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ハルユキ「これが……『未元物質』?」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/01/13(日) 16:59:06.06 ID:QROHREg+0


 予兆は小さな違和感のようなものだった。


 「あ……?」


 朝。
 
登校途中でルーティンワークとなりつつあるアッシュ・ローラーとの対戦をこなしてい
た時だ。

 シルバー・クロウこと有田春雪は妙な感覚を覚えた。

 彼固有のスキル『飛行アビリティ』の制御が、何か……一瞬奪われそうになった、よう
な……。

 アッシュではない。彼はそんなアビリティは持っていないし、しかし対戦中のアバター
に干渉できるとすれば、普通それは対戦者だけ。

 そう、例えば……。

(うっ……!)

 ハルユキの脳内に『嫌な記憶』がフラッシュバックする。

 弄られ、辱められ、大事な友人を奪われ……。

 ハルユキは咄嗟に目を瞑り、浮かんだ映像を意識から締め出そうとした。

 しかし、彼は今マッチアップの最中であり、対戦相手から気を逸らすなど自殺行為に等
しい。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1358063945
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酸 @ 2024/05/01(水) 23:00:19.57 ID:lK9RWrTc0
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【進撃の巨人】俺「安価で巨人を駆逐する」 二匹目 @ 2024/05/01(水) 21:08:53.38 ID:iiJDb4My0
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旅にでんちう @ 2024/05/01(水) 14:47:47.55 ID:KgjR8ljxO
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VIPでガンダムVSシリーズ避難所【マキオン】 @ 2024/04/30(火) 07:03:33.32 ID:jpWgxnqGo
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今日も人々に祝福 @ 2024/04/29(月) 23:42:06.06 ID:cZ/b8n+v0
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2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/13(日) 17:01:48.77 ID:QROHREg+0

 実際、飛行状態から今まさに着地しようという状態だったシルバー・クロウは、地面か
ら突き出していた岩のようなオブジェクトに足を引っ掛け、クラッシュしたモーターバイ
クのように大きく転がっていく。

「ヒャッハァー!! 何やってんだカラス野郎ォ!」

 そこをアッシュ・ローラーが見逃すはずはない。

 新米バーストリンカーでも考えられないようなポカをした銀色アバターを、アッシュは
自慢のアメリカンバイク型強化外装で、容赦なく跳ね飛ばす。

 キン! という金属特有の音色を響かせて錐もみ状態で飛んで行ったシルバー・クロウ
は、教会のようなオブジェクトの側壁に受け止められてようやく止まる。

 残りわずかだったHPが0になり、対戦は終了した。

 あまりにも無様な結末に、ギャラリー達も失望したような視線を浴びせる。

 いや、アバターの頭はマスクで覆われていて表情は読めないため、それはハルユキの罪
悪感が勝手に作り上げたものなのかもしれない。

 でも、以前なら多少なりとも拍手や激励の言葉もあったものだが、ここのところ対戦が
終わるやいなやバースト・アウトしてしまう人がほとんどだ。

 事実、ギャラリーの数も減っている。飛行アビリティで界隈を沸かせた、シルバー・ク
ロウに対する興味が薄れてきている。

 そんなもの気にしなければいいと思うかもしれないが、ハルユキは、それでも周りの期
待に応えたいと思い、それができない自分を嫌悪し始めていた。

(……これで七連敗だ)

 現実世界に帰還したハルユキは、歩道橋の柵に身体を預けながらがっくりと頭を垂れる。

 ここのところ、彼はこんなバトルばかり繰り返していた。
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/13(日) 17:18:44.53 ID:LLZdBh51o
期待
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/14(月) 00:12:41.64 ID:p6b+L1Yv0
ハルユキの女性関係に常識は通用しねぇ
ヒロイン
幼なじみ
小学生×2
フーコ
中学生
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/14(月) 23:09:50.14 ID:v855Drpio
期待
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/15(火) 15:57:16.83 ID:cBgHhK//0



