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ロバート「葉君と八重ちゃんは似合いのカップルだね」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/09/03(月) 04:53:00.16 ID:P1Wtri/Z0
注意事項
・このSSのハルクはロバート・ブルース・バナーとは別人です
 ・ハルクの設定もコミックや映画とは異なる部分があります
・このSSのハルクの容姿は、バイオレンスジャックの肌を緑色にして、髪を伸ばして灰色にしたようななものになっています。
 ・なのでコミックや映画よりはスマートな体型です
・一部のキャラクターの家族のプロフィールや、家族関係などを始めとして、本SS独自のオリジナル設定が大量に存在しています。
・本SSは『インクレディブル・ハルク』と『ないしょのつぼみ』(第1期)のクロスオーバー作品です。
 ・作者の別スレ(スティーブ「…『妹と恋しよっ♪』? ……R18!?」)とは世界観を共有しています。



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旅にでんちう @ 2024/04/17(水) 20:27:26.83 ID:/EdK+WCRO
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木曜の夜には誰もダイブせず @ 2024/04/17(水) 20:05:45.21 ID:iuZC4QbfO
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いろは「先輩、カフェがありますよ」【俺ガイル】 @ 2024/04/16(火) 23:54:11.88 ID:aOh6YfjJ0
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【MHW】古代樹の森で人間を拾ったんだが【SS】 @ 2024/04/16(火) 23:28:13.15 ID:dNS54ToO0
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こんな恋愛がしたい  安部菜々編 @ 2024/04/15(月) 21:12:49.25 ID:HdnryJIo0
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【安価・コンマ】力と魔法の支配する世界で【ファンタジー】Part2 @ 2024/04/14(日) 19:38:35.87 ID:kch9tJed0
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アテム「実践レベルのデッキ?」 @ 2024/04/14(日) 19:11:43.81 ID:Ix0pR4FB0
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エルヴィン「ボーナスを支給する!」 @ 2024/04/14(日) 11:41:07.59 ID:o/ZidldvO
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2 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/09/03(月) 04:53:38.00 ID:P1Wtri/Z0
ベティ「確かにそうだけど、いきなりどうしたの?」

ロバート「いや、何となく頭に思い浮かんで、そのまま口から出てきたんだ」

ベティ「変なロバートね」





シークレットボーイ・ハルク
起爆編/ガンマソーダに御用心





3 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/09/03(月) 04:55:47.12 ID:P1Wtri/Z0
東京都某所、アンベブ・ナッセンティ本社工場。

工場長「葉。機械がショートしちまった! 配線を交換してくれ!」

葉「……」

工場長のヘルプに応じた少年の名は、三枝葉<さえぐさよう>。
アンベブ・ナッセンティの役員夫妻の長男であり、幼い頃から本社工場を遊び場にしていた。
そのため社員たちとは顔見知りである。
居候であるロバート・ブルース・バナー(※)のレクチャーで機械関係にはかなり強く、今では数万円の駄賃に釣られて配線の交換とかもしている。
…現在小学六年生。
いくら腕が立つ&中小企業とはいえ、小学生に設備の応急処置を頼む工場というのも、物凄く情けないと思う。

※:コミックや映画では専ら「ブルース」と呼ばれているが、『バットマンの表向きの顔の方』と混同される可能性を考慮して、本SSでは台詞・地の文の両方共にファーストネームで呼称しています。

工場長「いっつも頼んでる方が言えた義理じゃないけど、駄賃は何に使ってるんだ?」

工場長「最低でも4万円以上は包むから、どうしても使い道が、な?」

葉「デートの時とかに使うから、貯金してる」

工場長「………女がいたの!? で、誰なのさ?」

葉「クラスメート。黙っててくれよ」

そう言って黙々と配線の交換を終えた葉。

工場長「サンキュー。ちょっと待ってな。駄賃持ってくる」

工場長が走って行ったため、葉は工場のラインに乗って流れるガラナリア(※)を、葉は只々見続けた。

※::ワールドカップブラジル代表の愛称『カナリア』と原材料の『ガラナ』を組み合わせて命名された、アンベブ・ナッセンティの主力商品。
  ちなみに中身はガラナの種のエキスを混ぜて、炭酸と黒砂糖、甘味強化のための健康的新型人工甘味料を注入してソーダ化した、黄緑がかっているハーブ水です。

かつては、遊び半分で瓶の箱詰めを手伝っていたこともあった。
だが、それも今では叶わないこと。
小学四年生の時、原因不明のめまいで倒れた葉は、そのまま入院することとなった。
突発性で重度の自律神経失調症との診断を受け、数か月の入院が決まる。
しかし、実際は小児がんであり、精神的ショックを考慮して本人には告知されなかったのである
余命数ヶ月であり、両親と主治医の会話を聞いて不審に思った葉は後日、その場に居合わせた看護師を問い詰めて、自身が末期の小児がんであることを確認した。
主治医と両親の予想通り葉は多大な精神的ショックを受けた。
それと同時に、両親にその病院の理事の一人が声をかけた。
「お子さんに、新型の即効性超強力抗癌剤の臨床試験に協力してほしい」
一縷の望みをかけた両親は、「自律神経失調症からすぐに回復する薬」の臨床試験に参加してみないか、と嘘をついて葉に説明。
葉の方も、両親の言葉から抗癌剤だと悟り、藁にも縋る思いで快諾。
こうして、臨床試験が行われたのだが……。
以下、回想。

4 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/09/03(月) 04:57:02.40 ID:P1Wtri/Z0
医師「正気か? 今の段階じゃガンマ線照射との相性が絶望的に悪いことが、動物実験で証明済みだぞ!」

医師「第一、何でしゃしゃり出てきた!?」

理事「簡単さ…。よく効いて副作用が凄く弱い抗癌剤なんかが実用化されると困るんだよ!」

医師「あんた、まさか抗癌剤に反対しているからこんな真似を! 三枝君を何だと思っているんだ!」

理事「抗癌剤に縋るバカなガキじゃないか! 死ねばいいと思ってるよ!」

医師「こんなことして、無事で済むと思っているのか!?」

理事「無事で済むのさ! ガキが死んだ後、口封じでお前を始末すれば……なんだ? ガキが緑色になって…!」

医者「報告書、ちゃんと読んだのか? 動物実験ではガンマ線照射との併用の結果、ラットは皮膚が緑がかり、筋肉が異常発達した」

医者「そして死因は、急激な肉体強化に心臓が耐えられなかったこと。三枝君の変化の速さは、ラットの時よりずっと遅い…」

医者「幸いにもあんたの目論みは大失敗のようだ」

理事「……あ、ああ、あわわわわわ!」

瞬間、強化ガラスを粉砕して、変異した葉が姿を現す。
理事は逃げようとしたが、医者が出入り口の前に立ちふさがり、逃走を防ぐ。

医者「三枝君! 君をそんな風にしたのはそいつだ!」

葉「……どこに行く気だ!」

葉「この馬鹿力を貰った礼をしていない!!」

理事「う……うわあああああああー!!」

葉は何の躊躇いもなく理事を半殺しにする。

葉「……」

直後、葉は元に戻る。

医師「こっちが適当に言い繕っておく。だから、君も黙っておくんだ」

葉「ああ……」

回想終了。

葉「全く、あれから怪我しないように気を付ける羽目になったからな……」

葉「今度の日曜日に八重をデートに誘おう……づっ゛!? ヤバい!」

恋人のことを考えていた葉は、それに気を取られて指を切ってしまった。
そして、傷口から溢れた血の一滴が、格子状の床を通って、階下のベルトコンベアーに堕ちていく。

5 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/09/03(月) 04:58:07.65 ID:P1Wtri/Z0
葉は絶叫を響かせ、直後に警報を鳴らすボタンを押す。
警報が鳴り響き、ベルトコンベアーが停まる。
葉が慌ててベルトコンベアーに駆け寄り、何事かと思った作業員が葉に話しかけた。

作業員「どうした? 何が起きた?」

葉「手すりの錆の部分で怪我して、そこから出た血がベルトコンベアーに落ちた!」

作業員「マジか! 保健所の人が来てる時にかよ!」

作業員「総員! コンベアーと容器を調べろ」

従業員たちが総出でベルトコンベーアーと、そこに並べられた容器を点検する。
大量のティッシュで傷口を抑えながら、葉もその中に紛れる。

作業員B「あった! 容器にジャストミートで入ってる!」

作業員「危なかったー!」

保健所の職員「どうしたんですか?」

作業員B「いや、会社の役員の息子が怪我しましてね。ここって規模は大きいけどベンチャーに過ぎないから、社員の身内が差し入れやらでよく入って来るんですよ」

作業員B「今言った子も、時々機械を見てくれたりするんですよ」

保健所の職員「衛生上、今後はそういう点に気をつけてくださいね」

作業員B「はい……」

工場長「おーい。誰か包帯取って来てくれー。葉の奴、血が下に落ちないよう怪我した手を机に置いてるからちょっとした血の海だ!」

工場長の言葉に、医務室に一番近い位置にいた作業員Bは自分が包帯を取りに行こうと考える。
そこに、見かねたふりをして保健所の職員が一言言った。

保健所の職員「あ、ペットボトルは私がごみ箱に捨てておきますから」

作業員B「……。ありがとうございます!」

作業員B「包帯は俺がとってきます!」

工場長「血が入った容器は?」

作業員B「保健所の職員さんが捨ててくれるそうです!」

工場長に報告した直後、作業員は医務室へと直行した。
それを見届けた保健所の職員の視線の先には、葉の血が入ったペットボトル。
彼女は、それ……ではなく、隣のペットボトルを手に取り、握り潰してゴミ箱に捨てた。
そして、いけしゃあしゃあと嘘の報告をする。

保健所の職員「捨てましたー。何時でも再開できますよー」

工場長「ありがとうございました! 再開! 操業再開ー!」

空の容器に、ソーダの中身が次々と注がれていく。
葉の血が入った容器にも、例外なく。
その独特の色のソーダは、量もあって容赦なく血の赤を掻き消していった……。





6 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/09/03(月) 04:59:03.99 ID:P1Wtri/Z0
その日の夜。

葉「……」

葉は一人、怪我をした手を見ていた。
その手には、既に包帯は巻かれていない。
そこに、姉の緑が話しかける。

緑「怪我のこと、気にしてるの?」

葉「ああ……。包帯を替えようと思って解いたら、傷口が大分小さくなってた」

緑「……。それでも、死ぬよりいいじゃない。未来のお嫁さんの為にも何が何でも」

緑「未婚で小学生な黒衣の未亡人なんて、シャレにならないわよ」

葉「……そうだな」

激励され、少しは前向きになる葉。
そこに、ロバートが慌てて部屋から出てきた。

ロバート「葉!」

葉「? ロバート?」

ロバート「Mr.ブルーから急ぎの連絡があった」

葉「薬ができたのか!?」

葉の嬉しそうな表情に、ロバートは若干ばつが悪そうに苦笑する。

ロバート「完全とはいかないが、前よりは効いたそうだ。とにかく部屋に来てくれ」



7 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/09/03(月) 04:59:47.03 ID:P1Wtri/Z0
ロバートの部屋。
三枝邸の地下室にあるこの部屋には、各種安全装置と、それらが必要な実験器具、そしてパソコンが並んでいた。
その内の二つである、スターク・インターナショナル製のPCの片割れはロバートが起動済み。
残りの方は葉が起動した。
暗号化プライベートチャットが、開かれる。
以下、チャット内容。

Mr.B2:Mr.ブルー。連れてきたぞ。

Mr.ブルー:そうか。このチャットには?

ハルク:もう入室している。薬の方はどうなっているんだ?

Mr.ブルー:焦るな。薬自体は、実は完成している。だけど一度の投薬では無理だ。一定量を一定期間ずつ投薬する必要がある。

Mr.B2:血液サンプルだけでそこまで判明したのか?

Mr.ブルー:怒られるのが嫌だから今まで黙ってたけど、実はハルクの血を実験用に培養してた。そのおかげで何とか薬の完成にこぎつけたんだけど……。

ハルク:……盗まれたらどうするつもりだ!

Mr.ブルー:その点は、そうならないように厳重なセキュリティを仕掛けてある。

Mr.B2:落ち着汲んだ、ハルク。Mr.ブルーなりに最善の手を尽くしたんだ。

Mr.ブルー:……とりあえず、会いに来てくれないか。勤務先は九州だから、そっちの所在次第では移動だけでも時間がかかると思うけど。

ハルク:いつぐらいなら会える?

Mr.ブルー:3日後から来月の末までは暇だ。その間ならいつでも会える。

Mr.B2:場所は……、ちょっと前に教えてくれた……『福岡大学・七隈キャンパス』でいいのか?

Mr.ブルー:Yesだ。ところで、ハルクに聞きたいことがあるんだ。

ハルク:何だ?

Mr.ブルー:僕たちのHNなんだけど、僕は好きな曲から、Mr.B2はミドルネームとファミリーネームの頭文字が由来だ。でも、ハルクのだけ聞きそびれてたから、さ。

Mr.B2:そういえば、聞こう聞こうと思って、今まで聞いてなかったな。

ハルク:ハルクは英語で『廃船』って意味があるだろ?

Mr.ブルー:ああ。僕とMr.B2はアメリカ人だからね。それぐらいは分かるよ。

ハルク:昔、姉貴の辞書を暇つぶしに読んでて、『ハルク』って単語とその意味を知った。そして、変異した時の姿が『廃船』みたいにデカくて異様だったから、HNを『ハルク』にしたんだ。





2日後……。
埼玉のとある裕福なお屋敷。
一人のアメリカ人老紳士が、年甲斐もなくガラナ・ソーダを美味しそうに飲み干す。

老紳士「やはり、日本の飲料水は安心して飲めるな。美味いったらありゃしない」

しかし……。

老紳士「それにしても……『効く』なぁ」

そのソーダの製造・販売元は『アンベブ・ナッセンティ』だった……。





8 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/09/03(月) 05:00:43.04 ID:P1Wtri/Z0
同時刻。
アメリカ合衆国のとある領海。
S.H.I.E.L.D.の移動本拠地。

ニック「Mr.グリーンの手掛かりが見つかった?」

クリント「はい。日本の埼玉県で、突然老紳士が自宅で倒れたのを家政婦が発見。救急車で病院に運ばれました」

クリント「診察により、一種の薬物中毒と診断され、更に検尿から、あの事件で発見された新種の放射線が検出されました」

クリント「すぐにこちらで手を打ち、ペットボトルに残っていた飲料水を調べた結果、人の血の成分とガンマ線と思しき放射線、そしてマダムMTGに近い薬物の成分が検出されました」

提出された書類の一字一句を、ニック・フューリーは見逃すことなく読み取る。
この事件は、一般的に見れば『食中毒』だ。
人の血が原因であるのだから。
だが、そこいらのありふれた食中毒とは訳が違う。
加えて、いくらS.H.I.E.L.D.が色々と裏で手を回していても、『人の口には戸は立てられない』。
放置すれば末端から情報が漏れる危険性は爆発的に上昇する。
そうなれば、飲料水の製造元にどのような打撃が生じるか分かった物ではない。
ニックはこの時点で次に出る行動の指針を決めた。

ニック「飲料水の出所と種類は?」

クリント「東京の飲料水メーカー『アンベブ・ナッセンティ』が販売しているソーダです。そっちはすぐに分かりました」

ニック「では、Mr.グリーンはその飲料水メーカーに勤務、あるいは関係している人物、ということになるな。現地のエージェントに通達!」

ニック「大至急立ち入り調査の準備。準備が完了次第、その会社に強制立ち入り調査だ!」

クリント・バートンの報告を受けた、S.H.I.E.L.D.長官ニック・フューリーは迅速に命令を出す。

ニック「バートン。我らも行くぞ。Mr.グリーンを何としても保護するんだ。彼を狙っている連中はいくらでもいるからな!」

クリント……『ホークアイ』は復唱する代わりに、弓を手にしていた。





9 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/09/03(月) 05:01:41.45 ID:P1Wtri/Z0
更に次の日。
アンベブ・ナッセンティ本社工場

