らき☆すたSSスレ 〜そろそろ二期の噂はでないのかね〜

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103 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/04/07(日) 14:41:31.11 ID:yZ1bxUxf0
ここまでまとめた。
104 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/04/27(土) 17:04:41.64 ID:52lA7s3a0
このスレ、殆ど自分のレスで埋まってしまっている。

他の方も是非書き込んでくださいね。

ってことで「このたの旅」の続きを投下します。8レスくらい使用します。
105 :こなたの旅B 1/8 [saga]:2013/04/27(土) 17:10:38.85 ID:52lA7s3a0
あやめ「やっぱり」
私が出てくるのを知っているような言い方だった。
あやめ「非番だったんでしょ、だから出てくるのを待ってた」
何故、何故私が今日休みだって知っていた。私は細めで彼女を見た。
あやめ「警戒しちゃって、もうボイスレコーダーのスイッチは切ってあるから安心して」
鞄を軽く叩きながらにっこり微笑む神崎さん。さっきまでの緊迫感とはまるで違う……とても穏やかな笑顔だった。
こなた「何で私が休みだったって……」
あやめ「知っていたか聞きたいんでしょ?」
私の聞きたい事を先に言われた。
あやめ「店を出るとき厨房を覗いてね、壁にシフト表が貼ってあるのを見たら今日は泉さんお休みのマークが付いていた、明日は遅番だった」
あの短い間でそんな所まで見ているなんて。かえでさんが言っていたのは間違えじゃなさそうだ。私じゃ手に負えない。
こなた「すみません、取材は店長にして下さい……」
私は歩き出して彼女を振り切ろうとした。神崎さんは素早く廻り込んで私の目の前に立ちはだかった。私は立ち止まった。
あやめ「まぁまぁ、そう堅い事言わないで、貴女には個人的な話があるの、取材とは関係ない」
こなた「個人的な話し?」
神崎さんは頷いた。取材とは関係ないって言っても信用できない。
こなた「これから用事があるので……」
あやめ「時間は取らせない、30分……いや15分でいいから」
これが取材って言うやつのか。ひよりやゆたかのは全く違う。ねっとりとからみつくようなしつこさ。このままだと家まで付いてきそうな勢いだ。
こなた「10分ならいいよ」
付きまとわれるならさっさと済ましちゃった方がいい。それともこれも彼女の手の内なのかな。でも、神崎さんが何を考えているのか分かるかもしれない。
あやめ「そうこなくっちゃ、それじゃ……」
神崎さんはつかさの店を見ながら話した。
あやめ「あの店で話しましょうか、また戻るのも何だしね、さっきスマホで調べたけど洋菓子店つかさだって、かなり評判はよさそう……ってすぐ隣の店だから泉さんは知ってるか」
こなた「たった10分なのに店に入るの」
あやめ「喫茶店でしょ、10分くらいなら丁度良いじゃない?」
それはまずい。つかさと会わすわけにはいかない。店に戻ってもらうか。
いや待て、ここで変に拒否すればつかさの店が怪しまれるかも。かえでさんに怒鳴られて落ち込んだつかさは家に帰っているかもしれない。
私の知っているつかさならそうするはず。でも結婚やお稲荷さんの件で成長したつかさだったら店に居るかもしれない。どうしよう……今それを確認することは出来ない。
あやめ「どうしたの、時間がないんじゃないの?」
やばい、考えている暇はない。こうなったらつかさの店に行くしかない。お願い、私の知っているつかさで居て……
私は心の中で祈った。そして神崎さんの後に付いて行った。

ひろし「いらっしゃいませ……」
店に入るとひろしが出迎えた。ひよりは神崎さんのすぐ後ろに私が居るのに気が付いた。まずい。彼が私に話しかければ店の関係が神崎さんに分かってしまうかもしれない。
ひろし「こちらへどうぞ」
しかしひろしは私達を普通の客としてテーブルに案内した。こんな事は初めての事だった。ひろしは私達にメニューを渡した。
あやめ「……このケーキとコーヒーを」
神崎さんはこの前つかさが考えた新メニューのケーキを指差した。この人は何の躊躇もなく初めて来た店で新メニューを頼むのか。私ならオーソドックスな物から攻めるけどね。
こなた「私はアイスコーヒーで……」
ひろし「少々お待ち下さい」
ひろしはそのまま厨房の方に向かって行った。助かった。これで私がこの店と関係があるのを知られなくて済んだ。つかさも来ない。いつもなら厨房から飛び出してくるのに。
これは私の思った通り落ち込んで帰ってしまったに違いない。そのおかげで何とかこの急場を凌げた。でもつかさはそれだけ落ち込んでしまっているって事。私に何とかできるかな〜

106 :こなたの旅B 2/8 [saga sage]:2013/04/27(土) 17:12:15.43 ID:52lA7s3a0
Aひろしがオーダしたケーキを持って来た。
あれこれ考え込んでいた。気付くと神崎さんは何も話しをしないで私を観察するようにじっと見ていた。今はこっちの方に集中しないと。
こなた「あ、あの〜何か私の顔に付いてます?」
あやめ「ふふ、貴女って歳は幾つなの?」
こなた「な、なんて失礼な!!」
あやめ「失礼なのは分かってる、見た目は高校生くらいかしら、でもお店で身に着けていた制服の着こなし方が少し古さを感じた、三十歳くらい?」
こなた「そんな話しをしにわざわざ私を呼び止めたの」
でもだいたい合っている。この人鋭いな。
あやめ「ごめんなさい、あの店で働いて随分永いように見えたけど、どうなの?」
こなた「その通りだけど……」
あやめ「この業界って人の出入りが激しいって聞いたけど、それでも貴女はあの店で働き続けている、多分廻りのスタッフや副店長さんの……」
こなた「日下部でしょ?」
あやめ「そうそう、日下部さんだった……永く勤められるなんて、店長の田中かえでさんの人柄がこれで分かった」
神崎さんは話しを止めるとコーヒーを飲んで間を空けた。
あやめ「ワールドホテルを潰した貿易会社、憎いとは思わない?」
突然何を言い出すと思ったら。
こなた「憎いも何もないかな、もう十年も昔の事だし……」
あやめ「その十年前、貴女の働く店以外にも同じような契約をした店がいくつもあった、その契約が無効になったせいで閉店しまった所もあるのに?」
こなた「私には関係ないかな」
神崎さんは少しがっかりしたような素振りを見せた。
あやめ「そう、残念、貴女だったら協力してくれると思ったのだけど……」
こなた「え、協力?」
『ピピー』
神崎さんの鞄から音がした。彼女は慌てて鞄をあけて中からスマホを取り出し画面を見た。
あやめ「バカ、まだ早いって言ったのに」
突然帰り支度を始めた。
こなた「どうしたの?」
あやめ「特種を他社に取られそうなの、悪いけど今日は終わりね」
神崎さんは鞄からメモ帳を取り出すと最後の頁を破りペンで何かを書き出した。
あやめ「これ、私のスマホと自宅の電話番号だから、何かあったら連絡して」
テーブルの上に紙を置くと小走りに店のレジの前に移動した。
あやめ「二人分の清算お願い」
ひろしがレジで清算をした。
あやめ「ケーキ、コーヒーとも凄く美味しかった」
ひろし「ありがとうございます」
清算が終わると神崎さんは走って店を出て行った。

 神埼あやめ、全く分からない。けいこさんやめぐみさんを卑怯者呼ばわりしたのに今度は貿易会社を憎くないのかって……彼女の目的は何だろう……
テーブルの上に置かれた紙を財布の中に仕舞った。
ひろし「見かけない顔だった、おまえの友達なのか」
気が付くとひろしが私の直ぐ近くに来ていた。
こなた「うんにゃ、私も今日会ったばかり、雑誌の記者だよ」
ひろし「慌しいやつだったな……友達にしてはおかしいとは思った、そうか、つかさの言う通り、本当に取材をしたのか」
こなた「それよりこんな所で油売ってて良いの、他のお客さんの対応をしなくて……」
辺りを見回すと客は誰一人居なかった。
ひろし「おまえ達が最後のお客様だ、つかさが突然帰るって言い出して、今日はもう終わりにするつもりだ」
こなた「つかさが……帰った……」
ひろし「ああ、あの落ち込み様は初めて見た、おまえの店の店長に一言言いたくて早く閉めることにしたのさ」
少し怒り気味だった。そうりゃそうだよ。つかさを落ち込ませた張本人なのだから。
でも、ひろしには話しておいた方がいいかもしれない。でもそれは私が話すよりかえでさんに話してもらおう。一言言いたいのなら丁度言い。
こなた「話があるなら私も行くけど」
ひろし「そうしてくれると在り難い、どうもあの店長は苦手だ」
こなた「ふ〜ん、ひろしにも苦手があるんだ」
ひろし「おまえが一番苦手だ……泉こなた、つかさと親友なのが不思議なくらいだ」
こなた「そりゃどうも……」
こりゃ重症かな。でも嫌われるよりはましかな。もっとも好かれてもこまるからこの位で丁度良いくらいかもね。
107 :こなたの旅B 3/8 [saga sage]:2013/04/27(土) 17:13:18.89 ID:52lA7s3a0
 ひろしは早々に店を閉めると私と共にレストランに向かった。
かえでさんはひろしを見ると今までの経緯を話した。
ひろし「けいことめぐみの失踪事件を調べている……だと?」
珍しくひろしは驚いた。
かえで「そうよ、この事件で私の店を取材に来たのは彼女が初めて、かなりのやり手であるのは間違いないわ、だから彼女をつかさに合わせなかった」
こなた「店を出たら私を待ち伏せしてた、つかさの店に行こうって言った時は冷や汗ものだったよ」
かえでさんは私を睨みつけた。
かえで「こなた、別の店に行くとか機転が利かなかったの、もしつかさが居たらどうするのよ!」
こなた「つかさは家に帰ったと思ったから……懸けだったけど……でも思った通りつかさは帰った、後のフォローが大変だけどね」
かえでさんはそれ以上何も言わなかった。
こなた「それにしてもひろしは私を普通の客として扱ってくれた、だから神崎さんはつかさの店とこの店の関係に気付いていない、そっちの方が凄いよ」
ひろし「おまえが妙に緊張して入ってきたからな、すぐにもう一人の客のせいだと解った」
こなた「それもお稲荷さんの力なのかな、それじゃ神崎さんがどんな人なのかも解ったの?」
ひろし「人間になる前なら解ったかもしれないが、どうやらおまえほど単純じゃない」
こなた「……一言多いよ……素直に解らないって言えば良いのに……」
かえでさんはクスリと笑った。ひろしは私からかえでさんに顔を向けた。
ひろし「しかしつかさも軽く見られたものだな……」
かえで「私の対処に不服かしら」
ひろし「あの記者が只者ではないのは分かる、だがそれだけでつかさを除け者にするのはどうかしている、つかさは我々をここまで導いてくれた、それだけじゃない、
    人類も救った、それはおまえが一番知っている筈じゃないのか」
かえで「流石つかさの夫ね良く解ってるじゃない、でもそれは彼女の……神崎さんの意図がわかるまでの間よ、別に永遠に秘密にするつもりはない」
ひろし「それが分からん、説明しろ」
かえでさんは一回溜め息をついてから話し始めた。
かえで「神崎さんは策士よ、話術も巧みだわ、そんな人が話したらたちまちつかさは秘密を話してしまうわよ」
ひろし「話したって構わないじゃないか、どうせ誰も信じない、それに話せさせない用に僕がなんとかする」
かえで「それはどうかしらね、万が一それが真実だと分かった場合一番困るのは貴方達の方よ、それに話させないなんて出来るかしら」
ひろし「出来るさ」
かえで「それじゃあの記者を貴方の義理の兄、すすむさんに合わせてみようかしら」
ひろしは何も言わずかえでさんを見たままになった。
かえで「彼はいのりさんの簡単な誘導尋問に引っ掛かって自分の正体をバラした、そればかりかひよりにかがみさんの病気を話してしまった、さぞかしネタバレするでしょうね」
ひろし「そ、それは親しい人だからそうなった、見ず知らずの人に話す筈はない……」
かえでさんは人差し指をひろしに向けた。
かえで「それよ、それなのよ、つかさは誰とでも親しくなってしまう、だから心の内を直ぐに話すのよ、すすむさんと同じじゃない、だからまだ神崎さん会わす訳にはいかない」
ひろしはガックリと肩を落とした。
ひろし「そ、そうだな……僕も協力しよう……」
かえでさんはホッと胸を撫で下ろした。私は親指を立ててウインクをして『グッジョブ』のポーズを取った。かえでさんは苦笑いをした。
こなた「それじゃ私はつかさをフォローしに行ってくるから」
ひろし「ちょっと待ってくれ、僕も一緒に行こう、店の用事がまだ全て終わっていない少し待っていてくれ」
こなた「OK、待っているよ」
ひろしは店を出て行った。

108 :こなたの旅B 4/8 [saga sage]:2013/04/27(土) 17:14:04.53 ID:52lA7s3a0
 窓越しからひろしがつかさの店に入って行くのを確認した。
こなた「策士ねぇ〜かえでさんも充分策士だと思うけど……すすむさんを引き合いに出すなんて……」
私はボソっと話した。
かえで「策士はあんたの方でしょ、ひろしの説得を私にさせるなんて……」
こなた「まっ、何とかなったから良いじゃん……後はつかさの機嫌がもどればとりあえず落ち着くね」
かえで「すまないわね、お願いするわ」
こなた「もう乗り掛かった船だし、それで、なぜつかさと話さないの」
覚悟を決めたように話すかえでさん。
かえで「私の言う事を聞かなかった、だから怒鳴ってしまった……初めてだった、今の私に彼女にかける言葉はない」
その台詞かがみもこの前言っていた様な気がする。
こなた「基本的にはつかさはつかさだよ、それは年齢とか状況は関係ないと思うけど、現につかさは私の思った通りに落ち込んで帰っちゃった」
かえで「学生の頃と同じって言いたいの……私は初めて会った頃のつかさが懐かしい……でも、そう言い切れるならやっぱりこなたに任せるわ」
つかさの店からひろしが出てきた。
こなた「さてと、それじゃ行って来ます」
かえで「待って……」
こなた「ん?」
私は立ち止まった。
かえで「お稲荷さんの話しはもう無かった事にしたい、他人に知られてはいけない、それだけは分かって欲しい」
こなた「大袈裟だな〜この十年間だれも知られてないから平気だよ、これからもずっと、私達がお稲荷さんを受け入れられるようになるまで、そうだったね?」
もっとも受け入れられるようになるまで私達は生きていそうにないけどね。
かえで「そうよ……行ってらっしゃい」
私は店を出た。

 店を出て駐車場に入った時だった。
ひろし「ちょっと待て、僕達が揃って家に帰るのは不自然じゃないのか?」
こなた「ん、何が不自然なの……あぁ、私がひろしと仲良くつかさの前に現れたらそりゃ不自然だね、大丈夫、私、はそんな気は全くないし、つかさは鈍いから分からないよ」
ひろしは呆れ顔になった。
ひろし「バカかおまえは、閉店時間前なのに僕が居たらまずいだろって事だ、つかさには話していないからな」
こなた「……そうだね、それでどうしよう?」
しかしバカは余計だよ、バカは……冗談が通じないな、この辺りはつかさと同じだな。
ひろし「適当に時間をつぶしているからおまえは先に家に行ってつかさの相手をしてくれ」
こなた「あいよ」
私は車に乗り込もうとした。
ひろし「つかさが心配だ、くれぐれも頼む……」
私に「頼む」って言うなんて。
私は軽く返事をすると車に乗り柊家に向かった。

109 :こなたの旅B 5/8 [saga sage]:2013/04/27(土) 17:15:08.29 ID:52lA7s3a0
 車を近くの駐車場に停め、柊家の玄関の前に立ち呼び鈴を押そうとした時だった。玄関の扉が開いた。
みき「あら、泉さん?」
こなた「こんにちは……つかさはいますか?」
みきさんが出てきた。そしてすぐにただおさんも出てきた。
みき「つかさなら帰ってきて……」
みきさんとただおさんはとても困った顔をしていた。
みき「帰ってくるなり自分の部屋に入ったまま出て来なくて、もしかしてひろしさんと喧嘩でもしたのかしら……」
みきさんとただおさんは顔を見合わせていた。
こなた「つかさに会えますか?」
みき「どうぞ入って、私達はこれから買い物に出かけてしまうからおもてなしはできないけど……」
こなた「いいえ、お構いなく……」
私は家の中に入ろうとした。
みき「泉さん、つかさをよろしくお願いします……」
こなた「え、あ、はい」
みきさんはつかさの部屋の方を見ながらそう行った。そしてただおさんと駅の方に歩いて行った。
みきさんはつかさを心配している。幾つになってもつかさはみきさんにとって子供なのか……母と子か……羨ましいな……
って、私はこんな気持ちになるために来た訳じゃない。こんな歳になって……
家に入り二階のつかさの部屋に向かった。姉たち三人は全てこの家を出て行った。つかさだけがこの家に残っている。高校時代からつかさの部屋の位置は変わっていない。
かさの部屋の扉が人の入れる位の隙間があって半開きのままになっていた。廊下からつかさの部屋を見た。
カーテンを閉めて薄暗いままの部屋につかさが椅子に座っている。片手に何かを持ってそれをじっと見つめていた。よく見るとそれは木の葉っぱだった。
葉っぱの付け根を摘んで人差し指と親指をゆっくり動かしながら葉っぱをくるくる回転させてそれをじっと見ていた。なんで葉っぱなんか持っているのかな……
それに葉っぱを見つめるつかさの目ががこれまで見た事ないような悲しげな表情をしている。
つかさは私に気付いていない。私は一歩つかさの部屋に入り半開きの扉をノックした。
つかさ「はぅ!!」
音に驚いたつかさは慌てて葉っぱを財布に仕舞い私の方を向いた。
つかさ「こ、こなちゃん!?」
こなた「驚いちゃったかな、私に気付いていなかったみたいだから」
私は窓まで移動してカーテンを開けた。午後の日差しが入ってきてつかさに当たった。つかさは眩しそうに目を細めた。明るくなって気付いた。つかさの目が少し赤い。泣いていたのか。
つかさ「あ、い、いらっしゃい……気付かなかった、お母さんなんで教えてくれなかったのかな……」
こなた「おじさんもおばさんも買い物に出かけたよ、私と入れ替わりにね」
つかさ「そ、そうなんだ……こなちゃん、仕事はどうしたの?」
こなた「今日はおやすみ、つかさの方こそどうしたのさ、お店をほったらかしにして帰っちゃうなんて」
つかさ「う、うん……」
つかさは言葉を詰まらせて項垂れた。
まぁその理由は知っている。だけどつかさは落ち込んでいるからいきなり本題にはいると話し難いな。
こなた「さっき持ってた葉っぱは、何?」
つかさはゆっくり首を上げて私を見た。
つかさ「見てたんだ……こなちゃんはあれが葉っぱに見えたの?」
こなた「見えたも何も葉っぱ以外にには見えないよ」
つかさ「それなら前に一度見た事があるよ……覚えていない?」
こなた「一度見ているって……」
つかさ「最初見た時は一万円札に見えた……だけど一日経つと……」
……思い出した。それはお稲荷さんの真奈美がした悪戯の葉っぱだ。
こなた「まだ持っていたんだ……」
つかさ「まなちゃんの形見だから……婚約者のたかしさんが言ってくれた、これは私が持っていろって……辛いとき、悲しいとき、これを見ているとまなちゃんの事を思い出すの」
こなた「知らなかった……」
つかさと同居していた時もそうだったのかな。全く知らなかった。同居していたと言っても食事以外はそれぞれ自分の部屋で過ごしていたから細かい所までは分からない。
つかさ「こなちゃんは取材に参加したの?」
つかさの方から話しを持ってくるとは思わなかった。
こなた「うん、そりゃ店のスタッフだし、ホール長だから」
つかさ「そうだよね、うん、分かってる、私なんかもうレストランかえでのメンバーじゃない、関係者じゃない……だから怒られた……」
こなた「そ、そうだよ、分かってるジャン、それが分かっているならもう大丈夫だよ」
本当は違うけどね。
つかさ「こなちゃんはかえでさんが何故取材拒否してるか知ってるの?」
こなた「もちろん、店が混雑してお客様へのサービスが低下するのを防ぐため……」
つかさは私をじっと見ている。何か言いたげにしている。
つかさ「かえでさんね、ずっと昔取材を受けたことがあって……」
私は驚いた。かえでさんが取材を受けた事があるのに驚いた訳じゃない。神崎あやめがかえでさんに取材を受けるのが初めてなのかって聞いていた事に驚いた。
彼女はかえでさんの嘘を見破っていたのか。受け答えが慣れていたから。仕草からなのか。事前に調べていたのか……どちらにせよ彼女の洞察力は侮れない。
つかさは私の表情を見てからまた話し出した。
つかさ「知らなかったの?……辻さんが亡くなって、その一番の親友であるかえでさんに自殺した原因があるのではってしつこく嗅ぎ回れたの、辻さんの死を悼んでいる余裕もなかった
    って言ってた、かえでさんの心の中に土足で入ってくるような嫌らしさがあったって、だから記者を嫌いになったって……」
こなた「知らなかった……」
そっちの方が理由としては強かったのかもしれない。
つかさ「そんなかえでさんが何故急に取材を受けるなんて……私、分からないよ、こなちゃんなら何か聞いているでしょ」
理由は只一つ、つかさの側ににその記者を行かせない為、つかさを守る為。それは言えない。
こなた「え、えっと」
潤んだ目で訴えている。教えてくれって。だけどなんて言えば良いんだ。
こなた「昔の取材の話し、私は知らなかった、もしかしてかえでさんに内緒って言われていなかった?」
つかさ「えっ、うん、言われていたけど……」
こなた「つかさ、内緒って意味知ってる?」
つかさはおろおろし始めた。
つかさ「知ってる……よ」
こなた「それじゃどうして私に話したの」
110 :こなたの旅B 6/8 [saga sage]:2013/04/27(土) 17:15:51.26 ID:52lA7s3a0
つかさ「え、だって、こなちゃんは友達だし……」
理由になっていない。私の中の何かがプッっと切れた。
こなた「結婚もして子供もいるんだからもう少しその辺分かろうよ、それだからかえでさんに怒鳴られちゃうんだよ!!」
しまった。そう思った時には遅かった。私はつかさの目の前でかえでさんと同じように怒鳴っていた。
つかさ「ぐす……えぐっ、」
つかさの目から大粒の涙が出てきた。まずい。これじゃフォローどころか追い討ちを掛けてしまった。
こなた「ご、ごめん、これは……」
もう何を言ってもダメだった。つかさは机に顔を押し付けて泣きじゃくってしまった。なんてこった……思いの外つかさのダメージは大きかった。私は何も出来ないまま
泣きじゃくるつかさの前で立ち尽くしてしまった。
「つかさ、帰ったぞ」
後ろから声がした。この声はひろしだ。まだ帰ってくるには少し早いような気がする。不思議に思いつつ私は振り返った。
ひろし「やっぱりこうなっていたか……」
私にだけ聞こえるような小さな声だった。私は何も言えなかった。
ひろし「つかさ」
優しくつかさを呼んだ。
つかさはゆっくり立ち上がるとひろしに向かって跳びあがって抱きついた。そしてさらに激しく泣いた。
ひろし「僕は今のままのつかさで良いから……そんなつかさが好きだから」
ひろしはそっと両手をそえてつかさを支えた。
こなた「わ、私……」
ひろし「何も言うな、こうなったのも僕のせいだ……僕が先にくるべきだった……」
返す言葉がなかった。
ひろし「悪いが今日はそっとしといてくれないか」
こなた「う、うん……」
私はゆっくり部屋を出てそのまま家を出た。

111 :こなたの旅B 7/8 [saga sage]:2013/04/27(土) 17:16:42.65 ID:52lA7s3a0
 自信があった。これまでも高校時代からつかさを笑わせたり励ましたりを何度もしてきた。最後はいつも笑顔に戻っていた。でも……
蓋を開けてみればこの大失態。なんであんな事に……
つかさがひろしに抱きついた時にひろしが言った言葉……そのままのつかさが良い……その通りだ。
知らないうちに私も涙が出ていた。ひろしの取った態度に胸が熱くなった……これが愛ってやつなのか……
「泣いているの?」
はっと声のする方を見た。まなみちゃんが玄関の前に立っていた。ランドセルを背負っている。下校してきたのか。まなみちゃんはハンカチを私の前に差し出していた。
まなみ「どうしたの、お母さんと喧嘩したの?」
心配そうに私を見ている。
こなた「うんん、ちがうよ、大丈夫だよ」
私は自分のハンカチで涙を拭うと微笑んで見せた。
なまみ「お母さんまだお店だよ……」
まなみちゃんは玄関の扉を開けようとした。
こなた「ちょっと待って」
まなみ「な〜に?」
まなみちゃんは開けるのを止めて私を見た。そういえばひろしはそっとしておいてと言っていた。もしかしたら……今まなみちゃんを家に入れるのはまずいかもしれない。
こなた「お母さんとお父さんは家で大事な仕事をしているから……邪魔しないように私の家でゲームでもしよう、ね?」
まなみ「うんいいよ……お父さんとお母さん……居るの?」
なんとか止めないと……子供の扱いは難しいな……
こなた「う、うん、」
まなみ「それじゃ、ランドセル置いてくるね」
あらら……止める間もなくドアを開けて入ってしまった……っと思ったら10秒もしないで開けて戻ってきた。ランドセルは背負ったままだった。すこし顔が青くなっている。
まなみ「……お母さんが変な声出してるの…」
まなみちゃんの声が震えていた。……やっぱり。
こなた「だ、大丈夫、問題ない……」
まだ本当の事を言うのは早過ぎる。
まなみ「……病気じゃないの?」
こなた「違うよ、お父さんと愛し合ってるから」
まなみ「ふ〜ん」
まなみちゃんはじっと玄関を見たまま首を傾げていた。
こなた「それじゃ一緒に駐車場まで行こう」
まなみ「うん」
何とか誤魔化せたかな……

 家に帰ると自分の部屋でまなみちゃんとゲームをして遊んだ。
しかしまなみちゃんはつかさと違ってゲームの上達が早い。コツをすぐ掴んでしまう。格闘ゲームとかだと気を抜くと一気に畳み込まれるほどだった。
こなた「ふぅ……喉が渇いたね、ちょっと飲み物とって来るよ」
まなみ「うん」
台所に行くとお父さんが入ってきた。
そうじろう「まなみちゃんだったね……つかささんのお子さんだろう?」
こなた「そうだよ」
そうじろう「いいのか勝手に連れてきて……」
こなた「確かに黙って連れてきたけど、ちゃんとつかさにメール送っておいたし、大丈夫だよ」
そうじろう「いったい何があった、夫婦喧嘩でもしたのか?」
お父さんにはお稲荷さんの話しは一切していない。お父さんにとって二人は極普通の夫婦だろう。
こなた「違うよ、その逆だよ」
お父さんは笑った。
そうじろう「そうか……それでこなたは何時孫をみせてくれる?」
こなた「……何時だろうね、その前に相手を見つけないとね……」
そうじろう「居ないのか、職場にも男性の一人や二人居るだろう?」
こなた「職場結婚する気はないよ……」
お父さんはそれ以上何も言わなかった。
こなた「それじゃ部屋に戻るよ」
そうじろう「うむ……」
嫁には絶対にやらないなんて言っていたのに。いざとなると今度は孫の顔がみたいだなんて、どっちが本心なのか分からん。

112 :こなたの旅B 8/8 [saga sage]:2013/04/27(土) 17:17:41.97 ID:52lA7s3a0
こなた「ジュース持って来たよ、ついでにお菓子も」
まなみ「ありがとう……」
こなた「そういえばまだ宿題やってなかったね」
まなみ「……もう終わっちゃった……」
こなた「えっ!?」
終わったって、さっき台所に行ってお父さんと話して10分も経っていないのに。テーブルにノートが置いてあったのに気付いた。
私はそのノートを手にとって見てみた……全部終わっている……
こなた「す、凄いね……」
まなみ「学校のお勉強はつまんない……お父さんの方がいろいろ教えてくれる……」
まなみちゃんはジュースをおいしそうに飲み始めた。
こなた「それじゃ、何が一番楽しい?」
なまみちゃんはジュースを飲むのを止めて暫く考え込んだ。
まなみ「ん〜と、佐藤先生が教えてくれるピアノかな〜」
佐藤さんは旧姓岩崎みなみの事。まさかひよりとゆたかよりも先に結婚するとは思わなかった。
こなた「ピアノのお稽古してるんだ、今度私も聴いてみたいな」
まなみ「え〜はずかしいよ」
まなみちゃんがピアノを習っているのは初めて聞いた。ゲームの上達の早さから推察するにつかさよりは上手な様な気がする。
まなみ「こなたお姉ちゃんもいろいろ教えてくれるから好き……」
こなた「そ、そりゃどうも……」
おべっかもするなんて、つかさとは随分ちがうな……これはお稲荷さんの血が入っているからなのかな。お稲荷さんの力も使えるとか。まさか……
まなみ「どうしたの?」
こなた「うんん、なんでもない、ゲームの続きやろうか」
まなみ「うん」
私達は夕方までゲームで遊んだ。

日が完全に落ちた頃だった。
そうじろう「おーいこなた、つかささんがお見えだぞ」
まなみちゃんを迎えにきたか。私は玄関に向かうとつかさが立っていた。あの時の様な暗く落ち込んだ雰囲気は一切ない。私の知っているつかさそのものだった。
こなた「さっきはゴメン……」
つかさ「うんんこっちこそ、泣いちゃったりして、もう取材の事は聞かないから」
こなた「それなら良いけど……」
まなみ「お母さん、お父さんとあいしあっていたんだよね?」
つかさ「えっ!?」
つかさは目を大きく見開いてまなみちゃんを見た。あらら、笑顔であっさり言う……あからさますぎ……子供は恐れをしらないな。
こなた「まなみちゃんランドセル取ってこないと」
まなみ「あ、忘れちゃった」
まなみちゃんは慌てて私の部屋の方に走っていった。
こなた「ノートと筆箱もちゃんと仕舞いなさいよ」
まなみ「はーい」
私は溜め息をついた。
つかさ「こ、こなちゃん、どう言うこと?」
つかさは動揺している。
こなた「慰めてもらうのは良いけど、もう少し時間を考えないとね、私が家を出てからすぐにまなみちゃんが帰ってきたんだよ……始まっちゃうとなかなか途中で止められないよね……
    だから適当に誤魔化して私の家に連れてきたって訳、まなみちゃんは意味を知らないで言っているだけだと思うから、でもね、子供は見ていない様で見てるから気をつけないと」
つかさは顔を真っ赤にして俯いた。
こなた「ふふ、何照れてるの、夫婦なんだから気にしない、気にしない」
つかさ「うん……ありがとう」
こなた「ありがとうはつかさの旦那に言って……私の出来る事はこんなことくらいだから」
まなみちゃんがランドセルを背負って走ってきた。
こなた「これから食事の用意をするけど、どう?」
つかさ「うんん、家で皆が待ってるから」
こなた「今度かがみの家族も連れて遊びにきなよ」
つかさ「うん、そうする……それじゃ帰ろうか」
まなみ「うん、バイバイ」
まなみちゃんは手を振った。私もそれに答えて手を振った。そして二人は家を出て行った。

 つかさが元に戻って良かった。
さてと……いつまでもこんな状態が続くと何かとやり難い。多分何度も取材に来るに違いない。
あの記者を追い出すことは出来ないかな。
それにはあの神崎あやめの目的を知らないとならない。なんでレストランかえでを取材にきたのか。
普通に考えればこの店はけいこさんとめぐみさんの失踪事件とあまりにもかけ離れているのに。私達が何を知っていると思っているのか。
それになぜ私に個人的な話しがあるとか言って近づいてきたのか。
わたしの秘密があるように向こうも何かを隠しているに違いない。それを突き止めてやる。
『グ〜〜』
腹の虫が鳴いた。
まぁ、ご飯を食べてからにしようっと。

つづく


113 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/04/27(土) 17:18:31.90 ID:52lA7s3a0
以上です。

114 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/04/27(土) 17:25:00.60 ID:52lA7s3a0

ここまでまとめた

115 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga ]:2013/05/03(金) 13:41:59.98 ID:B8DJo7a70
こなたの旅の続きです。

