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ゆるゆるフォークロア - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 : ◆T6URQJJiS6 :2013/01/29(火) 03:17:52.35 ID:tCN5p88zo

三山ゆかは宇宙人だ。

父の三山勤と母の三山幸子の間に生まれ、東京の浅草で育った彼女は正真正銘の宇宙人だ。
家は祖父の代から住んでいる、三年前に改築した庭付きの二世帯住宅。
兄弟はおらず庭では幼いころに拾った雑種のバウという犬も飼っている。
たどれば百年以上前からここに住み続ける、立派な江戸っ子宇宙人である。


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諸君、狂いたまえ。 @ 2024/04/26(金) 22:00:04.52 ID:pApquyFx0
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少し暑くて少し寒くて @ 2024/04/25(木) 23:19:25.34 ID:dTqYP2V2O
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渾沌ゴア「それでもボクはアイツを殺す」 @ 2024/04/25(木) 22:46:29.10 ID:7GVnel7qo
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二次小説の面白そうなクロス設定 @ 2024/04/25(木) 21:47:22.48 ID:xRQGcEnv0
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佐久間まゆ「犬系彼女を目指しますよぉ」 @ 2024/04/24(水) 22:44:08.58 ID:gulbWFtS0
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全レスする(´;ω;`)part56 ばばあ化気味 @ 2024/04/24(水) 20:10:08.44 ID:eOA82Cc3o
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1713957007/

君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
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笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
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2 : ◆T6URQJJiS6 [sage]:2013/01/29(火) 03:24:20.37 ID:tCN5p88zo

「――であるからして、やっぱり宇宙人なんてものは存在しないんだ」


そんな彼女の隣に座るのは根っからの科学男、双葉かおるだ。
女みたいな名前と、女が腐ったような性格の彼だが、ゆかは彼のことが好きだった。
何故なら、安心できるからだ。


「本当に宇宙人はいないの?」

「あぁいないね。いる訳がない。それくらい君だって分かるだろう?
もし仮にいたとしてもそれは彗星などに付着する微生物だろうさ。
タコやイカの宇宙人や月の裏の秘密基地なんてナンセンスなもの、いまどき小学生も信じないよ」


嫌味ったらしくかぶりを振ってかおるは答える。

3 : ◆T6URQJJiS6 [sage]:2013/01/29(火) 03:25:31.22 ID:tCN5p88zo

「UFOは?」

「雲の見間違い、夜間飛行している新型ヘリ、酔っぱらった大人の妄言」

「グレイ」

「遺伝子異常を起こした子供、奇病に感染した猿、米国によるトリック映像」

「キャトルミューティレイション」

「軍隊アリの一種、集団心理が巻き起こした猟奇事件、新薬開発に伴う家畜による実験」


拍手をするゆかに、かおるは勝ち誇った顔を向ける。


「分かったろう、宇宙人なんてこの世には存在しないんだ」

「うん、わかった」

4 : ◆T6URQJJiS6 [sage]:2013/01/29(火) 03:26:17.94 ID:tCN5p88zo

おきまりのやりとり。
問いかけるゆか。答えるかおる。
内容はいつも同じ。宇宙人はいるか否か。答えもいつも同じ。いるはずがない。
こうして今日も、ゆかの日常は守られる。


宇宙人が地球人と接触する際に守らなくてはならないこと。
それは自身が宇宙人であるとばれない事。

どれほどタコ足を伸ばしたくなろうと、どれほど体内に金属片を埋めたくなろうと、してはいけない。
一度でも宇宙人だとばれてしまっては、この星を出て行かなければならないのだ。

5 : ◆T6URQJJiS6 [sage]:2013/01/29(火) 03:27:10.50 ID:tCN5p88zo

「ゆかは、いると思うのか?」

「かおるくんがいないって言うんなら、いないんだと思う」


ゆかは首を振った。さらさらとした黒髪が風に揺れる。
それを目にしたかおるは、何か小声で呟きながらそっぽを向いてしまった。


「変なかおるくん」

「君の方が変だ。何度も何度も同じ質問をして。君は本当にとろい女だな」


遠慮のない悪口とは裏腹にその顔は真っ赤にゆであがり、まるで火星のタコのようだ。

6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/29(火) 03:27:57.37 ID:tCN5p88zo
何度も同じ質問をして、何度もそれに答え、挙句の果てにはとろいとまで言われる。
そんな彼だから、相手は馬鹿に決まっているという型にはまった思考から抜け出せない彼だからこそ、ゆかは安心して側にいることが出来る。


