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ハギ京「男(裏方)二人のエピソード」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/25(月) 04:12:55.92 ID:pjHLHHSpo
■咲-saki-の登場人物、ハギヨシと京太郎のお話です

■ハギヨシ側→京太郎側の順に書いていきます

■残念ながら作中で二人が直接絡む可能性は低いです

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1361733175
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佐久間まゆ「犬系彼女を目指しますよぉ」 @ 2024/04/24(水) 22:44:08.58 ID:gulbWFtS0
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全レスする(´;ω;`)part56 ばばあ化気味 @ 2024/04/24(水) 20:10:08.44 ID:eOA82Cc3o
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君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713885444/

笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
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【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part10 @ 2024/04/23(火) 17:32:44.44 ID:ScfdjHEC0
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トーチャーさん「超A級スナイパーが魔王様を狙ってる?」〈ゴルゴ13inひめごう〉 @ 2024/04/23(火) 00:13:09.65 ID:NAWvVgn00
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【安価】貴方は女子小学生に転生するようです @ 2024/04/22(月) 21:13:39.04 ID:ghfRO9bho
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ハルヒ「綱島アンカー」梓「2号線」【コンマ判定新鉄・関東】 @ 2024/04/22(月) 06:56:06.00 ID:hV886QI5O
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2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/25(月) 04:20:49.89 ID:pjHLHHSpo

私、龍門渕の家に勤めております萩原と申します。

皆様方からは萩原、ないしハギヨシと呼ばれております。

今回、どう言う訳か私と須賀君がこの御話の主役になったようです。

透華お嬢様を差し置いてこのような扱いを受けるのは、恐縮でありますが。

ひとまずは、身に余る光栄に感謝しながら私の事について語らせていただきます。
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/25(月) 04:29:45.36 ID:pjHLHHSpo

私が、龍門渕の家に訪れたのは物心つく前の事だったそうです。

両親の事は、よく覚えていません。

当主様よりお聞きした話では、やんごとなき事情で私を引き取ったそうです。

当然の事ながら、幼い私には理解出来ませんでした。

ただ一つの事実を除いて。

そう、この身を引き取られた日から、龍門渕の家が私の新しい居場所になったのです。
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/25(月) 04:39:42.99 ID:STmIGYEco
期待
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/25(月) 04:48:18.33 ID:pjHLHHSpo

一応は養子として引き取られました為、私は龍門渕の人間として厳しく躾けられました。

正直を申しますと、非常に辛い経験であったと思います。

耐える事を知らぬ子供ゆえに、文句や我侭を口にする時も少なくありませんでした。

私はその度に、殊更厳しい躾を受けました。

あまりの辛さに、逃げ出してしまいたいと考える事すらありました。

ですが私は、この龍門渕に執事として勤めております。

それは躾が単に理不尽なものではなく、確かなお考えと愛情ゆえのものであったからに他なりません。

事実、幼少時からの教育があったからこそ、私は今も龍門渕の家にお仕えする能力を得たのですから。



この身を引き取られてから数年後の事です。

私は、透華お嬢様と対面する機会を頂きました。

6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/25(月) 05:09:07.36 ID:pjHLHHSpo

当主様はまずこう仰いました。

「私はこの数年、お前を息子として育ててきた。しかし、龍門渕の名を与えてやる事は出来ないのだ」

そう口にされた当主様のお顔は、酷く悲しんでおられるように見えました。

私は当主様にそのような顔をさせる自身に恥じ入ってか、或いは当主様を気遣うつもりで申し上げました。

「承知しております。それに、私にその名は身に余りますゆえ、お気持ちだけでも十二分にありがたい事なのです」と。

それを聞いて当主様はただ一言、「すまない」と仰いました。

私はますます申し訳ないという気持ちが増すばかりでしたが、敢えて何も答えずただ一礼をしました。

その時私が謝った所で、それはお互いを傷つけることにしかならないのだと気付いたからです。

暫く、静寂が続きました。

やがて、それに堪えかねた私は何故自分が呼び出されたのかと問いただしたのです。

誰かの言う通りにしているばかりの私には、それはとても勇気の要る事でありました。

7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/25(月) 05:21:03.76 ID:pjHLHHSpo

少し思い悩まれたご様子で、当主様は仰いました。

「お前に龍門渕の名を与えてやる事は出来ない。であるから、お前に従者としての役割を与える」と。

確かに、養子である私の立場はあまり良くないものでした。

ですから龍門渕家の中には、私を疎ましく思い排除しようとする方々もいらっしゃったそうです。

当主様は、私を家から追い出す事を躊躇っておいででした。

私如きなど、庇い立てなさらなくても良かったのに。

息子として育ててきた。

その一言だけで十分救われているというのに。
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/25(月) 05:31:33.17 ID:pjHLHHSpo

ですが、私はその気持ちを口にはしませんでした。

当主様の…父上からの愛を否定したくはありませんでしたから。

私を守る為の手段が、お互いを赤の他人として扱うというのは聊か以上に皮肉でありましたが。


結論から言えば、私は当主様からのご提案を引き受けました。そして私は申し上げました。

「ありがとう」と。

それが、私の執事としての最初の言葉であり、当主様の息子としての最後の言葉でもありました。
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/25(月) 06:04:50.21 ID:pjHLHHSpo

「ちちゆぅえー、わたくしはいつまでまてばいいんですのー?」

突然どこから声が聞こえたかと思うと、机から小さな女の子が飛び出してきたのです。

その女の子こそが、私の主である透華お嬢様だったのです。

「おいおい、待っていろと言っただろうに」

「わたくしのもとにしつじがくるときいたから、みにいってやろうとしたのにちちりゅえったら」

「そもそも何故来ようと思ったのだ…私がお前にふさわしい執事を見繕ってやると話したのに」

「わたくしにつかえるものは、わたくしじしんがみさだめますわ!」

「むう…」

突然の事に面食らいましたが、かといって黙っていても仕方が無いので

私は「…そちらのお方は?」と問いただしました。すると女の子は、


「よくおききなさい!わたくしは、あなたのあるじとなるりゅーもんぶちとうかですわ!」

「きょうからあなたに、わたくしのしつじとなるめいよをあたえましょう」
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/25(月) 06:16:12.58 ID:pjHLHHSpo

当時の透華様はまだ子供だというのに、頗る尊大な口ぶりでした。

当主様が仰るには、可愛い娘だからと甘やかし過ぎたそうです。

…それを聞いて、私はいささか引っかかるものを感じました。

些細な事でありますが。


ともかく、それが私と透華お嬢様との出会いになりました。
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/25(月) 06:19:29.38 ID:pjHLHHSpo
導入部分だけ書いて一旦終わりにします
やっぱり書き溜めた方がいいんだろうか
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/25(月) 08:18:31.26 ID:rmgpF7bNo
おつ
自分のペースでやってもらって構わないよー
期待して待ってる
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/25(月) 10:18:16.69 ID:xWz+31Kyo

期待
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/25(月) 10:53:37.79 ID:dvKsLPdpo
乙でー
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/02/25(月) 23:33:52.31 ID:pjHLHHSpo

幼い頃の透華様は、大変おてんばな女の子でいらっしゃいました。

同時に、目立ちたがりな所もございました。

…当主様は、これといった区別はせずにお子様方へ次期当主になる為の教育を施しておりました。

透華様の目立ちたがりは、言わば帝王としての自負を表現なさったものなのです。

透華様は女性です。

ですから、旧来からの考えを持った方々から小馬鹿にされる事もありました。

幼いながらも、透華様はそれを良しとしませんでした。



16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/02/25(月) 23:45:17.96 ID:pjHLHHSpo

透華「はぎよし、はぎよし」

ハギヨシ「どうされました?」

透華「わたくしがじきとうしゅになるといったら、おにいさまがたにわらわれてしまいました」

ハギヨシ「どうか、お気になさらず」

透華「そうしたいのはやまやまですが、すておけずにはいられませんわ!」

ハギヨシ「何故でございますか?」

透華「おとうさまは、おとこだから、おんなだからとわたくしたちのありようをきめませんでした」

ハギヨシ「確かに。私も執事になるまでは、養子である私も相当の教育を受けましたから」

透華「そうです。そして、つねにちょうてんをめざすことをこころざすようていおーがくをほどこしました」

17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/02/26(火) 00:02:02.05 ID:DWDZrF0io

透華「…じきとうしゅをめざすのは、あくまでせんたくしのひとつでしかありません」

透華「しかしわたくしは、このりゅーもんぶちのいえをなるたけいちばんのままにしたいのです」

透華「ですから、わたくしはじきとーしゅになりたい」

透華「なのに、わたくしがおんなだからじきとーしゅになれないというやからがいちぞくのなかにいるのです」

透華「わたくしは、かれらのそのきょーりょーさがゆるせません!」

透華「おとうさまののぞむていおうのありかたは、そんなちっぽけなものにこだわっていませんから」

ハギヨシ「…」


透華様のお言葉に、私は何の返事も返せませんでした。

老若も、性別も関係ない。

このお方は、確りとした帝王のあり方を示そうとなされている。

上に立つ者としての、在るべき姿を。

思えばこの時から、私は透華様の為に全身全霊を尽くそうと決意したのでしょう。

18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/02/26(火) 00:14:07.40 ID:DWDZrF0io

―――透華様にお仕えするようになって、数年が経ちました。


透華「ハギヨシ!」

ハギヨシ「はい、透華お嬢様」

透華「…」

ハギヨシ「?」

透華「呼び出されてから、出てくるまでが早くなりましたね」

ハギヨシ「そうでしょうか?」

透華「数年前、最低でも二回は名を呼ばねば出てきてはくれませんでしたわ」

ハギヨシ「何分未熟者でありました故。もっとも、今でもそうでないとは言えませんが」
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/02/26(火) 00:26:32.28 ID:DWDZrF0io

透華「未熟なのは私とて変わりません」

透華「あの頃は、まだ言葉にたどたどしさがありましたし、幼さ故に駄々も沢山こねました」

透華「今となっては、あのような事はしなくなりましたけど」

ハギヨシ「あえて申し上げるならば、透華様は子供として当然の事をなさっただけでしょう」

ハギヨシ「いえ、人として当然の事と言えるかもしれません」

ハギヨシ「常に最良であればそれにこした事はありませんが、難しいでしょうから」

透華「しかし、最良を目指す事は常に出来ますわ」

ハギヨシ「ええ。ですから私は、透華様がそうなさる為の手助けをさせて頂いてるのです」

ハギヨシ「執事とは、その為の存在なのですから」
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/02/26(火) 00:40:23.89 ID:DWDZrF0io

透華「…それで良いのですか?」

ハギヨシ「はい」

透華「貴方はこのまま、執事として在り続けるのですか?」

ハギヨシ「はい」

透華「貴方とて、元は龍門渕の一族として育てられてきたのですよ?」

ハギヨシ「もう昔の事ですから。それに、私は所詮外様でしかありませんから」

透華「…んな事」

ハギヨシ「?」

透華「そんな事、言わないで下さいまし!」

透華「心無い者の為に、貴方が今の立場に甘んじているのは知っているのです!」

透華「本当なら貴方にだって、自分の将来を目指す機会はあった筈でしょう?」

透華「執事となる前は…お父様の息子として育てられてきたのですから」
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/02/26(火) 00:47:55.51 ID:DWDZrF0io

ハギヨシ「…確かに、お嬢様の仰る通りです」

透華「なら…」

ハギヨシ「ですが、私が今の立場に居るのは私自身の意志でもあります」

透華「不当な言い分で、従者としての在り方を強制された事がですか?」

ハギヨシ「当主様に命じられたあの日、私はその気になれば龍門渕の家を去る事が出来ました」

ハギヨシ「そうなれば、一人で身寄りもなく生きていく事になったでしょう」

ハギヨシ「そうしなかったのは、私が所詮籠の中の鳥だったという事なのでしょう」

ハギヨシ「…一人で生き延びるという事が出来なかったのです」
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/02/26(火) 01:03:32.27 ID:DWDZrF0io

透華「…そんなの、当たり前ではないですか!」

透華「それまでの生活を全て失って、生きるという事は並大抵ではありません」

透華「勿論それを可能にした人も居るでしょうけど、口で軽々しく言えるものでもありません」

透華「ですから、自分を卑下しないでくださいまし」

ハギヨシ「卑下では在りません。私にとっては、それが事実なのです」

透華「そんな……」

ハギヨシ「ですがそれは、私が単なる弱者だったからではありません」

ハギヨシ「私は、どうしてもこの龍門渕の家に居続ける理由が欲しかった」

ハギヨシ「私にとって龍門渕家は誇りであり、自分の全てであったからです」

ハギヨシ「それを重荷になると言って、切り捨ててしまうなどとは……」

ハギヨシ「当主様を前にして、そのような事は申し上げられなかったのです」
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/02/26(火) 01:17:16.19 ID:DWDZrF0io

透華「何故?」

ハギヨシ「確かに、私は不都合な扱いを受けました」

ハギヨシ「当主様は私の事を、息子として育ててきたと仰ってくださいました」

ハギヨシ「つまり…私はとうの昔に報われているのです」

ハギヨシ「ですからお嬢様が私に対して、後ろめたいものを感じる必要など無いのです」

ハギヨシ「私は、自分の意志で望んで執事になったのですから」

透華「ですが…ですが…」

ハギヨシ「執事の立場であっても、最良を目指す事は出来ます」

ハギヨシ「幸い私は、透華お嬢様という素晴しい主にお仕えする事になりました」

ハギヨシ「その主にふさわしい執事になるべく、最善を尽くす事」

ハギヨシ「それが、今の私にとってなすべき事であり、望みなのです」
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/02/26(火) 01:34:16.10 ID:DWDZrF0io

透華「…」

透華「…何故でしょう」

透華「とても、とても嬉しく思います。私に仕える事を、喜んで貰えた事が」

透華「そして、貴方が私の執事になってくれた事が」

ハギヨシ「…正に恐悦至極」

透華「で、ですが、その事に対してありがとうなんて言わないんですからねっ!」

透華「主の事を敬うのは、執事として当然の事なんですから」

ハギヨシ「承知しております」

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

まさか、透華お嬢様があんな事を仰るとは思っても居ませんでした。

確かにお嬢様も、あの場で仔細を聞いていらっしゃったのですけれども。

執事として、主に心を砕かせたのは恥ずべき事です。

ですが、お嬢様が私を案じてくれたのはとても喜ばしい事でありました。


25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/02/26(火) 01:35:31.26 ID:DWDZrF0io
ここまで。
結局は即興で書く事にしました。所詮一発ネタなんで。
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/26(火) 03:23:00.95 ID:vv80LdARo
乙でー
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/26(火) 03:58:47.67 ID:DWDZrF0io

「在りし日の龍門渕透華」


ハギヨシ「透華お嬢様!こんな所にいらっしゃったんですか!?」

透華「…めだちたい」

ハギヨシ「は……!?」

透華「ですから、わたくしはただめだちたいだけなのです」

ハギヨシ「だからといって、何も高い木の天辺にまでよじ登らなくても……」

透華「うえにたつものは、つねにしゅうもくのかんしんをあつめるものですわ」

透華「ですから、わたくしがこうしているのもひつぜんなのです」

ハギヨシ「馬鹿な事を仰らず、早く降りてきて下さい」

ハギヨシ「お嬢様の御身に何かあっては、執事として示しがつきませんので」

透華「むー…しょうがないですわね……」


透華「……」

ハギヨシ「……」

透華「……」

ハギヨシ「…どうされました?早く降りてきてくださいませ」

透華「…こわい」

ハギヨシ「……」

透華「こ、こわくてみうごきがとれないのです…どうしましょう?」

ハギヨシ「さあ?」

透華「さあ、じゃありません!ハギヨシあなた、わたしのしつじなのでしょう?」

ハギヨシ「確かに私は、お嬢様に木から下りるようお願いしました」

ハギヨシ「そしてお嬢様は、渋々ながらもそれを了承してくださいました。何か問題でも?」

透華「あ、あなたというひとは……」
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/26(火) 04:15:32.64 ID:DWDZrF0io

透華「も、もういいですわ!」

透華「このていどのこんなん、わたくしひとりでなんとかしてみせます!」

透華「ですから、ハギヨシはそこでみていなさい!」

ハギヨシ「承知しました」

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

―――30分後

透華「む、くっ、この、ふっ」

ハギヨシ「……」

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

―――1時間後

透華「ぬ、ぐぐ」

ハギヨシ「お嬢様。暫く前からその場から動いていないようですが、本当に大丈夫ですか?」

透華「だ、だいじょうぶですわ。わたくしをあなどらないでくださいまし」

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

―――2時間後

透華「……」

ハギヨシ(遂に微動だにさえしなくなりましたか)

透華「…は、ハギヨシ…た、た、た……」

ハギヨシ「た?」

透華「たすけて、くださいまし。わたくし、もうげんかいですわ」

ハギヨシ「承知いたしました」


透華「うっ、うう…ふええ……」

ハギヨシ「これに懲りたら、もう危ない事は控えて下さい」

透華「いやです!」

ハギヨシ「お嬢様!」

透華「いやといったらいやです。わたくしは、めだつためならしゅだんはえらびません!」

ハギヨシ「…あまり聞き訳の無い事を仰るなら、私にも考えがありますよ」

透華「く、くるならこい、ですわ」

ハギヨシ「そうですか。それでは、お嬢様のティータイムは当分無しという事に致しましょう」

透華「ふぇ!?」
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/26(火) 04:32:08.56 ID:DWDZrF0io

ハギヨシ「何か異論でも?」

透華「そ、そのていどのことでわたくしが……」

ハギヨシ「……」

透華「わ、わたくしが……」

ハギヨシ「……」

透華「…う、うええ…やっぱりよしてくださいまし」

透華「てぃーたいむがなくなるだなんて、わたくしにはたえられません……」

ハギヨシ「左様でございますか。なら、仰せの通りに」

透華(ああ、たすかった……)

ハギヨシ「その代わり、もうお転婆は控えてくださいますね?」

透華「え?それはちょっと……」

ハギヨシ「約束出来ないのであれば、やはりティータイムは無しという事で」

透華「か、かんべんしてくださいまし!わたくしがわるうございました!」

透華「ですから、ですから、てぃーたいむをなくすのだけはやめてくださいましぃ!」

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

当主「すまんな…お前には、苦労を掛けてばかりだ」

ハギヨシ「いえいえ、お嬢様を立派な淑女にするのが私の役目でございますから」

当主「本当なら、親である私の役目なのだがな」

ハギヨシ「当主様には他にもお役目がありますゆえ、お嬢様に付きっ切りという訳には参りません」

ハギヨシ「ですから、当主様の手足である私のような者達がそのお役目を幾分か代行しているのです」

ハギヨシ「何より、私自身が望んでそうしているのですから」

当主「そうか。ならば、これからも透華の事をよろしく頼む」

ハギヨシ「…畏まりました」
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/26(火) 04:33:48.40 ID:DWDZrF0io
ここまで。閲覧やコメント、ありがとうございます。
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/26(火) 04:37:15.21 ID:PTwvJ3Zfo
おつつ ハギさんイケメンやな
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/26(火) 08:06:37.60 ID:nrk3CmBDo

ハギヨシさん素敵
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/27(水) 04:06:16.64 ID:TjsGeZfoo
投下します。
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/27(水) 04:20:34.26 ID:TjsGeZfoo

龍門渕透華は魅力的な女性であった。

容姿端麗、頭脳明晰、そして名家のお嬢様。

勿論周りの人間は皆、最初はそういった点に惹かれた。

しかし、彼女最大の魅力はそこではない。

彼女は、生来からの目立ちたがりであった。

その性質により、彼女は自身のステータスを最大限に発揮した。

自分の立場を鼻にかけず、常に自分が目立つ為、最良を目指す為に努力した。

そのひたむきさに、周りの人間は感じ入ったのである。
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/27(水) 04:32:26.63 ID:TjsGeZfoo

それに、目立ちたがりというのは、どうにも俗っぽい欲求の現れでもあった。

令嬢とそうでない者では、やはりあらゆる面において相当の違いがあるものだ。

当然透華は、龍門渕の令嬢である事を自負している。

しかし先に述べたように、奢ってはいない。

つまり、透華は周りと距離を置くような振る舞いを一切していなかったのだ。

結果として、彼女の周りには多くの人が集まったのだ。

であるから、彼女が孤独を感じることは無いはず、だったのだ。
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/27(水) 04:39:44.97 ID:TjsGeZfoo

しかし。

しかし彼女は孤独を感じていた。

彼女は慕われていた。

己の性質ゆえ、確かに慕われていた。

だが、言ってしまえばそれだけだ。

彼女の在り方は、周りに上と下というものも感じさせてしまっていた。

彼女は常に最良を目指していた。

そして、常に最良で在り続けた。

最良で、そして最上で在り続けた。

対等というものを、感じさせなかった。

彼女は目立ちたかった。

その為の努力が、多くの人を惹きつけた。
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/27(水) 04:41:30.59 ID:TjsGeZfoo

だが、寄り添ってきてくれる者はやって来なかった。

友達と呼べる者には、出会えなかったのだ。
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/27(水) 04:50:54.76 ID:TjsGeZfoo

「…ハギヨシ」

私の名を呼ぶお嬢様の声は、酷く震えていました。

「何でございましょう?」

「尋ねたい事があるのです。貴方には、友達が居ますか?」

「何分、私の立場は複雑なものでしたから…そう呼べる者に出会えたかどうかは分かりません」

「そう、ですか」

そう仰ると、お嬢様はその場で蹲ってしまいました。

「お気持ちを害されたのなら、申し訳ございません」

「いえ、貴方のせいではないのです」

「…どういう事でしょうか?」

「そもそも、誰かのせいだとも言い難い。きっと、私が悪いのです」
39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/27(水) 04:58:50.51 ID:TjsGeZfoo

「何故、そのような事を仰るのですか」

私は不思議でなりませんでした。

透華お嬢様が不正を働いたという話など、一切存じませんでしたから。

勿論、あらぬ噂で悪評を流されるなどという事も。

お嬢様は、目立ちたがりです。

ですが、その為なら手段を選ばず軽率な行動をとったりはしません。

そういう、お方なのです。

そう成られる様、私も最善を尽くしました。

なのに、どうしてこうなってしまったのか。

私にはそれが分かりませんでした。
40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/27(水) 05:14:24.23 ID:TjsGeZfoo

透華「私は、次期当主となるべく教育を受けてきました」

透華「そして、その教育の成果を最大限に活かそうとしました」

透華「龍門渕の最上となる…つまりは王としてのあり方を目指しました」

ハギヨシ「そうです。その事に何ら間違いは無いのです、お嬢様」

透華「王であろうとするなら、その通りでしょう」

透華「ですが、人のあり方としては聊か歪すぎるのです」

透華「人は…いえ人に非ずとも、独りでは生きていけないものです」

透華「しかし、王のあり方は言わば孤高。寄り添える者は、どこにも居ない」

透華「ですから…私は独りぼっちになってしまうのです」
41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/27(水) 05:24:01.09 ID:TjsGeZfoo

ハギヨシ「……」

ハギヨシ「…私では」

透華「ハギヨシ?」

ハギヨシ「私では、お嬢様に寄り添える者には成り得ませんか?」

ハギヨシ「私では、お嬢様の悲しみを癒してさし上げる事は出来ないのですか?」

透華「違うのです…そうではないのです、ハギヨシ」

ハギヨシ「何が違うと仰るのです」

透華「貴方はいつも私に尽くしてくれる。傍に居て、私を助けてくれる」

透華「ですが、貴方は執事です」

透華「執事とは、あくまで仕える者であって…友達のようには、決して成り得ないのです」

ハギヨシ「!?」

透華「貴方の気持ちはとても嬉しい。けれど、貴方ではどうする事も出来ません」

透華「仕える者である貴方では、決して」
42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/27(水) 05:31:56.13 ID:TjsGeZfoo

その言葉を聞いて、私は痛感しました。

自分は、あくまで仕える者なのだと。

それ以上の役割は、決して果たせないのだと。

私は、あまりに無力でした。

それどころか、私がお嬢様の孤独を象徴する存在であったのです。

王に仕える従者。

それが私の在り方であり、全てでした。

王の傍に居ながら、しかし王の孤独を促進させる在り方が。

私の存在が、矛盾を孕んでいるのだと…そう思い知らされたのです。
43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/27(水) 05:33:11.72 ID:TjsGeZfoo
ここまで。
44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/27(水) 10:06:06.13 ID:IwAyB2oto
おつん
もんぶちメンバー来るかな?期待
45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/27(水) 21:22:29.24 ID:rMoxLsNdo
乙ーん
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/06(水) 21:54:00.75 ID:8OHG7Lr30
書き込みが無いけども一応見てるし、待ってるぜ?
47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/08(金) 08:36:36.12 ID:Y4KqWp5ko
投下開始
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/08(金) 08:46:05.70 ID:Y4KqWp5ko

透華にその孤独を打ち明けられたハギヨシ。

しかし、彼には何も出来はしなかった。

彼女の望む、友のような存在にはなれない。

執事、即ち仕える者であるが故に。

ハギヨシは、執事としては完全無欠である。

その在り方は、素敵滅法とまで称されるほどである。

しかし、そんな彼であっても主の全てを満たす事は出来ない。

その事実は彼の心に深い傷跡を残したのである。
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/08(金) 08:53:41.87 ID:Y4KqWp5ko

それでもハギヨシは、龍門渕透華に尽くした。

自らに出来る事は何でもこなした。

主の命には、常に期待以上の成果で応えた。

執事として。

ハギヨシは、執事である。

素晴らしいまでに、執事である。

悲しいまでに、執事である。

どうしようもないくらいに、執事である。

主が一番望むモノからは、益々遠ざかっていく。
50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/08(金) 09:09:15.52 ID:Y4KqWp5ko

そうして、幾許かの年月が過ぎた。

龍門渕の家に、一人の女性が現れた。

その女性は、透華が何より望んでいた『友』であった。

待ち望んでいた『友』であった。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

「お嬢様、そちらの方は?」

「私の『友達』ですわ。ねえ、純」

「その言い方、何だか照れくさいな」

「あら、単なる事実の述べただけではないですか」

「そりゃそうだけどさ…えーと…初めまして、オレは井上純って言います」

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

その時ハギヨシは、自分がどうすれば良いのか分からなかった。
51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/08(金) 09:22:33.63 ID:Y4KqWp5ko
一旦ここまで。
気付いたら1週間も放置してた…気をつけないと。
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/08(金) 10:12:48.30 ID:V6AqxMP0o
乙です。
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/09(土) 00:33:00.26 ID:37sCq5yVo
乙ー
54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/03/14(木) 00:15:19.13 ID:Y2HGEhpKo

友達。

当然、一般知識としての意味はハギヨシも当然理解している。

しかし、ハギヨシはその必要性を理解できなかった。

「友達」というものを実感出来なかった。

何故なのか。

それは彼の立場故でもある。加えて、彼の来歴故でもある。

しかし何より、ハギヨシは出来過ぎた男であった。

慕ってくれる者は居たし、交友だってあった。

ただ、懇意にさせては貰えなかった。

であるから、ハギヨシは理解していた。

主である透華の孤独を。

しかし悲しいかな、主を孤独から解放する役目は与えられなかった。

その役目は、目の前に居る雄々しい女性に与えられたのだ。

何故なのか。

何故、悲しみを分かち合えなかったのか。

自分には、それが出来たはずなのだと。

透華を孤独から解放できたはずなのだと。
55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/03/14(木) 00:15:47.75 ID:Y2HGEhpKo


―――それは一体、何のために?

56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/03/14(木) 00:25:19.18 ID:Y2HGEhpKo

本当に、主の為なのか?

同じ苦しみを分かち合う?なるほど甘美な響きかもしれない。

しかしそれは、本当に、本当に主の為なのか?

ハギヨシは、ますます訳が分からなくなった。

傷の舐め合いでもしたかったのか?

それは、本当に主の望んだ事なのか?

それとも自分が望んだのか?そうであると信じたかったのか?

何故?何故?

何故自分は、主に仕えているのだろうか?

何の為に?何が理由で?

そもそも、何故自分なのだろうか?

自分である必要が、あったのだろうか?

主の望みを叶える者は。

主に仕え、命じられる者は。

主の傍に、居るべき物は。



ハギヨシが考えたのは、そこまでだった。
57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/03/14(木) 00:35:05.38 ID:Y2HGEhpKo

というより、それ以上を考えられなかった。

今までの、何もかもを否定してしまうような気がして。

自分が、壊れてしまうような気がして。

いっそ、そうしてしまえば彼にとっては楽だったかもしれない。

しかし。

しかしそれは許されない。

彼は仕える者だから。

主の命に従う者だから。

主にとって、従者とは常に有益な存在でなければならないから。

そして、ハギヨシの矜持がそれを許さなかったから。

執事としての、ヒトとしての矜持が、ハギヨシの自意識を保ったのである。
58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/03/14(木) 00:45:39.97 ID:Y2HGEhpKo

尤も、それで何かが解決した訳ではない。

もどかしさのようなモノは、消えてなどいない。寧ろ大きくなっているのだ。

そしてそれは、何れ弾け飛ぶ。

…だが、ハギヨシはそれから目をそらす事にした。

自らの全てを、極力押し殺す事に決めたのだ。

自分の想いなどでは、決して主の命は果たすことなど出来ない。

もとより、自分には主に命じられた事しか叶えられはしない。

彼は…そう悟ってしまった。

それは果たして妥協なのか、或いは結論までの先延ばしなのか。

当のハギヨシ自身にも、決して分かりはしなかった。
59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/03/14(木) 00:46:51.21 ID:Y2HGEhpKo
一旦ここまで。
誤字とかは全力で見逃してくだせえ。
60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/14(木) 09:42:19.61 ID:2GIWzlImo
乙ー
61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/15(金) 13:41:58.47 ID:n2GDp14F0
乙ー。
投下時もageないのかね?
62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/05/08(水) 13:30:47.11 ID:IFInzhMco

透華「…ハギヨシ、ハギヨシ」

ハギヨシ「…はっ」

透華「一体どうしたというのです。客人の前で呆けるだなんて、貴方らしくもない」

ハギヨシ「…大変失礼致しました。私、執事の萩原と申します。今後ともよろしくお願いします」

純「こちらこそ」

透華「それじゃあ純、これから我が家の中を案内致しますわ」

ハギヨシ「透華様、そのような事は私達従者にお任せなされては?」

透華「このような事も『友達』との付き合いに含まれますし、従者任せにはしたくないのです」

ハギヨシ「…お嬢様が、そう仰られるのでしたら」

透華「では純、行きますわよ」

純「あ、ああ」
63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/05/08(水) 13:45:46.30 ID:IFInzhMco

純「…なあ」

透華「何ですの?」

純「さっきの萩原さん、なんか様子が変じゃなかったか?」

透華「確かにそうですわね。ですが、貴女が気になさる必要はありませんわ」

純「なんでさ?」

透華「ハギヨシが失敗する事など、そうそうある筈も無いのですから」

透華「それに…この家のものは皆、彼の仕事ぶりが如何に素晴らしいかを目の当たりにしているのです」

透華「とはいえ失敗を無かった事にはしませんが…その程度の事で、彼への心配が揺らぐなど有り得ませんわ」

純「…なるほどな」

純(どうせなら、今みたいな言葉を掛けてやっても良かったんじゃねえかなあ…もう済んだ事だけど)
64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/05/08(水) 13:55:33.51 ID:IFInzhMco

ハギヨシ(…お嬢様を、失望させてしまった)

ハギヨシ(何故私は、先程井上様の前でまともに挨拶を交わせなかったのだろうか)

ハギヨシ(挨拶など、数え切れぬ程してきた事だ。礼を尽くす事は、従者として当たり前なのだから)

ハギヨシ(なのに何故だ。何故私は、そうする事が出来なかったのだろうか)

ハギヨシ(…何故)
65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/05/08(水) 13:56:33.03 ID:IFInzhMco
ここまで
66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/05/08(水) 20:04:57.41 ID:CN+dmvSGo
乙ー
続き嬉しいよ―
67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/06/08(土) 00:45:38.38 ID:qh/gxgLRo
まだー
68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/06/15(土) 22:46:47.55 ID:0pn3xw3do

「何故、ハギヨシを後継者から外したか…だと?」

「はい」

「お前も知っているだろう。アレと私の間に血縁関係は無い」

「血縁主義の傾向が強い宗家の人間が、奴の存在を許す訳が無いのだ」

「ですが、龍門渕家はそれ以上に実力主義的でもあります。幾ら宗家と言えども、ハギヨシの実力を無視は出来るはずはありません」

「彼に出来ない事など想像しがたい…誰からもそのように評されていたそうではないですか」
69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/06/15(土) 22:54:49.72 ID:0pn3xw3do

「…それが却っていけなかった」

「?」

「お前は、ハギヨシが誰かに頼る所を目にしたことがあるか?」

「言われてみれば、存外思い当たりませんわね」

「奴に出来ぬ事など、あんまりない。そして奴は、大抵の事は一人でこなしてしまえるのだ」

「普通の人間が複数人でこなしている事さえ、一人きりでな」

「…それのどこがいけない事なんですの?ハギヨシは、自分に出来る事をしただけではありませんか」

「透華、お前はそう思うか」

「勿論ですわ、お父様」
70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/06/15(土) 23:05:29.72 ID:0pn3xw3do

「…なら、これだけは言っておく。皆が皆、お前やハギヨシのようには成れない」

「どういう事ですの?」

「人は、平等ではない。そして、皆が違っている事が当たり前なのだ。それだけは覚えていて欲しい」

「お父様が何故そう仰るのかは解りかねますが、肝に銘じます」

「ならばよい」
71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/06/15(土) 23:19:18.24 ID:0pn3xw3do

「それはそれとして透華よ。今日は家に友達を連れてきたそうじゃないか」

「ええ」

「その繋がりを大事にしたいなら、今私が話した事を良く咀嚼しておきなさい」

「いつか離れる事になっても、お互いの事を良く思い返せるように」

「はい」



(ハギヨシ…お前の思惑がどうであれ、結果として透華は呪われてしまったらしい)

(無論、お前を責めはしない。私とて、とやかく言えた立場ではないからだ)

(だからこそハギヨシ、私は…透華を呪いから解き放たれるよう助力したいと思う)

(それが透華の為であり、私の為であり、お前の為でもあるのだから)
72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/06/15(土) 23:20:10.32 ID:0pn3xw3do
ここまで
73 :>>71 訂正 [sage saga]:2013/06/16(日) 16:14:19.91 ID:lQ1vq5uBo
「それはそれとして透華よ。今日は家に友達を連れてきたそうじゃないか」

「ええ」

「その繋がりを大事にしたいなら、今私が話した事を良く咀嚼しておきなさい」

「いつか離れる事になっても、お互いの事を良く思い返せるように」

「はい」



(ハギヨシ…お前の思惑がどうであれ、結果として透華は呪われてしまったらしい)

(無論、お前を責めはしない。私とて、とやかく言えた立場ではないからだ)

(だからこそハギヨシ、私は…透華が呪いから解き放たれるよう助力しようと思う)

(それが透華の為であり、私の為であり、お前の為でもあるのだから)
74 :>>71 訂正 [sage saga]:2013/06/16(日) 16:25:52.76 ID:lQ1vq5uBo

持たざる者の苦悩は、持つ者には解らない。

逆も然り。持つ者の苦悩は、持たざるものには解らない。

どちらが幸福で、どちらが不幸と言えるのだろうか。

どちらも幸福で、どちらも不幸と言えるのだろうか。

普遍的な答えなど、在りはしない。

だからこそ、各々が出す解答全てに意味があるのではないだろうか。

異なる考えを受け入れられなくとも、違いそのものは受け入れるべきなのではないだろうか。

そうでなければ、いずれ何も受け入れられなくなってしまうだろうから。
75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/06/16(日) 16:47:56.49 ID:lQ1vq5uBo


>>74の名前欄訂正を失念していた…

けれども人は、異なっている事に一抹の不安を覚えるものだ。

多数の人間が醜い、或いは不愉快だと感じたものを美しい、或いは心地よいと感じてしまったら。

そんな人間は、一体自らの事をどんな風に捉えてしまうのだろうか。

多数の人間と異なる自分の一面を知った事で、ある種の優越感に浸るのか。

或いは、自分が心身に異常をきたしてしまったのだと考え、恐れてしまうのか。

さもなくば両方か、もしくはどちらでもない別の答えになるのだろうか。

…考えてさえいれば。

そんな自分に、気付いてさえいればだけれども。
76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/06/16(日) 16:58:20.50 ID:lQ1vq5uBo

考えるとは、それだけならとてもとても悠長な事だ。

まして、精神的なつまづきなど気に留めてはいられない。

それでも、そのつまづきを克服する者は賢明だ。

つまづいた時の事ばかり考え、ただ恐れるだけの者は愚鈍だ。

そして、つまづいた事に気付かない者、或いは気付く事も許されない者は、ただただ哀れである。

彼は…ハギヨシは、どうなのだろうか?
77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/06/16(日) 17:00:05.25 ID:lQ1vq5uBo
ここまで。
78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/06/17(月) 11:44:57.39 ID:zhrq7zWeo

【出逢い】

きっかけは、後輩との他愛ない話だった。



「―――ネット麻雀、ですか?」

「ええ。近頃の学内ではその話題で持ちきりになっておりまして」

「ここ最近、益々麻雀人気は上がっていますものね。特に、女性プロの活躍は目覚しい」

そう口にする透華の目は、何かを羨望しているかのようだった。

「透華様も、ああいう風に目立ちたいですか?」

後輩が透華に尋ねる。

「当然ですわ。どうせなら、小鍛治プロさえも打ち倒して世界1位に挑みたいものです」

「畏れながら…流石の透華様でも、あの方を含む魑魅魍魎の類に挑むのは聊か難しいのではないかと」

いつもの癖で、大言壮語を口にする透華を後輩がたしなめる。

それは、幾度と無く繰り返されてきた光景だ。

「そもそも、私は麻雀のいろはも知らない訳ですけれど。言うだけならタダですよね?」

「そりゃまあ、そうですけど」

「取り敢えず、結論を出すのは彼是やってみてからですわね。今の所、まだ関心を持っただけですから」
79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/06/17(月) 11:52:33.67 ID:zhrq7zWeo

そんなやり取りがあって、それから暫くの間余暇を作ってはネット麻雀に打ち込む日々が続いた。

単なる嗜みとして取り組んでみたはずだったが、透華はいつの間にか麻雀の虜になっていた。

麻雀に関する資料を目にしては、それを吟味しどう活用するかを考えた。

知識と経験を元に、独自の理論を構築していった。

…時々、生来の目立ちたがりでそれら全てを無駄にしてしまう所はあったが。
80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/06/17(月) 12:37:22.29 ID:zhrq7zWeo

やがてはその目立ちたがりが功を奏すようになり、透華は優れた雀士としてネット上で名を馳せるようになった。

そして、透華はある出逢いをする。

「のどっち」こと、原村和に。

それは、龍門渕透華にとって不倶戴天の敵。

同じデジタル派の雀士にして、決して相容れぬ思想の持ち主である。

彼女との出逢いは、一体透華に何をもたらすのか。

それはまたの機会に語られる事となるだろう。



龍門渕透華、当時10歳。

これは、龍門渕に井上純が「友達」としてやってくる3年前の話である。
81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/06/17(月) 12:40:13.52 ID:zhrq7zWeo
ここまで。
82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/06/17(月) 17:08:52.35 ID:zhrq7zWeo

望まれて生まれた命。

望まれず生まれた命。

なれど、同じ命である事に変わりは無い。

本質は同じ。

だが、やはり違いというものは出てしまうものだ。

望まれる命は、その誕生を祝福されるだろう。

望まれぬ命は、呪詛を与えられるだろう。

勿論この事が、幸・不幸に直結するとは限らない。

だが、望まれる命の幸福と、望まれぬ命の不幸が想像し易い事は確かだろう。
83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/06/17(月) 17:17:47.35 ID:zhrq7zWeo

ある少年は…どちらでもあり、どちらでもなかった。

彼は、ある少女を戦いの場へと誘った。

勿論戦いといっても、血みどろの殺し合いなどではない。

だが、互いの培った全てをかけて挑む戦いは決して生半可なものではない。

しかし少女には、そのような場所で他者を圧倒する力を有していた。

その力が、発揮されるべきものだったか…或いはそうでなかったのかは解らない。



いずれにしても、この事実は変わらない。

少年が「魔王」を目覚めさせてしまったという、事実は。
84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/06/17(月) 17:31:13.80 ID:zhrq7zWeo

彼は無辜の者なのか、それとも咎人なのか。

その問いに答えるものは居ない。

確かな事は、少年は軽い気持ちで少女を誘ったということ。

次に、悪意を持って彼は彼女を誘った訳ではないということ。

そして、彼は彼女の持つ「力」を知らなかったということ。

これは果たして、罪であろうか。

罪でなければ、いけないのだろうか。

彼が多くを喪う必要は、本当に在ったのだろうか。
85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/06/17(月) 17:38:22.20 ID:zhrq7zWeo

少年の名は、須賀京太郎。

少女の名は、宮永咲。

京太郎は、ごくごく普通の人間であった。

咲は、そうではなかった。

二人は、中学からの付き合いだったか、或いは幼馴染だったかもしれない。

男女の、惚れた腫れたの関係はない。

だが、気心の知れた仲ではあった。

86 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/06/17(月) 17:59:09.62 ID:zhrq7zWeo

咲は、不幸によって大切な者を喪った。

やがて、家族の絆も失った。

そして彼女は、喪失したものを取り戻したいと考えていた。

彼女は決して幸福ではない。

けれど、不幸でもなかった。

彼女には、困難に立ち向かおうとする意志があった。

その意志は、特別強固ではない。

宮永咲は超人などではなく、ただの少女であるからだ。

それでも、彼女はひたむきに戦った。

「麻雀部みんなで全国に行って、お姉ちゃんと仲直りして…また家族いっしょで暮らすんだ」

それが彼女の想いだった。そしてそれに、歪みなどは一切無い。

あるはずがない。



だが、彼女の有する力はどうしようもなく歪んでいた。
87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/06/17(月) 17:59:45.46 ID:zhrq7zWeo
ここまで。
88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/06/17(月) 18:36:27.73 ID:E9plFhsro
乙乙
89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/06/17(月) 23:17:02.56 ID:94wpQoaRo
先が気になる
90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/06/22(土) 22:29:25.97 ID:m1yChbWVo

彼女は勝利した。

けれど彼女は、何一つ取り戻せなかった。何一つ叶えられなかった。

そればかりか、大切な居場所である麻雀部を失う事になったのだ。

ひょっとしたらあれは、泡沫の夢だったのかもしれないのだけれど。

それでも、彼女にとってはかけがえのないものであったし、拠り所でもあった。

麻雀部へと導いてくれた少年が居なくなり、そして…麻雀部を作った先輩が居なくなるまでは。
91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/06/22(土) 22:51:42.84 ID:m1yChbWVo

前者が居なくなってしまった事が、崩壊の前兆だった。

京太郎は、何だか良く解らない理由で理不尽な目に遭い、結果清澄から去らざるを得なくなってしまった。

彼と彼の家族が、どこへ行ったのかを教えてもらう事さえ出来なかった。

「麻雀部の皆は俺の敵」

それだけを言い残して、京太郎は去ってしまった。

呪詛とも言える言葉を残し、去っていった彼の本意がどこにあったのか咲には解らない。

解りたくもなかった。
92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/06/22(土) 23:09:09.93 ID:m1yChbWVo

京太郎が居なくなって、幾許かの時が過ぎた。

インハイ個人戦においても覇者となった宮永咲を慕う者は少なくなかった。

その圧倒的な打ち筋に魅せられ、将来ある雀士が清澄に転入してくる事もある程に。

麻雀部の部員数は日を追うごとに多くなっていき、ついには白糸台をも凌いだ。

嘗てのように和気藹々とした雰囲気の麻雀部はもうどこにもない。

勝てばいい、それが総てだという徹底した成果主義。

過程などどうでもいい。

それが勝ちに繋がらなければ…まったくもって無意味なのだという思想が、麻雀部を支配する。
93 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/06/22(土) 23:19:29.25 ID:m1yChbWVo

やがて、部員達はこう考えるようになる。

次代へと続く変革は、速やかに成されなければならないと。

その為には、今居る指導者は打ち倒されなければならないのだと。

…結果、部長である竹井久は早々にその座を追われてしまった。

ある意味、それはとても幸せな事だったのかもしれないけれど。

訳の解らないモノの、訳の解らない目的の為に思い出の場所を滅茶苦茶にされる。

そんなおぞましい光景を、もう見ることはないだろうから。



けれど、彼女と共に麻雀部を守ってきた染谷まこは…そんなモノを目の当たりにしなければならなくなった。

それどころか、紆余曲折の末に部長となった彼女は自らの手で思い出の場所を打ち壊さなくてはならないのだ。

勿論それは…片岡優希にも、原村和にも、そして宮永咲にも言える事だ。
94 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/06/22(土) 23:32:59.23 ID:m1yChbWVo

こうして、宮永咲たちの地獄は始まった。始まってしまった。

彼女らでは止めたくとも止められない。

それは決してか弱いからではない。

そういう流れが生まれてしまったからなのだ。

流れに逆らう事は、流れに身を委ねる事よりはるかに困難だ。

個々人の周りに、要らぬ犠牲を強いる事にもなりかねない。

―――これ以上、何かを失うくらいなら。

そう考え、咲たちは耐え忍ぶ事を選んだのだ。

たとえ…自分を押し殺して、自分を失う事になろうとも。
95 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/06/22(土) 23:33:39.25 ID:m1yChbWVo
ここまで。
96 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/06/23(日) 00:17:04.27 ID:vA0iuhY0o
乙ー
97 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/06/23(日) 00:19:33.10 ID:wgguE1ECo

ハッピーエンドが見えない……
98 :>>94 訂正 [sage saga]:2013/06/23(日) 11:15:20.01 ID:MMVysNLuo

こうして、宮永咲たちの地獄は始まった。始まってしまった。

彼女らでは止めたくとも止められない。

それは決してか弱いからではない。

そういう流れが生まれてしまったからなのだ。

流れに逆らう事は、流れに身を委ねる事よりはるかに困難だ。

個々人の周りに、要らぬ犠牲を強いる事にもなりかねない。

―――これ以上、何かを失うくらいなら。

そう考え、咲たちは耐え忍ぶ事を選んだのだ。

たとえ…自分を押し殺して、そして失う事になろうとも。
99 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/06/23(日) 11:26:15.12 ID:MMVysNLuo

勝つ為に戦う。

それ自体は至極当然であり、健全な事だ。

だが、勝つ為「だけ」に戦う事は酷く偏っていて、歪んでいる。

異常とさえ言えるその妄執が何故、病原菌のように蔓延してしまったのか。

勝てば全てを得て、負ければ全てを失う…そういう事なのだろうか。

ならば、ならば何故…勝者である筈の咲達が、何か失わなければならなかったのだろうか。

誰一人として、その問いには答えられない。
100 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/06/23(日) 11:36:27.09 ID:MMVysNLuo

ある所に、敗残の輩がいた。

彼らには絶対的とも言える力を持った指導者が、或いは神にも等しき者がいた。

だが彼は、ある男に打ち負かされ…その命を失うことになった。

彼と同じ頂に立った少年と共に。

そして、彼ら彼女らが胸に抱いた野望と共に。



…全てを、やり直そう。

果たして、そう言い出したのは誰だったか。
101 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/06/23(日) 11:36:58.11 ID:MMVysNLuo
ここまで。
102 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/06/23(日) 18:42:19.90 ID:MMVysNLuo

秋季大会も優勝。

春季大会も優勝。

有象無象共など、歯牙にも掛けない。

学生レベルでは最早相手にならないその雀力は、数多のプロをも滅多打ちにしていった。

日本国内のみならず、世界各地でも清澄が他を蹂躙する。

「グランドマスターの再来」

そう呼ばれた4人の雀士達を、少女として見る者は最早誰も居なかった。

…何故、5人ではなく4人なのか。

それは、先鋒に求められる力が精々焼き鳥にならない程度のものだったからだ。
103 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/06/23(日) 19:01:04.70 ID:MMVysNLuo

―――宮永咲たちは、最早人ではなくなっていた。

何故、あんなおぞましいモノ達が人の形を保っていられるのか、わかる者がどれ程居ただろうか。

「麻雀って楽しいよね」

その言葉が凄まじい欺瞞に満ちた言葉になると、1年前に誰が想像出来ただろうか。

内向的ではあるが、清楚という言葉が似合う文学少女の宮永咲。

生真面目にして上品、かつ天使のようなかわいらしさを持つ原村和。

雀荘…或いは喫茶店の看板娘で、後輩への面倒見も良かった染谷まこ。

そして、お気楽にして大胆不敵で…天真爛漫という言葉が良く似合う片岡優希。

嘗ての彼女らと、今の彼女らを知る者は皆口をそろえて語るのだ。

「この子は、もう居なくなってしまった」と。
104 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/06/23(日) 19:29:40.45 ID:MMVysNLuo

彼女らを形容するのに相応しい言葉は何か?

神?それとも悪魔?

