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杏子「ホグワーツ?」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 : ◆fG4qOWmicojn :2012/09/28(金) 09:35:23.71 ID:egDxkjz6o
魔法少女まどか☆マギカとハリー・ポッターと賢者の石のクロスSSです。
ほぼハリー・ポッター原作をそのままキャラだけ変えたようなノリです。
原作よりは少ないですが、文量多いです。完結は死んでもさせます。
前半とかとくにグダります。ふわふわのフラッフィー!

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1348792523
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笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
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【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part10 @ 2024/04/23(火) 17:32:44.44 ID:ScfdjHEC0
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トーチャーさん「超A級スナイパーが魔王様を狙ってる?」〈ゴルゴ13inひめごう〉 @ 2024/04/23(火) 00:13:09.65 ID:NAWvVgn00
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【安価】貴方は女子小学生に転生するようです @ 2024/04/22(月) 21:13:39.04 ID:ghfRO9bho
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ハルヒ「綱島アンカー」梓「2号線」【コンマ判定新鉄・関東】 @ 2024/04/22(月) 06:56:06.00 ID:hV886QI5O
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【安価】少女だらけのゾンビパニック @ 2024/04/20(土) 20:42:14.43 ID:wSnpVNpyo
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ぶらじる @ 2024/04/19(金) 19:24:04.53 ID:SNmmhSOho
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旅にでんちう @ 2024/04/17(水) 20:27:26.83 ID:/EdK+WCRO
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2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) :2012/09/28(金) 09:36:43.73 ID:egDxkjz6o
ヒョロリと背が高く、髪やひげの白さからみて相当の年寄りだ。髪もひげもあまりに長いので、ベルトに挟み込んでる。淡いブルーの眼が、半月形のメガネの奥でキラキラ輝き、高い鼻が少なくとも二回は折れたように曲がっている。濃紫のビロードの、はでなかっとの背広を着た姿が、大勢の物珍しげな人の目を集めていた。アルバス・ダンブルドアだ。鉄の門を通り、殺風景な中庭に入った。その奥に、高い鉄柵に囲まれたかなり陰気な四角い建物がある。ダンブルドアは石段を数段上り、正面のドアを一回ノックした。しばらくして、赤髪赤目のやせたエプロンをかけた女性がドアを開けた。
「こんにちは。ミセス・コールとお約束があります。こちらの院長でいらっしゃいますな?」ダンブルドアが目を細めながら言った。
「ああ」ダンブルドアの目を覗き込みながら、女性が言った。
「ああ……ついに……お待ちください……ミセス・コール」女性が振り向いて、静かな、しかし力のある声で呼んだ。
 遠くのほうで何か大声で答える声が聞こえた。女性はダンブルドアに向き直った。
「お入りください。すぐに参ります」
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) :2012/09/28(金) 09:37:58.04 ID:egDxkjz6o
 ダンブルドアは白黒タイルが貼ってある玄関ホールに入った。全体にみずぼらしいところだったが、染み一つなく清潔だった。背後の玄関ドアがまだ閉まりきらないうちに、痩せた女性が、煩わしいことが多すぎるという表情でせかせかと近づいてきた。とげとげしい顔つきは、不親切というより心配事の多い顔だった。ダンブルドアのほうに近づきながら、振り返って、エプロンをかけた別のヘルパーに何か話している。
「……それから上にいるマーサにヨードチンキを持って行っておあげ。ビリー・スタッブズは瘡蓋をいじっているし、エリック・ホエイリーはシーツが膿だらけで――もう手一杯なのに、こんどは水疱瘡だわ」
 女性は誰に言うこともなくしゃべりながら、ダンブルドアに目を留めた。とたんに、たったいまキリンが玄関から入ってきたかのを見たように、唖然として、女性はその場に釘づけになった。
「こんにちは」
 ダンブルドアが手を差し出した。ミセス・コールはポカンと口を開けただけだった。
「アルバス・ダンブルドアと申します。お手紙で面会をお願いしましたところ、今日ここにお招きをいただきました」
 ミセス・コールは目を瞬いた。どうやらダンブルドアが幻覚ではないと結論を出したらしく、弱々しい声で言った。
「ああ、そうでした。ええ――ええ、では――わたしの事務室にお越しいただきましょう。そうしましょう」
 ミセス・コールはダンブルドアを小さな部屋に案内した。事務所兼居間のようなところだ。玄関ホールと同じくみすぼらしく、古ぼけた家具はてんでんバラバラだった。客にグラグラした椅子に座るように促し、自分は雑然とした机の向こう側に座って、落ち着かない様子でダンブルドアをじろじろ見た。
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) :2012/09/28(金) 09:38:49.27 ID:egDxkjz6o
「ここにお伺いしましたのは、お手紙にも書きましたように、佐倉杏子について、将来のことを相談するためです」ダンブルドアが言った。
「ご家族の方で?」ミセス・コールが聞いた。
「いいえ私は教師です」ダンブルドアが言った。
「私の学校に杏子を入学させるお話で参りました」
「では、どんな学校ですの?」
「ホグワーツという名です」ダンブルドアが言った。
「それで、なぜ杏子にご関心を?」
「杏子は、我々が求める能力を備えていると思います」
「奨学金を獲得した、ということですか? どうしてそんなことが? あの子は一度も試験を受けたことがありません」
「いや、杏子の名前は、生まれたときから我々の学校に入るように記されていましてね――」
「誰が登録を? ご両親が?」
 ミセス・コールは都合の悪いことに、間違いなく鋭い女性だった。ダンブルドアもそう思った。ビロードの背広のポケットから杖をするりと取り出し、同時にミセス・コールの机から、まっさらな紙を一枚取り上げた。
「どうぞ」
 ダンブルドアはその紙をミセス・コールに渡しながら杖を一回振った。
「これですべてが明らかになると思いますよ」
 ミセス・コールの目が一瞬ぼんやりして、それから元に戻り、白紙をしばらくじっと見つめた。
「すべて完璧に整っているようです」
「紙を返しながら、ミセス・コールが落ち着いて言った。そしてふと、ついさっきまではなかったはずのジンの瓶が一本と、グラスが二個置いてあるのに目を止めた。
「あー――ジンを一杯いかがですか?」ことさらに上品な声だった。
「いただきます」
 ダンブルドアがニッコリした。
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/09/28(金) 09:39:56.15 ID:egDxkjz6o
 ジンにかけてはミセス・コールが初ではないことが、たちまち明らかになった。二つのグラスにたっぷりとジンを注ぎ、自分の分を一気に飲み干した。あけすけに唇を舐めながら、ミセス・コールは初めてダンブルドアに笑顔を見せた。その機会を逃すダンブルドアではなかった。
「杏子はどんな子ですか?」
「おかしな女の子ですよ」
「ええ」ダンブルドアが言った。「そうではないかと思いました」
「赤ん坊のときもおかしかったんですよ。そりゃ、あなた、ほとんど泣かないんですから。そして、少し大きくなると、あの子は……変でねえ」
「変というと、どんなふうに?」ダンブルドアが穏やかに聞いた。
「人とまるで関わろうという気が無いんです。同じ赤髪赤目で姓まで同じあのヘルパ―だけは別ですけど。それでもって――」
「それで?」
「たまに人と話すと不思議な力をもつんです。あの子の言ったことはみんな信じ、命令には従わせる。ほかの子たちからは怯えられています」
「ほう」
「あの子がいなくなっても残念がるのはあのヘルパーだけでしょう」
「当然おわかりいただけると思いますが、杏子を永久に学校に置いておくというわけではありませんが?」ダンブルドアが言った。
「ここに帰ってくることになります。少なくとも毎年夏休みに」
「ああ、ええ、それでも錆びた火掻き棒で鼻をぶん殴られるよりはまし、というやつですよ」
 ミセス・コールは小さくしゃっくりしながら言った。ジンの瓶の半分が空になっていた。
「あの子にお会いになりたいのでしょうね?」ミセス・コールは以外にも、シャンと立ち上がり言った。
「ぜひ」ダンブルドアも立ち上がった。
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/09/28(金) 09:41:02.46 ID:egDxkjz6o
 ミセス・コールは事務所を出、石の階段へとダンブルドアを案内し、通りすがりにヘルパーや子どもたちに指示を出したり、叱ったりした。孤児たちは、みんな同じ灰色のチュニックを着ていた。まあまあ世話が行き届いているように見えたが、子どもたちが育つ場所としては、ここが暗いところであるのは否定できなかった。
「ここです」
 ミセス・コールは、二階の踊り場を曲がり、長い廊下の最初のドアの前で止まった。ドアを二度ノックして、彼女は部屋に入った。
「杏子? お客様ですよ。こちらはダンバートンさん――失礼、ダンダーボアさん。この方はあなたに――まあご本人からお話していただきましょう」
 ダンブルドアが部屋に入ると、ミセス・コールがその背後でドアを閉めた。殺風景な小さな部屋で、古い洋箪笥、木製の椅子一脚、鉄製の簡易ベッドしかない。
 佐倉杏子は赤い髪を黒いリボンで腰まで届くポニーテールにしていた。赤い鋭い目付きで、ダンブルドアの異常な格好を舐めるようにみている。
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/09/28(金) 09:42:09.81 ID:egDxkjz6o
「はじめまして杏子」
 ダンブルドアが近づいて、手を差し出した。
 少女はその手を取らなかった。ダンブルドアは、固い木の椅子を杏子の傍らに引き寄せて座り、二人は病院の患者と見舞い客のような格好になった。
「わしはダンブルドア校長じゃ」
「『校長』?」
 杏子が繰り返した。警戒の色が走った。
「何しに来た?あの女の差金か?」
 八重歯が覗いた。今しがたミセス・コールがいなくなったドアを指さしていた。
「いや、いや。」ダンブルドアが微笑んだ。
「信じねえぞ」杏子が言った。
「アイツはアタシを診察させたいんだろう? 真実を言え!」
 最後の言葉に込められた力の強さは、衝撃的でさえあった。命令だった。これまで何度もそう言って命令してきたような響きがあった。杏子は目を見開き、ダンブルドアを睨めつけていた。ダンブルドアは、ただ心地よく微笑み続けてるだけで、何も答えなかった。数秒後、杏子は睨むのをやめたが、その表情はむしろ、前よりもっと警戒しているように見えた。
「アンタは誰だ?」
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/09/28(金) 09:42:52.64 ID:egDxkjz6o
「きみに言ったとおりだよ私はダンブルドア校長でホグワーツという学校の校長だ。私の学校への入学を勧めにきたのじゃが――きみが来たいのなら、そこがきみの新しい学校になる」
 この言葉に対する杏子の反応は、まったく驚くべきものだった。ベットから飛び降り、憤激した顔でダンブルドアから遠ざかった。
「騙されねえぞ!精神病院だろう。そこから来たんだろう?『校長』、ああ、そうだろうさ――ハン、アタシは行かないぞ、わかったか?」
「わしは精神病院から来たのではない」ダンブルドアは辛抱強く言った。
「私は校長先生じゃよ。おとなしく座ってくれれば、ホグワーツのことを話して聞かせよう。もちろん、きみが学校にきたくないというなら、誰も無理強いはしない――」
「やれるもんならやってみな」杏子が鼻先で笑った。
「ホグワーツは」
 ダンブルドアは、杏子の最後の言葉を聞かなかったように話を続けた。
「特別な能力を持った者のための学校で――」
「アタシは狂ってない!」
「きみが狂ってないことは知っておる。ホグワーツは狂った者の学校ではない。魔法学校なのじゃ」
 沈黙が訪れた。杏子は凍りついていた。無表情だったが、その目はすばやくダンブルドアの両眼を交互にちらちらと見て、どちらかの眼が嘘をついていないかを見極めようとしているかのようだった。
「魔法?」杏子が囁くように繰り返した。
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/09/28(金) 09:43:37.83 ID:egDxkjz6o
「その通り」ダンブルドアが言った。
「じゃ……じゃ、アタシができるのは魔法?」
「きみはどういができるのかね?」
「アタシの言葉には不思議な力がある。アタシが本気で命令したら逆らえない」
 杏子は震える声で言った。首から頬えと、たちまち興奮の色が上ってきた。熱があるかのように見えた。ダンブルドアは眼を見張った。
「一言だけだ。でも絶対だ。」
 脚が震えて杏子は前のめりに倒れ、またベットの上に座った。頭を垂れ、祈りのときのような姿勢で、杏子は両手を見つめた。
「アタシはほかの人とは違うんだって、知っていた」
 震える自分の指に向かって、杏子は囁いた。
「アタシは特別だって、わかっていた。何かあるって、ずっと知っていたんだ」
「ああ、きみの言うとおり」
 ダンブルドアはもはや微笑んでいなかった。杏子をじっと観察していた。
「君は魔女だ」
 杏子は顔を上げた。表情がまるで変わっていた。激しい喜びが現れている。しかし何故かその顔は、より美少女に見えるどころか、むしろ端正な顔立ちが粗野に見え、ほとんど獣性をむき出した表情だった。
「じゃあアンタは魔法使いなのか?」
「いかにも」
「証明しろ」
 即座に杏子が言った。「真実を言え」と言ったときと同じ命令口調だった。
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/09/28(金) 09:44:29.41 ID:egDxkjz6o
「きみに異存は無いだろうと思うが、もし、ホグワーツへの入学を受け入れるつもりなら――」
「もちろんだ!」
「それなら、わしを『先生』と呼びなさい。『命令』も禁止じゃ」
 杏子の表情が硬くなった。それから、がらりと人が変わったように丁寧な声で言った。
「すみません、先生。先生には『命令』できないみたいですね。それから、どうぞ、アタシに見せていただけませんか――?」
 ダンブルドアは頷くと、背広の内ポケットから杖を取り出し、隅にあるみずぼらしい洋箪笥に向けて、気軽にひょいと一振りした。
 洋箪笥が炎上した。
 杏子は飛び上がった。しかし、杏子が食ってかかったときにはもう、炎は消え、洋箪笥は全く無傷だった。
 杏子は、洋箪笥とダンブルドアを交互に見つめ、それから貪欲な表情で杖を指差した。
「そういう物はどこで手に入れられますか?」
「すべて時が来たれば」ダンブルドアが言った。
「それから、箪笥の中の盗品はそれぞれの持ち主に謝って、返しなさい。」
 杏子は初めて怯えた表情をした。
「きちんとそうしたかどうか、わしにはわかるのじゃよ。注意しておくが、ホグワーツでは盗みは許されない」
 杏子は恥じ入る様子をさらさら見せなかった。冷たい目で値踏みするようにダンブルドアを見つめ続けていたが、やがて感情のない声で言った。
「はい、先生」
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/09/28(金) 09:45:12.20 ID:egDxkjz6o
「ホグワーツでは」
 ダンブルドアは言葉を続けた。
「魔法を使うことを教えるだけでなく、それを制御することも教える。きみは我々の学校では教えることも許すこともないやり方で、自分の力を使ってきた。魔法力に溺れてしまうものは、きみが初めてでもないし最後でもない。しかし、覚えておきなさい。ホグワーツでは生徒を退学させることができるし、魔法省は――そう、魔法省というものがあるのじゃ――法を破る者をもっとも厳しく罰する。新たに魔法使いとなる者は、魔法界に入るにあたって、我らの法律に従うことを受け入れねばならない」
「はい、先生」杏子がまた言った。
 杏子は盗品を出し終わると、ダンブルドアを見て、素っ気なく言った。
「アタシはお金を持っていません」
「きみのご両親が残したお金がある。これが金庫の鍵じゃ」
「学用品はどこで買いますか?」
「ダイアゴン横丁で」ダンブルドアが言った。「ここにきみの教科書や教材のリストがある。どこに何があるか探すのを、わしが手伝おう――」
「一緒に来るんですか?」杏子が顔を上げて聞いた。
「いかにも、きみがもし――」
「アンタは必要ない」杏子が言った。
「自分ひとりでやるのに慣れている。いつでもひとりでロンドンを歩いてるんだ。そのダイアゴン横丁とかいう所にはどうやって行くんだ?――先生?」
 ダンブルドアの目を見たとたん、杏子は最後の言葉をつけ加えた。
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/09/28(金) 09:46:05.80 ID:egDxkjz6o
 ダンブルドアは教材リストの入った封筒を杏子に渡し、孤児院から「漏れ鍋」への行き方をはっきり教えた後、こう言った。
「周りのマグル――魔法族ではない者のことじゃが――その者たちには見えなくとも、きみには見えるはずだ。バーテンのトムを訪ねなさい」
「わかりました」
 杏子が呟いた。それから、抑えきれない疑問が思わず口を衝いて出たように、杏子が聞いた。
「アタシの父さんと母さんは魔法使いだったのか?」
「そうじゃ。二人とも優秀な魔法使いじゃった。」ダンブルドアは穏やかな声で言った。
「じゃあどうして死んだんだ?」杏子は拳を握りしめて聞いた。
「ヴォルデモートと言う闇の魔法使いから、きみを守って殺された」
「…………」
杏子は暫くの沈黙から口を開いた。表情からは何も読み取れなかった。
「そいつは今どうしてる?」
「きみを殺しそこね、力を打ち砕かれた」
ダンブルドアはむっつりと言った。
「消えたのじゃ。消滅じゃ。死んだという者もいる。まだどこかにいて、時の来るのを待っているという者もいる。どこかにいるが、力を失ってしまったと考える者が大多数じゃ」
「どうしてアタシを殺そうとしたんだ? どうしてアタシを殺せなかったんだ?」杏子が続けざまに聞いた。
「おお、なんと、きみの質問にわしは答えてやることができん」
 杏子には、ここで食い下がってもどうにもならないということがわかった。
「……そうか――それで――アタシの物を全部揃えたら――そのホグワーツとかに、いつ行くんだ?」
「細かいことは、封筒の泣かの羊皮紙の二枚目にある」ダンブルドアが言った。「きみは、一日にキングズ・クロス駅から出発する。その中に汽車の切符も入っている」
 杏子が頷いた。ダンブルドアは立ち上がって、また手を差し出した。今度は杏子も握った。
「さようなら、杏子。ホグワーツで会おう」
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/28(金) 09:49:51.58 ID:hlgUIzyDO
これは期待

ただ、詰めすぎ感が。

会話文の後に1行、間を空けて改行したほうが見やすいかと(普通の文章も、長くなる場合は)
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/28(金) 10:21:15.45 ID:yAsvlCCwo
内容は読みやすい文章だな。本格的なクロスっぽいしこれは期待せざるを得ない。

