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ケロロ「人類補完計画でありますか」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/27(月) 01:44:30.60 ID:o2+Yg9I5o
シンジ「やっぱり繋がらないや」

シンジ「どうしよっか、軍曹?」

???「……であります」

シンジ「そうだね。とりあえずシェルターはどっちかな……ッ!?」


 突然の轟音。
 誰もいない街角に一人立つ少年、碇シンジは思わず空を仰ぐ。

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君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
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笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
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【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part10 @ 2024/04/23(火) 17:32:44.44 ID:ScfdjHEC0
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トーチャーさん「超A級スナイパーが魔王様を狙ってる?」〈ゴルゴ13inひめごう〉 @ 2024/04/23(火) 00:13:09.65 ID:NAWvVgn00
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【安価】貴方は女子小学生に転生するようです @ 2024/04/22(月) 21:13:39.04 ID:ghfRO9bho
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ハルヒ「綱島アンカー」梓「2号線」【コンマ判定新鉄・関東】 @ 2024/04/22(月) 06:56:06.00 ID:hV886QI5O
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【安価】少女だらけのゾンビパニック @ 2024/04/20(土) 20:42:14.43 ID:wSnpVNpyo
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ぶらじる @ 2024/04/19(金) 19:24:04.53 ID:SNmmhSOho
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2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/27(月) 01:46:16.01 ID:o2+Yg9I5o

???「げ、ゲロォッ!?」

シンジ「……なにあれ」


 山あいの向こうを歩く一体の巨大生物。
 その周りには羽虫のごとく群がるいくつもの戦闘機。
 非日常極まる光景。現実感のない世界。すぐ先にある戦場。

3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/27(月) 01:47:00.39 ID:o2+Yg9I5o

シンジ「わっ!」


 一人の少年を残し、街は戦場と化す。
 射出されたミサイルは青空に軌道を残しながら生物の胸元へと突き刺さる。
 轟音と、衝撃と、膨大な熱量の発生。


???「……であります!シンジ殿!」

シンジ「う、うん!」
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/27(月) 01:48:39.95 ID:o2+Yg9I5o

 何発ものミサイルの直撃を受けながらも、巨大生物はわずかによろける程度だ。
 群れる羽虫を払うように次々と戦闘機が蹴散らされていく。
 勝負にもなっていない。一方的な戦い。


シンジ「……あっ!」


 ふわりと浮きあがった巨大生物が、シンジのすぐ近くに降り立った。
 足元にある半壊し、墜落した戦闘機を踏み潰して。


???「ゲローッ!」

シンジ「うわぁーっ!」

5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/27(月) 01:50:12.61 ID:o2+Yg9I5o

 シンジは自らを庇うように反射的に両手を持ち上げる。
 そして、そんなシンジを庇うような形で滑り込んできた一台の青いルノー。


ミサト「ごめーん、おまたせ」


 呑気な声で話しかけてくる場違いな明るさの女、葛城ミサト。


シンジ「あ、あの」

ミサト「乗って!話は後でね!」


 有無を言わさず車内に引っ張り込まれるシンジ。
 急発進したルノーは巨大生物に踏み潰されるという結末を間一髪のところで回避する。
 断続的な爆発が続く中、ルノーは巨大生物から距離をとろうとひた走る。

6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/27(月) 01:53:10.78 ID:o2+Yg9I5o

……。

…………。

………………。


 止まぬ状況報告と唾飛ばす軍高幹部の声が飛び交う。
 小うるさい警報を耳にしながらサングラスの男、碇ゲンドウは静かに笑った。
 視線の先には、悠然と歩く巨大生物。


冬月「ATフィールドか?」

ゲンドウ「そうだ。使徒に通常兵器は効かんよ」

7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/27(月) 01:54:29.82 ID:o2+Yg9I5o

 隣に立つ男、冬月の顔も見ずにゲンドウは静かに答える。
 年老いた二人の男が見つめる巨大生物。名を使徒。
 幹部の男が受話器越しに誰かに許可を求める。


ゲンドウ「N2地雷か」


 はたして使徒相手にどれほどの効果があるものか。ゲンドウは目を細めた。



………………。

…………。

……。

8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/27(月) 01:56:09.86 ID:o2+Yg9I5o

ミサト「はじめまして碇シンジくん。私は葛城ミサト、ミサトって呼んでいいわよ」

シンジ「はぁ……」


 使徒との戦いを背にルノーは走る。
 危機から脱したのをミサトの態度からシンジは察した。
 そんな彼の安堵が伝わったのか、両手で抱えたリュックがわずかに動く。


シンジ「あの、アレってなんなんですか?」

ミサト「アレ?あー……アレはねぇ……ま、怪獣みたいなもんかな?」

シンジ「かいじゅう……」

ミサト「そ、怪獣。ガオーってビルを踏み潰して街を火の海にしちゃうのよ」

9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/27(月) 01:57:45.91 ID:o2+Yg9I5o

 ふざけたようなミサトの口ぶりだったが、シンジはその言葉を疑わなかった。
 リュックに顎を乗せるようにして背中を丸めるシンジ。


シンジ「……人もいるんだし怪獣くらいいるよね、軍曹」

ミサト「ん?なぁに?」

シンジ「な、なんでもありません」


 ポツリと呟くシンジ。その声は途切れ途切れにミサトの耳へと伝わる。
 返ってきたなんでもないという言葉は、何かを隠しているような。そうでもないような。
 それ以上の追及はせずにミサトはルノーを走らせた。

10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/27(月) 01:58:55.64 ID:o2+Yg9I5o

シンジ「ミサトさん……あれ」


 シンジは山の向こうから目を離せないでいた。
 怪獣と呼ばれた巨大生物。それと戦う戦闘機たち。爆発。衝撃。
 ちぎっては投げ、ちぎっては投げという言葉の似合いそうな一方的な展開。


ミサト「どうしたのシンジくん」

シンジ「戦闘機が帰っていくんですけど……もしかして負けちゃったんですか?」

ミサト「え?マジで?」

11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/27(月) 02:00:44.63 ID:o2+Yg9I5o

 不安げなシンジの言葉にミサトはルノーを停車させる。
 シンジを押しのけるようにして助手席から身を乗り出すミサト。
 彼女の脳裏には、シンジが描いたものとはまた違った嫌な予感が頭を持ち上げていた。


ミサト「まさか……N2地雷!?伏せて!」


 予感が確信に変わる。ミサトはシンジを庇うように彼を抱えたまま身を低くした。
 天にも届きそうな光の柱と共に発生した今までのものとは桁違いの爆発。
 光に遅れて届いた衝撃にルノーはいとも簡単に浮き上がり、転がる。


???「ゲロローッ!?」


 ミサトとシンジの息がつまったような悲鳴の他にもう一つ響き渡る声。
 カエルのような鳴き声のそれは、奇妙なことに転がるルノーから聞こえてきた。

12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/27(月) 02:02:09.88 ID:o2+Yg9I5o

……。


 砂塵がもうもうと舞い上がる。
 横転したルノーから降りた二人の前に広がるのは、先ほどまでとは一変した景色。


ミサト「あー……ったく!なぁに考えてんのよあの連中は!」

シンジ「それにしても凄いや。あれなら怪獣も…………え、あれ!?」


 呆れたような口調のミサトの隣で、どこか安堵した様子で空を見上げるシンジだったが、
 何かに気付いたのか途端に慌てだした。
 その顔には今までにない焦りの色が見え隠れしている。
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/27(月) 02:03:44.53 ID:o2+Yg9I5o

ミサト「ちょ、ちょっと!どうしたのよシンジくん!」

シンジ「無いんです!リュックが……さっきまで入ってたのに、口が開いてて!中の……あぁ!」


 心ここに非ずといったシンジの様相にミサトはただならぬものを感じ取る。
 まるでミサトなど目に入っていないかのように大事な『何か』を探し出すシンジ。


シンジ「軍曹!どこにいるの軍曹!?返事をしてよ軍曹!!」


 シンジは叫ぶ。何もない空間に向かって。
 連続する緊張状態とN2地雷による衝撃で、パニック状態になっているのだろうか。
 まるで的を得ないシンジの行動を、ミサトはそう結論付けた。
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/27(月) 02:05:19.12 ID:o2+Yg9I5o

ミサト(とにかく落ち着かせないと)

ミサト「ちょっとシンジく―――え?」


 伸ばした手がシンジに届く前にミサトの動きは止まった。
 目線が釘付けになる。横転したルノーのサイドミラーに引っかかるようにして揺れる、緑色の奇妙な物体に。
 それはまるで蛙のような。小さくて細い手足の、使徒を小型化させたような。

15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/27(月) 02:07:05.75 ID:o2+Yg9I5o

シンジ「―――ぐんそう!ぐんそうぐんそうぐんそうぅ!」

ケロロ「げろぉー……死ぬかと思ったであります……」

ミサト「え、え……ええええええっ!?」


 シンジは軍曹と呼ぶ生き物に走り寄って抱きつく。友の存在をその身で感じるために。
 ミサトは動きを止める。予想もしなかった存在の出現と、少年の行動に。
 緑色の生き物、ケロロはシンジの腕の中でゲロリと鳴く。彼に無事を伝えるために。
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/27(月) 02:08:17.90 ID:o2+Yg9I5o

 新世紀エヴァンケロオン

 第一話

 使徒襲来 であります



 それは一人の少年の物語
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/27(月) 02:10:01.58 ID:o2+Yg9I5o
本日分は終了しました。

それではまた。
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/08/27(月) 02:10:41.76 ID:Nq5PH6xAO
期待

19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/08/27(月) 02:11:38.53 ID:nBSNOpJso
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/08/27(月) 02:25:10.76 ID:ZC2Kma/AO


期待
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/08/27(月) 02:46:33.56 ID:O4Jn6dkUo

期待
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2012/08/27(月) 07:57:12.60 ID:tvXVHgaH0

ケロロが覚醒したら使徒は一発かな
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2012/08/27(月) 09:43:02.52 ID:p0kUUWnAO

面白そうだな
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/27(月) 11:16:41.14 ID:t3hqzY9Ro

25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/08/27(月) 12:17:27.89 ID:HXXBLzdO0

期待!!
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/08/27(月) 12:46:10.23 ID:JUB/ns1AO
クーックックックッ!乙
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/27(月) 12:51:56.67 ID:lAbdHIEA0
ありそうでなかったな……乙
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/27(月) 13:35:10.34 ID:vnPD9yTfo
確かにありそうでなかったな…
期待乙
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/08/27(月) 14:11:40.26 ID:OfGI5ZRg0
期待
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2012/08/27(月) 15:43:15.55 ID:yPKs9Hico
ケロロが一緒にいたら、シンジ君のメンタルケアはバッチリじゃなかろうか

期待
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/28(火) 00:28:08.49 ID:v/g0srGjo

ケロロ「やー暑かった……おまけにバコーンでドカーンでドギャギャギャーンで、本当に死ぬかと思ったであります」

シンジ「ごめんね軍曹」

ミサト「……」


 あちこちに応急処置を施してなんとか走るルノー。
 その車内はなんとも奇妙な空気でみたされていた。
 押し黙る運転手。安堵の表情をうかべる少年。そして、饒舌にしゃべり続けるカエル。
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/28(火) 00:30:00.47 ID:v/g0srGjo

ミサト「あのー、シンジくん? ちょっといい?」

シンジ「なんですかミサトさん」

ミサト「その……君の膝に座ってる生き物は……」

ケロロ「おっと、自己紹介がまだでありましたな。
    我が輩、ガマ星雲第58番惑星 宇宙侵攻軍特殊先行工作部隊隊長 ケロロ軍曹であります」


 ピシリと立ち上がったケロロは敬礼を一つ。
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/28(火) 00:32:52.91 ID:v/g0srGjo

ミサト「……葛城ミサトよ。よろしく……」


 奥歯に何かが挟まっているかのような返答。
 その胸中にうずまくものはなにか。シンジとケロロには知るよしもない。


シンジ「ミサトさん。この事は他の人には黙っていてもらえませんか?」

ミサト「えぇっとぉ……」

ケロロ「我が輩からもお願いするであります。ミサト殿、ここはどうかひとつ」


 長い沈黙。車体のこすれる音とタイヤのすり減る音が車内をみたす。
 体の力を抜いてため息を一つ。
 苦笑したミサトのいいわよという短い答えに、顔をほころばせる二人。
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/28(火) 00:35:52.18 ID:v/g0srGjo

ミサト(なぁんだ、こんな表情もするんじゃない)


 異星人と手を取り合ってはしゃぐ少年の横顔は、年相応の無邪気さにみちていた。


ミサト(でも、まさかこの子まで関わっていたなんてね。
いい死に方できないわよ碇司令…………私も人のこと言えないけど)


 そんな彼等を横目に、ハンドルを握る手には自然と力がこめられる。
 これは偶然か、はたまた必然か。
 自らでは把握しきれない大きなうねりのようなものを、ミサトは肌で感じ取った。
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/28(火) 00:39:58.68 ID:v/g0srGjo

……。

…………。

………………。


 苦々しい顔をして席を後にした軍幹部を不敵な笑みを持って見送る。


ゲンドウ「状況は」

冬月「対象は自己修復機能を持っているな。おまけに知恵までついている」

ゲンドウ「単独兵器としては当然だな」


 切り札をもってしても息の根を止めることは出来ず。
 燃えたつ大地の中心で悠然と立つ使徒。
 その姿はまさに超常の者であり、人の手だしうる存在とは思えず。
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/28(火) 00:42:22.08 ID:v/g0srGjo

冬月「どうする碇。再度侵攻は時間の問題だぞ」

ゲンドウ「くだらん。止めるに決まっている」

冬月「出来るのか?」

ゲンドウ「そのためのネルフだ」


 初めての実戦。十五年ぶりの再戦。
 戦いは続く。
 第三使徒サキエル。その姿、未だ健在なり。


………………。

…………。

……。
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/28(火) 00:44:20.67 ID:v/g0srGjo

シンジ「特務機関ネルフ……」

ミサト「そ。連直属の非公開組織よ」

ケロロ「そこにシンジ殿のパパ殿がいるのでありますか?」


 シンジに抱き上げられたケロロは興味しんしんといった様子でミサトを見上げる。


ミサト「ま、まぁね。シンジくんはお父さんの仕事、しってる?」

シンジ「人類を守る大切な仕事だと……」


 瞳を伏せて応える。その目はどこを見つめているのか。
 心が描くのは良き父との思い出ではなく、灰色の過去。
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/28(火) 00:47:39.91 ID:v/g0srGjo

ケロロ「ゲーロゲロ! きっとシンジ殿のパパ殿は立派な方に違いないであります!
だってシンジ殿は我が輩の友達でありますし―――」

シンジ「軍曹」

ケロロ「げ、ゲロ? シンジ殿……」


 胴に回した手に力が込められる。
 普段とは違う声色。怒っているような、疲れているような。
 ケロロは何かを言おうとしたが、見上げた先にある両の瞳に声を出せずにいた。


シンジ「これから父さんのところに行くんですか?」
39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/28(火) 00:50:43.86 ID:v/g0srGjo

 ガゴンと、重い音が。
 ルノーを乗せたリフトがわずかな振動と共に下方へと動き出す。


ミサト「そうね。そうなるわ」

ケロロ「げろぉー……ところでミサト殿、ちょいとおたずねするであります」

ミサト「あらなに、ケロちゃん?」


 その気軽な呼び方はまさにミサトらしいものだった。
 ケロロはせき払いをすると、辺りを見回しながら少し不安そうにこう切り出した。
40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/28(火) 00:53:30.78 ID:v/g0srGjo

ケロロ「その、ネルフというところはペコポン人がたくさんいるのでありますか?」

ミサト「ぺこぽんじん?」

シンジ「地球人のことです。軍曹はそう呼ぶんですよ」


 そんな夏ミカンのような名で呼ばれているのかと脱力するミサト。


ミサト「うぅーん、まぁ少なくはないわね。それがどうしたの?」
41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/08/28(火) 00:56:33.74 ID:v/g0srGjo

ケロロ「ゲローッ! まずいでありますシンジ殿!
このままではペコポン人の捕虜になって実験と称してイタズラされちゃうであります!
きっと[ピーーー]な事や[禁則事項です]な事や果てには[らめぇぇっ!]な事までーーーー!!!
……キィヤァー!!!!」


 歯茎をむき出しにして半狂乱し始めるケロロ。その様、まさに宇宙人。
 ミサトは思わずクラクションを押してしまいそうになる。
42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/28(火) 00:58:57.34 ID:v/g0srGjo

シンジ「軍曹にはアンチバリアがあるじゃないか」

ケロロ「ゲロッ! そ、そうでありました!
さっすがシンジ殿、こぉのアンチバリアがあれば何人ペコポン人がいようと物の数ではないであります! ゲーロゲロ!」

ミサト「ちょっと二人とも、そのアンチバリアって言うのはなんなの?」


 いぶかしむようなミサトの視線。シンジはそれを受け取ると苦笑してみせた。
 別に問題になるようなものじゃありませんよとでも告げるように。
43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/28(火) 01:01:24.65 ID:v/g0srGjo

シンジ「軍曹の秘密道具の一つですよ。
エネルギー不足とかで今はこれしか残ってないんですけどね」

ケロロ「ケロン星のすんばらしぃーテクノロジーで作られた光学装置でありますよ。このようにすれば……ホイ!」

ミサト「え……あ、あれっ! 見えなくなった!?」

ケロロ「ゲェーロゲロ! 我が輩はきちんとここにいるであります!」

 姿なきケロロの声のみがルノーに響き渡る。
 シンジの膝の上で居丈高にいばりだすケロロ。
 だがその頭をミサトの手によって正確にわしづかみにされてしまう。


ミサト「……なるほど。確かに感触があるわ」

ケロロ「げろぉー!? 止めて欲しいでありますミサト殿!」
44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/28(火) 01:02:44.49 ID:v/g0srGjo

 慌ててスイッチを切るケロロ。
 透過されたクリアボディーに鮮やかな緑色が戻る。


ミサト「一つ言っておくわよケロちゃん」

ケロロ「な、なんでありますか」

ミサト「これから行く所でもし余計なことをすれば、その大きな頭に風穴が開くわ。くれぐれも変なことはしないでね」

ケロロ「げろぉっ!?」

シンジ「解剖されちゃうかもしれないから、静かにね」

ケロロ「ひいぃっ!?」
45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/28(火) 01:05:23.86 ID:v/g0srGjo

 二人の脅しに早くも身を縮こまらせて震えだすケロロ。
 これだけ怯えていれば余計な心配もいらないかとミサトは小さく笑う。


ミサト(いざとなればアイツがなんとかするでしょ……
多分この子が例のアレなんだろうし)

ケロロ「帰ろうシンジ殿! ここはマズいであります! わ、我が輩の命がぁ!」

シンジ「大丈夫だって軍曹……たぶん」

ケロロ「多分じゃダミデショーよぉー!」


 なんとも愉快な宇宙人だ。もし彼がいなかったら車内はもっと息苦しくなっていただろう。
 ミサトは予想もしていなかった同行者の存在にひそかに感謝した。
 父親のことでふさぎ込む子供など見たくない。それは彼女自身のわがままでもあった。
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/28(火) 01:08:42.72 ID:v/g0srGjo

シンジ「あっ!」

ケロロ「ゲロッ!?」


 急に視界が開けた。集光ビルによる陽光で黄金色にかがやく地下世界。ジオフロント。
 はしゃいでいた二人はそろって窓にはりつき、外を見渡す。
 歓声を上げる彼等を横目に、ミサトはよそいきの声でこうつぶやいた。


ミサト「ようこそネルフ本部へ。ここが私たちの秘密基地よ」
47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/28(火) 01:11:07.69 ID:v/g0srGjo

……。

…………。

………………。


 さてどうしたものか。
 冬月は背筋を伸ばしたまま沈黙する司令官の顔を見つめた。
 サングラスの奥にある視線はまるで読めない。


冬月「さすが使徒といったところか」


 オペレーターから上がる情報を整理しつつ、大型モニタに視線を移す。
 軽微でありながらもN2地雷によって損傷を受けた使徒。
 だがその傷も今では徐々に回復のきざしを見せていた。


ゲンドウ「初号機を使う……赤木博士と彼に伝えてくれ」
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/28(火) 01:13:51.87 ID:v/g0srGjo

冬月「初号機か。しかしパイロットはどうする」


 N2地雷のように、ネルフにも独自の切り札というものは存在する。
 ―――初号機。
 その短い言葉が何を指すのかなど、ここでは決まりきっていた。


ゲンドウ「問題ない。予備が届く」


 サングラスの奥にある視線は、ギラギラと輝いているようだった。


………………。

…………。

……。
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/28(火) 01:18:00.26 ID:v/g0srGjo

 システムは利用するためにある。
 案内を買って出たミサトの自信ありげな言葉にシンジはため息をついた。
 ジオフロントを抜け、ネルフ本部へと入り、十数分。


ケロロ「ここさっきも通ったでありますよ」

シンジ「しっ。ミサトさんが案内してくれてるんだから」


 シンジの背負うリュックから顔だけ出したケロロの言葉に顔をしかめる。
 何か言い返したかったが、ミサトは黙っていることにした。
 彼女は今自分がどこにいるのかもよく分かっていなかったのだ。
50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/28(火) 01:20:32.36 ID:v/g0srGjo

ミサト「ま、まぁそろそろリツコが迎えに来てくれるでしょ!」

シンジ「それにしても広いですね……ネルフ本部って」

ケロロ「ひとっこ一人見かけないであります。これじゃあアンチバリアを使った意味がないでありますな」


 見たこともない長いエスカレーター。何に使うのか分からない巨大装置。
 むき出しのコード群。整然と並ぶ扉の数々。人気のない通路。
 好奇心を刺激される光景に二人はいつまでもキョロキョロと首を右に左に動かしている。


ミサト「そうよぉ? なんてったって世界再建の要、人類の砦ですもの。だからちょっとくらい―――」

リツコ「迷っても仕方ない、なんて言うつもりなのかしら。ねぇ葛城一尉?」

ミサト「うひぃ! あ、あらリツコ」
51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/28(火) 01:23:29.35 ID:v/g0srGjo

 金髪の意志の強そうな女、赤木リツコの言葉にミサトは妙な声を上げてしまう。
 リツコの視線が動く。その先には、学生服の少年が一人。

リツコ「この子が?」

ミサト「そうよん。サードチルドレン碇シンジくん、司令のかわいい一人息子」

リツコ「はじめまして。赤木リツコよ」

シンジ「あっ、はい」


 差し出された手を握り返すと、リツコは素早くきびすを返して歩き出す。
 時間が惜しい。そう語る彼女の背中を二人は追いかけた。
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/28(火) 01:26:04.07 ID:v/g0srGjo

ケロロ「……げろぉ。なんだかいやぁーな予感がするであります……」


 それは宇宙人の本能か。ケロン軍人の危機察知能力か。
 徐々にはりつめる空気。
 一度は消えたはずの戦場の匂いが、女からは色濃く漂っていた。
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/28(火) 01:28:17.75 ID:v/g0srGjo

 物静かだったネルフ本部にけたたましい警報が鳴りひびく。
 第一種戦闘配置。
 戦いはまだ終わっていない。


ミサト「初号機のほうはどうなの?」

リツコ「B型装備のまま現在冷却中。起動確率は0.000000001%」

ミサト「オーナインシステムってやつぅ?それってつまりは動かないってことなんじゃないの?」

リツコ「ゼロではなくってよ。やってみないと分からないわ」

ミサト「どの道、動きませんでしたじゃ済まされないわね」
54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/28(火) 01:30:29.99 ID:v/g0srGjo

 長いリフトに乗りこむ。
 薄暗い空間をひたすらに上昇する感覚。横には薄紅色の液体層。
 圧迫感を伴った不気味な空間をひたすらに進む。


シンジ「……軍曹」

ケロロ「なんでありますか?」

シンジ「一人にしないでね」

ケロロ「勿論でありますよ、シンジ殿……っていうか、帰り道わからないし」
55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/28(火) 01:34:54.50 ID:v/g0srGjo

 小声で、前を向いたまま。
 シンジを元気づけるように、ケロロはリュックの中から彼の背中をドンと叩く。
 心地の良い衝撃に、わずかに震えていたシンジの体は落ち着きを取り戻す。


ケロロ「まぁいざとなったら我が輩がネルフ本部を征服してやるであります。げぇーろげろ」

シンジ「軍曹に出来るかなぁ」

ケロロ「しっつれーな! ケロン軍にケロロありと言われたほどでありますよ!?
ペコポン人の施設の一つや二つ、かるぅーく……おっと、着いたようでありますよシンジ殿」


 リツコに聞こえぬように小声で話す二人は、やがてひろい空間に出る。
 意味ありげな二人の態度にシンジは不安げにあたりへ目配せをする。
 背後の扉が閉まり、視界が暗闇に閉ざされる。
56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/28(火) 01:36:24.13 ID:uiQe0V8m0
くっ…夜中にこんなSSが書かれてるなんて!
明日も仕事なのに眠れないじゃないか!
57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/28(火) 01:37:52.48 ID:v/g0srGjo

シンジ「……ウワッ!?」

リツコ「フフッ」


 照明。まばゆいばかりの光の下、それが顔を見せた。
 紫の甲冑に身を包む、巨大なドクロの怪物。
 巨大ロボット。動転した心が命じるままにシンジはそう口にする。


リツコ「人造人間エヴァンゲリオン。人の作り出した究極の凡用人型決戦兵器。
言うなれば人類の切り札といったところかしら。これはその初号機」
58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/28(火) 01:39:31.04 ID:v/g0srGjo

 嫌な予感がシンジの体を駆け巡る。
 なぜこのようなものを自分に見せたのか。ただの中学生である自分に。
 父は、この人たちは自分に何を望んでいるのだろうか。


シンジ「……これも父の仕事ですか?」

ゲンドウ「そうだ。久しぶりだな、シンジ」
59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/28(火) 01:42:14.37 ID:v/g0srGjo

 忘れようとも忘れられない声にシンジは反射的に顔を上げる。
 視線のはるか先。窓の向こうに写る小さな人影。
 分かるのは、家族ゆえか。未だ残るかぼそい絆がそうさせたのか。


シンジ「……父さん」

ゲンドウ「フッ……出撃」


 交わした言葉はわずか。下された命は一つ。
 父は息子に未来を託す。
 世界は回り始める。少年を中心に、およそ逃れられぬ速度をもって。
60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/28(火) 01:44:54.81 ID:v/g0srGjo

 新世紀エヴァンケロオン

 第二話

 別れ であります



 それは捻じれた親子の物語
61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/08/28(火) 01:45:29.52 ID:v/g0srGjo
本日分は終了しました。

それではまた。
62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/28(火) 01:46:07.03 ID:Ph+aZJPZo
63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/28(火) 01:47:53.14 ID:uiQe0V8m0

これで寝れる…
64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/28(火) 01:48:06.56 ID:t8DkpwRUo
乙!軍曹がいるだけでこうも違うのか
65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/08/28(火) 01:53:20.32 ID:/AKFmuOAO
おっつー
66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/28(火) 02:07:44.04 ID:yjgqkI0jo
アスカに救いを
67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/28(火) 02:57:00.03 ID:nZL/FViSO
乙です。カヲル君のパートナーはクルルかな?
68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/28(火) 07:38:17.22 ID:tgRr+GaGo

どうしよう。普通におもしろいぞ
69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/28(火) 12:10:32.61 ID:v/g0srGjo
>>66
がんばりますね


>>67
面白みに欠けるので誰とは言いませんが、自然とくっつきやすいキャラどうしで組ませていく予定です
70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/28(火) 12:44:14.29 ID:RFz78PzRo
予想はしたくないけど、想像はつくなwwこれ以上にない組み合わせのww
71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/28(火) 13:59:24.62 ID:I+s2rfaIO
ハブられドロロ
72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/28(火) 22:14:27.94 ID:C8WiSwcD0
ここまで絡ませやすい鬱フラグブレイカーがいたとは知らなんだ
73 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2012/08/28(火) 22:19:29.52 ID:M1LPJ8Ifo
>>71
某眼鏡ッ子にくっついていて、
「ごめん、これ旧版だから出られない」
「え、新版のみでござるか!?」
と愕然とするところまで幻視した
74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/29(水) 01:10:53.44 ID:Hfoml6Lto
ミサト「出撃!? 零号機は凍結中のはずでしょ! 初号機を使うにしてもパイロットがいないじゃない!」

リツコ「さっき届いたわ」

ミサト「……マジなの?」

リツコ「他に道はないでしょう」


 ポンと肩に手が置かれる。


リツコ「シンジくん……あなたがこれに乗るの」

シンジ「へ?」
75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/29(水) 01:11:59.68 ID:Hfoml6Lto

 間の抜けた声が口からもれる。
 その顔は、自分が何を言われたのかもよく分かっていない者のそれだった。
 シンジが思考を働かせて返答をする前にミサトの高い声がゲージに響き渡る。