何れも違う。

彼女らには「機械」という言葉が良く似合っていたからだ。

勝つ事だけを求められ、その為だけに麻雀を打つ者。

それはまさに、機械と呼ぶに相応しい。

果たして彼女らは麻雀を打っているのか、それとも打たされているのか。
105 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/06/23(日) 19:39:03.47 ID:MMVysNLuo

「…麻雀って、楽しいよね?」

「私には、もう…解りません」

「そんな事言わないでよ和ちゃん。勝ったら、嬉しくなるものじゃない」

「……」

和は答えない。

咲もまた、口を紡ぐのをやめてしまった。

麻雀によって出逢った二人。

けれど、今ではそれが二人を隔たる境界線となっている。

嘗て、宮永咲と宮永照が隔てられたのと同じように。
106 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/06/23(日) 20:01:31.09 ID:MMVysNLuo

「私は…私は、楽しくない」

「優希ちゃん!?」

「…優希」

「部長も…京太郎も居なくなってしまって、部活の雰囲気も全く別のものへと変わってしまった」

「そんな麻雀部で麻雀を打って、楽しい訳がないんだじぇ……」

「…今の言葉は、他の部員達を馬鹿にしてるの?必死になって、私達みたいに成りたいと願う、あの子達を」

「私達みたいに、なりたい? …プッ」

優希の笑いを見て、咲は憤って何か口にしようとする。だが、それは優希によって遮られる。

「昔…いつも何かを嫌がるような顔で麻雀を打っていたグランドマスター、小鍛治プロみたいになる?」

「それが皆の目標だというのなら、笑うしかないじゃないか…それの何が良いんだじぇ!?」

そう語る優希の声は、怒りに満ちていた。

彼女の顔は、明らかに朗らかな笑みを浮かべていたのだけれど。
107 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/06/23(日) 20:18:55.31 ID:MMVysNLuo

「―――そこまでにしときんしゃい、優希」

「…何を言うんですか、部長」

一触即発のその場に、染谷まこは現れた…後輩達の諍いを、絶望によって止める為に。

そして、彼女は告げる。

「ワシらは、既に多くを犠牲にしてここまで来た。そのワシら自身が、今更自分が犠牲になる事を恐れてどうする?」

「近しき者を、既に二人も犠牲にしてしまったというのに」

「…けれど、けれど先輩」

「久も、京太郎ももう居ないんじゃ。そして、ワシらが大好きだった麻雀部はもうないんじゃ」

「ワシらは…ワシは京太郎、そして久に贖わなければならない。無論、打ち負かしてきた雀士達にもじゃ」

「それがたとえ、只の自己満足でしかなかったとしても」

それは、染谷が後輩と自身に向けた呪い。

決して忘れてはならない過去であり、現在であり、そして未来である。
108 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/06/23(日) 20:30:11.56 ID:MMVysNLuo

「…そろそろ練習に戻りましょう、優希、咲さん」

「うん、和ちゃん」

「…咲ちゃんとのどちゃんは、本当にそれで良いの?」

「仕方が無いんです。今の私達には…こうする事しか出来ないのだから」

「勝ち続ける事。それが、私達4人に求められている事だからね」



そう二人が答えるのを聞き…優希は、全てを悟ったかのように、

「そっか、ならしょうがないんだじぇ」

彼女は笑顔でこう返した。その様は、まるで今にも消えてしまいそうな程に儚く、痛々しいものだった。
109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/06/23(日) 20:30:45.02 ID:MMVysNLuo
ここまで。
110 :>>110 訂正 [sage saga]:2013/06/23(日) 20:32:22.90 ID:MMVysNLuo

「私は…私は、楽しくない」

「優希ちゃん!?」

「…優希」

「部長も…京太郎も居なくなってしまって、部活の雰囲気も全く別のものへと変わってしまった」

「そんな麻雀部で麻雀を打って、楽しい訳がないんだじぇ……」

「…今の言葉は、他の部員達を馬鹿にしてるの?必死になって、私達みたいに成りたいと願う、あの子達を」

「私達みたいに、なりたい? …プッ」

優希の笑いを見て、咲は憤って何か口にしようとする。だが、それは優希によって遮られる。

「いつも何かを嫌がるような顔で麻雀を打っていたグランドマスター、昔の小鍛治プロみたいになる?」

「それが皆の目標だというのなら、笑うしかないじゃないか…それの何が良いんだじぇ!?」

そう語る優希の声は、怒りに満ちていた。

彼女の顔は、明らかに朗らかな笑みを浮かべていたのだけれど。
111 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/06/23(日) 20:33:32.84 ID:MMVysNLuo
ミス。>>110>>106の訂正。
112 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/06/24(月) 23:17:48.42 ID:YMzP1HB+o

それから、麻雀部だったモノはどうなったのだろうか。

原村和、片岡優希、染谷まこ、そして宮永咲はまた楽しい麻雀を打てるようになったのだろうか。

竹井久は、須賀京太郎は無事に生きているのだろうか。

彼女らを利用しようとした悪辣な者達は、果たして本懐を遂げる事が出来たのだろうか。



「今は」もう、その全てを知る者は居ない。

一つだけ確かなのは、只々不毛なだけの行く末はある一人によって背負われているという事だけだ。
113 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/06/24(月) 23:25:02.54 ID:YMzP1HB+o

そして、これまで語られてきた清澄の物語は…透華やハギヨシ達とは何ら係わりを持たない。

今までも、今も、そしてこれからも。

ひょっとしたら、ただ一人は係わりを持ってしまうかもしれないが。

けれど、それで何かが大きく歪められる事は有り得ない。

もう、終わってしまった事なのだから。

誰からも忘れ去られてしまうであろう過去は、最早省みられる事も無くなるだろう。
114 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/06/24(月) 23:27:38.15 ID:YMzP1HB+o



―――忌まわしき過去は、須賀京太郎という少年と共に終焉の時を迎える。


115 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/06/24(月) 23:29:10.62 ID:YMzP1HB+o
ここまで。
116 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/06/25(火) 00:07:21.25 ID:uAHMboSlo
117 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/06/25(火) 15:59:28.35 ID:ATB9MXQco

清澄を去った少年、須賀京太郎。

彼は敗残の将と共に、もう一度全てをやり直そうとしていた。

こんなはずではなかった過去の為に。

こんなはずではなかった現状の為に。

舞台を変えて、もう一度やり直そうとしていたのだ。

長野と同じく、のどかな自然に包まれたかの地で。
118 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/06/25(火) 16:03:13.59 ID:ATB9MXQco

やり直せるはずなど、ないというのに。

後悔が、未練が、そして妄執が彼らを愚行に駆り立てる。

過去の為に、未来を犠牲にしようとする。

過去があってこそ、現在があり、未来がある。

であるから、過去を顧みて行動する事自体は、そう間違った事でもないのかもしれない。



既に終わってしまった事実を覆そうとするのは、全くもって愚か極まりないのだが。
119 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/06/25(火) 16:03:39.68 ID:ATB9MXQco
ここまで。
120 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/06/26(水) 02:20:23.62 ID:xfvtxLo6o

龍門渕家現当主は、所謂入り婿として迎え入れられた者である。

当然、彼が当主に据えられる事に反発した者は少なくなかったが、結局は受け入れられる事になった。

であるが、現当主が次代の後継者として目を掛けていたハギヨシの存在は認められなかった。

血縁も無く、一族所縁の者でもない彼をも受け入れるのは容易ならざる事であったからだ。

それに、現当主には政治的味方が決して多いとは言えなかった。

場合によっては、宗家の血筋を絶やしてしまいかねないような行いが受け入れられるはずは無い。



何より、名家である龍門渕家の一族たる自分達が、そうでないモノに劣ると断じられた。

その事実を、是が非でも否定したいという思惑は、ある意味必然と言えるだろう。
121 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/06/26(水) 02:33:42.53 ID:xfvtxLo6o

己の分を弁えず、血筋だの何だのに拘る宗家の者達。

正直な所、現当主は彼らを畏れてなどいなかった。

自らの程度を下げ、つまらぬ言葉で他者を蔑むような品の無いケダモノ。

名家というブランドにただしがみつくだけで、その益になるような事は何もしていない餓鬼共。

その程度の存在と成り果ててしまった者達を、彼は只々哀れだと思っていた。



…彼が畏れていたのは、彼でさえ及びもつかぬ程の力を持った、深遠に身を置く者達。

人の領域では到底理解する事の叶わぬ、超常的な現象を引き起こす魑魅魍魎。

―――天江家もその内の一つだった。
122 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/06/26(水) 02:48:26.80 ID:xfvtxLo6o

当主が初めて天江衣に出会ったのは、衣が3歳になる頃の事だ。

天真爛漫を絵に描いたような、いや、着ているような可愛らしい少女だった。

そのはず、だった。

只の可愛らしい子供であるはず、だったのだ。

「はじめまして、衣ちゃん」と彼が声をかけると、彼女はこう答えた。

「…ふむ。龍門渕の現当主は中々に出来ると聞いていたのだが、思いの外期待外れだったな」

当主は震撼した。

だが、あまりにも年不相応な彼女の発言に怯えたのではない。

彼女を覆う得体の知れないナニかを、敏感に感じ取ってしまったからだ。

その時、彼は気付いた。

迂闊にも、興味本位に深遠を覗き…それに引き込まれてしまった事に。

覗けば、覗かれる。そんな当たり前のことさえ、失念してしまっていた己自身に。
123 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/06/26(水) 02:48:52.66 ID:xfvtxLo6o
ここまで。
124 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/06/26(水) 07:41:14.94 ID:0HlY5CS3o
乙ー
期待
125 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/06/27(木) 23:59:10.41 ID:EIFD5WoSo

―――天江衣。

「牌に愛された子」の一人。

彼女の居場所を作る為に、透華は多くの犠牲を払った。

多くの雀士を潰してまで、井上や沢村…それに国広を見繕った。

旧来からあった龍門渕の麻雀部も潰してきた。

残念な事に、衣の孤独が完全に解消されはしなかったけれども。



この頃の衣と、透華に出会う前の衣には明確な違いがある。

孤独を知らないという事。

誰かを壊してしまうのに、何ら思う所が無いという事。
126 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/06/28(金) 00:09:23.32 ID:mDpnQm0to

…彼女にとって他者とはおもちゃであり、面白くないモノは容赦なく切り捨てる。

そうして、切り捨てられた相手の事など見向きもしなくなるのだ。

高校2年頃の彼女は、自分と対局した相手がどんな顔をしているのかを知っていた。

だが、この頃の彼女はそれさえも素人はしなかった。そのような事は、想像の埒外なのだから。



考えてみれば…龍門渕当主によって監禁状態になる以前に、既に囚われていたのかもしれない。
127 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/06/28(金) 00:19:07.76 ID:mDpnQm0to

さながら、檻の中に居る猛獣のようなものだろうか。

彼女に近寄る者はいる。

けれど、傍に寄ろうとする者は中々いない。

後に始める麻雀に限って言えば、そもそも傍に近寄ろうとする事さえ至難。

人の中に在りながら、人の生き方を許されなかった。

そんな衣を、後に置いてきぼりにしてしまう事になる彼女の両親は…何を考えていたのだろうか。
128 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/06/28(金) 00:20:13.16 ID:mDpnQm0to
ここまで。
129 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/06/28(金) 16:44:44.17 ID:mDpnQm0to

―――男は語る。

「ヒトガタでありながら、ヒトを逸脱している。あの子は…そういう存在だ」

「ならば、人ならざる者の生き方を身に付けるべきではないのかな?」

「ヒトであろうとあらざるとも、自身に対する近似性と相違性が強い存在は疎む」

「これは諦観ではない…許容なのだ」

龍門渕当主は、目の前の男…天江衣の父親の発言であっけにとられた。

あまりにも、その考えが歪んでいたから。そして、彼は歪みの正体を知ろうとせずにはいられなかった。

「…馬鹿な。親である貴方がたは、娘が進んで孤独になる事を是とするのか?」

「その通りだ。そもそも始めから、一人きりなのが当たり前ならばそれを苦にする事はあるまい」

「絶対神でもこさえるつもりかね…その矛盾は、何れあの子を蝕むぞ」

「それで壊れてしまうのなら、そこまでの存在だったという事だ」

「子を慈しむ気は、無いと?」

衣の父は、表情を一切変える事無く問いに答える。

「馬鹿な事を仰る。ただいたずらに情けを与えた所で、衣の為にはならない」

「衣は、強者となるべく強大な力を与えられて生まれてきた。力には、権利と義務が生じるのだ」

「力を持っていても、それを持つ者が弱ければ不幸が生じる。それは避けなければならない」

「だが、それが人間性を廃してしまう理由にはならない。理性なくしては…手当たり次第に力を行使するぞ」

「その力が何を齎すか知りもせず、知ろうともせず…そうして、満足する事も知らぬ」

「それでは、まるで餓鬼ではないか」
130 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/06/28(金) 16:46:59.40 ID:mDpnQm0to


「それならそれで良い。生けとし生けるものははみな、あるべきようにあるべきだ」

131 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/06/28(金) 17:01:22.75 ID:mDpnQm0to

「…何とむごい事を」

「心外な。あるべきように生きる事が、生けるもの全ての幸せなのだ」

「人には人だけの生き方があり、他の生き物には各々だけの生き方がある」

「個体レベルで考えれば、より多種多様な生き方が成立するだろう。まして数多き種族の人ならば」

「こればかりは、仕方の無い事だ」

やはり諦観ではないか。そう思いつつ当主は言葉を続ける。

「その為に、多くの者が貴方の娘に壊されても良いと言うのか」

その問いに、立ち会っていた衣の母が答える。

「それが必然であるなら、私たちはただ受け入れよう」

「私達は、何があっても衣子の存在を肯定する。たとえ、私達以外の全てが彼女を否定する事になろうと」

「…あの子がああ在る事を望まない、あの子を許容できない貴方がとやかく言うべき事ではない」
132 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/06/28(金) 17:26:30.16 ID:mDpnQm0to

ここに至り、当主はついに観念した。

「…どうやら私が軽率かつ独善的過ぎたようだ。申し訳ない」

「解っていただけるのなら、私達はそれで良い。それと、我々からも一つ訪ねて良いだろうか?」

「何ですかな?」

「貴方の娘…透華といいましたか。あの子の事を、貴方はどのように考えておられる?」

その問いに当主はハッとなった。まるで、忘れていた事を思い出したかのように。

「失礼ながら…どのような意図があって、そのような事を申されるのですか?」

「ひょっとして、気付いておられないのか…いや、少しばかり意識の外にあったのでしょうね」

「我々に衣の事を問いただした辺り…少なくとも無意識下では気付いているかと」

『気付いてはならない』

「何を…言っている」

『気付かれてはならない』

「要するに、貴方の娘は特別な存在だという事です」

『あの子は、人として人に許容される人間でなければならないのに』



「透華さんは、衣と同じ側の存在…すなわち、許容され難い存在なのだ」

『やめろ』

「恐らく貴方は、衣の在り方に何かしらの既視感を感じたのでしょうな」

『やめてくれ』

「何者をも寄せ付けぬ、絶対的な”何か”を」

『私の前から透華を、遠い所に連れて行かないでくれ』
133 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/06/28(金) 17:27:15.48 ID:mDpnQm0to
ここまで。
134 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/06/29(土) 01:53:43.53 ID:DDeeAvPQo

…それから当主は天江家の二人と何やら話をしていたはずなのだが、彼はその内容を良く覚えていなかった。

ひょっとしたらこの先、娘がどこか遠い所に行ってしまうかもしれない。

確かに別れは必然。

だが、別れる理由が得体の知れないナニかのせいになる事を肯定は出来ない。

大まかに言えばそんな所だ。



この世界には、不思議な力を持った人間が多くいる。

女仙を従える巫女がいるという話。

腕から暴風を起こす少女がいるという話。

眩き星の光をその身に宿す少女がいるという話。

そのような伝説めいた話が、当たり前のように存在しているのだ。

そして、そうした話の多くには大なり小なり麻雀が関わっていた。

…一説には、麻雀が世界中で普及したのはこのようなオカルトめいた力を活用する為だと言われている。

荒唐無稽な話かもしれない。

しかし、あらゆる分野の第一線には強い麻雀打ちが相当数いるのもまた事実。

政治の世界なら尚更だ。そんな訳で、強ち嘘や迷信などとは言い切れないのかもしれない。
135 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/06/29(土) 02:08:29.54 ID:DDeeAvPQo

そんな世の中にあって何故、龍門渕当主は娘にオカルトの力が宿っている事を恐れたのか。

答えは簡単。先の通り、彼は透華に人として生きていて貰いたかったからである。

オカルトの力を宿した者が、その生き方を制限される事を知っていたからである。

実際、ある村ではオカルトの力を宿した少女が限界集落の中で生活する事を強要されていると聞く。

それに当主は、天江衣という実例も目の当たりにしている。

年端も行かぬ頃から、その生き方を制限される子供が居る事を…彼は許容出来なかった。

生きているのではなく、生かされている。法の上でも、子供は得てしてそのような存在であるのだけれど。

…それでも、なるべくなら選ぶ権利を行使させてやりたいと思うのは当主の傲慢…或いは甘さだろうか。
136 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/06/29(土) 02:21:33.76 ID:DDeeAvPQo

この世界は、決して平等ではない。

貧富があり、優劣があり、その存在を明確に否定する事は不可能、或いは困難だ。

無辜の者が、生きている事さえも肯定されない現実さえある。

結局の所、そんな不平等を肯定も出来ず否定も出来ずというのが現状だ。

これからも変わる事は無いだろう。

けれど、それに何ら疑念も持たずただ受動的に受け入れる事は決して好ましくは無い。

何の力も無い子供に、大人がひたすら理不尽を受け入れる事を強要してはならない。

少なくとも、当主はそのように考えていた。
137 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/06/29(土) 02:22:02.92 ID:DDeeAvPQo
ここまで。
138 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/06/29(土) 03:59:44.88 ID:DDeeAvPQo

…結局私は、親としての最善を尽くす事が出来なかった。

萩原は立派な青年に成長したが、私が政治に負けたばかりに執事である事を強要してしまった。

尤も、アイツが当主の道を選べなくなった理由は他にもあるのだが…結局私にも責が在る事に変わりはあるまい。

透華にしてもそうだが、もう少し妥協だとか加減だとかを教えてやるべきだったか。

今となっては、先に立たぬ後悔でしかない。



透華は相変わらずのお転婆ぶりだが、やはり今でも力に蝕まれてしまっている。

全てを治めるあの力。あれもまた、透華の持つ性質が麻雀によって顕在化されてしまった結果だろう。

忌々しい化け物…天江衣のせいだろうか。

いや違うな。アレは…彼女はきっかけの一つに過ぎないし、私自身のやっかみで責める訳にもいかないだろう。

それに、衣は透華にとってかけがえの無い家族になってしまっている。

最早二人を分かつ事など出来はしない…今の私に出来る事と言えば、精々娘達の今後を見届けるくらいか。



―――私は、失敗した。
139 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/06/29(土) 04:14:28.56 ID:DDeeAvPQo

龍門渕透華には、自らの変革を促した出逢いがいくつかある。

ハギヨシとの出逢い。

麻雀との出逢い。

衣との出逢い。

そして、最も衝撃的だった「のどっち」との出逢い。

この4つの出逢いこそが、彼女の持つ「治水」の力を覚醒させるきっかけであった。

そのどれもが、彼女の成長には欠かせなかった事。

けれど、これらの出逢いがなければ彼女はきっと平穏無事な人生が約束されていただろう。



…似合わない、らしくないと言ってしまえばそれまでか。
140 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/06/29(土) 04:26:42.95 ID:DDeeAvPQo

何だか良くない事ばかりの様に書いてしまったが、実の所そうでもないのかもしれない。

「一体何ですの、あの打ち手は!」

彼女は何事においても一生懸命で、

「こちらの目論見を、悉く、しかもノータイムで打って潰してくるだなんて!」

無駄とも言える程に素のテンションが高くて、

「何より!私より目立っている事が!一番、いっちばん気に食わない!」

そして何より、生粋の目立ちたがりなのだから。



しかし彼女は、この物語の主役では…ない。
141 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/06/29(土) 04:27:10.49 ID:DDeeAvPQo
ここまで。
142 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/06/30(日) 05:30:16.42 ID:IJfmWFNto

この物語に、道筋は無い。

故に何もかもが無軌道で支離滅裂だ。けれど、結末の一端だけははっきりしている。

少女達には、先がある。

青年にも、先がある。

そして、少年には先が無いという事だ。

先の長い未来がある筈の少年には、未来が与えられないという事だ。

そして、そんな理不尽はいついかなる時でも等しく与えられる可能性がある。

たとえその可能性が限りなくゼロに近かろうと、或いは100%に近かろうと。

惨たらしい事ではあるが、それもまた森羅万象の在るべき姿なのだろう。



―――やはり万物は、等しく平等であり…不平等だ。
143 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/06/30(日) 05:42:04.45 ID:IJfmWFNto



透華は激怒した。

必ず、あのいけ好かない天使とやらを地に伏させてやろうと決意した。

透華には妥協が解からぬ。

知りもしない。

いかなる時でも、諦め悪くして事に及ぼうとするのをやめない。

透華は、病的なまでの目立ちたがりである。

目立つ事が、彼女の根幹であるといっても良い。

彼女の人間性はそれを軸として機能しており、これが損なわれる事はアイデンティティの喪失に繋がりかねない。
144 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/06/30(日) 05:56:36.47 ID:IJfmWFNto

けれども、彼女には自身の意志によらず妥協を選択する力が宿っている。

「治水」

自らの欲望はおろか、相対する者全員の力を無に帰する力である。

そして、目立とうとする事を止めた彼女は常に勝つ為の理想的な展開を作り上げる。

何者をも寄せ付けない、孤高そのものを体現するその有り様。

透華自身の理想とは近くて、遠い。
145 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/06/30(日) 06:05:12.80 ID:IJfmWFNto

彼女の二律背反が成立するまでは、そう遠くない。

もしこの頃、透華が和に出会っていなければどうなっていただろうか。

今となっては、それを知る事は永遠に叶わない。
146 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/06/30(日) 06:06:05.41 ID:IJfmWFNto
ここまで。
147 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/01(月) 12:48:50.16 ID:HgPcYHWFo


透華がのどっちに打ちのめされた少し後の頃。


透華「ハギヨシ!ハギヨシ!」

ハギヨシ「何でございましょうか」

透華「私、事もあろうにネット麻雀で焼き鳥にされてしまったのです」

ハギヨシ「透華お嬢様がそのような不覚を取るとは。いやはや、世の中は広いものですね」

透華「…貴方はどうしてそう悠長な事が言えるのですか!」

ハギヨシ「はい?」

透華「主である私が恥をかかされてしまったのに、なにかこう…憤りみたいなものを感じませんの?」

ハギヨシ「お嬢様はそう申されますが、生憎勝負事までは私の与り知らぬ所ではありませんから」

透華「だからってその、少しばかり慰めてくれたって良いではありませんか……」

ハギヨシ「私の慰めなど、今のお嬢様には必要ないものかと」

透華「何故です?」

ハギヨシ「そのご表情は、およそ失意に打ちひしがれた者のそれではないからです」

透華「そう見えます?」

ハギヨシ「ええ。良い好敵手を見つけて、生き生きとしておられるように見えます」
148 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/01(月) 13:09:23.65 ID:HgPcYHWFo

透華「成程…合点がいきましたわ。どうしてあんな負け方をしたのに、思いの外気持ちが沈まなかったのか」

ハギヨシ「そうですか、それはなにより」

透華「私、彼女の打ち筋に恋しちゃったんですわね!」

ハギヨシ「見惚れてしまった…という事ですか」

透華「ええ」

ハギヨシ「私、少しばかりお嬢様の先行きが不安に思えてきました」

透華「と言いますと?」

ハギヨシ「惚れっぽい性格ですと、悪い人に捕まって弄ばれかねないですから」

透華「なっ…私はそのような安い女ではありませんわよ!」

ハギヨシ「一部のコミュニティでは、そのような方を『ちょろイン』などと呼んだりもするようですね」

ハギヨシ「…どうかお気をつけて」

透華「ハ、ハギヨシ…どうして貴方は時々…私への対応がこう、加虐的になっているんですの?」

ハギヨシ「気のせいでございますよ」
149 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/01(月) 13:09:49.67 ID:HgPcYHWFo
ここまで。
150 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/07/01(月) 13:56:12.54 ID:qC7P65oeo
151 :>>147 訂正 [sage saga]:2013/07/01(月) 15:42:36.35 ID:HgPcYHWFo
×:ハギヨシ「お嬢様はそう申されますが、生憎勝負事までは私の与り知らぬ所ではありませんから」
○:ハギヨシ「生憎、勝負事については私の与り知らぬ事ですから」
152 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/02(火) 05:31:00.76 ID:RBspPR/ro


―――龍門渕当主、娘が麻雀を始めた事を知る。


当主「何故、黙っていたのだ?」

ハギヨシ「お嬢様の素行が悪くなるのなら兎も角、向上心などを高めるのなら何ら懸念する事はないだろうと思い至りまして」

当主「…私も、娘が一生懸命物事に打ち込むのを咎めたりなどしたくはない。麻雀に、強い負の側面がなければな」

ハギヨシ「それは、天江家の方々や麻雀至上主義の事を仰っているのですか?」

当主「そうだ」

ハギヨシ「前者については良く存じませんが、後者は史実上止む無き事かと」

当主「そうだとしても、昨今の麻雀偏重はあまりにも度が過ぎている」

ハギヨシ「しかし…当主様自身、麻雀によってものし上がって来た者のお一人ではありませんか」

当主「だからこそだ」
153 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/02(火) 05:52:33.20 ID:RBspPR/ro

当主「ハギヨシよ。確かにこの世界は、有史以来麻雀によって成り立って来た」

当主「競技人口だけで数億とも言われている。嗜んでいるだけの者も含めれば、その数倍は下らないだろう」

当主「だが、麻雀の強さだけで将来の全てが定められてしまうような世界を…やはり私は許容出来ない」

ハギヨシ「さようでございますか。恐れながら、当主様は何故そのような事をお考えになられるのです?」

当主「…お前には、義理兄弟が何人かいただろう」

ハギヨシ「ええ。血縁ではありませんが、あの人達は私の大事な家族です。それがどうかなさいましたか?」

当主「そうか…ならば心して聞くのだ、ハギヨシよ」







当主「彼らは…あの子達は『天江衣』の生贄になったのだ。心を、打ち砕かれてしまったのだ」

ハギヨシ「!?」

当主「命を奪われたり、嬲り者にされている訳ではない…あくまで肉体に限っての話だが」

ハギヨシ「…それは…つまり……」

当主「そう。私とお前は、もう二度と彼ら彼女らには逢えないという事だ」
154 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/02(火) 05:53:24.73 ID:RBspPR/ro
ここまで。
155 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/03(水) 02:12:14.10 ID:F4h+1wJBo

幼少の頃のハギヨシは、社交辞令以外で他者との係わりを持とうとはしていなかった。

当時の彼にとっては、自分を拾ってくれた龍門渕家当主の期待に応える事が全てだったからだ。

故に、他の事はあまり省みていなかった。次期当主としての立場が磐石になってからでも遅くは無い、そう考えていた。



「ハギヨシ、またお前は勉強ばかりに打ち込んでいるのか?」

「…生憎、当主を目指す者が寄り道などしてはいられませんから」

「それはつまり、誰かと関わる事には無駄が多いとお前は考えているのか?」

「そういう考えも、私の中にはあります」

「…ハギヨシ」

「何でしょうか、義兄さん」

そうハギヨシが返すや否や、義兄はハギヨシにデコピンを食らわせたのだ。
156 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/03(水) 02:18:58.73 ID:F4h+1wJBo

「…何をするんですか」

ハギヨシは、痛みのせいか苛立ちのせいか義兄に対してそう尋ねた。

「お前が余りにも馬鹿馬鹿しいというか、勿体無い事を口にしたからだ」

と義兄は答えた。

「当主としてふさわしい人間になるために、日夜只管に精進する事の何が悪いのですか?」

「それはそれでいい」

「なら」

「けれど、ただ闇雲に打ち込むだけではダメだ。自分一人の裁量だけでものを考える奴は、決して当主になど成れないぞ」
157 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/03(水) 02:34:19.23 ID:F4h+1wJBo

「それは、一体どういう事でしょうか?」

「ただ一人の考えで、世の中は成り立っていないという事だ。要するに、俺はお前に誰かへの関心を高めて貰いたいのだ」

「けれど義兄さん、学校では私よりも勉学に優れた者はいません。そんな彼らから、得るべきものなどあるのでしょうか」

「馬鹿野郎!」

「っ!」

「ハギヨシ…自分の能力を自負するのは構わんが、傲慢にはなるな。傲慢は、お前の目や耳を損なうぞ」

「も、申し訳ありません」

「いいかハギヨシ…この世界は俺やお前だけの尺度では成り立っていない。色んな理が合わさって、初めて成り立つからだ」

「色んな理…ですか?」

「そうだ。ただ一つの理屈では、決してこの広い世界を解釈出来はしない。それは、人の社会にしたって同じだ」

「学業の成績だけでは、モノを語れないという事ですか?」
158 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/03(水) 02:47:26.61 ID:F4h+1wJBo

「うむ…お前は確かに学業が教師に匹敵、或いは脅かしかねない程に優れているが、それだけで優劣をつけるのは早計だ」

「といいますと?」

「俺やお前は、決して長く生きてはいない。精々、十年とちょっと生きていたに過ぎない。そんな俺達には、まず経験が足りていないのだ」

「なるほど」

「無論、全ての人間が過去の経験を今やこれからに生かせている訳ではないが…年少は年長を無闇に軽んじるべきではない」

「ならば、同年代の人達はどう扱えばよいのでしょうか?」

「人は、生まれながらにして置かれた場所が違うものだ。だから当然、物事への関わり方なども違ってくる」

「その違いには、何の意味があるのでしょう?」

「違いを知る事で、物事をより多様に見れるようになるという事だ。そうして、互いに知り合う事は互いの糧となる」

「色んな物の見方を知る事で、より多種多様な世界が見えるかもしれない…そういう事ですか」

「そういう解釈で構わない」
159 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/03(水) 02:53:51.21 ID:F4h+1wJBo

「成程、聊か以上に私が軽挙だったようです。私も、より精進する為に他人を知らなくてはなりませんね」

「おう、そうだな」

と口にすると、義兄はハギヨシの手を引っ張りながら走り出した。

「何をするんですか義兄さん!痛いですから離して下さいよ!」

「良いから来い!これから皆でサッカーでもやろうじゃないか!」

「だからって、何もこんな風に腕を引っ張らなくたって」

「お前はくそまじめだから、こうでもしないと理由をつけて遊びに来ないかもしれないじゃないか」

「それは…いや、そうかもしれません」
160 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/03(水) 03:06:25.30 ID:F4h+1wJBo

そうして、義兄はハギヨシを他の兄弟や知り合いのいる所へと連れて行くと、

「皆、ようやっと奴を連れ出して来れたぞ!」

と言った。皆はハギヨシが居る事に一瞬驚愕していたが、少しして、

「漸く萩原を打ち負かせるかもしれない時が来たのか」

「サッカーは体育の授業じゃまだやった事がねえからな」

「何でも良いから、一度くらいは萩原に勝ってみたいんだよ」

と口々にしていた。そして、

「それじゃあ、俺達養子組とそっちで試合を始めようか!」

「おう!」

当のハギヨシを置いてきぼりにしたまま、彼らは試合をおっぱじめた。
161 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/03(水) 03:26:40.66 ID:F4h+1wJBo

そうして暫くの時間が過ぎたのだが、

「そっちに回すぞ、ハギヨシ!」

「はい!えっと…こう言う時は、ボレーでしたっけ?」

「ああ!…え?んん?」

というやり取りの後にダイレクトボレーでシュートを決め、

(こっから先は通さねえぞ!)

(いくらなんでも、4人がかりには敵わないだろ!)

(萩原…お前さえ抑えればどうにかなる、いや…してみせる)

(諦めるんだな!)

「…高いボールには中々届かないですよね?まして僕らは小学生ですし」

そう言ってハギヨシは、器用にボールを扱うと彼らの上にボールを蹴って、

「え、ちょっと?」

一瞬の隙を衝いて4人の間をすり抜けると、そのままボールをトラップしてゴールに突っ走る。

そして、キーパーとの1対1。

(こうなったら怪我覚悟で突っ込んででもボールを…覚悟しろ!)

意を決したキーパーはハギヨシに突っ込んでいったが、

「義兄さん、パス」

「おう」

「…うん?」

ハギヨシは後ろにいた義兄にヒールパスをし、突進するキーパーから身をかわした。

そして、義兄がシュートを決めた。
162 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/03(水) 03:38:51.75 ID:F4h+1wJBo

そうして、試合は養子組が勝利をおさめた。

「やったじゃん、ハギヨシ!」

「俺はお前ならやってくれると信じてたぜ!」

「お前、本当に何でも上手く出来ちゃうんだな」

と兄達はハギヨシに称え、

「今度はぜってー負けねえからな!」

「サッカーでも負けちまったのは悔しいけど、楽しかったぜ!」

「またサッカーやろうぜ!」

と同級生らはハギヨシに声を掛けていた。

ハギヨシは大勢に取り囲まれてタジタジになっていたが、悪い気はしなかった。

寧ろ、この時間を心地よいとさえ思っていた。
163 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/03(水) 03:53:38.18 ID:F4h+1wJBo

そういう時間を、共に過ごしてきた家族の皆が。

勉学一辺倒の自分をたしなめ、慈しんでくれた義兄が深く深く傷つけられた。

ハギヨシはそれが哀しくて、哀しすぎて、自分の気持ちをどうする事も出来ない。

ただただ呆然としながら、当主の話に耳を傾けるしかなかった。



(私には、気を置ける程の友人を作る事が出来なかった。私だけでは、決して)

(けれど、そんな私を檻の中から出してくれた人達が…義兄さん達がいた)

(それが何故、そのような目に遭わなければならないのだ。そもそもその原因である天江衣とは、麻雀とは何なのだ…何だと言うのだ)





ハギヨシ「当主様…義兄さん達は、心を壊されてしまったのですか?」

当主「不幸中の幸いというべきか、そうはならなかった」

ハギヨシ「…そうですか」

当主「だが、お前が知っている頃の皆ではなくなったしまった事に変わりは無い」

ハギヨシ「それは、如何なる事でしょうか?」

当主「気力というモノを、少しも感じさせなくなったのだ。さながら、隠遁する老人のような有様だ」

ハギヨシ「…私は、どうも腑に落ちません。麻雀で人がそのように成ってしまうなどとは」

当主「私だって、そんな馬鹿けた事は信じたくなかったよ…そもそも、皆が衣と麻雀を打つ話すら知らされていなかった」

ハギヨシ「……」

当主「ハギヨシ、私は衣が恐ろしくて仕方がない。そして、憎まずにはいられないのだ…アレも、麻雀に偏重している世界も」

ハギヨシ「…何故、義兄さん達が心を壊されなければならなかったのですか?」
164 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/03(水) 04:01:18.55 ID:F4h+1wJBo

当主「奴らは…天江家の者はこう言ったよ。力なき者、即ち弱者は強者の糧にしかならないのだと」

ハギヨシ「義兄さん達が、弱者ですと?…そんな馬鹿な!」

当主「麻雀の腕が特段優れていなければ、彼らにとっては皆弱者なのだろう」

ハギヨシ「しかし当主様、義兄さん達は麻雀であれ何であれ一定の水準には達していました」

当主「ああ、その通りだ」

ハギヨシ「得意とする分野なら尚の事。それなのに、天江家の方々は何故麻雀のみで強いだの弱いだのを見定めようとするのですか?」
165 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/03(水) 04:32:23.52 ID:F4h+1wJBo

当主「麻雀の強い者が、世の理を司る。麻雀で強い者は、他の分野においても優れた所がある…根底はそこだ」

ハギヨシ「確かに、名のある者の中には強い麻雀打ちが少なくありませんが…幾らなんでもそれは」

当主「競技麻雀などによって、超常的な力を持った打ち手が世を席巻するまでは…お前の考えが当然だった」

ハギヨシ「日本で言えば、小鍛治プロが世に出た頃ですね」

当主「うむ。そして…こうした考えは、何も天江家に限った事ではなくなったのだ」

ハギヨシ「ですが当主様。そんな馬鹿けた考え、本当に普遍的のものと成りうるでしょうか?」

当主「正直を言えば、決して断言は出来ない。しかし、世の麻雀に対する盛り上がりはメディアなどにより増大しているからな」

ハギヨシ「小鍛治プロの例を見ているだけに、否定は出来ませんね」

当主「…確かに麻雀は遙か昔から人気だった。しかし、一世紀前では今のように大々的な扱われ方はされていなかった」

ハギヨシ「いつ、誰が、何の為にそうしたのでしょうか?」

当主「この地球上の皆がそうしたと言えるし、そうでないとも言える。とは言え、きっかけを作った者がいるはずだが」

ハギヨシ「その者は、果たして麻雀が今のようになると予想していたのでしょうか?」

当主「…解らん」

166 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/03(水) 04:32:51.94 ID:F4h+1wJBo
ここまで。
167 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/07/03(水) 19:04:12.68 ID:KH7VDAvqo
乙ー
168 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/04(木) 00:16:57.41 ID:1YRzyUOjo

麻雀打ちには、魔物と呼ばれる者達がいる。

彼ら彼女らは、只一人の例外なく牌に愛されていると言われている。

しかし、牌に愛されているという言い方は果たして適切なのだろうか?

愛されているのではなく、魅入られているのではないだろうか?

…彼らは麻雀を打っているのではなく、打たされているのではないだろうか?

牌が、そう雀士に打って貰いたいように。

ひょっとしたら、牌というものには何かが宿っているのかもしれない。

そしてそれこそが、麻雀を至上とする者達にとっては神の如き存在に違いない。



―――だとしたらば、魔物達とは神の代行者であり、下僕なのではないだろうか。
169 :>>168 訂正 [sage saga]:2013/07/04(木) 00:18:09.78 ID:1YRzyUOjo
×:―――だとしたらば、魔物達とは神の代行者であり、下僕なのではないだろうか。
○:―――もしそうだとしたら、魔物達とは神の代行者であり、下僕なのではないだろうか。
170 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/04(木) 00:40:44.68 ID:1YRzyUOjo

当主「…ハギヨシよ、兎に角透華には麻雀に傾倒しすぎないように伝えておいてくれ」

ハギヨシ「畏まりました」

当主「あの子の事だから言っても聞かないかもしれないが、私が心配している事だけは知らせて欲しい」

ハギヨシ「承知しております、当主様」



ハギヨシ「透華お嬢様」

透華「嫌です」

ハギヨシ「…私、まだ何も申し上げてはおりませんが」

透華「麻雀を打つのを控えろと、お父様から言付かって来たのでしょう?」

ハギヨシ「仰せの通りですが…まさかお嬢様、私達の話を聞いてらっしゃったのですか?」

透華「はしたない事をしてごめんなさい。ですが、どうにも聞き捨てならない話のような気が致しまして」

ハギヨシ「あの方は疲れておられるのですよ。ですから、あのような戯言を私に語っておられた」

透華「…天江衣の話、私とて知らぬ訳ではありません」

ハギヨシ「!」

透華「そして、天江家に限らず麻雀打ちには超常的な存在が多くいる事もです」

ハギヨシ「何故、そのような事をお知りになったのですか?」

透華「決まっておりますわ!私、誰が相手であろうと負けたくないのです…ええ、勝ちたいのです!」
171 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/04(木) 00:55:36.32 ID:1YRzyUOjo

ハギヨシ「…畏れながら申し上げます。今のお嬢様では到底不可能な事です」

透華「そのような事、承知しておりますわ!ですが、結果を出していないうちからすぐに諦めろだなんて……」

ハギヨシ「私の言い方が良くありませんでしたね。お嬢様が「牌に愛された子」ではございませんから、無理だと申し上げたのです」

透華「それが何だと言うのです。たとえ運で結果が左右されたとしても、結局は本人の力量が全てなのですよ?」

ハギヨシ「…お嬢様。残念ながら、そうお考えになっているうちは決して魔物を相手に出来ません」

透華「何、ですって?」

ハギヨシ「彼らの打つ『麻雀』と、彼らと同じモノを持っていない者の『麻雀』はまるで違うモノなのです」

透華「それはつまり…嘗ての小鍛治プロが世を席巻していた頃に打っていたのが、魔物の打つ『麻雀』だと?」

ハギヨシ「左様でございます」
172 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/04(木) 01:12:07.33 ID:1YRzyUOjo

透華「…そう言われて、私が引き下がるとでも?」

ハギヨシ「少なくとも今のままでは、引き下がらざるを得ないでしょう」

透華「何故だというのですか?」

ハギヨシ「透華様が先刻対峙しました『のどっち』は、魔物である可能性が非常に低いです」

透華「あのような優れた打ち手が…魔物では、ないかもしれない?」

ハギヨシ「ええ、間違いありません」

透華「…何か、根拠となる者はあるのですか?」

ハギヨシ「全ての魔物がそうとは限りませんが…殆どの魔物は、オカルトめいた能力を前提にして麻雀を打っています」

透華「それがどうかしまして?」

ハギヨシ「オカルトの力は、ネット麻雀においては一切活かせないのです。無論、私が調べた限りの話ですが」

透華「力を行使出来ない魔物達は、どうなってしまいますの?」

ハギヨシ「能力に依存しきった麻雀を打つ魔物は割合が高いです。その者達は、能力に依存しない素の状態では高が知れているのです」
173 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/04(木) 01:22:16.57 ID:1YRzyUOjo

透華「・・・つまり、魔物達の中には力の奴隷になってしまった者が多くいると言う事ですわね」

ハギヨシ「ええ」

透華「ならば尚の事、負ける訳にはいきません!」

ハギヨシ「お嬢様」

透華「力に振り回されているだけの者達に打ちのめされたり怯えたりするだなんて、そんな事を私が許せると思って?」

ハギヨシ「…さようでございますか」

透華「ともあれ、私がそのようになってしまわないとは限らないのですわね。お父様も、その事を懸念なされておられるようですし」

ハギヨシ「そう仰られるのなら、どうかお戯れはお止めになっては」

透華「生憎私、戯れで麻雀を打っている訳ではありませんのよ。ですから、今は見逃してくださいまし」

ハギヨシ「…お嬢様が、そう仰るのでしたら」

透華「恩に着ますわ、ハギヨシ」



ハギヨシ「ですが忘れないで下さい。今現在の麻雀には、深い闇があるという事を」
174 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/04(木) 01:22:42.66 ID:1YRzyUOjo
ここまで。
175 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/07/04(木) 07:44:21.47 ID:JOP3VWaFo
176 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/05(金) 18:22:20.23 ID:xmO6JgY9o

必ずしもそうとは限らないが、子の誕生を最初に望むのは親である。

祝福するのも親である。

そうでなければ、結局は当事者達さえもが幸せにはなれない。

子が望まれた理由がいかなるものであろうと、命の誕生それ自体は尊ばれて然りである。

…天江衣もまた、親に望まれてこの世に生を受け、祝福されたのだ。

天江家に係わる者が皆、彼女の誕生を喜んでいたのだ。

「喜んでいた」のだ。





やがて祝福は怨嗟へと変わり、喜びは悲しみや怒りへと変化した。

無論、衣の事を肯定的に見る者も多く居たが、結局の所彼女の力ありきでそうしているに過ぎない。

そして、彼女を愛している者は両親だけになってしまった。

けれども、その両親達には致命的なまでに欠落しているものが在った。

庇護欲である。

177 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/05(金) 18:38:14.75 ID:xmO6JgY9o

父親は、彼女が強い子であると信じていた。

力を持って生まれてきた我が子は、何者にも傷付けられはしないと信じていた。

如何なる事があろうとも、娘は絶対に跪いたりなどしない。

あの子には絶対的な力があり、それを司れる権能を有しているのだからと信じていた。

母親は、力こそが彼女の守り手であると信じていた。

何かしらの不慮でも起らない限りは、親である自分達が娘より先に死ぬ。

そうなったら、真の意味で彼女を守れるのはやはり娘自身と持って生まれた力だけだと信じていた。

娘が不幸になるなど、決して在り得ない事だと…そう、信じていた。
178 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/05(金) 18:53:53.46 ID:xmO6JgY9o

両親は思ってもいなかった。

自分達によって、娘が傷付く事を。

娘が大人ぶりたいだけの、無垢でか弱い女の子でもあるという事を。

自分達が、娘に孤独を強いているという事を。

力を持った強者として生きていて欲しいという、理想を完全に押し付けてしまっている事を。

それ自体が罪とは限らないが、結局死ぬまで気付かなかったのは間違いなく愚鈍。

彼らが親である事を自負しているならば、間違いなく非難されるのは必然であろう。

まして気付かぬうちに、娘を呪ってしまったのだから。
179 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/05(金) 19:21:09.35 ID:xmO6JgY9o

ハギヨシ「当主様!当主様!」

当主「何だハギヨシ、普段のお前らしくもなく実に騒々しい」

ハギヨシ「…天江家当主が…天江衣の両親が、身罷りました……」

当主「…そうか」

ハギヨシ「驚かれないのですね。天江家の当主達が…人が、死んでいるのですよ?」

当主「娘を呪った事にも気付かず、死んでいった大馬鹿者共だ」

ハギヨシ「流石にその発言は、憚られるべきではないかと」

当主「構わぬ。天江衣…アレは最早、人の理解が及ばぬ化物と成った。姿形は、未だあどけない少女のままだがな」

当主「だが、あの子達が壊されてから…アレは少しも姿が変わっていない。まるで、年老いる事を知らないかのように」

ハギヨシ「まさか」

当主「信じるか信じないかは、相まみえてからでも遅くはあるまい。それと、アレの目は捕食者のそれだから心しておけ」

ハギヨシ「私もまた、天江衣に壊されかねないと」

当主「そういう事だ…奴らがくたばったおかげで、龍門渕家はてんやわんやだ」

当主「私の代わりに、透華がアレに接触しないようよく見ておいてくれ」

ハギヨシ「…畏まりました」
180 :>>178 訂正 [sage saga]:2013/07/05(金) 19:22:42.97 ID:xmO6JgY9o
×:ハギヨシ「私もまた、天江衣に壊されかねないと」
○:ハギヨシ「下手をすれば、天江衣に壊されかねないと?」

ここまで。
181 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/05(金) 19:23:46.00 ID:xmO6JgY9o
>>180
>>178ではなく>>179
182 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/06(土) 23:32:23.51 ID:zCqEPN8Fo

天江衣は、自らが強者であると自負していた。今は無き、両親の望み通りに。

そして、その認識は恐らく正しい。

けれど彼女は、自身が持つ弱さというものは理解していなかった。

彼女は、親類達から麻雀の相手を…生贄を宛がわれていた。雀士で在ろうと非ずとも、相応の実力をもった実力者達が。

けれど…自らを脅かす者になど、一度も出逢った事は無かった。

数百、いや数千の相手と打ってきたにもかかわらずだ。

その事実は、はっきり言って異常であるとしか言いようが無い。
183 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/06(土) 23:56:12.56 ID:zCqEPN8Fo

やがて…積み上げてきた勝利が、彼女にある種の強迫観念を植え付ける。

勝つのは至極当然であり、勝たねばならない。それが勝ち続けてきた者なら尚の事だと。

そして、その観念は両親の死によっていっそう強くなった。

それが両親から言いつけられていた事だから。

両親が居なくなってしまってもなお、衣はその言いつけを守ろうとするだろう。

それが両親との約束だから。






「父君、母君」

「衣は良い子にしています。必ず、お二人からの言いつけを守ります」

「ですから、ですからどうか、安心して常世にお逝き下さい」

「衣は、一人でも生きて行きます。必ず、一人で健やかに生きて行きます」

「さみしくなんて、ありません」

「衣は、今日から独り立ちしなければなりませんから。たとえ辛くとも、決して挫けたりなんてしません」

「衣は強い子です。そう望まれて、自らもまた強さを求めて生きてきました」

「…そして、これからもそうします」
184 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/06(土) 23:56:46.23 ID:zCqEPN8Fo
ここまで。
185 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/07(日) 23:16:55.28 ID:yK8M+7uno



透華がのどっちこと原村和と対峙して、3年が過ぎた。

その3年は彼女をより強い雀士にしたはずだったが、彼女自身は未だに納得していない。

原村は常に最善手を打っていた。一度のミスもなく、決して揺らがず、折れない。

透華達が何度和了っても、それは決して彼女の障害には成り得ない。

彼女が勝利するという結果を、変える事は出来ない。

――のどっちには牌が見えているのではないかと。何かしら不正を働いているのではないかと。

そんな事が透華の脳裏をよぎったが、それならそれで不正を正せない自分が不甲斐なくて惨めではないか。

そう考えるのが、龍門渕透華という人間だった。
186 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/07(日) 23:46:56.78 ID:yK8M+7uno

意外にも透華は、インターミドル(以下、IM)には出場しようとは考えていなかった。

事実、彼女は一度もIMには出場していない。

何故なのか。

度が付くほどに目立ちたがりな性分なのに。

何はともあれ兎に角目立ちたく思い、はしたないと思いつつも高い木に登ってしまうような女の子なのに。

ハギヨシが一度その事を問いただした所、

「のどっちのような強い雀士が居ない大会で優勝しても、私は道化にしか成れません」

「とは言え、私が絶対に全国で優勝出来るとは申しませんけれど、決して難しい訳ではありません」

「のどっちのものと比べると、あの方々の打つ麻雀はどうしても見劣りしてしまいますのよ」

と彼女は答えた。

この当時ののどっちは、既に高1の時と同じレート2300を超えていた。

ネット麻雀の世界だけで言えば、間違いなくトップクラスの打ち手である。

対する透華のレートは2100前後。

この200の差を埋める事が、当時の透華にとって一番の関心事だったのである。

無論、ネット麻雀と実際の麻雀は勝手が違う所がある事は彼女も承知していたが、やはりIMに対する関心は薄かった。

事実、のどっち達程にIM出場の雀士は強くなかった。

…どういう訳か、魔物と呼ばれる存在が現れる事もなかった。

187 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/07(日) 23:47:31.22 ID:yK8M+7uno
ここまで。
188 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/07/08(月) 00:01:52.35 ID:CgP+ZFl0o
乙ー
189 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/08(月) 23:56:12.37 ID:KwE4msGMo

