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春香「茜色の約束」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/09/10(月) 05:02:45.17 ID:61h+0AQe0


――きっと、いつかは離れてしまうけど。
  もしそうなっても、私ならきっと受け止められる。
  だって、私たちの心はずっとこの景色とともに繋がっているから。
  どんなに遠くに行っても、決して忘れない。
  それが、私たちの絆。それが、私たちの約束。――







「――カットォ!OK、完璧だ春香ちゃん!!」
「あ、ありがとうございます!」
監督のOKサインと同時に、私は全身の緊張が解けるのを感じました。
皆さんこんにちは!天海春香です!!
今私はこの秋のゴールデンタイムに放映されるスペシャルドラマの撮影を行っています、それも主役として!
ウフフ、主役ですよ!主役!!
まさかこの私が主役になれるなんて……初めてその話を聞かされた時は、驚きのあまり思わずイスごと後ろに倒れちゃいました。
え?いつもと変わらない?
そんなことないですよ!いくら私だって普段はそんなドジやりません!!……多分。
と、とにかく!そうしてドラマのオファーが来たのは今年の八月の半ば。
撮影が始まったのは9月の初めからでした。
それから、今日で一か月。
たった今、めでたくクランクアップを迎えたわけです。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1347220965
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満身創痍 @ 2024/03/28(木) 18:15:37.00 ID:YDfjckg/o
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【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part8 @ 2024/03/28(木) 10:54:28.17 ID:l/9ZW4Ws0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1711590867/

旅にでんちう @ 2024/03/27(水) 09:07:07.22 ID:y4bABGEzO
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にゃんにゃん @ 2024/03/26(火) 22:26:18.81 ID:AZ8P+2+I0
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にゃんにゃん @ 2024/03/26(火) 22:26:02.91 ID:AZ8P+2+I0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/gomi/1711459562/

にゃんにゃん @ 2024/03/26(火) 22:25:33.60 ID:AZ8P+2+I0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/gomi/1711459533/

にゃんにゃん @ 2024/03/26(火) 22:23:40.62 ID:AZ8P+2+I0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/gomi/1711459420/

2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/09/10(月) 05:29:42.20 ID:61h+0AQe0
「いやぁ、ホント良かったよ今の演技!何ていうか、真に迫ってたっていうかさ。思わず相手役の彼に嫉妬しちゃいそうになっちゃたもん」

監督さんが興奮気味に今の私の演技を褒めてくれます。

「確かに、俺もいくら役柄とはいえ春香ちゃんから今の言葉を言われて、ちょっとドキッとしちゃいました」

相手役の北斗さんもからかうような調子で監督さんの言葉に同意しました。

「もう、二人ともからかわないで下さい!」

いくら演技とはいえ、やっぱり男の人に素直な気持ちを伝えるというのは気恥ずかしいものです。

それに、私は今回撮影で初めて本格的な演技というものをしたので、自分の演技を褒められるという経験にあまり慣れてません。

そういうわけで、今の私の顔はまっかっか。

今が夕方の時間帯じゃなかったら、多分林檎と見分けがつかない程赤かったと思います。

「あれ、春香ちゃんもしかして照れてる?」

「て、照れてなんかいません!」

北斗さんに指摘されて、思わず下を向いてしまいました。

……どうやら夕焼けに照らされていても、私の顔が赤いのはバレバレだったようです。

「ハハッ、ゴメンゴメン。でも、春香ちゃんにときめいたってのは事実だからさ」

「……いいんですか、そんな事言って?ファンの人達が聞いたら黙ってないと思いますよ?」

ちょっとした復讐のつもりで、私は北斗さんに意地悪を言ってみました。
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/09/10(月) 06:04:56.40 ID:61h+0AQe0
「何言ってんの、春香ちゃん。俺の心はいつだって世界中の女の子達にときめいてるよ☆」

とびっきりの笑顔とともに、北斗さんは恥ずかしげもなく言いました。

「何ていうか……流石ですね、北斗さん」

私の言葉に北斗さんは不思議そうな顔を、監督さんは苦笑いを浮かべてました。

「さて、これで撮影は全部終了したわけですし、この後は打ち上げですよね、監督さん」

「あ、ああ、もちろんそのつもりだよ。春香ちゃんも来るだろ?」

「はい、もちろん!でもこの後ラジオの収録があって途中で抜ける事になりそうなんですけど、大丈夫ですか?」

「え、そんなに忙しいのかい?」

監督さんが少し残念そうな顔で言いました。

「はい、19時からラジオの収録で、21時からは今度の雑誌に載る写真の撮影、あとは事務所に戻って少しミーティングするだけだろうから終電には間に合うはずですけど」

「終電には間に合うだろうって……間に合わない事もあるの?」

北斗さんが少し驚いたような顔で言いました。

「はい、そういう時は千早ちゃん……友達のアイドルの家とかに泊めてもらってます。最近は前と比べてそういう事も少なくなりましたけど」
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/09/10(月) 06:46:47.50 ID:61h+0AQe0
「最近は、って事は前は結構そういう事あったんだね。そんな生活じゃ、寝てる時間も殆ど無いんじゃないの?」

「そうですね、前に比べれば若干寝たりないですけど、でも忙しいっていうのはやっとアイドルとして売れてきたってことですから。今は出来るだけの事はしたいんです」

以前までの生活と比べて、私達の生活は格段に忙しくなりました。

ちょっと前までは家でお菓子を作ったり、事務所で皆とお茶したりする時間が山ほどあったのに、今では事務所に全員で集まるのが難しい位皆仕事の予定で予定が埋まっています。

それがちょっと淋しいとは思うけど、今のこうして寝る間も惜しんで芸能活動をしている生活も、悪くはないと思うんです。

たまに辛かったり、どうしようもなくへこたれちゃったりする時もあるけど、千早ちゃんや他の皆が頑張ってる姿を見ると、負けてられない、頑張らなきゃって力が心の底から湧いてくるんです。

そうして私が頑張ってる姿が、他の皆を元気付ける活力になってるかも知れない。

もしかしたら私の独り善がりかも知れないけど、自分が少しでも誰かの助けになれてるかもって思うとそれが挫けそうな心をそっと支えてくれるんです。
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/09/10(月) 06:52:05.54 ID:61h+0AQe0
誰も見てる人は居ないと思いますが、いったん落ちるんで残しておいて下さい。

一旦書き始めたからにはとりあえず完結させたいので。

宜しくお願いします。
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/09/10(月) 07:01:37.10 ID:HLU70ejwo
生存報告さえしてくれたらいつまでも待てる
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sagesaga]:2012/09/10(月) 07:33:12.34 ID:k1IMzQcWo
こんな時間からこんなもん投下しやがって
期待
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中国地方) [sage]:2012/09/10(月) 08:02:00.15 ID:EFgdE8Nn0
期待したい。
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/10(月) 08:05:28.29 ID:7MbE/JMSO
閣下可愛い

期待
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/09/10(月) 13:08:46.62 ID:IQPLXVtWo
速報でこの速度は凄い。
支援。
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/09/10(月) 23:11:47.14 ID:zWQBYfWX0
vipと違って落ちることはないから安心して書けるよ
期待
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/09/11(火) 01:39:35.65 ID:hYG3PQZK0
夜分遅くすいません、1です。

最近昼夜逆転の生活をしておりまして、ふっと書きたい気持ちになったんで変な時間から投稿してしまいました。

SS初心者で書き溜めもしてない挙句明確な展開もあまり考えてないので、皆さんの期待にこたえられるかどうか不安ですが頑張ってみます。

保守してくださった皆さん、本当にありがとうございます。

それでは、次から続きを書いていきます。
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/11(火) 01:41:35.32 ID:gdCyIiGxo
2か月放置しなければ落ちることはないぜ
期待
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/09/11(火) 01:52:24.37 ID:02EvAPSso
初心者なんてまたまた
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/09/11(火) 02:13:28.86 ID:hYG3PQZK0
そう、私はアイドルとして働き始める事で、皆で助け合っていく事の大切さを学びました。

