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聖なる夜の小さな物語 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 : ◆SOkleJ9WDA :2012/12/14(金) 00:11:55.10 ID:Vy4ghrqIO
街の夜は実に騒がしい。

ビルに灯る灯りや道端を照らすイルミネーション。車のエンジン音や靴がコンクリートを叩く音、人々の話し声。

だがそれが僕には心地良く馴染み深かった。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1355411515
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2 : ◆SOkleJ9WDA [sage]:2012/12/14(金) 00:13:56.02 ID:Vy4ghrqIO
今日もまた会社帰りのサラリーマンやカップルや子供連れ、様々な人がこの街を行き交いその心地良い喧騒を奏でていた筈だ。

だが僕の耳にはそれが全く入っていなかった。

今日はみんなが待ちに待った聖夜。イエスキリストが生誕した日であり真っ赤な服に身を包み、立派な髭を蓄えた老人が子供達にプレゼントを配り世界を回る日。

笑顔と幸せが溢れかえる街の中を僕は息を切らしながら疾走していた。
3 : ◆SOkleJ9WDA [sage]:2012/12/14(金) 00:15:35.95 ID:Vy4ghrqIO
「はぁ…はぁ…」

気温は零度に差し掛かろうとしている。寒さは耳や手に切れる様な痛みを与え、息を吐けば白く凝った塊が現れた。

身体も寒さで震え、慣れた動作さえ鈍らせていた。

しかしそんな事さえ気にする余裕など僕には無く、行き交う人ごみを掻き分けては一心不乱に走り続けた。
4 : ◆SOkleJ9WDA [sage]:2012/12/14(金) 00:17:09.89 ID:Vy4ghrqIO
早く、もっと早く走らなきゃ。

早くも疲労を溜め込み重くなっていく脚を無理矢理動かす。心臓の鼓動は高鳴り、呼吸が乱れる。

時に段差に躓きそうになるもそれでも構わずただ目的地を目指す。

美しく輝くイルミネーションも普段ならばゆっくりと見たい所だったがそういう訳にも行かず、流星の様に過ぎ去っていく。

「まだ…着かないか…ッ!」

道のりが果てしなく遠く感じる。実際はそこまで遠い訳では無かったのだが、今の僕にはとても遠く感じられたのだ。

ならばタクシーやバスを使えばいいじゃないかと思うかもしれないだろうがそんな簡単な答えさえ抜け落ちてしまう程に僕は焦っていた。
5 : ◆SOkleJ9WDA [sage]:2012/12/14(金) 00:19:54.55 ID:Vy4ghrqIO
その知らせを聞いた時僕はまだ会社で山の様な雑務に追われていた。

急いで片付けなければ定時で帰れないという所だったが、僕は半ば諦めて溜息を吐きながらパソコンの画面を睨みつけていた。

「あのー…電話が入ってますよ」

会社の同僚で顔立ちは幼く、中学生と言われれば間違えてしまう程。そして入って数年の後輩が受話器を持って僕に言った。

「ああ、今出るよ」
6 : ◆SOkleJ9WDA [sage]:2012/12/14(金) 00:21:41.74 ID:Vy4ghrqIO
ありがとうと言って軽く微笑むと彼女も可愛い笑顔を見せて再び自分の業務に戻っていった。

「はい…なんでしょう?」

受話器の向こうからは聞き慣れた声が聞こえた。少し嗄れた声の持ち主は僕の父親だった。

「…………と言う訳だ。一刻も早く行ってやれ!!」

父親はなにか急かされているようにそれを僕に伝えた。

そしてその知らせを受けるや否や僕は受話器を叩きつける様に戻すと、コーヒーを飲みながら気だるそうに新聞を読み耽る上司の元へ駆け寄った。
7 : ◆SOkleJ9WDA [sage]:2012/12/14(金) 00:22:37.08 ID:Vy4ghrqIO
「ったく…世の中はクリスマスだってのに残業とは……」

