このスレッドはSS速報VIPの過去ログ倉庫に格納されています。もう書き込みできません。。
もし、このスレッドをネット上以外の媒体で転載や引用をされる場合は管理人までご一報ください。
またネット上での引用掲載、またはまとめサイトなどでの紹介をされる際はこのページへのリンクを必ず掲載してください。

アイドル「休暇中にSAOってオンラインゲームしたら閉じ込められた」※微鬱注意 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/22(土) 10:05:58.06 ID:cB2ZKN9DO
アイドル「休業……ですか?」

社長「うむ。事務所の方針でね、プロデュースの一環と考えてほしい」

アイドル「……わかりました。それで、期間はどれくらいに?」

社長「暫定だが一ヶ月ほどを予定している。正式な決定は追って伝えよう」

アイドル「…………」

社長「どうした? 君にとっては休暇のようなものだ。存分に羽根を伸ばしなさい」

アイドル「……はい。わかりました」

社長「ああ、休暇とは言え節度は弁えてくれよ? 君の普段の素行からして、まず心配ないだろうがね」



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1348275958
【 このスレッドはHTML化(過去ログ化)されています 】

ごめんなさい、このSS速報VIP板のスレッドは1000に到達したか、若しくは著しい過疎のため、お役を果たし過去ログ倉庫へご隠居されました。
このスレッドを閲覧することはできますが書き込むことはできませんです。
もし、探しているスレッドがパートスレッドの場合は次スレが建ってるかもしれないですよ。

【デレマス】橘ありす「花にかける呪い」 @ 2025/07/31(木) 00:03:20.38 ID:DoK8Vme/0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1753887799/

【学マス】広「笑って」 @ 2025/07/30(水) 20:41:14.60 ID:VXbP41xf0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1753875674/

パンサラッサ「安価とコンマで伝説の超海洋を目指すぞぉ!!」 @ 2025/07/29(火) 21:13:39.04 ID:guetNOR20
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1753791218/

落花生アンチスレ @ 2025/07/29(火) 09:14:59.83 ID:pn6APdZEO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1753748099/

ライナー「何で俺だけ・・・」 @ 2025/07/28(月) 23:19:56.58 ID:euCXqZsgO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1753712396/

ワイ184cm95kgと嫁168cm50kg、某ファミレスへ入店→ @ 2025/07/28(月) 22:22:36.42 ID:7E/br4lG0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1753708955/

【グラブル】ガイゼンボーガ「吾輩の、騎空団の一員としての日常」 @ 2025/07/28(月) 19:56:02.26 ID:1M+emLR40
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1753700161/

パンティ「ガーターベルト大丈夫かー」ストッキング「血が止まらないわー」 @ 2025/07/26(土) 02:27:49.65 ID:OmgbeFOdO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1753464469/

2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/22(土) 10:07:42.41 ID:cB2ZKN9DO
アイドル「……休暇、か」

同僚「あれ、どーしたの? 社長室の近くうろついて……呼び出しでもくらった?」

アイドル「…………」

同僚「うわ、そんな露骨に眉しかめないでよ……。傷つくじゃん」

アイドル「社長に呼び出された。事務所の方針だとかで休業させられるみたい」

同僚「何だかんだで教えてくれるんだ。アイドルちゃんって意外と優しいよね、えへへ……」

アイドル「…………」スタスタスタ

同僚「あっ、置いてかないでよぉ!」ダッ

アイドル「私と話してる暇があったら巡業なりしたら? あなた、少し人気が落ちてるみたいじゃない」テクテク

同僚「心配はご無用! やるべきことはちゃんとやってるよ」テクテク

アイドル「そう……」

同僚「ふっふーん。この事務所じゃ、アイドルちゃんとその次に次ぐNo.3だからね! これでも!!」

アイドル「……それで、No.3さんは私に何の用があるの?」

同僚「って、そうそう! さりげなく言われたからスルーしちゃってたけど、休業ってどういうこと!?」

アイドル「事務所の方針。休暇みたいなものだから騒がないでくれる?」

同僚「えっ、そうなの? ……よかったぁ」ボソ

アイドル「そういう訳だから私は帰る。さよなら」スッ

同僚「あっ、待って!!」ガシッ

アイドル「……何なの?」
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) :2012/09/22(土) 10:07:54.77 ID:SnE8/Akgo
ふむ…
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/22(土) 10:09:13.48 ID:cB2ZKN9DO
同僚「休暇なら……いっしょにゲームやらない?」

アイドル「ゲーム?」

同僚「今度、世界初のVR……MMO? だったかが発売されるんだ。すっごく手に入りにくいんだけど、偶然二本手に入れそうだから……」

アイドル「興味ないから。誰か他の人を誘って」

同僚「ええ……限定一万人なんだよ? 全国で一万人しかプレイできないんだよ?」

アイドル「私は休暇中もレッスンする予定なの。そんな暇ない」

同僚「一日だけ! 一日だけでいいから!」

アイドル「…………しつこい」キッ

同僚「う……」

アイドル「馴れ馴れしい人は嫌いなの。あまり話しかけないでくれる?」

同僚「そんな……」

アイドル「いつも思ってたことよ。じゃあね」スッ

同僚「……ごめんね」


5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/22(土) 10:12:44.73 ID:cB2ZKN9DO
アイドル(休暇に入ってから二週間。歌やダンス、諸々のレッスン漬けの毎日だけど、私はそれなりに充実した日々を送っていた)

アイドル(興行やTV出演なんかでタイトなスケジュールだった休業前より、レッスンの量は必然的に増えている。それは、下地が磐石になるということ。社長の狙いはこれだったのかもしれない)

アイドル(だけど……それなりに充実を感じる一方で、私の心はどこか浮いていた。上の空になってレッスンに身の入らない日が、最近増えてきている)

アイドル(思えば……私は中学に上がる前からこの業界で仕事してきた)

アイドル(お金を稼ぐため。ただそれだけのために)

アイドル(…………)

ピンポーン「宅急便でーす」

アイドル「! ……なんだ、宅急便か」

アイドル「馬鹿みたい……何を期待してたんだろ、私。……早く出ないと」タタタッ
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/22(土) 10:14:36.90 ID:cB2ZKN9DO
アイドル「すみません、遅くなりまし――」

宅配員「え!? アイドルさん!?」

アイドル「へ? あ……ご存知でしたか、私のこと?」

宅配員「やっぱり本人!! あっ、あっあっ、あのっ! よかったら握手してもらえませんか!?」スッ

アイドル「……。ええ、かまいませんよ」ニギッ

宅配員「うわ、天使みたいな笑顔……あのっ、この前のドラマ見ました! 金曜夜のバラエティーも毎週欠かさず見てます!」

アイドル「ありがとうございます。これからも応援してくださいね」キラー

宅配員「は、はい……)」

アイドル「荷物、ありがとうございました。またお会いできるといいですね」

宅配員「こっちこそありがとうございました! じゃあまた!」ダッ!

アイドル「…………」

アイドル「…………はぁ」
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/22(土) 10:16:16.88 ID:cB2ZKN9DO
アイドル「この荷物いったい何なの。やけに大きいけど……」ピリピリ…

アイドル「これ……機械? 送り名、……同僚? 手紙が入ってる」

同僚『この前はごめんね! わたし、自分のことばっかでアイドルちゃんの気持ち考えてなかった。でも一緒にゲームしたいっていうのは本当なの! 一時間でも、ちょっとだけでもいいから……』

アイドル「アバターの特徴と名前……げっ、待ってる日時まで書いてある……」

アイドル「…………」

アイドル「私の知ったことじゃない」ビリビリ

アイドル「ゲームも捨ててやる……のはまずいか。すごく貴重だって言ってたし」

アイドル「……はあ。今度、返しにいかないと」

アイドル「無駄な時間を食った。……もう夕方。病院、いかないと」

8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/22(土) 10:17:54.53 ID:cB2ZKN9DO
アイドル「あの……○○○号室の患者にこれ渡して下さい。娘です」

フロント「!! あの……アイドル(実名)さんでしょうか?」

アイドル「そうですけど……」

フロント「その患者さんから、アイドルさんが来たら病室に通してくれと……どうされますか?」

アイドル「……行きます」

フロント「わかりました。容態が安定しておりませんので、面会の際は看護士が一名随伴致します。よろしいでしょうか?」

アイドル「はい」

フロント「では、少しお待ち下さい。担当の者を呼んで参ります」

9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/22(土) 10:19:49.34 ID:cB2ZKN9DO
看護士「わ、アイドルさんが○○○号室の患者さんの娘さんって本当だったんですねー」

アイドル「……ええ。父がご迷惑をおかけしていませんか?」

看護士「とんでもない! とても落ち着いていて魅力的な方です」

アイドル「……そうですか?」

看護士「ええ、渋みがあって……以前はさる大企業の取締役をされていたとか?」

アイドル「よく、ご存知ですね」

看護士「患者さんの噂ってけっこう流れてくるんですよ……っと。着きましたよ」

アイドル「あ……通りすぎるところでした。じゃあ、入りましょうか」

10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/22(土) 10:22:51.09 ID:cB2ZKN9DO

父「……アイドル。来てくれたのか」

アイドル「…………」

父「看護士さん、申し訳ないが少し、外して頂けませんか」

看護士「それは……」

父「何かあればお呼びします。娘も……おりますから」

看護士「……わかりました。内緒にしてくださいよ?」



アイドル「……非常識なことを」

父「すまない。だが、どうしても二人で話をしておきたかった」

アイドル「ふん……むかし、事あるごとに『厳然たる法と秩序こそが、組織と人間を正しく導く』……なんて嘯いてたのが嘘みたい」

父「まだ……覚えていたのか。落伍者の世迷い言と、てっきり忘れたと思っていた」

アイドル「世迷い言に決まってる。それが、今の貴方の結果でしょ?」

父「そう……だな」

父「話というのは私の容態のことだ」

父「つい先日、新しい病巣が発見されてな。手術の必要があるそうだ」

父「手術をしなければ数ヶ月ほどで死ぬ。そう言われたよ」

アイドル「……それで? 手術にお金が必要だから、私が払えばいいんでしょう」

父「私は……手術を受けないつもりだ」

アイドル「は?」
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/22(土) 10:27:07.36 ID:cB2ZKN9DO
アイドル「何言ってんの、お金の心配なんかいらない。私がいくら稼いでると思ってるの?」

父「…………」

アイドル「いくらふっかけられようが余裕で払える。馬鹿みたいな心配しないで」

父「……そういう事じゃ、ないんだよ」

アイドル「意味がわからない。からかってるなら、帰るから」

父「…………」

アイドル「本気で、言ってるの?」

父「お前には辛い思いばかりさせてきたな。私が転落して病魔に冒されてから……親族からも縁を切られ、母もいなくなった」

父「寄る辺のないお前が生活費を稼ぎ、あまつさえ私の入院費まで稼ぐのは……想像を絶する負担だったろう」

アイドル「……そんなの、暫くの間だけ。最初は貯蓄だってあったし」

父「のしかかる負担から考えれば、雀の涙だったはずだ。それまで、何不自由なく暮らしてきたお前にどれだけの苦労をかけた? 最悪、養護施設に入る手もあったはずなのに」

アイドル「それは……だって、そんなことしたら」

父「……私の入院費用のため、か」

アイドル「そうよ! 施設に入ったら入院費用を払う人がいなくなる! 人がわざわざ買って出た苦労を無駄にするつもり!?」

父「どの道、もう長くはない事は知ってるだろう? 一年持つかどうか……もう、さして変わらない。半年かそこら。たったそれだけのために大金を使うのも、馬鹿馬鹿しいだろう」

アイドル「そんな、でも……」

父「私としても……心苦しいんだ。娘を不幸のどん底に追いやっておきながら、ベッドで寝ているだけの自分」

父「私は……もうずっと、自分を殺してやりたくて仕方がなかった」

アイドル「…………」

父「だがお前の――うっ!?」

アイドル「っ! ちょっと! どうしたの!?」

父「ゴホッ……ゴホッゴホッ! ぐ……っ、う」

アイドル「ほ、発作が……。――看護士さん!」ダッ

看護士「あれ、アイドルさん話はもう――」

アイドル「看護士さん! 父が! 父が!」

看護士「っ! すぐに先生を呼んできます!」


12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/22(土) 10:30:04.04 ID:cB2ZKN9DO
書き溜めは投下終了
続きは書け次第随時上げていきます

台本形式のSSを書くのは初めてですが、見苦しくなければ幸いです
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/22(土) 11:25:32.51 ID:dl1n+yI3o
アイマスとのクロスかと思った
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/22(土) 11:33:49.27 ID:yKJtqJg8o
アイマスクロスかと思ったら。

リアルが開始早々に重いね。
この状況でSAOから出られなくなるとか胸が熱くなるな。

SAO内ではアイドルは何か適当なキャラ名を名乗るよね?
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2012/09/22(土) 14:17:14.04 ID:h96MwGfAO
アイドル人生オワタ…
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/22(土) 15:07:48.83 ID:cB2ZKN9DO
アイドル(発作は致命的なものではなかったらしく、最悪の可能性は免れた)

アイドル(だけど……意識は今も混濁状態。当分面会は謝絶で、私も経過を伝えられた後家に帰された)

アイドル(手術の話を担当医から相談したけど……既に受けないという意思を本人から伝えられているため、どうにもできないのだそうだ……)

アイドル(何で今になってあんなこと……)

アイドル(父は最後、何を言おうとしたんだろう。どうして……)

17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/22(土) 15:09:33.04 ID:cB2ZKN9DO
アイドル「…………」

アイドル(ご飯が喉を通らない。レッスンも、まるで手につかなかった)

アイドル(何か他のもので気を紛らわそう……)

アイドル「……私って普段何してたっけ」

アイドル(仕事か、レッスンか……後は、バラエティ番組なんかで話を合わせたりするのに使う、さして興味もないトレンドをチェックするくらい)

アイドル(アイドル業に心血を注いできた分、他の事には頓着しなかった。割り切ってた無趣味もこうなると困る……)

アイドル「とりあえず、シャワーでも――痛っ」

アイドル「何でこんなとこに箱が……ってああ、あのゲーム……」

アイドル「……あの子、何で私に構ってくるんだろう」

アイドル(初め、おべっかを使って擦りよってくる連中がいたけど……)

アイドル(あの頃、人気アイドルの座から蹴落とされることに怯えていた私は、逆上して蹴落としにかかった)

アイドル(なまじおべっかだと見抜いていた分、暗い情念が沸き上がった)

アイドル(結果として何人もの、同じ事務所所属のアイドルさえ蹴落とした私は、特にうちの事務所で敵視されている)

アイドル(私に気安くする同僚が嫌がらせを受けているらしい事は……噂で聞いた。少し人気が落ちているって話も、私絡みじゃないか怪しいものだ)

アイドル(だから分からない。そうまでして私に近づく理由が)

アイドル「…………」

同僚『休暇なら……いっしょにゲームやらない?』

同僚『一日だけ! 一日だけでいいから!』

アイドル「…………」

アイドル「ちょっとだけなら……してあげてもいいかな」

アイドル「同僚が指定してきたのは……明後日。11月1日か」

アイドル「まずはシャワー浴びよう……」


18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/22(土) 15:11:05.10 ID:cB2ZKN9DO

アイドル「ここをこうして……と」

アイドル「けっこう難しい。NERDLES(ニードルス)だっけ? これとナーヴギアっていうのを使えば出来るのかしら?

アイドル「ゲームの名前は……Sword・Art・Online(ソード・アート・オンライン)? え、魔法ないの……?」

アイドル「……どうしよう、運動神経からっきしなんだけど。たまに何もないとこで足もつれるし……げっ、キャリブレーションって何?」

19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/22(土) 15:13:12.26 ID:cB2ZKN9DO

アイドル「とりあえず……これで接続は問題ないはず」

アイドル「でも剣スキルメインなんて。魔法はなし、なんて決めたの誰よ……」

アイドル「だけどまあ……剣も悪くないわね。閃光みたいな突きの連打で敵を根こそぎ倒す私……くふふふふふ」

アイドル「…………」

アイドル「〜〜〜〜っ!」(今の独り言を思い返してのたうち回っている)

アイドル「はぁっ、はぁっ……16にもなって何て痛々しいの私……っ」

アイドル「……えーと、アバターの設定はこれね」

20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/22(土) 15:15:21.70 ID:cB2ZKN9DO

アイドル(もうすぐ同僚の指定した時間。その時間は、どうやらSAO(ソード・アート・オンライン)の正式サービス開始直後みたい)

アイドル(ハードウェア、ソフトウェア、周辺機器の設置と設定、アバターの作成……準備に抜かりはない。後は、時間の経過を待つだけ)

アイドル(だけど……こんなこと、していていいのだろうか。あの人は今も病室で苦しんでるかもしれないのに)

アイドル(……やめよう。何かできるならともかく、心配したって症状は治らない。子供の頃、散々思い知ったことだ……)

アイドル「うじうじ悩むな私、鬱陶しいっ」

アイドル「……って、あ」

アイドル「時間、過ぎちゃってる……」

アイドル「…………」

アイドル「と、とにかくログイン!」

――Welcome to Sword・Art・Online――

21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/22(土) 15:18:48.90 ID:cB2ZKN9DO
投下終了

流石にアバターの名前までアイドル(アバター名)はアレですしね
無難なのは考えてますが、良い案あったら乗り換えたい

↓最大5までに候補安価

期限は次の投下まで
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage ]:2012/09/22(土) 15:23:24.24 ID:BzI6D38To
72

某72さんだし、ナツとも呼べるぜ!
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/22(土) 15:28:23.51 ID:yKJtqJg8o
乙。
突きがお気に入りのようなので、スラスト(thrust)とか。

あと、同僚のアバター名も良さげなのあったらこの候補から選んでもいいかもね。
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/22(土) 15:43:11.18 ID:CD54ipfe0
乙です
結構重いな…

アイドル(IDOL)のアナグラムでロイディ(LOID)というのは
ロイドでもいいけどロイディ
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/09/22(土) 18:38:47.82 ID:QlmDsrsEo
小百合とかどうでしょう
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/22(土) 19:20:47.32 ID:cB2ZKN9DO
感涙で画面が見えない

皆さん、候補案ありがとうございます!
候補案の中で悩んだ結果、一つ採用しました

では書き溜めてきます
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2012/09/22(土) 21:44:52.12 ID:N19kFM5So
おれはおちんちんがいいなー
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/23(日) 00:10:24.25 ID:ikdM0y3DO
スラスト「へぇ……よく出来てるじゃない」

スラスト「石造りの建物に石畳。鉄と石で構成された、全百層からなる巨大浮遊城・アインクラッド……か」

スラスト「そうだ、アバターは……」

スラスト(肩口で切り揃った艶やかな浅葱色の髪、欧米人さながらの円筒体型にすらりとした長身。そして極めつけは、胸元で圧倒的な存在を主張する双丘……)

スラスト「…………」

スラスト「…………っふ」

スラスト「ふ、ふふっ、ふふははははは!!」

ざわっ

プレイヤーA「うおっ、何だコイツ……街の往来でいきなり笑い出しやがった」

プレイヤーB「VR初日でハイになってるんだろ、そっとしておいてやれ」

スラスト「ああ……最高の気分。すべて、すべて理想通り。胸の重みが愛おしい……」

スラスト「もう……誰にも寸胴のガキなんて言わせない」ギリッ

ひそひそひそ……

スラスト「っ!」

スラスト「…………コホン」

スラスト「早くあの子のとこ行かないと」スタスタスタスタスタ
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/23(日) 00:11:45.71 ID:ikdM0y3DO
ミミちぃ「ねぇねぇ、君たちも生産系目指してるプレイヤー?」

プレイヤーA「え゙。あ、ああ。そう……です」

プレイヤーB「おい馬鹿っ、反応するなよ……」

ミミちぃ「わぁ、一緒だね! よかったら生産仲間同士、フレンド登録しない?」

プレイヤーA「い、いえ、けっこうです……」

プレイヤーB「間に合ってるんで……」

そそくさと逃げ去っていくプレイヤーAとB。

ミミちぃ「あれぇ?」

30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/23(日) 00:13:08.33 ID:ikdM0y3DO

スラスト「」

スラスト「ま、ままままさか、あの筋肉オバケ……」

スラスト(例の手紙じゃ、アバターは筋骨逞しいナイス☆ガイ。豪快なスキンヘッドにお洒落アクセント『頭ヒゲ』を生やした、男性アバター。名前は確か……ミミちぃ)

ミミちぃ「誰も仲間になってくれないよぉ〜……」

31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/23(日) 00:14:24.68 ID:ikdM0y3DO

スラスト(野太い声)

スラスト(何かの冗談みたいな厚化粧)

スラスト(そして……その口が繰り出すのは、同僚の甘ったるい口調そのもの)

ミミちぃ「アイドルちゃんまだかなぁ……」

32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/23(日) 00:15:20.92 ID:qpImW8lDo
これは酷いww
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/23(日) 00:15:50.55 ID:ikdM0y3DO

スラスト「……薄々、嫌な予感はしていたけど」

スラスト「ここまで大惨事になっているとは思わなかった」

スラスト「あの姿の同僚に話しかける……? 話しかけたら、感極まって抱きついてきそうなこの状況で……?」

スラスト「……絶対無理」ブルブル

スラスト「仮想と分かってたって怖気が走る……」ブルブル

スラスト(でも折角きたのに会いもしないのは……)

スラスト(そうだ! 現実で言ってやればいい! あの悪趣味なアバターを何とかしなさい、そうすれば一緒にやってあげるって)

スラスト(正式サービス自体、今日始まったばかりだから削除する躊躇いも薄いはず! うん、これしかない!)