一人じゃ出来ない事も、皆と力を合わせればきっと出来る。

言葉に表すと何所にでもよくある、使い古されたフレーズにしか聴こえないけど、でも私はそんなありきたりな言葉に救われたんです。

だからこそ、私は頑張れるんです。

今も自分たちの目指す夢に近づくためそれぞれのステージで頑張っている、私にとって大切な仲間である765プロの皆の力に少しでもなれる為に。

そして、そんな私達を優しく見守ってくれている大好きなプロデューサーさんの為に。

だから――

「だから、弱音なんて吐いてなんかいれません!それに、そういうのは私のキャラじゃないですし!!」

最後にちょっとだけ照れ隠しで、唇からペロッと舌を出してみたり。

コラ、そこ!あざといなんて言わない!!
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/09/11(火) 02:48:52.54 ID:hYG3PQZK0
確かに、春香ちゃんの一番の魅力はいつだって前向きでポジティブな所だからね。それに女の子に一番似合うアクセサリーはダイアモンドでもルビーでもなく、笑顔だからね」

「え、えへへ……えーと、ありがとうございます」

北斗さんがこういう人だって言うのはなんとなく聞いていましたが、今回共演するまではまさかここまでキザったらしい人だとは思いませんでした。

撮影中も暇さえあれば色んな女の人に話かけていたし。

共演した女優さんや、スタッフさんだけでは飽き足らず、撮影を見学していたギャラリーの人たちにまでこんな歯の浮くような台詞を言っていたのでしょうか?

恐るべしというか、何というか……。

真、今なら真が当時あんなにげんなりしていた気持ちが良く分かるよ。

私が言うのもなんだけど、北斗さんはもう少し人目を考えて行動した方がいいかなーなんて――
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/09/11(火) 03:09:45.88 ID:hYG3PQZK0
「でも――」

「……はい?」

「でも、頑張るっていうのと無茶をするっていうのを勘違いしてはいけないよ。春香ちゃんはアイドルとしての“天海春香”である以前に、世界でたった一人の“春香ちゃん”なんだからさ」

「……」

北斗さんの言葉に、私は一瞬何て答えれば良いのか迷ってしまいました。

北斗さんの口調は先程までと同じ、何所か捉え所のない綿あめの様な印象を受ける甘く軽いイントネーションでした。

けれど、目が。

目だけは、まるで私の心の中を見透かすようにじぃっと真剣な眼差しで私の目を見つめていました。

普段の北斗さんと、同じ目つきの筈なのに――

私はあの時と同じ様に、しばらくの間蛇に睨まれた蛙の如く、身動ぎする事も出来ずにその場に立ち尽くしていました。
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/09/11(火) 03:54:49.23 ID:hYG3PQZK0
この感覚は――そうだ、アイドルとしての活動を始めて、それほど日も経ってない頃にオーディションを受けた時、審査員からまるで予想もしていなかった質問を投げ掛けられた時に似ている。

まるで、広大な砂漠のど真ん中に一人置きざられて、どうしていいのかも分からずに途方に暮れている感覚。

何か答えなくちゃいけないとは思うけど、その意志と反して口からは何も言葉にする事が出来ない。

このままじゃ、私――

「……なーんてね。そんな事、俺に言われるまでもなく、春香ちゃんならキチンと理解しているよね☆」

暗い思考に陥りそうだった私の意識を再び現実の方に向けてくれたのは、北斗さんでした。

「え、えっと……」

「でも、その様子だとやっぱりちょっと疲れてるみたいだね。この後も仕事の予定があるんだったら、打ち上げの方は無理して来なくてもいいんじゃないかな?」
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/09/11(火) 04:23:39.50 ID:hYG3PQZK0
「ええ!?そんな、マズいですよそんなの!主役なのに打ち上げに参加しないなんて、他の共演者さんやスタッフさん達に申し訳ないじゃないですか!!」

芸能界という世界がいかに序列に厳しい世界であるかという事は、まだまだ人としても芸能人としても半人前な私でも一応理解しているつもりです。

もし名立たる俳優さんの方々が参加しているのに若輩者である私が参加しなかったら、きっと私だけでなく事務所の皆にも迷惑をかける事になる。

ようやく皆の活動が実を結び始めた時に、私の所為でまた皆に迷惑なんかかけられない。

それ以前に、今回の撮影では共演した方々やスタッフさんの皆さんには、演技指導をしてもらったり撮影終わりにご飯に連れてって貰ったりと、とても良くして貰えました。

そうしたお世話になった方々一人一人にキチンとお礼を言うには、やっぱり皆で集まる食事の席が一番いいと思うんです。

それに、前にも言いましたけど私にとってこのドラマは初めての主演作品なんです。

それ以外にも個人的にちょっとした思い入れもある作品だったので、

「と、とにかく、打ち上げはキャストとスタッフ全員でやる最後の総仕上げみたいなものだと思うんで、やっぱり行きたいです!!」
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/09/11(火) 04:47:37.29 ID:hYG3PQZK0
ちょっと熱っぽくなってしまった私の様子を見て、監督さんは笑いながら言いました。

「いやいや、打ち上げって言っても今日やるのは今ここに居る連中だけでやる奴だから、春香ちゃんが言う様なスタッフとキャスト全員で集まってやるっていう大規模な打ち上げではないよ」

「え!?そうなんですか?」

「うん、そういう本格的な打ち上げはまた今度やるから、別に心配しなくてもいいよ。俺として出来れば今日の打ち上げに春香ちゃんにも来てほしいけど、仕事が忙しいんじゃ無理にとは言えないし」

「そうそう。それに無理してくると、酔っぱらった監督さんに引き留められちゃって、仕事に遅刻しちゃうかも知れないよ?」

「オイオイ、酔うと色んな人に絡みだすのはキミの方だろうが」

「あれ?そうでしたっけ☆」

北斗さんのおちゃらけた仕草に三人で笑っていると、一人のスタッフさんが近づいて来ました。

「天海さーん、携帯なってまーす」

「あっ、すいませーん。今行きまーす。すいません、ちょっと失礼しますね」

呼びに来たスタッフさんにお礼を言って、二人に断わってから、私は自分の休憩用の椅子にむかいました。
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/09/11(火) 05:21:38.49 ID:hYG3PQZK0
椅子の上に置いておいた鞄の中に入れていた着信を確認すると、プロデューサーさんからの着信でした。

仕事に関する事の連絡だとは分かってはいるのですが、それども心がときめいてしまうのが乙女の性。

直ぐにリダイヤルからプロデューサーさんの番号を呼び出しコールすると、3コールもしないうちに電話に出てくれました。

『もしもし、春香か?』

「ああ、プロデューサーさん、お疲れ様です!」

『そっちこそ、お疲れ様。撮影はどうだ?もう終わった頃だと思って電話したんだけど』

電話越しに聴こえてくる優しく穏やかな声音に、私の鼓動は少しずつ速まっていきます。

「もうバッチシですよ、バッチシ!監督さんにも共演した北斗さんからもベタ褒めされちゃいました」

『そうか、それは凄いな。今から放送日が楽しみだ』

「もう期待しまくっちゃって下さいね!きっとプロデューサーさんのハートもイチコロですよ!!」

自分としてはそれとないつもりで、ちょっと大胆な発言をしてみる。

まぁ、周りから見れば分かりやすい程のアプローチなのかも知れないけれど、肝心のプロデューサーさんにはきっと――
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/09/11(火) 06:07:02.50 ID:hYG3PQZK0
――ほうら、やっぱり。

そのまるで自分の娘に「将来はパパのお嫁さんになるー」的な事を言われたときに軽く受け流す父親の様な反応。

分かり切っていた事とは言え、やっぱり実際にそういう態度をされるとテンション下がりますよ、プロデューサーさ〜ん。

こっちはそれなりに本気だって言うのに。

やっぱ脈ないのかな……。

「ハァ―……」

『ん、どうした春香?』

「な、何でもないです!そ、それより、この後ラジオの収録ありますよね?私、どうしたらいいでしょうか?」

『ああ、そうだそうだ、その件で連絡があってさ。実は最初は今いる現場に俺が車で直接迎えに行くつもりだったんだけどさ、どうもそこに行くときに通る主要道路で事故があったらしくて、それが原因で大渋滞が起きてるってさっき律子から連絡があったんだよ』