ミサト「無茶よ! あの綾波レイですらシンクロするのに何か月もかかったのよ!
来たばかりのこの子にエヴァが動かせるわけないじゃない!」

リツコ「座っていればいいわ。それ以上は望みません」

ミサト「でも!」
76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/29(水) 01:13:13.25 ID:Hfoml6Lto

 口論を続けるミサトとリツコ。
 そんな二人を背にシンジは再度、ゲンドウの姿を見上げる。


シンジ「父さん……」

ゲンドウ「なんだ」


 冷たい声。スピーカー越しだからなのだろうか。無機質な残響が辺りに漂う。


シンジ「どうして僕を呼んだの?」

ゲンドウ「必要になったからだ」
77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/29(水) 01:14:57.41 ID:Hfoml6Lto

シンジ「……父さんは僕に、これに乗って戦えっていうの?」

ゲンドウ「そうだ。使徒撃退はネルフの最重要課題だ」

シンジ「―――! 嫌だよそんなの!父さんは……父さんは僕がいらないんじゃなかったの!?
今さら呼びつけて、こんなのに乗れなんて!」

ゲンドウ「あの時はな。今は必要になったから呼んだ……それだけだ」

シンジ「父さんはいつもそうだ! 僕の気持ちなんて考えないで!」

ゲンドウ「早くしろ! でなければ帰れ!」
78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/29(水) 01:15:55.14 ID:Hfoml6Lto

 表情ひとつ変えない父の、まるで物でも見るかのような冷たい視線を浴びるシンジ。
 三年前と同じ。必死の訴えなど届くはずもなく。
 もしかして、などという淡い希望はとうに捨て去られ。もうそこには何も―――
79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/29(水) 01:16:51.59 ID:Hfoml6Lto

ケロロ「―――ちょっとぉ!! さっきから黙って聞いてみればアンタァ! いったい何様のつもりでありますか!」


 どうやら少年のリュックには、勇気ある小さな友人がまだ残っていたようだ。
 なんとも場違いなカエルの鳴き声が一つ。義憤に駆られたケロン人が一人。
 ケロロ、その人である。
80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/29(水) 01:17:52.39 ID:Hfoml6Lto

ゲンドウ「なっ……」

ケロロ「アンタよアンタ! ちょっと聞いてんの!? そこのサングラスの髭男!
アンタねぇ、シンジ殿のパパ殿でしょー!? 父親がそんな態度でどうすんのー!」

シンジ「ぐ、軍曹! アンチバリアが!」

ケロロ「離すでありますシンジ殿! あぁいう輩には一度キッチリと……ゲロ?」
81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/29(水) 01:18:28.56 ID:OmUQxYqAo
ここで軍曹が吼えるか
男気全開だな
82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/29(水) 01:19:04.98 ID:Hfoml6Lto

 動きを止めるケロロ。
 その先には、全方位から突き刺さる、視線。視線。視線。


ケロロ「げ、げろげろりん……」

ミサト「あちゃぁ……」

リツコ「……これはどういうことかしら」


 固まるシンジとケロロに、冷たい声色で話かけてくる女が一人。
 振り返った先に立つリツコの視線に、ケロロは思わず失禁しそうになった。
 解剖。実験。ホルマリン。不穏な単語がグルグルと彼の脳内を駆け巡る。
83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/29(水) 01:20:34.61 ID:8pixU/Td0
良く考えたら軍曹は>>41みたいは事されてもおかしくないんだよな
研究者って研究の為なら容赦無く動物[ピーーー]しね
84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/29(水) 01:21:57.04 ID:Hfoml6Lto

シンジ「ち、違うんです! これはその……」

リツコ「葛城一尉」

ミサト「いや、なんていうかこれは……ねぇ?」


 言いよどむ二人。緊迫する事態のさなかに出てきた予想外の因子。
 おもてには出さないものの、秘かにためていた焦りと苛立ちからリツコが声を上げようとした時だった。


???『クーックックックッ……まぁいいじゃねぇか細かいことは。やっこさん、そろそろ来る頃だぜぇ』
85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/29(水) 01:24:16.34 ID:8pixU/Td0
子安一人二役とは、忙しいな
86 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/29(水) 01:24:50.67 ID:Hfoml6Lto

 ケージ内に響く、耳にさわる甲高い笑い声。
 皆がそれに気を取られ、声の発生源である各所のスピーカーに顔を向ける。
 時を同じくして数人の医療関係者によって運ばれてくる簡易ベッド。


ミサト「あ、綾波レイ!」

???『クーックックックッ……予備が使えないみたいなんで用意しておいたぜ?
いいんだろサングラス、おっと失礼、碇司令?』

ゲンドウ「……問題ない」


 嫌味たらしい放送に、抑揚のない声で答えるゲンドウ。
 ベッドから起き上がろうとする包帯を巻いた少女、綾波レイに目線を移す。
 混じり合う視線。


ゲンドウ「レイ、予備が使えなくなった。もう一度だ」

レイ「はい……」
87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/29(水) 01:26:58.51 ID:Hfoml6Lto

 包帯で装飾された細い体。苦しそうな吐息。動くたびに痛みで歪む顔。
 それでもレイは、ゲンドウの言葉を疑いも持たずに承諾する。
 まるでそれが当然だとでも言うように。


???『……ッ!? あの野郎、やりやがった!』


 声をかき消すような轟音と共にネルフ本部に大きな揺れが発生した。
 サキエルの攻撃だ。地上からジオフロントに向けて光線をぶつけてきたのだ。
 地上から崩れてくる兵装ビルの影響で立っていられないほどの振動に襲われる。


ミサト「危ない! シンジくん! ケロちゃん!」

シンジ「―――うわぁっ!」

ケロロ「げ、ゲロまずー!」
88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/29(水) 01:30:07.27 ID:Hfoml6Lto

 蛍光灯と鉄骨が不意のゆれによりケージ内に落下してきた。
 重力に引かれて落ちていく先には、一人の少年とケロン人が。
 わずかな間で逃げることも叶わずシンジとケロロは反射的に両腕を上方にかまえる。


シンジ「……え?」

ケロロ「げろぉ?」


 断続的に続く衝撃音。だがシンジたちの体には痛みなど欠片も走らない。
 おそるおそる目を開けるシンジとケロロ。
 それは夢か幻か。二人の目の前には、液体層から飛び出た初号機の片腕が。
89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/29(水) 01:30:53.76 ID:Hfoml6Lto

リツコ「まさか初号機が動くなんて! まさか! あり得ないわ!」

ミサト「……シンクロ? いや、あの子たちを守った? ……これならいけるかもしれない!」


 イレギュラーに次ぐイレギュラー。
 だがもとより柔軟な思考を得意とするミサトは、そんなものとうに思考材料の一つとして割り切っていた。
 使徒撃退という目標に向けて彼女の思考が加速していく。
90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/29(水) 01:33:28.23 ID:Hfoml6Lto

レイ「ハァッ……ハァウッ!」

ケロロ「大丈夫でありますか!……ヒィィッ!! ち、血ィ!?」

シンジ「ね、ねぇ君! 大丈夫!?」


 皆が呆然とする中、最初に動いたのはシンジとケロロだった。
 二人をかばうように上げられた初号機の腕の下から綾波の元へと走る。
 千切れたチューブ、崩れたベッド、その横で苦しそうに顔を歪める綾波レイ。


ゲンドウ「シンジ!時間がない!初号機に乗れ!」


 そんな彼に向けてなお声を上げるゲンドウ。その目はどこまでも昏く。
91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/29(水) 01:34:42.54 ID:8pixU/Td0
ミサトさんて時々無能扱いされるけど、イレギュラーに強いんだよな
92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/29(水) 01:35:14.70 ID:Hfoml6Lto

シンジ「クッ……」


 周囲が騒然とし始める。地上に空いた穴から戦場の空気が流れ出てきたのだろうか。
 地下世界ジオフロントにもチリチリとした緊迫感が走る。
 シンジは震える手で、浅く呼吸する綾波の体を抱き留めた。


シンジ(ぼ、僕が乗らないと……この子が……でもっ!)


 葛藤するシンジ。正義感と、ほんの少しの勇気がこの恐怖に抗おうともがく。
 そんな彼の背中に緑色の手がポンと一度だけ触れた。
 まるで、任せろと言わんばかりに。
93 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/29(水) 01:36:46.99 ID:Hfoml6Lto





ケロロ「聞くでありますネルフの諸君! このロボットには我が輩が乗るであります!」




94 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/29(水) 01:37:12.12 ID:8pixU/Td0
!?
95 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/29(水) 01:38:05.50 ID:Hfoml6Lto

……。

…………。

………………。


 その発言は場を鎮めるのに十分すぎるほどの力を持っていた。


ミサト「……え?」

リツコ「……ありえないわ」

ゲンドウ「…………」


 稀代のエリートたちは揃って自らの目と耳を疑い、そして首を横に振る。
 ありえない。何を寝ぼけているのだこの宇宙人は。
 そんな苛立ちにも似た空気が職員の間に流れようとした時、静かだったスピーカーが突然笑い出した。
96 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/29(水) 01:41:06.06 ID:Hfoml6Lto

???『クーックックックッ……いいねぇ面白い! 乗りな! ただし、あくまでもそこのガキと二人でだ』

リツコ「なにを言ってるの! 無理よ!
エヴァには搭乗者が二人になるような設計がされていないのはあなたも知っているはずでしょう!」

???『おっと赤木博士、エヴァと使徒に関しては俺もアンタと同等の決定権を有するはずだぜ?』

リツコ「今はそんな事を言っている場合じゃないわ!」

???『心配するなよ。俺の考えが正しいなら上手くいく……クーックックックッ』


 顔も見えぬ相手と激しく口論をするリツコ。
 それもそのはずだ。あり得ない暴挙。この状況におけるエヴァへの複数搭乗。
 あまりにも突拍子な選択にさすがのミサトも何も言えなくなってしまう。
97 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/29(水) 01:42:00.26 ID:Hfoml6Lto

リツコ「司令!」

ゲンドウ「……それで使徒が本当に撃退できるのだな」

???『確証はないが、アンタの計画の一助にはなるだろうよ……クーックックックッ』

ゲンドウ「ならば、問題ない」

リツコ「そんな! 司令!」


 自分ではらちが明かないと助けを求めるようにゲンドウの名を呼ぶリツコ。
 だがゲンドウは意外にも、この場には居ない特徴的な笑い声の主に向けて短く許可の言葉を口にする。
98 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/29(水) 01:42:47.26 ID:8pixU/Td0
テレポーターやタイムマシンを作れるこいつならなんでもありな気がする
99 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/29(水) 01:43:16.43 ID:Hfoml6Lto

ケロロ「我が輩だけで十分であります! 早くシンジ殿とこの少女を避難させるであります!」

???『そう言うなよ。アンタが乗るならそこのボウズもだ……これは譲れねぇ』

ミサト「ちょっとアンタ! こんな時になに言ってんのよ! トチ狂ったんじゃないの!?」

???『いいんだよこれで。さぁボウズ、決めな。コイツに乗るか。それともここで臆病者らしく逃げるか』

シンジ「軍曹……」
100 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/29(水) 01:46:07.80 ID:Hfoml6Lto

 情けなかった。今この場にきてなお、何も決められない自分が。
 胸に秘めた正義感と、少女に向けた勇気があまりにも弱々しいというその事実が。
 悔しさで涙がにじむほどに。シンジにはそれが情けなかった。


ケロロ「シンジ殿」


 伸ばされた手は暖かく、少しだけ湿っていて。
 いかにもケロン人らしい緑色の手は、少年の胸をトンと叩く。
 そのリズムは、綺麗に鼓動と調和して。


ケロロ「このケロロ軍曹にドォーンと任せるでありますよ。シンジ殿は安全なところで待っていて欲しいであります」
101 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/29(水) 01:47:50.61 ID:Hfoml6Lto

シンジ「……」


 ゲェーロゲロ。ケロロの笑いは高らかに響き。
 シンジはもう一度、自らの胸をさっきと同じリズムで叩く。


シンジ「……逃げちゃダメだ。ここで逃げちゃダメだ……軍曹だけ置いて、僕だけでなんて……絶対に逃げちゃダメなんだ」

ケロロ「ゲロ?」

シンジ「……乗るよ。僕も乗る。軍曹と一緒に、コイツに乗る! それでいいだろ、父さん!」
102 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/29(水) 01:48:34.82 ID:Hfoml6Lto

ケロロ「ちょ、ちょっとぉ!? シンジ殿!?」

ゲンドウ「フッ……問題ない」

 息子の眼差しにゲンドウは口元を歪ませる。
 それは彼なりの微笑みなのか。それともまた別のなにかか。
 いずれにせよ舞台は整った。エヴァンゲリオン初号機。発進準備開始。
103 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/29(水) 01:49:56.06 ID:Hfoml6Lto

………………。

…………。

……。


 続けざまに流れてくる初号機の準備情報。
 すでに冷却液は抜け、腕部の再固定も終了している。
 むき出しになった脊髄に向けて白い円筒形の装置が接続される。


マヤ「脊髄連動システム異常なし。エントリープラグ挿入完了」

ミサト「……上手くいくの、これ」

リツコ「知らないわよ……全く何を考えているのかしらアイツは……
それよりもミサト、シンジくんが連れていたアレは一体どういう事なの?」

ミサト「さぁー、私よくわかんなーい」

リツコ「ちゃんと説明してもらいますからね」

ミサト「この戦いに生き残れたらね」


 ミサトのあっさりとした物言いに、リツコはそれ以上は何も言おうとはしなかった。
 今はもう、そのような段階ではないのだ。
104 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/29(水) 01:50:58.19 ID:Hfoml6Lto

ケロロ「なんとも奇妙な筒でありますなぁ」

シンジ「何も見えないね」

ケロロ「それよりシンジ殿、ホントーによかったんでありますか?」

シンジ「いいよ。軍曹だけで戦うなんて不安でしょうがないしね」

ケロロ「みくびらないで欲しいであります。こう見えても我が輩は……」


 二人はエントリープラグの内壁を眺めながら気ままに話しあっている。
 これから使徒と戦うのだという緊張感はあまり感じられなかった。
 無知ゆえか。はたまた信頼ゆえか。
105 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/29(水) 01:52:22.53 ID:Hfoml6Lto

マヤ『エントリープラグ、注水開始』

ケロロ「げろぉ!?」

シンジ「な、なんですかこれ!」


 いきなりあふれ出てきたオレンジ色の液体。
 シンジは慌ててミサトたちに向けて問いかけた。
 返ってきた答えに納得がいかないまま頭の先まで液体に遣ってしまう。


リツコ「LCLが肺に満ちれば自然と酸素を交換してくれるから大丈夫よ」

ミサト「男の子でしょ、我慢なさい」


 好き勝手なことばかり言ってとシンジは必死に息を止めながら二人を睨む。
 だがそれも長くは続かなかった。
106 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/29(水) 01:53:05.99 ID:Hfoml6Lto

ケロロ「シンジどの〜、みぃ〜てぇ〜」

シンジ「ぶふぉっ!?」


 LCLに浮かぶケロロの芸人根性丸出しの変顔に思わず吹き出してしまったのだ。
 おかげで肺にまでたっぷりと満ちるLCL。
 血なまぐさい風味にシンジは顔をしかめる間もなくお腹を抱えて笑い続けてしまう。


シンジ「ぐ、ぐんそっ!それ、ダメ!おなか痛い!」

ケロロ「げろろぉーん」

ミサト「くぉらぁ! 真面目にやんなさい真面目に!」


 マイクに飛ばされた怒鳴り声にも応えられないシンジ。
 本当に大丈夫だろうかという不安がリツコを始めとした職員の間に広がっていく。
107 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/29(水) 01:54:41.08 ID:Hfoml6Lto

リツコ「……ま、まぁいいわ。第二次コンタクト開始……いえ、少しまってちょうだい」


 リツコは近くのコンソールのボタンを押してどこかに連絡を取り始める。


???『おやぁ?どうしたい赤木博士』

リツコ「これから第二次コンタクトに入るわ。本当にシンジくん一人を基準に接続を開始していいのね?
あのカエルさんにはヘッドセットも付けてもらってないけれど」

???『あぁ問題ない。俺の考えが正しいなら隊長はそんなもん必要としないからな』

リツコ「なにかあったら責任持ちなさいよ……マヤ、初めて」

マヤ「了解、第二次コンタクト開始。A10神経接続、異常なし」
108 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/29(水) 01:56:50.57 ID:Hfoml6Lto

シンジ「わっ」

ケロロ「おぉ!すっげ!」


 真っ白だったプラグ内壁に外の景色が映し出される。
 まるで巨人の肩に乗って外の世界を眺めているようだ。


メヤ「思考形態は日本語を基礎原則としてフィックス。双方向回線、開きます」

リツコ「シンクロ率は……四%?ちょっと、これじゃあ起動も出来ないじゃないの」


 慌てて先ほどの声の主に抗議するリツコ。
 だが相手はさほどうろたえるでもなく、シンジたちへの回線を開く。
109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/29(水) 01:57:56.04 ID:Hfoml6Lto

???『よぉ二人とも。調子はどんな感じだ?』

シンジ「よく分からないよ……ただ、体が重い感じがする、かな?」

ケロロ「なぁーんも感じんであります。これで本当に動かせるんでありますかぁ?」

???『このままじゃ無理だ。そこのアンタ、ちょっと共鳴してみな』

ケロロ「共鳴でありますか……仕方ないでありますな。今は非常事態、
あいにくと一人きりでありますが共鳴してみるであります」


 ゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロ……
 なんとも奇妙な声がミサトたちの耳に入る。
 騒音でもないのだが、人間にはなじみのない音だ。
110 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/29(水) 01:58:58.46 ID:Hfoml6Lto

マヤ「……ッ!? せ、センパイ!」

リツコ「どうしたのマヤ……こ、これは!」

ミサト「なによ一体……って、シンクロ率六十%ぉ!?」


 突然の出来事に息を呑む職員たち。あり得ない。
 カエル型の生き物が鳴いただけでオーバーテクノロジーの塊である初号機とのシンクロがこうも簡単に成功するとは。
 しかしながら目の前に表示された数値に嘘いつわりもなく。
111 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/29(水) 01:59:36.15 ID:8ahnXvnn0
まさかユイは…
112 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/29(水) 02:00:02.64 ID:Hfoml6Lto

???『クーックックックッ、やっぱりなぁ……オイ、もういいぜ』

ケロロ「む、もういいでありますか。久しぶりでありましたがなんとか出来たであります」

シンジ「軍曹……なに今の」

ケロロ「ゲロ?そういえばシンジ殿には見せたことが無かったでありますな。
今のは共鳴、ケロン人とのコミュニケーションに使う、人間でいう合唱のようなものであります」

???『ご苦労さん。これで準備完了だ』


 これでもかと続く、ネルフの築き上げてきた理論をブチ壊す結果。
 リツコは大きくため息をつくと悪い考えを払うかのように頭を振ったのだった。


リツコ「あぁもういいわ!今は使徒撃退が最優先よ。
これが終わったらみっちりと調べつくしてあげるんだから。続いて発進準備に取り掛かって」

マヤ「了解。第一ロックボルト解除」

ミサト「……ケロちゃんもかわいそうに」
113 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/08/29(水) 02:00:28.42 ID:NRtcRFPAO
すげwwww
114 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/29(水) 02:01:47.31 ID:Hfoml6Lto

 初号機を締め付けていた巨大な拘束具の一つ一つが外されていく。
 さっきまでシンジたちが立っていたブリッジも移動し、初号機は巨大なリフトの上に自立した状態になった。
 悠然と立つその姿はどこか使徒にも似ており、見るものに畏怖を覚えさせる。


リツコ「ミサト……」

ミサト「いいんですね?」

ゲンドウ「無論だ。使徒を倒す以外に我々に未来はない」
115 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/29(水) 02:02:23.53 ID:Hfoml6Lto

 その為に、息子を戦場に送り出す。
 たとえ年端もいかぬ者であってもだ。
 そんな考えをねじ伏せて、ミサトは声をあげる。


ミサト「発進!」
116 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/29(水) 02:05:00.56 ID:Hfoml6Lto

 初号機が移動させられる。
 上に設置された幾枚ものロックが解放され、地上への一本道が形成された。
 カタパルトに乗った状態で高速度をもって地上へと送られる初号機。


シンジ「ぐううっ!」

ケロロ「げろろろおっ!?」


 押しつぶされそうな力に二人は顔を歪める。
117 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/29(水) 02:05:44.13 ID:Hfoml6Lto

ミサト「シンジくん、ケロちゃん……死なないでよ」


 少年を死地に追いやりながら、皆がその生を願う。
 あるものは自らの復讐のために。あるものは人類の生存のために。
 超常の者の待ち受ける地上へ、若き戦士たちは進む。
118 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/29(水) 02:06:32.53 ID:Hfoml6Lto

 新世紀エヴァンケロオン

 第三話

 ダンス・ウィズ・フロッグ であります



 それは心優しき男たちの物語
119 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/29(水) 02:07:27.11 ID:8ahnXvnn0
くっ…明日も仕事あるのに…!
展開が気になって寝れん!
120 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/29(水) 02:09:22.51 ID:Hfoml6Lto
本日分は終了しました。


今回の話でエヴァのアニメ一話が終わったところになります。

ここまでは雰囲気を掴んでもらおうと一日一話のペースで投下してきましたが、次回からは一週間に一話のペースで話を進めていこうと予定しています。

それではまた。
121 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/29(水) 02:09:49.42 ID:OmUQxYqAo
122 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/29(水) 02:12:39.55 ID:8ahnXvnn0
乙!
寝る!明日も仕事!
123 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/08/29(水) 02:17:47.68 ID:NRtcRFPAO
乙!!

明日もまた予備校っ!!
124 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/29(水) 02:46:10.29 ID:DTFTNrWxo
乙!
明日も研究
125 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/29(水) 12:20:40.48 ID:UMCHQ68oo
乙!
明日もニートだ!
126 : ◆T6URQJJiS6 [sage]:2012/08/29(水) 15:22:04.87 ID:Hfoml6Lto
酉つけておきます
127 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2012/08/29(水) 21:52:50.29 ID:Bt14v27AO

残り3名がどこにいるのかいろいろと妄想が膨らむな
128 : ◆T6URQJJiS6 [sage]:2012/09/01(土) 08:33:18.37 ID:d2Ra1rE5o
今日の夜に投下する予定です
129 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/01(土) 13:36:57.63 ID:ATvqLD84o
期待してる
130 : ◆T6URQJJiS6 [sage]:2012/09/01(土) 21:12:27.13 ID:d2Ra1rE5o
そろそろ投下します
131 : ◆T6URQJJiS6 [sage saga]:2012/09/01(土) 21:13:10.15 ID:d2Ra1rE5o




 白い天井。
 遠くから聞こえる蝉の鳴き声。
 薬臭い部屋。


シンジ「……」



132 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/01(土) 21:14:08.66 ID:d2Ra1rE5o


 起き上がる少年。
 辺りを見回す。一人きりの病室。窓の外には晴れた青空。
 思考する。ここがどこなのか。今がいつなのか。どうしてここにいるのか。


シンジ「……ぐんそう?」


133 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/01(土) 21:16:49.51 ID:d2Ra1rE5o


 導き出された優先事項に従って、少年は声を出す。
 確かに共にいたはずの友人の名を呼ぶ。
 答えは返ってこない。聞こえるは蝉の音ばかり。


シンジ「……」


 少年は力を抜いて枕へと頭を沈める。
 動く視界。見慣れぬ光景。
 シンジの口が僅かに動く。なんの意味もない呟きが、静かな病室を漂った。

134 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/01(土) 21:19:27.05 ID:d2Ra1rE5o

……。

…………。

………………。



 底冷えするような暗闇の中、六人の男たちが互いに顔を突き合わせて座っている。
 狡猾で、計算高い顔つきの男達。その瞳は自信に満ち溢れていながらもどこか卑屈だ。
135 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/01(土) 21:22:13.27 ID:d2Ra1rE5o

 委員「あまりに唐突な使徒の再来……災いは何の前触れもなく訪れるものとは本当だな」

 委員「先行投資が無駄にならなかったという点においては幸いともいえる」

 委員「使徒の対処、情報操作……ネルフにはやるべき事が山ほどある」

 ゲンドウ「全て承知しています。ご安心を」


 サングラスの向こうに見える瞳が連なる顔をとらえる。
 涼しい顔をしてそれを受け止める男たち。
 彼等もまたゲンドウと同じく、他者を使い上に立つ力を備えていた。
136 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/01(土) 21:24:01.38 ID:d2Ra1rE5o

 委員「碇くん、零号機に引き続き初号機まで壊したとなれば……これは国が一つ傾くよ?」

 委員「もう少し上手く使ってもらいたいものだな。親子そろっていくら使ったら気が済むんだ?」


 多少の嫌味がこもった、しかしそれ以上に余裕が見て取れる男たちの言葉。
 絶対的に持つ者だけが許された傲慢な態度。
 ゲンドウは一つの頷きをもってこれに返答する。恭順の証だ。
137 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/01(土) 21:29:20.29 ID:d2Ra1rE5o

 委員「それに君の仕事はこれだけではあるまい」

 委員「人類補完計画―――これこそが君の急務」

 委員「我々の唯一の希望なのだよ。この絶望的な状況下における、ね」


 今まで黙っていた、この面子の長とでも呼ぶべき男が重い口を開く。


 キール「いずれにせよスケジュールの遅延は認められん。予算については一考する……ご苦労だったな碇」
138 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/01(土) 21:32:39.17 ID:d2Ra1rE5o

 男の言葉を持ってこの話し合いは終わりを迎える。
 誰に断るでもなくそれぞれにその場から消え去る男たち。
 精密な立体映像が順繰りに消え、暗闇に残されるゲンドウ。


???「クーックックックッ……面白みに欠けるやつらだねぇ」

ゲンドウ「仕方あるまい。我々人間には時間がないのだ」
139 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/01(土) 21:38:15.53 ID:d2Ra1rE5o

 どこから現れたのか、もう一つの声が。
 ゲンドウの後ろに立つおよそ人間とは思えない黄色い体の生き物。
 ケロロと似通った体の持ち主、クルルはその名の通りクツクツと陰気に笑う。


クルル「人類補完計画……たしかにゼーレの連中をだますにはもってこいだ」

ゲンドウ「フッ……問題ない」


 その不敵な笑みは、誰に向けられたものなのか。



………………。

…………。

……。
140 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/01(土) 21:43:18.58 ID:d2Ra1rE5o

 ビルの合間に出来た同心円状に抉れた地面。
 何重もの警備のその向こうにある、極秘裏に行われた戦いの傷跡。
 その一角に建てられた急ごしらえのテントの下に座る女が一人。


ミサト「シナリオB−22か。真相はまた闇の中ね」


 うだるような暑さ。
 団扇一枚でそれをしのぎながらミサトはテレビのチャンネルを変える。
 どの番組もネルフと政府の作った偽情報を大真面目に流していた。


リツコ「広報部はようやく仕事が出来たって喜んでたわよ」

ミサト「お気楽なもんね、うちも」
141 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/01(土) 21:47:32.49 ID:d2Ra1rE5o

 テレビを消して隣に目をやる。
 遠くでは重機で吊し上げられている紫色の巨大な物体。
 初号機。この被害を生み出した原因の一つがそこにいた。


リツコ「本当は怖いんじゃないかしら」


 自分の同じ方向に目をやるリツコに、ミサトは吐き捨てるようにこう言った。


ミサト「当たり前でしょ」
142 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/01(土) 21:51:07.15 ID:d2Ra1rE5o

……。

…………。

………………。



ミサト「シンジくん、ケロちゃん。まずは歩くことだけを考えて」

ケロロ「歩く、でありますか」

シンジ「は、はい」


 暗闇に包まれた第三新東京市。
 静かな戦場。異形の怪物が闊歩する中、一体の巨人が地下から姿を見せる。
 紫色の鎧を纏った細身の巨人、エヴァンゲリオン初号機。
143 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/01(土) 21:56:30.30 ID:d2Ra1rE5o

シンジ「いくよ軍曹」

ケロロ「了解であります!」


 乗り込むのは一人の少年と一人のケロン人。
 シンジは自分の膝にちょこんと座ったケロロに声をかけた。
 緊張からか、どちらの声も少しだけ震えている。


シンジ(右足……)

ケロロ(左足……)


 ぐらり。


ミサト「あっ」
144 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/01(土) 22:01:06.51 ID:d2Ra1rE5o

 轟音。
 その一歩目を踏み出すこともなく、頭から地面に崩れ落ちる初号機。
 モニタをしているオペレータたちの間から失意の声が漏れる。


リツコ「しっかりしてちょうだいシンジくん!二人の息を合わせて!」


 自分でも無茶な要求をしているとリツコは自覚していた。
 初めての搭乗。それも二人乗りで、意思を統一してエヴァを動かすなど不可能に近い。
 耳障りな声の主に従った自分をリツコは悔いた。


シンジ「ぐんそぉ〜……」

ケロロ「シンジ殿、右足派だったのね……」


 前のめりになる二人。なんとか起き上がろうと再び思考を巡らせる。
 だが。
 それを見過ごすほど敵も甘くはなかった。
145 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/01(土) 22:05:53.02 ID:d2Ra1rE5o

