精さんコミュニケーション用の本です。
体内の妖精さんの言葉が文字として浮かび上がるという素敵グッズです。

わたし「妖精さん妖精さん?」

『はいな』

代表して一人が返事をしてくれたようです。
これで数百人が一度に話して来たら収集がつかないところでした。

わたし「お菓子やケーキを食べ終わってから静かですけど皆さん何してますか?」

『ねてるみたいな?』

わたし「そうでしたか」

どうやら味覚に満足して皆さんお休みになったようです。
道理で何も起きないわけです。

このまま永遠に眠り続けてくれませんかと思いますが
世の中そんなに甘くはないでしょう。
45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/29(水) 20:55:32.21 ID:7/Pqy7U60

そうだ、折角だから聞いてみましょう。

わたし「単刀直入に聞きますけど、
     妖精さん達はわたしにどんな影響をもたらしますか?」

『おやくだち?』

わたし「はい?」

『おいしいをいっぱいくれましたゆえ』『みんなでにんげんさんのおやくだち』『きょうかするです』
『ぱぅわぁ〜?』『おちからぞえですな』『つよくなるです』『はやくなるです?』

わたし「ちょっとちょっと、待ってください」

小さな紙面に大量の文字がめまぐるしく浮かび上がって読み切れなくなりそうです。

わたし「強化とかパワーとか不穏な単語た散見されてるんですけど、
     どういうことなんですか?」

『いっぱいいますゆえ』『あらゆるものをきょうかしますです』『きんりょくたんとうです』
『しりょく』『ちょうりょく』『しょうかりょく』『しこうりょく』『ちのう?』『ぼうぎょりょく〜』
『こうげきりょく』『すばやさもありですな』『びーむもいいです』『ぱんちりょく〜』『ひこうりょく?』
『ちょうのうりょくかも』……

大量の文字が浮かんでは消え浮かんでは消えしてもう追いきれません。
つまり、妖精さん数分のパラメータを全て強化ないしアビリティー追加をしてくれるということらしいです。

大半は『大きなお世話』に属しそうな勢いなんですが。
「足のかかと」とか「土踏まず」とかいったい何を強化するつもりですか?
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/29(水) 20:56:50.58 ID:7/Pqy7U60

まあとにかく、

わたし「えーと、つまり今のわたしは何でも出来るっていう感じ?」

『なんでもですか?』

聞き返されましたよ。

わたし「ええとそうですね、例えばこの廃屋を改装して暮らしやすいお家に作り替えるとか」

『つくりかえたいですか』

わたし「しばらくあなたたちと一緒に暮らすわけですし」

『一緒』の意味が少々アレですが。
47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/29(水) 20:59:52.35 ID:7/Pqy7U60
 〜

わたしに施された無駄なスペックアップは、無秩序に発現するわけでなく、
必要だと思ったとき思い描いた能力が付加される形態のようでした。

そんなわけで、さっそく廃屋の修理を試みます。

わたし「ええと……」

……流石に廃屋を一瞬で建造当初の状態に戻すのは無理でした。残念。


でも妖精さんはやっぱり妖精さんです。
わたしに付加されたアビリティーはかなり非常識な物でした。

まずは『石ころを建材に変化させる能力(アビリティー)』。
壁の穴などに適当な大きさの石をあてがいその能力を発動させると一瞬で修繕が出来てしまうのです。

これがいかに非常識な能力かは、
小一時間もしないうちに廃屋が立派な外観に仕上がってしまったことでよく判ることでしょう。

ちなみに屋根の修繕には『飛行アビリテリー』が大変役立ちました。

……あとは内装ですかね。
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/29(水) 21:02:28.87 ID:7/Pqy7U60

わたし「かまどですね……」

台所で菓子作りには欠かせないそのアイテムを発見したのは
壊れた壁などの大きな所を一通り直し終わったあとでした。

わたし「何日も暮らすならやっぱりお菓子作りでもしないとやっていけませんよね……」

と、なんの疑問もなく口にだしたのですが、

わたし「いやいやいや、何言ってんですかわたし、
     妖精さんにお菓子を供給したら事態の沈静化どころかかえって悪化するでしょうに」

ただでさえまっとうな人間戻れるのか判らない状況なのに、
妖精さん達がこれ以上増えたら、人間以外の何になってしまうのやら。

これ以上ワケの判らない事態はご免被りたいのです。

いまはまだ“少しだけ”特殊なアビリティーが付加されただけの“ただの人間”で済んでるのだし。

……。

……。

ええ。「既に人間じゃない」との突っ込みごもっともです。
そう思いたいだけでもいいんです。

日々日常に流されずビジョンを持って生きることは人間として大切なことですから。
いまや人類は衰退に流されてますけどね。
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/29(水) 21:04:07.14 ID:7/Pqy7U60

わたし「まあ、材料もないことですし、やりたくても出来ませんけどね」

と思ってテーブルを見ると何やら見たことのある白い山が。

わたし「この小麦粉の山は一体何処から?」

わたし「よくみると道具は揃ってますね」

錆びたり穴があいていたはずの調理器具達はいつの間にかピカピカの新品に“変化”してます。

わたし「はっ!? もしや……」

慌てて『対妖精さんコミュニケーション用冊子』を取り出します。

『あまいのたくさんたべたいです』『ざいりょうならつくれるです』『どうぐもてかてか』『かまどなおしたです』

どうやら彼らの仕業のようです。
遠隔で仕事をするとは妖精さんのお菓子に対する執念侮れません。

それから『石ころを材料に変化させる能力』はお菓子の材料にも応用が利くようです。
まあ妖精さんの仕事ですし予想は出来たことですが。
50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/29(水) 21:06:22.67 ID:7/Pqy7U60

だがしかしです。

わたし「これ以上わたしのお腹を膨らませるつもりですか!」

『ならばもやしてちいさくするです』

わたし「え? ええ!?」

なんと、一瞬でお腹がひっこみました。

なるほど彼らには味覚こそが大事で容積はどうでも良かったのでしょう。

つまり「妊娠か」と思える程膨らんだ私のお腹は、妖精さんの活動領域などではなく、
妖精さんによって柔軟性やら容積やらを強化されたわたしの胃に収まったケーキ達だったってことらしいです。

苦しさはおろか、お腹が張った感じすらしなかったので全然気がつきませんでした。

わたし「はあ。こんなことなら早く言っておけばよかった……」
51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/29(水) 21:07:32.03 ID:7/Pqy7U60

『おかしつくるです』

わたし「それとこれとは別問題でしょう?」

『けーきあまいです?』『くっきーないですか?』『かりかりあまあま』『ざいりょうたくさん』『つくれますが?』

あああ、お菓子作りへの抗い難い欲求がわたしを苛みます。
今のわたしなら庭から石ころを集めてくればどんな材料だって好きなだけ作れるんですよ?

しかも妖精さんパワーによっていくら食べてもおもはや腹がふくれる心配はないときました。

こんな状況で菓子作りをしないなんて選択がありうるでしょうか? いやない!(反語)


……思えば同化した妖精さん達の期待がわたしにダイレクトに伝わっていた影響だったのでしょう。

わたしはこの事態のさらに深みに嵌るべく、
もはや歯止めの効かない菓子作りの永久ループへと旅立ったのでした。
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/29(水) 21:09:01.57 ID:7/Pqy7U60

 〜


助手さんがサバイバル用品一式をリュックにつめて届けに来てくれたのは、
ケーキ作りもたけなわ、訳あって森から外の妖精さんたちまで集まって来て
廃屋(もう廃屋とは呼べませんが)の中が遊び回る妖精さん達で運動会の様相を呈してきた頃でした。


助手さん「……」

わたし「ごくろうさまです」

助手さん「……」

わたし「え? 廃屋に見えなくて迷った? 直したんですよ」

助手さん「……」

わたし「お腹? ああ、この通り元に戻れました。妖精さんはまだ中にいるんですけどね。
     周りにいる妖精さんたちは森から来たんです」

助手さん「……」

わたし「まだ当分帰れそうにありませんね。
     でもなんとかやって行けそうなので心配には及びませんよ」

助手さん「……」

わたし「何が起きるか判らないので駄目ですよ。早く帰ってくださいね」

助手さん「……」

わたし「ええ。それじゃあ、これ持って来てくれてありがとう」

助手さんは名残惜しそうに帰って行きました。

森から来た分も含めて妖精さん密度がインフレしてますから
トラブルに巻き込んでしまったらいけませんものね。
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/29(水) 21:11:49.94 ID:7/Pqy7U60

さて、作ったお菓子を適当につまみながら助手さんの持って来てくれたグッズを確認します。

おっと、そのまえに森から組の妖精さん達が騒いでますから彼らにもお菓子を振る舞わないと。

わたし「はいはい。あとからいくらでも作りますから喧嘩しないで分け合ってくださいね」

『にんげんさんかみさまですか?』『おかしつくれるのはすごいです』『けーきあまいですか?』『ふつーけーきはあまいです』

わたし「大丈夫ですよ。ちゃんと甘いお砂糖も作れましたから」

元々建材用のアビリティーだったので、
石から砂糖を精製した時は見た目だけで味は石ころではないかと警戒しましたが、
ちゃんと普通に甘い砂糖でした。

卵や牛乳も精製可能ということでしたがなんとなく本物が欲しいと思って妖精さんに聞いた所、
野生化した鶏さんや牛さんから分けてもらえるという情報を得て、
森に行ってそこで森にすむ妖精さんと出会い協力してもらったのでした。

これが森の妖精さんが来てる理由です。
そんなわけで卵と牛乳は“石から精製”ではない本物を使っているんです。

いや野生動物から卵やミルクとなると量が少ないのではと思うかもしれませんが、
わたしは「妖精さんに協力してもらった」と言いました。
54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/29(水) 21:12:57.00 ID:7/Pqy7U60

つまりは“そういうこと”です。

鶏さんや牛さんから本物の卵・牛乳を分けてもらう所は変えずに手に入る収穫量を
増やす方法なんて妖精さんの手に掛かればいくらでも存在するのですよ。

さて、話はそれましたが元に戻して届いたサバイバル用品です。

保存食と水は基本ですね。
ここは井戸が生きてますから水は必要なかったんですが。

加熱用にコンロと燃料。これは妖精さんの不思議アビリティーだけで代替えは十分です。

あとテント。もう必要ありませんね。

寝袋は使っても良いんですが、
ふかふかのお布団を手に入れられるアビリテリーが無いかあとで聞いてみましょう。

折角助手さんが持って来てくれた数々ですが殆どはとりあえず要らない品物でした。

わたし「おっと、これは……」

リュックのポケットに入っていたそれは、
小さな筒状に紙を巻いたモノが多数その一端から出た紐で連なって束ねられています。


その紐は導火線で……つまりは爆竹です。

55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/29(水) 21:16:19.19 ID:7/Pqy7U60

火をつけるとパンパンと激しく爆発音を奏でるアレです。
護身グッズのつもりでしょうか?

それがサバイバル時に本当に役立つのか判りませんが、
この爆竹は現状をどうにかするための重要なヒントに思えました。

ここでわたしは現状を打開すべく、『ある実験』を行うことを決意したのでした。
56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/29(水) 21:17:01.13 ID:7/Pqy7U60


わたし「とりあえず森の妖精さん達にはお引き取りねがいましょうか」

妖精さん「おひきとりですか」

わたし「協力してくれたお礼にお土産をあげます」

妖精さん「おみやげです?」

わたし「そうそう。日持ちするクッキーとか飴を包んであげますね」

妖精さん「くっきー」
妖精さん「あめー」
妖精さん「あーめー」
妖精さん「あめあまいー」

わたしと一緒にサバイバルグッズを見学していた妖精さん達が喜びに悶えています。

57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/29(水) 21:18:43.48 ID:7/Pqy7U60
 〜

森の妖精さん達にはお引き取り願ったので、
元廃屋のこの館にいるのはまたわたし一人だけとなりました。

まあ身体の中に沢山居るんですけどね。

『なにするです?』 

わたしの企みを感じ取ったのか『コミュ用冊子』に文字が浮かび上がります。
でもこれの効果を高めるために中の妖精さんに悟られないようにする必要があります。

わたし「なんでもありませんよ。ちょっとした実験です」

『じっけんですか』『じっかんですか』『じかんですか』『そろそろねむいじかんかも』『おなかいっぱいですからー』『たべるとねむくなりますのでー』

適当な発言が続いてます。どうやら悟られてないようです。

わたしは何も言わずに先ほどリュックから発見した爆竹に火をつけます。
小さな光点が煙を吐きつつ導火線を伝います。

なるべく至近距離。
目に入ったら危ないので目はつぶり。
素早く真上に放り投げました。
58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/29(水) 21:19:54.29 ID:7/Pqy7U60



ぱあん!



あ、やばいかも……。
一瞬嫌な予感がよぎります。



ぱあん!



何故か非常にゆっくりに聞こえる連続した破裂音。


59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/29(水) 21:20:48.30 ID:7/Pqy7U60

ぱあん!



鋭い爆発音に
         体中がすくみ上が
ああそうか
                      る
          意識が
               飛ぶ。
       妖精さんの
そんな思考が
              意識レベルだと
                        こんなに
   びっくりして
         意味も無く
思考と
     記憶と
                よぎる。
                              長く
わたしを
      構成する
                                 感じられる
解けて
                                        んだ。
          感覚と
               身体と。
     粒状化して
再構成
            枠組みが
                   解けていく。
             凝集して
     された


60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/29(水) 21:21:28.67 ID:7/Pqy7U60

ぱあん!



……。

……。

……。

61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/29(水) 21:23:29.56 ID:7/Pqy7U60

 〜


「……これは一体?」

何が起こったのか。

まずその前にわたしが何故至近距離で爆竹を破裂させたのかをお話ししましょう。

妖精さんは破裂音が苦手なんです。
拍手でもパンと強く響かせようものなら驚いて丸くなって――文字通り球体になって――
一時的に活動停止状態に陥ってしまうのです。

もちろん爆竹ともなると効果てきめんで、たとえ文明をよく発展させた妖精さんの集合体であっても
例外無くすべての妖精さんたちは一網打尽です。

そう。

その性質を利用してわたしの身体の中の妖精さんたちを
活動停止状態にしてしまおうという目論見だった訳なんですが……。

辺りを見回すと、おびただしい数の直径一メートルくらい(?)のピンク色のボール。

「というか、ここは何処?」

広大に広がる板張り風(?)の地平。
ピンク色のボールはその平面にちりばめられたように転がっていました。
62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/29(水) 21:25:27.59 ID:7/Pqy7U60

「ええと、この状況、以前にもあった覚えがありますね」

近視になったようで遠くが見えなかったり。
でもよくよく見ると天に突き抜けるように木製の柱が立っていたり。

「つまりここは……もとの部屋ですよね」

「また」のようです。

わたしはまたも妖精サイズに縮んでしまったのです。

「じゃあ、あのピンク色の玉はつまり?」

一メートルもありません。精々6〜7センチといったところ。
わたしの中に居た妖精さんたちが“妖精玉化”したってことでしょうか?

でもなんでピンク色?