この人は、絶対に宇宙人を信じない。


「ねぇかおるくん」

「なんだい」

「宇宙人がいたら、私に教えてね」

「だからいないよ宇宙人なんて」


分からず屋の地球人に人差し指で額を小突かれた宇宙人は、可愛らしく舌を出したのだった。

7 : ◆T6URQJJiS6 [sage]:2013/01/29(火) 03:29:35.38 ID:tCN5p88zo


【 宇宙人と呼ばないで 】



2012 東京 浅草近辺
8 : ◆T6URQJJiS6 [sage]:2013/01/29(火) 03:30:02.31 ID:tCN5p88zo
おやすみなさい
9 : ◆T6URQJJiS6 :2013/01/30(水) 02:37:11.15 ID:nBLz0ahUo


――祖父は光より速かった。

顔なじみの男が晩酌を交わすたびに話す身内自慢のひとつだ。

享年140歳、江戸の世から日本の行く末を見守り続けてきた妖怪の話。

韋駄天ハヤブサの武勇伝。

10 : ◆T6URQJJiS6 [sage]:2013/01/30(水) 02:38:07.95 ID:nBLz0ahUo

彼の祖父はそれはもう快男児ここにありと言わんばかりの妖怪であったらしい。
直接お会いしたことはついぞなかったのだが、その聞きしに勝る逸話の数々は私の住む田舎にまで届くと言えば、相当のものだと推して図ることも出来よう。


風より速きはハヤブサの脚。


そんな謳い文句があったくらいだと彼は酒臭い息を吐きながら話す。

11 : ◆T6URQJJiS6 [sage]:2013/01/30(水) 02:39:19.79 ID:nBLz0ahUo

人の世が栄え、鉄の馬がそこかしこを駆け抜ける世の中になって妖怪たちはそれはもう困り果てたそうな。
あんなにか弱かった人間が妖怪を恐れなくなっていったのだ。

――俺は生まれちゃいねぇが、相当苦労したらしいぜ。

カレイの干物を箸でほぐしながら片膝をついて彼は愚痴を垂れ流す。
これも、いつもの流れ。
12 : ◆T6URQJJiS6 [sage]:2013/01/30(水) 02:40:48.86 ID:nBLz0ahUo

ある者たちは山に。
ある者たちは海に。
ある者たちは谷に。
そしてある者たちは人の住む町の暗がりに。

妖怪は集まって話し合いをする。妖怪の威厳を取り戻すにはどうすればいいのか。

年老いた知恵のある妖怪たちが額をぶつけあい、あぁでもないこうでもないと話していた時だ。
老人などを尻目に、軽々と人に打ち勝った者がいた。

馬も、車も、蒸気機関車も、彼の前では遅い遅い。

とろくて瞼が落ちそうだ。お天道様も呆れてらぁ。

そんな言葉を鼻歌混じりに歌いながら、日本最速をその脚に刻み続けてきた男。


ハヤブサ。

13 : ◆T6URQJJiS6 [sage]:2013/01/30(水) 02:42:02.77 ID:nBLz0ahUo

そんな韋駄天も寄る年波には勝てないのか、ついに膝をつくことになってしまう。
相手は東海道新幹線0系、通称『こだま』
日本に初めてできた新幹線だ。

まるで別次元の速さ。
その脚で振りきれないものなど何もないと誇っていたハヤブサをいとも簡単に抜き去り、地平線の彼方まで走り去っていった強者。

14 : ◆T6URQJJiS6 [sage]:2013/01/30(水) 02:43:03.41 ID:nBLz0ahUo

その時のハヤブサの顔は今でも妖怪の間では語り草だ。
時代は変わったのだと、誰もが痛感させられたらしい。

江戸が終わり。
文明開化の華が咲き。
日本を変えよと政府が動き。
海を越えた戦争を経て。

それでもなお人には勝てるとどこかで誇りを持っていた妖怪たちの心を根元からポキリと折った事件。


ハヤブサ敗北。


ここまで話したところで彼はいつも小休止といってトイレに立ち上がる。
相変わらずだ。私には何度も話したろうに。

15 : ◆T6URQJJiS6 [sage]:2013/01/30(水) 02:44:18.23 ID:nBLz0ahUo

しばらくして戻ってきた彼の手には、どこからくすねてきたのか大吟醸が握られていた。
どこまで話したか、などととぼけつつコップを片手に手酌をする彼。
ハヤブサが負けたところだと話してやればわざとらしく頷いてきた。