7レスくらい使います。
116 :こなたの旅C 1/7 [saga sage]:2013/05/03(金) 13:44:27.04 ID:B8DJo7a70
 ご飯を食べて落ち着いた私は自分のパソコンに電源を入れた。神崎あやめ。まずは基本情報を知らないと話しにならない。
『神崎あやめ』と入力しした……
一発でヒットした。この人は業界では有名な人らしい。
〇〇雑誌の記者。〇〇年四月に入社……新卒なのか……ってことは私と同じ歳じゃないか。
出身大学はは〇〇県の〇〇大学……ん。この県って、まさか。
財布の中に仕舞ったメモ帳の切れ端を取り出した。彼女の携帯番号と自宅の電話番号が書かれている。この自宅の電話番号の市外局番……
レストランかえでがここに引っ越す前の町と同じ市外局番。この記者はあの町で生まれ育った……のかな。
でもこの記者はあんな遠くから雑誌社まで通っているのかな。いや、そんな筈はない。考えられるのは自宅勤務を許されているって事。だとしたら大した待遇だ。
どんな記事を書いているのかな。更に調べようとした時だった。
『ピピピ〜』
携帯電話の着信音が鳴った。かがみからだ。直接電話してくるなんて珍しい。でもどんな内容なのかだいたい解った。
こなた「ハローかがみん」
かがみ『おっす、こなた、相変わらず間の抜けた声ね……』
第一声がこれかよ。
こなた「……そんな事を言う為に電話してきたの……」
かがみ『ごめん、そんな用じゃないわよ、ちょっと遅いから明日にしようかと思ったけど、こなたなら起きていると思って……かえでさんから聞いたわよ』
こなた「神崎あやめ……」
かがみ『そうよ、厄介な記者に目を付けられたわね』
かがみは彼女を知っているのか。
こなた「その記者を知ってるの?」
かがみ『いや、直接は会っていない』
こなた「あれ、取材を受けた事ないの……彼女はけいこさんとめぐみさんの失踪事件を調べている、だとしたら真っ先にかがみの所に行くんじゃないの?」
かがみ『私もかえでさんから聞くまで彼女がそんなのを調べているなんて知らなかった』
こなた「なんで私の店に取材に来たのかな……」
かがみ『私もさっぱり分からん、だけど、十年前、私達は散々取調べを受けたし、数多くの記者からも取材を受けた……それで何も出なかったから彼女も取材対象から外したのかも
    しれないわね、そうとしか考えられない』
こなた「どうしたらいいかな?」
かがみは暫く黙っていた。
かがみ『私にも分からないわ、下手な事をすれば勘繰られるし、私が出て行けば余計怪しまれるわよ』
こなた「そうだよね〜」
かがみ『昔私も少し彼女を調べたた事があってね、彼女は刑事事件を中心活動している記者ね、彼女の記事を切欠に解決した事件は多数、それに多くの冤罪事件も手掛けている、
    一目置いた人物ではあるわね、弱きを助け、強きを挫く……そんな感じよ』
かがみのおかげでこれ以上調べなくても彼女の仕事ぶりは分かった。
こなた「それじゃ私なんかじゃ太刀打ちできないよ、かえでさんですらやっとだったのに……」
かがみ『私が言える事は只一つ、嘘はつかない事、それだけよ』
こなた「でも、もし、彼女がお稲荷さんの事に触れてきたらどうするの……」
かがみ『そ、それは……多分平気よ、そこまで分かるはずない』
声に自信がない。
こなた「私も少し調べたんだけど……彼女の出身が店を引っ越す前の町みたいだよ……卒業大学が同じ県だったからね、あの町ならお稲荷さんの伝説とか聞いているかもしれないし、  ちょっと心配……」
かがみ『お、同じ町……』
かがみも私も何も言わず沈黙が続いた。
かがみ『と、取り敢えず今は様子を見るしかないわ』
流石のかがみも打つ手なしか……
こなた「まだ一回しか会っていないのに大変だよ……」
かがみ『くれぐれもつかさをよろしくね、つかさを彼女に会わせたらとんでもない事になるわ』
かがみも同じ事を思っている……
こなた「かがみも同じなんだね」
かがみ『何よその言い草、あんたも同じだって聞いたわよ、これは皆の総意じゃなかったの、お稲荷さんの知識と技術の隠蔽、それこそあの記者にとっては格好のネタよ、
    私達が何故隠しているなんかお構い無しに決まってる』
こなた「う、うん……そうだけど」
かがみ『そうだけど?』
強い口調で言い返してきた。今の私にかがみの意見に反対するほどの正当性をもった反論は出来ない。
でもそのつかさがお稲荷さんの心を開いたのも事実。悲しげに葉っぱを見つめるつかさの顔が頭の中に浮かんだ。どうすればいいのかな……何も出てこない。
こなた「い、いや、かがみの言う通りだよ」
かがみ『頼むわよ……それじゃまた今度会いましょう』
こなた「ちょっと待って」
かがみ『何よ、他に何かあるの?』
つかさの話しになってちょっと思い出したことがあった。
こなた「かがみの子供って成績優秀なのかなって……」
かがみ『なにを急に……』
こなた「確か一番上の子が小4だったよね?」
かがみ『そうだけど……何故そんな事を聞くのよ』
こなた「いやね、まなみちゃんが頭よくってね、もしかしたらお稲荷さんの血が混ざってるんじゃないかなって……」
かがみ『私の子供達は普通よ……まつり姉さんは生まれたばかりで分からない、いのり姉さんはまだ子供は居ない……私の夫を含む皆は人間になった、お稲荷さんの遺伝を捨てた、
   その能力や知能は遺伝しないわよ……もっともつかさは小学校低学年の時は私よりも成績良かったからまなみちゃんの成績が良いのもつかさの遺伝じゃない』
こなた「ふ〜ん、それでかがみは焦って一所懸命に勉強したんだね、なるほど」
かがみ『納得する所が違うぞ!!』
お、久々のかがみの突っ込みを聞けた。そうでないとね。
こなた「ふふ、それじゃまたね」
かがみ『おやすみ……』
電話を切った。
こなた「ふぅ〜」
溜め息を一回。
そして時間を見る。寝るにはまだ少し早い……たまにはネトゲでもするかな……

117 :こなたの旅C 2/7 [saga sage]:2013/05/03(金) 13:45:41.65 ID:B8DJo7a70
 それから一ヶ月が経った。
彼女は週に2回から3回必ずお昼を食べにこのレストランを訪れていた。私達に何かインタビューする訳でもない。ただのお客として来ている。
つかさの店にもたまに行っているみたいだ。それはひろしが対応しているので特に問題があるわけではなかった。
でも問題はこの店。お客として来ているから無理に来るなとは言えない。それどころか友達なのか、同僚なのか分からないけど数人必ず連れてくるのだ。
その中には俳優やテレビでお馴染みの人なんかも混じっていた。
それでも店を出ると神崎さん一人だけ残り観察するような目つきで暫くレストランを見てから帰る。そんな日々が続いた。
あやの「また来てる……でも、あの隣に居る人……俳優の〇〇さんじゃないかな……サイン貰っちゃおうかな……」
厨房の陰からあやのが様子を伺っていた。
こなた「止めておきなよ、何を言い出すが分かったもんじゃないよ」
あやの「……こんなのが一ヶ月……何時まで続くの?」
こなた「分からない……」
あやの「ちょっと行ってくる……」
厨房を出ようとするあやのの腕を掴んで止めた。
こなた「だからダメだって……」
あやの「もう我慢できない……放して」
かえで「止めなさい、まったく見苦しいわよ」
私達の間にかえでさんが割って入ってきた。私は手を放し、あやのは冷静さを取り戻した。
あやの「あの記者……どうにかならないの、見えないプレッシャーがかかって仕事になりません……あれから全く進展がないじゃない」
かえでさんは何も言わず首を横に振った。何もするなとの指示だろう。
でもハッキリ言ってあやの言っているのは私の代弁でもあった。正直いってウザイの一言だ。
かえで「かがみさんが言っていた、彼女の取材は必ず話し手の方から真実を話すってね、そう言う事だったのか、彼女はああやって精神的に追い詰めて白状させるのよ、
    最初の取材で普通じゃ口を割らないと判断したに違いない、厄介だわ……何か迷惑を掛けている訳じゃないから追い返せない」
あやの「誰かが音を上げるのを待っている……」
待っている……私は財布に入っているメモ帳の切れ端を思い出した。まさか彼女は私の連絡を待っているんじゃ……
そうか……ホール長の私が接客をしているから客として来ている……彼女の目的は私なのかもしれない……
神崎さんが手を上げて呼んだ。
かえで「呼んでいるわよ、こなた」
こなた「あいよ……」
私は彼女の座っている席に近づいた。冷静に、冷静にっと。
こなた「はい、何でしょうか?」
あやめ「今日のおすすめランチは何?」
こなた「豚肉のしょうが焼きです……」
隣に座っている俳優さんと耳打ちで暫く何かを話した。
あやめ「それじゃそれを2つ」
こなた「はい……」
わたしが去ろうとした時だった。
あやめ「そろそろ分かってもいい頃じゃない?」
私は立ち止まり神崎さんの方を向いた。
こなた「メモ帳の事ですか?」
あやめ「察しが良いじゃない、どう?」
やっぱり……でも私一人でなんとか出来るだろうか。私の返事を待って神崎さんがじっと私を見ている。他のお客さんが私の方を見て手を上げた。ここで留まっている時間はない。
こなた「今晩、自宅に電話します……」
しまった。なんて事を言ってしまったのだ……
あやめ「待ってる……ほら、お客様が呼んでいる」
私は考える間もなくお客様の方に向かった。こんな所で交渉をしてくるなんて……これも彼女の作戦なのか……まずい。どんどん彼女のペースに乗ってしまいそうだ……
こなた「お昼のおすすめ2つに、ワイン2つ……」
あやの「どうしたの、顔色がよくない……」
こなた「な、なんでもないよ……」
私と神崎さんのやりとりを見ていなかったのかな。かえでさんも別の仕事をしていた。これも神崎さんの狙いなのか……
また別のお客様が手を上げた。
こなた「はい、只今伺います……」
今日はやけに忙しい……考える暇がないまま時間は過ぎていった。

118 :こなたの旅C 3/7 [saga sage]:2013/05/03(金) 13:47:35.40 ID:B8DJo7a70
 家に帰って自分の部屋で考えていた。
結局誰にも言わずに仕事が終わってしまった。このまま彼女と連絡して良いのであろうか。これからかえでさんに電話をして……いや、だめだ。
きっと電話するなって言われるに決まっている。でももし、電話をしなかったらどうなる。また新たな手を使って揺さぶりをかけてくるに違いない。
電話をするかなさそうだな。こうなった自棄だ。私は受話器を取ってメモの電話番号を押した。
あやめ『こんばんは、泉さんね、待っていた』
こなた「こんばんは……私に用事って何ですか……あの事件は何も知りません……」
あやめ『まぁ、まぁ、結論を急ぎなさるな、厨房のシフト表は見えない所に移したでしょ、なかなかやるじゃない、これで貴女の予定が分からなくなった』
こなた「ネタバレするから……誰でも注意されれば気をつけますよ……」
あやめ『ふふ、そうね、でも貴女達、私が来ると緊張している、何を恐れているの?』
やっぱり私から何かを聞き出そうとしている。
こなた「べつに……神崎さんがいろいろ有名なお客さんを連れてくるから……」
あやめ『あれは貴女の店が出す料理が美味しいから誘ったまで……さてと、もう腹の探りあいは止めましょう、私の家に来ない?』
こなた「家に……なんで私が……店長や副店長の方が……」
あやめ『いいえ、貴女でいい、泉こなたさん、それとも私の家が遠くて嫌かしら』
なんで私なんだろう。
こなた「そんな事は、そこは店が元にあった場所だから、でもなんで私なの?」
あやめ『それも来てくれれば話します、来てくれればもう貴女の店に頻繁に行く事はない』
交換条件ってやつか。これって交渉なのか……でも主導権は向こうが持っている。
こなた「約束は守ってもらうよ……」
あやめ『そうこなくっちゃ……で、何時にする?』
私は壁に掛けられているカレンダーを見た。来週の金曜がこの前の取材の振替休暇になっている、その次の日も休み……ならば
こなた「次の土曜日はどう?」
あやめ『分かった、電車でくる、車でくる?』
こなた「車で……」
あやめ『食事はアルコール抜きにしておくから』
こなた「……それはどうも」
あやめ『住所は〇〇町〇丁目〇番地だから』
こなた「分かった……」
あやめ『それじゃ楽しみにしているから』
電話を切った。何が楽しみなもんか……半ば強制的なくせに……
でも、わざわざ二連休の最後にしたのは訳がある。彼女の家に行く前に行きたい所があった。それはひよりの所だ。彼女はひよりと似たところがある。かえでさんもそう言っていた。
毒には毒を……何か対策が立てられるかもしれない。さて、そうと決まったらひよりに連絡だ。

119 :こなたの旅C 4/7 [saga sage]:2013/05/03(金) 13:48:39.82 ID:B8DJo7a70
ひより「とんでもない記者ですねそれは……」
こなた「かがみに言わせれば弱気を助け強きを挫く……だってさ、私に言わせればただの弱いものいじめだよ……」
土曜日、私はひよりの家に居る。家と言ってもマンションでゆたかと同居していて漫画の事務所も兼ねている。普段ならアシスタントも居て作業をしているはずだが今日は
仕事が休みでひよりとゆたかしか居なかった。かえって好都合だった。私は事の経緯を二人に話した。
ひより「それで、毒には毒をって……先輩そりゃないっスよ……」
こなた「まぁ、まぁ、そう言わずに助けてよ」
両手を前に出してひよりを落ち着かせた。
ひより「先輩が助けてなんて言うのですからよっぽどですね……」
ひよりは両手を組んで考え込んだ。
こなた「それで、神崎あやめをどう思う?」
ひより「う〜ん、直接会った訳じゃないからなんとも言えないっス、それに私に似ているって……私……鋭い感性なんかもっていませんし……頭の回転も遅いし……
    かえでさんや先輩を翻弄させるような話術もありません」
こなた「またまた謙遜しちゃって、現にひよりはコンやすすむさんの正体を見抜いたじゃん?」
ひよりは暫く溜めてから話した。
ひより「それはつかさ先輩の話しを聞いたからっス……真奈美さんの話を聞かなければただの賢い犬で終わっていました」
つかさの話しを聞いて……ここでもつかさか。
こなた「でも、つかさの話しからコンやすすむさんを結び付けるなんて誰でもできることじゃないよ、でも多分あの記者なら出来ると思う」
私とひよりは腕を組んで考え込んだ。
その時ゆたかがお茶とお茶菓子を持って席に着いた。
ゆたか「神崎あやめ……私、以前に会ったことがある……」
こなた・ひより「えっ!?、い、いつ!!?」
私達はゆたかに詰め寄った。
ゆたか「は、半年くらい前かな……漫画の取材って言って、インタビューをね……」
こなた「漫画の取材って、ジャンルが全然ちがうのに……」
ひより「ど、どうしてゆたかだけ……」
ゆたか「……ご、ごめんなさい、ストーリ担当の私に取材を申し込まれたから、それに半年前のひよりは取材を受ける状態じゃなかったでしょ、4日連続の徹夜……」
ひより「……」
ひよりは黙って頷いた。顔色が少し青くなった。よっぽど過酷な仕事をしていたのだろう。
こなた「どんな取材だったの?」
ゆたか「う、うん……この作品についてなんだけど……」
ゆたかが見せたのは……私とかがみ、ひより、ゆたか共同で作った物語……つかさをモデルした漫画じゃないか。でもその漫画はひよりの出版社でボツになって、
自費出版にしてコミケで20冊しか出さなかった。人間と宇宙人の愛をテーマにしたんだっけな……でも内容はかがみの提案で実際とは大きく変えたのは覚えている。
こなた「い、いや、あの記者がコミケに参加しているなんて……」
ひより「そ、それで?」
ゆたか「う、うん……この物語の中で宇宙の過酷さがすごくリアルに描かれているって言われて……どうやってそこに至ったかを聞かれてね……」
ひより「宇宙の過酷さって……あれはすすむさんから聞いたやつかな」
ゆたかは頷いた。
こなた「何を聞いたって?」
ひより「宇宙戦争をするほど宇宙は優しくないって、それに地球の資源を狙うなら他の小さな惑星から発掘した方が良いって……」
こなた「なんでそれがリアルなの……」
ゆたか「どんなに進んでも地球の環境を完全に再現するのは難しいって、それは地球外文明も同じ、私達と同じ遺伝子で構成されている生命は宇宙空間では生きていけないから
    宇宙戦争なんかしたら共倒れだよ」
そいう物なのかな……確かに今まで見てきた漫画とは違うけど……憎ければ殴りたいのが心情ってもの、宇宙ってそれすら許されない所なのかな……
ひより「それで記者にはなんて答えたの?」
ゆたか「地球の大切さを表現したって言ったら……なんか妙に納得してくれた……」
ひより「流石ゆたか」
こなた「で、私が作ったギャグの所は何か言ってた?」
ひより「わ、私の画風はどうだった」
ゆたかは首を横に振った。ひよりは残念そうに指を鳴らしていた。
私は何を期待していたの。この記者の評価なんか私にとってはたいした意味はないのに。
ゆたか「何も言ってなかった、でも、複数の人員が関与しているって見抜いてた……でもね、雑誌社から掲載をボツにされちゃって……だから私、何も言わなかった」
ひより「そうなのか……わざわざ掲載ボツを知らせてくるなんて律儀だな」
こなた「それでね、明日の件なんだけど、どう振舞えばいいのかな」

120 :こなたの旅C 5/7 [saga sage]:2013/05/03(金) 13:49:55.38 ID:B8DJo7a70
 何も対策が出ないまま1時間が経過した。
ひより「彼女の最終的な目的ってなんですかね」
こなた「さぁね、それが分かれば苦労しないよ、私達が何かを隠してるってのはもう気付いているみたいだから厄介なんだよ」
ひより「全てを話したの時、彼女はどうするかですよね、普通に考えれば世間一般に公表するでしょうね、でも、頭が切れるならその後どうなるかって解る様な気がするけどな〜
    つかさ先輩、みゆき先輩がそれで失敗して大半のお稲荷さんが帰る破目になってしまったのだから、説得して私達の仲間に引き入れるってできないかな?」
こなた「そうなれば良いけど、そうじゃなかったらもう取り返しがつかない……」
ゆたか「一つだけ方法があるよ……」
いままで黙っていたゆたかが急に割って入った。
こなた「それはどんな方法?」
ゆたか「神崎さんがもし、私達の制止を振り切って秘密を公表するのであれば、彼女の記憶を消してしまえば良いよ」
背筋が凍りついた。可愛い顔をしてそんな恐ろしい事を平然と言えるなんて……いや、もう既にゆたかはひよりの記憶を奪っている……
ひより「ゆ、ゆたか……」
ゆたか「確証はないけど人間成ったすすむさんはまだその術は使えると思うの、あくまで私達の意思に背くなら、選択肢の一つじゃない?」
こなた「そ、そうだけど……ちょっと、そこまでは……」
ゆたか「お姉ちゃん、言っておくけど私達の知っている秘密は大国の国家機密に匹敵する物だよ、かがみさんの病気を治せるし、その気になれば大量破壊兵器だって……
    もう一人の記者の意思とか私達の気持ちなんか超えているの、今は誰にも知られちゃいけない、お稲荷さんの本音はきっと私達の記憶だって消したいくらい……だよ」
目を潤ませて訴えるように話すゆたかだった。今の状況を一番理解しているのはもしかしたらゆたかなのかもしれない。
ひより「もういいよ、ゆたか……」
ゆたか「ご、ごめんなさい……ちょっと頭冷やしてくるね」
ゆたかは自分の部屋に入っていった。
ひより「先輩、実は私もゆたかと同じように記憶を消してしまえばって思っていたっス、だけど……これはあくまで最後の手段……先に言われてしまいました」
苦笑いをしている。
こなた「いいよ、ゆたかを庇うのは」
ひより「あれ、ばれちゃいましたか……」
手を頭に当てていた。
こなた「記憶を奪われた本人だもんね、ゆーちゃんって呼んでいた頃がなつかしいな……」
私はゆたかが入った部屋を見ながら話した。
ひより「すすむさんは絶対に記憶を奪わないって知っていて言っていると思うので、本心じゃないと思います……」
こなた「だと良いんだけどね……だけど、神崎さんの今後の行動によっては本当に考えないといけないかもしれない」
ひよりは一回大きく深呼吸をした。
ひより「ちょっと重い話になりましたね、ゆたかが戻ってくるまで小休止にしませんか」
こなた「いいね、そうしようか」
私達はゆたかの用意したお茶と菓子に手をつけた。

121 :こなたの旅C 6/7 [saga sage]:2013/05/03(金) 13:50:53.15 ID:B8DJo7a70
こなた「もしつかさが一人旅に出ていなかったらどうなっていたかな……少なくともかえでさんには出会っていないから私は未だにニートだったかもしれない」
ひより「……なんですか急に?」
ふと思った事を言ったのでひよりはお菓子を食べているのを止めて聞き返した。
こなた「つかさが一人旅に出る切欠になったのは多分私とつかさの言い合いだよ、私が出来っこないって言って、つかさがムキになって……絶対に行くなんて言ってね、
    まさか本当に行くとは思わなかった、」
ひより「へぇ〜そんな事があったっスか……」
こなた「お稲荷さん……そう言われるの本人達は嫌がっていたね、宇宙人でいいのかな、彼らとも会っていないからかがみはこの世に居なかったかもしれない」
ひより「……そう言えばそうかもしれませんね、つかさ先輩との言い合いが私達の運命を変えた……っスか……」
ひよりは腕を組んで目を閉じた。
こなた「どうしたの、そんな意味深な事言ったかな?」
ひより「今思ったけど、ゆたかはつかさ先輩が一人旅に行く前に既にすすむさんに会っていましたよね、つかさ先輩が一人旅に行かなくてもお稲荷さんと何らかの関係は出来たかも
    しれませんよ?」
こなた「ゆたかはつかさと違って秘密は守る方だからね、どうなっていたか……」
ひより「あっ、そうでした……」
こなた「ゆたかは一人で抱え込むタイプだからね、ゆたかの暴走をつかさが止めたようなものかもしれない、あっ、止めたのはひよりか」
ひより「いいえ、つかさ先輩ですよ……いつでもつかさ先輩は私の前にいましたから……」
こんな台詞、高校時代のつかさなら絶対に言われなかっただろうな。
でも、私が怒って怒鳴りつけた時のあのつかさは紛れも無く高校時代のつかさそのものだった。だから今もこうやって友達で居られるのかもしれない。
ひより「どうしたんです、急に微笑んだりして……」
わたしの顔を覗き込んで首をかしげいた。
こなた「ちょっと昔を思い出してね、そういえばさ高校時代ゲーセンで何度も私に挑戦してきた後輩がいたけど……確かひよりの先輩だったよね?」
ひより「えっと……漫研の部長こーちゃん先輩のことっスか?」
こなた「今どうしてる?」
ひより「え、えっと〜どうしてるかな〜」
ひよりは天を仰いでいる。
こなた「卒業してから交流ないの?」
ひより「えっ、ま、まぁ、部活動では私、漫画家なんてならないよって言ってたもんで……なんて言うのか、会い難いというか……あはは、はははは」
こなた「……そりゃそうだ……」
ひよりはごそごそと机の裏から本を出した。
ひより「それより、先輩見てください、今度のコミケで出す予定の作品ッス」
こなた「なんで隠してなんか……あぁ、さては例のやつ?」
ひよりは目を輝かせて頷いた。
ひより「時間を見つけては書いていました、先輩のご希望に添えるように書きました」
私は頁を捲った。
こなた「……いいね……たまにはこういった物も描かないとね」
ひより「そうでしょ、自作ながら良くできたと……あ、あ、あ、」
こなた「だめだよひより、興奮してあえぎ声だしちゃ……」
ひよりの目線を追うとそこにはゆたかが仁王立ちで立っていた。ゆたかは透かさず私から本を取った。
ゆたか「お姉ちゃん、ひより、まだ懲りていないみたいだね……こいうの描くと出版社から仕事もらえなくなるでしょ……」
ひより「だ、だから内緒で……」
ゆたかの目が鋭くひよりを睨んだ。
ゆたか「これは没収するから……お姉ちゃんも、今度ここに来るときは持ち物検査するかね……」
私とひよりの暴走を止めるのはゆたかだった。

122 :こなたの旅C 7/7 [saga sage]:2013/05/03(金) 13:52:02.71 ID:B8DJo7a70
 明日、神崎さんの家に行くのにここからの方が近いので二人の勧めで泊まる事になった。
女性三人で話す事と言えば一つしかないだろう。
ひより「さすがレストランかえでのホール長っスね、味付けが違います」
せっかくなので夕ご飯は私が作った。
こなた「まぁ、泊めてもらうのにこのくらいしないとね、それに私が作るのは賄いくらいだよ、腕はあやの方が遥かに上だから」
ゆたか「それでも美味しいよね」
ゆたか「うん」
こなた「ところでお二人さん、つかさの演奏会の時に言ってた告白とらやらはもう済んだのかい、ご報告はまだ聞いていないよ」
二人の動作が止まった。
あらら、聞かなかった方が良かったかな……あの時やけに自信ありげだったけど……まぁここは私が気を紛らわせてあげるか。
そう思った時、ひよりがにやりと笑ってゆたかの方を見た。
ゆたか「そういえば一昨日もお泊りだったよね〜」
ゆたか「えっ、あ、あれは実家に帰って……」
顔を赤くして首を激しく横に振った。
ひより「あれれ、昨日はみなみの家に遊びに行ったって言ってなかたっけ……」
ゆたか「ひ、ひよりこそ帰りの時間が遅くなる日が随分多くなったよね」
ひより「あ、あれはネタを考えていてね……公園で考え込んで……」
ゆたか「ふ〜ん、ネタはお風呂に入って考えるって言わなかったっけ」
ひよりも顔を赤くしながら話している。なんだ。うまくいっているみたい。心配して損した。
こなた「はいはい、そこまで、それで式はいつになるのかな……」
ひより「……それは……」
こなた「二人は忙しいからね、かえでさんみたいに籍だけ入れるって方法もあるからさ」
二人は黙って俯いている。少しからかってやるか。
こなた「おやおや、恥かしがる歳じゃないでしょ……」
二人は黙ったままだった。かがみだったらもう少し面白い反応するのだけど……
ゆたか「お、お姉ちゃんは誰か好きな人居ないの……」
ゆたたが反撃に出たか。
こなた「残念でした、私の恋人はゲームの中なのだよ、私に死角はないよ」
ひより「先輩の初恋はいつごろでしたか」
こなた「え、は、初恋……」
ひより「あ、聞きたいなお姉ちゃんの初恋の話し、まだ一度も聞いてない」
こなた「さてと、明日は日が昇る前に出ないいけないから早く寝ないと」
私は席を立った。
ゆたか「あ、ずるい、お姉ちゃんが振ったはなしだよ、逃げないで」
まさかそんな話しになってしまうとは思わなかった。そんな話し……恥かしくて話せない。私はそのまま寝室に入って寝た。

 未だ日が昇る前の薄暗い早朝、携帯のタイマーで私は目覚めた。身支度をして居間に入るとゆたかが居た。
こなた「起きてたの?」
ゆたか「うん、眠れなくて……」
こなた「私が寝てからひよりとエッチな話しでもしてたとか、」
ゆたか「うんん……」
私のジョークに何も反応をしなかった。ゆたかは机に置いてある本を見ている。あれは没収された本だ。
こなた「その本は……」
ゆたか「……私のした事に比べればこんなのは軽いジョークだよ」
こなた「なんの話しを?」
ゆたかの言っている事がさっぱり解らない。
ゆたか「私はひよりの目の前で記憶を奪うなんて言ってしまった……懲りていないのは私の方だった」
こなた「昨夜の事を言っているの……本人はあまり気にしていないみたいだけど、変わったところも見当たらないし」
ゆたか「うんん、取材でボイスレコーダーを使わなくなったでしょ、あれは私のせい、必要以上の記憶が消えてしまったから」
こなた「そうかな……」
ゆたか「そうだよ、私には解るの、だから今でもこうして眠れない時が……どうしてあんな事をしたって……なんでまた同じ事をさせようとするのかって……」
こなた「……難しい事は分からない……よ」
ゆたか「そうだったね、これは私の問題だった、ごめんなさい」
こなた「でもひよりはゆたかを赦した、ゆたかが部屋に頭を冷やしに行った時もゆたかを庇っていたからね、それは私にも分かる」
ゆたか「ひより……」
ゆたかは机に置いてあった本をひよりが隠していた場所に戻した。
こなた「良いの?」
ゆたか「うん」
その時のゆたかの笑顔は印象に残った。
こなた「さてと、そろそろ行かないと」
ゆたか「あ、そうだ、眠れないからお弁当作っておいたよ、休憩の時に食べて」
こなた「ありがとう」
お弁当を受け取った。
ゆたか「確か、お姉ちゃんのお店が引っ越す前の町だよね……」
私はは頷いた。
ゆたか「これも何かの運命なのかな……」
こなた「つかさは一人旅に出る時、かがみからお弁当を受け取った……」
ゆたか「あっ……同じ……」
こなた「ははは、偶然だよ……それじゃ行って来ます」
ゆたか「行ってらっしゃい」
私は神崎めぐみの自宅へと向かった。

つづく
123 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/05/03(金) 13:55:10.97 ID:B8DJo7a70
以上です。

さて、この記者、神崎あやめの本当の目的はなんでしょうか。
次回にご期待下さい。


このスレ自分の独占状態になってしまった。
いつもなら1レス物が入ってくるのだが。

それに読んでくれている人が居るのかどうかも心配。
124 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/05/03(金) 14:11:02.94 ID:B8DJo7a70


ここまでまとめた

@WIKIモードがワープロモードと同じ容量で書き込めるようになったようですね。
予定ではこなたの旅Dはページ2で編集します。
125 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/05/12(日) 12:33:42.03 ID:viSuFd2o0
それでは投下します こなたの旅の続きです。

今回は短めで5レスほど使用します。
126 :こなたの旅D 1/5 [saga sage]:2013/05/12(日) 12:36:29.98 ID:viSuFd2o0
 車を走らせて数時間。もう目的地に着こうとしている。
結局ゆたかとひよりに会ったけどあの記者の対策はこれといって出なかったな〜
こなた「ふぅ〜」
思わず溜め息。
それにしても、あの町へ行くのは引っ越してから初めてかもしれない。つかさはあの神社に思い出がある。かえでさんは生まれ育った故郷。この二人は何度も行っている。
私は仕事であの町に引っ越して住んだだけ。特に思い入れもなければ親しい人が居るわけでもない。遠いし田舎だし……こんな事を言えばかえでさんが怒ってしまう。
そんな私がその町に行こうとしているなんて。
私の思い出と言えばお稲荷さんの出来事くらいか。
ふと車の時計を見た。約束の時間よりかなり前に到着しそうだった。そんなに飛ばして運転はしていないのに。
最近になって高速道路が整備されて近くにインターチェンジが出来た。それを計算に入れていなかったせいかもしれない。
みゆきさんが言っていたっけな。仕事関係以外で家を訪問する時は約束の時間より少し遅れて訪ねるのがエチケットだって。
まぁ、向こうもいろいろ準備があるだろうし。どうしたものかな……
こうなるのだったらもう少し遅く出ても良かった。そうすればゆたかからお弁当を受け取らなくても……あ、そうだったお弁当まだ食べてないや。
折角作ってくれたのだから食べないと悪いな……どこで食べよう。車の中で食べちゃおうか……
それだと時間が余りすぎちゃう。食べて一休みすると眠ってしまって今度は遅れ過ぎてしまうかもしれない。
あれこれ考えて……車を止めた所はあの神社の入り口の前だった。