スラスト(そうと決まれば明日にでも……あの子がどこに居るか分かってれば話は早いんだけど……仕方ない。明日なら、イベントの打ち合わせで事務所にいるはずだし)

スラスト「あの子がべらべらと話すスケジュール覚えててよかった……」



ミミちぃ「…………」

スラスト「……じゃあね。また、明日」

34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/23(日) 00:19:19.72 ID:ikdM0y3DO

ミミちぃ爆☆誕

投下終了

おちんちんは勘弁したったってwwwwwwwwww
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/23(日) 01:06:00.59 ID:ikdM0y3DO

スラスト「もう、今日はログアウトしてもいいけど……」スタスタ

スラスト「このまま落ちるのも、何だか拍子抜け……」スタスタ

スラスト「戦闘を多少こなしておこうかな……」スタスタ

スラスト「あの子とやるとき、いきなりの初戦闘でみっともない姿さらすのも何か癪だし……」スタスタ

クライン「おいキリト、早く来いよ! 武器が売り切れちまう!」ダダダダッ

キリト「今買おうとしてる武器は売り切れないから安心しろ……」トットットッ

曲がり角――――

クライン「うおおっ!?」

スラスト「ひぅっ!?」

衝突。
ずでん、と尻餅をつく二人。

キリト「ほら見ろ……だから落ち着けと、さっきからあれほど……」

クライン「面目ねぇ……。――ああ、あんたも悪かったな」

スラスト「痛ったいわね! いきなり何なの!?」

キリト「すまなかった。こっちのオッサンにはキツく言っておくから、勘弁してやってくれ」

スラスト「もう……次から気をつけなさいよ」

クライン「肝に銘じる……ってうおお! すっげぇ美女じゃねえか!」

キリト「落ち着け。VR上のアバターだ。現実も同じ姿である確率は限りなく低いぞ」

スラスト「は? 喧嘩売ってんの?」ビキビキ

キリト「……いや、すまない。決していさかいを望んでる訳じゃないんだ。……ほら、あんたも頭下げろ」ガシッ、グイッ

クライン「うおっ、……すんません」

スラスト「……もういいから行って。あんた達と漫才やってる暇はないの」

クライン「ぐっ、毒舌だな……だかそれはそれで、」

キリト「馬鹿やってないで行くぞ。狩りに行くんだろ?」

クライン「おお、そうだった! じゃあな美人さん! 俺の勘じゃ、あんた中々良い女だぜ!」

走り去っていく二人。
ため息をつく。

スラスト「……いったい何なの」
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/23(日) 01:11:08.86 ID:ikdM0y3DO

投下し忘れ

感想感謝、めちゃくちゃ励みになります
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/23(日) 02:58:39.88 ID:ikdM0y3DO

スラスト「狩りってモンスター倒すって意味よね?」

スラスト「……私も狩りいきたいし、武器買おうっと」



スラスト「武器屋はこっちよね……さっきのあいつらこっちに駆けていったし……」

スラスト「…………」

スラスト「……あれ?」

スラスト「何でか路地に入ってる?」

スラスト「どっちから来たんだっけ……」トボトボ


38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/23(日) 03:00:10.57 ID:ikdM0y3DO

シリカ「何なんですかあなた達! 早くそこどいて下さい! 通れないじゃないですか!」

スラスト「女の子の声? ……確かこっちから(道教えてもらおう……)」ダッ

悪質プレイヤーA「あー俺らって天才じゃね?」ゲラゲラ

悪質プレイヤーB「だよなー。初日から回避不可の嫌がらせ技見つけるとか。さあ前は通れませんよー後ろも行き止まりだけど」ゲラゲラ

シリカ「うぅっ……ついてないです……。なぜかログアウトもできませんし……」

悪質プレイヤーA「おい聞いたか? こうしたらログアウトも出来ないみたいだな」ゲラゲラ

悪質プレイヤーB「マジ鬼仕様(笑)。運営推奨プレイなんじゃね?」ゲラゲラ

スラスト「何、あのけったくそ悪い奴ら……寄らないでおこ、」

悪質プレイヤーB「ん? おい誰か来たぞ!」

悪質プレイヤーA「ちっ、まじーなぁ。あれも閉じ込めちまうか?」

スラスト「……うわ、見つかった」

シリカ「っ! 誰かいるんですか!? お願いします助けてください!!」

スラスト「うわ……もう、何なのこのゲーム……」

悪質プレイヤーA「おい、お前今閉じ込めてるやつ抑えてろ。ちょっとノックバックしてくる」

悪質プレイヤーB「俺もいきてぇ……後で変われよ?」

悪質プレイヤーA「わかったわかった」

39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/23(日) 03:02:10.38 ID:ikdM0y3DO

悪質プレイヤーA「待たせたな。じゃあやろうぜ」スラッ

スラスト「は? なんで剣抜いてんの?」

悪質プレイヤーA「さあ、っな!」ギンッ!

スラスト「っ!?」ドコッ

悪質プレイヤーA「あーたまんねえなぁ。おらっ、次行くぞ!」ギンッ!

スラスト「うぐっ!」ドコッ

後ろに跳んで距離を取る

スラスト「なんでプレイヤー攻撃すんのよ! モンスター倒すゲームじゃないのこれ!?」

悪質プレイヤーA「あ? ……初心者でも際ものか。こりゃあいい!」ダッ

スラスト「くそぅ……対抗しようにも武器が……」

逃げる。逃げる。逃げる。
路地裏の、ある程度ひらけた空間をぐるぐる駆け回り、凶刃から逃れようと足掻く。
だがいつの間にか、壁に背を預ける形へと誘導されてしまっていた。

悪質プレイヤーA「へっ、これで終わりだぁっ!」

愉悦の笑みを浮かべ、嬉々として手に持つ刃を振るう悪質プレイヤーA。

仮に、今彼のした発言を第三者が見ていたなら。

きっと皆、口を揃えて言っただろう。



フラグ乙、と。
40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/23(日) 03:03:33.53 ID:ikdM0y3DO

スラスト「ああっ、もう!」

横っ飛び。
思い切りの良さで刃からは寸前で逃れられたが、代わりに勢い余って壁に突っ込んでいく。

悪質プレイヤー達が声を揃えて笑う。何て間抜けなんだと嘲り笑う。

スラスト「っのぉ! この私をなめるんじゃないわよ!!」

それはまさしく、火事場の馬鹿力であった。

形相が鬼のそれに染まり、絞り出した集中力と反射神経、そして筋力が。

悪い意味で非凡な運動神経を補う。

そしてこの状況に居合わせたなら。

第三者は言うだろう。

土壇場での覚醒乙、と。

41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/23(日) 03:09:20.17 ID:ikdM0y3DO

スラスト「間に合えぇぇぇぇぇっ!!」

壁に手のひらを突いての、慣性の相殺。

もし現実の肉体でやっていたなら、生半可な身体能力では自滅は必至であったろう。

しかしここは仮想空間。

ここで働く法則は、肉体の常識など笑ってぶち壊す。
かくして一見慣性の相殺は成功した――――

スラスト「えっ何この壁……手が滑り込む」

ように見えたが、それはとんだ誤解であった。

これは反撃の狼煙。
防戦一方にある獲物に用意された、唯一の反撃手段。
その名もイベントフラグ。

スラスト「っ! 何かある……っ!」

すかさず引っこ抜く。
そして手に入れた。
自分だけに許された、唯一つの(ユニーク)アイテムを。

>>マジカル☆ステッキを獲得しました。

マジカル☆ステッキ

分類:両手杖(盾や武器の追加装備は出来ない)

ランク:ユニーク(一つしか存在しない)

効果:

この杖は呪われている。

この杖はプレイヤーが触れた瞬間、強制的に装備状態へと移行させる。
プレイヤーの装備状態にあった武器や盾は強制的に装備を解除される。

この杖は装備者に魔法の使用を可能とする(このゲームは魔法スキルが存在しない仕様です。使えません)。

この杖は装備してしまうと外せない。絶対に外せない。

42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/23(日) 03:10:14.79 ID:ikdM0y3DO
投下終了

夜中のテンションでえらいもんを書いてしまった気がする
寝ます
43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/23(日) 03:22:51.49 ID:ikdM0y3DO

誤字って直せないんだろうか

>>4
同僚「偶然手に入れそう」

同僚「偶然手に入りそう」

>>42
かくして一見慣性の相殺は〜〜

かくして慣性の相殺は〜〜
44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/23(日) 04:29:39.52 ID:ikdM0y3DO
>>41訂正


スラスト「間に合えぇぇぇぇっ!!」

壁に手のひらを突いての、慣性の相殺。

もし現実の肉体でやっていたなら、生半可な身体能力では自滅は必至であったろう。

しかしここは仮想空間。

ここで働く法則は、肉体の常識など笑ってぶち壊す。
かくして慣性の相殺は成功した――――

スラスト「えっ何この壁……手が滑り込む」

ように見えたが、それはとんだ誤解であった。

これは反撃の狼煙。

防戦一方にある獲物に用意された、唯一の反撃手段。

その名も、イベントフラグ――――!

スラスト「っ! 何かある……っ!」

すかさず引っこ抜く。

そして手に入れた。

自分だけに許された、唯一つの(ユニーク)アイテムを――――。

>>マジカル☆ステッキを獲得しました。

マジカル☆ステッキ

分類:両手杖(盾や武器の追加装備は出来ない)

ランク:ユニーク(一つしか存在しない)

効果:

この杖は呪われている。

この杖はプレイヤーが触れた瞬間、強制的に装備状態へと移行させる。
プレイヤーの装備状態にあった武器や盾は強制的に装備を解除される。

この杖は装備者に魔法の使用を可能とする(このゲームには魔法スキルが存在しない仕様です。使えません)。

この杖は装備すると外せない。絶対に外せない。

45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/23(日) 07:44:18.58 ID:5MfUhonM0
急に明るくなってて笑った
杖で殴るしかないのか…
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/23(日) 08:21:01.00 ID:qpImW8lDo
魔法がないからただの杖、でも名称とか外見はファンシーって感じかな。
確かに呪われている。
47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/23(日) 11:26:38.24 ID:f4niiWUSO
魔法(物理)か
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(西日本) [sage]:2012/09/23(日) 13:48:22.58 ID:ZRRAAIs3o
唯一魔法が使える武器ってわけじゃないのか
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/23(日) 15:14:08.30 ID:ikdM0y3DO
スラスト「…………」

スラスト「…………」

スラスト「…………」

スラスト「…………何これ」

愕然とする。

サイズはお年寄りのつく杖程度。
鳥のくちばしみたく鋭角な先端を持つ、小児向けアニメの魔法ステッキめいたデザイン。

そして。

スラスト「呪いなんて、聞いてない……」

それは絶対に外せない装備であるからして、絶望の塊であった。

脳裏に描かれた『怒涛の刺突で敵を倒す私』像が、儚くも砕け散っていく。

良いようにされ、めらめらと燃えていたはずの悔しさと怒り。
それすらも急速に萎れていっていた。

悪質プレイヤーA「……何騒いでんだ? 杖なんか持っ、て……?」

悪質プレイヤーAは気づく。
逃げ回る子羊が武器を取った事に。

しかし、

悪質プレイヤーA「くくっ、そうでなくっちゃなあ」

彼は舌なめずりをしてみせた。
ありありと余裕の窺える態度。

それは幾度か獲物の垣間見せた初心者が、彼の気を大きくさせているからかもしれなかった。
50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/23(日) 15:17:39.28 ID:ikdM0y3DO
悪質プレイヤーA「おらっ、行くぜ!」

凶刃の使い手が駆ける。

瞬く間に彼我の距離は狭まり、零へと近づいていく。

スラスト「っ……!」

身構える。

ぶつくさ言って体勢の立て直しを怠っていた為、真正面からの相対は避けられそうにない。

絶体絶命の危機。

しかし、そこで囚われの少女が機転を効かし一石投じる――――。
51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/23(日) 15:18:51.41 ID:ikdM0y3DO
シリカ「お姉さんっ! これを使ってください!!」

悪質プレイヤーB「なっ、こいつ――!」

思いも寄らぬ行動が悪質プレイヤーBの度肝を抜く。

さっきまで大人しくしていたシリカの突発的な反抗。

閉じ込めに拘泥する彼の隙を縫って、シリカが自分の持つ短剣を投擲したのだ。

短剣は山なりの軌跡を描いて、送った相手の元に狙い違わず届く。

しかし――――、

スラスト「……呪われてるから使えない、それ」

シリカ「え?」

唯一の誤算は、送った相手がアホみたいな状況に自分から突っ走っていた、という事実。

石畳の上で跳ねて、からんからんと音を鳴らすダガー。
虚しい響きだった。

52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/23(日) 15:20:18.66 ID:ikdM0y3DO

悪質プレイヤーA「よく分からんが援護は無駄だったようだなぁ!? そらっ!」

スラスト「っ――!」

迫り来る凶刃。

呪いの杖や空回りの援護に気を取られ、逃げ遅れた。

泡を食って身構えたものの、とても避けられるとは思えない。

追い詰められた。
それを悟ると、鉄火場もしょっちゅうの業界で生き残ってきた経験が、逆に肝を座らせる。

何より。
こんな器の小さい連中になめられっぱなしでは、気分が悪くて仕方なかった。

スラスト「私をっ、なめんなぁっ!!」

裂ぱくの気合いを飛ばす。

悪漢の振るう刃にマジカル☆ステッキが反応していた。
ひゅんと風の唸りを引き連れ、剣と弾き合う軌道でひた走っていく。

システムアシスト。

敵も駆使している技を使い、果敢に立ち向かう。

一人の戦士が、うぶ声を上げた瞬間であった。
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/23(日) 15:23:51.61 ID:ikdM0y3DO
悪質プレイヤーA「なっ――」

剣と杖。
ぶつかりあった両者が、鈍い金属音を立てて弾き合う。

思わぬ反撃に面食らう悪質プレイヤー。
きちんとスキルを使えると思ってなかったのだろう。
顕著な反応がそれを示していた。

スラスト「消し飛べ――!」

悪質プレイヤーA「ぐっ、調子に乗るな!」

すかさず杖が追撃してくるのに合わせて、剣も負けじと食ってかかっていく。

純粋なHPの減らし合いではない圏内での戦闘。
ノックバックでの応酬は、次第に混迷を極めていった。

杖で殴る。剣が薙ぐ。杖で殴る。剣が切り払う。杖で殴る。剣が打ち下ろす。杖で殴る。剣が切り上げる。杖で殴る。杖で殴る。杖で殴る――――。

杖の攻撃が、徐々に剣を押し始める。

実力がまさっている訳ではない。
どれだけノックバックに怯まないかで優位が決まったのだ。

スラスト「あははは! 相手がゲスなら、プレイヤー相手もなかなかね!」

悪質プレイヤーA「ぐっ、ふざ、っけんなっ、よ……」

加えて言うなら。
日々アイドルとして研鑽をたゆまない姿勢が、明暗の分かれ道だった。

何曲もの歌をダンスも交えて歌い続ける体力、競争の熾烈な芸能界で生き抜く気力。

共に、高水準の肉体的な素養と忍耐強さが不可欠。

終わりの見えないノックバック戦闘に音を上げたのは、悪質プレイヤーであった。
54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/23(日) 15:25:23.00 ID:ikdM0y3DO

悪質プレイヤーA「はぁっ、はぁっ……ぐ、気持ち悪ぃ……」

スラスト「……ふぅ。私の勝ちね」

延々とノックバックされ続け、グロッキーになりかけている悪質プレイヤー。

勝者とて全く堪えていないわけではない。だが少なくとも、平静を取り繕うだけの余裕は残していた。

悪質プレイヤーB「お、おいおい、何やってんだ。しっかりしろよ」

グロッキー寸前の悪質プレイヤーに戸惑い気味の叱責が飛ぶ。

どう見ても優位の逆転した勝負。
俄には信じられないのだろう。

悪質プレイヤーA「うっせぇよ、クソが……。おい、次はお前がコイツの相手しろ」

悪質プレイヤーB「馬鹿言うな。俺が動いたら、お前じゃ閉じ込めてるガキ逃がしちまうだろ」

悪質プレイヤーA「ちぃっ、クソ……」

悪質プレイヤーA「やってらんねーぞ……おい、帰るぞ」

悪質プレイヤーB「お、おお……」

口惜しそうに去っていく悪質プレイヤー達。
残された二人はそれを見送った。
55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/23(日) 15:30:48.10 ID:ikdM0y3DO
投下終了

相変わらず地の文消せてなかったり、戦闘上手く切り上げられなかったり、申し訳ない

そして魔法(物理)
ユニーク武器でも冷や汗ものですが、魔法スキルは流石に世界観無視がヤバいのでなしの方向で
56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/23(日) 15:33:35.36 ID:5MfUhonM0
乙です
これからずっと魔法の杖で戦うのだろうか…
57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/23(日) 15:35:35.89 ID:Snw/on4IO
乙乙
バインバインの女性アバターが魔女っ子ステッキで撲殺に掛かる絵図
58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/23(日) 15:39:19.68 ID:ikdM0y3DO
次は脱字やらかした

>>49
幾度か垣間見せた初心者が、彼の気を〜〜

幾度か垣間見せた初心者ぶりが、彼の気を〜〜
59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/23(日) 16:29:16.52 ID:ikdM0y3DO

スラスト「…………」

シリカ 「…………」

スラスト「…………ま、私にかかればざっとこんなものね」

シリカ「あ、あの……」

スラスト「何?」

シリカ「あ、ありがとう、ございました……ぐすっ」

スラスト「な、なんで泣いてんのよ……」

シリカ「ひぐっ、だって……あの人達、本当に、ひぐっ、怖くて……」

シリカ「やっ、やめてって、何度も何度もお願いしたのに……っ」

シリカ「だっ誰も助けにきてくれなくて……ひぐっ、ログアウトもできないまま、ずっと一人ぼっちになるんじゃないかって……」

シリカ「そう思ったら、その思ったら……ふぇぇぇーん! こわかったよぉー!」

スラスト「ちょっ……抱きついてこないでよ……」

シリカ「……ぐすっ、ぐすっ……」

スラスト「…………ふん、いつだって誰かが助けに来てくれるなんて限らない」

スラスト「せいぜい、一人でも生きられるよう強くなることね」

シリカ「はっ、はい……ぐすっ」

スラスト「…………」


60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/23(日) 16:30:56.67 ID:ikdM0y3DO
最後の部分誤字訂正


スラスト「…………」

シリカ 「…………」

スラスト「…………ま、私にかかればざっとこんなものね」

シリカ「あ、あの……」

スラスト「何?」

シリカ「あ、ありがとう、ございました……ぐすっ」

スラスト「な、なんで泣いてんのよ……」

シリカ「ひぐっ、だって……あの人達、本当に、ひぐっ、怖くて……」

シリカ「やっ、やめてって、何度も何度もお願いしたのに……っ」

シリカ「だっ誰も助けにきてくれなくて……ひぐっ、ログアウトもできないまま、ずっと一人ぼっちになるんじゃないかって……」

シリカ「そう思ったら、その思ったら……ふぇぇぇーん! こわかったよぉー!」

スラスト「ちょっ……抱きついてこないでよ……」

シリカ「……ぐすっ、ぐすっ……」

スラスト「…………ふん、いつだって誰かが助けに来てくれるなんて限らない」

スラスト「せいぜい、一人でやってけるようになることね」

シリカ「はっ、はい……ぐすっ」

スラスト「…………」

61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/23(日) 16:32:35.57 ID:ikdM0y3DO

路地裏から一緒に出て、街中――――

シリカ「あのっ、お姉さんはMMOにお詳しいんですか? わたし、実はこれが初めてで……よかったら色々教えてくださいっ」

スラスト「……私も初めてよ。教えられることなんかないから他の人当たって」

シリカ「じゃっ、じゃあ、初心者同士いっしょにやっていきませんか! フレンド登録して、パーティとか……」

スラスト「そもそも私、ゲーム自体はじめてに近いから。一緒にやっても私が足ひっぱるだけ」

スラスト(しばらく話し込んでからこの子、やけにひっついてくる……路地裏から道案内してもらうには、この子についていくしかなかったんだけど……もう別れても大丈夫ね)

スラスト「じゃあ私は用があるから。道案内、助かったわ」

シリカ「えっ……い、いっちゃうんですか……?」

スラスト(なんで別れるくらいで泣きそうになるのよ……)

スラスト(でも私には関係ないか。さっきのだってそもそも、助けるつもりでやったんじゃないし)

スラスト(変に感謝されてやりにくいったらない……)

スラスト「ええ。じゃあね」

シリカ「あっ……」

スラスト「…………」

シリカ「…………」

スラスト「……裾掴まないでくれる?」

シリカ「うう、どうしてもダメですか……っ」

スラスト(私、この子苦手だわ……)


62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/23(日) 16:37:10.54 ID:qpImW8lDo
ほう、懐かれたな。
63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/23(日) 17:20:40.51 ID:ikdM0y3DO
モンスターの出現エリアに向かって、街中を歩きながら――

スラスト「はぁ……本当にちょっとだけだから」

シリカ「はいっ!」

スラスト「三十分もしたら帰るから」

シリカ「えっ、たったそれだけですか……?」

目をうるうるさせて上目遣いに見上げるシリカ。

スラスト「もう譲歩はなし。時間の無駄だからさっさとモンスター倒しにいくわよ」

シリカ「はぁーい……」

シリカ「あっ。ところでお姉さん、ここって――」

プレイヤーA「ぐあああっ! アイドルちゃんが休業なんて全俺をバーサーク化させるつもりかぁっ!」

プレイヤーB「あり得ねえよな……休業させるとか。とりあえず所属事務所は滅んで、アイドルちゃんを復帰させるべき」

プレイヤーC「まあ、つっても復帰前提じゃん? 帰ってきてくれるなら復帰イベ用に給料貯めて待つわ」

プレイヤーB「10年くらいしてから帰ってくる可能性も微粒子レベルで……」

プレイヤーC「ぐああああっ! 想像させんなしwww 死ねww 氏ねじゃなくて死ねwww」

プレイヤーA「26なんてBBAじゃねえか……アイドルちゃんはろりんろりんがいいんだよ!」

プレイヤーC「いや待て! あのまな板具合と童顔からして10年後もろりんろりんな可能性も……」

プレイヤーB「まあ、あり得ない話ではないな……」


スラスト「…………」ビキビキ

シリカ「うわぁ……」

シリカ「アイドルさんってわたしも歌とか大好きですけど……あそこまでいくとひいちゃいますね」

スラスト「一回死んでもう一回死んだ方がいいのは確かね」ビキビキ

シリカ「クラスでもああいう人けっこういます……」

スラスト「……ふんっ、まあいいわ。大きくなって魅了してやって、そっちが正しい姿だって教えてやればいいんだから! がんばれアイドル! やるのよ私っ!!」

シリカ「そうですよ! わたし達も、おっきくなって見返してやりましょう! (お姉さんもリアルはちっちゃいんだ……ちょっと親近感わいちゃうです)」

64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/23(日) 17:23:33.06 ID:ikdM0y3DO
思ったより書き溜めできなかった

投下終了

今日いっぱいはそれなりに投下できるかも
65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/23(日) 17:28:13.08 ID:HdOU+wLIO
乙!
待ってる
66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/23(日) 17:50:30.79 ID:ikdM0y3DO

しまった

シリカの一人称『あたし』でした
今までのは脳内変換してお読みください
67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/23(日) 18:52:36.34 ID:ikdM0y3DO