オカルトとデジタルは、決して相容れる事の無い者同士だ。

デジタルにオカルトが理解できないように、オカルトもデジタルを理解出来ない。

両者にはそれぞれの理があり、必然があるからだ。

互いに疎んではいたものの、オカルトは数で劣り、デジタルは力で劣った。

両者の関係を決定的にするだけのモノは、小鍛治健夜達が現れてからも生まれてはいない。

麻雀のようなゲームで、国内無敗などという理解を拒みたくなる存在でさえも、均衡を崩す事は出来なかった。






それどころか、龍門渕透華のようにどちらともつかない者まで現れるようになったのだ。
190 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/09(火) 19:50:22.68 ID:E8Ndfa+No

尤も、13歳の当時は透華は間違いなくデジタルに属していた。

原村和からの影響を強く受けていたからだ。

そうなるように仕向けていた何者かの目論見もあった。

その何者かとは彼女の父親かもしれないし、或いは他の誰かかもしれない。

いずれにしろ、目論見は上手くいっていたし、これからも上手くいっていただろう。

だが、透華が天江衣に出会ってしまった事で、誰しもが思わぬ方向へと事は運ぶ。





果たして、そこに第三者の意思は介在していたのだろうか。

そうでなくとも、両者の気質や立場などからすれば何の係わり合いにもならない事は不可能だったけれども。
191 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/09(火) 19:50:56.14 ID:E8Ndfa+No
ここまで。
192 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/10(水) 01:58:06.81 ID:Qo7BRnImo

――出逢いの時は来た。



透華「…貴女が天江衣、ですわね?」

衣「いかにも。まさか龍門渕当主の一人娘が、こんな所へ来るとはな」

透華「何分、好奇心の強い性分でして」

衣「その好奇心…何れお前の身を滅ぼすぞ。いや、もしかしたら今すぐにでも」

透華「かもしれませんわね」

衣「衣と打つつもりか?例え本家の次期後継者候補であっても、手心は加えんぞ」

透華「それこそ望むところですわ」

衣「私と打った者達がどうなったか知らない訳ではあるまい…怖くは、ないのか?」

透華「生憎と、私は貴女の打つ麻雀そのものは知りませんので。知らぬ物事まで恐れていては、それこそ何も出来ませんでしょう?」

透華「それに…ここで壊れてしまうのなら、私と言う存在は所詮その程度であった事が証明されるだけです」

衣「存外に潔い考えなのだな」

透華「まさか!私、負ける事は目立てない事の次に嫌いですわ!」

衣「お、おう」
193 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/10(水) 02:24:14.97 ID:Qo7BRnImo

衣「ところで、おヒキはどうするのだ?衣と麻雀を打ちたい者など、そうはいないだろうに」

透華「ご心配なく。最新の技術によって造られたあるロボットの試作型がおりますから」

衣「機械人形か…衣は麻雀を打てさえすればそれでいいが」

透華「こんな事にも付き合ってくれるような甲斐性持ちが、私の周りにも居れば良かったのですけれど」

衣「…どういう意味だ?」

透華「私が、貴女と似た者同士かも知れないと言う事ですわ」

衣「わからんな…見た所、お前からは何の力も感じぬぞ」

透華「手に出来ない物を欲しがった所で意味はありませんわ。それに私は、力のままより我がままに麻雀を打ちたいのです」

衣「龍門渕の娘よ…さっきからお前の言っている事はどうにも解らんぞ」

透華「…解ろうとする必要はありませんわ。知った所で、受け入れられはしないのですから」

衣「衣が、そのように当主から扱われているようにか?」

透華「ええ」

衣「…まあよい。娘よ、早く衣と麻雀を打とうではないか!…せいぜい愉しませてくれよ」
194 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/10(水) 02:25:43.64 ID:Qo7BRnImo
ここまで。
195 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/10(水) 04:48:38.12 ID:Qo7BRnImo

透華「ハギヨシ」

ハギヨシ「何でございましょう、透華お嬢様」

透華「私、天江衣に会ってみようと思うのですが」

ハギヨシ「畏れながら申し上げますと、お嬢様のお好きなように為されれば良いのではないかと存じます」

透華「…止めませんのね」

ハギヨシ「無駄な事はしない主義ですので。それに、お嬢様の意志を阻む事までは申し付けられておりませんので」

透華「そうですか」

ハギヨシ「ただ、私が再三に渡って麻雀…特に魔物に関しましては少なからず警告してまいりました。ゆめゆめお忘れなきよう」

透華「ええ、解っておりますとも。決して不用意な事は致しませんわ」

ハギヨシ「それなら良いのですが」
196 :>>195 訂正 [sage saga]:2013/07/10(水) 04:50:23.34 ID:Qo7BRnImo
× ハギヨシ「無駄な事はしない主義ですので。それに、お嬢様の意志を阻む事までは申し付けられておりませんので」
○ ハギヨシ「無駄な事はしない主義ですので。それに、お嬢様の意志を阻む事まで当主様からは申し付けられておりません」
197 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/10(水) 05:06:16.37 ID:Qo7BRnImo

透華「…お父様の前だから言いませんでしたけれども、正直を言えばあのような話は到底信じられませんのよ」

ハギヨシ「何故、そう思われるのです?」

透華「お父様は為さねばならぬ事をしたとは言え、多くの人を敵に回してしまいました」

透華「ですから、天江衣に関する情報の全てが単なる逸話でしかないのではと、どうも懐疑的になってしまいます」

ハギヨシ「そのお気持ち…解せぬ訳ではございませんが、私の義兄弟達が彼女と打って別人のように変貌したのも事実です」

ハギヨシ「対局につきましては、私も映像でしか知りませんが」

透華「ですから、私は直に彼女を見定めようと言うのです。お父様が何故、あれ程までに彼女を疎んでいるのか……」

透華「天江衣とはいかなる存在であるかを、単なる知識でではなく体験を通して知りたいと考えているのです」

ハギヨシ「やはり、天江衣と麻雀をお打ちになられる気で?」

透華「そうですが、それが何か?」

ハギヨシ「龍門渕家の執事としましては、そのようなお戯れに付きあわせていただく事は出来かねます」
198 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/10(水) 05:33:42.23 ID:Qo7BRnImo

透華「…そうですか。それならば、仕方ありませんわね」

ハギヨシ「…もし妙な事をしようものなら、私は全力を持ってお嬢様を阻止しなくてはならなかったでしょう」

透華「解っております」

ハギヨシ「天江衣と麻雀を打ちさえしなければ、私から申し上げる事は何もありませんから」

透華「ええ、お父様や貴方に心配を掛けたりいたしませんわよ」









透華(…たとえ嘘でも良いですから、私に付き合おうとするそぶりくらいは見せて欲しかった)

透華(私の我がままに、付き合って欲しかった)

透華(ハギヨシは…あの人は、私に尽くしては下さるけれど、決して甘えさせてはくれない)

透華(私がどんなに近づこうとしても、どうしてか…最後には突き放してくる。私を一人にして、私に出来る事は全て一人でやらせようとする)

透華(理由は解りません。幾らか想像は出来ますけれど、問いただしてみようという気にはどうしてもなれません)

透華(…聞いてしまったら、何もかもが終わるような気がして)

透華(私が彼の事を異性として意識しているのか…或いは、兄のような存在として意識しているのか…それさえも、解らない……)

透華(そして、その何れであろうとなかろうと…それが彼に対する私の望みであり、決して叶う事はないのでしょう)

透華(私が行く道筋は…常に、一人きりで…見渡す限り真っ白で、何も見えない吹雪の中で…私は、いつも凍えている……)
199 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/10(水) 05:34:08.89 ID:Qo7BRnImo
ここまで。
200 :>>199 訂正 [sage saga]:2013/07/10(水) 05:36:06.07 ID:Qo7BRnImo
× 透華(そして、その何れであろうとなかろうと…それが彼に対する私の望みであり、決して叶う事はないのでしょう)
○ 透華(そして、その何れであろうとなかろうと…それが彼に対する私の、決して叶えて貰えない望みなのでしょうね)
201 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/10(水) 05:37:38.89 ID:Qo7BRnImo
>>200の、名前欄>>199>>198
202 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/11(木) 22:56:18.46 ID:ZyxaDqOro

――手遅れなのはきっと、最初からだった。




当主「…どういう、事だ」

ハギヨシ「ですから、透華お嬢様が天江衣と麻雀を打ったのです」

当主「そんな事は解っている!何故だ、何故透華にアレと麻雀を打たせた!」

ハギヨシ「申し訳ございません。私の目の届かない所で、あのようなモノを拵えていた様でして」

当主「言い訳は!御託は!沢山なんだよ!」

ハギヨシ「差し出がましいようですが、私如きがお嬢様の道を阻む事など出来はしなかったのです」

当主「私は!お前を信じていたのだ!息子同然のお前を、信じていたんだよ!」

ハギヨシ「勿体無いお言葉ですが、それは遠い昔の話。今の私は、龍門渕家に仕える只の従者でしかありません」

ハギヨシ「そしてその事に、私は何ら不満など抱いてはいません。私は龍門渕家の為、透華様の為に生きているのですから」

当主「…その結果がアレか!あの、見るもの総てを凍りつかせるような姿が!あの子の望みだと言うのか!」

ハギヨシ「少なくとも、私はそのように考えております」

当主「ふざけるな…ふざけるなっ!」

激昂した当主は、ハギヨシの顔面を強く殴りつけた。体制を崩したハギヨシだったが、表情はどこまでも落ち着いている。

当主「それはお前の望みだろうが!お前の、あの子に求める理想で…あんな風になってしまったのではないか!」

当主「なのに…なのに…どうしてお前は顔色一つ変えずに……」
203 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/11(木) 23:29:40.50 ID:ZyxaDqOro

ハギヨシ「敢えて申し上げますならば…私の考えが、今は亡き天江家当主夫妻に近かったという事でしょう」

当主「…なん、だと」

ハギヨシ「透華お嬢様…透華様には才がありました。力がありました。望みがありました」

ハギヨシ「私はあの方に幾つかの道を示し、そしてあの方が勇往邁進なされるのを手助けしただけ」

ハギヨシ「私になんと言われようが…ああなる道を選んだのが透華様である事実は、決して変わりません」

当主「ハギヨシ…き、貴様」

ハギヨシ「…当主様には、こうなる事が解っておられたはずです」

当主「な…に……?」

ハギヨシ「婿養子の立場でありながら…決して卑屈にならず常に毅然としていた貴方様を、透華様は敬愛なされていた」

ハギヨシ「そしてあの方は、例え独りきりになっても闘う貴方の精神を受け継いだのです」

当主「…私の…せい……?」

ハギヨシ「何方が悪いのかと言い出してしまえば、何方も悪いとも、何方も悪くないとも言えます」

ハギヨシ「決定的な答えなどないのですから、どうかご自分をお責めにならず…透華様の前途を祝して下さいませ」

当主「…ああ」
204 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/11(木) 23:53:08.17 ID:ZyxaDqOro







…どうして、私は一番になれないのでしょう?

…どうして、私の上に君臨する者が在るのでしょう?

私は、目立ちたい。

万物を照らす太陽の、或いは月の如き存在でありたい。

太陽は眩し過ぎますし、月は自ら光を放つ事は出来ませんけれど…それなら併せ持てば良いですわよね。

…兎に角、私は一番でありたい。

他者より強く、他者より先へ、他者より上へ。

たとえそれで自らが滅ぶ事になろうとも、私は決して私のイドを…エゴを否定しようとは思わない。

矮小な身にはそれは重荷だと、捨ててしまうのはとても簡単。

けれど私は諦めの悪い女ですから…意地が悪いと言われようが、背負えるだけ背負ってみせます。

賢者で在ろうとする位なら、私は愚者で在る方が余程有意義で人間らしく、自然な事だと思いますから。





私は…自分の在りたいように、望むままに生を謳歌したい。
205 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/11(木) 23:53:38.20 ID:ZyxaDqOro
ここまで。
206 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/07/12(金) 00:14:17.19 ID:Zb2/T78Mo
乙乙
207 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/12(金) 18:16:02.48 ID:ttEFi96zo



衣「ネット麻雀とやらでは相当の打ち手であるそうだが、お前はつまらないな」

透華「…なんですって」

衣「今宵が満月だからとはいえ…ただの一度も聴牌出来ないだなんて、あまりにも弱過ぎる」

透華「ぐ……」

衣「…まあよい。どうせあの男の血を引く娘など、大した事はないと解っていたしな」

透華「!」

衣「父親からは教わっていなかったのか?衣が凡愚共の理解から遥か外にいる者だと」

衣「お前の如き木っ端が、衣に勝とうなどとは片腹大激痛よ」

透華「お父様を…そして私を馬鹿にするだなんて…貴様…貴様、貴様ぁ!」

衣「衣はただ事実を述べただけだというのに…弱者には不都合な現実を受け容れるだけの器もないのか」

衣「…哀れな」
208 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/12(金) 18:33:08.73 ID:ttEFi96zo

透華「ぐ、うう……」

『透華お嬢様様、お気を確かに』

『事ここに至っては、最早貴方様一人ではどうにもなりません』

『ですからどうか、我らに助力させて下さい』

透華「そんな…事を、この…私が…許すとでも思って?」

『私共は、天江衣のような魔人を打倒する為に作り出された存在』

『その我々が、己の存在意義を果たせないようでは龍門渕の…そして日本の名折れでございます』

『たとえ数多き試作型であろうとも、立派に役割を果たして見せましょうとも』





衣「茶番は…終わりだ、愚か者とそれに付き従うガタクタ共よ」
209 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/12(金) 19:19:12.34 ID:ttEFi96zo

そうして、数刻が過ぎた。

結局の所、透華達は衣に打ちのめされてばかりであった。

ただの一度も和了れはしないし、鳴けもしないし、勿論聴牌だって出来はしない。

衣の打ち筋は、せいぜいが初心者に毛が生えた程度。

それ故、あまりにも稚拙。

けれど、そんな打ち手に何ら抵抗出来ずに打ちのめされてばかりいる。

透華の心は、いつ砕け散ってもおかしくはなかった。
210 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/12(金) 19:44:41.25 ID:ttEFi96zo

衣「お前も…お前の持つ玩具も、大した役立たずだよ」

衣「結局お前達も、先に倒れた木っ端共と同じく衣を楽しませる事など出来ない」

衣「役割を持てぬお前達は、衣の贄となって果てる以外有り得ない」



『透華様…申し訳ありません』

『我らは結局…あの者の言う通り、何の役割も持てない塵でしかありませんでした』

『どう、か…お、許しを……』

『…このような最期を遂げるとは…無念…でござい…ます……』

そう言うと、名も無きブリキ人形達は二度と動かなくなってしまった。

2体の持つ点数は0であったが、衣の意向で箱扱いはされず対局は続行される。

壊れた彼らの代わりは、彼らと同じ機械であるマニピュレータが担当する。

…意思らしきものさえ持たぬ、ものを語る事もない存在が。




最早透華を守れる者など、この時には存在し得なかった。
211 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/12(金) 19:45:16.41 ID:ttEFi96zo
ここまで。
212 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/13(土) 04:41:35.20 ID:l6bRBMpso

…私、負けますの?

お父様とハギヨシの言いつけを、守らなかったから。

身の程を弁えず、分不相応な真似をしてしまったから。

――分不相応?

ありえない、そんな事は。

私は、龍門渕透華ですわよ。将来、龍門渕家の主として君臨するべき女。

そしてやがては、そんな枠組みには全く嵌らない大器となるべき存在。

その私が、私が…負ける、ですって?

私は、何を莫迦な事を考えて居ますの!?

あんな子供に、粋がったガキんちょに自分が負けるだなんて事を。

…けれど、このままではどうしたってそう成りかねないではありませんか。
213 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/13(土) 05:08:53.28 ID:l6bRBMpso



…私は、勝たなくてはならない。

万人の上に立つ者は、常に正しく在らねばならない。

正しさが認められる為には、勝利しなければならない。

万人は私の奴隷であり、私もまた万人の奴隷でなければならない。

であるからして、何かを求められる者でなくてはならない。

――けれど…万人に跪かれるべき者は、決して跪いてはならない。

そもそも、王とは治める者なのです。いかなるモノも、己が力によって支配しなければならない存在。

そうあるべきにせよ、そうありたいにせよ、治められぬモノなど在ってはなりません。

今目の前にいる魔物と、それが支配する場の総てを支配しなければなりません。

その為に、不要なモノは総て捨て去ってしまいましょう。特に虚栄心などというモノは、今の私の望みを阻む壁でしかないのですから。

…必要になれば、また拾いなおせば良いのです。

214 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/13(土) 05:09:19.76 ID:l6bRBMpso
ここまで。
215 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/13(土) 16:45:14.41 ID:l6bRBMpso

衣(彼奴…一体どうしたというのだ)

透華「……」

衣(さっきまで牌は衣の望み通りだったというのに、今は少しも応えてくれない)

透華「…何をしてらっしゃいますの?貴女の番なんですから、早く打って下さいまし」

衣「言われずとも、そんな事は解っている!」

透華「何をそんなに焦っているのですか?大差をつけられているのは、私の方だというのに」

衣「そ…それは、そうだけれども……」

透華「望むままに牌がやって来てくれないのは、心細いですか?」

衣「うっ…そんな事は、な、ないんだぞ」
216 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/13(土) 16:55:17.91 ID:l6bRBMpso

おかしい。

衣の事を、牌は愛してくれているはずなのに。

少なくとも、今まではそうだった。牌は何時だって、衣に味方してくれていたんだ。

父君と母君は衣に中々構ってくれなかったけれど、牌がいてくれたから寂しさを感じずに済んだんだ。

…麻雀があったから、衣は生きていられたんだ。

なのに…なのに…今の衣は牌からも味方されなくなってしまったのか?

衣の周りを素通りしていくのか?衣にもう何も応えてはくれないのか?

…そんなのやだよ。

父君も母君も、そして牌まで私から離れていったら…衣は独りぼっちじゃないか。



――いや違う。衣が独りぼっちだったのは、きっと物心付いた時からだ。
217 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/13(土) 17:06:43.13 ID:l6bRBMpso

どうして、今になってそんな事に気付いたんだろうか。

自分が孤独であるという現実を、受け容れようと思ったんだろうか。

…麻雀に勝てない衣なんて、きっと誰からも必要とされはしない。

そして、今の生き方を変える事なんて出来ない。

それは衣が、麻雀で相手を打ちのめす事に悦びを感じているから。

打ちのめされるよりも打ちのめす事の方が、衣にとっては当たり前になってしまっているから。

…ここで龍門渕透華に打ち負かされたとしても、きっと何も変わりはしない。
218 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/13(土) 21:59:31.83 ID:l6bRBMpso

何時だったか…龍門渕の婿養子に言われた通りだ。

衣は何も変わってない。彼奴に初めて出会った頃から、何一つ。

何時頃からか、全く歳をとらなくなったこの体が、それを象徴している。

…恐らくこの身は、第二次性徴を迎えてはいないだろう。





時すらも衣を置き去りにしてしまうと言うのなら、それで良い。

この先も孤独だと言うのならば、いっその事ここで壊れてしまって良いのではないか?

…壊しているんだ、壊されもするさ。衣は、望んでこうなったんだ。
219 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/13(土) 22:10:54.62 ID:l6bRBMpso



「どうやら、終わったようですね」

男が呟く。

雀卓を、2人と2体が囲んでいた。

2体はただのスクラップと化し、2人は気を失って倒れている。

果たして麻雀とは、このように凄惨きわまるモノだったろうかと男は思う。

雀卓の周りは、まるで殺し合いをしていた後のようであったから。





「ともあれこれで、透華お嬢様が孤独をお感じになる事は無くなりますね」

そう言ってハギヨシは、心底安堵したような表情をしていた。
220 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/13(土) 22:11:56.95 ID:l6bRBMpso
ここまで。
221 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/14(日) 09:46:31.18 ID:huGwmjKDo


―――ドイツ・ハノーファーの研究所にて、二人の研究者が話をしていた。

一方は研究所の所長で、無精ひげを生やした初老の男だ。

そしてもう一方は、気だるそうな雰囲気をした若い女性だった。



「しょちょー。観測、終わりましたー」

「そうか。で、モンデンキントはどうなった?」

「あーそうっすねーダメでしたねーあの子、全然ダメでしたよー」

そういう女の声色は、失意に満ちていた。

期待していたのに、完全に当てが外れてがっかりしている感じだ。

「…覚醒はしなかったという事か」

「そうですよー。あんなザマじゃあ、あのお方の器には成れないですよーとんだ期待はずれっすねー」

「そう言うな。彼女も、彼女の対局相手も随分と興味深いではないか」

男がニヤつきながら呟く。

「あんなもん、あのお方を始めとする数多の魑魅魍魎たちに比べれば大した事ないじゃないっすか」

「かもしれん。だが彼女達には、発展性がまだ十分にあるからな」

「しょちょー、可愛い女の子だからって甘すぎません?なら、私ももっと甘やかしてくださいよー」

「お前を甘やかしたら、何にもしなくなるだろうに」

「私がサボったって、他に優秀な研究者は幾らでもいるんですよ?なら別に一人位は…」

「ダメだ。大体、筆頭であるお前が働かなくては周りに示しが付かないだろうが」

「それはしょちょーの都合じゃないっすかー」
222 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/14(日) 10:07:17.87 ID:huGwmjKDo

「話を戻すぞ。モンデンキントは、何故勝てなかったのだ?」

「なんででしょうねー私にもわかんないですねー」

「お前でも理解出来んのか」

「ですが、リューモンブチトーカの様子が変わってから、ニュートリノ異常が無くなったのは確かですねー」

「異常を無くす、だと?」

「ええ。あのお方を打倒した、にっくきあんチクショーにさえ出来なかった事です」

「ふむ、成程な……」

「何かわかったんですか、しょちょー」

「今この世界に起きている異常を知る者は、我々だけではないという事だよ」

「やっぱりですかー」

「まあ、気付いた所で何が出来る訳でもないだろうがな。あのブリキ人形共も、大した脅威ではない」

「けどアレ、まだ試作型みたいですよー?」

「途上の段階にあるのは、モンデンキント達とて同じだよ。当然、期待値も彼女達が遥かに勝っている」

「ならいいんですけどねー。前の世界でも万全を期したのに、結局我々は負けちゃったんですから」
223 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/14(日) 10:29:04.32 ID:huGwmjKDo

「どの道不安要素など払拭は出来んさ。我々はただ、最善を尽くすだけだよ」

「かったるいっすねー。けど、万事を尽くせなかったから失敗したんじゃ話にならないですからねー」

「そうだ。我々は計画の為、今後もこの世界の歴史を改変しなくてはならないのだ」

「ですねー。期待は裏切られてしまいましたが、モンデンキントの闇を強める事は出来ました」

「うむ。龍門渕透華との初会合が嘗てのままでは、彼女が十分に成長できないからな」

「なまじっか不幸な境遇なんかでは、強い力は育ちませんからねー」

「決してそうとは限らんが、彼女の持つ力には不幸が何よりの糧なのは確かだ」

「実にいいっすねー。不幸こそ、人生にカタルシスを齎す為の恵みですよー」

「お前は本当に、人の不幸というものが好きなのだな」

「まっさかー。私は生けとし生けるものにとって、困難こそが幸せを得る為に必要だと考えているだけですよー」

「…お前自身は、どうなのだ?」

「嫌ですよーそんなの。面倒臭いのなんて、私はだいっキライですからねー」

「なら何故ここにいる?」

「あのお方の為と言うのもありますが、結局は私が楽しい事をしたいからに決まっているじゃないですかー」



彼女は笑って、そう答えた。

その言葉に、悪意は無い。心底そう思っているからこそ、彼女は躊躇い無くそう言えた。

ただただ無邪気に、少女達の運命が変わった事を楽しんでいる。
224 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/14(日) 10:29:51.40 ID:huGwmjKDo
ここまで。
225 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/15(月) 01:22:54.19 ID:Va7sjuJgo

あの対局から数日が経った。

例によって、透華は当主の静止も聞かず衣の許を訪れる。



衣「衣に何用だ?もし再戦なら、何時でも受けてたつぞ?」

透華「残念ながら違いますわ。今日は貴女にお願いしたい事がありまして」

衣「なんだ…それを聞いて、衣はがっかりしたぞ」

透華「私も再戦したくはありますが…何分、あの時自分がどう打っていたかも覚えておりませんからね」

衣「…そうか」

透華「それに、私はあの時自分を完全に見失っていました。対局はともかく、私が勝てただなんて思っていません」

衣「そう言われて、勝ちを譲られてもこっちは困るだけだぞ……」
226 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/15(月) 01:46:28.90 ID:Va7sjuJgo

透華「…話を戻しましょうか。天江衣、貴女には私と一緒に麻雀で一番を目指して欲しいんですの」

衣「一番というと、年齢的には今のお前と目指せそうなのはIM個人戦優勝位か」

透華「それはないですわね」

衣「何故だ?」

透華「はっきり言って、強い打ち手がどこにも見受けられないからですわ」

衣「衣は知らないけど、そんなにダメなのか?」

透華「ええ、超がつくほどダメダメですわ。この前貴女と打った私達にさえ、遠く及ばないでしょう」

衣「それが事実だとすれば仕方ないが…なら、衣達は何で一番になればいいのだ?」

透華「IHで優勝する事ですわ。どうせなら団体戦、個人戦共に一番になれればベストですわね」

衣「…個人戦で一番って?」

透華「当然、私がそうなるに決まっていましてよ!」

衣「何の為に?」

透華「お互い、独りぼっちなままではこの先も味気ないでしょう?」

衣「…衣は一人でも生きていけるもん」

透華「けど、ぼっちじゃそのうち自分の事しか考えられなくなって、つまらないですわよ」

衣「いいもんいいもん。父君と母君が常世にいた時も、身罷られた後も、衣の周りには卑しい奴等が沢山群がってきたんだ」

衣「なら、ヒトなんかと無闇に関わりあって生きていない方が幸せに決まっているんだ」

透華「…まあ、一理ありますわね」
227 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/15(月) 02:08:57.68 ID:Va7sjuJgo

衣「けど…お前は、お前は少なくともああいう連中とは違う。だから、一緒に喜びを分かち合えるかもしれない」

透華「そうですか。なら、一緒に麻雀を楽しもうとしましょうか」

衣「…うん」

透華「絶対に一番になって、目立ちまくって見せますわ!」

衣「うん…うん?」

透華「それと、今後はお前ではなく透華とお呼びなさい!私も、貴女ではなく衣と呼びますから」

衣「う、うん…わかった、とーか」

透華「ふふ、衣は聞き分けの良い子ですわね」

衣「むう…衣はとーかと同い年なんだぞー。子ども扱いするなー!」

透華「そう言っているうちは、まだまだお子様ですわね」

衣「ぐぐ…先刻衣に叩きのめされた分際で、生意気なぁ……」






透華(ふと思い出しましたが、あのロボット2体には悪い事をしてしまいましたわね。まさか、魔物と呼ばれる存在があれ程の者とは)
228 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/15(月) 02:09:26.84 ID:Va7sjuJgo
ここまで。
229 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/16(火) 00:44:23.58 ID:ZSxivsAjo





「…アシモの後継機はまだ完成しないのか?」

「難しいでしょうね。つい先日、試作型が2体壊されてしまいましたし」

「そうか…我らデジタル派は、相変わらず不利な状況を強いられるのだな」

「残念ながらその通りです。全く…龍門渕透華はとんだ期待外れでしたなあ」

「君はそう思うのかね?」

「ええ。あれだけ我らが目を掛けてやったというのに、結果はあのザマでしたからな」

「…私には、あの娘がデジタルとオカルトの双方にとって非常に危険な存在だと思うのだがな」

「莫迦な事を仰いますな。アレは単なる半端者ゆえ、オカルトの力に目覚めてしまったというだけの事」

230 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/16(火) 00:50:07.19 ID:ZSxivsAjo

「それを決めるにはあまりに早計だよ。あのようにデジタルとオカルトの双方を内在できる雀士は、今まで居なかった」

「イレギュラーが一人生まれたところで、危険視されて排除されるだけだと思われますが」

「彼女のような存在が、今後増えてこないとも限らんだろう?ならば関心を持っておくにこした事は無い」

「まあ、貴方様がそう仰るのなら好きになされませ。ただし、面倒な事になっても知ったこっちゃありませんからな」
231 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/16(火) 01:01:25.28 ID:ZSxivsAjo

…面倒なら、とっくに起こっているではないか。

折角姉帯を僻地に追いやったと言うのに、熊倉の婆が外に出そうとしていやがる。

天江は殺せなかったし、神代には周りに邪魔者が多すぎて手出しが出来ん。

宮永は…姉の方が厄介ではあるが、どう頑張っても妹ほどではあるまい。

妹の方は麻雀を嫌って打たなくなってしまったようだし、無理に干渉する必要もあるまい。

…どこかの阿呆が、妹をそそのかしでもしない限りは大丈夫だろう。
232 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/16(火) 01:15:50.98 ID:ZSxivsAjo

――それから暫く後の事は、最早語るまでも無いだろう。

阿呆の中に、彼らが寵愛していた原村和が居た事を…彼らはどう思ったのだろうか。



龍門渕の方はと言えば、ハギヨシが透華の孤独を衣で癒そうとしたが…結局上手くはいかなかった。

結果として井上純達が龍門渕家にやってきてしまったし、その上彼は透華の付き人ではなくなった。

透華によって衣の付き人に命ぜられたのであるから、全くもって仕方の無い事であるが。

兎に角…ハギヨシは、どうにもやるせなさのようなものを感じていた。

良かれと思ってやった事が、結局自分の望んだ結果を生み出さなかったのだから。

事実、透華に内在する孤独を払拭する事は結局出来ていない。

何故だろいうのか。

ハギヨシにはそれが全く解らない。

ひょっとしたら、解ろうとさえしてはいないんじゃないだろうか?
233 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/16(火) 01:16:37.81 ID:ZSxivsAjo
ここまで。
234 :>>232 訂正 [sage saga]:2013/07/16(火) 01:53:59.66 ID:ZSxivsAjo
×:何故だろいうのか
○:何故だというのか
235 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/16(火) 02:20:19.61 ID:ZSxivsAjo

天江衣の世話を任せられてから、ハギヨシはみょうちくりんな考えをしなくなった。

というより、完璧以外で物事を考えられるようになったと言うべきか。

如何せんハギヨシに近しい者は、所謂「出来る人」と呼ばれる者ばかりであったから、主達には最低限の仕事で十分奉仕出来た。

…けれど、衣はそうではなかった。

朝は目覚まし時計を幾つ鳴らしても全く起きる気配が無いし、放浪癖で直ぐにあちこちへ行ってしまう。

マイペースもマイペース。唯我独尊を絵に描いたような我侭ぶりを発揮するその様は、ハギヨシさえもたじろがせた。

なんだかんだ言って何事も優秀である透華とは、えらい違いだった。
236 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/16(火) 02:33:22.27 ID:ZSxivsAjo

衣様は…ええと、無邪気というか、幼いですね。

初対面では頗る尊大な態度をとっていたので、随分と気位の高いお方だと考えておりました。

ですが、日常生活における衣様ときたらそれはもうぐうたらでぐうたらで…透華お嬢様から何度お叱りを受けた事か。

何といいますか…怒っておられる時のお嬢様は所帯じみて見えました。

あの小難しい言葉遣いも、賢しくしていると言うよりは子供が一生懸命になって背伸びをしているように思えてきました。

そんな衣様が、麻雀ではあのような有様だと言う事実は…私の心境を相当複雑にしてしまいますね。





であればこそ、私はこう思うのです。

麻雀に出会わなければ、衣様は今よりも幸せに生きていられたのではないかと。

…今以上に周りが苦労されそうな気がいたしますが、
237 :>>236 訂正 [sage saga]:2013/07/16(火) 02:34:47.86 ID:ZSxivsAjo
×:…今以上に周りが苦労されそうな気がいたしますが、
○:…今以上に、周りの人間が苦労を掛けられそうな気がいたしますが……
238 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/16(火) 14:21:18.69 ID:ZSxivsAjo

衣様を見ておりますと、こうあるべきだのあああるべきだのと考えるのが馬鹿馬鹿しくなりました。

もう少し、肩の力を抜いて生きていても良いのではないかと思えました。

あの方は、ご自身の自由奔放な振る舞いについて少しは鑑みて欲しいものですが。

でもまあ、私も含め衣様の周りにはそんな彼女を肯定してくれる人達がいらっしゃいます。

衣様は、決して誰からも許容されない人間ではないという事ですね。

実際、何も知らない方が衣様のお姿を見ればただの無邪気な子供にしか見えないでしょう。

ですが、麻雀が絡むと衣様への評価は完全な二元論と化してしまいます。

強い打ち手、圧倒的な力の持ち主、牌に愛された子などといった声。

そして…怖い打ち手、一緒に打っていても楽しくない相手、化物などといった声。

当主様と透華お嬢様でさえも、こと衣様の事に関してはしばしば対立を繰り返しておりました。

239 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/16(火) 14:34:31.31 ID:ZSxivsAjo

当主様も…麻雀を抜きにすれば、決して衣様には否定的ではなかったかもしれなかったそうです。

けれども、初対面などでの悪印象を拭い去る事はやはり難しいようで。

そればかりは、私としても仕方の無い事のように思えました。

衣様は、ご自分と麻雀を打っても壊れてしまわない方々に特別強い執着を抱く傾向がありました。

言い換えれば、ロクに麻雀を打てない者や自分と対局して壊れてしまった者には関心が薄かったのです。

そういう基準を対人関係に設けていたものですから、学校ではあの方と親しくする友人が出来ませんでした。

その為透華お嬢様が、沢村さんと国広さん、そして井上さんを龍門渕に招く事になりました。

…尤も、お嬢様が彼女らを招いたのはご自分の為でもあったのでしょうが。
240 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/17(水) 01:53:59.27 ID:BFDf+4ABo

…過ぎた事を悔やんでも、仕方ありませんね。

今からでも遅くは無いのなら、もう一度やり直してみればよいのです。

私は、透華お嬢様や衣様達と許される限り一緒に過ごしていきたいという気持ち。

この気持ちに、嘘をつかずに生きていければいい。

このままで、生きていければいい。

いつまでも、いつまでも。

何れ従者としての役割を、果たせなくなってしまうまで…いつまでも。

私は、龍門渕に仕える執事として生を全うしましょう。

主の為。皆の為。そして私の為。

それでいい。

それこそが、私の望むこれから先の未来。
241 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/17(水) 02:12:36.98 ID:BFDf+4ABo

何時だったか、当主は透華にこう言った。

人は皆平等などではなく、そして透華やハギヨシのように成れる訳ではないのだと。

透華やハギヨシは、何事も人並み以上に物事をこなせる人間である。

だから彼らにとっての当たり前は、一般的なものとはいささか以上に異なっていた。

そしてその認識は、衣と出逢った事によって変わったのだ。

口で言った所で、実感の伴わない情報は正確に認識し辛い。

けれど衣という実例によって、当主の言葉は明確になった訳だ。

ハギヨシや透華にとって、衣との出逢いはとても有意義なものであったのだ。

決して何もかもが上手く行かなくとも、案外物事は何とかなるものだと知れたのだから。



しかし、二人は妥協できる様には成らなかった。成れなかった。

透華に関しては、良い意味で。

そしてハギヨシに関しては、悪い意味で。
242 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/17(水) 02:24:19.14 ID:BFDf+4ABo

妥協と言うものは、何も可能性を潰すだけのものではない。

物事に何らかの余地を残し、新たな可能性を生み出す事が出来るのだから。

けれど、余地を残さず完全に為されてしまえば後には何も残らない。

ただ、廃れていくだけだ。

それが解っていても、ハギヨシには妥協がどうしても出来なかった。

常に最良であれ。

ハギヨシは自らに課していたものであり、彼の根幹を成すものでもある。

完璧は、彼にとっての誇りだ。

しかし、それに拘る余り彼は自分の未来というものを見失っていた。想像、或いは創造出来なくなっていた。

完璧であり続けたいという望みは、彼に永遠の停滞をも望ませた。

…完璧という望みの先には、過去とも現在ともつかぬものが待っている。

彼はそれでもいいと思っていた。

置いていかれるだなんて、考えてはいなかった。
243 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/17(水) 02:34:09.22 ID:BFDf+4ABo

透華達は、先へと進む。

ハギヨシが望む望まぬに関わらず。

やがては衣も停滞する事を止め、未来へ歩んでいくようになった。

それは、透華達や宮永咲との出逢いがあったからでもあり、彼女が未来を望むようになったから。

ようやく彼女は、両親の死と麻雀によって孤独となった自分から脱却し出したのだ。

ハギヨシは、孤独からの脱却を始めた衣の姿に涙を流していたが、それどころじゃない。

何故なら彼は、本当に相変わらずだから。

どんなに時が進もうとも、彼には執事である自分しか想像出来てはいないから。

執事である自分以外を、諦めてしまっているから。
244 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/17(水) 02:34:40.16 ID:BFDf+4ABo
ここまで。
245 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/07/17(水) 07:00:15.87 ID:rS+lJbmIo
246 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/18(木) 15:22:29.47 ID:hY7jB7nJo

―――清澄高校麻雀部、IH女子団体戦制覇。

―――宮永咲、IH女子個人戦制覇。





平穏の終わりは、こうして始まった。
247 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/18(木) 15:33:20.75 ID:hY7jB7nJo

のどかであった長野の地に、不穏な雰囲気が立ち込める。

清澄高校麻雀部を、宮永咲を、誰もが皆一様に称えている。

民衆のその様はまるで、神を賛美するかのようで。

宮永咲…彼女達こそが唯一絶対であり、それに付き従う事こそが幸せなのだと確信しているようで。

…IHの結果は…宮永咲が見せた麻雀は、多くの者を魅せ付けた。

誰もが皆、悪魔に魅入られたように彼女へ恭順の意を表す。

その有様はやがて、彼女の住む長野から世界中に広がっていく事になる。まるでパンデミックのように。
248 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/18(木) 15:34:00.49 ID:hY7jB7nJo
ここまで。
249 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/19(金) 18:15:05.85 ID:Yyq1N6Evo

――守れなかった。何も、守れなかった。

仕えるべき主も。

主にとって大切な人達も。

何たる、無力。

私の存在意義など、始めから無かったのです。

居場所なんて、なかった。

生きている価値なんて、なかった。

おかしい…ありえない、こんなことは。

死ぬべき者が…死んだ方が良い者が生き残って、そうでない者が先に逝くなどとは。

…こんな現実を、認める訳にはいかない。
250 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/19(金) 18:30:27.79 ID:Yyq1N6Evo

『悔しい…です。私だって、透華様に…透華先輩に仕えるメイドなのに…こんな、こんなにも…無力、で……』

…杉乃さん。

『萩原さん…貴方は、生きるべき…透華を…私を檻から出してくれたあの子を…守ってあげて欲しい……』

…沢村さん。

『ヨッシー…俺は…透華を守るリッターには…成れなかったけど…アンタなら、きっと守れるよな……』

…井上さん。

『…透華の事、どうか頼みますよ…ハギヨシさん。悔しいけど…ボクには、もう…守れないから……』

…国広さん。

『…気にするな、ハギヨシ。衣は、衣は…大丈夫だから…トーカの所に、行ってあげて』

…衣様…私は…ハギヨシは…とんだ無能でございました。
251 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/19(金) 18:54:27.99 ID:Yyq1N6Evo

『…どうか、生き延びてくれ…透華と共に。ハギヨシ…我が息子よ……』

そして当主様…いや、父さん…私は、私にはそう呼ばれる資格なんてありません。

ありはしません。

誰も守れない…不甲斐ない男なんて、みっともないではありませんか。

格好が悪いじゃないですか。




『いきなさい』

『なっ!』

『それが私の、主としての…最後の命です、ハギヨシ』

『馬鹿な…有り得ません!私が…透華お嬢様を置いて、一人逃げ延びるなどとは!』

『…雀力の低い貴方が居ても、私を守る事は出来ません』

『え……』

『役立たず、そう言っているのです。足手まといが居ては、却って私が危険になります』

『…ですが、ですがお嬢様!』

『…どのみち、私がどうにかなるのは避けられませんわ。ですから…どうかハギヨシ、貴方は…生き延びて』

『お嬢様!お嬢様!どうか、どうかお待ち下さい!お願いでございますから、逝かないで下さいませ!』







『…さよなら、ハギヨシ』

『…と…透華様……透華様ー!』
252 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/19(金) 19:07:56.04 ID:Yyq1N6Evo



こんな過去は…無かった事に。

…私は、ただそれだけを望む。

誰も彼も居なくなってしまった今にも、そしてこれからにも…きっと意味は無いから。

私は望む。

こんな間違いは、正されなければならないと。

私は望む。

こんなはずじゃなかった未来へ、透華様達には生きてもらいたいと。

私は望む。

こんな何も無い所へ行き着いた自分など、無かった事にしてもらいたいと。

自分はもう…どうなってもいいから。どうかみんなには、あるべき未来へ行って欲しいと。






「駄目ですよ、ハギヨシさん。そんな馬鹿な事考えちゃ、皆さん…哀しんじゃいますよ?」

「…貴方は」

「久しぶりですね。俺ですよ、以前清澄に居た須賀京太郎です」

「どうして…どうして貴方が、こんな所に……」

「何って、貴方を助けに来たんです。それが理由では…いけませんか?」
253 :>>252 訂正 [sage saga]:2013/07/19(金) 19:09:14.82 ID:Yyq1N6Evo
×:こんなはずじゃなかった未来へ、透華様達には生きてもらいたいと。
○:こんなはずじゃなかった未来で、透華様達には生きてもらいたいと。

ここまで。
254 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/20(土) 02:21:44.45 ID:BDxPpgNRo

ハギヨシ「須賀君…清澄から去ったと耳にしていたのですが、何時帰ってこられたのですか?」

京太郎「ついさっきですよ。自分のしでかした事に対する、けじめをつけに来たんです」

ハギヨシ「けじめ…ですか」

京太郎「はい。こればかりはどうしても、俺がやらなくちゃいけないんです」

ハギヨシ「…貴方でなければ、いけないのですか?」

京太郎「ええ。咲達は、いや…咲達を利用しているあいつらだけは、俺の手で葬らないといけませんから」

ハギヨシ「差し出がましい質問ですが…須賀君、貴方達に一体何があったんですか?」

京太郎「…地獄を、見てきました」

ハギヨシ「地獄……?」

京太郎「とはいっても、俺が垣間見たのはほんの一端でしかないですけど」

京太郎「それでも…俺が去年までの自分を失ってしまうには、十分すぎる責め苦でした」
255 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/20(土) 02:37:44.08 ID:BDxPpgNRo

そう口にする彼の目に、光はありませんでした。

その眼にはただ闇だけが、或いはがらんどうが無限に広がっていて。

…およそ10代の少年が、このような薄暗い雰囲気を醸し出すのは明らかに異様な光景でした。



京太郎「…俺にはもう、何も無いんです」

ハギヨシ「……」

京太郎「気心の知れた友達も、想っていた人も、そして…第一に俺を育んでくれた両親も」

ハギヨシ「…まさか、まさかそんな」

京太郎「そのまさかです。親父もお袋も、飼っていたカピバラもみんな…みんなあいつらに殺されました」

京太郎「そしてあいつらは、恐らくは透華さん達の仇でもあります」

ハギヨシ「ッ!」
256 :>>255 訂正 [sage saga]:2013/07/20(土) 02:39:09.59 ID:BDxPpgNRo
×:京太郎「そしてあいつらは、恐らくは透華さん達の仇でもあります」
○:京太郎「そしてあいつらは、若しかしなくても龍門渕さん達の仇です」
257 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/20(土) 02:49:51.19 ID:BDxPpgNRo

ハギヨシ「…須賀君、どうかこの私めを」

京太郎「…お気持ちはわかります。けれどハギヨシさん、貴方はこの戦いに挑んで欲しくない」

ハギヨシ「何故なのですか!? 私はどうしても、どうしても透華お嬢様の…皆の、仇を…仇を!」

京太郎「…龍門渕さんは、そんな事を貴方には望んでいませんよ」

ハギヨシ「…知ったような口を」

京太郎「…ハギヨシさん?」

ハギヨシ「知ったような口を、利くな!」

京太郎「ハギヨシさん、何を…っ!」

激昂したハギヨシは、おもむろに京太郎の首を掴んで締め上げてきた。
258 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/20(土) 03:12:33.74 ID:BDxPpgNRo

ハギヨシ「ふざけるなよ、ふざけるなよてめぇ!」

京太郎「ぐ、が」

ハギヨシ「お前に、お前なぞに何がわかると言うのだ!あの子の…透華の気持ちが、会った事さえも無い…お前が!」

京太郎「…ぎ…ぃ……」

ハギヨシ「誰よりも…誰よりも透華の傍に居た俺にさえ、解らなかった事だというのに!」

京太郎「…う…ぐ……」

ハギヨシ「それなのに、よくも…よくも……よくもっ!」

京太郎「…や、めろ」

ハギヨシ「あ?」

京太郎「…やめ…ろって、言ってんだよ!この分からず屋!」

そう言うと京太郎は、ハギヨシの腕を思いっきり握ると、

ハギヨシ「…ぐ、おおっ! なん…だ、その…化け物じみた握力は…うわあっ!」

すぐさま腕を振りほどき、ボールを遠く投げるように投げ飛ばした。

ハギヨシは何とか体勢を整えて着地したが、京太郎に握られた腕は酷く痺れていた。
259 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/20(土) 03:36:18.26 ID:BDxPpgNRo

ハギヨシ「…どういう、事だ」

京太郎「何がさ?」

ハギヨシ「お前は…いや、貴方はただの一般人のはずです。軍属や雀士などではない、無力な人だったはずです」

京太郎「俺だって、それが変わるだなんて思ってさえいませんでしたよ」

ハギヨシ「貴方は、この事態の当事者ではなく…巻き添えを食ったと言う事ですか?」

京太郎「間違っているとも…正しいとも言えませんね」

ハギヨシ「それはそうと…先程は、取り乱してとんだ無礼を致しました」

京太郎「…いえ、良いんです。俺の方こそ、随分と無神経な事を口走ってしまいましたから」

ハギヨシ「須賀君、ご無礼ついでに事の仔細をお伺いしても宜しいでしょうか?」

京太郎「構いませんよ。俺の知る限りであれば、何でも」



そうして、京太郎はハギヨシに事の始終を語り始めた。

多くの喪失に彩られた、青年の物語を。
260 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/20(土) 03:36:52.33 ID:BDxPpgNRo
ここまで。
261 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/21(日) 02:01:10.30 ID:a7B1Oa44o

…清澄から去ってから数ヶ月、俺は荒れた生活を送っていました。

なんで俺があんな目に遭わなきゃいけなかったんだって、いつもそればかり考えていました。

何分、転校前には集団でリンチされて死に掛けましたからね。

…誰にやられたって?

