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オッレルス「…甘えた病?」フィアンマ「……困ったものだ」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/12/17(月) 01:25:52.42 ID:s4QGFHZAO

◆H0UG3c6kjA改め◆2/3UkhVg4u1Dです。


・ホモスレ

・フィアンマさんが困った病気(?)にかかってオッレルスさんに甘える話


・時間軸不明

・投下は遅め

・キャラ崩壊注意




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2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/17(月) 01:26:40.78 ID:mxrnisXSO
まさかのww
3 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/12/17(月) 01:27:39.47 ID:s4QGFHZAO


「…甘えた病?」

困った声音でそう問い掛けたのは、緑の瞳に金の髪の、魔神になれなかった男―――オッレルス。

対して、同じく困った声を出したのは、世界的戦犯である、元『神の右席』の実質的リーダー―――右方のフィアンマ。


「……困ったものだ」


ため息を吐き出し、彼は残念そうに肩を落とした。
煙草を我慢している喫煙者の様に、やたらと苛立っているようにも思えた。

「それで、何をどうしたら治るんだ。医者にかかれば良いのか、民間療法か、治癒術式か…」
「…ひとまず、対症療法で過ごすよう、考えてはいるが。『神の右席』たる身体で医者にかかるのはマズいだろう」
「それもそうか」

天使に近いフィアンマの身体は、時に医療機関でとんでもない数値を叩き出す恐れがある。
それを思えば、おいそれと町医者にかかる訳にもいかなかった。

「どんな症状なんだ?」

「主に―――」


4 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/12/17(月) 01:28:13.08 ID:s4QGFHZAO

一つ、苛々する。
一つ、不安感がある。 一つ、吐き気がする。 一つ、頭が痛い。

これらが、症状。
甘えた病とは、精神的な病に相当する。
病気として認定されているかどうかすら不安定な為、正しくは甘えた症候群と呼称した方が適切かもしれない。
対処法としては、他者に頭を撫でられる、抱きしめられる、手を握る等、身体同士のスキンシップ。
他人に甘える事を嫌うフィアンマにとって、これ程までにかかりたくない病気は無いに違いない。

「……我慢ならん」

ち、と舌打ちした後、フィアンマは手を伸ばし、オッレルスの手を握った。
喉の渇きをミネラルウォーターで潤す様に、段々と落ち着きを取り戻していく。
オッレルスは困惑しながらも、持ち前の優しさから拒絶しないままに手を握り返してやる。
成人男性二人が手を握りあって渋い顔というのはなかなかにシュールな光景だったが、幸い、それを指摘する人間は此処には居なかった。
5 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/12/17(月) 01:29:15.50 ID:s4QGFHZAO

「…それにしても、私はともかく、君は左手が塞がると不便じゃないか?」
「ああ、……困るが、かといって触れないという手段を選択すれば、たまらなく苛立ちが募る。何かを代理依存先にしようと、先程やけ食いや飲酒をしてみたが……結果として、悪酔いしただけだったよ。そもそも大食らいではないしな」

左手が塞がったままではフィアンマが何も出来ない為、現在、オッレルスは彼の頭を撫でている。そろそろ腕がだるくなってきたところだが、此処でやめると症状がぶり返す為にやめられない。

「……迷惑をかけている自覚はあるが、…一生このままでは無い筈だ。その内…」
「…治ってくれないと、君も、俺も困るしね」


難儀な病だ。
厄介というべきか。
先が思いやられる、と思いながら、オッレルスはフィアンマを抱きしめた。
何だかんだで面倒だとか、疲れるだとかは思っても、突き放すつもりは無いらしい。

「何だか兎みたいだな」
「兎? …寂しいと死んでしまうという迷信か」
「強ち嘘でもないと思うよ。感受性が強いらしいから」
「猫に睨まれて死ぬのだったか」
「愛らしいじゃないか?」
「たとえ話に使われていなければ、な」

はぁ、と深くため息をつき、フィアンマは軽くオッレルスに寄りかかる。 シルビアは現在、ちょっとした所用でこのアパートメントには居ない。
家事をする必要性によってスキンシップを中断することと、彼女に奇異の目で見られる事、果たしてどちらがまだマシだっただろうか、とフィアンマは疲れた頭でぼんやりと思う。
魔術に精通したオッレルスがどうにも出来ない以上、呪いを受けただとか、そういう訳でもないのだろう。
諦めるしかないとはいえ、あまりにも八方塞がりだ。