「律子さんから?今日は竜宮小町の収録はもう終わっていませんでしたっけ?」

事務所に掲げられているホワイトボードに書かれている全員の予定を、記憶の片隅から無理やり引っ張り出してみる。

朧げにしか覚えてないが、確か今日の竜宮小町の予定は午前中はダンスレッスンで、午後は雑誌のインタビューのみ。

その雑誌のインタビューも善澤さんが事務所でやるって言っていたし、別に外に出る予定なんてないはずだけど――。
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/09/11(火) 06:38:17.30 ID:hYG3PQZK0
『俺が別件で頼んだんだよ。春香をそこまで送った後、響と貴音、雪歩と美希と真をそれぞれのスタジオに送んなくちゃなくてさ。それぞれの送迎だけなら何とかなったんだけど、今度千早がやるソロライブの打ち合わせなんかもあって、それが結構切羽詰まっててさ。仕方ないから、響達の送迎を律子に頼んだわけさ。』

「なるほど、それで快く承諾したら渋滞に巻き込まれてしまったと。これは何かで埋め合わせするしかないですね〜、プロデューサーさん」

『オイオイ、俺の所為かよ!?流石に事故に巻き込まれた事までは責任取れんぞ』

プロデューサーさんが慌てる様子が目に浮かびます。

更に動揺させようと思って「じゃあどういう事なら責任とれるんですか、プロデューサーさん♪」と言ってみようかと思いましたが、それは流石に可哀想だと思うので言わないでおきました。

……重い女だと思われるのは嫌ですし。

「プロデューサーさん、冗談ですよ、冗談。とにかく、そういうわけだから車ではこっちに来れないんですよね?それじゃあ、電車で移動する事になるんですか」

『あ、ああ。今ちょうどそこから歩いて10位の○○駅ってところから降りて、そっちに向っているところだ。あと三分もすれば着くと思う』

「分かりました、待ってます」

『ああ。――そうだ春香、一ついいか?』
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/09/11(火) 07:11:23.67 ID:hYG3PQZK0
スイマセン、いったん落ちます。

続きは12〜22時までの間には書き始めます。

では。
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/11(火) 07:26:15.27 ID:z7viHoISO
あざといかわいい
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/09/11(火) 08:48:40.70 ID:Q1l+/y4S0
すごく読みやすい。続き待ってるよ。
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/09/11(火) 09:36:45.24 ID:hYG3PQZK0
すみません、一ヶ所抜け落ちてる箇所がありましたorz

21の最後の部分と22の最初の部分の間にPのセリフとして、

『おっ、そうか。それじゃあ、落とされない様用心しとかないとな』

という台詞が入る筈でした。

どう考えても前後の間で繋がっていませんよね。

すみませんでした。

投稿する際にもう少しキチンと推敲しておくべきでした。

とりあえず、しばらくの間穴掘って埋まっときます。
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/11(火) 10:22:48.82 ID:o0sTyQzho
>>27
穴掘る前に続きはよ
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/09/11(火) 14:08:45.10 ID:hYG3PQZK0
1です。

ほんの少しだけですが、とりあえず出来たのでその分だけ上げようと思います。

それでは、どうぞ。




「え?は、ハイ、何ですか?」

てっきりこのまま切るもんだと思っていたから、危うく通話終了のボタンを押しちゃう所でした。

あと少しでこっちに着くんだったら、着いてから話せばいいのに。

一体どうしたんだろう――そんな風に気楽に構えていただけに、次にプロデューサーさんから言われた言葉はモロに私の心のど真ん中にクリティカルヒットしたのです。

『いや、今回春香初主演のドラマが放送されるお祝いっていう事で、俺からお前に対して何か一つご褒美をあげようと思うんだ』

「ご褒美……ですか?」

『ああ、ここ最近の春香は本当に頑張ってたからな。何か希望があるんなら後で教えてくれ。どんなものでもいいぞ』

そうですかー、何でもOKですかー……って、え、何でも?!
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/09/11(火) 14:16:30.88 ID:hYG3PQZK0
「え? な、何でもって、それ本当にいいんですか!?」

『? あ、ああ、何でもいいぞ。欲しい洋服があるなら買ってやるし、美味しい寿司屋さんに行きたいんなら回らない寿司屋さんにつれてってやるぞ。男に二言はないからな』

ハハハと笑うプロデューサーさんの声が心なしか遠くに聞こえました。

『まぁ、そういうわけだから決まったら教えてくれ。それじゃあ、また後で。といってももうすぐそこだけどな』

その言葉を最後に、今度こそ切断される回線。

そして私もまた、電源が落ちたロボットの様に通話が切れた後も携帯を耳に押し当てたまま固まっていました。

切り際、プロデューサーさんが言った言葉をもう一度心の中で反芻してみる。

お祝い……ご褒美……ナンデモ……?

そして決定的な一言、「男に二言はない」。

それらの言葉が組み合わさった瞬間、私の頭の中を駆け巡ったのは思春期の恋する乙女ならば誰でも一度は妄想するであろう、愛しい彼と過ごすどんなスウィーツよりも甘い一日。
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/09/11(火) 14:48:29.28 ID:hYG3PQZK0
遊園地でデートって言うのはありきたり過ぎるかな? 

いやでも今の季節に水族館は寒そうな気がするし。

いっそのこと映画館にしちゃう?

ところで、プロデューサーさんはどんなジャンルが好きなのかな? 

ここはベタに恋愛物にしておくべき?

ああでも、この間見た雑誌に恋人同士で見る時に一番良くないのは恋愛映画って書いてあったし。

ていうか、普通にプロデューサーさんとデートすること前提に考えていたけど、そもそもOKしてくれるかな?

プロデューサーさんって意外と硬派だから、もしかしたら受け付けてもらえないかもしれないな〜。

美希が「ハニー」って呼ぶのだって注意してるし。

呼ばれたら嬉しそうにしてるけど。

呼ばれたら嬉しそうにしてるけど!
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/09/11(火) 14:52:39.87 ID:hYG3PQZK0
でもでも、今回はこっちには「男に二言はない」って言質もあるわけだし。

それになんてったってドラマ初主演記念のご褒美なんだからそれくらいの我が侭は許されるよね!

Notギルティだよね!?

でもそれだと、プロデューサーさんに私と過ごすために無理やり予定を一日あけて貰う事になっちゃわない?

いくらご褒美だからって、唯でさえ休みの少ないプロデューサーさんの貴重な休日を潰しちゃうのは忍びないな……。

それで、「アイドル達のために時間を作るのもプロデューサーの仕事だから気にするな」なんて言われちゃった日には、絶対その日一日立ち直れないよね……。

で、でもでも、こんな機会じゃないとプロデューサーさんをデートに誘うことなんて出来そうに無いし……。

ああ、もうどうすればいいの!?
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/09/11(火) 14:53:27.25 ID:hYG3PQZK0
とりあえず、ここまで。

再び落ちます。
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/11(火) 15:23:33.80 ID:N705mFpRo
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/12(水) 00:29:10.53 ID:hxpWeVymo
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/09/12(水) 03:49:10.86 ID:ZPNeTP6j0
どうも1です。

再び書いていきます。
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/09/12(水) 03:50:29.18 ID:ZPNeTP6j0
「……ま、まぁ、決まってからで良いっていってたから、焦る必要はないよね」

そうそう、何をしてもらうにしてもじっくり考慮してから決めないと。

勢いだけで決めちゃうと、後になって後悔するかもしれないし。

とりあえず、まずは深呼吸深呼吸っと。

私が心を落ち着けようと息を大きく吸ったり吐いたりしていると、

「誰からの電話だったの?」

「うひゃい!?」

突然後ろから声をかけられ思わず飛び上がってしまいました。

振り返ると、そこには柔らかな笑みを浮かべる北斗さんが。

「ほ、北斗さん!もう、脅かさないで下さいよ!」
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/09/12(水) 04:21:05.83 ID:ZPNeTP6j0
「ごめんね、驚かせるつもりはなかったんだけど。それより何か嬉しそうだね、もしかしてプロデューサーさんからの電話?」

普通にプロデューサーさんからの電話だって事を看破されちゃいました。

やっぱこういう事に関する北斗さんの観察眼は本当に凄いなー。

アイドルよりホストをやった方が儲かるんじゃないかな?

