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律「月はみてる」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 : ◆epXa6dsSto :2013/02/09(土) 19:20:31.91 ID:juBpRnU+0
数レスお借りします。
けいおん!の短編SSとなります。

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全レスする(´;ω;`)part56 ばばあ化気味 @ 2024/04/24(水) 20:10:08.44 ID:eOA82Cc3o
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1713957007/

君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
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笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
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【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part10 @ 2024/04/23(火) 17:32:44.44 ID:ScfdjHEC0
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トーチャーさん「超A級スナイパーが魔王様を狙ってる?」〈ゴルゴ13inひめごう〉 @ 2024/04/23(火) 00:13:09.65 ID:NAWvVgn00
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【安価】貴方は女子小学生に転生するようです @ 2024/04/22(月) 21:13:39.04 ID:ghfRO9bho
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ハルヒ「綱島アンカー」梓「2号線」【コンマ判定新鉄・関東】 @ 2024/04/22(月) 06:56:06.00 ID:hV886QI5O
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2 : ◆epXa6dsSto :2013/02/09(土) 19:21:22.14 ID:juBpRnU+0


「すっかり遅くなっちゃったなー……」


ムギを駅前まで送った後、周りがかなり薄暗くなったのを感じながら私は呟いた。
街灯も所々点き始めてる。
こりゃ家に着く頃には辺りが真っ暗だろうな。


「でも、最近は結構陽も長くなって来たよな」


私の隣で肩を並べて歩いている澪が軽く微笑んだ。
薄暗くなってはいるけれど、まだこいつの微笑みが見えなくなるほどじゃない。
その澪の頬が何処となく紅くなってる気がするのは、気のせいだろうか。
いや、きっと気のせいじゃないな。
澪の頬が紅く染まってるのは、さっきまで頑張っていたからだ。
寒いからってわけじゃない。
今、澪が言った通り、最近はかなり陽が長くなって来たもんな。
何でかって言ったら――


「もうすぐ、春だからな」


私は澪の横顔に軽く微笑み掛ける。
私が微笑えだのを見ると、また澪が優しく笑った。
寒かった冬が終わって、もうすぐ春がやって来る。


春――。
色んな事が始まる季節――。
たくさんの出会いと、たくさんの別れに溢れた新しい季節――。
私達にとっては、卒業の季節でもある――。


そう。
私達は今春、高校を卒業する。
受験も無事に終わって、入学する大学も決まって、
卒業旅行も楽しんで、教室での最後のゲリラライブも終わった。
今はもう後はほとんど卒業するだけ――って時期だ。
卒業式まで、残り数日も残ってない。
3 : ◆epXa6dsSto :2013/02/09(土) 19:21:49.47 ID:juBpRnU+0
楽しかったなあ、と思う。
高校生活が終わる感想がそれってのも我ながらどうかと思うけど、
でも……、本気ですっげー楽しかった。
軽音部を設立して、大雑把かもしれないけど部長をやって、
ムギや唯みたいな新しい友達も出来て、梓っていう生意気な後輩も出来た。
勿論、名残惜しさはあるけれど、このまま卒業したって私は結構満足して大学に進学出来ると思う。

だけど、このまま満足しちゃうには早いんだよな。
私には――、私達にはまだ心残りとやり残した事がある。
それをきちんと終わらせるために、私達は今日も唯の家に集合したんだもんな。
今日、唯の家、それと河原でやった事に、私は軽く思いを馳せてみる。
四人で肩を並べて練習していた事を思い出す。


「うっ……」


私はすぐに変な声を出して呻いてしまった。
今日も楽しかったんだけどなー……。
でも、流石にあれはなー……。
顔を向け合ってたせいで澪がそれに気付いて、軽く首を傾げる。