「……、」

フィアンマは眠気を覚えながら、左手を彼の腕に這わせる。
まさかこの歳で、誰かに甘える必要性が出てくるとは、思わなかった。

6 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/12/17(月) 01:30:05.98 ID:s4QGFHZAO

常にスキンシップをとっていなければならないという訳ではなく。
言うなれば携帯機器の充電のように、沢山の接触をすれば、しばらくは単独でも問題ないようだ。 そんな事実が分かったところで、フィアンマの気は晴れないし、オッレルスの疲労は計り知れない。
例えばどちらかが女の子で、互いをそれなりに好きあっていれば疲労は発生しないのだろうが、そんなスペックならそもそも悩まない。
確かにフィアンマは華奢というか、細身ではあるが、女の子のそれとは違う。
どちらにも柔らかみや丸みは無いし、声は男性らしく、声変わりを済ませた後の低いものだ。
故に、憂鬱感が漂う。
何が楽しくて同年代の男と抱き合わなければならないのだ。
しかし、症状を鎮める為に恋人を作るのもまた非効率・非合理的であり、何よりその相手に失礼だ。
幾ら傲岸なフィアンマと言えども、そんな超個人的な理由で他人の人生を振り回す趣味の持ち合わせは無かった。

「……気持ち悪い、…というよりも、気味が悪い」
「君が文句を言ってどうするんだ…」

オッレルスの胸元に顔をうずめ、フィアンマはまた再び、ため息を吐き出すのだった。

7 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/12/17(月) 01:30:34.19 ID:s4QGFHZAO

最初の書きためはここまで。
書き込みをいただいた内容(ネタ)については、なるべく参考にさせていただきます(料理とか)。
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/17(月) 03:49:17.32 ID:D9GMFbxA0
ま・た・お・ま・え・か・!
9 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/12/17(月) 22:49:19.59 ID:UZSARbUk0

二日経った。
だが、解決策は未だ見つからない。
医者にかかろうかという案をお互い持ち出したものの、そんな勇気は無く。
自分が我慢すれば良いのだから、と言うオッレルスに甘える形で、フィアンマはもたれていた。
吐き気等の症状は治まるものの、やはり気分が良いものではない。
ストレスをぶつける相手に煙草を選んで本日挑戦してみたが、フィアンマが噎せて駄目だった。
炎使いだからといって、タバコが好きということとはイコールにならないのである。

「…アルコール依存症よりはこのままの方が…」
「…俺様としてはアルコールの方がマシだがね」
「スキンシップは嫌いなのか?」
「相手が好みの女であれば別の話だよ」
「ちなみに、好みのタイプは?」
「聞いてどうする」
「いや、参考までに」
「何の参考だ…。…聖女タイプだが」
「聖女か」
「…後は、…そうだな、…天使、か?」
「いや、私に聞かれても」
「それもそうか。……あまり肉感的でない女のほうが好みだな」
「珍しいな」
「一応、聖職者だったものでな」

現在進行形でそうとも言えるが、ローマ正教から抜けてしまった以上、何ともいえない。
その事に後悔は無い為、表情は暗くない。

憂鬱ながらも、フィアンマはオッレルスに縋る。
そうしなければ苛立ちが募り、最悪、体調不良によって倒れてしまうからだ。

「何回も聞いている気がするが、本当に原因に心当たりは無いのか?」
「無い。…あったら、とっくに対処している」
「ほら、悪夢を見てトラウマが刺激されたとか…」
「心的外傷…?」

幼い頃に何かあっただろうか。
何も無かったような気がする。
むしろ、思い出が無いということが異常なのかもしれない。
考えれば考える程沈み込んでいく思考の泥沼にハマりこみ、フィアンマは肩を落とす。

もう嫌だ。
こんな、他者に甘えなければ生きていけない無様な様子で生きていく位なら、死んだ方がマシだ。

「……クソッたれ」

まだ相手が自分より格上であるだけ、多少なりとも良い。
そう自分に言い聞かせるも、フィアンマの鬱々とした感情は一向に明るさを浮かばせなかった。
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/17(月) 22:49:20.60 ID:s4QGFHZAO
+
11 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/12/17(月) 22:49:48.92 ID:UZSARbUk0