咲と…咲の麻雀に魅入られた、過激な連中の集まりにですよ。

アイツには、それだけの力があったんです。或いは、与えられてしまったんです。

結果咲は、麻雀と読書が好きな女の子ではいられなくなっちまいました。

優希だって、もうかつてのような陽気さは微塵も持ち合わせちゃいません。

部長…竹井先輩は未だに行方が知れません。

染谷先輩は…眼鏡も広島弁もすっかり止めてしまって、険しい顔しかしなくなりました。

そして和に至っては…いや、止しましょう。あんなおぞましい事、話せる訳がありません。
262 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/21(日) 02:16:11.59 ID:a7B1Oa44o

…正直、今でも信じられないんです。

皆はただ、麻雀を打ちたかっただけなのに、こんな事になってしまうだなんてのは。

打ち手としての俺は、早々に脱落してしまいましたが…それでも皆と戦う事は出来ました。

思う所が無かった訳ではなかったんですけど、生憎俺はまだヒヨッコだったし、第一俺は野郎です。

ですから…正直扱いに困るであろう俺を、麻雀部の仲間だからと言って全国に連れてってくれた時は…本当に、本当に嬉しかった。

俺にもまだ、出来る事があるんだって。

叶うなら、この先皆のいる所に一歩でも近づけるように頑張ろうって。

そして、これからも麻雀部で皆と一緒に過ごしていこうって…そう、思っていたんです。
263 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/21(日) 02:26:13.35 ID:a7B1Oa44o

けれど、俺のそのちっぽけな望みは無残に打ち砕かれてしまいました。

永遠に、叶わなくなってしまいました。

そしてそれは、麻雀部の皆も同じです。

あの頃のように、楽しい時間を過ごす事は…もう二度と有り得ない。

…こんなの、あんまりですよ。つまんないっすよ。

こんな思いをするのなら…いっそのこと、生まれてこなければ良かったって。

そう思ってしまう位、生きていくのが…辛い。

この歳で…生まれてきた事を後悔するだなんて、少しも考えちゃいませんでしたよ。
264 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/21(日) 02:32:03.37 ID:a7B1Oa44o

…転校してからの話に戻しますね。

俺は、誰とも係わり合いにならないようにしていました。

清澄での思い出を胸に、過ぎ去った日々を想いながら生きるつもりだったんです。

当時の俺には、それ位しか拠り所がありませんでしたから。



そんな時ですよ、俺が「先生」に出会ったのは。
265 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/21(日) 02:50:31.88 ID:a7B1Oa44o

「先生」は、俺のいるクラスを担任していました。

…あの人は、捨て鉢な生き方をしていた俺をほっといてはくれませんでした。

毎日毎日、ウザい位に俺に構ってきて…周りが冷やかしてくるから、余計に鬱陶しい思いをしました。

イラついて、イラついて…時には喧嘩をして自分や相手を血まみれにする時もありました。

喧嘩の時でさえ、俺はどうしようもなく一人ぼっちでしたから…尚更怒りで一杯になっちまいました。

ボロボロになって…死屍累々の中一人で突っ立って…目の当たりにした光景は、見ていてすげー虚しかったです。

自分は勝ったはずなのに、何にも嬉しくなんかなくて…ただ哀しくて…哀しみのあまり涙を流してしまう程に。



…その時ですよ。「先生」が俺を、思いっきりひっぱたいてきたのは。
266 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/21(日) 03:03:04.18 ID:a7B1Oa44o

『…何、すんだよ』

京太郎の顔は、怒りの余り血がのぼって赤くなっていた。

酷く歪んだその表情は、まさしく鬼の形相である。見るもの全てに、等しく恐怖を与えるような。

『馬鹿者は、こうでもしなければ目が覚めないだろう?』

だが「先生」は、そんな京太郎を前にしてうろたえる事すらしなかった。

それどころか、彼の神経を逆撫でするような言葉を躊躇いも無く口にする。

『ふざ、けんな…この、ババァ…っっ!』

京太郎が、拳を振りかざそうとすると、

『生憎私は、まだ二十代だ…後、少し黙っていろ』

『ぐ、あっ』

「先生」は、京太郎の鳩尾に痛烈な一撃をぶちかました。
267 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/21(日) 03:26:48.81 ID:a7B1Oa44o

『…むう。新しく買った服だというのに、お前のせいで血まみれになってしまったじゃないか』

そう口にする彼女の表情は、まるでいじけた子供のようだった。

あのような惨状に臆する事無く繰り出していった者だとは、とても思えない程に。

『く、そ…が…てめえが…俺なんかに、構いさえしなけりゃ…そんな風には』

そう口にする京太郎に、

『お前は…本当に馬鹿だな!』

『あだっ!』

またしても「先生」が一撃を加える。脳天に向かって、思いっきりチョップを振り下ろしたのだ。

『これだけ私が気に掛けてやってるんだ。だからな、自分に価値が無いだなんて思うな』

『…けど、けど俺は……』

『この世界にはお前だけが存在している訳じゃない。つまりは、お前の価値を決めるのはお前だけじゃないと言う事だ』

『こんな馬鹿をやらかす俺に…価値?』

『須賀よ。お前は何故だか座学もスポーツも相当なものだろう?それもまた、お前が持つ価値の一つだ』

『たまたまだよ。転校する前は、こんな風じゃなかった』

『それにな、お前がのした連中にはあちこちで悪さを働いている奴らも多くいた』

『勿論、諸手を揚げて肯定する訳にはいかないけれど…お前は決して、何もかもが悪い訳じゃない』

『…何が、言いたいんだ?』
268 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/21(日) 03:31:57.05 ID:a7B1Oa44o


『お前はもう、自分の事を無価値だ思わなくていい。卑下なんてしなくたっていい』

『お前がこんな事をしたのは、心無い奴らに対する憤りを感じたからでもあるだろう?』



『…だとしたら、そんな奴が損ばかりをしているのは馬鹿らしいし、勿体無いじゃないか』

269 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/21(日) 03:39:18.93 ID:a7B1Oa44o

そう言うと「先生」は、おもむろに京太郎を抱きしめた。

血まみれになった彼を、やはり彼女は躊躇いなく抱きしめた。

その抱擁は力強く、それでいて優しさがこもっていて。

だからなのか、少ししてから京太郎は思いっきり泣き出してしまった。

大の男が、女の胸を借りてみっともなく泣きじゃくった。

けれども、その光景を笑う者は誰一人としていなかった。
270 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/21(日) 03:39:48.99 ID:a7B1Oa44o
ここまで。
271 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/07/21(日) 06:36:09.81 ID:JnagoRBKo
272 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/22(月) 03:52:24.91 ID:6wQ6IT00o

ハギヨシ「平時であれば、信じがたい話ですね」

京太郎「いいんすよ。俺はただ、話を聞いて貰えるだけで十分有り難く思ってますから」

ハギヨシ「…変わりましたね、須賀君」

京太郎「……」

ハギヨシ「以前の貴方は、今みたいな卑屈さなど…少しも持ち合わせてはいなかった」

ハギヨシ「寧ろ…自分を卑下する言葉は少しも口にせず、ただ自分に出来る事を精一杯こなしていた」

ハギヨシ「私は…そんな貴方のひたむきな姿勢に好意を抱き、貴方を指導しようと決めたのです」

京太郎「……」

ハギヨシ「なのに…なのに貴方は、自分の事など少しも省みてはいないように思えます」

ハギヨシ「もしそうだとしたら、先程話しておられた女性や清澄の皆さんの想いを貴方は無碍にしているんです」

ハギヨシ「…本当に、それで良いのですか?」
273 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/22(月) 04:21:06.33 ID:6wQ6IT00o

京太郎「…ハギヨシさん。確かに貴方の言う通りかもしれない」

ハギヨシ「ならば、もう少しご自愛なさってください。貴方の体は、立っているのが不思議な位めちゃくちゃです」

京太郎「どうして、それを?」

ハギヨシ「…執事ですから」

京太郎「はは、それじゃ納得のいく答えになってないですよ…貴方でなければ」

ハギヨシ「伊達で若い頃から、龍門渕家の執事を勤めている訳ではありませんよ」

京太郎「それもそうか…一般にはあまり知られていませんが、龍門渕が深く関わっていない分野はありませんからね」

京太郎「その当主に側仕えする立場の人間ともなれば、相当の傑物なのは当たり前か」

ハギヨシ「言い方が少し、大げさすぎではありませんか?」

京太郎「ハギヨシさんこそ、ご自分に少しくらいは自惚れてみた方が良いんじゃないですか?」

ハギヨシ「…言ってくれますね」

京太郎「ああ言われて、カチンと来ない訳じゃなかったんですよ。なんだこいつ偉そうに、なんて思ってたかもしれないですね」

ハギヨシ「偉そう、ですか。これは手厳しい」

京太郎「そんなもんじゃないですよ。ガキが逆ギレして、いちゃもんつけてるだけですって」

ハギヨシ「ふむ…随分と幼い心の持ち主だったのですね、須賀君は」

京太郎「もー、茶化さないで下さいよ…ハギヨシさんって、そんな意地悪を言う人でしたっけ?」

ハギヨシ「以前お会いした時には、こんな私を見せる機会が無かっただけですよ」

京太郎「…正直、得体の知れない人だなって思ってました。何も無い所からやってきたりしますもん」

ハギヨシ「それはちょっと、流石に、失礼すぎるのではないかと」
274 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/22(月) 04:39:46.51 ID:6wQ6IT00o

ハギヨシ「それはそうと須賀君。先程よりも随分、表情が現れてきましたね」

京太郎「あれ…ホントだ、気がつかなかった」

ハギヨシ「今みたいに振舞っているべきですよ。貴方はそうしていたほうが、ずっと魅力的だ」

京太郎「まあ、言われて悪い気はしないですね」

ハギヨシ「照れないで下さいよ。須賀君、そこは素直に喜びましょう」

京太郎「は、はあ」





ハギヨシ「…少しは、気が楽になりましたか?」

京太郎「ええ、お気遣い感謝します」

ハギヨシ「ですが、やはり貴方はこの先へ進む事を止めないのですね?」

京太郎「俺が、やらなくちゃいけない事ですから…いや、俺である必要性も必然性も無いのかもしれないけれど」

京太郎「それでも俺は、この先へと歩む足を…止める事は出来ない」
275 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/22(月) 04:40:17.97 ID:6wQ6IT00o
ここまで。
276 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/22(月) 17:36:31.12 ID:6wQ6IT00o



ハギヨシ「ならば、せめて最後まで話しを聞くのがせめてもの義理です」

京太郎「…良いんですか?」

ハギヨシ「貴方が言っても聞かないわからず屋なのは、もうどうしようもない事ですから」

京太郎「そう、ですね」

ハギヨシ「話を、続けていただけますか?」

京太郎「…わかりました」
277 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/22(月) 17:54:55.69 ID:6wQ6IT00o

先の一件があってから、少しはマシな生活を送るようになったんです。

勿論、周りからは相変わらず避けられていましたね。

けど、寂しいとか辛いとかいう気持ちはあまり感じなくなりましたね。

…先生がいたからでしょうか。

そのお陰で良い事もありましたし、悪い事だってありました。

色々揶揄されてましたけど、あの人を慕う人は少なくありませんでしたから…俺への風当たりは強かったんです。

それでも、前のように腐ったりはしませんでした。先生を裏切る訳にはいきませんから。





それが認められたかどうかは兎も角、俺はある学園に特待生として転入する事になったんです。

それは、昔和が通っていた…ネットでは無くリアルで、人と向き合って麻雀を打っていた初めての場所でした。
278 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/22(月) 18:09:48.21 ID:6wQ6IT00o

そこには、和と再会したくて全国を目指した奴がいました。

そいつに付き合って、名門校を蹴ってまでやって来た子がいました。

昔…和達がいた所に憧れるだけだったけど、今度こそはと勇気を出した人がいました。

かつて伝説と呼ばれ、けれど力及ばずに敗れてしまった過去をもつ人がいました。

そんな打ち手にさえ叶えられなかった事を、自分が叶えてみせようとする人がいました。




そして…そんな皆が戻ってくるのを、ずっと待っていた人がいました。
279 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/22(月) 18:16:45.62 ID:6wQ6IT00o

…俺は、やり直したかったんです。

清澄の皆と過ごしたような時間を、もう一度過ごしてみたいと思ってました。

もし叶うなら、今度は麻雀で不甲斐ない結果を出したくないとも。

それと、男子の団体戦にも出場してみたいとも。

やってみたい事が、沢山ありました。

…沢山、沢山あったはずなんです。

けど、ダメでした。

やっぱり、ダメでした。

やり直そうだなんて、過去に囚われたまま生きてきた奴に…未来なんてある訳が無かったんですよ。
280 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/22(月) 18:17:11.15 ID:6wQ6IT00o
ここまで。
281 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/23(火) 03:09:47.67 ID:n2fHp81Ho

はは、そう言えばもう一人いましたね。星のように眩い光を持った奴が。

どうも最近は忘れっぽくていけねえや。

…他にも、結構いたはずなんですけどね。

―――もう、何にも思い出せないや。

そのうち…何もかもみんな、忘れ去ってしまうんだろうなあ。

そして俺もきっと忘れ去られるんですよ、誰からも。

…勿論ハギヨシさん、貴方からもです。

俺の存在は、もうすぐ無かった事になるでしょう。

オヤジとオフクロ、それにカピがそうなったように。
282 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/23(火) 03:17:56.56 ID:n2fHp81Ho

ハギヨシ「…馬鹿な事をのたまうのはお止しなさい!」

京太郎「仕方ないですよ。やるだけやってダメだったんですから、俺にはもう受け入れる事しか出来ない」

ハギヨシ「なんだって…なんだってそんな……」

京太郎「さっき、俺が死に掛けた話はしましたよね?」

ハギヨシ「それが、一体どうしたと…まさかその時に何か」

京太郎「そうです。助けてくれた人が、妙なモノを俺の身体に埋め込んだそうでして」

京太郎「それからというもの、何をやっても人並み以上に出来る様になりましたよ…麻雀を除いては」
283 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/23(火) 03:24:35.84 ID:n2fHp81Ho

麻雀を再び始めてはしましたが、これだけはどうにもからっきしで。

それでも何とか、初心者を脱却して満足に打てるようにはなりましたよ。

けど…結局俺の力だけではどうにもなりませんでした。

たった2ヶ月で全国目指そうだなんてのが、そもそも可笑しいんだし負けて当然なんですが。

――なのに俺は、それがどうしても嫌だった。

敗北を受け入れてはならないと、そう思う心が俺にはあった。

そんな俺の気持ちに応えてなのかどうかは分かりませんけど、俺もオカルトめいた事が出来るようになったんです。
284 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/23(火) 03:52:51.65 ID:n2fHp81Ho

ハギヨシ「そんな馬鹿な…オカルトの能力は、先天性のものしか存在しないはずです」

京太郎「その通りです。そこは変わっていませんよ、ハギヨシさん」

ハギヨシ「え?」

京太郎「オカルトめいた事が出来るようになったのであって、オカルトの能力なんて俺は持ち合わせちゃいません」

京太郎「俺にはどうも、代償を支払う事で何もかもを思いのままにする力があるようでして」

ハギヨシ「!?」

京太郎「いつぞやか…鶴賀の東横さんが部活の最中、突然光と共に消えたニュースがあったでしょう?」

京太郎「…アレは俺の仕業なんです。心の拠り所になる人が、一人でも多くいてくれたらってふとそう思ったら…ね」

京太郎「そしたらつい、彼女を和歌山まで呼び寄せちゃいました」

ハギヨシ「…なんという」

京太郎「俺も言ってて訳わかんなくなるんですけどね…けどそれで、長野の惨状までも否定は出来ない」

ハギヨシ「…つかぬ事をお聞きしますが、その力…透華お嬢様達には使えなかったのでしょうか?」

京太郎「言いにくいんですけど…それは無理でした」

ハギヨシ「何故?」

京太郎「あの力は…俺と面識のある人にしか使えないそうなんです」

京太郎「東横さんは…俺に呼び寄せられた時、俺の声が聞こえたって。けど、周りにいた人には聞こえていなかったって」

京太郎「彼女はそう俺に話していました。実際、大会で知った人達の誰も…面識がないと呼べはしませんでした」
285 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/07/23(火) 03:56:56.64 ID:rqelzxO+o
これどこかで見た事あるなって思ったらあのスレか
286 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/23(火) 04:09:23.33 ID:n2fHp81Ho

京太郎「それに…東横さんからは力を使うのをやめるように言われていたんです」

ハギヨシ「何故?」

京太郎「こんなトンデモな力、突然手に入れたとしたらきっと良くない事が起きるって」

京太郎「実際、その通りでした。数日して、偏頭痛みたいな症状が現れるようになったんですから」

ハギヨシ「ご表情が優れないのは、そのせいでもありますか」

京太郎「ですね。頭は割れるように痛いし、記憶はなくなってしまうわで大変ですよ」

ハギヨシ「記憶?」

京太郎「ああ、話してませんでしたね。俺が妙な力を使うと、その度に記憶が失われていくんです」

京太郎「記憶の他にも、失っている者はあるかもしれませんけどね」

ハギヨシ「…そう言えば須賀君、貴方は『きっと忘れ去られる』と仰っていましたね。アレは一体、どういう意味なんですか?」

京太郎「言葉の通りですよ。この力は俺の記憶だけじゃなくて、誰かの記憶も代償にする」

京太郎「つい先日まで一緒にいた麻雀部の皆も…俺の事は、きれいさっぱり忘れちゃいました」

ハギヨシ「!?」

…ハギヨシは、あまりにおぞましい事を京太郎が軽々しく口にした事に絶句した。

何が、彼にここまでさせるのだと。

こんな惨たらしい事を、ただのしがない少年に強いる者がいるのかと思わずにはいられなかった。
287 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/23(火) 04:10:51.99 ID:n2fHp81Ho
ここまで。
288 :>>286 訂正 [sage saga]:2013/07/23(火) 04:13:15.11 ID:n2fHp81Ho
×:京太郎「記憶の他にも、失っている者はあるかもしれませんけどね」
○:京太郎「記憶の他にも、失っているモノはあるかもしれませんけどね」
289 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/23(火) 16:56:15.13 ID:n2fHp81Ho





ハギヨシ「…辛いとは思わないんですか?」

京太郎「もう、慣れましたから」

ハギヨシ「貴方はこの先、一体どうなってしまうんですか?」

京太郎「さっき言った通りです。無かった事にされるんですよ…俺の家族のように」

ハギヨシ「……」

京太郎「それに、家族の皆は俺がリンチに遭ったあの日……」
290 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/23(火) 17:17:24.89 ID:n2fHp81Ho

『やめろ…やめてくれ!親父達には、皆には手を出さないでくれ!』

『馬鹿を言え。お前のようなクソッタレを生み出した者達など、死んで当然ではないか』

『我が身可愛さに弱音を吐いてはいたが、お前の身を常に案じていたのは賞賛に値するがね』

『ぐ、うう…貴様、ら……』

『京、太郎…に、手を出したら、ただじゃ…済まないわよ……』

『減らず口を…息子が来る前は、命乞いを良く口にしていたのに』

『意地が…あんだよ。子供の前で…見栄を張れなくて、親なんて…やって、られるか』

『そう、よ…伊達や、酔狂で、子育てなんて…やってんじゃないんだから』

『オヤジ!オフクロ!』

『強情だな…だが、お前らの抵抗なんざ無駄なんだよ』

『まったくだ。お前たちもじき、あのカピバラのようになるというのに』

『…お前ら…アイツに何をしやがった!答えろっ!』

『そう怒るな。いくら怒った所で、お前達にはもう何も出来ないのだから』

『まあ良いじゃないか。見せてやろうぜ…変わり果てたペットの姿をな』

『…ほらよ』
291 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/23(火) 17:32:11.16 ID:n2fHp81Ho

『…なんなんだよ、なんなんだよこれ』

『…貴様らぁ!』

『アンタ達、何で…何でこんな事』



須賀家の3人が目にしたのは、変わり果てた家族の姿だった。

目は両目とも抉られていて、目や耳は削ぎ落とされていた。

胴体から足は完全に切り落とされており、首には深い切創があった。

頭部は、皮一枚で胴体にぶら下がっていた。そして…色んな物が刺さった胴体は、さながら針鼠のようだった。



『すまんなあ…臭くて仕方が無かったのだ。おまけに鳴き声が煩くて煩くて』

『だからつい、むしゃくしゃして殺しちまった。お陰で余計に臭くなっちまったがね』
292 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/23(火) 17:41:28.28 ID:n2fHp81Ho

『お前らは…お前らは一体、何様のつもりだ!ふざけるな、ふざけるなぁ!』

京太郎の父親がそういっていきり立つと、

『…ぐ、ごばっ』

『神様…その代行者のつもりですが、それが何か?』

そう言って、誘拐犯のリーダーは彼の心臓にナイフを深く突き立てた。

『…あ、あなた!』

その事態に京太郎の母親がいの一番に反応したが、

『うろたえるな…今、伴侶の後を追わせてやろうじゃないか』

『…か、は』

彼女もまた、誘拐犯の一人に首をナイフで切り裂かれたのだ。
293 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/23(火) 17:58:26.21 ID:n2fHp81Ho

『…オヤ、ジ?オ、オフクロ……?』

『あーあ、死んじゃったよ』

『命とは、かくもあっけないものだなあ』

『ついさっきまで、強い眼差しで我々に抵抗の意思を見せていたというのに…その眼にはもう、光がない』

『これが、諸行無常というものなのだな。成程勉強になったよ』



『あ……ああ……』

『なんだよコイツ、もう心が折れちまったよ』

『仕方ねえな…じっくりと甚振ってから、死なせてやろうじゃねえか』

『そうだな。こんな奴、早く殺してやった方が良いし』

―――誘拐犯の数、およそ50人。

その総てが、一斉に京太郎へと暴力を振るう。

…抗えるはずなどなかった。

294 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/23(火) 17:59:04.23 ID:n2fHp81Ho
ここまで。
295 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/24(水) 03:49:04.68 ID:lB6WsX/fo

…あんな目に遭うまでは、日本国内や国外で起きている物騒な話は他人事だって思ってました。

自分には、全く関係の無い話だって思ってました。

けど、それはとんだ間違いでした。

平穏なんてモノは、あっけなく崩れ去ってしまうんです。

一人の悪意を皆が肯定すれば、それが大義名分…つまりは正義になる。

俺や俺の家族に向けられた悪意も、結果からすれば肯定されたんですよ。

俺達の味方なんて、実質誰もいなかったんですから。
296 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/24(水) 04:07:53.20 ID:lB6WsX/fo

でもまあ、味方がいなかった事は存外どうとも思っていないんです…逆恨みくらいはしているでしょうが。

俺が向こうの立場だったとして、やはり俺に味方するってのは考えられませんから。

失うのが怖いんです。

ヒロイズムをこじらせて、自己陶酔しながら自らを破滅させるなんて…正気の沙汰じゃない。

何事にも限界というものはあるってだけの話です。

人情なんてたかが知れている…そんな現実も、確かにこの世界にはあるんです。

…けれど。

…けれど、自分が世界に失望してしまったからといって…この世界を見限ろうという気にはなれません。

恨み言ばかりを並べ立てて逝こうだなんて、考えられません。

哀しいかな、恨み言ばかり語れる程に俺は長生きなんかしちゃいないんです。

結局は、何にも分からないただのガキンチョでしかないんです。

それなのに、絶望の一端を知っただけで世界を見限ろうだなんておこがましいじゃないですか。

嫌ですよ、そんなの。

ネクラのままで死ぬだなんて、ごめんです。

たとえ先が無かったとしても、俺は未来を望み…最後まで足掻くんです。

この気持ち、誰にも否定させはしない。



(俺に憑きやがった自称神様、アンタでもだ)
297 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/24(水) 04:08:25.70 ID:lB6WsX/fo
ここまで。
298 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/24(水) 05:20:23.07 ID:lB6WsX/fo

…俺に得体の知れないモノが憑いたのに気付いたのは、県大会決勝での事だった。

俺を弄び、家族を弄び、仲間を弄んだクソったれの一人。
俺はコイツが憎くて仕方が無い。
コイツらがキチガイじみたことさえ考えなければ、俺達はきっと平和の中で生きていられただろうから。
その平和が、欺瞞に満ち溢れたモノであったとしても…それならそれで良かった。
少なくとも、俺達が幸せに生きる可能性があったんだから。

何が新人類だ。何が旧人類だ。優良種だ劣等種だ第四帝国だゲセルシャフトだ人調審だ。
そんなもん知らねえよ。知ったこっちゃねえよ。
お前らがいなければ、こんな事にはならなかったんだ!
299 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/24(水) 05:34:43.99 ID:lB6WsX/fo

神様とやらはこう言っていた。
自分達が、俺達のいる世界と何ら係わりを持たない存在だったと。
本来の世界なら有り得ない事であっても、今の世界では当たり前のように起きると。
そんな事を、奴は面白そうに口にしていた。

世界がこうなったのは、第四帝国って奴らの仕業らしい。

アイツらがいた世界じゃ、かの有名な独裁者がこの時代においても生き永らえていたらしい。
けれど、その独裁者が日本の元首相に負けて死んじまったそうだ。
リーダーが死んで慌てふためいた連中は、自分達の研究の成果を活かしてリーダーとその側近を甦らせようとしたらしくて。
それでアイツらは、リーダー達が使っていた「重ね合わせ」の現象を利用しようと企んだ。

その結果がこの世界だ。

生憎、咲みたいな奴を利用しようとしている奴らは「重ね合わせ」の前からいたらしいけど。
…ただ麻雀打つだけだってのに、何だって人の生き死にとか世界の命運とかが係わってくるんだろうな。
300 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/24(水) 05:46:56.03 ID:lB6WsX/fo

…まあ、いいか。
結局俺は、麻雀に全てを賭けられる程の情熱なんか持っちゃいないんだから…分かる訳ない。
情熱を注ぐ理由なんて、とっくの昔に失ってしまったしな。

――行き場の無い感情だけが、俺の一切を支配している。

咲達を利用しようとしていた連中は、麻雀の打てない人間から権利を根こそぎ奪い取ろうとしていたらしい。
麻雀の強さによって全てが決まるシステム…弱小の打ち手は、家畜さながらの扱いになる社会を作るつもりだった。
俺にとっちゃ生憎ではあるが、そいつらはもうくたばっちまったらしい。ざまあみろだ。
けど、憎むべき奴らはまだ存在している。
301 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/24(水) 06:01:02.98 ID:lB6WsX/fo

アイツらを根絶やしにする為なら、きっと俺は何だって出来る。

―――勝てば良い、それが総てだ。

その為なら、麻雀を侮辱するような真似なんてお構いなしさ。

県大会の決勝戦…奴らの手先と対局した時、俺は麻雀を否定したんだ。

麻雀を…麻雀部の皆が愛した麻雀を、俺は汚してしまったんだ。

この、得体の知れない力で。

だからもう、麻雀なんてどうだって良い。

俺は、アイツらに復讐できればいいんだ。他には何も無い…何にも、無いんだよ。

一緒の時間を過ごしてくれる人は、もういない。

帰れる場所なんて、もうどこにもある訳ないんだから。





『そんな事ではどう足掻いても、貴殿は役割持てませんぞ』

アイツには…ホント思い知らされたよ。
302 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/24(水) 21:46:12.22 ID:lB6WsX/fo



……

…………君、…須賀君!


ハギヨシ「須賀君!返事してください!」

京太郎「あれ…俺、一体何してたんでしたっけ?」

ハギヨシ「貴方は急に呆けて全く動かなくなり、少しして完全に気絶していたんですよ」

京太郎「はは、そうだったんですか」

ハギヨシ「はは、じゃありませんよ!そんな有様で、単身清澄に乗り込もうだなんて無謀過ぎます」
303 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/24(水) 22:07:02.84 ID:lB6WsX/fo

京太郎「単に、思い返していただけですよ…どうして、こうなってしまったんだってね」

ハギヨシ「それだけであんな風になるだなんて、有り得ませんよ」

京太郎「だとしたらそれは、俺がかつての自分を永遠に失ってしまったからでしょうね」

ハギヨシ「と言いますと?」

京太郎「自我も意識も非常に希薄になっているから、こんなザマなんです」

ハギヨシ(私には…彼が何故そこまで自己に執着するのか分からない)

京太郎「…人格とか心の所在なんてものは、あまりに不確かで移ろい易い」

京太郎「和は、そう言って俺の事を慰めてくれたんですけどね。やっぱり俺には、どうしてもそう割り切れなくて」

京太郎「清澄の麻雀部を忘れたくなくて、諦めたくなくて、そして失いたくないと思う自分がいて」

京太郎「でも俺は無力だったから、結果置き去りにされて…自分を失って」

ハギヨシ(けれど……)

京太郎「くどいようですが、俺はこんなの嫌なんです。何もかもが、恣意によって歪められた今ある現実が」

ハギヨシ(けれど…喪失への恐怖と、受け容れがたい現実への抵抗意識には共感出来ます)
304 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/24(水) 22:17:42.33 ID:lB6WsX/fo

京太郎「…ハギヨシさん」

ハギヨシ「何でございましょう?」

京太郎「もう少しこのまま、楽にさせては貰えませんか?」

ハギヨシ「構いませんよ。どうぞゆっくりお休み下さい」

京太郎「…ありがとうございます、では……」

ハギヨシ(…眠ったか)

ハギヨシ(彼は再び、目覚めるのだろうか?それとももう二度と、目覚めはしないのだろうか?)

ハギヨシ(ひょっとしたら、このまままどろみの中でこの悪夢から解放された方が良いのかもしれないけれど)

ハギヨシ(…もしそうなってしまったら、彼の遺志は誰が受け継ぐというのだろうか?)
305 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/24(水) 22:38:45.72 ID:lB6WsX/fo





…待とう。

彼の意志は、彼だけのものだ。彼以外の誰も、彼の意志をもって事を為せはしない。

私に出来るのは、彼の目覚めを信じて無防備と化した彼の身を守る事だけだ。

―――もう、何も守れないのは嫌なんだ。

だから、だから今度こそは守りきってみせよう。守れなかったなどとは、もう二度と嘆くまい。



どん、とドアが蹴破られる音がした。

「…いたぞ!」

「龍門渕家邸の隠し部屋があれ程の数とは想定していなかったから、てこずったな」

「だが、それももう終わりだ。須賀と萩原の両名を捕獲し、我々は栄えある第四帝国に貢献するのだ」

物々しい音と共に、清澄の…第四帝国の兵士達が現れ、御託を口にしながら即座に襲い掛かってきた。

無駄口とは裏腹に、彼らの動きは非常に洗練されていて…ハギヨシといえど容易には倒せない。



(これは…覚悟を決めた方が良いでしょうね)

ハギヨシは、意を決して数多の雑兵達へと向かっていった。己の死を賭して。
306 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/24(水) 23:13:06.69 ID:lB6WsX/fo

…県大会優勝。

かつてなら到底叶えられなかった目標を、京太郎はあっさり叶えてしまった。

清澄時代よりも遥かに、麻雀へ打ち込む時間はあったとはいえ、あまりの呆気なさに彼は拍子抜けした。

こんなものか、と。

咲達が乗り越えてきたものは…この程度のものだったのか、と。

有り得ない。

こんな事は有り得ないし、あって欲しくないとさえ思っていた。

麻雀の性質や去年からのルール改正で、地力だけでは計り知れないものがあるのが今のインハイだ。

…だからと言って、まともに麻雀を打ったのがほんの数ヶ月な自分が勝つ事への抵抗がなくなる訳はなく。

京太郎は、どうしようもない程に後ろめたさを感じていた。

一応優勝して笑ってはいたが、その目は完全に死んでいた。



泣きっ面に蜂、という奴だろうか。

表彰式の最中、突然黒い軍服を着た集団が瞬く間に会場を取り囲んだ。

そして京太郎は、その集団のリーダーである男と対局する事になる。

男は自らを「論者」と名乗った。

彼は京太郎と同じ、ある組織の残党によって人体実験の被検体となった存在である。
307 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/24(水) 23:18:58.47 ID:lB6WsX/fo
>>306 訂正

×:一応優勝して笑ってはいたが、その目は完全に死んでいた。
○:一応優勝はしたので笑ってはいたが、その目は完全に死んでいた。

ここまで。
308 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/25(木) 01:54:11.52 ID:v5sD1fkTo

「論者」を名乗る男に、京太郎は彼に何が狙いなのだと尋ね、それに対して男は、

「大した事ではありませんな。我々はただ、雀士の『選別』に来ただけなのですから」

と答えた。選別とは一体なんなのか、そう京太郎が再度尋ねると、

「アーデルハイド(以下、Aha.)と呼ばれる雀力の値が一定以下の者に、我らが築く新世界での役割などありはしませんからな」

「役割を持てないゴミは、ヴァルハラへと導く以外ありえない。とどのつまり、我々は役立たずを始末しに来たのですぞ」

男は薄気味悪く笑いながら、そう言った。そして、

「500Adh.以下のゴミを、始末しなさい」

と、やはり笑みを浮かべながらそう部下に命じた。





そして…誰かが止める間も無く、雀力が低いと判断された人間は…皆七孔噴血して絶命した。
309 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/25(木) 02:11:36.89 ID:v5sD1fkTo

「…何を、しやがった」

「んん?」

「何をしやがったって言ってんだよ!このクソったれがっ!」

「ふむ…分からないようであれば、教えて差し上げましょうとも」

「勿体つけてないで、さっさと言え!」

「我々の中でも、特に優れた雀力の持ち主数名が全力を開放しただけなのですぞ?」

「は?」

「我が部隊は、最低でも2500Adh.以上の雀力を有する者ばかりが集まる精鋭……」

「我を含む数名は、国家首脳レベルの5000Adh.以上の力を有している。そのクラスが全力になれば、近くにいるだけで人は死にますぞ」

「…冗談だろ?」

「信じるも信じないも貴殿の自由。しかし、我々の手によって多くの命が奪われたのは揺るぎない事実」

「それに、我々は一切の兵器を所持してはおりませんぞ。殲滅を考えるなら、まず兵器を用いないのは有り得ない」
310 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/25(木) 02:34:09.12 ID:v5sD1fkTo

「…ただ人を選ぶだけなら、殺す必要なんて無いだろ!」

京太郎は、怒っていた。

殺された者達は皆、あるかどうかも分からない不確かな未来を…必ず迎えられると信じていた。

生きていたいという意志…程度の差こそあれ、それだけは確かだったから。

なのに…そんな明日を願っていた人々の誰も、もう生きてはいない。

過去を求めて生きる京太郎には、その事実がとてもとても辛かったのだ。

「…んん、それはありえない」

論者が語りだす。

「何?」

「考えてもごらんなさい。清澄で雑用という役割を失った、雀力の無い貴殿がどのような目にあったか」

「!」

京太郎は、あの凄惨な事件を思い返してしまった。

家族を皆殺しにされ、自らもまたその命を奪われかけた忌まわしき過去を。

「新世界じゃ、雀力の無い弱者は役割を持てず淘汰されるだけの未来しか持てませんぞ?」

「そ、それは……」

「貴殿は分かっているはず。役割を持てない者は、死をもって救済する以外ありえない」

論者の顔から、突然笑みが消えた。

彼の目からは、深い悲しみのようなものが伺えた。その眼差しはまるで、失った何かに思いを馳せているようで。

…けれど、少しして論者は再びあの薄気味笑いを始めた。悲しみを狂喜で塗りつぶすかのように。
311 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/25(木) 02:57:43.45 ID:v5sD1fkTo

「話はこのくらいにしておきましょうかな」

「同感だ。さっさとのしてやるぜ、麻雀でな」

「…良いのですかな?」

「何が?」

「貴殿や、貴殿の仲間は流石です。我ら被検体の中でも、特に高いAdh.を有している」

「単純な力だけなら、我らとて容易く凌ぐ程の力ですな」

「だったら、自分達の心配でもしてろよ。こんな事して、ただで済むと思うなよ?」

「ただで済まないのは、貴殿の方ですな」

「また、バカみたいな事を言う」

「どう言おうとそちらの勝手ですが…貴殿の持つ力の大半は、結局の所貴殿自身が持ち合わせている力ではありませんぞ」

「それが…一体何だってんだ」

「貴殿自身の力は、精々が1500Adh.でしかない。そんな者が、あの過酷な実験を乗り越えてきた我らに勝つなどありえない」

「だったら…だったら俺の持つ力ってのは、一体誰のものだって言うんだ!」

「…貴殿には最近、幻聴と思しきものが聞こえているでしょう?」

「っ! 何故、その事を知っているんだ!?」

「我々の指導者と、貴殿に憑いている者『達』には浅からぬ因縁がありますからな。知らない訳が無いんですぞ」

「…そいつら、結局何だって言うんだよ」

「この事態を引き起こした張本人達と、それに敵対する者ですな」

「なっ!」

「結局の所、貴殿は巻き添えにされただけですな。宮永咲との面識が無ければ、貴殿はきっと平和を甘受して生きていられた」

「……黙れ」

「んん?」

「黙れって、言ってんだよ!嫌なら、永遠に黙らせてやる!」

「…果たして、黙るのはどちらなんでしょうな?」
312 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/25(木) 04:22:48.33 ID:v5sD1fkTo



「…ク、ソ」

「んん、もう終わりですかな?」

「まだ…誰も、トバされてなんか、ないだろうが」

「そう言えばそうでしたな。しかし、貴殿らが負けるのは時間の問題ですぞ」

「俺達は…俺はまだ、諦めねえぞ」

「あんな安上がりを直撃させてばかりで、よくもまあ我をトバそうとしたものですな」

「安上がり…5000以上の手が、全て安上がりだって?」

「当たり前ですぞ。その程度、総合的にロジックして3分でわかることだ」

「…お前の言うロジックってのは、一体何なんだ?」

「高火力重視の麻雀に決まってますな。倍満以下はありえない。それ以下の手は全てゴミ手ですぞ」

「…は?」

「相手の手は、ロジカル思考によって完璧に把握する以外ありえない。流させるかゴミ手にする以外ありえない」

「倍満より上の手ばかりじゃ、どうしたって多少は読まれやすくなるじゃねえか」

「んん。たとえ手が読まれたとしても、信仰による必然力を持ってさえいれば和了らないなどありえない」

「必…然、力?」

「国家首脳レベルの雀士が持つ豪運と、ある種似たようなものですな」

「我は我が神への信仰心ゆえに、彼らに匹敵…あるいは凌ぐほどの雀力を手にしたのですぞ」

「……ぷっ」

「何故、笑うのですかな?貴殿達はもう、虫の息のはずですぞ」

「信仰心、だって?笑わせるぜ、結局は妙な実験によって得た力じゃねえか」

「…なん、だと」

「お前だって、俺と同じ『被検体』やらなんだろ?」

「…くく、ははは。よくも、よくも我を侮辱したな!」

「あの妙な話し方はどうした?それにお前は『我を侮辱した』って言ったよな?」

「お前は結局、おまえ自身が虚仮にされたからキレたんだ。神への信仰?語るに落ちたな」



「貴殿は…貴殿は死ぬ以外ありえない!カン!」

(はは…ああは言ったけど、アイツの強さは本物だ。打つ手なんかねえ)

「続けて、カン!」

(アイツのあの打ち筋には…長い経験に裏打ちされたものが感じられる。その上、麻雀じゃ俺以上に地獄を見ているらしい)

「もいっこ、カン!」

(おまけに大明カンときたもんだ。次にリンシャンされたら間違いなくトバされるな)

「…これで、終わりだ!」

(いつだったっけな…俺、どこかで似たような光景をどこかで見たような気がする)

(ああ…そうだ、県大会の決勝南四局で…咲が数え役満で逆転優勝した、あの時だ)

(あれは、すごかったなあ。そんなアイツと同じような事が出来る奴相手じゃ、勝てる訳なんか…ないよな……)
313 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/25(木) 04:44:58.45 ID:v5sD1fkTo








(何をする!この身体はもう我のモノなのだぞ!)

『―――少年よ…悪いが少しの間、君の身体を借りさせてもらうぞ』

『誰だ、アンタ?あのいけ好かない、自称神様じゃ…ねえよな?』

(少年、そいつの言葉に耳を貸すな!お前は、この私に身を委ねていればよいのだ!)

『私が誰なのか…今はどうでも良い事だ。それより少年、君はこれからどうしたい?』

『どうしたいか、だって?』

(ふざけるな!我は完全者であり現人神なのだぞ!その我が何故、貴様らを意のままに出来ぬというのだ!)

『このままだと、奴は間違いなくツモるだろう。そうなれば、君は間違いなく死ぬ』

『ここで負けて死ぬか、どんな手を使ってでも勝ちたいか、いずれか選べ』

『…そんなの』

(やめろ!やめるんだ!)

『そんなの、決まってる』

(我は知らしめるのだ!神の如き…いや、神そのものたる我が力を!)

『俺は…勝ちたい!どんな手を使ってでも、勝たなきゃならない!』

『…そうか。君の意志、確かに受け取ったぞ』

(…むう)
314 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/25(木) 04:47:38.66 ID:v5sD1fkTo







『少年よ、よく見ておけ。これが…私がじっちゃんから教わった、ケンカの勝ち方だ』






315 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/25(木) 04:48:53.79 ID:v5sD1fkTo
ここまで。
316 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/25(木) 06:44:41.82 ID:v5sD1fkTo

(我は論者!絶対勝利の理に生きる者!)

(我には勝利以外ありえない!これまでも、これからも、ずっとだ!)

(さらばだ、須賀京太郎……っ!?)

「どうかしたのか?」

「はは、なんでも…なんでもありませんぞ」

(ぐう…槓子は揃ったというのに、肝心の雀頭を作れないとは)

(んん…ありえない!ここでツモれさえすれば、役満で奴をトバせたというのに!)

「…どうやら、ツキが無くなったようだな」

(それになんだ…須賀京太郎の雀力が、急激に上昇し続けている)

「ならば、今度は『私』の番だな」

(…馬鹿な!20000Adh.を超えただと…しかも、未だに上昇は続いている)

「覚えておけ。力への過信は、己の身さえも滅ぼす毒になりうるのだと」

(この雀力…そんな、まさか……)

「そして聞け!たとえこの身が塵芥になり果てても、私はこの国を護る!!」

(馬鹿な…あのお方の話では、奴が復活する可能性は極めて低かったはずだ……!)

「……ツモ!国士無双十三面(ライジング・サン)!!」

(んん…こんなことは…ありえない……)
317 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/25(木) 07:14:32.51 ID:v5sD1fkTo





「…ツモ。これで貴様らのトビだな、論者よ」

「はは…そうですな」

「答えろ…奴は、あの魔神は一体どこにいる?」

「貴殿はもう知っているはずだ。あのお方は…長野の嶺上におわす」

「…そうか」

「…聞いても、いいですかな?」

「何だ?」

「須賀京太郎は…貴殿に身を委ねた事をどう考えているのですかな?」

「ふむ、貴様はそう思ったのか」

「何か、間違っているとでも?」

「間違ってはいないが、言葉が足りんな。あの少年はただ、私に未来を懸けただけだ」

「未来…ですか。んん、存外彼は諦めの悪い奴だったんですな」

「そうだ。つまらない意地を張ってプライドを護るよりも、彼は未来を護ろうとしたのだ」

「…そうですか。結局はプライドを護る為に戦った我とは、格が違ったという事ですかな」

「かもしれんな」

「けれど…我は麻雀では彼に負けてはいませんぞ。我に勝利したのは、あくまで貴殿だ」

「当たり前だ…今回の敗北を糧に、彼には強くなってもらわねばな」

「……どうやら、ここまでのようですな。我もまた、先に屠った者達のように逝く時が来た」

「……」

「もっと早く…貴殿と会っていたら…気持ちの良い負け方を、知ってさえいれば……」

「論者という名の…勝利の奴隷には…ならずに、済んだかも、しれません…な……」

論者は、そう言って事切れた。

彼の部下達は、その最期を看取るといずこへと去っていった。彼らの忠誠は、常に勝利してきた論者のものであったからだ。
318 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/25(木) 07:20:01.37 ID:v5sD1fkTo
>>317 訂正

×:彼の部下達は、その最期を看取るといずこへと去っていった。彼らの忠誠は、常に勝利してきた論者のものであったからだ。
○:彼の部下達は、その最期を看取るといずこへと去っていった。彼らの忠誠は、常に勝利してきた論者へのものであったからだ。
319 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/25(木) 07:30:26.42 ID:v5sD1fkTo

…あれ。

何で俺、あの時の事を夢に見ているんだろ。

ああそっか。俺…長野に来るまで沢山麻雀を打ちすぎて身体がズタボロになっていたんだ。

…麻雀部の男子連中は…神様とやらの差し金で…やっぱり世界を目茶苦茶にしようとしている連中で……。

そう長い付き合いでもなかったけど…決して悪い付き合いじゃなかったんだけどな。

女の子相手じゃ絶対出来ないようなバカ、沢山やってこれたよ。

アイツらがいたから、清澄時代に麻雀部以外で過ごしていた日々を…少しだけど思い出せたんだよ。

けど、皆居なくなっちまったよ。

俺が、麻雀で殺してしまったんだよ。



…なんかもう辛すぎるから、このままずっと、眠ったままでいてもいいんじゃねえかな?
320 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/25(木) 07:48:31.32 ID:v5sD1fkTo

…そういや、論者との戦いが終わってから女子の会場にも行ったんだったな。

幸い向こうじゃ、誰も死んでいなかった。

けど…女子部員の皆は、俺の事を覚えていなかった。

あの時はしどろもどろになってたせいか、何を話したのかさっぱり覚えていない。

ひょっとしたら、ひどい事を沢山言われたかもしれない。

はっきりしているのは、俺が不審者として通報されてしまったという事。

それに…俺だけではなく、男子部員の皆も存在を忘れ去られたという事だけだ。

…俺達がいた会場では、死んでない人達も途中から気を失っていた。

そんな中、存在自体が怪しくなった俺の話をされたら、どうなるかわかったもんじゃない。

結局、俺は大会会場から逃げ出すしかなかった。





慌てて家に帰った時に、俺は思い出してしまった。

オヤジ達が、とうの昔に死んでいた事を。
321 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/25(木) 08:01:12.55 ID:v5sD1fkTo

…東横さんを呼び出した妙な力。

オヤジ達が生き返ったのは、どうもソイツのせいらしかった。

どうやら皆は、少なくとも俺が病院で目覚める前からその事を知っていたらしい。

そして、俺が皆の死を忘れてしまっている事も知っていた。





俺があの時の事を思い出してしまったから、皆はどうやら消えてしまうらしかった。

…何となく、そんな気はしていたらしい。

だから、俺が事件の事を思い出して…どうにか受け入れられるようになるまではと、俺の事を見守っていたのだ。

どうして、そんな事をさせてしまったんだろう。

どうして、二度もオヤジとオフクロ…それとカピを死なせてしまう事になったんだろう。

そう思うと、何かを考える事さえも恐ろしくなった。

頭の中にあるものが、現実を侵食してしまうかもしれない…その事実に。
322 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/25(木) 08:07:24.02 ID:v5sD1fkTo

…なんでだよ。

…なんで皆、俺を置いていくんだよ。

俺って、そんなノロマなやつだっけか?