「は、はい。道路が渋滞してて車では迎えに来れないから、電車でこっちに向かってるって言ってました。もうすぐこっちに着くそうです」

「ふーん、そうするともう来てる頃かな? ……あ、いたいた。ホラ、あそこ」

北斗さんが指さす方には、スタッフさんと親しげに会話をするプロデューサーさんが居ました。

何やら仕事に関する事で褒められているらしく、頻りに手を顔の前で振ったり、頭を下げたりしていました。

ふふっ、照れてるプロデューサーさんも可愛いなぁ。
39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/09/12(水) 04:43:39.08 ID:ZPNeTP6j0
「相変わらずどこ行っても人気だね〜、あのプロデューサーさん。この間、冬馬が別の現場で見かけた時も、あんな風にスタッフに褒められてたらしいよ」

「へぇ〜、そうなんですか!?」

プロデューサーさんの頑張りが評価されてる話を聞くと、私はとっても誇らしい気持ちになります。

なんてったて、そんな風に皆から賞賛を受けている人が私達のプロデューサーさんなんですから!

プロデューサーさんは765プロにとって正に希望の象徴だと思います。

「まぁ、良く分かるけどね。あのプロデューサーさん、ホントに真面目で律義で凄腕だから。まぁ、玉に変な処で抜けてたりするけど、そんなとこも愛嬌が有るって感じがするね」

「そうそう、そうなんですよ! この間も私と美希とやよいと響ちゃんの四人で歌番組の収録に行ったんですけど、プロデューサーさんったら衣装を間違えて持ってきちゃって。律子さんに頼んで持ってきて貰ったから幸い大変な事にはならなかったんですけど、あの時は律子さんに叱られてシュンとなってましたね〜」

「へぇ、それはまたあの人にしては珍しいミスだね」

「ですよね! で、律子さん、本当はもっと怒りたかったらしかったんですけど、プロデューサーさんったら律子さんに怒られて物凄く落ち込んじゃって。その姿が捨てられた子犬の姿と重なって母性本能を擽られちゃって、怒るに怒れなくなっちゃたんですって」

「ふ〜ん」

「でも、日頃から私にドジしないよう気を付けろよって言ってる人がそんな失敗をしちゃうなんて、ホント信じられませんよ。まったく、これじゃあ他人の事言えませんよね〜」

「……でも、そんなとこも大好きなんでしょ?」

「ハイ、もちろん!……って、ちち、違いますよ!何言わせるんですか!?」
40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/09/12(水) 05:07:11.67 ID:ZPNeTP6j0
私が顔を真っ赤にしながら手を振る姿を見て、北斗さんはおかしそうに笑っていました。

「まぁまぁ、今更俺に対してそんな事言ったって意味ないじゃない。春香ちゃんは分かりやすいんだからさぁ」

「……うぅ、北斗さんのイジワル」

私は上目づかいで、北斗さんの事を睨みました。

「おお、いいねその上目づかい。そんな目で見られたら、きっと君の愛しのプロデューサーさんもイチコロだと思うよ☆」

しかし、北斗さんはそんな私の姿を見てこんな軽口を言ってきます。

……なんだか、からかわれている様にしか思えません。

「プロデューサーさんにそんなことしたって、きっと意味ないですよ。美希に毎日抱き着かれてるのに、何の反応もしないんですから」

「いや、そういう行動はここぞ、という時に使用した方が効果的なんだよ。普段からステーキを毎日食べてたら、対して価値を感じられないじゃない」

「まずそのここぞ、という瞬間が中々訪れないんですよぉ〜……」

ご飯にさそったり、一緒に出掛けませんか?って言っても、結局は誰かしらついて来るし、事務所の中でも二人っきりになる事なんてまずないし。

それどころか、最近は朝の僅かな時間位しかゆっくり話す事も出来ない程だ。
41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/09/12(水) 05:32:32.59 ID:ZPNeTP6j0
「それなら自分からそういう事が出来る雰囲気に持っていくしかないんじゃない?」

思いついた事をとりあえず言ってみた、という感じで答えた北斗さんに、私は思わずため息を吐いてしまいました。

「ゆっくり話す時間もないのに、どうやってさっきの行動が自然になるような雰囲気に持っていけって言うんですか……」

「そこは春香ちゃんの腕の見せ所でしょ。まぁ、何にしても焦りは禁物だよ。「果報は寝て待て」って諺にもあるでしょ?いつかチャンスはきっと来るよ」

「具体的なアドバイスが私としては欲しいんですが……それ以前にそんなチャンス、本当に来るでしょうか?」

怪訝な目を向ける私に、北斗さんは余裕たっぷりに答えました。

「大事なのはチャンスを作る事よりも、チャンスを逃さない事だと思うよ。春香ちゃんがやってきたチャンスを迷わず掴み取る事が出来れば、きっと春香ちゃんの望む未来を掴み取る事が出来ると俺は思う」

「大事なのはチャンスが来たら、迷わず掴み取る事……ですか」
42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/12(水) 06:00:57.38 ID:SPw2mw/ko
面白いやん!

是非続けて!
43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/09/12(水) 06:12:36.37 ID:ZPNeTP6j0
「そう。そしてそのために重要となるのは自分の気持ちを見詰め直して、正直になる事だと思うよ」

「自分の気持ちに……?」

「さっきも言ったでしょ? 春香ちゃんはアイドルとしての“天海春香”である以前に、世界でたった一人の“春香ちゃん”なんだって。今の春香ちゃんは、プロデューサーさんにどっちの自分で見られたいの?」

「!?」

先程と同じように私の心の痛い処をピンポイントで射抜くような、鋭い言葉。

北斗さんは、こんな風に人の心の深い部分まで見る事が出来るから、ファンの人の心を掴む事が出来るんだろうか。

――自分の事も良く分かっていない私とは、大違いだ。

「春香ちゃんが優しい性格で、皆との絆を何よりも大切に思っている娘だって事は分かる。でもね、プロデューサーさんに“天海春香”じゃなく“春香ちゃん”として見て貰いたいなら、プロデューサーさんに素直に自分の気持ちを伝えるべきだと俺は思う。それで今までの絆を犠牲にする事になったとしてもね」

「私は……」

私は……どうすればいいんだろう?

「最終的に決断するのは、春香ちゃんだ。だから、難しく考える事は無いと思う。春香ちゃんがどうしたいか、最終的に悔いの残らない答えを出す事が出来れば俺はそれでいいと思う。まぁ、それが一番難しい事だと思うけどね」

「……」

「春香〜!」

プロデューサーさんの呼ぶ声の方を向くと、手を振りながら私の方へと走って来ていました。

顔は相変わらず、いつも私たちに向けてくれる優しい笑顔で。

その笑顔は何時も私の心を励ましてくれる、大好きなプロデューサーさんの笑顔の筈なのに。

何故かその時の私の心は、その笑顔を見た時とっても寂しい気持ちになったのです。

空を見上げると、淡い桃色と薄い墨色が混ざり合い、夕日に照らされて何とも言えない色合いを醸し出していました。



――まるで、私の心の中を写し出したかのように。
44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/09/12(水) 06:16:06.64 ID:ZPNeTP6j0
とりあえず、ここで一段落です。

お付き合い頂き有難うございました。

まだまだ続きますので、期待して待っていて頂けると嬉しいです。

続きはまた12時〜20時あたりに書いていきます。

それでは、一旦落ちます。

45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/12(水) 06:40:03.48 ID:SPw2mw/ko


また来てネ
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/09/12(水) 08:47:32.12 ID:0GIWLfQ/0
乙。
続きが気になる。
47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/09/12(水) 20:00:13.07 ID:/dOa12MSo
ほくほくがかっこいいだと?
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/12(水) 21:18:06.52 ID:hxpWeVymo
ぽつ
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/12(水) 22:02:16.73 ID:jpoQegeVo
あら、やだイケメン///
50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/09/13(木) 00:38:59.99 ID:i8kSABBd0
1です。

予定より大幅に遅れましたが、今から書いていきます。

少々お待ちください。
51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/09/13(木) 02:40:53.79 ID:i8kSABBd0
―――――――――――――――――――――







