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織莉子「私達が救世を成し遂……」キリカ「引力、即ち愛!」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/12/23(日) 22:23:40.31 ID:TNNSrTKk0







これは『呪い』を解く物語――










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笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
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【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part10 @ 2024/04/23(火) 17:32:44.44 ID:ScfdjHEC0
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トーチャーさん「超A級スナイパーが魔王様を狙ってる?」〈ゴルゴ13inひめごう〉 @ 2024/04/23(火) 00:13:09.65 ID:NAWvVgn00
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【安価】貴方は女子小学生に転生するようです @ 2024/04/22(月) 21:13:39.04 ID:ghfRO9bho
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ハルヒ「綱島アンカー」梓「2号線」【コンマ判定新鉄・関東】 @ 2024/04/22(月) 06:56:06.00 ID:hV886QI5O
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【安価】少女だらけのゾンビパニック @ 2024/04/20(土) 20:42:14.43 ID:wSnpVNpyo
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ぶらじる @ 2024/04/19(金) 19:24:04.53 ID:SNmmhSOho
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旅にでんちう @ 2024/04/17(水) 20:27:26.83 ID:/EdK+WCRO
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2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/12/23(日) 22:24:04.13 ID:TNNSrTKk0


その始まり――


『呪い』とは

ある人に言わせると魔女にターゲットとされた人への「マーキング」と説明する


また違う解釈だと人類が誕生し物事の「白」と「黒」をはっきり区別した時に――

その間に生まれる「摩擦」と説明する者もいる



だがとにかくいずれのことだが『呪い』は解かなくてはならない

さもなくば『呪い』に負けてしまうか……


3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/12/23(日) 22:25:26.49 ID:TNNSrTKk0


#1『私と貴女の世界を護るために』


「ただいま!織莉子!」

「おかえりなさい。キリカ」


見滝原中学校の制服を着た少女、呉キリカは息切れをしている。

ベッドに横たわっている美国織莉子は、同居人に答える。

キリカの片手にはパンパンに張ったエコバッグ。

織莉子の片手には自身の魂であるソウルジェム。

二人とも頬は紅潮し、体は少し汗ばんでいる。


織莉子「帰宅時間はピッタリ。予知通りね」

4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/12/23(日) 22:26:30.72 ID:TNNSrTKk0


織莉子「……走って帰ってきたの?」

キリカ「だって!織莉子の熱が心配だから……!」

織莉子「フフ、ありがとう。心配してくれて」

織莉子「それよりも、荷物を置いてきなさい。おつかいちゃんとできた?」

キリカ「馬鹿にしないでよね!織莉子はすぐ私を子ども扱いする!」

キリカ「そんじゃ、食材とアイスを冷蔵庫に入れてくるね」

織莉子「アイス?」

キリカ「お釣りは好きに使って良いって言ったじゃあないか。織莉子の分もあるからね。バニラアイス」

織莉子「あら、ありがとう」

5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/12/23(日) 22:27:06.25 ID:TNNSrTKk0

キリカ「ただいまー」

織莉子「二回目ね」


部屋着に着替えたキリカは、ペットボトル片手に織莉子の部屋へ戻ってきた。

そして「スポーツドリンク買ってきたよ。飲んで」と言ってそれを渡した。


織莉子「えぇ。ありがとう」

織莉子「……ん、美味しい」

キリカ「よかった。織莉子ってスポーツドリンク似合わないから、苦手だったらどうしようかと」

織莉子「に、似合わないって……」

キリカ「ねぇ織莉子?聞くのが遅れたけど、体調はどう?熱は?ダルくない?」

織莉子「熱はまだひいてないけど……今朝よりはよくなったわ」

キリカ「体が重くてトイレに行けないとかなかった?お昼ご飯食べれた?泥棒とか来なかった?心配で落ち着かなかったよぅ」

織莉子「だ、大丈夫よ……。どうしてもという時は魔法を使って気怠さとかをカバーしたわ」

キリカ「ちょ……!無理したらダメじゃないか!」

6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/23(日) 22:27:48.50 ID:TNNSrTKk0


織莉子「そうね。無理って程でもないけれど……。まぁグリーフシードもあるし」

キリカ「無駄遣いはダメだ!織莉子にもしものことがあったら私……!」

織莉子「……キリカ。そんなに気遣ってくれるなんて……」

織莉子「キリカのような人が側にいてくれて、私、本当に幸せ」

キリカ「え?えへ、えへへ……そうかな?」

織莉子「そうよ。あなたは私の『天使』だわ」

キリカ「お、大げさだよぉ……」

キリカ「でも私だって、織莉子の看病ができて幸せだよ。織莉子こそマイエンジャルだよ」

織莉子「フフ……嬉しい」

織莉子「……それで、どうだった?」

キリカ「うん?何が?」

織莉子「何って、久しぶりの学校がよ」

7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/23(日) 22:28:30.17 ID:TNNSrTKk0


キリカ「ああ。それね。いや〜、大変だった。先生や同級生に色々言われたよ」

織莉子「先生は何か言っていたかしら?」

キリカ「適当に世間話したよ。内容は忘れたけど」

キリカ「まぁ、明日からはちゃんと学校に来いってことで落ち着いたね」

織莉子「そう。そうするといいわ」

キリカ「いやしかしなんだね。君も転校生?な〜んて聞かれた時はどうしようかと思ったね」

織莉子「大変だったわね」

キリカ「まぁね」

キリカ「久しぶりの授業は面倒臭いの極みだったよ……『特異点』とか超理解不能」

キリカ「ねぇ、織莉子。美術の授業で画家の話になったんだけど、画家の名前なんて覚えて何になるんだろうね?」

キリカ「『ジョット』とか知らないよっての。現社で習う哲学者だってそうさ」

8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/23(日) 22:29:23.20 ID:TNNSrTKk0

キリカ「未来を生きる私達には、過去の人間のサクセスストーリーなんか知ったこっちゃないよ」

織莉子「学んだことは将来何かに役に立つかも知れないわ」

織莉子「理科を習えば自然に興味が沸いて高校で生物を一生懸命に学んで海洋系の大学へ進学して紆余曲折の末海洋学者になって書いた論文で博士号がとれるかも」

織莉子「広く教養を持つに越したことないわ」

キリカ「へぇ〜……いいことを言う」

織莉子「まぁそれはいいとして……」

キリカ「?」

織莉子「私が言っておいた『彼女』はどうだった?」

キリカ「…………」


キリカは、織莉子の声のトーンと表情を感知し、それに見合った態度をとる。

背筋を伸ばし、コホン、と小さく咳払いをする。

9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/23(日) 22:30:22.79 ID:TNNSrTKk0


真面目な表情で、互いに見つめ合う。

温室のような雰囲気は一瞬にして地下倉庫のようなひんやりとした空気となった。


キリカ「……織莉子の言った通りだった。予知通り」

キリカ「『いた』よ……。二年生だった」

キリカ「あ、いや、疑ってたわけじゃないからね」

織莉子「そう。それで、どうだった?」

キリカ「どうって?強そうとか?」

織莉子「それも含めて、あなたの率直な意見が聞きたいの」

織莉子「彼女を見て、どう思った?」

キリカ「んー……意見って言われても……」

織莉子「何でもいいわよ。小学生が書く道徳教材用ビデオの感想文くらいに簡単なのでいいわ」

キリカ「うーん……そういうヤツ書くの苦手だったクチでさぁ」
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/23(日) 22:31:54.22 ID:TNNSrTKk0


キリカ「……正直に言うよ」

織莉子「えぇ。正直に言って頂戴」

キリカ「『アレ』が世界を滅ぼすとは到底思えない」

織莉子「…………」

キリカ「ね、念押しするけど、決して織莉子の予知を疑っているわけじゃあないからね」

織莉子「わかっているわ。でも、『魔女になる』以上……人間の時点を見ても何もわからないわ」

キリカ「いや、まぁそれはそうなんだけどね……」

キリカ「それで……作戦はいつ決行する?」

織莉子「いつでも勝てる?」

キリカ「……こないだ、こっそりと暁美ほむらと巴マミの魔女狩りを偵察した話、しただろう?」

キリカ「『暁美ほむら』は時を止めることができるように見えた。ピンと来たよ。固有魔法が私を似てる」

織莉子「えぇ。聞いたわ。その話」
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/23(日) 22:32:39.91 ID:TNNSrTKk0


キリカ「だからごめん。わからない」

キリカ「あの眼鏡っ子のスピードを遅くして不意を突いたとて……時を止められたらその時点でアウトだ」

キリカ「そして『巴マミ』……あの身のこなしはハッキリ言って段違いだね。あと髪がクルクルしてる」

織莉子「そうね。巴マミはベテランの魔法少女だと聞くわ。髪は関係ないでしょうけど」

織莉子「ベテランと言うからには、当然私達よりも経験がある」

キリカ「厳しい……かもね」

織莉子「……さて、果たして……私達で処理しきれるものか」

織莉子「いささか不安な気持ちがないこともない……」

キリカ「でもでも!織莉子がやるっていうなら、私、どんな不利な状況でも……!」

織莉子「ダメよ。確実な手を選ばないと」

12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/23(日) 22:33:22.50 ID:TNNSrTKk0

織莉子「予知では……まだまだ時間の猶予はある」

織莉子「私達が直接深く干渉しなければその予定が狂うことなし」

織莉子「考える時間も態勢を整える時間も十分ある……」

織莉子「世界を救うことに対して慎重になりすぎるということはないわ」

キリカ「それでもなるべく早くピリオドを打ちたいけれどもね」

織莉子「えぇ……そうね」

織莉子「必ず……必ず、やってみせるわ」

キリカ「うん」

織莉子「彼女を葬り、救世する。それが私の生きる意味……」

キリカ「彼女を『や』って……私達の人生が始まるんだね」

織莉子「えぇ……私と貴女の世界を護るために」


織莉子「『暁美ほむら』を『排除』するッ!」


13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/23(日) 22:34:06.62 ID:TNNSrTKk0


時は遡る―――



――病院


「…………」

「今……何週目だったかな」


我々はこの少女を知っている!いや!この赤ぶち眼鏡と、この黒いおさげを知っている!


「うぅ……!ダメだった……!」

「まさか……まさかあんなことになるなんて」

「佐倉さんが魔女になり、美樹さんはその魔女に殺された……」

「巴さんは魔女化の真実を知って動揺しながら、佐倉さんだった魔女と心中した」

「そして……その間に鹿目さんは……別の場所で生じた結界に巻き込まれて……」

「……全員死んだ。最悪だった……」

14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/23(日) 22:34:37.49 ID:TNNSrTKk0
ちょいと電話がかかってきたのでちょっと退席します。こんな夜中に……

15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/23(日) 22:42:44.59 ID:TNNSrTKk0


彼女――暁美ほむらは頭を抱えた。

前の時間軸のことを思い出す。

前時間軸、紆余曲折あったが友達は『五人』

前時間軸、その内魔法少女は自分含め『四人』

前時間軸、捨てるまでに消費した武器は『14の爆弾』

前時間軸、最後に食べた菓子は茶会に出された『イチジクのタルト』


ほむら「うぅ……」

ほむら「…………考えて。暁美ほむら」

ほむら「鹿目さんは魔法少女にさせないという方向は確定としている」

ほむら「鹿目さんは転校する前に予め何とかすれば、取りあえずは契約を先伸ばしにできる」

16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/23(日) 22:43:14.79 ID:TNNSrTKk0


ほむら「だが、美樹さんは……今のところ魔法少女のことを知ったら必ず契約する」

ほむら「前回は魔女になる前に亡くなったけど……魔女になる蓋然性が高いまま」

ほむら「魔法少女に関わらせないようにしたいけど……」

ほむら「キュゥべえがいる以上、何をどうしたところでそれは不可能に近い」

ほむら「…………」

ほむら「……どうしよう」

ほむら「どうすればいいの……?」

ほむら「……何もわかんないよ」

17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/23(日) 22:44:08.31 ID:TNNSrTKk0

ほむら「うぅ……」

ほむら「本当に私なんかが鹿目さんを守れるのかな……グスッ」

ほむら「…………」

ほむら「……全部、私のせいだ」

ほむら「敗因は私。私には課題がある」

ほむら「強くなりたい。今の私はあまりに弱すぎる」

ほむら「前の時間軸も、その前も……いつだってそうだった」

ほむら「私は力不足。足手まとい。そんなんじゃあ救えるはずがない」

ほむら「何か新しい『武器』が欲しい。新しい『力』が欲しい……」

ほむら「…………」

ほむら「いや、違う」

18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/23(日) 22:44:40.14 ID:TNNSrTKk0

ほむら「肉体的な強さではない。精神的な強さが必要だ……」

ほむら「私に足りないのは……『勇気』と『覚悟』」

ほむら「もう誰にも頼らないだとか……」

ほむら「いざというときは誰かを切り捨てるだとか……」

ほむら「それができる勇気と、それをする覚悟が必要なんだ」

ほむら「私は臆病だから……それができなかった」

ほむら「その差で食いつぶされたチャンスもある」

ほむら「私がもっと強気になれれば……」

ほむら「迷い無き覚悟を持たなければならないんだ」

19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/23(日) 22:46:15.59 ID:TNNSrTKk0

ほむら「甘いことを言っちゃあダメだよ。暁美ほむら」

ほむら「私の目的は、鹿目さんを救うこと。契約をさせないこと。それを最優先に考えて」

ほむら「大切な人を救うのに、犠牲が出るのはやむを得ないと考えるべきなんだ」

ほむら「既に……賽は既に投げられている。その道を進むしかない」

ほむら「私は弱い……だから、強くならなければならない!」

ほむら「成長しなければ、栄光は掴めない……」

ほむら「巴さんも美樹さんも佐倉さんも」

ほむら「鹿目さん以外を、いざという時には見捨てる……」

ほむら「そういう覚悟を決めなければならないんだ。勇気を出さなければ負ける」

ほむら「誰にも頼らないという……」

ほむら「そういう、心持ちを……!」

20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/23(日) 22:47:25.82 ID:TNNSrTKk0


――帰路


ほむら「……どうすればいいのだろう」

ほむら「どうせなら、今までにやらなかったことをやるべきだ」

ほむら「誰にも頼らないとは言ったものの、すぐに突っ走るなんてのは愚直すぎる」

ほむら「どちらにしても……転校前に誰かと接触を図るのもいいかもしれない」

ほむら「だったら巴さんが一番良さそうかな……」

ほむら「いや、鹿目さんに会うのも悪くない……」

ほむら「美樹さんは特に話すことがないから……」

ほむら「佐倉さんに至ってはどこにいるのか……」

ほむら「…………」

ほむら「でも……今の私は、鹿目さん以外を、いざという時は見捨てしまおう。っていう心持ち」

ほむら「協力してもらうというより、利用させてもらいたいという気持ちの方が、正直強い」

ほむら「そんなこと考えて……そんな気持ちを持って接して不信感を抱かれかねない……か」
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/23(日) 22:48:21.13 ID:TNNSrTKk0

ほむら「……でも、とにかく」

ほむら「何にしても……誰かしらには……」

ほむら「予め接触しておくに越したことはない……と思う」

ほむら「とは言え、今日はもう遅いし……明日あたり行ってみようかな」

ほむら「どういう感じに話そうかな……」


ほむら「――ん!」

ほむら「け、結界が……!」

ほむら「……うーん」

ほむら「武器はたくさん用意してるけど……魔力はあまり使いたくない……」

ほむら「ここからだと少し遠そうだし……」

ほむら「で、でも行かないわけには行かない……!」

タッ
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/23(日) 22:49:29.80 ID:TNNSrTKk0

――結界最奥


ほむら「うわぁ……何、この結界……」


結界の中は、今までにほむらが見た結界の中で、最も人間の暮らしに様子が近かった。

廃れてはいるが小さめの家が多数並んでいて、その一軒一軒をコンクリートのブロック塀が囲む。

10年前の住宅地のような落ち着いた雰囲気の『廃墟の街』……錆びて黒ずんだポストが一際存在感を放つ。


ほむら「真っピンク」


普段の生活とかけ離れている所で、まず目に入る光景、空が『ピンク色』であること。

夕暮れ時の独特のグラデーションであるわけでなく、ベタ塗りされたようなダークピンクの空。

「目に優しくない。何となく深呼吸はしたくない」

と、ほむらは思った。
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/23(日) 22:50:30.11 ID:TNNSrTKk0

次に目に入ったものは、地面だった。

所々地面が、舗装されている道や塀、枯れた『紫陽花』の生えている花壇、大小様々各々の家をぶち破って不自然に隆起している。

隆起した断層というより『壁』が地面から生えてきたかのようだった。


『壁』の高さは目分量で普通1〜3メートル。幅は5〜8メートル。

一番大きいものでも15メートル程度。

そんな壁がいくつも不規則的に並んでいる。

よく見ると壁には『穴』があった。小さい穴は一つの壁につき2、3個。

まるで目のように見えて、ほむらは不気味に思った。

24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/23(日) 22:52:01.59 ID:TNNSrTKk0

ほむら「奇妙な結界……」

ほむら「うーん。何となくノスタルジィみたいなのを感じる。……ってそんなこと言ってる場合じゃないか」

ほむら「どことなく、懐かしいって思えるような景色。半分近く壊滅してる上に空がピンク色だけど……」

ほむら「……初めて見る結界、か」

ほむら「……どうしよう。やっぱり不安だなぁ」

ほむら「こんな時、巴さんがいてくれたらどんなに心強いだろう」

ほむら「……ダメだ。そんな弱気なことを言っちゃ……」

ほむら「一人で戦えるように、成長しなくちゃ!」

ほむら「……あ、何かいる」
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/23(日) 22:53:01.73 ID:TNNSrTKk0


ほむら「あれは……魔女か、使い魔か……」


『カブト虫』の甲のような色をしたポストらしき物体の横に、いつの間にか『人型の何か』が立っていた。

ほむらが人間でないことを断定した理由は、顔が存在しないためである。

身長は推定180センチから200センチ。全身の色は白。

少女の影をそのまま切り抜き、色を反転させたかのような色彩、もやもやした外見。

頭頂部に黄色い弓状の無機質的な物……カチューシャと思しき物体をつけている。

顔が存在しなくとも、その幽霊のような存在がこっちを見つめていることをほむらはすぐに理解した。

ほむらは盾から拳銃を取り出し、臨戦態勢に入る。


ほむら「この魔力の波長……」

ほむら「間違いない。こいつが魔女だ!」

ほむら(……銃)

26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/23(日) 22:53:41.58 ID:TNNSrTKk0

ほむら(盗んだばかりの……)

ほむら(…………)

ほむら(……いや、いいんだ。いいんだよ。これで……そう。構わない……)

ほむら(そんなことで悩んでいたら、この先、戦えない……)

ほむら(とりあえず銃を扱うことになんの恐れもあってはならないッ!)

魔女「…………」


結界の主、魔女はゆっくりと歩み寄ってくる。

人型であるため歩いているということはわかるが、足音は全くしない。


ほむら「魔女が直接来る……!?」

ほむら「と、言うことは使い魔はどこかに隠れて不意打ちをするタイプ?」

ほむら「ここは素直に攻めよう!くらえハンドガンッ!」


カチリ
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/23(日) 22:54:28.85 ID:TNNSrTKk0

ほむら「え……?」

カチッカチッ

ほむら「えっ!?」

カチカチカチッ

ほむら「ひ、引き金が……!?」

ほむら「引き金が引けないッ!?」

ほむら「どうして!?壊れちゃった!?」

ほむら「あ、セイフティー」

ドゴォッ!

ほむら「がは……ッ!?」


ほむらの隙を突き、魔女は攻撃を仕掛けた。

腕が触手のように伸び、ほむらの腹部に打撃。突き飛ばした。
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/23(日) 22:58:46.46 ID:TNNSrTKk0


ほむら「クッ……!」

ほむら(……このままだと「壁」に叩き付けられる!)


魔女の殴打を喰らい体が宙に浮いた。

ほむらは足と体幹に魔力を込め、空中で体勢を整え、着地する。

ズサッ

ほむら「うぅ……!」

ほむら「グ……ク、げほっ!」

ほむら「お腹が……うぇ……」

ほむら「しかし、壁の寸前で何とか着地できた……」

ほむら「このまま叩き付けられていたらかなりのダメージを喰らっていたってところかな……」

ほむら「それにしてもすごいパワーだ……私はかなりの距離を吹き飛ばされたらしい……!」

ほむら(うぅ……どうしてこんな目に……)

「Uoray――Ow――Ecnahc」

ほむら「ッ!」
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/23(日) 22:59:15.93 ID:TNNSrTKk0

ほむら「使い魔ッ!?」

使い魔「Ura――Agihcimonustatufikebuakum――Awineamo」


黒いマントを羽織った人型の使い魔が現れた。

この住宅地の住民であるかのように、全員が廃墟から出てきて、向かってくる。

強力な磁石を近づけたラジオのような音を発している。人の言葉に聞こえなくもない。


体は硬質的でマネキンそのものに見えた。ぎこちない動きでこちらへ歩み寄る。

羽織る黒いマントは質量を感じさせずにゆらりふわりと揺れる。

その数はおよそ十数体。移動速度は人が歩く速度より少し遅い程度。

じわじわとほむらに近づいてくる。


ほむら(まずい……使い魔に囲まれる……!)

30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/23(日) 22:59:44.09 ID:TNNSrTKk0


ほむら(両手をゾンビみたいに前へ突きだして……私を『壁』に押さえつけようとでもするのか……)

ほむら(何にしてもこのままでは危険すぎる……一旦退い――)

ほむら「ぐッ!?」

ガクッ

ほむら「あ、足に力が……入らない……!」

ほむら「もしかして今の着地で骨が……?」

ほむら「うぅ……ま、まずい……!」

ほむら「このままだと……」

ほむら「し、仕方ない……勿体ないけど、ここは時を止めて……」

使い魔「Aw――Ustotih……」

31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/23(日) 23:02:54.36 ID:TNNSrTKk0



「ティロ・ボレーッ!」


ほむら「ッ!?」


ドガガガガガガッ!

ほむらにとって覚えのある声が聞こえた。

その声と同時に、一斉射撃の発砲音が響く。

視界の上から、銃撃――流星群のような攻撃が、使い魔たちを襲う。


ほむら「こ、これは……」

ほむら「まさか……ッ!」

「大丈夫かしら?」

トッ

『らせん階段』のように整ったカールを巻いた金髪の少女。

白いマスケット銃片手に「壁」の上から飛び降りてきた。

そして膝を地につけて呆然としているほむらの前に着地した。

今の攻撃で使い魔のほとんどが消滅していた。


ほむら(と……『巴さん』ッ!)

32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/23(日) 23:03:31.08 ID:TNNSrTKk0


マミ「大丈夫?怪我はない?」

ほむら「…………」

マミ「女の子がこんな時間に出歩いちゃダメよ……ってあら?」

マミ「あなた、魔法少女……この辺りの子?」

ほむら「…………」

マミ「あっ……と」


住宅街のような結界は、いつの間にか消えていた。

周りの景色は真っ暗な道端に戻った。


マミ「いけない……逃がしちゃったみたいね」

マミ「意外と逃げ足の速い……まぁ、いいわ」

33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/23(日) 23:04:05.75 ID:TNNSrTKk0

マミ「それよりも、大丈夫?」

マミ「震えているけど……もしかして寒い?」

マミ「どこか痛むとこはない?よかったら治療するけど」

ほむら「…………」

マミ「もしかして立てないの?ほら、手を貸してあげる」

ほむら「…………」

マミ「……ど、どうかしたの?」

マミ「あの……何か言ってもらわないと私としてもどうしたらいいのかわからないわ……」

ほむら「うぅ……」

マミ「え?何?もう一回言って?」

34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/23(日) 23:05:21.43 ID:TNNSrTKk0


マミはほむらに手を差し伸べている。

ほむらの脳にフラッシュバックする光景。


初めて魔女と出くわし、助けられた瞬間。

「最高の友達の笑顔」と「頼れる先輩の優しい声」

二つの要素が、今、自分の目の前に重なって映る。

脳に流れ込む思い出の処理で言葉が出ない。

堰を切ったように涙があふれ出てきた。

ポロ、ポロ

ほむら「うぁぁ……!あうぅ……!」

マミ「ちょ、ちょっとっ!?」
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/23(日) 23:05:59.20 ID:TNNSrTKk0
また電話がかかってきたのでチト退席します
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/23(日) 23:12:35.69 ID:xSe9Poogo
最初クーほむかと思ったが、メガほむか
三周目か?期待
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/23(日) 23:12:40.49 ID:TNNSrTKk0

マミ「そんな、何を泣いて……」

ほむら「うぅぅ……ひぐっ、うあああぅぅ……えぐ……」

マミ「……こ、怖かった、の?」

ほむら「あああ……グスッ、うえぇぇぅ……ひっぐ、えぐっ」

マミ(と、取りあえず……こういう時は抱き寄せてあげとくのがセオリーよね。物語とかでよくあるし)

ギュッ

マミ「大丈夫よ。もう怖くないわ。だからほら、泣かないで。よしよし」

マミ(ついでに頭も撫でちゃったりして)

ナデナデ

ほむら「あうぅぅ……ひぐっ、ども゙え゙ざぁん……ううぅぅ」

マミ「え……?」

38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/23(日) 23:13:32.52 ID:TNNSrTKk0

マミ「今、私の名前を……」

ほむら「うあぁう……ああぁぁぅ……!」

マミ「んーっと……どうすればいいのかしら……」

マミ「と、取りあえず落ち着いて……ね?」

ほむら「うぅ……クスン」

マミ「私の家に来る?怪我をしたなら手当するし……」

ほむら「グスッ……」

マミ「あなたのことも聞きたいし……いい?」

ほむら「…………はぃ」

39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/23(日) 23:14:28.58 ID:TNNSrTKk0


ほむらは、マミの家に匂いが好きだった。


訪ねればいつだって紅茶の上品な香りや菓子の甘い香りが漂っていたから。

しかし、今は深夜。

マミに夜食を召す習慣がないため、そういった匂いはない。

訪ねる時はいつだって陽が傾きかけた放課後だった。

そのため、嗅覚的にも視覚的にも、ほむらにとっては新鮮だった。


ほむら「……お邪魔します」

マミ「えぇ、いらっしゃい。紅茶淹れるわ」

ほむら「あ、いえ、そんなお構いなく……すぐ、お邪魔しますんで」

マミ「そう?実はティーセットを出さなくて済んで助かっちゃったりして。こんな時間だものね」

ほむら「す、すみません」

マミ「すぐ謝るのね。ここまで来るのに何回も……これで五回目かしら」

40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/23(日) 23:15:29.47 ID:TNNSrTKk0


マミ「……それで、いい加減変身を解かせてもらいたいの、だけど……」

ほむら「……?はい」

ほむら(そう言えば何でずっと変身したままなんだろう)

マミ「えっと……ちょっと不格好な格好になるけど、許してね」

ほむら「……あぁ……はい」

ほむら(そっか……)

マミ「飲み込みがよくて助かるわ」


結界内ではカールしていた髪は、変身を解くと同時に解け、癖のあるセミロングになる。

落ち着いた色をした薄手のパジャマを着ている。


マミ「ごめんなさいね。パジャマで。これから寝ようとしてたところだったのよ……」

ほむら(クルクルした髪じゃない巴さん、何だか新鮮……)
41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/23(日) 23:16:05.45 ID:TNNSrTKk0


マミ「えっと……色々聞きたいことはあるんだけど……」

マミ「まず、あなたは?」

ほむら「あ、私は……その……」

ほむら「……今度、巴さんと同じ中学校に転校する暁美ほむらです。……二年生、です。よろしくです」

マミ「え?そ、そうだったの?よろしく……」

マミ「あなた、転校生だったのね……私とあなた。運命的な出会いをしたわね……人の出会いって本当に不思議だわ」

ほむら「…………」

マミ(あ、スベった?)

マミ「……ん?待って。同じ学校?同じも何も私まだ何も言ってないわ……」

ほむら「あっ」

42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/23(日) 23:16:41.30 ID:TNNSrTKk0

ほむら「い、いえ……その……えっと……」

ほむら「……あっ」

ほむら「そ、そこの制服……です。はい」

マミ「へ?……あ」

マミ「そ、そうなのね。ごめんなさい。クローゼットちょっと開いていたわね……気を使わせちゃった?」

マミ「コ、コホン、えっと……それで、何を話そうかしら」

マミ「……いつから魔法少女に?」

ほむら「一ヶ月後」

マミ「へ?」

ほむら「あ、違う。えっと……前、です。一ヶ月前」

マミ「じゃあ、日は浅いのね」

ほむら「……はい」
43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/23(日) 23:17:22.48 ID:TNNSrTKk0

マミ「よかった。もし手慣れてて、私が余計なことしたーって思われていたら困るからね」

ほむら「そ、そんなことは……」

マミ「それから……」

マミ「あなたの魔法武器は……さっきの銃?」

ほむら「…………」

ほむら「……盾、です」

マミ「……じゃあ、あの銃は何?」

ほむら「…………」

マミ「私は銃器に関してはド素人だけど……本物よね?どこで手に入れたの?」

ほむら「…………」

マミ「私は……それほど人生経験は豊富じゃないわ」

マミ「でも、あなたの態度で何となくわかってしまう」

マミ「それ……魔法を使ってどこかで盗んだんじゃない?」

ほむら「…………」

ほむら「……そう、です」

マミ「…………」

44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/23(日) 23:18:12.76 ID:TNNSrTKk0

ほむら(巴さんは、魔法少女を希望、正義の象徴と見ている……魔法を悪用することを嫌う)

ほむら(軽蔑されるだろうか)

ほむら(逃げ出したい。今すぐ時を止めて、逃げ出してしまいたい)

ほむら(巴さんの、落ち着いた表情……怒っているのか否か判断しにくい声……)

ほむら(私の心が萎縮して……『覚悟』が揺らいでしまう)

マミ「……理由、教えてくれる?」

ほむら「…………」

マミ「こんな大層な物を盗む行動と、結界で泣きじゃくり今おどおどとして受け答えする性格……二つのことが矛盾しているわ」

マミ「盗まざるをえなかった状態だった、と見受けられるけれど……」

マミ「別に怒鳴るつもりはないわ。夜中だし。ただ、理由を聞きたいの」

ほむら「…………」
45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/23(日) 23:19:31.30 ID:TNNSrTKk0

ほむら(まだ知り合ってもいない人を守りたいと言っても変に思われるかな……)

ほむら「…………私」

ほむら「仲間が……いたんです。魔法少女として一緒に戦って……」

ほむら「鈍くさい私と仲良しになってくれた友達……」

ほむら「戦い方と紅茶の淹れ方とケーキの作り方を教えてくれた先輩、とか……」

ほむら「時には、その二人とは別の人ですが、仲違いしたこともありました。敵視されたり……疑念を持たれたり」

マミ「…………」

ほむら「でも……色々あって、全員、死んでしまったんです」

マミ「……!」

ほむら「原因は、私なんです」
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/23(日) 23:20:05.89 ID:TNNSrTKk0


ほむら「私が……私が弱いから。ドジでのろまだから……足を引っ張って……」

ほむら「仲違いだって、攻撃に巻き込んだり、思えば私が空気の読めていないような言動をとっていたりしたから」

ほむら「だから……」

ほむら「だから、これからは一人で頑張れるようにって……強くなろうって……」

ほむら「そう思って……銃を盗みました」

ほむら「暴力団のならいいやっていう中途半端でいい加減な考えの元に……盗みました」

ほむら「強くならなきゃいけないのに、強くなるって、心に誓ったのに」

ほむら「誰にも頼らないって……そういう覚悟でやらなくちゃいけないって……」

ほむら「なのに……結局、今、こうして巴さんに助けられて……こうやって、気を使ってもらって……」


ほむらは声を震わせ、頬を濡らした。テーブルがぼやけて見える。

マミはほむらの涙で潤んだ目をじっと見つめていた。

47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/23(日) 23:20:41.70 ID:TNNSrTKk0


マミ「…………」

ほむら「あっ。ご、ごめんなさい……また泣いちゃって……」

ほむら「本当に……私ってダメで……泣き虫で弱虫で……自分が情けないです……」

ほむら「挙げ句に、盗みだなんて……軽蔑、しましたよね」

マミ「……辛かったのね」

ほむら「……」

マミ「……」

マミ「……わかったわ」

マミ「ねぇ……暁美さん」

ほむら「……?」

マミ「私と共闘関係を結びましょう。一緒に戦うの」

ほむら「えっ……」
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/23(日) 23:21:31.39 ID:TNNSrTKk0

マミ「私と一緒に魔女と使い魔を倒す……この街を守りましょう」

マミ「どう?同じ中学校のよしみってわけじゃあないのだけれど」

ほむら「…………」

マミ「あなたの行動は、人によっては軽蔑の対象になるでしょうね……」

マミ「だけど、今までの経緯でスレた結果なのよ」

マミ「……私、あなたを支えてあげたいと思う」

ほむら「……」

マミ「暴力団から盗んだって言ったけど……」

マミ「『そういうこと』を未然に防いだ、誰かがそれによって傷つけられるのを救った、と言えなくもないしね」

マミ「別にそれを『いいこと』とするわけじゃあないのだけれど」

ほむら「……どうして」
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/23(日) 23:22:05.84 ID:TNNSrTKk0

マミ「ん?」

ほむら「どうして……私を軽蔑しないんですか?盗人、なのに……」

ほむら「私なんかを……どうして……!どうして受け入れようなんて思うんですか……!」

マミ「どうして、と言われると……」

マミ「私にも……一人、仲間、というより弟子のような子がいたの」

マミ「だけど、その子とはちょっとした方向性の違いで仲違いしてね……」

マミ「その子は一人で生きていく方が、一人の方がずっと良いって言ったわ」

マミ「私は……その子と出会うまでずっと一人だった。それで、その子が出ていってからまた一人で……」

マミ「寂しいからってわけじゃないの。人は協力してこそ人という生き物なの」

マミ「魔法少女にもそれが言えるって、私、信じている」
50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/23(日) 23:22:53.00 ID:TNNSrTKk0


マミ「だから……暁美さん」

ほむら「…………」

マミ「……誰にも頼らないだなんて、寂しいこと言わないで」

マミ「だから、私と一緒に戦いましょう?」

ほむら「で、でも……」

マミ「強くなるのに、孤独である必要はないのよ」

マミ「足を引っ張るんじゃないかって思うのなら……私が支える」

マミ「弱みを握られたと思われようなら、それは絶対ないと誓う」

マミ「私に教えられる範囲であれば、私からも戦い方を指南する」

マミ「大丈夫よ。一度弟子を持った身なんだもの」

ほむら「巴さん……」

51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/23(日) 23:23:38.13 ID:TNNSrTKk0

マミ「嫌われるんじゃないかって不安があるなら……その不安を拭えるよう努力するわ」

マミ「『眠いから適当なことを言ってる』とか言われちゃったら嫌いになるかもだけど」

マミ「あなたの罪は、私とあなただけの秘密よ」

ほむら「……どうして」

マミ「?」

ほむら「どうしてそこまで……」

マミ「あなたがいい子だからよ」

ほむら「…………」

マミ「私を頼って。暁美さん」

ほむら「うぅ……」

52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/23(日) 23:24:28.71 ID:TNNSrTKk0

マミ「ど、どうしたの?やっぱ、嫌だった……?」

ほむら「いえ……嬉しくて……それと同時に、情けなくて……」

ほむら「私って……結局、巴さん……人に甘えてばかりなんだなって」

ほむら「強くならないといけないのに……」

マミ「……人の本質はね、そう簡単には変わらないの」

マミ「急に変わろうとすると、必ずボロが出る」

マミ「そういうのは直したくても、無理に直そうとすると違う弱点が出てくる」

マミ「それが人間の性……」

マミ「本来はゆっくり変わっていくべきなのよ」

マミ「それに気付けず、そして運が悪ければ……『ドロローサへの道』に突っ込んでしまう」

ほむら「どろ?」
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/23(日) 23:25:27.50 ID:TNNSrTKk0

マミ「あ、ドロローサへの道ってのは要するに困難への道って意味ね」

マミ「とにかく、私と一緒に戦いましょう?」

ほむら「……ありがとう、ございます」

ほむら「本当に……ありがとうございます……!」

マミ「いいのよ。暁美さん」

ほむら(あぁ……私は……)

ほむら(私は何て情けないんだ……)

ほむら(巴さんは……初対面である私のために、こんなに優しい言葉と態度をかけてくれるのにッ!)

ほむら(巴さんと既に会っている私は……いざという時は『見捨てる』だなんて……)

ほむら(そんなことを考えていた私が情けない!)

54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/23(日) 23:26:55.57 ID:TNNSrTKk0

マミ「それともう一つ……」

マミ「あ、いえ。やっぱりいいわ」

ほむら「?」

マミ(何で私の名前を知ってるのか聞きたいけど……やめておこう)

マミ(どうして聞かない方がいいと思ったのか、そこのところ自分でもよくわからないけど……)

ほむら「あの、巴さん。えっと……もう、遅いですし、私、帰ろうかと思います」

マミ「あら、もう日付が変わってる……」

ほむら「学校があるのに、夜分遅くにすみませんでした。それと……本当にありがとうございました」

マミ「フフ、いいのよ」

ほむら「それじゃ……失礼します」

マミ「えぇ。あなたが学校に来るの、楽しみにしているわ」

ほむら「はいっ」

ほむら「お邪魔しました……!」

マミ「またね。暁美さん」

55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/23(日) 23:27:32.40 ID:TNNSrTKk0


バタン…

マミ「……ふふ、可愛い笑顔ね」

マミ「……仲間、できちゃった……嬉しい」

マミ「暁美さん、か……」

マミ「もう、一人じゃないのね。私……」

マミ「……あ、メールアドレスとか聞いておけばよかった」

マミ「でも、またすぐに会えるから、その時に聞けばいいわよね」

マミ「♪」


鼻歌を口ずさみながら、マミはカーペットを指で撫でた。

そして、ふと、パジャマの裾から覗く足首が目に入る。


マミ「……あれ?」

56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/23(日) 23:29:02.29 ID:TNNSrTKk0

マミは眉をひそめ、裾を捲る。

そこには、点線の、歪な荒い楕円のような「傷」があった。

血は出ていない。


マミ「おかしいわね……」

マミ「攻撃は一切喰らってないのに……」

マミ「まるで、動物に『噛みつかれたような傷』……」

マミ「気付かなかっただけ?……油断大敵ね」

マミ「…………」

マミ「何か気持ち悪いからシャワー浴びよう」

マミ「……明日、寝坊しないといいけど」
57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/23(日) 23:35:24.99 ID:TNNSrTKk0

今日はここまで。お疲れさまでした。


初めての方は初めまして。そうでない方はお久しぶりです。
過去に二作まどか×ジョジョクロスを書いた者です。

今回は波紋鉄球に続き、スタンド編となります。


しかしリアルの都合でなかなか書く都合がつきませんでして……
本当はジョジョアニメでツェペリさんが出てきた頃には完成させたかったんですがね……。

あと、色々と作風の変更・新しい試みをしてみました。

・////や「」横の効果音(「わー」グッパォン 的な)の廃止。しかし効果音自体は使います。
・スピードワゴン先生ばりのセリフでは限界があるので地の文を使ってみました。初めての試みであまり自信ががないので少な目。
・スキあらばブチ込んでたジョジョネタを缶コーヒーの甘さ控えめ並に自重しました。
・外伝組を登場させてみました。口調等のほとんどは他のSSから参考にしています。原作も読みはしましたが、コレジャナイを感じたら申し訳ないです。
・文中の!や?の後に空白をあけないことにしました。割と多用するので文章がスカスカになりそうなので……読み辛いというご指摘があれば以降訂正します。多分


それと、これまで書いたもので最も長いです。

なので試みとして場面ごとにサブタイトルを設定してみました。

まとめて読むぜって方はサブタイトルを基準に休み休み読むと目に優しいかもです。

しかし第一話で50レスも使っちゃってたとは……二スレ目行くかもわからんね


今年中に書ききりたいとは考えてます。書ききれるといいなぁ。

上述の通り無駄に長い作品ですが、今後ともどうぞよろしくお願い致します。
58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/23(日) 23:38:32.02 ID:82J0LANu0
おつ
59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/23(日) 23:39:52.58 ID:7CSIU56+o
やっぱりか。
五部と八部まだ読んでないのにアニメ化のせいでブックオフから消えて……
あんまりだHEYYYYYYYY
60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/24(月) 00:00:28.40 ID:FQpnXCKDO
タイトルからして六部とのクロスなのだろうか
61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/24(月) 00:04:19.32 ID:0InLjhcLo
六部なら誰がパンティくれるのかが問題だな
62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/24(月) 01:03:39.62 ID:pWKLmt0AO
プッチ神父とか矢を持った承りがでてくるのかなあ
63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/24(月) 01:51:53.77 ID:GBOmr681o
>>60
足首の噛み傷ってホリーさん? 寝込んじゃうの?
みたいに思た。

うろ覚えだから間違ってるかもしれないけど。
64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/24(月) 09:44:47.80 ID:KEXbBfy7o
>>63
噛み傷はジョジョリオンネタじゃないかな
65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/24(月) 11:59:00.15 ID:FQpnXCKDO
>>62
承太郎さん出てくるとしたらどういう立場になるんだろ
おりキリの考え方に賛同するとは思えないから本編組につくのかね
66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/24(月) 15:19:13.46 ID:BJ8/1rIIO
スタンドはスタンドでもまた七部だったりして
67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 19:21:06.47 ID:x5B4HQt90

#2『夢の中で会った、ような……』



――数日後


和子「カ〜リフォ〜ルニャア〜♪」

和子「おはようございます。さて、皆さん……」

和子「『カリフォルニア』を『カリフォルニャアー』と言うのは許します……」

和子「私も学生時代『メソポタミア』を『メソポタミャー』と言っちゃったことがありましたからね……」

和子「まぁその辺は……訛りの範囲内だろうし、何より猫っぽくて可愛いですからいいとします……」

和子「むしろカリフォルニャって言った方が発音的に本場っぽいかもです」

和子「しかし『カ"ル"フォルニア』と言うのは許しません!これは完全に誤りです!California!綴りが違います!"i"です!」

和子「『アイ』を湾曲させるのは許しませんッ!絶対にッ!人としてッ!英語教師としてッ!」

和子「皆さんも今度の小テスト気をつけるようにッ!」

中沢「先生、何をそんなに怒っているんですか?」

和子「察してください」

68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 19:21:59.10 ID:x5B4HQt90

仁美「『また』……のようですわね」

さやか「今度は教養が許容範囲内に満たない人だった、ってとこかな?」

まどか「そうかも……」

さやか「教養が、許容、に、ね」

まどか「え?うん」

さやか「……もういい」

まどか「?」


和子「と、いうことで転校生が来てます」

まどか「そっちが先なんだ……」

69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 19:22:51.83 ID:x5B4HQt90

ガラッ

ほむら「……」

仁美「まあ美人」

さやか「すごい髪だねぇ」

和子「さ、自己紹介をどうぞ」

ほむら「あ、はい」

ほむら「……暁美ほむらです。よろしくお願いします」

和子「暁美さんは東京の病院で入院していましたが、最近越して来ました」

和子「慣れない環境故、戸惑うこともあるでしょう。みなさん仲良くしてあげて下さいね」

ほむら(何回目だろう。この自己紹介……何回やってもこの瞬間は緊張する)

ほむら(鹿目さん……今回こそ……)

まどか「…………?」

まどか(こっち見てる?)

まどか(うーん……それにしても……)

まどか(夢の中で会った、ような……)
70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 19:23:39.60 ID:x5B4HQt90

女子生徒a「部活とかやってたァん?運動系とか文化系とかァ」

ほむら「入院生活が長くて……あんまりです」

女子生徒b「この世の中で一番大切なものは何か?」

ほむら「え?えっと……友情……かな」

女子生徒c「すごい髪ね。毎朝大変?ラブ・デラックス調子いい?」

ほむら「へ?」

女子生徒d「もしさあ……ここにカバンが落ちてて、中に1千万円入ったとしたら、君……届ける?」

ほむら「はい?」

男子生徒a「フフフ、まさかあ〜〜、もらっちゃいますね……!」

男子生徒b「ハハハ!正直だね……でもさあ……もし俺が私服警官で、それを見ちゃってたら?」

ほむら「えーっと……」

男子生徒c「人が人を選ぶにあたって……一番『大切な』ことは何だと思うね?」

ほむら「…………あ、あの」
71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 19:24:07.18 ID:x5B4HQt90

女子生徒e「なにをおさがしかね?」

ほむら「す、すみません……えっと、保健室に行きたいのですが」

女子生徒e「ほけんしつゥー?フーム」

女子生徒a「だったら、まどっちの出番ね」

女子生徒b「カモォ〜ンまどまどちゃ〜ん」

まどか「しょうしょう、おまちください」


まどか「ってことで、行ってくるね」

さやか「転校生を独り占めというわけだァー」

仁美「保険委員冥利に尽きますわ」

まどか「お、大げさだよォ……」

72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 19:24:38.07 ID:x5B4HQt90

ほむら「…………」

まどか「わたしが保険委員だよ」

ほむら「うん」

ほむら(鹿目さん……)

まどか「わたし、鹿目まどか。よろしくね」

ほむら「こちらこそ、よろしく」

まどか「それじゃ、行こっか」

ほむら「うん」
73 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 19:25:37.15 ID:x5B4HQt90


――廊下


ほむら(さて……何を話そうかな)

まどか「何か、ごめんね。騒がしくって。転校生なんて珍しいからさ」

ほむら「あ、う、ううん」

まどか「暁美さん、学校慣れそう?」

ほむら「うん。大丈夫、そう」

まどか「……ねぇ、ほむらちゃん、って呼んでいい?」

ほむら「へ?」

まどか「特に何でってこともないけど……馴れ馴れしいかな?」

ほむら「そ、そんなことないよっ」

まどか「えへ、よかった」
74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 19:27:43.28 ID:x5B4HQt90

まどか「あっ、ほむらちゃん。ちょっと待って」

ほむら「?」

まどか「制服にゴミが……取ってあげる」

ほむら「ん、ありがとう」

まどか「これは……毛かな?」

ほむら「毛?」

ほむら「んー……?」

ほむら「これは……猫の毛、だね」

まどか「猫」

ほむら「うん。ちょっとね」

75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 19:28:10.71 ID:x5B4HQt90

ほむら「飼ってる訳じゃないんだけど、ちょっと、色々あって懐かれて……」

ほむら「今朝飛びつかれちゃったから多分その時のじゃないかな」

まどか「ほむらちゃんって猫に好かれるタイプ?」

ほむら「どうだろう。特別人懐っこい仔だから」

まどか「人懐っこくてこの毛の色……エイミーかな?」

まどか「あっ、エイミーって言ってもわかんないか……えっと、近所の仔猫なんだけどね」

ほむら「多分、そうだと思うな」

ほむら(と、言うよりそうだよ)

76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 19:28:42.87 ID:x5B4HQt90

まどか「猫って可愛いよねー」

ほむら「うん。爪を研ぐポーズが好きかな」

まどか「あっ、ほむらちゃんもそう思う?」

まどか「えへへ……わたし達気が合うかも」

ほむら「ふふ、そうだね」

ほむら「…………」

ほむら(鹿目さん……)

ほむら(こんな私と話してて、こんなに可愛らしい笑顔を見せてくれる……)

ほむら(……どうして、こんなにいい人が……あんな目に)

ほむら(いい人故に……か。だからこそなおさら、あんなことがあってはいけない)

77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 19:30:11.30 ID:x5B4HQt90


ほむら「…………」

ほむら「……ねぇ、鹿目さん」

まどか「ん?なぁに?」

ほむら「鹿目さんは……自分の人生が貴いと思う?」

まどか「へ?ど、どうしたの?」

ほむら「家族や友達を大切だって、思う?」

まどか「そりゃあ……もちろんだよ?大好きで、とっても大事な人達だよ」

まどか「今日からはほむらちゃんもその一人っ」

ほむら「そ、そう言ってもらえると……嬉しいなぁ」

ほむら「えへへ……って、そうじゃなくて」

ほむら「も、もしその気持ちが本当なら……リスクを持ってしてでも変わっちゃおうだなんて絶対に思わないでほしいの」
78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 19:31:13.42 ID:x5B4HQt90

まどか「えっと……それは……?」

ほむら「無理に変わろうとすると……全てを失うことに繋がりかねない……」

ほむら「鹿目さんは、鹿目さんのままでいてほしいの」

まどか「…………?」

ほむら「……あ、ご、ごめんね。急に変なこと言っちゃって」

まどか「つまり、急がば回れってことだね!」

ほむら「……え?」

まどか「わたし……結構、鈍くさいというか人に流されやすいというか……コンプレックスっていうの?そういうのがあるの」

まどか「いつか……そんな弱い自分を変えたいだなんて思ってた時期もあったよ……」

まどか「遠回りこそが、本当の近道!ほむらちゃんはそう言いたいんだね」

ほむら「あ、あの……」

まどか「なりたい自分には、ゆっくりなっていけばいい、と……」

ほむら「…………えーっと」
79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 19:33:00.32 ID:x5B4HQt90

ほむら「そ、そうです。急に変わろうとするとボロが出ますから……あはは……」

ほむら(ち、違う……。私が言いたかったのと何か違う……)

ほむら(鹿目さんは今ので一体何をどう解釈したの?いや、私も何が言いたいのかいまいちアレだった気もするけど)

ほむら(……でも、そういうことでいいや)

まどか(急に家族がどうこう言ってきたけど……)

まどか(もしかしてほむらちゃん。家族のことで何か悩みでもあるのかな)

まどか(もしそうなら、力になりたいなって)

まどか「ねぇ、ほむらちゃん。今日のお昼、一緒に食べない?」

ほむら「あっ……えっと……誘ってくれるのはすっごく嬉しいけど……」

ほむら「今日は……その、何ていうか……先に約束してる人がいて……上級生なんだけど」

まどか「そっか……」

ほむら「明日。明日また、誘ってくれると嬉しいな」

まどか「うん!」

80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 19:33:33.62 ID:x5B4HQt90


――CDショップ


まどか「……と、いうような人生におけるアドバイスをほむらちゃんからいただきました」

さやか「……へ、へぇー、よかったね」

まどか「それとお昼一緒に食べる約束したんだ〜。今日はダメだったみたいけど」

さやか「ふーん」

まどか「お弁当のおかず交換とかするって約束もしたの」

さやか「へぇ、お弁当……」

さやか「転校生って、一人暮らしなんだって?」

さやか「病弱な上に一人で家事をやりくりして挙げ句にお弁当まで作るのかね……」

まどか「大変そうだよね……」

81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/12/24(月) 19:34:05.44 ID:QVhR3y0C0
あの挨拶なくなってしまったか……
丁度二部ゃっているし、やってほしかったな……
82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 19:34:29.31 ID:x5B4HQt90


さやか「一人暮らしか……」

さやか「ちょっぴり尊敬アンド憧れちゃうね」

まどか「パパの料理やお弁当が食べられないだなんて、わたし、一人暮らしは到底無理そうだよ……」

さやか「転校生が特別なんだよ。普通中学生で一人暮らしなんてそうそうしないよ」

まどか「ほむらちゃんってスゴイなぁ」

さやか「ちょっと変わり者だとは思うけどね」

まどか「そう?」

さやか「だって、転校初日にあたしの嫁の誘いを断るなんてなぁ」

まどか「さやかちゃんとも仲良くなれるよ。多分」

さやか「あっ、スルーっすか。……それよか何で"多分"ってつけるかなァー!?」

まどか「だってさやかちゃん。すぐちょっかい出しそうなんだもん。多分ほむらちゃんにとって苦手なタイプだよ」

さやか「そ、それは……まぁ……うん、イジりやすそうとは思ってましたけども」
83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 19:34:57.97 ID:x5B4HQt90

店員「お客様。こちらになります」

さやか「あ、はい」

店員「ありがとうございました。またお越し下さいませ」

さやか「どもども」

さやか「買ったった〜♪」

まどか「何のCD?」

さやか「ん、ちょっとね」

まどか「でもよかったね。予約しておいて。あんまりお店にないみたいだよ。そのCD」

さやか「ふふふ、さやかちゃんに抜かりはない……ちゃんとお取り寄せしてたもんね」

まどか「ゴ機嫌だねぇ」

さやか「一枚いかがァ〜?735エェ〜ン」
84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 19:35:49.99 ID:x5B4HQt90

まどか「……あれ?」

さやか「ん?どうかした?」

まどか「今……声が……」

さやか「声?」

まどか「何か聞こえない?」

さやか「いや、別に?」

まどか「そ、そう……?でも……」

さやか「空耳でしょ」

まどか「そうかなぁ」

まどか「でも……『助けて』って聞こえるんだけど……」

さやか「何それ怖っ。でもまどかがそんなオカルトな冗談言うとは思えないし……」

さやか「おし、恐怖を認め克つとしよう。その声とやらがする方に行こうか」

85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 19:36:34.36 ID:x5B4HQt90

――廃墟内部


まどか「……ここからだ」

まどか「声はこのドアの向こうからするよ」

さやか「ここ結構前からあるけど……工事してないのかな」

まどか「ここから、何かが、わたしを呼んでいる……」

さやか「端から見たらすごい痛い子みたいになってるよまどか」

まどか「……本当なんだもん」


まどかは、体の中から呼びかけられているような声を感じた。

それは、自身を呼ぶ声だった。さやかには聞こえない。

しかしさやかは、まどかは嘘が下手であることを知っている。

幼なじみだからこそわかる、まどかは嘘を言っていないという確信がある。
86 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 19:37:20.03 ID:x5B4HQt90

さやか「じゃ、じゃあ、入ってみる?」

まどか「うん……ちょっと怖いけど」

さやか「ゆ、勇気とは怖さを知ること……!」

ガォンッ!

まどか「うあっ!」

さやか「わっ!?」


中にあるさび付いた扉を開けると、二人は急に吸い込まれた。

気圧差のある飛行機の扉が開き、空気が外に吸い込まれるかのように。


まどか「あれ……?」

さやか「ん?」

まどか「え?ええ?」

さやか「な……何……?これ……」
87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 19:38:23.10 ID:x5B4HQt90

気が付くと、二人は異常な空間の中にいた。

薄暗いコンクリートだけの廃墟の床が、緑色になっている。

「魔女の結界」

何故だか、まどかは脳裏にそのような言葉が浮かんだ。

黒装飾で箒に跨るイメージの『魔女』という言葉から、遠く離れた世界観。

それにも関わらず、何故咄嗟にその言葉が出たのか、まどかには理解できなかった。


さやか「ま、まどか……これ……夢、だよね?」

まどか「夢……じゃないよ……」

まどか「きょ、恐怖で……一歩も動けない……というの、なら……紛れもない現実……」

「――――」

さやか「な、何か……聞こてくる……よ?」

まどか「あ……ああ……あぅ……」

88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 19:38:50.68 ID:x5B4HQt90

さやか「こ、こっちに来る……?!」

さやか「あたし達を狙っているのか……!?」


狼狽えるさやか、呆然とするまどか。

その二人に、突如現れた異形な生物のようで無機物のようでもある「何か」が近寄ってくる。


まどか「ひ、ヒィッ!」

さやか「うああああ!あんな変な物体が最後に見るものだなんて嫌だァ――――ッ!」


「危ないッ!」

カチッ
89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 19:39:41.26 ID:x5B4HQt90

まどか「い、今の声……!」

さやか「……ほぇ?」

まどか「あ……あれ」

さやか「さ、さっきの変なのは……?」


異常な光景であるには違いないが、二人の目の前から突如その「何か」の姿は消えていた。

その代わりに、一人の少女がそこに立っている。片手に銃のような物を持っている。


まどか「あ……!」

さやか「あんたは……!」

まどか「ほむらちゃん!」

ほむら「二人とも、どうしてここに……?」
90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 19:41:15.95 ID:x5B4HQt90

まどか「わ、わたしもよくわからない……助けを呼ぶ声が聞こえて……」

ほむら(声……?)

さやか「転校生……!その格好は……!?」

ほむら「こ、これは……その……」

まどか「ほむらちゃんが……助けてくれたの?」

ほむら「…………」

まどか「ほむらちゃん?」

ほむら「話は後で。とにかく……危ないから、私から離れないで……」

まどか「う、うん!」

さやか「な、何か物騒な物持ってるけど……」

91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 19:41:54.53 ID:x5B4HQt90

まどかもさやかも、ただただほむらの後ろでへたり込むだけだった。

迫り来る生き物が現れる度に、何故かその目の前で爆発が発生した。

その爆発で、得体の知れない物体は消滅していった。

そしてその手に持った黒い鉄から、鼓膜をつつくような音を放つ。

鉛の粒が当たった物体はバチュンと音を立てて体を削ぐ。

――数分間、計三回の爆音、計六回の発砲音を響かせて、得体の知れない空間は無彩色だけの光景に戻った。


さやか「あ……」

まどか「け、景色が……」

ほむら「結界が解けた……と、いうことは……倒したのかな」

ほむら「……ふぅ」

まどか「ほ、ほむらちゃん……」
92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 19:43:14.54 ID:x5B4HQt90


ほむら「もう大丈夫。怪我は……?」

まどか「う、うん。大丈夫……」

さやか「そ、それよりもッ!一体何があったんだ!?」

さやか「転校生あんたは何者なの!?」

さやか「さっきの化け物は何!?」

さやか「あたし達何があったの!?ここどこ!?死後の世界!?いやん!」

ほむら「え、えっと……落ち着いて。……質問は一つずつで」

まどか「……ん、誰か来るよ?」

さやか「へ?」

「大丈夫かしら?三人とも」

ほむら「あ、巴さん」
93 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 19:44:11.21 ID:x5B4HQt90

金髪でカールを巻いた少女が早足で歩み寄る。

その格好は今のほむらとベクトルが似ている。

その腕に白い小動物のような物を抱えている。


さやか「え、えーと?」

まどか「ほむらちゃんの知り合い?」

マミ「暁美さん。怪我はない?」

マミ「膝すりむいてない?どこか打ってない?痛いところはある?」

マミ「あら、埃が……払ってあげる」

ポンポン

ほむら「あの、大丈夫なんですけど……」

マミ「あなたの『大丈夫』はイマイチ信用できないわ。足手まといにならないようにって無茶する傾向にあるんだもの」

マミ「だから使い魔を倒すのに専念してもらったのよ。はい。グリーフシード」

ほむら「す、すみません……」
94 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 19:46:54.11 ID:x5B4HQt90


まどか「あ、あのォ……」

マミ「あ、ごめんなさいね」

マミ「私の名前は巴マミ。あなた達と同じ見滝原中学校の三年生よ」

さやか「えっと……マミ、さん……状況が全く読めないんですけど」

マミ「それはそうよねぇ……」

マミ「その割には落ち着いてるように見えるけど……あまりに理解を超えてると逆に冷静なんて、あるかしら」

マミ「今のは『魔女の結界』と言うの」

さやか「魔女?」

マミ「そしてキュゥべえが見えているということは……魔法少女の素質はあるということね」

まどか「『魔法少女』……?」

さやか「見えるって……?これが……?」
95 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 19:47:58.94 ID:x5B4HQt90

マミの腕の中にいるものは、白い猫のようでもあり兎のようでもある。

そんな奇妙な小動物がいた。マシュマロのような白い体に所々傷がついている。


マミ「えぇ。この子はさっきの魔女の手下……使い魔って言うんだけど、それに襲われちゃってね」

ほむら(巴さんの銃撃に巻き込まれてたように見えたのは気のせいだった。うん、気のせいだった)

QB「僕と契約して……魔法少女に、なって、よ」

さやか「うわっ、喋った」

QB「こ、この台詞は大事だからね……」

マミ「キュゥべえ、あなた大丈夫なの?」

QB「うん。元々、大した傷じゃなかったからね……」

マミ「どう見ても大した傷よ」

ほむら「…………」
96 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 19:49:02.30 ID:x5B4HQt90

まどか「えーっと……すみませんマミさん。混乱しちゃって……何がなんだか」

QB「魔法少女……さっきの使い魔や、マミが戦った魔女と戦う使命を負うけど、どんな願いでも叶えてあげられるんだ!」

さやか「どんな願いも……」

まどか「それって……何だか夢みたい……」

マミ「ふふ、そうね」

ほむら「……できることなら」

QB「ん?」

ほむら「契約はしないで欲しいの」

まどか「……え?」

さやか「転校生?」

マミ「……暁美さん?」
97 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 19:49:48.42 ID:x5B4HQt90

ほむら「鹿目さん……」

まどか「う、うん?」

ほむら「さっきの使い魔もそうだった……戦うということは、そういう怖い思いをすること……」

ほむら「魔法少女と関わったら……運命は大きく変わってしまう。巻き込みたくない」

QB「でも……素質がある以上、既に巻き込まれていると言えるよ」

ほむら「……私は、普通の人生を送ってもらいたい」

まどか「ほ、ほむらちゃん……」

さやか「…………」

さやか(転校生……あたしは?)

マミ「……暁美さん」

ほむら「…………」
98 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 19:50:19.94 ID:x5B4HQt90

マミ(あなたの事情を……友達を失ったということを知ってるから……)

マミ(その気持ちは汲み取れる……)

QB「魔女という存在と戦う運命、それに引き替えに願いが叶う……。二人には契約をする権利がある」

QB「その権利を一方的に否定することはできないよ」

ほむら「うぅ……」

マミ「……体験ツアーでもやりましょうか」

さやか「体験ツアー?」

マミ「そう。魔女と戦うことがいかに危険かを教えるのも義務よ」

マミ「もしかしたら、危険性を目の当たりにして契約を思い留まるかも」

マミ「……ね、暁美さん」

ほむら「……!」

ほむら「そっ、そうですね……!」

マミ「と、言うわけで明日のお昼にでも会いましょう」

さやか「はいっ」

まどか(魔法少女……かぁ)
99 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 19:51:15.13 ID:x5B4HQt90

――翌日


二人の魔法少女と、二人の普通少女は、結界にいる。

魔女の結界ではなく、使い魔の結界。ダークピンクの空。


ほむら「こ、この結界は……!」

さやか「わ、わぁ……これで結界ってのに入るのは二回目だけど……」

まどか「何だか、割と案外、普通の街並みっぽいよね」

さやか「うん。空がピンク色だけどさ」

マミ「……暁美さんと初めて出会った場所。魔女はいないけど」

マミ「あの時は結局使い魔の特性は見れてなかったし、少し様子見するとして……やっぱり不気味ね」

マミ「いい?二人とも。そこの断層の陰に隠れていて」

さやか/まどか「はいっ!」
100 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 19:52:09.94 ID:x5B4HQt90

マミ「さて、体験ツアースタートよ」

ほむら「……じゃあ、どうしましょう?」

マミ「そうね……暁美さんの戦い方は結構、いえ、かなり特殊だからね……」

マミ「でもそれより時を止めちゃったら見学にならないのが問題ね」

ほむら「…………」

マミ「何てね。お互いの戦闘スタイルをよりよく知るためにも、自由に戦っていいわよ」

ほむら「は、はいっ」

使い魔「Ihcimoneh"onomurerabare"etiki――Awustotih」

使い魔「"Ihcimonehihs"abukanomas――Awustotihuom」


使い魔は発する音に所々に抑揚をつけ、話しているかのようだった。

何か意味のあることを話しているようではあるが、ノイズにしか聞こえない。


マミ「来たわね……!行くわよ!」

ほむら「あ、はいっ!」
101 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 19:52:42.88 ID:x5B4HQt90

さやか「スゴイね……カッコイイ」

まどか「うん……!」


マミはマスケット銃で黒い人形を撃ちリボンで『斬り』足下に花を咲かす。

華やかさと躍動感の溢れる戦い方だった。

攻撃する度に何か叫んでいるようだが、ここからではよく聞き取れない。

ほむらは使い魔へ銃を発砲し「瞬間移動」して爆弾を仕組む。

動きはマミと比べるとよたよたして頼りないが、確実に使い魔を倒している。


QB「あの使い魔は大した強さではなさそうだ」

まどか「あ、キュゥべえ」
102 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 19:53:45.95 ID:x5B4HQt90

QB「動き自体が遅いし、まともに攻撃を仕掛けている様子を見受けられない」

さやか「そうなの?」

QB「ほむらは契約した覚えのないイレギュラーでその実力は未知数だけど、マミはベテランの魔法少女だ」

QB「この程度の使い魔なら何てこともなく終わるだろう」

まどか「マミさんってスゴイんだね……」

さやか「憧れちゃうなぁ」

QB「二人も、契約をして訓練をすればあれくらい造作ないと思うよ」

QB「辛いことだというのは認めるよ。だけど、マミは、魔法少女としての自分に誇りを持っていると言ってくれた」

QB「ずっと一人だったから、寂しかったとも言っていたね。君達が契約をすれば、マミの心も救われるよ」

まどか「ほむらちゃんじゃ役者不足ってこと?」

QB「そうとは言わないけ――」

QB「きゅぶッ!」

グシャッ

まどか「ッ!?」

さやか「?!」


「うわっ、踏んじゃったよ……キモイねぇ」
103 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 19:54:25.87 ID:x5B4HQt90

「やぁ、こんにちは」


――そこには、少女がいた。

正確には、魔法少女だった。

突然魔法少女が空から降りてきて――キュゥべえを踏んだ。


何が起こったのか、まどかとさやかは一瞬パニックになる。

少し離れた場所で戦っているマミとほむらはその存在を認識していない。

首に一文字の小さな切り傷がある。

動揺もあってか、そこに一度目に入るとそれ以外の外見的特徴を見出せない。

104 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 19:54:51.48 ID:x5B4HQt90

まどか「あ、あな、あなたは……!?」

少女「名乗る程のもんじゃないけど、僕はしがない魔法少女でさぁ」

さやか「……ッ!」

さやか(な、何かヤバイ!マミさんと転校生は戦ってる最中……!)

さやか「まどか!下がれッ!」

まどか「!」

少女「お?」

さやか「こ、これ以上あたし達に近づくんじゃあないッ!」

少女「ん、いいよ」


さやかは少女のニヤニヤした表情を見て「嫌な予感」がした。

さやかは体験ツアーに持ち込んだバッドを剣道の竹刀のように構え、少女に対し精一杯の威嚇をする。

まどかは断層に背中を押し当て、怯えた表情を向ける。
105 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 19:55:33.25 ID:x5B4HQt90

少女「ド素人の構えだね」

さやか「あんたは何なんだ!」

少女「魔法少女だけど?」

さやか「さ、下がれッ!あたし達に近づくなッ!」

少女「おいおい、僕はさっきから近づいてないじゃあないか」

少女「人の話を聞かないヤツだなぁおまえさんは」

さやか「あたしの質問に答えろッ!」

少女「そんなに警戒することないじゃあな――」

少女「――おっと!」

さやか「わっ!?」
106 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 19:56:24.05 ID:x5B4HQt90

二人の間に、黒髪の少女が「瞬間移動」して割り込んだ。

さやかの威嚇で異変に気付いたらしい。


まどか「ほ、ほむらちゃん!」

ほむら「…………」

ほむら(……時を止めて、間に割り込んだ)

少女「びっくりした……急に現れるなよぉ……」

少女「テレポートの能力?」

少女「そんな顔しても、威圧感がないなぁ」

ほむら「……!」
107 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 19:57:01.40 ID:x5B4HQt90

ほむら(だ、誰だ……!?)

ほむら(初めて見る……今までの時間軸でも……)

ほむら(『こんな人』出会ったことがない!)

ほむら「ふ、二人に手を出させない!」

少女「うわ、声可愛い。ますます怖くない。威嚇してるつもりなんだろうけど」

少女「ん……別に今は危害を与えるつもりないから」

少女「それよかほら、よそ見してると……」

ほむら「……よそ見?」
108 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 19:58:04.33 ID:x5B4HQt90

少女はチラリと視線を上方へ向けた。

ほむらは警戒――いつでも時間停止できるようにしつつ、視線の先を見た。

高さ3m程の断層、その上に使い魔が立っていた。

もしその場から飛び降りたら、真下にいるまどかと衝突しうる。


使い魔「Ozuarom――Eteku」

ほむら「ッ!」

ほむら「危ないッ!」

まどか「え?」

ダンッ!
109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 19:58:51.73 ID:x5B4HQt90

ほむらがハンドガンを構えようとした瞬間、使い魔の頭は撃たれた。

使い魔は後方に倒れ、壁を転がり落ちて消えていった。


まどか「ひゃあ!」

ほむら「と、巴さん!」

マミ「暁美さん!使い魔は私が――」

使い魔「Aterabare――Awiihsamatonok」

少女「ん?」

ほむら「あ……」

さやか「つ、使い魔が……」


使い魔の言葉に対し、他の使い魔がコクリと俯いたかのようにほむらは見えた。

一匹の使い魔は影のようなマントをひらりと揺らし、近くの廃墟の中へ向かっていく。

他の使い魔達もそれに続く。まるでやることを済ましたかのように。

使い魔が急に戦意をなくした。その異様な状況に、マミは見ていることしかできなかった。

まどかは断層から背中を離し、さやかはバッドを降ろした。ほむらは警戒を解かない。

――そして魔女の結界は解かれた。
110 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 19:59:23.49 ID:x5B4HQt90

少女「ありゃ……結界が……なんか魔女狩りを邪魔したみたいで悪いねぇ」

少女「しかし、あの使い魔共。急に逃げるように去ったいったが……?」

マミ「大丈夫!?二人とも!」

少女「僕は何もしてないよぉ。信用ないね。まぁそりゃそうか」

マミ「あなたは、何者かしら?」

少女「別に名乗る程のもんじゃない。僕はM市の方でテリトリー張らせてもらってる魔法少女さ」

ほむら(よその町の魔法少女……!?)

マミ「そう……わざわざ見滝原のテリトリーに何の御用?」

少女「別に大した用は……」
111 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 20:00:03.64 ID:x5B4HQt90

少女「あ、そうそう。さっきの使い魔のことなんだけど……」

少女「最近こいつを色んな場所で見るよ。行動範囲は市外に及んでいたってわけだ」

マミ「知っているの?この使い魔を」

少女「ん。巷では『引力の魔女レイミ』と呼ばれているヤツ。そいつの使い魔だ」

ほむら「レイミ……」

マミ「引力……?何が由縁かしら?」

少女「ん、僕はこの魔女の使い魔に出会ってからというもの……」

少女「この魔女、あるいは使い魔に襲われたことのある人とよく出会うんだ……。引力に導かれるようにさ……」

少女「同じような現象が多々あるらしいので、引力と呼ばれている。諸説あるが、僕個人としてはこれが一番説得力がある」

少女「レイミという名前の由来は知らない。いつの間にかそう呼ばれてたから僕もそう呼んでる」

112 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 20:01:24.14 ID:x5B4HQt90

マミ「それで……?結局何をしにここに?」

少女「いやぁ……その……特には」

少女「うーん。見滝原の魔法少女は一人だけって聞いていたんだが……」

ほむら「…………」

少女「二人いるし、下手したら四人になりかねない、と」

まどか「…………」

さやか「…………」

少女「今日はもう帰るよ。それじゃ」

マミ「あっ、ちょっ……な、何だったの……?」

ほむら(この時間軸は……イレギュラーだ)

ほむら(さっきの人……この時間軸でどういう立ち位置になるだろうか)

ほむら(ワルプルギスの夜の戦力となりうるか……?)