なあ、誰か答えてくれよ。おい。

何で誰も、何一つ答えてくれないんだよ。

何で俺が、満身創痍の死に体が生き残っているんだよ。



何で。

何で目が覚めちまってるんだよ。

何で、ハギヨシさんが血まみれになって倒れてるんだよ。

…何でだよ。

俺はこんなの、望んでなんかねえぞ。

嫌で嫌で仕方が無いのに、どうして何も変わっちゃくれねえんだ。
323 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/25(木) 08:07:59.73 ID:v5sD1fkTo
ここまで。
324 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/25(木) 16:16:17.07 ID:v5sD1fkTo
>>322 訂正

×:俺って、そんなノロマなやつだっけか?
○:俺って、置いてきぼりにされる程ノロマなやつだっけか?
325 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/25(木) 16:42:23.67 ID:v5sD1fkTo










京太郎「なんで、なんでこんな……」

ハギヨシ「……」

京太郎「…ハギヨシさんなら、逃げおおせる事も出来たはずじゃないですか!」

ハギヨシ「…かも、しれません…ね……」

京太郎「なら、どうして!」

ハギヨシ「私は…ただ…誰かを守って、いたかった…ただ…それだけの事です」

京太郎「だからって、こんなボロボロになってまで奴らを殲滅して貰っても、喜べる訳ありませんよ!」

ハギヨシ「…それについては、申し訳なく…思っています。貴方をまた…独りきりにしてしまうのですから」

京太郎「……」

ハギヨシ「私は…透華お嬢様達を、あの子達の事を末永く見守っていたかった」

ハギヨシ「彼女達がこの先どのような道を歩むか、見ていたかった」

ハギヨシ「皆が輝かしい未来を迎えられるよう、自分が手助け出来ればと思っていた」

京太郎「…ハギヨシ、さん」

ハギヨシ「もし、やり直せるのでしたら…今度は、今度は誰かを一人ぼっちになんかしないでいられたら……」

ハギヨシ「そしたら私は、もう二度と…後悔なんて…しなくて…済…む……」

京太郎「!?」

ハギヨシ「……」

京太郎「ハギヨシさん、ねえ、起きて下さいよ。またいつか、俺にタコスの作り方を教えてくださいよ」

ハギヨシ「…………」

京太郎「何とか言ってくださいよ、ハギヨシさん…ハギヨシさん!…うっ、うわあああああああああああっ!」
326 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/25(木) 17:12:09.94 ID:v5sD1fkTo

『…この執事、真に見事な戦いぶりだった。ここで朽ちてしまうには、あまりに惜しい男であった』

京太郎「……」

『少年よ、立ち止まっている暇は無いぞ』

京太郎「…分かっていますよ」

『…お前の力を使って、奴を蘇らせないのか?』

京太郎「くだらねえ事、ぬかすな!」

『…現人神』

『…悪態をついただけだ…今更貴様をどうこうしようとは考えていない』

京太郎「ふん、どうだか」

『…お前は神ではなく、最期まで人のままで生きていたいのだろう?』

京太郎「…ああ、そうさ」

『神になれば…絶対的な存在になれば、失うものなど何も無いというのに……』

京太郎「かもな。俺の思いには、矛盾している所が…おかしい所が沢山あるだろうさ」

京太郎「けどな…それもまた人間の一面なら、可能な限り受け容れて生きていきたいんだ」

京太郎「何もかもを拒んでいる奴が、何かに受け容れられるなんて妙な事は…あってもそう多くないんだから」

『…そうか』

京太郎「それに、魔人とか魔神とか言われてた奴も…元総理のおっさんにのされちまったじゃねえか」

京太郎「自称神様…確かアンタ自身も、何かを守ろうとして闘った男に敗れたんじゃないのか?」

『…神とて絶対ではない、か。言ってくれるではないか』



京太郎「…そろそろ行こうか。あちらさんを、散々待たせちまってるからな」

『そうだな。私も、もう一度あの魔神と決着をつけねばならない』

『…あの女とも決着をつけねばなるまい。奴がいる限り…繰り返す…何度でも……』
327 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/25(木) 17:13:47.44 ID:v5sD1fkTo
>>326 訂正

×:『…あの女とも決着をつけねばなるまい。奴がいる限り…繰り返す…何度でも……』
○:『…それにあの女ともな。奴がいる限り…繰り返す…何度でも……』

ここまで。
328 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/26(金) 01:58:52.93 ID:8xIHb4Q9o















「よう…待たせちまったな、咲」










329 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/26(金) 02:31:35.49 ID:8xIHb4Q9o

咲「…京ちゃん」

京太郎「さあ、悪い夢から覚めようぜ?」

咲「裕子ちゃんや染谷部長、それに優希ちゃんはどうしたの?」

京太郎「3人は…もういっちまったよ」

咲「…そっか」

京太郎「後はお前だけなんだ。お前さえ助かれば、俺は……」

咲「――――ごめんね京ちゃん。それはもう、無理なんだ」

京太郎「…なんでさ」

咲「私はもう…ヒトじゃないから。ヒトではなくなってしまったから…だから……」

京太郎「咲……!!」

咲「私に取り憑いた人達が言うように、ヒトを超えた存在として生きていくしかないの」

京太郎「馬鹿野郎…諦めてんじゃねえよ。もう一度麻雀を始めた時は、そんなんじゃなかっただろ?」

咲「そう…だったね。でもね…結局家族はバラバラのままだったよ」

京太郎「あっ……」

咲「それにね、私は団体戦の決勝から自分がいっそう変になっている事に気付いてたの」

咲「衣ちゃんやお姉ちゃんでさえ、全く問題にならない程の強くて怖いモノが自分の中にある事を知ったの」

咲「そしたらさ、勝てば良いのか負ければ良いのか分からなくなっちゃった」

京太郎「…咲」

咲「…私の心がブレている事に、お姉ちゃんは当然気付いてたし怒っていた」

咲「だから言われちゃった。『やはり、私に妹は居ない』って」

京太郎「そんな……」

咲「それで私、もうなんかどうでも良くなっちゃったんだ」

咲「何の為に…多くの人を蹴落として全国を目指したんだろうなって。そう思ったら、哀しさや後ろめたさに押し潰されそうになったよ」

咲「私は…そんなの嫌だった。麻雀で哀しい思いをするのは、もうこりごりだった」

咲「だから私は、自分の中にあるモノを解き放ってみたの。その結果が、ごらんの有様なんだよ?」

京太郎「…なんでお前にそんなモノが」

咲「知らない。でも、お父さんやお母さんなら知っていたかもしれないね…もう居ないから、尋ねられないんだけどね」

京太郎「居ないって…居ないってなんなんだよ」
330 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/26(金) 02:44:30.95 ID:8xIHb4Q9o

咲「…お父さんとお母さんは、私が持つ力をどうするべきかで争って、別れたの」

咲「お父さんは私の好きなようにって…出来れば、麻雀を打つのは控えさせた方が良いって」

咲「そしてお母さんは、私をもっと強くしようとしていた。私が、誰よりも強い打ち手になれるようにって」

京太郎「…確かお前、家族麻雀で嫌な思いをしたくなくて…プラマイゼロを」

咲「うん。お父さんはそれを見て、私を暫く麻雀から遠ざけようとしたんだよ」

咲「でも、お母さんやお姉ちゃんはそれを見て凄く怒ってた。そんな二人が私は怖かった」

咲「そうやって、私達家族は少しずつすれ違っていったの」
331 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/26(金) 02:56:38.80 ID:8xIHb4Q9o

京太郎「…そういや結局、お前の親父さんとお袋さんはどうしたんだ?」

咲「…死んじゃった」

京太郎「…やっぱり…やっぱり、そうなのか」

咲「…私の力を巡って、二人はいつも争ってばかりだった」

咲「私のせいで、仲良しな二人の関係は…完全に冷え切ってしまった」

咲「お姉ちゃんには、お前がまじめに麻雀を打たないからだって言われた。結局、辛い思いをするのに変わりは無かった」

咲「…だからある時、ついカッとなって言っちゃったの。『麻雀なんて、大嫌い』って」

京太郎「……」

咲「それで、お姉ちゃんと殴り合いのケンカになって…止めに来たはずのお父さんやお母さんも、いつの間にか殴り合っていて……」

咲「そして私達は、離れ離れになったんだ。麻雀からは離れられたけど、喜んでいいのか悲しんでいいのか…わかんなかったよ」
332 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/26(金) 03:36:10.25 ID:8xIHb4Q9o

咲「…お父さんとお母さんが揃って私の所へ来たのは、京ちゃんが来るほんの数日前」

咲「ちょうど、今京ちゃんが立っている所に二人は居たんだ」

京太郎「…何の為に?」

咲「親としての責任を果たせなかった事へのケジメだって言ってた。二人は、私を殺しに来たの」

京太郎「!?」

咲「でも結局…和ちゃんと同じように殺しちゃった。私と、私に憑いた女の人に殺されちゃった」

京太郎「…それは、そんな事をしたのは…お前の意志なんかじゃ……!!」

咲「私には、もう…わかんないよ。私の身体が、誰のものかも…動いているのか…動かされているのかも、わかんない」

京太郎「…止めてやる」

咲「?」

京太郎「俺が…お前を止めてやる!こうなったのがお前のせいなら、お前にまた麻雀をさせた俺だって悪いんだ!!」

京太郎「だから俺は…お前を止めなくちゃならないんだ!お前がそれを望んでいるのなら、尚更だ!!」

咲「…京、ちゃん……」

京太郎「…咲?」





「我らがヨリマシを誑かすのは、そこまでにしてもらおうか」

京太郎「…てめぇ!」

『この少女は新世界の神となる者…君如きに、余らの邪魔をさせる訳にはいかんのでな』

京太郎「肉体は魂の牢獄だの、アーリア人以外は全て劣等種だの…くだらねえ考えを持ったクソったれめ」

京太郎「お前らは…ただ駄々をこねて自分の嫌なモノを無くしたいだけじゃないか!」

「強者が意のままに世界を動かすのは、当然の権利だ」

『劣っている者共は、優れた者達の妨げにしかならないのだよ』

京太郎「…そんな、そんな理屈で!」

「貴様とて、自分と相容れない我らを滅ぼそうとしている点では同じだろうに」

『然り。君の言う事も、余らの言う事も事実に即したものであるなら…この議論は平行線にしかならんぞ?』



京太郎「…はは、そうだな。所詮俺達は、互いを受け入れられない!」

『完全者よ…今度こそ、決着をつけようではないか。お互い、護国の鬼に敗れた者同士ではあるがな』

「…現人神か。貴様如き若輩が…我と同じ頂に立てると思うな!」

『ヒトラー…私は帰って来た。今一度、貴様を黄泉へと還すために!』

『ジュンイチロー…我を屠った人間よ…ヴァルハラへ逝くのは、貴様の方だ!』
333 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/26(金) 03:36:44.70 ID:8xIHb4Q9o
ここまで。
334 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/26(金) 05:26:30.83 ID:8xIHb4Q9o









咲「……ありがとう、京ちゃん」

京太郎「…おう」

咲「また、麻雀打てるといいね」

京太郎「…ああ」

咲「ふう…全力で打ってたから、何だかとっても眠くなっちゃった」

京太郎「…いいんだよ。ゆっくりおやすみ」

咲「…うん、おやすみ」



咲「……」

京太郎「…おやすみ、咲」

『まさか…不滅である我が、滅びの時を迎えるというのか?』

『…ふん。またしても、日本人に敗れようとはな……』

京太郎「…俺はただの観客みたいなもんだけどな。俺なんかじゃ、到底及びもつかない程の凄まじい闘いだったよ」

『そう言うな、京太郎よ。あの場に居て最後まで生き残っているんだ、ほんの少しくらいは見込みがある』

京太郎「ほんの少しかよ!」

『少年よ…君は本来、居るはずのない役者だったのだ。なら、棚ぼたとでも思っていればよい』

京太郎「そういやアンタも、棚ぼたで最終戦争を起こそうだなんて企めたっけな」

『…天に選ばれたと言ってもらおうか』



『肉体は魂の牢獄…そう言っておきながら、我は幾度と無く転生の器に取り憑いた』

『その上、今回の器には殊の外強い執着を抱いてしまった。まさか我自身が、神に成り代わろうと企むとは……』

『クク、ムラクモよ…これではお前の事を笑えんな』

『ペルフェクティ…お前にも、人間らしさというものが残っていたのだろう。そしてそれは、我とて同じだ』

『…かもしれんな。ははは、まったくもって済度し難き愚か者だな…我らは』

『そうだな…さて、我はそろそろ逝くとしよう』

京太郎「…じゃあな」

『…さらばだ、少年』
335 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/26(金) 06:08:00.99 ID:8xIHb4Q9o

『…美しいな、この地は。そうは思わんか、ジュンイチロー?』

『ふむ、まさか貴様と意見を同じくしようとはな』

『余もそう思うよ。我の…いや、ミヤナガサキの力が及んでいた時は、こんな風ではなかった』

『……』

『あの少女の持つ力は…余に勝るとも劣らないものであった』

『いや…民衆を惹きつけて止まない魔性は、余さえも遙かに凌いでいたよ』

『民衆の心を歪め、或いは壊してしまいかねない程に…あの少年は、それで多くを失ったのであったな』

『…そうだ』

『どうやら…千年王国という幻想に囚われ、余もまた完全者のように目を眩ませていたようだ』

『その挙句、この澄み渡った青空を濁らせてしまった…結局余は、自らが蔑んだ人間と同じ事をしたのだよ』

『…ヒトラー』

『…余は…余はヴァルハラへ還るとしよう。ルーズベルトにチャーチル、それにスターリンが余を待っているだろうからな』

『それと…余も完全者も、決して己の選択を後悔してはいない。ただ…勿体無い事をしたと気付いただけだ』

『…さらばだ、アドルフ・ヒトラー。またいつか、打とうじゃないか』

『ああ…さらばだ、小泉ジュンイチロー。我が強敵(とも)よ』



『…逝ったか』

京太郎「…良かったんですか?」

『奴とは…憎しみではなく、決して譲れないモノの為に闘ったのだ。それがただ、命を賭けた勝負であっただけの事』

京太郎「…そうですか」

『京太郎よ…君こそ、ヒトラー達の事を見逃してよかったのか?』

京太郎「とりあえず…ケジメはつけましたから。それに、ずっと何かを憎んでいるって疲れますし…何より柄じゃないですからね」

『…それが賢明だな』

京太郎「…そう言えば、貴方はまだ生きているんですよね?」

『そうだ。だが今はまだ、先の戦いで癒えた傷が治らぬままに置いて行かれてしまったからな』

京太郎「…そりゃまあ、誰だってあれじゃあ死んでるって思いますよね」



『では、さらばだ京太郎。もう二度と会う事はないだろうが、共に闘った日々を私は忘れないだろう』

京太郎「…約束ですよ。絶対、絶対俺の事、忘れないで下さいね」

『ああ、約束だ』

京太郎「…さよなら、小泉ジュンイチロー総理」

『…元、総理だよ』
336 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/26(金) 06:22:58.27 ID:8xIHb4Q9o










皆、いっちまったな。

何もかも、終わっちまった。

皆はこのハチャメチャな夢から覚めて、元の日常を歩み始めるんだ。

未来は、取り戻されたんだ。

…俺にはもう、そんなものは無いんだけど。

最後の戦いで、俺は何度も道理を捻じ曲げながら闘ってきた。

相手の和了りを無かった事にもしたし、勝手に'配牌を天和に変えたりもした。

…それさえも通用しない力で、圧倒される事も多々あったけど。

兎に角、俺の闘いはこれでおしまい。

……俺の人生は、これでおしまい。





――――これでよい。





あの白髪なら、こんな満ち足りた気分の時に…そう口にしてるかもな。
337 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/26(金) 06:53:39.85 ID:8xIHb4Q9o

…もし、少女達の戦いの裏に何らかの目論見があったなら。

もし、少年が存在そのものを世界から否定される事になったら。

存在の抹消を、多くの名も無き者達に望まれてしまったら。

破滅を望まれる事に、何らかの形で抗えるとしたら。

本来なら、こうなるはずじゃなかった立場の少年は…一体何を為そうとするのか。

この物語はきっと、恐らく、ひょっとしたら…そんなお話かもしれなかった。





…須賀京太郎は、消失した。
338 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/26(金) 06:56:00.86 ID:8xIHb4Q9o
>>337 訂正

×:この物語はきっと、恐らく、ひょっとしたら…そんなお話かもしれなかった。
○:あの物語はきっと、恐らく、ひょっとしたら…そんなお話かもしれなかった。
339 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/26(金) 06:59:40.50 ID:8xIHb4Q9o
とりあえず、おしまい。
340 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/07/26(金) 07:33:30.50 ID:GT2eKjFzo

なんか某スレの補完的なものに思えた
341 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/26(金) 08:43:16.38 ID:8xIHb4Q9o
>>335 訂正

×:『そうだ。だが今はまだ、先の戦いで癒えた傷が治らぬままに置いて行かれてしまったからな』
○:『そうだ。しかし…先の闘いでの傷は癒えていないし、皆には死んだと思われたから月へ置き去りにされてしまっているがな』
342 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/07/26(金) 19:31:33.79 ID:MGjhDmA4o
乙ー
343 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/26(金) 22:08:32.66 ID:8xIHb4Q9o








…ここはどこだ?

俺は、一体何を…いや、そもそも…俺は一体誰なんだ?

何も分からないし、何も見えない。

ただ、一面真っ白な空間だけが目の前にある。



『京太郎…私は、私は…お前の事が』

誰だアイツ?見てくれは悪くないけど、ちんちくりんな体型してんな。

それに、京太郎って誰なんだ?

…わっかんねえな、何にも。

ん、なんだ?急に色んなもんが現れてきやがった。
344 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/26(金) 22:32:53.19 ID:8xIHb4Q9o

『京太郎…お前とは、もっと違う形で出逢いたかったよ』

『…何でだよ、何でお前らまで』

『私達は元々、お前に取り憑いたあの男の差し金でお前と共にいた』

『なっ……!!』

『俺達の計画の支障になるお前は…消滅させなければならない。そして、お前の体は奴のモノになる』

『計画って、計画って何なんだよ!』

『…かつて私が為せなかった、人類の粛清だよ。地球に住む人類は、自分達の事しか考えられないからな』

『はぁ!?何を寝ぼけた事を……』

『…これは情けなんだよ。論者とかいう奴も言ってたろ、役割を持てない塵は死をもって救済するべきだって』

『そうだ…これから我々が築く新世界に、愚民共の居場所など無いのだよ』

『俺は、わだかまりも争いも無い世界を作るのだ。その為には、今のくだらない現実は否定されなければならない』

『…私は今度こそ、人類を革新させるのだよ。だから、旧人類には消えてもらわねばならない』

『…どういうことだよ。じゃあ、俺達はそんなくだらない世界で和気藹々としていたって言うのかよ!?』
345 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/26(金) 22:57:50.27 ID:8xIHb4Q9o

『芝居だった…そう言いたい所だけど、麻雀部で過ごした日常は楽しかったぜ』

『私も…何時だったか大切な人と過ごした日々の事を、いくらか思い返す事が出来たよ』

『…何も信じられなくなる前の俺に、戻れたような気がしたよ』

『復讐を企てて生きてこなかったなら、こんな生き方も出来たかもしれない…そう思っていたよ』

『だったら…あんな馬鹿の言う事に付き合うな』

『それは無理だな。俺は他の3人と違う成り行きでここにいるけど、こいつらの馬鹿に付き合ってやりたいんだ』

『…無理とか言わずに、こんな事はもう止めてくれよ』

『…私達は、志半ばで斃れた亡霊だ。その上、他者の意識らしきものまで混濁している』

『それでも、俺達は自分の望みを捨て切れなかった。叶えようとせずには、いられなかった』

『我々は自分達の為そうとしている事が、幸せを齎すと信じて疑わないのだよ。独善と言われても構わん』

『……畜生!』






『…あーあ、死んじまった…殺しちまった』

『……はあ』

『…もう、お前らと馬鹿騒ぎなんて出来なくなっちまったな』

『…言葉を交わす事さえも、出来ないんだよな』
346 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/26(金) 23:00:58.42 ID:8xIHb4Q9o

……。

なんだこれ。

え…え?京太郎って、人殺しだったの?

何か良くわかんねえけど、アイツらとは…仲間だったんだよな?

…ほんとなんだこれ。



ん、また何か現れてくるのか?
347 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/26(金) 23:17:52.02 ID:8xIHb4Q9o

『貴方が、須賀先輩ですね?』

『…誰だ?』

『私は…高遠原中学で原村さんと麻雀部にいた、室橋裕子と申します』

『…和の、後輩か』

『あの人の事は…とても、とても残念でした。どうして、我らが総統閣下に反逆し命を捨てたのかと』

『…無理はするな』

『無理でも、こうするしかないんです。それに、マホは私なんかよりもっともっと辛い思いをしましたから』

『マホ?』

『後輩です。その子は、原村さんの事を誰よりも強く慕っていましたから』

『…そうか』
348 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/26(金) 23:47:57.38 ID:8xIHb4Q9o

『…さて、行きましょうか。片岡さんや染谷部長がお待ちです』

『…ああ』



『久しぶりね、須賀君』

『こちらこそ、お久しぶりです染谷先輩。暫く見ない間に、随分様変わりなされたんですね』

『そうね。私はもう、以前のように振舞える立場じゃなくなってしまったから』

『何故なら私は、咲の代わりに清澄の指揮を任された麻雀部部長であり…生徒議会長なんだから』

『…先輩、一つ聞いていいですか?』

『何?』

『何でさっきから、部長みたいな口ぶりになっているんですか?』

『…部長って、部長は私じゃ』

『ああすみません、今のは竹井先輩の事です。…あの人の事を、俺達はいつもそう呼んでいましたから』

『…京太郎、おんし』

『部長の影を追うのは、もう止めましょう?』

『…久が居なくなってしまったのは、おんしにも原因があるじゃろうに』

『……』

『理由はどうあれ京太郎、あの時おんしが口にした言葉をワシは許しとらんぞ』

『…麻雀部は俺の敵、そう言ったあの時の事は』

『仕方なかったんです。少なくとも、あの時はそう思ってました』

『…おんしが、そんなだから』

『?』

『おんしがワシらに、「助けて」とさえ言えていたなら…こんな事には、ならんかったかもしれんのに!!』
349 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/27(土) 00:00:38.87 ID:zGkIYjWco

『…染谷先輩』

『ワシは…ワシは…そんなおんしが、おんしにああ言わせてしまった…ワシらの不甲斐なさが……』



『駄目ですよ部長。その分からず屋に何を言っても、糠に釘ですから』



『…優希』

『また逢えて嬉しいよ、京太郎』

『お前、まだその姿でいるのか?』

『どうして?こういう豊満な体つきが、君の好みじゃないの?』

『それは…そうなんだが、でも…俺はやっぱりお前にはあの時のようにいて貰いたいんだ』

『…勝手な犬だじぇ』

『なんと言われても構わねえ。けどお願いだ、今は元に戻ってくれねえか?』

『仕方ないですねえ。そこまで言うなら、望み通りにしてあげますか』


優希の姿が、元の幼児体型に戻っていく。


『…これでいいか、京太郎?』

『…ああ』

『まさか、お前がのどちゃんに惚れてたのはロリコンを隠す為のカモフラージュだったとか』

『…ねーよ』
350 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/27(土) 00:28:11.58 ID:zGkIYjWco

『京太郎。お前は私を、どう思っている?』

『なんだよ、藪から棒に』

『いつか言ったかもしれないけど…私はきっと、京太郎の事が好き』

『……』

『そして私は、もう一度お前や皆と一緒に麻雀を打ちたいって…そう思ってたじぇ』

『…のどちゃんは、のどちゃんはもういないけどな』

『優希…和の奴は』

『言わないで。私はきっと、その先の言葉を受け入れられないだろうから』

『優希…俺は……』

『…面子も揃った事だし、そろそろ対局を始めるじぇ』

『そうじゃの。事ここに至っては、最早言葉でモノを語れはせんからな』

『…二人とも』

『須賀先輩。貴方がこの先に行くというなら、私たちはそれを止めなければならないんです。どうか、どうか分かってください』
351 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/27(土) 00:37:58.07 ID:zGkIYjWco

……。

……やっぱり、この京太郎ってのは俺の事…なんだよな。

随分と、あんまりな目に遭ってるじゃねえか。

こういうろくでもない事ばかりに見舞われるんじゃ、きっと生きてたって仕方なかったかもしれねえ。

けど、何故だろう。

どうして俺は、こんな出来事を忘れていたんだろう。



「それはな須賀。君がイデアシードの力を使いすぎたからだよ」

「…あんたは?」

「先生、とでも呼んでくれ」

「アンタも、俺と何らかの係わりがあったのか?」

「…そうだな。だが、君の方は私の事など覚えてはいないだろう」

「けど、私は覚えている。何故なら私は誰よりも、君の事を愛していたのだから」
352 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/27(土) 00:54:48.41 ID:zGkIYjWco

「『イデアシード』って、何だ?」

「私が属していた組織の研究成果だよ。幾多の壊滅した組織の残党が寄り集って、それは出来上がった」

「…いつ、そんなものが俺に?」

「君は昔、リンチに遭って殺されかけたんだよ。その場に居合わせた私は君を助けたが、その時には既に虫の息だった」

「私は、その時にあの薬を…ナノマシンを君に投与したのだ」

「なんだってそんな事を……」

「私は…数の暴力が嫌いでね。そんなモノの為に命が失われるのは、とても嫌だったんだ」

「…そうですか。ところで、イデアシードってのはどんな効果があるんですか?」

「身体面や知能面での飛躍的向上。それに、投与された人間ごとに様々な能力を獲得出来るようになる」

「それだけ聞くと凄いですけど、副作用とかは無かったんですか?」

「君に与えられた試作品の段階から、イデアシードは副作用というものを克服していたよ」

「ただし、身体に適性が無ければ投与された段階で身体に変調をきたし、最悪死に至るがな」

「…俺にそんなものを与えたのは、実験でもあり賭けでもあったんですね」

「あの時は適正についての情報など無かったが、結局はそういう事になるな」
353 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/27(土) 01:08:56.65 ID:zGkIYjWco

「…副作用が無いというのは、あくまでイデアシード自体に対してのものだ」

「と言うと?」

「…投与された人間は、各々が固有の能力を獲得する事は話しただろう?」

「そして…その獲得した能力によっては、副作用を齎すモノも当然存在したのだよ」

「じゃあ、俺の持つ力にも…何らかの副作用が」

「そうだ。君の能力は、何かを代償にして発揮される代物だったのだ」

「君の力は…君が願う通りの事をある程度実現する。君はその力で、殺された家族を甦らせたのだよ」

「…殺された、家族?」

「…そうだ」

「…ぐ!」

「どうした!?」

「頭が…割れるように…痛い!!」

「しっかりするんだ!気をしっかり持つんだ!!」

「…何かが…何かが、思い出される……」
354 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/27(土) 01:09:26.78 ID:zGkIYjWco
ここまで。
355 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/07/27(土) 01:16:59.91 ID:Mgtjdlzeo
356 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/27(土) 04:08:51.39 ID:zGkIYjWco
>>353 訂正

×:「…副作用が無いというのは、あくまでイデアシード自体に対してのものだ」
○:「…副作用が無いという話は、あくまでイデアシード自体に対してのものだ」
357 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/27(土) 04:37:31.51 ID:zGkIYjWco







『…オヤジ!オフクロ!ロシェット!』

『…遅かったじゃないか』

『もう、来ないものだと思ってたわよ』

『…キュー』

『皆…消えるのか?俺が、俺が皆の死を…思い出してしまったから』

『…気にするな。まさか俺達の人生にロスタイムが設けられるなんて、思っちゃいなかったんだから』

『そうよ、普通は死んだらそこまでなんだから。たとえどんなに理不尽な死に方をしたとしても、ね』

『キュー、キュー』

『だからって…俺は二度も、皆に死を与えるだなんて真似を……』

『気にするなと言ったろう。それに…あのまま死んじまったなら、俺達は恐怖と後悔しか遺せなかったろう』

『そうなったら、私達の存在はアンタの重荷になるわ。親が子の負い目になるだなんて、嫌でしょう?』

『キュー!』

『けどそれじゃあ…もう、この家に意味なんて無いじゃん。俺には…帰る場所さえ無くなっちゃうじゃん……』

『…無責任な事を言うようだがな、お前が生きる意志を見つけなければ…居場所なんか無くたって生きていけるさ』

『私達が親として十分でなかったかもしれないけど…アンタを弱い子にした覚えは無いよ』

『…俺には、今の俺にはその言葉が…重過ぎるよ……』

『確かに重荷かもしれないし、或いは呪いかもしれない。けどどうせなら、要らないなんて言わず背負い込んでくれよ』

『皆で過ごしてきた日々を、忘れないでいておくれよ』

『…うん』



『……キュー』

『…ロシェット?』

『どうやら、これでお別れらしい』

『…元気でね、京太郎』

『そんな…そんなのって……』

『大丈夫だ。もう共に生きて行く事は出来ないけれど、俺達はいつもお前を見守っていよう』

『京太郎…アンタが忘れないでいてくれる限り、私達は絶対消えたりなんかしない。それだけは、忘れないで』

『…キューキュー、キュー!!』



『…うっ、く…ううっ……』

『…じゃあな、京太郎』

『直ぐに追いかけてなんか来たら、承知しないんだからね!』

『…キュキュー!』
358 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/27(土) 04:39:29.92 ID:zGkIYjWco

―――ああ、そうそう忘れていた。

あまり、女の子を待たせるんじゃないぞ?
359 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/27(土) 04:48:46.53 ID:zGkIYjWco

『……いっちまった、か』

『待たせるって…もう誰も、俺の事なんか…待っちゃくれねえのに』

『…ああそっか、きっと咲達の事だな』

『そっかそっか。じゃあ今すぐにでも皆の所へ…長野へ行かないとな』



『…須賀君、なら私も』

『ごめんな、和』

『え?』

『一緒には行けない。俺はもう、誰も失いたくないから』

『…そんな、どうして』

『心配するな。咲は…皆は必ず帰って来るから』

『…聞いていいですか?』

『何だ?』

『その皆の中に、貴方自身は入っているんですか?』

『…どうかな』

『約束してください。必ず、必ず皆と一緒に生きて戻るって…約束してください』

『そしたら、私はここで待ってますから。皆が戻ってくるまで、ずっとずっと待ってますから』

『…ああ、約束するよ』
360 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/27(土) 04:59:11.41 ID:zGkIYjWco

『…肝心な事を忘れてた』

『え?』

『お前の失った身体、戻してやらねえとな』

『そんな…また力を使う気なんですか!? そんな事をしたら、貴方はまた……』

『心配すんな…俺が失うモノなんて、もう…多くはねえんだから』

『…止めてください!そんな事、しないでください!』

『…大丈夫。俺は…大丈夫だから……』

『こんなの、嫌、嫌なのにっ……!!』

『目が覚めた時には…戻っているはずだ。親御さんから貰った…大事な、大事な身体が』




『…っ!』

『…彼はもう、いない。失った身体も、元に戻っている』

『…どうして…どうしてなんですか、須賀君……』
361 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/27(土) 05:05:58.83 ID:zGkIYjWco

『…原村和の身体が、消失しただと?』

『はい』

『須賀京太郎め…やってくれたな』

『…このプランの続行は、もう不可能ですね』

『致し方あるまい。それに、各地への進行も思ったほど進んではいないからな』

『多くのプランを破棄するのも止む無し、と』

『…荒川憩め。奴さえ邪魔しなければ、計画は順調に進んでいたものを』
362 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/27(土) 05:10:36.71 ID:zGkIYjWco
>>361 訂正

×:『…荒川憩め。奴さえ邪魔しなければ、計画は順調に進んでいたものを』
○:『…荒川憩め。奴さえ邪魔しなければ、順調に事を運べただろうに』
363 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/27(土) 05:16:33.56 ID:zGkIYjWco

『せめて…小走やえらが制圧されなければ、或いは』

『過去の仮定を言っても仕方あるまい』

『しかし…しかし教主』

『…レーヴァテインを使え』

『なっ…ですがそれでは味方や優れた雀士達までも』

『アレとて、魂までは滅ぼせぬ。肉体など滅んだ所で、それは死んだ事にはならない』

『…分かったら、やれ』

『…かしこまり…ました』
364 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/27(土) 05:39:30.14 ID:zGkIYjWco

『…!?』

『どうした?』

『月…月から、巨大なエネルギー反応が確認されました!!』

『なんだと…まさかそんな』

『そのまさかです…アレは、間違いなくレーヴァティンです!!』

『くそっ、目標や発射時間の解析は!』

『ダメです、間に合いません!レーヴァティン、間も無く発射されます!!』

『…まさか奴らが、母なる地球を攻撃しようとは……』



その日、世界の幾分かは完全な焦土と化した。

この攻撃により、世界人口は3分の2である40億にまで激減。

―――地球に住まう全ての命に、滅亡の脅威が迫ってきていた。
365 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/27(土) 05:41:08.03 ID:zGkIYjWco
>>363 訂正

×:『…レーヴァテインを使え』
○:『…レーヴァティンを使え』

×:『アレとて、魂までは滅ぼせぬ。肉体など滅んだ所で、それは死んだ事にはならない』
○:『アレとて、魂までは滅ぼせぬ。肉体など滅んだ所で、死んだ事になりはすまい』
366 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/27(土) 06:20:40.78 ID:zGkIYjWco



『…うへぇ』

『どうやら、大丈夫みたいだな』

『大丈夫じゃありませんよ。自分の心が病んでいたから、こんな訳分からんもんを見たとしか思えませんよ』

『…けど、本当にあった事なんでしょう?』

『そうだ。そして君は戦いの末、そのことごとくを無かった事にしたのだよ』

『へえ。それじゃあ俺、ヒーローじゃないですか!』

『…かもしれないな』

『ははは、何だか照れるなあ』

『…君は、ヒーローなんかじゃないよ』

『え?』

『だって君は、女の子との約束を違えてしまったんだから』

『…そうでしたね。俺は、和との約束を……』

『いいや、それだけじゃない。君には…まだ忘れてしまった約束がある』

『…何なんです、それは?』

『私の口から言うのは、野暮というものだろう?』

『はぐらかさないでくださいよ!そんな事言われたって、俺には…ん!』



その言葉の続きは、彼女の口付けによって阻まれた。

初々しさのあるキスではない。深く、それでいて乱暴な大人のキス。

当然京太郎は、面食らっていた。
367 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/27(土) 06:21:13.63 ID:zGkIYjWco

『彼女達が、いや彼女が…君の事を待っているよ』

『…それって、清澄の?』

『違うよ。君がもう一度、麻雀をやり直そうとしていた所の皆さ』

『…全く、思い出せないですね』

『嘘。須賀よ、君はもう思い出しているはずさ…ただ、辛い事があったから目をそらしたいだけで』

『…そうだとしたら、俺ってとんだ意気地なしですね』

『ああ、そうとも。こんなに私が愛していたのに、いけずな君は私を愛してくれなかった』

『あれ、俺ってフラれる側じゃないんですか?』

『失礼だよそれは。少なくとも私は、君を恋慕するに値する存在だと思っていたのだから』

『でも、ひょっとしたらそれは…俺に宿っていた妙な力のせいかもしれませんよ』

『…馬鹿っ!!』

『あだっ!! …いてて、てっきり首が飛ぶものかと思いましたよ』

『…いっその事、それも良いかなって思った』

『怖っ!』

『…私を見くびらないでくれ。その力のせいでない保証はどこにもないけど、それだけで君を慕ってなんかいなかったさ』

『……』

『私は、君となら愛し合える未来があると信じていた。この想いを、誰にも否定なんかさせない』

『…先生、俺は』

『分かっているよ須賀。君にとって、私は姉のような存在であったという事は』

『…すみません』

『謝らないでくれよ…何だか惨めな気分になるじゃないか。どうせなら、良い女をフッたと誇ってくれ』

『それって、誇れる事なんですかね?』

『さあね、けど…フッたフラれたの話が出来ない人より、よっぽど良いと思うよ』

『…えげつない事言いますね』

『そりゃまあ、君の事を食べてしまいたい位好きだったし』

『え…それってどういう』

『それじゃあな、京太郎。いつの日かまた、君に逢える事を願っている』

『ちょっと!質問に答えてくださいよ、せんせーい!!』





『…厄介な宿題、遺されちまったなあ』

『さよなら、先生』
368 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/27(土) 06:48:20.77 ID:zGkIYjWco






牌を生み出す男を目覚めさせた代償は、あまりにも大きかった。







『…貴方、だあれ?』

『や、やだな玄さん。忘れてしまったんですか?』

『貴方と私…どこかで会ってたっけなあ?』

『俺ですよ、京太郎ですよ!阿知賀の麻雀部にいた、須賀京太郎ですよ!!』

『…何を、言ってるの?』

『…え?』

『私、貴方となんか会った事無いよ。確かに阿知賀は、統廃合によって共学校になったけどね』

『でもね、私達の麻雀部に男子部員がいたなんて話…聞いた事無いよ』

『…でも、でも俺は……』

『ちょっとクロ。こんな頭のおかしい奴に、優しくしてあげる事なんて無いわよ』

『…早急に通報して、身柄を拘束してもらうべきだと思う』

『そんな…待ってください、俺は…俺は……!!』

『この男の人怖い…あったかくない……』

『…何だか可哀想な気もするし、私は見逃してあげても良いと思いますけど』

『穏乃って優しいね。でも、他の人に迷惑かけないとも限らないし…それは難しいよ』

『残念だけど、私の立場からして君を見逃す事は難しいかな』

『…そんな…これが…これが力の代償だって言うのかよ……』

『アンタ、いい加減少し黙りなさいよ…って、ああ!』

『…私、ちょっと追いかけてくる!!』

『待ちなさいよシズ、相手は得体の知れない変質者なのよ!』

『大丈夫、すぐ戻るから!!』

『…ああもう、行っちゃった…ん?クロ、一体どうしたの?』

『…玄ちゃん、あの人が怖くて足がすくんでるの?』

『ううん、違うよ』

『?』

『見えちゃったんだ…振り向き様のあの人の目に、涙があったのを。それに、あの後姿が見ていて哀しかった』

『…玄先輩は、どうして哀しいって思ったの?』

『分からない。けど…あの人の言ってた事、ひょっとしたら嘘じゃなかったかもしれないって感じた』
369 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/27(土) 07:01:10.69 ID:zGkIYjWco






『…うう、ちくしょう…ちくしょう……!!』

(この人の足、物凄く速いよ…まさか私が追いつけないだなんて)

『俺は…俺はこの先、一体どうなっちまうんだよ……』

(それに…いつだったか、私はこの人の背中を見た覚えがある)

(けど…記憶にもやがかかったような感じがして、少しも思い出せない)

『…俺は…消えるのか?』

(いや、もやがかかっているというより…まるで、記憶が食い散らかされたような感じだろうか)

(…考えてるうちに、後姿が見えなくなっちゃった!?)





『…逃げられちゃった、か』

(どうしてだろ…私、今とっても哀しいって思ってる)
370 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/27(土) 07:02:02.99 ID:zGkIYjWco
ここまで。
371 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/27(土) 07:16:12.10 ID:zGkIYjWco
>>368 訂正

×:『見えちゃったんだ…振り向き様のあの人の目に、涙があったのを。それに、あの後姿が見ていて哀しかった』
○:『見ちゃったんだ…振り向き様のあの人の目に、涙があったのを。それに、あの後姿が見ていて哀しかった』
372 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/27(土) 07:18:27.67 ID:zGkIYjWco
>>368 再訂正orz

×:『見えちゃったんだ…振り向き様のあの人の目に、涙があったのを。それに、あの後姿が見ていて哀しかった』
○:『見ちゃったんだ…振り向き様のあの人の目に、涙があったのを。それに、あの後姿…見ていてとても哀しかった』
373 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/28(日) 01:49:38.50 ID:2y4/Yh6Zo

…京太郎が会場から逃げ去った頃、世界中は大パニックになっていた。

それもそのはず、世界中に放たれた破滅の光が各国の首都を消滅させた為である。

長野を統べるかの魔人も…教主の引き起こした事態によりひどく困惑していた。



『ペルフェクティ…貴様、何故あのような事を命じた!』

『何を言うのだ、ヒトラー。レーヴァティンを拵えたのは、お前達第四帝国だというのに』

『この星には、今度こそ余が千年王国を築き上げねばならんのだ!なのにこれでは……』

『…何の為に?』

『知れたことよ…余は帝国臣民全てに、レーベンスラウム(生存圏)を与えると約束したのだ……』

『トリスタンの献身的な忠誠…第四帝国の為に、余の残酷な命を躊躇い無く受け入れたあの少年の為にも…余は……』

『…度し難いな』

『何!?』

『お前と共に月で生きてきたアーリア人達は、もう殆どいなくなってしまったではないか?』
374 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/28(日) 02:01:14.99 ID:2y4/Yh6Zo

『…むう』

『今ある第四帝国の臣民は、宮永咲に魅了された者達と…かつて壊滅した組織の残党だけだ』

『アーリア人の至上を謳ってきた貴様が、よもや侮蔑していた地球人類に縋る事になろうとはな』

『何を馬鹿な…余には世界を統べる力があるから、万民の上に立つ事を許されているのだ…私は、縋られる側の存在のはずだ』

『「はず」と言ったか。つくづく脆くなったな魔人よ…お前はもう夢破れたただの中年だよ』

『ぐ…貴様……!!』

『…お前も…お前の言うトリスタンとやらも…とんだ道化だな』

『…ペルフェクティィィィィィッ!!』
375 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/28(日) 02:20:22.96 ID:2y4/Yh6Zo

『ほう…義憤に燃えるだけの気力が、まだ残っていたとはな』

『ほざけ…どうも貴様に罵られると、苛立ちを押さえきれんのだよ』

『怒りは己が身を滅ぼすぞ…クク……』

『…今の私が言えた義理ではないだろうが、貴様とて…とうの昔に滅んでいるような者ではないか』

『何を馬鹿な』

『肉体を否定しつつも、肉体を利用する事でしか己を保てない…実体の曖昧な存在である貴様は、実におかしいではないか』

『…何とでも言え。肉体に縛られていては、魂までも死滅してしまうのだよ』

『魂であれば…そうはならないと?』

『その通りだ。現に私の存在が、それをはっきりと証明しているではないか』

『……』

『どうした、だんまりか?』

『…なんだか余はもう、醒めてしまったよ』

『…張り合い甲斐の無い奴め』



(もし…それで生きていると言えるなら、尚更肉体に執着する理由が分からんぞ)

(あの女なら、肉体など無くとも十二分に力を発揮できるはずだ…それが何故、肉体を拠り所にするのか)

(…まあ、余の知ったことではあるまい)
376 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/28(日) 02:36:58.24 ID:2y4/Yh6Zo










『…やめて!やめてよお父さん、お母さん!!』

『酷い事をするようだが、私達はお前に世界を救済してもらいたいからこうするのだ』

『貴女が教団の導き手になる為には、必要な事なのよ』

『やだ、やだ、私まだ死にたくない…死にたくないよう』

『…お前は救世主として転生するのだよ。だから、これは死ではない』

『そうよ…これは貴女の終わりでもあるけど、同時に始まりでもあるの』

『…それが、神様のおぼしめしなの?』

『そうだ』

『神様は、私たちの事をいつも見守ってくれてるんだよね?』

『ええ、そうよ』

『ならどうして、神様は私の死を望んだりするの?ずっと見守ってくれるんじゃないの?』

『…だから、お前は救世主として』

『そんなのになれなくたっていいから、私はお父さんとお母さんの子として…普通の女の子として生きていたいよ』

『…この愚か者が!』

『…ッ!!』

怒りに打ち震えた父親は、娘の胸に杭を強く打ちつけた。

少女の小さな身体は、痛みに打ち震えている。

…あまりの激痛に、少女は声を上げる事すらままならなかった。

377 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/28(日) 02:53:50.52 ID:2y4/Yh6Zo

『…いたい、よ…おとう、さん…どうし、て…どう…して…こんな……』

『…貴女が聞き分けの無い子だから、こうなるのよ』

『おかあ…さん…わたし…そんなに、わるい、ごど…じだ、がなあ……』

『…そうじゃないの。私達は…不思議な力を持った貴女が、化け物として殺されるなんて嫌だったから……』

『だから…このような邪教の儀式に縋るしかなかったのだ。万一失敗したとしても、せめて私達の手でお前を殺す事は出来る』

『…い…や…しぬの…は…いや……』

『許しは、請わない』

『けど…叶うなら、どうか思し召し通りに救世主となって…精一杯、生きて…未来を……』








『夢、か』

『…不快だな。よもや不完全であった頃の記憶が甦ろうとは思わなんだ』

『我は完全者なのだ。不完全な人間のように、夢を見るなどあってはならない』

『…夢など見なくとも…悪しき肉体さえ滅ぼせば、滅びへの恐怖で…魂が穢れることは無いのだから……』
378 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/28(日) 02:56:58.89 ID:2y4/Yh6Zo
>>373 訂正

×:『トリスタンの献身的な忠誠…第四帝国の為に、余の残酷な命を躊躇い無く受け入れたあの少年の為にも…余は……』
○:『トリスタンの献身的な忠誠に報いる為に…第四帝国の為に、余の残酷な命を躊躇い無く受け入れたあの少年の為にも…余は……』

×:『お前と共に月で生きてきたアーリア人達は、もう殆どいなくなってしまったではないか?』
○:『お前と共に月で生きてきたアーリア人達は、その殆どが…もう、いなくなってしまったではないか』

ここまで。
379 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/28(日) 03:33:18.49 ID:2y4/Yh6Zo
>>377 訂正

×:『…夢など見なくとも…悪しき肉体さえ滅ぼせば、滅びへの恐怖で…魂が穢れることは無いのだから……』
○:『…悪しき肉体など無くとも、魂はとこしえに不滅なのだ。死への恐怖で魂が穢されるなど、あってはならない』
380 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/07/28(日) 03:45:28.58 ID:H5xXqb26o
381 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/28(日) 04:19:57.97 ID:2y4/Yh6Zo
>>373 再訂正

×:それもそのはず、世界中に放たれた破滅の光が各国の首都を消滅させた為である。
○:地球各地に放たれた破滅の光に照らされたもの全てが、塵一つ残らず消滅していった。
382 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/28(日) 04:46:48.06 ID:2y4/Yh6Zo

…家に帰った京太郎は、家族と別れ、そして…和とも別れた。

いや…和からは逃げたのだ。

京太郎が和を置いていったのは、彼女を死なせたくないという気持ちがあったから…だけではない。

彼は、戦いの最中に願望実現の能力を使う事は避けられないと考えていた。

そして思った。和から自分の記憶が消えてしまった時、果たして自分は耐えられるのだろうかと。

…それでなくとも、彼女が同行する事によるデメリットはメリットを上回る…京太郎はそう考えたのだ。

考えようによっては…和は役に立たないものだと切り捨てられたとも言える。

嘗て…雀士としての須賀京太郎が、切り捨てられたとも言えるように。

ただ、当時の京太郎に対する処遇は…本来であれば誰も気に病む必要は無かっただろう。

彼ら彼女らの判断に賛否両論はあるかも知れないが…そもそも当時の京太郎は、まだ十分に麻雀を打てなかったのも確かだ。

それに、当の京太郎自身が自身の処遇を心底拒絶していたなら…女子のIHに同行なんてするのは難しいだろう。

要らぬ噂を立てられないとも限らないだろうし。しかし、清澄高校麻雀部は6人でIHに行った。その事実に変わりは無い。

けれど…あのような形で麻雀部を去ってしまったが為に、結果としてその判断は誤りとなってしまったのだ。
383 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/28(日) 04:48:44.29 ID:2y4/Yh6Zo
>>382 訂正

×:けれど…あのような形で麻雀部を去ってしまったが為に、結果としてその判断は誤りとなってしまったのだ。
○:けれど…京太郎があのような形で麻雀部を去ってしまったが為に、結果としてその判断は誤りとなってしまったのだ。
384 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/28(日) 05:07:49.08 ID:2y4/Yh6Zo

『…また…逃げるんですか。傷つく者は、少ない方が良いからって…囮にでもなったつもりで』

『須賀君…私は、私達は…こんなにも貴方に、傷つけられたというのに……』

『確かに貴方と私達では、色々大きな違いはありました。けれど、だからといって一緒にならない方が良いだなんて、そんなの…おかしい』

『…どうせ独りになるつもりなら、どうして麻雀部に入って私達と一緒になろうとなんかしたんですか』

『どうして、守るつもりの無い約束なんてしたんですか…どうして、どうして生きようとしないんですか……』

『…お父さんも、きっと貴方みたいなヒロイズムの為に死んでいった』

『私の為なんかじゃ…誰かの為なんかじゃない。自分の…勝手な自己満足の為に、お父さん…須賀君…貴方達は……』

『…どうして、どうしてそんなに我侭なんですか…自分の生き様、いや…死に様を置き土産にして、背負わそうとするんですか……』
385 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/28(日) 05:41:52.05 ID:2y4/Yh6Zo

―――不意に、チャイムの音が鳴るのを和は聞いた。



…集金か何かでしょうか。

もう、この家に住まう者などいないというのに。

まあ今は、私がこの家の主かもしれませんから…一応出るだけ出てみましょうか。


そして和は、インターホンの画面に映る人物を見て面食らった。


『…俺は、皆から無かった事にされたんだ』

どうして。

『…信じられないって言うなら、あの光景を見せてやろうじゃないか』

あの時の彼は、嘘なんかついていなかった。見え透いた嘘でさえ、吐くだけの余裕が無かった。

『俺にはもう、失うだけの未来しか無いんだよ』

あんな事を言ってたのに、どうして。



『…誰もいないのかなあ?』

どうして、どうしてここに…玄さんが来ているんですか。

どうして須賀君は、目の前の希望から目を逸らしているんですか。

どうして…どうして…どうして……。

…ふざけるんじゃあ、ありませんよ。
386 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/28(日) 06:28:20.16 ID:2y4/Yh6Zo


『…今出ますから、少し待っていてください』


『久しぶり、ですね』

『あれ、そうだったっけ…それはそうと、何でここに和ちゃんがいるのかなー?』

『それは後でお話します。立ち話もなんですし、続きは中でしましょうか』

『うん。じゃあ、お言葉に甘えて』



『…何だか今日は、おかしな事ばかり続くなあ』

『長野にいるはずの私がここにいる…それ以外にも何か、変な事があったんですか?』

『えっとね。ついさっきニュースで見たんだけど…世界の各地で、大規模な爆発が起こっているらしいんだよ』

『!?(まさか、帝国があの兵器を使ったとでも?)』

『それでね、人も人以外の命も…それどころか何もかもが全部消えてなくなっちゃったんだって』

『…日本でも、そのような事が?』

『ううん。日本では全くそんな事は無いらしいよ…そのせいで、世界中では日本の陰謀論が唱えられているみたいだね』

『…そうですか』

『実感が湧かないのはよく分かるよ。私だって、何だか出来の悪いSF映画みたいだからどうにも現実味を感じられないし』

『まして、オカルト否定派の和ちゃんなら尚更だよ』

『…そうではありません』

『え?』

『私は、この事態に深く係わっているんです。当然、誰がこんな事をしたのかも凡そ検討はつきます』

『…理解がさっぱり追いつかないけど、とりあえず…和ちゃんがここにいる理由とも関係があるんだよね?』

『ええ』

『…それと、もう一つ良いかな?』

『はい?』

『ここには、一体誰が住んでいたのかな?』

387 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/28(日) 06:29:28.79 ID:2y4/Yh6Zo
>>386 訂正

×:『私は、この事態に深く係わっているんです。当然、誰がこんな事をしたのかも凡そ検討はつきます』
○:『私は、この事態に深く係わっているんです。当然、誰がこんな事をしたのかも凡そ見当はつきます』
388 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/28(日) 06:47:04.69 ID:2y4/Yh6Zo

『…どうして、そんな事を訊くんですか?』

『和ちゃんの家ってさ、転勤が結構多いんだよね?』

『ええ、まあ』

『それにしては、庭が立派過ぎる気がするよ。それに、プールみたいなものまで拵えられているし』

『何でここまでしているのかは分からないけど…転勤を前提とするなら、こんな風には出来ないんじゃないかな?』

『…根拠としては、あんまり強くないけど』

『いえ…玄さん。貴方の思っている通りで、私はここの住人ではありませんでした』

『私は…ある人を頼って、少し前に長野からここまで逃げてきたんです』

『あれ?でも和ちゃん、数日前の県大会に出場してたよね?』

『…アレは、私であって私ではありません。ただ、肉体は間違いなく私のものですけど』
389 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/28(日) 07:24:59.25 ID:2y4/Yh6Zo

『…まさかとは思うけど、永水女子の神代さんみたいな力を』

『それはありえません。けれど、私が幽霊みたいになった事はありました』

『…え?(なんでだろ、前にもこんな話を聞いたような)』

『まあ、信じるか信じないかは兎も角として…今私がここにいるのは、変な話ですよね?』

『うん、それは確かにそうだよね』

『けど…長野で何が起こったか、皆は一度聞いた事があるはずですよ』

『…あれ、そうだったっけ?』

『あの意気地無しは…その事を皆に告げるのに時間を掛けましたけど』

『意気地無しって、一体誰の事なの?』

『ここに住んでた男の子ですよ。多少軟派な所はありましたが…良い人でしたよ』

『…もしかして、だけど』

『何です?』

『それって、金髪の男の子だったりする?』

390 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/28(日) 08:22:22.29 ID:2y4/Yh6Zo

『…いえ、違いますね』

あれ?何で私、嘘なんかついてるんでしょうか。

『あの人は黒髪で眼鏡をかけてて…それに、ロリコン疑惑がありました』

内木さんすみません。貴方は部長を探して、一人旅立ったというのに。

『まあ、そんな人でしたから…不審者扱いされるのは、仕方が無い事かもしれませんね』

…これ、下手をすれば名誉毀損で告訴されかねませんね。あはは……。

『…そっか、そうなんだー』

『分かっていただけましたか?』

『和ちゃんが…何にも話してくれそうにないって事は、ね』

この人…とぼけているようでいて、案外確りしてますね。

『…何か失礼なこと考えてるでしょ』

『いえ、そんな事はありませんよ』

『それにしては、何だか目が笑ってるよ』

『…え、いやそんなはずは』

『…手鏡を取り出して顔を見るって事は、やっぱりそういう事なんだね。ひどいなあ、もー』

こっちを揺さぶってきておいて…ひどいのはそちらも同じじゃないですか……。
391 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/28(日) 08:44:20.36 ID:2y4/Yh6Zo

『…うーん、こんな事してまで話を逸らすのは…きっと何か理由があっての事なんだよね?』

『…ええ、まあそうですね』

『仕方ないか…明日また来るから、良かったらその時に話してね』



…ふう、行きましたか。

須賀君に、ごめんなさいしないといけなくなりましたね。

しかし、明日玄さんが来た時私はどうしたら良いんでしょうか……。

彼はきっと、もうすぐ消えて無くなってしまうんです。

それなのに、彼の事を思い出させるのは聊か以上に残酷すぎます。

一体、どうすれば……。



『…らしくないわね、和。普段であれば、迅速かつ最適な行動をとる貴女が』

…え?