「急に変な声を出してどうしたんだよ、律……」


「いや、今日の練習の事を思い出してたんだけどさ……」


「練習がどうかしたのか? 何も問題は無かったと思うけど」


「あー、うー……っと、その……さ……」


「うん」


「私の歌声……、変じゃなかったか……?」
4 : ◆epXa6dsSto :2013/02/09(土) 19:22:17.67 ID:juBpRnU+0
言い終わった瞬間、私は澪から目を逸らしてしまう。
我ながら情けないと思うけど、思い出すとどうしても顔が熱くなっちゃうんだよな。
本当にこれでいいのか、って不安になっちゃうんだ。
今日――、だけじゃなく、結構前から、私達は梓に贈る曲を練習している。
タイトルと歌詞はまだ完全には決まっていないけど、大体は完成している私達の答辞の歌。
卒業式の後の放課後――って言うのかどうかは微妙だけど、とにかく――、
私達はその歌を来年から軽音部を盛り立てる梓に贈る。
それは私が心からやりたい事だし、梓が少しでも喜んでくれると嬉しいと思ってる。
だけど……、な……。

私は夕方まで河原で練習してた自分の歌声を思い出して身悶える。
ああいう歌い方でよかったのか、正直、自信が持てない。
ドラムの練習は終わってるし、演奏だけなら問題無く梓に贈れるはずだ。
でも、歌はなー……。
私はライブでコーラス以外で歌った事が無い。
ボーカルは澪と唯に任せっ切りだったし、
自分がボーカルを担当する歌を作ろうとも思わなかった。
別にそれに不満も疑問も無かったし、それでいいんだって思ってた。

だけど、梓に贈る歌の練習を始めた瞬間、唯が急におもちゃのマイクを向けた。
何の相談も無く、何の疑問も無く、とても自然に私にマイクを向けていた。
澪もムギもその事に対して、不思議に思ってなかったみたいに見えた。
皆、私も歌うのが自然だって思ってたんだ。
思ってくれてたんだ。
出来る事なら私だってそうしたい。

でも、私には歌の実力も経験も全然足りないんだ、って感じてる。
ボーカルをやってくれてた澪や唯は勿論、
一曲だけメインボーカルを務めた事があるムギの歌声も見事で綺麗だった。
そんな皆の中に私が混じってもいいのかな、ってどうしても思っちゃうんだよな。
梓に贈る大切な曲を失敗させちゃうんじゃないかって、……さ。


「うん、まだまだだな」


意外にもあっさりと澪は私の疑問に応じた。
はっきり言うなよー、とはちょっと思ったけど、何となくそれが嬉しかった。
うん、やっぱり私の歌声はまだまだなんだよな。
それを自覚させてくれただけでも、澪はいい奴だ。
少しだけ落ち込んで、少しだけ肩の力が抜けたのを感じながら、私は逸らしていた視線を澪の方に戻した。
5 : ◆epXa6dsSto :2013/02/09(土) 19:22:57.27 ID:juBpRnU+0


「まだまだだぞ、律」


また手厳しい事を澪が言ってくれる。
でも、視線を合わせた澪の顔は優しく微笑んでいた。
私と二人きりの時、ごくたまに見せてくれる優しい笑顔だった。
いつの間にか私も軽く笑顔になりながら返していた。


「ひっでーな、澪。
私だって、まだ歌の練習を始めたばっかりなんだぜ?
もうちょい優しい言葉を掛けてくれたっていいんじゃないか?」


「そうしたいのは山々なんだけどさ、卒業式まであんまり時間が残ってないだろ?
ビシビシスパルタ方式でやらせてもらうぞ?
大体、歌の練習を始めたばっかりって言うんなら、
一年の学祭の頃の私だって同じ状況だったんだからな?」


「あー……、確かにあれはそうだったな……。
学祭の三日前に唯が喉を嗄らしちゃったんだよなー……。
それから澪の歌の練習が始まったわけだし……。
今、考えると、あれはちょっと無茶させ過ぎだったかもな。
あの時はお世話になりました、澪しゃん……」


「やっと分かってもらえて嬉しいよ、律。
それに比べれば律の場合はまだ時間もあるし、
私達も一緒に歌うわけなんだから多少は気が楽じゃないか?」


「どう……かな……?」


私は呟いてから考えてみる。
澪の言ってる事は全面的に正しい。
二年前の澪の状況に比べれば、私は相当恵まれてるって言ってもいいだろう。
だけど、そう考えても、全然気は楽にはならなかった。
観客は梓一人なのに、学祭とは比べ物になんかならないのに、私は緊張しちゃってる。
学祭より、梓一人に贈る曲を演奏する事に緊張しちゃってるんだ。
梓は大事な後輩だから。
生意気で私の事を敬ってる様子も一切無いけど、だからこそ、大事にしたい後輩だから。
梓には安心して高三の生活を楽しんでほしいから――。