まどか「あ……!」

さやか「うん?どうしたまどか」

まどか「『足』が……」

さやか「ま、まどかッ!?」
113 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 20:02:53.92 ID:x5B4HQt90

ほむら「え?」

さやか「『ケガ』してるッ!」


まどかの靴下に輪状の血染みができていた。

靴下越しに何かが刺さったらしい。


マミ「こ、これは……!?まさかさっきの人が……」

まどか「で、でも、わたし……何もされてません」

まどか「なのに、いつの間に……」

ほむら「鹿目さん!大丈夫!?」

まどか「うん……痛みはないけど……」

マミ「ケガをさせちゃうなんて。不甲斐ないわ……」

まどか「いえ、そんな……」
114 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 20:03:30.67 ID:x5B4HQt90


マミ「責任はちゃんと取るわ。脱いで。治してあげる……」

まどか「あ、はい」

スルッ

さやか「うわ……何?この傷……」

ほむら「何かの『咬み傷』みたい……」

マミ「血は止まっているわね。傷跡は絶対に残さないからね」

まどか「はい……ありがとうございます」

ほむら「靴下は弁償するね」

まどか「え、それは流石に悪いよ……」

ほむら「いいから。鹿目さんにケガさせちゃったんだし……」

マミ(……あれ?この傷、どっかで見たような……)

115 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 20:04:47.36 ID:x5B4HQt90


QB「やぁ」

まどか「あ、キュゥべえ」

さやか「だ、大丈夫だった?思い切り踏まれてたけど」

QB「うん」

マミ「ねぇ、キュゥべえ……さっきの子って……」

ほむら「…………」

QB「彼女は確かにM市の魔法少女だ。身分の偽りはない」

QB「僕も会ったことがある」

QB「でも、基本的には他の魔法少女が治めるテリトリーに入ることはしない……」

QB「争い事に関しては消極的な性格だと思っていたよ」

116 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 20:05:39.32 ID:x5B4HQt90

さやか「じゃあ、何で……」

QB「人の考えることはわからないからね」

ほむら「……何か事情でもあったのかな」

まどか「キュゥべえ……その……さっきの人みたいなのって……」

QB「他の魔法少女のテリトリーに侵入する魔法少女が他にもいるのかってことかい?」

QB「他テリトリーの魔法少女を始末してグリーフシード、テリトリーを強奪する」

QB「そういう魔法少女もいるよ」

まどか「そう、なんだ……」

さやか「そんな自分勝手なこと……魔法少女の風上にも置けない!」

QB「世界的に見ればそう珍しいことじゃあないよ。この国では少ないけどね」

117 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 20:06:49.34 ID:x5B4HQt90

ほむら「……グリーフシードを強盗は聞いたことあるけど、強殺……か」

マミ「でも私……今までそういうのに会ったことないわ」

QB「他者のテリトリーを侵してまで魔女を退治するメリットはあまりないからね」

QB「無駄な争いや野心を持たず、決められた領域で……っていうのが基本的な姿勢だよ」

QB「国民性というヤツなのかな。例外は勿論あるけれど」

マミ「……うーん、まさか自分のテリトリーに起こるなんて」

QB「以降、用心に越したことはないね」

マミ「……それもそうね」

マミ「でも、暁美さんという心強い味方もいるし、大丈夫よっ」

さやか「頼もしいなぁ」

QB「マミはほむらが来てから、大分明るくなった。というのが僕の見解だ」

QB「感謝するよ。ほむら。マミはそれまで仲間が欲しいと頻繁に言っていたからね」

ほむら「……ん」

118 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 20:08:22.23 ID:x5B4HQt90


――
――――


少女「……やれやれ、参ったね」

少女「ついこの間までは見滝原をテリトリーとする魔法少女は一人だけと聞いていたが……」

少女「ちょっと、相手の手札が見えない以上」

少女「変に刺激するのは得策じゃあないよなぁ……」

少女「また近い内会いにいこう……かな?」

少女「カプセルホテルにでも泊まろうかなぁ……」

少女「って、子どもにゃ無理か」

少女「一旦帰って、明日の朝に学校サボってお出かけだぁ」
119 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 20:10:20.41 ID:x5B4HQt90
これで第二話終わりです

言い忘れてましたが、やたら出しゃばってくるモブキャラと言う名のオリキャラが出てきます。
忠告し忘れていた以上、苦手な方はすみませんが我慢してください。

外見は描写されてませんが、おりマギでお菓子の結界でくたばってた人とかまどマギオンラインのアバターのとか……
その辺、お好きにご想像ください。首に傷ってのもせめてのも個性に過ぎませんし


あとウェヒティヒ(何か響きがエシディシみたい)を廃止したということも忘れてました。
半角カタカナを効果音限定になる程度で特に理由も意味もありません。


もう一つ言い忘れてたことですが、今作は全15話構成になってます。
なので一日二話分書かないと今年中、残り八日に終わらないかもです。できれば今年中に終わらせたいのです。


ってことで23時くらいに再開します。

スタンド編なんだからいい加減スタンド一体くらいは出しとかないとアレですし。
(七部オマージュとしてスタンドの概念が出るのが遅れたってことにしよう)
120 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/24(月) 20:12:13.00 ID:0InLjhcLo


レイミって四部の幽霊の子か
121 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/24(月) 20:17:33.72 ID:/SRixZnv0

JOJO成分が控え目になったせいか、地の文が多いところを読んでいるとJOJOというか上遠野作品を彷彿とさせるな
122 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 22:59:07.76 ID:x5B4HQt90


#3『守るわたしになりたい』



――翌日

学校


さやか「おはよーぅ、転校生」

仁美「おはようございます。ほむらさん」

ほむら「あっ、美樹さん、志筑さん。おはようございます」

仁美「すみません。待ちぼうけさせてしまって」

仁美「結局待ちあわせに来られなくて」

ほむら「いえいえ」

さやか「さやかちゃんお寝坊しちゃったよォ」

123 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 22:59:49.01 ID:x5B4HQt90

さやか「時に転校生」

ほむら「はい」

さやか「一人暮らしで寂しくないかぁ〜?」

ほむら「だ、大丈夫ですけど……」

仁美「でも、お体が弱いと聞いてますから……心配と言えば心配ですわね」

ほむら「志筑さんまで……」

ほむら「大丈夫です。最近すこぶる調子いいですからっ」

仁美「ふふ、それならいいんですけど」
124 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 23:00:21.58 ID:x5B4HQt90

さやか「ところで、まどかは?」

ほむら「実は、鹿目さんも来なかったんです……」

さやか「へ?」

ほむら「それで、結構待ったんですが……一応メールを送って先に……」


和子「ボンジョルノです!みなさん!」

さやか「あ、先生来た」

仁美「それでは、また後で」

ほむら「あ、はい」
125 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 23:00:58.97 ID:x5B4HQt90

和子「えー、っと。今日の欠席は、鹿目さん、っと」

さやか「えっ!まどか休みスか!?」

ほむら「!」

和子「はい。熱出ちゃったそうです」

「欠席すると親御さんから連絡がありました」

仁美「昨日は元気ようでしたのに……」

さやか「わからないもんだねぇ」

和子「ちなみに欠席するという連絡を受けていないのにここにいない人は遅刻とみなしまーす。中沢くん遅刻でーす」

ほむら(鹿目さんが……休み……)
126 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 23:01:32.71 ID:x5B4HQt90

ほむら「鹿目さん……風邪かぁ」

さやか「元気出しなよ転校生。誰だって風邪の一つや二つするよ」

仁美「ほむらさんは特に鹿目さんと仲がいいですからね」

ほむら「…………」

さやか「そんなに気になるなら、サボっちゃえば?」

ほむら「え……」

仁美「もう、さやかさんったら……何を仰っているのですか」

さやか「いやぁ、ハハ、冗談だってばさぁ」

ほむら「…………」

仁美「さやかさんの言うことをあまり本気にしないでくださいね?」

さやか「何か引っかかる言い方だなぁ」

ほむら「…………」

127 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 23:03:07.73 ID:x5B4HQt90

ほむら「……早退します」

仁美「なっ……!?」

さやか「えっ……」

ほむら「志筑さん。すみませんが、ノート、よろしくお願いしてもいいでしょうか」

仁美「で、でも……」

さやか「あ、あんたねぇ……」

ほむら「美樹さん。私、二時間目くらいに気分が悪くなるので保健室行きます」

さやか「お、おぉい……」

ほむら『鹿目さんが心配なんです。もしかしたら昨日何かされたのかもしれないですし……』

ほむら『あの使い魔か、それともあの魔法少女が……何かしら原因がある。そんな気がするんです……用心に越したことないです』

さやか(テレパシー……うぅむ、魔法少女関連の話を出されたら何とも言い難いじゃないか)
128 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 23:03:33.33 ID:x5B4HQt90

仁美「い、いけませんわ、ほむらさん。そんな仮病だなんて……」

ほむら「じ、実は今朝から熱っぽくてですね」

仁美「さっき調子いいって言ったじゃないですか」

ほむら「ゴホンゴホゴホ、ぶり返してきちゃいました。ゴホホーン、ゴホン。ゴホン」

さやか(演技下っ手くそっ!)

仁美「……それほどなんですか?」

ほむら「……あ、授業始まる」

さやか「おっと、本当だぁ」

ほむら「それじゃあ、その時になったら、お願いしますね」

仁美「え、えぇ……」
129 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 23:04:20.88 ID:x5B4HQt90

さやか「……あぁ、あたしには転校生が何を考えてるのかさっぱり理解できんよ」

仁美「……まどかさん思いなんですね」

さやか「そうだねぇ」

さやか「仁美何ニヤニヤしてんのさ?」

仁美「ほ、微笑ましいじゃあないですか。あそこまで思われてるだなんて」

さやか「いや、そういうニヤつきには見えな――」

仁美「クシュゥン!」

仁美「失礼。くしゃみです」

さやか「…………」

130 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 23:05:06.14 ID:x5B4HQt90

――
――――


ほむら「初めて……学校サボっちゃった……」

ほむら「……でも思ったよりなんてことないや」

ほむら「と、いうことで居ても立ってもいられなくなって来てしまったわけだけど……」

ほむら「うーん……鹿目さんのお父さんに変に思われちゃうか」

ほむら「やっぱり、よくないことだってわかってるし……」

ほむら「とは言えもう実際に早退しちゃったし……」

ほむら「もう後には退けないっ」

131 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 23:06:26.12 ID:x5B4HQt90

チャイムを押した。

ドアが開くのに十秒もかからなかった。

まどかの父、知久はその来客にほんの一瞬動揺した。

娘の通っている学校の制服を着た少女が、今、この時間に訪れるはずがないのだ。


知久「……えっと、どちら様、かな」

ほむら「あ、あのっ、わ、私、鹿目まどかさんの……その、友達の暁美と言います」

知久「暁美……あぁ、ほむらちゃんだね。まどかからよく聞いてるよ」

ほむら「ど、どうも」

ほむら「その、お見舞いに来ました」

知久「それはわざわざ……それで、その、学校はどうしたんだい?」
132 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 23:07:13.92 ID:x5B4HQt90

ほむら「……え、えっと」

ほむら「……その」

ほむら「……早退しました」

知久「……早引きしてまで、まどかのお見舞いに?」

ほむら「は、はい……その……」

ほむら「……ず、ずる休みです」

知久「…………」

知久「まどかのことを思ってくれるのは嬉しいけど、ずる休みは感心しないな……」

ほむら「す、すみません」
133 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 23:08:34.68 ID:x5B4HQt90

知久「謝られても……それに、うつっちゃったら申し訳ないし」

ほむら「だ、大丈夫です!」

知久「いや、ほむらちゃんがよくても僕が困るよ。まどかからは一人暮らしな上に体が弱いって聞かされているし……」

ほむら「お、お願いしますっ」

知久「いや……でもねぇ……」

知久「…………まぁ、早退をしてまって、来てしまったものは仕方ない」

知久「わざわざ来てもらったのを帰すのも気が引けるし取りあえずあがって」

ほむら「は、はいっ。お邪魔しますっ」

知久「あ、ちょっと待って。……あった。はい。マスクを付けるといいよ。くれぐれもうつされないように気を付けてね」

ほむら「あ、ありがとうございます……!」
134 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 23:09:27.21 ID:x5B4HQt90

知久「それじゃあ、お言葉に甘えてまどかの世話をほむらちゃんに手伝ってもらうとして……」

知久「お昼はまだだよね。ウチで食べていくかい?」

ほむら「そ、それは申し訳ないので……お昼には帰ろうかと」

知久「そうかい?まぁ、表向きは体調が悪くて早引けしたわけだし、それがいいね」

知久「しつこいようだけど、移らないように気を付けてね」

ほむら「はい。わかりました」

タツヤ「ねーちゃ、だえー?」

知久「あ、そうだ。まどかから聞かされているとは思うけど、まどかの弟のタツヤ」
135 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 23:09:54.37 ID:x5B4HQt90

知久「タツヤ。お姉ちゃんの友達だよ。挨拶しなさい」

タツヤ「こんにっちゃ!」

ほむら「うん。こんにちは。私はお姉ちゃんの友達、ほむらだよ」

タツヤ「ほむねーちゃ!」

知久「ハハ、早速タツヤに懐かれたようだね」

ほむら「タツヤくんのお守りもしましょうか」

知久「気持ちだけありがたくいただくよ。僕の仕事が減ってしまうからね」

知久「まどかの部屋は二階だよ。寝ているかもしれないから静かにね」

ほむら「はい」
136 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 23:11:12.23 ID:x5B4HQt90

まどか「……誰か来たのかな?」

まどか「うーん……」

まどか「どうしちゃったんだろう……わたしぃ」

まどか「寝冷えしたのかな……?」

まどか「でも喉が痛いわけでも鼻水が出るわけでも寒気もない。ただただ熱がある……」

まどか「40℃以上だなんてインフルエンザにかかって以来だよ……」

まどか「体が重い……こんなの初めて……」

まどか「……あれ?メール来てた」

カチャ…

まどか「ん……パパ?」

「か、鹿目さん……起きてる?」

137 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 23:12:14.64 ID:x5B4HQt90

まどか「ほ、ほむらちゃん!?」

ほむら「わっ!え、あ、鹿目さん。起きてたの?調子はどう?」

まどか「どうして……!が、学校は!?」

ほむら「えっと……さ、サボっちゃった」

まどか「そ、そんなのダメだよっ!」

ほむら「鹿目さんがどうしても心配で……」

まどか「そんな、大げさだよ」

ほむら「昨日は元気だったのに急に高熱を出すなんて……何か変だと思って」

まどか「へ、変って……」
138 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 23:12:56.00 ID:x5B4HQt90

ほむら「もしかしたら、昨日の使い魔か……あの魔法少女に何かされたんじゃないかって」

ほむら「一度でもそうじゃないかって思ったらいてもたってもいられなくって」

まどか「…………」

まどか「そうだったんだ……」

まどか「……ごめんね。ほむらちゃん。それと、ありがとう」

まどか「熱が出たのは今朝からなんだ。だからただの風邪。昨日の一件は関係ないと思う」

ほむら「早退しちゃったものは仕方ないから、ただの風邪でも看てるよ」

まどか「ほむらちゃん……」

まどか(嬉しいけど……どうしてここまでしてくれるんだろう)
139 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 23:14:13.76 ID:x5B4HQt90

ほむら「熱が出たって言うけど……どれくらい?」

まどか「40℃くらい」

ほむら「よ、40!?本当に大丈夫?!」

まどか「喉が痛いとかはないの。強いて言えば体がダルいくらいで」

まどか「でも、ほむらちゃんが来てくれたからかな……何だか、急に楽になった気がする」

ほむら「そ、そう?」


コン、コン

まどか「あ、パパ」

知久「調子はどうだい?」

140 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 23:15:04.73 ID:x5B4HQt90

まどか「うん。いい感じ」

知久「そう。ほむらちゃん。ちょっといいかな」

ほむら「あ、はい、何でしょうか」

知久「ちょっと僕はタツヤを連れて買い物に行ってくるよ」

ほむら「え……」

知久「鍵はかけておくから、まどかを看ていてくれるかな」

まどか「看られるよぉ」

ほむら「あの……い、いいんですか?」

知久「うん?」
141 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 23:16:15.72 ID:x5B4HQt90

ほむら「その、私みたいな……他人にお留守番させて。お使いでしたら、私が……」

知久「制服で?」

ほむら「あ……で、でも一人暮らしだからそこは仕方がないというか……」

知久「大丈夫。気にしないで。なるべく早く帰ってくるから」

ほむら「は、はい……」

まどか「ほむらちゃん、ちょっと気を使いすぎだと思うなって」

ほむら「そう……かな?」

知久「それじゃ、行ってくるよ」

タツヤ「いてくー!」

まどか「いってらっしゃ〜い」

ほむら「あ、いってらっしゃい」
142 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 23:17:03.36 ID:x5B4HQt90

まどか「二人っきりだね」

ほむら「うん。そうだね」

ほむら「……あ、そうそう。忘れてた」

ほむら「お土産って程でもないんだけど、スポーツドリンク買ってきたんだ。水分補給はスポーツドリンクがいい」

まどか「え、ほんと?ありがとう!」

ほむら「えっと、確か盾の中に……」

まどか「あ、鞄の中ってわけじゃないのね」

ほむら「うん。盾に入れておくと中身の時間が経過しないというか……」

ほむら「飲み物は冷えたままだし、グリーフシードは穢れないの」

まどか「そうなんだ」

143 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 23:17:39.51 ID:x5B4HQt90

ほむら「はい。どうぞ」

まどか「ありがとう……ん。美味しい」

まどか「……あっ」

ほむら「あっ」

まどか「え、えへへ……ちょ、ちょっとこぼしちゃった」

ほむら「えっと、ティッシュティッシュ……」

まどか「ごめんね」

ほむら「あ、あった」

144 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 23:18:22.70 ID:x5B4HQt90

ほむら「はい、口拭いて」

まどか「うーん」

ほむら「あ、そういえば髪もバサバサだね。ついでに櫛通そっか」

まどか「うん」

ほむら「汗もかいてるだろうし、濡れタオル用意してくるね」

まどか「うん。ありがとう」

まどか「ほむらちゃんほむらちゃん」

ほむら「なぁに?」

まどか「下着も穿き替えさせてー」

ほむら「えッ!?」
145 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 23:18:55.14 ID:x5B4HQt90

ほむら「えっと……あの……いや、その」

まどか「あはは!冗談だよぉ!冗談!」

クルクル

ほむら「も、もうっ!からかわないでよ……」

まどか「ごめんごめん」

まどか「ほむらちゃんの看病で安心して、つい」

ほむら「看護婦さんの見様見真似なんだけどね」

まどか「ほむらちゃんならいいナースさんになれるよ!」

ほむら「そ、そうかな?」
146 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 23:19:58.67 ID:x5B4HQt90

まどか「でも、何だろう」

まどか「さやかちゃんや仁美ちゃん、マミさんに同じ看病されても……」

まどか「ああいう冗談言える気がしないなって」

ほむら「……それって、喜んでいいのかな?」

まどか「うん!それほどリラックスできる。何でだろうね。まだ出会ってそんな経ってないのに」

まどか「……出会ってそんな経ってないのに、わたしってば図々しいかな」

ほむら「そ、そんなことないよ!」

ほむら「えっと……それじゃ、タオル持ってくるね!」

まどか「うん」
147 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 23:20:57.24 ID:x5B4HQt90


まどか「…………」

まどか「本当にほむらちゃんって優しいなぁ……」

まどか「魔女と出会った時も、他の魔法少女が来た時も、ほむらちゃんは私を助けてくれた……」

まどか「いつだって気遣ってくれて、勉強も教えてくれる」

まどか「強くて優しくて頼りになる。子どもの頃憧れた魔法少女像って、こんな感じだったかも」

「僕にもそういう人がいる」

まどか「ッ!?」

「優しくて、頼りになる。もちろん強いしカッコイイ。頭もいいし貯金だってある」


突如、聞き覚えはあるが聞き慣れていない声がした。

声の方向を向く。そこにいたのは……。

148 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 23:24:17.63 ID:x5B4HQt90

まどか「あ、あなたは……!」

まどか「あなたはッ!昨日のッ……!」

少女「昨日ぶりだねぇ」

まどか「ど、どうして……!」

少女「ん、さっきいつぞやの黒髪三つ編み魔法少女を見かけてねぇ……」

少女「何で平日の朝にいるのかはさておいて、尾行してきた」

少女「家を特定した後……すぐに侵略するのもガッつくようなので時間を置いて来た」

少女「おまえさんの親と思しき人も出かけたし、密会するには丁度いい。結果オーライだ」


昨日出会った魔法少女は窓枠とピシッと指で弾いた。

するとカチリと開錠し、鹿目家の家はあっさりと侵略者を受け入れてしまった。

少女はまどかの部屋の中央に立ち、周りを見る。
149 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 23:25:04.24 ID:x5B4HQt90

少女「ん……いい部屋だねぇ。いかにも女の子って感じで」

まどか「か、鍵が……」

少女「魔法少女に鍵なんてないものと思っていただこうか」

まどか「あ……ああ……!」


まどかは体が固まってしまった。

「グリーフシードを多く手に入れるために魔法少女を殺してテリトリーを奪う」

「……グリーフシードを強盗は聞いたことあるけど、強殺……か」

昨日に聞いた会話の断片。まどかの心を恐怖と緊張が支配した。
150 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 23:26:57.89 ID:x5B4HQt90

少女「あの眼鏡っ子はどこだ?台所か?トイレか?大穴で風呂か?」

まどか「ああ……あ……!」

少女「……声でないのか?喧しくないのはいいが、いかんせん面倒だな」

少女「落ち着きな。別におまえさんを殺すわけじゃあないんだか――」

まどか「あっ!」

少女「ハッ!」

ほむら「…………」

まどか「ほ、ほむらちゃん!」
151 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 23:27:58.38 ID:x5B4HQt90

まどかに詰め寄ろうと一歩踏み出した少女の前。

まどかとの間に割り込むように、突如として、ほむらの姿が現れた。


少女「ビックリしたぁ!やめろよ急に現れるのォッ!」

ほむら(……時を止めた)

ほむら(昨日の魔法少女……どうしてこんなところに……)

ほむら(……そのまま彼女を撃退できるならしたいけど……)

ほむら(……襲撃の理由、聞き出したくはある)

少女「……おまえさんは、やっぱりテレポートの能力なのか?」

少女「心臓に悪い能力だ……まぁいい」

少女「戦いは避けられないとは思っていた」

152 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 23:28:43.11 ID:x5B4HQt90

ほむら「あなたの目的は一体、何だというの……?」

少女「え?目的ィ……?」

少女「なぁに、至ってシンプルさ。言う必要性さえ疑うね」

少女「僕はこの見滝原のテリトリーを乗っ取るつもりでいる」

まどか「え……!」

少女「風邪っぴきのおまえさんは将来魔法少女になる可能性を秘めているのかもしれないが、今はいいとして」

ほむら「……」

少女「本当は結界で出会った時には戦いを挑みたかったんだが……」

少女「素人がいる手前でそういうことするのも主義に反するし……人間同士の争いは単純に数が物を言う。僕にとっては圧倒的不利だった」

少女「故に一人ずつ!見滝原をテリトリーに構える巴マミより先に、おまえさんを始末してくれる!」

ほむら(まさか!今、やる気かッ!)

153 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 23:29:12.23 ID:x5B4HQt90

少女「ところで、ピンクのおまえさん。熱を出してるみたいだね」

少女「汗をかくということは体内の悪い物質を出すということだ。ガンガン出してくれたまえ」

ほむら「……場所を移しましょう」

少女「ん?……あぁ」

少女「それもそうだね……このままだと、そこの風邪っぴきを巻き込んでしまう」

少女「やはり、僕としても素人を巻き込みたくないからな」

ほむら「…………」

少女「…………」
154 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 23:29:59.40 ID:x5B4HQt90

まどか「ほむらちゃん……」

グツグツ…


まどか「へ?」

まどか「な、何の音……?」

まどか「ん……?」

ほむら「え……」

まどか「ス、スポーツドリンクから……湯気が……」

ほむら「いや、ふ……『沸騰』してるッ!?」

少女「『おまえさんの』は67℃くらいかな?」

バッ

まどか「熱ッ!?」

ほむら「ッ!?」
155 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 23:30:42.45 ID:x5B4HQt90

まどか「あ、あヅヅっ!熱いッ!」


ペットボトルが小刻みに揺れている。

ペットボトルの底からボコボコと気泡があがる。

そしてまどかは突如体を捩り悶えはじめた。

ポットの湯をカップに注いでいる時に跳ねて手についた時の痛みが、全身に走る。


まどか「汗が!汗が!熱いッ!」

ほむら「かッ!鹿目さ――」

少女「僕の能力だ。この子の『汗』を熱湯にした」

ほむら「――ハッ!」

ガシィッ

ほむら「なっ!?」
156 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 23:31:33.31 ID:x5B4HQt90


少女「腕を掴んだ!」

少女「君はこの子を助けた。そして看病している。つまり、この子はおまえさんの友達以上は確実」

まどか「ハァ……ハァ……お、収まった……?」

まどか「ああッ!ほ、ほむらちゃん!」

少女「この子にダメージを与え……おまえさんを躊躇させる餌にした」

少女「さっき素人に手を出さないと言ったが……スマンありゃ嘘だ」

少女「もし火傷して痕になったごめんよ」

まどか「そ、そんな……!」

ほむら(しまった!う、腕を掴まれた……何かわからないけど、このまま触れられているのはマズイッ!)
157 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 23:32:25.57 ID:x5B4HQt90


ほむら(触れられていると時間を停止しようにも……この人を時の止まった世界へ一緒に入れてしまっては意味がない)

ほむら(ま、まずい……!どうする!?)

ほむら(爆弾は論外……爆発で鹿目さんを巻き込む!)

ほむら(撃つか……!?でも、こんな時間帯で発砲するのも……!サイレンサーを付けておくべきだった!)

ほむら(何より、鹿目さんの目の前で人を撃つわけにはいかないッ!)

ほむら(どうする!?どうする!?どうすればいいッ!?)

ほむら(どうす――)

ほむら「熱ッ!?」

まどか「!?」
158 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 23:33:08.18 ID:x5B4HQt90

ほむら「……えッ!?何ッ!?」

少女「ニヤリ」

ほむら「う、うおああぁぁッ!」

ほむら「う、腕がッ!腕の『中』からッ!?」

まどか「ほむらちゃんッ!」

少女「僕の能力だ……『水を熱湯に変える』……ドリンクや汗の水滴も熱湯に変えられる」

少女「さらに直接触れなきゃだけど、体を構成する水分も熱湯にできる!」

ほむら「み、水を……熱湯……!?」
159 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 23:33:45.19 ID:x5B4HQt90

少女「ちなみにタンパク質はたった42℃で変性を開始すると言われているんだぞォ――ッ!」

ほむら「『腕』が『熱い』ッ!」

まどか「ほむらちゃぁぁんッ!」

ほむら「あああッ!ぐッ!」

まどか(どうしよう……!ほむらちゃんが……!)

まどか(わたしを守ってくれた、わたしを看病してくれた、わたしの大切な友達がッ!)

まどか「ほ、ほむらちゃんを……」

まどか「ほむらちゃんを離してェッ!」

少女「むっ……」
160 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/12/24(月) 23:34:03.80 ID:QVhR3y0C0
個人的には他の荒木作品も絡めてほしいところ
難しいかもしれんが……
161 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 23:34:47.19 ID:x5B4HQt90

まどかは手元にあったぬいぐるみを投げつける。

少女は軽く叩き落とす。

ほむらの顔は苦痛に歪んでいる。


少女「邪魔をするな。チビ……!」

まどか「うっ……!」

まどか(うぅ……目を逸らしてしまった!)

少女「この眼鏡っ子の次は君をブチのめしてやろうか?!」

ほむら「ッ!」

まどか「うぅ……!」

ほむら(このままでは……鹿目さんが危ない……!)
162 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 23:35:50.57 ID:x5B4HQt90

ほむら(や、やるしか……!)

ほむら(やるしかない……!)

ほむら(『撃つ』しかない!)

ほむら(盾から銃を取り出し、あの人を撃つしかないッ!)

ほむら(撃って逃れるしかないッ!)

ほむら(頭か!腕か!お腹か!撃たなくては!)

ほむら(やるしかない!やらなきゃやられるッ!)

まどか(い、いやだ……)
163 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 23:36:43.56 ID:x5B4HQt90

まどか(そんなのいやだよッ!)

まどか(ほむらちゃんに優しくしてもらったのに……ほむらちゃんに感謝してるのに……)

まどか(ほむらちゃんに……助けてもらったのに……!)

まどか(そのほむらちゃんの危機に!わたしは何もしてあげられない……!無力……!)

まどか「うぅ……い、いやだ……!」

まどか(ほむらちゃんに守られるわたしでなくて……)

まどか「やめて……ッ!」

まどか(ほむらちゃんを守るわたしになりたい……ッ!)

まどか「やめてェェェェ ッ!」
164 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 23:37:14.12 ID:x5B4HQt90

ドガッ!


少女「ブッ……ガッ!?」

ほむら「……え?」

まどか「あ、あれ……?」

少女「ゲフ……クッ……」

少女「ゲボッ?!」


――突然、少女は口から血を垂らしながら、倒れ込んだ。

まるで「殴られた」かのように頬が腫れあがっている。その時に口の中を切ったらしい。
165 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 23:38:05.06 ID:x5B4HQt90

まどかは目を丸くして口をポカンと開けていた。

ほむらはハンドガンを握ったまま体が静止した。


ほむら「え、今……何が……?」

少女「き、貴様……!」

まどか「わ、わたし……?」

少女「よくも……僕を殴ってくれたじゃあないか……」

少女「まさか……使えるとは思わなんだ……ス……」


少女「『スタンド』を……!」
166 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 23:39:09.73 ID:x5B4HQt90

ほむら「スタ……ンド……?」

まどか「な、何を言ってるの……?」

ほむら「何が……何が起こっているというの!?」

まどか「わ、わかんない……と、突然……倒れて……」

まどか「……ん?」


まどかは、視界の端に、何かが見えた。

上目遣いになってそれを確認する。

「拳」そして「腕」が見える。

それを辿った先にいた……「人」
167 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 23:39:48.17 ID:x5B4HQt90

まどか「きゃっ!」

ほむら「鹿目さんっ!?」

まどか「だ、誰!?い、いつの間にわたしの後ろに!?」

ほむら「う、後ろ?鹿目さんの後ろって……」

ほむら「何も……いない、けど……」

まどか「…………」


まどかのそばに立つ者。

明らかに人間ではないが、それは人のような姿をしている。
168 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 23:40:18.29 ID:x5B4HQt90


ミケランジェロの彫刻のように存在感がある。

しかしその体は少し透けていてうっすらと向こう側が見える。

黒い髪が靡く。無生物的ではない。


まどかがすぐに思いついた単語は『悪霊』

得体の知れない末恐ろしい何かが、その拳で少女を殴った。

まどかは自分が呪われたのかと思った。

だが、すぐに思い直した。


「悪霊じゃない。むしろ守護霊だ」

169 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 23:40:54.45 ID:x5B4HQt90

まどか「あなたが……」

まどか「あなたが守ってくれた……んですよね?」

ほむら「か、鹿目さん……?誰と話して……?」

まどか「え?ほ、ほむらちゃん……?ほら、ここ。この人……」

ほむら「え……?」

まどか「だ、だから、この人……ひ、人なのかな?とにかくこの人があの子を殴った!」

ほむら「……?」

まどか「もしかして……見えてない?」

ほむら「う、うん……」

ほむら「何のことかわからない……」
170 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 23:41:38.48 ID:x5B4HQt90

ほむら「でも、鹿目さんの言う『その人』が……助けてくれたの?」


まどかの視線の先には、人型の『何か』がいる。

ほむらだけが、その『何か』は視認できない。


まどかは……その理由を説明することはできないが、理解し、思った。

わたしの目には「人の形」に見えるけど……この人は!

「物体」じゃあない……!

あの人の『何か』もほむらちゃんにはまったく見えない……それと同じ。

キュゥべえは魔法少女の素質のない人には見えないというけど……それと同じ!

「この人」は「エネルギーの形」なんだッ!

よく見ると背後の壁とか机が透けて見える……。

普通の人の目には見えないけど何故かエネルギーが「形」をつくってわたしの目には見ることができる……!


わたしの汗を「熱湯」にしたのは、あの人が持つ『何らか』の能力!

スポーツドリンクを沸騰させて私の汗を「熱湯」にしたのも多分それ!
171 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 23:42:21.94 ID:x5B4HQt90

まどか「この人が……わたしの……」

まどか「『スタンド』……」

少女「何……?初めてか?成る程なぁ……」

少女「だったらまともに扱えるようになる前にブチ殺――」


「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!」


まどか「わわっ!」

少女「ッ!?」


人の形の何かはそう叫びながら拳のラッシュを放った。

予想以上に大きな声でまどかは驚いてしまった。


ほむら「?」
172 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 23:44:05.95 ID:x5B4HQt90

しかし、ほむらはその声も認識さえできない。

ほむらにわかることは、まどかが襲撃してきた魔法少女を攻撃しているということだけ。

少女は体を前屈みにし、顔面を腕で必死に防御している。


少女「う、うおぉぉッ!?」

少女「な、なんだこのパワーとスピードッ!まずい!このままではッ!」

少女「……くそっ!仕方ない!」

「オラァッ!」

ドギャァッ!

少女「ブゲッ!」


ガシャァン!
173 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 23:45:55.37 ID:x5B4HQt90

ほむら「あッ!」

少女「ふ、フフ……こ、これが我が逃走経路だ……!」

少女「渾身の一撃と思しきストレートを喰らった……敢えてだ!」

少女「その勢いのまま窓から飛び出してアディオスだァァァァ!」


少女の体が宙に浮かび、そのまま窓を突き破り吹き飛んで行った。

それと同時に、まどかが呼び出した「何か」は構えを解き、霧が晴れるかのように消えた。


まどかは理解した。

「『この人』はわたしの闘争心だとかそういうのに反応している!」

「精神のエネルギーだ!」
174 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 23:46:47.36 ID:x5B4HQt90

まどか「ハァ……ハァ……」

まどか「か、勝った……?」

ほむら「鹿目さん……」

まどか「何だろう……この疲労感……はぁ、はぁ」

まどか「……フゥ」

ほむら「…………」


まどかは息切れをしている。

ほむらは目を丸くしている。


まどか「ほむらちゃん……えっと」

まどか「その……本当に見えないの?この人……」

ほむら「……うん」
175 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 23:49:01.80 ID:x5B4HQt90

まどか「ほら、ほら、ここ、ここ」

ほむら「……ごめん。私には見えないみたい……」

まどか「謝られても……」

まどか「えっとね……わたしも、よくわからないの」

まどか「さっきの人……『スタンド』って……言ってたよね」

ほむら「スタンド……」

まどか「わたしが思うに……この人は『超能力』だと思うの。今、目覚めた」

ほむら「ちょ、超能力……?」

まどか「そう……。曲がるスプーンとか壊れる壁とか……そういう超能力を受けた物体じゃなくて、超能力そのものが姿になったって感じの……」

ほむら「えっと……つまり……その」

ほむら「鹿目さんは『スタンドっていう超能力』が使えるようになったってこと?」
176 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 23:50:04.65 ID:x5B4HQt90

まどか「そ、そうなるね……」

ほむら「…………」

ほむら「……ごめん。何というか……理解が超えているというか……何て言えばいいか」

まどか「説明が下手でごめんね……でも……そうとしか言えないの」

ほむら「…………」

まどか「…………」

ほむら「……そ、そういえば鹿目さん。さっき汗が熱くなったって言ったけど、もう大丈夫?」

まどか「え?あ、うん。大丈夫……」

まどか「……ん、そういえば、何か体が軽くなったような……」

ほむら「……?ごめんね。ちょっと、いい?」

まどか「うん?」
177 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 23:54:56.71 ID:x5B4HQt90

ほむら「おでこに触るね」

ピタ…

まどか「あっ……」

まどか(ほむらちゃんの手、柔らかくて……気持ちいい)

ほむら「熱がひいてる……?」

まどか「え?ほんと?」

ほむら「な、何でだろう……あんなに熱かったのに……急すぎる」

ほむら「何だか……もう、わけのわからないことが続いて……」

ほむら「とりあえずは……鹿目さん。安静にしててね。疲れてたみたいだし」

まどか「あ、うん……」

ほむら「それより……」
178 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 23:55:38.18 ID:x5B4HQt90

ほむら「掃除しなくちゃ……」

まどか「うん……」

ほむら「やっちゃったね……」

まどか「うん……」

ほむら「……電気がチカチカして気になるから、と言った私が蛍光灯を変えようとするも足を滑らせ窓を割って、パニックになって血をまき散らしてしまった。ということで」

まどか「えぇ!?ほ、ほむらちゃんは何も悪くないのに!」

ほむら「だって、見ず知らずの人が襲ってきたなんて言えないもん……」

まどか「で、でもぉ……」

ほむら「魔法で何とかできないか、巴さんに相談してみよう……」

まどか「ああ、パパに何て言おう……」
179 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 23:58:40.08 ID:x5B4HQt90


まどかの部屋の状況――。


窓は割れ、カーペットやカーテンには血痕が付き、散乱するガラス。

腕が千切れかけているぬいぐるみ。泥まみれのベッド。

ベッドの足下に血が付いた奥歯が一本、床に転がっていた。

ほむらの白く細い腕には、赤い握られた痕と水疱ができている。

まどかはどう言い訳をすればいいか悩んだ。

ほむらは弁償すればいくらかかるか悩んだ。


180 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/24(月) 23:59:06.90 ID:x5B4HQt90


スタープラチナ 本体:鹿目まどか

破壊力 A スピード A 射程距離 E
持続力 E 精密動作性 A 成長性 E

まどか曰く、「強くて速い」人型スタンド。その性質は「勇気」
誰かの力になりたい、守りたいという強い思いから発現した。
何ら特別な能力は持たないが、最強レベルの性能を誇る。
しかしまどかの精神力に伴っていないため、その力を出し切れていない。
まどかは、このスタンドには成長の余地があるという確信がある。

A―超スゴイ B―スゴイ C―人間と同じ D―ニガテ E―超ニガテ

*実在するスタンドとデザイン・能力が多少異なる場合がある

181 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 00:00:49.13 ID:YYsSShrR0


くぅ〜疲れましたw これにて第三話完結です!
実は、波紋編と鉄球編のほむらを登場させる第三部として構想したのが始まりでした
本当は話の都合上ポシャったのですが←
25周年記念を無駄にするわけには行かないので
特に前作とは無関係な形で挑んでみた所存ですw
以下、まどか達のみんなへのメッセジをどぞ

まどか「みんな、見てくれてありがとう
ちょっと黄金の精神なところも見えちゃったけど・・・気にしないでね!」

さやか「矢を持った承太郎さんやプッチ神父あたりが来ると思った?
残念!スタンドそのものでした!」

マミ「『*実在するスタンドとデザイン・能力が多少異なる場合がある』ってあるけど同じ名前なだけで見た目は全く同じと限らないって解釈もできるわね・・・」

京子「見てくれありがとな!
正直、まだ一言も喋ってねぇけどよ!」

ほむら「・・・基本的にモブキャラ同じく外見の描写はしてないので、その辺ご自由にイメージしていただければ幸いです」メガホムッ

では、

まどか、さやか、マミ、京子、ほむら、スタープラチナ「皆さんありがとうございました!」



まどか、さやか、マミ、京子、ほむら「って、喋れるの!? 改めまして、ありがとうございました!」

本当の本当に続く




……コピペ改変はともかくとして、スタンドはこんな風に出てきます。今回はここまでです。

ちなみにオラオラは効果音扱いです。
182 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/12/25(火) 00:02:39.45 ID:LpmJEcME0
杏子「誰だ!?テメェ!」
183 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/25(火) 00:05:46.34 ID:Ld4g1KEAO
くぅ〜やwwwwwwwwwwめwwwwwwwwwwろwwwwwwwwwwww


まさか、スタプラはともかく水を熱湯にするスタンドを出すとは……

184 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/25(火) 00:06:30.72 ID:NVF9UMRAO
乙!
ジョジョクロスの人、待ってました!
185 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/25(火) 00:06:56.36 ID:y/vlzJ370

すげぇパワーで物をブン投げるッとかもできるけど
まどっちに近距離パワータイプがきてしまったか…
186 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/25(火) 01:43:41.39 ID:bWjBbEejo

成長Eだが大丈夫か?
スタンド能力と魔法少女関連の能力は完全に別なのか
だがそうするとやはり足に傷ができていたマミさんとかマジチートの予感
187 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 17:33:23.96 ID:YYsSShrR0

#4『「狩り」に行こう!』


――翌日

魔法少女とその関係者は、昼休み、屋上へと集まった。

まどかがさやかを、ほむらがマミを連れてきた。

仁美は偶然にもクラス委員の呼び出しを重なったためこの場にいない。


マミ「……スタンド?」

まどか「そうなんです。スタンド」

ほむら「魔法少女の魔法とは違う……」

さやか「…………」

さやか「まどかが超能力に目覚めた……って……なんか……」

さやか「いや、でも……何か……うん」
188 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 17:34:01.47 ID:YYsSShrR0

さやか「魔法少女だ魔女だどうこうを見たから……なんか驚きが薄いわ」

ほむら「えぇー……」

まどか「もっと驚いて欲しかったなぁ」

QB「興味深いね」

マミ「あ、キュゥべえ」

まどか「キュゥべえはスタンドのこと知らない?」

ほむら「スタンドという名称は人から聞いたものだから便宜的な物かも知れないけど……」

QB「聞いたことがないね。それこそ、夢だったんじゃないかと言ってしまいそうだ」

さやか「だよねぇ。超能力なんて突拍子なさすぎだよ」

マミ「でも魔法少女やスタンドとやらも……突拍子もないという点では共通の事実ね」
189 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 17:35:04.52 ID:YYsSShrR0

QB「そのスタンドというものがいかなるものなのか、是非見てみたいな」

ほむら「ダメだよ」

QB「……どうしてだい?」

ほむら「スタンドは、見えないの」

QB「見えない?」

まどか「そう。例えば、ほら。今『スタープラチナ』がここにいるよ」

さやか「スター……なんだって?」

まどか「あ、そうそう。わたし、そのスタンドの人をスタープラチナって呼ぶことにしたの」

まどか「話しかけても返事してくれないし……」

ほむら(見えない何かに必死に話しかける鹿目さんは……言ってはなんだけど……その……痛々しかった)

まどか「スタンドはスタンドを使える人にしか見えないみたい」
190 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 17:36:11.98 ID:YYsSShrR0

マミ「魔法少女とキュゥべえの関係みたいね」

QB「なるほど。それはわかりやすい」

さやか「それで?その超能力はどういう使い方すんの?」

さやか「マミさんみたいにリボンシュルシュルとかするの?」

まどか「よくわかんない」

まどか「スタープラチナは強くて速くて器用ってくらい?」

ほむら「そうだね……遠くの物を持ってくることもできないし」

さやか「……日常生活の上で役にたたなそうだね」

まどか「で、でもっ!お裁縫が得意だよ!それことミシン並!」

さやか「なるほど……すげー羨ましいね」

まどか「うぅ、興味なさそう……」
191 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 17:37:51.66 ID:YYsSShrR0

マミ「……ねぇ、鹿目さん」

まどか「はい」

マミ「鹿目さんならそんなことないだろうけど、一応忠告しておくわね」

まどか「忠告、ですか?」

マミ「スタンドとか、魔法もね、そういう特別な力は悪用してはだめってことよ」

ほむら「…………」

ほむら「鹿目さんに限ってそんなことは……」

マミ「えぇ、わかっているけど、一応」

まどか「はい!わかりました!」

マミ「ん、誇りを持って、恥ずかしくないように使うのよ」
192 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 17:39:32.31 ID:YYsSShrR0

さやか「……あっ、やっべ!時間が……!」

ほむら「時間?……あ」

まどか「急いで戻らなきゃ!」

マミ「あら、そんな慌てなくても……まだ時間はあるわ」

ほむら「時間割が変わって次の授業が体育になったんです。着替えなくっちゃなのです」

マミ「まぁ、それは大変ね」

さやか「それじゃ、行こう。まどか、転校生」

ほむら「巴さんお先に失礼します」

まどか「します」

マミ「えぇ。またね」

193 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 17:40:03.15 ID:YYsSShrR0

マミ「…………」

マミ「……ねぇ、キュゥべえ」

QB「何だい?」

マミ「一つ、頼まれて欲しいことがあるの」

QB「内容によるよ」

マミ「虫の知らせというものかしら……」

マミ「私、佐倉さんのことが気になるの」

QB「……なるほど」

マミ「だからキュゥべえ、風見野に行って、佐倉さんの様子を見てきてほしいの」

QB「ああ、その程度なら構わないよ」
194 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 17:40:43.45 ID:YYsSShrR0

QB「早速行った方がいいかな?」

マミ「できれば今日中に答えが欲しいけど……」

マミ「頼んだ側だし、その辺りあなたの都合に合わせるわ」

QB「わかったよ。マミ」

QB「さて、マミも教室に戻った方がいいんじゃないかい?」

マミ「えぇ、そうね。それじゃあ……キュゥべえもまたね」

QB「うん。それじゃあ」

QB「…………」

QB(……スタンド、か)
195 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 17:43:15.16 ID:YYsSShrR0

――見滝原に隣接する風見野。


その外れに廃教会がある。

そこには、とある一家が暮らしていた。

しかしある日、そこで火災が起きて一人が行方不明、他全員が焼死したという――。


そこから少し離れた公園のベンチで、一人の童女が座っている。

姉の迎えを待っているかのように、足をプラプラ揺らす。


この童女の名は「千歳ゆま」という。

196 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 17:45:22.01 ID:YYsSShrR0

『ゆまの母親』はとても美しい女性であったけれども、決して良い母親ではなかった。


産後、幼いゆまを置き去りにして彼女はよく夫(ゆまの父親)と夜の街に遊びに出かけた。

寝ていて夜、目を醒ますと両親が家にいない。

1〜2歳の子どもにとってそれはどんな恐怖と絶望なのだろう……

ゆまは暗闇の中で泣いても無駄なのでただひたすら震えていただけだった。


しかもこの女は父親の見ていないところでよくゆまを殴りつけた。

「人の煙草を見ただけでビクビクしやがってイラつくガキだわ!」

これは逆だった……煙草に怯えるようになったのは明らかにこの女が原因だった。
197 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 17:46:02.69 ID:YYsSShrR0

そして娘のこうした状況に対し、父親は無関心を貫いていた。

「めし」「フロ」「ネル」以外の言葉を聞いた記憶が、ゆまにはなかった。

ゆまは自分がこの世のカスだと信じるようになり、愛というものを知らずに成長した。

このままではゆまが心のネジ曲がった人間に育っていくことは誰が見ても時間の問題だった。

それどころか15歳になるまで生きていられるのかさえわからなかった。


――しかし、ある事件がきっかけでゆまは救われることになる。


ある日、ゆまは両親に連れられ「いい家庭」を演じる手伝いとして街を歩いていた。

気が付くと、両親が肉塊と化していた。

生きているのか?死んでいるのか?それさえもわからなかった。
198 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 17:46:36.86 ID:YYsSShrR0

するとそこに、両親を肉塊にした「何か」と戦い、勝利した『少女』がゆまの前に立つ。

ゆまはその少女に何かを言ったらしいが、当の本人はその時の記憶がない。

そしてゆまの言葉を受けた少女は、両親を失ったゆまに控えめな慰めの言葉を与え、続けた。


「あたしについてこい」――ゆまはそれに従った。


少女に同情の気持ちはなかった。

ただゆまに対して亡き妹の影が重なり「一人で生きる術を教えてやろう」と思っただけだった。


少女は『魔法少女』だった。
199 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 17:47:32.53 ID:YYsSShrR0

少女はゆまに食事、銭湯、寝床を嫌な顔一つせずに与え、連れてってくれた。

家そのものはないが、少女との生活にゆまは安らぎを覚えた。

両親から学ぶはずの「人を信じる」という当たり前のことを、ゆまは不器用な他人を通じて知ったのだ。


もうイジけた目つきはしていない……ゆまの心に温かい空気が吹いた。

少女はゆまを「魔法少女の世界に巻き込まない」という厳しい態度をとっていたが……

『救ってくれた恩義』と『役に立たなければという脅迫観念』を抱くゆまの気持ちは止まらなかった。

ゆまの中に生きるための目的が見えたのだ……


こうして「千歳ゆま」は芸能界の大物スターに憧れるよりも……

『魔法少女』に憧れるようになったのだ!

200 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 17:47:59.35 ID:YYsSShrR0

「あの……」

ゆま「……ん?」


ゆまに話しかけたのは、自身と同い年か一つ二つ上くらいの童女だった。

腕に鉄錆色をしたバルーンアートの犬を抱え、小さい手は一枚の紙を握っている。

その指にある装飾品、ゆまはそれと似たような物を見たことがある。


ゆま「ま、魔法少女……!」

童女「あ……魔法少女を知ってるの?そ、それじゃあ……あの」

スッ

童女「こ、これ……」
201 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 17:48:36.41 ID:YYsSShrR0


童女「この『写真』の人、知ってる?」

ゆま「……んーん」

ゆま「知らない……」

童女「……そう」

童女「わたしね、お姉ちゃんとK町の西の方で魔法少女をしていたの」

童女「でも、他の所から来た魔法少女にイジめられて……追い出されちゃったの……」

童女「それでお姉ちゃんが風見野に行くって言って……それっきり帰ってこなくなったんだ……」

ゆま「……」

童女「だから探しに来たの」
202 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 17:49:58.66 ID:YYsSShrR0

童女「ほんとに知らない?チラッとでいいの。見てない?」

童女「写真では被ってないけど、よく変な形の帽子つけてるの」

ゆま「……ううん。知らない」

童女「…………」

童女「……嘘だよ」

童女「あなたは今、嘘をついた」

ゆま「へ?」

童女「お姉ちゃんは風見野の魔法少女に会いに行ってるの!」

童女「だから、会ってるはずだよ!魔法少女なんでしょ!?魔法少女のことを知ってるってことはそうなんでしょ!」

ゆま「ゆ、ゆまは違うよ!」
203 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 17:50:27.11 ID:YYsSShrR0

「……なんだ、やっかましいヤツがいるな」

童女「!」

ゆま「あ……『キョーコ』!」

杏子「……何か訳ありって感じだな」

杏子「こいつは……ゆまは魔法少女じゃない。しかしあたしは魔法少女だ」

童女「魔法少女……!」

杏子「こいつはあたしの知り合い……だから知っている」

杏子「ちょいと面貸しな。二人で話そう……ゆま、もうちょい待ってろ」

ゆま「う、うん……」

童女「…………」
204 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 17:51:59.30 ID:YYsSShrR0

――廃教会前


童女「――と、いうことなの」

杏子「ふーん、姉ちゃん、ねぇ……」

杏子「悪いが、あたしもあんたの姉なんて知らないよ」

童女「そ、そんなはずはない!」

童女「あなたは風見野をテリトリーにとっている……そしてお姉ちゃんは風見野へ行った……」

童女「知らないはずがない!会ってないはずがないの!」

杏子「そうは言ってもなぁ……わからんもんはわからん」

杏子「でも、これだけはわかるぞ」
205 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 17:53:01.88 ID:YYsSShrR0

杏子「あんたの姉はあたしを倒してテリトリーを奪おうとしに来てるはずだってことなんだろ?」

童女「そ、それは……」

杏子「気ぃ落とすな。最近、魔法少女の縄張り争いが激化しているらしいからな……」

杏子「それを悪いこととは言わない。世の中は弱肉強食ってヤツだ」

杏子「まぁそれはいいとして……」

杏子「きっとグリーフシードを手に入れようとして探し回ってるんだろう。妹思いな姉なんだな」

童女「……うん」

杏子「悪いけどさ、本当に、知らないもんは知らないんだ」

童女「で、でも……!」

杏子「わかってる。言いたいことはわかるよ……参ったな」
206 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 17:54:22.91 ID:YYsSShrR0

杏子「……じゃあ、さ、あんた」

童女「……うん」

杏子「あんたには結局、グリーフシードが必要なはずだ」

童女「……うん」

杏子「この廃教会……あたしとさっきのヤツはここをいつもいるわけじゃあないが、拠点にしている」

杏子「拠点と言ってもそんな大げさなもんじゃない。グリーフシードはそこに隠してるだけさ」

童女「……」

杏子「大した量はないが、好きなだけ持ってっていいぞ」

童女「え!?」

杏子「あ、やっぱり二つだけだ。あんた用と消えた姉を見つけた時用。二つだけ持ってってけ」

童女「……いいの?」

杏子「いいんだ。あたしはあんたに敬意を表してやる」
207 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 17:59:22.63 ID:YYsSShrR0


杏子「姉を探して、単身市外へ……」

杏子「それはいい家族愛だと思うぞ」

杏子「……まぁ、なんだ」

杏子「言い方を変えれば、見逃してやるという解釈もできるがね」

童女「うん……」

杏子「まずは入り口から右にある棚の三段目を見てみろ」

童女「…………ありがと」

杏子「何、気にすんな。行ってきな」

童女「……うん!」
208 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 18:00:31.12 ID:YYsSShrR0

杏子「…………」

杏子「……行ったか」

杏子「いい笑顔じゃあないか」

杏子「きっと、いい家庭を持って暮らしてきたんだろうな。ちょっと羨ましい」

杏子「……うーん」

杏子「腹も減ってきたな……」

杏子「これ以上ゆまを待たせるのもとは思うが……致し方ない」

杏子「そんじゃ、ちゃっちゃと『一仕事』いきますかっと」


杏子は童女の後を追い、歩いていった。
209 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 18:02:47.20 ID:YYsSShrR0

マミから指令を受けたキュゥべえは先程、風見野に到着した。

会いに来た人物がよくいる場所。廃教会の中へ、割れた窓から入った。

今、キュゥべえスタンドという概念について考えている。


QB「スタンド……か」

QB「一体何なんだろう」

QB「この僕が視認できないということは、魔法少女のシステムとは全くの別物なのだろうか」

QB「スタンドという能力……」

QB「今……考えられる事象は二つある」

QB「杏子がスタンドというものに翻弄され、既に風見野を追いやられている可能性」

QB「そしてもう一つは……」
210 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 18:03:50.36 ID:YYsSShrR0

「お、キュゥべえじゃあねぇか」

QB「うん?あぁ、杏子。ここにいたんだ」

杏子「まぁな。それより、処理してほしいグリーフシードがあるんだが」

QB「あぁ、もちろんいただくよ」

杏子「丁度良い。ここで待ってろ」

QB「うん?……どうしてだい?」

杏子「いや、何てこともないよ」

QB「……ん?今、奥を歩いてるのは……」

杏子「知り合いか?」

QB「確か……K町だったかな。三ヶ月くらい前に契約した」

QB「彼女は姉妹で魔法少女をしていて、いつも一緒に行動していたはずだ」
211 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 18:05:12.13 ID:YYsSShrR0

QB「それが何故、妹単独で離れた風見野に……」

杏子「あぁ。何でも姉を探しに来たとか」

QB「……いいのかい?」

杏子「何が?」

QB「何がって……君はそこにグリーフシードを置いていただろう?」

杏子「あぁ。あたしに言われた場所になくて、戸惑いながら別のとこ探してるってとこだな」

QB「このままだと彼女に横取りをされるんじゃないかな」

杏子「いいんだよ。これで」

QB「……分け与える、ということかい?」

杏子「そうだな」

QB「少し前の君からは想像できない」

杏子「何かつっかかる言い方だが、いいんだって」
212 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 18:07:05.28 ID:YYsSShrR0

杏子「ちょいと待ってろ」

QB「?」

杏子「家畜も魚もウドっつー植物も、若い内の方が美味いんだ」

QB「何を言って……」


「チューブラー・ベルズッ!」

QB「ん?」

杏子「おっ」

QB「何だい、今の声は……」

杏子「そろそろかねぇ」

QB「?」

「キャアアアアァァァァァァァッ!」

QB「……ッ!」

杏子「よし、来た」
213 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 18:08:43.48 ID:YYsSShrR0

突如、建物の奥から甲高い叫び声が鳴った。

少し離れた位置にいた杏子とキュゥべえにも聞こえるくらいの大きさ。

その声色は明らかに恐怖を感じている。

瞬間、その廃教会に魔女の結界が生じた。

空間が一瞬にして毒々しい色となり、禍々しく歪む。

杏子は何てこともなく、変身し、槍を構えた。


杏子「何だぁ?今の呪文は。チューベラ何だって?今のが辞世の句でよかったのか?」

QB「……何ということだ」

QB「君は今……何を……したんだ?」

杏子「あ?何をって?」
214 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 18:09:58.46 ID:YYsSShrR0

QB「そこの廃教会にある魔法少女が入っていった……」

QB「そして、いきなり魔女が現れた……」

QB「しかも君は……現れることがわかっていたかのような振る舞いじゃあないか」

QB(……いや、現れた、ではない)

QB(今……エネルギーを得た。つまり……魔女が「生まれた」ということ……)

QB(タイミングからして……間違いなく、さっき入って言った魔法少女が……)

QB(たった今絶望して『魔女になった』……!)

杏子「……そりゃ、言うまでもないことだ」

杏子「テリトリーを狙った魔法少女を絶望させて魔女にして……『狩る』んだよ」
215 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 18:11:07.47 ID:YYsSShrR0

QB「!」

QB(絶望……させる?)

QB(杏子……!魔法少女が魔女になることを知っている!)

QB(い、一体どこで知ったんだ……!?)

杏子「最近多いんだよ。テリトリーを侵略しようとする魔法少女、全部返り討ちだがね」

QB「……」

杏子「それよりもてめー。魔法少女が魔女になるだなんて、とんでもないことを隠してやがったな?あ?」

QB「……嘘はついてないよ」

杏子「ふん、まぁいい」

QB「魔法少女が魔女になると知ったからと言って……故意に魔法少女を魔女にするだなんて……」

QB(僕としては嬉しい限りだけど……)

216 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 18:12:20.59 ID:YYsSShrR0

QB「まさか君も『スタンド』を……」

杏子「ほう……」

杏子「知ってたのか」

QB「……まあね。見滝原にも、スタンドを使う魔法少女が襲撃してきたんだ」

杏子「ふーん」

杏子「じゃあさっきのガキもそうだったりしてな。スタンド名か。チューブラー・ベルズってのは」

QB「杏子。君は……」

杏子「そうだ。あたしは『スタンド使い』だ。名前は『シビル・ウォー』」

QB「…………」

杏子「折角だから教えてやろう」
217 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 18:13:13.94 ID:YYsSShrR0

杏子「あたしの能力のヒントは……相手の『罪悪感』だ」

QB「罪悪感?」

杏子「キュゥべえ。あんたはあたしの能力に作用していないようだ」

QB「何だって?」

杏子「つまり、既にスタンド攻撃に巻き込まれてることにすら気付いていなかったってことだ」

杏子「それはつまり、あんたは今まで一度も『罪悪感』を覚えちゃいねーってこった」

杏子「あたしの『シビル・ウォー』は罪悪感と深い関係にある」

QB「それは……まぁ、感情がないからね」

杏子「だろうな。希望だとか抜かしてこっそり魔女の卵孕ませやがって」

QB「希望の代価だよ」

218 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 18:13:57.22 ID:YYsSShrR0

杏子「魔法少女が魔女になるだなんて知った時はびびったけどよォ……」

杏子「ま、要は慣れだな。最近になって魔女になるならそれはそれで仕方ないなって気分になってきた」

杏子「そしてあたしから奪おうと考える愚者を、返り討ちにする」

杏子「いかんせん魔女にした方がやりやすいし……グリーフシードもオイシイ」

杏子「遺体も結界の中に置いときゃ勝手に消えとるからな……合理的さ……へへ」

魔女「NUGAAAABAAAAAHH!」

杏子「おっと、そうだった。こいつも狩らなくちゃな」

杏子「キュゥべえ。こいつを狩るまでテキトーに時間潰して待ってろ」

杏子「終わったらすぐに使用済みグリーフシードくれてやらぁ!」

QB「あ、ああ……」
219 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 18:14:39.88 ID:YYsSShrR0

QB(…………)

QB(感情のない僕でもわかる)

QB(この杏子……何か『おかしい』ぞ)

QB(偽物かもしれない、という意味じゃあない。だがしかし、彼女はそんなことをする性格ではない)

QB(使い魔を逃すとかじゃなく、魔法少女が魔女になることを認識した上で、わざと魔法少女を魔女にするだなんて……)

QB(あり得ない……一体、何があった?)

QB(何が彼女をあんなことを平然とやってのける性格に至らしめたというんだ)

QB(まず考えられるのはスタンドだが……)

QB(この変わり様……まるで『魔女の呪い』じゃないか)
220 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 18:15:38.72 ID:YYsSShrR0

QB(この前まどかとほむらを襲ったというM市の魔法少女もスタンド使いだったらしい)

QB(彼女は争い事を嫌う性格なのに、だ……)

QB(……もし、魔女の口づけか何かを既に受けていたとすれば……?)

QB(……まあ、今のところ特に支障はないか……)

QB(それどころか、エネルギーを得られている。むしろこのままの方がいいかもしれない)

QB(過程はわからないが魔法少女を魔女にする能力か……)

QB(まどかが契約したら紹介するとして……)

QB(さて、果たしてマミに杏子のことをどう報告しておくべきなのだろうか)
221 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 18:19:38.14 ID:YYsSShrR0

QB(流石にそっくりそのまま話すわけにもいかない)

QB(そうしたらきっとマミはここに来る)

QB(今、この杏子をマミと会わすわけにはいかないな……)

QB(さらにまどかがスタンド使いであることを知られるのもよくないだろう)

QB(ほむらがいるとは言え……今、マミ失うのは総合的に見れば損失となるだろう)

QB(テリトリーを狙う魔法少女が増えていると聞いた以上、まどかが契約する前に消される可能性を否定できなくなったからだ)

QB(ただせめて、魔法少女の縄張り争いが激化している、ということは伝えておこう)

QB(見てきたことその全てを話すようには言われていないからね)
222 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 18:22:07.35 ID:YYsSShrR0
今回はここまで。

一応魔女の呪いとかそれっぽい理屈はついてますが、杏子ファンの方々ゴメンです。

こういうキャラ崩壊というか、そういうの割とあります。


あと場面場面で長さに差があることに今気付きました。

23時くらいに再開します。クリスマス?えっ?
223 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/12/25(火) 19:11:37.88 ID:Ld4g1KEAO


この杏子からは吐き気を催す邪悪臭がプンプンするぜェ―――!
魔女なら仕方ないな
224 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/25(火) 19:14:20.32 ID:NfEeVhVCo
シビルウォーは原作読んでてよくわからなかった
とりあえず自分の過去の罪から目を背けようとしてんのかな杏子は
225 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/25(火) 20:31:58.01 ID:hvP4OLWV0

よりによってシビルウォーとは……対魔法少女の能力としてはえげつないなと思ったけど、言ってみればエリーも同じようなもんか
226 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 23:04:48.11 ID:YYsSShrR0

#5『AWAKEN――目醒め』


――翌日


仁美「さやかさん。制服にご飯粒がついてますよ」

まどか「あ、本当だ」

さやか「朝ッ!こぼれ落ちた、二粒の米ー」

仁美「取ってください」

さやか「はい」

さやか「……あっ、マミさんだ。おーい、マミさぁーん」

まどか「マミさん。おはようございますっ」

マミ「……あっ、みんな。おはよう」
227 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 23:05:38.68 ID:YYsSShrR0

ほむら「……おはよう、ございます」

マミ「えぇ……暁美さん。おはよう」

まどか「?」

マミ「えっと……そちらの方は?」

仁美「初めまして。私、志筑仁美と申します」

仁美「マミさんのことはさやかさんから常々聞いております」

マミ「そうなの?志筑さんね。よろしく。巴マミです」

仁美「こちらこそですわ」
228 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 23:06:24.85 ID:YYsSShrR0

さやか「ふわ〜、それにしても眠たい。もっと寝たいなぁ」

仁美「あら、寝不足ですか?」

さやか「さやかちゃんちょっと夜更かししちゃってさぁ!」

さやか「これじゃ、数学の時間に寝ちゃうかもだよォ〜」

まどか「いつも授業中に寝ちゃうのに」

さやか「うぅっ、まどか……言ってくれるじゃあないか」

仁美「それにしても、さやかさんがちゃんと宿題をするなんて珍しいですわね」

さやか「……え?」

仁美「あ、今のは流石に失礼なこと……」

さやか「……宿題?」
229 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 23:07:18.62 ID:YYsSShrR0

まどか「…………」

仁美「……宿題をやって夜更かしをしたんじゃ……?」

さやか「…………」

まどか「さやかちゃん……」

さやか「へるぷみー」

マミ「……」

ほむら「……」

マミ『暁美さん』

ほむら(テレパシー……)

ほむら『はい、巴さん』

マミ『昨日話したことなんだけど……』

ほむら『……はい』
230 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 23:08:03.59 ID:YYsSShrR0

――
――――


昨晩。

風見野へ行ったキュゥべえはマミに、以下の内容を報告した――。


杏子は取りあえず無事だ。生活も安定している。心配はいらないだろう。

それで、これは杏子から聞いた話だけれど……。

どうやら最近、テリトリーを奪おうとする魔法少女が増えているとの話だ。

僕が杏子に再会した時、杏子はそういった魔法少女と戦っていたようだった。

マミ。警戒するに越したことはないけど、狙われたら迎え討つ姿勢をとらなければならないだろう。

君がそういうことを、魔法少女同士で争うことを望まない性格であることは理解しているつもりだ。

でも、今はそういうことなんだ。

もし君が非暴力の意志を貫こうとすれば、もっと悲惨なことになるかもしれない。
231 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 23:10:00.21 ID:YYsSShrR0

そう報告を受けたマミは、ケータイを手に取り、アドレス帳を開く。

五十音順に表示されるアドレス帳、一番目に表示される相手。

「暁美さん」に、電話をすることにした。


――――
――


ほむら『魔法少女の縄張り争いが激化してる……という話ですね』

マミ『えぇ……』

マミ『それで、私考えたの……』

マミ『もう体験ツアーはやめよう、と』

ほむら『……えぇ、その方がいいと思います』

ほむら『もしも結界内でそういう魔法少女と出会ったら、二人が危ないです』

マミ『残念だけどね……それとね?』
232 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 23:11:13.12 ID:YYsSShrR0

マミ『暁美さんと鹿目さんを襲った魔法少女のことなのだけど……』

ほむら『はい……わかってます。もしかしたら、まだ見滝原にいるかもしれませんね』

マミ『もしそうなったら……鹿目さんと美樹さんが危ないわ』

マミ『だからなるべく、二人に目を離さないようにしないといけない』

ほむら『スタープラチナのいる鹿目さんはまだしも……美樹さんは特に、ですね』

マミ『そうね。でも、暁美さん』

ほむら『はい』

マミ『あの時の魔法少女だけでなくとも、既に、いるかもしれないわ』

マミ『私達以外の魔法少女は……案外近くにいるかもしれない』

マミ『警戒してね』

ほむら『はい、わかりました。二人には私の方から伝え――』
233 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 23:12:43.21 ID:YYsSShrR0

さやか「転校生!」

ほむら『は、はいっ!何ですか美樹さん!』

マミ『暁美さん。それ、テレパシー』

ほむら『あ……』

ほむら「は、はいっ。美樹さん」

さやか「あたしの話聞いてた?」

ほむら「……?」

まどか「さやかちゃん、宿題忘れたから見せて欲しいんだって」

マミ「まぁ、美樹さんったら。自分でやらないと意味ないわよ」

さやか「でもでもぉ〜」
234 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 23:13:56.01 ID:YYsSShrR0

ほむら「……何で私に?」

さやか「だって、転校生って意外と頭いいじゃん」

仁美「意外って……その言い方は失礼ですわ」

まどか「ほむらちゃんって頭いいよね」

ほむら「そ、そんなことは……」

マミ「あらあら、謙遜しちゃって」

ほむら「と、巴さぁん」

ほむら(同じ授業を何度も受けてるからであって、特別頭がいいというわけではないのにな……)
235 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 23:15:15.12 ID:YYsSShrR0

――休み時間


さやか「うへぇ……提出に間に合って良かった……」

まどか「お疲れさま。さやかちゃん」

さやか「転校生、ありがとう……命の恩人だよぉ」

ほむら「そ、そんな……」

まどか「でも、さやかちゃん。これっきりだからね」

まどか「ほむらちゃんは頼まれたら断れない性格なんだから」

さやか「はいはーい。現代文の先生かっつーのー。まどかぁー」

まどか「ほむらちゃんも、キッパリ断ってね。さやかちゃんのためにならないよ」

ほむら「あ、うん……」


「やぁ、君達。ちょっといいかな」
236 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 23:15:47.44 ID:YYsSShrR0


まどか「へ?」

「ここって、転校生が来たクラスだよね?今その子いる?」

さやか「ん?」

ほむら「え?えーっと……その……」

「あ、私?」

「私は三年生の『呉キリカ』っていう者なんだけど……」


まどか、ほむら、さやかにとって初めて見る顔。

黒い髪の上級生が話しかけてきた。

呉キリカと名乗る少女はまどかとさやかの間、ほむらの顔を見て尋ねる。
237 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 23:17:38.86 ID:YYsSShrR0

キリカ「例の転校生はいるかい?」

ほむら「あ、あの……」

さやか「えーっと、ですね。先輩?いるも何も……"これ"なんスけど」

ほむら「こ、これって……」

キリカ「あっ、君がそうなのかぁ!何だ、さっさと言ってくれればいいのに」

キリカ「ふーん。君が『暁美ほむら』か……」

まどか「ほむらちゃんのこと知ってるんですか?」

キリカ「ん?あぁ、まぁね。転校生なんて珍しいからさ」

キリカ「転校した時上級生下級生が覗きに来たりしなかった?」

ほむら「え、えっと……その……私に、何か……?」

キリカ「何か?」
238 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 23:18:29.88 ID:YYsSShrR0

キリカ「あぁ。用があるんじゃないのかって?」

キリカ「いいや、別に……好奇心で見に来ただけだよ」

キリカ「やっぱり気になるじゃん。よそのクラス学年と言えど転校生なんて」

まどか「…………」

さやか「まぁわかりますけどねー」

キリカ「あ、カッコイイ指輪してるじゃん」

まどか「あっ」

ほむら「こ、これは……その……」

キリカ「オシャレだねぇ。それはマニキュア?」

さやか「ハ、ハハ。ま、まぁそんなとこっスよ」
239 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 23:19:39.46 ID:YYsSShrR0

キリカ「いやぁ、ほむら。いかにも小動物って感じで可愛いね」

キリカ「まぁ可愛さでいったら私の知り合いも負けていないけどさ」

キリカ「そうか……眼鏡、か。眼鏡もありだね」

まどか「へ?」

キリカ「あ、いや。こっちの話」

ほむら「あ、あのー……」

キリカ「ん?あぁ、ひょっとして迷惑だった?私ィ」

ほむら「い、いやっ、そういうわけじゃ……」

キリカ「大丈夫。すぐに教室戻るさ」

キリカ「折角来たからもうちょい話したいな……ふむ」
240 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 23:23:36.25 ID:YYsSShrR0

キリカ「……あっ、そうだ」

キリカ「ロッキー食べる?」

さやか/ほむら/まどか「……」

キリカ「いらないの?」

キリカ「じゃあ〜、君」

さやか「あたし?」

キリカ「うん。試しにそっちの端を持って」

さやか「?」

ポキィッ


キリカ「あっあ〜♪君、意地っ張りって言われるでしょ」
241 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 23:25:06.19 ID:YYsSShrR0

まどか「……」

ほむら「……」

さやか「……」

さやか「な、何なんですか?先輩……」

キリカ「『ロッキー占い』だよ。占い信じる?折れた感じで占うんだ」

キリカ「君、意地っ張りじゃない?折角なら多く取ってやろうと欲張って力を込めちゃったから、こうして君の持ち分が短く折れる」

キリカ「無意識的に意地張っちまったんだ。無意識はその人のことが一番よくわかる運命の形……とある人は言う」

キリカ「意地っ張りという性格は自分の考えが正しいものだという思い込みの激しさに繋がる」

キリカ「それは時として周りの空気を乱す。君は周りの人をひっかきまわす性質だ」

キリカ「あ、別に意地っ張り=KYって言ってるんじゃあないよ。一つのものの見方だね」
242 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 23:26:01.68 ID:YYsSShrR0

さやか「おいおいおい……、ロッキー占いだァ?」

さやか「聞いた?まどか、転校生……」

さやか「全然当たってないよなあ〜あたしがKYだってさ!?」

まどか「あ、あはは……」

ほむら「…………」

キリカ「まぁ、所詮占いだよ」

キリカ「さて、私は次の時間、移動教室だから退散させてもらうよ」

キリカ「君達と話ができて楽しかったよ。それじゃ」

ほむら「は、はぁ……」
243 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 23:27:37.24 ID:YYsSShrR0

ほむら「…………」

まどか「……な、何だったのかな?」

さやか「へ、変な先輩だったね」

さやか「でも……あんな人三年生にいたっけかなぁ?見覚えがない……」


仁美「あ、あのー……」

まどか「あ、仁美ちゃん。おかえり」

仁美「えぇ。あの、今の三年生の方は……?」

さやか「え?いや、別に……よく知らない人。転校生の顔を拝みたいとかなんとか」

仁美「そうですか……間に入り込めずにまごまごしている内に行ってしまいましたね」

さやか「ありゃ、仁美既に戻ってきてたんだ」
244 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 23:28:17.80 ID:YYsSShrR0

ほむら「志筑さんは……あの方を知ってるんですか?」

仁美「その……委員会で先輩からその話をチラッと聞いたという程度ですが」

まどか「知ってるの?」

仁美「えぇ。その……あまり良い言い方ではありませんが……」

仁美「学校にほとんど来ていないそうで。今の方……呉さん、でしたっけ?」

さやか「不登校……ってヤツ?」

仁美「えぇ。詳しいことは私も分かりませんが……」

さやか「ふぅ〜ん……」
245 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 23:29:11.96 ID:YYsSShrR0

さやか「不登校児って割にはさっぱりした人だったね」

さやか「もっとこう、言葉のイメージ的に。」

さやか「根暗そうだとか常に人を見下してそうだとか」

さやか「むしろ手のつけられない暴れん坊だとかさ」

まどか「その言い方は失礼だよ」

ほむら「…………」

ほむら(初めて知った……あんな人がいたなんて)

ほむら(何というか、ちょっと変わった人だったなぁ)

ほむら(……あ、そうだ。縄張り争いが激化してること、二人に話しておかなくちゃ)
246 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 23:29:56.37 ID:YYsSShrR0

――その日の夕方。


バラの木が植えられている庭。

大きな洋館。そこには二人の魔法少女が暮らしている。

ベッドの上の銀色の髪をした少女は、上半身を起こし、紅潮させた頬で、同居人を見つめている。

黒い髪をした少女は真面目な表情で、背筋を伸ばして、今日あったことを報告した。


キリカ「……織莉子の言った通りだった。予知通り」

キリカ「『いた』よ……。二年生だった」

キリカ「あ、いや、疑ってたわけじゃないからね」

織莉子「そう。それで、どうだった?」
247 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 23:31:31.74 ID:YYsSShrR0

キリカ「どうって?強そうとか?」

織莉子「それも含めて、あなたの率直な意見が聞きたいの」

織莉子「彼女を見て、どう思った?」

キリカ「んー……意見って言われても……」

織莉子「何でもいいわよ。小学生が書く道徳教材用ビデオの感想文くらいに簡単なのでいいわ」

キリカ「うーん……そういうヤツ書くの苦手だったクチでさぁ」

キリカ「……正直に言うよ」

織莉子「えぇ。正直に言って頂戴」

キリカ「『アレ』が世界を滅ぼすとは到底思えない」

織莉子「…………」
248 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 23:32:04.59 ID:YYsSShrR0

キリカ「ね、念押しするけど、決して織莉子の予知を疑っているわけじゃあないからね」

織莉子「わかっているわ。でも、『魔女になる』以上……人間の時点を見ても何もわからないわ」

キリカ「いや、まぁそれはそうなんだけどね……」

キリカ「それで……作戦はいつ決行する?」

織莉子「いつでも勝てる?」

キリカ「……こないだ、こっそりと暁美ほむらと巴マミの魔女狩りを偵察した話、しただろう?」

キリカ「『暁美ほむら』は時を止めることができるように見えた。ピンと来たよ。固有魔法が私を似てる」

織莉子「えぇ。聞いたわ。その話」

キリカ「だからごめん。わからない」

キリカ「あの眼鏡っ子のスピードを遅くして不意を突いたとて……時を止められたらその時点でアウトだ」
249 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 23:32:47.59 ID:YYsSShrR0