あの時と変わっていない。それもそうだ。。それが条件で町に譲渡したのだったのだから。変わったといえばお参り用に駐車スペースが確保された所くかいかな。
その駐車スペースに停めて車から降りた。
こなた「う〜ん」
背伸びをして座って固まっていた身体を伸ばした。
ここまで来たからには……
神社の入り口を見上げた。
やっぱり頂上で食べないと意味ないかな……つかさもあの時同じように思って登ったに違いない。
『わっ!!!』
こなた「ひぃ!!」
突然後ろから声を掛けられた。私は跳びあがって驚いた。振り向くとフルフェイスのヘルメットを被った人が立っていた。
「驚いちゃった?」
この声は……その人はヘルメットを取った。ヘルメットから長い髪がふわっと零れ出た。彼女はその髪を手でさっと梳かした。
神崎あやめ……
あやめ「どうしたの、こんな所で」
こなた「そ、そっちこそなんでこんな所に……」
まだ驚いて心臓がドキドキしている。
あやめ「私? 私は買い物の帰り、それにしてもバイクで近づいたのに全く気付かなかったから……どうしたの物思いに耽っちゃって……」
こなた「べ、別に何でもない……」
神崎さんは私をじっと見た。
あやめ「その手に持っているのは……お弁当?」
こなた「そうだけど」
神崎さんは私の見ていた神社の入り口を見た。
あやめ「……あぁ、なるほど、神社の頂上でお弁当を食べようとしていたのか……そうそう、この神社の頂上はねとっても景色が良いからね……」
神崎さんはバイクを私が停めた車の横に置いた。
あやめ「案内するよ、絶景のポイントがあるから」
彼女は微笑んで神社の入り口に歩き出した。
こなた「え、い、良いよ、私は一人で……」
あやめ「いいから、いいから」
私の腕を掴むと神社の入り口まで引っ張った。
こなた「分かった、案内してもらうからその手を放して……」
手を放した。
あやめ「そうこなくっちゃ……ちょっと頂上までは体力要るから覚悟して」
神崎さんは神社の入り口に入り階段を登り始めた。
まぁいいか。どうせ私も登るつもりだったし。私は彼女の後を追った。
 でも何だろう。さっきの彼女の笑顔……
取材に来た時や店に客として来た時だってあんな爽やかな笑顔は見た事ない。
どうもさっきから彼女のペースに押され気味。よーし、私がただのオタクじゃい所をみせてやる。一回大きく深呼吸した。
「3、2、1……」
こなた「ゴー!!」
全速力で階段を駆け登った。あっと言う間に神崎さんを追い抜いた。追ってくる気配はない。でも私はペースを落とさず頂上まで登った。

127 :こなたの旅D 2/5 [saga sage]:2013/05/12(日) 12:37:54.04 ID:viSuFd2o0
こなた「はぁ、はぁ、はぁ……」
さすがに息が切れた。両膝に手を掛けて休んだ。そして階段を見下ろした。はるか小さく彼女が登ってくるのが見える。彼女がどんな反応をするか楽しみだ。
彼女は数分遅れて頂上に着いた。彼女も少し息を切らせていた。
あやめ「……凄い……まるで陸上選手みたい」
私を見上げて驚きの表情を見せた……あれ?
思った反応とは違った態度を取った。負け惜しみの一つでも言うのかと思った。そうしたら私も透かさずドヤ顔で返してやったのに。拍子抜けだな。
彼女は呼吸を整えると階段から少し歩いて私を手招きした。
あやめ「お弁当を食べるなら此処が良い」
私は彼女の指差す切り株に腰を落とした。そしてお弁当と広げた。
ゆたかの作ったお弁当か……高校時代以来か。盛り付けが上手くなっている。あれだけ全力で走って振ったのに具が崩れていない。それに彩りも鮮やかだ。
一口食べた……味付けはあの時とあまり変わっていない。懐かしい味だった……
あ、そういえば神崎さんは何処だ……
神崎さんは階段から景色を見下ろしていた。もしかしてそこが絶景なのか。別に教えてくれるもなにも頂上に着けば誰でも見れらる景色じゃないか……
もしかして私が食べ終わるのを待っているのかな……しょうがないな……私だけ食べているのも気が引けるし……
私は食べるのを止めて神崎さんの立っている所に向かった。
こなた「もしかして、これが絶景?」
神崎さんは遠い目をして眺めている。私の声が聞こえていないみたい。それならそれでいいや、残りのお弁当を食べちゃおう。
あやめ「泉さん、貴女はこの町に住んでいる時、この神社を登った事はあるの?」
戻ろうとしたその時だった。私は立ち止まった。
こなた「あるけど……」
あやめ「町内の住民ですら滅多に来ないこの神社なのに、あの店長さんに付き合わされたのかしら?」
そうじゃない、そうじゃないけど……なんて言えば……
神崎さんは景色を見ながら話した。
あやめ「ふふ、話したくないなら、無理には聞かない」
引いた……ますますこの人がどんな人なのか分からなくなった。これも取材の一環なのか?
あやめ「私の住んでいる家、そしてこの神社、十年前の計画で取り壊される計画だった」
こなた「家が、壊される?」
あやめ「そう、この神社の一帯が都市計画になったのは貴女も知っているでしょ、私の家の廻りもその区画だったの」
さらに話しは続いた。
あやめ「確かにワールドホテルからの補償金額は家と土地を足しても余りあるものだった……私達家族は反対した、そうしたら向こう側から交渉しようと持ちかけてきてね、
    交渉は順調に進んで私達の区画を計画から外すと決まり掛けた時だった、あの事件が起きたのは……」
こなた「事件って、ワールドホテル会長の逮捕?」
神崎さんは頷いた。
あやめ「その後の交渉についたのは貿易会社、今までの交渉を無視して彼等は区画を変更しないで私達に退去を迫った、しかも保証金は半分にされてね……
    でも私達にはそれを覆す手段も力も無かった、私はまだ駆け出しの記者にすぎなかった……」
そんな過去があったのか。しかし重い話しだ。私はこう言う話は苦手だな。
あやめ「それが一変した、匿名の誰かが計画区画を全て買い上げて無償で寄贈した、匿名でそんな事をしても得にはならない、会社や組織ではないのは直ぐに分かる、
ワールド会社から私達家族に示された保証金から換算して土地買収に数十億、それを上回る金額……私の計算では数百億のお金が動いたと思う、
でも個人でそんな金額を動かせる人物は限られる、一体誰がそんな事をしたのか……政治家か資産家か……分からない」
誰かって……私の事じゃないか……まさか本人を目の前にそんな話しをしているなんて彼女は判って言っているのか……ま、まさか、あれは全部ネットでやった事、
足跡は残らないようにしたし分かるはずはない。
あやめ「それが私の追い続ける真実」
こなた「そ、それで私を呼び出してどうしろって……私はしがないレストランのウエートレスですよ」
神崎さんは振り返り私の方を向いた。そして手に持っているお弁当を見ると手掴みで卵焼きをつまみ自分の口に入れた。
あやめ「もぐもぐ……それは私の家で話す」
こなた「あっ!! そ、それは……」
それは私の一番好きな卵焼き、楽しみに取っておいたのに……
あやめ「お弁当を食べるときは一人で食べるとつまらないでしょ、そう言ってたじゃない?」
こなた「そ、それは……」
神崎さんはにっこり微笑んだ。
あやめ「ふふ、貴女の無事を祈り込めて作っている、美味しかった」
そう言うと神崎さんはハンカチを取り出した。
あやめ「私は幼少からこの神社で遊んでいてね、この階段を速く下りる方法があって……」
神崎さんは階段の手摺にハンカチを巻くとそこに腰を下ろし両足を上げた。体と足でバランスを取りながら滑ってく、みるみる速度が増していく。
あやめ「下で待ってから〜」
あっと言う間に小さくなってしまった。

128 :こなたの旅D 3/5 [saga sage]:2013/05/12(日) 12:38:49.16 ID:viSuFd2o0
 登りのお返しか。それなら私だって……急いでお弁当を片付けて……ゆたかの作った卵焼きを食べるなんて信じられない……何が無事を祈ってだよ……あ、あれ?
神崎さんはなんでこのお弁当を私が作っていないのを知っていたのだろう……
私の無事を祈ってって……確かにゆたかならそうしたかもしれない。
こんな事が出来るのは……お稲荷さん……
 ん〜、結論を急ぎすぎたかな。。彼女はかえでさんに策士と言わしめた人だ。お稲荷さんっぽく感じただけかもしれない。
地球に残ったのは四人だけ……もし彼女がお稲荷さんならひろしが気付くはず。
それにけいこさんやめぐみさんの失踪ならその真相を知っているはずだ。こんな回りくどいことをする必要はない。そう考えるとやっぱり神崎あやめは人間だ。
それじゃ彼女はこの神社を寄付した人を探してどうするつもりなのかな。
お礼をするつもり……
それだけなら私達は秘密にしている必要はない。彼女がつかさに会おうが会うまうが関係なくなる。そして私もこんなに悩まなくてもよくなる……
こなた「ふぅ〜」
溜め息をついた。そんな単純じゃないよね……
気付くともう神崎さんの姿は見えない。もう下りてしまったのか。
あの記者はこの神社を寄付した本人に何を話すつもりなのか。少しそれも興味があるな。
ポケットからハンカチを出した。そして神崎さんと同じように手摺に巻きつけてその上に腰を下ろした。バランスを取りながら滑る……
こなた「うわ〜」
落ちそうになった。だめだ。これは直ぐに出来ようなものじゃない。くやしいけど歩いて下りよう。

 神社の入り口に戻ると彼女はバイクに跨り私を待っていた。親指を立てて向かう方向を指している。私を案内してくれるのか。
私は車に乗りエンジンをかけた。彼女はゆっくりとすすみ始めた。そして私は彼女の後を付いていった。

129 :こなたの旅D 4/5 [saga sage]:2013/05/12(日) 12:41:12.91 ID:viSuFd2o0
 神社で5分もかからない所に彼女の家があった。なるほどこれなら駅も近いから電車でも苦にはならない。あの時電車か車って聞いたのはそのためだったのか。
あやめ「適当な場所に停めていいから」
彼女はバイクを降りた。私も彼女の言うように適当な場所に車を停めて降りた。
あやめ「家に入って待っていて、バイクを置いてから向かうから」
こなた「うん……」
彼女は家の裏の方にバイクを引いて入って行った。家に入るって家の鍵なんか持っていないのに……
玄関の前で待っているかな。
『ガチャ』
扉が開いた。
「あら、あやめの友達ね」
女性が中から出てきた。見た目の歳から判断すると神崎さんのお母さんかな。
こなた「こ、こんにちは……」
「あやめの母、正子と申します……」
正子さんは深々と頭を下げた。やっぱり思った通りだ。
こなた「あ、泉こなたと言います……」
私も思わず釣られて頭を下げた。
正子「どうぞ中へ」
こなた「お邪魔します……」
中に入り靴を脱いだときだった。
正子「あやめはまたオートバイにに乗って……幾つだと思っているのかしら」
心配そうに玄関を見ている。
こなた「買い物って言っていましたけど……」
正子「もうとっくに結婚して子供の一人や二人居てもいい頃なのに、仕事やオートバイばっかりで、事故でも起こされたら……」
正子さんの姿が早退したつかさを心配していたみきさんの姿と被って見えた。お母さんか……
正子さんは居間に私を通した。
正子「そこで待っていてね」
こなた「はい」
間もなく神崎さんが帰ってきた。
正子さんは玄関に向かった。
あやめ「ただいま、泉さんが来てるでしょ?」
正子「あやめ、オートバイは危ないって何度も言っているでしょ」
あやめ「別に良いじゃない、私の勝手でしょ」
正子「勝手って……あやめ」
あやめ「お客さんが来てるでしょ、みっともないから止めて、それに大事な話があるから部屋には来ないで」
玄関から怒鳴り合いの大声が私の耳に入ってくる。
どたどたと足音が近づいてきた。
あやめ「ごめんお待たせ、私の部屋で話しましょ」
こなた「う、うん」
あやめさんの後を付いて部屋に向かった。
130 :こなたの旅D 5/5 [saga sage]:2013/05/12(日) 12:42:15.04 ID:viSuFd2o0
 私が部屋に入ると神崎さんは扉を閉めた。
あやめ「ふぅ、まったく、煩くてしょうがない」
うんざりしたような表情だった。
こなた「帰ってくるなり親子喧嘩なんて……」
あやめ「恥かしい所を見られた、でも、悪いのは向こうの方だから」
こなた「うんん、正子さんは神崎さんを心配して」
あやめ「何が心配だ、知った風に、貴女も親子喧嘩くらいしてるでしょ、分からないの」
少し興奮気味だった。私は普段通りの口調で答えた。
こなた「お母さんは生まれて直ぐに亡くなった……喧嘩どころか話しすらした事ない」
あやめ「え……ご、ごめんなさい……」
驚いた。すぐに謝ってくるとは思わなかった。この人、見栄は張らないタイプなのか。かがみとは違うな。
こなた「別に気にしていないから、それより話しを聞きたいな、明日は仕事だから手短に」
あやめ「えっ、あっ、そ、そうだった」
神崎さんは私を椅子に座らすと立ったまま話し始めた。
あやめ「二人の失踪事件、未だに二人の消息は分かっていない、私も個人的に調べた限りでは拘置所から消えてからの足取りは全く分からない、まさに蒸発の文字通り
    気体にになって消えたとしか思えないほど見事に証拠がない、ここからは私の推測なんだけど、これはそうとう大きな組織が絡んでいる」
あらら、話が大きくなってしまっている。でも記者らしい推測かもしれない。
あやめ「これを見て」
本棚からA4サイズの数枚の紙を私に渡した。そこには表があり数字が書き込まれている。私にはさっぱり分からない。
こなた「何これ?」
あやめ「貿易会社で過去十年に取得した特許の数……もう一方はワールドホテルの会長が取得した十年分の特許数……
    どう、数がほぼ同じでしょ」
こなた「うん……」
あやめ「ワールドホテルの従業員は殆ど解雇されているのにも関わらずこの高水準を維持できるのは不自然、、私はね二人は貿易会社に誘拐されたと思っている、
    あのくらい大きな組織なら証拠を残さずに拉致することくらい簡単に出来ると思う」
私は書類を彼女に返した。
こなた「大胆な推理だね、でも……飛躍しすぎだよ……」
あやめ「そうかしら、あの会社は最近あまり良くない噂があってね、闇の商売……兵器の開発や売買に関与していると言う、それが明るみにできれば二人を救出できる
    私は二人を救い出したい、貴女もそう思うでしょ?」
まるで映画の世界のような話だ。
こなた「……それで、私にどうしろって言うの」
あやめ「貿易会社に潜入取材をする、それを手伝って欲しい」
こなた「ほぇ?」
何を言い出すと思えば私にスパイをしろってか。しかし彼女目は真剣そのものだった。
こなた「ちょ、ちょっと待って、いきなり潜入だななて、神崎さんはあの神社を取り戻した人を探しているんじゃないの?」
あやめ「そう、だからあの二人がそれをしたと思う、あの会社が簡単に一度取得した土地を手放すとは思えない、何か交渉したに違いない」
こなた「わ、私はスパイなんか出来ないよ」
あやめ「安心して、取材は全て私がする、貴女はサポートしてくれるだけで良いから」
私の手を握って来た。目がマジになっている。
この人本気だ、本気で私を巻き込もうとしている。ダメだよそんな事をしても意味ないよ……
こなた「実はね、あの神社を買収したのは私だから……」
あやめ「ん、なに?」
あっ、しまった。彼女の迫力に押されてつい言ってしまった。神崎さんは私をじっと観察するような目つきで見ている。
どうしよう。もうおしまいだ。バレてしまった

つづく
131 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/05/12(日) 12:44:10.34 ID:viSuFd2o0
以上です。

こなたのピンチ。彼女はこの危機を乗り越えられるのでしょうか?

次回にご期待下さい。
132 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/05/12(日) 13:00:01.63 ID:viSuFd2o0

ここまでまとめた。

133 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga ]:2013/05/18(土) 22:45:15.26 ID:e8omPb0q0
それでは「こなたの旅」の続きです。
5レスくらい使います。
134 :こなたの旅E 1/5 [saga sage]:2013/05/18(土) 22:47:28.57 ID:e8omPb0q0
 神崎さんは黙って私を見ている。もう何を言ってもダメだろう。素直になるしかない。
あやめ「貴女が、神社を買収した?」
こなた「う、うん……」
私はもう頷くしかなかった。
あやめ「数百億のお金を動かし、貿易会社から土地を買ったって……」
こなた「う、うん……」
あやめ「プッ!!  ぎゃはははは、ふははははは〜」
腹を抱えて笑い出した。私は呆然と彼女を見ていた。
あやめ「はははは、いくら手伝いが嫌でももっと上手な嘘を付きなよ、はは〜」
彼女の笑いは数分間続いた。なんかこんなに笑われるとちょっと腹立たしい。私はちょっと頬を膨らませてそっぽを向いた。
あやめ「……貴女は大富豪や政治家の娘じゃないよね、見たところ普通の女性、貴女のどこにそんな金額を動かせる力があるの、そんな方法があるなら私が聞きたいくらい、
    もし、万が一、貴女がしたというなら魔法を使ったとしか考えられない……」
そう、私はその魔法を使った。お稲荷さんの知識を使った。優秀な記者でさえ私がそんな事をしたなんて見抜けない。
こなた「は、はは、そうだよね……ははは」
笑って誤魔化すしかなかった。
あまりにも現実離れしているからバレないで済んだ。これはラッキーだった。それと同時に激しい自己嫌悪を感じた。
私はつかさに怒鳴って怒った。内緒の意味を知っているのかって。意味を知らないは私の方だった。
ただ迫力に圧倒されただけで秘密を話してしまうなんて。秘密を守るのってこんなに難しいとは思わなかった。つかさに対して本当にすまないと思った。
あやめ「嫌なのは分かるけど、話は最後まで聞いて欲しい」
神崎さんが真剣な顔になった。今は反省している時じゃない。ここは話しを聞こう。
こなた「うん、此処まで来たのだし……」
神崎さんも腰を下ろし話し始めた。
あやめ「旧ワールドホテル本社改め、貿易会社日本総本店、そこにあるレストランに臨時求人があるの、そこに一ヶ月間働いてもらう、
    そこで、資料室から資料をいくつか写す、もちろんそれは私がする、貴女はその資料室の場所を探してもらいたい、私は少し有名になり過ぎて自由に行き来できない」
こなた「臨時って、それでも私はレストランかえでを辞めないといけないって事じゃん」
あやめ「まぁ、そうなる」
こなた「ちょ……簡単に言ってもらっちゃ困るよ、私は雇われの身、勝手にそんな事できないよ、それにホテルのレストランなんて……私……一回も働いた事ない、
    それに何で私なの?」
神崎さんはニヤリと笑った。
あやめ「初めての取材の時のあの発言は素晴らしかった、それに一ヶ月間、貴女を見てきたけど接客態度は賞賛に値する、一流のホテルでも充分通用する、問題ない、
    私はね柊けいこにスカウトされたレストランを全て見た、その中で貴女が一番適任だと判断した」
この人の言っている事は本当なのかな。私をおだててその気にさせる話術なのかもしれない。しかしそんな考えをする暇もく更に彼女は話し続けた。
あやめ「あの店長は……そうね、私が直接交渉しよう、取材が終わったらちゃんと復職できるようにする、それなら文句はないでしょ?」
こなた「……文句はないけど、そんな交渉できるの?」
あやめ「確かに難しい、だけどするしかない」
神崎さんも必死ってわけか。
こなた「で、そのレストランってどんな店なの?」
あやめ「コスプレ喫茶」
こなた「……こ、コスプレ……?」
あやめ「別に如何わしい店じゃない、貴女の経歴に傷がつくような事はないから、見た目は十代だから絶対に採用される」
成る程、コミケに参加しているだけあって私がその手の経験者だって見抜いたのか……適任か……
そういえば今の店じゃコスプレなんてできない。クリスマスの時サンタっぽい格好をするくらいだった。
あやめ「どう、興味でてきた?」
こなた「え、え〜、ま、まぁ少し」
神崎さんの口車に乗るのも良いかな?
あやめ「よし、交渉成立!!」
私の手を握って握手をした。
こなた「ちょ、ちょっと、まだ早いよ」
あやめ「そうかな、さっきの貴女の顔、その気になった顔だった」
くっ、いちいち人の心を読む人だ……
こなた「やってみるよ……かえでさんの許可が出ないとどっちにしろダメだよ」
あやめ「そうこなくっちゃ!!、交渉は任せて」
自信ありげな口調だった。そして神崎さんは立ち上がった。
あやめ「それじゃ、私の手料理をご馳走してあげる、もちろん貴女の店よりは劣るけどね」
こなた「別にそんなことまでしなくたって……」
神崎さんは上着を脱ぎ始めた。どうやら着替えるようだ。確かにバイク用の服じゃ料理はし難い。
あやめ「取材の成功を願って祈りを込めて作る、いつもやっている事だし」
こなた「それじゃ、言葉に甘えようかな……」
神崎さんの動きが止まった。
こなた「どうしたの?」
あやめ「どうしたのって、これから着替えるから……」
顔が赤くなっている。まかか。
こなた「着替えるって、私女だよ、店じゃみんな更衣室でこうやって話しながら着替えている、同性だし恥かしくなんかないよ?」
あやめ「……いいからちょっと居間で待っていてくれるかな」
あらら、この人すごく恥かしがりやだな。だとしたらかがみ以上だ。まぁそこまで言われていたら出ないわけにはいかないか。
こなた「それじゃ出ますよ」
部屋を出て居間に向かった。

135 :こなたの旅E 2/5 [saga sage]:2013/05/18(土) 22:48:38.08 ID:e8omPb0q0
 居間に入ると正子さんが居た。私に気付くと席を立った。
こなた「神崎さんが此処で待って欲しいと言われまして……」
正子「そうですか、どうぞ座ってください」
こなた「はい……」
席に座った。なんか緊張するな。正子さんはそのまま台所の方に向かった。
正子「お茶を入れましょうね」
こなた「あ、ありがとうございます……」
正子「……部屋から聞こえましたよ、あの子があんなに笑うなんて……暫く聞いていなかった、あやめの笑い声」
お茶を入れながら話す正子さんだった。居間と台所は仕切りがないので様子が見える。
こなた「そんなに毎回喧嘩しているの?」
正子「ふふ、喧嘩も久しぶり、滅多に喧嘩なんかしない、よほど貴女が来るのが嬉しかったようね、子供の頃からそうだった、あやめは親しい友達がくると
   気持ちが高ぶるみたい」
こなた「そうなんですか〜」
あんな喧嘩を毎回やっていたら大変だ。少し安心した。でも、神崎さんの話しをしている正子さんのあの顔はなんだろう。微笑んでいるようにも見えるし。安らかにも見える。
喧嘩していた時と違う。お母さん……か。
正子「どうぞ」
お茶を私の目の前に置いた。
こなた「あ、どうも……」
正子さんは私の目の前に座り私をじっと見つめた。ちょっと恥かしかった。
正子「ふふ、可愛らしいわね、こんな年下の友達なんて珍しい」
こなた「可愛らしいって、私、神崎さんと同じ歳です」
正子「え、あ、そうだったの、ごめんなさいね、あまりに……その、若く見えるものですから」
驚いて私を見ている。普通ならあまり良い気はしないのだけど。でも、何故か正子さんの言葉が自然に受け入れられる。
こなた「いいですよ、背も低いし、子供体形ですし、童顔ですし」
正子「本当にごめんなさい」
頭を深く下げてしまった。あ、少ししつこかったかな。
こなた「あ、あ、そそれより、あやめさんってどんな人なんですか、実は会ってからそんなに経っていなくて」
正子「あやめ……見たままの子ですよ、正義感が強いのか、あんな職業に就くなんて、何度か危険な目にも遭っているみたいで」
正子さんの顔が曇った。
こなた「……それは心配ですよね……」
正子「まさか、泉さんにも何か強要していないかしら」
私を心配そうに見ている。何だろうそんな目で見られるとこっちが心配になってしまう。
あやめ「おまたせ……母さん、泉さん、な、何を話していたの」
正子「さて、何かしらね」
私を見てにっこり微笑んだ。
こなた「さて」
これは正子さんに合わせよう。それしか思い浮かばなかった。
あやめ「まったく、二人して……話している内容は想像がついたよ」
呆れ顔で台所に向かう神崎さん。正子さんが立ち上がり台所に向かおうとした。
あやめ「私一人でするからいいよ、泉さんの相手をしていて」
正子さんは席に戻った。
正子「そういえばこの町は初めてではないって聞きましたけど」
こなた「はい、以前この近くに住んでいました、レストランかえでって知っています?」
正子「……あ、ああ、ありましたね、温泉宿と一緒だった」
こなた「はい、そうです、そこのホール長を務めてます」
正子「一度は行こうとしていたのですが……」
……
……
 神崎さんのお母さんか……
お母さんが生きていたらこの位の歳になっていたかもしれない。容姿も多分性格も違うのに何故かとても親近感が湧く。もちろん今までも他人の母親を見てきている。
つかさやかがみの母親みきさん。みゆきさんの母親ゆかりさん。みなみの母親ほのかさん……
その中でもみきさんが一番会う機会が多いかもしれない。それでもこんな感じになった事なんかなかった。
もしかして正子さんはお母さんに似ている所があるのかもしれない。そんな気がしてきた。幼い頃の僅かな記憶がそうさせているのかも……
 こうしているうちに神崎さんの料理が出来た。

136 :こなたの旅E 3/5 [saga sage]:2013/05/18(土) 22:49:52.48 ID:e8omPb0q0
あやめ「そろそろご感想を聞きたいな……」
こなた「え、あ、ああ、美味しいよ、うん、凄くおいしい」
神崎さんの料理が出来上がってもう殆ど食べ終わった頃だった。
あやめ「もっとプロらしい意見が欲しいね、それじゃだれでも言える感想」
こなた「プロって言ったって私は直接料理を作って出したりしないから……」
神崎さんはじっと私を見ている。もっと意見を聞きたそうにしている。
こなた「う〜と、盛り付けが綺麗で心が籠もっている感じがよく出ていると思う……こんな感じでいい?」
あやめ「盛り付けね……まさかそっちの感想が出るとは思わなかった」
神崎さんは立ち上がった。
あやめ「それじゃそろそろ行きましょうか」
こなた「え、行くって何処に?」
あやめ「もちろん貴女のお店に決まってるでしょ、店長さんと交渉しないといけないし」
こなた「今から?」
あやめ「早くしないと向こうのレストランが募集を締め切るかもしれない、決まったら即実行」
正子「もう少し休んでからでも、ご飯を食べたばかりで」
こなた「今から行っても店の閉店時間を過ぎちゃうね……」
神崎さんは時計を見ながら考え込んだ。
あやめ「店長さんの自宅に行く手もあるけど……それだと流石に失礼かもね……それじゃ日が変わった頃此処を出ましょうか、そうすれば開店前に着くでしょ」
こなた「うんん、それだと忙しいからお昼を越えた頃が良いかも、私も遅番だし丁度いい」
あやめ「分かった、そうしましょう、それじゃそれまで休憩」
正子「またオートバイで……」
正子さんが心配そうな顔で神崎さんを見た。
あやめ「……それじゃ泉さんの車で同行する……」
こなた「うん、それで良いよ」
私は頷いた。

137 :こなたの旅E 4/5 [saga sage]:2013/05/18(土) 22:50:44.61 ID:e8omPb0q0
 車で移動中彼女とは何も話さないつもりでいた。あまり話すとお稲荷さんの話しをしてしまいそうだったから。だけど向こうの方から話しかけてきた。
あやめ「泉さんは母の肩を持つってばかりいる」
こなた「別にそんなつもりはなかったけど……不服?」
あやめ「不服って訳じゃないけど……本当はバイクで行きたかったのに」
こなた「そうやって喧嘩したり話したり出来るのだからいいじゃん、私は羨ましいよ」
成る程ね、意識したつもりはなかったけど神崎さんにはとう思ってしまうのか。
こなた「それよりさ、潜入取材だけど、神崎さん単独じゃできないの?」
あやめ「言わなかった、私は有名になりすぎたって……取材がバレたら意味ないでしょ」
こなた「コスプレだって神崎さんの体形なら問題ないよ、バイクを運転している時に来ていたぴっちりの服さ、ボン、キュッ、ボンってなかなかグラマーだった」
あやめ「いやらしい……表現がエロオヤジだ……」
目を細めて私を見た。
こなた「そうかな」
あやめ「同性とは思えない、どうやったらそんな表現が出来るんだ?」
こなた「う〜ん、ギャルゲーとかしてるし、そのせいかな〜」
あやめ「ギャルゲーって、あれは男性向けじゃないの、どうやったらそんなゲームをする気になるのか分からない」
こなた「そんな風には感じない……でも、まぁ男性視点かもしれないけどね……お父さんの影響かな」
あやめ「お父さん……」
急に神崎さんが黙ってしまった。これで少しは運転に集中できるかな……
あやめ「泉さんのお父さんって仕事は何かしているの?」
こなた「一応作家やってるけど……」
あやめ「作家……凄いじゃない」
こなた「凄いって、別に人気作家じゃないし……ね」
あやめ「同じ物書きとして尊敬する……今度会わせてよ」
こなた「あまり会わない方がいいと思うけど……」
あやめ「どうして?」
こなた「私と同じ趣味だよ、さっきエロオヤジとか言ってたじゃん」
あやめ「娘にそんな影響を与える父なんてそんなに居ない……それにね、私の父は生まれて直ぐに亡くなってしまったから父親がどんなものなのか知らない」
やっぱり、そんな気がしていた。家でも神崎さんのお父さんの話が一度も出なかったからおかしいと思っていた。
こなた「……なんか切なくなった」
あやめ「別に悲観することじゃない、お互い片親だったって分かった事だし、泉さんとならこれからうまくやっていけそうな気がする」
こなた「これからって、もう潜入取材なんてこれっきりだから……」
あやめ「そうかな、レストランの店員にしておくには惜しいと思うけど?」
こなた「まだかえでさんの承認ももらえていないし、承認がもらえたとしても採用してもらえるかどうかだって……」
あやめ「私に任せなさい……でもね、私達の取材の内容は他言無用だからそれは最初に言っておく」
こなた「う、うん……」
 こんな会話が延々と続いた。
138 :こなたの旅E 5/5 [saga sage]:2013/05/18(土) 22:52:11.14 ID:e8omPb0q0
 何度か休憩を挟み私達はレストランかえでの駐車場に着いた。そしてレストランに入った。
こなた「こんちは〜」
あやの「こんにち……え、ど、どうしたの?」
私の後ろに居る神崎さんを見て驚いたようだ。
こなた「ちょっとね、いろいろ訳があって、かえでさん居るかな」
あやの「事務室に居るけど……一体どう言う事なの……」
こなた「とりあえず店長のところへ」
あやのは私と神崎さんを事務室に案内した。さすがのかえでさんも神崎さんの姿を見ると驚きを隠せなかった。神崎さんは私の前に出て話しだした。そして話しをし出した。
かえで「こなたを一ヶ月間貸してくれだと」
あやめ「そう、是非とも協力していただいたい」
あやの「私は反対です、取材の内容も話さないで、そんなの承知できると思っているの」
かえでさん、あやの顔が一瞬のうちに曇った。
あやめ「機密事項なので内容は話せません、ですが泉さんの力がどうしても必要なのです、一ヶ月以上の期間は無いと思って頂いて結構です」
かえで「私の店の店員を引き抜くなんて、こなたも随分高く見られたわね」
かえでさんは私を見た。
かえで「それで、こなたはどうなの、あんたはその取材とやらに行く気はあるの?」
こなた「私は……」
かえでさんは手を前に差し出して私の話しを止めた。
かえで「話さなくて良いわ、行く気がないなら神崎さんをここまで連れて来る訳ない」
今度は神崎さんの方を見た。
かえで「一ヶ月と言えど大事なスタッフが抜ける、私の店のダメージは免れない、それはどう補償してくれるの」
あやめ「取材の成功、不成功に関わらず対価として500万円補償します、それと一ヶ月分の泉さんの給料も私が支払います」
ちょ、ちょっと、そんな大金を平気で言ってくるなんて……
かえで「一ヶ月で500万とは大きく出たわね……まだあるわよ、どんな取材か知らないけど、こなたを危険に曝すことは許さないわよ」
あやめ「この件に関して責任は全て私が持ちます……それと私からも一言、一ヶ月後は元の役職で復職が私の条件です」
かえで「う〜ん」
かえでさんは腕を組んで考え込んだ。
あやの「店長、私は反対です、泉ちゃ……泉さんが抜けたらお客様の対応をだれがするの」
今度は目を閉じて考え込んだ。そして……目を開けた。
かえで「良いでしょう、許可します、こなた、行くからにはちゃんと成功させなさい」
あやめ「ありがとうございます、それではこれを……」
鞄から封筒をかえでさんに渡した。その封筒は分厚くなっている。かえでさんはそれを受け取った。
かえで「これは?」
あやめ「さっき言った500万です、受け取ってください」
かえで「最初から用意していたのか……ふふ」
神崎さんは私を見た。
あやめ「さて、これで交渉成立、準備して、私は貴女の車で待っているから」
こなた「え、もう?」
あやめ「早くしないと間に合わないかもしれない、出来るだけ急いで」
神崎さんは事務所を出て行った。
あやのがかえでさんに詰め寄った。
あやの「どうして承知なんか、私は反対です」
かえでさんは封筒を金庫に仕舞うと立ち上がった。
かえで「そうね、実は私も心配、だけどこなたには私の店以外の世界を見て欲しい」
あやの「泉ちゃんの仕事は誰が引き継ぐの……」
かえで「あやのに頼むしかないわね、私も出来るだけ手伝う、一ヶ月の辛抱よ……さて、午後からの準備をするわよ」
かえでさんは事務室を出て行った。

 あやのはじっと私を見ている。
こなた「どうしたの?」
あやの「私……泉ちゃんのように出来る自信がない……」
こなた「簡単だよ、あやのだって前の店でホールの仕事してたじゃん」
あやの「そうだけど……」
自信なさげな声だった。
こなた「そうだ、こっち来て」
私は更衣室に向かった。
あやの「更衣室なんか連れてきてどうしたの」
更衣室の自分のロッカーからメモ帳を取り出してあやのに渡した。
あやの「なにこれ?」
こなた「私のマル秘お客様帳だよ」
あやのはメモ帳を受け取って開いた。
あやの「これは……」
こなた「お客さんはいろいろ居るからね、今まで来たお客さんの中で特に注意する人を書いておいたメモ帳、付箋が付いているのが特に注意する人、
    クレーマーに近い人、その次は店の味に文句を言ってきた人、その次が料理を褒めてくれた人、もちろん名前を聞くことなんか出来ないから
    お客さんの特徴を書いておいた、対応方法も書いておいたよ、料理に文句つけてきた人はね油の量を減らすように注文するといいよ……」
あやのはまじまじとメモ帳を見ていた。
あやの「こ、こんなのを作っていたの……」
こなた「私ってバカだから記憶力ないでしょ、だからこうやっておかないとね……取材中は要らないから持っていて良いよ」
あやの「……今までかえで店長が泉ちゃんを手放さなかった理由が分かったような気がする……」
こなた「……そうかな?」
あやのは手帳を見ながら話した。
あやの「長髪の黒い髪の女性、歳は私と同じくらい、なにかとしつこく付きまとう…………これってあの神崎さんじゃ?」
こなた「そうだよ」
あやの「ちゃんとチェックしてある、ありがとう、取材頑張って……」
あやのは笑った。さてとこっちもいろいろ忙しくなりそうだ。
こなた「あ、そうだ、準備しないと……」
私物を整理した。

つづく
139 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/05/18(土) 22:54:33.73 ID:e8omPb0q0
以上です。

次回はこなたの潜入取材です。お楽しみに

次回投下は少し時間を下さい。もしかしたら一ヶ月以上かかるかも?
140 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/05/18(土) 23:06:51.01 ID:e8omPb0q0

ここまでまとめた。

141 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/05/18(土) 23:18:50.69 ID:e8omPb0q0
この辺りで投下を止めた方がいいかな
つかさの旅シリーズの打ち切りを考えています。
読んでいる人が居なさそうだし……投下する人も居ない。
なんか一人ではしゃいでいるだけの様な虚無感を最近感じ始めてきた。
142 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/05/27(月) 22:06:03.27 ID:poQK37ra0
>>141
読まれていないのが分かった。
これでスッキリしたので続きを書かせてもらいます。
>>139で書いた通りで時間がかかりますのでご了承を。


まとめサイトの「つかさの一人旅」のコメントに「面白くない」
と書かれたのを切欠に続きを作ろうと思ったので最初からこのシリーズは面白くないのかもしれない。
天の邪鬼かなw

作品の投下やお題の提供、過去作品の感想などもお気軽に書き込んで下さい。

コンクールの主催者も募集しています。

以上
143 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga ]:2013/05/28(火) 20:01:35.80 ID:he4aJn/H0
今更感はあるのだが……
このサイトの避難所におすすめ推奨スレがあり、
「耳そうじ」
http://www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/77.html
が二票入っています。
もし特段の反対がなければおすすめリストの中に加えたいと思うのですが
よろしいでしょうか?