ミサト「シンジくん!早く!起き上がって!」


 目の前に迫る使徒、サキエル。
 表情の読めない仮面のような顔が近づいてくる。


シンジ「グッ!?」

ケロロ「げろっ!」


 頭部を掴まれる感覚。相手のことなど考慮せず、ただ力まかせに締め上げていく圧迫感。
 突如として神経に走る強烈な痛み。戦場に立った代償が牙を剥いたのだ。
146 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/01(土) 22:11:08.67 ID:d2Ra1rE5o

ミサト「二人とも落ち着いて!シンジくん大丈夫!?」

シンジ「ミサトさん!軍曹が!軍曹が大変なんです!」

ミサト「……え?」



ケロロ「ゲロロロロォォォォ!!!痛い痛い痛いいぃぃぃ!!!
ギブギブギブギブ!ギブであります!ギブって言ってんでしょぉぉぉ!!」




 ―――ケロロにだけ。
147 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/01(土) 22:17:11.65 ID:d2Ra1rE5o

リツコ「こ、これは一体……」

???『慌てるなよ。機体からのフィードバックがどちらか一方に優先されて伝わってるだけだ』

リツコ「何が原因なの?」

???『共鳴の影響だろう。まがい物のシンクロより必然的に情報が優先されちまうのさ。入力も出力もな』

ミサト「シンジくん!とにかくそいつから離れて!」


 スピーカー越しに聞こえてくるケロロの痛ましい叫び声。
 うろたえるシンジを一喝してミサトは指示を出す。もっとも、それも単純なものでしかなかったが。
 何もかもが初めての戦い。手さぐりの死闘は続く。
148 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/01(土) 22:22:09.30 ID:d2Ra1rE5o

ケロロ「ほひぃぃぃぃぃぃ!痛いってえええええ!痛い痛い痛いぃぃぃ!」

シンジ「軍曹!軍曹しっかりして!」


 痛みに暴れるケロロを両手で抱き留めるシンジ。
 なんとかならないのかと藁にもすがる思いで声を上げる。


リツコ「エヴァの防御システムも稼働しない……このままじゃマズいわ」

???『慌てるなよ……おいボウズ、聞こえるか』

シンジ「なに!?は、早く!軍曹を助けてよ!……うわっ!」

マヤ「左腕損傷!」
149 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/01(土) 22:22:53.94 ID:Emw1LESho
シンジの声を再生しようとすると冬樹が邪魔する
150 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/09/01(土) 22:24:55.78 ID:stHNdZXR0
>>149
すり替えても違和感なさそうだな
151 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/01(土) 22:27:44.50 ID:WhjobQXSo
俺なんかほぼ最初から冬樹で再生してるよ
152 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/01(土) 22:35:26.88 ID:d2Ra1rE5o

 サキエルの攻撃は続く。
 ろくに動かない初号機をなぶるかのようにその左腕を力任せにへし折る。
 装甲が歪み、初号機の腕があらぬ方向へ曲がる。


ケロロ「ハウワッ!?……刻が……見える……」

シンジ「軍曹それは見ちゃダメだから!……ねぇ!どうすればいいの!?」


 度重なる機体損傷の影響で体が痙攣し始めるケロロ。
 シンジは涙目になって見えぬ相手へと声を投げかける。


???『チッ、時間がねぇな。よく聞けボウズ!その痛みは誰かが受けなきゃならない。
お前が肩代わりするんならこの状況はなんとかなる』

シンジ「軍曹が助かるならなんでもいいよ!早く!」

???『クーックックックッ……後悔すんなよ!』

シンジ「―――ッ!?……ガッ!アアアアアッ!」
153 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/01(土) 22:38:50.82 ID:d2Ra1rE5o

 皮の下に突如として生まれた痛みは、肉も切らず骨も断たずに神経のみを嬲る。
 初めての感覚。出来れば二度と味わいたくない怖気の走る衝撃。


リツコ「あなた初号機に何をしたの!?」

???『クーックックックッ……
こんなこともあろうかとな、ちょいと神経接続の設定を弄らせてもらったぜぇ』

シンジ「アァ!ガッ!アガアアアアアアッ!」

ミサト「シンジくん!」


 小さな友を庇うように体をまるめ、少年は痛みにのたうつ。
 戦いの結末は無惨な死か。世界の破滅か。
 慈悲なき地上の戦は終わらない。
154 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/01(土) 22:40:09.09 ID:d2Ra1rE5o

 新世紀エヴァンケロオン

 第四話

 触れ得ぬ痛み であります



 それは人知れぬ戦いの物語
155 : ◆T6URQJJiS6 [sage]:2012/09/01(土) 22:42:40.03 ID:d2Ra1rE5o
本日分は終了しました。


改めて思いますが、二話は構成が複雑でSSとして組み立てるのが難しいですね。

サキエル戦は書いていて少し辛かったです。
156 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/09/01(土) 23:51:43.62 ID:dDSFoWMAO
乙。
157 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/02(日) 00:43:58.54 ID:SJd1UP+SO
乙っす!

軍曹とペンペンの絡みが楽しみ
158 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/09/02(日) 01:13:52.26 ID:stHcLaVi0
>>157
ゲロゲロゲロゲロ…とかクワクワクワクワ…とか聞こえるのが日常になるんですねわかります
159 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/09/02(日) 01:17:55.55 ID:6YVN/AFqo
乙であります
160 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage saga]:2012/09/02(日) 07:40:08.98 ID:ELdddlX1o
今ごろ気付いたがエヴァンケリオンなのねwww
161 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/09/02(日) 07:49:15.36 ID:ELdddlX1o
ケロオンでした……はい
162 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/02(日) 09:53:23.36 ID:YMJxo6zBo
軍曹が居るだけでこんなに違うのか
163 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/02(日) 10:34:34.75 ID:rKVrAiSBo

軍曹と一緒なら孤独ではなくなるからね
164 : ◆T6URQJJiS6 [sage]:2012/09/02(日) 10:40:29.66 ID:r0xM0z1Ko
>>149
書いているといつのまにか声が混じってることがあります
キャラクター的に似てる部分が多いからかもしれません


>>157
ペンペン可愛いよペンペン


>>161
最初は普通にエヴァンゲリオンで行くつもりだったんですが、なんとなくこっちにしちゃいました


>>162
ギャグやコメディ作品のキャラはクロスでは強力な鬱フラグブレイカーになりますので


>>163
シンジくんは理解者がいればかなり強くなれるタイプだと個人的には思ってます
165 : ◆T6URQJJiS6 [sage]:2012/09/02(日) 10:43:12.37 ID:r0xM0z1Ko
>>158
新種の温泉ペンギンはケロン人との共鳴くらい、わけないのです
166 : ◆T6URQJJiS6 [sage]:2012/09/04(火) 20:54:55.60 ID:5gfDy1pco
日付変わる頃に投下する予定です
167 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/04(火) 22:30:21.10 ID:QjcksfGIO
了解したのであります!
168 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/05(水) 00:08:51.76 ID:2JfrRLqOo

 連続する警告音。揺れるパルス。
 初号機への損害を伝える報告は止まるなく続く。
 聞こえるのはパイロットの悲痛な叫び声。


シンジ「あっ!がぁっ、くぅぅっ!ああぁっ!」

ケロロ「……し、シンジどの?……シンジ殿!どうしたでありますかシンジ殿!」


 嵐のような痛みが突然引いた。
 それと同時に聞こえてきた、見知った少年の叫び声。
 ケロロは困惑の表情を浮かべる。
169 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/05(水) 00:13:42.02 ID:2JfrRLqOo

???『アンタの痛みをそのボウズが肩代わりしてんのさ』

ケロロ「なんですと!?だ、大丈夫でありますかシンジ殿!」

シンジ「があぅっ!……だ、だいじょ……うううっ!ぐ、ぐんそ…」


 揺れる脳波。いたぶられた神経に乗って筋肉が軋む。
 奥歯を砕きそうな勢いで噛みしめるシンジ。焦点がぶれて見えるもの全てをぐらつかせる。
 今までとはくらべものにならない衝撃が初号機を襲う。
170 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/05(水) 00:18:13.65 ID:2JfrRLqOo

ミサト「シンジくん!よけて!」


 サキエルの肘に生えた釘のような鋭く長い突起物。
 それが釘打ち機の要領で、捉えた初号機の頭部へと勢いよく射出されたのだ。
 ミサトの叫びもむなしくシンジをさらなる痛みが襲う。


リツコ「装甲がもう持たない!」


 ひと際大きな衝突音と共に、サキエルの手のひらから伸びるひと筋の光。
 それは槍のようでもあり、十字架のようでもあり。
 サキエルは初号機を兵装ビルに激突させ、その頭部を大破させた。
171 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/05(水) 00:20:51.57 ID:2JfrRLqOo

シゲル「頭部破損、損害不明!」

マコト「パイロット反応ありません!」

ミサト「作戦中止!パイロットの保護を最優先!機体を回収して!」

???『まだだ!』


 これ以上は持たない。
 戦いにもならなかった。そう悔しがる自分を隅においやってミサトは指示を出す。
 だがそんな彼女の言葉を遮るこもったような声が一つ。
172 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/05(水) 00:23:42.61 ID:2JfrRLqOo

ミサト「アンタ正気!?ふざけないで!シンジくんたちを殺す気なの!?」

???『よく見てろ。これからだ』

マヤ「……!?え、エヴァ再起動!」

リツコ「なんですって!?動けるはずが……!まさか、暴走!?」


 両腕をおろし、兵装ビルによりかかる初号機。
 痛ましいほどに各所を傷つけられた決戦兵器。
 そのパイロットもまた、直視できぬほどに痛めつけられ―――


ケロロ「……シンジどの?」

シンジ「……」
173 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/05(水) 00:27:50.84 ID:2JfrRLqOo

 ケロロが手を触れる。反応がない。
 連続してかかる脳への負荷に耐えきれず、シンジは意識を失っていた。
 先のことなど考えず、ただ今この瞬間、痛みに叫ぶ友を助ける為に。


ケロロ「……こんっの……」

マヤ「シンクロ率、上昇していきます!30%……50%……100%!」


 ―――両手に力をこめる。


冬月「……勝ったな」


 ―――顔を上げ、敵を見据える。


ミサト「シンジくん……いえ、これは……ケロちゃん?」


 ―――奥底から湧き上がる衝動をそのままに。


???『クーックックックッ……見せてくれよ、隊長さん』
174 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/05(水) 00:30:27.01 ID:2JfrRLqOo




ケロロ「バッカちんがぁぁぁぁぁぁ!!」


 ―――ケロロが咆えた。



175 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/05(水) 00:34:34.04 ID:2JfrRLqOo

 大地を揺らすような雄叫びと共に、光が再び両の瞳に宿る。
 今までの動きが嘘であったかのように、軽やかに飛ぶ初号機。
 目標、第三使徒サキエル。戦いは幕引きへと加速する。


ケロロ「もう怒ったであります!ここからは本気でありますよ!」


 獣のような声をあげ、初号機が走る。
 サキエルの伸ばす両腕をかわし、まるで生きているかのような動きで距離をつめる。
 その勢いを殺さぬまま、振り上げた拳をサキエルの胴体にめがけて振り下ろそうとする初号機。


ケロロ「ゲロッ!?」

リツコ「ATフィールドだわ」
176 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/05(水) 00:39:10.89 ID:2JfrRLqOo

 硬い音と共に、突如として空間に現れた時空のひずみのようなものに拳を弾かれる。
 ATフィールド。使徒の持つ絶対的な力の一つだ。
 だがしかし、それも今のケロロにしてみれば。


ケロロ「ふざけるな!たかがATフィールドの一つ、我が輩が押し出してやる!」


 奇妙な口調と共に共鳴を始めるケロロ。


マヤ「初号機もATフィールドを展開!」

リツコ「使徒のATフィールドを侵食している……」

???『もとは同じ理屈だ。出来ないはずもねぇさ』


 初号機の目が光る。
 両腕をねじり込むようにしてATフィールドを引き裂いていく。
 まるで猛獣が猛り狂うかのように。
177 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/05(水) 00:42:44.19 ID:2JfrRLqOo

ケロロ「これで貴様は丸裸であります……」


 サキエルが伸ばした腕をいとも容易く掴み取る。
 図らずも力比べのような形になる初号機とサキエル。
 互いに肩をいからせ、大地を踏みしめて力をこめていく。


ケロロ「いい加減に!退場するであります!ノロマ怪獣!」


 力が拮抗したのもつかの間、初号機によって地面に押し倒されるサキエル。
 ズズンと大地が揺れ、ジオフロントにもそれが伝わる。
 俊敏な動きでサキエルから距離を取る初号機。
178 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/05(水) 00:47:16.83 ID:2JfrRLqOo

ケロロ「これで最後であります……俺のこの手が真っ赤に燃える!お前を倒せととどろき叫ぶぅ!」


 普段はどこに隠していたのかと思うような裂帛の気合いと共に、初号機が駆けた。


ケロロ「必殺!シャァァァァイニングゥゥ!!フィンガァァァァァー!」

???『べつに光りはしねぇけどな……クーックックックッ』


 どこかから入ったツッコミなど意にも介さず、ケロロは瞳に炎を燃え広がらせてサキエルへと突進する。
 防ぎようのない速度。起き上がりかけたサキエルの胸部、コアの部分に初号機の手刀が突き刺さる。
 ひび割れるコア。サキエルの巨体がビグンと痙攣し、液体のように形状を変えて初号機へとまとわりついた。
179 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/05(水) 00:52:17.99 ID:2JfrRLqOo

ケロロ「ゲロッ!?」

ミサト「まさか自爆!?」


 半壊したコアのエネルギーを暴走させ、相手を道連れにする為に爆発を選択したサキエル。
 庇う間もなく初号機はそのエネルギーの奔流に巻き込まれる。
 空と大地を喰らい、天空へと伸びる巨大な光の十字架。命を代償にした最後の攻撃。


ケロロ『ゲロォーッ!!なんとぉー!?』


 空をも揺るがす超規模の爆発と共に、ケロロの叫び声がこだまする。
180 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/05(水) 00:57:30.16 ID:2JfrRLqOo

ミサト「ケロちゃん!」


 目も眩むような光と熱の渦。
 およそ生き物の入れぬその中心に立つ、傷だらけの初号機。
 その光景に皆が思わず息を呑んだ中、モニタの画面にケロロの姿が写る。


ケロロ「げろ……ちとやりすぎたであります」


 何故か頭部がチリチリのアフロヘアになっているケロロが疲れ切った表情をしている。
 そのなんとも力の抜ける様子を目にした時、初めてミサトたちの間に一つの確信めいた情報が伝わった。
 勝ったのだ。使徒に。
181 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/05(水) 01:03:02.86 ID:2JfrRLqOo

???『クーックックックッ……ご苦労さん、隊長』


 矢継ぎ早に飛ぶ初号機の回収命令と情報収集。
 活気づいたオペレータたちから届く報告を元にミサトとリツコは忙しなく指示を飛ばす。
 そんな明るいムードの中、ゲンドウは口元をほんの少しだけゆがめさせた。


冬月「始まるな」

ゲンドウ「あぁ……これからだ」


 爆炎に散った使徒。
 初めての勝利。
 生存のための戦いは、ひとまずの安息を迎えた。
182 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/05(水) 01:05:19.39 ID:2JfrRLqOo

 新世紀エヴァンケロオン

 第五話

 目ざめの刻 であります



 それは眠れる巨神の物語
183 : ◆T6URQJJiS6 [sage]:2012/09/05(水) 01:09:07.77 ID:2JfrRLqOo
本日分は終了しました。

やはりケロロといえば豊富なパロディなので、今回からそれとなく投入してみました。
184 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/05(水) 01:09:56.52 ID:+3x/7rVoo
185 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/09/05(水) 01:39:46.03 ID:AWYToGvD0
ケロロって普段やる気無かったり隊長としての責任とか何やらで本気だせないけど、本気出せるとかなり強いんだっけ?
催眠掛けられて遠慮無しになったら夏美にも勝ってたし
186 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) :2012/09/05(水) 02:41:53.66 ID:MJ4SEsJQ0
おつ
187 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/05(水) 07:12:56.70 ID:5zUfEqxe0
>>185
本気出せないからケロロでしょ

いちおつ
188 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/05(水) 11:17:58.49 ID:JT/GsZ/ao
おつ!
もう脳内で音声がバリバリに再生されますな
189 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/05(水) 18:32:55.47 ID:h2vu+kPOo
確かにトップに向くのは有能な怠け者とはよく聞くがww
190 : ◆T6URQJJiS6 [sage]:2012/09/05(水) 22:15:20.01 ID:Q0km8JMUo
>>185
湿度が高くなって『あの頃のケロロ』という状態になった軍曹は夏美にも勝てる力を発揮しますね
本人の資質もケロン星が万が一のためにクローンを保有している程ですから、相当なものがあるんでしょう
191 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/06(木) 01:25:13.77 ID:17YWq3tFo
よくよく考えてみたらプラグの中って「水中」なんだし
ケロン人の独壇場だなww
192 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2012/09/06(木) 07:42:59.32 ID:rEYwR05C0
シャイニングフィンガーとゴッドフィンガーの掛け声がごっちゃになってるなww
ケロロらしいといっちゃらしいのか
193 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2012/09/06(木) 15:37:05.56 ID:ndeAvihAO

精神面でだいぶ負担が軽そうでいいね
194 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/06(木) 19:50:37.22 ID:F3RWNrNDO
>>1

逆にシンジ&アスカを日向姉弟にしてケロン人とのドタバタ日常を……
ダメだ、鬱展開になりそうorz
195 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/07(金) 00:40:51.79 ID:dczOWkkgo
シンジは怒らせると冬樹とは別の意味で怖いからな
196 : ◆T6URQJJiS6 [sage]:2012/09/09(日) 13:01:21.59 ID:aduvXZWpo
>>192
ヤッチマッター

Gガン見なおさないと



今日の夜に投下する予定です。
197 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/09(日) 21:15:22.79 ID:aduvXZWpo

 もう何度目だろうか。
 目を閉じれば昨日の戦いが鮮明に再現される。
 父の仇。そう、心に決めた相手。使徒。


ミサト「……使徒との戦い、いけるかもしれないわね」

リツコ「相変わらず楽観的ですこと」
198 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/09(日) 21:30:27.18 ID:aduvXZWpo

 日が昇って数時間、使徒の消滅を確認して十数時間。
 すでに第三新東京市は次の戦いに向けての準備を着々と進めていた。
 運ばれる弾薬。築かれる防壁。調べつくされる使徒との戦いの跡。


リツコ「ん?……えぇ、そう、ありがとう……ミサト」

ミサト「なに?」

リツコ「シンジくんが目覚めたそうよ。あのカエルさんはどこだって訪ね回ってるらしいわ」

ミサト「あ〜ケロちゃんかぁ。分かったわ、ちょっち迎えにいってくる」

リツコ「二人の住むところ、近日中に決めておきなさいよ」


 歩き出そうとしたミサトの背中にリツコは声をかける。
199 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/09(日) 21:36:49.03 ID:aduvXZWpo

ミサト「ん? 親子で一緒に住めば……」

リツコ「あの子と司令でそれが出来ると思って?」


 ――無理だな。
 ミサトはわずかな間も置くことなく、即座にそう判断した。
 少しでも二人の様子を目にしていればすぐに出せる簡単な答えだ。


リツコ「おそらくはネルフの施設内にある個室でもあてがう事になるんでしょうけど、本人の意思くらいは確認しておいてちょうだい」

ミサト「らっじゃー!それでは葛城ミサト、行ってまいります!」


 待機させていた車に乗り込むミサトを見送ったリツコは、本当に大丈夫なのかと深いため息をつく。


リツコ「まったく……ミサトも少しは落ち着いてくれないかしら。もう大人なんだから」


 愚痴を吐くその表情は秒を追うごとに冷たく、そして活き活きとしていく。
 ようやく一人になれた。彼女にとってはここからが本番だからだ。
 その顔は、すでに科学者としてのそれに変わっていた。
200 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/09(日) 21:40:18.43 ID:aduvXZWpo

……。

…………。

………………。



ミサト「お待たせシンジくん」

シンジ「ミサト、さん?……軍曹はどこにいるんですか?」


 シンジは病院の待合室にあるベンチに座ってぼんやりと外を眺めていた。
 誰かが迎えに来るであろうことを聞いていたのだろう、ミサトを見てもさして驚かず、ただ開口一番にケロロの所在を尋ねる。
 その瞳には不安が見え隠れしていた。

201 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/09(日) 21:43:48.21 ID:aduvXZWpo

ミサト「こっちよ、ついてきて」

シンジ「……はい」


 素直に従うシンジ。その瞳は俯きがちで、どこか表情も暗い。
 もしやこれが彼の本来の姿なのではないかとミサトは考える。
 ケロロの存在があればこそ、あの明るさがあったのではないかと。


ミサト(無理もないか……昨日の今日ですものね……)


 甦るのは使徒との鮮烈な戦い。
 痛みと、恐怖と、混乱の数分間。
 ただの中学生が味わうものとしては、あまりにも規格外の重圧。
202 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/09(日) 21:46:54.54 ID:aduvXZWpo

ミサト「大丈夫よ、心配しないでもすぐにケロちゃんに会えるわ」


 出来るだけ優しく接していこう。
 そう結論付けたのは、己の中にある独善ゆえか。
 ミサトの言葉にシンジは黙って頷いた。



………………。

…………。

……。
203 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/09(日) 21:49:32.46 ID:aduvXZWpo

 エビフライ、オムライス、ハンバーグ。
 トンカツ、キャベツ、味噌汁。
 ナポリタン、ドリア、ステーキ。


ケロロ「はむ!はふっ!ほふほふっ!はっふぅ!」


 まさにその様は食い荒らすという言葉がしっくりときていた。
 ひとけの無いネルフ内部の食堂。端の席では食器がうず高く積み重ねられている。
 その山を作った張本人であるケロロはようやく食い終えたのか、爪楊枝を咥えでっぱったお腹をポンと叩いた。


ケロロ「ふぃ〜……腹八分目ってとこでありますな」

ミサト「食べ過ぎよ」

ケロロ「げろ?」
204 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/09(日) 21:53:28.92 ID:aduvXZWpo

 背後から入るツッコミに体をかたくしたケロロは反射的に振り向いた。
 そこには呆れ顔のミサトが、そしてその隣には彼が待ち望んでいた少年の姿が。


ケロロ「し……」

シンジ「軍曹!」

ケロロ「シンジどのぉー!」

シンジ「ぐんそっ……って、きたなっ!く、口拭いてよ!くち!」


 自分に向かって駆け出したケロロを、シンジは慌てて両手で制止する。
 その顔は食用油とごはん粒とケチャップで汚れきっていたのだ。
205 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/09(日) 21:57:05.67 ID:aduvXZWpo

ケロロ「おっと失礼、我が輩ったら嬉しさのあまり思わず駆け出してしまったであります」

シンジ「……良かった、軍曹が無事で」


 空いている椅子に座り込むシンジ。
 その顔には、起きてから初めて見せる安堵の笑みが広がっていた。


ケロロ「まぁ我が輩はこう見えても軍人でありますからな!一度や二度の戦いなどヘでも無いでありますよ!」


 そう大見得をきるケロロ。彼の顔もどこか安らかで。
 この二人が互いを必要としているのは、ミサトにも容易に理解できた。


ミサト「あ……ちょっち待ってね」


 そんな二人を見ていたミサトだったが、誰かから連絡があったのだろう、携帯を耳に当てて通話し始める。
206 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/09(日) 22:02:49.19 ID:aduvXZWpo

ミサト「もしもしリツコ?どったのよ急に」

リツコ?『あっらゴッメンなさぁ〜い?今いそがしかったかしらぁ〜?』

ミサト「い、いや、大丈夫だけど……」


 返事をするミサトの背筋に寒気が走る。
 なんだかんだと付き合いの長い友人だが、こんな気味の悪い猫なで声を聞いたのは初めてだったのだ。
 昔一度だけ連れていかれたオカマバーのホステスのような声色にミサトの顔が硬直する。


リツコ?『じゃあ悪いんだけどぉ、サァーーッドゥティルドレンを連れてぇ、Eブロックの第九九六研究室まで来てくれなぁい?』

ミサト「……いいけどさ……あんたなに、熱でもあんの?」

リツコ?『熱ぅ?なに言ってるのよぉ、ぜんっぜん、ぜんんんんんっぜん平気よぉ?ミサトのお・ば・か・さ』


 ――ブツリ。
 そこまで聞いた時点でミサトは反射的に通話を切ってしまった。
 耳元をくすぐる猫なで声に耐え切れなかったのだ。
207 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/09(日) 22:08:29.81 ID:aduvXZWpo

シンジ「あの……ミサト、さん?」

ケロロ「ゲロ、大丈夫でありますか」

ミサト「……ちょっちマズいかも」


 リツコの頭が、とはさすがのミサトも口に出来なかった。



……。

…………。

………………。
208 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/09(日) 22:11:55.15 ID:aduvXZWpo

 人気の無い廊下の向こうに渦巻き模様の扉が見える。
 Eブロック第九九六研究室。
 なんとも怪しげな部屋にシンジとケロロは顔を見合わせた。


ミサト「入るわよ」

リツコ?「どうぞぉ〜」


 電話越しにも聞こえた声色にミサトは顔をしかめると、扉の開閉ボタンを押した。
 中は予想に反して真っ暗で、奥がどうなっているのかよく分からない。
 シンジは初めて入った初号機のケージを思い出す。
209 : ◆T6URQJJiS6 [sage]:2012/09/09(日) 22:17:56.52 ID:aduvXZWpo

ミサト「リツコぉ?……ちょっとどうなってんのよ」

リツコ?『気にしないで入って入ってぇん』


 不満を口にしたミサトに、暗闇から声が投げかけられた。


シンジ「み、ミサトさん?」

ミサト「私が先に入るわ……シンジくんとケロちゃんはその後についてきて」


 まるで想定していなかった奇妙な事態にどうしたらいいものかとまごつくシンジ。
 仕方なく、ミサトは多少の警戒をしつつ先の見えない真っ暗な室内へと足を踏み入れた。


シンジ「あっ!」

ケロロ「げろっ!?」


 三人が入ると同時に自動的にしまる扉。


ミサト「ちょっとリツコ、悪ふざけが過ぎるんじゃない?」

リツコ?「クーックックックッ……悪いがあまりひと目にはつきたくないもんでねぇ……博士の電話を借りたのさ」
210 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/09(日) 22:22:45.07 ID:aduvXZWpo

 照明が点灯する。薄暗いもののどうにか辺りを見回せるようになる。
 三人の視界の先には、見知らぬ黄色い生き物が一人。
 周囲を囲む数えきれないほどのモニタと配線の中央で、それは大仰な態度で座っていた。


ミサト「あ、アンタ!」

シンジ「……え?」

ケロロ「げ、げろーっ!!」


 三者三様の反応。
 ある者は声を上げ、ある者は疑問符を口にし、またある者はただただ叫ぶ。
 そんな三人の反応を、クルルは底意地の悪い笑い声をあげて迎えたのだった。


クルル「クーックックックッ……始めましてサードチルドレン。そして……久しぶりッスね、隊長」
211 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/09(日) 22:28:02.17 ID:aduvXZWpo

ケロロ「クルルー!やっべ、超ひさしぶりじゃーん!どこで何してたんだよー!この、このっ!」


 二人をおいて、飛び上がるような勢いでクルルへと近づくケロロ。


クルル「隊長の方こそ何やってたんだっつーの。ペコポン侵略のために散り散りになったのに連絡ひとつ寄越さねぇし、死んだのかと思ってたぜぇ」

ケロロ「……げろ?……しんりゃく?」

クルル「そう、侵略」

ケロロ「……」

クルル「……おい、まさか隊長、忘れてたなんて」






ケロロ「げろぉー!すっかり忘れてたであります!そうじゃん!我が輩たちペコポン侵略しないとダメじゃん!」


 ケロロの叫び声が研究室に響き渡る。
 白目を向いて絶叫する軍曹に、クルルは呆れたように力無く笑った。
212 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/09(日) 22:33:23.00 ID:aduvXZWpo

クルル「……ダメだこりゃ。仕事してたのは俺と先輩だけかよ」

ケロロ「ごめん!マジでごっめーん!シンジ殿と遊んでたらスッカリ頭の中から抜けてたのよぉー!する!もう今から侵略しちゃうから!」

シンジ「ちょ、ちょっと待ってよ軍曹!」


 はしゃぐケロロに呆れるクルル。
 そんな二人に声をかけたのはミサトではなくシンジだった。


ケロロ「げろ?」

シンジ「その軍曹の色違いみたいな生き物はなに!?その子もケロン人なの!?それにさっきから言ってるペコポン侵略って……」

ケロロ「げ、げろぉ〜……それはでありますなシンジ殿」


 クルルとの再開の喜びにシンジのことをすっかり忘れていたケロロは、冷や汗をかきながらしどろもどろ言い訳染みたことを口にする。


ミサト「シンジくん、その生き物……クルルについては私から話すわ」

シンジ「ミサトさん」
213 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/09(日) 22:44:13.33 ID:aduvXZWpo