キリカ「そして『巴マミ』……あの身のこなしはハッキリ言って段違いだね。あと髪がクルクルしてる」

織莉子「そうね。巴マミはベテランの魔法少女だと聞くわ。髪は関係ないでしょうけど」

織莉子「ベテランと言うからには、当然私達よりも経験がある」

キリカ「厳しい……かもね」

織莉子「……さて、果たして……私達で処理しきれるものか」

織莉子「いささか不安な気持ちがないこともない……」

キリカ「でもでも!織莉子がやるっていうなら、私、どんな不利な状況でも……!」

織莉子「ダメよ。確実な手を選ばないと」

織莉子「予知では……まだまだ時間の猶予はある」

織莉子「私達が直接深く干渉しなければその予定が狂うことなし」

織莉子「考える時間も態勢を整える時間も十分ある……」
250 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 23:33:13.45 ID:YYsSShrR0

織莉子「世界を救うことに対して慎重になりすぎるということはないわ」

キリカ「それでもなるべく早くピリオドを打ちたいけれどもね」

織莉子「えぇ……そうね」

織莉子「必ず……必ず、やってみせるわ」

キリカ「うん」

織莉子「彼女を葬り、救世する。それが私の生きる意味……」

キリカ「彼女を『や』って……私達の人生が始まるんだね」

織莉子「えぇ……私と貴女の世界を護るために」


織莉子「『暁美ほむら』を『排除』するッ!」
251 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 23:33:55.06 ID:YYsSShrR0

キリカ「とは言ったものの、未だ特に何もしてないんだけどね」

織莉子「それは言わないで……だって、何から取り組めばいいのかわからないんだもの」

織莉子「さぁ明日から本腰あげて考えようと思った矢先に熱が出ちゃったから……」

キリカ「……ま、まぁ無理しないで。猶予はあるんでしょ?」

織莉子「それはそうだけど……」

キリカ「予知では余地があるんだろう?」

織莉子「そうね」

キリカ「予知では余地が、ね」

織莉子「…………」

織莉子「少し熱がひいたみたい。ありがとう」

キリカ「……な、何かゴメン」
252 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 23:37:02.81 ID:YYsSShrR0

織莉子「……そうねぇ」

織莉子「理由はわからないけど、最近魔法少女同士の縄張り争いが激化していると言うわ」

織莉子「だからキュゥべえの興味を反らせられる……殺人を計画していることは割れることはない」

織莉子「しかし……未契約者ならまだしも、魔法少女を殺すには経験の差が露呈するはずだわ」

織莉子「……引き入れられそうな魔法少女の一人や二人でもいればいいのだけれど」

キリカ「引き入れる……?」

織莉子「縄張りを奪おうとする魔法少女……グリーフシードをちらつかせて交渉すれば乗ってくると思うの」

キリカ「……私じゃ信用できないのかい?イジケーッ」

織莉子「そうじゃないわ。もちろんキリカが私の一番よ。念には念を、ってね」

キリカ「私が一番……えへぇ」

織莉子「何にしても風邪を治してから考えましょうね」

キリカ「うん」
253 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 23:38:05.17 ID:YYsSShrR0

織莉子「それにしても、何で急に体を壊しちゃったのかしら……」

キリカ「さぁ……」

キリカ「こないだの空が真っピンクの結界でついた傷からばい菌が入ったのかも」

織莉子「それならあなたにも似たような傷ついたのに……免疫がないのかしら。私」

キリカ「どうだろう……」

キリカ「免疫といえば、織莉子。お腹空いてない?」

キリカ「食べないと体もっと壊すよ」

織莉子「そうね……まだ夕飯には早いと思うけど」

キリカ「よぉし!ちょっと待ってて!作ってくる!」

バタン

織莉子「あっ、ちょっ……もう。せっかちねぇ……」
254 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 23:39:13.19 ID:YYsSShrR0

織莉子はキリカが戻ってくるまで読書を始めた。

ある一族と一人の男の六世代に渡る因縁の物語。

第一部の三章、その序盤を読み始めた時、キリカがドアを開けた。


キリカ「お待たせ!織莉子!」

織莉子「待っていたわ」

キリカ「ってことではい!織莉子!お粥作ったよ!」

織莉子「まぁ……!」


四十分程かけて、キリカは夕食を作ってきた。

タンポポ畑に軽く雪が降り注がれた景色のようだった。


織莉子「キリカにここまでしてもらうなんて……たまには体調を崩すのもいいかもしれないわね」

キリカ「えへへ」

織莉子「……綺麗な黄色。卵粥ね」

キリカ「卵……あ、うん。まぁ、卵だね」

織莉子「?」
255 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 23:39:58.00 ID:YYsSShrR0

織莉子「……それじゃ、キリカ」

キリカ「ん?何?」

織莉子「そ、その……た、食べさせてくれる?」

キリカ「えっ……」

キリカ「そ、それって……あの、も、もしかして……"あ〜ん"ってヤツ?」

織莉子「べ、別にこういう時くらい……いいでしょ?」

キリカ「織莉子……」

キリカ(可愛い……)

キリカ(おお……なんて……なんて可愛いんだろう)

キリカ(私にあ〜んを求めてくれている……織莉子が……)

キリカ「織莉子……いつだって甘えてくれてもいいんだよ。むしろ甘えてよ」
256 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 23:40:54.08 ID:YYsSShrR0

織莉子「……ありがとう。それじゃ、食べさせて?」

キリカ「うん。それでは……」

キリカ「あ、あーん」

織莉子「あー……」

パク

織莉子「ん……」


至福の時。


キリカ「どう……かな?」

織莉子「…………」

キリカ「…………」
257 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 23:41:32.58 ID:YYsSShrR0

織莉子「……キリカ」

キリカ「はい」

織莉子「正直に答えて」

キリカ「?」

織莉子「これは何?」

キリカ「何って……?」

織莉子「答えて。これは何?」

キリカ「もしかして……マズかった?」

織莉子「何とも言ってないわ。これは、何粥?この黄色いのは何?」

キリカ「カスタードクリーム」
258 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 23:42:38.05 ID:YYsSShrR0

織莉子「…………」

キリカ「カスタードクリームも手作りだよ?」

織莉子「キリカ。食べてみなさい」

キリカ「え、そ、それって……」

織莉子「いいから。ほら、あーん」

キリカ「か、関節キス……!」

織莉子「なっ……!」

キリカ「では……ゴクリ、い、いただいちゃいます。あ〜ん」

織莉子「い、意識しないで頂戴。こっちが恥ずかしいわ……」

キリカ(流しちゃったけどさらっと織莉子が私にあーんしてくれてる。可愛い)

パクッ

キリカ「…………」

織莉子「……どう?」
259 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 23:43:38.49 ID:YYsSShrR0

キリカ「ゥンまあぁ〜い!」

キリカ「濃厚なカスタードクリームにお粥の滑らか部分がからみつく美味しさ!」

キリカ「我ながら素晴らしい創作料理だァァ〜!私ってば天才!?」

織莉子「…………」

織莉子「……私、キリカとやってける自信がなくなってきたわ」

キリカ「えっ」

織莉子「冗談よ」

キリカ「美味しくなかった?」

織莉子「…………」

キリカ「……と、とにかく!織莉子が寝るまで尽きっきりで看病するからね!」
260 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 23:44:16.72 ID:YYsSShrR0

織莉子「え、えぇ、お願いするわ」

キリカ「任せて!」

織莉子「それじゃあお砂糖を一切使ってないお粥をいただけるかしら」

キリカ「あ、やっぱマズかった……?」

織莉子「…………」

キリカ「沈黙は肯定ととるよ……?」

織莉子「……あなたの今後のために言うけど、カスタード粥は人様に出してはだめよ」

キリカ「はぁい」


その夜、キリカは織莉子の側を離れず看病をし続けたのであった。
261 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 23:45:51.03 ID:YYsSShrR0

今回はここまで。割と短い。

予告ってほどでもありませんが、次回はおりキリスタンド発現話です。

シビル・ウォーはよくわからないスタンドとして定評があるそうですね。

別に厳密に再現するわけでもないのであまり身構えることはないかと思います。
262 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/25(火) 23:47:00.27 ID:NfEeVhVCo
何気にスタプラに高速で裁縫させてるまどかワロタ
263 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/12/26(水) 00:22:44.16 ID:zacmNkiAO
ロッキー占い……的を射てる!
スタプラ
水を熱湯に変えるスタンド
チューブラーベルズ
シビルウォー

今のところ判明してるのはこの4体か。チョイスが渋過ぎるわ!
その内二つモブだししかももう一人死んでるけど
264 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/26(水) 01:04:58.43 ID:N99D/rih0

キリカワイイ
甘い粥も結構いけると思うんだけどなぁ…
265 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/26(水) 01:07:16.47 ID:fRinsZRso
ミルク粥とかあるけどカスタードはさすがにアカンやろ
しかもキリカのことだからたぶん砂糖マシマシ
266 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/26(水) 02:12:15.86 ID:6mcDw/PP0
「魔法少女」+「スタンドパワー」の『二刀流ッ!』

ダメ押しの乙というやつだァ――ッ!
267 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/26(水) 20:51:57.49 ID:Tw1rzQE90

#6『「レクイエム」とでも、呼びましょうか』



――翌朝


織莉子「……んん」

織莉子「朝……」

織莉子「あら、体が軽い……」

織莉子「どうやら熱はひいたようね」

「……コ!……リコー!」

織莉子「ん……何の音かしら」

「オリコー!」

織莉子「……キリカ?」

織莉子「どうしたの?朝からそんな騒いで……」

キリカ「ここ!ここだよ!」

織莉子「え?ここ?」

キリカ「あぁっ!ダメ!ダメ!動かないで!」

織莉子「え?えぇ?」

キリカ「動いたら潰れる!」

織莉子「潰れ……?え?」
268 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/26(水) 20:54:00.47 ID:Tw1rzQE90

織莉子「まさかキリカ。私が寝ている間に生卵を枕元に置いたとか……イタズラしてないでしょうね?」

キリカ「私がそんなことするわけないだろう!?動かないで!潰れるというか、潰される!」

織莉子「な、何?何なのよ?何が潰れるというの?」

キリカ「……よし、いいよ。そのままゆっくりと……ゆっくり動いてね」

キリカ「うん。織莉子。そんでもって横向いて。横。私の声のする方向に」

織莉子「キリカ。さっきから私に何をさせた……」

織莉子「……い……の?」

キリカ「ヤッホー」

織莉子「……え?」

キリカ「今の私がどういうことになってるか、わかった?」

織莉子「……ふぅ」

キリカ「どう?」

織莉子「……そうね。わかったわ。私、寝ぼけているのね。もう一眠りしようかしら」

キリカ「ゴロンッてしちゃダメ!織莉子!違う!」
269 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/26(水) 20:54:39.30 ID:Tw1rzQE90

キリカ「目の前に見えているのは現実!マジ!本当のことッ!」

織莉子「そんなことないわ……魔法でもない限りそんなことないもの……すぅ」

キリカ「オオオオオオオオオオリィィィィィィィィィィコオオオオオオォォォォォォォッ!」

キリカ「ORYYYYYYYYYYYYYYY!Cooooooooo!」

織莉子「…………」

キリカ「織莉子!私だってマジに何が起こってるのかわからないんだよ!」

キリカ「私の体が『小さくなった』ッ!」

織莉子「……ゆ、夢じゃなさそうね」


織莉子は舌の先を小臼歯で軽く噛み、痛覚があることを確認した。

その眼前――キリカの全身が映っている。キリカが枕の上に『立っ』ている。

手をパタパタ動かして存在感をアピールしている。

その大きさ、推定15センチ。

身長が約十分の一程になっている同居人がいた。
270 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/26(水) 20:55:40.38 ID:Tw1rzQE90

織莉子「……落ち着いた?」

キリカ「う、うん……」


キリカはテーブルの上にチョコンと立ち、織莉子を見上げる。

声はほとんど聞き取れないため、テレパシーを用いて会話をする。


織莉子「体が小さくなったのよね」

キリカ「うん」

織莉子「それで、私に潰されると危険を感じて起こした」

キリカ「うんうん」

織莉子「つまり、大きい……もとい、元のサイズの時は私のベッドの中に潜り込んでいたってこと?」

キリカ「……はい」

キリカ「エッチなことはしてないよ」
271 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/26(水) 20:56:39.47 ID:Tw1rzQE90

織莉子「…………」

織莉子「……まぁ、キリカだからいいけれども」

キリカ「温かくて柔らかくて素晴らしい匂いでした。はい」

キリカ「スー、スー、って寝息が心を安らげさせてくれたよ。うん」

織莉子「聞いてないわ」

織莉子「……それにしても」

キリカ「?」

織莉子「ふむ……」

キリカ「お、織莉子……?」

織莉子「……可愛い」
272 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/26(水) 20:57:19.68 ID:Tw1rzQE90

キリカ「なっ……!?」

織莉子「すごく可愛い。小さいキリカ可愛いわ」

織莉子「な、撫でてもいいかしら。人差し指で頭を撫でてみてもいいかしらっ」

キリカ「う、うぅ……」

キリカ(織莉子が私をなでなでしたいと言ってくれている……!)

キリカ(織莉子……可愛いよ。うずうずを抑えようとしてるけど全く抑え切れてない君の方が可愛いよ)

キリカ(ああ……嬉しい!だけどっ。嬉しいけどっ。いかんせん恥ずかしいっ!)

キリカ(本来なら「そんなこと言ってる場合じゃあない。私の体を元に戻す方法を考えてよ」とか言う場面だけど……)

織莉子「いけないかしら……?」

キリカ「……ど、どうぞ」

キリカ(織莉子にそんな顔をされて、なでなでされずにはいられない!)
273 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/26(水) 20:58:44.71 ID:Tw1rzQE90

織莉子「ありがとう。キリカ!」

織莉子「それでは、早速……」

ナデナデ

キリカ「は、はぅ……」

織莉子「どう?指重くない?」

キリカ「大丈夫だよ……優しいね……君は……」

キリカ(は、恥ずかしい……。だが、至福である……ッ!)

キリカ「も、もうちょっと重みをかけてくれていいよ」

織莉子「ありがとう。……これくらい?」

キリカ「……んっ、これ、いい」
274 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/26(水) 21:00:06.12 ID:Tw1rzQE90

織莉子「まるで小動物……癒されるわ……!」

織莉子「ねぇキリカ。そのまま私の中指にしがみついてみて」

キリカ「こ、こう……?」

ギュッ

織莉子「…………」

キリカ「…………」

織莉子「いい……!」

織莉子「その表情グーよ。キリカ。素晴らしいわ。顔を真っ赤にして中指にしがみつくその様。いいわよ」

織莉子「まるで初恋の人と手を繋ぐ想像をして恥ずかしくなっている少女が枕を抱きしめて自分の気持ちを自分で誤魔化しているかのよう。素晴らしいわ!」

織莉子「胸がキュンと揺れるこの感覚。これが世に言う『萌え』というものなのね……!」

キリカ「お、織莉子にそんな一面があるとは思わなかったな……」
275 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/26(水) 21:01:31.89 ID:Tw1rzQE90

織莉子「幻滅して嫌いになった?」

キリカ「……大好き」

織莉子「ふふ、子供の頃……金魚とか猫とか飼ってたことあるけどあなたが一番きゃワイイわ」

キリカ「金魚と同列に語られた!?」

織莉子「そんなことはないわ。例え話よ。た・と・え・よ」

織莉子「写真。撮らずにはいられないわ」

織莉子「そういえば子どもの頃に遊んでいたお人形まだあったかしら……」

織莉子「キリカにあのフリフリエプロンドレスを着てもらわないと今夜は安眠できそうにないわ」

織莉子「あぁ、忙しくなるわ」

キリカ「…………」

織莉子「ご、ごめんなさい。悪ノリしてしまったわ」
276 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/26(水) 21:02:33.11 ID:Tw1rzQE90

織莉子「コホン……それで?これは何という魔法なの?」

キリカ「魔法?いやいや、違うんだよ織莉子」

織莉子「?」

キリカ「私もよくわからない内に小さくなっていたんだよ……」

織莉子「え?」

キリカ「もう一度言うかい?『いつの間にか小さくなっ』てた」

織莉子「てっきり私は、新しい技を開発したはいいけど戻れなくなってしまったのかと思ったのだけれど……」

キリカ「ねぇ、私はどうすればいいかな?」

織莉子「当人がわからないと言うなら私がわかるわけなじゃない……」

織莉子「……もしかしたら魔女の仕業かもしれないわ。何か心当たりは?」

キリカ「ない。起きたら小さくなってた」
277 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/26(水) 21:03:23.56 ID:Tw1rzQE90

キリカ「足の咬み傷の他に、腕に何か『切り傷』もできてるし……ほら、この腕」

織莉子「ほらと言われても小さくて見えないわ……」

織莉子「まさか、寝ている内に魔女の呪いが……?」

キリカ「どうしよう。こんな体じゃキスしてなんて言えないよ……」

織莉子「別に小さくなったからキスできないなんてことはないわよ」

キリカ「してもいい?」

織莉子「考えておくわ」

織莉子「しかし参ったわね。本当に戻れないと言うのなら……写真撮ってる場合じゃないわね」

キリカ「どうしよう織莉子」

織莉子「キリカ。服を脱ぎなさい」

キリカ「え?」

織莉子「魔女の口づけでもついてるんじゃないかしら。ほら、脱いで」
278 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/26(水) 21:04:29.98 ID:Tw1rzQE90

キリカ「えっ、ちょ、ま、待ってよ……!」

織莉子「腕に切り傷があると言ったわね。もしかしたら口づけでなくても他にそういう傷がついてるのかも……」

キリカ「ぬ、脱ぐなんて……それも織莉子の前で……恥ずかしいよ……」

織莉子「別にあなたの裸が見たいってわけじゃないのよ。ほら、早く」

クイッ

キリカ「わっ、やっ、やめてっ!人形みたいな感覚で脱がせようとしないで!じ、自分で!自分で脱げるから!」

織莉子「あなたが小さいままだと、救世が……いずれにしても呪いは解かなければならないわ」

キリカ「あン!織莉子!もっと優しく。それはダメ!ダメェん!」

織莉子「ちょっと!変な声出さないで!」

キリカ「ああン!優しくして、優しく!服を脱がさないでッ!感じる!いやぁん、ダメ!」

織莉子「何を感じると言うのよ!」

キリカ「ひゃ、ひゃぁッ!」


スパンッ
279 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/26(水) 21:05:44.90 ID:Tw1rzQE90

織莉子「……え?」

キリカ「……ん?」

織莉子「…………」

ボタリ、ボタリ

キリカ「な、何の音……?」

織莉子「何が……起こったの……?」

キリカ「え……」

織莉子「指が……」

キリカ「あ……?」

キリカ「ど、どう……して……」

織莉子「一体何が……」

キリカ「織莉子の……織莉子の指が……」

キリカ「『無い』……ッ!?」
280 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/26(水) 21:07:39.95 ID:Tw1rzQE90

キリカの服をつまんでいた、織莉子の左手人差し指、親指の一部。

それらが無くなった。

『切れ』たのではなく『無くなっ』た。

その跡から鮮血が流れ出る。織莉子は指のあった跡を押さえる。

キリカは織莉子の骨を見てしまった。血でテーブルが汚れてしまった。


織莉子「……!」

キリカ「ま、まさか……私がやったのか!?」

キリカ「わ……私は何も……何もしていない!どうして……!」

キリカ「無意識の内に……斬っちゃったのか!?」

織莉子「何で……指が……」

キリカ「お、織莉子!わ、私は本当に何もしていないんだ!私が織莉子にそんなことするはずがない!」

織莉子「えぇ……わかって……いるわ……」

281 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/26(水) 21:08:29.60 ID:Tw1rzQE90

織莉子(キリカの爪で斬られたというのであれば……切断された指があるはずだけど……)

織莉子(しかし……それらがない)

織莉子(しかも、本当に断たれたのかはわからないけれど……この断面)

織莉子(断ったという感じじゃあない)

織莉子(そもそも服を脱がせようと少し悪ノリをしてしまったとは言え……)

織莉子(あのキリカが私を攻撃するなんてあり得ない)

織莉子(それは私がよくわかっている)

織莉子(とにかくこの傷は魔法で治療するとして……何が起こったのか、頭の中を整理したい)

織莉子(キリカが小さくなり……私の指が消えた……)

織莉子(その二つに関連性も共通点も見出されない)
282 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/26(水) 21:10:28.27 ID:Tw1rzQE90

織莉子(と、いうことはこの二つはそれぞれ別の……)

織莉子(別の……何だというの?)

織莉子(魔女か使い魔の仕業……?)

織莉子(それは考えにくい……)

織莉子(キリカから魔女・使い魔の結界に入ったという報告を受けていないし、私も感じていない)

織莉子(あったとしてもついこの間の……空がピンク色な使い魔の結界くらいか……)

織莉子(でも、もしそれが原因ならもっと早くに影響があるはずだ)

織莉子(キリカの身に一体、何が……!)

織莉子(そして、私の指は一体どうし――)

283 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/26(水) 21:12:48.22 ID:Tw1rzQE90

織莉子「――ハッ!」

織莉子「キ、キリカッ!」

キリカ「えッ?!何ッ?!」

織莉子「その『頭に被っているもの』は何ッ!?」

キリカ「へ?」

織莉子「それは何なのかと聞いているのよッ!」

キリカ「え!?え!?私は何も被ってないよ!?」

織莉子「き、気付いていない!?ちょっと待って……!」

織莉子「ほら、これ!鏡……!」

キリカ「まさかコンパクトミラーを姿見として使う日が来ようとは……」

キリカ「うわァッ!?な、何だこれェ!」

284 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/26(水) 21:14:48.09 ID:Tw1rzQE90

キリカの頭に『フードのようなもの』が被さっていた。

角の生えた頭蓋骨の上顎の上に、黒い布が被さっているような何か。

その眼窩の位置には、黄玉のような眼球らしき物が埋め込まれている。


キリカ「……な、何だ?この……なんて言うか……」

キリカ「頭蓋骨を頭に乗せてその上から頭巾を覆ったようなヤツは……」

キリカ「取りあえずこんな物被って人前に出れな……」

ガォンッ!

キリカ「うわおゥッ!?」

織莉子「なッ!?」


キリカが姿見に近づくと、それは『削れ』た。

鏡に、コルクの栓を抜いた後のような、くっきりとした円形の穴をあけた。
285 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/26(水) 21:16:18.97 ID:Tw1rzQE90

キリカ「ああ……!な、何かわからないけどゴメン!高かったでしょこれ!?」

織莉子「鏡のことより自分の心配を……」

キリカ「むッ!?」

織莉子「ん?」

キリカ「何だ『おまえ』はッ!いつの間にいたッ!」

織莉子「ちょ!?な、何!?」

キリカ「織莉子!危ない!後ろだ!」

織莉子「後ろ?」

織莉子「――なッ!?」

織莉子「こ、これは……!」

キリカ「織莉子から離れろー!」

286 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/26(水) 21:17:43.65 ID:Tw1rzQE90

織莉子の背後に、人型の「何か」がいた。

右人差し指に鋭い爪が生えている、ロボット風デザイン。

よく見ると背後の壁が透けて見える、半透明の像。

左手の親指と人差し指と思われるパーツが欠損している。

しかし、織莉子の指の治療を終えると同時に、欠損していたパーツが元に戻っていった。


織莉子「…………」

キリカ「織莉子!離れてッ!小さい私では対処ができないッ!」

織莉子「あ、なたは……」

キリカ「織莉子!離れろと言うんだ!早く!何かヤバイ!こいつッ!」

織莉子「…………」

キリカ「何故離れないッ!?お、織莉子ォォ――――ッ!」

287 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/26(水) 21:18:30.12 ID:Tw1rzQE90

キリカは必死に叫ぶ、

しかし織莉子は黙って背後の『何か』を見つめたまま動かない。

「まさか、体を麻痺させているのか!結界を持たない使い魔が存在するのか!」

とキリカは思った。


織莉子「…………」

キリカ「――あれ?」

キリカ「……え?」

キリカ「なッ?!」

キリカ「お、織莉……子……?」

キリカ「わ、私……私の体が……」
288 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/26(水) 21:19:56.09 ID:Tw1rzQE90

キリカは自分の目を疑った。

下から見上げていた織莉子の顔が、今は視界の下にある。

小さくなった次は大きくなったのか、とキリカは思った。

しかし、自身の腕の太さと織莉子の首の細さ。その比率は正しい。

デッサンが狂ったようなことはない。


キリカ「も、元の大きさに戻っている……!?」

織莉子「キリカの大きさを『元に戻し』た……」

キリカ「え?え?ええ?」

織莉子「キリカ。落ち着いて聞いて」

キリカ「わ、私にもわかるように説明してよ!」
289 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/26(水) 21:22:03.59 ID:Tw1rzQE90

織莉子「えぇ。そのつもりよ」

織莉子「いい?これは敵ではない」

キリカ「……もし敵なら既に攻撃してるはずだもんね」

織莉子「あとテーブルから降りなさい」

キリカ「あ、はい」



――
――――

織莉子「――と、いうことだと、私は推測する」

キリカ「えっと……つまり……その……」

キリカ「どゆこと?」

織莉子「そうね……もうちょっと噛み砕いて言うと……」
290 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/26(水) 21:23:33.18 ID:Tw1rzQE90

織莉子「私達は何やら不思議な能力に目覚めた。恐らく、今朝か昨夜に。魔法とは別物」

織莉子「さっきの騒動、私の指が無くなったのも、あなたが小さくなったのも、それが原因」

織莉子「この像は超能力を絵でイメージ化したようなもの……」

織莉子「世間一般的に超能力はビルを崩したり、光や電気のようなものでパワーの強さを表現するでしょう?

織莉子「今ので言えば、破壊と縮小とでも言おうかしら」

織莉子「これは……それ自体を表現した像」

織莉子「私の能力はこの背中にいる人(人型というだけで人には見えないけど――)が爪で傷つけたものを『小さく』する」

キリカ「私の能力は……このフードっぽいヤツのせいだね」

キリカ「触れたものを消滅というか粉微塵にするにするというか、そんなことしちゃう空間を創造する」

キリカ「『暗黒空間』とでも呼ぼうかな」

織莉子「……まぁ、好きにお呼びなさいな」
291 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/26(水) 21:25:10.70 ID:Tw1rzQE90

織莉子「考えられる要因は一つ……」

織莉子「いつぞやの結界でついた咬み傷でしょうね。タイミング的にそれで私は高熱を出したわけだし」

キリカ「それ以外にないね」

織莉子「キリカを裸にして確かめたから魔女の口づけでは決してない」

キリカ「お、思い出させないでよ……」

キリカ「でも私は熱出してないんだよね」

織莉子「そればっかりは『個人差がある』としか言いようがないわね」

織莉子「この能力は魔女の呪いではないのかしら……?」

キリカ「魔女の口づけならぬ咬み傷ってとこかな?」

織莉子「かな?って私に聞かれても……私だって理解が超えているもの」

織莉子「まず言えるのは――」
292 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/26(水) 21:26:01.14 ID:Tw1rzQE90

織莉子はこの能力に関しての意見をまとめた。


@この能力は、魔女の呪いの類と考えられる

Aこの能力は自身の意志に呼応して操ることができる

B害はない……多分、きっと

C魔法少女に変身するような感覚で、能力のON/OFFを切り替え、体内に「収める」ことができる

D肉体が傷つくと能力の像も傷つく(人型なら部位相応。そうでない場合どうなるかは不明)

Eおそらくその逆も然り


織莉子「――どうかしら?何か意見は」

キリカ「うん。私からは特に異論なし。そんなとこだろうね。……でも収めるって?」

織莉子「だってそうとしか表現しようがないもの」

キリカ「ふーん。魔女の呪いか……じゃあ魔女を倒さないとマズイね」
293 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/26(水) 21:27:52.25 ID:Tw1rzQE90

織莉子「……そうかしら?」

キリカ「え?マジで言ってるの?」

織莉子「使いこなせば、きっと役に立つわ」

キリカ「そうかなぁ」

織莉子「……何となくだけど、もう一人の自分って感じがしない?」

キリカ「もう一人の自分……?」

織莉子「そう。あのときの魔女がトリガーだとすればほんの数日前になるけれど、まるでずっと前からいたような」

キリカ「わ、私は嫌だよ!」

キリカ「眼帯付けて髑髏被って暗黒空間を操り爪を武器とする黒い魔法少女……」

キリカ「挙げ句の果てに必殺技の名前がヴァンパイアファングゥ〜?中二病もいいとこだよ!ファングって牙じゃん!」

織莉子「……それは、『それ』のせいなの?」
294 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/26(水) 21:29:01.69 ID:Tw1rzQE90

織莉子「まぁそのあたりは己が精神と『共鳴』したとかそういう理屈で」

キリカ「うぅ〜ん……」

キリカ「何にしても、何て言えばいいんだろうね?これ」

キリカ「サイコキネシスとかテレポートとか、超能力には名前があるだろう?」

織莉子「それもそうね。……ちょっと『予知』してみるわ」

キリカ「え?何で?」

織莉子「いつかこの能力が理解できることを前提として、予習するのよ」

織莉子「例えるなら推理小説を読む際に終盤の方を先に読んで犯人を確認してから読むかのような」

キリカ「犯人が先に分かっている推理物って……刑事コロンボみたいな?」

織莉子「それとこれは違うわ」
295 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/26(水) 21:31:32.36 ID:Tw1rzQE90
――
――――

未曾有のスーパーセルにより見滝原のほぼ全域が壊滅した。


災害により住民のほとんどが犠牲となった。

最も被害の大きかった地域では、生存者はたった一名のみ。

瓦礫の山の上で一人俯き跪く、眼鏡をかけた三つ編みの少女。

傍らには一つの遺体が置かれている。顔はわからない。

少女は視線を地面から空に移し、大きく、太く、不格好で、逞しい絶叫をあげた。

少女の魂はドス黒い物に変化する。

そして、背中から黒い光が放たれた。
296 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/26(水) 21:33:48.45 ID:Tw1rzQE90

少女の姿を見つけ走り寄ってきた自衛隊員が、ネジの切れた玩具のように突如倒れる。

瓦礫の臭いを嗅ぎ廻っていたシェパードは突然眠りだし、蛾はポトリと地面に落ちる。

似たような光景が、一つの結界を中心に広がっていく。


「二日でこの国全体。一週間でアジア一帯。十日で世界」

「全ての生命の魂が消滅してしまうだろう」

「彼女の素質ではそんな芸当はできない上に、エネルギー回収率が想定値よりも低い……」

「まさか、僕には見えないが『――――』がエネルギーを吸い取って変化したとでも言うのだろうか」

「全く……困ったものだね。『――――』というものは……」

白くて丸い尻尾はそう呟き、瓦礫の隙間に消えた。


――織莉子は、崩壊する世界の前奏曲を見た。

この未来を訪れなくすることが、織莉子の生きる意味。
297 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/26(水) 21:35:10.21 ID:Tw1rzQE90
――――
――


織莉子「…………」

キリカ「……どう?」

織莉子「予知が……」

キリカ「うん?」

織莉子「予知が変わった……」

キリカ「え?」

織莉子「キリカ……私の予知、覚えてるわよね?」

キリカ「うん。『暁美ほむら』って転校生が『魔女』になって『世界』を滅ぼす」

織莉子「そう……その通りよ。今、私が見たのもそうなっていた。でも……」

織莉子「『一部』違っていた」

キリカ「うん……?ごめん。何を言ってるのか理解できない」
298 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/26(水) 21:38:34.75 ID:Tw1rzQE90

織莉子「……疑問に対する答えから言うわ」

織莉子「私達の持っている能力……小さくするのと粉微塵にするのは『スタンド』という名前で、超能力のようなものらしいわ」

キリカ「スタンド」

織莉子「そう。魔法とは違う……精神、あるいは生命のエネルギー。パワーある像(ヴィジョン)……」

織莉子「このスタンドは、スタンドを扱える人間にしか見えないそうよ」

キリカ「しろまるじゃあるまいし……」

織莉子「とにかく『そう』なのよ。魔女の呪いと断定するに足りる物は見えなかったけど」

キリカ「で、そのスタンドと世界を滅ぼす魔女とどう関係するの?」

織莉子「えぇ。話を戻すわ」

織莉子「魔女になった暁美ほむらが世界を滅ぼすという予知……それは今見ても正しい」

織莉子「しかし、前見た時は私はスタンドは見えなかった。その時に視認できない物は予知の映像でも見えないようね」

キリカ「…………それって」
299 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/26(水) 21:39:38.68 ID:Tw1rzQE90

織莉子「そうよ……私も、まさかとは思った……」

織莉子「暁美ほむらの背後から、私の『これ』と同じように……」

織莉子「黒いプラスチックのような翼だか触手だか、そんな感じの物が浮き出てきたわ」

織莉子「魔女になるにつれて、それは太くなって長くなって本数が増えていった」

織莉子「つまり!魔女になった『暁美ほむらのスタンドが世界を滅ぼす』というのが正確な答えだったのよッ!」

キリカ「な、何だってー!」

織莉子「もっと正確に言えば、『暁美ほむらのスタンド』が魔女になる過程で『世界を滅ぼす存在となる』ということッ!」

キリカ「……パワーアップするってこと?」

織莉子「えぇ……全ての生命を滅ぼしていった」

織莉子「まるで魂を天国に導いていくような……進化と言うより、変化したスタンド」
300 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/26(水) 21:41:16.48 ID:Tw1rzQE90

織莉子「世界への鎮魂歌……『レクイエム』とでも、呼びましょうか」

キリカ「暁美ほむらの……スタンドがパワーアップして……『レクイエム』になる」

キリカ「暁美ほむらのレクイエムが世界を滅ぼす……!」

織莉子「私にはそう見えた。そして、そう理解した」

織莉子「どちらにしても暁美ほむらの魔女化だけは阻止しなければならない。それはレクイエムを阻止することになる」

織莉子「……レクイエムの発動条件がわからない以上、それを止めるのは難しいものがある」

織莉子「ましてや現段階では私達と同じように、スタンドが使えるかもわからない」

織莉子「仮にまだスタンドに目覚めていないとして……あの使い魔を殲滅するにも時間が経ちすぎて居場所がわからない」

織莉子「私達の時は使い魔が単体で現れた、使い魔の結界だった……既に同じような使い魔が分散されていると考えてもいい」

織莉子「どちらにしても暁美ほむらを抹殺(エリミネート)する以外に道はない」

キリカ「以外も何も、最初からそうするつもりだったけどね」

織莉子「まぁそれはそうだけれども……」
301 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/26(水) 21:42:12.31 ID:Tw1rzQE90

キリカ「よく考えたらこれってタイムパラドックスってヤツじゃない?」

織莉子「細かいことは気にしないのよ」

織莉子「そんなことより、名前を考えておいてね。キリカ」

キリカ「名前?」

織莉子「そう。いつまでも超能力だスタンドだと呼ぶわけにもいかないわ」

キリカ「この髑髏頭巾に名前をつけろって?」

織莉子「そういうこと言わないの。これから付き合い長いんだろうから」

キリカ「うへぇ……」

キリカ「うーん……」

302 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/26(水) 21:44:11.80 ID:Tw1rzQE90

キリカ「……ねぇ、織莉子。今日のおやつは?」

織莉子「え?どうしたの?いきなり」

キリカ「おやつはなぁに?」

織莉子「……アイスクリームがあるわ。バニラ味」

織莉子「と言うよりあなたが買ってきたんじゃないの」

キリカ「あれ?そうだっけ?……あぁ、そうだった。パニクってる内にうっかりしちゃってたよ」

織莉子「あなたがつまみ食いしてない限り、そのアイスがおやつになるわね」

キリカ「してないよ……」

キリカ「うん、じゃあこの能力はアイス、いや……『クリーム』って呼ぶよ」

織莉子「『クリーム』……そんな決め方でいいの?」

キリカ「いいんだって」

キリカ「何も子どもや会社の名前を決めるわけじゃないんだ」
303 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/26(水) 21:46:40.56 ID:Tw1rzQE90

キリカ「こういうネーミングはパパッと決めるのが丁度いい」

キリカ「使ってるうちに定着していくものさ」

織莉子「そういうものかしら?」

キリカ「いいのいいの。見た目がホラーだからせめて名前だけでも可愛くってね」

織莉子「そう」

織莉子「じゃあ、私のスタンドも簡単に決めてしまおうかしら。ふむ……」

織莉子「爪で傷つけるだけで小さくしてしまうから……」

キリカ「スモールライトとかガリバートンネルとか」

織莉子「んー……」

キリカ「まさか織莉子に無視される日が来ようとは」

織莉子「リトル(小さい)……フィート(妙技)」

織莉子「『リトル・フィート』と呼ぶことにするわ」

304 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/26(水) 21:50:26.49 ID:Tw1rzQE90

キリカ「『リトル・フィート』……織莉子っぽいようなぽくないような」

織莉子「使っているうちに定着していくものでしょ?」

キリカ「ん。それもそうだね」

織莉子「それにしても……」

キリカ「?」

織莉子「私の能力が爪だなんて……面白い偶然じゃない?キリカ」

キリカ「…………うーん」

織莉子「どうしたの?」

キリカ「……ごめん。クリームと織莉子の共通点が全く思いつかないや」

織莉子「キリカ……あなた変な所に拘るのね」
305 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/26(水) 21:51:58.99 ID:Tw1rzQE90

キリカ「あ、そうだ。織莉子」

織莉子「何?」

キリカ「もう一度私をリトル・フィートしてよ」

織莉子「え?どうして?」

キリカ「そしてアイスを持ってきて!」

織莉子「……あなた、まさか」

キリカ「ねぇ頼むよ!小人になって巨大スウィ〜ツを食べるってのが小さい頃の夢だったんだよ!」

キリカ「プリンに抱きつきたいとかジュースの中で泳ぎたいとか思ったもんだよ」

織莉子「そんな腹ぺこキャラみたいなことを……アイスを食べ過ぎると体冷やしてお腹壊すわよ」

キリカ「大丈夫だって。いざって時は魔法という便利なものがあるんだから」

織莉子「そういうのに魔法は……と言いたいところだけど私も昨日の高熱の件があるから強く言えない……」
306 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/26(水) 21:52:36.38 ID:Tw1rzQE90


キリカ「お願いだ織莉子!巨大おやつは全甘党の夢なんだ!」

織莉子「聞いたことないけど……仕方ないわね。体冷やし過ぎちゃダメよ」

キリカ「わぁい!織莉子大好き!」

織莉子「そうそう。キリカ。今度の休日は予定を空けておいてね」

キリカ「もちろん織莉子以外の誘いは全部断るさ」

織莉子「『風見野』に行くわよ」

キリカ「……風見野?」

織莉子「そこに、会うべき人がいるわ」

キリカ「……そっか」
307 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/26(水) 21:55:33.71 ID:Tw1rzQE90
今回はここまでです。

スタンドに食べられるという表現が難しい。……という理由でクリームにはフード状になってもらいました。
ダサいと言われてるけどあくまで演出上の感性です。あのデザイン個人的に割と好きです。
ガォンガォン


あと>>258の「間接キス」を「関節キス」と変換ミスしました。こういう間違い恥ずかしい。
308 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/26(水) 21:57:38.05 ID:qFwvlIBNo
右肘左肘交互にキス

309 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/26(水) 21:59:26.12 ID:pMRAK/mDO
股関節にキッスしてもらいたい
310 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/26(水) 22:17:03.12 ID:lDwLr09E0

小さい=リトルフィートがすぐに出てきたけれど、
織莉子のキリカへの反応からグーグードールズかとも思ってしまったww
311 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/12/26(水) 22:56:16.71 ID:zacmNkiAO
チートスタンドがでてきよった!?
おりキリ勝ち確じゃね?

しかし誰に何を抜擢させるか予想がつかない……
こりゃさやかに銀チャリ乙みたいな、安直な考えは通じなさそうだ
312 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/26(水) 23:08:58.94 ID:CSLGWD9Ko
>>311
サバイバー(小声)
313 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/26(水) 23:51:21.60 ID:8jV8GfVI0

やはりおりキリはいい、心が洗われるようだ

>>311
エアロスミスとか…最高に『舞い上がっちゃってますね〜』ってヤツじゃぁないですかね…ふふっ
314 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/27(木) 00:35:46.76 ID:6pTb6Hi00

リトルフィートということは自身も縮められる → よし!日本酒風呂だッ なしょうもない想像もしてしまったけれどなんともないぜ
315 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/27(木) 02:41:18.23 ID:IIuilU2Z0
>>311
さやか「あたしってホント馬鹿……死にたくなってきた」
316 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 14:31:46.52 ID:lH0vbrgD0

#7『猫は千歳ゆまが好き』



――風見野


「千歳ゆま」は、最近不思議に思っていることがある。

今、魔女を狩りに出かけている佐倉杏子の帰りを待っている。

疑問に思っていることとは、魔法少女のこと、魔女のこと。

何故か最近。他の地域から魔法少女がよく来るようになった。

ある人は杏子に決闘を挑み、ある人は杏子を挑発する。

ある人は有無を言わさず杏子を攻撃する。杏子はそれによりケガもする。

一方で杏子は争うことが嫌いらしく、いつも同じ対応をしている。

「あそこの廃教会にグリーフシードが置いてあるから持ってっていい。だから帰ってくれ」

現れた魔法少女の目的はグリーフシードだった。
317 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 14:33:13.87 ID:lH0vbrgD0

譲歩を受けた魔法少女は言われた通りに廃教会へ行くのだ。

杏子も少し遅れて後を追う。

不思議なことはその後に起こる。

魔法少女を追い返した十数分後、早くて数分後に必ず「魔女」が現れるのだ。

場所も同じ、かつて杏子が暮らしていたという廃教会。


魔法少女が現れ、廃教会へ行き、魔女が現れる。

同じ光景を、ゆまは何度も目撃した。

杏子に尋ねてみた。

「気にするな。あいつらを囮にして魔女を誘っているのさ」

「あそこは魔女スポットなんだ。だから気にするな」

と、返ってきた。ゆまは魔法少女でないため事情がわからない。

そのため二つ返事で納得した。
318 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 14:36:52.40 ID:lH0vbrgD0

キュゥべえという猫とも犬ともつかない生き物曰く。

「ゆま。君には魔法少女の素質がある。杏子と同じだ」

「何か、願いはあるかい?魔法少女になる代わりに、叶えてあげられる」

「僕と契約して、魔法少女になってよ!」

杏子はすぐに追い返し「あいつの言うことは聞くな」と言った。


しかしゆまは、魔法少女になれるという事実が嬉しかった。

自分も、杏子と同じ存在になれる、と。

杏子みたいに、強くて格好いい魔法少女になれる、と。

その上、自分の願いまで叶うのだ。

良いことずくめとはこういうことを言うのだと思った。
319 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 14:37:48.02 ID:lH0vbrgD0

恩返しができる。役に立てる。

母親から「役立たず」と罵られてきたゆまにとって、そのことはどんなに嬉しいことか。

かつて「ゆまも魔法少女になってキョーコの役に立ちたい!」と言ったことがある。

すると、杏子は「ふざけたこと言ってんじゃねぇ!」と怒鳴る。

何回も同じことを言った。

「危ないからダメ」「なりたいなんて思うもんじゃねぇ」

「何を願うつもりだ?え、あたしを死なせないように?バーカ」

「痛くて怖いぞ。やめとけ」「絶対に泣くし後悔するぞ。やめろ」「しつこい」「いいから寝ろ」

止められた。

ゆまにしてみれば、その理由はよくわからなかった。

力にならなければと思う反面、杏子が言うのであればしかたがないという気持ちがあった。

もどかしい気持ちになった。どうすればいいのだろう。
320 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 14:40:43.06 ID:lH0vbrgD0

ゆま「はぁ……」

「……何を落ち込んでいるんだい?」

ゆま「あ、キュゥべぇだ。また来たの?」

QB「君と杏子のことが気になって、来てみたよ」

ゆま「そうなんだ」

QB「それで、何か悩んでいるようだけど?」

QB「溜息と吐くということは、悩みがあるということだ」

ゆま「うん……」

QB「契約のことかい?」

ゆま「うん……」
321 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 14:49:17.61 ID:lH0vbrgD0

ゆま「ゆま、魔法少女になって、キョーコの役に立ちたい」

ゆま「でも、キョーコはなっちゃダメって言う」

QB「杏子が何て言おうと、素質がある以上君には権利がある」

ゆま「でも……キョーコが……」

ゆま「キョーコはね……ゆまを心配してくれてるのよ」

QB「…………」

QB「いいのかい?君は甘く見られているんだと思うよ。この僕は」

ゆま「甘い?」

QB「うん」
322 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 14:52:10.32 ID:lH0vbrgD0

QB「君はまだ幼い」

QB「杏子は君が足手まといになると思っているんだ……と、僕は推測する」

ゆま「…………」

QB「しかしだね、ハッキリ言って、君の素質そのものはなかなかなものだよ」

QB「要するに、契約すればその時点で君は結構な強さの魔法少女になれるってことさ」

QB「少し訓練さえすれば、ついていけるはず」

ゆま「そ、そうかな?」

QB「僕個人の意見としては、二人で戦った方がその分、杏子が死ぬ確率が下がる」

QB「変わりに君が死ぬ確率が生まれてしまうけど……」

QB「確かに魔女狩りが辛いことであるのは事実ではある。無理強いはできない」
323 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 14:53:04.50 ID:lH0vbrgD0

ゆま「…………」

ゆま「キョーコ……死んじゃうの?」

QB「可能性だよ」

QB「何でも最近は縄張りを狙う魔法少女が現れるそうじゃあないか」

QB「しかも、スタンドという概念がこの世に生まれたらしい」

QB「その分、杏子は大変な思いをするだろうね」

ゆま「…………」

QB「尚更君の助けが必要になるかもしれないね」

ゆま「…………」

ゆま「ゆまが……ゆまが強くなったら……」
324 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 14:55:33.81 ID:lH0vbrgD0

ゆま「ゆまが魔女と戦うのに役立てれたら……」

ゆま「ゆまが魔法少女を追い払うの手伝えたら……」

ゆま「ゆまがキョーコを助けられたら……」

ゆま「キョーコもきっと、喜んでくれる……かな」

QB「そうかもしれないね」

ゆま「…………」

ゆま「それなら……」

ゆま「それなら、ゆま……!」

ゆま「ゆまは……!キュゥべえ……!」


初めてゆまは、約束よりも欲求を優先した。

魔女と戦うだけでなく、魔法少女とも「ケンカ」をする杏子。

ケガをする杏子。ゆまは見るに耐えなかったのだった。


――それだけではない。
325 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 14:57:25.07 ID:lH0vbrgD0

十分程前。ゆまの前を横切った二人組がいた。

銀色サイドテールの少女と黒色ボブカットの少女。

「佐倉杏子ってどんなヤツなんだろ」

「会ってみないとわからないわ」

と、いうような会話を二人はしていた。

魔法少女であることはすぐにわかった。

ゆまは、この二人から『嫌な予感』を感じ取ったのだった。

特に、背が高い方の少女から「それ」を感じた。

遠からず近からず、この二人が自分たちに害を与えるかもしれない。

そんな気がした。

何となくでしかないこの直感。

今でこそ、それもゆまの決断を後押しする要因となってしまった。
326 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 14:58:57.98 ID:lH0vbrgD0


ゆまを待機させている公園から少し離れた――廃教会。

その庭にあたる場所。

そこに杏子はいた。


杏子のスタンド能力『シビル・ウォー』

相手に罪悪感を逆撫でする幻覚を見せる能力。

幻覚を生み出す空間を支配する能力。

シビル・ウォーに捕らわれたら、魔法少女は自らの罪悪感に耐えきれずに絶望する。

魔法少女は――絶望すると魔女になる。

杏子は、その魔女を倒してグリーフシードを量産している。


一体の魔女を少し苦戦しつつも力ずくに倒した後――杏子は考える。
327 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 15:00:34.70 ID:lH0vbrgD0

この廃教会……。

『シビル・ウォー』を展開する舞台として利用しているが、あたしにとってはその程度でありそれ以上の場所。

ここが好きな場所なのか嫌いな場所なのか……シビル・ウォーを手に入れてからかな。悩むようになったのは。

ここは、貧しいながら幸せだと感じていた思い出の場所だ。だが、今は魔女を養殖する場所にしているわけだ。

何となく矛盾している気がする。


杏子「あたしにとって……ここは何なんだろうな」

杏子「……親はともかく……モモには申し訳ないと思う」

杏子「ともかくって……あたし、自分の父親のことをどう思っていたっけ」

杏子「見下していたか、恨んでいたか、なんやかんやでそれなりに慕っていたか……」

杏子「自分で言っててちゃんちゃらおかしいが、自分の気持ちが、わかんねぇんだよな……」

杏子「最近……何とも言えないモヤモヤした気分をよく味わう……後味の悪いことだ」

杏子「…………」
328 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 15:01:38.91 ID:lH0vbrgD0

杏子「何の用だ……?」

杏子「あたしの愚痴に付き合ってくれるってのはありがたいが……」

杏子「『無礼』という行為に相当するんだぞ?」

杏子「独り言を盗み聞きするってことはな……」

杏子「何者だ」


「…………」

「…………」

杏子「……何なんだ、あんたら」


「なぁんだ……バレてたんじゃん」

「流石……というべきね」
329 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 15:03:26.25 ID:lH0vbrgD0

「……私の名前は、美国織莉子。こちらは呉キリカ」

「よろしーく」

杏子「……何か用か?」

織莉子「私達は、ある目的を持ってしてあなたに会いに来ました」

杏子「何だ?あたしのグリーフシードでも欲しいのか?」

杏子「それともシンプルに殺し合いしに来たのか?」

キリカ「おぉ、怖い怖い」

織莉子「ご心配なく」

織莉子「私達は、そんなくだらない話をしにきたのではありません」

杏子「あん?」

330 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 15:04:31.87 ID:lH0vbrgD0

織莉子「単刀直入に言います」

織莉子「あなたに『協力を依頼』したい」

杏子「…………」

杏子「……は?」

キリカ「もう一度言う?協力してくれ、と言っているんだ」

杏子「話が読めないね」

杏子「何であたしが見ず知らずの他人に協力を願われなきゃいけないんだ?」

キリカ「黙って協力してくれりゃあ報酬だってくれてやるよ。グリーフシード何個欲しい?三つ?三つ……イヤしんぼめ!」

杏子「一人で何言ってんだこいつ」

織莉子「ごめんなさい。何だかさっきからテンション上がっててこの子」

キリカ(織莉子とお出かけ。それはとっても嬉しいなって)
331 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 15:05:32.49 ID:lH0vbrgD0

杏子「……何だか知らないが、今、あたしはグリーフシードに困っちゃいない」

杏子「かったるいことは嫌いなタチなんでな」

杏子「ってことでお引き取り願いたい」

キリカ「むぅ……ねぇ織莉子。ホントにこんなのが役に立つの?」

織莉子「巴マミを除くと、この辺りで名実ともに優れた魔法少女というは彼女くらいなのよ」

杏子「……!」

杏子「巴マミって、見滝原のか?」

織莉子「あら、知っているのですか」

杏子「あ、あぁ……ちょっとな……」

キリカ「それなら話しやすいね」

杏子「何なんだよ。あんたら。もしかして、マミの差し金か?」

織莉子「私達はむしろ、その逆ね」

杏子「逆?」
332 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 15:06:27.52 ID:lH0vbrgD0

織莉子「いきなりですが……あなたの未来をお話しします」

杏子「は?未来?いきなりなんだよ」

織莉子「私の固有魔法は予知」

杏子「生憎、あたしはそんなうさんくさい占いなんか興味ないんでね」

キリカ「失礼な。予知は占いなんかじゃないよ」

織莉子「あなたの未来を話す。と言ってるんです」

杏子「未来……」

織莉子「……『爆死』します、ね」

杏子「……は?」

織莉子「過程や方法は省かせていただいたけど、爆死するという未来が見えました。あなたの未来」

333 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 15:06:59.81 ID:lH0vbrgD0

織莉子「いきなりですが……あなたの未来をお話しします」

杏子「は?未来?いきなりなんだよ」

織莉子「私の固有魔法は予知」

杏子「生憎、あたしはそんなうさんくさい占いなんか興味ないんでね」

キリカ「失礼な。予知は占いなんかじゃないよ」

織莉子「あなたの未来を話す。と言ってるんです」

杏子「未来……」

織莉子「……『爆死』します、ね」

杏子「……は?」

織莉子「過程や方法は省かせていただいたけど、爆死するという未来が見えました。あなたの未来」

334 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 15:08:09.44 ID:lH0vbrgD0

キリカ「あぁ、あの魔女に殺される前に死ぬってことになるんだね」

杏子「何を言ってるんだよ?あたしが爆死ぃ?」

杏子「馬鹿言ってんじゃあねぇよ」

杏子「何か?爆弾を武器とする魔法少女の知り合いでもいるってのか?」

織莉子「細かいとこまでは読みませんが……」

織莉子「どういうことか、とにもかくにも、あなたは『爆発』で死ぬ」

杏子「…………」

織莉子「無論、私の予知する未来というのは私が『予知をしなかったらこうなるかもという可能性』に過ぎません」

織莉子「未来を知った上で行動すれば、私が干渉すれば、未来は変えられる。予知とは所詮、絶対的な物ではない」

杏子「何を言っているんだよ……怪しい壷は買わないぞ」
335 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 15:09:04.39 ID:lH0vbrgD0

織莉子「…………」

織莉子「元々、私はとある魔法少女が世界を滅ぼす魔女になるという予知を見ました」

杏子「は……?」

キリカ「聞こえなかった?どこぞの魔法少女が世界を……正確には全ての生き物をどうにかしちゃう魔女になる」

杏子「おい……それって……ど、どういう……」

キリカ「言葉通りさ。この際ハッキリ言わせていただく」

キリカ「ソウルジェムは穢れきるとグリーフシードとなり、魔法少女は魔女になる」

織莉子「要するに今まで倒した魔女は元魔法少女ということ」

織莉子「ショッキングな真実でしょうけど、落ち着いて聞いてください」

杏子「いや、それは知ってるよ」

キリカ「あ、あれー?」

杏子「あたしが気になったのは『世界を滅ぼす』って点だ」
336 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 15:10:38.24 ID:lH0vbrgD0

杏子「しかもワルプルギスの夜とかじゃあないんだよな。魔女に『なる』ってことは……」

織莉子「ワルプルギスの夜?」

杏子「何だ?知らないのか?」

キリカ「私達は結構ルーキーだからね。そういう情報には疎い」

杏子「それはいいとして、とにかく続きを聞かせろ」

織莉子「……失礼。話を戻しますと……予知で未来を知った上で行動すれば、未来は変えられると言いましたね?」

織莉子「私は暁美ほむらという魔法少女を、世界を滅ぼす魔女になる存在として抹殺するつもりでした」

織莉子「暗殺するのが一番手っ取り早く確実だと思っていました」

織莉子「……そして私達はある力に出会った。いつの間にか、です」

キリカ「スタンドって知ってる?」

杏子「ああ……あたしもいつの間にかに身に付いてたな。スタンド」

織莉子「そうですか。それなら話がもっと早くて助かります」
337 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 15:12:10.41 ID:lH0vbrgD0

織莉子「そして、その後私はもう一度予知をした。そしたら違う未来が見えました……」

織莉子「その予知は『暁美ほむらにスタンドが目覚めていて、魔女化に伴ってそのスタンドが進化し世界を滅ぼす』というものだった」

織莉子「スタンドはスタンド使いにしか見えない。だから、予知では見えなかった新事実」

織莉子「……いえ、スタンドではない。スタンドを超えた何か」

キリカ「私達は個人的にレクイエムと呼んでいる」

杏子「スタンドの先……レクイエム……」

織莉子「とにかく、彼女のレクイエムは世界を無にしてしまいます」

織莉子「レクイエムを発現させた以降の未来を予知できないのは多分、私が死ぬため……」

杏子「……何か?スタンド使いの魔法少女が魔女になると、レクイエムってのになるのか?」

キリカ「さぁ?」

杏子「さぁ?って……どういうことだ。何故わからない」

織莉子「私が見たのは、レクイエムが発現するという『結果』だけ」
338 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 15:15:24.15 ID:lH0vbrgD0

織莉子「あくまで『何らかの方法』で、暁美ほむらのスタンドはレクイエムになるということです」

織莉子「魂が魔女へと変貌する際に生じるエネルギーか何かを吸収する、というのが仮説」

織莉子「なら、私達も魔女になったらスタンドが進化するのか?それはわからない」

キリカ「適当にしょっ引いて魔女にしてみるテスト。だなんてわけにもいかないからね」

杏子(……ほむらってヤツが特別なんだろう……既にあたしはスタンド使いを魔女にしたことがあるからな)

杏子「……つまり、簡単に言うとあんたらはこう言いたいのか?」

杏子「世界を救う手助けをしてくれと」

キリカ「ざ、雑なまとめ方だなぁ」

織莉子「まぁ、そうですね。概ねその通りです」

織莉子「予知は、現段階で『予知をしていなかったら起こりうる未来』を見ることなんです。しつこいようですが」

キリカ「つまり、未来は変えられるというわけだ。見れるのは未確定の未来」
339 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 15:19:32.44 ID:lH0vbrgD0

織莉子「私達二人では、未来を変えるのは難しいのです」

織莉子「あなたは世界を滅ぼす魔女になるのでなんとかならないでください。スタンドを持たないでください……と言うわけにもいかない」

織莉子「……だから抹殺する」

織莉子「しかし、暁美ほむらを殺すとなれば必ず巴マミという魔法少女が立ちふさがる」

キリカ「既に暁美ほむらがクルクルボインな彼女と共闘関係を結んでいることがわかっているからね」

杏子「それでマミか……」

織莉子「……彼女達は現段階でスタンド使いかはどうかはわからない。しかし、魔法少女としてはベテランであることは真実」

織莉子「スタンド使いでないとしても、魔法少女としての経験の差は警戒に値する」

キリカ「仮に彼女達が既にスタンド使いであったら、何をしてくることやら……」

織莉子「だから、協力が必要なのです。風見野にベテランの魔法少女がいることは予知の力で『予習』済みでした」

杏子「…………あたしに何かメリットはあるのか?」

340 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 15:20:45.16 ID:lH0vbrgD0

織莉子「メリット……暁美ほむらを抹殺する過程で、巴マミも殺すとします」

織莉子「そうすると、見滝原のテリトリーは空きます。そこで、見滝原を得た暁には、その『テリトリーの一部』をあなたに提供します」

杏子「……ほう」

キリカ「一部っていうのは、私達の生活もあるから一部ねってことだよ」

織莉子「しかし一部というのも曖昧で、納得がいかないと思うので……」

織莉子「必要とあらば、キリカをお貸しします」

杏子「……こいつを貸すって?」

織莉子「キリカのスタンド能力は無敵の能力です。その能力を教えることはできませんが……」

織莉子「それで見滝原以外の……M市やT町等、他のテリトリーを支配したいと言うのであれば協力させます」

織莉子「私はキリカとここで、二人で、静かに暮らせればそれでいいと考えていますから」

キリカ「織莉子……私も、織莉子と二人なら……それはとっても嬉しいなって」

織莉子「キリカ……」

キリカ「織莉子……」

杏子「おい、戻ってこい」
341 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 15:22:20.88 ID:lH0vbrgD0

織莉子「コ、コホン……失礼」

キリカ「で、どうする?」

杏子「……」

キリカ「君は私達に協力する。私達は君の力になる」

キリカ「君は織莉子に選ばれたんだ。名誉なことだよそれは」

杏子「いや知らんけど……」

杏子「ふむ……だが、確かに見滝原は絶好の狩り場だ」

杏子「それに見滝原だけでなくても、テリトリーは広いに越したことはない」

杏子「協力をすれば……それをくれるってのか?」

キリカ「見滝原は一部だけだよ。私達の街だから一部」

織莉子「それで手を打っていただければ幸いなのですが……」

キリカ「ギブアンドテイクだ。win-winだと思うんだけどね?」
342 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 15:23:35.66 ID:lH0vbrgD0

杏子「けど断る」

織莉子「……」

キリカ「え〜〜〜何で〜〜〜?」

杏子「あたしが自分で強いと思っているヤツに『NO』と言って断ってやるその理由……」

杏子「あたしははっきり言ってあんたらが気に入らないし、あたしは今、ここを離れるわけにはいかなんでね」

キリカ「…………」

織莉子「…………」

杏子「……まぁどっち道、いきなり現れて世界が滅びるとか爆死するとか言われて『はい、ソーですか』って信用できるかってーの」

織莉子「魔法少女が魔女になるということは誰も知らないこと……」

杏子「あたしは自分で知って、理解したぞ?」

キリカ「……ちょ〜っと待った!私はともかくとしてだよ!織莉子が気に入らないだなんて――」

織莉子「キリカ。ステイ」

キリカ「むぅ……」
343 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 15:25:14.99 ID:lH0vbrgD0

織莉子「……わかりました。今回は引きます」

杏子「そうしてくれると助かるね」

キリカ「むむむ……」

織莉子「ただ……せいぜい爆発物には注意してくださいね。あなたに死なれるとこっちが困るので」

杏子「……ふん」

織莉子「この地図を差し上げます」

杏子「ん?これは……見滝原か?」

キリカ「このタイミングで見滝原以外あり得ないだろう」

杏子「あ?」

織莉子「……もし気が変わったら、この赤丸の住所まで来てください」

織莉子「私達は、あなたの協力が必要なのです。なので……正しい選択を期待します

織莉子「では……。行くわよ。キリカ」

キリカ「はぁい」
344 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 15:26:55.13 ID:lH0vbrgD0

杏子「………………」

杏子「……世界を滅ぼす?レクイエムだって?」

杏子「スタンドのその先、か……」

杏子「シビル・ウォー・レクイエム?興味がないこともない」

杏子「……それにしても……あいつら」

杏子「あたしが爆死するだって?」

杏子「頼んでもいないのに人の死ぬ未来と死因を言ってくるなんて、性格の悪いヤツだ」

杏子「しかし、条件も悪くないし……背の高い方は身なりからして結構裕福そうだった」

杏子「ゆまを預けて養わす分には……上辺だけでも協力してもよかったか?」

杏子「いや……『罠』である可能性も否めねぇ、か」

杏子「まぁいいや。考えるのは後回し後回し!」

杏子「ゆまが腹空かせてるだろうな……戻るか」
345 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 15:28:36.07 ID:lH0vbrgD0

杏子「……と、言いたい所だが」


杏子が踵を返し、歩み始めようとしたが、留まった。

先程のやりとりを遠目で監視していた者がいる。


杏子「…………」

「おまえさん……魔法少女だね?ここの……」

杏子「……チッ」


そこには一人の少女がいた。

首に一文字の切り傷がある。


少女「さっきの二人は仲間とか先客なんじゃないかと思って隠れてたんだけど」

杏子「あぁ……くそ。今そんな気分じゃねーっての……」
346 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 15:30:48.89 ID:lH0vbrgD0

少女「風邪かい?」

杏子「そんなんじゃあねぇよ……。もういい。ぶっちゃけて聞くぞ」

杏子「あんたの目的は詰まるとこグリーフシードだろ?」

少女「否定はしないけど」

杏子「だったら……そこの廃教会にあたしのストックがある。好きなだけ持ってってかまわない」

杏子「大した量ではないが、それで勘弁してほしい。帰ってくれ」

杏子「今気分が悪いんだ。人も待たせてるし」

少女「差し出しちゃうのか……チキンなヤツだねおまえさんは」

杏子「……」


佐倉杏子の常套文句。「そこの廃教会にグリーフシードがあるから勝手に持っていけ」

一見、争いを好まない平和的性分、あるいは臆病者に捉えられる。
347 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 15:32:34.96 ID:lH0vbrgD0

杏子(さぁ、『罠』にかかれ……)

杏子(あたしの能力『シビル・ウォー』は既に廃教会に『結界』を作っている)

杏子(シビル・ウォーは人の心を抉る幻覚を支配する能力……)

杏子(グリーフシードは魔法少女なら誰もが生ツバゴクリもので欲しがるもの……)

杏子(それを「餌」に、シビル・ウォーの『結界』へと誘い込み、絶望させる)

杏子(この能力に目覚めてから……魔法少女の縄張り争いが激化してから……)

杏子(取りあえずテリトリーの防衛戦においては何も恐れることはない)

杏子(シビル・ウォーが発現した当初は「幻惑の能力かよ」ってげんなりしたもんだ……)

杏子(さらに幻覚を見せて絶望させて戦意を削ぐつもりが魔法少女が魔女になった時は、どうしたもんかと思ったが……)

杏子(慣れたもんだな)
348 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 15:34:08.22 ID:lH0vbrgD0

少女「ところで……ねぇ」

少女「顔、紅いけど……おまえさん。熱でもあるの?」

杏子「いいったら!帰れったら!」

杏子(とっとと罠にかかれよ。……ああ、イライラする)

杏子(こちとら変な奴に嫌なこと聞かされてムカッ腹がたっているんだ)

杏子(世界が滅ぶとか爆死するとか聞かされてよォ……精神衛生上魔女を思いっきりぶちのめしてスカッとしたいところだ)

少女「ねぇ、どうなの?魔法少女って風邪ひくの?僕アレルギー性の鼻炎持ちなんだけど、ブタクサの花粉って魔法で予防できる?」

杏子(ああ!目の前にいるこいつがウザい!)

杏子(それにしても……くそっ、何だか……)

杏子(何か……『蒸し暑い』……)
349 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 15:35:39.25 ID:lH0vbrgD0

少女「……いやぁ、蒸すねぇ」

少女「風見野では昨日雨が降ったらしいけど……あれ?違ったっけ?」

杏子(……くそ、さっきから……なんか、暑い……ジトジトする……)

少女「暑いからか、頭痛がするからか……イラついてる理由は、まぁいいとしよう」

少女「確かに、僕はグリーフシードが欲しい……だが」

杏子「……?」

少女「貰えるものは病気以外ならなんでもいただく」

少女「奪えるものは徹底的に奪っておく」

少女「我が目的はおまえさんのテリトリーッ!見滝原を得るための拠点ッ!」

少女「そのために!前もって貴様を殺すのだッ!」

杏子「なッ!?」
350 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 15:36:45.11 ID:lH0vbrgD0

少女「じわじわと暑くなってることに疑問に思わないとは油断したなァ!」

杏子「暑く……!?」

少女「地面に染みこんでいる水分の温度を『あげた』」

少女「地面からは生温かい水蒸気があがる」

杏子「……ッ!」

杏子「こ、こいつ……!?」


『地面から湯気が出ている』

その異常な光景に、杏子は今、初めて気付く。

杏子は目の前の少女を罠にはめることを考えていた。

しかし、罠にかかっていたのは自分自身だった。

それを理解するのに時間は要さない。罠をかけることに夢中になり過ぎた。
351 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 15:38:18.75 ID:lH0vbrgD0

杏子「スタンド使いッ!」

少女「汗をかいたな!」

少女「『水を熱湯に変える』ッ!これが能力!」

少女「慣用句じゃないが地面は焼き石に水ぶっかけたみたいになっているぞ!」

杏子「クッ……?!」

杏子「ッ!?」

杏子「う、うがああぁぁッ!?」


魔法少女に変身したが、その直後に杏子は額に激痛に近い熱さを感じた。

額に手をあてると、手に同じ痛みを感じた。


杏子「あ、『熱』ッ!?熱いッ!」

ガッシィッ!

杏子「ッ!?」

少女「よし掴んだ!おまえさんの『汗』を80℃ちょっとにしてあるぞ!」
352 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 15:39:52.02 ID:lH0vbrgD0

少女「スキを作って、頭を掴む!」

少女「生物に触れた状態でこの能力を発動すれば、生物の『水分』も『熱湯』にできる!」

少女「そのまま脳みそをグツグツ煮込んでやるよォッ!」

杏子「なっ……!こ、こいつッ!」

少女「僕のことをスタンド使いだと見破ったな?じゃあおまえさんもスタンド使い」

少女「見滝原に行った時にも会ったよ。その子は魔法少女ではなかったが……まぁいい」

少女「安心しろ……殺しはしない。ただ脳みそ茹だって廃人にでもなってもらおうかッ!」

少女「野望の果てを目指す者に、生け贄をッ!」

杏子「うおおおおォォォォォッ!」


「キョーコをイジめるなァ――――ッ!」
353 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 15:41:25.02 ID:lH0vbrgD0

少女「!?」

杏子「!?」

杏子「ゆ、ゆまッ!?」

少女「な、何だこのガキンチョ!やんのか!」

杏子「お、おまえ……その姿は……!」


杏子はゆまの姿を見て、動揺した。

ゆまは既に『魔法少女』になっていた。見てわかる。

魔法少女のゆまが、全力疾走で突っ込んでくる。


杏子「い、いつの間に……!な、何故ッ!?」

少女「知り合いか……!」

ゆま「倒して!『猫さん』ッ!」

ズギャンッ

少女「ッ!?」
354 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 15:42:06.04 ID:lH0vbrgD0

走り向かってくるゆまの背後から、質量感はないが圧倒的存在感を放つ人型の影。

エネルギーの像。『スタンド』が現れた。


杏子「な、何ッ!?こいつはッ!」

少女「ヤツもスタンドを――ッ!」

ゆま「いけぇ!」

ブンッ

少女「うおっ!」

バッ!

少女「あ、クソッ!離してしまった!だがッ!」


ゆまのスタンドが繰り出した拳を、少女は回避した。

その拍子に杏子の頭を掴んでいた手を離してしまう。

しかしすぐに、ゆまのスタンドの手を掴んだ。
355 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 15:43:46.29 ID:lH0vbrgD0

少女「よ、よし!」

少女「予想以上に早い攻撃なんでちょいとヒヤッとしたが、おまえさんのスタンドの動きは見切れた!」

ゆま「…………」

少女「何かわからんがくらえ!僕はスタンドに触れている!」

少女「そのまま右手の血液を沸騰してくれるゥゥ――ッ!」

杏子「ゆ、ゆまァッ!」

ゆま「……触れている」

ゆま「ゆまの猫さんに『触れた』……」

杏子「……ゆま?」

ゆま「ゆまの猫さんに……触られちゃった……」

少女「あん?」

ゆま「ゆまの猫さんの能力だよ。触って発動するの」

ゆま「ゆまの『スタンド能力』……それは……」
356 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 15:44:57.75 ID:lH0vbrgD0

ゆま「『触れた物を爆弾にする』……!」

少女「何……だと……?」

ゆま「守って!『キラークイーン』ッ!」


薄いピンク色の「猫っぽい頭をしている人型スタンド」は小柄なゆまと同じような体型をしている。

恐らくゆまが身体的に成長をすればそれ相当にそれの体格も代わるだろう。

予想外の突飛な能力に動揺した少女は、手を『キラークイーン』から放す。

そしてキラークイーンは短い左腕を一杯に伸ばして杏子の体を引き寄せた。


杏子「……ッ!」

少女「一体僕に何をし――」

ビシ、ビシビシッ!
357 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 15:47:15.47 ID:lH0vbrgD0

少女「ふぇ……?」


突如、少女の体に『亀裂』が生じる。

その亀裂から白い煙が噴出する。

自分の体の異変に気付く前に、少女の体は――

ドッグォォォォンッ!


少女「たバァッ!?」


肉体が『爆発』した。

首がもげ、腹は裂け、腕が千切れ、脚は砕け、眼が吹き飛んだ。

爆発音は周りの空気をビリビリと鳴らす。

そして少女の肉体は塵のようになり、消えた。

肉片一つ残らない。

ただソウルジェムの拉げた外枠を残して、その少女の全てが消滅した。

死んだ。
358 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 15:48:15.26 ID:lH0vbrgD0

杏子「う、うぅっ!?」


凄まじい爆風の勢いが杏子を包んだ。

キラークイーンの陰になっていたため、爆発に巻き込まれることはない。

ゆまは杏子の胴にしがみついていた。


杏子「あ……ああ……?!」

杏子(う、嘘……だろ……)

杏子(一瞬で……あんな……ふ、触れただけで……)

杏子(触れただけで……さっきのヤツが消えた)

杏子(骨一つ残ってねぇ……ぶ、ブッ飛んでやがる……!)

ゆま「キョーコ!大丈夫!?」

杏子(ゆま……)
359 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 15:49:12.74 ID:lH0vbrgD0

杏子(ゆまに……こんな、こんな恐ろしい能力が……)

杏子(いつの間に契約したのかというのもそうだが……)

杏子(いつ、どこで、ゆまはスタンドに目覚めたんだ……!?)

杏子(……いつの間に『契約』……?)

杏子(……ま、まさか!?)

ゆま「これで今夜も安心して眠れるね!」

杏子(ま、待てよ……ゆまのスタンド能力……)

杏子(……触れた物を……爆弾に……)

杏子(……『爆、発』?)

杏子「――ハッ!」


杏子「は、離せェッ!」
360 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 15:50:36.00 ID:lH0vbrgD0

バシッ

杏子はしがみつくゆまを振り払った。


ゆま「え……」

杏子「ハァ……ハァ……」

ゆま「な、なに?キョーコ……?どうしたの?」

杏子「……ふぅ」

杏子「……おい、ゆま」

ゆま「う、うん」

杏子「おまえ……何でだ?」

杏子「何で、契約したんだよ」

ゆま「う……」

杏子「魔法少女なんかになるなって……言っただろ?」

361 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 15:51:37.60 ID:lH0vbrgD0

ゆま「あ、あのね……」

ゆま「お、お留守番している間にキュゥべえが来てね?」

ゆま「魔法少女になれば、キョーコの助けになれるって言って……」

ゆま「それで……契約したの」

杏子(あいつ……いつの間に……!)