その答え、といえるのかどうか判りませんが、状況に変化が見られました。

「びっくりしま」
「おどろいたです」
「おもわずさすぺんど」
「やれやれ」

「……」

わたし絶句。
63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/29(水) 21:28:58.29 ID:7/Pqy7U60

やがて彼ら(?)は互いを認識して騒ぎだしました。

「ようせいさん?」
「ようせいさんでう」
「ようせいさんじゃ」
「わたし?」
「わたしようせいさん?」
「ようせいさんわたし?」

長い髪に衣装はスカート。
なんと、ピンク色の玉からほどけるようにして起き上がってきた妖精さん達は
みんなわたしにそっくりの容姿をしていたのです。

まあ頭身が詰まってますが。

みんな互いの容姿を見て微妙に驚いているようです。
驚き方が妖精さん然としてていまいち緊迫感に欠けますが。

「ど、どうなっているんですか!」

「それはこっちの」
「なぞなのです」
「ですです」
「わたしわたし?」
「ようせいさんない?」

容姿もそうですが、妖精さんにしては振る舞いに違和感を感じます。

もしかして?
64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/29(水) 21:30:11.92 ID:7/Pqy7U60

「ちょっと待ってください。あなたたち自分が『わたし』だと思ってません?」

「わたし?」
「わたし」
「わたしわたし」
「わたしなり」
「わたしゆえ」
「わたしですゆえ」

わたしなのかい。
これってどういう状況?

そして何故かわらわらと寄ってきます。

「な、何ですか?」

「どーしてわたし?」
「にんげんさん?」
「しゃべりかた」
「ちがうです」
「ずるいかも」
「ふほんいです」

どうやらこの『わたし』だけが普通に話せていることに疑問というか不満を持ったようです。
65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/29(水) 21:32:09.90 ID:7/Pqy7U60

「判りませんよ何故かなんて。っていうか何でわたしが沢山居るんですか」

「さあ?」
「あでも」
「もしかして」
「ぶんれつした?」
「あびりてー」
「かずぶん」
「ぶんたんして」
「わかれたかもー」

あー。

つまり、わたしが妖精さん達を内在していたときは、
数百人の妖精さんが分担して『わたし』の要素をそれぞれ「おやくだち」と称して‘強化’していたけど、
その数百人が『わたし』を分割担当したままバラけてしまったと?

でもなんで全員わたし?
66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/29(水) 21:33:18.54 ID:7/Pqy7U60

妖精さん「はい」

わたし1「あら、森の妖精さん? 今取り込み中なので……」

妖精さん「もりのめんつではありませぬ」

わたし1「え? ではどちらから?」

妖精さん「ばらけてぶんりしましたゆえ」

わたし1「分離? つまりわたしの中に入っていた妖精さん?」

妖精さん「はいですー」

そういえば、あの時食べた妖精さんに似てる気もします。

わたし1「わたし、どうなっちゃったんでしょうか?」

妖精さん「はんどるされないれいがいえらー」

わたし1「は?」
67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/29(水) 21:34:19.92 ID:7/Pqy7U60

妖精さん「きょうせいしゃっとだうんでくらうどのどうきがうしなわれましたゆえ」

わたし1「ええと、もっとわかりやすく」

妖精さん「みんなでわけてばらばら?」

わたし1「つまりさっきの予想の通り?」

妖精さん「わかれてもぶぶんがぜんたいでぜんたいはぶぶんみたいな?」

わたし1「もーいいです」

これ以上聞いても理解できる気がしません。

妖精さん「いーですか?」

わたし1「はい。それより今とこれからのことを聞きます。
      まずなんでわたしだけ普通に話せるんですか?」

妖精さん「しこうたんとうゆえに」

しこう? 嗜好? いえ、思考ですね。
68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/29(水) 21:35:50.71 ID:7/Pqy7U60

分割されたわたしの中でこの『わたし』は思考の部分なわけですか。
いや『部分が全体』みたいなことを言ってたから思考優位といったところ?

わたし1「なるほど。それで元に戻るにはどうしたら?」

妖精さん「もどれませぬが?」

わたし1「……」

わたし1「えと、もういちど?」

妖精さん「もとにはもどせませぬ」

わたし「え、ええーー!?」

そ、そんな。

わたし1「それじゃあ、わたしはこのピンク色っぽいの新種妖精のまま一生を終えるしかないんですか?」

妖精さん「はて?」

なぜそこで首を傾げますか。
69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/29(水) 21:36:43.55 ID:7/Pqy7U60

わたし1「元の人間に戻れないんですかって聞いたんですよ!」

妖精さん「ああ」

妖精さん、ポンと手を打ちました。

妖精さん「にんげんさんになりたいですか」

わたし1「なる? 戻るんじゃなくて?」

妖精さん「ぶんかつまえのこんごうぶつにもどすことはできませぬ」

混合物とはこれいかに。

妖精さん「しかしにんげんさんになることはできますゆえ」

わたし1「ばらばらになった『わたし』たちを一つに出来るんですか?」

妖精さん「かのうですが?」

わたし1「よかった。じゃあ、お願いできますか?」

妖精さん「おねがいされませぬ」

あっさり却下されました。
70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/29(水) 21:38:47.44 ID:7/Pqy7U60

わたし1「なぜに!?」

妖精さん「にひゃくえふもあればかのうですゆえ」

いまいち会話がかみ合っていません。

わたし1「つまりどうしたら? 妖精さんを集めれば良いんですか?」

妖精さん「すでにあつまってますが?」

わたし1「はい?」

わたし2「……」
わたし3「……」
わたし4「……」
わたし5「……」
わたし6「……」
   ・
   ・
   ・
同じ顔の『わたし』達が揃って首を傾げてますが……。
   ・
   ・
   ・

わたし1「ああ!」

わたしはポンを手を打ちました。
71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/29(水) 21:40:44.82 ID:7/Pqy7U60

わたし1「つまり、わたしって今、妖精さん?」

妖精さん「しんじんさんですな」

わたし1「妖精さんはわたしの中で増えてただけじゃないんですか?」

妖精さん「なかのひとはりょーしかしてましたゆえ」

リョーシカ? 量子化? また難解なことを。

妖精さん「ぶんぱいしたがいねんにたいしてえんざんしとしてさようするです」

わたし1「判りやすくいうと?」

妖精さん「ようせいはさっきうまれた?」

つまり身体の中で増殖してたのは妖精さんそのものではなく
『概念を妖精化するような何か』だったようです。

それが先ほどの爆竹のショックでわたしという概念の各部と結合し、
それぞれが一個の妖精さんとして確立してしまった、
ということらしいです。

あくまでわたしの解釈ですが。
72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/29(水) 21:43:03.42 ID:7/Pqy7U60

わたし1「つまり、状況は悪化したともいえる訳ですね……」

妖精さん「にんげんさんになるですか?」

わたし1「なりますとも。でないと妖精さんにお菓子をあげられませんよ?」

妖精さん「それはいちだいじー」

わたし1「だから協力してくださいね」

妖精さん「しゅうごうをかけるです」

わたし1「はいはい。じゃあみんな! 人間にもどりますよ!」

わたし107「もどりますか」
わたし8「もどせますか」
わたし13「もどるとき」
わたし67「もどれば」
わたし86「もどれ?」
わたし154「もどりたい?」

部屋の各所に散っていたピンク髪の『わたし妖精』がわらわらと集まってきます。
その数二百以上。ええと三百くらいいませんか?

壮観ですね。
73 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/29(水) 21:44:54.50 ID:7/Pqy7U60

わたし1「全員揃いましたか?」

わたし232「にひゃくさんじゅうさんがいません」

わたし1「そういえば番号をふった覚え無いんですけど」

わたし232「てんことりましたです」

いつのまにそんなことを。
この中に気の利く優秀なわたしが居るようです。

わたし1「それで、233番さんは何処に?」

わたし232「じぶんさがしにたびだちました」
わたし234「ぬすんだばいくで」
わたし231「はしりだす?」

わたし1「なにゆえに!?」

わたし232「ひだりあしのつちふまずだったにひゃくさんじゅうさんはじぶんのそんざいいぎにぎもんをもったです」

土踏まず……まあ判らないではありませんが。
ということは他にも似たような理由の行方不明者がいそうですね盲腸とか動耳筋とか。

わたし1「そういうあなた方は?」

わたし232「かかとです」

わたし234「つまさきです」

わたし232「あしのこうです」

なんというか微妙な妖精さんたちです……。
74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/29(水) 21:47:52.15 ID:7/Pqy7U60

わたし1「……妖精さん、妖精さん」

妖精さん「はいな?」

わたし1「足りないとどうなりますか?」

妖精さん「がいとうかしょがよわくなりますな」

わたし1「欠損したりしません?」

妖精さん「しませぬ。いちぶがぜんぶゆえ」

わたし1「ああ。そうですよね。カケラでもみんなちゃんとヒトガタの妖精さんになってますし」

妖精さん「たくさんたりないとちいさいです」

足りない分だけ仕上がりが小さくなるようです。

わたし1「とりあえず、数を確認しましょうか」

わたし11「しゅっせきぼあります」

わたし1「え」
75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/29(水) 21:49:59.19 ID:7/Pqy7U60

わたしの一人が近づいて来てなにやら冊子を差し出しました。
この名簿によると欠席者は21名ほど。

この『わたし』が聞き込んだところでは一緒にまとまって逃げ出したとのこと。

わたし1「なかなか気が利きますね。あなたは何担当ですか?」

わたし11「ちしきたんとうで」

『知る』という概念を担当しているそうです。

わたし1「さて、この大人数のまま不明者捜索なんて始めたら、
      事態が悪化することは目に見えてますが、
      足りないままで一度人間に戻って、いえ、なってしまって大丈夫でしょうか?」

妖精さん「かぎゃくへんかですが」

わたし1「やり直しできるんですね?」

妖精さん「ますです」

それは安心です。
でも逆にいうと人間になっても「妖精に戻れる」という余分なアビリティーが
付いてきてしまうってことなんですが。

まあここは戻れるだけマシと考えましょう。
76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/29(水) 21:52:55.62 ID:7/Pqy7U60

わたし1「それで‘人間になる方法’ですが」

妖精さん「わかりませぬ?」

わたし1「すいません新人なので」

妖精さん「がいねんをきょうゆうしてさいきどうするです」

わたし1「さっぱりわかりません。もっと判りやすく教えてくださいな」

妖精さん「じこしょうかいたいかいでそうごりかい?」

わたし1「自己紹介? それだけですか?」

妖精さん「そのあとしげきをくわえておかたまりー」

わたし1「刺激ですか。再起動ってことはさっきの爆竹とか?」

まず『わたし』全員で学舎での授業初日にやるような自己紹介をやれば良いわけですね。
そのあと集合した状態で爆竹をかますといったところでしょうか。

妖精さん「わかったですか」

わたし1「なんとか出来そうです」
77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/29(水) 21:55:09.00 ID:7/Pqy7U60

 〜

そんなわけで『わたし妖精』たちの自己紹介大会が開催されました。
親睦を深めあって情報を共有しないと融合できないんだそうで。

いや、会場の様子は割愛ですよ?

だってわたしの赤裸々なプライベート情報が飛びまくりなんですから。

そんなこんなでそれなりにいい感じにみんな仲良くなりまして。

わたし1「あとは刺激だけですね」

わたし45「あい」

『わたし』の一人が爆竹の不発弾を拾って来てくれました。

わたし1「いきますよ。いいですか? 拡散じゃなくて集合ですからね」

わたしs『はーい』

念のため立ち会いの妖精さんは向こうに避難してもらって。

『わたし妖精』達には部屋の一カ所に集まってもらって、
その近くの誰もいないスペースにさっきの爆竹一本を置き、そして火をつけます。

火がついたら大急ぎで『わたし妖精』達の集団に向かってダッシュ!
78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/29(水) 21:55:56.93 ID:7/Pqy7U60



ぱあん!



破裂音と同時に複雑に絡み合った思考ゲームのピースが解けていくように、
全ての要素があるべき所に還っていく感覚……。


少々足りないピースがあるようですが、
大方は問題なし。


…………。

……。

……。
79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/29(水) 22:00:05.06 ID:7/Pqy7U60

わたし「……もとに、戻れてますよね?」

『わたし』という認識が一旦多数に分岐していて再び合流した感覚は言葉では言い表せませんが、
元廃屋の館の部屋は‘ほぼ’元通りの大きさに戻ったように見えます。

つまりわたしは元の人間に戻れたということ。

わたし「妖精さん? もう出て来ても大丈夫ですよ?」

妖精さん「……」

入り口の向こうから恐る恐るといった感じで妖精さんが顔を見せます。

妖精さん「にんげんさんになりましたか」

わたし「おかげさまでこの通り」

妖精さん「おかしできますか?」

わたし「作れると思いますよ。材料さえあれば」

妖精さんは「元には戻せない」と言っていたので
石を材料に変えるアビリティーとかは無くなってしまったでしょう。

妖精さん「あびりてぃかのうですが」

わたし「いりません」

望めば自力で発現できるって言いたいんでしょうけど、それでは人間になった意味がありません。
妖精の能力さえ自重してればわたしは普通の人間なんですから。

わたし「逃げてしまった『わたし妖精』達は追々集めていくしかありませんかね」

ちなみに足の裏を確認したら両足とも見事な扁平足になってました。
やはり土踏まずは両足とも逃亡したようです。
80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/29(水) 22:01:37.93 ID:7/Pqy7U60

 〜


さて。

あのあと夕方様子を見に来た助手さんに現状報告を言付けた所、
翌日の午後になっておじいさんがこの元廃墟にやってきました。

おじいさん「……つまりもう大きな問題は起こらないんだな?」

わたし「ええと起こさなければ起きませんが?」

体内に妖精さんを宿した状態と何処が違うかというと、
今のわたしは自身がトラブルを起こす主体者となったということです。

それすなわち『わたし妖精』によって起こりうる現象は全てわたしの配下にあるということ。

もちろんそんなヤバいことは報告してませんよ。

『体内に入っていた妖精さんの分離に成功し、まだ課題はあるものの平常状態に向かいつつある』
と報告したんです。

わたし自身が妖精的なことを仕出かさない限り、黙ってれば判りませんから。
81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/29(水) 22:04:31.68 ID:7/Pqy7U60


おじいさん「よくわからんが、問題ないなら事務所に出勤しなさい」

わたし「ここからですか?」

おじいさん「まだここでやることがあると言うなら仕方あるまい」

わたし「終わるまで出張してたら駄目なんですか?」

おじいさん「おまえがいないと事務仕事が捗らないではないか」

つまり趣味の時間が減るから戻れるんならさっさと戻ってこいと。
そう言いたいわけですね?