工場長「さて……。今日も日がな一日中、ソーダを出荷しますか。妙に下が騒がしいけど」

作業員「工場長! 工場長!」

工場長「んあ? どうした!?」

作業員「S.H.I.E.L.D.が、S.H.I.E.L.D.が!」

工場長「アメリカの国際平和維持機関じゃないか。そのS.H.I.E.L.D.がどうした?」

作業員「S.H.I.E.L.D.の連中がガイガーカウンターを手に大人数で殴り込んできましたー!!」

工場長「何だとー!!」

工場長の悲鳴が響いた直後、彼の真後ろにS.H.I.E.L.D.のエージェントたちが押し寄せてきた……。



数分後……。
従業員は一か所に集められ、彼らの正面にはニック・フューリーが立っていた。

ニック「昨日、御社の製品を飲んだ御老人が倒れた。食中毒だな。ソーダの中に混入していた、何かのせいで」

ニック「その何かが混入したソーダからは、人の血と、今年になって認可・販売されたばかりの新型抗癌剤『マダムMTG(※)』に近い成分、そして未知の放射線が検出された」

※:MTGは『マリグナント・チューナー・・ジェノサイダー(Malignant Tumor Genocider)』の略。
  キャプテン・アメリカの血液サンプルを元に試作された健康維持薬がベースとなっている。
  葉が『ある勢力』の妨害で肉体に大異変が生じる原因となった、臨床試験時に投与されたのはこれの試作品。
  臨床試験で試作品が葉に投与された際に、長らく指摘されていた超人兵士化が現実のものとなったため、S.H.I.E.L.D.の協力でそういった事態が起きないように念入りな成分調整がされている。

ニック「心当たりのある方は正直に話してほしい。血液の持ち主……我々はMr.グリーンと呼んでいるが、彼に対して別に危害を加えるつもりはない。我々としては彼を守りたいだけだ」

作業員B「……(人の血。抗癌剤。……まさか!?)。あ、あの!」

ニック「心当たりが?」

作業員B「し、信じたくはないけど……。心当たりならある」



それから十数分後。
葉のことを要所要所ではぐらかした説明を受けたS.H.I.E.L.D.の面々は、工場内のゴミ箱を調べていた。
そして、医務室に行く通路の近くにあったゴミ箱から、握り潰されたペットボトルが発見される。
本来なら底の部分にあるべきである、葉の血は無かった。

作業員B「……あのクソアマ!」

ニック「どうやらその保健所の職員は元からこの会社によくない感情を抱いていたようだな」

ニック「頼む。Mr.グリーンについて教えてくれないか? Mr.グリーンは既に米軍から大いに注目されている」

ニック「連中はその放射線を対象にした網を日本中に張っている。最悪、今回の件を嗅ぎつけているかもしれない」

ニック「今教えてくれたら、こっちとしても食中毒の原因をその職員の持ってきた薬物だと捏造できるし、ガンマ線に関して誤魔化せる」

作業員B「……」

作業員Bは、工場長を始めとする仲間たちの方を振り向く。

工場長「俺は、その人の言葉を信じる」

工場長の言葉で腹をくくれたのか、作業員Bは意を決してニック・フューリーに伝えた。





10 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/09/03(月) 05:04:32.90 ID:P1Wtri/Z0
同日。
都内の小学校。

葉「……」

葉はここ最近、学校生活に若干の不満を抱えていた。
実を言うと、恋人との交際が、彼女の友人二名に発覚したからだ。
どうやって発覚したのか、葉には見当もつかいない。
恋人の方も、他人に教える気は毛頭なかった。
早い話、その二人が自力で感づいたに過ぎない。
しかしだ、その二人の内、耳年増な方……加藤麗愛<かとうれあ>に問題があった。
単純に……声が大きかったのである。
おかげで、今や葉と彼女の交際は公然の事実。
それは洋の恋人、山吹八重<やまぶきやえ>の学校生活に大きな支障を生じさせた。
なぜなら、彼女の容姿が中性的……、失礼な言い方をすればボーイッシュだったから。
そして、葉は学校のイケメントリオでは文句なしの一番人気。
故に、八重に対する他の女子たちの不満は激しかったのである。
今日も、登校早々にクラスメートが八重に絡んできたのを、睨んで解決したばかりだったりする。

太「今日も朝から激しかったな」

葉「そもそもお前が加藤を制御していればこうならなかったんだぞ」

太「どうやって制御するんだよ?」

葉「キスして、口の中に舌でも入れたらいいだろ」

イケメントリオのバカ&問題児担当・久木太<くきふとし>に対して、冷ややかな態度をとる葉。
しれっと小学生らしくない言葉を織り交ぜている。

太「……なんか変なこと言わなかったか?」

葉「お前の言う事やる事よりは普通だろ?」

クールに言い切る葉。
そう言いつつも、彼の視線の先には八重がいた。
今、八重は麗愛ともう一人の友人、立花<たちばな>つぼみと一緒に話し込んでいる。

麗愛「八重ちん。大丈夫なの?」

八重「……大丈夫。三枝君が守ってくれているから」

つぼみ「でも、靴を隠されたり、椅子に画びょうが置かれていたこともあったよ」

八重「そっちも、三枝君がやった人と話をつけたんだけど……。それ絡みで何回かちょっと変なことがあったの」

麗愛「怪我で何日か休んだり、とか?」

当てずっぽうで言った麗愛の一言に、八重は凄まじく気まずそうな表情で首を縦に振る。

つぼみ「……三枝君、かな?」

麗愛「どうなんだろ……?」

八重「みんな、人が多いところで怪我した人ばかりで、その人たちも誰にやられたのかは分からないみたい。でも、私は……」

八重「三枝君がやったかどうか、不安なんだ……」

一気に気まずい空気が流れる。
余りの気まずさに、会話も途切れてしまう。
それに気づいた葉が八重たちに話しかけようとした直後、イケメントリオのまとめ役でる根本大樹<ねもとたいき>が大慌てで教室に入ってきた。

大樹「葉!」

葉「……どうした?」

大樹「変な外人たちがいきなり学校に上り込んで、お前のことを尋ねながらこっちに向かってる!」

大樹の言葉にただならぬ事態であると察した葉は、パワーアンクルとパワーリストを外して自分の机の上にポイ捨てのように投げて置いた。
市販の物よりはるかに重いらしく、置かれたパワーアンクルとパワーリストが、ドスン! と音を立てた。
葉が戦闘態勢に入った直後、大樹曰く「変な外人たち」が大挙して教室に入ってくる。

11 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/09/03(月) 05:07:00.95 ID:P1Wtri/Z0
?????「三枝葉ね? 私たちは…… 葉「づぁっ!」

先頭に立っていた女性が開口した瞬間、葉はジャンピング回し蹴りをその女性に向けて放つ。
女性はイナバウアーの要領で華麗に避け、葉が着地した瞬間を狙って他の外人隊が一斉に、彼目掛けて押しかけた。

葉「づぁう!」

葉はその内の一人の頭上を跳び箱の要領で大ジャンプ。
更に蹴りを入れようとした瞬間、うなじに尖った何かが突き付けられた。

????「落ち着いてくれ。俺たちはお前に危害を加えるつもりはない」

葉「……だったら、突きつけてるのをどけてくれないか?」

葉の要求通り、後ろにいた男はうなじに突き付けていた、尖った何かをどける。
それを見計らって、女の方が改めて葉の眼前に立って、自分の名を名乗る。

?????「ナターシャ・ロマノフよ。君の後ろにいるのはクリント・バートン」

クリント「よろしく。窓の方を向いて微動だにしていないのはフィル・コールソン」

ナターシャ「私たちはS.H.I.E.L.D.のエージェントよ。不本意でしょうけど、君を保護しにきたの」

葉「……保護? 俺を?」

ナターシャ「2年前、東京女子医科大学病院で起きて、迷宮入りした殺人未遂事件、通称『東京女子医大第二事件』。知っているわね?」

ナターシャ「病院を運営する大学の理事の一人で、抗癌剤反対論者だった医師が滅多打ちにされて虫の息の重傷」

ナターシャ「彼が発見された部屋も、恐竜が暴れたとしか思えないほど破壊されていたわ」

ナターシャの言葉に、葉は一気に固まる。
その事件に関しては、当時の新聞に載っていたからみんな知っている。
件の理事が臨床試験中の患者を失敗に見せかけて殺そうとしたことと、その患者が葉であったことも。

クリント「目撃者は、その部屋で臨床試験を行っていた医師と、その時に抗癌剤を投与されていた患者……君の二人」

クリント「犯人に関しては、『破壊行為のあまりの激しさに身を守るのが精いっぱいで見ていない』の一点張り。心当たりを聞いても知らぬ存ぜぬ」

クリント「手掛かりといえば、現場で感知されたガンマ線によく似た有害性の低い放射線」

クリント「君に投与された抗癌剤を作った薬品メーカーは、我々S.H.I.E.L.D.が援助していた。だからその事件に関する情報は自然とこっちにも伝わった」

ナターシャ「その臨床試験が行われていた部屋を破壊した犯人は、その後も都内で人間業とは思えない破壊活動の痕跡と、ガンマ線によく似た放射線を残したわ」

ナターシャ「S.H.I.E.L.D.は彼を『Mr.グリーン』と、放射線を『デストロ線』と名付けて、この2年回追跡してきたわ」

ナターシャ「そして昨日、あなたのご両親が務める会社が製造しているソーダを飲んだ人が倒れた。倒れた人と、ソーダの両方から人の血とあの抗癌剤の成分、デストロ線が検出されたわ」

クリントとナターシャの説明に、葉はどんどん顔を青くする。

ナターシャ「私たちは何らかの理由でMr.グリーンの体液が混入したと踏んで、会社の方に立ち入らせてもらって事情を話した結果、君にたどり着いたのよ。『Mr.グリーン』」

最早言い逃れできないと踏んだ葉は、肩の力を抜く。

葉「保護する、って言ったよな? 何から保護するんだ?」

12 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/09/03(月) 05:07:40.69 ID:P1Wtri/Z0
ナターシャ「……アメリカ陸軍。コールソン、連中が来る気配は?」

ナターシャは、窓から校門を見張っているフィル・コールソンに話しかける。
フィルは視線を逸らすことなく、見た通りのことを報告し出した。

フィル「どうやって嗅ぎつけたのかは分からないが、押しかけてきたぞ!」

クリント「三枝。今すぐ荷物をまとめろ。緊急下校の時間だ!」

クリントに促されるがまま、葉は急いで荷物をまとめる。
1分もかからずに荷物をまとめた葉は、それをフィルに預けた。

フィル「戦えるのか?」

葉「『この姿』でも無傷で、ヤクザ3〜4人ぐらいは病院送りに出来るぐらいは強い」

フィル「君の荷物、全力で預かっておくよ」

八重「三枝君!」

葉「……時間はかかるけど、必ず戻ってくる」

心配そうな八重を抱きしめ、更にキスをして落ち着かせる葉。
目の前をナターシャとクリントに、後ろを残りのエージェントたちにガードされる形で、葉は教室を出た。



ナターシャ「……早速お出ましみたいね」

クリント「……」

1階にたどり着いた直後、葉たちは米軍兵士たちと鉢合わせた。

弓を手にしたクリントを筆頭にエージェントの面々は一斉に戦闘態勢に入る。
ナターシャがサプレッサー付きのリボルバーを構え他のを見て、葉は即座にツッコミを入れた。

葉「……リボルバーにサイレンサーを着けても意味はないぞ」

ナターシャ「サイレンサーじゃなくてサプレッサーよ。それに、この銃はリボルバーだけどサプレッサーが役に立つの(※)」

※:ナターシャが持っているリボルバーは『ナガンM1895』。
  ベルギーのガンスミス、エミール&レオンのナガン・ブラザースが19世紀末期に開発した銃である。
  リボルバーでありながら密閉式、という特異な構造は燃焼ガスが無いので威力の弱い弾でも実戦で活用可能な上、サプレッサーの使用をも可能とした。
  シリンダーの構造上、装填と排莢に時間がかかるという欠点があったため20世紀に入ると時代遅れとなった。
  しかし、技術力に大きな陰りが生じた当時の旧ソ連軍では、かの名銃『トカレフTT33』が登場するまで重宝され続けてきた。

反論すると同時に、ナターシャは容赦なく発砲。
弾は特製のゴム弾らしく、撃たれた米兵には出血する様子は見られない。
クリントも、矢尻が明らかに刺さりそうにない形状をしている矢を発射。
別の米兵の銃に吸盤で引っ付いた瞬間、やは笑気ガスを放射した。
数名の米兵が倒れたのを見計らい、今度は葉が残りの米兵たちのうち数人に容赦のない打撃を加える(※)。
これにナターシャも加わり、肉弾戦による華麗なダンスが描かれていく。
米兵達が全滅(※)したのを見計らい、葉たちは戦闘態勢を解除して悠々と校舎を出た。

※:抗癌剤の副作用で素の肉体も強化されているため、葉はこの状態でも結構強い

※:重傷を負わせはしたが、別に殺してはいない





13 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/09/03(月) 05:10:02.06 ID:P1Wtri/Z0
葉「ああ。米軍にまで察知された。すぐに福岡まで行く必要がある」

葉「一度帰るから、家の方で待っててくれ」

ロバートとの通話を終了し、葉は携帯電話を折りたたむ。
現在、ナターシャが運転する自動車に、フィル、クリントとセットで葉は乗っている。

クリント「三枝。福岡に何がるんだ?」

葉「……抗癌剤の成分とデストロ線を消す薬さ。俺は、あの日以来、この力を消す方法をロバートと一緒に探していた」

クリント「ロバート・ブルース・バナー博士のことだな?」

葉「ああ。ロバートのチャット仲間に、Mr.ブルーっていう薬学に詳しい人がいて、協力してもらった。そして3日前、ようやく薬が完成したって連絡が入ったんだ」

葉「どこにいるかはMr.ブルー本人が前もって教えてくれた。さっきも言ったように、福岡市だ」

クリント「……俺たち個人としては、その力を暴走させないために消すというのなら、賛成したい」

ナターシャ「だけど、問題は私たちのボスも賛同してくれるかどうか。あなたの家の方にボスが直接お邪魔してるわ。家に着いたらすぐに相談しないと」

消すか、残すか、全てはニック・フューリーの判断次第。
一応の区切りがついたと見たフィルは、会話の話題を切り替えた。

フィル「Mr.グリーン。君の体液が混入した件だが、社員の人に聞いてみたところ、君の血が入ってしまったペットボトルがそのまま廃棄されなかっためだと確定した」

フィル「保健所の職員が、その場にいた社員を言い包めて包帯を取りに行くように仕向け、見ている人がいなくなったのを見計らって血が入っていない綺麗なペットボトルを廃棄」

フィル「そして血が入った方のペットボトルを捨てたと嘘の報告をして操業を再開させた。かくして、君の血が入ったガンマ・ソーダが世に出て、食中毒を起こしたという訳だ」

葉「……」

フィル「元々、その職員がいる保健所は濡れ衣を着せて飲食店やペットショップを潰すといった行為を定期的に繰り返している、という黒い噂が絶えなかったところだ」

フィル「即興で調べたから全部を確認できたわけじゃないが、調べることができた分は全部事実だった。……お礼参り、したい?」

葉「…………当たり前!」

そう答えた葉の両の瞳は、エメラルドのような緑色になっていた。





東京都某所の保健所。
件の女性の職員もそこにいる。
そこに、全身をローブのようなもので覆った子供が入ってきた。

保健所の職員「?」

その職員が話しかける直前、子供に異変が生じる。
何も履いていない足と、ローブのようなものからはみ出ていた手が肥大化する。
同時に子供はフードに当たる部分を脱ぐ。
その子供は……、葉であった。

葉「ぬ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ"あ゛あ"っ!」

やがて肥大化は進行し、肌の色も緑色へと変色。
それと同時にローブみたいなものも裂けていき、股間の回り以外がズタズタのコマ切れとなる。
遂には身長247.5cm、体重244sの巨体へと変貌した!

