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太一「俺は永瀬の事が好きだ」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/01/16(水) 15:58:52.02 ID:tVlz6Vfe0
ミチ〜ユメの間のお話となります

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木曜の夜には誰もダイブせず @ 2024/04/17(水) 20:05:45.21 ID:iuZC4QbfO
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いろは「先輩、カフェがありますよ」【俺ガイル】 @ 2024/04/16(火) 23:54:11.88 ID:aOh6YfjJ0
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【MHW】古代樹の森で人間を拾ったんだが【SS】 @ 2024/04/16(火) 23:28:13.15 ID:dNS54ToO0
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こんな恋愛がしたい  安部菜々編 @ 2024/04/15(月) 21:12:49.25 ID:HdnryJIo0
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【安価・コンマ】力と魔法の支配する世界で【ファンタジー】Part2 @ 2024/04/14(日) 19:38:35.87 ID:kch9tJed0
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アテム「実践レベルのデッキ?」 @ 2024/04/14(日) 19:11:43.81 ID:Ix0pR4FB0
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エルヴィン「ボーナスを支給する!」 @ 2024/04/14(日) 11:41:07.59 ID:o/ZidldvO
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2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/01/16(水) 15:59:49.56 ID:tVlz6Vfe0
太一「今まで、ずっと隠していたんだ」

太一「お前に振られて、それでもやっぱり好きで」

太一「そんな想いを隠したまま、稲葉と付き合っていた」

太一「だけどやっぱり」

太一「俺は、永瀬伊織の事が本気で好きだ」

放課後のある日。

彼はそう言った。
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/01/16(水) 16:01:27.47 ID:tVlz6Vfe0
【稲葉】

四度目の現象【感情伝導】が終わり、文研部にも平和な日々が戻ってきていた。

そんな日常を満喫しよう、と稲葉姫子は部室で騒ぐ面々を見ながら心中思う。

稲葉「おいお前ら、少しは静かに落ち着いてって事ができねえのかよ」

作業が思いのほか進まず、多少の苛立ちを込めながらアタシは言った。
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/01/16(水) 16:01:54.88 ID:tVlz6Vfe0
青木「って言っても、稲葉っちゃん! こんな平和な日々を謳歌せずどうしろって言うのさ!」

稲葉「お前はどうせ、夏休みも補習だろ? 今から勉強でもしといたらどうだ」

青木「え? 俺が補習ってどこで聞いたの!?」

大げさなリアクションを取りながら、青木は言う。

稲葉「んなもん、少し考えれば分かるだろ。 なあ皆?」

アタシは他の【仲間】に向け、そう放つ。
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/01/16(水) 16:02:21.61 ID:tVlz6Vfe0
伊織「ま、そりゃそうだろうね。 青木が補習じゃないって方が驚きかも」

唯「そうそう、あんたが補習って言っても私たちは「ああ、へえ」くらいにしか思わないわよ」

青木「ちょ、ちょっとそれは酷くない!? 俺、これでも頑張ってるんだからさぁ!」

太一「……頑張ってる奴が補習を受けるとは思わないが」

青木「太一も! そのぼそっとしたツッコミ、結構心に来るものあるんだよ!?」

本当に、愉快な奴らだ。
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/01/16(水) 16:02:49.04 ID:tVlz6Vfe0
こいつらに出会えて、心底良かったと思う。

アタシが今ここでこうして居るのも、こいつらのおかげだろう。

伊織「稲葉ん、どうしたの?」

少しだけ物思いに耽っていたのが、何か考えている様に見えたらしく、伊織が問い掛けてきた。

稲葉「ああ、いや。 何でもない」

それを適当に誤魔化す。 お前らと出会えて本当に良かった! 等と正面から言える訳が無い!

伊織「ふぅ〜ん」

伊織はアタシの顔を見たまま、口角を少しだけ上げた。 何か嫌な予感がする。
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/01/16(水) 16:03:14.94 ID:tVlz6Vfe0
伊織「稲葉〜ん。 もしかして、また太一の事を考えてた?」

こいつは、アタシと太一が付き合い始めてから時々こんな感じでいじってくる。

それが嫌という事でも無い。 無いんだけど、なんか……恥ずかしい。

稲葉「べっ、別に何でもいいだろ!」

唯「もう、惚気もそろそろ面倒になってきたわね……」

少し呆れながら、唯は言う。

太一「な、永瀬。 あまりそう言うのは好ましくない……と言うかなんと言うか」

稲葉「そうだぞ伊織! ……って、太一はアタシとベタベタするのは嫌、なのか?」

太一「い、いや! そういう事を言ってるんじゃない!」
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/01/16(水) 16:03:40.51 ID:tVlz6Vfe0
伊織「で、出たよ。 デレばん」

稲葉「でも、今「好ましくない」って……」

太一「違う! それは永瀬の稲葉に対する態度って意味で、俺が稲葉とベタベタするのが嫌って意味じゃない!」

青木「でもさ、ベタベタしたいって事でも無いんでしょ?」

唯「あーあ、稲葉かわいそー」

何か妙な流れになって来たが……別にいいか、このまま行けば太一は恐らく。

伊織「ほら、稲葉ん落ち込んじゃってるよ」

唯「これはあれだね、言うしか無い! って奴かな!」
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/01/16(水) 16:04:07.54 ID:tVlz6Vfe0
太一「言うって、何をだよ」

青木「決まってるじゃん! 太一が思ってる事をだよ」

太一「俺が、思っている事……」

いいぞ、いいぞ。 良い流れになって来た。

太一「俺は……その」

太一「稲葉と、ベタベタしたいぞ!」

おし来たっ!
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/01/16(水) 16:05:06.38 ID:tVlz6Vfe0
【唯】

学校から帰る途中、今日あった事を思い出すと少しだけ顔がにやけてしまう。

今日は本当に楽しかった! あれ? 今日も、だね。 うんうん。

それにしても……デレデレな稲葉、可愛かったなぁ!

……その後、青木が「唯! 俺達もこんな感じに!」って言って来たのがアレだったけど。

あたしも青木が嫌って訳じゃないんだけど……むしろその、何と言うか。

って何考えてるのあたし!
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/01/16(水) 16:05:33.65 ID:tVlz6Vfe0
っはあ〜。 何かあれね。 太一と稲葉を見ていると……よく分からないけど、あたしも頑張らなきゃって感じになるのよね……

何をどう頑張ればいいのか何て、分からないけどさ。

その時、ふと鞄の中で何かが揺れているのに気付いた。

何かって、携帯しかないけど。

あたしは鞄から携帯を取り出し、画面を見つめる。

表示されている名前は……八重樫 太一。

どうしたんだろ? 太一から電話って結構珍しいかも。

少し疑問に思いながら、あたしは電話を取る。
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/01/16(水) 16:06:03.37 ID:tVlz6Vfe0
唯「もしもし、太一?」

太一「おう、桐山か」

唯「うん、太一から電話って珍しいね。 何かあった?」

あたしが言う【何か】とは、遠まわしに一連の事件の事を匂わせている。

勿論、直球で言う事は無いけど……

太一「あー。 多分、桐山が思っている事とは違うから大丈夫だ」

それなら、良かった……のかな?
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/01/16(水) 16:06:30.77 ID:tVlz6Vfe0
太一「ちょっと話がしたいんだ。 二人で」

唯「あ、あたしと?」

太一「ああ、桐山と」

これ、もしかしてデートのお誘い?

……そんな訳ないよね。 無い無い。

って事は相談? 言い辛い事?

太一「桐山?」

返事をしないあたしを不審に思ったのか、太一が再度私の名前を呼ぶ。

唯「あ、えっと……うん。 大丈夫だよ」

ついつい、オーケーしてしまった。
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/01/16(水) 16:06:57.89 ID:tVlz6Vfe0
稲葉にばれたら後が怖い……ばれないように、しないと。

……ばれないようにって、やっぱりこれってデートのお誘い?

きゃー! 何考えてるのよ太一は!

い、稲葉と言う彼女が居ながら、あたしもなんて! ありえない!

で、でもまだそうと決まった訳じゃ……

けど、やっぱりそう意識すると……ってもう考えない! 稲葉は親友だし太一も親友だ! 信じないと!

周りから見れば一人で騒いで、さぞ愉快な光景だったかもしれない。

それがまた恥ずかしくて、あたしは軽く慌てながら、足早に一度家に向かった。


1話 終
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/01/16(水) 17:41:56.99 ID:hBQ7gN520
ココロコネクトか
期待期待
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/01/17(木) 00:15:02.32 ID:fYn0mp8+0
ココロコのss少ないから頑張ってほしい
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/17(木) 05:32:35.76 ID:VwhhPZ2DO
TOKIOの話かと思って永瀬じゃねーよ長瀬だよって突っ込もうとしたら違った
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/01/18(金) 12:56:58.14 ID:4EryAb4W0
【伊織】

伊織「ふぃ〜」

伊織「今日も楽しかったなぁ」

私は、本当に仲間に恵まれた。

唯に、青木に、稲葉んに、太一。

この五人が揃っていれば、何でも出来る気さえしている。

事実……
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/01/18(金) 12:57:25.24 ID:4EryAb4W0
【人格入れ替わり】では太一に助けられて。

【欲望解放】では稲葉んと心が通じ合って。

【時間退行】では唯と青木が通じ合って。 私も皆に助けられて。

【感情伝導】ではどん底に居た私に何度も手を差し伸べて、救ってくれた。

あれ、何だよ私。 助けられてばっかじゃん。

でも、暗い気分にはならない。

どっちかと言えば、むしろ良い気分だ。

ついこの間まで、どん底に居たとは思えない程……気持ちは晴れている。
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/01/18(金) 12:57:53.81 ID:4EryAb4W0
もうすぐ、私たちも二年生になる。 また一年、この仲間達と過ごせると思うと……最高の気分だ。

もしかすると、また【現象】は起きるかもしれない。

だけど、皆と一緒なら……何だって乗り越えられる。

これからも、ずっと。

そんな事を思いながら、夜空を眺めていたとき。

ポケットの中で携帯が鳴っているのに気付いた。

誰だろう? 稲葉んかな?

いつもこのくらいに電話をしてくるのは、決まって稲葉んだ。
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/01/18(金) 12:58:24.34 ID:4EryAb4W0
なら、ちっと驚かせてみようかな。

私は画面を見ずに、電話を取る。

伊織「おおっす! 稲葉んちっす!」

青木「え、ああごめん。 青木だけど」

しかし、私の予想とは裏腹に……電話を掛けて来たのは青木だった。

伊織「あれ? なんだ青木かぁ」

青木「いきなりそれは酷くね!? てか稲葉っちゃんと間違えたって事はもしかして伊織ちゃん、俺の事登録してなかったりする!?」

伊織「いやいや、一応しているよ、一応」

青木「その一応っての、滅茶苦茶引っ掛かる言い方なんだけど!?」
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/01/18(金) 12:58:54.08 ID:4EryAb4W0
うん、やっぱり青木は面白い。 面白いし、良い奴だ。

それに、青木が言う「登録してない?」ってのは逆を言えば稲葉んも登録されていないって事じゃないか。 それは無い、絶対に。

伊織「ふふふ、まあそれは置いといて」

青木「置いておかれるのは俺的に納得できないんだけど……まあいっか」

伊織「うんうん、それでこんな時間にどうしたのさ?」

青木「ああ、そうだった。 遅い時間で悪いんだけどさ」

青木「今から、会って話せないかな?」

何だろう? と言うか今から?

伊織「明日じゃ駄目? 夜遅いし……それに、青木の家と私の家って近い訳でも無いよね」

青木「その点は大丈夫! 今伊織ちゃんの家の近くだし!」

伊織「ええ!? ストーカー!?」
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/01/18(金) 12:59:21.33 ID:4EryAb4W0
青木「たまたまだよ! 本当は今から家に帰る予定だったんだけど、そういえば伊織ちゃんここら辺に住んでるんだっけか。 って思ってさ」

伊織「うーん、まあいいけど。 特別だぞっ!」

青木「りょーかいりょーかい、悪いねこんな時間に」

本当に、何だろうか?

青木から話があるってだけでも珍しいのに、こんな時間に急にだなんて。

よっぽど重要な事なのだろうか? もしかしてまた……ふうせんかずら?

いや、それは無い……と思う。
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/01/18(金) 12:59:48.03 ID:4EryAb4W0
【感情伝導】が終わったばかりじゃないか。 立て続けに【現象】が起きた事は今まで無い。 だから大丈夫。

こんな風に心配する辺り、やっぱり普通とは私達、ずれちゃってるなぁ。 と思う。

仕方ない事だけど、こんな心配せずに、皆と仲良く出来たらなと期待していた。

あ、ちょい時間掛かりすぎた? 青木が待ってるみたいだし、とっとと行ってあげないと。

少しだけ慌てて、私は家の外へと繋がる扉を開いた。
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/01/18(金) 13:00:26.41 ID:4EryAb4W0
【稲葉】

今日もまた、騒がしい一日だった。

自室にあるソファーへと横たわり、アタシはそんな風に一日を振り返っていた。

もうすぐ、入学して一年が経つのか……長いような短いような、不思議な感じだ。

つうか、一年前のアタシからしたら、今のアタシの姿は想像すらしなかっただろうな。

自然と顔が綻ぶ。 色々あったなぁ。

仲良くなって……【現象】が起きて、何回も崩れ掛けた。

怖かった。 本当に恐ろしかった。 壊れそうだった。
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/01/18(金) 13:01:57.90 ID:4EryAb4W0
でも、皆が居てくれた。

伊織が居てくれた。

あいつは本当に強いと思う。 アタシなんかよりよっぽど。

強いけど、脆くもある。

助け合って、傷付けあって。 一緒に居る。

あいつは大切な仲間であり、親友。

唯や青木だって、とても強い人間だと感じる。

本人達の前では言わないが、あいつらはお似合いだと思っていたりもする。

……まあ、アタシは一度、そんな風に決め付けて失敗しているし、今回は見守ろうと思っているが。
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/01/18(金) 13:02:30.18 ID:4EryAb4W0
それでも唯の好意は、誰もが分かっている筈。 青木はどうか知らん。

二人とも、芯が強く……また、大切な仲間だ。

それに……太一。

お人好しで、バカで、自己犠牲野郎で。

でも、格好良い……最高の男だ。

な、何考えてるんだよアタシは。 気付けば一人でたそがれてるとか恥ずかしすぎだろ!

まあいい! つーか、何か忘れてる気がするな。

今日言おうと思っていた事があったはず……なんだけど。
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/01/18(金) 13:02:56.67 ID:4EryAb4W0
稲葉「やばいな、アタシとした事が」

稲葉「文研新聞、作ってねえじゃねえか!!」

ついつい声を張り上げてしまう。

それが聞こえたのか、ドアを開けながら兄貴が顔を出してくる。

「どうした姫子? 急に声張り上げて」

稲葉「っるせえよ! 何でもねえ!」

稲葉「つうか、勝手にドア開けてんじゃねえよ!」

ああくそ、今日は調子が変な方向に行ってしまっている。

それより、明日こそ文研新聞の話題出さないと、あいつら覚えてすらいないだろうな……
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/01/18(金) 13:03:25.38 ID:4EryAb4W0
昨日は結局、すっきり眠れた。

騒いだから、だろうか? ま、そんな事はどうでもいい。

今は放課後、今日こそ文研新聞製作を始めなければ。

稲葉「んで、本題に入りたいんだが」

そう言い、部室にいる奴らに目を向ける。

いち……に……うん。
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/01/18(金) 13:03:51.19 ID:4EryAb4W0
稲葉「何で揃ってねえんだ!」

伊織「うおっ! 今日は最初から飛ばすねぇ。 稲葉ん」

唯「と言うか、最近一人でボケて一人でツッコミしてる気が……」

稲葉「まあいい。 いや、良くはねえけど」

稲葉「で伊織に唯、あいつらから何か聞いてるか?」

伊織「いやぁ……まあ」

唯「う、うん……あ……んー」

こんな感じで、二人共に何故か言い辛そうにする。
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/01/18(金) 13:04:19.01 ID:4EryAb4W0
稲葉「なんだ、聞いてるならさっさと吐け」

伊織「ちょっと言い辛いと言うか、なんと言うか」

唯「あ、あたしも……」

埒が開かない。 強制的に言わせるか?

稲葉「なら、そうだなぁ。 伊織の秘密から次の記事に載せるとするか」

伊織「わ、わたしから!? ……分かったよう。 言えばいいんでしょ」

そう言うと、渋々と言った感じで伊織は口を開く。
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/01/18(金) 13:05:03.19 ID:4EryAb4W0
伊織「実はさ……昨日の夜に、青木から電話があって」

唯「え? 青木から?」

伊織「うん、そだよ」

唯「ええっと、あたし……実は太一から電話があったんだ」

稲葉「太一から? まさかお前……」

唯「ち、ちがうちがう! 稲葉が考えてる事は一切! これっぽっちも無いから安心して!」

稲葉「まあ、後でじっくり聞くとして伊織……続けてくれ」

伊織「う、うん」

伊織「青木がね、妙に真剣な雰囲気だったんだよ」

稲葉「あの青木がねぇ……」
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/01/18(金) 13:06:00.27 ID:4EryAb4W0
伊織「私も最初は、変だなぁとは思っていたけど」

伊織「次に言った言葉で、更にこいつはおかしいと思った訳さ」

唯「何て言ったの? 青木は」

伊織は心底言うのが嫌そうに、こう言った。

伊織「俺、稲葉っちゃんの事が好きかもしれない」

伊織「って言ったんだよ」

何かがずれる音が、聞こえた気がした。

2話 終
つづく
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/18(金) 13:17:24.27 ID:9slhW3mco
難易度高そうだな
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/18(金) 14:22:57.99 ID:HFri7LKr0
国分と長瀬のホモじゃないの?
36 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/18(金) 14:37:41.30 ID:4EryAb4W0
このスレタイだとTOKIOネタになる事を>>17のおかげで気付けた

>>35
ホモちゃいます!
37 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/18(金) 15:09:34.58 ID:4EryAb4W0
【唯】

え? 青木が……稲葉の事を好き?

唯「……ええっと」

伊織「ほら、こんな空気になるじゃん! だから嫌だったのに」

あ、頭が追いつかない……どういう意味?

稲葉「ちょい、ちょい待て」

稲葉も大分、動揺している様子だった。

稲葉「えー、つまり。 伊織の言っている事を整理するとだな」

稲葉「青木は、アタシの事が好きになった」

稲葉「それも、友達とかでは無く……恋愛対象として」

稲葉「って事か?」
38 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/18(金) 15:10:47.09 ID:4EryAb4W0
伊織「そう! さすが稲葉んだよ」

稲葉「さすがじゃねえよ! どんなトンでも状況だよそりゃ!」

伊織「あっはっは、だよね〜」

唯「だよねじゃないって! 伊織、それは確かなの!?」

あたしもやっと、頭の整理が付いて来た。

多分、稲葉が一度まとめてくれたおかげだろう。 感謝しないと……

伊織「私も訳分からないよ。 でも青木はそう言ってたの」

稲葉「はあ……全くもって意味が分からない……が!」

稲葉「一旦、青木の話は置いておこう。 まだ聞くべき話が残っているしな」

伊織「えーっと。 なんかあったっけ?」

稲葉「唯の話だよ。 何かあったんだろう?」
39 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/18(金) 15:11:18.59 ID:4EryAb4W0
あー。 そう来ちゃったか……

でも、そうだよね。 これもちゃんと言わないと。

唯「わ、分かったわ。 落ち着いて聞いてね」

伊織「任せなさい!」

稲葉「ああ」

唯「ええと、昨日……実は太一と二人で話したんだ」

稲葉「……ほう?」

だ、だから落ち着いてって言ったのに。 稲葉の視線が怖すぎる!
40 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/18(金) 15:11:47.21 ID:4EryAb4W0
唯「そ、それで。 太一はあたしにこう言ったの」

唯「俺、永瀬の事がやっぱり好きだ」

唯「って……」

あたしは話終わり、びくびくとしながら稲葉の顔色を伺った。

当然、怒っているんだと思った。 いつもみたいに。

でも稲葉は……今までに見たことが無いほど、悲しい顔をしていた。

今にも泣き出してしまいそうな、そんな顔。

あたしはこの時、言ってしまったのを酷く後悔する。

事実とはいっても……友達を、稲葉姫子と言う人を……こんな顔にさせてしまった事を。
41 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/18(金) 15:12:30.43 ID:4EryAb4W0
伊織「稲葉ん、大丈夫……?」

稲葉「ん、ああ。 うん……大丈夫だ」

すかさず伊織がフォローを入れる、本当にこの子は強い。

数分、もしかしたら数十分? 沈黙が部室を包む。

その沈黙を最初に破ったのは、稲葉だった。

稲葉「……つうか、変じゃないか?」

伊織「……稲葉んもそう思う?」

唯「あ、あたしも。 何かおかしいと……思う」

この状況を【変】と思っていたのは、どうやら皆一緒だった様で、ちょっとだけ安心した。
42 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/18(金) 15:13:07.20 ID:4EryAb4W0
稲葉「すまんな、アタシとした事がショックが大きすぎて……頭がうまく回らなかった」

伊織「いいっていいって! 稲葉んは悪く無いんだし」

唯「そうよ! 悪いのは青木と太一! ……って断言できればいいんだけど」

稲葉「そう簡単に行く話でも、ねえんだよなぁ」

そう、この状況は明らかにどこかおかしい。

それはつまり……ふうせんかずらの引き起こす【現象】の可能性が出てきたからだ。
43 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/18(金) 15:13:40.13 ID:4EryAb4W0
伊織「また……なのかな」

稲葉「考えたくは無いが、な」

唯「でも、考えないと! 先に進まないと……」

稲葉「言うようになったじゃねえか、唯も」

稲葉に褒められて? あれ、これって褒められてるんだよね? どうか分からないけど……少し嬉しかった。

そのまま稲葉は机を一度叩き、声を挙げる。

稲葉「とりあえず! 状況を整理するぞ」

稲葉「まず、恐らく異変が起きているのは青木と太一の二人だ」

稲葉「その内容だが……」
44 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/18(金) 15:14:20.69 ID:4EryAb4W0
伊織「二人とも、好意を抱いている人が変わった? って所かな」

稲葉「それが一番可能性がありそうだな」

唯「あ、ちょっといいかな」

稲葉は声は出さず、顎で言ってみろと合図してくる。

唯「ええっと、少し言いにくいんだけどね」

唯「太一は、昔は伊織の事を好きだったんだよね?」

伊織「そう! あの時は稲葉んに勝ってたというのに……」

シクシク、と効果音が出てもおかしく無いほどの泣き真似だった。

稲葉「結果的にアタシの勝ちなんだよ、結果が全てだ結果が」

伊織「むむむ、いつか泣かせてやる!」

稲葉「既に泣かされた様な気もするけどな」
45 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/18(金) 15:15:10.49 ID:4EryAb4W0
二人の会話はよく分からなかったけど、愉快そうに笑う二人を見て、本当に仲が良いんだなとあたしは思った。

稲葉「ああ、悪いな唯。 それで?」

唯「うん、それで思ったんだけど」

唯「昔の想いが上書きされる現象……って事は無いかな?」

伊織「昔の想いが……上書きされる?」

稲葉「なるほど、確かにあのクソ野郎が好きそうな現象だな」

稲葉「でも、まあ無いだろう。 それは」

唯「えー。 結構考えたのに!」
46 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/18(金) 15:15:55.77 ID:4EryAb4W0
稲葉は一度咳払いをすると、再び口を開く。

稲葉「考えてもみろ」

稲葉「太一は確かに、前まで伊織の事が好きだった。 それは流石に否定しねえよ」

稲葉「けど、青木は前からずっと唯の事が好きだったろ?」

唯「あ、確かにそうね」

伊織「言葉にはできず、密かに稲葉んの事を想う青木……しかし、それは実らない恋!」

伊織「寝る時いつも想う。 俺は姫子、お前の事が一番……って痛いっ!」
47 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/18(金) 15:16:31.13 ID:4EryAb4W0
稲葉「おいこら、変なナレーションするんじゃねえ」

相変わらず、稲葉のツッコミは華麗だ。

稲葉「……でも、もしそれがマジなら相当キモイぞ」

伊織「いやいや、流石に冗談だよ。 青木は唯一筋! って皆知ってるでしょ?」

稲葉の引きっぷりはマジだった。 別にそこまで嫌がらなくても良いと思うんだけど……

稲葉「話がずれたな、と言う訳で唯が提案した【現象】では無いとアタシは思う」

伊織「そだね、私も違うと思う。 別に唯を否定するって意味じゃないよ?」

唯「うん、分かってる。 そう言われると、これだ! って感じじゃないしね」

でも、そうなるとどういう【現象】なのだろう?
48 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/18(金) 15:17:13.39 ID:4EryAb4W0
稲葉「となると……そうだな、一番可能性がありそうなのはこれか」

独り言とも取れる声量で、稲葉は呟いていた。

稲葉「【好意を抱いている対象をランダムに変える現象】ってのはどうだ?」

伊織「なるほどお、確かにしっくり来るかも……」

唯「……そうね。 それなら青木と太一がいきなりおかしくなったのも納得できるし」

稲葉「とりあえずは、さっきアタシが言った【現象】だと仮定して対策をするぞ」

やっぱり、こういう時の稲葉は本当に頼りになる。 でも……この【現象】って、どう対処すればいいの?
49 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/18(金) 15:17:46.94 ID:4EryAb4W0
【伊織】

稲葉ん、本当に大丈夫かな……

唯も勿論、心配だけど。

さっきの話を聞いた時の稲葉んの顔を見たら、こっちまで胸が張り裂けそうな気持ちになってしまった。

……今はとにかく、どう【現象】を回避するか考えないと!

