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ほむら「修学旅行で名古屋に来たわ」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :1 [saga]:2013/01/09(水) 22:21:17.83 ID:EQKVJDRF0

初めに、諸注意。

・このSSは、原作の魔法少女+オリジナル魔法少女を魔女化するスレに、投下された魔法少女のコラボになります。

・したがって、原作の雰囲気を壊しかねない場面も有るので、合わないと思った方はバックブラウザでお戻りください。

・世界観としては、ポータブルのお茶会ED後をベースにして、おりマギのキャラが登場します。

・かずマギのキャラは登場しません。

・ワルプルギス撃破の半年後の設定です。

・魔法などは、原作とは異なる場面が、非常に多いです。

・なお、作者の文才の無さはどうしようも無いので、その点は勘弁してください。

・最後に、オリジナルのキャラの使用を認めてくださった方。ご協力ありがとうございました。

では、お楽しみください。



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少し暑くて少し寒くて @ 2024/04/25(木) 23:19:25.34 ID:dTqYP2V2O
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渾沌ゴア「それでもボクはアイツを殺す」 @ 2024/04/25(木) 22:46:29.10 ID:7GVnel7qo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1714052788/

二次小説の面白そうなクロス設定 @ 2024/04/25(木) 21:47:22.48 ID:xRQGcEnv0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1714049241/

佐久間まゆ「犬系彼女を目指しますよぉ」 @ 2024/04/24(水) 22:44:08.58 ID:gulbWFtS0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713966248/

全レスする(´;ω;`)part56 ばばあ化気味 @ 2024/04/24(水) 20:10:08.44 ID:eOA82Cc3o
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君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
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笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
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【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part10 @ 2024/04/23(火) 17:32:44.44 ID:ScfdjHEC0
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2 :1 [saga]:2013/01/09(水) 22:22:20.24 ID:EQKVJDRF0

 新幹線は予定通りの平常運航で、浜松市を通過中である。

さやか「ねぇねぇ!! あれが浜名湖だよね!!」

ほむら「少し落ち着きなさいよ……」

 ハイテンションで、窓から景色を見るさやかに、ほむらは呆れた様子でボソリと呟いた。

仁美「浜名湖と言えば、ウナギの産地で有名ですわね」

まどか「へぇー、美味しそうだね」

 仁美の豆知識に、まどかが追従する。

ほむら「名古屋に行けば、ウナギが食べられる筈よ。ひつまぶしって言う、ご当地料理が有るでしょ?」

さやか「あと、エビフライ、味噌カツ、手羽先に……」

 この四人、さっきから食べ物の話題ばかりである。

 見滝原中学の二年生は、本日から二泊三日の修学旅行。一行は、名古屋に向かっている。中学生活の中でも大きなイベントであり、楽しみにしているのは誰もが同じだ。しかし、ほむらの表情は少しだけ硬い。

ほむら(……折角の修学旅行なのに。どうして三国織莉子は、私に奇妙な忠告をしたのかしら……)

3 :1 [saga]:2013/01/09(水) 22:23:46.27 ID:EQKVJDRF0

――三日前。

ほむら「……こんな時に、私を呼び出して……何の用事かしら?」

織莉子「貴女に忠告すべき事が出来たの。今から、四日後。あなた達は、名古屋で事件に巻き込まれるわ」

ほむら「ええ。修学旅行で名古屋に行くわ。でも、私に直接それを言うという事は……魔法少女に関わる事件よね?」

 織莉子の首は、縦に動いた。

織莉子「そう。それによって、鹿目まどかが契約しかねないビジョンが見えたの」

ほむら「そんな事……させる訳がないじゃない!!」

織莉子「まだ、決まった訳じゃ無いわ。だけど、事件に巻き込まれるのは確実よ?
 それに……貴女は、ワルプルギスの夜を超えてから、ぬるま湯に浸かり過ぎてるんじゃなくて?」

ほむら「……どう言う意味よ?」

織莉子「平凡な日常が、如何に大切だとしても……私達は魔法少女に変わりは無い。例え厄災を乗り越えても、次の厄災が何時来るか解らない。
 今の貴女は、あの頃の様に脅威を感じないわ。沸騰したお湯の熱さも、零度の水の冷たさも忘れてる様に見える。
 少なくとも……今の貴女で鹿目まどかを護りきれるのかしら?」

ほむら「……護ってみせるわよ。例えこの命を引き換えにしてもね」

織莉子「もう一つ忠告しておくわ。もし、鹿目まどかが契約するような事態になれば……魔女になる前に、私が手を下す。それだけは、忘れないで」

ほむら「貴女に言われなくても……解ってるわ!!」

4 :1 [saga]:2013/01/09(水) 22:25:14.04 ID:EQKVJDRF0

――……ちゃん? ほむらちゃん?


ほむら「……!?」

まどか「ほむらちゃん? さっきからボーっとしてたけど、大丈夫?」

ほむら「ええ……問題無いわ」

さやか「とか言って、実は乗り物酔いしてたんじゃない? 随分と険しい顔しちゃって」

仁美「さやかさん、からかうのはいけませんわ」

 ほむらは、フッと溜息を吐き出した。

ほむら(藪を突っついて、蛇を出さなければ良い話だもの……。だけど、この胸騒ぎはなにかしらね……)

 何処か腑に落ちないほむらの考えと裏腹に、新幹線は豊橋駅を通過していった。

5 :1 [saga]:2013/01/09(水) 22:26:19.88 ID:EQKVJDRF0

――その頃。名古屋にて。

 二人の魔法少女は、テレビ塔の天辺から、街を見下ろしていた。
 黒髪の魔法少女は、マフラーで口元が見えないが、強張った様子。対照的に、白髪の魔法少女はヘラヘラと薄気味悪く笑っている。

黒髪の少女「……ボスからの伝令。配下の魔法少女が、反逆を企てている。守山、名東、千種、天白を縄張りとしている魔法少女達の動きに目を配れ、だ」

白髪の少女「クックック……。そんな物、待ってるまでも無く、今から殺しちゃえば良いじゃんよ……」

黒髪の少女「だから、貴様は愚かだ。魔法少女を無暗に殺せば、取り分が減る。一人を見せしめにした後、こちらの手駒にした方が遥かに利口だ」

白髪の少女「ボスも甘いねぇ……」

黒髪の少女「フン……貴様の様な狂い切った悪魔の考えには、同調できんな」

白髪の少女「しなくてケッコー。私は、欲望の為に狩るのみだからね」

 白髪の少女は、吐き捨てる様に告げて、テレビ塔から飛び降りた。

黒髪の少女(……憎たらしい。だが、私では奴には敵わないからな)

 溜息を吐き出して、少女は無数に並ぶビルの群れを見下ろし続けた。

6 :1 [saga]:2013/01/09(水) 22:27:38.29 ID:EQKVJDRF0

 名古屋市。国内では、三番目に人口の多い都市である。また、他の巨大都市に比べ、変わった文化が多く存在する事も事実で、名古屋は世界の中の日本と言う言葉も存在する。

 修学旅行初日は、名古屋城を見学した後、名古屋市科学館でプラネタリウムの見学。
 食事をとった後に、ホテルに到着したのは午後七時を回ってからだった。

 ホテルで個々の部屋に入る。三人部屋のメンバーは、ほむら、さやか、まどかと都合の良い割り振りに当たったのだ。
 そしてさやかは、荷物を置くなりベッドにダイブした。

さやか「うーん……いいベッドだー」

ほむまど「……」

さやか「二人して、そんな目で私を見ないでよ……」

 憐みの目で見つめられ、さやかは少々いじけてしまう。

まどか「そういえば、さっきホテルの売店で、ご当地のストラップが有ったから買いに行きたいなー」

さやか「あれ可愛いよねー。あたしにピッタリじゃない?」

ほむら「あら? さやかなら、ドアラのストラップが似合うんじゃない?」

まどか「そういえば、さやかちゃんの髪の色も青だもんね」

さやか「え〜? あたし的にはあんまり……」

 さやかが言葉を出している最中だったが、二人の持つソウルジェムが反応を見せた。ここから、比較的近い位置に、魔女が出現しているようだ。

7 :1 [saga]:2013/01/09(水) 22:28:24.37 ID:EQKVJDRF0

さやか「……ほむら。魔女の反応だ」

 さやかは慌てて、立ち上がる。

ほむら「待ちなさい。貴女、今ここが何処だか解ってるの?」

さやか「名古屋に決まってるでしょ?」

ほむら「だからこそよ。この街には、この街の魔法少女が居るのよ。下手に手を出せば、縄張りを奪いに来たと勘違いされるわ」

さやか「でも……」

???「それに、魔女を退治したとしてもだ。土地勘の無い君達が、無事に戻ってこれるとは思えないけどね」

 突然、別方向から聞きなれた声が、三人の耳に飛び込んだ。

8 :1 [saga]:2013/01/09(水) 22:29:52.86 ID:EQKVJDRF0

さやか「キュウべえ?」

まどか「どうしてキュウべえが……って、居ても当然だよね」

ほむら「何の様かしら? 私達、修学旅行の途中なんだけれど?」

QB「ほむら、さやか。君達二人に伝えるべき事があるからね」

ほむら「突然ね。何のつもりかしら?」

QB「君達は、この街で魔女を見かけても、手は出さない方が良いよ」

さやか「何でよ? 魔女を倒しても、縄張りの持ち主にグリーフシードだけ渡せば見逃してくれるんじゃない?」

QB「……見逃す保証が、あると思うのかい?」

ほむら「……?」

QB「詳しくは教える事は出来ない。でも、藪を突っついて蛇を出すのは得策じゃないよ」

9 :1 [saga]:2013/01/09(水) 22:31:38.73 ID:EQKVJDRF0

 キュウべえの忠告に、さやかは少々納得が出来ない様子だった。

さやか「……もし、手を出したとすればどうなるの?」

QB「殺されるだろうね」

さやか「……殺させられるって」

まどか「そんなの……おかしいよ!!」

ほむら「……」

QB「事実さ。魔法少女全員が、同じ考えを持つ訳じゃ無いからね」

ほむら「忠告ありがとう。だけど……何故私達に、そんな助言をするのかしら?」

QB「君達を失う事は、我々としても損害が多いのさ」

ほむら「……そう」

QB「じゃ、僕は失礼するよ」

 最低限の事だけ告げると、キュウべえは部屋から消えて行った。

さやか「何なのよ……」

まどか「……」

ほむら(三国織莉子は、何を見たと言うのかしら……)

 そう言うほむらも、不機嫌そうに溜息を吐き出した。

10 :1 [saga]:2013/01/09(水) 22:32:18.86 ID:EQKVJDRF0
まずは、ここまでです。

ゆっくりと投下していく予定です。
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/09(水) 22:33:05.99 ID:B45JAEMvo
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/09(水) 22:47:37.83 ID:5X0IU+cj0
乙←ヘビ見たい
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/09(水) 23:05:36.91 ID:pUPeqPeTo
美国ね
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/10(木) 04:59:18.85 ID:LgL3Y9qmo
二国織莉子「三国織莉子がやられたようだな…」

一国織莉子「フフフ…奴は四天王の中でも最弱…」

零国織莉子「本編キャラごときに負けるとは織莉子の面汚しよ…」
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/10(木) 10:11:44.32 ID:EWjANMUJ0
あのスレで予告してた人って事は
魔女スレイヤー=サンが出るのか
期待
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/10(木) 17:14:17.84 ID:M00/lna70
四国織莉子「別に四国出身じゃありませんよ?」
17 :1 [saga]:2013/01/10(木) 21:59:32.49 ID:AK3CxE2n0
続きを投下します。

ちなみに、美国だという事を指摘されて初めて気が付いた……Orz
18 :1 [saga]:2013/01/10(木) 22:01:46.82 ID:AK3CxE2n0

――その夜。

 地下駐車場内で、五人の魔法少女と、二人の魔法少女が対峙していた。辺りには、不穏な空気が漂っている。
 そして、五人組の魔法少女は、明らかに二人組の魔法少女に怯えている様だった。
 大剣を持つ、褐色の衣装を纏った魔法少女は、ニヤリと笑みを見せながら口を開く。

大剣を持つ少女「……へぇ、ボスの言ってた通りだわ。アンタらが手を組んで、反逆しようって魂胆だった訳だ」

 魔法少女の一人は、震えながらも声を荒げた。

魔法少女A「うるさいわよ!! 人をゴミみたいに扱ってる癖に!! 貴方達は、どうせ私達を駒位にしか見てないんでしょ!!」

大剣を持つ少女「ふーん……。能無しの連中にしちゃ、賢いじゃん。何処で猿知恵を身に付けたの?」

魔法少女B「この……言わせておけば!!」

大剣を持つ少女「いいさ。相手になってやるよ。全員まとめて、かかって来いよ!!」

 少女は大剣を振りかざし、臨戦態勢を整える。
19 :1 [saga]:2013/01/10(木) 22:02:26.53 ID:AK3CxE2n0
 それを見ると、隣の水色のドレスを着る魔法少女も槍を構えた。

槍を持つ少女「私も手伝うよ?」

大剣を持つ少女「氷架は見てるだけで良いよ。こいつら程度、本気を出すまでも無いしね!!」

槍を持つ少女「レイちゃんがそう言うなら……」

 そう言って、槍を持った少女は後ろに引き下がった。

魔法少女A「舐めるな!!」

 五人の魔法少女達は、大剣を持つ少女に向かい、一斉に襲い掛かった。

20 :1 [saga]:2013/01/10(木) 22:04:02.51 ID:AK3CxE2n0

――三分後。

 地面には、五人の魔法少女が横たわっていた。僅か一ラウンドの時間しか使っていないにも関わらず、全員動く事が出来ない位まで痛めつけられている。
対照的に、大剣を持つ少女は息一つ切れていない。

大剣を持つ少女「手応えが無いねぇ……。ま、このままほっとくのも癪だし……アンタだけは見せしめにさせて貰うよ!!」

魔法少女A「ごめんなさい!! ……もう逆らいませんから!! 見逃してください!!」

 少女は無言で歩み寄った。這いつくばる魔法少女が泣き叫ぶのを、嘲笑いながら立ち止まる。

大剣を持つ少女「そんな風にする位なら……最初からやるなっての!!」

 何のためらいも無く、思いっきり大剣を振り落とした。

魔法少女達「……!?」

 少女の体は、右肩から股にかけて真っ二つに切り落とされた。即死同然の攻撃を受けてしまう、動こうとしない。
鮮血が飛び散り、臓器の欠片が溢れ出してしまう。
 魔法少女達は、恐怖の余り悲鳴を上げる事さえも出来ない。失禁、嘔吐し、ガタガタと震えて見ているしか出来なかった。

槍を持つ少女「あー……レイちゃん。これ出てくるよ?」

大剣を持つ少女「ふーん……好都合じゃん」

 しかし、二人の魔法少女は、ソウルジェムが生まれ変わる瞬間を、笑いながら見ているだけだった。丸で、獲物を目の前にした肉食獣の様に。

21 :1 [saga]:2013/01/10(木) 22:04:52.67 ID:AK3CxE2n0

――翌日。

 修学旅行二日目は、各グループによる自由行動になる。
 ほむら、さやか、まどか、仁美の四人で、名古屋の街を散策する。

仁美「では、行きましょうか」

 四人は、地下鉄で東山動物園に向かうのだった。

まどか「動物園、楽しみだなー」

仁美「東山動物園と言えば、コアラで有名ですものね」

さやか「へぇー。全然、知らんかった……」

ほむら「……そうね」

 楽しむ三人を尻目に、ほむらは不安を隠せないでいた。

ほむら(キュウべえの言ってた事が……頭から離れないわ)

 底知れぬ不安。それがほむらを襲っていた。

22 :1 [saga]:2013/01/10(木) 22:06:51.85 ID:AK3CxE2n0

 ほむらの思いと裏腹に、東山公園前駅に到着し、皆で目的地に向かう。
 しかし、数メートル歩いた時点でほむらとさやかのソウルジェムが反応を見せた。

さやか(……魔女の反応だ!!)