ゆま「それに!キョーコの帰りが遅くて!キョーコを狙う悪い人がいるから!」

ゆま「居ても立ってもいられなくなって!」

ゆま「ゆまは!ゆまはキョーコの役に立ちたいの!キョーコを助けたいの!」

ゆま「だから、スタンドを……!」

ゆま「『強いスタンドが欲しい』って契約したの!」

杏子「…………」
362 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 15:56:05.62 ID:lH0vbrgD0

ゆま「キョーコを守るゆまになりたいって!」

ゆま「キュゥべえはスタンドのことはよくわかってなかったけど、ゆまが知っていれば叶えられるって!」

ゆま「ゆま!魔法少女としてはキョーコの足を引っ張るかもしれない……でも!猫さんが……キラークイーンがいればッ!」

ゆま「キョーコの力になれる!キョーコの役に立てるッ!」

杏子「…………ふざけんなッ!」

ゆま「!?」

杏子「ふざけたこと言ってんじゃあねーぞッ!」

ゆま「ど、どうしたの……?」

杏子「あたしはテメーを魔法少女にしたくなかった!」

杏子「魔法少女なんかになったら……なっちまったら……!」

杏子「……魔法少女に、な、なったら……!」

杏子「……クソッ!……そ、それにグリーフシードの消費も増えちまう……」
363 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 15:56:45.41 ID:lH0vbrgD0

ゆまが自分のことを強く思ってくれていること。

それ自体は悪い気はしない。

むしろ、ゆまと過ごすことで棘が無くなってきている自身が存在している。

そんなはずがないと思う反面、そういう事実が心の中に、確かに存在している。


そもそも、ゆまを魔女の手から救ったのは、何となく妹の影と被ったからだ。

それ「だけ」のために契約――魔女との戦いに巻き込ませたくなかったと言ってもあながち過言ではない。

人間から魔法少女へ契約してしまった以上、人間へは不可逆。

杏子には、ゆまが魔女の卵となってしまったという……その悲しみがあった。

自分と関わってしまったことで、残酷な真実を抱えさせた……その自責があった。

いつかその最悪な事実を知ってしまった時。

ゆまに「あの時、助けてくれなきゃよかったのに」と言われるのではないか。その不安があった。


しかし、杏子に芽生えた『別の感情』が、それらの後悔を覚える前に全て塗りつぶしてしまった。
364 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 15:58:49.37 ID:lH0vbrgD0

ゆま「でも……ゆまは……」

杏子「あたしは……」

ゆま「キョーコ……?」

杏子「あたしは、おまえを『捨てる』ことにした」

ゆま「…………」

ゆま「……え?」

杏子「…………」

ゆま「う、嘘だよね?キョーコ……」

杏子「嘘じゃない。本気だ」

ゆま「……う、嘘!」
365 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 15:59:57.64 ID:lH0vbrgD0

ゆま「嘘だッ!嘘でしょ!?ねぇ!?」

杏子「そのスタンドで、自分の力で生きろ」

ゆま「い、嫌だッ!ゆま、キョーコと一緒にいたい!」

杏子「今、あたしはあんたが嫌いになったんだよ」

ゆま「……ッ!」

杏子「ったく……!中途半端な情を持ったのが間違いだった!」

ゆま「…………」

杏子「何言ってるのかわかんねーってのか?助けなきゃよかった、そのまま使い魔の餌にしとけばよかったって思ってるんだよ!」

ゆま「そ、そんな……そんなのってないよ……!」

ゆま「ゆまはキョーコを助けたのに!」

杏子「誰が契約しろと言ったんだ!」
366 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 16:01:37.46 ID:lH0vbrgD0

杏子「いいか、魔法少女ってのはな、ソウルジェムを汚しきっちまったら……」

杏子「…………いや、やっぱいい。何でもない!」

杏子「……消えな。好き勝手に行きやがれ。グリーフシードを一個……いや、二個餞別してやる。ほれ」

ゆま「や、ヤダッ!ゆ、ゆまを一人にしないでよォッ!」

杏子「おまえは一人じゃあねーよ。なんのためのスタンドだよ」

杏子「魔法少女になった以上、中途半端に力を得た以上……」

杏子「あたしの邪魔だ。わかれ」

ゆま「あ……あぁ……キョ、キョー……」

杏子「消えろっつってんだろうがッ!」

ゆま「……!」

ゆま「……う、うああ……ああ……」


ゆま「うああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」

367 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 16:03:50.09 ID:lH0vbrgD0

ゆまは大粒の涙を撒き散らしながら走り去っていった。

杏子は黙って、捨て子が小さくなっていく様を見つめた。


杏子「……絶望はしたって訳でもないのか。魔女にならねぇってことは」

杏子「…………」

杏子「はぁー……!」


ゆまが見えなくなったことを確認すると、杏子は深く溜息をついた。

全身の力が抜け、そのまま地べたに座り込む。

水を熱湯にするスタンド使いによって、昨夜の雨で湿っていた地面はカラカラに乾いている。

対象的に、杏子はドッと冷や汗を溢れ出した。


杏子「ハァ……ハァ……」

杏子「何とか……虚勢を張ったが……」

杏子「……『逆上』……されなくてよかった」
368 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 16:06:23.17 ID:lH0vbrgD0

杏子「逆上されて……スタンドを向けられなくてよかった……!」

杏子「ゆま……あんなヤツと……」

杏子「一緒にいられるわけがない……ッ!」

杏子「あ、足が震えてやがる……!クソ……ッ!」

杏子「……こ、『怖い』……ッ!」

杏子「このあたしが……い、今までで一番……きょ、恐怖を感じた……」

杏子「何なんだよ……キラークイーンとかいうスタンドの……プレッシャーは……!」

杏子「くそっ、寒ぃ……血液が冷たいところてんになったかのようだ……!」


杏子はキラークイーンの目を思い出す。背筋が凍るような眼だった。

化け物、怪物、殺人鬼。そういう言葉が真っ先に浮かんだ。

スタンド使いだからこそわかる、スタンドから放たれる圧力。

杏子は蛇に睨まれたカエルの気持ちを少しだけ理解した。
369 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 16:08:46.19 ID:lH0vbrgD0

杏子「しかもあいつ……!ゆまのヤツ……」

杏子「人を爆殺しといて『何とも』思ってやがらねぇ……!」

杏子「助けるために必死だったからだとか、もちろんそういう理由もあるが――」

杏子「残虐すぎる殺し方をしたのに『罪悪感』を全く覚えていない。さも当然のように爆殺した」

杏子「シビル・ウォーの性質上、罪悪感にはそこそこ敏感になったからわかる」

杏子「罪の意識を感じてたとしても……」

杏子「自転車で地べたを這うミミズをうっかり轢いてしまったくらいにしか思っていやがらねぇ……!」

杏子「……よくわからんがサイコパスってヤツなのか……?それとも、あれは元からのゆまの性質か?」

杏子「キラークイーン……直訳すると殺人の女王」

杏子「スタンドは精神力だ……だから、あのスタンドのせいだと思いたい」

杏子「あのスタンドが発現したからゆまの性格が少し改変されたのだと」

杏子「…………そう、思いたい。思わないと『恐ろし』すぎる」
370 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 16:10:30.93 ID:lH0vbrgD0

杏子の心を支配したのは単純な恐怖だった。

足の震えは、決して武者震いなどではなく戦慄そのもの。


目の前で人が爆発した。その事実もさることながら――

それが平然とやってのけたゆまに恐怖した。

子どもが、何の躊躇もなく人を惨殺した。その事実に怯えている。

まるで魔女のようだ、と杏子は思った。

こういうヤツが最悪な魔女、例えばワルプルギスの夜のようなのになるんじゃあないか、とも思った。


杏子「うぅ……寒気が治まんねぇ」

杏子「暑かったり寒かったり……今日は厄日だ……」

杏子「……美国織莉子」

杏子「あいつが妙なこと言わなければ……」
371 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 16:12:55.81 ID:lH0vbrgD0

杏子「『爆死する』だって……?」

杏子「キラークイーンに殺されると言ってるようなもんじゃあねぇか!」

杏子「それさえ無ければ、魔女狩りが捗るってんでゆまを割と普通に受け入れられていたかも……」

杏子「いや……いずれ誤爆か何かで爆発に巻き込まれてか……あるいは裏切られて殺されてただろう……どっち道な」

杏子「……あたしは、あいつに助けられたのかもしれない」

杏子「…………」

杏子「爆死……か」

杏子「予知通りじゃねぇか……くそっ」

杏子「と、いうことは……だ」

杏子「あいつの言っていたことが真実だとすれば……」
372 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 16:13:38.66 ID:lH0vbrgD0

杏子「暁美ほむら……世界を滅ぼす魔女……」

杏子「……世界がヤベェって、マジなのか?」

杏子「…………」

杏子「世界を救う……か」

杏子「近い内に行ってみるか……見滝原」

杏子「…………」

杏子「……ゆま」

杏子「『スタンド使いとスタンド使いは引かれ合う』……という格言がある」

杏子「……磁力とか引力とかみたいにな」

杏子「もしかしたら……また、会うかもしれないな」
373 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 16:18:37.87 ID:lH0vbrgD0

――見滝原


マミ「ちょっと食材買いすぎちゃったかしら……」

マミ「買いすぎたのは単純に安いのがいけないのよ……」

マミ「冷蔵庫に収まるかしら」

マミ「……あら?」

「えぐ……ぐすん……うぇぅ……」

マミ「女の子……泣いてる?」

マミ「あの……どうしたの?お嬢ちゃん」

「うぅ……うぇっ、ひぐっ……ううぅ……」

マミ「お名前は?いくつ?」

「うぅ……『ゆま』……」

マミ「よしよし。ゆまちゃん。泣かないで?どうしたの?迷子?」
374 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 16:19:56.37 ID:lH0vbrgD0

ゆま「ひぐっ……うえぅ……うぎゅうぅ」

マミ「落ち着いて……お父さんかお母さんは?はぐれちゃった?」

ゆま「……死んじゃった」

マミ「……ッ!」

マミ「……そ、そうなの。ごめんなさい」

マミ「あ……」

マミ「そ、その指輪……」

マミ「あなた……魔法少女ね」

ゆま「ぐしゅ……ぅん」

マミ「お姉ちゃんもそうなのよ」

ゆま「……ほんと?」
375 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 16:20:37.58 ID:lH0vbrgD0

マミ「えぇ……怪我とかしてない?」

ゆま「……うん」

マミ「ねぇ、何があったの?よかったら話してみてくれる?」

ゆま「グスッ……えぅ、キョーコに……ふぇっ、嫌われちゃったのぉ……」

ゆま「ゆまは邪魔だって……いらないってぇ……」

ゆま「ゆま……一人ぼっちになっちゃったぁ……」

ゆま「うえぇぇぇぅ……!あぅぅ……!」

マミ「……きょお、こ?」

マミ「それは……佐倉杏子?」

ゆま「うゅううぅぅ……ひぐっ、えぐっ」

マミ「…………」
376 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 16:21:10.87 ID:lH0vbrgD0

マミ「と言うことは……風見野から来たのね。あんな遠くから……たった一人で……」

マミ「ゆまちゃん……」

ギュッ

マミ「よしよし……辛かったのね。泣かなくていいのよ」

ゆま「ひっく……あったかい」

マミ「私の家においで?」

ゆま「クスン……いいの?」

マミ「もちろん。ひとりぼっちは寂しいものね……」

ゆま「……うん、一人はいやだよぉ……」

マミ「えぇ。そうね……嫌よね……」
377 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 16:22:05.96 ID:lH0vbrgD0


水を熱湯に変えるスタンド 本体:M市の魔法少女

破壊力 B スピード C  射程距離 B
持続力 D 精密動作性 C 成長性 D

水を『熱湯』に変えるスタンド。その性質は「傍流」
半径42m以内に存在する「水」の温度を最大99.974℃まで上昇させる。
また、物質を構成する「水分」の温度を上昇させることも可能。
ただしそれが生き物の場合、直に触れなければならない。

A―超スゴイ B―スゴイ C―人間と同じ D―ニガテ E―超ニガテ

*実在するスタンドとデザイン・能力が多少異なる場合がある

378 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 16:26:49.08 ID:lH0vbrgD0
今回はここまで。

あぁ、どんどんと杏子像が崩れていく……。杏子が悪い人になっていく……でも怖いなら仕方ないね。

そろそろ感づいてる方もいるのではないかと思うのですが
登場するスタンドは「既に本体が死んで消滅したスタンド」を意識しています。水を熱湯に変えるスタンドは知らない。DISCがどうなったのかは知らない。
だから四部のスタンドはかなり限られます。

でもよく考えたらスタンド使いの大抵は死んでるっていうね、生きている方が珍しいっていうね


何時になるかわかりませんが夜に再開します。
379 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/27(木) 16:27:57.71 ID:OJuOTyIRo

杏子の死亡フラグが立ちすぎィ
380 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/27(木) 16:37:30.63 ID:E9oCeDFAO

ああ、スタンドが強過ぎるせいで魔法少女の力がどんどん空気に……
381 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/27(木) 16:39:14.57 ID:6pTb6Hi00

多少なりともスタンドが性格に影響を与えると仮定するなら
別れ話を披露するカーズコ先生にまどかが「うっとおしいぞ、このアマッ!」と啖呵をとばす可能性も…

現段階のキラークイーンンは格闘は向いてなさそうだけど、能力が凶悪すぎるな…
382 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/27(木) 16:46:44.27 ID:DaQIwSbIO
死んだってーと四部はハーヴェストとかか。六部チンポリオ以外殆ど死んでね?
383 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/27(木) 17:27:37.15 ID:BScCWPlco
フラグってレベルじゃねえぞ、あんこちゃん

よりによってこの流れでゆまにキラークイーンとは、意地悪いなぁ(褒め言葉)

384 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/27(木) 18:32:18.51 ID:8Y0Qt2lAO
誰かゆまのスタンド弄ってソフト&ウェットに替えちまえよもう……
385 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/27(木) 18:33:24.57 ID:pKpptN+Wo
キラークイーンじゃ寂しいだろうしホワイトスネークにしておけば
386 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/27(木) 20:50:21.16 ID:g0t+z8Yto
はいどーん
387 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 21:21:53.00 ID:lH0vbrgD0

#8『佐倉杏子の新しい事情』


マミ宅。

テーブルを囲む五人。

五人はビスケットをつまみながら、いつものお茶会をしている。

本日お茶会が開かれたのは、マミの家に一緒に暮らすこととなった魔法少女を紹介するためである。


マミは昨夜、ゆまの話を聞いていた。

それをマミなりに話を整理して、再び来客に伝える。

ゆまは心地いい気分ではなかった。

杏子に捨てられたということを再びマミの言葉で聞かされたために。



マミ「――――と、いうことがあったの」

ゆま「…………」
388 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 21:23:24.46 ID:lH0vbrgD0

まどか「そうだったんだ……ゆまちゃん、だっけ……。大変だったんだ……」

さやか「……杏子とかいうヤツ!こんな可愛い子をほっぽり出すだなんて……!」

ゆま「……キョーコを悪く言わないで」

ほむら「…………」

ほむら(千歳ゆま、ちゃん……今までの時間軸では……初めて、お目にかかる)

ほむら(しかも、最近増えている魔法少女の縄張り争いに巻き込まれたとかじゃないらしい)

ほむら(そして佐倉さんと一緒に行動をしていたと言う……)

ほむら(イレギュラーな存在で、少し気がかりなところはある。でも……)

ほむら(この子は『スタンド使い』だと言う……それも、聞くところによると、ハッキリ言って恐ろしい能力だ)

ほむら(キラークイーン。触れた物を爆弾にする)

ほむら(でも……恐ろしい反面、頼もしい味方になれる)
389 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 21:24:34.00 ID:lH0vbrgD0

ほむら(そして気になるのは……佐倉さんが、ゆまちゃんを「追い出した」ということ)

ほむら(佐倉さんは、なんだかんだで面倒見のいい性格なのに……)

ゆま「……ゆまね、怖いスタンド持っちゃったの」

ゆま「だからキョーコに嫌われちゃったの……」

ほむら(果たして……それだけなのだろうか……?)

ゆま「…………」

さやか「……爆弾のスタンド……ねぇ」

マミ「ゆまちゃん……スタンドのことになると、すぐ落ち込んじゃうのよ」

マミ「そんなことない。大丈夫って言っても……」

マミ「その、佐倉さんに見捨てられて、よっぽどショックだったらしくて……」

ほむら「……それでも、悪く言わないでって言うくらいだから、好きなんですね」
390 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 21:25:24.76 ID:lH0vbrgD0

まどか「……大丈夫だよ。ゆまちゃん」

ゆま「……」

まどか「別に、触れた物全てが爆弾になるわけじゃないんでしょ?」

まどか「だったら、気にすることもないよ」

さやか「……そ、そうだよ!既に転校生という爆弾魔がいるんだから!」

ほむら「ば、爆弾魔ァッ!?」

ゆま「……お姉ちゃんも爆弾使うの?」

ほむら「あ、食いついてきた……え、えっと……」

ほむら「わ、私はスタンド使いじゃないけど……うん。爆弾使うよ」

ほむら「だから……その……ですよね?」

マミ「え?私に振るの?」

マミ「えと……そ、そう!」
391 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 21:26:37.18 ID:lH0vbrgD0

マミ「だから私達は爆弾なんか怖くないの!」

ゆま「……ほんと?」

マミ「ええ!」

まどか「ゆまちゃんは、その杏子って人を守るためにそのスタンドを得たんでしょう?」

ゆま「……うん」

まどか「ゆまちゃんが守るのは『女の子』だけじゃなきゃダメなのかな?」

まどか「『街』や『みんな』でもいいと思うな」

まどか「マミさんやほむらちゃんは、この街の人を守るために戦ってる……」

まどか「ゆまちゃんも、一人じゃなくてたくさんの人を守ってくれたらいいなって」

ゆま「…………」

まどか「どうかな?」
392 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 21:27:21.98 ID:lH0vbrgD0

さやか「流石スタンド使いは言うことが違いますなぁ」

マミ「そこに痺れる」

ほむら「憧れるぅ」

ゆま「……うん」

ゆま「……頑張ってみる」

まどか「うん!頑張って!」

ゆま「うん……!マミお姉ちゃん。ゆま、頑張る……!」

ゆま「ゆま、猫さんをみんなのために使う!」

ほむら「きゅ、急に元気に……!」

マミ「よく言ったわ。ゆまちゃん。偉いねぇ〜」

ナデナデ

ゆま「えへへぇ」
393 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 21:31:37.81 ID:lH0vbrgD0

ゆま「ありがとう!お姉ちゃん!」

まどか「え、えへへ、どういたしまして」

さやか「何照れてんの」

まどか「お姉ちゃんって呼ばれちゃった……照れるぅ」

ほむら「現役のお姉さんなのに?」

まどか「だって、まだ言葉あんまり喋れないし……」

まどか「あ、あとわたしの名前はまどかだよ。ゆまちゃん」

ゆま「まどかお姉ちゃん!」

まどか「グッド」

さやか「何で英語?」

マミ「あ、そうだ。よく考えたらゆまちゃんはまだあなた達のこと知らないわよね」
394 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 21:33:10.63 ID:lH0vbrgD0

マミ「何で紹介してなかったのかしら……ゆまちゃん、こちらは美樹さん」

ゆま「…………」

さやか「やぁ!さやかちゃんだよ!」

ゆま「…………」

ゆま「さやか!」

さやか「うぉう!?何で呼び捨て!?」

ゆま「何となく、キョーコに雰囲気が似てる気がしたから」

マミ「そう?似てるかしら……?」

ほむら(……あの二人はなんやかんやで仲が良い時間軸が多い……どこか繋がるところがあるのかもしれない)

さやか「あたしはその杏子ってヤツを知らないんだけどね」

ゆま「じゃあ、さやかお姉ちゃん?」

さやか「……うッ」
395 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 21:33:57.20 ID:lH0vbrgD0

さやか「お、お姉ちゃん……か」

まどか「?どうしたの?」

さやか「うへぇ……あたし一人っ子だから、そう呼ばれるのは、う、嬉しいことではあるんだけど……」

さやか「何か気が抜けちゃうというか、背中がムズ痒いというか……やっぱさやかでいいよ。よろしくね。ゆまちゃん」

ゆま「さやか!」

さやか「ベネ」

マミ「何でイタリア語?」

ほむら「それで、私は……」

さやか「こいつはほむほむだ」

ほむら「ほ、ほむッ!?」

まどか「ほむ?」

マミ「ほむ……」

ゆま「……ほむほむ」
396 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 21:34:50.67 ID:lH0vbrgD0

ほむら「ゆ、ゆまちゃん。私はほむら。暁美ほむらだよ?」

ほむら「いい?ほ・む・ら。言ってごらん?」

ゆま「…………」

ゆま「ほむほむ!」

ほむら「え、えぇー……」

ゆま「ほむほむゥ!」

マミ「あらあら、その呼び方、気に入っちゃったようね」

さやか「ハハハ!ウケる!」

まどか「あ、あはは……」

ゆま「ほむほむ〜」

ほむら「そ、そんなぁ……」
397 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 21:35:23.77 ID:lH0vbrgD0

ゆま「ほむ!」

ほむら「……まぁ、いいけど」

ゆま「ほむほむほむほむっ」

さやか「アハハハハハハ!」

まどか「さやかちゃん笑いすぎだよ」

さやか「ハハ……ごめんごめん……」

さやか「ハァー……」

さやか(――にしても……)

さやか(……こんな小さい子が魔法少女、かぁ……)

さやか(杏子ってヤツを助けたいって契約したのか……その結果は悲しいことになったけど)

さやか(……契約、か)

さやか「…………」
398 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 21:38:46.20 ID:lH0vbrgD0

――同時刻


「……ここ、か」


緑色のパーカーを着ているポニーテールの少女は見滝原にいた。

片手に持っていた、地図を乱雑に丸めてポケットの中へ押し込んだ。


「やぁ、待っていたよ。佐倉杏子」

杏子「……キリカ、つったか」

キリカ「名前、覚えてくれてたんだね。私は自己紹介した覚えないけどさ」


佐倉杏子は今、大きな洋館の前に立っている。

手入れをされず不格好に伸びたバラの木がそよ風に煽られ揺れていた。


キリカ「まぁ、入りなよ」

杏子「……ああ」
399 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 21:40:46.90 ID:lH0vbrgD0

キリカ「織莉子ぉ〜。佐倉杏子が来ぃ〜たよ〜」

織莉子「いらっしゃい。佐倉さん。そしておかえり。キリカ」

織莉子「予知で来るタイミングはわかっていたわ」

織莉子「お茶の準備は既にできてるから手を洗ってうがいしてらっしゃい」

織莉子「佐倉さんを洗面所に案内してあげて」

キリカ「うん!」

キリカ「さぁ、こっちだよ」

杏子「……ん」
400 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 21:46:28.96 ID:lH0vbrgD0

杏子「…………」

キリカ「こんな大きな家だとは思わなかったでしょ」

杏子「……ぼんぼんなのか?」

キリカ「まぁ、お金はある。でも、その辺とこ、織莉子に話しちゃあいけないよ」

杏子「あ?」

キリカ「これは、織莉子の御尊父の遺したもの、とでも言えばいいかな」

キリカ「別に仲が悪かったわけじゃない。むしろ良い親子だったそうだ」

キリカ「まぁ……うん。色々あってね。織莉子のためにも、父親のことは話題に出さないでくれ」

杏子「…………あぁ、わかった」

杏子「あたしも……父親のことは話題に出されたくないからな」

キリカ「そっか……。私も家族と仲が良いとは言えないからね。お互い丁度良いって感じかな」
401 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 21:47:21.98 ID:lH0vbrgD0

キリカ「……ねぇねぇ」

キリカ「私、今朝からちょいと気になってることがあってね」

杏子「あん?」

キリカ「織莉子にも聞いたことなんだけどさ……」

キリカ「魔法少女と魔女ってどっちが先なんだろう」

杏子「はぁ?」

キリカ「ニワトリと卵どっちが先かっていう議論と似た話なんだけどさ……」

キリカ「グリーフシード、もとい魔女って元は魔法少女なわけじゃん」

キリカ「じゃあ最初の魔法少女ってのはどう生きていたんだ?ただ魂が濁りゆくのを黙って眺めていたのかな?」

キリカ「それとも魔女っていうのは魔法少女どうこう関係なしに既に存在させられていたのかな?」

キリカ「つまり……何が言いたいんだろうね?ゴメン」

杏子「うぜぇ」

キリカ「…………ゴメン」

402 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 21:49:36.80 ID:lH0vbrgD0


カチャ…


織莉子「どうぞ」

杏子「ああ」

杏子(……こういう紅茶を飲むってのも久しぶりだな)

織莉子「お砂糖はいくつ?ジャムは何杯?」

杏子「自分で勝手に入れる」

織莉子「そう?紅茶のおかわりは自由よ」

キリカ「…………あの」

織莉子「何?」

キリカ「……わ、私にもお砂糖を」

織莉子「そうね……いくつ?」

キリカ「……いくつくれるの?」

織莉子「ああ……そういえばキリカ。私が寝込んでいる間に家の角砂糖をたくさん食べちゃった罰で砂糖に触れることを禁止してたんだったわね」
403 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 21:50:52.70 ID:lH0vbrgD0

織莉子「勝手にもうヒョイパクヒョイパクと……」

織莉子「そう言えばジャム一瓶丸々ゼリー感覚で食べてたんだったっけ……うん……忘れてたわ」

杏子「……」

キリカ「うぅ……絶対嘘だ……まだ怒ってる?出来心なんです。悪気はないのぉん」

織莉子「別に。……それで?甘いのいくつ欲しいの?」

織莉子「二つ?」

キリカ「ええ〜〜ッ!やぁ〜だぁ〜〜もォ〜〜ッと。も〜、もォーッとォ〜〜」

織莉子「嘘よ。五つあげるわ。頑張ったもんね」

キリカ「やったッ!」

織莉子「ふふ、別に怒ってなんかないわよ。今日もお疲れさま。キリカ」

キリカ「えへへ」

杏子「何だあんたら……」
404 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 21:52:10.06 ID:lH0vbrgD0

キリカ「うん、うん……」

キリカ「やっぱり角砂糖五つ入れた織莉茶はとっても美味しい」

織莉子「お、織莉茶って……」

織莉子「でも、キリカに喜んでもらえて……私も淹れがいがあるというものよ」

キリカ「でへへ〜」

キリカ「そういや杏子。さっきから静かだね。まるで何だかよそから借りてきた猫みたいだ。初対面の時の威勢はどこ行ったのさ」

杏子「……色々あんだよ」

織莉子「猫……そう言えば、世間にはネコミミというものがあるらしいわ」

織莉子「キリカ今度つけて」

キリカ「えぇっ!?」

杏子「置いてけぼりなんだが……あたし」

405 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 21:52:55.53 ID:lH0vbrgD0

織莉子「こ、コホン……失礼しました」

織莉子「……それで、佐倉さん。ここにいらした、ということは……」

杏子「……ああ」

杏子「あんたの予知、信じるよ」

キリカ「どういう心境の変化なんだい?」

杏子「爆死に心当たりができたからだ」

織莉子「心当たり?」

杏子「ああ……。予知でわかってなかったのか?」

織莉子「えぇ。見てませんから」

織莉子「それに見たとて、その予知がその通りにいくとは限りません故」

杏子「……ふぅん」
406 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 21:53:57.35 ID:lH0vbrgD0


キリカ「まぁ、これで心強い味方ができたってわけだね」

織莉子「えぇ。一緒に世界を救いましょう」

杏子「……そんな大げさな、とは思うんだが」

キリカ「やれやれ、やっぱりまだ実感できてないのかな」

織莉子「まぁまぁ、それは追々……私としては協力さえしてくれれば……」

織莉子「ところで佐倉さん。紅茶のおかわりはいかがですか?」

杏子「……」

杏子「その丁寧語はやめてくれないか」

杏子「ぶっちゃけ、逆に見下されてるみたいでムカつく」

キリカ「何だそれ?」

織莉子「……では、仲間ということで丁寧語を解除するわ」
407 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 21:55:37.55 ID:lH0vbrgD0

キリカ「んじゃ、そろそろ今後のことを話そうか」

織莉子「そうね」

キリカ「結論から言うとだね。杏子。体勢を整えたら、私の通う『学校を襲撃』するつもりでいる」

織莉子「具体的な日付はまだ決まっていないから、いつかは未定よ」

杏子「…………ふーん。学校に、ねぇ」

織莉子「生徒にとって授業中ほどある意味無防備な時間はない。奇襲をする上でこれほどいいチャンスはない」

織莉子「まさか一般人を大規模に巻き込むような、学校を襲撃するようなことはと思わないでしょう」

織莉子「キリカも生徒ならではの動きやすさというものもあるし……」

織莉子「何より、彼女達が他の生徒への心配、気を取られる可能性がある」

織莉子「障壁を乗り越えるには、世界を救世するにはあらゆる手段も惜しまない」

杏子「面倒なことをするねぇ」

キリカ「面倒かもしれない。でも、シンプルがいい」
408 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 21:56:53.00 ID:lH0vbrgD0

織莉子「レクイエムの発現条件がわからない以上、早い方がいいものね」

織莉子「何より……時間停止能力を持つ暁美ほむら、スタープラチナというスタンドを持つ鹿目まどか、ベテラン魔法少女の巴マミがいる」

キリカ「何さやか……だったっけかな?名字忘れた。とにかくそんな感じの名前な魔法少女候補もいたから、それもいるかもしれない」

杏子(……キラークイーンのゆまもいるかも知れないな)

杏子「…………」

杏子「……チト気になったんだが、スタンドを発現させる要素からほむらってヤツを守るっていう手もあるんじゃあないか?」

織莉子「私は確実な手を下す。スタンドを発現させる魔女、あるいは使い魔がいつどこにいたものか……安心できない」

織莉子「そもそも今、暁美ほむらがスタンド使いでないとは限らない。予知でも偵察でもわからない」

織莉子「魔女狩りで使わなかっただけかもしれないからよ。……どっち道何をしでかすかわからない、未知の危惧がある」

杏子「ふーん……まぁいいけどさ」

キリカ「何?ここにきて怖じ気づいた?」

杏子「そんなことはない」
409 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 21:58:25.28 ID:lH0vbrgD0

織莉子「なら、いいわ」

織莉子「それで、暁美ほむら抹殺計画についてなのだけど……」

杏子「…………」

織莉子「まだ何も決まっていないというには語弊はあるけれど……目的くらいは」

織莉子「まず今の現状を話して。キリカ。よろしく」

キリカ「オッケー」

キリカ「えっとだね、取りあえずって感じなんだけど」

キリカ「スタンドにおける魔法少女の縄張り争いの激化のてんやわんやで、幸いにもこの計画はしろまるには割れていない」

キリカ「もし知られることがあるとすればせいぜい私達と君が手を組んだってことくらいだ」

キリカ「ところで、杏子」

杏子「ん?」
410 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 21:59:07.04 ID:lH0vbrgD0

キリカ「レイミ……もとい、スタンドを発現させた魔女、使い魔の結界のことだけど……最近見た?」

杏子「いいや。見てない」

キリカ「実は、そこに迷い込んだことのある一般人がいるらしいんだ」

キリカ「それも、喰われたりとかせずに生きて帰ってきたパターンがある」

杏子「……口づけ喰らったんじゃねぇの?」

キリカ「その辺はわからない」

キリカ「でもね、生きているということは『スタンド使い』になっていると言ってもあながち過言じゃあない」

杏子「……マジか」

キリカ「『悪魔の手の平』という名前で都市伝説になっている」
411 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 21:59:57.75 ID:lH0vbrgD0

キリカ「まぁ、よくある変な世界に迷い込む系の、現実味ペラペラ都市伝説の一つになってるんだけどさ」

杏子「……なるほど」

織莉子「……魔法少女がスタンドを得て、縄張り争いが激化した」

織莉子「なら、もし一般人がスタンドを得たら……」

杏子「……どうなると思うんだ?」

織莉子「仮にスタンドという超能力をどこかのルール無用な人間の手に渡ってみなさい」

キリカ「自分の欲望でしか考えないゲスのことだ。この世界は世紀末状態になりかねない」

杏子「…………」

織莉子「それだけは阻止しなくてはならないッ!」

キリカ「ストップでハッピー」

杏子「は?」
412 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 22:00:51.46 ID:lH0vbrgD0

織莉子「救世の使命を持った者としての絶対的『使命』!」

キリカ「戦いの犠牲が出るからこそ『大切なもの』が手に入る」

織莉子「何が言いたいかというと、学校襲撃のターゲットは「暁美ほむら」だけでなく『スタンド使い』が追加された、ということよ」

杏子「回りくどいなオイ」

杏子「しかし、スタンド使いもターゲットとなると……あんたらもあたしもそうなるが」

キリカ「わかってないな。悪いヤツに力は与えるなってことだよ」

織莉子「あなたは利己的な人よ。どこぞの魔法少女のように、テリトリーを奪ってより多くのグリーフシードを採集せんとする魔法少女とは違う」

織莉子「この世に『奪う者』は必要なし。正義、正しい心を『受け継ぐ者』またそれを『与える者』がいればいい」

キリカ「スタンド使いが少なくなればスタンドを悪用する蓋然性が著しく低くなる」

キリカ「極論、スタンド使いが私達三人だけになれば、そんな心配もないだろうってね」

杏子「……そうかよ」

杏子「まぁ、ほむらだろうが一般人だろうが別にどうでもいいよ」
413 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 22:02:52.65 ID:lH0vbrgD0

杏子「で?あたしは、何をすればいいんだ?」

キリカ「お?仕事が欲しいのかい?やる気だねぇ」

杏子「そうでもない。やることもわからずに連れてこられてもあたしが困るからな」

織莉子「そうね……今は特にして欲しいことはないわ」

杏子「…………」

織莉子「せいぜいこれまで通り、風見野で魔女を狩って、というとこくらいかしら」

キリカ「グリーフシードはあって困ることはないからね」

杏子「そう、かよ」

織莉子「時期が来るまで、ここを拠点としてお使いなさい」

杏子「……ここに暮らせ、と?」

キリカ「織莉子と二人きりの時間が減るけど……仕方ない」

織莉子「空いてる部屋もあるから、問題ないわ」
414 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 22:03:20.84 ID:lH0vbrgD0

織莉子「ただし、暁美ほむら達に存在を知られてはいけない……」

織莉子「もとい、見滝原を不用意にうろつかない、余計なことをしないことを約束なさい」

杏子「わかったよ。……とは言え、暁美ほむらの顔を知らないからどうすりゃいいのかわからんが」

キリカ「その辺大丈夫。暁美ほむらや巴マミの通う学校の方向とここは結構違うからね」

キリカ「見滝原で魔女が出ても無視すりゃあいいんだよ」

織莉子「使用済みグリーフシードは風見野で回収してもらって」

杏子「……面倒だな。だが、寝床がもらえるって言うんだ。我慢する」

織莉子「理解が早くて助かるわ」

織莉子「……さて、取りあえず」

織莉子「こうして話している間にお風呂が沸いたようね」

杏子「風呂?」
415 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 22:04:13.21 ID:lH0vbrgD0

織莉子「入ってらっしゃい」

杏子「……ひょっとしてあたし、臭う?」

織莉子「そうは言わないけれど……」

織莉子「その、あなたの生活から考えると……」

キリカ「やっぱり気になるよ」

杏子「……そうか。まぁ、仕方ない」

杏子「着替えとかあるのか?」

織莉子「えぇ」

杏子「ん。じゃあ、入ってくる。場所はキリカについでで教えてもらった」
416 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 22:04:53.49 ID:lH0vbrgD0

ガチャ…

キリカ「……行ったね」

織莉子「……えぇ」

織莉子「……キリカ」

織莉子「うん?」

織莉子「彼女に心を許してはいけないわ」

キリカ「…………」

キリカ「言わずもがな。私が心を許しているのは織莉子だけだよ」

織莉子「彼女はただ、利用するだけよ」

織莉子「目的を果たして彼女が生き残っていたら……クリームで飲み込んでやりなさい」

キリカ「……え?」
417 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 22:05:35.95 ID:lH0vbrgD0

キリカ「い、いいの?マジィ?」

キリカ「まぁ織莉子がやれって言うならもちろんやるけど……」

キリカ「何て言うか……私はそういうの好まないかな。義理というか……いや、否定してるわけじゃないよ」

織莉子「義理?そんなもの必要ないわ」

織莉子「彼女は、最終的には私達を裏切る可能性を孕んでいる」

キリカ「そっ!それは本当!?」

織莉子「予知で見たわけではないけど、臭いでわかる。そういうことをしかねないって」

織莉子「私達が生きるために、後々邪魔になるのは間違いないわ」

織莉子「何と言っても、スタンド使いだし」

キリカ「ふぅ〜ん……まぁ、いいけどね……。……ねぇ、織莉子」

織莉子「……何?」

キリカ「あ、いや……別に、やっぱいいや」

織莉子「?」

キリカ(織莉子……なんか、性格が変わった、というか……何というか……)

キリカ(……まぁ、いっか)
418 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 22:06:08.83 ID:lH0vbrgD0

杏子「…………」

杏子(スタンド使いがいなければスタンドを悪用される心配はない……か)

杏子(……確かに余計な力を持つ者は少ないに越したことないだろう。あいつらの言うことにも一理ある)

杏子(だが……あたしのスタンド……シビル・ウォーは魔法少女を魔女にするくらいにしか役に立たない)

杏子(故にもとよりあたしはまだしも……)

杏子(あいつらの能力を、あたしは知らない……心配がないとは言えねぇ)

杏子(そもそも、あたしは魔法もスタンドも悪用している。それはいいのか?って話になるじゃあねぇか)

杏子(そんなあたしをその正義のために味方につけるなんて……いや、事情を知らないんだろうけど)

杏子(何が正義かわかったもんじゃねぇな。正義なんてのは、こうあやふやなもんだ……)

杏子(ま、こんな豪勢なとこにしばらく住めるんだ。何も言うまい)
419 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 22:07:00.92 ID:lH0vbrgD0


キラークイーン 本体:千歳ゆま

破壊力 A スピード C  射程距離 E
持続力 D 精密動作性 D 成長性 C

触れた物を『爆弾』にする能力(一度に一つだけ)。その性質は「護身」
キラークイーンが触れた物はどんな物でも爆弾になる。
爆弾の大小問わず大爆発。強い力が欲しいと願ったことで発現。
体型はゆまと同じくらい。ゆまはキラークイーンを「猫さん」と呼ぶことがある。
左手の甲から、魔力を探知して自動追尾する爆弾戦車「猫車」を出すことができる。

A―超スゴイ B―スゴイ C―人間と同じ D―ニガテ E―超ニガテ

*実在するスタンドとデザイン・能力が多少異なる場合がある

420 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/27(木) 22:10:02.28 ID:lH0vbrgD0
うわ、短い。今回はここまで。お疲れさまでした。
住所不定に帰る場所が与えられた回でした。

ゆまの呼び方に関して特に深い考えはありません。ほむほむ。

ちなみにですが、ゆまはスタンドが欲しいという内容で契約したので
「魔法武器が無い&回復魔法は使えない」という設定です。スタンドが魔法武器。
別に魔法武器や回復を使わせる機会が無かったからではないです。
別に魔法武器や回復を使わせる機会が無かったからではないです。
決して何かよくわからない棍棒っぽい武器のことを忘れてたなんてことはないです。

ついでにキラークイーンはオリジナルよりも等身が小さい設定です。
セト神戦の小さいシルバーチャリオッツみたいな等身を想像していただければ……


ネタバレって程でもないですが、次回さやか契約します。エリー回とも言いますかね。

ぶっちゃけちゃうと恋慕関係の下りは面倒くさいというか好きでないというか……
そういうわけで他の話と比べると手の入れ方が雑と捉えられるかもです。
421 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/27(木) 22:11:54.55 ID:pKpptN+Wo
まぁさやか契約するなら被るしな。
衝撃波も第一の爆弾で代用できるだろうし。

422 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/12/27(木) 23:01:59.00 ID:JZcB5ZYAO
キラークイーンを猫さんと呼ぶって……
俺の知ってる猫と違う


一般人にスタンド使いがいるという下りをしたからこれは仁美か恭介スタンド覚醒フラグすわぁ
423 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/27(木) 23:34:25.04 ID:MX07hYoqo
ストレイ・キャットかと思ったら違った
確かに猫っぽく見えないこともないが……

マミさんはまだスタンド発現してないのか
424 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/27(木) 23:36:45.62 ID:pKpptN+Wo
マミさんはティムや徐倫が相性的には良いんだろうな
ジョセフは生きてるっけ?
425 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 10:21:27.46 ID:w6fA4+mN0

#9『志筑仁美のナイトメア』


――病院

ここには、さやかの幼なじみである上条恭介が入院している。

事故に遭い、腕と脚を負傷したのだ。

幼なじみのよしみでか、別の感情があってか、頻繁に見舞っている。


さやか「元気ィ?」

恭介「さやか……」

さやか「お土産持ってきたよ。恭介」

さやか「はい。バイオリンのCD」

さやか「これ手に入れるのに結構手こずったよぉ〜」

恭介「…………」

恭介「……さやか」

さやか「うん?」
426 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 10:24:02.80 ID:w6fA4+mN0

恭介「さやかは、僕をイジめて楽しいのかい?」

さやか「え……」

恭介「腕が動かないのに……そんな、CDを土産にするなんて……」

さやか「…………」

さやか「そ、それは……」

恭介「もう、医者に言われたんだ。もう、不可能だって……!」

恭介「もう、腕は動かないんだ」

恭介「もう、バイオリンは弾けないんだ……」

さやか「あ、諦めちゃダメだよ!」

さやか「そんな気持ちじゃ、心持ちじゃあ奇跡なんて起きやしないって!」

恭介「起きないさ!奇跡なんてものはッ!」
427 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 10:25:12.81 ID:w6fA4+mN0

さやか「奇跡はある!奇跡も、魔法もあるんだってば!」

さやか「気持ちの問題だよ!そんなんじゃ……」

恭介「弾けもしないバイオリンの音色なんてッ!」

ガシャンッ!

さやかの言葉は、恭介の衝動を抑えることはなかった。

さやかがベッドの上にポンと置いたCD。それを動く方の腕で掴み、床に投げ叩きつけた。

ケースは分解し、中のCDが飛び出した。


さやか「……ッ!」

さやか「あ、あんた何てこと……!」

さやか「折角買ってきたのに……恭介が頼んだのに……これは酷すぎ……」

恭介「いい加減にしてくれッ!」

さやか「ッ!」
428 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 10:26:09.22 ID:w6fA4+mN0

さやか「きょ、恭介……」

恭介「さやかには僕の感じてる恐怖がわかっていないんだ!」

さやか「そ、そんなことないよ!」

さやか「恭介が辛い思いをしてるって、重々わかっ――」

恭介「うるさいッ!知った風な口を言うんじゃあないッ!」

さやか「し、知った風なって……」

恭介「さやかは何もわかっちゃいない!」

恭介「さやかは見えていないんだよッ!」

さやか「きょ、きょうす……」

恭介「さやかだけじゃない!医者も看護師も!誰一人!」
429 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 10:27:31.16 ID:w6fA4+mN0

恭介「誰一人として僕の恐怖を認識できていないッ!」

恭介「勝手なことを……無責任な言葉を投げかけないでくれ……!」

さやか「…………」

恭介「お願いだ……さやか。もう、出てってくれ……」

さやか「で、でも……」

恭介「一人にしてくれ……!」

さやか「と、とにかく落ち着い……」

恭介「出てけと言ったのが聞こえないのかよッ!」

さやか「……!」

さやか「……わかった。今日は……帰る」

さやか「また、来るね……」

パタン…
430 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 10:28:25.76 ID:w6fA4+mN0

恭介「…………」

恭介「うぅ……くそ……っ!」

恭介(また来る、だって?……別にもう来なくてもいいのに)

恭介「誰も……誰も僕のことをわかっちゃあいない……!」

恭介「さやかも……誰も……!」

恭介「くそっ!この恐怖を誰かに話そうとしても……」

恭介「周囲の人間の『カワイソー』とか、『知らんぷりしてテキトーに相槌打っておこう』って態度が……」

恭介「ますます僕の恐怖を煽るッ!」

恭介「誰も、誰もわかっていないんだッ!」

恭介「どうしてだ……どうして、納得のいく答えを誰もくれないんだ……」

恭介「本当に……本当に何なんだ……!一体何なんだよ……!」


恭介「『こいつ』は……!」
431 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 10:30:14.51 ID:w6fA4+mN0

ベッド横にある机の上には、ケースにヒビの走ったCDが置かれている。

丁寧にもその欠けた数個の破片までもがその隣に並べられている。

床には何もない。正確には、何もなくなった。


コン、コン

ノックの音。

恭介は声を出す気にもならなかった。

来客は、その無言を「拒否はしていない」

イコール「入ってもいい」と判断した。


「……失礼します」

恭介「…………」

「……上条くん」

恭介「……志筑さん?」

仁美「今……さやかさんが走って出ていったのですが……」
432 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 10:31:28.96 ID:w6fA4+mN0

仁美「何か……あったんですか?さやかさん。私に気付かずにすごい勢いで……」

恭介「……君には、関係のないことだよ」

仁美「………」

仁美「あの、私……お尋ねしたいことがあるんです」

仁美「世間話というには少しズレてるかもしれませんが……大切なこと」

恭介「……悪いけど、一人にしてくれないかな」

仁美「お時間は取らせませんので」

恭介「……何、かな」

仁美「…………」


仁美「『悪魔の手の平』……という噂、知っていますか?」
433 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 10:33:11.34 ID:w6fA4+mN0

恭介「…………」

仁美「これは、あくまで都市伝説です」

仁美「いつもの通り、暗くなってきた道を歩いて……」

仁美「少し時間を節約しようと脇道や近道を通る……」

仁美「すると、突如として妙な空間に迷い込んでしまうことがあるそうです」

仁美「何でも、空がピンク色で、断層が隆起していて、家がズタボロらしいのです」

仁美「カフェと思しき建物の崩れたらせん階段。天使のイラストや何やら妙な落書きがあって……枯れた紫陽花もありま……あるそうです」

仁美「そして、そこに迷い込んだ人に、お化けが迫ってくるのです。それで何とか、その廃墟の街から逃げ切ると……その人は……」

仁美「生き延びた報酬なのか……不思議な『能力』を得るそうです」

恭介「……ッ!」
434 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 10:34:28.53 ID:w6fA4+mN0

仁美「風の噂では、血縁者が件の能力を得ると……」

仁美「その兄弟やご子息も、それに目覚めると言うのです」

恭介「…………」

仁美「まるで、共通の遺伝子と共鳴するかのように……」

仁美「外を出歩かずとも突如としてそれが目覚めるということもありうるという……」

恭介「志筑さん……き、君は……君は一体、何を言って……」

仁美「私が個人的に調べた結果です」

恭介「何が……君は何を言いたいんだい……?」

仁美「…………」

仁美「上条くん……あなたは……」


仁美「私と同じ『能力者』です」

435 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 10:35:36.67 ID:w6fA4+mN0

――翌日


ピンポーン

ガチャ


ゆま「ほむほむ!」

ほむら「こんにちは。ゆまちゃん」

ドタドタ

ゆま「マミお姉ちゃん!ほむほむ達来たー!」

ほむら「……ふふ、ゆまちゃん、楽しそうだね」

まどか「あ、うん。そうだね……」

さやか「お邪魔します……っと」

ほむら「…………?」

ほむら(何だろう……鹿目さんも美樹さんも、今朝から何か……)

ほむら(元気がない……何かあったのかな)
436 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 10:37:07.13 ID:w6fA4+mN0


QB「やぁ。三人とも」

マミ「いらっしゃい」

まどか「お邪魔します」

ゆま「お茶とケーキだよ!」

さやか「お、ありがとう」

マミ「ゆまちゃん、よく家事を手伝ってくれて私本当に助かっちゃうわ」

ゆま「えへへぇ……ゆま、マミお姉ちゃんのお手伝いするの楽しくって、大好き!」

マミ「あぁ……何ていい子なの……!」

マミ「よぉ〜しよしよしよしよしよし」

ナデナデナデナデ

ゆま「あぅん、くすぐったいよぉ。えへへぇ」
437 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 10:38:44.64 ID:w6fA4+mN0

マミ「さぁさぁさぁさぁ、みんな。召し上がれ」

さやか「……いただきます」

まどか「わぁ、美味しそう」

ほむら「いつもすみません」

ゆま「ケーキ美味しい。むしゃむしゃ」

マミ「あらあら、クリーム付いてるわよ。拭いてあげる」

ゆま「んー」

まどか「何だか、本当の姉妹みたいだね」

ほむら「うん。微笑ましい」

さやか「……そうだね……本当に、幸せそう」

ほむら「……ね、ねぇ、鹿目さん。美樹さん、どうかしたの?」

まどか「……うん。昨日、ちょっと……」

ほむら「?」
438 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 10:40:00.65 ID:w6fA4+mN0

マミ「……それで、美樹さん」

さやか「はい」

マミ「『大事な話』って何?」

ほむら「え?」

まどか「…………」

ほむら「あの、大事な話って……」

マミ「暁美さんは聞かされてなかったようね」

ゆま「ゆまも聞いてないっ」

QB「何かあったのかい?」
439 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 10:40:44.81 ID:w6fA4+mN0

さやか「マミさん、転校生、ゆまちゃん、キュゥべえ」

ほむら(……もしかして)

ゆま「なぁに?」

QB「何かな」

まどか「…………」

さやか「……あたし」

さやか「……『契約』したい」

マミ「!」

ゆま「ふぇ……?」

ほむら「ッ!?」
440 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 10:42:17.58 ID:w6fA4+mN0

さやか「あたし……決心しました」

さやか「あたしは……知り合いを助けたい」

QB「……へぇ」

まどか(……今朝、さやかちゃんから上条くんと喧嘩した話を聞いた)

まどか(ずっと……思い悩んでいるって感じだった……)

さやか「あんな大人しいあいつが……取り乱して……」

さやか「これ以上辛そうなの見てられないんです」

さやか「あたしは、あいつを助けたい。契約したいんです」

ゆま「さやか……」

QB「それが、君の望みなんだね?」

さやか「うん。……でも、やっぱり、予め話しておきたくて」
441 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 10:43:18.13 ID:w6fA4+mN0

ほむら「……ダ」

マミ「……そうね。美樹さんがその気なら――」

ほむら「ダメッ!」

さやか「へ?」

まどか「ほ、ほむらちゃん?」

ほむら「……あっ」

ゆま「ほむほむ……?どうしたの?」

さやか「きゅ、急に大きな声で……ダメって……」

QB「さやかに契約させたくない理由でもあるのかい?」

さやか「…………」

さやか「どうなの?転校生」

442 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 10:44:34.23 ID:w6fA4+mN0

ほむら「え、えっと……その、あ、危ない目に、遭わせたくないですし……」

ほむら(ま、まずい……思わず大きな声を出して変な空気に……)

さやか「心配してくれてるのか……優しいね。転校生」

さやか「でもね、あたしは覚悟を決めたよ」

さやか「本気で叶えたい願い事ができたんだよね」

さやか「やっぱり、勝手に契約はできないからこうやって相談して……」

ほむら「い、いくら覚悟があるからって……契約したら……いつ死ぬかわからないし……」

さやか「大丈夫だよ!マミさんも転校生もいてくれるでしょ?それにゆまちゃんだっている」

さやか「ですよね?マミさん。ゆまちゃん」

マミ「えぇ。そうね。契約をするのなら、ちゃんと面倒を見るわ」

ゆま「ゆまはさやかのセンパイになるね?」

QB「マミはベテランだし、一度見習いの魔法少女を教育した経験がある。ゆまもスタンドという力がある」

QB「すぐに安定するようになるだろう」
443 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 10:45:35.97 ID:w6fA4+mN0

ほむら「で、でも……」

さやか「あたし、本気なんだ。わかってほしい」

ほむら「…………」

ほむら「……上条くんのことですよね」

さやか「え、な、何で知って……」

まどか「あれ?ほむらちゃん、上条くんのこと知ってたっけ?」

ほむら「え、あ、うん。一応……」

マミ「美樹さんの知り合い?」

ゆま「さやかのふぃあんせ?」

さやか「フィ、フィア……っ!ち、違うよぉ!た、ただの幼なじみスよぉ!」

444 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 10:48:08.09 ID:w6fA4+mN0

さやか「事故で腕が動かなくなって……治る見込みもないって言われて」

さやか「それで、あたし、恭介の腕を治したいんです」

マミ「そうなのね……」

ほむら(え、えっと……どうしよう。どうしよう……!)

さやか「いいよね?転校生。あたしの気持ち、わかってよ」

ほむら「…………」

ほむら「そ、それって……」

ほむら「えっと……その」

ほむら「……上条くんの望み、ですよね」

さやか「……は?」

さやか「い、いや……だから、恭介の望みじゃなくて、恭介の腕を治すのがあたしの望みだよ」
445 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 10:49:23.03 ID:w6fA4+mN0

ほむら「腕を治して……えっと、美樹さんはどう……したいんですか……?」

さやか「どうって……」

さやか「……転校生、あんたは何が言いたいの?」

まどか「ほ、ほむらちゃん……?」

ほむら「美樹さんは、上条君に……その、恩を売りたい、ということなんですか?」

さやか「……何、だって?」

ほむら「あ……不快に思ったらすみません。その、いい言葉が浮かばなくて……」

ほむら「多分、ですが……上条くんを哀れに思って、突発的に契約しようと思った」

ほむら「……そう、見受けられました」

ほむら「なので……もっと冷静になっていただきたいんです」

ほむら「後悔のない選択を……してほしいんです」

さやか「……あたしは、後悔なんかしないよ」
446 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 10:50:43.11 ID:w6fA4+mN0

ほむら「いや、あの、その……今後、美樹さんは……」

ほむら「上条くんの腕を治してあげたっていう……えっと……」

ほむら「何て言うか……普通の意識ができなくなると思うんです」

まどか「普通の……意識?」

ほむら「無意識的に見返りを求めるというか……」

ゆま「ほむほむー話が長いよー難しいよぉ」

マミ「えっと……大切な話をしているのよ」

さやか「つまり……転校生はこう言いたいんだな?」

さやか「あたしが『恭介の恩人になった自分に酔う未来が目に見えてる』と」

ほむら「そ、そこまでは……」

ほむら「そ、それに上条くんは、幼なじみの美樹さんに、魔法少女だなんて危険な身分になられてまで治っても嬉しくない……と思うんです」
447 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 10:51:33.90 ID:w6fA4+mN0

ほむら「もし、上条くんが魔法少女のことを知ったすると……美樹さんに罪悪感を覚えるかと……」

ほむら「そうなったら……二人の仲はギクシャクして……きっと、前と同じ仲にはなりにくいと思います」

ほむら「そうなったら……美樹さんは、その……後悔する……私は、普通の人生を送って欲しい」

ほむら「あの……えっと……それに……」

ほむら「み、美樹さんは……その、逃げてるんだと思います」

ほむら「腕が動かなくなった後のフォローを諦めて、一番簡単な自己犠牲の選択を……」

ダンッ!

さやか「いい加減にしろよッ!!」

ゆま「ひぃっ!?」


テーブルに手を叩き付け、さやかは大声で怒鳴った。

重苦しい空気に乱気流が発生した。
448 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 10:52:42.20 ID:w6fA4+mN0

ほむら、マミ、まどか、ゆまは体をビクリと強ばらせた。

キュゥべえは動じも口出しもせず、ただ黙って見ていた。


マミ「…………」

ゆま「さ、さやかぁ……」

まどか「…………」

ほむら「え、えと、その……」

さやか「何!?何なのさっきから!?」

さやか「あたしの願いを頭ごなしに否定してさぁ!何なのよ!?」

マミ「み、美樹さん。落ち着いて……」

ほむら「わ、私はただ、後悔してほしくなくて……」

さやか「後悔なんてあるわけない!さっきからそう言ってるだろッ!」

ほむら「で、でも、それは……」

さやか「だったら、さぞあんたは素晴らしいことを願ったんだろうね!」

ほむら「え……」
449 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 10:53:53.32 ID:w6fA4+mN0

さやか「マミさんは生きたい。ゆまは恩人の力になりたい……」

さやか「あんたの願いは何?あたしの願いを否定するってことは、それらに相当するものなんでしょ?!」

さやか「あんただけ、願いを聞いていない!」

まどか「さ、さや……」

さやか「まどかは黙ってて!」

さやか「ほら、転校生!言ってみろよッ!あたしの覚悟よりもずっと高尚な願いなんだろ!?」

ほむら「う……」

ほむら(……鹿目さんを救うために、魔女に、魔法少女にさせないために未来から来た)

ほむら(そんなこと、言えるわけがない……)

ほむら(救うためと言われても、どういうことなのか必ず食い下がって聞いてくる。それにも答えられないと真偽を疑われる)
450 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 11:04:37.11 ID:w6fA4+mN0

ほむら(かと言ってワルプルギスの夜に殺されるから契約をさせたくない、と言っても押しが弱い)

ほむら(例え、話したとしても美樹さんの性格から、戦力になりたいと意気込むだけ……)

ほむら(魔女化のことを、今、話すわけにはいかない……)

ほむら(うぅ……巴さんが自棄になって佐倉さんを殺した光景が脳に焼き付いてしまっている……浮かんでくる……)

ほむら(それに……それだけじゃない)

QB「他人のために契約することはそう珍しいことじゃないよ」

ゆま「ほ、ほむほむ……」

ほむら(……ゆまちゃんに、キュゥべえに知られるわけにはいかない)

ほむら(自分が魔女になるかもしれないと知ってしまったら……ゆまちゃんはどうなる?)

ほむら(ゆまちゃんは佐倉さんのために契約して、その佐倉さんに見捨てられた……)

ほむら(まだ、まだこんな幼いのに、これ以上、残酷なことは……!)

ほむら(キュゥべえに、私の目的を知られたら、何をするかわかったものじゃない)

ほむら(…………ダメだ)
451 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 11:07:04.97 ID:w6fA4+mN0

ほむら「……言えません」

ほむら(言えない……言えるわけがない……!)

さやか「!」

まどか「ほむらちゃん……」

ほむら(残酷な真実を教えない限り、美樹さんの契約を止めることができないだろう……でも……でも……!)

ゆま「だ、大丈夫?ほむほむ……お腹痛いの?」

ほむら「うぅ……」

マミ「……暁美さん。あなた……」

ほむら「…………」

さやか「……ふーん。言えないんだ」

さやか「ってことは……さ」

さやか「あんた、契約したことを後悔したんでしょ」

ほむら「こ、後悔……?」

さやか「だからあたしにも……契約したことを後悔させたくないと思っている」

ほむら「わ、私は後悔なんか……!」
452 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 11:10:18.94 ID:w6fA4+mN0

さやか「どうせ『しょうもない理由』で契約したんじゃないの?」

ほむら「……え」

さやか「いつだったか、キュゥべえは契約した覚えがないって言ってたっけ……キュゥべえが忘れちゃうようなしょうもない理由」

ほむら(しょうもない理由……)

QB(忘れるなんてことはないはずなんだけれどな……)

ほむら(『しょうもない理由』……!?)

マミ「美樹さん!それは言い過ぎよ!」

まどか「さ、さやかちゃん……」

さやか「だって!それしか考えられない!ここまで意地になって言えない理由なんてさッ!」

さやか「くだらないことを願っちまったから恥ずかしくて言えないんじゃあないのッ!?」

ほむら「しょうもない……理由……!」

ほむら「……ッ!」


まどか「ッ!」

453 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 11:11:48.19 ID:w6fA4+mN0

まどか「ほむらちゃんッ!やめてッ!」

ガシッ

マミ「二人とも落ち着いて!」

ゆま「ほ、ほむ、ほむが……『怒った』……」

さやか「へ、へぇ……あ、あんたでも怒って殴りかかる度胸は、あるんだ……」

ほむら「…………」

ほむら(――ッ!?)


気が付くとほむらは、身を乗り出し右腕を振り上げていた。

テーブルに足を乗せ、左手でさやかの胸ぐらを掴んでいた。

右腕に、まどかがしがみついている。ゆまは涙目になり、怯えた表情をしている。

マミは表情や態度に出さないように振る舞っているが、焦燥を隠し切れていない

さやかはゴクリと唾を飲み、動揺を押し殺している。

キュゥべえは物珍しそうにほむらの表情を見つめていた。
454 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 11:16:14.61 ID:w6fA4+mN0

ほむら(私……まさか)

ほむら(まさか『美樹さんを殴ろう』と……した?)


空気で張った風船が萎んでいくかのように、ほむらの体から力が抜けていく。

その脱力を感知したまどかは、ほむらの腕から手を放し、そのまま肩と背中に触れた。


ほむら(初めてだ……こんな感情)

ほむら(……私なんかでも……カッとなること……あったんだ)

ほむら(目の前が見えなくなって……体が何かに取り憑かれたかのような……)

ほむら「…………」

ほむら(……こればっかりは、私の言い方が悪かった。それは明らかだ)

ほむら(こんなの……こんなのただの逆ギレだよ……)
455 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 11:17:53.69 ID:w6fA4+mN0

まどか「ほ、ほら。ほむらちゃん。座って……落ち着いて……」

ほむら「……うぅ」

ゆま「あ、あうぅ……」

マミ「……美樹さん。暁美さんに謝りなさい」

さやか「…………」

さやか「マミさんはこいつの味方ってわけですか」

マミ「何もそうは言ってないわ」

マミ「私は美樹さんが覚悟を決めているというのなら別に反対はしない」

マミ「確かに暁美さんの言い方というか、態度にも問題はあると思うわ」

ほむら「…………」

マミ「でもね、美樹さん。あなたの言い方、いくらなんでも酷いわ」
456 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 11:18:49.33 ID:w6fA4+mN0

マミ「暁美さんが何を願ったのかは私も知らないけど……」

マミ「踏み込んではいけない領域という可能性もあるわ」

さやか「踏み込んではいけないって……例えばなんですか?いじめっこを殺してくださいとか?」

まどか「さやかちゃん!」

ゆま「はぅ!」


まどかの声にゆまは再び身構える。

さやかは既に落ち着いている。マミは真剣な表情でジッとさやかを見つめる。


さやか「まどか。これは可能性の一つだ。……恥ずかしい理由で契約して、言えないって可能性もあるっちゃあるさ」

さやか「でもねぇ、言えないってことは、そういう推測されるのも仕方ないってことなんだよ」

マミ「その可能性も……確かにあるかもしれないわね」

マミ「とは言え、あなたもカッとなって無神経な言い方をして……暁美さんを傷つけたことには変わらない」
457 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 11:22:36.69 ID:w6fA4+mN0

マミ「暁美さんの、魔法少女の戦いに巻き込みたくないという気持ち、あなたはどう思っているの」

マミ「ただ一言、暁美さんに謝りなさい。言い過ぎたって」

さやか「…………」

さやか「……いや、やっぱり納得できない」

さやか「あたしの覚悟を否定したことには変わらないもん」

さやか「あたし達は仲間だし友達だ」

さやか「……なのに、契約した理由は絶対に言わない」

さやか「秘密にするってことは信用されてないってことだとあたしは思うんですよ」

さやか「マミさんにはすいませんけど、あたし、謝りません」

マミ「美樹さん!」

458 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 11:23:25.75 ID:w6fA4+mN0

さやか「例えマミさんでも、こればっかりは譲れないんですよ……」

ゆま「さやか……」

さやか「……もう、帰ります。お邪魔しました……」

ほむら「…………」

まどか「…………」

ゆま「…………」

マミ「そう……。美樹さん。帰って落ち着いてから、もう一度考えて」

マミ「それは、命を賭けるに値する願いなのかどうか……」

マミ「……明日」

マミ「明日、その決意をもう一度聞かせて。その上で、契約すること。いいわね?」

さやか「…………はい」
459 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 11:24:03.71 ID:w6fA4+mN0

ガチャ…パタン

ドアの閉まる音。さやかは帰路に立った。

まどか、ほむら、マミ、ゆま、キュゥべえ。誰も何も言わない。

感情のないキュゥべえ以外全員が「重苦しい空気」を感じた。


QB「…………」

QB(ほむらのような性格でも、感情に流されて暴力に出ようとするものなのか)

QB(これは珍しいものを見させてもらった)

QB(しかしやはり感情は精神疾患だね。興味深いとは思うけれど)

QB(……さて、さやかは……)

QB(ちょっとでも促せば、すぐにでも契約できそうだ)

QB(……行ってくるかな)

460 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 11:24:51.50 ID:w6fA4+mN0

まどか「…………」

ほむら「…………」

マミ「…………」

ゆま「…………」

ほむら「……ごめんなさい」

ゆま「ほむほむ……」

ほむら「私……、どうしてあんなこと言っちゃったんだろう」

ほむら「もっと……もっと言い方があったのに……逆ギレだよ……あんなの……」

マミ「……いいのよ。暁美さん。気にしないで」

まどか「そうだよ。ほむらちゃん……。ほむらちゃんは、優しすぎたんだよ」

まどか「さやかちゃんも、上条くんのことで色々あったんだよ。だから、少し感情的になってるだけ……」

ゆま「えと……元気出して?」

ほむら「……ありがとう」
461 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 11:25:27.33 ID:w6fA4+mN0

マミ「…………」

マミ(暁美さんは……初めて会った時「友達を失った」と話していた……)

マミ(だからこそ、友達を魔法少女の戦いに巻き込みたくないんだ、私はそう認識している)

マミ(暁美さんには『そのこと』を黙っているように言われたけど……)

マミ「……美樹さんには、後でちゃんと話しておくわ」

マミ「暁美さん……色々あって疲れたでしょう?帰ってゆっくり休むといいわ。今日のパトロールは私とゆまちゃんがやるから」

ほむら「……すいません。お邪魔、しました……」

まどか「それじゃあ、わたしも……失礼します。ゆまちゃん、またね」

ゆま「うん……」

マミ「えぇ……」
462 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 11:26:38.94 ID:w6fA4+mN0

ほむら「…………」

まどか「…………」

まどか「え、えっと……」

まどか「ほむらちゃん……元気、出して」

ほむら「……うん」

まどか「さやかちゃんは、少し意地っ張りなところがあるから……」

まどか「あと思い込みも激しいんだ。一度そうだと思っちゃうと……誤解すると、なかなか改めないの」

ほむら「……そう……なんだ」

まどか「少し前、三年生の人がさやかちゃんにやったロッキー占い。的を射てると思う」

まどか「……すぐに、と言うには難しいかもだけど、ちゃんとわかってくれるよ」

ほむら「うん……そうだね。……ありがとう」

まどか「ううん。わたし……少しでも、みんなの役に立ちたいから」
463 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 11:27:52.82 ID:w6fA4+mN0

ほむら「……ねぇ、鹿目さん」

まどか「なぁに?」

ほむら「よかったら、なんだけど……」

ほむら「その……門限とかもあるだろうから、無理にとは言わないけど」

まどか「えっと……うん。大丈夫だよ。寄り道?」

ほむら「うん。お買い物に付き合って欲しいなって思って」

ほむら「食材を買って帰りたいんだけど……」

まどか「もちろん大丈夫だよっ!」

ほむら「本当?ありがとう。鹿目さん……」

まどか「ううん。気にしないでっ」

まどか「じゃあ行こっ」

ほむら「うん」

464 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 11:31:11.87 ID:w6fA4+mN0

――
――――

日は暮れかけ、電灯の点いていない部屋が薄暗くなってきた頃。

さやかはベッドの上で膝の臭いを嗅ぎながらブツブツと独り言を呟いていた。

マミからは落ち着いて考え直すよう言われたが、それは無理だと思った。


さやか「…………」

さやか「何なんだよ……何なんだっていうんだよ……」

さやか「あたしの願いなんだから……」

さやか「あたしの素質なんだからどう願おうがいいじゃないか」

さやか「……あたし、言い過ぎたのかな」

さやか「いや……何を願ったのか隠す理由って何なの?」

さやか「やましいことがあるに違いない……」
465 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 11:32:43.12 ID:w6fA4+mN0

さやか「……ああ、ムカつく」

さやか「転校生のヤツ……」

さやか「人の気も知らないで、知った風なことを言いやがって」

さやか「結局、見舞う側の気持ちなんかわかっちゃいないんだ」

さやか「転校生も……恭介も……」

さやか「…………」


「やぁ、さやか」


さやか「…………キュゥべえ」


見慣れた白い体が、逆行で黒く見えた。
466 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 11:33:26.92 ID:w6fA4+mN0


――同時刻


ほむら「ご、ごめんね。鹿目さん」

まどか「え?」

ほむら「結構暗くなるまで付き合わせちゃって」

まどか「ううん。大丈夫だよ」

まどか「だからって早歩きにならなくていいんだよ」

ほむら「あ、そ、そう?」

ほむら「でも、ご両親に心配かけちゃうだろうから、帰ろう」

まどか「うん」
467 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 11:35:30.42 ID:w6fA4+mN0


仁美「あら……鹿目さん、暁美さん……ご機嫌よう」

まどか「あ、仁美ちゃん」

仁美「お買い物ですか?」

ほむら「はい。鹿目さんに付き合ってもらって。今はその帰りです」

仁美「仲がよろしそうで何よりですわ」

まどか「……あれ?」

まどか「仁美ちゃん、今日お稽古じゃなかったっけ?」

仁美「そうですねぇ。大丈夫ですわ」

仁美「……お二人とも、これから良いとこに行きませんか?」

ほむら「良いとこ?」
468 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 11:36:32.31 ID:w6fA4+mN0

仁美「一緒に行きましょう?」

まどか「帰るのが遅くなっちゃうよ」

仁美「大丈夫ですよぉ。楽しいですよぉ」

ほむら(……?何か、志筑さん……違和感、というか……)

ほむら「――ッ!」

ほむら「か、鹿目さん……!」

まどか「?」

ほむら「し、志筑さんの首……」

まどか「へ?……あッ!?」

まどか「魔女の口づけ……ッ!」

469 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 11:39:06.67 ID:w6fA4+mN0

まどか「ど、どうしよう!」

ほむら「魔女の口づけは、その魔女を倒さないといけない……」

仁美「行きましょうよぉ」

まどか「うぅっ……こ、この力……!?」

ガシッ

仁美は二人の手首を掴んだ。

その力は女子中学生の握力ではない。


まどか「ほ、ほむらちゃん、どうしよう……」

ほむら「…………」

ほむら「と、取りあえず、志筑さんについていこう」

仁美「まぁ、流石暁美さん。聡明なご判断ですわ」
470 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 11:41:27.43 ID:w6fA4+mN0

まどか「……大丈夫なの?」

ほむら「魔女の口づけが付いているということは、その良いとこってのは魔女のとこかも……」

ほむら「蓋然性は高いよ……それに……」

ほむら「魔女の口づけは魔女を倒さないと決して消えない。早くしないと手遅れになっちゃう」

ほむら「だから、魔女が現れたら私が相手をする」

まどか「う、うん」

ほむら「一応、巴さんにも電話で助けを呼ぼうと思ったんだけど、ケータイ繋がらなくて……」

まどか「繋がらないの?っていうかいつの間に?」

ほむら「うん。巴さんの家の番号は覚えてないから……テレパシーもここまで離れると……」

ほむら「後でまたかけてみるけど魔女が現れたらきっと来てくれるから、厳しそうなら時間を稼ぐ」

ほむら「私のことは心配いらないから……鹿目さんは先に……」
471 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 11:45:35.87 ID:w6fA4+mN0

仁美「鹿目さんは、用事でもあるのですか?」

ほむら「そうみたいなので、私が……」

まどか「……ううん。大丈夫だよ」

ほむら「か、鹿目さん!?」

仁美「多い方が楽しいですわ」

まどか「ほむらちゃんにばっかり……大変な思いさせたくない」

ほむら「危険すぎるよ!ダメだよ!」

まどか「わたしには……いざって時にはスタープラチナがあるよ」

まどか「仁美ちゃんを助けなくちゃ……!」

ほむら「でも…………」

まどか「ほむらちゃんにもしものことがあったら……わたし……!」

ほむら「鹿目さん……」

ほむら「…………うん。一緒に行こう」

まどか「ほむらちゃん……!」

ほむら(……確かにスタープラチナは強い。それに、いざって時には時間を止めれば何てこともない……!)
472 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 11:47:17.59 ID:w6fA4+mN0


仁美は、そのまま二人を、町外れの廃工場へ招いた。

西日が入ってきていないため、内部は薄暗い。

三人の足音がコツン、コツンと響く。

荷物はほむらの盾に入れた。


仁美「あら?暁美さん。いつの間に着替えたんですか?」

まどか「ねぇ、仁美ちゃん……ここって」

仁美「え、あぁ……ここに、皆さんと待ちあわせをしておりますの」

ほむら「皆さんって?誰もいませんけど……」

仁美「もうすぐ来ますわ……私は、このパーティのリーダーですわ」

ほむら(リーダー?)