稲葉「とは言ってもだな……特にする事は無いな」

唯「え? する事が無いって言うのは?」

稲葉「ほっときゃ良いんだよ。 特にアタシと伊織でな」

伊織「……あ、そういう事か!」
50 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/18(金) 15:18:18.71 ID:4EryAb4W0
唯「え、何々? 言ってる事が分からないんだけど!」

伊織「つまり、好意を無視すればいいんだよ。 そうすればその内元通りになる訳でしょ?」

稲葉「そういう事だ。 まあ青木はウザそうだが……いや待てよ、いっそどこかに監禁しておくか?」

唯「い、稲葉それはやり過ぎ……」

伊織「よし、そうと決まれば楽だね」

伊織「私と稲葉んで太一と青木にアプローチされても「断固拒否」の姿勢をすればいいだけだから」

伊織「唯に嫉妬されるかもしれないけど……」

唯「しないわよ! 青木に何て言われようと何とも思わないし!」
51 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/18(金) 15:18:58.13 ID:4EryAb4W0
伊織「ほほう。 そこで青木の名前が出てくる辺り……怪しいですなぁ」

唯「〜〜! 全っっっ然! そんな事ないんだから!!」

稲葉「おいおい、その辺にしておけよ」

ちぇ、稲葉んに怒られちった。 唯をいじるの楽しいんだけどなぁ。

稲葉「しっかし、ふうせんかずらの奴は何やってるんだ。 そろそろ来ても良い頃合だと思うんだが」

唯「そうよね、いつもならここで」

伊織「……どうも……こんにちは」
52 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/18(金) 15:19:32.47 ID:4EryAb4W0
伊織「みたいな感じでね」

稲葉「お前はっ! 変な奴の真似するんじゃねえよ!」

伊織「ご、ごめんごめん。 もうしないから叩かないでー!」

稲葉「本物だと思っただろうが! ええ!?」

唯「……ふうせんかずらより、稲葉の方が恐ろしいかも」

稲葉「何か言ったか? 唯」

唯「い、いえ何も!」

あはは、やっぱり皆と居ると楽しい。

今回の【現象】も、問題無くやっていけそうな気さえしてしまう。

違う、問題無く終わらせるんだ。 それが一番いい。
53 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/18(金) 15:20:18.02 ID:4EryAb4W0
稲葉「一応、あいつらにも説明はしておくべきだろうし……明日無理矢理にでも連れて来るか」

唯「うん、私もそれが良いと思う」

稲葉「ならそうだな、伊織……太一を連れて来い。 明日の放課後」

伊織「わ、私?」

稲葉「そうだよ、今は仮にも【現象】が起きてたまたま太一が伊織に惚れているんだしな」

稲葉「言っとくが、これは【現象】のせいだからな」

伊織「そんな何回も言わなくたって分かってるよ、太一が愛してるのは稲葉んだけだ」
54 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/18(金) 15:20:50.54 ID:4EryAb4W0
稲葉「う、うん」

うわぁ、乙女モードに入った稲葉んはやっぱり可愛いなぁ。

こんな稲葉んを放置するなんて、太一は一体何考えてるんだか!

まあ、今は【現象】が起きているし、仕方ないのかな……

唯「えっと、ちょっといいかな?」

伊織「どうかした? 唯」

唯「うん、えーっとね」

唯「今は太一が伊織に……その、惚れているから伊織が連れてくるんだよね?」

稲葉「ああ、そうだ」

唯「って事は、青木は稲葉に惚れてるから……稲葉が連れてくるって事でいい……んだよね?」
55 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/18(金) 15:21:24.61 ID:4EryAb4W0
なるほどなるほど、確かにその通り。

稲葉んもそれは分かってた上で私に話を振ったんだろうな。

稲葉「……マジかよ」

あ、あはは。 分かってなかったみたいだ。

伊織「唯、その通りだよ!」

伊織「私は太一に惚れられちゃってるから連れて来る」

伊織「稲葉んは青木に惚れられてるから連れて来る」

伊織「稲葉んもこれで問題ないよね?」

今がチャンスと言わんばかりに私は畳み込む。
56 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/18(金) 15:21:52.52 ID:4EryAb4W0
稲葉「だー! くそ! 分かったよ、やればいいんだろ!?」

伊織「んふふ、宜しく〜」

その後、稲葉んは「なんでアタシが……」とか「やっぱり太一を無理矢理……」とか呟いていたけど、明日するべき事はもう決まってしまったのだ。

稲葉んも気持ちをようやく切り替えたのか、口を開く。

稲葉「あーそういや」

稲葉「一応、名前だけでも付けておくか。 今回の【現象】」

唯「うん、そうだね。 その方が使いやすい……ってのは悪い言い方だけど、呼びやすいしね」
57 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/18(金) 15:22:18.42 ID:4EryAb4W0
伊織「名前……かぁ」

稲葉「うーん……」

稲葉「気持ちが変わる……って事だよな」

稲葉「感情……感情、変わる」

稲葉「ああ」

稲葉「【感情転換】ってのはどうだ?」

伊織「お、いいね」

唯「あたしも、それでいいと思う」

稲葉「よし、じゃあ決定だな」
58 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/18(金) 15:22:44.56 ID:4EryAb4W0
稲葉「それじゃあ、明日……伊織は太一を連れて来る、アタシは青木を連れて来る……不服だが」

稲葉「そういう事で、今日は解散だ」

そうして私達はまたしても、ふうせんかずらが起こす【現象】へと巻き込まれていく。

でも、もう大丈夫だ。

今回のなんて、稲葉んが言うように徹底的に好意を無視していれば問題なんて無いんだから。

だからと言って、心配事が無い訳では無い。
59 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/18(金) 15:23:12.88 ID:4EryAb4W0
稲葉んは強く居ようとしていたけど、多分……今にも挫けそうになっている筈。

唯もいつもより動揺しているのが分かった。 そりゃ、青木がいきなり稲葉んの事が好きなんて言うからだけど。

二人とも、辛いと思う。

だから、だからこそ私が強く居なければ。

二人を支えなければ、永瀬伊織が。

稲葉ん、唯。

今度は私が、助ける番だよ!

私はそう、強く決意する。

3話 終
つづく
60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/01/18(金) 17:32:44.78 ID:VasquIec0
面白い
頑張って完結まで頼む!
61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/19(土) 01:29:07.65 ID:YDWAhwA30
太一と伊織がくっつく話だと思ったら何やら不穏な空気が
稲葉ん頑張れ
62 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/19(土) 14:19:29.20 ID:ATg+Wzvi0
【太一】

どういう訳か、俺は一昨日……桐山に変な話をしてしまった。

稲葉と付き合ってから、そんな日にちは経っていない。

なのに「永瀬の事が好きなんだ」とか言っている自分が嫌いで仕方ない。

だが、それは俺の本心でもあった。

何故急に? と言われれば、それは多分「付き合ってみて分かった」と言う事になるのだろうか。
63 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/19(土) 14:19:56.04 ID:ATg+Wzvi0
本当に最悪じゃないか、俺。

しかし、こんな気持ちを抱いたままでは稲葉とは上手くやっていけないに決まっている。

それが多分……稲葉の為でもあるし、俺の為でもあるのだろう。

……いや、稲葉の気持ちを踏み躙っている時点で、俺の為だけかもしれない。

今日は朝からずっと気分が落ち込んでいる。 まあそれも俺のせいなのだが。

桐山に、言うべきでは無かったのかもしれない。
64 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/19(土) 14:20:21.48 ID:ATg+Wzvi0
もしかすると、もう稲葉の耳には入っているかもしれないから。

……何だ俺は? 稲葉にばれるのを恐れているのか?

なら最初からそんな気持ちを抱くな、希望を抱くな。

もう言ってしまったんだ。 振り返るな。

前に、進まなければ。

伊織「太一、ちょっといいかな?」

急に後ろから声を掛けられた。 俺が気付いていなかっただけかもしれない。
65 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/19(土) 14:20:50.37 ID:ATg+Wzvi0
太一「永瀬か、どうした?」

伊織「そりゃ、こっちの台詞だよ。 太一」

伊織「昨日も部室に来なかったし……今日は来るよね?」

そういえば、昨日は何だか顔を合わせるのが嫌でそのまま帰ってしまった。

……今日くらいは一応、顔を出しておくかな。
66 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/19(土) 14:21:17.61 ID:ATg+Wzvi0
太一「ああ、今日は行くよ」

伊織「うん、それなら良いんだ」

そういう永瀬は、やはり可愛かった。
67 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/19(土) 14:22:23.47 ID:ATg+Wzvi0
授業の内容はあまり頭に入って来ず、気付けば放課後になっていた。

足取りは重いが……部室に行かなければ。

そう思い、席を立つ。

伊織「よし、んじゃ行こっか」

俺は小さく返事をして、永瀬の後に付いて行った。

……保護者の後を付いて行く子供の気分が少ししたが、口には出さない。
68 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/19(土) 14:23:18.59 ID:ATg+Wzvi0
伊織「……太一はさ」

太一「ん?」

伊織「いや……やっぱりいいや、なんでもない」

太一「お、おう。 そうか」

何だろうか、少しだけ悲しい顔をしていた様に見えたが……それもまた、口には出さない。
69 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/19(土) 14:24:32.77 ID:ATg+Wzvi0
【唯】

稲葉と伊織は二人を呼びに行ってるから当然っちゃ当然なんだけど……

唯「一人だと流石に、寂しいなぁ」

また変な【現象】に巻き込まれてしまったけど、今回は大丈夫だよね?

あたしはまだ良い。 青木とは付き合っている訳でも無いし……自分の気持ちにもまだ整理は付いてなかったから。

……悲しいって気持ちは勿論あるけど。
70 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/19(土) 14:25:11.11 ID:ATg+Wzvi0
そんな時、とても嫌な想像をふとしてしまった。

全身に鳥肌が立つのがすぐに分かる。

もし、もしこれが【現象】では無かったら?

青木も、太一も……本気でこの前の電話の様な事を言っていたら?

それは……想像すらしたくなかった。

まだそうなったと決まったと訳じゃ無いけど、あたしは多分大丈夫。

何日かは気分が落ち込んじゃうかもしれないけど、前よりは強くなったと思っているから。
71 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/19(土) 14:25:55.51 ID:ATg+Wzvi0
でも、

もしそうなったら、

稲葉はどうなってしまうのだろうか?

唯「ダメダメ! マイナス思考は無し! プラス思考で行かないと!」

と一人でやっていたら、部室の扉が開いた。

伊織「ちーっす! 八重樫太一、連行して参りました!」

太一「俺は犯罪者かよ」
72 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/19(土) 14:26:35.74 ID:ATg+Wzvi0
太一は、見る限りいつも通りと言った感じだ。

本当に、不思議なくらいいつも通り。

唯「稲葉はまだ来てないわよ、もうすぐ来るとは思うけど……」

伊織「そっかぁ」

伊織はそう言うと、いつも座っているソファーに腰を掛ける。

そのまま近くにあった漫画を取ると、そのままの姿勢で漫画を読み出した。

太一「……なあ、桐山」
73 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/19(土) 14:27:10.21 ID:ATg+Wzvi0
太一が伊織には聞こえない様に、小さな声で話しかけてくる。

唯「どうかした?」

あたしも一応、それに合わせて返答をする。

太一「この前の電話の事、言ってないよな?」

ど真ん中に放り投げてくるなぁ。 太一は。

あたしがなんとか誤魔化そうとした時、声を出したのは伊織だった。

会話が聞こえていたのか、それとも偶然か、伊織はこう言った。
74 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/19(土) 14:27:43.50 ID:ATg+Wzvi0
伊織「そういや太一」

いつもとは違い、冷えきった声。

伊織「唯に、ふざけた事言ってたらしいね」

さっきはいつも通りだとは思ったけど、とてもじゃない。 伊織は怒っているのだ。

明らかに動揺した太一に、一応手を合わせて謝る素振りはしておく。

太一「……聞いたのか」

伊織「一応、ね」

唯「……ごめん」
75 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/19(土) 14:28:37.54 ID:ATg+Wzvi0
たまらず、太一に謝る。

伊織「唯は悪くないよ、悪いのはあいつだから」

一瞬、太一に言ったのかと思ったけど、そうでは無いらしい。

多分、ふうせんかずらに対して言っているのだろう。

伊織「それで太一、何でそんな事を言ったの?」

伊織は漫画から目を逸らさずに、太一へ向けて言う。
76 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/19(土) 14:29:13.87 ID:ATg+Wzvi0
太一「それは……」

伊織「それは?」

太一「……俺が」

最後まで言う前に、再び扉が開く。

現れたのは、稲葉と……青木だった。

稲葉「伊織達はもう来ているな」

伊織「お疲れー」

さっきまでの雰囲気はどこへ行ったのか、普段と同じ伊織がそこには居た。
77 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/19(土) 14:29:41.03 ID:ATg+Wzvi0
そして、それぞれがいつもの席へと座る。

口火を切ったのはやはり、稲葉だった。

稲葉「それじゃ、全員集まった事だし話を始めるか」

青木「えーっと、話って何? 何か大事な話?」

太一「文研新聞じゃないか?」

本当に、普段と変わらない空気がしている。 今が【感情転換】の最中だとは感じさせない程に。
78 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/19(土) 14:30:08.64 ID:ATg+Wzvi0
稲葉「ああ、それもあるんだが……今日は違う」

稲葉「【現象】の事についてだ」

青木「それってもしかして、あの【現象】の事だよね……?」

伊織「それ以外に何があるって言うのさ」

太一「って事は……誰かに何かが起きた、のか?」

この男は、本気で言っているんだろうか。

まさか、自分でも気付いていない?
79 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/19(土) 14:30:36.37 ID:ATg+Wzvi0
唯「起きているのは太一と青木よ、自覚無いの?」

太一「俺と青木が? 特におかしい事なんて無いと思うけどな……」

その言葉で、稲葉の顔が少し歪む。

なんか、イライラしてきたぞ。

唯「あるでしょ! 急に青木が稲葉の事を好きとか言ったり、太一が伊織の事を好きとか言ったり!」

伊織「ゆ、唯。 ちょっと落ち着いて」
80 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/19(土) 14:31:04.82 ID:ATg+Wzvi0
またやってしまった。 すぐ頭に血が昇るのは悪い癖かもしれない。

太一「ええっと、つまり俺と青木がおかしいって言うのは……そういう事か?」

青木「でも、この稲葉っちゃんを好きって言う気持ちが【現象】のせいだなんて、信じられない……なぁ」

稲葉「キモイ事を言うなアホ木。 お前に言われても嬉しく無い。 不快。 キモイ」

青木「そこまで言う!? きっついなぁ」

それを見て、あたしは理解する。

青木は本気で、稲葉の事が好きなんだと。

それが例え【感情転換】のせいであっても。
81 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/19(土) 14:31:42.34 ID:ATg+Wzvi0
稲葉「……にしても」

稲葉「お前ら本当に自覚が無いんだな。 思ったより面倒臭そうだ」

太一「まあ……だな。 それより」

太一「ふうせんかずらは、来たのか?」

稲葉「いいや、まだ来ていない。 そろそろ来てくれないと本当に面倒なんだけどな……来てくれと言っているみたいで癪だが」

体を冷たい空気が包む。

次いで、扉がゆっくりと開く。

ああ、やっぱり。

やっぱりそういう事なんだ。

そいつは前触れ無く、なんとも無いようにやってきた。
82 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/19(土) 14:32:35.42 ID:ATg+Wzvi0
「……どうも……お久しぶりです……」

「……あれ、つい最近会ったので久しぶりではないですね……」

稲葉「ちっ。 やっぱりテメェの仕業か」

「……ああ……やっぱりそうなっちゃいます……?」

唯「当たり前でしょ! こんな変な状況、あんたが絡んでいるとしか思えないのよ!」

「……それにしても……皆さん本当に面白い……」

話はどうやら通じない。 いつもの事ながら。

稲葉「それで、差し詰め今回は【感情転換】って言った所か?」

「……感情転換……?」

稲葉「そうだ、テメェが起こしてる【現象】だろ」

「……ああ……そういう事ですか……なるほど……」
83 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/19(土) 14:33:03.97 ID:ATg+Wzvi0
稲葉「もういい、話を変える。 今回もまた面白くなくなるまで、続くのか?」

「……どうでしょう……?」

伊織「どうでしょうって、何それ」

唯「どうせなら、キチンと説明くらいしなさいよ」

「……説明……と言われましても……ねえ……」

「……ですが……さっき稲葉さんが言った奴……感情転換、でしたっけ……」

「……それは中々面白そうですね……」
84 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/19(土) 14:33:30.33 ID:ATg+Wzvi0
おもしろ、そう?

面白そうとは、どういう意味?

稲葉「……何を言ってやがる。 アタシの予想が間違っていたか?」

「……面白い予想ですけど……違いますね……」

伊織「じゃあ、一体どんな【現象】なの?」

「……何か勘違い……してないですか……?」

勘違い……?
85 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/19(土) 14:34:07.16 ID:ATg+Wzvi0
稲葉「どういう、事だ」

「……ですから……僕は何もしていませんよ……?」

「……皆さんが勝手に面白くなっていたので……見学させてもらいますって……挨拶をしに来ただけですよ……」

どういう事……?

ふうせんかずらは何もしていない?

つまり、つまりは【現象】も起きていない?

それは、さっきあたしが想像した最悪のパターンではないか。
86 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/19(土) 14:34:34.81 ID:ATg+Wzvi0
稲葉「おい……何だよ、それ」

稲葉「何もしていないなら、何で太一と青木はこんな風になってるんだよ!」

「……僕に聞かれましても……」

「……と言う事で、僕に答える事は出来ませんね……それでは……」

それだけ言い残し、ふうせんかずらは部室を去る。

唯「どういう事、なのよ」

伊織「何もしていないって……」

伊織「【現象】は起きていない……って事?」

ふうせんかずらを信じるなら、そうなる。
87 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/19(土) 14:35:02.73 ID:ATg+Wzvi0
唯「で、でも……あいつが嘘を付いているって事も!」

稲葉「……今までの事からして、可能性は限りなく低いだろうな」

稲葉「重要な事で嘘は付かない。 ましてや【現象】が起きていないなんて、嘘を言う必要があるか?」

唯「……だけど!」

そこからの言葉は出なかった。

それは皆も一緒の様で……

部室を沈黙が包んだ。

4話 終
つづく
88 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/19(土) 17:32:27.92 ID:ATg+Wzvi0
【稲葉】

まさかとは思っていた。

その可能性も、あるのでは無いか? と。

だけど、こんなのって……普通じゃねえだろ。

【欲望解放】の時、アタシの気持ちを伊織が悟って……背中を押してくれて。

太一に告白して。

それから随分時間が経って。

太一は「付き合おう」と言ってくれた。

本当に、嬉しかった。
89 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/19(土) 17:32:55.50 ID:ATg+Wzvi0
伊織も自分の事は気にするなと言ってくれた。

太一も伊織と自分の恋は未熟だったんだと教えてくれた。

それで、アタシも安心して太一との距離を縮めていた。

なのに、何だよこの状況は!

これが【現象】じゃない? つまり太一の気持ちは本物?

なら、アタシはどうすればいいんだよ。
90 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/19(土) 17:33:30.63 ID:ATg+Wzvi0
伊織「……稲葉ん」

静まり返った部室の中で、伊織がアタシに声を掛ける。

伊織「大丈夫、だから」

そう言い、暖かい手でアタシの頬に触れる。

稲葉「何してんだよ、伊織」

言ってから気付いた。 泣いてるのか、アタシは。

いつもと声が違って震えている。 なんだよったく。
91 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/19(土) 17:34:00.23 ID:ATg+Wzvi0
伊織「大丈夫、絶対に」

少しだけ語気を強め、伊織がそう言ってくる。

稲葉「なに深刻な顔してんだよ、んな弱くねえよ」

唯「稲葉……」

唯まで、なんだよ。

お前だって辛いだろうが。 なのにアタシの心配なんかしてんじゃねえ。

言おうとしたが、声にならなかった。
92 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/19(土) 17:34:34.84 ID:ATg+Wzvi0
太一「やっぱり、そうか」

太一がそう言い、席を立つ。

太一「これは【現象】なんかじゃなかったんだ」

おい、何を言うつもりだ。

太一「俺は」

やめろよ、言うな。 せめてアタシが消えてからにしてくれ。

太一「永瀬の事が」

ダメ、やめて。 お願い。 お願いだから。 どんな顔すればいいのかわからないから。

やめて。
93 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/19(土) 17:35:07.15 ID:ATg+Wzvi0
太一「好きだ」

胸の奥で、壊れる音がした。

頭の中でも。

皆の顔が、よく見えない。

……見えないんじゃない、見ようとしてないだけか。

せめて、家まで。

稲葉「……悪い、今日は帰る」

何とかそう言い、席を立つ。

太一以外の全員が、何か言っているが耳には入ってこない。

もう、終わりだ。

振り返らず、廊下に出る。
94 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/19(土) 17:35:46.16 ID:ATg+Wzvi0
アタシが馬鹿だった。

太一と付き合えて、浮かれていた。

すぐ壊れてしまう物に、ぬか喜びしていた。

やはり、この世界は敵だらけだ。

だけど、少し。

稲葉「……きっついなぁ」
95 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/19(土) 17:36:20.26 ID:ATg+Wzvi0
【伊織】

稲葉んが部室から出て行く。

無理も無い、好きな人が目の前であんな事を言ったのだから。

ふうせんかずらは「何もやっていない」と言った。

つまり、これは太一自身の意思?