 ハルユキはここ最近の奇妙な違和感をネガ・ネビュラスのメンバーには話していなかっ
た。

 相談するにはあまりにも曖昧で微弱なものだし、また、ハルユキが対戦で勝てなくなっ
ている原因は別のところにあると彼自身認めていたからだ。

 すなわち、彼の内面に。

 この不気味な現象が起きるのは毎回決まって飛行アビリティを使用している時であり、
それも一瞬の間だけだ。

 だがそれだけを聞いたら、普通はこんな疑問を抱くだろう。「それで?」と。「なぜそれ
だけの事が勝敗に直結するのか」と。

 コントローラーにたまに反応しなくなるボタンがあったとして、今まで五分の勝率だっ
た相手に歯が立たなくだろうか。

 ましてや、今まで難なく勝利できていた相手にまで全く太刀打ちできないなんて事があ
るのだろうか。

 そう思ってしまうのは、普通、小さなバグのようなものが起きるからといって「じゃあ
そのボタンは使わないでおこう」という結論に至らないからだ。

 100のチカラが瞬間的に0になるのを恐れて、常時50で戦おうとは考えない。

 そんなのは、アウトになるのが嫌なので絶対に盗塁はしませんと言うようなものだ。

 僅かなリスクの為に、受けていた多大な恩恵を放棄する。
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/15(火) 15:58:15.05 ID:cBgHhK//0

 しかし。人間はアンドロイドとは違う。0と1の組み合わせのみで行動理論を決定する
のではなく、内から外から、そこにさまざまな要因が絡んでくる。

 例えば、脚力が人並みはずれていて、投手の癖をつかむのも上手いランナー。

 もし彼がコンピュータなら、積極的に盗塁を仕掛けるはずだ。

 成功すれば御の字。失敗したとしても、「コイツは足が速くて盗塁を試みてくる」という
情報が相手に伝わり、投手は次からそのランナーに気を割くことになるだろう。

 どちらに転んでも一定の成果。天秤に掛けられた杯の重さは、明らかに釣り合わない。

 ではそこに条件を一つ加える。

 以前そのランナーが盗塁を仕掛けた時に、内野手との接触プレーで怪我をしたという過
去があったらどうだろうか。

 コンピュータなら前述の『盗塁』という秤に『再び怪我をして試合に出場できなくなる』
というデメリットを一つ追加するだけだ。

 演算がやり直され、より効果的だと判断された決定は、そのまま行動へと直結する。

 基本的にはヒトも同じようなものだろう。

 様々な情報を照らし合わせて、次の行動をどうするか。

 盗塁する? しない?

 すると決めた。リードを大きく取り、投手の一挙手一投足に意識を集中する。

 投手がモーションに入り、脳から運動神経へ両足を動かすように命令が下る。

 だが、そのランナーは動かない。動けない。
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/15(火) 15:59:06.96 ID:cBgHhK//0

 脳から命令は出ているのに、身体がそれを受け入れない。頭の中で『当時』の映像がフ
ラッシュバックする。

 意識の中にある『何か』が信号を阻害してしまう。

 それは一般にPTSDと呼ばれている症状。

 そのランナーには、おそらく『怪我をした時の苦痛』が引き金になっているのだろう。

 決して数値化できない、人間の精神が生み出す強力な留め具。

 そして数値化できないからこそ、周りは理解する事ができない。

 理解できないから、それは本人の甘えだと適当に判断する。

 拡大していく底なし沼。ハルユキは、今まさにそんな状況だった。

 そうなる事を恐れて誰にも相談できず、心の中を鬱蒼と茂った重圧感に支配されながら、
彼は週末恒例の領土戦へと臨んだ。

(乗り越えるんだ……。これは僕自身の……僕が自分で解決しなきゃいけない問題なんだ
から)
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/01/15(火) 21:50:06.59 ID:OkdZnfK90




野球の例えがすごく巧くて分かりやすかった。

期待してる
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/16(水) 03:29:12.67 ID:UycjHLRp0

