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わんっタイムファミリー - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [saga]:2012/08/29(水) 23:47:39.62 ID:x68eWxlN0
昨夜は少し冷えていたから、タオルケットを頭までかぶって眠ったのが悪かったのかもしれない。
「あっつ……」とあまりの寝苦しさにうめき声をあげ、私はぼんやりと目を覚ました。タオルケットを足ではねあげ、油断すればすぐにでもまたくっつきそうになる目蓋と必死に戦う。
徐々に目が覚めてくると、次は聴覚が覚醒し始める。しんと耳を澄まして目覚ましが鳴るのを待っていると、部屋の外からカチャカチャと食器の当たる音がした。

妹「……」

その音を聞き流しながら、私はさらに数分、一日の始まりを報せる音がするのを待ち続け。
もしかして、と思い始めた私がそっと身体を起こしたのは五分ほど経ったあとだった。
敷き布団の端の枕元に倒れるようにして置いてある目覚まし時計を手に取る。時刻を確認すると、私はがさっと立ち上がった。古びた目覚まし時計が示していたのは、普段よりきっちり十分、遅い時刻だった。


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ぶらじる @ 2024/04/19(金) 19:24:04.53 ID:SNmmhSOho
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旅にでんちう @ 2024/04/17(水) 20:27:26.83 ID:/EdK+WCRO
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木曜の夜には誰もダイブせず @ 2024/04/17(水) 20:05:45.21 ID:iuZC4QbfO
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いろは「先輩、カフェがありますよ」【俺ガイル】 @ 2024/04/16(火) 23:54:11.88 ID:aOh6YfjJ0
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【MHW】古代樹の森で人間を拾ったんだが【SS】 @ 2024/04/16(火) 23:28:13.15 ID:dNS54ToO0
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こんな恋愛がしたい  安部菜々編 @ 2024/04/15(月) 21:12:49.25 ID:HdnryJIo0
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【安価・コンマ】力と魔法の支配する世界で【ファンタジー】Part2 @ 2024/04/14(日) 19:38:35.87 ID:kch9tJed0
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アテム「実践レベルのデッキ?」 @ 2024/04/14(日) 19:11:43.81 ID:Ix0pR4FB0
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2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [saga]:2012/08/29(水) 23:48:53.30 ID:x68eWxlN0
急いで顔を洗って制服に着替えると、短い髪を左右に結んで部屋を出る。短い廊下を歩いて居間の前に立ち一度短く息を吸い込んで、私は「おはよう」と扉を開けた。
「おはよう」と返事をしたのは朝食をとり終えて優雅に朝のコーヒーをすすっているお姉ちゃんだった。

姉「さっさと食べないと遅刻するわよ」

もうほとんど中身は空だったのだろう、お姉ちゃんはぐいっとカップを傾けて飲み干すとさほど興味なさそうに言いながら古いテレビのチャンネルを次々に替えていく。

この時間帯ニュースをやっている番組がほとんどなのを知っていながら、お姉ちゃんは毎朝番組難民のようにチャンネルをカチカチと替える。
これが夜のゴールデンタイムなら文句の一つも言うが、朝のこの時間帯、若しくは微妙な時間に入り込んでくるニュース番組ばかり――しかも物騒な事件が映されても替えはせず、和やかな動物の話題や家族の話題で――となるとさほど興味のない私は知らん顔を決め込むのが一番だった。
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [saga]:2012/08/29(水) 23:49:40.02 ID:x68eWxlN0
姉妹の仲は別段悪いというわけではない。むしろ私が中学に上がってからはほとんどケンカはしなくなったし、良好と言えるだろう。
けれど、私はお姉ちゃんとの間に確かな距離を感じていた。というよりは、一方的に私が避けてるといえた。
昔はお姉ちゃんの後にばかりついていっていたのに、今じゃそんなこともなく、今年の春、たった数ヶ月前に入学した高校もお姉ちゃんとは違う学校で。

けれどお姉ちゃんの学校での様子は、私が聞かずとも勝手に耳に入ってきた。
さほど広い町ではないし、姉妹揃って私立高校に行けるほどのお金はあるわけなくって、お姉ちゃんが内部から進学した高校と私の通う公立高校は思ったよりも離れていないのだ。特にお姉ちゃんみたいな人の噂なんて、あっという間に辺鄙な田舎高校に広まってしまう。
それも悪い噂ではなく、お姉ちゃんがテスト何回連続一位だとかこの間の学校行事でトップだったとか、とにかくこの人は目立つのだった。