わたし「はあ。わかりました。明日から出勤します」

捜索は帰ってからやるしかなさそうですが、
災害は回避し、とりあえず里の調停官稼業には復帰。

これをもって“わたし復活”としても差し支えないでしょう。


扁平足ですが。


(一旦終わり)
82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/08/30(木) 07:36:04.81 ID:mRTjMcVyo
扁平足wwwwww
これは続きもあるのかな?乙!
83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [age]:2012/08/30(木) 20:42:13.55 ID:fGvsCwif0
その3 ようせんさんのさんごくじだい


逃げてしまった『わたし妖精』たちの探索ですが、大方は割とすぐに見つかりました。

というか、

妖精さん「おとどけですー」

わたし「あら、妖精さんと……『わたし』たち?」

妖精さん「かえりたいともうすので」

わたし「それはご苦労様です」

作りおきの材料でお菓子を作っていたら、
森の妖精さん達に連れられてこの元廃墟に帰ってきたのでした。

お届け妖精さんにはお駄賃にあめ玉を一つ渡してお引き取り願って。

わたし「おかえりなさい。もう自分探しには満足しましたか?」

わたし201「せけんはせちがらいです」
わたし110「つかれたです」
わたし121「しょうすうみんぞくははくがいされるです」
わたし161「ひきこもりたい」
わたし117「かいになります」

あらら。なんという鬱モード。
84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/30(木) 20:43:13.22 ID:fGvsCwif0

わたし「全員じゃないみたいですけど、他の方々はどうしましたか?」

わたし119「しんてんちをもとめて」
わたし123「たびにでたです」
わたし203「さがさないでください」
わたし116「かきおきあったです」
わたし192「いまごろどこのそら?」

手間をかけさせやがりますね。
ままならないものです。わたしの一部の筈なのに。

わたし「それではあなたたちはこの中に入ってもらえますか?」

帰って来た落ち込んでる十数名の『わたし妖精』さん達は面倒が無いように箱に詰めておきます。

わたし「大人しくしててくださいね」

わたし103「くらいとおちつくです」
わたし115「あんじゅうのちです」
わたし222「おそとこわいです」

これは先に心のケアが必要なようですよ。
85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/30(木) 20:55:17.50 ID:fGvsCwif0
===================================

妖精さんメモ【 わたし妖精】

サイズやプロポーションは妖精さんとほぼ同じだが、
髪はピンク色の長髪で服はスカート。帽子は通常かぶっていない。

人間の体内で楽しいことを見つけた妖精さんが量子化状態で増殖し、
それらがあるきっかけで『わたし』を構成する概念の各部と結合し誕生した妖精亜種。
個体数は300弱。
彼女たち同士で親睦を深めることで融合して人間になることが出来るらしい。

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86 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/30(木) 21:02:15.22 ID:fGvsCwif0

もう里から離れていなければならない理由は無くなったので、
わたしはあの元廃墟からなつかしき我が家へ戻ってきていました。

戻って来た『わたし妖精』たちにもちゃんと『元の場所』へと収まってもらう必要がありますし、
その際の不測の事態に備えるにも、家の自分の部屋の方が都合がよいでしょうから。
87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/30(木) 21:05:45.76 ID:fGvsCwif0

『たずねびと
 とくちょう:
  ぴんくのちょうはつ
  ふくはすかーと

   [ここに絵が描いてある]

こんなようせいさんをみかけたら
くすのきのさとのわたしのいえまでつれてきてください
ほうしゅう:ひとりにつきあめだまもしくはびすけっといっこ』


家に帰ったわたしは妖精さん向けに尋ね人のポスターを作って、
仕事の合間に妖精さんの生息地の通り道と思われる所に貼って回りました。

わたし「これで見つかると良いんですけどね……」
88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/30(木) 21:09:48.36 ID:fGvsCwif0
(少し時間経過……)

里の広場で友人Yと出会って適当に雑談中です。

Y「……おまえ、なんか違うな」

わたし「はい?」

それはまあ、まだ妖精さん引きずってますし多少の違和感はあるかもしれませんけど。
流石、学舎時代からの付き合いですね。

Y「なんというか……黒さが足りないな。何処に落として来たんだ?」

わたし「しつれいな」

Y「まあでもそんなこともあるか。じゃ、アタシは仕事があるから」

言いたいだけ言ってYは去って行きました。

あのあと回収した十数人の『わたし妖精』とはすでに融合済みで残りはあと数人なんですが、
それでも付き合いの長い人に判る程度の違いはあるんですね。

これは早く回収してしまわないといけません。
89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/30(木) 21:11:30.36 ID:fGvsCwif0
 〜

翌朝。
といっても、おじいさんはもう事務所に出かけていますが。

妖精さん「こんちわー」

わたし「あら妖精さん。どうかしました?」

妖精さん「たずねびとみつけたです」

わたし「あら」

早くもポスターの効果がありましたか。

妖精さん「こちらです」

わたし??「……」

わたし「おや?」

うつむいてもじもじしてますね。
でも確かにピンクの長髪でスカート。

でも何でしょう? ちょっと違和感が。
90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/30(木) 21:13:15.65 ID:fGvsCwif0

妖精さん「あまいほうしゅういただけますか?」

わたし「ああ、はいはい、ちょっと待ってくださいね」

まあ、長いことお外を放浪してたのなら違和感の一つくらい持っててもおかしくはないでしょう。
と、このときは深く考えていませんでした。

わたし「はい。あめ玉は切れてましたので、代わりに金平糖です。これでも良いですよね?」

妖精さん「こんぺいとういちばんすきです」

わたし「それは良かった。いつも用意してるあめ玉より小さいので二個あげますね」

妖精さん「わーい!」
わたし??「わーい!」

わたし「え」

わたし??「え」

妖精さん「え」
91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/30(木) 21:16:48.28 ID:fGvsCwif0

何故か差し出した金平糖に一緒に反応した『わたし妖精』の頭から、
ピンク色の固まりが落ちました……。

妖精さん「てっしゅう」「てっしゅー」

わたし「あ……ウィッグ?」

そこには走り去る二人の妖精さん。

わたし「こ、こらー!!」

と声を上げた時にはもう影も無く……。

なんだったのでしょう。
妖精さん、偽装して報酬をだまし取って行きましたよ?

基本的に人間大好きで善良な妖精さんがあんなことをするなんてあり得ないことです。

いままでこんなことは一度もありませんでした。
92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/30(木) 21:18:42.31 ID:fGvsCwif0

あり得ないことが起きているということはその原因があるはずです。

まず自然発生的に妖精さんの間にあんな姑息なアイデアが浮かぶとは思えません。
なんと言いますか仕出かしたことが妙に人間臭いというか、妖精っぽくないんです。

考えられることは、
何者かがある意味純粋である意味“染まりやすい”妖精さんに悪知恵を吹き込んだ、
ということ。

そしてその“何者か”は人間である可能性が高い。

でも一体誰が?

知りうる限り、この楠の里周辺では
わたし以外に話を聞かせる程妖精さんと仲の良い人間は居なかった筈なんですが。

わたしの知らない所で人間と妖精さんの交流があったということでしょうか?
93 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/30(木) 21:19:40.06 ID:fGvsCwif0
===================================

妖精さんメモ補足【 わたし妖精】

わたし妖精は本文中では
わたし25「」のように“わたし”+数字で表示されます。

===================================
94 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/30(木) 21:21:27.47 ID:fGvsCwif0

妖精さん「にんげんさんげにんげんさん?」

わたし「おや。さっきとは違う妖精さん」

妖精さん「おたずねびとつれてきたです」

わたし「またですか?」

さっきと帽子や服の違う妖精さんがまたしても
ピンクの長髪・スカートの妖精さんを伴って現れました。

妖精さん「またとは?」

わたし「いえこちらのこと。確認しますので。ちょいと失礼」

『わたし妖精(暫定)』をつまみ上げて人差し指でつつき回しまわします。

わたし「カツラじゃないようですね」

わたし??「うひゃめてくらさい」

くすぐったがって悶えてます。

わたし「目の色も間違いない。今度こそ本物ですね。良いでしょう」
95 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/30(木) 21:22:52.33 ID:fGvsCwif0

妖精さん「ほうしゅうもらえます?」

わたし「はいはい。飴の代わりに金平糖二個ですよ」

『わたし妖精』はテーブルにおろして、そこ置いてある瓶から金平糖を取り出し、
妖精さんに差し出します。

妖精さん「わー」

相変わらずの大喜びです。

わたし??「……」

なにやらテーブル上の『わたし妖精』の方も物欲しそうに見つめてます。

わたし「あなたも欲しいんですか?」

コクコクと頷いてます。
一粒つまんで渡してあげます。
96 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/30(木) 21:23:35.85 ID:fGvsCwif0

わたし「そういえば、あなた何担当ですか? 番号は?」

わたし??「はて?」

わたし「すでに忘却の彼方!? わたしを構成してた概念を忘れるってありなんですか?」

わたし??「ありえませんが」

わたし「はい?」

わたし??「じぇねれーとなほんしつはわすれませんです」

わたし「では何故担当を言えないのでしょうか?」

わたし??「それはかいりょうがたゆえに」

なんとなく事態が判って来たわたしの笑顔が歪みます。

わたし「なにを……改良したんですか?」

わたし??「あ」

バレたことに気づいたようです。
やはり妖精さん。ひとを騙すには向いてません。
97 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/30(木) 21:24:54.45 ID:fGvsCwif0

わたし??「てっしゅうー」

わたし「あ、こら!」

咄嗟に捕まえたら脱皮するように外側を残して妖精さんはすり抜けてしまいました。

妖精さん「ぴーーーー!」

わたし「逃がしたか……」

一度ならず二度までも。
しかも偽装方法を改良してきましたよ。

悪質な入れ知恵をしたのは何者なんですか?

でも、直接的にお菓子を強奪するわけではなく、
一応ルールがあるようです。

彼ら的にゲームのつもりなんでしょうか?
98 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/30(木) 21:26:41.65 ID:fGvsCwif0

その後も数回同じパターンで妖精さんがやってきましたが、
『わたし妖精』はどれも偽物でした。

最後は振ってもつついても引っ張っても区別がつかないくらい完璧に偽装してきましたが、
妖精さんは人間の構成概念を正しく答えることが出来ないようで、
担当を聞くととんちんかんな答えが帰ってきてもはや騙されることはありませんでした。

最初2回は金平糖を渡してしまいましたが、
それ以外は全部見抜きましたから、このゲームはわたしの勝ちですね。
99 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/30(木) 21:28:19.61 ID:fGvsCwif0

 〜


時間は正午過ぎ。
わたしは調停官事務所に来てました。

わたし「ちょっと妖精さん絡みで小さなトラブルがありまして」

おじいさん「また何かやらかしたのか」

わたし「何でわたしがやったこと前提なんですか。外から舞い込んだトラブルだってあり得るでしょうに」

おじいさん「なんだ違うのか?」

わたし「いえ、まあわたしがやったのかと言われればそういえないことはなくないとは言い切れないのですが……」

おじいさん「で、おまえは何がしたいんだ」

わたし「ああ、それで今日は事務所を離れてその対応をしたいのですが」

おじいさん「報告書は書くんだぞ」

わたし「それはもう」

おじいさん「ならいい」

許可が下りました。
100 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/30(木) 21:31:20.04 ID:fGvsCwif0

さて、それではさっさと家に帰って妖精さん達を迎え撃たなければ。
一応、勝利できたようですが、あれで終わりとは思えませんので。

というわけで家に向かうわたしですが、
家に向かう道の途中にある石垣沿いの道にて。

妖精さん「にんげんさん」

わたし「あらこんにちわ。どうかしましたか?」

今朝来た妖精さん方とはまた別の個体のようです。

妖精さん「これをどうぞ」

わたし「なんでしょう?」

手のひらに乗るくらいの白い丸まった物体。
細長い紙をぐるぐる巻きにして球にしたような形状をしています。
そして先端に果物のへたのように一本短い紐が飛び出してます。

妖精さんは何も言わずに石垣から向こうへ飛び降りてしまいました。
101 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/30(木) 21:33:18.68 ID:fGvsCwif0

わたし「はて? プレゼント?」

首を傾げていると突然、謎の物体に異変が起きました。
飛び出した紐の先端から煙が出てきたのです。

わたし「な、なんなんですかこれは!?」

これが危険物だと気がついたときにはもう投げ捨てる余裕など残されていませんでした。

紐は燃え尽き、手からこぼれ落ちたその物体は地面に落ちる前にパアンと大きな破裂音を発して飛び散ったのです。

不意打ちでした。

これは……ばらける。


ばらけ

     てしま

           うーー。
102 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/30(木) 21:35:47.80 ID:fGvsCwif0
 〜

わたし1「まあ、ばらけましたとも」
わたし21「ましたね」
わたし27「ましたです」
わたし12「ばらばらです」
わたし33「わらわらです」

石垣の傍のわたしが居た場所には“わたし妖精”の集団。

妖精さんからプレゼントされたあの謎の物体はお手製の爆竹だったようです。

わたし1「まさか妖精さんにテロ行為を仕掛けられるとは」

とにかく家に帰ってまた人間にならなくては。

わたし1「はい、集合! 家に帰りますよ!」

石垣の上に居たわたし達が号令に従って道に飛び降りようとしたその時です。

ぱあっと塀の向こうから何かが広がって、もたついていた『わたし妖精』達を捉えたのです。

わたし1「投網!?」

わたしxx「「「ぴーーーー!」」」

わたし1「い、急いで家に避難です! 走って!!」
103 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/30(木) 21:40:35.28 ID:fGvsCwif0

……。

捕まってしまった『わたし』は30人程。

どうするつもりでしょうか?

まさか奪っておいてここに連れて来て報酬を要求するつもりなのでしょうか。
さすがにそれは犯罪行為です。認められる筈がありません。

いやそれ以前に、彼らは“わたしのばらし方”を知っていた。
これの意味する所は、すなわち敵の中に“事情を知っている者”が居るってことです。

一体何者なんでしょうか?