スラスト「ふぅ……まあまあ倒したわね」

シリカ「すごくはかどっちゃいました! えへへ、やっぱり二人だといいみたいですね」

シリカ「それにお姉さんやっぱり強いです。ダガーのあたしと同じくらいの手数なのに、一撃であんなにダメージだしちゃうんですから!」

スラスト「強いのは私じゃなくてこの杖。筋力と敏捷の値に補正がかかるみたいね」

スラスト「……魔法の杖なのに」

シリカ「まあまあ。強いんだからいいじゃないですか!」

スラスト「まあね」

シリカ「それより見てください、これ。さっき手に入れたんですけど……」

どうやら装備品をドロップしたらしい。
部位は腕。わずかだが最大HPを増加する効果があるようだ。

スラスト「へー、そんなのもドロップするのね」

スラスト「それがどうしたの?」

シリカ「お姉さんにあげます! 気づいたら二つドロップしてて、一つしか装備できないみたいですし」

シリカ「パーティ組んでくれたお礼です、えへへ」

はにかむシリカに顔をしかめる。

スラスト「パーティ組む人みんなにお礼するつもり? 馬鹿じゃないの」

スラスト「そんなのしてたらあっという間にすっからかんよ。その腕輪早くしまいなさい」

シリカ「え? あ、その……お姉さんだけですよ?」

シリカ「それに、あたしが初めてパーティ組んだ記念でもありますし……えへへ」

スラスト「…………」

シリカ「うう……迷惑でした?」

スラスト「じゃあ私はこの指輪あげるわ」

シリカ「え?」

スラスト「私も初めてだから」

シリカ「そ、そうなんですか……。お姉さんも……えへへ、嬉しいな」

シリカ「あ。えっと……お姉さんはもう一つこの指輪を?」

スラスト「? ええ、それも一つしか装備できないから。売るつもりだったけど、ちょうどよかったわ」

シリカ「じゃあ、腕輪と指輪お揃いですね!」

スラスト「こんな最初のところで手に入るアイテム、みんな持ってるでしょ」

シリカ「うー……お姉さんとあたしはお互いに贈り合ったものですから! 特別なんです!」

スラスト「なんでそんなムキになるのよ……」


68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2012/09/24(月) 00:14:30.96 ID:OrFj/TWCo
                                             /::::::::::::::::::>r―<::::::::::::::::::`7
                                       |   {>   ゚ ̄ ̄ ̄ ̄ `丶、::::::/
                                     _人 /              \/
                                       `Y⌒                   _人_
                                        / :|   : /    / /        ⌒Yヘ :::〉
                                       / /   . :/ :/|  /   :/   |   |   │ ∨
                                        ,   . : イ:.:/\|/∨  /|厶斗  : |     l
  ┏┓  ┏━━┓┏━┓┏┓┏━━┓┏━━┓       |:/|: : :/ |≫=ミi  |  :/ _∨ |/ : /:  |   .l   ┏┓┏┓┏┓
┏┛┗┓┗━┓┃┗━┛┃┃┃┏┓┃┃┏┓┃    | | |: :│〃_入ハ  レ∨ ≫‐=ミ∨l   |. .| .!   ┃┃┃┃┃┃
┗┓┏┛    ┃┃┏━┓┃┃┃┗┛┃┗┛┃┃┏_人━八| |八弋Yソ     ,_入ハ }}│  | 人|._ ┓┃┃┃┃┃┃
┏┛┗┓┏┓┃┃┗━┛┃┃┃┏┓┃    ┃┃┃ `Y⌒   l 小///   '   弋Yソ ´│  |⌒Y´ ┃┃┃┃┃┃┃
┗┓┏┛┃┗┛┃    ┏┛┃┗┛┃┃    ┃┃┗━│━━| |    r─-       ////  ;  | ━┛┗┛┗┛┗┛
  ┃┃  ┗┓┏┛┏━┛┏┛    ┃┃  ┏┛┃ |       | 人    |    }      ′ .:   :.   ┏┓┏┓┏┓
  ┗┛    ┗┛  ┗━━┛      ┗┛  ┗━┛,.人__      l :个:..   、 __ノ     /  /    :.   ┗┛┗┛┗┛
                                 `Y゚ ‐v┐     _| : |{:::::>:...,,_,,  -=≦/  /\ │ :.
                               { -─ヘJ  |  /:| : |::::::::::::::ハ.     /   /::::::::_人  :.
69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/24(月) 02:16:26.12 ID:+Qh8MgnDO


数珠繋ぎになっているエリアを進むと、肥沃な草原へとたどり着く。

中でも一面に花が咲き誇った一帯を見つけるや否や、シリカは分かりやすく目を輝かせた。

シリカ「すごい……花がこんなにいっぱい!」

シリカ「来てください、お姉さん! この草ふかっとしてお布団みたいです!」

はばかることなく座り込み、喜色満面のシリカ。

モンスターが闊歩するエリアのど真ん中で豪気なことだ。

しかしゲームの中にあって、そういう部分を楽しもうとするのは嫌いじゃなかった。

手招きに誘われてシリカの傍へ腰を下ろす。

花の甘い香りが、鼻腔をくすぐった。

スラスト「いい場所ね」

シリカ「お姉さんもそう思いますか? すごいですよね。ゲームの中で、こんな……」

所詮ゲームだと考えていたが、五感没入型というのは案外侮れない。

静かにうなずき、手元の草を手で弄ぶ。

シリカの言った通り羽毛を思わせる柔らかさだ。

おそらく、現実には存在しない植物なのだろう。

スラスト「こんなの……本当に久しぶり」

ぼつりとつぶやく。

もうずっと前。
アイドルも志していない子どもの頃、こんな風に草花と戯れたことがあった。

なんの変哲もない植物にいちいち騒いで、時と場所もわすれて思うままくつろいで。

そこにはアイドルとしての体裁も、人気アイドルであろうとする執念もなかった。

思う。
あの日からの自分は、多くのものを目的の為に無価値と断じ、切り捨ててきたのだと。

懐かしさのせいか、不意に涙腺がゆるむ。

だが意地でも涙は流せなかった。
70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/24(月) 02:18:45.31 ID:+Qh8MgnDO

シリカ「……お姉さん?」

不審に見られたのか、シリカが呼びかけてくる。

ふと、現実では聞けない質問をしてみようと思った。

スラスト「ねえ……聞いてもいい?」

シリカ「はい?」

スラスト「こういうものを楽しめるのが“普通”なの? いつも誰かの望む自分を意識して……そう振る舞う以外、何にも考えてないのっておかしいかしら」

人気アイドルとして。
そうあるためには、与えられたキャラクターに忠実でなければならなかった。

そのキャラクター(性格)の立ち居振舞い、そのキャラクターの好き嫌い、そのキャラクターが向けるべき関心事。

そのキャラクターは大衆に求められた自分像だから。
実際の自分とは多くが食い違って当然だったのだろう。

大衆の求めるものはうつろいやすい。

大衆の求める自分で居続けるため、余計な感傷に割く思考を許さなかった。

大衆の求める自分で居続けるため、本来の自分が持つ関心事は邪魔でしかなかった。

だが他人とは不思議なもので、そこにかける執念を知ってしまうと。
そのキャラクターが相手の嗜好を完璧に満たしていればいるほど、気味の悪さを覚えるらしい。

そして父のような人は、自分がそう生きていることにどうしてか、悲しみを覚えるらしかった。

71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/24(月) 02:22:46.81 ID:+Qh8MgnDO

シリカ「それは……」

真剣な顔のシリカが、言葉を探すようにして。

それから首を横に振った。

シリカ「……あたしには、難しくてよくわかりません」

スラスト「そう……」

落胆はない。
センシティブな話題だ。

元々、答えが返ってくるとも思っていなかった。

シリカ「ごめんなさい、お姉さんの力になれなくて……」

スラスト「気まぐれに聞いただけだから。そんな深刻そうな顔しないでよ」

ただ、このシリカの思い悩みようは予想していなかった。

昨日今日会った仲だ。
それは心配している振りなのか、そうでないのか。

どうにもポーズだとは思えなかった。

シリカ「でも……お姉さん、すごく辛そうでした」

スラスト「そう?」

シリカ「今のお姉さんも、演技なんですか……?」

スラスト「さあ、どうかしらね」

からかい半分にくすくすと笑う。

シリカ「…………」

スラスト「さて、と。……とっくに三十分すぎてるわね」

思わせ振りに約束のことを持ち上げる。
そして、

スラスト「それなりに楽しめたわ。じゃあそろそろ」

おもむろに立ち上がって、別れを告げた。

シリカ「あの……フレンド登録はやっぱりダメ、ですか?」

スラスト「悪いけどやめておく。そもそも、誰ともフレンド登録する気ないし」

ばっさりと切り捨てる。

いい加減、はっきりさせておかなければと思った。

休業はもう二週間足らずで終わる。
そうしたらログインすることはないし、そもそも。
仮想空間とは言え、一般人だろうシリカと仲を深めすぎるのは危険だった。

シリカ「わかり、ました……」

シリカ「ごめんなさい。あたしなんかに誘われて……ご迷惑、でしたよね」

迷惑、とまで思ってはいないが。
あえて口にはしなかった。

スラスト「じゃあね。もう路地裏には行かないように」

シリカ「あ…………」

ひらひらと手を振ってから歩きだす。

背後で、呼び止めるような声が微かに耳を掠めたが。

返事を待つ気は、なかった。
72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/24(月) 02:26:25.82 ID:+Qh8MgnDO
結局地の文なしで書けなくて遅くなりました

投下はこれで終了

次回、遂に茅場さんの出番が!
73 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/24(月) 07:16:12.87 ID:PDozzceSO
74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/09/24(月) 12:22:18.47 ID:oPT0dJeAO
75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/24(月) 16:47:19.26 ID:+Qh8MgnDO

スラスト「やっぱり……始まりの街だけあって、まだまだすごい人込みね」

アインクラッド第一層。始まりの街。

シリカと別れてから、まっすぐこの街へと戻ってきた。

ばらけて人が分散されるダンジョンに比べて、やはり街は人を集めるのだろう。
皆がみな、戦闘優先だとも限らないので頷ける人口密度だった。

ただ。

スラスト「どうも空気がよくないのは気のせいかしら」

ざわざわとした喧騒に紛れて。
時折、物騒な単語が聞こえてくるのだ。

運営ふざけるな、と叫んだり、サポートの対応について言及したり。
おもに運営会社にへの誹謗中傷ないし、罵詈雑言だった。

スラスト「なんでそんなに熱くなるんだか……」

非難はさておき、ログアウトしよう。

人差し指と中指をぴっちりと合わせ、縦に切ればメニューが開く。

さっそくメニューを開き、ログアウトの項目探し。

しかし。

スラスト「……あれ。ないわね」

たしか、説明書にはメニューにあると書いてあったはず。

これは間違いない。
五感没入と知って、ちゃんとログアウトできるか不安だったから、きっちり調べておいたのだから。

運動神経はあれでも、記憶力には多少の自信がある。
記憶違いとも思えなかった。

スラスト「はあ。今日一番の不運ね」

嘆息交じりにそう言った瞬間。
運営よりアナウンスが流れ、始まりの街の広場に集まれと指示してきた。

ちょうどいい。これで、ログアウトできない問題もどうにか出来るだろう。

広場ってどこだっけ、と思っていたら有り難いことに、運営が転送してくれる旨を告げてきた。

程なくして。
青い粒子が噴き出したかと思うと、次の瞬間には件の広場らしいところにいた。
76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/24(月) 16:51:08.67 ID:+Qh8MgnDO

「うおっ……これが強制転送か」

「やっとログアウトできるよ……」

「運営でてこい! 早く対応しろ!」

流石に一万人近い人が集まっているだけある。
広場は瞬く間に騒然として、軽く気分の悪くなる喧騒に覆われた。

スラスト「……あー、うっさい。むしろ、これ静かにしてほしいわ」

そういえば、と思い、きょろきょろと周囲に視線を飛ばす。

なにぶん、人口密度が先ほどの比ではない。
ぎゅうぎゅうのすし詰め状態と言ってよかった。

スラスト「……あの子は、いないみたいね。ついでにあの筋肉オバケも」

見渡せる限り、探してみた相手は見当たらない。

いたところで万が一話しかけられないよう、距離を取るつもりだったが。

そして、暫くして。

『皆さま、大変お待たせ致しました。此方は運営会社でございます』

その声が広場に響いた刹那、喧騒は瞬間的に爆発した。

「おい、ログアウトできない不具合どうにかしろ!」

「何か補償しろよ!」

「前置きなんざいいから早くログアウトさせろ……」

ひっきりなしに対応を求める声が叫ばれる。
無理もない。彼らが訴えてなければ、自分も訴えていた。

軽い頭痛すらしてくる騒々しさに眉をひそめつつ、大人しく待つ。

そして程なくして。

受け入れがたい事情が、釈明された。
77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/24(月) 16:53:46.85 ID:+Qh8MgnDO
スラスト「――――は?」

つらつらと流れるアナウンス。

サーバーが制御不能。
ログアウトさせようにもできない。

要点を絞ればそういうことだった。

言い回しがひどく疎遠なのは、言葉を選びに選んでいるせいなのだろう。

だが幾ら謝意で言葉を飾ろうと、許せる失態ではなかった。

『心から、心からお詫び申し上げます。誠に――――』

スラスト「あ、あり得ない……」

途中から、アナウンスは耳に入らなかった。

かたかたと指が震える。
早鐘を打つ心臓の鼓動が耳に届く。

あり得ない。あり得ない。あり得ない。
そんなこと起こりうるのか。都市伝説のドッキリと言ってくれ。

理性が、心が、伝えられた事実の受け入れに拒否反応を示す。

辺りは、暴動が起きる寸前だった。

『諸君、私の作ったアインクラッドはお楽しみ頂けているかな?』

突然、今までのアナウンスとは異質のアナウンスが響く。

なんだ。何が起きた。
周囲のプレイヤー共々、混乱して視線を四方八方に振っていると。

『私がこのゲームの製作者である、茅場だ』

ゆらりと現れたのは、黒いローブを着込む巨人。

そして。
恐らくはホログラフィーか何かであろう巨人は。

衝撃の事実を、運営より数段鮮明に宣告した。
78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/24(月) 17:03:39.30 ID:+Qh8MgnDO

スラスト「あ、あはっ、あははははは……何それ、イカれてる……」

ログアウトは全百層の攻略が完遂されたら。
ゲーム世界で死ぬとマイクロ波が脳を焼き切って死ぬ。
外部からナーヴギアを外そうとしても死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。

「なんだよそれ、頭おかしいだろアイツ……」

「嘘だ嘘だ嘘だ! あり得ない嘘に決まってる!」

「あのクズを死刑にしろ!」

「リアルに帰りたいよぉぉぉぉ……」

最早、阿鼻叫喚の暴動であった。
悲鳴、怒号、怨嗟の声。
あらゆる音が入り交じって、鼓膜がどうにかなってしまいそうだ。

そして最後に。
茅場は、とんでもない置き土産を残していった。

視界が光に包まれ、晴れたとき。
すべてのプレイヤーが、現実での姿を取り戻していた。

「う、うわあああああ!」

「も、戻ってる……」

「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ」

「お前男だったのかよっ! くそ、騙しやがったな許さねぇっ!」

「誰か……誰でもいいから助けて…………」

延々と阿鼻叫喚の図が繰り返される中。

スラスト「あ、あっ、ああ……っ!」

亀のようにうずくまる。
頭を抱えて顔を伏せ。
みっともなく、がくがくと身を震わせる。

「おい、そこどけ!」

スラスト「痛っ……!」

走ってきた誰かに突き飛ばされてもんどり打つ。

実際に痛覚があった訳ではないが、怪我より遥かに最悪の状況が遂に起こった。

「だ、大丈夫かい、君……」

転んだ自分に差し伸べられる手。次いで、恐れていた展開が現実になった。

「お、おいあれ……っ!」

「ま、マジかよ芸能人とか」

「あの子ってアイドルの!? 本物!?」

尻餅をついているところに、雨あられと声が浴びせられる。
その勢いは止めようもなく増していき、大量の視線までも突き刺さった。

スラスト「あ、あああ、あの…………」

「大丈夫ですか!?」

「くそ、さっきのやつ次見かけたらボコボコだ!」

「おいみんな! アイドル休業中のあの子がいるぞ!!」

「こ、こんな状況じゃなければ……」

「有名人まで閉じ込めるとかこれちょっとやばすぎだろ!」

次々差し伸べられる手を無視する訳にもいかなくなり、引かれて立ち上がる。
目につくのは、驚きと好奇の目を向ける人、人、人。

自分を中心にして、尋常じゃない人だかりができていた。
79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/24(月) 17:06:40.28 ID:+Qh8MgnDO

最早、おろおろしていられる段階じゃない。
このままでは、状況に流されるばかりだった。

全身に走る震えを噛み殺す。

そして。

覚悟を、決めた。

スラスト「皆さん、私は大丈夫です。お騒がせ致しました」

楚々とした仕草で一礼。

自分の声を耳にしたとたん、あれほど騒がしかった声が一瞬、ぴたりと止む。

「お、おいこの声本物だ、間違いない」

「マジなのかよ……」

瞬時にざわめきが広がる。

そして、

「おいこっちにもアイドルだ! しかも所属事務所が同じの!」

「ちょっ、ありえねえだろ……マジで?」

「てか、あれあそこにいたアバターってたしか……」

「嘘だあの筋肉ダルマ同僚ちゃんだったのか!?」

「そっちにアイドルが走っていったぞ! みんな道を開けろ!」

ミミちぃ「アイドルちゃん!」

人垣を割って飛びだしてきたのは、薄々察していた人物だった。

スラスト「同僚……」

ミミちぃ「アイドルちゃんアイドルちゃん!!」

スラスト「ちょ、ちょっと……落ち着こう? ね?」

ミミちぃ「アイドルちゃぁぁぁぁん……そんな、来ちゃってたなんて……」

わんわんと泣き崩れる同僚。
パニックに陥っているのだろう。完全に取り乱していた。

抱きついてくるのを優しく受け止め、抱きしめ返す。

必然的に、いつもとは違う接し方だった。
今の自分はアイドルとして振る舞わなければならない。
そう判断していたからだ。

スラスト「うん……大変なことになっちゃったね」

ミミちぃ「アイドルちゃん……ごめんっ、ごめんねぇ……っ」

異様な話の流れに周囲の人達は当然戸惑っていた。

「お、おい……どうなってんだあれ」

「もしかして……同僚ちゃんがゲーム紹介でもしたんじゃないか?」

「あ、そういうことか……」

「そりゃあ謝り倒しにもなるよな」

くそ。うるさいな、どっかいけ。

無論、そんな本音は口にできるわけもなく、同僚と抱きしめ合っているしかない。

好き勝手な推論があちこちに飛び交う。まるで、見せ物にされている気分だった。
80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/24(月) 17:08:49.03 ID:+Qh8MgnDO

ミミちぃ「ひぐっ……ぐす」

スラスト「大丈夫……大丈夫だからもう泣かないで」

ぽんぽんと背中を叩いて撫でる。

同僚に対しては振る舞い方が違うだけで、言っていることは紛れもなく本音だった。
ゲームをすると決めたのは自分だし、責めても、何にもならないからだ。

この件に関して、嘘いつわりは一切なかった。

スラスト「私がやろうって決めたんだよ。だから、」

ミミちぃ「でもわたしがっ、わたしが勧めさえしなかったら! 絶対にアイドルちゃんはこんなことならなかった!」

確かに、勧めがなければやることはなかったろう。
ニュース程度の知識は持っていたが、手を出さなかった確信がある。

しかしそんな仮定、無意味でしかなかった。

だがそれでもこのままでは堂々巡りだ。理解して、同僚の耳に口を近づけた。

スラスト「本当に怒ってない。ま、ショックなのは事実だけどね。
とにかく泣くのやめなさい。じゃないと、変な騒ぎ起こしてる方に怒るわよ」

耳打ちされた同僚がびくり、と反応する。

ミミちぃ「う、うん……ぐすっ」

その口調での説得は、確かな効果を生んだようだった。
ただ、感涙まで生んでしまったようだが。

スラスト「ふふっ、じゃあいこう? 罰としてパートナーになってもらうんだから」

にっこりと笑う。

この提案も本音だった。
そこらの人達にパーティを申し込むくらいなら、同僚と組んだ方が万倍ましだからである。

「お、おいおい、マジかよ……」

「天使ちゃんが天使すぎて俺の天使ちゃんがゲシュタルト崩壊起こす」

「イイハナシダナー」

「いい子すぎんだろ、あの子」

外野が少々うるさいが、騒ぎをここまでにできるなら安いものだ。

同僚の白く小さな手を引き、そそくさとその場をあとにする。

石と鉄の世界アインクラッド。
この世界での本当の第一歩は、ここから始まったのだった。
81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/24(月) 17:11:29.95 ID:+Qh8MgnDO

去り際、我も我もと話しかけてくる観衆に苦労し、やっとの思いで人だかりを抜け出す。

だが。
そんな苦行を終えたアイドル二人組に待っていたのは、街中での見せ物状態だった。

ミミちぃ「わたし達、注目の的だね……」

スラスト「……しょうがないよ。我慢しよう」

表通りを同僚と並んで歩く。

通りゆく人々の視線が集中し、ひそひそとした話し声が耳朶を打つ。
露骨すぎる視線。
強張りそうな顔を何とか持ち堪え、楚々として振る舞った。

危ない。
あんなことがあって動じているせいか、どうも危なっかしい猫かぶりだ。
面の皮の厚さには自信のある自分だが、今甘んじている状況は異質すぎる。

つい化けの皮が剥がれてしまわないだろうか。
ちょっぴり不安だった。

スラスト「それはそうと同僚」

ミミちぃ「ん、なぁに?」

スラスト「フレンド登録しておこうよ。
どれくらい意味があるかは……わからないけど」

苦笑い。

ミミちぃ「じゃあ……っと。これで申請いった?」

スラスト「来てるよ」

メニューのコンソールを手早く動かし、アバター『ミミちぃ』をフレンドリストに入れる。

スラスト「これからどうする?」

ミミちぃ「そうだねぇ……」

二人して方針に思い悩む。

このゲームにはβテストが存在して、その経験者もいるらしい。

彼らに教えを乞えれば言うことはないが。

この非常事態。
どれだけの人が助け合いの精神で動けたものか。

少なくとも、自分なら利益もなく優位性を捨てる真似はしない。
それは責められるべき利己的な思考だが、同時に。
それが平凡な小市民というものだった。

スラスト「とりあえず……安易に聞き回らないでおこう」

一万人の中のマジョリティ(多数派)。マイノリティ(少数派)。そしてパラダイム(常識)。

できるなら、それらを見きわめてから本格的に動きたい。

スラスト「今レベルはいくつ? モンスターとの戦闘は危険だけど……最初のダンジョンなら人も集まるだろうし、様子見には安全だと思う」

ゲームだという感覚で気楽にやるのと、死が隣り合わせとでは。
操作の細かいところから勝手に違いが出るだろう。

いくらレベル的には問題のない場所だとしても。
こんな状態でモンスターに囲まれては、レベルの優位が頼りになるかも怪しかった。

ミミちぃ「それが……まだレベル1なんだ。わたし、生産プレイヤー目指してたから」

スラスト「ああ……」

そういえば、のぞき見していたときそんな話を聞いた。
となると益々危険だ。
最初のうちはフォローする必要があるだろう。

何を生産するプレイヤーになるつもりだったのだろうか。
それを尋ねようとしたところで騒ぎが起こった。
82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/24(月) 17:14:51.89 ID:+Qh8MgnDO