本日の昼食はパンケーキである。
これにはいくつかの理由があり、その大半がフィアンマに関するものである。

まず第一に、ゆっくりと調理するものであること。
故に、時間の猶予があるので、スキンシップをとれる。

第二に、甘いものであること。
フィアンマはわりかし甘いものが好きである。
十字教徒とはマナの時代より甘味を好むが、フィアンマもその類に漏れない。

第三に、作るのが簡単であること。
オッレルスはあんまり料理が得意ではないからだ。

そんな訳で、じっくりとオッレルスがパンケーキを焼いている間。
焦げないかどうか見張るという役目も兼ねて、フィアンマは後ろからオッレルスに抱きついていた。
左腕のみで抱きついている為、行動の阻害にはならない。
ぴとりとくっついたまま、フィアンマはぼんやりとフライパンを見つめていた。
熱されたフライパンの中、黄色い綺麗な生地は丸く薄い形をとっている。
表面にぷつぷつと泡が立ち、そこはかとなく甘い香りが漂ってきたところで、ひっくり返す。
オッレルスは手先が器用らしく、手首を使って綺麗にぺたんとひっくり返す事が出来た。

じゅうう、しゅうう〜、という呑気な音がキッチンへ響く。

心地の良い音だ、と思いながら、フィアンマはうっすらと笑みを浮かべた。

「何かかけるかい?」
「…蜂蜜でもかけるか」
「そういえば、残り少なかったな」
「使い切ってしまわねば、悪くなる」
「ついでだからキャラメルソースも使い切った方が良いか」
「俺様は要らんぞ」
「チョコレートは?」
「固形か?」
「固形しか無いよ」
「要る」

焼きあがった綺麗な色合いのパンケーキを皿に乗せ。
まだ熱い内に薄く薄くバターを塗った上で、チョコレートをちょこんと乗せる。
その上から網目状にキャラメルソースをかければ、甘くて美味しいパンケーキプレートの出来上がり。
少々カロリー摂取量が高すぎる事や栄養の偏りは否めないものの、甘党には受ける美味しさだ。

パンケーキの熱でチョコレートはとろりと溶け、キャラメルソースと混ざった上で、染み込んでいく。
フォークとナイフを添え、水等の飲み物と共にテーブルへ並べれば、食事の準備は終了だ。
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/17(月) 22:49:50.03 ID:s4QGFHZAO
+
13 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/12/17(月) 22:50:32.98 ID:UZSARbUk0

甘えた病の対処療法は幅広い。
スキンシップが最も効果的だが、それ以外も十分な効果を示す。
例えば、フィアンマの分のパンケーキを切ってあげる、だとか。
本来彼がやるべき手順を代理で行うというのも、『甘やかす』という行為。
子供扱いをし過ぎても喧嘩になるか、と思いながらも、オッレルスは切り分けてやった。
フィアンマはもごもごとぎこちなく礼の言葉を紡ぎ、食事を開始する。

「…頼るのが嫌い、というのが、かえって症状を悪化させているんじゃないか?」
「ん、…藪から棒に何だというんだ」
「ほら、想像妊娠という言葉があるだろう?」
「あるが」
「あれは、妊娠を強く望みすぎた女性の思いが身体に影響を及ぼし、妊娠検査に陽性反応を出したりするものだ。だが、反対に、望まない絶対に嫌だと思っている女性にも、稀に訪れる。不安の具現化として」
「…それで、…つまり、俺様が『甘えたくない』『甘やかされたくない』と思えば思う程、症状は酷くなる…と?」
「あくまで予想に過ぎないが、そう馬鹿にも出来ないだろう。意識より、無意識とはどこまでも強いものだ」
「……具体的にどうしろと言うんだ」
「落ち着くまで甘えていれば良いんだと思うよ」

不愉快そうに、フィアンマは食事をする。
本質的に、誰かに寄りかかるのは好まないどころか、嫌いなのだ。
いつだって孤高に生きてきたし、それで良かったし、それで良かったと思っていた。
無意識下で甘えを望んでいるなど、そんなことは認めたくなかった。

まるで、それでは、自分が今までの人生を後悔しているようではないか。
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/17(月) 22:50:34.22 ID:s4QGFHZAO
+
15 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/12/17(月) 22:50:51.45 ID:UZSARbUk0