『それより会長…原村さんが、自分の事を犯罪者予備軍扱いした事を指摘してくださいよ』

『疑いがあろうがなかろうが、貴方がきちんとした人間なのを私は知っているから良いでしょ?』

『…そう言われて、悪い気はしませんけど』

なんでこの二人が、ここに?

『ああ、そういや久しぶりだったわね…すっかり忘れてたわ』

『部長…内木さん、何故貴女方がここにいるんです?』

『…なんやかんやあってさ、今は須賀君の行方を追ってるのよ。和は…あの子について何か知らないの?』
392 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/28(日) 08:44:46.50 ID:2y4/Yh6Zo
ここまで。
393 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/29(月) 01:58:26.93 ID:QXJ+p09Uo

『…須賀君なら、つい先日ここを発ってしまいましたよ』

『何だって…会長、どうやら我々は間に合わなかったみたいですね』

『ええ、残念だけど』

『…お言葉ですが部長、今まで一体どこに行ってたんですか?』

『……』

『染谷先輩は…貴女の代わりを務めようとしていました。自分を押し殺してまで、です』

『…そう』

『私達の責任は言うに及ばずですが、貴女にも責任はあるんじゃないでしょうか?』

『ええ。それは否定しないわ』

『八つ当たりで申し訳ありませんが、つい先程まで…私は感情の置き所を探しあぐねていたんです』

『ですから…駄々をこねるついでに、話を聞いていただいても宜しいでしょうか?』

『…いいわよ、付き合ってあげる』

『恐縮ですが会長、我々はのんびりしている場合では』

『ごめんね内木君。お願いだから、暫く待ってもらっても良いかしら?』

『…ご希望とあらば』
394 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/29(月) 02:32:10.48 ID:QXJ+p09Uo

そうして暫くの間、久は和の話に延々と付き合わされた。

自分が居なくなってからの清澄、咲に得体の知れない者が取り憑いた云々。

咲を助けられなかった事や、京太郎に置いてかれた事への愚痴がなんたらかんたら。

余程鬱憤を溜め込んでいて疲れたのだろうか…和は一通り話し終えると、途端に眠りこけてしまった。



『…眠っていますね』

『ええ、とてもよく』

『漸く安心できたのでしょうか、原村さん…いい顔してますね』

『ええ、とても気持ちよさそうだわ』

『…須賀君の行動によっては、また彼女に辛い思いをさせてしまうんですよね』

『そうね。もし彼が失敗したら、帝国の侵攻を阻害するだけでは済まなくなるわ』

『そうなれば、より多くの犠牲を覚悟しなくてはなりませんね』

『…犠牲、か。私個人としては、彼に犠牲を強いたくは無かったけどね』

『そりゃそうですよ。彼は、会長の夢を一緒に叶えてくれた仲間の一人なんですから』

『仲間…か。私に甲斐性があれば、その仲間は傷つけられずに済んだでしょうに』

『…信じましょう。彼が帰ってくるのを』

『…え?』

『原村さんも言ってたじゃないですか。須賀君は…麻雀部の事をとても大切に想っていたって』

『でも…私達は彼の事を……』

『…彼は、清澄高校麻雀部での日々を忘れていなかったから、また麻雀を始める気になったんですよ?』

『…それは』

『ご自分を責めないでください、とは言えませんが…ただいたずらに後悔するのは、ただの自己満足にしかなりません』

『その心持がどうであれ、自分に酔っているだけになっちゃいます。そんなの、会長らしくありません』

『内木…君』

『…我々も、少し休みましょう。戦ってばかりいたせいで、疲れてしまいましたからね』

『…うん』
395 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/29(月) 02:57:15.81 ID:QXJ+p09Uo






…結局、何にも思い出せなかったな。






あの人が…須賀君が何故泣いていたのか、私はちっとも思い出せない。

思い出せたのは、彼と私達が今年の春先に出会ったと言う事だけ。

…私以外の誰かで彼を少しでも覚えているのは、穏乃ちゃんくらい。

彼は…まるで始めからそこに居なかったかのように、麻雀部の記録からも…私達の記憶からも消えて無くなってしまったのだ。

どんな風に出逢ったのか。

どんな風に接していたのか。

どんな風に一緒の時間を過ごしていたのか。

…何にも、思い出せない。

まるで、夢の中での出来事を現実と錯覚しているかのよう。

―――けれど。

けれど彼は確かに、あの時私達の前に現れた。

私が覚えていないと言っても、彼は必死になってそれを否定しようとした。

そして私達は…私は、彼を泣かせてしまった。

そういう事実があった事は確かなのだ。

それに…彼が去り際に見せた涙を見て、私が一抹の寂しさを感じたのは…恐らく気のせいではない。

きっと私はその時に、彼の言葉が嘘ではなかった事に気がついたんだ。
396 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/29(月) 03:12:02.01 ID:QXJ+p09Uo

…須賀君。

君は、私にとってどういう人だったの?

私は、君にとってどういう人だったの?

…そもそも、貴方と私は一体どんな関係だったのかな?

どうして貴方は、私達の前に現れたのかな?

貴方が逃げ去ってしまったから、私はその問いの答えを知る事が出来ない。

…貴方にそうさせてしまったのは、私達のせいなのだけど。



この、なんとも言えない心のもやもやは…きっと、貴方が来てくれない限り永遠に無くならない。

だから…もし貴方が私を憎んだりしていないのなら、どうかもう一度会いに来て。話をさせて。

それで、貴方が居なくなってしまっても…私には、貴方を責める事なんて出来ない。



…どうか、どこにもいなくならないで。
397 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/29(月) 03:35:00.14 ID:QXJ+p09Uo




…なんだ。俺、忘れられてなんかいなかったんじゃねえか。




どうして、今になって知ってしまったんだろう。

何もかもが終わってしまった、今になって。

…もう、戻れない。

清澄の皆の所にも、阿知賀の皆の所にも戻れない。

いや…阿知賀なら尚更だ。俺にとって、あそこは清澄の代替物でもあったんだから。

そんな事思ってちゃ、忘れられても仕方ないよな。

忘れられた方が、良いよな。

…健康に生きてさえいれば、とりあえず玄さんの願いは叶うだろ。

だから、それでいいや。
398 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/29(月) 03:53:30.43 ID:QXJ+p09Uo






こうして京太郎は、世界に存在を認められなかった男は…生き延びる事が出来た。

麻雀を通して出会った人々と、決して交わる事の無い道を。

宮永咲の幼馴染でもなく、中学時代の知己でもなく……。

極々普通の一般人として、不確かな安寧の中で生きていく道を選んだのだ。

麻雀部部員としての「須賀京太郎」は、いなくなってしまった。

無論…彼以外の誰も、あの一連の出来事は覚えてなどいない。

彼にとって…麻雀部とは、永遠の思い出になったのだ。

そして京太郎は…今日もおもちの豊かな女性に思いを馳せながら生きていく。

…時たま、過去から目を逸らしながら。











「…やっと、見つけた」

「え?」

「探したよ、須賀君。いつまで待っても来てくれないから、こっちから探しに来ちゃったよ」
399 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/29(月) 03:55:21.83 ID:QXJ+p09Uo
>>398 訂正

×:彼にとって…麻雀部とは、永遠の思い出になったのだ。
○:麻雀部は…彼にとって、永遠の思い出になったのだ。

ここまで。
400 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/07/29(月) 04:44:01.76 ID:j9UGHYSCo
401 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/30(火) 05:35:35.47 ID:UeNzCQP3o

…嘘だ。

そんなはずはない。

ありえない。

どうしてあの人の声が聞こえるんだ。

今の俺は、しがない男子中学生。

ましてやここは奈良ではないし、長野でもない。

無論、かつて居た麻雀部と縁のある所にも行ってない。

怖かったのだ。

また、あんな事が起きてしまうのではという不安があった。

その不安を裏付けるように、麻雀の世界には超常的な力を持った人達が沢山居る。

現に赤土先生は、小鍛治プロと対峙し一度は牌を置いたという。

俺の理解が到底及ばないあの領域は、今も消えてなくなってはいない。

…それはつまり、咲がまたあんな風にならないとも限らないという事だ。
402 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/30(火) 05:52:48.43 ID:UeNzCQP3o

世界は確かに元通りになったけど、だからと言って不安が無くなった訳じゃない。

麻雀という一つの根幹を、無くす事は出来なかった。

…いや、無くそうとも思わなかった。

あんな事があったけど、結局俺は麻雀に出会えて良かったと思う自分を否定出来なかった。

皆との思い出を、否定したくなかった。失くしたくなかった。

けれど、また麻雀を始めようという気にもなれなくて。

だから俺は、麻雀部の誰とも係わり合いにならない道を選んで。

…それで何も起こらない保障は無いけど、幾らかのリスク回避にはなると思った。

たとえ俺が係わらずとも、咲がまた麻雀を始めてしまうのならば…それはきっと無理やりな形ではないはずだ。

アイツは、自分から部活に入って皆と活動しようとする程の積極性や社交性が乏しかったのだから。

今の俺が言えた義理じゃないけど、アイツにはどうか幸せに生きて欲しい。



…考えが逸れたな。

今の俺は、アイツの心配をしている場合じゃなかったんだ。

振り返らず、さっさとここから走り去らないと。
403 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/30(火) 06:14:53.26 ID:UeNzCQP3o



そして京太郎は、またしても「彼女」の前から逃げ出した。



…あの人や他の皆の気持ちを、俺は知らないうちに弄んでしまっていた。

あのインハイ後の咲程じゃないけど、俺にもほんの少し人の気持ちを操る力があったんだ。

「先生」が特別俺を気にかけてくれた理由も。

通りすがりのちゃちゃのんに失礼をしてお咎め無しだったのも、幾らかはそのせいで。

…当然、阿知賀や清澄の皆にもその力は作用していた。

だから、事件後の皆との係わりには「本来そうはならなかった」事が沢山あるだろう。

積極的に嫌われる様な事をした覚えは無いけれど、特別好かれるような事をした覚えも俺には無い。

俺と皆の関係は正しくなかったし、フェアじゃなかった。

それに…今俺の後ろに立っているだろう人は、俺の力のせいでおかしくなってしまった時があった。

力に拘り、勝利に拘り、それ以外は何の意味も無いとまで口にした。

皆で楽しく麻雀を打ちたい、そう言っていたあの人を。

玄さんの事を、俺はおかしくしてしまった…他の皆は、どうだったんだろうか。
404 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/30(火) 06:22:44.23 ID:UeNzCQP3o

…兎に角、これだけは変わらない。

俺はもう、戻れない。

戻ってはならない。

振り返ってはならない。

あの過去を、俺は決して忘れたりはしない。

しないけれど、もう二度とやり直そうとは思わない。

俺は過去に生きたりなんかしない。過去を置き去りにしてでも、俺は先に進むんだ。
405 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/30(火) 06:24:00.53 ID:UeNzCQP3o







「…今度は逃がさないよ、須賀君」







406 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/30(火) 08:34:43.33 ID:UeNzCQP3o

京太郎の目の前には、あの時彼を追いかけてきた高鴨穏乃がいた。



「…久しぶり、だね」

「はじめまして、の間違いじゃないか?」

「また…逃げる気なの?」

「『また』ってのが何のことか分からねえけど、そのつもりだよ」

「どうして?」

「知らない相手に彼是言われたって、何の事だかさっぱりだし…怖いからだよ」

「怖い?」

「ああ、俺は怖いんだよ。無かった事にされたはずの過去が、俺を追いかけて来るんだから」

「…そっか。でもね須賀君」

「ん?」

「私達は…過去なんかじゃないよ。だって今、ここでまた出逢えたんだからさ」

「…俺は…ッ!?」

「やっと捕まえたよ…須賀君。こうやって抱きつくのは、これで二度目だよね?」
407 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/30(火) 09:01:53.04 ID:UeNzCQP3o

「…はは、そうですね。玄さん」

「この感触、忘れただなんて言わせないよ?…名前で呼んでくれた」

「須賀君須賀君、澄ましたつもりでいるようだけど…鼻が伸びてるよ」

「マジでっ!?」

「嘘だけど」

「おい高鴨」

「良いでしょ?そっちだって、私達の事なんて知らないって嘘ついたんだから」

「…まあ、そうなんだけどさ」



「ところで、二人は何で俺の事を覚えてたんだ?」

「まあまあ、そういう細かい話は後で良いでしょ?」

「…細かくはないと思うんだが」

「今日私達が君を見つけたのは、単なる偶然なんだよ。必死になって探してた訳じゃない」

「でもね…もしまた君に逢えたら伝えたい事があったんだ」

「それって一体……?」

「そんなの、決まってるよ…せーのっ」










「「麻雀って…楽しいよね。いっしょに楽しもうよ!!」」
408 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/30(火) 09:16:29.36 ID:UeNzCQP3o

これは…ある少年の物語。

その結末の一つで、始まりの一つ。

彼と彼女らがこの先どうなっていくのかは、誰も知らない。

京太郎の言う通り、決して正当なものではないからだ。

確かなのは、須賀京太郎が…そして宮永咲が麻雀を再び始めた事。

そして、清澄と阿知賀で麻雀部が発足された事。

…但し、この話の続きが正史と同一とは限らない。





―――導は、無くなったのだから。
409 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/30(火) 09:16:56.53 ID:UeNzCQP3o
おしまい。
410 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/30(火) 09:31:33.37 ID:UeNzCQP3o







…ちょっと!私達を忘れてはいませんこと?

まあまあ透華お嬢様、あまりお怒りになられますと…小皺が増えてしまいますよ。

え、あの…それは困りますわね。

それよりも、折角やり直しが利いたんですから…今度こそは不覚を取らないように致しませんと。

…ハギヨシ、貴方何を言ってらっしゃるの?

おっと失礼、私ともあろう者が口を滑らせてしまいました。








ハギヨシ、これからも私達の元に仕えて下さいますわよね?

―――貴方様がそうお望みならば、この命尽きるまで…いつまでも。
411 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/30(火) 09:32:58.16 ID:UeNzCQP3o
この話は、本当にこれでおしまい。
412 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/07/30(火) 13:12:53.13 ID:ahJZ6ZUGo
乙ー
都落ちの人だよな?完結ありがとう
413 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/07/30(火) 14:48:16.63 ID:SKUDeesJ0
414 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/07/31(水) 00:11:13.07 ID:NVX+JuHmo
都落ちの人だったのか……
完結乙ですよ
415 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/07/31(水) 01:42:12.22 ID:RPlZ8z8ao
乙です。別のスレで名前が挙がってたので一気読みさせていただきました。
凄い読ませる文体だったと思うけれど、惜しむらくはこのスレを読む前にムダヅモを読んでおくべきだったってことだろうか…
416 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/07/31(水) 03:43:32.85 ID:I/4Chfbs0

もしかしたらと思ってたけど都落ちの人だったか
完結おめ
417 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/07/31(水) 04:52:27.16 ID:shfOljfCo
418 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/31(水) 14:45:18.73 ID:8AJ5noMwo
閲覧やコメントありがとうございました。
…スレ立てした当初は、前作の補完や続きを書くつもりはありませんでした。
本作品がこのようになった理由は、正直今でもはっきりとはしていません。
ケジメをつけたなどとは申しませんし、申せません。ただ、自分なりに一応の決着はつけました。
現在、申し上げられる事は以上です。

また何か書く事になりそうですので、このスレはもう少し残しておきます。
419 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/31(水) 17:56:56.20 ID:8AJ5noMwo




憧「…山登り?」

穏乃「うん、皆で体を鍛えてより高い集中力を持てる様になったらって思って」

憧「ふーん。で、本音は?」

穏乃「一人で登るのもいいけど、たまには皆で登ってみたいなーって」

憧「そう…けど、私は嫌だからね」

穏乃「え、何で?」

憧「山には虫とか多いし、休もうにも清潔な環境は望めないし、何より今は夏よ?」

憧「汗で身体がべとついて気持ち悪くなるのは、ねえ?」

穏乃「むぅ…そう言われると辛いな」
420 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/31(水) 18:27:48.86 ID:8AJ5noMwo

憧「…そう言えば、こども麻雀クラブがあった頃は外でよく遊んでいたわね」

穏乃「あーあの頃はねぇ。玄さんや赤土さん、それに和とかけっこなんてしてたっけ」

憧「そーそー。和なんて、あのゴスロリの服でやって来たもんだから驚いたわよ」

穏乃「あれは流石にねえ…和って、合理的でないものはあまり好んでなかったのにね」

憧「うんうん。クロにばかりドラが集まってた時も、そんなの絶対有り得ないって否定してたし」

憧「ただ、クロのお母さんの話をしてた時は、『現象は信じませんが、気持ちを否定したくはないので』って言ってたわね」

穏乃「…それを聞いて思い出したよ」

憧「何?」

穏乃「和の奴、何でその服着てるのって聞いたら怒りながらこう言ったんだ」

穏乃「『これが私の趣味であり、生き様なんです!』って」

憧「あー言ってた言ってた。時たまスポ根みたいなノリになるよね、和って」
421 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/31(水) 18:37:37.59 ID:8AJ5noMwo

穏乃「聞いた話じゃ、清澄の宮永さんを退部させようとしたらしいからね」

憧「えっ、それホントの話?」

穏乃「ホントホント。もし辞めさせちゃったら、団体戦には出られなくなるのにさ」

憧「…一体何があったのさ?」

穏乃「…宮永さんね、家族麻雀で勝っても負けても怒られてばっかりだった時期があったの」

穏乃「何でも、負けたらお年玉を巻き上げられていたとか」

憧「何よそれ…酷すぎない?」

穏乃「それでね…嫌な思いをしたくない彼女は、勝ちもせず負けもせずに済む戦い方を身につけたんだ」

憧「…まさか」

穏乃「そう。IH2回戦で見せた、あのプラマイゼロだよ」

憧「やだ…何それ怖すぎ」
422 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/07/31(水) 18:38:22.51 ID:8AJ5noMwo
ここまで。
423 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/01(木) 01:26:14.67 ID:OG93N4nlo

憧「…今の話からすると、ひょっとしなくても和が宮永さんに退部を迫ったのって」

穏乃「うん、何度もプラマイゼロされたから、プライドを酷く傷つけられたからだね」

憧「仮にもIM個人戦優勝者を相手取ってその立ち回り…魔物と呼ばれる人達はホント怖いわね」

穏乃「まったくだよねー。衣さんとかちょー凄かったし」

憧(あんな目に遭ったのに、そう言えるシズも大概だと思うよ)

穏乃「…けどさ、和なら宮永さん達の打ち方…全部ひっくるめて否定しそうだよね」

憧「或いは、無視を決め込んでるのかも。IH2回戦の打ち方って、薄墨さんの事は実質無警戒だったし」

穏乃「アレはアレで、大概だよなあ」

憧「まったくもって」
424 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/01(木) 01:29:21.69 ID:OG93N4nlo
>>423 訂正

×:穏乃「うん、何度もプラマイゼロされたから、プライドを酷く傷つけられたからだね」
○:穏乃「うん…何度もプラマイゼロされちゃって、プライドを酷く傷つけられたからだね」
425 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/01(木) 01:44:08.53 ID:OG93N4nlo

穏乃「…考えてみれば、そこまで大した事もない理由でよくあんな所に行けたよね。私達」

憧「そうね…最終的には頂点を巡って、白糸台や清澄と闘ったんだからね」

穏乃「和に会いたいって思ったからまた始めた麻雀だけど、あそこまで行ったなら優勝したかったよなあ……」

憧「シズ……」

穏乃「皆と一緒に、あの山の天辺へ…立ってみたかったなあ」

憧「…立てるわよ」

穏乃「憧?」

憧「私達、まだ一年なんだよ?宥姉は居なくなっちゃうけど、私達…またインハイを目指せるんだよ?」

憧「それに、秋や春の大会だってあるじゃない。いつまでも、過ぎた事に未練がましくなるなんて…シズらしくないよ」

穏乃「…そっか…そうだよね!」
426 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/01(木) 02:10:59.85 ID:OG93N4nlo

憧「ところでシズ?」

穏乃「ん?」

憧「…アンタが最初、何を話してたか覚えてる?」

穏乃「えーと…その、うーん…ダメだ、忘れちゃった」

憧「『皆と一緒に山登りしたい』って話してたでしょ?」

穏乃「ああ…そっかそっか思い出した!確かそんな事言ってたよね!!」

憧「…その歳で忘れっぽいシズの将来が、私は心配だよ」

穏乃「IHの事は覚えてたじゃん…まあいいや、どこの山へ行くかを決めようよ」

憧「まだ誰の返事も聞いてないのにせっかちね…そうね、私に一つ考えがあるわ」

穏乃「ん、なになに?」

憧「大阪の方へ皆で遊びに行って、そのついでに山登りをするというのはどうかな?」

穏乃「…大阪?」

憧「うん、大阪。天王寺や心斎橋の辺りをぶらぶらしたり、海遊館で水生動物を見て癒されたりしたいし」

穏乃「…海遊館?憧…一体どこに山があるんだよ」
427 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/01(木) 02:19:00.82 ID:OG93N4nlo

憧「海遊館のある港区には、日本一の山があるのよ」

穏乃「…おい、まさか」

憧「だから一緒に行きましょう。天保山へ」






穏乃「…まじゃない」

憧「どうしたのよ…急に顔を強張らせちゃって。アレだって、立派な山じゃないの」

穏乃「アレは山じゃない!山でなんか、あるもんか!!」

憧「え、シズ?」

穏乃「だって4.5mだよ!?ほんの少し階段上ったらはい登頂、なんて可笑しすぎるだろ!」

憧「ちょっとシズ、落ち着いてってば。怖いよ」
428 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/01(木) 02:32:10.85 ID:OG93N4nlo

穏乃「何でも昔は船の出入りに目印として用いられたから、確か20m位はあったそうだけどさ…」

穏乃「だからって結局は丘みたいなもんじゃん!山の定義が曖昧だからって、そりゃないよ!」

憧「分かったから、シズの気持ちはもう分かったから……」

穏乃「分かってない!だって私、憧にまだ自分の山に対する情熱を伝えきれてないから!」

穏乃「山登りってのはね、ロマンなんだよ…登頂後に見える雄大な景色は、登り詰めた者への祝福なんだよ」

穏乃「それが、あの何だか良く分からないものにあると思う?」

憧「け…けどさ、アレが山として認められたのは地元住民の人達が懸命に努力した結果でもあるし」

穏乃「それはそれ!私にだって、決して譲れない思いがあるんだから!」
429 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/01(木) 02:43:33.54 ID:OG93N4nlo

穏乃「いい?そもそも私が登山を好むようになったのは……」

憧(…中等部時代のシズは、登山部を立ち上げようとは思わなかったんだろうか)

憧(いや…麻雀や和に出逢ってなかったら、きっとこの子は一人でも登山家を志したかもしれない)

憧(多分…どんな所でも、あのジャージと身一つで踏破していって……)

憧(…何でシズが今ここに居るのか、私にはさっぱり分かんないな。うん)







穏乃「山登りは、私にとって人生です!」
430 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/01(木) 02:44:11.10 ID:OG93N4nlo
ここまで。
431 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/01(木) 04:40:59.53 ID:5PNqjHUjo
432 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/01(木) 19:20:02.89 ID:OG93N4nlo


【8月1日】


…なんでも、今日は麻雀の日だそうですね。

うん。八一(はい)で牌(パイ)の語呂合わせからそうしたんだよ。

世界母乳の日というのもあるみたいで。

世界母乳連盟という組織が、、赤ちゃんが母乳で哺乳される権利「母乳権」の普及を図って出来たものだよ。

…母乳による育児って、お母さん達の体質なども関係するから結構デリケートな問題らしいけどね。

なるほど確かに。皆が皆、母親のおもちにありつける訳じゃありませんから。

だよねだよね。それに、おもちの大きなお母さんに授乳される人と言えばさらに限られちゃうよ。

…そう考えると、やはり大きなおもちとはすばらなものですよねえ。

まったくもって、そのとーり!あの柔らかな存在に、顔を埋もれさせてそのまま身も心も溶かしてしまいたいね!

ですね!大きくって柔らかいものって、ただそこにあるだけで思わず飛び込んでしまいたくなるものですから!

その中でも特にレベルの高いおもちをお持ちの人が、数日後のIHにはには何人か居る。

…これはもう、堪能させてもらうしかないよね!

然り然り。ただ…俺じゃどうやっても誤魔化せないので、思う所はありますが揉むのはお任せしますね。

勿論だよ!その代わり、撮影は上手くやってよね!
433 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/01(木) 19:37:56.97 ID:OG93N4nlo

そして迎えた、IH抽選会の日。

少女達…それと、ついでになってしまった少年達の戦い。

この日、ついにその幕が切って落とされようとしていた。

そして……



「…ッ!」

「おっと、大声は出さないでください」

「もし…そんな事したら、私の手が貴方をどうしちゃうか分かりませんよ?」

「あ…貴方達は一体……」

「名乗る名前なんて、俺達は持ち合わせちゃいません」

「私達は…貴女のおもちに惹かれてやって来た不貞の輩に過ぎませんから」

「後ろめたいような言い方をするのなら、こんな馬鹿な事はもう…ッ!!」

「…止められる訳なんかないじゃないですか」

「ひ…ああっ…」

「そうですよ。だって今の貴女、すっごく気持ちよさそうな顔してますよ」

「ふぇ…しょ、しょんなころは……」
434 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/01(木) 19:54:08.42 ID:OG93N4nlo

「素直になってくださいよ…体はこんなに正直なんですから、ねっ!」

「ひぎっ!や、やめてえッ!そんなに気持ちよくされたら、私…私ぃ……」

「良いですよその顔…今すぐこの手に持ったビデオカメラを投げ捨てて、襲い掛かってしまいそうです」

「んあぁっ、あ…あ……」

「…後ろからじゃ、今この人の顔がどうなってるか良く分からないよぉ……」

「うっ、はぁ…ぁ…もう…いやだって…ばぁ……」

「まあまあ。後で撮影した動画で見れはするんですから、それで我慢しましょう」

「むー、君ってばほんと意地悪だよね」

「ひ、あ…あっ!」
435 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/01(木) 20:09:50.36 ID:OG93N4nlo


…数刻後。


「……」

「…あっさり気を失っちゃいましたね」

「うん…それに、何度もおもちにしゃぶりついてみたけど…母乳は少しも出なかったよぉ…」

「ですね…貴女のテクニックなら、間違いなく母乳を出せるはずだったのに」

「うう…まだまだ私も精進が足りないようなのです…」

「気にする事はありませんよ!まだターゲットは残っているんですから」

「…そうだよね!私、母乳を飲めるまで一生懸命頑張るよ!」

「……」







…IH会場で婦女暴行?

ええ、どうやら本当らしいですよ。犯人の目星はついてないそうです。

会場には厳重な警備体制が敷かれているのに…一体どういう事でしょうか?

…うーん、すばらくないですねえ…ならばこの事件、私がズバッと解決してみせましょう!

先輩、大丈夫なんですか?

任せてください!後輩達の憂いを絶つのも、先輩である私の務めですから!

たとえ…つい先日まで敵同士であったとしても、です。
436 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/01(木) 20:10:24.87 ID:OG93N4nlo
ここまで。
437 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/01(木) 20:23:26.88 ID:equpIxPS0

一体犯人は何者なんだ(棒)
438 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/02(金) 01:21:10.71 ID:IABsgxhBo
訂正

>>432
×:世界母乳連盟という組織が、、赤ちゃんが母乳で哺乳される権利「母乳権」の普及を図って出来たものだよ。
○:世界母乳連盟という組織が、赤ちゃんが母乳で哺乳される権利「母乳権」の普及を図って出来たものだよ。

>>434
×:「まあまあ。後で撮影した動画で見れはするんですから、それで我慢しましょう」
○:「まあまあ。後で撮影した動画で見れるんですから、それで我慢しましょう」

>>435
×:ええ、どうやら本当らしいですよ。犯人の目星はついてないそうです。
○:ええ、どうやら本当らしいですよ。ちなみに、犯人の目星は全くついてないそうです。
439 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/02(金) 02:07:08.14 ID:IABsgxhBo

IH女子団体戦は、既に準決勝まで終了していた。

しかし未だに、婦女暴行事件は解決していなかったのだ。

…犯人達に繋がる手ががりは、全くといっていいほど見つからなかったからだ。

それに、被害にあった女性達は…皆一様に口を硬く閉ざしていた。

話したくないほど辛い思いをしたからだろうか?

話を広げてしまうのが嫌だからだろうか?

或いは、ショックでその当時の記憶が無いからだろうか?

―――実の所、どれも正しくは無い。

…彼女達は、それまでの人生で一度も体感した事のないモノに酔いしれてしまったのだ。

己の乳房を、これでもかと言わんばかりに揉み解されて…彼女らは、それがとても気持ちよかったのだ。

そう…被害者達は悉く、犯人達に与えられたあの快楽を心地のよいものと捉えていた。

願わくば、再び彼らの餌食になりたいと考えていた。

そして…その機会を失ってしまう事が、とても恐ろしいとさえ考えていた。
440 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/02(金) 02:26:45.82 ID:IABsgxhBo

「ひゃあんっ」

…失敗。

「く…んんっ…ん、あっ」

…また失敗。

「はァ…っ、ヒィっ!きもぢ…イイよぉっ……!」

…ああもう、何で母乳が出ないのっ!



…大丈夫ですか?顔色…悪いですよ?

う、ううん。そんな事無いよ…IHで2回も心をズタボロにされた私は、たとえへこたれたって直ぐに立ち直れるんだよ?

俺には、とてもそんな風には見えないんですけど。

…どうして?

気付いてないんですか?貴女は今、泣いているんですよ。

…えっ…あ、ホントだ。全然、気付いてなかったなあ。

貴女が辛いのなら、こんな事はもう止めてしまっても良いんですよ?

…やだっ!それだけはヤなのっ!

なら、俺は最後まで貴女に付き合わせてもらいますよ。そういう約束ですからね。

…ねえ…なんで君は、私のおバカに付き合ってくれてるの?

俺は…貴女のおもちに対するひたむきな愛に心打たれただけです。

それ以上でも、以下でもない。そんな理由で、ここに居てはいけませんか?

…ううん。ありがとう。
441 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/02(金) 02:38:15.18 ID:IABsgxhBo

…おもち!

おもちおもちおもち!

おもち!おもち!おもち!うわあああああああああああああああああああああああっ!

おもちって、すばらしい!

おもちって、やわらかい!

おもちって、あったかい!

私がどんなに傷ついても、おもちがきっと癒してくれるんだ!

おもちは、私にとって何にも代え難いモノ…いわば私の全てですのだ!

おもち無くして、私の人生は成り立たない!



…ノーおもち、ノーライフ!

サンハイッ!

「「ノーおもち、ノーライフ!」」
442 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/02(金) 02:46:02.04 ID:IABsgxhBo

…ひぅ。

のどちゃん、一体どうしたんだじぇ?

いえ…ちょっと寒気に襲われて、身震いしてしまっただけです。

…このクソ暑い外で?

ええ…どうしてなのかはさっぱり分からないんですが。

おかしな事もあるもんだじぇ。のどちゃんが、そんなオカルトチックな事を普通に話したりするなんて。

どうでしょうか…単に体調を少し悪くしただけかもしれませんし。

何にせよ、気をつけるんだじぇ!

勿論です。決勝が近いというのに、体調を崩したせいでまともに打てないだなんてあってはならない事ですから。
443 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/02(金) 02:46:40.52 ID:IABsgxhBo
ここまで。
444 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/02(金) 02:48:52.24 ID:PpXvOwhhO
乙ー
445 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/02(金) 02:54:31.32 ID:Pu4p6NtNo
446 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/03(土) 07:22:35.95 ID:VfOwcwQ8o



案外あっという間でしたね、団体戦。

ええ…どうせなら、選手としてみんなと一緒に参加したかったのだけど。

ははは…すみません、不甲斐ない大将で。

それを言うならお互い様よ。少し前の私なら…自分が総て悪いような言い方をしてたでしょうけど。

確かにそうですね。正直、すっごい重いなーって思っちゃったりしてた時もありました。

…皆には、気苦労掛けさせちゃったわね。

いえいえ。私達は先輩のそういう所が好ましいと思ったから、ここまで応援に来てるんですから。

そう…それなら期待に応えられるように、精一杯打たせてもらうわね。





ところで…先輩が自分を無闇に責めなくなったのは、やっぱり清澄のあの人のお陰ですか?

そうね。あの人と何度か接して、自分の身の振り方を幾らか見直すきっかけにはなったかしら。

…少し、妬けちゃいますね。自分達は、貴女の重荷を軽く出来ませんでしたから。

重荷だなんて…私は、私に出来る事をやっただけよ。それが、私の矜持といった所かしら。
447 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/03(土) 07:34:49.23 ID:VfOwcwQ8o

…今度のターゲットは、あの人ですか。

うん。遠目から見ても、随分と母性に溢れた雰囲気を感じるね。

そりゃまあ、面倒見が凄く良い人ですからね。

君と彼女って、知り合ってたっけ?

残念ながら…けど、部長達から話は聞いてます。あの人、部の雑用をたった一人で総てこなしていたそうです。

え…風越の麻雀部って、部員80名の大きな所だよね?

そうです。なんでも、部員全員には牌に少しでも長く触れて欲しいからそうしたとか。

優しさの塊みたいな人ですね……。

そういう訳ですから、部員達からは相当慕われていますね。部長とは別ベクトルで、人たらしの才能があるというか。

私も、ああいう人に後輩として甘えてみたいなあ。

まったくですよー。世が世なら、あの人のハーレム作品があっても可笑しくはなかったでしょう。

それだと部員の皆は?

流石に…娘や妹のような立場の人達までカウントするのはどうかと思いまして。
448 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/03(土) 07:35:59.90 ID:VfOwcwQ8o
ここまで。
449 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/03(土) 18:28:10.06 ID:uLQ7LlDe0
母乳が溢れるに見えて、でも疑問に思わなかったあたりおもち同盟に毒されてるわ
450 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/08/04(日) 02:20:14.82 ID:ANbFn+UV0

…さっきから、誰かに後をつけられているような気がする。

恐らくは二人組ね。

ただ…どういう訳かその二人がどんな姿格好をしているのか全く分からない。

近くにいるのは分かっているけど、正確な位置までは特定出来ない。

そもそも、二人組がどうして私の後をつけているのかも知らない。

確かなのは、私の事を二人がじっと見つめているという事。

その射抜くような視線は、私の胸を強く締め付けている。
451 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/08/04(日) 02:34:17.22 ID:ANbFn+UV0

…怖い。

こんなに不安でいっぱいいっぱいになった事は、決して初めてではないけれど。

同級生と疎遠になった時も、風越の正レギュラーとして麻雀を打ってきた時も…こんな風にはならなかった。

今の自分には、何一つ出来る事がない。

抵抗は無意味だろうし、逃れる事も出来ない。

何より…得体が知れない。

分からないものに対する恐怖というのは、そうでないものへのそれより大きくなりやすい。

…私は今まさに、二人に与えられる恐怖によって身も心も支配されようとしているのだ。



452 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/08/04(日) 02:49:37.84 ID:ANbFn+UV0

…嫌。

私は傷つけられたくないの。

今傷つけられたら、きっと私は…もう戦えなくなってしまう。

あの子達の想いに、応えられなくなってしまう。

それだけは、嫌なの。



私は決して強い人間じゃない。

部の雑用を引き受けたのも、私を独りきりじゃなくしてくれた皆にお返しがしたかったからだ。

あくまで私個人の捉え方ではあるけれど…皆には助けられてばかりだと思ったから。

自分は、独りではない。

華菜がそう気付かせてくれて、実際皆は私の事を慕ってくれていて。

…なのに。

なのに私は…ここでダメになってしまうの?
453 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/08/04(日) 03:06:54.73 ID:ANbFn+UV0

…ターゲットが動揺しています。

え…まさか私達の尾行が気付かれていたの?

どうやら、そのようですね。

ううむ…私達の修行の成果が、無為に帰す時が来るとは思わなかったですのだ。

確かにそれは無念ですが、今この状況はチャンスです。

…あの人、恐怖で身がすくんでいるみたいだからね。つい先日までは、私もそうなる側だったのに。

やはり今でも、何か思う所がありますか?

勿論だよ。ああいう思いをさせられた時、すっごく嫌なものを感じたんだもん。けど、私はもう躊躇わないよ。

だって私…やっぱりやわらかくて大きくてあったかいおもちが大好きなんだもん!

俺も同感です。どんなに後ろめたくたって、やはりおもちへの憧れを捨て去る事は出来ませんでした。

…だから今更、自分の行いを省みたりなんかしません!

その言葉、とても心強いよ。…それじゃあ、行っちゃおうか!

おうともさ!
454 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/08/04(日) 03:21:59.14 ID:ANbFn+UV0

…ああ、二人組が迫ってくる。

私の胸元めがけて、飛び掛って来る。それはまるで…豹のように。

逃れる事は出来ない。

抗う事も出来ない。

ただ、迫り来る脅威に身を竦ませるだけ。

…私、ダメな子だ。

勝ってくるって、麻雀部の皆と約束したのに。

あの人のように精一杯…たとえ虚勢であっても力強く戦っていこうと自分に誓ったのに。







…誰か、私を助けて。
455 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/08/04(日) 03:56:31.87 ID:ANbFn+UV0

そして、不逞の輩が…獲物である福路美穂子に襲い掛かろうとしていたその瞬間。

「…させない!」

「!?」

豹達が迫るよりも速く、彼女の前には一人の女性が立っていた。

池田華菜。

同級生達に敬遠されていた美穂子を、自虐を交えながらではあるが懸命に励ました彼女の後輩である。

…華菜がここにいるのは、決して偶然ではない。

と言っても、突然嫌な予感がしたから急いで美穂子の元に向かっただけなのだが…結果的には、それが功を奏した。

そして、そんな彼女を追いかけてやって来る人物がもう一人。

「待ってよ華菜ちゃん。急に髪を逆立てたかと思うと、そのまま走り出して行っちゃうだなんて…えっ!?」

声の主は吉留未春。

華菜と共に美穂子の付き添いで東京に来ていた少女である。その彼女は、今目の前にしている状況にうろたえていた。

震える美穂子。

そんな彼女の前で、仁王立ちしている華菜。

そして…謎の二人組。どうしてか、未春はその二人の姿を良く認識出来なかった。

眼鏡の度がおかしいのか曇っているのか、或いは急な運動のせいで目眩がしているのか、彼女にはそれが分からない。

彼女でなくても分からない。
456 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/08/04(日) 04:06:20.60 ID:ANbFn+UV0

未春「華菜ちゃん…あの二人組、誰?」

華菜「みはるん…私にも分からないし」

未春「後さ…私の目がおかしいのかもしれないけど、二人組の姿がひどくぼんやりして見えるのは気のせい?」

華菜「気のせいなんかじゃないよ。私にも…恐らくは先輩にも、あの二人の姿はまともに見えちゃいないし」

未春「え?」

美穂子「…本当の事よ吉留さん。私は今両目を開けているけど、それでも二人の姿は正しく認識出来ない」

未春「そんな…だとしたら、それは一体どうしてなんですか?」

美穂子「それは私にも分からない。けど、恐らくそれは私達の体調等に起因するものではないわ」
457 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/08/04(日) 04:15:36.74 ID:ANbFn+UV0

…どうします?

目的は阻止されちゃったし、その上向こうは私達についての情報を知っちゃったよ。

一応、口封じ出来ない事もないですけど。

いや、それは止めとこう。二人で三人を攫うのは無理があるよ。

ですね…それに、池田さんは俺達よりも素早いですし。

まるでチーターみたいだったね。確かに猫みたいな雰囲気はあるけど。

458 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/08/04(日) 04:27:53.90 ID:ANbFn+UV0

未春「あの二人、じっとして動かないね」

華菜「きっと私に恐れをなしているんだし!」

未春「それはどうなんだろ。確かに、警戒はされてるみたいだけど」

美穂子「…華菜。あまり無理はしないでね」

華菜「は、はいキャプテン。あまり調子に乗らないよう気をつけます」

美穂子「それと…助けてくれてありがとう。貴女が庇ってくれなかったら私、今頃どうなっていたか……」

華菜「…これは調子に乗らずにはいられないな!」

未春(むう…私だって駆けつけて来たのに)

美穂子「それに吉留さんも。貴女の一言があったから、私達は二人組への情報を確かなものに出来たわ」

未春「い、いえ…私はただ思った事を口にしただけですし」
459 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/08/04(日) 04:49:33.23 ID:ANbFn+UV0

華菜「…あっ!」

未春「どうしたの?」

華菜「話している間に、二人組がいなくなってるし!」

未春「ああっ…どうしよう」

美穂子「いいのよ二人とも。あの場で二人を捕らえられる保障は無かったのだから」

華菜「…まさか、二人を見逃したんですか?」

美穂子「言いにくいけどその通りね。尤もそれは、向こうも同じ事だと思うけど」

未春「ですがキャプテン、それじゃあまた被害が……」

美穂子「今回の二人は、初めて目的を達成出来なかったわ。この失敗は、向こうの行動を制限するはずよ」

未春「…大人しくなるか、焦りからリスクの高い行動に出るという事ですね」

美穂子「出来れば前者が望ましいかな。当然許せた行為ではないけれど、馬鹿な事を止めてくれるならそれはそれでいいから」

華菜「うーん…それは何だか甘くないですか?」

美穂子「確かにね。けど、今の私はそういう事に気を取られている場合じゃないわ」

美穂子「だって私は、もうすぐ貴女達の分まで戦わなくちゃいけないんだから。私の為にも…そして皆の為にも」

華菜「…ですよね。なら、私達は全力で応援しないといけないね…みはるん!」

未春「そうだね華菜ちゃん。キャプテンが個人戦で優勝するまで、私達は最後まで見届けないといけないよね!」

美穂子「ふふ…頼りにしてるわね、二人とも」



…私はもう、独りぼっちじゃないんだ。

一人きりの戦いだけど、独りで戦わなくても良いんだ…だから、もう何も怖くない。
460 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/08/04(日) 04:50:02.86 ID:ANbFn+UV0
ここまで。
461 : ◆K7lrCuW9CD5k [saga sage]:2013/08/04(日) 05:02:54.65 ID:ANbFn+UV0
>>433 訂正

×:「私達は…貴女のおもちに惹かれてやって来た不貞の輩に過ぎませんから」
○:「私達は…貴女のおもちに惹かれてやって来た不逞の輩に過ぎませんから」

別PCからの投稿なので、念の為酉を使用。
462 : ◆K7lrCuW9CD5k [sage saga]:2013/08/04(日) 20:55:14.60 ID:8dvfoOfGo

美穂子達三人は、事の仔細を大会本部に報告した。

だが…本部はまともに取り合ってくれなかった。

監視カメラの映像には、二人組らしき人間は映っていなかったと言うのだ。

…三人は半信半疑で映像を確認したが、確かに二人組は映っていなかった。

なので三人は、仕方なくその場を後にした。



未春「一体どう言う事なんでしょう…彼らは、監視カメラの死角を総て把握していたんでしょうか?」

美穂子「それはどうかしら…彼らは暫く微動だにしない程度には動揺していたわ」

美穂子「たとえカメラの四角を把握していたとしても、それを考慮しながら逃げるだけの余裕はあったのかしら?」

未春「そう言えばそうですね」

華菜「ひょっとしなくても、こちらが向こうの姿をちゃんと認識できなかった事と関係があったりして」

美穂子「さて、ね」

未春「…本当にこのままで大丈夫なんでしょうか?」

華菜「だよね。どうしてか、大会本部はこの事態に対してまともに取り合おうとしていなかったし」

美穂子「事を公にしたくないのでしょう。もし外部に漏れれば、間違いなく大会本部の管理体制が問題視されるでしょうし」
463 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/04(日) 21:32:00.93 ID:8dvfoOfGo

華菜「…大会本部は当てにならないし!」

未春「ちょっと華菜ちゃん!? もし運営にこんな事聞かれたら……」

華菜「自分達の体面ばかりで、選手の事を考えないなら何で大会の運営なんてやるんだよ」

華菜「もし先輩に何かあって、ちゃんと麻雀が打てなくなったら…向こうは責任取れるの?」

未春「…それは……」

美穂子「大丈夫よ、華菜。私は貴女達二人のお陰で無事なんだから」

華菜「キャプテンはそう言いますけど…私はどうも腑に落ちないですよ」







「ちょっとそこのお三方、お時間は宜しいでしょうか?」

美穂子「貴女は…確か新道寺の」

「実は私、女子インハイ会場で起きている事件を調査しているんですよ。チームメイトや後輩達に何かあっては困りますから」

「…申し遅れました。私、花田煌と申します」

美穂子「…事情は分かりました。けれど花田さん、貴女一人で大丈夫なのですか?」

煌「心配ありません。私これでも、新道寺女子では風紀委員を務めておりますから」

池田「?」

未春「あの…失礼ですが、何故風紀委員なら大丈夫なのですか?」

煌「…よくぞ聞いてくれました!」

未春「!?」

煌「新道寺の風紀委員…通称ジャッジメントとも言われるそれは、学内の治安維持部隊でもあるのですよ」

煌「…福岡は治安が悪い事で有名ですし、新道寺は女子校ですから」

池田「だ、だからって生徒が治安部隊に属するって言うのは何か変なんじゃ…っ!」

煌「…失礼、蜂が飛んでおりましたもので」

池田「は…はは。ありがとうございます」

未春(…鉄矢を投擲して蜂を殺す人とか、初めて見たよ)
464 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/04(日) 21:41:33.43 ID:8dvfoOfGo

美穂子「成程、貴女が相当の手練である事は分かりました」

美穂子(…何故持ち物検査に引っ掛からなかったのかは、この際触れないでおきましょうか)

煌「分かって頂けて何より」

美穂子「…貴女の無事を祈っています。どうか、あの卑劣な二人組に負けないで」

煌「無論です」

池田(キャプテンに無事を祈られるなんて羨ましいし…けど、あの人すごくカッコいいし!)

未春(…福岡の学生さんって凄いなあ)
465 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/04(日) 21:52:27.45 ID:8dvfoOfGo
ここまで。
466 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/04(日) 23:38:19.71 ID:2d9ZWGENO
おつやでー
467 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/05(月) 01:31:35.07 ID:gSxDDogKo

ぬぅ、お前達は一体何なのだ?

俺達は、貴女を救済しに来た者です。

そのとーり!貧しい者に恵みを与えに来たのです!

貧しいって…私は別に苦学生でも何でもないのであるが!?

何言ってるんですか、貴女のおもちは随分と貧相じゃありませんか。

だから、私達がそれを膨らませてあげようって言ってるんですよっ!

突然現れて何を馬鹿な…恥を知れ!

残念ながら…恥を知ってれば、こんな事に手を染めるはずはないんですよ。

うんうん。私達は退かないし媚びないし省みないんですよー!

…え、ちょっと?私に一体何をするのであるか?なあ、おい?

大丈夫ですよ、この人が直ぐ気持ちよくしてくれますから。

貴女はただ、私の手に身を委ねていればいいんです!それじゃあ、いきますよー。

…あっ、そんなところ…さわら、ないでっ…ひゃあっ!
468 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/05(月) 01:45:50.84 ID:gSxDDogKo

…どうでしたか?

うーん…おもちのある人達に比べて感度は良かったけど、やっぱり母乳は出なかったね。

無い袖は振れないって奴でしょうか?

そうだねー。

すみません…おもちのない人はある人よりも感度が良いから、ひょっとしたらって思ったんですけど。

いいよ別に。そりゃまあ、ある人に比べれば当然望ましくは無いけれど…思いの他揉みごたえはあったから。

そう言ってくれると助かります。

それに…一見胸が無さそうに見えても、下着などで補正しているかもしれない人だって居るかもしれないし。

ふむ…なるほど。揉んで見てからのお楽しみって事ですね。

…実は、ひょっとしたら大きなおもちかもって人、ある程度目星はつけてるんだ。

えっ…一体誰が?

…臨海の辻垣内さんかな。あの人、身体のラインがどうも不自然なんだよ。
469 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/05(月) 01:58:47.60 ID:gSxDDogKo

…む。

どうしまシタ?

いや、何でもない。ただの気のせいだろう。

疲れているのでスカ?明日は決勝なんデスシ…無理はしないでくだサイ。

ああ…気をつける。

…ひょっとしタラ、気分が優れないのは胸にサラシをキツく巻いているせいではないでしょウカ?

かもしれん。確かに、サラシを巻いていると非常に窮屈だしな。

ナラ、サラシではなくブラジャーをつけた方がよいのデハ?

胸はあったらあったらで邪魔なんだ。牌を打ったりする時、どうしても邪魔になる。

それなら…サラシを巻いていた方が集中して打てるというものだ。

なるほど…聞く人が聞ケバ、頭を真っ赤にして怒りそうな話ですケド。

心配するな…お前の他には誰も聞いちゃいないさ。

それもそうでスネ。
470 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/05(月) 02:11:52.47 ID:gSxDDogKo

…ぬぐぐぐっ、放してよ同士!

放しませんよっ!今出て行ったら、不意打ちどころじゃなくなるじゃないですか!

けど…けどあの人、おもちを要らないって言ったんだよ!?

お気持ちは分かります。我々やおもち無き者達からすれば、あまりにも聞き捨てならない話ですから。

ですが!今ここで出て行けば、またこの前みたいに失敗しますよ?