ミサト「シンジくんがケロちゃんを見せてくれた時は驚いたちゃったんだけど、実は私たちネルフにもケロン人はいたのよ」

クルル「クーックックックッ」

ミサト「コイツは一年前にいきなりネルフに顔を出してきたの。
そこで何があったのかは分からないけれど、上手く碇司令に取り込んでちゃっかりここに居場所を作っちゃったって訳」

クルル「今のペコポンには宇宙レベルで珍しい現象が起こってるからな。それを研究、解明する為にいてやってんのさ」

ミサト「知ってるのは一部の人間だけの機密事項よ……ケロちゃんといるシンジくんになら構わないでしょうけどね」

ケロロ「クルルすっげー」

シンジ「じゃあ、侵略っていうのは?」


 動き回るケロロをうざったそうにあしらいながらクルルは喋る。


クルル「言葉通りこの星をいただくのさ。ケロン星の領土としてな」

シンジ「なっ……だ、ダメだよそんなの!ねぇ軍曹!」

ケロロ「げろっ!?い、いやぁ〜……ダメと言われましてもですね」


 シンジの当然とも言える言葉に、軍人として身を置くせいかケロロは上手く答えられずにいた。
 一年間近くシンジと遊んでくらしてすっかり侵略など頭から消え失せていたのに、都合の良い宇宙人である。
214 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/09(日) 22:58:09.98 ID:aduvXZWpo

クルル「安心しろよ、使徒がいなくなるまでは侵略もお預けだ」

シンジ「そうなの?」

クルル「サードインパクトが起こっちまったら世界が滅んじまう。
そんな星を支配しても意味ないだろ。まずはあの使徒ってのをたおさねぇと話が始まらねぇ」

ミサト「こっちとしてもケロン星の技術力は色々と役に立つからね。まぁ共同戦線ってやつよ」

クルル「クーックックックッ……使徒がいなくなっちまえばこんな星、三日と経たずに侵略できるからなぁ」


 挑発的なクルルの言葉に、若干だが部屋の空気が緊張していく。
 どうすればいいのか分からずにオロオロしだすシンジ。
 そんな中、ケロロだけが空気が読めていないのか平然と口を開いた。


ケロロ「あぁー!やっべー!そういえばもうすぐターウエーガンダムの時間じゃん!今週の録画してないし!」

シンジ「えっと、軍曹?」

ケロロ「帰るでありますシンジ殿!じゃないとターウエーが!」


 玩具をねだる子供のようにわめきだすケロロ。その顔にはアリアリと憔悴の色が浮かんでいる。
215 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2012/09/09(日) 22:59:26.45 ID:9Nn7GOVAO
さすが
216 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/09(日) 23:03:25.01 ID:aduvXZWpo

シンジ「いや、帰るって言ったって」

ケロロ「モノレールでもなんでもあるでしょー!あ、じゃあクルル!なんかちょっぱやで家に帰れる機械かして!今度返すから!」

ミサト「……悪いんだけどケロちゃん、帰るのは許可できないわ。二人にはここに住んでもらおうと思ってるの」

シンジ・ケロロ『えっ!?』

 二人の声が綺麗にユニゾンする。
 ミサトは四つの瞳にしっかりと顔を向けて話し出した。
217 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/09(日) 23:05:10.78 ID:aduvXZWpo

ミサト「クルルが言ってたように、まだ使徒は出てくる……シンジくんたちにはエヴァに乗ってそれと戦ってほしいの」

シンジ「……え」

ケロロ「嫌であります!断固反対するであります!そんなことをしていたらターウエーが見れ」

クルル「テレビモニタはあっちッスよ」

ケロロ「サンキュークルルー!……うっわ画面デケェ!ネルフサイコー!」


 一瞬で懐柔されるケロロ。なんの躊躇いもなくテレビへと突っ走る。


ミサト「ケロン人っていつもああなの?」

シンジ「軍曹はガンダムのことになると、ちょっと……」

ミサト「大変ねぇシンジくんも」
218 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/09(日) 23:09:38.20 ID:aduvXZWpo

シンジ「あの、ミサトさん……それよりも僕たちがここに住むってことなんですけど」

ミサト「あぁそれそれ。お父さんから聞いて……ないわよね」


 俯き加減ではあるものの、ミサトからはシンジが拗ねたような顔をしたのがかすかに見えた。


シンジ「……僕はこの街に住みたくありません」


 ミサトにもその心情は理解できる。だがそれを許す余裕はいささか今の日本にはなかった。
 地図を書き換えるほどの兵器を使用する余裕はありながら、だ。
 おかしなものだとミサトは自嘲する。


ミサト(歪んでるのよね……)
219 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2012/09/09(日) 23:10:29.38 ID:UqpPpeDAO
すげえな
220 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/09(日) 23:14:24.87 ID:aduvXZWpo

クルル「クーックックックッ……じゃあ帰ればいいんじゃねぇの?」

シンジ「帰って、いいの?」


 伺うようなシンジの視線。
 拒否の意思表示をしたものの、それを汲んでもらえるとは思っていなかったようで、その顔には驚きの色が見え隠れしている。


クルル「ただしうちの隊長はおいていってもらうけどな」

シンジ「えっ!?」

クルル「初号機が動かないと戦いにならないんでね。お前か隊長、最低でもどっちかには残ってもらうぜ」

ミサト「ちょっとアンタ」


 勝手に話を進めだすクルルにミサトは語気を強める。
 だがクルルはそんなものどこ吹く風といった感じに嫌味たらしく笑い声をあげた。
 照明をつけてもなお薄暗い室内でクルルの眼鏡が妖しく光る。


クルル「選びな。隊長を置いていくか、それとも……クーックックックッ」


 そこから先をクルルはあえて口にしなかった。
 言われずとも分かっているだろうと語ってくる笑い声。
221 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/09(日) 23:20:36.52 ID:aduvXZWpo

ケロロ「ゲローッ!やっぱターウエーかっこよすぎ!」

シンジ「……」


 重苦しい沈黙。


ケロロ「カーッ!録画できてればなー!BOXが出るまで待つのもなー!」

ミサト「……」


 目合う思惑。


ケロロ「お!イネカリーの隊長機じゃん!色もいい!これはガンプラも楽しみでありますなぁ!」

クルル「……」


 滲みゆく困惑。
222 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/09(日) 23:22:47.93 ID:aduvXZWpo

 誰も口を開かない中、意思決定を任されたであろう少年が息を吐く。


シンジ「……分かったよ。僕もここに残ります」


 疲れ切った声。不満をありありと残した表情。諦めからくる無抵抗。
 まったくもって歓迎されていない状態での承諾。
 果たしてこれで大丈夫なのだろうかとミサトは頭を抱えたくなった。


ミサト「ちょっと!やるならもうちょっと上手く誘導しなさいよ!これじゃまるで脅迫じゃないの!」


 クルルに近づいたミサトが耳打ちする。
223 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/09(日) 23:26:01.44 ID:aduvXZWpo

クルル「お前たちに比べたら良心的だと思うがねぇ。
ガキ一人を囲い込んで初号機に乗せようとするなんて……いやぁ、さすがペコポン人のやる事は違う」

ミサト「……しかた、ないでしょ」

クルル「割り切れよ。勝ちたいんだろ?個人の感情なんて小さな問題だ」


 挑発的なクルルの言葉に、やり場のない苛立ちを覚えるミサト。
 まるでつい先日の自分を見ているかのような錯覚。


ミサト「私が甘いって言いたいわけ?」

クルル「そんなにやりたい事があるんなら自分で動けばいいんじゃないッスかぁ?
あいにく俺は『仕方ない』なんてコードを打ち込んだことは今まで一度もないんでねぇ」

ミサト「……アンタ、イヤなやつね」

クルル「クーックックックッ……そりゃどうも」

 含みのあるクルルの言葉。
224 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2012/09/09(日) 23:27:26.84 ID:84miBew1o
クルルいやみったらしい!
225 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/09(日) 23:31:27.45 ID:aduvXZWpo

ミサト「……シンジくん」

シンジ「なんですかミサトさん」


 しばらくの沈黙の後、ミサトは背後に立つシンジへと声をかけた。
 明るく。力強く。反発するであろう彼を引っ張れるように。
 そう心に決めてミサトは振り返る。


ミサト「私と一緒に住みましょうか」

シンジ「……へ?」
226 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/09(日) 23:33:19.39 ID:aduvXZWpo

 次はどんな無茶な要求をされるのか。
 思考を巡らせ、想像し、ため息をつく。
 その繰り返しに陰鬱とした気分だったシンジの口からどこか間抜けな声が漏れる。


シンジ「僕が、ミサトさんと?」

ミサト「そ。シンジくんと、あとケロちゃんが私と一緒に住むの」


 もう逃げられない。
 書類上の問題ではない。プライドの問題だ。
 大人としてのプライド。軍人としてのプライド。そしてミサト自身の、良心が確固として築いてきたプライド。
227 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/09(日) 23:36:35.37 ID:aduvXZWpo

ミサト「中学生に一人暮らしなんてさせられないし、お父さんと一緒に住むのも嫌なんでしょ?
……この街は嫌かもしれないけど、あなたたちが少しでも快適に過ごせるよう協力するわ。ね?」


 精一杯の笑みを作ってミサトはそう告げる。
 それは彼女の独善的な思考が生み出した現状における最適解だ。


シンジ「……なんでもいいです。好きにしてください」

ミサト「よっしゃ!じゃあ好きにさせてもらうわ。クルル、リツコに電話しといてねん」

クルル「クーックックックッ……ま、構わねぇぜ」
228 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/09(日) 23:39:16.65 ID:aduvXZWpo

 ミサトは自問する。これで良かったのかと。
 ミサトは自答する。これで良かったのだと。


シンジ「……」

ミサト「ん? どうしたのシンジくん」

シンジ「なんでもないです」


 そっぽを向くシンジにミサトは苦笑する。
 だが一瞬だけ見えたシンジの口元は、わずかに微笑んでいるようにも見えて。
229 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/09(日) 23:41:09.32 ID:aduvXZWpo

ミサト「よろしくね、シンジくん」


 それは彼女の出した答え。独りよがりで、少しばかり短絡的な答え。
 しかしそれはこのネルフで初めて、世界のためではなく少年自身のために大人が出した答え。
 第一の歩み寄りは、今ここに。
230 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/09(日) 23:44:11.38 ID:aduvXZWpo

 新世紀エヴァンケロオン

 第六話

 未熟なソリスト であります



 それは賢しい大人たちの物語
231 : ◆T6URQJJiS6 [sage]:2012/09/09(日) 23:45:40.34 ID:aduvXZWpo
本日分は終了しました。

クルル正式登場です。ちょっと長くなりました。
軍曹が見てるのは2015年に放送予定のターウエーガンダムです。
232 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/09(日) 23:48:04.43 ID:UawVhttEo
233 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/10(月) 01:16:20.70 ID:1fuZyKijo
日本でガンダム作るとしたら三菱か川重と思ってた
まさかクボタだったとは
234 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/10(月) 03:08:16.35 ID:MLHxVbEOo
乙!
俺は日立かIHIかと
235 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2012/09/12(水) 21:01:28.41 ID:7QrcQ7CAo
ついに農家ガンダムか・・・
236 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/09/13(木) 00:06:55.70 ID:+yrK4frO0
いいSSを発見した
次回も楽しみにしてます
237 : ◆T6URQJJiS6 [sage]:2012/09/16(日) 17:57:39.85 ID:WGL7FOVlo
今日の夜に更新する予定です
238 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2012/09/16(日) 19:59:03.56 ID:oHefxdFro
ほほう
239 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/16(日) 21:02:07.48 ID:WGL7FOVlo

リツコ「はい赤木……あらミサト、どうしたのよ。シンジくんには会えたの?」

リツコ「あらそう、元気ならなによりだわ」

リツコ「え?保護者?それはシンジくんは未成年だし、セキュリティーの観点からも居た方がいいとは思うけれど」

リツコ「……あなたがシンジくんと一緒に住む?」

リツコ「ちょっとミサト本気なの?上の許可は……あぁもう取ったのね」

リツコ「当たり前じゃない!あなた自分がいくつだと思ってるのよ!相手は中学生よ!?」

リツコ「……分かったわよ。荷物はそっちに届くようにしておくわ。そう、うん……」

リツコ「……どういう意味よそれ」

リツコ「ちょっと、詳しく説明なさい」

リツコ「え?……クルルが?」
240 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/16(日) 21:06:57.67 ID:WGL7FOVlo

リツコ「……そう。ありがとうミサト。私ちょっと急用を思い出したから切るわね。それじゃ」

リツコ「……」

リツコ「……もしもし?そう、私。あなた、ミサトに何か言ったでしょ。うん、それはもういいの。それよりも……」

リツコ「人の電話回線を勝手に使用するなと何度言えば分かるのよ!
おかげでネルフの職員の間でも変な噂が流れてるじゃないの!
この前なんてマヤが熱に浮かされてような視線を向けてきたわよ!
あなたあの子に何を吹き込んだの!言っておくけれど私は同性愛には興味がないのよ!?
そもそもセキュリティーの観点から見て……ってちょっと!まだ話は終わってな―――」


 ツー、ツー、ツー……



……。

…………。

………………。
241 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/16(日) 21:11:36.27 ID:WGL7FOVlo

 夕日がゆっくりと山あいに溶けていく。
 地上に戻ったシンジ達はミサトのルノーに乗って第三新東京市の外れにある高台に来ていた。


ケロロ「この近くにミサト殿の自宅があるのでありますか?」

シンジ「違うよ軍曹。ちょっと寄り道するってミサトさんが言ってたじゃないか」

ケロロ「ゲロ、そうでありました」

ミサト「ずっとガンダムの話をしてたからでしょ。そんなに面白かったの?」

ケロロ「今週は特に素晴らしかったであります!録画できなかったのが残念でありましたが、あの大画面で見るターウエーのカッコよさときたらもう!」


 頬を紅潮させ、身振り手振りを交えて熱く語るケロロ。


ミサト「おっと……そろそろ時間よん」


 手元の時計を確認したミサトは二人を促す。
 ガンダムトークを中断して第三新東京市に目を向けるシンジとケロロ。
 誰の声もせず、ただ木々が風にそよぐ音が流れていく。そんな中――
242 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/16(日) 21:15:48.18 ID:WGL7FOVlo

シンジ「あっ!軍曹!あれ!」

ケロロ「ゲロッ!」


 何かに気付いた二人は、高台の手すりギリギリにまで身を乗り出した。
 そこかしこにある平地からガラス張りのビルが生き物のように伸びてきたのだ。
 重々しい駆動音と共にもう一つの顔を見せる第三新東京市。


ミサト「凄いでしょー……って聞いちゃいないわね」


 自分が設計した訳ではないのだが胸を張るミサト。
 しかしながら彼女の言葉は二人の耳には入らなかったようで、ケロロたちは互いに歓声をあげている。
 無理もないだろう。ビルが生える街など、日本中を探してもここくらいのものだ。使徒迎撃専用要塞都市、第三新東京市。


ミサト「あなた達が守った街よ。シンジくん、ケロちゃん」

シンジ「……ぼくが……」
243 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/16(日) 21:20:26.97 ID:WGL7FOVlo

ケロロ「いずれ我々が侵略するのに使徒に壊されたら困りますからな。当然でありますよ。ゲェ〜ロゲロ」


 空気を読まずにゲロゲロと鳴き声をあげるケロロに、ミサトは後ろからひとチョップくれてやった。


ケロロ「げろぉ!?」

シンジ「余計なこと言うからだよ、軍曹」


 頭をさするケロロに苦笑しつつ、シンジはもう一度ビル群へと目を向ける。
 夕日を複雑に反射して光と影の綺麗なコントラストを作る街。
 きっとここには何千人、何万人もの人々が住んでいるのだろう。


シンジ(この街を守る、か)


 街への強い思い入れなどは無く、世界を守る気概なども持ち合わせず。
 ただ逃げられぬ状況の中であがき、友のために最良と思える選択をしただけで。
 まるで戦いになど向かなそうな自身の心持ちに、シンジは力のない笑みを浮かべた。


シンジ(僕はこんなところで何をしてるんだろう……)
244 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/16(日) 21:26:21.66 ID:WGL7FOVlo

………………。

…………。

……。



ケロロ「一番乗りであります!」


 ミサトがドアを開けたと同時に滑り込むようにして玄関へと飛び込むケロロ。
 ここはミサトの住むマンションの一室。
 シンジたちにとっては新しい我が家といったところだ。


ケロロ「ゲーロゲロ!この家は我が輩が占領したであります!」

ミサト「コラ!ちょっと待ちなさいケロちゃん!」


 そう叫びながらケロロは廊下を曲がりリビングへと進む。
 慌てて後を追いかけるミサト。
 置いてけぼりをくらい、一人ドアの前で立ち尽くすシンジ。
245 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/16(日) 21:30:32.54 ID:WGL7FOVlo

ケロロ「うっわなにこれ!ゲロきたなっ!」

ミサト「うるっさいわねぇ、仕方ないでしょ?仕事が忙しかったんだから」

ケロロ「足の踏み場もないであります!地雷処理班に出動要請を!」

ミサト「いないわよそんなの。ほら、こっち来なさい」

シンジ「……」


 部屋から聞こえてくる二人がドタバタと暴れる音。
 やがてそれも止むと、荒い息づかいのミサトと、首根っこをつかまれ頭に大きなタンコブを作ったケロロがシンジの前に顔を出す。


ミサト「お、おまたせ……入っていいわよ」

シンジ「じゃ、じゃあお邪魔します……」

ケロロ「おっと待つでありますシンジ殿!いくらシンジ殿といえどここは我が輩の占領地!
入る際には『ケロン軍の領地に入らせていただきます』とひとこ――」

ミサト「言わなくていいわ」


 言葉の途中で顔面から壁に押し付けられるケロロ。
 もがもがと何かを喋ってはいるがもはやそれは聞き取れない。
246 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/16(日) 21:36:48.59 ID:WGL7FOVlo

ミサト「あ、でもやっぱり一言欲しいかも」

シンジ「え?」

ミサト「ただいまって言って欲しいわね。今日からここはシンジくんの家なんだし、挨拶って大事でしょ?」


 ニッコリと笑うミサト。
 シンジは少しの間ためらうと、遠慮ぎみに小声でただいまと口にした。


ミサト「はい、おかえりなさい」

ケロロ「おかえりなさいでありますシンジ殿!ここは一時休戦して二人でこの家をしんりゃ――」

ミサト「しなくていいからね」

シンジ「……はい」


 またもや壁に押し付けられる軍曹だった。
247 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/16(日) 21:42:09.07 ID:WGL7FOVlo

シンジ「……うわぁ」

ケロロ「シンジ殿、マスクを付けないと肺を菌糸にやられるでありますよ」

ミサト「ちょ、ちょっと散らかってるだけよ。仕事が忙しかったの」


 恥ずかしそうな顔で言い訳をするミサト。
 そんな彼女のとなりで二人は互いに顔を見合わせると、深いため息をついた。
 部屋は散らかりきっており、リビングには下着らしきものまで見える。


ミサト「ま、まぁ軽く掃除しておくからさ。シンジくんとケロちゃんは食べ物を冷蔵庫に入れておいてちょうだい」


 散らばった衣類や小物を手早く集めていくミサトを横目に、二人は言われた通り冷蔵庫を開けた。
 氷だらけの冷凍室、一面に並べられた缶ビール、無造作に押しこめられたつまみが少々。
 まるで生活感のない冷蔵庫である。


ケロロ「……飲み屋でも開いてるんでありますか?」

シンジ「そういう訳じゃないと思うけど……でも、どんな生活してるんだろ?」


 同居人の食生活のずさんさに不安を覚える二人だった。
 ネルフ本部で大見得をきった快適な生活というのがこれなのだろうかとシンジはあくせく動くミサトの背中を注視する。
248 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/16(日) 21:46:53.73 ID:WGL7FOVlo

ケロロ「それにしても……ミサト殿、こっちの冷蔵庫はなんでありますか?」

ミサト「あーそれ?そっちは開けなくていいわよ。多分まだ寝てるでしょうから」

シンジ「寝てる?」

ケロロ「ゲロ?」


 ケロロが指さす先には二人が開けたものより一回り大きな冷蔵庫があった。
 一人暮らしの家にあるものとしては不自然な冷蔵庫、一体なにが寝ているというのか。
 ミサトの口から出た奇妙な言葉に二人は首をかしげる。


ケロロ「……ハッ!まさかバラバラした」

ミサト「違うわよ!余計な詮索しないの!もうちょっとすれば自然に分かるから待ってなさい!」


 襖の向こうでドタバタと大きな音を立てて片付けをしていたミサトが顔を出す。
 ようやくひと段落ついたのか、額に大きな汗を浮かべながら達成感のある顔つきをしているミサト。
 どれだけ汚かったのだろうかとシンジはすこし興味がわいてしまう。
249 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/16(日) 21:50:54.66 ID:WGL7FOVlo

シンジ(こわいもの見たさってやつかな……)

ミサト「ん?どうしたのシンジくん」

シンジ「なんでもありません」

ミサト「そう?じゃあそろそろ夕飯にしましょうか」

ケロロ「そういえばお腹も減ってきたでありますな」


 言われてみればとシンジも自分の腹部をさすってみる。
 確かに、頼りない感じとともに空腹感のようなものが顔をもちあげてきていた。


シンジ「もう夜か……あれ、でも軍曹は食堂でご飯たべてたよね」

ケロロ「アレはアレ、コレはコレでありますよ」

ミサト「まぁまぁいいじゃない。二人はうちに来て初めての食事なんだから。さぁ準備しましょ!」


 威勢のよい掛け声とともに、三人は夕飯に向けて動き出した。
 つたない仲での、初めての共同作業だ。
250 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/16(日) 21:54:14.11 ID:WGL7FOVlo

……。

…………。

………………。


 薄暗い室内。
 ヒビ割れた強化ガラスの向こうには物言わぬ単眼の巨人が一体。
 エヴァンゲリオン零号機。


ゲンドウ「……」


 重苦しい沈黙。
 甘んじてそれを受け入れるかのようにゲンドウは直立している。
 ふと、後ろのほうでなにかの動く気配がした。
251 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/16(日) 21:58:03.55 ID:WGL7FOVlo

リツコ「レイの様子はいかがでした?」


 見知った女に向けてもゲンドウは愛想のない声で返事をしただけだった。
 慣れたものでそれを肯定と受け取るリツコ。
 ゲンドウが忙しい執務の合間をぬってレイと会っていたことなど彼女は既に知っている。


リツコ「病院には行かれたのでしょう?」

ゲンドウ「経過は順調のようだ。あと二十日もすれば動けるようになる」

リツコ「それまでには零号機の再起動を?」

ゲンドウ「無論だ」


 当然だと言わんばかりのゲンドウ。
 視線の先には、硬化ベークライトによって下半身を固められた零号機の姿が。
 苦しみを表すかのような動きのまま固まったエヴァ。
252 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/16(日) 22:03:44.41 ID:WGL7FOVlo

リツコ「サードチルドレンのことですが」

ゲンドウ「……」


 隣に立つゲンドウの体にわずかに力が入るのを、リツコは目ざとく感じ取る。
 おくびにも顔に出さない心の乱れ。
 それは逆に、彼の動揺を如実に表しているもののようにも見えて。


リツコ「葛城一尉が彼と同居することになりましたが、よろしかったのですか?」

ゲンドウ「……シンジには彼もついている。問題ない」

リツコ「まさかあのケロン人がサードチルドレンと接触しているとは思いませんでしたわ」


 自分は必要ないと口にするゲンドウ。
 だがそれを決めるのは誰なのだろうか。碇シンジ本人ではないのだろうか。


リツコ(臆病な人……)
253 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/16(日) 22:09:14.88 ID:WGL7FOVlo

 射抜くような眼光と相手を威圧する外見からは考えられないような弱々しさ。
 逃げているのはどちらなのだろうか。リツコは思案する。
 だが彼女自身も親という存在のあるべき姿を知らずに育った人間でもあった。


リツコ(理屈じゃないのよね)


 答えの出ない問題をいつまでも脳裏に住まわせておくほど彼女の頭は暇ではない。
 数秒で思考を切り替え、リツコは改めて前を向いた。



………………。

…………。

……。
254 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/16(日) 22:12:56.25 ID:WGL7FOVlo

シンジ「ふぅ……」

ケロロ「げろぉ……」


 風呂は命の洗濯だ。
 夕飯をともにしたミサトがほろ酔い顔で言ったことをシンジは思い出す。
 たしかにひと目を気にせずに足を伸ばせるこの場所は、リラックスするにはおあつらえ向きだ。


ケロロ「シンジ殿」

シンジ「どうしたの、軍曹?」


 シンジと向かい合う形で、足のつかない湯船に器用に浮かぶケロロが声をあげる。
 いつもかぶっている帽子が西洋の音楽家のようにクルリと綺麗に丸まっており、なんとも珍妙な姿だ。


ケロロ「パパ殿とはケンカでもしているのでありますか?」

シンジ「……そんなのじゃないけど……」


 口元を湯船に浸して語尾を濁すシンジ。
 言葉にしてしまってはそれが本当になりそうで、なにに対してそうなるのかも分からずに怯えてしまう。
255 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/16(日) 22:18:09.43 ID:WGL7FOVlo

ケロロ「ちなみに我が輩は父上がいっとう苦手でありますよ」

シンジ「そうなの?」

ケロロ「言ってなかったでありますか?我が輩の父上はそれはもう厳しい人で……今でも顔は合わせづらいでありますなぁ」


 しみじみとそう語るケロロ。
 閉じたまぶたの向こうには、はるか彼方のケロンの空が。


シンジ「……軍曹は、お父さんのことが嫌いだった?」

ケロロ「ゲロ?そんなことはないでありますよ。なんのかんのと言っても家族であります。そう簡単に嫌えるものじゃあないでありますよ」

シンジ「簡単には嫌えないか……そうだね、うん……」


 消え入りそうな声。
 最後のつぶやきはシンジの口を出ることばく、湯船をかすかに波打たせるだけで終わった。



 ――嫌えたら、楽なのにね。
256 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/16(日) 22:23:46.43 ID:WGL7FOVlo

……。


 湯上りは人を美しく見せる。
 年頃の内気な細身の少年も、緑色のケロン人も。


シンジ「いいお湯だったね」

ケロロ「ま、ペコポンの湯も中々でありますな」


 ほこほこと暖まった体をタオルで拭きながら、ケロロはご満悦といった表情でゲロリと鳴いた。
 髪について滴を拭いながらシンジはなにげなく上を向く。
 そこには干しっぱなしの下着類の数々が。扇情的な色合いの薄布にシンジの顔が赤くなる。


ケロロ「どうしたでありますか、シンジ殿?」

シンジ「……なんでもない」


 単純に気付いていなかったのか、それとも自分をまだ子供だと思っているのか。
 詮もないことを考えながらシンジは寝間着代わりのシャツを湯上りの体に着込む。
 ほかほかとした湯気を頭から上げながら二人はリビングへと顔を出した。
257 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/16(日) 22:28:19.07 ID:WGL7FOVlo

ペンギン「……」

シンジ「……」

ケロロ「……」


 ミサトさん、と声をかけようとして口を開けたまま、シンジは動きを止めた。ケロロも彼と同じように硬直している。
 予想していなかった生き物との対面。
 そこには、リビングに堂々と座る一体のペンギンが。
258 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/16(日) 22:32:14.31 ID:WGL7FOVlo

ペンギン「クワァ」

シンジ「――ッ!?」

ケロロ「ゲロッ!?」


 沈黙を破ったのはペンギンの方だった。
 整髪剤のCMに出てきそうなとんがった頭を震わせてよく通る鳴き声をあげる。
 素早く脱衣所に引き返す二人。まるで里に降りてきた狐か狸のようだ。


シンジ「な、なに!?なにアレ!?」

ケロロ「ししし知らないであります!ペコポンにはあんな生き物がいるのでありますか!?」

シンジ「ぺぺぺペンギン!ペンギンだよアレ!でもなんでペンギンがこんなところにいるの!?ミサトさんは!?」

ケロロ「あれがミサト殿の正体なのでありますか!?」

シンジ「そんな訳ないよ!」


 しゃがんだシンジと背伸びしたケロロは互いに顔を突き合わせる。
 互いにあれはなんなのだと話し合うものの、納得のいく答えなど出ない。
 年上の同居人が風呂から上がればペンギンになっていたのだ。無理もないだろう。
259 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/16(日) 22:36:43.21 ID:WGL7FOVlo

ペンギン「クワッ!」

ケロロ「シンジ殿、後ろ!」

シンジ「うわぁっ!?」


 シンジのすぐ後ろにはさっきのペンギンがのっそりと立っていた。
 しゃがんでいたせいで顔の高さがちょうど一致した為か、もの凄い威圧感を覚えるシンジ。
 初めて間近で見た動物の顔に体が縮こまる。そんなシンジの前にケロロが颯爽と躍り出た。


ケロロ「ここは我が輩に任せるであります!ペコポンの野生動物など、宇宙にすくう怪獣どもに比べたらヘでもないであります!」

シンジ「軍曹!」

ケロロ「ゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロ」

ペンギン「くわぁ?」
260 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/16(日) 22:44:14.96 ID:WGL7FOVlo

 両手を大きく広げて共鳴を始めるケロロ。
 いきなり現れた緑色の生き物の行為に首を捻るペンギン。
 なんとも小さな怪獣大決戦が、マンションの脱衣所で繰り広げられていた。


ケロロ(ほぉれ怖いだろう!威嚇でありますよ!前にシンジ殿と見たテレビで動物はこうやって相手を脅かすと言っていたであります!)