甘ったるい昼食を終え。
フィアンマは、昼寝をする事に決めた。
意識があるから吐き気等を強く感じてしまうのであって、眠ればそんなに感じないだろうと願ってのことだ。
オッレルスは彼の眠りを妨げないよう、静かに読書をしていたのだが。

「う…っぐ…」

駄目だった。
手を繋いでいるか、添い寝をしてもらわなければ、吐き気がこみ上げる。
湧き上がる不安感に悪い夢を見ているのか、魘されている様子だった。

「……」

放りおこうかと考えたオッレルスだが、同情心に勝てず、手を差し伸べる。
フィアンマは自分の頬に触れた手を触り、やんわりと握った。
細い指同士が絡まり、フィアンマの表情がようやく和らぐ。

「ぅん、…」

やや幼い声を漏らし、フィアンマは毛布に対して今以上より包まり、温まろうとする。
寒がりの子供のような動作だった。
オッレルスは手を伸ばし、毛布を彼の身体にしっかりとかけ直す。
再度手を握れば、今度こそ安心しきったらしく、フィアンマは心地良さそうな表情で眠りに就いた。

「……本当に、病気なんだろうか」

呟きながら、魔神のなり損ないは手を握ったままに首を傾げた。
潜在意識とやらが関係しているのかもしれない、と思いながら。
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/17(月) 22:50:52.42 ID:s4QGFHZAO
+
17 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/12/17(月) 22:51:23.64 ID:UZSARbUk0

今回の投下は以上です。
書いてくださったネタ(一例:映画)は、>>1が書ける限り物語に組み込んで書きます。
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/19(水) 00:05:36.81 ID:jLA8P6QAO
+
19 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/12/19(水) 00:06:06.12 ID:W5b8ddW10

雨が降ってきた。
つまり、暇な時間が発生する。
先程からフィアンマは睡眠薬に手を出そうとしては、オッレルスに取り上げられている。
圧倒的な身長差は無いものの、フィアンマの方がややオッレルスより身長が低い為、腕を伸ばして高くあげられてしまうと、手が届かな

い。
背伸びをして取ろうとしているものの、一向に上手くいかず。

「そいつを寄越せ」
「駄目だ」
「寝かせろ」
「別に睡眠障害じゃないだろう?」
「寝ている方が良い」
「…そんなに甘えるのが屈辱なのか」
「当たり前だろう!」

力で抵抗しないのは、オッレルス相手に勝つ事は難しいとわかっているからか。
或いは、珍しくフィアンマにとっては親しい人間である彼を傷つけたくないからか。
何にせよ、そこまでの実力行使をしない限り、フィアンマは睡眠薬を奪取出来ない。
使える駒代わりの人間は居ないし、どうしようもない。
流石にぴょんぴょんとジャンプしてまで奪取する気は無かったのか、フィアンマは疲れた様子でため息を吐き出す。
ともすれば睡眠薬依存症のようだが、別にそういう訳ではなく。

ただ、意識がある状態で甘えるのが我慢ならないと、そういうことだ。

「…オッレルス。そいつを手渡せ」
「駄目だ」
「投げろ」
「…いや、渡す方法の問題じゃなくて」
「……大体、お前だって俺様に抱きつかれて嬉しい訳じゃないだろう」
「嬉しい訳じゃないが、君程嫌がってもいないよ」

それが対処法なのだから、仕方ない。
不可抗力の事態に抗ったところで、何の意味もない。
フィアンマはやはり不服そうな様相で、オッレルスから離れた。
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/19(水) 00:06:07.05 ID:jLA8P6QAO
+
21 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/12/19(水) 00:06:25.64 ID:W5b8ddW10

オッレルスから離れ、部屋に引きこもって数時間。
"ストックが切れた"とでも表現すれば最適か。
不安に駆られ、それでも誰かに頼るまい、とフィアンマは我慢していた。
心臓が圧迫され、握られているかのように息が苦しい。
それに伴って吐き気が湧き起こり、ぐらぐらと頭の中が揺れる。
壁に手をついてうつむいて深呼吸を繰り返しても、効果は現れない。
不安と同時に苛立ちが沸き起こり、何の意味も無いと知っていながら、苦し紛れに胸を掻いた。
がりがりと爪で胸元を傷つけてしまったが、その痛みも感じない程に苦しい。

「かひゅ、…っぐ…けほ、……」

視界が絶えずブレている。
耐え切れず崩れ落ち、床をひっかくと、爪が痛んだ。
苦しさを誤魔化す為に床を引っ掻いていれば、爪が剥がれる。
薄れかけた理性でそう判断したフィアンマは、手を引いた。