シリカ「嫌です! もうどっかいってください!」

「まあまあ……ほら、ちっちゃい子ひとりだと危ないでしょ?」

「うん、俺たち心配して言ってるんだよ」

知らない顔だった。
若い、十代後半くらいの男二人組が女の子に誘いをかけている、のだろうか。

女の子はあの広場では数少ない印象を受けた女性。しかも中学生か、下手すれば小学生くらいの子どもだった。

アイドルちゃん、と同僚が呼んでくる。

ミミちぃ「あの子、どうみても嫌がってるよ。止めてあげよう?」

スラスト「…………」

見てみぬふりは後味が悪い。が、安易に動いてよいものか。

安っぽい正義感とは言わないが、動く義理もなかった。

ミミちぃ「アイドルちゃん……」

スラスト「下手に干渉したらもっとひどくなるかもしれない」

ミミちぃ「アイドルちゃん……」

猫をかぶっている以上、本心そのままには話せない。
だからオブラートに包んだのだが、我ながら説得力に欠ける欺瞞。
哀れむような目を同僚から向けられても、無理はなかった。

シリカ「そんな心配いりません! 人を探してるんです、急いでるんだからどっかいってください!」

場に居合わせる人も大半がやり取りを見物していた。
ごくごく一部には完全な無視を決め込む人もいたが、傍観するよりはむしろ良識的だったかもしれない。

どちらにせよ、絡まれているのを助けようとする人はいなかった。

「なら一緒にその人探してあげるよ」

「なんていう人? リアルの知り合いなの?」

固辞されたにもかかわらず、二人組は諦め悪く誘う。
どうにも下卑た印象を受ける奴らだ。下心すら透けている気がしないでもない。

個人的に嫌いな人種だった。

シリカ「え……探すの、手伝ってくれるんですか?」

だから、女の子が受け入れるような姿勢を見せたとき。正気か、と思うと同時に、どうしようもない胸くその悪さを覚えた。

「もちろんだよ」

「困ったときは助け合わなきゃね」

シリカ「なら……その、お願いします」

馬鹿な子。それが正直な感想だった。
現実の道ばたで道を訊くのならともかく。この状況で、打算もなく人に手を貸すと思っているのか。
胸の底から吐き気にも似た、不快な気持ちが競り上がってくる。それは二人組と女の子、どちらに対してか。

一瞬、二人組がしめしめと笑う姿を幻視した。
83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/24(月) 17:18:25.89 ID:+Qh8MgnDO

ミミちぃ「ごめんアイドルちゃん……わたしもう、限界だよ!」

あんなの見てられない。
そう言うように同僚は駆け出し、割って入っていった。

ミミちぃ「ちょっと待った!」

話の纏まりかけに割って入られて気分を害したのだろう。
二人組はほんの一瞬、舌打ちでもしそうな顔になる。だが同僚の顔を見ると即座に態度が変わった。

「あ? なんだよ……って、え!?」

「お、おい、この子って……」

ひそひそと囁きを交わし合う二人組。
今、全てのプレイヤーが現実での姿なのだ。
可憐と言って差し支えない容姿は目を引くし、それに。

あのピンクのお下げ髪は、ファンでなくてもぴんとくるトレードマークだった。

ミミちぃ「その子、友達の妹なんです。人探しならわたしが手伝います」

シリカが目をぱちくりとさせている。
テレビやらで目にした機会が、少なからずあるのだろう。
芸能人には見慣れた、初対面なのに初見じゃない人を見る、特徴的な仕草だった。

スラスト「……はあ」

小さくため息。

いっしょに行動する相手が付き合うつもりなら、自分もそうなるだろう。
別行動する手もあるがその気はなかった。

「いや、そう言われても……あ、ほらっ、人手は多い方が……」

「そ、そうそう……俺らも手伝いますよ」

案の定、彼らはまだ食い下がろうとする。
いやむしろ、俄然やる気になったようでさえあった。
現役のアイドルに同行できるチャンスは、彼らにとって魅力的なのだろう。

ミミちぃ「え、ええと……けっこうです?」

「いやいや、絶対四人で探した方が早いですって!」

「この状況ですし……早めに見つけないとやばいっすよ、マジで」

そして同僚も案の定、だ。
建て前は用意していなかったらしく、対応しきれていない。

フォローする必要がありそうだった。

スラスト「もうっ、勝手に先走って……」

泡を食って追いかけるふりをしながら、騒動の中心へと入っていく。

自分を目の当たりにして皆固まる中、しれっと嘘をついた。

スラスト「それならもう心配はいりませんよ。だってその子が探してるのは、きっと私ですから」

84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/24(月) 17:19:00.38 ID:+Qh8MgnDO
投下おわりです
85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/24(月) 17:21:13.13 ID:+96XILV/o
乙乙
86 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/24(月) 17:44:27.14 ID:+Qh8MgnDO
>>83

しまった地の文でシリカって書いてた

女の子、とかそこらあたりで脳内変換頼みます……
87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/24(月) 19:12:27.75 ID:+Qh8MgnDO
>>1です

二つほど質問なんですが、SAOの武器って使う時以外はどこかに消えてますよね?

それで使う時はどこからともなく取り出してるように、傍目には見える……で合ってましたっけ?

88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/24(月) 19:41:11.02 ID:hkQTVfGIO
アニメじゃ手元に召喚してるように見えるな
89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2012/09/24(月) 20:24:52.81 ID:cT44saZio
装備から外さない限りは消えない。

どこからともなく出すことは、クイックチェンジmodを使えばできるんじゃないかと思うが。
90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/25(火) 00:46:30.88 ID:SXaAH/BDO

あの二人組を口先三寸で黙らせてから。

口惜しそうに去っていく後ろ姿が見えなくなったところで口をひらく。

スラスト「……もう行ったかな」

ミミちぃ「うん、大丈夫みたい」

シリカ「あっあの……」

女の子が話しかけてくる。
おずおずと、そんな表現がぴったりの萎縮ぶりだ。

ミミちぃ「もう変な人はいないからね〜。大丈夫、だよ」

ミミちぃ「勝手に話進めちゃってごめんね? 誰か探してるなら、わたし達が手伝うから」

同僚が率先してフォローに入る。

この場は同僚に任せよう。
自分が会話に入る必要はないと判断し、優しげに女の子を見つめるに留めておく。

こういう場合の、優しく扱う術はお手のものだ。何しろ一切言葉を飾っていない、心からの優しさが同僚には備わっているのだから。

シリカ「そ、そんな……あたしこそ、お礼を言わせてください」

同僚の気さくさのせいか、女の子は恐縮のしきりだった。
慌ただしく頭を下げてくる。頭の左右で二つに結われた茶色い髪が、それに応じて揺らめいた。

ミミちぃ「いいっていいって。お節介でしたことだし、ね? アイドルちゃん」

話を振られたので頷いておく。

シリカ「そちらの方ってやっぱり……あのアイドルさん、ですよね」

スラスト「初めまして。いきなり妹ってことにしてごめんね、話合わせてくれたから助かっちゃった」

シリカ「う……こちらこそ、ごめんなさい。調子に乗って抱きついちゃって」

しゅんとする女の子。

スラスト「ふふ、あのお姉ちゃ〜んって時の? むしろ役得だったんだけど」

別に不快でもなかったのでお世辞を言っておく。

相手は同性だ。
余程嫌いな相手でもなければ、抱きつかれようがどうとも思わない。
強いて言うなら、さりげない気恥ずかしさを表現するのが手間だったくらい。

その手間だって所詮、いつも感じているものと同じでしかなかった。
91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/25(火) 00:50:29.06 ID:SXaAH/BDO

ふと視線を感じる。

横目でちらりと確認すると同僚に複雑そうな視線を送られていた。

シリカ「役得……ですか?」

シリカが聞き返してくる。
同僚から視線を外した。

スラスト「あなたが可愛いからドキドキしちゃったってこと」

シリカ「か、可愛……っ!?」

首をかしげられたので説明すると、女の子は口をぱくぱくとさせた。

スラスト「なんて言ったらひかせちゃうかな。本音には違いないんだけど」

シリカ「そ、そんな……ひくなんて、ないです」

スラスト「でも気をつけないとダメだよ? じゃないと、さっきの男の人達とか私みたいな邪な気持ち持ってる人に狙われちゃうから」

シリカ「え、えっ、そんな……あんまりからかわないでください……はうう……」

うつむき気味になって頭のてっぺんからつま先まで赤くする女の子。

恥ずかしがってはいるものの、まんざらでもなさそうなのは瞭然だった。

これで多少なりと心象をよくできただろう。
計算通りだった。
92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/25(火) 00:53:00.52 ID:SXaAH/BDO

ミミちぃ「そっ、そうだ! お互い自己紹介しようよ!」

あともう一押しいけるか、と思ったところで同僚に話題を変えられる。

わざわざ必要だろうかと思ったが反対するのも不自然だ。心象の底上げは潔く諦めることにして話題に乗った。

スラスト「ん、そうだね。人探しもするんだし、しておいた方がいいかな」

スラスト「というか人探し手伝うのが迷惑じゃないなら、だけど」

シリカ「い、いえ、迷惑なんかじゃないです!」

シリカ「むしろお二人のご迷惑でなければ……ぜひお願いします!」

手伝うことはどうやら確定してしまったみたいだ。

まあいい。恐縮しきりで向こうが固辞したら時間も惜しいので引き下がるつもりだったが、こうなればせいぜいこの縁を活用しよう。

こういう恩義による縁故は作っておいて損はない。扱いやすくなるし、偶像としての自分に好意を向けるファンとは違ってリスクが低いから。

心の奥の奥で打算を働かせながら互いに自己紹介する。

ほんの少しだけ心がさざめいたのは、女の子の名前を知ったときだ。

シリカ「あの、あたしシリカっていいます!」

女の子――シリカは、晴れやかに笑って名前を告げた。

スラスト「…………シリカ?」

シリカ「はい、シリカです!」

聞き返したが聞き間違いではなさそうだった。

シリカ。さっきまで……このゲームがまだ単なるゲームだったとき、パーティを組んだアバターと同じ名前だ。

同名の別人、だろうか。あり得る話ではあるが見た感じ、目の前のシリカと記憶にあるシリカとで性格面に違いは見受けられない。

姿形が違うし、偶然と言ってしまえばそれまでだが。
何となく同一人物である気がした。

ミミちぃ「どうしたの、アイドルちゃん?」

スラスト「っ……」

同僚に話しかけられてびくんとする。

不意打ちだった。
いつの間にか考え込んでしまっていたらしい。

見れば、シリカも不思議そうな顔をしていた。
93 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/25(火) 00:55:29.45 ID:SXaAH/BDO

スラスト「いや……その、名前も可愛いなあって」

スラスト「あ、あはは……なんか危ない人だね、私」

思ってもいないことを言って誤魔化す。どうにも、らしくない失態だった。

スラスト「そういえば、探してる人ってどんな人なの?」

シリカ「えっと……実は、見た目くらいしか分からないんです」

ミミちぃ「見た目?」

シリカ「はい。それにその、見た目と言ってもゲームのアバターの話で」

驚く。それじゃあ探しようなんてあるのか。同僚も同じように思ったのか、難しい顔をしていた。

ミミちぃ「それはまた……難しい探し人だね」

シリカ「あたしも今になって名前も知らないのに気づいて……」

ミミちぃ「どういう繋がりだったのか、って聞いてもいいかな?」

シリカ「ええと、その」

どうしてかまごつくシリカ。こんな状況になって探す人間だ。相当に親しい仲なのか、あるいは。

シリカが意を決して告白した関係は、意外にも心当たりのあるものだった。

シリカ「このゲームで初めてパーティを組んだ人、です」

シリカ「変な人に意地悪されてるところを助けてもらって……その、」

シリカ「頼れるお姉ちゃん、みたいな人です」

人目も気にせず唖然とした。それは、ひょっとして。

友人の恋愛話を打ち明けられたみたく、にやりと悪戯っぽく笑ってから同僚が尋ねた。

ミミちぃ「何かその人の特徴とかはないの?」

シリカ「えっと……モンスターからドロップした指輪と腕輪をプレゼントし合いました」

ミミちぃ「ふむふむ。他には?」

シリカ「素っ気ないように見えるけど、すごく優しい人……です」

シリカ「この指輪……初めてパーティを組んだ記念でそのお姉さんにもらいました」

壊れ物に触れるような手つきで人差し指に嵌まった指輪を撫でるシリカ。

見えないように嘆息する。もうこれは確定だろう。疑える余地が残されていない。

あのとき、気まぐれであんなことしなければよかった。今になって思う。
後悔の念が襲った。

対照的に、同僚は嬉々として話に聞き入っていた。
94 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/25(火) 00:58:40.23 ID:SXaAH/BDO

シリカ「あたし……悪い子です、お姉さんにひどいことしちゃいました」

しかし楽しそうに話していたシリカの顔が、突如として曇る。
伏し目がちに視線を落とした彼女。頭の横で結われた髪も、しなびたように項垂れていた。

ミミちぃ「え、それってどういう?」

おや、と不思議そうな顔をした同僚の疑問に、シリカがはっとして謝罪する。

シリカ「……ごめんなさい、今のは聞かなかったことにしてください」

話す気はないらしい。同僚もそう言われて詮索する気が失せたらしく、何も聞かなかった。

スラスト「それで、どうやって探そうか? 総当たりでいけば見つかる寸法ではあるけど……」

ミミちぃ「それは、あんまり良い案じゃないかもね」

言わんとするところがわかったのか、同僚は肯定的でない姿勢を見せた。

スラスト「うん、それだとまず時間がかかりすぎるし、一万人近い中から特定するのは難しい」

スラスト「よしんばどの人か分かったとして……」

ミミちぃ「そのとき、どうなってるか分からない……だよね」

シリカ「そんな……じゃあ、どうすれば……」

一名を除き真剣に思い悩む面々。

すべてが筒抜けの自分からすればとんだ茶番劇だが、名乗り出る気はさらさらなかった。
適当なところでそれらしい落ちどころを用意すればいい。
見つけたが色々あって死んでしまった。そんな理由でいいだろう。

スラスト「うーん……」

方策に悩むふりをして、外せなくなってしまった杖でかんかんと石畳を突っつく。
このキャラクターの自然な仕草であったが、逆にそれが裏目となった。
95 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/25(火) 01:01:26.12 ID:SXaAH/BDO

シリカ「…………あ、」

ミミちぃ「どうしたの?」

シリカ「そ、その杖! お姉さんも同じの持ってました!!」

ぎくりとする。そういえば、自分には一つとんでもない特徴があった。望まぬ特徴ではあるし、あれもまた不幸な事故の結果だったが、キャラクターに固執するあまり失念していた。

ミミちぃ「そうなの? っていうかこの杖……なんていうかその、特徴的だねぇー」

シリカ「マジカル☆ステッキ……間違いありません、これです!」

慌ただしく頭を働かす。幸い、ユニークアイテムだとは教えていない。呪われている話はしてしまったが、まだ誤魔化しの効く範囲だと判断した。

ミミちぃ「こんなの持ってるなら……あ、でも装備外してたら分からないんじゃ?」

スラスト「それは大丈夫だと思う。これ、呪われてるから外せないの」

ミミちぃ「の、呪い!?」

呪い、と聞いた同僚がぎょっとする。

シリカ「はい、お姉さんもそう言ってました。だから……」

スラスト「うん。ぐっと絞り込めるよ」

シリカ「わぁっ……!」

シリカが顔を輝かす。希望に満ち溢れた、いい笑顔だ。

一方の自分はというと。内心、頭を抱えたい思いだった。

ただでさえ頭痛の種なのに、こんなトラブルまで運んでくるとは。もう何度も試したが、叩き折れるものなら叩き折ってやりたかった。

ミミちぃ「よ、よかったね」

シリカ「はい!」

呪いを知ったショックから立ち直ってきたらしい同僚が祝う。シリカも、無邪気に喜んでいた。

話し合いの結果、この杖を持った人をさっそく探すことになり、シリカの加わった一行は捜索へと繰り出したのだった。
96 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/25(火) 01:03:33.80 ID:SXaAH/BDO
投下終了です

質問答えてくださった方、本当にありがとうございます
おかげでちゃんと描写に組み込めました

楽しんでいただけたら幸いです
97 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/27(木) 00:01:57.10 ID:qCDjoYnDO
>>1です

更新が滞っていてすみません
なかなか書く時間が取れなくて難航してます
待っている方(いるのか?)、もう少しお待ちください
98 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/27(木) 00:17:10.82 ID:1F5Tl3q7o
待ってますよー
99 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡) [sage]:2012/09/27(木) 00:52:46.25 ID:SB8lev1K0
乙です。ものすごく気体!!
100 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(西日本) [sage]:2012/09/27(木) 02:07:08.83 ID:xeDjOqKzo
ものすごく気体?
>>1の存在がこの上なく空気だって言いたいのか(棒
101 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/29(土) 13:53:35.94 ID:8AqwNY6DO
>>94

修正

伏し目がちに視線を落とした彼女。

伏し目がちに落とされた視線。






スラスト「……ふう。さすがに疲れた」

街やらダンジョンに当たりをつけ、人探しに奔走した一日の終わり。誰もいない宿の一室で人心地つく。

スラスト「序盤の稼ぎで泊まれる宿屋なら……上等かしらね」

ベッドに腰かけてひとりごちる。

最中出くわすモンスターとの戦闘や、NPCからされた頼み事で得たお金。各々が既に稼いでいた分も合わせれば、宿の代金は事足りた。

とはいえ高級な宿とはいかない。

せいぜいが八畳ほどのこじんまりとした部屋だ。
石造りで内装に凝ってもいないから飾り気に欠ける印象。
ただ、清掃は行き届いていているし状況が状況なので、三人とも不満など口にしなかった。

スラスト「にしても……厄介なことになった。あの子がパーティの固定メンバーになるなんて」

一日中駆けずり回っても探し人は見つからない。

見つかるはずもないのだが、先行きの暗い人探しを見越してか、同僚が提案したのだ。これからも三人で行動しないか、と。

もし相手がシリカ以外の誰かなら、自分とて人員を増やすメリットも視野に入れた。

しかし。

あの子が固定メンバーになると決まったとき、自分は何よりも早く嫌だと感じた。

良識と落ち着きを兼ね備えた社会人が理想だったし、妥協するにしても同年代以上だ。

幼いながら整った容姿だから三人揃うと益々目立って煩わしいし、それに。

スラスト「……思ってもムダね」

頭を振るう。全く建設的じゃない感傷だった。無意味極まりない。明日も、救援がなければこの世界でやっていくしかないのだ。

疲れを残さないためにも早く寝てしまおう。いそいそと薄っぺらいシーツにくるまろうとして、

102 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/29(土) 13:57:40.31 ID:8AqwNY6DO
シリカ「アイドルさん、まだ起きてますか?」

アイドル「……。起きてるよ」

ノックの音と一緒に張本人が訪れたことに気づく。
ベッドからは立ち上がっておいた。

入ってもいいかと請われて許可すると、木製のドアが軋みつつひらかれる。

シリカ「夜遅くにごめんなさい……」

開け放たれたドアの向こう。
シリカは、靴ずりの上で所在なさげに佇んでいた。

まだ他の装備に回す余裕がないのだろう。
その格好はパジャマではなく初期の装備、上下共にぴっちりしたタイツを連想させる服だ。

スラスト「気にしてないよ。それより何かあった?」

シリカ「は、はい。それが、ええと」

妙にまごつく。入ってきたシリカはどうしてか枕を抱きしめていて、見るからにそわそわとしている。

もしかして、と思う。だが流石にそれは勘弁願いたかった。

シリカ「一緒に……寝てください」

やっぱり。

挙げ句の果てにもじもじとし出したシリカを目に、内心憮然とする。驚き呆れたのはシリカにではなく、自分の不運にだ。なぜ自分なのか。

スラスト「私でいいの? 同僚じゃなくて?」

遠回しに同僚のところにいけと言う。自分よりも同僚と会話を弾ませていたし、普通に同僚でいいだろう。なぜ自分なのか。

シリカ「……もう寝ちゃってました」

なるほど既に行っていたか。
そういえば、と思い出す。
事務所で合宿のようなイベントがあれば、同僚は真っ先に寝ていた。そんな印象がある。

諦めるしか、ないのだろう。
観念して口をひらく。

スラスト「じゃあ私と寝よっか。おいで」

シリカ「はい! 失礼します!」

できれば失礼しないで欲しいと思いつつも、一人余分に入れるスペースを急場で整え、手招きして迎え入れた。

ベッドに乗り込んでくるぬくもり。
片手ないし両手から常に離れない杖並み、は言い過ぎだが憂鬱にさせるぬくもりだ。
抵抗する訳にもいかず、シーツの中への受け入れを余儀なくされた。

103 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/29(土) 14:16:53.04 ID:8AqwNY6DO

スラスト「はー、あったかいね」

シリカ「はい……あったかい、です」

目と鼻の先で呟かれる弱々しい声。気楽そうな自分に反して、一杯一杯なのが聞いて取れた。

しかし他愛ない会話を繰り返す内、シリカの身体が震えだす。
シーツを通して伝わってくる震えで分かった。
その震えも、時間につれて大きくなっていく。

シリカ「…………」

もぞもぞとシーツの中ですり寄ってくる。
漠然とした不安が押し寄せ、行き場のない感情に翻弄されているのだろう。

赤みがかった茶色の瞳は、すがるものを求め揺れていた。

シリカ「まだ……信じられないです、こんなこと」

シリカ「あたし、楽しくゲームしようとしてたはずで……」

シリカ「たった一万人しかプレイできないゲームができるんだって、すごい……楽しみで」

シリカ「どうしてこんなことになっちゃったんでしょう?」

シリカ「嫌なことも寂しいこともあったけど……まだまだこれからだって、前向きに考えられてたはずなのに」

シリカ「今はもう……できない。嫌な想像ばかりわいてくるんです」

シリカ「もしかしたらお姉さんはもう、って考え出したら止まらない」

シリカ「信じたい、のに……期待、したいのに……」

シリカ「どうしたって全部、全部っ、ダメになっちゃう気がして……っ」

シリカ「ひぐっ……あたし、どうしたらいいですか?」

シリカ「諦めないでがんばって……ぐすっ、もし、もしそれでもダメだったら……っ」

シリカ「あたし、あたし……っ!」

涙ながらに告白するシリカ。
その上擦った声が耳朶を打ち、ぽろぽろと涙が零れ落ちるたび、記憶の中にある幼い自分と重なっていく。

誰もいない居間で咽び泣く自分。
いい子にしていてね、と言い残して帰ってこなかった母を待つ自分。

泣き言ばかりへの自己嫌悪からか、また別の理由か。
潮騒にも似た、不快なむずむずが絶え間なく襲う。

重ね合わせた誰かを哀れみ満足してしまう、代償行為でないと願いたかった。
心理の典型だとかそんな事とは関係なく、忌々しさしか沸き上がらないからだ。
104 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/29(土) 14:19:39.62 ID:8AqwNY6DO