ペンギン「……」

シンジ「ぐ、軍曹?」

ケロロ(グヌヌ……早く涙をちょちょぎらせて逃げるであります!)

ペンギン「……クワクワクワクワクワクワクワクワ」

シンジ・ケロロ『――ッ!?』
261 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/16(日) 22:48:15.12 ID:WGL7FOVlo

 それはまさに衝撃という他がなかった。
 ケロロは後に語る。まさかペコポンにも共鳴を使える生き物がいたとは、と。
 シンジは後に語る。共鳴できるのはケロン人だけ、そう思っていた時期が僕にもありました、と。


ケロロ(ま、まさかこのような事が――!だ、だがしかし!我が輩が一番共鳴をうまく使えるんだぁーっ!)


 ケロン人の誇りをかけて全力を出そうとするケロロ。
 だがペンギンも負けてはいなかった。声のトーンをあげ、両手をひろげて存分に体を大きくみせる。


ケロロ「ゲロゲロゲロゲロゲロゲロ」

シンジ「……」

ペンギン「クワクワクワクワクワクワクワクワ」

シンジ(……ミサトさん、早く帰ってこないかなぁ)


 若干の余裕を取り戻したシンジは、二人の邪魔にならないように脱衣所の壁によりかかりながらそんな事を思うのだった。
262 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/16(日) 22:51:42.16 ID:WGL7FOVlo

……。

…………。

………………。



ミサト「うん、そう……見透かされてる感じはあるわね。やっぱり司令の子だわ」

ミサト「ケロちゃんの方は裏もなにもあったもんじゃないでしょ。どっちかっていうとアンタのところのクルルの方が問題アリって感じじゃない?」

ミサト「……そうね、うん。二人?あの子たちならお風呂よ。ちょっち聞かれたくないから外でかけてるの」

ミサト「どういう意味よそれ……うん、そっか……まぁそっちも上手くやらないとまずいわよね」

ミサト「なんとか頑張ってみるわ。私から言い出したんだし」

ミサト「えぇ、じゃあね」


 生暖かい夜風。
 静まり返った辺りの光景は、先日の戦いとは無縁のようにも思える。
 だが今もそこかしこの暗闇からはサードチルドレンに向けられた監視の目が光っている。
263 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/16(日) 22:56:12.31 ID:WGL7FOVlo

ミサト「仕事とはいえ大変よねぇ」

ミサト(使徒との戦いはまだ終わってないし、仕方ないか)


 後どれくらいの数がいるのだろうか。ミサトには分からない。
 だがどれだけいようと全て倒さねばならないのだ。
 負けた方が滅びる。生存のための、単純な理屈。


ミサト(……思ってたより、嬉しくないものね)


 エレベーターが降りてくるのを待つ。
 階数表示の赤い数字が発令所に写る情報表示のモニタを連想させる。
 自分もまだあの戦いから戻りきれてないのだなとミサトは苦笑した。


ミサト(かたき討ちなんて、こんなものなのかしら……)


 もう戻ってこない人たちの顔が頭をよぎる。
264 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/16(日) 22:59:57.49 ID:WGL7FOVlo

ミサト「……うん?」


 玄関に入ると共にミサトの耳に奇妙なメロディーのようなものが入り込んできた。
 抑揚のないそれは発令所で聞いた共鳴ととてもよく似ている。
 なにかあったのかと音のする方に向かうミサト。


ミサト「ちょっと二人とも、なにかあったの?」

シンジ「あ、ミサトさん」

ミサト「シンジくん……って、これはどういう状況なわけ?」


 ミサトの姿を確認したシンジが喜びの混じった返事をした。
 対してミサトはすでに眉をひそめている。
 それもそうだろう、足元ではケロロとペンギンが謎の共鳴合戦を繰り広げているのだから。


ケロロ「ゲロゲロゲロゲロ」

ペンギン「クワクワクワクワ」


 互いに一歩も引かないといった様相の二人。
 ケロロの頬を流れる汗がひとしずく、床に落ちる。
 ペンギンもすでにその仕草には余裕が感じられず、上げた両手はかすかに震えている。
265 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/16(日) 23:07:43.07 ID:WGL7FOVlo

ミサト「止めなさいペンペン。ケロちゃんも変なことで張り合わないの」

ペンペン「クワァッ?」

ケロロ「げろっ、ミサト殿?」


 後ろから抱えあげられるようにしてどかされたペンギン、名をペンペン。
 突如として始まった共鳴合戦は不意の乱入者の存在により終わりを迎えた。


シンジ「ミサトさんのペットなんですか?」

ミサト「同居人よん。さっきまだ寝てるって言ったのはこの子の事よ。新種の温泉ペンギンで名前はペンペン」

ペンペン「クエッ」

シンジ「ど、どうも」


 挨拶するように片手をあげるペンペンに、シンジは思わず頭を下げる。
266 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/16(日) 23:18:55.50 ID:WGL7FOVlo

ケロロ「それにしても驚いたであります……まさかペコポンにもここまで共鳴のできる生き物がいたとは」


 額の汗をぬぐいつつそう語るケロロ。
 そんな彼に向けてペンペンがスッと右手を差し出した。


ケロロ「げろっ?なんでありますか?」

ペンペン「クワッ!」

シンジ「……握手ってことじゃないかな」


 そっと耳打ちされた言葉に合点がいったのか、ケロロはポンと手を叩く。


ケロロ「よろしくでありますペンペン殿!」

ペンペン「クゥワッ!」


 熱い握手を交わす二人。その目にはすでに互いしか写ってはいない。
 今ここに星を超えた新たな友情が結ばれた。


ミサト「……よく分からないけど、おめでとうとか言えばいいのかしら」

シンジ「……多分」


 感極まって抱擁するケロン人と温泉ペンギン。
 その様を眺めていたシンジとミサトは力の無い拍手を送ったのだった。
267 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/16(日) 23:25:05.63 ID:WGL7FOVlo

………………。

…………。

……。



 電気を消した室内。窓から差し込む月明り。
 ミサトから与えられた私室。少ないながらも私物の運び込まれたそこは半分物置のようになっている。
 シンジのベッドから少し離れた布団には緑色の背中が横たわっていた。


シンジ「……起きてる?」

ケロロ「寝てるであります」

シンジ「起きてるじゃないか」

ケロロ「ゲロ、ばれたでありますか」


 互いに寝返りをうつ。
 向かいあう顔と顔。
268 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/16(日) 23:28:43.23 ID:WGL7FOVlo

シンジ「ねぇ軍曹……僕たちこれからどうなるのかな」

ケロロ「まだ使徒との戦いは終わってないとクルルたちは言っていたでありますなぁ」

シンジ「……人類のためだって言われてもピンとこないし、なんの為にあんなのと戦わないといけないんだろう」


 沈み込む表情。
 少しでも思考すれば、嫌なことが頭を巡る。


ケロロ「大丈夫でありますよ。クルルがいるし、いざとなればケロン星の科学力をもって使徒をちょちょいのちょいであります」

シンジ「そうなの?」

ケロロ(多分だけど)


 心の声を押し殺してケロロは一度だけゲロリと鳴いた。
 出来るだけ肯定に受け取ってもらえるように。
 こすい考えである。
269 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/16(日) 23:33:17.90 ID:WGL7FOVlo

ケロロ「何事もやってみるでありますよ。上手くすれば地球を救ったヒーローになれるかもしれないであります。まさに男のロマンっしょ」

シンジ「……僕はそういうのに興味ないよ」

ケロロ「ゲロ?ならシンジ殿は何になりたいのでありますか?」

シンジ「なりたいっていうか……父さんと、仲良くなりたい……かも」


 消え入りそうな声。
 二人きりの夜だから語れる本音も、まだ少し気恥ずかしい。
 半分枕に顔をうずめるシンジ。


ケロロ「ゲロゲロ、良いことでありますな。ならばもう少しエヴァに乗ってみた方が良いでありますよ、シンジ殿」

シンジ「どうして?」

ケロロ「付き合いというのは接した時間の長さが影響するもの……
パパ殿と仲良くなりたいのならば、少しでも長くエヴァやネルフと関わっておいて損は無いであります」

シンジ「……そっか、うん……分かった」

ケロロ「ちなみに父上からの受け売りであります」

シンジ「なぁんだ」
270 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/16(日) 23:37:13.39 ID:WGL7FOVlo

ケロロ「しかしパパ殿はシンジ殿とは似ても似つかない顔でありましたなぁ……なんというか、眼鏡をかけた痩せタヌキのようであります」


 痩せタヌキという言葉に思わず吹き出してしまうシンジ。
 苦手だと感じていた父の顔にタヌキのイメージが重ねられていくのは、思いのほか破壊力が高かったようだ。


シンジ「止めてよ軍曹、次に会ったら笑っちゃうかもしれないじゃないか」

ケロロ「笑ってもいいでありますよ。仏頂面だし、少しくらい笑顔を分けてやればいいであります」

シンジ「笑う?父さんが?」

ケロロ「笑わないのでありますか?」

シンジ「……見たことないや。父さんが笑うところ」


 あれほど笑顔の似合わない男もいないだろうなとケロロは思った。
 無愛想が服を着ているような男だ。


ケロロ「ま、なんにせよ時間はかかりそうでありますな。使徒退治もパパ殿との仲も、長期戦で臨む覚悟がいるでありますよ」

シンジ「……一人で?」

ケロロ「我が輩も一緒であります」

シンジ「……ん。なら、いいや」

ケロロ「何がでありますか?」

シンジ「なんでもない……お休み、軍曹」

ケロロ「ゲロ、お休みでありますシンジ殿」
271 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/16(日) 23:40:20.64 ID:WGL7FOVlo

 きっと大丈夫だ。
 不安は今でも拭えない。諦めはまだ払えない。
 それでもこうして自分を慰めるくらいの余裕はできた。


シンジ「……」


 誰にも聞こえぬ感謝を述べて、少年は目を瞑る。
 見知らぬ天井。見知った隣人。
 二人の影は寄り添うように。
272 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/16(日) 23:43:02.44 ID:WGL7FOVlo

 新世紀エヴァンケロオン

 第七話

 見知らぬ、天井 であります



 それは拙い願いの物語
273 : ◆T6URQJJiS6 [sage]:2012/09/16(日) 23:44:32.13 ID:WGL7FOVlo
本日分は終了しました。

ミサトさんはアル中かわいい。
274 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/09/16(日) 23:50:39.05 ID:jbjFgp4AO
乙乙乙〜

新劇版Qはここですか
275 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/16(日) 23:53:10.64 ID:JLaomE0yo
276 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/09/17(月) 09:35:46.34 ID:esR8Rmjno

書き溜めあるんだったらガンガン書き込んでもいいんやで
277 : ◆T6URQJJiS6 [sage]:2012/09/17(月) 11:51:23.31 ID:rsCkSAlVo
>>274
Qはやく見たいですねー
楽しみです


>>276
書き溜めが無いなんて言えるわけないじゃないですかヤダー
278 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2012/09/17(月) 14:20:00.58 ID:bhUqqocAO

共鳴に笑った
279 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛媛県) :2012/09/17(月) 23:23:51.41 ID:cNdrIKOe0
六話乙。グラサン外すとシンジとマダオが絶妙に入り混じった顔してんだよなあのオッサン
280 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/18(火) 02:30:10.65 ID:LO1qCdkDO
乙!

>>279
ゲンドウとマダオときたら銀魂クロスを思い出してしまう……
281 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/18(火) 08:02:12.57 ID:RRHcitdSO
282 : ◆T6URQJJiS6 [sage]:2012/09/23(日) 18:08:33.20 ID:3pT29/hjo
今日の夜に投下する予定です
283 : ◆T6URQJJiS6 [sage saga]:2012/09/23(日) 21:31:39.18 ID:x7P0aZtxo

 ここは第九九六研究室。
 クルルのラボとしてネルフよりあてがわれた部屋だ。
 照明を落とし、ディスプレイからの光で妖しく照らされる室内からは聞きなれた声がする。


ケロロ「クールールー」

クルル「なんスか」

ケロロ「あのさぁ……キミ、あの赤木って博士になんか言った?やけに実験だの解析だのって追っかけまわされるんですけど……」

クルル「さぁ〜?気のせいなんじゃねぇの〜?」


 明らかに何かを知っていそうなクルルの声色。
 そういえばこんな奴だったなとケロロは肩を落とす。


クルル(はぁ〜、隊長が来てからあのペコポン人の興味が俺に向かなくなって楽だわ〜)


 実際のところ、ケロロの予想どおりクルルはリツコ相手にそれとなくケロロへの興味をあおっていたのだ。
 もちろん、自分への興味を分散させるために。
284 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/23(日) 21:34:15.26 ID:x7P0aZtxo

クルル「そういや隊長、本部から催促きてたぜぇ。ペコポン侵略の中間報告、ずっとサボってたろ」

ケロロ「シンジ殿の家にいてそれどころじゃなかったんでありますよ……
仕方ない、でっちあげるであります。クルル、我が輩が戦った時の映像かしてー」

クルル「はいよ」

ケロロ「使徒がいなくならないとペコポン侵略も出来ないでありますからなぁ。いやー困った困った」


 そう言いながらケロロは大きなあくびをひとつ。
 気の抜ける声に呼応するように笑うクルル。呑気な侵略者たちである。
 そんな彼等を怒鳴りつけるかのように、耳障りな音が辺りに鳴り響いた。


ケロロ「な、なんでありますかこの音は!?ちょううるさいんですけど!」

クルル「先輩からの定時連絡」

ケロロ「先輩って……もしかして赤ダルマ?」

クルル「もちコ〜ス。返信するかい?」

ケロロ「……パスで」

クルル「りょうかい。クーックックックッ」


 画面いっぱいにうつる吊り目がちなケロン人をクルルはボタンひとつで消し去った。
 ケロロはそっぽを向いて見なかったフリを決め込んでいる。
 ネルフ本部、ケロン人たちは相も変わらず呑気な一日を過ごしていた。
285 : ◆T6URQJJiS6 [sage saga]:2012/09/23(日) 21:35:40.12 ID:x7P0aZtxo

……。

…………。

………………。



リツコ「じゃあもう一度、最初から確認するわね」

シンジ「……は、はい!」

リツコ「緊張しなくてもいいわ。兵装ビルの配置、エヴァ射出口の位置、搭載された武装の種類とそれぞれの特徴……
頭に入れておくのは最低でもこれくらいかしら」

シンジ「多いですね……」


 頼りない口ぶり。
 中学生に多くを期待しずぎているのかもしれないが、これも人類を守るためだとリツコは己に言い聞かせる。


リツコ「それでも戦うためには必要なのよ。なるべくはやく頭に入れておいてちょうだい」


 モニタ越しにあいまいな顔でうなづくシンジ。
 これ以上この話を続けてもあまり意味がないと判断したリツコは今日の訓練を行おうとマヤに手の動きだけで指示を飛ばす。
 それを受け取り素早くコンソールを叩くマヤ。
286 : ◆T6URQJJiS6 [sage saga]:2012/09/23(日) 21:37:10.89 ID:x7P0aZtxo

リツコ「まぁいいわ。そろそろ訓練を開始します」

シンジ「はい」

リツコ「通常エヴァは有線からの電力供給で稼働しています。
非常時に作動する体内電池での稼働はもって五分、フルなら一分しかないわ」


 淡々と語るリツコの口ぶりに、シンジはたった五分かと何気なく呟いた。


リツコ「私も短いと思うわ。でもこれが今の科学における限界なの」

シンジ「あの……軍曹たちに手伝ってもらえないんですか?
クルルって人ならもっと長持ちさせられそうだなーと思ったんですけど……」

リツコ「良い着眼点ね。でもそれはムリよ。
私たちも何度か彼に協力を頼んでみたのだけれど、そう簡単には手の内を明かしてくれないのよね」

シンジ「手の内?」

リツコ「ケロン人からしてみれば私たちも侵略対象なのよ。
下手に自分たちの技術を見せてこちらに力をつけさせる必要もないと考えているんでしょう」


 リツコの言葉はもっともなものに聞こえた。
 だがシンジは首をひねる。
 ここで受けた説明によればエヴァが使徒に負けるとサードインパクトによって地球は滅びてしまうはずだ。


シンジ(誰もいなくなった地球なんて侵略して、どうするんだろう)
287 : ◆T6URQJJiS6 [sage saga]:2012/09/23(日) 21:38:34.71 ID:x7P0aZtxo

 そんな風にシンジが物思いにふけっている間に、周囲にはエントリープラグの白い内壁ではなく第三新東京市が浮かび上がってきた。
 マヤが起動させた訓練システムによる立体映像だ。


シンジ「すごい……」

リツコ「射撃訓練を開始するわ。インダクションモード……簡単にいえばコンピュータ制御ね、これでエヴァをサポートします」

シンジ「目標がセンターにきたら撃てばいいんですね」

リツコ「そうよ。じゃあ初めてちょうだい」


 合図と共に、立体映像として映し出された第三新東京市に目標が出現した。
 先日戦った使徒、サキエルだ。
 ビルの影からゆっくりと初号機に歩み寄るサキエル。


シンジ「目標をセンターにいれて、スイッチ」


 振動音と共に仮想の弾丸が使徒の胸元へと吸い込まれるようにして飛んでいく。
 まるでゲームみたいだとシンジは頭のすみで考えた。


シンジ(軍曹、こういうの好きそうだな……)

リツコ「ほら、集中なさい」

シンジ「あっ、す、すみません」
288 : ◆T6URQJJiS6 [sage saga]:2012/09/23(日) 21:39:25.42 ID:x7P0aZtxo

 気づけば新しいサキエルが別方向からのっそりと姿を現していた。
 慌てて銃口をそちらに向けるシンジ。
 なんとも危なっかしい動き。まだまだ訓練が必要そうである。


マヤ「それにしてもシンジくん……よく乗る気になってくれましたね」

リツコ「無理やり乗せたようなものよ」


 複雑な表情のリツコ。
 それはシンジに対する置き所のない心のせいか、はたまた動きの悪い初号機のせいなのか。
 隣に座るマヤにはうかがい知れなかった。



………………。

…………。

……。
289 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/23(日) 21:40:25.37 ID:x7P0aZtxo

シンジ「もう、いい加減に起きて下さいよミサトさん」

ミサト「あと五ふん」

シンジ「さっきも聞きました」


 問答無用に布団を引っぺがされるミサト。
 まだ眠っている体を無理やり起こし、大きなあくびをひとつ。
 初対面とはあまりに違っただらしのない仕草にシンジはため息をついた。


ミサト「んー……おはよ、シンちゃん」

シンジ「おはようございます、ミサトさん」

ケロロ「げろー!し、シンジ殿!お味噌汁が吹きこぼれてるんですけどぉ!鍋が!鍋がぁ!」

シンジ「あ!ごめん軍曹!」

ミサト「ヤケドしないようにね〜……ふあぁ」


 葛城家の朝は早い。
 早起きのシンジが朝食の準備を整え、その音と匂いにつられてケロロが目を覚ます。
 最後にシンジがミサトを布団から起き上がらせれば朝食の時間だ。
290 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/23(日) 21:42:08.96 ID:x7P0aZtxo

シンジ・ケロロ・ミサト『いただきます』


 三人揃って朝の挨拶。
 出来立ての朝食はまだ湯気をたてて美味しそうな匂いを食卓に溢れさせている。
 ニュース番組をBGM代わりに食事を進める三人。


ミサト「あ〜シンちゃん、ビールとってもらえる?」

シンジ「またですか?朝からお酒飲んで……」

ミサト「だってこれが無いと人生の楽しみが半減しちゃうんだもん。お願い!このとーり!……ね?」


 手を合わせて必死に拝み倒すミサト。
 シンジは一本だけですよと念を押して冷蔵庫を開く。


ミサト「ありがとシンちゃん!」

シンジ「軍曹もなにか飲む?」

ケロロ「げろ? それならお茶をお願いするであります」
291 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/23(日) 21:43:43.84 ID:x7P0aZtxo

 朝というものは何かと早く時間が過ぎていくものだ。
 食事を終えたシンジは手早く身支度を整えると、鞄を持って玄関に向かった。


シンジ「それじゃあミサトさんに軍曹、いってきます」

ケロロ「行ってらっしゃいであります」

ミサト「勉強がんばってねぇ〜」


 玄関からリビングに向けてひと声かけるシンジ。
 ケロロは洗い物をしながら、ミサトは食卓で缶ビールを片手に各種報告書のチェックをしながら返事をする。
 しまるドア。遠ざかる足音。こうして朝の喧噪はひと段落を迎える。


ケロロ「洗い物おわり!」


 タオルで手をぬぐったケロロは壁にかけられた紙に書き込みをしていく。
 三人の名前と曜日の記された家事の当番表だった。
 炊事、洗濯、掃除と三つにわけられた家事を三人で分担しているのだ。


ケロロ「ミサト殿、今日は掃除当番でありますよ」

ミサト「分かってるわよん。これ確認したら洗濯機うごかすから」


 缶ビールをちびちびと飲みながら何枚もの報告書に素早く目を通していく。
 ニュースが血液型占いの結果を流している中、リビングにおかれた電話がコール音を鳴らし始めた。
292 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/23(日) 21:45:33.12 ID:x7P0aZtxo

ミサト「はい葛城です……なぁんだリツコか」

リツコ「あら、あなた起きてるの? 珍しいじゃない。てっきり寝てるのかと思ったのに」

ミサト「布団に入ったのは明け方だから、まぁ眠いわね」


 大きなあくびをするミサト。
 受話器越しに聞こえる同僚の間の抜けた声にリツコは苦笑する。


リツコ「早起きの習慣でもつけるようにしたのかしら。 彼氏のおかげ?」

ミサト「彼氏? ……あぁ、シンジくんのこと? あの子が起こしてくれるってのもあるわね、朝ごはん作ってくれるし」

リツコ「あら羨ましい。 彼、家事も得意なのね」

ミサト「当番制だけどね……後、シンジくんがいない時に寝ちゃうとケロちゃんが勝手に遊びだすからさぁ」

リツコ「それにしても意外だわ。ミサトがちゃんとした生活をしてるだなんて」

ミサト「失礼ね……と言いたいところだけど、それに関しては何も言えないわね。シンジくん達が来てから部屋も綺麗になったし」


 そう言いながらぐるりと部屋を見渡す。
 ほんの半月ほど前まではあちこちに散らかった衣類とビールの空き缶、それにゴミ袋で汚かった部屋も今はすっかり綺麗になっている。
 改めて同居人のありがたみを感じるミサトだった。
293 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/23(日) 21:47:01.70 ID:x7P0aZtxo

リツコ「ふぅん……とりあえず自宅では明るく過ごせてるってことね」

ミサト「どうしたのよ一体」

リツコ「訓練の時にモニタをしているのだけれど、あの子いつも精神的に不安定なのよ」

ミサト「前のこともあるし、無理もないんじゃないの?」

リツコ「それは分かっているのだけれど……とりあえず家の方ではどうかなと思って確認してみたの」

ミサト「あの子、慣れてない相手にはけっこう奥手だと思うわよ」

リツコ「そうなのかしら」

ミサト「ねぇケロちゃーん」

ケロロ「なんでありますか?」


 受話器から耳を離したミサトはテレビをぼんやりと眺めている緑色の背中に声をかけた。
 政治家の国税についての答弁から目を離すケロロ。
294 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/23(日) 21:48:36.62 ID:x7P0aZtxo

ミサト「シンちゃんって性格的には内気な方よね」

ケロロ「よく知らない相手に対してはそうでありますなぁ。ま、我が輩やミサト殿みたいに慣れた相手だと普通でありますよ」

ミサト「だって」

リツコ「……分かったわ。こちらでも考慮してみます。そっちもパイロットの精神ケア、よろしくね」

ミサト「りょうかーい」


 電話を切って元にもどす。
 ミサトの耳の奥にはケロロの言った言葉が渦巻いていた。


ミサト「たしかに人付き合いには若干の難ありって感じよねぇ」


 目の前に重ねられた書類の束。
 その中の一枚、碇シンジ所有の携帯電話の通話記録。
 見事なまでの白紙、使用していないという事態にミサトは難しい顔をした。


ミサト「あの子、もしかして友達とかいないのかしら……」
295 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/23(日) 21:51:02.51 ID:x7P0aZtxo

……。

…………。

………………。



 シンジは少しばかりクラスから浮いていた。
 つい先日起こった使徒との戦い。疎開を始める者も多くなる中での転入生。
 そんな馴染みにくい状況の中、彼自身もクラスに溶け込もうとはしていなかったのだ。


シンジ「……」


 休み時間。シンジは窓からグラウンドを見下ろす。
 楽しそうに遊ぶ生徒たちを眺めつつ、シンジは首を横に振る。


シンジ「学校のみんな、どうしてるんだろう」


 この学校が嫌な訳ではなかった。
 しかしそう簡単に今まで一緒に過ごしてきた友達のことを忘れることもできない。
 なんとなく感じる居心地の悪さ。


シンジ「はぁ……」


 物憂げな表情を浮かべたシンジはイヤホンを耳に挿し、ひと時の逃避に走るのだった。
296 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/23(日) 21:51:53.67 ID:x7P0aZtxo

……。


 国連軍の戦闘機を模したプラモデル。
 持ち主であるメガネをかけた少年、相田ケンスケはそれを手に取りつつハンドカメラでその動きを撮影している。
 満足したのかケンスケがカメラを降ろすと、机の向かい側には一人の少女が立っていた。


ケンスケ「委員長じゃないか。どうしたんだよそんな機嫌の悪そうな顔して」


 委員長と呼ばれた少女、洞木ヒカリはその言葉に眉をしかめる。
 後ろで二つにくくった髪の毛にそばかすの浮いた頬。
 ヒカリはハキハキとした口調でしゃべりだした。


ヒカリ「別に悪くないわよ。それより相田くん、鈴原にプリント渡してくれた?」

ケンスケ「プリント?……あ、あぁ、それならなんか、トウジのやつ留守らしくってさ」


 愛想笑いを浮かべながらプリントを丸めて机の奥へと押し込むケンスケ。
 そんな彼の行動には気付かなかったのか、ヒカリは頬に手を当てる。


ヒカリ「どうしちゃったんだろう鈴原……もう二週間にもなるのに」

ケンスケ「大ケガでもしたのかなぁ」
297 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/23(日) 21:54:09.54 ID:x7P0aZtxo

 腕組みをして冗談はんぶんにそう口にする。
 ヒカリの方は真に受けたようで、怯えたような顔つきをしている。


ヒカリ「ええっ、それって例のロボット事件で?テレビじゃ一人もいなかったって……」

ケンスケ「あっ、冗談だよ冗談……トウジがそんなことになる訳ないって」

トウジ「誰がどないなるゆうねん」


 突然ケンスケの両肩にかかる重み。
 ジャージ姿の少年、鈴原トウジはヒカリに向けて軽く手を上げて挨拶した。


トウジ「おはようさん委員長、ついでにケンスケも」

ヒカリ「もう、二週間も休んでなにしてたのよ」

ケンスケ「そうだぞお前。委員長が心配してたじゃないか」


 顔を赤くしたヒカリに頭を叩かれるケンスケ。
298 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/23(日) 21:56:12.81 ID:x7P0aZtxo

トウジ「妹がちょっとな……この前のロボット事件あったやろ、あの時に瓦礫に巻き込まれて足を折ってしもてん」

ケンスケ「マジかよ」

ヒカリ「妹さんは、今だいじょうぶなの?」

トウジ「あぁ、今は問題あらへん。センセも後遺症みたいなんは無いゆうてくれはったしな。
ただうちはオトンもオジィも研究所勤めやろ、ワシがおらなアイツひとりぼっちになってまうもんやから、学校は休ませてもらっとったんや」


 口調は軽くともその顔は笑みを浮かべてはいなかった。
 歯の奥に何かが詰まったような、難しい顔をしている。


トウジ「それにしてもなんや、ずいぶん減ったみたいやな」


 教室を見渡しての一言。
 トウジの言葉どおり、そこかしこに空席が目立っている。
 彼のように休学している者もいれば家庭の事情により疎開を始めた者もいるのだ。

ケンスケ「街中で戦争されちゃあ疎開もするさ」

トウジ「お前ちょっと喜んどるやろ」

ケンスケ「バレた?」

トウジ「バレバレやっちゅうねん。生のドンパチ見れるゆうてはしゃいどったんはお前やないか」


 冗談まじりで力の入っていない関節技をかけるトウジ。
 ケンスケは参った参ったと彼の腕を二度軽く叩いた。

299 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/23(日) 21:57:55.92 ID:x7P0aZtxo