???「貴様みたいなやつは、ハルクが叩きのめす! この建物もぶち壊す!」

ハルク「ガア゛ア゛ア゛ア゛ーーーー!!」

ハルクは職員を掴み、顔面を容赦なく壁に叩きつける。
数回壁に叩きつけられたその職員は、うめき声を上げることすらできずに、全ての歯と上下のアゴと鼻の骨、顔面を粉砕され、壁に血の華を咲かせた。
職員をポイ捨てのように床に投げ捨てたハルクは、仕上げとばかりに今度は建物内の壁と柱を破壊し始めた……!



14 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/09/03(月) 05:13:16.71 ID:P1Wtri/Z0
その頃、保健所の外ではナターシャとクリント、そしてフィルが、悲鳴と怒号と破砕音を鳴り響かせながら傾き出した保健所を仏頂面で見つめていた。

ナターシャ「もみ消しの方は?」

フィル「ノープロブレム」

二人の間に事務的な会話が交わされる中、クリントは別のことを考えていた。
それを、直後に彼自身の口から発せられた呟きが証明する。

クリント「……半壊で済ませるか全壊まで行くか、それが問題だな」

直後、入り口の隣の壁をぶち抜いて、ハルクが飛び出してきた。

クリント「半壊のようだな」

ハルク「それでも、取り壊しが必要な程度には崩した」

この言葉を発した直後、ハルクは葉に戻った。
それと同時にナターシャが服を差し出す。

ナターシャ「煙幕を張るから、今の内に急いで着替えて」

葉「分かった」





15 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/09/03(月) 05:14:01.97 ID:P1Wtri/Z0
それから十数分後。
三枝家の家。

ロバート「葉!」

ニック「……初めまして。三枝葉ことMr.グリーン。S.H.I.E.L.D.の長官、ニック・フューリーだ」

ニック「話は既にバナー博士から聞いている。福岡市に、君のそのパワーを消す薬があると」

葉「ああ。俺としては、普通の小学生に戻りたい。もし反対するなら…… ニック「ご期待に添えなくて悪いが、それには私も賛成だ」

葉の言葉を遮り、ニックはハッキリと賛同の意を示す。
葉とロバートは呆然となり、ナターシャたちは安堵した。

ニック「我々としては、あくまでも君の保護が目的だ。だが、君としては不本意だろう。こちらとしても、それは本意ではない」

ニック「その力を残して半永久的に保護観察下に置かれるより、力を消して一刻も早く保護観察下から解放された方が、双方にとってはプラスだ」

ニック「だから君の福岡行き、全面的に支援する」

葉は何も言わず、右手を差し出す。
ニックも何も言わずに、差し出された手を握り、握手を交わした。

葉「今すぐ福岡へ行く。ロバートも急いで準備してくれ!」

ロバート「OK。しかしどうやって行く?」

ニック「フェリー、飛行機、新幹線、高速バス。こちらの失態だが脱出阻止のために米軍に抑えられている。奴らは乗ろうとした瞬間に他の乗客ごと躊躇いなく君を撃つだろう」

フィル「SSRの方に頼んでみては? あちらはロジャース中将指揮下の独立愚連隊状態ですから、協力してくれる可能性もあります」

ニック「既に在日米軍のこれ以上の暗躍を抑えるために、動いてもらっている。ロジャース中将も今は参謀本部に行って直談判中だ」

ニック「残るは自動車だ。高速道路も料金所で引っかかる危険性がある。だから一般道を突っ切って行くぞ!」

葉「乗る車は?」

ニック「すぐにつく」

ニックの言葉通り、足となる車が到着した。
中々に巨大なバスが。

ニック「トニー・スタークに設計してもらった、エアスラスター式バランサー搭載の装甲デコレーションバス。その名も『一番星・オルタナティブ』(※)だ!」

ニック「運転はナターシャ・ロマノフ、コードネーム『ブラックウィドー』がする。彼女はちゃんとバスの運転に必要な免許は国外で取得済み。日本で運転するための国際免許も取得してある」

※:命名はスターク・インターナショナル社長のオバディア・ステイン。
  日本語の勉強と趣味である日本のアンティーク映画鑑賞も兼ねて『トラック野郎』シリーズを熱心に鑑賞していた影響である。
  ちなみに映画に出ているオリジナルの『一番星』はデコトラであり、『オルタナティブ』はオリジナルとは車種が違うことに由来する。





16 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/09/03(月) 05:14:59.55 ID:P1Wtri/Z0
東京都郊外。
一番星・オルタナティブは悠々と一般道を走っている。
ナターシャが少し楽しそうに運転している一方、テーブルが置かれている後部座席は少し剣呑な雰囲気が漂っていた。
何故なら、太と大樹に、つぼみと麗愛、挙句の果てには八重までいるから。

葉「…………」

大樹「……お前が学校を出た後、米軍の連中が今度は三枝を連れ出そうとしたんだ」

大樹「幸い、三枝を保護しに来た、S.H.I.E.L.D.の別のエージェントのおかげで助かったけどな」

太「シャロン・カーターって名前だったな。綺麗な人だったぜ」

葉「で、何でお前らまで乗ってる? なんで米軍が八重まで狙った?」

麗愛「理由は簡単。あたしたちが乗っているのは、巻き込まれたから」

麗愛「んでもって、八重ちんまで狙われたのは、米軍の偉い人の孫だから」

あっけらかんと言う麗愛。
それもあってか、葉は瞬時に固まる。

葉「……どういうことだ??」

つぼみ「えっとね……。八重ちんのお父さんってアメリカ人なの。でも、八重ちんのお爺ちゃんに当たる自分のお父さんとは仲が良くなかったの」

つぼみ「それで、とうとうアメリカを飛び出して、日本で働いてた時に八重ちんのお母さんと出会って、三枝家に婿入りしたんだって」

葉「その軍の偉い人って、誰なんだ?」

太「サディアス・E・ロス将軍。通称、サンダーボルト・ロス。シャロンさんはそうい言ってたよ」

ロバート「ロスだって!?」

太が口にした名前に、ロバートは大げさなほど反応する。
これには、みんなが驚く。

ロバート「……すまない。まさか、ベティの身内が日本にいるとは思ってなくてな」

ロバート「これだけじゃ分からないだろうから、説明しておく。ロス将軍には、子供が二人いる。一人は、八重君のお父さん。そしてもう一人は、僕の恋人・エリザベスことベティだ」

ロバート「ベティから、もう十年以上も音信不通だと聞かされてはいたけど……」

ロバート「しかし、兄妹揃って父親との確執から日本に渡っていたとはな……」

麗愛「そんなに仲が悪いの?」

ロバート「将軍の方は純粋に二人を愛し、慈しんでいた。けれど、軍人として将軍は冷酷過ぎた上に、不器用で素直じゃない性格が災いした」

ロバート「誕生日の祝福の言葉をかけることもなければ、妻の葬儀に出ることもなかった」

ロバート「二人が将軍のことを嫌うようになるのに、そう時間はかからなかった。結果、二人とも家ごとアメリカを捨てて日本に来る格好となった」

ロバートの説明に、葉たちは黙る格好となった。





17 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/09/03(月) 05:19:09.41 ID:P1Wtri/Z0
同時刻。
神奈川県、座間市と相模原市南区、キャンプ座間。
司令部内部。
サディアス・ロス陸軍中将(※)と、その直属の部隊がいた。

※:『インクレディブル・ハルク』では詳細な所属と階級には言及されていなかった。
  DVDで確認したところ、軍服のデザインがアメリカ陸軍の物であり、階級章も『星3つ』であったため、本SSでは『陸軍中将』と表記している。

ロス中将「Mr.グリーンの動向は?」

部下A「都内の保健所を半壊させ、職員一名を半死半生の袋叩きにして以降は不明です」

部下A「ただS.H.I.E.L.D.の所有する車両が東京都を出て、西へと走行中です。おそらくは……」

ロス中将「可能性としては十分過ぎるな。その車両を追跡しろ。場合によっては破壊してでも止めろ」

ロス中将「で、八重と蒼の方は?」

部下B「八重女史は現在、Mr.グリーンと同行していると思われます。蒼君は……S.H.I.E.L.D.がガードしているのでうかつに近寄れません」

ロス中将「……Mr.グリーンの追跡に専念。実弾の使用も許可する」

部下B「巻き添えの被害の方はいかがいたします?」

ロス中将「考えなくていい。相手はMr.グリーンだ。Mr.グリーンと八重さえ確保できれば死人がどれだけ出ようとも問題は無い」

ロス中将「仮に屍の山ができようと、弱腰の日本政府に何ができる? 日本人如きに我々を裁くことはできん!」



キャンプ座間の敷地内に、部隊が集結する。
陸軍の部隊にありがちな装備に加えてガンシップ、対地ヘリ、果てはスターク・インターナショナルの製品まで用意される
それを率いるのはロシア出身の元傭兵、エミル・ブロンスキー。

エミル「確認する。S.H.I.E.L.D.のバスが西に向かっているんだな?」

兵士A「Yes sir。民間人の犠牲を大量に出してでも対象を確保せよとのことです」

エミル「……Mr.グリーンだけじゃなくて、自分の孫娘まで確保の対象にするとはな」

兵士A「日本でなら公私混同しても問題ないと思ってるのかもしれません。参加する兵士も、懲戒逃れのために志願したなのが大半ですし……」

エミル「まあ、俺としては怪物相手にドンパチできるから、特に問題は無い。俺たちは兵隊だ。文句は作戦が終わった後に再開すればいい。気合を入れるぞ!」

兵士「Sir,yes,sir!」





18 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/09/03(月) 05:20:01.13 ID:P1Wtri/Z0
数時間後。
神奈川県、横浜市の郊外。
食料の確保と、他のエージェントからの武器受け取りのために中華街で一時停車していた一番星・オルタナティブ。
両方が完了したため、慌ただしく発車して、現在は郊外にいた。
時速は、既に法定速度を大幅にオーバーしている。

ナターシャ「今のところ、米軍の追跡はないわね」

フィル「だが、キャンプ座間の所在県だ。向こうから追手が来るのは確実だな」

大樹「……噂をすれば影、っていうのかな? 本当に来たぞ!」

一番星・オルタナティブの背後を、ハンヴィーが押し寄せていた。
それを見たフィルは、横浜中華街で受け取った、武器が入っている複数のトランクの一つを開く。

クリント「矢と矢尻セットは?」

フィル「別のトランクだ。『Arrow』って紙テープが張ってるの!」

フィル「っと。トニー・スターク様様だな。レールガンまで用意してくれてるよ」

ナターシャ「電源は!?」

フィル「撃つ奴の体に溜まってたり空気宙に浮いたりしている静電気を吸い取って発射する仕組みだ!」

フィルの声を聴いて疑問が解消されたのか、ナターシャは運転席にあるスイッチを操作。
瞬間、車体後部が展開され、社内も後部座席が変形する。
クリントが弓を、フィルがレールガンを構えたと同時に、ハンヴィーの群れの方も銃座に座っている米兵が狙いを定める。
引き金を引かれるよりも早く、クリントは矢を発射。
矢はハンヴィーの内の1台のタイヤに命中、タイヤがバーストしたハンヴィーはスピンした上に横転。
銃座に座っていた米兵も宙を舞う。
フィルもレールガンを別のハンヴィーのタイヤ目掛けて発射。
今度は派手な爆発と共に後ろ向きに回転しながら宙を舞い、残りも突然の爆風に慌てて運転をミスって、ある車両は盛大にぶつかり合い、ある車両はガードレールに突っ込む。
気が付けば、追手のハンヴィーは全滅していた。

麗愛「ハリウッド映画みたーい。でも、何人かは、死んだの、かな?」

フィル「全治数か月程度で済んでいることを祈るしかないな」

凄惨なシーンを見て、興奮すると同時に現実的な意見も口にする麗愛。
フィルもさっきので死人が出ていないことを祈ることしかできなかった。
それを尻目に、バスの後部は元に戻っていく。

つぼみ「福岡までどれぐらいかかります?」

ナターシャ「睡眠時間を含めて、短くても明後日まではかかるわね」





19 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/09/03(月) 05:21:19.88 ID:P1Wtri/Z0
キャンプ座間。
指令室内部。
ロス中将はエミル・ブロンスキーに、『ある計画』の説明をしていた。

ロス中将「これから君に話すことは、私個人にとっても、軍にとっても最重要機密事項だ」

ロス中将「我が軍の歩兵兵器開発プログラム、正式名称『再誕計画』(※)を知っているだろう?」

ロス中将「バイオテクノロジーによる強化兵士育成プログラムだ」

ロス中将「第二次大戦中、エイブラハム・アースキン博士がヒドラのスパイに暗殺されたせいで頓挫した『スーパーソルジャー計画』をリブートしたものだ」

エミル「要するに、『キャプテン・アメリカ量産計画』と解釈すればいいのですか?」

※:スーパーソルジャー計画を『rebirth』したものであるため、この名称がついた。

エミルの率直な質問に対して、ロス中将は足を止め、彼の方を振り向いて答える。

ロス中将「解釈としては間違ってはいないが、正解とは言い難いな。ロジャースはあくまでもスーパーソルジャー1号に過ぎない」

ロス中将「スーパーソルジャー計画は、大人数のスーパーソルジャーで構成された軍団の構築することが目的だった」

ロス中将「再誕計画は、それ本来の目的を現代の技術で成功させるためにある」

ロス中将は、脱いだ帽子を机に置き、自分の椅子に腰かける。
そして、その状態で説明を続けた。

ロス中将「スーパーソルジャーを生み出すために必須のガジェット、超人血清のオリジナルは、アースキン博士の死と同時に決して手に入らぬものとなった」

ロス中将「だから我々は、当時のロジャースから採取された血液を元に開発され、特殊部隊向けに秘密裏に配備されていた健康維持薬に着目した」

ロス中将「肉体強化が起きないように成分を調整されていたが、血液のデータを元に改良を重ねた。ところがだ」

ロス中将「今から2年前、工作員から日本のある製薬会社がS.H.I.E.L.D.の援助で新型抗癌剤を開発しているとの情報が入った。ここで何故その抗癌剤の話を出したと思う?」

エミル「その抗癌剤も件の健康維持薬をベースにしていたから、ですか?」

ロス中将「A評価だ。その抗癌剤は開発の途中で、何の因果か成分が超人血清のそれと酷似してしまった開発初期の段階でな」

ロス中将「しかも、放射線治療と極めて相性が悪いという重大な欠陥もあった。動物実験で使用されたネズミの死に様はそれはもう酷い物だったとか」

ロス中将「だが、その欠陥にさえ目をつむれば、抗癌剤としては副作用が無くて従来品よりはるかに強力、という夢の薬だった。我々はそれを逆手に取ることにした」

ロス中将「臨床試験の情報を入手し、それが行われる病院の理事の一人が病的な抗癌剤反対派であることも調べていた我々は、彼を焚き付けた」

ロス中将「臨床の際に放射線、それも最も相性が悪かったガンマ線を照射させるようにな。そうすれば、被験者になったバカな患者は死に、抗癌剤は世に出ることがなくなる」

ロス中将「その後で悠々とデータや抗癌剤そのものを手に入れ、それによって超人血清復元にかかる時間が大幅に短縮されるるはずだった」

ロス中将「しかし、臨床試験は成功。あの理事も正体不明の何者かに叩きのめされて重傷。おかげでこっちの目論みは大失敗に終わった」

エミル「そして、新種の放射線を現場に残した何者かは、S.H.I.E.L.D.によって『Mr.グリーン』と命名され、ここ2年間に渡り東京都内で破壊の痕跡と放射線を残した、という訳ですね」

ロス中将「そうだ。昏睡状態に陥る直前の例の理事からガンマ線照射自体は成功していたことを聞き出していた」

ロス中将「だから以前からその被験者がMr.グリーンではないかと推測し、マークしていた。奴はなかなか尻尾を出さなかったが、新種の放射線を対象にして網を張り、待ち続けた」

エミル「そして、昨日。ようやく引っかかった、ということですか」

ロス中将「奴には個人的な私怨もある。それ込みで何としても確保するんだ」





20 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/09/03(月) 05:22:21.98 ID:P1Wtri/Z0
同時刻。
日本の領海内、S.H.I.E.L.D.の移動本拠地の甲板。
ニックが腕時計で時間を確認した直後、火をまとった人型の何かが火を吹き消して着地。
更に海面から飛び出た別の何かが空を飛び、またもや着地。
そして、ヘリが飛んでくる。
そのヘリから、赤いマントを着た更に別の何かがヘリを降りて空中を歩き、ニックの手前まで静かに着地。

ニック「召集要請に応じてくれたことに感謝する、インベーダーズの諸君」

ヒューマン・トーチ「グラント(※)にも頼まれたからな」

サブマリナー「麿たちとしても、ロス中将にはデカい顔をさせる訳にはいかないでおじゃる」

スピリット・オブ・76「私たち『インベーダーズ』一同、全力でMr.グリーンの手助けをさせてもらいますわ」

召集に応じた者たち。
彼らはヒューマン・トーチ(※)、サブマリナー、スピリット・オブ・76。
第二次世界大戦中、当時の人はこの3人を、『インベーダーズ』と呼んだ!