週末まで特段の反対がなければ加えます。
沈黙も賛成とみなします。

この機会におすすめリストに加えたい作品がありましたらどうぞ。

管理者より


144 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga ]:2013/05/31(金) 23:11:50.49 ID:gcmDUFB10
それでは「こなたの旅」の続きを投下します。5レス使用します。
145 :こなたの旅7 1/5 [saga sage]:2013/05/31(金) 23:14:18.63 ID:gcmDUFB10
 私が私物を整理して店を出ようとした時だった。
かえで「あやのにアドバイスした様ね」
かえでさんが出口に居た。私を待っていたのだろうか。
こなた「アドバイスなのかなあれは……」
かえで「あやのは接客を全部こなたに任せてしまったからね、これで少しは気合をいれてくれると思う」
こなた「任せたのかな、私は結構面白かったかな」
かえで「トラブルを楽しんでいる……そういう所、ひよりに似ている、あんた気を付けなさい、余計なところまで首を突っ込むと怪我をするわよ」
こなた「ん〜今度はそんな簡単じゃなさそうだから余計な事をする余裕ないかも……」
かえで「そう願うわ……神崎あやめか……こなたを使うなんて、さっき貰った補償金は使わないつもりだから安心しなさい」
こなた「そうだよね、多すぎだよ、まさか本当に渡すとは思わなかった」
かえで「こなた、あんたは自分を知らなさ過ぎだ、それはつかさに似ている」
こなた「へ?」
かえでさんは溜め息をついた。
かえで「ふぅ、私も私なりに神崎さんの事をいろいろ調べたわ、かがみさんに聞いたり、彼女の記事を読んだりしたね……思っていたほど分らず屋でもなさそうね、
    道理を弁えている、私達の秘密を話しても大丈夫なような気がする」
こなた「……げんき玉作戦をちょっと話してしまったけど……信じてくれなかった……」
かえでさんは目を大きくして驚いた。
かえで「話した……そんな話しをしたって事は、今しようとしている事ってそれに関係しているのか?」
それは言えない……私は黙って俯いた。
かえで「……口止めされているみたいね、それ以上聞くのは止めるわ……彼女が信じないのは彼女の常識や固定観念が邪魔しているからかもしれない、こなたに大金を動かせる
    力は常識じゃ考えられない、多分お稲荷さんの話しをしても同じ、彼女は作り話と考える、それならそれで私達には好都合よ、無理に秘密にする必要はない」
こなた「……そう言われると少し気が楽になった」
かえで「さぁ、神埼さんが待っているわよ、一ヶ月間、私達の事は忘れなさい」
こなた「う、うん」
私は店を出た。

 駐車場に行く途中つかさの店の横を通る。なんでもなければ挨拶をしに店に入る。だけど……それは出来ない。今つかさに会ったら神崎さんの取材の事を話してしまいそうだから。
秘密、内緒……か、
つかさ「こなちゃん?」
こなた「ひぃ〜」
跳びあがって驚いた。
こなた「つ、つかさ、驚かさないで……ふぅ」
つかさ「え、普通に声を掛けただけど?」
不思議そうに首を傾げていた。
こなた「あ、そ、そうなの、で、でもね、後ろから急に声を掛けると驚くでしょ」
つかさ「ふふ、そうかも、ゴメンね」
まなみ「こんにちは〜」
直ぐ後ろにまなみちゃんが居た。
こなた「今日はまなみちゃんと、何かあったっけ?」
つかさ「うん、近々ピアノの発表会があってね、まなみは上がり性だから私の店のピアノで克服しようってみなみちゃんが……」
こなた「ふ〜ん、店のお客さんに聞かせてなるべく実際に近い状態で練習するって訳か」
私がまなみちゃんを見るとつかさの陰に隠れてしまう。あらら、普段はそんな子じゃないのに……この辺りはつかさの娘って感じがする。。
こなた「って、事はみなみも来るのかな?」
つかさ「うんそうだよ、こなちゃん、寄って行かない……あ、何か用事がありそう?」
私の姿を見てそう思ったのか。それもそのはず。私はスーツを着ているから。私は頷いた。
つかさ「それじゃ悪いね、まなみ、行こう、こなちゃんまたね」
つかさはまなみちゃんの手を引いた。私がまなみちゃんに手を振ると恥かしそうに小さく手を振った。
この件がなければ私はつかさの店に行っていたな……

146 :こなたの旅F 2/5 [saga sage]:2013/05/31(金) 23:15:57.21 ID:gcmDUFB10
 駐車場に着くと神崎さんが首を長くして待っていた。
あやめ「おそい!!……キー貸してくれるかな、私が運転するから」
こなた「私だって急ぐなら急ぐなりの運転できるけど……」
あやめ「泉さんには車で書いてもらいたい書類があるから、移動中に書いて」
こなた「書類?」
あやめ「履歴書、レストランかえでに就職する前の履歴を書いて欲しい」
神崎さんに車のキーを渡した。そして私は助手席に座った。。
あやめ「それじゃ行くよ」
神崎さんはゆっくりと車を走らせた。制限速度を守った模範的な運転だった。実はこれが結局一番早く着く、わかっているなこの人……
履歴書を書いている時だった。運転しながら話しかけてきた。
あやめ「駐車場に来る前、子連れの女性と話していたでしょ、随分親しそうだったけど誰なの?」
つかさと話していたのを見られていた。さすがにそつがない。
こなた「柊つかさ、高校時代からの親友」
なんの躊躇もなく答えた。かえでさんのアドバイスもあったかもしれない。それ以前につかさは私の友達だから……
あやめ「柊……つかさ……つかさ、貴女の店の隣にある洋菓子店の名前は確か……」
こなた「うん、洋菓子店つかさ、彼女が店主だよ」
あやめ「そ、そうだったの、私はてっきり店主は男性だとばかり思っていた、店の名と不一致でおかしいとは思っていたけど……」
こなた「彼はつかさの旦那でひろし」
神崎さんは暫く考え込んだ。
あやめ「最初あの店に行ったらやけに他人行儀だった、そんなに親しい仲なのに……不自然」
やっぱりこう来たか。いちいち勘が鋭いな。
こなた「そうそう、ひろしはその前まで私に無愛想だった、つかさがそれを注意したから、例え親しいくてもお客さんだよってね」
あやめ「ふふ、そ言う事なの、羨ましい、高校時代からの友人が近くに居て、店も競合していていいライバルじゃないの?」
こなた「まぁね、ちなみに副店長も高校時代の友達だよ」
あやめ「そうなの……」
何の疑いを抱いていない。自然な会話になった。実際に言っている事は本当だからかもしれない。かがみに嘘はつくなって言われたけどその通りだな。
 暫く履歴書を書いていて疑問が出てきた。
こなた「レストランかえでの私の履歴以外は何故空白なの、私の出身大学、生年月日、住所くらいなら調べられるんじゃないの?」
あやめ「私が他人のプライベートを調べる時はその人が大罪を犯したかその疑いがある人だけ、貴女はそんな疑いはない、自分のプライベートを覗かれるのは気持ち良いものじゃない、
    貴女もそう思うでしょ?」
こなた「う、うん、そうだね……履歴書全部書いたよ……」
あやめ「ありがとう、封筒に入れておいて……もう少しで着く、これから店の面接試験を受けてもらう、もちろん普段通りの泉さんで良い、結果は即日解るから、それとね……」
神崎さんは面接の中尉時点を話した。短期採用とは言えかえでさんの店以外で働くのはアルバイトの時以来になる。もちろん受かればの話しだけど。
 神崎さんは私を調べていないのに意外だと思った。この人は何でも徹底的に調べる人かと思ったけどプライベートに関しては慎重だった。
そういえば私がギャルゲーをしているのも否定していなかった。なんだかんだ言って私が彼女の言う事を聞いているのはそんな態度があったからかもしれない。
すると彼女はゆたかと私が従姉妹関係あるのを知らないのかもしれない。私を目当てに店に来た訳じゃないのか。
私の様な人を探していたのか。余計この記者が分からななった。
……でも悪い人じゃないってのは分かった。

147 :こなたの旅F 3/5 [saga sage]:2013/05/31(金) 23:17:04.43 ID:gcmDUFB10
 あれから一週間が経った。私は喫茶店のホール長をしている。
コスプレ喫茶と言っても店員がコスプレをしているだけで内容は普通の喫茶店だった。コスプレの内容は店員の趣味で自由に決めて良い。ただし、露出度の高いものは厳禁だ。
スタッフは私より若いのが殆ど。私は普段と同じようにしているつもりだったけどあっと言う間にホール長になってしまった。私自身も驚いてしまったほどだ。
正直言って面接試験で落とされると思っていたのに……
店で働くのは別にたいした事じゃなかった。それより難しいのがこのビルにあると言う貿易会社の資料室を探すこと。
このビルで働く人は全てIDカードを渡されて入退場を厳しくチェックされている。無闇に動き回れない。
幸いな事に私は材料の入庫管理も任されていたのでビルの倉庫までの通路なら何の制限もなく移動する事ができた。それでも各部屋の扉は部屋番号しか書いていないので
どんな部屋なのかは全く分からない。私が調べただけでも20の部屋があった。
私は自宅から通勤した。だってわざわざ一ヶ月のために引っ越したくなかったから。
神崎さんは近くビルの近くのホテルに泊まり私の報告を待っている。
仕事が終わると神崎さんの泊まっているホテルで待ち合わせをしている。報告のために。
彼女の部屋で作戦会議だ。
あやめ「番号だけの部屋が20……」
こなた「うん、扉の造りはみんな同じだし、中は覗けないし、もう調べようがないかな……」
あやめ「何言っているの、まだ一週間しか経っていないのに音を上げるのはまだ早い、それにこの期間でこれだけ調べられたのは評価に値する」
こなた「そうかな、部屋を数えただけなんだけど……」
神崎さんは腕を組んで考え込んだ。私は考えてもしょうがないのでテレビのスイッチを入れてテレビを見た。丁度夕方のアニメをやっていた。あ、懐かしいのをやっている。
暫くすると神崎さんはリモコンでテレビを消した。
こなた「あっ、いまいいところだったに〜」
あやめ「泉さん、部屋に出入りする人物の特徴とか分からない?」
私の言う事なんてまったく聞いていない。目を輝かせている。何か思いついたのかな。
こなた「特徴って?」
あやめ「例えば貴女みたいに作業服を着ているとか、スーツ姿だったとか」
こなた「……スーツ姿の人なら何箇所が出入りしているのを見かけたけど……」
『バン!!』
両手で机を叩くと身を乗り出して私に近づいた。
あやめ「それ、それ、それだ……凄いじゃない、もう絞り込めたじゃない」
こなた「へ、意味が分からない、教えて?」
あやめ「泉さんの用な従業員の控え室なら作業服や制服を着た人が出入りする、資料室ならホワイトカラーが多く出入りする、そう思わない?」
こなた「え、でもずっとその扉で張っていた訳じゃないし……それに作業服を着た人だって資料室に入るじゃん、掃除とか……メンテナンスとか……」
神崎さんは微笑んだ。
あやめ「そうそう、そうやって注意深く考えながら観察して、例えば防犯カメラの数が多い所とかね」
こなた「そんな事出来ないよ」
あやめ「その調子で今後ともお願いって事、わずかか一週間でここまで進展するとは思わなかった」
こなた「明日は休みだけど……」
あやめ「そうだった……明日は何も出来ない……」
神崎さんは立ち上がった。
こなた「どうするの?」
あやめ「明日はビルの周りを調べる……その前に下準備をする」
この人は休むことを知らないのかな。
こなた「そんな事しても何も分からないよ、それより違うことをしたら?」
あやめ「違うこと、違うことって何?」
こなた「例えば家に帰るとか、もう一週間帰っていないでしょ」
あやめ「一週間くらい帰らないなんてザラ、珍しくもない」
こなた「それなら尚更帰らなきゃ」
あやめ「だから、どうして」
なんだ分からないのかな。洞察力と観察力が凄いと思ったのに。こう言うのはさっぱりだな。
こなた「神崎さんのお母さん、正子さんが心配してる」
あやめ「な、何を言い出すと思えば……子供じゃあるまいし、そんなんでいちいち帰って……」
私はちょっと悲しい顔をして見せた。
あやめ「……分かった、分かったからそんな顔をしないで」
こなた「そうそう、そうこなくちゃ」
あやめ「そのセリフは……ふふ、やられた……」
私達は笑った。
あやめ「泉さんはどうするの」
こなた「私はちょっと用があるから」
あやめ「そう、それなら明後日、同じ時間にここで会いましょう」
こなた「うん」
 明日はみゆきさんと会う約束をしている。本当は神崎さんと一緒に正子さんに会いたかったけど……

148 :こなたの旅F 4/5 [saga sage]:2013/05/31(金) 23:18:40.35 ID:gcmDUFB10
 次の日、私はみゆきさんの家を訪ねた。みゆきさんは結婚しても実家から出ていない。つかさと同じように婿養子みたい。と言っても近藤と姓を変えている。
何でも研究所が近いからと言う理由で家を出ていない。夫婦二人で研究に没頭している。もちろんその研究はつかさが作った万能薬の再現。
みゆきさんと会うのはつかさの演奏会以来。何年ぶりにかな〜
久しぶりに電話をしたらすぐにOKを出してくれた。
みゆき「本当にひさしぶりですね、泉さんお変わり無いようですね」
こなた「みゆきさんこそ、全然変わっていないジャン」
私はみゆきさんのお腹をじっと見た。
みゆき「あ、あの、何か?」
こなた「赤ちゃんは未だなの?」
みゆきさんは首を横に振った。
こなた「研究も良いけど、たまには愛し合わないと……折角結婚したのに……」
みゆき「そうですね……でも、今までの苦労がそろそろ実が結びそうです」
こなた「もしかして、薬?」
みゆき「はい」
みゆきさんはにっこり微笑んだ。
こなた「凄い、いつ発表するの?」
みゆき「まだその段階ではないですけど……臨床試験とかいたしませんと……」
こなた「そうなんだ、ややこしいね」
みゆき「致し方ありません、それが現実です」
こなた「しかしつかさも罪だよ、作り方くらいメモっておけば良かったのにね」
みゆき「いいえ、つかささんはヒントを沢山頂きました……それにこれはお稲荷さんの知識、私達にとっては遥か未来の技術です、それを横取りするのですから……」
こなた「堅い事は言わない、言わない」
みゆきさんは笑いながら立ち上がった。
みゆき「所で、先日頼まれた件なのですが……」
こなた「どう、思い出せそう?」
私はみゆきさんに旧ワールドホテル本社ビルで資料室がありそうな場所がないかどうか前以て聞いていた。みゆきさんは以前あのビルに入ったことがある。
もちろんつかさやかえでさんもも入っている。つかさに聞くのも良いだろう。でもつかさは地図を読めるようにはなったけど一度や二度で場所を覚えられるまでには至っていない。
それにそんな質問をしたらつかさに取材の話しをしてしまいそうで恐かった。もちろんみゆきさんにも言ってしまうかもしれない。
只、みゆきさんは他の誰よりも口が堅い。それでみゆきさんを選んだ。
なんか私って二重スパイをしているみたい……お稲荷さんの秘密、げんき玉作戦、そして神崎さんの取材の秘密か、つかさと同じように旅をしたいなんて思っていたけど

149 :こなたの旅F 5/5 [saga sage]:2013/05/31(金) 23:22:22.36 ID:gcmDUFB10
Dこれじゃ冒険だな……
みゆき「……旧ワールドホテルの会長室くらいしか覚えていません……すみません」
会長室か、今はどんな部屋になっているのかな。もしかしたら……
こなた「うんん、謝らなくてもいいよ、10年以上前の事を思い出せなんてのが無茶だった……その会長室って何階なの?」
みゆき「……ごめんなさい……」
そうだよね。階数を覚えていたらもっと細かい所まで覚えているよね。
こなた「無理言っちゃったね、もういいや、折角久しぶりに会ったのだかからもっと楽しい話題にしよう」
みゆきさんは目を閉じて両手で頭を押さえて考えていた。
みゆき「ちょっと待って下さい……35……確か35階だったような気がします」
35階……働いている店のすぐ上、それによく通る階だ。これは調べてみる価値がありそう。
こなた「流石みゆきさん、ありがとう」
みゆきさんは私を不思議そうな顔をして見ていた。
みゆき「いったい何があったのですか、何故今になって旧ワールド本社ビルを調べているのですか?」
そう言われるとそうだ。どうやって言い訳するかな……考えているのになにも出てこない……これは予想できた事なのに、まったく……つくづくバカだな私って……
こなた「え、えっと、まぁ、なんて言うのか……ひよりが新しいネタをだね……」
ますますドツボにはまっていく……
みゆき「神崎あやめ記者と何か関係あるのですか?」
こなた「うぐ!!」
な、なぜ知っている。私は目を見開いて驚いた。
みゆき「……かがみさんから伺っています、取材に来られた様ですね」
かがみが教えたのか。
こなた「ご、ごめん……詳細は話せない……」
みゆき「話せない深い事情があるのですか……私に何か手伝いができれば良いのですが……」
こなた「あ、もう充分に役に立ったよ、うんうん、ありがとう……なんかお邪魔しちゃったからもう帰るね……」
私は帰りの支度をし始めた。
みゆき「待って下さい……」
帰り支度を止めた。
みゆき「今まで黙っていましたけど……そろそろ話しても良い頃だと思います」
急に厳しい顔つきになったみゆきさん。こんな表情を見るのは初めてだ。
こなた「急に改まってどうしたの?」
みゆき「旧ワールドホテル……今は貿易会社のビルになっています……数年前から私は独自に調べていました……どうも腑に落ちない点がありまして……」
こなた「腑に落ちない点?」
みゆきさんは立ち上がると本棚からファイルを取り出しA4サイズの紙を取り出し私に渡した。
そこには表が書いてある。これってどこかで見た事あるような……この数字は……数字自体は覚えていなけどなんとなく分かった。
こなた「貿易会社における過去十年間の特許取得数……」
みゆき「タイトルを書いて居ないのに……分かるのですか?」
こなた「あ……なんだろうね、今日はとっても勘がいいみたい……ははは」
まさか本当にその表だったとは。みゆきさんも神崎さんと同じように貿易会社を調べていたのか。何で?……
みゆき「その通りです……おかしいとは思いませんか、ワールドホテルと同じペースで特許を出し続けられるなんて……」
神崎さんと同じ所を調べている。みゆきさんは何故おかしいと思うのかな……さっぱりだ。
こなた「私に聞かれても……どこが変なの?」
みゆき「ワールドホテルはけいこさんがお稲荷さんの知識を小出しにして特許を得ていました……それと同じ事を貿易会社がしています」
こなた「貿易会社がお稲荷さんの知識を小出しに……って、え?」
みゆきさんは頷いた。
みゆき「貿易会社にお稲荷さんが居るとは思いませんか?」
こなた「ちょ、ちょっと待って、お稲荷さんは四人しか地球に居ないよ、まさか、あの四人があの会社に秘密を教えてるって言いたいの?」
みゆきさんは首を振った。
みゆき「いいえ、それは無いでしょう」
150 :こなたの旅F 6/5 [saga sage]:2013/05/31(金) 23:23:26.54 ID:gcmDUFB10
こなた「それじゃ五人目のお稲荷さんが居るって言いたいの、それはないよ、あの時私はめぐみさんに確認した、三人地球に残るって……パソコンにそう登録した
    最後に一人、ひろしが戻ってきて四人……残りの十六人はみんな故郷の星に帰った」
みゆき「……あの時の総数が間違えていたとしたらしたら、地球に二十一人のお稲荷さんが居たとしたら」
こなた「間違え?」
みゆきさんは頷いた。
みゆき「お稲荷さんは十数年前まで総数二十一人でした、つかささんが一人旅をする前までは……」
こなた「何が言いたいの、分からないよ、もったいぶらないで教えて」
みゆきさんはゆっくり口を開いた。
みゆき「真奈美さんです、真奈美さんが生きているのではないか、私はそう思っています、何らかの理由で彼女は貿易会社に囚われているのではないかと」
囚われている……神埼さんも同じ事を言っていた。
こなた「みゆきさん、推理が飛躍しすぎだよ、死んだ人を出したらだめだよ……」
みゆき「私もそう思います、でも本当に彼女は亡くなったのでしょうか、つかさんをはじめ誰一人彼女の遺体を見ていません、それにつかささんの財布に大切に仕舞ってあるあの
    葉っぱ……今でも術が施され衰えていません……私はそれをずっと頭の中で引っ掛かっていました」
こなた「で、でもね、ひろしはその真奈美さんの実の弟だよ、いくらなんでも生きていればその存在に気付くと思うけど……それにまなぶさんはつい最近までお稲荷さんだった、
    その力は現役そのもの、生きていれば分かりそうだけど……」
みゆき「そうですね……私もその矛盾がどうしても克服出来ません……私の心の中に生きていて欲しいと言う願望が抱いた空想にすぎないのかもしれません」
項垂れてしまった。
こなた「今の話しはつかさに絶対に言っちゃだめだよ、つかさは今でも真奈美が死んだのは自分のせいだと責めているから……
    話していい加減な期待をさせたらつかさが可愛そうだよ……結局死んでいるのが分かったら今度こそ再起不能になっちゃうかもしれない」
みゆき「は、はい……そうですね、確かにつかささんには酷な話しです……」
みゆきさんがまさか神崎さんと同じように貿易会社を調べていたなんて。それでほぼ同じような推理をしている。
貿易会社の特許の内容なんて私には難しすぎて分からない。でも、みゆきさんがお稲荷さんの知識と考えたのであれば……もしかしたら……真奈美じゃないとしても本当に
五人目のお稲荷さんが居るって事なのかな……私の見たあの狐に似た野良犬……これって偶然?
だとしたら何故ひろし達は気付かない。五人目のお稲荷さんが勘違いだとしたら、
お稲荷さんじゃないとしたら貿易会社に知識を提供している人って誰?
みゆき「どうか致しましたか?」
こなた「え、あ、ああ、なんでもない……」
私の足りない頭じゃ何も分からない……
みゆき「その件についてはもう少し深く調べてみます」
こなた「え、う、うん……」
私達はいったい何を調べようとしているのだろうか?

つつく
151 :こなたの旅F 6/5 [saga sage]:2013/05/31(金) 23:26:47.58 ID:gcmDUFB10
以上です。 予定レス数をオーバーしてしまいしまた。

次回は潜入取材後編です。

ペースが遅くてすみません。この先はまったく書いていないので(毎回だけど)
遅くなります。

152 :こなたの旅F 6/5 [saga sage]:2013/05/31(金) 23:42:25.16 ID:gcmDUFB10

此処までまとめた

前から宣言した「おすすめリスト」に「耳そうじ」を加えました。

追加要望は随時受け付けています。
153 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/05/31(金) 23:44:01.52 ID:gcmDUFB10
>>151-152
タイトル消すのを忘れました。
154 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/16(日) 07:48:50.44 ID:xTUnpMLR0
それでは「こなたの旅」の続きを投下します 5レスくらい使用します。
155 :こなたの旅G 1/5 [saga sage]:2013/06/16(日) 07:50:32.18 ID:xTUnpMLR0
G
 みゆきさんは死んだはずの真奈美と言い、神崎さんはもう地球に居ないけいこさんとめぐみさんだと言う。
貿易会社に知識を教えているのは一体誰なのだろう。二人の結論は違うもののお稲荷さんで共通している。神崎さんにいたってはお稲荷さんの存在を知らないのに。
二人が同じ結果を出したって事は……
五人目のお稲荷さん……もしかしたら本当に居るのかもしれない。
私もあの野良犬を見た時そう思った。まぁ、みゆきさんと神崎さんと比べれば説得力に欠けるかもしれないけど……現につかさに笑われちゃったし……それはさて置き……
ひろし達が何故気付かないのも置いておいて、取り敢えず五人目のお稲荷さんは居るのではないかと私は結論した。
神崎さんの取材は私にとっても重要になった。あの貿易会社は秘密がある、どうも胡散臭い。
取材をなんとしてでも成功させたいと思ったのであった。

 次の日、仕事を終えると神崎さんの泊まっているホテルに向かった。早速みゆきさんの思い出した会長室の話しをする。
あやめ「三十五階……」
私は頷いた。
あやめ「旧ワールドホテルの会長室が35階ってどうやって調べたの、ワールドホテルの時の見取り図はいくら探しても手に入らなかった」
どうやって……そう聞かれると言い難いな。
こなた「実際に中で働いていると分かることもあるんだよ」
神崎さんはじっと私を見る……この人に適当な返事をすると突っ込まれそうで恐い。かがみのツッコミと違ってカミソリみたいに尖っている。
あやめ「……昨日単独で調べたでしょ?」
そら来た、まったくその通りだから困ってしまう。
こなた「……う、うん……」
神崎さんの表情が険しくなった。やばい。
あやめ「私を母に会わせて置いて自分は一人で取材ですか……それを出し抜くって言うの」
こなた「別にそんなつもりは……」
あやめ「それに単独で行動して何かあったら私はあの店長に怒られてしまう、今度からは軽率な行動は止めて」
みゆきさんに会うのは別に危険な行動じゃないけど……でも、神崎さんから見ればそう見えてしまうのか……
こなた「分かった……ごめんなさい……」
神崎さんは一回溜め息を付いた。そしてニヤリと笑った。
あやめ「ふふ、凄い、凄いじゃない、私が何年も探している場所をたった一週間で探し当てるなんて、やっぱり私の目に狂いはなかった、よくやった泉さん」
こなた「え、でも、会長室が資料室になっている証拠はまだ何も……」
あやめ「いや、会長室が資料室になっている所までは私も突き止めていてね……そこまで見抜くなんて、取材の素質あるじゃない」
こなた「ぐ、偶然だよ……そう、全くの偶然……」
偶然にしては出来すぎている。この後の展開が恐い。
あやめ「さて、これからが本当の取材、私が部屋に潜入する機会を探して欲しい」
こなた「潜入してどうするの、もしかして何かを盗んだりするとか……」
あやめ「その言い方、人聞きが悪いよ」
神崎さんは鞄からUSBメモリーを取り出した。
あやめ「これでデータをコピーする」
こなた「それって、違法なんじゃないの?」
あやめ「取材の為なら少々の危険は覚悟の上、だから私がする」
この人……目的の為なら手段を選ばないタイプだ。ある意味ゆたかに似ている。それより神崎さんが心配だ。
こなた「……資料室のパソコンを使うのか……多分サーバーと直結しているからデータをコピーするのは簡単かもしれない、だけどね、あの手の施設は大抵履歴が残るように
    成っているから後でコピーしたのがバレちゃうよ」
神崎さんは私を不思議そうに見た。
あやめ「泉さん……ITに詳しいみたいね、見たところ理系じゃ無さそうなのに……どこでそんな知識を?」
う、しまった。やばい。
こなた「わ、私ってゲームが好きだから、それでね……」
あやめ「そう言えばそんな事言ってたっけ、実は私もゲームは好きでね……こういった知識は持っているから心配しないで、履歴を残さないで作業するくらいの事は出来る」
心配するのはそれだけじゃないけど……これ以上話すとやばそうだから止めておこう。
こなた「それなら良いけど……」
あやめ「それより、35階に行けそう?」
こなた「ん〜、今は無理っぽい、一般人は入れないしね、何かイベントとかあればそれに紛れて入れるかもしれないけど」
神崎さんは壁に貼ってあるカレンダーを見た。
あやめ「あと四週間でそんなイベントがあるかしら……」
こなた「分からないけど、あれだけ大きなビルなら一つや二つはありそう」
あやめ「それじゃ私もそれを探す、泉さんはビルの中で探して」
こなた「うん」
今日の打ち合わせは終り、私は帰り支度をした。
あやめ「ところで泉さんはギャルゲーの他にどんなゲームをするの?」
こなた「RPG、シューティング、格闘、オンライン……何でも……かな」
あやめ「……オンラインはやったことがない、あれは無駄に時間を使うでしょ?」
こなた「あれを無駄とか思ってちゃったらプレイ出来ないよ」
あやめ「ふふ、そうね……ゲームの他には何か趣味はあるの?」
あれ、何で私の個人的な事を聞いているのだろう。
こなた「……漫画も見るかな……」
あやめ「まさか、少年誌とか?」
こなた「……少年誌、少女マンガ、同人……何でも、ちなみにアニメもよく観る」
あやめ「……同じような好みだ、ギャルゲーを除いてね……」
それはそうだろうね、コミケに参加するくらいならそんな気はしていた。
でも……ひとつ聞きたい事があった。今後の神崎さんの行動にも関わる重要な事。
こなた「それはそうと……今回の取材が成功したら雑誌に載せる?」
あやめ「そんなの聞くまでもない、それが私の仕事」
そうだよね、でも、その言葉はあまり聞きたくなかった。
こなた「神崎さんが記者じゃなかったから、良い友達になれたかも……」
あやめ「え、それはどういう意味?」
神崎さんは目を丸くして驚いた。どう言う意味か……それは言えない。言えばこの取材はその場で終わってしまう。
こなた「それじゃ、帰るね、また」
あやめ「え、ええ、また明日……」