 青のレギオン(レオニーズ)との領土戦だった。

 結果だけ言うと、惨敗だった。これまでにないほどに。

「……、」
 
 土曜日。高円寺の複合マンション。有田家のリビングは沈黙で満たされていた。

 この場にいるのは六人。黒雪姫、黛拓武、倉嶋千百合、倉崎楓子、四埜宮謡そして……。

「……。」

 気まずそうに顔を俯けるこの部屋の住民、有田春雪。

 すでに領土戦は終わり、ネガ・ネビュラスのメンバー全員が戻ってきている。

 その場の空気、それと皆の視線、各々の表情を観察すれば、何がどうなって負け
たのか言うまでもなかった。

 俗に言う『戦犯』は、周りを一瞥した後重々しく口を開く。

「……すみません。僕が、言われたとおりにしていれば……。皆一生懸命フォロー
しようとしてくれたのに、僕が、それさえも崩してしまった……」

「所詮ゲームだ。一回負けたくらいでそう気落ちすることはないさ」

 そう言ったのは、黒のレギオン(ネガ・ネビュラス)の党首、ブラック・ロータ
スこと黒雪姫だ。

 もちろん本名ではないが、しかしハルユキは本名を知って以降も彼女をこのニッ
クネームで呼び続けていた。

 どこか中性的な雰囲気を持つ彼女はコーヒーカップをテーブルに置くと、その切
れ長の目でハルユキを見つめながら、

「『そんな事』よりハルユキ君。私は今、君に対して猛烈な怒りを抱いている」

「そんな事って……」




11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/16(水) 03:29:53.17 ID:UycjHLRp0

「言っただろう。どんな理屈を重ねようがブレインバーストは所詮ゲームだ。勝つ
こともあれば当然負けることもある。……まあ今日の展開は少々驚いたが、いちい
ち敗戦のたびに反省会で戦犯を吊るし上げても何の意味もないし、そんなのはグル
ープの輪を乱すだけだ」

「鴉さんは知らないけど、レギオンを結成した当初はいまいちまとまりがなくて、
もっと無様な負け方をした事なんていくらでもあったのよ」

 古参メンバーのフウコがそう付け加えた。

 それが事実なのか。ハルユキを慰めるための方便か。はたまたその両方か。

 どちらにせよハルユキには関係ない事だ。彼はその時いなかったのだから。

 黒雪姫も、それについて取り合う事はなかった。

 彼女は言う。

「なぜだか、理由は分かっているな」

「……、」

「暗黙の了解というのは嫌いだからはっきり言うぞ。なぜ君は私に相談しなかった。
別に私でなくてもいい。あまつさえこれだけの仲間が周りにいて、なぜ君は一人で
抱え込むという選択肢を選んだ?」

 トーンはそのままに、しかし声色に含まれる成分は確実に変化する。

「君の……シルバー・クロウの様子がおかしいという情報は色んなところで耳にし
たし、実を言うと彼女……日下部倫、だったか。一度相談を受けた事もある。その
時はフウコも一緒にな」
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/16(水) 03:30:36.59 ID:UycjHLRp0

 黒雪姫はチラリと横に目をやる。

 ハルユキならそれだけでドキッとしてしまいそうなものだが、そこは年上の貫録
(といってもまだ高校生だが)か、相変わらずフウコは微笑を浮かべたまま表情を
崩さない。

「私達は待ってたのよ、ずっと。いつになったらあなたが頼ってくれるのかなぁと
思いながら。でも待てども待てども音沙汰なし。そんなに信頼できない? ねえさ
っちゃん」

「うぅ……」

 まるで詰将棋だ。

 残念そうなフウコの顔を見て、ハルユキはそんな風に感じた。

 彼女たちにその気はないのかもしれないが、年上二人にこんな風に迫られるとも
う何を言っても見苦しい言い訳にしか聞こえないきがする。

 仮に、何も事情を知らない第三者がこの場面を見れば、大多数がハルユキに非難
の目を向けるだろう。

 先輩方を困らせやがって! と詰め寄ってくる熱血漢がいるかもしれない。

(違うのに……)