スラスト「はー、あったかいね」

シリカ「はい……あったかい、です」

目と鼻の先で呟かれる弱々しい声。気楽そうな自分に反して、一杯一杯なのが聞いて取れた。

そして他愛ない会話を繰り返す内、シリカの身体が震えだす。
シーツを通して伝わってくる震えで分かった。
その震えも、時間につれて大きくなっていく。

シリカ「…………」

もぞもぞとシーツの中ですり寄ってくる。
漠然とした不安が押し寄せ、行き場のない感情に翻弄されているのだろう。

赤みがかった茶色の瞳は、すがるものを求め揺れていた。

シリカ「まだ……信じられないです、こんなこと」

シリカ「あたし、楽しくゲームしようとしてたはずで……」

シリカ「たった一万人しかプレイできないゲームができるんだって、すごい……楽しみで」

シリカ「どうしてこんなことになっちゃったんでしょう?」

シリカ「嫌なことも寂しいこともあったけど……まだまだこれからだって、前向きに考えられてたはずなのに」

シリカ「今はもう……できない。嫌な想像ばかりわいてくるんです」

シリカ「もしかしたらお姉さんはもう、って考え出したら止まらない」

シリカ「信じたい、のに……期待、したいのに……」

シリカ「どうしたって全部、全部っ、ダメになっちゃう気がして……っ」

シリカ「ひぐっ……あたし、どうしたらいいですか?」

シリカ「諦めないでがんばって……ぐすっ、もし、もしそれでもダメだったら……っ」

シリカ「あたし、あたし……っ!」

涙ながらに告白するシリカ。
その上擦った声が耳朶を打ち、ぽろぽろと涙が零れ落ちるたび、記憶の中にある幼い自分と重なっていく。

誰もいない居間で咽び泣く自分。
いい子にしていてね、と言い残して帰ってこなかった母を待つ自分。

泣き言ばかりへの自己嫌悪からか、また別の理由か。
潮騒にも似た、不快なむずむずが絶え間なく襲う。

重ね合わせた誰かを哀れみ満足してしまう、代償行為でないと願いたかった。
心理の典型だとかそんな事とは関係なく、忌々しさしか沸き上がらないからだ。

シリカ「…………こわい、よぅ」

掠れて途切れ途切れの、消え入るように小さな声が最後。シリカは、時折嗚咽を漏らすだけになった。

気取られないよう息をつく。

楽しくゲームをしたくて。
このゲームができることを楽しみにしていたと、この子は言った。

しかし結果は見ての通り、単なるゲームとはかけ離れた異様なもの。
ごく普通の女の子が楽しむには過酷すぎるゲームだ。

製作者――茅場の言葉を借りるなら『これは、ゲームであっても遊びではない』。そういう事なんだろう。。
シリカの求めていた遊びは、このゲームにはない。

この生々しく陰惨なゲームに、茅場という男はどんな意義を見いだしたのか。

居心地の悪さに気分が淀む。
気づけば、自分の手は勝手にシリカの頭へと伸びていた。
105 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/29(土) 14:21:48.42 ID:8AqwNY6DO

シリカ「あ…………」

シリカのすすり泣く声が不自然に止まる。

シリカ「……アイドル、さん…………」

無言で頭を撫でていた。
シリカから疑問の声が上がったが、それでも喋らず撫で続けた。

無責任な気休めの言葉より、こちらの方が正しい選択だと思った。
この子の純粋な好意を欺いているのなら、なおさら。

それでも名乗り出ようとしなかったのは。

シリカ「お姉……さん…………」

スラスト「………………おやすみ」

ようやく眠りに落ちたシリカを見て言う。

吐息が触れ合うほど間近にある、あどけない寝顔。

どうしてか、心が安らいだ。
106 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/29(土) 14:24:35.59 ID:8AqwNY6DO

生存報告も兼ねて短めですが更新

期待されてるかと思ってたら空気扱いされてたのかくそう!
107 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2012/09/29(土) 16:54:44.98 ID:uG+LaBd7o

アイドルさん呼称が安定しないなww
108 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/29(土) 17:02:31.01 ID:ER8bZ3Vmo
乙。

シリカがアイドル=助けてくれたお姉さんと気付くのはいつかな。
=マジカル☆ステッキがユニークアイテムだと知ったら、だからそう長く隠し通せないような気もするけど。
109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/29(土) 19:52:53.19 ID:8AqwNY6DO

しなびたように項垂れていた

しおれたように項垂れていた



「起きてくれ、もう朝だ!」

明くる朝、気持ちよく寝入っているとシリカ共々馬鹿でかい声に叩き起こされる。

むずがるような声を出して眠気に逆らいながら瞼をこじ開けると、

スラスト「何なの…………?」

ぐにゃぐにゃとした視界に、人の顔らしきものが浮かび上がった。

起き抜けで薄ぼんやりとする意識を急いでかき集め、焦点を結ぶ。
目に映った像は熊のような大男で、面識のある人物だった。

ロレス「約束だ! うちのお嬢様を探してくれ!」

びりびりと空気を震わす声が寝起きの頭にはつらい。
まるで太鼓の演奏を至近で聞いている気分だ。
背丈はレスラーばりの大きさでも糸目で、どこか間抜けた印象のある彼だが、色濃く焦燥を浮かべる姿は真剣だった。

昨日、特別なエリアに行けると知り彼の依頼を引き受けた。
内容は奇しくも人探し。
彼が仕える家のお嬢様が行方知れずなので探して欲しい、ということらしい。

ぶっちゃけてしまうと彼はNPC(ノンプレイヤーキャラクター)、与えられた人格で命令をこなす人形に過ぎないらしく、彼のお嬢様も然り。
なので実のところ、取り立てて急ぐ必要もない。

シリカはすぐ隣で上体だけ起こし、可愛らしい欠伸を漏らしていた。
110 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/29(土) 19:58:56.01 ID:8AqwNY6DO
>>94

二つに結われた髪も、しなびたように項垂れていた。

二つに結われた髪も、しおれたように項垂れていた。




スラスト「宿は教えたけど……まさか乗り込んでくるとは思わなかった」

ロレスに向けて苦笑する。
大体からして、女性の寝室に許可なく通す宿も宿側だ。
まさか強引に押し入ってきたのではあるまいが。
熟睡中に無理やり叩き起こされ、いまいち腑に落ちない心境であった。

ロレス「それは……すまねえと思ってる。ご婦人の寝室に入るなんて許されねえことだ」

ばつが悪そうに頭を掻き、しょんぼりと項垂れるロレス。
独特のイントネーションで話すのは昨日と変わらず、どこか東北に近い訛りがそこかしこに見られる。

無下にはしづらい愛嬌はともかくも、起きてしまった以上は迅速に動くべきだろう。
他のプレイヤーに先を越されたら達成できなくなる類いのクエストかも、とシリカと同僚が言っていた。

ゲーム、中でもオンラインRPGのシステムとは大体どんなものになるのか。
経験がなく、予想もつかない自分にはない発想だったが、言われてみれば頷ける理屈であった。

まだうつらうつらとしているシリカの手を引き、ロレスを引き連れて同僚の寝室へと赴く。

寝室の前まで辿り着いて、何度かノックしてから立ち入る。

自分と同僚の仲、というのも大げさだが、今はそれなりに火急の事態だ。
未だプレイヤーの足並みが揃う気配はないし、無理のない範囲でキャラクターを強化し、生存確率にてこ入れしておくのが最善ではないか。

いざプレイヤーで団結した際、影響力を確保する為にも他に先んじておきたい。
プレイヤーとしての地力がなく、アイドルとしての人気や知名度だけでは危ういから。

長々と語ったが、親しき仲にも礼儀ありという教えを破り、返事も待たず立ち入ったのはそういう理由からだった。
111 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/29(土) 20:01:53.30 ID:8AqwNY6DO

ミミちぃ「…………ほえ?」

一行が中に立ち入っていくと、寝ぼけ眼を擦っている同僚が出迎えた。

乱雑に広げられたシーツにへたりと座り込んでいる。
どこか上の空だ。
翡翠(ひすい)と同じ色彩の瞳はあさってを向いて、はだけた胸元やお腹回りから白く健康的な肌が覗く。

着衣の乱れといい、まさに起き抜けといった風だ。
もしかしたら、ノックの音で目を覚ましたのかもしれない。

スラスト「早く起きて。みんなもう用意できてるよ」

ミミちぃ「ふぇ…………アイドル、ちゃん?」

ぽけっとした声が返される。いまいち要領を得ない様子だ。

艶かしい寝起き姿にロレスは顔を赤くしているし、シリカに至っては苦笑い。

早寝するくせに朝は弱いのか。もう少し時間がかかりそうかと嘆息しかけて、

ミミちぃ「え?」

ミミちぃ「あっ、あ、あ、あ、アイドルちゃん!? それにみんなも!?」

唐突に覚醒したらしい同僚が、打って変わって慌てふためく。

ミミちぃ「え、あれっ? あれっ? みんないつの間に!?」

スラスト「今さっきだよ。ごめん、みんな待ってたから入らせてもらってた」

ミミちぃ「え、えぇっ!? ちょ、ちょっと待って!!」

ベッドから降りてばたばたと支度をしだす。
追い詰められた小動物もかくやという狼狽ぶり。
知られたくないことでもあったのだろうか。
ぶっちゃけどうでもいい。

ミミちぃ「お、お待たせっ……えへへ」

ゲームの中だから身支度は髪を整えるだけで終わったようだ。
化粧品など望むべくもないが、なくとも十分なすっぴん美人。

ピンクのお下げをぶら下げた同僚がみんなの前に立ってはにかむ。
異性であれば思わず視線を釘付けにされていたことだろう。

スラスト「ん、じゃあいこっか」

歩き出す自分のあとをシリカとロレス、同僚がついてくる。
みな異存はないようだ。
ただ、同僚だけちらちらと窺うような視線を飛ばしてくる。鬱陶しい。

陽光が朝から燦然と街を照らす中。
NPCも加わった一行は、人探しついでにクエストに乗り出すのだった。
112 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/29(土) 20:34:50.09 ID:DErcDbZI0
>>108
ユニークアイテムなら他の人は知らないんだから
自分で言わない限り気づかれないと思われ
あと、SAO的には杖とかロッドよりもメイスのほうがいいと思ったのは俺だけかな
113 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/29(土) 23:25:45.71 ID:8AqwNY6DO
ロレス「お嬢様は人や亜人やモンスターの持つ、不思議な力について調べてるんだ。今はきっと北の森にいる」

街を練り歩きながら、ロレスからお嬢様について詳しい話を聞く。

話によると彼女は好奇心旺盛らしかった。学者肌なのかもしれない。

人物像に当たりをつけつつ、身の丈ほどもある細身のロッドを、バトンの要領でくるくると回す。

今日も今日とて呪われた杖だ。
一見して呪いとは無縁のファンシーな外見。
しかし。
鳥を象ったような先端と、その両側からふわりと広がる真っ白な翼、それら見せかけの可愛さに騙されてはならない。

手にしたら最後、梃子でも離れようとしないから。
手のひらを広げようと糊でくっついたみたく接着してくる。

スラスト「……行方が知れなかったはずじゃ?」

ロレス「すまねえ、おれの当てずっぽうなんだ」

彼が最後に見かけたとき、お嬢様は「あとは北の森にいけば……」と呟いていた。そういうことらしい。

がっちりとした体格。
豪快に刈り上げられた橙(だいだい)色の髪の毛といい、無精にされた顎ひげといい。
如何にも男らしい要素が揃っているのに、男臭さは不思議と感じられない。

荒々しさよりも気性の穏やかさが際立つ。
麻の服の地味さや、使い古された感のある茶色い革ブーツが、素朴さに拍車をかけていた。

シリカ「北の森ってどんなところなんですか?」

何気なく問われた質問にロレスはむずかしい顔をした。

ロレス「おっかねえとこだ。凶悪なモンスターがうようよしてる」

ロレス「だからおれもついていく。女の子だけいかせるなんて我慢できねっからな」

判断しづらいが口ぶりからして、三人共女性だったのは思いがけぬ幸運を運んだのか。

彼が使用人として仕えているという屋敷の前を通りがかると、一言断ってから彼は屋敷に入っていった。

自分たちは屋敷の前で待つ。

114 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/29(土) 23:27:36.27 ID:8AqwNY6DO
ロレス「待たせた、じゃあ北の森にいこう」

帰ってきた彼はとても大きな斧を背負っていた。

戦斧と呼ばれる、文字通り戦闘用の斧。その中でも両手であつかう大型のものらしい。

ロレス「そっちの武器はダガーにロッドに……あんたのそれは、トマホークか?」

ミミちぃ「うん、そうだよ。色々便利そうでしょ?」

ロレスが各々の得物を確認していき、同僚の持つ小型の斧に目をつけた。
ナイフほどの大きさで、斬撃や刺突、殴打だけでなく投擲という戦術も選べる、多目的さに磨きのかかった斧らしい。

小型故の優れた携行性、ナイフよりも安価であること、クイックチェンジすれば連続投擲という芸当も可能、となかなかに汎用性の高い武器だ。

ミミちぃ「重さと大きさ的に、盾としては使いづらそうだけどね」

ロレス「いやなかなか良い選択だと思うぞ。重量は、女の細腕にはネックだからな」

武器の談義もそこそこに、北の森へと足を運ぶ。

しかし鬱蒼と植物が生い茂る北の森、その入り口付近に到着した一行が目にした光景は、嬉しい誤算だった。

シリカ「わぁ、けっこう人がいますね」

ミミちぃ「足を運んだ甲斐があったね。これなら……」

ふたりの顔が花咲くように綻ぶ。
緑豊かな場景に、相当数のプレイヤーが交じっている。
命懸けの戦闘も辞さないスタイルのプレイヤーは、全体から見ればまだまだ少ないのだが。

スラスト「初心者の登竜門、みたいなクエストなのかもね」

ロレス「ん? なんの話だ?」

唯一プレイヤーでないロレスだけ話についていけてないが、適当な口上を述べると「まあそんなこともあるんだな」と納得した。

生き生きとしているように見えて、やはりこういう部分は乾いたものを感じる。
何かに無理やり納得させられたような素振りの彼を見て、同僚やシリカも顔を強ばらせていた。

ロレス「よぉし、いくぞ!」

きりっと顔を引き締めて、一声。
ロレスが号令を飛ばす。

初めてこなすNPC主導のクエストの幕が、今まさに切って落とされた。
115 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/29(土) 23:33:33.07 ID:8AqwNY6DO
今日の更新終了

また明日、できたら更新します

他のプレイヤーから装備情報とかサーチされるスキルとかアイテムって登場しなかったですよね?
もしあったら涙目どころじゃない状況になるわけだが……

あったとしてもまあ何とかがんばるぜ!
116 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/30(日) 00:20:28.56 ID:SWsYTnBy0
結婚以外にはなかったはず
ただしPT組むと相手の名前表示されるってのはある
117 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/30(日) 03:06:51.02 ID:tKkUWN2DO
あっと言い忘れました

細身の杖をイメージしてるのでメイスはちょっと合わない、かな?
あれだと棍棒に近いみたいですし
ただ語感としては確かにメイスがしっくりくるかもしれません
118 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2012/09/30(日) 04:37:23.34 ID:vfD2kG7so
メイス「May the force be with you.」(違

一緒に鍛冶屋とか行ったら騒がれてバレそうじゃねww
119 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/09/30(日) 05:55:01.70 ID:iDr10Fso0
リアルアイドル美少女+SAO+欝展開あるとかもう期待しかねえ
120 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/09/30(日) 07:28:48.60 ID:4xJLXyL/o
ローラースケートで登校するタイプの小学生が持っている杖か

なついな
121 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/30(日) 08:20:36.15 ID:pttMTSAIO
>>112
そこがポイントなんじゃね
122 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/30(日) 08:57:01.58 ID:8sU30Q6Jo
鍛冶屋NPCとか上位?鍛冶スキル、あるいはそのものずばりな鑑定スキルあたりで
ユニークかどうかとか含めてアイテム鑑定できそうなイメージはあるけどどうなんだろ。
123 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/30(日) 19:46:00.55 ID:tKkUWN2DO
「ギギィッ」

丸々と肥え太った醜悪な化け物が、森のただ中で行く手を阻む。

成人男性並みの体長、黒く濁り切った瞳。
緑色の体皮を持つ化け物は、目が合った人物――シリカを目標に定めると、わき目も振らず駆け出す。

化け物は丸腰。間合いの詰まっていない間はリーチの差を生かし、ダガーとトマホークの投擲。次々と化け物に降り注ぐ。

横合いからロレスが斧を振り回す。それでも化け物は執拗にシリカを狙い、どすどすと走り続ける。そして、化け物がシリカを間合いに入れた刹那――――、

スラスト「スイッチ!」

シリカは飛びじさり、後ろ手に控えていた自分が飛び出す。
絶妙のタイミングだった。
あわや直撃かというところで化け物の腕は空を切り、お返しとばかりにロッドの殴打が炸裂。
攻撃準備中の化け物をめった打ちにした。

続いて戦斧、トマホークの直接攻撃、そして。
敵が大きく仰け反った瞬間、ダガーも加えての一斉攻勢。
追撃に次ぐ追撃でたこ殴りにされた化け物は崩れ落ち、ついには、青い光の粒子となって四散した。

シリカ「やったぁノーダメージですよっ!」

ミミちぃ「ふっ、戦いの勝利はいつもわたしを虚しくさせる……てね? やったぁーっ!!」

ロレス「元気はいいことだ、この調子でいこう」

ぴょんぴょんと跳ねて喜ぶ二人に、ロレスが温かい視線を送っている。
パーティの雰囲気は上々であった。

ロレス「にしてもたまげた。ゴブリンの攻撃を全部読み切っちまうとはなあ」

シリカ「アイドルさんすごいです! またレベル上がりましたし、もっと楽になりますね!」

スラスト「職業柄リズム感はいいから」

称賛の声に謙遜もなく返す。

戦闘中、自分の指示でみんなに動いてもらっていたのだが、やったことは単純だ。
ゴブリンが一定周期で攻撃行動に移るタイミングを計り、指示で教えただけ。

今回の場合、『スイッチ』の声を聞き取った瞬間がシリカにとって、最も効果的なタイミングとなるよう調整した。

ミミちぃ「もー、絶対音感のアイドルちゃんが言うとわたしに対する嫌みだよー?」

スラスト「ふふ、ごめんねー」

みんなで投擲した武器の回収に励む合間、軽口を叩き合う。

今のレベルはみんな揃って六。
レベルの概念が分からないロレスは別として、順調な滑り出しに思える。

今ちょうど倒した化け物――ファット・ゴブリンは初見こそ高い攻撃力に苦戦したものの、今や単体で遭遇すれば敵じゃない。
連携とレベルアップの恩恵だ。

肝心のお嬢様はいまだ影もつかめていないが、連戦の消耗は今のところ無きに等しかった。
124 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/30(日) 19:48:20.37 ID:tKkUWN2DO

スラスト「ねえロレス、お嬢様のいそうなところに当ては?」

ロレス「いや、さっきから言ってるけど分からねえんだ……」

ただ、全く当てもなく森をさ迷うのも焦れてきた。

それなりに広大な森だ。
軽々しく全域の踏破なんてできそうにない。
もしお嬢様が移動するというなら、お手上げしたいレベルの厄介さ。

手がかりを求めてロレスに聞き込むが、念のため繰り返し聞いてみても結果は芳しくなかった。

ミミちぃ「手がかりはなし、かぁ……」

スラスト「そもそもシリカの『お姉さん』探しが本題だからね。森に散ったプレイヤーをもう少し見てみよう」

シリカ「皆さん、あたしのためにごめんなさい……」

ミミちぃ「気にしない気にしない! レッツ・ポジティブシンキング、だよ!」

スラスト「……気にやまなくても大丈夫。私たちが好きでやってるんだから」

表情に暗い影を落とすシリカ。
さっきまでの快活な笑顔が見る間に消え失せ、責任まで感じている事に思うところはあったが、努めて無視する。

シリカ「でも、」

ミミちぃ「ん? あれ、何かあそこ人集まってるね」

ミミちぃ「ちょうどよかった。さ、いこう?」

シリカ「は、はい……」

ロレス「北の森にこんな人がいるなんてめずらしいなあ……」

シリカの手を引っ張っていく同僚。ロレスが、のしのしと後を追う。

スラスト「…………」

少し遅れて、三人に続いた。

125 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/30(日) 19:50:20.58 ID:tKkUWN2DO

「オイどうすんだよ」

「いや、無理だろあれは……」

「けど、行ってないとこなんてもうあの奥しかないぞ」

草藪と草藪の合間を縫ってできた、一時的なたまり場。
そこでは十数名ばかりのプレイヤーが、ああでもないこうでもないと話し合っていた。

歩み寄ってくる同僚や自分を認めると案の定、彼らはざわめき出した。

スラスト「こんにちは、どうかされたんですか? 皆さん集まって話し込まれてたみたいですけど」

「この先にモンスターが異様に集まってるんです。散ってくれないかと待ってたんですが、動く気配がなくて……」

先陣を切って話しかけると、一人が説明にしてくれた。
大半は騒ぎ立てたり、記念にと話しかけてきたりする。
こればかりは職業柄仕方のないことだ。あしらうのに手間取ったが、きっちりと相手した。

スラスト「だって。どうする?」

ミミちぃ「んー……みんなここで足止め食らってるんなら、行く必要ないよね?」

スラスト「うん」

同僚の言う通りだ。
自分たちの目的はあくまで『お姉さん』探し。
危険なだけの場所にわざわざ足を踏み入れる必要はない。

自分個人としても、他に先んじたいとは思ったものの、可能性の低い賭けには乗りたくない。
ざっと二十ほどのモンスターがたむろっているという話だ。
冗談じゃなかった。

「諦めるしかないか」

「ま、これは流石にな……」

他のプレイヤー達も半ば諦めかけているし、撤退すべきかもしれない。

結局、解散して思い思いの場所に行く。そんな段取りになったようだ。

だが、そのとき。
126 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/30(日) 19:54:39.60 ID:tKkUWN2DO

「あれ、さっきと地形変わってないか?」

どきっとする言葉が誰かの口から吐き出された。

「は? いや、気のせいだろ」

「疲れてるんじゃないか? 同じパーティの奴、帰り道気をつけてやれよ」

「……待て、俺もさっきまでと違う気がする」

「おいおい、大丈夫かよ」

雲行きがあやしい。

周囲一帯を見回す。
いや、まさか。
もう一度。まんべんなく視線を這わせていく。
しかし、

スラスト「嘘……本当に変わってる」

森の木々が描く輪郭はたしかに異なっていた。

ミミちぃ「ほ、本当に……?」

スラスト「……うん、私の記憶違いじゃなければ」

ミミちぃ「それってまず間違いないよね……」

自分の記憶力の高さは割と有名だ。
クイズ番組が隆盛を振るっていた頃、幾度にも渡る出演で周知されている。
自分の記憶術の謎に迫る、なんてイロモノ企画も組まれたくらいだ。