それに嫉妬していないといえば嘘になる。けれど、私はなによりもこんな姉の妹であることが嫌だった。

妹「目覚まし鳴ってた?」
姉「鳴ってない」

長くてきれいな黒髪に触れながら、お姉ちゃんはようやくリモコンを置いた。
起こしてよ、と言いかけて結局やめる。お姉ちゃんに頼るのはできるだけやめておきたかった。
けれど私はお姉ちゃんの後ろをまわって台所に立って、そして結局「お姉ちゃん」と声をかけずにはいられずに。
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [saga]:2012/08/29(水) 23:50:55.57 ID:x68eWxlN0
姉「ん?ああ、今日はあんたの当番なのに起きるの遅いからやっといてあげた」

朝食を食べ終えたお皿を重ねこちらにやってきながら、お姉ちゃんが言う。

私の前には二人分のお弁当箱。一方はピンクの花柄のナフキンに包まれ、もう一方はただおかずが詰め込まれただけで放置されてある。
どちらが私のものかは言うまでもない。
こういうところがなんともお姉ちゃんらしい。そう思いながらも、「ありがと」と一応形だけのお礼は言っておく。

私たちは二人暮らしだった。
父親は物心ついた頃からいなかったし、母親は私が小学校五年生のときに他界。残ったのは私とお姉ちゃんだけで、だからこのお弁当も、朝、昼、夜の食事はもちろんのこと、
家事一切を当番制で分担しなんとか生活していた。

姉「じゃ、私もう行くからね」

私が自分のランチバックにお弁当をいれている間に、お姉ちゃんはすっかり準備を終えてしまって家を出て行く。
お弁当を詰めたかわりに、今日もまた朝食の皿洗いは私に任せるつもりらしかった。「いってらっしゃい」と声をかけ、私は溜息をつきたいのを我慢して朝食用のパンをトースターに放り込んだ。
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [saga]:2012/08/29(水) 23:51:56.71 ID:x68eWxlN0


お姉ちゃんと一緒に登校しなくなったのは、いつからだっただろうか。少し焦げたトーストに、薄くマーガリンを塗りながら私はふとそんなことを思った。

テレビは今、つけっぱなしにしていったお姉ちゃんが嫌いらしい可愛らしい動物の話題だった。昨日パンダの赤ちゃんが生まれたというニュース。

それを横目にトーストを齧り、頭の中でもう随分と前のように感じる記憶を引っ張り出す。

幼稚園の頃は毎日のように手を繋いで歩いていた。
お姉ちゃんが先に小学校に入学して私が追いつくまでの二年間以外、小学校でも一緒に登校していたような気がする。だったらきっと、母親が亡くなったその後くらいからだ。
最初のうちは、少し寂しかった。けれどいつのまにか、それでいいと思うようになった。それが普通であり、そしてなにより仕方がなかったのだ。

妹「きみわるい、もんなあ」

呟いた声は、ちょうどニュースの変わり目の一瞬の間の沈黙で、紛れることはなく一層重く響いた。
すぐに「次のニュースです」というアナウンサーの声がしたけれど、その一瞬の重量だけが私の中にぽつんと残った。
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [saga]:2012/08/29(水) 23:53:08.83 ID:x68eWxlN0
トーストの最後のひとかけらを噛み砕いて、冷蔵庫からパックのコーヒーを取り出して、コップに注ぐ。

思えばこの家に越してきて今年で三年目。備え付けられていた小さな冷蔵庫は、この三年の間にかなり痛んでいた。
テレビだって元々あったもので、だいぶ古い型だ。おまけに冷蔵庫と負けず劣らず小さい。私たち姉妹の部屋は別々にあるものの、お風呂や洗面所だって狭い。
よくもまあ、こんな古いアパートの一室で満足できたものだと自分を褒めてやりたくなるほどに。

もともと私立の小中高一貫の学校に通っていた私たちは、母親が亡くなってからはその学校が所有する寮に身を寄せていた。けれど姉が高校に進学すると同時に、この部屋へと移り住んだのだった。姉の成績は優秀で、このまま高校に入学すれば奨学金をもらえることになったのだ。
また、親が遺した貯金や保健、学校からの援助、そしてなによりお姉ちゃんが「これ以上姉妹揃って迷惑をかけるわけにはいかない」から寮を出たいと申し出た結果だった。