そんなこんなで構成要素を延べ人数で一割強失って一回り小さいわたしですが、
なんとか人間に戻りこれからの対応に頭を悩ませていると、
「にんげんさん」とわたしを呼ぶ声が聞こえました。
104 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/30(木) 21:42:00.34 ID:fGvsCwif0

見ると三人の妖精さん。

わたし「妖精さん? どうしたんですか?」

その妖精さんたちはどこかくたびれた様子で、服も少し煤けているように見えました。

妖精さん「てろりずむのだいとうなのです」「かげきはにじゅりんされました」「くーでたーなのです」

わたし「いったいどういうことですか?」

妖精さん「じつは……」

話を聞くと、どうやら妖精さん達の間で派閥争いのようなものが勃発していたようなのです。

妖精さん「なかまはせんのうされました」「どうしはもはやこのさんにんのみ」「むねんです」

わたし「ところで、わたしが攫われてしまったんですが、彼らがどうするつもりなのか判りませんか?」

妖精さん「にんげんさんのがいねんがじぇねれーとなようせいはおかしつくれるです」

わたし「なんと」
105 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/30(木) 21:46:19.18 ID:fGvsCwif0

高度な科学力をもつ本来の妖精さんですが、
実はお菓子だけはを作ることができなかったんです。

ところがどういう理屈か判りませんが、『わたし妖精』は妖精なのにお菓子が作れる、
ということのようです。

妖精さん「おかしはゆたかなくにのしょうちょうです」
妖精さん「ななつのくにがようりつしてさいごにていこくときょうわこくのにだいせいりょくがいきのこりました」

わたし「なんという戦国時代……」

どうやらこの半日でお菓子を作れるという『わたし妖精』を巡って妖精さんたちの争いが起こり、
妖精さん国家の乱立から二大勢力への収束までの時代を駆け抜けていたようです。

わたし「これはまずいかも」

これは内政干渉なんてレベルじゃありません。
へたすると妖精さんの生態にまで食い込む重大な条項違反と解釈されかねません。

さらに『わたし』を巡って妖精さんが武装して争い合い人間にまで影響を及ぼしたとなれば
重い責任問題がわたしにのしかかってくることでしょう。

それだけはなんとしても避けなければなりません。
106 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/30(木) 21:48:33.65 ID:fGvsCwif0

わたし「妖精さん、あなたたちはどちらの派なんですか?」

妖精さん「どちらでも」「ていこくはどくさいしゃがいるです」「きょうわこくはかげきです」

わたし「ならば協力してください。報酬ははずみますよ」

妖精さん「なにしますか?」

わたし「第三勢力として戦争に介入します」

妖精さん「きゅうせいしゅさま!」「きゅうせいしゅさまだ」「にんげんさんはきゅうせいしゅさまー」

わたし「それはいいですから、まずは偵察です」

妖精さん「ていさつですか?」
107 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/30(木) 21:49:49.50 ID:fGvsCwif0

わたし「敵を知らなければ何も出来ません。まず敵の本拠地と勢力を調べてきてください」

妖精さん「わかったです。ちょうほうかつどうしてきます」

いつの間にか妖精さん倍に増えてます。目的を与えると増えるんですよね。

わたし「じゃあ残りのあなた達は警備を固めてください。また爆竹でやられたら不味いですから」

妖精さん「りょうかいです」「とらっぷしかけます」

そいうえばおじいさんが帰ってくるまでに終われば良いですけど長引くとここじゃ不味いですね。

わたし「妖精さん妖精さん?」

妖精さん「はいな?」

わたし「ここの警備は偵察隊が帰るまでです。
     情報が得られたら移動しますのでそのつもりでお願いしますね」

妖精さん「わかりましたです。もばいるなとらっぷつくるです」
108 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/30(木) 21:58:34.84 ID:fGvsCwif0
(続きはまた後日……)
109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県) [sage]:2012/08/30(木) 22:32:50.22 ID:D7Jl8RHQo

いったい何が始まるんです?
110 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福島県) [saga sage]:2012/08/30(木) 22:58:38.19 ID:DiwjohjR0
第三次世界大戦だ
量子化やら第三勢力として介入やら聞くとガンダム00を連想してしまう俺ガノタ
111 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/30(木) 23:03:16.54 ID:yaYOlvsG0
どうみても奴です。本当にあざーす
112 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/01(土) 03:13:10.22 ID:j78JvJ5DO


ただのKA☆KA☆SI☆ですな
113 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/01(土) 16:50:32.18 ID:IJcOXOyJ0

さて。
しばらくして偵察に出てた妖精さん達が帰ってきました。


わたし「……テロ行為でわたしを奪ったのは帝国側でしたか。
     そしてもともと帝国にわたし妖精は一人だったと」

共和国側の保有する『わたし妖精』の数が圧倒的だったため強攻策に出たようです。

わたしの情報はその一人の『わたし妖精』から得たんですね。

にしても一連の妖精さんたちの活動には違和感を感じます。

いくら『わたし妖精』に価値があるといっても
妖精さんたちが自発的にテロ行為や拉致誘拐をするとは思えない。
そこが引っかかります。

まあそれはそれとして、やるべきことは決まってます。

わたし「最終目的は両国からわたし妖精を全て奪還することです。
     争いの種が無くなれば戦争は終結しますから」

妖精さん「どうやってとりかえしますか」「しゅびはかたいです」「てっぺきのまもりです」
114 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/01(土) 16:54:03.99 ID:IJcOXOyJ0

妖精さんの調査によると帝国の妖精さん勢力が500人程度。
うち400人は国乱立時代に他国から併合した人数だそうです。
わたし妖精は当初からの一人に加えてこの間攫われた数十人。

共和国は700人でこれは建国当時の100人からここまで増えたようです。
それプラスわたし妖精が7人。

先日の拉致事件で『わたし妖精』の保有数は逆転しています。

対してわたしの勢力は妖精さんが現在10人。あとわたしが妖精換算で240人程度。
戦力としてはちょっと辛いかも。
妖精換算のわたしは妖精亜種といえる存在で240fあろうとも生粋の妖精さんほど万能ではありません。
戦略的価値だけは高いんですが。


わたし「仕方ありませんね。建国して増えてもらいましょう。なんと言っても人数が戦力ですし」

森の奥を拠点とする共和国、それに隣接した平原にあるがらくたの山が拠点の帝国。
わたしは両者から遠くない場所にある例の元廃屋に移動してそこを拠点としました。

わたし「小麦粉とかは無事ですね」

ここに滞在してたとき作りすぎて隠しておいた大量の小麦粉と砂糖は全部そのまま残ってました。
その他の材料は家の台所や無い物は里で調達して持ってきました。
結構な出費となってしまいましたが仕方がありません。
115 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/01(土) 17:00:22.37 ID:IJcOXOyJ0

というわけで、両国の動向を伺いながらお菓子を作りまくって数時間。
お菓子を与えて「増えてください」とリクエストしたからもう大変。

妖精さん「ふえるですか?」

わたし「はい。兵隊さんを増やして各国に対抗しなければなりません」

妖精さん「へいりょくぞうきょうですか」「へいりょくはこくりょくですな」「こくりょくはおかしちからです」
    「おかしたくさんほしいです」「あまいおかしたくさんもらえますか?」

わたい「増えたらその分お菓子も増量しますよ。だから思い切り増えてくださいね」

そして、妖精さんは素直に増えまくってあっというまに数千人規模に膨れ上がり
いまや『わたし国』は妖精界で最大の軍事国家へと成長を遂げました。

ちなみに戦はあくまで原始的な装備と物量戦で行くことにしています。

幸いなことに諜報活動の結果では、
各国とも戦力は歩兵に剣や盾という形態から進化させる気はなさそうですし。

ここで下手に兵器開発などをしてしまうと、
他の国も対抗しはじめて兵器開発競争なんて事態に発展しかねません。

それだとあとあと証拠が残りやすくなるでしょうし、
まかり間違って人里に影響を残し責任問題にでもなってしまったら、
わたしの罪が重くなってしまうことでしょう。そんな事態は避けなければなりなせん。

だから兵器開発は自重です。
116 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/01(土) 17:30:57.58 ID:IJcOXOyJ0

そんなわけで増えた皆さんは今、
盾と剣を持って軍事演習(という名のチャンバラごっこ)をしています。

わたし「兵隊さんの訓練は進んでいますか?」

妖精さん「ぼちぼちですな」


ところでわたしには実際の戦闘がどうなっているのか、
そもそも妖精さんは物理的に傷ついたら死ぬのかってことに疑問がありました。

生きるために食べる必要が無いという妖精さんたちは
普通の意味での生物の範疇から外れてますからね。

それでその辺り、諜報妖精さんたちに聞いてみたところ、
この度の戦争には『取り決め』があるんだそうです。

その取り決めとは、サバイバルゲームのように武器で刺されたり切り付けられたら
『死んだ振り』をしなければならないということ。やっぱり死なないようです。

この取り決めは絶対で、参加者、すなわち各国に属する妖精たちは
強制的にそれに従ってしまうようになっているそうです。

おそらくは謎の科学力によって。

流石妖精さん、無駄なところにも全力です。
117 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/01(土) 17:35:51.14 ID:IJcOXOyJ0

さて、これだけ軍事力が圧倒的になると、
実際の戦争行為をすること無く各国と交渉することが出来るようになります。

軍事演習がどうにかサマになってきたところでわたしは外交活動を開始しました。

わたし「外交筋を通して帝国に誘拐したわたしを返還するよう要請してください」

妖精さん「かしこまりました」

しかし帰って来た答えは「そんな事実は無い」とのこと。

「建国当初から彼女達は我が国の国民である」とかぬかしてますよ?

軍事力をちらつかせて『お願い』したつもりなのに敵も心得ているようで、
大国に脅迫されてるように第三国にアピールして牽制してきます。小癪な。

妖精さん「いかがいたしましょう?」

わたし「事実を突きつけてやります。証拠を掴むのです」

妖精さん「りょうかいです」

調査団を結成し、わたし誘拐事件の目撃証言や事件に関わった人物の追跡調査を行い、
とうとう実行犯でありながら後に共和国に亡命した人物を発見。

国際法廷で証言してもらえるように根回しをし、いよいよ提訴という段階で連中はやらかしました。
118 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/01(土) 17:37:46.48 ID:IJcOXOyJ0

妖精さん「ていこくのはっぴょうがありました」

人間に判りやすくリライトするとこんな感じ。

『彼女達は我が国から強制連行されて彼の国の独裁者の下で過酷な労働を科せられていた。
 我々は彼女達を救い出したのであって彼の国の言うことは妄言である』

わたし「なに寝ぼけたこと言ってやがりますか」

『事実を都合よくねじ曲げ、力にものを言わせて好き放題に振る舞う
 恥知らずな彼の国に我々は決して屈しない』

わたし「いやいや、誰のこと言ってますか」

『我々は同胞である彼女達に与えられた精神的身体的苦痛に対して
 謝罪と賠償を要求するつもりである』

わたし「……」

妖精さん「こくさいほうていへのていそはきょぜつするそーです」

『抗争すべき事象は存在しない。そちらの誤認識である』とか。

呆れ果ててものがいえません。
119 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/01(土) 17:48:27.54 ID:IJcOXOyJ0

しかも微妙に嫌らしいのが、こちらに対してでなく、
あくまで公に発表したという体裁を取っているってこと。

馬鹿らしいんですけど世間に向かって一つ一つ反論するしかありません。
こちらに返答する義務なんて無いんですけど
放っておけば認めたことになってしまいます。


まあ圧倒的兵力差があるので
有無を言わせず軍事的に制圧してしまうのも一つの手です。

確かに最初帝国の発表を聞いたときは、
思わずそうしてしまおうかとも思いました。

でもよく考えるとあの誘拐事件のようなことを用意周到やってのけた連中です。
なんの裏の意図も無くあんな発表をするでしょうか?

もしなにかの思惑があってあのような無理のある難癖をつけてきたのなら、
単純に挑発に乗るのは愚かというものです。

下手に攻め込んでそれをまた帝国の行為の正当化に利用されてはたまりません。

なので諜報活動で敵の意図を探りながら、
表ではあくまで論理的に反論をする、という結論になったのです。
120 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/01(土) 17:50:13.23 ID:IJcOXOyJ0

 〜

妖精さん「きょうわこくからようせいしょです」

帝国の馬鹿げた主張の反論を考えている最中に、
そんな一報が入りました。

わたし「こんどは何ですか?」

妖精さん「たいかがほしいそうで」

わたし「対価? なんのですか?」

妖精さんからの報告によると、

この元廃屋はもともと妖精さんの土地に建っていて、
その管理は共和国に属する妖精さんが行っている。
『わたし国』はそこを無断で占拠しているので使うなら土地代を支払って欲しい。

とのこと。
121 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/01(土) 17:50:48.42 ID:IJcOXOyJ0

わたし「対価ってなんですか?」

妖精さん「おかしいちまんようせいぶんもしくはぴんくのようせいさんじゅうにんです」

わたし「わたし三十人でお菓子一万妖精分に相当するんですか」

『わたし妖精』はこの世界でこんな価値なんですね。

妖精さん「いかがいたしましょう?」

わたし「却下です。妖精さんに土地所有の概念なんて無いはずですから」

妖精さん「ではおとといきやがれとへんしんするです」

わたし「別に挑発しなくても……まあいいでしょう。戦争になれば圧勝でしょうし」
122 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/01(土) 17:54:31.28 ID:IJcOXOyJ0

 〜

甘かった。

「ならば戦争だ」と早速宣戦布告して来た共和国。

最初に森から攻め込んで来た数百人規模の共和国軍の妖精さん兵士達は
待ち構えるわたし国の千人規模の軍隊と交戦。

圧倒的人数差で共和国軍は直接戦闘を避けて撤退、
戦線は森に撤退して行き、やがてこちらが森に攻め込んで行く形に。

しかしこれは彼らの戦略だったのです。

森はいわば彼らのホーム。
地の利を生かしたゲリラ戦術で、彼らの五倍はあった戦力があっという間に削られて、
そのほとんどが捕虜として捉えられてしまったのでした。

妖精さん「かえってきたのはじゅうにんほどです」

わたし「なんてこと。最初から戦力を削るつもりだったなんて」
123 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/01(土) 17:55:29.93 ID:IJcOXOyJ0

妖精さん「てきのしょうぐんからでんごんです」

わたし「聞きましょう」

妖精さん「ほりょをかえしてほしくばほりょごじゅうにんあたりひとりぴんくようせいをわたしてください」

わたしって妖精さんからは『ピンク妖精』とか『ピンクさん』とか変な呼び方をされてるようです。

妖精さん「どうするです?」

わたし「見捨てましょう」(即答)

妖精さん「すてられるとてきにねがえるです」

わたし「その分こちらも増やせばいいでしょう」

お菓子の材料はまだ豊富にありますし。
124 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/01(土) 17:56:00.21 ID:IJcOXOyJ0

というわけで現在の勢力。

わたし国
妖精さん:1800人くらい(増量中)
わたし妖精:240人くらい

共和国
妖精さん:1900人くらい
わたし妖精:7人

帝国
妖精さん:500人くらい
わたし妖精:30人くらい

わたし拉致事件を起こした帝国が兵力で最弱になってます、
これはまた何かあるかもしれませんね。
125 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/01(土) 18:00:08.25 ID:IJcOXOyJ0

 〜

さて、あれから誘拐された『わたし妖精』の返還問題は、
帝国がこちらの反論に対して『ああいえばこういう』といった風に
屁理屈で反論の反論をし続けていて決着がつく気配が見えていませんでした。

そんな中、諜報活動担当の妖精さんから報告がありました。

妖精さん「ていこくはにんげんさんのさとでぶっしちょうたつしてますです」

わたし「あらまあ」

前からそうですが帝国は妖精さんの原則から外れて
人間に直接的に迷惑をかける傾向があります。
どうしてなんでしょうね。

妖精さん「おかしつくりにせいこうし、ようせいがふえてます」

わたし「どれくらいになりましたか?」

妖精さん「せんにひゃくにんふえました」

それは大した物です。
126 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/01(土) 18:03:08.98 ID:IJcOXOyJ0

帝国
妖精さん:1700人くらい(増加中)
わたし妖精:30人くらい

調査では帝国の『わたし妖精』約30人は合体して『小さな人間』になってるとのこと。
そんなこと出来たんですね。
お菓子を作るならその方が便利でしょうけど。

わたし「共和国はどうですか?」

妖精さん「きょうわこくはおかしをこくみんにわけるだけでせいいっぱいでふえるよゆうがないです」

まあ7人しか居ないのならそんなものでしょう。

しかし困りました。兵力のバランスが取れてしまいましたよ。
わたし妖精の保有数は明らかに偏ってますが。

このまま頑張って妖精さんに増えてもらえば再び圧倒的差をつけることも可能でしょうけど、
そうなるとまた共和国に奪われてしまうかもしれません。
いや確実に奪いにくるでしょうね。

数が頼りのうちと違い、共和国には良い教官がいるようで兵隊さんが優秀なんです。

もちろん対策はするつもりですが、これだけ数が多いとなかなか手が回りません。
127 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/01(土) 18:07:06.43 ID:IJcOXOyJ0