トウジ「あーそれにしてもホンマに腹立つわ……
あのロボットのパイロットはどないなっとんねん。お前が乗った方が上手いこと動かせるでアレ」

ケンスケ「さんざんだったからなぁ」

トウジ「味方が暴れてどないすんねん、あんのドアホ」

ケンスケ「……なぁトウジ、そのことなんだけどさ……」


 そういって何かを耳打ちするケンスケ。
 二人の視線はチラチラとシンジの方へと向けられている。
 トウジの表情は固い。


トウジ「……それホンマなんか?」

ケンスケ「さぁー、確証はないけれど怪しくない?」

トウジ「……」


 もし、そうだったら。
 自然と手に力が入る。
 いつの間にかトウジは拳をきつく握りしめていた。



………………。

…………。

……。
300 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/23(日) 21:58:58.52 ID:x7P0aZtxo

 年老いた教師は語る。
 日本に四季があり、陸地が削られる前の、人類が今よりも多く生存していた時代。
 チルドレンが生まれる前の世界。前世紀の想い出。


老教師「……このように、かつての地球には今よりももっと多くの動植物が暮らしていたのです」


 もう何度目かも分からない話。
 聞き飽きた生徒たちは皆おもいおもいの方法で時間を過ごす。
 シンジも教科書に載っている昔話を適当に聞き流しながらパソコンのモニタをぼんやりと眺めていた。


シンジ「……ん、なんだろ」


 すでに解き終わった数式の横に開いていたウィンドウに並ぶメッセージ。

 ―― 碇くんがあのロボットのパイロットというのはホント? ――


シンジ「えっ?」
301 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/23(日) 22:00:10.08 ID:x7P0aZtxo

 誰が送ったのかと辺りを見回せば、後ろの席に座る女生徒が二人。
 どこから漏れたのだろう。
 口を割った覚えなどないのに、とシンジは思い悩む。


シンジ「どうしよう……」


 返答をしかねていると追送のメッセージが。
 内容は同じ。急かされているような感覚。
 守秘義務という言葉があるものの、ここでノーといってしまえば嘘をつくことになる。


シンジ「……」


 返信される、イエスの言葉。
 何故そう送ったのか、もしかしてエヴァのパイロットと分かれば友達が出来るかもしれないという淡い期待からか。
 どちらにしろ、もう事態は戻れそうにない。


クラスメイト『えぇーっ!?』


 四方八方から聞こえる悲鳴にも似た驚きの声。
 一斉にシンジの席へと集まる同級生たち。
 突然の出来事に目を白黒させて固まってしまうシンジ。
302 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/23(日) 22:01:45.06 ID:x7P0aZtxo

ヒカリ「ちょっとみんな!授業中よ!」

シンジ「え、え、ええっと……」

クラスメイト『ねぇどうやって選ばれたの?』『テストとかあった?』『あの敵ってなんなんだよ』『すごいなお前!』『操縦席ってどんなの?』


 矢継ぎ早に飛ばされる質問の数々。
 授業中にも関わらずできた人だかりに委員長であるヒカリが注意を促す。
 しかしまるで気付いていないのか、老教師は窓の外に目を向けたまま昔話に花を咲かせている。


シンジ「あれはその……エヴァとかって……」

クラスメイト『エヴァ?』『それが名前なのか?』『いつから乗るって決まってたの?』『給料とか出る?』

ヒカリ「ちょっとみんな――」


 ヒカリがさっきより大きな声をあげようとした時、ひと際大きな音が教室に鳴り響いた。
 皆の視線が一斉に集まる。シンと静まり返る教室。
 そこには険しい顔をした少年が一人。
303 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/23(日) 22:03:29.10 ID:x7P0aZtxo

トウジ「転校生……ちょっとツラ貸せや」

シンジ「え?ちょ、ちょっと!」


 有無を言わせないトウジの迫力にたじろぐシンジ。
 後ずさるクラスメイトの間を歩き、教室を出ようとする二人。


ヒカリ「ちょっと鈴原!なにしてるのよ!」

トウジ「委員長には関係あらへん。ほっといてくれ」

ヒカリ「そ、そんなこと言ったって……先生もなんとか言ってくださいよ!」


 制止もむなしく、素っ気ない言葉を残して廊下に出てしまった二人。
 ざわつくクラスメイトたち。喧嘩だろうかとそこかしこで雑談が始まっている。
 自分ひとりでは止められないと感じたヒカリは老教師に助けを求めた。


老教師「うん? なにかね委員長」


 教師が振り返るのと同時にチャイムが鳴った。
 授業終了の合図だ。


老教師「それでは今日の授業はここまで」

ヒカリ「せんせぇー……」


 なんともピントのずれた教師の言動にヒカリは肩を落とす。
 教室を出るトウジの横顔。そして助けをこうようなシンジの表情。
 そのどれもが彼女を不安にさせるのだった。
304 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/23(日) 22:05:44.75 ID:x7P0aZtxo

……。

…………。

………………。



 熱く、痺れるような衝撃。
 尻もちをついたシンジはジンジンと痛む頬を押さえる。


シンジ「なにするんだよ!」

トウジ「すまんな転校生、ワシはお前を殴っとかな気がすまへんのや」


 シンジの言葉に耳を貸さずにそれだけ言い切ると背中を向けてしまうトウジ。
 訳も分からずにシンジが困惑していると、いつからいたのかケンスケが顔をだして軽く謝る仕草をみせた。


ケンスケ「ごめんな、この前の騒ぎでアイツの妹さんが怪我しちゃったんだ……それでちょっとね」

シンジ「……僕だって乗りたくて乗ったわけじゃないのに……」

トウジ「なんやと? もっぺんゆうてみぃ!」


 負け惜しみのように呟いた一言が、トウジの怒りに火をつける。
 胸倉をつかまれながらも、シンジも負けてはいなかった。
 今度は目をそらさずに言葉を投げつける。
305 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/23(日) 22:07:14.81 ID:x7P0aZtxo

シンジ「僕だって乗りたくて乗ったんじゃない!
いきなり乗れって言われて、嫌だったけど出来るだけ頑張ったのに、どうして君に殴られなくちゃいけないんだ!」

トウジ「それやったらワシの妹はお前のせいで怪我させられてもええゆうんか!?」

シンジ「言ってない!……怪我させたのは謝るよ……ゴメン……」

トウジ「ワシに謝ってもしゃあないやろこのアホ!死ぬとこやったんやぞ!?」

シンジ「僕だって、死ぬところだったさ!いきなりあんなのに乗せられて!死ぬくらい痛くて!」

トウジ「〜〜ッ!……次はせいぜい足元も見て戦うんやな、このヘボパイロット!」


 先に目をそらしたのはトウジだった。
 吐き捨てるようにそう言い残すと、シンジを置いて校舎へと戻る。
 後を追いかけるようにしてケンスケもその場から離れた。
306 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/23(日) 22:09:04.63 ID:x7P0aZtxo

シンジ「……なんだよ、何も知らないくせに……」


 誰もいない校舎裏。
 日差しが強い。
 俯いたシンジの視界にもう一つの影が。


シンジ「キミは……」

レイ「非常召集……先、行くから」


 警報。
 非日常の始まり。


シンジ「……なんなんだよ……なんなんだよ!もう!」


 慌ただしく鳴り響くサイレンにのまれ、空へと溶けていく言葉。
 弱者の言葉を置き去りに、街には徐々に戦いの色が混じりゆく。
 第四使徒シャムシェル、襲来。
307 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/23(日) 22:09:47.87 ID:x7P0aZtxo

 新世紀エヴァンケロオン

 第八話

 流れる雲のように であります



 それは囲われた子供たちの物語
308 : ◆T6URQJJiS6 [sage saga]:2012/09/23(日) 22:12:13.17 ID:x7P0aZtxo
本日分は終了しました。

学校勢の登場です。
トウジは妙なイントネーションの関西弁を使っています。
309 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/23(日) 22:13:52.90 ID:CgYXdnF0o
310 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/09/23(日) 22:56:05.09 ID:SwhQNjOm0

シンジが結構ハッキリとものを言ってるのはいいな
311 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2012/09/24(月) 02:27:06.27 ID:km+LGuTAO

地の文が好きな感じ
312 : ◆T6URQJJiS6 [sage]:2012/09/30(日) 14:12:06.07 ID:Vxc+s9qEo
地の文は色々と工夫していければと思っています


今日の夜に投下する予定です
313 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/30(日) 17:25:02.34 ID:WBfXCaEIO
文体もバランスもイイ感じの地の文だと思ってる
314 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/30(日) 21:17:26.36 ID:Vxc+s9qEo

 経験から、環境と集中力が全てを握ることをケロロは知っていた。
 微風、雨の心配はなし。汗をこまめに拭うことを肝に命じておく。
 息を吸い、吐き、もう一度吸い、口を閉じる。


ケロロ「……」


 適度な距離を保ちつつ、肘から先を固定し、腕全体を動かすように。
 指先の押し込みは一定で、色むらを気にしつつも臆病にはならぬよう。
 大胆、かつ繊細に。ミステリアス、かつダイナミックに。


ケロロ「……」
315 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/30(日) 21:18:47.54 ID:Vxc+s9qEo

 ベランダに敷かれた新聞紙、その上に置かれた台座に固定されるプラモデル。
 ジオン公国の陸戦型MSがケロン人の手により深いメタリックブルーに染められていく。
 ガラス越しにはリビングで雑誌を読むミサトの姿が。


ケロロ「……よし」


 一つのパーツを終わらせる。接触しないように丁寧に並べつつ、別のパーツに取り掛かるケロロ。
 額に浮かんだ汗をぬぐい、緊張で固くなった体に新鮮な酸素を送り込む。


ミサト「ケロちゃん、お昼どうする?」

ケロロ「あー……これが終わったら後で食べるので、今はいらないであります」

ミサト「そ。なら先に食べちゃうわよー」


 窓ごしに話しかけてきたミサトに手を振るケロロ。
 言葉は柔らかくともその背中は頑なに動こうとしない。
 ねじり鉢巻きを巻いたその姿はまさに職人のそれであった。
316 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/30(日) 21:20:13.82 ID:Vxc+s9qEo

ケロロ「これで最後であります、これで……」


 顎から新聞紙へと落ちる一滴の汗。
 静寂が支配する世界。ガラス一枚を隔てた向こうではミサトが冷房をきかせつつカップ麺をすすっている。
 空腹を訴える腹を気合で黙らせつつ、ようやく最後のパーツを塗り終える。


ケロロ「やった!これでひとだんら――」


 警報。
 それと同時に部屋に置かれた電話と、加えてミサトとケロロの持つ携帯までがけたたましいコール音を鳴らす。
317 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/30(日) 21:21:44.08 ID:Vxc+s9qEo

ケロロ「ゲロ!? な、何事でありますか!」

ミサト「ハイ葛城……分かった、すぐに向かうわ。シンジくんは学校?そっちも私が拾っておくから、ありがと」


 素早く通話相手から情報を聞き出したミサトは、ベランダでオロオロとするケロロを一つかみにして持ち上げた。


ケロロ「何が起こったのでありますかミサト殿!?」

ミサト「使徒が現れたのよ! さぁ行くわよケロちゃん!」

ケロロ「ゲロぉ!? ちょ、ちょっと待って欲しいであります! せめてこのパーツを室内に――」

ミサト「悪いけどそんな暇は無いわ!」

ケロロ「ゲロォー!? そんな殺生なぁー!!」


 ミサトに抱えられるようにしてベランダから引き離されるケロロ。
 その目には涙が。その手には塗りたてのガンプラパーツが。
 そしてベランダには新聞紙にべったりと倒れる塗装済みの部品が。


ケロロ「あああああああぁぁぁぁぁ……」


 悲哀に満ちた声を残し、ケロロとミサトは自室を後にした。
318 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/30(日) 21:23:14.03 ID:Vxc+s9qEo

……。

…………。

………………。



 断続的に空が揺れる。
 はるか遠くに広がる爆炎と閃光。
 その向こうには、空をおおう巨大な生物。


???「あれが使徒……」


 にわかには信じられぬ光景。
 山を降り、野をかけ、街にくり出した彼の目には、どう写っているのか。
 雲を分けて進む巨大生物の姿が。


???「いやはや……目にするのは初めてでゴザるが、なんと巨大な物の怪でゴザろう」


 望遠レンズを外す。
 今しがたまで見えていたのは数十キロ先の海洋上に広がる光景だ。
 ここまで到達するのは数時間先といったところだろうか。
319 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/30(日) 21:24:54.06 ID:Vxc+s9qEo

???「あまり時間がない……急がねば」


 鳴り止まぬ警報。逃げ惑う人々。
 川のような人の流れの端で、一人の少女が突き飛ばされた。
 不運にも、我先にと駆けだした集団にぶつかったのだ。


少女「キャッ!」


 道路に飛び出す形となった少女。そこに、更なる不運が重なる。
 近づく車。鳴るクラクション。叫び声を上げる通行人。
 ひとつの悲劇を告げる、けたたましい激突音――


???「――大丈夫でゴザるか?」

少女「……え?」
320 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/30(日) 21:26:15.34 ID:Vxc+s9qEo

 急ブレーキをかけた車は不意にかけられた力により強烈なスピンをしながら空地へと突っ込んだ。
 呆けたように辺りを見回す少女。だがそこには誰もいない。
 彼女のもとへとかけよる母親らしき女の姿があるだけだ。


少女「……ええっと……あれ?」


 誰もいない。
 だが、確かに誰かがいた。
 その証拠とも思わしき、地面に突き刺さった一本のクナイ。


???「フフッ……しからばごめん」


 母親にきつく抱きしめられながら。通行人たちの安堵の表情に囲まれながら。
 少女は目に見えぬ何者かに感謝の言葉を告げる。
 ありがとう、と。



………………。

…………。

……。
321 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/30(日) 21:28:17.82 ID:Vxc+s9qEo

 第壱中学校校門前。
 多少の乱れはあるものの、全校生徒が整列してシェルターへと向かう。
 その列に加わらず、皆の背中を見送った生徒が一人。


シンジ「また、使徒か」


 頬がわずかに赤い。
 先ほどよりは痛みも引いているが、心にかかったうす暗いもやはまだ晴れそうにない。
 教員たちもすでにいない。今この学校にいるのは彼だけだ。


シンジ「逃げ遅れた人……もし、またあんな戦いをしたら」


 体を抱えたくなるような不安が彼を襲う。
 もしまた誰かを犠牲にしてしまったら。
 逃げ遅れた人をこの戦いに巻き込んでしまったら。


シンジ「やっぱり怖いよ……軍曹……ミサトさん……」


 手が震える。
 怖いのだ。命のやり取りが。
 命を取るのも、取られるのも、たまらなく怖い。
322 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/30(日) 21:29:32.68 ID:Vxc+s9qEo

ミサト「シンちゃん!」


 うなるようなエンジン音をあげながら赤いフェラーリが止まる。


シンジ「ミサトさん」

ミサト「現状は行きしなに話すわ。まずは乗ってちょうだい」


 静かな口調と強い視線。
 ただならぬ雰囲気にシンジは自然と奥歯をかみしめる。
 もう戻れない。体がそうささやいていた。
323 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/30(日) 21:30:49.28 ID:Vxc+s9qEo

……。

…………。

………………。



 ぬけるような青空。
 すき通るような青い海。
 それらと綺麗なコントラストをとる、深紅の怪物。


青葉「目標、領海まで後10!」

冬月「国連軍の方の状況は」

日向「通常兵器での攻撃はATフィールドにより無効化されているようです」


 モニタに写しだされた怪物。
 流線型をした体に、胸部をおおうような細い足のような器官。大きく開かれた頭部に施された文様は目玉のようだ。
 蛇をベースに昆虫を混ぜたような使徒の姿に冬月は顔をしかめる。
324 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/30(日) 21:32:28.94 ID:Vxc+s9qEo

冬月「葛城くんたちはまだかね」

マヤ「サードチルドレンとケロン人を回収、現在はエレベータでジオフロントへ移動中です」


 前回の使徒の時もにたような状況だったことをリツコは思い出す。


リツコ「……まぁ、大丈夫でしょ」


 一瞬、また迷うのではないかという懸念が頭をよぎるものの、まさかと自分に言い聞かせる。
 リツコは手元の資料をまとめ、エヴァの起動準備にとりかかるためにマヤへと指示を出し始めた。
 そんな彼女の白衣に入れていた携帯電話が振動を始める。


リツコ「はい、赤木です」


 まさかミサトでは。嫌な予感がしつつも電話を耳にあてるリツコ。
 だが声の主は大方の予測を外して別の人物だった。


クルル「よぉ博士。調子はどうだい?」


 高い笑い声とともに耳に入ってきた声にリツコは大きく息を吐いた。
 予想は外れたものの、こちらもあまり歓迎のできる相手ではなかったからだ。
 もっとも、今この状況では電話をする暇そのものがもうあまりないのだが。
325 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/30(日) 21:34:12.19 ID:Vxc+s9qEo

リツコ「エヴァに関しては大きな問題はありません。それよりも今は非常事態よ、用がないのなら切るわ」

クルル「まぁ無理強いはしねぇよ。今こっちに向かってる使徒についての話だから、気にせず切ってくれ……クーックックックッ」

リツコ「……分かったわよ、時間を取るわ。話してちょうだい」

クルル「そうした方が賢明だ。さて本題だが……あの使徒の実力、どう見てる?」

リツコ「使徒は未知の生物よ。その攻撃方法も今のところは正確には分からないわ。
ただ飛行能力を持つことと、後は……相当に固いことは分かるわね」


 モニタに目をやるリツコ。
 そこには国連軍の攻撃によるミサイルの雨を浴びながらも平然と進む使徒の姿があった。
 傷一つ付かない深紅の体表。どれだけの防御力があるのだろうか。


クルル「さすがだねぇ」

リツコ「からかわないでちょうだい。それくらい、冷静に観察すれば誰にでも分かることよ」
326 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/30(日) 21:35:25.15 ID:Vxc+s9qEo

 それこそ勝負になっていないじゃない、という言葉は呑み込んでおく。
 いつどこで誰に聞かれているかも分からないからだ。


リツコ「フル稼働できていないこちらの防御施設ではあの使徒にダメージを与えるのは難しそうね」

クルル「エヴァでの一対一による戦法しかないだろうな。まぁせいぜいがんばんな……
お前たちが死ねば次は俺らが本気でいかなきゃならなくなる。楽させてくれよ? クーックックックッ」


 そこで電話は一方的に切れた。
 勝手な男だなとリツコは思う。まるで今ここにいない誰かのようだと。


リツコ「まぁそれでも良い情報が手に入ったわ。ミサトが来たらもう一度作戦を練り直しましょう」


 少しの情報も漏らせない。
 画面に写る使徒を注意深く観察しながら、リツコは携帯電話をしまった。



………………。

…………。

……。
327 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/30(日) 21:36:25.83 ID:Vxc+s9qEo

 ネルフ本部へと続く巨大な搬送路。その上をすべるエレベータに乗って静かに地下へと降りていく一台のフェラーリ。
 車内の空気はどんよりとしめって重い。


シンジ「なにかあったんですか?」

ミサト「ちょっちね」

ケロロ「……ぁ……ったのに…………ふぅぅぅぅ……」


 運転席でハンドルにもたれかかるようにして前を見つめるミサト。
 彼女のとなりで行儀よく座るシンジ。
 そんな二人の後ろ、後部座席にはうずくまるようにしてひざを抱えた一人のケロン人の姿があった。
328 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/30(日) 21:38:16.04 ID:Vxc+s9qEo

ミサト「家を出る時にさぁ、ケロちゃんがガンプラ作ってたのをそのままひっぱってきちゃったのよ」

シンジ「あぁ、それでこんなことに……」

ケロロ「教えてくれゼロ……我が輩はあと何体のガンプラを壊せばいい? ……ゼロは……ゼロは答えてくれない……」


 げっそりと頬をやつれさせ、うつろな瞳でブツブツとひとり言をつぶやくケロロ。
 真っ白にもえ尽きそうな背中にシンジは体をふるわせた。


ミサト「ここに来るまでも何度か謝ったんだけど効果がなくってね……シンちゃんお願い、ちょっち助けてくれない?」

シンジ「えぇっ!? ぼ、僕にも無理ですよ!」

ミサト「だってシンちゃんの方がケロちゃんと付き合い長いじゃない。このままエヴァに乗ってもらうわけにもいかないし、このとーり!」

シンジ「……分かりました」


 渋々といった感じでミサトのお願いを引き受けるシンジ。
 決意を決めたように息を吸いこむと、シンジは体をすべり込ませるようにして助手席からケロロのとなりへと移動する。
329 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/30(日) 21:42:20.40 ID:Vxc+s9qEo

シンジ「ぐ、軍曹……?」

ケロロ「……」

シンジ「元気だしなよ軍曹……そ、そうだ、ミサトさんに新しいのを買ってもらえばいいじゃないか」

ミサト「そ、そうね!壊しちゃったんだし、ガンプラの二個や三個、このあたしにどーんと」

ケロロ「……PGが欲しいなぁ」

シンジ「え……ちょっと待って軍曹、いくらなんでもそれは」

ケロロ「PGを買ってもらえば元気になるかもしれないであります……」

ミサト「え? PG? ……わ、分かったわ。PGでもなんでも買ってあげる。だからもうちょっと元気になってちょうだい」

ケロロ「やっふぅー!!!!!」

シンジ「あちゃぁ……」

ミサト「え? なに、どうしたのシンちゃん、何かまずかった?」

ケロロ「やりやりやりぃー!!! 約束でありますよミサト殿! PG! PG! 念願のPGでありますぅぅううううう!!!」


 急に立ち上がったと思うとツヤツヤした顔で腰を前後にふりながら瞳をキラキラとかがやかせるケロロ。
 体中からわき上がるエネルギーは先ほどまでまっしろに燃え尽きていた生き物のそれとは思えない。
 あまりにも予想外だった復活にミサトは何かとんでもない事をいってしまったのではないかという不安にかられる。
330 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/30(日) 21:43:51.99 ID:Vxc+s9qEo

ミサト「シンちゃーん! どうしちゃったのよこれぇー!」

シンジ「PGっていうのはガンプラの中でも一番高価なシリーズで……その、僕といた時はお金が無くて買えなかったんですよ」

ミサト「高いって、どれくらい? いくら高くてもオモチャなんだし、せいぜい五千円くらい……」

シンジ「平均価格で約二万円ほどです」

ミサト「オモチャに二万円!?」

シンジ「軍曹いわく、買うのは大人が中心だって……」


 まさに大人のオモチャとはこのことか。
 そんなくだらないギャグを口にする元気もなく、ミサトはかわいた笑い声をあげながらハンドルに頭をうめる。
 力のないクラクションが誰もいない車両運搬用のエレベータにむなしく響き渡った。



……。

…………。

………………。
331 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/30(日) 21:45:40.86 ID:Vxc+s9qEo

 チルドレン専用の更衣室。
 一見すると無駄とも思える数のロッカーと広い空間、設置された簡素なベンチ。
 そこに座る一人の少女、綾波レイ。


レイ「……」


 ドアの開く音。
 使徒襲来のさなかにおいても静かな、かず少ない部屋。
 不意の侵入者にレイは表情を変えぬまま顔をむける。


シンジ「あ……また会ったね」

ケロロ「ゲロ、この前の女の子でありましたか」


 サードチルドレン碇シンジとそのパートナーであるケロロ軍曹。
 今のレイにそれ以上の知識はなかった。
 ほぼ初対面ともいえる仲間に向けていた視線を静かに下げる。


レイ「……」

ケロロ「……」


 さげた瞳の先にうつる、先ほどよりも距離をつめたケロン人ののっぺりとした顔。
 素早く足元まで移動した軍曹の姿に、レイは背筋に寒いものを覚えた。
 驚きからか、わずかにゆれる赤い瞳。
332 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/30(日) 21:47:09.80 ID:Vxc+s9qEo

レイ「なに」

ケロロ「あいさつがまだだったのを思い出したであります」

レイ「そう」

ケロロ「我が輩、ガマ星雲第58番惑星 宇宙侵攻軍特殊先行工作部隊隊長 ケロロ軍曹であります」


 長々とした肩書きをかまずにスラスラとしゃべり、ピシリと敬礼をひとつ。
 コミカルなその動きにレイはさっきの悪寒が引いていくのを感じとる。


ケロロ「綾波レイ殿でありますな」

レイ「そうよ」

ケロロ「このような職場でありますゆえ、きちんと仲間とは連携を取らねばならないであります。今後ともよろしく!」


 伸ばされた右手。
 レイはそのちょこんとした指先と、大きなケロロの目玉を交互に見つめる。
333 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/30(日) 21:48:25.61 ID:Vxc+s9qEo

ケロロ「……げろ……シンジ殿、ペコポンには握手をしてはいけない場合などがあるのでありますか?」

シンジ「ないと思うけど……あの、綾波?」

レイ「なに?」

シンジ「そのぉ……まさかとは思うんだけどさ……あの、握手って、知ってる?」

レイ「知っているわ。手と手を合わせること。友好の証」

シンジ「じゃあ、出来るなら軍曹の手を取ってもらえると嬉しいんだけど……あ、だ、ダメならいいんだ、ごめんね」

レイ「……」


 そこで初めてレイは気づく。
 このケロン人が何を求めていたのかを。


レイ「……」
334 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/30(日) 21:49:58.64 ID:Vxc+s9qEo

 緑色の手へ向けてそっと伸ばされた白い指。
 やがてその指は軍曹の人差し指にそっと触れる。


レイ「これで、いい?」

シンジ「……え、あぁ、うん?」


 なにがこれでいいのだろうかとシンジが首をひねる間に、レイはのばした手を元の位置にまで戻してしまう。


ケロロ「シンジ殿……なんだか我が輩、自転車の前かごに乗って空を飛ぶあの宇宙人と間違えられている気がしてならないのでありますが……」

シンジ「多分、今のは綾波流の握手なんだと思うよ軍曹」


 そういう事にしておこう。
 きっとこの子はちょっと変わっているんだ。そうにちがいない。
 複雑な表情をうかべるケロロと相変わらずの無表情で座るレイを前に、シンジはそう結論付けるのだった。
335 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/30(日) 21:51:00.35 ID:Vxc+s9qEo

ケロロ「……ふぅ、まぁ良いであります。それにしても騒がしいでありますな」

シンジ「使徒が来てるからね。僕らも三十分後には作戦司令部に行かないといけないし」


 ベンチに座るケロロとシンジ。
 なんでもないように語るシンジだったが、その口調は緊張のせいかいつもより早口で、手も少しだけ震えている。


シンジ「綾波はどうするの?」

レイ「プラグスーツに着替えてここで待機」


 プラグスーツの着用。それは彼女もエヴァに乗ることが視野に入れられているということ。
 本当にこの少女がエヴァに乗って戦うのかと、シンジは不思議な気持ちになった。
 細身の自分よりもさらに病弱そうな、こんな女の子が。


シンジ「……綾波は、怖くないの?」

レイ「あなたは怖いの?」

シンジ「……うん。怖いよ……エヴァに乗るのも、あの使徒と戦うのも……怖い」


 背中を丸めて下を向くシンジ。
 そんな彼の背中をケロロが軽く叩く。
336 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/30(日) 21:52:00.84 ID:Vxc+s9qEo

ケロロ「まぁまぁ、いざとなれば我が輩がなんとかしてあげるでありますよ。ゲーロゲロ!」

シンジ「……うぅん、それだけじゃないんだ」

ケロロ「げろ?」

シンジ「今日、学校でクラスメイトに言われたんだ。この前の戦いで妹が怪我をしたって……
それからずっと考えてた。今日も、避難するのに遅れた人がいたらどうしよう……
もしかして僕は、その人を踏み潰しちゃうかもしれない……そんなことを考えたらすごく怖くなってきて、それで……」


 一人でしゃべり続ける。
 段々と呼吸が荒くなり、瞳は大きく見開かれ、シンジは震えを抑えるように自分の体を両手できつく抱きしめる。
 まるで寒さに耐える病人のような少年の風貌。


ケロロ「……シンジ殿」
337 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/30(日) 21:53:06.45 ID:Vxc+s9qEo

シンジ「変だよね……使徒との戦いよりも、人が一人死ぬかもしれないって考えると……それが怖くて、たまらないんだ」

レイ「民間人の避難は今も行われているわ」

シンジ「それでも、誰かまだ残ってるかもしれないじゃないか」

レイ「使徒に負ければ、人類全てが滅んでしまう」

シンジ「……君は、それで誰かを殺してしまうかもしれなくても、エヴァに乗れる?」

レイ「乗るわ」

シンジ「どうしてさ!」


 声を荒げるシンジ。
 八つ当たりのような言葉にも、レイはみじんも動揺することなく平然とそれを受け止める。
338 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/30(日) 21:55:22.23 ID:Vxc+s9qEo

