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恒一「BR2……?」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/01/10(木) 01:26:36.71 ID:z3POuGzAO
5月

夜見北中学三年三組に榊原恒一が転校して来てから二週間程経った頃だった。

望月「健康診断って保健室集合だっけ?」

勅使河原「あぁ、そうだっけか」

三組は毎年のしきたり通り、体育の授業や他の行事と同じく、他のクラスとは別れて一クラスだけで健康診断を受けることになっている。

三組は全員、体操服に着替えて保健室に向かっていた。

有田「男子と一緒って……」

中島「うん、ちょっと嫌だよね」

小椋「仕方ないじゃない、色々あるんだから」

有田「色々って言ってもどうにかならなかったのかな」

渡辺「一、二年の時は男女別々だったのにね」

一部の女子は男女共同での健康診断を嫌がっていた。
しかし仕方がない。三年三組なのだから。


見崎「…………」

榊原(見崎も健康診断は参加するんだ)

今年、『いない者』にされている見崎鳴が珍しくクラスでの行事に参加することになっていた。



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【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part10 @ 2024/04/23(火) 17:32:44.44 ID:ScfdjHEC0
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トーチャーさん「超A級スナイパーが魔王様を狙ってる?」〈ゴルゴ13inひめごう〉 @ 2024/04/23(火) 00:13:09.65 ID:NAWvVgn00
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713798788/

【安価】貴方は女子小学生に転生するようです @ 2024/04/22(月) 21:13:39.04 ID:ghfRO9bho
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713788018/

ハルヒ「綱島アンカー」梓「2号線」【コンマ判定新鉄・関東】 @ 2024/04/22(月) 06:56:06.00 ID:hV886QI5O
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【安価】少女だらけのゾンビパニック @ 2024/04/20(土) 20:42:14.43 ID:wSnpVNpyo
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ぶらじる @ 2024/04/19(金) 19:24:04.53 ID:SNmmhSOho
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旅にでんちう @ 2024/04/17(水) 20:27:26.83 ID:/EdK+WCRO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1713353246/

木曜の夜には誰もダイブせず @ 2024/04/17(水) 20:05:45.21 ID:iuZC4QbfO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aaorz/1713351945/

2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/10(木) 01:33:00.89 ID:z3POuGzAO
赤沢(どうしてなの?なんで『いない者』をクラス行事に巻き込むのよ?)

杉浦「泉美、どうしたの?」

赤沢「えっ、何が?」

杉浦「なんか、イライラしてるように見えたから」

赤沢「いや……別に」

赤沢は、見崎鳴がクラスメイトに混じって健康診断を受けることに対して、苛立ちと戸惑いを隠せなかった。
他の生徒も顔には出さないが同様に、戸惑っている節があった。
しかし副担任である三神から指示があったのだから仕方ない。

桜木「皆さん、出席番号順に並んで下さい」

風見「男女別に、ここから順に並んで座ってください」

クラス委員の二人が、保健室に集まったクラスメイトを並ばせる。

桜木「これから先生が来て、それから健康診断の説明をするので、それまで静かに待ちましょう」

全員が床に座ると、風見と桜木も列に加わった。

3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/10(木) 01:37:05.32 ID:z3POuGzAO
保健室は椅子や机の配置がいつもと違い、健康診断としての形にはなっている。
だがなかなか、担当の先生が来ない。

渡辺「……………」

見崎「……………」

渡辺は横目で、隣に座る見崎を見やった。
生徒達だけが黙ったまま待ち続けている。と、その時だ。

しゅーーーーーーっ

空気が抜けるような音が聞こえてきた。

榊原(なんだ、この音………ッ!?)

不意に目の前の景色が歪んだ。猛烈な眠気が榊原を襲った。
同時に、周りに座っていた生徒達が次々と倒れていく。

榊原(なん……で……?)

その思考を最後に、榊原の意識は途絶えた。





4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/10(木) 01:41:51.69 ID:z3POuGzAO





榊原「うぅ……ん」

まぶた越しに強い光を感じて、榊原は覚醒した。
背中に冷たい感触がする。床だ。

榊原(えぇと、たしか、健康診断のために保健室に集まって……それで……)

目を開けた。
仰向けに寝ていたために、目を開けると電灯の明かりが直接、目に入った。
目を細めながら周りを見た。

榊原「どこだ?ここ」

どうやら大きなテントのようだ。教室よりも大きい。
それに周りも天井も、全て金網で仕切られている。
周りを囲む金網は、まるで檻のようだった。

上体を上げると、周りに三組のクラスメイト達が転がっていることに気付いた。

5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/10(木) 01:42:46.73 ID:z3POuGzAO
榊原「なんだよ……この格好……!?」

しかし皆、その身体は体操服では無く、迷彩服に包まれていた。
まるで軍服のようだ。榊原も同じ軍服を着せられている。

榊原「お、おい!勅使河原、起きろ!」

隣で幸せそうに寝ていた勅使河原をゆする。

勅使河原「う……うぅん、もうちょっと寝かせろよ……」

榊原「なに寝ぼけたこと言ってるんだよ!なんか変なんだよ!」

勅使河原「あぁ……ん、なんだ、サカキか」

「うぅん、なに……?」「なんだ……」「どこここ……」

榊原の声に反応して、他の生徒達も続々と起き上がる。

勅使河原「なんだ……どこだよここ?」

眠たげに目を擦りながら起き上がる勅使河原、その首に銀色の物が見えた。

6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/10(木) 01:45:36.96 ID:z3POuGzAO
榊原「勅使河原……その首」

勅使河原「はぁ?首って……お前もなんかつけられてんぞ」

言われて首に手を添えると、堅い感触がした。首輪だ。
周りを見るとクラスメイトは皆、首輪を付けられていた。
ちょうど喉元辺りに小さな画面のようなものが付いた、よく分からないデザインの首輪。

勅使河原「なんだよこの首輪……苦しいな。しかも迷彩柄の服って……軍服かよ」

榊原「……なぁ僕達って、保健室にいたはずだよな?」

勅使河原「あぁ、なんか集められてから急に眠くなって……ってオイ、望月起きろ!」

望月「三神せんせー……」

勅使河原「ったく……起きろって!」


テント内は状況を掴めない生徒達によって騒然としていた。
そして全員が目覚めた頃、見計らったように突然後方から光が差し込んだ。

榊原「!?」

7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/10(木) 01:50:11.36 ID:z3POuGzAO

テントが開き、そこから軍人達が列を成して入ってきた。綺麗に整列したまま金網の周りをぐるりと取り囲む。
その手には、物々しい小銃が握られていた。

そして軍靴が規律正しい足音を響かせる中、ハイヒールのたてる足音が浮いて聞こえてきた。

望月「三神先生!?」

金網が開く。
軍人達に混じって、三組の副担任である三神が、いつもの教師の服に身を包んで、数人の軍人と共に金網の中に入ってきた。

「気をつけェっ!!」

軍人の甲高い号令が掛かり、それを皮切りに靴音が止み、テント内は静寂に包まれた。

怯え、困惑する生徒達の視線が集まる中、三神は口を開いた。

三神「みなさん今晩は。私は今回このクラスを受け持つことになった、三神怜子です」


8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/10(木) 01:51:15.20 ID:z3POuGzAO
アナザー×バトルロワイアル2

今回の投下は以上です
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/10(木) 17:04:21.59 ID:z3POuGzAO
投下します
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/10(木) 17:06:55.73 ID:z3POuGzAO
まるで授業を始めるかのような口振りだった。
一瞬の静寂。
三組の誰しも、三神の言っていることを理解出来なかった。

榊原(怜子……さん?なに言ってるんだ?)

赤沢「三神先生、言ってることの意味が理解しかねます。この状況の説明をして下さい」

赤沢の冷静な声が、静寂を破った。
それを皮切りに他の生徒達も抗議の声をあげる。

「赤沢の言う通りだ!」「ここどこなんですか!」「なんでこんなもの着せられてるんですか!?」

三神「はいはい、静かに静かに!!
それらはこれから説明します。だから皆さん、安心して話を聞いて下さい」

あくまで教師らしい、冷静な口調を通す三神。
物々しいテントや金網、周りを取り囲む兵士達の中で、三神の白を基調としたいつも服装は否応無く浮いている。

11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/10(木) 17:07:48.28 ID:z3POuGzAO
三神「じゃあまず、BR法っていう法律を知ってる人はいるかな?」

「BR法……?」「BR法ってまさか……」

不安げに顔を見合わせる生徒達。
その中から一人が、手を上げた。

赤沢「……はい」

三神「ハイ、女子一番赤沢さん」

赤沢「……新世紀教育改革法、ですよね」
三神「うんうん、ではその内容は?」

赤沢「……全国の中学三年生のクラスから毎年、一クラスを無作為に選んで、生徒を殺し合わせる……」

榊原(殺し合い……?)

不吉なワードに生徒達の顔色が曇っていく。
ただでさえ『死』に近いと言われている呪われたクラスの生徒達は、そういう単語に敏感だった。
言っている本人の赤沢でさえ、浮かばれない表情をしていた。

12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/10(木) 17:09:08.21 ID:z3POuGzAO
三神「素晴らしいわ、さすが三組の模範生徒ですね。
そうです、皆さんは今年度のBR法の対象クラスとして全国中学三年生、四万三千クラスの中から選ばれました」

皆、一様に絶句した。
その様子を見た三神は、不意に口を歪めて、フッと笑った。

三神「皆さん、そう早合点しないで下さい。話はまだ終わってませんよ」

三神「それでですね、実は今回皆さんに集まっていただいたのは、殺し合いをしてもらうためではないんです」

三神が言った直後、榊原達の背後の金網が大きな音をたてて開いた。
皆が驚いて振り向くと、そこから数人の兵士達が大きなカートを押してきた。
その上には大きな黒い袋が山積みにされている。
カートは荒々しく金網に横付けされた。

13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/10(木) 17:10:08.98 ID:z3POuGzAO
三神「ではなぜ皆さんが集められたのか?それは皆さんのクラスが、幸運にも今年より開催される新しいプログラム、新世紀テロ対策法に選ばれたからです」

三神「その名も……BRU!!」

三神「それで今日は皆さんに、ちょっと戦争をして来てもらいます」

榊原「BRU……?」

「え?戦争?」「BRU……?」「テロ、対策?」

勅使河原「……三神先生」

三神「勅使河原くん、どうぞ」

勅使河原「……あの、やっぱよくわかんないんスけど。なんですか?そのBRUって」

三神「BRUというのはBR法にのっとり考案された全く新しい戦争ゲームです。
ルールは簡単。
これから皆さんにはこの国を狙うテロリストが立てこもる島に向かってもらいます。そこのリーダーを見つけ出して殺せば勝ちです。制限時間は二日間です。わかりましたか?」
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/10(木) 17:13:51.97 ID:z3POuGzAO
榊原(なんだよ、戦争って……怜子さんなに言ってるんだよ!?)

混乱しているのは榊原だけでは無い。
30人は一様に、驚愕の表情を浮かべて立ち尽くしていた。

三神「そんなこと突然言われても、実感が湧かないかもしれないですよね。
ですから皆さんにもっと緊張感を持ってもらおうと、あるものを用意しておきました」

「ではどうぞ」と、まるでレストランで注文を付けるかのように手を叩き、三神は兵士達に促した。

すると今度は三神の背後の金網が開き、そこから兵士達によって寝台のようなものが運ばれてきた。
寝台には分厚い布が被せてある。
運ばれた寝台は三神の隣に止まった。全員の視線がその布に集中する。

兵士の一人がその布を勢いよく取り去った。

15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/10(木) 17:14:28.47 ID:z3POuGzAO
「ひっ……きゃああああああああああああ!」
「うわああああああああああ!」

テント内は一瞬にして生徒達の悲鳴で満たされた。

それもそのはず、寝台の上で寝ていたのは、左目に大きな風穴を開けて血にまみれた、三組の担任である久保寺の無惨な死体だった。

三神「先生は皆さんがBR法に選ばれたことを伝えられるとですね、反対こそしませんでしたがショックで錯乱してしまいました。
なのでちょうど皆さんの気付け薬のためにと、折角なので死んで頂きました」

腰を抜かしてその場にへたり込む者もいる中、三神は淡々と話し続けた。
そして三神が右手を払うと、それを合図に兵士は久保寺の死体に布をかけ直し、金網の外へと運び出していった。

三神は全てが淡々としていた。
久保寺の死体に関しても、何の感情も抱いていないかのようだ。

16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/10(木) 17:15:05.40 ID:z3POuGzAO
榊原(怜子さん……なんで?本当にどうしちゃったんだよ?)

あれが、夜見山に来た自分を心配してくれた怜子と同一人物だということが信じられなかった。

すすり泣く生徒もいる中、三神は大声をあげて呼び掛けた。

三神「はい皆さん気を取り直して!足元を見て下さい。一本の白い線がありますね?」

言われた通り、足元を見るとテントの床の中央に、床を二分するように太く白い線が引かれている。

三神「分かりやすいようにするために、皆さんは私から見て白線より右側に移動して下さい」

三神「これから男女別、出席番号順に名前を呼んでいくので、呼ばれた生徒はあちらの兵隊さんから荷物を受け取って、白線の左側に移って下さいね。
もちろん返事は忘れずに」
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/10(木) 17:16:35.52 ID:z3POuGzAO
三神「ではいきます……男子一番、王子誠くん」

王子「……はい」

「王子……」「王子くん……」

猿田「王子、行くんか?」

王子「……行かなかったら久保寺先生みたいになるのは目に見えてるだろ」

猿田「…………」

王子「じゃあ、また後で」

王子は険しい表情で親友の猿田に言い放つと、カートに歩み寄り、そこにいた兵士から黒い袋をひとつ受け取った。

三神「次……女子一番、赤沢泉美さん」

赤沢「はい……あの先生」

三神「なんですか?」

赤沢「行く前に一つ、質問していいですか?」

三神「……まぁいいでしょう、どうぞ」

赤沢「なんで私達が戦争しに行かなければならないんですか?戦争するなら、それこそ軍隊でも使えばいいじゃないですか」

18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/10(木) 17:18:21.93 ID:z3POuGzAO
三神「確かにそうですね。島に立てこもるテロリストだなんて、絨毯爆撃でもすればあっという間です。
でもね、戦争ってすごくお金が掛かるんですよ。兵隊さん一人当たりの給料、ミサイル一発の値段……
それならどうせ『現象』で死ぬ皆さんの命を使ってしまえばいい。それなら無料で済みますし。
タダより安いものは無いですからね」

赤沢(……コケにしてくれるじゃない)

赤沢は怒りを堪えるためにぎちぎちと歯を噛み締めた。

綾野「泉美……」

その背後から綾野が心配そうに声をかけた。

赤沢「……先、待ってるから」

綾野「泉美!」

小椋「彩!!……次、彩の番だよ」


19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/10(木) 17:20:24.83 ID:z3POuGzAO

三神「では男子二番、風見智彦くん」

風見「はい……」

風見は不安げな表情をしながらも、白線を飛び越えて荷物を受け取った。

三神「女子二番、綾野彩さん」

綾野「イヤだよ、由美……私行きたくないよ……」

小椋「彩……」

三神「ハイハイ友達に選択を求めないの。あくまで決めるのはアナタの意志と信念なのよ?それもできないなら、綾野さん……アナタ死ぬよ?」

綾野「ひっ……」

三神「ではもう一度聞きます、女子二番、綾野彩さん」

綾野「は、はい……」

三神の睨みに綾野は怯えながら、荷物を受け取りに行った。

20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/10(木) 17:21:15.24 ID:z3POuGzAO
三神「男子三番、川堀建造くん。女子三番、有田松子さん」

川堀「ハイ」

有田「……はい」

川堀はもう現実を受け入れたのか、その表情に迷いは無く、有田はまだ戸惑いを隠し切れていなかった。
しかし二人とも返事をするとすぐに荷物を受け取りに行き、白線を飛び越えていった。

三神「男子四番、榊原恒一くん。女子四番、江藤悠さん」

江藤「はい……」

榊原「…………」

江藤が返事をして白線を越えていくのに対し、榊原は三神の顔をじっと見て立ち止まっていた。

三神「榊原くん?」

榊原「……れい……三神先生」

三神「なに?」

榊原「いや……なんでもありません」

妙にぎらぎらとした光を宿している三神の目を見て、榊原は足早に荷物を受け取りに行った。
あれは普通の三神怜子じゃない。

榊原(怜子さん……一体どうして)

榊原は疑問で、頭がいっぱいだった。

三神「どんどん行きましょう。次は男子五番、猿田昇くん。女子五番、小椋由美さん」

21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/10(木) 17:22:59.63 ID:z3POuGzAO
以上です
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/10(木) 17:45:42.40 ID:eZIu2xbW0
期待

赤沢さんが生き残ることを切に願う

23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/10(木) 18:26:12.31 ID:Eepfkl7Qo
Anotherも1周年か
新作いいですね〜
期待してます
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/10(木) 19:25:49.73 ID:T/RVWjId0
期待

野暮なことかもしれないけど恒一って転校生だから出席番号最後じゃないの?
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/11(金) 12:56:36.35 ID:cp2fRVQAO
>>24
確かに夜見北中学での出席番号は最後ですが、一応BRの条令に参加させられているので夜見北の出席番号では無く、五十音順に重きを置こうと思いました

では投下します
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/11(金) 13:03:46.79 ID:cp2fRVQAO
全員の名が呼ばれ、白線より右側に誰もいなくなってから、生徒達は手渡された袋の中のものを身につけるよう指示された。
中に入っていたのは、デジタル腕時計、ゴーグルつきのヘルメット、アーマー・ベスト、ザック。
およそ日常では身に付けないような、それらを身につけた生徒達は、今やとても中学生には見えない。

三神「はい、みんな身につけましたね。ではなにか質問は?」

榊原(ありすぎるよ……)

和久井「先生……」

三神「はい、和久井くん」

和久井「この首輪って、なんなんですか?ちょっとその、息苦しいんですが……」

喘息持ちの和久井は、喉元に常に触れている首輪の存在が気になってしょうがないようだ。

三神「いい質問ですね。
皆さんの付けている首輪、それには爆弾が仕込まれています」

27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/11(金) 13:08:17.74 ID:cp2fRVQAO
さらりと、とんでもないことを三神は口にした。
全員、血相を変えて首輪に手を触れる。

三神「当然、無理に外そうとしたりゲームから逃げようとすれば爆発します」

榊原(僕達を縛る、拘束力ってことか……)

まるで自分達が囚人か何かになったかのようだと、榊原は思った。

三神「それとですね、今度のゲームはタッグマッチです。
今皆さんを男女の出席番号に分けて呼びましたね?
皆さんのつけてる首輪は同じ出席番号の人達と連動してて、一人が死ぬともう一人の首輪も自動的に爆発する仕組みになっています」

榊原(じゃあ、僕は江藤さんと……)

少し離れたところで藤巻と一緒にいた、同じ出席番号だった江藤悠に視線を向けると、江藤も不安げに見返してきた。

三神「ペアの人と五十メートル離れても爆発しますので、注意して下さいね」

28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/11(金) 13:10:22.52 ID:cp2fRVQAO

中尾「せ、先生!」

切羽詰まったような声をあげて、中尾が手をあげた。

三神「なんですか?中尾くん」

中尾「なんで、そんな死人が増えるルールにしたんですか?」

三神「皆さんがお互いに助け合えば、生存率は上がる。見捨ててしまえば誰かしらが死んでしまう。大事なのはチームワークです。
この条例には、皆さんにきちんと教育的効果を与えることも重要な目的の一つですからね。
これは皆さんが力を合わせるように仕向けるためのルールなんです」

中尾「ルールって、でも……!」

尚食い下がる中尾。

杉浦「中尾!もうやめなよ」

しかし杉浦に袖を引っ張られ、中尾は不満げにしながら、引き下がっていった。
三神の返答も確かによく分からない、納得に足るものではなかった。
だが、それがこの国の『決めごと』なのだろう。
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/11(金) 13:13:22.30 ID:cp2fRVQAO

渡辺「……先生」

三神「はい、渡辺さん」

渡辺「私の相方は見崎鳴さんで、いいんですね?」

すると全員の視線が渡辺珊と、その隣に無表情で立ち尽くす見崎鳴に集まった。
男子のペアがいない二人は女子同士で組まされていたのだ。

見崎「………」

榊原(見崎……)

しかし女子同士のペア以前に、クラスメイト達は皆、今年の『いない者』にされていた見崎のことを気に掛けていた。
本来は何が何でも無視せねばならない存在なのだ。
三組のクラスメイトとして、渡辺はその『決めごと』を無視していいのか、気になっていた。

三神「……えぇ渡辺さん、あなたのペアは確かに見崎鳴さんですよ。仲良くやって下さい」

渡辺「……分かりました」

言われた渡辺は、それ以上何も言わずに黙って引き下がった。

30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/11(金) 13:16:14.97 ID:cp2fRVQAO

桜木「先生……私からも、いいですか?」

三神「はい桜木ゆかりさん」

桜木「そのテロリストって、何者なんですか?」

突然、敵として提示されたテロリストを殺すということが、桜木は納得できなかった。
せめて相手のことが知りたい、そう思った。

三神「日本の国家転覆を狙っているテロリスト達です。それ以上でも、それ以下でもありません」

しかし返ってきたのは簡潔かつ、おおざっぱな質問だった。

桜木「そう、ですか……」

それに対して桜木が肩を落として引き下がろうとすると、三神が呼び止めた。

三神「あー桜木さん、それと皆さん。相手に変な情は抱かないで下さいね。
敵のテロリストも全力で皆さんを殺しに掛かってきます。情なんか抱いて四の五の言っていたらあっという間に殺されてしまいますよ。
殺られる前に、殺りましょう」