多くの妖怪が意気消沈する中、人の世は今までとはくらべものにならない速さで変わっていく。
切り崩される山々。
消えゆく森林。
広がる田畑。
変わる街並み。
何もかもが未来へと突き進んでいく。

そんな中、彼の住む長野の山奥にも大きなダムと道路を作ろうという話が届いた頃だったろうか。

ハヤブサが動いた。
16 : ◆T6URQJJiS6 [sage]:2013/01/30(水) 02:45:44.92 ID:nBLz0ahUo
こだまに負けて以来、だんまりを決め込んでいた彼の目に浮かぶのは赤々と燃える灼熱の炎。

男ハヤブサ120歳。
還暦を二週してなお年老いた体は燃え尽きてはいなかった。


ハヤブサリベンジ、ひかりを超える。


そのニュースは東日本に住む多くの妖怪の耳に入った。
あのハヤブサが立ち上がる。

勝てるのか?年は?体力は?
相手はこだまより速い新幹線だ。
ただのデマなんじゃないのか?
などと憶測が憶測を呼ぶ中、ついに決戦の時が迫る。
17 : ◆T6URQJJiS6 [sage]:2013/01/30(水) 02:47:09.42 ID:nBLz0ahUo

8月10日、真夏の炎天下、雲一つない晴れ晴れとした空の下。

若い頃から愛用していた長ハチマキを身に着けた飛脚姿の男が一人。
浅黒く焼けた肌。スラリと伸びた細い手足。銀色に逆立つ髪の毛。
そして皺の刻まれた顔の奥に潜むギラギラと輝く両の瞳。

相手は当時日本最速を誇った新幹線、ひかり号。
ギャラリーは集いも集ったり妖怪1000匹。

レールを揺らす振動音を皮きりに、ハヤブサ最後の勝負が始まった。

18 : ◆T6URQJJiS6 [sage]:2013/01/30(水) 02:48:18.39 ID:nBLz0ahUo

結果はどうなったかって?
それはまぁ、彼の話が終わっていないからまだ言えないな。
なにせ彼ときたらカレイの小骨が喉に刺さったといって今は台所で必死にご飯を丸呑みしているんだ。悪いが笑ってしまいそうだよ。

……まぁ、満面の笑みで写る遺影を見れば、聞かずとも答えは分かりそうな気もするけどね。

あれを見ていると私の耳にも聞こえてきそうだよ。あの時の歓声が。

19 : ◆T6URQJJiS6 [sage]:2013/01/30(水) 02:48:54.83 ID:nBLz0ahUo







――さすがハヤブサ、日本いちぃいいいいい!







20 : ◆T6URQJJiS6 [sage]:2013/01/30(水) 02:49:46.74 ID:nBLz0ahUo


【韋駄天ハヤブサ】



1995 長野
21 : ◆T6URQJJiS6 [sage]:2013/01/30(水) 02:50:13.55 ID:nBLz0ahUo
おやすみなさい
22 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2013/02/01(金) 01:54:25.45 ID:LCN19Rtbo


とある大富豪の話である。


23 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2013/02/01(金) 01:55:56.49 ID:LCN19Rtbo

百物語と呼ばれる儀式がある。
季節は問わないが一般的には夏の夜に有志が集まり、互いの持ち寄った怪談話を語り合うというものだ。

その数、計百。

容易するものは語った怪談の数を表すための蝋燭、そして身の毛がよだつほどの極上の逸話。
月明りの下、物好き達が車座を作ってひっそりと行うそれは、無事に百の怪談を語り終えた時に何かが起こると言われている。
24 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2013/02/01(金) 01:57:35.42 ID:LCN19Rtbo

ある者は怪異を見たと。
ある者は異界に連れ去らわれたと。
ある者は狂ったように笑い続けたと。

人々の間を駆け巡り多種多様な噂を巻き込んで、百物語は遠い昔から世間をにぎわせていた。

25 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2013/02/01(金) 02:01:53.91 ID:LCN19Rtbo