ほむら(こんな時に……)

 ほむらは奥歯をギリッと噛み締めた。

さやか「ゴメン!! まどかと仁美は、ちょっと待ってて!!」

 さやかは、考えるよりも先に動いていた。既に反応の強い方向に向かい、駆け出している。

ほむら「……あのバカ」

 小さく呟いてから、ほむらもさやかを追った。

仁美「……さやかさん達、どうしたんでしょうか?」

 魔法少女の事を何も知らない仁美は、首を傾げて立ち尽くすしか無かった。

まどか「大丈夫だよ……きっと」

 なだめる様に、まどかはそう言った。しかし、そのセリフは自分に言い聞かせているだけかもしれない。

23 :1 [saga]:2013/01/10(木) 22:07:45.27 ID:AK3CxE2n0

 魔女結界の前にたどり着くと、さやかは脇目も振らず結界に入って行く。

ほむら「全く……昨日言った事、全部忘れてるじゃない」

 ほむらも仕方なしにと、結界に入って行った。

 魔女の結界で、変身を完了させたさやかとほむら。

ほむら「さやか!! 貴女、昨日言った事忘れたの!?」

さやか「覚えてるよ。でもさ、やっぱり魔法少女だから……魔女をほおって置けないじゃん」

ほむら「……それはそうだけど」

さやか「大丈夫だよ」

ほむら(その大丈夫が、命取りになるんじゃない……)

 さやかは楽観視していたが、ほむらの内心は気が気では無い。

24 :1 [saga]:2013/01/10(木) 22:09:16.23 ID:AK3CxE2n0

 魔女結界の中、さやかは使い魔に向けて剣を構えた。何時でも、攻撃に移れる体制だ。

さやか「ほむら。アンタ、修学旅行中だし、武器持ってきて無いでしょ? 今日はさやかちゃんに全部任せたまえ!!」

 意気込むさやかだが、ほむらは淡々としていた。

ほむら「確かに、武器何て持ってきてないわよ。でもね……時間停止できなくなったからって、私が何もしてなかったと思う?」

さやか「どういう事よ?」

ほむら「こういう事よ」

 ほむらは、左手に魔力を溜めた。
 手の平が、紫の光球を生み出すと、その光が真っ直ぐ棒状に伸びていく。

さやか「ほむら……それ何時の間に!?」

25 :1 [saga]:2013/01/10(木) 22:10:24.57 ID:AK3CxE2n0

 光が消え失せると同時に、ほむらの左手には紫に輝く弓矢が召喚されていた。ただ、弓矢と言っても、スコープ等が付き装備の多い。アーチェリーとも言えそうな代物だ。

ほむら「ずっと、武器を生み出す特訓をしてたのよ。そう言っても、まだ完璧では無いけれどね」

さやか「武器を作り出すとか、そんなのずるい……」

ほむら「マミに教われば良いじゃない……。私も、彼女に教わったんだから」

さやか「そっか……。マミさんのマスケット銃って、本来の武器じゃ無いもんね」

ほむら「ええ。ワルプルギスを倒してから、少し考えてたのよ。時間停止が使えないんじゃ、現代兵器を借りてくるって事も出来無いじゃない」

さやか(あれを借りるって言うか、フツー……)

ほむら「まだ使いこなせる訳じゃ無いから、威力に不安は有るけど、丸腰よりはマシでしょう?」

さやか「それもそうだね」

 そこで会話を打ち切って、二人は結界の奥へと進んで行く。

26 :1 [saga]:2013/01/10(木) 22:12:09.04 ID:AK3CxE2n0

 二つ目の部屋に入ると、魔法少女が血を流しながら倒れていた。恐らく、地元の魔法少女なのだろう。

さやか「……ちょっと、これ不味いよ!!」

 慌てて駆け寄ると、さやかは少女に治癒魔法をかける。少女の傷は見る見る間に回復し、ゆっくりと意識を取り戻していく。

魔法少女B「……はっ!?」

さやか「よかった、気が付いた」

魔法少女B「貴女達は?」

さやか「たまたま通りかかった、観光中の魔法少女だよ」

魔法少女B「そう……ですか」

 救われた筈の魔法少女は、何処か浮かない表情であった。

ほむら「……ゆっくりしてる間も無いわよ。魔女が来るわよ!!」

 その言葉と同時に、結界の中がグニャグニャと変化を見せていた。
27 :1 [saga]:2013/01/10(木) 22:15:14.46 ID:AK3CxE2n0

 空間の変化が安定すると、結界の主である、魔女が姿を現した。

さやか「よーし……今日という今日はさっさと片付けちゃいますよ!!」

ほむら(……その台詞は、フラグになるわよ)

 ほむらは、内心で呆れ気味に突っ込んだ。
 しかし、さやかがそんな事を知る訳が無い。魔女に向けて剣を構え、一直線に突っ込んで行く。
 一気に懐にまで飛び込んで、魔女の胴体を連続で斬りつける。高速の剣技は、眼にも留まらぬ速技で、反撃の暇を与えない。
 一旦剣を構え直し、止めの一撃を狙い撃つ。

さやか「流剣乱舞……スクワルタトーレェ!!」

 必殺の一振りが、魔女の胴体を真っ二つに切り裂いた。

さやか「また、つまらぬ物を斬った……なんちって」

 余裕の決め台詞まで飛び出す始末だが、その破壊力は抜群。
 魔女の息は絶えて、結界は消滅を始めていた。

ほむら(手を出すまでもなかったわね。でも、必殺技の名前を叫ぶのは、何とかならないのかしら……)

 安堵の息と、呆れた溜息を同時に吐き出す頃には、地面にグリーフシードが転がり落ちていた。

28 :1 [saga]:2013/01/10(木) 22:16:42.12 ID:AK3CxE2n0

 晴れた空が、三人の頭上に広がった。
 さやかはグリーフシードを拾い上げて、地元の魔法少女に手渡した。

さやか「はい、どうぞ」

魔法少女B「……え!?」

さやか「だって、ここは貴女の縄張りでしょ?」

 魔法少女は無言で頷く。

さやか「だったら、貴女の物で良いよ。今日は、魔力をそこまで使って無いしね」

魔法少女B「ありがとう……ございます」

 素直にグリーフシードを受け取ったが、ほむらは魔法少女の様子がおかしいと感じていた。

ほむら(酷く怯えてる……。だけど、魔女に怯えてる様には見えないわね)

29 :1 [saga]:2013/01/10(木) 22:18:24.22 ID:AK3CxE2n0

 すると、意を決した様に、魔法少女は口を開いた。

魔法少女B「あ……あの、助けてもらってこんな事言うのもおかしいですけど……」

さやか「ん……?」

魔法少女B「二人とも、今すぐに名古屋から逃げて下さい!!」

ほむら「……どういう事かしら?」

魔法少女B「事情は言えませんけど……この街は危険です。貴女達の様な“まとも”な魔法少女が居るべき所じゃ無いんです!!」

ほむら(……まとも?)

 魔法少女は、叫ぶように伝えて、その場から逃げる様に立ち去った。

さやか「何なのよ? 折角助けたのに……」

 さやかは、ヤレヤレと溜息を吐き出した。

ほむら「……ねぇ、さやか。さっきの娘、怯えてる様に見えなかったかしら?」

さやか「どうだろう……。言われてみれば、そう見えなくも無いかも……」

ほむら「だとすれば、魔女に怯える要素が合ったかしらね」

さやか「そりゃ、そうでしょ。魔女が怖くない魔法少女何て、少ないでしょ。アンタの場合、ワルプルギスの見過ぎで感覚が変わってるんじゃない?」

ほむら「……だと良いのだけれどね。まどか達の所に、戻りましょうか」

さやか「だね。コアラも見たいし」

 ほむらとさやかは、待たせているまどかと仁美の元へ戻る事にした。

30 :1 [saga]:2013/01/10(木) 22:21:34.49 ID:AK3CxE2n0

 一方、助けられた魔法少女は、人気の無い路地に逃げ込んでいた。

魔法少女B(何で、こんな時に限って助けられるのよ!! 折角……結界の中に逃げたのに!!)

 感情に任せて、思わずコンクリートの壁を殴りつけてしまう。労せずグリーフシードを手に入れたにも関わらず、かなり苛立っていた。

 カツン、と地面を叩く足音が聞こえた。一つだけでは無い。複数の足音が、周囲を取り囲んで行く。

魔法少女B(……まさか、見つかった!?)

 少女の体は、ガタガタと震えだした。

黒髪の少女「残念ながら、逃げ場は無い」

白髪の少女「アレさ、こっちが仕掛けた罠だったんだよねー。ま、見知らぬ人間に助けられたのは計算外だけどね」

大剣を持つ少女「残ってるのは、君だけ。ボスは、反逆を許さない人だからさ」

槍を持つ少女「おかげで、ストックも増えたよ。ありがとうね」

魔法少女B「……そんな。皆は……?」

 恐怖の余り、顔面蒼白となる魔法少女。全ての細胞から、血の気が引いていく。
31 :1 [saga]:2013/01/10(木) 22:25:36.52 ID:AK3CxE2n0

 同時に、キコキコとタイヤの回る音が耳に飛び込んだ。

魔法少女B(ま……まさか、あの女まで来てる訳!?)

 そして、魔法少女が視線を向けた先。
 車椅子に乗った少女が、ゆっくりと姿を見せていた。

車椅子の少女「……我々の糧となって貰ったよ。反逆者には、制裁を与える。それがクォーターの掟……」

魔法少女B「……そ……そんな」

車椅子の少女「……フフ。散りなさい……」

 車椅子に乗った魔法少女は、右手に持つ剣を振り上げた。

32 :1 [saga]:2013/01/10(木) 22:27:29.69 ID:AK3CxE2n0

――その頃。

 見滝原の駅のターミナルに、五人の魔法少女が集合していた。

織莉子「これで、全員揃ったようね」

マミ「一体、皆を呼び出して何をするつもりなのかしら?」

キリカ「これから、名古屋に向かうのさ。詳しくは織莉子が、後で話すよ」

杏子「名古屋って、また随分と遠いな」

ゆま「なごや?」

マミ「そう言えば名古屋って、二年生の修学旅行の行先じゃない」

杏子「ほー。所で、名古屋の上手い食い物って何だよ?」

ゆま「え? ゆま達旅行に行くんだ!!」

キリカ「旅行とはちょっと違うからね。ま、少し位は観光もしたいけど……」

織莉子「……もう少し、気を引き締めてくれないかしら。もうすぐ電車が来るから、その中で全てを話します。皆が思っているよりも、事態は深刻ですからね」

 織莉子は、引き締まった表情でそう言った。
 数分経つと、東京行きの快速列車が見滝原駅に到着した。

33 :1 [saga]:2013/01/10(木) 22:28:46.56 ID:AK3CxE2n0
本日は、ここまでです。

34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/10(木) 22:55:29.67 ID:paXxKEM20

修羅の国 名古屋
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/10(木) 23:34:11.27 ID:FX7k67gR0
乙 名古屋って凄いな
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/11(金) 00:48:58.55 ID:MWoAILhto

さすが東西の猛者を相手取らないといけない県だ、剣呑でもなんともないぜ
37 :1 [saga]:2013/01/11(金) 22:10:21.94 ID:15RymeHl0
続き投下します。
38 :1 [saga]:2013/01/11(金) 22:11:08.45 ID:15RymeHl0

 ホテルに無事帰ってきた、ほむら達。どうにも、ほむらの様子が暗く、観光をしている時も、どこか上の空だった。

まどか「さやかちゃん……ほむらちゃん、どうしたんだろう?」

さやか「何か、こっちの魔法少女を助けてから、あんな感じの様子なんだよね」

 小声で聞こえない様に話す、まどかとさやか。しかし、ほむらはしっかり聞いていた。

ほむら「……問題無いわ。ちょっと、考え事してただけよ」

まどかさやか(……聞かれてたか)

ほむら「ええ。ばっちり聞こえてたから」

まどかさやか(しかも、考えまで読まれてる!?)

 固まるさやかとまどかを尻目に、ほむらは深いため息を吐き出した。

39 :1 [saga]:2013/01/11(金) 22:13:34.48 ID:15RymeHl0

 その頃、ほむら達の宿泊するホテルの屋上に、四人の魔法少女が待機していた。
 地元の魔法少女を助けたほむら達に、クォーターの面々は目を付けていたのだ。

白髪の少女「へぇ……何処の奴かと思ったら、修学旅行で来てた魔法少女だった訳か……」

大剣を持つ少女「見滝原中学一行、か。……まてよ。見滝原って……何処かで聞いた事有る」

槍を持った少女「え? レイちゃん知ってるの?」

大剣を持つ少女「……確か、半年前にスーパーセルに襲われた街だ。だけど、誰一人犠牲者が出なくて、見滝原の奇跡ってニュースでやってた……」

黒髪の少女「それは……ワルプルギスの夜だ」

一同「……!?」

40 :1 [saga]:2013/01/11(金) 22:14:19.85 ID:15RymeHl0

黒髪の少女「そのスーパーセルの正体は、ワルプルギスの夜だった。そして……見滝原近辺の魔法少女達が、ワルプルギスの夜を倒した。キュウべえ……そうだろ?」

 黒髪の少女に呼ばれ、キュウべえはスッと姿を見せた。

QB「森田栃(モリタトチノキ)……君は、その情報を得ていたのかい?」

栃「あくまで推測だ。仮に、ワルプルギスの夜が襲来したとすれば、逃げ切る事は間違いなく不可能。だとすれば、討伐する以外に道は無いだろう」

QB「見事な推測だね。正解だよ。彼女達は、七人でワルプルギスの夜を討伐したのさ」

栃「……ほう」

QB「例え、クォーター全員でワルプルギスの夜に挑んだとしても、討伐出来る可能性は少ないね」

 そう言われ、他の魔法少女達は無言になった。若干、苛立ってるとも言えるが。
41 :1 [saga]:2013/01/11(金) 22:17:28.33 ID:15RymeHl0

QB「君達は、この国の魔法少女の中でも、トップクラスで強い部類に入る。しかも、他の魔法少女を魔女化させる事も問わない。
 僕達としては、ありがたい存在だけど……他の魔法少女達からすれば、敵対心を持たれても仕方ない」

栃「……何が言いたい?」

QB「鳴海(ナルミ)セナ……」

白髪の少女「……あん?」

QB「結城鈴(ユウキレイ)……」

大剣を持つ少女「んだよ?」

QB「桐ケ谷氷架(キリガヤヒョウカ)……」

槍を持つ少女「何よ……?」

QB「そして、森田栃……」

栃「……?」

QB「君達に聞こう。仲間とは、何だい?」
42 :1 [saga]:2013/01/11(金) 22:18:43.52 ID:15RymeHl0

セナ「知るか。考える気も無いね」

氷架「私は、レイちゃんさえ居れば、仲間何ていらないよ?」

鈴「氷架に同じくだ。後の二匹は、単なる数合わせ」

栃「……目的の為に手を組んでいるだけ。仲間等、必要ない」

QB「それが、君達の答えな……」

 全ての台詞を言う前に、キュウべえの体は縦一直線に切り裂かれた。

セナ「ノーガキは良いんだよ……ウゼェ」

 セナは剣を振りかざしながら、そう言った。表情は、百人中百人が解る程イラついている。
43 :1 [saga]:2013/01/11(金) 22:20:16.40 ID:15RymeHl0

QB「全く……君はどれだけ個体を破壊すれば気が済むんだい? 壊しても無駄な事は、良く知っているだろう?」

 破壊された個体と、別のQBが姿を見せた。

セナ「壊したいから壊す。それが、私の流儀だよ」

 セナは表情を、不気味な笑みに変えていた。

氷架「もー……短気だからー」

鈴「そんな事より、お前は何が言いたいんだ?」

QB「君達は、彼女達に勝てると思うかい?」

セナ「当然でしょ。大体、お前は私を見くびり過ぎだね」

氷架「ワルプルギスの夜って言ったって、所詮は魔女。わたし達の餌に過ぎないんだよ」

鈴「氷架の言う通りだぜ。どんな強力な魔女でも、魔力の力押しでどうにかなるだろ」

栃「実践に勝る訓練は無い。少なくとも、実戦の数なら私達の方が圧倒的だ」

QB「君達ならそう言うと思っていたよ。確かに君達は恐ろしく強い魔法少女さ。
 でもね……僕にも理解できない強さが彼女達には有る。クォーターの君達がどういう行動を取るかは好きにすれば良い。ただ……油断してると足元をすくわれてしまうよ」

44 :1 [saga]:2013/01/11(金) 22:21:22.14 ID:15RymeHl0

 そう伝えると同時に、飛んできた剣が地面に突き刺さっていた。しかし、キュウべえはしっかりと避けている。

セナ「クソ……外したか」

QB「全く……危ないなぁ。これ以上居ると、個体が無駄に潰されてしまうからね。僕は消えさせて貰うよ」

 そこで、キュウべえは姿を消していた。

鈴「ちぃ……好き勝手抜かしやがって」

氷架「アレは、もうほっといて良いんじゃない? 後は、見滝原の魔法少女をどうやって捕まえようね?」

セナ「有無言わさず、叩き切っちまおうよ。てっとり早いし」

栃「まぁ待て。手短に、作戦を伝える……」

45 :1 [saga]:2013/01/11(金) 22:22:17.11 ID:15RymeHl0

――ほむら達の部屋。

 食事を終えた三人は、部屋でゆっくりくつろいでいた。

さやか「はー……美味しかった」

まどか「ねー。でも、手羽先って食べにくいよね」

さやか「そうそう。何か、手がベタベタになっちゃうし……」

ほむら「……」

まどか「ほむらちゃん……本当に大丈夫なの?」

ほむら「……え?」

まどか「さっきも、あんまり食べて無かったし……」

ほむら「そうかしらね? 脂っこいものって、あまり好きじゃ無くてね……」

 そう言いながら、眼を逸らして髪をかき上げた。

さやか「ほむら。キュウべえとか、この辺の魔法少女が言ってたこと、気にし過ぎなんだって」

まどか「……そうだよ。折角の修学旅行で、そんなに気を張ってたら、疲れちゃうよ?」

ほむら「……ええ。そうは、思いたいんだけど……」

???「そう思っていた方が、良いだろう」

三人「……!?」
46 :1 [saga]:2013/01/11(金) 22:25:01.46 ID:15RymeHl0

 突然、違う声が割って入った。声の方向に、全員の視線が向いた。

さやか「誰よ、アンタ!! ってか、どうやってここに入ってきたんだよ!!」

 さやかはまどかをかばう様に、立ち位置を変える。

栃「……初めまして、見滝原の魔法少女のお二人。その小さい子は、違うようだが」

ほむら「……貴女、この街の魔法少女ね?」

 ほむらの眼つきは鋭く尖り、真っ直ぐに栃を睨みつけた。

栃「その通り。森田栃と申す者だ。この際、名前などどうでも良いがな」

さやか「……いきなり魔法少女が現れて、何の用なのよ!!」

栃「君達見滝原の魔法少女は、ワルプルギスの夜を討伐したのだろう? そこで、君達に興味が沸いてね」

ほむら「……どういう企みかしら?」
47 :1 [saga]:2013/01/11(金) 22:26:17.95 ID:15RymeHl0

栃「単刀直入に言えば、我々クォーターに加われ。貴様らの様に優秀な魔法少女が増えれば、あらゆる魔女を殺す事が出来る……」

ほむら「もし、断ればどうするつもりかしらね」

栃「容赦はしない。殺すか……こうなって貰うか、どちらかだ」

 栃の自慢げに見せた物は、真っ新なグリーフシードだった。
 この行動が、何の意味を示しているのか、解らないほど三人とも馬鹿では無い。

さやか「それ……まさか!?」

栃「どうやら、魔法少女の真実は知っている様だな……。想像の通り……反逆した魔法少女は、魔女に生まれ変わらせて貰った」

 淡々とした口調で、栃は恐ろしい事を述べている。丸で、それが普通だと言わんばかりに。

まどか「そんなの……酷過ぎるよ!!」

ほむら「あなた、頭おかしいんじゃないの!?」

さやか「許せない!! そんな連中に、力貸すなんて絶対に嫌だね!!」

 栃に向け、三人の怒りは頂点に達する。
48 :1 [saga]:2013/01/11(金) 22:27:07.60 ID:15RymeHl0

 しかし、この時まどかは致命的なミスを犯していた。

栃「ほう……。その小さいのも、魔法少女の事を知っている訳か……」

ほむら(……しまった!!)