ああ、そうかよ。 そういう事かよ。
96 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/19(土) 17:36:47.98 ID:ATg+Wzvi0
伊織「ふっざけんなよ!!」

叫び、太一の胸倉を掴む。

唯「ちょ、ちょっと伊織!?」

唯の声が聞こえるが、無視。

伊織「なんなんだよ! お前は何がしたいんだよ! 八重樫太一!!」

青木「い、伊織ちゃん? 落ち着いて!」

青木が私を引き剥がそうとする。

伊織「お前もだ! ずっと、ずっと唯の事が好きとか言って、何今更言ってんだよ!」
97 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/19(土) 17:37:21.05 ID:ATg+Wzvi0
気圧されたのか、青木は私を掴んでいた手を離す。

青木「そんな事……言われたって」

何だよ、こいつらは。

太一「違う! 俺は……俺は」

申し訳無さそうに、太一が言う。

太一「……ごめん」

伊織「……謝らないでよ。 そんな言葉、聞きたく無いよ」

何もかもがおかしい。

狂っているのだ。
98 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/19(土) 17:37:47.51 ID:ATg+Wzvi0
誰が? 太一と青木が?

それとも、私達が?

違う、違う。

全部が、狂っているんだ。

伊織「……私も、今日は帰る」

今は一人で居たかった。

でも、私にはやらなきゃいけない事がある。

今にも壊れてしまいそうな親友を、助けないと。

黙って、部室を後にした。
99 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/19(土) 17:38:27.33 ID:ATg+Wzvi0
【唯】

散々だった。

太一も、青木も、正常だと言われて。

でも、これのどこが正常なのだろう?

あたしから見たら、とても正常には思えなかった。

稲葉と伊織が帰った後、部室に残っていたあたし達も今日は帰る事になった。

こんな状態で活動できる訳が無い。 全員がバラバラなのだから。

帰り際、太一に声を掛けられる。
100 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/19(土) 17:38:54.62 ID:ATg+Wzvi0
太一「すまん桐山、ちょっといいか?」

何を言うのだろうと思う。 また変な事を言うのでは無いだろうか?

だけど、やっぱり太一が思っている事も聞きたい。

あたしはその呼び掛けに応じる事にした。
101 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/19(土) 17:39:30.49 ID:ATg+Wzvi0
帰り道の途中にある公園に、あたしと太一は居る。

始めに口を開いたのは、太一だった。

太一「悪いな、こんなことになって」

唯「……悪いと思ってるなら、言わなきゃ良かったでしょ」

ついつい、口が悪くなってしまう。

太一「……すまん」

その言葉本当に申し訳無さそうで、あたしも勢いを失ってしまった。
102 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/19(土) 17:39:58.47 ID:ATg+Wzvi0
唯「太一……はさ」

唯「本当に、伊織の事が好きなの?」

唯「稲葉の事は……好きじゃないの?」

その質問に、太一はゆっくりと返す。

太一「……正直に、言った方がいいよな」

唯「当たり前でしょ」

小さく頷き、太一は続ける。
103 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/19(土) 17:40:28.73 ID:ATg+Wzvi0
太一「……分からないんだ」

唯「何よ……それ」

視線を地面に落としたまま、太一はまた口を開く。

太一「俺も、稲葉達に説明されて【現象】のせいだと思っていた」

太一「稲葉の事は本当に、好きだった」

太一「……だけど、俺も良く分からないんだ」

太一「永瀬の事が好きって気持ちも……あるから」

唯「でも、それは友達として……って事じゃないの?」

太一「……それが、分からない」

そんな事言われたって、あたしの方が訳分からないよ……太一。
104 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/19(土) 17:41:12.95 ID:ATg+Wzvi0
唯「一つ、いいかな」

太一は声を出さず、小さく頷いた。

唯「伊織の事も、よく分からないんでしょ?」

唯「なら、どうして部室であんな事を言ったの?」

唯「稲葉の気持ちが、理解できない訳じゃないよね」

そうだ、太一は稲葉の前で……伊織の事が好きと言った。

もし変な答えを出したら……ぶっ飛ばしてやる。
105 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/19(土) 17:41:41.01 ID:ATg+Wzvi0
太一「そ、それにはちゃんと理由があるんだ!」

唯「理由? どんな理由?」

太一「……信じてくれるか分からないが」

太一「頭の中で、声が聞こえたんだ」

頭の、中で?

唯「ちょ、ちょっと待って」

唯「それって……」

まさか。
106 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/19(土) 17:42:06.13 ID:ATg+Wzvi0
太一「ああ……【欲望解放】の時と、同じだった」

唯「なんで……どうして」

ふうせんかずらは、何もしていないと言っていたのに。

つまりはあれが嘘?

それとも、これは太一の言い訳?

太一「本当なんだ」

今回の事について、どうしたら良いのか分からない。

でも、まずは。

唯「分かった、太一の事を信じるわ」

友達を……仲間を信じる事から始めよう。
107 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/19(土) 17:42:33.24 ID:ATg+Wzvi0
唯「仲間、だからね」

太一「そうか、ありがとう」

太一は嬉しそうに、笑ってくれた。

少しずつ、一連の事を氷解していこう。

また、皆で仲良く出来ると信じて。

太一「……お前、どうして」

太一の顔が急に険しくなる。

唯「あ、あたし?」
108 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/19(土) 17:43:03.81 ID:ATg+Wzvi0
そう言ってから気付いた。 太一の目線はあたしの後ろに向けられている。

急いで振り向くと、一番会いたくない奴がそこに居た。

「……どうも」

「……と言っても……先程も会いましたけどね……」

唯「ふうせんかずら……!」

何を言いに来た? 確かに見学させてもらうと言っていたけど、立て続けに姿を現すなんて。

「……いやぁ……八重樫さんの体験した事についての……説明、ですね……」

太一「……俺が?」

唯「そ、それって。 太一と青木がおかしくなった事?」
109 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/19(土) 17:43:32.51 ID:ATg+Wzvi0
「……いえいえ」

「……桐山さんが思っている事とは……違います」

「……あれ……ですが……八重樫さんと青木さんがおかしいのは事実ですよね……」

「……でもそれは絡んでいないですし……ああ……また無駄な事を」

あたしと太一が口を挟む前に、ふうせんかずらは続ける。
110 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/19(土) 17:43:59.71 ID:ATg+Wzvi0
「……話を戻しますね」

「……八重樫さん……頭の中で、声が聞こえませんでした……?」

太一「声……やっぱり、あれは」

「……そうです」

「……【欲望解放】と……一緒ですよね」

唯「そん……な」

唯「……あれは、終わった筈でしょ!」

「……まあそうなんですが……」

「……僕もただ見ているより……少しは今の面白い状況を更に面白くしようと思いまして……」
111 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/19(土) 17:44:27.46 ID:ATg+Wzvi0
「……事実……面白いことになっていますしね……」

「……喋りすぎましたかね? ……疲れたので僕は帰ります……」

唯「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」

ふうせんかずらは、足を止めた。

唯「あ、えっと」

予想外で、言葉がうまく出てこない。

「……ああ……大丈夫ですよ」
112 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/19(土) 17:45:00.77 ID:ATg+Wzvi0
「……前回よりは……起こる回数は抑えてあるので……安心してください」

「……後、対象者は『青木さん』と『八重樫さん』のみとなっています……」

「……それと、僕の名誉の為にも言っておきますが……」

「……桐山さんが言う、『青木さんと八重樫さんがおかしい』についてですが……」

「……これに僕は……一切関与してませんので」

「……それでは、また……」
113 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/19(土) 17:45:44.01 ID:ATg+Wzvi0
それだけ言うと、ふうせんかずらは視界から消えた。

何をどう、安心しろと言うのだ。

太一「……くそ」

太一「……皆にも、話しておいた方が良さそうだな」

唯「……ううん、話すのは青木だけにしておいた方が良いと思う」

唯「伊織も稲葉も、今は……」

今二人に話しても、言い訳だと捉えられてしまう可能性の方が高そうだし。 何より……
114 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/19(土) 17:47:00.61 ID:ATg+Wzvi0
太一「ああ、そうだな」

太一「……すまん」

唯「もう、いつまでも落ち込まない!」

唯「青木にはあたしが話しておくわね」

あたしがそう言うと、太一は小さくかぶりを振る

太一「俺が話すよ、青木には」

太一「桐山にばかり、迷惑を掛ける訳にはいかないから」
115 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/19(土) 17:47:27.50 ID:ATg+Wzvi0
そう言う太一は、本当にいつも通りの太一だった。

ここ数日の出来事なんて無かった様に思えるくらいに。

そんな顔を太一はしていた。

あたしは「そっか」と笑顔で返し、今日は別れる事となる。

一人、家に向かいながら思考する。

太一は、気付いているのだろうか?

今日の部室での出来事。

伊織に好きだと言った時、太一は【欲望解放】が起きていたと言っていた。

それが意味する事は。

つまり……

太一は本心から、伊織の事を好きと言っていたのだ。


5話 終
つづく
116 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/01/22(火) 01:49:29.07 ID:6WvUVGUc0
何か引き込まれる
続きwktk
117 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/22(火) 13:30:49.69 ID:trqX27U10
【青木】

自分でもよく分かっていない。

俺は、唯の事が好きだったのに。

好き、だった。

今まで唯に抱いていた気持ちが、全部……稲葉っちゃんに行ってしまったみたいに。

自分でもおかしいと思っている。

ふうせんかずらはあんな事を言っていたけど、俺は正直、信じたく無かった。
118 : ◆Oe72InN3/k :2013/01/22(火) 13:31:17.53 ID:trqX27U10
今までの気持ちは嘘だったのだろうか?

そんな筈は無い!

俺は、どうすればいいんだろうか。

考えても、分からない。 答えが出ない。

青木「……埒あかねー!」

俺は本当に、稲葉っちゃんの事が好き……なのか?

それすらも、何だか分からなくなってきた。

それに、何故か唯を見る度に胸を締め付けられるような痛さがする。
119 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/22(火) 13:31:46.02 ID:trqX27U10
青木「はぁ……」

と溜息を付いたのとほぼ同時に、携帯が鳴った。

誰か確認もせず、電話を取る。

青木「もしもーし」

太一「おう、青木か」

青木「太一? どうしたのさ、こんな時に」

こんな時か。 こうなったのも俺のせいだと言うのに。

太一「言っておかなきゃいけない事があってな」

太一「今から外、出れるか?」
120 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/22(火) 13:32:13.14 ID:trqX27U10
言われて時計に目を移す。

夕方とは言っても、まだ時間は早い。

飯時でも無いし、まあいっか。

それに、太一とは話しておきたい事もある。

青木「おっけー」

青木「んじゃ、川沿い行って青春するか!」

太一「はは、じゃあまた後でな」

そう言うと、太一は電話を切る。

さあて、何から話すべきか。

柄にも無く、話すべき事を整理しながら太一との待ち合わせ場所に向かった。
121 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/22(火) 13:32:44.68 ID:trqX27U10
河原沿いの、前に一度話した場所で太一は待っていた。

青木「わり、待たせちゃったかな」

太一「元々近くに居たしな、気にするな」

言ってから、これって何か恋人同士の会話みたいじゃね? って思う。

青木「それで、話って?」

俺がそう聞くと、太一は説明を始める。

内容は【俺と太一にだけ欲望解放現象が起きる】との事だった。

そしてやはり、俺と太一は勝手に面白くなっている。
122 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/22(火) 13:33:10.71 ID:trqX27U10
青木「そっかー。 また【現象】かぁ」

太一「ああ。 なんとかするしかない、よな」

青木「んだね」

寝そべり、少しだけ暗くなりつつある空を眺める。

青木「太一はさ」

青木「伊織ちゃんの事が好きって、本気なの?」

太一「……どうだろう」

青木「でも、さ」
123 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/22(火) 13:33:48.41 ID:trqX27U10
青木「【欲望解放】が起きて、太一はあれを言ったんだろ?」

青木「それなら、それは太一が思っている本心……って事だよな?」

俺はそう、太一に尋ねた。
124 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/22(火) 13:34:32.32 ID:trqX27U10
【太一】

そうだ。

あの時俺は、確かに【欲望解放】が起きていた。

それはつまり、俺のこの気持ちが本心からの物と言う事になるのだろう。

……本当に? 間違いなく? 絶対に?

俺は、稲葉の事を好きじゃないのか?

……分からない。

太一「すまん……やっぱり、うまく自分の気持ちが掴めていないかもしれない」

青木「そっか」

青木は依然、空を眺めたままだ。
125 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/22(火) 13:35:10.30 ID:trqX27U10
太一「とりあえずは、あれだよな」

太一「今日の事は、稲葉に謝った方が良いよな」

青木「……やめといた方が、良いと思う」

てっきり肯定すると思っていたが、すっぱりと否定されてしまった。

太一「どうしてそう思う?」

青木「そりゃー」

青木「太一の気持ちが、整理されてないからっしょ」

青木「そんな状態で稲葉っちゃんと話しても、余計に傷付けるだけだよ」
126 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/22(火) 13:35:52.01 ID:trqX27U10
もっともだった。

自分の気持ちすら理解できていないのに、稲葉の気持ち等、理解できる訳が無い。

青木「けどやっぱり、太一と稲葉っちゃんには仲良く居て貰いたいんだけどなぁ」

そう、青木は言った。

しかし、今の発言はおかしくないか?

太一「俺と稲葉が仲良くしてたら、お前はどうするんだよ」

少しだけ投げやりに、俺は青木にそう言う。
127 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/22(火) 13:36:22.95 ID:trqX27U10
青木「……あれ? 俺今おかしかったよな」

青木「稲葉っちゃんの事が好きなのに、太一と一緒に居て欲しい?」

青木「なんか良くわかんね〜! 考えすぎて頭痛くなりそうだ!」

俺は一人頭を抱える青木を見て、ひと言。

太一「気持ちに素直になればいいだろ。 青木ってそういう奴じゃなかったか?」

素直になればいい。

それは、俺にも言える事か。

青木「……そうだ」

青木「……そうだよ! 太一!」
128 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/22(火) 13:37:23.84 ID:trqX27U10
いきなり起き上がり、俺に迫りながら青木は言ってくる。

それに少々圧倒され、僅かに身を引きながら俺は答えた。

太一「そうだって、何がだ?」

青木「俺さ、考えたり悩んだりするキャラじゃねーって事!」

青木「自分の気持ちに素直に、最高に楽しく、今を生きるんだ」

そういう青木に、ここ数日の落ち込んだ気配は、一切感じられない。

これが俺の知っている、本来の青木だ。

……本来?

つまり、今の俺は本来の八重樫太一では、無い?
129 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/22(火) 13:37:52.22 ID:trqX27U10
青木「俺、行って来る」

青木「素直に、なってくるわ」

太一「そうか」

青木の顔は、晴れ晴れとしている。

俺もそれを見て、少しだけ気分が晴れた様な気がしていた。

走って行く青木の姿は、大きく、格好良く、強い。
130 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/22(火) 13:38:25.57 ID:trqX27U10
【伊織】

私は今、稲葉んの家に来ている。

インターホンを押したら、お兄さんが出てきて軽い挨拶をした。

お兄さんに「何かあったのか? また姫子が変なんだけど」と言われてしまい、少し誤魔化すのに苦労した。

少しだけ怪しい目で見られたけど、今はそんな事……気にしていられない。

早く、早く会いたかった。

そのまま階段を上り、稲葉んの部屋の前へと着いた。

伊織「稲葉ん? 私だよ」

伊織「一人で来たんだけど、話……させて欲しいと思って」
131 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/22(火) 13:39:00.26 ID:trqX27U10
声が聞こえたのか、稲葉んは「入れ」と言ってくれた。

ドアを開け、部屋の中へと入る。

稲葉「よう、悪いな心配掛けて」

見るからに元気が無さそうで、目は真っ赤になっている。

それを見て、自分の事では無い筈なのに胸が苦しくなった。
132 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/22(火) 13:40:01.87 ID:trqX27U10
稲葉「まさか、アタシが引き篭もる側になるとはねぇ」

稲葉んは私に心配掛けまいと、いつも通りに振舞っている。

でもそれは、軽く押したら壊れてしまいそうな……そんな感じだった。

けど、それを大事にしていてはいつまでも進めない。 歩けない。

だから私は、それを壊す。

伊織「稲葉ん、本当に大丈夫?」

私がそう聞くと、稲葉んは言った。

稲葉「んな事聞くなよ」

小さく笑いながら、続ける。

稲葉「キツイに決まってんだろ。 悲しいに決まってんだろ」

稲葉「怖いに……決まってんだろ」

稲葉んはそう言うと、一筋……涙を流した。

6話 終
つづく
133 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/22(火) 22:11:08.41 ID:qTKLMQqN0
134 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/23(水) 15:03:11.91 ID:mXpLyQWK0
>>133
乙ありがとうございます。


何話まで行くか自分でも分かりませんが、投下していきます〜
135 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/23(水) 15:03:38.35 ID:mXpLyQWK0
【唯】

やっぱり、太一と青木に異変が起きているのは……アイツが絡んでいるんじゃ無いだろうか?

それに……【欲望解放】を起こしていると言っていたし。

イマイチ、信用ならないんだよなぁ。

……考えても分からないよ。

伊織は多分、稲葉の家に行っているんだろう。

今回の件で一番傷付いているのは、稲葉だろうから。

それを放って置く伊織では、無い。
136 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/23(水) 15:04:04.92 ID:mXpLyQWK0
でも、やっぱりあたしも……

って、何考えてるのよあたしは!

青木の事なんて別に……なんとも思ってないし!

にしても、本当にあの二人……太一と青木はどうしてしまったんだろう?

太一と稲葉に至っては、見てる方が恥ずかしくなるくらいベッタベタだったのに。

それに、太一の行動は絶対におかしい。

あんな事、する奴では無い……多分。
137 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/23(水) 15:04:32.44 ID:mXpLyQWK0
あー! ダメダメ! 考えてても埒開かない!

そんな事を一人で考え、ベッドの上でゴロゴロとしていた時。 ドアの外から妹の声が聞こえてきた。

要約すると「お客さんが来ている」「もしかして、彼氏さん?」との事だった。

前者は良いとして……後者は無い、絶対に無い!

それより、彼氏と間違えるって事は……太一か青木?

でも、太一とはさっき話したばかりだし……青木、かな?
138 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/23(水) 15:04:59.34 ID:mXpLyQWK0
あたしは何故か、少しだけ緊張しながら階下へと向かった。

一応、外に出られるくらいの格好はしておいたので、何かあっても安心だ。

……何がどう安心なのかは、分からないけど。

そのまま玄関へ向かい、ドアを開く。

目の前には、やっぱり予想通りの人物が居た。
139 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/23(水) 15:05:25.31 ID:mXpLyQWK0
青木「こんな時間にごめん」

青木「唯に話したい事があるんだ」

あたしの顔を見るなり、青木はすぐにそう言った。

いつもの少しふざけた感じとは違い、真剣な時の青木だ。

これは流石に、断れないかな。

唯「うん、分かった」

唯「ここだとあれだし、場所変えて話そうか」
140 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/23(水) 15:05:51.17 ID:mXpLyQWK0
あたしがそう言うと、青木は「おう」と笑顔で言ってくれた。

話って何だろう? 多分、今回の一連の事について……だよね。

目的地を決める訳でも無く、あたしと青木は歩く。

何か話題でも振ろうかと思ったけど、今は青木の話を待とう。

少しだけ前を歩く青木の顔は、何かを決意したような……そんな顔だった。

それからしばらく歩き、公園が見えてくる。

示し合わせた訳でも無く、二人で公園へと足を向けていた。

公園に入って数歩行った所で、青木は立ち止まる。
141 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/23(水) 15:06:17.73 ID:mXpLyQWK0
青木「俺さ」

青木「最近、自分の気持ちが分からなくなってるんだよね」

背中を向けたまま、青木は言った。

唯「それは、見てれば分かるわよ」

青木「だよなぁ」

青木「今日、太一と話してさ」

青木「あいつも結構悩んでるみたいだった」
142 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/23(水) 15:06:44.57 ID:mXpLyQWK0
唯「……でしょうね。 稲葉に酷いこと、言っちゃってたし」

青木「そうそう」

青木は空を見上げ、続ける。

青木「それで色々話してさ、俺が何て言ったと思う?」

青木が、何て言ったか?

数秒考えるが、分からない。

唯「……」

あたしが押し黙っているのが伝わったのか、青木はあたしの方に振り返り、口を開いた。
143 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/23(水) 15:07:48.71 ID:mXpLyQWK0
青木「太一と稲葉っちゃんには仲良く居て貰いたいんだけどなぁ」

青木「って言ったんだよ、俺」

顔に少しだけ笑みを貼り付けながら、そう言った。

唯「で、でも。 あんたは今……稲葉の事が」

そうだ。 青木は今、稲葉の事が好きだと言っている。

なのに、なんで。
144 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/23(水) 15:08:37.80 ID:mXpLyQWK0
青木「うん、でも無意識の内にって言うか……言ってたんだよ」

唯「……そう」

青木の事が、本当に分からなくなってきた。

青木「勿論、太一にも突っ込まれたよ。 そこは」

青木「それで俺も分からなくなっちゃってさ、自分の事なのに」

あたしの方が余計に分からないとは、言えなかった。

青木「だから、自分の気持ちに素直になろうと思ったんだ」

唯「素直に、かぁ」

青木「それで唯に会いに来た」
145 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/23(水) 15:09:04.91 ID:mXpLyQWK0
青木は、はっきりとあたしの顔を見て、そう言った。

唯「でも、それは稲葉でも良かったんじゃない?」

ついつい、きつく当たってしまう。

本当は、こんな事言いたくないのに。

青木「さっき言ったじゃん、自分の気持ちに素直になるって」

唯「……うん」
146 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/23(水) 15:09:30.85 ID:mXpLyQWK0
青木「俺がもう一度考えてさ、今一番会いたい人は誰なのか考えた」

青木「で、すぐに答えは出たんだよ。 本当にすぐ」

青木「俺は、唯に会いたかった」

さっきまでとは違い、空気が引き締まるのを肌で感じる。

青木は、本気だった。

唯「な、何よそれ。 稲葉の事が好きなのに、あたしに会いに来たって言うの?」
147 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/23(水) 15:10:50.81 ID:mXpLyQWK0
青木は一度地面を見つめ、次に顔をあげる。

その顔には、迷いなんて無かった。

青木「唯を好きな時、こんなに思い悩まなかった。 唯だけを見ていられたから」

青木「でも、稲葉っちゃんを好きになった時、唯を見ると何故か苦しかった」

青木「それは、本当の気持ちだと思う。 どっちの俺も、自分自身だから」

青木「こんな事言ったら、何様だと思われるかもしれないけど」

青木「それでも、言います」
148 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/23(水) 15:11:19.16 ID:mXpLyQWK0



青木「俺にとっての一番は、桐山唯……あなたです」


149 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/23(水) 15:11:46.36 ID:mXpLyQWK0
マズイ、マズイマズイ。

恥ずかしい、こんな格好いい青木、見たことない。

というか、なんか泣きそう。

唯「……今更でしょ、そんなの」

あたしは青木の顔を見る事が出来ず、顔を逸らしながらそう言う。

青木「うん、今更だけど……手遅れじゃないって、思う。 多分」

唯「……そこは断言しなさいよ、バカ」
150 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/23(水) 15:12:18.58 ID:mXpLyQWK0
ああ、ダメだ。 零れてしまう。

青木「ゆ、唯? どうしたの?」

うう、ばれてるじゃないか。

唯「何でも無いわよ! あんたが急に変な事言い始めて、今もまた変な事言い始めて!」

唯「今更言うのも変! 泣いてるあたしを心配するのも変!」

青木「泣いてるのを心配するのもダメなの!?」

唯「うるっさいのよ! 青木のくせに……バカ」
151 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/23(水) 15:12:46.03 ID:mXpLyQWK0
青木は、はっきりと言ってくれた。

それならあたしも、伝えないと。

唯「……でも、全然手遅れじゃないわよ」

声は青木には到底及ばないけど、それでもしっかりと、その言葉は伝わっていた。

青木「ありがとう、唯」

青木「……あれ、これってもしかして、今告白したらオッケーってなる感じ?」

唯「なる訳無いでしょ!」
152 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/23(水) 15:13:13.59 ID:mXpLyQWK0
ほんっとに、バカなんだから。

でも、良かった。 いつもの青木に戻ってくれて。

……いつものって、あたしは何を期待しているんだろう?