本当は、お姉ちゃんは一人暮らしをしたかったのだと思う。
まだ中学生だった私を寮に置いて、出て行きたかったのだと思う。
けれど学校は、「姉妹での二人暮らし」を条件にした。だから私もあそこを出て、今ここにいる。
私が内部進学を選ばずに外部受験を選んだのは、お姉ちゃんと違う学校に行きたかったからだけでなくて、自分が奨学金をもらえるような器でないこともわかっていたからだ。
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [saga]:2012/08/29(水) 23:53:55.55 ID:x68eWxlN0
この性格だけではない。全部において、私はどうしても、普通とは違った。特別でもなかった。ただ、私はおかしいのだ。
だからきっと、お姉ちゃんも私を置いていきたかった。そうに決まっている。

きみわるい、もんなあ。

もう一度、心の中で呟いた。
お姉ちゃんが動物のニュースを見たがらないのも、きっと私のせいだった。私が知らないだけで、動物番組や、超能力の番組もお姉ちゃんは忌み嫌っているだろう。
特に動物透視番組なんて尚更だ。


――私は、動物の声が聞こえてしまうから。

8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [saga]:2012/08/29(水) 23:55:01.07 ID:x68eWxlN0
私は、おかしいのだ。小さい頃はよく動物と会話していたことを他人に話した。家族にも、話した。
けれど人と違うことを自覚してからはなにも言わなくなった。それでもお姉ちゃんにだけは伝えた。お姉ちゃんならわかってくれると思っていた。
でもある日、私は母親にこっぴどく叱られた。もうやめて、と。見たことない顔で、声で、言われた。その後ろには、お姉ちゃんの怯えた顔があった。

たぶん、私たちの間の距離が遠ざかり始めたのは、その頃からだった。そのことがあっても変わらずに接してくれるお姉ちゃんに、私も変わらず
接せるはずなんてなかった。母親とは言うまでもなかった。母親が亡くなったとき悲しかったのは確かだ。けれど、どこかで自分を憎んでいるお母さんがいなくなって、肩の力が抜けた気がした。

お姉ちゃんへの劣等感だけじゃない。罪悪感も重なって、私は時々、お姉ちゃんの前でどんなふうにしていればいいのかわからなくなる。

冷たいコーヒーを喉の奥に流し込む。
いつのまにか朝のニュースは終わっていて、今朝のロス十分を忘れていた私は慌ててテレビを消し鞄に弁当箱を詰め込んだ。いってきます、は心の中だけで、家を飛び出した。
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [saga]:2012/08/29(水) 23:55:35.80 ID:x68eWxlN0
こんな感じで続けます
今日は以上、それではまた
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/30(木) 00:06:34.94 ID:7Q3UU2wIO
一瞬糞スレかと思ったがなかなか面白い

もっと改行した方が良いのでは?
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [saga]:2012/08/30(木) 23:09:32.22 ID:i6e9y6l20


妹「……うわ、降りそう」

教室の寂れた窓の桟に手をかけながら見上げた空はどんよりとした曇り空で、今すぐにでも雨粒がぽとぽとと落ちてきそうだった。

窓際の机に投げ出すようにして置いた鞄を探らずとも、折り畳み傘は出してある。
けれど鞄の横のくたびれたそれは、骨が折れていて使い物にはならないだろう。

放課後、いつもなら既に家に帰ってる時間。こんな雨の日に限って、私は面倒ごとに巻き込まれる。
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [saga]:2012/08/30(木) 23:11:00.40 ID:i6e9y6l20
―――――
 ―――――

うちの学校は、部活動が盛んだった。体育系の部活から文化系の部活まで様々な部活が存在しており、全国大会やインターハイの常連だなんて部も少なくはない。
かと言って絶対になにかに入らなければならないというわけでもなく、私みたいな帰宅部の生徒もそれなりにいた。
しかし、そういう生徒には必ず生徒会活動――つまりは委員会などに参加することを強制される。
それで仕方無しに、私は一番負担の少なそうな図書委員に名前を置いていた。

図書委員は月に一度の定例会議以外、放課後に集まることはない。カウンター当番があるものの、一年生は大抵が昼休みにまわされると聞いていた。
実際に私も昨月は昼休みにカウンター係を担当していた。

しかしそれで司書の先生にいたく気に入られてしまったらしい。
今日の放課後入るはずだった二年生が風邪で休み、急遽呼び出されたのが私だったのだ。
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [saga]:2012/08/30(木) 23:11:56.16 ID:i6e9y6l20
予想だにしなかった出来事に、私は「忙しいので」と断ることはできなかった。
それで図書室の閉まる五時までという約束で、私はカウンター作業に徹することになって。