レイ「絆だから」

シンジ「……絆?」


 真正面から見つめ合う二人。
 レイの放った言葉がシンジの動きを止める。


レイ「そう、絆。私には、エヴァしかないから」

シンジ「……」

レイ「絆を守るために、私はエヴァに乗るわ」

シンジ「……僕はなんのためにエヴァに乗るんだろう……父さんのため? 本当に、それだけ……?」


 うつむくシンジ。
 何故乗るのか。何故戦うのか。何が自分をそうさせるのか。
 あいまいな言葉ではごまかせない、戦うための確固たる意志。
339 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/30(日) 21:55:50.79 ID:Vxc+s9qEo

シンジ「戦う意味……」


 その言葉にまだ意味はない。
 どこで見つかるのか。どうすれば見つかるのか。誰も知らない。
 目的の見えぬ戦いに向けて、時間だけが進んでいく。
340 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/09/30(日) 21:57:01.37 ID:Vxc+s9qEo

 新世紀エヴァンケロオン

 第九話

 刃の向く先は であります



 それは揺れ行く果実の物語
341 : ◆T6URQJJiS6 [sage]:2012/09/30(日) 21:59:42.39 ID:Vxc+s9qEo
本日分は終了しました。

今回はアニメだとほとんど描写されてないパートです。
この頃のシンジくんはやさぐれてましたが、こっちはこっちで悩んでいます。
まぁネルフはブラック企業だから仕方ないですね。
342 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/09/30(日) 22:04:31.33 ID:FGvt9YXGo
おいついたー
おつんこ
343 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/30(日) 22:35:26.96 ID:aVQRl1Iho
344 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/09/30(日) 23:03:34.35 ID:X+NJqgjAO

相変わらず名調子
345 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage saga]:2012/09/30(日) 23:50:33.87 ID:uMUHvtoo0
アニメだとこの時点では綾波はまだ包帯巻いてたけど、こっちはもう治ったんかな
346 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2012/10/02(火) 01:59:35.34 ID:C9sLCPOAO

ドロロ来たか
347 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) :2012/10/02(火) 16:33:06.65 ID:6x/8DVqn0
ギロロとタママとモアはいつ出る?
348 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/03(水) 00:30:32.56 ID:aJDKlXb1o
ドロロってくのいちと出会ったからあの口調で忍っぽいことするんじゃ
349 : ◆T6URQJJiS6 [sage]:2012/10/03(水) 01:58:49.40 ID:fX5Qh2zWo
>>345
プラグスーツを着られるくらいには治っています
もうちょっと詳しく描写しておくべきでした


>>347
ここで言っちゃうと面白くありませんし、おいおいと言うことで


>>348
こっちのペコポンにもゼロロからドロロに変わった原因の人がいますよ
350 : ◆T6URQJJiS6 [sage]:2012/10/03(水) 02:11:46.96 ID:fX5Qh2zWo
ついでにこれも


・エヴァの設定について
エヴァは隠された設定も多く、このSSでもその全てを説明、描写しきれない可能性があります
加えてエヴァの設定は公開作品によっても色々と変わっている部分があります

なのでエヴァの設定で気になることがありましたら聞いてください
今後のネタバレにならない限りは答えていきます
351 :347 :2012/10/03(水) 03:58:40.97 ID:SqLQ3Hs50
>>349 了解です。
352 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/10/07(日) 12:24:36.44 ID:DPmcJodWo

 高層ビルが次々と地面へと吸い込まれていく。
 幾重ものシャッターが展開され、無人の道路には移動砲台がその姿を現した。
 住む為の街から戦う為の街へ。第三新東京市は戦闘形態へと移行する。


青葉「目標、領海内に侵入しました。光学で補足します」


 つい先ほどまでしつこく攻撃を続けていた国連軍が距離をとっていた。
 艦隊に見送られるように悠然と空を進む使徒。
 ここから先はネルフの領分だ。


ミサト「関係各省への連絡は?」

マコト「すでに通達しています」

リツコ「対空システムの稼働率は約五割……急がせた割にはあまり捗っていないわね」

ミサト「敵さんは待ってくれないわ。戦いなんてそんなものよ」


 軽く流しつつもミサトは手元に渡された資料に素早く目を通している。
 リツコの見解と国連軍の装備による攻撃結果をまとめたものだった。
353 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/10/07(日) 12:25:26.39 ID:DPmcJodWo

ミサト「前回の奴より固そうじゃない」

リツコ「コアが見えているのは同じのようだけれど、装甲に関してはこちらの使徒の方が一枚上手という事かしら」

ミサト「オッケ。エヴァの装備、パレットライフルじゃまずそうね」

マヤ「住民および非戦闘員の避難、完了したようです」

ミサト「よぉーっし、シンジくんに任せっぱなしじゃあまずいからね……今回はこっちも動いていきましょうか」


 不敵な笑みでそう言い放つミサト。
 リツコは妙な不安にかられ、いないはずのゲンドウの席へと目をやってしまった。
354 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/10/07(日) 12:26:50.22 ID:DPmcJodWo

……。

…………。

………………。



ケンスケ「あぁーもう、また字幕放送だよ」

トウジ「なんや、またやっとんのか」


 天を仰いで嘆きの声をあげるケンスケ。
 トウジはそんな友人の姿を横目にしながら、興味がないと言わんばかりに大きなあくびをする。
 地下の避難所には彼等のような住民たちが地域ごとに何人も集まっていた。


ケンスケ「報道管制ってやつさ……一般市民の僕らには何も教えてくれないんだ」

トウジ「そもそも知る必要なんかないやろ」

ケンスケ「わっかんないかなぁ、このビッグイベントに盛り上がる僕の気持ち」

トウジ「分かるわけないっちゅうねん」

ケンスケ「はぁ……ねぇちょっと、話があるんだけど」


 手持ち式の小型テレビを鞄にしまったケンスケはトウジに小声で話しかける。
355 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/10/07(日) 12:27:44.54 ID:DPmcJodWo

トウジ「なんやねん」

ケンスケ「なぁ頼むよ」

トウジ「……しゃあないのぉ……オイ委員長、ワシら二人で便所行ってくるわ」


 トウジは立ち上がるとヒカリに向けてそう言い放った。
 こんな時にどうして、というヒカリの小言を背中に受けながらそそくさと通路へと出て行く二人。
 なんのかんのと言いながら息の合う二人である。
356 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/10/07(日) 12:28:54.94 ID:DPmcJodWo

トウジ「……で、どないしたんや」

ケンスケ「一回でいいから見てみたいんだ。次はいつ来るかも分からないし」


 ひとけのない男子トイレ。
 並ぶ二人の尻。水滴が便器を叩く音だけが聞こえてくる。


トウジ「上のドンパチをか?」

ケンスケ「トウジは見たくないのか?」

トウジ「興味ないってゆうとるやろ。そんなんはネルフに任せとけばええねん」

ケンスケ「……そのネルフお抱えのパイロットを殴ったのは誰だったっけ?」

トウジ「う……」


 痛いところを突かれた、とトウジの顔には書いてあった。
 気まずい友人の横顔をこれ幸いにと追撃するケンスケ。
 後ひと押しだ。そう信じて口を開く。
357 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/10/07(日) 12:29:53.76 ID:DPmcJodWo

ケンスケ「アイツは命をかけて戦ってるんだぜ? 事情があるとはいえ、そんな奴を殴ったんだ。
一度くらいは戦ってるのを見守ってやるのが男ってものなんじゃあないのかな?」

トウジ「……ゆうやないか……ホンマに好きなことに関しては頭の回る男やな、お前って」

ケンスケ「へへっ」


 ようやく折れてくれた友人に得意気な笑みをみせる。
 そんな彼の仕草に、出すものを出し切ってスッキリしたトウジは分かったという意図をこめて軽く手を振った。
 トイレを出る。行き先は先ほどまでいた集合所ではない。二人は地上へと続く連絡通路を歩き始めた。



………………。

…………。

……。
358 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/10/07(日) 12:30:58.76 ID:DPmcJodWo

ミサト「もう一度説明するわ。概要はこう」


 使徒と思わしき目標に向けて、第三新東京市の各方向から伸びる矢印。
 地図に示されたそれは兵装ビルからの支援攻撃を意味している。
 更には使徒から多少の距離を置いたところに表示された初号機のマーク。


ミサト「初号機によるATフィールドの中和を確認しだい、対空砲撃で使徒を攻撃」


 黄色の矢印が使徒へと突き刺さる。
 動きを止める使徒。続いてその使徒へと距離をつめる初号機。


ミサト「使徒の動きが止まったら初号機によるコアへの一点集中攻撃……これなら地上への被害も抑えられるはずよ」

シンジ「……一ついいですか?」


 上げた手に集まる複数の視線。
 向かいに立つミサトとリツコのそれにシンジは多少おびえたような様子で話し出す。
359 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/10/07(日) 12:31:47.80 ID:DPmcJodWo

シンジ「もし使徒の動きが止まらなかったら……」

ミサト「その時は初号機自身で相手の動きを止めつつ戦ってもらうしかないわね」

リツコ「大丈夫よ。国連軍との戦いを元にシュミレートした結果、MAGIも本作戦の効果は認めているわ」


 なんだか頼りないな、という喉まで出かかった言葉をシンジは無理やり呑み込んだ。


ケロロ「……それにしても変な形でありますなぁ……前に戦ったのとは似ても似つかないであります。クルルはなんと?」

クルル「俺ならここにいるぜ……クーックックックッ」


 スピーカーから聞こえる不快な笑い声にリツコは顔をしかめた。
 カメラで見ていたかのようなタイミングに、ミサトは苦笑いを浮かべる。
360 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/10/07(日) 12:33:33.98 ID:DPmcJodWo

ミサト(どうせ参加するなら直接くればいいのに……ったく、ひねくれてるっていうかなんていうか……)

クルル「隊長に一つアドバイスだ」

ケロロ「ゲロ、なんでありますか」

クルル「今回の敵は前回の奴よりも硬くできてる。コアの一点を狙って攻撃するのがベストだ。少なくとも素手じゃあ倒せない」

ケロロ「マジかー……クルルぅー、なんかこう、パーッと一発で倒せる兵器とかないの?」

クルル「生憎とそういうのは持ち合わせてねぇな。肉体労働はたのむぜ隊長」

ケロロ「げろぉー」


 横着しようとしたケロロであったが、世の中そううまくはいかないようだ。
 やる気のない鳴き声と共に肩を落とす。


リツコ「現存戦力でも十分に撃破できるから大丈夫よ」

クルル「そうかい。まぁどうせ負けるにしても少しはマシなデータをいただきたいもんだね……クーックックックッ」
361 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/10/07(日) 12:34:47.59 ID:DPmcJodWo

 憎まれ口を残して通信を切ったクルル。
 やはり言葉は通じても侵略者は侵略者なのだろうか。
 クルルの挑発も相まってピリピリとした空気の満ちる室内。


シンジ「あの、父さんは?」

ミサト「え? ……あぁ、司令なら今はいないわよ。海の向こうでえっらーい人たちと会議中」


 意外な人物の発言にミサトは多少戸惑いながらも明るくそう答える。
 シンジの胸にわくほっとしたような、がっかりしたような、妙な感覚。
 父がいない事に対する小さな戸惑いのようなものが消えずに残る。


ケロロ「シンジ殿?」

シンジ「うぅん、なんでもないよ」


 頑張れとひと言もらえれば、何も考えずに戦える気がする。
 乗れと突き放されれば、逃げてしまう気もする。
 相反する二つの想いが少年を苛んでいた。
362 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/10/07(日) 12:35:33.73 ID:DPmcJodWo

……。

…………。

………………。



ミサト「兵装ビル、および対空迎撃システムの稼働は?」

青葉「問題ありません!」

ミサト「使徒の進行状況!」

日向「低速で第三新東京市に直進中!移動ルート、A−3!」

ミサト「エヴァの武装!」

マヤ「パレットガンとライフルを用意しています!」

ミサト「行くわよシンジくん!ケロちゃん!」

シンジ「……は、はいっ!」

ケロロ「これが終わったら念願のPGであります!」


 力のこもったミサトの掛け声に両名が答える。
 片方はどこか場違いな言葉であったが、あえてミサトはそれを聞かないことにした。
363 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/10/07(日) 12:38:39.90 ID:DPmcJodWo

ミサト(なんでも買ってあげるから、頑張ってよ……)


 自然と手に力が入る。


ミサト「エヴァンゲリオン初号機、リフトオフ!」


 発令所に響く声。
 金属の擦れる高音と共に直立姿勢の初号機は地上へと昇っていく。
 超加速による加重で全身を締め付けられるような感覚の中、シンジは歯を食いしばる。


シンジ「グウッ!」


 体中をかき乱す振動と衝撃が急に止んだ。
 目を開けるシンジ。
 開けた視界に写るビルの群れと青空、その向こうに広がる山々。


ケロロ「……ゲロ!いたであります!」
364 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/10/07(日) 12:40:20.17 ID:DPmcJodWo

 そして、それらの中に浮かび上がる特徴的な色合いの生き物。
 使徒、シャムシェル。
 突然あらわれた紫色の巨人に紅い体が揺れる。向こうもエヴァの姿を視認したのだろう。


マヤ「使徒、形状を変化させています!」


 地面と並行にして浮遊していたシャムシェルの体が突如として曲がり、棒状の体が地面と接する。
 わずかな揺れと共にその巨体を地上に落ち着けた使徒。
 鎌首をもちあげるように体を動かすその様は、さながら蛇のようだ。


リツコ「あれが戦闘形態ということかしら」

ミサト「国連軍相手には戦ってもいなかったって訳か……こりゃお偉いさんもカンカンね」


 軽口を叩きつつも使徒からは少したりとも視線を外さないミサト。
 腕組みを解いてモニタに写るシンジへと声をかける。


ミサト「シンジくん、敵の攻撃はまだどのようなものか確認が取れていないわ。兵装ビルに隠れつつ接近してちょうだい」

シンジ「……分かりました」


 両手で構えたパレットライフルを握り直し、初号機はビルの影に隠れながらシャムシェルへと近づく。

365 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/10/07(日) 12:41:26.99 ID:DPmcJodWo

ケロロ「動かないでありますな……」


 ケロロの指摘どおり、シャムシェルはその体を動かそうとせずにただじっとその場に立ち尽くしていた。
 嫌な予感がその姿を見ている皆の心に去来する。
 なにかがあるのではないか。超常のモノはそう思わせるだけの力を持っていた。


シンジ「……い、行きます!」


 戦場におけるプレッシャーというものは日常生活のそれとは比べものにならない。
 つい先日までただの中学生であったシンジがその重圧に耐えきれなくなるのも無理からぬことだろう。
 不安と恐怖をごまかすように叫び声をあげながらパレットライフルを射撃するシンジ。


ミサト「ちょっとシンジくん! ……ATフィールドの状況は!?」

マヤ「フィールド中和が確認されています!」

ミサト「よし!B−2から8までの対空施設の目標を使徒に修正!戦車も走らせなさい!初号機の背中を狙うんじゃないわよ!」
366 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/10/07(日) 12:43:33.26 ID:DPmcJodWo

 予定していたよりも前に出る初号機に焦りを覚えつつもミサトは絶え間ない指示を出していく。
 オペレータにより打ち込まれたコード通りに目標修正を行い作動する防衛設備。
 初号機のパレットライフルによりあがった爆炎へと続くように多数の弾頭が使徒の体へと突き進んでいった。


ケロロ「やばゲロッ!? シンジ殿、いったん下がるであります!」


 興奮から冷静さを欠いたシンジとは違い、ケロロはいくぶん落ち着いた状態で戦場を見通していた。
 故に気付く、数えきれないほどの火力の集中。
 巻き添えをくらいかねない状況に、ケロロは無理やり初号機を後退させる。


シンジ「うわっ!?」


 急に変わった視界とエヴァの挙動にシンジは我に返ったようにキョロキョロと辺りを見回した。
 矢継ぎ早に飛ぶミサトからの呼びかけ。周囲を満たす爆音。
 そして、目の前に広がる先ほどとはくらべものにならない程の爆発。
367 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/10/07(日) 12:44:35.59 ID:DPmcJodWo

ケロロ「落ち着くでありますシンジ殿!」

シンジ「ぐ、軍曹……」


 想像を絶する光景にシンジが口を開けたまま固まっていると、すぐ目の前に緑色の大きな目をした生き物がヒョッコリ姿を現した。
 フヨフヨと顔の前に浮かぶケロロの姿に、シンジは今さっき気づいたとでも言うように目を瞬かせる。
 構え続けていたパレットライフルを降ろす初号機。


ミサト「シンジくん! 大丈夫!?」

シンジ「……あ、は、はい! すみません勝手に」

ミサト「謝らなくていいわ! それよりも今は前に集中!」

シンジ「はい!」


 なんとか持ち直したシンジの様子にミサトは内心で安堵のため息をついた。
 だがその表情は固い。リツコやオペレータたちも同様のようだ。
 爆炎の向こうに立つほぼ無傷の使徒の姿を見たとなれば無理もない。
368 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/10/07(日) 12:45:43.48 ID:DPmcJodWo

リツコ「敵はこちらの予想よりも高い防御能力を持っているようね」

ミサト「ATフィールド越しでもこれだっていうの? やってらんないわね」


 作戦の変更を告げようとした時、シャムシェルの様子が変わる。
 前方の顔らしき部分の近くに生えた二対の突起、その先から伸びる発光する物体。
 鞭のようなそれはだらりと地面に渦をまいている。


ミサト「……ちょっちヤバいかも」


 発令所にいるほぼ全ての人間がその言葉を浮かべる。
 ――反撃。



………………。

…………。

……。
369 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/10/07(日) 12:47:05.06 ID:DPmcJodWo

トウジ「なんやねんアレ……デカすぎるやろ……」

ケンスケ「うひょー! 生で見れるなんて、もう死んでもいいよ!」


 対称的な反応を見せる二人は、避難所のすぐ近くにある山頂近くの神社に来ていた。
 戦場となっている地区からはかなり離れているものの、それでも容易に肉眼で視認できる巨体の怪物。
 そんな怪物と対峙する細身の巨人。現実味のない光景に二人は声をあげる。


トウジ「ワシらの頭のうえではあんなんが戦っとったんか」

ケンスケ「多分、あの紫色のやつがエヴァなんだろうな……あれに乗ってるのか……」


 脳裏にシンジの顔がフラッシュバックする。
 それを振り払うようにガシガシと頭をかきむしるトウジ。
 そんな彼のとなりではこの戦いを一秒でも逃すまいとケンスケがしっかりとカメラを構えていた。
370 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/10/07(日) 12:47:56.26 ID:DPmcJodWo

トウジ「うわ!撃ちよった!」


 突然動き出した初号機。
 ビルの隙間から飛び出すと、使徒へと近づき発砲する。
 発生した爆炎が遠く離れた二人のもとへ風と火薬の匂いを届けた。


ケンスケ「ダメだ、効いてないみたい」

トウジ「そうなんか……しっかりせぇよあのヘボパイロット……んんげっ!? け、ケンスケ!?」

ケンスケ「うわ! すっごい!」


 歓声にも似た声。
 悠然と立つ使徒から後退する初号機をぬかすようにして空と地上から幾筋もの射線が使徒の巨体へと伸びる。
 先ほどよりもかなり大きな振動。


トウジ「ひぃーっ!」

ケンスケ「うわーっ!?」
371 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/10/07(日) 12:48:46.08 ID:DPmcJodWo

 木々が揺れ、風が荒れ狂い、二人の頬までもがビリビリと痺れるような衝撃。
 天にまで届きそうな煙の柱。
 山すらも消し飛ばせそうな火力の束が使徒へと集中したのだ。


トウジ「……あ、あんだけやれば倒せたんちゃうか?」

ケンスケ「さすがにね……」


 突風でこけた二人は砂埃を払いながら立ち上がる。
 これで終わりだろう、そう思いながら前を向いた彼等の目に写る、現実。
 多少の傷はあるものの、倒れる気配のない使徒。


トウジ「か、かてんのかいな……あんなバケモンに……」

ケンスケ「どうなるんだろう、俺たち……」


 このままでは負けるのではないだろうか。
 少年たちの心にはそんな絶望にも似た気持ちが湧き上がる。
 無力な観客を残したまま、シャムシェルは反撃の狼煙をあげた。
372 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/10/07(日) 12:49:38.34 ID:DPmcJodWo

……。

…………。

………………。



ミサト「距離をとってシンジくん!」


 咄嗟の判断は正しかった。
 ミサトの声に従って素早く後退する初号機。
 シンジが留まっていたビルのすぐ近くにシャムシェルの鞭状の触手が降り注ぐ。


青葉「兵装ビル切断されました!」

リツコ「大した攻撃ですこと……マヤ、初号機の損傷は?」

マヤ「現在のところ損傷はありません!」

ミサト「とりあえず一発目はセーフか……シンジくんはそのまま後退!」

シンジ「……っ、はい!」
373 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/10/07(日) 12:50:27.79 ID:DPmcJodWo

 口火を切ったように二つの鞭をうならせて街を切り刻むシャムシェル。
 初号機は器用にそれを避けつつビルの合間を後退していく。
 縦、横、斜め。制限などない連続攻撃に反撃の糸口を見いだせない初号機。


ミサト「リツコ!」

リツコ「ライフルが近くの武器庫ビルにあるわ」


 このままでは勝てない。そう判断したミサトの言葉を汲んだリツコは、シンジのモニタにビルまでのルートを表示させる。
 切り崩されたビルの合間を走りながら攻撃をかわしつつ初号機は目標地点へと足を向けた。


ミサト「シンジくんはビルまで行ってライフルを受け取って! ここは一度、体勢を整えるわ」

シンジ「りょうか……うわあっ!?」


 突然の悲鳴。
 初号機の状態をモニタリングしていた画面に、脚部への損傷が表示される。
 いつの間にか足首に巻きついていたシャムシェルの鞭。


シンジ「うわーっ!」

ケロロ「ゲロローッ!?」


 膝の下まで鞭に絡め取られた初号機は、そのまま力任せに放り投げられた。
 突然の浮遊感と共にシンジの視界が空一色に染まる。


ミサト「シンジくん!」
374 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/10/07(日) 12:51:32.81 ID:DPmcJodWo

 空に放物線を描き、ビル群から外れた山の斜面へと背中から墜落する初号機。
 軽度の損傷ながら戦況は劣勢と言わざるをえない。


シンジ「うぅ……」

ミサト「シンジくん! 大丈夫!?」

シンジ「な、なんとか……」

ケロロ「シンジ殿! ゆ、指のところを見るであります!」


 クラクラする意識の中、ミサトの鬼気迫る声に起こされるシンジ。
 前方には空を飛びながら初号機へと近づくシャムシェルの姿が。
 だが、今のシンジにはそんなものよりも衝撃的な光景が目の前に広がっていた。


シンジ「……うそ……なんで……」

ミサト「ど、どういう事なの!?」

リツコ「シェルターから逃げ出したようね……運のない」


 初号機の指の間、僅かに出来たその隙間にうずくまる二つの背中。
 怯える表情。震える体。目尻にたまった涙。
 そんなクラスメイトの姿にシンジは口を開いたまま、何も答えられずにいた。
375 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/10/07(日) 12:52:08.12 ID:DPmcJodWo

シンジ「な……なんで、こんなとこに……なんでこんなとこにいるんだよ……」


 シンジは震えながら呟く。
 その声は彼等に届くことなく、エントリープラグの中に虚しく響くだけだった。
376 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/10/07(日) 12:55:58.15 ID:DPmcJodWo

 新世紀エヴァンケロオン

 第十話

 不可解な遭遇 であります



 それは無力な傍観者の物語
377 : ◆T6URQJJiS6 [sage]:2012/10/07(日) 12:58:09.87 ID:DPmcJodWo
本日分は終了しました。

対サキエルでは歩くだけで精一杯だったのに、対シャムシェルではヒョイヒョイ動けるシンジくんはやっぱり凄いと思います。
378 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/07(日) 13:50:32.87 ID:ClH2S9DIO
おつ!
379 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/10/07(日) 16:19:38.62 ID:hhrsenPAO

軍曹がいても税金の無駄使いは防げないか。
380 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/07(日) 20:16:42.26 ID:vfbhZKh8o
今回はシンジは脱走するのだろうか
381 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/14(日) 18:02:07.32 ID:7rjyiqawo
今日の夜に投下する予定です
382 : ◆T6URQJJiS6 [sage]:2012/10/14(日) 18:02:53.40 ID:7rjyiqawo
酉つけるの忘れてました
383 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/10/14(日) 23:03:40.55 ID:7rjyiqawo

 にわかにざわめきが起こる。
 戦場にうずくまる二名の民間人。
 劣勢の中で表出したアクシデントにミサトは歯噛みする。


リツコ「どうやらシンジくんのクラスメイトのようね……どうするの?この子たち、このままだと死ぬわよ」

ミサト「保安部は?」

リツコ「五分はかかるわ」


 使徒とエヴァの戦いの最中でなんの装備もない者が五分も生き延びれるはずもない。
 暗に間に合わないと伝えるリツコ。
 だがミサトはそれを受け入れようとはしなかった。
384 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/10/14(日) 23:05:47.10 ID:7rjyiqawo

ミサト「……生きてる全ての施設で使徒に攻撃! 初号機に近づかないように足止めして!」

リツコ「ミサト、なにをするつもりなの?」

ミサト「シンジくん」

シンジ「……」

ミサト「碇シンジ! 初号機パイロット、サードチルドレン!」

シンジ「は、はは、はい!?」


 呆然としていたシンジに向けてミサトは声を荒げる。
 不意の怒鳴り声に、我に返ったのか慌ててモニタに顔を向けるシンジ。


ミサト「しっかりなさい!」

シンジ「え、あ、はい!だ、大丈夫です!使徒が来て、それで、あ!あの、指のところに学校の!」

ミサト「大丈夫、全部分かってるわ。落ち着いて私の話を聞いて」


 転々とする戦況と、戦い自体の緊張で混乱気味のシンジ。
 そんな彼を落ち着けるように、普段よりも静かな口調でミサトは話し出す。


ミサト「シンジくん、彼等を助けたい?」

シンジ「……え」
385 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/10/14(日) 23:07:31.94 ID:7rjyiqawo

リツコ「ミサト?」


 突然の問いかけに皆が視線をミサトへと集める。
 リツコの呼びかけを無視してミサトはまっすぐにシンジを見つめ続けた。


ミサト「今は非常事態、さらにあの二人は退避命令を無視して出てきたわ。このまま見殺しにしても罪には問われない」

シンジ「そ、そんなミサトさん、何を言って」

ミサト「はっきり言って時間も戦力もほとんど余裕がないわ。対使徒戦のみを考えれば、あの二人を無視するのが一番よ」

シンジ「何が言いたいんですかミサトさん!」

ミサト「どうしたいのかと聞いてるのよシンジくん。彼等を助けたい? それとも……」

リツコ「ミサト!」


 厳しい顔つきのまま非情とも思える選択肢を口にするミサト。
 リツコはこの鬼気迫る状況の中で無駄な時間を消費するミサトを止めようと手を伸ばした。
386 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/10/14(日) 23:10:28.32 ID:7rjyiqawo

シンジ「……けたいです……」


 シンジの控えめな声が発令所に響き渡る。
 絶え間なく流れる爆音とオペレータからの報告の中、それは不思議と皆の耳に溶け込んでいった。


ミサト「聞こえないわ」

シンジ「助けたいです」


 顔をあげる。
 しっかりとミサトを見すえる瞳。
 おそれからか唇が震えているものの、その顔に先ほどまでの混乱はもう見られない。


ミサト「なぜ」

シンジ「……ただのクラスメイトだけど、知り合いを見殺しにするなんて……僕にはできません」


 非効率な解答。
 使徒殲滅を第一目的とするネルフとしては首を縦に振るわけにはいかない答え。
 だが、今はまだそれで良い。ミサトはそう判断する。
387 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/10/14(日) 23:11:57.01 ID:7rjyiqawo

ミサト「よっし! それでこそ男の子! 今から作戦の変更を伝えるわ、時間がないからよく聞いて!」

シンジ「……は、はい!」

ミサト「初号機のすぐ側にいる民間人をエントリープラグに退避させます。エヴァの中なら下手な施設よりも安全よ」

リツコ「何を考えてるのミサト! そんなこと許可できないわ! 越権行為よ!」

ミサト「責任は私が取るわよ」


 折れないミサトの態度に、リツコは助けを求めるように冬月を見上げた。


リツコ「副指令!」

冬月「……せめて事情を説明してくれんか、葛城くん」

ミサト「エヴァのパイロットに代わりはききません。チルドレンの心を折るような結果は望ましくないと考えました」

冬月「彼等の死がサードチルドレンの精神に甚大な影響を与えるということか」

ミサト「シンジくんは優しい子ですから」

冬月「……エントリープラグに適正のない者を二名も乗せて戦えるのかね?」

ミサト「先の使徒戦を参考に、シンクロ状態をケロロ軍曹にとってもらいつつ迎撃します」

冬月「勝算は?」

ミサト「アンビリカルケーブルも切れていませんし、エヴァが満足に動くのであれば十分にあると考えられます」

冬月「……分かった、本作戦の変更を許可する」
388 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/10/14(日) 23:14:38.21 ID:7rjyiqawo