 気まずさから更に視線が下がり、目の奥が熱い液体で潤い始めた時だった。


【UI>でも、それなら私達にも非があるのです】


 唐突に出された助け舟。
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/16(水) 03:31:10.60 ID:UycjHLRp0

 発言したのはフウコと同じ、第一期ネガ・ネビュラスのメンバー、四埜宮謡だっ
た。

 いや、彼女は運動性失語症により声を発することができないため、正確には医療
用BICでタイプした文字がスクリーンに表示されているだけだ。

 ピクリと黒雪姫、フウコの両者が反応する。

 構わず、謡は人が話すのとほとんど変わらないほどの高速タイピングを続ける。

【UI>先輩方は先ほど有田さんが相談に来るのを待っていたと言いました。それ
は見方を変えれば苦しんでいる後輩を放っておいたということなのです】

「そ、それは……」

【UI>意地になって傍観してないで、自分から声をかけにいけばよかったのです。
有田さんがなかなか頼ってこないなら、それなりに言いづらい悩みなのだと察して
あげるべきだったのでは?】

 それだけ打ち終えると、謡は次いで周りを見渡し、

【UI>他の人たちも例外ではないのです。もちろん私も。シルバー・クロウの名
はそれなりに通っていて、情報を得ようと思えばすぐに分かったはずなのです。そ
うでなくても、有田さんの様子をよく見ていれば何か問題を抱えている事くらい気
付けたはずなのですから】

 それさえもできないならば、そいつはまだ本当の仲間とは呼べないという事。

 それを理解した上で、

【UI>申し訳なかったのです】

 四埜宮謡は、深く頭を下げた。
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/16(水) 03:31:44.41 ID:UycjHLRp0

【UI>私は気づく事ができませんでした。同じレギオンの仲間でありながら。か
つて堅牢から救い出してくれた恩人でありながら】

「そ、そんな!」

 ハルユキは慌てて否定する。

「四埜宮さんは全く悪くないよ! 大体放課後にちょっと会ったくらいで気づく
はずないし。心理学博士じゃないんだから」

「そうだよ!」

 言葉を被せたのは今まで沈黙を保っていたタクムだ。

「君が言う理論なら僕『たち』の方が責任は重い。だって実際にハルのトラウマの
『原因』を共に体験したわけだから」

「……確かに、わたしたちがもっと早く気付いてあげるべきだったよね。気づかな
きゃいけなかったよね。だって―――」

 その先はタクムが言わせなかった。彼はチユリの顔の前に手をかざして、

「もう終わったことだよ。それに、結果こそ上手くいかなかったけど、チユはハル
のためを思ってやったんだろう」

「……、」

 ハルユキも同意見だった。

『その件』に関しては、彼は自分の見通しの甘さが原因だと思っているし、むしろ
チユリがいたからこそ解決できた訳で、仲間を恨んでなどいない。

 タクムの言う通り、もう終わった事。しかしその記憶までは失われない。偉人の
言葉が強く印象に残るように、ハルユキはその残骸に怯え続けている。
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/16(水) 03:32:15.70 ID:UycjHLRp0

 と、それを聞いていた黒雪姫が横からポツリと囁いた。

 彼女は今一度確認するように、

「能美、征二……か」

 チクリと、何か。

 小さな棘のようなものが、ハルユキの精神へ確かに刺激を与えた。


 能美征二―――ダスク・テイカ―。


 ハルユキは以前彼の卑劣な罠に引っ掛かり、濡れ衣を着せられ、あまつさえ挑ん
だブレインバーストのバトルで敗北し、彼の特殊なスキルにより自慢の飛行アビリ
ティを奪われ、惨めな思いをした過去がある。