ただ横書きで文字がみっちり詰め込まれると見にくいから段落ごとに一行空けてくれると助かるかも。
続き待ってます。
15 :了解。こんなかんじでどうでしょ [saga]:2012/09/28(金) 10:43:40.33 ID:egDxkjz6o
 杏子は「漏れ鍋」を見つめて呟いた。
 ちっぽけな薄汚れたパブだった。足早に道を歩いてく人たちは、
パブの隣にある本屋から反対隣にあるレコード店へと目を移し、
真ん中の「漏れ鍋」にはまったく目もくれない。
マグルに見えないとはこういうことかと考えながら中へ入った。
暗くてみずぼらしい。隅の方におばあさんが二、三人腰掛けて小さなグラスでシェリー酒を飲んでいた。
一人は長いパイプをくゆらしている。
小柄な、シルクハットをかぶった男がバーテンのじいさんと話している。
じいさんはハゲていて、歯の抜けたクルミのような顔をしている。
そして背丈は普通の二倍、横幅は五倍ある大男がいる。大男と目があった。
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/09/28(金) 10:44:14.44 ID:egDxkjz6o
「杏子!佐倉杏子!」大男に呼ばれた。佐倉だってと少しざわつく。

「アンタ誰?」訝しげに大男を見つめる。

「ホグワーツの森の番人、ハグリッドだ。おまえさんの案内を務める」

「ひとりでいいとダンブルドアに言った」

「そのダンブルドアに頼まれた。まあ座れ」

 ハグリッドは肩を叩きながらそう言った。杏子は膝がカクンとなった。どうも勝ち目が無さそうだ。杏子はため息をついた。

「テキーラ」杏子が言った。

「はいよテキーラ」ミルクを出された。

「……」

「まあまっちょれあと三人くる、おっ早速きた」

「さやか!美樹さやか!」
ハグリッドが青髪の少女に声をかける。
後ろ髪が斜めにカットされたショートとミディアムの中間のアシンメトリーな髪型であり、髪留めをしている。
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/09/28(金) 10:44:52.15 ID:egDxkjz6o
「あんたがハグリッド?なんというか……でかいわね。よろしく。そっちは?」

「佐倉杏子、おまえさんと同じイッチ年生だ」

「そうなんだ!よろしくね!」

「……よろしく」

「なによ歯切れ悪いわねー!もっと愛想よくできないの?」

「……うるせぇ」

「な!あんたねえ」

「さやかちゃん落ち着いて」 桃色の髪を赤いリボンで左右2つに結っている少女が静止する。
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/09/28(金) 10:46:14.08 ID:egDxkjz6o
「まどか!あんたも呼ばれてたの?」

「う、うん。手紙で……」

「鹿目まどか!よろしく!」
ハグリッドはまた肩を叩きながらそう言った。まどかは崩れ落ちた。

「……」杏子が手を差し伸べる。

「ありがとう!」まどかが手をとり笑顔を向けると、杏子は顔を背けた。

「へーえ」さやかがニヤつく。

「なんだよ」杏子が睨む。

「べっつにー」

「ハグリッド」
突然の声に全員が振り向く。黒髪のカチューシャをつけた少女が立っていた。
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/09/28(金) 10:47:07.30 ID:egDxkjz6o
「暁美ほむらか!」

「ええ」
振り下ろされた手を避けて少女が答えた。

「美樹さやか」

「佐倉杏子」

「鹿目まどか」

「よろしくね!」とさやかとまどか。

 ほむらとまどかは長いこと見つめ合った。

「えっと……私たちどこかで会ったことある……のかな?」まどかが聞いた。

「なんでもないわよろしく」そう言うとほむらは背を向けた。

「で、このメンツは?」杏子が尋ねる。

「問題児だ」ハグリッドがニコーッと笑った。
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/09/28(金) 10:59:38.97 ID:egDxkjz6o
「ちょっとそれどういう意味?」さやかがつっかかる。

「さてね、お、クィレル教授!」

 ハグリッドがいかにも神経質そうな白い顔の若い男に呼びかけた。片方の目がピクピク痙攣している。

「みんな、クィレル先生はホグワーツの先生だよ」

「お会いできてう、うれ、しいです」

「クィレル先生、どんな魔法を教えていらっしゃるんですか?」
物怖じしないさやかが聞く。

「や、や、闇の魔術に対するぼ、ぼ、防衛です」

 教授は、まるでそのことは考えたくないとでもいうようにボソボソ言った。

「学用品をそ、揃えにきたんだね?わ、私も、吸血鬼の新しいほ、本をか、買いにいく、ひ、必要がある」

 教授は自分の言ったことにさえ脅えているようだった。

「それでは教授。さあ行くぞみんな」
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/09/28(金) 11:00:42.28 ID:egDxkjz6o
 ハグリッドはパブを通り抜け、壁に囲まれた小さな中庭に一同を連れ出した。
ゴミ箱と雑草が二、三本生えてるだけの庭だ。

「あの人、いつもあんなに神経質なの?」さやかが聞いた。

「ああ、そうだ。哀れなものよ。秀才なんだが。
本を読んで研究しとった時はよかったんだが、
一年間実地に経験を積むちゅうことで休暇を取ってな……どうやら黒い森で吸血鬼に出会ったらしい。
その上鬼婆といやーなことがあったらしい……それ以来じゃ、人が変わってしもた。
生徒を怖がるわ、自分の教えてる科目にもビクつくわ……さてと、俺の傘はどこかな?」

 吸血鬼に鬼婆ねえ……杏子は自分が知らない世界にいることを噛み締めた。
ハグリッドはといえば、ゴミ箱の上の壁のレンガを数えてる。

「三つ上がって……横に二つ……」
ブツブツ言っている。

「よしと。下がってろよ」

 ハグリッドは傘の先で壁を三度叩いた。すると叩いたレンガが震え、次にクネクネと揺れた。
そして真ん中に小さな穴が現れたたかと思ったらそれはどんどん広がり、
次の瞬間、目の前に、ハグリッドでさえ十分に通れるほどのアーチ型の入口ができた。
そのむこうには石畳の通りが曲がりくねって先が見えなくなるまで続いていた。

「ダイアゴン横丁にようこそ」
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/09/28(金) 12:26:12.56 ID:nEbP3WgAO
これは期待
べえさんはどういう立ち位置なんだろ?
あとイギリスなのに全員日本名なのもなにか理由があるのかしら
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/09/28(金) 13:09:41.37 ID:egDxkjz6o
>>22
ごめん……どうやっても試行錯誤したんだけどどうやっても助長になるからべえさん切った。
あと何故か日本名なのにふわついてるというご都合設定だごめん
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/28(金) 15:49:27.97 ID:nB56fShq0
期待して待ちます
将来アンコがヴォルデモートみたいにならんだろうな……?
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/28(金) 20:02:11.84 ID:NJiq+r3DO
期待!
続き待ってます
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/09/29(土) 01:04:39.23 ID:/UcNTWiko

ハリポタは映画しか見てないんだが、もともとこういう直訳っぽい感じの文体なの?
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/09/29(土) 02:12:54.46 ID:xUFzWA1ro
べぇさんはフクロウポジかなんかで完全にマスコットキャラにすれば良いんじやね
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/29(土) 05:29:56.54 ID:8AqwNY6DO
性格とか口調だけモデルにして登場ってことか
判断するのは勿論>>1だが普通にありだな
29 : ◆fG4qOWmicojn [saga]:2012/09/29(土) 09:28:50.20 ID:Sw3uTU+qo
 五人はアーチをくぐり抜けた。杏子が急いで振り返った時には、アーチは見るみる縮んで、固いレンガ壁に戻るところだった。

 そばの店の外に積み上げられた大鍋に、陽の光がキラキラと反射している。上には看板がぶら下がってる。
【鍋屋―大小いろいろあります。銅、真鍮、錫、銀―自動かき混ぜ鍋―折畳み式】

「一つ買わにゃならんが、まずは金を取ってこんとな」とハグリッドがった。

 目玉があと八つぐらい欲しい、と杏子は思った。いろんな物を一度に見ようと、四方八方キョロキョロしながら横丁を歩いた。お店、その外に並んでいるもの、買い物客も見たい。

 薄暗い店から、低い静かなホーホーという鳴き声が聞こえてきた。看板が出ている。
【イーロップのふくろう百貨店―森ふくろう、このはずく、めんふくろう、茶ふくろう、白ふくろう】

 杏子と同い年ぐらいの男の子が数人、箒のショーウィンドウに鼻をくっつけて眺めている。誰かがなにか言っているのが聞こえる。

「見ろよ。ニンバス2000新型だ……超高速だぜ」
30 :>>26感じ方次第ですが概ね [saga]:2012/09/29(土) 09:38:34.13 ID:Sw3uTU+qo
「グリンゴッツだ」ハグリッドの声がした。

「私とまどかはもうおろしてあるから、先に買い物すませとくね」さやかが言った。

「私も」ほむらが言った。

「分かった三十分後にここで会おう」ハグリッドが答えた。

 小さな店の立ち並ぶ中、ひときわ高くそびえる真っ白な建物だった。磨き上げられた扉の両脇に、立っているのは……

「さよう、あれが小鬼だ」

 そちらに向かって白い石段を登りながら、ハグリッドがヒソヒソ声で言った。小鬼は杏子より頭一つ小さい。
浅黒い賢そうな顔つきに、先の尖ったあごひげ、それに、なんと手の指と足の先の長いこと。
三人が入り口に進むと、小鬼がお辞儀した。中には二番目の扉がある。今度は銀色の扉で、なにか言葉が刻まれている。
31 :>>27文量これ以上増えるとやばいんだ。べえさん魅力的だけど堪忍しておくれやす [saga]:2012/09/29(土) 09:42:01.30 ID:Sw3uTU+qo
「うわさでは、重要な金庫はドラゴンが守ってるということだ」

「ドラゴンがいるって?」

「ああ、そう言われとる。俺はドラゴンが欲しい。いやまったく」

「欲しい?」

「ガキの頃からずーっと欲しかった。さて、行くぞ」

 左右の小鬼が、銀色の扉を入る二人にお辞儀をした。中は広々とした大理石のホールだった。

 百人を超える小鬼が、細長いカウンターの向こう側で、脚高の丸椅子に座り、大きな帳簿に書き込みをしたり、
真鍮の秤でコインの重さを測ったり、片眼鏡で宝石を吟味したりしていた。
ホールに通じる扉は無数にあって、これまた無数の小鬼が、出入りする人々を案内している。ハグリッドと杏子はカウンターに近づいた。
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/09/29(土) 09:48:09.89 ID:Sw3uTU+qo
「おはよう」

ハグリッドが手のすいている小鬼に声をかけた。

「佐倉杏子の金庫から金を取りに来たんだが」

「鍵はお持ちでいらっしゃいますか?」

 杏子は小さな黄金の鍵を出した。

 小鬼は、慎重に鍵を調べてから、「承知しました」と言った。

「それとダンブルドア教授からの手紙を預かってきとる」
 ハグリッドは胸を張って、重々しく言った。

「七百十三番金庫にある、例の物についてだが」

 小鬼は手紙を丁寧に読むと、「了解しました」とハグリッドに返した。

「誰かに両方の金庫へ案内させましょう。グリップフック!」

 グリップフックも小鬼だった。二人はグリップフックについて、ホールから外に続く無数の扉の一つへと向かった。

「例の物ってなんだ?」杏子が聞いた。

「それは言えん」

 ハグリッドは曰くありげに言った。

「極秘じゃ。ホグワーツの仕事でな。ダンブルドアは俺を信頼してくださる。
おまえさんたちにしゃべったりしたら、俺がクビになるだけではすまんよ」
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/09/29(土) 09:49:15.98 ID:Sw3uTU+qo
 グリップフックが扉を開けてくれた。杏子はずっと大理石が続くと思っていたので驚いた。
そこは松明に照らされた細い石造りの通路だった。急な傾斜が下の方に続き、床に小さな線路がついている。
グリップフックが口笛を吹くと、小さなトロッコがこちらに向かって元気よく線路を上がってきた。
三人は乗り込んだ……ハグリッドもなんとか納まった――発車。

 迷路をトロッコはビュンビュン走った。杏子は道を覚えようとしたが諦めた。
とうてい無理だ。舵取りしてないのに、トロッコは行き先を知っているかのようにビュンビュン走っていく。

 トロッコは更に深く潜っていった。地下湖のそばを通ると、巨大な鍾乳石と石筍が天井と床からせり出していた。

「アタシいつもわからなくなるんだけど」
トロッコの音に負けないよう、杏子はハグリッドに大声で呼びかけた。

「鍾乳石と石筍て、どうちがうんだ?」

「三文字と二文字の違いだろ。たのむ。今は何も聞いてくれるな。吐きそうだ」

 確かに、ハグリッドは真っ青だ。小さな扉の前でトロッコはやっと止まり、
ハグリッドは降りたが、膝の震えの止まるまで通路の壁にもたれかかっていた。
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/09/29(土) 09:50:39.60 ID:Sw3uTU+qo
 グリップフックが扉の鍵を開けた。緑色の煙がモクモクと吹き出してきた。それが消えたとき、杏子はあっと息をのんだ。
中には金貨の山また山。高く積まれた銀貨の山。そして小さな銅貨までザックザクだ。

「みーんなおまえさんのだ」ハグリッドはほほえんだ。

 全部アタシのもの……信じられない。孤児院じゃ駄菓子も買えないほど貧乏だったのに。
ロンドンの地下深くに、こんなにたくさんのアタシの財産がずっと埋められていたなんて。

 ハグリッドは杏子がバックにお金を詰め込むのを手伝った。

「金貨はガリオンだ。銀貨がシックルで、銅がクヌート。十七シックルが一ガリオン、一シックルは二十九クヌートだ。
簡単だろうが。よーしと。これで、二、三学期分は大丈夫だろう。残りはちゃーんとしまっといてやるからな」

 ハグリッドはグリップフックの方に向き直った。

「次は七百十三番金庫を頼む。ところでもうちーっとゆっくり行けんか?」

「速度は一定となっております」
35 :ss初めてで、文才もなくて、原作に依存してるから厳しいというのもあります。力不足で申し訳ない [saga]:2012/09/29(土) 09:53:20.27 ID:Sw3uTU+qo
 七百十三番金庫には鍵穴がなかった。

「下がってください」

 グリップフックがもったいぶって言い、長い指の一本でそっとなでると、扉は溶けるように消え去った。

「グリンゴッツの小鬼以外の者がこれをやりますと、扉に吸い込まれて、中に閉じ込められてしまいます」
とグリップフックが言った。

「中に誰か閉じ込められてないかどうか、時々調べるのか?」と杏子が聞いた。

「十年に一度ぐらいでございます」

 グリップフックはニヤリと笑った。こんなに厳重に警護された金庫だもの、きっと特別なすごいものがあるに違いない。
杏子は期待して身を乗り出した。少なくともまばゆい宝石か何かが……。中を見た……なんだ空っぽじゃないか、とはじめは思った。
次に目に入ったのは、茶色の紙でくるまれた薄汚れた小さな包みだ。床に転がっている。
ハグリッドはそれを拾い上げ、コートの奥深くしまい込んだ。杏子はそれがいったい何なのか知りたくてたまらなかったが、聞かない方がよいのだとわかっていた。
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/09/29(土) 09:56:30.48 ID:Sw3uTU+qo
「行くぞ。地獄のトロッコへ。帰り道は話しかけんでくれよ。俺は口を閉じているのが一番よさそうだからな」

 もう一度猛烈なトロッコを乗りこなして、陽の光にパチクリしながら二人はグリンゴッツの外に出た。そこではもうさやかとまどかとほむらが待っていた。

「教科書は全部買っておいたよ。いやー重くてまいったまいった」さやかが言った。

 杏子は礼も言わずに教科書を受け取った。

「制服を買った方がいいな」

 ハグリッドは【マダムマルキンの洋装店――普段着から式服まで】の看板をあごでさした。

「なあ、『漏れ鍋』でちょっとだけ元気薬をひっかけてきてもいいかな? グリンゴッツのトロッコにはまいった」

 ハグリッドといったんそこで別れ、四人はマダム・マルキンの店に入っていった。
37 :べえさんどれだけ望まれているか興味があるのでよかったら言うだけ言ってって下さい。無駄で悪いですが :2012/09/29(土) 09:58:58.92 ID:Sw3uTU+qo
 マダム・マルキンは、藤色ずくめの服を着た、愛想のよい、ずんぐりした魔女だった。

「お嬢ちゃんたち。ホグワーツなの?」

 さやかが口を開きかけたとたん、声をかけてきた。

「全部ここで揃いますよ……もう一人お若い方が丈を合わせているところよ」

 店の奥で、青白い、あごのとがった男の子が踏み台の上に立ち、もう一人の魔女が長い黒いローブをピンで止めていた。
マダム・マルキンはさやかをその隣の踏台に立たせ、頭から長いローブを着せかけ、丈を合わせてピンで留めはじめた。

「やあ、君たちもホグワーツかい?」男の子が声をかけた。

「うん」とさやかとまどかが答えた。杏子とほむらは教科書を眺めていた。

「僕の父は隣で教科書を買ってるし、母はどこかその先で杖を見てる」

 男の子は気だるそうな、気取った話し方をする。
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/09/29(土) 10:00:21.03 ID:Sw3uTU+qo
「これから、二人を引っぱって競技用の箒を見に行くんだ。一年生が自分の箒をもっちゃいけないなんて、
理由がわからないね。父を脅して一本買わせて、こっそり持ち込んでやる」

 いけすかないやつだ、と杏子とさやかは思った。

「君たちは自分の箒をもっているのかい?」
 男の子はしゃべり続けている。

「ううん」

「クィディッチはやるの?」

「ううん」

 クィディッチ? 一体全体何だろうと杏子は思った。

「僕はやるよ――父は僕が寮の代表選手に選ばれなかったらそれこそ犯罪だって言うんだ。
僕もそう思うね。君たちはどの寮に入るかもう知ってるの?」

「ううん」

 さやかとまどかは二人で答えた。
39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/09/29(土) 10:01:48.11 ID:Sw3uTU+qo
「まあ、ほんとのところは、行ってみないっとわからないけど。そうだろう? だけど僕はスリザリンに決まってるよ。
僕の家族はみんなそうだったんだから……ハップルパフなんかに入れられてみろよ。僕なら退学するな。そうだろう?」

「そうかな」

さやかがイライラしながら言った。

「ほら、あの男を見てごらん!」

 急に男の子は窓のほうを顎でしゃくった。ハグリッドが店の外に立っていた。四人の方を見てニッコリしながら、
手に持った五本のアイスクリームを指さし、これがあるから店の中には入れないよ、という手振りをしていた。

「あれ、ハグリッドだよ」
さやかが答えた。

「ホグワーツで働いているんだ」

「ああ、聞いたことがある。一種の召使いだろ?」

「森の番人だよ」

 時間が経てばたつほど杏子とさやかはこの子が嫌いになっていた。
40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/09/29(土) 10:02:42.54 ID:Sw3uTU+qo
「そう、それだ。言うなれば野蛮人だって聞いたよ……学校の領地内のほったて小屋に住んでいて、
しょっちゅう酔っ払って、魔法を使おうとして、自分のベットに火をつけるんだそうだ」