156 :こなたの旅G 2/5 [saga sage]:2013/06/16(日) 07:51:56.61 ID:xTUnpMLR0
 神崎さんじゃなくて私が資料室のパソコンを操作すれば難なくデータは手に入るだろう。だけど、そんな事をすれば私がITを使って巨額のお金を動かせるのが
彼女に分かってしまう。そうなったら、彼女は私をどう見るのだろう。この事を世間に公表しちゃうのかな。
そうなったら、私はどうなるのかな。逮捕されてしまうのかな……私のした事って正しかったのかな……
ふとゆたかが私にひよりの記憶を消した話しを思い出した。
机の奥に仕舞ったUSBメモリー……あの時以来触っていない。めぐみさんから貰ったものだ。
その気になれば公共機関データを改ざんしたりまったくでっち上げも作れたりする。ひろしに柊の姓を役所のデータに入れたのも私。
億万長者になれるし、誰かを陥れる事だってできる。その気になればだけど……
お稲荷さんの力か……ゾッとする。私達が安易に扱える代物じゃない。今頃になってその力の大きさに気付いてしまった。
ゆたかが眠れない日があるって言っていたけど。今、まさに私はその状態になっていた。

こなた「ふぁ〜」
スタッフ「泉さんが仕事中に欠伸なんて……初めてみました、徹夜でもなされたのですか?」
こなた「え、ま、まぁね……最近眠れなくって……」
スタッフ「心配事でも?」
こなた「うんん、そんなんじゃないよ」
二週間目を超えると周りのスタッフも私に慣れてくる。私も慣れてくる。
日常会話も頻繁にするようになった。
さすがに資料室に潜入するのは難しい。大きなイベントを探しているが私が働いている間にはどうやら無さそう。作戦の立て直しが必要なのかもしれない。
丁度お昼ぐらいだろうか。数名のスタッフがコソコソしているのに気付いた。私がそこに近づいた。
こなた「どったの?」
スタッフ2「あの、あれを」
彼女が指差す方を向いた。店の入り口に一人佇んでいる。
長髪の髪を下ろしサングラスをかけている……
スタッフ3「怪しい……警備員……うんん、警察を呼ぼうかしら」
確かに怪しい。怪しいけど……あれは……かがみ、かがみじゃないか。
なんでこんな所に来ている。しかも一人で。挙動不審そのものじゃないか……辺りをきょろきょきょと見回している。
なんだあれは、あれで変装しているつもりなのか……やれやれ。
こなた「警察呼ぶのはまだ早い、私が対応するから……」
スタッフ達を別の仕事をさせておいて店の入り口に向かった。
こなた「よこそ……どうしましたか?」
かがみ「え、あ……」
私を見て硬直してしまった。私だと気付いていないみたいだ。コスプレをしているとは言え顔の方はほとんどいじっていないのに。相当テンパってるな……
こなた「ご来店ならどうぞ……」
私はドアを広く開けた。
かがみ「あ、ありがとう」
私はかがみを席に案内した。
こなた「ご注文が決まりましたら……」
かがみ「あ、アイスコーヒーを……」
あらら、ここのシステムを全然分かっていない。
こなた「……すぐに注文したらダメだよ、か・が・み」
かがみ「え?」
かがみは見上げて私の顔をじっと見た。
かがみ「こなた?」
かがみはサングラスを外した。
こなた「ふふ、それで変装したつもりなの、まったく……日本人がサングラスなんかしたら目立つに決まってるジャン?」
かがみ「う、うるさい……こなたこそなんでこんな所にいるのよ……」
小声で話すかがみ。やっぱりお忍びだったか。私も小声で話した。
こなた「話せば長くなるし、話せない……」
かがみ「……それなら放っておいてちょうだい……」
ここで長話をしているのも不自然だな。
こなた「はい、アイスコーヒーですね……」
かがみ「あ、待って……」
席を去ろうとするとまた小声で私を呼び止めた。私は立ち止まった。
かがみ「今日の夕方……空いている?」
こなた「うん……1時間くらいなら」
かがみ「昔あやのが働いていた喫茶店で待っているから……」
そういえばあやのもこのビルで働いていたっけ……すっかり忘れていた。
私は頷いて厨房に向かった。
ビルの内情ならみゆきさんじゃなくてあやのに聞いた方がよかったかな……ってか最初からあやのに潜入させれば良かったのでは……
否。
今更代われないよ。あやのは途中から入ってきた。それにお稲荷さんが関係しているし、やっぱり私がしないといけない。
それに神崎さんは指定をしたのは私なのだから私達から人員の変更なんて出来るわけがない。

157 :こなたの旅G 3/5 [saga sage]:2013/06/16(日) 07:53:04.04 ID:xTUnpMLR0
 仕事が終わりあやのの働いていたいたと言う喫茶店に向かった。
店に入るとかがみの居場所は直ぐに分かった。サングラスは外してあるけど服装は変えられないか。黒尽くめのスーツにネクタイ。どうみてもマトリ〇クスだ。
こなた「クスッ!!、お待たせ」
かがみの目の前で思わず吹いて笑った。
かがみ「な、なによ」
不機嫌な顔のかがみ。私は席に座った。
こなた「それって変装、仮装、それとも趣味なの?」
かがみ「……変装よ、完璧だと思ったのに……あのビルだと私は知られ過ぎているから……あまり派手な格好は出来ない」
充分派手だけどね……そんな時は普通私服の普段着でいいのに。
こなた「その知られすぎている所にわざわざ出向くって事は何かの調査なの、かがみって探偵もしてるんだ?」
かがみは首を横に振った。
かがみ「そんな事なんてしていない、みゆきに頼まれたのよ……調べて欲しいってね……」
こなた「みゆきさんの個人依頼か……」
かがみ「こなたこそなんであの店に居たのよ、見たところ従業員みたいだけど、かえでさんのレストランはどうした、さては大失敗をして解雇されたか」
そうかかがみはまだ知らないのか。てかこれは秘密作戦だ。でも解雇されたってのはちょっとね……
こなた「……ちょっと一ヶ月間くらい研修でね……」
かがみは私をじっと細目で見た。
かがみ「研修ね……それにしてははまっていた……まさか神埼あやめと関係あるんじゃないでしょうね!?」
ぐ、鋭いな……かがみもいい加減な返答は出来ない。
こなた「ないない、全くないよ、うんうん、研修、研修」
かがみは更に目を細めて疑いの眼(まなこ)で睨んだ。
かがみ「そうやって必死に否定するのが怪しい」
こなた「そ、そんな事よりもさ、久しぶりに逢ったんだし、もっと楽しい話しをいしうよ、この前会ったのはつかさの演奏会だったよね」
かがみ「え、もうそんなに経ったかしら……」
こう言う時は話題を変える。それしかない。
こなた「経ったよ、お互い会う機会が減ったよね」
急にかがみの表情が悲しくなってしまった。
かがみ「そうね、こなた、みゆき、あやの……みさお……ひより……ゆたかちゃん……そして……つかさ……」
こなた「え、つかさって、お互いの家はそんな遠くもないのに会ってないの?」
かがみ「結婚してから急にね……何故かしらね、それまでは目覚めてから寝るまで気付くといつも隣に居たのに……今じゃ理由がないと会いにいけない……
    それは両親や姉さん達も同じよ……まるで他人になってしまったみたい……今じゃつかさはこなたの方が会う機会は多いわよね」
こなた「そんなに考え込む事じゃないよ、お互い家庭を持てばそうなるのは当たり前じゃん、私だって引っ越していた時はお父さんと会えなかったし」
かがみ「こなたは単純で羨ましいわ……」
単純ね、でも、複雑の方が優れているとは限らない。
こなた「それじゃ単純になればいい、妹に会いに行くのに理由なんかいらない、ゆい姉さんだって今でも週に一回は遊びにくるよ、そんなに会う理由があるとは思えないけどね……」
かがみ「成実さん……そうなの……」
こなた「会わない日が長引くとそれだけ会い難くなるから、会いたいなら会いに行けばいいだけ」
かがみは狐に摘まれた様な顔をして私を見た。
かがみ「フッ……こなたにしては良い事言うわね……その通りかもしれない」
こなた「「しては」は余計だよ!」
かがみが笑った。そういえばこんな笑顔を見るのも久しぶりかもしれない。学生時代の記憶が蘇ってきた。
それからの私達は学生時代の話題に花が咲いた。

158 :こなたの旅G 4/5 [saga sage]:2013/06/16(日) 07:53:58.83 ID:xTUnpMLR0
 気付くとかがみに会ってから1時間が過ぎようとしていた。楽しい時間はあっと言う間に過ぎてしまうもの。神崎さんに報告する時間が近づいてきた。
こなた「ごめん、もうそろそろ時間……」
かがみ「本当だ、時間が経つのは早いわね……もう少し残れないの」
こなた「うん……」
かがみ「なによ、誰かと会う約束でも……あぁ、もしかして彼氏?」
こなた「いや、そんなんじゃない……」
かがみ「別に無理に否定なんかしなくても、恥かしがる歳でもないでしょうに……こなた、あんた結婚するきあるの?」
こなた「ん〜〜〜分かんない」
かがみは溜め息をついた。
かがみ「ふぅ、あんたねぇ、もう少し自分の将来の事を……」
話すのを止めて暫く私をみてから微笑んだ。
かがみ「まぁ、それで良いのかも知れない、こなたらしくて良いわ、私も夫と……ひとしと出会っていなかったら……そう思うとこなたを責められない、こればっかりは
    縁だからどうしようもないわ」
こなた「そう言ってくれると私も気が楽だよ……かがみは稲荷さんの旦那だもんね、凄い縁だよ、つかさがくれた縁だよね」
私は帰り支度をした。それをかがみはじっと見ていた。
かがみ「こなた……もう少し時間いい?」
こなた「なあに?」
私は支度をしながら話した。
かがみ「みゆきの話しは聞いたと思うけど、あんたはどう思う?」
私は帰り支度を止めた。
こなた「話しって、真奈美が生きているかもしれないって?」
かがみは頷いた。
かがみ「みゆきに見せてもらったデータを見て驚愕した、パターンがワールドホテル時代と全く同じなのよ、もう既にある物を順番に出しているとしか思えないほどよ、
    これはどう考えてもお稲荷さんじゃないと出来ない、私もそれはみゆきと一致した……だけど、真奈美さんが生きているとなると……分からないわ」
こなた「データについてはさっぱりだから答えられないけど、真奈美に関していえばもしかしたら……なんて思う事もできそうだよね……他にお稲荷さんが残っていなければだけどね、
    かがみの旦那さんには話したの?」
かがみ「話したけど……データを見ただけでは何とも言えないって……」
こなた「……だからかがみは調べているの?」
かがみは頷いた。
かがみ「そうよ、もし、万が一、真奈美さんだったら助けなければならないでしょ、うんん、例え別のお稲荷さんだったとしてもね、そうじゃないとけいこさん達が
    地球を去った意味がなくなるじゃない」
こなた「そうかもしれない、だけど今は何も分からないよ……」
……私達は同じ目的で貿易会社を調べている訳か……
かがみ「そうね、もう少し調べないといけない、でも、私ではこれ以上調べられないわ」
かがみは暗く沈んだ表情をした。
こなた「35階の資料室にその答えがありそうなんだけど……なかなかセキュリティが厳しくてね、あのビルで大きなイベントとかないかな?」
かがみは目を大きく広げて驚いた。
かがみ「あんた、一体何をしようとしているの……35階ってこなたが働いていた店のすぐ上じゃない……」
こなた「それで、イベントは在りそうなの?」
秘密だから言えない。分かって欲しい……かがみ……私は目で訴えた。
かがみ「……話せないのは訳ありのようね……良いわ、調べてあげる、その代わり、後でちゃんと話してもらうわよ」
こなた「ありがとう……」
かがみ「分かっても分からなくても毎日今と同じ時間でこの店で待っているわよ、それで良い?」
こなた「うん、それでいい、最後に変装するなら普段着でね」
かがみ「分かってるわよ、いちいち五月蝿い!!」
私は伝票と鞄を持った。
こなた「ふふ、今日は私の奢りだよ、それじゃ明日ね」
私は足早に店を出た。時間に遅れると神崎さんに怪しまれる。

159 :こなたの旅G 5/5 [saga sage]:2013/06/16(日) 07:55:04.87 ID:xTUnpMLR0
 D神崎さんを35階に入る方法……かがみやみゆきさんの知恵を借りても難しい、それよりも資料室にどうやって入るのか。こっちの方が10倍くらい難しい。
資料室の場所は直ぐに分かった。防犯カメラが3つもその部屋の扉に向けられている。それに特別なカードか何かがないと鍵を開けられないようだ。
こなた「大企業の秘密を知ろうなんて、やっぱり無理がありすぎ、私もこれ以上調べたらバレそう……今朝警備員に呼び取れられたから怪しい怪しまれているかも」
あやめ「もう少し……もう少しなの、35階にさえ行ければ……」
こなた「35階に入れても資料室にどうやって……?」
神崎さんは鞄からカードを取り出した。そして不敵な微笑を浮かべる。
あやめ「ふふ……資料室のカードキー……」
こなた「え?」
あやめ「このカードキーがあれば資料室のドアを開けてしかもセキュリティを解除できる、しかも防犯カメラも停止する」
こなた「そんな物を何時の間に?」
あやめ「もう数年前から手に入れてある、あとは潜入するだけ、場所もある程度までは分かっていた、あとは潜入方法を探していた……
    入るチャンスは一回きり、このキーを使えば泉さんがこの前言った通り履歴が残る、だから二回目はない……泉さんが怪しまれているならもう
    無理はしなくていい、これ以上調べる必要はないから、あとは私が何とかする、残りの日数はそのままあの店で働くのもよし、レストランかえでに戻るのもいい、好きにして」
あの店と資料室が近かったのは偶然じゃなかったのか。この人は数年前から資料室の場所を調べていた。何故、この人はここまでして調べようとしているのかな。
囚われている人を助けるためだけでこんなに時間とお金を掛けるなんて。プロの記者だから……それだけなのかな……
うんん、それはどうでもいい。私も知りたい。囚われているのがお稲荷さんかどうか。そしてその人が真奈美なのかどうか。やっぱりここで止めるなんて出来ない。
こなた「ここまで私を使っておいてそれはないよ、最後までやらせて」
あやめ「……でも危険な事はさせない約束だから」
こなた「それは神崎さんとかえで店長の約束でしょ、私は安全じゃないと嫌だなんて一言も言ってないよ、それにそのカードキーがあるならもう35階を調べる必要はないよね、
    部屋に入れるチャンスだけ探せば危険はないよ」
神崎さんは考え込んだ。
あやめ「……そうね、確かにそれだけ探すなら危険はない、当初の約束通りの期間は続ける」
こなた「うん、それでいい」

 残り一週間。
お店は休日。特に用がなければつかさの店にでも遊びに行くのだが、半月以上も店に出ないでいきなり訪ねたら理由を聞かれるに決まっている。
それにかえでさんが終わるまで来るなって言っていたっけ。
でも……休日とは言えソワソワして何も手につかない。漫画を読んでもすぐに飽きるし、ゲームをする気にもなれなかった。
かと言って取材の続きなんて出来るわけない。もうこのまま一週間が過ぎてしまうのだろうか。
『コンコン!』
ドアのノックする音。
こなた「ほーい?」
そうじろう「かがみさんがお見えだが……」
かがみが私に……わざわざ家に来るなんて。なんの用だろう。アポも取らないなんて珍しいな。
こなた「部屋に通してくれるかな」
そうじろう「分かった」
暫くするとまたノックの音が聞こえた。
こなた「開いてるよ」
勢い良くドアが開いた。
かがみ「おっス、こなた!」
なんだ、珍しくテンションが高い。
こなた「連絡くらいしてよ、もし出かけていたらどうするの」
かがみ「どうせ出かける気もないくせに」
高校時代のノリそのままだな……かがみは私の座っている椅子の前に座った。
かがみ「どうなの、こなた、進展はあったの?」
こなた「そんな事話せる訳ないじゃん……まったく、何しに来たの、冷やかしなら帰ってよ……」
かがみ「そうね、機密事項だったわね、それなら尚更ぞんざいな態度はできない」
こなた「え?」
私が少し驚いた顔をすると不敵な笑みを浮かべ鞄から何かを出した。
かがみ「あんたの働いている店の同じ階に本屋さんがあるでしょ、そこでサイン会があるのよ」
こなた「サイン会……そんなの聞いてない、誰のサイン会なの、よっぽどマイナーなんだろうね……」
かがみ「……貞子麻衣子って言っても分からない?」
こなた「さだこまいこ……それって、ゆたかとひよりのペンネームじゃ……も、もしかして……」
かがみ「ふふ、灯台下暗しってこの事ね……招待状が私に届いてね……会場を見てビックリした、あんたも招待状着てない?」
しまった。郵便物はノーチェックだ。机の横に積まれた郵便物をひっくり返して調べるとかがみの持っている物と同じ郵便が出てきた。
こなた「テヘッ!!」
舌を出しててへぺろをした。かがみは呆れた様に溜め息をつく。
かがみ「ふぅ……やっぱりこんな事だろうと思った、電話で教えても渡せないから来たのよ」
かがみは招待状を私に差し出した。
こなた「え、何?」
かがみ「何、じゃないわよ、使いなさいよ、どうせ裏で神崎あやめが居るのは分かってるから、こなた一人であの店に雇ってもらえるとは思えない、履歴書とかどうやって書いた?」
こなた「ぐっ!」
何も反論出来なかった。
かがみ「私も貿易会社に興味がある、きっと何か大きな陰謀があるに違いない、それにお稲荷さん……真奈美さんが絡んでいるとしたら見過ごせない、何か証拠を掴めば
    ひとしも動いてくれる、きっとすすむさんやまなぶさん……ひろしもね」
私は招待状を受け取った。
用を終えるとかがみは忙しそうに帰って行った。きっと仕事に子育てに忙しいのだろう……

 かがみが帰ると部屋はし〜んと静まり帰った。
招待状をじっと見た。神崎さんはゆたかを取材している。コミケで漫画を買うくらいなのに本屋さんでサイン会をするなんてすぐに調べられそうな気がするのに何故知らない?。
いや、ゆたかの事だから神崎さんに招待状を送ったかもしれない。郵便の消印は丁度二週間前になっている。神崎さんの家にも同じくらいの日に届いているに違いない。
神崎さんは家に帰っていない。だから知らないのかも。
すると神崎さんは正子さんに会っていない……嘘をついていたのか。どうして……。
こっちの方も問い質さないといけない。

つづく

160 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/06/16(日) 07:56:59.05 ID:xTUnpMLR0
以上です。

次回はどうなるのかな? 何も考えていない。

161 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/06/16(日) 08:02:51.03 ID:xTUnpMLR0

ここまで纏めた
162 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/06/23(日) 05:29:19.26 ID:FwNZN6xO0
保守
こなた「暇だね」
かがみ「そうね」
こなた「誰もこないね」
かがみ「そうね……」
こなた「静かだね……」
かがみ「……そうね」
こなた「あの、相槌ばかりしてないでたまには何か言ってよ」
かがみ「そうね……ん?」
こなた「ありゃらら、それだから誰も来なくなっちゃったんだよ」
かがみ「なんだと、全部私のせいかよ!!」
こなた「うん」」
かがみ「自分の事はたなにあげてなに言っているの」

保守でした。
163 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/29(土) 21:05:09.93 ID:yEHDPHfR0
それでは「こなたの旅」のつづきを投下します。

今回は4レス使用予定です。少し短めです。
164 :こなたの旅H 1/4 [saga sage]:2013/06/29(土) 21:07:11.41 ID:yEHDPHfR0
H
あやめ「サイン会……?」
私は大きく頷いた。神崎さんは何も言わず目を大きく見開いたまま招待状を見ていた。
こなた「開催日は私の雇用期限日と同じ、しかもその日は休日で事実上もうあの店とは縁が切れるから私も自由に動けるよ、35階の資料室まで案内してあげる」
『ヒュ〜♪』
神崎さんは口笛を吹いた。
あやめ「やるじゃない、私が見込んだ通りの仕事じゃない、非の打ち所がない、よくやってくれた」
こなた「……まだ終わっていないよ、それを言うなら全部終わってからにして……」
神崎さんは微笑んだ。
あやめ「ポーカーフェイスのその冷静さも良い、レストランのホールをさせるには勿体無いくらい」
これほど褒められるなんて。言われているこっちが恥かしくなるくらいだ。
さて、今度は私から言わせて貰うかかな。私はゆたかに聞いて裏をとった。やっぱりゆたかは招待状を神崎さんに送っていた。
こなた「貞子麻衣子ってそれほどマイナーな漫画家じゃないよ……なんで神崎あやめともあろう人が見落とすなんて……」
神崎さんの微笑が止まった。
あやめ「……まさかそんなイベントがあるとは思わなかったから……」
こなた「ところでこの三週間で三日の休暇があったけど、神崎さんちゃんと家に帰ってたの?」
あやめ「そ、それは……」
その先は何も言わない。この人って自分が責められると弱くなるタイプなのかな。言い訳が出来ないなんて……
こなた「私は言ったよね、帰ってねって……」
あやめ「あ、貴女には関係ない事でしょ、私が帰ろうが帰るまいが」
こなた「関係ないけど……私が何故帰って言ったか、その意味は分かったつもりでいたけど……どうして上京しないであんな遠くに住んでるの、
    お母さんを一人残せないからじゃないの、この取材ってお母さんをすっぽかしても良い程大事なの?」
神崎さんの体が震えはじめた。
あやめ「……さっきから母さん母さんって、いつから私の母は泉さんの母になった、一回しか会っていないくせに」
声を荒げて怒り始めた。
こなた「なんで嘘を付いたの、帰っていないならあの時そう言えば良かったのに……」
あやめ「はぁ、貴女からそんな台詞が出るとは思わなかった、嘘はそっちが先だったでしょ」
こなた「会ってから一度も嘘なんか付いていないもん」
あやめ「あんな大法螺吹いておいてよく言えたものね、それに何を根拠に私が帰っていないなんて言うの」
私も頭に血が上ってきた。
こなた「この招待状は神崎さんにも届いているはずだよ、二週間前、私が帰れって言った日だよ、帰っていれば気付いてた、私なんて必要なかった」
あやめ「……え、な、何故私に送られているなんて分かるの」
私は立ち上がった。
こなた「記者なんだから調べれば……もう知らない、あとは神崎さんで勝手にやって……さようなら……」
部屋を飛び出すように出た。

 あと少しだった。あと少しで一緒に資料室に潜入できたのに。
なぜあんなに怒ったのだろう。自分でも分からなかった。
私があの神社を寄付した本人だと気付いてくれなかったから。違う。気付いていないのは私にとっては好都合だよ。
神崎さんにお母さんがいるから羨ましかったから。違う。彼女も父親を早くから亡くしているから状況は似たようなもの。
帰ったなんて言わなければ私だってあんなに怒らなかった。
そういえば神崎さんも怒っていた。何故だろう……
もうそんなのどうでもいい。どうせあと三日でサイン会。
あの店も二日働けば契約が切れる。その後、彼女は勝手に潜入取材をする。
彼女の言うように潜入取材の手伝いを果たした。

165 :こなたの旅H 2/4 [saga sage]:2013/06/29(土) 21:08:04.82 ID:yEHDPHfR0
そうじろう「こなた、明日のサイン会は行くのか?」
最後の仕事を終え帰るとお父さんが私を待ちわびるかのように話しかけてきた。
こなた「サイン会?」
そうじろう「もう忘れたのか、ゆーちゃんが送ってくれた招待状だよ、まさかまだ見てないなんてないよな?」
かがみが教えてくれなかったらそうだったかもしれない。
こなた「う、うん、お父さんも貰ったんだ……招待状……」
そうじろう「ああ、二人の活躍を陰ながら見守ってきた、完成記念のサイン会となれば出席しないわけにはいかないだろう」
こなた「……でも、かがみは出席しないし、つかさやみゆきさんも行けるかどうか分からないよ」
そうじろう「そうだな、皆家庭を持って仕事もあるだろう、それはあの二人も承知していると思う、でも、それはそれ、こなたはどうなんだ?」
行く気はない。ゆたかやひよりには悪いけど行けない。明日行けば神崎さんと会うかもしれない。
それに、あれ以降彼女から連絡がない。私が途中で出て行ったからきっと私に愛想を尽かしたに違いない。
嘘つきで途中で約束、契約を放り投げたと思っている。うんん、実際にそうだったかもしれない。
こなた「……明日は行かない……」
そうじろう「顔色が悪いぞ、気分でも良くないのか?」
こなた「うんん、大丈夫、何でもない……」
そうじろう「そういえば最近帰りも遅かったな、ゆっくり休んでいなさい、私はゆいと行ってくる」
結い姉さんも行くのか……実の姉だし当たり前と言えば当たり前か。私が招待されているくらいなのだから。
こなた「ゆたかとひよりに謝っておいて……」
そうじろう「うむ」

 神崎さんはちゃんと35階に行けるのだろうか。私の案内がないと警備員に見つかっちゃうかもしれない。
それとも私が行ったら怒って追い返されるかな。それならそれで割り切られるから気が楽になる。
それにしても……
帰った帰らないであれほど言い合いになるなんて。つかさやかがみがみきさんと親しげにしている時だって羨ましいとは思ったけど二人にその事で言い争いなった事なんてなかったのに。
神崎親子……何だろう。何かが引っ掛かる……特に母親の正子さん。子供と同居しているのに何故あんなに淋しそうにしていたのだろう……
突然部屋の扉が開いた。
ゆい「やふ〜」
少し小さな声で入ってきた。お父さんに私が調子悪いと言われたのかもしれない。
こなた「いらっしゃい……」
ゆい「おやおや、寝ていなくていいのかな?」
少し心配そうな顔だった。
こなた「……なかなか眠れなくって……」
ゆい姉さんは手を私の額に触れた。
ゆい「う〜ん、熱がある訳でもなさそうだね……」
手を額に……ゆい姉さんにが私にそんな事をしたのは初めてかもしれない。
そうかゆい姉さんも子供が出来たからそんな動作が出てくるのかもしれない。
ゆい「もしかして恋の病なのかな」
こなた「……ちょっと、からかわないでよ!」
ちょっと怒ってみた。
ゆい「ふふ、まぁ、何にしても普段のこなたじゃないね、もしかして明日の事で悩んでる?」
こなた「まぁ……そんなところ、ゆたかやひよりとは全く関係ないけどね……」
ゆい姉さんも行く。となれば神崎さんは潜入取材で不法侵入……ゆい姉さんには見つかって欲しくない……
ゆい「どったの?」
私の表情に不思議そうに首を傾げるゆい姉さん。
こなた「うんん……なんでもない」
神崎さんを心配しているというのだろうか。まさか
どうして、もうどうなっても関係ないでしょ。だから……明日は行かないって決めたはずじゃなかったの。
ゆい「おっと、調子が悪いのにこんなに長居したらダメだよね、それじゃおやすみ……」
普段と違う私なのか。そのまま静かに部屋を出て行ってしまった。そして私は眠れぬ夜を過ごすのだった。

166 :こなたの旅H 3/4 [saga sage]:2013/06/29(土) 21:09:12.75 ID:yEHDPHfR0
 貿易会社本社ビル34階。開店前の書店。私は大幅に遅れて会場に入った。
会場には招待状で招かれた人達で賑わっていた。思ったより多くの人が居た。出版社の関係者やスポンサーや記者らしき人も見受けられる。
この中に神崎さんも居るのだろうか。この賑わいでは探すのは一苦労しそう。
こんな会に私なんかが呼ばれて良かったのだろうか。場違いなような気がした。会場の雰囲気に圧倒されて何から手をつけていいのか分からない。
「お姉ちゃん?」
後ろからゆたかの声がした。私は声のする方を向いた。ゆたかは私を見て驚いた顔をしていた。
こなた「いや〜大盛況だね、思ったよりゆたかの作品は人気あるんだね……見直したよ」
今度は心配そうな顔になるゆたかだった。
ゆたか「おじさんが調子悪いって言っていたけど……大丈夫なの?」
こなた「大丈夫だよ、一日寝たらすっかりしたから、それよりお父さん達は?」
ゆたか「ゆいお姉ちゃんと一緒に帰ったけど」
帰ったのか。何故かほっとしたような気がした。
こなた「それでひよりはどうしているの?」
ゆたかは会場の奥の方に顔を向けた。奥にひよりの姿が見えた。数人の女性と楽しげに会話をしている。あれは見た事ある顔だな……そうか陸桜の漫研部の面々だ。
成る程ね。ちょっと話してみようと思ったけど邪魔になるだけかな。
こなた「かがみは来られないよ、つかさは来てる?」
ゆたかは首を横に振った。
ゆたか「うんん、来られないって……あやのさんやかえでさんも……」
あらら、この調子だとみゆきさんやみさきちも期待できそうにないかも。
こなた「私はレストランかえでと陸桜の先輩代表になっちゃったかな」
ゆかた「……」
何も言い返さないゆたか。まずいなせっかくのサイン会なのに。
こなた「え、えっと、もう一人いたじゃない、みなみも呼んだでしょ?
ゆたか「うん、さっきまで居た」
こなた「それは良かった」
ゆたか「うんん、大半が来られないのは分かっていたから、それでもお姉ちゃん達が来てくれて嬉しい」
こなた「ところでもうサインはしなくていいの?」
ゆたか「うん、大方は終わったから小休止、だけど本番はこれからだし」
そう、本屋さんの開店と同時に一般のサイン会になる。私は時計を見た。開店10分前……そろそろ時間か。
本屋さんを出ようとした時、男性がゆたかに近づいた。二人は目を合わすと親しげに本屋さんの奥に向かって行った。そうか彼がゆたかの彼氏か……
確か編集担当とかって言っていたっけ。
おっと、見ている時間なんかない。
さて、これで私の知人は全て私から遠ざかった。チャンス……

 本屋さんを出るとこの階は静まり返っている。それもそのはずまだどの店も開店していない。
私は自分の働いていた店の前で立ち止まった。ここは35階へ続く階段に一番近い。もし神崎さんが来るならここを通るはず。
時計を見た。開店5分前……
一般客がビルの下で行列になっている。ひよりとゆたかはこれほどまでに人気がある漫画家になったのだと思い知らされる。
でもこれがチャンスなのだ。警備員はこの行列を整理するために本屋さんに集中するから上の階は無人状態になる。でもそれは開店から3分くらいの間だけ。
喫茶店で働いた時に得た情報だ。でもこれは神崎さんに言っていない。はたして彼女はこの時間を分かってくれるだろうか。
あの時喧嘩をしなければ打ち合わせをしてここで待ち合わせが出来たのに。電話や携帯でも教える事が出来た。でもしなかった……バカだな……私って……
私はこの潜入取材を成功させる気があるのかな……
時間が刻々と過ぎていく……彼女は来ない。もう先に上に行ったのか。それとも諦めて来なかったのか。
もう少しだったのに。もう少しで真奈美の謎が解けたかもしれないのに。
「い、泉さん……」
突然後ろから神崎さんの声がした。私は声の方を向いた。そこに神崎さんが立っていた。目立たないリクルートスーツに眼鏡をかけている。多分伊達眼鏡だろう。
それに加えてポニーテールにしている。
声を聞かなければ一目では彼女だと気が付かない。かがみもこのくらいの変装をして欲しいものだ。
神崎さんは私を見て驚いていた。来るとは思わなかったのだろう。
あやめ「……まさか来てくれるなんて、でも、何故、何故私に招待状が来ていたのを知っていたの、それにこの渡された招待状は小林かがみ宛、
    小林かがみと言えば小林法律事務所の腕利き弁護士じゃない、何故貴女がそれを持っているの……小林かがみとなんの関係があるの……」
私は時計を見た。開店3分前。今はその話しをしている暇はない。
こなた「こっちだよ……」
私は歩いて階段に向かった。数歩歩き出すと彼女もその後を付いてきた。

167 :こなたの旅H 4/4 [saga sage]:2013/06/29(土) 21:11:14.12 ID:yEHDPHfR0
 C開店1分前。
こなた「あの角を右に曲がればすぐ資料室だよ、監視カメラに気をつけてね」
あやめ「ここから先は私がする、ありがとう」
神崎さんは私の手をとってにっこりと微笑んだ。眼鏡を取ると曲がり角を見た。彼女の顔が一変して厳しくなった。そして角に向かって歩き出した。
曲がり角を曲がると彼女は見えなくなった。さて。私は戻るかな。