※:いうまでもなく、スティーブ・グラント・ロジャースこと、キャプテン・アメリカのこと。

※:誤解無きように言っておくが、このヒューマン・トーチはジョニー・ストームではない。
  『キャプテン・アメリカ ザ・ファースト・アベンジャー』の1シーンに少しだけ出てきたロボットである。
  マーベルにおいて、ヒューマン・トーチは複数存在しており、正史世界ではロボットが初代、ジョニー・ストームが2代目、ということになっているのだ。
  全くの余談だが、3代目はよりにもよってゴーストライダーだったりする。
  どんな格好なのか気になる人は、画像検索をしてみよう!





『行脚編/その陰謀を暴力でぶっ壊す!』までサヨウナラ……。
21 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/09/03(月) 05:23:46.66 ID:P1Wtri/Z0
投下完了。

以後は『スティーブ「…『妹と恋しよっ♪』? ……R18!?」』と並行して書き進めていくつもりです。
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [saga]:2012/09/04(火) 00:17:02.43 ID:sChqQzZI0
乙ー
キャップにアイアンマンにハルク……まさか>>1はアベンジャーズ計画を!?
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北陸地方) :2012/09/04(火) 00:19:26.73 ID:Fx2oVNxAO
ロバートの秋山で声再生された
24 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga sage]:2012/09/04(火) 02:06:10.12 ID:krbn6HNj0
>>22
勘付かれましたか……。
ソーは大分後になるから気長に待ってくだされ。

>>23
ロバート・ブルース・バナーの声は水嶋ヒロさんか宮内敦士さんで脳内再生すると幸せになれるかもしれません。
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/04(木) 02:35:42.06 ID:ar8m0VVDO
期待下げ
26 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/10/22(月) 20:28:40.95 ID:MWBTT+jA0
第2話が完成したので投下。

注意事項

・お前のような小学生がいるか

・ラブホテルに子供を同伴するのはやめましょう
27 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/10/22(月) 20:29:42.73 ID:MWBTT+jA0
C-5Mr.B2:Mr.ブルー。ちょっとまずい事態が起きた

Mr.ブルー:何があった?

Mr.B2:今、ハルクと一緒に福岡まで行っているんだが、厄介なことに在日米軍の追跡を受けている。

Mr.ブルー:何やったんだ!?

Mr.B2:少し長くなるが、説明しておく。『東京女子医科大学第二事件』は知っているな?

Mr.ブルー:ハルクが今のようになった原因だろ? 大分前に教えてもらったけど

Mr.B2:何故かは分からないが、ハルクが事件の犯人だと睨んでいたらしい。

Mr.B2:ひょっとしたら、あの時ハルクを殺そうとした被害者自体が軍と繋がっていたのかもしれない。

Mr.ブルー:だから網を張り、確証を得たことで動き出した、か。相当に信憑性があるな

Mr.ブルー:そういえば、どうやってここまで向かっている?

Mr.B2:飛行機、鉄道、フェリー、高速バスは軒並み抑えられているから、S.H.I.E.L.D.が用意してくれたバスで一般道を突っ走っている。

Mr.B2:ご対面は早くても明後日だ。

Mr.ブルー:分かった……。必ず来てくれよ。





シークレットボーイ・ハルク
行脚編編/その陰謀を暴力でぶっ壊す!





28 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/10/22(月) 20:30:28.49 ID:MWBTT+jA0
愛知県名古屋市中区。
久屋大通公園内の大型車用の駐車場。
一番星・オルタナティブはカモフラージュ機能で市内のバス会社のバスに擬態。
近辺の銭湯でリフレッシュした葉たちは早い朝に備えて眠りに就こうとしていた。

クリント「さて、どの席で眠るか、だな」

大樹「割り振りは俺と久木、バートンさんとコールソンさん、橘と加藤。後はロバートさんと三枝に……」

フィル「八重とナターシャは別々の席にした方がいい」

大樹「……どうして?」

フィル「ナターシャは『女性』問題でS.H.I.E.L.D.に払い下げられた曰くつきなんだ。昔は乃木坂っていう大金持ちの家でメイドをしていた」

大樹「本気で言ってる?」

フィル「ああ。本気で言ってる」

大樹「ナターシャさんは女だよ」

フィル「そうだよ」

大樹「ならどうして女性問題なんか……  フィル「……ナターシャはバイセクシャル。つまり男だけじゃなくて女も大好きなんだよ」

大樹の疑問に、速攻で答えを出すフィル。
この言葉に、自然とナターシャ以外の女性陣の背筋に冷たい物が走った。

フィル「乃木坂ってとこじゃメイドに格付けがあってな」

フィル「格付け外の一般メイドに手当たり次第に手を出した挙句、その家の令嬢姉妹にまで手を出そうとした結果、当主に半殺しにされた」

フィル「で、罰としてS.H.I.E.L.D.に払い下げられた、って訳だ。悪いことは言わん。八重とナターシャは別々の席にした方がいいぞ」

結局、ナターシャは運転席のすぐ後ろ、ロバートはその更に後ろ、葉と八重は後部座席で仲良く一緒、残りは大樹の提案通りとなった。
それから少しして……。

葉「八重」

八重「どうしたの?」

葉「一昨年の夏、お前が告白にOKしてくれたこと、覚えてるか?」

八重「うん」

葉「……あれから少しして、俺が入院したことも知ってるよな?」

葉「名目上は自律神経失調症……」

八重「……本当は全身の末期小児がん」

葉「もし、お前を好きになる前だったら、あっさり死ぬ運命を受け入れていた。だけど、お前が恋人になってくれたから、生きたいと願った」

葉「せめて結婚して、子供ができて、それから色々二人で過ごすまで、死にたくなかった。だから藁にもすがる思いで、俺は臨床の被験者になったんだ」

葉「そしてあの日、何の因果かガンマ線と薬の相乗作用で、俺は人間の枠を完全に超えた姿と怪力を手に入れてしまった」

葉「俺はそうなった時の俺自身を、『ハルク』と名付けた。……俺は、この力を消したい。だけど、もしも消えなかったら、って不安もある」

八重「消せるわよ。もし消えなくても、三枝君は三枝君だから」

葉「…………ありがとう」

こうして、夜は更けていく……。



朝。
朝食を車内で済ませた一行。
そのまま一路、西へと進む。





29 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/10/22(月) 20:31:18.52 ID:MWBTT+jA0
太平洋。
日本の某領海、少なくとも四国の辺り。
S.H.I.E.L.D.の移動本拠地。
シャロン・カーターがサブマリナーとヒューマン・トーチに作戦内容を説明していた。

サブマリナー「では、麿たちは大阪でお子達と合流すればよいのでおじゃるな?」

シャロン「その通りです。ナターシャ達には既に通信で伝えてあります」

ニック「正確な合流地点は大阪学院大学。軍が通信を傍受、あるいはMr.グリーンたちの動向を察知している可能性があるため、今すぐ向かって欲しい」

ヒューマン・トーチ「了解。……? スピリット・オブ・76は?」

ニック「Mr.グリーン用の超伸縮衣服一式を用意している。リードとヴィクトリアには無茶な注文をしてしまった」





同時刻。
長野上空、C-17グローブマスターIII(※)が2機、飛んでいる。
その内の片方の機内。
大勢の兵士の方を向いたロス中将が、厳かに作戦内容を説明する。

※:航空機メーカー『マクドネル・ダグラス(現ボーイング)』が開発した米軍用大型輸送機。
  C-5には及ばないが、それでも出力とサイズを活かしているため積載能力は高い。
  米陸軍で使用されている装甲戦闘車は現行、全種類搭載でき、空挺搬出も可能。
  機内も広く作られてあり、追加装備を設置すれば180名以上の大人数を運ぶことができる。

ロス中将「S.H.I.E.L.D.本拠地宛ての暗号通信を集中的に傍受し、辛うじて一部の解読に成功した」

ロス中将「内容から、Mr.グリーンが大阪学院大学で『インベーダーズ』と合流することを突き止めた」

エミル「信憑性は?」

ロス中将「奴を乗せたS.H.I.E.L.D.の車両は西へ西へと向かっている。方角を考えれば事実と考えていいだろう」

ロス中将「奴らは一般道を走っている。こちらは飛行機だ。すぐに追いつくから総員、急いで出撃体制に入れ」





30 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/10/22(月) 20:32:31.68 ID:MWBTT+jA0
大阪府、吹田市の岸部南。
大阪学院大学(※)近く。
一番星・オルタナティブを近くに停め、一行は構内にいた。

※:数年前まで学費が私学としてもかなり高い部類に入っていたことで有名な大学。
  おかげで資金は潤沢であり、構内の紀伊國屋書店など、施設の充実化に還元されている。
  その高さ故に関西ではもっぱら富裕層向けと見なされているが、現在は学費の値下げに踏み切っている模様

フィル「……エージェントからのモールス通信か。……『学生食堂リーヴルで待つ。ネイモア・マッケンジー』。急ごう!」



学生食堂リーヴル。
一行が入ると、中ではざわめき声がしていた。
理由は簡単。
インベーダーズが揃いも揃って「いつもの」格好をしていたから。

サブマリナー「灰色の髪のお子が『ハルク』だそうでおじゃる」

スピリット・オブ・76「……どことなく冷めた印象がありますわね」

葉「…………」

ヒューマン・トーチ「よっ。俺はヒューマン・トーチっていうんだ。よろしくな」

葉「三枝葉。…………あんた達、四六時中その格好なのか?」



それから十数分後。
非常時だというのに一行はインベーダーズを交えて話し込んでいた。

サブマリナー「……そのMr.ブルーとやらの薬、本当に効くのかえ?」

ロバート「定期的な投薬による長期治療が必要とは言っていた」

葉「それで俺たちは福岡を目指しているけど……」

ヒューマン・トーチ「アメリカ軍のせいで相当に時間がかかっている、という訳か。となると、そろそろここを出た方がいいかもな」

ヒューマン・トーチ「ここを嗅ぎ付けていた場合、ロス中将なら民間の被害もお構いなしに殴る込んでくる。そういう奴だ」

ヒューマン・トーチが言うや否や、スピリット・オブ・76が麗愛を連れてテーブルの方に戻ってきた。

スピリット・オブ・76「来ましたわ! 空挺部隊ですわ!」

麗愛「装甲車とかも降ってきたよ!」

二人の声に反応するや否や、フィルは迅速に支持を出した。

フィル「散開! ナターシャはバスを持ってきてくれ!」

フィルの言葉と共に一気に散開。
それとほぼ同時に米兵達が大挙して押し寄せてきた。



31 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/10/22(月) 20:33:17.32 ID:MWBTT+jA0
エミル「ブロンスキーから報告! サブマリナーこと『ネイモア・マッケンジー』を確認! スケイル柄のチョッキと海パンですぐに分かった!」

エミル「インベーダーズの残りのメンバーとS.H.I.E.L.D.のエージェント、そんでもって奴らが連れ出した小学生たちもいる!」

エミル「アイツら、ギリギリのタイミングでこっちに気づいて散開した!」

ロス中将[よし。小学生たちは確保。残りの生死は問わない。構内の学生・職員の被害も気にするな!]

M1109グリモイア(※)に乗ったロス中将が通信越しに司令を下す。
それに呼応して米兵達は銃を構えた。

※:スターク・インターナショナルがストライカーを参考にして開発した装甲車。
  移動指令室としての性格が強く、装甲もかなり厚いにも拘らず、妙に燃費がいいのが特徴。
  名前は『グリモワール』の英語読みに由来。

サブマリナー「おじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

発砲し出したのと同時に、サブマリナーが怒号を上げながら飛んできた。

サブマリナー「おじゃぁっ!」

米兵の一人を、サブマリナーが片手で投げ飛ばした。
サブマリナーは続けて銃弾を避けながら空中連続飛び蹴りで米兵達を蹴散らす。

エミル「ネイモア・ザ・サブマリナー!」

エミルは激昂してロケットランチャーを構えて発射。
サブマリナーはジャンプして回避。
外れた弾頭は地面に着弾して派手な爆発を上げた。

エミル「第二次世界大戦の時はヒドラ! 今度は米軍<俺たち>! 無節操だな!」

サブマリナー「麿たちインベーダーズは非道を働く者たちの敵でおじゃる!」

エミル「こちとらこれで飯代貰っているんだ! そう簡単に倒せると思うなよ!」



バンバン! ドカッ! バラララララ! バゴ-ン! ドカ-ン!