不意に。
澪が笑顔で私の手を取って、着けていた手袋を外した。
そのまま自分の胸元に私の手を置かせる。
澪の大きな胸の柔らかさを感じる。
勿論、澪は私に自分の胸を触らせようとしたわけじゃない。
正確には澪の左胸の鎖骨寄りの方――、
心臓がある位置に私の右の手のひらは置かれていた。
6 : ◆epXa6dsSto :2013/02/09(土) 19:23:29.41 ID:juBpRnU+0






澪の心臓は今の私より――







         ずっと早い速度で動いていた――。





7 : ◆epXa6dsSto :2013/02/09(土) 19:23:54.40 ID:juBpRnU+0


「すっごくドキドキしてるだろ?」


心臓を物凄い速度で動かしながらも、澪は笑っていた。
私だったら、息をするのも辛いくらいの鼓動のはずなのに、
それでも――。


「私だって同じだよ、律。
梓に贈る曲の事を考えるとさ、
今までやって来たどのライブよりも緊張しちゃってるんだ。
やっぱり梓には何の心配も無く進級してほしいもんな。
そのためにもいい曲を贈って、笑顔で卒業式を終わりたいもんな。

だからさ、不安ならもっと練習しようよ、律。
勿論、練習には私も付き合うから。
一緒に出来る限り精一杯の練習をしよう?
梓のためにも――、やり残しなく私達が卒業出来るためにも――」


澪はとても優しい笑顔を見せる。
私と同じくらい――、いや、私以上に緊張してるくせして――。
でも、そうだよな……。
澪は恥ずかしがり屋で怖がりで赤面症で、
だからこそ、誰よりも緊張や不安をずっと目前にしてたんだよな。
不安以上の――、勇気を持てるんだよな――。

だったら――、
私はここで緊張してるわけにもいかないよな――!


「また胸がでかくなりやがったなー、澪」


「……えっ?
えっ? いや、そんなつもりじゃ……!
ただ私は自分の心臓の鼓動を律に知ってほしくて……!」


私が軽口を叩いて意地悪く笑ってやると、澪が顔を真っ赤にさせた。
ははっ、こんな時でも、恥ずかしがり方は変わらないな。
何だかそれが嬉しい。
私達はもうすぐ卒業する。
これから色んな事が変わっていくのかもしれない。



でも――、
とりあえず今は、私達は変わらず私達のままだ――。



8 : ◆epXa6dsSto :2013/02/09(土) 19:24:24.01 ID:juBpRnU+0


「真面目な事を言ってる時にふざけるなよ、律ー!」


「あははっ、悪い悪い。
分かってるって。私ももっと練習しなきゃな!」


澪が拳を振り上げて、私に拳骨を落とそうとする。
すかさず私は澪から離れて、軽く駆け出して行く。
胸の鼓動は相変わらず鳴り止む気配が無い。
でも、さっきまでより、多少は落ち着いてその鼓動を感じられた。
ありがとう、澪。
面と向かって言った事はそう無いけど、でも、ありがとな。
歌声に自信が無いんなら、緊張で震えが止まらないんなら、
『練習しよっ、それしか無いわ!』だもんな。
私以上に臆病な澪は、いつもそうやって色んな事を乗り越えて来たんだから――。


「……あっ」


澪の拳骨から少しの距離を逃げた頃、私は急に足を止めた。
すぐに澪も追い付いて来たけど、私に拳骨を落とす様な事はしなかった。
私が急に足を止めた理由が気になってるんだろう。
澪は少しだけ不安そうな表情を私に向けて訊ねた。


「どうしたんだ、律?
何かあったのか? ……唯の家に忘れ物をしたとか?」


「何かあったって言えば、確かにあるな。
いや、忘れ物をしたわけじゃないけどさ」


「えっ?」


澪が外したまま持っていた私の手袋を受け取ってから、私は澪の左手を強く右手で掴んだ。
突然の事に澪がまた動揺した表情を見せる。
だから、私は澪に笑い掛けてみせた。
別に澪が不安になる様な事を思い付いたわけじゃなくて、
単に懐かしくなっただけなんだ、って事を伝えるために。