そんな百物語が、さる高貴な男の耳に飛び込んできた。

この男、高貴な生まれで大層な金持ちでありながら、暇を持て余した人生を過ごしたためかおもしろいものにとんと目の無い性分であった。
なればこそ、この奇妙で面白おかしくもどこか背筋を震わせる、件の百物語とやらを早速ためしてみたくなるのも無理のない話であろう。


集まった人間は己を含めて十余名。
普段は煌々と灯りをともす屋敷の光を全て落とし、男たちはさっそく南から北から集めてきた奇怪なる話をせつせつと語り始めた。
26 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2013/02/01(金) 02:08:17.77 ID:LCN19Rtbo

さてここで、一つの疑問にぶちあたる男。

時間は足りるのか。

蝋燭など百本程度メではない。
人など使用人がいれば事足りる。
ネタについても広くつながった物好きどもから嫌という程集められる。

しかし時間に関してはどれほど男が金と力を持っていようと変える事などできはしない。
太陽と月の満ち欠けを操れるものなど一人もいないのだ。

一話五分で五百分、一分の猶予を間に挟めばさらに百分の時間が伸びる。
九時間も十時間もかかっていては夜が明けてしまうではないか。
おりしも季節は夏、夜が明けるのはとんとはやい。
27 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2013/02/01(金) 02:10:50.04 ID:LCN19Rtbo

日が落ちてすぐの夕刻。
まだ外には人の往来が激しいうちから日は沈んだ日は沈んだと互いをごまかしながら、
時計の針を気にしつつ怖さの欠片もない話を徒労感と眠気に耐えて必死にこなした男たち。

そして日が昇る一時間ほど前に最後の蝋燭を吹き消した時、集まった全員の深いため息をともに、異変は起こった。



――屋敷を飛び回る、数えきれぬほどの人魂。



あるものは赤。
あるものは青。
あるものは緑。

薄ぼんやりと光ながら飛び交う霊魂。

恐れおののき叫び声をあげて逃げ惑う者たち。
だが男はあぐらをかきながら堪えきれぬ眠気のためにあくびをしつつ、一言こうつぶやいた。
28 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2013/02/01(金) 02:11:41.64 ID:LCN19Rtbo



「つまらぬ」

29 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2013/02/01(金) 02:13:09.33 ID:LCN19Rtbo

そう、なんとも面白くなかったのだ。
たかが人魂。
喋りも叫びもせぬ、ものを燃やすこともない。
これではただの大きな蛍ではないか。

どれほど怖いことが起きるのかと楽しみにしていた男は失望のため息をついた。
そして、ある一つの決意を胸に宿す。

百では物足りぬ、次は千でやるぞ。
30 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2013/02/01(金) 02:16:32.54 ID:LCN19Rtbo

呆れかえる従者たち。
相手にされず飛び交う人魂が作った薄暗がりの中で、不敵に微笑む男はそう宣言をしたのだ。

もっとも、男とて馬鹿ではない。
どれほど待とうとも千の物語を語れるほどに夜が長くなるこどなどあり得ないと知っている。
結局は一年もたてば彼の興味もべつのものへと向かってしまい、男が千の物語を紡ぐことはついぞなかった。

時が過ぎ去り男が年老いた頃には、一連の騒動も彼の与太話の一つに数えられるだけだった。

31 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2013/02/01(金) 02:18:25.62 ID:LCN19Rtbo

だが、この話を真に受けるものがいた。
彼の子孫の一人である。

その男は先祖と同じように、金持ちで、世俗から離れ、面白いことが大好きな、なんとも面倒極まりない気性の持ち主であった。

32 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2013/02/01(金) 02:19:31.41 ID:LCN19Rtbo

彼は考える。
南極でやれば、千物語も可能なのではないか、と。

極夜という現象がある。
地軸の傾きにより、ある緯度の高さを超えた地域では一日中太陽が見えない季節が存在する。
その期間を活かし、太陽の光を拝まずにすむ間に千の話を終えてしまっても構わないのではないかと考えたのだ。
33 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2013/02/01(金) 02:22:21.21 ID:LCN19Rtbo

なんとも奇妙奇天烈、大胆不敵。
そして無駄のひとことで片付けられるような計画であろうか。

参加者は一人が覚えられる怪談の数を考慮に入れて五十人。
事前に用意したプロジェクトチームにより世界各国の怪談話を寄せ集め、必要であれば覚えやすいように改変を行う。
それぞれの担当者に原稿として送りつけ頭に叩き込んでもらうのだ。
参加者たちにが長時間の語り合いにも対応できるように衣食住を完備した施設も万全。
万が一の時にも対応できるように医師とリザーバーをも投入した一大プロジェクトだ。
期間にして約一か月。
果たして成功するのかも定かではないこの企画を男は嬉々として仲間内に語っているらしい。