仁美「さぁ、どうぞ……座ってください」

まどか「じ、地べたに直接……?」

ほむら(魔女は……どこから現れるんだろうか)
473 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 11:48:24.88 ID:w6fA4+mN0


まどか「……?」

まどか「何、これ……?」

ほむら「どうしたの?鹿目さん」

まどか「これ、落ちてた」

ほむら「……何かの容器?」

ほむら「ラベルが汚れてて……読みづらい」


まどかが拾った容器のような物は、廃工場内そこら中に落ちていた。

大きめの容器、その口部分は何やら濡れていて、ヌルヌルしている。


ほむら「……業務用洗剤?」
474 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 11:49:28.20 ID:w6fA4+mN0

まどか「洗剤?」

仁美「あぁ……それですか」

まどか「仁美ちゃん」

仁美「これは重要アイテムみたいなものですわ〜」

ほむら「何に……使うの?」

仁美「皆さんが来てからの、お・た・の・し・み。ですわ」

仁美「パーティグッズのようなものです」

ほむら「……?」

まどか「…………」

まどか「……あ!」

ほむら「え、ど、どうしたの?」
475 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 11:51:05.56 ID:w6fA4+mN0

まどか「ほむらちゃん……あれ……!」

ほむら「あれ?」

まどか「そこのバケツの隣にある……」

ほむら「……容器?」

まどか「ウチでも同じの使ってる……」

ほむら「使ってるって……」

まどか「確か、塩素系だった……」

ほむら「……もしかして!」

ほむら「あのバケツの中は……洗剤?!」

まどか「も、もしかしたら……混ぜたら危険……!」

ほむら「……!」
476 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 11:52:22.73 ID:w6fA4+mN0

ほむら「鹿目さん!手を!」

まどか「えっ!?」

ほむら「手を握って!」

まどか「う、うん……!」

カチッ

ほむら「時間を止めた……」

まどか「え?え?」

ほむら「私に触れることで、時の止まった世界に入れる」

まどか「何か……すごい。本当に仁美ちゃんが止まってる……」

ほむら「……この洗剤とバケツの洗剤」

ほむら「……やっぱり酸性だね。混ぜると塩素ガスが出る……」

まどか「……!」
477 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 11:54:41.79 ID:w6fA4+mN0

ほむら「つまり、魔女がこれで集団自殺をさせようとしてる」

ほむら「だから……鹿目さん」

まどか「……うん!」

まどか「スタープラチナッ!」


「ウオオオオォォォォォ!!」

まどかの背後に現れたスタープラチナは大きな声を発しながら、洗剤の入ったバケツを一滴も零さないように投げた。

窓から飛び出し、どこへ飛んでいくかはわからないが、少なくとも塩素ガスの発生を防いだ。


まどか「洗剤を放り投げた……これで大丈夫だね」

ほむら「うん……時は動き出す」


仁美「…………」

仁美「……あら?」

仁美「いつの間に、二人とも……」
478 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 11:56:32.56 ID:w6fA4+mN0

仁美「……?」

仁美「……あの、さっきまでそこにあったバケツ、知りません?」

仁美「…………知りません?」

まどか「あのバケツなら、わたしが遠くへやったよ」

仁美「……何故?」

まどか「何故って!危ないから……」

仁美「人が死ぬ程度に危なくないといけないんですが」

ほむら「やっぱり、魔女に操られて……」

仁美「…………」

仁美「どうして……ですの?」

仁美「よくわからないのですが……質問をします」
479 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 11:58:58.06 ID:w6fA4+mN0

仁美「何故、邪魔をするのですか?」

まどか「じゃ、邪魔って……」

仁美「あなた達英雄になろうとしているのかしら?」

仁美「それとも命を大事にとでも言うつもり?」

仁美「やめてください……あなた達なんかの薄っぺらな『倫理』などどうでもいいことです」

まどか「仁美ちゃんッ!目を醒ましてッ!」

ほむら「鹿目さん……今の志筑さんには何を言っても無駄だよ……!」

仁美「あなた達は私達の『幸せ』を邪魔している。今……『女神』が迎えにくるの……」

仁美「この人間世界の『平和』と『幸福』は、くだらない人間同士の手と手を取り合った偽善なんかで成り立たない」

仁美「『女神』が魂を救うことで始まる……それをあなた達は邪魔している」

仁美「女神は、何の苦痛もなく幸せの世界へつれてってくれるそうですわ……」
480 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 12:02:34.81 ID:w6fA4+mN0

仁美「女神は、私の持つ『能力』を見込み……私は選ばれました」

まどか「え……?」

仁美「天国は目の前にあるのですわ。あなたも、行きましょうよ……」

仁美「イヤだと言うのなら、集合時間までにあなたを『説得』するまでですわッ!」

まどか「のう……なんだって?」

ほむら「ま、まさか!志筑さっ……!」


ズォォォォォッ!


まどか「うあッ!?ま、眩し……ッ!?」

まどか「な、何……?今、何かされた……?」

まどか「…………え?」

まどか「う……そ……!?」


薄暗い廃工場は、突如として明るくなった。

まどかは目を瞑った。

そして目が慣れてきて、理解した。
481 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 12:05:16.43 ID:w6fA4+mN0

明るくなったのではない。

正確には、廃工場という空間が別の空間に置き換わっていた。

壊れた階段。錆びたポスト。イチジクの実のようなダークピンク色をした空。

枯れた紫陽花。二次関数グラフの落書き。デフォルメされた天使のイラスト。

廃墟の街並み。隆起した穴のあいた断層。


まどか「この結界は……!ええと……なんだっけ……」

まどか「そう!引力の魔女レイミの……!ま、まさか……あの魔女だったの!?」

まどか「ほ、ほむらちゃんッ!」

まどか「……ほむらちゃん?」

まどか「ほむらちゃん!」

まどか「どこ!?どこに行ったの!?」

まどか「ひ、一人にしないでッ!」

「Oyuriinokok」

まどか「ッ!」
482 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 12:05:58.47 ID:w6fA4+mN0

壊れたラジオの音声を逆再生したかのような不快な音。

黒いマントを羽織ったマネキン。

いつの間にか、まどかのすぐ側に使い魔がいた。


まどか「ひ、ヒィッ!」

まどか(つ、使い魔……!)

まどか(いつの間に……!いつの間にこんな近くにッ!)

まどか(どうしよう……!)

まどか(ほ、ほむらちゃんはいないし……!)

まどか(わ、わたし一人じゃ……)

使い魔「Onatiihsuod――nasemanak」

まどか(……いや、違う。わたしは、一人じゃない!)

まどか(わたしは、怯えに来たんじゃないッ!)
483 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 12:08:51.18 ID:w6fA4+mN0

使い魔「Akotukakneg――akasam」

まどか「スタープラチナ!」

「オラァッ!」

ドガァァッ

使い魔「――!」

ドサッ!

まどかのスタンド。スタープラチナが使い魔の顔面を殴った。

まどかは水を熱湯に変えるスタンド使いが来た時以降、スタンドをあまり使っていなかった。

その有り余る程強いパワーを使う機会が、日常生活の上で全くないためである。

最後に使ったのが二日程前。その器用さと速さを活かし、ゆまのためにぬいぐるみを自作して以来。

殴られた使い魔は十メートル程吹き飛んだ。
484 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 12:10:55.41 ID:w6fA4+mN0

まどか「よ、よしっ!わたしでも戦えるっ!」

まどか「使い慣れてないからか……全力って訳でもないけど……!」


仁美「乱暴なことをなさるんですね……」

まどか「ひ、仁美ちゃん!」

まどか「仁美ちゃん!目を醒ましてッ!」

まどか「この結界から逃げてッ!……あ、いや、一人にするのも危険かな……やっぱわたしの側を離れないで!」

仁美「まさか……鹿目さんまで私と『同じような能力』を……!」

まどか「え?仁美ちゃん、今……何て……」

仁美「大丈夫ですか?暁美さん」

まどか「ほ、ほむらちゃん!?どこ!?どこにいるの!?ま、まさかケガを……!?」

まどか「ほむらちゃん!どこに――」

まどか「……え?」

まどか「あ……ああ……!そ……そ、そんなッ!そんなッ!」
485 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 12:12:49.08 ID:w6fA4+mN0

一瞬目を離した隙に、吹き飛ばされた使い魔の黒いマントの形が変わったように見えた。

白と黒の二色でしか構成されていなかった、人型の使い魔の姿が、実際に変わっていた。

肌色が見える。紫のスカートとリボンが見える。赤い眼鏡と黒い銃。灰色の盾が見える。

まどかは殴り飛ばした対象が何か理解した。ほむらだった。まどかは全力で走り寄った。


まどか「『ほむらちゃん』ッ!」

まどか「ほむらちゃん!目を開けて!」

まどか「うぅ……き、気を失ってる……!脳震盪か何かを起こしたからだ……!」

まどか「ど、どうして……!?ほむらちゃん!」

まどか「……か、考えたくもないことだけど」

まどか「この真っ赤な顔……まさか……いや、やっぱり……」

まどか「わたしが……『殴った』?」

まどか「嘘……そ、そんな……確かに、確かにスタープラチナは使い魔を……!」

まどか「あの声はあの使い魔の声だったし……ぎこちない動きもそうだった……」

まどか「そんな……そんな!」
486 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 12:15:34.61 ID:w6fA4+mN0

一瞬目を離した隙に、吹き飛ばされた使い魔の黒いマントの形が変わったように見えた。

白と黒の二色でしか構成されていなかった、人型の使い魔の姿が、実際に変わっていた。

肌色が見える。紫のスカートとリボンが見える。赤い眼鏡と黒い銃。灰色の盾が見える。

まどかは殴り飛ばした対象が何か理解した。ほむらだった。まどかは全力で走り寄った。


まどか「『ほむらちゃん』ッ!」

まどか「ほむらちゃん!目を開けて!」

まどか「うぅ……き、気を失ってる……!脳震盪か何かを起こしたからだ……!」

まどか「ど、どうして……!?ほむらちゃん!」

まどか「……か、考えたくもないことだけど」

まどか「この真っ赤な顔……まさか……いや、やっぱり……」

まどか「わたしが……『殴った』?」

まどか「嘘……そ、そんな……確かに、確かにスタープラチナは使い魔を……!」

まどか「あの声はあの使い魔の声だったし……ぎこちない動きもそうだった……」

まどか「そんな……そんな!」
487 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 12:18:38.69 ID:w6fA4+mN0


仁美「これが私の……悪魔の手の平で手に入れた……」

まどか「ッ!」

仁美「生き延びた報酬……!」

仁美「名を冠するなら『ティナー・サックス』ッ!」

まどか「ティナー……」

まどか「まさか……」

まどか「仁美ちゃん……『スタンド』をッ!」

仁美「あなたが見たのは『幻覚』……五感に語りかける擬似リアリティ」

仁美「幻覚を暁美さんの上に『被せ』た……」

仁美「だから、鹿目さん。あなたは暁美さんが『それ』に見えたのです」

まどか「……!」

仁美「暁美さんも同じ景色を見ていました。ですが、彼女にはあなたが急にイカれて殴ったように見えたはずですわ」

まどか「う、うぅ……!」
488 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 12:19:27.01 ID:w6fA4+mN0

仁美「女神のおかげで……パワーアップしたというところでしょうか」

仁美「この空間は、私の支配下……」

仁美「私が望めば、私の知る範囲で、想像ができる範囲で全てを疑似体験ができますわ……」

仁美「そして、あなたのように……『敵』とする方がおられるのなら……」

仁美「見せましょう!志筑仁美のナイトメアッ!」

まどか「す、スタープラチナ!警戒してッ!」

仁美「これは私が見た景色の再現ッ!」

仁美「使い魔と仰いましたね?使い魔と一括りするのも味気ない……名前をつけましょう」

仁美「キャメロン!マーチン!バージニア!ドルチ!マイク!鹿目さんを捕獲なさい!」
489 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 12:23:05.52 ID:w6fA4+mN0

仁美の背後の建物から、五体、黒マントのマネキンが現れた。

一直線にまどかに向けて歩いてくる。


まどか「スタープラチナ!」

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!」

ほむらを庇いながら、スタープラチナは拳のラッシュを放つ。

仁美の作り出した幻覚の使い魔は五体とも難なく突き飛ばされた。


仁美「……!」

仁美「強い……そして速い……!」

仁美「まさか……優しい鹿目さんがこんなパワー型のスタンド……ですか?能力を……!」

仁美「……ああ、もう。鹿目さん」
490 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 12:24:46.61 ID:w6fA4+mN0

仁美「あなた達が台無しにしてくれたものだから……」

仁美「女神が痺れを切らしてしまったようですわ……」

まどか「……え?」

仁美「ああ……不甲斐なくて申し訳、ない、です……」

まどか「仁美ちゃん!?」


仁美はそう呟いて、ドサリと倒れた。

その瞬間、ティナー・サックスの幻覚の世界は解除される。

ダークピンクの世界は、廃工場の薄暗い灰色――ではなく、水の中のような明るい青い世界に染まった。


まどか「えっ……!?」

まどか「こ、これは……!」

まどか「『別』の結界ッ!?」

まどか「こ、これが……本物。仁美ちゃんを操っていた……」
491 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 12:26:34.90 ID:w6fA4+mN0

そこにいたのは、パーソナルコンピューターのような姿をした魔女。

液晶にはツインテールの少女のシルエットが映っている。


まどか「ま、魔女……!」

まどか「どうしよう……」

まどか「ほむらちゃんは、気絶させちゃったし……」

まどか「や……やるしかないッ!やらなきゃやられるッ!」

まどか「ス、スタープラチ……」

魔女「――――」

まどか「…………うっ」

まどか「うぐっ……くっ……!」

まどか「あ、頭が……胸が苦し……い……?」

まどか「う、うぅぅ……!」

まどか「そ、そんな……そんなこと……」

まどか「あああ……ああ!」
492 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 12:30:24.92 ID:w6fA4+mN0

モニターに、ある映像が映し出された。

その映像の一場面一場面が、まどかの心を抉り傷つける。

大人に叱られたこと。友人に嘘をつかれたこと。他人に嫌がらせをされたこと。

人を憎らしく感じたこと。友を妬んだこと。己が悲しんだこと。


公園で遊んでいると大きな昆虫を踏みつぶした時の景色。

固い甲殻を砕く感触と柔らかい内臓を押し出していく光景。

寝ている野良猫にこっそり近づいて驚かせてしまい、道路に飛び出した猫が少し離れた場所で車に轢かれた映像。

薄汚れた体をブチ破り飛び出された内臓。吹き飛んだ眼球を対向車線の軽自動車が踏みつぶした瞬間。


そしてたった今、意図しなかったとは言え、ほむらを攻撃してしまった罪悪感。

スタープラチナの拳が、ほむらの頬を殴った瞬間を、コマ送りで見せつけられた。

みるみると力が込められ忍苦に歪んでいく友人の表情。

頬骨が割れる音、もの凄く軽い感覚、滲む涙、鼓膜を揺さぶる悲鳴。

ティナー・サックスで目視できなかったことを、改めて見せつけられる。
493 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 12:32:45.45 ID:w6fA4+mN0


その他、多くの嫌な記憶を、トラウマを脳内に直接見せられる『追体験』をさせられた。

脳が内側から頭蓋骨を押し破ろうとしているような、圧迫感のある頭痛。

それが、この魔女の力。トラウマを呼び起こし人の精神を蝕む。

仁美のスタンド、ティナー・サックスと性質が近い。

映像を見せられているだけでこのリアリティー。

むしろティナー・サックスの力が合わさっていると考えた方が自然だった。


まどか「あ……ああ……い、い、や……!」


その場で腰を落としてしまったまどかは、隣で倒れているほむらを揺さぶる。

ほむらは反応しない。悪夢を見ているかのように、その寝顔は曇っている。

脳震盪を起こしたからか、魔女の力なのか、最早まどかには、気絶の理由を判別できない。
494 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 12:33:51.40 ID:w6fA4+mN0

まどか「起きて……ほ、ほむらちゃん……」

まどか「痛いよ……頭が……割れそうに痛いの……お願い……」

まどか「ほむらちゃん……!」


スタンドは精神力。自身の魂で動かしているようなもの。

魔女の魔力を浴びて精神が一時的に衰弱したまどかにスタープラチナを操る力はない。

例え、操れたとしても、再び騙されてほむらを殴るのではないかという畏怖が戦意を沸かせない。


まどか「だ、誰……か……助……け……!」

まどか「う……ぅ……」


ザシュッ!
495 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 12:36:39.32 ID:w6fA4+mN0

魔女「――!」

まどか「て……?」

「うああああありゃあああああッ!」

ズバッ

まどか「な、何……?」

まどか「こ、この声……」

まどか「さやかちゃんッ!」


白いマントを揺らし、剣で魔女を斬る魔法少女。

まどかはその顔を知っている。

さやかはその剣で魔女を真っ二つに断ち割った。

――戦いは一瞬だった。

魔女の結界は解除された。
496 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 12:40:15.07 ID:w6fA4+mN0

さやか「ふぅ……」

まどか「さ、さやかちゃん……」

さやか「何だい。転校生。気を失ってら……ハハ、情けないなぁ」

さやか「仁美までいる……何があったんだ?」

さやか「まどか。どうなったのか説明してくれる?」

まどか「そ、その格好……!」

さやか「あはは……うん。そうだね」

さやか「契約、しちゃったよ」

まどか「…………」

さやか「それで?転校生は何だってまどかと仁美ほったらかしで倒れてんのさ」

まどか「……そ、それは」

まどか「仁美ちゃんがナイトメアで魔女の口づけはスタープラチナと引力の魔女をスタンドのティナー・サックスで……」

まどか「わたしのせいなの……わたしのせいでほむらちゃんが……」

さやか「……ごめん。あたしにもわかるよう、もうちょっとわかりやすく……」
497 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 12:42:23.17 ID:w6fA4+mN0



「まどかお姉ちゃん!ほむほむ!」


さやか「ん?」

まどか「あ!ゆまちゃん!」

ゆま「ハァ……ハァ……だ、大丈夫だった!?」

まどか「う、うん……でも、ほむらちゃんが気を失っちゃって」

ゆま「ほむほむ……!」

さやか「何だか、タイミングがアレだったねぇ」

ゆま「ッ!」
498 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 12:43:21.00 ID:w6fA4+mN0

ゆま「さ、さやか……!」

さやか「…………」

ゆま「契約……しちゃったの……?!」

さやか「……うん」

ゆま「ど、どうして……マミお姉ちゃんが、よく考えてって言ったのに……」

さやか「いやぁ……へへ、どうにも、抑えきれなくて」

ゆま「どうして……さやか……!」

ゆま「…………」

ゆま「さやかの馬鹿ッ!」

さやか「えっ」

まどか「ゆ、ゆまちゃん……」
499 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 12:44:14.26 ID:w6fA4+mN0

ゆま「どうしてマミお姉ちゃんの電話を無視したのッ!」

ゆま「どうしてほむほむの話も!マミお姉ちゃんの話すらも!無視しちゃうの!」

まどか「電話?」

まどか(マミさん、さやかちゃんと電話してたんだ……だから電話が繋がんなかったんだ)

さやか「で、電話……」

さやか(……その時は、その時はどうせマミさんは転校生の肩を持つに決まってるって……そう思ったからだ)

さやか(マミさんに、怒られる気がしたからだ。そして……怖かったからだ)

さやか(キュゥべえに、契約をチラつかせられて……その気になってたのにマミさんに何か言われて……)

さやか(色々言われて恭介の腕を治す決意が揺らいでしまいそうで怖かったからだ……)

さやか「……ごめん」

ゆま「……あのね、マミお姉ちゃんが言ってたの」
500 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 12:44:58.01 ID:w6fA4+mN0

ゆま「ほむほむはね……マミお姉ちゃんと出会う前に、お友達がいたの」

ゆま「魔法少女のお友達……」

ゆま「だけど……死んじゃったんだって……」

まどか「……!」

さやか「え……」

ゆま「ほむほむはね、自分が弱いからって、一人で頑張ろうとしてたの」

ゆま「もう、友達が戦いで死んじゃうの嫌だから……」

ゆま「それでマミお姉ちゃんと出会って……今のほむほむがいるの」

ゆま「ほむほむは……ほむほむは、苦しみたくないから……!」

ゆま「巻き込みたくないから……!お友達を失いたくないから……!」

ゆま「だから、さやかを契約させたくなかったんだって……!」

まどか「……そ、そんなことが……ほむらちゃん……」
501 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 12:46:25.64 ID:w6fA4+mN0

まどか「……辛かったんだね……そんな様子、全然見せなかったのに……」

まどか「隠してたんだね……わたし達に気を使わせちゃうって……」

まどか「きっと……いや、絶対に気を使っちゃうよ……うぅ、ほむらちゃん……!」

ゆま「それなのに……さやか……!」

さやか「…………」

さやか「……そっか」

さやか「転校生、そんなことがあったんだ……」

さやか「だから、あんな風に、あたしを巻き込みたくなくて……」

さやか「願いを秘密にしてた理由は……きっとその死んだ友達に関係してたんだ」

さやか「だから言いたくなかったんだ……」

さやか「あんたは多分、その人が死んでるってことを隠すだろうね」

さやか「そしたらあたし、きっとその友達のことを無神経に聞くわ……。どんな子だった?今どこに居る?って」

さやか「転校生に、悲しい思いをさせかねなかったんだ……」

さやか「……正直、この話を聞かされて今後どう接してやればいいのかわからない部分もある」
502 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 12:47:47.04 ID:w6fA4+mN0

さやか「あたし……」

さやか「……ほむらのこと、誤解してたかも」

さやか「あたしって、ほんと馬鹿」

ゆま「……もう、遅いもん」

さやか「うん。そうだね……」

さやか「でもね……ほむら。あたし、今、すっごい心が安らいでる」

さやか「あたしでも、人を助けることができた。とっても嬉しいの」

さやか「特に、親友のまどかと仁美……そして、あんたを救えることができた」

まどか「さやかちゃん……」

さやか「ほむら……」
503 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 12:48:27.18 ID:w6fA4+mN0

さやかはほむらの頭に優しく手を置いた。

先程まで辛苦を浮かべていた表情は解消され、平穏な寝顔になっている。


さやか「あんたもあたしの嫁だ……!」

ゆま「さやか何言ってるの?女の子同士はケッコンできないよ」

さやか「ぐっ、ま、真面目に返された……!」

さやか「と、とにかくっ!」

さやか「後悔なんて、あるわけない……!」
504 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 12:49:01.88 ID:w6fA4+mN0

さやか「……さて!と」

さやか「あたしはそこでぶっ倒れてる仁美を送ってくよ」

さやか「これから、ほむらとどう接してやろうか考えないといけないからね」

さやか「ゆまちゃん、マミさんにゴメンなさいって言っておいて!」

ゆま「……直接言ってよ」

さやか「わ、わかったって……でも、反省してるってだけは伝えて?お願い」

まどか「……あれ?」

まどか「そういえばゆまちゃん」

ゆま「なぁに?」

まどか「マミさんは?一人で来たの?」

ゆま「途中まで一緒だったよ」

さやか「別の結界が出来たとか?」

ゆま「ううん、何だか『キャー空から洗剤が降ってきた』とか言ってどっか行っちゃった」

さやか「は?洗剤?」

まどか「…………」
505 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 12:52:52.31 ID:w6fA4+mN0


ティナー・サックス 本体:志筑仁美

破壊力 ― スピード ―  射程距離 B
持続力 B 精密動作性 E 成長性 C

『幻覚』を見せるスタンド能力。その性質は「逡巡」
実際に見た光景を再現、現実にあり得ないような光景を作り出す。
幻覚に捕らわれた相手は五感の全てで錯覚に陥る。
幻覚は「空間」に作用するため精密動作性は低い。
しかし、魔女の力と共鳴し一度だけ「個人」を対象にした幻覚を作れた。
仁美が抱いている心の迷いが反映されて発現したと思われる。

A―超スゴイ B―スゴイ C―人間と同じ D―ニガテ E―超ニガテ

*実在するスタンドとデザイン・能力が多少異なる場合がある
506 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 12:55:17.45 ID:w6fA4+mN0
うわ長い。今回はここまで。

杏子の魔法と丸被りであっさりやられたティナー・サックスです。
ほむらがプッツンするシーンは個人的にちょっとアレなのですが、まぁサラっと流してください
幻覚を被せるって何?ってなると思われますが、まぁサラっと流してください

ちなみに仁美のネーミングの元ネタ
キャメロン:アウトローマンの馬の名前
マーチン:バオー来訪者の敵の名前
バージニア:バージニアによろしくの爆弾の名前
ドルチ:ドルチ 〜ダイ・ハード・ザ・キャット〜
マイク:武装ポーカーのビーフシチュー食べましたの人


今夜再開します
507 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/28(金) 14:44:33.63 ID:HUGl6nECo
鎧の魔女「……」

508 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/12/28(金) 17:21:46.17 ID:XtIfviMAO


水を熱湯にするスタンドといいケニーGのスタンドといい……
挙げ句に荒木短編ネタまで引き出して……
色々とスゴイよあんた

スタプラでほむら殴るとかまどかトラウマになるな
509 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 19:49:06.21 ID:w6fA4+mN0

#10『大丈夫、私達が支えるから』


――翌日


さやかは、病院に来た。

自分の願いの結果を確かめるために。


さやか「喧嘩別れは気まずいけど……」

さやか「大丈夫……落ち着け」

さやか「恭介だって、そういうナーバスな時もあるさ」

さやか「今は、腕だって奇跡的に治って落ち着いてるはず……」

さやか「…………」

さやか「ほむら……恭介と普通に接することができなくなるみたいなこと言ってたけど……」

さやか「意識してみれば……そうかもしれない。何か、恩着せがましい気分というか……」

さやか「……何を言ってるんだろうね。あたしは……実際、恩人なんだから、それがなんだって言うのさ」

さやか「……今日は……顔を見るだけだよ」
510 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 19:49:45.94 ID:w6fA4+mN0

さやか「可愛い女の子だと思った?」

さやか「残念!さやかちゃんでした!」

さやか「やぁ、恭介。元気?」

恭介「あ……さやか。どうしたんだい?」

さやか「ど、どうしたも何も……う、腕……」

恭介「あぁ……うん。実は、そうなんだ」

恭介「腕が治ったんだ」

さやか「も、もう。どうして真っ先に連絡くれなかったのさっ」

恭介「あ、いや……ごめん。なんだか、実感が湧かなくて」

さやか(まぁ、無理もないよね)
511 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 19:54:51.78 ID:w6fA4+mN0

恭介「それに……何というか、気まずくてね」

恭介「さやか……その、ゴメン」

さやか「え?」

恭介「こないだ……さやかにきついこと言って追い出しただろう……?」

恭介「反省してる……」

さやか「あ、あぁ……うん。そのことね……」

さやか「気にしないで!あたしも無神経だったわけだし……」

さやか「いやぁ、本当に奇跡ってあるもんだね!」

恭介「はは……そうだね。絶望的だって言われたのに……」

さやか「ははは、よかったよかった」

恭介「もしかして、なんだけどさ……」

さやか「へ?」
512 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/28(金) 19:55:20.30 ID:wafLFtcHo


ほむほむプッツンはサバイバーの仕業かと思ったけどそんなことなかったぜ
水を熱湯にするスタンド、シビルウォー、ティナーサックスと渋いスタンドが多くて面白いわ
今後どんなスタンドが出るか楽しみ
513 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/28(金) 19:56:05.00 ID:wafLFtcHo
書いてる間に投下始まってたwwwwwwww
支援
514 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 19:56:28.85 ID:w6fA4+mN0

恭介「こういうことを言うのも、憚れるというか……何だけど」

さやか「…………」

恭介「もしかして……さやか」

さやか「う、うん……?」

恭介「僕の腕が治ったのって……」

さやか「な、何……?」

恭介「僕の『精神が成長』したからそれに呼応したのかも」

さやか「…………」

さやか「……は?」

恭介「そりゃそう反応するよね……自分で精神が成長しただなんて……」

恭介「ねぇ、さやか。ほら『これ』……」
515 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 19:57:52.00 ID:w6fA4+mN0

恭介は動けるようになった腕を、さやかの方へ差し出した。

手の平を見せている。


さやか「これ、って……?」

恭介「……『見える』のかい?」

恭介「見えていないようだね。さやか。手の上に『いる』んだけど」

さやか「…………」

恭介「僕はちょっとした『超能力』のようなものを持っているんだ」

さやか「え……!?」

恭介「いきなり何を言っているんだって思うだろうけど……これは、フィクションの話とかじゃなく、本当なんだ」

恭介「ほら、さやか、これなら見えるかい?」

さやか「へ……!?う、嘘……?!」
516 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 19:58:28.43 ID:w6fA4+mN0

さやかは自分の目を疑った。

ベッド横の机の上に置かれているCDが『浮いて滑って』いる。

その下には何もないが、CDが何かに運ばれているかのようだった。

そしてCDは恭介の体を伝い、腕を通り、手の平に収まった。

CDケースにはセロハンテープが張られている。


恭介「この前は、さやか。折角買ってきてくれたCDを投げつけてごめんよ」

恭介「ケースはこの通り割れちゃったけど、中身は無事だったんだ。いい曲だったよ」

さやか「……スタンドッ!?」

恭介「スタンド?まさか、『これ』を知っているのかい?」
517 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 20:00:43.21 ID:w6fA4+mN0

さやか「あ、う、うん……」

恭介「でも見えていないということは、知ってるだけ、かな」

恭介「ねぇさやか。『悪魔の手の平』という噂を知っているかい?」

恭介「悪魔の手の平……気が付くと、空がピンク色の不思議な住宅地に迷い込んでしまっている……」

恭介「そこではマネキンに襲われそうになるらしいが、無事帰ることができると……不思議な力に目覚めるらしい」

恭介「その力に目覚めると、血縁者も同じような力に目覚めることがあるらしいんだ」

恭介「実は……後からわかったことなんだが、父さんがその中に入ったらしいんだ」

恭介「父さんはその時疲れ気味で……少しぼうっとしていたらしくあまり記憶にないそうだが……」

恭介「父さんはまだその噂と能力を持っていることは知らないが……僕は、目覚めてしまったようだ」

さやか「……スタンドに」

恭介「そう……」
518 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 20:01:22.22 ID:w6fA4+mN0

恭介「気が付けば僕も、スタンド?それを使えるようになっていた」

恭介「僕は個人的に『ハーヴェスト』と呼んでいるよ」

恭介「小さい虫みたいなのがたくさんいて一つなんだ。一匹一匹の力は弱い。何に使えばいいのか今のところ不明」

さやか「…………」

恭介「スタンド。それは……精神と深い繋がりがあるらしくてね」

恭介「それを使いこなせるようになって、僕の精神は成長したんだと思う」

恭介「スタンドが傷つけば使い手も傷がつく。使い手のダメージはスタンドにも反映される」

恭介「だから、スタンドが成長して……腕の断裂した筋がそれに応じて回復した」

恭介「都合の良い考え方だけど……それ意外に考えられない。奇跡でもない限り……」

さやか「…………じゃあ、つ、つまり」

さやか「……恭介は……こう思ってるの?」
519 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 20:02:07.09 ID:w6fA4+mN0

さやか「腕が治ったのは、自分のスタンドのおかげって」

恭介「確証はないよ。ただ、本当にそれしか心当たりがないんだ」

さやか「そ、そんな……」

さやか「納得いかない……!」

恭介「はは、まぁ、そりゃそうだよね……」

さやか(……あれ?)

さやか(あたしは今……何で、納得いかないなんて言ったんだ?)

さやか(あたしの納得できないと恭介の解釈で差があったけど……)

さやか(自分で言って……何を……?)

さやか「…………」

さやか「う、腕……」

恭介「うん?」
520 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 20:03:03.17 ID:w6fA4+mN0

さやか「腕が治って……よかった、ね。うん。何だとしてもさ……ハハ」

恭介「……?」

恭介「まぁ、確かに。日常生活に支障はあっただろうけど……」

さやか「あった『だろう』?」

恭介「失って初めて気付く大切さもあるけど、取り戻して気付く『さも当然』もある」

恭介「今にして思えば『ハーヴェスト』がいれば特に困らなかったかな」

恭介「こうやってハーヴェストがいれば何でもできそうな気がするし」

恭介「もうハーヴェストで文字が書けるようにも箸を持つこともできるようになったんだ」

恭介「……なんて、ちょっと思っちゃったりしてる僕がいるよ」

さやか「……な、何よ、それ……」

恭介「あ……折角お見舞いにきてくれていたさやかに今の表現は過剰が過ぎたね……ごめん」

恭介「さやかには本当に迷惑をかけたよね。CDのプレゼントを拒絶したり、面会を拒否したり……」

恭介「本当にごめん。そして、今までありがとう。さやか」
521 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 20:04:37.16 ID:w6fA4+mN0

さやか「…………」

さやか「ば、バイオリン……」

恭介「ん?」

さやか「そう!バイオリン!あたしは、恭介のバイオリンがまた聴きたくてさぁ!」

恭介「バイオリンを?」

さやか「う、うん。子どもの頃に聴いたコンクール。あの時の音色が忘れられなくてっ!う、嬉しいなぁ〜アハハ」

恭介「うーん……」

さやか「……ど、どうしたの?バイオリン」

恭介「今は、バイオリンって気分じゃないかな」

さやか「……は?」

恭介「あ、いや。バイオリンも大事だよ」
522 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 20:06:17.28 ID:w6fA4+mN0

恭介「僕の生き甲斐だからね。ただ今はスタンドの訓練をしたいというか……脚のリハビリもあるからね」

恭介「知ってるかい?学校には既に何人かスタンド使いがいるらしいんだ」

恭介「これからスタンド使いはもっと増えると僕は思うんだ」

恭介「今後を考えるとスタンドは上手く扱えるようにならないとね。今はバイオリンよりもそっちに夢中って感じかな」

恭介「あ、ハーヴェストを使ってバイオリンを弾くっていうのも面白そうだなぁ」

さやか「…………」

恭介「もちろんバイオリンは続けるつもりではあるよ」

さやか「そ、そう……まぁ、うん……なら……いいんだけど……」

恭介「……どうかしたのかい?何だか顔色が悪そうに見えるけど……」

さやか「い、いやいやっ!何でもないよ。あはは……」

恭介「……」
523 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 20:07:16.72 ID:w6fA4+mN0

恭介「あの、さ。さやか……」

さやか「……?」

恭介「その……ちょっと、聞いてほしいことがあるんだけどさ……」

さやか「聞いて欲しいこと?」

恭介「あのさ、折角来てもらったのに、そういうこと聞くのも何だけどさ」

さやか「き、気にしないで。それで……えっと、なに?」

恭介「さやかは……志筑さんと仲が良いだろう」

さやか「……仁美?」

恭介「さやかを追い出したあの日の後……志筑さんが来てくれたんだ」

さやか「…………」

恭介「彼女は……僕の全てを理解してくれたんだ」

恭介「突然現れた群体型スタンド、ハーヴェスト……」
524 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 20:08:32.66 ID:w6fA4+mN0

恭介「自分で言うのもアレだけど、小さい虫みたいなものがわさわさと現れて気持ち悪いだろう?」

恭介「しかし誰にも見えない。僕は怖かったんだ。幻覚が見えるようになったのかって」

恭介「そんな中、志筑さんは僕のことを理解してくれた。彼女もスタンド使いだった」

恭介「僕のハーヴェストが見えていたんだ……能力名はティナー・サックス」

さやか「あぁ……うん」

恭介「彼女は言ってくれたよ……」

恭介「認識することが大事なんだって」

恭介「空気を吸って吐くことのように、鉛筆をベキッとへし折ることと同じように、扱えて当然と思うこと。大切なのは『認識』すること……ってね」

恭介「人間は誰しも不安や恐怖を克服して安心を欲する……」

恭介「不安に押しつぶされそうだった僕の心に……手を差し伸べてくれたんだ」

恭介「安心したんだ……それで、その安心は……その……」
525 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 20:09:06.59 ID:w6fA4+mN0

恭介「照れくさいけど……恋愛感情に置き換わっていたんだ」

さやか「え……れ、恋愛!?」

恭介「もう、さ……正直に言うとだね……」

恭介「僕、志筑さんのことが好きなんだ」

さやか「…………」

恭介「恋愛なんて、今まで考えたことなかったのに……志筑さんのことばかり思い浮かぶ……」

さやか「…………」

恭介「こ、こんな恥ずかしいことを相談できるのはさやかくらいしかいないんだ」

恭介「ああ、精神の成長、スタンド、恋、退院、それと再び弾けるようになったバイオリン」

恭介「清々しい気分だよ……今、僕は青春を感じている」

さやか「…………」

恭介「それで……なんだけどさ、さやか」
526 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 20:09:49.01 ID:w6fA4+mN0

恭介「志筑さんは、誰かと付き合ってたりしていないかな……?」

恭介「好きな人いたりするのか、とか……その、異性のタイプとか……さ、その、それとなく聞いてくれると嬉しいんだけど……」

さやか「…………」

さやか「……そ、そうなんだ」

さやか「あ、あははは……ひ、仁美に目を付けるとはなかなか見る目あるよ。恭介……」

さやか「はは……お、応援、するよ……うん」

さやか「お似合いだと……思う……よ」

恭介「そうかい?ありがとう……と言えばいいのかな。それって……」

さやか「…………」

さやか「恭介……今日は、もう帰るね」

恭介「そうかい?今日はありがとう。わざわざ来てくれて」

さやか「う、ううん……それじゃあ……」

恭介「うん」

さやか「…………」
527 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 20:10:31.86 ID:w6fA4+mN0

――
――――

――喫茶店


仁美「それじゃあ、ミルクセーキを下さい」

仁美「ダブルで」

さやか「…………」

さやか「いやぁびっくりしたよ。仁美がスタンド使いだったなんて」

仁美「えぇ……私も鹿目さんがスタンド使いだっただなんて……」

さやか「そりゃぁ、ねぇ」

さやか「……それで」

さやか「話ってスタンドのこと?」

仁美「…………」

仁美「美樹さん。私は……」

仁美「上条くんのこと、お慕いしておりました」

さやか「え……」


――――
――
528 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 20:11:31.80 ID:w6fA4+mN0

さやか「…………」

さやか「何だよ……」

さやか「何なんだよ……!」

さやか「両思いじゃあねーかよ……ッ!」

さやか「あたしが入る場所なんて……ないじゃん……!」

さやか「もう、『既に』……!」

さやか「…………」

さやか「うぅ……」

さやか「あたし……あたしってヤツは……!」

さやか「あたし……何を考えて……!」

さやか「くそぅ……!」
529 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 20:12:28.66 ID:w6fA4+mN0




――次の日



まどか「あ、おはよう。仁美ちゃん」

仁美「あっ……お、おはようございます」

まどか「いつもの待ち合わせに来なかったけど……委員会のお仕事?」

仁美「え、ああ……はい。まぁ、そんな感じです。すみません」

まどか「?謝ることなんて……」

仁美「それで、その……美樹さんは?」

ほむら「い、いえ……来てませんでしたけど」

仁美「……そうですか」
530 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 20:12:57.17 ID:w6fA4+mN0
ほむら「……何か、あったんですか?」

まどか「?」

仁美「…………」

仁美「実は……その……」

仁美「美樹さんと……ちょっと、その……」

まどか「さやかちゃん、と?」

仁美「ちょっと……言い争ったというか、気まずいというか……」

まどか「さやかちゃんと……」

ほむら「…………」
531 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 20:13:47.98 ID:w6fA4+mN0


ほむら「……ッ!」


瞬間、ほむらの脳に走る電気的衝撃。

ほむらは「嫌な予感」を感じ取った。


ほむら「……鹿目さん」

仁美「暁美さん?」

まどか「どうしたの?ほむらちゃん」

ほむら「ほ、保健室……連れてって、もらえる……?」

まどか「えぇ!?」

仁美「だ、大丈夫ですか?もしかして心臓が……」

ほむら「えっと……さ、さっきから……お、お腹が……」

仁美「さ、さっきからって……どうして言わなかったんですの?」

ほむら「その……言い出しにくくて……」
532 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 20:14:52.43 ID:w6fA4+mN0

ほむら「ほ、保健室……」

まどか「わ、わかった!」

仁美「無理しないで遠慮なく言ってくださればいいのに……」

まどか「えっと、言ってくるね。仁美ちゃん」

仁美「は、はい。先生には言っておきますわ」


まどか「大丈夫?ほむらちゃん……」

ほむら「……ごめんね」

まどか「ん?どうしたの?」

ほむら「ごめんね」
533 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 20:15:27.33 ID:w6fA4+mN0

まどか「ほ、ほむらちゃん?」

ほむら「鹿目さん。私、早退する」

まどか「そんなに痛いの?本当に大丈夫?」

ほむら「……ずる休みしちゃうの」

まどか「えぇッ!?」

ほむら「心臓病のフリをするのも卑怯かなって思って」

まどか「…………」

ほむら「ずる休みは二回目になっちゃう」

まどか「……うん。わかった」

ほむら「保健室の先生いるかな?」
534 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 20:16:16.14 ID:w6fA4+mN0

――教室


女子生徒A「マミりぃん。見て見てぇ」

マミ「何かしら?あとマミりんって何かしら?」

女子生徒A「お祖父ちゃんが再婚することになるんだけどね」

マミ「そうなの?おめで……え?お祖父ちゃん?」

女子生徒A「うんうん。日はまだ決まってないけど、慶事で公欠するつもり」

マミ「そ、そう……」

女子生徒A「でねでね、これ。その人の連れ子の写メェ。きゃわわ」

マミ「……と、いうことは」

女子生徒A「そう。奇妙なことだけど……戸籍上私は叔母ってことになるよ」

女子生徒A「中学生で叔母さんって、何か切ないよ。オバサンだからね」

マミ「そ、そうなの……何だか、大変ね」

女子生徒A「でもでも、私の姪っ子、可愛い」

マミ「そ、そうね……」

マミ(見たところゆまちゃんと同じくらいだけど……再婚相手はいくつなのかしら……)
535 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 20:17:34.34 ID:w6fA4+mN0

『巴さん!巴さん!』

マミ(テレパシー?)

マミ『どうしたの?暁美さん』

ほむら『巴さん!いきなりですみません!』

マミ『あの、暁美さん?何をそんなに焦って……』

ほむら『ゆまちゃんをお借ります!』

マミ『……へ?』

マミ『あの、ゴメン。何を言ってるのかわからないんだけど……』

ほむら『美樹さんを探します!』

マミ『余計に拗れてきたんだけど!?美樹さん何かあったの!?』
536 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 20:18:20.40 ID:w6fA4+mN0

マミ『うーん……』

マミ『……な、なんかわからないけど、わかったわ』

マミ『鹿目さんの時みたいに早退する気ね?』 

ほむら『は、はい!』

マミ『ゆまちゃんに合い鍵の場所を教えてあるから……、ちゃんと戸締まりして、鍵絶対に無くさないようにしてね』

ほむら『わかりました!』

女子生徒A「ねぇねぇ、マミりんってば。聞いてるの?」

マミ「え?あ、ごめんなさい」

女子生徒A「いつになるかわからないけど、公欠した日の授業分ノート見せてね」

マミ「ええ、いいけど……」

女子生徒A「巴さん頭いいからねぇ」

マミ(……暁美さん。何をするつもりなのかしら)
537 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 20:18:55.61 ID:w6fA4+mN0


――廃墟の街。


支柱の折れたらせん階段。甲虫色の錆びたポスト。

イチジクのタルトのような空色。紫陽花畑をぶち破った断層。

地面に二次関数グラフと特異点の数学的な落書き。塀に簡易的な天使のイラスト。

最も大きな家の窓から有名な画家をオマージュしたかのようなが絵画が見える。

その家までの道のりは荒廃が特に著しい苦難への道。

断層にあいた穴。顔も服もない輪郭だけの秘密の少女。


黒いマントをつけた人型の使い魔と対峙する少女がそこにいる。

白いマントをつけた青い魔法少女が剣を構えて敵を睨みつける。
538 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 20:19:34.95 ID:w6fA4+mN0

さやか「はぁ……はぁ……」

さやか「その気になれば……『痛み』なんて消せる……!」

さやか「くっ……しかし……」

使い魔「Ura――Agihcimonustatufikebuakum――Awineamo」

さやか「うぉらァッ!」

ザシュッ!

さやか「……くそッ!や、やはり……!」

使い魔「Ihcimoneh"onomurerabarae"etiki――Awustotih」

さやか「数が……多すぎるッ!」


断層に背をつける。背水の陣。

さやかは今、追い込まれている。
539 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 20:20:35.40 ID:w6fA4+mN0

さやかを逃さないかのように黒い影が取り囲む。

少し離れた位置で、引力の魔女――レイミが様子を窺っている。


さやか「ハァ……ハァ……」

さやか「引力の魔女、レイミ……」

さやか「こいつが、スタンドの元凶」

さやか「……許さない」

さやか「やっと……やっと見つけたんだ……」

さやか「必ず……ブチ殺してやる……!」

さやか「おまえさえ……貴様さえいなければ……!」

さやか「あたしは……あたしは……!」

さやか(だが……どうするか)
540 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 20:22:04.23 ID:w6fA4+mN0

さやか(背中は断層。これ以上引き下がれない)

さやか(使い魔の握力は結構強い。数も多い。押さえつけられたら……かなりマズイ)

さやか(だが、動きはそれ程早くない)

さやか(一気に突っ込めばいいだろう)

さやか(問題は魔女だ……)

さやか(あのシルエットみたいな体。何をしてくるかわからないし読めない)

さやか(……だが、とにもかくにも、斬るしかない!)

さやか(あの魔女……見た目は人間っぽいから……胸か、頭を斬る!)


クラウチングスタートの姿勢になったさやかは、剣先を魔女に向けた。

走りだそうとしたその途端。


ズルッ
541 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 20:23:17.68 ID:w6fA4+mN0

さやか「うっ!?」

ドサァッ

明日が滑り、転倒した。

頬を地べたに打ち付けてしまった。


さやか「な……ッ!?」

さやか「な、何……?!」

さやか「足……が……!」

さやか「足から……血!?」


いつの間にか、足から、脹ら脛から血が流れ出ていた。

痛みは無いが出血が激しい。

地面に垂れた血で足が滑ったらしい。


「咬み傷」ができている。
542 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 20:24:46.86 ID:w6fA4+mN0

さやか「どうして……?!い、いつの間に?!」

さやか「……ッ!」

さやか「だ、断層に……血がついてる……?」

さやか「断層の……穴に、血……?」

さやか「ま、まさぁ……この穴か……!?」

さやか「この断層の『穴』があたしを噛んだのかッ!?」

使い魔「Aterabare――Awiihsamatonok」

さやか「く、くそ……ッ!使い魔が……!」


完全に包囲された。

口から流れるように血が垂れる断層の穴。

黒い影で魔女が見えなくなる。
543 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 20:25:16.73 ID:w6fA4+mN0

さやか「もう……ダメだ」

さやか「……『死ぬ』」

さやか「…………」

さやか(……死、か)

さやか(そうか。あたし、死ぬんだ……)

さやか(使い魔に体を押さえつけられて……何をされる?)

さやか「何で……何であたしはここに来ちゃったんだろう」

さやか「どうしてあたし……一人で乗り込もうなんて思っちゃったんだろう」

さやか「意味が分からない……パソコンの魔女倒して、調子に乗っていたのかな……」

さやか「……あたしって……ほんと馬鹿……」

さやか「…………」

さやか「いや、違う……」
544 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 20:26:28.83 ID:w6fA4+mN0


さやか「あたしは馬鹿じゃない」


さやか「あたしは何も悪くない……むしろ、悪いのはスタンドの方だよ……」

さやか「あたしは、恭介のために魔法少女になったのに……戦いの運命に飛び込んだのに……」

さやか「恭介と仁美にスタンドが発現しないで……」

さやか「バイオリンよりも夢中になれることを見つけなければ……」

さやか「それがわかっていれば……あたしは契約しなかったのに!」

さやか「後悔なんてあるはずなかったのに……!」

さやか「パソコンの魔女の時、仁美を助けなきゃよかっただなんてほんの一瞬でも思ってしまったのも……」

さやか「ほむらがもっとちゃんと止めてくれればよかったのになんて思ってしまったのも……」

さやか「スタンドのせいッ!あたしは悪くない!」

さやか「だから……あたしは、あたしは馬鹿じゃない……!」

さやか「あたしは何も悪くない……あたしは何も悪くないッ!」

さやか「あたしは……」
545 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 20:27:33.25 ID:w6fA4+mN0

魔女「――――」

魔女は言葉にもならない声を発した。

それに呼応するように、使い魔はその身を引いた。

さやかと魔女が向かい合う形となる。


使い魔「Aragannennaz――Iihsaratiusagakano」

使い魔「Uranotaseonijuraagaw――Awiihsamatonok」

魔女は腕を伸ばし、さやかに攻撃を仕掛けた。

さやか「あたしは――」


美樹さやかが最期に思うこと……それは仕事中の両親のことではなかった。

両親のことを深く思ってはいた。

しかし最後に浮かんだ本当の気持ちの前に、走馬燈のような形で向き合った。
546 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 20:28:44.56 ID:w6fA4+mN0

さやか(マミさん……勝手なことしてごめんなさい)

さやか(ゆま……あたしが死んでも悲しまないで)

さやか(まどか……ありがとう。今まで楽しかったよ)

さやか(ほむら……幸せになってほしい。あたしの願いはそれだけだ……)

さやか「……はは、は」

さやか(シケた人生、だった、なぁ……)


ザシュッ!
547 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 20:29:22.85 ID:w6fA4+mN0

「KYAAAAAAAAAAAAAAA!」

ボゴンッ!


さやか「グフッ!?」

さやか「ゲホ、ゲホッ……ゲホ!」

さやか「な、何……?」


少女の影の胸の部分に、『穴』があいた。

向こう側の景色が見える。


さやか「何が起こった……!?何が……!」


さやかの頭は軽いパニック状態に陥った。

魔女は叫び声をあげた。ダメージを受けている。

魔女の攻撃を喰らった。それは事実。胸に痛みがある。

しかし今、目に見えて、自分よりも魔女の方にダメージがある。


使い魔「Atekutuzikowijura――Awiihsamatonok!」


使い魔は魔女を守るかのように、再びさやかを囲んだ。

両腕をつきだし、迫り来る。
548 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 20:31:11.56 ID:w6fA4+mN0

さやか「何が起こったんだ……?」

さやか「胸貫かれたと思ったら……魔女が……?」

さやか「な、何が……何が……一体……?」

さやか「……ま、まさか」

さやか「まさか……あたし……」

さやか「……クッ!」

使い魔「Ihcimonehihs――Abukanomas!」

さやか「く、来るか……!?」

さやか「な、何が起こっているのかわかんないままだけど……」



キュルキュルキュルキュル……

さやか「……ん?」

「ェ〜」

さやか「……何じゃこりゃ?」
549 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 20:32:04.16 ID:w6fA4+mN0

「コッチヲミテェ〜」


さやか「……戦車?」


鉄塊のような、キャラピラが付いた物体。

錆びかけた鉄が擦れ合うような音と、機会音声のような音声。

戦車のようなそれは、使い魔の群れに向かって速度を微妙にあげ、走り突っ込んでいく。

その速度は親についてくる健康な仔猫のよたよたした走り程度。


「コッチヲミテェ〜」


戦車はそのまま使い魔の足にぶつかった。

カチリ
550 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 20:36:59.57 ID:w6fA4+mN0


――轟音をたて、戦車と使い魔群は炎に包まれた。

それは「爆発」した。


さやか「う、うおおおあッ!?」

さやか「な、何ィッ!?」

さやか「どうしたことが……何が起こった!?」

さやか「ば、爆発したッ!」

さやか「使い魔が……ドガーン!って爆発し……」

さやか「……『爆発』だってッ!?」


「魔力を探知して走る『じどーそーじゅー』スタンド!」
551 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 20:38:07.74 ID:w6fA4+mN0

さやか「!」

「キラークイーン第二の爆弾。爆弾戦車『猫車』……さやかを探知した」

「最初は普通に分担して探そうとしたけど、そういうのが使えるって言うもので、使わせていただきました」

さやか「そ、そんな、あんたらは……!」

さやか「ゆま!?ほむら!?」


さやかは、爆弾戦車が走ってきた方向を見た。

細い体と小さい体が、そこにはいた。


ゆま「猫さんッ!」

ズギャンッ!


ゆまの体から飛び出した、精神のエネルギー。

キラークイーンは地面に落ちていた小石を広い、投げた。
552 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 20:39:39.02 ID:w6fA4+mN0

投げ飛ばされた小石は、他の使い魔と衝突する。

瞬間、その使い魔群は爆発した。


ゆま「石ころを爆弾にした!」

ゆま「頑張れ猫さん!」


バンッバンッ!

ほむら「ハンドガンッ!」


盾から取り出した黒光りする拳銃。

小さな爆発――発砲音が響く。

使い魔の頭部を的確に撃つ。

急所を撃ち抜かれた使い魔は強い衝撃を受けてす故障る寸前のラジオのような音をたてる。

マネキンの体と黒いマントは煙のようになって消えていく。
553 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 20:41:03.45 ID:w6fA4+mN0

さやか「……!」

ゆま「大丈夫!?さやか」

さやか「ゆまちゃん……」

ほむら「足、ケガしてる……立てますか?」

さやか「ほむら……」

さやか「ど、どうしてここに……」

ほむら「…………」

ほむら「……サボってきちゃいました」

さやか「ッ!」

ほむら「それで、巴さんからゆまちゃんを借りて探しに来ました」

ゆま「大変だったよ!何度注意してもほむほむの魔力を探知しちゃうんだもん!」

ゆま「ごめんねほむほむ」

ほむら「ううん。これがなかったら美樹さん見つけられなかったよ」

ほむら「いいこいいこ」

ゆま「えへぇ」
554 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 20:42:24.52 ID:w6fA4+mN0

ピンクの空は、水色の空へ。

廃墟の街は、廃ビルのフロアへ。

魔女の結界はその世界を消し去った。


ほむら「……あ」

ゆま「結界が解けちゃったね」

ほむら「おかしいね……魔女もいたはずなんだけど……」

ほむら「私達が来た時には既に逃げちゃってたのかな」

さやか「…………」

さやか「……ねぇ、ほむら」

ほむら「はい?」

さやか「その……ごめん」
555 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 20:43:25.41 ID:w6fA4+mN0

ほむら「へ?」

さやか「あたし……その……」

さやか「契約したこと後悔しちゃった……」

ほむら「……」

さやか「恭介の腕を治すなんてしなきゃよかった……しなくてもよかったって思っちゃった……ぐすっ」

さやか「許せないよ……恭介も、治さなきゃよかったって思ってるあたし自身がさぁ……」

さやか「こんな辛い目に遭うなら……契約なんてしなきゃよかった……!」

さやか「……うぅ……ごめんね……ほむら……ごめん……!」

さやか「折角止めてくれたのに……契約しないでって言ってくれたのに……!」

さやか「結局あたしは、恭介の腕を治した見返りが欲しかっただけだったんだ……」

さやか「あたしは……恭介が好きだった……でも、でも……恭介は仁美が好きだってぇ……」

さやか「う、うあああぁぁぅ……」
556 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 20:44:55.37 ID:w6fA4+mN0

さやか「後悔しちゃったよぉ……魔法少女になっちゃったよぉ……あうぅ……ぐすっエグッ」

さやか「失恋だよォォ〜〜……!」

ゆま「しつれん……」

ほむら「…………」

ほむら「いえ……美樹さん」

ほむら「結局、私は契約を止められなかったという結果しかありません」

ほむら「私の方こそ、しっかりしていれば……」

さやか「うぅ……ほむら……」

ほむら「巴さんなら、こう言うと思います」

ほむら「『大丈夫、私達が支えるから』……私も、同意見です」

ほむら「だって……その……」

ほむら「と、友達だから……」

さやか「……ほむら」
557 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 20:46:05.90 ID:w6fA4+mN0

さやか「あたし……あたし……!」

ゆま「ねぇ、さやか……」

ゆま「ゆまもね?実は、契約しなきゃよかったって、思ったことあるの」

ゆま「キョーコの役に立ちたいから、スタンドが欲しいって願って、猫さんを発現した……」

ゆま「でも、スタンドを持っちゃったから、ゆまはキョーコに嫌われた……」

ゆま「だから、後悔しちゃった」

ゆま「でもね?ゆま、契約してよかったって今は思ってるよ」

ゆま「こうして、さやかを助けることができたし……」

ゆま「さやか、お姉ちゃん、ほむほむ、まどかお姉ちゃんに出会えたし……」

ゆま「ゆま、今幸せなの。キョーコの嫌いな力を持ったゆまを、受け入れてもらえて……」

ゆま「ゆまは、もう一人ぼっちじゃないの。ひとりぼっちは寂しいもんね」

さやか「ゆまっち……」

ゆま「ゆまっち?」
558 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 20:47:21.90 ID:w6fA4+mN0

さやか「…………」

さやか「……あはは」

ほむら「……な、何かおかしいこと言いましたか?私」

さやか「いやさ……だって、あんたが友達だから、だなんて……」

さやか「えへへ……何だか、おかしくって……あんたの方から、手を差し伸べてくれるだなんて……」

さやか「あたしはあんたを否定して……あんたはあたしに手をあげようとしたのに」

ほむら「……ほむぅ」

さやか「ありがとう。ほむら、ゆま……」

さやか「それと……猫さん?」

ほむら「え……?」
559 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 20:49:03.82 ID:w6fA4+mN0

ゆま「えッ!?」

さやか「こんな顔だったんだね……猫さんって言うからもっとキュートなもんかと思ったけど」

ゆま「み……『見えてる』!さやか……猫さんと目を合わせてる……!」

ほむら「……!」

さやか「うん……」

さやか「あたしも……なの」

さやか「あたしもスタンドが……身に付いたみたい」

さやか「あの壁みたいな断層にさ……穴、あったじゃん」

ほむら「……はい」

さやか「あの穴に噛まれてさ……その直後に、何か変なことが起こったんだ」

ほむら「噛まれた?」

ゆま「変なこと?」
560 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 20:50:30.08 ID:w6fA4+mN0

さやか「あたしにもよくわからないんだ……」

さやか「魔女から攻撃を喰らったと思ったんだ」

さやか「でも、魔女の方が突然苦しんだ」

さやか「何を言ってるのかわからないと思うけど……」

ほむら「……えっと?」

さやか「ダメージが『反射』されたって言えばいいのかな……」

ゆま「反射……?え……?」

ゆま「でもさやかケガして……ん?」

さやか「だからわからなんだよね……実際に攻撃を受けたのに反射した……」

さやか「その辺、研究する必要があるね」
561 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 20:52:17.06 ID:w6fA4+mN0

さやか「とにかく……その時だと思う。スタンドに目覚めたのって」

ほむら「スタンド……」

ゆま「穴『そのもの』が使い魔だったんだね……」

さやか「スタンドの名前……何にしよう」

さやか「恭介じゃないけど……」

さやか「あたしもスタンドを認識して訓練をしなくちゃいけないなぁ……」

さやか「ほむら……」

さやか「『あんたの友達』に負けないくらいにさ……強くなるね」

ほむら「……え」

さやか「ほむらには……もう、辛い思いをさせない」

ほむら「……はい」
562 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 20:55:12.81 ID:w6fA4+mN0

――数日後


杏子が美国邸に世話になり始め、幾日が経過した。

毎日風呂とベッドと美味い飯にありつけるのはとても幸せなことだと、杏子はつくづく思った。


しかし同居人とは特別仲がよくなったということはない。

織莉子とは軽い世間話をする程の関係にはなった。事務的にしている感は否めない。

借りをあまり作りたくないという理由で食器を片付けのを手伝おうにも、食器に触らせてもらえない。

キリカとはいまいち反りが合わない。「折角の二人の世界」に割り込んでしまった感が否めない。

「織莉子の言うことだから仕方ない」という余所余所しい態度が見え隠れして明らかに気を使われている。


暮らしやすいが居辛い。総合的に言えば「少し良い」程度の生活をしている。
563 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/28(金) 20:55:42.22 ID:bqjJLyupo
よりによって、アレに目覚めちゃったのか……
564 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 20:55:53.99 ID:w6fA4+mN0

織莉子「ねぇ、佐倉さん。夕食も終えたことで、少しお話があるの」

杏子「……何だ?」

織莉子「共闘するということで、改めて自己紹介をしてみない?」

杏子「あ?なんだよいきなり」

織莉子「いいじゃない。この機会、お互いにとって実に重要な世界よ」

キリカ「流石は織莉子。名案だ」

杏子「……まぁ、構わんが」

織莉子「既に知っていることとは言え念のためおさらいとしてフルネーム」

織莉子「そして『得意な魔法』と『魔法武器』……『スタンドの能力』を言うのよ」

杏子「…………」

杏子「あたしとしては自分の手の内を晒すのは好きでないんだがな」

織莉子「そう。能力を教えるということはスタンドの弱点を教えることにつながる」

織莉子「だから、時期を見たかった」

キリカ「杏子。私と織莉子は互いに能力を知っている。知らないのは君のだけなんだ」
565 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 20:57:26.31 ID:w6fA4+mN0


キリカ「まぁ、私達も具体的に自分の手札を見せてたわけじゃないからね」

杏子「……それも、そうかもしれないが」

杏子(……こいつらの能力。知っておいて損はないだろう)

織莉子「まず私から……」

織莉子「名前は美国織莉子。これは知ってると思うけど、未来予知の固有魔法を有しているわ。魔法武器は水晶玉」

織莉子「スタンドの名前はリトル・フィート」

織莉子「能力は、相手を小さくする能力」

織莉子「自分も小さくなれるわよ」

杏子「なんだそれ。くだらない能力だな」

キリカ「そんなことない!」

杏子「何怒ってんだよ」

566 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 20:59:41.61 ID:w6fA4+mN0

織莉子「まぁまぁ。……これまで試した限りでは人間程度の大きさなら最小で十二分の一くらいのサイズにできるわ」

杏子「それって、つまり……どれくらいだよ」

織莉子「そうね……。その気になれば人間を消しゴムくらいの大きさにできるということよ」

キリカ「小さくなればクッキー一枚でもお腹一杯になれるファンタスティックな能力さ」

杏子「なるほど……スゲー羨ましいな」

織莉子「やってみる?」

杏子「今度な」

キリカ「あ、食べるんだ」

キリカ「そんじゃあ、次は私」

キリカ「私の名前は呉キリカ。相手の動きを遅めるようなことが得意だね。魔法武器は爪」

キリカ「スタンドの名前はクリーム」
567 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 21:00:20.69 ID:w6fA4+mN0

杏子「クリームゥ……へっ、何だか弱そうな名前だな」

織莉子「敵じゃなくてよかったと思うわよ。あなたでは勝てない」

杏子「あ?何だとコノヤローっ。言葉に気をつけろ」

織莉子「本当のことよ」

キリカ「おい。杏子。織莉子にヤローとは何だ。クリームで消し去るよ?」

杏子「消し去る?」

キリカ「それがクリームの能力だ」

キリカ「相手は死ぬ」

杏子「は?」

織莉子「ざっくばらんに言えば、透明になって移動して、その際に触れたものを粉微塵にする」

杏子「何それ怖い」
568 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 21:01:43.25 ID:w6fA4+mN0

キリカ「まぁそれなりに弱点はあるけどね」

杏子「弱点?」

織莉子「さて、最後はあなたよ。佐倉さん」

杏子「…………」

キリカ「おっと、私達のことを知っといて自分はやっぱいい、だなんてフェアじゃないこと言わないよね?」

杏子「あんたらが勝手に話し出したんだろうが」

織莉子「過程はどうあれ、あなたが協力をすると言った、という真実を忘れてはいけない」

杏子「わぁーったよ……ったく」

杏子「あたしは佐倉杏子。……幻惑の固有魔法だ。魔法武器は槍」

杏子「スタンドの名前はシビル・ウォー」

杏子「シビル・ウォーは特定の結界を作り、その中で幻覚を見せる能力だ」

キリカ「魔法とスタンド被ってんじゃん」

杏子「うるせぇ」
569 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 21:03:13.44 ID:w6fA4+mN0

杏子「で、幻覚の内容は、『相手が捨てたもの』だ。ポイ捨て見捨てる切り捨てる……人は捨てることに罪悪感を覚える」

杏子「……ま、簡単に言ってしまえば罪悪感で心身を押しつぶす能力だ」

織莉子「捨てたもの……ね」

キリカ「わぁお、陰湿〜」

杏子「何だとこら」

織莉子(捨てたもの……私はむしろ捨てられた方だと自分では思っているけれども……どうなるかしら)

杏子「まぁ何だ。魔法少女を魔女にするのにうってつけの能力だ」

杏子「実を言うとテリトリーを侵略しに来た魔法少女は全員魔女にしてグリーフシードにしてきた。そういう実績がある」

キリカ「うわぁ……」

織莉子「あら、それはちょっとだけ頼もしい」

キリカ「え?暁美ほむらを魔女にしたらマズイんじゃ……」

織莉子「スタンドを発現される前に魔女にしてしまえばそれはそれで救世の形なのよ」
570 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 21:04:46.48 ID:w6fA4+mN0

キリカ「……さて、これでお互いスッキリしたかな?」

織莉子「そうね。これでいざというとき混乱せずに済むわ」

杏子「…………」

杏子(シビル・ウォーには『二つの弱点』と『隠された能力』があるのだが……)

キリカ「織莉子。紅茶のおかわりちょーだい」

織莉子「お砂糖いくつ?ジャム何杯?」

キリカ「スプーン三杯ずつ」

杏子(この二人には『言わない』)

杏子(あたしが……)

杏子(いつかこの二人を『裏切る』時……あるいはその『逆』の時に見せることになるだろう)
571 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 21:05:23.55 ID:w6fA4+mN0

杏子(あたしの切り札だ)

杏子(最も、弱点の一つは克服したと言っても過言ではないがね)

織莉子「佐倉さんはいるかしら?おかわり」

杏子「いや、あたしはいい」

杏子(……まぁ、お互い様だよな)

杏子(あいつらもあいつらで、あたしに隠している事柄がある)

杏子(こういう場面で言わないということは、あたしを信頼していないことを証明している)

杏子(その辺り、食い下がって聞かなかったのは敢えてだ)

杏子(聞くということは『あんたらを疑ってる』と自分からバラしてるようなもんだからな……)
572 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 21:07:44.60 ID:w6fA4+mN0

織莉子「さて……」

織莉子「見滝原中学校襲撃計画の決行まで、後三日よ」

杏子「それまで結局ろくなことしてねぇけどな」

キリカ「まぁね」

織莉子「……そこで、明日と明後日、二日間かけて、事前準備に取りかかるわ」

織莉子「二日目に事前準備を踏まえて簡単な作戦……私のプランを伝える」

杏子「事前準備……随分とギリギリじゃあないか?」

織莉子「そうね……使いたい道具が道具だからよ」

杏子「使いたい道具?」

織莉子「まぁそれは追々……まず、キリカ」

キリカ「私は何をすればいい?」
573 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 21:09:09.49 ID:w6fA4+mN0

織莉子「学校の見取り図を用意してちょうだい」

キリカ「見取り図?学校の地図ってこと?」

織莉子「えぇ。私と佐倉さんは見滝原中学校のことを知らない」

織莉子「魔法少女とスタンド使い……ターゲットがどの教室にいるのかを把握する必要がある」

キリカ「ふぅーん。オッケー」

織莉子「佐倉さんは何か追加注文とかある?」

キリカ「帰りにお菓子買ってきてとかパシリ的な内容以外なら融通効かすよ」

杏子「……できれば写真とかもあるといい」

キリカ「写真?」

杏子「シビル・ウォーが扱うに丁度良い室内でもあればと思ってな」

キリカ「図書室とか音楽室とか?」
574 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 21:10:33.69 ID:w6fA4+mN0

杏子「シビル・ウォーの特性上、相手を誘い込むことが重要だ。標的のいる教室との位置関係による」

杏子「三階なら三階にあるそういう部屋。四階なら四階だ」

キリカ「うん。わかったよ」

杏子「……で、あたしは何をすればいい」

織莉子「そうね……佐倉さんさえよければ、なのだけど」

織莉子「少しばかり、顔を出してやってほしいのよ」

杏子「……いいのか?わざわざそんなこと」

織莉子「えぇ。どうせ顔知らないでしょ?そんな大したことしなくていいわ」

杏子「何か意味あるのか?それ。顔ぐらい、写真なりなんなりで何とでもなるだろ」

織莉子「注意を惹かせる、ということよ」

杏子「注意?」
575 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 21:11:51.29 ID:w6fA4+mN0


織莉子「明日、予知によると暁美ほむら、鹿目まどか、美樹さやか、三人仲良く帰路に立っている……」

織莉子「そこで三人の前に現れて、力試しだ何だ言って時間を稼いでほしい。人通りは少ないからその辺り気にしなくていい」

織莉子「するとたまたま半径約二、三百メートル内にある書店で参考書を探しにきていた巴マミ、付き添いの千歳ゆまがテレパシーで助けを呼び出され現れる」

織莉子「……魔法少女が集まるということね」

織莉子「その間に、私が行動をする」

杏子(ゆま……か……)

杏子「……ダリィな」

キリカ「別にそこで殺してもいいだろう何て思わないことだ」

織莉子「暁美ほむらが既にスタンド使いである可能性がゼロではない以上、余計なことはしないに限る」

織莉子「あなたが負けたら元も子もない」

杏子「つまりあたしに逃げろと。で、逃げれるのか?あたしは」

織莉子「五人と顔を合わせたら……これを」

コン
576 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 21:12:35.64 ID:w6fA4+mN0

杏子「……グリーフシード?」

織莉子「穢れを計画的に溜め込ませ、孵化するタイミングを予知して調節させた……」

織莉子「言うなれば時限魔女発生装置よ。これをキリカに仕掛けさせておく」

織莉子「魔女の結界に閉じこめて退散なさい。結界に誘い込むのは得意でしょう?」

杏子「……なるほどな」

織莉子「場所は後で地図を用意するとして……明日の予定をまとめると……」

キリカ「私は学校の見取り図と杏子にとっていい感じの部屋を探して、帰り道地図の場所にグリーフシードを仕組むこと」

杏子「……あたしはほむら達を地図の場所で待ち伏せして、マミとゆま、魔女の孵化を待ち、時間を稼ぐ」

織莉子「その通り。二人とも、明日はよろしくお願いね。明日の朝もう一度おさらいするから。佐倉さん。腕時計忘れずにね」

杏子「……なぁ、織莉子」

織莉子「何か質問でも?」

杏子「内容は今のと関係はないんだが……一つ、聞いてみたいことがある。ちょっとした好奇心だ」
577 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 21:14:01.11 ID:w6fA4+mN0

織莉子「何かしら?」

杏子「あんたは……キリカが怖いと感じたことないのか?」

キリカ「へ?」

杏子「キリカのスタンドを聞く限り、使われたらもう手出しができない」

織莉子「……」

杏子「もし裏切ろうと思えば、何もできずに殺されちまうぞ」

キリカ「ッ!」

キリカ「おいッ!杏子ォ!」

杏子「うおッ!?」


キリカはテーブルに膝をつき杏子の胸ぐらを掴んだ。

先程までヘラヘラしていた表情は一変した。

その場の勢いで人を殺してしまいそうな、そういう目だった。

杏子はそれと似たような目を、一度見たことがある。
578 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 21:16:19.05 ID:w6fA4+mN0

キリカ「この私が織莉子を裏切るだとッ!?」

キリカ「どの口が抜かしているんだッ!この小汚いホームレスのクサレ脳みそがッ!」

杏子(こ、こいつ……!)

キリカ「例え仮定の話でもッ!言っていいことッ!と悪いことがあるッ!」

キリカ「二度とそんな口聞けないように声帯ブチ斬ってやろうかッ!ああ!?」

杏子(い、いきなりプッツンしやがった……暗黒空間だって?)

杏子(こいつの心の中の方がバリバリ裂けるドス黒いクレバスだッ!)

キリカ「私と織莉子の愛と絆を侮辱しやがっ――」

織莉子「キリカ!」

キリカ「ッ!」
579 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 21:18:03.00 ID:w6fA4+mN0

キリカ「お、織莉子……」

織莉子「淑女失格だわ。直りなさい」

キリカ「ご、ごめんなさい……」

織莉子「佐倉さんに謝りなさい」

織莉子「……と、言いたいところだけど、佐倉さん。あなたの質問は私に対しても無礼に値するわ」

織莉子「敬意を払いなさい。キリカは、もしこの計画が失敗してレクイエムが生まれてしまった際……最後の希望なのだから」

杏子「…………」

織莉子「しかし、その質問……ごもっともというヤツでもあるわね。やっかいなことに」

キリカ「私が織莉子を裏切るなんてありえないよ!」

織莉子「えぇ。わかっているわ」

織莉子「でも、もしも裏切られるなんてことになれば……」

織莉子「……キリカに裏切られるということは、キリカに嫌われたということ」
580 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 21:18:49.49 ID:w6fA4+mN0

織莉子「……私はキリカを愛している」

キリカ「!」

織莉子「嫌われるくらいならいっそ、キリカに殺されるのも悪くないと思っている……。それが答えよ」

杏子「マジかよ……こいつ……」

キリカ「お、織莉子……!君ってヤツは……!君ってヤツはぁ……!」

キリカ「私も織莉子を愛してるよッ!嫌いになるわけないじゃあないかァ――ッ!」

織莉子「キリカ……!」

キリカ「織莉子……!」

織莉子「キリカァー!」

キリカ「織莉子ォー!」

杏子(……あたしって本当に必要なのか?)