ヒューマン・トーチ「派手にやってるみたいだな」

スピリット・オブ・76「ですがそれを気にも留めないで突撃してくる方たちもいますわ!」

スピリット・オブ・76の言葉を証明するように、予定調和の如く米兵達が銃を乱射しながら突撃してきた。

ヒューマン・トーチ「無関係な人を巻き添えにするな!」

掌から火球を発射して米兵の一人を吹っ飛ばすヒューマン・トーチ。
更に火柱も発射して牽制する。
その後に続いて、スピリット・オブ・76がレイピアを取り出して剣技と蹴り技を駆使して米兵達を蹴散らす。

スピリット・オブ・76「60年以上鍛え続けて磨きをかけた実力、御覧あそばせ!」

スピリット・オブ・76「葉! ここは私たちが抑えます! ここを離れて! 急いで!」

葉「……!」



大学構内。
葉は一人で構内を走っていた。

葉「八重と逸れたのは誤算だった……。携帯もバスの中に忘れたから連絡もままならない。……のっぴきならないな」

必死で走る葉を、別ルートから来た米兵達が追いかける。
葉も学生たちの合間を縫うようにして走って撒こうとするが、米兵たちも学生たちを押しのけながら追いつこうと必死に走る。
リーヴルのある12号館から、走りに走って16号館の屋上まで逃げてきたが、遂に挟み撃ちにされる。

米兵「追い詰めたぞ!」

葉「! っこうなったら……」

飛び降りようと決意した瞬間、催涙弾が発射される。
暴徒鎮圧用のゴム弾も葉目掛けて容赦なく発射された。



32 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/10/22(月) 20:34:17.23 ID:MWBTT+jA0
ロバート「向こうも必死のようだ」

大樹「それを踏まえてもかなりしつこい!」

つぼみ「久木くん、麗愛ぴ、八重ちん、こっち!」

OGU広場の方では、ロバートと小学生5人組が大急ぎで走っていた。
しつこく追ってくる米兵を、合流してきたクリントが矢で攻撃している。

八重「はぁはぁ……。……三枝君!?」

はしりながら、16号館の屋上の方に視線を移した八重は屋上を走る葉が、催涙弾とゴム弾を浴びせられている場面を目にしてしまう。

八重「三枝君!」

ロバ―ト&太「「葉!」」

太「……って、どこ行こうとしてんだよ!? 山吹!」

大樹「戻れー!」

麗愛&つぼみ「「八重ちーん!」」

半狂乱になった八重は、16号館目掛けて走る。
M1109グリモイアが横に張り付き、中から出てきた米兵達が八重を取り囲み、遂に確保してしまう。

八重「! 離してぇ!」

ロス中将「……落ち着きなさい。第一ここで何をやっている?」

八重「……この期に及んで『お爺ちゃん』面できると思ってるの? 全部父さんから聞いてるのよ!」

八重「私がお腹の中にいた時の母さんを突き飛ばそうとしたくせに! そんなことした人なんか赤の他人よ!」

ロス中将「…………アレは、気の迷いだったんだ……」

ロス中将「……八重、お前はあの小僧が好きなようだが、あの小僧がどんな存在なのか知っているのか?」





催涙弾の煙が晴れた後、米兵達が葉を拘束する。
やっとの思いでOGU広場の方に視線を映した葉が目にしたのは、米兵達に確保された八重の姿。
瞬間、葉の瞳が緑色に変わった。
瞬間、筋肉が膨張して、ハルクへと変貌する!
米兵達を屋上から投げ落として、次に八重を助けようと屋上から飛び降りた!。

ハルク「ハルクの八重に何をしているぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」

大ジャンプで屋上から飛び降り、OGU広場に着地したハルクは、八重を拘束している米兵達、そしてロス中将を怒りの眼で睨む。

ロス中将「見ただろう、八重」

八重「大きくなっても、緑色になっても、三枝君は三枝君よ! お前なんか足元にも及ばない、素敵な人よ!」



33 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/10/22(月) 20:36:28.25 ID:MWBTT+jA0
ハルク「ガア゛ア゛ア゛ア゛ーーーー!!」

ハルクの咆哮が広場に響く。
ロバートたちやクリントに加えて、合流したインベーダーズの面々もその咆哮に鼓膜が震える。
それは、米兵達の方も同じであった。

ロス中将「総員、攻撃開始! 持っている武器を全て使え!」

米兵達が号令に呼応して、アサルトライフルの銃弾をハルクに浴びせる。
中にはロケットランチャーを撃ってくる者までいる。
しかし、ハルクはそれをものともせずに突撃。
パンチやキック、投げ飛ばしを駆使して米兵達を難なく蹴散らす。

米兵達「むあー!」「じゅりぃぃぃぃぃ!」「おぷーぬ!」

やられっ放しでたまるかとばかりにハンヴィーが突撃、機銃を発射して来るものの、50口径弾でもハルクには傷一つつけられない。

ハルク「ガンマチャージ!」

それどころか、体当たりであっさりとひっくり返される。
更にハルクは、ひっくり返ったハンヴィーを持ち上げて……銃撃を止めない米兵達の近くで停車している、別のハンヴィー目掛けて投擲!

ハルク「ガンマトルネード!」

投擲されたハンヴィーが、停車していたハンヴィーに直撃。 
余りにも勢いが強すぎて、すぐ近くに停車していたもう一台のハンヴィーにまでぶち当たる。
当たり前というかなんというか、爆発。
巻き添えで側にいた米兵達が吹っ飛ぶ。
余りの凄惨さにロス中将はエミルに司令を飛ばす。

ロス中将「ブロンスキー! 息はしているか?」

エミル[サブマリナーに苦戦しましたが、無事です!]

ロス中将「出番だぞ!」



エミル「了解!」

持っている銃をポイ捨てしたエミルは、部下からアームスコーMGL(※)を受け取る。
そのままハルク目掛けて突撃、榴弾をぶっ放す。
榴弾が直撃しても、のけぞるだけのハルクは、足元に落ちていた空挺用の固定台(※)を掴み、盾代わりにしながら振り回す。
エミルがそれをかわすすきを突き、別の固定代も拾う。

※:南アフリカのアームスコー社が開発した、回転弾倉&ダブルアクションタイプのグレネードランチャー
  見た目はデカいリボルバーのようである。
  ミルコーMGL、ダネルMGL、とも呼ばれている。

※:ハンヴィーが、空中投下された時に固定されていたボード。
  正式名称を知っている人は情報求む。
  
エミル「初めまして! Mr.グリーン!」

ハルク「……Mr.グリーンじゃなくてハルクだ。誰だ?」

エミル「自己紹介感謝するぞ、ハルク。俺はエミル・ブロンスキーだ!」

グレネード弾を連射、撃ち尽くした後は懐に入れていた拳銃を乱射。
寄る年波対策にと、事前に投与した超人血清(※)のおかげで人間とは思えないアクロバティックな動きでハルクに対抗する。

※:キャプテン・アメリカがアメリカを離れる前、彼から採取した血液を元に開発された完成度の高いコピー品。
  存在を急遽思い出したロス中将の勧めに乗ったエミルに大急ぎで投与された。

エミル「デカい分だけ俊敏性に問題があるようだな!」

ハルク「ほあっ!」

エミル「……! 危なかった……」

ロス中将[何てバカ力だ……。ブロンスキー! まともにやりあっても勝ち目はない。奴を誘き寄せろ! 音波砲を使う!]

エミル「……了解!」

通信を聞いて復唱するエミル。
踵を返すかの如く走り出す。
それを追ってハルクも走り出した。



34 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/10/22(月) 20:38:03.35 ID:MWBTT+jA0
インベーダーズと米兵達の激戦の最中、ロス中将は更に指令を出す。

ロス中将「音波砲、用意!」

ロス中将の指令に呼応して、音波砲(※)を屋根に積んだハンヴィーが2台、突っ込んでくる。
停車し、エミルがハルクを誘き寄せているのを見計らって狙いを定めた。

※:スターク・インターナショナルが開発した暴徒鎮圧用兵器。
  人間の耳に聞こえるギリギリのラインの高周波を大音量かつ衝撃波を伴って発射する仕組み。
  不協和音と衝撃波のセッションの威力は凄まじく、一般人だと一瞬で動きが停まる。

米兵達[音波砲発射準備完了!][いつでも撃てます!]

ロス中将「よし、発射!」

ヴォヴォヴォヴォヴォヴォヴォヴォヴォヴォヴォヴォヴォヴォヴォ!
音波砲が作動し出しのを確認したエミルは、反復横跳びの要領でジャンプ。
ギリギリの所で衝撃音波を回避。
彼におびき寄せられたハルクはまともに浴びてしまう。

ハルク「おぅふ!」

音と衝撃の両面攻撃で倒れ込むハルク。
両面攻撃で身動きが取れなくなる。

ヒューマン・トーチ「ロマノフはまだかよ!」

フィル「足があの図体なんだ! 時間がかかるんだよ! 」

米兵のなりふり構わない銃撃から学生たちを守りながら戦うフィルたちとインベーダーズ。
加えて予想以上に人数が多く、苦戦を余儀なくされていた。

サブマリナー「おのれサディアス・ロス!」

スピリット・オブ・76「愚痴るのは後ですわ!」



八重「三枝君! 三枝君!」

苦悶の表情を浮かべるハルクを見て、涙声になって叫ぶ八重。
ロス中将はそれを見て見ぬ振りをして得意気な顔になっている。

ロス中将「そうだ。そのまま元に戻るまで浴びせ続けるんだ」



ハルク「ヌゥウウウウウウ……!」

苦悶の表情を浮かべながらも、ハルクは八重の方を見つめる。
音と衝撃の波で視界が歪んで見える中、ハルクの眼には確かに、八重が泣いているのが見えた!
怒りで立ち上がり、右手に持った固定代を盾にして片方の衝撃音波を防ぐ。
次に、左手に持ったのを投擲。
音速で投擲された固定台が、音波砲をハンヴィーごと真っ二つにした!

ハルク「ぬぁう!」

次に、ハルクは大ジャンプしてもう片方目掛けて固定台を振り下ろし、ぶつ切りにした。

ロス中将「……ガンシップ! 連れて来い!」

ロス中将の怒号に合わせるように、AH-64Dアパッチ・ロングボウ(※)が飛んでくる。
直後、クリントが放った矢が、八重を拘束していた米兵を射抜く。
拘束が解けたことに数秒かかって気づいた八重は、大慌てでハルクの元へと駆け出した。

※:C-17と同じ会社が開発した、アメリカ陸軍の代表的攻撃ヘリコプター『AH-64Aアパッチ』の能力向上型。
  名前の由来である火器管制レーダー『ロングボウ』搭載に加え、コクピット内の設備一新など、性能と完成度向上のための改良が随所に図られている。
  日本の陸上自衛隊も採用している。
  ちなみに、ロス中将はこのヘリをガンシップ扱いしていたが、軍事用語ではヘリもガンシップに含まれるため別に問題は無い。

ロス中将「八重! 止すんだー!」

35 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/10/22(月) 20:39:12.92 ID:MWBTT+jA0
ロス中将の声で止まるわけがなく、八重はハルクの胸板に抱きつく。
ハルクもまた、八重を抱きしめた。

ハルク「ハルクの、八重……!」

八重「そうよ! 私は三枝君のよ!」

アパッチ・ロングボウの機銃掃射が、ハルクの背に次々と着弾する。
だが、30mm機関砲でもハルクの肉体に傷をつけられない。
ハルクは鬱陶しさ半分怒り半分で、固定台をアパッチ・ロングボウ目掛けて投擲。
縦に投下された固定台はコクピットを直撃して搭乗者を2名とも真っ二つにする。
アパッチロングボウは、当たり前だがそのまま転げるように墜落。
ハルクは八重を包み込むように抱きしめ、衝撃と炎から守る準備する。
直後、アパッチ・ロングボウが爆炎を上げながらハルクの背に激突。
周囲が紅蓮の炎に包まれた。

大学生達「何だったんだありゃ……!? 録画してるけど、訳分かんねえ」「緑のデカい物体だったぞ! 銃弾喰らっても傷一つついてなかった」

それを遠方で見ていた大学生達が集まってしまう。
炎が晴れた後、そこには無傷のハルクが立っていた、八重を抱きしめながら。
サブマリナーが飛んできて、ハルクと八重の側に着陸した。

サブマリナー「ナターシャがもう一台、足を用意してくれたでおじゃる。クリントが乗ってここまで来るから、それに乗って逃げるでおじゃる!」

ハルク「そっちはどうするんだ?」

サブマリナー「かく乱のために麿たちは麿たちで一番星オルタナティブで福岡を目指すでおじゃる!」

サブマリナー「クリントは別個に通信機を持っておるから、合流する時はそれに連絡するから安心せい」

サブマリナー「それと……、ほれ。着替えでおじゃるぞ。超伸縮衣服でおじゃるから、着たまま変身しても問題ないであるぞ」

ハルク「ありがとう」

礼を言ったハルクは、直後に葉へと戻る。

葉「……それじゃ、場所はまだ決まってないけど、必ず落ち合おう」





36 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/10/22(月) 20:41:27.13 ID:MWBTT+jA0
数時間後。
鳥取、島根を通る日本海側ルート。
一番星・オルタナティブは海沿いの道をひたすら走っている。

ロバート「葉たちは今頃どこにいるんだろう……」

ベティ「こればっかりは、連絡が来ないと分からないわね」

葉と八重、そしてクリントが別の車で移動している代わりに、インベーダーズの面々とベティが乗っていた。
何故ベティがいるの? と思った方は正しい。
それというのも、ナターシャが用意した足、というのが実はベティが大阪まで乗って来た物。
前回で描写するのを忘れていたのだが、ついて行こうとしたのをニックに止められたのだが諦めきれず、一足先に福岡に向かおうと高速道路と一般道を使い分けながら、ベティは突っ走った。
そして、偶然にも一番星・オルタナティブに乗る直前のナターシャと遭遇したのである。
OGU広場にたどり着いた際にナターシャ以外に国際免許証を持っていて、なおかつ戦闘力の高いクリントが代わりに運転し、葉と八重を乗せて別行動をとっているのだ

大樹&太「「…………」」

ロバート「どうした?」

大樹「本当に、福岡に行けば薬があるんだろうな? 葉がああならなくて済むための」

ロバート「定期的な投薬が必要、という欠点を抱えているが、ある」

太「……もう一個聞いていいか?」

ロバート「構わないが……」

太「何で、アメリカ軍の連中が葉を狙うんだ?」

ロバート「葉が、小児癌治療のために新型抗癌剤の臨床を引き受けたのは、知っているな?」

太「名古屋の銭湯でその辺は葉から聞いた」

ロバート「その新型抗癌剤がそもそもの発端かもしれない」

ロバート「キャプテン・アメリカは知っているだろ? スーパーソルジャーの」

麗愛「超有名なヒーローでしょ? 『超人血清』っていう薬で強化された」

ロバート「そうだ。大戦中、軍は超人血清で強化された彼の血で、健康維持薬を造った」

ロバート「そしてそれをベースにして、日本のある製薬会社がS.H.I.E.L.D.の協力で別の薬を造った」

ロバート「その薬は、使用者の肉体にデメリットを与えず、癌細胞だけを破壊する、今までの抗癌剤よりはるかに優れた薬」

ロバート「葉が臨床で投与された試作品の新型抗癌剤だ。しかし、この抗癌剤には大きな欠点が二つあった。一つは、放射線治療との相性が致命的に悪く、肉体に異変を起こす」

ロバート「もう一つは、成分が超人血清と非常によく似てしまったこと。早い話、投与された人間は肉体が強化されてしまうんだ」

ロバート「問題は、それが軍とどう繋がるか、どうして軍が葉を狙う理由になるかだが……。前者に関しては、葉に半殺しにされた奴が軍と繋がっていたからだと思う」

ロバート「そして後者、こっちは葉の血も超人血清の材料になる代物になったからだ。葉の血さえあれば、それを培養して超人血清を生産できる」

37 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/10/22(月) 20:42:05.83 ID:MWBTT+jA0
つぼみ「でも、どうして今更超人血清がいるんですか?」