求めていた答えとは明らかに違う、そもそも答えになっていないことを言われ、桜木は不満げに眉を潜めて俯いた。
しかし何を言ってもはぐらかされてしまうだろうことは分かっていたので、それ以上の質問はしなかった。

31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/11(金) 13:21:06.12 ID:cp2fRVQAO
三神「質問はもう無いですか?」

皆、顔を見合わせる。
もう手をあげる者や、三神に声を掛ける者はいなかった。

三神「ではいいですね。
これから皆さんにはテントを出てもらい、銃を受け取ってもらいます。
私は皆さんの幸運と健闘を祈っています。絶対負けないように、以上です」




三神の指示通り、兵士達に誘導された三組の生徒達はテントから出た後、鉄の塊のような重い銃を手渡された。

これで人を殺す、殺さなければならない。
銃の重みがまた、現実として生徒達の心に重くのし掛かった。

空は暗い。外は夜だった。
どこかの基地なのか、だだっ広く平坦な敷地の中で、幾つものサーチライトが瞬いている。
生徒達は兵士達に誘導されて、やがて海に出た。コンクリートの護岸には、五艇のボートがある。

榊原(あれに乗って、行くのか……)

32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/11(金) 13:22:19.23 ID:cp2fRVQAO
兵士に番号を呼ばれて、AからEまでアルファベットを振られた五艇のボートに、それぞれ六人ずつ乗らされていく。
誰かが乗るたびにボートは頼りなく揺れ、それが生徒達の恐怖心を余計に煽った。

兵士「一番後ろに乗る生徒は、後よりボートを操縦することとなる!心得ておくように!」

「適当なこと言うな!」「心得てって……」「ボートなんて操縦したことなんてねぇよ!」

兵士に対して生徒達が非難の声をあげると、兵士はすぐさま小銃を空に向かって乱射した。
悲鳴をあげて黙る生徒達に兵士は怒鳴り返した。

兵士「よく聞け!一定の地点までボートは自動で進む!実際に操舵の必要があるのは、島に近付いてからだ!」

33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/11(金) 13:24:58.92 ID:cp2fRVQAO
榊原が乗るボートは『B』というアルファベットが振られていた。
乗る生徒は榊原と江藤の他、五番の猿田と小椋、六番の高林と柿沼だ。
その誰しもが胸中の恐怖と不安とで、顔に暗い影を落としている。

少しは気を持ち直そうと、榊原は隣の江藤悠に話しかけた。

榊原「……江藤さん、よろしくね」

江藤「えっ?あ、うん。よろしく」

江藤とは転校してから滅多に話したことがない生徒だった。

榊原(それがこんな所で運命共同体になるだなんて……)


猿田「高林、そこ俺が代わろうか?」

高林「う、うん。頼むよ」

小椋「じゃあ、私もうしろに……柿沼さん」

柿沼「うん……」

高林と柿沼は番号順に座るとボートでは一番後ろ、操縦を任されることになる。
だが、心臓に持病を抱えている高林は走ることもままならない身体の持ち主だった。柿沼も一人で操舵など出来ないだろう。
それを考慮した猿田は、自分が後ろに回ることを提案したのだ。
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/11(金) 13:25:59.43 ID:cp2fRVQAO

高林「ありがとう、猿田くん」

猿田「別にいいぞな」

しかしその表情もやはり強がっているようにも見えた。
気遣いを見せた猿田も、胸中は不安でいっぱいなのだろう。

全員がボートに乗ると兵士は「出撃!武運を祈る!」と叫んだ。
それを合図にエンジンが大きな音をたてて掛かり、五艇のボートは進み出した。

江藤「ほ、本当に行くんだ……」

信じられない、といった様子で江藤は呟いた。
事実、目を覚ます前までは夜見北中学で普通の学園生活を送っていたのに、気付けば撃ったことの無い銃を持たされて戦地に向かおうとしている。

榊原(もう、帰って来れないのかな)

この海の向こうに、テロリストが立てこもる島があると言う。
しかし夜闇に包まれている海の向こうは、まだ何も見えなかった。


【残り30人】


35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/11(金) 13:29:24.27 ID:cp2fRVQAO
以上です。
それと誰がペアでどのボートに乗っているか、分かりづらいので表を貼っておきます。



Aボート
男女1番:王子誠/赤沢泉美
男女2番:風見智彦/綾野彩
男女3番:川堀健造/有田松子

Bボート
男女4番:榊原恒一/江藤悠
男女5番:猿田昇/小椋由美
男女6番:高林郁夫/柿沼小百合

Cボート
男女7番:辻井雪人/金木杏子
男女8番:勅使河原直哉/桜木ゆかり
男女9番:中尾順太/佐藤和江

Dボート
男女10番:前島学/杉浦多佳子
男女11番:水野猛/多々良恵
男女12番:望月優矢/中島幸子

Eボート
男女13番:米村茂樹/藤巻奈緒美
男女14番:和久井大輔/松井亜紀
女子15、16番:見崎鳴/渡辺珊



36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/11(金) 14:16:59.71 ID:8vOQgpzS0
>>25

どうでもいいこと訊いて悪かった

続き期待してるから頑張ってくれ
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/11(金) 14:34:28.16 ID:Y/D5XOB2o
バトロワあんま良く知らないけど期待
Anotherはクラス全員キャラ付けがあるから、こういう学園モノとのクロス相性いいよね
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/11(金) 21:14:51.15 ID:BYJjMejz0
キャラ付けなんてあったか?もしかしてVIPのssで設定されたやつ?
39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/11(金) 23:30:47.29 ID:Y/D5XOB2o
>>38
つ恒一「よーしAnotherの設定資料が届いたぞー」
40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/12(土) 02:50:40.11 ID:FdeIY/xo0
設定資料集なんて出てたのか
機会があったら見てみるかな
41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/12(土) 13:40:28.81 ID:KH8YwCsAO
投下します
42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/12(土) 13:44:47.00 ID:KH8YwCsAO

船が発進してしばらく経った。
もう岸は見えず、辺りは闇夜に包まれているため他のボートすら見えない。
聞こえるのはボートのエンジン音と、波音、それと向かい風のたてる音のみ。

それに、その島とやらにいつ着くのかも分からなかった。
そんな中で全員が黙っていると、闇の中で耐え難い孤独感に襲われてしまう。

高林「フェアじゃないよね、こんなの」

柿沼「勝手、だよね……私達に行かせるなんて」

榊原「うん……でも三神先生、本当にどうしたんだろう……」

江藤「榊原くんは特に気になるよね、三神先生のこと」

猿田「ん?三神先生と榊原って、なんか関係あるんかの?」

小椋「三神先生って、確か榊原くんの叔母なんだっけ」

猿田「へぇ、知らなかったのう」

43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/12(土) 13:46:28.96 ID:KH8YwCsAO
孤独感に襲われまいと、ボートに乗っている間、江藤、榊原、小椋、猿田、柿沼、高林は内容を問わずに会話を続けた。
とにかく何かを話していないと、気が変になりそうだったのだ。

だが日常生活の話をすればするほど、戦争や死に対する恐怖と、家に帰りたいという思いが強まっていくばかりだ。

話す声は笑っていたが、深い闇で見えない各々の顔は、きっと不安げに歪められているのだろう。
八方塞がりな状況の中、お互いがお互いに追い詰められていた。


三神『……あー、あー、聞こえますね?』


しかし突然、耳元で三神の声が聞こえた。
それに誰しもが肩を跳ね上げて驚く。
同時に自分たちがこの戦争ゲームに巻き込まれている事実を再確認することとなった。

44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/12(土) 13:48:09.71 ID:KH8YwCsAO

三神『皆さんのヘルメットにはインカムが付けられています。定時連絡や戦死者の報告はこのインカムを通して報告します。
お互いのインカムを通じて皆さん同士が会話することも可能なので、活用して下さいね』

三神『ではこれより、これからの戦闘に関して細かい説明に入ります。
ナビを出して、電源を入れて下さい。ベストの右胸ポケットに入っています』

小椋「あった……」

榊原「……これか」

中に手のひらサイズの携帯電話のような機械が入っていた。
それを開いて、少し戸惑いながらもなんとか電源を入れる。
すると大きな画面に、何やら地図が表示された。

45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/12(土) 13:50:34.50 ID:KH8YwCsAO
三神『これが戦地となる島の地図になります。島はいくつかエリア分けされていて、数時間おきに禁止エリアというものを設けていきます。時間になっても禁止エリアにいると首輪が爆発するので、注意して下さい。
なお、禁止エリアの表示、そして皆さんの現在位置などはナビに表示されるので、必ず確認すること』

日の出だろう。
徐々に空が周囲が明るくなり、水平線が見えるようになった。
それに伴い、周りで併走するボートの姿も確認できた。

三神『島は全周10キロ足らずの小さな島です。
島の中央を見て下さい。小高い丘になっており、そこに建物が表示されていますね?テロリスト達はそこを拠点としており、皆さんにはそこへ向かって、テロリスト達を撲滅してもらいます。
銃の弾は各々ザックに入ってます。中には当たり弾が入っている人もいるので、楽しみにしていて下さいね』
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/12(土) 13:51:33.33 ID:KH8YwCsAO

猿田「そんなもん、誰が楽しみなんかにできるぞな……」

三神『それから、銃の取扱い説明書は同じくザックの中に入っています。
落ち着ける場所に避難してから、じっくり読んで下さい』

不意に江藤が前方を指差した。

江藤「あれだ……」

藍色の空の下、ぼこぼこした島のシルエットが浮かび上がっていた。
シルエットは意外に大きい。いや、三神が小さいと言っていた辺り、もうかなり近付いているのだろう。
榊原は、思わず生唾を飲み込んだ。

三神『ここで先生からアドバイスです。
間もなく皆さんが乗ってるボートは自動操縦から手動に切り替わります。一番後ろにいる人はそのまま、同じボートに乗ってる他の生徒の命を握ることになるからよろしくお願いします。
じゃあ皆さん頑張って下さい』

47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/12(土) 13:53:14.08 ID:KH8YwCsAO

ぶつっ

そこでインカム越しの三神の声は途切れた。
榊原と江藤、高林と柿沼も緊張した面持ちで後ろを向いた。

榊原「猿田くん、小椋さん」

猿田「お、おう」

小椋「……うん分かってる」

二人とも三神の言ったことが強くのし掛かっているようで、頷いてはいるものの、その声に覇気は全く無かった。





【午前6時:ゲーム開始】


48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/12(土) 13:53:54.21 ID:KH8YwCsAO
以上です
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/12(土) 15:49:45.08 ID:A/RwnGKjo
連日投下乙
いきなり大量虐殺とかにはならない…よね?
50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/12(土) 23:56:50.81 ID:tF8sb+9M0
縺翫▽縺翫▽
51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/13(日) 18:15:07.76 ID:OQ4Y2QFAO
投下します
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/13(日) 18:18:16.86 ID:OQ4Y2QFAO
――Dボート――



杉浦「……望月くん、中島さん、お願いね」

前島「頼むぜ」

先頭に座る二人は後ろに目を向け、そう言い放った。
それに合わせて水野猛と多々良恵も、不安げな視線を望月と中島に送る。

中島「そ、そんなこと言っても私、ボートなんて乗ったことも無いし……
望月くんだって、操舵なんてできるの?」

望月「……まぁ、やってみるしかないよね」

望月は不安そうだが、なにか決意したような表情で操縦桿を握り締めた。
不意にボートが減速し始め、舳先がせわしなく右往左往とした。

望月「うわ、来たっ……!!」

自動から手動に切り替わったのだ。
しかし望月が踏ん張ったおかげで、何回か船が大きく揺れた後、ボートは元の安定した軌道に戻った。

水野「い、いいぞ」

前島「望月、その調子だ!」

中島「も、望月くん、私に何かできることないかな」

望月「じゃあ僕と一緒に、これ支えてもらっていいかな。
一人じゃ疲れるんだ……僕、力無いからさ」

中島「わかった……こうでいい?」

中島は望月の手の上から操縦桿を握った。

望月「うん……助かるよ」

安堵の表情を浮かべて、望月は中島に微笑んだ。




53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/13(日) 18:21:25.08 ID:OQ4Y2QFAO
――Cボート――



勅使河原「……俺達が振り落とされるような運転だけはすんなよな」

中尾「分かってるっつーの、つかしねえよ!」

嫌みを言う勅使河原に、操縦桿を握りながら中尾は言い返した。
このボートの操舵担当は、出席番号9番のペアである中尾順太と佐藤和江だ。

桜木「ごめんなさい中尾くん、佐藤さん……操舵はお願いします」

勅使河原とは対照的に、パートナーの桜木ゆかりは申し訳無さそうに二人に言った。

佐藤「桜木さん……そんな謝ることなんて無いよ」

中尾「あぁ、操舵は俺達に任せろ」

不自然に、妙にキリッとした表情をした中尾に勅使河原は意地悪く笑う。

勅使河原「……カッコつけるだけつけて、へますんなよ?中尾」


54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/13(日) 18:22:08.09 ID:OQ4Y2QFAO
中尾「ばっ、カッコつけてねぇよ!つかお前うるせぇなさっきから!」

どぉん

その時、辺りに爆音が響き渡り、離れた場所から水柱があがった。

金木「な、なに!?」

勅使河原「こ、攻撃か!?」

皆が驚いていると、水柱があがったすぐ近くを走っていたボートから悲鳴が聞こえてきた。

辻井「あれは、Aボートの方だ!」

中尾「Aボートって、赤沢達が乗ってる……」

それと同時に、周りの海が次々と小さな水柱をあげ始めた。

ちゅいんっ

辻井「うわっ!」

桜木「きゃあっ」

ボートの淵に何かが当たり、甲高い音と共に火花が散った。

勅使河原「撃ってきやがった!みんな伏せろぉ!!」

明け方の空の下、それは突然始まった。




55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/13(日) 18:25:29.77 ID:OQ4Y2QFAO
忠告し忘れました

※ここからグロテスクな描写が入るので苦手な方は注意して下さい
56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/13(日) 18:26:37.82 ID:OQ4Y2QFAO
――Aボート――



ボート脇に迫撃砲が着弾し、激しい水しぶきが上がる。
赤沢達の乗るボートはそのおかげで大きく揺れた。

風見「っく………」

有田「きゃああああああああああ!!」

綾野「えっ!?……ああああああ!!いやあああああああ!!」

王子「うわああああああ川堀くん!?」

赤沢「う、うそ……」

騒然とするAボート。
それもそのはず、有田の悲鳴に気付き全員が後ろを見ると、川堀の顎から上が無くなっていた。
迫撃砲の破片が、川堀の頭をざっくりと持っていってしまったのだ。
剥き出しの歯や舌に、血をごぷこぷと溜めている下顎はまるで杯のようだった。

ぴっぴっぴっぴっぴっぴっぴっぴっ

全員が絶句する中、突然、無機質で甲高い電子音が流れ始めた。
57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/13(日) 18:29:11.58 ID:OQ4Y2QFAO
赤沢「な、なにこの音……」

有田「わ、私だ……」

怯えながら有田は言った。見ると、有田の首輪のディスプレイが赤い光を点滅させている。

綾野「なに……?なんなの?」

風見「もしかしてそれって……爆発?」

有田「え………?」

風見の言葉に、全員が三神が話した『ルール』を思い出す。
同じ出席番号の生徒が死ねば、残った生徒の首輪が爆発する、と。

有田「……い、いやだぁ!!いやだいやだいやだ私まだ死にたくない!!」

全てを悟った有田は、顔を青ざめさせながらボートの上で暴れ始めた。それに合わせてボートは大きく揺れ始める。
しかも操縦桿を誰も握っていないせいで、揺れによりボートはあらぬ方向へと進んでいった。

58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/13(日) 18:30:48.71 ID:OQ4Y2QFAO
赤沢「ちょ、ちょっと!!」
王子「ボートが!!」

出席番号一番である二人は血相を変えてボートにしがみつくが、二番の風見と綾野はそれどころでは無かった。
なにしろ隣には顔を失った川堀の死体と、首輪が作動して錯乱している有田がいるのだから。

風見「うわっ、うわぁ!!」

綾野「し、松子!!」

有田「いやぁっ死にたくないっ死にたくない!!死にたくない!!」

電子音の刻むリズムの間隔は無情にも短くなっていく。

有田「いやだいやだいやだっ死にたくないよぉ!!誰か助け」

ぼんっ

有田の悲痛な叫び声は、一瞬の眩い閃光と爆発音を皮切りに途切れた。
同時に有田の破壊された首から吹き出た大量の血液がボート中に飛び散る。

綾野「松子……?いやぁ……いやあああああああああああああ!!」

それは更なる混乱を招き、ボート上は残った生徒四人による怒号と叫び声に包まれることになった。




59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/13(日) 18:33:27.10 ID:OQ4Y2QFAO
取り敢えずここで切ります
60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/13(日) 19:11:18.61 ID:Dwh5O+HLo
おつ
61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/13(日) 19:21:04.69 ID:9wK16haDO
有田さん・・・
62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/13(日) 19:25:27.69 ID:+xC3kruco
きてた
そして早くも…

このシステムって原作もそうなのかな?
なんか戦力が2倍づつ減っていってイマイチな気もする
63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/13(日) 20:27:57.21 ID:H1QOQ4kyo

>>62
原作でも2ではこの通りだった。なので、ミリオタでシミュレーションばっちりだった奴が一発も撃たずにやられることもあった。
64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/14(月) 09:16:42.57 ID:pUJz77zAO
>>63
説明ありがとうございます

>>62
原作映画ではそのルールにより原作小説ファンから大ブーイングを食らってました
一応ノベライズ版では『仲間と助け合う、教育的効果を狙っている』という理由付けが成されています

因みにこのSSでの敵テロリストは七原秋也ではありません
舞台の島も原作映画とは違うものです

では投下します
65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/14(月) 09:17:58.99 ID:pUJz77zAO
――Bボート――



榊原達も敵の銃撃に当たるまいと、ボート底に身を伏せていた。
小椋と猿田は体勢を低くしながらも、二人で操縦桿を握って、ボートを操舵している。
ふとAボートの様子を見ていた小椋が呟いた。

小椋「泉美達のボート、動きが変じゃない……?」

猿田「あ、あぁ……ん?」

Aボートの後ろで小さな爆発のようなものがあった。
それを皮切りに綾野の悲鳴や、赤沢や風見の怒号らしき叫び声が聞こえてきた。

江藤「今のなに!?どうしたの!?」

高林「多分、首輪だよ……」

小椋「首輪!?」

猿田「首輪って、もしかして」

榊原「あっちのボートで、誰かが死んだんだ、だから首輪が作動した……」

柿沼「じゃあもう、二人死んだってこと……?」

66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/14(月) 09:19:04.25 ID:pUJz77zAO
小椋「そんな……」

江藤「は、早く岸に着こうよ!このままじゃ、私達も!」

猿田「わ、わかった!」

その時、近づく島の岸を見ていた榊原が猿田に叫んだ。

榊原「待って猿田くん!あの岸には行かないで!」

小椋「え!?」

柿沼「なんで……」

榊原「このまま一直線に岸に着いても、その後に相手の猛攻を切り抜けなきゃいけないだろ!」

猿田「そうだけど、それがどうかしたぞな!?」

榊原「降りる岸を変えよう!出来るだけ敵の攻撃に晒されない場所にするんだ!
指示ではあの岸で降りなきゃいけないだなんて言ってないし、地図を見た限りだと他にも着ける場所がいくつかあるよ!」

時折炸裂する迫撃砲の爆音と、銃撃、ボートのエンジン音にかき消されまいと、自然と声が大きくなる。

67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/14(月) 09:22:19.99 ID:pUJz77zAO
江藤「なんで!?」

榊原「高林くんは走れないんだよ!このまま着いたら不味いだろ!」

高林「!」

小椋「なるほど……」

猿田「……わ、わかった!だけど、行き先はお前が決めてくれんか!」

榊原「うん、まず左に行って!」

小椋「左ね……!」

猿田と小椋が懸命に操縦桿を引き、爆撃と銃撃の中、Bボートは進路を変えると他のボートから離れて行った。

高林「あ、ありがとう……榊原くん」

榊原「ううん、いいよ。今は一人でも多く生き残ることを考えよう」

そう言ってから榊原は、遠ざかっていく他のボートを憂いのある目で見やった。



68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/14(月) 09:24:57.65 ID:pUJz77zAO
――Eボート――



海面に迫撃砲を落ち、爆音と共に大きな水柱があがる。
Eボート上の生徒達は悲鳴をあげてボート底にうずくまった。

現在操縦桿を握っているのは渡辺珊と見崎鳴だった。
ふと先頭にいる米村茂樹が、思わず顔を上げてボートから顔を出した。

米村「な、どうなってやが」

ぱぁん

乾いた音の直後、米村の身体が力無く崩れ落ちた。

藤巻「米村くん!?」

和久井「米村……?」

うつ伏せに倒れた米村を和久井は咄嗟に、助け起こした。
米村は力無く首をだらんと垂らして、必然的に米村の顔が和久井と松井の目に映る。

和久井「うわあぁ!!」

松井「いやぁっ!!」

米村の額には大きな風穴が開いていた。そこから血の固まりのようなぷるぷるとした物体が飛び出ている。
感情の無い濁った目はどこも見ていない。
米村はもう死んでいた。


69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/14(月) 09:26:45.53 ID:pUJz77zAO
渡辺「……っ!!見崎さん、操縦桿いい!?」

見崎「う、うん!」

そう言って渡辺は見崎から操縦桿を手に取ると、ボートの速度を上げて蛇行しながら進路を左に向けて進め始めた。

ぴっぴっぴっぴっぴっぴっ

その時、どこからともなく電子音が聞こえてきた。

松井「なにこの音!?」

見崎「藤巻さん、それ」

見崎が平坦な声色で藤巻の首もとを指差した。
ベストの間から見える藤巻の首輪は赤い光を点滅させている。

藤巻「ウソ……ねぇっ、あたしの首輪……ねぇどうしよぉ!!」

藤巻は泣きそうな声をあげて、近くにいた和久井に掴みかかった。
しかし渡辺がボートを蛇行させているために、突然動き出した藤巻はよろめき、和久井もそれに引きずられた。

和久井「うわっ」

藤巻「きゃあっ!!」

よろめいた和久井に押されて、藤巻は海に投げ出された。

70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/14(月) 09:30:46.65 ID:pUJz77zAO
しかし和久井が咄嗟に腕を掴んだため、藤巻は海に流されずに済んだ。
その顔にボートのたてる波が直接辺り、藤巻は溺れかけている。

藤巻「ごぼっごほっ、助げ、助けてっ!!げほっ」

和久井「藤巻さん!!」

和久井が非力ながらも藤巻を助け上げようとした。
しかし

ぼんっ

小さな爆発と共に血の混じった水しぶきが上がり、和久井の顔を濡らした。

和久井「あぁあっ!」

渡辺「和久井くん、その手を離して!敵に狙われる!」

藤巻の遺体は抵抗力となり、ボートの推進力を大きく損なわせていた。
このままではみすみす自らの身体を敵の攻撃に晒すことになってしまう。
71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/14(月) 09:33:20.47 ID:pUJz77zAO
和久井は混乱しているのだろう、顔を藤巻の血で濡らしながら酷く狼狽えており、藤巻が死んだにも関わらずその腕を放そうとしない。

和久井「えっでも、でっ、でも!!」

見崎「……っ!!」

和久井「くはっ!?」

松井「み、見崎さん!?」

その時、見崎が黙って和久井を突き飛ばした。
その拍子に和久井の手は藤巻から離れ、藤巻の遺体は力無く海中に引きずりこまれていった。

抵抗力の無くなったボートはその途端、一気に加速し、島に向かって突き進んで行く。

和久井「ふ、藤巻さん……けほっ、げほっ、ごほごほっ」

松井「和久井くん……」

途端に激しく咳き込み始めた和久井の背中を、松井が心配した面持ちで撫でる。

見崎「……渡辺さん、どこに向かってるの?」

見崎がどんどん離れていく他のボート達を見やりながら聞いた。

渡辺「さっき地図で見たら他にも着ける岸があったからね。
指示にもそのまま行けだなんて言われてないし!」

表情には焦りの色は出ているが、その声は冷静そのものだった。

見崎「へぇ……そうなんだ」

見崎は妙に慣れた手つきで操縦桿を操る渡辺の手を見やりながら、呟いた。




72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/14(月) 09:38:00.47 ID:pUJz77zAO
――Aボート――



ボートを操縦する筈の川堀、有田が死亡し、誰も操舵しないボートは生き物のようにあらぬ方向へと進んで行った。

赤沢(このままじゃ全滅する……!)