 何だろう。この胸騒ぎ……
階段を下りている途中だった。何か嫌な予感がする。
神崎さんはちゃんと資料を集められるのか……
パソコンの操作は大丈夫なのか……
警備員は本当に居ないのか……
監視カメラは本当に止まるのか……
私は立ち止まった。そして上の階を見上げた。
彼女なら問題なく出来るさ、それに彼女自ら自分だけでするって言った。私がしゃしゃり出て手伝ったら今度こそ怒られそう。
下の階を見て下りようとした。
………
だめだ。やっぱり気になってこれ以上下りられない。かがみが自分の招待状を渡してまでして協力してくれた。本当は来たかったに違いない。
それに別れ際のあの笑顔。喧嘩をした相手にあんな表情なんか出来ない。
もし、警備員に捕まればあの貿易会社の事だ。どんな仕打ちがまっているか分からない。警察沙汰になるならまだましかもしれない。
そんな事になれば神崎さんのお母さん、正子さんが……
放っておけない。怒られても構わない。私の予感が外れていればそれで良い。

私は走って階段を駆け上った。そして神崎さんと別れた場所を過ぎ曲がり角を曲がった。扉は開けられたままになっていて静かだった。カードキーが正常に働いたみたい。
私はそのまま資料室に入った。神崎さんがパソコンの画面で何かを操作している。後ろを向いているのでどんな事をしているのか分からない。
入ってすぐに神崎さんは私に気付いたのか後ろを向いて私を見た。神崎さんの顔色が真っ青になっていた。
あやめ「ど、どうしよう」
かなり動揺している。
こなた「どうしたの?」
私は神崎さんの側に駆け寄ってパソコンの画面を見た。
「warning」
画面に大きくそう書かれていた。そして画面が赤く変色している。これは……
咄嗟にポケットからUSBメモリーを取り出しパソコンに挿した。「warning」画面がそのままの状態で止まった。
神崎さんは私を見た。
あやめ「な、何をしたの?」
こなた「パソコンの動作を一時的に止めた」
このUSBメモリーはめぐみさんがくれたもの。めぐみさんの作ったハッキングプログラムが入っている。私はそのままキーボードを打ち始めた。
あやめ「操作なんかして大丈夫なの?」
こなた「パソコンを完全にハッキングして外部から一度遮断して隔離するよ、そうじゃないと多分警備会社に連絡が行っちゃうかもしれないからね」
使う気はなかった。だけどあの状況では使うしかなかった。
私の悪い予感が当たっていた。それにUSBメモリーを持ってきておいてよかった。
10年ぶりに使うめぐみさんのプログラム。でも体が操作をまだ覚えていた。
こなた「完全にこのパソコンは私の手中に入ったよ……それで、どのフォルダーをコピーするの?」
あやめ「え、あ、えっと……」
神崎さんに言われる通りのフォルダーをUSBメモリーにコピーした。
 私は時計を見た。開店時間を1分過ぎていた。あと2分か……
こなた「このビルの管理サーバーにアクセスしてと……やっぱり防犯カメラはこのサーバーに一回記録される仕組みなっているね……
さっきのワーニングでカメラが起動したかもしれないから念のため今から3分前の画像データを消去するから、
    それからこれから3分間電源を切ってこのビルを停電にして、その隙にここから逃げよう」
あやめ「そのパソコンはどうなるの、ハッキングなんかしたらバレてしまう」
こなた「大丈夫、このUSBメモリーを抜けば履歴もなにも残らない」
あやめ「あ、貴女……プロのハッカーなの……いや、プロでもそんな事は出来ない……泉さん、貴女は何者なの……」
残り1分……
こなた「時間がないよ、行こう!!」
携帯電話を取り出し明りを付けた。そしてUSBメモリーを抜いた。部屋の照明が切れて停電になった。しかしパソコンの電源は入ったまま再起動になった。
やっぱりUPS機能が付いていた。
私は立ち上がり照明を部屋の出口に向けた。
こなた「行こう」
あやめ「あ、待って」
神崎さんは鞄からハンカチを取るとキーボードを拭きはじめた。指紋を消しているのか。まだ起動中だから問題ない。私は照明を神崎さんの手元に向けた。
拭き終わると神崎さんは私の後に付いた。
こなた「非常口から出て下に降りよう、走るよ」
あやめ「うん」
携帯の照明を頼りに非常口を出て下の階34階に下りた。

こなた「神崎さんはそのまま非常階段で下まで下りて、私はこのままサイン会に紛れて出るから」
神崎さんはじっと私を見ている。
あやめ「神社の寄贈は匿名で、しかもネット経由だったって聞いていた……泉さん……まさか、もしかして本当に……」
さすがにあそこまでネタバレしたら分かってしまうか。
こなた「……だから言ったじゃん、嘘はついてないって……」
あやめ「泉さん……私……」
こなた「時間がないよ、データは明日神崎さんに家で渡すから、それで良いでしょ」
あやめ「う、うん……明日の夕方で…」
神崎さんは何を言おうとしたのかな……それは明日分かるか……

168 :こなたの旅H 5/4 [saga sage]:2013/06/29(土) 21:12:15.07 ID:yEHDPHfR0

 私達は別れた。神崎さんはそのまま非常階段で下りて行った。私は34階の非常口からビルに入った。
私がビルに入ると同時にビルの照明がついた。間に合った。
辺りは停電のせいでざわついていた。さてとこの隙に帰ろう。
「泉さん、泉さんじゃない!!」
後ろから突然私を呼び止める声。聞き覚えがある。私は後ろを振り向いた。そこにはコスプレ喫茶の店長が立っていた。
店長「泉さん、事務所まで来て欲しい」
え、なんで。もう喫茶店の契約期間は終わったし給料ももらったから私になんか用はないはず。
ま、まさか。35階に行ったのがバレたのか。
下手に断ると余計に怪しまれそうだ。私は店長の言う通りにするしかなかった。

つづく
169 :こなたの旅H 5/4 [saga sage]:2013/06/29(土) 21:14:15.64 ID:yEHDPHfR0
以上です。

4レス目が容量をオーバーしてしまい5レスになりました。

いきなり声を掛けられたこなた。どうなってしまうでしょうか。

次回ご期待下さい。
170 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/06/29(土) 21:19:35.27 ID:yEHDPHfR0


ここまで纏めた。

171 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga ]:2013/07/07(日) 17:19:36.51 ID:g2/NkRKX0
作品投下します。

2レスほど使用します。
172 :双子の誕生日2 [saga sage]:2013/07/07(日) 17:22:34.87 ID:g2/NkRKX0

 梅雨も本格的なはずなのに雨ひとつ降らない今日この頃。
みゆき「誕生日のプレゼント、ですか?」
こなた「うん、もうそろそろかがみとつかさの誕生日でしょ、個人であれこれ悩むより二人共同で選べばいいかなと思って」
みゆき「そうですね、それも良いかもしれません」
こなた「それで、みゆきさんはもう宛てはあるの?」
みゆきさんは下を向いた。
みゆき「それが……なかなか思い当たるものがないのです」
こなた「そうだね、もう高校時代から何度も渡しているからネタ切れっぽいかな」
みゆき「なにか、年齢に相応しいものがあればいいのすが……泉さんは何かありますか?」
あらら、全部みゆきさんに振っちゃおうと思ったけど、さすがにそれは出来ないか……
こなた「年齢に相応しいものね〜もうなんだかんだで二十歳だからね……大人のもの……ん〜」
そう簡単に出るわけはない。そうでなければみゆきさんと共同なんてしなくてもよい。
こなた「二十歳になった祝いも兼ねてお酒を贈るのはどう、たとえば洋酒、ぶどう酒なんか」
みゆき「お酒ですか……」
みゆきさんの顔が曇った。
こなた「何か問題でもある?」
みゆき「い、いえ、別にありません、お酒を贈るのは祝い事で普通にしますから問題はないと思います」
こなた「それじゃ決定だね、さっそく何にするかお店に行こう」
みゆき「はい」

 っと思って店に来たのはいいけど。あまりにも種類が沢山ありすぎて何にするか決められなかった。
こなた「う〜ん、どれにするかな、みゆきさん、かがみとつかさがどんなお酒が好きなのか分かる?」
みゆき「いいえ分かりません、それにお二人はまだ法律的には未だ飲めませんので好みはまだ無いと思いますが……」
こなた「ねぇ、このお酒は?」
適当に取った瓶をみゆきさんに見せた。
みゆき「すみません、私も10月までは二十歳ではありません、飲めませんので……分かりません」
こなた「そうだったね、でもさ、もう利き酒くらいならしてもいいんじゃないの」
みゆき「すみませんそれも出来ません」
こなた「みゆきさんは真面目だね……」
みゆき「すみません、何にするかが一番悩むと思ったので……その、は別の物にしませんか……」
これ以上無理強いできないか、するともう既に二十歳を過ぎた私が利き酒をするしかないか。
こなた「すみません〜このお酒試飲できますか?」
店員に声をかけて小さなグラスを借りて試飲した。
こなた「ん〜すこし匂いがきついかも〜」
店員「それならばこれはいかがでしょうか?」
店員は店の奥の方から赤ワインを持って来た。グラスに少々ついでくれた。
こなた「ちょっと甘すぎない?」
店員「それではこちらはどうですか」
……
……

 誕生日当日、柊家。
かがみ「それで、店のど真ん中でへべれけになって倒れたのか……」
みゆきさんは頷いた。
こなた「いやぁ、もう最後の方は何がなんだか分からなくなっちゃって、気が付いたら家の居間のソファーで寝てた」
つかさ「大変だったね、でも、どうやって帰ったの?」
かがみ「それは全部みゆきが介抱してくれたってことでしょ、やれやれ、全く、なにをしに行ったのか」
みゆきさんは鞄から二つの箱を取り出した。そしてかがみとつかさに箱を渡した。
みゆき「かがみさん、つかささん、私と泉さんからの誕生日プレゼントです」
こなた「ハッピーバースデー、かがみ、つかさ」
つかさ「この箱って、もしかして……お酒?」
みゆき「はい」
かがみ「……みゆきありがとう」
つかさ「ゆきちゃん、こなちゃん、ありがとう」
こなた「かがみ、私にお礼は……」
かがみはみゆきさんと楽しげに話し始めてしまった。
つかさ「折角だからこのお酒今ここで開けちゃおうよ、おつまみ作ってくるから」
こなた「やめた方がいいよ」
つかさ「どうして?」
こなた「みゆきさんはまだ飲めないから」
つかさ「あっ、そうだった」
みゆき「かまいません、どうぞ」
かがみ「飲めなくとも乾杯くらいはできるでしょ」
みゆき「は、はい」
つかさの作ったおつまみと共に私達はプレゼントのお酒で乾杯した。

173 :双子の誕生日2 2/2 [saga sage]:2013/07/07(日) 17:23:42.86 ID:g2/NkRKX0
みゆき「すみませんでした」
帰り道の途中、みゆきさんが突然謝りだした。
こなた「どうしたの急に?」
みゆき「泉さんが酔いつぶれた話しはするべきではありませんでした、それに……あの時私も試飲していればあの様な事はおきませんでした」
こなた「別に良いよそんなの気にしなくて」
みゆき「かがみさんのお礼がなかったものですから、、私のせいで……」
みゆきさんは申し訳無さそうに頭を低く下げた。
こなた「あれ、あれはその逆だよ、かがみは素直じゃないから照れ隠しで言わなかっただけだよ」
みゆき「そうでしょうか?」
こなた「はいはい、もうその話はおしまい、頭を上げてよ、二人ともプレゼント気に入ったみたいだし、大成功って事でおしまいにしよ」
みゆき「は、はい……」
こなた「これからお酒とは長い付き合いになるからお互いに気をつけようね」
みゆき「泉さん、かがみさんとつかささんはさっきのが初めてのお酒だったのでしょうか?」
こなた「どうだろうね、神社は行事とかで何かとお酒が付きまとうから二人にとっては身近な物だけど、あれが初めてかどうかは分からないね」
みゆき「お二人ともほんのり顔が赤く、とても艶やかで大人になった……そう思いませんでしたか」
こなた「ん〜そう言われるとそうだったかな」
みゆき「……試飲の時の泉さんも素晴らしかったです」
こなた「そ、そうかな……」
みゆき「あ、すみません、帰りが遅くなってしまいます、急ぎましょう」
みゆきさんは駅に向かって早歩きで歩き始めた。

 つかさとかがみが大人に見えたってみゆきさんは言った。お酒が二人を大人にしたのかな……分からないや。でも……
みゆきさんの誕生日に何を贈るか、もう決まったよ。




174 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/07/07(日) 17:25:45.19 ID:g2/NkRKX0
以上です。

つかさとかがみの誕生日ネタは3つ目になります。

誰も書きそうになかったので出ないネタを絞って書きました。

175 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/07/07(日) 17:51:07.23 ID:g2/NkRKX0

ここまでまとめた
176 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga ]:2013/07/10(水) 20:29:55.55 ID:H4+RYPH30
それでは「こなたの旅」の続きを投下します

6レスくらい使用します。
177 :こなたの旅I 1/6 [saga sage]:2013/07/10(水) 20:31:49.01 ID:H4+RYPH30
I

こなた「今日は休業日のはずだけど……どうして?」
事務所に通された私は早速質問もぶつけた。
店長は鞄から色紙を出した。
こなた「サ、サイン会?」
店長「そうよ、特別招待された人も居たみたいだけど、私は漏れちゃってね、一番に並んだった訳、サインをもらったと同時にあの停電でしょ、嫌になるわ、泉さんは
   非常階段を使ったみたいだけど、他にも何人か非常階段から出た人が居たからそれで正解だったかもね」
こなた「え、え、そ、そうでしょ、そう思ったんですよ、はははは」
これは笑って誤魔化すしかない。どうやら35階の行ったのはバレていないようだ。張り詰めた緊張が一気に解けた。
店長「泉さんもサイン会が目当てだったんじゃないの、その状況じゃサインもらえなかったでしょ?」
こなた「え、ええ、そうですね」
店長はしばらく考え込んだ。
店長「お店に飾る分と自分の部屋にと思って二つ書いてもらったけど……自分の部屋は今度の機会かな、泉さんにあげるわ」
こなた「ど、どうも」
サインは家に帰ればいくつも持っている……と言っても断れる状況じゃない。そのまま色紙を貰った。
こなた「と、ところで、私を呼んだのは何の用ですか?」
店長の顔が真剣になった。
店長「昨日、私は留守で貴女に会えなかったから話せなかったけど、この店を辞めてどうするの、レストランかえでに戻るのかしら」
こなた「そのつもりですけど……それが何か?」
店長「……どう、このままこの店で働く気はない、貴女とならうまくやっていけそう、近々二号店を出す予定なの、その立ち上げを手伝ってもらいたい、
   それで、ゆくゆくはそこの店長を任せてもいいと思ってる」
こなた「え……?」
これってもしかして、誘われている?
こなた「無理ですよ、店長なんて……」
店長「貴女の仕事ぶりは見させてもらった、レストランで随分鍛えられたみたいね、見事だった、私は見ていないけど黒ずくめの恐いお姉さんにも眉一つ変えないで冷静に
   対処したって聞いたわよ」
黒ずくめの恐いお姉さん……かがみの事を言っているのか。かがみのバカ……
こなた「あれは……恰好だけで恐くもなんでもないです、ただのお客さんだったので……」
知り合いだなんて恥かしくて言えない。
店長「無用なトラブルを回避するのも必要な事……話しを戻すわよ、レストランの時の倍の給料でどう?」
倍って……普通に働いていただけなのに。気に入られてしまったようだ。でも私の答えはもう決まっている。
こなた「約束は一ヶ月なので……」
店長は溜め息を付いた。
店長「ふぅ〜たった一ヶ月だけ私の店に来させるなんて、貴女の店長は私に見せびらかしたかったのかしらね……でも、即答したのなら私も諦めがついたわ、時間を取らせたわね、
   一ヶ月間ありがとう、向こうでも頑張って」
こなた「は、はい……」
店長と堅い握手をした。

 かえでさん以外の人に認められたって事か。悪い気がしなかった。いや、むしろ嬉しいくらい。神崎さんにげんき玉作戦を知られていなければもっと嬉しかったかもしれない。
彼女は記者、だから私の正体が分かれば記事に書くかもしれない。そうなれば……私、警察に捕まっちゃうのかな……どうしよう。
何も思い浮かばない。データと引き換えに記事を書かないように交渉するのも手かもしれない。だけど……そんな事できるかな。自信がない。

178 :こなたの旅I 2/6 [saga sage]:2013/07/10(水) 20:33:31.77 ID:H4+RYPH30
 このまま家に帰っても良かった。だけどいつの間にか私はレストランかえでの目の前に立っていた。一ヶ月ぶりだ。
従業員用の出入り口から入って事務室へ向かった。そして扉を開けた。
かえで「こなた、こなたじゃない、今日までが契約日じゃなかったの、タイミング悪かったわねあやのは休みよ」
数年会っていないかの様な喜びようだった。
こなた「そうだったけど、今日は休業日だったから……」
かえで「そうだったの……ん?」
かえでさんは私の顔をみて首を傾げた。
こなた「あの、二日くらい休暇をくれませんか……」
かえで「二日……それは別に構わないけど、二日と言わず一週間くらい休んだら、慣れない仕事で疲れたでしょ?」
神崎さんの家にデータを持って行かないといけない。でも休みはそんなに要らない。
こなた「いいえ、二日でいいです……それじゃ……」
私は部屋を出ようとした。
かえで「ちょっと待ちなさい、どうしたのよ、元気ないわね……」
こなた「いつもと同じだと思うけど?」
かえで「ふ〜ん、さては向こうの店長から残って欲しいなんて言われたとか?」
こなた「え?」
かえでさんは微笑んだ。
かえで「図星みたいね、それは私も予想してた……」
こなた「予想してたって?」
かえで「そう言う事よ……」
こなた「そう言う事って?」
かえでさんは立ち上がった。
かえで「もうそろろろ店長になってもいい頃だと思っていた……」
こなた「へ、わ、私が、嘘でしょ?」
かえでさんは自分のお腹を片手で触った。
かえで「私は生まれ故郷に帰ろうと思ってね……赤ちゃんも出来たことだし」
こなた「ちょ、いきなり何をいっているの、分からないよ……」
かえで「やっぱりこの町は私には賑やか過ぎるわ、生まれ故郷でゆったりするのが性に合っていると思って、生まれ来る子供の為にも……」
こなた「今更そんな事言って、子供が出来たって……つかさだって子供が居るのに店長してるじゃん」
かえで「私はつかさほど強くない、こなたが嫌ならあやのを店長にすれば良い、彼女もその力はある、いっその事つかさを誘ってみたらどう、きっと戻って来てくれるわよ」
こなた「レストランかえでだから店長はかえでさんじゃないとダメだよ……帰るって……どうして……いきなりそんな事言われても……」
かえでさんは私をじっと見ていた。
かえで「いつも無表情で何も動じないと思っていたけど……あんたの今にも泣き出しそうな顔初めて見たわ……バカね、あんたがそんなんでどうするの、
    あやのやつかさにどうやって言えばいいの……」
かえでさんも悲しい表情になった。これって、どうやって取り繕うか……こうゆうのは苦手だよ……どうしよう。
こなた「私……げんき玉作戦の事……バレちゃった……」
何をやっているのかな、このタイミングでこんな事を言うなんて……でも他に何か別の言葉が思い浮かばなかった。
かえで「神崎あやめに?」
こなた「うん……私はもう此処に居られないかも……」
かえでさんは笑った。
かえで「どうして」
こなた「私の事を記事にされたら……」
かえで「そんな事をするような人ならその辺にいる普通の記者と変わらない最低だわ、それにそんな記者ならこなたを取材の協力なんか行かせない……」
こなた「で、でも……」
私は不安そうな表情を見せた。かえでさんの笑みが止まった。
かえで「そうね、私の見込み違いもあるかも……そうだったら私にはどうする事もできない、かがみさんに相談すると良いわ、今つかさの店に居るわよ、こなたが向こうに行ってから
頻繁に来るようになったわ」
頻繁にって。まさかこの前私の言ったのをそのまま実行しているなんて事はないよね。
こなた「そうする……」
私は振り返って部屋を出ようとした。
かえで「さっきの話しは皆には言わないで、私から皆に言いたいから……」
こなた「うん……でもね、皆はきっと私以上に悲しむよ、特につかさはね……」
かえで「……」
かえでさんは何も言い返してこなかった。
かえでさんは初めに私に言って反応を見たかったのか。無表情って……いきなり帰るって言えばいくら私だってあんな反応するに決まっている。
笑って「帰ればいいじゃん」なんて言うとでも思ったのかな……勝手すぎるよ……
私はそのまま何も言わず事務室を出た。そして更衣室にに入り用を済ませてからレストランを出た。

179 :こなたの旅I 3/6 [saga sage]:2013/07/10(水) 20:34:25.96 ID:H4+RYPH30
 レストランを出るとつかさの店からピアノの音が微かに聞こえる。つかさが弾いているのか。いや、いつも弾いている曲じゃない。そうか、みなみの定期演奏会だ。
みなみも来ているみたいだ。
 店の扉を開けた途端迫力のあるピアノの音が飛び込んで来た。真っ先にピアノを見た。ピアノを弾いているのはつかさでもみなみでもなかった。まなみちゃんだった。
聞いたことがない曲だ。でも凄いのは分かる。コントローラのボタンを連打しているみたい、うんん、まるで右手と左手が競争しているように鍵盤を縦横無尽に駆け回っている。
店の奥に行くのを忘れて聴き入っていた。
「ラフマニノフ習曲集音の絵、作品39第6番:イ短調……」
小声で私の耳元に囁く。振り向くとみなみだった。
こなた「すごいね……」
私も小声で囁いた。曲は3分もかからないで終わった。
「パチパチパチ」
来店のお客さんから拍手喝采の嵐だった。まなみちゃんは立ち上がり一礼すると厨房の方に小走りに走って行った。つかさの所に行ったのかな。
こなた「さっきの凄いの、ら、らふま……の練習曲?」
みなみ「うん……あれは私も弾けない難曲……」
こなた「弾けないって、それじゃどうやって教えたの?」
みなみ「教えていない、楽譜を見て弾いた」
こなた「楽譜を、見ただけで?」
みなみは頷いた。
みなみ「楽譜見ただけで演奏なら私は驚かない……まなみちゃんはそれだけじゃない、あの曲のサブタイトルは赤頭巾ちゃんと狼……タイトルも彼女はしらないはずなのに、曲の
    イメージを完全に理解して演奏している」
赤頭巾ちゃんと狼の追いかけっこ……確かにそんな感じの曲だった。
こなた「それって凄いの?」
みなみは頷いた。
みなみ「店の客を見て、ケーキやスィーツを食べに来た人達の殆どの食事を止めて演奏を聴いていた」
確かにその通りだ。客と言う客は皆聴き入っていたようだ。曲が終わった今は皆普通にお茶やコーヒーを飲みながら食べている。
みなみ「私のレベルを超えてしまった、もう彼女を教えられない、もしかしたらショパンコンクールやチャイコフスキーコンクールで上位が狙えるかも」
こなた「ん〜〜」
有名な作曲家の名前が付いているコンクールなのだからさぞかし由緒あるコンクールだと思うけど……
こなた「そんな大袈裟なのが必要なの?」
みなみ「分からない、まなみちゃんに聞かないと」
こなた「聞かないと言ってもさ、まなみちゃんはまだ小学生だよ」
みなみ「確かにそうだけど……今度の演奏会でスカウトが放っておかないと思う」
こなた「まぁ、ピアノで食べていけるくらいの実力はありそうなのは分かった、でもそれは演奏会が終わってから心配しようよ」
みなみは笑った。
みなみ「そうだった、気が早過ぎかもしれない……それでは失礼します」
みなみは厨房の方に向かって行った。きっとつかさやまなみちゃんの所に行ったに違いない。
ピアノも勉強もちょっと桁外れな子だな……まなみちゃん……

180 :こなたの旅I 4/6 [saga sage]:2013/07/10(水) 20:37:35.24 ID:H4+RYPH30
 つかさはまなみちゃんの事をちゃんと分かっているのかな。何を思って何を考えているのか……ん?
ふと店の奥を見るとかがみが座っているのが目に入った。
そうそう。今はそんな事を考えている暇はなかった。かがみの所に向かおうとした時、丁度かがみと目が合った。かがみは自分の座っている向かい側の席を指差した。
私はその席に座った。
こなた「やふ〜」
かがみ「こなた、さっきのまなみちゃんの演奏聴いた?」
こなた「うん、ラフマノフノフの練習曲」
かがみ「それを言うならラフマニノフでしょ」
こなた「知ってるの?」
かがみ「作曲者は有名じゃない、でもあの曲は初めて聴いたわ、あれは練習曲なのか、凄い緊張感があったわね、子供の演奏じゃなかった」
かがみは暫く考え込んだまま黙ってしまった。
こなた「どうしたの?」
かがみ「以前こなたが言ってたじゃない、まなみちゃんはお稲荷さんの力を受け継いだんじゃないかって、なんか私もそんな気がしてきたわ
……柊家にあそまでの音楽の才能のある人なんか居ない」
こなた「そうでしょ」
私は何度も頷いた。
かがみ「でもね……お稲荷さんの故郷では音楽を楽しむ文化がないのよ……」
こなた「そうなの? でもつかさがいつも演奏している曲はけいこさんが好きだった曲じゃないの?」
かがみ「それはけいこさんが地球に来てからの話しだから……」
自然とお稲荷さんの話しになる。それもそうだよ、かがみの旦那はお稲荷さんなのだから。
こなた「そのお稲荷さんの故郷って何処にあるの?」
かがみ「ひとしから聞いたけどこの天の川銀河だそうよ、私達地球のあるのオリオン腕から銀河の中心を挟んで向こう側の腕の中、丁度反対側らしい、でもね、
その中心は星やガスが密集しているから地球からは観測できない……ちょっと残念ね……」
こなた「ふ〜ん」
かがみ「ふ〜んって、ちゃんと分かってるの?」
こなた「何となく……」
まるでSFみたいなだな、でもこれって現実なのだよね……それなのに違和感ないな……傍から私達の会話を聞くと
SF映画の会話をしていると思われそうだ……そういやかがみはSFなんかのラノベとかよく読んでいたっけな。だからかな。
ゲームや漫画で宇宙人なんかはよくあるシチュエーションだからね……私もすんなり受け入れられる。
でも……それが普通の人なら。神崎さんならどうだろう。
宇宙人と聞いただけでSFやオカルト扱いされるのが落ちだよ。かがみやかえでさん達が理解してくれているのはラッキーだったのかもしれない。
それとも私達が宇宙人を理解できるレベルになってきているって事なのかな……違うのかな。分からなくなって来ちゃった。
こなた「はぁ〜」
かがみ「なによ、溜め息をするなんて、らしくないわね」
こなた「いろいろ考える事ができてね……」
かがみ「……こなたがそんな台詞を言うようになるなんて、時間が経つのが早いわね」
むむ、私を子供扱いしている。昔なら言い返してやるのだが。今はそんな気はない。
こなた「かがみ、もし……もしも、げんき玉作戦が世間にバレちゃったら……私ってどんな罪になるの?」
かがみ「はぁ、なにをいきなり……」
呆れた顔で私を見るがすぐに私が何故そんな質問をしたのか分かったようだ。表情が驚きの顔に変わった。
かがみ「まさかあんた、神崎あやめに知られてしまった……の?」
私は黙って頷いた。
かがみ「いったいどうして、分かってしまった?」
潜入取材は内緒だった。どうやって説明するかな。
こなた「……神崎さんを助けるために……パソコンをハッキングしていろいろ操作したから……」
これが私の精一杯の表現だった。
かがみ「ハッキング……やっぱり、潜入取材をしたな」
こなた「う、うんん、そんなんじゃなくて……」
やばい、もうバレちゃってる。でも、かがみには嘘はつけないか。オロオロして何もできない。そんな私を尻目にかがみはクスリと微笑んだ。
かがみ「安心しなさい、十中八九神崎は記事になんかしない」
こなた「な、なんで、彼女はあの神社を寄付した人を探していたから……もうだめだよ、おしまいだよ……」
更にかがみは笑った。
かがみ「ふふ、いつものこなたらしくないわよ、彼女は潜入取材をした、それはそれでかなりの罪になるわ、こなたを記事にすれば彼女にもその疑いが掛かる
    リスクを背負う事になるわよ、それに、協力してくれた人を売るような卑怯な事をするような人とは思えない」
会ってもいない神崎さんをそこまで自信ありげに話すなんて。かがみはそうとう彼女を調べたみたい。
かがみ「それにネット犯罪は立証が難しいからこなたが捕まるとは思えない……万が一捕まったとしても、この私が全力で弁護してあげる」
こなた「……なぜ私をそこまで……」
かがみ「めぐみさんの知識、技術……それをこなたは受け継いだ、それを使ってつかさを救ってくれた……自分の危険を顧みずにね……それが理由、なによそれだけじゃ不満なの?」
こなた「かがみ……」
かがみ「法律は人を裁くものではなく守るもの、私はそう信じている」
何でだろう、何かよく分からないけど目から涙が出てきた。
かがみ「まだ泣くのは早いわよ、神崎あやめの本当の目的を知るまではね……」
まるでつかさに言い聞かせるかのような言い方に私は我に返った。
こなた「そう言えば招待状なんだけど、あれがかがみ宛てだったのを神崎さんは気付いてしまったよ……」
かがみ「……いいのよ、むしろ気付いて欲しかった、これで私が一枚噛んでいるのが分かったはず」
こなた「え?」
かがみ「こなたばっかりに無茶はさせないわよ、お稲荷さんの事は私達の事でもあるのだから」
それを聞いて何か大きな錘が取れたような気がした。
神崎さんは他人には話すなと言った。だけど……確かにお稲荷さんはかがみ達にとっては家族と同じ。いや、家族なのだから。私は二重スパイって言われても構わない。
私は財布からSDカードを取り出しかがみに渡した。
かがみ「これは?」
こなた「貿易会社の資料室のパソコンからコピーしたデータだよ」
そう、USBメモリーからコピーした。私のノートパソコンを使うためにかえでさんの店に先に寄った。
かがみ「……データを分析するならこなたの方がいいと思うけど……」
こなた「データはコンピュータ関係じゃなさそう、アルファベットの羅列で訳が解らなかった、知っている単語が一つもなかったから英語じゃなさそう」
かがみ「そう……それじゃ預かっておくわ、みゆきにも見せるわ、丁度これから会う約束をしているから」
こなた「あっ、二つだけ注意して、このデータを開く時は必ず通信出来ないようにして、LANケーブルを抜くこと…」
かがみ「ワイヤレス通信も切っておくわ」
181 :こなたの旅I 5/6 [saga sage]:2013/07/10(水) 20:38:50.22 ID:H4+RYPH30
こなた「うん、そうして……それから一度使ったパソコンはもう仕事や私用で使わないでね」
かがみ「専用パソコンを用意すればいいのか、分かった」
急いでデータをコピーしただけだから何が仕込まれているか分からない。
かがみはSDカードを財布に仕舞った。