「ここさ、ちょっと懐かしい場所じゃないか?
結構暗くなって来ちゃったけど、少しだけ私に付き合ってくれよ」


「懐かしい……?
あっ……、そう言えば……」


澪も私に言われて辺りを見回して思い出したらしい。
さっきまでの不安そうな表情は崩れて、笑顔になった。
今までの優しい笑顔とはまた違った、子供の頃みたいな可愛らしい笑顔に。

駅と私達の家の中間地点にある小高い丘みたいな山。
それが私――、いや、私達の懐かしい場所だ――。
9 : ◆epXa6dsSto :2013/02/09(土) 19:24:50.54 ID:juBpRnU+0





「いやー、懐かしいなー、すっかり忘れてたけどさ」


言いながら、私は草むらに軽く寝転んだ。
陽が長くなって来ただけあって、意外と寒さは感じなかった。
少し背の高い雑草も上手く風除けになってくれてるみたいで、逆に温かいくらいだった。


「おいおい、服が汚れるぞ、律」


お小言を言いながらも、澪が私の隣に腰を下ろす。
手を伸ばせば届く澪の腰に腕を回せる距離――。
あっ、と思った。
これも今の今まですっかり忘れてた事だけど、これが子供の頃の私達の定位置だったよな。
私が緩やかな山道の草むらに寝転んで、澪が少しだけ不安そうに私の隣に座って――。
どうして澪は私のこんなすぐ近くに座るのか疑問だったけど、
今思うと私が山道から転げ落ちそうになった時に、掴んで止めてくれるためだったんだろうな。
大した傾斜じゃないんだし、そう転げ落ちやしない――はずだったけど、
そういや子供の頃、澪の前で派手にゴロゴロ転がり落ちちゃった事があったな……。
あれは痛かった……。

でも、痛いのより何より、その時に澪が大泣きしちゃったのが辛かった憶えがある。
あの時、澪は擦り傷だらけの私を私の家まで、自分の服が汚れるのも構わずに運んでくたんだよな。
大泣きしながら、綺麗な洋服を私の血や泥で汚しながらも気丈に――。
思い出してみれば、あの頃から私は澪に助けられてたのかもな。
照れ屋で怖がりな澪を助けているつもりで、逆に。
今日だってそうだし――。
思い出しながら澪の方を見ていると、澪は怪訝な表情を浮かべて言った。


「何だよ、律?
あ、今、思い出したけど、子供の頃みたいに転がり落ちるなよ?
あの時は大変だったんだからな?」


「何でもないって」って言いながら、私は澪に気付かれないように一人で笑う。
二人して同じ事を思い出してたんだ、って事が嬉しかったんだよな。
すっかり忘れてたはずが、ちゃんと私達の心の中には思い出として残ってる。
今もまだ、残ってるんだ。


「それならいいけどさ」


納得のいかない口振りではあったけど、すぐに澪の表情は柔らかい笑顔に変わった。
澪も懐かしく思ってるんだろう。
私達のこの秘密基地の事を。
10 : ◆epXa6dsSto :2013/02/09(土) 19:25:18.49 ID:juBpRnU+0
まあ、秘密基地――って言っても、特に基地を作ってたわけじゃないけどな。
子供の足には辿り着くのが難しい小高い所だったから、勝手にそう呼んでただけだ。
でも、私達と同じく、この場所を秘密基地にしてる子供達は多いみたいだった。
ちょっと見回してみただけで、そこら中にボールやBB弾なんかが転がってる。
きっと私達みたいに秘密基地で遊び回ってるんだろう。
あ、エッチな本も発見。
澪に見せると顔を真っ赤にするだろうから、これは黙っておこう。