…ぐう。

今は雌伏の時です。確実に、獲物を仕留める事が出来るまでひたすら待つんです。



「……」

「…また腹を空かせてしまったのか」

「すみまセン。それじゃあ私、ラーメン屋に行って来まスネ」

「仕方ないな…私は先に部屋へ戻っているぞ」



…ターゲットが一人になりました!

うん!これでやっと、おもちにありつけられるんだね!
471 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/05(月) 02:12:39.41 ID:gSxDDogKo










「…そろそろ出てきたらどうだ?」










472 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/05(月) 02:27:12.07 ID:gSxDDogKo

…何時から気付いていたんですか?

気配めいたものは確かに感じていたが…正直、確証は持てなかったよ。

だが…私が胸を邪魔だといった瞬間、一瞬だが怒気が立ち込めるのを感じてね。

やはり、あの時ですか。

ああ…ただ、それが無ければ今頃不覚を取っていたかもしれんがな。

うっ…あそこで不覚を取っていなければ、今頃私達は……。

勘違いするな。私は「かもしれん」と言ったんだ…お前達に、早々遅れは取らないさ。

…でしょうね。貴女は全国出場者の中でも、特に際立った戦闘力の持ち主だ。

麻雀でなければ、恐らくは宮永照や荒川憩さえも上回る。

その通りだ…あの人外達とまともに打ち合ったのは伊達ではないからな。
473 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/05(月) 02:47:33.99 ID:gSxDDogKo

…そう口にするや否や、智葉は即座に二人組への距離を詰め斬りかかる。

けれど二人は動じる事無くその一閃を避けると、反撃はせず智葉から距離を置いた。

「…どういうつもりだ」

「どうもしませんよ。まともに戦ったんじゃ、我々に勝ち目はありませんから」

「悔しいけれど、その通りなのです」

「ならば、何故逃げずに姿を現したんだ?もしこちらがお前達をどうこうするつもりなら、ダヴァンがいた時点で動いていたよ」

智葉の疑問は尤もだ。向こうはこちらとの戦力差を把握しているのに、あろう事か…彼女と正面から対峙しているのだから。

二人組の片割れが言ったように、既に勝敗は決しているのだから。

…そのはず、だったのだが。

「む…何故だ、私に突然睡魔が襲ってくるだなんて」

彼女の身体に起きた異変が、途端に彼女を無力な存在に仕立て上げる。
474 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/05(月) 02:48:41.29 ID:gSxDDogKo
>>473

×:彼女の身体に起きた異変が、途端に彼女を無力な存在に仕立て上げる。
○:智葉の身体に起きた異変が、途端に彼女を無力な存在に仕立て上げる。

ここまで。
475 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/05(月) 17:42:39.99 ID:gSxDDogKo
>>474 再訂正

…そう口にするや否や、智葉は即座に二人組への距離を詰め斬りかかる。

けれど二人は動じる事無くその一閃を避けると、反撃はせず智葉から距離を置いた。

「…どういうつもりだ」

「どうもしませんよ。まともに戦ったんじゃ、我々に勝ち目はありませんから」

「悔しいけれど、その通りなのです」

「ならば、何故逃げずに姿を現したんだ?もしこちらがお前達をどうこうするつもりなら、ダヴァンがいた時点で動いていたよ」

智葉の疑問は尤もだ。向こうはこちらとの戦力差を把握しているのに、あろう事か…彼女と正面から対峙しているのだから。

二人組の片割れが言ったように、既に勝敗は決しているのだから。

…そのはず、だったのだが。



「…苦戦しているようだな」

「なっ!?」

「ヘマしてもらっちゃ困りますよーぅ。もし計画が失敗したら、全部ご破算になってしまうんですから」

「…何故、お前達がここにいるんだ?」

「答える必要はない」

「確かなのは、私達が貴女の敵だということだけですよーぅ?」
476 :>>475の安価は>>473の間違いです [sage saga]:2013/08/05(月) 18:03:29.12 ID:gSxDDogKo

「どうもすみません…お二人とも大事な戦いを控えている身なのに」

「気にする必要はない…辻垣内相手に勝てる者など、そうそういないのだから」

「そうですよーぅ。第一、私達と貴方達は共犯なんだから気兼ねする必要は無いんですからねーぇ」

「…何にせよ、助けてくださって感謝なのです!」



「…はぁ…ぁっ……」



「…それに、私達も彼女の発言は聞き捨てならなかった」

「胸が邪魔とか、どこのアマゾネスですかって話ですよーぅ。だったら私達に寄越せって話ですねーぇ」

「無い故に…哀しむ人がいるという事を知るべきだった」
477 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/05(月) 18:20:31.65 ID:gSxDDogKo

「ところで…バストアップの実験については捗ってる?」

「うーん…あまり芳しくは無いかもしれません。数日前、越谷女子の水村さんで一度成功したきりですし」

「経過の方は、順調みたいですねーぇ。ちなみに、他の被験者も僅かながらバストは大きくなってますよーぅ」

「…それならいい」

「けれど…如何せん現状では効率が悪いのです。せめてもう少し、揉まれる側の負担を減らさなくては」

「確かに。十分に揉み解すまでに気絶されては、満足な効果が得られませんからね」

「かといって加減し過ぎると、殆ど効果が無いって結果になりましたからねーぇ?」

「…早く成果を出さなくては、スポンサーに怒られてしまう。それに、お菓子も貰えなくなる」
478 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/05(月) 18:20:59.15 ID:gSxDDogKo
ここまで。
479 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/06(火) 02:36:10.64 ID:BHRMGI09o

…それからしばらくして。



煌「依然として事態は変わらず…ですか」

和「…それでも、インハイ当初に比べれば随分と被害は減ったのは不幸中の幸いでしょうか」

煌「さて、それはどうでしょうか。当初被害にあっていたのは胸のある女性ばかりでしたが、ここ最近はそうでもなくなりました」

優希「誰が被害に遭うか、絞込みが出来なくなってしまったんですか?」

煌「そういう事になりますね」

和「…大会運営は一体何をしているのでしょうか?」

煌「不祥事を表沙汰にしたくない…だけではなく、何か別に理由がありそうですね」

和「理由、ですか?」

煌「そうですね。例えば…運営側の誰かが事件に関与しているとか、ですかね」
480 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/06(火) 02:44:46.28 ID:BHRMGI09o

…委員長。

何だね。

何故、あのような馬鹿けた計画に加担なされるのですか?

馬鹿けた計画…か。確かにそうかもしれんな。

そう仰られるのでしたら、もうお止めになった方が宜しいかと。

…嫌だね。

どうして?

出来るならやってみたい、そんな理由で君は満足してくれるかね?

…出来る訳ないでしょう!

だろうな。君なら、そう言うだろうと思っていたよ。
481 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/06(火) 02:52:36.66 ID:BHRMGI09o

私はね…より完璧な雀士を作りたいのだよ。

…は?

誰にもケチをつけられる事のない完全無欠の雀士の誕生を、私は見てみたいのだ。

何を…仰っているのですか?

…ところで君、今日本の麻雀打ちで最も強いのは一体誰かね?

それは勿論、小鍛治健夜プロです。

その通りだ。しかし、私はそれが嫌なのだよ。

そんな…あんなに強くて可愛い女性なのに、どうして嫌なんですか!

私は別に、小鍛治プロの事を嫌っている訳ではないよ。だが…彼女じゃ物足りないのだよ。
482 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/06(火) 03:00:40.85 ID:BHRMGI09o

彼女は、どんな風に麻雀を打っていた?

大変申し上げにくいですが、正直…楽しそうにしている顔を見た事は無いです。

彼女の私生活はどうなっている?

話に聞いた限りですと、色々と無頓着が過ぎる部分がありますね。

彼女の容姿はどのように見える?

とても可愛いです。ただ、歳相応といった感じは全くしません。



…つまりは、そういう事なのだよ。

何が、そういう事なんですか?

私が、彼女を物足りないと断じたその理由だよ。
483 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/06(火) 03:05:58.73 ID:BHRMGI09o

彼女は、楽しそうに麻雀を打たない。

彼女は、麻雀以外の事には無頓着になりがち。

彼女は、年齢に反して非常に未成熟な容姿をしている。10年前から、全く容姿が変わっていないのだからな。

…魔物と呼ばれる雀士達は、その多くが彼女と似通っているのだ。









そう!私は何時だって、ロリコンの貧乳派に辛酸を舐めさせられてきたのだよ!
484 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/06(火) 03:20:03.09 ID:BHRMGI09o

…いつだってそうだ。

はやりんはあんなに可愛くて美しくて強いのに、すこやんのお陰でちっとも目立たなかった。

どんなにはやりんが大会で頑張ったって、結局はすこやんが全部かっさらっていった。

『瑞原はやりはオワコン』

『おもちなんて邪魔なだけっしょ?』

『正直、生まれる国や時代を間違えたとしか言えない』

『すこやん>>>>>>>越えられない壁>>>>>>>>はやりん(笑)』



私は怒った。激おこぷんぷん丸だった。

でも結局、あの分からず屋共の言葉を私は否定出来なかった。
485 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/06(火) 03:41:02.63 ID:BHRMGI09o

…そして今なお、巨乳は貧乳に劣っているとされている。

悲しい事に…今年の魔物達も貧乳が殆どだった。

小蒔ちゃんや智葉さんは、咲さんや照さん達に劣っていると言われるんだろうか?

はやりんや良子ちゃんが、すこやんや咏ちゃんに劣っていると言われているように。

…やだよそんなの。

だっておもちは、でっかい方が良いに決まっているんだい!

だからなあ…この際主だった選手は全員おもちをでっかくしてやるんだよ!

貧乳なんていらねえ…今は巨乳が微笑む時代なんだ!

…ロリコンの貧乳共に、我々巨乳派が引導を渡してやる!

ぐはははははっ!








(…なんじゃこりゃ。)
486 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/06(火) 03:43:49.81 ID:BHRMGI09o
ここまで。
487 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/06(火) 20:22:10.56 ID:BHRMGI09o

巨乳派と貧乳派の溝は深い。

きのこ派とたけのこ派がそうであるように。

何時頃からそうなったのかは、はっきりしていない。

ただ、両者は決して相容れないものであるのは確かだった。

麻雀においてもそれは例外ではなく、少なくとも小鍛治プロ達が活躍する以前から両者は対立していた。

老若男女を問わず、終わりのない戦いを繰り広げていた。

大した理由はない。

ただ、お互いの好きなもの同士に公的な優劣をつけようとしてしまった。

結果的に…それがお互いを傷つけ、最早引き返せない所まで来てしまっただけなのだ。



現在の旗印である小鍛治プロと瑞原プロに浮いた話がないのは、両派閥の存在故とも言われている。
488 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/06(火) 20:48:11.60 ID:BHRMGI09o

実際、アイドルのファンが事件や不祥事を起こした例はそれなりにある。

麻雀人気が過熱した事によって、両プロの人気も爆発的に上昇したのは幸か不幸か。

何れにせよ、二人の行動が少なからず制限されていたのは事実である。

熱狂的なファン達を刺激して、万が一の事でもあればたまったものではないからだ。








…なお、小鍛治プロの私生活がだらしないのはあくまで本人の気質であると明記しておく。
489 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/06(火) 21:01:49.00 ID:BHRMGI09o

「…団体戦、終わっちゃった」

二人組の片割れは、しょげながらそう言った。

勝負の結果がどうであったかは兎も角として、良い麻雀を打てる機会はひとまず失われてしまったのだ。

全員で参加できる団体戦を優先し、個人戦には出ない事にした彼女達は…もう夏のインハイでは打てない。

…彼女は、それが寂しかった。

そして、その寂しさを紛らわすように…今日も彼女は欲望に身を委ねる。
490 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/06(火) 21:15:34.90 ID:BHRMGI09o

和「…団体戦が終わったかと思えば、次は個人戦ですか」

優希「のどちゃん、自分が出場者なのに言い方が他人事みたいだじぇ」

和「そうでしょうか?」

優希「そうだじぇ!だってのどちゃん、あの団体戦決勝が終わってから…心ここにあらずといった感じだじぇ」

和「確かに、その通りかもしれません」

優希「やっぱり、決勝のアレには心が揺らいでしまったのか?」

和「…何時も通りの麻雀を打てない日が来るだなんて、考えもしませんでしたから」

和「大会の結果がどうあれ、私はそれが悔しくて仕方が無いです」

優希「なら、個人戦でその憂さを晴らすべきだじぇ。私は個人戦に出られないから、それも出来ないんだけど」

和「優希……」

優希「江戸の敵を長崎で討つようだけど、原村和はIM王者の名に恥じない打ち手なんだって…皆に思い知らせてやってよ!」
491 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/06(火) 21:35:38.51 ID:BHRMGI09o






まさか優希に慰められるとは思ってませんでした。

馬鹿にしているようで何ですけど、あの子って子供っぽいですから。

高遠原で団体戦を早々に敗退した後、帰り道で優希は物凄く泣きじゃくっていましたし。

人間、変われば変わるものです。

…私も、変わらなくてはいけないのかもしれませんね。

オカルトの存在を受け容れて、それでもなおデジタルを貫く覚悟が今までの私にはありませんでした。

気にしてなかったとも言えますし、目を背けていただけとも言えますが。

けれど今のままでは、私は一生オカルトに勝てないでしょう。

デジタル打ちを貫いた上で、この先麻雀を打つ事は出来ないでしょう。

ですがそれでは、お父さんの言葉を否定した事にはなりません。

あんなに楽しい麻雀が、「不毛」の一言で片付けられて良い事にはなりません。

…打ちましょう、お父さんの言う「不毛」でない麻雀を。
492 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/06(火) 21:51:08.86 ID:BHRMGI09o

…決意を固めた和に、忍び寄る影が二つ。

彼女はそれに気付いていない。

まして…自分の身に危険が迫っている事など、少しも考えてはいない。

明日からの個人戦に、彼女は必ず参加出来ると思っている。

当然だ。彼女にはその権利があるのだから。

しかし、権利があるからといって、それを行使出来る保証はない。

不慮の事態、不測の事態によって権利が損なわれるかもしれないからだ。

そして、彼女にはそれが間近に迫っていた。
493 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/06(火) 21:51:34.96 ID:BHRMGI09o
ここまで。
494 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/07(水) 01:14:47.61 ID:Dy9wr7jeo

影が、迫る。

まるで、和に吸い込まれていくように。

あるべき所へ還ろうとするかのように、迫っていく。

それでも、和はまだ気付いていない。

這い寄る者の存在を、認識出来ていない。

…いや、ひょっとしたら認めたくないのかもしれない。





「不届き者達…ジャッジメントですよ!」

「…なっ!?」

「…万能バックパックが、壊されてしまったのです!」





彼女の想像が正しければ、きっと影の正体は…自分の知る人物だったから。

「どうして…あなた達が……」

影の正体は、同じ清澄の仲間である須賀京太郎。

そしてもう一人は、阿知賀女子の松実玄…昔一緒に、麻雀クラブで共に楽しい日々を過ごした間柄である。
495 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/07(水) 01:31:23.71 ID:Dy9wr7jeo

煌「これでもう…その強化服はまともに機能しませんよ。背中にしょってる機械を、鉄矢で壊してしまいましたから」

京太郎「…何で、俺達の正しい位置を認識出来たんですか?」

煌「経験と勘…ですね。日々の積み重ねは、小細工など容易く凌駕してしまうのですよ」

玄「さすがです。未完成品のコレなんかでは、何の気休めにもなりませんね」

和「…未完成?」

京太郎「ああ…そうさ。この強化服は、とある筋から横流しされた最新兵器の試作品なんだよ」

和「一体、誰がそんな事を?」

京太郎「うーん…そればっかりは、どうしたって口には出来ねえな」

玄「悪いけど、それはたとえ和ちゃんでも答える訳にはいかないんだよ」

煌「…貴方達の目的は、何ですか?」

京太郎「おもちと母乳…ですかね」

玄「あくまで私達個人としては、ですけど」
496 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/07(水) 01:51:24.99 ID:Dy9wr7jeo

和「そんな…そんな事の為に、あなた達は……!」

玄「…私が言うのもなんだけど、それは傲慢と言うものですのだ」

京太郎「同じく」

和「おもちとやらが…女性の大きな胸が、そんなに大事だって言うんですか!」

京太郎「ああ…大事だとも。おもちとは、俺達にとって慈しみの象徴だからな」

玄「煎餅では硬過ぎるから、誰かを優しく抱きしめてあげる事さえ出来ないんだよ」

玄「柔らかいと言う言葉は、穏やかという意味でもあるの。おもちが柔らかいからこそ、誰かを安らげる事が出来るの」

玄「だから…おもちは大きくあるべきなんだよ」
497 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/07(水) 02:11:04.34 ID:Dy9wr7jeo

和「…そんなの、玄さんの私見じゃないですか!」

玄「そうだね。けど私、大きなおもちに育てられてきた時期があったから」

和「まさかそれって…亡くなったお母様の」

玄「…赤ん坊の頃からほんの数年だから、その時の事を鮮明に覚えちゃいないんだけどね」

玄「でも、お母さんに抱っこされた時の柔らかな感触や温かみだけは良く覚えているのです」

和「…玄さん」

玄「まあ、こんな事を言っても私の欲望は言い繕えなんかしないよ。初めて和ちゃんに会った時も、下心まる出しだったしね」

和「だとしても…だとしてもこんなのって」
498 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/07(水) 02:26:32.20 ID:Dy9wr7jeo

煌「…和。どんな事情があるにせよ、あの人達は間違いなく犯罪者です」

和「けど…花田先輩」

煌「私は何としてでも二人を止めなくてはなりません。でなければ、また犠牲になる女性が増えるでしょう」

和「それは…そうですけど」

京太郎「その人の言う通りだぜ、和。俺達は自分達の欲の為に、散々狼藉を働いたんだからな」

玄「それは…どう足掻いても覆りようの無い事実なんだよ」

煌「…ばらくない」

和「え?」

煌「すばらくないですよ、それは」

京太郎「何がです?」

煌「そんな潔さがあるなら、どうしてお二人ともこんな馬鹿な真似をしたのですか!」
499 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/07(水) 02:48:55.82 ID:Dy9wr7jeo

京太郎「玄さんは兎も角、俺にはホント大した理由はありませんよ」

京太郎「ただ…強いて言うなら、自分に正直でありたかった。自分を取り繕わずに、生きていたかったんです」

和「…須賀君」

京太郎「和…お前も気付いていたはずだ。俺がお前に向けていた視線の事を」

京太郎「麻雀部を続けていた理由は幾つかあるけど、俺はお前とお前の胸を…ただ、見つめていたかったんだ」

京太郎「けど俺は、咲のようにお前と触れ合えたりは出来なくて…俺にはそれが、どうしようもなくもどかしくて」

京太郎「そのもどかしさに押し潰された結果が、このザマって訳だ…同情なんて、出来たもんじゃないだろ?」

和「…貴方の声色が、とても哀しそうなのは分かります」

京太郎「買いかぶるなよ。俺は…単なる出歯亀に過ぎないんだからさ」

和「もし貴方がその程度の人間なら、私達はとっくに貴方を追い出していました」

和「いえ…それ以前に、部長が貴方を麻雀部の仲間として受け入れなかったでしょう」

京太郎「…和って、案外キツいだけじゃなかったんだな」

和「…その一言は余計です。とはいえ、それが良くも悪くも貴方らしいんですけど」



京太郎(もう少し…俺に堪え性があれば、ひょっとしたらだけど…違う未来があったんだろうか)
500 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/07(水) 02:49:34.38 ID:Dy9wr7jeo
ここまで。
501 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/07(水) 02:58:19.86 ID:v5brKTUBO
本当にこいつらなにやってるんだ……
502 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/07(水) 06:58:32.58 ID:k37rNfK+o
乙乙
503 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/07(水) 07:51:24.60 ID:A6S38HPu0
おもち教なのにおもちもちには理解されず、貧乳の被害者には感謝されてそうなのも皮肉だな
504 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/07(水) 21:29:05.81 ID:M7KE3iaBo
すごく真面目に話しているのに、内容がちょっと非道いww
505 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/07(水) 23:11:21.66 ID:IBVaXuBGo
待ってる
506 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/07(水) 23:13:11.95 ID:/8l1D21oo
やはりおもちは魔性……
507 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/08(木) 11:01:42.03 ID:X/M0MehOo

煌「和、もう良いですか?」

和「ええ…どうか二人を止めて下さい」

煌「勿論です。ジャッジメントの名にかけて、必ずあの二人を打ち倒しましょう」

玄「…私達も舐められたものなのです」

煌「まさか。貴女方を相手取って、私もただで済むとは思っていません」

煌「ですが私は…和には滞りなく麻雀を打ってもらいたいから、負ける訳にはいかないのです」

京太郎「そういう役回りを放棄してしまった俺には、耳の痛くなる話ですね」

煌「もう、過去はどうにもなりません。今のお二人に出来るのは、過ちを繰り返さないように腐心する事だけです」

京太郎「…今の俺には出来もしないし、やろうともしないでしょう」

玄「私達は…もう引き返せないんだよ」

煌「分からず屋さん達ですね…なら、力ずくでも分からせてあげましょう」

煌「そして、信じさせてあげましょう…人の善意と可能性を」
508 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/08(木) 11:25:08.80 ID:X/M0MehOo

先に仕掛けたのは、煌だった。

「しっ!」

太腿にある武器留めから、流れるような動作で鉄矢を投擲する。

矢は、寸分の狂いも無く二人の足目掛けて迅く飛んで行く。しかし、

「…やはり、甘っちょろいのです」

「まったくですね」

二人はそう言いながら、事も無げに鉄矢を避けた。

その声には、明らかに呆れや失意が込められていた。

「そんな…まるで弾丸のような速度のそれを容易く避けるなんて、人間業じゃありません!」

和は二人の所業を見て酷く動揺していた。煌が鉄矢を弾丸のような速度で投擲した事へ、言及し忘れる程に。
509 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/08(木) 11:44:07.76 ID:X/M0MehOo

そんな和を見て、京太郎が口を開く。

「和…お前が思っているよりも、モノの在り様はずっとずっと多いんだよ」

「だからって、こんな事は普通じゃ出来ませんよ」

「…平常な世界に生きてきた奴じゃ、こういうのを受け入れられないのは仕方ないだろうさ」

「平常な、世界……」

平常な世界。

それは、ネット麻雀という一人だけの世界にいた和には重い言葉だった。

ネットで常に自己の想定内で麻雀を打っていたのが、原村和なのだから。

デジタルの世界しか…自分の理解が及ぶ世界しか認めようとしない彼女には、随分と皮肉の利いたものかもしれない。

理解の及ばぬ事柄への拒絶は…何も和に限った事ではないが、彼女は人一倍頑なであったから。
510 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/08(木) 11:44:41.11 ID:X/M0MehOo
ここまで。
511 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/08(木) 11:48:28.48 ID:X/M0MehOo
>>509 訂正

そんな和を見て、京太郎が口を開く。

「和…お前が思っているよりも、モノの在り様はずっとずっと多いんだよ」

「だからって、こんな事は普通じゃ出来ませんよ」

「…尋常な世界に生きてきた奴じゃ、こういうのを受け入れられないのは仕方ないだろうさ」

「尋常な、世界……」

尋常な世界。

それは、ネット麻雀という一人だけの世界にいた和には重い言葉だった。

ネットでは、常に自己の想定内で麻雀を打っていたのが、原村和なのだから。

デジタルの世界しか…自分の理解が及ぶ世界しか認めようとしない彼女には、随分と皮肉の利いたものかもしれない。

理解の及ばぬ事柄への拒絶は…何も和に限った事ではないが、とにかく彼女は人一倍頑なであったから。
512 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/09(金) 03:27:43.24 ID:4BmFrFITo

…そんなやり取りの後、3人の姿はいつの間にか消えていた。

音一つ立てず、気配が消えた事さえ悟らせず。

和がそれに気付いたのは、およそ5秒後の事である。

そして彼女は再び驚かされる事になる。

廊下の壁や床に、無数の傷跡が付いているのを見てしまったからだ。

何故こんな芸当が出来るのか…そう疑問を抱くほどの余裕を、今の和は持ち合わせてはいない。

持つ事など出来ない。

(…怖いよお)

そうなる前に、彼女の心は恐怖で埋め尽くされてしまったのだから。

永水の薄墨が現れた時のように縋れる相手も今は居ない。

彼女は…手足を動かす事はおろか、声を出す事さえも出来なくなってしまっていた。
513 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/09(金) 03:51:02.07 ID:4BmFrFITo

京太郎「屋上ですか。確かにここなら、誰も巻き添えにしなくて済みますね」

煌「…ハァ…ハァ……」

京太郎「貴方の獲物が災いしましたね。遠距離向けの武器じゃ、巻き添えを出さずに戦うだなんて難しすぎます」

煌「それが、私の矜持でございますので」

京太郎「つくづく損する性質の人ですね。何の気兼ねも無く戦っていれば、今頃は俺達が負けているでしょうに」

煌「たとえそうだとしても、ですよ」

京太郎「どうしてなんです?貴女達ジャッジメントは、治安維持の為に暴力団などと熾烈な抗争を繰り広げてきたはずだ」

煌「…それが何か?」

京太郎「さっきから俺達に致命傷を与えないようにしているのが、不自然すぎるんですよ」

京太郎「ジャッジメントは、風紀を乱す者全ての命を奪い去るのが通例のはずですから」
514 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/09(金) 03:51:37.75 ID:4BmFrFITo
ここまで。
515 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/09(金) 14:54:00.83 ID:4BmFrFITo

煌「……」

京太郎「まあ確かに、俺達はあちらさんと違って人を殺したりはしていません」

京太郎「けれどそれが、こちらに手心を加える理由にはならないはずです」

煌「…私は人を手に掛けた事はありません」

京太郎「!?」

煌「ですが、ジャッジメントに所属しているのは自称ではなく事実です」

京太郎「…まさか、本当にいたんですね。『仏』の異名を持つ戦士が、情け容赦なしと言われたあの組織に」

煌「一つ、補足しても宜しいでしょうか?」

京太郎「何でしょう?」

煌「…私は別に、情け容赦のある人間ではありませんよ」
516 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/09(金) 15:17:06.45 ID:4BmFrFITo

「それは一体…がっ!」

京太郎の言葉はそこで遮られた。

彼が反応する間も無く、煌が鳩尾に貫手を見舞ったからだ。

そして彼女は、崩れ落ちる彼を素早く組み伏せた。

「…馬鹿なっ…迅すぎ…るっ!?」

極められていない京太郎の右手のひらに、煌は鉄矢を思い切り突き刺した。

勿論、その行動に躊躇いなど無い。

「ぐっ!」

「貴方は痛みを知らなくてはいけません。痛みを知らぬ者が、他者を鑑みるなど有り得ないからです」

「です、が…俺は、男ですよ……」

「ならば経験を踏まえて想像しなさい。その為に、人の賢しさはあるのです」
517 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/09(金) 15:31:04.20 ID:4BmFrFITo

「…京太郎君!」

同士が傷付けられる光景を見かねた玄は、機を伺うどころではなかった。

彼女は自らの危険も省みず、不用意に飛び出していった。

「隙が多いですよ、松実さん」

煌が鉄矢を投擲する。

それも、先程までのように一本ずつではない。幾つもの矢が、玄目掛けて飛んでいく。

玄はとっさにそれを避けようとしたが、

「…あっ!」

着地した玄の足の甲に、鉄矢が深々と突き刺さっていた。

それはまるで、彼女を戒める楔のように。
518 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/09(金) 15:45:00.86 ID:4BmFrFITo

玄「…う、動けない」

煌「無理に動けば、リスフラン靱帯を損傷してしまいますよ」

玄「リスフラン…靱帯?」

煌「足の色んな動きを支える部分の事です。それが駄目になると、足の骨同士が隙間だらけになってしまいます」

玄「ふぇっ!?」

煌「まともに立ったり歩いたりしたければ、そのまま大人しくしていて下さい」

玄「…足にこんな物を突き刺した人が言う事じゃないですよ」

煌「そうかもしれませんね。それに、貴女方二人には少々痛い目を見てもらわなければいけませんし」





「…痛い目を見るのは、貴女の方ではないだろうか?」

煌(…この風は!?)
519 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/09(金) 15:56:17.94 ID:4BmFrFITo

照「…準決勝ぶりだね、花田さん」

煌「…何故、貴女がここにいるのですか?」

照「知れた事だ。私達は彼らの共犯者…ただそれだけの事だよ」

煌「私達?まさか貴女の外にも誰か…っ!?」

照「…どうしたの?」

煌「たった今まで組み伏せていたはずの須賀君は、そして松実さんは何処へ行ったのですか!?」

照「…後ろを振り返ってみて」
520 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/09(金) 16:08:57.87 ID:4BmFrFITo

そう言われて煌が振り返った先には、ナース服の女性と彼女に治療されている二人の姿があった。

ナース服の女性は、荒川憩。

昨年の個人戦で、宮永照に次ぐ戦績を残した魔物の一人だ。

「まさか…貴女までこの馬鹿けた計画に加担していたとは」

「馬鹿けたとは心外ですよーぅ。私達は、より完璧な存在になりたいだけなんですーぅ」

「完璧な存在?」

「私達…この強さの代償かどうかは分かりませんが、如何せん胸囲が足りないんですーぅ」

「…もしかして、ご自分の胸囲を大きくする為に?」

「それだけが理由じゃないですけど、主な目的ではありますねーぇ」

「…なんという」
521 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/09(金) 16:23:39.96 ID:4BmFrFITo

憩「なんとでも言えば良いんですよーぅ。私達は現トッププロを凌駕しなければならないんですーぅ」

照「…その為にはまず、完璧なスタイルを獲得しなければならない」

煌「…何の為に?」

照「小鍛治プロや瑞原プロは高い人気を誇っているが、女性の羨望を集める存在にはなりえなかった」

憩「ですから、私達にはその失敗を踏まえてより素晴らしい雀士になるんですよーぅ」

照「それこそが今の女性雀士に…未来を担う私達に求められている事」

憩「…婚期がどうだのこうだのでケチがつく人達に、今の麻雀界は任せられません」

照「麻雀の普及率をさらに高める為には…麻雀をより良くしていく為に必要な事だから」

憩「それこそが委員会の総意であり、私達の願い出もあるんですーぅ」
522 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/09(金) 16:24:17.88 ID:4BmFrFITo
ここまで。
523 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/09(金) 16:27:29.56 ID:4BmFrFITo
>>521 訂正

×:照「麻雀の普及率をさらに高める為には…麻雀をより良くしていく為に必要な事だから」
○:照「…麻雀の普及率を高めれば、きっとより良い麻雀が打てるはず。その為なら、私達は何だってする」
524 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/09(金) 16:35:21.22 ID:4BmFrFITo
>>521 再訂正

×:憩「それこそが委員会の総意であり、私達の願い出もあるんですーぅ」
○:憩「それこそが委員会の総意であり、私達の願いでもあるんですーぅ」
525 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/09(金) 17:55:51.30 ID:4BmFrFITo

…煌は、彼女らの言葉に耳を傾けてはいなかった。

彼女の注意は、憩に治療されていた二人の傷に向いていた。

それもそのはず、煌が彼らにつけたはずの傷は…綺麗さっぱり完治していたのだ。

「…あの傷は、荒川さんが治されたのですか?」

「仰る通り…ただ、原理の方については私自身もまだ知らないんですけどねーぇ」

「これで4対1ですね、花田さん。貴女に恨みはありませんが、覚悟して下さい」

「大丈夫、新たなカタチになれますから…貴女なら、きっと良いおもち持ちになれるはずです」

四人が煌の周りを取り囲む。

逃げ場は無い。

けれど彼女はこの状況にあって、少しの不安も抱いていなかった。



「お姉ちゃん…それに京ちゃん、一体そこで何をしているの?」

「「!?」」

彼らがそうであったように、煌にもまた心強い味方がいるのだから。
526 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/09(金) 18:05:07.90 ID:4BmFrFITo

照「…咲」

京太郎「何でお前がこんな所に?」

咲「質問しているのは私だよ…京ちゃん。…お姉ちゃん達と一緒に、一体何をしていたの?」

京太郎「…お前には、関係ない」

照「そうだよ咲。貴女が係わった所で、どうなるものでもないのだから」

咲「…関係無くなんかないよっ!二人とも、私にとって大事な人なんだから…けど」

照「けど?」

咲「二人は…彼方達は和ちゃんを傷付けようとした!それだけは、絶対に許さない!」

京太郎「何を今更」

照「…許されるつもりなど、ない」
527 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/09(金) 18:16:31.50 ID:4BmFrFITo

照「大体…いくら貴女でも、四人相手に勝てる訳がない」

咲「…一人じゃない」

照「?」

咲「私には…共に戦ってくれる人達がいる!」



京太郎「…彼方達は!」

玄「そんな…どうして?」

憩「…あれだけ痛めつけたのに、よくここまで来ましたね…辻垣内さん」



智葉「…負けっぱなしは、どうも性に合わないのでな」

ハギヨシ「須賀君、まさかこのような事をなさろうとは…残念です」

宥「玄ちゃん…お姉ちゃんは悲しいよ」
528 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/09(金) 18:38:10.70 ID:4BmFrFITo

照「…委員会は失敗したみたいだね」

智葉「殆どは萩原さんのお陰だがな。あの戦いぶりは、背筋が凍りそうになったよ」

宥「…見ていて怖かったし、あったかくなかったよお」

京太郎「ハギヨシさん…いや、師匠。俺達はどうやら、貴方の底を見誤っていたらしいですね」

ハギヨシ「教え子に悟られる程度の底など、私は持ち合わせておりませんから」

京太郎「…不肖の弟子で申し訳ないです」

ハギヨシ「そう仰るのでしたら、潔く裁きを受ける事です」

京太郎「たとえ師匠のお言葉でもそれは聞けませんね…俺は、往生際の悪い奴なんですよ!」


玄「…お姉ちゃん」

宥「お母さん、きっと怒ってるよ」

玄「そうだね…でも私、やっぱり自分を止められないんだ」

宥「なら、私が止めてあげる。だって私、貴女のお姉ちゃんなんだから」

玄「…出来るものなら、やってみせてよ」


憩「…辻垣内さん」

智葉「……」

憩「私達…宮永さんと私は、貴女がずっと妬ましかった」

憩「同じ魔物と呼ばれる存在なのに、どうして貴女だけが豊かな胸を持っているのか」

憩「そして…私達が望んでも得られないものを疎み、サラシできつく縛り付ける貴女の所業が」

憩「女としても…医療を志す者としても、許せなかった」

智葉「…そうか」

憩「…決着をつけましょうか。胸を不要と断じた事、後悔させてあげますよ」
529 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/09(金) 18:41:33.58 ID:4BmFrFITo
>>528 訂正

×:憩「同じ魔物と呼ばれる存在なのに、どうして貴女だけが豊かな胸を持っているのか」
○:憩「個人戦のベスト3で、どうして貴女だけが豊かな胸を持っているのか」

ここまで。
530 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/09(金) 23:32:41.94 ID:pT6mcWNAo
乙乙

…確認するけどさ、こいつら本当にバストのことで喧嘩してるんだよな? おっぱいのことなんだよな? おもちのことなんだよな?
あまりのしょーもなさに大草原不可避
531 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/10(土) 01:47:50.48 ID:s/FNkZygo

「…迅い!」

京太郎は、ハギヨシの動きを捉えられず翻弄されるばかりであった。

執事の、速度も威力も兼ね備えた一撃が、幾度と無く少年に襲い掛かる。

それは間違い無く少年を追い詰めており、事実彼は酷く消耗していた。

だが…執事は一度として致命打を与えられなかった。

それは少年が、始めからそれだけを防御していたからである。

「…少しは出来るようになりましたね」

「貴方から薫陶を受けたのはほんの僅かですが、生憎俺って飲み込みだけは早いんですよ」

「だとしても、それはただの付け焼刃でしかありません」

「…それを言うのは、野暮ってもんですよ!」

ハギヨシが再び猛攻を始める。

依然として京太郎は、致命打を防ぐだけで精一杯だ。

だが彼は、少しずつではあるがハギヨシに近づいていく。そしてその歩みは、決して止められなかった。

焦りを見せた執事は、必殺の一撃を少年に見舞おうとする。しかし、

「…ここだっ!」

「何!?」

少年は後ろに思い切りのけぞりながら、執事の一撃を見事避けてみせたのだ。

そして少年はそのまま身を起こし、両手を前にかざしながら執事に迫る。そして、

「初めてが男性相手なのが残念ですが…くらえっ!」

「むっ、一体何を!? …があああああっ!」

京太郎はハギヨシの胸を鷲掴みにすると、それを強く握りながら全力の気功を放った。

…この気功は本来、女性の胸を大きくする為に会得したもの。

それを戦闘に…男性相手に使う事になろうとは…そう思うと、京太郎は泣き出してしまった。
532 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/10(土) 02:07:56.81 ID:s/FNkZygo

そんな少年を目の当たりにして、

「…泣きたくなるのはこっちだ!この馬鹿弟子がっ!」

「あべしっ!」

苦悶の中にいた執事は、激しく憤りながら少年の脳天に痛烈な一撃を与えた。



「…やっぱり、負けちゃいましたか」

「やりきったと言いたげな顔をしないで下さい…いろんな意味で哀しくなる」

「そう、ですね」

「…嘗て執事で無かった頃の私は、無能と称されるただのボンボンでした」

「えっ?」

「その頃の私は女性の胸に強い関心を抱いていて…おっぱいソムリエなどと自称していた事もありました」

「戦いの最中、女性の胸を躊躇いなく揉んでしまう程に…あまりに度が過ぎて、機さえあれば男性の胸でさえも条件反射で揉んでしまうようになりました」

「…ハギヨシさん、貴方も俺達と同じ……」

「昔の話です。私の轍を踏みたくなければ…どうかもう二度と、こんな馬鹿な真似はしないで下さい」

「それだけが…私の望みです」
533 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/10(土) 02:26:51.58 ID:s/FNkZygo

「……」

宥は首元からマフラーを外すと、それをまるで鞭のようにしならせながら玄へと振り下ろした。

玄は横に跳ねてそれを避ける。しかし、

「…甘いよ、玄ちゃん」

宥はマフラーを素早く引き戻すと、今度は振りかぶって横に薙いだ。

飛びのいた先の玄に目掛けて、マフラーが襲い掛かる。勿論避ける間もない。

そして彼女の顔面には、鋭い一撃が加えられるはずだった…が、

「駄目だよお姉ちゃん…お母さんの形見を、こんな風に使ったりしちゃ」

玄は、自分の頭目掛けて放たれたマフラーを、片手で鷲掴みにして受け止めたのだ。
534 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/10(土) 02:45:34.67 ID:s/FNkZygo

玄が、勝ち誇ったような目で宥を見る。

まるでもう、姉にはもう策が無いのだとでも言わんばかりに。

…けれどそれは、とても浅はかな思いだった。

「やっぱり玄ちゃんは甘い子だよ…そういう所も私は好きなんだけど、ねっ!」

「ひゃっ、な…何なの!?」

宥のマフラーがひとりでに動き出し、掴んできた方の腕を思い切り縛りつけたのである。

「…い、痛いよ…お姉ちゃん……」

「ごめんね。でも玄ちゃん…とても悪い事をしたから、もう少しお仕置きしないと…ね?」

そう言うなり、宥はもの凄い力でマフラーを玄ごと引き寄せる。

「きゃあっ!」

玄はさながらヨーヨーのように、宥の元へとやって来る。その先には、両手を広げて待ち構える姉の姿があった。

「あふっ!」

そして玄は…姉の胸元へと顔をうずめた。
535 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/10(土) 03:08:45.33 ID:s/FNkZygo

「…どう、玄ちゃん?私のおもち、柔らかいかな?」

宥がそう尋ねると玄は、

「とっても柔らかいのです。この感触は…まるでお母さんに抱いてもらっていた時のようだよ」

と答えた。その声色からは、気持ち良くて仕方が無いという心境が伺えた。

暫くこのままで居られたなら、彼女はきっと幸せになれただろう。だが、

「…良かった。じゃあ、今度は少し苦しい目にも遭ってもらわないとね」

「え…何で…ぇっ!」

幸せな時間は、長く続くものではなかった。

宥は玄に抱きつくなり、腕に力を込めて玄の身体を締め上げたのだ。

「…ぐる、じぃよ…おねえ…ちゃ…」

「どうしたの?玄ちゃんの大好きなおもちが、べったりと押し付けられているのに」

「ごんなのっ…ぎ、ぎもぢよく、ないよっ……」

「だろうね。でもね玄ちゃん…無理やり気持ち良くするのも、今私が貴女にしている事と大差は無いんだよ?」

宥が抱き締める力をさらに強める。

「…う”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”っ!」

玄はあまりの苦痛に耐えかね、そのまま気を失ってしまった。





「これに懲りたら…もう二度と悪い事はしないでね」
536 :今回のテーマは「クソ真面目に馬鹿をやる」 [sage saga]:2013/08/10(土) 03:14:00.47 ID:s/FNkZygo
ここまで。多分明日か明後日には終わる予定です。
537 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/10(土) 08:16:59.81 ID:SE80SDPPo
乙ー
何だこいつら!
538 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/10(土) 14:07:19.55 ID:x7sSWFvN0
なんかハギヨシもわりと頭がおかしいwww
539 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/11(日) 21:32:58.16 ID:k7RDOOLko

…憩ちゃんの一人称、「ウチ」もしくは「ウチら」に訂正しといてください。




「…何故だ」

辻垣内智葉には、目の前の光景が現実のものと思えなかった。

斬りもすれば刺しもした。

けれど、目の前にいる荒川憩の身体には傷一つついていなかったのだ。

「確かに私はお前を幾度と無く傷付けたはずだ。勿論血だって出ている…なのに」

「…その昔、戦略人間兵器っちゅー計画があったんです。ウチがこないけったいになったんは、その遺産のせいです」

「遺産?」

「最近巷で話題のiPS細胞…そのモデルとも言えるES細胞に改良を加えたものです」

「とんだ眉唾ものだな。目の前の光景を見なければ、到底信じられなかった」

「それはしゃーないですよ、ウチかて最近になって漸く知った事ですし」

「荒川…お前にそのES細胞とやらを与えたのは誰だ?」

「残念ながら、ウチかて知らへんのです。彼が『レイ』と名乗っていた事以外は」

(何時だったか聞いた事がある。老いもせず死にもしない『ファントム』と呼ばれた男がいると)

(…まさか、な)
540 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/11(日) 21:51:08.17 ID:k7RDOOLko

「…さて、無駄話はここまでにしときましょか。さっさと終わらせて、照さんの援護に行かへんと」

「そうはさせん。お前はここで私に倒されるんだ」

「ウチに攻撃したって無駄ですねんで。それは、さっきの私を見てお分かりなはずです」

「…どうかな。やってみなければ分からんぞ」



智葉が、再びドスを抜き出しその刃を振るう。

憩はそれを「避けながら」徒手空拳で反撃する。

攻防が続き、互いの血飛沫が飛び、時たま痛みに堪えるような声がする。

智葉の身体には多くの傷があるが、憩の身体には傷一つ無い。

けれど、どちらも同じ位に消耗していた。
541 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/11(日) 23:08:20.10 ID:k7RDOOLko

「…流石ですね。致命傷を与えられないと見るや、すぐさま消耗戦に切り替えはった」

「いかに万能細胞と言えど、万全ではない…お前の顔に僅かながら疲れの色が見えて分かった」

「ウチのES細胞じゃまだ十分な自己増殖が出来へんのです…特に血液はね」

「荒川…もう諦めろ」

「せやからって、ここで潔く負けるほどウチは人間出来てへんのです!」

「…阿呆が!」

敢然と向かってくる憩。

それを迎え撃とうとする智葉。

今まさに決着がつこうとしていた…しかし、

「―――まったく…俺はこんな事をさせる為に、お前を助けた訳じゃないのに」

「…あんさんは…っ!?」

「悪いけど眠っててくれ。折角の再会がこんなんじゃ、いくらなんでもあんまりだ」

突如幽霊の如く現れた男が、手にしている銃で憩を撃ち抜いたのだ。



「…お前は、誰だ?」

智葉は戦慄していた。

ついさっきまで憩以外の気配は無かったはずなのだから。

なのに目の前の男は自分にさえ気配を悟らせぬまま現れ、戦いに横槍を入れたのだ。

正直な所…智葉の心中ではそれに対する憤りよりも、男に対する恐怖の方が勝っていた。

…それでも彼女は、ここで物怖じする訳には行かなかった。代紋を背負う者としての矜持として。



「さっきその子が話してたろ?『レイ』って名乗ってる奴の事を」

「レイ…お前は『ファントム』なのか?」

「そう呼ばれてもいるな。それは、俺が心の痛みも命の重みも分からない生ける兵器だった頃の名だ」

「…その昔、ある実験によって街一つが滅んだという。それもお前がやったのか?」

「さあ、な」

「荒川は、戦略人間兵器という計画を口にしていた。それに、ES細胞を改良したものが自分の中にあるとも」

「……」

「それを彼女に与えたお前は、一体何者なんだ?」

「俺はただの亡霊だよ。愛する人に置いて行かれた、ただのノロマさ」

「ノロマ…か。フッ、ならばそれに出し抜かれた私達は一体何なんだろうな」

「…リュウモン…レイ」

「!?」

「それが俺の人間だった頃の名だ。名乗ったのは、馬鹿にしちまった詫び代わりだ…それじゃあな」

そう言うと、男はまるで消えるようにその場を去っていった。



(…リュウモン?まさか、あの龍門渕家と何か関係があるのだろうか…わからん……)
542 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/11(日) 23:18:52.99 ID:k7RDOOLko
ここまで。
543 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/11(日) 23:53:29.62 ID:cqBQO2o0o
544 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/12(月) 01:37:28.53 ID:o9vfS/O0o

屋上で、二人の少女が向かい合うようにして立っていた。

そしてその傍には、傷付いて膝を落としている少女の姿も在った。

傷付いた少女の名は花田煌。後輩達を守るため、躊躇い無く戦いの場に身を投じた者である。

向かい合う二人の名は宮永咲と宮永照。麻雀において至上の強さを持つ者達であり、血を分けた姉妹でもある。

そう、彼女らは雀士であり…決してこのような形で対峙する事は望ましくなかった。

まして宮永姉妹は、麻雀によって今ある因縁に決着をつけようとしていたというのにだ。

ただ、一応二人は団体戦でも戦ってはいる。しかしそこでは、直接対決の機会は得られなかったのだ。

だからこそ二人は、次に迎えるはずの個人戦に強い意識を向けていた。

必ず決着をつけてみせようという気概が、二人の中にはあった。だからこそ、

「…咲」

「お姉ちゃん。こんな所で戦う事になってしまって…私は哀しいよ」

今この場で対峙する事を二人は哀しんでいた。

咲の方は、漸く姉が自分を意識してくれるようになったからこそ…尚更だ。
545 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/12(月) 01:58:34.23 ID:o9vfS/O0o

「…事ここに至っては、最早どうしようもないだろう」

「…ふざけないでよ!」

「ふざけてなどいないさ」

「麻雀でならきっと私の方を振り向いてくれるって、そう思ったからこそ必死になって頑張ったのに!」

そう言う咲の声には怒りがこもっていた。

麻雀以外の事で決着をつけようなどとは、全く考えていなかっただろうから。だが、

「お前はプラマイゼロを捨てなかった。そんな奴と、何故本気になって麻雀を打たなきゃならないんだ」

と照は言う。その言葉にもまた、怒りや憎しみのようなものが込められていた。

そして、二人の会話はどこまで行っても平行線になってしまう。

折角の再会だというのに、お互い口を開けば相手への非難ばかり。

…勿論両者とも、このような形での遭遇は全く望んでいなかった。

「…あの子が死んだのは、貴女のせいだ!」

「やめてよ!私だって望んであの子を置いてけぼりにしたんじゃないのに!!」

忌まわしき過去について、二人が語りだす。

「私はあの子に生きていて欲しかったんだ…お前にじゃない、あの子にだ!」

そんな残酷な姉の言葉に、

「だったらあの子を生き返らせてよ…そして私の事は、いっその事殺しちゃってよ!」

妹もまた残酷な言葉で返す。

「…何を馬鹿な事を!」

矛盾した感情の中で…姉は妹の言葉を非難するが、

「私にじゃなくてあの子に生きて欲しかったって、お姉ちゃんが言ったんじゃない!」

「ぐっ」

当然その非難が受け入れられるわけは無い。

蓄積された鬱憤は、彼女達から正常な思考を大いに奪い取っていた。

まして妹は、何がなんだかよく分からない理由での戦いによって大切な人を傷つけられそうになっていた。

それによる苛立ちは、知己である京太郎への怒り諸共姉へと向かっていた。
546 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/12(月) 02:05:27.83 ID:o9vfS/O0o

お互い、止まらない。

止められない。

止まろうともしない。

沢山、話したい事があったはずなのに。

聞きたい事もあったはずなのに。

今ではもう、それが何であったか思い出せない。

…どうして、こうなってしまったのか。

こんなはずではなかったのに。

しかし、二人がどう思おうとも今ある現実は何も変わりはしない。

二人は戦わねばならない。

これはもう、どうしようもない宿業なのだ。



そして二人の争いはさらに先へと続いていく。

…しょうもない方向に。

547 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/12(月) 15:04:15.90 ID:o9vfS/O0o