そんな中、私はどうしても放ってはおけないものを見つけてしまったのだ。

返却された本がだいぶたまってきて、その中からさらに校舎の奥にある書庫へと返却するものを選り分けていると、明らかに図書室の本ではないものが出てきた。
司書の先生は「たまにあるんだよ、学級文庫がまざってるの」と言い、ついでにとでも言うように「それもそのクラスに返しにいってほしい」と頼まれてしまった。
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [saga]:2012/08/30(木) 23:12:38.62 ID:i6e9y6l20
約束の時間になって、私は重くはない鞄と共に大量の本を抱えて図書室を出た。
先に書庫に寄りだいたいの本を返したあと、何冊かの本をもう一度持ち直して教室へ向かった。最後の教室に入ったときだった。

バタンッ、バタンッ

そんな音がして腰を抜かしかけた私は、一匹の鳥が窓に体当たりしているのを見た。
よく見ると、窓に体当たりしているのではなくてすぐ外にあった大木の枝を揺らしているようにも思える。
慌てて駆け寄って窓を開けると、その鳥は勢いあまったのか吹き飛ぶようにして教室に転がり込んできた。

私は咄嗟に耳を塞いだ。目を逸らした。最後に残っていた一冊がぱたんと床に落ちた。
動物の声は聞きたくなかった、なにも。聞きたくはなかった。
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [saga]:2012/08/30(木) 23:13:52.64 ID:i6e9y6l20
目を合わさなければ、声はおぼろげにしか聞こえてこない。
この鳥はなにかを言っているようだった。鳴いていた。私は知らない振りをした。

それでも、だめだった。

たすけて。

聞こえたら最後、私はその声に耳を傾けてしまう。

たすけて。
こどもがてきにおそわれて、あのみどりのなかにおちてしまってうごけないの。たすけて。

この鳥は親鳥らしかった。
窓から身を乗り出すようにして風にそよぐ木の枝の一本を掴んだ。確かに重なった葉の奥、絶妙な具合に枝と枝との間に挟まっている小鳥がいた。
このまま揺らしたら落ちるだろうか。けれどその前に、あの辺りを大きく揺らすには距離が遠すぎた。
なにかないだろうか。そう思考を巡らしたところで、私は鞄の中に入っている折り畳み傘の存在を思い出したのだ。
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [saga]:2012/08/30(木) 23:14:47.79 ID:i6e9y6l20
今思えば教室にある箒でもよかった。けれどそのときは気持ちが急いていて、折り畳み傘を伸ばし、太い枝を叩くことしかできなかった。

最初は弱く、それではまったく意味がないと悟ってからはだんだんと強く。
ガサガサと騒がしく揺れる葉と、同じようにして揺れ動く小鳥のからだがすいっと挟まれていた枝々から抜け出したのは何分そうして格闘していたかわからなくなる頃だった。

「あっ」

弱っていた小鳥は咄嗟のことで羽根を広げた。
一瞬降下しかけたからだはすぐに上空へと舞い上がっていく。
親鳥もそれを見て、まるで傷付いていることなど感じさせない強さで小鳥の元へ飛んでいく。

ありがとうと声が聞こえたっきり、もうその親子は振り返らなかった。折り畳み傘はいつのまにか、どの骨もぼきぼきに折れていた。
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [saga]:2012/08/30(木) 23:15:24.65 ID:i6e9y6l20
―――――
 ―――――

学校を出ると、携帯には一件だけ着信が入っていた。お姉ちゃんだ。そういえば、今日の晩御飯の当番は私だった。
下駄箱で靴を履き替えながら携帯を閉じて、私は躊躇う間もなく昇降口を出た。
雨はまだ降っていない。それでも急がなければすぐにでも雨に濡れてしまうだろう。

歩いて通える範囲にある高校でも、その距離は近いとは言えない。
半ば小走りになりながら帰路を辿る私は、日ごろの運動不足のせいで徐々にのろくなっていく。

妹「……はあ、はあ」

もういいや、あとは歩こう。
家まであと半分ほどまで来たところで、私は息を切らしながら立ち止まった。
右肩に提げたままだった鞄を左肩に持ち替えたところで、私は近くの公園の脇になにかがいるのを見つけた。
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [saga]:2012/08/30(木) 23:15:57.88 ID:i6e9y6l20
犬だ。