「彼って最高だと思うよ」さやかは冷たく言い放った。

「へえ?」
 男の子は鼻先でせせら笑った。

「どうして君たちと一緒なの?」

「知らない」

「君の両親はどうしたの?」

「健在だよ」
 さやかはそれしか言わなかった。

「他の三人は?」

「元気だよ」とまどか。

「死んだよ」と杏子。さやかとまどかが驚いて杏子の方を見る。

 ほむらは答えない。

「おや、ごめんなさい」

 謝っているような口ぶりではなかった。
41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/09/29(土) 10:04:12.72 ID:Sw3uTU+qo
「でも、君たちの両親も僕らと同族なんだろう?」

「魔法使いと魔女だよ。そういう意味で聞いているんなら」
 とさやかが答える。男の子は顎でまどかと杏子に尋ねる。

「私も」とまどか。

「同じく」と杏子。

「他の連中は入学させるべきじゃないと思うよ。そう思わないか? 連中は僕らと同じじゃないんだ。
僕らのやり方がわかるような育ち方をしていないんだ。手紙をもらうまではホグワーツのことだって聞いたこともなかった、
なんてやつもいるんだ。考えられないようなことだよ。入学は昔からの魔法使い名門家族に限るべきだと思うよ。
君たち、家族の姓はなんていうの?」

 三人が答える前に、マダム・マルキンが「さあ、終わりましたよ、坊ちゃん」と言った。
男の子は踏台からポンと飛び降りた。会話は終わった。

「じゃ、ホグワーツでまた会おう。たぶんね」と気取った男の子が言った。
42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/09/29(土) 10:08:01.71 ID:Sw3uTU+qo
 全員の丈を合わせ終わり、店を出てハグリッドが持ってきたアイスクリームを食べながら杏子が聞いた。

「クィディッチってなんだ?」

「え?」とさやかが驚いた。

「マグルに囲まれて育ったんだ。この前まで魔法界のことなんて知らなかったんだよ」
杏子が口を尖らせる。

「ごめん。箒にのってやるスポーツだよ。最高だよ」さやかが答える。

「それにしてもなんだったのアイツ」

「アイツ?」ハグリッドが聞く。

 さやかはマダム・マルキンの店で出会った青白い子の話をした。

「そういやマグルの家の子はいっさい入学させるべきじゃないとか言ってたな」
杏子が呟く。

「……」
43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/09/29(土) 10:09:21.23 ID:Sw3uTU+qo
「おまえはマグルの家の子じゃない。おまえが何者なのかその子がわかっていたらなあ……」

「そういや杏子の姓って佐倉だよね……もしかしてあの佐倉?」

「どの佐倉だよ」

「例のあの人と闘って相打ちになった佐倉よ」

「例のあの人? ……もしかしてヴォルデモートのことか?」

 その名前を聞いてハグリッドとさやかとまどかの顔が青ざめてギクリとする。

「なんだよお前ら」

「いいか、杏子。魔法界ではその名前を口にしてはならんぞ」

「はぁ? 変なの。分かったよ。まあその佐倉で間違いないと思うぞ」

 しかし相打ちねえ……ダンブルドアはアタシを殺しそこねたって話してたけど。
世間じゃ違うらしいな。杏子は考えた。
44 :今日はここまで。毎日を目標にしています。 [saga]:2012/09/29(土) 10:10:52.51 ID:Sw3uTU+qo
「うわー」さやかとまどかが目を丸くする。

「有名なんだな」杏子が言う。

「有名なんてもんじゃない」ハグリッドが言う。

「じゃあこの話は他言無用だ。面倒臭そうだからな」

「わ…わかった」さやかが言う

「うん」とまどか。

「じゃ、スリザリンとハップルパフって?」

「学校の寮の名前だ。四つあってな。ハップルパフには劣等生が多いとみんなは言うが、しかし……」

「私、きっとハップルパフだ」まどかが沈んだ声で言う。

「スリザリンよりはハップルパフの方がましだ」ハグリッドの表情が暗くなった。

「悪の道に走った魔法使いや魔女は、みんなスリザリン出身だ。『例のあの人』もそうだ」

「ヴォル……おっと……『あの人』もホグワーツだったのか?」

「昔々のことさ」
45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/09/29(土) 21:23:17.99 ID:Sw3uTU+qo
べえさん出します
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/29(土) 21:37:06.59 ID:q9xTPOo5o
くるか…
47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/09/29(土) 22:47:10.21 ID:Sw3uTU+qo
知識と頭脳とその他もろもろで、お話をスピード解決されては困るので、ある程度劣化させます。多分マスコット的存在に落ち着きます。
48 : ◆fG4qOWmicojn [saga]:2012/09/30(日) 12:25:26.98 ID:eSSveo1wo
 次に鍋を買った。魔法薬の材料を計る秤は上等なのを買い、真鍮製の折畳み式望遠鏡も買った。次は薬問屋に入った。

「あとは杖だけだな……みんな、他に欲しいものはあるか?」

「ふくろうが欲しい」杏子が言った。

「おおいいな。ふくろうは役に立つ。郵便とかを運んでくれるし」

 イーロップふくろう百貨店は、暗くてバタバタと羽音がし、宝石のように輝く目があちらこちらでパチクリしていた。
五分後、五人は店から出てきた。杏子は多きな鳥籠を下げている。籠の中では、雪のように白い美しいふくろうが、羽根に頭を突っ込んでぐっすり眠っている。
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/09/30(日) 12:26:22.19 ID:eSSveo1wo
「あとはオリバンダーの店だけだ……杖はここにかぎる。杖のオリバンダーだ。最高の杖をもたにゃいかん」

 魔法の杖……これこそ杏子が本当に欲しかった物だ。

 最後の買い物の店は狭くてみずぼらしかった。剥がれかかった金色の文字で、
扉に【オリバンダーの店――紀元前三八二年創業 高級杖メーカー】と書いてある。
埃っぽいショーウィンドウには色褪せた紫色のクッションに、杖が一本だけ置かれていた。

 中に入るとどこか奥の方でチリンチリンとベルが鳴った。小さな店内に古くさい椅子が一つだけ置かれていて、
ハグリッドはそれに腰掛けて待った。四人は、天井近くまで整然と積み重ねられた何千という細長い箱の山を見ていた。
なぜか背中がゾクゾクした。埃と静けさそのものが、密かな魔力を秘めているようだった。

「いらっしゃいませ」

 柔らかな声がした。三人は跳び上がった。ハグリッドも跳び上がったに違いない。古い椅子がバキバキと大きな音をたて、ハグリッドは慌てて華奢な椅子から立ち上がった。

 目の前に老人が立っていた。店の薄明かりの中で、大きな薄い色の目が、二つの月のように輝いている。
50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/09/30(日) 12:28:20.76 ID:eSSveo1wo
「こんにちは」二人がぎこちなく挨拶した。

「おお、そうじゃ」と老人が言った。

「そうじゃとも、そうじゃとも。まもなくお目にかかれると思ってましたよ佐倉さん」

 オリバンダー老人はまどかに近づいて言った。

「お母さんと同じ目をしていなさる。あの子がここに来て、最初の杖を買っていったのがほんの昨日のことのようじゃ。
あの杖は二十六センチの長さ。楓の木でできていて、振りやすい、妖精の呪文にはぴったりの杖じゃった」

「わ、私は鹿目!鹿目まどかです!」

「佐倉はアタシだ」

 オリバンダー老人は今度は杏子に近づいて言った

「おお失礼。しかし良く似ていなさる。あなたはお父さんと同じ目をしていなさる。
お父さんの方はマホガニーの杖が気に入られてな。二十八センチのよくしなる杖じゃった。
どれより力があって変身術には最高じゃ。いや、父上が気に入ったと言うたが……
実はもちろん、杖の方が持ち主の魔法使いを選ぶのじゃよ」

 オリバンダー老人が、ほとんど鼻と鼻がくっつくほどに近寄ってきたので、
杏子には自分の姿が老人の霧のような瞳の中に映っているのが見えた。
51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/09/30(日) 12:31:27.40 ID:eSSveo1wo
「悲しいことに、ご両親を殺したのも、わしの店で売った杖じゃ」静かな言い方だった。

「三十四センチもあってな。イチイの木でできた強力な杖じゃ。とても強いが、間違った者の手に……
そう、もしあの杖がの中に出て、何をするかわしがしっておればのう……」

「鹿目と言われたな……ご両親の杖は――」

「じいさま。その辺で」
 老人は頭を振り、ハグリッドに気づいた。

「ルビウス!ルビウス・ハグリッドじゃないか!また会えて嬉しいよ……
四十一センチの樫の木。よく曲がる。そうじゃったな」
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/09/30(日) 12:32:45.77 ID:eSSveo1wo
「ああ、じいさまそのとおりです」

「いい杖じゃった。あれは。じゃがおまえさんが退学になった時、真っ二つに折られてしもうたのじゃったな?」
 オリバンダー老人は急に険しい口調になった。

「いや……あの、折られました、はい」
 ハグリッドは足をモジモジさせながら答えた。

「でも、まだ折れた杖を持ってます」
 ハグリッドは威勢よく言った。

「じゃが、まさか使ってはおるまいの?」オリバンダー老人はピシャリと言った。

「とんでもない」
 ハグリッドはあわてて答えたが、そう言いながらピンクの傘の柄をギュッと強く握りしめたのを杏子は見逃さなかった。

「ふーむ」
 オリバンダー老人は探るような目でハグリッドを見た。
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/09/30(日) 12:34:49.91 ID:eSSveo1wo
「それではお嬢さん方。拝見しましょうか。どなたから?」
 老人は銀色の目盛りの入った長い巻尺をポケットから取り出した。

「はい!はい!私から!美樹さやかから!」さやかが言った。

「どちらが杖腕ですかな?」

「私右利きです」

「腕を伸ばして。そうそう」

 老人はさやかの肩から指先、手首から肘、肩から床、膝から脇の下、頭の周り、と寸法を採った。
測りながら老人は話を続けた。

「美樹さん。オリバンダーの杖は一本一本、強力な魔力を持ったものを芯に使っております。
一角獣のたてがみ、不死鳥の尾の羽根、ドラゴンの心臓の琴線。
一角獣も、ドラゴンも、不死鳥もみなそれぞれに違うのじゃから、オリバンダーの杖には一つとして同じ杖はない。
もちろん他の魔法使いの杖を使っても、決して自分の杖ほどの力は出せないわけじゃ」
54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/09/30(日) 12:36:43.57 ID:eSSveo1wo
 さやかは巻尺が勝手に鼻の穴の間を測っているのにハッと気がついた。
オリバンダー老人は棚の間を飛び回って、箱を取り出していた。

「もうよい」と言うと巻尺は床の上に落ちて、クシャクシャと丸まった。

「では美樹さん。これをお試しください。ぶなの木にドラゴンの心臓の琴線。
二十三センチ、良質でしなりがよい。手に取って、振ってごらんなさい」

 さやかは杖を取り、なんだか気はずかしく思いながら杖をちょっと振ってみた。
オリバンダー老人はあっという間にさやかの手からその杖をもぎ取ってしまった。

「楓に不死鳥の羽根。二十センチ、振りごたえがある。どうぞ」

 さやかは試してみた……しかし、振り上げるか上げないうちに、老人がひったくってしまった。

「だめだ。いかん――次はトリネコ材とドラゴンの琴線。三十センチ、心地よくしなる。さあどうぞ試してください」

 さやかは次々と試してみた。いったいオリバンダー老人は何を期待しているのかさっぱりわからない。
試し終わった杖の山が古い椅子の上にだんだん高く積み上げられてゆく。
それなのに、棚から新しい杖を下ろすたびに、老人はますます嬉しそうな顔をした。

「難しい客じゃの。え?心配なさるな。必ずピッタリ合うのをお探ししますでな。……さて次はどうするかな……おおそうじゃ……樫の木と一角獣のたてがみ、二十六センチ、頑固」

 さやかは杖を手にとった。急に指先が暖かくなった。杖を頭の上まで振り上げ、埃っぽい店内の空気を切るようにヒュッと振り下ろした。
すると杖の先から青い音符が流れだし、メロディが奏でられた。ハグリッドは「オーッ」と声を上げて手を叩き、オリバンダー老人は「ブラボー!」と叫んだ。
55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/09/30(日) 12:38:45.64 ID:eSSveo1wo
「すばらしい、いや、よかったさて、さて、さて……お次はどちらかな?」

「アタシ、杖はそれだ」
「私、杖はそれです」
 杏子とまどかは箱を指さして同時に言った。

「なんと、なんと、杖をご指名とは。それも二人も。おやこれは……振ってみてくだされ」

 杏子とまどかが杖を手に取り振りおろすと、杏子の杖からは金色の火花が花火のように流れだし、光の玉が踊りながら壁に反射した。
まどかの杖からはピンク色のバラが咲いた。

「オーッ」
「ブラボー!」
ハグリッドとオリバンダー老人はまた言った。
56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/09/30(日) 12:42:10.03 ID:eSSveo1wo
 老人は二人の杖を箱に戻し、茶色の紙で包みながら、まだブツブツと繰り返していた。

「不思議じゃ……不思議じゃ……」

「あのう。何がそんなに不思議なんですか」とまどかが聞いた。

「鹿目さん、佐倉さん。わしは自分の売った杖はすべて覚えておる。全部じゃ。
あなたたちの杖――柳と不死鳥の羽根十八センチ、柊と不死鳥の羽根二十八センチじゃが――
あなたたちの杖に入ってる不死鳥の羽根はな、同じ不死鳥が提供した尾羽根なのじゃ。
そしてその不死鳥がもう一枚だけ提供した。あなた方がこの杖を持つ運命にあったとは、不思議なことじゃ。兄弟羽根が……なんと兄弟杖がご両親を殺したというのに……」

 杏子たちは息を飲んだ。

「さよう。三十四センチのイチイの木じゃった。こういうことが起こるとは、不思議なものじゃ。杖は持ち主の魔法使いを選ぶ。
そういうことじゃ……。鹿目さん、佐倉さん、あなた方はきっと偉大なことをなさるにちがいない……。
『名前を言ってはいけないあの人』もある意味では、偉大なことをしたわけじゃ……恐ろしいことじゃったが、偉大には違いない」
57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/09/30(日) 12:43:55.89 ID:eSSveo1wo
 杏子は身震いした。ほむらがひとりで杖を選びたいと言ったので、杖の代金に七ガリオンを支払い、オリバンダー老人のお辞儀に送られて四人は店を出た。

 しばらくするとほむらも店を出た。

「どんな杖になったの暁美さん?」まどかが聞いた。
「ほむらでいいわ」
「ほむら……ちゃん」
「あぁ、えっと……その……変わった名前だよね」
「い、いや……だから……あのね。変な意味じゃなくてね。その……カ、カッコいいなぁなんて」
「黒檀と不死鳥の羽根三十センチ特徴は……なんでもないわ」

 ほむらが答えた。夕暮れ近くの太陽が空に低くかかっていた。
五人はダイアゴン横丁を、元来た道へと歩き、壁を抜けて、もう人気のなくなった「漏れ鍋」に戻った。五人はそこで別れた。
58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/09/30(日) 12:46:26.22 ID:eSSveo1wo
 孤児院に戻って過ごした出発までの一ヶ月間は、杏子にとって有意義だった。
これまで知らなかった世界の教科書を読むのは楽しかった。
自分と世界との繋がりを感じられ、今までの孤独感が変わったものになった。
ふくろうも一緒だった。ふくろうの名はヘドウィグに決めた。「魔法史」で見つけた名だ。
ヘドウィグは開け放した窓から自由に出入りした。しょっちゅう死んだねずみを食わえてきたので、ミセス・コールが嫌な顔をしたが、杏子はお構いなしだった。

 そうこうしているうちに九月一日になった。杏子は八時半に目が覚めた。もう少しで寝過ごすところだった。
起きだしてホットパンツを履き、パーカーを着た。魔女のマントを着て駅に入る気にはなれない……汽車の中で着替えよう。
必要なものが揃っているかどうか、ホグワーツの「準備するもの」リストをもう一度チェックし、ヘドウィグがちゃんと鳥籠に入ってることを確かめ、バスに乗った。

 キングズ・クロス駅に着いたのは十時半だった。杏子は、トランクをカートに放り込んで駅の中まで運んでいった。九番線と十番線があり、その間にはなにも無かった。
59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/09/30(日) 12:48:00.19 ID:eSSveo1wo
 戸惑っていると、こんな言葉が飛び込んできた。

「……マグルで混み合ってるわね。当然だけど……」

 杏子は急いで後ろを振り返った。青い髪の美しい女性が、同じく青い髪の少女に話しかけていた。さやかだ。

 杏子はカートを押してさやかたちについていき、さやかが立ち止まったので、杏子も話が聞こえるぐらいのところで止まった。

「さて、何番線だったかしら」とお母さんが聞いた。

「九と四分の三よ」さやかが言った。

「じゃあさやか、先に行きなさい」

「ええ……大丈夫なの?」

「心配しなくていいのよ、言ったでしょう。九番と十番の間の柵に向かってまっすぐに歩けばいいの。
立ち止まったり、ぶつかるんじゃないかって怖がったりしないこと、これが大切よ。怖かったら少し走るといいわ。さあ」
60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/09/30(日) 12:49:15.04 ID:eSSveo1wo
「うーん……オーケー」

 さやかはカートをくるりと回して、柵をにらんだ。頑丈そうだった。

 さやかは歩きはじめた。九番線と十番線に向かう乗客が、さやかをあっちへ、こっちへと押すので、さやかはますます早足になった。改札口に正面衝突しそうだ。
そうなったら、やっかいなことになるぞ……カートにしがみつくようにして、さやかは突進した――柵がグングン近づいてくる。もう止められない――カートがいうことをきかない――あと三十センチ――さやかは目を閉じた。

 ぶつかる――スーッ……おや、まだ走っている……さやかは目を開けた。

紅色の蒸気機関車が、乗客でごったがえすプラットホームに停車していた。
ホームの上には『ホグワーツ行特急11時発』と書いてある。
振り返ると、改札口のあったところに九と四分の三と書いた鉄のアーチからお母さんが出てくるのが見えた。やったぞ。
61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/09/30(日) 12:51:22.60 ID:eSSveo1wo
 先頭の二、三両はもう生徒でいっぱいだった。窓から身を乗り出して家族と話したり、席の取り合いでけんかをしたりしていた。
さやかは空いた席を探して、カートを押しながらホームを歩いた。

 細かい三つ編みを縮らせた髪型の男の子の周りに小さな人垣ができていた。

「リー、見せて。さあ」

 その子が腕に抱えた箱の蓋を開けると、得体の知れない長い毛むくじゃらの肢が中から突き出し、周りの人が悲鳴を上げた。

 さやかは人ごみを掻き分け、やっと最後尾の車両近くに二人だけ腰掛けてるコンパートメントの席を見つけた。
列車の戸口の階段から重いトランクを押し上げようとしたが、トランクが上手く持ち上がらず、二回も足の上に落として痛い目にあった。