「部長!!」

ぶつぶつと独り言を言う上司に向かって僕は半ば怒鳴りつける様に言った。

「なんだなんだ騒がしい。退社するなら自分のやる事を済ませてからにしてくれよ」

げんなりとした表情で言う上司にさらに畳み掛ける。

「今すぐ病院に行かないといけないんです!!」

僕は既に待ちきれないとばかりにその場で足踏みしていた。早くしてくれと言わんばかりの僕の態度を見て上司は溢れ出る倦怠感を纏った顔から一変、真剣な顔付きになった。
8 : ◆SOkleJ9WDA [sage]:2012/12/14(金) 00:23:26.39 ID:Vy4ghrqIO
「もしかして…ついにか!!」

上司は何かを察した様に鋭い眼差しを僕にぶつけた。

「はい!!今すぐ行かないと…」

焦りの篭った声で言うと上司は椅子からスクッと立ち上がり僕を指差した。

「よっしゃ今すぐ行ってこい!!なにお前の分も俺が片付けておいてやる!!」

ドンと胸を叩く上司の姿は今まで見た姿の中で一番頼もしく感じられた。普段からこうならいいのに。

「ありがとうございます!!」

ものすごい勢いで頭を下げると直様僕はロケットの様に会社を飛び出し、全速力で駆け出したのだった。
9 : ◆SOkleJ9WDA [sage]:2012/12/14(金) 00:24:09.21 ID:Vy4ghrqIO
激しい運動に慣れていないせいか、肺が激しく痛み動悸が僕を襲った。

しかし目的地まであと少しだ、立ち止まる訳にはいかなかった。

「おい痛えな!!」

道ゆく人々をバスケットボール選手がディフェンダーをかわすように避けて走っていたが、会社帰りかスーツを着て先ほどの上司よろしくこちらも負けず劣らずの気だるさを背負った中年の男性に肩をぶつけてしまう。

「すいません!」

だが立ち止まり謝る時間も惜しい僕は、失礼だとは思いながらもそのまま立ち止まらずに言った。

もうすぐ、もうすぐだ。
10 : ◆SOkleJ9WDA [sage]:2012/12/14(金) 00:25:01.14 ID:Vy4ghrqIO
「ゲホッ…ゲホゲホ……」

やっと辿り着いた。その建物、市立病院の前で僕はようやく足を止めた。

乱れた呼吸を落ち着かせる為にすぅーっと深呼吸をする。

「スゥー…ハァー……」

こんなに走ったのは学生時代の部活動以来だ。あの頃はこれ程の運動でここまで疲れる事も無かったが…。どうやら相当デスクワークで身体が訛り切っていた様だ。

「さてと…」

すっかり乱れてしまったスーツを直すと、僕は重い脚を引きずりながらも病院の入り口へ歩き出した。
11 : ◆SOkleJ9WDA [sage]:2012/12/14(金) 00:25:53.87 ID:Vy4ghrqIO
病院の中は灯りこそ付いているものの人の姿はほとんど無く、受付のナースとごくわずかな患者のみだった。

「あの…301号室の……」

受付でなにやら真剣に資料を見つめているナースに声をかける。

まだ二十代前半だろうか、顔もそこそこ綺麗な彼女は俺の方を見ると慣れた様に笑顔になった。

「ご面会ですか?」

「はい…時間ギリギリですが大丈夫でしょうか…」

受付の向こうの時計に目をやると時刻は面会終了時間までもうすぐという所だった。

「大丈夫ですよ、そのままどうぞ」

「ありがとうございます」

ナースは丁寧に頭を下げると再び資料とにらめっこを始めた。

僕は受付を後にすると目的の病室へ歩みを進めた。
12 : ◆SOkleJ9WDA [sage]:2012/12/14(金) 00:26:40.96 ID:Vy4ghrqIO
階段を登る音が響き渡る。コツンコツンと一歩一歩登っていく。