栃「ま……良い。契約していないなら、捕まえる必要も無いだろう」

さやか「……まどかには手を出させないよ!! 何が何でも、守って見せる!!」

ほむら「そうよ!! 簡単に手は出させない!!」

栃「クックック……。貴様らは、本当に愚かだな……」

さやか「何が言いたいんだよ!!」

栃「私は一人で来ていると、一度でも言ったか?」

さやか「……!?」

ほむら「……!?」

49 :1 [saga]:2013/01/11(金) 22:28:27.40 ID:15RymeHl0

 栃の表情は、不敵な微笑を作っていた。余裕が有るのか、それとも……。

栃「もし要求を飲まないと言うなら、こっちの仲間が貴様らの学校の関係者を一人残らず殺す。それが、嫌なら今すぐに忠誠を誓え」

ほむら「ふざけないで!! そんな要求、飲める訳無いわ!!」

栃「ならば、もう一つ提案を出そう」

さやか「そんな物、聞くと思ってんの!!」

栃「……貴様らにもいい条件だ。今から、貴様ら二人には私達に着いて来て貰う。そして、こっちのメンバーの二人と貴様ら二人で、一対一の勝負をする」

さやか「……」

ほむら「……」

栃「貴様らが勝てば、二度と手出ししない。こっちが勝つ時は、貴様ら二人とも死ぬ時だから、特に要求はしないがな」

さやか「そんな言葉、信用できるか!!」

ほむら「……さやか。条件を飲みましょう」
50 :1 [saga]:2013/01/11(金) 22:29:17.31 ID:15RymeHl0

さやか「ほむら!? アンタ、何言ってんの!?」

ほむら《少なくとも、皆が泊まっているホテルから引き離す事は可能だし……何とか潜り抜けて見滝原に戻れば、対策は作れるわ》

さやか《……だけど》

ほむら《ここで、下手に暴れられるよりは遥かにマシよ。それに……私達はワルプルギスの夜を倒したんだから。貴女の強さは、私が保障するわ!!》

さやか《……うん。ほむらの言う通りにするよ。私じゃ、この場を収める方法が見つからないしね》

 二人は、覚悟を決めた。

栃「決まった様だな」

ほむら「……ええ。その勝負……受けて立つわ」

さやか「下手に暴れられるよりは、そっちの方がマシだしね」

 そう聞いた栃は、仲間にテレパシーを送った。

栃《交渉成立だ。今から、廃工場に向かう》

 事務連絡の様に、一方的に伝えただけのテレパシー。これが、クォーターの形だろうか。

51 :1 [saga]:2013/01/11(金) 22:30:12.14 ID:15RymeHl0

まどか「さやかちゃん……ほむらちゃん……」

ほむら「心配しないで。無事に帰ってくるわ」

さやか「そうだよ。大体、そんな外道な真似する奴なんて、このさやかちゃんがお仕置きしちゃうんだから!!」

ほむら「貴女は、待っててくれれば良いわ。それと……私達を助ける為に、間違っても契約なんてしないでね」

まどか「……うん。二人共、戻ってきてね……絶対に待ってるから!!」

 まどかは、そう言って二人を見送る。
 栃、ほむら、さやかは、ホテルの窓から、街へと飛び降りて行った。

まどか(……どうして。どうして、私は……こんな時に皆の役に立てないんだろう。だけど……魔法少女になるのは、怖いよ……)

 臆病な自分が、如何に無力だという事を知らされ、まどかの目からは涙があふれ出ていた。
52 :1 [saga]:2013/01/11(金) 22:31:12.52 ID:15RymeHl0

――その頃。名古屋駅付近のラーメン屋の前にて。

マミ「佐倉さん……まだ食べてるの?」

キリカ「チャーハン二杯、替え玉三杯、餃子五皿……。見てる方が気持ち悪くなる……」

織莉子「この時間が無い時に……」

ゆま「キョーコ、太っちゃうよー……」

 超極悪燃費の杏子に呆れ返る、四人の元にキュウべえは颯爽と登場した。

QB「皆、揃って居る様だね」

マミ「キュウべえ? どうしてここに?」

QB「皆、話は後だ。のんびりしている時間は無いよ。ほむら達に動きが有った」

織莉子「やはりか……。鹿目まどかの方は?」

QB「彼女は、ホテルの部屋で待ってるだけさ。ただ、このままなら、ほむらとさやかは確実に殺される」
53 :1 [saga]:2013/01/11(金) 22:32:25.43 ID:15RymeHl0

キリカ「……で、私達にどうしろと?」

QB「ここから、北に向かって約20Km先に、廃工場が有る。そこに向かってほしい。急いでいかないと、手遅れになってしまう」

ゆま「うん……キョーコ、呼んでくるね!!」

  そう言って、ゆまが呼びに行こうとすると、丁度杏子は店から出てきた。

杏子「ふー……食った食った」

全員「遅い!!」

杏子「何だよ……。昼間に散々動き回ったんだから、飯ぐらいゆっくりしたってイイじゃねぇかよ……」

マミ「もう、そんな余裕は無くなったみたいよ」

織莉子「暁美ほむらと美樹さやかは、既に動いている」

杏子「マジか!?」

QB「そうだよ。魔法少女の動きは、僕が把握できるからね」

ゆま「北って、どっち?」

キリカ「多分、あっちの方だな」

QB「そっちじゃないよ……向こうだよ。皆、急ごう」

 キュウべえの言葉に頷くと、全員は急いで駆け出した。

54 :1 [saga]:2013/01/11(金) 22:33:26.24 ID:15RymeHl0

 北区、廃工場。
 クォーターの四人組と対峙する、ほむらとさやか。いずれの魔法少女も殺気立ち、一触即発の空気が漂っていた。

ほむら「言われた通り、着いて来たわ」

さやか「……あんた達、一体何が目的なんだよ」

栃「目的なら、さっき話した通りだ。魔女を討伐するのは、魔法少女の役割だろう」

セナ「大体、ワルプルギスの夜を倒したって話だけど、あんまりピンとこないんだよねー」

 セナの一言に、ほむらは表情をムッとさせる

鈴「大体、強くも無さそうじゃん?」

氷架「そんな魔法少女が、最強の魔女にかてるのかなぁ?」
55 :1 [saga]:2013/01/11(金) 22:34:23.27 ID:15RymeHl0

 連続する挑発の言葉に、さやかの怒りは沸点を超えた。

さやか「舐めんじゃないわよ!! アンタらみたいな、クズに負ける訳に行かないでしょうが!!」

セナ「クックック……本気で私達の誰かに勝つつもり?」

さやか「やってやるわよ!!」

セナ「へぇ……」

 セナがニヤリと笑みを浮かべる。しかし、それを制止させるように、栃が一歩前に躍り出た。

セナ「何のつもり?」

栃「簡単だ。この四人の中では、私の実力が一番劣る。相手を測るなら、丁度良いだろう?」

セナ「ふん……好きにしろ」

栃「そう言う訳だ。どっちが来る? 青いのか、黒いのか……」

 栃は、さやかとほむらをジッと睨みつけた。
56 :1 [saga]:2013/01/11(金) 22:35:01.80 ID:15RymeHl0

さやか「……あたしが行く!!」

 意気込んで口を開くと、地面にサーベルを突き刺し、ほむらの周囲に結界を作った。

ほむら「……さやか!? 何考えてるのよ!!」

さやか「だって……あたしの方が、ほむらより弱いからね。せめて、アンタだけでは逃げれる様にさせて貰ったよ」

ほむら「バカ!! 一人置いて逃げるなんて真似、出来る訳ないわよ!!」

 ほむらは声を荒げたが、さやかの視線は既に栃しか見ていない。

栃「……死ぬのと、私の餌に生まれ変わるの。どっちが良い?」

さやか「冗談じゃないね!!」
57 :1 [saga]:2013/01/11(金) 22:36:38.63 ID:15RymeHl0

 さやかはサーベルを振り上げ、栃に正面から斬りかかる。
 一太刀目は、あっさりかわされ空振り。更に水平にサーベルを振るう。

さやか「……ッ!?」

 またも空振り。

栃「……扇風機か?」

さやか「……この!!」

 真っ直ぐにサーベルを構え、今度は突きで栃を狙う。

栃(……丸見えだ!!)

 ガン、と鈍い音を立て、さやかの顔面に拳が叩き込まれた。栃は完璧なタイミングで、クロスカウンターを成立させていた。
 横っ面を弾かれ、さやかの体勢は大きく崩れた。

 続けて繰り出した栃の回し蹴りが、さやかの胸部に叩き込まれ、壁際まで吹っ飛ばされてしまう。

ほむら「さやか!!」

 ほむらは、思わず叫んでしまう。しかし、さやかの意識は途切れて居ない。

58 :1 [saga]:2013/01/11(金) 22:38:19.91 ID:15RymeHl0

さやか「いっ……たー……」

栃「ふん。その程度か?」

さやか「……まだ、終わって無いよ!!」

 再び立ち上がったさやかは、マントの中から多数のサーベルを召喚。そのまま、栃に目掛けてサーベルを投げる姿勢に入った。

栃(……牽制のつもりか? 甘い!!)

 無数のサーベルをさやかが投げ飛ばす。だが、栃は易々とかわしながら、さやかとの間合いを一気に詰める。

さやか(……速い!?)

 既に栃は、自分の間合いまで潜り込んでいた。
 迎撃するべく、さやかはサーベルを振り上げる。

栃「遅い!!」

 水面蹴りでさやかの足を払うと、後ろに大きく倒れかける。

さやか(やばっ……!?)

 続けて浴びせ蹴りを繰り出して、さやかの後頭部をコンクリートの地面に叩きつけた。
 ゴキィ、と鈍い音が壁に反響した。
59 :1 [saga]:2013/01/11(金) 22:39:20.11 ID:15RymeHl0

ほむら(何よあの攻撃……。殺すつもりでやってるとしか言えないわ……)

栃「……ふん」

 栃は立ち上がって、さやかに背を向ける。

さやか「……そんな余裕にしてても良いのかな?」

 思わず声の方向に、再び視線を戻すしかなかった。栃の目に飛び込んでいるのは、再び立ち上がってる、さやかの姿。

栃「……首の骨をへし折った筈だが?」

さやか「あたしの魔法は“癒しの祈り”だからね。ちょっと痛めつける位じゃ、へこたれないよ!!」

栃「……ほう」

さやか「アンタも、そろそろ魔法とか武器とか出した方が身の為だよ」

栃「そんな物、私には無い。有るのは、体と魂だけだ」

さやか「何それ? アンタ、本当に魔法少女なの?」

栃「貴様よりは強い魔法少女だ」

 栃は不敵に微笑していた。
60 :1 [saga]:2013/01/11(金) 22:40:31.36 ID:15RymeHl0

さやか「そんな事言ってられるのも、今だけよ!!」

 さやかは、再び攻撃を仕掛ける。

セナ(……本当に、ワルプルギスの夜を倒したのか? まるっきりトーシロー同然じゃん)

鈴(確かに栃は、私達の中じゃ一番弱い。でも、それは武器も魔法も持たない分の差が有るだけ。体術を使う肉弾戦なら、アイツに勝てる奴は居ない)

氷架(他の魔法少女よりも、ちょっと強い程度じゃあねぇ……)

 正直、クォーターの面々は、さやかの実力には拍子抜けしていた。

 栃は、さやかの剣術を完全に見切っている。かする事さえ許さず、拳や蹴りを何発も叩き込み、さやかの体を痛めつける。
 何度も倒される。その度に、自分の体を回復させ、さやかはしぶとく立ち上がる。

61 :1 [saga]:2013/01/11(金) 22:41:37.29 ID:15RymeHl0

栃「……気に食わん。実力の差なら、自分の体で理解出来てるだろう。何故、そこまでして立ち上がる?」

さやか「……そんな事考えて、戦う訳無いじゃん。大体、勝てないからって立ち上がるのを止める理由にならないでしょ?」

栃「……」

さやか「あたしにはあたしが守りたいモノがある。だから、その為に立ち上がるんだ!!」

栃「……小賢しいな」

 栃の眼つきが鋭く尖り、微笑がスッと消えていた。そして、さやかを真っ直ぐに睨みつけている。

栃「……試される性能も無い癖に、偉そうに抜かす口先だけの人間は……気に入らん!!」

さやか(……雰囲気が変わった!?)

62 :1 [saga]:2013/01/11(金) 22:42:27.00 ID:15RymeHl0

 今度は、栃からさやかに特攻を仕掛ける。

さやか(……速いッ!?)

 一発目の左拳は、辛うじて避けた。反撃を試みようと、さやかの右手は剣を突き立てた。

栃「ウラァッ!!」

 栃の拳は構えられた剣の上から、さやかの顔を殴り倒した。剣はへし折れ、倒されたさやかの額は、大量の流血で染まっていた。

ほむら「さやか!!」

さやか「……大丈夫。大丈夫だからさ……」

 そう言いながら、さやかが手の甲で傷を拭うと、流血は綺麗に無くなっていた。
63 :1 [saga]:2013/01/11(金) 22:43:17.84 ID:15RymeHl0

栃(回復する魔法なら……回復出来なくなるまで、殴るのみ!!)

 栃は、再び攻撃態勢に入る。
 今までと打って変わり、凶暴で殺気立っており、一気に仕留めにかかっている。

さやか(……コイツ滅茶苦茶強い!!)

 一方のさやかは手数の多さに圧倒的されてしまい、防御で精一杯。完全に追い込まれてしまう。

鈴(アイツ……何をそんなに怒ってるんだ? 冷静なアイツが、あそこまで熱くなる相手でもないだろうに……)

 突如殺気立って攻撃する栃に、クォーターの面々も疑問を抱いていた。

さやか(……しまった。もう、後ろに行けない!?)

 ついに、さやかは壁際まで追い込まれた。

栃(……もう、逃げ道は無い!!)

 ここぞとばかりに、栃の攻撃に力が入る。
64 :1 [saga]:2013/01/11(金) 22:44:30.74 ID:15RymeHl0

 ドスン、とさやかのボディに、拳が深く突き刺さった。

さやか(……ッ!!)

 腹部への衝撃は、ソウルジェムへも影響していた。さやかの動きが大きく鈍り、栃はテンプルを殴り突けた。続けて、髪の毛を鷲掴みにし、膝蹴りを繰り出して鼻骨を粉砕。

さやか「……ぅッ」

 この一撃で、さやかの意識は飛んで、ふら付いてしまう。大きく出来た隙に、栃が気づかない訳が無い。

栃「そのまま寝ていろ!!」

 止めの一発を打ち込むべく、右の拳を振りかざした。

さやか(……あれ? 死ぬ瞬間って……スローモーションに見えるって言うよね?)

 栃の拳が迫りくる瞬間が、ゆっくりと見えていた。

65 :1 [saga]:2013/01/11(金) 22:45:31.79 ID:15RymeHl0
本日は、ここまでです。

こんな扱いですが、さやかちゃんは可愛い。
66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/11(金) 22:54:18.24 ID:VNzv89BQ0
さやかが死んだら…ボケが居なくなるじゃない!
67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/11(金) 23:07:17.49 ID:MWoAILhto

相手はナルト初期でいうと体術一直線のロック・リータイプって感じですか


そしてどうやら間に合ったようだな……たぶん、きっと
68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/11(金) 23:29:45.48 ID:VNzv89BQ0
間に合ったってどういう意味?
69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/12(土) 01:45:07.64 ID:Eq6beu/ro
元ネタがニンジャスレイヤーだからなぁ……
70 :1 [saga]:2013/01/12(土) 21:57:14.52 ID:umK21brR0
続き投下です。

実は、ニンジャスレイヤーを知りません。だけど、続きます。
71 :1 [saga]:2013/01/12(土) 21:58:30.39 ID:umK21brR0

さやか(……ヤバい……でも……動けない!!)

 回復速度が追い付かない程の連続攻撃を受け、思考と体がバラバラだった。

ほむら「さやか!!」

 ほむらは、思わず叫んでしまった。


 その瞬間、バン、と銃声が響いた。

栃(……!?)

 一瞬の判断で、栃はバク転で間合いを広げた。
 壁には撃ち込まれた銃弾の跡。

ほむら(あれは……!!)