「手伝おうか?」まどかが声をかけた。

「まどか!お願い」さやかはゼイゼイしていた。

「私のも手伝ってね。せーのっ」

 二人のトランクがようやく客室のすみにおさまった。
62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/09/30(日) 12:53:13.62 ID:eSSveo1wo
「あっちに空いてる席を見つけたんだえっと……あそこ!」

 さやかは何も感じなかったようだが、まどかはそのコンパートメントから垂れ流される異様な空気を感じた。

「さやかちゃん……そこは……」

 さやかは構わず戸を開けた。仏頂面の杏子とほむらがそこに座っていった。

「ほむらに杏子じゃん。ここ、空いてる?」

「空いてねえ」杏子が低く唸った。

「空いてんのね。まどか、座りましょ。杏子そっち詰めてよ」

 さやかは杏子を押しのけて、杏子の隣に腰掛けた。

「うぜぇ、超うぜぇ」

「えっと……なんかごめんねほむらちゃん」まどかはおどおど言いながら、ほむらの隣に腰掛けた。

「……別に」ほむらが呟いた。
63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/09/30(日) 12:54:17.86 ID:eSSveo1wo
 沈黙がコンパートメントを支配していた。さやかはそわそわしだした。

「なんだよ、便所か?」

「違うわよ、あんたそれでも女の子?」

「さやかちゃんは喋ってないと落ち着かないんだよね」

「ビョーキだな」

「失礼ね。そういやあのいけすかない青白い子に聞かれて答えてなかったけど、ほむらの親って魔法使い?」

「強引な話の振りだな」

「わかってるわよ。ほむらって謎だらけで気になるのよ。で、どうなのほむら」

「名前で呼ぶのね」

「まどかに名前で呼べって言ってなかった?」

「……そうね。両親はマグルよ」

「へーえ」
「すごーい」
64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/09/30(日) 12:56:24.10 ID:eSSveo1wo
「マグルと暮らすってどんなかんじなの」

「両親は死んだわ。魔法界で一人で暮らしていたわ」

「そうなの? ごめんね」さやかは本当にすまなそうな顔をした。

「でもその年で一人暮らしってすごいねー。しかもマグル生まれなのに魔法界でだなんて」

「杏子は?」

「マグルの孤児院だ。少しでもまともなのは一人しかいなかった。ダンブルドアが来るまで何も知らなかった」

「あのダンブルドアがわざわざきたの?」

「ああ」

「あんた何者……ああごめんそうだったわね。しかしハグリッドがこの四人をわざわざ案内したのが謎ねー」

「問題児って言ってたよね。なんなんだろう」

「心当たりないのか? なんか魔法を乱用してたとかねーのか?」

「しないわよ、あんたはしてたの? でも私は傷が一瞬で治るのよね」

「すごいよね、さやかちゃん。私はなにもないなー」

「ほむらは?」

「何も」即答だった。
65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/09/30(日) 12:57:44.30 ID:eSSveo1wo
「ところでその膝のねずみはなんだ?」

「私のペットだよ。スキャバーズって言うんだ。やたら長生きだけど寝てばっかでね……」

 ねずみはさやかの膝の上で死んだようにグーグー眠り続けている。

「そっちのゲージの猫は?」

「エイミーって言うの。私の家族だよ」

 ゲージの中で黒猫がにゃおんと鳴いた。


 話しているうちに汽車はロンドンを後にして、スピードを上げ、牛や羊のいる牧場のそばを走り抜けていった。
四人はしばらく黙って、通りすぎてゆく野原や小道を眺めていた。

 十二時半ごろ、通路でガチャガチャと大きな音がして、えくぼのおばさんがニコニコ顔で戸を開けた。

「車内販売よ。何かいりませんか?」
66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/09/30(日) 12:58:59.50 ID:eSSveo1wo
 杏子は朝食がまだだったので、勢いよく立ち上がった。杏子は通路に出た。
 孤児院では甘い物を買う金なんか持ったことがなかった。でも今はポケットの中で金貨や銀貨がじゃらじゃら鳴っている。
持ち切れないほどのポッキーが買える……でもポッキーは売ってなかった。
そのかわり、バーティー・ボッツの百味ビーンズだの、ドルーブルの風船ガムだの、蛙チョコレート、かぼちゃパイ、大鍋ケーキ、杖型甘草あめ、それにいままで杏子が一度も見たことがないような不思議な物がたくさんあった。

「全部少しずつくれ」

 杏子はそう言って、おばさんに銀貨十シックルと銅貨七クヌートを払った。

 杏子が両腕いっぱいの買い物をテーブルにドサッと置くのをさやかとまどかは目を皿のようにして眺めていた。目線に気づいた杏子が言った。

「食うかい?」
67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/09/30(日) 13:02:48.08 ID:eSSveo1wo
今日はここまで。
死んでも完結させると言いましたが、死後の都合がつかなくなってしまったので、そのときはごめんなさい。
68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/30(日) 13:35:42.92 ID:tKkUWN2DO
笑った

死後は無理だな、うん

何にしても乙
続き楽しみ!
69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/09/30(日) 14:25:06.82 ID:14qD54Byo
70 : ◆fG4qOWmicojn [saga]:2012/10/01(月) 11:32:19.77 ID:n6SrTlTIo
 それからの三人は夢中でお菓子をあさった。

「これはなんだ?」

 杏子は蛙チョコレートの包みを取り上げて聞いた。

「まさか、本物の蛙じゃないよねえ?」

 もう何があっても驚かないぞという気分だった。

「まさか。でも、カードを見てごらん。私、アグリッパがないんだ」

「なんだって?」

「そうか、あんた、知らないよね……チョコを買うと、中にカードが入ってるんだ。
ほら、みんなが集めるやつさ――有名な魔法使いとか魔女とかの写真だよ。
私、五百枚ぐらい持ってるけど、アグリッパとプトレマイオスがまだないんだ」

 杏子は蛙チョコを開けてカードを取り出した。知った顔だった。
71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/10/01(月) 11:33:02.47 ID:n6SrTlTIo
「ダンブルドアだ」

 杏子はカードの裏を読んだ

 アルバス・ダンブルドア
 現在ホグワーツ校校長。近代魔法使いの中で最も偉大な魔法使いと言われている。
特に、一九四五年、闇の魔法使い、グリンデルバルドを破ったこと、ドラゴンの血液の十二種類の利用法の発見、
パートナーであるニコラス・フラメルとの錬金術の共同研究などで有名。趣味は、室内楽とボウリング。

 杏子がまたカードの表を返してみると、驚いたことにダンブルドアの顔が消えていた。

「いなくなった」

「そりゃ、一日中その中にいるはずないよ」さやかが言った。

「また帰ってくるよ。あ、だめだ、また魔女モルガナだ。もう六枚も持ってるよ……
あんた、欲しい?これから集めるといいよ」

 さやかは、蛙チョコの山を開けたそうに、ちらちらと見ている。

「いらない。開ければいいさ」杏子は促した。
72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/10/01(月) 11:34:55.07 ID:n6SrTlTIo
「でもマグルの世界では写真は全く動かないよ」

「そうなの? 変なのー」まどかが驚いたように言った。

 ダンブルドアが写真の中にソーッと戻ってきてちょっと笑いかけたのを見て、杏子は目を丸くした。
さやかとまどかがチョコを食べるのに夢中の間、杏子は写真に夢中だった。さやかたちが次々と開けたカードをじっくり観察した。

 そのうちに車窓には荒涼とした風景が広がってきた。整然とした畑はもうない。
森や曲がりくねった川、うっそうとした暗緑色の丘が過ぎていく。

 コンパートメントをノックして、薄い茶髪の少年が入ってきた。さやかの幼馴染だ。

「恭介!」さやかが立ち上がった。

「ああさやか。ごめんね。僕のヒキガエルをみかけなかった?」

 三人が首を振ると、恭介はうなだれた。

「いなくなっちゃった。僕から逃げてばかりいるんだ!」

「きっと出てくるよ」まどかが言った。

「うん。もし見かけたら……」恭介はしょげかえってそう言うと出ていった。
73 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/10/01(月) 11:35:57.68 ID:n6SrTlTIo
「ヒキガエルがそんなに大事かね」杏子がそう言った。

「大事なの!」

「なにムキになってんだ? ひょっとしてあの坊やが好きなのか?」

「な、そんなわけないでしょ!」

「ふーん。まあいいけどね」

「あんたってときどき……まあいいわ」

「え、えっと……そうだ、グリンゴッツのこと聞いた?」まどかが慌てて言った。

「『日刊預言者新聞』にベタベタ出てたわね。でもマグルの方には配達されないね……
誰かが、特別警戒の金庫を荒らそうとしたらしいわ」

「へえ?それで、どうなったんだ?」

「なーんも。だから大ニュースなんだ。捕まらなかったんだよ。
グリンゴッツに忍び込むなんて、きっと強力な闇の魔法使いだろうって、お父さんが言うんだ。
でも、なんにも盗っていかなかった。そこが変なんだよね。
当然、こんなことが起きると、陰に『例のあの人』がいるんじゃないかって、みんな怖がるんだよ」
74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/10/01(月) 11:36:45.76 ID:n6SrTlTIo
 そんなことを話していると、またコンパートメントの戸が開いた。今度は、ヒキガエル探しの恭介じゃなかった。
男の子が三人入ってきた。四人は真ん中の一人が誰であるか一目でわかった。あのマダム・マルキン洋装店にいた、青白い子だ。

「ほんとかい? 桃色の子が鹿目の子で、このコンパートメントにいるって聞いたんだけど。それじゃ、君なのか?」
 青白い頬にピンク色がさした。

「そうだよ」まどかがおずおずと答えた。

 まどかたちはあとの二人に目をやった。二人ともガッチリとして、この上なく意地悪そうだった。青白い男の子の子の両脇に立っていると、ボディーガードのようだ。

「ああ、こいつはクラッブで、こっちがゴイルさ」
まどかたちの視線に気づいた青白い子が、無造作に言った。

「そして、僕がマルフォイだ。ドラコ・マルフォイ」

 さやかは、クスクス笑いをごまかすかのように軽く咳払いをした。ドラコ・マルフォイが目ざとくそれを見とがめた。

「僕の名前が変だとでも言うのかい?君は誰だ?」

「美樹さやか」さやかは真顔になって答えた。
75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/10/01(月) 11:37:15.95 ID:n6SrTlTIo
「へーえ美樹」
 マルフォイはせせら笑うと、まどかに向かって言った。

「鹿目君。そのうち家柄のいい魔法族とそうでないのとがわかってくるよ。間違ったのとはつき合わないことだね。そのへんは僕が教えてあげよう」

 マルフォイはまどかに手を差し出して握手を求めたが、まどかは応じなかった。

「私はさやかちゃんたちが好きだよ」

 ドラコ・マルフォイの頬にまたピンク色がさした。

「鹿目君。僕ならもう少し気をつけるがね」からみつくような言い方だ。

「もう少し礼儀を心得たまえ。野蛮人のハグリッドや、マグルの犬の美樹家なんて下等な連中と一緒にいると、君も同類になるだろうよ」

 まどかとさやかが立ち上がった。さやかの顔には青筋が立っていた。
76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/10/01(月) 11:38:22.59 ID:n6SrTlTIo
「もう一ぺん言ってみろ」さやかが叫んだ。

「へえ、僕たちとやるつもりかい?」

「いますぐ出ていかねーならな」杏子が言った。

「出ていくさ。鹿目君、行こう」

 マルフォイがまどかの手を取った、瞬間だった。ほむらのヒールがマルフォイの鳩尾に突き刺さって崩れた。

 クラッブとゴイルはほむらにつかみかかった。

「そこまでよ」気がつくとクラッブとゴイルの手足にはリボンが巻かれ、杖がクラッブの喉に突きつけられていた。
77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/10/01(月) 11:39:03.87 ID:n6SrTlTIo
「お帰りはあちらよ」 金髪を縦ロールにしていて、花形のヘアアクセサリーをつけている少女が言った。

「なんだと?」ゴイルが言った。

「飲み込みが悪いのね。見逃してあげるって言ってるの」
「お互い、余計なトラブルとは無縁でいたいと思わない?」

 マルフォイは喘ぎながら、苦虫を噛み潰したような顔をしたが、二人の肩につかまり消え去った。

「ふぅ」
「はぁ」

「みんな、怪我はない?」金髪の少女が言った。もうホグワーツ・ローブに着替えている。

「大丈夫です。あの、ありがとうございました」さやかが言った。

「ありがとうございました」まどかも言った。
78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/10/01(月) 11:40:03.30 ID:n6SrTlTIo
「私、美樹さやかです。こっちが鹿目まどか、佐倉杏子、暁美ほむらです」

「やぁ。僕はキュゥべえ」マミの後ろから白い耳の長い可愛らしい四足生物が現れて言った。

「うわっ何?」さやかとまどかが驚いた。

「とっても珍しい魔法生物よ。私のお友達なの。私は巴マミ。グリフィンドールの二年生。
ところであなたが先に手……足を出したように見えたんだけど?」

「……」

「はぁ……まあいいわ。四人ともそろそろ着替えた方がいいわよ。それじゃ、ホグワーツで会いましょう」
 そう言うとマミは去っていった。

「かっこよかったなーマミさん。やっぱグリフィンドールだよねー。しかしほむらがあんなことするとは」

「……」

「私を守ってくれたんだよね!ありがとうほむらちゃん」

「あなたのためじゃないわ」ほむらは顔を背けた。
79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/10/01(月) 11:41:26.69 ID:n6SrTlTIo
「鹿目って有名なのか?」杏子が聞いた。

「お母さんが魔法省の重役なのよ。かっこいいわよー絢子さん」さやかが答えた。

「じゃあマルフォイは?」

 さやかが暗い顔をした。

「『例のあの人』が消えた時、真っ先にこっち側に戻ってきた家族の一つなんだ。魔法をかけられたって言ったんだって。
お父さんは信じないって言ってた。マルフォイの父親なら、闇の陣営に味方するのに特別な口実はいらなかっただろうって」

「スピードが落ちてきた。もうつくわね」

 まどかが外をのぞくと深い紫色の空の下に山や森が見えた。
 四人は上着を脱ぎ、黒い長いローブを着た。
 車内に響き渡る声が聞こえた。

「あと五分でホグワーツに到着します。荷物は別に学校に届けますので、車内に置いていってください」
80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/10/01(月) 11:43:51.12 ID:n6SrTlTIo
 まどかは緊張で胃がひっくり返りそうだったし、さやかは髪の色に近い顔色をしていた。四人は通路にあふれる人の群れに加わった。

 汽車はますます速度を落とし、完全に停車した。押し合いへし合いしながら列車の戸を開けて外に出ると、
小さな、暗いプラットホームだった。夜の冷たい空気にまどかは身震いした。
やがて生徒たちの頭上にユラユラとランプが近づいてきて、四人の耳に懐かしい声が聞こえた。

「イッチ年生!イッチ年生はこっち!よう、元気か?」

 ハグリッドの大きなひげ面が、ずらりと揃った生徒の頭のむこうから笑いかけた。

「さあ、ついてこいよ――あとイッチ年生はいないのかな?足元に気をつけろ。いいか!イッチ年生、ついてこい!」

 滑ったり、つまずいたりしながら、険しくて狭い小道を、みんなはハグリッドに続いて降りていった。
右も左も真っ暗だったので、木がうっそうと生い茂っているのだろうと杏子は思った。みんな黙々と歩いた。

「みんな、ホグワーツがまもなく見えるぞ」
 ハグリッドが振り返りながら言った。

「この角を曲がったらだ」

「うぉーっ!」
81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/10/01(月) 11:45:59.67 ID:n6SrTlTIo
 一斉に声が湧き起こった。

 狭い道が急に開け、大きな湖のほとりに出た。むこう岸に高い山がそびえ、そのてっぺんに壮大な城が見えた。
大小さまざまな塔が立ち並び、キラキラと輝く窓が星空に浮かびあがっていた。

「四人ずつボートに乗って!」

 ハグリッドは岸辺につながれた小船を指さした。まどかとさやかが乗り、杏子とほむらが続いて乗った。

「みんな乗ったか?」

 ハグリッドが大声を出した。一人でボートに乗っている。

「よーし、では、進めえ!」

 ボート船団は一斉に動き出し、鏡のような湖面を滑るように進んだ。みんな黙って、そびえ立つ巨大な城を見上げていた。
むこう岸の崖に近づくにつれて、城が頭上にのしかかってきた。

「頭、下げぇー!」

 先頭の何艘かが崖下に到着した時、ハグリッドが掛け声をかけた。
一斉に頭を下げると、ボート船団は蔦のカーテンをくぐり、その陰に隠れてポッカリと空いている崖の入り口へと進んだ。
城の真下と思われる暗いトンネルをくぐると、地下の船着き場に到着した。全員が岩と小石の上に降り立った。
82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/10/01(月) 11:48:23.41 ID:n6SrTlTIo
「ホイ、おまえさん!これ、おまえのヒキガエルかい?」

 みんなが下船した後、ボートを調べていたハグリッドが声を上げた。
「トレバー!」

 恭介は大喜びで手を差し出した。生徒たちはハグリッドのランプの後に従ってゴツゴツした岩の路を登り、巨大な樫の木の扉の前に集まった。

「みんな、いるか?おまえさん、ちゃんとヒキガエル持っとるな?」

 ハグリッドは大きな握りこぶしを振り上げ、城の扉を三回叩いた。

 扉がパッと開いて、エメラルド色のローブを着た背の高い黒髪の魔女が現れた。
とても厳格な顔つきをしている。この人には逆らってはいけない、さやかは直感した。

「マクゴナガル教授、イッチ年生の皆さんです」ハグリッドが報告した。

「ご苦労様、ハグリッド。ここからは私が預かりましょう」

 マクゴナガル先生は扉を大きく開けた。玄関ホールは大きめの一軒家がまるまる入りそうなほど広かった。

 マクゴナガル先生について生徒たちは石畳のホールを横切っていった。
入口の右手の方から、何百人ものざわめきが聞こえた――学校中がもうそこに集まっているにちがいない――
しかし、マクゴナガル先生はホールの脇にある小さな空き部屋に一年生を案内した。
生徒たちは窮屈な部屋に詰め込まれ、不安そうにキョロキョロしながら互いに寄りそって立っていた。
83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/10/01(月) 11:51:46.24 ID:n6SrTlTIo
「ホグワーツ入学おめでとう」マクゴナガル先生が挨拶した。

「新入生の歓迎会がまもなく始まりますが、大広間の席につく前に、皆さんが入る寮を決めなくてはなりません。
寮の組み分けはとても大事な儀式です。ホグワーツにいる間、寮生が学校でのみなさんの家族のようなものです。
教室でも寮生と一緒に勉強し、寝るのも寮、自由時間は寮の談話室で過ごすことになります。

 寮は四つあります。グリフィンドール、ハップルパフ、レイブンクロー、スリザリンです。
それぞれ輝かしい歴史があって、偉大な魔女や魔法使いが卒業しました。
ホグワーツにいる間、皆さんのよい行いは、自分の属する寮の得点になりますし、反対に規則に違反した時は寮の減点になります。
学年末には、最高得点の寮に大変名誉ある寮杯が与えられます。どの寮に入るにしても、皆さん一人一人が寮にとって誇りとなるよう望みます」