電車からホームに降りたった私を包んだのは、真夏の太陽に照らされてすっかり暖められた空気でした。

「あ゛っづーい……」

今まで快適な温度に保たれてた電車内にいただけに、余計に蒸し暑く感じてしまいます。

天気予報によると、今日の気温は三十度を軽く超えるとかなんとか。

思わずガックリと深いため息を吐いてしまいました。

ああ〜、何でこんなに暑いんだろうな〜。

幾ら夏だからって、こんなに暑くなる必要はないのに。

一体太陽は誰にヤキモチを焼いてるのかな〜。

これじゃあ、ハートの前に体が焼け焦げちゃうよ。

頭の中で誰にともなく文句を言いながら、私は階段をダラダラと昇って行きました。
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/09/13(木) 02:53:55.93 ID:z5jXqHWzo
ちょうど追いついた。ktkr! はるるん主役は久しぶりかも。
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/09/13(木) 03:20:54.98 ID:i8kSABBd0
駅の外に出ると、青空にサンサンと輝く太陽が、街に屹立するビルや道行く人達に容赦なく日の光を投げ掛けています。

誰も彼も皆、すっかり参った様な顔をして通り過ぎて行きます。

私もまた、手でパタパタと顔を仰ぎながら、人々の流れに身を投じて行きます。

こんな暑い日は、何よりもコンビニで売っている冷たいアイスが恋しくなります。

しかし、三日後に水着での写真撮影が控えている今の私は、無駄なカロリーの摂取はなるべく避けなければなりません。

それほど太っているわけではないとは思うんですけど、体重に気をつかうのも一応アイドルとしての勤めですから。

事務所に行けば、エアコンが効いた涼しい室内が私を待っている筈ですし。

そう考えると、一刻も早く事務所へ着こうと自然に私の足は速まっていきます。

「青く輝く海 白く続く砂浜〜♪」

遂には歌まで口ずさみながら、私は事務所へと駆け出しました。
54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/09/13(木) 03:40:17.16 ID:i8kSABBd0
すみません、>>53の「駅の外に〜身を投じて行きます」までの部分で、三か所程訂正しておきたい箇所がありましたのでご報告させて頂きます。

正しくは、

「投げ掛けています」ではなく「浴びせかけていました」

「すっかり参った様な顔をして通り過ぎて行きます」ではなく「ここ連日の度を超えた暑さに、すっかり疲弊しきったような顔つきで通り過ぎて行きます」

「人々の流れに身を投じて行きます」ではなく「そんな人々の流れに身を投じました」

となります。


大変恐縮ですが、お読みになられる際は上記の様に該当箇所を脳内で変換してお読み下さい。

それでは、失礼致しました。
55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/09/13(木) 04:36:52.98 ID:i8kSABBd0
それから数分後、体中汗まみれになりながらも、私は自分にとってのアルカディアである765プロ事務所へとたどり着きました。

息を整えながら二階にある事務所へと続くエントランスへと入ると、中の空気は直射日光を受けていない分外と比べて幾分ひんやりとしていました。

「よいしょっと……」

一息ついた後、私は鞄からデオドラントスプレーとミニタオルを取り出して、その場で身嗜みを整えました。

幾らなんでも、汗だくのまま事務所の中に入る事なんて出来ません。

プロデューサーさんが居る可能性だってあるわけですから。

異性に汗臭いと思われるのが嫌なのは、男女を問わず共通に存在する感情だと思います。

特に、好きな人に対しては、ね?
56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/09/13(木) 04:57:15.83 ID:i8kSABBd0
顔や体の湿っている所を拭いた後、デオドラントスプレーを軽く吹き付ける。

ついでにコンパクトを取り出して、頭に着けたリボンを軽く手直し。

今日は水色のスカート着てきたので、それと同じ色のちょっと小ぶりなリボンを付けみました。

どうです、プロデューサーさん。似合ってます?

なんて、頭の中でプロデューサーさんに今日のコーデの出来栄えを聞いてみる。

頭の中だから、答えは返って来ないし、少し空しいけど。

言ったら言ったでいつもの様に、「ああ、似合ってるぞ」って軽く頭を撫でられて終わりだろうな。

少しは女の子がそういう事を聞く時、どういう心持ちでいるか考えてくれたらいいのに。

まぁ、プロデューサーさんが鈍感なのは今に始まった事じゃないから、仕方ないか。

納得がいく角度にリボンを調節し終えた後、私はようやく階段を上り始めた。
57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/09/13(木) 06:04:16.48 ID:i8kSABBd0

それにしても、一体いつになったらこのビルは階段じゃなくてエレベーターを使える様になるんだろう?

この間小鳥さんが「いい加減エレベーターの修理しましょうよ〜。皆最近はそれなりに稼いでいるんですから、それくらいのお金はあるじゃないですか〜」って律子さんに言ってたっけ。

私達は別に階段でも問題ないんだけど、小鳥さんには最近事務所の階段を昇るのが相当な苦行らしく、このままじゃ腰を痛めて入院しちゃうピヨーって必死に嘆願してたっけなー。

だけど響ちゃんが、「でもピヨ子、この間最近体重が増えてきたって結構焦ってたじゃないか。ただでさえ動く事の少ない仕事してるのに、そんな所まで楽してちゃ更に太るんじゃないのかー?」って言ったら、固まっちゃったんだよね。

で、その後にそれを見た社長が「ほほう、これこそ正しく鳩が豆鉄砲を喰らった顔という奴だね」なんて言うもんだから、その時事務所にいた皆で思わず大笑いしちゃって。

ただその後、落ち込んだ小鳥さんが中々立ち直らなくて、ちょっと大変だったんだよね。

原因は私達だから、ホントに申し訳なかったなー。

皆で謝っても元気出してくれなかったから、社長かなり困ってたっけ。

でも、社長が今度美味しいお酒を奢るからって言ったらすぐ立ち直った、っていうのがまた小鳥さんらしいよね。

そして、千早ちゃんは千早ちゃんで、なんでだか知らないけど社長が言った言葉がツボにはまっちゃったらしく、その後もしばらく急に噴き出したりしてたんだよね。

真美亜美がそれを面白がって、更に小声でボソッと「鳩が豆鉄砲を喰らった顔」なんていうもんだから、しばらく千早ちゃんの笑いの発作は治まらなかった。

そして、それら一連の流れを真美亜美達は勝手に「ピヨちゃん豆鉄砲事件」って名前付けて騒いでたっけ。

いやー、ホントあれは大変だったな。
58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/09/13(木) 06:13:40.68 ID:i8kSABBd0
まあ、それはそれとして、確かにこの事務所の階段は結構急だけど、やっぱり運動しない小鳥さんとか社長さんは健康のためにも階段を使った方がいいんじゃないかな。

ただ私としては、事務所がボロボロのままだと本当にちゃんと働いて稼げているのか不安になるから、早く直して貰いたいなぁ。

給料が良くても、事務所がボロいままだと無理してるんじゃないかなって思っちゃうんです。

それにエレベーターが使えないんじゃ何かと不便だし、何よりも今を時めくアイドル達が所属する事務所のエレベーターが動かないっていうのは恰好がつかない気がする。

でも、「分かりました、なるべく早く修理を依頼します」って律子さんは言っていたから、心配する必要ないよね。

その後「纏まったお金が入ったら、まず最初に事務所の補修工事をしましょう」ってプロデューサーさんに言ってたし。

なんて事を考えていると、あっという間に事務所の入口のドアに到着しました。

入る前に、脇の下の匂いを最終確認。

――うん、多分大丈夫。

CMだったら、白衣を着たお婆さんが「GOOD」って書かれたプラカードを出してたと思う。

ドアを開けながら、私は笑顔で事務所にいる皆に向って挨拶しました。

「おはよーございます!!」
59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/09/13(木) 06:15:37.65 ID:i8kSABBd0
とりあえず、いったんここまで。

続きはなるべく12時〜20時の間に書き始めたいと思います。

それでは。
60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/09/13(木) 06:34:16.85 ID:0OsZaVrt0
女子力高い春香さん可愛いよ。さすが俺の嫁。
61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/13(木) 13:38:28.35 ID:SmRa8sMSO


閣下可愛いよ閣下
62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/09/15(土) 02:31:18.34 ID:t54/wofK0
どうも、1です。