「お、おい……アイドルさんまで違うって言ってるぞ」

「いやいや待てよ、シャレになんないって」

図らずもやり取りを盗み聞いてしまったプレイヤーが、不安そうにひそひそ声を交わす。

シリカ「え、ええと?」

瞬く間に疑惑が本格化していくさなか、シリカはいまいち状況を飲み込めていなさそうだ。

スラスト「大丈夫だよ」

きょろきょろとして戸惑っているシリカの手を取り、ぎゅっと握りしめた。

対面に佇むシリカの両手を、両の手のひらで包み込むようにして。

くりっとして赤茶けた瞳を穏やかに見つめる。

シリカ「は、はい……」

安心したのか、ゆっくりと身を預けてくる。
ぽふん、と浅葱色の髪の毛に顔がうずまる。
ふわりと緩めのウェーブがかかった、腰まで届く長い髪だから丁度よかった。

これで一先ずは暴発する危険も薄れただろう。
この状況下で貴重な戦力を遊ばせておく余裕はない。

こちらのやり取りを覗き見た数人のプレイヤーが赤面しているが、なんだ。そんな要素あっただろうか。

そんなことより。
シリカをそっと引き剥がし、提案した。
127 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/30(日) 19:58:23.89 ID:tKkUWN2DO

スラスト「皆さん、この状況ですし脱出するまで協力しあいましょう」

居合わせる面々を見渡す。
この状況では致し方ないだろう。誰も彼もそんな顔をしていた。

ロレス「まずいな……人があんまり大勢乗り込んできたから、ヌシの気が立ってるのかもしれねえ」

ミミちぃ「ヌシ?」

ロレス「この森を支配してるっていうモンスターだ。生粋の戦士だって話だが、不思議な道具でまやかしをかけてくるらしい」

少し離れたところで並び立っている二人が話し合う。

なるほど。どうやらボスモンスターみたいだ。

今更になって言うんじゃない感が半端ないものの、貴重な情報。参考にしたいところだった。

「あの人何者?」

「やけに詳しいな……」

スラスト「あの人はNPCですよ」

正体を告げると、納得したような空気が全体に広がった。

「ああ、どうりで」

「ありがたい情報だ」

「さすがアイドルさん!」

何から何まで暗中模索する羽目になるのか。
そう不安がっていたプレイヤー達は、わずかに緊張を和らげた。

「にしても、話聞いた感じじゃプレイヤー数の過多が原因か?」

「みたいだな。とりあえず迂闊には動かない方がいいか?」

「ううむ……」

行動の指針に思い悩む。
自分も考えてはいるが、いまいちイメージがつかない。

典型的なパターンを知っているのといないのでは、発想段階で差がついてしまうらしかった。

スラスト「とりあえずレギオン、というのを組んでみませんか。協力に打ってつけだと思うんですが」

通常、パーティの定員は最大四人。
それ以上の人数がシステム的に味方扱いされるには、レギオンというものを組まなければならないらしい。

分かりやすく結束できて今には適した選択だと思う。
しかし、事態はそう思い通りには運ばなかった。
128 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/30(日) 20:01:08.25 ID:tKkUWN2DO

「アイドルさん、アイドルさん」

スラスト「はい?」

「レギオンが組めるのはレベル四以上からなんです。だからそれは……」

そういう縛りがあったのか。まざまざと知識不足を実感させられる。
いざ実戦の段で提案してたら混乱させてしまっていたところだ。

だが、

スラスト「レベル四以上なら問題ないんじゃ?」

自分達のレベルは六。
他のプレイヤーも問題ないだろう。
日中には積極的に行動しているとは言え、レベル上げもかかりきりという訳ではない。

自分としては、ごく普通の理屈で話したつもりであったが、

「……え?」

議論していたプレイヤーが、目をぱちくりとさせる。
近くで聞いているプレイヤー達も『ん?』という顔をした。

「えっと、アイドルさんは今レベルはいくつなんですか?」

スラスト「六です。私のパーティは全員同じレベルですよ」

「六!? ちょっと待って、早すぎませんか!?」

スラスト「はい?」

反応に窮して首を傾ぐ。
早すぎる、ということはないはず。

だが、周りもレベルを知るや否や、色めき立った。

「オイ、六って」

「普通に俺らん中で最高レベルじゃないか?」

「俺とかまだ三なんだが……」

「安心しろ、俺も三だ」

想定外な評価だった。
これには少したじろぐ。

それにしても、どういうことだろう。

スラスト「六はかなり高いレベルなんですか?」

「そりゃもう! いやまあ、βテスターには十レベルとかもいるらしいですが」

「全体的に見て、現時点でトップクラスなのは間違いないっすよ」

スラスト「へえ……」

一体どんなカラクリなのか。
口から出まかせ、ということは考えにくい。

どちらにせよ随分と認識を改めさせられた。
129 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/30(日) 20:06:42.74 ID:tKkUWN2DO


スラスト「それじゃあどうしましょう?」

「うーん」

「組める奴だけでもレギオン組んだ方がいいんじゃね?」

「レベル四以上何人いる?」

「えーと、イチ、ニ……」

レベル四以上は自分達を含め七人。
その七人でレギオン結成し、この中では本隊としてメインに据える。
それで残りの人員がサポートに回ろう、という話になった。

矢面に立たされるのは気が進まないが、これも致し方ない。
セオリーで言えば最も適した戦い方なのだから。
感情論はみな対等である以上、話を紛糾させる訳にもいかなかった。

「じゃあ行きましょうか」

スラスト「はい。まずダンジョンからの脱出が最優先、クリアしなければ出られないようなら速やかに攻略、ということですよね?」

「夜になるとまずいっすからね」

「っても焦りすぎも禁物ですけどね」

議論して決めた方針を確かめ合う。
見た感じ、異存のある人もいないようだ。

緊迫した面持ちのプレイヤーが居並ぶ中、誰からともなく足を踏み出すのだった。
130 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/30(日) 20:16:01.29 ID:tKkUWN2DO
投下終了

鍛冶と鑑定関係は鬼門ですね
早めにバラす方向も考えてましたからもうちょっと練って決めます
131 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2012/09/30(日) 20:32:54.20 ID:4emh29Gho
レギオン…?
フォースじゃなくてですか?
あえての独自解釈ならすみません。
132 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/30(日) 20:40:00.33 ID:8sU30Q6Jo
乙。

リアルでの知名度的にカリスマはある上に、レベルも結構高くなってるとなれば
意外にも攻略組の中心メンバーになる可能性も出てきたかも?
まあまずはこのクエストを無事突破できるかだけど。
133 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/30(日) 20:47:18.85 ID:tKkUWN2DO
ってやっべええええ

レベル4がどうこうって下りAWの話だ

ってかレギオン使いどころちげえ……
失敗した失敗した失敗した
134 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2012/09/30(日) 20:52:21.69 ID:vfD2kG7so
AWじゃね?って思ったらやっぱりそうかwwwwww
普通にレイドで良いんじゃ
135 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/09/30(日) 21:01:10.54 ID:8sU30Q6Jo
あれ、そういやSAOは1パーティ最大6人だったような?
136 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2012/09/30(日) 21:08:11.38 ID:4emh29Gho
レイドだっけ?
ゲームごとに呼称が違うからごちゃごちゃだ
設定スレで聞いてみる。
137 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) [sage]:2012/09/30(日) 22:08:22.60 ID:NiscYbMGo
複数パーティがレイドで、SAOのギルド=AWのレギオンであってるはず・・・?
138 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/30(日) 22:36:15.92 ID:tKkUWN2DO

1です

>>125ー129
ここらのおかしいところはとりあえず

複数パーティの呼称 レギオン→レイド

レイドパーティの結成にレベル制限あり→なし

で脳内変換頼みます

パーティの定員 六人?八人?

書き直して再投下した方がいいかな……
139 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/01(月) 05:58:19.77 ID:6PrWWZ5DO

>>1です

内容変えて再投稿することにしました

なので少し時間いただきます
自分のミスやら認識不足やらで本当すみません
140 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/01(月) 20:46:20.16 ID:6PrWWZ5DO
>>123
「ギギィッ」

丸々と肥え太った醜悪な化け物が、森のただ中で行く手を阻む。

成人男性並みの体長、黒く濁り切った瞳。
緑色の体皮を持つ化け物は、目が合った人物――シリカを目標に定めると、わき目も振らず駆け出した。

化け物は丸腰だ。
間合いが離れている間はリーチの差を生かした、惜しみない投擲。絶対数こそ少ないものの、ダガーとトマホークが次々と降り注ぐ。

横合いからロレスが斧を振り回す。それでも化け物は執拗にシリカを狙い、どすどすと走り続ける。そして、化け物がシリカを間合いに入れた刹那――――、

スラスト「スイッチ!」

シリカは飛びじさり、後ろ手に控えていた自分が飛び出す。
絶妙のタイミングだった。
あわや直撃かというところで化け物の腕は空を切り、お返しとばかりにロッドの殴打が炸裂。
攻撃準備中の化け物をめった打ちにした。

続いて戦斧、トマホークの直接攻撃、そして。
敵が大きく仰け反った瞬間、ダガーも加えての一斉攻勢。
追撃に次ぐ追撃でたこ殴りにされた化け物は崩れ落ち、ついには、青い光の粒子となって四散した。

シリカ「やったぁノーダメージですよっ!」

ミミちぃ「ふっ、戦いの勝利はいつもわたしを虚しくさせる……てね? やったぁーっ!!」

ロレス「元気はいいことだ、この調子でいこう」

ぴょんぴょんと跳ねて喜ぶ二人に、ロレスが温かい視線を送っている。
パーティの雰囲気は上々であった。

ロレス「にしてもたまげた。ゴブリンの攻撃を全部読み切っちまうとはなあ」

シリカ「アイドルさんすごいです! またレベル上がりましたし、もっと楽になりますね!」

スラスト「職業柄リズム感はいいから」

称賛の声に謙遜もなく返す。

戦闘中、自分の指示でみんなに動いてもらっていたのだが、やったことは単純だ。
ゴブリンが一定周期で攻撃行動に移るタイミングを計り、指示で教えただけ。

今回の場合、シリカが『スイッチ』という声を聞き取った瞬間、最も効果的なタイミングとなるよう調整した。

ミミちぃ「もー、絶対音感のアイドルちゃんが言うとわたしに対する嫌みだよー?」

スラスト「ふふ、ごめんねー」

みんなで投擲した武器の回収に励む合間、軽口を叩き合う。

今のレベルはみんな揃って六。
レベルの概念が分からないロレスは別として、順調な滑り出しに思える。

今ちょうど倒した化け物――ファット・ゴブリンは初見こそ高い攻撃力に苦戦したものの、今や単体で遭遇すれば敵じゃない。
連携とレベルアップの恩恵だ。

肝心のお嬢様はいまだ影もつかめていないが、連戦の消耗は今のところ無きに等しかった。
141 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/01(月) 20:46:58.88 ID:6PrWWZ5DO

スラスト「ねえロレス、お嬢様のいそうなところに当ては?」

ロレス「いや、さっきから言ってるけど分からねえんだ……」

ただ、全く当てもなく森をさ迷うのも焦れてきた。

それなりに広大な森だ。
軽々しく全域の踏破なんてできそうにない。
もしお嬢様が移動するというなら、お手上げしたいレベルの厄介さである。

手がかりを求めてロレスに聞き込むが、結果は芳しくない。念のため繰り返し聞いてみても同様だった。

ミミちぃ「手がかりはなし、かぁ……」

スラスト「そもそもシリカの『お姉さん』探しが本題だからね。森に散ったプレイヤーをもう少し見てみよう」

シリカ「皆さん、あたしのためにごめんなさい……」

ミミちぃ「気にしない気にしない! レッツ・ポジティブシンキング、だよ!」

スラスト「……気にやまなくても大丈夫。私たちが好きでやってるんだから」

表情に暗い影を落とすシリカ。
さっきまでの快活な笑顔が見る間に消え失せ、責任まで感じている。そう見えるのはポーズではないだろう。

無知で怖がりで、人を利用してのけるだけの強かさもない、ただの子供。当然だ。それが普通で、そしてそれを自分は。

シリカ「でも、」

ミミちぃ「ん? あれ、何かあそこ人集まってるね。パーティかな」

ミミちぃ「ちょうどよかった、武器見せてもらおうよ。さ、いこう?」

シリカ「は、はい……」

ロレス「北の森にこんな人がいるなんてめずらしいなあ……」

シリカの手を引っ張っていく同僚。ロレスが、のしのしと後を追う。

スラスト「…………」

少し遅れて、三人に続いた。

142 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/01(月) 20:49:16.26 ID:6PrWWZ5DO

「まいったな」

「どうする?」

「いや、無理だろあれは……」

クライン「ちぇっ、後ぁここだけなのによぅ……」

草藪と草藪の間隙にうまく陣取った集団が見えてくる。
全員男性で六人組のようだ。

近づくにつれ向こうも気づいたのだろう。
歩み寄ってくる自分達に視線が向き、案の定ざわめき出していた。

スラスト「こんにちは。どうかされたんですか? ここで話し込まれていたようですけど」

「お、おいアイドルさんだぜ」

「噂は聞いてたけど初めて見た……」

「写メ写メ……って端末ないんだった!」

先手を切って話しかける。一見してわかるが、呪われた杖の持ち主はいない。
大きさからしてぱっと見れば十分なのだ。

クライン「あ、あっあっ、アイドルさんか!? ほっ、本日はお日柄もよく……」

一人が前に進み出て、口上を述べる。リーダー格なのだろう。交渉の相手を彼に定め、おもむろに彼の手を取った。

スラスト「あはは、そんなに緊張なさらないでください」

嫌みにならないよう笑いかける。
本来なら彼の口上に言及したいところだが、それは酷というものだろう。

なんにせよ、装備も確認できたし長居は無用。
適当なところで会話を切り上げようと思っていると、
143 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/01(月) 20:52:37.18 ID:6PrWWZ5DO

「……あ、これちょうどいいんじゃないか?」

「ん?」

「アイドルさん達誘えばいいじゃん」

「けどアイドルさん達入れても厳しくないか? あれざっと見て二十はいたぜ」

スラスト「ええと、何かお困りでした?」

彼らは仲間内で何事か話し出した。
話の要点が分からず、首を傾ぐ。

疑問にはリーダー格らしき男が答えてくれた。

クライン「いや、実はこの先にモンスターが異様に溜まってるんすよ。
ソイツら倒したいんすけど、六人ぽっちじゃ歯が立ちそうになくて」

彼はクラインと名乗り、困り顔で説明した。
どうにも、野武士というか、江戸や明治の浪人のイメージがついて回る容姿をしていたが、そう粗野な人物ではないようだ。

説明と先ほどの話からかんがみるに、協力を求めているのだろうか。

通常、パーティの定員は最大六人。
それ以上の人数がシステム的に味方扱いされるには、レイドという、複数のパーティを纏めるシステムに頼るしかない。

クライン「んで、よかったらレイド組んでくれませんか?」

スラスト「うーん」

クライン「厳しいっすかね?」

考え込む自分を見て訊いてくる。

スラスト「すみません、その前に一つお尋ねしたいんですけど」

この先に進んだプレイヤー、もしくは『お姉さん』らしき人に心当たりはないか。
手に持ったロッドを軽く持ち上げて話すと、

クライン「いや……ないっすね。独創的なデザインだから、見てたら覚えてるだろうし」

当然の如く、ロッドの持ち主に心当たりはないと返される。
先に進んだプレイヤーも居るかわからない、とのこと。

ミミちぃ「んー……人探しするんなら他の場所探した方がいいよね」

スラスト「うん。お姉さんがいそうだって話もないし、あえて踏み込む必要はないかな」

自分達の目的はあくまで『お姉さん』探し。
自分個人としても、乗り気ではなかった。

他に先んじておきたいとは思ったが、無闇にリスクの高い賭けをする気はない。
この先にはざっと二十体以上モンスターがいるという話だ。
冗談じゃなかった。
144 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/01(月) 20:55:34.34 ID:6PrWWZ5DO

スラスト「申し訳ないんですが……」

シリカや同僚と連れ歩いている手前、引き受ける訳にはいかない。

そう判断して断る旨を伝えようとすると、クラインは鷹揚に笑った。

クライン「ああ、いや。気にしなくていいっすよ。俺らも迷ってるところだったし」

スラスト「……そうですか? それじゃあ」

またどこかで、とでも言おうとして。

スラスト「――――え?」

違和感。
先ほどまで見えていた景色と今の景色、両者に微かな違いを感じる。

それは木々の描く森の輪郭だったり、路傍に転がる石や葉っぱだったり。
細やかな違いではあるが、こうではなかったと訴えかける感覚を見逃せない。

間違い探しの絵でも見せられている気分だった。

クライン「ん? どうかしたんすか?」

スラスト「地形が……変わってる」

クライン「へっ? ハハッ、んな馬鹿、な……?」

最初は笑って取り合おうとしなかった彼だが、言われて見渡し、そして顔を強ばらす。

「地形? 別に変わってなくないか」

「いや、よく見ろって。あそこにあんな茂みなかった」

「よく分からんな……」

シリカ「同僚さん……わかりますか?」

ミミちぃ「あ、あはは、記憶力ってあんまり自信ないんだよね……」

皆の意見は分かれていた。
どちらかというと疑う人の割合が多く、ともすれば全くぴんとこない人もいる様子。しかし、

ミミちぃ「アイドルちゃんアイドルちゃん、それって本当なの?」

スラスト「こんなときに冗談は言わないよ」

ミミちぃ「アイドルちゃんがそう言うなら相当だよねぇ……」

「……アイドルさんってたしか」

「ああ、記憶力めちゃくちゃ良いって話だよな」

「でもなあ……」

自分が太鼓判を押したお陰か、何人かは意見に変化の兆しが見え出す。

自分の記憶力の程は周知されている。
以前、隆盛を誇っていたクイズ番組の影響であり、記憶術の謎に迫る、なんて色物企画まで組まれたくらい。
自分としても、その精度には多少の自信がある。

あまりに唐突な状況の変化だ。まさか、という一抹の疑いは拭い切れていなかったが、保険はかけておきたかった。

145 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/01(月) 21:00:02.21 ID:6PrWWZ5DO

スラスト「私としても半信半疑なんですが……何か、条件が成立してしまったのかもしれません」

クライン「……かもしれねえ」

肯定的な言葉を口にするクライン。
その顔は、どうにも嫌な予感がする、と言いたげであった。

クライン「なんの対策もなしってわけにゃあいかねえか……」

スラスト「念を入れて街か、見覚えのある地点までご一緒するのが無難そうですね」

クライン「そうっすね。ちょっとメンバーに同意取ってきますわ」

こちらも、同僚とシリカに同意を取る。二人とも賛成のようだ。

クライン「こっちはオッケーでした、アイドルさん達は?」

スラスト「こちらも大丈夫でした」

この状況では致し方ない。誰も彼も、そんな顔をしている。

ロレス「まずいな……人があんまり大勢乗り込んできたから、ヌシの気が立ってるのかもしれねえ」

ミミちぃ「ヌシ?」

ロレス「この森を支配してるっていうモンスターだ。生粋の戦士だって話だが、不思議な道具でまやかしをかけてくるらしい」

少し離れたところで二人が話し合う。

なるほど。どうやらボスモンスターみたいだ。

今更になって言うんじゃない感が半端ないものの、貴重な情報だ。参考にしたいところであった。

「あの人何者?」

「やけに詳しいな……」

スラスト「あの人はNPCですよ」

正体を告げると、納得するような空気が全体に広がった。

「ああ、どうりで」

「今はとにかく情報が欲しいからありがたいな」

「さすがアイドルさん!」

何から何まで暗中模索する羽目になるのか。
そう不安がっていた皆の緊張が、わずかに和らぐ。
146 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/01(月) 21:01:48.73 ID:6PrWWZ5DO

クライン「あれNPCだったのか。見た目が日本人離れしてるわけだ」

スラスト「そちらはNPCと来たわけではないんですか?」

森の中で巡り合ったプレイヤーに話を聞いているが、NPC随伴だと話す人は見られなかった。

クライン「いや、いないっすね。連れてるの見るのアイドルさんらが初めてですし」

アイドル「私達は人を探せと言われてきたんですけど、そちらは何でした?」

クライン「指定アイテムの採取、そこからして違うんすねぇ……」

この森での目的について尋ねると、高い頻度でばらばらの回答が得られた。

アイテム採取、モンスター討伐、物を渡すつかい、など多岐に渡り、中には自分達とは別の人探しクエストも見かけるほどだ。

スラスト「とりあえず、情報交換は歩きながらしましょうか」

クライン「うっす。おいオメーら、いくぞ!」

応、と元気なかけ声を返す男性プレイヤー達。

ミミちぃ「一気に男の比率が上がったねぇ〜」

スラスト「男の人相手は気後れする?」

ミミちぃ「うーん、そういうわけじゃないけど……あ、でもある意味そうかなぁ」

スラスト「へえ? 交際するときには私にも教えてね」

ミミちぃ「しないよ!!」

真っ赤な顔で否定する同僚にからからと笑う。
と、シリカの方を見やると、不安と緊張の入り交じった表情で佇んでいた。

147 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/01(月) 21:06:28.05 ID:6PrWWZ5DO

スラスト「……。大丈夫、シリカ?」

シリカ「は、はい……」

歩み寄り、話しかける。返事とは裏腹に、大丈夫でなさそうな緊張ぶりだった。
やはりまだ小さいし、二日目で慣れないうちからこんな状況になれば、不安にもなるだろう。

スラスト「無理、したらダメだよ。辛かったら休もう?」

シリカ「いえ、足手まといにはなりたくないですから……」

シリカの身長に合わせて屈み、目を覗き込むようにして話す。だがシリカは、気丈に振る舞い自分の身を省みようとしない。

シリカ「あっ――――」

抱き寄せる。甘えたがったり、甘えだからなかったり、不安定な子だ。この状況、本人の年齢を考えれば詮ないことだが、暴発してしまうのは、困る。
貴重な戦力。遊ばせておく余裕はないのだ。

スラスト「遠慮なんてしなくていいんだよ」

シリカ「あ……、うう……」

優しく、刺激してしまわないよう声をかけた。

なすがままだったシリカが背中に手を回してくる。そして、ぽふん、と自分の髪に顔をうずめた。腰まで届くふわっとした髪だ。緩いウェーブがかかっているから、そうするのに丁度良いあんばいだったかもしれない。
淡く、微笑んだ。

スラスト「じゃあいこっか」

シリカ「……はい、あの」

スラスト「シリカは何にも悪くない。だから、大丈夫」

謝ろうとするような素振りだったので、先んじて言う。
この話はおしまいとばかりに踵を返し、準備の整った皆のところへ急いだ。
148 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/01(月) 21:09:46.67 ID:6PrWWZ5DO
スラスト「お待たせしました」