その弾痕からリボンが生え、倒れかけたさやかの体を包み込んだ。まさに、命を繋いだ黄色いリボン。

さやか(……これって)

 全員の視線は、廃工場の入口に向けられていた。

72 :1 [saga]:2013/01/12(土) 21:59:27.06 ID:umK21brR0

 横一列に並ぶ、五人の魔法少女と、一匹の個体。

マミ「間に合ったみたいね……」

杏子「ったく……世話掛けさせやがって。後で、味噌カツ奢れよ」

ゆま「キョーコ……さっき沢山食べてたのに?」

キリカ「君達が、名古屋の支配者って訳だね?」

織莉子「その二人を返してもらおう。そうすれば、私達は何もしないで帰るわ」

 見滝原近辺の魔法少女達は、名古屋にまで遠路遥々加勢にやって来たのだ。

ほむら「皆……どうしてココが?」

QB「僕が案内したのさ。君達を失う事は、我々にとって損害が大きいのさ」

73 :1 [saga]:2013/01/12(土) 22:00:39.26 ID:umK21brR0

 対して、クォーターの面々は何を思うか。

栃「仲間の加勢か。運が良かったな……」

氷架「皆まとめて、地獄に堕ちれるなら、寂しくは無いもんね?」

鈴「雑魚が集まった所で、所詮雑魚だぜ」

セナ「丁度暴れたかったからね。都合が良いや」

 臆する事は無い。例えどんな相手であろうと、邪魔する者はなぎ倒してきた。それが、クォーターと言う集団なのだ。

セナ「あのちっこいのは論外。閉じこもってる黒いのと死に掛けの青いのは、後で殺せばいいね」

鈴「それだったら、一人一殺で丁度良いじゃん」

氷架「そうだね。優しい私達に、感謝して欲しいよね」

栃「……曲がりなりにも、ワルプルギスの夜を倒してる連中だ。気を抜くな」

74 :1 [saga]:2013/01/12(土) 22:01:22.49 ID:umK21brR0

 四人が道を塞ぐように、横一列に並んでいた。

杏子「少しは、アタシらの事解ってるみたいだな」

マミ「美樹さんをリボンで包んでいる間は、怪我が進行しない筈よ。問題は、あの四人をどうにかしないと……」

織莉子「……言って引く様な連中じゃないみたいだわ」

キリカ「隙を作って、向こうに行けばどうにかなりそうだけど……」

 個々に臨戦態勢を作るが、易々と超えさせて貰えるほど、クォーターの連中は甘く無かった。

氷架「こういう時は……無理やりにでも、一対一に持ち込めばいいのさ!!」

 氷架のソウルジェムが水色の光を生み出すと、工場内全てを光で包んだ。
 そして、光が収まると同時に、クォーターの四人と、マミ、杏子、織莉子、キリカの合計八人が、消え去っていた。
75 :1 [saga]:2013/01/12(土) 22:02:22.88 ID:umK21brR0

 工場内に取り残されていたのは、さやか、ほむら、ゆま、そしてキュウべえ。

ゆま「あれ!? キョーコ達が居ない!?」

QB「桐ケ谷氷架……さっきの槍を持った魔法少女の魔法だね。彼女の魔法は、バリアを作り出す物。
 上手く服用して、四つの部屋を作り出したんだ。その中に、二人づつ入っている筈さ」

 そう言って、キュウべえは周囲を見渡す。壁には、四枚のドアが召喚されていた。

ほむら「ゆま!!」

 結界の中から、ほむらはゆまを呼んだ。

ゆま「ほむらお姉ちゃん?」

ほむら「先に、さやかの怪我を治してあげて!!」

ゆま「うん!!」

76 :1 [saga]:2013/01/12(土) 22:03:06.72 ID:umK21brR0

 ゆまは、さやかの元に駆け寄った。

さやか「……ゆまちゃん?」

ゆま「大丈夫だよ。すぐに治してあげる!!」

 そう言って、ゆまはさやかに治癒魔法をかけた。さやかの傷は、見る見る間に治って行く。

さやか「ふぅ……助かったよ。ありがと」

ゆま「困った時はお互い様だよ。マミお姉ちゃんがそう言ってた」

ほむら「……治った所良い? いい加減、出してくれないかしら?」

さやか「……あ、ごめん」

 さやかは、バツが悪そうにして、そそくさと結界の前に移動した。そして、サーベルを引き抜いて結界を解いた。
77 :1 [saga]:2013/01/12(土) 22:04:52.12 ID:umK21brR0

QB「君は、何故さやかの結界に閉じ込められていたんだい?」

ほむら「……さやかの判断ミスよ。そんな事より、皆は何処に行ったの?」

QB「あのドアの中だよ。クォーターの一人が、魔法で新しい部屋を作り出したのさ。一対一の対決に持ち込む為にね」

ゆま「大丈夫かな……」

さやか「解らない……」

ほむら「……わざわざ、一対一に持ち込む必要があったのかしら。どうも、一対一の勝負に拘っている様に感じるけど……」

QB「……彼女達クォーターの狙いは、仲間にする事では無い。絶対的に、忠誠を誓わせる事が狙いなのさ」

ほむら「その為に、一対一で戦うって事なの?」

QB「そうさ。複数の人数で、一人を叩けば見せしめになる。だが、それだけなら一人になった所を狙って、奇襲をかける事も出来る。
 一人で一人を徹底的に叩く事で、絶対に勝てないと植えつけさせる。そして、二度と刃向わないと思わせる事がポイントなんだ。
 只の戦闘狂じゃないよ。裏で駆け引きをしながら、立ち回る。それが、クォーターの恐怖政治のやり方さ」

さやか「……」

ほむら「今は、待つしかなさそうね」

 ほむらの握りこぶしが、小さく震えていた。
78 :1 [saga]:2013/01/12(土) 22:05:51.59 ID:umK21brR0

――一つ目、赤黒い扉の部屋。

 部屋の中に居るのは、栃。そして、杏子。

杏子「アンタ、さっきさやかと戦ってた奴だよな?」

栃「そうだ。もっとも、戦うとは違うな。私は殺すつもりだっただけ」

杏子「……アタシは、仲間が傷つけられて黙ってるつもりは無いね。ちょっと痛い目に会って貰おうか」

 杏子は槍を栃に向ける。

栃「……やれるのならやってみろ。やれるのならな……」

 栃も、不敵な微笑を見せながら、ファインティングポーズを構えた。

79 :1 [saga]:2013/01/12(土) 22:06:57.01 ID:umK21brR0

――二つ目、白い扉の部屋。

キリカ「……へえ。魔法って便利な使い方出来るんだねぇ」

セナ「私の魔法じゃないけどね。それと、一つ選ばせてあげる」

キリカ「……?」

セナ「一瞬で殺されるか、じっくり痛めつけられてから死ぬか……どっちがいいかな?」

 セナの顔付きが、狂喜じみた笑顔に豹変していた。

キリカ「……ま、君に恨みは無いけれど、倒させて貰うよ。仲間を助けるのは、織莉子の意向だからね」

 キリカは全くかみ合わない、見当違いな返答を言ってのけた。

セナ「ふーん……出来ると思う?」

キリカ「君を倒す事は、無限の中の有限だからね」

 お互いに武器を構え、すぐにでも斬りかかれる姿勢に入っていた。

80 :1 [saga]:2013/01/12(土) 22:07:45.43 ID:umK21brR0

――三つ目、褐色の扉の部屋。

マミ「……あんまり、戦いたくないのよね。同じ魔法少女では……」

鈴「戦いたくなければ、戦わなくても良いぜ? その代わり、死んでもらうか、グリーフシードになって貰うかだけど」

マミ「貴女……本気で言ってるのかしら?」

鈴「ああ、そうさ。私にとって、魔女も魔法少女も餌に過ぎないからね」

 鈴の言葉を聞き、マミの表情は引き締まった。

マミ「……同じ魔法少女と思いたくないわね。そんな、非道な考えをする人が」

鈴「非道? 大いに結構さ。私には氷架さえ居れば、何もいらないからね。邪魔する者は、全てなぎ倒す!!」

マミ「……良いわよ。その歪んだ考えを、叩き直してあげる!!」

 マミがマスケット銃に手をかけると同時に、鈴も大剣に手をかけていた。

81 :1 [saga]:2013/01/12(土) 22:08:40.20 ID:umK21brR0

――四つ目、水色の扉の部屋。

氷架「いらっしゃいませ、私の空間へ……魔女化にする? 惨殺にする? それとも、ド・レ・イ?」

織莉子「全部、お断りしたいね。私には、キリカと言う帰るべき場所が有るのでね」

氷架「へー、私と一緒だね。だけど、何時もお世話になってるレイちゃん元に……お土産も無しで帰るのは失礼だからさ……」

 氷架は、織莉子に向けて槍を向ける。

氷架「グリーフシードに生まれ変わって貰えるかな?」

 満面の笑みで、恐ろしい台詞を告げた。

織莉子「……拒否させてもらうよ」

 織莉子は、真っ直ぐに氷架を睨みつけた。

82 :1 [saga]:2013/01/12(土) 22:09:51.91 ID:umK21brR0

――廃工場内。

ゆま「……キョーコ達。ちゃんと戻ってくるよね?」

ほむら「……」

 ゆまの言葉に、ほむらは答えられなかった。

さやか「……誰と誰が戦ってるかなんて解らないけど……。一番弱い奴で、あたしは全然歯が立たなかった……」

QB「落ち込む事は無いよ。君が弱いのじゃ無く、向こうの魔法少女達が強すぎるのさ」

さやか「……ねぇ、キュウべえ。アイツ、目的って言ってたけど、それって何なの?」

QB「魔女を退治する事さ。ただ、君達の考える魔女退治とは、意味合いがかなり違うね」

ほむら「どういう意味かしら?」
83 :1 [saga]:2013/01/12(土) 22:11:32.24 ID:umK21brR0

QB「……ソウルジェムが穢れると、グリーフシードに生まれ変わる。それを知った彼女達は、魔法少女も魔女も同じだと見なしているのさ。
 魔法少女を狩れば、魔女の数は減っていく。だから、魔法少女を支配し、意図的に魔女にしてから倒す。それが、クォーターの手段さ」

さやか「……絶対にそんなの認めない。認めたくない……」

ゆま「……」

ほむら「まさに外道ね……。でも、そのやり口は、貴方達インキュベーターが喜びそうな手段にも思えるけど?」

QB「確かに、効率は上がるさ。だけどね……僕達にも考えは色々あるのさ。
 ただ、エネルギー回収ばかりが我々の仕事じゃない。このシステムは、感情の研究も兼ねてるからね」

ほむら「……?」

84 :1 [saga]:2013/01/12(土) 22:14:08.21 ID:umK21brR0

QB「我々の科学力を持ってしても、感情と言う物を解析する事は出来ていない。長い間研究を続けているが、中々成果は上がらない。
 そんな中、君達がワルプルギスの夜を倒した時の話さ。

 君達の魔力を全て出し尽くしても、ワルプルギスの夜には、到底及ばなかった。
 しかし……君達の感情の高ぶりが見えた時。魔力の全容量が、大きく増幅していた。僕達の理論では、絶対に起きない現象だった。
 それ以来、君達の魔力と感情の関連性を研究させて貰ってるのさ」

ほむら「随分、勝手な事してるのね。だけど、それが私達失うと損失が有るって意味だった理由かしら?」

QB「そうだよ。長い歴史の中で、後にも先にも、君達だけに起こった現象だからね。これを研究すれば、自分達でもエネルギーを作り出せるかもしれないチャンスなんだ」

ほむら「……最近、妙に契約を迫らない理由は、そこだったのね」

QB「君達は、母星の連中も一目置いているからね。簡単に死なれては困るのさ」

 ほむら達は、それ以上は何も答えなかった。今は、仲間を信じて待つしかない。

85 :1 [saga]:2013/01/12(土) 22:17:42.51 ID:umK21brR0
本日は、ここまでです。
次回は、タイマンバトル。

余談ですが、ほむほむは可愛いよりカッコイイが似合うと思ってます。
86 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/13(日) 00:51:23.93 ID:x+NXZRhMo

自分たちだけは食う側だと思ってる連中が
食われる側に回ったらどんな絶望を見せてくれるのかしら
87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/13(日) 20:39:51.15 ID:KOrWn/KRo
乙乙!
88 :1 [saga]:2013/01/13(日) 21:36:41.51 ID:QVz1CtYF0
続き投下ます。

一応全て書きましたけど、手直しもしたいので全部は投下しません。
89 :1 [saga]:2013/01/13(日) 21:37:57.74 ID:QVz1CtYF0

――栃と杏子の部屋。

 杏子は先手必勝とばかりに、槍を構えて真っ直ぐに突撃。

栃(……軌道が丸解りだ!!)

 右にかわして、栃は回し蹴りを繰り出す。

杏子(……ちぃ!!)

 一旦屈んで避けると同時に、槍を多節根化させ、栃の足払いを狙う。

栃(……甘い!!)

 避ける様に飛ぶと同時に、浴びせ蹴りで杏子の頭を狙い撃つ。
 ガン、と蹴ったのは元に戻っていた槍だけで、見事にガードしていた。力で押し戻し、栃の体を吹っ飛ばして、体勢を崩れさせる。

杏子(大人しくしやがれ!!)

 再び一気に貫こうと、槍を撃ち出した。
90 :1 [saga]:2013/01/13(日) 21:39:01.12 ID:QVz1CtYF0

 しかし、栃は崩れた体勢のままでも、槍の軌道をしっかりと見ていた。

 槍は空発。身を反転してかわし、そのまま横に一回転して、肘鉄を撃ち込んだ。先に顔面を弾かれたのは、杏子の方だった。

杏子「……っ!?」

 僅かに怯んだ隙に、右の拳でもう一発顔面を弾き飛ばした。杏子は、たまらず地面に転がり込んだ。

栃「……少しは出来る様だな。だが、それだけじゃ私には敵わない」

杏子「言ってろ……」

 強がるように言って立ち上がるが、杏子の内心はかなり焦っていた。

杏子(やべぇな……コイツ、マジで強いわ)

 肌でそう感じる程、栃は実力者だった。
91 :1 [saga]:2013/01/13(日) 21:39:57.27 ID:QVz1CtYF0

栃「魔法が使えるなら、早く使った方が良い。使った所で、勝てはしないだろうが」

杏子「そりゃ、お前もだろうが……」

栃「生憎だな。私には魔法も無ければ、生み出せる武器も無い。そんな魔法少女が、戦いに生き残ってきた。
 それが何を意味しているか……解らないような馬鹿では無いだろう?」

杏子「……うるせーんだよ」

 再度槍を構え、栃を睨みつける。

杏子「……うりゃぁ!!」

 気合の咆哮と共に、栃に襲い掛かる。
 槍を振り回すが、栃には完全に見切られていた。紙一重でかわされ、カウンターを撃ち込まれる。
92 :1 [saga]:2013/01/13(日) 21:40:58.41 ID:QVz1CtYF0

杏子(全然当たる気配が無ぇ……)

 口元を流れた血を、手で拭う。

栃「……さっきの奴よりは出来る様だが、戦う相手が悪いな」

杏子「余裕こいてられんのも今だけだ!!」

 杏子は再び構え直して、いきり立つ。

栃「どういう手を使ったか知らんが、伝説の魔女もコケおどしだな」

杏子「……好き勝手言いやがって」

栃「事実だろう」

杏子「……何が言いたい」

栃「貴様は弱い。弱い連中が集まっても、レベルが知れてる。魔法少女に、仲間何てものは必要無い」

杏子「そういうアンタにも、仲間が居るんじゃねーのか?」

栃「あいつ等とは、手を組んでいるだけだ。魔女を確実に討伐する手段としてな」

93 :1 [saga]:2013/01/13(日) 21:41:46.93 ID:QVz1CtYF0

 栃の言葉は、杏子の胸に引っ掛かるものがあった。

杏子「……アタシも以前は、アンタみたいに考えてたさ。でもさ……一人で戦うって事にも、所詮限界は有る」

栃「……」

杏子「少なくとも……アタシは仲間の力で強くなれたさ。もし出会わなきゃ、今頃魔女にでもなってたかも解らない。
 だから、アンタの考え方には……真っ向から否定させて貰うよ」

栃「……だったら、殺すまでだ」

 そう呟いた栃は、首元のマフラーを外し道着を脱ぎ捨て、上半身はタンクトップ一枚になった。
94 :1 [saga]:2013/01/13(日) 21:42:53.47 ID:QVz1CtYF0

杏子「……その傷跡が、一人で戦う理由って訳か」

栃「……数年前、私は家族共々魔女の結界に巻き込まれた。両親は目の前で魔女に食い殺され、私も瀕死の怪我を負った。
 死ぬ寸前に現れたキュウべえと契約して蘇ったよ……全ての魔女を殺す為にな」

杏子「……」

栃「私に魔法が無いのは、魔女も魔法も……魔法少女も否定しているからだ。貴様も魔法が使えないのは、何処かで魔法を否定しているから……そうだろ?」

95 :1 [saga]:2013/01/13(日) 21:43:41.73 ID:QVz1CtYF0

杏子「……ああ。その通りだよ。アタシの魔法が封印されてんのは、アタシの願いで家族が滅茶苦茶になったからさ。
 アタシとアンタは、きっと同種の人間だよ。ただ、仲間に会える機会が有ったか、それが無かったかしか違わない」

栃「……少しは、やる気が起きた様だな」

杏子「ああ。迷いはねぇさ」

 そう告げて、杏子は十字架を切って祈りを捧げる。

栃「神に祈ってどうする?」

杏子「懺悔さ……大罪を犯すからね」

栃「……地獄に送ってやる。かかって来い」

 互いに構え、間合いを測る。僅かでも隙あらば、喰らい付く為に。

96 :1 [saga]:2013/01/13(日) 21:44:51.52 ID:QVz1CtYF0

――キリカとセナの部屋。

 斬撃が飛び交う。短剣が地面を抉れば、鉤爪が壁に傷跡を残す。高速の攻防は、息を付く暇も与えられない。
 未だに、両者ともかすった傷は無い。

セナ「へえ……結構やるねぇ」

キリカ「私が相手した中で、君が一番速いよ。おめでとう」

セナ「……余裕だね。でも……それって魔法のお蔭だよね?」

キリカ「……」

セナ「私の固有魔法は、加速。自分の速度を限界まで上げられる代物だからね……」

キリカ(……通りで、速度低下が鈍い訳か。厄介だな……)

セナ「君の魔法は、速度低下でしょ? 私も、速度の魔法だからさ。似たような魔法だと結構見破れるんだよ?」

キリカ「……見破った所で、当たらなくては意味が無いんじゃないのかな?」

97 :1 [saga]:2013/01/13(日) 21:45:47.33 ID:QVz1CtYF0

セナ「反する魔法同士なら、相殺は出来るよ。でもね……もし私はまだ本気を出していなかったら……君は避けきれるのかな?」

キリカ「……へぇ。その本気、見せて貰おうか」

 セナの表情が変わった。眼を見開き、狂気じみた笑みを見せて、キリカに襲い掛かる。

キリカ「……!?」

 ガキン、と金属がぶつかった。一太刀目は、鉤爪で防いだ。

セナ「ハイヤァッ!!」

 二太刀目は空を斬る。何とかかわしたが、セナの攻撃は止まらない。

キリカ(……速度低下が追い付かない!!)