風見と綾野は、二人の死体をもろに見てしまったことや、有田の血飛沫を受けたこともあって未だに混乱しており、操舵どころでは無い。

赤沢「彩!どいて!!」

王子「赤沢さん!?」

そう叫んで赤沢は綾野と風見を飛び越えると、操縦桿を鷲掴みにした。
波の力を受けているため、操縦桿は赤沢の予想以上の力で動き回っていた。

赤沢(っ、重いわね、これ!)

川堀と有田の凄惨な死体に挟まれていたが、そんなことは気にしていられない。
必死に操縦桿を押さえつける。

赤沢「王子くん、どう!?」

王子「あ、あぁ!ちゃんと浜に向かってるよ!!」

弾丸が飛び交う中、赤沢の奮闘によりボートはなんとか軌道を元に戻した。
そのまま速度を上げて、他の二艇と共に岸に向かって突き進んでいく。



73 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/14(月) 09:39:22.88 ID:pUJz77zAO

日は登り切り、朝日が照らす中、空は晴れていた。

結果的にBボートとEボートは各々が単独行動に走り、正面からの上陸を試みるのはAボート、Cボート、Dボートの三艇となった。
先に島に着いた三艇の生徒達は、これから激しい弾幕と爆撃を受けながら島に侵攻することになる。




【死亡】
男子3番:川堀健蔵
女子3番:有田松子
男子13番:米村茂樹
女子13番:藤巻奈緒美
【残り26人】



74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/14(月) 09:40:18.01 ID:pUJz77zAO
以上です
75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/14(月) 11:13:48.76 ID:wYu59vrpo
朝から乙

赤沢さんの対策が火を吹くぜ!
76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/14(月) 16:16:51.57 ID:/B3qBwxbo
やべえ面白いわ
続きが日課になってる
77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/15(火) 01:08:50.32 ID:B8vf9OHJ0
対策係の手腕を拝見できるな
78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/15(火) 19:11:20.76 ID:4jZrA1lAO
投下します

あと一応、誰が出てくるのか貼っておきます

男女1番:王子誠/赤沢泉美
男女2番:風見智彦/綾野彩

男女7番:辻井雪人/金木杏子
男女8番:勅使河原直哉/桜木ゆかり
男女9番:中尾順太/佐藤和江

男女10番:前島学/杉浦多佳子
男女11番:水野猛/多々良恵
男女12番:望月優矢/中島幸子
79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/15(火) 19:11:59.77 ID:4jZrA1lAO
――Cボート――



浜辺がすぐ目の前まで迫ったところで、突き上げるような感覚と共にボートは止まった。
浅瀬にボートが乗り上げたのだ。
他のボートはまだ来ていない。一番最初に浜にたどり着いたのはCボートだった。

勅使河原「着いたぞ!」

勅使河原の一言で、六人は次々とボートから降りる。その度に、下に張っている海水がばちゃばちゃと跳ねた。
それから少し遅れてDボートが少し離れたところの砂浜に辿り着いた。

浜には鉄と木を組み合わせた逆茂木が並べられている。
敵からの弾丸は未だに飛び交い続けており、生徒達はその中を駆け抜けなければならなかった。

80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/15(火) 19:12:45.35 ID:4jZrA1lAO
辻井「っていうか、どこに行けばいいんだ……!?」

中尾「とっ、とりあえず前に進め前に!」

金木「あそこは!?崖があるよ!」

金木が指差した先には土地が盛り上がったような小さな崖があった。

辻井「そ、そうだな、あそこに隠れよう!」

勅使河原達は逆茂木をくぐり抜け、姿勢を低くしながら崖を目指して走った。

勅使河原「急げ急げ!」

桜木「う、うん」

その時、目の前の砂浜が盛り上がり、爆炎を吹き上げながら破裂した。

中尾「おわぁ!」

佐藤「きゃっ!」

迫撃砲だ。
あまりの爆音と衝撃波に、全員思わず転倒する。

勅使河原「……やべぇなオイ!」

辻井「金木さん、立って早く!」

しかし弾が降り注ぐ中、みすみす身体をさらすわけにはいかない。
お互いに助け起こしながら、爆撃を避けて一同は崖に駆け込んだ。

81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/15(火) 19:13:55.46 ID:4jZrA1lAO
中尾「ふぅ、なんとか着いたな……」

辻井「ああ」

金木「他の、みんなは……?」

しかし浜辺ではDボートで何かトラブルがあったらしく、望月達がやっとのことボートから降りたようだ。
そして今まさにボートから離れようとしている。

その近くに遅れていたAボートが止まった。

勅使河原「おーいみんな!急げー!!」

桜木「急いでー!!」

迫撃砲の爆音のせいで声が届いているかは分からない。
それでも必死に呼び掛け続ける。

ドオオォォン

だがそこで、突如としてDボートが大爆発を起こした。
砂浜に立ち上る、見たことのない巨大な火柱に一同は思わず目を見張った。

勅使河原「うわっ……」

中尾「……す、すげぇ」

その時、同じく爆発を見ていた佐藤が叫んだ。

佐藤「……た、大変!水野くんと多々良さんが!」




82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/15(火) 19:15:27.27 ID:4jZrA1lAO
――Dボート――



Dボートは浅瀬の盛り上がった地形に勢いよく乗り上げてしまい、浜に止まった時にボートは強い衝撃と共に傾いた体勢で止まった。
その時、杉浦、前島に望月と中島はなんとかボートから飛び降りることが出来た。
しかし水野は、傾いたボートから降り損ねて浜辺に立つまで手間取り、多々良はボートが乗り上げた勢いで浅瀬に投げ出されてしまった。

杉浦「水野くん、多々良さん、早く!」

前島「やべぇぞ急げ!」

水野「わかってるよ!!」

海に浸かっていた多々良を助け起こしながら水野は叫び返した。

水野「多々良さん大丈夫か?」

多々良「あ、足くじいちゃったみたい……」

水野「っ……お前ら先に行け!俺達もすぐ行くから!」

83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/15(火) 19:18:36.85 ID:4jZrA1lAO
望月「で、でも」

杉浦「分かった!だけどすぐ来て!」

前島「待ってっからな!」

望月「あぁっ、みんな待ってよ!」

そう言って前島達四人は安全地帯に向けて、次々と降り注ぎ炸裂する爆撃の中を走り出した。

多々良「ご、ごめん水野くん」

水野「仕方ねぇって、くじいたのは片足?」

多々良「うん……」

多々良が頷くと、水野は多々良の肩に手を回して支えながら立ち上がった。

多々良「いたたっ」

水野「……走れる?」

多々良「……走ってかなきゃ死んじゃうでしょ?」

水野「あぁ、じゃあ早く行こう!」

水野は多々良を支え、多々良は足の痛みに堪えながらもなるべく早く動き、海から上がって逆茂木をくぐり抜けようとした。

その時だ。
凄まじい衝撃波と熱風が二人を背後から襲った。
ボートに迫撃砲が落ち、爆発したのだ。




84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/15(火) 19:19:39.01 ID:4jZrA1lAO
――Aボート――



Dボート近くの浜に、比較的安定した形でAボートは乗り上げた。

赤沢「着いたみたいね、降りるわよ!」

王子「あ、ああ。風見くん!綾野さんも!」

赤沢「ほらっ早くしなさい!」

風見「わ、分かってるよ!」


ちゅいん

綾野「きゃあっ!」

ボートに弾が当たって散る火花に、悲鳴を上げる。

風見「綾野さん、早く!」

綾野「いやぁ!いやだぁ!」

恐怖ですくんだ綾野はボートにうずくまってなかなか動こうとしなかった。
その綾野の腕を、業を煮やした風見が鷲掴みにする。

風見「早く降りるんだ!」

綾野「いやぁあっ!」

綾野は引きずられるようにして、船から降りた。
勿論、川堀と有田の死体はそのままだ。

85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/15(火) 19:20:21.32 ID:4jZrA1lAO
残った四人は逆茂木の下に潜り込んで、飛んでくる弾を防いだ。

風見「あそこに桜木さん達が!」

崖に避難していた桜木達を指差して風見が叫んだ。

赤沢「あそこなら安全そうね、行きましょう!」

赤沢を筆頭に、四人は逆茂木の下から抜けて走り出した。

綾野「……………」

王子「綾野さん、大丈夫かい?」

綾野「う、うん……」

王子「とにかく今は急がないと……!」

移動しながら王子が綾野を宥める。

と、その時近くのDボートが大爆発を起こした。

赤沢「きゃっ!なっなに!?」

綾野「……あれ、水野くんに恵!?」

爆発したDボートの前には、水野と多々良が俯せになって倒れていた。



86 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/15(火) 19:21:16.70 ID:4jZrA1lAO



水野「うぐあっ、あぁあっ!!」

多々良「うっ、くぅ………み、水野くん!」

呻き声に気付いた多々良が水野を見やると、水野の脇腹にボートの破片らしき物体が突き刺さっていた。

多々良「水野くん、大丈夫!?」

水野「ぐぅ……うぅう……」

しかし水野は苦悶するだけで、返答する余裕も無いようだ。
そこに赤沢達が駆けつけた。

綾野「恵!」

赤沢「多々良さん、どうしたの!?」

多々良「水野くんがさっきの爆発で……!」

涙声になりながら多々良が水野の傷を指差す。

王子「うわっ……大変だ」

風見「でも、貫通はしてないみたいだね」

多々良「それで、私も足を挫いて動けなくて……」

87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/15(火) 19:21:56.92 ID:4jZrA1lAO

赤沢「とにかくここにいたら撃たれるのが落ちよ!治療は後にしてここから早く離れましょう!」

風見「そう、そうだね。王子くん、そっち持って!」

王子「あぁ、水野くん我慢してくれよ」

水野「ぐぅあああぁいっあぁ……」

苦痛に顔を歪める水野から目をそらしながら、綾野が多々良に近寄った。

綾野「……恵、肩貸して」

多々良「うん……ごめんね」



88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/15(火) 19:22:29.88 ID:4jZrA1lAO
ここで切ります
89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/15(火) 21:04:41.65 ID:eUYndXlWo
乙です

俺の多々良さんがやばいッ
90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/16(水) 18:12:11.15 ID:w9VeP9lAO
投下します
91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/16(水) 18:13:45.52 ID:w9VeP9lAO




赤沢達は誰一人として撃たれずに済み、勅使河原達のいる崖になんとか滑り込んだ。
崖下には12人の生徒が集まった。
中尾や桜木は合流したことにより安堵の表情を浮かべたが、水野の怪我を見た途端に顔を青ざめさせた。

勅使河原「おいっ、水野大丈夫か!?」

風見「分からない……でも早く処置をしないと!」

勅使河原「処置ってどうすんだよ!?」

風見「そんなこと知らないよ!とにかくザックの中を見てみないと……多分救急セットか何か入ってるはずだ」

佐藤「……あった!応急処置用って書いてある」

金木「中に説明書も入ってるよ。……『応急処置の手解き』だって」

風見「見せて!」

金木「ハイこれ……でもここにいるのってヤバくない!?」

金木は爆風が吹き荒れる浜辺を見やりながら叫んだ。
浜辺には雨あられと降る迫撃砲による爆炎で、もう浜の向こう側が見えない程だ。

92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/16(水) 18:14:24.20 ID:w9VeP9lAO
中尾「多々良さん、杉浦達はどうしたんだ!?」

桜木「中島さんと、望月くんもいないですね……」

多々良「えっ……こっちに来てないの!?」

赤沢「……あそこにいるの、そうなんじゃないの?」

赤沢が指を差した先、右手のかなり遠くの岩壁にこちらを伺っている四人の人影があった。
どうやら四人は別の場所に避難していたらしい。

杉浦『泉美、聞こえる?』

赤沢「っ!多佳子!?」

不意に赤沢のインカムから杉浦の声が聞こえてきた。

中尾「す、杉浦からか?」

赤沢「うん……多佳子、望月くん達も一緒なの!?」

杉浦『うん、こっちは無事。そっちは大丈夫?多々良さんと水野くんの様子が変に見えたんだけど』

赤沢「多々良さんは足を挫いて、水野くんがさっきのボートの爆発で負傷したわ」
93 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/16(水) 18:15:08.57 ID:w9VeP9lAO
杉浦『そう、なんだ……ごめん、二人を任せちゃって』

赤沢「いいわよ別に、それよりこれからどうする?
由美とか恒一くんとか、見崎さんが乗ってたボートはそれぞれどこかに行っちゃったし……」

杉浦『私達はこのまま進むつもり。泉美達とは別のルートを通ることになるよ。泉美達は?』

赤沢「私達は………」

どぉん

言いかけたその時、すぐ近くの地面が爆発した。
爆音に女子達が悲鳴をあげる。

中尾「うぉあっ、アイツら!」

勅使河原「野郎撃って来やがった!」

綾野「さ、さっきより近くなってるよ!?」

風見「ここにいたら水野くんの手当てもまともに出来ないし、いずれいぶり出されるだけだ。
早く安全なところに行かないと!」

杉浦『……泉美、大丈夫!?』

94 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/16(水) 18:16:13.80 ID:w9VeP9lAO

赤沢「う、うん。でも私達も取り敢えず安全な場所に避難するわ。
それから進むつもりだから、中央のアジトでまた落ち合いましょう!」

杉浦『わかった。……死なないでね』

赤沢「そっちもね、じゃあまた」

杉浦『うん、また』

そこで通信は途切れた。

赤沢「みんな、崖をつたって取り敢えず攻撃が来ないところを探しましょう!
水野くんの手当てはそれからよ!」

勅使河原「わ、わかった!水野、掴まれるか?」

水野「あぁ、一応……ぐぅっ」

佐藤「多々良さん、肩貸すよ?」

多々良「ありがとう、お願い」

こうして負傷者を二人抱えながらも、赤沢達一行は安全地帯に向けて移動を始めた。



95 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/16(水) 18:17:48.86 ID:w9VeP9lAO



杉浦が通信を終えたことを確認して、望月は聞いた。

望月「赤沢さん達、どうするって?」

杉浦「……まずは安全圏に移動する、それからテロリストのアジトで落ち合おうって。
あと多々良さんが足を挫いて、水野くんがさっきの爆発で負傷したって言ってた」

中島「水野くん、それに恵も……やっぱりさっきの上陸の時……!」

望月「うん……」

ボートの操縦をしていた二人は、申し訳なさそうに俯いた。
多々良と水野の負傷の責任は自分達にある、そう感じていたのだ。

杉浦「二人を残した私達にも責任はあるわ……でも今は悔やむより早く行かないと、ここも危ない」

そう言いながら、近くの砂浜で炸裂する爆弾を見やった。
相手も三組の生徒を一人でも多く排除しようと必死だ。

96 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/16(水) 18:18:43.04 ID:w9VeP9lAO
望月「そ、そうだね」

前島「よし、なら俺達も行こうか。
ここを伝っていけば、森の中に入れるみたいだし」

ナビの地図を確認しながら前島が言った。島の内側には森や茂みの広がっているエリアがあり、四人が行くルートは、その森の中を通るルートになっていた。
中央のアジトはその森を抜けた先にあるようだ。

取り敢えず四人は、浜辺から離れるように岩場を移動して行った。

前島「……しかもナビ見てみろ!」

移動しながら、前島に言われて三人は各々のナビの画面を覗いた。
四人の現在地が出席番号として表示されている。
そしてそこから離れた海面に、4番、5番、6番の男女ペアのマークが表示されていた。

97 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/16(水) 18:23:06.82 ID:w9VeP9lAO
望月「4番って……榊原くん達だ!」

杉浦「そう言えば早々に離脱してどこかに行ってたものね、彼らのボート」

中島「由美達、まだボートから降りてないんだ……」

前島「でも見ろ、あいつらもいずれここらでボートから降りるだろ。そうなると通るルートが重なる」

望月「合流、できるかもね」

杉浦「……待って」

ナビを閉じながら、杉浦は言った。

杉浦「合流するかどうかはまだ決めかねるわ」

中島「え……」

望月「ど、どうして?」

杉浦「戦況がどうなるか分からない以上、決断を早めるべきじゃないと思う。
相手のテロリストだって手数が分からないんだし、これから入る森にどんな仕掛けがあるかも分からない」

望月「それも、そっか……」

杉浦の言い分に、三人は納得した表情を見せた。

杉浦「とにかく、今は安全圏に行くことに専念しようよ。これからどうするかは、そこで考えよう」

望月「……うん」

前島「それもそうだな、この銃とやらの扱い方も知っとかなきゃなんねぇし」

会話をしながら、四人は着々と森林地帯へと足を踏み入れて行った。




98 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/16(水) 18:23:43.17 ID:w9VeP9lAO
以上です
99 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/16(水) 19:01:21.40 ID:l+hvv1aAo
乙です

杉浦さんマジ有能
100 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/17(木) 07:54:46.29 ID:/PELqjMAO
投下します
101 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/17(木) 07:58:57.63 ID:/PELqjMAO
――Bボート――



榊原達がボートを止めて島に上陸したのは、赤沢達が上陸してから一時間ほど後のことだった。ボートを誰もいなさそうな岩場に停めて、全員で手を貸し合いながら、陸地まで登って行く。
現在は近くの茂みで少し休憩をしていた。理由は勿論、高林の心臓の持病があるからだ。

猿田「ナビを見る限り、みんなもうとっくに上陸しとるのう」

榊原「うん、結構固まって動いてるね」

そこを、草村に寝ていた高林がやや苦しげに謝った。

高林「ご、ごめん……僕がいるばかりに……」

猿田「へへっ、別に構わんぞな」

江藤「それよりほら、高林くんはもうちょっと休みなよ」

高林「うん……」

申し訳なさそうに返して、高林は深い呼吸を繰り返しながら目をつむった。


102 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/17(木) 07:59:57.45 ID:/PELqjMAO
小椋「……でも、私達もずっとここにはいられないよね。三神先生の言ってた禁止エリアが敷かれるかもしれないし」

榊原「うん……それでも、移動はゆっくりしないと」


江藤「……柿沼さん、大丈夫?」

柿沼「えっ、う、うん……だい、じょうぶ」

先程から柿沼は思い詰めたように表情を堅くし、白い顔は更に青ざめていた。

小椋「どこか悪いところでもあるの?」

柿沼「いや……私は、大丈夫だよ」

そう言って柿沼は、薄い微笑みを浮かべた。
小椋と江藤も内心では分かっていた。
走ることもできない、この中でも最も死に近い高林と柿沼は組まされているのだ。
その不安で頭の中はいっぱいなのだろう。
自分達が柿沼と高林に出来ることと言えば、こうやって高林と歩幅を合わせて移動することぐらいだ。

103 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/17(木) 08:01:32.48 ID:/PELqjMAO
沈黙する女子達。
そのやり取りを見ていた猿田が話を逸らすように、大袈裟にザックを下ろした。