そんなわけで兵力のバランスは当面変化がないでしょう、
というのがわたしの予測です。

こうなってくると下手に動けば被害甚大で国民の疲弊を招くばかり。
わたしを奪還してちゃんと一人の人間に戻るというわたしの目的がいつまでたっても果たせません。

わたし「どうしたものか……」

妖精さん「はて?」

状況を打開すべくわたしは無い知恵を絞ります。
わたしの安穏な公務員生活の未来がかかってますから必死です。

ええと、あれをこうしてああして……。

わたし「……わかりました」

わたしに閃くものがありました。勝算がどの程度が判りませんが、
このままこう着状態で三国時代を続けるよりは良いでしょう。

わたし「世界平和を達成します」
128 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/01(土) 18:36:44.45 ID:IJcOXOyJ0
>>122、変な文章だったので訂正します

before:
>圧倒的人数差で共和国軍は直接戦闘を避けて撤退、
>戦線は森に撤退して行き、やがてこちらが森に攻め込んで行く形に。

after:
圧倒的人数差で戦線は森に撤退して行き、
やがてこちらが森に攻め込んで行く形に。
129 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/01(土) 18:37:38.25 ID:IJcOXOyJ0
===================================

妖精さんメモ 【妖精さん戦争の取り決め】

今回の妖精さんたちが人間のまねをした(らしい)戦争ごっこの取り決め。
・剣で刺されたら死んだふりをする
・槍で突かれたら死んだふりをする
・その他致命的攻撃を受けたら死んだ振りをする
・ただし強い使命感にかかれた戦士は死ぬ前にすごい力を発揮してもよい
・死んだ振りは一回の戦闘でどちらかが降伏、全滅、あるいは停戦など戦闘が終わるまで
・暗殺、テロなど平時の攻撃は別途規定を定める

これらの決まりは妖精さんの科学力をもって強制的に施行されているので逆らえない。

===================================
130 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/01(土) 18:38:29.64 ID:IJcOXOyJ0
(というわけで、つづく…)
131 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県) [sage]:2012/09/01(土) 21:29:48.05 ID:QYbCSdhco
乙乙
わたしちゃんは外交勝利を目指すつもりか
132 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/02(日) 17:14:53.73 ID:HLPXAPkN0

わたし「世界平和を達成しましょう」

妖精さん「せかいへいわですか」

わたし「帝国に60人、共和国には80人、大使としてわたしを贈ります」

妖精さん「それはごうぎですな」

わたし「これで各国のアドバンテージは横並びになって、
     互いに攻め込む理由も無くなるってものです」

妖精さん「それはすばらしい」

わたし「各国にその旨をお伝えしてください」

妖精さん「あたらしいじだいのまくあけですな」


わたし国からの提案は各国とも歓迎の意をもって受け入てくれました。
133 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/02(日) 17:17:04.80 ID:HLPXAPkN0

場所は三国に囲まれた草原の中心。

そこにある小高い丘の上で各国の要人が一同に会し、
歴史に名を残す『和平の義』が厳かに執り行われたのでした。

世界の前途を祝福するかのように平原に妖精さん達の歓声が鳴り響きます。

壇上には三国の代表者。

わたし国代表:わたし1
帝国代表   :わたし55
共和国代表 :わたし233

各国の代表どうして固い握手を交わし、
互いに国同士で協力し合い平和な世界を運営して行くことを誓ったのでした。


(平和的エンド大団円?)
134 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/02(日) 17:21:55.28 ID:HLPXAPkN0


その4 ようせいさんのいんぼうせつ


――長らく続いた戦国時代は『わたし』の英断によってついに終焉を迎えました。
これからは平和な妖精さんの世界が続くことでしょう――。

……。

……。

……なーんてことで済むと思ったら大間違いです。

まずは『和平の義』におけるトップ会談から。

わたし1「ながらく血塗られた歴史もここで終わりですねー」

わたし55「国同士平等なのは良いことですよー」

わたし233「はくあいのせいしんでいきましょーねー」

外交的笑顔が咲き乱れてます。
台詞が棒読みだって気にしちゃいけません。
135 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/02(日) 17:23:36.76 ID:HLPXAPkN0

国の代表同士の会談なんて9割方茶番が腹の探り合いだったと
太古の歴史もかたっています。

この妖精戦国時代史上初のトップ会談でいろいろなことが判りました。

……55番さんあなたでしたか。妖精さんに毒を流してたのは。

お菓子をだまし取らせたりわたしを拉致してお菓子を作らせたり理不尽な主張をしたり。
全ての黒幕はこの55番さんだったようです。

さしずめ『悪知恵』担当といった所でしょうか。

知って驚く意外な事実。
つまるところ帝国の独裁者は彼女だったのです。

わたしの他に普通に喋れる『わたし妖精』が居たことにも驚きました。
136 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/02(日) 17:24:21.98 ID:HLPXAPkN0

国の代表同士の会談なんて9割方茶番が腹の探り合いだったと
太古の歴史もかたっています。

この妖精戦国時代史上初のトップ会談でいろいろなことが判りました。

……55番さんあなたでしたか。妖精さんに毒を流してたのは。

お菓子をだまし取らせたりわたしを拉致してお菓子を作らせたり理不尽な主張をしたり。
全ての黒幕はこの55番さんだったようです。

さしずめ『悪知恵』担当といった所でしょうか。

知って驚く意外な事実。
つまるところ帝国の独裁者は彼女だったのです。

わたしの他に普通に喋れる『わたし妖精』が居たことにも驚きました。
137 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/02(日) 17:25:28.28 ID:HLPXAPkN0

彼女が妖精さんに人里から材料を盗むよう指示していたんですよね。
本当に余計なことをしやがります。
バレたら誰の責任になると思ってるんですか。
思わず殴ってやろうかと思いましたが今は自重です。

ところでもう一方の共和国の方は7人の『わたし妖精』による合議制で国が運営されていたようです。
彼女たちは担当が足腰の各部である肉体派で、軍事教練も彼女たちが直接行っているとか。
わたしの中にそんな要素があったことがちょっと驚きでした。

つまり結局結論として、
各国共、国の執政の中心は『わたし』だったってこと。

なんとなく判ってましたけどね。

これは証拠隠滅に気合いを入れなければ……。
138 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/02(日) 17:26:38.01 ID:HLPXAPkN0

 〜

さて。
アンバランスだったわたし妖精達の分布が均等化された結果、
帝国も共和国も国が安定し、妖精さんの人数は爆発的に増加しました。

共和国の主要産物は卵とミルクと木の実が中心。
帝国は人里から調達した(奪って来た)小麦粉と砂糖を主力商品として、
仲良く交易を行ってお菓子の材料を融通し合っています。

尚、わたし国の流通品はこの世界では希少な香辛料や調味料、着色料などで、
少量でも価値が高く交易で大きな利益を上げることが出来ます。
おかげでわたし国は戦争が無く交易が中心になった世界でも大国にのしあがることに成功しています。

この香辛料の類いは家から持って来たものなんですけどね。

さて、そんなこんなで各国とも妖精さんへのお菓子の供給が十分に行き渡るようになりました。


問い:食料が十分行き渡るとどうなりますか?

答え:人口増加が加速します。

139 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/02(日) 17:27:07.63 ID:HLPXAPkN0

まあ、当然の成り行きですが、
しばらくして常にお菓子にありつける裕福層と、お菓子が行き渡らない貧困層といった風に、
貧富の差がみられるようになってしまいました。

お菓子を消費する妖精さんの数がお菓子の供給量を上回ってしまったんですね。

わたし「お菓子の生産工場を立てましょう」

今までは(国の『わたし妖精』で一つにまとまって)わたしが一人でお菓子を焼いていましたが、
生産力の強化のため、ばらけて分業体制を敷き、
各工程とも『わたし妖精』が複数の妖精さんたちを指導して作業を進めるようにしました。

工場制手工業ってやつですね。古代史で勉強した覚えがあります。

かくしてわたし国のお菓子の生産量は数倍に跳ね上がりました。

やがて、この方法は各国の注目を集め、
わたし国の技術者が有償で各国に呼ばれて工場の建造から運用までを指導、
結果、各国ともお菓子の大量生産が行えるようになるのにそう時間はかかりませんでした。
140 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/02(日) 17:34:05.36 ID:HLPXAPkN0

 〜

供給量が増えればまたその分妖精さんも増えます。

供給が需要に追いつかなければ、また生産効率を高めるしかなく、
各国ともあらゆる工夫をして生産力を高めていきました。

ですが、そんないたちごっこもある段階を過ぎたところで、
行き詰まってしまいました。

どういうことかというと、
生産力の強化で、お菓子の材料の消費が加速度的に早くなっていき、
とうとう材料の供給が追い付かなくなってしまったのです。

こうなってくると、各国とも物資の出し惜しみをするようになり、
とうとう正当な手段では物資が手に入らなくなります。

もはやこの世界に妖精さん全員のお腹を満たすだけのお菓子の材料が存在しなくなってしまったのです。

でも、どうしてもお菓子は欲しい。

となれば、略奪するしかありませんよね。

この世界はもともと闘争に彩られた歴史を辿って来たのです。

国民たちがお菓子に飢えて落ち込んで行く悲惨な現状を見て、
各国の指導者が武力による打開を決断をするに至ったのは、
当然の成り行きと言えるでしょう。
141 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/02(日) 17:37:13.62 ID:HLPXAPkN0

平等にするだけで戦争が無くなるなんて幻想です。

力に圧倒的差があれば争う気なんて起きませんが、
相手が同程度と判ればそこで『超えてやる』と対抗心が燃えあがります。

同程度だからこそ争いが起きるんです。

まあぶっちゃけ互いに相手が『わたし』なんでなめてかかってるんですよね。


妖精さん「ていこくときょうわこくからつうたつです」

わたし「きましたね」

これを待ってたんです。
ようやく次のステップに進めますね。

わたし「それで各国の要求はなんですか?」

妖精さん「ぶっしをよこせです」

『物資を渡せ、さもなくば戦争だ』

各国とも他の二国に対してそう宣告しています。

もちろん各国とも譲る訳がありません。すなわち全面戦争です。
142 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/02(日) 17:56:49.12 ID:HLPXAPkN0

さて。

三国同時に打って出た関係で、
『和平の丘』が中心にある三国に囲まれた『妖精たちの平原』の三方から
各国それぞれ約6千の兵が睨みあい状態になってます。

にしても、みなさん見事に増えましたね。

わたし「じゃあいってください」

妖精さん「はいなー」

私の指示で、がらくたを寄せ集めて作った数機のおもちゃのヘリコプターが
(妖精さんに取っては)巨大な小麦粉の袋をつり上げて上昇して行きます。

わたしは妖精さん製の拡声器で全軍に告知します。

わたし『みなさん! わたしは『わたし国』のわたしです!』

戦場にどよめきが走ります。
143 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/02(日) 17:57:30.70 ID:HLPXAPkN0

わたし(帝国)「静まりなさい! 敵の策略にのってはいけません」

わたし『あら、策略じゃありませんよ。
     ただこのまま互いの国土を目指して競り合っていても決着はつかないでしょう、
     だからここに小麦粉50キロを用意しました』

50キロ。人間が見ても大層な量ですよ。

「おおー」と、今度は感嘆のどよめきが。

つり上げられ運ばれていた小麦粉の袋は和平の丘のモニュメントの上に降ろされました。

わたし『このまま互いに果てしなく三国で傷つけ合っても、お互いにとって決して利益にならないことでしょう。
     ですからわたしはここに提案したいと思います』

わたし『ここでの戦いだけで完全に白黒付けるため、
     ここに各国から出せるだけの物資を掛け金として供出するのです。
     そしてここでの勝利者がこれら全てを勝ち取ることにします』

わたし『各国の王様、いかがでしょうか?』
144 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/02(日) 17:59:04.51 ID:HLPXAPkN0

わたし(帝国)『愚かですね。自分から戦利品を差し出すなんて。
         でも乗りましょう。元から負けるつもりはありませんから』

さすが腐ってもわたし。わたしの提案に同意したようです。

やがて帝国側からもちょっとした袋が運ばれます。こちらは陸路で運んでますね。

わたし(帝国)『我が国は砂糖を差し出しましょう。
         もっともこれが終わったらわたしの所にもどる予定ですけど』

わたし(共和国)『ならばこちらからは国民が総出で集めた木の実を出しましょう』

こうして和平の丘のモニュメントの上には三国がそれぞれ供出した戦略物資が積み上げられ、
ここ『妖精たちの平原』での戦いに勝利した国がこれらを手中にし、
それをもって戦争終結とするという協定が結ばれたのでした。

こんなぬるい協定がまかり通るのはお菓子が無くても妖精さんは別に死にはしないからです。
ぶっちゃけ人間の戦争ほど深刻じゃないんですよね。

にしてもまあ、上手くいったものです。意外とちょろいです。わたしって。

ちなみに各国とも『わたし』は一つにまとまって、
容積が三分の一で少々小さいですが人間形態になっています。

(共和国のわたしも人間形態なら普通に喋れるみたいです)

それから、勝利条件として、
この『わたし』に『降伏です』と言わせることができたらその国に勝利したことになる、
という規定も追加されました。
145 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/02(日) 18:02:18.08 ID:HLPXAPkN0

戦況は案の定、三方入り乱れての乱戦でした。

最初こそ敵陣を目指す機動部隊と敵の進行を阻む防御隊、
そして敵の防壁を打ち崩す攻撃隊などに分かれて戦略的に戦っていましたが。

所詮はあきっぽい妖精さんのこと、早々に戦略もへったくれも無くなって
各陣自分勝手に行動を始めてしまいました。

そうなるともはやあんな勝利条件を設定したって決着などつくわけも無く、
各国の大将が痺れを切らして来た頃。

わたし「そろそろですかね」

妖精さん「いきますか」

わたし「いきましょう」

護衛を百人程連れて大将自らの出陣です。
護衛は爆竹等の破裂音を出す兵器を退けるのが役割です。

まあ大量殺戮兵器(爆竹)は条約で戦争での使用が禁止されていますが、
帝国のテロの例もありますし(帝国はなったことにしている)警戒するに越したことはありません。

体格の差があるので妖精さんが普通に突撃してきても簡単に蹴散らしてしまえるんですが、
ばらけて同サイズになってしまったら性能の差で負けてしまいます。

『わたし妖精』はお菓子が作れる分その他の基本性能が生粋の妖精さんより劣るんです。

だから彼ら護衛の役割は重要です。
146 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/02(日) 18:04:28.11 ID:HLPXAPkN0

さて、戦線を蹴散らしながら『和平の丘』に向かって進軍します。

わたし(帝国)「あー! ずるい! わたしもいきますよ」
妖精さん「はーい!」

わたし(共和国)「それじゃわたしもいかざるをえないじゃないですか」
妖精さん「おともしまーす」

というわけで最後の決戦。大将戦にもつれ込みました。

いよいよクライマックスです。


『和平の丘』で睨み合う三人のわたし。

わたし(帝国)「えーと、取っ組み合いするんですか?」

戸惑いがちなのは帝国代表のわたし55番さん。

わたし「他に何がありますか」

なにを今さら。

わたし(共和国)「いいですよ? いきますか? いいですか?」

こちらのわたしはやる気満々のようです。
147 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/02(日) 18:07:32.35 ID:HLPXAPkN0