遅れてすいません。

なんかPCの調子が悪くて、今までここに来れませんでした。

ただ、その間多少書き溜める事が出来たので、今からその分を投稿していきたいと思います。

それでは、しばしお待ちください。
63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/09/15(土) 02:34:03.38 ID:t54/wofK0
「おはよーございます!!」

「あら〜、おはよう春香ちゃん」

「おはよう、春香。今日も朝から元気一杯ね」

事務所に入った私を出迎えてくれたのは、あずささんと律子さんでした。

二人はホワイトボードの前で手帳を片手に、今日一日の予定を確認していたようです。

「そんな事ないですよ〜、もうすっかりバテバテです。あと数分、外で太陽の光を浴びていたらドロドロに溶けてるところでしたよ」

私の想像した通り、事務所の中はクーラーの心地よい冷気によって包まれていました。

さっきまでの蒸し暑さとは雲泥の差です。

「あらあら、それは大変だったわね。それじゃあ、そんな暑い中出社してきた春香ちゃんにはキンキンに冷えた飲み物を贈呈しちゃいます♪」

そういうと、あずささんはわざわざ給湯室まで歩いて行き、中にある冷蔵庫からスポーツドリンクを取り出して渡してくれました。

「うわぁー、ありがとうございます! 丁度私、喉カラカラだったんですよ!!」

なんせ、事務所に来るまでずっと走ってましたからね。

さっそく渡されたスポーツドリンクに口を付ける私。

冷たいスポーツドリンクが、体の隅々まで染みわたっていくのが感じられます。

うーん、生き返る!
64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/09/15(土) 02:36:52.82 ID:t54/wofK0
「確かに、今日もまた三十度超えるって話だったものね。後で他の皆に熱中症にならないよう気を付けるよう言っておかないと。春香も、水分補給はこまめにしておきなさいよ? そんな風に喉が渇いた時にガブガブ飲むよりも、普段から少しずつ飲んでいた方が熱中症になるリスクが激減するんだから」

「ハイ、分かりました! 今いるのはお二人だけですか?」

「いや、プロデューサーも居るわよ。ただ、今は電話中だから、用があるなら後にしなさい」

事務スペースに目をやると、プロデューサーさんが携帯電話を片手になにやらメモを取っていました。

途中で私の視線に気付いたらしく、ペンを持った手を振ってくれました。

私も笑顔で手を振り返します。

「一体どこからでしょうね〜? もう五分以上熱心に話しているようですけど」

「あの様子だときっとお仕事の電話ですね。まったく、こっちもこんな風にゆっくりしている状況じゃないっての言うのに……」

律子さんが手帳を睨みつけながら不機嫌そうに言いました。

何かあったんでしょうか?

「お二人は今からお仕事なんですか?」

「ええ、そうよ。今から竜宮小町のメンバーで撮影……なんだけど、あずささん以外まだ来てないのよ」

ハァー、とため息を吐く律子さん。

あずささんも困ったように笑っています。
65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/09/15(土) 02:45:35.10 ID:t54/wofK0
「え? 二人とも遅刻、ですか?」

亜美はともかく、伊織が遅刻をするなんて、珍しいこともあるんだなぁ。

そんな私の考えを読み取ったのか、律子さんが簡単に事情を説明してくれました。

「そう、亜美は寝坊で、伊織の方は昨日オフだったし夏休みだからってやよいの家に泊まったら、今日が仕事だってことすっかり抜け落ちちゃったみたいで。来るって言っていた時間になっても事務所に来ないから、心配になって朝電話したのよ。そしたら、今起きたばっかりなのって泣きそうになってたわ。」

その時の様子を思い出したのか、律子さんは形のいい眉を八の字にして苦笑しました。

「ああ、なるほど。でも、それじゃあまずくないですか? 撮影、間に合わなくなるんじゃあ……」

「伊織ちゃんは電話した時、今から新堂さんに迎えに来てもらって事務所に行くって言ってたわぁ。ついでに、やよいちゃんも今日仕事だから一緒に乗ってくるそうよ。亜美ちゃんも、真美ちゃんと一緒に電車でこっちに超特急で向っているってさっき言ってたわ」

「一応、向こうには事情を話して、撮影時間を少し遅らしてもらうよう連絡をしておいたわ。まぁ……向こうに着いたら恨み言の一つや二つは言われるでしょうけど」

再びため息を吐きながら頭を抱える律子さんを、あずささんがまぁまぁとなだめていました。

「ああもう! 一体いつになったら来るのかしら!? これ以上遅れたらずらした時間にも間に合わなくなるじゃない!!」

律子さんが壁にかかった時計を見ながら苛立たしげに手に持った手帳をペンで叩いていると、ドタドタと階段を誰かが駆け上ってくる音が聞こえてきました。
66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/09/15(土) 02:52:00.43 ID:t54/wofK0
「ゴメ→ン、律っちゃん! 遅れて済まぬでござる!!」

「律っちゃん、真美達は悪くねぇだ! 悪いのは時間通りに起こしてくれなかったお母さんなんだYO!!」

「何言ってんのよ、アイドルなら自分のスケジュールくらい自分で責任もって管理しておきなさいよ! ……まぁ、私も他人の事言えないけど」

「ゴメンね、伊織ちゃん。私も今日伊織ちゃんが仕事だって事すっかり忘れてて……」

事務所のドアをぶち破るような勢いで飛び込んできたのは、今話題になっていた亜美真美とやよい、伊織の四人でした。

全員着の身着のまま飛び出してきたという感じで、寝癖も殆どそのままといった酷い状態です。

お世辞にも今を時めくアイドル達の姿とは思えない様な恰好でした。

「おはよう、皆!」

「あらあら、皆すごい恰好ね〜」

「あ、春香さん! あずささんもおはようございますー!!」

「うふふ、おはようやよいちゃん」

「おー! はるるんにあずさお姉ちゃんじゃん! いやー、亜美達とは違って遅刻せずに来ているとは、感心ですなぁ」

「うんうん、しゅしょくな心がけ、という奴ですなぁ」

「それを言うなら殊勝な心がけ、でしょう!? 全く……おはよう、春香、あずさ」

うんうん朝から皆元気でいいね〜。

これぞ765プロって感じ?

隣にいるあずささんも、まるで聖母の様に慈愛の満ちた表情で四人を見守っていました。

そんな風に和気藹藹と騒いでいると、律子さんの叱声が私たちを一喝しました。
67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/09/15(土) 02:53:25.64 ID:t54/wofK0
「ええい、挨拶は後にしなさい! 亜美、伊織、必要なものを持ったらさっさと車に乗り込むわよ! 説教は帰ってきてからたっぷりとしてあげるから!!」

律子さんの言葉に、亜美はまるでこの世の終わりみたいな表情で律子さんを見ました。

「ええ→! そりゃないよ律っちゃん!! 亜美たちここに来るまで駅から全力失踪したんだよ!? お陰で体中汗でベトベト、髪だってこんなにグシャグシャになっちゃったんだから! その頑張りに免じて、今日の所は見逃してよー!」

「ダメに決まってるでしょ、おバカ! あんたたち二人の所為で色んな人に迷惑かけちゃったんだから!! 大体そうなったのはあんたが寝坊したからであって、つまりは自業自得じゃない!! みっちり叱ってあげるから、覚悟しておきなさい」

亜美の減罪を願う声は、律子さんの厳しい視線に一蹴されてしまいました。

「そ、そんなー」

「ほら、覚悟を決めて早く準備しなさい。時間無いって言われてるでしょ」

ガックリとうなだれる亜美を、伊織がまるでお姉さんの様に嗜めました。

「だ、だっていおりーん、あの様子だと、今日の律っちゃん相当きてますぜ? 私ら絶対殺されちゃうYO!」

「仕方ないでしょう、自分の所為で他の人に一杯迷惑をかけちゃったんだから。私だって怒られるは嫌だけど、そうなっても仕方のない事を私たちはしちゃったのよ」

「うう……、いおりんものわかり良すぎだよ〜」

「何言ってるの、こんなのはプロとして当然の心構えでしょ。あんたもいい加減、その子供っぽい性格から卒業しなさいよね」

伊織がやれやれといった感じで、まるで外国の人の様に両手をあげながらため息を吐きました。
68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/09/15(土) 03:02:24.00 ID:t54/wofK0
「流石ね、伊織。なんだか、真美より亜美のお姉さんらしいじゃない」