クライン「おう、気にすんな……気になさらないでください?」

スラスト「くすっ、話しにくいなら敬語、使わなくていいですよ」

クライン「そりゃありがてえ! 正直むずかゆくて仕方なかったんだよなぁ!」
助かったと笑うクラインに笑みを深めた。

「……あれはやべぇな」

「ああ、女同士でもあれはやべぇ」

「端末があったら思わず保存してた」

「……ふぅ」

クラインの奥手で赤面しているプレイヤー達に首を傾ぐ。

スラスト「後ろの人達、どうかしたんですか?」

クライン「ああ、ありゃ病気だ。たぶん害はないから安心してくれ」

スラスト「はあ……」

腑に落ちないものがあったが、棚上げしておく。さっさと出立してしまおう。

スラスト「じゃあいきましょうか」

クライン「おうっ、んじゃいくか」

足並み揃えて歩きだす。
即席パーティの雰囲気はどこか和やかだった。

149 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/01(月) 21:12:13.41 ID:6PrWWZ5DO
ロレス「この森はずっと昔からあった訳じゃないんだ。数十年前に天変地異が起こって、それからだ。痩せていたこの土地に緑が溢れだしたのは」

ミミちぃ「何か秘密があるの?」

ロレス「詳しいことは何もわかってねえんだ。ただ……子供だった頃、寝物語で遥か異界に繋がってるって話を聞いたことがある」

道中、ロレスからの話を耳に入れながらせっせと進む。
不思議とモンスターには出会うこともなく、平和な時間が流れていた。

「ここのボスってどんなタイプのモンスターなんだろうな」

「ビーストかプラントってところか? 亜人系の線も捨てきれないが」

「ああ……美少女三人に同行できるとか最高だ」

「しかも内二人は人気アイドルだぜ? なんかヤバいって分かってても気緩んじまうよな……」

「俺はむしろあのちっちゃい子が」

「お前……それはないわ」

「ロリコンは病気だな」

「ちょっ! 他の二人だって見様によっちゃロリだろ?」

不愉快指数をじわじわと刺激する会話が繰り広げられている。

最初のボスモンスター論議はともかく、残りは何なのだろう。危機感が致命的に足りていない。まずロリじゃない。

怪しげな目で見てくる男が怖いらしく、シリカは自分からついて離れない。

大丈夫かともの申したく集団だったが、ぴりぴりするよりまし、なのだろうか。

ミミちぃ「他にもう知ってることはない?」

ロレス「う〜ん、ちょっと思いつかねえなあ」

ミミちぃ「そっかぁ……」

ミミちぃ「じゃあさ、お嬢様のこともっと教えて?」

ロレスからの情報も打ち止めなのか、単に今は引き出せないだけか。

頭をボリボリと掻くロレスに同僚はがっくりし、別の話題を振った。
150 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/01(月) 21:14:52.43 ID:6PrWWZ5DO

ミミちぃ「他にもう知ってることはない?」

ロレス「う〜ん、ちょっと思いつかねえなあ」

ミミちぃ「そっかぁ……」

ミミちぃ「じゃあさ、お嬢様のこともっと教えて?」

ロレスからの情報も打ち止めなのか、単に今は引き出せないだけか。

頭をボリボリと掻くロレスに同僚はがっくりし、別の話題を振った。

ロレス「そうだなあ……」

ロレス「お嬢さまはとても家族思いな方だ。今お調べになってることだって奥さまのため。
手が動かなくなって大好きな編み物ができない奥さまを心配されて……」


スラスト「…………」

シリカ「……アイドルさん?」

スラスト「ん、何?」

シリカ「顔色が悪いですけど……」

スラスト「慣れない環境で疲れてるのかな。心配かけてごめんね」

シリカ「いえ……無理、しないでくださいね」


ミミちぃ「へぇっ、いい人なんだね!」

ロレス「ああ、本当にお優しい方だ。おれ達使用人にまで気を配ってくださって……」

ロレス「水仕事で手荒れを気にしてた女の使用人に、ホシツする薬剤までお作りになった。男は、冬は冷え込むからとマフラーや手袋をいただいた」

ロレス「おれ達使用人は、お嬢さまのところで働けることを本当に誇りに思ってるんだ」

ロレスは、お嬢さまに関することをよく喋った。
楽しそうに、そして誇らしげに。
そこからは掛け値のない親愛の情が見て取れた。

とそのとき。
円状に散開して周辺の警戒に当たっていたプレイヤーが叫ぶ。
151 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/01(月) 21:16:40.25 ID:6PrWWZ5DO

「あっちの方に何か、洞窟みたいなのが見えますよ!」

隊列の外縁に陣取る彼の指差す先を目で追うと、木々に隠れて分かりづらいが確かに洞窟、その入り口らしきものが見えた。

危ない。
彼が忠告しなければ、見落としていたかもしれない。

クライン「でかした! で、アイドルさんどうする?」

スラスト「……入らない方がいいかもしれませんね」

出立する前に確認しておいたが、基本方針は第一に脱出。
クエスト達成なり、条件を満たさなければならないようなら、満たしたのちに脱出となっている。
夜になると視界も一層悪くなって危険だ、という意見もあり、そういう運びとなった。

だから、あくまで脱出優先。
虎穴である可能性も捨てきれない以上、軽率な進入は控えるべきであった。

しかし、予期せぬ事態が起きてしまう。

ロレス「――あれは! お嬢さまのリボンだ!」

洞窟方面の道ばたに落ちた青いリボンを見咎めると、ロレスは血相を変えて走りだす。
独断専行だった。

クライン「うおっ、あのNPC勝手に動きやがって」

スラスト「私達のパーティで連れ戻してきます。すみませんが、待っていてもらえませんか?」

NPCの特性からして、口先八丁で丸め込めば連れ戻すのは可能だろう。

幸い、ロレスはリボンを拾ったところで止まってくれている。戻ってくる気配もないが、洞窟まで十メートルは離れているし、リボン付近の見通しはそう悪くない。
奇襲される心配も薄いのだから、さして問題はないだろう。

クライン「俺らもついてくぜ」

スラスト「あのNPCの行動は私達のパーティの責任ですから」

クライン「水くせぇよアイドルさん、今は連帯責任だ、ってのも固いか。まあとにかくっ、気にすんなってことよ!」

引き下がろうとしないクラインに困って笑い返す。

譲歩を引き出すつもりはなかったのだが、言い方が悪かったか。

スラスト「そうですね……」

他人行儀すぎても結束にぎこちなさを生む。この手のタイプなら尚更だ。

スラスト「じゃあ、お願いします」

「俺達もあのNPCから情報もらってるしなぁ」

「アイドルさん達だけ行かせるのも忍びないっす」

あからさまに悪い顔をする人もいなかったのでさっさと向かう。

スラスト「ロレスさんロレスさん、勝手に行かれたら困ります」

ロレス「あ……すまねえ。このリボン見たら、つい……」

手のひらにリボンを乗せたロレスが謝ってくる。

スラスト「みんな待ってますから戻りましょう」

ロレス「あ、ああ、でも……」

ロレスはそう言って洞窟を見やる。

スラスト「お嬢さまが洞窟にいるとは限らないですよ」

ロレス「…………」

ロレス「わかった」

尤もな正論。
ロレスは、首を縦に振った。
152 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/01(月) 21:20:17.56 ID:6PrWWZ5DO
ロレスとの合流も無事に果たし、再び森の出口目指して進む。

そして、

「あっ、出口だ!」

見覚えのある道を発見し記憶に従い進んでいくと、遂に森の切れ目が見えてきた。

スラスト「やっと出られそうだね」

シリカ「はあ……ちょっと、疲れました」

ミミちぃ「体力の疲労がなくても、警戒しながら森を歩くって疲れるよね……」

「出口」

「exitだ」

「俺、宿に帰れたらぐっすり寝るんだ……」

面々から目に見えて険が取れていく。

スラスト「じゃあ森を出たら解散しましょうか」

クライン「おう、それで頼むぜ」

賛同してくれ、皆の意思もそれに固まりそうだった。

ふっと、肩の荷が降りる。
辺りにはいつしか薄い霧が広がり、長居の危険に気を揉まされたものの、それもあと少しで杞憂にできそうだ。

緩みかけた意識に鞭を打ち、皆の警戒も引き継ぐ気概で歩く。

白いもやに包まれた森はしんと水を打つような静けさで、日光も遮られて薄暗い。

夜明け前を思わせる白んだ空に一瞥くれていると――――、

スラスト「――――え」

視界が、ぐにゃりと歪んだ。

「うわ、なん――――!?」

「こ、れは――――!?」

視界が渦を巻く。
高いところから突き落とされたのかと錯覚するほどの、浮遊しているような感覚。目まぐるしい視界の変化についていけず、視点が定まらない。

そして。
世界が――――――暗転した。

153 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/01(月) 21:22:36.89 ID:6PrWWZ5DO
今日の更新おわり

154 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/10/01(月) 21:29:43.30 ID:RD88/9Juo
乙。
書き直しの影響でクライン登場か。
そして気になる所で終わるなぁ。
155 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/10/03(水) 18:27:52.33 ID:pn0eCaJ5o
乙でした。
お姉さん探し引っ張りすぎな気もするけど、引きこまれました。
156 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/03(水) 19:53:22.02 ID:wKxv26pDO
スラスト「う…………」

視界が回復する。一瞬、意識を飛ばされていたようだ。

ふらりとする頭に手をやりつつ、すかさず状況の確認。
幸いモンスターに取り囲まれている事もなく、緑豊かな森が目に映った。

クライン「くっ、なんなんだぁ……?」

「モンスター、はいないな」

「死んだかと思ったぜ……」

ミミちぃ「……うう……ふらふらするぅ……」

シリカ「あれ……何が?」

ロレス「こりゃあ……」

皆一様に当惑しているが、欠けたメンバーはいない。
胸をなでおろす。

しかし、看過できない変化がひとつ、厳然と横たわっていた。
157 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/03(水) 19:55:41.65 ID:wKxv26pDO

スラスト「また……景色が変わってますね」

クライン「……ああ、今ならはっきりわかるぜ。さっきまで見えてた出口がないんだからよ」

今度は、細かな変化を挙げるまでもない。誰もが確信していた。
見当たらない出口、それだけで十分だ。

「これ、出口いっても飛ばされるの繰り返し臭いな……」

「脱出にも条件満たす必要あるパターンか?」

「条件付きとか、一応視野に入れてたくらいだぞ……」

景色が変わったのは二度目だが、最初と今のでは感覚が違う。
いつの間にか変わっていた一度目に対し、二度目は目が回るような酩酊に襲われた。

ミミちぃ「シリカちゃん、どう思う?」

シリカ「どうなんでしょう……決まった方向から出口に向かわないといけない、とか?」

ミミちぃ「あるかもねぇ……案外、もう一回出口いったら出られるといいんだけど。楽観だよね……」

スラスト「ロレスさん、ヌシのまやかしについて何か知りませんか?」

まずは、ロレスの情報が欲しい。
なんでもかんでもそれに頼るのは危険かもしれない。
だが、聞いておいて損はなさそうだった。
158 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/03(水) 19:56:53.56 ID:wKxv26pDO

ロレス「……ヌシのまやかしにかかったら最後、帰ってはこれない。って噂だ」

帰る者がいないなら、なぜまやかしの噂が広まったのか。

その疑問を先送りしたとして、それでも奇妙な点がひとつ。

クライン達と会って以来、人っ子ひとり見かけないのだ。

スラスト「クラインさん」

すぐ隣でうんうんと唸っているクラインを呼ぶ。

クライン「なんだ?」

スラスト「さっき、出口のあたりでプレイヤーを見かけましたか?」

クラインはその質問に眉を寄せた。

クライン「……いや、見てねぇな」

スラスト「おかしい、ですね。ダンジョンの奥まったところならまだしも、入口には様子見する人も少なくありませんでした」

慎重な部類である証だ。
彼らが揃いも揃ってダンジョンに入ってくるものだろうか。

入らざるを得ない危機が迫った、というなら頷けるが。

クライン「入口にボスか大量のモンスターでも現れたかぁ? ……ちっ、わかんねぇ〜っ!」

舌打ちして、わしゃわしゃと頭を掻きむしるクライン。
どうにも決め手が欠けていた。
159 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/03(水) 20:00:38.04 ID:wKxv26pDO

当座の方針として決めるべきことがある。
それは、もう一度出口を探すか否か。

この地点には見覚えがない。
出口の再発見に、どれだけ時間を費やすか。
発見したとして出られる保証はない。

夜までに数時間の猶予があっても、有効な時間活用を心がけるべきだ。

スラスト「まずは歩きましょう。出口なりその足がかりなり、見つかるかもしれません」

当座の方針として、皆それに賛同してくれた。

立ち往生すら無意味と断定できないのは厳しいが、
この場に探りを入れてから離れる。

それから間もなくして。

一本道らしかったので道なりに辿っていくと。
分岐点は、思ったよりずっと早く姿をあらわした。
160 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/03(水) 20:05:11.96 ID:wKxv26pDO

「なあ……あれ、プレイヤーじゃないか?」

ことの始まりは、立ち往生している、十数人ほどの集団を行く先に発見したところからだ。

プレイヤーかどうか知れたものではない。
油断なく近づいていったのだが、こちらに気づいたらしい向こうの集団は、
明らかな隔意をもって睨みつけてきた。

「どうすんだよ、また人が増えたぞ」

「しかも十人も……」

「しょうがねえだろ、まだ始まらないんだから……」

武器での牽制もない。ただただ、冷ややかな視線が浴びせられる。

どうにも様子が妙だ。
プレイヤーだと分かっている風なのに。
向こうの敵意は引っ込められるどころか、より苛烈さを増していっている気がする。

こちらが油断なく近づいたのはプレイヤーでない可能性を考慮したからだ。

それなのに、むこうからは依然として隔意が消えない。

こちらの面々は戸惑いを隠せなかった。
161 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/03(水) 20:09:22.84 ID:wKxv26pDO

スラスト「……あの、どういう状況なんでしょう?」

味方の壁を割って進み出てきた自分に、向こうの面々がどよめく。

「おい……あれ」

「マジでいたのか……」

「……同僚さんも、いるな」

まじまじと見つめられ、自分や同僚の素性が伝わる。

しかし、それでも。

気が許せない、といった向こうの雰囲気は払拭されなかった。

「……どうする?」

「隠したって無意味だろ。もう登録されてる」

登録。
意味の汲み取りづらい単語が飛び出す。

「逆に考えようぜ。人数多いからって個々に不利に働くとは限らない」

「まあ……そう、だな」

「あー、その……アイドルさん達、とりあえず説明します」

一人が進み出て、事情を説明し始めた。

これは、一定人数の分岐が前提とされた特殊イベント。

プレイヤーの選べる道筋は三つ。

傍らに置かれた碑石にはこう記されている。

『光なき道を踏破せんとする武者よ、勇猛なる愚者よ、これはゲームである。

これが終わったのち、全てのプレイヤーは三つの道筋に分かれ、それぞれの道を辿ることになるだろう。

組むべき手を考え、刻が満ちるのに備えよ。

来るべき、欲望と本能渦巻く戦いは近い。

英知と武勇の閃きをもって応えるのだ』

仰々しい文章だ。
いかにもゲームらしい。

加えて、碑石の片隅にはプレイヤーの名前が列挙されていた。
今来た自分達も含め、ロレス以外は刻まれてある。

スラスト「つまり、この場に居る人達は三手に分かれて進むことになる。そういうことですか?」

「……おそらく、そうだろう」

元から居たプレイヤーの一人が言葉少なに返す。
真面目で、ともすれば神経質そうにも見える、細面の男だ。眼鏡をかけていた。
162 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/03(水) 20:13:42.06 ID:wKxv26pDO

すみませんキリ悪いですが更新おわります

お姉さん探し今の時点でも引っ張りすぎかな
けっこうそう感じてる方って多いですかね?
163 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2012/10/03(水) 22:25:30.76 ID:tcPWRho10
ちょっと引っ張りすぎ感あるけど全然かまわないぜ!
楽しみに待ってるよ!
164 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/10/04(木) 00:23:23.15 ID:WM1/oqnMo
>お姉さん探し
見ている側は皆分かっているネタを解決しないまま引っ張られると……というアニメや小説で良くあるもやもやを感じるというところです。

女の子同士のSAOというのはとても良いと思いますので期待しております。
165 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/04(木) 01:13:24.58 ID:SjUNF1kio
乙。

まあ鍛冶スキル持ちキャラ登場とかのタイミングで、シリカにお姉さんの正体バレとかでいいかな。
166 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2012/10/04(木) 05:12:08.66 ID:9y3YcYSMo
お前ら早漏過ぎだろ
むしろ最後まで秘密でも良いレベル
167 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/06(土) 14:36:08.98 ID:4rLMK41DO
スラスト「それでやっぱり、この碑石に刻まれた名前は……」

「参加者の名前だろうな」

眼鏡のアーチ部分をくいっと押し上げ、彼は答える。少し考えてみた限りで自分も同様の見解だ。

「例の、死んだやつの名が刻まれる碑石みたいで縁起でもないが」

聞いたところ、だれか訪れるたび名前が新たに刻まれている、とのこと。

動向が気になるのだろう。
向こう側の人たちは、緊張を湛え見つめてきていた。

ミミちぃ「組むべき手って……仲間のことだよね?」
スラスト「たぶん。
……そういう、ゲームなんだろうね」

声をひそめて話しかけられ、思ったまま返す。

組むべき手があるなら、組むべきでない手もまた、あっておかしくない。
協力要素がある代わり対立要素も、また。

みな、そのことは漠然と理解しているのだろう。いい顔をしていなかった。

一通りの説明が終われば会話も途切れ、居心地の悪い沈黙にとってかわる。

これからどういう方向に転ぶか不透明だ。
対立関係が生まれる可能性も示唆された以上、うかつにしゃべろうとする人はいなかった。

にしても、と。周りのプレイヤーをざっと見渡しながら思う。

対立要素が仄めかされた。
ただそれだけで、一同の足並みは一致団結からひどく遠のいている。そんな印象を受ける。

あるかもしれない、という可能性だけ。
組むべき手はこの場の全員かもしれないし、
欲望と本能渦巻く戦いという言い回しは、勝手に反目しあう自分たちの姿をとらえた、痛烈な皮肉かもしれない。

にもかかわらず、プレイヤーの間にはどうしても疑いの色が抜けない。
常軌を逸した事件の被害者同士、という一点でなんとなく生じていた仲間意識の限界か。

互いの良心をてらいなく信じ一致団結すれば、案外クリアは容易いのかもしれないが、
我が身の危機にそうできる人はやはり、稀有な部類だろう。

同じ穴のムジナである自分だ、そうした流れには何ら疑問は抱かなかった。

普通、誰しもわが身が可愛い。当たり前のことで正常だとすら言える。

だが、だからこそ。
そういう人間は、相手の良心を信じられないのかもしれない。

168 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/06(土) 14:39:14.24 ID:4rLMK41DO
益体(やくたい)のない思索に耽っているあいだも時間は流れていく。
肝心の音沙汰はいつになっても来ず、
気づけば日は沈みつつあった。

「おい、まだなのか」

薄青に暮れなずむ空を見やり、一人が苛立たしげに言う。

じわじわと、真綿で首を締められるかのような緊迫に堪えかねた。
そんな雰囲気を全身からかもし出している。

「まあまあ、もうちょっと待とう」

「時の満ち、とやらがいつかはわからないけどさ、そのうち来るって」

「そのうちっていつなんだよ!?」

なんとか諌めようとする周囲のプレイヤーの言葉も届かない。

「このまま待ってたって始まる保証はどこにもないだろうが! こっちから動かないといけないならどうする!? 夜になったら危険なんだぞ!」

一部なりと誰もが思っていたであろうことを喚き散らす彼。
その顔には、苛立ちだけでなく焦燥も色濃く滲んでいる。
彼の取り乱しぶりが少しだけ、周囲にも伝播しだす。

「いや……たしかにそうだけどさぁ」

「こっちでどうにかしないとってもどうするのよ?」

「とにかく、このままじっとはしてられないんだよ!」

もはや子どもの駄々じみてきた。
シリカですら無理しつつも平静を保っているというのに。
内心蔑んだ目を向けながら、嫌な方向に転ばないよう意見する。
169 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/06(土) 14:42:02.22 ID:4rLMK41DO
スラスト「待ってください」

ざわざわしていた喧騒がぴたりと止む。
自分のネームバリューは、こんな状況でも一応健在らしい。
悪い意味で働かないことを願いつつ。
下手に出て諫言(かんげん)した。

スラスト「どうにかするとして、ここから離れたらまずいと思います。
もし勝手にゲームが始まった場合、離れてる人はどういう扱いをされるか分かりません」

まずは受け入れる可能性も示しつつ、そのあと伝えたかった危険の警告へと持っていく。
相手の希望が受け入れがたくとも、頭ごなしに否定しないことが大切だ。

今の彼は軽い恐慌状態に陥り、我が強く出ている。
そうした相手は、無意識下で自らの希望を押し通す欲求が高まり、否定されることに敏感だ。
対応を誤れば容易く激昂させてしまう。
だから、こうした配慮は不可欠であった。

「なら、まずはこの近くだけでもいい。とにかく動こう」

がなっていた男も渋々、といった体だが譲歩案を受け入れ、喚くのはやめた。

近場で見つからなければまた二の舞になりかねないが、一先ずはこれで安泰だろう。

彼が率先して周りに呼びかけ、周りの面々と一緒に周囲を探っていく。
サボタージュと疑われない程度にならいつつ、皆の様子をそれとなく窺っていると、眼鏡の男が近寄ってきた。
170 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/06(土) 14:52:31.43 ID:4rLMK41DO

「やるもんだな」

見下したように言われる。

「アイドルなんて頭からっぽの人間ばかりだと思っていたよ」

初対面から感じていたが、どうもよく思われていないらしい。
今の件で、多少なりと評価を上げられたのはよかった、と言うべきか。

とりあえず愛想よく笑っておく。

スラスト「思ったこと言ったら運よく落ち着いてくれて安心しました」

「そうか」

「ただ、節度はわきまえてくれよ? 何でもかんでもでしゃばられると困る」

スラスト「あはは……肝に銘じときます」

苦笑いでお茶を濁す。
用は済んだとばかりに立ち去っていく彼。その後ろ姿を見て、もう一度苦笑。
あわよくば仲良くなっておこうとしたのだが、それはむずかしいと悟る。

あの、自分という存在そのものを毛嫌いするような、冷え冷えとした目。
お前など嫌悪の対象でしかない、と言われている気がした。
その感情、意識の片隅にとどめておく必要がありそうだ。