「まもなく全校列席の前で組分けの儀式が始まります。待っている間、できるだけ身なりを整えておきなさい」

「学校側の準備ができたら戻ってきますから、静かに待っていてください」

 先生が部屋を出ていった。まどかはゴクリと生つばを飲み込んだ。

「どうやって寮を決めるんだろう」

 まどかはさやかにたずねた。
84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/10/01(月) 11:53:56.92 ID:n6SrTlTIo
 まどかはドキドキしてきた。試験?全校生徒がいる前で?でも魔法なんてまだ一つも知らないし――
一体全体私は何をしなくちゃいけないんだろう。ホグワーツに着いたとたんにこんなことがあるなんて思ってもみなかった。
まどかは不安げにあたりを見わたしたが、他の生徒も怖がっているようだった。しかし杏子とほむらは平然としていた。まどかもそれを見たら落ち着いてきた。

 突然不思議なことが起こった。まどかは驚いてほむらにしがみついてしまった。さすがの杏子も目を丸くしていた。さやかは悲鳴をあげた。ほむらはしがみつかれてピクリとしたが、それ以上の反応を見せなかった。

「何……?」

 まどかは息をのんだ。周りの生徒も息をのんだ。後ろの壁からゴーストが二十人ぐらい現れたのだ。真珠のように白く、少し透き通っている。みんな一年生の方にはほとんど見向きもせず、互いに話をしながらスルスルと部屋を横切っていった。なにやら議論しているようだ。

「――しかも、ご存知のように、やつは本当のゴーストじゃない――おや、君たち、ここで何してるんだい」

 ひだがある襟のついた服を着て、タイツをはいたゴーストが、急に一年生たちに気づいて声をかけた。誰も答えなかった。
85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/10/01(月) 11:56:27.46 ID:n6SrTlTIo
「新入生じゃな。これから組分けされるところか?」

 太った修道士が一年生にほほえみかけた。二、三人が黙ってうなずいた。

「ハップルパフで会えるとよいな。わしはそこの卒業生じゃからの」と修道士が言った。

 まどかはほむらに抱きついてることにようやく気づいて赤面した。

「ごめんねほむらちゃん」

「気にしてないわ」

「さあ行きますよ」厳しい声がした。

「組分け儀式がまもなく始まります」

 マクゴナガル先生が戻ってきたのだ。ゴーストが一人ずつ壁を抜けてフワフワ出ていった。

「さあ、一列になって。ついてきてください」マクゴナガル先生が言った。
86 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/10/01(月) 11:58:49.84 ID:Hfe6T5lAO
レイブンクローはここでも空気なのね……
87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/10/01(月) 12:00:32.05 ID:n6SrTlTIo
 杏子、ほむら、まどか、さやかの順に並び、部屋を出て再び玄関ホールに戻り、そこから二重扉を通って大広間に入った。
 そこには、三人が夢にも見たことのない、不思議ですばらしい光景が広がっていた。
何千というろうそくが空中に浮かび、キラキラ輝く金色のお皿とゴブレットが置いてあった。
広間の上座にはもう一つ長いテーブルがあって、先生方が座っていた。
マクゴナガル先生は上座のテーブルのところまで一年生を引率し、上級生の方に顔を向け、先生方に背を向けるかっこうで、一列に並ばせた。
一年生を見つめる何百という顔が、ろうそくのチラチラする明かりで青白い提灯のように見えた。
その中に点々と、ゴーストが銀色のかすみのように光っていた。
みんなが見つめる視線から逃れるように、まどかが天井を見上げると、ビロードのような黒い空に星が点々と光っていた。

「本当の空に見えるように魔法がかけられているのよ。『ホグワーツの歴史』に書いてあったわ」
誰かがそう言うのが聞こえた。

 そこに天井があるなんてとても思えない。大広間はまさに天井に向かって開いているように感じられた。

 マクゴナガル先生が一年生の前に黙って四本足のスツールを置いたので、まどかは慌てて視線を戻した。
椅子の上には魔法使いのかぶるとんがり帽子が置かれた。この帽子ときたら、つぎはぎの、ボロボロで、とても汚らしかった。

 もしかしたら帽子からウサギを出すのかな。あてずっぽうにまどかはそんなことを考えていたが、みんなが帽子をじっと見つめているのに気づいて、まどかも帽子を見た。

 一瞬、広間は水を打ったように静かになった。すると、帽子がピクピクと動いた。つばのへりの破れ目が、まるで口のように開いて、帽子が歌い出した。
88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/10/01(月) 12:01:27.20 ID:n6SrTlTIo
私はきれいじゃないけれど
人は見かけによらぬもの
私をしのぐ賢い帽子
あるなら私は身を引こう
山高帽子は真っ黒だ
シルクハットはすらりと高い
私はホグワーツの組分け帽子
私は彼らのうえをいく
君の頭に隠れたものを
組分け帽子はお見通し
かぶれば君に教えよう
きみが行くべき寮の名を

   グリフィンドールに行くならば
   勇気ある者が住まう寮
   勇猛果敢な騎士道で
   他とは違うグリフィンドール

   ハップルパフに行くならば
   君は正しく忠実で
   忍耐強く真実で
   苦労を苦労と思わない

   古き賢きレイブンクロー
   君に意欲があるならば
   機知と学びの友人を
   ここで必ず得るだろう

   スリザリンではもしかして
   君はまことの友を得る
   どんな手段を使っても
   目的遂げる狡猾さ

   かぶってごらん!恐れずに!
   興奮せずに、お任せを!
   君を私の手にゆだね(私は手なんかないけれど)
   だって私は考える帽子!
89 :今日はここまで。レイブン空気 [saga]:2012/10/01(月) 12:04:59.97 ID:n6SrTlTIo
 歌が終わると広間にいた全員が拍手喝さいをした。
四つのテーブルにそれぞれお辞儀して、帽子は再び静かになった。

「私たちはただ帽子をかぶればいいんだ! お母さんのバカ。トロールと取っ組み合いさせられるなんて言って」
さやかがまどかにささやいた。

 まどかは弱々しくほほえんだ。
――それは、呪文よりも帽子をかぶる方がずっといい。だけど、だれも見ていないところでかぶるんだったらもっといいのに。
 帽子はかなり要求が多いように思えた。今のところまどかは勇敢でもないし、機知があるわけでもないし、どの要求にも当てはまらないような気がした。
帽子が、「少し気分が悪い生徒の寮」と歌ってくれていたなら、まさにそれが今のまどかだった。
90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/10/01(月) 12:13:34.03 ID:Hfe6T5lAO

恭ちゃんが残念なイケメンにwwwwww
91 : ◆fG4qOWmicojn [saga]:2012/10/02(火) 11:03:18.67 ID:lh9psmHso
「ABC順に名前をよばれたら、帽子をかぶって椅子に座り、組分けを受けて下さい」

「アケミ・ホムラ!」

 ほむらちゃんが最初かあ。どの寮なんだろう? 勇気があるからグリフィンドールかな? でも賢そうだからレイブンクローかもしれない。一緒がいいな。まどかが思った。

 ほむらが大股でゆっくりと前に出てきた。帽子をかぶると目が隠れるほどだった。腰掛けた。沈黙……

 二分の時が経った。先生方が目配せしあった。生徒がざわつきはじめた。五分経った。

「スリザリン!」
92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/10/02(火) 11:03:53.50 ID:lh9psmHso
 帽子が叫んだ。右端から二番目のテーブルから大喝采が上がった。

「なんで……」

 まどかが呟いた。三人は裏切られたような気分だった。

 ほむらはスリザリンのテーブルについた。

「ボーンズ・スーザン!」

 こんどの沈黙は一瞬だった。

「ハップルパフ!」と帽子が叫んだ。

 右側のテーブルから歓声と拍手が上がり、スーザンはハップルパフのテーブルに着いた。

 数人が呼ばれた。帽子がすぐに寮名を読み上げる時と、決定にしばらくかかる時があることに三人は気づいた。ほむらはだんとつに長かった。
93 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/10/02(火) 11:04:32.65 ID:lh9psmHso
 そして「ブルスロード・ミリセント」は二人目のスリザリン生になった。この寮の連中はどうも感じが悪いとさやかは思った。

 まどかはいよいよ決定的に気分が悪くなってきた。また数人が呼ばれた。

 まどかは急に恐ろしい考えにとらわれた。ドキドキしているから、そんな考えが浮かんでくるのだ。
どの寮にも選ばれなかったらどうしよう。帽子を目の上までかぶったまま永遠に座り続けている――
ついにマクゴナガル先生がやってきて帽子をぐいと頭から取り上げ、何かの間違いだったから汽車に乗ってお帰りなさい、と言う。もしそうなったらどうしよう?

 ヒキガエルに逃げられてばかりいた「カミジョウ・キョウスケ」が呼ばれた。恭介は椅子まで行く途中で転んでしまった。決定にしばらくかかったが、帽子はやっと「グリフィンドール!」と叫んだ。

 恭介は帽子をかぶったままかけ出してしまい、爆笑の中をトボトボ戻って椅子に帽子を置いた。
94 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/10/02(火) 11:06:23.23 ID:lh9psmHso

「カナメ・マドカ!」

 ついに呼ばれた。呼ばれてしまった。まどかはトボトボ歩いて腰掛けた。帽子はまどかの頭にふれるかふれないうちに「グリフィンドール!」帽子が叫んだ。

 帽子を脱ぎ、まどかはフラフラとグリフィンドールのテーブルに向かった。選んでもらえた。
しかもグリフィンドールだ、その安堵感でまどかは頭がいっぱいで、歓声に迎えられていることにもまったく気づかなかった。
二年生のマミも立ち上がり、力強くまどかと握手した。

 寮生のテーブルに着いたので、まどかははじめて上座の来賓席を見ることができた。
まどかの近いほうの端にハグリッドが座っていて、まどかと目が合うと親指を上げて「よかった」という合図をした。
まどかも笑顔を返した。来賓席の真ん中で、おおきな金色の椅子にアルバス・ダンブルドアが座っていた。
広間の中では、ゴーストとダンブルドアの白髪だけが同じようにキラキラ輝いてるだけだった。
「漏れ鍋」にいた若い神経質なクィレル先生もいた。大きな紫のターバンをつけた姿がひときわへんてこりんだった。

 また数人が呼ばれ、マルフォイが呼ばれた。マルフォイはふんぞり返って前に進み出た。望みはあっという間にかなった。
マルフォイも帽子が頭にふれるかふれないうちだった。もちろん帽子は「スリザリン!」と叫んだ。
95 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/10/02(火) 11:08:11.18 ID:lh9psmHso
 そしてさやかの番になった。さやかは青ざめていた。まどかはテーブルの下で手を組んで祈ってた。
帽子はまたも頭にふれるかふれないうちに、「グリフィンドール!」と叫んだ。

 まどかはみんなと一緒に大きな拍手をした。さやかはまどかの隣の椅子に崩れるように座った。

「美樹さん、よろしくね」

 まどかの隣から巴マミが声をかけて手を差し出した。肩にキュゥべえを乗せている。さやかは応じて、

「よろしくおねがいします」

 と深く礼をした。

 そうしてまた数人が呼ばれた。今度は杏子の番だった。

「サクラ・キョウコ!」

「佐倉って、そう言った?」

「あの佐倉かな?」

「まさか」

 ・・
「あの佐倉じゃねえよ!」
 帽子をかぶる前に杏子が叫んだ。広間はシーンと静まった。
96 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/10/02(火) 11:09:38.36 ID:lh9psmHso
 帽子が杏子の目の上に落ちる直前まで杏子が見ていたのは、広間中の人たちが首を伸ばして杏子をよく見ようとしている様子だった。
次の瞬間、杏子は帽子の内側の闇を見ていた。杏子はじっと待った。

「フーム」低い声が杏子の耳の中で聞こえた。

「むずかしい。非常にむずかしい。ふむ、勇気に満ちている。頭も悪くない。才能もある。
おう、なんと、なるほど……自分の力を試したいという素晴らしい欲望もある。いや、おもしろい……さて、どこに入れたものかな?」

 杏子は椅子の縁を握りしめ、「スリザリンは嫌だ」とはっきり頭の中で言った。

「スリザリンは嫌なのかね?」小さな声が言った。

「確かかね? 君は偉大になれる可能性があるんだよ。そのすべては君の頭の中にある。
スリザリンに入れば間違いなく偉大になる道が開ける。嫌かね? よろしい、君がそう確信しているなら……むしろ、グリフィンドール!」

 杏子は帽子が最後の言葉を広間全体に向かって叫ぶのを聞いた。帽子を脱ぎ、確かな足取りでグリフィンドールのテーブルに向かった。
割れるような歓声が杏子を包んでいた。マミの握手に応じた。さやかのハイタッチは無視した。さやかの隣に座った。
97 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/10/02(火) 11:11:17.57 ID:lh9psmHso
 最後の「ザビニ・ブレーンズ」はスリザリンに決まった。マクゴナガル先生はクルクルと巻紙をしまい、帽子を片づけた。

 杏子は空っぽの金の皿を眺めた。急に腹が減っていることに気づいた。かぼちゃパイを食べたのが大昔のような気がした。

 アルバス・ダンブルドアが立ち上がった。腕を大きく広げ、みんなに会えるのがこの上もない喜びだというようにニッコリ笑った。

「おめでとう! ホグワーツの新入生、おめでとう! 歓迎会をはじめる前に、二言、三言、言わせていただきたい。
では、いきますぞ。そーれ! わっしょい! こらしょい! どっこらしょい! 以上!」

 ダンブルドアは席につき。、出席者全員が拍手し歓声をあげた。まどかは笑っていいのか悪いのかわからなかった。

「あの人……ちょっぴりおかしくない?」まどかがマミに聞いた。
「おかしいって?」
 マミはウキウキしていた。テーブルに乗ったキュゥべえが尻尾をふりながら言った。

「あの人は紛れもなく天才だよ。世界一の魔法使いだ。確かに人格も一線を画している。さやか、ポテトはどうだい?」
98 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/10/02(火) 11:13:38.70 ID:lh9psmHso
 三人はあっけにとられた。目の前にある大皿が食べ物でいっぱいになっている。
こんなにたくさん、杏子の食べたい物ばかり並んでるテーブルは見たことがない。
ローストビーフ、ローストチキン、ポークチョップ、ラムチョップ、ソーセージ。ベーコン、ステーキ、ゆでたポテト、グリルポテト、フレンチフライ、ヨークシャープディング、豆、にんじん、グレービー、ケチャップ、そしてなぜか、ハッカ入りキャンディ。
 孤児院では餓え死にこそしなかったが、一度もお腹いっぱい食べさせてはもらえなかった。
杏子は全部少しずつお皿に取って猛烈な勢いで食べはじめた。どれもこれもおいしかった。

「すごいね杏子ちゃん」

「電車でも思ったけどあんたの食欲って……太らないのそれで?」

「満足に食ったこと無いからわからねー」

「そっか、なんかごめんね」

「気にしてねーよ」
99 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/10/02(火) 11:15:09.34 ID:lh9psmHso
「おいしそうですね」

 まどかがステーキを切っていると、ひだ襟服のゴーストが悲しげに言った。

「食べられないの?」まどかが聞いた。

「かれこれ四百年、食べておりません。もちろん食べる必要はないのですが、でもなつかしくて。
まだ自己紹介しておりませんでしたね。ニコラス・ド・ミムジー-ポーピトン卿といいます。
お見知りおきを。グリフィンドール塔に住むゴーストです」

「よろしく」まどかとさやか。

 ゴーストが咳払いして言った

「さて、グリフィンドール新入生諸君、今年こそ寮対抗優勝カップを獲得できるよう頑張ってくださるでしょうな? 
グリフィンドールがこんなに長い間負け続けたことはない。スリザリンが六年連続で寮杯を取っているのですぞ! 
『血みどろ男爵』はもう鼻持ちならない状態です……スリザリンのゴーストですがね」

 三人がスリザリンのテーブルを見ると、身の毛のよだつようなゴーストが座っていた。うつろな目。
げっそりとした顔、衣服は銀色の血でべっとり汚れている。ほむらのすぐ隣に座っている。
ほむらはもう食事を終えた様子で手を下ろしていた。無表情だった。
100 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/10/02(火) 11:16:54.61 ID:lh9psmHso
「しかしほむらが腐れスリザリンに入るとはね」さやかが思い出したように言った。

「腐れなんて言っちゃだめだよ……ショックだけど」

「寮には入るべくして入るのよ。つまりそういう人ってことよ」マミが冷たく言った。

そんな……」

 まあアタシもその腐れスリザリンに入れられそうだったけどな。と杏子が思う。

 全員がお腹いっぱいになっところで食べ物は消え去り、お皿は前と同じようにピカピカになった。
まもなくデザートが現れた。ありとあらゆる味のアイスクリーム、アップルパイ、糖蜜パイ、エクレア、ジャムドーナツ、トライフル、いちご、ゼリー、ライスプディングなどなど……。

 杏子は無尽蔵に、周りが引くくらい食べた。幸せだった。
101 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/10/02(火) 11:18:18.76 ID:lh9psmHso
 食べると体が暖かくなり、眠くなってきた。まどかが来賓席を見上げると、つられて杏子も来賓席を眺めた。
ハグリッドはゴブレットでグイグイ飲んでいた。マクゴナガル先生はダンブルドア先生と話している。
バカバカしいターバンを巻いたクィレル先生は、ねっとりとした黒髪、鉤鼻、土気色の顔をした先生と話していた。

 突然何かが起こった。杏子とまどかの頭に痛みが走った。

「イタッ!」

 まどかは頭を抑えた。杏子も頭を抑えた。二人はふとほむらの方を見た。ほむらの冷たい目と目があった。

「どうしたの?」さやかとマミが尋ねた。

「な、なんでもない」
「な、なんでもないよ」杏子とまどかは同時に答えた。

 痛みは急に走り、同じように急に消えた。しかしあの目から受けた感触は簡単には振り払えなかった。
102 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/10/02(火) 11:19:54.21 ID:lh9psmHso
 杏子とまどかはほむらをしばらく見つめていたが、ほむらは二度とまどかたちの方を見なかった。

 とうとうデザートも消えてしまい、ダンブルドア先生がまた立ち上がった。広間中がシーンとなった。

「エヘン――全員よく食べ、よく飲んだことじゃろうから、また二言、三言。新学期を迎えるにあたり、いくつかお知らせがある。
一年生に注意しておくが、構内にある森に入ってはいけません」