「ふふっ……」


急に澪が笑い声を出したけど、私は何も訊ねなかった。
何かを思い出してるんだろうけど、今はそれを訊かなくてもいいかって思えたんだ。
私達は二人で居るとよく喋る方だけど、たまにこうして無言になる。
別に話す話題が無くなったわけじゃない。
澪と話す話題が無くなる事なんて、一生無いと思う。
でも、私達はたまに何も話さなくなる時間がある。
それは今みたいに昔を懐かしんでいる時だったり、
外の空気を感じたくなった時だったり、今は言葉が必要無いって思えた時だったりする。
私らしくないちょっと気障な言い種だけど、でも、本当にたまにそう思うんだよな。
澪がただそこに居てくれる事が嬉しいなあ――、ってさ。

静かな時間が過ぎる。
二人して無言だけど楽しくて気持ちのいい時間が流れる。
何となく空を見上げると、夕陽は完全に落ちてしまって星が輝き始めていた。
完全な夜の時間の始まりだ。
でも、私は怖くない。
澪も夜を怖がってない。
私が傍に居るから――、ってわけじゃない。
空に大きな月が輝いていて、私達を照らしてくれていたからだ。
勿論、太陽ほどじゃないけど、見ていてちょっとだけ眩しいくらいだ。


「でっけー月……」


気が付けば私の方から無言の時間を壊してしまっていたけど、
澪は私を睨んだり、不満そうな雰囲気を見せたりはしなかった。
無言の時間を過ごすきっかけが気まぐれみたいに、
私達にとってはまた喋り出すきっかけも気まぐれで自然なんだ。
それが私達の関係なんだ。
ただ、澪は少しだけ呆れた視線を私に向けていた。


「月の大きさが変わるわけないだろ、律……」


「いやいや、マジででっかいんだって。
よく見てみろってば」


「そんなわけ……、あれ? ある……。
おかしいな……、満月だからかな?
律の言う通り、何だか今日の月は大きい気がするな……」


「だろー?」


私がニヤリと笑ってみせると、澪がちょっと悔しそうに俯いた。
だけど、大きな月が気になったのか、すぐにまた視線を月に向けた。
私も澪の視線を辿って月に視線を向ける。
11 : ◆epXa6dsSto :2013/02/09(土) 19:25:47.12 ID:juBpRnU+0
今日は満月……なのかな?
とにかく、円に近い形の月だった。
気のせいなんだろうけど、何故だか今日の月は凄くでかく見える。
山に登ってるって言っても、そう高い山じゃないし、何でだろう……?
月を注意して見る事なんてあんまり無いから、大きいと錯覚してるだけとか……?
そうやって色々と理屈を考える事は出来るけど――、私はそれ以上考えるのをやめた。
分からない事は分からないままでいいと思うし、
理に適った答えなんて、私も澪も今は求めてなかった。
今日、月が大きく見える理由は、そうだな……。
澪が私の不安を振り払おうとしてくれたから――、そういう事にしておこう。
なーんて、かなり恥ずかしい答えだけどな。

でも、結構本気でそう思う。
月を見上げて、月の光に照らされる澪を見てると思うんだ。






澪って月みたいだな――ってさ。






澪は自分から目立とうとしない。
美人ではあるけど、一人だけだと子供の頃みたいに本ばかり読んでそうだ。
ひょっとしたら、あんまり目立つタイプにもならなかったかもしれない。
だけど、今の澪はファンクラブも出来るくらいに輝いているし、すっごく綺麗だと女の私から見ても思う。
それは澪が陰ながらに、皆を支えてくれてるから。
太陽みたいに元気な唯やムギの光を浴びて、輝きを放ってくれてるんだ。
皆の輝きを浴びて、月みたいに優しい輝きを見せてるんだよな、澪は。


私は――。
私は澪にとっての何になれるんだろう――?
太陽って皆は言ってくれるけど、何となく違う気がするんだよな。
明るい性格のつもりではあるけど、
唯やムギみたいな天然モノの明るさとは違う気もするし――。


月の光に照らされる澪の綺麗な横顔を見てると思う。
澪は美人で綺麗な子だ。
小学生の頃から可愛い子だったけど、高校を卒業する今になって更に美人になって来た。
ついでに胸もどんどん大きくなってる。
皆の輝きを集めて、これからもどんどん魅力的になっていくだろう。
私も澪に負けないくらい何かで輝けるだろうか?
出来る事なら輝けるようになりたいよな。
12 : ◆epXa6dsSto :2013/02/09(土) 19:26:13.27 ID:juBpRnU+0