心臓が高鳴る。ついに待ち望んでいたものと対面出来るのだ。

「……」

ゴクリと息を飲むと自分が少し緊張している事に気がついた。乾燥した唇を舌で軽く舐めると僕は、目的の病室の前に立ち止まった。

僕はもう一度病室の前でしたのと同じ様に深呼吸する。

もう一度。

もう一度。

鼓動を抑え、扉を軽く二回ノックする。

「どうぞ」

中から声がする。僕は扉を静かに開けて中に入った。
13 : ◆SOkleJ9WDA [sage]:2012/12/14(金) 00:27:47.74 ID:Vy4ghrqIO
部屋の窓からは眩い街の灯りが見えた。

その手前には大きなベッドとその隣に小さなベッド。大きなベッドには僕の愛おしい人がいた。

「来てくれてありがとうね」

その笑顔はここにくる過程でみたどの笑顔よりも美しく、僕の心を潤した。

今までの疲れが嘘の様に吹き飛んでいく。

「いいや、遅れてごめんね」

「いいのよ…それより」

彼女は身体をゆっくりと起こすと小さなベッドへと手を伸ばした。

「あ…この子が……」
14 : ◆SOkleJ9WDA [sage]:2012/12/14(金) 00:28:54.95 ID:Vy4ghrqIO
そこには注意しないと聞き取れない程の小さな寝息を立てて眠っているとても小さな赤ん坊がいた。

彼女は赤ん坊の頭を優しく撫でると僕を手招いた。

「ほら、早く来て」

僕は小さなベッドに歩み寄ると赤ん坊の顔をまじまじと見つめる。その時には自然と緊張は解け、気がつけば頬が緩んでいた。
15 : ◆SOkleJ9WDA [sage]:2012/12/14(金) 00:30:04.28 ID:Vy4ghrqIO
「かわいいなぁ…。この子が僕たちの……」

「そうよ。私たちの赤ちゃん」

私たちの赤ちゃん。つまり……

「僕が…父親か…」

父親。その言葉が胸に響いた。

夢にまで見た事が今現実となったのだ。まさに夢心地だ、暖かいものが心に染み込んでいく。

「ありがとう」

その言葉は自然と口から出た。そして優しく彼女の身体を抱きしめる。彼女もまた僕の身体を抱きしめてくれた。

温かい。

彼女の身体は暖かった。柔らかく、華奢で、だけど安心出来て。仄かに優しく甘い香りが鼻腔を満たす。

「私も、ありがとう」

その言葉を聞いた瞬間。僕の目頭が急に熱くなってきた。

報われた様な、嬉しい気持ち。

大切なものを手にしている喜び。

彼女と新しい命への愛情。

それらが一気に波となって押し寄せて僕の頬を伝った。
16 : ◆SOkleJ9WDA [sage]:2012/12/14(金) 00:30:54.49 ID:Vy4ghrqIO
「愛してる」

僕たちは見つめ合う。

彼女の瞳も潤んでいて、そしてそこから綺麗な雫が線を描いて頬を滑り落ちた。

涙の溜まった瞳を閉じると僕は彼女の唇に僕の唇を重ねた。
その触れた一瞬の時間はとても長く、優しいひとときだった。

これは聖なる夜の物語。

世界に溢れかえる幸せのほんの一部。

貴方にも幸せが訪れますように…
17 : ◆SOkleJ9WDA [sage]:2012/12/14(金) 00:34:07.21 ID:Vy4ghrqIO
クリスマスが待ちきれ無かったので書きました。雑で稚拙な文章で本当に申し訳ないです。読んでくれた方のお目汚しにならなければ幸いです。みなさんにクリスマスにはいい事が起こるのを祈っています…
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/14(金) 14:09:05.97 ID:OSdlFygN0
乙。

この主人公とその妻は末永く爆発しろ。
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/02/13(水) 10:00:54.98 ID:mQkaqLwe0
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