いつまでも返事を待たせて、それで他の人を好きになったって言われて。

でもそれを普通では無いと思って。

……変なのは、あたしか。
153 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/23(水) 15:13:41.21 ID:mXpLyQWK0
青木「いやぁ、なんかはっきりと唯に言ったらさ」

青木「すげーすっきりしたって言うか、なんだろこれ」

唯「……すっきりかぁ」

青木「うん、やっぱり俺……唯の事が好きだ!」

青木「本当に好きだ!」

唯「ちょ、ちょっと何やってるのよ。 叫ばないでよそんな事」

青木「もう絶対に忘れないようにしておかないと、ダメなんだよ」

唯「……本当に、バカなんだから」
154 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/23(水) 15:14:09.30 ID:mXpLyQWK0
ごめんね、青木。

いつまでも待たせてしまって、ごめん。

そろそろあたしも、悩んでいられない。

もう少しだけ、本当にもう少しだけ。

答えを待ってください。

7話 終
つづく
155 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/23(水) 15:14:40.16 ID:mXpLyQWK0
それと今更ですが、ミチ〜ニセの間でした。
156 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/24(木) 17:56:46.24 ID:deCIdAjN0
【稲葉】

伊織が来てから、一時間程経っただろうか。

アタシが思っている事をぶつけ、少しだけすっきりと出来たかもしれない。

でも、それは本当に少しだけ。

口を開けば、ろくでも無い事を言ってしまう。

稲葉「にしても、良かったな」

伊織「良かったって、何が?」

アタシの言葉に、伊織が少しだけ怪訝な顔をしながら聞いてくる。
157 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/24(木) 17:57:14.61 ID:deCIdAjN0
稲葉「勝負はどうやら、お前の勝ちだったみたいじゃないか」

稲葉「だろ? 伊織」

伊織「勝負って……稲葉ん、それって……太一の事、でいいよね?」

稲葉「ああ、そうだ」

こんな事言って、自分でも最低だとは思う。

けど、それくらいしか楽になる方法は無かった。

そして予想通り、伊織の顔は瞬く間に赤くなっていく。
158 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/24(木) 17:57:44.28 ID:deCIdAjN0
伊織「稲葉ん……それ、本気で言ってるの?」

そのまま胸倉を掴まれる。

まあ、そりゃそうだ。 怒るよなぁ、こいつは。

稲葉「本気だ」

これで終わる。

やっぱりアタシは、一人で居るべきなんだ。

高望みなんて、するべきじゃなかったんだ。
159 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/24(木) 17:58:16.21 ID:deCIdAjN0
伊織「だったら」

伊織「だったら何で、そんな悲しそうな顔をしているの?」

何を言っている? アタシは別に……

稲葉「どこがだよ」

稲葉「アタシよりお前の方が、悲しそうに見えるぞ」

伊織「稲葉んはさ」

伊織「自分の事、分かってないよね」
160 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/24(木) 17:58:42.44 ID:deCIdAjN0
伊織「私が今悲しんでいるのは分かってくれるのに、自分の事は分かってない」

稲葉「はあ? 自分の事だぞ。 一番アタシが良く理解している」

伊織「……言い方が、悪かったかな」

伊織「稲葉んは、理解しようとしていないんだ」

はっきりとアタシの目を見ながら、伊織はそう言った。

稲葉「……そんなこと、無い」

無い、無い、無い。

アタシは理解している、自分の事なんて。

確かに悲しい、それに寂しい、だけどそれは乗り越えるしか無い。

だからアタシは言ったのだ。 そうだ、自分の事は理解している。
161 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/24(木) 17:59:08.53 ID:deCIdAjN0
伊織「じゃあ、何で太一を諦めるみたいな事、言ったのさ」

稲葉「だって、そうだろ」

稲葉「あいつは伊織の事を好きって言ったんだぞ、アタシの前で」

稲葉「なら、そんなの諦めるしかないだろ」

そうだ、それしかない。

伊織「だから、そんな顔して言わないでよ。 稲葉ん」

伊織「もう少し……もう少し、自分に優しくなろうよ」
162 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/24(木) 17:59:36.32 ID:deCIdAjN0
アタシは一体、どんな顔をしているんだ。

ごちゃごちゃとした感情が、胸の奥で回っている。

自分に優しくなる? したい事をしろと、そう言っているのか?

もし、仮にそうしたとして……全てがうまく行く訳ないだろ。

伊織「何で諦めるのさ」

稲葉「だって、じゃあどうすれば……いいんだよ」
163 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/24(木) 18:00:08.43 ID:deCIdAjN0
稲葉「お前がもし、アタシの立場だったら……どうやって振り向かせようと思うんだよ!」

好きな人に、付き合っていた人に、目の前で違う人が好きだと言われた。

ギャグだろ、これは。 そんな奴、世界中探したってそんなに居ないぞ。

あぁ、なんか笑えてきたな。 ホントに。

伊織「やっぱり、稲葉んは凄い」

稲葉「……は?」

その言葉の意味が分からず、もしかしたら間抜けな顔をしてしまったかもしれない。
164 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/24(木) 18:00:39.48 ID:deCIdAjN0
稲葉「何が、どう凄いんだよ」

伊織「だって、逆の立場だったら私は……」

伊織「太一の事が好きって気持ちは、無くなってしまうだろうから」

伊織「でも稲葉んは、振り向かせるにはどうしたらいいかって聞いたよね」

伊織「それってつまり、太一の事がまだ好きって事でしょ?」

伊織「凄いよ、稲葉ん。 私はそんな稲葉んの友達で居れて、本当に嬉しいよ」
165 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/24(木) 18:01:06.44 ID:deCIdAjN0
言われて、分かった。

アタシは、好きだ。 太一の事が。

捨てようとしたけど、まだ残っているんだ。

しかし、それでどうしろって言うんだよ。

稲葉「でも、どうすればいいんだよ」

稲葉「太一は今、伊織の事が好きなんだろ」

稲葉「何をすればこっちを見てくれるかなんて……分からない」
166 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/24(木) 18:01:32.89 ID:deCIdAjN0
伊織「それでも、それでも諦めないのが稲葉姫子でしょ」

稲葉「……でも、またあの時と一緒じゃないか、これじゃ」

そう、これは一緒だ。

【欲望解放】の時と。

伊織「それが何? 振り出しに戻ったから何?」

伊織「それで諦める稲葉姫子なの?」

稲葉「けど、もうアタシは……」
167 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/24(木) 18:02:02.21 ID:deCIdAjN0
伊織「稲葉んは私に勝ったじゃん、あそこから勝ったじゃん」

伊織「私が負けたのが、今の稲葉姫子だとは思いたくないよ」

伊織「一回大逆転したんだよ。 ならもう一回しても、良いんじゃないかな」

稲葉「伊織……」

こいつはここまで、思ってくれているのか。

アタシは、好きだ。 太一の事が。

失うなんて……嫌だ。
168 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/24(木) 18:02:30.64 ID:deCIdAjN0
稲葉「……分かった、分かった」

稲葉「もう一度、してやるよ。 大逆転」

稲葉「けど、二回も逆転されて、自身を失うんじゃねえよ。 伊織」

伊織「えへへ、ご安心を!」

伊織「って、言っても……正直な話」

伊織「今の太一は、好きになれないかな……」

稲葉「そう、か。 まあ、そうだよな普通」

伊織「……うん。 でも稲葉んはまだ好きなんでしょ?」

稲葉「当たり前だ。 って言わせるなよ」
169 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/24(木) 18:02:57.14 ID:deCIdAjN0
言った後、少し恥ずかしくなった。 何言わせるんだこいつは。

伊織「えへへ、稲葉んは本当に、太一の事が好きなんだね」

稲葉「まあ、な」

何だよこの会話。

伊織「でも、そこまで行くとひょっとして……将来はストーカー?」

稲葉「お前なぁ……」

稲葉「なる訳ないだろ……アホ」

アタシの声は、震えていた。

伊織「えへへ」

稲葉「は、はは」

ああ、本当にどうしてこう。 良い親友が出来たのだろう。

伊織とは……いや、文研部の奴らだけとは、ずっと友達で居たいな。
170 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/24(木) 18:04:32.73 ID:deCIdAjN0
稲葉「この話はここまでだ。 そろそろ切り替えないと、な」

あまり恥ずかしい所は見られたくないのもあり、気持ちを切り替える。

伊織「うーん。 私が思うに」

どうやら伊織も、その気持ちを汲み取ってくれたらしい。 正直助かった。

これ以上あの話を続けていたら、どんな恥ずかしい事を言うか分かった物ではない。

伊織「やっぱり、おかしいと思うんだよね。 今の太一」

実際の所……アタシもそう思う。 だが、ふうせんかずらは関与していないと言っていた。
171 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/24(木) 18:04:59.20 ID:deCIdAjN0
稲葉「確かに、そう思うが」

伊織「う〜ん」

いくら考えても、答えなんて出ないだろうに。

だが、折角だし伊織に付き合ってやるか。

ゆっくりと、思い出す。

太一の事もあり、現状なんて全く考えていなかった。

それを今度はしっかりと思考する。

考えてみれば、引っ掛かることはいくつかあった。

予想以上にあっさりとした物で、自分でもついつい笑えてきてしまう。
172 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/24(木) 18:05:26.78 ID:deCIdAjN0
伊織「どしたの、稲葉ん。 何か分かった?」

稲葉「いや、そうだな」

稲葉「もしかすると、ってのは一つある」

稲葉「だけど、少し希望的観測過ぎるかもな」

伊織「……私はいくら考えても、その「もしかすると」さえ出てこなかったんだけど」

伊織が少しだけ茶化す様に、言った。

稲葉「たまたまだよ、それに伊織が来なかったら」

考えようともしなかった。 全てを投げ出していた。
173 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/24(木) 18:06:23.84 ID:deCIdAjN0
稲葉「いや、何でもない」

伊織「ふうん、そっか」

言わずとも理解したのか、伊織はいつもの笑顔でアタシの顔を覗き込んでいた。

伊織「それより! その「もしかしたら」って奴、教えて欲しいな〜」

稲葉「それはいいが、どうせなら唯も一緒がいいな」

伊織「青木と太一は?」

稲葉「あいつらに説明しても、また厄介な事になるから……今回は呼ばないでおこう」

伊織「確かに、言えてるかも」
174 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/24(木) 18:06:53.10 ID:deCIdAjN0
丁度その時、電話が振動する。

発信者は、唯か。 なんともタイミングが良い奴。

稲葉「唯か? どうした」

唯「……稲葉、大丈夫?」

ああ、こいつもアタシの事を気に掛けていたのか。

自分も、辛い筈なのに。

稲葉「心配するな、伊織に説教されたからもう大丈夫だよ」

唯「伊織が、そっかぁ……」

電話越しに、安心したといった感じの声で、唯はそう言った。
175 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/24(木) 18:07:18.46 ID:deCIdAjN0
稲葉「それより、お前こそ大丈夫なのか?」

唯「うん、私は大丈夫!」

いつもと同じ声、同じ強さの唯だった。

稲葉「そうか、それとなんだが」

稲葉「今から会って話しておきたい事がある、今伊織とは一緒なんだが」

唯「今から? なんかそういうのが多いわね、今日は」
176 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/24(木) 18:07:58.86 ID:deCIdAjN0
稲葉「ん?」

唯「あ、ううん。 こっちの話」

唯「大丈夫よ、私は」

稲葉「そうか、じゃあ今から伊織と一緒に向かうよ」

私は、という言い方に少し疑問があったが、まあ気にする事でも無いだろう。

そう伝え、電話を切る。

稲葉「おし、じゃあ伊織。 今から唯の所に行くぞ」

伊織「おっけー。 稲葉ん説が早く聞きたいねぇ」

稲葉「んな大した話じゃねえさ。 あんま期待すんなよ」

アタシがそう言うと、伊織はとても愉快そうに笑う。
177 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/24(木) 18:08:25.75 ID:deCIdAjN0
稲葉「何か面白い事でも言ったか? 今」

伊織「別に、そういう訳じゃないよ」

稲葉「ならどうしたんだよ」

伊織「いやぁ。 やっといつもの稲葉んに戻ってくれて、嬉しくてさ」

ああ、やっぱりこいつは……最高の親友だ。

アタシはそう思いながら「いいから行くぞ」と素っ気無く伊織を連れて行くのだった。

8話 終
つづく
178 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/25(金) 18:24:20.52 ID:u+eERo5q0
第9話、投下します。
179 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/25(金) 18:44:03.70 ID:u+eERo5q0
【稲葉】

唯"達"とはすぐに合流し、近くにあったファミレスで話し合っていた。

伊織に、唯に、アタシに……青木で。

稲葉「まず、一つ聞いていいか?」

唯「う、うん」

稲葉「何でコイツがここに居る?」

そう言いながら、青木を指差す。

別に居るのが嫌って訳では無い。 断じて。

しかし、今から話す内容はあまり本人達には聞いて貰いたく無かった。
180 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/25(金) 18:44:42.85 ID:u+eERo5q0
太一と青木は多分、アタシの予想が正しければ正常な状態では無い。

それにまた、太一みたいに「やっぱり本心だったんだ」みたいな事を目の前で言われたら、唯も酷く傷付くだろうから。

それだけは……避けたかった。

唯「え、ええっと。 これには事情があって……」

青木「というか、稲葉っちゃんはそんなに俺が居るの嫌なの!?」

稲葉「唯はよく、コイツに耐えられたな」

稲葉「一年近くも言い寄られて、正常な唯は凄いと思うぞ」

青木「あれ、もしかして無視されてる?」
181 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/25(金) 18:45:15.03 ID:u+eERo5q0
伊織「あはは。 何か青木はいつも通りって感じだねぇ」

伊織がふと、そんな事を言った。

なんとなく言ったのだろうが、一瞬置いて小さく「あ」と言ってバツが悪そうな顔をしている。

稲葉「それより! そろそろ話を始めるぞ?」

稲葉「出来れば、青木は居ない方が良かったんだが……まあ、仕方ないか」

青木「えーっと。 内容って結構マジな物だったりするんだよね? なら俺、一度席外そうか?」

稲葉「いや、いい。 と言うか……一応、話の中心は青木と太一になる訳だしな」

唯「稲葉、それってもしかして……」

稲葉「そうだ。 今回の青木と太一について……って所だな」
182 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/25(金) 18:45:41.83 ID:u+eERo5q0
アタシがそう言うと、唯は何故か……何かを期待した目でこちらを見てくる。

それは青木も同様で、まるで何かを隠している様な、そんな態度だった。

伊織も二人の変化に気付いたらしく、表情から少しだけ困惑が読み取れる。

唯「なら、あたしから一つ言っておきたい事があるの」

伊織「どしたの? 唯」

唯「あの、そのね」

唯「青木がね、告白してきたのよ!」
183 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/25(金) 18:46:42.55 ID:u+eERo5q0
通常なら、多分驚かない。

なんたってそれは、いつもの光景だから。 それが日常であったから。

青木が唯に告白をした。 それを聞いても、アタシと伊織は普段なら軽く流しているだろう。

しかし、今は普通では無い。 "非"日常だからだ。

伊織「え? 青木が……って唯、それホント!?」

稲葉「おい、ちょっと詳しく聞かせろ」
184 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/25(金) 18:47:17.23 ID:u+eERo5q0
その後、数十分掛けて唯と青木の話を聞く。

アタシは話を理解し、やはりこの考え……アタシの考えは間違っていたのでは無いか。 と思った。

伊織と一度顔を見合わせると、そのまま口を開く。

稲葉「まず、そうだな」

稲葉「もしかすると、アタシの考えは間違っているかもしれない」

稲葉「それでも……聞いてくれるか?」
185 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/25(金) 18:47:49.67 ID:u+eERo5q0
唯「勿論! ここで聞かないなんて言う奴が居たら、あたしがぶっ飛ばしてるわ!」

伊織「稲葉ん、もし稲葉んの考えが間違っていて……それで取り返しが付かない事になってしまっても、私は後悔しない」

伊織「それが稲葉んが考えて出した答えなら、もし間違えでも構わないよ」

青木「伊織ちゃんがそこまで言っちゃうと、俺は何を言えばいいのさ!」

青木「まあ、でも。 皆は稲葉っちゃんの事を信じてるし、稲葉っちゃんも信じてくれよ。 友達っしょ?」

稲葉「そう、だな」

稲葉「……よし、分かった。 話す」

稲葉「が、唯と青木が何か隠しているのは一旦置いておく、先にアタシから話すよ」
186 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/25(金) 18:48:15.64 ID:u+eERo5q0
青木が小さく「え? マジ……? 何で分かったの?」と言っているが、独り言の様だったので、とりあえずは無視。

話の不自然さから気付いた物だったが、今は言いたく無さそうだし、二人が話そうとしてくれるのを待った方がいいだろう。

稲葉「単刀直入に言うぞ」

三人が一際、緊張したのが伝わる。

無論、アタシも。

稲葉「アタシは……今回のは【現象】だと思っている」
187 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/25(金) 18:49:04.05 ID:u+eERo5q0
伊織「で、でも稲葉ん」

伊織「ふうせんかずらは【現象】では無いって……」

伊織「稲葉んの考えを否定するって、意味でも無いけど」

稲葉「いや、いいんだ」

伊織が言っている事はもっともだ。

けど、間違っている。

稲葉「……アタシ達は勘違いしていたんだよ。 その点、この考えが当たっていれば……見事アイツに嵌められたって事になる」

伊織「勘違い……?」

稲葉「ああ」

稲葉「奴の言った事を思い出してみろ」
188 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/25(金) 18:50:30.14 ID:u+eERo5q0
稲葉「アイツはこう言った「僕は何もしてない」ってな」

伊織「それは、覚えてるけど」

稲葉「不自然だろ、どう考えても」

先程から青木と唯は黙っている。 もしかしたら、こいつら。

伊織「え、ええっと。 ごめん、どこら辺が?」

稲葉「ふうせんかずらは何もしていないだよ、今回の事については」

稲葉「だけど、思い出せ」

稲葉「【時間退行】の時、アタシ達に【現象】を起こしたのは誰だ?」
189 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/25(金) 18:51:18.85 ID:u+eERo5q0
伊織「あ……!」

稲葉「確かに"ふうせんかずら"は何もしてないのかもな。 しかし【現象】が起きていないとは、ひと言も言っていないんだよ」

そう。 今回、ふうせんかずらは何もしていない。

何かをしているのは……二番目。

その結論に、アタシは行き着いた。

稲葉「正解なら、奴らの思い通りって所か。 癪だが」

伊織「そういう……事なのかな」

稲葉「可能性としては、な」
190 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/01/25(金) 18:51:46.08 ID:u+eERo5q0
稲葉「けど、腑に落ちない点はある」

稲葉「もしこれが【現象】だとしたら……青木はどうして自分の気持ちを捻じ曲げられたんだ?」

稲葉「それがよく分からないんだよなぁ」

今までの【現象】は絶対に逆らえない物だった。

【人格入れ替わり】を防げなかった様に。

【欲望解放】を抑えられなかった様に。

【時間退行】を止められなかった様に。

【感情伝導】を偽れなかった様に。

なのに、何故……青木は【現象】に逆らえたのだろうか?

それだけが、唯一引っ掛かっている。
191 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/25(金) 18:52:18.80 ID:u+eERo5q0
青木「あ、えーっと。 ちょっといいかな」

唯「ちょ、ちょっと青木!」

ようやく、二人が口を開く。

青木「でもさ、ここまでならもういいんじゃない? 大丈夫っしょ」

唯「まあ、そう……かも、しれないけど」

何やら相談をしている様で、やはりこいつらは何かを知っているのだろう。

稲葉「言いたく無かったら言わなくていいぞ。 無理に聞き出そうとは思っていないから」
192 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/25(金) 18:53:26.29 ID:u+eERo5q0
青木「いや……言うよ。 言わせてくれ」

伊織「おお、青木が格好よく見える!」

青木は少しだけ声量を抑え、続ける。

正確には、続けようとした。

それを聞くのは、ここではマズイ気が、少しした。

アタシは青木が口を開く前に、喋る。
193 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/25(金) 18:53:55.27 ID:u+eERo5q0
稲葉「あー。 場所、変えるか」

稲葉「あまり居座りすぎても、あれだしな」

稲葉「何より場所を移した方がいい気がする」

アタシがそう言うと、三人共に首を縦に振った。

ファミレスから出て、少しだけ歩く。

しばらく歩き、やがて見えてきた川沿いの土手に、4人で腰を掛けた。

青木「実は、唯に告白した後の事……なんだけどね」

座ってから少しして、青木は話を始めた。

9話 終
つづく
194 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/01/27(日) 16:42:48.31 ID:ZYAtZPR90
話数どのくらい?
稲葉んが辛そうで泣ける
195 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/28(月) 14:10:32.49 ID:fX+yL0lZ0
>>194
完全に自分のメモ帳化してますが、1スレ内には収まると思います。
30話前後程で完結するかと……

それでは10話、投下します。
196 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/28(月) 14:11:01.61 ID:fX+yL0lZ0
【伊織】

稲葉んの考え出した事には、本当に驚いた。

確かに、よくよく思い出せば……ふうせんかずらは【現象】を起こしていないとは、ひと言も言っていない。

それならば、その可能性に賭けて見るのもいいかもと思う。

いや、違うな。 可能性に賭けるのでは無く、稲葉んに賭けるんだ。

私はそんな事を思いながら、青木の話に耳を傾けていた。
197 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/28(月) 14:11:33.81 ID:fX+yL0lZ0
青木「実は、俺と唯が話し終わった後の事なんだけどね」

恐らく、青木が言っているのは「青木が唯に告白した」話の事だろう。

青木「アイツが来たんだよ……」

伊織「アイツ……?」

稲葉「おい、まさか」

唯「そうよ、ふうせんかずらが来たの」
198 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/28(月) 14:12:06.26 ID:fX+yL0lZ0
ふうせんかずらが? なんで? 何を言いに?