そんな二人の様子を見ていた律子さんがニヤリとしながら言うと、伊織が冗談じゃないといった様子で首を横に振りました。

「こんな騒がしいのが妹なんて、私の方から願い下げよ」

「亜美だって、いおりんがお姉さんとか嫌すぎるYO! なんてったって、亜美にとっての理想のお姉さんは真美しかいないんだからね!!」

「オイオイ……、嬉しいことを言ってくれるじゃないかお嬢ちゃんよぉ。不覚にも私、ちょっとグッと来ちまったじゃないか」

くっと腕を目にやる真美。

そんな真美の手をとり握る亜美の目尻にも、キラリと光る涙の粒が。

「当然でさぁ、姉貴……。アタイが今まで、一体どれだけあんたに助けられて来たと思ってるんですか。たとえこの先に地獄しか待っていないとわかっていても、アタイはどこまでもお供しますぜ!」

「亜美……!」

「アネキィ!」

はしっと抱き合う二人。

バックに夕焼けでもあれば、まるで昔の青春ドラマのワンシーンの様です。

とても即興の悪ふざけとは思えない様な見事な完成度でした。
69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/09/15(土) 03:17:31.64 ID:t54/wofK0
「あらまあ、とっても美しい姉妹愛ね〜」

「二人とも、相変わらず息ぴったりだね〜」

「うっうー! 私感動しちゃいました!!」

私たちの賞賛の声に二人はすっかりを気を良くしたらしく、まるで舞台終了後、観客に挨拶する為に出てきた演劇の劇団員のような仕草をしていました。

「いっえーい! どうもどうも!!」

「今の芝居の観賞代は、ゴージャスプリン三個で手をうってあげる事にするよ!」

「いい加減にしなさい!」

律子さんの拳が亜美の頭を軽く小突きました。

「いった→い! 律っちゃん、体罰はイカンよ、体罰は!!」

「あんたがいつまでも遊んでるから悪いんでしょ!? 時間無いって言ってるのに……もうさっさと行くわよ!!」

そのまま右手で亜美の左耳を摘まみながら、事務所のドアへと歩いて行きます。
70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/09/15(土) 04:36:45.80 ID:7ORmwEVoo
乙!
71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/09/15(土) 04:52:17.83 ID:t54/wofK0
「痛たたた!? 律っちゃん、律っちゃん! 分かったから耳たぶ離して! このままじゃ、亜美の耳たぶが恵比寿様みたいにビロンビロンになっちゃうYO!!」

「大丈夫よ、伸びないから。それに伸びたとしてもあれは縁起が良いものなんだから、伸びた方が恵比寿様の幸運にあやかれたりして、逆にいいかもしれないわよ?」

律子さんの言葉に、亜美は全身を芋虫の様にくねらせながら嫌がります。

「いやいや、全然良くないっしょ!? そんな事になったら、アイドルというより最早芸人じゃん! 年中あのお猿さんの着ぐるみを着ていなくちゃいけないじゃん!! それじゃあ、あんまりにもあんまりだYO!?」

「なるほど、それもありかもね」

「ええっ!?」

本気で驚く亜美に、律子さんは思わず吹き出しました。

「バカね、冗談に決まってるでしょ。ていうか、今のアンタ達だってかなりみすぼらしい姿よ? 髪の毛寝癖だらけでボサボサじゃない。仮にもアイドルなんだから、もう少し身嗜みには気を付けなさいよ」

伊織と亜美のまるで台風にあってきたかのような姿を見て、律子さんは呆れたように言いました。
72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/09/15(土) 04:57:01.95 ID:t54/wofK0
「しょ、しょうがないでしょ、急いでたんだから! これでも車の中でやよいに手直ししてもらったんだからね!?」

「ごめんね、伊織ちゃん。私の所為でこんな事になっちゃって……」

申し訳なさそうにやよいが伊織に謝ります。

そんなやよいの言葉に、伊織は少し面食らった様に驚いていました。

「ハァ?! なんでやよいが謝るのよ? やよいが謝る様な事なんて何一つ無いじゃない」

伊織の言葉に、やよいは下を向いまま言いました。

「だ、だって、私が伊織ちゃんに久々に家に来ない?って誘わなければ、もしかしたら遅刻しなかったかも知れないじゃない? 昨日は伊織ちゃんが久々に取れた折角のお休みだから、目一杯おもてなししようって思ってたのに、もてなすどころか逆に浩太郎達の御守をさせちゃって……。普段お仕事一杯しててお疲れの伊織ちゃんに、慣れない事をさせたせいで休まるどころか余計に疲れさせちゃって、その所為で今日は遅刻したんじゃないかなって……」

「やよい……」

やよいの言葉は段々と弱くなって、最後の方は今にも泣きだしそうに声が震えていました。

下を向いて、シャツをギュッと掴んだまま震えるやよい。

「――やよい、それは違うわよ」

そんなやよいを安心させるように、伊織は優しくやよいを抱きしめました。
73 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/09/15(土) 05:22:15.52 ID:t54/wofK0
「伊織ちゃ――」

「私が今日遅刻したのはね、アンタの家がとっても楽しかったからよ。だから、思わず今日が仕事だって事を忘れちゃったの。それに、アンタは私が慣れない事をした所為で疲れたんじゃないか、って言ってたけど、それは違うわよ。アンタんとこのチビッ子たちの相手位、このスーパーアイドルの伊織ちゃんにとっては朝飯前なんだから」

ニヒヒ、っと微笑む伊織。

その笑顔はまるで猫の様に人懐っこく、人にどこか安心させるような印象を与える笑顔でした。

「でも……」

それでも何かを言おうとするやよいを、伊織は優しく制します。

「でももヘチマも無しよ、やよい。私はね、自分の失敗を他人の所為にする程落ちぶれちゃいないの。それに、そんな事言ったら長介達が可哀想じゃない。あんな風に小っちゃい子と遊ぶの、本当に嫌いじゃないんだから。だから、今日遅刻したのは私自身の所為。アンタは少しも気にしなくていいの」

「伊織ちゃん……」

伊織の言葉に、やよいは顔を歪めました。
74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/09/15(土) 05:35:23.56 ID:t54/wofK0
「こらこら、泣くんじゃないの。アンタはアイツらのお姉ちゃんなんだから、しっかりしなさいと」

「うん、ゴメンね、伊織ちゃん」

ゴシゴシと腕で目を擦るやよい。

再び顔をあげた時は、少し目が赤いけどいつものやよいの笑顔に戻っていました。

「そうそう、悪いのはお仕事だって事をすっかり忘れてゆっくりしていたいおりんなんだから、やよいっちが気にする事ないYO!」

「身から出たわさび、ってやつですなぁ」

「アンタ達二人には言われたくないわよ! あと、良く分かってないなら難しい慣用句を使うのはやめなさい! 一々ツッコむのも疲れるわ!」

三人の漫才の様な掛け合いに、私とあずささんは思わず笑ってしまいました。

ただ、律子さんだけは相変わらず渋い顔をしたままです。
75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/09/15(土) 05:51:05.63 ID:t54/wofK0

「あんた達、早くしなさい。もう本当にシャレにならない位時間が差し迫っているんだから」

「分かってるわよ、早く行きましょう」

「ていうかさ、律っちゃん。いおりんとやよいっちはともかく、亜美達は朝起きてからすぐに電車に乗ってここまで来たんだよ? 髪の毛をセットしてる時間なんて、あるわけないじゃん。それとも律っちゃんは、亜美達に電車の中でお化粧するような不良少女になれって言うの?」

思い出したようにそんな事を言う亜美に、律子さんはあからさまに疲れた様子で右手で顔を抑えました。

「誰もそんな事言ってないでしょ。ただなんていうか、こう……ああ、もういいわ。とにかく今後は、そんなみっともない姿を人前に見せる事が無い様に、遅刻せずに時間に余裕をもって行動しなさいよ。分かった?」