猿田「そ、そうだ。今のうちに銃の使い方を……」

榊原「そうだね、確か説明書と弾はザックの中に入ってるって……」

それに江藤と小椋も無言で頷くと、ザックを下ろして中身を探り出した。
遅れて柿沼も、皆と同じ様に自分のザックの中を探り始める。

榊原「弾って、これかな……?」

中に入っていたのは、湾曲した黒い弾倉が三つ。

江藤「多分、そうだよね。えっと、使い方は……」

小椋「……あっ!」
猿田「んっ?」

その時、小椋と猿田がほぼ同時に声をあげた。

榊原「なに?」

江藤「どうしたの、二人とも?」

小椋「………私の『当たり』だって」

猿田「俺のも……」

そう言いながら二人は、ザックから黒い筒のようなものを取り出した。
それに『アタリ』とプリントされたコピー用紙が貼られている。

榊原「なにそれ?」

小椋「……『グレネード弾』って書いてある」




104 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/17(木) 08:03:28.08 ID:/PELqjMAO
――Eボート――



同時刻。
Eボートの四人も、他の生徒達とは離れた岩場に上陸していた。
先にボートを降りた和久井が米村の死体を信じられないような目で見やった。

和久井「よね、むら……」

目があった。
米村の何も映していない濁った目と。

和久井「げほッ、おえぇ!」

松井「わ、和久井くん……!」

渡辺「大丈夫?」

ショックで嘔吐する和久井に、次に降りた松井が急いで駆け寄って、その背中をさすった。
その後をついて行くように、相変わらず無表情な見崎が降りて行く。
見崎は降りてから、ふとボートを振り向いた。

見崎「……渡辺さん、何してるの?」

ボートに残った渡辺は、米村からザックを取ろうと死体を動かしていた。


105 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/17(木) 08:05:44.96 ID:/PELqjMAO
渡辺「見ての通りだよ。……資源は多いに越したことはないから」

言いながら米村のザックを片手に渡辺もボートを降りると、ナビを点けた。

渡辺「こっち側に来てるの……私達だけみたいだね」

見崎「……………」

赤い瞳で渡辺をじっと見つめる。
クラスメイトが死んだと言うのに、渡辺は見崎以上に冷静だった。

渡辺「ん、何?」

見崎「……ううん、別に」



松井「ね、ねぇ……みんなと別れちゃったけど、これからどうするの?」

渡辺「取り敢えず、私達は私達で丘にあるテロリストのアジトに向かうべきだよね。
みんなそこを目指すんだから……多分そこでみんなといずれかは落ち合えると思うよ。みんなの進行速度に寄るけど。
……取り敢えずまずは足場の安定する場所に上がろう」

106 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/17(木) 08:06:54.55 ID:/PELqjMAO
松井「う、うん……和久井くん、大丈夫?喘息が……」

和久井「あぁ……ごめん、松井さん……一応、薬はザックの中にあるみたいだし、もう、大丈夫だよ。行こう、か」

松井「……うん」

松井は病弱な和久井を支えながら、岩場を登り始めた。
その後ろをサポートするような形で渡辺と見崎も岩場を登っていく。

米村、藤巻の死を目の当たりにした二人の表情は芳しくない。対照的に渡辺、見崎ペアの方は彼等の死に対して特に動じた素振りは無かった。

渡辺「見崎さん」

見崎「?」

渡辺「さっきはありがとう」

見崎「……何が?」

渡辺「ほら、和久井くんを突き飛ばしたじゃない?」

見崎「あぁ……だってそうしないと、残った私達も死んじゃうかもしれなかったから」

渡辺「でも、躊躇無かったね」

見崎「………死体は、あくまで死体でしか無いから」

渡辺「……ふうん」


107 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/17(木) 08:10:37.51 ID:/PELqjMAO
やがて四人は平坦な地面にたどり着き、そこに何故かあったコンクリートの小屋の中に隠れて、銃の確認をすることにした。
ここで『アタリ』を引いたのは、和久井と松井の二人だった。

和久井「ぼ、僕はいいよ……なんだか使える気がしないし」

しかし和久井は、そう言って当たりであるグレネード弾を渡辺に渡してしまった。

和久井「渡辺さんなら、多分僕よりずっと有効にそれを使える気がするし……」

渡辺「あ、ありがとう」

見崎は弾倉を入れた小銃を、興味深そうにしげしげと見回していた。

見崎「…………………」

ふと見崎が安全装置を外して、トリガーに指を掛けた。

渡辺「まだ撃たないで見崎さん。
音で気付かれるかもしれないし、それに弾の無駄使いは避けた方がいい」

見崎「……そうだね」

頷き、微かに眉を下げて見崎は銃を下ろした。

108 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/17(木) 08:12:16.79 ID:/PELqjMAO
松井「みんな無事、かな」

松井がふと呟き、それを聞いた渡辺が苦々しい表情になった。

渡辺「……多分今頃赤沢さん達は敵の猛攻撃を食らってると思う」

松井「え」

和久井「どうして……」

渡辺「この地形を見て」

そう言ってナビの地図を見せた。
島は中央のアジトと、赤沢達が上陸したアジト正面までの道のり以外の広範囲に森が広がっていた。
中央とその開けた道を除いた森は、地図で見るとまるで欠けたドーナツのような形状をしている。
その中の、海側に近い場所にある小さな建物の中に赤沢達12人のマークが表示されている。

渡辺「赤沢さん達がいるルートって、敵のアジトから一番よく見えるし、否応無しに攻撃を受けると思うよ」

途端に松井が不安げに眉間に皺を寄せて口を噤んだ。松井の親友である金木が、赤沢達と行動を共にしているのだ。

109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/17(木) 08:13:26.01 ID:/PELqjMAO
松井は金木のことが心配で仕方が無いのだろう。


和久井「……じゃあ、この森の中に所々ある建物って、なんだろう?」

和久井が森の中に表示されている建物を指差した。

渡辺「うーん……わかんない。というかこの島自体、どうしてこんなに建物があるくせに人がいないのかも分かんないし」

その時、黙ってナビを見ていた見崎が口を開いた。

見崎「……ここって、炭鉱跡とか沢山ある島だよね」

渡辺「見崎さん、知ってるの?」

見崎は頷くと、相変わらず静かな声で呟くように話し出した。

見崎「前に読んだ廃墟の本で見たことあるから。……多分テロリストのアジトっていうの、この炭鉱で働いてた人達の社宅だったと思う」

和久井「社宅?」

110 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/17(木) 08:15:43.24 ID:/PELqjMAO
見崎「団地みたいなもの。
……森の中にも廃棄された施設がいくつも残ってたはずだから、地図のも多分それだと思う。
今いるこの小屋も、炭鉱の廃墟の一つなんじゃないかな」

渡辺「成る程ね……」

不意に松井が切羽詰まった声を出した。

松井「……杏子?杏子聞こえる!?」

三人の視線が松井に集まる。どうやらインカムで金木に通信を送ったらしい。
松井は他の三人をよそに通信で会話を始めた。

金木『亜紀?亜紀なの?』

松井「うん、私だよ!……よかった」

金木『杏子も無事みたいでよかった……。でもそっち大丈夫なの!?結構離れたところに上陸したみたいだけど……』

途端に松井は悲しげな顔をして、声のトーンを落とした。

松井「私と和久井くんに渡辺さんと見崎さんは無傷だけど………ボートから降りる前に、米村くんと、藤巻さんが死んじゃった……」

111 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/17(木) 08:17:03.91 ID:/PELqjMAO
金木『そう、か。こっちも川堀くんと有田さんが赤沢さん達のボートで亡くなったって』

松井「そう……」

金木『それに水野くんと多々良さんが今怪我してて、今みんなで小屋に隠れて治療してるところ。
……ボートを降りてから敵の銃撃が止まないわ』

松井「やっぱり……」

その時、渡辺が松井の肩を叩いた。

渡辺「松井さん、金木さん達がこれからどう進むつもりなのか聞いてみて」

松井「う、うん……杏子、そっちはこれからどうするつもりなの?」

金木『……道なりに沿って真っ直ぐ進むつもりだけど、水野くんと多々良さんがいるから足取りは遅くなりそう。
そっちは?』

松井「えと、こっちは……わ、渡辺さんどうする?」

112 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/17(木) 08:17:44.93 ID:/PELqjMAO
聞かれた渡辺は、おもむろにインカムを押さえた。

渡辺「……金木さん、聞こえる?」

松井「っ?」

松井は耳元からも聞こえた渡辺の声に驚いた。

金木『その声は……渡辺さん?』

渡辺「うん。私達は森の中を通ってアジトに向かうつもりだけど……正直森の中がどうなってるのか詳しく把握してないからまだこれからどうなるかは分からない。
でも大方中央のアジトで落ち合うことになると思う」

金木『分かった。赤沢さん達にも伝えておくよ』

渡辺「ありがとう」

金木『……亜紀』

松井「なに?」

金木『……死なないでね』

松井「……うん、杏子も絶対、怪我とかしないでね?」

金木『ふふっ、分かってる。そろそろ切るね?渡辺さんも他の二人によろしく』

渡辺「うん、金木さんもね。また」

そこで通信は切れた。

113 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/17(木) 08:20:43.18 ID:/PELqjMAO
松井「……………」

松井は恋人の安否を気遣うかのような憂いを帯びた表情で、ナビを握り締めた。

見崎「………渡辺さん」

渡辺「ん?」

見崎「二人の会話、聞いてたの?」

渡辺「あ、うん。なんか通信って複数人で回線を共有できるみたいだったから」

するとそれを聞いた見崎は、珍しく露骨に鬱陶しそうに眉を潜ませてインカムに手を当てた。

和久井「向こうの人達、どうだって言ってた?」

渡辺「……有田さんと川堀くんが亡くなったって。あと水野くんと多々良さんが負傷したって言ってたよ」

和久井「有田さん、川堀くんも……」


渡辺「……他の人達ももう進んでるし、私達もそろそろ行かなきゃ。
いつまでもここにいるわけにはいかないし」


114 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/17(木) 08:22:53.08 ID:/PELqjMAO
渡辺「森の中はどうなってるか分からない。……まず確実に相手も何か仕掛けてる筈だから慎重に進まないとね」

和久井「し、仕掛けてるって何を?」

渡辺「罠とか……あるいは戦力を分散して森の中の廃墟にも何人かテロリスト達がいるかも」

和久井「テロリストが……」

渡辺「……とりあえず何があってもペア同士で離れないこと。私達にはこれがあるんだから」

そう言って渡辺は首輪を指差した。

渡辺「じゃあ、行きましょう」

松井「うん……」
和久井「あ、あぁ」
見崎「………」

妙に冷静だが頼れる渡辺に、松井と和久井は若干戸惑っている。
その渡辺を先頭に四人は小屋から出て、アジトへ向かうために森への移動を開始した。




115 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/17(木) 08:24:12.24 ID:/PELqjMAO
以上です
アナザー本編ではセリフもほとんど無い渡辺さんですが、このSSでは存分に活躍してもらいます
116 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/18(金) 14:19:07.42 ID:T6C36buDO
板復活&乙
117 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/18(金) 18:05:51.25 ID:EcYiXdy7o

珊さん…デスメタルやってるとやっぱタフになるのか
118 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/19(土) 23:46:05.37 ID:c/hL9Bkn0
おつおつ

渡辺さんさんマジ対策係
119 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/21(月) 23:44:35.18 ID:kWzS90hAO
すいません4日ほど空いてしまいました
これより投下再開します
120 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/21(月) 23:49:18.73 ID:kWzS90hAO



崖の上に登った赤沢達は、浜辺からさほど離れていないコンクリート作りの小屋の中でひとまず立ち止まっていた。
とは言えど、やはり敵の放つ弾が時折飛んできては音をたてて小屋の外壁にめり込んでおり、ここも安全地帯とは言えなかった。


水野の治療に当たっているのは、風見と佐藤と桜木だ。
寝かせている水野のベストと迷彩服の前を開けて、風見が血に塗れたシャツを恐る恐るめくり上げた。

綾野「っ……!!」
辻井「うわ……」
勅使河原「ひでぇ……」

脇腹に生々しく刺さったボートの破片、その負傷部位を見て、誰もが言葉を失った。
破片自体はそこまで大きくは無いが、それでも傷口からは、見たことも無いおびただしい量の血液が溢れ出ていた。


121 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/21(月) 23:50:24.12 ID:kWzS90hAO
水野「ひでぇってなんだよ……どうなってんだよオイ!!」

他の生徒の反応を見た水野は、血の気の引いた顔を余計に青くさせて叫んだ。

綾野「血、血が……」

桜木「ど、どう?水野くん……」

水野「どうって……なんかもう、感覚がねぇよ……」

佐藤「……結構、マズいかもね」

風見「うん……と、取り敢えず、僕達に出来るだけのことをしよう」

佐藤「これ、さ……抜く?」

顔を青くした佐藤が、震えながら突き刺さった破片を指差した。

風見「うん、慎重にね……水野くん、いくよ?」

水野「あ、あぁ」

水野が青ざめた顔で頷くと、佐藤はゆっくりとボートの破片を抜いていった。

水野「ぐぅう、うぅあぁ!」

当然、水野は痛みに悲鳴をあげ、その傷口から血が溢れ出す。
勅使河原や辻井や金木など、その様子を見ていた生徒達は一斉に目を逸らした。

風見「うわ………」

桜木「あ、慌てないで。セットに治療薬が入ってたから……」


122 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/21(月) 23:51:43.89 ID:kWzS90hAO
治療が進められる横で、綾野は水野の怪我から逃げるように、多々良の足に湿布と包帯を巻いていた。

綾野「……恵、大丈夫?」

多々良「うん……おかげでだいぶ楽になった、ありがとう」

綾野「ううんいいよ、これぐらい」

そう言った綾野の微笑みにいつものような明るさは無かった。
そんな綾野を前にして、多々良は言い出しづらそうに口を開いた。

多々良「……あのさ、彩」

綾野「ん、なに?」

多々良「……松子と、川堀くんはどうしたの?」

綾野「っ………」

何人かの視線が綾野と多々良に集まる。
綾野は沈痛な面持ちで言葉を詰まらせた。多々良も綾野の悲痛な表情から、二人がどうなったのか、察することは容易だった。

多々良「……死ん、だの?」

綾野「うん、二人とも……ボートの時の爆撃に」


123 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/21(月) 23:53:01.49 ID:kWzS90hAO
途端に、小屋の中は沈痛な雰囲気に包まれた。
『災厄』に備えて4月からある程度は死に対する覚悟をしていた三組の生徒と言えど、誰もが言葉を失っていた。
それ程にもクラスメイトの死は重く、同時にそれは、BRUという不条理なゲームの存在を、圧倒的な現実として生徒達に突き付けることとなった。


そんな中、赤沢と王子は小屋の外の様子を伺いながら、銃の確認をしていた。

王子「…………」

王子も生徒達の沈黙から有田と川堀の死を再確認して、表情に影を落としていた。
その前で、赤沢がおもむろに口を開いた。

赤沢「……ボートに乗る前から考えてたんだけど」

王子「ん?」

赤沢「これも一種の『災厄』なのかもしれないわね」

124 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/21(月) 23:57:03.44 ID:kWzS90hAO
王子「……災厄って、三組の呪いの?」

赤沢「それ以外に何があるのよ」

王子「そ、そうだよね……でも聞いたところに寄ると、災厄は夜見山の外じゃ起こらないって」

赤沢「そうなのよね……でも、あるいは夜見山にいた時点でこのゲームへの参加が決定していたとしたら?」

王子「どういうこと?」

赤沢「これも災厄の現れなんじゃないかしら。夜見山にいた時点で死ぬことが確定したなら、市外でも市内でも死ぬことには変わらないでしょ?」

王子「夜見山市内で死が確定したら市外でも死ぬ……」

赤沢「そう」

王子「……確かに納得できるところはあるね」

そこで中尾が横から口を挟んだ。

中尾「でも『いない者』の対策もちゃんとできてたじゃねぇか」

赤沢「……本当にそうかしら?」

中尾「え?」

赤沢「五月からの転校生の恒一くんが来てから『いない者』……見崎さんとの間にたびたび接触があったらしいじゃない」

125 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/21(月) 23:57:54.58 ID:kWzS90hAO
勅使河原「ちょっと待てよ!
サカキは仕方ねぇだろ?俺達がちゃんと説明してなかったのもあるし」

赤沢「仕方ない、で私達が許しても災厄は関係ないでしょ。……確かに私達にも落ち度はあった。だけどそれで終わらせるわけにはいかないの」

勅使河原「だからってんなもん……!」

両者の語調が強くなってきた辺りで、水野の治療をしていた桜木が声を張り上げた。

桜木「や、やめようよ二人とも!」

風見「確かに。今する話じゃないよ、それ」

戒められ、二人はばつが悪そうに口を噤んだ。

勅使河原「…………あぁ、悪かったよ」

赤沢「私も、謝るわ……でも私達はまだ災厄から逃げ切れてない。私は対策係としてそれだけは忘れないつもりよ」

その時、突然金木が驚いた様子でインカムに手を当てた。

金木「……亜紀?亜紀なの?」

126 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/21(月) 23:59:06.70 ID:kWzS90hAO
辻井「松井さんから……?」

金木は赤沢達に、少し席を外すと目配せをしてから小屋の端に移動して会話を続けた。

王子「確か松井さんのところって他に、米村くんと藤巻さんと、和久井くん」

勅使河原「それに渡辺と、見崎もいたよな。アイツらどうしてんだ?」

風見「榊原くん達と同じ、上陸する時点で僕達とは別行動に……ってそれぐらい自分でナビで見ろよ」

勅使河原「へいへい……」

中尾「ところでよ、多々良さんと水野、どうする?」

風見「一応、僕達が出来るだけのことはしたよ……」

水野の血で手を赤く染めた風見が、眼鏡を直しながら言った。

桜木「水野くんは、まだ動けないだろうし……」

水野は顔を青ざめさせて、苦悶の表情を浮かべながら横たわっている。
一応ボートの破片は抜き去り、救急セットに入っていた治療薬を施して包帯は巻いてあるが、包帯には血が滲み出ていた。
縫合は勿論出来ず、傷口は開いてそのままだ。

127 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/22(火) 00:00:24.20 ID:LRqeJFNAO
赤沢「……二人を連れて行くのは得策じゃないと思うわ。動きが遅くなると、その分敵からも攻撃されやすくなるし」

風見「……じゃあ、どうするんだい?」

赤沢「動ける人だけで先に行って、敵の注意を引く。……水野くんと多々良さんにはその後をゆっくりと付いて来てもらうしかないと、私は考えるわ」

勅使河原「ちょっと待てよ!二人を置いて行くのか!?」

赤沢「……あくまで私の考えよ。それ以上の得策があるなら、勿論それに従うけど?」

勅使河原「っ………」

赤沢「他に何か意見があるかしら?」

赤沢は他の生徒達を見渡した。

桜木「……私は、赤沢さんの意見に賛成かな」

勅使河原「桜木………」

桜木「あの銃撃の中を歩くことなんてできないし……私達が水野くんと多々良さんに出来るのは時間稼ぎ、なんじゃないかな」

128 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/22(火) 00:03:45.03 ID:LRqeJFNAO
辻井「俺も……理に適ってると思う」

中尾「俺も賛成だわ」

綾野「め、恵はどうなの?」

多々良「……私もそれで構わないよ」

赤沢「風見くんや佐藤さんは?」

風見「僕も賛成だね」

佐藤「……それしか、ないんじゃないかな」

ちょうどその時、金木が「渡辺さんも他の二人によろしく」と言い通信を切って戻ってきた。

桜木「金木さん、松井さん達はどうだって言ってましたか……?」

金木「森を通ってアジトに向かうって。
……あと米村くんと藤巻さんが、亡くなったって言ってた」

「米村と藤巻まで!?」
「もう四人も死んだのか……」

赤沢「……急いでテロリスト達を倒さないと、犠牲者は増える一方よ」

129 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/22(火) 00:06:08.54 ID:LRqeJFNAO
王子「三神先生は、制限時間は2日間って言ってたよね……?」

中尾「2日間で終わらないと、どうなるんだよ!?」

赤沢「……『生存者全員の首輪が爆発して、優勝者は無しとする』」

「え!?」
一同は声を揃えて赤沢に振り向いた。

赤沢「BR法では3日間を過ぎても殺し合いに一人以上生きていたら、そうなるって聞いたわ。
……きっとこのゲームも同じよ」

風見「どちらにしろ2日間で決着を付けないと駄目、か」

勅使河原「畜生……なんで1日も制限時間を縮めたんだ!」

赤沢「こんな狭い島で戦争するんだし、私達がそう遠くないアジトにたどり着いたら後はどっちかが生き残るかなのよ。
3日も必要ないじゃない」

130 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/22(火) 00:06:39.03 ID:LRqeJFNAO
すると、皆の会話を聞いていた水野が苦しそうにしながら口を開いた。

水野「……だったら、こんなとこで……無駄話してる場合じゃ、ねぇだろ……。早く、行け、よ」

勅使河原「……お前等それでいいのかよ?」

水野「い、いいよ……先、行けよ……」

多々良「うん……私達のために時間を無駄にはできないよ。
じゃなきゃ、みんな死んじゃうんでしょ?」

綾野「恵……」

多々良「心配しないで、私達は後からついて行くから」

赤沢「……じゃあそういうことでいいわね。みんなすぐに行くわよ」

赤沢が呼び掛けると、生徒達は緊張した面持ちで銃を握り締めた。

赤沢「二人とも、また後で。王子くん!」

王子「ああ」

そう言うと、赤沢は王子と共に小屋の外へと飛び出して行った。

131 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/22(火) 00:07:54.16 ID:LRqeJFNAO
中尾「俺達も行こうぜ」