聞きたい事は沢山あったけど、うまく言葉にできない。

稲葉「アイツは何て言ってきたんだ?」

唯「奴は、こう言ってきたわ」
199 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/28(月) 14:12:41.75 ID:fX+yL0lZ0
【青木】

唯「いつまでもこうしちゃ居られないし……家族も心配すると思うから、今日は帰ろうか?」

青木「だね。 おっし、明日から頑張るぞおおー!」

唯「やけに張り切ってるわね……」

そりゃそうだ。 明日から唯に猛アピールしなきゃだし!

青木「それじゃあ、また明……」

明日と言おうとした所で、言葉に詰る。

それは唯も一緒だった様で……つまり、何か異常事態を察知したと言う事で。
200 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/28(月) 14:13:09.04 ID:fX+yL0lZ0
唯「青木、あれって……」

青木「……ふうせんかずら!」

奴が……気配も無く、唐突に現れたのだった。

「……どうも……桐山さんに青木さん……こんばんは」

唯「何しに来たのよ……!」

「……そう怒らないでくださいよ……青木さんが予想外に頑張ったので……良い情報持ってきたんですけど」
201 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/28(月) 14:13:34.39 ID:fX+yL0lZ0
青木「何だよ、それ……良い情報?」

「ええ……そうです」

「……もう面倒なので……勝手に喋って僕は帰りますね……そうします」

「……まず……今回のは【現象】です」

「……勘違いしないで欲しいのは……【現象】を起こしたのは僕では無く、二番目です」

「ですので……僕は嘘を付いてはいませんよね……あれ……付いた様な気もします」

「……まあどうでもいいですね……」
202 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/28(月) 14:14:01.95 ID:fX+yL0lZ0
「一応言っておきますが……まだ【現象】は終わっていないので……ああ……青木さんについては終了と言う事になりますかね」

唯「やっぱり【現象】だったんだ……騙したのね」

「……いえいえ……ですから起こしたのは二番目であって……僕じゃないですし……」

青木「ちょっと、待て」

青木「俺については? ってこれが【現象】って事は……太一は終わらないって事か?」

「……そうなりますね……今回は八重樫さんと青木さんのみに起こった事なので……」
203 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/28(月) 14:14:31.15 ID:fX+yL0lZ0
唯「いつ、終わるのよ……」

「ですから……何度も言ってるじゃないですか……そこそこ面白かったなぁ……となれば終わりますよ」

「青木さんについては……もうそこそこ面白かったので終わりです」

「……ちょっと喋りすぎましたかね……では、僕は帰りますね……」

「……一応言っておきますが……他言無用でお願いしますね……」

「言ったら面白さも無くなってしまうので……まあその時は面白くするだけですけどね……」

青木「面白くするって……何だよ」
204 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/28(月) 14:14:57.38 ID:fX+yL0lZ0
「具体的にいいますと……全てがランダムになる……って事ですね」

「……ああ……全然具体的じゃなかった……もう帰りますね……さようなら」

そう言うと、呆然と立ち尽くす俺と唯を残し、ふうせんかずらは姿を消した。

唯「ちょ、ちょっと……」

青木「ふうせんかずらが言うには、俺がおかしかったのは【現象】のせいって事だよね」

唯「そうなるわね……それで青木に付いては終わったって……」

青木「やっぱりこれ、稲葉っちゃん達にも言った方が」

唯「それはダメ! さっきアイツも言ってたでしょ? 全てがランダムになる……って」

唯「今はアンタが終わって、太一だけだけど……稲葉や伊織、あたしもおかしくなったら、それこそ滅茶苦茶だよ」

青木「……くそ、どうする事も出来ねえのかよ!」
205 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/28(月) 14:15:25.81 ID:fX+yL0lZ0
【稲葉】

なるほど、と思った。

他言無用の事を話したのは問い詰めたかったが、それでも十分な情報だった。

稲葉「つまり、アタシの考えは大体当たっていたって事か」

青木「うん、だからこそ……もうそこまで気付いているなら、話しても良いんじゃないかなって思って」

唯「でも、もし話したせいで稲葉達に何かあったら……本当にゴメン」
206 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/28(月) 14:15:51.92 ID:fX+yL0lZ0
稲葉「気にするなよ。 お前らが話してくれただけで十分だ」

伊織「そうそう、皆で協力していかなくちゃ!」

青木「……ありがとう」

さて、これが【現象】だと言うなら話は早い。

太一にも話すべきか? いや……まだ様子は見たほうがいいだろう。
207 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/28(月) 14:17:39.64 ID:fX+yL0lZ0
アタシ達に何かが起きたら、その時は話すべきだ。

しかし、太一に話した事によって【現象】がアタシ達に回ってくる可能性もある。

今は一旦、太一には内密にしておくべきだろう。

稲葉「なら、そうだな……後はもう、放っておいて良いんじゃないか?」

伊織「それはつまり【現象】が終わるまでって事?」

稲葉「ああ。 いつまでもアタシ達に動きが無きゃ、ふうせんかずらの野郎も飽きるだろ」

稲葉「そうすれば【現象】は終わる、違うか?」
208 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/28(月) 14:18:06.27 ID:fX+yL0lZ0
青木「だね。 俺もそう思う」

唯「確かに、稲葉の案で問題は無いと思うわ」

唯「……だけど」

唯はそう言うと、アタシの方に視線をやる。

まだ心配してんのか、こいつは。 揃いも揃ってお人好しすぎる奴らだな。

稲葉「アタシは大丈夫だよ」

稲葉「確かに、彼女であるアタシを差し置いて、別の女を好きだ好きだと言ってるのを見ると……どうしてやろうかとは思うが」
209 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/28(月) 14:18:34.41 ID:fX+yL0lZ0
伊織「あ、あはは……」

稲葉「けどそれも【現象】だと分かれば、まだ我慢できるさ」

稲葉「まあ……終わった後に、どういう形で罪を償って貰うかは考えておくけど」

唯「想像するのが怖いわね……」

事実、このままで行けば問題なんて起きない筈だ。

太一の姿を見るのは実際……辛いが、それで一々落ち込んでいては、ふうせんかずらの思う壺だろう。

それが何より嫌でもある、アイツに踊らされてると言うのも癪に障る。

それならば少しくらい、我慢は出来そうだった。
210 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/28(月) 14:19:02.98 ID:fX+yL0lZ0
伊織「でも、もし何かあったら言ってね? 稲葉ん」

稲葉「……ああ、分かった」

伊織「唯と青木も、だからね?」

唯「うん、ありがとうね伊織」

青木「何かと言われると……実は一つあるんだよね」

こいつ、まだ何か隠していたのか?

青木「俺はどうやったら……唯と付き合えるんだろうか!」
211 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/28(月) 14:19:29.49 ID:fX+yL0lZ0
稲葉「伊織、唯、集合」

稲葉「議題は「青木をどう処刑するか」だ」

伊織「うん、了解」

唯「あたしが本気出せば、10秒でやれるわよ」

青木「え、え〜っと。 なんかすいませんでした! 許してくれませんか!?」

稲葉「冗談だよ、まあやって欲しければいつでもやってやるけどな」

青木「遠慮させてください!」

唯「次からは気をつける事ね、青木」

青木を慰める? とはちょっと違うかもしれないが、何だかんだ言っても……こいつらは結構お似合いだ。
212 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/28(月) 14:21:15.17 ID:fX+yL0lZ0
稲葉「よし、じゃあそろそろ今日は帰るか」

稲葉「あまり遅くなって、家族に迷惑掛けてもあれだからな」

アタシがそう言うと、全員が首を縦に振る。

こいつらと一緒なら、本当に何事も無く、乗り切れるだろう。

でも、乗り切れると思うと……次から次へと問題がやってくるんだよなぁ。

ま、いいさ。 アタシはアタシに出来る事をやるだけだ。

そう思いながら、伊織と共に……帰路に着いた。


10話 終
つづく
213 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/28(月) 16:58:30.43 ID:7b8AAwjJo
凄く面白い
最後まで頑張ってください!
214 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/29(火) 14:23:25.88 ID:W8cpxoFR0
>>213
ありがとうございます!

本日は短編を二つ、投下します。
215 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/29(火) 14:24:11.36 ID:W8cpxoFR0
今日もまた、色々とあった。

稲葉んと心の底から話をして、また一段と仲良くなれた気さえする。

元々……仲は良かったけど。

この一年間、様々な【現象】に私達は見舞われてきた。

何度も何度も挫けそうになって、乗り越えて。

稲葉んや太一、唯や青木はどう思っているんだろう?

皆、本当に変わった。 前よりも強くなった。 絆も感じる。

それは当然……私も。
216 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/29(火) 14:24:43.94 ID:W8cpxoFR0
誰が一番変わった? と聞かれれば、真っ先に浮かぶのは稲葉んだ。

稲葉んは一年で、色々な面を私に見せてくれた。

そしてつい最近、稲葉んは太一と付き合い始めた。

時々、デレデレになる稲葉んは見ていて面白い。 最近はあまり見れないけど……

そして、これは言いたくは無いが。
217 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/29(火) 14:25:37.87 ID:W8cpxoFR0
私達がここまで成長したのも、ふうせんかずらの所為なのだろう。

お互いを認め合って、信じあって。

時には本音をぶつけて、傷付け合って。

私達は、立ち向かう。

今回の【現象】も、きっと皆がいれば乗り越えられる。

いや、乗り越えてみせる!

もうゴールはほとんど見えているんだ、大丈夫。
218 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/29(火) 14:26:07.30 ID:W8cpxoFR0
稲葉んも立ち直った様だし、後は終わるのを待つだけ。

でも、何故だろう?

何故、私はこんなにも不安なのだろう?

今までの異常事態も、乗り越えてきたじゃないか。

何を今更不安する?

分からない、分からないけど。

何かを見落としている気がする。 気のせいだろうか?
219 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/29(火) 14:26:36.01 ID:W8cpxoFR0
ダメ、暗い気持ちになってしまっては駄目だ。

明日からまたいつも通り……とは【現象】中だから行かないけど。

それでも、いつかは終わるんだ。

それなら精一杯楽しくいよう。 それで、ふうせんかずらの思惑通りにならない事を教えてやろう。

伊織「……よし!」

と気合いを入れた所に、携帯電話の着信音が鳴り響いた。

伊織「……メール? あ……稲葉んからだ」
220 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/29(火) 14:27:12.06 ID:W8cpxoFR0
『伊織はもう家に着いたか? 今日は迷惑を掛けてすまなかった。
今度何か奢るよ。 それじゃあまた明日、ありがとうな』

伊織「ああ、そっか。 稲葉んはまだ家に着いてないのか」

稲葉んのメールからは、暖かい気持ちが溢れていた。

私は冗談交じりに「じゃあ……お寿司にしようかな」と返しておいた。

伊織「さすがに冗談だって、分かるよね?」

送ったのはいいけど、少し心配になってしまう。

数分待っていると、すぐに返事が来た。
221 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/29(火) 14:27:45.11 ID:W8cpxoFR0
『メールだと本気か冗談か分からねえぞ。
まあ、この現象が終わったら、皆で打上げも良いかも知れないな
後藤の奢りで』

伊織「あはは、ごっさんドンマイだなぁ。 これは」

あれ、これって本気で言っているんだよね?

でも、冗談……かもしれない。

なるほど、さっき稲葉んが言っていた事が少し分かった。 確かにメールだと分かり辛い。

私は「いいねそれ!」と打ち、メールを送る。

稲葉んはそれをメールの終わりだと思ったのか、返事が来ることは無かった。
222 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/29(火) 14:28:13.21 ID:W8cpxoFR0
何とか持ち直したみたいで、本当に良かった。

唯も青木も無事だし、後は太一だけ……だね。

皆と話して、今回の【現象】の事は一度様子見と言う事になっている。

もし、私や稲葉んや唯にも【現象】が起きたら、その時は太一にも話そうと言う事だ。

それまでは一応、様子見。

これからの行動も決まっているし、いけるいける。
223 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/29(火) 14:28:39.67 ID:W8cpxoFR0
それより、明日……一応、太一には謝っておこう。

部室で酷いことを言ってしまったし、確かに太一が悪いけど……

でも【現象】が起きていたのなら仕方ない……のかな。

それよりも一つ、やっぱり気になる事がある。

青木はどうして、終了したのだろうか?

唯は青木に告白されたと言っていた。

でも、それは間違いなく【現象】が起きていた最中の事だった筈。

それなのに、どうして青木はそれを無視できたのだろう?
224 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/29(火) 14:29:06.23 ID:W8cpxoFR0
うう……駄目だ。 私じゃ考えてもちっとも分からない!

明日、また皆で話さないと駄目っぽいね、これは。

こういう時、ずばっと答えに近づくのは稲葉んだよねぇ。

私もたまには、稲葉んみたいにビシッと言って見たいもんだ。

……やっぱ稲葉んに任せよう。 私には無理無理。

とりあえずは、明日!

皆と話して、どうやって乗り切るか考えないと。

まだ、分かってない事もあるし……青木の事とか。

私はそう思いながら、布団に入る。

明日……皆で。
225 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/29(火) 14:29:53.99 ID:W8cpxoFR0






---------------次の日、稲葉姫子は学校に来なかった。


永瀬伊織の想い 終
226 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/29(火) 14:30:32.73 ID:W8cpxoFR0
結局の所、俺は踊らされていたのかなぁ。

よくわかんねー【現象】が起きていて、よくわかんねー内に終了となっていた。

それと……ふうせんかずらは「予想外に頑張った」と言っていた。

あれは、どういう意味だ? 俺が頑張ったってのは……
227 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/29(火) 14:30:59.62 ID:W8cpxoFR0
青木「……つーか、頑張ったって意識も無いんだけどなぁ」

俺は、心の底から唯の事が好きだ。

でも、ふうせんかずらが起こした【現象】で曲がってしまった。

最終的に、俺が本当に好きなのは唯って事に気付けたけど……

それでも、一瞬でも他の人が好きと思ってしまった自分が許せなかった。
228 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/29(火) 14:31:26.99 ID:W8cpxoFR0
青木「やっぱ、馬鹿だよなぁ。 俺」

俺の思い込みじゃなきゃ、唯は多分傷付いた。

自意識過剰ってつもりでも無いけど、俺が稲葉っちゃんの事を好きって言ったとき、唯はとても悲しそうな顔をしていたから。

俺は、自分が一番好きな人を……自分の手で、傷付けてしまった。

それだけはやっぱり、いくら時間が経っても、謝っても……消える物ではない。
229 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/29(火) 14:31:53.12 ID:W8cpxoFR0
青木「それなら、俺は……」

俺に、出来ることは?

……分かっている、何も無い事なんて。

けど、そんな何も無い俺にも一つだけある。

青木「俺はもう、忘れない」

何があっても、唯の事を好きだと言う気持ちは、絶対に。

こんな事、恥ずかしくて皆の前じゃ流石に言えないけど……自分の中で決めるくらいなら、いいっしょ。
230 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/29(火) 14:32:19.58 ID:W8cpxoFR0
青木「よし!」

気持ちを切り替えよう。

もうこれは、終わった事だから。

次に進んで、今を楽しくしなきゃな。
231 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/29(火) 14:32:48.09 ID:W8cpxoFR0
青木「うーん……」

って思い、考えてるんだけど。

青木「わっかんねー! どうやったら終わるんだ? これ」

【現象】が終わる方法……

何か、良い案があるとは思うんだけど。

現にあいつは、俺が頑張ったから終了した。 と言っていた。

つまり、何か面白い? 事だろうか。 あいつがそう感じる事があったのかもしれない。
232 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/29(火) 14:33:17.92 ID:W8cpxoFR0
俺がやって、太一がやっていない事。

青木「うーん……って、あれ。 もしかすると、これじゃね?」

俺は、ずっと好きな唯にもう一度気持ちを伝えた。

太一は、稲葉っちゃんに気持ちを伝えてない。

だから、か?

それなら太一に、無理矢理にでも伝えさせれば、終わるんじゃないか?
233 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/29(火) 14:33:44.11 ID:W8cpxoFR0
青木「お、おおお! きたんじゃねこれ!」

よっしゃ! そうと分かれば早速唯に電話だ!

……ついでに今回の事、もう一度謝っておきたいし。

そう簡単に行くとは、思わない。

でも、俺ですら終わらせる事ができたんだ。

なら、太一にも出来る筈。
234 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/29(火) 14:34:10.59 ID:W8cpxoFR0
太一を信じて、皆の事を信じれば終わらせられる。

……稲葉っちゃんは傷ついている、と思う。

俺から見ても辛そうだったし、実際は多分、相当な物かもしれない。

だから、一刻も早くこの【現象】を終わらせないと駄目だ。

いっつも太一には助けられてばかりだからな、今回は俺が助けてやらないと。

おし! とりあえずは唯に話して、明日また皆で話そう。
235 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/29(火) 14:34:42.18 ID:W8cpxoFR0
太一を参加させられないのはあれだけど、まあ仕方ないよな。

全員が俺と太一みたいな状況になったら、大変な事になってしまうだろうから。

多分、ふうせんかずらもそれは望んでいないだろう。

だから、大丈夫。 これは見逃してくれる筈。
236 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/29(火) 14:35:10.46 ID:W8cpxoFR0
青木「……俺ってこんな考えるキャラだっけ?」

ま、いいや。 そんな時もあるっしょ。

青木「よっし、じゃあ唯に電話だ!」

電話しようと思ったの何度目だろう? と無駄な事を考え、すぐに発信ボタンを押す。

電話は、すぐに繋がった。


青木義文の変化 終
237 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/30(水) 13:03:17.07 ID:y1wqsUwG0
こんにちは。

短編二話、投下します。
238 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/30(水) 13:03:52.28 ID:y1wqsUwG0
ベッドに寝転がり、今日の事を考えていた。

すると突然、携帯が振動する。

唯「誰よこんな時間に……って青木か」

電話を取り、正確には取った直後に声を発する。

少し、悪知恵が働いていた。

唯「おやすみー」

そう言い、電話を切った。

……10秒も経たないうちに、またしても携帯が鳴る。
239 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/30(水) 13:04:21.75 ID:y1wqsUwG0
唯「何よこんな遅くに!」

青木「ちょ、いきなりおやすみは酷くね!?」

唯「それ言ってあげただけ感謝しなさいよ」

青木「……でも、確かに唯におやすみって言ってもらえたのは、収穫かもしれない」

と変な呟き声が聞こえる。

唯「何言ってるのよ、バカ」

唯「それで、用件は何だったの?」
240 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/30(水) 13:05:42.51 ID:y1wqsUwG0
青木「ああ、それなんだけどさぁ」

青木が考えていた事、どうすれば終わらせられるか、等の話をあたしは聞く。

正直、青木がここまで考えていた事に驚いた。

唯「なるほどね……確かに、あり得なくは無いわね」

唯「それにしてもあんた、結構考えてるのね」

青木「そりゃ、太一には早く戻ってもらいたいしね」

唯「……うん」
241 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/30(水) 13:06:08.58 ID:y1wqsUwG0
そうだよね。

こんな【現象】なんて、さっさと終わるに越したことは無いんだし。

青木「それと、終わったら俺と太一で謝るよ」

唯「謝るって、何が?」

青木「唯と稲葉っちゃんにだよ、迷惑掛けちゃってるし」

青木「勿論、伊織ちゃんにも謝るよ。 でも唯には本当に悪い事をしたし」

唯「いいっていいって、あたしは気にしてない……なくは無いけど」

気にしていない、訳が無かった。

ここでスッパリと嘘が付けるほど、まだあたしは強くない。
242 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/30(水) 13:06:36.67 ID:y1wqsUwG0
唯「それより、やっぱり大丈夫……かな?」

青木「稲葉っちゃんの事?」

唯「……うん」

青木「俺もそりゃあ、心配だけど」

青木「それでも、前よりは少し楽になった様に見えるし、大丈夫だと思う」

唯「だと、いいね」

青木「……信じようぜ! 稲葉っちゃんの事も、太一の事もさ」

唯「……そうね。 それが大事だよね」

青木「おう!」
243 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/30(水) 13:07:04.01 ID:y1wqsUwG0
不思議だ。

青木と話していると、元気が出てくる。

元気が出るし、楽しくなる。

何でだろう?

青木「あー、それとさ」

青木「唯、ごめん!」

唯「え? どうしたの急に」

青木「俺、唯の事を散々好きとか言っておきながら、それを忘れるなんて……」

青木「ごめん! 本当にごめん!」
244 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/30(水) 13:07:31.48 ID:y1wqsUwG0
唯「い、いいわよ別に! 気にしてないし!」

青木「……少しは気にして欲しかったかも」

唯「うっさい! あんたに嫌われても何とも思わないわよ!」

青木「そ、そんな!」

唯「でも、その」

唯「……ありがとうね」

あたしがそう言うと、青木は電話越しに笑っていた。

本当に嬉しそうで、ひと言だけで……何でここまで嬉しそうになるんだろう? と思う。
245 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/30(水) 13:08:01.82 ID:y1wqsUwG0
それを言ったのが、あたしだから? それとも他の人でも同じ様になる?

勿論、こんな事を聞ける訳無い!

でも、どっちなのかは気になってしまう。

唯「そ、それじゃ! また明日!」

このままだと本当に聞いてしまいそうで、急いで電話を切った。

唯「……はぁ〜!」
246 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/30(水) 13:08:27.51 ID:y1wqsUwG0
何故、こんな事を思ったんだろう?

……あたしは、何がしたいんだろう?

もしかすると、もしかするともしかすると。

あたしは、青木の事が。

唯「無い! 無い無い無い!」

だって、まだ好きとかそんな事まで思ってる訳じゃないし、それにあたしは付き合うとかそんなのはありえないって思うし。

唯「で、でも……」

もし、万が一付き合ったとして。

そ、その。 デートとかする訳で。
247 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/30(水) 13:08:54.33 ID:y1wqsUwG0
唯「きゃー!!」

そ、そそれで。

最後には、その……キスとか!

唯「いやあああああ!!」

そこまで言った所で、部屋のドアが開く。

「お姉、どうしたの?」

唯「あ、杏!?」
248 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/30(水) 13:09:20.96 ID:y1wqsUwG0
「えーっと、大丈夫?」

唯「う、うん。 あたしは大丈夫だよ」

唯「え、えっと。 どこから聞いてたの?」

「無い! って叫んでる所から、かな」

最初っからじゃない!!


桐山唯の目標 終
249 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/30(水) 13:11:42.70 ID:y1wqsUwG0
稲葉「おいおい、本気かよ。 こいつ」

伊織からのメールを見て、独り言を漏らす。

まさか後藤に奢らせるのを本気にしてるのか?