わたし(共和国)「わたしがかてばあしこしてんかです!」

足腰天下、ですか。
帝国はもとより、共和国のわたしにも指導者の性質が色濃く反映されているようです。

わたし(帝国)「わたしは知略向きで肉弾戦は専門じゃないんですよ!」

わたし「聞く耳もちません。レディーゴーですっ!」

わたし(帝国)「きゃー」

とりあえず手を掴んで引き込みます。

わたし(共和国)「げこくじょー!」

そこに共和国のわたしが突っ込んできました。

でもナイスです。

そのまま三人縺れ合うようにしてすっ転び、丘に設えたモニュメント上のへこんだ部分に転げ落ちます。
実はこのくぼみ、事前に作っておいたものなんです。

わたし「妖精さん、今です!」

妖精さん「あいさー」

わたし(帝国)「なに!?」
わたし(共和国)「は、計ったなー」

床が開いて仲良く落下。
148 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/02(日) 18:18:05.34 ID:HLPXAPkN0

蓋が閉まるまえに急いで各人の肩や頭に張り付いていた参謀の妖精さんをむしり取り外に放り投げました。

妖精さん「あーれー」「ごむたいなー」

混じり物があっては不味いですから。

そして上部の蓋が閉じて三人はそのまま事前に用意しておいた空間に閉じ込められます。


……。



わたし(帝国)「なんのつもりですか」

わたし「なんのつもりとは?」

わたし(帝国)「わたし相手ならともかく、取っ組み合いであなたは共和国のわたしには勝てないでしょう?」

わたし(共和国)「鍛えてますから!」

わたしにこんな脳筋な要素があったんですね。
それはともかく。

わたし(帝国)「なのにあなたは丸腰で三人が対峙する今の状況を作りました。何故なんですか?」
149 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/02(日) 18:34:20.20 ID:HLPXAPkN0

わたし「流石、悪知恵担当ですね。そうですよ。わたしは勝ち負けなんてどうでも良かったんです」

わたし(帝国)「どうでも良い? 自国民一万四千の妖精さんがどうなっても良いというんですか?」

わたし「あなた、優しいんですね」

わたし(帝国)「優しい? いいえ国家の元首として当然のことです」

わたし「何故と言いましたよね? わたしは始めっから国なんてどうでも良かった。
     そんな物は目的のための道具にすぎなかったんですよ」

わたし(帝国)「道具に過ぎない? だったら何を……」

わたし「あなたの国の物資流通、ある時期から小麦粉の質が変わりませんでしたか?」

わたし(帝国)「何のことですか? 確かに……」

わたし「人里のあちこちから調達してるとは思えない程均質になったでしょ?」

わたし(帝国)「それをどうして……まさか」
150 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/02(日) 18:40:54.63 ID:HLPXAPkN0

会話はたるいので割愛してわたしが何をやっていたか解説しますね。

わたし国は当初から小麦粉や砂糖等の備蓄が大量にあるのを伏せて
香辛料などの希少物資のみを流通してたんです。

何故かって?
この大量の物資は世界を裏から支配する力になるからです。

わたしは国の運営とは別に直属の工作妖精さん部隊を使い、
生産技術の情報や物資の流通をコントロールして、
世界がお菓子の材料を巡って武力衝突する方向へと誘導していたのです。

帝国の小麦粉調達ルートにはかなり早い時期から割り込んでいました。
これは人里の被害を減らしなおかつ帝国の流通の首根っこを捕まえて、
コントロール下におくという一石二鳥の効果を狙いました。

妖精さんの窃盗が発覚するとまずいですからね。

共和国の方はもともと小麦粉と砂糖を全部輸入に頼っているという弱みがありましたので、
それらの流通を押さえるだけで十分コントロールできました。

そしてこれは三国和平の義の時から計画していたことだったのです。
151 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/02(日) 18:48:55.55 ID:HLPXAPkN0

わたし(帝国)「こ、この悪魔め!」

悪知恵担当のわたしからそういわれるのは心外です。

わたし(共和国)「」(空気を読んでいる)


さて、茶番は終わりです。

まあつまり、

わたしは最初から『元通り一人にもどること』だけを目的に行動しいてたわたしの勝利ってことで。



ぱあん!



破裂音が響きます。

分解から再結合までのプロセスは妖精さんと共同で、
そんなに親睦を深めなくてもそれなりに一つになれるように改良しました。

まあ狭い範囲に閉じ込めて強制的に融合するだけですが。

なので、もう一回の破裂音で全て完了。



ぱあん!



わたし「……」

わたし「わたし復活!」
152 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/02(日) 18:52:38.12 ID:HLPXAPkN0

落とし穴から這い出して、丘の上に立ち、周囲の戦闘要員三国あわせて約一万八千プラス
戦の行方を見守る非戦闘員二万四千あわせて合計約四万二千の妖精さんたちを見下ろします。

突然の大将の喪失に妖精さん達は戦闘を中止しています。

近くの妖精さんが恐る恐る話しかけてきました。

妖精さん「おうさまはひとつになりましたか?」「にんげんさん、がっしゅうこくにくんりんしてくれますか?」「だいとうりょうにしゅうにんです?」

わたしの手には妖精さん製拡声器。

わたしはすぅーっと息を吸い、


妖精さん「「「?」」」


わたし 『 か い さ ん で ー す ! ! 』


妖精さん「「「「ぴーーーーーーー!!!」」」」


壮観です。

蜘蛛の子を散らすように、というより潮が引くように
大量に居た妖精さん達が平原から引いて森や山、そして廃墟へと散っていきます。

わたし「やっと帰れますね。やれやれです」

153 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/02(日) 18:55:11.21 ID:HLPXAPkN0


 〜


あの妖精さんに悪知恵を吹き込んでいた『わたし妖精』ですが、
悪知恵担当という割には最後の最後、したたかさに欠けていたように思えました。

あのあと何でかなと考えたのですが、
どうやらあれは昔、人との接触を避けたいあまり
あれこれ悪知恵を働かせていたころのわたしのようでした。

今もわたしは人付き合いが苦手ですが、
あの頃よりは良くも悪くも図太くなりましたからね。


おじいさん「終わったのか」

わたし「ええ。おかげさまで」

おじいさん「森の方の草原がだいぶ賑やかだったようだが?」

わたし「そ、そうでしたか? 妖精さんたちが遊んでたんじゃないですか?」

あのあと手下としてキープしていた妖精さん数人を使って戦略物資は回収、
モニュメントは解体しましたし証拠隠滅は完璧のはずです。

おじいさん「まあ上手くやったんなら何も言わんが」

わたし「な、なんのことでしょう?」

おじいさん「詰めが甘いと言ってる」

そう言っておじいさんがわたしの額にぴたっと貼り付けたのは、
妖精さん用の“尋ね人ポスター”の束でした。


――もしかして、全部ばれてます?


(おわり)
154 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/02(日) 19:10:11.51 ID:HLPXAPkN0
かんけつしましたが?
155 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/02(日) 19:13:42.97 ID:HLPXAPkN0
>>151 訂正

× わたしは最初から『元通り一人にもどること』だけを目的に行動しいてたわたしの勝利ってことで。

○ 最初から『元通り一人にもどること』だけを目的に行動しいてたわたしの勝利ってことで。
156 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/02(日) 19:15:55.39 ID:HLPXAPkN0
===================================

妖精さんメモ 【55番さん】

人との接触を避けたいあまりあれこれ悪知恵を働かせていたころの『わたし』の
悪知恵担当らしい『わたし妖精』。

誕生当初から自分の存在に疑問を持ち『わたし』の元から逃亡、妖精さんたちの
コミュニティに拾われて彼らと暮らすうちに、元来の悪知恵に長けた性質を発揮し
一国の独裁者にまでのぼりつめた。

妖精さんたちに必要とされることに自分の存在意義を見いだしていたため、最後の
最後で“一つに戻ることを目的とした『わたし』”に敗北してしまう。

===================================
157 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/02(日) 19:23:20.01 ID:HLPXAPkN0
(以上です)
158 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2012/09/03(月) 17:26:34.69 ID:z18TQWNAO
おかわりがほしいです

つづきよみたいです

かいさんですか?

れたすちゃーはん
159 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県) [sage]:2012/09/04(火) 18:47:12.15 ID:PtpXM4ODo
おつです
わたしちゃんぶんれつへんがかんけつしましたか?
160 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/06(木) 18:49:39.80 ID:8noCvaaR0
最初の方があれなので今から初見で読んでくれる人は
ほとんどいないような気がしますが気にせず投下。
161 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/06(木) 18:50:12.68 ID:8noCvaaR0


番外 ようせいさんのどくさいこっか


わたしはいきなり床に放り出されました。

「いったい何なんですか……え?」

そこでわたしは、『わたし』が沢山居るのを見たのです。

まあわたしも妖精さんとの数々の騒動を経験したおかげで、
非常識な事態にはかなり耐性がついていましたが、
流石に今回の事態は理解するのに少々時間がかかりました。

結論を言うと、わたしはまたしても妖精サイズに縮んでしまったようなのです。

沢山の『わたし』。

それはわたしが妖精サイズに変化したことで意識も変化して、
最初は妖精さんプロポーションな『わたし』を“普通のわたしの姿”として認識していたようです。

これは自分が妖精さんのようになったことを意識したらちゃんと
“そのように”認識できるようになりました。

「これはまた厄介なことになりましたね……」

そのあとの『わたし』たちの話からすると、
どういう理屈か判りませんが
体内に居た妖精さんの数分だけわたしが分裂してしまったらしいのです。
162 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/06(木) 18:50:40.61 ID:8noCvaaR0

「はい! 集合! 人間に戻りますよ!」

少しして『わたし』の一人がなにやら指揮をとり始めました。
その他の殆どの『わたし』は素直にそれに従っているようです。

でも何か腑に落ちません。

あの『わたし』が“主人格”なのでしょうか?
だとしたらわたしの存在は一体何なのでしょう?

一つに合わさって人間に戻ったらわたしは消えてしまうのでしょうか?

そう考えると、あの指揮を執っている『わたし』に従うのがとても怖くなりました。

「……とりあえず逃げちゃいましょうか」

「にげるですか」「えすけーぷ?」「じゆうへのひしょうです?」

わたしの周りには集合の合図に出遅れたか従わなかった『わたし』たちが集まっていました。

「いっしょにいくですか?」「じぶんさがしです」「れっつごー」「あてどのないたびだちです」
「あしのむくまま」「きのむくまま?」「なんとかなるさ」「どこまでも?」

言葉が妖精さんのように舌足らずに聞こえますが彼女たちは普通に話しているつもりのようでした。
言語機能はかなり不平等に分配されているようです。

結局数人は残ったようですが、
わたしは二十人程の『わたし』と一緒に元廃屋から逃げ出したのです。
163 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/06(木) 18:51:54.70 ID:8noCvaaR0

 〜

あの元廃屋から抜け出してすぐ、
わたしはいきなり一人になりました。

わたしは森に向かうことには反対でした。

だって森の妖精さんたちとわたしは交流があったから、
妖精さんを経由して逃げ出したわたしの所在がバレてしまうかもしれませんし。

でも逃亡した『わたし』たちの中に積極的な個体が何人か居て、
その何人かがリーダーシップを取り、
結局、全員で森に向かうことになってしまいました。

わたしは彼女たちに従うことが自己責任で、追っ手に捕まってしまっても
彼女らに責任を負わせることなんて出来ないことを知っています。

ですから、隙を見て集団から抜け出し森とは反対方向、
荒野が広がる方向へ一人で向かいました。
164 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/06(木) 18:54:00.98 ID:8noCvaaR0

……。

砂と岩石の荒野を一人行く……。

「お腹がすかないのは時間の感覚が違うからでしょうか?」

結構な距離を歩いたと思うのですが、そんなに疲れを感じることもなく、
のどの渇きも感じませんでした。

ただ精神的な落ち込みで身体の動きが鈍くなるのを感じます。

人間サイズなら数時間も歩けば里の外れに出る筈ですが、
妖精サイズでは膨大な距離に感じてしまいます。

「にしても、これからどうしましょうか……」

とりあえず逃げ出してみたものの、
この後のビジョンなんてありませんでした。

まあ、楠の里についたら誰か知り合いに匿ってもらうのも一つの手です。
出来れば人間の『わたし』の味方にはならない人が良いです。
165 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/06(木) 18:54:34.00 ID:8noCvaaR0

「そうですね、友人Yあたりなら面白がって匿ってくれるかもしれません。
 彼女はわたしに対しては適度に険悪でしたし」

そんなことを考えながら、何もない荒野を一人で歩いて行く。

「それにしてもつまらない風景ですね」

例え空腹や渇きを感じないとしても
あまりに長いこと代わり映えのしない風景ばかりだと次第に精神が疲弊してきます。

つまらない……。

つまらない……。

「あ……なんか足が動かなくなって来た……身体がだるい……」

妖精さんみたいになってしまったわたしの身体は、
どうやら精神的なものの影響をかなり受けてしまうようです。
166 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/06(木) 18:55:15.25 ID:8noCvaaR0

そして身体のだるさが“つまらない”に拍車をかけ……。

「あー……」

そして、とうとう全身の力が抜けて荒野の真ん中でぱたりと倒れてしまった時、
ようやく思い至りました。

“妖精さんみたい”でなく、わたしは妖精さん“そのもの”になったのではないかと。

そして理解しました。
妖精さんは、おもしろくないと鬱になって動かなくなってしまう……、

……のではなく“動けなく”なってしまうのだと。

――――
―――
――
167 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/06(木) 18:56:18.75 ID:8noCvaaR0

「このひといきだおれです?」「たおれてますな」「たのしいことないですか」
「ないとぼくらいきていけませぬ」「しにますです」「このひとしんだ?」
「しにそうですが?」「それはいちだいじ」「いのちだいじ」「だいじですな」


……なんでしょう?

混濁した意識が、
わたしを取り囲みなにやら相談している何者かをを捉えました。

でもそれ以上の思考が働きません。
妖精さんに発症した鬱は思考速度も鈍らせてしまうようです。
168 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/06(木) 18:58:06.93 ID:8noCvaaR0

……。

「……ん」

気がつくと、かさかさしたものに包まれて寝ていることに気づきました。

「ここは……ベッド?」

見回すと、確かにベッドです。しかもわたしのサイズにちょうど良い。

というか部屋です。
結構広く、寝室兼リビングのような雰囲気でした。

一瞬わたしが元のサイズに戻ったのかとも思いましたが、
よく見れば布団はなにかの薄い素材をカットして張り合わせたものですし、
部屋の調度品は形だけ真似して本来の役割を無視した代物がほとんどで、
例えば箪笥(だと思う物体)は四角いただのブロックのようです。

人間の部屋を模倣して失敗したような中途半端な部屋でした。
169 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/06(木) 18:59:18.07 ID:8noCvaaR0

「とりあえず外にでましょうか」

扉があったので開けようと思ったらドアノブが無く、
一枚板でドアノブの所にそれらしき丸が描いてあるだけでした。

実用性皆無ですね。
この意味不明具合は妖精さんの仕事を思い起こさせます。

「押せば開くのでしょうか?」

手で触れてみてもそれらしい仕組みが感じられません。
他の壁に比べて板は薄そうなのですが。

「仕方がありません。蹴破りましょう」

壊してごめんなさいと心の中で言葉にしつつ、
でも手加減無く思い切りドアに体当たり。

すると――。
170 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/06(木) 19:00:03.90 ID:8noCvaaR0

「え?」

予想に反してぶつかった衝撃は無く、

「ええーー!?」

ドアはのれんのようにめくれ上がり、
勢い余ったわたしはドアの外に転がり出てしまったのでした。

なんというフェイント。

「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」

わあぉ、予想通り妖精さんの登場です。
171 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/06(木) 19:02:04.96 ID:8noCvaaR0

「え、えーっと……」

注目を浴びています。なにやら気まずい雰囲気。

「おめざめですな?」「おめざめかー」「おめざめー」「めでたー」

「あ、あなたたちがたすけてくれたのですか?」

「たすけた?」「たすけて?」「はて?」「おたすけ?」
「おたすけとは?」「へるぷのことだ」「へるぷみー?」

すでに忘却の彼方らしいです。
こういう重要なイベントはぜひ覚えていて欲しかったんですが。

「ええと、わたしをここまで運んでくれんですよね?」

「はこんだような?」

「運んだのでしょう?」

「はこばなかったような?」
172 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/06(木) 19:03:12.68 ID:8noCvaaR0

「いえ、わたし荒野に倒れてましたよね?」

「はこんだような?」「はこばなかったような?」

これでは埒があきません。

「まあいいです。とにかく助かりましたってことで。ベッドもかしていただいてありがとうございます」

「べっどはつくりましたが」

「はい?」

「いえをつくりました」「しんちくですが」「にゅうはうすです」「たてうりじゅうたくです」

作ったとな?
173 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/06(木) 19:03:49.27 ID:8noCvaaR0

「ええと、わたしのために家をつくってくれたんですか?」

「だいくですゆえ」「しょくにんです」「とうりょうです」「ぼくみならい」

遭難者に新築の家をプレゼントなんて、なんという大盤振る舞い。

妖精社会では困窮者に過剰な生活保護をあたえると
真面目に働く低所得層の反発を買うということはないのでしょうか?