佐藤「うん……多々良さん、気をつけてね」

多々良「うん、ありがとう」

中尾と佐藤も赤沢達の後を追うように小屋から出て行き、辻井と金木もそれに続く。

風見「ほら行くぞ勅使河原!」

勅使河原「わかってるっつの!……水野、生きろよ絶対に」

水野「あ、あぁ……当たり前、だろ」

桜木「怪我に差し支えないように、ゆっくり来てね」

多々良「わかった」

綾野「……恵、またね」

多々良「うん、また」

別れを言うと、四人も先へ進むために小屋の外へと飛び出して行った。
二人だけになった水野と多々良は、全員を見送った後に互いに目を見合わせた。

多々良「……水野くん、傷は痛む?」

水野「当たり、前だろ……つか、悪いな、マジで」

多々良「なにが?」

水野「俺が、怪我した、ばっかりに……」

多々良「いいよ、元はと言えば私がボートから落ちて足を挫いたのが原因なんだし。
……ここはみんなの言うとおり、ゆっくり進もうよ」

水野「あぁ……そう、だな」

そう言うと水野は静かに呼吸をして目をつむった。



132 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/22(火) 00:08:34.86 ID:LRqeJFNAO
以上です
133 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/22(火) 00:14:56.95 ID:QhPsbyWyo
乙です

現象「俺のせいだったのか…」
134 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/23(水) 18:07:36.59 ID:uWEtVpTAO
投下します
135 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/23(水) 18:10:05.93 ID:uWEtVpTAO


草木が生い茂る森の中を歩き続けていた見崎達の前に、突然コンクリート二階建ての廃墟が現れた。
壁にはツタがびっしりと張り付いており、窓もところどころが割れている。

四人はその目の前で立ち止まっていた。

渡辺「これがその、炭鉱の?」

見崎「うん………」

見崎は廃墟に目を輝かせながら頷いた。

和久井「中には誰もいないみたいだね」

渡辺「うん……そうだね」

松井「……あれ?」

周りを見回していた松井が何かに気づいた様子で、廃墟から少し離れた茂みに歩いて行った。

渡辺「松井さんどうしたの?」

松井「……ねぇ!ここにトンネルがあるよ!」

和久井「トンネル……?」

渡辺「……とにかく行ってみよっか」

松井の呼び掛けに応じて、三人は松井のいる茂みに駆け寄った。

136 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/23(水) 18:13:36.51 ID:uWEtVpTAO
和久井「ホントだ」

そこにはコンクリートで舗装された下り坂が地下に向かって伸びており、その先に小さなトンネルが口を開けていた。

渡辺「ナビにも一応表示されてるね、しかも島中に張り巡らされてる……」

松井「じゃあここを通って他のところにも行けるのかな?」

渡辺「ナビを見る限り行けるみたいだけど……。見崎さん、このトンネルがなんだか分かる?」

見崎「……坑道。炭鉱資源を運ぶためのトンネルだと思う」

渡辺「ふーん」
和久井「へぇ」

トンネル内は明かりも無く、深い闇に包まれている。
長年放置されているために、トンネルの周りも無数のツタが張り付いていた。

松井「なんか、不気味……じゃない?」

和久井「確かに……暗いしね」

渡辺「まぁ廃墟なんだし、明かりが無いのも当然………っ!?」

その時、突然渡辺が背後を振り向いた。

渡辺「見崎さん!」

見崎「!?」

そして見崎の首もとを掴んで背後に飛び退く。

137 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/23(水) 18:21:02.40 ID:uWEtVpTAO
それに対し、何事かと目を見張る和久井と松井。

ぱすんぱすん

和久井「うわっ!?」
松井「きゃあ!?」

直後、二人の目の前の木に音をたてて弾がめり込んだ。

松井「う、うそ……撃たれたの!?」

それを皮切りにばすばすと次々に弾丸が飛び込んできた。

和久井「おわあぁ!ま、松井さんトンネルに!」

松井「う、う、うん!」

二人は顔色を青くしてトンネルの入り口に飛び込む。

渡辺と見崎は森の中を走って先程の廃墟を目指した。

渡辺「はっ、はっ、はっ……」

見崎「はぁ、はぁ、はぁ……これって、テロリストの攻撃なの?」

渡辺「だろうね!と言うかそれ以外無いでしょ……ほらっ見崎さん早く!」

見崎「う、うん」

二人も飛び込むように先程の廃墟の影に隠れた。

ばららららららら

森の中に発砲音が響き渡る。テロリストは一方的に銃を撃ち続けた。

渡辺「……やっぱり向こうも戦力を分散してたみたいだね。
和久井くん、松井さん、聞こえる?」

渡辺はインカムから二人に話し掛けた。

松井「う、うん」

和久井「聞こえるよ!」

渡辺「とりあえずそこの地下道に入って!」

138 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/23(水) 18:23:36.28 ID:uWEtVpTAO
松井「えぇ!?」

和久井「ど、どうして……」

渡辺「そこを通って行けば、その先に他の人達がいる!私達だけじゃ対抗できないから!みんなとの合流を目指すの!!」

和久井「わ、渡辺さんと見崎さんは!?」
渡辺「私達も後で追うから、だから行って!走って!」

松井「そ、そんな」

和久井「……い、行こうよ、松井さん」

松井「和久井くん!?」

松井が驚いて和久井を見やると、和久井はいそいそとザックの中からライトを取り出していた。

和久井「走って逃げなきゃ……このままだと追い詰められる」

松井「で、でも和久井くん、喘息は……」

和久井「どうせ死と隣り合わせなんだ……今更関係ないよ。とにかく急ごう!」

そう言うと和久井はライトを照らし、トンネルを満たす深い闇の中へと飛び込んで行った。

松井「ま、待ってよ和久井くん!」

慌てて松井も、和久井の背中を追い掛けてトンネルの中へと駆け出して行った。



139 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/23(水) 18:27:34.07 ID:uWEtVpTAO



二人がトンネルの中に入って行ったことを確認して、見崎は渡辺を見やった。

見崎「……私達はどうするの?」

渡辺「どうするって?」

見崎「そのままの意味で聞いたんだけど……このままだとあの坑道まで行けないでしょ?」

渡辺「うん……松井さんと和久井くんには後で追うって言っといて悪いけど、正直この状況で二人を追うのは難しいよね。
とりあえず私達だけで先へ進まなきゃ……ねっ!」

そう言うと、渡辺は小銃を構えて、廃墟の影からかがみながら飛び出した。
そして引き金を引き、同時に、ばらららららら、と轟音と共に弾が発射されていく。

見崎「っ!」

突然近くで鳴り響く発砲音に見崎は肩を揺らして驚いた。
渡辺は撃ち終わるとすぐに見崎のもとに戻り、撃ち返されてくる弾丸を避ける。

渡辺「危ない危ない」

見崎「…………」

それから渡辺はザックから、和久井から貰った銃に取り付けるグレネードのアタッチメントとグレネード弾を取り出した。
手際よく銃に取り付け、グレネード弾を装填する。


140 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/23(水) 18:30:18.65 ID:uWEtVpTAO
見崎「それ、撃つの?」

渡辺「うん……敵の方に向かってね。
それでアイツらを蹴散らせるかどうかはわからないけど、爆音とか衝撃である程度は気を引けると思う。
爆発したらすぐに走って逃げて、わかった?」

見崎「うん、わかった」

渡辺「じゃあ……行くよ!」

渡辺は一息吐くと、再び身を乗り出してグレネード弾を発射した。
ぼしゅっ、という花火を打ち上げるような音と共に大きな反動が渡辺を襲い、耐えきれなかった渡辺の細い身体は、背中から地面に倒れた。
直後に、グレネード弾が撃ち込まれた遠くの茂みが爆発した。

見崎「渡辺さん……!」

見崎は倒れた渡辺に駆け寄ると助け起こした。
爆炎が上がった場所からはテロリスト達と思われる男達の怒号が聞こえてきた。

渡辺「ごめん、ありがとう……今の内に逃げよう!」

見崎「うん」

二人は廃墟に背を向けて、全速力でその場から走り出した。



141 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/23(水) 18:36:34.77 ID:uWEtVpTAO




松井と和久井の二人は、カビくさいトンネルの中を走り続けた。
依然としてトンネルの向こうは深い闇に包まれて先が見えない。
二人は既に、トンネルの入口から入る光も見当たらないところまで来ていた。

和久井「げほぉっ、げほっごほごほっ」

和久井が大きく咳き込み、松井は慌てて立ち止まった。

松井「わ、和久井くん大丈夫!?ちょっと、休もう?」

和久井「げほっごほっ……う、うん」

二人はその場に腰を下ろして、一息吐くことにした。

暗いトンネルの中、息切れした二人の呼吸が寂しく響き渡る。

息を整えながら松井が呟いた。

松井「渡辺さんと見崎さん、来るかな……」

和久井「な、ナビを見てみようよ……けほっけほっ」

松井「うん」

142 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/23(水) 18:38:19.77 ID:uWEtVpTAO
和久井に言われて松井はナビを取り出し、地図を見た。
しかし入り口から松井と和久井まで、トンネルの中に渡辺と見崎の表示は無かった。

松井「あ、あれ?……二人ともどこにいるんだろう」

和久井「……いた、ここだ」

和久井がナビを指差す。
渡辺と見崎はトンネルの入口から大きく離れた位置にいた。何故かまだ森の中をさまよっているようだ。

松井「二人ともどこ行ってるの!?」

和久井「た、多分トンネルに入って来れなかったんじゃないかな……。
あの銃撃の中を抜けて、トンネルまで駆け込むのは難しいだろうし……」

松井「あぁ……そっか」

これから二人と合流するのは難しいだろう。
渡辺と見崎に対する心配と、二人切りになってしまった不安にしゅんとしながら、松井はナビを眺めた。

143 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/23(水) 18:41:37.13 ID:uWEtVpTAO
松井「……このトンネル、真っ直ぐ行けばいいのかな」

和久井「うん、そうすれば榊原くん達に合流できると思う」

トンネル途中途中で枝分かれをしてはいたが、真っ直ぐ行けば榊原達や杉浦達のいる島の反対側に出れるようだった。

特に出口に近い榊原達六人は固まって動いているが、その動きは他の生徒達に比べて非常に遅かった。

松井「このまま行けば、この六人と会えるね」

和久井と松井はもう島の三分の一辺りの位置に差し掛かっており、少し進めば島の中心部に差し掛かる。
島の中心の開けた場所には、複数の生徒達のマークが二グループに固まって表示されていた。
赤沢達の一団だ。
渡辺の言った通りなら、彼女達は敵の猛攻を受け続けているに違いない。

松井「………杏子」

松井が悲痛な面持ちで、そこに表示された女子七番のマーク、金木杏子を見つめながら呟いた。

144 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/23(水) 18:43:46.30 ID:uWEtVpTAO
コツコツコツコツ………

その時、微かにトンネルの中に足音が響いた。

松井、和久井「!?」

二人は驚き、トンネルに広がる闇を見回した。
足音はまだ聞こえる。

松井「足音……だよね」

和久井「うん……」

その足音は松井と和久井が今まで走ってきた方向から鳴っていた。
しかも複数聞こえる上に、足音の主達は慌ただしく走っている。

松井「渡辺さんと見崎さん……?」

しかしナビのトンネルに二人の表示は無い。
和久井が顔を青ざめさせた。

和久井「ま、マズい!テロリストが追いかけてきたんだ!」

松井「うそ!?」

和久井「……に、逃げよう!」

松井「う、うん!!」

二人は血相を変えて立ち上がり、再びトンネルの中を駆け出した。
その後ろを、テロリスト達の足音が絶えず慌ただしく追いかけていく。




145 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/23(水) 18:47:13.83 ID:uWEtVpTAO
投下に時間をかけてすいません
以上です
146 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/23(水) 18:54:05.16 ID:LGRAWZXlo

楽しみにしてるのでマイペースで
147 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/01/23(水) 19:01:57.04 ID:WFUI5V3/o

気長に待ってるぜ
148 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/26(土) 03:49:50.53 ID:h2CeUJ/AO
投下します
149 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/26(土) 03:51:52.46 ID:h2CeUJ/AO



赤沢達のいる地帯は、小石と砂利だらけで荒涼としており、草木はあまり生えていない。

その変わりに周辺には廃墟やコンクリートの遮蔽物などが幾つも乱立しており、生徒達はそこに駆け込み、身を隠しては姿勢を低めて再び駆け出していくことを繰り返していた。


勅使河原「アイツらどこにいやがんだ!?全っ然見えねえ!」

遮蔽物に隠れながら、苛立たしげに勅使河原は叫んだ。
その隣に風見が滑り込む。

勅使河原「風見!敵がどこにいんのか見えるか!?」

風見「そんなの、おおまかにしか分かんないよ!」

勅使河原「くそっ……バカスカ撃ってきやがって!」

銃を握り締めながら勅使河原は歯を噛みしめる。

風見「苛立つ気持ちも分かるよ。でも今は前に進むことだけを考えるんだ!
水野くんと多々良さんが無事に来れるように!」

勅使河原「わかってるっつの……ちくしょう!」



150 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/26(土) 03:53:57.84 ID:h2CeUJ/AO



中尾「……赤沢さん、大丈夫か!?」

中尾は前を走っていた赤沢に駆け寄った。

赤沢「な……なにが」

中尾「なにって、なんかふらふらしてるし疲れてるんじゃ……」

事実、屈みながら走る赤沢の姿勢は左右によろけて安定せず、端から見て危なっかしい事この上なかった。
息も上がっており、表情も苦しげに歪められている。

しかし赤沢は強がるように中尾に叫び返した。

赤沢「大丈夫よ!いいから早く……きゃっ!」

その赤沢が、足元の石ころに足を取られて思い切り転倒した。

中尾「あ、赤沢さん!」

すかさず中尾が立ち止まって赤沢を助け起こす。

赤沢「いたた……」

中尾「怪我は?大丈夫か!?」

151 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/26(土) 03:55:40.77 ID:h2CeUJ/AO
赤沢「え、えぇ、ありがとう。それより早く行かないと!立ち止まってたら狙われるわよ!」

中尾「あ、ああ……ぐぁっ!!」

赤沢「中尾!?」

立ち上がる赤沢の真横で、中尾の肩から血液が噴出した。

撃たれたのだ。
突然のことに思わず膝をつく中尾。そこに王子が二人に走り寄って行く。

王子「中尾くん、大丈夫!?」

赤沢「な、中尾!!」

赤沢は中尾に肩を貸そうと手を伸ばした。
その時、頭上から何かが風を切るような甲高い音が聞こえてきた。

王子「ば、爆撃だ!赤沢さん!」

赤沢「えっ!?」

王子が血相を変えて赤沢の腕を掴み、驚いた赤沢が王子に振り向く。

中尾「危ねぇ!!」

飛来する迫撃砲に気付いた中尾が赤沢を思い切り突き飛ばした。

152 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/26(土) 03:56:56.06 ID:h2CeUJ/AO

赤沢「きゃあっ!」
王子「うわっ!」

突き飛ばされた赤沢に、王子も押され、二人はもつれ合いながら勢いよく転倒した。

直後に地面が爆発し、吹き飛ぶ小石や砂利と共に、中尾の身体が宙を舞った。

王子「中尾くん!!」
赤沢「な、中尾!!」

中尾「ぐっあああぁぁあぁあああ!!」

地面に墜落した中尾が絶叫して、のた打ち回る。
足が血で染まっており、焼けてボロボロになった迷彩柄のズボンからは煙が上がっていた。

赤沢と王子は中尾に駆け寄ると急いで助け起こした。

王子「中尾くん、大丈夫かい!?」

中尾「いってえぇぇえぇえぇぇぇ!!」

足を押さえて絶叫する中尾。

佐藤「な、中尾くん!どうしたの!?」

そこにペアの佐藤が駆け寄って来た。

153 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/26(土) 03:58:16.77 ID:h2CeUJ/AO
佐藤「中尾くん……あ、足が……」

赤沢「中尾……」

王子「とりあえずまたどこかに隠れないと!」

中尾「うぐぅ……うぅう」

赤沢「……あそこに大きな建物があるわ!」

赤沢が指差した先には、工場のような三階程ある大きな廃墟があった。

王子「よし、行こう!中尾くん立つよ!?」

佐藤「が、頑張って!」

中尾「あぁ……いってえぇええ……」

呻く中尾に赤沢と王子が肩を貸し、四人は大急ぎで廃墟に向かって行った。



154 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/26(土) 04:03:50.59 ID:h2CeUJ/AO



四人は爆撃や弾幕をくぐりぬけながら、何とか廃墟にたどり着いた。
廃墟の玄関部分は、三階まで吹き抜けになっており、両側の壁にはそれぞれの階と地下に入れるよう階段が延びていた。

王子「……じゃあ、下ろすよ?」

中尾「あ、あぁ」

赤沢と王子は慎重に中尾を床に下ろしていく。

中尾「っぐ、いってえぇ……」

足に走る激痛に中尾は汗だくになっていた。

赤沢「………ごめん、中尾」

足が焼けて血に染まり、怪我に苦しむ中尾を赤沢は何ともいえない表情で見つめた。
赤沢(私が、私がみんなを守らなきゃいけないのに……なにやってんのよ)

赤沢(私がちゃんとしなきゃいけないのに……守るどころか庇った中尾を怪我させるなんて、私が足を引っ張ってるようなものじゃない)

余りの不甲斐なさに唇を噛み締めた。

155 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/26(土) 04:07:01.54 ID:h2CeUJ/AO
王子「とにかく、足の治療しないと……どうやればいいか分からないけど」

佐藤「治療は……私が、するよ」

遠慮がちに佐藤が言った。

赤沢「できるの?」

佐藤「うん、なんとなくはね。それに救急セットの説明書にある程度のことは書いてあったし」

赤沢「でも……」

佐藤「大丈夫……それよりもここ、大きな建物だけど誰もいないよね?
テロリストとか、隠れてないかな」

王子「……見てくるよ、赤沢さんも来てくれる?」

赤沢「えぇ、わかったわ。……ごめん佐藤さん、じゃあお願いね」

佐藤「うん、まかせて」

赤沢と王子は見回りのため、銃を構えながら階段を上って行った。
そこに辻井と金木が遅れて飛び込んできた。

金木「はあっ、はあっ……さっきなんかあったみたいだけど、どうしたの?」

佐藤「中尾くんが……」

辻井「おい大丈夫か中尾!」

156 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/26(土) 04:10:44.77 ID:h2CeUJ/AO
中尾「あ、足元を爆撃された。マジでいてぇ……」

金木「酷い……足が焼けてるじゃない……」

辻井「……これじゃあ、まともに歩けそうにもないな」

中尾「そ、そんなに酷いのかよ?」

佐藤「……とにかく、早く応急処置しないと。中尾くん、足触るよ?」

佐藤はいそいそザックの中から救急セットを取り出した。

中尾「あ、ああ……」


157 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/26(土) 04:11:56.56 ID:h2CeUJ/AO



赤沢「……これじゃあ目的地のテロリスト達のアジトにはまだまだ辿り着けそうにないわね」

王子「うん……でも仕方ないよ。みんなこんなことしたことなんて無いんだから」

赤沢「そうは言っても、この様子だとアジトに辿り着いたって戦力不足になり兼ねないわよ」

王子「……難しいね」

階段を登りながら苦い表情で会話する二人。
そのインカムに勅使河原の声が飛び込んで来た。

勅使河原『……オイ、お前ら大丈夫か!?』

赤沢「て、勅使河原?」

風見『と僕だよ』

王子「風見くんもか……」

風見『さっきそっちの様子がおかしいように見えたんだけど、どうしたの?』

王子「中尾くんが爆弾で怪我をしたんだ」

勅使河原『マジかよ!』

風見『無事なのかい!?』

158 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/26(土) 04:13:13.45 ID:h2CeUJ/AO
赤沢「一応、無事よ。命に関わる怪我じゃないみたい」

風見『そうか……よかった』

勅使河原『んだよビックリさせんなよなぁ』

王子「……でも、命に関わる怪我じゃなくてもここではそれが命取りになりかねないよね」

風見『それもそうだね』

勅使河原『……安心は出来ないってか』

赤沢「で、そっちは?」

風見『こっちは何ともないよ。
僕達四人は君たちのいる廃墟の近くの小屋に隠れてる。みんな無事だ』

赤沢「そう……私達は中尾の処置をしてから先に進むことになると思う。
あるいは水野くんと多々良さんの時みたいに私達だけが先に行くことになるかも。風見くん達はどうする?」

風見『僕達だけで先に進んでも人数の差で目立つだろうし……赤沢さん達が動くのを待つよ。
で、いいよね?』

勅使河原『ああ』

インカムの向こうで、同じく桜木や綾野の頷く声が聞こえた。

159 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/26(土) 04:16:01.19 ID:h2CeUJ/AO
風見『そういうことだから』

赤沢「わかったわ」

王子「なら、風見くん達もこっちに……」

どごおぉん

その時、凄まじい爆音と共に建物が大きく揺れた。

王子「!?」

赤沢「な、なに!?」

とっさに二人は階段の手すりにしがみつく。
爆発音は更に連続し、それにあわせて建物も揺れた。

王子「ば、爆撃!?」

しかし爆炎などはどこにも見当たらない。

赤沢「なんの音なの……!?」

風見と勅使河原がインカム越しになにか叫んでいるが、度重なる爆音に掻き消されてよく聞こえない。


佐藤「きゃあっ!」
中尾「なんだよ!?」
辻井「地震か!?」
金木「じ、地震?」

一階にいる生徒達も騒然とする中、突如として部屋の両脇にある、地下に続く階段の入口から巨大な火柱が吹き上がった。

160 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/26(土) 04:18:41.14 ID:h2CeUJ/AO