まあ別に、アタシは構わないが。

稲葉「しっかし、また【現象】か」

どういった【現象】かは、正確には聞いていない。

だが恐らく、大体は前に考えた【感情転換】とほぼ同じ物だろう。
250 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/30(水) 13:12:09.70 ID:y1wqsUwG0
つまりは、青木の唯が好きな気持ちが『稲葉姫子』に転換され。

太一のアタシが好きだと言う気持ちが『永瀬伊織』に転換されている。

あれ? でもそう考えると、太一が「好きだ!」って言ってるのは普段アタシに思っている事だよな。

何だアイツ。 あんまり言わない癖に可愛いところあるじゃねえか。

と思い、少し笑う。
251 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/30(水) 13:12:36.85 ID:y1wqsUwG0
そうでもしないと。

少しでも楽しい気持ちで居ないと。

怖くて。

怖くて怖くて怖くて怖くて怖くて。

押し潰されそうだった。
252 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/30(水) 13:13:04.30 ID:y1wqsUwG0
稲葉「……少し、寄り道でもするか」

落ち込んだ気分を変える為、少しだけ回り道をする。

もうすぐで四月と言う事もあり、吹く風は大分心地良い。

まだ夜中、と言うには早い時間だし、もう少しふらふらしても大丈夫だろう。

そこからまた少し歩き、人気の無い公園が目に入ってきた。

稲葉「こんな所に公園なんてあったのか」

思えば、家の近くを歩き回る事なんて初めてかもしれない。
253 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/30(水) 13:13:31.59 ID:y1wqsUwG0
中学の時は、学校が終わればすぐに家に帰っていた。

友達と呼べる友達も、居なかった。

いつも一人で、他人とは距離を保っていた。

しかし、高校に入って……あいつらと出会って。

大切な、絶対に失いたくない仲間達と出会えた。

そして何より、大切な人も出来た。

色々あったけど、今でも仲良くやれている。

こんなクソッたれな【現象】の最中であっても、やれている。
254 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/30(水) 13:14:02.13 ID:y1wqsUwG0
アタシは一度、ブランコに座る。

もし、もしこのまま……終わらなかったら、どうすればいいのだろう。

いや、やめだ。 そんな考えは止そう。

青木では無いが……プラス思考で行かなきゃ。

こんな時、太一なら何て言うのだろう?

絶対に助けてやる、とかそんな所か。

どうしようも無い自己犠牲野郎だな、アイツは。

ふと、夜空を見上げた。
255 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/30(水) 13:14:29.74 ID:y1wqsUwG0
稲葉「綺麗だなぁ……」

なに乙女チックな事言ってんだ、アタシ。

稲葉「なあ太一、アタシはやっぱりお前の事が好きだよ」

稲葉「お前がどんな風になっても、アタシはお前の事が好きだ」

稲葉「だから、早く戻ってくれよ……頼むから」

でないと、アタシは。
256 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/30(水) 13:14:55.59 ID:y1wqsUwG0
目の前が滲む。

ああ、クソ。

何泣いてるんだよ、稲葉姫子。

もっと強くいなきゃ、太一は戻って来ないだろうが。

でも、今日だけ。 今日で最後にするから。

少しだけ、泣いてもいいか?

稲葉「……た……いち」

こんな姿、誰かに見られたら良い笑い話だな、ホント。

それから数十分、アタシはそうしていた。
257 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/30(水) 13:15:22.23 ID:y1wqsUwG0
稲葉「……帰るか」

散々泣いた、もう枯れ切った。

明日からは、元通りの稲葉姫子だ。

アタシはそう、強く決意する。

しかし。
258 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/30(水) 13:15:50.93 ID:y1wqsUwG0
決意と言う物は簡単に揺らぐ物で。

一つの『異常事態』で呆気なく壊されてしまう。

公園から出ようとしたアタシの前に、奴が現れた。

稲葉「……何しに来やがった、テメェ」

「……こんばんは……夜分遅くにすいませんね……」

「……今回の【現象】について……情報を教えようと思いまして……」

ふうせんかずらはそう言いながら、アタシの前に現れた。


稲葉姫子の現実 終
259 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/31(木) 13:36:29.01 ID:/b2rk5uE0
こんにちは。
第11話投下します。
260 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/31(木) 13:36:59.55 ID:/b2rk5uE0
【伊織】

稲葉んは、結局放課後になるまで学校へ来なかった。

唯「伊織、稲葉から何か聞いてる?」

伊織「私は何も……昨日の夜、あの後に少しメールはしたんだけどね」

唯「そっか……」

メールから伝わってきたのは、いつも通りの稲葉んだった筈。

なら、どうしてだろう? 私の考えすぎ?
261 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/31(木) 13:37:29.69 ID:/b2rk5uE0
青木「う〜ん、ごっさんは「体調を崩してる」って言ってたけど、お見舞いに行って見る?」

伊織「……そだね、そうしよう」

唯「おし、じゃあ早速向かおう!」

と唯が張り切って、声をあげた。

伊織「それより、太一はどうする?」

青木「今連れて行くのは、まずいんじゃないかなぁ。 さすがに」

唯「……あたしも、そう思う」

伊織「おっけ。 それなら青木、太一には今日の部活は中止って伝えといて」

青木「りょーかい。 任せて伊織ちゃん!」
262 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/31(木) 13:37:55.58 ID:/b2rk5uE0
う〜ん。 最近どうも、太一を仲間外れにしている様な、していない様な……

仕方ないさ、今はまだ。

唯「よっし、じゃあ駅前で集合って事でいいかな?」

伊織「え? 皆で行かないの?」

唯「だって、皆でぞろぞろ行ってるのを太一に見られたら……気まずいでしょ」

青木「確かに、問い詰められそうだね」

伊織「う、うん。 分かった! じゃあこの後駅前で!」
263 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/31(木) 13:38:21.52 ID:/b2rk5uE0
少しだけ、後ろめたさはあった。

まるで、太一を信じていない様な……そんな気がした。

一度、唯達と別れ、私は教室へと向かう。

伊織「それにしても、大丈夫かな……稲葉ん」

一応、メールだけでも入れておこう。

そう思い、携帯を開いた時だった。

太一「永瀬か?」

後ろから、太一の声がした。
264 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/31(木) 13:38:51.32 ID:/b2rk5uE0
太一「その、昨日はすまなかった」

そう言い、太一は頭を下げる。

伊織「良いって良いって、私も言いすぎたよ。 ごめんね」

私がそう言うと、太一は少しだけ笑った。

太一「なあ、永瀬。 少しだけ話せるか?」

伊織「えーっと。 話っていうのは……昨日の続き、みたいな?」
265 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/31(木) 13:39:38.72 ID:/b2rk5uE0
もし、そうだと言ったら断ろうと思っていた。

だけど。

太一「いや、全部が全部違うって訳では無いが……永瀬が思っている話では無い、筈だ」

八重樫太一は、そう言った。
266 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/31(木) 13:40:19.42 ID:/b2rk5uE0
伊織「そーれで、話って何かな?」

私と太一はあの後、屋上へと来ていた。

唯には一応、少しだけ遅れるとの事を伝えてあるので大丈夫だろう。

太一「……俺さ、どうすればいいか分からないんだ」

伊織「えーっと、つまり?」

太一「俺は、俺は稲葉の事が好きだった筈、なんだ」

太一「でも、急に永瀬の事が気になって、それでもその気持ちには自信が無くて」
267 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/31(木) 13:40:46.14 ID:/b2rk5uE0
伊織「……自信が無かったのに、よくあの場面で好きとか言えたね」

太一「あれは! ……あれにはちゃんとした、理由がある」

理由? 何だろうか。

太一「実は、俺と青木には【欲望解放】が起きているんだ」

伊織「ちょ、ちょっと待って。 それって【現象】のことだよね?」

太一「……そうだ。 昨日、桐山と話していた時にアイツが来た」

伊織「そんな、また同じ物を持ってくるなんて……」

伊織「それより、なんで唯は言ってくれなかったんだろう」

太一「……永瀬と稲葉に、余計な心配を掛けたく無いって言っていたよ」
268 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/31(木) 13:41:22.73 ID:/b2rk5uE0
伊織「それが余計な心配なのに! 唯の奴、分かってないなぁ〜」

伊織「でも、一ついいかな。 太一」

伊織「【欲望解放】が起きて、太一が私に告白したってことは」

私が続けて言おうとしたと同時に、太一が口を開いた。

太一「分かってる、分かってるよ」

太一「だから、俺の事が分からないんだ」

太一「永瀬も傷付けて、稲葉も傷付けて、本当は守ってやりたいのに……俺は」
269 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/31(木) 13:41:54.45 ID:/b2rk5uE0
伊織「……自己犠牲野郎!」

太一「なっ、何だよ急に」

伊織「へへ、言ってみたかったんだよねぇ。 一回」

伊織「確かに、私も傷付いたよ。 稲葉んも傷付いたよ」

伊織「でも、それでも私達は友達でしょ? 仲間でしょ?」

伊織「傷付け合っても一緒に居たいって言ったのは、太一じゃんか」

伊織「私も同じ気持ちだよ。 一緒に居たいよ。 皆で」

太一「……永瀬」
270 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/31(木) 13:42:26.34 ID:/b2rk5uE0
そうだ。

太一も、大事な仲間だ。

例え【現象】の影響を受けていても、それは八重樫太一以外の何者でも無いんだ。

なら、それならばするべき事は。

伊織「ねえ、太一」

伊織「今から稲葉んのお見舞いに行くんだけど、一緒に来ない?」
271 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/31(木) 13:43:18.76 ID:/b2rk5uE0
太一「で、でも。 俺が行ってもまた……」

伊織「もしそうでも、一緒に居たいんでしょ?」

伊織「それに一度失敗した事を繰り返すような、そんな八重樫太一でも無いでしょ?」

伊織「それならば、問題ナシ!」

太一「……かもな。 分かった、俺も行くよ」

伊織「おうおう、稲葉んも喜んでくれるよ」

私は太一の背中を叩き、笑う。

段々と、皆が噛み合って行く。

私達は、一人じゃない。

五人で、文研部だ。
272 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/31(木) 13:43:46.76 ID:/b2rk5uE0
太一に駅前で集合という事を伝え、私は教室に鞄を取りに行った。

途中、携帯に着信が来る。

伊織「お、稲葉んからだ!」

慌てすぎて携帯を取り落としそうになりながら、電話を取る。

伊織「もしもし、稲葉ん?」

稲葉「ああ、そうだ」

伊織「えっと、今日はどうしたの? 大丈夫?」
273 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/31(木) 13:45:15.50 ID:/b2rk5uE0
稲葉「はぁ!? アタシは大丈夫だって言ってんだろ! 来るなよ!」

伊織「またまた、会いたいくせに」

稲葉「んな事ねえよ!」

伊織「それに、その……太一も行くし」

稲葉「そ、そうなのか?」

あ、少しデレてる?
274 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/31(木) 13:45:42.62 ID:/b2rk5uE0
稲葉「あータイミングが悪かったよな。 ただの体調不良だよ。 心配すんな」

伊織「そっか……それなら良いんだけど」

稲葉「ああ、それじゃあな」

伊織「っと! ちょっと待って!」

稲葉「な、何だよ。 大声を出すなよ」

伊織「ご、ごめん。 ……えーっと」

伊織「今から皆で、お見舞いに伺います!」
275 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/31(木) 13:46:15.59 ID:/b2rk5uE0
順番間違えました

>>274

>>273

です
276 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/31(木) 13:46:41.51 ID:/b2rk5uE0
稲葉「はぁ!? アタシは大丈夫だって言ってんだろ! 来るなよ!」

伊織「またまた、会いたいくせに」

稲葉「んな事ねえよ!」

伊織「それに、その……太一も行くし」

稲葉「そ、そうなのか?」

あ、少しデレてる?
277 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/31(木) 13:47:08.51 ID:/b2rk5uE0
伊織「最初は連れて行かない予定だったんだけど……でも、でもさ」

伊織「やっぱり皆で文研部だし。 太一だけ除け者にはしたくなかったんだよ」

伊織「いい、かな?」

稲葉「……少しは分かって来たじゃねえか、伊織も」

稲葉「だがそれとは別だ! 来るんじゃねえぞ!」

伊織「照れるなって〜 それじゃ、また後でね」

稲葉「おい! 伊織おま」
278 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/31(木) 13:47:38.23 ID:/b2rk5uE0
通話終了っと。

これは稲葉んが復活したら、散々絞られそうだね……

ま、いっか。 稲葉んが元気になる事の方がよっぽど大事だし!

あ、でも一応……青木の所為にしておこう。 念の為。

よし! そうと決まれば全員で稲葉ん家にお見舞いだ!


11話 終
つづく
279 : ◆t8NYdLxivU :2013/01/31(木) 13:59:05.23 ID:/b2rk5uE0
以上で11話終わりです。
途中、投下間違えすいませんでした
280 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/31(木) 21:00:10.13 ID:DCBu1qxJo
TOKIOスレかと思ったら違った
281 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/01(金) 10:53:05.10 ID:Zk2mwxNr0
>>280
ココロコネクトスレです!

第12話、投下致します。
282 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/01(金) 10:54:26.81 ID:Zk2mwxNr0
【稲葉】

参った。

あいつら、本当にアタシの家まで来る気かよ。

ばれ、ないよな。

いつも通りにしていれば、大丈夫。

絶対に、絶対に大丈夫。

予想外だったのは、太一が来ると言う事だった。

でも、まだ一応は付き合っている訳だし、それが普通なのかもしれない。
283 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/01(金) 10:55:46.74 ID:Zk2mwxNr0
それにしても、あれだな。

ふうせんかずらの話を聞いて、何故か少しだけスッキリとできた気がする。

吹っ切れたって言うのが正しいのか、これは。

今なら皆とも、普通に接する事が出来るはず。

今日一日、学校を休んで考えを整理して、大分落ち着けた。
284 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/01(金) 10:56:27.06 ID:Zk2mwxNr0
よし、アタシは大丈夫だ。

にしても、良い夢を見させて貰ったよ。 本当に。

稲葉「ありがとうな、太一」

誰も聞いて居ない、アタシ以外誰も居ない部屋で、小さくそう呟いた。
285 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/01(金) 10:57:23.23 ID:Zk2mwxNr0
しばらくして、インターホンが鳴り響いた。

家には誰も居ないし、アタシが出るしか無いか。

玄関まで降り、ドアを開ける。

目の前には、全員が揃っていた。

稲葉「なんだお前ら。 本当に来たのかよ」

伊織「そりゃそうだよ! 行くって言ったじゃん」
286 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/01(金) 10:58:01.85 ID:Zk2mwxNr0
稲葉「アタシは大丈夫だって言った筈だが?」

伊織「いやぁ……ええと、それは青木に無理矢理……」

青木「え? マジ!? そこで俺の所為にすんの!?」

唯「伊織の為よ、大人しく稲葉に殴られなさい」

太一「……青木が物凄く可哀想に見えてくるな」

いつも通りだ。

何も、変わらない。 変わったのは、些細な事だけ。
287 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/01(金) 10:58:48.13 ID:Zk2mwxNr0
稲葉「はは、まあいいさ」

稲葉「折角来たんだし、上がっていけよ」

そう言い、全員を家の中へと通す。

そのまま、アタシの部屋へと進んで行く。

問題、無さそうだな。

予想以上に、アタシ自身は落ち着いてるみたいだ。
288 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/01(金) 11:00:26.75 ID:Zk2mwxNr0
稲葉「悪いな、わざわざ全員揃って」

唯「そう思うなら、早く体を治してよね」

稲葉「……その通りだな。 まあ明日は行けると思うから、大丈夫だ」

伊織「なら、良いんだ」

青木「にしても、いつも通りで安心したよ! また何かあったんじゃ無かったのかって」

アホかこいつは。

太一も居るんだぞ、ここには。

ほら見ろ、滅茶苦茶気まずそうな顔してるじゃねえか。
289 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/01(金) 11:01:15.67 ID:Zk2mwxNr0
太一「……その」

太一「皆すまん! 本当にすまなかった!」

太一「特に稲葉には、謝っても謝り切れない。 本当にごめん」

稲葉「んな、改まって謝らなくてもいいさ。 仕方ねえんだから」

太一「仕方なくなんて、無い」

あーそっか。 こいつは【現象】の事、知らないのか。
290 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/01(金) 11:02:05.81 ID:Zk2mwxNr0
稲葉「アタシが良いって言ってるんだから、良いんだよ」

稲葉「それよりいつまでもそんな顔されてたら、調子が狂っちまう」

太一「……わ、分かった」

そう言い、太一は再び床に座り込んだ。

それを見ていた伊織は、少し不機嫌そうな顔をしている。

考えている事は……大体、分かるがな。

大方、稲葉の事を好きと言え……とでも思っているんだろう。

だけど、そりゃ無理な話だ。

それは分かってるから、特に何も思わなかった。
291 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/01(金) 11:03:17.10 ID:Zk2mwxNr0
稲葉「んで、お見舞いに来て手ぶらって事は無いよな? お前ら」

唯「さすがと言うかなんと言うか……しっかりしてるわね。 稲葉」

そう言い、唯が小さな箱を取り出す。

唯「途中のケーキ屋さんで買ってきたの。 結構高い奴なんだからね!」

最後の言葉は言わなくて良かっただろ。 と思いながら箱を受け取る。

結構冗談で言ったんだが……バカだな、こいつらは。 本当に。
292 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/01(金) 11:04:15.21 ID:Zk2mwxNr0
稲葉「悪いな、皆」

伊織「気にしない気にしない。 お返しは期待してるけどね?」

稲葉「……ま、後藤から出させるかな」

青木「ごっさんって、すげーかわいそうだよな。 生徒から財布扱いされるなんて」

太一「……まあ、仕方ないんじゃないか?」

青木「太一にそこまで言われたら終わりだよ!?」

稲葉「おいおい、今は誰も居ないけど、あんま騒ぐなよ」

伊織「そうだよ。 稲葉んは体調悪いんだから」

稲葉「お前も結構、騒いでるけどな」
293 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/01(金) 11:05:04.93 ID:Zk2mwxNr0
稲葉「ま、一回これ仕舞ってくるよ」

そう言い、先ほど貰ったケーキを手に持ち、部屋のドアを開ける。

稲葉「あー、一応言っておくが……もし、またクッションをアタシに当てる様な真似したら、どうなるか分かってるよな?」

唯「気をつけます!」

珍しく、唯が真っ先に反応した。

そこまで怖がられると、なんか少し損した気分になるじゃねえか。

アタシはその言葉を聞き、部屋を一度出た。
294 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/01(金) 11:07:30.38 ID:Zk2mwxNr0
【唯】

こ、怖かった。

あの時の眼は、マジって奴だよね。

でも、ケーキ自体は喜んでくれたみたいで、良かった。

稲葉も意外と、いつも通りだったし。 これで一安心って感じかな?

そう思ったとき、頭に衝撃が走った。

比喩とかでは無く、本当に。
295 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/01(金) 11:08:38.55 ID:Zk2mwxNr0
唯「いったぁ! って、何するのよ伊織!」

伊織が、例のクッションをあたし目掛けて投げつけてきたのだ。

伊織「へっへっへ。 隙ありだぜ、唯!」

青木「唯ー! 俺とも投げあいっこしようぜー!」

唯「しないわよ! と言うか、アンタ達……さっきの稲葉の言葉、聞いてなかったの!?」

唯「もしばれたら、殺されるわよ! 冗談抜きで!」

太一「いや、さすがに殺されはしないだろ」

伊織「本当に?」

太一「……半殺しは、あるかもしれない」
296 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/01(金) 11:09:34.83 ID:Zk2mwxNr0
唯「太一も! そこでボソボソ余計なツッコミしてないで、止めなさいよ!」

ほんっとに、ばれたらどうするのよ! 巻き添えはやめてほしい。

伊織「いやいや〜」

伊織「だからこそ、じゃん」

唯「だからこそって、何がよ」

伊織「クッションを皆で回して、タイミングの悪かった人が稲葉んに処刑される……」

伊織「名付けて、爆弾稲葉んゲームだよ」

太一「それ、本物の爆弾より危なくないか?」

唯「太一も結構、失礼な事言うわよね。 あたしが言うのもあれだけど……」
297 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/01(金) 11:11:17.89 ID:Zk2mwxNr0
唯「あ、ありがとう……じゃないわよ!」

危ない危ない、余りにも優しく渡されたから、ついついお礼を言ってしまった。

勢いよく、あたしは青木の方へとクッションを投げつける。

青木「うおっ! 唯からのクッションきたああ!」

青木「もう一生離さない!」

太一「それでもいいが、離さなくて済むのも稲葉が帰ってくるまでだな」

唯「ま、青木が全責任を持ってくれるなら、あたしはいいけど」
298 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/01(金) 11:12:00.80 ID:Zk2mwxNr0
青木「だ、だめだ! 俺はまだ生きていないといけない! じゃないと唯と付き合えない!」

本当にバカみたいな事をいい、クッションを伊織に軽く投げた。

伊織「おー! 戻ってきたね〜」

伊織「よし……じゃあ、太一」

伊織「と見せかけて、唯!!」

え、ちょ、ちょっと待って。 それアリ?

てっきり、順番に回す物だと……

というか、勢いよく投げすぎじゃない? これ受け取るのはきつ……
299 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/01(金) 11:13:06.60 ID:Zk2mwxNr0
唯「きゃあ!」

それをしゃがみ込み、避けた。

避けたは良いが、後の事を考えてなかった。

目を開けると、伊織の顔が青ざめている。

青ざめて?