 思い出すだけで、腸が煮え繰り返りそうになる負の記憶。

 しかしハルユキは、怒りと同時に恐怖心も刷り込まれてしまっていた。

 後にフウコやチユリの助けもあって、彼は翼を取り戻す事に成功したが、当然そ
の記憶までは消えなかった。

 能美に飛行アビリティを奪われてからの屈辱の日々。

 ハルユキは、生涯忘れない自信がある。

【UI>仲間内で言い争っている場合ではないのです】
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/16(水) 03:32:47.13 ID:UycjHLRp0

 謡が皆の様子を見ながら再びタイプする。

【UI>気づかなかった我々も悪い。ムキになってほったらかしにした先輩方も悪
い。どんな理由があれ最後まで打ち明けなかった有田さんも悪い。それでいいので
す。どんな結論に至ろうが『同じレギオンの仲間が苦しんでいる』。それだけの事
実があれば、我々のやる事は変わらないはずなのです】

 それは、ある意味究極の理想論だった。

 考え方は十人十色だ。

 どれだけ仲がよかろうと意見の違う人間が集まれば、それなりに食い違う事もあ
るだろう。

 いつもどんな時でも一致団結している訳じゃない。

 しかし、そんな事はどうでもよいのだ。

 例え口を利かなかったとしても、例え取っ組み合いの喧嘩になったとしても、そ
れは個々の意思を伝えるための一手段に過ぎず。

 その外側にある仲間意識には、何の影響も与えないのだと。

 利益のみでつるんでいる悪党が聞けば鼻で笑うような理想を、四埜宮謡は大まじ
めで提唱する。

「フフッ」

 それを理解して、黒雪姫は小さく笑う。

 嘲笑ではない。言うならば、いつまでも変わらない故郷の景色を見て、思わず出
てしまったというような笑み。

「そうね」
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/16(水) 03:33:36.97 ID:UycjHLRp0

 フウコの反応も大方同じだった。

「ういういの言うとおり。まずは鴉さんの不安を取り除いてあげないとね。ディベ
ートはそれからだわ」

 タクムとチユリも同意見のようだった。

 ハルユキは、まさかこの場を収めるのが謡だとは予想できなかったのか、それと
も思わぬ助け舟がド級戦艦だった事に驚きをかくせないのか。

 始めこそポカンとしていたが、やがて目の前で両手を合わせると、

「お、おぉ……ありがとうございます四埜宮サマ。あなたのおかげで窮地を脱する
ことができました」

【UI>礼には及びません。私は私の意見を言っただけです】

 恐らく彼女にとっては1+1=2と同じくらい基本的な事なのだろう。謡に特に
照れる様子などは見受けられない。

 あきれるくらい純粋な思考。それを恥ずかしげもなく言い切る勇気。

 これが四埜宮謡。

 冗談ではなくハルユキは、彼女に対して尊敬にも似た気持ちを抱いた。

 黒雪姫とはベクトルの違う『強さ』。

 これこそが、彼女がレベル7にまで上り詰めた要因だったのか。

 ハルユキがそんな事を考えていると、突然黒雪姫が立ち上がり『では!』とよく
響く声を発した。

 思わずビクリと身体が震え、反射的に視線が固定される。
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/16(水) 03:34:32.70 ID:UycjHLRp0

「少々こじれたが、とにかくハルユキ君の案件を何とかしなければネガ・ネビュラ
スにとっても、彼にとっても大きな損失だ。友情、勝利、努力。それが我がレギオ
ンのモットーだからな」

 そんな少年週刊誌みたいなスローガン知らないんですけど、という呟きは声に出
さず。

 とはいえ、ハルユキの肩に圧し掛かっていた重圧が幾分緩和されたのは事実だっ
た。

 具体的な策はまだなくとも、悩みを共有するというのは精神的に一定の効果があ
るらしい。 

 だが、のんびりしている暇はない。

 現に、ハルユキの奥深くに居座る『何者か』は、少しずつその片鱗を見せようと
迫ってきているのだから。
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/20(日) 16:14:51.77 ID:20ktlP5Zo
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