ロバート「メリーランド州にフォート・デトリック、という軍の医学研究所がある。昔、そこにいた時に偶然『再誕計画』の存在を知った」

ロバート「現代の技術で超人血清を再現して、『スーパーソルジャー計画』の本来の目的であったスーパーソルジャー軍団構築を今度こそ実現する、恐ろしい計画だ」

ロバート「血液の培養技術が確立されていなかった当時は、キャプテン・アメリカから定期的に採取した血液で試作を重ね、完全再現を目指そうとした」

ロバート「ところが、思いがけないアクシデントが起こった」

フィル「軍の古い記録フィルムに黒人が映っていたことに関して、人権団体が起こした裁判での酷いゴタゴタに巻き込まれたキャプテン・アメリカが日本に逃げてしまったんだ」

ロバート「そのせいで計画は大きく遅れた。なまじ極秘事項の上、キャプテン・アメリカがS.H.I.E.L.D.にガードされているから無理に血液を採ることもできない」

ロバート「しかし、ガードが現在は無いに等しい葉から血を採れば問題は無いということだ、軍にしてみればな」

サブマリナー「されど、不可解な点もありや。あれほどまでに派手にやってしまった以上、既に計画どころではなくなっているはずでおじゃろう」

ロバート「確かにそうだが……、相手はあのロス中将だ。私怨が目的に代わっている可能性はかなり高い」

スピリッツ・オブ・76「…………八重を盗られた恨み、というところですか?」

ベティ「逆恨みじゃない! 八重がまだお腹の中にいた頃の義姉さんを突き飛ばして流産させようとしたくせに!」

ベティ「人として間違うにも限度ってものがあるでしょうが!」

ヒューマン・トーチ「うわ、最低なことしてたのか」





38 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/10/22(月) 20:43:00.37 ID:MWBTT+jA0
同時刻。
岡山県岡山市のラブホテル『XO』の217号室(※)。
クリントたちは車を飛ばして岡山市までたどり着いていた。
ただ今、夕食中。

※:実在するホテルの実在する部屋です。
  詳しくはホテル名を各自検索されたし。

全部ルームサービスであり、クリントが『連れが痩せの大食いなんだ』と誤魔化したため、それほど怪しまれなかった。

葉「で、いつ連絡を入れる?」

クリント「夜が明けてからだ。今連絡したら、傍受された上に寝ている時に襲撃を食らう可能性もある」

ソワソワ 八重「…………」

クリント「何でそわそわしているんだ?」

八重「だって、ここ……」

クリント「誰にも見られずに入れる宿って言ったらこういう所ぐらいしかないからな」

クリント「それにこの部屋は離れにもう一個ベッドがある。俺はそこで寝るから、安心していちゃつけるぞ」

クリント「それと……葉。まだ子供なんだ。『膜』が張ってるとこには突っ込むなよ?」



約3時間後。
先に風呂に入り、離れの方に行ったクリントを尻目に葉と八重は一緒に風呂に入っていた。
葉の上に、八重が乗るよう二人は湯船の中に入っている。

八重「三枝君……」

葉「……節度は、守る」

葉&八重「「……………………」」

ここから先は読者のご想像にお任せする。



同じ頃、離れの方。
クリントはベッドの上でポツリと呟いた。

クリント「独り身って、意外と辛いな。……寝るか。おやすみ!」





『決着偏/ジ・インクレディブル・ハルク』までサヨウナラ……。
39 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/10/22(月) 20:44:24.95 ID:MWBTT+jA0
投下完了。

次は スティーブ「…『妹と恋しよっ♪』? ……R18!?」 の第七幕だ。
40 : ◆lc8fM/f/jN38 [sage]:2012/11/30(金) 00:48:07.62 ID:B6dqkkAG0
続きを執筆中。
来月一杯までには書き上げたいな。
41 : ◆lc8fM/f/jN38 [sage]:2012/12/27(木) 04:18:15.00 ID:4iTIKSa10
最終話が完成したんで投下予告。

最後の注意事項

・エミルはアボミネーションにはなりません

・スペシャルゲスト、スティーブ・グラント・ロジャース

・シーハルクも出るよ!
42 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/12/27(木) 04:19:21.61 ID:4iTIKSa10
ニュースキャスター『昨日、大阪学院大学の敷地内で発生した謎の戦闘に関しての続報です』

ニュースキャスター『今朝、警視庁は在日米軍の要請を受けて、サディアス・ロス中将を指名手配しました』

ニュースキャスター『ロス中将は例の戦闘の際、大学の敷地内に部隊を展開した上に騒ぎを起こしたまま、その部隊ごと消息を絶っています』

ニュースキャスター『そのような暴挙に及んだ動機は今もって不明ですが、騒ぎの際に現れた緑色の未確認生命体絡みではないかと疑われています』

ニュースキャスター『未確認生命体に関しては、彼に助力していたS.H.I.E.L.D.のエージェントの会話を偶然聞きとれた学生の証言で、「ハルク」という名称のみ判明しています』

ニュースキャスター『なお、この異常事態に対して、今回は同じ米軍将校ということでキャプテ・アメリカことスティーブ・ロジャース陸軍永世名誉中将を特別ゲストとしてお招きしました』

スティーブ『よろしくお願いします。単刀直入ですが、この事件の発端は軍の機密事項にあります』

ニュースキャスター『……それは一体どういうものでしょうか?』

スティーブ『第二次世界大戦中、僕が被験者となった「スーパーソルジャー計画」を現代の技術で再開する、「再誕計画」です』

スティーブ『スーパーソルジャー計画は、僕のように超人血清で強化された兵士を大勢生み出すことが目的でした。計画自体は頓挫しましたが』

スティーブ『僕もS.H.I.E.L.D.長官から断片的に聞いただけですが、少なくともハルクはその計画を実現しようとしたロス中将のせいで間接的に人生を狂わされたようなものです』





シークレットボーイ・ハルク
決着偏/ジ・インクレディブル・ハルク





43 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/12/27(木) 04:21:23.01 ID:4iTIKSa10
山陽自動車道。
ロス中将の部隊が一番星・オルタナティブにマークしきっているのを逆手に取って、ベティのマイカーで移動していた葉たちは高速道路に入った。

クリント「俺たちはちょうど今、高速道路に入った」

フィル『それならこっちも高速道路に入る。向こうに傍受されている可能性がある。急げよ』

通信が切れ、クリントはアクセルを踏む力を強める。
高速道路の制限速度は100q。
既にその2倍以上の速さで走っている。

葉「高速道路に入るのか?」

クリント「一か八かの博打だ」

葉「嗅ぎつけられたら、俺と八重だけでも逃げるからな」

クリント「安心しろ、最後まで同行しきってやるさ」

クリントは言うや否や、アクセルベタ踏みで遂に全速力を出した。





中国自動車道。
一番星・オルタナティブが全速力で走っている。
その目立つ外観からすぐに嗅ぎつけたらしく、ロス中将の部隊の者と思われる車が数台、張り付いていた。

ナターシャ「上手く食いついてくれたわね」

太「これからどうするんだ?」

ナターシャ「可能な限り、走る」

フィル「奴らの目を少しでもそらすためにな」

フィルは付け加えながら、レールガンで追跡する車を吹き飛ばす。

麗愛「こっちの車の方が大きいんだから、急ブレーキすれば向こうがぶつかってオジャンになってくれるんじゃないの?」

ナターシャ「これを貸してくれた会社の社長に、体当たりには使うなって釘を刺されたのよ」





44 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/12/27(木) 04:22:00.41 ID:4iTIKSa10
日本海某所、異形の姿をした所属不明の大型船。
よく見ると、飛行船のように浮いている。
ロス中将とその部隊は、あの戦闘の後はこの船に逃げ込んでいた。

エミル「妙だな……」

兵士「この船の出所がですか?」

エミル「それだ。この船を持ってきた連中の格好にも見覚えがあった。……ヒドラは知っているな?」

兵士「第二次大戦中にSSRが壊滅に追い込んだカルト集団ですよね。つい最近になって復活していたのが判明して、これまた復活したSSRが目下捜査中とか」

エミル「そのとおりだ。奴らの格好はヒドラの兵隊と殆どそっくりだった」

兵士「コスチュームプレイではないことは確かですね。ヒドラそのものだと考えたほうがいいでしょう」

エミル「俺とお前含め、何人かは缶詰状態だ。大方、こっちに情報を流さないためだろう」

エミル「知られたらまずい情報が出てきたのかも知れんな。……大方、今回の作戦が中将の私情に過ぎないことだと思うが」

兵士「その場合、逃げた方がよさそうですね」

エミル「SSRとハルクへそれなりに恩を売っておかないとな」



不審船の艦橋。
ロス中将が暗号通信で何者かと会話していた。

?????『ずいぶんと派手にやられたな』

ロス中将「奴の馬鹿力を見誤っていた。君の手助けがなかったら我々は一網打尽だったよ」

?????『……彼をキャプテン・アメリカに次ぐ脅威として認識させてもらう。ウルトロン・ピムは相手を見くびらないからな』

ウルトロン「しかし、よく我々に協力してくれたな」

ロス中将「私にとっては、国を守ること以上に国を強くすることが重要なのだ。そのためなら一切の手段は選ばない」

ウルトロン「Mr.グリーンの確保の成功を祈っているよ」





45 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/12/27(木) 04:22:43.97 ID:4iTIKSa10
昼食時を大分過ぎた頃。
福岡県福岡市城南区七隈、福岡大学。

クリント「やっと着いたな。……ナターシャたちが囮になってくれたおかげでな」

八重「ここに、来るまでに色々あったわね……」

クリント「……問題は、どうやってMr.ブルーと接触するかだ」

葉「それなら問題ない」

葉は自分の携帯電話を手に自身ありげに答えていた。
そういえば、葉の携帯電話もベティの車に入れていたことを、クリントはついさっき思い出す。

葉「傍受されるリスクがあるが、パソコンがない以上、ロバートに連絡して福岡にいることをMr.ブルーに伝えるしかない」

prrrrr ガチャ ロバート『葉!』

葉「福岡大学に着いた!」

ロバート『……待ってろ。チャットでMr.ブルーに知らせる』

数十秒後。

ロバート『薬学部の研究棟本館! 個人用研究室! 創剤学教室所属のサミュエル・スターンズ名義だ!』

葉「助かった!」



薬学部の研究棟本館。
サミュエル・スターンズの個室の前。
葉たちは、ドアの前に立っていた。
八重とクリントの顔を交互に見つめ、意を決した葉はノックする。

コンコン 葉「……Mr.ブルー。ハルクだ」

ガチャッ ?????「やっと来てくれたかい! ……話には聞いていたけど、小柄だね」

?????「おっと、僕はサミュエル・スターンだ。よろしくな」

葉「三枝葉。薬は?」

サミュエル「Mr.B2から連絡が入った直後に用意済み! いつでも投与できるぞ!」

サミュエル「ところで、隣の保護者っぽい人はS.H.I.E.L.D.のエージェント?」

クリント「クリント・バートンだ」

サミュエル「よろしく。……それでもって、そこのお嬢さんは……ハルクの恋人?」

八重「三枝八重です……」

サミュエル「可愛い彼女じゃないか」

葉「……当たり前のことを聞くな。それよりも!」

サミュエル「OK。早速投与開始だ!」



46 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/12/27(木) 04:23:38.82 ID:4iTIKSa10
サミュエルの研究室。
各種研究設備が揃っており、その一つにはサミュエルが作った薬がセットされていた。
また、セキュリティ付きの鉄筋入り強化ガラス棚には葉の血を培養した溶液が大量に保管されている。

葉「……これだけの量を培養したのか?」

サミュエル「Mr.B2から送られた血液サンプルだけじゃとてもじゃないけど足りなかったからね」

サミュエル「濃縮して、増やしてから各種動物実験。そのデータを元に創薬。更にまた動物実験。データを元に薬を改良。バレないようにするのが大変だったんだよ」

サミュエル「ただし、今回だけは変異してから投与するぞ。そっちの方が効き目が実感しやすいだろうし、僕としても変異が無くなる過程を見たいからね」

葉の腕には、カテーテル経由で薬がセットされた機械(※)と繋がっている注射針が刺さっている。
後は、葉がハルクに変異してから、機械を動かして薬を投与するだけだ。

※:『インクレディブル・ハルク』の終盤に出てきたあの透析マシーンと同じものだと思ってください。

葉「…………ガァツ!」

ハルク「ヌァッ!」

葉がハルクに変異したのを見計らい、サミュエルは機械のスイッチを入れた。

サミュエル「スイッチ・オン!」

機械が動き出す。
薬が、ハルクへ投与され出した。
セットされている分が減りだすが、それに合わせてハルクの体に苦痛が走る。
表情も、苦悶に満ちていく。

ハルク「グ…………! ガッ……!」

サミュエル「堪えろよ! 元に戻れるかの瀬戸際なんだからな!」

八重「三枝君……」

ハルクの呻き声は次第に激しさを増す。
刹那、八重はハルクに抱きつく。
それと同時に、ハルクは大人しくなり、……やがて薬が効いて葉の姿は元に戻った。

サミュエル「愛、ってやつだねぇ。独り身には辛いよ」

クリント「妬んでないで心電図をチェックしてろ」

サミュエル「はいはい。んー、ちょーっと心拍数が増えてたけど、もう戻ってるよ。この調子で薬を全部投与しましょうか」

サミュエル「で、その後でもう1回変身してみて。本当に効いたかの最終チェックだから」



47 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/12/27(木) 04:24:19.42 ID:4iTIKSa10
数十秒後。
薬の全投与が完了し、注射針は葉の腕から外された。

クリント「……どうだ?」

葉「……変身しようとしても、変化しない」

八重「やったぁ!」

サミュエル「大成功だ! ……と、言っておくけど、大変なのはこれから。定期的に投薬しないとな」

サミュエル「実験を繰り返して得たデータを根拠にして言うけど、君の肉体は徐々に『変異し直そうとする』。その動き自体を無くすには、これから長期に渡って投与しないとダメだ」

サミュエル「今から1時間後にもう1度投与するからね。その次は2時間後。更にその次は3時間後。薬を投与すれば、次までの時間が長くなる」

サミュエル「そして、投与を繰り返せば、やがて体内の変な放射線は完全に消滅する」

クリント「S.H.I.E.L.D.ではその放射線を『デストロ線』と名付けた」

サミュエル「それはどうも。とにかく、そのデストロ線が体から無くなるまで投与しないといけない。必要量とデストロ線消滅にかかる時間は体重に比例する。だから月単位の治療になる」

サミュエル「1ヵ月分のストックは作ってあるから、当分は大丈夫だろうけど」

サミュエル「S.H.I.E.L.D.にはこの薬の製法とかは教える。一々こっちに来て受け取るより、S.H.I.E.L.D.が製造・郵送した方が負担は少ないはずだ」

サミュエル「リスクも説明しておく。投与後から次に投与するまでの制限時間は、6日と1時間で頭打ちだった」

サミュエル「更に、もしも投与が間に合わなかった場合、デストロ線は瞬時に肉体に作用し出してあっという間に逆戻り。治療も1からやり直し」

サミュエル「絶対に忘れるなよ?」

葉「エイズや肝炎みたいに八重にうつったり、俺と八重の子供に遺伝したらシャレにならないからな」

サミュエル「惚気てくれるじゃない。八重ちゃん、顔が真っ赤だぞ?」

八重「……………………」

サミュエルの指摘通り、八重は思いっきり赤面している。
しかし、和気藹々とした雰囲気は不意に終る。
ドアが蹴破られ、近くにいたクリントは咄嗟に回避。
米兵がなだれ込み、クリントが弓を構える前にエミルが葉に銃を向けた。

クリント「…………チッ!」

サミュエル「ハ、ハハッ、アハハハハハハハハッ! 残念でした! もうハルクを捕まえたって無意味だ!」

エミル「どういう意味だ?」

サミュエル「肉体の変異の原因となる因子を壊す薬を投与したのさ。定期的な投薬が必要だけど、今のハルクから採った血じゃ超人血清は作れないぞ!」

サミュエル「何せ、因子を壊す際の余波で超人血清の成分も薄めるからな! それに、お前らはとっくに指名手配されてるんだ! こんなことをしたら罪が重くなるだけだぞ!」

震えながらも勢いで捲し立てるサミュエル。
エミルと、彼に同行してきた米兵達は「指名手配」という単語に反応した。

エミル「俺たちは確かに指名手配されているんだな?」

八重「……あの男に聞いてなかったの?」

エミル「教えてもらえなかった、といった方が正しい。だったら奴との契約は破棄だ。総員、銃を下せ」

エミルは部下たちへの一言と同時に自ら銃を下す。
部下たちも一斉に銃を下した。

葉「……どうなっているんだ?」



48 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/12/27(木) 04:25:08.31 ID:4iTIKSa10
数分後。