紅茶とクッキーが散乱したテーブル。

目の前で抱擁し合う二人。

疎外感を強く覚えた杏子は、ハァと一息。溜息をついた。
581 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 21:19:26.12 ID:w6fA4+mN0


ドリー・ダガー 本体:美樹さやか

破壊力 A スピード A  射程距離 C
持続力 A 精密動作性 C 成長性 D

魔法武器の剣に取り憑いているスタンド。その性質は「転嫁」
自身へのダメージの「七割」を刀身に映りこんだ相手に『押しつける』能力。
さやかの特化された治癒能力とあらゆるダメージに対する半自動カウンターとの相性は抜群。
悪い結果が訪れても自分に落ち度はないはずだ。という責任転嫁願望から発現。
魔法武器に憑いているため、このスタンドは変身しないと扱えない。

A―超スゴイ B―スゴイ C―人間と同じ D―ニガテ E―超ニガテ

*実在するスタンドとデザイン・能力が多少異なる場合がある

582 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/28(金) 21:25:11.30 ID:w6fA4+mN0

今回はここまで。次回のインターバルを挟んで戦が始まります。

連載当初は900レスとか2スレ目行くんじゃないかとか思ってたけど、
1レス分の文量を多めに設定したからおまけ含めても大分余裕ありそうです
おまけと言っても前レスのスタンド解説をまとめただけなんですが
場合によっては前作と同じように最後に質問コーナーでも設けてみようかななんて思ってみたり

さやかのスタンド、ドリー・ダガーは原作には出てきません。
小説の恥知らずのパープルヘイズに登場する二次創作スタンドです。
ダメージの反射は他にもラバーズやスーパーフライ辺りがいますが、
後者は論外としてラバーズは流石にちょっと……
さやかにそれは何か皮肉っぽいし……脳みそがどうこうとか書きたくないし……
583 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/28(金) 21:29:39.58 ID:PtPR2omso
知らないスタンド結構多いなぁ……
流石にハーヴェストやクリームは知ってたけど、リトルフィートとかは知らんかった。五部が読みたいです先生。

584 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/28(金) 21:49:05.73 ID:bqjJLyupo
乙、てっきりマックイィーンのハイウェイ・トゥ・ヘルだと思ってたww
585 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/28(金) 21:50:33.98 ID:/OSZE2X3o
早くしないとあんこちゃんが糖尿で死ぬんじゃないだろうか、口から砂糖吐いて

気をつけろ、おりキリ

586 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/12/29(土) 00:04:00.06 ID:UuH8DLrAO
ここで小説版出すあたりスタンド予想を当てさす気ないな……!
マミさんワンチャンあるで
587 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/29(土) 00:05:06.74 ID:y15SqqUSo
まだ三部はスタプラとクリームしか出てないよね?
588 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/12/29(土) 00:11:53.88 ID:UuH8DLrAO
>>587
ティナー・サックスが出てる

ついでにまとめると
3 スタプラ クリーム ティナーサックス
4 キラークイーン ハーヴェスト
5 リトルフィート
6 水を熱湯に変わるスタンド
7 シビルウォー チューブラーベルズ
小説 ドリーダガー
589 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/29(土) 00:13:22.23 ID:UuH8DLrAO
またsage入れ忘れた……
590 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/29(土) 07:01:26.82 ID:PqQdkCtzo

不覚にも一週間スレに気づかなかったのぜ
外伝でも検索してみるものですな
591 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 09:56:02.93 ID:JeiFXyZo0

#11『インタールード(間奏曲)』


――翌日

日が傾きかけ景色が橙色に染まる頃。

杏子は屋台で買った人形焼きを食べながら、壁にもたれかかって、待っていた。


緊張がないこともない。

シビル・ウォーという能力を得てから、杏子は「捨てる」という行為と言葉にも敏感になっている。

自分が「捨てた」存在……ゆまと会うことになるためである。


杏子「……来たか」


杏子は人形焼きを一気に詰め込み、半ば強引に飲み込むことにした。
592 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 09:57:45.87 ID:JeiFXyZo0

まどか「何かお腹空いちゃったなぁ」

さやか「どっかで食べてく?」

まどか「うーん。いいや。今晩はクリームシチューだから」

ほむら「鹿目さんクリームシチュー好きだものね」

まどか「うんっ。だからパパ、いつもたくさん作ってくれてるの」

まどか「……あれ?わたし、ほむらちゃんにクリームシチューが好きってこと話したことあったっけ?」

ほむら「あ」

ほむら「え、えっと……あ、あるよ!前に!わ、忘れちゃったの?」

さやか「何を慌ててるんだ?」

まどか「?」

まどか「……あっ、ほむらちゃん。肩……」

ほむら「え?」
593 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 10:03:05.19 ID:JeiFXyZo0

ほむら「……あ、これは……」

さやか「毛?……ってまたエイミ〜の毛かい?ほむら」

ほむら「気付かなかった……じゃあ今日一日中ついてたことに……」

まどか「エイミーにモテモテだね」

ほむら「モ、モテモテって……」

さやか「一体何をどうしたらそこまで懐かれる訳?あたし何て思い切り避けられる」

まどか「さやかちゃんは嫌がってるのに尻尾摘んだりしてちょっかいだすからだよ」

さやか「うっ……だ、だって尻尾可愛いし気持ちいいんだもん」

さやか「あ、猫と言えばゆまちゃんって変身するとネコミミつけるけど……何で?」

ほむら「何でと聞かれても……」

まどか「あれネコミミなのかな?」

さやか「いやぁ、あれはどう見てもネコミ……」
594 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 10:04:54.10 ID:JeiFXyZo0

さやか「……ん?」

まどか「どうしたの?」

さやか「いや、ほら、あそこ……」

ほむら「?」


さやかが指さした先には、人がいた。

赤銅色のポニーテール。緑のパーカー。ホットパンツ。

壁と口に手を当て、床を睨んでいる。


さやか「泣いてんのかな?」

ほむら「……ッ!」

ほむら「あ、あれは……!」

まどか「知ってる人?」
595 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 10:06:00.02 ID:JeiFXyZo0

ほむら「佐倉さん……!?」

さやか「佐倉って……佐倉杏子?」

まどか「そ、その人って……!」

ほむら「いつか見滝原に来るとは思ってたけど……」

さやか「あいつ……か」

まどか「さ、さやかちゃん?」

さやか「あいつが……あいつがゆまちゃんを……!」

さやか「ゆまちゃんを見捨てたヤツッ!」

ダッ

ほむら「美樹さんッ!」


杏子はゆまのスタンド、キラークイーンに恐怖を覚え、突き放した。

それは杏子がスタンド使いであることを示している。
596 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 10:07:45.99 ID:JeiFXyZo0

魔法少女の姿でないとは言え、突っ込むのはあまりにも愚直。

しかし突沸した感情を抑えきれず、さやかは走り出してしまった。


杏子「も、もがが……もごふ……!」

さやか「おい!そこのあんたッ!」

杏子「もが!?」

さやか「佐倉杏子でしょ!あんたは!」

杏子「もむむー!もぐぐ!」

さやか「何を言って……」

さやか「食っとる場合かァ――ッ!」

杏子「…………プハッ!」
597 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 10:08:51.10 ID:JeiFXyZo0

杏子「あ゙ー……やっと飲み込めた」

杏子「いやぁー……やれやれ」

杏子「予想以上に人形焼きのアンコが熱くてよォ……」

杏子「いや、熱いのを知らずに丸飲みするようなアホなことをしたんじゃあない」

杏子「頭の方をチビチビ食べてたからさぁ……」

杏子「腹の方のアンコもいい加減冷めただろうと思ったんだよ……ところがどっこい熱々でさ」

杏子「全く……何が食っとる場合かー、だよ。あんたの都合なんか知るか」

さやか「何をしに見滝原に来たんだ!」

杏子「あぁ、そうだった。気になったんだがよ」

杏子「何であたしの名前がわかった?」

さやか「……ゆまちゃんを迎えに来たのか……?捨てたくせに」
598 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 10:10:52.20 ID:JeiFXyZo0


杏子「……そうか。ゆまか」

杏子「だが百歩譲って名前は知ってても顔は知らないだろ」

杏子「マミにあたしの写真でも見せてもらったのか?」

ほむら「美樹さん!」

杏子「お……」

まどか「さやかちゃん!急に走って……!」

さやか「で、でもまどか……こいつ……!」

ほむら「…………」

ほむら「佐倉さん……」

杏子(こいつがさやか……そっちはまどか……)

杏子(消去法で考えると、こいつが暁美ほむらか?)
599 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 10:13:46.51 ID:JeiFXyZo0

ほむら「……まさか、見滝原を狙って?」

まどか「……ッ!」

杏子「質問を質問で返すな……まぁいい」

杏子「……別に、だぜ」

杏子「強いて言うなら、見滝原の魔法少女ってのはどんな面してんのか見に来たってくらいさ」

さやか「…………」

さやか「何でだよ……」

杏子「ん?」

さやか「何でゆまちゃんを見捨てたんだよ!あんなに優しくていい子なのにッ!」

杏子「ゆまから聞かされてないのか?」

杏子「キラークイーンは危険すぎる。爆発に巻き込まれかねんからだ」

杏子「……だから、あたしは捨てた」
600 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 10:14:46.31 ID:JeiFXyZo0

さやか「だ、だからって……!ゆまちゃんの気持ちを考えたことあんのかッ!」

杏子「他人の気持ちより自分の命のが大切って考えがあるからだ」

杏子「今気付いたけど……あんた、魔法少女」

杏子「そうか……契約したのか」

さやか「…………」

杏子「あんたは……違うようだな」

まどか「…………」

さやか「ぶっ飛ばすッ!」

ほむら「み、美樹さんッ!」


さやかは変身し、剣を構えた。

一方で杏子はうんざりとした顔をしている。
601 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 10:16:08.55 ID:JeiFXyZo0

杏子「あのなぁ……あたしは戦いに来たんじゃあないぜ」

杏子「落ち着けよ」

さやか「ほむら!あんたは下がっていて……」

さやか「あたしはゆまちゃんのことが好きだ。とってもいい子だし、可愛いからな……」

さやか「ゆまちゃんに悲しい思いをさせたヤツがいるというなら、怒りがフツフツわき上がる!」

さやか「その怒り!あたしが先に晴らす権利がある!」

さやか「杏子とやら!このあたしが、あんたを!ゆまちゃんに土下座させてやる!」

杏子「うわ、うぜー……」

まどか「お、落ち着いてさやかちゃん!」

ほむら「美樹さん!あなたも下がって!」
602 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 10:18:02.99 ID:JeiFXyZo0

ほむら「彼女にはあなたの知らない能力がある!経験もある!」

杏子「ふーん。あたしのことをよくご存じって感じだな」

まどか「さ、さやかちゃん……!」

さやか(……確かに、そうさ)

さやか(確かにあたしは魔法少女としてはペーペーさ……)

さやか(だが、あたしには……)

さやか(あたしには無敵の『スタンド』があるッ!)

さやか(あたしの魔法とこの能力さえあれば誰にだって負けるはずがないッ!)

さやか(あたしとこのスタンドのタッグは無敵だッ!)
603 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 10:19:35.36 ID:JeiFXyZo0

さやか「行くぞオイ!」

杏子「…………」

杏子「おいほむら」

さやか「無視すんな!コラァ!」

ほむら「…………」

杏子「こんなのが側にいて喧しいと思わないのか?」

杏子「まぁいい……」

杏子「あんたは次にマミに『助けに来てもらおう』と思う」

ほむら「……!」

「それは……遅かったわね」

杏子「あ?」
604 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 10:21:44.21 ID:JeiFXyZo0

ほむら「巴さん!」

杏子「…………既に、かよ。既に呼んでたのか。くそっ、カッコワリィ……」

まどか「マミさん!それにゆまちゃん!」

さやか「ど、どうしてここに……!?買い物の途中ですか?」

マミ「えぇ。たまたまね……」

ゆま「キョーコ……!」

杏子「……チッ」

杏子(こんなに早いなんて聞いてないぞ……)

マミ「……佐倉さん」

マミ「あなたって人は……あなたは……!」

杏子(だが、まぁいい。これで全員揃った)
605 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 10:22:59.66 ID:JeiFXyZo0

マミ「何をしに、ここに……」

杏子「だから、別に何も……だよ。強いて言えば見滝原の魔法少女の顔を見に来たってところだ」

杏子「…………」

杏子(シビル・ウォーは、屋内に罪悪感を支配する空間を創る能力だ)

杏子(故に、屋外では全くもって役に立たない)

杏子(屋内限定というのが弱点の一つだ)

杏子(……ただし、人は成長する。成長は、弱さを受け入れること、あるいは克服すること)

杏子(封印されていた幻惑の魔法が使えるようになったからな)

杏子(幻惑の魔法で『擬似的な屋内』を創造すれば、それで結界を張ることが可能である)

杏子(弱点の一つは既に克服している!あたしとシビル・ウォーのコンビの方が無敵だ)
606 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 10:26:21.33 ID:JeiFXyZo0

杏子(さらにこの能力には切り札があるからな……)

杏子(まぁ、魔女に対してはクソの役にも立たねぇ切り札だが……)

杏子(マミだろうが織莉キリコンビだろうが、魔法少女相手には必ず勝てる!)

杏子(ここで全員まとめて魔女にしてやろうか)

杏子(あいつらは相手するなと言った)

杏子(余計なことをせずに退散しろと言った……)

杏子(だが、あたしがその気になればやれないこともない……)

杏子(だがしかし……)
607 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 10:27:31.36 ID:JeiFXyZo0

ゆま「キョーコ……!」

杏子「……ゆま」

ゆま「キョーコ……!会いたかったよォ……!」

ゆま「ゆま、信じてたよ……キョーコ、絶対に、絶対に迎え来てくれるって……」

ゆま「キョーコ……色々あったけど、ゆま……今でもキョーコのことが大好きだよ」

ゆま「ゆまね……勉強したの。虎か何かは自分の子を崖から敢えて突き落とすんだって」

ゆま「試練が必要なんだって」

ゆま「キョーコは、敢えてゆまを、突き落としてくれたんでしょ?」

ゆま「ゆまね……キラークイーンの使い方、ちゃんとわかったの。マスターしたの!」

ゆま「ほむほむに、爆発の『のーはう』を教えてもらったの!」

ゆま「だから、もう大丈夫だよ」
608 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 10:30:12.89 ID:JeiFXyZo0

ゆま「キョーコを爆発に巻き込むなんてこと、絶対にないよ!怖くないよ!」

ゆま「キョーコ、お姉ちゃんと一緒に暮らしてたことあるんだよね?!」

ゆま「だ、だったら……ゆま達と三人で……ダメ?お姉ちゃん」

マミ「…………」

ほむら「笑顔で泣いてる……」

まどか「よっぽど……だったんだね」

ゆま「だから……だから……!」

ゆま「ゆま……ゆまは……」

ゆま「キョーコとも一緒にいたい!」

ゆま「一緒に暮らしたいよぉ!キョーコ!」

さやか「……くっ!」
609 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 10:30:52.10 ID:JeiFXyZo0

さやか「こんなに……」

さやか「こんなにゆまちゃんが……あんたに再会できて喜んでいるのに!」

さやか「あんなにゆまちゃんを悲しませたというのに……ッ!」

さやか「あんたは何とも思わないのかッ!」

杏子「…………」

杏子(うぜぇ……)

ゆま「キョーコ……」

マミ「…………」

マミ『佐倉さん。聞こえる?』

杏子(テレパシー……)
610 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 10:32:25.98 ID:JeiFXyZo0

マミ『佐倉さん……あなたはゆまちゃんの額を見たことある?』

マミ『私は一緒にお風呂に入って見たわ』

マミ『ゆまちゃんの額……前髪で見えないけれど、火傷痕があるのよ』

杏子「…………」

マミ『ゆまちゃんは虐待を受けていたのよ』

マミ『美樹さんの怒鳴り声や暁美さんがキレかけた時、必要以上に怯えていた……』

マミ『……今の私は、例え佐倉さんだろうと、ゆまちゃんの恩人であろうと……』

マミ『怒りに身を任してとんでもないことをしでかしかねない』

マミ『だからゆまちゃんには……そんな私を見せられない』

マミ『両親に見捨てられたトラウマをさらに抉ったあなたに対して、冷静でいられる自信がない』

杏子『つまり、帰ってくれってことか』

マミ『飲み込みが早くて助かるわ』
611 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 10:33:21.80 ID:JeiFXyZo0

杏子「……安心しろ。あんたら」

杏子「本当にやりあおうってわけじゃあないんだ」

杏子「強いて言えば、あんたらの顔を見に来たとでも言おうか。ゆまも元気そうで何よりだ」

ゆま「じゃ、じゃあ……」

杏子「何がじゃあなのかはわからんが、あたしはもう帰るつもりだ」

ゆま「そ、そんなぁ……」

杏子「……一つだけ、聞きたい。マミ」

杏子「今も使い魔を全員潰してるのか?」

さやか(……あいつは、使い魔をわざと逃して魔女を増やそうとしているって……言ってたっけ)

マミ「えぇ……全て倒しているわ」

杏子「……そうか。いや、別にどうとも言わないけどさ。今はあんたのテリトリーだからな」

杏子「それじゃあな――」
612 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 10:34:31.55 ID:JeiFXyZo0

ピキンッ

マミ「――ハッ!」

ほむら「こ、この反応は……!」

さやか「『結界』ッ!?」

まどか「えぇ!?こ、ここで!?」

杏子(案外遅かったな)

ほむら「魔女……!」

杏子「この魔女はあんたらの獲物だ……横取りしようなんざガッつきはしない」

杏子「先に帰らせてもらう」

ゆま「あっ、キョーコ……」

ゆま「い、行っちゃやだぁ……!」

杏子「…………」
613 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 10:35:35.43 ID:JeiFXyZo0

杏子「別れの言葉として……あんたらに言っておくことがある」

杏子「聞いたことはあるか?『スタンド使いとスタンド使いは引かれ合う』という格言があるんだ」

杏子「もしかしたら、あたし達とあんたらが出会うのは必然だったのかもしれねぇな……じゃあな」

ほむら「……『達』?」

マミ「さ、佐倉さん!話はまだ半分も……」

さやか「マミさん!……行きましょう」

マミ「くっ……。……暁美さん。鹿目さんと一緒にいて。ほら、行くわよ。ゆまちゃん……」

ほむら「……はい」

ゆま「うぅ……キョーコォ……」

ゆま「むぅ……魔女が出てこなかったらもっとお話できたのに……!」

ゆま「ゆま怒った!『猫さん』ッ!」

さやか「わーっ!やめろ!キラークイーンはまだおさえろ!」
614 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 10:37:12.86 ID:JeiFXyZo0

杏子「…………」

杏子「騒がしいなぁ……」

杏子「だが、余所余所しい同居人と豪邸で暮らすよりも……」

杏子「こう……あぁいう騒がしい方があたしの性に合ってそうではあるかもな」

杏子「……ふむ」

杏子「例の格言の理論で言えば、ゆまとマミが出会っているって時点でマミはスタンド使いだったりすっかもしんねぇ」

杏子「確証はないが……どうせその辺見極めろとは言われなかったからな」

杏子「いつ目覚めたのか?あるいは目覚めるのか?」

杏子「まぁいいさ」


「お疲れさま」

杏子「ん?」
615 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 10:38:39.63 ID:JeiFXyZo0

杏子「織莉子じゃねぇか……何でここに?」

織莉子「下準備よ」

杏子「下準備ィ?」

織莉子「えぇ……『これ』よ」

杏子「ん……?」

杏子「な……こ、これって……!」

織莉子「数日後が楽しみね」

杏子「いや、楽しみでは……」

織莉子「一緒に帰る?」

杏子「適当にブラついて一人で帰る」

織莉子「あら、寄り道はダメよ」

杏子「あんたと一緒に帰ったらキリカが何を言うか」

織莉子「……ごめんなさいね。あの子ヤキモチやきだから」
616 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 10:39:52.76 ID:JeiFXyZo0


Raymea(レイミ)

引力の魔女。その性質は「伝承」
『スタンド』という異世界、別次元の概念この世界に引き入れた。
あるいは創造した、または魂の持つ未知の力を覚醒させたとされる。
その力は必ずや平和と誇りに繋がるものだと信じている。
しかし魔女自身はそのスタンドを持っていない。


Cavenome(カヴェノメ)

引力の魔女の手下。その役割は「発現」
結界内の断層にある穴そのものが使い魔である。
近づいてきた者に、こっそりと歯形を残す。
歯形をつけられた者はスタンドという能力を発現する。
人によっては高熱を伴い、そのまま死んでしまうこともあるらしい。


Sabbath(サバス)

引力の魔女の手下。その役割は「選別」
結界内を住民のように彷徨う、黒いマントを羽織ったマネキンのような姿。
「スタンド」の素質を見出し、カヴェノメへ誘導する。
レイミに敵意を向ける者、既にスタンドを持つ者は排除する。
則ちスタンドの素質のない者には、さもなくば死への道。

617 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 10:43:52.64 ID:JeiFXyZo0
今回はここまで。み、短い……
7日で一週間パロディということでここは一つ

次回から戦いが始まります。今夜再開
いともたやすく行われるえげつないシーンがあるので色々アレに思われるかもです
618 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/29(土) 10:45:33.94 ID:xSgbXMODO
乙、さやかちゃん相変わらず話きかねぇなww
619 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 20:44:26.91 ID:JeiFXyZo0

#12『クリーム』



――数日後


学校。三年生の教室。

マミは今、英語の授業を受けている。

魔法少女と勉学の両立は、ハッキリ言って難しい。

特にマミは三年生……則ち、受験生である。

魔法少女、家事、勉学、子守り。巴マミは忙しい。


マミ(……眠い)

マミ(昨夜、ゆまちゃんがなかなか寝つかないものだから……)

マミ(あぁ、眠いわ。瞼がストーンと落ちそう……)

マミ(……寝たらダメよ。巴マミ……私は優等生で通ってるんだから……)

マミ(今までだって頑張ってきたじゃない……!)
620 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 20:44:57.27 ID:JeiFXyZo0

教諭「それじゃあ、この文の訳を――」

マミ(仮主語や分詞構文で複雑そうに見えるが……内容自体は簡単)

マミ(単語の意味さえわかれば文章は完成する……)

マミ(Funky……熱狂か、原始だったか……幻想ではないわね)

マミ(確か……原始……そう。"Funky music"は原始の音楽)

マミ(大丈夫……眠気に襲われても……頭は働く……)

教諭「じゃあ、巴さん。直訳でもいいので日本語にして読んでみてください」

マミ「……!」

マミ(……いけるわ!)
621 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 20:45:38.27 ID:JeiFXyZo0


「お姉ちゃんッ!」


マミ「ハイィッ!?」

マミ「……え?」

マミ「……う、嘘……?」

「ハァ……ハァ……!お、お姉ちゃん!」

マミ「ゆ……ゆ……」

マミ「……『ゆまちゃん』ッ!?」


教諭の淡々とした声くらいしか聞こえなかった教室に響く、高い声。

ざわめく教室。

教室にいる全員が声のする方を見る。

そこにいたのは、黄色い球のついたヘアゴムで結われた、ツインテールの童女だった。

頬を紅潮させ、はぁはぁ、と魔女や使い魔との戦いで聞き慣れている……普段通りの息切れ。
622 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 20:47:28.11 ID:JeiFXyZo0

ゆま「お姉ちゃん見っけ!お姉ちゃん!大変なのォッ!」

マミ「ゆまちゃんッ!」

マミ「ど、ど、どど、どうしてここに?!」

ゆま「忍び込んできた!」

マミ「ダ、ダメでしょォッ!お留守番してなさいって言ったでしょ?!」

ゆま「鍵閉めたもん!」

マミ「そうじゃあないッ!」


ゆまはマミを見つけるや否や呆然とする人々を尻目によたよた走る。

そして棒立ちのマミに飛びついた。胸に頭が埋まる。

視線が集中していることにマミは今気が付いた。遅れてゆまも悟った。


マミ「…………」

ゆま「……ゆま、お邪魔した?」

マミ「…………うん」
623 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 20:48:26.57 ID:JeiFXyZo0

マミ「え、えっと……お、お騒がせしました」

マミ「こ、この子は……その……」

マミ「し、親戚の子で……訳あってウチで預かってまして……」

ゆま「千歳ゆまです!お姉ちゃんがお世話になってます!」

マミ「と、とにかく!失礼しますっ!」

ゆま「しつれーしました!」

マミ「き、来なさい!ゆまちゃん!」

ゆま「あぁん!待ってぇ!」

マミ(ああっ!思い切り!思い切り見られてるわ!)

マミ(目立ってしまった……!あまりよろしくない形で目立ってしまった!)

マミ(は、恥ずかしい……!)
624 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 20:49:56.67 ID:JeiFXyZo0

マミ「……もう!ゆまちゃん!」

ゆま「お姉ちゃん……怒っちゃいやぁ」

マミ「学校まで来てあなた……!」

マミ「美樹さんから貰ったゲーム飽きちゃったの?」

ゆま「それよりも聞いて!」

マミ「それよりも、じゃあないでしょ」

ゆま「キョーコが!キョーコがぁ!」

マミ「……佐倉さんがどうしたの?」

ゆま「ここに『いる』って!」

マミ「……ごめんなさい。今、なんて?」

ゆま「キョーコが『ここにいる』って言ってたの!」
625 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 20:51:29.49 ID:JeiFXyZo0

マミ「……なんですって?」

マミ「佐倉さんが……『学校』にいるっていうの!?」

ゆま「うん!」

マミ「ど、どうして……」

ゆま「キョーコがテレパシーで、お姉ちゃんの学校にいるから来いって言って……」

ゆま「ゆまもわかんないの」

マミ「そ、そんな……」

マミ「一体……何をしようと言うの……?」

ゆま「キョーコ……」

マミ「……佐倉さん」

マミ「……一体、一体どうして、そしてどこに……」
626 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 20:52:26.57 ID:JeiFXyZo0

マミ「何か聞かされてない?」

ゆま「んーん。そればっかりはわかんない……」

マミ「うーん……」

マミ「……何やらさっきから下の方が騒がしいわね」

ゆま「うん」

マミ「……え?」

ゆま「お姉ちゃん?」

マミ「こ、これ……!」

ゆま「へ?」


ふと目に入った、移動教室のため今は空室となっている教室。

施錠されて中には入れない……はずである。
627 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 20:53:48.73 ID:JeiFXyZo0

その教室の中央付近に、黒いカーペットのようなものがある。

何かしらの物体であると思ったそれを、よく見てみる。

それは「穴」だった。

床に円形の穴があいている。殆ど歪みのない、綺麗な円。


ゆま「え!?な、何、これ……!?」

マミ「あ、穴……!?どうしてこんな所に……」


『仁美に何をしたッ!?』


マミ「あ、穴から声がッ!」

ゆま「さやかの声だッ!?」

マミ「ここ……真下は暁美さん達の教室……!」
628 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 20:54:30.77 ID:JeiFXyZo0


『貴っ……様ァァァァッ!』


ゆま「さやか……!」

マミ「ま、まさかッ!」

マミ「ゆまちゃん!」

ゆま「うん!」


マミは変身し、手の平から細いリボンを出した。

リボンを鍵穴に通し、開錠する。

ゆまはマミが変身した様子を見て、追って変身した。

二人は教室に侵入し、穴へ走り寄る。


マミ「ゆまちゃん。私に捕まって!」

ガッシ!

ゆま「う、うん!どうするの?!」

マミ「この穴を降りて暁美さん達と合流するわッ!」
629 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 20:55:58.81 ID:JeiFXyZo0


――時を少し遡る。



二年生の教室。


ほむら達は今、英語の授業を受けている。

魔法少女と勉学の両立は非常に難しい。

さやかは特に影響を受けている。

昨日実施された英単語テストは十点満点中二点だった。

一方ほむらは、ループ中同じ内容の授業を何度も受けている。

そのため、難しいことは特にない。

ただし、それ故に油断をしてしまう。


和子「はい。この文の主語である"They"……さて、この"They"は何のことをいってるのでしょうか。あてますよ」

さやか(あたるな……あたるな……!)

まどか(指されたくない……指されたくない……!)
630 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 20:58:49.10 ID:JeiFXyZo0

和子「関係代名詞に注目して、さらに接続詞に注意します」

和子「どれが動詞なのかを見極めなければなりません」

和子「文章そのものは難しそうですね。カンマの多い文は大変です」

和子「……さて?この大変な文の主語である"They"とは何か」

和子「誰にしましょうか、なぁ〜……と」

ほむら「…………」

和子「…………」

ほむら「…………」

和子「…………」

ほむら「…………」

和子「……暁美さん」
631 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 21:00:42.71 ID:JeiFXyZo0

和子「……ずいぶんと……まぁ、気持ちよさそうですねぇ」

ほむら「……すぅ」

和子「んっふっふ……随分と可愛い寝顔じゃあないですか」

まどか(ほ、ほむらちゃんが寝てる……!)

さやか(結構優等生な感じのキャラで頑張ってたのに……)

仁美(あー……)

和子「あ、け、み、さ〜ん?」

ほむら「…………うにゃ?」

和子「おはようございます」

ほむら「…………あ」

ほむら「……す、すみません」
632 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 21:02:59.16 ID:JeiFXyZo0

和子「お疲れですか?それとも、先生の授業退屈?」

ほむら「い、いえ……その……」

和子「ところで、この"They"の意味、わかる?」

ほむら「え?えっと……前の文の『生産・分配・消費』……?」

和子「は、はい、正解です……」

まどか「おぉ〜……流石ほむらちゃん」

さやか「どこか抜けてる秀才……萌えか。これが萌えなのか……!」

仁美「流石……です、わ……ねぇ」

さやか「仁美さっきから何か様子が変だよ。具合悪い?」

仁美「あ、いや……い、いえ……その、大丈夫でしてわよ?」

さやか(動揺してる……やっぱりあたしに気を使ってるのかなぁ……恭介のこと)

さやか(……もういいのに。気にしなくたって)


ガラッ
633 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 21:04:00.05 ID:JeiFXyZo0


「失礼します」


和子「え?」

ほむら「……へ?」

「どうも。こんにちは。先生」

和子「は、はぁ……こんにちは」

「おはようございます。皆様」

和子「えっと……あの、どちら様……でしょうか?」

まどか「な、何……?」

さやか「誰……?」

仁美「…………」

「私……『美国織莉子』と申します。以後お見知り置きを……」
634 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 21:06:56.55 ID:JeiFXyZo0

ざわめく教室の中、織莉子と名乗る少女は、和子に向けて会釈した。

銀色のサイドテール、高質な洋服、ロングスカート。

肩にカバンを提げている。上品な佇まいをしている。

織莉子は辺りを見回した。そしてほむらと目が合う。

織莉子はニコリと微笑んで見せた。ほむらは訳も分からず会釈して返した。


和子「えっと……来校者の方?アポは取ってありますか?」

織莉子「……」

織莉子「どうやら、伝わっておられないようですね……」

和子「私は聞いておりませんが……」
635 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 21:08:11.78 ID:JeiFXyZo0

和子「来校者でしたら、来校者カードを提げてください」

織莉子「来校者カード?」

和子「貰っていないんですか?受付に置いてあるはずですが……」

和子「首から提げれるようになってるので、次からは提げて校内をまわってください」

織莉子「気を付けます」

和子「それで……何か御用ですか?」

織莉子「用?用ですか?」

織莉子「そうですね……」

織莉子「早速で申し訳ないのですが、みなさん」

和子「?」


織莉子「今から我々は、あなた達を『皆殺し』にします」
636 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 21:08:49.70 ID:JeiFXyZo0

ほむら「ッ!?」

まどか「へ?」

さやか「……今、あの人何て言った?」

仁美「……皆殺し、とか何とか」

和子「…………は?」

織莉子「英語の授業中でしたか……では、Massacre(マサクゥル)というものです」


突然現れた謎の少女と、ブッ飛んだ発言。

「三年の巴さんとどっちが胸でかいか」等と呑気に内緒話をしていた男子も、思わず目を見開く。

教室の空気が固まった。静止の世界となる。

637 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 21:09:57.38 ID:JeiFXyZo0

和子は平和な日常でくすみかけていた、教諭の勘が働いた。

織莉子から感じる「嫌な臭い」を察知したのだ。


織莉子「あなたの次のセリフはこう……」

織莉子「みなさん落ち着いて、離れて」

和子「み、みなさんッ!」

和子「落ち着いて!離れてくだ――ハッ!?」

織莉子「不審者に対してはまず距離を置く。妥当ですね。先生」
638 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 21:11:12.91 ID:JeiFXyZo0

和子の大声を皮切りに、ざわめいた教室に悲鳴があがる。

この少女が不審者であるとは誰も思わなかったのだ。

こんな自然な流れで現れるとは思わなかったのだ。


まどか「な、何ッ!?何なのッ!?」

さやか「う、うあおおッ!?」

仁美「こっち!こっち!」

ほむら「――ッ!」

和子「暁美さんも離れてッ!」


織莉子「あらあら、大変なことになってるわね」
639 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 21:12:31.63 ID:JeiFXyZo0

生徒達は教室の端に偏った。

一部の男子は拳を構え精一杯の威嚇をしている。

一部の女子は互いに身を寄せ合って怯えている。

和子は生徒達より一歩前に立つ。ゴクリと唾を飲んだ。

まどか、ほむら、さやか、仁美は四人で固まって、織莉子の様子を窺っている。


ほむら(間違いない……)

ほむら(あの指輪……魔法少女だ!)

ほむら(テリトリーを狙って来たのだろうか……!?)

ほむら(鹿目さんの家に来た魔法少女兼スタンド使いみたいに……ど、どうする!?)

ほむら(まさか……学校に攻め込んでくるだなんて……!)

ほむら(これじゃ、大勢の人を巻き込んでしまう!)

ほむら(あり得ない!)
640 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 21:13:32.33 ID:JeiFXyZo0

さやか『ほむら!どうすんの!?変身する!?』

ほむら(テレパシー……)

ほむら『で、でも……クラスのみんなにバレてしまいます……』

ほむら『それは……色々と不都合があります。変身はマズイかも……』

ほむら『それに、向こうも変身していない!』

ほむら『……でも、もし攻撃を仕掛けようものなら、すぐに変身できるようにしてください!』

さやか『ガッテン!』


織莉子「……何にしても、距離は取るのはいい判断ね」

織莉子「いつだったか、不審者対応訓練で似たようなことをした……」

織莉子「でも、そんなしょうもないことで『私達』から対応できると思って?」
641 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 21:15:08.30 ID:JeiFXyZo0

織莉子は肩に提げた鞄に手を入れ、何やら細くて黒い枝のような物を何本か手に取った。

すると、織莉子はヒョイ、と生徒群に向けて放り投げる。


――瞬間。織莉子の背後に人影。

まどかとさやかと仁美はそれを理解している。


まどか「あッ!」

仁美「あ、あれは……」

さやか「スタンドッ!?」

ほむら「え?」

織莉子「受け身の対応者は必要ない」
642 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 21:16:41.26 ID:JeiFXyZo0

今の動揺の隙に、目の前が薄暗くなった。

織莉子の放った枝一本一本が『大きくなった』のだ。

ガサガサした外面が見る見る目に見えて目立ってくる。


和子「き、きゃああああああ!?」


和子の叫びをトリガーに、教室全体が再び悲鳴に包まれた。


ほむら「こ、これはッ!?」

まどか「す、スタープラチナァッ!」

「オラオラオラオラオオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!」

ドガガ ガガガ ガガ ガガガガ


スタープラチナはその拳で目の前の物を殴った。

それはバキバキ音を立てて折れていく。

織莉子が投げた枝が「大木」に変化したのだ。
643 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 21:17:19.79 ID:JeiFXyZo0

仁美「あ、ああぁっ!」

さやか「や、ヤバイ!こいつ!スタンド使いだッ!」

和子「あ……ああ……!?」

「オラァァァオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァァッ!」

ほむら(ま、間に合わな――)

バキッベギベギッ

五、六本の大木は、和子の頭上を通り抜け、まどかが殴り砕いた場所が折れた。

『他』の大木はそのまま『生徒達の上』に落ちてきた。

ドブチャッ

弾けるような音とともに悲鳴が途絶えた。

折れた大木の下から、赤い液体が流れ出る。

ほむらとさやかは、たった今変身を終えた。
644 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 21:18:50.04 ID:JeiFXyZo0

スタープラチナは、迫り来る大木を砕き、潰されることを回避した。

しかし、助かったのは本体のまどかと周りにいたさやか、ほむら、仁美だけだった。

織莉子の眼中に入らなかった和子は、顔を真っ青にして、ガタガタ震えていた。


まどか「……う、うぅ!……クッ!」

さやか「そ、そんな……そんな……!」

仁美「…………」

ほむら「ひ、酷い……!ざ……残酷すぎるッ!」

和子「ああ……あああ……!」

和子「そんな……ことって……そんな……!」

和子「みんな……あああ……ああ……!」

和子「ああああ……あああああああっ!」
645 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 21:19:41.52 ID:JeiFXyZo0

和子「よ……よくもッ!」

和子「よくもォォォッ!」

和子「よくも私の生徒達をォォッ!許せないッ!」


枝が巨大化したような大木が頭上を通られ、何も出来ずに生徒の殆どを死なせてしまった。

和子は泣いた。教諭人生における宝物を壊された。

守れなかった。奪われた。誇りを崩された。

その無力感はすぐさま怒りに変換された。

織莉子に向けて、叫んだ。生徒を怒鳴る時よりもずっと低く荒い。

微塵とも愛が込められていない、怒りと憎悪の叫び声。


しかし……その場にいるはずである対象の姿は、既になかった。
646 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 21:20:47.22 ID:JeiFXyZo0

和子「……え!?」

ほむら「い、いないッ!?」

さやか「ば、馬鹿なッ!今の一瞬で逃げたのか!?」

まどか「い、一体どこへ……」

和子「ど……どこへ行ったの……?」

和子「……いや……待って……!?」

和子「どうして他のクラスは……何も気付いていないの?」

和子「こんな異常事態に……!?どうして……?!」

和子「ま、マズイ!私、パニクっている!」

ほむら「せ、先生……!」

和子「あ、そ、そうだ!ぶ、無事ですか皆さん!?大丈夫!?」

さやか「あたし達は大丈夫です……まどかに助けられた」
647 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 21:22:23.50 ID:JeiFXyZo0

ガォンッ!

「死」は立て続けに表れる。


日常生活において一度も聞いたことがないような音がした。

削るような、飲み込むような、消すような、壊すような、何とも言えない音。

音のした方を見ると、天井にポッカリと穴があいていた。

不審者がいなくなったと思ったら、今度は天井が『なくなっ』ていた。


和子「ッ?!」

まどか「て、天井がッ!」

ほむら「天井に……円形の……穴?」

仁美「ど、どういうこと、ですの……!?い、一体どんなスタンド……!」

さやか「て、敵は二人いるッ!白いヤツと穴あけたヤツッ!」
648 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 21:23:10.02 ID:JeiFXyZo0

和子「……皆さん!避難してください!」

和子「何が起こっているのか全く見当もつきませんが……」

和子「ここは私が何とかします!皆さんは逃げて!」

仁美「な、何を言って――」

和子「いいから行って!ここは何かヤバ――」

まどか「あッ!?」

さやか「せ、先生ッ!」

ほむら「ッ!?」

和子「……ど、どうしました?」
649 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 21:23:55.36 ID:JeiFXyZo0

まどか達の見た光景。

和子の背後に、黒い魔法少女の姿があった。

まどかと目が合うと、その者はニヤリとその口角をあげた。


まどか「あ……あああ……!」

ほむら「あ、あの人は……!」

和子「……もしかして」

和子「私の後ろに何かいる?」

「私のことかい?」

和子「――ッ!」

和子「ス、スケアリ――」


ガォンッ!
650 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 21:24:28.80 ID:JeiFXyZo0

まどか「……!」

さやか「え……」

仁美「そ、そんな……」

ほむら「う……そ……!」


和子が消えた。

左腕があった場所に、左腕そのものがあった。

そしてゴトッと音をたてて左腕が床に落ちた。

左腕を残して和子の存在が抹消された。


眼帯をつけた黒い魔法少女――キリカが現れた。

髑髏をモチーフにしたかのようなフードを被っている。

キリカは今、和子が最期に立っていた場所。そこに立っている。

和子は、クリームで暗黒空間に飲み込まれてしまったのだった。
651 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 21:25:55.55 ID:JeiFXyZo0

キリカ「早乙女先生は……」


キリカは、その頭に被っていた漆黒色のフードを脱いだ。

そして「粉微塵になって死んだ」と、淡々とした口調で続けた。

この場に生きている人物――まどか、ほむら、さやか、仁美は、何も言えない。


キリカ「やぁ、久しぶりだねぇ。覚えてる?」

ほむら「あ……あなたは……!」

キリカ「やぁほむら。私はさっきの美少女の仲間だ」

キリカ「私達は君達を殺すよ」

ほむら「う……くっ!」

ほむら(い、今の能力は……なんだ?)
652 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 21:27:57.56 ID:JeiFXyZo0

ほむら(天井に穴をあけて……早乙女先生を殺した……)

ほむら(り、理解できない……いや、したくない)

ほむら(私が想像している事実を認めたくない……)

ほむら(あの能力は……あの能力は……!)

ほむら(触れた物を『消す』ッ!)

ほむら(お、恐ろしい!恐ろしすぎるッ!)

ほむら(今しかない!)

ほむら(彼女を殺すには!今しかない!止めるとかではなく『殺す』しかッ!)

ほむら(ソウルジェムを撃ち『砕く』しかないッ!)

ほむら(ソウルジェムが砕けると魔法少女が死ぬことは……美樹さんもゆまちゃんも鹿目さんも……巴さんさえまだ知らない)

ほむら(そのことを知られてしまうのは……後のことが思い悩まれるけどやむを得ないッ!)

ほむら(時を止めて、ソウルジェムを撃ち砕――)


ガシッ
653 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 21:29:50.92 ID:JeiFXyZo0


ほむら「え……?」


ほむらの腕が掴まれた。

その力加減は、今までで感じたことがない。

痛いくらいに強い。

腕を掴んでいる者は……緑色の髪をしていた。


仁美「ストップ……ですわ」

ほむら「え!?し、志筑さん!?」

ほむら「う、腕を……」

まどか「ひ、仁美ちゃ……?」
654 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 21:30:49.63 ID:JeiFXyZo0

ほむら(そんな……何故、止める……?)

ほむら(ま、まさか……志筑さん……あなたも!?)

ほむら(あなたが……その、ティナー・サックスとやらを、敵のために使うと言うの!?)

さやか「な、何をし――」

仁美「私の幻覚で周りの教室の様子を隠しているのですわ……」

仁美「……あぁもうこの口調メンドクセー」

まどか「ッ!?」

ほむら「なッ……!?」

仁美「あたしだよ」

ほむら「そ……そんな……さ、さく……」
655 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 21:32:39.26 ID:JeiFXyZo0

仁美「当て身」

ガスッ

ほむら「うっ……!」

まどか「ほむらちゃんッ!」

ガクリ

仁美「これで時間停止は一時しのぎにだが封じ――」

「オラァッ!」

仁美「ウオアッ!?」

ピタァッ

まどか「くっ……う……ほ、ほむらちゃんを盾に……!」

仁美「び、ビックリしたぁっ!何すんだよ!やめろよ!」

さやか「あ、あんたはッ!まさか!そんな!」


仁美だった者は、いつの間にか姿を変えていた。

ウェーブがかった緑の髪は、赤銅色のポニーテールに変わっている。

おっとりした目は鋭い目、見滝原中学校の制服は赤い衣装。
656 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 21:34:10.41 ID:JeiFXyZo0

志筑仁美の姿は佐倉杏子の姿に変わっていた。


杏子「よぉ、また会ったな」

まどか「あ、あなたは……!」

さやか「な、何で杏子が仁美の姿に……!」

さやか「――ハッ!?」

さやか「ひ、仁美は!?仁美をどうしたッ!」

杏子「へぇ、意外と鋭いんだな」

杏子「幻惑魔法で仁美というヤツに化けた。既にな」

杏子「仁美ってヤツと恭介ってヤツは既に殺したぞ」

まどか「えっ……」

さやか「なッ!?」
657 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 21:36:06.67 ID:JeiFXyZo0

杏子「殺した証拠欲しいか?ねぇよそんなもん。遺体を持ってこいとでも言うか?」

まどか「そ、そんな……ひ、仁美ちゃんが……!?上条くんが……!?」

さやか「…………!」

杏子「まぁ、悪く思うな。スタンド使いも処理するって契約なんでね」

杏子「はぁ〜あ。あたしも堕ちたもんだな。こんな無意味な殺生を割と平気でやってのけてしまえるだなんて」

杏子「だが、スタンドのおかげで心因的理由で封印されていた幻惑魔法も、こうしてまた使えるようになった」

さやか「貴……様……」

さやか「貴っ……様ァァァァッ!」

杏子「おぉ、怖い怖い……」

ダッ!

さやかは剣を振り回し、怒りに歪んだ表情で杏子に向かって地面を蹴る。

杏子は、気を失ったほむらを抱えているまどかを一瞥し、教室から走って出ていった。

キリカは二人が出ていく様を腕を組んで眺めていた。
658 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 21:37:28.68 ID:JeiFXyZo0

まどか「さ、さやかちゃん!」

まどか「い、行っちゃった……」

まどか(……さやかちゃんを追うか、マミさんと合流するか)

まどか(それも考えなきゃだけど、気になるのは……忽然と姿を消した……美国織莉子って人……)

まどか(……そして、目の前の……)

キリカ「……ん?」

まどか「うぅ……!」

まどか「仁美ちゃん、上条くん、早乙女先生、みんな……」

まどか「酷い……酷いよ……そんなのってないよ……!」

キリカ「あぁ……茶番はもういいかい?」

まどか「この……この……!」

まどか「この、人でなしっ……!」
659 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 21:37:54.30 ID:JeiFXyZo0

まどかは気を失ったほむらを抱えて、目の前の敵に注意を払う。

クラスメート含む二年生のほとんどを殺し忽然と姿を消した白い魔法少女。

担任である早乙女先生を消滅させ、不敵に微笑む黒い魔法少女。

スタープラチナはいつでも強烈な拳の一撃を放てる体勢を構える。


まどか「スタープラチナ!警戒して……!」

キリカ「それが君の能力か……」

キリカ「スタープラチナ……ものスゴイスピードなんだそうだね……」

キリカ「さっきの大木をオラオラ言って防御したんだろう?」

キリカ「あれで三人守り切ったんだ。予想以上という称号を与えよう」

キリカ(時間を遅くしても、それをカバーできる程早かったりするのかな……?)
660 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 21:41:26.22 ID:JeiFXyZo0
キリカ「だがしかし」

キリカ「魔法少女でスタンド使いの私……」

キリカ「ただのスタンド使いの君……」

キリカ「挙げ句に気絶しちゃった情けない人一人抱えてさぁ」

キリカ「どう控えめに見たって私のが有利だよ」

まどか(確かに……そうだ。しかし……逃げ道はない)

まどか(やるしかない……!)

キリカ「個人的に君には恨みはないが……そうなる運命だったとして受け入れなよ」

キリカ「魔女の結界に入ったことあるんだろう?君はあの時既に死んでいた、ということでさ」

まどか「くッ……!」


「レガーレッ!」
661 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 21:42:28.30 ID:JeiFXyZo0

シュルッ!


キリカ「うッ!?」

まどか「ッ!?」

ダンッ!

突如、キリカの足下が光った途端、床からリボンが飛び出してきた。

地面から蔦のように生えたリボンはしなりながらキリカを束縛した。

そして、天井の穴から二人、飛び降りてきてまどかとキリカの間に割り込んだ。


キリカ「リ、リボン……!」

まどか「マミさんッ!」
662 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 21:43:53.44 ID:JeiFXyZo0

マミ「大丈夫だった!?鹿目さん!」

ゆま「まどかお姉ちゃん!怪我はない!?」

まどか「え?ゆまちゃん!?何で!?」

ゆま「後で!」

まどか「後でって……」

マミ「あ、暁美さん……!」

まどか「不意を突かれたんです……」

マミ「……気を失っているだけのようね」

ゆま「ほむほむ……」

ゆま「……あっ?」
663 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 21:44:41.60 ID:JeiFXyZo0

ゆまの意識は教室の状況に向いた。

折れた大木の一部が教室に横たわっていた。その下から赤い液体が流れている。

そこから少し離れた位置、天井にあいた穴の真下の位置に左腕が落ちている。


マミ「――ッ!」

ゆま「……うぅ」

マミ「ゆまちゃん!見ちゃダメ!」

マミ「…………なんて、酷いことを……!」

キリカ「くっ……!う、動けない……!不意を突かれた」

マミ「許せない……!」

まどか「気をつけてマミさん!あの人の他に白い魔法少女がさっきまでいたんです!敵は少なくとも三人います!」

まどか「で、でも、白い魔法少女は急にいなくなって……」
664 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 21:45:50.07 ID:JeiFXyZo0

ゆま「まどかお姉ちゃん!さやかは?!」

まどか「さ、さやかちゃんは、その……杏子って魔法少女を追って行っちゃった……」

マミ「……!」

ゆま「キョーコ……!」

マミ「……そう」

マミ「ゆまちゃんは美樹さんを追って!」

ゆま「へ?」

マミ「…………」

ゆま(……さやかはキョーコを追った。ってことは……)

ゆま「……うん!わ、わかった!」

マミ「鹿目さんは、暁美さんを抱えて逃げて」

まどか「……はい!」

ダッ

キリカ「……おいおい、束縛してるからって私をほったらかしで話を進めるんじゃあないぞ」

マミ「あなたの相手は私がするわ……!」
665 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 21:48:03.52 ID:JeiFXyZo0


――廊下


まどかはほむらを背負い、どこへ行くべきか考えながら走った。

力強いスタープラチナのおかげか、ほむらが軽いからか、気を失った人間一人を背負っていることにあまり負担を感じない。


まどか「……なっ!?」


まどかは足を止めた。目の前の光景に、これ以上進む術を失った。

廊下に「木」が敷き詰められている。

それも背の低くて細い木ではなく、あきらかに大木をそのまま押し込められていた。


まるでビーバーの作ったダムを間近で見ているかのようだった。


まどか「うぅ……!ろ、廊下に木が……」

まどか「織莉子って人が放り投げた木の枝が大木に変化したように……」
666 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 21:48:43.43 ID:JeiFXyZo0

まどか「こうやって、大木を廊下に詰め込んでいたんだ……」

まどか「そういうことができる能力なんだ……」

まどか「……敵は三人しかいない。確実に三人」

まどか「四人とかそれ以上いるなら既にわたしと対峙させているし……」

まどか「こうやって逃げ道を塞ぐ意味がない」

まどか「つまり……こういう大木は他にもたくさん用意してあるはずだ……」

まどか「スタープラチナで破壊しながら進むしかない……」

まどか「…………どの教室にも、人がいない」

まどか「そう考えると……」
667 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 21:49:38.03 ID:JeiFXyZo0

まどか「やっぱり……」

まどか「他のクラスの人も……先生達もきっと……」

まどか「だから……あんな騒動があったのに静かだったんだ」

まどか「仁美ちゃんに変装してた杏子って人は……幻影を使うらしいから……」

まどか「多分それで私達も気付かなかったんだ……」

まどか「…………」

まどか「……閉ざされた道は、自分の力で切り開くッ!」

まどか「スタープラチナッ!この木を何とかしてッ!」


「ウオオオオオォォォォォ!」

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!」

668 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 21:50:51.53 ID:JeiFXyZo0



――教室


マミとキリカは対峙する。

キリカは赤いリボンに束縛されている。

マミは白いマスケット銃の銃口を、キリカの額に向けている。


マミ「……呉さん」

キリカ「おや?私の名前を知っているんだね」

マミ「あなたは越えてはならない一線を越えた。私はあなたを魔女と同類、非人間として見させてもらうわ」

マミ「いえ……あなたも、と言ったほうがよさそうね」

キリカ「君、杏子とは知り合いだったんだってね?」

キリカ「杏子の件については、同情する」

キリカ「彼女も私も、言ってしまえば人殺しさ。既に同類だ」

マミ「……ッ!」
669 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 21:52:20.42 ID:JeiFXyZo0

マミ「……不意打ちで束縛したあなたを撃ち殺すのに、罪悪感なし!」

キリカ「ふーん、そう……」

キリカ「だったらどうしてペチャクチャ喋ってさっさと撃たないんだ?」

キリカ「心理学者じゃあないが、断言出来る。それは君自身が、人を撃ちたくないと思っているからだ」

キリカ「君は怖いんだよ……人を撃つのが」

マミ「…………」

キリカ「…………」

マミ「ファイア(発砲)ッ!」

キリカ「躊躇したなッ!この甘ちゃんめッ!」


ドッギャァ―――z___ン!
670 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 21:53:18.33 ID:JeiFXyZo0

キリカ「時間を遅くしたッ!」

キリカ「これが私の固有魔法!」

キリカ「銃弾もゆっくりさ」

キリカ「私以外が遅くなったということは、その銃撃も簡単に避けられるということ……」

キリカ「さらに、このうざったいリボンを斬るだろ……?」

キリカ「……よし。そんで、君に難なく近づいて……」

キリカ「何とか頑張って君の首を斬り落とす」

キリカ「あっけないな。これが私にプラ――」


ブシャッ
671 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 21:53:44.37 ID:JeiFXyZo0


キリカ「ンッ!?」

ドサッ!

キリカ「ぐへっ!」


突如、ズキリとした痛みを感じ、膝に力が入らなくなった。

立つことができず、転倒する。床に頬を打ちつける。


キリカ「……え?」

キリカ「わ、私……何を……?」

キリカ「足が、痛い……!そして、何で私……倒れて……!?」

キリカ「――ハッ!」

キリカ「う、うおおおッ!?わ、私の『脚』がッ!?」
672 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 21:54:46.21 ID:JeiFXyZo0

キリカの左足膝、白いハイソックスが局所的に赤く染まっている。

膝の関節が砕けたらしく、動きそうにない。


キリカ「う、うぅ……!」


キリカは爪を床に突き刺し、立ち上がる。

松葉杖のように体を支え、マミを見た。

銃撃は一発のみ。銃口は自身が倒れていた位置に向いている。

マスケット銃以外の攻撃をしたようには見えない。

このダメージがマミの『スタンド攻撃』によるものであることはすぐに理解した。

しかし、攻撃された瞬間が見えなかった。
673 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 21:55:53.80 ID:JeiFXyZo0

キリカ(あ……脚をやられてしまった……!)

キリカ(既に、だったのか……恐らく、リボンを巻き付かれたその時に既に……!)

キリカ(ソックスが真っ赤っかで傷は見えないが……)

キリカ(それ程パワーのあるスタンドではない。もしもっと強力なら足は切断されていただろうからね)

キリカ(スタンドでリボンに何か仕掛けを……?)

キリカ(いや、それともスタンドそのものが小さいとか透明とかで、死角を突いたとか……)

キリカ(むしろこのリボンそのものがスタンドなんじゃあなかろうか?)

キリカ(……まぁ、いい。悔やんでも喰らってしまった結果しかない)

キリカ(それよりも……この足じゃ、マズイ)

キリカ(時間を遅くしても、私自身が自由に動けなければ意味がない……)

キリカ(このまま戦えば!魔力を浪費するだけ!治療に回す程余裕なんかない!)

674 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 21:56:35.79 ID:JeiFXyZo0

キリカ「くぅ……!や、やはり、経験の差が出たのか……?」

キリカ「クゥ……魔法を解除する……」

キリカ「リボンを切断するためだけに時間を遅くしたって感じだよ。これじゃ……」


マミ「――ハッ!」

キリカ「……ハ、ハハハ……ハハ」

マミ「あなた……その傷……」

キリカ「君ィ……やるじゃあないか……」

キリカ「時間を遅くしたのに……脚をやられてしまった……」

キリカ「スタンド攻撃だよね?全く……見えなかったよ……」

マミ「……スタンド」
675 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 21:57:24.37 ID:JeiFXyZo0

マミ「……なるほど」

キリカ「私は一体……何をされたんだ?ん?」

キリカ「どこかに隠れて攻撃したのかな……?ここは教室。机の中や影とか死角が多いからね……」

キリカ「大穴は実はリボンがスタンドだった、なんて思っちゃったりなんかして」

マミ「……あなたが近接武器ということがわかったからこそ、脚を狙いたいと、強く願ったわ」

マミ「どうやら、私のスタンドは不本意ながら不意打ちが得意なようね」

キリカ「どうやら?……そうか。そういうことか」

キリカ「怒りとかそういうので、たった『今目覚めた』ということか……」

キリカ「はは……参ったね。土壇場で『新しい能力の覚醒』か……」

キリカ「少年漫画とかでよくある『勝ちフラグ』ってヤツじゃあないか」

マミ「…………」

キリカ「だが……私は負けないね」
676 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 21:58:02.02 ID:JeiFXyZo0

マミ「……今のでわかったことがある」

マミ「あなたの武器とそのフードみたいなスタンドは、遠距離から攻撃はできないようね」

キリカ「もしできていたら最初から攻撃していたって言うんだろう?」

マミ「さらに、スタンドと魔法の両立ができない」

キリカ「……ッ!」

マミ「違う?」

キリカ「……ご明察だ。何が決め手でわかったんだ?正解だよ……」

キリカ「どうせバレちまったんだ。先に言っておこう。私のスタンドには弱点がある」

キリカ「強力な能力である代わりに……今使った、時間を遅くする魔法は使えなくなる……」

キリカ「それは……私がその魔法の効果範囲内から『いなくなる』からだ」

マミ「……いなく……なる?」
677 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 21:59:48.87 ID:JeiFXyZo0

キリカ「そう!私のスタンドは『暗黒空間』という概念を創造し、その中に隠れることだッ!」

キリカ「私に触れることは死を意味する!『クリーム』ッ!」

ガバッ!

キリカは床に刺した爪を消し、片足立ちになり、両手を首の後ろへ向ける。

そして勢いよくフードを被った。髑髏を象った「クリーム」の瞳が妖しく光る。

キリカはそのまま体重を後ろへ傾ける。

後方へ倒れそうになったところ――


マミ「――き、消えたッ!?」


空間の「穴」が背後に生成されていたかのように、その穴に飛び込むように、キリカは姿を消した。

暗黒空間に身を隠したのだ。
678 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 22:02:14.39 ID:JeiFXyZo0

マミ「と、透明化の能力……!?」

マミ「……『触れることは死を意味する』」

ガォンッ!

マミ「ッ!」

マミ「え……!?」

マミ「つ、机が……『消えた』ッ!」

マミ「あの時の床……もとい、天井と同じッ!」

マミ「マズイ!な、何かマズイ!」


マミは身を翻して左方向へ回避した。

体勢を整えたと同時に、背に向けていた強化ガラスの一部が消えた。

透明な壁に、コルク栓を抜いた後のような、綺麗な切り口の穴があいた。

マミが目の前の光景に驚いていると、突如として廊下にキリカの頭が浮かぶ。
679 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 22:03:13.02 ID:JeiFXyZo0

マミ「こ、これは……!」

キリカ「やはり避けたね……」

キリカ「これが、クリームの能力だ。暗黒空間を創造し、その中に隠れる能力」

キリカ「一々こうやって、暗黒空間から顔を出さないと外の様子が見えないっていう弱点もある」

キリカ「まぁその代わり、中にいる限りは無敵という素晴らしい能力なんだけどさ」

キリカ「気に入らないこともあるんだ。こうやって暗黒空間から顔を出すと端から生首が浮いてるみたいになること」

キリカ「あとクリームのヴィジュアルそのものがあまり好みじゃないこと。まぁ最近はちょーっと愛着沸いてきたよ」

マミ「クッ!」

ガシャァァン!

キリカ「あっ、ちょっと!逃げないでよ!」


マミはマスケット銃の銃身でガラスを殴り破り、廊下へ飛び出す。

キリカは暗黒空間に再び隠れ、マミを追う。
680 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 22:03:41.12 ID:JeiFXyZo0

一定距離移動しては顔を出し、一定距離移動しては顔を出し、その繰り返し。

顔を出した瞬間を狙われないように、覗くタイミングをズラし、座標をズラし、工夫をする。

マミはその様子、後方をチラチラと見ながら走る。

全力ではない。逃げるのではなく、あくまで戦うために走っている。


マミ(……2、3、5、7、11)

マミ(落ち着いて……素数を数えて落ち着くのよ……13、17……)

マミ(素数は1とその数字でしか割れない孤独の数字……私に勇気を与えてくれる……19、23)

マミ(あの能力は、危険すぎる)

マミ(触れたらその時点で……その部分がなくなってしまう)

マミ(相手が悪すぎる。暁美さんなら、顔を出した瞬間に時間を止めれば何とでもなるでしょうけど……)

マミ(いえ、だからこそ、暁美さんが狙われたのよ。幻惑で不意を突いて……)

マミ(私は今、逃げるのではない……)
681 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 22:04:12.38 ID:JeiFXyZo0

ガォン!ガォン!

床、壁、天井が削られていく。

マミは離れ過ぎず近すぎずの速度を保ち移動する。

校内は静かだった。何人の生徒が既に犠牲となっているのか、考えたくもない。


マミ(階段……)

マミ(ここから降りれば誰かしらと合流できる蓋然性が高い……)

マミ「……しかし、私は!私がこのクリームを相手しなければならないッ!」

マミ「むしろ引き離さなければッ!上に行くッ!追ってきなさい!」


マミは階段を駆け上がる。この階層の上は屋上。

キリカは暗黒空間から顔をひょっこりと出し、マミの行方を確認した。


キリカ「へぇ、下りないんだ……フフ……」

キリカ「織莉子の読み通り」
682 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 22:05:36.10 ID:JeiFXyZo0

マミは屋上へ出た。

やたら豪勢な柵で囲まれている、物静かで、晴れた日には爽やかな青空を眺めることができる場所。

魔法少女という秘密を理解してくれている友達との思い入れのある場所。

空は青かった。雲一つない。


マミ「……やれやれ、ね」

マミ「どうしてこんなことになってしまったのやら……」

マミ「……いる」

マミ「私が降りて味方と合流、逃走を敢えてしないで屋上に現れる……よくわかったものね」


友達と談笑しながら昼食を食べていたベンチが無惨な形になっている。

ベンチの残骸の傍らに、ぽっかりと穴があいている。
683 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 22:06:39.27 ID:JeiFXyZo0

マミ「クリーム……既に……」

マミ「既にここにいる」

マミ「…………」

マミ「あなたの能力は、屋上とか見開けた場所がベストフィールド」

マミ「それは……『常に何かを飲み込まなければならない』から!」

マミ「教室では、机や壁を飲み込んでしまう。障害物を飲み込まれるタイミングを読めば、軌道がわかってしまう!」

マミ「故に、ここでは軌道のヒントが見えない。いること自体がわかりにくい……」

マミ「なら……そんな場所に先回りされたら危険極まりない」

マミ「しかし何の問題もないッ!」

マミ「それを理解した上で屋上に、開けた場所に来たッ!」
684 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 22:07:12.15 ID:JeiFXyZo0

マミ「トッカ・バッリエーラ(リボンの結界)ッ!」


マミの手から、赤いリボンが縦横無尽に勢いよく飛び出す。

リボンは柵に結びつき、リボン同士は絡み合い、屋上にあやとりのような景色を作り出す。


マミ「リボンの結界を張った!」

マミ「あなたが飲み込んだ床や机がヒントになったわ」

マミ「クリームは、常に何かを消しながらでないと移動ができない!」

マミ「クリームはこのリボンの結界を……」

マミ「軌跡のヒントを飲み込んで移動する」

マミ「リボンが消える瞬間を追っていけば、それは則ち、あなたが移動した軌跡となるッ!」

マミ「つまり!『軌道』が読めるわ!」

マミ「常にリボンを生成し続けなくちゃいけないという困った要素はあるけどもねッ!」
685 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 22:07:50.67 ID:JeiFXyZo0

リボンの結界は、マミの読み通り穴を空けていく。

リボンは、消える度にゆらりと揺れて再び結び合い、自動修復される。

リボンが消えた瞬間。そこにキリカがいる。


マミ「……そこにいるのね。読めたわ」

マミ「あなたの能力は、隠れている間は外の様子が見えない……」

マミ「もし見えているならもっと正確な先回りができるはずだし……そういう自己申告もした」

マミ「必ず、必ず外の様子を見るために顔を出してくるタイミングがあるッ!」

マミ「見えていない間に逃げられては本末転倒。だから必ず。それもそう長い間隔をあけずに現れるはずッ!」

マミ「そこを狙い撃ってやるわッ!」

ジャキィ
686 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 22:08:36.11 ID:JeiFXyZo0


――暗黒空間内


キリカ(……そろそろ、かな)

キリカ(そろそろ様子を見てみよう)

キリカ(下手な鉄砲数撃ちゃ当たる戦法)

キリカ(念のため空中で覗く。たまたま目の前にってなったら困るし)

キリカ(まぁ一番困るのは暗黒空間にいる間に逃げられていることなんだけどね)

キリカ「よっと……」

キリカ「……ん?」


キリカは暗黒空間から上半身を出す。

外は、赤い線が前後上下左右に走っている。


キリカ「な、何だこれ……」

キリカ「ヒモ?」

キリカ「いや……違う」

キリカ「これは……リ……『リボン』……!」

687 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 22:09:15.16 ID:JeiFXyZo0

「そこッ!」

キリカ「ハッ!」


声のする下方を向くと、マミが巨大な大砲を構えていた。

正確には、巨大化したマスケット銃。

銃口はキリカの顔面、その中央を狙っている。


マミ「あなた、覚悟して来てるのよね……」

マミ「人を殺したってことは、殺される覚悟できてるってことよね。私も殺す覚悟は既につけたわ」

キリカ「し、しまっ……!」

キリカ「う、うわあアァァァァァァッ!?」

マミ「ティロ・フィナーレッ!」


ドギャァァ――――z__ンッ!



マミ「勝ったッ!」

688 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 22:10:23.20 ID:JeiFXyZo0

キリカ「…………」

キリカ「いっ……たぁ〜……!」

キリカ「痛いなぁ!もうッ!」

マミ「!?」

キリカ「あぁ、チクッとしたぁ……」


キリカは涙目で鼻の頭を抑えてマミを睨みつける。

宙を浮くキリカの上半身はゆっくりと降りてくる。


マミ「え……?」

キリカ「やっぱり読まれちゃったか……クリームの軌道……流石はベテラン。素晴らしい立ち回りだ」

キリカ「よく飲み込みながらでないといけないって特徴に気付いたね」

689 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 22:11:19.67 ID:JeiFXyZo0

マミ「ど、どうして……」

マミ「ティロ・フィナーレの直撃を喰らったのに……!」

マミ「何で効いていないのッ!?」

キリカ「それは自分自身に聞いてみなよ」

マミ「……」

キリカ「無駄に豊満な胸に聞くといい」


マミは自分の手を見た。手首に小さな切り傷がある程度で特に異常なし。

次に銃を見た。異常なし。

空を見た。いつもより広く感じた。リボンの結界が消えている。

ゆっくりと降りてくる敵を見た。みるみるとその姿は大きくなる。

足下にはサッカーボールくらいの大きさの石がある。


マミ「……ん?」
690 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 22:12:26.46 ID:JeiFXyZo0

マミ「な、何……この……石?石よね……」

マミ「何でこんな大きな石が、屋上に……」

マミ「え……?」

マミ「リ、リボンの結界も……なくなっている……」

マミ「嘘……」

『予知通りよ……』

マミ「ッ!?」

『私の予知……「屋上のこの座標であなたはキリカに攻撃する」……』


空の方から声がする。背後を振り返る。

マミの目の前に、靴のつま先があった。

ついさっきまでそんなものはなかった。

691 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 22:13:35.71 ID:JeiFXyZo0

マミは視線を上にあげる。

白いカーテンのような衣装を着た少女がいた。

異常なまでに巨大な少女が、自分を見下している。

少女が影になってよくは見えないが、その傍らに人影――スタンドが見える。


マミ「まさか……まさかそんな……!」

マミ「私の体が……」

マミ「『縮んでいる』ッ!?」

織莉子「…………」

織莉子「リトル・フィート」

織莉子「私の能力……ものを小さくする」
692 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 22:15:35.43 ID:JeiFXyZo0

織莉子「あと、自分自身も小さくなれるわ……」

織莉子「小さくなって『既に』私はあなたの服の中に隠れていた」

織莉子「具体的にはあなたがキリカを縛り付けた時には既に……よ」

織莉子「すごいことよね。飲み込まれるかもしれないのに、あなたの服に隠れるだなんて……」

織莉子「それも、『私もろとも巴マミを飲み込んだりはしない』という『予知』を見たからできら芸当よ……」

織莉子「私が直接干渉しない限り、予知は確実。学校に忍び込んだ時点でそういう予知だった」

織莉子「何をどうしても、あなたは今まで逃げられるという真実」

織莉子「いつからタイマンで戦っていると錯覚していたのかしら」

マミ「……!」

キリカ「そういうことだよ。私は最初から君をクリームで飲み込むつもりはなかったんだ」

キリカ「最も、織莉子がいるとわかっていた以上、むしろうっかり飲み込まないように立ち回ったんだ」

キリカ「折角のティロ何とかも、君自身が小さくなってしまったことで銃が縮んで威力も半減以下……」

マミ「そん……な……!」
693 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 22:16:38.61 ID:JeiFXyZo0

キリカ「リボンも細くなって見えやしないよ」

織莉子「……何はともあれ、よくもキリカの肌に傷をつけたわね」

ガシィッ

マミ「ぐッ!」


屈んだ織莉子は、マミを握った、というより、拾った。

マミは棒立ちすることしかできなかった。


マミ「う、うぅっ……!」

織莉子「さて、あなた、殺す人間は殺される覚悟を持つべきだと言ったわね」

織莉子「あなたもその覚悟をできていると言ったわよね……?」

織莉子「あなたは私のキリカに殺意を向けた」

キリカ「えへぇ……『私の』だなんて……照れるなぁ」
694 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 22:17:13.16 ID:JeiFXyZo0

織莉子「キリカの可愛い顔に傷をつけた。そして、私の目的の邪魔をした……」

織莉子「よって判決は……」

キリカ「死刑ッ!」

マミ「ッ?!」

織莉子「はい、キリカ。あーん」

マミ(さ、37、41、43、47、53、59、61……)

キリカ「……そのセリフはどうかと思うんだ」

マミ(67!71!73!79!83!89!97!)

マミ「い……」

マミ「いやあああああぁぁぁぁぁぁぁぁ―――」


ガォンッ

695 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 22:19:25.82 ID:JeiFXyZo0


織莉子はクリームにマミを投げ入れた。絶叫がプツンと途絶える。

マミがこの世界からいなくなってキッカリ三秒後。キリカは暗黒空間を解除した。

そして背筋を伸ばし、大きな欠伸をする。


キリカ「ん〜……っとぉ、ふぅ。いっちょあがりだね。次はどうする?」

織莉子「散々干渉したから最早未来はわからないわね」

織莉子「ターゲットは今どこかしら」

キリカ「そっか。うーん。外に逃したりなんかすりゃ、それはとっても面倒なことになるね」

織莉子「そうね……」

織莉子「そのために、小さくした大木を持ち込んでそこら中にバラ撒いては元の大きさに戻す、という策をとってはいるけど……」

キリカ「廊下を塞ぐのも楽じゃないねぇ」

織莉子「……ところで、キリカ。この学校の生徒の中に、スタンド使いは他にもいるかしら?」

キリカ「さあ?」
696 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 22:20:05.81 ID:JeiFXyZo0


織莉子「それはそうよね。区別できたら苦労ないわよね」

キリカ「そもそも皆殺しにしちゃうからできても意味ないし」

織莉子「まぁそれはそうだけれども……さて、暁美ほむらを殺しに行くわよ」

キリカ「そうだね」

キリカ「……ねぇ織莉子。ちょっと時間いいかい?大事なことなんだ。聞いてもいい?」

織莉子「何?」

キリカ「鹿目まどかのことなんだけど……」

織莉子「えぇ」

キリカ「彼女には魔法少女の素質がある。もし、私達を殺せって願われたらどうしようか」

織莉子「…………」

キリカ「もしもだよぉ。もしものこととは言え、絶対にないとは言えないよぉ!」

キリカ「いや、こんなギリギリで聞くのもおかしいとは思うけどさ。今思ったんだ」

織莉子「心配ないわ」

697 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 22:24:18.66 ID:JeiFXyZo0

懐に白い手を入れて、何かを取り出した。

ガラス質で、ストロベリーと書かれたラベルが貼られている。


織莉子「これを見て」

キリカ「……『ビン』?」

キリカ「って織莉子、そのビンどっから出したの?」

織莉子「帽子から」

キリカ「嘘ッ!?」

織莉子「嘘よ」

織莉子「衣装にポケットを作ったわ。リトル・フィートで小さくした物をビンに入れて、さらにポケットに入れ直して持ち運んでるのよ。カバンは机に置きっぱなし」

キリカ「小さくした物……?じゃあ何か入ってるの?このビン……」

織莉子「もっと近くで見てみれば……」

キリカ「んー……?」

キリカ「……あーっ!」
698 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 22:25:15.39 ID:JeiFXyZo0

ラップと輪ゴムで蓋をされたジャムのビンの中に、白い猫のような生き物がいた。

キリカはこいつを知っている。その大きな尻尾と赤い目を知っている。


キリカ「しろまる?!久しぶりじゃあないか!」

QB「ん、ここは……」

QB「マミ達のいる学校じゃないか……いつの間に」

キリカ「こんなところで何してるの?縮んだ?」

QB「わけがわからないよ……」

織莉子「作戦の事前準備として、私が『捕まえて』おいたのよ」
699 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 22:27:22.21 ID:JeiFXyZo0

織莉子「リトル・フィートで小さくしてビンの中に入れて既に監禁している」

織莉子「監禁だなんて柄でもないから内緒にしてたのだけれど」

キリカ「秘密にする必要どっちみちないよ……」

織莉子「とにかく、もしキュゥべえが何かの間違いでビンから抜け出せたとしても……」

織莉子「このサイズならグラウンドを往復するだけでも数時間はかかる。鹿目まどかの所へは行けないわ」

織莉子「テレパシーも距離からして届かない。届いたとしても自分の居場所がわからない」

キリカ「へぇ〜」

織莉子「これで鹿目まどかの契約は防げている。ということよ」

織莉子「まぁもちろん……そんなスタンド使い、早く抹殺するに越したことはないのだけれど」

織莉子「スタープラチナ……実際に見てみたけど、予想以上に骨が折れそうだわ」

キリカ「うーん……」
700 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 22:27:58.71 ID:JeiFXyZo0


織莉子「でも、私とキリカがいれば、敵ではない」

織莉子「鹿目まどかはリトル・フィートで小さくして踏みつぶして殺すことにしましょう。クリームで飲み込んでもいいのだけれど」

キリカ「…………」

織莉子「ん?」

キリカ「ね、ねぇ、織莉子……前から気になってたんだけど……」

織莉子「何?」

キリカ「その……キャラ変わった?」

織莉子「キャラ?」

キリカ「あ、いや……やっぱいいや……何でもない」

織莉子「?」
701 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 22:29:03.67 ID:JeiFXyZo0

「ェ〜」


キリカ「……うん?今何か言った?」

織莉子「え?」

「テェ〜」

織莉子「て?」


キュルキュルキュルキュルキュル


キリカ「え? ……何?何の音?」

「コッチヲ見テェ〜〜〜」

キュルキュルキュルキュルキュルキュル

織莉子「は……?」

キリカ「な、何?これは……」
702 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 22:30:36.51 ID:JeiFXyZo0

キリカ「……『戦車』?」


油の切れた蝶番のような音をたてながら、合成音声のような声を発する物。

足下のそれは、キャタピラのついた鉄塊のような、戦車の玩具のような物。

この玩具の未来を見るまでもなく、織莉子は瞬時に危険な物であることを理解した。

しかし、間に合わなかった。


織莉子「ッ!」

キリカ「お、おりッ……!」


カチリ


キリカ「はうッ!?」

織莉子「ああッ!」
703 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 22:32:01.65 ID:JeiFXyZo0

戦車の玩具が轟音をたてて爆発した。

織莉子は理解した。この爆発は、千歳ゆまの能力。キラークイーンの一部。

理解しても遅かった。


「今ノ爆発ハ魔法少女ダネェ〜〜〜」


これの正体。「魔力」を探知して自動追尾するキラークイーン第二の爆弾。

既にゆまは攻撃を仕掛けていた。今、屋上に追いついた。

その名は「猫車」

ドサッ!