まあ妖精さんが家を建てるのが『楽しい』からなんでしょうけどね。

「まあ、もらえる物はもらっておきますけど」

外から見ると三角屋根のいかにもファンタジックな家でした。
ワンルームのようですが。
174 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/06(木) 19:06:09.24 ID:8noCvaaR0

わたしにとっての妖精さんは、
ひとたび関われば予想の斜め上を軽く飛び越して超高度な文明を発達させてしまうような印象しか無く、
それ以外の妖精さんたちの『普段の生活』なんて想像もしたこともありませんでした。

周辺を見て回るとそこそこ集まった妖精さんたちのコミュニティでした。

ここにいる妖精さんたちは家を建て集落を作りまるで人間のように、
生活している(ように見える)のでした。

国連のこれまでの調査で、妖精さんには“生きるための生産活動”が
必要ないことが判っています。

つまり、一見自給自足生活を営んでいるかのように見えるここの妖精さんたちですが、
実は、大人の真似をしておままごとをする人間の子供のように、
人間の真似をして遊んでいるだけなのです。

「なるほど、慎ましやかに人間の文化的生活をまねて楽しんでいるわけですね」

大量の妖精さんが集って文明が爆発している時以外の妖精さんは、
おそらくこのように息の長い『ごっこ遊び』に興じているのでしょう。
175 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/06(木) 19:07:14.14 ID:8noCvaaR0

さて。

里に帰って友人に匿ってもらおうかなどと考えていたわたしですが、
この妖精さんの集落に隠れていた方が安全なのは言うまでもないでしょう。

人間に戻った『わたし』がわたしのような失われた欠片を回収するために
色々手を回してくることは想像に難くありません。

ほとぼりが冷めるまで、といってもいつになるか判りませんが、
少なくとも『わたし』が『もういいや』と思って探索の手を緩めるまでは妖精さんに紛れて
ひっそりと暮らしているのが良いでしょう。

というわけで、集落の妖精さんたちに挨拶に行った所、
衝撃の事実が発覚しました。

「しばらくご厄介になります。よろしくお願いしますね」

「ならはたらけ」

「はい?」
176 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/06(木) 19:08:12.21 ID:8noCvaaR0

「はたらかざるものくうべからずですが?」
「しゅうにゅうのないごくつぶしはでてけ」
「にーとはいきるしかくありませんが」

ここの妖精さんはどちらのご家庭をお手本にしたのでしょうかね?
この『文明生活ごっこ』には厳しい制約が科せられているようです。

また荒野に放り出されるわけには行きません。
我が身の安泰のために労働にいそしむしか無いのでしょうか?

とりあえず聞いてみましょう。

「ええと、どんな職業がありますか? できればデスクワークがありがたいんですけど」

「だいくー」「あなほり?」「みずはこび」「じけいだんです」
「はいたつやさんで」「はっぱでふとんつくります」「かべにいろぬります」
「のうぎょう」「かぐつくります」

家具ってあの直方体のことでしょうか?
まあ分業体勢は出来ているようです。でもやはり身体を使う職業ばかりでした。
177 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/06(木) 19:11:04.14 ID:8noCvaaR0

「単純作業なら出来ると思いますけど、
 自分の才能を生かした方がより皆さんに貢献できますよね?」

学舎で色々学んで来たことがわたしの特技といえば特技ですが、
この原始的な社会では現段階で役に立ちそうにありません。

「さいのー?」「さいのーとは?」「じょうずなことだな」「すきこそもののじょうずなれ」「すきなことかー」
「あなほりすきー」「のうぎょうすきー」「きのみあつめるのすきー」

「好きなことですか。それならお菓子作りくらいでしょうかね?」

「「「「おかし!」」」」

おっと。
離れている所に居た妖精さんまで一緒に皆さんいきなり声を揃えて叫びましたが。

「ぴんくさんおかしつくれるですか?」「ぼくらおかしつくれません」「つくってもおいしくないです」
「あまいおかしできるですか?」

わらわらと寄ってきました。
この集落の全員が集まってしまったのかもしれません。
178 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/06(木) 19:13:32.27 ID:8noCvaaR0

「え、ええと、材料と道具さえあれば……」

「ざいしょうありますです」

「あ、あるんですか?」

「このまえひろったです」

……なんと。

妖精さんたちに案内されて倉庫らしきところへ行くとそこには
塩、砂糖、バター、小麦粉、その他流通品の食材たちが。

どういう技術か判りませんが、
バターのような要冷蔵なものまで鮮度を保って保存されています。

「これ、どこで手に入れたのですか?」

「あっちのほう」「はこにはいってた」
179 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/06(木) 19:13:59.93 ID:8noCvaaR0

妖精さんが指差すのは人里ではなく、キャラバンの通る交易路がある方角。

妖精さんは理由も無く人里から物を奪っていくようなことはしません。
いやむしろ、わたしのような例外を除けば、
妖精さんは人間が実際に生活している空間では滅多に姿を現さないものなのです。

おそらくこれらは積み方が悪くてトラックの荷台からこぼれてしまったものなのでしょう。

「まあ出自はともかく、これは使えますね」

「おかしつくるです?」

「道具、つくっていただけますか?」
180 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/06(木) 19:17:50.39 ID:8noCvaaR0

 〜

作るといっても、
妖精サイズの分量でちまちま作ってはまともにできるわけがありません。
わたしの知っているレシピは人間用なのですから。

なので人間が使うようなサイズの道具で大胆に制作することにしました。

妖精さん背丈の倍はある泡立て器と妖精さんが泳いで遊べる程の大きさのボウル。
お菓子を焼くオーブンも(妖精さんにとっては)巨大なものを制作してもらいました。

というわけで集落の広場で調理大会とあいなりました。

妖精さんもいい具合に増えて、人手は十分です。
泡立て器を振り回すための櫓や、水を定量注ぐための滑車等、
わたしの『こうしたい』という指示でお菓子作りに必要な装置を組みつつ、
調理は進行して行きました。

途中、生地の中に入り込もうとする妖精さんを引きずり出したりとか
ちょっとありましたがようやく最終行程。

みんなで焼き上がりを待ちます……。
181 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/06(木) 19:18:59.30 ID:8noCvaaR0

「わくわく?」「わくわく」「たのしみですが?」「たのしみです」「わくわくです」

当初よりだいぶ増えた妖精さんたちが広場に据えられたオーブンを取り囲んでいます。

チーン、とタイマーのチープなベル音がお菓子の焼き上がりを知らせます。

「はーい、出来ましたよ。取り出しますからね」

数人掛かりで焼き上がったお菓子を取り出すと、
焼きたての香ばしい匂いがあたりにたちこめました。

ああ、妖精さんよだれ、よだれ!

「ちょっと待ってくださいね」

皆が取り囲む中、わたしは焼き上がった一つをつまんで味見します。

「うん。成功です。上手く行きました」

わっと広場が妖精さんたちの歓声に沸き上がります。
182 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/06(木) 19:20:19.03 ID:8noCvaaR0

「慌てないでください。みんなの分はありますからね?」

そういって手伝ってくれた皆さんにひとつずつお菓子、
これは簡単なバタークッキーですけどね、を配りしました。

「あなたはかみさまですか」

「いいえ。ただの妖精さんですよ」

「でもにんげんさんみたいにしゃべります」

「元人間ですけどね」

「にんげんさん?」「もとっていった?」「もとにんげんさん?」「ぴんくさんってよんでいいですか」

「あー好きに呼んでください。まだ材料はありますから今度はもっと違う物を作りましょうね」

それはわたしが妖精さん社会で認められた瞬間でした。
183 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/06(木) 19:21:24.90 ID:8noCvaaR0

『元人間さん』の妖精がお菓子の制作に成功したという知らせは
大きなインパクトをもって妖精さん社会を駆け抜けました。

そしてそのすこし後。
わたしの居る集落にふらりと立ち寄った旅の妖精さんによって、
荒野の向こうの森の妖精さんたちが同様にお菓子の制作に成功したという情報がもたらされました。

「はあ。彼女たちですね」

あの元廃屋を一緒に抜け出して森へ向かった『わたし』達でしょう。
184 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/06(木) 19:25:56.12 ID:8noCvaaR0

 〜

『わたし』のような者がお菓子を制作出来る事が、妖精さんの間に知れ渡って少ししてからのこと。

森に行った筈の『わたし』たち十数人が集落にやってきました。

「どうしましたか?」

「わたしたちぶきようです」「しごとうまくできません」「いらないといわれました」……

話を聞くと、どうも彼女達同士で持ち場の奪い合いのようなことがあったらしく、
『わたし』の中でより不器用だった彼女らがそれに負けてしまったようです。

能力はかなり不公平に分配されているみたいですからね。

「それにしても人数がいればそれなりにお菓子作りは捗るでしょうに……」

材料がそんなに無かったんでしょうか。

旅の妖精さん「もりはこむぎこがないです」

彼女たちに同行して来た旅の妖精さんから補足説明がありました。
185 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/06(木) 19:28:52.98 ID:8noCvaaR0

それによると、森では小麦粉が手に入らないので、
代わりになにかの穀類や木の実を集めて挽いて粉にし、
それを使っておかし作りをしているそうです。

そして色々な実を集めたり挽いて粉にするのは妖精さんたちの仕事ですが、
菓子作りの役職を追われた彼女たちはその粉作りなど肉体労働をさせられていたようです。

「もしかして、それが嫌で逃げ出して来たんですか?」

「……ええまあ」「そんなところで」「……ちからしごとむきでないのです」……

なにやら目を逸らす『わたし』たち。一応後ろめたさはあるようです。
あまり同情できませんね。

「ここにいても仕事ないですよ?」

ここはわたしの保身を優先させてもらいます。
現状、ここの妖精さんの人数分のお菓子はわたし一人で十分なんです。

お菓子を過剰に作れば妖精さんが増えてしまうことでしょう。
そうすると目立ちやすくなって追っ手に見つかる確率が上がってしまいます。
186 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/06(木) 19:29:52.25 ID:8noCvaaR0

「なくないです」(訳:無いはずはないでしょう?)
「やとってください」(訳:ここは一人なんだから仕事ありますよね)
「なんでもします」(訳:お菓子作りの仕事ならなんでもしますから)
 ……

口々に、まあ意訳すると「お菓子作りをさせろ」と、主張する彼女たち。

「まにあってます。単純労働でも文句言わずにやってくれるなら雇ってあげますけど
 それ以外なら他を当たってください」

「お、おうぼうです」「どくさいしゃ!」「あなたはどくさいしゃです」

「警備のみなさーん。彼女たちを外にお連れしてください」

「はーい」「ごあんないー」「れんこうです」「ついほうです」「こくがいたいきょー」

警備担当の妖精さんたちが彼女たちを集落の外へと押し出します。

まあ、この時点のわたしの判断は間違ってなかったと思っていますが、
わたしは後々彼女たちを追放したことを後悔することになりました。
187 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/06(木) 19:31:16.86 ID:8noCvaaR0


 〜


妖精さん社会の情勢は風雲急を告げるがごとし。

森の妖精さんがお菓子の派閥争いから7つに分裂したと聞きました。
今は各派とも人手不足で逃げ出した『わたし』を呼び戻すべく捜索の手を伸ばしているとか。

荒野を挟んだこちら側まではまだ影響が及んでいませんが。

そんな中、一人の妖精さんがわたしに影響のある一つの案件を運んできました。

『たずねびと:[以下略]』

『わたし』を捜索するポスターでした。
人間に戻ったわたしがとうとう本腰を入れて来たのです。

しかも『わたし一人当たり飴玉一個』とか馬鹿にしてます。
188 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/06(木) 19:33:33.69 ID:8noCvaaR0

「こう来ましたか」

「どうしますです?」

「すこし遊んでやりましょう」

「あそぶですか?」

「ええ。こういうカツラと服を用意してください。これはゲームです。
 わたしを連れて行かなくてもきっと飴玉を沢山もらえますよ」

「それはすばらしい」

というわけで、わたしに変装して飴玉をせしめるゲームを妖精さんたちに提案しました。

妖精さんたちはゲームの要領を掴むともう勝手に変装を改良して
『人間のわたし』に何回も勝負を挑みに行きましたが……。

ねたばらし(変装した妖精さんは逃げなければならない)が前提なので
最初の二回以外は上手く行かず見破られてしまいました。

「まあこんなものでしょう」

腹立ちまぎれについ『人間のわたし』に対してちょっかいを出してしまいましたが、
このゲームから足がつく事はありませんでした。
189 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/06(木) 19:38:20.88 ID:8noCvaaR0

『人間のわたし』の尋ね人ポスターが貼られた頃からですが、
妖精さん社会にちょっとした変化が見られました。

情勢が不安定な森から沢山の妖精たちが荒野を渡ってこの集落に亡命してくるようになったのです。

妖精さんたちは基本的に働き者なので材料集め等を手伝ってくれる限り、
わたしは受け入れていましたが、
そんなことをしているうちに人口数十人だった集落は
あっという間に数百人規模に膨れ上がってしまいました。

こうなってくるとお菓子の生産が間に合わなくなってしまいます。
こんなことになるのならあのとき亡命して来た『わたし』達を雇っておけば良かったなんて、
今更思っても後の祭り。

彼女たちは人間のわたしの元に帰ったようでした。

ちなみにこの時、人口流出を許してしまった森の妖精さん格派は
材料を収集する人材がいなくなり、材料物資の不足から併合を余儀なくされて、
結局再び一つになって、今度は独立宣言をして『共和国』と名乗るようになっていました。
190 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/06(木) 19:43:49.73 ID:8noCvaaR0