不意に、ガチャリとドアが開く。
そういえば鍵をかけていなかった、と、彼はのろのろと顔を上げた。
手を差し伸べられるが、首を横に振る。
このまま死んでしまった方が、むしろ世界の為。
それでも尚伸ばされる手は、フィアンマの左二の腕を掴んだ。
思わず、身動いて腕を振り払う。
条件反射的に何度でも抵抗する度、苦しさは増していく。
胃液を吐き出しそうになり、とうとう力が抜け、フィアンマはその場へ完全に座り込む。
そんな彼の細い身体を、誰かが抱きしめた。
誰かといっても、この家に居るのは、フィアンマを含めてたった二人。

「…レルス、……オッレル、ス…」

震える指先を、白い手が包んだ。
体温が融け合い、フィアンマは呼吸ペースが徐々に落ち着いていくのを感じる。
温かい。安心する。

「…大丈夫だよ」

言い聞かせるように囁いて、オッレルスは幾度かフィアンマの髪を撫でる。
何度も頭を撫で、背中を摩り、慰めるように『大丈夫』と繰り返した。
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/19(水) 00:06:27.23 ID:jLA8P6QAO
+
23 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/12/19(水) 00:06:47.78 ID:W5b8ddW10

下手に我慢するから良くないのだ、と叱られるまま、フィアンマはリビングに戻って、オッレルスに再び甘えていた。
寝不足の人間がひたすらに惰眠を貪るが如く。
フィアンマは症状を鎮める為に、彼の身体へもたれ、擦り寄った。
大きな猫のようだ、と思いながら、オッレルスは拒否せずに受け入れてやる。
ともすればとてつもなく親密な様子に見えるが、当事者達にその意識は無い。
実際、二人はそんなに仲が良いという訳ではない。
悪い訳ではないものの、恋人のように親密な訳ではないのだ。
そして、お互いに同性愛の嗜好は無い。そういった性的嗜好も、傾向も無い。
オッレルスはフィアンマを猫感覚で甘やかしているのだが、フィアンマはそう簡単に割り切れない。
故に、どんどんとストレスが溜まっていく。

「…オッレルス」
「うん?」
「……長時間持たせるには、濃厚なスキンシップが有用だったか」
「恐らく、そうだと思うよ。手を握るよりはハグの方が効果があるようだし」
「そうか」

何か考え込んだ様子で、フィアンマは黙り込む。
名案が浮かぶ事象でもあるまいに、とオッレルスは首を傾げた。

濃密なスキンシップこそが有用。
甘やかす、という行為について。

考え込んだ彼が叩き出した結果は。

「……非常に、…とてつもなく不愉快で嫌だが、…性行為をするしかないのか」
「……ええ…?」



耳を疑うような、恐ろしい内容だった。
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/19(水) 00:06:48.74 ID:jLA8P6QAO
+
25 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/12/19(水) 00:07:04.60 ID:W5b8ddW10

今回の投下は以上です。大体3レスごとだと思います。
書いてくださったネタ(一例:映画)は、>>1が書ける限り物語に組み込んで書きます。

書き溜めが出来上がり次第投下しに来ます。



※注意※
このスレはエログロ描写の恐れがあります
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/22(土) 23:47:06.31 ID:KXI3hiEAO
+
27 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/12/22(土) 23:47:16.48 ID:AUSLkh3V0

流石にそれは受容し難い、として。
オッレルスは反対したのだが、フィアンマの思いつめた表情に途中で反対をやめた。
お互い嫌ではあるものの、症状を宥める為には、仕方が無い。
博愛主義であるオッレルスは、散々悩んで、頷く位しか選択肢が浮かばなかった。
問題は、どちらが女役に回るか、ということである。
別に、フィアンマはセックス依存症という訳ではない。
甘えた病なのだから、嫌がる事をしてはあまり意味が無い。
そして現在、彼は女役に回る事を心の底から嫌がることと設定していた。