肉を裂き体から血を吹き出すキリカと織莉子は爆風に飛ばされた。

704 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 22:32:56.74 ID:JeiFXyZo0


クリーム 本体:呉キリカ

破壊力 A スピード C  射程距離 E
持続力 C 精密動作性 C 成長性 E


『暗黒空間』という概念を創造・干渉する能力。その性質は「孤立」
フードのような姿をしている。それを被ることで暗黒空間を創る。
その中に隠れることで姿を消し、浮遊して移動ができる。
移動中に触れたものは暗黒空間へ飲み込まれて粉微塵にされる。
暗黒空間の大きさはキリカの身長を直径とした球の範囲。
暗黒空間内外で干渉ができないため、隠れている間はキリカの魔法は作用しない。
孤独感や暗闇のような心底の精神が反映されて発現した。

A―超スゴイ B―スゴイ C―人間と同じ D―ニガテ E―超ニガテ

*実在するスタンドとデザイン・能力が多少異なる場合がある
705 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 22:35:14.66 ID:JeiFXyZo0
今回はここまで

結局何のスタンドかわからないままマミさんガォンされちゃいました。
マミさんのスタンドに期待していた方、申し訳ないです。
ちゃんとそれなりに理由はあるのですが、それはまぁ置いといて。

一方で早乙女先生はスケアリー・モンスターズのスタンド使いでした。
前作で出したからという、ほとんどゲスト出演みたいなノリですが。
706 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/29(土) 22:38:58.74 ID:PqQdkCtzo

あーんマミさんが死んだ()
というか全般的にさくさく死ぬな今回
織莉子はQBが群体だと理解してないのか
707 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/29(土) 22:41:03.93 ID:y15SqqUSo
おりマギのQBは無能だったから……
708 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/29(土) 23:06:15.27 ID:UYgjE2T0o
マミさんとガォン!この世にこれほど相性のいいものが あるだろうかッ! :
709 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 23:08:02.39 ID:JeiFXyZo0
報告があります

大晦日に急用が入る→このSSは何とか今年中に終わらせたい→そうなると明日には完結させる必要がある
→あと三話ある→なんか歯切れが悪い→今日もう一話やる→残りの二話がすんなり→死ぬ前にピッツァが食べたい

と、言うわけで少し休んでから再開します。あとさくさく死ぬってのはジョジョではよくあること(キリッ
710 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/29(土) 23:18:36.16 ID:y15SqqUSo
アヴドゥルよりはマシな死に方だった
一回目より二回目があっけないってどうなのよあれ
711 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/29(土) 23:23:02.32 ID:VayEDvNu0
読み終わったらまず『乙』るだろ?
誰だってそーする、俺だってそーする
712 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 23:56:02.31 ID:JeiFXyZo0


#13『シビル・ウォー』


――図書室


さやか「くそっ、杏子め……図書室なんかに逃げ込みやがって……!」

さやか「……多分、これは罠だ。あたしは誘い込まれたんだ」

さやか「だが、あいつは許せない……!あたしだってスタンド使いだ。やれるんだ……!」

さやか「しかし、図書室か……」

さやか「来るのは初めてってわけじゃないけど……ほぼ未知の空間と考えていい」

さやか「どの本棚に隠れれば、どの角度なら見えないか……思いの外入り組んでいるからな……」

さやか「……」

さやか「ダンテの神曲、ああ無情」

さやか「成る程、図書館らしい難しそうな本が本棚ぎっしりだ」

さやか「頭が痛くなってくる」

さやか「……ん、テーブルの上にノートが……誰かの忘れ物かな」
713 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 23:57:30.08 ID:JeiFXyZo0


「ようこそ、来訪者」

さやか「ッ!佐倉杏子ッ!」


本棚の上で胡座を掻き面倒そうに座っている杏子。

それを憎悪と怒りを込めた目で睨みつけるさやか。


杏子「よっと」

シャン!

スタッ

グゥゥン

バァーン!

杏子「そういうあんたは美樹さやか」

杏子「猪突猛進に追ってきたな。クールじゃない。……馬鹿丸出しだぞ」
714 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 23:58:41.15 ID:JeiFXyZo0

さやか(こっ、こっ、こいつ……こっ、こいつがッ!)

さやか(こんなヤツが……!仁美を……恭介を……みんなを……!)

さやか(目の前にいるこの女がッ!あたしの目の前にいるこの女がッ!)

さやか「うおおおおおおあああああァァァァァッ!」

ダッ

杏子「……突っ込んでくるか」

杏子「と、いうことは近距離型のスタンド、といったとこか……?」

杏子「いや、固有武器が剣ということもあるし、そうだと決めつけるのは早いか」

杏子「おっと、危ねェ、ッとォ」


余裕を見せつけて相手の神経を逆撫でするような声を出した。

そのまま杏子は本棚の影に隠れる。
715 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/29(土) 23:59:39.80 ID:JeiFXyZo0

さやか「逃がすかァァッ!」

さやか「オラァッ!」

バキッ!

杏子「あッ!?」


さやかは本棚に剣を突き立てた。

杏子側、本棚から刃が突き出してきて、剣が杏子の腕の肉を斬る。

ザシュッ!

杏子「ぐあっ!?」

さやか「よし!当たった!」

杏子「ほ、本棚越しごと貫いて攻撃してくるとは……」

杏子「てめぇ……!物は大切にしろって学校で習わなかったのか!?」

さやか「虫のいいことを言ってるんじゃあないぞッ!この人でなし!」

さやか「まずは一撃!ガンガンいっ――」

バサリ

さやか「……ん?」
716 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 00:01:17.07 ID:c1541ufP0

本棚を貫いた剣を引き抜いた際、何冊かの本が床に落ちた。

さやかはその中の一冊が目に入る。


さやか「あ、この本……」

さやか(……懐かしい。この絵本……『人魚姫』)

さやか(小学校二年……いや一年の時だったかな?もういらないって……捨てた覚えがある)

さやか(まどかや仁美と一緒に、読み合ったっけ……懐かしい)

さやか「……こんな時に何考えてんだろう。あたし」

さやか「その仁美も殺されたっていうのに……ちくしょう……!」

さやか(い、今は……悲しんでる場合じゃあないな……)

さやか(やれやれ、こんなのも置いてたんだな……)

さやか(図書室なんて行かないから知らなかっ……)

さやか「…………え?」
717 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 00:02:45.25 ID:c1541ufP0

さやか「いやいやいや……え?」

さやか「おかしいよ……何でこの本棚からこれが出てくる……?」

さやか「だってこの本棚……『辞書コーナー』って書いてある……」

さやか「国語辞書とか英語辞典とかもちゃんとある……」

さやか「図書委員が間違えた……?いや、これは間違えないだろう……」

さやか「っていうか……それよりも何で……」

さやか「何で子どもが読むような『絵本』が『中学校の図書室』にあるってのさ……小学校ならまだしも」

さやか「……嘘?」

さやか「ピ……ピノキオ、白雪姫、赤ずきん、七匹の子ヤギ、ピーターパン」

さやか「何で中学校の辞書コーナーに絵本が充実してるんだよ……?」

さやか「まさか……幻覚の能力?」

さやか「いや、こ、こんな幻覚見せて……一体何になるっていうんだ?」
718 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 00:04:33.49 ID:c1541ufP0

ヒラリ

さやか「……ん?何か落ちた?」

さやか「……ポストカード?」

さやか「おおっ!?竹久夢二か!?これ!マジィ!?いやポストカードだけど」

さやか「確かこれに似たようなの貰ったことあるような気がする……随分と昔」

さやか「異常すぎるぞ……この図書室……何かヤバイ……!」

スッ


杏子「あたしならそれに触れない」

さやか「ッ!?」

ブアッ

瞬間、ポストカードが磁石のように、ベタンとさやかの近づけた手に張り付いた。

そしてそれは皮膜のように形状を変化させ、手を覆い、締め付け始めた。
719 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 00:05:15.92 ID:c1541ufP0

さやか「う、うおおッ!?た、竹久夢二が!」

さやか「手がッ!手が締め付けられているッ!?」

さやか「な、何だっ!?あたしに何が起こっているんだッ!?」

さやか「う、うわッ!」

ドタンッ

さやかは思わず尻餅をついた。


さやか「っつ〜……!」

さやか「ん?」

バサバサッ コトンッ

その衝撃からか、本棚から先程の絵本がさやかの上に落ちてきた。

 ドパァァン!

すると、その絵本も同様に、さやかの体に触れる度に皮膜へと変化し、巻き付いた。


さやか「うおおおおおッ!?」

720 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 00:06:04.73 ID:c1541ufP0

さやか「な、なんだこの『膜』はッ!?し、締め付けられる!?全身がァッ!」

さやか「か、体の自由が、効かないッ!ち、ちくしょ!どうなってんだッ!?」

杏子「さっきからうるさいヤツだな……」

さやか「杏子……!」

杏子「人は何かを『捨て』なくては前へ進めない」

杏子「それとも……『拾って』帰るか……?さやか」

さやか「な、何を……」


杏子は腕を庇いつつ、本棚の影から姿を現して言う。

本棚のあいたスペースから、依然何かがボロボロと落ちてくる。

明らかに、そのスペース以上の体積分落ちてきている。


杏子「どれ……?」

杏子「余白たっぷりのノート。小学生時代の教科書。10点満点中2点の小テスト。ちっこい消しゴム。ふむふむ……」
721 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 00:07:10.33 ID:c1541ufP0

杏子「あんたも色々捨ててきたんだな。ま、それが人間だ」


杏子はボロボロの藁半紙を丸めてさやかに投げる。

やはりそれも、さやかに触れた途端皮膜に変化し、圧迫する。


さやか「が……つ、潰される……!」

杏子「これがあたしのスタンド……『シビル・ウォー』だ」

さやか「スタンド……!」

杏子「まず、擬似的にでもいいから図書室とか廃教会の中とか……屋内に『結界』を設定する」

杏子「で、このゴミは結界が見せる幻覚であり、あんたが『捨てた事実』でもある」

杏子「スタンドは精神のエネルギー。精神は肉体。表裏一体の関係……」

杏子「精神への攻撃は肉体への攻撃。罪悪感がその身を滅ぼす」

杏子「物理的な痛みであり抽象的な苦しみだ」

杏子「『捨てたもの』で押しつぶす。それが我がシビル・ウォー」
722 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 00:07:56.15 ID:c1541ufP0

佐倉杏子の能力――シビル・ウォー。

閉鎖的な空間で発動する。

標的が今までに「捨ててきた物」の幻覚を見せる。

幻覚に触れると、それは皮膜のように変化して、標的を包み『圧縮』する。

スタンドが傷つくと本体も傷つく……。

精神が押しつぶされれば肉体も押しつぶされるのだ。その逆も然り。

罪悪感という精神的ダメージを肉体的ダメージに変換するという見方も可能。

それが、杏子のスタンド。シビル・ウォー。


杏子「誰しも、何かを捨てる時、ほんのちょっぴり、ほんの1ミクロンにも罪悪感というものを感じる……そういうことらしい。そういうことにしろ」

杏子「あんたはその罪悪感に襲われている」

さやか「くっ、うぅっ……!」

杏子「あたしは不意打ちをした……『公平』じゃあない。だから『弱点』を教えてやろう」

杏子「清潔な水で清められるぞ。コーラや泥水じゃあダメだ。罠ではない。試してみるべきだ」

杏子「と、言ってもこんなとこに水なんてないがね」
723 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 00:08:43.09 ID:c1541ufP0

さやか「あ……あんたの目的は一体……何なんだ!」

さやか「何故、何故そんなことを……!」

さやか「何故仁美と恭介を殺したッ!何故『あいつら』の味方をするッ!」

杏子「ふん。それをあんたに話してあたしに何か得することでもあるのか?」

杏子「まぁいっか……。そうだな。強いて言えば、だが……」

杏子「……『スタンド狩り』と言えばいいだろうか?」

さやか「スタンド……狩り……?そ、それとあたし達の学校を襲撃することの何の関係が……」

杏子「ところで、もう一つの理由を教えてやる」

杏子「織莉子に協力する理由。……それはたった一つのシンプルな答え」

杏子「安定した暮らしだ。テリトリーの確保だ」

さやか「……」

杏子「しかしだな……」
724 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 00:09:20.43 ID:c1541ufP0

杏子「スタンドという力があるが故に今、縄張り争いは激化している」

杏子「力が複雑化することで、力の差がわからなくなるわけよ」

杏子「何が言いたいか、わかるだろう?」

さやか「……スタンドが怖いから、スタンド使いを消すっていうのか?」

杏子「鋭いな。まぁ怖いって言い方は気に入らないが……」

杏子「スタンドを悪用する可能性のある一般人も邪魔……それも雇い主の考えだ」

杏子「あんたの学校にはスタンド使いが何人かいるという見込み。判別なんてできないから皆殺し」

さやか「勝手なヤツだ……!」

杏子「あたしに言うなよ」

杏子「だが……皆殺しはともかく、あたしも『そういうヤツ』を消すこと自体は賛成だ。魔法少女はいてもいいって思う」

杏子「そんでもって、織莉子はほむらってヤツを殺すつもりでいる。スタンド使いではなかったようだが……」

さやか「……!」

杏子「理由は秘密。まぁ、ほむら殺しに協力する代わりとしてあたしはこの狩り場をいただけるってことさ」
725 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 00:10:01.12 ID:c1541ufP0

杏子「あたしとしてはグリーフシードさえ手に入ればいいから、ほむらなんて正直どうでも……」

杏子「いや、よくはないか」

さやか「ほ、ほむら……まで……!」

さやか「くっ……!き、貴様ッ!」

杏子「スタンドは……使わないのか?」

さやか「…………」

杏子「あん時、織莉子のリトル・フィートを視認していただろ」

杏子「出してみろよ。スタンドを」

さやか「……舐めているのか?」

杏子「かもな」

杏子(この状況で使わないってことは、遠くまで行けないタイプと見た。遠くまでいけるなら既に攻撃しているはずだからな)

杏子(とは言え……ヤツはもうまともに身動きが取れない……使えたところで大したことできねぇ)
726 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 00:10:43.16 ID:c1541ufP0

杏子は……油断していた。

相手は既に自分の術中に嵌っている。

故に何をしても無駄である、と。

だから今後の見聞のためにもスタンドを見ておきたい、と。


杏子「見せてみろ。あんたのスタンドを」

さやか「……既に見せてるぞッ!」

さやか「『ドリー・ダガー』ッ!」

杏子「んっ……」


全身が圧迫されているさやかは身を捩って、剣を杏子に見せつけた。

刀身が光を反射して、妖しく光ったように見えた。
727 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 00:13:02.56 ID:c1541ufP0

杏子「……その魔法武器のことか?」

さやか「あたしのスタンドは……この剣に取り憑いている。実像を持たないスタンドだ」

杏子「ふーん、実体化型なの……」

杏子「かッ!?」

ドサッ


杏子は突如、呼吸が苦しくなり床に膝をついた。

『体が締め付けられて』いる。


杏子「な、何ィィィッ!?」

杏子「ぐっ……ふっ……!な、なんだ……?!何が起こって……!」

杏子「この感覚……!まさかッ!てめぇっ!」

さやか「『ドリー・ダガー』……」

さやか「あたしへの『ダメージ』を……ググ……て、『転嫁』したッ!」
728 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 00:13:52.99 ID:c1541ufP0

杏子「グッ……!?うぅッ……!」

杏子「転……嫁……?」


ドリー・ダガー。

剣に取り憑いている、実像を持たないスタンド。

その能力は、剣の刀身に映っている相手に、自身への『ダメージの七割を転嫁』する。

さやかの頭を吹き飛ばそうものなら、相手は頭の七割が吹き飛ぶ。

体を突き刺せば、その七割分の傷を、相手は負う。

全身が締め付けられれば、その七割の力が相手を圧迫する。


ただし、ダメージの三割はそのまま喰らってしまう。

頭の三割は吹き飛んだまま、三割の傷を負い、三割の力で圧迫される。


さやか「平たく言えばあたし自身へのダメージを三割に軽減できる……」

さやか「そしてあたしの得意な魔法は回復!」

さやか「半自動カウンターと回復ッ!この世にこれほど相性のいいものがあるだろうかッ!?」

杏子「くっ……!」
729 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 00:15:13.16 ID:c1541ufP0

杏子(し、しまった……)

杏子(くそっ……情けねぇ……油断なんて、するもんじゃねぇな……)

杏子(……反省だ)

さやか「後は……この三割の圧迫を……膜みたいなものをどう対処するか……だ!」

さやか「残念ながら……圧迫感は軽くなったとは言え体が自由に動かないのは変わらない……」

さやか「テレパシーで既に来ていることがわかっていた……助っ人だ」

さやか「そもそも、あんたが呼んだんだそうじゃないか。そうなんでしょう?」

「キョーコ……!」

杏子「……!」

杏子「ゆま……!」
730 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 00:16:05.25 ID:c1541ufP0

複雑な顔をしているゆまと目が合った。

しかし、ゆまはすぐに目を逸らした。


杏子「そうか……さやかを助けに行けって言われたのか」

杏子(よりによってあたしのとこに向かわせるとは……やむを得ずってとこなんだろーが……)

杏子(マミも残酷な選択をする)

さやか「ゆま!この辺りにある物には絶対に触れるな!」

ゆま「う、うん!」

杏子「……無駄だよ」

杏子「人は、何か捨てなければ生きていけないんだ」


『うぅ……あぁ……』


さやか「な、何だ……この音……いや、声……?」

『おまえさんは……僕を……殺したんだ』

ゆま「……え?」
731 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 00:17:35.48 ID:c1541ufP0

『この恨み……晴らさずにおくべきか……』

さやか「こ、こいつは……!」

ゆま「そ……そんな……嘘……!?」


さやかとゆまは、この少女を知っている。

この衣装と首元の傷を知っている。


さやか「いつぞやに会ったぞ……!そして、確か……そう!『水を熱湯に変えるスタンド使い』ッ!」

杏子「おう。そうだ。風見野のテリトリーも狙った熱湯女だ。ゆま、あんたが一番よく知っているだろう」

ゆま「あ……ああ……!」

杏子「思い出したか?ゆま……」
732 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 00:19:00.13 ID:c1541ufP0

杏子「あんたがキラークイーンを発現させたあの日……」

杏子「初めての殺人。その被害者」

さやか「え……?」

杏子「あんたはこいつを『捨てた』……」

杏子「わかるか?『殺す』ということは、『そういうこと』なんだ」

さやか「ゆ、ゆまちゃん……!?あんた……」

ゆま「ち、違うの!さやか!ゆまは!ゆまは……」

杏子「まぁ、攻めてやるな……正当なる防衛だよ……」

杏子「しかし、ゆまは殺したことに罪悪感を覚えているから、こいつの亡霊……幻覚が現れた」

杏子「あんたから殺人に対して罪悪感をあまり覚えていないと感じたのは、気のせいではなかった」

杏子「いや、マミ達と出会って、ふと思い出して心でひっかかるようになったのかもしんねぇ」

杏子「それは良いことだ。自分の罪を認めるということはな。……本当に自分がやったって思うのであればだがね」
733 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 00:20:47.55 ID:c1541ufP0
少女『殺してやる……脳を……グツグツの……シチューにしてやる……!』

ゆま「う、うぅぅ……!」

さやか(ま、まずい……!)

さやか(精神的な理由で……ゆまちゃんじゃ勝てない)

さやか(ゆまちゃんがキラークイーンで人を殺したことがあるってのはショックではあるが……それはいいとして)

さやか(本気で怯えている……少なくとも『今の』ゆまちゃんでは……幻覚と言えど、戦えない!)

さやか(だったら……!)

さやか「……ゆまちゃん!」

ゆま「さやか……」

さやか「あたしにまとわりついている膜を『爆破』するんだ!」

ゆま「えっ!?」
734 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 00:22:36.31 ID:c1541ufP0

杏子「……ふん」

さやか「早くっ!このままだとやられる!こいつはあたしが斬るッ!」

ゆま「で、でも……」

さやか「早くッ!」

少女『僕に……殺されるべきなんだ……!』

さやか「早く!早く膜を爆発させろ!」

ゆま「で、でも……」

杏子「…………」

杏子(さやか……あんた、頭脳がマヌケか?)

杏子(確かに、捨てたものは皮膜にようになって圧縮している)

杏子(幻覚ではあるが……シビル・ウォーに対してのキラークイーン……スタンド同士ならもしかしたら破れるかもしれない)

杏子(しかしだな、さやか。あの化け物能力で爆発されたら、いくら回復に優れていようと……死ぬぞ)
735 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 00:23:32.74 ID:c1541ufP0

杏子(ゆまは、自分の爆発を調整できない。できるならこうやって躊躇しないからな)

杏子(三割とは言え……大丈夫なのか?)

ゆま「ね、猫さんッ!『第一の爆弾』ッ!」

ズアッ

さやか「急げッ!遠慮するなッ!」


さやかは自身の回復能力を過信している。

ゆまは自身の能力を把握できていない。

さやかはキラークイーンの爆発で即死。

ゆまはそのままさやかの遺体の前で、シビル・ウォーの亡霊に喰われて死ぬ。

勝った。


――杏子は今、そう考えていた。
736 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 00:26:15.83 ID:c1541ufP0

杏子「……ん?」

杏子(さやかの能力。ドリー・ダガー)

杏子(ダメージを七割『刀身に映した相手』に移す……)

杏子(さやかの剣の向きって……)

杏子(……あ)

杏子(し、しまっ――!)

杏子「ゆまッ!やめろッ!」

杏子「く、くそぅ!動けない!動けッ!あたしの体……!じ、自分の能力なのに……!」

杏子「キラークイーンを収めろォォォッ!」

さやか「殺らいでかッ!杏子!」

杏子「やめろォォッ!ゆまッ!やめてくれェ――ッ!」

ゆま「起爆ッ!」

カチッ
737 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 00:27:51.60 ID:c1541ufP0


さやか「グハァッ!」


ドグオォォォンッ!

バリバリバリ

背中が裂ける。熱風が襲う。

骨が折れる。肉が焼ける。血反吐を撒く。

爆音に紛れて、さやかの苦痛の声があがる。


さやか「う、がァァァ!」

ゆま「キョーコ……!」

ゆま「……ゴメンね」

杏子「あ……!ああ……!」
738 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 00:28:44.93 ID:c1541ufP0

杏子「ゆ……ま……テ、メェ……!」

ビシッ、ビキ…

杏子「嘘だ……」

杏子「嘘だ……そんな……」

杏子「織莉子の……予知通りに……なって……」

ドブチャァッ

杏子「グバァッ!」


さやかを包んでいた膜は爆発した。

僅かの時間差をおいて、杏子の『七割』が爆散した。

服は無傷のままだが、皮膚や肉は裂け骨は砕けていく。

さやかは体の自由を手に入れた。

少女の幻覚も、消えていた。
739 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 00:30:33.32 ID:c1541ufP0

さやか「う、うぐぐ……!グハッ!」

さやか「ド、ドリー……ダガー……」

さやか「そう……キラークイーンの爆発は強力すぎる……」

さやか「あたしの回復能力でも、間に合うかどうか……」

さやか「だからこそのドリー・ダガー!」

さやか「自身へのダメージは……刀身に映った相手に七割、移る……」

さやか「爆発のダメージの七割は、杏子に移った!」

さやか「あたしの体の三割はズタボロだが……」

さやか「五割以下ってんなら、まぁ大丈夫だった!」

さやか「……あんたがキラークイーンを呼んだんだ」

さやか「あんたの能力が自分の回避を封じたんだ」

さやか「あんたは自分自身の行動に……引力に負けたんだ」

ゆま「…………」

740 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 00:31:11.78 ID:c1541ufP0

本当に能力を過信していたのは杏子自身だった。

相手の能力を把握できていなかった。

しかし、杏子に後悔する暇はなかった。


ゆま「うぅ……」


ゆまは目から涙を零した。

見捨てられても、人を殺しても、ゆまにとって杏子は恩人だった。

両親から学ぶはずの「人を信じる」という当たり前のことを、ゆまは杏子を通じて知ったのだ。

そんな存在を、自分の手で葬ってしまった。


ゆま「キョーコォ……グスッ、うえぇう……」

さやか「ゆまちゃん……」

さやか「あんたが杏子をどう思っているかは計り知れないし、あたしは頭悪いから上手くと言葉にできないけども……」
741 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 00:32:16.30 ID:c1541ufP0

さやか「あいつはもう、人として引き下がれない領域にいるんだ。あいつは黒。あたし達は白」

さやか「そういうことなんだ。とにもかくにも、ね……」

ゆま「ゆま……辛いよ……こんなの……酷すぎるよ……あんまりだよぉ……」

さやか「ゆまちゃん……」

ギュッ

傷を治療したさやかはゆまの肩に手を置き、そっと抱き寄せた。

温かくて柔らかい感触が耳にあたり、さらさらした液体が頬を伝って首筋を流れる。


ゆま「うぅ……グスッ」

さやか「大丈夫……どんなに辛いことがあっても……どんなに悲しい別れがあっても……」

さやか「それを乗り越えるのが、人間というものなんだ」

さやか「あたしも、友達とクラスメート、先生……そして幼なじみを失った」

さやか「一緒に乗り越えよう」

ゆま「さやかぁ……」

さやか「ま、その前に犯人をとっ捕まえてやらんといかんね!」

ゆま「……うんっ」
742 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 00:32:52.48 ID:c1541ufP0

「さやかさん……」


ゆま「え?」

さやか「い、今……何か聞こえ……」


「どうしてですの……?」


さやか「……!」

さやか「こ、この声……」

さやか「嘘だ……そんな……!」

さやか「ひ、仁美ッ!?」


仁美「……さやかさん」
743 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 00:34:03.79 ID:c1541ufP0

さやかは目を見開いて驚いた。

杏子が殺したと語っていた親友が、今、本棚の影から顔を出した。

憂鬱そうな顔をして、さやかの方をじっと見つめている。


さやか「あんた……死んだはずじゃ……!?」

仁美「さやかさん……どうして」

ゆま「な、なに……?こ、この人、だぁれ……?」

ゆま「何だか、怖いよぅ……」

仁美「何故、私を『捨てた』んですの……?」

さやか「へ……?」

仁美「理由を教えていただけません、か……!」

さやか「な、何を言ってるのよ……」

さやか「捨てたって……言ってる意味がわからな……」
744 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 00:35:19.30 ID:c1541ufP0


「いいや、あんたがそいつを捨てたんだ」


さやか「……ッ!」

ゆま「キョッ……!」

さやか「杏子ッ!?」

杏子「あんたが口では否定してもな……あんたがこいつを捨てたことになってるんだよ」

杏子「だから、あんたは今、そいつの幻覚を見ているんだ。『あたしが捨てたもの』を……」

さやか「ば、馬鹿な……!」

さやか「確かに、確かに殺したはずなのに……!」

さやか「七割の爆発を喰らって!ぶ、無傷なはずがないッ!」


杏子はさも当然のように腕を組んでさやか達を見て言った。

杏子は本棚の影で恨めしそうに見つめる仁美を引っ張った。

仁美は抵抗することなく、その身体を二人に向けた。
745 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 00:36:58.14 ID:c1541ufP0

仁美の腹部には、大きな穴があいていた。制服は赤黒く染まっている。

歯を軽く食いしばり、唇をピクピクと動かしている。


ゆま「ひッ!?」

杏子「こいつは、あたしが捨てた。そして、あたしは捨てられた」

さやか「ひ、仁美ッ!」

杏子「あたしが最終的にしたかったのは、これなんだ。だが……しかし……」

杏子「まさかこんな形で……シビル・ウォーが『完成』するとはな……」

杏子「あー……くそっ。やっぱり油断しちまったんだな。情けねぇ」

杏子「あたしは反省が苦手なんだ。今悟ったね」

杏子「あークソッ……織莉子はどうでもいいが、クリームを相手にした時に使いたかったのに……」

ゆま「キョ、キョーコ!い、生きてたんだね!?」
746 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 00:38:54.36 ID:c1541ufP0

杏子「……チッ、うぜぇ。人を殺しておいてよくもぬけぬけとそんな言い方できるな……」

杏子「いい加減にしろよな……あたしはあんたが嫌いなんだよ」

ゆま「え……」

杏子「え、じゃねーよ。あんたのスタンドは危険すぎるんだよ」

杏子「いいか。スタンドという能力がこの世に現れた」

杏子「新しい能力を得たら、力の差ってもんがわからなくなるもんなんだよ」

杏子「だから縄張り争いが激化した。今の自分なら、スタンドのある自分ならどんな奴が相手でも勝てる……って増長してな」

杏子「そんな最中、そんな化け物みたいなスタンド。はっきり言って怖いんだよ」

杏子「いつ寝首を狩られるもんか。爆発にも巻き込まれるだなんてすりゃぁ、文字通り骨が折れる。っていうか既に砕けた」

ゆま「…………」

杏子「まぁいいか。完成したシビル・ウォー。心の中に『そうなる実感』はあったものの、本当に『そうなる』のか不安だったんだ」

杏子「それがハッキリしただけ……むしろサンキューだ。ゆま」
747 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 00:40:17.05 ID:c1541ufP0

さやか「ど、どうして……だ?」

さやか「どうして『殺された』のに『生きている』……!?」

杏子「そうだな……よし、解説してやろう」

杏子「これからは、あんたらはあたしを『捨てて』前へ進む」

杏子「あたしを殺すということは『そういうこと』なんだ」

杏子「では、死んだあたしの『罪』はどこへいっちまうのか……?行き場はどこか?」

杏子「何も赤ん坊の魂がどこから来るのかとか死んだ魂がどこへ行くのかとかイビキかいて眠っちまいそうな話をするつもりはない」

杏子「シビル・ウォーはその答えの道標。その答えは目の前にある……」

さやか「目の前……?」

杏子「『あんたら』だよ。あんたらが新しい罪の行き場だ」

杏子「爆発の直接的要因はゆまだが、それを押しつけたのはさやかだからな……」

杏子「あんたらは二人であたしの行き場をなくした罪を『おっかぶる』んだ!」

杏子「『捨てられたあたし』から『捨てたあんたら』へッ!それがシビル・ウォーの完成型だッ!」

さやか「ど、どういうことだよ……?」

杏子「これであたしの罪は『清め』られた」
748 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 00:41:03.61 ID:c1541ufP0

青年『喰われた……俺は何に……喰われたんだ……』

さやか「!?」

杏子「……こいつは、使い魔に襲われてたヤツだな。あたしがわざと見捨てたヤツだ」

男『おお……神よ。あなたは連れて行くべき者を間違えた……』

モモ『やだ……やだよぅ……いやだよぉ……』

杏子「そいつらはあたしの家族だ。こっちは妹。モモって言うんだ」

杏子「あたしは……家族を捨てたんだ」

童女『お姉ちゃぁぁぁ〜〜〜〜ん……ああああ……』

魔法少女『ああああ……ううう……』

杏子「あいつらはあたしのシビル・ウォーの結界内で犠牲になったヤツらだな」

杏子「こんなところで姉妹の再会を果たすとは……あ、いや、あたしも再会はしているのか。妹と」
749 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 00:41:48.69 ID:c1541ufP0

仁美『置いていかないで……寂しい……』

恭介『助けてくれ……誰か……』

杏子「そういやこいつら、二人きりでいたなぁ。まさかカップルだったとはなぁ。まとめて殺ってやったけど」


図書室に、虚ろな目をした人々が現れた。

頭が半分ない者。体の一部が骨になっている者。肌が赤黒く焼けている者。

体が「ペシャンコ」な者。腹に穴があいている者。上半身で這いずる者。

聞くに堪えない呻き声の合唱が図書室全体に響き渡る。



さやか「グッ、クク……!」

さやか「い、一体、一体何が起こっているんだッ!?」

ゆま「う、うぅ……っ!」

750 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 00:43:04.07 ID:c1541ufP0

杏子「あれだけ説明したのにまだ理解できてないか?頭脳がマヌケか?」

杏子「だからァ……あたしが捨てたものだっつってるだろ」

杏子「使い魔や魔女は出てこない(なる前はいるが――)からな。言っておくけど」

杏子「あくまで捨てたと認識してる対象だけってわけだ」

杏子「仁美とか言ったっけ?あたしはそいつを殺った時も、悪いとは思っていたんだ」

杏子「何にしても、それらがあんたらにおっかぶった」

杏子「ゆま……あんたは罪深い子羊になった。さやか……あんたもだ」

杏子「一方で、あたしは『清め』られて蘇った……」

さやか「……つまり、自分の罪を他人に押しつけるわけだな」

さやか「あたしのドリー・ダガーと似たようなタイプってところか……」

杏子「あたしのは浄罪だ。そんなチンケな能力と一緒にするな」
751 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 00:43:53.62 ID:c1541ufP0

シビル・ウォー。

それは、本体を殺させる、則ち『捨てさせる』ことで『完成』する。

杏子は、魔性少女になったが故に家族を失った。杏子は家族を捨てたのだ。

そしてゆまとさやかは杏子を殺した。

行き場を失った杏子の罪は、杏子を殺した相手におっかぶる。

――これがシビル・ウォーの完成型。

シビル・ウォーは、死をもって罪が清められる。

実際に殺されないと知り得ないような能力であるが、杏子は死なずとも理解していた。

野生動物が産まれてすぐに授乳を求めるように、本能にインプットされていたのだ。

752 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 00:44:58.07 ID:c1541ufP0

杏子「あたしは、家族を捨てたって言ったよな」

杏子「全部を話すつもりはないが……契約したが故の結果だとだけ言っておこう」

杏子「ずっと、その罪を抱えていた……」

杏子「だからこんなスタンドが身に付いたのかもしれない」

杏子「……あたしは清められた……つまり、許されたんだよ」

杏子「家族を捨てたことをな……」

さやか「…………」

杏子「……生き返った理屈がイマイチわからないって言いたそうだな」

杏子「これはあたしの推測だが、あたしはこれで何も捨てたことのない『ゼロ』となったんだ」

杏子「産まれたての赤ん坊ですら臍の緒や胎盤を捨てて生きるのに……それさえもリセットされる」

杏子「だからそういう奇跡もあるんじゃねぇの?」

杏子「臍の緒とかは母親が捨てたことになるんじゃないかとか異論を唱えても受け付けねーからな」
753 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 00:46:15.83 ID:c1541ufP0

杏子「それからもう一つ。忠告しておく」

杏子「今のあたしは、あんたらの罪に『護られて』いるぞ」

さやか「な、何が言いたい!」

杏子「結論から言おう」

杏子「『この結界にいる限り、あたしはあんたらに殺されないということ』だッ!」

さやか「なッ!?」

杏子「ざっくばらんに言えば、この結界内においてあたしは不死身ってことだッ!わかったかマヌケッ!」

杏子「わざわざ殺されてやるんだ。そんぐらいのことはあってもよかろうよ」

さやか(くっ……ど、どうすればいいんだ……!こいつ……無敵か……!)

杏子「……ところで、さっきから震えてばっかりであたしの話を聞いていないヤツがいるようだ」

さやか「……はッ」

さやか「ゆ、ゆまちゃ……」

ゆま「う、うああ……ああ……!」
754 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 00:47:11.26 ID:c1541ufP0

モモ『お姉ちゃああぁ〜〜〜ん……』

男『おまえは呪われた子だ……』

青年『恨めしい……恨めしいよォォォ』

仁美『さやかさん……私を救って……』

恭介『無念しかない……僕の人生』

童女『うううううううううううう』

魔法少女『ああああああああああ』


ゆま「ああ……あああ……あぅ……」

さやか「く、くそぅ……!怯えている……。ヤバイ……!これはヤバイぞ……ッ!」

さやか(どうする……?どうやって打開する?)

さやか(図書室から逃げるか……いや、この数だ。ゆまちゃんを庇いながらでは……)

さやか(どうする!?どうすればいい!?)

さやか「…………」

さやか(ゆまちゃんを……見捨て……)
755 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 00:49:06.91 ID:c1541ufP0

さやか(……ふざけるなッ!)

さやか(万が一にでも見捨ててしまえば!あたしはあいつと同じになってしまうッ!)

さやか(くそっ……!落ち着くんだ……!)

さやか(必ず、必ず活路はあるッ!どんな時だって!諦めなければ……!諦めなければッ!)

ゆま「こ……で……こな……で……」

ゆま「来ない……で……!来ないで……!来ないでェッ!」

仁美『命だけは……どうか命だけは……!』

モモ『助けてぇ……熱いよぉ……死んじゃうよォ……』

さやか「ゆまちゃん……?」

ゆま「ち、違うの……ゆまは……ゆまは……!」

童女『嘘つき……嘘つきぃぃぃぃ……!』

魔法少女『くれるって……分けてくれるって言ったのにぃぃぃ……!』

ゆま「ゆ、ゆまは知らなかったの!キョーコが殺しちゃっただなんて!知らなかったのぉっ!」

さやか「こ、この中に知ってるヤツがいるのか……?」
756 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 00:49:52.24 ID:c1541ufP0

ゆま「あ……ああ……あぅあ……ああ……!」

ゆま「…………あぅ」

プッツン

ゆま「もうやだァァァァいやだァァァァァッ!ごわいよォォォォォッ!!」

さやか「ゆ、ゆまッ!?お、落ち着け!これは幻覚だッ!」

ゆま「ひィィィィィィィィッ!いやぁぁぁッ!やめてッ!やだァッ!」

ゆま「いやァァァァァァッ!あアァァァァ!あひぃぃぃぃャぁぁぁぁぁ!」

杏子「あ〜あ……キレちまったな……。怒ったって意味じゃない……『限界』なんだよ」

ゆま「ダズゲデェッ!ギョーゴォ!オネ゙ェヂャァァ!ヤ゙アアアアアア!」

さやか(だ、ダメだ……!ただでさえ杏子を殺したことが重荷になっているのに……!)

さやか(ゆまは戦えない……!あたし一人で何とかできるのかッ!?)

さやか(無敵のキラークイーンで何とかしてくれると思ったのに……!)

杏子「あ、そうだ……知ってるか?あんたら」
757 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 00:50:41.38 ID:c1541ufP0

杏子「魔法少女って、絶望すると魔女になるんだぜ」

ゆま「あああああああああああああああああッ!」

杏子「ゆま。あんたのソウルジェムは既に真っ黒だが、ここまでやってまだ人の姿を維持していられるあたり……」

ゆま「ア゙アアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

杏子「キラークイーンを目覚めて、それなりに精神が成長したの……か、も、な」

さやか「く、くそッ!精神面ではあたしにゃどうすることもできないッ!」

杏子「……って聞いてねぇなこりゃ」

ゆま「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ッ!」

杏子「ってうるせぇよッ!」

ゆま「ギ……キ……!」

ゆま「キラァァァァァァ――クイィィィィィ――ンッ!」

ズアッ

さやか「な、何を……!」

ゆま「ゆまの……ゆまの!」
758 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 00:51:07.99 ID:c1541ufP0


ゆま「ゆまのッ!」


ゆまの顔は恐怖と自責に歪んでいた。

足をガクガク揺らし、歯をガタガタ鳴らしている。

ソウルジェムを黒く、頬を赤く、下着を黄色く染めていた。


ゆま「ゆまのソウルジェムを爆弾にしてッ!」

さやか「なッ!?な、何を言って……!」

ゆま「嫌だ……もう、嫌だよぉ……」

ゆま「助けて……猫さん……!」

ゆま「ゆまを殺してェェェッ!」

さやか「ゆまちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁんッ!」
759 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 00:52:05.05 ID:c1541ufP0

さやかの制止も間に合わず、そして気に留めず。

キラークイーンは漆黒のソウルジェムに触れてしまった。

その目はいつにもまして冷たかったように見えた。

まるで主人の精神的弱さを悟り、見限ったかのように。

ゆまはソウルジェムが自身の魂であることを知らない。

しかし、ゆまの生命の大車輪がゆまの直感をプッシュしたのだ。

これが一番苦痛のない死に方である、と。


さやか「マ、マズイッ!ゆまちゃんはもうダメだ!」

さやか「クッ!ば、爆発に巻き込まれる……!」

ゆま「キラークイーンッ!ゆまのソウルジェムの爆弾を……」

さやか「ドリー・ダガーッ!爆発のダメージを……」

ゆま「点火ッ!」

さやか「転嫁ッ!」
760 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 00:52:45.15 ID:c1541ufP0

ドッゴォォォァァッ!

図書室に大きな爆発音が響き、白煙があがった。

キラークイーンの爆発のエネルギーの像。

杏子の頬へ空気に伝わる爆発の衝撃をピリピリと感じさせる。


杏子「おーおー……やってくれちゃったねぇ」

杏子「ゆまの精神がブッ壊れたからか、成長したからか……」

杏子「前見た時より爆発の威力がずっとスゴイな」


その白煙からぼんやりと人影が浮かんでくる。

ただし、一人だけ。

杏子は腕を組み、その影を薄目で見る。

さやかが魔法武器の剣、ドリー・ダガーを構えて立っている。

761 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 00:54:07.17 ID:c1541ufP0

杏子「……さやか」

杏子「…………」

杏子「残念、だったな……」

杏子「種が分かればなんてこともない」

杏子「あんたの転移能力は、刀身に映ったものに向かう」

杏子「その刀身に映ったのはあたしじゃあなかった……」

杏子「あんたが爆発のエネルギーを転嫁されたのは『天井』だ」

杏子「テンパっちまったかなぁ……あるいは爆風のせいか……狙いが逸れたんだ」

杏子「まぁ逸れたからと言って……あたしに避けられないもんじゃなかったがな」

さやか「…………」

杏子「転移できるダメージが七割……三割は喰らってしまう」

杏子「運の悪いことに……さやか……」
762 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 00:54:41.86 ID:c1541ufP0

杏子「ゆまの爆発に、あんたの『ソウルジェム』が巻き込まれちまったわけだ。三割移せようとも意味がなかった」

杏子「咄嗟のことでそのことに頭が回らなかったんだ。ソウルジェムへのダメージまでは転嫁できなかったんだ」

杏子「まぁ、確かめようがないか。ちょっとでも傷つけるわけにはいかないからね」

杏子「むしろシビル・ウォーの膜を爆破した時よく生きてられたもんだ」

杏子「……さやか」

杏子「あんたの敗因はたった一つのシンプルな答えだ」

杏子「……『ソウルジェム』が『魂』であることを知らなかった」

さやか「……」


さやかの変身が解け、剣が消えた。

ドタン、と大きな音を立てさやかは床に倒れた。

遺体は一つしかないが、今、この場で二人の魔法少女が死んだ。
763 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 00:55:35.73 ID:c1541ufP0

杏子「スタンドが傷つけば本体も傷つく。またその逆も然りと聞くが……」

杏子「ソウルジェムが砕かれたらスタンドはどうなるんだろうな。キラークイーンはさやかに気を取られていた上に白煙に紛れてて見えなかったが……」

杏子「まぁいいや」


絵本、ガラクタの数々は、さやかとゆまの死によって消えた。

杏子の家族、殺した魔法少女、見捨てた人間、仁美、恭介、全て消えた。


杏子「シビル・ウォーを解除した……」

杏子「…………」

杏子「……これで」

杏子「これで……あたしの罪は清められた」

杏子「あいつらがあたしの罪を引き取って死んだからだ」

杏子「……結局、あたしの一人勝ちってわけだ」

杏子「それにしても……ゆま」
764 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 00:57:13.02 ID:c1541ufP0

杏子「本当に可哀想なヤツだ。目の前で両親が魔女に食われ、信頼していたあたしに捨てられて……」

杏子「しかも、さやかはゆまをギリッギリのとこで見捨てちまった」

杏子「可哀想に……三回も捨てられるだなんてな……」

杏子「いや、さやかを攻めるつもりはない。あの状況だ。誰だってそーする。あたしだってそーする」

杏子「でもな、ゆま……同情はしてやるが、あんたはあたしを殺っちまったんだ」

杏子「……スタンドを得ちまったから仕方ないんだ」

杏子「仕方ないことなんだよ……」

杏子「ま……もし、あんたがスタンド使いでなければ……契約なんてしなければ……」

杏子「キラークイーンだなんて化けモンじみた能力でなかったのなら……」

杏子「あたしはあんたを捨てなかったんだろうがね」

杏子「マミに出会えただけ、まだまだ救いようのある死といったところか」
765 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 00:58:36.61 ID:c1541ufP0

杏子「……そして、さやか」

杏子「何となくだが、別の所で会ってたらあんたとは友達になれた気がするよ」

杏子「何でだろうな?」

杏子「まぁ、死んじまった以上……どうでもいいことだ」


杏子は、勝利と浄罪に「やってやったぜ。嬉しいなぁ」と思った。

しかしその表情は濁っていた。


杏子「……なんていうか、アレだな」

杏子「あたしが原因で……もとい、あたしは家族を捨てたから……その罪を晴らすためにこんな能力が発現したんだろうけど」

杏子「折角その罪が晴れたってのに、なんか後味良くないな……もっとこう……」

杏子「新しいパンツを穿いたばかりの新年の朝のみたいにスッキリすると思ってたが……」

杏子「ああ、くそっ。なんだよ。この感じ。キモイねぇ」
766 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 01:02:21.57 ID:c1541ufP0

杏子「…………」

杏子「……お」

杏子「さやかの手にグリーフシードが……しかも未使用じゃん」

杏子「ラッキー……だな。身を呈してグリーフシードを爆発から庇ってくれたのか?」


さやかの遺体から、コロリと一個グリーフシードが転がった。

杏子は後頭部を掻きながら歩み寄る。


杏子「ポケットにでも入れてたのか?アホみたいに突っ込んだと思ってたが……」

杏子「ゆまのか?それともその辺ちゃんと考え――」

バゴンッ!


杏子「ッ!?」

杏子「な、何だッ!?」
767 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 01:02:57.05 ID:c1541ufP0

杏子「……チッ」

杏子「何だよ……」

杏子「『床』が……『抜け』やがった……!」

杏子「ああ……くそっ。いってぇ……」

杏子「足が嵌っちまった……」

杏子「爆発の衝撃か……?」

杏子「あるいは……クリームが下の階の天井……もとい、床を食っちまったか……」

杏子「どっちでもいいか……やれやれ」

杏子「全くよぉ……抜けねぇし」


顔を歪めながら、あいた穴に嵌った足を引き抜こうと杏子はもがいた。

どこかが引っかかっているらしい。

目の前には遺体。ギリギリ届かない位置にグリーフシード。

もどかしい気持ちで一杯になる。
768 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 01:04:31.21 ID:c1541ufP0


バキィッ!

杏子「うん?」

杏子「今度は何の音だ――」

グシァッ!

杏子「ぐっへぇ!?」

杏子「うおおッ!いッ……てェ……!」

杏子「何だ……!?チクショウ!」


視界の横から本棚が突如に倒れてきて、杏子を押し倒した。

下半身を圧迫し、脚と腰の骨を折ってしまった。


杏子「ほ、本棚が……!?」

杏子「今の爆発のせい……か?」

杏子「本棚の一番下の段とか側面を壊したからってところか……」

杏子「ソウルジェムさえ壊れなければ死なないからって……やれやれ、痛ぇもんは痛ぇんだよ」

杏子「全く……ついてね――」
769 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 01:05:07.13 ID:c1541ufP0


ピシ…

杏子「……あん?」

杏子「……ゲ」

杏子「おいおい……嘘だろ……?」

杏子「冗談じゃねぇ……!」

杏子「どういうことだよおい……」

杏子「『天井のヒビ』が……大きく……」

杏子「ドリー・ダガーのダメージ転嫁能力……」

杏子「爆発のエネルギーが天井に転移した……」

杏子「……今、なのか?」
770 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 01:05:36.14 ID:c1541ufP0

杏子「たった今、身動き取れなくなって、転移箇所に近づいちまった今……」

杏子「こんな最悪なタイミングで天井が崩れるのか……?」

杏子「グ……」

杏子「グリーフシードが見えたから……」

杏子「床に穴があいたから……」

杏子「爆発のエネルギーで本棚が脆くなったから……」

杏子「能力で衝撃が天井に転移したから……」

杏子「まるで、初めからこうなるのが決まっていたかのように……」

杏子「ま、まさか……まさか!」

杏子「さやかッ!そこまで考えて……!?」

杏子「あたしを道連れにするつもりかッ!?」
771 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 01:08:47.86 ID:c1541ufP0


杏子「い、いや……落ち着け……」

杏子「ただの偶然だ……まぐれに違いない……!」

杏子「ただの……偶然さ……」

杏子「た、たかが天井が崩れたぐらいで!」

杏子「身動きが取れない状態で下敷きになる程度でッ!」

杏子「魔法少女であるあたしが……『清められた』あたしが死ぬはずがないからな!」

杏子「て、天井が崩れ落ちようとも!這い出るくらいの力はあるはずさ!」

ガラガラガラッ

杏子「う、うおおおおぉぉぉッ!」


天井はけたたましい音をたて崩れた。

瓦礫が下半身が固定された杏子の上に、そしてさやかの遺体の上に降り注ぐ。

ザグッ

杏子「……ッ!」

772 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 01:09:54.84 ID:c1541ufP0

――偶然。


杏子がそう思いたいという「優しい」答え。

だが、杏子は悟った。そうなる「運命」だったのだと。


「何をやったって、しくじるもんなんだ」

「自分の罪を他人に押しつけようとする……あたしのようなゲスにはな……」


天井から降り注ぐ瓦礫の中に、鋭利な形をしたコンクリート塊があった。


杏子「……」


それが杏子の首に突き刺さり、脊椎と肉を貫通してデコルテのソウルジェムを砕き割る。

その刹那のことだった。



美樹さやか――死亡 千歳ゆま――死亡 佐倉杏子――死亡
773 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 01:12:50.23 ID:c1541ufP0



――屋上


「う……うぅ……くっ」


「あ、頭が痛い……」

「……爆発を思い切り喰らったけど」

「ケホッ、ど、どうやら、生きているようね……私……」

「……ハッ!」

「キ、キリカッ!?」


美国織莉子は勢いよく起立する。

すぐさま状況を脳内で確認する。

マミを殺した。

瓶詰めキュゥべえを自慢した。

キリカと約束を交わした。

動く戦車の玩具みたいな爆弾が現れた。爆発した。

それを踏まえて今。目の前の光景――。
774 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 01:13:26.72 ID:c1541ufP0

織莉子「――ッ!」

織莉子「そ、そんな……そんなことって……!」

織莉子「そんなの……残酷過ぎる……!」

織莉子「嘘よ……こんなの……ッ!」

織莉子「……『キリ、カ』……!」

織莉子「キリカァ……!」


最愛の人が、倒れている。

華奢で小柄な体から「こんなに入ってるものなのか」と思えるくらいに血が流れ出ていた。

左腕は少し引っ張れば千切れてしまいそうだった。

右脚があり得ない方向に曲がっていた。指が数本吹き飛んでいた。

脇腹にあいた穴から、コンクリートの灰色が少しだけ見えそうだった。

775 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 01:14:38.71 ID:c1541ufP0

織莉子「そんな……」

織莉子「爆弾戦車が爆発する寸前、キリカ……」

織莉子「あなたが私を庇ってくれていなかったら……私は死んでいた……」

織莉子「でも……ああ……キリカ……!」

織莉子「クリームで爆弾を飲み込んでいれば……こんなことにならなかったものを……」

織莉子「咄嗟のこととはいえ、私を庇うだなんて……」

織莉子「自分を犠牲にするだなんて……ッ!」

織莉子「あなたは……あなたは判断を誤った……!」

織莉子「冷静でなかった。だから、こうなってしまったのよ……!」

織莉子「キリカ……どうしてあなたは……!」

織莉子「あぁっ……どうして……!」

織莉子「キリカ……!」
776 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 01:16:47.19 ID:c1541ufP0

織莉子「あなたがいなくなったら……私は……!」

織莉子「私の……心の支えが……!」

織莉子「……まさか、まさかあなたを失ってしまうだなんて」

織莉子「あなたと二人なら、あらゆる障害も怖くなかったのに……」


キリカが死んだ。織莉子は深く悲しんだ。

先程までニコリと可愛らしい笑顔を見せてくれたキリカ。

私の心に爽やかで温かい風を吹き込んでくれたキリカ。

体調を崩したら本気で心配してくれていたキリカ。

抱きしめてみたら柔らかく温かかったキリカ。

頭を撫でたら顔を赤くして喜んだキリカ。

そのキリカが、死んでしまった。

息がない。脈がない。指輪がない。眼帯がない。

ソウルジェムが形を留めていない。爆発で粉々に砕けたらしい。

爆弾があった場所と、織莉子の間に割り込むような位置で死んでいる。
777 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 01:18:45.18 ID:c1541ufP0

織莉子「……許せない。決して……許せない……!」

織莉子「暁美……ほむら……!」

織莉子「…………」

織莉子「ヤツは……スタンドに目覚めていない」

織莉子「教室に来た際、リトル・フィートを視認できていなかった。目線が移らなかった」

織莉子「だから、ただ殺すだけでいい……全ての元凶は必ず殺してやる……」

織莉子「ライターの火で炙り四肢を刻んで釘で串刺しにして生きたまま虫の餌にしてくれる……!」

織莉子「産まれたことを後悔させながら殺してやる……!絶対に……!」

織莉子「ん……」

織莉子「……!」

織莉子「ビ、ビンが……」
778 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 01:20:22.49 ID:c1541ufP0

傍らに、爆発の衝撃で落下したビン。

そのビンはバラバラに割れている。

その破片が『中身』に刺さったらしい。

キュゥべえは、小さい状態だった。

小さい体であれば、ビンの破片は刃のシャワーに等しい。

ガラス片が頭を貫通したらしき傷をつけ、死亡している。


織莉子「……しまった。今の爆発でキュゥべえを死なせてしまった」

織莉子「死んだことがフラグとなって新しいキュゥべえが現れると聞いたことがある」

織莉子「だとしたら……まずいわ。鹿目まどかと接触されて、契約なんてされたら……」

織莉子「契約の内容によってはチェックメイトになってしまう」

織莉子「…………」
779 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 01:22:23.61 ID:c1541ufP0

織莉子「爆弾戦車は生きていた私を追い打ちすることなく消えた」

織莉子「つまり『千歳ゆま』は死んだ……」

織莉子「そして『美樹さやか』を追っていったから彼女も……」

織莉子「そして連絡がないから『佐倉杏子』も死んだ」

織莉子「残すは……『暁美ほむら』と『鹿目まどか』だけ」

織莉子「……見ていて。これから私は、逆境を乗り越えてやるわ……!」

織莉子「二人を殺し……スタンド使い同士は引かれ合うという『引力』と『予知』能力を利用して……」

織莉子「必ずやスタンド使いを滅ぼすわ」

織莉子「それが終わり次第すぐに、あなたの元へ向かうから……」

織莉子「待っていてね……キリカ」


織莉子は、キリカの首に手をまわし、その唇に自分の唇をそっと重ねた。

まだ温かかった。柔らかかった。幸福と虚無、甘さと苦さの混じった味がした。
780 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 01:24:01.64 ID:c1541ufP0

この唇の温もりの中には……ああなんてこと。

『死』の実感がある……私のキリカは本当に死んだんだわ。

でも……いつかは二人一緒になれるから……。

それがわかっていれば……もう、何も怖くない。

救世を終え……互いに何も縛るものがなくなって……互いに何も悩むことがなくなるのよ。

ただ……あなたの吐息と鼓動を感じながらしたかった。しておけばよかった。


この接吻は……『同性愛』なぞというチンケな次元で語れない無限の愛。

そしてあなたを殺した敵へ……報復を成し遂げるという誓い。

私があなたへ送る……愛と復讐のキッス。


織莉子「また、会いましょう。私のキリカ……」

織莉子「私は……私の人生に決着をつける……」



巴マミ――死亡 呉キリカ――死亡
781 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 01:24:35.35 ID:c1541ufP0


シビル・ウォー 本体:佐倉杏子

破壊力 ― スピード C  射程距離 B
持続力 A 精密動作性 C 成長性 E

「過去に捨てたもの」の『幻覚』を見せる能力。その性質は「浄罪」
「捨てたもの」は相手に物理的、あるいは精神的に襲いかかる。
図書室や廃教会等の屋内に「結界」を設定し、その結界に入り込んだ相手に作用。
結界内で本体が殺された場合、殺した相手に本体の捨てたものがおっかぶる。
罪悪感がある限り、何者でも他人に押しつけ清められるしか逃れる方法はない。
自分の捨ててきたものを清めたいという願望から発現した。

A―超スゴイ B―スゴイ C―人間と同じ D―ニガテ E―超ニガテ

*実在するスタンドとデザイン・能力が多少異なる場合がある
782 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 01:26:47.14 ID:c1541ufP0

今回はここまで。なりふり構わずお亡くなりです。お疲れさまでした。
リトル・フィートで小さくした遺体を食べて「これでずっと一緒よ」なんてやろうと思ったけど流石にエグいのでやめました。

原作のシビル・ウォーの幻覚は体内に取り込まれて一体化してますが、多少異なるのです。
その杏子はピタゴラスイッチみたいな死に方しましたが、引力なら仕方ない。

次回、決着ゥゥゥ――回です

もうこの惨状からして、次の時間軸で頑張りますエンドが見えてますが……
残るところあと二回。よろしくおねがいします。
783 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/30(日) 01:29:54.37 ID:OnOo9x26o
マミはアナウンスなかったから生存フラグかと思ったが死亡アナウンス入ったか
784 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/30(日) 01:33:21.63 ID:U5XVySh2o
乙でした
杏子ざまあ
785 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/30(日) 01:35:25.27 ID:V7BdpQnN0
乙で
歯の抜けていくかのように脱落してくなぁ
ネタバレなのかもしれないけど、結局のところスタンドが多少なりとも人格に影響を与えてるってのはあるんですかね
786 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/30(日) 01:35:27.81 ID:Z98y/un20

シビルウォーの清める能力は本当に厄介だな
787 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/30(日) 01:55:46.96 ID:V7BdpQnN0
>杏子「て、天井が崩れ落ちようとも!這い出るくらいの力はあるはずさ!」
ここが子安で再生されて割りと困った、腹筋的な意味で
788 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/30(日) 06:27:46.61 ID:32o+Mr2yo

まー、こんだけ死んだらやり直すしかないよね
まったくもって便利な能力だよな
789 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/30(日) 10:45:56.73 ID:G4GtW2xAO
スタンド未判明で死亡ってまさかアレか、アレなのか
790 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 14:12:15.02 ID:c1541ufP0

#14『リトル・フィート』


ほむらは目を醒ます。

ぼやけた視界に、心配そうにしている表情が見える。


ほむら「ん……う……」

まどか「ほむらちゃん……」

ほむら「かな……めさん」

ほむら「ハッ!か、鹿目さん!」

まどか「お、大きな声出さないでっ」

ほむら「え……?」

ほむら「……鹿目さん。ここは?」

まどか「『体育館』だよ。逃げてきたんだよ。ここは体育館の放送室。鍵はスタープラチナにピッキングさせた」

ほむら「体育館……」
791 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 14:12:41.28 ID:c1541ufP0

ほむら「私、気を失って……」

ほむら「…………守ってあげられなくてごめんね」

まどか「…………」

まどか「ほむらちゃん。このまま隠れてる訳にはいかないみたい」

ほむら「……え?」

まどか「わたし、心を決めたよ」

まどか「わたし、契約する」

ほむえ「ッ!?」

ほむら「だ、ダメッ!契約なんてッ!」
792 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 14:13:32.08 ID:c1541ufP0

ほむら「鹿目さんは戦ってはいけない!危険すぎる!」

まどか「わたしには、戦う理由がある。資格もある」

まどか「あの人は……わたしの友達を……みんなを……学校を奪った」

まどか「みんなを、わたしの日常を取り戻すには、契約して、困難に打ち克つしかないよ……」

ほむら「あなたは……契約なんてしてはいけないッ!」

ほむら「私は……私は、鹿目さんを……戦いに、争いに巻き込みたくないッ!」

まどか「でも、ほむらちゃん!もう、もう……!」

まどか「巻き込むだとか巻き込まないだとかそういうことを言っている状態じゃないんだよッ!」

まどか「わたしも、戦わなくてはならない!」

まどか「わたしは、あなたを守るわたしになりたい!」

まどか「そして、全てを救いたい!」

ほむら「……っ!」

まどか「スタープラチナはそのためにいる!」
793 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 14:14:38.91 ID:c1541ufP0

まどか「奇跡も魔法も、わたしは手に入れられる……!」

ほむら「…………でも」

ほむら「それでも……ダメ、だよ……危険過ぎる……」

ほむら「あなたには……魔法少女なんかには……そんな……!」

まどか「ほむらちゃん……」

まどか「……教えて」

まどか「ほむらちゃんは、何を知っているの?」

まどか「わたしを巻き込ませたくない理由。契約させたくない理由」

まどか「ほむらちゃんの友達が亡くなったから、じゃないよね……?」

ほむら「……!」

まどか「目に見えて怯えてる……」

まどか「ほむらちゃんは、わたしが魔法少女になることに、怖いことでもあるの?」
794 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 14:15:30.70 ID:c1541ufP0

ほむら「…………」

ほむら(この目……声のトーン……鹿目さんは、わかってる)

ほむら(『友達を失ったから巻き込ませたくない』というのは表向きの理由ということに)

ほむら(……いや、表向きと表現したけど……偽りではない。真実とは少し違う)

ほむら(私は……この顔になった鹿目さんを、今までに何度か見た)

ほむら(決意の表れ。確信の表情。迷いなき覚悟)

ほむら(この目をされたら……私には……鹿目さんを止める術がわからない)

ほむら(……言おう。もう、隠すことはできない)

ほむら「…………」

ほむら「……私は、ね。鹿目さん」

ほむら「私は……未来から来たんだよ」

まどか「……え?」
795 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 14:16:58.39 ID:c1541ufP0

ほむら「時間がないから……事実だけを話すね」

ほむら「今まで内緒にしてきたけど……私の願いは、鹿目さん。あなたを守ること」

まどか「わたし?」

ほむら「私は、魔法少女になる前は、体が弱くて内気で弱虫で、一人では何もできないような人間だった」

ほむら「そんな私に、優しく声をかけてくれて、友達になってくれたのが、魔法少女の鹿目さんだった」

ほむら「私は、鹿目さんに色々教えてもらった。助けてもらった」

ほむら「すごく、嬉しかった。私、それまで友達なんてろくにいなかったから……」

ほむら「だけど……あなたはワルプルギスの夜という魔女と戦い命を落とした」

ほむら「だから私は、あなたを守りたいと、出会いをやり直したいと願ったの」

ほむら「全てはその時から……ううん、鹿目さんと出会った時点で始まっていた」

まどか「ほ……ほむらちゃん」

ほむら「巴さんも、美樹さんも……実は佐倉さんも、失った友達だった」

ほむら「今まで秘密にしててごめんね」
796 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 14:17:53.59 ID:c1541ufP0

ほむら「でも、言えなかった理由がある」

ほむら「未来から来ただなんて信じてもらえないだろうからっていうのもあるんだけど……」

ほむら「魔法少女はね、ソウルジェムが穢れきってしまうと、魔女になってしまう」

まどか「え……」

ほむら「巴さん、美樹さん、ゆまちゃん……少なくともあの三人は、この残酷な真実を知らない。私はある時間軸で知ったけど、教えられなかった」

ほむら「別の時間軸で、それを教えた結果より悲惨なことになった経験があるから」

ほむら「……そして、鹿目さん。あなたは魔女になると、世界を滅ぼしうる魔女となる」

まどか「わ、わたしが……世界……を?」

ほむら「そう……」

ほむら「かつての鹿目さんは言ったの……『わたしを救って』……と」

ほむら「私は約束した。鹿目まどかという人間を魔法少女にしない」

ほむら「……それが私の誓いであり、生きる目的」
797 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 14:20:20.31 ID:c1541ufP0

ほむら「信じてもらわなくても構わない。でも、それが私が、鹿目さんを守る理由」

ほむら「私は、あなたを守る私になると誓った」

ほむら「私の目的は、鹿目さんを契約させずに、鹿目さんを守りつつワルプルギスの夜を越えること」

ほむら「……だけど、今はどうだろう。むしろ、魔法少女でない鹿目さんに守られてしまっている……」

ほむら「だから、今こそ、鹿目さん。私があなたを守らなければならない」

ほむら「これが私の。未来への道標」

まどか「わ、わからないよ……わたし、何がなんだか、わからないよ……!」

まどか「急に……未来だとか、わたしが魔女になるだとか言われても……わたし、どうすれば……」

ほむら「鹿目さんは、隠れていればいい」

ほむら「私が敵を迎え撃つ。一人でやらないといけない」

まどか「ダ、ダメだよ!相手はスタンド使い!スタンドを持ってないほむらちゃんには……!」
798 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 14:21:46.39 ID:c1541ufP0

ほむら「大丈夫!時間を止めて、ソウルジェムを撃ち抜くッ!」

まどか「だ、だったらわたしと二人で……二人がかりならより確実というか……」

ほむら「魔法少女でないあなたでは……魔法に対処できない」

ほむら「どういう魔法武器を使ってくるかわからない以上、魔法少女でない鹿目さんには危険すぎる」

まどか「ほ、ほむらちゃんだってスタンドに対処できないじゃない!」

まどか「二人で、お互いのマイナスをうち消し合って、ゼロにして、初めて対等……いや、それ以上になるッ!」

ほむら「……あなたは、腕がもげても戦える?」

まどか「う……で、でも……」

ほむら「ここで待ってて」

ほむら(鹿目さん。今度こそ、私があなたを守る……!)
799 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 14:24:16.56 ID:c1541ufP0

織莉子「……体育館」

織莉子「校外に逃げる予知をしていたけれど……やはり、やめたようね」

織莉子「あなた達は、私から逃げるために校外へ出るはずだった」

織莉子「出ないようにそれなりの対策をとったにも関わらず……」

織莉子「未来は変わる……」

織莉子「しかし、ここで私を討つことにした。だから私はここに来た」

織莉子「出てきなさい。暁美ほむら」

「――ッ!」

織莉子「あなたが私を不意打ちで殺そうとか考えているのはわかっているわ」

織莉子「当然の選択よね」

ほむら「…………」

織莉子「最終ラウンド……になるといいわね」
800 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 14:26:00.29 ID:c1541ufP0

ほむら「……これ以上近づかないで」

織莉子「あら、こんな距離でいいの?」

ほむら「もし遠くからでも干渉できるのであれば私達の教室に来る意味がない」

ほむら「その射程は最大でも5か6メートルであると推測が可能」

織莉子「……なるほど。あなた、なかなか冷静になれるのね」

織莉子「残念ながら私のスタンドの射程は短い……敢えて言うと、せいぜい2メートルよ」

ほむら「……一体、何故」

織莉子「ん?」

ほむら「どういう目的で、こんなことを……」

織莉子「知りたい?」

ほむら「あなたの目的は結局一体何だったのか、それを教えてほしい」

ほむら(スタンド関連だとは思う。スタンドさえいなければ現れなかったと思えば何も気にすることはない)

ほむら(しかし……呉キリカという人は、不登校と言えど、同じ学校の生徒!それなら、気にしないわけにもいかない……)

ほむら(今回、もしもワルプルギスの夜を越えられなかったら……次以降の時間軸のためにも知っておかなければならない)

ほむら(それに……時間稼ぎにもなる……)

ほむら(交戦中であろう巴さん達が……きっと来てくれる)
801 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 14:26:49.59 ID:c1541ufP0

織莉子「そうね……何も知らずに殺されるというのも嫌でしょう……」

織莉子「今更過ぎるけど、もしかしたら理由を聞いて命を差し出してくれる……か、も」

ほむら「……?」

織莉子「前置きとして……私の願い。それは、生きる意味を知ること」

織莉子「そして私は、予知能力を得た。そして未来を見た……」

ほむら「……予知」

ほむら「まさか……世界を滅ぼす魔女を見た、と……?」

織莉子「気味が悪いくらいに察しがいいわね……ご名答」

織莉子「私が見た未来……世界を滅ぼす魔女の誕生」

織莉子「私が学校を襲撃したのは、その魔女の誕生を阻止するため……元の魔法少女を抹殺するため」

ほむら(鹿目さんを……)
802 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 14:28:33.90 ID:c1541ufP0

織莉子「何気にあなたが魔女化のことを知っていたのには意外だったけど……ともかく」

織莉子「だからあなたは、世界のために殺されるべきなのよ」

ほむら「……は?」

織莉子「何か?」

ほむら「『私』が……世界を……?」

織莉子「えぇ、そうよ。あなたは世界を滅ぼす」

織莉子「だから私はあなたを殺して、救世を成し遂げる」

ほむら「あ、あり得ない……」

ほむら「魔法少女としての素質があればある程、強力な魔女が産まれるという……」

ほむら「でも!私にはそんな素質はない!」

織莉子「……何をそんな狼狽えているのかしら?まぁいいわ」
803 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 14:31:05.71 ID:c1541ufP0

織莉子「魔法少女としての素質があろうかなかろうかは関係ない」

織莉子「あなたは、私達がレクイエムと呼ぶ……そういう力に目覚めるのよ」

ほむら「レクイ……エム?」

織莉子「あなたに、いつかスタンドが目覚め……そして魔女化に伴い、レクイエムが覚醒する」

ほむら「わ、私にスタンドが……!?」

織莉子「私の予知ではそうだった」

織莉子「私の予知は、私が干渉することで、予知をした事実の元に行動すれば未来を変えられる……」

織莉子「しかし、もしそれを実行したらというIfの未来は見ることができない。未来を変えるには実際にやってみるしかない」

織莉子「人は未知を恐れる。あなたにスタンドを発現させない努力をするよりも、あなたを殺した方が、Ifの未来は確定される上に、確実で手っ取り早い」

織莉子「巴マミも美樹さやかも千歳ゆまも……佐倉杏子も、そして私のキリカも……あなたが生きているがために死んだ」

ほむら「ッ!?」

ほむら「し、死ん……!?」
804 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 14:32:01.35 ID:c1541ufP0

織莉子「そう……もはや、見滝原の魔法少女の生き残りは、私とあなたしかいない……今のところは」

織莉子「さぁ、私に殺されて。あなたが死ぬことで、世界は救われる……」

織莉子「あなたの死が、救世に繋がる」

織莉子「世界を滅ぼす存在となることを知って、それを未然に防ぐために死ぬ……これ以上の美談はない」

ほむら「ふ、ふざけないでッ!」

ほむら「私には、私には命を超越した使命があるッ!」

ほむら「そんな……そんな理由で死ねないッ!」

織莉子「しょうがないわねぇ……だから私があなたを殺すのよ。そういう予知だから……」

ほむら「クッ……」

ほむら(『殺し』てやる……ッ!)

ほむら(許せない……絶対に、絶対に……ッ!)
805 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 14:32:47.32 ID:c1541ufP0

ほむら(巴さんを……ゆまちゃんを……美樹さんを……!)

ほむら(だが……落ち着いて。私)

ほむら(感傷で動いてはならない……今ここで怒ったら、非常にマズイ状況になる)

ほむら(……そうか、予知能力、か)

ほむら(下手をすれば、鹿目さんの魔女を予知して、鹿目さんを殺すために襲撃してくる可能性もあったのか……)

ほむら(それなら、標的が私に移ったから、鹿目さんに飛び火しないで済んだ。と前向きに捉えよう)

ほむら(とにもかくにも、もういい。目的は理解した)

ほむら(時を止めて、ソウルジェムを撃ち砕……)

ほむら「……ん?」

ほむら「予、知……?」

織莉子「飲み込みが悪いのね」

ほむら「――ハッ!」

織莉子「さぁ!あなたにプレゼントよ」
806 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 14:33:31.58 ID:c1541ufP0


織莉子はほむらに「何か」を投げて寄越した。


何かは光を反射している。何かは透明で向こうの景色が見える。

何かはガラスで出来ている。何かは中に「生き物」が入っている。

回転する自身の入れ物の中で、もがいている。

ほむらは、その生き物を知っている。その『ビン』の中の『猫』を知っている。


ほむら「エ……」

ほむら「『エイミー』ッ!?」

織莉子「あなたが時を止めて私を殺すということを予知していないと思ったのかッ!?」

織莉子「時間停止のタイミングを『予習』したッ!」

織莉子「時間停止を防ぐための対抗策!あなたは動揺した!則ち隙を生んだッ!」

ほむら「し、しまっ――」
807 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 14:34:12.88 ID:c1541ufP0

ギャンッ!

織莉子の背後から、死角となっていた場所から「球体」が飛び出してきた。

それは、時を止めるタイミングを見失ったほむらに向かって飛んで来る。


織莉子「私の魔法武器。水晶玉ッ!」

織莉子「敢えてわざわざ一切使わずにここまで来たわ。全てはこのために!飛び道具を隠していた!」

メメタァ!

ほむら「がふッ!……うッ」

ギャルギャルギャルギャルギャルギャルギャルギャル

ほむら「うおおああアァァッ!」


水晶玉が顔面に激突する。

その衝撃で眼鏡が割れた。

水晶玉が顔面で回転する。

その摩擦で頬肉が裂けた。
808 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 14:36:35.23 ID:c1541ufP0

割れた眼鏡のレンズが瞼を切る。

水晶玉は血で濡れる。

奥歯がゆっくりと折れる。


ほむら「ゲハッ!」


体勢が崩れた。そこに、織莉子は既に、ほむらの側に、走り寄っていた。


織莉子「私のスタンドは近距離型……近づかなければならない」

織莉子「しょうがないわね……わざわざこんなこと……そして、爪の届く範囲に入った」

織莉子「もらったッ!リトル・フィートッ!」

スパァッ!

リトル・フィートは、右腕を大きく振った。

そしてほむらの体を服ごと一文字に切った。


ほむら「グッ!」

ほむら「……ッ!?か、体が……!」
809 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 14:37:37.05 ID:c1541ufP0

ガシィッ!