 〜

さて、外の情勢はともかく、お菓子の生産量不足は深刻でした。

わたしはなんとかしてお菓子の生産量を増やそうとあれこれ悩んだのですが、
なかなか良い打開策が浮かびません。

そんなときでした。

森の共和国から使いの妖精さんが外交文書と称するものを持ってやってきたのは。

『こむぎこぶっしをわけてください
 おかしつくるひとたくさんいるきょうわこくにひつようです
 つくるひとすくないところにはいりません』

つまり、
「お菓子の生産力に見合わない物資は必要ないでしょ? だからちょうだい」
ということ。

舐められてます。

お菓子の生産力が無ければ数百人の妖精さんをこちらに留めておくことは出来ません。
つまり物資を渡すということは亡命して来た妖精さん達にも帰っていただくということになります。
191 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/06(木) 20:15:42.34 ID:8noCvaaR0

せっかくわたしを頼って亡命してきて、
お菓子の材料集めを手伝ってくれている妖精さんたちに出来ればそんなことはしたくありません。

もちろん元々森から来た妖精さん達が元に戻るだけと言えない事は無いのですが、
ここで言いなりになってしまえば、調子に乗った共和国がこの集落を占領しにくるかも知れません。

ひとたび占領されてしまえばの集落は共和国のためにお菓子を生産する植民地となってしまうでしょう。

そんなことでわたしの安穏な生活が蹂躙されるなんてあってはならない事です。

「仕方がありません。人材をむしり取りましょう」

あまり『人間のわたし』と事を構えたくは無かったのですが、
もはやそんな事を言っている場合ではありません。

ここで後手に回ってしまったなら取り返しのつかない事になるでしょう。


「妖精さん、こういう物を作って欲しいのですが」

「それはきけんぶつですな」

「これからわたしは過激に行きますよ?」

わたしは自らの国を「帝国」と名乗り、
自分自身を独裁者と位置づける決心をしたのです。


 
192 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/06(木) 20:16:45.07 ID:8noCvaaR0
(おわる)
193 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2012/09/07(金) 08:36:41.44 ID:1YrLeUFAO
おつかれさま 原作が読みたくなった
194 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/09/07(金) 12:55:12.02 ID:VbwzCiMYo
どうも原作の読みやすさと比べると見劣りするな…
読んでてしんどい。
195 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/09/07(金) 13:09:48.68 ID:vNV8MXjto
原作と見紛うほどの二次創作書けなんてそんな無茶な
196 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/10/12(金) 01:48:54.76 ID:dZ8Oxa7G0

その0 はじまりのはなし
(時期的には冒頭の遭難前。矛盾があってもこまけえこたぁ(ry )


わたし「遺跡調査? またですか?」

おじいさん「違う、隕石だ。隕石調査」

わたし「隕石? 隕石って宇宙から落ちてくるあれですよね?
     それって調停官の仕事なんですか?」

おじいさん「そもそも隕石を調査をするような専門機関なんぞ世界に残っておらん。
        ただでさえ国連公務員は人手不足なんだ」


楠の里からそう遠くもない場所に隕石が落ちたのは数日前のことでした。
実は里でも流れ星が落ちて来たと結構話題になっていました。

その落ちてきた隕石が何百年に一回と言うレベルの大きさだったらしく、
国連総会議にてその話題があがり、調査すべきであるという結論になったそうです。

とはいうものの、
どの機関も調査に人員をさく余裕は無く、そもそも調査っていったって何をするのか。

隕石のサンプルくらいは回収できるでしょうけど、
分析技術をもった人間はとうの昔に絶滅してしまっててどうにもならない。
しかし一度会議で決定した以上調査はしない訳にはいかず
形だけの調査を何処がやるのかって話で散々たらい回しにされたあげく、
最終的に現場の近くの調停官にその任が回って来た、

……という顛末らしいです。
なんとも迷惑な話で。
197 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/10/12(金) 01:50:05.95 ID:dZ8Oxa7G0

わたし「じゃあ、調査団を結成するんですか?」

おじいさん「いや、この件はおまえに一任する」

わたし「……はい?」

また来ましたよ。丸投げが。

おじいさん「調査と言っても現地行ったという事実と報告書一枚だけあれば十分だ。
        誰も成果など期待しておらんから実にお前向きの仕事じゃないか」

わたし「いえ、わたしには現人類と良き関係を構築するという重要な任務が……」

おじいさん「最近は適当にほっつき歩いているだけじゃないのか?」

そりゃ各地の妖精さんと遭遇するために妖精さんがいそうな所をお弁当を持って
巡回するのが最近の主な仕事ですが遊んでるわけではありません。

というわけで論理的かつ理性的に反論を試みましたが、

おじいさん「あれが任務と言い張るならやる事は大して変わらんじゃないか。
        つべこべ言わずにとっとと行ってこい」

末端の公務員に仕事を選ぶ権利は無なかったのですね。


わたし「……それで、正確な場所は判っているんですか?
     そこから調査なんて言いませんよね?」

隕石が落ちた場所を聞き込み調査で割り出すなんてわたしには重労働すぎます。

おじいさん「もしそうだったらおまえには頼まんよ。
        文化局に趣味で天体観測やっている人間が居てな。
        その男が軌道を割り出して書いた地図があるんだ」

わたし「それは助かります」

つまり、地図に従って現場に行って記録を撮って帰ってくるだけの簡単なお仕事。
確かにわたし向きかもしれません。

おじいさん「ここから半日くらいの道のりだ。無理して日帰りなどせずに、
        旅行のつもりでのんびり行ってこい」

そんなわけで、わたしは一泊の予定で隕石調査に行くことになったのでした。
198 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/13(土) 21:54:09.08 ID:j+B7b3iOo
投下終わりか?乙
199 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/11/14(水) 02:06:52.67 ID:5gZ3xli50

出発の日の朝、わたしが旅行の準備をしていると、
外出装備に身を固めた助手さんが家にやってきました。

助手さん「……」

わたし「え? 助手さんが一緒に来てくれるんですか?」

助手さん「……」

わたし「お目付役? おじいさんに頼まれた? わたし、そんなに信用ないんですかね……」

まあ、すでに色々やらかしてますけど。

助手さん「……」

わたし「出発の朝だというのにもたもた準備してるのがおじいさんの予想通り?
     大きなお世話ですよ」

準備が遅くなったのにはちゃんと理由があります。
わたしの行動が人より遅かった訳ではありません。
200 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/11/14(水) 02:08:04.68 ID:5gZ3xli50

わたし「妖精さんが居なかったんですよ」

助手さん「……」

わたし「いえ、現場付近は妖精さんの存在が不明な地域なので、
     昨日は一緒に来てくれる妖精さんを探してたんですよ」

どこか別の所で遊んでいるのか、このところ妖精さんは家の付近で姿を見せてくれません。
それで同行してくれる妖精さんの発見を最優先した結果、出かける準備が遅れてしまったのです。
妖精さんは無事一人だけスカウトすることに成功したんですが……。

助手さん「……」

わたし「え? 姿が見えない? ……いますよね?」

妖精さん「ぼくがそのようせいです?」

何処にでも紛れるので飽きて何処かへ行ってしまったのかとか心配になりましたが、ちゃんと居ました。

わたし「よろしくお願いしますね」
201 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/11/14(水) 02:12:45.12 ID:5gZ3xli50


経過はすっ飛ばして、現場と言われた場所付近。

さて。

わたし「このあたりの筈なんですが」

助手さん「……」

なんと言うか甘かったと言いましょうか。

渡された地図の予想落下地点というのがいわゆる『予想円』というやつで、
つまり隕石はこの円内の範囲の何処かに落ちたとしか判らないのです。

今いる地点は円のだいたい中心。

ここにあったら良かったのですが、世の中そんなに甘くない。
ここには何の異変も無い草原が広がっているだけでした。

わたし「これは歩いて探すしかありませんね」

森を超え丘を越え、予想円内は見渡すのが困難でした。

わたし「今日と明日で見つけられるでしょうか?」

助手さん「……」

わたし「まあ何とかなるでしょう。もし足りなくなったら食料と水は現地調達ですよ」

幸いここは砂漠などではなく緑が多い草原です。
地図によると丘の向こうに川も流れているようですし。
202 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/11/14(水) 02:13:33.83 ID:5gZ3xli50

ところが、です。

わたし「助手さーん!」

予想円内の森の中で助手さんとはぐれてしまいました。

わたし「はぁ。仕方がありません。合流できなかったら自力で帰るように言ってありますし、
     彼のサバイバル能力は意外と高いようですから心配は要らないでしょう」

というわけで、単身隕石探しを続行することにしました。


でもまた、ところがです。


わたし「どうなってるんですか? 地図と違うじゃないですか」

予想円内のある場所にさしかかった時から風景がおかしくなりました。

いえ、風景はおかしくありません。ただ歩いた距離と風景の関係がおかしくなったといいますか、

地図と照らし合わせて「あの高くなってる所まで」と目測して歩いていたらいつまでもそこに辿り着けなかったり、
逆に「あの木まで行ったら休みましょう」と思って一歩踏み出し、気がついたらその木の下にいたり。

わたし「まさか、妖精さんの仕業でしょうか?」

妖精さん「しわざではありませぬ」

わたし「あら? 妖精さん、元気が無いように見えますね?」
203 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/11/14(水) 02:17:42.45 ID:5gZ3xli50

妖精さん「げんきなくなりー」

わたし「どうしたんですか?」

妖精さん「ここはでんじはありますゆえ」

わたし「電磁波!? 集電施設みたいなあれですか?」

妖精さん「あれよりふくざつ?」

わたし「複雑とは?」

妖精さん「かんかくをごまかすです」

わたし「なんですかそれ!?」

妖精さん「もううごきたくないです」

そう言って妖精さんはポケットの奥に潜り込んでしまいました。

わたし「これは、やばいかも……やっぱり隕石……ですか?」

とりあえず、異常電磁場地帯から遠ざかることにしました。
204 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/11/14(水) 02:19:11.14 ID:5gZ3xli50
……。

わたし「でも調査しないといけないんですよね」

わたしの仕事は隕石調査。報告書を書かなくてはいけないのです。

まあ「期待してない」とのことなのでここまでで調査を中止して、
『隕石の影響により電磁場異常が認められる。人間の感覚に影響あり。立ち入り禁止処置が必要と思われる』
くらいの報告をしておけば良いのかもしれませんが、
この時、おじいさんに『わたし向き』といわれた事に対してわたしにしては珍しく
見返してやろうなんてことを考えてしまったのです。

わたし「異常が出てる範囲くらいは調べておきますか」

感覚異常はその場限りで引き返せばそれ以上影響はないようですし、
どうせ立ち入り禁止の立て札立てる仕事にも駆り出されるでしょうから。

そう。

このときいらぬ気など回さずさっさと帰っていれば良かったんです。

ここで余計なことをしたばっかりに……。

205 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/11/14(水) 02:20:50.91 ID:5gZ3xli50



わたしは感覚異常が起こったポイントを地図に記録し、
その範囲を予想しながら実際にその周辺を歩いて確認するという作業を始めました。

――のですが、

わたし「あれ? さっきはここ、何ともなかったような?」

隕石の影響範囲を特定しようと異常が起きたポイントを大きく迂回して行ったり来たりしているうちに、
異常が起きる場所やその効果が変化していることに気づきました。

わたし「まさか。わたしに反応してるんですか?」

境界にいた筈なのに気がつくと感覚異常の真ん中にいたり、
それであわてて範囲外に向かったら異常範囲が付いて来たり。

わたし「不味いかも……」

わたしを翻弄しようとする何者かの意思を感じはじめ、
これは手に負えないと撤退を決心した時、

わたし「!! 周りが!?」

突然周りのの風景の変化し、
わたしはわたしを取り囲む丸い壁の内側にいることに気づきました。

壁は見た所わたしの背丈の三倍位はあり、丸の直径は十メートル程。

わたし「閉じ込められた!?」
206 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/11/14(水) 02:21:45.37 ID:5gZ3xli50

妖精さん「でんじはないですな」

わたし「妖精さん? 電磁波が無いって?」

妖精さん「ぼくたちにあんぜんなものにかわりました」

わたし「そ、そうでしたか」

良かった。これなら助かるかも。

わたし「この壁、なんだか判りますか?」

妖精さん「わかりませぬ」

わたし「判らない?」

妖精さん「ほばくでもぼうぎょでもありませぬ」

わたし「ええと、壁の出て来た理由を言ってますか?」

閉じ込めるためででも何かから守るためでもないらしいです。

わたし「なんとかできません?」
207 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/11/14(水) 02:23:27.39 ID:5gZ3xli50

妖精さん「なんとかとは?」

わたし「壁を壊して脱出とか」

妖精さん「こわせませぬ」

わたし「妖精さん一人では無理でしたか」

妖精さん「はて?」

わたし「なぜそこで疑問?」

妖精さん「だしゅつできますが」

わたし「え? どうやって?」

妖精さん「ふつうにあるいて?」

わたし「!?」

この壁、壁のようで壁でない?

わたし「何が起きてるんでしょう?」

妖精さん「あえていうならあならいず?」

わたし「え」

何やら不穏な単語が。
アナライズ? 分析?

誰が? 誰を?

何者かが、わたしを……!?











208 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/11/14(水) 02:24:35.88 ID:5gZ3xli50

……。

……。

……気がついたら“荒野”に一人。

わたし「はて? なにか衝撃的なことがあったような……」

記憶が定かでありません。

わたし「あ、そうでした。調査に来てたんでしたっけ」

ええと、調査の日程は一泊二日で、今日は何日目でしたっけ?

とりあえず荷物を確認しましょうか。お腹もすきましたし……。

わたし「……」

わたし「いきなりピンチです」

食料と水がありません。

しかもどうやらわたしが自分で消費したみたいなのです。
全然覚えてないんですが確かに自分で使った形跡があります。
209 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/11/14(水) 02:25:49.02 ID:5gZ3xli50

わたし「そうだ! 妖精さん!」

妖精さん「はい?」

わたし「よかった。いましたね」

妖精さん「じょうほうがむしりとられたきょうこのごろ」

わたし「何のことですか?」

妖精さん「ぼくはげんきです」

わたし「それは何よりです」

それより重要なことが。

わたし「荒野で妖精さんと二人きりなんですけど」

妖精さん「ろまんてっくですな」

わたし「砂と岩しかありませんよ」

妖精さん「すぺくたくるみたいな?」

わたし「いいえサバイバルです」

妖精さん「いきのこりをかけて?」
210 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/11/14(水) 02:28:14.17 ID:5gZ3xli50

わたし「生き残るどころかもう末期です。食料も水も底をつきました」

妖精さん「なるほどなっとくのおもむき」

わたし「妖精さんパワーでなんとかなりませんか?」

妖精さん「なんともなりませぬ」

わたし「……はい?」

妖精さん「いちようせいぶんのこううんではいかんともしがたいのです」

わたし「つ、つまりこの度のトラブルに妖精さんの加護は及ばないと?」

妖精さん「めいうんつきたのです」

こうしてわたしの数奇な運命は回り始めてしまったのです。



(その0 投げっぱでもおわる)
211 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/11/14(水) 02:33:37.54 ID:5gZ3xli50
オワコン気味。需要ないし。
ひっそり終わらすって方向で適当に完結を目指す
今日は以上。
212 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/14(水) 21:49:35.79 ID:bA4ZgdfLo
乙でした
213 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/11/15(木) 01:53:24.23 ID:zXrGJ5U4o
214 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/10(木) 23:00:50.45 ID:mRex9/3Co
続きはまだでしょうか
このまま落ちるのも寂しいぞ
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