まさかと思い、ゆっくりと後ろを向いた。
300 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/01(金) 11:13:34.65 ID:Zk2mwxNr0
そこには居た、稲葉が。

そして、顔から少しずつ、ずり落ちるクッションも見える。

稲葉「……なあ、お前らは鶏か? 三歩歩いたら忘れる鶏か?」

稲葉「いや、ずっとその場に居たよな。 ってことはお前ら鶏以下か?」

さようなら、伊織。

今までありがとう。
301 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/01(金) 11:14:07.58 ID:Zk2mwxNr0
伊織「え、えーっと……」

伊織「ご、ごめん稲葉ん。 私、実は今日用事が……」

そう言いながら、伊織が稲葉の横を通り抜けようとする。

稲葉「大丈夫だよ、伊織」

稲葉「すぐに終わるから」

もう二度と、クッションを投げ合うのはやめよう。

そう強く、決意した日だった。


12話 終
つづく
302 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/01(金) 11:15:13.95 ID:Zk2mwxNr0
以上で12話終わりです。

ここはTOKIOスレです
じゃなくてココロコネクトスレです。
303 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/02(土) 16:50:29.57 ID:YImDNC5O0
こんにちは。
第13話、投下します
304 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/02(土) 17:01:42.82 ID:YImDNC5O0
【太一】

稲葉「ったくよ、お前らはお見舞いに来たのか遊びに来たのか、どっちなんだよ」

伊織「そ、それは勿論、お見舞いだよ!」

既に事後な訳だし、あまり説得力が無いぞ。 永瀬よ。

太一「それじゃ、そろそろ帰るか? あまり長居しても迷惑だろうし」

稲葉「しなくても迷惑だ」

ごもっともで。

青木「ま、そろそろ俺も帰らないとマズイし、今日は帰ろうぜ〜」
305 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/02(土) 17:07:10.42 ID:YImDNC5O0
唯「だね。 青木もたまにはまともな事言うのね」

青木「一応俺、毎回まともな事言ってるつもりなんだけど!?」

伊織「そりゃあれだよ、青木」

伊織「思い込みって奴だね。 間違いない」

皆と話していると、本当に楽しい。

何でも無い会話が、どんどんと膨らんで行くからだ。

でも、この状況でこれは……あまり望ましく無いが。

稲葉「で! お前らはいつ帰るんだよ」
306 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/02(土) 17:11:15.77 ID:YImDNC5O0
太一「す、すぐにでも」

少しだけ苛立ちを見せた稲葉が、声を若干張り上げながら言った。

伊織「よし、じゃあそろそろ本当に帰ろうか」

唯「うん。 稲葉も急にごめんね」

稲葉「いい迷惑だよ。 ったく」

稲葉「……ま、別に構わないけどな」
307 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/02(土) 17:18:15.02 ID:YImDNC5O0
それを聞き、皆の顔が少しだけ緩むのが分かった。

青木「おーし。 じゃあ今日は帰りますか!」

青木「稲葉っちゃんも、明日は学校来れそうかな?」

稲葉「おう、明日は行くよ」

その言葉で、また少しだけ皆の雰囲気が明るくなる。

一人ずつ、稲葉に挨拶をしながら部屋を出る。

俺以外の全員が外に出て、俺は稲葉に「また明日」と声を掛け、部屋を出ようとした所で稲葉の方から声があがった。
308 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/02(土) 17:18:49.56 ID:YImDNC5O0
稲葉「なあ、太一」

太一「ん? どうした?」

稲葉「その、今日の夜、会えるか?」

稲葉「少しだけ、話しておきたい事がある」

電話では、駄目なのだろう。

直接会って、二人で話したいと言う事か。

太一「ああ、分かった」

太一「後で一回、電話するよ」

俺も稲葉とは、話さないといけないと分かっている。

自分の気持ちに自信が無い今、稲葉と話すのは躊躇われるが……話さないと、駄目だろう。

その後、稲葉と軽くやり取りをして、俺も部屋を出た。
309 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/02(土) 17:19:21.17 ID:YImDNC5O0
その日の夜、俺と稲葉は川沿いの土手で合流した。

稲葉「悪いな、こんな遅くに」

太一「問題無いぞ。 それより体調は大丈夫なのか?」

稲葉「ああ、心配すんな」

二人で、前に青木と二人で話し合った辺りに座り込む。

太一「それで稲葉、話っていうのは?」

大体、予想は付いているが……念の為、俺は稲葉に尋ねた。

稲葉「昨日の事と……それと、アタシ達の事だ」
310 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/02(土) 17:19:46.21 ID:YImDNC5O0
太一「……ああ、分かった」

太一「本当に、すまなかった稲葉」

太一「お前の気持ちを、俺は全然分かってなくて」

稲葉「ちげえよ、それはもう良いんだよ」

稲葉「アタシが聞きたいのは、お前の事だ」

稲葉「太一の思っている事を……本当の気持ちを、聞かせて欲しい」

稲葉は本気で、聞いてきている。

ならここで嘘なんて、絶対に付いては駄目だ。
311 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/02(土) 17:20:29.33 ID:YImDNC5O0
太一「……俺は」

太一「本当の事を言うと、分からないんだ」

太一「稲葉と付き合っているのに、こんな事を思うなんて本当に俺は……どうしようも無い奴だ」

太一「だけど……嘘は付きたくない」

稲葉「……そうか」

稲葉「つまり、アタシと付き合っているのに……伊織の事が気になって、分からないって事で良いんだな」

太一「……ああ、そうだ」
312 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/02(土) 17:20:57.91 ID:YImDNC5O0
自分が、どうしようも無い最低の奴だと思う。

本当に、何故こんな気持ちが湧き出たのだろうか。

どうしようも無く、馬鹿だ。

稲葉「まあ、大体予想は付いていたがな……お前の気持ちは分かった」

稲葉「次は、アタシの気持ちを言おうと思う」

太一「……分かった」

次の言葉で、俺はもう引き返せない所までやってしまったのでは無いか。 と思う事になる。
313 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/02(土) 17:21:28.19 ID:YImDNC5O0
稲葉「一旦、振り出しに戻さないか。 アタシ達の事を」

稲葉「それでお前は、もう一度……伊織か、アタシか、考えてくれないか」

太一「稲葉……」

稲葉「とんだ女ったらしだよ、お前は」

稲葉「でも……今のままで付き合っていても、辛いんだよ。 アタシも」

稲葉「それにお前も、だろ? 太一」

太一「それは!」

違う、と言えない自分が情けない。

稲葉は、ここまで考えていたんだ。

俺はその間、何を考えていた?

何にも、考えていないじゃないか。

それよりも、稲葉の案をすぐに肯定するなり、否定するなり出来ない自分が、情けなかった。
314 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/02(土) 17:22:02.24 ID:YImDNC5O0
太一「……俺、は」

稲葉「んな思い詰めんなって。 別にすぐに答えなくても構わねえよ」

稲葉「アタシもその、出来れば太一とは別れたくないし……」

俺はそういう稲葉の顔を、正面から見る事が出来なかった。

こんなにも俺の事を想ってくれる人の顔を、見る事が出来なかった。
315 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/02(土) 17:22:31.11 ID:YImDNC5O0
太一「すまん、稲葉……」

稲葉「だから、お前がまた悩んでどうすんだよ」

稲葉「明日にでもいいし、一週間後でも良いんだから、気に病むんじゃねえぞ」

太一「……分かった。 ちゃんと考えておくよ」

その後、しばらく二人とも、黙って夜景を眺めていた。
316 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/02(土) 17:23:56.42 ID:YImDNC5O0
俺が、一番大切な物に、かけがえの無い物に気付かされたのは、もう少し後の話になる。

……それは、すぐ傍にあったと言うのに。

失って、初めて気付く物も、この世にはあるんだ。


13話 終
つづく
317 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/02/03(日) 21:23:48.01 ID:whdnKg2q0
俺は見てるから最後まで頑張ってくれ
318 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/02/03(日) 21:24:18.73 ID:whdnKg2q0
俺は見てるから最後まで頑張ってくれ
319 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/02/03(日) 21:26:15.58 ID:whdnKg2q0
俺は見てるから最後まで頑張ってくれ
320 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/02/03(日) 21:27:51.64 ID:whdnKg2q0
うわ連投すま
321 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/04(月) 00:24:52.44 ID:SshRIoq80
一回しか言わないけど俺も期待してる
322 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/05(火) 12:35:53.50 ID:LrQXjPpm0
ありがとうございます。
次回ですが、少し間が空いてしまいそうです。
すいません
323 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/13(水) 00:34:53.09 ID:XresinO50
こんばんは。
投下始めます
324 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/13(水) 00:36:25.45 ID:XresinO50
早速ですが
>>296

>>297
の間に↓のが入ります、抜けてしまいごめんなさい



伊織「よーし。 じゃあスタート!」

太一「お、おい! 本気でやるのか?」

伊織「当ったり前〜 ほい、太一」

そう言い、伊織が太一に向けてクッションを投げつける。

太一「……っ! 相変わらず、結構な重量だな……これ」

唯「そんな事言ってる内に、稲葉来ちゃうわよ?」

太一「……そうだった。 桐山、やるよ」

そう言われ、クッションを手渡される。
325 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/13(水) 00:36:55.88 ID:XresinO50
それでは第14話、投下します。
326 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/13(水) 00:37:46.39 ID:XresinO50
【伊織】

稲葉んは約束通り、今日は学校へと来ていた。

私から見る限り、いつも通りと言った感じだ。

それよりも、心配なのは……

伊織「……太一、何か元気無さそうだなぁ」

昨日はいつも通りだったと思うんだけど、何故か今日は元気が無い。

何か、あったのだろうか?

こうなったら……聞き出せないか試すしか、無い……かな。
327 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/13(水) 00:38:12.76 ID:XresinO50
伊織「太一、おーっす!」

元気よく、太一の背中を叩く。

太一「お、ああ。 永瀬か……おはよう」

うーん。 やっぱりどう見ても元気ないよね、これ。

伊織「どしたの? 太一、何かあった?」

太一「い、いや……何も無い、大丈夫……だと思う」

伊織「そ、そっかぁ。 なら良いんだけど、ね!」

いくらなんでも、隠すの下手すぎでしょ……太一。

何か良い方法は……

あ、今日は確か。

そうだ、それで行こう。
328 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/13(水) 00:38:46.06 ID:XresinO50
その日の授業が全て終わり、放課後となった私は部室へと来ていた。

中には稲葉んを除く四人が居る。

唯「あれ? 稲葉はまだなの?」

伊織「うん、今日は部活会議の日でしょ? それに行ってるからちょっと遅れてくるよ」

青木「って事は、伊織ちゃんもじゃないの?」

伊織「ううん、私は用事があるって言って、稲葉んに丸投げしてきました!」

太一「おいおい、用事って……永瀬、ここに居るじゃないか」

伊織「そうだよ。 この状況じゃないと終わらせられない用事だからね」
329 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/13(水) 00:39:14.56 ID:XresinO50
太一「えっと……?」

私は一度、深呼吸をする。

伊織「太一、何を隠しているの? 話して」

太一「か、隠すって何をだよ。 俺は別に何も」

唯「明らかに動揺してるわよ……太一」

青木「こりゃ、隠してないって方が、無理あるかもね」

唯と青木の助けを借りつつ、太一に問い質す。

伊織「違ったらごめんね。 もしかしてさ」

伊織「稲葉んとの間で、何かあった?」

なんとなくだけど、そんな気がしていた。
330 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/13(水) 00:41:10.85 ID:XresinO50
伊織「勿論、違うなら私達には関係の無い事だろうし、これ以上問い詰めないよ」

伊織「でも、稲葉んが関係しているなら私達にも関係あると思うんだ」

太一「そ、そうは言われても……二人だけの話とかも、あるだろ?」

伊織「うん。 そうだね」

太一「そうだねって、お前」

伊織「今回の事は、そうなの?」

太一「……う」
331 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/13(水) 00:42:13.52 ID:XresinO50
その後、数分間更に問い質し、太一はようやく状況を話し始める。

太一「じ、実は昨日……」

内容をゆっくりと飲み込む。

太一の話が終わる頃には、皆静かに聞いていた。

唯「そんな、稲葉が……」

青木「……やっぱり、いつも通りなんて訳……無かったか」

唯も青木も、想像以上の話に、頭を抱えてしまっている。

そんな中、私は……

伊織「何でそうなるんだよ、稲葉ん」

気付けば、自然と廊下に飛び出ている自分に少し驚く。

目的は勿論、稲葉んに会うことだ。
332 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/13(水) 00:44:10.21 ID:XresinO50
どこだ、どこだどこだ。

廊下を走り、稲葉んを探す。

階段を降り、再び廊下に出た所で、稲葉んが見えた。

稲葉「伊織? どうしたそんな血相変えて」

伊織「どうして、何でそうなるんだよ稲葉ん!」

稲葉んの肩を掴み、問いかける。

稲葉「何がって何がだよ、そんな事よりお前……用事は?」
333 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/13(水) 00:44:43.20 ID:XresinO50
伊織「もう、終わったよ」

伊織「私の用事は終わった。 全部太一に聞いたよ」

私がそう言うと、稲葉んは腕を組みながら少し考えていた。

稲葉「……ああ、そういう事か」

それも数秒の事で、すぐに理解した稲葉んは顔を少し曇らせる。

伊織「なんで、何でなの……稲葉ん」

稲葉「アタシが、その方が良いと思っただけだ」

伊織「でも、言ったじゃん。 諦めないって」

稲葉「……別に、諦めた訳じゃねえよ」

稲葉「それに、逆転してやるって言っただろ。 ならいいじゃねえか」
334 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/13(水) 00:45:10.05 ID:XresinO50
伊織「違うよ! 何も別れる必要なんて無いじゃんか!」

稲葉「アタシがそうしたかったんだよ、もう構うな」

どうして……何があったんだよ。 稲葉ん。

伊織「……こんなの、負けたみたいじゃん」

伊織「稲葉んは、ふうせんかずらには負けたく無いって言ってたよね」

伊織「なのに、どうして……」

稲葉「負けたって訳じゃねえだろ」

伊織「太一の事が好きなんでしょ! なのに別れるって、負けてるじゃん!」
335 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/13(水) 00:45:45.05 ID:XresinO50
稲葉「……お前に」

稲葉「お前に何が分かるんだ! それだけの話じゃねえんだよ!」

稲葉「アタシだって、別れたくなんて無い。 けど、それはアタシの気持ちだ」

稲葉「……太一の気持ちじゃ、ないだろ」

伊織「稲葉ん……」

稲葉「悪い、今日は帰る。 皆にも言っといてくれ」

稲葉んはそう言うと、振り返り、私の前から姿を消した。

どうして、いつも通りじゃなかったのかよ。

大丈夫なんじゃ、無いのかよ。
336 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/13(水) 00:46:18.20 ID:XresinO50
肩を落とし、今にも泣きそうになりながら、私は部室へと戻る。

唯「おかえり伊織、どこ行ってたの? ……って、大体は分かるけど」

伊織「あはは、失敗しちゃったよ。 私」

青木「気にしない気にしない、伊織ちゃんで失敗なら、俺なら大失敗って事だし」

伊織「……ありがとう、二人とも」

そう言えば、太一は?

伊織「太一は、どうしたの?」

唯「あ、えっと。 今日は帰るって」

唯「止めたんだけど、聞かなくて」

伊織「そっか」
337 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/13(水) 00:47:45.85 ID:XresinO50
今回も大丈夫だと思ったのに。

不安は勿論あったけど、ここまで見事に的中すると、さすがにダメージでかいなぁ。

伊織「何だか、寂しいね」

唯「あたしが家に引き篭もってた時も、皆……こんな感じだったんだよね」

唯「だから、あたしは頑張るよ。 また二人とも戻ってきてくれるって」

青木「んだね。 あの時、唯が居なかったから力でなかったけど……今なら10倍は出るぜ!」

唯「ちょっと! そこは100倍でしょ!」

唯も青木も、自分達も辛いはずなのに、なのに私を元気付けようと振舞ってくれる。

……強いよ、二人とも。 強すぎるでしょ。
338 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/13(水) 00:48:49.04 ID:XresinO50
私には、こうして元気付けられないと元気なんて出せやしない。

弱いから。 一人で立ち直るのには時間が掛かってしまう。

だけど、皆が居てくれる。

……ありがとう、皆。

伊織「頼もしいよ。 本当に、ありがとう」

私がそう言うと、青木と唯はにっこりと笑い、頷いた。
339 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/13(水) 00:49:27.29 ID:XresinO50
青木「にしても、稲葉っちゃんどうしたんだろうね」

唯「あたし達が、楽観的に見すぎてたのかも。 実際、稲葉は相当辛かったと思うし」

私がさっき稲葉んと話した事を話し、今は三人で意見を交換している。

青木「俺が考えた【現象】を終わらせる方法も、難しいしね〜」

伊織「確かに、そうだよね。 太一に【現象】が起きている事を教えないで、言わせるのはちょっと……難しいかも」

唯「……実力行使で、言わせて見る? 言わなきゃ一本ずつ骨を折るぞ! みたいな感じで」

伊織「あ、あはは。 唯、怖すぎ……」
340 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/13(水) 00:50:06.48 ID:XresinO50
青木「まあ、それも一手だとは思うよ。 骨を折るって言うのはやり過ぎだけど……」

青木「でも、さ」

青木「それって、太一の本心では無いって事だよね。 それに……もし【現象】が終わらなかったら、余計に稲葉っちゃんを傷付ける事になっちゃう……と思う」

伊織「……なるほど、確かにその通りかも」

伊織「それにしても、青木……最近やたら、真面目だね」

青木「俺としてはいつも真面目で居るつもりなんだけどなぁ!」

唯「でも、本当にそれならどうしたら良いんだろう」

唯がぽつりと、呟いた。

部室に少しだけ、静かな時間が訪れる。
341 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/13(水) 00:51:43.47 ID:XresinO50
唯「なんか、青木に纏められるとムカつくわね……」

青木「そ、それはさすがに酷くね!?」

伊織「まあまあ、仕方ないよ〜青木だし」

青木「太一! 稲葉っちゃん! 早く戻ってきてくれないと俺が酷い目に!」

伊織「戻ってきても同じだと思うけどね!」

青木「俺の立場って一体……」
342 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/13(水) 00:52:34.67 ID:XresinO50
伊織「あはは。 ありがとうね、本当に」

伊織「私、今日の帰りに稲葉んの家に行ってみるよ」

やっぱり、皆と居ると楽しい。

三人でも、これだけ楽しいんだ。

だから、稲葉んにも太一にも、戻ってきてもらわないと。

よし! 頑張るぞ私!


14話 終
つづく
343 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/13(水) 00:53:46.35 ID:XresinO50
以上で第14話、終わりです。
344 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/16(土) 11:53:54.41 ID:Glq0TOUFo
345 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/18(月) 00:53:22.49 ID:eG1cTvOF0
こんばんは。
第15話投下します
346 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/18(月) 00:54:06.71 ID:eG1cTvOF0
【伊織】

その後、皆と別れ、私は稲葉んの家へと向かった。

何度も来ているし、道はすぐに分かる。

どう、話そうか。

私は何も、稲葉んの事を分かっていない。 理解していない。

どれだけ稲葉んが悩んでいたか、苦しんでいたのかも……多少は、分かっているつもりだった。

でも、それは本人じゃないと全部理解するなんてことは、不可能だ。
347 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/18(月) 00:54:38.51 ID:eG1cTvOF0
ただ、一つを除いて。

話し合って、本音をぶつける以外には。

気付けば、稲葉んの家が目の前にあった。

考え事をしながら歩いている内に、どうやら着いた様だ。

私は少しだけ緊張しながら、インターホンを押す。

時間を置いて、インターホンの奥から声が聞こえてきた。
348 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/18(月) 00:55:38.22 ID:eG1cTvOF0
「はい」

良かった。 稲葉んの声だ。

伊織「稲葉ん? 私、伊織だけど」

「……帰ってくれ」

伊織「お願い、もう一度だけ話をさせて。 それでも駄目なら、大人しく帰るから」

「もう、話す事なんて無いだろ」

伊織「私、分かってなかった。 稲葉んの事を……だから、お願い」

「……」

届いて、お願い。
349 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/18(月) 00:56:04.79 ID:eG1cTvOF0
「……入れよ、今はアタシしか家にいないから」

伊織「ありがとう、稲葉ん」

良かった、届いてくれて。

違う、届いた訳じゃ無い。

まだだ。 まだ、解決した訳じゃない。

ここからが、本番だ!
350 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/18(月) 00:56:46.36 ID:eG1cTvOF0
伊織「入るね」

私はそう言い、稲葉んの部屋のドアを開ける。

稲葉「……ああ」

やっぱり、元気が無い。

何があったのか、聞かないと。

伊織「稲葉ん、さっきはゴメン」

伊織「全然、分かってなかった。 稲葉んがどれほど悩んでいたか、苦しんでいたか」

伊織「それなのに、勝手な事を言って本当にごめんなさい」

そう言い、頭を下げる。
351 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/18(月) 00:57:48.50 ID:eG1cTvOF0
稲葉「……アタシの方こそ、悪かったよ」

稲葉「伊織は、アタシの事を想って言ってくれたんだろ。 なのにすまん」

伊織「稲葉ん……」

稲葉「……でも、アタシの考えは変わらない」

伊織「その理由、話してくれるよね」

私がそう言うと、稲葉んは顔を伏せながら口を開く。
352 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/18(月) 01:00:05.25 ID:eG1cTvOF0
稲葉「……アタシは、あいつとは距離を置きたいと思っている」

稲葉「今のままじゃ、辛いんだよ。 アタシだけじゃない、太一も……な」

稲葉「どうすりゃいいのか分からないんだよ。 どれが一番良い手なんて」

稲葉「……太一は今、伊織の事が好きなんだろ」

稲葉「あいつ自体、自分の事が分からないと言っていたが……今は伊織の事が好きなんだよ」

稲葉「アタシは太一の事が好きだ。 居ないなんて考えられないくらいに」

伊織「それなら……!」
353 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/18(月) 01:01:27.53 ID:eG1cTvOF0
稲葉「だからこそ、分かっちまうんだよ。 あいつの気持ちがさ」

稲葉「……それを見てるのが、辛いんだ」

でも、それって……まるで。

伊織「……ふうせんかずらに、負けたみたいじゃんか」

【現象】に振り回されて、それで稲葉んと太一の関係が壊れるなんて。

……負けてるじゃんか。
354 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/18(月) 01:03:00.23 ID:eG1cTvOF0
伊織「稲葉んは、負けてもいいの?」

稲葉「……そんな訳、無い」

伊織「なら、どうして……」

私は、はっと気付く。

おかしい。

そもそも、あの稲葉んがこうもあっさり負けを認める様な行動を取るだろうか?

追い詰められていても、ふうせんかずらに負けを宣言する様な行動を取るだろうか?

稲葉んにも思う所はあるだろう。 だけど、もしかしたら。

稲葉んはまだ、何かを隠しているんじゃないだろうか?
355 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/18(月) 01:04:11.97 ID:eG1cTvOF0
伊織「本当に、それだけの理由なの?」

伊織「稲葉んはまだ、何かを隠しているんじゃないの?」

稲葉「……」

小さく、溜息を吐きながら稲葉んは口を開く。

稲葉「お前には、隠し事が出来ないのかもな」

稲葉「……そうだよ。 まだ言ってない事がある」

伊織「それは、何?」

稲葉「言わない」

私が言い終わるか終わらないかの内に、即答。

どうして、どうしてなの稲葉ん。
356 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/18(月) 01:04:57.63 ID:eG1cTvOF0
伊織「なんで……」

稲葉「言いたく無いからだ」

伊織「でも、話さないと解決しないじゃん。 私は稲葉んに協力したいんだよ」

伊織「私達、友達でしょ? 稲葉ん……」

稲葉「話せば解決しない事だって、あるんだよ!」

稲葉「伊織は、お前はよく分かるだろ?」

【感情伝導】の時の、私の事だろう。
357 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/18(月) 01:05:24.89 ID:eG1cTvOF0
稲葉「友達だからって、全部が全部言う訳じゃねえだろ。 言えば終わっちゃう事だって、あるんだよ」

稲葉んは今にも泣き出しそうに、そう言った。

伊織「やっぱり、分からないよ。 稲葉んの事が理解できないよ」

稲葉「……そうか」

今にも泣きそうな顔を更に歪ませ、稲葉んは搾り出すようにそう言った。

伊織「でも、それでもさ」
358 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/18(月) 01:05:52.30 ID:eG1cTvOF0
伊織「私と稲葉んは友達だから。 仲間だから」

伊織「それだけは、何があっても変わらない」

伊織「だから、もし話せる時が来たら……」

伊織「いつでも相談に乗るよ。 稲葉ん」

稲葉「伊織……」

稲葉「……すまんな、ありがとう」

伊織「良いって良いって、友達でしょ?」

稲葉「ああ、そうだな」

最後にそう言った稲葉んは、笑顔だった。

それは無理矢理に作られた笑顔みたいで、私は胸が苦しくなるのを感じていた。
359 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/18(月) 01:06:19.54 ID:eG1cTvOF0
その日の夜、布団に潜り込んだ私は、一人考える。

本当に、これで良かったのだろうか?

稲葉んが話すのを、待っているだけで良かったのだろうか?

でも、稲葉んならきっと……相談してくれる筈だ。

それもまた、稲葉んの事を理解していないのだろうか?