「管理人のフィルチさんから授業の合間に廊下で魔法を使わないようにという注意がありました」

「今学期は二週目にクィディッチの予選があります。寮のチームに参加したい人はマダム・フーチに連絡してください」

「最後ですが、とても痛い死に方をしたくない人は、今年いっぱい四階の右側の廊下に入ってはいけません」

 さやかは笑ってしまったが、笑った生徒はほんの少数だった。

「まじめに言ってるんじゃないよね?」

 さやかはマミに向かってささやいた。
103 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/10/02(火) 11:21:17.54 ID:lh9psmHso
「おおまじめさ」キュゥべえが答えた。

「へんね、どこか立入禁止の場所がある時は必ず理由を説明してくれるのに……森には危険な動物がたくさんいるし、それは誰でも知っているわ」
 マミがしかめ面でダンブルドアを見ながら言った。

「では、寝る前に校歌を歌いましょう!」

 校歌を歌い終わり、就寝時間となった。

 グリフィンドールの一年生は監督生に続いて階段また階段をのぼった。その間に杏子とまどかは話をした。

「まどかもあったんだろ、頭痛。ほむらに睨まれて」

「う、うん……でもほむらちゃんが関係あるのかな?」

「わからんね。でも気をつけるのに越したことはないさ」

 突然みんなが止まった。
104 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/10/02(火) 11:22:54.61 ID:lh9psmHso
 突然みんなが止まった。

 前方に杖が一束、空中に浮いていた。監督生が一歩前進すると杖がバラバラと飛びかかってきた。

「ピーブズだ」と監督生が一年生にささやいた。

「ポルターガイストのピーブズだよ」

 監督生は大声を出した。
「ピーブズ、姿を見せろ」

 風船から空気が抜けるような、大きい無作法な音がそれに応えた。

「『血みどろ男爵』を呼んできてもいいのか?」

 ポンと音がして、意地悪そうな暗い目の、大きな口をした小男が現れた。
あぐらをかき、杖の束をつかんで空中に漂っている。

「おおぉぉぉぉぉ!かーわいい一年生ちゃん!なんて愉快なんだ!」

 小男は意地悪なかん高い笑い声を上げ、一年生めがけて急降下した。みんなはひょいと身を屈めた。

「ピーブズ、言ってしまえそうしないと男爵に言いつけるぞ。ほんきだぞ」
 監督生が怒鳴った。

 ピーブズは舌をベーッと出し、杖を恭介の頭の上に落とすと消えてしまった。
ついでにそこにあった鎧をガラガラいわせながら遠のいていくのが聞こえた。
105 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/10/02(火) 11:25:31.51 ID:lh9psmHso
「ピーブズには気をつけたほうがいい」
 再び歩き出しながら監督生が言った。

「ピーブズをコントロールできるのは『血みどろ男爵』だけなんだ。僕ら監督生の言うことでさえ聞きゃしない。さあ、着いた」

 廊下のつきあたりには、ピンクの絹のドレスを着たとても太った婦人の肖像画がかかっていた。

「合言葉は?」とその婦人が聞いた。

「カブート ドラコニス」

 監督生がそう唱えると、肖像画がパッと前に開き、その後ろの壁に丸い穴があるのが見えた。
みんなやっとその高い穴にはい登った。穴はグリフィンドールの談話室につながっていた。
心地よい円形の部屋でフカフカしたひじかけ椅子がたくさん置いてあった。

 監督生の指示で、女の子は女子寮に続くドアから、男の子は男子寮に続くドアからそれぞれの部屋に入った。
らせん階段のてっぺんに――そこは、いくつかある塔の一つに違いない――やっとベットが見つかった。
真紅のビロードのカーテンがかかった、四本柱の天蓋つきベットが五つ置いてあった。トランクはもう届いていた。
クタクタに疲れてしゃべる元気もなく、みんなパジャマに着替えてベットにもぐりこんだ。
106 :今日はここまで。訳については気にしない方向で [saga]:2012/10/02(火) 11:26:51.31 ID:lh9psmHso
「すごいごちそうだったね」

 さやかがカーテンごしにまどかに話しかけた。

「スキャバーズ、やめろ! こいつ、私のシーツをかんでいる」

「エイミーに食われねえか?」杏子が聞いた。

「教えたから大丈夫だよ。お利口さんだもんね、エイミー」まどかがエイミーに話しかけた。にゃおんと答えた。

 それからはみんな疲れて眠り込んでしまった。

 杏子はとても奇妙な夢を見た。杏子がクィレル先生のターバンをかぶっていて、そのターバンが杏子に絶え間なく話しかけ、

「すぐスリザリンに移らなければならない。それが運命なのだから」
と言うのだ。

「スリザリンには行きたくない」

と言うと、ターバンはだんだん重くなり、脱ごうとしても、痛いほどに締めつけてくる――そして、マルフォイがいる。
杏子がターバンと格闘しているのを笑いながら見ている――突然マルフォイの顔がほむらに変わり、その高笑いが冷たく響く――
緑色の光が炸裂し、杏子は汗びっしょりになって震えながら目を覚ました。
 杏子は寝返りをうち、再び眠りに落ちた。翌朝目覚めた時には、その夢をまったく覚えていなかった。
107 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岩手県) [sage]:2012/10/02(火) 15:42:04.81 ID:xrD8R2QP0
乙。

このスレははじめて見たけど素晴らしいな!支援!
108 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/10/02(火) 19:52:00.73 ID:n+W4KJPDo

109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/10/02(火) 21:28:58.98 ID:lh9psmHso
小説版読んだことないからwikiの台詞集見て一人称書いた。
なにか希望があったら言うだけでも言ってみて。
おりこだと杏子は「あたし」なんだよね。
110 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/10/03(水) 07:42:20.56 ID:JWhaZeeOo
そういやハリポタ文庫本版が新しく出てるよね
集めようか悩む
111 :ここは読み飛ばしてもよか ◆fG4qOWmicojn [saga]:2012/10/03(水) 11:00:57.93 ID:X0qTmPMjo
 ホグワーツには百四十二もの階段があった。広い壮大な階段、狭いガタガタの階段、
金曜日にはいつもと違うところへつながる階段、真ん中あたりで毎回一段消えてしまうので、忘れずにジャンプしなければならない階段……。
扉もいろいろあった。丁寧にお願いしないと開かない扉、一定の場所をくすぐらないと開かない扉、
扉のように見えるけれど実は硬い壁が扉のふりをしている扉。物という物が動いてしまうので、
どこに何があるのかを覚えるのも大変だった。肖像画の人物もしょっちゅう訪問し合っているし、
鎧だってきっと歩けるに違いないと三人は確信していた。

 ゴーストも問題だった。扉を開けようとしている時に、突然ゴーストがスルリと扉を通り抜けたりするとそのたびにひやっとした。
「ほとんど首無しニック」はいつも喜んでグリフィンドールの新入生に道を教えてくれたが、
授業に遅れそうになった時にポルターガイストのピーブズに出くわすと、二回も鍵のかかった扉にぶつかり、
仕掛け階段を通るはめに陥った時と同じぐらい時間がかかったこともあった。
ピーブズときたら、ごみ箱を頭の上でぶちまけたり、足元の絨毯を引っ張ったり、チョークのかけらを次々とぶつけたり、
姿を隠したまま後ろからソーッと忍びよって、鼻をつまんで「釣れたぞ!」とキーキー声を上げたりしていた。
112 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/10/03(水) 11:03:02.15 ID:X0qTmPMjo
 ピーブズよやっかいなのは、管理人のアーガス・フィルチだった。
一日目の朝から、三人は根性悪のフィルチにみごとに大当たりしてしまった。道に迷ったといっても信用しない。
わざと押し入ろうとしたに違いない、地下牢に閉じ込めると脅された。
その時は杏子が必死で言い訳したおかげで見逃された。

 フィルチはミセス・ノリスという猫を飼っていた。やせこけて、ほこりっぽい色をして、
目はフィルチそっくりのランプみたいな出目金だった。ミセス・ノリスは一人で廊下の見廻りをしていた。
彼女の目の前で規則違反しようものなら、たとえ足の指一本が境界線を越えただけでも、
あっという間にフィルチにご注進だ。二秒後にはフィルチが息を切らして飛んでくる。
フィルチは秘密の階段を誰よりもよく知っていたので、ゴーストと同じくらい突然ヒョイとあらわれた。
生徒たちはみんなフィルチが大嫌いで、ミセス・ノリスを一度しこたま蹴飛ばしたいというのが、ひそかな熱い願いだった。
113 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/10/03(水) 11:04:37.05 ID:X0qTmPMjo
 やっとクラスへの道がわかったら、次はクラスでの授業そのものが大変だった。
魔法とは、ただ杖を振っておかしなまじないを言うだけではないと、三人はたちまち思い知らされた。

 水曜日の真夜中には、望遠鏡で夜空を観察し、星の名前や惑星の動きを勉強しなければならなかった。
週三回、ずんぐりした小柄なスプラウト先生と城の裏にある温室に行き、「薬草学」を学んだ。
不思議な植物やその育て方、どんな用途に使われるかなどを勉強した。

 なんといっても一番退屈なのは「魔法史」で、これは唯一、ゴーストが教えるクラスだった。
ビンズ先生は昔教員室の暖炉の前で居眠りをしてしまい、その時はすでに相当の歳だったのだが、
翌朝起きてクラスに行くときに、生身の体を教員室におきざりにしてしまったのだ。

 妖精の魔法はフリットウィック先生の担当だった。ちっちゃな魔法使いで、本を積み上げた上に立ってやっと机越しに顔が出るほどだった。
114 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/10/03(水) 11:05:40.72 ID:X0qTmPMjo
 マクゴナガル先生はやはり他の先生とは違っていた。逆らってはいけない先生だというさやかの勘は当たっていた。
厳格で聡明そのものの先生は、最初のクラスにみんなが着席するなりお説教を始めた。

「変身術は、ホグワーツで学ぶ魔法の中で最も複雑で危険なものの一つです。
いいかげんな態度で私の授業を受ける生徒は出ていってもらいますし、二度とクラスには入れません。初めから警告しておきます」

 それから先生は机を豚に変え、また元の姿に戻してみせた。生徒たちは感激して、早く試したくてウズウズした。
しかし、家具を動物に変えるようになるまでには、まだまだ時間がかかることがすぐわかった。
さんざん複雑なノートを採った後、一人一人にマッチ棒が配られ、それを針に変える練習が始まった。
授業が終わるまでにマッチ棒をわずかでも変身させることができたのは、杏子ただ一人だった。
マクゴナガル先生は、クラスの全員に、杏子のマッチ棒がどんなに銀色で、どんなに尖っているかを見せた後、

「グリフィンドールに一点さしあげます」

と言って杏子の方にめったに見せないほほえみを見せた。
115 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/10/03(水) 11:06:56.94 ID:X0qTmPMjo
 みんなが一番待ち望んでいた授業は、「闇の魔術の防衛術」だったが、クィレル先生の授業は肩すかしだった。
教室にはにんにくの臭いがプンプン漂っていた。噂では、これは先生がルーマニアで出会った吸血鬼を寄せつけないためで、
いつまた襲われるかもしれないとビクビクしているらしい。
クィレルの話では、ターバンはやっかいなゾンビをやっつけたときアフリカの王子様がお礼にくれたものだということだった。
生徒たちはどうも怪しいと思っていた。というのは、中沢が、はりきって、どうやってゾンビをやっつけたのかと質問すると、
クィレルは赤くなって話をそらし、お天気について話しはじめたからだ。
それに、ターバンがいつも変な匂いを漂わせているのにみんなは気がついた。
ある生徒は、クィレルがどこにいても安全なように、ターバンにもにんにくを詰め込んでいるに違いないと言いはった。
116 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/10/03(水) 11:08:35.31 ID:X0qTmPMjo
 三人にとって金曜日は記念すべき日になった。大広間に朝食に下りて行くのに初めて一度も迷わずにたどりつけたのだ。

「今日は何の授業だっけ?」オートミールに砂糖をかけながら、まどかがさやかに尋ねた。

「スリザリンの連中と一緒に、魔法薬学。スネイプはスリザリンの寮監よ。
いつもスリザリンをひいきするってみんなが言ってる――本当かどうか今日わかるでしょ」
とさやかが答えた。

「マクゴナガルがアタシたちをひいきすればいいんだ」と杏子が言った。

 ちょうどその時郵便が届いた。三人はもう慣れっこになったが、一番最初の朝食の時、
なん百羽というふくろうが突然大広間になだれ込んできて、テーブルの上を旋回し、
飼い主を見つけると手紙や小包をその膝に落としていくのを見て唖然としたものだった。

 ヘドウィグは今まで一度も何も物を運んできたことはなかった。
でも時々、飛んできては杏子の耳をかじったりトーストをかじったりしてから、
ほかのふくろうと一緒に学校のふくろう小屋に戻って眠るのだった。
ところが今朝は、マーマレードと砂糖入れの間にパタパタと降りてきて、杏子の皿に手紙を置いていった。
杏子は急いで封を破るようにして開けた。
117 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/10/03(水) 11:10:25.62 ID:X0qTmPMjo
 下手な字で走り書きがしてあった。

 親愛なるまどか、さやか、杏子
 金曜日の午後は授業がないはずだね。よかったら三時頃お茶に来ませんか。君たちの最初の一週間がどんなだったかいろいろ聞きたいです。ほむらも誘ってみてください。ヘドウィグに返事を持たせてください。 ハグリッド

「だとさ、どうする?」杏子が聞いた。
「マミさんもどうですか?」さやかが聞いた。
「喜んでご一緒させていただくわ」
「しかしほむらか……」杏子がつぶやいた。
「ん、どうかした?」
 そう言いながらさやかは手紙の裏に「はい。喜んで。ではまた後で」と書いてヘドウィグを飛ばせた。
 ハグリッドとのお茶という楽しみがあったのはラッキーだった。
なにしろ魔法薬学の授業が最悪のクラスになってしまったからだ。
118 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/10/03(水) 11:12:15.11 ID:X0qTmPMjo
 フリットウィックと同じく、スネイプもまず出席を取った。出席をとり終わると、先生は生徒を見わたした。
ハグリッドと同じ黒い目なのに、ハグリッドの目のような温かみは一かけらもない。
冷たくて、うつろで、暗いトンネルを思わせた。ほむらちゃんと同じ目だ――まどかはこう考えて、その考えを追い出すように頭を振った。ほむらちゃんは優しい――

「このクラスでは、魔法薬調合の微妙な科学と、厳密な芸術を学ぶ」

 スネイプが話しはじめた。まるでつぶやくような話し方なのに、生徒たちは一言も聞き漏らさなかった――
マクゴナガル先生と同じように、スネイプも何もしなくともクラスをシーンとさせる能力を持っていた。

「このクラスでは杖を振り回すようなバカげたことはやらん。そこで、これでも魔法かと思う諸君が多いかもしれん。
フツフツと沸く大釜、ユラユラと立ち昇る湯気、人の血管の中をはいめぐる液体の繊細な力、心を惑わせ、
感覚を狂わせる魔力……諸君がこの見事さを真に理解するとは期待しておらん。
我輩が教えるのは、名声を瓶詰めにし、栄光を醸造し、死にさえふたをする方法である――
ただし、我輩がこれまでに教えてきたウスノロたちより諸君がまだましであればの話だが」

 大演説の後はクラス中が一層シーンとなった。三人は互いに目配せした。
119 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/10/03(水) 11:13:45.45 ID:X0qTmPMjo
 スネイプが突然、「暁美!」と呼んだ。

「アスフォルデの球根の粉末にニガヨモギを煎じたものを加えると何になるか?」

 なんの球根の粉末を、なにを煎じたものに加えるって???

 まどかはさやかをチラッと見たが、まどかと同じように「降参だ」という顔をしていた。

「眠り薬」

「もっとくわしく説明したまえ」

「あまりに強力なため、『生ける屍の水薬』と言われている」

「暁美、もう一つ聞こう。ベゾアール石とは何かね? またどこで見つかるかね?」

「たいていの薬に対する解毒剤。山羊の胃から」

「暁美、モンクスフードとウルフスベーンとの違いはなんだね?」

「同じ植物」

「さよう。別名をアコナイトとも言うが、とりかぶとのことだ。どうだ? 諸君、なぜ今のを全部ノートに書きとらんのだ?」

 いっせいに羽ペンと羊皮紙を取り出す音がした。その音にかぶせるように、スネイプが言った。

「暁美、教科書の前に敬語を覚えろ。スリザリンは一点減点」

「……」

「暁美、返事をしろ。スリザリンはもう一点減点」

「はい」

 三人はわけがわからなかった。意味不明の質問に完璧に答えて加点どころか減点するだなんて。
マルフォイ、クラッブ、ゴイルは減点されたにもかかわらず、身をよじって笑っていた。
120 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/10/03(水) 11:15:29.20 ID:X0qTmPMjo
 その後は生徒を二人ずつ組みにして、おできを治す簡単な薬を調合させた。
長い黒いマントを翻しながら、スネイプは生徒たちが干しイラクサを計り、ヘビの牙を砕くのを見回った。
どうもお気に入りらしいマルフォイを除いて、ほとんど全員が注意を受けた。
マルフォイが角ナメクジを完璧にゆでたからみんな見るように、とスネイプがそう言った時、
地下牢いっぱいに強烈な緑色の煙が上がり、シューシューという大きな音が広がった。
恭介が、どういうわけか中沢の大鍋を溶かして、ねじれた小さな塊にしてしまい、
こぼれた薬が石の床を伝わって広がり、生徒たちの靴に焼けこげ穴をあけていた。
たちまちクラス中の生徒が椅子の上に避難したが、恭介は大鍋が割れた時にグッショリ薬をかぶってしまい、
腕や足のそこら中に真っ赤なおできが容赦なく噴き出し、痛くてうめき声を上げていた。
121 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/10/03(水) 11:17:49.46 ID:X0qTmPMjo
「バカ者!」

 スネイプが怒鳴り、魔法の杖を一振して、こぼれた薬を取り除いた。

「おおかた、大鍋を火から降ろさないうちに、山嵐の針を入れたんだな?」

 恭介はおできが鼻にまで広がってきて、シクシク泣きだした。
それから出し抜けに、恭介の隣で作業をしていたほむらに鉾先を向けた。

「君、暁美、針を入れてはいけないとなぜ言わなかった? 彼が間違えば、自分の方がよく見えると考えたな? スリザリンはもう一点減点」

 そんなことをする必要も無くほむらの調合は完璧だった。
あまりに理不尽なので、さやかは言い返そうと口を開きかけたが、
杏子が大鍋の陰でスネイプに見えないようにさやかを小突いた。

「やめたほうがいい」と杏子が小声で言った。
122 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/10/03(水) 11:19:37.89 ID:X0qTmPMjo
 一時間後、地下牢の階段をのぼりながらまどかはほむらに勇気を振り絞って声をかけた。