 連続斬撃の速さは、キリカの予想よりも遥かに速かった。
98 :1 [saga]:2013/01/13(日) 21:46:34.70 ID:QVz1CtYF0

セナ「あっはっは、お話にならないよ?」

キリカ(……調子に乗るな!!)

 同時に武器を振り上げ、一気に貫く姿勢に入る。
 ズバン、と斬撃が走り、両者が交錯する。

キリカ「……いっつぅ」

 キリカの腹部から、血が溢れ出る。

セナ「相撃ち覚悟で突っ込んでくる辺りは、やるじゃない」

 セナの体にも、無数の傷が走っていた。衣装は流血で染まっているが、本人は気にする様子も無い。

キリカ(……避ける事もしない、か。加速して突っ込んでくる分、見切る事もしないようだね……)

セナ「さて……次は避けきれるかな?」

 セナは、剣に付着した血をなめずる。

99 :1 [saga]:2013/01/13(日) 21:47:29.17 ID:QVz1CtYF0

キリカ「簡単に決めさせないよ。私が死ぬ時は……織莉子が居なくなった時さ。
 私の愛は……無限に有限なんだからね」

セナ「……」

 キリカの言葉を聞き、セナの表情は一変した。
 狂気じみた笑みは消え失せ、冷たい目付きで睨んでいた。

セナ「気が変わった……。お前……ムカつく」

キリカ(……雰囲気が全然変わってる!?)

セナ「弄り殺すつもりだったけど……愛とか抜かしやがった。そんな物は嘘っぱちだ。愛なんて、只の妄想……」

 譫言の様に、ブツブツと呟き、キリカを真っ直ぐに睨む。

100 :1 [saga]:2013/01/13(日) 21:48:19.22 ID:QVz1CtYF0

キリカ(……あの眼つきは、完全に私を殺すつもりの眼だ。何をそんなに怒ってるんだ?)

セナ「……お前が嫌い……お前は憎い……」

キリカ「このままなら長引く事は無いね……。奥の手で仕留めるよ……一手で十手」

 ここからは降着状態にはならないと判断した。キリカの鉤爪が変化し、爪の数は十本に増える。一撃で仕留めるつもりだ。

セナ「……お前を殺す」

 セナはゆっくりとした動作で、再び剣を構えた。

101 :1 [saga]:2013/01/13(日) 21:49:13.90 ID:QVz1CtYF0

――マミと鈴の部屋。

 十数丁のマスケット銃から、打ち上げ花火の如く、弾丸が放たれた。

鈴「うぜぇ!!」

 大剣で全て防ぎ切ったが、自分の間合いに持ち込めない鈴は、苛立ちを隠せない。

マミ(……これでもダメみたいね)

 マスケット銃の破壊力では、鈴の大剣を壊す事は出来ない。

鈴「ちょこまかと逃げんじゃねーよ!!」

 武器を振りかざし、マミに向かい振り落とす。

マミ(……もう!!)

 マミは、一気に下がって間合いを広げた。さっきまで立っていた場所は、思いっきり抉られている。

マミ(あんなの受けたら……体が粉々ね)

 背筋に冷たい汗が流れた。
102 :1 [saga]:2013/01/13(日) 21:50:09.20 ID:QVz1CtYF0

鈴(クソ。一発当たれば何とかなるけど……この女予想以上にやりやがる!!)

 鈴も焦りを隠せない。接近した一撃必殺は鈴の方が上だが、マミは警戒しており必要以上に間合いを広げている。

マミ(これ以上時間はかけたくないわ……)

 マミは一か八かにかける。
 更にバックステップを取って、大きく間合いを広げる。

鈴(何か仕掛けてくるな!!)

マミ(……行くわよ)

 魔力を込めて、リボン握る。新体操の様にロールを描いたリボンから、大砲を召喚。魔力を充填すると、銃口は眩い光を溜めこんだ。

103 :1 [saga]:2013/01/13(日) 21:51:26.41 ID:QVz1CtYF0

マミ「……殺すつもりは無いわ。出来る事なら、避けて欲しい……」

鈴「忠告した所で無駄だね!! その技、真正面から打ち破って見せてやるよ!!」

マミ「仕方ないわね……」

 大きく息を吸い込んで、マミの人差し指は大砲のトリガーを引いた。

マミ「ティロ・フィナーレ!!」

 黄色い閃光が、真っ直ぐに鈴に向かい突き進んでいく。
 対して、鈴は大剣を振り被り、閃光に照準を合わせた。

鈴「……舐めんなぁ!!」

104 :1 [saga]:2013/01/13(日) 21:52:19.00 ID:QVz1CtYF0

 そして、気合の雄叫びと共に一刀両断。弾丸は真っ二つに斬られ、鈴の両脇をかすめて行った。

マミ「……ウソでしょ!?」

鈴「どんなもんよ……」

 鈴はニヤリと笑みを見せた。ティロ・フィナーレが打ち破られた事に、マミは同様の色を隠せない。

マミ(……まさか、ティロ・フィナーレを叩き切るなんて……)

鈴(ちぃ……結構ダメージ喰らっちまった。もう一発やられたらマズイな……)

 実は、鈴が余裕を見せているのは、ハッタリだった。
 直撃はしていなくとも、ティロ・フィナーレの衝撃は大きく、体にはかなりの負担がかかっていた。

105 :1 [saga]:2013/01/13(日) 21:53:53.46 ID:QVz1CtYF0

 ただ、必殺技を打ち破った事によって、精神面はかなり優位に立っている。

鈴「……次は、私の魔法を見せてあげるよ」

 遠くに立つマミと、鈴の視線は重なり合った。

鈴(……さあ、悪夢を見な)

 鈴は魔力を視線に集中させた。

マミ(え……?)

 ドクン、と心臓が高鳴った。時が止まった様に、その目を見つめる。

鈴「悪夢(ナイトメア)……」

マミ「……あ……ああ」

 マミはだらしなく口を開き、膝から地面に崩れ落ちた。

マミ「………………」

 瞳孔は開き、焦点の合っていない視線を宙に向ける。

106 :1 [saga]:2013/01/13(日) 21:54:37.17 ID:QVz1CtYF0

鈴「……私の魔法は、邪眼。アンタの心の奥にあるトラウマを、引きずり出させてもらったよ」

 呆然自失のマミの目前に、鈴は立ち止まる。そして、大剣を振り被った。

鈴「……って、解説した所で聞こえねーか」

 重みに任せて、思いっきり大剣を振り落とす。ドン、と言う音と共に地面が大きく抉られた。

鈴(……消えた!?)

 見えるのは、破壊されたのは床の残骸だけで、マミの姿は消えていた。

マミ「惜しかったわね……」

 その一言と聞こえると、鈴の体はリボンで巻かれ、あっという間に拘束されてしまった。

107 :1 [saga]:2013/01/13(日) 21:55:38.36 ID:QVz1CtYF0

鈴「……どうなってんだ」

マミ「私の魔法は、命を繋ぐリボン。さっき大量に撃った魔弾を、リボンに召喚して動きを止めさせてもらったわ」

鈴「さっきのアレは、芝居だったって訳か……」

 鈴の表情は苦々しく、奥歯を食いしばっていた。

マミ「貴女は固有魔法をずっと使わなかったから、二つ推測していたの。
 一つは、攻撃に関する魔法で、発動させる事にタメが必要なもの。
 もう一つは、動き回る相手だと使えない、精神を犯す類の種類もの……」

鈴「……何時気が付いた?」

108 :1 [saga]:2013/01/13(日) 21:56:25.86 ID:QVz1CtYF0

マミ「さっき撃った大砲の砲撃で、後者だと確信したわ。前者のパターンなら、魔法を発動させて相殺も出来る。
 しかし、それをやらないで魔弾を切り裂いた。そこで、貴女の魔法は精神攻撃の類と解ったのよ」

鈴「……そこで、銃痕から結界を作って、私の魔法を防いだのか」

 マミは後ろから、鈴の頭に銃を突きつけた。

マミ「その通り……チェックメイトよ。大人しく降参しなさい」

鈴「ジョークは、程々にしておけよ。これ位の拘束で……大人しくなるかよぉ!!」

 鈴は力任せでリボンを引っ張り、更に大剣を強引に振るった。

109 :1 [saga]:2013/01/13(日) 21:57:46.44 ID:QVz1CtYF0

マミ(滅茶苦茶ね……)

 これには、マミも呆れた。一旦離れると、鈴はその場で暴れ出していた。

鈴「舐めるなぁ!!」

 腕力と、大剣の刃でリボンを切り裂いた。ただし、リボンの食い込んだ鈴の体にも、大きな代償が出来ていた。

マミ「……左腕に、肋骨が何本か折れてるわね。右手一本で、その大剣を振り回せるのかしら?」

鈴「……これ位、ハンデにもならないね」

マミ「容赦はしないわよ?」

鈴「こんな所で、負ける訳にはいかないのさ。魔法少女になる奴で、真面な人生を歩んできた人間が居るのかい? 居ないだろ」

マミ「……」

110 :1 [saga]:2013/01/13(日) 21:58:59.38 ID:QVz1CtYF0

鈴「あんたも同じ魔法少女なら、どんな獣道を進んで来たか……解るよな?
 私達は、魔女を倒すならどんな手段も択ばない……。氷架と一緒に魔女を狩りまくって、グリーフシードを山程持って……何時か、南の島に行って二人で暮らすんだ……」

マミ「……素敵な目標ね」

鈴「……誰にも邪魔はさせない……誰にもな」

 鈴は、右手一本で大剣を構えた。

111 :1 [saga]:2013/01/13(日) 22:00:32.95 ID:QVz1CtYF0

――織莉子と氷架の部屋。

織莉子(……右、右、左)

 直後の動きを予知しながら、織莉子は氷架の槍を全て避ける。

氷架(丸で、動きが読まれてるみたい……。かすりもしない)

 更に槍を引いた隙を狙い、織莉子は水晶玉を無数に飛ばす。

氷架(それ位は読んでるよ!!)

 だが、全て氷架のバリアに弾かれた。

織莉子(……避けるのは問題にならない。ただ、私の攻撃力じゃ、あのバリアを破壊するのは不可能のようね。
 おまけに、コイツの動きはかなり速いわね……)

112 :1 [saga]:2013/01/13(日) 22:01:15.79 ID:QVz1CtYF0

氷架「……ちょっとー。危ないじゃないのー」

 そうは言うが、表情には余裕が垣間見える。

織莉子「その割には、まだ余裕が有る様ね……」

氷架「フフ……」

 氷架は、不気味に笑った。

織莉子「だったら……笑えなくしてあげましょう!!」

 織莉子は、今までよりも大きな水晶玉を召喚。今までがテニスボール位だったが、今度はボーリングの球位の大きさが有る。

織莉子「飛びなさい!!」

 高速で発射された弾は、真っ直ぐに氷架の元にすっ飛んで行く。

113 :1 [saga]:2013/01/13(日) 22:02:04.00 ID:QVz1CtYF0

氷架「バリア!!」

 ゴン、と鈍い音を立てて、バリアに水晶玉がめり込んでいた。

氷架「へぇ……。私のバリアにヒビが入った事なんて、滅多に無いんだ」

織莉子「……大した厚さと丈夫さね」

氷架「フフフ……これ位防げなきゃ、レイちゃんの盾にすらならないんだよ」

織莉子「……仲間を護る為のバリアと言う訳かしら?」

氷架「ううん。私が護るのは、レイちゃんだけ。他の奴は誰も居れないよ」

織莉子「そう……。随分と愛しているのね」

114 :1 [saga]:2013/01/13(日) 22:02:59.18 ID:QVz1CtYF0

氷架「愛なんかじゃ、物足りないかもね。私の身も魂も、全てレイちゃんに捧げても構わないんだ。
 私はずっとずっと、子供の時から虐められてきた。だけど、レイちゃんに出会って立ち直った。だから、レイちゃんを護る為に契約したの。
魔法少女になって、強くなれた。レイちゃんに会えなきゃ、とっくに自殺してたかもしれない。
 だから、レイちゃんの喜びは、私の喜び。レイちゃんの悲しみは私の悲しみ。レイちゃんの痛みは、私の痛みなんだよ」

 氷架の言葉には何の迷いの無い。舌足らずな言葉で、過度な台詞を捲し立てる。

織莉子「それ程の気持ちが有るのは、尊敬に値するわ」

115 :1 [saga]:2013/01/13(日) 22:04:09.18 ID:QVz1CtYF0

氷架「ありがと。他の奴に言っても、誰も理解してくれないの。お姉さんが、初めて解ってくれたよ。このまま、殺すのは惜しい位に……」

織莉子「……出会う場面が違えば、キリカと仲良くなれたかもしれないわね。
 でも……遅すぎたわ」

 織莉子は再び魔力を充填する。そして、氷架もより強力なバリアを張った。

織莉子「この一撃で、全てを決めるわ。これが通用しなければ……私の負け。煮るなり焼くなりお好きになさい」

氷架「良いよ。どちらの愛が深い物か……試すには丁度良いもんね」

 織莉子は、ビー玉サイズの水晶玉を、五つ召喚した。

116 :1 [saga]:2013/01/13(日) 22:05:50.38 ID:QVz1CtYF0

――マミと鈴の部屋。

マミ「……立っているのがやっとの状態ね。私は貴女の目的を邪魔しない。だから、諦めて貰えないかしら?」

鈴「無理だね。剣を構えた以上、引くような真似は出来ない……」

マミ「……仕方ないわね」

 マミは持っていたマスケット銃を捨て、今度はリボンを手に握りしめた。

マミ「……Un modo giallo」

 マミが唱えると、リボンは鈴に向けて真っ直ぐに伸びて行く。

鈴「うっとおしいぜ!!」

 鈴は右手だけで大剣を振り落とし、リボンを切り裂いた。

117 :1 [saga]:2013/01/13(日) 22:07:40.33 ID:QVz1CtYF0

マミ(かかったわね!!)

 真っ二つに割れたリボンは、両側から鈴の体に纏わりついた。

鈴「……何ッ!?」

 両手両足、更に体を捕まえられ、鈴は一切の身動きが取れなくなってしまった。

マミ「……少し、大人しくしていなさい!!」

 もう一本リボンを取り出して、今度は首に巻き付けた。

鈴「……ッ!!」

 首を絞めているリボンは、次第に締め付けられていく。

マミ「……Strozzamento」

 鈴の顔色は、紫色に染まっていた。酸欠状態に陥っている証拠だ。
 脳に酸素が回らず、鈴の目は焦点を定めなくなっていた。
118 :1 [saga]:2013/01/13(日) 22:09:44.91 ID:QVz1CtYF0

マミ「安心しなさい……リボンが巻かれている間は、怪我が進行しないわ。大人しく気絶していなさい」

 そして、絞めを続ける事三分……。

鈴「ッ……」

 ガクン、と体中の力が抜けてしまった。鈴の意識は完全に落ちてしまった。

マミ「あんまり、好きじゃないのよね……この技」

 マミは溜息を吐き出しながら、そう呟いた。

※ Un modo giallo=イタリア語で黄色い道
※ Strozzamento=イタリア語で絞殺
119 :1 [saga]:2013/01/13(日) 22:10:57.12 ID:QVz1CtYF0

――栃と杏子の部屋。

 両者一歩も引かない、高速域の攻防。
 杏子が一太刀斬る間に、栃は三発の拳を叩き込む。懐まで潜り込めば、栃が圧倒的に有利だが、杏子も何とか避けながら立ち回る。

杏子(……ちぃっ!!)

 一旦間合いを取って、杏子は槍を構えた。

栃「さっきとは格段に動きが違うな。こっちのメンバーに勧誘したい位だ」

杏子「生憎だが、お断りだ!!」

 そう言い放ち、杏子は真っ直ぐに栃へ突っ込んで行く。

栃(玉砕のつもりか……ならば、カウンターで仕留めてやる!!)

 杏子の動きを予測して、栃は拳に力を込める。会心の一撃で、止めを刺す狙いだ。

120 :1 [saga]:2013/01/13(日) 22:11:42.87 ID:QVz1CtYF0

杏子「いけぇ!!」

 槍を思いっきり突き出した。しかし、栃は左にかわしながら、右の拳を撃ち出している。

杏子(……ここだ!!)

 拳の軌道に併せて、杏子は槍を多節根化させる。

栃(……!?)