 どこから出てくるのか分からないミサトの自信に、冬月は折れることを選択した。
 どちらにしろまだN2兵器の使用に国が踏み切れていない。万が一のことを考えても時間を稼ぐ必要がある。
 このまま即時撤退という事態は避けなければならない。


ミサト「エントリープラグの排出! それと予備稼働の兵装ビルにも使徒迎撃を行わせて!少しでも時間を稼ぐわ!」

 その言葉を最後に、全天型モニタが切れる。
 エントリープラグの排出が行われたのをシンジはLCLの流れから感じ取った。
389 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/10/14(日) 23:16:00.48 ID:7rjyiqawo

……。

…………。

………………。



シンジ「早く乗って! ここに来れば安全だから!」

 地面に寝そべる形になった初号機。
 多少不格好ではあるが、これならば脊髄部分にあるエントリープラグにも届く。
 LCLで濡れた体のまま、シンジは二人に声をかける。


トウジ「そ、そないなことゆうても……」

ケンスケ「行こうよトウジ! 転校生も言ってるじゃないか。このままじゃ俺たち死んじゃうよ」


 乗り気なケンスケとは違い、及び腰のトウジ。
 そんな二人を必死に呼び寄せるシンジ。


シンジ「まだ使徒は生きてるんだ! ミサトさんが時間を稼いでくれてる今のうちうに!早く!」

トウジ「アホかお前! それあのバケモンと戦うロボットやんけ! そんなもんに乗ったら余計死んでまうわ!」
390 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/10/14(日) 23:17:53.77 ID:7rjyiqawo

 呼びかけるシンジとその背中を押そうと奮闘するケンスケ、そして抵抗するように声をあげるトウジ。
 三人がそんな押し問答をしている最中にも使徒は着々と初号機との距離を縮めていた。
 兵装ビルを鞭でなぎ倒しながらゆっくりと飛行形態へと姿を変えるシャムシェル。


シンジ「お願いだから早く!」

トウジ「〜〜ッ!しゃ、しゃあない!男は度胸、なんでもやってみるもんや!」


 シンジの叫びがトウジの心の中にある何かを動かしたのだろうか。
 足を震わせながらも初号機へと近づくトウジ。
 ぎこちない動きで装甲のでっぱりに手足をかけてよじ登っていく。


シンジ「――き、来た!」


 その時だった。
 わずかに間に合わなかった。
 多数の対空迎撃装置を潰して初号機へと近づくシャムシェル。その不気味な顔がもう間近に迫っている。
391 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/10/14(日) 23:19:38.96 ID:7rjyiqawo

トウジ「う、うわぁー!」

ケンスケ「と、トウジ! 早く乗れって! 敵が! 敵が来てるよ!」


 生身で対峙する使徒とはここまで恐ろしいものだったのか。
 シンジは手が震えるのを止めるこが出来なかった。
 チャプチャプとLCLがわずかにプラグの外へと漏れていく。


シンジ「……そ、そんな……」


 胸に輝く赤いコア。
 鞭をうねらせて巨大な生き物が寝た切りの巨人へと迫る。
 蛇に睨まれた蛙のように動くことが出来なくなった三人。


トウジ「アカン……こら死んだわ」

ケンスケ「ひぃぃぃ……」


 鞭がしなり、初号機の背中へと落ちていく。
 思わず皆が目をつむる。
 全てが終わったかと思われたその刹那。一陣の閃光が。


???「―――零次元斬!」
392 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/10/14(日) 23:21:40.09 ID:7rjyiqawo

 切断音と共に振動が辺りを揺らす。
 おそるおそる目を開けるシンジたち。
 そんな彼等の前には振り下ろすはずの触手を切られ、動きを止めた使徒の姿が。


シンジ「え……ど、どうなって……」

???「拙者が時間を稼ぐ! 今のうちに!」


 どこからともなく聞こえる声。
 空を飛び、風を起こし、光の鞭をことごとく跳ね除ける。
 不可視の存在に使徒もとまどっているのか、僅かだがその巨体を後退させている。


シンジ「……た、助かった……」


 バクバクと脈動する心臓に手をあててシンジはそう呟いた。
 膝が笑っている。全身が震える。本当に死ぬかと思ったのだ。
 そして、それは彼だけではなかった。


トウジ「こ、こここ、腰ぬけてもうた……」

ケンスケ「た、たはは……」
393 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/10/14(日) 23:23:06.70 ID:7rjyiqawo

 間抜けな格好で初号機のすぐ側にへたり込む二人。
 どちらも顔を引きつらせて体を震えさせている。


シンジ「早く! 二人ともこっちに昇ってきて!」

トウジ「わ、悪い……動かれへん……」

ケンスケ「体が震えてさ、ちちち、力が入らないんだ……」

シンジ「そんな……! な、なんとか立ち上がるだけでも!」


 そんな所に居たら本当に死んでしまう。
 それは三人が口に出さずとも心にはしっかりと留めていた言葉だった。
 刻一刻と現実味を帯びてくるその言葉がより恐怖をかり立てる。


ケロロ「だぁー! しっかりするであります!」


 そんな時だった。
 エントリープラグから聞こえるひとつの声。
 初号機の紫色の装甲をかけ下りる緑色の生き物の姿が。
394 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/10/14(日) 23:26:08.31 ID:7rjyiqawo

ケロロ「ほら! 立つ! こんなとこで呆けてる時間は無いでありますよ!」


 早口でまくしたてながら素早くトウジの腕を持って立ち上がらせるケロロ。
 ポカンとしたトウジの顔に飛び上がってビンタを一発くれると、ビシリと初号機を指さした。


ケロロ「隊長命令! 全力でシンジ殿の元へ進むであります!」

トウジ「お、おまえ……」

ケロロ「口応えするなぁー! 目を食いしばってかけ足!」

ケンスケ・トウジ「は、はいぃ!」


 血管が浮き出そうな鬼の形相をみせるケロロ。
 二人は雷にでも打たれたかのように背筋を伸ばすと、さっきまでの怯えぶりが嘘であるかのようにシンジの元へと走り出した。


シンジ「軍曹! ありがとう!」

ケロロ「緊急事態でありますからな! アンチバリア無しでペコポン人に会うのも慣れてしまったでありますよ」


 ケロリとした顔でそう言い放つケロロ。


ケロロ「しかし、いったい誰が時間を稼いでいるのか……」

シンジ「軍曹! 軍曹も早く!」

ケロロ「……げ、げろ!」


 空へと視線を向けるケロロを持ち上げてエントリープラグの中へと飛び込む。
 飛沫の立つ音。先に入っていた二人が口から泡を吹いているのを視界の隅にとらえる。
 シンジは発令所に向けて声を放った。

シンジ「ミサトさん! 二人ともプラグに入りました!」
395 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/10/14(日) 23:28:00.74 ID:7rjyiqawo

ミサト「おっし! エントリープラグ再挿入! いくわよシンジくん!」


 再起動の指示と共に排出されていたエントリープラグの再挿入が始まる。
 マヤの報告と共に繋がれるA10神経。
 その瞬間、シンジの神経パルスに不規則な乱れが発生した。


シンジ「え……!?」

トウジ「ど、どないしたんや転校生!?」

ケンスケ「どっか怪我したのか!? お、オイ!」


 まるで鉛を手足に巻きつけているかのような締め付けと重さ。
 立ち上がろうと思考するシンジだったが、思うように初号機が動かない。
 呼吸が出来ることに気付いたのか、ようやく落ち着きを取り戻した二人がシンジに声をかける。


シンジ「ミサトさん、初号機が上手く動かないです!」

トウジ「しっかりしてくれ、お前が頼りなんや……あー!て、転校生!前!まえぇ!」


 トウジの叫び声になんとか顔を上げるシンジ。
 シャムシェルは未だにその侵攻を邪魔する何者かと交戦しているためか、幸いにも初号機はその攻撃目標にはされていない。
 だがすぐ側で光の鞭を縦横無尽に振り回すその姿は、見る者に恐怖と威圧を与えるのには十分すぎた。
396 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/10/14(日) 23:31:20.17 ID:7rjyiqawo

ケンスケ「なんだか分からないけど今のうちに動かしてくれよ転校生ぃー!」

シンジ「そ、そんなこと……言ったって!」


 痛みこそ無いものの、初号機が動くまでのレスポンスの悪さにシンジは困惑する。
 意識した通りの動きを再現してくれない初号機。
 シンクロ率低下の弊害が姿を現していた。


マヤ「シンクロパルス、乱れています!」

リツコ「やはり二人も余計に入れたのがまずかったようね……シンクロがろくに出来ていない……どうするのミサト?」


 撤退をするにしても初号機が動かなければ話にならない。
 今は見えない何者かの手によって使徒の動きは封じられているものの、このままでは決め手に欠ける。


ミサト「……クルル!」

クルル「なんだい」

ミサト「ケロロ軍曹にシンクロを切り替え! フィードバックはシンジ君に設定して! とにかく動けるように弄っちゃってくれてかまわないわ!」

クルル「ったく、無茶を言うペコポン人だぜ……」

ミサト「リツコはパルスのチェックをお願い」

リツコ「まったく……無茶だわこんな作戦」

ミサト「どういう訳か相手も手負いなのよ。今がチャンスと考えることにするわ」


 目に見えない正体不明の救援。
 予想していなかった民間人の存在とその救出。
 戦闘準備に支障をきたした状態の初号機。


冬月「……碇がいない事を老人たちに感謝せんとな……こんな現場、見せられんぞ」


 行き当たりばったりな作戦模様を確認しつつ、冬月は息を吐いた。
397 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/10/14(日) 23:33:32.14 ID:7rjyiqawo

……。


ミサト「ケロちゃん! クルルがシンクロの設定を変更したわ! 共鳴してちょうだい!」

ケロロ「ようやく出番でありますな!」


 スイスイと泳ぎながらシンジの前に浮かび上がるケロロ。
 そんな彼の姿にトウジとケンスケは目を見開く。


トウジ「あ! お、お前さっきの変なイキモン!」

ケンスケ「なんだよコイツ! 転校生! これも味方なのか!?」

ケロロ「しっつれーなペコポン人でありますなぁ」

シンジ「今はそんなこといいから、二人は大人しくしててよ!」


 この期に及んで騒ぎ出すトウジとケンスケを一喝するシンジ。
 何か言いたそうな顔の二人だったが、シンジの真剣なまなざしにそれ以上口を開こうとはしなかった。
 静かになったプラグ内。ケロロはLCLを大きく吸い込む。
398 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/10/14(日) 23:35:19.92 ID:7rjyiqawo

ケロロ「……ゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロ……」


 LCLを波打たせる不思議な音。
 それはシンジ達の耳をうち、エヴァと人間を同調させていく。
 さっきまで確かにあった意識と行動のラグがなくなる。スムーズに指を開閉させる初号機。


マヤ「シンクロ率上昇していきます!」

ミサト「よしっ!」

リツコ「精神汚染は?」

マヤ「現在のところ、精神汚染は見られません! プラグ深度も正常値を示しています!」


 ――いける。
 予測のつかない事態に二転、三転と移り変わる戦況。
 そんな中で、ミサトの勘は今こそが好機だと彼女にささやく。


ミサト「ケロロ軍曹はそのまま共鳴状態を維持! パイロットは近接攻撃へ移行して! 対使徒専用設備、あとどれだけ生きてる!?」

日向「約二割です!」

ミサト「触手のない右側に全部つっこませて! 左は見えない誰かに任せておくわ!」
399 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/10/14(日) 23:37:22.03 ID:7rjyiqawo

 息を吹き返したかのように矢継ぎ早に指示を飛ばすミサト。


ミサト「聞いてたわねシンジくん! 相手が隙をみせてるうちに叩ききるわよ!」

シンジ「……はい!」


 勢いのよい返事と共に、プラグナイフを腰に深く構えた初号機は木々を踏みつけながらシャムシェルへと突貫した。
 吹き飛ぶ地面。崩れる山肌。
 むき出しになっていた胸部のコアへとナイフの切っ先が当たる。


日向「対空ミサイル全弾発射しました!」


 触手を振り回して初号機を引き離そうとするシャムシェル。
 だがそれを先ほどからいる不可視の味方がことごとく跳ね返す。
 苦しみからか、痛みからか、コアに当たるナイフを身をねじってシャムシェルが避けた。


シンジ「うわっ!?」


 先ほどまで一度も見せてこなかった素早い身のこなしにナイフが宙へと向けられてしまう。
 シャムシェルの赤い体が右手方向へと移動し、視界には使徒とエヴァとの戦いで壊れた要塞都市のビル群が写る。
 そして、それらの瓦礫をまたぐようにして空を飛び迫りくるミサイル攻撃。
400 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/10/14(日) 23:38:41.75 ID:7rjyiqawo

トウジ「し、死ぬぅー!死んでまうー!」

シンジ「死なない……ッよ!」


 後方へと飛んで離れる初号機。
 エヴァの立っていた場所を貫くようにいくつものミサイルが空に軌跡を描きながらシャムシェルへと突き進んでいく。
 着弾。爆発。振動。


シンジ「く……ウッ……!」


 近距離での爆風と衝撃を地面に低く伏せてやり過ごす。
 雨雲がそのまま地上にまで降りてきたような巨大な爆炎。
 やがてそれが晴れた先には、当初に見たものとはまた別の光景が。


青葉「……使徒! 体表の約2割を消失!」

ミサト「一点突破で突っ込ませてみたけれど、正解だったみたいね」


 溶けた蝋細工のように真紅の体を変形させたシャムシェル。
 光の鞭もだらりと力なく地面へ垂れている。
 誰の目にも分かるほどのチャンスが、今そこに現れたのだ。
401 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/10/14(日) 23:39:58.01 ID:7rjyiqawo

マヤ「アンビリカルケーブル切断!先ほどの爆発によるものと思われます!」


 オペレータの発言と共に発令所に甲高い警告音が流れる。
 使徒と初号機を写しだすモニタのとなりに大きく表示されたカウントダウン。
 全てが上手くいくほど、戦いは甘くないのだろうか。


ミサト「今になって!?」

リツコ「むしろここまで持ったほうが凄いわ……それよりもミサト!」

ミサト「ったく! 仕方ないわシンジくん、ここはいったん……」

シンジ「うわあああああああ!」
402 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/10/14(日) 23:41:27.79 ID:7rjyiqawo

 悲鳴。
 少年パイロットが先ほどまで何度も口にしていた了承の言葉とは違うそれに、ミサトの思考が一瞬止まる。
 目の前には溶けかけたシャムシェルに向けてナイフを構えて突撃する初号機の姿が。


トウジ「て、転校生……」


 悲鳴。
 物静かだった転校生、妹を傷つけたふがいないパイロット。
 だが戦場で怯え、叫ぶだけだった自分とは違いしっかりと戦っていた彼が初めてみせた、むき出しの声。


ケンスケ「……戦ってるんだ……」


 彼のけして長くはない人生において行われる、他の存在を傷つける直接的な衝動へのおそれ。
 それをしなければならないという事実を認め、体を無理やりにでも動かすための覚悟。
 戦う自分自身を鼓舞させるための叫び声。


冬月「……勝ったな」
403 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/10/14(日) 23:42:30.22 ID:7rjyiqawo

 腹部への衝撃。


シンジ「ぐウッ!?」


 抉り込むようにして初号機の脇腹を貫通する光の鞭。
 痛みと緊張により意識が焼き切れそうになるのを自身の叫び声でなんとか押しとどめる。
 張り裂けそうな喉の痛みを無視してシンジは声をあげ続けた。


リツコ「シンジ君! ……聞こえてないの!? マヤ、パイロットのバイタルチェック!」

マヤ「軽い錯乱状態です! 正常な判断が出来ていない可能性があります!」

リツコ「ミサト、プラグの強制射出よ。このままでは初号機を失うことになるわ」

ミサト「……」

リツコ「ミサト!」

 詰め寄るリツコに何も答えず、ミサトはただじっと腕を組んだまま眼前に広がる初号機の戦いを見つめていた。
 その指は真っ白になるほど力がこめられ、服に食い込んでいる。


ミサト「……コアへの直接攻撃、あれが外れるまでは待つわ」


 底冷えするような抑揚のない声。
 使徒への敵意。戦いの緊張。命令を聞かない少年への怒り。
 胸の内でのたうつ炎を見せることなく、ミサトはただじっとモニタを睨みつける。


ミサト「勝ちなさい、シンジくん!」


 ミサトは叫ぶ。
 刻一刻と迫る活動限界時間の経過。
 それを勝利へのカウントダウンと信じて。
404 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/10/14(日) 23:43:47.38 ID:7rjyiqawo

シンジ「ぐうぅぅぅぅっ!」


 奥歯を噛みしめる。
 腹部を内側から食い破られるような感覚。
 昔に一度だけみたパニック映画のワンシーンがシンジの脳裏にフラッシュバックする。


シンジ「くそおおおおお!」


 勝ちたい。今になっては何故そう思うのかはもう分からなかった。
 ただここで逃げるという選択肢は、既にシンジの中からは消え去っていて。
 バチバチと火花のはじけ飛ぶ使徒のコアを睨みつけながらシンジは両腕を前に伸ばす。


トウジ「……」

ケンスケ「……」


 震える背中。痙攣する腹部。耳が破れそうな大声。
 教室ではじっと背中を丸めているだけだったクラスメイトとは思えない行動の数々。
 叫び声と共鳴のうずまくエントリープラグの中、少年たちは互いの顔を見て、大きく頷いた。


シンジ「ぐぅッ――え!?」


 シャムシェルの最後のあがき。より深く差し込まれる触手の痛みにシンジの手が反射的に引っ込みそうになる。
 だがそれを差し止める二つの手が。
405 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/10/14(日) 23:44:43.18 ID:7rjyiqawo

トウジ「いくで!」

ケンスケ「手を前にだせばいいんだろ!?」


 細いシンジの手に重なるように、二人の腕が伸ばされる。
 一瞬、目を大きく見開いたシンジに向けてトウジとケンスケはがっしりと肩に手を回す。


トウジ「全員で倒すんや! やるで!」

ケンスケ「お前にばっかりいいかっこさせてらんないからな!」

シンジ「……うん!」


 一瞬の間をおいて、声を揃える三人。
 エントリープラグに響き渡る三つの叫び声。


シンジ・トウジ・ケンスケ『でやあああああああああ!』


 声。体。心。
 その全てが収束する。
 使徒を倒す。その一点に向けて。
406 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/10/14(日) 23:46:00.40 ID:7rjyiqawo

マヤ「活動限界まで後一分を切りました!」


 限界か。
 これ以上は本当にどうしようもない。
 最後のラインだとミサトが声を発しようとした時、写しだされていたコアの色が変わった。


ミサト「まさかっ!」

マヤ「……ッ! こ、コアを破壊! 目標、完全に沈黙しました!」


 活動限界を知らせるカウントをかきけせるほどの歓声。
 皆が顔をほころばせる中、リツコは大きくため息をついた。
 辛勝にも程がある。このままで果たして人類はこの先も戦いを続けていけるのだろうか。


リツコ「……ミサト?」

ミサト「……った」


 度重なる無茶な作戦司令に文句の一つでも言おうとしたリツコだったが、首を振ると伸ばしかけたその手を降ろした。
 おそらく彼女はおよそ適切とは言い難いパイロットへの作戦命令により、なんらかの処分を受けるだろう。
 だが、今はそっとしておこう。


ミサト「よかった……シンジくん……」


 俯いて、安堵からくる泣き笑いの表情を隠そうとしている彼女を前にしては、誰しもがそう思うだろう。
 リツコも例外ではなかった。ただ、それだけの事だ。
407 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/10/14(日) 23:47:08.13 ID:7rjyiqawo

……。


シンジ「……」


 周囲の映像投影を止めたエントリープラグ。
 残った少ない電力により内部のLCL循環と体温維持を行うだけの薄暗い筒の中で、三人と一匹は呆けたように佇んでいた。


トウジ「……勝ったんか?」

ケンスケ「……どうなの?」

シンジ「多分……勝ったよ」


 シンジは確かにコアが破壊される瞬間を目の当たりにしていた。
 だが映像の写らないプラグ内部は自然と彼等に言い知れぬ不安のようなものを与える。
 互いの顔もよく分からない、いるかいないかの判別しかつかない暗がり。
408 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/10/14(日) 23:48:15.63 ID:7rjyiqawo

トウジ「……ごめん」

シンジ「え?」

トウジ「すまんかったってゆうとんのや。わい……お前のこと、なんも考えとらんかった」

シンジ「うぅん……僕の方こそ、妹さん……怪我させちゃったし」

トウジ「もうえぇ。跡も残らんみたいやし、後で顔でも見せたってくれ」

シンジ「……うん、わかった」

ケンスケ「凄いよ転校生……あー、その、さ……碇って呼んでいいかな?」

トウジ「そやな。ほなワイはセンセ呼ばしてもらおか」

シンジ「せ、せんせ?」

トウジ「こんな凄いもん乗りまわして世界を守っとるんや、センセくらい呼ばれても問題ないやろ」

ケンスケ「呼ばせといてやってよ、コイツって一度言い出すと聞かないんだ」

シンジ「あ、う、うん」

トウジ「なんやなんやケンスケぇ、聞こえとんねんぞコラ」


 最初はポツポツと。
 じょじょに慣れていき、いつしか三人はほとんど顔の見えない空間で気兼ねなしに口をきいていた。
 戦いを共にしたからこそ成り立った友情とでもいうべきか。
409 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/10/14(日) 23:49:21.78 ID:7rjyiqawo

ケロロ「あのー……誰か忘れてません?」

シンジ「うわ! ぐ、軍曹!」

トウジ「あ! お前さっきのバケモンやないか!」

ケンスケ「すっげー、宇宙人ってやつか?」

ケロロ「バケモンじゃないであります!我が輩はガマ星雲第58番惑星……って、こんなに暗いとカッコもつかないでありますな」


 ピシリときめた敬礼をくずし、ケロロはシンジの膝上に座った。


ケロロ「ま、我が輩のことはケロロ軍曹さまとでも呼べばいいでありますよ」

トウジ「えらっそうなカエルやなぁ」

ケロロ「カエルじゃないであります! ケロン人!」

ケンスケ「まぁまぁ、ケロロ軍曹も戦ってくれたんだろ? ありがとな」

ケロロ「まったく……ま、我が輩とシンジ殿にかかれば使徒ていど、ちょちょいのちょいでありますよ」


 まるで余裕のない戦いを繰り広げたてすぐのはずが、なぜか余裕に満ち溢れているケロロの態度にトウジとケンスケは肩をすくめるのだった。
 なんにせよ、戦いは終わった。
 きっと後一時間もすればエントリープラグも回収され、三人は外に出られるだろう。
410 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/10/14(日) 23:50:08.85 ID:7rjyiqawo

トウジ「めっちゃ怒られるんやろな」

ケンスケ「……だろうね」

シンジ「……ごめん」

トウジ「センセが謝ることちゃう、ワイらが勝手に出てったんや」

ケンスケ「そうそう。むしろ助けてくれたんだから感謝しないとなぁ。トウジなんてビビっておしっこ漏らしてたし」

トウジ「なななッ! ンなわけないやろこのアホ!」

ケンスケ「わーっ! 暴力はんたーい!」

シンジ「……ははっ……あははっ……」


 目の前でじゃれ合いの喧嘩を始める二人を見て、シンジはいつの間にか笑い声をあげてしまっていた。
 ほぐれた心の隙間から笑いが一気に溢れていく。


トウジ「……プッ」

ケンスケ「……ヘヘッ」


 そんなシンジにつられて笑い出す二人。
 何が可笑しいのか彼等自身にも分からない。
 だが、今この瞬間の笑い声はとても心地の良いもので。
411 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/10/14(日) 23:50:47.54 ID:7rjyiqawo

シンジ「……よかった」


 ずっと頭の中にこびりついていた疑問への回答。
 薄暗く血なまぐさい密室の中にそれがある気がして。
 誰にも見えない涙は、静かにLCLへと溶けた。
412 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2012/10/14(日) 23:51:48.27 ID:7rjyiqawo

 新世紀エヴァンケロオン

 第拾壱話

 純なる青 であります



 それは不器用な友情の物語
413 : ◆T6URQJJiS6 [sage]:2012/10/14(日) 23:54:26.25 ID:7rjyiqawo
本日分は終了しました。
ようやくシャムシェル戦終了です。
原作より強くし過ぎた気もしますが、倒せたので気にしない。
タイトルのナンバリングを旧漢字にしてみました。
原作っぽくてみにくい! でもかっこいい! でもみにくい!
414 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2012/10/15(月) 00:03:56.00 ID:E4CbX19/o
乙!
415 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/15(月) 00:31:34.09 ID:WwX9+bobo
416 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/15(月) 08:38:49.32 ID:a6+0eW4Fo
ドロロが「見えない」ってのがアンチバリアからなのか悪意からなのか一瞬判断に困った
417 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/10/15(月) 10:40:24.43 ID:5YSMTENAO
乙!
なんかもう本編にはどうしてケロロがでないんだって気がしてきたぞ。
418 : ◆T6URQJJiS6 [sage]:2012/10/21(日) 19:36:13.94 ID:X3Ot8XdUo
忙しくて書きためが進みませんでした。
投下は来週以降にさせてもらいます。

早くQが観たいですね!
419 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2012/10/21(日) 20:43:48.62 ID:9+HhJu8mo

頑張れよー
420 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/05(月) 01:51:45.27 ID:JXwMpxRYo
へい
421 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2012/11/08(木) 07:03:57.42 ID:jPWCK2oAO
へい
422 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/09(金) 02:34:10.05 ID:uj96rL9Bo
へい
423 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) :2012/11/11(日) 06:24:32.94 ID:t6hvYRmAO
しょー
424 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/12/03(月) 04:58:46.01 ID:NVU8/PkF0
保守
425 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/10(月) 18:53:11.88 ID:G2tTfEfho
へい
426 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/12/11(火) 08:20:16.66 ID:OszSPZkr0
どっちもエースだよね?
427 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/12/11(火) 08:20:40.06 ID:t2lFxM4K0
>>426

死ねクズ
428 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/11(火) 11:09:58.77 ID:240gF+6DO
>>426-427
ID替えて自演してんじゃねーよゴキブリ野郎
429 :NB [sage]:2012/12/11(火) 14:32:46.12 ID:egfIBNvJ0
オチケツwwwwww


  殺 伐 と し た ス レ に 初 春 が ! !

          i'⌒!        _i⌒)-、
          f゙'ー'l       ( _,O 、.ノ
          |   |       /廴人__)ヽ      _/\/\/\/|_
         ノ   "' ゝ   /  ,ォ ≠ミ   ',     \          /
        /       "ゝノ   {_ヒri}゙   }     <  サテンサン!! >
        /               ̄´    ',     /          \
       i   打ち止め     {ニニニィ    i     ̄|/\/\/\/ ̄ 
      /               ∨    }    i 
      i'    /、          ゙こ三/   ,i
      い _/  `-、.,,     、_       i 
     /' /     _/  \`i   "   /゙   ./ 
    (,,/     , '  _,,-'" i  ヾi__,,,...--t'"  ,| 
         ,/ /     \  ヽ、   i  | 
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   _ノ ̄,/ / ̄/  /'''7 / ̄ ̄/ /77        / ̄ ̄ ̄/ / ̄ ̄ ̄/
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430 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/12/11(火) 21:43:07.24 ID:KJCHcq4IO
ケロロはギャグ通常とギャグ覚醒とシリアス通常とシリアス覚醒の4段階あるからな落差がすごい

超☆隊長命令ケロロはかっこいいのにギャグ覚醒はもう終わりが見えるという
431 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/12/12(水) 20:11:58.49 ID:0hBtnxlp0
432 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/12/16(日) 08:05:31.18 ID:lGiDgJob0
まさかこのまま14年間更新凍結とかされないよね?
433 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/17(月) 19:10:10.89 ID:AM46TjWIO
>>432
それなんて劇場版
434 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/01/05(土) 02:42:16.09 ID:/IEkXxRi0
>>432
安心しろ、その前にスレは落ちてる。
435 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/10(木) 00:26:52.81 ID:eLNeiTXw0
保守
436 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/11(金) 01:56:33.82 ID:ss3ojWBeo
>>435
落ち着け
ここで保守は意味ない
437 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/27(日) 22:59:36.64 ID:SNIdk+xC0
俺はいつまでも待ってるぞ
438 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/29(火) 04:12:19.75 ID:IKukKpiIO
html化依頼か
残念だ
439 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/01(金) 00:17:33.94 ID:Y1p34H0DO
うわ、本当だ
せめてこのスレで何か一言言ってくれてもよかったと思うんだが…
440 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/02(土) 16:55:07.38 ID:UKXZG+CNo
何を期待してるの
441 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/02(土) 17:13:47.11 ID:gL9/hvWoo
続きだろ
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