いったい誰が得をするのか。


そんな無粋な質問に対し、とある大富豪はこう答えるそうな。


34 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2013/02/01(金) 02:23:11.66 ID:LCN19Rtbo



だって、面白そうじゃないか。

35 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2013/02/01(金) 02:24:40.26 ID:LCN19Rtbo


【 千物語 】


1985 東京

36 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2013/02/01(金) 02:25:23.35 ID:LCN19Rtbo
おやすみなさい
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/03(日) 08:42:37.14 ID:ODUude1fo
次はいつかな
楽しみ
38 : ◆T6URQJJiS6 [sage]:2013/02/04(月) 02:04:20.80 ID:SPTNzKwso
>>37
ストックが出来たらここに流す形なので基本的に不定期ですね
39 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2013/02/04(月) 02:05:53.96 ID:SPTNzKwso
いらっしゃいませいらっしゃいませ。

お客様、本日はどのようなご用件でいらっしゃいますでしょうか。
40 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2013/02/04(月) 02:07:51.06 ID:SPTNzKwso

……眼鏡。

眼鏡でございますかぁー!
はい、ハイハイハイ!ございますございます!

遠近両用やスポーツ用、乱視用に超薄型!
PCをお使いになるお客様用に画面の光から目を守るレンズなどもご用意させていただいています!
フレームは数百種類、レンズの形状もご自由にお選びいただけますよぉー!
カラーバリエーションも豊富でして、視力検査に関しましてもさっさのパッパと……

……え、違う。普通のめがねじゃない。
41 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2013/02/04(月) 02:09:46.27 ID:SPTNzKwso
……あぁーっ!そぉーいう事でございますか!

ハイハイハイ!
お・しゃ・れ、でございますねぇー!?
近年は目の補助器具として以外にもファッションとして眼鏡を身に着けるお客様が増えておりましてハイ!
当店でももちろん視力補正のないものや多種多用なカラーを揃えたわが社自慢のブランドを誇る特製サングラスなどぉー……

……ん?それも違う。自分はおしゃれで眼鏡を付けるようなキャラじゃない。
42 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2013/02/04(月) 02:12:08.53 ID:SPTNzKwso
……なるほどなるほどー!
それではこれでございますね!

ハイハイハイハイ!
指紋やほこりなどの除去を素早く手軽に行える特製眼鏡拭きとコーティングを行うクリームのセットなどが今ならお安くー……

……え、だからそういうのじゃない。



…………。




もしかして、『アレ』でございますか?
43 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2013/02/04(月) 02:13:49.07 ID:SPTNzKwso

んんー、アレに関しましては当店といたしましても、やはりお使いになられるには少しクセが強すぎるものでございましてですねー……


……言い値で買う。そちらに迷惑はかけない。


……わっかりましたぁー!どぉーぞ!こちらにどぉーぞ!
44 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2013/02/04(月) 02:15:54.95 ID:SPTNzKwso

さささ、お座りください!
なになに、店頭に出すような商品でないことはお客様も分かっていらっしゃいますでしょうに!少々お待ちを!

……。

おっまたせいったしましたぁー!
こちらがお客様がお望みになっていらっしゃられました、私たちの誇る技術力が結集した特製新機軸製品、その名もぉー……



虹色めがね!!!

45 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2013/02/04(月) 02:17:25.00 ID:SPTNzKwso

……え、知ってる?そんな大層な言い方しなくていい?
まぁまぁ、そういう商売なんでございますよ!しょうばい!ね!


おっと商品解説がまだでございました。……コホン!

こちらのめがねでございますが、小型カメラによって視界に写る対象の顔を認識し、その表情によって感情を図る機能がございます。
46 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2013/02/04(月) 02:19:26.57 ID:SPTNzKwso

また極小に細分化されたレンズカメラで多方面から対象の表情をとらえることにより、今までの商品と比べまして約3倍もの精度を誇っております。

なんと識別可能な感情は7種類!