 槍に軌道を阻まれて、拳は杏子の顔面の右側をかすめるだけだった。

杏子「残念だが……アタシの勝ちだ!!」

 今度は杏子が懐に入り込み、槍の先端部分を握りしめ、そのまま一気に斬り付けた。
121 :1 [saga]:2013/01/13(日) 22:12:26.47 ID:QVz1CtYF0

 栃の体を深く斬り付けると、傷口からは鮮血が飛び散っていた。

栃「私としたことが……判断を誤っていたか……」

 そのまま膝を付いて、栃は前のめりに倒れ込んでしまった。

杏子「……悪いけど、アタシにも譲れないもの意地ってもんが有るんだよ」

 そう告呟いて、返り血を浴びた顔を手で拭う杏子。しかし、気が抜けたのか、ガクリと膝が折れてしまう。

杏子(クソ……アバラ全部イッてるな……)

 杏子の体も、正直限界ギリギリだった。

122 :1 [saga]:2013/01/13(日) 22:13:10.23 ID:QVz1CtYF0

――キリカとセナの部屋。

 ボソボソと呟きながら、セナは剣を構えた。標的のキリカを真っ直ぐに睨み、すぐにでも斬りかかれる状態だ。

キリカ(……全力で速度低下を使っても、あの女には通用しない。スピードを乗せてぶつかってくる分、カウンターの威力は上がる。問題は……私が避けられない)

 十本の爪を構え、キリカも迎撃の姿勢を作る。

キリカ(……だったら、避ける事は考えない。一か八か……)

 キリカは自分自身に向けて、全力の速度低下の魔法を発動させた。

123 :1 [saga]:2013/01/13(日) 22:14:14.99 ID:QVz1CtYF0

セナ「……殺る!!」

 セナは、全速力でキリカへ突っ込んで行く。

キリカ「……当たれぇ!!」

 キリカも、十本の鉤爪を突きだした。

 ズバン、とキリカの胴体が思いっきり斬りつけられた。同時に、セナの体も十本の爪で貫かれた。

セナ「……ぐッ」

 流石に爪が胴体を貫通していては、セナの動きが停止してしまう。しかし、深く斬りつけられたキリカの体は、不思議な事に傷口から血が溢れていない。

セナ「どうなってんのよ……」
124 :1 [saga]:2013/01/13(日) 22:15:03.33 ID:QVz1CtYF0

 一歩後退したキリカの体を見て、セナは思わず口を開いていた。

キリカ「簡単だよ……自分の体の速度を低下させてるのさ。こうすれば、斬られても十秒は動けるからね」

セナ「……その発想は……無かったね」

 セナは笑いながら言い放つと、糸が切れた様に地面に崩れ落ちた。

キリカ(……でも……限界だ)

 直後に、傷口から大量の血が噴き出していた。そのまま、キリカは意識を失い、地面に倒れ込むしかなかった。

125 :1 [saga]:2013/01/13(日) 22:15:47.98 ID:QVz1CtYF0

――織莉子と氷架の部屋。

 織莉子の右掌の上に浮遊する、五つの小さな水晶玉。

織莉子「……君のバリアには、残念ながら欠点がある。今からそれを証明して見せよう」

氷架「へぇ。今まで、このバリアを壊せたのは、一人だけだよ。レイちゃんの大剣でも壊せなかったんだよ?」

織莉子「やって見せようじゃないか……」

 織莉子は、水晶玉に魔力を込める。左手を真っ直ぐに突きだして、狙いを定める。

氷架(……結界の強さは、限界まで硬度を上げてるんだ。絶対に、破られない!!)

 防御に集中できる分、氷架は絶対の自信を持って結界を作っている。

126 :1 [saga]:2013/01/13(日) 22:17:12.36 ID:QVz1CtYF0

織莉子(……集中しろ)

 織莉子は、魔力の流れを一点に集中させる。

織莉子(……ここだ!!)

 掌から、水晶玉が発射された。

 パリン、と何かが割れる音が響く。
 張られた結界は原型を留めているが、結界には五つの穴が空いていた。

氷架「……そんな事って、出来るの……?」

 そして、氷架の体にも、銃痕の様な傷が五つも付いている。地面に膝を着き、氷架の息は荒くなっている。

織莉子「その結界を壊す事は、私の攻撃力では不可能よ。だからこそ、一点に魔力を集めて、貫通力だけ上げたの。ライフルの弾みたいなものかしらね」

氷架「……レイちゃん……ごめんね」

127 :1 [saga]:2013/01/13(日) 22:20:48.73 ID:QVz1CtYF0

 氷架の目から、大粒の涙が零れていた。

織莉子(……愛に生きて愛に死ぬ、か。と言っても、多分あの程度じゃ死にはしないわ。
 幸いにも上手くいったわ……結果オーライね)

 織莉子はフッと溜息を吐き出した。自分自身でも通用するかは、定かでは無かった。しかし、結果的に上手くいった点は幸運だった。
 幸いにも、無傷の勝利を収める。
128 :1 [saga]:2013/01/13(日) 22:21:33.59 ID:QVz1CtYF0

 そして、織莉子が氷架を倒したところで、四つの結界が光を放った。
 氷架を倒したので、部屋を作る魔法が発動しなくなったのだ。

織莉子(眩しい……)

 織莉子が次に眼を開くと、元の工場跡に風景を変えていた。

さやか「……皆!!」

 元の場所に戻されたメンバーを見て、さやかは思わず歓喜の声を上げていた。

ほむら「でも、怪我も酷いわね……」

ゆま「ゆまが治すよ!!」

さやか「あたしもやる!!」

 ゆまとさやかは、急いで皆の元に駆け寄る。続いて、ほむらも後を追った。

129 :1 [saga]:2013/01/13(日) 22:22:19.54 ID:QVz1CtYF0

マミ「佐倉さん、すぐに治すから」

 比較的軽症のマミは、まず杏子に駆け寄り回復魔法をかけた。

杏子「悪いね……」

 流石に怪我の度合いが酷いのか、杏子の息は非常に荒い。

織莉子「キリカ……キリカ!! しっかりして!!」

 一番重症だったキリカは意識が無く、織莉子は抱きかかえて声をかけた。

さやか「待って、すぐに魔法をかけるから!!」

 さやかとゆまで、急いで魔法をかける。斬られた傷は想像よりも深く、骨と内臓さえも斬りつけられていた。

130 :1 [saga]:2013/01/13(日) 22:22:55.54 ID:QVz1CtYF0

織莉子「こんなになるまで……」

ゆま「大丈夫だよ……ゆま達で、キリカお姉ちゃんを治してあげる!!」

 完全に治るまではいかなかったが、動ける程度までは回復出来た様だ。

キリカ「……ん。……んん?」

織莉子「キリカ!!」

 意識を戻したキリカを、織莉子は思いっきり抱きしめた。

織莉子「……良かった。死んでしまうかと思ってしまってたわ……」

キリカ「私が死ぬ時は、織莉子が居なくなった時さ……。それまでは、意地でも死なないさ……」

 織莉子の腕の中で、キリカは笑みを見せていた。

131 :1 [saga]:2013/01/13(日) 22:23:43.05 ID:QVz1CtYF0

 杏子もマミの魔法で回復し、一同は動ける様にはなった。

ほむら「さて……。これで一件落着と言う事かしらね」

杏子「今回は、手強かったな……。下手すりゃ、魔女より厄介だわ」

さやか「……さて、この連中はどうしよう? ほっとくのも、気が引けるし」

織莉子「処罰は、貴女達に任せます。私は手を下す気も有りません」

キリカ「織莉子と同じだね」

ゆま「うーん……どうしよう」

マミ「……キュウべえは、どう思うの?」

QB「回復させるだけ無駄だよ……」

 キュウべえは、厳しい意見で突き放した。皆目を白黒させながら、キュウべえを見つめた。
132 :1 [saga]:2013/01/13(日) 22:25:05.53 ID:QVz1CtYF0

栃「その通りだ……」

 そのキュウべえの意見に同意したのは、誰の他でもない栃。
 辛うじて、意識を繋ぎとめているが、目は虚ろで呼吸はかなり荒い。

鈴「……どの道、こうなったら死ぬ事は避けられない」

氷架「レイちゃんと一緒に……地獄に堕ちていくだけだよ……」

セナ「クックック……良いのかな? 止めを刺さなくて……」

 クォーターの面々を、僅かながら意識を取り戻していた。

キリカ「減らず口も、そこまで叩ければ大したもんだよ」

 キリカは呆れた様に口を開いた。そしてセナの元まで歩み寄って、鉤爪を首筋に突き立てた。

栃「手遅れだ……そうだろう? キュウべえ……」

 栃は、不敵に笑みを見せながらそう伝えた。

133 :1 [saga]:2013/01/13(日) 22:26:21.52 ID:QVz1CtYF0

 それが、彼女の遺言だった。

 ザン、と首元にロングソードが突き刺さった。ソウルジェムを的確に砕いて、致命傷を与えていたのだ。
 一同、突然の事に動揺を隠せない。呆然と、息の切れた栃の亡骸を見つめる事しか出来なかった。

QB「……これは!?」

 何よりも、一番動揺していたのは、キュウべえだった。

QB(……僕にまで解らない様に、気配を消して来たと言うのか!?)

 再び、ロングソードが飛んできた。三本のロングソードは、キリカの足元をかすめて、セナの体を縦に一刀両断。

キリカ(……ウソでしょ?)

 砕け散ったソウルジェムは、血まみれの肉塊の中に混ざって行く。

134 :1 [saga]:2013/01/13(日) 22:28:37.34 ID:QVz1CtYF0

さやか「ウッ……」

 スプラッタホラーの様な、悲惨な光景を目にし、さやかは胃の奥から込み上げてくるのを感じた。

杏子「見るな!!」

 ゆまを慌てて抱き寄せた杏子。しかし、杏子自身もここまで荒んだ光景を見た事が無かった。

マミ「……そ……そんな」

織莉子「どういう事……?」

キリカ「……何がどうなってんだよ!?」

 皆、腰を抜かしそうになる程だった。突然の殺戮劇に、同様と恐怖を隠せない。

135 :1 [saga]:2013/01/13(日) 22:30:18.38 ID:QVz1CtYF0

 キコキコと、タイヤの回る音が全員の耳に届く。

QB「……まさか君まで、ここに来ていたとはね」

ほむら「……」

 視線の先に居たのは、車椅子に乗った魔法少女。左腕、両足が欠損している事が、真っ先に見えた。
 そして、顔も左半分が髪に隠され、露出している部分も傷跡が酷く残る。
 何よりも、威圧する様な冷たい視線。右手に握りしめたロングソードは、惨殺した剣と全く同じ。

織莉子(……これ程恐ろしい物を感じた事は……一度も無いわ)

杏子(何者だ、コイツ!? 仲間を、叩き切るとかイカれてるぞ!?)

さやか(……怖い。こんな怖い事奴……ワルプルギス以来だ)

「初めまして……クォーターを仕切っています、天百合氷見と申します」

 冷淡な口調で、そう名乗った。
136 :1 [saga]:2013/01/13(日) 22:32:53.67 ID:QVz1CtYF0
本日はここまでです。
ボス登場です。

悪役を考えてる時や、書いてる時が楽しいって変かな?
137 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/13(日) 23:21:59.89 ID:bFfTCd3E0
全然変じゃ無いですよ。
138 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/13(日) 23:33:27.40 ID:x+NXZRhMo

わかる
一番楽しいのはその悪役らしい散り際を考える時だけど
139 :1 [saga]:2013/01/14(月) 21:46:53.50 ID:c2oSCbno0
続き投下します。ラストまで突っ走ります。
140 :1 [saga]:2013/01/14(月) 21:47:51.96 ID:c2oSCbno0

 氷見が次に見たのは、地面に這いつくばる鈴と氷架。

鈴「……命乞いはしない……殺すなら殺せ」

氷架「……レイちゃんと一緒なら……何も怖くないもん 」

 小さく口を動かした鈴と氷架。

氷見「そう……二人とも仲が良い物ね」

 微笑みを見せながら、氷見はそう言った。そして、十数本の剣を召喚した。

氷見「……散りなさい」

 そして、無数の剣が降り注ぎ、二人の体を貫いた。体中、生け花の様に剣が刺さっており、鈴も氷架もピクリとも動かなくなっていた。

141 :1 [saga]:2013/01/14(月) 21:48:42.71 ID:c2oSCbno0

ほむら(……こんな滅茶苦茶な魔法少女、見た事も聞いた事も無いわ)

 ほむらも動揺を隠せない。縄張り争いで戦う事は有るにせよ、惨殺するような魔法少女はまず居ない。
 何よりも、魔法少女を確実に仕留められる事は、恐ろしく強い証拠だ。

氷見「……貴女達は、非常に強い魔法少女でしょうね。彼女達に勝てるのは、私だけだと思っていた物ですから……」

 氷見は、冷たい眼のまま笑っていた。

杏子「……どう言うつもりで、仲間を殺してるんだ? アンタは……」

氷見「……私に仲間など居ませんよ。彼女達も、所詮駒に過ぎませんから」

さやか「……酷い」

氷見「酷い? 酷いとはこう事を言うのですか?」

 氷見はとぼけた様に、答えを返した。

142 :1 [saga]:2013/01/14(月) 21:49:16.70 ID:c2oSCbno0

 その直後だった。

織莉子「……!?」

キリカ「……え?」

 誰もが、眼を疑った。

ほむら「……何時の間に!?」

 ゆっくりと前のめりに倒れた織莉子の背中には、ロングソードが突き刺さっていた。地面は、流血で真っ赤に染まって行く。

ほむら「さやか!! 美国織莉子を!!」

さやか「解ってる!! すぐにやる!!」

 ほむらとさやかは、すぐさま織莉子に駆け寄った。さやかが急いで回復魔法をかけたお陰で、大事には至らなかった。しかし、戦闘出来る程の回復は出来ていない。

143 :1 [saga]:2013/01/14(月) 21:49:48.47 ID:c2oSCbno0

 そして、愛しの相方を傷つけられたキリカの怒りは、頂点に達した。

キリカ「……お……お、織莉子に何をしたぁ!!」

 速度低下魔法を氷見に向け、鉤爪で一気に斬りかかる。

氷見「……あらあら。随分と、気が短いのね」

キリカ「うるさい!! 死ねぇ!!」

 キリカは一気に爪で切り裂くべく、大きく振り被った。
 同時に、氷見もロングソードを構える。
 ガキン、と武器が交錯した。一本のロングソードが、十本の爪を防いでいた。

氷見「……軽いわね」

キリカ「何を!!」

144 :1 [saga]:2013/01/14(月) 21:50:20.28 ID:c2oSCbno0

 キリカは再度、爪を振りかざした。

キリカ「……!?」

 今度は、召喚した二本のソードが爪の軌道を食い止めた。

氷見「飛びなさい」

 更に、爪の上からロングソードを叩きつけ、キリカを壁際に吹っ飛ばした。

キリカ「ぐぁ……」

氷見「……散りなさい」

 続け様にロングソードを投げつけた。剣は真っすぐに、キリカに向かい飛んでいく。

キリカ(……ヤバい!!)

 キリカは反射的に、眼を瞑っていた。
145 :1 [saga]:2013/01/14(月) 21:50:49.71 ID:c2oSCbno0

 パン、とロングソードが弾き飛ばされた。キリカの脇に、ロングソードが突き刺さる。

キリカ「……!?」

ほむら「皆、下がってて。こいつは、私が仕留めるわ」

 紫の弓矢を構えたほむらは、力強くそう言った。

氷見「……貴女から来ますか?」

 氷見は、無表情のままそう答えた。

マミ「……暁美さん一人に任せる訳にはいかないわ。私達も、戦う」

さやか「うん……。こんな奴、野放しにしておく訳にはいかない!!」

杏子「見滝原の魔法少女は、甘く無いんだぜ?」

 マミ、さやか、そして杏子は武器を構えた。

146 :1 [saga]:2013/01/14(月) 21:51:20.90 ID:c2oSCbno0

氷見「……フフ」

杏子「何がおかしい?」

氷見「貴女達は、さぞ友達思いなのでしょうね……。でしたら、こんな余興もよろしいのでは?」

ほむら「……まさか!?」

 氷見は、薄気味悪く笑みを見せて、指をパチンと鳴らした。

 合図と共に現れたのは、イエスキリストの如く十字架に張り付けられた、まどかの姿だった。
 口は塞がれ、手足は縛られている。潤んだ瞳で、ジッとほむら達を見つめていた。

まどか(……皆……ゴメンね)

147 :1 [saga]:2013/01/14(月) 21:51:52.56 ID:c2oSCbno0

ほむら「まどか!!」

さやか「まどか……」

ゆま「お姉ちゃん!!」

杏子「てめぇ……やっていい事と悪い事って有るだろうが!!」

マミ「……鹿目さんを人質して、何が目的なの!?」

氷見「交換条件ですよ……」

マミ「交換条件ですって?」

 氷見は、冷たい笑みを崩さないで、言葉を告げた。

148 :1 [saga]:2013/01/14(月) 21:52:38.37 ID:c2oSCbno0

氷見「今から、貴女達と私一人で、一対一の勝負をしましょう。
 一対七では、流石に私も分が悪いですからね。貴女達が、一人負けた時点で……この娘の四肢のどれかを斬り裂きます。五人目からは、体を突き刺します。
 最後の一人が負けた時点で、首が飛ぶでしょう。いい条件だと思いませんか?
 もっとも、拒否権は有りませんよ? 仮に、拒めばすぐにでもこの娘の体を、肉の塊にしても構いませんから」

さやか「ふざけるのもいい加減にしろ!! まどかは無関係じゃないか!!」

氷見「そう思いますか? 魔法少女に関わってる癖に、自分は魔法少女にならない。百歩譲って、真実を知るから契約しない。これは、さぞ賢い事ですよ。
 でも……無理やりにでも契約しなければならない条件になれば、話は変わってきますよね?」

ほむら「……つまり、今がその条件って事ね」
149 :1 [saga]:2013/01/14(月) 21:53:39.07 ID:c2oSCbno0

氷見「その通り。彼女が助かる方法は二つ……貴女達が私を殺す。もう一つは、この娘がキュウべえと契約をして私を殺す……」

ほむら(美国織莉子に見えてたのは、この光景だったのね……不覚だわ)

氷見「決して、悪い条件ではない筈ですよ? 仮に、戦う方を選べば、一人目で勝てば良いんですから」

 氷見の言葉が、重く伸し掛かった。

QB「天百合氷見……君は復讐を望んで、契約した。だが、無関係な人間を巻き込んで、それが復讐だとでも言えるのかい?」

氷見「……感情の無い生き物が、偉そうに言うな。私の復讐は、終わる事は無い……絶対に!!」

 氷見はキュウべえを鋭く睨みつけた。
150 :1 [saga]:2013/01/14(月) 21:54:38.45 ID:c2oSCbno0

ほむら「下がって居なさい、キュウべえ。さっき、言ったでしょう……私が引き受けると」

さやか「ほむら……アイツの口車に乗るつもりなの!?」

杏子「そうだぜ……。ここで受けちまったら、向こうの思う壺だ!!」

マミ「暁美さん!! 考え直して!!」

 ほむらは、大きく深呼吸した。

ほむら「無理よ。言って聞く様な人間とは思えない。
 あんな危ない連中を力付くで押さえつけられる程の魔法少女。もし、その気なら、私達はとっくに殺されてるわ」

マミ「暁美さん……」

151 :1 [saga]:2013/01/14(月) 21:55:40.67 ID:c2oSCbno0

ほむら「それに、今この中で勝てる可能性が有るとすれば……私が一番マシよ」

氷見「ほう……」

 ほむらの一言を聞き、氷見は感心した様に、口元を吊り上げた。

ほむら「彼女には他の皆の手の内は見抜かれてるわ。さっきの戦いを、何処かで見ていたんでしょうね……。
 そうで無ければ、呉キリカの攻撃を受け止めたり、三国織莉子を奇襲するなんて絶対に不可能だからよ」

氷見「……どうやら、君はかなり頭の回転が速い様だね」

ほむら「どの道、私が勝たなければまどかは傷つくわ。何としてでも、私が仕留めなければいけないのよ」

 ほむらは、強い言葉でそう言った。その気迫が、周りの仲間達を黙らしていた。

152 :1 [saga]:2013/01/14(月) 21:56:14.65 ID:c2oSCbno0

ほむら「……準備は出来ているかしら」

氷見「……良いでしょう」

 ほむらは、戦陣に躍り出て、弓を構えた。

キリカ(……負けるなよ)

ゆま(お姉ちゃん、頑張って!!)