分からない、分からないけど。
360 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/18(月) 01:06:45.64 ID:eG1cTvOF0
理解するには、本音をぶつけ合うしか無いんだ。

今はまだ、稲葉んの言葉を待とう。

信じるのもまた、友達だから。

いつかきっとまた、皆で笑いあえると信じてるから。

それはとても、大切な事。

私も皆に信じてもらって、何度も助けられた。

だからこそ、今の私がいる。
361 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/18(月) 01:07:16.97 ID:eG1cTvOF0
今はただ、皆を……稲葉んを信じよう。

だけどやっぱり、心に引っ掛かる物はある。

稲葉んは、話したら終わってしまうと言っていた。

それが、何なのかは私には分からない。

でも、話さないと始まらない。

それで例え終わってしまっても、また始めればいいだけの話。

なら、今はただ……稲葉んを信じて、待とう。


15話 終
つづく
362 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/18(月) 01:07:44.25 ID:eG1cTvOF0
以上で15話終わりです。

乙ありがとうございます!
363 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/02/18(月) 02:42:40.49 ID:QEk4kSh80
乙乙

稲葉んかわいいよ、稲葉んprpr
364 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/02/18(月) 12:54:05.98 ID:ctZVU5bG0
期待期待
稲葉んがんばれー
365 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/18(月) 14:02:03.65 ID:mneSORJjo
乙でした!
366 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/19(火) 23:13:30.79 ID:QAIwMgAl0
こんばんは。
第16話、投下します
367 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/19(火) 23:14:19.55 ID:QAIwMgAl0
【稲葉】

伊織には本当に感謝している。

出来れば全てを伝えたい。

でも、それをやってしまったら。

本当に全て、終わってしまう。

アタシは、どうすればいいんだ。

太一の事は好きだ。 それは今でも変わらない。

だけど昨日、ふうせんかずらが言っていた事が本当なら……

いや、"なら" では無い。 本当の事なんだ。
368 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/19(火) 23:14:57.02 ID:QAIwMgAl0
それは既に、証明されているじゃねえか。

相談したい。 皆に話してしまいたい。

しかしそれをやれば、アタシと太一は。

言えない、やっぱり言えない。

少し、落ち着こう。 冷静になるんだ。

まず、この状況をどう打破できるか、だな。

【現象】が終わるまで何もしない、ってのは駄目だろう。
369 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/19(火) 23:16:27.31 ID:QAIwMgAl0
ふうせんかずらが、それでは恐らく終わらせない。

何かあいつが面白いと感じる事が起きて、それであいつがそこそこ楽しめば、これは終わる。

それもあって、アタシは太一に振り出しに戻ろうと言ったのだ。

勿論、アタシも辛いし、太一も辛いだろうから……それが大半を占めているが。

って訳で、現状維持は駄目だ。

そして、太一にあの話を出したのだが……

ふうせんかずらは何も言ってこない、これだけじゃ駄目なのだろうか?

他にも、何かしなければ……いけないのか。
370 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/19(火) 23:17:09.50 ID:QAIwMgAl0
すぐに頭に思い浮かんだのは、アタシが今隠している事を皆に話す事だった。

それは駄目だ、そうすれば……終わる。

いや……ちょっと待てよ。

アタシは、何を基準に終わると判断している?

そう思っているのは、アタシだけか?

……そうか、そういう事なのか。

アタシにとっては、間違い無く、この選択は終わりだ。

だが、太一にとっては?
371 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/19(火) 23:17:36.41 ID:QAIwMgAl0
あいつが辛い思いをしているのは分かる。 自分の気持ちが滅茶苦茶になっているのだから。

それがすっきりとすれば、あいつは助かるんじゃないだろうか?

それならば、話せば全てがうまく行くんじゃないだろうか?

そうだ。 そうなんだ。

アタシは……自分を基準に、していたんだ。

問題ないさ。 全てが元に戻るだけだ。

元々、アタシには独りが合っている。

そもそも、元を正せばアタシが太一と伊織の関係に首を突っ込まなければ、最初からこんなに悩む事も無かったんだ。
372 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/19(火) 23:18:10.17 ID:QAIwMgAl0
なら、話してしまおう。

そうすれば、楽になるから。

全部に、諦めが付いて元通りになるだろ。

……多分、こうなる逃げ道を用意していたのも、ふうせんかずらの企みなんだろうな。

だが、もう良いだろ。

アタシがそれで納得しているんだから、あいつに嵌められたって訳でも無いだろ。

よし、そうと決まれば……明日の放課後、だな。
373 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/19(火) 23:18:53.93 ID:QAIwMgAl0
太一には、やめておくか。 話の内容的に今回の【現象】の事も含まれている。

もしそれが太一にばれたら、全員がランダムに【現象】に見舞われる。

それだけは、避けて起きたい。

アタシはそう思い、メールを打つ。

太一以外の3人に「明日の放課後、話がある」と。

恐らく、皆寝ているだろうが……朝には、見てくれるだろう。

送信ボタンに手を置いた所で、押そうとする動きが止まった。
374 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/19(火) 23:21:03.22 ID:QAIwMgAl0
気のせいだ、気のせい。

今にも胸が張り裂けそうなのも、気のせい。

声を出して泣き出したいのも、気のせい。

頭に太一の顔が浮かんでくるのも、気のせい。

苦しくて、辛くて、太一に好きだと伝えたいのも、気のせい。

こんな事を思って、自分の動きが止まっているのも……気のせいだ。

そしてアタシは、送信ボタンを押した。
375 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/19(火) 23:21:41.44 ID:QAIwMgAl0
伊織「稲葉ん、メール見たんだけど」

朝一番、教室に入ったアタシに伊織が声を掛けてきた。

稲葉「ああ、昨日の話の続き、だな」

伊織「……本当に良いの? 話したら終わるって、言ってたし」

稲葉「大丈夫だよ。 何も心配ねえさ」

伊織「そう……なら、いいんだけど」

稲葉「そもそも、お前は知りたがってたじゃねえか。 なら問題無いだろ?」

心配性な奴だな、ったく。
376 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/19(火) 23:22:26.24 ID:QAIwMgAl0
稲葉「あーそれと、太一には今日は部活が無いって事は伝えてある」

伊織「うん、りょーかい」

稲葉「それじゃ、放課後部室でな」

そう言い、自分の席へと付いた。
377 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/19(火) 23:23:11.07 ID:QAIwMgAl0
午後までの授業を受け、昼休みとなる。

アタシが弁当を広げようとした所で、前のドアから青木と唯が入ってきた。

稲葉「……ちっ。 お前らもかよ、弁当くらいゆっくり食わせろ」

唯「で、でも。 話って何だろうって思って」

稲葉「つうか、ここでこそこそ話してたら太一に怪しまれる。 場所を変えるか」

青木「……うん、分かった。 じゃあ部室にでも行こっか」

青木の言葉に小さく返事をし、三人で教室から出た。
378 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/19(火) 23:23:37.62 ID:QAIwMgAl0
唯「それで、稲葉。 話っていうのは?」

部室に入り、席に座るなり唯が口を開く。

稲葉「だから、そんな心配する様な話じゃねえって」

稲葉「それに、まだ伊織が居ねえだろ。 放課後、太一以外が揃ってから話す」

青木「大体の話の流れは伊織ちゃんから聞いてるけどさ、本当にそれって、話していいの?」

そう言われ、一瞬言葉に詰る。

稲葉「……大丈夫だよ、気にするなって」
379 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/19(火) 23:24:07.47 ID:QAIwMgAl0
青木「……分かったよ、それなら信じていいんだね」

すぐには、返せなかった。

くそ、何だってんだよ。 こいつらはどこまで人の心配すれば気が済むんだ。

稲葉「すまん、そろそろ教室に戻る」

稲葉「また、後でな」

そう言い、逃げる様にアタシは教室へと戻っていった。

青木と唯は、何かを言いたそうに、アタシの方を見つめていた。
380 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/19(火) 23:24:57.52 ID:QAIwMgAl0
昼休みが終わり、授業が始まる。

内容なんて頭に入って来ず、考えていた。

本当に、良いのだろうか。

……決めたじゃないか、昨日。

アタシは自分本位で考えていた。

伊織に昨日、こんな事を言われたっけな。

「稲葉んの事を、分かっていなかった」と。
381 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/19(火) 23:25:35.22 ID:QAIwMgAl0
そんなアタシも、太一の事を分かっていなかったのかもしれない。

あいつの気持ちを、分かっていなかった。

太一と付き合えて、分かり合えている気がしていた。

だけど、それはアタシが勝手に思っていた事だ。

太一の気持ちを考えれば、どうすればいいかなんて、分かるだろうが。
382 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/19(火) 23:26:03.22 ID:QAIwMgAl0
なら、迷う必要なんて無い。

これが、最善手だ。



そして放課後、アタシ達四人は、文研部部室へと集まった。

16話 終
つづく
383 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/26(火) 20:21:20.32 ID:mMFk/hTP0
こんばんは。
17話、投下致します。
384 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/26(火) 20:21:48.23 ID:mMFk/hTP0
【稲葉】

稲葉「集まったか」

伊織「うん。 太一はもう帰ってるよ。 さっき出て行くのが見えたから」

稲葉「そうか、んじゃあ……話すか」

少し、緊張してきた。

一度息を吸い込み、吐く。

これが、一番良い方法なんだ。
385 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/26(火) 20:22:23.91 ID:mMFk/hTP0
稲葉「じゃあ、そうだな……」

稲葉「まずは、四人で話合った時の後の話だ」

稲葉「青木が、唯に告白した日の事だな」

アタシはそう前置きをして、その日にあった事を話し始める。
386 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/26(火) 20:22:57.54 ID:mMFk/hTP0
---------------


稲葉「今回の【現象】についての情報? まだ何か隠してんのかよ」

「……隠している訳では無いんですが……ですが、そういう事になるのかもしれませんね……」

稲葉「くどいのは嫌いだ。 とっとと話して消えろ」

「……そうですか……では始めますが……」

「……稲葉さんは、どうして青木さんが【現象】を終わらせられたと思いますか……?」

「……絶対に逆らえない物に、どうして打ち勝てたのか……分かりますか……?」
387 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/26(火) 20:23:31.44 ID:mMFk/hTP0
稲葉「……さあな。 そればっかりは考えても分からねえ」

稲葉「と言うより、青木がアタシ達に話した事は知ってるんだな」

「……ああ……そうですね……見ていましたし……」

稲葉「はっ、ならアタシや伊織や唯にも【現象】を起こすのか?」

「……いえ……それはやめておきます……」

「……今回のが【現象】だと看破できた稲葉さんに……敬意を示して……と言う事にしておきましょう……」

稲葉「ふん、そりゃどうも」

稲葉「んで、青木が終わらせる事が出来たのはどうしてなんだ。 それがお前の言っている情報、なんだろ?」
388 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/26(火) 20:24:01.10 ID:mMFk/hTP0
「……話が早くて助かります……ええ、その通りですね……」

「……まずですね……今回の【現象】ですが……欠陥品、なんですよ……」

稲葉「欠陥品? どういう事だ」

「……実に弱く……中途半端な【現象】って事ですよ……」

稲葉「……つまり、不完全って事か」

「……そうとも言えますね……」

「……それで、何が不完全かと言いますと……」
389 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/26(火) 20:24:33.28 ID:mMFk/hTP0
「……力が……と言えば……正しいですかね……」

「……簡単に言いますと……制御が上手くいっていない……って事ですかね?」

制御がうまくいっていない?

稲葉「話が見えねえな。 それでうまく制御できなくて、青木の【現象】が終わったって事か?」

「……制御と言いましても……こちら側でどうこう……と言った訳では無いんですよ……」

「……制御できるのは……本人ですから……」

少し、寒気がする。

こいつは何を言いたいんだ。 何を言っている?
390 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/26(火) 20:25:07.89 ID:mMFk/hTP0
稲葉「……僅かだが、理解できたな」

想像は、したくなかった。

「……やはり……稲葉さんは話が早くて助かります……」

「……そうです……つまり」

「……青木さんは……心の底から桐山さんに好意を抱いていた……」

「……その気持ちに……【現象】が負けた……と言う事ですね……」

「……まあ……この早さで終了されたのは……こちら側も想定外でしたが……」

「……ある程度は……しっかり機能する筈なんですけどねぇ……」
391 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/26(火) 20:25:36.83 ID:mMFk/hTP0
稲葉「お前は……結局何が言いたいんだよ」

「……言わずとも……分かりますよね……?」

嘘だ。 そんなの。

「……八重樫さんは……本当に心の底から……稲葉さんに好意を抱いているんですかね……?」

「……一つ言っておきますが……もうかなり……【現象】の力は抑えてありますよ……青木さんの時よりも楽に……終わらせられる筈なんですけどねぇ……」

「……信じないのは……稲葉さんの自由ですけど」

稲葉「クソ野郎が……テメェはアタシに恨みでもあんのかよ」

「……いえいえ……恨みだなんてそんな……」

「……真実を……教えに来ただけですから……」
392 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/26(火) 20:26:03.48 ID:mMFk/hTP0
アタシは、アタシの想いは本物だ。

太一も、本当にアタシの事が好きになってくれたのだと思っていた。

けど、それはどうやら勘違いらしい。

……確かに、ふうせんかずらの言っている事は本当の事なのだろう。

現に、青木が【現象】を終了できている。

それはつまり、太一の気持ちは……

最初から、アタシには向いていなかったって事か。

……何だか笑えてくるな。 馬鹿らしくて。
393 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/26(火) 20:26:35.38 ID:mMFk/hTP0
心の奥で、本当にちょっとだけ、太一に対して嫌な感情が出てきていた。

それに気付き、すぐに振り払う。

こんな事を考えてしまうから、アタシは太一に振り向いて貰えないのだろう。

惨めだな、くそ。

稲葉「もういい、さっさと消えろ」

感情を押し殺し、アタシはふうせんかずらにそう言った。
394 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/26(火) 20:27:26.95 ID:mMFk/hTP0
-----------------------

伊織「……稲葉ん」

伊織が小さく、声を漏らした。

稲葉「そんな顔すんなよ。 アタシはもう大丈夫なんだから」

青木「俺……確かに、唯の事が好きだ」

青木「【現象】で稲葉っちゃんの事が好きになっても、どうしても気になってたんだ。 唯の事が」

青木「それで、自分の気持ちに自信が無くなって……でも、考えるのやめたんだ」
395 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/26(火) 20:28:21.70 ID:mMFk/hTP0
青木「自分がしたい事をする、自分がどうしたいのか。 って思ってさ」

青木「それで最初に浮かんできたのは、唯の事だったんだよ」

唯「あ、あんた今そんな事言わなくても……」

別に、アタシは気にしていないのに。

青木「だから! だから太一も気付くよ、絶対に。 太一はすげえ奴だから……大丈夫だよ。 稲葉っちゃん」

稲葉「もう良いんだよ。 今、全部終わった事なんだ」

そうだ。 この瞬間終わったんだ。

全部、もう過去の事だ。
396 : ◆t8NYdLxivU :2013/02/26(火) 20:29:01.85 ID:mMFk/hTP0
伊織「稲葉ん? 終わったって、どういう事?」

伊織「……昨日も、似たような事言っていたよね。 まだ何かあるの?」

稲葉「ああ、そうだな。 一つまだ言ってない事がある」

稲葉「最後に、あの野郎はアタシにこう言ったんだよ」

稲葉「もし、この話を他の奴に話したら太一の気持ちを本物にする」

稲葉「ってな」

アタシは笑いながら、自分でも無理をしているのが分かる笑みを顔に貼り付け、伊織達に向けて言った。


17話 終
つづく
397 : ◆t8NYdLxivU :2013/03/07(木) 00:58:36.06 ID:jAdoZDRB0
こんばんは。
18話、投下します
398 : ◆t8NYdLxivU :2013/03/07(木) 00:59:07.01 ID:jAdoZDRB0
【伊織】

それって、それって。

伊織「ちょっと待ってよ、稲葉ん」

伊織「それなら、それを言ったら太一は」

稲葉「そうだ」

稲葉「アイツが見てないって事もねえだろうし、もうこれは【現象】じゃない」

稲葉「正確に言えば、無くなったって事だな」

そんな。

伊織「なら、どうして……」
399 : ◆t8NYdLxivU :2013/03/07(木) 01:00:38.95 ID:jAdoZDRB0
違う。

相談してって言ったのは、私じゃないか。

伊織「……ごめん、本当にごめんね。 稲葉ん」

稲葉「なんで伊織が謝るんだよ。 アタシはアタシなりに考えて、話そうと思ったんだから」

唯「で、でもそれだと!」

稲葉「だから、良いんだって」

稲葉「元より、アタシと太一じゃ気持ちの大きさが違ったんだよ。 それにこっちの方が太一も楽だろ」

稲葉「これで良かったんだよ。 一件落着だ」
400 : ◆t8NYdLxivU :2013/03/07(木) 01:01:35.80 ID:jAdoZDRB0
違う。 違う違う違う!

伊織「……じゃんか」

稲葉「ん? 伊織何て言った?」

伊織「稲葉んが、楽じゃないじゃんか!!」

稲葉「……何言ってんだよ、アタシもこっちの方が楽だ」

伊織「違う、違う!」

伊織「太一は悩んでたんだよ! どうすればいいかって!」

伊織「変わったかもしれない、それなのに……」

伊織「ごめん、話してって言った私が言うのは間違ってると思う」
401 : ◆t8NYdLxivU :2013/03/07(木) 01:03:49.12 ID:jAdoZDRB0
伊織「だけど、言わせて。 稲葉ん」

伊織「それ、逃げてるだけじゃないか」

稲葉「……逃げてなんかねえよ! アタシは太一の気持ちを考えて……!」

伊織「なら、自分の気持ちはどうなんだよ!」

伊織「稲葉ん言ったよね、それでも太一が好きだって」

伊織「それなのに、これを話したら駄目じゃん……」

伊織「どんだけ不利でも、不条理でも、最後には笑うのが稲葉んじゃないの?」

伊織「たったこれだけの事で、諦めて良い位の気持ちだったの?」
402 : ◆t8NYdLxivU :2013/03/07(木) 01:05:15.86 ID:jAdoZDRB0
稲葉「たったって……何だよ」

稲葉「アタシが、アタシがどんだけ悩んだと思ってるんだよ! こんな訳分からねえ【現象】に巻き込まれて!」

稲葉「折角、太一に振り向いて貰えて! でもそれもすぐに壊されて!」

稲葉「それなのにまだ頑張れって言うのかよ! ああおい!?」

伊織「それだけ悩んでたなら、どうして最後の最後で諦めちゃったんだよ……」

私がそう言うと、稲葉んは顔を伏せ、小さく言った。

稲葉「……今日は帰る」

稲葉「……ふうせんかずらが来るかもしれないから、来たら連絡してくれ」

稲葉んはそのまま私の横を通り過ぎ、部室のドアに手を掛けようとした。
403 : ◆t8NYdLxivU :2013/03/07(木) 01:06:15.87 ID:jAdoZDRB0
稲葉「何だよ、青木」

その前を青木が塞ぐ。

青木「あんまりさ、鞭打つような事はしたくないんだけど」

青木「伊織ちゃんが言ってる事は正しいと思うよ。 俺は」

青木「確かに、俺達のせいで言う空気になったのはあると思う」

青木「だからそれは謝る。 本当にごめん」

青木「でも、いくらでも言い様はあったと思うんだよ」

青木「ふうせんかずらの件って事を言えば、俺達も無理に聞こうとはしなかっただろうしね」

青木「あくまでも客観的にだけど、これだけは言わせてくれよ」
404 : ◆t8NYdLxivU :2013/03/07(木) 01:06:41.52 ID:jAdoZDRB0
青木「今の稲葉っちゃんは、逃げてるだけだ」

青木「太一や、ふうせんかずらから逃げてるって意味じゃなくて」

青木「自分から、稲葉っちゃん自身から逃げてるだけだ」

稲葉「……」

稲葉んは返事をしない。

青木もそれは期待していなかったのか、すんなりとドアの前からどいた。

結局……稲葉んはその後、何も言わずに部屋から出て行った。
405 : ◆t8NYdLxivU :2013/03/07(木) 01:07:12.66 ID:jAdoZDRB0
唯「どうして……稲葉」

静まり返った部室に、唯の力無い声が聞こえる。

伊織「……もう、どうしようも無いのかな」

青木「ふうせんかずらの言っていた事が本当だとすると、太一は」

青木「もう、伊織ちゃんの事が本気で好きって事……だよね」

唯「なんで……なんで毎回毎回、何度もこんな酷い目に会わされなきゃいけないのよ……」

悔しい。

稲葉んを助けられなかった事。

理解せず、無理に聞き出そうとした結果だ。
406 : ◆t8NYdLxivU :2013/03/07(木) 01:08:53.40 ID:jAdoZDRB0
私がもし、昨日……稲葉んの所に行ってなければ、今はまだ話していなかったんじゃないだろうか。

だろうか、では無いか。 そうだったんだ。

許せない。

稲葉んをここまで傷付けた、ふうせんかずらを。

何を企んでいるのか、何が目的なのか、何がしたいのか。

そして何より、今もここで稲葉んを追いかけず、動けない自分が許せない。
407 : ◆t8NYdLxivU :2013/03/07(木) 01:09:46.44 ID:jAdoZDRB0
青木「伊織ちゃん、大丈夫?」

青木の声にはっとした。

伊織「え、私? うん。 大丈夫だよ」

青木「せめて俺達がいつも通りでいなきゃ、稲葉っちゃんも太一も戻り辛いからさ」

青木「唯も伊織ちゃんも、元気出して行こうぜ!」

青木「文研新聞の〆切りも近いしさ、二人が戻ってくるまで作業して、驚かせよう」

青木の心遣いは、嫌と言うほど伝わってきた。
408 : ◆t8NYdLxivU :2013/03/07(木) 01:11:46.76 ID:jAdoZDRB0
そうだ。 くよくよしていても仕方ない。

これからどうするか、なんて事は二人が戻ってきたら考えよう。

伊織「そう、だね! むしろ三人だけで完成させちゃおっか?」

唯「そうね! サボってる二人が悪いんだし、でも少しは残しておいてあげないとね」

戻ってくれば、きっと凄い解決方法が分かる筈。

青木「よーし! んじゃあ早速始めますか!」

青木「……つっても俺、まだネタ何にも考えてなかった」

だって。
409 : ◆t8NYdLxivU :2013/03/07(木) 01:12:47.69 ID:jAdoZDRB0
伊織「もう、しっかりしてよ青木は! 私の分も考えて貰う予定なんだからさ〜」

青木「え、マジ? そんな事企んでたの!?」

五人が揃えば、何だって解決してしまうから。

唯「伊織もふざけてないで、ちゃっちゃ終わらせちゃうわよ!」

唯「こんな時だからこそ、いつも通り……でしょ? 青木」

青木「そうそう、二人は絶対戻ってくる! どんだけ揉めても、最後には戻ってくる!」

伊織「そこまで言い切れる青木に素直に感心するよ」

空元気、と言えばそうかもしれない。
410 : ◆t8NYdLxivU :2013/03/07(木) 01:13:30.38 ID:jAdoZDRB0
だからって、それがどうしたって言うんだ。

稲葉んならきっと、こんな状況からでもひっくり返せる策を出してくれる。

太一ならきっと、本当の気持ちに……例え、ふうせんかずらに何をされたって、気付いてくれる。

他人任せ? それでも結構。

私は、二人を信じているから。


18話 終
つづく
411 : ◆t8NYdLxivU :2013/03/07(木) 01:14:28.22 ID:jAdoZDRB0
以上で18話終わりです。
412 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/28(木) 23:34:05.76 ID:HTSRCclRo
わたし待つわ
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