喜怒哀楽に加えて微妙な表情変化により今までは判定できなかった悩みや呆れ、そして憂鬱といった微妙なニュアンスを含んだ感情までバッチリと識別!

それらを色をつかって瞬時に使用者であるお客様の視界に投影するのでございます!

この識別機能を活かしまして、相手とのコミュニケーションをより効率的に行えるというのがこの商品の魅力!

まぁーさにスゥーパァーアイテッム!なのでございます!


……えぇはい、レンズの方は度を入れることは出来ませんのでその点はご了承ください。
47 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2013/02/04(月) 02:21:30.09 ID:SPTNzKwso

しかしこちらの商品、お客様の肉体と直接リンクをさせていただきますので手術費も込めてかなりの高額商品となります。
更には着脱が不可能というハンデを背負うことになりますので、こちらといたしましても安易なご決断はなされない方が良いとは思いますが……


……わかりました、固い意志は変わらないということでございますね。
そういたしましたらこの場で契約書を書いていただきますので少々お待ちくださいませ。

48 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2013/02/04(月) 02:25:27.03 ID:SPTNzKwso

……。


はい、お買い上げまことにありがとうございます。
今後ともぜひごひいきにお願い申し上げます。



オニヤンマ様。

49 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2013/02/04(月) 02:27:39.49 ID:SPTNzKwso


【 虹色めがね 】


2003  茨城

50 : ◆T6URQJJiS6 [sage saga]:2013/02/04(月) 02:28:42.63 ID:SPTNzKwso
おやすみなさい
51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/05(火) 17:57:23.42 ID:e5/5RljRo
乙だ!
52 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2013/02/10(日) 01:49:26.81 ID:aNOXkH5vo

世界中の鉄道員の間で語り継がれている噂がある。


――列車の見る夢

53 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2013/02/10(日) 01:50:16.76 ID:aNOXkH5vo

夜中に使われなくなった客車から窓の外を見ると、かつてその列車が走っていた車窓の風景が写るというのだ。

誰もいない苔むした、時間が止まったような不気味な車内で、一人冷たく堅くなった座席に座り煤けた窓に目をやる。

ある者は鮮やかに咲いた一面のラベンダー畑を。
ある者は雪吹きすさぶ凍えるようなロシアの大地を。
ある者はどこまでも広がる田園風景を。
ある者は海岸線に沈む燃えるような夕焼けを。
ある者は密林かと思うような生い茂る緑を。

54 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2013/02/10(日) 01:51:20.46 ID:aNOXkH5vo

ガタゴトと揺れる振動。
ざわつく車内。
線路を走る車輪の軋み。

幻とは思えない光景に窓から目を離せば一瞬でまた元の暗闇が辺りを包み込む。

洋の東西に関わらず、世界中の列車がこのような不思議な現象を引き起こすことがあるらしい。

もっとも、それに乗り合わせるのは死期が近づいた者だとか、本当に列車のことを愛していた者だとか、その線路を長く使っていた者だとか、地域や時代によって噂も姿形を変えていくのではあるが。

55 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2013/02/10(日) 01:51:57.69 ID:aNOXkH5vo

年老いて使われなくなった列車の見る夢。

物悲しくもどこか暖かなその噂は、今も彼等の間で語り継がれている。

56 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2013/02/10(日) 01:53:02.73 ID:aNOXkH5vo

だが、この噂はまだ終わりではなかった。
けして削られてはいけない尾ひれがあったのだ。


列車の見る夢は二つある。

一つは前述した閃光のような幻。
手を伸ばせばかすみ、掴めば消え、触れれば崩れる遠き日の想い出。

もう一つはこれから語る、薄暗い幻。
忘れ去られた、いや、語る者のいなかった物語の続き。

57 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2013/02/10(日) 01:53:52.52 ID:aNOXkH5vo

もしこの幻を見たら、楽しむのもそこそこに目を逸らさねばならない。

それが遠い望郷の山並みでも、乗り親しんだ海沿いの風景でも、目を奪われるような絶景でも、必ずだ。
見惚れてしまいずっと目をそらさずにいると、窓の外を流れる景色が徐々にその速度を落としていく。


やがて先の方にみえてくる、見覚えのない駅。
58 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2013/02/10(日) 01:54:45.88 ID:aNOXkH5vo