「た、大変だったね。こ、この後さやかちゃんと杏子ちゃんとマミさんとハグリッドに会いに行くんだけど、ほむらちゃんもどう?」

「いいえ、結構よ。お構いなく」ピシャリと言うとほむらは寮に帰っていった。

「なにあの態度」さやかが言った。

「私、嫌われてるのかなあ……」大広間で睨まれてたし……とまどかがしょげる。

「構うもんか。所詮スリザリンってことでしょ」

「そんなこと言っちゃダメだよ」

「それよりマミと合流してハグリッドのとこに行こーぜ」
123 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/10/03(水) 11:21:32.30 ID:X0qTmPMjo
 三時五分前に城を出て、四人は校庭を横切った。ハグリッドは「禁じられた森」の端にある木の小屋に住んでいる。
戸口に石弓と防寒用長靴が置いてあった。ノックすると、中からメチャメチャに戸を引っ掻く音と、
ブーンとうなるようなほえ声が数回聞こえてきた。

「退がれ、ファング、退がれ」ハグリッドの大声が響いた。

「待て、待て、退がれ、ファング」とハグリッド

 戸が少し開いて、すき間からハグリッドの大きなひげモジャの顔が現れた。
 ハグリッドは巨大な黒いボアーハウンド犬の首輪を押さえるのに苦労しながら、杏子たちを招き入れた。

 中は一部屋だけだった。ハムやきじ鳥が天井からぶら下がり、焚き火にかけられた銅のヤカンにはお湯が沸いてる。
部屋の隅にはとてつもなく大きなベッドがあり、パッチワークキルトのカバーがかかっていた。

「くつろいでくれや」

 ファングは一直線に杏子に飛びかかり、杏子の耳をなめはじめた。
ハグリッドと同じように、ファングも見た目と違って、まったく怖くなかった。
124 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/10/03(水) 11:28:26.06 ID:X0qTmPMjo
「ほむらは来ないのか。そっちはマミだな」

 ハグリッドは大きなティーポットに熱いお湯を注ぎ、ロックケーキを皿に乗せた。

「知ってるの?」さやかが聞いた。

「学年で一、ニを争う優等生だ。おまけに世界に唯一と思われる魔法生物をつれていると、有名さ」
ハグリッドが答えた。

「光栄ね」

「マミさん流石」さやか。

「キュゥべえとはいつから一緒にいるんですか?」まどかが聞いた。

「私が両親を事故で失ったときに現れたのよ。それからずっと一緒にいるの」

「僕はそのとき生まれた。マミと一緒にいろと本能が告げていたんだ」キュゥべえが言った。

「へーえ、すごーい」二人が関心する。
125 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/10/03(水) 11:29:08.58 ID:X0qTmPMjo
 ハグリッドがフィルチのことを「あの老いぼれ」と呼んだので、さやか、杏子、マミは喜んだ。

「あの猫だがな、ミセス・ノリスだ。いつかファングを引き合せなくちゃな。
俺が学校に行くとな、知っとるか? いつでもズーッと俺をつけまわす。
どうしても追い払えん――フィルチのやつがそうさせとるんだ」

 さやかはスネイプの授業のことを話した。

「スリザリンびいきって聞いてたのに、ほむらのヤツからどんどん減点すんの。なんかほむらを嫌ってるみたい」

「同族嫌悪じゃないかって言われてるわ」マミが口を出した。

「もう噂になってるんですか? でも同族嫌悪って?」さやかが言った。

「噂によると暁美さんは、闇の魔術をたくさん知っているらしいわ。
そのせいで周りの生徒から気味悪がられてるの。で、実はスネイプも昔そうだったらしいの」

「闇の魔術に詳しいって? やっぱ危険なヤツ」
126 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/10/03(水) 11:30:53.98 ID:X0qTmPMjo
「ただの噂だろうが」とハグリッド。

「そうねあくまで噂よ。あとこれは噂ついで。一年で幅をきかせてるあのマルフォイって子に憎まれてて、
スリザリンでもいじめられてるみたい。スリザリンなのにマグル生まれなのもあって」

「なにそれ、最低!」

「ひどい……」

「でも確かに似てるよな。黒髪だし、目つきとかそっくりだし」

「そうそう、あの人殺しでもしてそうな目」

「さやかちゃんもひどいよ……」

「ごめん、ごめん。まどかはほむらがお気に入りだもんねー」

「あら、そうなの?」

「そ、そんなことないよ!」
127 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/10/03(水) 11:32:41.55 ID:X0qTmPMjo
今日はここまで。よく読んだらおりこでもアタシとも言ってました。
128 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/03(水) 13:56:31.88 ID:blkNUDXIO

このほむほむには何があったんだ...?
129 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2012/10/03(水) 15:11:54.13 ID:f2w5hHfz0
>>109 >>127
意外と一人称って区別つけるの難しいよね。字で書く(まどPだけど)と結構被ってるし。

まどか:わたし
ほむら、マミ、織莉子、キリカ:私(わたし)
さやか、杏子:あたし
仁美:私(わたくし)
ゆま:自分の名前

って感じで。かずみは読んでないし、おりこは持ってないから自信ないけど。
まあ、結局皆一人称は似たり寄ったり(に成らざる得ない)から、キャラ崩壊しない程度に区別化してもいいと思います。
取りあえず >>1 がお好きなようにってことで。応援してます。
130 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/10/03(水) 16:27:17.58 ID:X0qTmPMjo
>>129
まどぽのこと完全に忘れてました。本当ですね。動画を少し見てきました。ありがとうございます。
未プレイでごめんなさい。
他にご意見ございませんようでしたらまどぽ準拠にしようと思います。
正直「アタシ」に愛着湧いてたので残念ですが。
131 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/10/03(水) 18:25:18.79 ID:gfqLA0my0
>>130
「アタシ」で良いと思いますよ?音で聞いたら同じですし、さやかとの区別化できますしね。
私も小説は流し読みな上に、原作を1回しか見てない俄かなので、お気になさらずに。
取りあえず、お好きな方でどうぞ。愛着ある方がやりやすいとは思いますので。
何だかいろいろ面倒臭い言い方してゴメンナサイ。
132 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/03(水) 19:08:01.07 ID:CZsv5ZpSO

本編アニメしか見てない自分はアタシで何も違和感はないけどな

しかしほむらがスリザリンってのは妙にしっくり来るな……
133 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/10/03(水) 21:28:36.76 ID:mZCA8tQ20
ゆまとキリカはレイブンクローな感じ
上条はアズカバン
134 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/10/04(木) 00:45:48.29 ID:yX5lvJZmo
おりこ勢も出たらそれはとっても嬉しいなって
135 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/10/04(木) 01:12:58.71 ID:E1zjYcnA0
>>132
寧ろ、クーほむはスリザリンが一番しっくり来たけど…帽子の歌の内容的には。
まどかの命を救うためにはどれだけ犠牲が出ても構わないと考えているあたり、ある意味狡猾とも言えるしね。
根は優しい(甘い?)し、非道には成りきれない性格だから寮の性質とは合わないだろうけど、本編の行動と信念的には一番歌にはあってると思う。
もしこれがメガほむ(アニメにおける3週目ぐらいまで)だったら、グリフィンドールかハッフルパフの2択かな?
未契約でも魔女退治に着いて行ったり(まどP)、嵐の中に飛び出たりしてるし(ドラマCD)。

取りあえず、違う寮に配置されたほむらとの絡みを楽しみにしてます。
136 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/10/04(木) 01:57:22.75 ID:Wdr7hb7mo
頭は良いだろうしレイヴンクローも良いような
137 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/10/04(木) 07:01:14.14 ID:Wem+812yo
>>134
とりあえずは出せないです。ごめんなさいね。
一人称はさやかをあたしに、まどかをわたしにするだけにしようと思います。
ご意見と応援レスありがとう。
138 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/10/04(木) 07:32:29.71 ID:Wem+812yo
出したいんですけどね
賢者じゃ4+1人という、原作より二人も多い人数を、さばくのでいっぱいいっぱいで
ようするに俺の技量不足なんだすまない
139 : ◆fG4qOWmicojn [saga]:2012/10/04(木) 11:02:37.40 ID:Wem+812yo
 まどかが真っ赤になっている中、杏子がふと目をむけると、テーブルの上のティーポットカバーの下から。一枚の紙切れを見つけた。「日刊預言者新聞」の切り抜きだった。

 グリンゴッツ侵入さる
 七月三十一日に起きたグリンゴッツ侵入事件については、知られざる闇の魔法使い、または魔女の仕業とされているが、捜査は依然として続いている。

 グリンゴッツの小鬼たちは、今日になって、何もとられたものはなかったと主張した。
荒らされた金庫は、実は侵入されたその日に、すでに空になっていた。
「そこに何が入っていたかについては申し上げられません。詮索しない方がみなさんの身のためです」
と、今日午後グリンゴッツの報道官は述べた。

 汽車の中でさやかが、グリンゴッツ強盗事件について話していたことを杏子は思い出した。

「ハグリッド! グリンゴッツ侵入があったのはアタシたちがグリンゴッツに言った日だ! 
アタシたちがあそこにいる間に起きたのかもしれない!」と杏子が言った。

 間違いなくハグリッドは杏子から目をそらした。ハグリッドはウーッと言いながら杏子にまたロックケーキをすすめた。杏子は記事を読み返した。

「荒らされた金庫は、実は侵入されたその日に、すでに空になっていた」

 ハグリッドは七百十三番金庫を空にした。汚い小さな包みを取り出すことが「空にする」と言えるなら。泥棒が探していたのはあの包みだったのか?
140 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/10/04(木) 11:03:12.56 ID:Wem+812yo
 夕食に遅れないよう、四人は城に向かって歩き出した。杏子はこれまでのどんな授業よりもハグリッドのお茶の方がいろいろ考えさせられた。
ハグリッドはあの包みを危機一髪で引き取ったのだろうか? 今あれはどこにあるんだろう?
141 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/10/04(木) 11:04:21.04 ID:Wem+812yo
 孤児院のガキどもよりつまらないヤツがこの世の中にいるなんて、杏子は思ってもみなかった。
でもそれはドラコ・マルフォイに出会うまでの話だ。
一年生ではグリフィンドールとスリザリンが一緒のクラスになるのは魔法薬学の授業だけだったので、
グリフィンドール寮生もマルフォイのことでそれほど嫌な思いをせずにすんだ。
少なくとも、グリフィンドールの談話室に「お知らせ」が出るまではそうだった。掲示を読んでみんながっくりした。

――飛行訓練は木曜日に始まります。グリフィンドールとスリザリンとの合同授業です――

「あーあ。マルフォイ君の目の前で箒に乗って、物笑いの種になるんだよ」

 何よりも空を飛ぶ授業を楽しみにしていたまどかは、失望した。

「そうなるとはかぎらないわよ。アイツ、クィディッチがうまいっていつも自慢してるけど、口先だけだよ」

 さやかの言うことはもっともだった。

 マルフォイは確かによく飛行の話をしたし、一年生がクィディッチ・チームの寮代表選手になれないなんて残念だとみんなの前で聞こえよがしに不満を言った。
マルフォイの長ったらしい自慢話は、なぜかいつも、マグルの乗ったヘリコプターを危うくかわしたところで話が終わる。
自慢するのはマルフォイばかりではない。中沢は子供の頃いつも箒に乗って、田舎の上空を飛び回っていたという。
 魔法使いの家の子はみんなひっきりなしにクィディッチの話をした。

 まどかも、さやかも、ついでに恭介もこれまで一度も箒に乗ったことがなかった。そのことで少し引け目を感じていた。
142 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/10/04(木) 11:05:26.33 ID:Wem+812yo
 ハグリッドの手紙の後、杏子には何通かのラブレターが運ばれた。

「来るなら直に来い」と杏子は無視していた。まどかとさやかは感心していた。

 ほむらにも手紙が届いてたが、ある日手紙をまとめて破り捨てているのをまどかは見た。
マルフォイはワシミミズクがいつも家から菓子の包みを運んでくるのが得意のようだった。

めんふくろうが恭介のおばあさんからの小さな包みを持ってきた。
恭介はウキウキとそれを開けて、白い煙のようなものが詰まっているように見えるビー玉ぐらいのガラス玉をみんなに見せた。

「『思いだし玉だ』!ばあちゃんは僕が忘れっぽいこと知ってるから――
何か忘れてると、この玉が教えてくれるんだ。見ててごらん。こういうふうにギュッと握るんだよ。もし赤くなったら――あれれ……」

 思い出し玉が突然真っ赤に光り出したので、恭介は愕然とした。

「……何かを忘れてるってことなんだけど……」
143 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/10/04(木) 11:06:00.03 ID:Wem+812yo
 恭介が何を忘れたのか思い出そうとしている時、マルフォイがグリフィンドールのテーブルのそばを通りかかり、玉をひったくった。

 杏子とさやかははじけるように立ち上がった。二人ともマルフォイと喧嘩する口実を心のどこかで待っていた。
ところがキュゥべえをつれたマミがさっと現れた。杖を構えていた。

「どうしたのかしら?」

「巴先輩、マルフォイが僕の『思い出し玉』を取ったんです」

 マルフォイはしかめっ面ですばやく玉をテーブルに戻した。

「見てただけだよ」

 そう言うと、マルフォイはクラッブとゴイルを従えてスルリと逃げた。
144 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/10/04(木) 11:06:31.93 ID:Wem+812yo
 その日の午後三時半、三人は、グリフィンドール寮生と一緒に、初めての飛行訓練を受けるため、正面玄関から校庭へと急いだ。
校庭を横切って平坦な芝生まで歩いて行くと、スリザリン寮生はすでに到着していた。

二十本の箒が地面に整然と並べられていた。三人はマミが、学校の箒のことをこぼしていたのを思い出した。
高いところに行くと震え出す箒とか、どうしても少し左に行ってしまうくせがあるものとか。

 マダム・フーチが来た。白髪を短く切り、鷹のような黄色い目をしている。

「なにをボヤボヤしてるんですか」開口一番ガミガミだ。「みんな箒のそばに立って。さあ、早く」

 三人は自分の箒をチラリと見下ろした。古ぼけて、小枝が何本かとんでもない方向に飛び出している。

「右手を箒の上に突き出して」マダム・フーチが掛け声をかけた。

「そして、『上がれ』と言う」

 みんなが「上がれ!」と叫んだ。

 杏子とまどかの箒はすぐさま飛び上がって手に収まったが、飛び上がった箒は少なかった。ほむらとマルフォイの手には収まっていた。さやかの箒はあらぬ方向に飛んでいって恭介に突き刺さった。その恭介の箒はピクリともしない。

 次にマダム・フーチは、箒の端から滑り落ちないように箒にまたがる方法をやって見せ、生徒たちの列の間を回って、箒の握り方を直した。
マルフォイがずっと間違った握り方をしていたと先生に指摘されてたので、さやかと杏子は大喜びだった。
145 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/10/04(木) 11:07:09.45 ID:Wem+812yo
 次にマダム・フーチは、箒の端から滑り落ちないように箒にまたがる方法をやって見せ、生徒たちの列の間を回って、箒の握り方を直した。
マルフォイがずっと間違った握り方をしていたと先生に指摘されてたので、さやかと杏子は大喜びだった。

「さあ、私が笛を吹いたら、地面を強く蹴ってください。箒はぐらつかないように押さえ、二メートルぐらい浮上して、
それから少し前屈みになってすぐに降りてきてください。笛を吹いたらですよ――一、二の――」

 ところが、恭介は緊張するやら怖気づくやら、一人だけ地上に置いてきぼりを食いたくないのやらで、
先生の唇が笛に触れる前に思いきり地面を蹴ってしまった。

「こら、戻ってきなさい!」

 先生の大声をよそに、恭介はシャンペンのコルク栓が抜けたようにヒューッと飛んでいった――
四メートル――六メートル――三人は恭介が真っ青な顔でグングン離れていく地面を見下ろしているのを見た。
声にならない悲鳴を上げ、恭介は箒から真っ逆さまに落ちた。そして……

 ガーン――ドサッ、ポキッといういやな音をたてて、恭介は草の上にうつぶせに墜落し、草地にこぶができたように突っ伏した。
箒だけはさらに高く高く昇り続け、「禁じられた森」の方へユラユラ漂いはじめ、やがて見えなくなってしまった。
146 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/10/04(木) 11:09:40.10 ID:Wem+812yo
 マダム・フーチは、恭介と同じくらい真っ青になって、恭介の上に屈み込んだ。

「手首が折れてるわ」

「そんな、バイオリンが!」恭介が泣き出しそうな顔で言った。

「大丈夫。マダム・ポンフリーが完治させるわ」

「さあさあ、恭介、大丈夫。立って」

 先生は他の生徒のほうに向き直った。

「私がこの子を医務室に連れていきますから、その間誰も動いてはいけません。
箒もそのままにして置いておくように。さもないと、クィディッチの『ク』を言う前にホグワーツから出ていってもらいますよ」

「さあ、行きましょう」

 グチャグチャの顔をした恭介は、手首を押さえ、先生に抱きかかえられるようにして、ヨレヨレになって歩いていった。
147 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/10/04(木) 11:10:11.55 ID:Wem+812yo
 二人がもう声の届かないところまで行ったとたん、マルフォイは大声で笑い出した。

「あいつの顔を見たか? あの大まぬけの」

 他のスリザリン寮生たちももてはやし立てた。

「やめなさい、マルフォイ君」志筑仁美がとがめた。

「へー上条の肩を持つの?」

「仁美ったら、まさかあなたがバイオリンバカの小僧に気があるなんて知らなかったわ」

 気の強そうなスリザリンの女の子、パンジィ・パーキンソンが冷やかした。

「ごらんよ!」

 マルフォイが飛び出して草むらの中から何かを拾いだした。

「上条のばあさんが送ってきたバカ玉だ」

 マルフォイが高々とさし上げると、『思い出し玉』はキラキラと陽に輝いた。
148 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/10/04(木) 11:10:49.62 ID:Wem+812yo
「マルフォイ、こっちに渡しな」

 さやかの静かな声に、みんなはおしゃべりを止め、二人に注目した。

 マルフォイはニヤリと笑った。

「それじゃ、上条が後で取りにこられる所に置いておくよ。そうだな――木の上なんてどうだい?」

「こっちに渡せったら!」

 さやかは強い口調で言った。マルフォイはヒラリと箒に乗り、飛び上がった。
上手に飛べると言っていたのは確かにうそではなかった――マルフォイは樫の木の梢と同じ高さまで舞い上がり、そこに浮いたまま呼びかけた。

「ここまで取りにこいよ」

 杏子とまどかは箒をつかんだ。さやかの箒は逃げた。

「ダメです!フーチ先生がおっしゃったでしょう。動いちゃいけないって。私たちみんなが迷惑するんですのよ」

 仁美が叫んだ。
149 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/10/04(木) 11:11:40.51 ID:Wem+812yo
 杏子は無視した。まどかにはもう聞こえていなかった。ドクン、ドクンと血が騒ぐのを感じた。
箒にまたがり地面を強く蹴ると、杏子とまどかは急上昇した。高く高く、風を切り、髪がなびく。マントがはためく。
強く激しい喜びが押し寄せてくる。