まなみ「あ、かがみ叔母さんとこなたお姉ちゃんだ」
かがみとの話が一段落した時だった。厨房から出てきたまなみちゃんが私達に気付いた。まなみちゃんは嬉しそうに私達に近づいてきた。それからみなみも少し遅れて出てきた。
こなた「やふ〜、まなみちゃん、さっきの演奏凄かったね」
まなみ「え、聴いちゃったの?」
こなた「うん、聴いちゃった」
かがみ「私も聴いた、今度の演奏会楽しみにしているわよ」
急に顔が赤くなって何も言わなくなってしまった。さっきまであんなに堂々と演奏していたのに。知り合いが居ると緊張するタイプなのかな。
つかさ「こなちゃん!!」
まなみちゃんを呼ぶつもりだったのだろうか。コック姿のつかさが厨房から出てきた。私の顔を見るなりまるで何年も会っていないような勢いで飛んできた。
つかさ「どうして一ヶ月も来なかったの?」
神崎さんの話しはまだつかさに話さない方がいいかもしれない。もし話すならかがみやかえでさんがとっくに話している筈だ。
こなた「ちょっと研修に行っていて……なかなか帰る機会がなくって」
かがみ「こなた曰く……会いたい時に会うのが心情だそうだ、理由なんて要らないってね、つまり一ヶ月間会いたくなかったって事だろ、薄情ななつだな」
こなた「ちょ、か、かがみ、それは……」
あの時言ったのをそんな言い方されたら……いや、そうか。かがみは私のした事ををつかさに隠す為に……かがみに合すか。
こなた「だからこうして来たんじゃないの、会いたくなかったら来るわけないじゃん、それよりかがみさ、少し太くなったんじゃない?」
かがみの眉がピクリと動いた。
こなた「かがみはつかさの所に来過ぎじゃないの、ケーキとか食べまくっていない?」
かがみ「洋菓子店でお菓子を食べないで何をするのよ」
こなた「あらら、開き直っちゃったよ」
かがみの座っているテーブルに置いてあるお土産用の箱を私は見逃さなかった。
こなた「1、2、3、4……あれ、数が多くない?」
かがみ「みゆきのお土産と家族の分よ……」
こなた「本当に? 全部かがみのじゃないの?」
かがみ「う、うるさいわね、どっちでも良いでしょ」
私とかがみのやり取りを見てまなみちゃんが笑い始めた。そして、少し怒り気味だったつかさも笑った。
みなみ「懐かしい雰囲気……思い出しますね、あの頃の時代を……」
私とかがみは顔を見合わせた。まったくそう言う意識はなかった。私はただかがみに合わせただけだった。
それが高校時代によくやっていたのと同じような調子になってしまうなんて。
つかさ「はは、そうだね、なんか懐かしいね……お姉ちゃんとこなちゃん、もうそんな事しないと思ってた、またあの頃に戻りたいね……」
さっきまでグズっていたつかさが笑っている……
かがみ「つかさ、こなたに何か言いたいんじゃなかったっけ?」
つかさは上を向いて暫く考えた。
つかさ「ん〜〜無事に帰って来たし、もういいや……こちゃん、今度からちゃんと連絡して」
こなた「う、うん……」
かがみは私にウインクをした。なるほど。つかさを誤魔化したのか……確かに私だけだと誤魔化し切れなかったかもしれない。
たった一ヶ月来なかっただけでつかさはあの様になってしまう。かえでさんはつかさに何て言うのだろう……
みなみ「それじゃまなみちゃん、続きは私の家で練習しよう」
まなみ「うん……」
つかさ「みなみちゃん、お願いしますね……」
みなみとまなみちゃんは店を出ようとしている。そうだ。試してみるか。
こなた「まなみちゃん、さっきの練習曲もう一度聴きたいな……」
まなみちゃんを呼び止めた。個室で練習しても上がり症は治らない。まなみちゃんは立ち止まって振り向いた。表情を見る限りさっきの時のような覇気はなかった。
こなた「まなみちゃん、私とゲームしていた時を思い出して……」
まなみ「ゲーム?」
こなた「そうだよ、私が居てもちゃんと操作していたじゃん、ピアノもそれと同じだよ……」
まなみちゃんはピアノをじっと見つめた。
まなみ「やってみる……」
まなみちゃんはゆっくりピアノに向かってそっと席についた。大きく深呼吸をすると両手を鍵盤に置いてゆっくり目を閉じた。
私達も店の客も皆まなみちゃんに注目している。緊迫した沈黙が暫く続いた……
まなみちゃんは目を閉じたまま突然ピアノを弾き始めた。
最初に聴いた時よりも激しく、そして繊細だった……我を忘れて無我夢中って感じだな。
さて……どうもクラッシックは私の性に合わない。神崎さんの約束もあるし店を出るか。私が席を立っても皆はそれに気付かない。まなみちゃんの演奏に釘付けになっている。
邪魔にならないようにそっと店を出た。
182 :こなたの旅I 6/6 [saga sage]:2013/07/10(水) 20:39:42.46 ID:H4+RYPH30
 店を出てもピアノの音が漏れている。さっきの練習曲は終わったのに。そのまま別の曲を弾いているようだ。通り掛りの人も数人足を止めてピアノの音に耳を傾け居る。
確かにみなみの言う通りかもしれない。音楽で人の足を止めるなんて並の腕じゃ無理だ……
ピアノの音を背にして駐車場に向かった。
「ゲームとピアノを結びつけるなんて、やるじゃない」
駐車場に着き車のドアを開けようとした時だった。後ろから声を掛けられた。私は振り向いた。
こなた「かがみ……いいの、まなみちゃんの演奏を聴かなくて」
かがみ「つかさとみなみが居るから良いでしょ、私もどっちかって言うとクラッシックは苦手でね……」
こなた「そうなんだ……」
私は車のドアを開けた。
かがみ「神崎あやめにさっきのデータを渡しに行くのか?」
私は頷いた。
かがみ「彼女と私達、どちらが先に分析できるか競争になるかもね……」
競争か……かがみと神崎さんが会ったらどうなるかな……そういえばかえでさんとかがみが最初に会ったらいきなり喧嘩したっけ。でもあの時のかがみは呪われていて普通じゃなかった。
神崎さんもかがみの事を知っている感じだった。記者と弁護士だと立場によっては対立しちゃうかもしれない……
つかさと神崎さんはどうだろう。つかさの天然が炸裂したらどんな反応するのか少し興味がある……
いや、こんな事を考えるはまだ早いか。
こなた「私……これからどうすれば良いかな?」
かがみ「無責任な事は言えないわね、だから敢えて言う、私にも分からない」
こなた「ちょ……」
かがみ「だからこなたの思うようにしなさい、その結果がどうなっても誰も文句は言わないわよ、うんん、言わせはしない」
かがみが初めて私に全てを任せてくれた……
こなた「ふふ、まなみちゃんじゃないけど、少し自信が出てきた」
かがみ「それそれ、そうでないとこなたじゃない」
私は車に乗り込んだ。
こなた「それじゃちょこっと行ってくる」
かがみ「さっさと片付けて来なさい」
私は車を出した。

データを渡せば神崎さんの手伝いは全て終わる
……終わるのかな
何かもっと大きな何かが待っているような気がする。その何かが分からない。もしかしたら神崎さんはそれを知ろうとしているのかもしれない。
それは何だろう。私もそれを知りたい。
私は神崎さんに会いに行く。その何かを知るために。


つづく
183 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/07/10(水) 20:41:32.01 ID:H4+RYPH30

以上です。




この後すぐまとめるので まとめ報告は省略します。
184 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/07/15(月) 21:26:21.94 ID:AiDLb0Nc0
それでは「こなたの旅」の続きを投下します。

5レス位使用します。
185 :こなたの旅 J 1/5 [saga ]:2013/07/15(月) 21:28:27.31 ID:AiDLb0Nc0
J

 次の日のお昼過ぎ……私は神社の前に車を停めた。
神崎さんは夕方って言っていた。随分早く着いてしまった。サービスエリアでもう少し時間を潰してくればよかったかな。
この前の時みたいに待っている必要はない。もうさっさとデータを渡しちゃおう。
このやり場のない気持ちでずっといるのは耐えられない。神崎さんがこれからどんな態度に出るのか……白黒つけてやる。
私は再び車を走らせ神崎宅を目指した。
この前来た時と同じ場所に駐車して車を降りた。そして神崎さんの玄関前に立った。
呼び鈴が押し難い……何故、約束の時間より早いから。データを渡して彼女の態度が豹変するのが恐いから……
やっぱり時間まで待とうかな。いや、もうここまで来て戻るなんて。
「はぁ〜」
溜め息が出た。
私の秘密がバレた。神崎さんは私を記事にするのだろうか。いっその事あの時何もしないで帰っちゃえばよかったかな。
いや、神崎さんを助けないであのまま見捨てて私だけ逃げるなんて出来なかった。
記事にするとかしないとかそんな事を考えていなった。そうだよ逆に考えていたら助けられない。つかさがお稲荷さんを助けた時もそんな感じだったのだろうか。
つかさはあれこれ深く考えないからなぁ……
とか言っているけどこの私だって深く考えている訳じゃない。つかさと似たり寄ったりだ。でも、つかさはお稲荷さんと仲良くなったからある意味つかさの方が上かな……
それに引き換え私なんか……
人差し指が呼び鈴のボタンの前で止まったままだ。かがみに励まされてここまで来たのに……
「あの、何かご用ですか?」
こなた「ふぇ?」
声のする方を向くと正子さん?
正子「貴女は……確か泉さん?」
こなた「は、はい……この前は失礼しました……」
正子さんか。レジ袋を持っている。買い物の帰りだったみたい。
正子「娘に、あやめに用ですか? さっきまで一緒だったのですが生憎別れてしまいまして……夕方頃までは戻らないと思いますけど」
そう、約束は夕方だった……
こなた「そうですよね、約束もその頃だったもので……ちょっと早過ぎました、出直します……」
車を停めてあった場所に向かおうとした。
正子「折角遠い所から来たのですから時間まで上がって待って下さいな」
私は立ち止まった。
こなた「いや、悪いですよ、お邪魔になるかと……」
正子「まぁ、そう言わずに、どうぞ」
正子さんはドアを開けてにっこり微笑んだ。
こなた「……お邪魔します……」
正子さんの笑顔に吸い込まれるように家に入った。
 あの笑顔には逆らえない。つかさやかがみのお母さん、みきさんにしてもそう、みゆきさんのお母さん、ゆかりさんはいつも笑顔だった。
神崎さんのお母さんも同じだった。
……母……か。
186 :こなたの旅 J 2/5 [saga sage]:2013/07/15(月) 21:29:24.66 ID:AiDLb0Nc0
正子「ごめんないね、こんなものしか無くって……」
こなた「お構いなく……」
正子さんはお茶とお茶菓子を私の前に置いた。
正子「丁度一ヶ月くらい前かしら、貴女がここに来たのは」
正子さんは私の目の前に座った。
こなた「そ、そうですね、そのくらいになります」
もう一ヶ月経つのか。潜入取材が終わったからそのくらいの期間は経っている。
正子「あやめもそのくらい仕事で空けていましてね、もしかしてご一緒でしたか?」
こなた「え、ええ、そうですね、半分くらいは一緒でした」
正子「あやめはいろいろなお友達を連れてきますけど、学生時代からの友人の様み見える」
そうか、取材とかでいろいろな人を連れてくるのか。私もその中の一人。
こなた「そうですか、私って童顔だから……身体も小さいし」
正子「ごめんなさい、私はそんな意味で言ったのでは……」
卑屈になったのが悪かった。話が途切れてしまった。初対面の人と話すのは難しいな。正子さんは二回目だけど。同じようなものか。
正子「あやめと今日はお仕事の約束ですか?」
こなた「は、はい……」
正子「そうですか……」
話題を作らないと……そう思えば思うほど何も話題が出てこない。焦るばかりだった。
正子「一昨日、慌てて帰ってくるなり「私宛の郵便はどこ」って問い詰められて、泉さんが出したものではなかったのですか?」
こなた「郵便……いいえ、私は出していません」
正子「良かった、それなら安心」
サイン会の招待状を探しにきたのかな。そうか。神崎さんは私に言われて一度帰ったのか。それでサイン会の招待状を見つけたのか。
こなた「すみません、それで、それより前は帰ってこなかったのですか?」
正子さんは頷いた。
正子「一度も連絡もしないで、酷いでしょ?」
帰っていなかった。まさかとは思ったけど彼女は本当に帰っていなかったのか。一人で貿易会社を調べて居たのだろうか。
お母さんに連絡もしないで一体何を調べていたのか。いや、どんな大事な取材か知らないけどお母さんを放って置いて良いなんてないよ……
こなた「そんなに一人が良いなら引っ越せば良いのに……」
正子「そうね……本当はそれが一番良いのかもしれない、でもあやめは分かれて暮らすなんて一言も言わない、なんだかんだ言ってまだ親離れできていないのかもしれない、
   そう言う私も子離れ出来ていないのかも……」
こなた「ははは、実は私もまだお父さんと一緒に暮らしていたりして……」
正子「そうでしたか……こんな可愛い娘さんが居たら手放したくなるのも分かります」
こなた「はは、もう可愛いなんて言われる歳じゃ……それはないと思うけど………」
正子さんは照れている私を見て笑っていた。
こなた「あやめさんって子供の頃はどんな子だったの?」
正子さんは遠い目で私の向こう側を見た。
正子「そうね……学校から帰ってくると直ぐに遊びに出かけて、夕方になるまで帰ってこなかったかった……」
こなた「それって、遊びが仕事になっただだけで今と同じじゃないですか」
正子さんは笑った。
正子「ふふ、そうかもしれない……あの子は昔からそうだった、何にでも興味を持って……それでいて正義感は人一倍だった、
   いじめられっ子を庇って男の子と喧嘩もしたくらいだった」
こなた「へぇ…」
正子「それでもやっぱり女の子、半べそで帰ってきた……それでも男の子の方に怪我をさせたみたいで、後で学校に呼び出された……」
こなた「あらら……男勝りだったんだね……」
私はただ正子さんに合わせているだけでいい。それだけで話がどんどん進んでいった。
正子「曲がった事が嫌いだった、それでも女の子らしい所もあってね……あれは小学校に入学する少し前だったかしら……
   怪我をした狐を大事そうに抱えてきて、助けたいって……」
狐……怪我をした狐だって……私は身を乗り出した。正子さんは私の反応を見て嬉しかったのだろう、話しを続けた。
正子「野生の動物は無理だよって何度も言い聞かせても聞かなくってね、勝手にしなさいって怒った……だけどあやめは諦めないで看病したみたいね……
   一週間くらいでその狐は元気になってあやめのあげた餌なら食べるくらいまで懐いた……真奈美なんて名前をつけたくらいだからあやめもよっぽど気に入ったみただった」
こなた「ま、真奈美!?」
正子「え、ええ、そうですけど、何か?」
こなた「な、何でもありません、それで、その狐はその後どうしたの?」
傷付いた狐……真奈美……そして、神社のすぐ近くの家……これは偶然じゃない。その狐は、真奈美は……つかさを助けたあの真奈美に違いない。
正子「どんなに馴れても野生の動物は飼えない……別れの日が来ました、丁度あやめが小学校に入学する日だったかしら、狐を山に帰す時……あの子の悲しい顔が今でも忘れなれない
   まるで親友と別れる様だった……」
親友……彼女は狐の正体を、お稲荷さんの秘密を知っているのか。
神社とこんなに近い家だだから。たとえ別れたとしても再会できる機会は幾らでもあるよね
だとしたら……
まさか神崎さんがしようとしている事は。貿易会社に囚われている真奈美を助ける為。これはみゆきさんの推理と一致している……
真奈美は生きているのか……そういえば神崎さんと私達は少しちぐはぐだった。それは私達と同じように彼女にも秘密があるから。
共通の秘密ならもう隠す必要はない。真奈美を助けるなら皆で協力しないと。私達が今まで彼女に秘密にしていたのも無意味だ。
もしかして今一番必要なのは神崎さんとつかさを逢わす事なのかもしれない……
正子「どうかしましたか?」
こなた「え、い、いいえ、何でもありません、あやめさんに早く会いたくなりまして……」
正子「私のお話が役にたったのかしら……」
こなた「なりました、すっごく、あやめさんの事が分かりました」
正子「そうですか、泉さんのその、喜ぶ顔が見られてよかった……」
その後は私の話しを正子さんにした。高校時代、大学時代、もちろんつかさやかがみ、かえでさんの話しもした。
でも、お稲荷さんの話しと潜入取材の話しは出来なかった。

187 :こなたの旅 J 3/5 [saga sage]:2013/07/15(月) 21:30:23.83 ID:AiDLb0Nc0
 夢中で話したせいか時間はあっと言う間に過ぎた。
正子「もうそろそろ帰ってきてもいい頃なのに……なにやっているのか、あの子ったら……」
日は西に傾いてそろそろ夕方だ。だけど彼女は帰ってこない。
正子「しょうがない」
正子さんは立ち上がり携帯電話を手にした。電話をするのか。
こなた「あ、もしかしてあやめさんに連絡を?」
正子さんは頷いた。
こなた「私、そろそろ行かないと、長い間お邪魔しました」
正子「え、で、でも、まだあやめは帰ってきていない、約束は?」
こなた「大丈夫です、彼女に会いに行きますので……当てがあるから連絡しなくてもいいです」
正子「そ、そうですか……」
連絡する必要はない。神崎さんは待っているに違いない。あの場所で……それに確かめたい。もし私の、うんん、みゆきさんの推理が正しければ
彼女はあの場所にいるに違いない。あの神社に……
私は帰り支度をした。
正子「……娘を……あやめをお願いします……」
こなた「え、それってまるで嫁に出すみたいな言い方ですよね……私、一応女なんですけど……」
正子「あらやだ、私ったら……」
私達は笑った。
正子「ふふ、泉さんはあやめと幼馴染みたいですね、どうかあやめの力になってやって下さい」
こなた「どうかな〜 力になってもらいたいのは私の方かもしれない」
正子さんは笑顔で私を見送ってくれた。

 車を走らせて5分も掛からない場所……神社の入り口。
駐車スペースには神崎さんのバイクが停めてあった。間違いない彼女は神社に居る。バイクのすぐ横に車を停めた。
私は入り口に入り階段を登った。
 つかさと真奈美の話で私は疑問に思っていた事が一つだけあった。それは誰にも言っていない。私だけの疑問として仕舞っていた。
それは真奈美が何故つかさを殺すのを躊躇ったのか。止めたのか。それがどうしても分からなかった。
真奈美は人間嫌いだった。それがたった一晩宿屋で一緒の部屋で過ごしただけで心変わりが起きるなんて、いくらつかさが誰でも仲良くなれるって言っても時間が短すぎる。
私が捻くれた考えだった。そう思った時もあったし、誰かに話せばそう言われるだけ。だけど心の奥では釈然としなかった。
そして、正子さんの話しを聞いてそれが解けた。
幼い頃の神崎さんが真奈美を助けたなら真奈美のつかさに対する行動が全て納得できる。だから会いたい。神崎さんに……
それを確かめたい。
頂上に向かう私の足が自然と速くなっていった。

こなた「はぁ、はぁ、はぁ」
 頂上に着くと息が切れていた。ちょっと飛ばしすぎたが……あれ?
周りを見渡しても彼女の姿が見受けられない。確かお弁当を食べていた時はこの辺りで景色を見ていたのに……
私が階段を登って来たのは神崎さんには見えていたはず。って事は……
なるほどね、この前と同じように私を驚かすつもりだな。そう何度も同じ手に引っ掛かるほど間抜けではないのだよ。この神社で隠れるとしたら森に入った奥だけ。
私だってこの神社には何度も来ているからそのくらいは解る。よ〜し。逆に驚かしてやる。
木の陰に隠れながら森の奥へと足を進めた。中は薄暗くてよく解らない。
森の中……そこはひろしとかがみが言い合いをして私が飛び込んで行った場所だった。あの時、確かにお稲荷さんは嫌いだった……嫌いだったけど
今は特にそんな感情はないかな……そういえばみゆきさんも最初は……
『わー!!!』
こなた「ひぃ〜」
後ろから突然の声にビックリして振り向こうとして足がもつれて尻餅をついてしまった。
あやめ「ふふ、私を驚かすつもりだったでしょ……それにね森の奥には行ったらダメだから、昔からの言い伝え」
私は立ち上がりお尻についた土埃を掃った。それを確認すると神崎さんは階段の方に向かって行った。私も暫くして彼女の後に付いて行った。
木の陰に隠れていたのか。そういえば私も木の陰に隠れてつかさを見張ったのを思い出した。
あの時はもう少しでキスシーンを見られる所だったけどひろしに気付かれて……あれ……
この神社に……こんなに思い出があったなんて……

188 :こなたの旅 J 4/5 [saga sage]:2013/07/15(月) 21:33:09.47 ID:AiDLb0Nc0
神崎さんはこの前の時と同じ場所で町の景色を眺めていた。私は更に彼女に近づいた。
あやめ「この景色を今でもこうして見られるのは泉さん、貴女のおかげだったなんて……私は……」
これって、ビルで別れ際の時に言い掛けたのを言うつもりなのかな。私は何もしないでそれを待った。
あやめ「私は……貴女を見掛けだけで判断してしまった、「そんな事なんか出来るはずない」……そう思っていた、真実を見抜けなかった、
    曇った目では真実は見抜けない、記者失格ね……それに私は貴女を危険に曝してしまった……」
こなた「まぁ、誰も私がそんなのを出来るなんて思わないから、気にする必要なんかないよ……」
あやめ「……今の所潜入されたって報道はない、いや、停電の話しすら出ていない、きっと只の事故として処理された、完璧じゃない、どこでそんな技術を……」
ここで誤魔化しても意味ないかな。
こなた「木村めぐみ……さんから教えてもらった、あのUSBメモリーはめぐみさんから貰ったもの、もちろん中身の構造なんか全く分からない、でもそれを使う事はできる」
車の構造は知らなくても運転は出来る。それと同じようなものかもしれない。
私は財布からSDカードを取り出し神崎さんに差し出した。
あやめ「木村……めぐみ……」
神崎さんはSDカードを受け取とった。
あやめ「小林かがみ……貞子Y麻衣子、小早川ゆたか……貞子H麻衣子、田村ひより……この三人の共通点、調べてすぐに分かった、陸桜学園の卒業生……もしかして泉さん?」
こなた「ビンゴ、私も陸桜学園出身……でも今頃になってそんなのを調べるなんて……本当にプライベートは調べないないみたいだね……」
あやめ「それが私のポリシーだから、小早川さんは以前取材した事がある……ふふ、それにしてもどこにどんな接点が出来るなんて分からないものね……」
神崎さんは苦笑いをした。
こなた「これでミッション終了だね、結構楽しかった、こんなのはレストランで働いていたら味わえなかったよ」
あやめ「いや、まだ終わっていない、教えて、どうやってこの神社を寄付した、そして資金は?」
身を乗り出しで来た。これは記者としての好奇心なのか。それとも個人的に聞きたいのか。
こなた「話す前に……条件がある」
あやめ「条件って?」
こなた「私の事を記事にしないって約束して……」
あやめ「そうか、以前私はそんな話しをした……まさか貴女がその本人とは思わなかったから興味を持ってもらうように話しただけ、約束する、記事にはしない」
あっさり約束をしてくれた。かえでさんやかがみの言う通りだった。でも、……疑ってもどうしようもないか。彼女を信じるしかない。
こなた「げんき玉作戦、私はそう名付けた」
あやめ「げんき玉……それって〇〇〇〇ボールで、生き物の元気を少しずつもらって大きな力にする技……」
こなた「当たり、その通りだよ、お金の取引に出る端数を切り取ってスイス銀行に貯めていく」
あやめ「なるほどね、取られた本人はそれに気付かない……取られた量は少なくなくても塵も積もれば山となる……まさにげんき玉そのものじゃない、もしかして私も
    取られたのかしら……」
こなた「さぁね、取られたかもしれない、私自身も取られたかもね」
神崎さんは私の目を見て話し始めた。
あやめ「巨大な力に立ち向かい泉さんはこの神社を守った……誰の為にそんな事を」
こなた「誰の為にって……誰だろう……つかさの為かな」
あやめ「つかさ……あの洋菓子店の店長の?」
こなた「うん」
あやめ「私、闘う女性は好きだな……」
真顔で何を言ってるの……この人。まさか……
こなた「へ、な、なにをいきなり、私はそんな気なんか全くありませんよ……」
神崎さんは笑った。
あやめ「何勘違いしてるの、強い物に立ち向かっていく女性の事を言っている、泉さんはまさにその通りじゃない」
こなた「別に私は戦士とかじゃないけど……」
神崎さんは私に背を向けて景色を見出した。
あやめ「さて、これでスッキリした、泉さんの手伝いも全て終わり、もうこれで貴女は自由だから、もう私に関わらなくて済む」
こなた「関わらなくて済むって?」
あやめ「もう二度と会う事はないでしょうね、短い間だったけどありがとう」
な、何だって、そんなのってないよ、一方的すぎる。
こなた「ちょっと待った、まだ私の話しは終わっていないよ」
あやめ「これから先は私の仕事だから……これ以上貴女を巻き込みたくない」
こなた「もう充分巻き込んでいるよ……」
あやめ「泉さんを危険な目に遭わせたのは悪かった、店長さんにも謝っておいて、さようなら」
自分の話しはしないつもりなのか。そっちがその気なら私にも考えがあるよ。
神崎さんは階段を下りようとした。
こなた「さっき渡したSDカード、データを圧縮して保存していてね、その圧縮方法が特殊で私が持っているUSBメモリーが無いと解凍できないよ」
神崎さんの足が止まった。
こなた「無理に解凍しようものならたちまち自己破壊するようになってる……」
神崎さんは私の所に戻ってきた。
あやめ「とう言うつもり、私を脅そうなんて……」
こなた「もう、騙し合いはやめようよ」
あやめ「騙し合い?」
こなた「そうだよ、私も全てを話している訳じゃない、神崎さん、貴女もね」
あやめ「何を言っているのか分からない……」
さて、今までずっと神崎さんのペースだったけど今度からは私のターンだからね。

189 :こなたの旅 J 5/5 [saga sage]:2013/07/15(月) 21:35:58.05 ID:AiDLb0Nc0
 夕日が差し込んで来た。もうそろそろ日が沈む。私はこの町の風景を初めてこの神社から眺めていた。
あやめ「データを加工するなんて卑怯じゃない、それに騙し合いって……私にそんな疾しいことなんか無い」
神崎さんがあんなにムキになっているのをはじめて見た。卑怯は合っているかもしれない。私はデータを人質にとったのだから。
こなた「木村めぐみ……この名前を出した、神崎さんはその後全くこの事について何も聞いてこなかったけど、行方を追っていたんじゃないの?」
あやめ「そうだけど……」
言葉が詰まっている。やっぱり、隠しているな。それなら……
こなた「柊けいこ、木村あやめはもう何処にも居ないよ」
あやめ「何処にも居ないって、それは亡くなったって意味?」
こなた「少なくとも地球には居ないって意味」
あやめ「な、そんな冗談に付き合って居られない、それより早く解凍する方法を教えて」
神崎さんの声が荒げてきた。
こなた「神崎さんが幼少の頃、一匹の傷付いた狐を拾ったでしょ?」
あやめ「突然何を言っているの、そんなの全く何の関係もない話しを……」
さて、次の話しを聞いてどんな反応をするかな。
こなた「正子さんから聞いた、その狐の名前は真奈美って名付けたんだってね、でも、その狐は最初から真奈美って名前だった……ちがう?」
あやめ「え、あ、う……」
何も反論してこない。そうか。私の勘が当たったみたいだ。
こなた「もし、その狐が真奈美なら私達にもとっても重要な事なんだけどね」
神崎さんは一歩後ろに下がった。そして口を開けて驚きの表情をしていいる。
あやめ「ま、まさか、貴女……その狐の正体を知っているの?」
神崎さんは私達と同じだ。もうそれは疑いの余地はない。
こなた「神崎さんは何て呼んでるのか知らないけど私達はお稲荷さんって呼んでる、知っているかもしれないけどUSBメモリーをくれためぐみさんもそう、けいこさんもね」
あやめ「ま、まさか、私の他にそれを知っている人が居たなんて……」
神崎さんはその場にしゃがみ込んでしまった。
こなた「悪いけど、神崎さんのデータをコピーさせてもらったから、私達にも必要なデータみたいだからね」
あやめ「いくら泉さんでもあのデータを解析なんか出来ない……待って、私達、さっき、達って言ってたでしょ?」
こなた「うん、少なくとも神崎さんが知っている私の知人は皆関係者だよ、勿論かがみ、ゆたか、ひよりもね」
神崎さんはゆっくりと立ち上がった。
あやめ「……これは偶然なの……まさか、私はその秘密を知っている人を探していた訳じゃない、いや、誰も知らないと思っていた」
こなた「どうだろうね、同じ秘密を持っているから自然と繋がったんじゃないの?」
あやめ「それで、貴方達は真奈美さんとどんな関係があるの?」
その話をするのははめんどくさいな。それにもうすぐ真っ暗になっちゃう。
こなた「私は直接そのお稲荷さんには会っていない……そうだね、つかさに会って直接聞くといいよ」
あやめ「つかさ……あの店長に、どうして?」
こなた「彼女が全ての始まりだから」
あやめ「え?」
私は階段の手摺にハンカチを巻いてその上に腰を下ろした。
こなた「下で待ってるよ〜」
そのまま体重を手摺に預けた。滑ってどんどん加速していく。バランスを取りながら下がっていく。
私は休み時間とか暇を見つけて貿易会社のビルの階段で練習した。慣れれば簡単だった。

 神社の入り口に着いて自分の車の近くで待っていると神崎さんが私と同じように手摺を滑って降りてきた。見事に着地すると私の所に歩いて来た。
あやめ「やられた、この下り方が出来るなんて」
こなた「悔しいじゃん、リベンジだよ、リ・ベ・ン・ジ」
神崎さんは笑った。
あやめ「ふふ、分かった、そのつかささんに会いましょう、話しはそれからみたいね」
こなた「うん」
あやめ「その前にこれだけは教えて、柊けいこ会長と木村めぐみが地球に居ないって言ったけど……それはどう言う意味?」
これは言っても良いかな
こなた「お稲荷さんは殆ど故郷の星に帰った、宇宙船が迎えにきてね……どんな方法か分からないけど二人も連れて帰った、だからこの神社にお稲荷さんは居ないよ」
あやめ「帰った……そ、そんな……どうして……」
とても悲しそうな表情。意外な反応だった。
こなた「お稲荷さん個人個人で理由は違うと思うけど……あの二人は……今までの人間の仕打ちを見れば分かると思うけど……」
神崎さんは悲しみを振り払う様に笑顔になった。
あやめ「そう……今日は泊まっていきなさいよ、今から帰ったら日が変わってしまうでしょ、それに母が狐の話しをするなんて、そうとう気に入られたみたいね」
こなた「サービスエリアで泊まろうと思ったけど……お邪魔しちゃうよ?」
あやめ「ぜひそうして」

 私は一番遠ざけていたつかさに神崎さんを会わそうとしている。本当にこれでいいのか。もっと彼女を調べてからでも……
そう思ったりもしたけど。もう決めてしまった事だ。それに神崎さんはお稲荷さんを知っている。そしてつかさと同じように狐を助けている。
きっと私達の仲間になってくれる。そうすればあのデータだって直ぐに分かるに違いない。そう思ってそれに懸けた。
でもさっきのあの悲しい顔は何だろう。あまりに悲しそうだから聞けなかったけど……けいこさんとめぐみさんを知っているいるのかな。
神崎あやめ……まだ何か秘密があるのか。つかさと会って真奈美の話しを聞いて彼女はどうするのかな。
分からない。ただ期待と不安だけが交差するだけだった。



つづく
190 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/07/15(月) 21:38:36.96 ID:AiDLb0Nc0
以上です。

一応作者的には重要な場面なので短いけど投下しました。

次の展開を楽しみにして下さい。

この後直ぐにまとめるので報告は省略します。
191 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/21(日) 20:04:26.52 ID:UWhGMsza0
それでは「こなたの旅」の続きを投下します。
6レスくらい使用します。
192 :こなたの旅K 1/6 [saga sage]:2013/07/21(日) 20:06:01.83 ID:UWhGMsza0
K