ほむらの体は指人形くらいの大きさに縮んだ。

リトル・フィートは左手でほむらを拾い上げる。

ほむらにはスタンドが見えない。

そのため、見えない何かが体を束縛し、宙に浮いたように感じている。


ほむら「ッ!」

織莉子「掴んだわ」

ほむら「うぅっ……!」

織莉子「リトル・フィート……小さくする能力」

織莉子「学校襲撃の下準備としてその猫も小さくしてビン詰めしておいた」

織莉子「ちなみにあなた達がこの猫を可愛がっていることも予習済み」

織莉子「ビンの中でもがく顔見知りの猫……誰だって驚く。私だってこの能力でなかったら驚くわ」
810 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 14:38:22.08 ID:c1541ufP0

織莉子「いつだったか佐倉さんはこれをくだらない能力と言った……」

織莉子「まぁ……『くだる』『くだらない』というのは所詮、使い方次第よ」

織莉子「……あぁ、そうそう」

織莉子「あなたがビンをキャッチしなかったから、ビンが落ちてしまったのよね」

ほむら「ッ!?」

織莉子「あなたは悪くないわ。気に病まなくていいのよ。急だったものね」

ほむら「あ、ああ……あああ……!」

織莉子「でも、あなたがビンをキャッチできていれば、助かったのに」


織莉子の放ったビンは、床に落ち、割れていた。

その破片が、『中身』の喉に突き刺さっている。

その中身は、赤い液体を流しながらピクリとも動かない。
811 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 14:39:23.75 ID:c1541ufP0

ほむら「エ……イミー……!」

織莉子「あの小汚い野良猫は、救世のための人柱ならぬ猫柱となるのよ」

ほむら「なんて……なんてことを……!」

織莉子「私のこと……ゲスだと思う?怒り心頭かしら?」

織莉子「そんな今更……既に私はどれだけ人を殺したと思っているのよ」

織莉子「世界の救世と勝利に……犠牲はつきものであり、利用はできるものはするべきである」

ほむら「ひ、酷い……!何も関係ない命までッ!」

織莉子「そんなことで泣かないの。しょうがないわねぇ……」

織莉子「もう一度聞くけど……あなたには私がゲスな人間に見えるかしら?」

織莉子「もう一度言うけど……世界の救世のための、やむを得ない犠牲なの」

織莉子「これはあなたが悪いのよ……あなたが世界を滅ぼしうるから……」
812 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 14:40:11.92 ID:c1541ufP0

織莉子「私を悪だと思っているあなたは被害者のつもりなんでしょうけど……」

織莉子「自分が悪くないと思っていて、しかもそれが事実だというのがやっかいなところ」

織莉子「あなたが死ぬことは世界を救うこと!」

ほむら「くっ……!」

織莉子「しかし、私もしょうがないわね……ここまでやって、何とも思わない」

織莉子「ん?何をって……罪悪感が薄いのよ……」

織莉子「フフ……フ……我ながら思う……仔猫を殺し、無関係の人を殺し……」

織莉子「救世のためとは言え、私ってばこんなことをして『しょうがないわ』っていともたやすく割り切れる性格だったかしら……?」

ほむら「な、何を言って……」

織莉子「正直、自分自身でもビックリしている」

織莉子「キリカを失って自棄になっているのか……それとも……」

織莉子「スタンドのせいでそうなった。……と言うのは、責任転嫁が過ぎるかしら」

織莉子「キラークイーンを得て、人を爆死させるのに躊躇をしなかったという千歳ゆまのように……スタンド故に性格が書き変えられたの……か、も」
813 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 14:41:25.56 ID:c1541ufP0

ほむら「くっ……!」

ほむら(な、何とか……)

ほむら(何とか抜け出さなければ……)

ほむら(どうする……!私にはスタンドが見えないが……きっと掴まれているのだろう……)

ほむら(元より時間を止めてどうこうできる状況ではない……!)

ほむら(ならば……)

織莉子「あなたは次に『盾から爆弾を出し、自爆してでも脱出しよう』と思う」

ほむら(盾から爆弾を出して自爆してでも……)

ほむら「――ハッ!」

織莉子「それくらい、予知の能力を使わなくてもわかるわ」

織莉子「あなたには見えていないだろうから解説すると……」

織莉子「例外はあるでしょうけど、スタンドはスタンドでしか傷つけられない」

織莉子「則ち、リトル・フィートに掴まれているあなたが自爆をしても、リトル・フィートは衝撃も熱さも感じない」
814 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 14:43:51.59 ID:c1541ufP0

ほむら「う、うぅッ!」

織莉子「救世は別として……暁美ほむら。キリカを失ったのはあなたのせいよ」

織莉子「私は、全ての元凶であるあなたが憎い。許せない。私個人としてあなたを拷問する」

織莉子「じっくりと痛めつけた後に女郎蜘蛛の餌にして殺してやる」

ギリ……

織莉子「体の中を蜘蛛の消化液でバニラシェイクみたいに溶かされてしまえばいいと思っている」

ほむら「ガ……!ぐ、ぐぐ……!」

織莉子「残念ながらリトル・フィートは爪で傷つけることが売りであり元々は力の弱いスタンド……」

織莉子「気を失わせる程度はできても……小さいと言えど人間の骨格を砕く程の握力はないし……」

織莉子「その暇もなさそうだわ。蜘蛛を捕まえる時間が必要だと言うのに」

ほむら「な……」

織莉子「と、いうことで間近でピーピー喚かれたり魔女になられても煩わしいので……」

ほむら「な、にを……」
815 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 14:45:53.20 ID:c1541ufP0

織莉子「しばらく黙って、これに入っていなさい」

織莉子「あなたを殺すのは、その後……。先に相手しなければならないヤツがいる」

ギリ……ッ!

ほむら「グアッ……!ま、まさか……!」

ほむら「ま……まど……」

ほむら「……」


ほむらは血を吐いて再び気を失ってしまった。

織莉子は懐から小ビンを取り出し、リトル・フィートから受け取ったほむらを中に入れる。

そしてコルクで蓋をした。そのまま窒息死させるのではない。

織莉子は半歩左斜め後方に一歩退いた。


瞬間――

ギュゥゥゥォォ――ンッ!

織莉子の視界に桃色の閃光が走った。

頬が切れ赤い線が描かれる。

弓を持った桃色の魔法少女が、そこにいた。
816 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 14:49:15.26 ID:c1541ufP0

まどか「…………」

織莉子「あなた、さっきまで指輪してなかったのに……」

織莉子「漫画やアニメの世界からそのまま出てきたかのような魔法少女……」

織莉子「そんな姿の敵は……予知でも見なかったわ」

織莉子「あなたは何を願ったのか……興味がないこともない」

織莉子「……『契約』してしまったのね。暁美ほむらを守るために」

まどか「…………」


「負傷を強いられる」――織莉子はそう思った。

目の前の最後の障壁を取り除いた後、ケガの具合によっては個人的拷問を廃止せざるをえない。

その際、この小ビンは床に落とし、中身もろとも踏み潰すことにする。

そう誓った。
817 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 14:50:32.42 ID:c1541ufP0

織莉子「あなたの武器は『弓と矢』……なのね」

まどか「…………」

まどか「さやかちゃんやゆまちゃん。そしてマミさんのことを考えると体が震える」

まどか「さやかちゃんは昔からの親友だった。マミさんはいつでも頼もしい先輩だった。ゆまちゃんはとっても可愛くてもっともっと一緒に遊びたかった」

まどか「だけど、あなた達が……いえ、あなたが奪ってしまった……!」

織莉子「……スタンドはあってはならないものよ」

織莉子「私が思うに、自動車は便利だけれど誰もかれもが乗るから渋滞が起こる……」

織莉子「そういうのを持っているのは私とキリカだけ……あるいは元より存在しない方がよかった」

織莉子「最もこの虫のせいでキリカを失ってしまったのだけれどね」

まどか「…………わたしが」

まどか「わたしが初めて魔女と出会った時……心の奥底まで恐怖を覚えた」
818 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 14:52:53.27 ID:c1541ufP0

まどか「ハッキリ言って、ここで死んじゃうんだなって思った。本当に怖かった」

まどか「そんな時に助けてくれたのが、ほむらちゃんとマミさんだった」

まどか「ほむらちゃんは、わたしのことを本当に大切に思ってくれていた。すっごく嬉しかった」

まどか「わたしは尊敬した。いつでも気遣ってくれて優しくて頭も良くて格好良くて可愛くてどんなことでも相談できる……わたしの理想のヒーロー」

まどか「わたしは……みんなに守られるわたしでなく、みんなを守るわたしになりたい」

まどか「わたしは全てを救いたい」

まどか「……あなたはわたしから色んなものを奪った。奪おうとしている」

まどか「今、わたしは恐怖をこれっぽっちも感じていない」

まどか「わたしに今あるのは闘志!」

まどか「それは、スタープラチナに目覚めたから、戦う力があるからだけじゃない」

まどか「魔法少女との出会い……スタンドの目覚め、そしてこの数十分の間の……友達の死がわたしの中から『敵』への恐れを吹き飛ばした!」
819 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 14:53:56.87 ID:c1541ufP0

織莉子「ふぅん……そう」

まどか「『吐き気を催す邪悪』とは自分自身のためだけに、他者の命を踏みにじるようなことをする人ッ!」

まどか「よくも……よくも学校を……!そして、みんなを!エイミーまでッ!」

まどか「絶対に許せない!あなたの行為は法律では裁けない……だからッ!」

まどか「わたしが裁くッ!」

織莉子「……邪悪?黙っていればいい気になっているわね」

織莉子「この私が悪、ですって。救世を成し遂げるこの私が……」

織莉子「世界を滅ぼす可能性を孕む暁美ほむらの方が悪なのよ……」

織莉子「本人はそんな素質を持ちたくて持ったんじゃないでしょうけど……滅ぼすという真実がある」

織莉子「悪はあなたの方もよ。暁美ほむらを庇うと言うのならね」
820 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 14:55:10.31 ID:c1541ufP0

織莉子「私は、世界を滅ぼしうる素質を抹殺する……世界を救世する『正義』」

織莉子「私こそが、正義。悪の反対。真実の、光り輝く道……真実へ向かう意志は決して滅びない」

織莉子「我が心と行動に一点の曇りなし……全てが『正義』よ」

まどか「あなたは……自分を悪だと自覚していない最もドス黒い悪……!」

織莉子「……フン」

織莉子「悪のレッテルを押しつけ合う、これではいたちごっこね」

織莉子「結局、敗者が悪……ということに収集される」

まどか「…………」

まどか「あなたに伝えておくべきことがある」

織莉子「……何かしら」
821 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 14:56:24.67 ID:c1541ufP0

まどか「キュゥべえは言っていた」

まどか「わたしにはすごい素質があるって。魔法少女になったら、素晴らしい活躍が期待できるって」

まどか「そしてほむらちゃんは言っていた!わたしも、世界を滅ぼす魔女になるとッ!」

織莉子「……」

織莉子「……何を……言っているのかしら?頭おかしいの?」

まどか「もう一度言う……『わたしは世界を滅ぼす魔女になる』ッ!」

織莉子「……馬鹿なことを」

織莉子「……私の予知には……暁美ほむらしかいなかった」

織莉子「もしあなたがそんな大それた魔女になるというのなら……予知で見えないはずがない……」

まどか「ほむらちゃんは嘘なんかつかない。それにキュゥべえも、隠し事はすれど嘘はつかないんだよ」
822 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 14:57:52.82 ID:c1541ufP0

まどか「ほむらちゃんはそのためにこの世界に来た……予知なんてうやむやな上辺だけの真実ではなく、事実ッ!」

まどか「わたしの魔女化……もとい、魔法少女にさせないために……」

まどか「あなたの言う救世なんかよりも、ずっとずっと、黄金のように輝かしい救世の形!」

織莉子「…………」

まどか「いい?これは、お互いのために、珍しく怒り心頭なわたしなりの優しさで教えたの……」

織莉子「結局、何が言いたいのかしら?」

まどか「ほむらちゃんを殺したら、わたしは家族以外の全てを失ったことになる」

まどか「そしてきっと……ううん、絶対に絶望して魔女になる」

織莉子「……自分を人質にするとでも?」

まどか「何だったら、今、予知でわたしの未来を見るといいよ」
823 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 14:58:31.73 ID:c1541ufP0

まどか「ほむらちゃんのレクイエムとやらが発現する時系列が……わたしの魔女よりも前だった……あるいはその前にわたしが死んだから……」

まどか「だから見えうるであろうわたしの魔女よりも、ほむらちゃんのレクイエムが見えたんだと思う」

まどか「確認してみてよ。わたしの未来を……どう見えるかはわからないけどね」

まどか「本音を言えば……その隙にスタープラチナをブチ込みたいからむしろ見て欲しいなって」

織莉子「……あなたは今、プッツン寸前、というヤツなわけね。何が言いたいのか伝わらないわ」

織莉子(この目……漆黒の殺意を宿していると言うには大げさね)

織莉子(油断は端からするつもりはないが、少しでも気を抜いたらやられてしまうのは間違いない……)

織莉子(スタープラチナのパワーとスピードは既に覚えた。当然、この状況で悠長に予知なんてしてられるはずがない)

織莉子(ほんの数秒でも、予知しようとすれば……鹿目まどかへの警戒の心を、別のことに気を取られたら……私は『死ぬ』)

織莉子(世界を滅ぼす魔女……素質……)
824 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 15:00:05.21 ID:c1541ufP0

織莉子(鹿目まどかが世界を滅ぼすということ自体がハッタリの可能性がある)

織莉子(だがさっき私に放った矢の威力から……素質はある。そしてスタンド使いという真実が存在する)

織莉子(少なくとも強力な魔女になることは請け合いかもしれない。そして魔女化に伴ってスタンドが変わりレクイエムを発現する可能性もなきにしもあらず)

織莉子(暁美ほむらはまだスタンド使いでないから、猶予というものがあるのだけれども……)

織莉子(……しょうがないわねぇ)

織莉子(私の第一目標は暁美ほむらを殺すこと……それは問題なくやれる)

織莉子(ただし、キリカの仇を取るために暁美ほむらを拷問するというのは諦めるざるを得ない)

織莉子「……私のリトル・フィート、は……」

織莉子「あなたのスタープラチナ程ではないでしょうけれど、素早いわよ」

まどか「やってみなよ……その前にわたしがあなたを『殺し』てみせる」
825 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 15:02:04.10 ID:c1541ufP0

織莉子「私が救世を成し遂げる……命を賭してでも」

織莉子「……鹿目まどか。暁美ほむらが潰されたら絶望して魔女になると言ったわね……」

織莉子「スタンドは精神力。果たして、そんなハッタリをかませるその精神力で……」

織莉子「スタープラチナという強力なスタンド使いでありながら」

織莉子「私のリトル・フィートよりも『早く』魂を濁せるのかしら?」

まどか「試してみる?どっちが早いか……本当にハッタリかどうか……」

まどか「ほぼ確実に言えるのは『スタープラチナがあなたのソウルジェムを壊すことそのものについては、何も難しいことはない』ってことだよ」

織莉子「暁美ほむらを殺す。あなたを殺す」

織莉子「……両方やるのは難しいことだが……賽は投げられた。進むしかないのよ」

織莉子「…………」

まどか「…………」
826 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 15:03:36.91 ID:c1541ufP0

織莉子「ところで……」


織莉子は傍らに転がる仔猫の死骸を一瞥して言う。

まどかは、織莉子から目を逸らさない。

エイミーの遺体を見たくない、というのが正直な気持ち。


織莉子「野良猫の平均寿命は四年くらいと言うわ」

織莉子「平均というのは言うまでもないけど……ゼロと10の平均は5」

織莉子「一年、一年、十三年で平均は五年……つまり、そういうことよ」

織莉子「仔猫の時は免疫も弱いから衰弱死しやすいし……病気や怪我の治療はできやしない。冬なんかは特に死にやすい」

織莉子「その一方、可愛いだとか可哀想だとかで人から餌を貰ってばかりで自分で獲ることを満足に学べない……生ゴミを食べる日々……お腹を壊して死んだりもする」

織莉子「また、車の事故死も多いし、人に虐げられたり、保健所に放り込まれて駆除されたりもする……」

織莉子「野良猫として生まれた時点で幸福は訪れないと言っても過言ではない」

まどか「…………」

織莉子「エイミーとやらは短命だったわね」


――プッツン
827 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 15:04:36.15 ID:c1541ufP0


まどか「スタープラチナァァッ!!」


まどかの背後から現れる黒髪の戦士。

スタープラチナは本体であるまどかから半径2m程しか離れることができない。

そのため、この距離からでは殴ることができない。近づく必要がある。

まどかは地面を蹴り、「殺す」ことを目的として接近をする。

産まれて初めて覚えたドス黒い憎悪。初めて抱いた殺意。

それらを持ってして、美国織莉子に全てを砕く拳を叩き込むために。


織莉子「来るか……鹿目まどかッ!」

バァッ!

織莉子の背後から水晶玉が飛び出される。

ハンドボール程度の大きさの水晶玉が多量に現れる。


織莉子「水晶玉は既にッ!話している間に召喚し準備しておいたッ!」

828 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 15:06:38.94 ID:c1541ufP0

織莉子「暁美ほむらの時は一球だったが、この水晶群!躱せるかァッ!」

ギュゥォ――z___ッ!

そして、水晶玉はまどかに、一斉に襲いかかる。

目の前の状況に対し、まどかは一切怯まない。

むしろ逆に、さらに勢いを増して織莉子に突っ込んだ。

「オオオオォォォォォォォォォ!」

スタープラチナ雄叫びをあげる。

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!」

ドガガガガッガガガガッ!

スタープラチナの拳のラッシュが炸裂する。

強く早く正確な一拳一拳が、水晶玉を確実に砕き、的確に捌く。

エイミーの遺体にその破片が降り注がないよう留意する。

水晶玉の破片でまどかは瞼を切った。思わず片目を閉じる。
829 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 15:07:09.39 ID:c1541ufP0

まどか「くっ……!」

織莉子「よしッ!今ッ!」

織莉子「『隙』が出来たッ!リトル・フィートォッ!」


双スタンドの射程距離内に入った瞬間、リトル・フィートはすかさずまどかに向かう。

スタープラチナが水晶玉群を捌いている拳と拳の間、策略でこじ開けた一瞬の隙を突いた。


織莉子「勝った!」


その爪で切った瞬間に、体の縮小が開始する。

体が縮めばスタープラチナの腕も短くなる。

織莉子が魔力を込めれば込める程、そのスピードは早くなる。

即ち、ほんの一瞬でまどかを仔猫の遺体よりも一回り小さくすることができる。

そのリトル・フィートの爪が、スタープラチナに触れ――


「オラァァッ!」

830 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 15:07:52.45 ID:c1541ufP0

ベギャッ!


織莉子「イギャァッ!?」

織莉子「……へ?」

ボタ…ボタ…

まどか「…………」

織莉子「え……!?」

織莉子「あ……ああ……!」

織莉子「なあァァッ!?」


気が付くと、織莉子の右拳が砕けていた。

皮膚と肉が裂け、骨が突き出ている。血が流れ落ちる。

織莉子はその傷を左手で押さえた。

魔力で痛覚を遮断したため、骨を体内に押し戻そうとも痛みは感じない。

織莉子は、相手と自分のスタンドを交互に見た。

スタープラチナは無表情。

水晶玉の破片が足下に散らばっている。全て砕いたらしい。

一方、リトル・フィートの右手は陶器のように砕けていた。
831 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 15:10:11.30 ID:c1541ufP0

織莉子「な……」

織莉子「何が……起こった……!?」

織莉子(……は、速い)

織莉子(速すぎる……い、いつの間にリトル・フィートの右手を……爪ごと砕き折った……!?)

織莉子(この私が……殴る瞬間さえ見れなかった!)

織莉子(水晶群を捌いて……隙ができていたはず……!)

織莉子(隙を作るために水晶玉を放ち、実際に隙ができたからッ!だから私は……!)

織莉子「……え?」

織莉子(ちょっと待って……思わず、思わず左手で負傷した手を押さえたが……)

織莉子(何故……私は『手ぶら』なんだ……?)

織莉子(ビンが……)

織莉子(左手に持っていた暁美ほむら入りのビンが……!)

織莉子「暁美ほむらがないッ!?」

まどか「……『既に』……だよ」

織莉子「ッ!?」

まどか「既に取り返した」


織莉子の覚えた違和感の答え。それは目の前にあった。

まどかの左手の上には既に、力無く横たわるほむらがいる。


織莉子「い、いつの間に……!?」

織莉子「いつだ……!」

織莉子「いつ私から『暁美ほむらを奪った』ッ!?」
832 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 15:11:25.30 ID:c1541ufP0

織莉子「答えなさいッ!鹿目まどかァッ!」

まどか「さあ……なんのこと……?わからないよ」

織莉子「しらばっくれるなァッ!」

織莉子(な、何が……何が起こったんだ……!)

織莉子(水晶玉をはじき飛ばしてから……いつ、私を攻撃した)

織莉子(いつ、ビンを奪った。いつ、ビンのコルクを抜いた!?)

織莉子(おかしい……ありえない。いくら素早いからといって……そんな……)

織莉子(ま……まるで時間でも止められたかのように――)

織莉子(……時?)

織莉子(まさか、本当に『時』を……?暁美ほむらのように……)

織莉子(新しい能力が覚醒した可能性がッ!?)

織莉子(まさか……そんな……ほんの一瞬で……)

織莉子(『スタンドが成長した』とでもいうのかッ?!)
833 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 15:14:03.49 ID:c1541ufP0

まどか「スタープラチナッ!」

「オラァッ!」

ドゴォッ!

織莉子「ブッ……!ゲッ……!」


動揺した隙に、スタープラチナの拳がリトル・フィートの顔面に叩き込まれる。

織莉子の同じ場所――魔力で治癒したばかりの絹のような頬、が再び裂けて血が飛び散る。


まどか「……やれやれだよ」

織莉子「……ッ!」

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!」

織莉子「リトル・フィートォォッ!み、身を守……ッ!」

織莉子「う、うおあああッ!」


爪を失なったスタンドは、腕力もなければ射程距離も短い。

スタープラチナよりも速いというわけでもない。無力となった。

最早腕を胸の前で交差させ防御の姿勢をとらせるしかない。
834 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 15:15:22.55 ID:c1541ufP0

マシンガンのような拳のラッシュは襲いかかる。

リトル・フィートの顔面に亀裂が入ると、絹のようなその肌が同じ形に裂けていく。

リトル・フィートの体からピキピキと音がする。同時に織莉子の白い衣装が赤く染まっていく。


織莉子「ぐぶッ!うゥッ!」

織莉子(ダ、ダメだ……ッ!)

織莉子(逃れられない……!防ぎきれないッ!)

織莉子(……負ける)

織莉子(まさか……まさか、そんな……!)

織莉子(私が……『負ける』ッ!?)

織莉子(そ、そんなことって……!ここで負けるッ!)

織莉子(予知をするまでもなく、死のヴィジョンが見えるッ!本能でわかる!)

織莉子(そんな……『ずるい』……!)
835 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 15:16:45.40 ID:c1541ufP0

織莉子(あんな強くて速いのに……挙げ句に時間を止めるなんて……)

織莉子(ずるすぎる!ずるいッ!不公平だッ!)

織莉子(い、いやだ……!)

織莉子(私が……負けたら……世界が……!)

織莉子(キリカの遺志が……!私の人生が……!人類の未来が……ッ!)

織莉子(い、いやぁ……!)

織莉子(私が……世界を……)

織莉子「……グッ!」

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラッ!」

織莉子「救……うッ……のにィ……ッ!」

織莉子(…………)
836 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 15:17:14.76 ID:c1541ufP0

織莉子(しょうが、ない……わね……!)


――抵抗ができないわけではない。

その防御は、スタープラチナの攻撃を一秒でも長く受ける結果を生み出した。

そして『水晶玉を一球だけ召喚し』まどかに向けて飛ばす余裕を作り出した。


織莉子(鹿目まどか……)

織莉子(貴様さえいなければ……!)

織莉子(貴様さえいなければもっと楽に暁美ほむらを抹殺できたのに……!)

織莉子(許さない……!貴様は、貴様だけはッ!私の手で必ず殺すッ!)

織莉子(こうなればッ!貴様を殺してッ!暁美ほむらに無力感をッ!絶望させてやるッ!)

織莉子(これは賭けだ!暁美ほむらの絶望に、私の魂を賭けるッ!)

織莉子(スタンドに目覚める前に、魔女にしてやるッ!)
837 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 15:17:59.55 ID:c1541ufP0

織莉子(死に晒せッ!鹿目まどか!)

織莉子(そして苦しめッ!絶望しろッ!暁美――)

「ウォォオオオオオオオオオオ!」

織莉子「ほォォォオオォォォォむらァァァァァァアアァァァッ!」

「オラァァァァァッ!」

織莉子「ア゙ア゙アアアアアァァァァッ!」

ボキベキッ!ボゴォッ!


織莉子「ガフッ……!」


ガシャンッ!


織莉子「……」

織莉子(キリ……カ……!)
838 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 15:19:17.54 ID:c1541ufP0

まどか「……!」


スタープラチナの拳がリトル・フィートの体を、その腕ごとブチ抜いた。

そのまま背後にいた織莉子……そのソウルジェムを砕いた。

リトル・フィートの胸に穴があき、両手首は砕け散った。

ボト、ボトッ、と鈍い音を立てて織莉子の両手首が床に落下した。

織莉子の胸は間接的に貫かれた。


白い装束の面積半分近くは既に赤に染まっている。

水風船を口に入れていたかのように血を吹き出た。整った顔と体はズタボロになっている。

リトル・フィートは全身にヒビが走り、ポロポロと破片が落ちていった。

破片の一つ一つは、床に触れる前に塵のようになって消えていく。

――織莉子の意識は完全に途絶えた。

839 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 15:19:53.96 ID:c1541ufP0


リトル・フィートは塵になった。

織莉子の体は、スタープラチナの渾身の一撃を受けて宙に浮き、水平に吹き飛んでいた。

ドゴンッ!

勢いそのまま、壁を壊し穴をあけ、細く白い脚が穴の淵に引っかかったまま動かなくなった。

美国織莉子は死んだ。


しかし、死の寸前。織莉子は自身の闘争心の全て。

織莉子の――救世に生きた人間の魂その全てを賭けた殺意を向けていた。


ボゴンッ!


まどか「――うッ!」

まどか「…………」

まどか(ほむ……ら、ちゃ――)
840 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 15:20:47.59 ID:c1541ufP0

――最後の戦いはすぐに終わった。


スタンドはスタンドでしか傷つけることができない。

故に、例外を除いて魔法武器はスタンドに当たらない。

小さな水晶玉は、スタープラチナの体をすり抜けた。

死の直前に放たれた最期の攻撃。

織莉子の七つの頸椎全てが砕け折れたと同時に、水晶玉は標的の体に到達していた。

ソウルジェムを砕き、肉に埋まり、胸骨柄を砕き、貫通した。

まどかの胸元と背中に円形の穴があいた。そこから湧き水のように血が流れ出る。

スタープラチナの胸にも同型の穴があいたが、その表情は一切崩さず、そのまま霧のように消えた。

――まどかの体は力を失い、水晶玉に引っ張られ崩れ落ちる。変身は既に解けていた。

仲間を失った悲しみ。

スタンドの操作に必死だったこと。

「人を殺した」という実感。

この三つの動揺が、織莉子による最期の一撃を気付かせなかった。

最期の抵抗を想定することがなかった。
841 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 15:21:58.70 ID:c1541ufP0

――
――――


QB「…………」

QB「酷い惨状だ」

QB「やっとまどかと契約できたのに……折角のエネルギーが……」

QB「スタンド……か」

QB「やれやれ」


この場には、片や血まみれ、片や全身ズタボロの遺体。

片方の遺体に覆い被さる負傷者。その側に佇むインキュベーター。

そしてガラスの破片が喉に突き刺さった猫の死体だけが残った。


リトル・フィートが解除されたことで、ほむらの体は元の大きさに戻っている。

ほむらは、まどかの遺体の上で眠った。



鹿目まどか――死亡 美国織莉子――死亡
842 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 15:22:33.66 ID:c1541ufP0

――教室


女子生徒A「何かさっきから騒がしいわね」

女子生徒B「全く……受験生舐めんなっつーの!」

女子生徒C「それにしてもさ、さっきの女の子、可愛かったよね」

女子生徒A「あー、ゆまちゃんって言ったっけ?ペロペロしたい」

女子生徒C「休み時間に会いに行こうよ!」

女子生徒B「賛成ぃ〜!」

女子生徒A「巴さんの親戚の子、だってね。預かってるって言ったけど」

女子生徒B「やっぱ美人の家系はみんな美人なんだろうね」

女子生徒C「遺伝子いいなぁ。少しでいいから分けてほしいよ」

女子生徒B「せめて巨乳遺伝子だけでもいただけないかなぁ」
843 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 15:24:54.27 ID:c1541ufP0

教諭「おい、そこ。さっきからうるさいぞ」

男子生徒A「先生。お言葉っスけどォ〜」

男子生徒B「むしろうるさいのはよそのクラスだって」

男子生徒A「そうそう。そういうの注意してくださいよォー」

教諭「めんどい」

男子生徒C「ダ、ダメ教師だ……」

教諭「転職したいなぁ」

ポリポリ

女子生徒E「クロスワードパズル難しいなぁ」

カリカリ
844 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 15:25:27.29 ID:c1541ufP0

男子生徒D「ネアポリスのピッツァがないなら、大きなカエルを食うしかないじゃない」

男子生徒I「シザーハンズチョキチョキサイコー!」

女子生徒A「何か外天気いいしさあー、一日ぐらい勉強しなくたってさあー」

男子生徒V「さっきからテメーらやかましいぞ!うっおとしいぜッ!」

女子生徒O「な〜にさ!気取っちゃってェ!プンスカプン!」

男子生徒L「うわぁ、プンスカプンだって、ブリっ子キモイわぁ。BIIITCH!」

女子生徒O「おぉ?!やんのか!?女だからってナメくさっとんなよポコチン野郎がッ!」


チョークを咀嚼する教諭、鉛筆の芯を囓る女子生徒、授業中にノートパソコンを開く男子生徒。

椅子を舐める者、音楽を聴く者、爪を切る者、黒板消しクリーナーを分解する者、水を飲む者。

映画談議をする者、殴り合う者、踊り出す者、奇声を発す者、その辺りをバタバタ走り回る者。

教室の中で異様な行動をとる教諭と生徒達の首筋には、奇妙なマークが描かれている。


魔女の結界が生じた。
845 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 15:25:54.78 ID:c1541ufP0

リトル・フィート 本体:美国織莉子

破壊力 D スピード B  射程距離 E
持続力 B 精密動作性 C 成長性 C

人差し指に鋭い爪のある人型スタンド。その性質は「瑣末」
その爪で傷つけたものの大きさを『縮める』能力。また、自身も小さくできる。
縮んでいくスピードは魔力依存。魔力を込めれば込める程早く縮む。
スタンドは引力の魔女レイミの呪い。得たスタンドによっては本体の性格に影響を与えることがある。
今の織莉子は、縮めた人間を踏みつぶしたり嬲り殺したりすることに何の躊躇もない。

A―超スゴイ B―スゴイ C―人間と同じ D―ニガテ E―超ニガテ

*実在するスタンドとデザイン・能力が多少異なる場合がある
846 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 15:31:56.38 ID:c1541ufP0
今回はここまで。次回最終回です。

リトル・フィートは好きですがディアボロの大冒険で酷い目にあったのでホルマジオは嫌いです
思い返せば血がよく出てますねぇ

最終回を終えてスレの余り具合によっては質問コーナーみたいなのを設けてみます。前作みたいに。
HTML化は新年に依頼します。1000いけばそれはそれでいいんですが……
847 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/30(日) 15:32:55.17 ID:5PSlKVRIO
行かなくてもオラオラとかで>>1000行くとみた。

848 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/30(日) 15:35:53.80 ID:32o+Mr2yo

これでほむら以外敵味方全滅?
あとは魔女を処理して終わりか
結局レクイエムは発現しないのかな
849 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 20:48:16.38 ID:c1541ufP0

#15『守る私になりたい』



織莉子が見滝原中学校の敷地に入ってから、まだ三十分か否かくらいしか経っていない。

その間に、ほむらは大きすぎて多すぎるものを失った。

巴マミ。美樹さやか。千歳ゆま。

志筑仁美。早乙女先生。他クラスメイト。エイミー。

そして、鹿目まどか。


目を覚ましたほむらは、すぐに状況を把握できた。

顔に赤黒く酸化した血が塗られている。

そして胸に穴がポッカリとあいた遺体の側で、無表情のまま、その顔を見つめることにした。

眠っていると錯覚に陥りそうな程、顔面だけは綺麗だった。

ふと、キュゥべえがその場にいないことに気付いた時、やっと口が動いた。


ほむら「…………どうして」
850 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 20:49:17.52 ID:c1541ufP0

ほむら「どうして……こんなことに……」

ほむら「巴さんも美樹さんもゆまちゃんも……みんな……みんな死んだ……」

ほむら「それも……私のせいだ……!」

ほむら「私が、世界を滅ぼすと予知されたせい……」

ほむら「私に……スタンドの素質があったせい……」

ほむら「魔女レイミが、生まれてしまったせい……」

ほむら「レイミを殺すことができなったからだ……」

ほむら「だから、こんなことになった……」

ほむら「…………」
851 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 20:55:26.58 ID:c1541ufP0

ほむら「……私は」

ほむら「私は、鹿目さんを守りたい、守るために魔法少女になった」

ほむら「けど……この時間軸はどう?」

ほむら「魔法少女でない鹿目さんに『守られ』た……」

ほむら「そして私は何度も不甲斐ない無様な様を……」

ほむら「この……この少しの間だけで二回も気を失った」

ほむら「大切な時に……結局何もできなかった」

ほむら「鹿目さんに守られる私でなくて、守る私になりたいと誓ったのに……」

ほむら「私は何のために守ると願ったのか……!」
852 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 20:56:58.63 ID:c1541ufP0

ほむら「何て……何てザマだ……私は……!」

ほむら「情けない……無様すぎる……」

ほむら「う……うぅ……」

ほむら「うぅぅぅ……!」

ほむら「私は……私は!また救えなかった……!」

ほむら「……守れなかったッ!」


ダンッ!

ほむらは感情にまかせて床を殴った。

無意識的に魔力で力を高めていたため、骨にひびが入る。

下唇の肉を噛み千切り、ダラダラと血を流す。

痛みは感じない。
853 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 20:59:11.54 ID:c1541ufP0

ほむら「また守れなかったッ!」

ほむら「それどころかッ!みんな死んだッ!」

ほむら「全て失ったッ!」

ほむら「ああ……スタンドッ!」

ほむら「スタンドという……『呪い』が……!」

ほむら「私はスタンドという概念が憎いッ!」

ほむら「よくも!よくもッ!」

ほむら「よくもまどかをッ!」

ほむら「スタンドなんかがなければッ!」
854 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 21:00:37.20 ID:c1541ufP0

ほむら「私にスタンドが発現する可能性がなければッ!」

ほむら「スタンドという概念が存在したからッ!」

ほむら「引力の魔女などというものがいなければッ!」

ほむら「絶対に殺してやるッ!あの魔女めッ!」

ほむら「殺してやる……!許せない……!」

ほむら「グッ……!クゥゥ……!」

ほむら「…………」

ほむら「……いや」

ほむら「違う……」

ほむら「悪いのは私だ……」
855 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 21:02:41.41 ID:c1541ufP0

ほむら「私が弱いから……」

ほむら「私にスタンドの素質があったことよりも、レイミのせいでも何でもない……」

ほむら「私の弱さが悪いんだ。魔法少女としての実力だけでなく……精神的にも……」

ほむら「佐倉杏子の不意打ちを食らわなければ……」

ほむら「呉キリカを変わり者でなく怪しい人物として見ていれば……」

ほむら「私が……あの時、時を止めて美国織莉子を殺せていれば……」

ほむら「時を止めてさえいれば、誰だって殺せていたはずだ」

ほむら「いざという時は時を止めればいいなどとほざいておきながら……!」

ほむら「私は結局、何もできなかった……」

ほむら「結局、それができなかった……!」
856 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 21:03:54.69 ID:c1541ufP0

ほむら「クラスメートがいたからだ。人を殺すのが怖かったからだ」

ほむら「それを容易にできる勇気を持っていれば……」

ほむら「生半可な覚悟でなかったなら……」

ほむら「殺せない相手ではなかった」

ほむら「勝てない相手ではなかった……!」

ほむら「殺そうと思えば!呉キリカも佐倉杏子も美国織莉子も!誰であろうと殺せていたはずだったのにッ!」

ほむら「私の弱さが……それをできなかったこの性格が全て悪い!」


ほむらは立ち上がり、眼鏡を取り、投げ捨てた。

そしておさげを結っていたリボンを、髪ごとちぎるくらいの勢いで引き解き、同様に捨てた。

ほむらは、まどかを守るために契約し魔法少女となった。

そのことに、闘っている自分に少なからずとも「誇り」があった。

しかし、その誇りが砕け散ったのだ。この数分で。

あるいは、まどかにスタンドという力が目覚めた時点で誇りに皹が入っていたのかもしれない。
857 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 21:05:02.06 ID:c1541ufP0

ほむら「こんな眼鏡はもういらない!」

ほむら「おさげなんかいらないッ!」

ほむら「『弱い私』を思い出すッ!いらない!眼鏡もおさげもいらないッ!」

ほむら「愚図でノロマで!臆病で貧弱で!卑怯者のド低脳の役立たず!」

ほむら「守ってもらうことしかできなかった、そんな私を思い出すッ!」

ほむら「私はッ!私は……ッ!」

ほむら「ハァ……ハァ……!」

ほむら「……うぅ」


激高と嫌悪が落ち着き、今までの自分を捨てた瞬間、ほむらの中の何かが切れた。

目から涙が溢れ出した。

涙は額から流れていた血と混じり、薄い赤の液体となっている。
858 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 21:07:38.58 ID:c1541ufP0

ほむら「ごめんなさい……」

ほむら「本当にごめんね……まどか……」

ほむら「今度こそ……次こそ、あなたを守るからね……」

ほむら「守ると誓ったのに……また、私はあなたを守れなかった」

ほむら「本当にごめんなさい。それを許してとは言わない」

ほむら「ただ、今は……魂の安らぎを祈らせて……」

ほむら「次こそ……私は、あなたを救うからね」

ほむら「信念さえあれば……」

ほむら「信念さえあれば人間に不可能はない。人間は成長する……してみせる」


ほむらはまどかの遺体、その顔から目を逸らし、振り返った。
859 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 21:08:43.30 ID:c1541ufP0

瞬間、近くに魔女の結界が生じたことを感じ取った。

グリーフシードには余裕がある。

しかし、力が出ないため、見なかったことにした。

体が重い。血を失ったからではない。

体が痛い。負傷を受けたからではない。


ほむら「……さようなら。まどか」


そのままほむらは、この場を去っていった。

貫いた思いが、未来を拓くことを信じて。
860 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 21:10:26.74 ID:c1541ufP0

某県の見滝原中学校にて、当日出席・出勤していた生徒職員の全員が行方不明となる事件が発生した。

今回の事件は全国各地で大々的に報道された。

警察の捜査が入った所、既に校内の壁や天井が酷く破壊されていたらしいが、その詳細は公表されていない。

また、正確な行方不明者数も今のところわかっていない。


同中学校の体育館にて、当校生徒である鹿目まどかさん、他校生徒である美国織莉子さんの遺体が発見された。

美国さんの遺体の損傷は激しく、骨格が変形し内臓が破裂している。死因は外傷性ショックとされる。

鹿目さんの遺体の胸には杙創があり、それが致命傷となったと思われる。

司法解剖を行ったところ、鹿目さんの体内にはガラスと思われる破片があることがわかった。

ペンダントか何かが、胸を貫いた際に体内にめり込んだと考えられる。凶器は未だ特定できない。
861 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 21:12:45.88 ID:c1541ufP0

警察は事件の捜査を続けるとともに、事件を通報した少女の捜索にあたっている。

某県教育委員会は、当日欠席していた生徒達の心のケアに力を入れる。という方針を語った。


また、美国さんが故美国久臣元議員の娘がいるということが、事件をさらに複雑化させている。

「被害者の美国久臣氏の娘は実は加害者で、社会への復讐のために今回の事件を首謀した」

という仮説を、教育評論家である虹村氏はとある情報サービスで呟いた。

その後「不謹慎だ」「被害者を侮辱している」といった非難を浴び、アカウントを削除した。


(某ニュースサイトの記事より抜粋)
862 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 21:13:19.32 ID:c1541ufP0


事件の真相――。


美国織莉子、呉キリカ、佐倉杏子は魔法とスタンドを駆使し襲撃し、多くの生徒を殺害した。

そして魔法少女同士の死闘の結果、暁美ほむらだけが生き残った。


暁美ほむらが学校を去った後、そこに魔女の結界が誕生した。

それは呉キリカが濁ったグリーフシードを予め設置していたためである。

学校に発生した結界に住む魔女と使い魔は、全ての遺体を食し、結界に取り込まれた。

――結果として結界に巻き込まれなかった、体育館にある二人分の遺体以外がのこの世から消えた。
863 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 21:14:10.82 ID:c1541ufP0


一週間後。


行方不明者の一人。

暁美ほむらは今、とある高層建築物の屋上に座り夜風に当てられている。

ストレートの黒髪は夜の闇に同化している。表情にも影が濃くなった。

そのすぐ隣に、対照的に白い小動物が歩み寄り、ちょこんと座った。


既にほむらは、「あなたの目的を知っている」ということを伝えてある。
864 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 21:15:00.75 ID:c1541ufP0


ほむら「…………」

QB「結局、ここ見滝原では誰一人として魔女にならなかった」

QB「全く……困ったものだね。スタンドというものは……」

ほむら「……そうでしょうね」

ほむら「魔女になる前に死んだらエネルギーなんて無いもの」

QB「うん。大損だよ」

QB「折角まどかとの契約が取れたのに……」

ほむら「…………」

ほむら「スタンドは……」

QB「ん?」

ほむら「呪われた能力は……人を変える」
865 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 21:15:56.24 ID:c1541ufP0

ほむら「まどかは……全てを守る戦士の風貌を得た。彼女は特別だった。しかし……」

ほむら「佐倉杏子は……人間らしさを完全に失ってしまったとでも言えばよいのか……」

ほむら「美樹さやかは……説明はできないが、どこか違和感があった気がする」

ほむら「巴さんは……わからない。ゆまちゃんも同じく」

ほむら「スタンドは……人の精神を成長させるか、劣化させてしまう」

QB「……随分とあやふやだね。成長と劣化は全く意味が違うじゃないか」

QB「でも杏子が一番、それが顕著だったと僕は感じたね」

ほむら「……そう」

QB「どうにも反応が薄いね。この最近で君も随分と変わってしまった」

ほむら「……」

QB「少なくとも相槌を打ってくれていたのに」
866 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 21:18:51.36 ID:c1541ufP0

ほむら「……私は、基地に侵入して銃器を盗んできた」

ほむら「そして訓練した。銃や対戦車兵器の扱い方、威力と弾速を把握した」

ほむら「そして……レイミはもちろんのことあらゆる魔女を殺してきた」

QB「あぁ。よく働いたと思うよ」

ほむら「全ては、下積みに過ぎない」

QB「下積み?」

ほむら「私は……あの弱い私と決別した」

ほむら「もう二度と、武器を盗むことと魔法少女を殺すのに躊躇はしない」

ほむら「どんな魔女にも、決して負けない」

QB「それは、ワルプルギスの夜も含まれるのかい?」

ほむら「……ワルプルギスを殺すことが、私のそもそもの目的」

QB「へぇ……そうだったんだ」
867 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 21:20:20.58 ID:c1541ufP0

QB「非常に興味深いね」

QB「自分の身を守るために戦うというのはわかる」

QB「あるいは友人を救うために戦うというのもちょっとわからない気持ちはあるけど……まあ理解はできる」

QB「でも、死ぬためにワルプルギスの夜に立ち向かう気持ちはよくわからない」

QB「はっきり言って、君一人では無理だね。今更仲間を集めるつもりかい?もう数日も経たずに来るよ」

ほむら「何を勘違いしているの?」

QB「……?」

ほむら「私の戦場はここではない」

QB「じゃあ、やっぱり逃げるのかな?」

ほむら「逃げない。ワルプルギスの夜からは、決して」

QB「矛盾してるよ」
868 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 21:21:18.51 ID:c1541ufP0

ほむら「あなたには話していないことだけど……」

ほむら「私の願いは、まどかとの出会いをやり直すこと。則ち、時間遡行の能力」

ほむら「つまり、私はこの時間軸から去るのよ」

ほむら「まどかがいない世界のワルプルギスとは戦う価値がない」

ほむら「逃げるのではなく、無視するだけ。スーパーセルが収まるまで、見滝原を離れるだけ」

QB「…………」

QB「……そうかい。なるほど。時間遡行者か……」

QB「言われてみれば、時間停止の能力や君と契約した覚えがない理由、色々頷けることもある」

ほむら「そう」

ほむら「そして私は次の時間軸へ……旅立つ」
869 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 21:23:16.43 ID:c1541ufP0

ほむら「まどかを救うために」

QB「…………」

ほむら「だからこそ、決意した。私は過去の自分から決別したのよ」

ほむら「今の私は……誰であっても殺す時は殺す」

QB「それはまどかでもかい?」

ほむら「……契約したまどかに救う意味がない。もちろん撃てる。それができる覚悟をするために、私は虚しい時間を過ごした」

ほむら「それくらいできないと、私は勝利と栄光を掴めない」

QB「まどかに助けられて今の君がいるというのに……わけがわからないよ」

ほむら「言ってなさい。私が救う対象は既に別のまどかになっているのよ」

ほむら「私の目的は、まどかを救うこと。それ以上でもそれ以下でもない」
870 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 21:25:00.91 ID:c1541ufP0

声の調子が少し荒々しかった。苛立っているようだった。

冷たい目でキュゥべえを一瞥し、スッとほむらは立ち上がる。


QB「おや、もう行くのかい?次の時間軸とやらに」

ほむら「違うわ。そもそもまだ砂時計の中身が空になっていないから遡行はできない」

QB「グリーフシードは?」

ほむら「うるさいわね」

ほむら「もし呼ばれてもいないのに私の前に現れたら事情を知ろうが知らまいがどのインキュベーターでも散弾銃でバラバラにしてやるわ」

ほむら「個体が惜しければ、他のインキュベーターにも私のことを知らせておくといい」

QB「……わかったよ」

QB「まぁ、どちらにしても、君が時間遡行者であることが本当なら……」

QB「エネルギーを回収以前にこの世界から消えてしまうのだろう」
871 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 21:26:00.84 ID:c1541ufP0

QB「だから別に会う必要もない……だから呼ばれない限り現れないよ。心配しなくていい」

QB「それじゃあ……ひとまずさよなら、なのかな?」

QB「…………って」

QB「もう、いないや」

QB「……………………」

QB「……やれやれ」

QB「まどかの『願い』……」

QB「叶えた僕が言うのもなんだけど、結局何のことかよくわからなかった」

QB「ほむらはその意味、何か知ってるんじゃないかと思ったんだけど……聞きそびれちゃったな」

QB「まぁ、いいか。ここももう滅びる……僕も別の場所へ行こう」

QB「……そういえば」

QB「そういえば結局、ほむらはまどかが契約したことを知っていたのかな?」
872 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 21:27:18.74 ID:c1541ufP0

――
――――


実際にあった会話――。


ほむらが美国織莉子を迎え撃つべく体育館の中央に立っている頃。

まどかは体育館内の放送室に、隠伏、待機している。

まどかは不安だった。


まどか(……わたしにはスタープラチナという能力がある)

まどか(だけど、魔法少女でない以上……厳しいものもある)

まどか(でもわたしだって、ほむらちゃんを守りたい。ほむらちゃんを救いたい)

まどか(なのに……勇気が……出ない)

まどか(ほむらちゃんの隠れていてという言葉を無視してまで突貫する勇気がない)

まどか(わたしは……)

まどか「勇気が欲しい……」
873 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 21:28:09.46 ID:c1541ufP0

QB「まどか」

まどか「……キュゥべえ」

QB「探したよ」

まどか「……どこに行ってたの?」


もう少し前にキュゥべえが来ていたら、まどかの不安も少しは安らいだかもしれない。

しかし、まどかは既に、ほむらから真実を聞かされている。

魔法少女が魔女になること。自分が世界を滅ぼす魔女になること。

ほむらとは出会う前から友達だったこと。別の世界の自分は魔法少女だったこと。

全ての元凶は、目の前の異星人であること。

キュゥべえに対して、決して良い感情は浮かばなかった。

もし、まどかが杏子のような性格だったら、顔を見た瞬間に舌打ちをしていたことであろう。
874 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 21:28:39.51 ID:c1541ufP0

QB「まどか。落ち着いて聞いてほしい」

まどか「…………」

QB「マミが死んだ」

まどか「…………」

まどか「……え?」

QB「ゆまも、さやかも死んだ」

まどか「ちょ、ちょっと、待って……」

QB「代わりと言ってはなんだけど、杏子とキリカが死んだ」

まどか「マミさんが……さやかちゃんが……ゆまちゃんが……」

まどか「し、死ん……?」

QB「事実だよ」
875 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 21:30:52.61 ID:c1541ufP0

まどか「そんな……そんな……!」


嘘ではない。

キュゥべえは物事を隠すことはあれど、嘘は決してつかない。

ほむらから聞かされた特徴。

そしてこういう状況で嘘を付く意義もない。

マミ、さやか、ゆまが死んだという紛れもない真実を、まどかは突きつけられた。


まどか「…………」

QB「まどか。契約をするのはあくまでも君の自由意志だ」

QB「けれども……」

QB「君なら三人を、望むなら五人でも十人でも、生き返らせるなんて願いでも可能だ」

QB「あるいは今回の事件をなかったことに、時間を巻き戻すこともできないこともない」

QB「時間を巻き戻すのであれば、今回の犠牲者はゼロということになるね」
876 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 21:37:26.74 ID:c1541ufP0

まどか「…………」

QB「さて、どうする?」

まどか「…………」

まどか(わたしが契約して……)

まどか(みんなを生き返らせて、みんなでワルプルギスの夜を超える)

まどか(この選択のメリットは……みんながこの世界で生きているということ)

まどか(デメリットは、スタンドがあるとは言え、全員が全員、無事にワルプルギスの夜を倒せるとは限らないこと)

まどか(そして……ほむらちゃんの望みではないこと)

まどか(だから……違う)

まどか(わたしがすべきことはこれじゃない)
877 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 21:38:18.43 ID:c1541ufP0

まどか「キュゥべえ……わたし、契約する」

QB「そうかい。生き返らせるのかな?」

まどか「違う。生き返らせない」

QB「…………」

まどか「ほむらちゃんはそれを望まない……」

まどか「ほむらちゃんは、魔法少女のわたしを求めていないから」

QB「それじゃあ、君は……」

QB「……君は、この状況下で一体何を望むんだい?」

まどか「…………」
878 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 21:39:35.97 ID:c1541ufP0

まどか「わたしは……『託す』」

QB「……託す?」

まどか(ほむらちゃんに託すのは……ゆまちゃんであり……さやかちゃんであり、マミさん、そしてわたし……)

まどか(生き延びて……ほむらちゃん)

まどか(あなたは『希望』!)

まどか(自分勝手なことだと思うけど……あなたなら……)

まどか(あなたならできる!)

まどか(あの三人だって……あなたなら救えるはず!)

まどか(わたしには、これくらいのことしかできないけれど……ほむらちゃん)

まどか(『次』で……みんなを救って……!)
879 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 21:40:14.50 ID:c1541ufP0

QB「とにかく、契約するんだよね?」

QB「さぁ、まどか。君はどんな願いでその魂を輝かせる?」

まどか「わたしの……」

まどか「わたしの願いは……」

まどか「ほむらちゃんに、希望を託したい!」

まどか「ほむらちゃんに、大切なものを救う力、守る力を!」

QB「……それが君の望みだね」

QB「君の願いは叶えられる」


―――――
―――

880 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 21:41:14.24 ID:c1541ufP0

――次の時間軸


目を覚ました時。いつもの病院の天井。

時間遡行をした。今は『次の一ヶ月』である。

ほむらはまず眼鏡を外した。

ソウルジェムをこめかみにあてる。

ぼやけた視界がハッキリとする。

次におさげを解き、ファサ、と髪をかきあげた。
881 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 21:41:44.64 ID:c1541ufP0

その夜。

ほむらは目を開けたその当日に病院を抜け出した。

そして、時間停止の魔法を用いてめぼしい武器を一通り盗んできた。


ほむら「…………」

ほむら「そろそろ帰らないといけないわね……」

ほむら「しかし、新しい時間軸初日に病院から抜け出して武器を集めるというのは……」

ほむら「流石に焦りすぎだったかしら。グリーフシードに余裕はないのに……」

ほむら「いえ……それでいい」

ほむら「早くていい」

ほむら「今まで、私はトロかった……早いに越したことはない」

ほむら「……引力の魔女レイミ……この時間軸でも現れたりするだろうか」

ほむら「…………」
882 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 21:42:40.70 ID:c1541ufP0

――
――――


ほむらは……砂時計が再び回転するまでの期間、別の地域で過ごしていた。

東京ではない。

両親との会話は感傷に繋がり、弱くて愚図な自分を呼び起こすものだと考えていたためだ。

十数分歩けば海岸を一望できる高台がある――そんな地域にいた。

そこで時間遡行をしてもよかったが、しなかった。


ほむらは見滝原に帰ってきた。

見滝原でやり直すことに意義があると考えていたからだ。

戻ってきて、目に入った物。それは瓦礫、瓦礫、瓦礫、瓦礫、瓦礫。

未曾有のスーパーセルにより、見滝原のほぼ全域が壊滅していた。

その災害により住民のほとんどが犠牲となった。

最も被害の大きかった地域の生存者は、現時点で一人としていない。

住んでいたアパートも、知り合いが暮らしていたマンションも、避難所も全て壊滅した。
883 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 21:46:56.71 ID:c1541ufP0

ワルプルギスの夜は、予定よりもずっと早く現れた。


これまでの時間軸では何時何分に現れたかいちいち確認していなかったが――

明らかに一日単位で早かった。

理由はわからない。

ほむらは身を潜めている地域で「見滝原と風見野の魔法少女が死んだ」という風の噂を聞いていた。

見滝原に、他の市町村から魔法少女が集まっていたそうだった。


――ほむらは考えた。

「スタンド使いとスタンド使いは引かれ合う」という格言がある……。

スタンドの元凶、レイミは「引力」の魔女と呼ばれていた。

その格言が正しいとすれば、本当に引力のような力が働いていたのかもしれない。

自然に集まるようにプログラムされているのかもしれない。
884 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 21:47:52.30 ID:c1541ufP0

ならば果たして……魔法少女と魔女の間。

その関係にも引力というものはあったりするのだろうか。

魔法少女のいるところに魔女が現れるとすれば……

あるいは魔女の現れるところに魔法少女が無意識の内に来るものだとすれば……

それならワルプルギスの夜が一日早く現れた理由も納得がいく。

確証も根拠もない。

ただのループにおけるラグと考える方が自然ではあるが……。
885 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 21:48:35.53 ID:c1541ufP0

各地の魔法少女達は見滝原に集まっていた。

それが本当だとして、その魔法少女達はワルプルギスの夜と闘ったのだろうか。

時期的に見滝原に来て早々現れた伝説級の魔女にどうしただろうか。

戦ったのだろうか。

この惨状からして少なくとも勝利はしていないだろう。

逃げたか、犠牲となったか。

後者なら実に報われない。彼女達にも基本的に家族はいるだろう。

その家族も報われない。娘がわざわざ死にに行ったようなものだから。
886 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 21:49:44.08 ID:c1541ufP0

家族と言えば……鹿目家では娘の死をどのように感じていたのだろう。

気丈な気さくな母親は涙を流して泣いたのだろうか。

人の良い優しい父親は妻をいかに慰めたのだろうか。

死を知らない弟は姉の帰りを待っていたのだろうか。

そしてそのまま、倒壊した避難所の下敷きとなったのだろうか。

……想像しただけで吐き気を催す。



――ほむらは考えるのをやめた。

――――
――
887 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 21:52:25.47 ID:c1541ufP0

ほむら「…………」

ほむら(まどか……)

ほむら(私は……あなたを守る私になりたい。……そう、誓った)

ほむら(私は、成長できたのかしら……あなたを守れる私に近づけているだろうか?)

ほむら(……私は、動揺をしてしまった)

ほむら(エイミーを見せつけられて、動揺をしてしまったから負けてしまった)

ほむら(だから、もうそんな心の弱さは捨てたつもりよ)

ほむら(例え、あなた以外の誰かがやむを得ない犠牲となっても……絶対に、動揺しないと誓った)

ほむら(あなた以外の誰が死のうと、それがゆまちゃんやエイミーであろうと、絶対に……)

ほむら(絶対に必ずや!次こそあなたを守ってみせる!)

ほむら(あなたと交わした約束……必ず果たすッ!)
888 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 21:53:22.67 ID:c1541ufP0

ほむら「…………」

ほむら「さて、と」

ほむら「病院に戻る前に、軍の基地とチンケな暴力団事務所からいただいてきた武器……」

ほむら「その整理でもしようかしら」

ほむら「……爆弾は作るべきか?」

ほむら「手榴弾を多量に手に入れた……わざわざ作る必要はあるだろうか?」

ほむら「……いえ、あって困ることもないでしょう」

ほむら「えっと……」

ほむら「ハンドガン、ショットガン、ライフル銃、マシンガン、手榴弾、ロケットランチャー……」

ほむら「それから……これは――」



ほむら「――痛ッ!?」
889 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 21:54:30.10 ID:c1541ufP0

ほむらの指にチクリと痛みが走った。

思わず盾から手を引き抜く。すると、白い指から、赤い血が流れ出していた。


ほむら「な、何……?」

ほむら「指を切った……どうして?」

ほむら「強いて言えばナイフ……」

ほむら「いや、しかし鞘がついている……だから切るような物は……」

ほむら「……え?」

ほむら「何、これ……?」

ほむら「『こんなの』……盾に入れた覚えがない……」

ほむら「いつ、どこでこんなものを……?」

ほむら「一体これは……?」
890 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 21:55:28.03 ID:c1541ufP0




ほむら「『矢じり』……?」




織莉子「私達が救世を成し遂……」キリカ「引力、即ち愛!」(完)


<| TO BE CONTINUED..... 
891 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 22:05:36.72 ID:c1541ufP0
これにて完結です。

スタンドクロスは元々過去二作の波紋鉄球クロスの続編でしたが、
色々あって新しいものとして書き始めた次第です。
初めての地の文や今までで一番長くなった出来に戸惑いましたが、何とかなりました。
何とか完結できて感無量です。

最後までお付き合いいただきありがとうごさいました。ディ・モールトグラッツェでした。


ちなみに本作は二部構成となっています。マミさんのスタンドが未判明なのはそういう理由です。
肝心のそれはまだできてませんが、完成し投下した際はよろしくおねがいします。
892 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 22:06:29.23 ID:c1541ufP0

おまけ:スタンドとかの解説まとめ


スタープラチナ 本体:鹿目まどか

破壊力 A スピード A 射程距離 E
持続力 E 精密動作性 A 成長性 E

まどか曰く、「強くて速い」人型スタンド。その性質は「勇気」
誰かの力になりたい、守りたいという強い思いから発現した。
何ら特別な能力は持たないが、最強レベルの性能を誇る。
しかしまどかの精神力に伴っていないため、その力を出し切れていない。
まどかは、このスタンドには成長の余地があるという確信がある。

A―超スゴイ B―スゴイ C―人間と同じ D―ニガテ E―超ニガテ

*実在するスタンドとデザイン・能力が多少異なる場合がある



ドリー・ダガー 本体:美樹さやか

破壊力 A スピード A  射程距離 C
持続力 A 精密動作性 C 成長性 D

魔法武器の剣に取り憑いているスタンド。その性質は「転嫁」
自身へのダメージの「七割」を刀身に映りこんだ相手に『押しつける』能力。
あらゆる肉体的ダメージを反射するが、ソウルジェムへの衝撃は返せない。
悪い結果が訪れても自分に落ち度はないはずだ。という責任転嫁願望から発現。
魔法武器に憑いているため、このスタンドは変身しないと扱えない。

A―超スゴイ B―スゴイ C―人間と同じ D―ニガテ E―超ニガテ

*実在するスタンドとデザイン・能力が多少異なる場合がある
893 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 22:06:56.85 ID:c1541ufP0

キラークイーン 本体:千歳ゆま

破壊力 A スピード C  射程距離 E
持続力 D 精密動作性 C 成長性 B

触れた物を『爆弾』にする能力(一度に一つだけ)。その性質は「護身」
キラークイーンが触れた物はどんな物でも爆弾になる。
爆弾の大小問わず大爆発。強い力が欲しいと願ったことで発現。
体型はゆまと同じくらい。ゆまはキラークイーンを「猫さん」と呼ぶことがある。
左手の甲から、魔力を探知して自動追尾する爆弾戦車「猫車」を出すことができる。

A―超スゴイ B―スゴイ C―人間と同じ D―ニガテ E―超ニガテ

*実在するスタンドとデザイン・能力が多少異なる場合がある



ティナー・サックス 本体:志筑仁美

破壊力 ― スピード ―  射程距離 B
持続力 B 精密動作性 E 成長性 C

『幻覚』を見せるスタンド能力。その性質は「逡巡」
実際に見た光景を再現、現実にあり得ないような光景を作り出す。
幻覚に捕らわれた相手は五感の全てで騙されてしまう。
幻覚は「空間」に作用するため精密動作性は低い。
しかし、魔女の力と共鳴し一度だけ「個人」を対象にした幻覚を作れた。
仁美が抱いている心の迷いが反映されて発現したと思われる。

A―超スゴイ B―スゴイ C―人間と同じ D―ニガテ E―超ニガテ

*実在するスタンドとデザイン・能力が多少異なる場合がある
894 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 22:07:22.16 ID:c1541ufP0

リトル・フィート 本体:美国織莉子

破壊力 D スピード B  射程距離 E
持続力 B 精密動作性 C 成長性 C

右手人差し指に鋭い爪のある人型スタンド。その性質は「瑣末」
その爪で傷つけたものの大きさを『縮める』能力。また、自身も小さくできる。
縮んでいくスピードは魔力依存。魔力を込めれば込める程早く縮む。
スタンドは得たものによっては本体の性格に影響を与えることがある。
今の織莉子は、縮めた人間を踏みつぶすことに何の躊躇もない。

A―超スゴイ B―スゴイ C―人間と同じ D―ニガテ E―超ニガテ

*実在するスタンドとデザイン・能力が多少異なる場合がある



クリーム 本体:呉キリカ

破壊力 A スピード C  射程距離 E
持続力 C 精密動作性 C 成長性 E


『暗黒空間』という概念を創造・干渉する能力。その性質は「孤立」
フードのような姿をしている。それを被ることで暗黒空間を創る。
その中に隠れることで姿を消し、浮遊して移動ができる。
移動中に触れたものは暗黒空間へ飲み込まれて粉微塵にされる。
暗黒空間の大きさはキリカの身長を直径とした球の範囲。
暗黒空間内外で干渉ができないため、隠れている間はキリカの魔法は作用しない。
孤独感や暗闇のような心底の精神が反映されて発現した。

A―超スゴイ B―スゴイ C―人間と同じ D―ニガテ E―超ニガテ

*実在するスタンドとデザイン・能力が多少異なる場合がある
895 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 22:07:50.40 ID:c1541ufP0

シビル・ウォー 本体:佐倉杏子

破壊力 ― スピード C  射程距離 B
持続力 A 精密動作性 C 成長性 E

「過去に捨てたもの」の『幻覚』を見せる能力。その性質は「浄罪」
「捨てたもの」は相手に物理的、あるいは精神的に襲いかかる。
図書室や廃教会等の屋内に「結界」を設定し、その結界に入り込んだ相手に作用。
結界内で本体が殺された場合、殺した相手に本体の捨てたものがおっかぶる。
罪悪感がある限り、何者でも他人に押しつけ清められるしか逃れる方法はない。
自分の捨ててきたものを清めたいという願望から発現した。

A―超スゴイ B―スゴイ C―人間と同じ D―ニガテ E―超ニガテ

*実在するスタンドとデザイン・能力が多少異なる場合がある



水を熱湯に変えるスタンド 本体:M市の魔法少女

破壊力 B スピード C  射程距離 B
持続力 C 精密動作性 C 成長性 C

水を『熱湯』に変えるスタンド。その性質は「傍流」
半径42m以内に存在する水の温度を最大99.974℃まで上昇させる。
また、生物を構成する水分の温度も上昇させることも可能。
ただしその場合は直に触れなければならない。

A―超スゴイ B―スゴイ C―人間と同じ D―ニガテ E―超ニガテ

*実在するスタンドとデザイン・能力が多少異なる場合がある
896 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 22:08:16.75 ID:c1541ufP0

Raymea(レイミ)

引力の魔女。その性質は「伝承」
『スタンド』という異世界、別次元の概念この世界に引き入れた。
あるいは創造した、または魂の持つ未知の力を覚醒させたとされる。
その力は必ずや平和と誇りに繋がるものだと信じている。
しかし魔女自身はそのスタンドを持っていない。


Cavenome(カヴェノメ)

引力の魔女の手下。その役割は「発現」
結界内の断層にある穴そのものが使い魔である。
近づいてきた者に噛みついて歯形を残す。
歯形をつけられた者はスタンドという能力を発現する。
人によっては高熱を伴い、そのまま死んでしまうこともあるらしい。


Sabbath(サバス)

引力の魔女の手下。その役割は「選別」
結界内を住民のように彷徨う、黒いマントを羽織ったマネキンのような姿。
「スタンド」の素質を見出し、カヴェノメへ誘導する。
レイミに敵意を向ける者、既にスタンドを持つ者は排除する。
則ちスタンドの素質のない者には、さもなくば死への道。



レクイエム 本体:此岸の魔女 Homulilly(ホムリリー)

破壊力 − スピード −  射程距離 −
持続力 − 精密動作性 − 成長性 −

ほむらが発現するかもしれなかったスタンドの先の領域(レクイエム)
レクイエムとは全ての魂を支配するエネルギーのことである。
予知で見たマギアは地球上の全生命の魂を十日以内に『消滅』させる。
魔女を殺さない限りレクイエムは暴走を続けるが、魔女に干渉すると死ぬ。
このレクイエムは織莉子の予知で見た可能性の一つに過ぎない。

A―超スゴイ B―スゴイ C―人間と同じ D―ニガテ E―超ニガテ
897 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 22:14:42.76 ID:c1541ufP0
これにてホントのホントに終わりです。

前作でも似たようなことをしましたが、何か質問コーナー的な物を設けます。
何か聞きたいこと等があったらどうぞ。
特になければスタンド談義するなりクールに去るか適当にオラオラとか書くなりしてください


そんなわけでHTML依頼は少し間を置いてからします。
それまでに1000いったらそれはそれでいいのですが
898 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/30(日) 22:16:56.72 ID:OnOo9x26o
元旦には新品のパンツおろすんですか?


という冗談はおいておいて、キリカがクリームだったのは甘いもの繋がりですか?それとも吸血鬼繋がりですか?
899 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/30(日) 22:19:09.74 ID:V7BdpQnN0

改めて感じるリトル・フィートvsスタプラの絶望感
900 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/30(日) 22:30:15.53 ID:32o+Mr2yo
完結乙
>二部構成
ほう…
これは楽しみだ

ワルプルに立ち向かわないからかスタンドによる?キャラの変質のせいか
あまり雰囲気出てなかった気がした
織莉子って手頃な敵役として便利だなってのが一番の感想な時点で…
終わったらなんか言おうかと思ってたが現時点での評価は保留
だから二部はよww
901 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/30(日) 22:32:23.61 ID:c1541ufP0
>>898
ブルマ。……というのは冗談として、何となくクリームっぽいと思った+名前は甘い物+主に盲信してるという繋がりです。
902 : ◆H5Ebiy6tLDQ1 [saga]:2012/12/30(日) 22:33:36.55 ID:c1541ufP0
今日はこの辺りで落ちますが、質問の類があり次第答えさせていただきます。
あとトリップを付けてみる

それでは
903 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/30(日) 22:37:27.30 ID:OnOo9x26o
二部があるからそれの伏線なんだろうなで終わることが多くてあんまり質問することがないなぁ……

ホワイトスネイクとかヨーヨーマッとか占いの龍の奴とかみたいな自分でも喋るタイプは出て来てないなそういや
904 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/30(日) 22:39:08.15 ID:U5XVySh2o

二部楽しみにしてます。
905 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/30(日) 22:44:41.57 ID:ZMBRX62AO
各々のスタンドを採用した理由とか知りたい
恭介にハーヴェストが特に気になる。まあなんとなくで終わりそうだけど


しかし第二部があるからマミさんの能力が未判明ってことはだよ
第二部にそのマミさん出るってことだよな…
D4C来るのか…?
906 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/30(日) 22:53:21.31 ID:V7BdpQnN0
二部構成…とりあえず「魔法少女候補が二人殺された」や
我々は知っているッ すでに事切れた二人の少女の正体を…ッ!

みたいな出だしで始まらなければ嬉しいなって思ってしまうのでした
907 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/30(日) 22:56:05.82 ID:G4GtW2xAO
マミさんは本体が死んで発動する系のスタンドなのかと思ったが違ったか

二部はスタンド変わるのかな
能力の読み合いがスタンド使い同士の戦いの1つのキモだから
判明してるとそれがなくなってしまうが
908 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/30(日) 23:03:40.67 ID:ZMBRX62AO
>>907
このSSでは割とすぐにあっさり能力教えてるし、方針そのままなら変わらなくても特に問題なかろう
909 : ◆H5Ebiy6tLDQ1 [saga]:2012/12/30(日) 23:16:35.53 ID:c1541ufP0
聞こうと思ってたことを聞くのを忘れてました

初めて登用した外伝組の口調や性格、いかがでしたでしょうか?
コレジャナイ感がスゴイとかこういうシーンはもう少しハイ!って感じだとか、ご指摘等をいただければ幸いです。


いただいた質問は申し訳ないのですが、明日答えさせていただきます。眠いです
910 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/30(日) 23:21:17.96 ID:OnOo9x26o
別に違和感ないと言うかスタンド補正ありませんって言われても違和感ないくらい

杏子もシビルウォーの影響もあるけど、本編の打算的な感じがあって良かった
911 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/12/30(日) 23:26:37.67 ID:ZMBRX62AO
杏子がああいう悪者に書かれるのは珍しいと思ったけど、ジョジョの悪役って感じで癖になる

ゆまは少し幼すぎかな?ってくらいで特に違和感はなかった
912 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/12/30(日) 23:28:22.83 ID:8JfNp7k50
ゆまは虐待で少し悟っているからな……
913 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/31(月) 02:13:42.62 ID:Zr0e/fqP0
乙乙
夢中になって一気に読んだ
杏子の悪役もだけど、ほむほむがヒロイン属性で未契約まどかの方が活躍するのは珍しいね
二部もすごく楽しみなんで展開予想はせずに全裸待機しておきます


違和感は仁美の台詞の二人称が安定していないことくらいで特に無かったけど
>>891の「これにて完結です。」とか>>897の「これにてホントのホントに終わりです。」とか
例のコピペの影響が残っていることに違和感wwww
914 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/31(月) 07:48:19.83 ID:a5S1PxTAO
>>913
エリー戦のこと言ってるならひとみん呼び方変わるよ。確か…多分
915 : ◆H5Ebiy6tLDQ1 [saga]:2012/12/31(月) 08:05:32.82 ID:jvSMOhtQ0
>>905
まどか-スタープラチナ:主人公だから
さやか-ドリー・ダガー:剣だから+奇をてらいたくて
ゆま-キラークイーン:猫+虐待繋がり
織莉子-リトル・フィート:五部のスタンドを使いたい一心で特に丁度いいのがなくて妥協した感じ
杏子-シビル・ウォー:七部のスタンドを使いたい一心で特に丁度いいのがなくで妥協した感じ+幻覚繋がり
キリカ-クリーム:インスピレーション+スイーツ+主に盲信
仁美-ティナー・サックス:ナイトメアっぽい(デス13は寝てないといけないので除外)
恭介-ハーヴェスト:四部の(ry

といった感じです。魔女の呪いという設定なので悪役のスタンドを意識しています。
そうなるとまどかは因果パワーでいいとしてもハーヴェストが微妙ですが……
916 : ◆H5Ebiy6tLDQ1 [saga]:2012/12/31(月) 17:35:34.78 ID:jvSMOhtQ0
報告という程のことでもありませんが、某まとめサイトさんに当SSをまとめていただきました。
それに伴い、新年即依頼しようと思ってましたがこれからこのスレをHTML化依頼させていただきます。
なので質問等はこれにてうち切らせていただきます。まぁ特にレスもないからいいかという思い切り。
というのも、これから文章的に致命的なミス(一般人が使い魔をむしゃむしゃするレベル)を後に発見して
脳内変換お願いしますと書き込んだらタイミング的にまとめサイトさんに言ってる風に個人的にイヤしんぼに見えるからです。
せめてHTML化してからまとめて欲しかったというのが正直な気持ちですが、正直読み返してミスを真・最終チェックするのめんどくさいから丁度良いやラッキーという気持ちもあったりなかったり

そういうわけでこのスレともアリーヴェ・デルチです。ディ・モールトグラッツェでした。
次回作で会えたらとそれはとってもとってもとってもとってもとってもとっても嬉しいなって
917 : ◆H5Ebiy6tLDQ1 [saga sage]:2012/12/31(月) 17:36:39.09 ID:jvSMOhtQ0
sage入れ忘れてました……お目汚しすみません
し、締まらねぇ……あたしってホントクサレ脳みそ
918 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/31(月) 17:38:18.57 ID:kR/4kBCro
二部のあと質問攻め覚悟!乙!
919 : ◆H5Ebiy6tLDQ1 [sage saga]:2012/12/31(月) 17:56:06.77 ID:jvSMOhtQ0
後最後にSSwikiが復活したようなので今作含めた三作のwikiを書いてみます。
wikiを書くのは初挑戦なのでどんなザマになるかわかりませんが、よかったら是非。

ってズルズルといつまでも……グダグダしながら去る。それがジョジョクロスレクイエム
920 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/31(月) 17:58:55.26 ID:kR/4kBCro
ローゼンのもオナシャス
921 : ◆H5Ebiy6tLDQ1 [sage saga]:2012/12/31(月) 18:16:20.23 ID:jvSMOhtQ0
>>920
ローゼンクロスは既に作られておりました。

どなたが作っていただいたのかはわかりませんが、ありがたい限りです。
922 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/31(月) 18:17:15.91 ID:kR/4kBCro
ってか復活してたのかsswiki
見てこよ
923 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/01(火) 00:26:09.72 ID:anPTrL5Y0
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