「どうしたんだ、律?」


じっと横顔を見ていた私の視線に気付いたんだろう。
澪が静かに顔を向けて私に訊ねた。
まさか澪の横顔に見惚れてたなんて言えない。
私は少しだけ話を逸らして、でも、ほんの少しだけ核心を残して応じる。


「いや、唯達っていつも元気だなー、って何となく思ってたんだよ」


「何だよ、急に」


「今日の事を思い出してたんだよ。
唯もムギも梓に贈る曲の事で緊張してるはずなのに、凄く元気そうだったじゃん?
勿論、私だってもっと練習して、元気に梓に歌を贈るつもりだぜ?
でもさ、全然緊張を感じさせない唯達ってやっぱ凄いよ。
心の底から、梓の事を大切に考えてるんだろうな。
うん、二人とも太陽みたいに明るいな、って思ったんだ」


「確かにな……。
二人の明るさには引っ張られてる所があるって思う。
確かに太陽だよな、二人とも。
私ももうちょっと見習えたらって思うんだけど……」


「何言ってんだよ、澪。
澪だってさっき私を励ましてくれたじゃん?
唯達みたいに太陽とまではいかないけど、そうだな……。
気障っぽいけど月みたいだと思うよ、澪は」


「月……か……。
うん……、そうだといいな……。
二人くらいまでにはなれなくても、少しは二人みたいに輝けてたらいいな……」


「ああ」


「だったら、律は――」


瞬間、澪は私の事を太陽と言おうとしてるんだと思った。
皆によく言われるし、澪も私の事を同じ様に考えててもおかしくなかった。
ちょっと寂しいけれど、澪が私の事を太陽だと思ってくれているんなら、それも悪くないと思う。
まだ全然実力が伴ってないけど、いつかは太陽みたいに輝けるように頑張らないと――。
私はそう思っていた。
でも、澪は私の考えても無かった言葉を口にしてくれた。
13 : ◆epXa6dsSto :2013/02/09(土) 19:26:42.11 ID:juBpRnU+0






「――律は、地球だな」






地球だ、と澪はそう言ってくれた。
私の事を。


「地球――?」


「あれ? 意外だった?
私、実は結構前からそう思ってたんだけどな。
地球の周囲には太陽や月が集まって廻ってるだろ?
それだと天動説になっちゃうから、地学的には違う事になっちゃうんだけどさ。

それでも、そういう細かい事は置いておいて、律は地球だな、って思うんだよ。
軽音部を作ったのは律だし、部員を集めたのも律だし、
私に音楽の良さを教えてくれたのも、他の誰でもない律だろ?
律が皆を集めたんだよ。
ううん、皆が律の周りに集まった――のかな?
とにかく、だから、律は地球だと思うんだ――」


地球――か。
実感は湧かないけど、太陽よりは私に合ってる気がした。
何より澪が私の事をそう考えてくれてたって事が嬉しかった。
ただ私が明るく楽しんでる所だけじゃなくて、
結構ヘタレで失敗ばっかりしちゃう所もしっかり見てくれてたって事が。
流石は幼馴染み――、
いや、そんな言葉で誤魔化すのもずるいか。
幼馴染みだからじゃなくて、澪は澪だから、私をちゃんと見ていてくれてたんだよな――。
14 : ◆epXa6dsSto :2013/02/09(土) 19:27:10.14 ID:juBpRnU+0







月みたいな澪が――、


地球みたいな私を――。






澪といつまで一緒に居られるんだろう。
そう考えた事は一度や二度じゃない。
特に高校受験の時だ。
澪とは仲が良かったし一緒に居たかったけど、
桜高は結構難しい高校だったから、同じ高校に通えるとは思ってなかった。
だからこそ、桜高に合格出来た時は本当に嬉しかった。
それでも、いつかは別れる時が来るんじゃないかって、内心はずっと不安だった。
でも――。