織莉子(……ビジョンが見えてこない。それ程、この結末は不透明だという事なの?)

 そしてほむらは、挨拶代わりの一投目を射る。

ほむら「……行け!!」

 紫の矢が放たれた。
153 :1 [saga]:2013/01/14(月) 21:56:47.19 ID:c2oSCbno0

氷見「甘いですね」

 カン、とロングソードが一振りされ、弓矢はあっさり防がれた。

氷見「牽制のつもりです? 挨拶代わりですか? 貴女の力は、その程度じゃないでしょう?」

ほむら「……そうね。今のは、距離感を測った所かしらね」

 ほむらは、口元にうっすらと笑みを作っていた。

154 :1 [saga]:2013/01/14(月) 21:57:34.27 ID:c2oSCbno0

杏子「……所でさ。今気が付いたけど……アイツ、弓矢なんか使ってたか?」

QB「あの武器は、魔力で作り出した物さ。マミのマスケット銃と同じ理屈だよ」

さやか「それは、ほむらも言ってた。でも、まだ完成じゃないから威力も無いって……」

QB「ほむらの言う完成が、どの位のレベルを言っているのかは知らないけれど……。はっきり言うと、暁美ほむらの魔力の使い方は天才的さ」

 キュウべえは、そう断言した。

マミ「ええ……。暁美さんは魔力で武器を作り出すまでに、二か月しか使っていない」

さやか「しか……って事は。マミさんは、銃を作るまでどれ位かかったんですか?」

マミ「約一年って所ね」

杏子「……マミで一年も?」

155 :1 [saga]:2013/01/14(月) 21:59:00.52 ID:c2oSCbno0

QB「マミも魔力のコントロールは、相当に上手なレベルだよ。むしろ、固有武器以外の物を作り出すのは、並の魔法少女じゃ出来ないよ。
 現に、マミとほむら以外で、武器を作り出す事が出来る魔法少女は居ないだろう?」

さやか「うん……見た事無い」

QB「大体自分の魔力の保有量の内、さやかで五割、杏子達で七割。マミに至っては九割近くを引き出している。
 だけどほむらは、九割九分を使いこなしている。
 もっとも、魔力の保有量ではほむらが一番低い分、使いこなしやすくなっていると言う、皮肉な面も有るけれどね」

156 :1 [saga]:2013/01/14(月) 21:59:56.54 ID:c2oSCbno0

さやか「どういう事?」

マミ「そうね……。例えて言えば、並のレーサーがF1に乗っているのが私達かしらね。性能の全てを引き出せない。
 そして、暁美さんは普通の車に乗ってるF1ドライバー。だから、性能を限界まで引き出していると言う形になるわね」

杏子「……だから、魔力が多少劣ってても、あそこまで戦える訳か」

QB「そういう事さ……」

 百聞は一見にしかず。誰もが、ほむらの実力は認めている。だからこそ、今はほむらが勝つ事を信じて、見守るしかない。

157 :1 [saga]:2013/01/14(月) 22:00:42.01 ID:c2oSCbno0

 氷見は召喚した一本のロングソードを構えた。

氷見「挨拶代わりですよ」

 そして、思い切って投げつけた。

ほむら(……撃ち落とすまでも無いわ!!)

 金属のぶつかる、鈍い音が建物中に響いた。

氷見「随分と、頑丈に出来ている盾ですね。私の剣で、貫けなかった物は、それが初めてですよ」

ほむら「光栄ね……」

 ほむらは、皮肉っぽく言い返した。
158 :1 [saga]:2013/01/14(月) 22:02:18.95 ID:c2oSCbno0

氷見「……では、本番と行きましょうか」

 氷見は、再び剣を召喚。しかし、今度は一本では無い。少なく見積もっても、両手両足の指では足らない数だ。

ほむら(……何本出してくるのよ)

氷見「何時まで、避けられますか?」

 そして、再び剣が宙を舞う。ほむらを目掛けて、無数のロングソードが飛び交った。
 ほむらは迎撃するべく、魔力を込めて弓を引く。

ほむら(……狙いは、そこよ!!)

 矢は放たれた瞬間に、一気に拡散。飛び交うロングソードを次々と撃ち落とす。

氷見(やりますね……楽しませてくれます)

ほむら(……不味いわね)

159 :1 [saga]:2013/01/14(月) 22:03:13.43 ID:c2oSCbno0

 ほむらは、内心ではかなり焦っていた。

ほむら(……魔力の容量は、向こうの方が圧倒的に上。この弓の弱点は、燃費が悪いから私の魔力が追い付かない……。力押しになったら、確実に私は勝てない……。
 せめて……あの魔法のカラクリさえ解れば……弱点を突ける)

氷見「さぁ……見せて貰いましょうか……」

 ロングソードが、次々と召喚される。今度は、さっきの数よりも更に多い。

ほむら(流石にあの数は撃ち落とせない!! どうすれば……)

 ほむらの思惑と裏腹に、氷見のロングソードが再び飛び交った。

ほむら(ええい……だったら)

 そして、次の矢を射る。
160 :1 [saga]:2013/01/14(月) 22:04:14.02 ID:c2oSCbno0

 撃ち出された矢は、真っ直ぐに飛んでいく。

氷見「……!!」

 氷見の右頬をかすめて、後ろの壁に突き刺さった。

 しかしほむらも、数本の剣を受けて大きくダメージを受けていた。

ほむら(芯は外してるけど、結構喰らってしまったわね……。
 でも……掴めたわ!!)

 何かを読み取った。

氷見(……もしや)

 氷見の表情から、笑みが消えた。

ほむら「解ったわよ……貴女の魔法の正体が!!」

氷見「……」
161 :1 [saga]:2013/01/14(月) 22:05:14.45 ID:c2oSCbno0

 ほむらは、再び弓を引く。今度の矢は、さっきの物よりも、遥かに大きい。

ほむら「……この矢を封じられるかしら!!」

 そして、真っ直ぐに射る。

 放たれた矢は、氷見を目掛けて真っ直ぐに飛ぶ。

氷見(……小賢しい!!)

 氷見はジッと矢の軌道を見据えていた。

ほむら(……かかったわね!!)

 ほむらは、ほくそ笑んだ。
 氷見が魔力を溜めこんだ瞬間。真っ直ぐに飛んでいた矢は、パン、と拡散した。

氷見「……!?」

 炸裂した矢は、氷見の体に突き刺さる。

氷見「ぐぅ……」

 致命傷を与えるまでには至らないが、氷見に初めてダメージを喰らわせた。

162 :1 [saga]:2013/01/14(月) 22:06:25.58 ID:c2oSCbno0

ほむら「……貴女の魔法は、空間の内の物を動かす魔法ね」

 ほむらは、確信を持った顔つきで断言した。

氷見「……」

ほむら「だからこそ、剣を自在に飛ばしたり、矢の軌道をずらしたりする事が可能な代物……そうでしょう?」

氷見「よくぞ、短時間で見抜きましたね……賞賛に値しますよ」

ほむら「伊達に、魔法少女をやってないわ。どんな魔法にも、欠点は有る。そこを突ければ、対処は可能なのよ。
 どんな魔法も、発動にはタイムラグが起きる。僅かでも気をを逸らせてしまえば、封じ込められるものよ」

氷見「……大した洞察力です。殺すには惜しい人材ですが……ここで死んでもらうのは確定です!!」
163 :1 [saga]:2013/01/14(月) 22:07:03.10 ID:c2oSCbno0

 氷見は、ロングソードを二本だけ召喚。

氷見「今度は、簡単に防げませんよ?」

ほむら(……今度は二本だけか。戦法を切り替えたわね……)

氷見「踊りなさい!!」

 二本のロングソードは、回転しながら宙を舞う。

ほむら(……まずは右!!)

 狙いを定め一本目を撃ち落とす筈だったが、寸前で剣の軌道が動いて、矢を避けた。

ほむら「……!?」

氷見(甘い!!)

164 :1 [saga]:2013/01/14(月) 22:07:41.48 ID:c2oSCbno0

 そして、左の一本がほむらの腕ををかすめる。同時に、右のロングソードが上から斬りかかる。

ほむら「……くっ」

 バックステップで避けると、剣は地面に突き刺さっている。が、今度は後ろから剣が迫りくる。

ほむら「この……!!」

 振り向き様に、盾で弾き飛ばして回避。だが、弾き飛ばされた剣は、ブーメランの様に戻ってくる。
 更に、地面に刺さって居た剣は、再び浮遊してほむらに向けて斬りかかる。

氷見(逃げ惑う、仔羊……哀れね)

 ニヤリと笑みを作りながら、氷見は剣を自由自在に振り回す。
165 :1 [saga]:2013/01/14(月) 22:08:32.25 ID:c2oSCbno0
 遠隔操作しながら、ほむらを徐々に追い詰めて行く。

ほむら(追尾されると……こっちが攻撃出来ない!!)

 ギリギリでかわし、致命傷は避けている。しかし、ほむらはついに壁際にまで追い込まれた。

氷見「もう逃げ道は有りませんよ?」

 そして、ロングソードは回転を止めた。ほむらに向けて、真っ直ぐに向けられている。

氷見「……終わりです!!」

 一直線に、二本のロングソードが飛ばされた。

ほむら「……!!」

 迫りくる剣は、丸でスローモーションの様に見えてしまう。

166 :1 [saga]:2013/01/14(月) 22:09:35.60 ID:c2oSCbno0

 ドクン、と心臓が高鳴った。

ほむら(……このまま……このまま死んでしまう訳にはいかないの!!)

ほむら(ワルプルギスの夜を倒して……まどかを救う事が出来て……やっと前に進む事が出来たのに……)

ほむら(もう……幸せな日常を手放したくないのに!!)

ほむら(……神様……お願い!!)

ほむら(もう一度……私に奇跡を起こして!!)

 走馬灯の様に、脳裏を過ぎる過去の記憶。心臓の鼓動は、加速的に上昇していく。

QB(……ほむらの感情値が上昇し続けている!? 否……魔力の上限も、凄まじい勢いで上がってる……)

 理解し難い現象が、ほむらに起こっていた。

167 :1 [saga]:2013/01/14(月) 22:10:07.86 ID:c2oSCbno0

 ザン、とほむらの腹部を、二本のソードが貫いた。

さやか「……ほむら!!」

杏子「ほむらっ!!」

マミ「暁美さん!!」

キリカ「ヤバい!!」

ゆま「お姉ちゃん!!」

織莉子(……どういう事!?)

まどか(ほむらちゃん!!)

 誰もが、終わった。そう思った。

 しかし、ほむらは弁慶の様に仁王立ちしたまま、氷見に狙いを定めている。

168 :1 [saga]:2013/01/14(月) 22:10:36.57 ID:c2oSCbno0

――カチン。

169 :1 [saga]:2013/01/14(月) 22:11:31.61 ID:c2oSCbno0

 バシュン。一際甲高く、弓を射る音が木霊した。

 全員我が目を疑い、その音が空耳だと勘違いする光景だった。

 血を啜ったロングソードは、地面に転がっている。しかし、血を吸われた張本人は、そこに居ない。

杏子(……!?)

さやか(何時の間に!?)

マミ(まさか……!?)

 氷見の胸に、深く突き刺さった一本の矢。そして、氷見の真後ろで弓矢を構えている、ほむらの姿。
 イリュージョンの如き光景。突然の形勢逆転には、敵も味方も混乱するしか無かった。

170 :1 [saga]:2013/01/14(月) 22:12:02.33 ID:c2oSCbno0

氷見「……ぐ……どういう事ですか?」

 氷見は、思わず聞いてしまうしか出来ない。

ほむら「秘密……。自分の手の内をわざわざ敵に教えるバカは居ないでしょ?」

 しかし、ほむらの衣装は、血まみれだった。夥しい量の血液が溢れ出ている。

氷見「……こんな裏技を隠しているとは、さぞ性格の悪いお人でしょうね」

 氷見は、観念した様に呟く。

ほむら「……貴女程では無いわ。このまま、ソウルジェムを撃ち抜いても良いのよ?」

氷見「……ならば、撃つがよろしいでしょう。後ろに回り込まれては、私の体では成す術も有りませんよ」

ほむら「……そうね。だったら……私の好きなようにやらせて貰うわ」

 そして、ほむらは弓矢を射る。
171 :1 [saga]:2013/01/14(月) 22:12:37.85 ID:c2oSCbno0

 パン、と放たれた矢は、氷見の頬をかすめて壁に突き刺さっていた。

氷見「……どういうおつもり?」

ほむら「確かに、貴女の行為は許される物じゃないわ。それだからって、殺しても良い理屈にはならないでしょう?」

氷見「……」

ほむら「それに……一つの道標に向かう為に、他の物を犠牲にする。そうまでして辿り着いた時……残る物は何も無いわ。
 一人の力が足りないなら、誰かの手を借りる。決して恥ずかしい事ではない筈よ」

氷見「……只の綺麗事ね」

ほむら「どうとって貰っても構わないわ。私は、まどかさえ返してもらえれば、貴女の命は奪うつもりは無いわ」

 氷見は大きく息を吐き出した。

172 :1 [saga]:2013/01/14(月) 22:13:05.75 ID:c2oSCbno0

氷見「……君に会うには、私は遅すぎました。……私の負けですよ」

 氷見は、そう呟いて、右手をパチンと鳴らした。

 張り付けられた紐は解け、まどかの体はゆっくりと地面に下ろされた。

ほむら「……生憎だったわね。一人目で勝てたわ…………」

 しかし、ほむらの体は深く傷ついていた。ダメージが限界を超えて、徐々に意識が遠のいてしまう。
 そのまま、地面にドサリと倒れ込んでしまった。

 ほむらの耳に、かすかに聞こえたのは……。

173 :1 [saga]:2013/01/14(月) 22:13:33.44 ID:c2oSCbno0

――ほむらちゃん……。

174 :1 [saga]:2013/01/14(月) 22:13:59.27 ID:c2oSCbno0

 声が聞こえた。
 温かく優しい、親友の声。

 光が差し込んでくると、意識はゆっくりと覚醒していく。

ほむら(……?)

 光の中でぼんやりと見えたのは、最高の親友の泣き顔だった。

ほむら「……ここは天国かしら?」

まどか「ちがうよぉ……泊まってるホテルだよぉ……」

 舌足らずな声で、半泣きのまどかはほむらに抱き着いた。

175 :1 [saga]:2013/01/14(月) 22:14:41.55 ID:c2oSCbno0

まどか「無事で……ほんと良かった……。ほむらちゃん、死んじゃったかと思ったもん……」

ほむら「ごめんなさい……。巻き込みたくなかったのに……怖い思いをさせてしまったわ」

まどか「ううん……私は大丈夫だもん。ほむらちゃん達が、助けてくれたから……」

ほむら「……まどか」

まどか「ほむらちゃん……」

さやか「……あのさ、お取込み中良いかな?」

ほむらまどか「……!?」

 さやかの一言で、慌てて離れた二人は、頬を朱色に染めていた。

176 :1 [saga]:2013/01/14(月) 22:15:17.69 ID:c2oSCbno0

マミ「もう……美樹さん」

杏子「全く、空気呼んでやれよ」

 さやかをジトッとした目で見つめる、杏子とマミ。

さやか「だって、このままだと点呼の先生来ちゃうもん」

キリカ「そう言えば、修学旅行中だしね」

織莉子「ともあれ、皆無事なら何よりですよ」

ゆま「zzzz……」

 ほむらが気を取り直して部屋を見渡すと、仲間の皆は揃って居た。

ほむら「……あれから、どうなったの?」

マミ「そうね。暁美さんが気絶した所から、話さないといけないわね……」

177 :1 [saga]:2013/01/14(月) 22:15:46.97 ID:c2oSCbno0

――昨晩、廃工場にて。

 氷見の後ろで倒れたほむらの元に、まどかは慌てふためいて駆け寄る。

まどか「ほむらちゃん!! ほむらちゃん!!」

マミ「大丈夫よ!! すぐに魔法をかけるわ!!」

ゆま「ゆまもやるよ!!」

さやか「三人掛かりなら、助けられるよ!! 私達に任せて!!」

 そして、三人は急いでほむらの周りを囲み、回復魔法を試みた。

まどか(お願い……死なないで!!)