こなた「ほい、これでよしっと……ちょっとフォルダー開いてみようか」
あやめ「お願い……」
神社から神崎家に移った私達は神崎さんの部屋でデータの解凍をした。彼女はこの為に専用パソコンを用意していた。彼女にかがみの時の様な忠告は不要みたい。
私はフォルダーをクリックしようとした。
あやめ「待って」
私は手を止めた。
こなた「なに?」
あやめ「泉さん、こんなに早く解凍して良いの?」
こなた「え、それってどう言う事?」
神崎さんの言っている意味が分からなかった。手順で何か間違っているとも思えない。
あやめ「私がいつ約束を破って泉さんを記事にするか、そう思わないの……軽々しく人を信じるものじゃない……」
なんだその事か。
こなた「早いかな、もう神崎さんとは一ヶ月の付き合いだし、それに傷付いた狐を救ったし……お稲荷さんの秘密も知っているからね、もう仲間だよ、
    それに約束破る人が態々そんなの言うわけないじゃん」
あやめ「……おめでたい思考だな……今時珍しい……」
こなた「そうかな、でも、そう言うのって神崎さんが一番嫌いなんじゃないの?」
私はそのままフォルダーをクリックした……アルファベットの羅列……コピーする時ちょっと見たのと同じようなデータ。まったく意味が分からない。
神崎さんはじっとデータを見ている。見ていると言うより……目で字を追っている。もしかして読んでいる?
こなた「何か分かるの?」
あやめ「……これは、ラテン語みたいね……」
こなた「ら、ラテン語?」
あやめ「ふ〜ん……それにしても少し古い……ちょっと時間がかかりそう」
こなた「あ、あの、ラテン度って?」
あやめ「古代ローマ人が使っていた言語」
古代ローマって何時の話しなの。全く分からない。もう少し黒井先生の授業を聞いていればよかった。
こなた「うげ、そんなのを読めるの?」
あやめ「……辞書があればだけど」
こなた「そんなの近所の本屋さんじゃ売ってないよ……」
でも見ただけでラテン語だって分かるのは凄い。もしかしたらみゆきさんと同じくらいの頭脳があるかも。
あやめ「そうね、あとでゆっくり解読してみる」
こなた「神崎さん、いったいこのデータって何?」
神崎さんはディスプレーの電源を切ると立ち上がった。
あやめ「泉さん、お稲荷さんの話しは母には言わないで欲しい」
こなた「え、う、うん、別に言われなくてもそうするつもりだけど」
あやめ「それを聞いて安心した、夕ご飯の手伝いをしているから少し待ってて」
神崎さんはそのまま部屋を出て行った。何かはぐらかされたな。教えてくれなかった。
 ふと壁に貼ってある色紙を見つけた。これは貞子麻衣子のサイン……それも新しい。
なんだ神崎さん、ちゃっかりサイン貰っているじゃないか。
神崎さんの部屋を見回した……そのサイン意外は特に何もない。飾り気もあまりない。女の子部屋って感じはしないな。まだかがみの方が女の子らしい部屋かもしれない。
まぁ私も人の事は言えないか。本棚には専門書がずらりと並んでいる。
コミケに参加しているから薄い本があるかも……彼女の趣味が分かるかもしれない。本棚に手を伸ばした。だけど直ぐに手が止まった。
だめだめ、やめた。人の部屋を勝手に物色するのは止めよう。
私におめでたい思考だなんて言って置いて神崎さんだって他人を自分に部屋に一人だけにして無用心だよ。それとも私を信頼してくれたのかな。
まさか私を試しているって事は……
慌てて部屋を見回した……隠しカメラみたいな物は見えない。もっとも隠してあったとしてもすぐに見つかるような位置には置いていないだろうね……
それとも神崎さんのポリシーとやらが私にも移ってしまったかな。多分今までの私なら躊躇無く本棚を物色していた。
神崎さんか……かえでさんから策士と言われて、かがみからは弱気を助け強きを挫くなんて言われて……それでもって潜入取材。
私が居なかったら確実に捕まっていた。そこまでしてかえでさんは何をしようとしているのか。
幼少時代は活発な女の子。そして狐、お稲荷さんとの出逢い。いったいどんなタイミングで真奈美は神崎さんに正体を明かしたのかな。
かえで「食事が出来たから来て〜」
台所の方から声が聞こえる。
こなた「ほ〜い、今行くよ〜」
まだまだ私は彼女を知らなさ過ぎる。さてこれから少しでもそれが分かるかな。
私は神崎さんの部屋を出た。

193 :こなたの旅K 2/6 [saga sage]:2013/07/21(日) 20:07:09.52 ID:UWhGMsza0
あやめ「ちょっと……母さん、そんな事まで話したの……」
子供時代の話しを聞いたと言うと神崎さんは不快な顔をして正子さんに話した。
正子「何言ってるの、そんな事くらいで……」
食事は終わってもお喋りは続く。女三人寄れば姦しいってやつかもしれない。自分の家でもここまでお喋りに夢中にはなれなかった。
あやめ「なんかしっくり来ない……泉さんの幼少のはなしが聞きたい」
こなた「ん〜それは内緒」
あやめ「なにそれ、お母さんに話せて私には話せないって……それなら、泉さんのお父さんに聞かないと」
こなた「……お父さんに会うって……あまり推奨できないけど……」
あやめ「何言ってるの、私の母には散々会っているくせに、不公平だ」
こなた「……散々って、これで二回目なんですけど……」
あやめ「二回も会えば充分じゃない、私なんか……」
こなた「私なんか?」
あやめ「い、いいえ、なんでもない……」
私が聞き直すと慌てて訂正した。何だろう。正子さんが居間の置時計を見た。
正子「もうこんな時間、片付けしないと、あやめは泉さんの相手をして」
あやめ「あ、う、うん……」
正子さんは台所に向かった。それを確認すると台所に聞こえないほどの声の大きさで神崎さんが話しだした。
あやめ「明日は何時に出るの?」
私も神崎さんの声の大きさに合わせた。
こなた「日が昇った頃かな」
あやめ「それで、柊つかささんにいつ会わせてくれるの?」
こなた「う〜ん、明日って言っても向こうにも都合があるだろうからね、神崎さんは?」
神崎さんは自分の部屋の方を見た。
あやめ「私はもう少しあのデータを解析したい」
調べるって資料がなくて調べられるのかな。まぁ、データに関して言えばまったく私はお手上げだ。もうお任せするしかない。
そういえばつかさの店は毎週水曜が定休日だったな。
こなた「確証はないけど、今度の水曜日はどうかな、つかさの店が休みの日だよ、私も早出の日だから夕方なら時間空くよ」
神崎さんは手帳を出して広げた。スケジュールでも見ているのだろうか。
あやめ「私は構わない、あとは柊さん次第ね」
こなた「早速帰ったら聞いてみるよ、変更があるようなら連絡するから」
あやめ「そうね……そういえば貴女の電話番号聞いていなかった、良かったら教えてくれる」
こなた「あらら、そうだったね、メンドクサイから携帯から電話するから」
私が携帯電話を操作しているのを見ながら彼女は話し始めた。
あやめ「泉さん、貴女って面倒な事は全部他人任せ……それでいて重要な場面では先頭を切って走り出す……」
私は手を止めた。
こなた「へ?何それ?」
あやめ「一ヶ月泉さんと接しての率直な感想よ」
感想か……他の皆からもそう思われているのかな。
こなた「神崎さんは……私から見るといまいち分からない、記者の仕事が邪魔してるのかな、捕らえどころがなくって」
あやめ「別に構える必要なんかない、そうだったしょ?」
こなた「ふふ、そうかも、でもね、かえでさんなんか「策士」なんて言って警戒しているけどね」
あやめ「彼女あは最初から私を警戒していた、記者として行くべきじゃなかったのかもしれない」
こなた「でも、記者じゃないと取材出来ないよ、かえでさんああ見えても忙しい人だから」
あやめ「……」
神崎さんは何も言わなかった。
こなた「送っておいたよ」
神崎さんは携帯電話を確認した。
あやめ「OK、ありがとう、お風呂が沸いているから、それから隣の部屋に布団を敷いておいたから」
こなた「どうも」
あやめ「帰る時、多分母はまだ寝ていると思う、私は多分起きていると思うけどそのまま帰っちゃって良いから、それとも朝食食べてから帰る?」
こなた「いいよ、サービスエリアで済ませるから、データの解析でもしていて」
あやめ「そうさせて頂く」
こなた「実はね、こっちにもブレーン役の知り合いが居てね、もしかしたら神崎さんよりも先に解析しちゃうかもしれないよ」
あやめ「ブレーン役って……貴女って思っていたより顔が広いようね、是非その人も会ってみたい」
こなた「その人も普段忙しいからね、一応誘ってみるよ」
あやめ「もしかして、げんき玉作戦ってその人の考案なの?」
こなた「うんん、あの人はそう言う洒落っ気はないから」
あやめ「誰にも気付かれず、そして誰も傷つけず……その考え方が気に入った、全てにそうありたいものね」
こなた「難しい話は分からないよ」
あやめ「ふふ、そうかもね、貴女はアニメやゲームの話しをするのが似合ってる」
その後は、その通りにゲームやアニメや漫画の話しで盛り上がった。
194 :こなたの旅K 3/6 [saga sage]:2013/07/21(日) 20:08:06.32 ID:UWhGMsza0
 次の日、神崎家を出て直接つかさの店に立ち寄った。時間は丁度お昼を過ぎたくらいだった。つかさの店はお昼の時間はさほど混まないから丁度良いかもしれない。
つかさの店の扉を開けた。
つかさ「いらっしゃいませ……あれ、こなちゃん」
つかさは私をカウンターに案内した。ここならつかさは作業しながら話せる。
こなた「どうも〜あれ、いつもひろしが出迎えるのに?」
そういえばこの前もひろしが居なかったな。
つかさ「う、うん、ひろしさんはお父さんと一緒に神主のお仕事を手伝っているから……」
こなた「もしかして家業を継ぐの?」
つかさ「お父さんはその気満々みたい、本当に継ぐなら神道の学校に行かないと神主になれないけどね」
こなた「それで、本人はどんな感じなの?」
つかさ「どうかな〜、なんだか少しその気になっているみたい」
お稲荷さんが神主か……それも悪くないかも。心の中ですこし笑った。
こなた「でもひろしが家業と継いだらこの店はどうなの、仕込みとか買出しとか大変になるでしょ、アルバイトさんも余計に雇わないといけないよね?」
つかさ「そうだけど、ひろしさんじゃないと出来ない仕事もあるから……」
さすが夫婦って所かな、ひろしって頼りにされているな。
こなた「それなら私の所に戻ってきちゃえば、スィーツの部門はまだ担当固定されていないし、スィーツ以外の料理だって出来るよ」
つかさ「え、ほんとに!?」
つかさは作業を止めてカウンターから身を乗り出してきた。驚きと喜びの表情だった。だけど直ぐに不安そうな顔になった。
つかさ「だけど、かえでさんが何て言うか……今頃になって戻るなんて……」
こなた「かえでさんなら心配ないよ……実はねかえで……あっ」
しまった。この話は止められていたのを忘れていた。やばい。
つかさ「実は?」
つかさが首を傾げた。
こなた「あえ、じ、実は私もつかさに戻ってきて欲しいな〜なんて思っていたから、もしつかさがその気なら私からも頼んであげる、きっとあやのも賛成してくれるよ」
つかさ「ありがとう、こなちゃん、でもまだ決まっていないから、そうなったらお願いするかも」
ふぅ、危うかった。なんだかんだ言って私もつかさと同じだな。秘密を守るなんて出来そうにない。
こなた「まかせたまへ〜」
つかさは笑顔で作業に戻った。そして私に軽食とコーヒーとケーキを用意してくれた。
つかさのあの様子だとかえでさんはまだ話していない。私はかえでさんに酷な事を言ってしまったかな。
こなた「今日はみなみの演奏はないの?」
つかさ「うん、まなみの強化練習でお休み」
こなた「へぇ、それで演奏会って何時なの?」
つかさ「再来週の日曜日だよ、こなちゃんも時間があったら聴きに来てね」
つかさは演奏会のパンフレット兼チケットを差し出した。私はそれを受け取った。
こなた「みなみが凄くまなみちゃんを買っていたけど、スカウトが来るとか、自分を超えたからもう教えられないとか言ってた」
つかさ「そういえばお姉ちゃんも驚いていた」
こなた「私もそう思うよ、あの練習曲が頭の中で今でも響いているくらいだから」
つかさ「ありがとう、」
つかさはそのまま厨房の奥に行こうとした。
こなた「もし、スカウトが来たらどうするの」
つかさの足が止まった。
つかさ「どうするのって?」
こなた「みなみが手に負えないくらいだから、もしかしたら本場に留学とかもあるかもしれないよ」
つかさ「留学って……どこに?」
こなた「分からないけど、クラッシックだと本場はどこだろう」
つかさ「その時になってみないと分からない……それにまなみはまだ一人じゃ何も出来ないし」
こなた「あ、つかさのその台詞、それは私がみなみに言った事だった、ごめん余計な話しだった忘れて」
不安を煽っただけだったか。余計な話しは止めて本題に入るかな。
こなた「そのままで聞いて、今日来たのはね、つかさに会わせたい人がいるからなんだ」
つかさ「え、私に、誰なの?」
こなた「記者の神埼あやめさんって人」
つかさは奥からカウンターに戻ってきた。
つかさ「記者……もしかしてこの前言っていた記者さん?」
こなた「そうだよ」
つかさ「私にインタビューでもするの、それともお店の紹介の取材なの?……私はそう言うの断ってるから……」
そうだった。記者を言うのは余計だった。どうも私って余計な事を言うな……
こなた「うんん、そうじゃない、記者としてじゃなくて、神崎あやめさんとしてつかさに会わせたい」
つかさ「そうなんだ、それなら、こなちゃんがそう言うなら会うよ」
さすがつかさだ、話が早い。
こなた「今度の水曜日ってお休みだよね、夕方は空いているかな?」
つかさ「うん、空いているよ……お客さんなら家より此処がいいかも、お料理も出せるし、お話も出来るし」
この店か。貸し切りと同じようなものか。その方が気兼ねなく話せるかも。
こなた「ついでって言ったらあれだけど、みゆきさんもも会わせたいからもしかしたら来るかも」
つかさ「本当に、嬉しいな、ゆきちゃん最近会っていないから……それならお姉ちゃんは呼ばなくて良いの?」
かがみか……かがみも関係者だよな。でもまったく考えていなかった。確かにみゆきさんに会わせておいてかがみを会わせない理由はないよね。
そこに気付くのはさすが妹と言うべきなのか。
こなた「かがみも呼ぶよ」
つかさ「わ〜なんだか凄く楽しくなりそう、楽しみだな〜♪」
鼻歌を歌いながら作業をし出した。何時に無く体が軽そうにテキパキと動いている。
つかさ「ところで何で神崎さんって人を私に会わせたいの?」
狐……いや、お稲荷さん、いや、真奈美の話は彼女が来てからの方がいいかもしれない。
こなた「それはお楽しみだよ」
つかさ「お楽しみ……そういえばこなちゃんから私に紹介なんて初めてかも、きっと良い人だね」
良い人か……つかさはかがみに私を紹介した時もそう言っていたってかがみが教えてくれたっけな。つかさは全く変わっていないな。
でも気付けば私より先に結婚して子供までいるから驚きだ。
 
195 :こなたの旅K 4/6 [saga sage]:2013/07/21(日) 20:09:03.19 ID:UWhGMsza0
 つかさが出してくれた料理を食べ終わった頃、続々とお客さんが入ってきた。用も済んだ事だし帰るかな。
こなた「ご馳走様、そろそろ帰るね、御代は此処に置いておくよ」
つかさ「あ、御代はいいのに……」
こなた「私もお客様だよ」
つかさ「ありがとうございました、またのお越しを……」
ふふ、つかさからそんな言葉を聞くなんて初めてだ。そこに一人のお客さんがつかさに寄ってきた。
お客「今日はピアノの演奏はないのかい?」
つかさ「すみません、今日はお休みです」
お客「それは残念、最近演奏している子供は貴女のお子さん?」
つかさ「はい、そうですけど?」
お客「素晴らしい演奏だった、将来が楽しみですな」
つかさ「ありがとうございます……良かったらどうぞ」
お客さんは演奏会のパンフレットを受け取るとそのままテーブル席に向かって行った。つかさはお客さんの注文を受けて忙くなった。私はそのまま店を出た。
隣にレストランかえでが見える……顔を出してみようかな。
明日からあの店で仕事か……面倒くさいな。
帰ろう……

 その水曜日が来た。
みゆきさんは仕事の関係でどうしても来られないと返事がきた。
かがみ「まさか神埼あやめを本当につかさに会わせるなんて」
かがみは二つ返事で返事が来た。私の思惑とは全く逆になった。しかも駐車場でばったりかがみと会うなんて。私はそこまで勘は冴えているわけじゃないからしょうがないか。
かがみ「向こうで神崎あやめと何を話したのよ?」
そして。この駐車場で会うのも何かの導きなのか。それともただの偶然なのか。駐車場に忘れ物を取りに来ただけなのに……
こなた「神崎さんは幼少の頃、傷付いた狐を助けてね、その狐の名前が真奈美と言うそうな」
かがみ「な、何だって!?」
驚くかがみ。本当は言うつもりは無かった。どうせつかさと神崎さんが会えば分かる事。
こなた「神崎さんの母親から聞いた話」
かがみ「真奈美って、まさか、嘘でしょ、すると神崎あやめって……」
こなた「そうだよ、彼女は狐の正体を知ってる、それでお稲荷さんの存在も知ってる」
つかさと神崎さんが会えばつかさが動揺してしまって何も話せないかもしれない。だからかがみには前もって話す必要がある。でも電話では話せなかった。
駐車場でかがみに会ったのはまるでそのチャンスを与えてくれたかの様だ。
かがみ「それじゃ貿易会社からもってきたあのデータって?」
こなた「多分それに関係する事だとは思うけど、神崎さんは教えてくれない、だけどつかさと会えばもしかしたら……」
かがみ「そ、そうね、確かにつかさの話しを聞けば彼女にとっても衝撃的なはず……分かった、私に出来る事なら協力する……」
かがみは直ぐにこの状況がどんな物なのか理解した。
こなた「みゆきさんが来られなかったのはちょっと痛いかな」
かがみ「みゆきも誘ったのか、仕事じゃしょうがないわよ、何か大きな山場に来たって言っていた……でもデータはとても興味深いって言っていたから」
こなた「ちゃんと渡したんだね、安心した」
かがみ「それよりかえでさんはちゃんと誘ったんでしょうね、彼女もつかさを理解している一人よ」
こなた「うんん、誘っていない……」
かがみ「何故よ、私やみゆきを誘っておいてあんなに近くに居るかえでさんを呼ばないなんて……」
かえでさんは妊娠しているから……と言えば済む話だけど。言えない。
そんな私の心境を知ってか知らずかかがみはそれ以上私を追及しなかった。
かがみ「つかさの店に行くわよ」
こなた「うん……」

196 :こなたの旅K 5/6 [saga sage]:2013/07/21(日) 20:10:01.35 ID:UWhGMsza0
 つかさの店の扉には定休日の看板が立て掛けられている。でも店の奥に灯りが見える。もうつかさが来ているのか。約束の時間はまだ随分先なのに。
かがみは扉を開けて店の中に入った。私はその後に続いた。
かがみ「入るわよ、つかさこんなに早くから来て……」
つかさ「あ、お姉ちゃん……こなちゃんも、いらっしゃい」
こなた「うぃ〜す」
つかさ「初めて会う人だからおもてなししないといけないでしょ、だから準備をしていたの」
かがみ「お持て成しって、まだどんな人かも分からないのに、つかさ、あんたは「疑い」って言葉をしらないのか……」
こなた「そう言うかがみだって私を絶対に記事にしないって言ってたじゃん、」
かがみの言う通りだった。神崎さんは記事にしないって言った。こうして見るとつかさにしろかがみにしろ本質的には同じなのかもしれない。この件で初めてそれが解った。
つかさ「こなちゃんの記事って何?」
こなた・かがみ「何でもないよ」
つかさ「ふ〜ん?」
つかさはちょっと首をかしげたけど直ぐに料理に夢中になった。
かがみは溜め息を付くと適当なテーブル席にに腰を下ろした。私もかがみと同じテーブルに座った。かがみは店内をぐるっと見回した。
かがみ「お客さんが居ないお店って言うのも静かで悪くないわね……」
こなた「かがみはお客さんとしてしか店に入っていないからそう思うだろうね、私は開店前、閉店後も店に居るからこんな状況はよくあるよ……
    でも、かがみがそう言うとそんな気がして来たよ、良くも悪くも思った事なんか無かったのに」
かがみ「私とこなたは業種が全く違うから、感覚が違うだけなのかもね……つかさとこなたは同じ業種だから私が新鮮に思った事でも当たり前だったりする訳よね」
こなた「私はあまりかがみの業種にお世話になりたくないよ……」
かがみは笑った。
かがみ「ふふ、飲食業と弁護士じゃ客の質が違いすぎる、でもね、正直言ってこなたとひよりが一緒に仕事をしていたら私の客になっていたと思う、
    ゆたかちゃんとひよりだから出来た仕事なのかもしれない」
こなた「はい、その点につきましては反省しております……」
かがみ「本当か?」
かがみは私の目を真剣な顔でみた。
かがみ「いや、やっぱりあんた達にはもう少し監視が必要ね、顔にそう書いてある」
こなた「え?」
自分の顔を両手で触った。
かがみ「あははは、何マジに成ってるのよ、ばっかじゃないの」
こなた「うぐ!」
かがみはたまにこんな事するよな……こんな時にしなくてもいいのに……
つかさ「お姉ちゃん、こなちゃん、ちょっと手伝って〜」
こなた・かがみ「ほ〜い」
私とかがみはつかさの作った料理をテーブルに運んだ。
つかさ「これでヨシ!!」
テーブルには色取り取りの料理が並んでいる。
こなた「ちょっと、つかさ……これ、作りすぎじゃない?」
かがみ「神崎あやめを入れても四人、余るわね」
つかさ「多かったかな?」
こなた「まぁ、余ったのはかがみが全部片付けてくれるから心配ないよ」
つかさ「そうだね、お願いね、お姉ちゃん」
かがみ「お願いって……二十代ならまだしも、幾らなんでも無理よ」
こなた「へぇ、若い頃なら問題なかったんだ?」
かがみ「こんな時に何を言っている」
マジになるかがみ、さっきのお返しだよ。
こなた「余ったらレストランのスタッフ呼んで食べてもらおう」
つかさ「あ、それが良いね」
かがみ「……最初からそうすれば良いだろう……」

197 :こなたの旅K 6/6 [saga sage]:2013/07/21(日) 20:11:04.60 ID:UWhGMsza0
 約束の時間近くなった頃だった。窓越しから一台のオートバイが駐車場に向かうのが見えた。
こなた「お、お客さんが来たようだよ」
かがみとつかさが私の目線を追って窓の外を見た。
かがみ・つかさ「どこ?」
こなた「ほら、大型バイクに乗っている人」
私は指を挿して見せた。
かがみ「大型なんて洒落たもの乗っているわね……神崎あやめか……面白そうな人ね」
つかさ「え、え、どこ、どこ?」
こなた「もう駐車場の方に行っちゃったよ」
つかさ「え〜」
つかさは見逃したか。まぁお約束と言えばお約束だね……
こなた「そろそろ彼女が来るよ、つかさ、準備して」
つかさ「準備って、もう食事の用意は出来ているよ」
こなた「いや、そっちじゃなくて、心の準備だよ」
つかさ「え、そ、そんな事言われると緊張しちゃう」
こなた「いや、別に構える必要なんかないよ、普段のつかさのままで、普通に接すればいいから」
つかさ「うん、それなら出来る」
かがみは食事が用意されているテーブルより後ろに下がり椅子に座った。かがみは様子見って所だろうか。それに主役はあくまでつかさだからそれでいい。
つかさに彼女がお稲荷さんの事を知っているのは教えていない。つかさはそれでいい。予備知識なんか要らない。
つかさはそうやって乗り越えてきた。それに期待する。

 駐車場の方から神崎さんがこっちに向かってきた。ジーパンに皮ジャン姿だ。ヘルメットは取ってある。彼女は店の入り口前で皮ジャンを脱いだ。
定休日の看板があるせいなのか暫く彼女は入り口で何もしないできょろきょろとしていた。つかさがゆっくりと扉を開けた。
つかさ「い、いらっしゃい、こなちゃん……泉さんから聞きました、神崎さんですね……どうぞ」
あやめ「失礼します」
つかさは神崎さんを通した。
こなた「いらっしゃい待っていたよ、こちらが話していた柊つかさ」
二人は軽く会釈をした。
こなた「そんでもって、向こうに座っているのが小林かがみ」
かがみは立ち上がりその場で礼をしてすぐ座った。
あやめ「小林……かがみ……」
神崎さんはかがみをじっと見ていた。
つかさ「あ、あの、始めまして、柊つかさです、記者さんって聞いていますけど」
神崎さんは微笑んだ
あやめ「神崎あやめです、〇〇の記者をしています……」
つかさが手を神崎さんの前に出した。握手のつもりだろう。神崎さんも手を前に出して二人は握手をした。
つかさ「よろしくお願い……う」
ん、つかさの表情が変わった。握手した途端なんか急に苦しそうになった。どうした?
神崎さんの表情もなんかおかしい。無表情に握手した手をじっと見ている。つかさが腕を動かしている。引いている様に見えた。
つかさ「あ、あの……手が……い、痛い!!」
つかさが叫んだ。神崎さんはそれに反応して手を放した。つかさは握手されていた手を痛そうに擦っていた。神崎さんは思いっきり握っていたのか。緊張でもしていたのかな。
なんか変だ。ここは私が入って雰囲気を和らげるか。そう思った矢先だった。神崎さんはおもむろにポケットから何かを出した。
それは……ボイスレコーダだ。
神崎さんはボイスレコーダを操作しだした。そしてつかさの前に向けた。ば、ばかな。神崎さんはつかさを取材するのか。なぜ……私がそれを止めようとした時だった。
私よりも先にかがみがつかさの前に立った。
かがみ「神崎さん、どう言うつもり」
つかさ「お姉ちゃん?」
かがみの声に驚いたのか神崎さんは慌ててボイスレコーダをポケットに仕舞った。だけどもうそれは遅かった。かがみの表情は怒りに満ちていた。
あやめ「これは……ち、違う」
かがみ「何が違う、あんたさっきつかさを取材しようとしていたでしょ、許可も取らないで何様のつもり」
神崎さんは黙って何も言わない。
かがみ「ボイスレコーダの電源入ったままじゃない、帰って…」
つかさ「お姉ちゃん、ちょっと……」
かがみは扉を指差した。
かがみ「帰れ!!」
凄い……あんなに怒っているかがみを見たのは初めてだ。私もつかさも今のかがみを止められない。
神崎さんは手を擦るつかさを暫く見ると脱いでいた皮ジャンを羽織ると店を出て行った。
つかさ「お姉ちゃん……どうして?」
かがみ「あんたは少し黙っていなさい」
かがみは興奮状態だ。今は何を言ってもだめだろう。
 何故。ボイスレコーダを使うなら此処に来る前に操作しておけば気付かれない。それが分からないような人じゃないのに。
まるでわざとしたようだ。わざと……意図的に……どうして。聞かないと。
まだ間に合うかな。
私は店を飛び出し全速力で駐車場に向かった。

 
つづく


198 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/07/21(日) 20:11:49.85 ID:UWhGMsza0
以上です。

この後すぐにまとめるので報告は省略します。
199 :なんかテキストが見つかったので供養(続き無し) [sage]:2013/08/06(火) 22:11:32.15 ID:MxroFafO0
「ええっ、ゆきちゃん痴漢に遭ったの!?」
「つ、つかささん声が大きいですっ!」

 昼休みの中庭、お弁当の包みを開けずに抱きかかえたまま、登校途中の電車内で痴漢された事を告白するみゆき。
 午前中みゆきの様子がおかしいことにこなたが気付き、その理由を問いただした結果がこの答えだった。
 他人に聞かれたくない、といつものB組の教室ではなく中庭まで出向いてきたのも納得できる。
 そう思いながら、かがみは卑劣な行為に及んだ男へ嫌悪感を示し眉をしかめた。

「駅員に突き出さなかったの?あー……混んでて犯人がわからなかった?」
「はい、それもありますが……なにより、その……いきなりだったので混乱してしまって……」

 歯切れの悪い返事をするみゆきに、かがみとつかさは『無理もない』と同情するが、こなただけは少しだけ難しい顔をしながらみゆきを見つめ続けている。

「……んー……みゆきさん、痴漢っていうけどナニされたの?」
「ちょ、こなた、あんたねぇ!やな事思い出させるような真似を……」
「痴漢ってのはすごいデリケートな問題なんだよ、かがみ。
女にとってだけじゃなくて、真っ当に生きようとしてる男にとってもね?
痴漢冤罪のドラマだか映画だか、やってなかったっけ?つかさとか見てないかな?」
「あ、うん、見た見た。すごい辛そうだったよ男の人。職を無くして、友達も離れてって感じで……」

 珍しく真面目な顔で正論を言うこなたを前にして、かがみは『うぐ』と言葉を詰まらせる。

「みゆきさんが男を陥れるなんて可能性はゼロだけどさ、勘違い、不可抗力って可能性はあるんだよ。
痴漢された〜って通報するのは恥ずかしいの我慢するだけで済むけど、もしそれで無実の人が捕まったら人生オワタなんだよね。
たとえ無実を証明しても手に入るのは『勘違いでした☆』っていう手遅れのお墨付きだけ。
だから、慎重になるにこした事はないってこと」

 そこまで言い切って一息つくこなた。
 それを感嘆の目で見つめるつかさに、なんだかとても悔しそうなかがみ。
 みゆきは、頬こそ赤いままだがその言葉に頷いていた。

「それにしても、こなたがここまで物事をしっかり考えられるヤツだとは思わなかったわ……」
「いやほら、ウチにはいつそんな感じでしょっぴかれるかわかんない人が一人いるからネ。
ちょっと調べておいたのさ」
「あー……すごい失礼だけど深く納得してしまったわ」

 雰囲気を和らげいつも通りの猫口に戻ったこなたの説明に、かがみは疲れたようにため息をついた。
200 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/08/07(水) 21:07:20.53 ID:qZn9ISFb0
>>199
乙です。

「柊かがみ法律事務所」のネタみたいですね。

この手のネタの続きは自分では書けそうにない。

まとめはもう暫く様子を見ます。

201 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/08/14(水) 13:51:41.01 ID:eUjWtErL0
それで「こなたの旅」の続きを投下します。

5レスくらい使用します。
202 :こなたの旅L 1/5 [saga sage]:2013/08/14(水) 13:53:07.88 ID:eUjWtErL0
L

 私は走っている。私は間違えたのか。つかさを会わしちゃいけなかったのか。かがみにお稲荷さんの話しをしちゃいけなかったのか。分からない。
つかさと神崎さんはまだ挨拶しかしていない。何も話していないじゃないか。そもそもかがみがあんなに怒るなんて……どうして。
分からない事だらけだ。だから逃げるように店を出た神崎さんを呼び止めないと。駐車場について二輪専用の駐車スペースを見た。
居た!
バイクに跨ってヘルメットを着けようとしている。
こなた「神崎さ〜ん!!」
私は叫んだ。ヘルメットを着けようとする神崎さんの手が止まった。待ってくれそうだ。私はスピードを上げて彼女に近づいた。
こなた「はぁ、はぁ、はぁ」
あやめ「泉さん、貴女って走るのが好きね……これで何度目かしら……」
微笑んで冗談を言う。でもその冗談に対応出来るほど余裕はない。
こなた「ど、どうして……」
息が切れてこれしか言えなかった。神崎さんは店の方を見ながら話した。
あやめ「この私が何も言い返せなかった……生死を潜り抜けたような凄まじい気迫、並の人が出来るものじゃない……柊つかさは彼女にとってどれほど大切なのか、二人の関係は?」
かがみは実際に二度も死にそうになっている。それに弁護士の職業のせいもあるかもしれない。私は呼吸を整えた。
こなた「かがみの旧姓は柊だよ、つかさの双子の姉、つかさがかがみをお姉ちゃんって言っていたの聞こえなかった?」
神崎さんは首を横に振った。
あやめ「あまりの気迫でそこまで気を配る余裕がなかった……双子の姉妹……全然似ていないじゃない、二卵性かしら……」
こなた「そんな事より何故商売道具なんか出したの、もしかしてわざとやったでしょ?」
あやめ「ふふ、そう見える?」
こなた「……まさか、本当にわざとなの」
微笑んだまま何も言わない。私もかがみと同じように頭に血が上ってきた。
こなた「ば、バカにするな〜、私が何でつかさに会わそうとしたか分かっているの、つかさは、つかさはね……」
頭に血が上ってなかなか先が言えない。
あやめ「もう私にはこれ以上関わらないで」
『ヴォン!!』
キーを入れてバイクのエンジンをかけた。
関わるなって、ここまで私を巻き込んでおいてそれはないよ。
こなた「……私達と一緒じゃダメなの、お稲荷さんの秘密を知っている同士じゃん?」
あやめ「これは私の問題だから」
こなた「卑怯だ、ここまで私に協力させておいて……」
「神崎さ〜ん、こなちゃ〜ん!!」
駐車場の入り口からつかさが走って来た。
こなた「一緒に戻ろう、謝ればかがみだって許してくれるよ」
あやめ「それじゃ、さようなら」
『ヴォン、ヴォン!!』
神崎さんはヘルメットを被った。慌てたのか長髪がはみ出ている。アクセルを全開にして私の前から飛ぶように走り去った。
何だろう。つかさを避けるようにも見えたけど……
つかさが私の所に来た時には既に神崎さんの姿はなかった。バイクのエンジン音が微かに残って聞こえるだけだった。

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