クリント「早い話、『そちらに情報を提供するから俺たちだけはお咎めなしにしてくれ』ということか」

エミル「俺たちは何も知らされていなかったんだからな。司法取引ぐらいはさせてほしい」

クリント「日本じゃ司法取引は通用しないぞ」

エミル「そこはとんちを効かせてくれよ。おたくの組織の長官なら訳ないだろ?」

クリント「楽勝ではあるがな。……無罪放免とはいかないかもしれないが、とりあえず話はつけてやる。その代り……」

エミル「今この瞬間からおたくらの味方だ」

兵士A「あっさり寝返りを決めましたね。ムショよりシャバの方がいいのは確かですけど」

エミル「あんな奴に尽くしてムショ入り、じゃ恰好がつかないからな」

サミュエル「ま、よかったよかった、ってところかな? ところで兵隊さん」

エミル」「自己紹介し忘れていたな。ハルクは知っているが、俺はエミル・ブロンスキーだ」

サミュエル「ブロンスキーどん。寝返りばバレる前にハルクたちと一緒に逃げた方が良かよ」

何故か博多弁でサミュエルはブロンスキーに意見した。

エミル「取引が成立した時点でそのつもりだよ。さ、お暇しようぜ」

クリント「……。ロス中将へのウソの報告を忘れるなよ」

エミル「了解」



49 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/12/27(木) 04:25:44.20 ID:4iTIKSa10
ロス中将「……誰もいない!?」

兵士「……ブロンスキーがしくじったのでしょうか?」

ロス中将「あるいは裏切ったか」

眉をひそめるロス中将。

兵士「血液らしき液体を保管した容器を大量にいれたロック付きの強化ガラス棚と、空の容器がセットされたままの機械があるだけですね」

ロス中将「ここで何をやっていたというんだ」

そんなロス中将の通信機に、不意に連絡が入った。

ロス中将「私だ」

??『あなたはもう終わりよ! サディアス・ロス!』

ロス中将「……八重!?」

八重『三枝君はもうハルクにはならない! 薬のおかげで!』

ロス中将「……どういうことだ?」

クリント『それについては俺が説明しよう。貴様たちが今いる部屋で作られた新薬のおかげで、葉はハルクになることはなくなった』

クリント『葉の血を元に作られたその薬には、超人血清の力を薄める副作用がある。採血のために葉を確保する意味が無くなった以上、再誕計画は終わりだ』

クリント『ブロンスキーがこっちに寝返ってくれたおかげであんた達を罠にかけることができたよ。SSRが大挙してそっちに向かっている。八重の言う通り、あんたも終わりだ』

ロス中将「ブロンスキー…………!」

葉『精々足掻け』

葉の吐き捨ての一言の後、銃声の直後に通信が終わった。
恐らく、エミルが通信機を銃で破壊したのであろう。

ロス中将「あの小僧め……!!」

兵士「中将! SSRの奇襲を受けたとの報告が!」

ロス中将「何て忌々しい真似を……!」

悪態をつくロス中将。
そしてふと、葉の血を培養した溶液が入った容器に目が行く。

ロス中将「…………奴らは一つだけ大きなミスをしでかした。あの小僧の血自体をこの部屋に置き去りにしたことだ」

兵士「しかし、確保されては意味がないかと」

ロス中将「だったら私自らが被験者になる! 幸い、実験で使用したと思われる注射器もあるからな」

兵士「……本気ですか!?」

ロス中将「毒は毒で潰し合せた方がいい」



数分後。
ロス中将たちは強化ガラス棚のロックを銃器で強引に破壊して、中身を取り出す。
そして、葉の血を何とか容器一個分は自分の体に注入できたロス中将の体に、案の定異変が起きた。

兵士「…………やっぱり大変なことになった。それにしても、まるであの小僧への憎悪を体解するかのように変貌していきますね」

ロス中将「憎悪? いいじゃないか! 怪物の姿の時は憎悪<アボミネーション>と名乗るとしよう!!」




50 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/12/27(木) 04:26:22.82 ID:4iTIKSa10
時間は少し遡り……。
エミルとその部下たちが味方になった葉たちは、ロバートたちと合流できた。

ロバート&ベティ「「葉!」」

葉「……元に戻ったぞ。ベティもこっちに?」

ベティ「心配になって追ってきたのよ」

クリント「俺が調達した車は、実はベティから借りた」

ベティ「壊してないでしょうね?」

クリント「ナンバープレート隠蔽と速度超過をやらかしただけだ」

ベティ「……」

ベティが眉をひそめてクリントを睨む。
その横で、ロバートは葉に尋ねた。

ロバート「薬が効いたんだな?」

葉「ああ。ところで、他のみんなは?」

ロバート「エージェントの面々とインベーダーズはロス中将の部隊をSSRと一緒に迎撃。もう少ししたら、こっちに合流する。葉の友達は一番星・オルタナティブで待機中だ」

サミュエル「僕の作った薬の効果は確かさ!」

ロバート「あんたがMr.ブルーか?」

サミュエル「ああ。僕はサミュエル・スターン。そういうおたくはMr.B2?」

ロバート「Yes。ロバート・ブルース・バナーだ」

サミュエル「なら話は早いや。はい、これが薬。それと、薬に関する注意事項をこれから説明するから」



51 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/12/27(木) 04:27:56.02 ID:4iTIKSa10
数分後。
サミュエルの説明を聞いたロバートは、彼から手渡された薬を見つめていた。
何かをサミュエルが言おうとした瞬間、薬学部の研究棟本館から怒号と悲鳴、轟音が響き渡る。
それから数秒後の間をおいて、真赤な半漁人みたいなのが飛び出してきた。

サミュエル「…………半漁人!?」

ロバート「何の?」

サミュエル「何のって……。色からして、真鯛の?」

八重「そんな縁起の良さそうな半漁人なんかいるわけないでしょ! あの髪型と顔をよく見て!」

ベティ「…………ウソ!? あのファッキン・ダメ親父じゃない!」

ベティの絶叫の裏付けるように、その半漁人みたいなのは首から上がロス中将そのままであった。

????????「出て来い! Mr.グリーン!! このアボミネーションが相手をしてやるぞ!」

半漁人みたいなのの怒号を聞いたロバートは、簡単に確信できた。

ロバート「間違いない。あれは絶対にロス中将だ」

サミュエル「……何でああなったんだ? ハルクの血を投与したラットじゃあるまいし!」

サミュエル「仮に血を入れようにも、ちゃんとロック付きの強化ガラス棚に保管してたのに!」

葉「多分、銃辺りで強引にロックを破壊したと思うぞ」

サミュエル「嗚呼……。クソ! 向こうが飛び道具持ちだったのを考えてなかった!」

葉「Mr.ブルー。次の投与までの時間制限を過ぎれば、俺はまた変異するんだよな?」

地団太を踏むサミュエルに、葉は真剣な面持ちで話しかける。

サミュエル「そうだけど。……まさか、アレをブッ飛ばすつもり?」

葉「ここまで連れて来てくれたみんなには悪いけど、あんなのが出てきた以上は」

葉「アイツを始末した後で改めて治療を受ける」

サミュエル「それなら、反対はしないけど。でも、Mr.B2やみんなは?」

ロバート「賛成しづらいけど、反対する気は無い」

ベティ「あのサノバビッチをブチ殺して!」

クリント「薬はあるからな。一応賛成しておく」

八重「…………」

みんなが賛成してくれる中、八重は沈黙する。
だが、その意思はみんなとほぼ同じであった。

八重「非常事態、……だからね」

それを聞き、サミュエルは意外なことを口にした。

サミュエル「それなら、僕も反対しない。君は後50分ほどは変異できない。だけど、すぐに変異できるかもしれない裏技がある!」

葉「!」

サミュエル「今の君は治療の最初期段階。その状態時のみ使える方法だ。動物実験で偶然見つけたんだけどね」

サミュエル「君の血を、君に輸血する。人間に通用するかは分からないから、一か八かの博打だけど」

葉「俺は一向に構わないぞ」

成功するかどうかは分からない賭け。
だが、事態解決のため、葉は迷わず答えた。

52 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/12/27(木) 04:28:46.65 ID:4iTIKSa10
クリント「なら話は早いな。だがあの真鯛の怪物が邪魔だ。……………………ここから先は、コードネーム『ホークアイ』でやらせてもらうぞ」

そう言った瞬間に、ホークアイは弓を構え、矢の狙いをアボミネーションに定めた。
放たれた矢はアボミネーションに直撃するも、容易く弾かれる。
しかし、弾かれた瞬間に矢尻が爆発する。

ホークアイ「行け!」

ホークアイの合図と共に、葉たちは研究棟本官の裏口へ向かう。
アボミネーションの意識を葉たちに向かわせまいと、ホークアイは矢を何度も放つ。
タイミングよく、一足先に合流したサブマリナーとヒューマン・トーチが加勢。
3対1の血みどろの死闘が始まったのを尻目に、葉たちは走り出した。



サミュエルの個室。
強化ガラス棚のロックは銃で破壊されており、それだけではなくガラスの方も弾痕が大量についていた。
せめてもの幸いは、中身が1個を除いて全部無事であったことぐらいか。

サミュエル「だぁぁっ! このガラス棚、100万円以上したのに!」

ベティ「何でそんなにしたの?」

サミュエル「鉄筋入り特注強化ガラス製で電子ロック付きだから! 事が終わったら米軍に弁償させてやる!」

サミュエル「……失礼。ハルク、急いで輸血するからな」

それから数秒で準備が完了し、葉の腕にまた注射針が刺された。
そして、機械が動き出して輸血が開始される。
輸血が終わり、少しの間だけ、葉の眼が緑色に変わる。

サミュエル「輸血終了。いつでもOKだよ!」

葉「……」

葉は無言で部屋を出る。
八重たちは、ただ無言でそれを見送るしかなかった。
そして八重は、ガラス棚に置かれている容器をただ見つめだす。

八重「……」

ベティ「八重?」

ロバート「……八重、ここを出よう。出るまで喋るんじゃないぞ」

サミュエル「頼むから消音モードで! 今言おうとしてるのが察知できたから! それを言われたら好奇心に負けそうだから言わないでくれ!」

八重「例え治療できたとしても、いつあんなのが出てくるか分からない……。おちおち元に戻れないなら……」

八重「三枝君の血を、わたしにも入れてください!」

ベティ「落ち着きなさい! 茨の道を歩くつもり!?」

サミュエル「そうだぞ。ロス博士の言う通りだ。修羅になる必要はないんだからね」

八重「茨の棘なんか効かないような体になるんでしょ」

八重「ただ見送るだけなのは……」

ロバート「葉の力になりたいんだな?」

八重「はい」

ベティ「葉はショックを受けるわよ」

八重「そのショックも、代わりに受け止めます」

サミュエル「……僕が撲殺されそうになったら、とりなしてくれよ! さ、注射針を刺すから診察台に寝そべって!」





53 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/12/27(木) 04:30:09.61 ID:4iTIKSa10
福岡大学の敷地内。
インベーダーズの面々とホークアイ、そしてブラックウィドー(ナターシャ)がアボミネーション相手に死闘を繰り広げていた。

ブラックウィドー「こっちの攻撃、効いてると思う?」

ホークアイ「多分平気なんだろうな」

サブマリナーとヒューマン・トーチは善戦しているが、ホモ・サピエンスの範疇に入るホークアイとブラックウィドー、スピリット・オブ・76は圧倒的に苦戦していた。

ヒューマン・トーチ「戦えるか? マルティナ」

スピリッツ・オブ・76「この姿の時は本名で呼ばないでくださいまし! まだ戦えますわ」

サブマリナー「麿の攻撃もあまり効いてるようには見えないでおじゃる」

肩で息をしている彼らとは対照的に、アボミネーションは不敵に笑う。

アボミネーション「どうした? それで終わりか?」

葉「だったら真打が出てやる」

葉の声を聞こえたアボミネーションは振り返る。
そこにいたのは、眼が緑色に変色した葉。

葉「薬を打ったのはいいが、あんたがいたんで怪物に逆戻りする羽目になったよ」

この言葉の直後に、葉はハルクへ変異。
衣服の方は、ずば抜けた伸縮性を発揮しており、靴共々全く破れる気配がない。
ハルクは、アボミネーション目掛けて突撃し出した。

ハルク「ガア゛ア゛ア゛ア゛ーーーー!!」

そのままジャンプし、飛び込むようにアボミネーション目掛けて拳を振るおうとする。
しかし、アボミネーションもまたジャンプし、逆に飛び蹴りでハルクを吹き飛ばす。

ガゴ-ン ハルク「ヌゥ!?」

アボミネーション「フハハハハハハハッ!」

ハルク「ガンマチャージ!」

またジャンプし、勢いよく踏みつけようとするアボミネーション。
その動きを読んだかのように、ハルクは対空体当たりで迎撃し、アボミネーションを吹き飛ばす。
更に馬乗りになってアボミネーションを殴る。
10発以上は殴っていたはずなのだが、アボミネーションの方は余り意に介していなかった。

アボミネーション「それで終わりか?」

頭突きでハルクを吹っ飛ばすアボミネーション。
しかしハルクも負けてなるものかと、受け身を取りすぐに立ち上がってまたもジャンプ。
立ち上がったアボミネーションの顔面に豪快な飛び蹴りを入れた。

ドゴシャァッス! アボミネーション「グハァ!?」

そのまま、筋肉の塊同士の盛大な殴り合いにもつれ込む。



54 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/12/27(木) 04:31:11.95 ID:4iTIKSa10
死闘からはじき出された格好になったホークアイたちであったが、それでもロス中将の私兵化した部隊を相手に、SSRの部隊と共闘していた。
そんな中、ロバートたちが大急ぎで戻ってきた。

ベティ「車のキーは!?」

ホークアイ「ポケットに入れてる! 勝手に取ればいいだろ! 今は殺し合いの真っ最中だ!」

ベティ「どうも!」

ホークアイのポケットから自分の車のキーを回収したベティは、八重を連れて大急ぎで自分の車に駆け寄る。
そして開錠して、葉が昨日着ていた服を取り出す。
八重は身に着けているもの全てを脱ぎ、ベティから渡された葉の服を着だす。

ベティ「靴は履いた?」

八重「はい!」

ベティ「そんじゃ、行ってこーい!」



ガスドガボコゲシビシドガ
凄絶な殴り合いはまだ続く。
だが、軍隊式の格闘技が身についているロス中将が変異した、アボミネーションの方が次第に有利になる。
更に、アボミネーションがハルクの首を絞めにかかる。

ハルク「グッ・・・・・・ガッ!?」

アボミネーション「何か言うことはあるか? おっと、首を絞めているから何も言えなかったな!」

八重「わたしにはあるわ!」

突如として、八重の怒号がアボミネーションの耳に入る。
アボミネーションが首を動かすと、八重が鋭い目つきでそこに仁王立ちしていた。

八重「シーハルク!! ゴー・ファイトッ!」

八重の眼が緑色に光り、肉体が一気に変化する!
身長227cm、体重216sのスーパーマッスル美女へ!

シーハルク「クラウチング。チャージ!」

シーハルクは構えを取った上で猛ダッシュ。
アボミネーションの首に強烈なラリアットを喰らわせた。

シーハルク「クローズライン!」

ズドゴォ アボミネーション「のわー!」

アボミネーションをダウンさせ、シーハルクは膝をついているハルクの元へ駆け寄った。

シーハルク「三枝君!」

ハルク「……八重!? その姿、は?」

シーハルク「愛する人がいつ戻れるか不安になるより、一緒に元に戻れる日が来るのを待つほうがいいもの」

シーハルク「三枝君と一緒なら、そっちの方がいいもの」

ハルク「八重……。…………先にあの真鯛のお化けを倒す方が先だ!」

シーハルク「……うん」

ハルクとシーハルクは、二人一緒にアボミネーションを睨む。
そして、二人同時に駈け出した!