「くそ、何も見つからないな……」

そして、近場の調査も場しのぎにしかならないようだった。
だれかが苦い声を絞りだし、見れば周りの人も顔を曇らせている。

「やっぱり待つしかないんじゃないか?」

「けどよ、最初に来たやつらはもう二時間は待ってる。本当にこのままでいいのかよ」

「調査の範囲広げるべきか?」

「かといって離れたら離れたで怖いぞ」

待つべきか否か、議論が紛糾する。
自然と重苦しくなっていく雰囲気。
意見の噛み合わない人の間には、剣呑とした空気すらただよいだす。

まずい。この状況は思わしくなかった。どちらに転ぶのが嫌とかではなく、単純にこの状況そのものが。
171 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/06(土) 14:56:51.31 ID:4rLMK41DO

「じゃあ調査じゃなくてもいい、ゲームなんて無視して先に進もうぜ」

「おいおい、正気で言ってんのか?」

「それぞれがばらばらに来た一本道以外、行き止まりのここしかないだろうが」

「つってもさあ、わかんないじゃん? 隠し通路とかあるかもしんないし」

「そんな適当な推測で……」

「待つのだって似たようなもんだろ。なんの保証もなく待ちぼうけすんのとどう違うってんだよ」

場は混沌としていた。
意見という意見が飛び交い、勃発する議論。エスカレートするにつれ、次第に声や態度からも遠慮が消えていく。

待つべきだと主張する人。
とにかく行動すべきだと主張する人。
そして、自分のように傍観する人。

三つの立場と関係が出来上がっていた。

「ビビってんじゃねえのお前? はっ、腰抜けが」

「……なんだと?」

「だよなあ。こいつら、離れてたらゲームに置いてかれちゃうかもしれないよお〜って、びくびくしてるんだもんなあ」

「ははっ、言えてら!」

「おいお前ら、調子に乗るなよ」

「つか、どんと構えてられない方がよっぽどビビりじゃね?」

「思った。自虐はやめような、痛々しいから」

「なんだ、笑えるからもっと言ってくれていいのに」

こんな会話の繰り返しだ。
収拾の目処もつかず、どちらかに加わる気もない。
数えてみたところ、待機派十名、行動派九名、中立六名。

二大勢力が言い争うのをよそに、淡々と観察。次いで、年齢層や性別なども分析しようとして、
172 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/06(土) 15:02:04.46 ID:4rLMK41DO
「アイドルさん、あいつらにばしっと言ってやってくださいよ!」

手をひっぱられた。おそらく、小うるさいどちらかに属す人だろう。若い身なり、中高生くらいの年代に見える。

「ゲームなんて動いてナンボっしょ? アイドルさんもそう思いません?」

行動派か。それにしても、なんてはた迷惑な。嘆息したくなった。

明け透けな勧誘に触発され、待機派の視線が突き刺さる。
一躍注目の的になってしまった。内心穏やかじゃない。
いやそれよりも、この状況をどう切り抜けるか。判断に窮す。

しかしそんな自分を、思わぬものが救った。

ぽっとオレンジ色の光がともる。バレーボール大で球状のそれは、自分へと向く待機派の視線を遮るようにして現れ、ぷかぷかと浮かんでいた。

「きひひっ、おこんばんわぁ〜」

唖然とした反応が周囲に広がる。光がしゃべったのだ。変声期前の子どもを思わせる、高めの声。それが茶目っ気をたっぷりと含み、響き渡った。
173 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/06(土) 15:07:07.54 ID:4rLMK41DO
皆が光から目を離せないでいると、それは真ん丸から少しずつ形を変えていき、やがてオレンジ色に発光するランプのような形に落ちつく。
ような、と表したのは目と口と鼻に相当するような空洞が見て取れたからだ。

「ごめんごめーん、お待たせしちゃったよね? 怒っちゃってるよね? すぐにゲームの説明するからゆるしてぇ〜っ」

友人との約束に遅れてあやまる女の子のような口ぶり。ゲーム、と言われぽかんとしていた皆の顔が引きしまる。
もしかして、これが。

薄闇のとばりが落ちた森のただ中、シャボン玉のように浮かぶそれはなぜか、くすりと笑った。

「じゃあね、はじめるよ? まずは――――えいっ」

ぽうんっ。ランプもどきの合図で妙ちきりんな音が鳴る。

手の中にカードを一枚握らされている。
なんだなんだと周囲が色めき立つなか、ふと気づく。
そして、ぞっとした。自分は知らぬ間に、親指でカードを挟むようにしている。そんな動きはした覚えがない。すうっと、背筋を冷たいものが撫でた。
174 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/06(土) 15:21:13.10 ID:4rLMK41DO

「みんなカードは行き渡った?」

自分同様、記憶にない動作に凍りつく人が大半の中でも、ランプもどきは憚ることなく問う。

事前にあった勧誘のいざこざなど、すっかりうやむやになっていた。
何だかんだで掴まれたままの手をほどく。
ずっと握っていたと今さら気づいたのか、誘ってきたプレイヤーは申し訳なさそうにした。

「オッケーオッケー、大丈夫みたいだね。じゃあ説明はじめるよ、きっちり聞いてね?」

あのぽっかりと空いた穴から見えているのか、視覚とはまた別の手段で断定したのか。

感情を示すように空中でおどると、相変わらずのしゃべり方で説明しだした。

「まずね、プレイヤーのみんなには選択してもらわないとなんだ。この場に残るか、ここから出るか。出口は二つあるから慎重に決めてね〜?」

辺りはすっかりうす暗く、人の顔や木々、色んなものの輪郭が曖昧になってきている。
薄明の森でランプもどきの周りだけ、ほんのりと明るい。
耳を澄ます。だれかの喉が、ごくりと鳴った。

「出るっていうのが色々とあいまいだよね? 安心して、プレイヤー要素を上手く分けて条件満たせたら、出る人たちは無事にこの森から出られるから。ついでに街まで転送してあげるっ。親切だろぉ〜?」

ボールみたくぽんぽん飛び跳ね、上機嫌な様子で続く説明。みな固唾を飲んで見守っていると、注釈が入った。

「ちなみに、カード持ってるのがプレイヤーの証だからね〜、なくしちゃだめだよぅ?」

だめだめ、と取っ手のついた頭がリズミカルに動く。
人間でしてみれば人差し指を横に振るしぐさか。
どうでもいい予測は意識から消し、ゲーム内容の吟味に集中した。
175 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/06(土) 15:25:18.92 ID:4rLMK41DO

「さっきカードだしたとき、どう分ければいいか説明やヒントをばらまいたから。がんばって見つけてね?
それで出たいときのゲートはこっち!」

またしてもコミカルな効果音をお供にして、碑石の左右からふたつ、対称にならぶ扉があらわれる。

間の抜けた音だ。
ここまで場違いだと逆に、他の人には痛快なのかもしれなかった。
もはや定番だな、とみなが呆れたようにながめていると、

「でさ、出ることになれば無事脱出だって言ったけど、ここに残ったらどうなるのって思うよね?」

ぶらり、ぶらり。ランプもどきは、ゆったりと振り子のように揺られながら話す。

出る選択をすれば無事に脱出だと明言され、一部のプレイヤーはやや緊張をゆるめていた。
無理もない。
ゲームチックな戦闘とはいえ、命がけで戦わされ生き抜くことを余儀なくされたのだ。
ダンジョンのまっただ中に閉じ込められ、待ちぼうけだったことも含めて考えれば、甘美な響きに気も抜く。
世界でも高水準にある治安のよさを誇る日本の、しかも学生層ないし若年層の多いプレイヤー達。

だが、それ故に。

「どういう選択をするかは一時間で決めてもらいたいんだけど」

前ふりで気をひかれ、身構えるだけの警戒心も発揮できなかった一部は、続く言葉にがらりと顔色を変えた。

「ただ、ここに残ってるプレイヤーは死ぬから気をつけてね」

呼吸が止まる。何気なく寄越された宣告。鋭く刺し貫く衝撃に活動を忘れていた。
戦慄と混乱がプレイヤーを襲う。
176 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/06(土) 15:27:14.83 ID:4rLMK41DO
「残る選択か時間切れか、残らざるを得なくなっても一緒。
全員が出る選択はどうやってもできないから、そこらへんはみんなで残す人決めてね?」

「厳正な選考やらなんやらのあと、三分の一には死んでもらうしかないんだよね、最低でも」

「わかるかな? ずばばばーって感じにHPがゼロになっちゃうから気をつけてね?」

全員は出られない。
その言葉を耳にして、今までとは明らかに空気が変わっていた。

しかし、波紋を呼ぶ説明はこれだけにとどまらない。

「ああ、そうそう」

思いだしたように切り出す。
そして、まもなくして明かされたルールが。
埋めがたいみぞをプレイヤーの間に生む、最後の決め手となった。
177 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/06(土) 15:40:50.40 ID:4rLMK41DO

「今も含めてこのゲーム中は他のプレイヤーを身体的に傷つけるのは禁止! ただし例外として、プレイヤーにはそれぞれ一回だけ、他のプレイヤーへの攻撃手段があるよ」

「使い方は簡単、カードにそう願うだけ。誰のカードでもいいけど……結局、使えるのは一回だけだからね」

「効果は抜群だから期待していいよ! 対象は一名に限定されるけど、当たったら即死、HPをゼロにできちゃうんだ」

「ただ、不発の確率が半々、だから使いどころは見極めてね」

全身が総毛立つ。

この場のだれもが、
自分でさえ、教えられたそのルールに戦慄していた。
それは現実でいう、銃器に丸腰で立ち向かう脅威だ。
いや、被害が個人限定であることを除けば。それはプレイヤーにとって、使い捨ての核に等しい。

「説明はおわりだよ! 質問なんかは受けつけないけど、
ささやかながら応援してるよ、じゃあね!」

そう言った直後、ランプもどきは電池が切れたように光らなくなり、地面へと力なく落ちた。
口を挟む間もない。
質問しておこうかと思ったのは自分だけではないだろうが、結局それも叶わぬ希望。
静まり返った森には異様な緊迫が走っていた。
178 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/10/06(土) 15:44:14.11 ID:vat0ZO1zo
デスゲーム内でデスゲームが始まるとは……。
あれ? 探索クエストじゃなかったんか。
しかしスレタイ通りになってきているといえばそうなのか。
179 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/06(土) 15:46:00.90 ID:4rLMK41DO
更新おわり

日が空いてしまってすみません

お姉さん探しの件すごく参考になりました!
どうなったかは本編の投稿が返事ということで

これからも指摘、感想どんどん頂けるとうれしいです
前よりよさそうなアイディアが浮かぶから本当にありがたい
180 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/10/06(土) 15:46:38.41 ID:JI37JA6vo
凶悪過ぎるぜー
まぁ残った者たちにも生き残る目が無いとゲームとしては……だけどさて
181 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/06(土) 16:04:20.03 ID:4rLMK41DO
>>1です

一応これだけは明言しときます
無闇に死人だすのは嫌いなので泥沼の殺し合いがはじまったりはしません

このあとで書きますが基本的に牽制や抑止力として使われます
駆け引き大事にする感じでいきたい
182 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/10/06(土) 16:13:08.39 ID:vat0ZO1zo
投下乙。

理不尽イベントで大量死の可能性はちょっと茅場らしくないかなという気もするけど、
考えたスタッフはただのデスぺナルティありのイベントを考えたつもり
→茅場はまあそれもアリかとOKみたいな感じだろうか。
作中でその辺の考察とか期待。

この手ので駆け引きというと土橋作品みたいなのを期待かな。
183 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/06(土) 23:19:50.78 ID:LJ0gBACio
乙。

SAOは某システムさんがクエスト自動生成してるから茅場の意思とは関係なく勝手に作られたクエストなのかもね
それにしても序盤でこんなクエストにぶち当たったら攻略とかしたくなくなるな
184 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/12(金) 23:58:50.58 ID:lEI+oyeDO

「おいこれっ……あきらかにおかしいだろ!」

「どうすんだよ、これ本当にやっていいのか?」

「やるも何もないだろ! こんなトチ狂ったゲームやってられるか!」

暫くはひたすら沈黙がつづくも、ややあって話し声が生まれた。

争論で固まっていたそれぞれの集団から、ぽつり、ぽつりと不満の声、反発の声が上がりはじめる。

「けど……残ってたら、俺たち」

「別の出口をさがそう、ってもたった一時間で? 本当にあるのか?」

「わざわざこんなゲームはじめといて簡単な逃げ道用意してるってのは……ないだろ」

「あっても罠としか思えない」

しかしその流れも、長くはつづかない。
すぐさま厳しい指摘が飛び、行動派と待機派、両集団に慎重な考えが染み渡っていく。

中立は傍観だ。そもそもがてんでばらばらな集団だし、今いるところも揃っていない。
話自体、手近にいた人同士、同じ集団の中で自然と進む。
別個に孤立していると言えた。

同僚とシリカが駆けよってくる。争論の最中、近づこうかという素振りを見せたが、あの勧誘に邪魔された形だ。

小走りにやってきた二人がすぐ目の前で並ぶ。

ミミちぃ「大変なことになっちゃったね……」

シリカ「みんな……すごく怖い顔してます」

不安そうな面持ちで見合せ、言葉を交わす。
辺りから漂うただならぬ気配に刺激され、声までどんよりと曇っている。

深刻な事態に冷や汗が伝う。

中立で三人いるだけましとは言え、情勢は悪い。カードによる攻撃手段のせいだ。

誤算だった。
利害の繋がりもない味方を安易に増やすべきではない、と考えていたが。
こうなっては人数の多寡(たか)がひとつ、大きな鍵を握る。
多人数にものを言わせて脅迫されたらまずい。

おそらくは立ち位置を合わせてくれた、同僚とシリカまで巻き込む失態。
対抗策が必要だった。
185 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/13(土) 00:02:11.80 ID:RkMJuO4DO
>>184
慎重な考えが染み渡っていく。

慎重な考えが浸透していく。



スラスト「まずは情報をさがそうか。ついでに、何人か引き込もう。
さっきの言い争いで傍観してた人か、あっちからあぶれる人がいれば」

あっち、と行動派と待機派が固まったところを掌で示す。

まだ悲観するのは早い。

質問も拒む不親切なルール説明だったし、そこまで拙速に動こうという人は稀だろう。
新たに発覚するルール次第では、根底から立場が覆りかねないのだ。

どうやってプレイヤーを分けるのか、二つあるゲートからそれぞれ何人くらい出られるのか。

ばらまかれたというそれらがなければ話にならない。

ともかく、まずは情報から。
何が有利に働き、何が不利に働くのか。それを知っておきたかった。
186 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/13(土) 00:05:16.15 ID:RkMJuO4DO

ミミちぃ「そうだね、それで情報ってどこにあるんだろう?」

シリカ「うーん……しらみ潰し、しかないんでしょうか?」

さがし方に頭を悩ませる二人。
提案には概ね賛同してくれるらしい。

二人の様子を見るに、脅迫される想定が視野にあるような、切羽詰まった雰囲気はない。

気丈に振る舞っているだけかもしれないが、二人の性格からして。
脅迫などというやり口は頭にものぼらない、のかもしれない。

同僚ならともかく、シリカはまだ十二歳。じゅうぶんにあり得る話だ。

スラスト「スキルや攻撃アクションが必要なところはあるかもね。
身体的に傷つけるな、とは言われたけどそれ以外は禁じられなかった」

謝って脅迫の可能性に思い至らせれば不安がらせてしまう。
それは避けたい。

二人の話に思いついた発想を適当に放り込むと、二人は思いの外感心したようだった。

ミミちぃ「あっ、だから攻撃は全部禁止、なんて言わなかったのかな」

シリカ「遠回しな言い方にも意味がある、ってことですか?」

スラスト「思わせぶりなだけで、実は裏なんてないかもだけど」

とはいえ、さっきの説明には幾つか気になる点があった。

たとえば。

残れば三分の一は死ぬ、その事実のインパクトに目がいきがちだが、居残った中で生き延びたらどうなるのか。

そして、出口が分けられている意味。どちらから出ても同じなら、わざわざ二つである必要はないはずだ。

さらに言うなら、一時間経った時点で選択が決まるとして、他プレイヤーからの賛同など必要条件はないのか。

あったとして、満たせなかったら振り分けは無効になり、全員残らなければならないのか。
カードなり力づくで従わせて勝ち取った賛同も有効か。

あいまいな部分が多く、疑問は否めない。
187 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/13(土) 00:06:51.93 ID:RkMJuO4DO

シリカ「あれ? ロレスさんは?」

ミミちぃ「そういえばどこに……って、あ。ちょうどこっちきてる」

ふと気づいたようにシリカが言う。先ほどから視界の端に入れていたので、近づいてきているのは知っている。
ロレスは、のそのそと向かってくる途中だった。

スラスト「なんだか……ここ来たあたりからロレスさん、喋らなくなったね」

シリカ「はい……話しかけても返事してくれませんし」

ミミちぃ「……変、だよね。どうしちゃったんだろう」

赤毛の大男、ロレスがこちらに近づいてくるのを見ながら話す。

今の彼はまさしく機械的だった。
歩き方からはじまり、徹底した無言、色のない瞳。
遠目にもわかる。
のっぺりと表情が剥がれおち、眼差しもうつろ。

明らかに普通じゃない。
不審を通り越して不気味ですらあった。
188 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/13(土) 00:09:53.42 ID:RkMJuO4DO

スラスト「……まあ、ロレスさんのことは追々、かな」

どうにかする手立ても思い浮かばない。
ゲームの情勢に関係するとも限らないし、後回しでいいだろう。

ミミちぃ「そう、だね。にしても他の人たちはNPCだって気づいてるよね? どうしてあんまり反応しないんだろ?」

シリカ「さっき、ええと……クラインさん?たちが話してましたよ。アイドルさんたちが連れてるクエストNPCだって」

だから反応が薄いのか、と納得する。

ターゲットすれば黄色いカーソルが頭上に表示される。
それはNPCである証だ。

事ここに至り全員の素性、少なくともプレイヤーかNPCか、はたまたモンスターかくらいの確認は怠らないはず。

一人だけNPCが紛れ込んでいて注目されない。

奇妙には思っていたがクラインたちのお陰か。
自分や同僚が連れていると知れたなら、質問責めにもしにくいだろう。

189 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/13(土) 00:13:21.92 ID:RkMJuO4DO

ミミちぃ「クラインさんたちは……動こうって主張してた側かな?」

シリカ「場所的には……そうみたいです」

話している間に向こうの集団も意見が纏まったようだ。

集団からそれぞれ数人、プレイヤーが出てくる。

すり合わせだろう。集団同士で二言三言交わすと、一緒になって「協力して情報をさがそう」と申し出てきた。

ミミちぃ「断る理由はない、よね?」

うなずく。他の、一人ないし少人数で行動する人も異論は出ない。
突っぱねる人は一人もいなかった。

そして。

「これ、ヒントなんじゃないか?」

「紙切れだったらまずそうだろうな。今まで見つかったのも全部それだし」

「碑石とゲートの裏になんか数字が刻まれてるんだけど」

単純に人手が多いこともあり、ヒントや説明は順調に掘り出されていく。

隠された場所自体、特に捻られているわけでもない。
順当な結果だ。

ゲーム開始から二十分。

ヒントに記された“情報”の上限。
それと同じだけの情報が見つかり、それらはすべて全体で共有されていた。
190 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/13(土) 00:16:20.75 ID:RkMJuO4DO

『はじまりの説明になき情報はすべて、これのような紙片に記した。これを除けば、合わせて十枚の紙片がある。例外は碑石とゲートに刻まれし文字のみ』

『カードの示した数字が、ゲートにのしかかる負荷である。道化はゼロを示す』

『所有者がいなくなった時、カードは青い粒子となって散り機能が失われる』

『黄色き道に座した星のハジマリからオワリ。ハジマリからオワリの何処に位置するか、それがカードの示す数字である』

『選択は過半数の賛同によってのみ成り立つ。心せよ、心から信頼し合える相手が最善の未来を作りうる』

『残されたプレイヤーは全て死す運命にある。
生き残りたくばあぶれるな。道化のカードはこの場に残すな。
結ばれた絆で、決して奇数にはならないこと。それが生き残る条件である』

『すべてのプレイヤーに告ぐ――いや、犠牲となる者は除こう。

左の第一ゲートから抜けでた者は、巨万の富と比類なき武装を手にする。

右の第二ゲートから抜けでた者は、先に挙げたものには劣るが得がたく有用な財貨を手にする。

さあ選択せよ。選択が成らねば何ぴとも、ゲートから出ること罷り通らぬ』

『出られぬ、出られぬ、出られぬ。
死者の口は意見を叫べずとも、選択の礎であることに相違なし。
人を呪わば穴ふたつ。
亡者の怨念が舞い戻る』

『お前は本当か? 本当の本当か? ならば数えよ、この場にあるすべての本当を』

『この場に残された者よ、ゆめゆめ忘れるな。
死の裁断から逃れようとも、死は這い寄るのをやめない』

『ゲームのはじまりより四半刻、戦乱の波が渦巻き諸君を襲うだろう』

紙片の情報はこれで全部。
そしてゲートと碑石には、それぞれ数字と記号が刻まれている。

第一ゲートの裏は『<20』。

第二ゲートの裏には『≧25』。

そして、碑石の裏には『2、4、6|8、10』。
191 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/13(土) 00:18:38.29 ID:RkMJuO4DO

「……これで全部か」

「ああ。思ったより早く見つかったな」

踏み固められた土の上。
ゲートや碑石のある、広くひらけた空間に皆が集う。
青々と生い茂る周囲の木々から丸く切り取られたような場所だ。
集まるには適していた。

「攻撃して壊すオブジェクトもあったか。一応試してみて正解だったな」

「この文言からして……“死者”も最終的な人数に加えられる。半分切ったらその時点で全員アウトだ」

今はまだ、二十五名のプレイヤーは協力関係にある。
情報はすべて見つかったものの、その解釈に諸説あるうえ時間の制限もあるからだろう。
自然と皆で正しい解釈を考える流れになっている。

192 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/13(土) 00:22:26.29 ID:RkMJuO4DO
ひとまず投下終了

文の調整おわったらもうちょっと投下します

投下の頻度落ちてて申し訳ない
駆け引きとか言ってハードル上げるんじゃなかったぜぇ…
193 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/13(土) 18:01:43.67 ID:kgpVeGOpo
乙。

さてこれからどうなるのか。
194 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/11/12(月) 19:33:12.22 ID:CCNXrsqw0
どうしたん
195 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/11/27(火) 14:16:24.76 ID:P/MGlNdzo
追い付いたと思ったら、放置?
196 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/27(火) 17:18:22.57 ID:RtubnEjDO
>>1です

一回書く→推敲→こんなものー!
の繰り返しで投下遅れてます

放置はしません
もしやめるときはきっちり言うのでそのあたりは安心(?)ください
少なくとも来年中は不定期更新になるかと思いますが、よければぜひお付き合いお願いします!
197 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/11/27(火) 17:42:38.13 ID:6Lh1rmrYo
反応はやっ!

待ってます
171.86 KB   
VIP Service SS速報VIP 専用ブラウザ 検索 Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)