「…それで、俺が下か…」
「……我慢しろ」
「その渋い顔で言われても」

とにかく、上下は決定した。

「…そういえば、こういう経験はあるのか」
「無いよ」
「……」
「何でちょっと疑ってるんだ」
「…確か、お前は両性愛者ではなかったか?」
「確かに許容の幅は広いが、恋愛とは別だと思うよ。そもそも、あまり恋愛をしたことがないが」
「シルビアの事はどうなんだ」
「彼女は関係無いだろう」
「どうなんだ」
「…だから関係無いと、」
「ど う な ん だ と 聞 い て い る」
「…結構、世話になっている自覚はあるよ」
「…それだけか」
「どうして気にするんだ?」
「俺様と行為に及ぶ事によってシルビアとそういう行為に及べないとなると、哀れでな」
「…多分、トラウマにはならないと思うよ。……というか、だからシルビアとは違うと、」
「……」
「…もしかして妬いて」
「無い」

ふい、とそっぽを向いた後、フィアンマはシャワールームへと姿を消した。
あれはあれで思いやりなのだろうか、と思いながら、青年は首を傾げる。
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/22(土) 23:47:17.59 ID:KXI3hiEAO
+
29 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/12/22(土) 23:47:42.98 ID:AUSLkh3V0

お互いシャワーを浴びた後。
準備を済ませたはいいものの、開始のタイミングが掴めない。

「…やっぱり、俺がリードした方が良いのかな」
「…俺様には経験が無い。知識も無い。…任せる」
「任せると、言われても…」

ぺた、と触れた先は、薄い胸。
筋肉隆々という訳でも、乳房がある訳でもない、胸板。
白い胸板は、しかし、それでも青年のもの。

「……、」
「………」
「…やっぱり、やめないか?」
「ここまで準備をしたというのに、中断するのか?」
「だってほら、俺も君も乗り気じゃないし、」
「……、…」
「乗り気でないところを無理にしても、お互いストレスになるだけだと思わないか?」

冷静な説得。
普段人の話をロクに聞かないフィアンマだが、これに限っては黙って話を聞く。

「…今日のところは、寝るだけで…」
「………」

じと、と睨まれ、オッレルスは口ごもる。
だが、こういった行為は最低でもどちらかが乗り気でなければ嫌気が差す。
故に、彼はどうしても今回は見送りたかった。
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/22(土) 23:47:43.96 ID:KXI3hiEAO
+
31 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/12/22(土) 23:47:59.77 ID:AUSLkh3V0

結局、フィアンマが折れた。
そもそも、無理をしてまで行う必要は無い。
効果が見込めるという保証も、どこにもない。

「…こう考えるのはどうかな」
「…何だ」
「甘えるのがどうしても苦手な君が欠点を無くすチャンスだと」
「……ポジティブだな」
「そんな憐れむような顔で見なくても」
「…欠点は克服するに越した事は無いが…」

それにしても、これはあんまりだ。
神は俺様を見放したに違い無い、と落ち込む背中を摩り、オッレルスは苦く笑う。

「…急になったんだ。きっと、急に治るよ」
「……、…だと、…良いのだが」

段々と弱っていく事を自覚しながら。
症状を悪化させまい、と、フィアンマは、オッレルスの肩に、ぐりりと額を押し付けた。
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/22(土) 23:48:00.84 ID:KXI3hiEAO
+
33 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/12/22(土) 23:48:16.53 ID:AUSLkh3V0


今回の投下は以上です。大体3レスごとだと思います。

書き溜めが出来上がり次第投下しに来ます。


思いの他先行きが見えなくなってしまったので、もうすぐ終わります。
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/24(月) 21:40:29.76 ID:1LFe9yIm0
早いな
35 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/12/25(火) 16:32:58.07 ID:3ZU5JGA40

降誕祭<クリスマス>を目前にして、フィアンマの症状は和らいできた。
スキンシップが身を結んだのかもしれないし、一時的なものだったのかもしれない。
フィアンマは徐々に快方へ向かっている事を喜んでいたが、オッレルスは手放しで喜べなかった。
甘えられる生活に、なれ始めていたのだ。
出来れば、もう少し甘えていて欲しい。
それはフィアンマが格下だからか、そういった見下しが入っているのかは、判別がつかない。
けれど、フィアンマに身体を預けられるのは、悪くないと思え始めた。
それは依存に近いものなのかもしれない。オッレルスは、優しさ故に脆い人間だ。