 まどかは、兎に角祈るしか出来なかった。

178 :1 [saga]:2013/01/14(月) 22:16:18.78 ID:c2oSCbno0

 一方の氷見は。

氷見「……」

 一言も発さないまま、動こうともしない。

杏子「おい……覚悟は出来てるか?」

キリカ「まどかは確かに返してもらった。だけど、織莉子を傷つけた落とし前はつけて貰うよ?」

 杏子とキリカは、氷見を挟み撃ちにして、首元に武器を突き立てた。

氷見「……無粋な方たちですね?」

 氷見は、ニヤリと笑った。

織莉子「二人とも!! 離れて!!」

 織莉子は叫んだ。それと同時のタイミングだった。

179 :1 [saga]:2013/01/14(月) 22:17:05.39 ID:c2oSCbno0

 スパン、と二本の剣が飛び交った。

杏子「……!?」

キリカ「……!?」

 二人の首の側を、ロングソードがかすめていった。

氷見「確かに、あの方と私の勝負は負けています。ですが……貴女達に負けた記憶は有りませんよ?
 何なら、二人だけ切り裂いても宜しいですか?」

 背筋に寒気が走る程、冷たい声でそう言った。

180 :1 [saga]:2013/01/14(月) 22:17:49.16 ID:c2oSCbno0

織莉子「……私達は、人質さえ返してもらえれば、戦う気は有りません。ですから、このまま、私達は帰ります」

キリカ「織莉子……?」

氷見「ええ……向かって来ないのなら、手は出しませんよ。約束します」

杏子「……ああ。アンタを野放しにするのは気が引けるけど……アタシ達じゃアンタには勝てない。魔法を見せられて解ったよ……」

キリカ「……でも」

織莉子「キリカ……。無用な血は流さない方が賢明よ」

キリカ「……うん……解った」

 織莉子に言われ、キリカは渋々引き下がった。

杏子(ほむらの奴……あんなバケモノと戦っててのかよ……)

 杏子は、氷見の攻撃を受けて、初めてその恐ろしさを理解した。
181 :1 [saga]:2013/01/14(月) 22:18:17.71 ID:c2oSCbno0

マミ「何とか、傷は塞がったわね……」

 回復魔法をかけて、ほむらは何とか一命を取り留めた。しかし、眼を覚ますのはまだ先になりそうだ。

さやか(……骨だけじゃない、内臓までズタズタ……。こんな傷で良く動けてたよ……。ほむらめ……無茶して)

ゆま「……ふぅ。お姉ちゃん……起きるかなぁ?」

マミ「大丈夫よ……暁美さんは強いもの」

 ゆまに笑みを見せながら、マミはそう言った。

織莉子「……治療は終わった様ね。このまま、引き下がりましょう」

182 :1 [saga]:2013/01/14(月) 22:19:18.21 ID:c2oSCbno0

 杏子とキリカの二人で、意識の無いほむらの肩を支える。

杏子「ああ……。兎に角、ホテルに送り届けないとな」

キリカ「……でも。帰りの電車……無いんじゃない?」

さやか「今夜だけ、ホテルに泊まれば良いんじゃない? 朝一にこっそり出て行けば大丈夫そうだし」

マミ「そうね……。暁美さんの容体も見ないと行けないし……今回は仕方ないわね」

ゆま「……うん」

 マミは眠そうなゆまを抱っこし、さやかはまどかを抱き上げた。

QB「君達は、先に行くと良いよ。僕は、ここに残っているからね」

マミ「……そう」

 見滝原の魔法少女達は、順番に廃工場から立ち去って行った。

183 :1 [saga]:2013/01/14(月) 22:19:57.91 ID:c2oSCbno0

――朝、ホテルにて。

ほむら「そうだったのね……迷惑かけたわね」

さやか「問題無いさ。ただ……あの女が逆襲に来ないか心配でさ」

マミ「キュウべえが残ってるみたいだけど……ちょっと釈然としない点も多くてね」

杏子「正直に言うと、アイツとは二度と会いたくねぇな……。次戦っても、勝てる気がしねぇわ」

織莉子「ええ……。私も同じです」

キリカ「……」

まどか「……」

QB「心配には及ばないよ」

全員「……キュウべえ!?」

184 :1 [saga]:2013/01/14(月) 22:20:32.57 ID:c2oSCbno0

QB「ん? 来ては不味かったのかい?」

マミ「そういう訳じゃ無いけど……」

ほむら「現れる時は、何時も突然だもの……。驚きもするわよ」

QB「事後報告は必要不可欠だよ? それに……ほむらの事だけど」

ほむら「……ええ。だけど、正直私が聞きたい位だわ」

QB「君の元々持ってた時間停止の魔法。一瞬だけ復活していたね」

さやか「だから、あの時突然違う場所にいたのか……」
185 :1 [saga]:2013/01/14(月) 22:21:19.18 ID:c2oSCbno0

ほむら「正直、無我夢中でよく解らなかった。だけど、自分以外の動きが全て止まっていたのは確かだったわ……」

QB「あの瞬間、君は極限まで感情が高ぶっていた。そして、魔力の方も莫大な増幅を見せていた。
 感情の変化とソウルジェムに宿る魔力は直結すると、僕は推測している。言ってみれば、火事場の馬鹿力と言う現象と同じかもしれないね」

ほむら「……随分と、あっさりした解説ね」

QB「事実、それ以外の説明が見当たらないさ。
 感情と言う現象は、つくづく説明が出来ない。だからこそ、研究のし甲斐も有るのだけれど。
 今回の一件で、興味深いデータを採取出来たからね。感謝するよ」

186 :1 [saga]:2013/01/14(月) 22:21:57.96 ID:c2oSCbno0

ほむら「お礼をされる様な物じゃないわ。私は、まどかを助け出したかった。それだけよ」

まどか「……ほむらちゃん」

 素っ気ない言葉に、まどかは照れくさそうに笑みを見せた。

QB「それともう一つ。天百合氷見は今の所、君達に関わる事は無さそうさ。ただ、この先彼女の目的は変わらないだろうけどね」

マミ「そう言えば……言ってたわね。復讐は終わらないって……」

187 :1 [saga]:2013/01/14(月) 22:23:16.88 ID:c2oSCbno0

QB「彼女が左手と両足を失ったのは、事件に巻き込まれたからさ。
 二年前に、中学生が誘拐されたって事件が名古屋で発生した。……その被害者が彼女なんだ」

織莉子「……新聞で読んだ事有るわ。あの胸糞の悪い事件……」

杏子「知ってんの?」

織莉子「かなり有名よ……。中学生が半年監禁されてて、その間にレイプされ続けたって事件。しかも、犯人は地元の不良少年だった……」

QB「その時の怪我が影響して、彼女はあの姿になってしまった。
 もちろん、契約の時に復元する事は出来た。しかし、彼女は拒んだよ。怪我が治れば痛みを忘れてしまう、とね。
 そして、彼女は僕と契約したのさ……復讐する為と言う理由でね」
188 :1 [saga]:2013/01/14(月) 22:24:09.33 ID:c2oSCbno0

キリカ「……そういう話を聞いちゃうと、何かこう……」

さやか「うん……ちょっと気の毒に思えちゃう」

QB「クォーターの面々も、酷いトラウマを持っていたよ。イジメだったり、虐待だったり、親を殺されたり、虎児だったり……。
 そのトラウマを超える為に、彼女達は形振り構わず力を求め続けた。故に、凶暴な集団になってしまったのさ。
 魔法少女の数が多ければ、それだけ魔法少女の考えも異なるのさ……」

ほむら「……」

QB「多少は異なれど、君達も近い悲劇を見ている。ただ、どうやって乗り越えるかは本人が決める事さ。その点は、僕の付け入る部分じゃない……」

189 :1 [saga]:2013/01/14(月) 22:24:46.83 ID:c2oSCbno0

マミ「……」

杏子「……」

織莉子「……」

キリカ「……」

まどか「……」

さやか「……」

 キュウべえの一言で、皆沈黙するしかなかった。
 自分自身の心の闇を、クォーターとして散った魔法少女達と、照らし合わせずには居られなかった。
 一歩間違えば、自分自身も同じだったと。倒した魔法少女は、自分のもう一つの結末だったかもしれないから。

190 :1 [saga]:2013/01/14(月) 22:25:27.05 ID:c2oSCbno0

 時刻は、もうすぐ朝の六時半を向かえる。

QB「さて……そろそろお開きの時間だね」

 そう告げて、キュウべえは真っ先に部屋から消えて行った。

織莉子「そうね……。そろそろ抜け出さないと、不味いわね……」

キリカ「もう、始発の電車も出ている時間だしね……」

杏子「……帰るとするか。今回ばかりは、かなり疲れたわ……」

マミ「……そうね。見滝原に戻りましょう」

 寝ているゆまは杏子がおぶって、全員窓からトンズラの準備を始めた。

191 :1 [saga]:2013/01/14(月) 22:25:55.37 ID:c2oSCbno0

ほむら「皆が来てくれなければ、今頃どうなってたか……考えるだけで恐ろしいわ。ありがとうね……助かったわ」

さやか「ホントだよ。仲間が居るって、大切だって心底思ったもん」

キリカ「気にするなって。良く言うよね? 一心同体ってさ」

織莉子「……一蓮托生でしょ?」

杏子「はは、間違えてやんの」

キリカ「む……」

マミ「はいはい……揉め事は後回しにして。皆、行きましょう」

 そして、それぞれ窓から飛び去って行った。

192 :1 [saga]:2013/01/14(月) 22:27:27.81 ID:c2oSCbno0

さやか「はぁ……。今回の修学旅行は、一生忘れられないよ……」

ほむら「ええ……。こんな羽目になるなんて、想像もしなかったから……」

まどか「でもさ……。皆とまた朝を迎えられたもん。それだけでも、私は嬉しいなって思うよ。皆……最高の友達だよ!!」


 かくして、見滝原から遠く離れた街で起こった魔法少女の事件。
 辛くも潜り抜けたほむら達は、また別の魔法少女の有り方を見つけた。その心に飛来した物は、本人達のみぞ知る所だ。

 ちなみに、一晩起き続けていた魔法少女達。杏子もマミも、織莉子もキリカも、ゆまも。帰りの電車で熟睡を続けていた。
 そして、さやかとまどか、そしてほむらは、眠たい目を擦りながら、修学旅行最終日に参加するのであった。

193 :1 [saga]:2013/01/14(月) 22:28:13.43 ID:c2oSCbno0

――昨晩深夜、廃工場。

 工場内に一人残された氷見。そして、片隅で見守るキュウべえの姿。

氷見「……仲間ね」

 見滝原の魔法少女達を目の当たりにし、彼女の心の片隅には、そのキーワードが引っかかっていた。

氷見「でも……もはや手遅れ。私には……敵が増えすぎている」

「ああ……その通りだ!!」

氷見「……!?」

194 :1 [saga]:2013/01/14(月) 22:28:55.75 ID:c2oSCbno0

 ブン、と一振りされた大剣が、氷見の体を斬り付けた。

氷見「ぐっ……やってくれたわね……鈴」

鈴「真正面からじゃ……アンタが相手じゃ敵わないからな。こういう機会を、ずっと待ってたんだ……」

氷見「……油断してたわ。さっき貴女達を切り裂いたのは……幻だった」

鈴「その通り!!」

 ズン、と今度は槍が突き刺さった。

氷架「えへへ……。こうでもしなきゃ、レイちゃんと二人で遠くに行くって出来ないもん」

鈴「そういう事さ……アンタの力は強力だからな……。今まで利用させて貰ったわけよ」

氷架「貴女の下に居たお陰で、グリーフシードのストックは増やせたもんね……足を向けて寝れないや」

195 :1 [saga]:2013/01/14(月) 22:29:37.09 ID:c2oSCbno0

氷見「……フフ。お喋りしている余裕が有るのですか?」

鈴「くたばりかけてるアンタなら、苦戦はしない……もう虫の息だろう?」

 鈴と氷架の裏切りを受け、氷見の体は確かに瀕死の状態だ。

 それでも、氷見は笑っていた。

氷見「……ええ。確かに、このままでは私は死ぬでしょう……でもね?」

鈴(……こんな状態でも笑ってやがる……)

氷架(もう……早く死んじゃいなよ……)

氷見「キュウべえ……そこに居るんでしょ? 最後に……貴女の望む姿になってあげるわ!!」

――復讐は……終わる事は無いのよ!!

196 :1 [saga]:2013/01/14(月) 22:30:06.30 ID:c2oSCbno0

――パン!!


 氷見のソウルジェムが弾けた。
197 :1 [saga]:2013/01/14(月) 22:30:40.74 ID:c2oSCbno0

 新たに生まれたグリーフシードが、新たな魔女を生み出していた。

QB(……驚いたよ。魔女になっても、君は変わらないんだね。その莫大なエネルギーは、過去を振り返っても相当な数値だ……)

 その魔女は、結界も無く使い魔も無い。そして、大きさも人と変わらないにも関わらず、飛び抜けた魔力を持っている。

【摩利支天】の魔女“タナトス”その性質は【不倶戴天】

 鋭利な触手が無数に生える。真っ黒な人の影から、その顔は全く見えない。
 直立不動のまま、獲物を物色するかの様に頭を動かす。

198 :1 [saga]:2013/01/14(月) 22:31:21.89 ID:c2oSCbno0

鈴「魔女になりやがったか……まあいいさ」

氷架「うん……すぐに片づけちゃおう!!」

 そして、二人は同じタイミングで、魔女に襲い掛かった。

 しかし、触手の速度は見切れない程速く、鈴と氷架を同時に貫いていた。

鈴(……なんだ……これ?)

氷架「い……痛いよ……」

199 :1 [saga]:2013/01/14(月) 22:31:59.99 ID:c2oSCbno0

――アハ……アハハハ……

 触手が血を啜っている事が解ったのか。魔女は突如として、高笑いを始めた。

 そして、無数の触手は、二人の魔法少女を滅多切りにしていく。顔も体も、元が人間だった事が解らないほどに、グシャグシャに斬りつけていく。
 地面も天井も、鮮血が飛び散る。
 おもちゃを振り回す子供の様に、死体を滅茶苦茶に破壊していく魔女。

QB「……ワルプルギスの夜に続く、厄災の魔女が誕生したね。
 否、考えようでは……それ以上に厄介な存在かもしれないね……」

 一通り壊し終えると、満足したのか。魔女はこつ然と姿を消したのであった……。

200 :1 [saga]:2013/01/14(月) 22:34:16.51 ID:c2oSCbno0

 その後。
 名古屋や近隣の地域で、謎の連続殺人事件が発生する。

 被害者はどれも共通点は殆ど無いが、遺体は何時も身元が解らない程バラバラ、かつグシャグシャに惨殺されていたと言う……。

 また魔法少女の間で、その魔女の存在は都市伝説として長く語られる事になる……。

201 :1 [saga]:2013/01/14(月) 22:44:02.34 ID:c2oSCbno0
以上で、投下完了です。
後半は駆け足気味、しかもちょっとぶつ切り感のあるEDですが、勘弁してください。

やっぱり、SSを書く時は、バトル描写が難しいです。精進しないとね……。


ちなみに↓

摩利支天:

思いのままに身を隠す力を持つと言われる、仏教の守護神。

不倶戴天:

倶(とも)に天を戴(いだ)かず。と言う言葉。
一緒にこの世に生きていきたくない程、憎しみや恨みが深いという意味。

タナトス:

ギリシャ神話に登場する死の神の名前。幾多の神の中で、最も嫉み嫌われたと言い伝えられる。


厨二くさい? ほっといて!!


元のアイデアに若干手を加えたのは、ご了承ください。
お付き合いいただき、ありがとうございました。
202 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/15(火) 06:58:04.36 ID:yYVSMW4q0
乙 今度は彼女を倒す旅が始まるのか…
203 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/15(火) 11:19:26.42 ID:J1ltsPido

ハラハラしながら読みましたよ

魔法少女が自分のテリトリー以外に行った場合どういう危険があるかを示した良い例だと思う

あと、やめろと言われたのに要らんことに首を突っ込んで周囲のひと皆を危険に巻き込んださやかちゃんは説教な
204 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/15(火) 23:24:54.06 ID:FFxBScxto

ある意味本懐を遂げたというか勝ち逃げというか
絶望するまでセットってことを考えると実はこういう魔法少女のほうが多いのかもな
205 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/16(水) 07:07:18.68 ID:TUrQYfkd0
このssってウィックペディアのss欄に入れて良いんですか?
206 : [saga]:2013/01/16(水) 07:22:11.23 ID:CdMrA2Vp0
>>205
構いませんよ。以前書いたSSも、ウィックペディアに載せましたので。
207 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/19(土) 21:32:29.99 ID:UodAXa6F0
乙でした
おりキリに対して疑心暗鬼になってたからビクビクしながら読ませてもらいました
やたらとマミさんが憎まれたり殺されたり、挙句の果てにエタったりしたのばっかだったから・・・
208 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/21(月) 13:56:26.58 ID:orhZ6SLFo
>>206
以前?
前作のスレタイ教えてください
209 :1 [saga]:2013/01/21(月) 19:38:14.57 ID:vKgPK71d0
>>208

魔法少女の軌跡スレ投下SS↓

破天荒な魔法少女(ウィックペディア掲載済)
激弾・紅孔雀(ウィックペディア未掲載)

になります。
210 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/21(月) 23:55:40.02 ID:XOwhQKUM0
>>205です。
このSSが結構な長編だったため前編と後編に分けました。
一応前編だけ作りましたが(後編はまだ)、区切る所などを確認お願いします。
211 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/01/22(火) 12:42:35.82 ID:9p6UzxmDO
>>210
問題ありません。わざわざありがとうございます。
212 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/22(火) 22:52:43.74 ID:Wzh4ukND0
>>205です。
完了しました。
資料となる魔法少女または魔女(登場人物)はリンクが出来てから作ります。
なぜならwikiを触るのは慣れて無いからです。
213 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/23(水) 14:46:37.08 ID:IgXdQXtco
>>209
ありがとうございます
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