「きゃああぁあっ!!」
「何だよこれ!?」

悲鳴をあげる生徒達。
その直後、バリバリと裂けるような大きな音がして一階の床に大きな亀裂が走る。

佐藤「ウソ……」

中尾「な、なんだ……これ……!?」

びしびしびし

不吉な音と共に、コンクリートの床に亀裂が幾つも現れる。

金木「や、やば……」

辻井「に、逃げろぉ!」

しかし直後、生徒達を逃がすまいとするかのように、轟音と共に床が崩落を始めた。

四人は悲鳴すら轟音に掻き消されて、床の崩落に呑み込まれた。
同時に砂嵐のような猛烈な粉塵が舞い上がり、一階部分は完全に隠れてしまった。

赤沢「きゃああああああああ!!」

王子「うわああああ!!」

161 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/26(土) 04:20:58.65 ID:h2CeUJ/AO

崩落に合わせて、建物はまるで生き物のように大きく揺れた。階段に残った赤沢と王子は振り落とされまいと手すりに必死にしがみつく。
壁がギジギシと軋んでいる。

がこんっ

がくんと階段が下がった。
既に階段部分も崩落しかけていた。

王子「っ!!」

赤沢「きゃっ!?」

咄嗟に赤沢を抱きかかえ、王子は二階の部屋に飛び込んだ。
それに合わせて、階段や玄関部位の壁、天井が崩壊し、轟音をたてて崩れ落ちた。

しばらくすると轟音と粉塵は収まり、難を逃れた二人は息を荒げながら、青空を覗かせる二階の入口を凝視した。

赤沢「はぁっ、はぁっ、はぁっ」

王子「はっ、はぁ……赤沢さん大丈夫かい?」

赤沢「えぇ……それよりみんなは!?」


二人は急いで上体を起こし、二階から顔を出して見下ろした。

162 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/26(土) 04:23:42.62 ID:h2CeUJ/AO
玄関口は跡形もなく倒壊しており、瓦礫の上に大きくかぶさった屋根が地面に広がったいた。
もちろん、人影などどこにも見当たらない。

赤沢「そ、そんな……みんな……」

王子「………………」

インカムから勅使河原と風見の声が聞こえてきた。

風見『二人とも無事!?』

勅使河原『赤沢!王子!?お前ら大丈夫か!?』

赤沢「……………」

王子「……………」

勅使河原『オイ!赤沢!?王子!?答えてくれよ!!』

赤沢「……聞こえてるわ」

王子「……うん」

勅使河原『よ、よかった……つか聞こえてんなら返事くらいしろよ!』

風見『それで、何が起きたんだい!?君達のいる建物、突然崩れだしてびっくりしたんだけど……』

赤沢「……私達にもわからない。突然爆音が聞こえて、そしたら地震が起きて建物が崩れだしたの」

163 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/26(土) 04:26:36.31 ID:h2CeUJ/AO
王子「僕と赤沢さんは無事だけど………だけど一階にいた他の四人が、崩落に巻き込まれたよ」

勅使河原『マジか!?』

風見『中尾くんや辻井くん、だよね?』

王子「……うん」

赤沢「……正直、見た感じだと誰も生きてないと思うわ」

勅使河原『マ、マジかよ……四人も……?』

風見『………と、取り敢えず僕達も急いでそっちに向かうよ。待ってて!』

赤沢「えぇ」

そこで通信は途切れた。
二人は改めて、倒壊した玄関部分を見下ろした。

赤沢「こんなの、こんなのって………」

瓦礫の山を見やりながら、赤沢は呆然と呟いた。




164 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/26(土) 04:27:04.94 ID:h2CeUJ/AO
以上です
165 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/26(土) 04:45:08.82 ID:xZQoMQfzo
166 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/26(土) 06:21:58.52 ID:lbKO8QhZo

中尾…
167 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/26(土) 14:36:18.37 ID:h2CeUJ/AO
投下します
168 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/26(土) 14:40:39.26 ID:h2CeUJ/AO



榊原達と合流できるよう、とにかく島の反対側を目指し走り続ける松井と和久井。
しかしテロリストから逃げる二人の体力にも限界が来ていた。

松井「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ」

和久井「ぜぇっ、ぜひゅっ、ぜひゅっ、ぜひっ」

松井(わ、和久井くん、呼吸が変だけど……だ、大丈夫かな)

苦しそうに走る和久井を横目で見ながら松井はそう思った。
しかし松井自身の呼吸も既に乱れきっており、その足取りも随分重くなっている。

松井(そ、その前に、私が、ダメかも……)

だが背後からは足音が絶えず追い掛けていた。
上陸時点で容赦なく砲撃をしてきた彼等に捕まったら、どうなるかなんて分かったものではない。

松井(こっ怖い……!)

だから必死で走るも、出口の光は一向に見えてこない。

169 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/26(土) 14:42:30.85 ID:h2CeUJ/AO
和久井「ぜひゅっ……げほっげほぉっ!!」

そして遂に、和久井が激しく咳き込みながら倒れ込んだ。

松井「わ、和久井くん……!」

和久井「げほぉ!ごほっ、ごぇえっえ゛ォっ……」

松井「大、丈夫!?和久井くん!しっかりして!」

自身も息切れを起こしながら和久井に呼び掛ける。

和久井「ぐふぅっ、こひゅっ、げほっげほっ」

松井(ぜ、喘息の発作なのかな?)

松井(……確か薬はバックの中に入ってるって言ってたよね)

松井「和久井くん、ちょっとごめんね」

断って松井は急いで和久井のザックを開き、中を漁って吸入器を取り出した。

松井「ほ、ほら和久井くん!吸入器!」

吸入器を和久井の顔辺りに差し出す。

すると和久井は震えた手をゆっくり伸ばして、吸入器を掴んだ。

170 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/26(土) 14:44:00.88 ID:h2CeUJ/AO
和久井「……こひゅっ、こひゅー、こひゅー、こひゅー」

吸入器で必死に呼吸する和久井。

松井「……落ち着いた?和久井くん」

和久井は吸入器を口に当てながら頷いた。
どうやら喘息はどうにかなったようだ。


松井(で、でもどうしよう……!)

背後の足音はどんどん大きくなっていく。

松井(和久井くんはすぐに走れそうにも無いし……でもこのままじゃ……)

走ったところで追いつかれてしまうのが落ちだろう。
松井は必死に考えた。

松井(……そうだ、どこかに隠れられる場所は!?)

ドラム缶、木材、鉄棒……
周りには放置された資材や廃材などがあるだけで、身を隠してやり過ごせるような場所はどこにもない。

その間にも足音はどんどん大きくなっていた。

171 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/26(土) 14:45:09.57 ID:h2CeUJ/AO
松井(……こ、こうなったら)

松井は自分のザックを下ろして、中から『アタリ』のグレネード弾を取り出した。
一応、上陸時に説明書には目を通してため使い方は分かっていた。

急いで銃にアタッチメントを取り付け、グレネード弾を装填する。

和久井「はぁー、はぁー……ま、松井さん?」

松井「……和久井くん、や、やるしかないよ」

足音のする闇の中に複数の光が揺れていた。恐らく敵の照らす懐中電灯か何かだろう。
松井はそれを睨みつけ、生唾を飲み込みながら立ち上がった。

松井「き、来た!」

和久井「……うわ、わぁ!」

松井「あ、ちょっと待って和久井くん!」

逃げる和久井を、松井は追った。
その二人の背中に、すぐそこまで来ていたテロリスト達の声が飛んできた。

172 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/26(土) 14:46:17.44 ID:h2CeUJ/AO
「止まれテメエら!」「撃つぞオイ!」

複数の野太い男達の声。
しかしなお走る二人。

ばららららららら

ついに背後から発砲音が聞こえてきた。

和久井「わあああ!!」
松井「きゃああっ!」

二人はとっさに近くに積まれた鉄板の影に飛び込んだ。

「隠れたって無駄だ!」

ばらららららららら

更に飛んでくる弾丸が鉄板に当たって、甲高い音と共に無数の火花が散る。

和久井「……………」

松井「……………」

二人ともあまりの恐怖に声すら出なかった。

松井(で、でもどうにかしなきゃ、どうにかしなきゃ!)

松井(このままだと……殺される……)

銃のグリップを握り締める。

松井(こんなとこで、死にたくないよ!!)

173 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/26(土) 14:49:43.68 ID:h2CeUJ/AO
松井は引き金に指を掛け、決死の覚悟で鉄板から飛び出した。

松井「わあああああああああああああああああああ!!!」

絶叫し、引き金を絞る。
ぼしゅっという音と共に凄まじい反動が松井の両腕を襲い、松井は背中から勢いよく地面に倒れた。

「うぉあっ!?」

しかしグレネードはテロリスト達を通り過ぎ、その背後の廃材に着弾。
凄まじい爆音と共にトンネル内に光が溢れた。

どおぉん

直後、グレネードによるものとは別の爆発が起きて、巨大な炎がテロリスト達を呑み込んだ。
放置された資材の中にあった、燃料の入ったドラム缶やボンベに引火したのだ。

松井「きゃあああ!?」

松井は倒れたまま頭を抱えた。
巨大な爆発は経年劣化により脆くなったトンネルの壁を破壊し、更に爆発を大きくした。


174 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/26(土) 14:51:22.01 ID:h2CeUJ/AO
松井(なに!?なんなの!?あれってこんなにスゴい威力があったの!?)

止まない爆音に松井は地面に伏せながらも大きく混乱していると、凄まじい爆風が松井と和久井を吹き上げた。

また何かに引火して誘爆したようだ。

やがて地面が大きく揺れ、轟音と共に天井が崩落してきた。

地面に叩きつけられた松井と和久井はなすすべもなく、ただひたすら地面に伏せることしか出来なかった。

松井(もう駄目……私死ぬんだ……)

未だに鳴り止まない轟音と爆音を聞きながら、松井はそう思った。




175 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/26(土) 14:52:49.38 ID:h2CeUJ/AO
以上です
176 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/26(土) 15:04:12.21 ID:lbKO8QhZo
連投乙
松井グレネードェ
177 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/26(土) 19:27:24.18 ID:LjBleSPk0
これが建物が崩れた原因か?
無事ならいいな…
178 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/29(火) 14:37:09.08 ID:Yq77w9vAO
一応三組のいる舞台の島の地図を貼っておきます。
お粗末な手書きですがご了承下さい。

http://i.imgur.com/C62CjxV.jpg

E-5にある建物がテロリストのアジトです。
それ以外の建物の配置は適当です。

赤沢達がたどり着いた砂浜はI-6。
恒一達はH-2、見崎達はH-9辺りのエリアにそれぞれ上陸しました。

松井と和久井が入った坑道の入り口はG-8にあります。
179 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/29(火) 18:05:49.73 ID:/Oe0MLS0o
地図ありがたい
180 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/30(水) 01:48:23.19 ID:7rv06meRo
本格的だな 完結は春頃?
181 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/02(土) 16:41:38.67 ID:dKTx3pSM0
おつん

地図助かる
182 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/02(土) 16:42:03.76 ID:dKTx3pSM0
おつん

地図助かる
183 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/02(土) 16:42:43.75 ID:dKTx3pSM0
おつん

地図助かる
184 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/02(土) 16:43:40.39 ID:dKTx3pSM0
おつん

地図助かる
185 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/02(土) 23:57:46.44 ID:neJyO26do
カン!
186 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/05(火) 22:20:58.43 ID:H3Gt1loDo
続きお待ちしてます
187 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/16(土) 21:26:36.20 ID:DgPpY+zGo
続きはよ!
188 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/19(火) 16:40:48.48 ID:oupxB0PAO
お久しぶりです
だいぶ間を空けてすいませんでした

では投下します
189 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/19(火) 16:42:26.19 ID:oupxB0PAO
トンネル内はすっかり静まり返り、元の深い闇に満たされていた。
その闇と静寂の中、松井と和久井の乾いた咳が何度も響き渡る。

松井「………けほっ、けほっ」

和久井「………けほっ」

松井「けほっ……うぅっ」

闇の中で松井は上体を起こした。
手に握られた懐中電灯の光が、隣にいる和久井を映し出している。

松井「けほっ……うそ、私まだ生きてる……」

和久井「う、うん……みたいだね……げほっ」

先程の爆発により巻き上がった粉塵が喉に絡みつき、二人は咳き込み続けた。

松井「煙たい……げほっ、げほっ、ど、どうなったの?」

和久井「分からないけど、けほっけほっ、松井さんが撃ってから爆発が……げほっ」

190 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/19(火) 16:43:12.09 ID:oupxB0PAO

松井「けほっ……そうだ、あの人達は?」

テロリスト達はどうしたのだろう、と松井は立ち上がって爆発のあった場所を照らし出した。

松井「うわ………ひどい」

和久井「これは、すごいね……けほっ」

そこには煤けた瓦礫や廃材の山があった。
どこまでも続いていたはずのトンネルは見る影もなく、天井や壁の瓦礫で坑道は完全に塞がれている。
瓦礫や廃材が山積みになっており、壁には焼け焦げた跡がある。
凄惨な光景に、二人は開いた口が塞がらない。

松井「げほっ……私がやったんだよね?これ……」

和久井「う、うん。
……見る限りだとやっつけたみたいだね。その……テロリスト達を」

松井「………死んじゃったのかな、あの人達」

和久井「多分……けほっ」

191 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/19(火) 16:45:02.41 ID:oupxB0PAO

しばしの間があって、松井は恐る恐る呟いた。

松井「……こ、殺したんだよね、私が」

和久井「し、仕方ないよ!
けほっ、けほっ……松井さんが反撃してなかったら、僕達がやられてたんだから」

松井「…………うん」

テロリストの遺体が埋まっているだろう瓦礫を前に、二人は神妙な面もちで沈黙した。

松井は自分の手を見下ろした。

引き金を引いた。指先の動作だけでこれだけのことを引き起こしたのだ。

松井(実感湧かないけど、でも)

人を殺したという事実が冷たく自分の心にまとわりついている。

松井「…………」

自分はもう元の生活に戻れない、そんな気がしてならなかった。

和久井「ごほっ………ありがとう、松井さん」

松井「え……なんで?」

192 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/19(火) 16:45:47.87 ID:oupxB0PAO
和久井「だって咄嗟に喘息の薬を渡してくれたし、けほっ、僕は逃げ腰だったのに、一人でテロリストに反撃したし……ごほっ」

松井「………」

和久井「助けられてばかりだから、けほっ……だからありがとう」

言い方はぎこちないが、和久井なりに気を使ってくれたゆえの言葉なのだろう。

松井「………うん」

松井は表情を緩めて微笑み、頷いた。


「…………うぅっ」

その時、どこからともなく、か細い呻き声が聞こえてきた。

和久井「!?」
松井「!?」

警戒し、咄嗟に小銃を抱き締める二人。

松井「今、声が」


和久井「うん……聞こえたよね」

しかし周りには、自分達以外の人影は一切見当たらない。

松井「だ、誰なの……?」

恐る恐ると問い掛けると、瓦礫から返答があった。

「その声………亜紀?」


193 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/19(火) 16:46:29.18 ID:oupxB0PAO

松井「え……杏子!?」

和久井「か、金木さん!?けほっ」

声の主は、別行動をしていたはずの金木杏子だった。

金木「亜紀、亜紀なの?それに和久井くんも……二人ともどこにいるの?……って言うかここどこ?」

松井「杏子こそどこにいるの?声がするけど見えないよっ!?」

不安げに松井は声を荒げた。

金木「なに?どうなってんの!?狭いし、暗くて何も見えない!!」

くぐもって聞こえる金木の声。

和久井「ま、まさか……この瓦礫の下に……?」

松井「う、うそ」

金木「瓦礫って……そう言えば私……」

金木が何か言おうとすると、同じくくぐもった別の声が瓦礫から聞こえてきた。

「う………何が起きたんだ?」

和久井「つ、辻井くん!」

今度は金木のペアの辻井雪人だ。

辻井「……和久井か?なんでお前がいるんだ?っていうかどうなってんだよこれ、動けないぞ!!」

194 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/19(火) 16:47:31.81 ID:oupxB0PAO
金木「つ、辻井くん!」

辻井「金木さん!?」

金木「ほら、私達が避難してたら突然足元が崩れたじゃない!」

和久井「足元が……?」

松井「!!」

和久井と松井はすぐさま感づき、お互いに顔を見合わせた。

辻井「ってことは僕達、生き埋めに……?」

金木「イヤだよ……イヤだよこんなとこでそんな死に方!」

辻井「ぼ、僕だって嫌だよ!で、でも身体が動かないんだ!」

松井「だ、大丈夫!私達が絶対に助けるから!」

そうは言ったものの、この瓦礫の山を非力な和久井と松井が掘り起こすことはまず無理だ。

しかしこのままここにいれば、金木と辻井の衰弱死や餓死はおろか、三神の言っていた禁止エリアを敷かれて、四人とも首輪が爆発しかねない。

和久井「助けるにしても、急がないと!」

松井「うん……」

195 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/19(火) 16:52:56.07 ID:oupxB0PAO
和久井「と、とりあえず二人とも怪我は無い?」

金木「私は、大丈夫」

辻井「僕も……でも狭くて動けないよ。天井がすごく低くて」

二人の声を聞きながら、和久井は明かりで瓦礫の山を隈無く照らして回った。

和久井「………あっ!」

そして和久井は天井辺りを見上げ、声をあげた。

松井「ど、どうしたの?」

和久井「あそこ、穴が空いてる!」

和久井の明かりで照らしている箇所を見ると、瓦礫と天井の間に隙間が空いていた。

松井「本当だ……」

金木「え、なに?穴?」

和久井「ちょっと待って二人とも……よいしょっ」

和久井は瓦礫の山に足をかけた。

松井「気を付けてね、和久井くん」

天井になるべく近いところまで登ると、手を伸ばして懐中電灯の明かりを穴に近付けた。
すると穴の奥で、明かりに照らされて眩しそうに歪められた辻井の横倒しになった顔が浮かび上がった。

196 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/19(火) 16:54:55.81 ID:oupxB0PAO
辻井「……うわっ、眩し」
金木「な、なに?」

その奥から金木の声が聞こえる。

和久井「やっぱりここだ!」

松井「本当!?」

金木「ウソっ!出れるの!?」

辻井「和久井か!?眩しくて分かんないけど……」

和久井「ご、ごめん」

懐中電灯の光を穴から逸らすと、再び闇に包まれた穴の奥から辻井の安堵のため息が聞こえた。

和久井「辻井くん、出てこれそう?」

辻井「ちょっと待って……金木さん、こっちだ」

金木「う、うん」

ずり、ずり

布が擦れる音が穴の中から聞こえ、間もなくして隙間から迷彩服を着た腕が突き出された。

松井「で、出た!」

和久井「どう?辻井くん」

しかし突き出された辻井の腕はもがくだけで、しばらくすると穴の中に戻った。

辻井「……駄目だ狭くて出られない」

松井「そ、そんな……」

197 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/19(火) 16:55:57.01 ID:oupxB0PAO
金木「なんとかならない!?」

辻井「そうだね……和久井、松井さん、そっちから瓦礫を少しどかせないかな?
少しでも穴が広がれば、そっちに出れそうなんだけど……」

和久井「わ、わかった、やってみるよ」

松井「うん!」

二人は頷き、瓦礫を少しずつどかし始めた。



――――――――――――



数十分程して、金木と辻井は無事、瓦礫から出ることが出来た。

辻井「……眼鏡割れちゃったな」

ひびの入った眼鏡のフレームをいじりながら、辻井が呟く。

金木「生きてるだけマシでしょ。ありがとう、二人とも」

松井「えへへ」

和久井「僕達も、二人が無事に出られてよかったよ」

辻井「ああ……それにしても、このトンネルはなんなんだ?」

割れた眼鏡をかけ直しながら、辻井が辺りを見回した。

198 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/19(火) 16:57:41.58 ID:oupxB0PAO
和久井「坑道、だって。この島に張り巡らされてるって、見崎さんが」

辻井「見崎……」

金木「そういえば、あの子と渡辺さんはどうしたの?」

辻井「それに、和久井達はなんでここに?」

松井「…………」

沈痛な面もちで俯く松井。
その心情を察した和久井は、慌てて質問を返した。

和久井「あ、あの金木さん達こそどうしたの?赤沢さん達と一緒だったんじゃないの?」

辻井「一緒だったよ。中尾と佐藤さんとも、ね」

金木「うん……中尾くんが赤沢さんを庇って爆撃を受けて負傷して……それで私達は中尾くんの怪我を治療するために、そこら辺にあった廃墟に隠れたの」

和久井「重傷、だったの?」

辻井「いや、命に関わるような怪我じゃなかったよ。ただ足に酷い火傷を負ってた。それでその廃墟で一段落していたら……」

金木「……突然地震が起きて、足元が崩れだしたの。それに巻き込まれて、ね」

辻井「僕達は奇跡的にこうしているけど、中尾と佐藤さんも、一緒に……」


199 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/19(火) 17:00:43.32 ID:oupxB0PAO
金木「……そうだ!ナビで確認すれば」

辻井「……生憎、僕のナビはやられちゃってる」

返事をしながら辻井が取り出したナビ。その画面は、粉々に砕けていた。

金木「ウソ!……うわ、私もだ」

和久井も「そういえば……」と呟き、ズボンのポケットに入れていたナビを取り出した。

和久井「……僕のも駄目みたいだ。画面が割れてる」

金木のナビは本体が潰れ、和久井のナビは画面に大きなひびが入っている。
二つとももう使い物にならないのは目に見えていた。

金木「亜紀のは?」

松井「私のは一応点く、けど………」

辻井「けど?」

松井「……やっぱりちょっと壊れてるみたい。ボタンを押しても、反応が……」

松井のナビは画面は点くが故障を起こしているらしく、画面が点滅するだけだった。

辻井「仲間の安否どころか現在地すら分からず仕舞か……」

松井「……………」

金木「佐藤さんと中尾くん、二人とも無事ならいいんだけど……」

松井「わ、私の……」

辻井「え?」

200 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/19(火) 17:02:43.09 ID:oupxB0PAO
金木「……亜紀、なに?」

松井「私の……せい……」

辻井「ま、松井さん?」

和久井「…………」

松井「私の、せいなの……!」


金木「……え?」

辻井「ど、どういうこと?」

松井「私の、せいで……」

消え入りそうな声の松井。その言葉の先を引き継ぐかのように和久井が話し始めた。

和久井「……僕達、さっきまでテロリスト達に追い掛けられてたんだ」

和久井「金木さんと松井さんが通信したよりも後のことだよ」

和久井「上陸してから、テロリスト達に襲われて……一緒にいた渡辺さんと見崎さんとはその時にはぐれちゃって。
僕と松井さんはこの坑道に逃げ込んだんだけど、テロリスト達は僕達を追い掛けて来たんだ」

金木「そんなことが……」

辻井「それであの二人はいないのか」

和久井「うん……それで僕が逃げてる途中、喘息を発症して走れなくなった時に、松井さんが爆弾でテロリスト達に反撃したんだ。
そしたら……多分トンネルにあったドラム缶とかに引火して、すごい爆発が起きたんだよ。
それで天井が崩れてきたんだ」

201 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/19(火) 17:05:41.49 ID:oupxB0PAO
辻井(あの火柱はそれでか……)

金木「なるほど、ね」

辻井「……そのテロリスト達は、あの瓦礫の下に?」

和久井「多分……」

金木「………」

松井「ごめん、杏子……私のせいで……ナビも壊れちゃったし……」

金木「……なんで?」

松井「え……?」

金木「なんで謝るの?
……いいんだよ亜紀、亜紀も大変だったんでしょ?仕方ないよ」

金木「むしろテロリスト相手に反撃するなんて、やるじゃん。
いつものちょっと呆けてる亜紀とは大違いだね」

松井「……………」

金木「……よく頑張ったね」

松井「っ!杏子ぉ!!」

松井は涙を滲ませながら、金木に抱き付いた。その頭を金木が「よしよし」と撫で回した。


辻井「………時刻は11時過ぎ、か……で、どうする?」

抱擁を交わす女子二人とは別に、辻井が冷静に腕時計を確認しながら和久井に聞いた。

202 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/19(火) 17:07:53.69 ID:oupxB0PAO
和久井「元々僕達は、この坑道を抜けて島の反対側に出るつもりだったんだ。
……向こうには榊原くん達がいるから、合流できるだろうって」

和久井「現在地もわからないし……僕達はこのトンネルを進んでいくしかないよね」

トンネルの一方が完全に塞がれた今、残された道は一つしか無い。

辻井「……いつまでもここにいるわけにはいかない、急がないとみんなから遅れを取る」

和久井「そ、そうだね。
じゃあ、行こうよ二人とも」

金木「わかってる。……亜紀、もう大丈夫?」

松井「うん……ありがとう杏子」

そう言いつつも未だに抱き合っている金木と松井。

和久井「………」

辻井(日頃から仲がいいのは知ってたけど、ここまでとは……ホンモノか?)