「…フィアンマ」
「何だ」
「……」

手招く。
フィアンマは、慣れた様子で彼に近寄った。
症状を抑える、ただそれだけの為に、擦り寄る。
それは、餌を欲しがる子猫の様子にも酷似していた。

「もうすぐ、治りそうだね」
「さほど、心配するまでもなかったな」
「…そうだね」
「何だ、落ち込んだような顔をして」
「少し、寂しいな、と思って」
「……何故だ」
「君は何かと抱え込む傾向があるから」
「…俺様の傾向と、お前の残念そうな表情との関連性がわからん」

不可解そうに、フィアンマは身を寄せる。
オッレルスは彼の髪を撫で、やはりわからないか、と苦く笑った。
彼は、人の感情に対しての理解力が欠けている。
そして、自分は心配をされない存在なのだと思い込んでいる節がある。
それが、少し寂しいところだった。
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/25(火) 16:32:59.04 ID:upWouFOAO
+
37 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/12/25(火) 16:33:15.71 ID:3ZU5JGA40

降りしきる雪を窓越しに見やり。
寒さを凌ぐという名目で、フィアンマはオッレルスにもたれていた。
症状を悪化させない為に、手を握った状態で。
指を絡ませてくっついていると、段々眠くなってくる。

「…オッレルス」
「…ん?」
「…もうすぐ、治るだろうと、思う」
「…俺もそう思うよ」
「…短い間だったが」
「…」
「…、…ありがとう」
「……別に、治ってからでも、甘えてくれて構わないよ」
「流石にそれはしないが」

オッレルスのセーターの柔らかな感触に甘え、フィアンマは目を閉じる。
他人の前で無防備に目を閉じるなど、以前の彼にはありえない事だった。
力と共に喪ったものは沢山あれど、悪い事ではなかったのかもしれない。

「…昔、サンタクロースを信じていた時期があってな」
「純粋で良い事じゃないか?」
「良い子にしていても、結局もらえなかったのだが」
「教会にも予算の都合があったんだろう」
「そうは思うが、その時は子供だったからな」

他の子供は、数人だけ貰っていた。
そうした差別化によって努力する様謀ったのか。
はたまた。

「俺様が甘え下手でなければ、もらえたのかもしれん」

それがトラウマとなっていたのかもしれない、と。
彼は、ようやく、そう認めた。
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/25(火) 16:33:16.72 ID:upWouFOAO
+
39 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/12/25(火) 16:33:46.53 ID:3ZU5JGA40

じゃあ、プレゼントを貰えたなら、完治するのでは。
そんな結論に至り、現在。
フィアンマはキッチンにある椅子に腰掛けていた。
あの頃欲しかったものは、現在作られている。
ホワイトチョコレートの練りこまれたミルククッキー。
黙々と作るオッレルスは、何やら使命感に燃えていた。

「…疲れんのか」
「休憩を挟んだら失敗するかもしれないじゃないか?」
「……適当で構わんぞ」
「ダメだ」

自分より余程完璧主義なのでは、とフィアンマは首を傾げる。
オッレルスは一時間程かけて真面目に作ったクッキーを、至って普通に差し出した。
幼い頃、フィアンマが憧れ、やがて鼻で笑って諦めるようになった、もの。
甘くて白い、愛情の篭ったプレゼント。

「……、…」
「メリークリスマス。…俺は十字教徒じゃないから、ハッピーホリデーが正しいかな」
「……、……」
「…フィアンマ?」
「…Grazie. Che mangio con attenzione.」

気付けば、他者に触れていなくても、症状は発生していなかった。
満たされた。本当に欲しかったものが、手に入った。
クッキーそのものではなく、思い出の中、満たされなかった部分の補完。
彼をまともな人間に押し上げる為に必要だった、目で見える『愛』。
フィアンマは袋から一枚クッキーを取り出し、半分に割って口にする。
残りの半分をオッレルスの口の中へ突っ込むと、彼は満足そうに笑んでみせた。


「…メリークリスマス、オッレルス」








おわり
40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/25(火) 16:33:47.58 ID:upWouFOAO
+
41 : ◆2/3UkhVg4u1D [saga]:2012/12/25(火) 16:34:02.61 ID:3ZU5JGA40

そんな訳で終わりです。
短い間でしたが、閲覧ありがとうございました。
42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/25(火) 16:43:34.63 ID:qB9HrgkSO
気がついたら終わっとる…乙
43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/25(火) 17:26:23.24 ID:pMaFOq5DO
乙でしたー
44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/25(火) 17:27:13.69 ID:uZQB4vet0
乙ー
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