 ――私たちには教えてもらわなくてもできることがあったんだ――簡単だよ。
飛ぶってなんて素晴らしいんだ!もっと高いところに行こう。

 二人はクルリと箒の向きを変え、空中でマルフォイと向き合った。マルフォイは呆然としている。

「こっちへ渡せよ。でないと箒から突き落としてやる」杏子が言った。

「へえ、そうかい?」

 マルフォイはせせら笑おうとしたが、顔がこわばっていた。

 不思議なことに、どうすればいいか杏子にはわかっていた。前屈みになる。そして箒を両手でしっかりとつかむ。
すると箒は槍のようにマルフォイめがけて飛び出した。マルフォイは危うくかわした。
杏子は鋭く一回転して箒をしっかりつかみなおした。下では何人か拍手をしている。
150 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/10/04(木) 11:12:22.58 ID:Wem+812yo
「大きなお友だちはお留守だな。マルフォイ!」

 杏子が言った。マルフォイも同じことを考えたらしい。

「くそっ」

 やけになったマルフォイが突っ込んできた。杏子は一瞬で宙返りしながら半回転し、マルフォイを避け、後ろを取った。

「うらぁ!」

 杏子のラリアットがマルフォイを襲う――逃げきれない――マルフォイは箒から落ちた。
ガラス玉は前方に放りだされ、稲妻のように地面に戻っていった。

「まどか!」杏子が叫んだ。
151 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/10/04(木) 11:13:43.18 ID:Wem+812yo
 まどかは高く上がった玉が次に落下しはじめるのが、まるでスローモーションで見ているようによく見えた。
まどかは前屈みになって箒の柄を下に向けた。次の瞬間、まどかは一直線に急降下し、見るみるスピードを上げて玉と競争していた。
下で見ている人の悲鳴と交じり合って、風が耳元でヒューヒュー鳴った――まどかは手を伸ばす――
地面スレスレのところで玉をつかんだ。間一髪でまどかは箒を引き上げ、水平に立て直し、草の上に転がるように軟着陸した。
「思いだし玉」をしっかり手のひらに握りしめたまま。まどかは地面がクッションのようにやわらかくなっているのに気づいた。誰かが魔法を使ったのだ。

「なんだよ、これなら放っておきゃよかった」

 マルフォイをぶら下げた杏子が言った。

「佐倉杏子! 鹿目まどか!」

 マクゴナガル先生が走ってきた。まどかの気持ちは、今しがたのダイビングよりなお速いスピードでしぼんでいった。
まどかはブルブル震えながら立ち上がった。
152 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/10/04(木) 11:17:14.46 ID:Wem+812yo
今日はここまでです。区切り方がうまくいってない感じしますね。
半回転しながら宙返りってなんやろな。
他に思いつかんかったわ。
言った先から一人称変え忘れたテヘ
153 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/10/04(木) 23:51:15.89 ID:WdhD7C0po
きりもみ状態でターンして後ろを取ったってことでしょ?
戦闘機のドッグファイトでよくあるやつ
154 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/10/05(金) 02:34:57.05 ID:3OBbEyfUo
>>153 そうですね。うまい表現が出て来なかったです。
155 : ◆fG4qOWmicojn [saga]:2012/10/05(金) 11:46:59.13 ID:3OBbEyfUo
「まさか――こんなことはホグワーツで一度も……」
マクゴナガル先生はショックで言葉も出なかった。メガネが激しく光っている。

「……よくもまあ、そんな大それたことを……首の骨を折ったかもしれないのに――」

「先生、まどかさんと杏子さんが悪いんじゃないんです……」

「おだまりなさい。ミス・志筑」

「でも、マルフォイ君が……」

「くどいですよ。ミス・志筑。佐倉、鹿目、さあ、一緒にいらっしゃい」

 マクゴナガル先生は大股に城に向かって歩き出し、まどかは麻痺したようにトボトボついていった。
クラッブ、ゴイルの勝ち誇った顔がチラリと目に入った。マルフォイはしかめ面をしていた。
わたしは退学になるんだ。わかってる。弁解したかったが、どういうわけか声が出ない。
まどかは杏子が、開き直ったように平然としているのが信じられなかった。
そういえば「思いだし玉」が真っ赤なのはどういうわけだろう。
マクゴナガル先生は、二人には目もくれず飛ぶように歩いた。二人はほとんどかけ足にならないとついていけなかった。
156 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/10/05(金) 11:47:58.24 ID:3OBbEyfUo
 ――とうとうやってしまった。二週間ももたなかった。きっと十分後には荷物をまとめるハメになっている。
わたしが玄関に姿を現したら、パパとママはなんて言うだろう?

 正面階段を上り、大理石の階段を上がり、それでもマクゴナガル先生は二人に一言も口を聞かない。
先生はドアをグイッとひねるように開け、廊下を突き進む、まどかは惨めな姿で、杏子は平然として早足でついていく……
多分ダンブルドア先生のところに連れていくんだろうな。まどかはハグリッドのことを考えた。
彼も退学にはなったけど、森の番人としてここにいる。もしかしたらハグリッドの助手になれるかもしれない。
さやかちゃんやほむらちゃんやマミさんや他の子が魔女になっていくのをそばで見ながら、
わたしはハグリッドの荷物をかついで、校庭をはいずり回っているんだ……想像するだけで胃がよじれる思いだった。

 マクゴナガル先生は教室の前で立ち止まり、ドアを開けて中に首を突っ込んだ。

「フリットウィック先生。申し訳ありませんが、ちょっとウッドをお借りできませんか」

 ウッド? ウッドって木のこと? わたしを叩くための棒のことかな。まどかはわけがわからなかった。
157 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/10/05(金) 11:48:36.07 ID:3OBbEyfUo
 ウッドは人間だった。フリットウィック先生のクラスから出てきたのはたくましい五年生で、何ごとだろうという顔をしていた。

「三人とも私についていらっしゃい」

 そう言うなりマクゴナガル先生はどんどん廊下を歩き出した。ウッドは珍しいものでも見るように二人を見ている。

「お入りなさい」

 マクゴナガル先生は人気のない教室を指し示した。中でピーブズが黒板に下品な言葉を書きなぐっていた。

「出ていきなさい、ピーブズ!」

 先生に一喝されてピーブズの投げたチョークがゴミ箱に当たり、大きな音をたてた。ピーブズは捨てぜりふを吐きながらスイーッと出ていった。
マクゴナガル先生はその後ろからドアをピシャリと閉めて、二人の方に向きなおった。
158 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/10/05(金) 11:49:15.77 ID:3OBbEyfUo
「佐倉、鹿目、こちら、オリバー・ウッドです。ウッド、チェイサーとシーカーを見つけましたよ」

 狐につままれたようだったウッドの表情がほころんだ。

「本当ですか?」

「間違いありません」先生はきっぱりと言った。

「この子たちは生まれつきそうなんです。あんなものを私は初めて見ました。佐倉、鹿目、初めてなんでしょう? 箒に乗ったのは」

 二人は黙ってうなずいた。事態がどうなっているのか、さっぱりわからなかったが、退学処分だけは免れそうだ。マクゴナガル先生がウッドに説明している。

「この子は一瞬で半転宙返りをし高速で向かってくる敵の後ろにまわり、沈め、それをキャッチしました。
この子は今持っている玉を十六メートルもダイビングしてつかみました。無事で。
チャーリー・ウィーズリーだってそんなことできませんでしたよ」
159 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/10/05(金) 11:49:52.15 ID:3OBbEyfUo
 ウッドは夢が一挙に実現したという顔をした。

「佐倉、鹿目、クィディッチの試合を見たことがあるかい?」
ウッドの声が興奮している。まどかはうなずき、杏子は首をふった。

「ウッドはグリフィンドール・チームのキャプテンです」

「実にいい体つきだ」

 ウッドは二人の回りを歩きながらしげしげ観察している。セクハラか? と杏子は思った。

「ふさわしい箒を持たせないといけませんね、先生――ニンバス2000とか、クリーンスイープの7番なんかがいいですね」

「私からダンブルドア先生に話してみましょう。一年生の規則を曲げられるかどうか。
是が非でも去年よりは強いチームにしなければ。あの最終試合でスリザリンにペシャンコにされて、
私はそれから何週間もセブルス・スネイプの顔をまともに見られませんでしたよ……」

 マクゴナガル先生はメガネごしに厳格な目つきで二人を見た。

「二人とも、あなたが厳しい練習を積んでいるという報告を聞きたいものです。さもないと処罰について考え直すかもしれませんよ」

 それから突然先生が杏子の方をむいて、にっこりした。

「あなたお父さまがどんなにお喜びになったことか。お父さまは素晴らしい選手でした。鹿目のお母様も素晴らしい選手でした」
160 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/10/05(金) 11:50:38.52 ID:3OBbEyfUo
「まさか」

 夕食時だった。マクゴナガル先生に連れられてグラウンドを離れてから何があったか、二人はさやかとマミに話して聞かせた。
さやかはステーキ・キドニーパイを口にいれようとしたところだったが、そんなことはすっかり忘れて叫んだ。

「チェイサーにシーカーだって? だけど一年生は絶対ダメだと……ならあんたたちは最年少の寮代表選手だよ。ここ何年来かな……」

「……百年ぶりだとさ。ウッドが言ってた」

 杏子はパイを掻き込むように食べていた。

「マミも寮代表選手なんだ。チェイサーさ」キュゥべえが言った。

「よろしくね、二人とも」マミが言った。

「よろしくお願いします」
「よろしく」二人が答えた。
161 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/10/05(金) 11:51:46.23 ID:3OBbEyfUo
 あまりに驚いて、感動して、さやかはただボーッと二人を見つめるばかりだった。

「来週から練習が始まるんだ。でも誰にも言わないでね。ウッドさんは秘密にしておきたいんだって」

 その時、双子がホールに入ってきて、まどかと杏子を見つけると足早にやってきた。

「すごいな」双子の片方が言った。
「ウッドから聞いたよ。フレッドとジョージ・ウィーズリーだ。さやかは知ってるな? 
親戚なんだ。僕たちも選手だ――ビーターだ」

「今年のクィディッチカップはいただきだぜ」とフレッドが言った。
「チャーリーがいなくなってから、一度も取ってないんだよ。だけど今年は抜群のチームになりそうだ。
君らはよっぽどすごいんだね。ウッドときたら小躍りしてたぜ」

「じゃあな、僕たち行かなくちゃ。リー・ジョーダンが学校を出る秘密の抜け道を見つけたって言うんだ」

「それって僕たちが最初の週に見つけちまったやつだと思うけどね。きっと『おべんちゃらのグレゴリー』の銅像の裏にあるヤツさ。じゃ、またな」
162 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/10/05(金) 11:52:37.18 ID:3OBbEyfUo
 フレッドとジョージが消えるやいなや、会いたくもない顔が現れた。クラッブとゴイルを従えたマルフォイだ。

「佐倉、か、鹿目。最後の食事かい? 汽車にいつ乗るんだい?」

「地上ではやけに元気だな。小さなお友達もいるしな」

 杏子はニヤニヤしながら言った。クラッブもゴイルもどう見たって小さくはないが、
上座のテーブルには先生がズラリと座っているので、二人とも握り拳をボキボキ鳴らし、にらみつけることしかできなかった。

「僕一人でいつだって相手になろうじゃないか。ご所望なら今夜だっていい。魔法使いの決闘だ。
杖だけだ――相手には触れない。どうしたんだい? 魔法使いの決闘なんて聞いたこともないんじゃないの?」
マルフォイが言った。

「もちろんあるわよ。あたしが介添人をする。あんたのは誰?」さやかが口をはさんだ。

「さやかちゃん……」まどかが小さく言った。

 マルフォイはクラッブとゴイルの大きさを比べるように二人を見た。

「クラッブだ。真夜中でいいね? トロフィー室にしよう。いつも鍵が開いてるんでね」
163 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/10/05(金) 11:53:44.78 ID:3OBbEyfUo
 マルフォイがいなくなると四人は顔を見合わせた。

「魔法使いの決闘って何だい? アンタがアタシの介添人ってどういうこと?」

「介添人っていうのは、あんたが死んだらかわりにあたしが戦うという意味よ」
 すっかり冷めてしまった食べかけのパイをようやく口にいれながら、さやかは気軽に言った。
杏子が訝しげな顔をしたのを見て、さやかはあわててつけ加えた。

「死ぬのは、本当の魔法使い同士の本格的な決闘の場合だけよ。
あんたとマルフォイだったらせいぜい火花をぶつけ合う程度だよ。
二人とも、まだ相手に本当のダメージを与えるような魔法なんて使えない。マルフォイはきっとあんたが断ると思っていたんだよ」

「もしアタシが杖を振っても何も起こらなかったら?」

「杖なんか捨てちゃえ。鼻にパンチを食らわせろー」さやかの意見だ。
164 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/10/05(金) 11:54:16.88 ID:3OBbEyfUo
「ちょっと、あなたたち」マミが話しかけた。

「夜、校内を歩き回るのは規則違反だ」キュゥべえが言った。

「もし捕まったらグリフィンドールが何点減点されるか考えなさい」

「はぁい」さやかがしぼんだ。

 杏子はその夜遅く、ベッドに横になり、ラベンダーと仁美の寝息を聞いていた。
さやかは夕食後つききりで杏子に知恵をつけようとした。
「呪いを防ぐ方法は忘れちゃったから、もし呪いをかけられたら身をかわしなさい」などなど。
まどかが「行かないんじゃないの?」と聞いたら二人はわけがわからないという顔をした。

 フィルチやミセス・ノリスに見つかる恐れも大いにあった。同じ日に二度も校則をやぶるなんて運試しだという気がした。
しかし、せせら笑うようなマルフォイの顔が暗闇の中に浮かび上がってくる――
今こそマルフォイを一対一でやっつけるまたとないチャンスだ。逃してなるものか。
165 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2012/10/05(金) 11:54:44.00 ID:3OBbEyfUo
「十一時半だ。そろそろ行こう」さやかが言った。

「わたしもいくよ」

 まどかがはっきり言った。こういう時のまどかは何を言っても聞かないのをさやかは知っていた。

「仕方ないわね。ほら、着替えて」

 三人はパジャマの上にガウンを引っ掛け、杖を手に、寝室をはって横切り、塔のらせん階段を下り、グリフィンドールの談話室に下りてきた。
暖炉にはまだわずかに残り火が燃え、ひじかけ椅子が弓なりの黒い影に見えた。出口の肖像画の穴にに入ろうとした時、一番近くの椅子から声がした。

「まさかあなたたちがこんなことをするとは思わなかったわ」

 ランプがポッと現れた。マミだ。黄色のガウンを着ている。キュゥべえを連れてる。
166 :今日はここまで。だんだん少なくなってるねごめん [saga]:2012/10/05(金) 11:56:19.41 ID:3OBbEyfUo
 ランプがポッと現れた。マミだ。黄色のガウンを着ている。キュゥべえを連れてる。

「マミさん……」さやかがつぶやいた。

「どうしても行かなきゃならないんだ。通してくれ」杏子が言った。

「……はあ、本当に仕方ないわねえ。私もついていくわ。知る者の務めよ。いいわね?」

「ありがとうございます」さやかとまどかが礼を言った。

「行くぞ」と杏子が声をかけた。

 全員が肖像画の穴を乗り越えた。高窓からの月の光が廊下に縞模様を作っていた。その中を四人はすばやく移動した。
曲がり角に来るたび、四人はフィルチかミセス・ノリスに出くわすような気がしたが出会わずにすんだのはラッキーだった。
大急ぎで四階への階段を上がり、抜き足差し足でトロフィー室に向かった。

 マルフォイもクラップもまだ来ていなかった。トロフィー棚のガラスがところどころ月の光を受けてキラキラと輝き、
カップ、盾、賞杯、像などが、暗がりの中で時々瞬くように金銀にきらめいた。

 四人は部屋の両端にあるドアから目を離さないようにしながら、壁を伝って歩いた。
マルフォイが飛びこんできて不意打ちを食らわすかもしれないと、杏子は杖を取り出した。数分の時間なのに長く感じられる。

「遅いな、たぶん怖気づいたのよ」とさやかがささやいた。

 そのとき、突然杖を持った人影があらわれた。ほむらだった。
167 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/05(金) 16:54:12.66 ID:FA7/VVtY0


ほむらはハーマイオニーポジっぽいがスリザリンなんだよな…
168 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/06(土) 01:39:51.64 ID:YSWHSrhIO
■ SS速報VIP(SS・ノベル・やる夫等々)自治スレッド Part6
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1345720477/
169 : ◆fG4qOWmicojn [sage]:2012/10/06(土) 07:13:02.52 ID:+OxPnxQHo
あー問題ですか
処分待った方がいいですかね
170 : ◆fG4qOWmicojn [sage]:2012/10/06(土) 08:47:38.45 ID:+OxPnxQHo
向こうのご意見まとまるまで震えながら待ちます
こちらに非があるのは明らかです
ご迷惑おかけしてごめんなさい
171 : ◆fG4qOWmicojn :2012/10/06(土) 21:32:29.39 ID:+OxPnxQHo
執筆の継続が不可能になりました。詳しくは自治スレをご参照下さい。
完結させると言いましたので、別所で一ヶ月以内に発表しますので、よかったら一ヶ月後にでも同タイトルで検索してみて下さい。
172 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/06(土) 22:01:43.47 ID:reZZ/Ip10

やっぱりちょいと問題がありましたか…… ほむらがスリザリンでどうなるのか楽しみにしてたので残念です
自治スレでもありましたが、他所で書くとしてももうチョイ作者さん自身の作風で書いた方がいいかと。私自身もそれが読みたいです

楽しみに待ってます
173 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/06(土) 22:14:03.29 ID:gbVbTsGto
お疲れ
いつか地の文直したVerが上がることを祈る
174 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/10/06(土) 22:48:24.12 ID:uF41++f4o
上に同じく
175 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/10/06(土) 22:50:57.70 ID:+OxPnxQHo
別所であげるというのは無しで
申し訳ないです
176 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2012/10/06(土) 23:02:10.33 ID:a+iwr6BG0
取りあえず乙。
皆も言っているけれど、作者さんの作風で書き直した作品が出てくると非常にうれしいです。
プロでも同人誌でもないのですから、上手い下手を深く考え過ぎずに(重要ですが囚われない様に)、
取りあえず楽しみながら且つ自分の文章で書くのがいいですよ。
ではいつかお会いできることを楽しみにしています。
177 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/10/07(日) 02:54:00.39 ID:wC3moW4do
>>175
もう没にして発表しないってこと?
だとしたら残念だ
178 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage saga]:2012/10/07(日) 03:39:55.08 ID:QVvb3V2D0
>>177
しょうがない…このスレのままだと、著作権(モラル)の問題が大きい。
個人サイトだったとしても、言及は免れないから。

個人的には自分も残念だと思うけど。
179 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/10/07(日) 09:47:13.54 ID:GsS49JJ9o
まあもし改訂版が書けたらまたスレ立て下さいな
180 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/10/10(水) 08:49:50.06 ID:ytLyfJNxo
なるほど、理解した
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