澪はしっかりと私を見てくれてる。
ずっと見てくれてた。
分かっていたはずなのに、いつの間にか忘れてしまっていた。
歳を取る内にいつの間にかそんな当たり前の事まで忘れてしまってたんだ。
だけど、私は思い出せた。
偶然か、必然か、それは分からないけど、
たまたまこの場所の事を思い出せて、大切な気持ちも思い出せた。
それが私は凄く嬉しいんだ――。


「なーに、恥ずかしい事言ってんだよ、澪ー!」


照れ笑いを浮かべながら、私は澪の肩に腕を回して頭を重ねる。
ちょっと驚いたみたいだったけど、澪は私の腕から逃げなかった。
澪の温かさと鼓動と優しさを胸の奥から感じる。


「おいおい。
急に飛び掛かって来たら危ないだろ、律?」


「細かい事、言うなって。
私は澪にくっ付きたくなったから、くっ付いただけなのだ!」


「やれやれ……」


澪が苦笑して、私も釣られて苦笑した。
嬉しくて温かい苦笑を二人で浮かべる。
そうして、月明りに照らされる澪の横顔を見ながら、私は思った。
15 : ◆epXa6dsSto :2013/02/09(土) 19:27:42.30 ID:juBpRnU+0
好きだよ、澪。
大好きだ。
それは友達に向けた好きじゃなかったけど、恋愛対象に向けた好きでもなかった。
家族に向けた好きでもないし、どんな好きなのかは私にも分からない。
でも、好きなんだ。
ただ、好きなんだ。
心の底から大好きなんだ――!

出来る事ならずっと一緒に居たい。
ううん、ずっと一緒に居たいと考えて、不安になるのはもうやめるよ、澪。
例えいつか一緒に居られなくなったって、私はただ澪の事を好きで居たいから。
それまでは一緒に傍で笑っていよう。
月と、地球みたいに傍で――。
澪もきっと私の事を月みたいに見ててくれるだろうから――。


「さってと、そろそろ遅くなったし帰らなきゃな」


「そうだな、結構肌寒くなって来たし……」


私と澪は二人で立ち上がり、月明りに照らされて歩いて行く。
月に見られながら、二人で歩く。
いつの間にか私の心からほとんどの不安は消え去っていた。
後は精一杯、梓に贈る歌を練習するだけだ。

ふと、卒業式の前日、皆で部室に集まろうと私は思った。
卒業式前、皆で集まれる最後の学校で皆と笑い合いたいと思う。
太陽みたいな唯やムギだけど、私達と同じ様に緊張してるに違いないから。
それが『地球』の私に出来る事だと思うから――。

家の前で澪と別れる直前、
私と澪はまたどちらともなく大きな月を見上げた。
山の上と変わらず月は同じ場所にあって、私達を照らしていてくれた。
月はずっと――、






私達を見ていてくれたんだ。
16 : ◆epXa6dsSto :2013/02/09(土) 19:28:17.81 ID:juBpRnU+0


これで完結です。
ありがとうございました。
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/09(土) 20:37:07.39 ID:xCdPvX9AO
おつ
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/02/09(土) 21:03:09.88 ID:qz4bJ+TSO
キモいから
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/09(土) 21:15:34.20 ID:qz4bJ+TSO
数レスで終わるのを文章水増ししただけだな

>>1はSSを文学と勘違いしてんのか?
外野は面白ければいいって>>1を擁護するが、はっきり言ってつまんないよ(笑)
SS書くのには向いてないね
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/09(土) 22:20:41.51 ID:Ep+NkSvR0
vip風SSじゃなくてショートショートのほうなんだろ
俺は楽しめたよ
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/09(土) 22:47:14.72 ID:+VBMXdzFo
地の文あると途端に臭くなる
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/09(土) 23:41:05.51 ID:vJm7DNtu0
律澪だいすきれす
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/09(土) 23:49:17.02 ID:9uMw64KOo
キモイな。
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/10(日) 00:29:14.55 ID:tWl0CL0No
これ、某猫のひとだろ?
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/10(日) 00:47:08.20 ID:AqChEvb8o
なかなか良いじゃん乙!
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/12(火) 00:54:05.84 ID:TCORx4YDO
乙です。
私は良かったと思いますよ。
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