そう思わずにはいられず、辻井は漏れそうになるため息を呑み込む。

辻井(あるいはゲームの恐怖で拍車が掛かっているのか……まぁいいか)

辻井「……とにかく急ごう。三神先生の言ってた通りなら……あと一時間もしない内に放送が流れる。
できれば、それまでにトンネルから出よう」


203 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/19(火) 17:08:23.14 ID:oupxB0PAO
以上です
204 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/19(火) 17:26:42.65 ID:7QtqVnXBo

そして続き期待
205 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/19(火) 23:52:59.12 ID:b0agOS0zo
乙乙!
続きまってるぜ!
206 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/20(水) 06:04:01.31 ID:O27hBCnAO
定時放送を投下します
207 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/20(水) 06:05:52.29 ID:O27hBCnAO


三神『三組の皆さん、お昼になったので、これから定時放送を流します。食事をしながらでもいいので聞いて下さい』

三神『まず、ゲーム開始から十二時現在までの戦死者を読み上げます。戦死者は
男子3番、川堀健造くん
女子3番、有田松子さん、
男子13番、米村茂樹くん
女子13番、藤巻奈緒美さん
の四人です』

三神『続いて、追加される禁止エリアについてです。
追加される禁止エリアは、下段のJ全域、I全域、H-1、2、9、10
となります。
禁止エリアはナビの地図に自動的に追加、表示されるので確認して下さい。
今回は初回ということで、皆さんがもう用の無いエリアを禁止エリアに指定しましたが、これからは色んなエリアを指定していくので気を付けて下さいね』

三神『……皆さん、クラスメイトが亡くなってとても悲しいと思います。その悲しみを糧として、四人の分も元気よく戦いましょう。
次の放送は午後6時になります。ではそれまでお元気で、また会いましょう』


208 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/20(水) 06:06:20.79 ID:O27hBCnAO
以上です
209 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/20(水) 07:05:13.50 ID:lQJ+mxQAO
次は午後6時か
待ってるぞww
210 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/02/20(水) 20:24:57.32 ID:bE764xIIO
まだかな
211 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/20(水) 22:17:36.91 ID:1uQ8paPxo
おつん
212 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/26(火) 20:13:07.78 ID:CKj7e4EZ0
縺翫b繧阪>繧繧
213 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/04(月) 10:28:50.95 ID:ueMW4NKAO
すいません、また間を空けてしまいました
投下します
214 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/04(月) 10:31:44.94 ID:ueMW4NKAO


榊原「…………」

猿田「…………」

森の中で休みながら放送を聞いた榊原一行は、いたたまれない沈黙に包まれていた。

小椋「……うそ……松子が……」

江藤「奈緒美……」

小椋は有田と、江藤は藤巻とそれぞれ仲がよかった。
その親しい友達の死を伝えられ、実感が湧かないような、呆然とした様子で呟く二人。

榊原(小椋さん、江藤さん……)

つい数時間前まで元気だった親しい友人の死。
榊原は、せめて有田と何回か話したことがあるぐらいの交流しか無かった。

榊原(藤巻さんに、川堀くんや米村くんとも話したことなかったけど……でも本当にクラスメイトが死んだなんて)

しかしそれでも、つい数時間前まで生きていたクラスメイトの死は、否応なく心に重くのしかかり、そして自分達が『戦争』の中にいることを身を持って知らされた。

榊原(……怜子さん、どうして?)

彼女に声が届くなら、ただそれだけを問いただしたかった。

215 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/04(月) 10:32:23.23 ID:ueMW4NKAO

猿田「船の時のアレは、あの二人のだったんか……」

榊原「アレって?」

猿田「ほら、王子達の乗ってるボートに色々あったのが見えただろ。爆撃とか首輪の爆発とか……」

榊原「そういえば………あれで、か」

猿田「っていうか三神先生……放送であんなこと言ってたけど、こんな時になにかを食べる気なんてせんぞな……」

榊原「うん……」

江藤「…………」

小椋「…………」

猿田「…………」

榊原「…………」

高林「…………ぼ、僕達のいる場所はまだ大丈夫みたい、だね。禁止エリアになってないし」

恐る恐ると言った様子で沈黙を破ったのは、相変わらず顔色は悪いままの高林だった。
榊原達六人がいるのは禁止エリアとなったH-2から、G-3に入ったすぐの場所だ。

216 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/04(月) 10:35:54.11 ID:ueMW4NKAO
榊原「う、うん。そうみたいだね……それより高林くん、体調は大丈夫?」

高林「う、うん、なんとか、ね……」

そう言いつつも、表情は体調があまりよろしくないことを示すようにしかめられている。
上陸してから休み休み進んでいるものの、高林の体調は悪くなる一方だった。
そのおかげで榊原達六人は、他の生徒達に比べて進行がかなり遅くなっている。

榊原「まだ次の放送まで時間があるし、ゆっくり進もう」

高林「………うん」

柿沼「………………」

江藤「って言っても……どうするの?」

榊原・猿田「え?」

突然会話に混じってきた江藤に、榊原と猿田は驚いたような遠慮したような表情を向けた。
しかし江藤は構わず話し続ける。

江藤「ナビを見る限り今のところみんな足取りがバラバラだけど……このままアジトに突入なんて危険、じゃない?」

高林「……どこかで足を揃えなきゃってことだよね」

榊原「た、確かにそうだけど」

猿田「じゃあ高林や柿沼はどうするつもりなんかの?置いていくことなんてできんし……」

柿沼「…………」

榊原「ここは他のみんなに通信で聞くしかないね。
ここまで足取りがバラバラだと、みんな同じことを考えると思うから」

217 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/04(月) 10:36:20.93 ID:ueMW4NKAO
と、丁度その時。

『おい、聞こえるか!?』

榊原のインカムに通信が入った。

榊原「え、へっ!?だ、誰?」

『辻井、辻井雪人だよ。榊原くんだよな?』

榊原「う、うん」

辻井『よかった……やっと繋がった』

猿田「……誰ぞな?」

榊原「辻井くん、だってさ」

猿田に小声で答えると、続いて辻井から声が掛かった。

辻井『悪いんだけど、こっちは色々あってナビが壊れたんだ。そっちのナビで僕達がどこにいるか分かるか?』

榊原「う、うん。ちょっと待って」

言われて榊原はナビを開いた。
見ると辻井達も、榊原達と同じG-3のエリア内にいる。

榊原「僕達がいる場所と近いけど……なんでこんなところに?
勅使河原達と一緒じゃなかったの?それに和久井くんに松井さんまで……」

辻井『詳しいことは会ってから話すからさ。だからとにかく合流してくれないか?現在地も分からないから身動きが取れないんだ』

榊原「わ、わかった。すぐ行くよ」

辻井『頼むよ』

そう言って、辻井からの通信は途切れた。
218 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/04(月) 10:37:50.19 ID:ueMW4NKAO

江藤「……辻井くん、なんて?」

榊原「近くにいるから、とにかく合流してほしいって……色々あったらしいけど詳しくは後で話すってさ」

江藤「そう……もう、行く?」

榊原「行った方が良さそうだよね、辻井くんは僕達と合流したがってたし。
距離も離れてないし……僕達も別に合流して困るようなことは無いでしょ?」

猿田「ああ」

高林「うん」

江藤「そう、ね」

榊原「じゃあ、行こう。」

榊原に言われ、各々は荷物を持ち直して立ち上がった。
榊原を戦闘に茂みの中を歩き出していく。

小椋「…………」

その中、浮かない顔をしてうなだれている小椋。
ふと江藤が、小椋に近付いた。

江藤「小椋さん……大丈夫?」

小椋「……う、うん、大丈夫。江藤さん、は?」

江藤「私は……よくわかんない」

小椋「そっか……」

江藤「いや、でも」

小椋「?」

江藤「………ううん、なんでもない。今は辻井くん達が待ってるし、行こう?」

小椋「……うん」



219 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/04(月) 10:41:15.49 ID:ueMW4NKAO
以上です

>>209
誤解させてすいません
放送の午後六時は、このSSの中での午後六時であって現実の時間ではないんです
220 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/05(火) 13:44:30.81 ID:1NFJWCMAO
投下します
221 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/05(火) 13:46:22.40 ID:1NFJWCMAO

H-6に建ち並ぶ廃墟の一つに、多々良と水野は身を隠して放送を聞いていた。

多々良「……よかった、まだあれから誰も死んでないんだね」

水野「あ、ああ」

赤沢達は敵をちゃんと引きつけたらしい。
二人のいる場所では、遠くから銃声が時折聞こえるぐらいだ。
しかし銃声が聞こえるということは、赤沢達はまだ危険に晒されたままなのだろう。

多々良「……ここも禁止エリアに指定されて無いし、まだ大丈夫だよ水野くん」

傷を負った水野が少しでも安静にしていられるよう、多々良が代わりにナビを見て、現状を報告していた。

水野「ああ……み、みんなは?」

多々良「赤沢さん達がばらばらに散っちゃってる。なにかあったのかな……」

多々良(……それに松井さんと和久井くん、なんでこんなとこにいるんだろ。渡辺さんと見崎さんと一緒じゃなかったのかな)

222 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/05(火) 13:47:43.82 ID:1NFJWCMAO
水野「…………」

多々良「そろそろ、また進む?」

水野「そ、うだな。多々良さん、足は、大丈夫なの、か?」

多々良「もう全然大丈夫。……それより水野くんは自分の心配した方がいいよ」

水野「あは、は……心配、したところで、さして変わりゃ、しねえって」

多々良(そんなこと、言わないでよ……)

多々良は悲しげに眉を潜めて視線を落とした。

多々良「………………」

それに気付いたのか、水野は短い溜め息を吐いて、笑ってみせた。

水野「でも……多々良さんを、死なすつもりは、ねえから、俺、頑張るよ」

多々良「水野くん………」

水野「……そろそろ、行こうぜ。あんまり、あいつらと離れすぎても、マズいだろ」

多々良「う、うん……じゃあ肩、貸して?」

水野「ああ」

223 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/05(火) 13:49:55.65 ID:1NFJWCMAO
多々良は水野に近寄ると、肩に腕を回して、ゆっくりと持ち上げた。
勿論、華奢な多々良一人で水野を支えられるわけもなく、必然的に水野も自力で立ち上がろうと足に力を込める。

水野「……く……ぐぅっ……」

傷に障り、苦しそうに顔を歪める水野。

多々良「……無理しないでね」

目を背けたい気持ちを押さえつけ、多々良は言った。

224 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/05(火) 13:51:10.28 ID:1NFJWCMAO

外に出て行き、水野が大きなダメージを受けない程度の距離にある廃墟を目指して、荒野をゆっくりと進んでいく。
六時間後の次の放送までには、最低限このエリアから出なければならない。

多々良(赤沢さん達が頑張っている内は、私達も早く行かないと)

遠くの丘の頂上に見える『テロリスト達のアジト』のシルエットを睨みながら、多々良は思った。

そんな時、不意に水野が呟いた。

水野「多々良って……可愛いよな」

多々良「……え?」

一瞬反応が遅れた。

多々良「こ、こんな時に何言ってるの?」

水野「いや、普通に、可愛いからさ。彼氏とかいんの?」

青ざめた顔で聞いてくる水野。
もしかしたら水野なりに気を紛らわそうとしているのかもしれない。
そう考え、多々良は間を空けてから答えた。

225 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/05(火) 13:52:28.71 ID:1NFJWCMAO
多々良「……いない、でも水野くんは違うからダメだよ」

水野「ひでぇ……俺、まだなんも、言ってねーじゃん」

多々良「あはは、は………はぁ」

小さな笑い声は、すぐに溜め息に変わった。

多々良「こんなところで私達、何してるんだろうね……」

水野「……………」

思わず飛び出たその問いに、水野は寂しそうな顔をするだけでなにも言わない。
多々良の呟きは、遠くから聞こえる銃声と混じって霧散していった。



226 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/05(火) 13:53:01.96 ID:1NFJWCMAO
以上です
227 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/05(火) 22:57:14.38 ID:1NFJWCMAO
ちなみに現時点での禁止エリアはこうなっています
http://i.imgur.com/O6HF3ms.jpg
228 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/06(水) 03:09:57.85 ID:HqrwQOIto

誰がどこにいるかもほしい
229 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/10(日) 02:38:26.82 ID:A8/lpc4S0
今回は諸事情でPCから投下します
230 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/10(日) 02:41:18.52 ID:A8/lpc4S0

G-4の森の中で、他の生徒と分かれて行動していた杉浦達四人はアジトを目指して進み続けていた。
前島を先頭に、杉浦、中島、望月の順で列を成して、茂みを掻き分けて行く。

杉浦「……中島さん、大丈夫?疲れてない?」

中島「う、うん。大丈夫、ありがとう」

杉浦は歩きながら、中島のことを気遣っていた。
最後尾を歩く望月は華奢な身体をしつつも体力は意外にもあり、前島や自分を抜かしてこの面子の中で一番体力が無いのは中島だ。
四人しかいない現状では、一人の体調が全員の運命を左右しかねない。
戦力的にも心もとない今、杉浦としてはなんとしてもせめて四人全員でアジトまで安定して進みたいところだった。

前島「…………!!」

と、先頭を歩く前島の動きが突然止まった。
231 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/10(日) 02:44:20.37 ID:A8/lpc4S0

杉浦「!」

中島「っ……ど、どうしたの?」

望月「なに?」

後ろ二人の質問に答えたのは前島ではなく、杉浦だった。

杉浦「……誰かいる」

望月「え?」

前島「あぁ、いるな」

二人の忍ばせた声が、その場の空気を途端に張りつめさせた。

中島「ど、どうするの?」

声を震わせ、若干青ざめた顔で中島は聞いた。
望月も緊張した面持ちで、前島と杉浦の返答を待つ。
232 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/10(日) 02:45:12.34 ID:A8/lpc4S0
望月「…………」

前島「……俺が様子を見ながら先に行く。お前らは後からついて来てくれるか」

中島「えっ……だ、大丈夫なの?」

杉浦「待って前島くん!私も行く」

前島「……わかった」

中島「わ、私と望月くんは………」

杉浦「もしものことがあったら逃げるか、応戦して」

杉浦の簡潔な返答に、表情全面に不安感を表す中島。
「行くよ」とだけ前島と杉浦は言い残し、望月と中島を残してゆっくりと先へ進んで行った。

中島「そ、そんな……もしものことって……」

望月「中島さん!……静かに」

中島「………」

望月「……行こう。その、もしものことがあったら僕が中島さんを守るから、ね?」

中島「………うん」

未だ不安げな表情をしながらも、中島は小さく頷いた。
233 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/10(日) 02:46:32.92 ID:A8/lpc4S0


先行する二人は茂みの奥に二人の人影を見ていた。
座り込んで何かしており、話し声は聞こえない。

敵のテロリスト達か、と銃を握りしめ、息を潜めて様子を伺う杉浦と前島。
ふと、人影の片方がこちらを振り向いた。

杉浦(っ!気付かれた!?)

前島(やべぇ、やるしかねぇ!)

前島「行くぞ!」

咄嗟に叫ぶ前島。

杉浦「え?あ、ちょっと前島くん!」

最後まで言葉を待たずに飛び出して行く前島を追う杉浦。

前島「うおおおおおおおおおおおお!!」

前島は叫びながら人影の前に飛び出すと、銃口を向けた。

「きゃあああああああ」
「うおおお待て待て待て待て待て!!」

しかし、二人の人影は聞き覚えのある声で叫び、片方は前島に静止を呼びかけた。
すぐに杉浦も茂みから現れる。

前島「って……あ、アレ?」

杉浦「うそ、中尾?」
234 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/10(日) 02:49:37.99 ID:A8/lpc4S0

それは上陸してから別れて行動していたはずの、中尾順太と佐藤和江だった。
気が抜けて、杉浦と前島は口を開けたまま固まってしまった。

中尾「……あっぶないなオイ」

中尾も固まったまま、なんとか呟く。
その後ろで、望月と中島が遅れて茂みから現れた。

望月「ど、どうしたの!?……って、あれ?」

中島「中尾くんに佐藤さん?二人とも、どうして……」

佐藤「それは……」

そこで比較的冷静な佐藤から、今までどうしていたか、なぜここにいるのかと説明が成された。
赤沢を庇って中尾が負傷したこと、避難した建物の床が突然崩落した事、気付いたら二人とも真っ暗なトンネルに放り出されていたこと、そして二人で外に出て怪我の治療も兼ねてしばらく休んでいたこと。

杉浦「トンネル、かぁ……」

中島「トンネルなんてあるんだ」

佐藤「うん、でもそれがなかったら私達は今頃…………運がよかったと思う」

中尾「本当だよな……」
235 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/10(日) 02:51:11.94 ID:A8/lpc4S0
前島「にしてもお前も男だなぁ中尾」

言って前島は、意地の悪い笑みを浮かべた。

中尾「は?」

前島「身を呈して赤沢を守るなんてな、って話だよ。気があんのか?」

中尾「ばっ……よろけてて危なかったから助け起こしたら、敵に爆撃されたんだよ。
俺は当たり前の事をしたまでだっつうの!気がある無いの話じゃないんだよ」

わかりやすく狼狽える中尾を、前島は面白そうに眺める。
逆に中尾は面白くなさそうに、大きな舌打ちをしてみせた。

佐藤「……でもあんまり無理しないでね、中尾くん」

前島「っ……」

中尾「あ、ああ」

不意に思わぬところから会話に入られ、二人は口ごもった。
佐藤を見ると、神妙な表情をしている。

中尾は申し訳なさそうに「……ごめん、佐藤さん」と謝り、前島は誤魔化すように目を逸らした。

杉浦「……ってことは泉美は無事、か」

望月「勅使河原くん達もみんな無事なんだね」

佐藤「うん、多分」
236 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/10(日) 02:53:09.66 ID:A8/lpc4S0
前島「なるほどなぁ」

すっかり気が抜けた前島は、中尾と目線を合わせるように地面に座り込んだ。

中尾「なるほどなぁってお前……ナビとか確認しなかったのかよ」

前島「……さっき確認した時お前ら近くにいなかったからさ、気付かなかったんだよ」

中尾「それマジかよ……」

杉浦「そう言うあなた達二人はナビ確認したの?」

中尾「……お前達がいることは知ってたけどさ、ばったり会えると思ったんだよ」

杉浦「ばったり会えるって……」

呆れて、思わず言葉を繰り返す。

前島「お前もだいぶ適当じゃねえか」

前島の突っ込みに中島と望月が小さく笑う。
しかし中尾は渋い顔をして、それに言い返した。

中尾「……仕方ないだろ、怪我しっ放しの足で歩き通して、やっとのこと佐藤さんに足の治療してもらってたからそれどころじゃなかったんだよ」

と、包帯の巻かれた足を見せつける。
それに合わせるように頷く佐藤。

前島「……なるほどな」
237 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/10(日) 02:54:56.37 ID:A8/lpc4S0

杉浦「……まぁ、確かに私たちも自分達が思う以上に冷静さに欠いてたかもしれないね」

眼鏡をハンカチで拭きながら、ふと杉浦が呟く。

前島「え?」

杉浦「そうでしょ?現にさっき、誰かいるとわかってても何故かそれを敵と決めつけて、それが他のクラスメイトだなんて考えに結びつかなかったんだから」

眼鏡を掛けながら静かな声で、前島と望月、中島に対して話す杉浦。

前島「あ、ああ……そうだな」

中島「……うん」

望月「でも、仕方ないよ。昨日まで僕達普通に学校にいただけなんだし……
気付いたら戦争に行かされてたんだから、まだ混乱してるんだ。きっと他のみんなもそうだよ」

杉浦「……だとしても、ここではそれが命取りになる」

望月「…………」

杉浦「このゲームの理不尽を訴えても、もうしょうがないと思う、なってしまったものはもう取り返しがつかないし。
私達ができるのは生き延びるために考えて行動することでしょ?」

望月「……う、うん」

杉浦の眼鏡越しの鋭い眼光を向けられて、望月は押し黙った。
238 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/10(日) 02:56:09.37 ID:A8/lpc4S0
望月(杉浦さん、なんか……焦ってる、のかな?)