「は→い!」

「ごめんなさい……本当に反省してるわ」

二人の謝罪の言葉を聞いて、大きく頷く律子さん。

心なしか、先程よりも表情が幾分か和らいでいる様に見えました。
76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/09/15(土) 06:10:33.28 ID:t54/wofK0
「もう金輪際、こんな事は無しにしてよね? さて、じゃあ伊織と亜美は車に乗ったら、まずはあずささんに髪の毛をセットしてもらいなさい。本格的なセットは向こうのスタイリストにお願いするけど、いくらなんでもそれは酷すぎるから。あずささん、頼めますか?」

「勿論、私でよければ」

律子さんの頼みを、あずささんは快諾しました。

「ありがとうございます。さて、全員準備はいいわね? 出発するわよ」

意気揚々と事務所を出ようとする律子さんを、亜美が呼び止めました。

「ああ、ちょっと待って。最後に出掛ける前に冷蔵庫に入れといたプリンを――」

どうするか、という事を言う前に、律子さんが亜美を怒鳴りつけました。

「んな時間あるわけないでしょうが!? まったく、少しは反省したかと思えば全然懲りてないんだから! お説教は無しにしようかと思ったけど、アンタだけはやっぱり後でみっちり説教ね!!」

「ええ!? そりゃねぇだよ、律っちゃん様! どうかお許しをぉ!!」

「問答無用! さっさと来なさい!!」

先程と同じ様に慈悲を乞う亜美の言葉を一蹴すると、律子さんはまるで米俵を担ぎ上げるように亜美を持ち上げました。

「ぎゃあああああ! ま、真美隊長、亜美の分のゴージャスプリンはちゃんと確保しておいてくれぇ!!」

「了解した、亜美隊員! 君が帰って来るまで、この私が責任持って管理しておく! だから、必ず生きて帰ってきたまえ!!」

「モチロンだ! 私は必ず、必ず! 生きて、プリンを食べにここに戻ってくる!!」

「ああ、もう! 暴れないでよ、落としちゃうでしょ!?」

「いや、てか律っちゃんこのまま亜美の事担いでいくつもり?! ちょ、危ないから降ろし――って、ぎゃあああああああ!!」

バタン、と音を立てて閉まる事務所のドア。

しかし、閉まった後もドアの向こうからは、律子さんの怒鳴り声と亜美の助けを呼ぶ声が、階段に反響して聞こえてきました。
77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/09/15(土) 06:23:40.61 ID:t54/wofK0
――死ぬぅ! ホントに死んじゃうってば律っちゃん!!

――アンタが暴れなければ絶対に落とさないから大丈夫よ

――いや、大丈夫じゃないんだってば! さっきっから階段が顔面スレスレの所にあって、もう少しでぶつかりそうなんだって!!

――そう? 例えば、こんな感じ?

――ちょ、ふざけないでよ律っちゃん!? もしかして、ちょっと楽しんでやってない!?

――ふふっ。さあ、どうかしらね?

――ぎゃああああ、真美ー! 助けてくれー!!……

その叫びを最後に、ドアの向こうから聞こえた声は止みました。
78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/09/15(土) 06:36:15.80 ID:t54/wofK0
とりあえず、ここまでです。

しばらくしたら、また戻ってきます。

それでは。
79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/15(土) 07:49:44.07 ID:mgwNs6KWo
>>1キテター!
投下乙です!
80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/09/16(日) 02:40:30.52 ID:IzzOghN20
どうも1です

再び続きから書いていきます。

しばらくお待ちください。
81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/09/16(日) 02:41:24.83 ID:IzzOghN20
「亜美ー!? 応答しろ、亜美ー!」

真美が呼びかける声も、空しく事務所に響くだけです。

「あ、あははは。大丈夫かな、亜美……」

私が聞くと、伊織は少しめんどくさそうに答えました。

「さあね、まあ流石に怪我させたりはしないでしょ。亜美を懲らしめる為に多少脅かしてるだけなんじゃない? それにしても、律子も何やってるんだか。あれじゃあ外にまで丸聞こえじゃない。事情を知らない人に何か勘違いされて、警察でも呼ばれたらどうするつもりよ、まったく」

「そんな事より、いおりんとあずさお姉ちゃんは行かなくていいの? 早く行かないと、また律っちゃんにまた怒られるんじゃない?」

「そんな事よりって、自分の妹の事でしょうが。さっきまで見せてたあの姉妹愛はどこにいったのよ……」

伊織は言葉と共に深いため息を吐きました。

「まぁまぁ、今はお仕事の方が大事じゃん? 早くしないと、いおりんにも律っちゃんの雷が落ちるかも知れないよ?」

――伊織ー! あずささーん! 早くしてくださーい!!

真美の言葉を裏付ける様に、階段の方から律子さんが二人を呼ぶ声がしました。
82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/09/16(日) 02:43:27.90 ID:IzzOghN20
「ね、言ったとおりっしょ?」

ドヤ顔で胸を張る真美に伊織は何か言いたそうにしていましたが、結局何も言わずにため息を吐きました。

……なんとなく、伊織が言いたかった事は伝わってきたけど。

「はぁーい、今行きまーす! それじゃあ行きましょうか、伊織ちゃん?」

階段下に居るであろう律子さんの呼びかけに答えてから、あずささんは言いました。

「ええ、そうね。春香、やよい、真美、行ってくるわ」

「ハイ、行ってらっしゃい!」

「みなさーん、外は暑いから熱射病には気を付けてくださいねー!」

「特にいおりんはデコ広いから、要注意だかんねー!」

「うっさい、余計なお世話よ!? アンタこそ、暑いからってジュースがぶ飲みして、急性糖尿病になんないよう気をつけなさいよ!」

最後にそう言うと、伊織とあずささんは足早に事務所を出ていきました。

先程までの騒がしさが嘘の様に、事務所の中は一気に静けさに包まれました。
83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/16(日) 11:20:56.27 ID:PEEtO4leo
仕事遅らせてるんだろ?だべってないではよいけや・・・
84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/09/16(日) 12:17:38.64 ID:6hle51IZo
ん?
85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/09/17(月) 01:36:50.67 ID:323P2RqS0
すいません、何かまた途中で入れなくなってました

今から続き書いていきます。
86 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/09/17(月) 02:17:15.86 ID:323P2RqS0
j「いやぁー、一気に静かになりましたな→」

軽く伸びをしながら、真美も私と同じ感想を口にします。

「大丈夫かなぁ、伊織ちゃん達……」

伊織たちが出て行った後も心配そうにドアを見つめてるやよいに、真美は気楽に言いました。

「問題ないっしょ! 十分遅刻すんのも、十五分遅刻すんのも、大した違いはないよ!!」

にっこりと笑う真美。

いや、そう言う問題じゃないと思うけどな。

まず遅刻する事自体、かなり大丈夫じゃない事なんだけど。

「もう、そういう問題じゃないでしょ」

真美の言葉に苦笑するやよい。

ただ、その表情は幾分か和らいだ様に見えました。

……もしかして、今のは真美なりにやよいを元気づけようとするための発言だったのかな?

それにしたって今のはプロとしてどうかと思うけど。
87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/09/17(月) 06:11:49.85 ID:323P2RqS0
「そうだぞ、真美。本来は遅刻する事自体が大問題なんだからな」

弾かれた様に私の後ろを見る二人。

振り返ると、そこにはプロデューサーさんが居ました。

「に、兄ちゃん!? 何時からいたの?」

真美が驚きを隠せない様子でプロデューサーさんに言いました。

「お前らが来るずっと前からだよ。さっきまで電話で仕事の話をしてたんだ」

「そうだったんですか!? 全然気付きませんでしたー」

やよいの言葉に苦笑するプロデューサーさん。

「まぁ、ちょっと大事な話だったからな。事務スペースの隅っこの方で話してたんだ」

そういえば、律子さん仕事の話かもって言ってたっけ。

私達の騒ぎ声、かなり煩かったんじゃ……。
88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/09/17(月) 06:18:10.57 ID:323P2RqS0
ちょっと落ちます。

最近書くスペースが落ちてきてすみません。

若干中だるみしてきた感が、書いてる自分でも否めません…。

では。
89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/09/17(月) 11:09:16.82 ID:trSVni3go
おつおつ
90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [age]:2012/09/18(火) 18:20:50.62 ID:nEeb2qbFo
>>86
jとかやめろ電車で吹き出したわ

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