55 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/12/27(木) 04:32:38.44 ID:4iTIKSa10
シーハルク「へヴィストライク!」

シーハルクが突進、更に顔面に膝蹴りを当てる。
それに続いてハルクがアボミネーションの顎を殴る。
そして、一気に袋叩きにかかる。
流石に筋肉の塊二人分が相手では分が悪く、アボミネーションは一気に圧されてしまう。

アボミネーション「こんな終り方など……!」

シーハルク「さっさと認めなさい!」

シーハルクのコークスクリューボディーブローがアボミネーションの鳩尾に直撃。
動きが停まったのを見たハルクの視線に、ロス中将が乗っていたと思われるM1109グリモイアが目に入る。、

ハルク「ハルク!! スマッシュ!」

一気に駆け寄り、M1109グリモイアを持ち上げたハルクはアボミネーションのところまで接近してから、大ジャンプする。

ハルク「ガンマクラッシュ!!!」

渾身の力でジャンプしたハルクは、かなりの高度に達してからようやく静止。
M1109グリモイアを盾にするようにして落下。
そのまま落下速度と怪力の相乗効果をかけてM1109グリモイアをアボミネーションに叩きつけた!

ドッゴォォォォォォォン!! アボミネーション「…………!!!」

轟音と共にアボミネーションは地に叩き伏せられ、足元のアスファルトは砕け、M1109グリモイアは粉々になった。
喰らったダメージが大きすぎたのか、アボミネーションはそのままロス中将に戻る。

ハルク「……終わったみたい、だな」

ハルクは呟いたのと同時に、その場に座り込む。
ハルクもハルクで、ダメージが蓄積していたのだろう。



ホークアイ「こいつ、そういえば『アボミネーション』とか名乗っていたな、真鯛の化け物になってた時は」

ブラックウィドー「アボミネーション<憎悪>、ねぇ……。何を憎んでたのかしら?」

ベティ「義姉を憎み、私のロバートを憎み、八重の心を射止めた葉を憎み……。憎しみ、っていう感情を否定する気は無いわ」

ベティ「でも、こいつの憎しみは逆恨みが根源。とてもじゃないけど認められない」

サブマリナー「このネイモア・マッケンジー。ここまで腐った魂を持つ者を見たのは初めてでおじゃる……」

みんながみんな、吐き捨て、冷ややかな目で瀕死になっているロス中将を睨む。



56 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/12/27(木) 04:34:24.88 ID:4iTIKSa10
サミュエル「えっと……僕は頼まれたからやっただけだぞ! 第一、八重ちゃんの助太刀が無かったら危なかったじゃないか! ほら、八重ちゃん! とりなしてくれよ!」

ハルク「…………本当なのか?」

シーハルク「サミュエルさんの言ってることは、本当よ」

サミュエル「でもさ、本当に妬けるよね。大好きな彼氏を人ならざる力を持つ者同士として支えるために、人外の力を手にするなんてさ」

サミュエル「絶対に、幸せにしてやれよ! 倦怠期とかになったら殴るからな!」

戦い終って日が傾き始め、ハルクの側に寄り添って座るシーハルクに、二人の目の前であれこれ言うサミュエル。
そこに、フィルがつぼみたちを連れてきた。

フィル「無事だったか……。隣にいるのは誰だ?」

シーハルク「……」

フィルの疑問に答えるように、シーハルクは八重に戻る。
その一部始終を見て、フィルだけではなくつぼみたちも絶句した。

つぼみ&麗愛「…………………………八重ちん!?」

大樹&太「…………………………マジで!?」

フィル「えーっと、つぼみたちはショックでまともに質問できる状態じゃないみたいだから、こっちが質問するぞ」

フィル「一体何があったんだ?」



数分後。

フィル「…………無茶し過ぎだぞ」

サミュエル「まあ、その無茶のおかげであの真鯛の半漁人を倒せたんだからさ。万事塞翁が馬、ってことでさ?」

フィル「……全く」

果てしなく呆れるフィル。
そんなフィルと、必死になってフォローするサミュエルを他所に、八重はハルクに抱きついて微笑んでいる。

つぼみ「八重ちん。八重ちんってば!」

麗愛「何で、そんなにニコニコしてるの?」

八重「……昨日より、確実に幸せだから、かな?」

ハルク「多分、そうだろうな」

太「……ノロケ?」

大樹「だろうな……」

ハルクも、八重が寄り添っているせいかどこか嬉しそうである。
そこに、ロス中将の怒号が聞こえたと思ったら激しい打撃音が響く。

フィル「……ロス中将が目を覚ましたのか? それに、ロバートとヒューマン・トーチ、スピリット・オブ・76は?」

ハルク「ロバートたちは、サミュエルの研究室に行った。ハルクの血と、薬のデータを回収するために」

ロバート「葉……」

いつの間にか、ロバートたちは戻って来ていた。
しかし、その表情は引きつっている。

57 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/12/27(木) 04:35:14.89 ID:4iTIKSa10
ハルク「どうした?」

ロバート「済まない。Mr.ブルーの研究室に行ったんだが……。データの入ったラップトップは回収できたんだ」

ロバート「ただ、葉の血を培養したやつの容器の殆どが壊されていた……」

サミュエル「えー!? 薬の主成分なのに!」

スピリット・オブ・76「恐らく、ロス中将が怪物化した際に棚ごと破壊したと思われます」

ヒューマン・トーチ「壊れてないのもあったけど……。その数、たったの2本」

サミュエル「なんてこった……。それじゃあ、何週間分できるかどうか……」

ロバート「幸い、Mr.ブルーから受け取ったのは無事だったが、それすら葉と八重に回るかどうか」

つぼみ「どういうこと!?」

???「わたしが説明しよう」

つぼみの疑問に答えるためのように、ニック・フューリーがいつの間にかそこにいた。
そして隣には、スティーブ・グラント・ロジャースもいる。

フィル「スティーブ!」

スティーブ「フューリー長官と一緒に駆け付けてきた。ロス中将を拘束するために」

ニック「本来なら、そのまま引っ立てれば問題ない。しかし、今のロスはいつ化け物に変異するか分からない」

ニック「故に、例の薬で怪物化を抑えないといけない」

ニック「奴には聞きたいことが山ほどある。納得できないだろうが、奴を暴れさせないためにも薬はこちらで使わせてほしい」

ニック「主原料がかなり減った状態でこんなことを言うのはトンデモないことだというのは、承知の上だ。あの時、賛成だ、と言っておきながらこの有様になったのは申し訳ない」

ニックはひとしきり説明し終えて、頭を下げる。
これには、みんなが驚いた。

ハルク「俺は、構わない。この力は、八重と一緒にいたいと思って、あの抗癌剤を受け入れたことで、偶然とはいえ手にした力だ」

ハルク「八重にうつさないために元に戻ろうと思っていた。だけど……八重は自分の意志で同じ力を手にした」

ハルク「だから、俺ももうしばらくは、この力を残しておこうと思う」

ニック「迷惑ばっかりかけてしまう」

葉「一生保持するって訳じゃないから、問題ないさ」

ハルクは、やっと葉へと戻る。

八重「わたしも、自分で選んだ力を、自分の中に残しておきます」

八重は、いうまでもなく葉と同じ結論を選ぶ。
それを見たスティーブは、葉に話しかける。

スティーブ「葉君」

葉「……なんですか?」

スティーブ「絶対に、八重ちゃんと一緒に幸せになるんだ。デートの約束をしたら、何が何でも間に合わせろ」

スティーブ「昔、デートの約束を果たせなかった挙句、何十年も北極の氷の中で寝坊し続けたバカなガキからのアドバイスだ」



58 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/12/27(木) 04:36:21.57 ID:4iTIKSa10
それからそれから。

ロバート「そうと決まれば、薬を奴に投与しておかないと」

サミュエル「機械と診察台は?」

スピリット・オブ・76「診察台は破壊されていましたが、機械は無事でしたわ」

サミュエル「あの真鯛の半漁人なら、別に床に転がしても問題ないか」

ヒューマン・トーチ「サブマリナーに運んでもらおう」

サブマリナー「どうせそうだろうと思って運んでいる真っ最中でおじゃる」

ベティ「さ、急ぎましょう」

サミュエル「はあ……。この大学に残れるかな?」

ベティ「もしも叩きだされたら、私が勤務している大学に移らない?」

ロバート「ダメならS.H.I.E.L.D.に転がり込む、という選択肢もある」

あれこれ言いながら、ロバートたちは研究棟本官へと向かっていく。
それを見送った後、不意にスティーブが口を開いた。

スティーブ「SSRとかどうでしょう?」

ニック「Mr.ブルーの再就職先候補か?」

スティーブ「福岡大学を追われたら、の話ですけど。話を変えますが、葉君たちをどうします?」

ニック「東京から遠く離れたここまで連れてきてしまったんだ。しばらくこの街の観光をさせてみようと思う」

スティーブ「親御さんと学校からの苦情は、自分一人で被ってくださいね」





『臨時速報です。昨日、大阪学院大学で破壊活動に及び、指名手配されたサディアス・ロス中将が、福岡県福岡市城南区、福岡大学のキャンパス内で再び破壊活動に及びました』

『しかし、その場に居合わせたハルクとその仲間たちに鎮圧され、身柄を拘束されたとのことです』

『目撃者の話では、ロス中将は怪物化して、ハルクと殴りあっていた模様です。また、その際に「シーハルク」なる大柄な女性がハルクに加勢したとの情報もあります』

『何故ロス中将が福岡県で再び事件を起こしたかは、今のところ不明なままです。ロジャース中将が存在を暴露して下さった、「再誕計画」絡みの可能性もあります』

『これに関して、翌日にS.H.I.E.L.D.とSSRが合同で会見を開くと発表しました』





59 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/12/27(木) 04:38:08.49 ID:4iTIKSa10
その日の夜、福岡市の観光名所・キャナルシティ。
敷地内にあるホテルの内の一つ、キャナルシティ・福岡ワシントンホテルのデラックスダブルルーム。
結局、ロス中将と、彼の私兵たちの生き残りは確保された。
エミル達も、関係者であったため連れて行かれた。
彼らが使用していた不審船も、飛行能力を有していた点以外は謎が多く、S.H.I.E.L.D.が直々に調べるため回収している。
インベーダーズも、ロバートとベティも、スティーブも、そしてニックも、ロス中将たちを連行するために福岡を離れた。
最初に一番星・オルタナティブで出発した時の初期メンバーだけが、福岡に残っている。

葉「出発した時のメンツだけが残ったな」

八重「そうだね……」

葉「……ありがとう、あの時は」

八重「…………キス、する?」

葉「いつもより、深く」





それから、数日後。
曜日は月曜、所は小学校。
葉たちは、昨日の夜にようやく東京にたどり戻れた。
久しぶりの登校。
何故か、ナターシャとクリント、フィルがガードの名目で同行したが。
『博多通りもん』を始めとするお土産各種をお詫びの品の名目で大量に持ってきて。

先生「これは……?」

ナターシャ「『稚加栄』のいわしめんたいこです。先週、ご迷惑をおかけしたお詫びにと。それと、今晩はお暇ですか?」

ナターシャ「よかったらディナーをご一緒  フィル「ストップ。先月、女性問題を起こして厳重注意を受けただろ」

さり気なく葉たちのクラスの担任(♀)をナンパするナターシャを、フィルが咎める。
つぼみと大樹に麗愛、太は呆れた様子でそれを見ていた。

葉「滅茶苦茶な1週間だったよな」

八重「だけど、とっても楽しかったよ」

こっちはこっちでお熱いようで。
しかし、そんな惚気た雰囲気をクリントがかき消してしまう

クリント「二人とも」

葉&八重「「何?」」

あからさまに眉をひそめて自分を睨む二人に対し、クリントは無言で、窓の方を指さして、外で何か起きていることを伝える。
何事かと思って窓から見える外の様子を伺うと……。
何やら大人たちが集団になり、校門の前で怒鳴り散らしている。

葉「何だあれ?」

クリント「お前と八重を、ガンマ線をまき散らす怪物と勘違いしている連中だ」

葉「……拳で話をつけてくる!」

八重「わたしも行く!」

クリント「お二人さん。殺すなよ、後始末が面倒だから」

葉&八重「「……………………勿論!!」」

クリントからの忠告に対して、葉と八重は同時に答える。
そんな二人の眼は、緑色に輝いていた……。
60 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/12/27(木) 04:39:00.48 ID:4iTIKSa10





脳内再生用CV

三枝葉:斎賀みつき

山吹八重/シーハルク:小林沙苗

ロバート・ブルース・バナー:水嶋ヒロor宮内敦士

ベティ・ロス:甲斐田裕子

立花つぼみ:名塚佳織

根本大樹:白石涼子

加藤麗愛:神田朱未

三枝緑:金月真美

サミュエル・スターンズ:森川智之

エミル・ブロンスキー:檀臣幸



サディアス・ロス/アボミネーション:菅生隆之



ナターシャ・ロマノフ/ブラックウィドー:佐古真弓

クリント・バートン/ホークアイ:宮迫博之

フィル・コールソン:村治学

ネイモア・マッケンジー/サブマリナー:塩谷浩三

マルティナ・トラップ/スピリット・オブ・76:荒木香恵

初代ヒューマン・トーチ:高木渉

ニック・フューリー:手塚秀彰


スティーブ・グラント・ロジャース:中村悠一

ウルトロン・ピム:神谷浩史

デッカチー:千葉茂

ハルク:小杉十郎田





61 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/12/27(木) 04:39:31.12 ID:4iTIKSa10
あの泥沼の事件から数か月後……。

ニック「再誕計画は頓挫したか」

?????「しかし、紛い物とはいえ3人もスーパーソルジャーが生まれた。再誕計画をリスタートさせようとする奴らはアメリカ内外を問わずにいくらでも出てくる」

スティーブ「……何より、僕が生きている限り失敗に終わる可能性は下がらない」

ニック「だが、我々は中将を殺す気は無い。デッカチーはどう思う?」

デッカチー「例え再誕計画の成功の鍵であっても、友である以上は殺さない。世界の平和と両天秤にかけることになる危険な判断だが、私個人としての意見は『極めて正しい』」

デッカチー「ところで、ビブラニウム合金の研究は?」

スティーブ「盾を解析して手に入れたデータで続けているが、困難を極めている。四次元キューブからエネルギーを採れば問題ないだろうけど……」

ニック「あれは超級の危険物だ。試験的に採取したエネルギーを奪われて悪用される可能性もある」

デッカチー「ヒドラが生き残っている以上、賢明な判断だ」

pppppp ニック「私だ」

フィル『長官。緊急事態です! アイスランドで発見された地下都市遺跡がヒドラに襲撃され、最深部に安置されていたレプリカ四次元キューブが奪われました!』

ニック&デッカチー「「…………………………………………!!」」

スティーブ「本格的にこちらと事を構える気のようだ……!!」

SECRET BOY HULK
THE END
and to be continued CAPTAIN AMERICA THE AKIHABARA AVENGER.

62 : ◆lc8fM/f/jN38 [saga]:2012/12/27(木) 04:41:59.67 ID:4iTIKSa10
以上、全話の投下を完了しました!
このスレへの投下は今回で終了です。
読んでくださった読者の皆様に、感謝します。
では、 スティーブ「…『妹と恋しよっ♪』? ……R18!?」 でまたお会いしましょう!
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