声は冷静だが、どこか焦燥感を感じている。
望月の目には、杉浦はそう映って見えた。

前島「……つっても、これからどうする?俺らが一番進んでる見たいだけど……ん、あと見崎さんと渡辺の二人もか」

前島は言いながらナビの地図を指した。

杉浦「ひとまずは休みましょう。……ここはいい感じに森に囲まれてるし」

六人がいる場所は、生い茂る草木に囲まれた小さな広場のようになっている。
地面も大した凹凸が無く、比較的平らだ。
休憩するには、うってつけの場所だった。

杉浦「それに中尾の足の怪我も、そんな酷くはなくてもすぐに動き回れるってわけでもないんでしょ?」

中尾「あ、ああ、そうだよな?佐藤さん」

佐藤「そう、だね」

杉浦「じゃあ、行動はある程度休んでから。ナビで他の人の状況を確認しつつ進むってことで、いい?」

他の五人は特に否定の声をあげる事もなく、杉浦の提案に頷いて賛同した。


239 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/10(日) 02:57:52.38 ID:A8/lpc4S0
以上です
240 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/10(日) 03:03:16.14 ID:A8/lpc4S0
>>228
番号でしか表せませんが、どうぞ
三組生徒達の現在地です
http://i.imgur.com/CK8j4Hk.jpg
241 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/10(日) 04:50:55.96 ID:TH95zUwuo

242 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/11(月) 03:12:33.81 ID:Bdo9+aou0
短いですが投下します
243 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/11(月) 03:13:49.78 ID:Bdo9+aou0

渡辺「はっ、はっ、はっ、はっ」

見崎「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ」

渡辺「見崎さん!急いで!」

渡辺は叫びながら振り向き、後方に向けて銃口を向けた。

ばらららららららららららら

見崎「っ!」

閃光と共に大きな音をたてて放たれる弾丸。
つんざくような音に見崎は思わず顔をしかめる。
244 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/11(月) 03:15:37.37 ID:Bdo9+aou0
F-8の、廃墟が点在する森の中を二人は走り続けている。
後方からは複数の足音と、銃声。
和久井と松井の二人とはぐれてから渡辺の機転で一度はテロリスト達を撒いたものの、それから後をつけられたまま、現時点でもテロリスト達に追われていた。

渡辺「こっち見崎さん!」

渡辺はふと声を潜ませると、見崎の腕を強く引っ張る。
急に引っ張られたため、見崎は腕の付け根に鈍い痛みを覚えて「くっ」と小さな呻き声を漏らした。
二人は近くにあったコンクリート二階建ての廃墟に入り、渡辺が先導して二階に駆け上がった。

室内はボロボロで、コンクリート片や、元は机や椅子だったらしい腐食し切った木片が床に散らばっている。
渡辺は窓近くの壁際に滑り込み、忍ばせた声で「こっち……しゃがんで」と見崎に隣に来させた。

見崎「はぁっ……はぁっ……」

見崎が息を切らしながらも姿勢を低くしていると、渡辺は険しい表情をして外に意識を向けた。
245 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/11(月) 03:17:28.35 ID:Bdo9+aou0
やがて、三人程の足音が近づいて来た。
二人が隠れる廃墟を少し通り過ぎたところで立ち止まる。

「……あのガキ共どこ行った!?」

「さあな、だが近くにまだ隠れてるはずだ」

「探すか?」

「ああ」

複数の男達の話し声が聞こえてきた。

見崎(あれが、テロリストの………)

彼等の姿は見えない。
ただ男達の野太い声だけが聞こえる。

渡辺「…………」

ふと、渡辺が足元にあったコンクリート片を掴んだ。
246 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/11(月) 03:19:02.75 ID:Bdo9+aou0

渡辺「………っ!」

そしてそれを、窓から思い切り投げた。

ぱきっ

小枝にでも当たったのか、遠くから小気味のいい音が聞こえてきた。
男達は、すぐさまそれに反応を示す。

「今の音は……?」
「あっちからだ!!」

草を踏みしめる足音は再び遠ざかって行く。
しばらくすると、渡辺は窓からそっと外の様子を伺い、そしてすぐに立ち上がった。

見崎「………」
247 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/11(月) 03:19:59.98 ID:Bdo9+aou0
渡辺「行ったみたい。見崎さん、体力は大丈夫?疲れてない?」

見崎「大丈夫だよ」

渡辺「そう、なら私達もここを離れよう、多分アイツらすぐ戻ってくると思う」

見崎は黙って頷き、銃を抱えて立ち上がった。
ナビを確認しながら一階に下りて行く渡辺に、見崎はついて行く。

基本的に見崎は渡辺に行動方針を委ねている。
理由は単純に、頼りになるからだ。

渡辺はナビを閉じると、「こっち」とテロリスト達が行った方向とは逆方向を指差した。
見崎が頷くと、渡辺は姿勢を低めて足音を小さくしながら走り出し、見崎もそれに倣って同じように姿勢を低める。

午後二時現在、森の中で二人の逃避行は続く。

248 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/11(月) 03:20:36.67 ID:Bdo9+aou0
以上です
ではまた近々
249 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/11(月) 07:29:58.37 ID:CC/00r07o
250 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/12(火) 01:17:05.04 ID:KrRzB6XW0
投下します
251 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/12(火) 01:20:34.24 ID:KrRzB6XW0
G-6の廃墟の一つに、赤沢達は身を隠していた。
上陸してからテロリスト達の猛攻に晒され続けていた六人は、他の生徒達と比べてもかなり疲弊していた。
爆撃などによる粉塵で誰しも顔が黒ずんでいる。

女子は皆壁に寄りかかって固まって座っており、、赤沢は目を閉じて休んでおり、綾野は精神的な疲労も相まって完全に眠っていた。
男子三人は窓際などで、身体を休めながらもそれぞれ外を見張っていた。

勅使河原(だいぶ近づいて来た……のか?)

勅使河原は窓の外、遠くの丘の上に整列している団地のような建物達を眺めた。
三神曰く『テロリスト達のアジト』らしい。
無数にある窓枠も無い窓は、ぽっかりと開いた底の無い穴のようで、不気味だ。

勅使河原(あそこに、あの中に………)
252 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/12(火) 01:21:31.36 ID:KrRzB6XW0
風見「中尾くん達が四人とも無事なのも幸運だったね」

桜木「うん」

風見「……ところで桜木さんは、休まなくていいの?」

桜木「え?」

風見「いや、朝から動きっ放しで疲れてるんじゃないかなって思っただけ」

桜木「……ううん、私これでもクラス委員長だし、その、現象が始まったとしたらやっぱり私がこういう役目を努めなきゃいけなかっただろうから」

赤沢「…………」

風見「……現象、か。すっかり忘れてたよ」

勅使河原「……やめようぜ、その話。俺嫌いなんだよそれ」

少し離れたところで外を見ていた勅使河原が眉間に皺を寄せて、吐き捨てるように言った。
風見は知っていた。勅使河原はオカルトめいた話が嫌いなのだ。

風見「勅使河原……」

桜木「………………」

勅使河原「…………」
253 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/12(火) 01:23:48.10 ID:KrRzB6XW0
王子「……そういえば赤沢さん」

同じく外を見張っていた王子が、不意に口を開いた。

赤沢「……なに?」

赤沢は薄く目を開いて答えた。
ヘルメットは取られ、床に投げ出された両足の上に乗っている。
いつも二つに結われている髪はメットを被るために解かれており、長い髪の一部が、汗により頬に張り付いていた。

王子「どうしてあんな変な走り方してたの?」

赤沢「変な走り方って……」

王子「ほら、中尾くんに庇われた時によろけてたじゃないか。……足でも怪我してるのかなって思って」

王子の問いかけに、赤沢はため息を吐いてから、言いにくそうに「ああ」と短く返事をした。

赤沢「………荷物が重かったの」

桜木「え?」

勅使河原「へ?」

王子「……重かった?」

赤沢「ええ……川堀くんと有田さんの分もバックに詰めたからね」

風見「……え?」

赤沢「だから二人の弾薬よ。
それに『アタリ』の弾も、私達のボートだとあの二人が持ってたし。あと一応救急セットも」
254 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/12(火) 01:24:28.94 ID:KrRzB6XW0
桜木「そんなに?」

赤沢「ええ」

王子「いつの間にそんな……」

赤沢「ボートの上でよ。……そしたら荷物が思った以上に重くなったの」

ぶっきらぼうに言う様子は疲労にようるものか、あるいは照れ隠しのようにも見える。

勅使河原(抜け目ないんだか抜けてるんだか……)

赤沢「それで、私だとこの荷の重さじゃ、またあんな失態やりかねないから分担してほしいの。できれば男子に」

話しながら、赤沢はバックを下ろして、重たそうに床に置いた。

王子「いいよ」

勅使河原「ああ、いいぜ」

風見「うん」
255 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/12(火) 01:29:02.98 ID:KrRzB6XW0
赤沢が持って来た弾薬は、男子三人と赤沢で各々分担され、『アタリ』であるグレネード弾のアタッチメントは、勅使河原と王子の二人に渡されることになった。

王子「よし、これでいいね」

赤沢「ええ、助かるわ。ありがとう」

勅使河原「いいってことよ」


綾野「うー……ん、うぅ、ん……」

会話している横で、不意に綾野が小さな呻き声を漏らした。
寝ているが、眉間には微かに皺が寄せられている。

勅使河原「………大丈夫か?綾野」

風見「………仕方ないよ、朝から目の前であんなことが起きたんだから」

『あんなこと』とは勿論、風見と綾野の目の前で起きた川堀と有田の死のことだ。
特に首輪の爆発によって飛び散った有田の血液は綾野と風見に降り掛かり、拭う暇もなかったそれは顔やアーマー、迷彩服にこびりついたままである。

風見も今では落ち着いているが、頭の中では、あの瞬間の映像が離れずにいる。
顔を失った、川堀のむき出しになった下顎。
死の恐怖に怯える有田の顔と悲鳴。
見た事も無い血量と、血しぶき。
256 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/12(火) 01:31:10.01 ID:KrRzB6XW0
思い出していると、風見は自分でも知らぬ内に険しい表情で黙り込んでいた。
それを見て、勅使河原は呟く。

勅使河原「……もう少し休んでいくか」

桜木「そう、だね」

風見「え……あ、ごめん。僕は大丈夫だよ。それより……」



どおお……ん

風見の声を遮って、突如として爆発音が響き渡る。
同時に建物がギシギシと揺れ、天井から埃が落ちてきた。

赤沢「ば、爆発!?」

勅使河原「攻撃か!?」

綾野も音に反応し飛び起きた。

綾野「うわっ、な、なに!?」

王子「み、見て!!あれ……」

そう言って王子は窓の外を指差した。
その先には、これまで赤沢達が歩んで来荒野と廃墟群、その向こうに海が見える。
その廃墟群の一角から、黒煙があがっていた。

赤沢「あそこ……」

綾野「あ、あれって……」

風見「水野くんに、多々良さん………」
257 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/12(火) 01:31:57.82 ID:KrRzB6XW0
以上です
258 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/12(火) 07:08:07.80 ID:f9D6/Zv+o
おつ
259 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/13(水) 19:10:32.67 ID:b4Vi9hIR0
投下します
260 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/13(水) 19:12:17.76 ID:b4Vi9hIR0
手頃な小屋を見つけ、多々良と水野はそこで休んでいた。

あともう少し歩けばH-6エリアからGエリアに出れる。
時刻は三時。次の放送は六時。
あと三時間で増える禁止エリアに対してもある程度時間がある。

それも相まって、離れて壁にもたれかかって会話する二人の気持ちにも幾分か余裕が生まれていた。

多々良「へぇ、お姉さん看護婦なんだ」

水野「ああ……夜見山病院の、な」

多々良「帰れたら、そのお姉さんに看病してもらえるんじゃない?」

水野「どうだか……」

多々良「どうだかって」

水野「仲悪いわけじゃないけど、家じゃあんま喋んないし……そもそも姉ちゃん仕事で会わないから」

多々良「ふうん……」
261 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/13(水) 19:14:09.07 ID:b4Vi9hIR0
水野(そういえば姉ちゃんとか、心配してくれてんのかな……)

姉は、偶然にも新年度に転校して来た榊原恒一の看護を担当していた。

水野(姉ちゃん、あいつのこと結構気に入ってたよなぁそう言えば)

お互いホラー小説が好きという好みがあり、気が合っていたようだった。

その榊原恒一も、今この島の中で生きるか死ぬかの戦いを強いられている。

水野(姉ちゃん、それに兄ちゃん、父さんと母さんも……)

家族は今頃何をしているのだろうか?
今こうして傷を負っている自分の事を、気にかけているのだろうか?
気がかりだろうと思う。自分だって、実際家族がこんなことに巻き込まれたら、同じように心配をするだろうから。

水野(ああ、帰りてぇな…………)

とにかく帰りたい。
家族の事を思い出して、無性にそう思った。
262 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/13(水) 19:14:45.31 ID:b4Vi9hIR0
多々良「水野くん?」

水野「え?ああ」

驚いたような多々良の声に気付けば、目から涙が溢れていた。

多々良「大、丈夫?」

水野「あ、ああ、なんでもない」

言いながら涙を拭う。
多々良の前で涙したことがいやに恥ずかしくて、水野は誤魔化すように小さく笑った。

水野「……そろそろ、行こうか?」

多々良「うん、そうだね」

二人は頷き合い、水野は壁に寄りかかりながら自力で立ち上がろうとした。
それを見て、支えようと多々良が歩み寄ろうとした時

だららららららららららららら

多々良「きゃあ!?」

水野「っ!」

突如、発砲音が聞こえ、小さな砂埃をあげて小屋の壁にいくつもの弾丸がめり込んだ。
263 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/13(水) 19:15:49.83 ID:b4Vi9hIR0
だらららららららららららら

思わずその場に伏せる二人。
その頭上を、窓から侵入して来た無数の弾が通過して行く。

水野「て、テロリストか!?」

多々良「そ、そんな……さっきまでいなかったのに」

水野(どうする……どうする!?)

このままでは躙り寄られて、いずれ二人とも射殺されてしまう。
傷を負っている自分はともかく水野としては、ルール上仕方ないとは言え、これまで嫌な顔一つせず自分を介抱してくれた多々良まで死なせたくなかった。

水野(でも、どちらにしろ俺が死ねば、多々良さんも……)

小銃を握りしめる水野。
抱きしめ、トリガーに指を掛ける。

多々良「う、撃つの?」

水野「反撃するしか、ねえって」

そう言った水野の声は、自分でも思わぬ程震えている。
相手が見知らぬ人間とは言え、やはり殺し合いが怖かった。
264 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/13(水) 19:16:37.00 ID:b4Vi9hIR0
水野「じゃなきゃ、俺達……」

多々良「……分かった、私もする」

決意した表情で多々良は頷き、馴れない手つきで小銃を構えた。

だん、だだん、だん

敵の射撃は途切れ途切れだが続いている。
被弾している壁の位置から、おそらくテロリスト達がいるだろう方向を予想して、二人はその位置にある。

多々良「…………」

水野「…………」

窓の下で待機し、二人は息を呑んだ。

水野「行く、ぞ?……今だ!」

多々良「っ!」

水野の合図で、二人は上体を乗り出し、銃を外に向けてトリガーを引いた。

ばららららららららららら

敵の姿など確認する余裕もなく、二人は引き金を引き続ける。
我武者らに放たれる幾つもの銃弾。
しかしその反動は、華奢な多々良、負傷した水野にとって余りにも大きすぎた。
265 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/13(水) 19:19:33.86 ID:b4Vi9hIR0
多々良「うぁぁっ!」

水野「くぅっ!」

銃など触れた事も無い二人に、まともに構えて撃てるはずもなく、
反動と、それを抑えようとする腕の力によって、照準はうねるように定まらなかった。
二人の銃弾が適当に撃ち込まれて行く中、敵の一発の弾丸が、多々良の左肩を掠った。

多々良「きゃあああああ」

驚き、背中から倒れ込む多々良。
跳ね上がった銃身は天井にも弾を撃ち込んだ。

水野「た、多々良さん!」

多々良「くっ、ううぅぅ……」

肩を抑え、痛ましい呻き声を発する多々良に水野は走り寄ろうとした。
その直後。

ひゅるるるるるるるるる

空気を裂くような甲高い音が聞こえて来た。
水野はその音に聞き覚えがあった。

水野(ボートの時の……!)

海、砂浜で生徒達を襲い続けた、爆撃の音。
しかし水野が危機を察知するのと、窓の向こうから凄まじい閃光が溢れ出すのは、ほぼ同時の出来事だった。

どおおおおおおおおおん

直後、轟音と凄まじい衝撃が、二人の身体を呑み込んだ。
266 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/13(水) 19:20:12.31 ID:b4Vi9hIR0



いきなり静かになった。
多々良は壁に叩きつけられて痛む身体を起こした。
長い黒髪が頬に掛かる。ヘルメットはどこかに飛んで行ってしまったようだ。

多々良(う……な、なにが………)

凄まじい量の砂埃が辺りを覆い、視界はまるで見えない。
不意に左肩に鋭い痛みを感じた。

多々良(痛っ……そうだ、私撃たれて……)

肩からは血が溢れ出しており、土埃に汚れた迷彩服を血で濡らしている。
だんだんと砂埃が収まってきた。

多々良(あれ……水野、水野くんは………………ひっ!?)
267 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/13(水) 19:21:10.29 ID:b4Vi9hIR0
水野は、目の前に横たわっていた。
しかし下半身や腕がどこにも無い。無造作な断面からは赤い肉、それに内臓が覗いていた。
そこから溢れ出すおびただしい量の血。
煤で黒ずんだ顔。半開きの口に、見開かれた目は虚空を見つめていた。

多々良(み、ずの、くん………)

凄惨な遺体を前に、多々良は力無くへたり込んだ。
そしてあらんかぎりの声で叫んだ。

多々良「――――――――――!!」


しかし、相変わらず静かだ。
相変わらず、一切の音も聞こえない。


多々良(え?)

多々良「ぇ―――、――――」

多々良(うそ……うそ、うそ!)

がむしゃらに叫んでみた。

多々良「ぁ―――――――」

多々良(う、そ……私の、耳………)

間違いない、鼓膜がやられている。
268 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/13(水) 19:21:47.50 ID:b4Vi9hIR0
ぴっぴっぴっぴっぴっぴっぴっぴっ

水野の死亡を察知した多々良の首輪から、すぐさまけたたましい警告音が発せられた。
しかしその音も多々良の耳には届かない。

多々良(いや、私……やだ……耳が………)

首輪のことなど、多々良の頭の中には無かった。
ショックで脳が痺れたように上手く働かない。
水野を見やる。

多々良(水野くん……からだ……血……………)

恐怖心は既に無い。
それすらも感じない程に混乱していた。

269 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/13(水) 19:22:34.16 ID:b4Vi9hIR0
ぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴ

そして多々良の知らぬ間に電子音の感覚は短くなっていく。

多々良「…………………」

多々良は水野の遺体に這い寄った。
割と整った顔立ちに、二度と動かない目と、呼吸もしない口。

多々良(……水野くん)

多々良(私……………)

ぼんっ

爆発した首輪の衝撃波は、多々良の知らぬ間に、その細い首と顎を襲った。
そして多々良の人生はそれを境に、唐突に終わりを告げた。



【死亡】
男子11番:水野猛
女子11番:多々良恵
【残り24人】
270 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/13(水) 19:23:06.93 ID:b4Vi9hIR0
以上です
271 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/13(水) 21:55:58.76 ID:Qi1Csa6q0
あああああああああああ多々良さんが……
272 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/13(水) 22:23:15.69 ID:Fiy8dBlJo
多々良ッティィィィーッ!
273 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/27(水) 06:38:42.01 ID:q3HQa6Xvo
捕手
274 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/04/03(水) 20:16:39.16 ID:hxg8iNvWo
作者どーした?
275 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/04/23(火) 20:15:39.46 ID:ixNf1RsAO
今更ですが生存報告です。
今しばらくお待ち下さい
276 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/04/23(火) 22:34:37.62 ID:kmr+h80g0
待ってる
277 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/04/23(火) 22:35:06.25 ID:lZ2mAxV20
生存報告、乙です。 気長に待ってますのでよろしく
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