そこには人影がまばらに並んでおり、皆一様に楽しげな笑顔を浮かべているのだ。
中には手を振ってくる者もいる。

そんな彼等の前で、列車は止まる。
幻を見ている者の前に写るのは、駅に立つ懐かしき面々。

その人生で出会った大切な人達の姿。もう会えないと思っていた、先だった人々の姿だ。
彼等は客車のひらかれた扉からぞろぞろと中に入り込み、皆思い思いの席に座る。
59 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2013/02/10(日) 01:55:53.47 ID:aNOXkH5vo
父が。
母が。
兄が。
姉が。
弟が。
妹が。
妻が。
子が。

会いたいとこいねがった彼等は皆それぞれに楽しげに語り合い、肩をくみ、抱き合い、暖かな笑顔に包まれていく。

そして列車は走り出す。彼等が本来行くべきところに向けて。


幻に捕らわれた新しい乗客を加えながら。

60 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2013/02/10(日) 01:56:37.12 ID:aNOXkH5vo

【 Railway 】


1970 イギリス

61 : ◆T6URQJJiS6 [sage saga]:2013/02/10(日) 01:57:05.47 ID:aNOXkH5vo
おやすみなさい
62 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2013/02/24(日) 01:38:21.18 ID:QBuO3uhto


棋士には二つの墓がある。


63 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2013/02/24(日) 01:39:16.68 ID:QBuO3uhto

山奥のとある古びた寺院。

内陸部に広がる広大な山々の中、木々に身を潜めるようにして建つその寺の名を知るものは少ない。

民家と呼べるものは辺りには存在せず、車の通る山道に抜けるにも、寂れた集落に出ようにも、
ひと苦労もふた苦労もしてしまいそうなその場所は、まるで歴史の流れから取り残されているようだ。

64 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2013/02/24(日) 01:40:02.47 ID:QBuO3uhto

だが世界は広い。
この寺院を必要とするものがこの世に、そしてあの世にいるのだ。


ひとけのない本堂の裏手から更なる山奥へと伸びる一本の細道。

幾多も人の足で踏みならされた地面は不思議と歩きやすい。
だが少し進めば鬱蒼と茂る木々の枝葉が、進む者の顔や手を打ち据え、自然とお辞儀をするようになってしまう。

そのままの姿勢でどれほど歩くのだろうか。

やがてこの道を通る者の腰に鈍い痛みが走りはじめた頃、ようやく開けた場所にたどり着く。
65 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2013/02/24(日) 01:40:35.33 ID:QBuO3uhto

山肌にまかせるままに傾き、削れ、ならされた地面。
しかし明らかに人の手が入る程度には伐採されている木々。
背の高い木々が枝葉で空を覆う下、木漏れ日が光の筋を描く中にそれはある。


対局の間だ。

66 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2013/02/24(日) 01:41:11.14 ID:QBuO3uhto

向かい合うようにして置かれた二つの石碑。
その間に置かれた石の将棋盤。

風雨にさらされ、細かい傷や汚れが目立つ石碑の間にひっそりとたたずむそれは、まるで鏡面のように光を反射し、傷一つ見つけられない。

十字にはしる細い溝にすら埃らしきものはつまっていない。
まるで、この世のものではないかのような。

上に乗るは王、金、銀、飛、角、桂、香、歩。


ここは戦いの場。
67 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2013/02/24(日) 01:41:52.12 ID:QBuO3uhto

棋士といえど人である。
様々な理由で息を引き取り、その身を朽ちさせていくものだ。
家族に見守られ、己に見合った場所に骨をうずめていく。


そして、彼等は人といえど棋士である。

彼等の愛用していた駒の一つが人知れずに消えていることに誰が気付けよう。
それがこの山に広がる、何十、何百とある対局の間の石碑のすぐ側に置かれていることなど、誰が気付けよう。

そう、誰も知らないのだ。

68 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2013/02/24(日) 01:42:20.06 ID:QBuO3uhto

ここは棋士の墓。

人としての彼等ではなく、棋士としての彼等が眠る場所。

今日もまた一つの石碑の側に、真新しい駒が置かれている。

69 : ◆T6URQJJiS6 [saga]:2013/02/24(日) 01:43:45.66 ID:QBuO3uhto

【 対局 】


1835 山陰地方
70 : ◆T6URQJJiS6 [sage saga]:2013/02/24(日) 01:44:11.92 ID:QBuO3uhto
おやすみなさい
71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/04/07(日) 00:13:35.77 ID:ai933QnAo
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