一歩踏み出しかけて、頭を振る。今日はこんなことばかりだ、と思う。嫌な予感がした。
せっかく息切れがおさまってきた身体を、私は無理に走らせた。
できるだけ公園の脇でへたりこむようにしている犬を気にしないように通り過ぎて――

わんっ

つい、振り返った。
茶色い毛をした犬の、真っ黒い瞳が私を捉えていた。



??「どうかお恵くださいませんか、貴女」


19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [saga]:2012/08/30(木) 23:18:06.85 ID:i6e9y6l20
今日は以上
それではまた

>>10
できるだけ読みやすいようにしているつもりですがやはり読みづらいでしょうか
どれくらいの改行がちょうどいいのかわからなくて
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [saga]:2012/09/02(日) 19:25:16.98 ID:vKHLHb/h0
「は?」と声に出して、思わず固まる。
確かにはっきりと聞こえたその声は明らかに目の前で尻尾と耳を垂れているこの犬のもので。

妹「お恵みって、なに……」

あまりにもその声や言葉の使い方が人間的で、私はついその声に答えていた。
今まで何度も動物の声というのを聞いてきたが、ここまで人間的な言葉が聞こえるのは初めてだった。

??「お腹が空きました、貴女」

妹「ああ、お腹……」

??「なにか持っておられるのではないですか」

妹「悪いけどなにも……」

??「嘘です、貴女。私の嗅覚を舐めてもらっては困ります」

妹「はあ」
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [saga]:2012/09/02(日) 19:25:44.16 ID:vKHLHb/h0
なんだか、圧倒される。
犬はじりじりと私に近付いてきて、さっきまで垂れ下がっていた耳はぴんとして、その尻尾はふらふらと揺れている。

妹「でも、本当になにも持ってな……って、ちょっと!」

突然、犬が飛び掛ってきた。
あまりの急襲に、私は抵抗することもできずに真正面から体重を受けて尻餅をついた。胸に乗っかってきた犬は、くんくんと鼻を近付けてくる。
くすぐったくてどうしようもない。

妹「ちょ……」

??「くんくん……やはり、なにか匂いがします」

ふと、犬は倒れたときに離れた鞄に目を移し。
「あれですね」と私からおりると、鞄に顔を突っ込んだ。
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [saga]:2012/09/02(日) 19:26:35.03 ID:vKHLHb/h0
妹「あ、やめなさいって!」

がさごそと尻尾を振りながら私の鞄を漁る犬をなんとか止めようと立ち上がるも、既に遅かったらしい。
鞄の狭い口から顔を出した犬は、なにかをくわえていた。中身はきっとぐちゃぐちゃになっているに違いない。

??「ほら、あるではないですか」

よっぽどこの犬は嗅覚がいいらしい。
しかし、その犬が嬉々として食べようとしたものがなにかということに気付いて今度は逆に私がそいつに飛び掛った。

??「なにをするのです、貴女!」

妹「それ食べるのはだめ」

??「なぜです」
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [saga]:2012/09/02(日) 19:27:01.57 ID:vKHLHb/h0
私は犬の口からチョコレートを取り返しながら、ふうと息を吐いた。
とりあえず安心する。

妹「これは、あんたにとって悪いもの、だから」

??「悪いもの?」

妹「犬は食べちゃいけないのよ、こういうの」

??「人間ならよいというのに?」

妹「そう」

??「……そうですか」
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [saga]:2012/09/02(日) 19:27:36.07 ID:vKHLHb/h0
犬は私の腕の中から抜け出すと、さっきの数倍しゅんと耳や尻尾を垂らして俯いた。
唾液で少し濡れた銀紙に包まれたチョコレート。これの他には今、なにも持っていない。
普段は自分から動物に関わることは避けていた。けれどあの鳥のように、時々私の中で「助けてあげたい」という厄介な気持ちが動き出す。
動物の声を聞き取ってしまう自分は嫌いだった。それでも、助けが必要なのは人も犬も同じで、この犬を今助けられるのは私だけなのだ。

妹「……」

??「……では」

妹「とりあえず、うちにくる?うちなら食べるもの、なにかあるから」

私はしゃがみこむと、頭を垂れる犬に言った。
犬はぱっと顔を上げると、勢いよく尻尾をふって「わんっ」と答えた。
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [saga]:2012/09/02(日) 21:43:36.92 ID:vKHLHb/h0
いつもより短いですが今日の更新は以上
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/07(金) 03:42:42.48 ID:fCg2o9JIO
スレタイが悪かったな

また書いてくれよ
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