「お姉ちゃんより、私の方が沢山本読んでるもん!」

「そんなはずはない。私の方が咲より多く本を読んでいる」

ある時は、どちらがよりビブリオマニア言い争い、

「アクエリの方がバリエーションもあるし、値段も手頃だからポカリなんかより良いんだってば!」

「アクエリは甘味料が入ってるし味も濃すぎるし何より臭い…その時点で論外」

またある時は、二大スポドリのどちらが優れているかを言い争い、

「私の方がお姉ちゃんより胸があるし!それに私には遅咲きの成長期という可能性だってある!」

「有り得ない…姉より優れた妹など存在しない…そもそも咲、貴女と私の成長の仕方に差は」

そして、どちらの胸がより大きいかを言い争った。

「…終わった奴がっ!ウダウダと泣き言を喚くなっ!!」

咲が痛烈な一言を照に浴びせる。それに対し照は、

「終わってなどいない…諦めてなどいない…だから私は松実さんや須賀君達に協力して……」

と返した。やはり彼女がおもち狂い達に加担したのは、お菓子だけが理由では無かったのだ。

「そんなの、潔くないよ!」

「…潔くないのは貴女の方だよ、咲。貴女は本当にこの先、自分の胸が大きくなるって信じてるの?」

「…そ、それは……」

咲は、明らかに動揺していた。

先程までの勢いは全くなくなり、彼女はいつもの引っ込み思案な少女に戻ってしまった。
548 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/12(月) 15:21:03.37 ID:o9vfS/O0o

「…咲、私達姉妹が争うのは不毛でしかない。私達のバストは大きく見積もってもせいぜいがAカップ」

照が畳み掛けるように言葉を続ける。

「…1980年代の日本人女性は、半数以上が私達と同じAカップだったと言われている」

「そんな昔の話がどうしたの?」

「その24年後の2004年には、Cカップが日本人女性の平均バストサイズになった」

「!?」

「それから暫くして…今ではAカップ以下の日本人女性なんてせいぜいが2割か3割。後は殆どCカップ以上なんだよ」

「…それじゃあ私達って」

「そう、私達は時代に取り残されたオールドタイプ…すなわち過去の遺物なんだよ」
549 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/12(月) 15:34:25.59 ID:o9vfS/O0o

「…お姉ちゃん、私は」

残酷な現実に項垂れた咲に照は、

「…もう、私達が争う必要なんて無い。貧しい胸の為に苦しむ必要なんて無い」

と言って慰める。まるでもう、二人の間にわだかまりなど無いと言わんばかりに。

「うん…うん……」

「咲…私達と一緒に来てくれるよね?」

照の言葉に、咲が了承しようとしたまさにその時、

「いけません!」

「っ!」

何者かが大声で咲を静止し、二人の間に割って入ってきた。

咲はその言葉を聞いて我に返り、照はその何者かに対し、怒りをあらわにした。

「…花田さん…何故、邪魔をしたの……?」

「私はお二人の事情を知りませんが、このような形での決着は宜しくないと思いまして」

「部外者が…余計なお節介で割って入るな!」

「…ただのお節介であれば、咲さんは私の言葉などに耳を傾けなかったと思うのですが」
550 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/12(月) 15:41:13.49 ID:o9vfS/O0o

咲「…花田さんありがとう。私、お姉ちゃんと仲直りしたいばっかりに大切な事を忘れてた」

花田「いいってことですよ」

照「咲…その人の言葉に耳を傾けないで。私達は仲直りして、また家族一緒に暮らすんでしょう?」

咲「その想いは今でも変わらないよ、お姉ちゃん」

照「なら……」

咲「でもね、その前に決着をつけなきゃいけない事があるよね」

照「麻雀の事なら、それこそ和解した後でも良い…だから」

咲「それもあるけど…今言ってるのは、それとはまた別の話なの」

照「何だ!?」

咲「最初に言ったよね…私は和ちゃんを傷付けようとした事を、絶対に許さないって」
551 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/12(月) 16:09:55.39 ID:o9vfS/O0o

「…また、その女の事かっ!」

そう言うと照は、右手から凄まじい風を放つ。

「ぐっ…お姉、ちゃん」

「咲…どうしてなの…どうして目の前にいる私じゃなくて、他の誰かの事を思うの?」

風が、強くなる。

「…何…を……」

「あの子が死んでから…貴女は私の前ではいつも、私以外の事を考えるようになった」

「私はそれが辛かった…耐えられなかった…それに、あの事故以来家族皆がおかしくなったし」

「…家族麻雀だって、昔はお金を賭けたりなんかしなかったのに」

風が、また強くなる。

「…もう、何もかもが面倒臭い。いっその事、何もかも吹き飛ばした方が良いのかもしれない」

「!?」

強くなった風は嵐となり、その源流となる照の腕は嵐そのものと化していた。

そしてその矛先は、今まさに照の眼前にいる咲に向けられている。
552 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/12(月) 16:41:25.89 ID:o9vfS/O0o

「…さよなら、咲」

照の腕に渦巻く嵐が、咲に放たれようとしていたその瞬間、

「…っ!」

不意に飛んできた鉄矢が、照の腕を深々と貫いていた。

「…花田ぁ!」

「私も、後輩である和を傷付けられて怒っているんですよ…貴女がたと違い、短い付き合いではありますが」

煌は、ずっと機を伺っていた。自分に向けられた注意が、完全に消えて無くなるまで待っていた。

その忍耐が、今ようやく実を結んだのだ。

「ぐぅ…おのれ……」

「それより、よそ見していて良いんですか?貴女は妹さんに目を逸らされて、嫌がっていたのに」

「!?」

照が振り向くと、咲はもうすぐ傍まで迫ってきていた。

「…結局、目を逸らしていたのはお互い様だったね」

咲はそう言って必殺の一撃を照に浴びせた。照は、呻き声一つ出せず崩れ落ちる。

その一撃は、奇しくも姉と同じコークスクリュー。全てを飲み込み、或いは織り込む螺旋の一撃だった。
553 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/12(月) 16:49:52.03 ID:o9vfS/O0o
ここまで。寝落ち怖いです。
554 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/12(月) 19:21:08.62 ID:o9vfS/O0o

咲「…虚しい戦いでした」

煌「咲さん…心中お察しします」

咲「…は?」

煌「え?」

咲「何を言っているんですか貴女は。私はね、こんなくだらない茶番に付き合わされた事に辟易しただけです」

煌「え…まあ…それはそうかも…しれませんが」

咲「昔の事なんて今となってはどうでも良いんですよ…確かにそれで燻っちゃいましたがね」

咲「長野とかいう片田舎で私は無為な日々を過ごしてきたのではない!私は、あの女を斃す為に雌伏していたのだっ!」

煌「…一体貴女は何を仰って」

咲「…見ているんだろう、小鍛治健夜!『約束通り』私は戻ってきたぞっ!今度こそ、引導を渡してくれるわっ!」





健夜「…”待”ってたよォ!!この”瞬間”をねェ!!」
555 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/12(月) 19:40:31.06 ID:o9vfS/O0o

咲「漸く現れたな、この死に損ないがっ!」

健夜「それはこっちの台詞だよ咲ちゃん…さっさとその若さに満ちた身体を寄越しなさいよ!」

咲「ふざけるのも大概にしてよ…そうやって、何度身体を『乗り換えた』の?」

健夜「私は自他共に認める、並外れた雀力をもった神の如き存在…その私に肉体を捧げられるなら本望でしょう?」

咲「…そうして、来るはずも無い婚期を永遠に待ち続けるのか」

健夜「小娘がほざくなっ!あの時は火災のせいで決着が有耶無耶になってしまったが、今度はそうは行かない」

健夜「大体…私が行き遅れだとォ?私を相手にして直ぐに壊れる男連中女連中が悪いんだろうがァ!」

咲「…そんな事の為に、あの子を殺したのか」

健夜「あァ?」

咲「足が不自由になってしまって…それでも尚将来の夢を持っていたあの子の夢を、お前は潰したのか!」

健夜「夢ェ?ひょっとして、水族館を作るとかぬかしてたアレかァ?」

咲「…だったらどうした」

健夜「はっ、くだらねえくだらねえ…お前ら姉妹や私さえも凌駕する雀力を持ち合わせておきながら……」

健夜「やりたい事が水生動物共の世話とかァ!超笑えるんですけどォ!」

咲「…離婚率や再婚率の高い日本で、結婚に尻込みしているようなチキンがガタガタぬかしてんじゃねーぞっ!」

健夜「…んだとコラァ!」
556 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/12(月) 20:00:35.30 ID:o9vfS/O0o

―――戦いは、終わってなどいなかった。

否、今こそ戦いの始まりなのだ。

麻雀界を…世界を巡る壮大な物語が。



「…くく、久しぶりだな。かつて『百合ーダー』と呼ばれていた少年よ」

「アンタは…まさか『死を運ぶもの』か!?」

「だったらどうした?」

「確かアンタは死刑執行を待つ身のはず…なのにどうして……」

「俺がここにいる理由など、一つしかなかろう?」

「…百合、か?」

「そうとも!ここにはその欠片が山のようにある…これは百合好きとして見逃せないだろう?」

「…そして、自分の好きな組み合わせの邪魔になる人がいたら殺すのか?」

「当たり前ではないか…男であれ女であれ、それ以外であってもやる事は変わらん」

「アンタって人は……」

「そんな事より、もっと俺を楽しませろ!我が渇きは、百合でのみ満たされる。ここは最高の餌場ではないか!」

「ウオオオいくぞオオオ!」

「さあ来い京太郎!」





咲達の優希が世界を救うと信じて……!

ご愛読、ありがとうございました!
557 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/12(月) 20:02:11.81 ID:o9vfS/O0o
…おしまいです。
558 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/12(月) 20:38:11.48 ID:StaUQqf50

なんというかもう色々酷いw
559 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/13(火) 00:52:18.81 ID:vheghN4DO
>>556の「咲達の優希」は仕様なのか誤字なのか悩むww
イイハナシダッタノカナー?
560 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/13(火) 02:22:09.36 ID:2Jk+QwZlo
>>547 訂正

×:ある時は、どちらがよりビブリオマニア言い争い、
○:ある時は、どちらがよりビブリオマニアか言い争い、

>>556のアレは読んだ人の想像にお任せします。
561 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/13(火) 15:47:15.60 ID:2Jk+QwZlo
>>552 訂正

×:「私も、後輩である和を傷付けられて怒っているんですよ…貴女がたと違い、短い付き合いではありますが」
○:「私も、後輩である和を傷付けられて怒っているんですよ…彼女とは決して長い付き合いではないんですけど」
562 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/13(火) 15:58:36.83 ID:2Jk+QwZlo





さみしいよー。

ぼっちはやだよー。

どうして私は外に出してもらえないの?

どうして皆は私の事を避けるの?

私がこんな成りだから?

私に妙な力があるから?

…ちょーあんまりだよー。

私、何にも悪い事なんてしてないのに。
563 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/13(火) 16:19:21.43 ID:2Jk+QwZlo

…家族がバラバラになる事が決まったせいで、私は思いのままに生きられなくなってしまった。



まず、インターミドルを諦めなければならなかった。

次に、麻雀部の強い高校には進学出来なかった。

さらに、進学先の麻雀部には幽霊部員しか居なかった。

そして、一緒に麻雀を打ってくれる仲間が出来なかった。

最後に、私は一人ぼっちで麻雀の事を考えなくてはならなかった。

麻雀は、決して一人で打つものじゃないし、打てるものではない。

…だから、あの一年は本当に辛かった。
564 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/13(火) 16:38:10.13 ID:2Jk+QwZlo

…衣はいつも、独りぼっちだった。

父君と母君は庇護欲に乏しく、家族で一緒に過ごす事など露聊かも無かった。

衣は独りが嫌で、どうにかして孤独を紛らわそうと考えた。

そうして出会ったのが、麻雀だった。



麻雀を打っている時は、寂しい時の気持ちを忘れていられた。

衣はいつも勝っていて、負ける事などありはしなかったのだから。

けれど…麻雀を打つ度打つ度召使達は皆項垂れてしまい、邸を去っていってしまった。

暫くして、私の家から召使はいなくなってしまった。

それに続くように、父君も母君も現世から去ってしまった。

…衣は、完全な独りぼっちになったのだ。
565 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/13(火) 17:40:46.38 ID:2Jk+QwZlo







久「…え、なにこれ?」

和「何でも、麻雀へのネガティブキャンペーンが目的で作られたCMだそうですが」

久「一体誰がこんなものこさえたのよ…そもそも私のプライベートはどこから漏れたのよ」

まこ「さあ…あんたは生徒議会で好き勝手してるから、大方それに反発した人間の仕業じゃろうと思うが」

京太郎「あー確かに。そういや部室の備品って、俺達が入る以前からあった物ですよね?」

和「雑務は全て、内木副議会長に押し付けてるらしいですし」

咲「うわっ…私の先輩、酷すぎ…?」

優希「幾らなんでも…それはないですよ部長」

久「何よ!私の事をとやかく言うなら、須賀君に雑用を任せてる皆だって同罪じゃない!」

京太郎「言っちゃいますかーついにそれをー」

咲「私は時々、京ちゃんの為にレディースランチを頼んだりしてますし」

和「私は全国前の合宿で、須賀君におみやげ用意しましたよ」

まこ「同じく。そもそもワシは、雑用を増やす真似はしとらん」

優希「私は京太郎に麻雀の指導を…」

久「待った!」
566 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/13(火) 17:51:42.17 ID:2Jk+QwZlo

優希「え?私?」

久「そうよ優希、そもそも貴女が一番須賀君をこき使ってるんじゃないの!」

優希「えと、あのその」

久「だいたい、須賀君への解説なら私だって結構やってるわよ…それなのにどうして……」

和「…偏見」

久「何?」

和「思うに、部長は横暴に見えるような振る舞いをしているからそうなったのではないでしょうか?」

咲「…あー」

まこ「確かにそうじゃ…牌を打ち上げて叩きつけるとかやってたからのう」

京太郎「仕方ないっすね」

優希「仕方ないじぇ」

久「ああ、もう!私はこう見えても繊細なんだから、もっと気遣ってよ!」
567 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/13(火) 18:26:08.76 ID:2Jk+QwZlo

京太郎「繊…細…?」

まこ「そりゃぁ…本気でも冗談でも笑えんのぅ…って、前にも言ったかラーメン屋で」

咲「…繊細ってどういう意味だったっけ、和ちゃん」

和「感情などが細やかな事などを意味します。デリケートの意味も含みますね」

優希「デリケートって、詳しくはどんな意味だじぇ?」

和「神経質などと似たような意味合いも含みますね…あの打牌を見れば、誰だってそうではないと思いますよ」

久「…うう」

京太郎「凹まないでくださいよ部長!そんなの、貴女らしくありません!」

久「須賀君…ひょっとして慰めてくれるの?」

京太郎「合同合宿の時『部品の買い出しよろしく』なんて書き置き残した人に、そんなしおらしい様似合いませんから!」

久「…バカあっ!」ブン!!

京太郎「ぶべらっ!」

久「うっ、うっく…わぁぁあぁん!」



京太郎「…てて」

咲「大丈夫、京ちゃん?」

京太郎「俺は大丈夫だけど…流石に言い過ぎちまったかな」

和「良いんじゃないでしょうか。ぶっちゃけ、打牌のマナーの事をこのまま言いそびれたくはなかったですし」

優希「…部長のネットでの評判とか、とてもじゃないけど見せられないじぇ」

まこ「部長…準決勝までに立ち直れるかのう」



突きつけられてしまった無常な現実…竹井久はこの先どうなってしまうのだろうか。

(続く)
568 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/13(火) 18:40:01.59 ID:2Jk+QwZlo
>>567 訂正

×:京太郎「合同合宿の時『部品の買い出しよろしく』なんて書き置き残した人に、そんなしおらしい様似合いませんから!」
○:京太郎「合同合宿の時『備品の買い出しよろしく』なんて書き置き残した人に、そんなしおらしい様似合いませんから!」

>>348>>349でまこに「おんし」とか間違った二人称を使わせてしまった事に今更気付いた…

569 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/13(火) 19:53:25.49 ID:/y8HO5Oxo
部長メインの話になるのかな
乙ー
570 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/13(火) 21:47:18.48 ID:AOyI9p+Ro
>>567 再訂正

×:突きつけられてしまった無常な現実…竹井久はこの先どうなってしまうのだろうか。
○:突きつけられてしまった無情な現実…竹井久はこの先どうなってしまうのだろうか。

再開します。
571 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/13(火) 22:08:07.54 ID:AOyI9p+Ro

久(…ついに『リアル』でも言われてしまう日が来たのね)

久(うん…私知ってた。県大会決勝から、打牌の事で散々言われてたのは)

久(だって…その、仕方ないじゃない。公式戦なんて久しぶりで…しかもインハイ出場が目の前にあってさ)

久(だからつい…年甲斐も無くはしゃいじゃってさ…良くない事だって、分かってはいたけど)

久(…でもまあ、咲のプラマイゼロよりは酷くないし別にいいかなって思っちゃったりなんかして……)

久(……)

久(…やっぱり、駄目だよね)

久(こんな事で麻雀部の評判を悪くしたら、来年はまた部員が足りなくなるかもしれない)

久(それだけは何としても避けないと…ん、あれは…?)



「むぐぐ…何なんですのこのCMは。一体どこから衣の情報が漏れたって言うんですの!?」



久「…龍門渕さん?」

透華「あら、こんにちは…清澄の部長さん」
572 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/13(火) 22:30:35.93 ID:AOyI9p+Ro

久「何だか怒っていたようだけれど…一体何があったの?」

透華「どうもこうもありません!ネットにある麻雀ネガキャンのCMで、衣の過去が晒されていたんですのよ!?」

久「…え、やっぱりあれは本当だったの?」

透華「ご丁寧に衣そっくりな声での語りまで入れるだなんて…これはもう訴訟するしかありませんわね!」

久「訴訟だなんてそんな…所詮ネットのおふざけみたいなものだし」

透華「あら…貴女だってこのCMには迷惑しているはずですわ。だって衣の前の話、恐らくは貴女の事でしょう?」

久「…一体どこでそれを…いや、聞くだけ野暮よね」

透華「失礼は承知です。ですが私は、衣を護る為なら手段は選びませんので…どうかご容赦を」

久「別に良いわよ…多分貴女が何もしなくても、何れは明らかにされていただろうし」

透華「…その言い方、よろしくありませんわっ!」

久「え?」

透華「嫌な事も当然あるでしょうけれど、目立つ事自体は悪くないのです!」

透華「目立ってこそ、人は大勢を動かす力を得るのです!目立てなければ目立てないで、失う自由もあるのです!」

久「えーと、その…」

透華「貴女は確か生徒議会長…でしたわよね?ならば、上に立つ者に求められるステータスは承知しているはず」

久「そりゃまあ…目立てない人が手前勝手で麻雀部の存続なんて出来はしないけれど」

透華「そうです…その通りです!目立つという事は、それだけで周りの者に影響を与えるのです!」

透華「目立つ事こそ、王者足る者が持つべきものですのよ…おーっほっほっほ!」

久「は、はあ…」
573 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/13(火) 22:46:50.84 ID:AOyI9p+Ro

透華「さて…これ以上の立ち話もなんですし、場所を変えましょうか。待っている人達も居ますしね」

久「待っている人達って?」

透華「CMの最初で語られていた方の所ですわ…あの人は、麻雀のお陰で独りではなくなったと言うのに」

久「…多分だけど、その人達は私達に負けたお陰で早々に別れが来てしまったんじゃないの?」

透華「そうかもしれません…ですがあの方達は、それで終わってしまうような関係ではなかったように思えます」

透華「貴女がたと同じ…急ごしらえのチームではありますけれど、ね」

久「そう…それならいいのよ」



透華「…それでは、参りましょうか」
574 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/13(火) 22:47:50.19 ID:AOyI9p+Ro
ここまで。
575 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/14(水) 10:07:16.97 ID:1c74egevo
>>572 訂正

×:久「別に良いわよ…多分貴女が何もしなくても、何れは明らかにされていただろうし」
○:久「別に良いわよ。多分貴女が何もしなくても、何れ似たような事はあっただろうし…悪目立ちしてたしね、私」
576 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/14(水) 10:47:33.51 ID:1c74egevo





久「宮守女子…やっぱりここだったか」

透華「…正直、ここが敗退するとは考えていませんでしたわ」

久「ウチはともかく、他も相当だったと思うけれど」

透華「小瀬川とウィッシュアート…特に後者の方は驚異的な和了率でしたから」

久「確かに。地区大会では、あの宮永照や園城寺怜をも『和了率では』上回っていたわね」

透華「其処が彼女の不運でしたわね。配牌も打点も平凡故、結果としてそちらの次峰に完封されてしまいました」

久「あれはまこが居たからこその結果ね。もしあの子が居なければ、宮守にはそのまま逃げ切られていたでしょう」

透華「そうかもしれませんわね」

久「…取り敢えずこの話は後にして、さっさと用事を済ませましょうか」

透華「ええ…ん?」

久「どうかしたの?」

透華「何でしょう…部屋の中から泣き声みたいなのが聞こえてきたような気が」



「びぇぇえぇええぇええぇええぇぇええぇえぇぇえぇ」

「「!?」」



久「確かに、泣き声が聞こえてきたわね」

透華「…手遅れでしたか」
577 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/14(水) 10:47:48.20 ID:Spedp6IA0

今度も期待
578 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/14(水) 11:13:00.11 ID:1c74egevo

豊音「うわぁあぁぁぁん!わたし、ぼっちじゃないよぉぉおぉ!」

白望「…ダルい」

エイスリン「トヨネ…ナカナイデ…」

塞「頼むから泣き止んでよトヨネ。私達がついてるんだから、ね?」

胡桃「そうだよ…だからうるさくしない!」

豊音「…うう…みんなぁ……」

トシ(やれやれ…一体誰がこんな手の込んだイタズラを)

コンコン

白望「ん?」


「…ごめんくださいまし!」


塞「…お名前を伺っても宜しいですか?」

透華「申し遅れました。私、龍門渕透華と申します」

久「同じく、清澄高校の竹井久です」

塞「失礼ですが、本日はどのようなご用件で?」

透華「そちらの姉帯さんが泣いていらっしゃる理由に関係する事です」

塞「若しかして、ネットCMの件ですか?」

透華「ええ、そうです」

白望「…塞」

塞「分かってるよシロ…どうぞお二人とも中へ」
579 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/14(水) 11:13:32.14 ID:1c74egevo
ここまで。
580 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/14(水) 15:36:44.20 ID:4NFHIFwa0

581 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/15(木) 19:58:05.26 ID:t/uHTYImo
582 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/15(木) 20:32:21.02 ID:1UBZFZA3o
投下開始。
あのスレ立ててから、昨日でもう一年になるんですね。
583 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/15(木) 20:46:57.61 ID:1UBZFZA3o

塞「…すると、貴女達もまた被害者側だという事ですね」

透華「ええ…衣は姉帯さんと同じく号泣していましたわ」

塞「無理もありませんね。ぼっちだの、麻雀をやると自他共に不幸になるだの言われたら」

透華「あながち嘘でもございませんから、余計に始末が悪いですわ」

塞「ええ…うちのトヨネも、オカルトの件とは切っても切れない縁ですからね」

久「…ちょっと良いかしら?」

塞「何でしょうか?」

久「それだと私ってあんまり関係ないんじゃないかしら…私は相手の心を折るだなんて芸当は出来ないし」

透華「そう言えばそうですわね」

塞「失礼ですけど、先日の貴女は動揺し過ぎで見せ牌されてましたしね」
584 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/15(木) 21:01:10.43 ID:1UBZFZA3o

久「ね、そうでしょ。私はどちらかと言えば、心を折られてしまう側の臆病者なの」

久「だからその…何で私があのCMに晒されたか分からないのよね」

透華「…確かに臆病でもあるのでしょうけど、それはどうにも納得がいきませんわね」

塞「ですね。心底臆病な人なら、あの打牌は絶対やらないですし」

胡桃「アレ、すっごいうるさかった!」

エイスリン「…パイガカワイソウダトオモイマシタ」

白望「実際問題、あんな打牌されたらたまったもんじゃない…すっごいダルいから」

豊音「私も、アレの打牌だけはありえないかなー…とかとか思っちゃったりして」






久「…なにコレ、物凄くキツいんだけど。私メゲちゃいそう」

トシ「至極真っ当な評価だと思うよ。流石にアレは、誰が見てもいただけないよ」
585 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/15(木) 21:02:22.14 ID:1UBZFZA3o
>>584 訂正

×:トシ「至極真っ当な評価だと思うよ。流石にアレは、誰が見てもいただけないよ」
○:トシ「至極真っ当な評価だと思うよ。流石にアレは、誰が見てもいただけないだろうからね」

ここまで。
586 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/16(金) 03:04:39.95 ID:hgl+s7eFo
投下開始。
587 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/16(金) 03:17:05.74 ID:Tm17wsGp0
マッテタデー
588 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/16(金) 03:21:00.17 ID:hgl+s7eFo



久「…うーん」

透華「まあ、この話はここまでにして本題に入りましょうか」

久「そうしてくれると助かるわ…ネットなら兎も角、直に言われるのはやっぱり堪えちゃうし」

白望「…まあこちらも、麻雀打ちとしては一言言っておこうと思っただけなので」

胡桃「うんうん」

塞「独善的な言い方になりますけど、これは貴女の為でもあるんです」

久「それは分かります。悪意だけなら、一々私の前でこの話をしなくてもいいでしょうから」
589 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/16(金) 03:23:36.42 ID:hgl+s7eFo
>>588 訂正

×:久「それは分かります。悪意だけなら、一々私の前でこの話をしなくてもいいでしょうから」
○:久「それは分かります。私に悪意を向けるだけなら、一々私の前でこの話をしなくてもいいでしょうから」
590 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/16(金) 03:41:08.36 ID:hgl+s7eFo

塞「…お怒りにならないんですね」

久「さっきウチの部員にも言われましたしね…それに、こういう意見も許容できなくては生徒議会長なんてやってられませんよ」

塞「…生徒、議会長?生徒会長ではなくて?」

久「ええ。清澄は生徒の権限が強くて、それに比例して政治色も強くなっているんです」

久「実質顧問無しで部の運営が出来ているのも、この校風のお陰ですね」

塞「なるほど」

胡桃「けどそれ、上に立つ人が駄目駄目だと結構問題だよね」

エイスリン「ドクサイ、コワイデス!」

久「…まあ、駄目なトップなら不信任案出して議会を解散させる事も出来ますので」

白望(日本人の気質的に、そういう面倒は進んでやらない気がするけど…実際ダルいし)
591 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/16(金) 03:52:48.17 ID:hgl+s7eFo

透華「…ちょっと!」

久「ああゴメン、待たせちゃったわね」

透華「まったくですわ…この私を無視して会話に勤しむなどとは」

塞「…失礼致しました」

透華「では、本題に入りましょうか。まずは今回のCMの作成者についてです」

透華「現在、私の執事に調査をさせておりますが…個人か複数人かははっきりしていません」

透華「ただ…誰かに依頼されて作ったという線はないですわね。内容の割には、あまりに出来が良すぎますから」

塞「確かに。トヨネ達への嫌がらせを目的にするなら、チープな出来でも構わないですしね」
592 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/16(金) 04:02:52.98 ID:hgl+s7eFo

透華「これを踏まえると、作成者に関して幾つか推測出来る事があります」

透華「第一に、こちらへの中傷以外に何か目的があるという事」

白望「確かに…中傷にしては、正直表現がぬるすぎる気がするし」

透華「第二に、相当暇をもてあましている人間であるという事」

エイスリン「ウン。アノCM、エイゾウハスベテセイコウナCGデツクラレマシタ」

透華「そして最後に、題材となった3名への執着が尋常ではない事が想像出来ます」

トシ「私達で無ければ知り得ないような情報を、あちらは知っていたからねえ」

豊音「ストーカーさんなのかな…怖いよう」
593 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/16(金) 04:10:45.70 ID:hgl+s7eFo

透華「…ストーカーについてだけは有り得ませんわね」

塞「どうしてです?」

透華「衣に悪さを働こうとすれば、まずウチの執事がねこぞぎ始末してしまうからです」

塞「えっ」

エイスリン「シマツッテ…シュクセイ?ユウアイ?ソレトモ、テンコウデスカ?」

透華「流石にそこまではしませんわよ…多分」

久「多分って…それ、本当に大丈夫なの?」

透華「何分…ハギヨシにとってあの子は、可愛い可愛い一人娘のような存在ですからね」
594 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/16(金) 04:11:18.44 ID:hgl+s7eFo
ここまで。
595 :>>582追伸 自分がやらかした事実は消えません [sage saga]:2013/08/16(金) 16:12:21.95 ID:hgl+s7eFo
投下開始します。
596 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/16(金) 16:36:55.13 ID:hgl+s7eFo

胡桃「…結局、犯人達の事はどうするつもりなの?」

透華「龍門渕側としては、相応の報いを受けさせるつもりです」

久「私は…事態が収まってくれればそれでいいかな。拡散されたCMのデータはもうどうにもならないし」

塞「うーん…豊音はどう思う?」

豊音「竹井さんと同じで良いかな…正直、ゴタゴタするのはもう嫌だよ」

塞「だよね…」

透華「ですが、ここで釘を刺しておかないと…また別の人が被害に遭わないとも限らないですわよ」

塞「うっ…確かにそうですね」

久「やはり、あちらとの会合は避けられそうにないわね」
597 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/16(金) 16:44:43.42 ID:hgl+s7eFo

白望「でも…相手の特定って、まだ出来てなかったよね?」

透華「その点は」

トシ「心配ないよ」

透華「!?」

トシ「今しがた、知り合いが主犯たちを拘束したそうだよ。龍門渕の萩原さんと一緒にね」

透華「…まさか、貴女のコネがそれ程のものだとは」

トシ「其方程大したものではないよ…私は、ただのしがない婆さんだからね」

透華(こちらで調べた限り、その言葉は到底鵜呑みにできないんですが)

トシ「…だから、私の周りを嗅ぎ回っている奴らを何とかしてくれんかね?」

透華(やっぱりこの方、只者ではありませんわ!)
598 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/16(金) 16:45:25.07 ID:hgl+s7eFo
ここまで。
599 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/16(金) 17:51:10.93 ID:xtxPGnkp0
600 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/16(金) 17:53:06.10 ID:5oC1tbwoo
601 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/17(土) 21:46:09.31 ID:MgUhw9tLo






透華「…もうまもなく、ハギヨシ達がこちらに来るそうですわ」

久「さて、漸くこんなモノを拵えた叔母加算の顔が拝めるのね」

豊音「うう…向こうに会うのはちょっと怖いかな」

塞「…正直、会わずに済むならその方が良かったかな」

白望「だよね…こんな事する奴とか、絶対面倒臭い奴だろうし」

胡桃「うん…シロじゃなくても、コレはダルいかも」

エイスリン「ゴーモンデスカ?ガロットデスカ?ソレトモコウノトリデスカ?」

塞「ごめん、エイスリンさんが何を言ってるのか全然分からないんだけど」

透華「…お分かりにならなくて宜しいかと」
602 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/17(土) 21:48:58.02 ID:MgUhw9tLo
>>596 訂正

×:久「やはり、あちらとの会合は避けられそうにないわね」
○:久「やはり、あちらと会うのは避けられそうにないわね」

>>601 訂正

×:久「さて、漸くこんなモノを拵えた叔母加算の顔が拝めるのね」
○:久「さて、漸くこんなモノを拵えたおバカさんの顔が拝めるのね」
603 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/17(土) 22:03:54.22 ID:MgUhw9tLo

久「…どうやら来たみたいね」

塞「そうですね」

久「ところで臼沢さん…あの人、どこかで見たような気がするんですけど」

塞「奇遇ですね…私もどこかで見たような気がします」

久「これって、夢ですよね?」

塞「残念ながら、夢じゃありません」


「放したまえ!拘束などしなくとも、私は潔く連行される心持だというのに!」

「…それでは連行ではなく、同行です」


久「去年の男子インハイチャンプ…留学組の中でも変人とは聞いていたけれど、まさかここまでとは」

塞「…アレと一括りにされちゃ、他の留学生に失礼ですよ」
604 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/17(土) 22:23:49.20 ID:MgUhw9tLo

透華「…ハギヨシ、この煩い殿方を黙らせなさい」

ハギヨシ「私もそうしたいのは山々なのですが、そうすると話を聞けなくなってしまいます」

透華「むう…それなら仕方ありませんわね」

ハギヨシ「どうかご容赦下さい。この男、下手に手を出そうものなら私とて只では済みませんので」

透華「えっ?」

ハギヨシ「私とて、決して万能ではないのです」


男の…インハイチャンプ(以下、IHMC)の目は、姉帯豊音と竹井久の二人だけを真っ直ぐに見つめていた。
その眼差しは、まるで恋焦がれる乙女のようで。
清清しささえ感じさせるその様は、久たちに自身の所業を忘れさせてしまう程のものであった。


久「…どうして、こんな事を?」

IHMC「…いたかった」

久「?」

IHMC「会いたかった、会いたかったぞ!ガンダムッ!」

久「!?!?!?!?!?」

塞「…は?」

透華「…ハギヨシ。私、この方が何を仰っているのかさっぱりなのですが」

ハギヨシ「恐れながらお嬢様…私にもさっぱり分からないのですよ」
605 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/17(土) 22:40:03.16 ID:MgUhw9tLo

豊音「…えっと」

胡桃「(ちょっと、やめなよトヨネ!)」
白望「(この男の人…相当面倒臭いタイプの人間だよ?)」
エイスリン「(ムシ!ムシ!)」

豊音「貴方に、お願いがあるんですけど」

IHMC「何でも言ってくれ、ガンダム!私は、君達の存在に心奪われた男なのだから!」

IHMC「よもやここで君に出会えようとは…乙女座の私には、センチメンタリズムな運命を感じずにはいられないな!」

豊音「あのー…話を続けても」

IHMC「ああ、これはすまない。君たちに出会えた悦びのあまり、少々気持ちが昂ぶり過ぎてしまったようだ」

久(…どう見ても、ちょっとどころじゃない気がするんだけど)

IHMC「で、話とは?」

豊音「…サインを頂いても宜しいですか?」

IHMC「なんと!私如きのサインで良いのなら、何枚でも書かせてもらおうではないか!」

豊音「わーい!」


「隊長…なんと羨ましい」
「くそっ!俺達もインハイチャンプだったなら、姉帯さんからサインを強請られたのに!」


久(…やだ、なにこれ…)
606 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/17(土) 22:40:35.01 ID:MgUhw9tLo
ここまで。
607 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/17(土) 23:05:45.43 ID:r1+r8cVF0

展開が予測できないw
608 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/18(日) 22:58:08.39 ID:Ijp/ttO7o
投下開始。
609 :席外します [sage saga]:2013/08/18(日) 23:14:14.76 ID:Ijp/ttO7o

それから暫くの間、豊音とIHMCは話をしていた。

豊音が彼是質問をして、それにIHMCが一つ一つ真面目に答えていって。

…早い話、彼は真摯だった。どんなに質問責めにされても、音を上げず愚痴もこぼさない。

そして、その光景を見ていた皆は思った。

本当にこの男が、あんな下らないモノを拵えたのだろうかと。



だが、男はこう答えるのだ。

「私が…私達が望んでやった事だ。私は、やましさなど少しも感じてはいない」

誰の目にも、ふざけている様には見えなかった。あくまで彼は、真摯な姿勢を貫いていたからだ。

それは、彼の声色と眼差しからも容易に伺えた。
610 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/18(日) 23:45:08.71 ID:Ijp/ttO7o

塞「…どうにも納得がいかない」

IHMC「気のせいだろう。私は君達が思う程人間が出来てはいない」

塞「それなら、トヨネにあれだけ懐かれたりなんてしないと思うんですけど」

IHMC「あれは彼女の寛大さ故だ。本来なら、私はここで切腹していてもおかしくは無かった」

塞「せっ…!」

白望(ほら、やっぱりこの人面倒じゃないか)

エイスリン(ジャパニーズブシドー!ハラキリ!ナマデミレル!)

胡桃(…ついてけない)
611 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/18(日) 23:54:50.93 ID:Ijp/ttO7o

トシ「…埒があかないね。結局アンタは、何が目的でこんな事をしたんだい?」

IHMC「…知って欲しかったからです」

トシ「?」

IHMC「私はただ、彼女達の事を大勢に知ってもらいたかったのです。それ以上でも以下でもない」

トシ「で、それが一体何になるんだい?」

IHMC「…望む望まざるに係わらず得た力の持ち主達は、決して魔物などと呼ばれるような存在ではない……」

IHMC「結局の所はただの人間なのだと、公にしたかったのです」

トシ「…莫迦な子だね」

IHMC「若輩者ゆえ、モノの加減を知らんのです」

トシ「だろうね。アンタの行動には、迷いも躊躇いといったものが少しもないんだから」
612 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/18(日) 23:57:29.94 ID:Ijp/ttO7o
一旦ここまで。
613 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/19(月) 00:18:07.73 ID:1wdnZMGfo

一体彼はミスター何ドーなんだ……
614 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/08/19(月) 01:45:27.58 ID:vQE+tddgo
>>611 訂正

×:トシ「だろうね。アンタの行動には、迷いも躊躇いといったものが少しもないんだから」
○:トシ「だろうね。アンタの行動には、迷いや躊躇いといったものが少しもないんだから」

投下再開。
615 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/08/19(月) 01:56:47.80 ID:vQE+tddgo

久「…一つ、聞いていいかしら?」

IHMC「何だね?」

久「貴方は私達の事を、一体どう思っているのかしら?」

IHMC「無論、愛している!」

久「…え」



塞「はぁ!?」

エイスリン「(何言ってんだ!ふざけるな!)」



豊音「んん?」

胡桃「今…何か聞こえたような」

白望「…ダルいなあ」

エイスリン「ワ…ワタシノログニハナニモナイナ」

塞「エイスリンの言う通りだよ。気のせい気のせい…はは」



塞「(…ゴメンね、エイスリンさん)」

エイスリン「(サエ!カレガマダソウデナイトハカギラナイデスヨ!)」

塞「(そうだね…そうだよね。私も今は、可能性を塞いではいけないよね)」
616 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/08/19(月) 02:01:37.29 ID:vQE+tddgo

透華(よもや…あの方達も私や智紀と同じ……)

ハギヨシ「…透華様?」

透華「ああ、すみませんハギヨシ。考え事をしていたからか、ついぼーっとしてましたわ」

ハギヨシ「それなら良いのですが…もし何かありましたら、直ぐに仰って下さい」

透華「ありがとう、ハギヨシ」

透華(…私は貴方を使ってあんな事を考えてるというのに。何とも心苦しいですわ)
617 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/08/19(月) 02:16:34.08 ID:vQE+tddgo

久「あの…愛しているというのはどういう」

IHMC「含蓄など無い。私は嘘偽り無く君達を…ガンダムを愛している」

久「その…ガンダムと言うのは?」

IHMC「うむ、我が最愛の人が常々口にしている言葉だな!」

久「最愛の人?」

IHMC「ああ…私と同じくIH男子の部に出場している少年の事だ!」

塞・エイスリン・透華「!?」

IHMC「ガンダムとは、彼にとって救世主を意味する言葉であり…口癖なのだ」

IHMC「だが私にとってガンダムとは天使であり、愛すべき者に他ならない!」

久「…貴方、ひょっとしてホモなの?」

IHMC「ホモではない!」

塞・エイスリン・透華(そんなっ!)

IHMC「私は…私はバイだっ!」

塞(やっぱりホモじゃないか!)

エイスリン(今度の薄い本がまた厚くなるなっ!)

透華(やりましたわ!)
618 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/08/19(月) 02:32:39.39 ID:vQE+tddgo

IHMC「…とはいえ、嘗ての私は魔物と呼ばれる者達を嫌悪していたよ」

久「何故?」

IHMC「知れた事。ここ数年のIHは、完全な女性上位になってしまったからだ」

久「…続けて」

IHMC「私は…自分達が彼女らと違い持たざる者である事が我慢ならなかったのだよ」

IHMC「どんなに追い縋ろうとも…IM女子のチャンプレベルがせいぜいで、遠く及ばない」

IHMC「所詮逆恨みややっかみに過ぎない事だが…苛立ち無しに麻雀は打てなかったのだよ」

久「…私はプロの目からすれば、凡そ魔物とはいえない存在なのだけれど?」

IHMC「莫迦を言うな。連荘六本場でトビ終了などしておいて、そんな言葉が罷り通ると思うのかね?」

久「私、貴方が思っている程ではないと思うけど」

IHMC「…君が思っている以上に、雀士の格差は間違いなく広がっているのだよ」
619 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/08/19(月) 02:33:05.21 ID:vQE+tddgo
ここまで。
620 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/19(月) 16:22:55.39 ID:vQE+tddgo

IHMC「ところで竹井女史、貴女は去年のプロ認定者については知っているかね?」

久「知り合いからは、プロになったのは5人と聞いたけれど」

IHMC「…その中に男性は一人もいないのだよ」

久「…えっ?」

IHMC「数年前にプロ団体が統一されてから、プロ雀士への門戸はさらに狭くなった」

久「『グランドマスター』が圧倒的過ぎたからね」

IHMC「彼女を皮切りに、女性の有力なプロ雀士が台頭してきた…なのに男性は酷い体たらくだ」

IHMC「性別を理由にして、つまらん罵詈雑言を口にする者まで出てくる程にな」

久「そんなの、無視すればいいじゃない」

IHMC「無視をすればあの心無い言葉を肯定する事になってしまう。我慢弱い私には許容出来んよ」

久「なら、貴方達が私達にした事って一体何なのかしら?」

IHMC「憎しみの源泉には無知から来る不安もある。私はそれを解消しようとしたに過ぎない」
621 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/19(月) 16:37:04.42 ID:vQE+tddgo

久「…それって、余計なお世話って言うのよ」

IHMC「承知している」

久「なら、もうこんな事はしないで貰えるかしら?」

IHMC「悪いがそれは出来ない」

久「当事者の一人である私が止めるように言っても?」

IHMC「出来ないと言った!」

久「そう…やっぱり貴方ってそういう人なのね」

IHMC「ああそうだ!私はこういう生き方しか出来ないからな!」

久「何が貴方をそうさせるの?」

IHMC「始まりは、有らん限りの憎しみだった。どんなに強くなろうとしても、君達には遠く及ばなかったからな」

IHMC「だがやがて君らへの感情は憎しみを超越し愛となった!君達の圧倒的な性能に、私は心奪われたのだ!」

久「…つくづく面倒な人ね」

IHMC「ふん、分かっている。私は我慢弱く、落ち着きの無い男なのさ」
622 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/19(月) 17:16:24.00 ID:vQE+tddgo

ハギヨシ「…お嬢様、そろそろ時間です」

透華「そうですか…皆様、これから彼らには相応の処分が下される事になるでしょう」

透華「何か異論はございませんか?」


 その言葉に答える者は誰もいない。

 沈黙は肯定の証であり、IHMCらは報いを受けるべきであると誰もが思っていた。

 特にIHMCは失うには惜しい男であったが、こんなことをした以上は仕方の無い事であった。

 だって面倒な人だし。

 兎に角これで面倒は片付き、彼女達には平穏な日常が約束されるはずで…


「こちらF、これよりミッションを開始する」


 無理でした。
623 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/19(月) 17:16:58.88 ID:vQE+tddgo
ここまで。
624 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/19(月) 20:21:17.69 ID:vQE+tddgo

IHMC「少年!」

F「何をしているIHMC…ヴェーダの指示通りに動けば、こうはならなかったろうに」

IHMC「ふっ…私はマイスターではないのでな。好きにさせてもらったまでだ」

F「ふざけるな!お前は俺と約束したはずだ…二人とも、必ずガンダムになると!」

IHMC「…そうだったな。私とした事が失念していたよ」

F「俺達は『グランドマスター』達によって歪められたこの世界を変革し、正さなければならない」

IHMC「私個人は、彼女らも十分魅力的な存在だと思うのだかね」

F「…奴らはガンダムではない!」



透華(F…今年のIHに突如現れた謎多き青年!)

塞(まさか、IHMCと因縁のある間柄だったなんて…これはイケる!)

エイスリン(約束…同じ志を持った者達…コレは間違いなく只ならぬ関係だね!)

塞(エイスリンさん!)

エイスリン(ええ!この二人はIH男子の界隈に新たな変革を齎すに違いない!)

塞(ああ…やっぱりホモにはロマンがある。決して他の性愛を否定はしないけれど、やっぱり私はホモが好きだ!)

エイスリン(革命の仲間を指す同志にしろ…台湾や中国における同志にしろ…どっちも美味しいです!)
625 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/19(月) 20:29:41.72 ID:vQE+tddgo

透華「…ハギヨシ、無線を」

ハギヨシ「はっ」


透華「(智紀!今までの発言はきっちり録音出来ていますわよね?)」

智紀「(勿論。音質は極めて良好)」

透華「(ならば良いのです!智紀、そのまま録音を継続しなさい!)」

智紀「(…言われるまでも無い)」


透華(さて…そうと決まれば次のイベントに備えてネームの準備をしなくては)

透華(どうせなら、あのお二人にもご協力いただいたほうが良いですわね!)

透華(…たまりませんわ!この昂ぶる気持ち、今すぐにでも解き放ってしまいたい!)
626 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/19(月) 20:52:49.95 ID:vQE+tddgo

ハギヨシ「…さて、どうしたものでしょうか」

F(この男…間違いなく強い。時たま隙があるように見えるが、それは間違いなく誘いだ」

F(決してこちらからは手を出せない…かといって背を向ければ、俺達全員が奴の餌食になってしまうだろう)

F(せめて…先程の様に不意を突ければ逃げ延びる保障があるかもしれないが)


透華(F×IHMC?それともIHMC×F?それとも…)


F(あの女、何やら思案しているせいか意識が半ば飛んでいる。奴を利用すれば、或いは…)

IHMC(…待つんだ少年、それだけはよせ!)

F(F、これより目標を駆逐する)


 Fが、透華目掛けて光子を纏ったダガーを投擲する。

 彼の狙い通り、確かにハギヨシの不意を突く事は出来た。だが…

 (…何だと!)

 そのダガーは、ハギヨシによっていとも容易く叩き落されてしまった。


F(馬鹿な…GNダガーを素手で叩き落すだと!下手をすれば腕ごと駄目になるというのに!)

ハギヨシ「…心配ありませんよ。私は、龍門渕家の執事ですから」

F「!?」

ハギヨシ「よくも…よくもお嬢様に手を挙げてくれましたね」
627 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/19(月) 20:54:46.54 ID:vQE+tddgo
ここまで。
628 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/19(月) 21:28:36.07 ID:Hcc/qYVUo
乙ー
629 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/19(月) 21:29:11.54 ID:K/KB7XLHo
乙ー
630 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/19(月) 22:40:12.79 ID:SUtkz45l0
631 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/20(火) 23:50:19.78 ID:TBjvKEzpo

F(くっ…間に合わない!)

ハギヨシ「…抵抗は死を意味する」

F「抵抗せずとも、お前は俺を始末するつもりだろうに」

ハギヨシ「透華お嬢様への脅威など認められない。当然の事だ」

F「俺は、戦う為に来た訳では…ッ!」

 何時動いたのか、刹那の間にハギヨシはFの首を完全に締め上げていた。

 それも片手である。決して屈強には見えないこの青年の何処に、そんな怪力があるというのだろうか。

ハギヨシ「仮にそうだったとしても、俺への恐怖故に彼女を狙ったのは事実だ」

F「う、あああぁぁあああああ!っ!」

 悲鳴を上げるF。けれどハギヨシは、首を締める手の力を緩めようとはしない。

ハギヨシ「敵を…殲滅する…」

 ハギヨシは、完全に我を忘れていた。

ハギヨシ「今終わる!」
 
632 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/20(火) 23:59:30.24 ID:TBjvKEzpo

 …その状況は、突如現れた影によって阻まれた。

ハギヨシ「…何のつもりだ?」

IHMC「果し合いを所望する」

ハギヨシ「邪魔だ、退け」

IHMC「退かぬ!」

ハギヨシ「退けといっている!」

IHMC「退かぬと言った!」

ハギヨシ「ならば消えろ、男性雀士共」
633 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/21(水) 00:14:42.22 ID:XhxctJV6o

IHMC「…ああ、消えるとも。そうだなF!」

F「分かっている…圧縮粒子を完全開放」

ハギヨシ「なっ!?」

F「生憎、GN粒子は俺達には有害ではない。そしてお前達は、ここから逃げるしかない」

IHMC「不本意ではあるがそういう事だ…萩原よ、次こそは決着をつけよう」

ハギヨシ「私達に情けをかけているつもりか…!」

IHMC「そうではない。君達と私達が決着をつけるとすれば、それは決闘であり麻雀である」

ハギヨシ「IHMC…貴様」

IHMC「早く彼女達を連れてここから去るがいい。部屋を出さえすれば、彼女達は傷つかんからな」
634 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/21(水) 00:24:58.22 ID:XhxctJV6o
一旦ここまで。
635 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/21(水) 00:25:18.29 ID:4KoWQNBtO
一旦乙乙
636 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/21(水) 16:56:43.68 ID:XhxctJV6o

豊音「なにあの光、すっごくきれいだよー」

胡桃「そんな事言ってないで逃げなよトヨネ!ほら!」

豊音「うう、腕が痛くなるから引っ張るのは止めて…あわわっ!」

胡桃「ちょっ、こっちに倒れ込まないで…」

 豊音はバランスを崩して倒れそうになる。だが、

白望「…危ない所だった」

白望が豊音を抱きかかえるようにして支えたのでそうはならなかった。

豊音「シロ、ありがとー」

白望「お礼とかいいから…それより早くのいてくれないとダルい」

豊音「ご、ごめん」

白望「胡桃…焦るのは分かるけど、身長の差を考えて欲しい」

胡桃「うう…ごめんねトヨネ」

白望「それじゃあ二人とも…ダルいけどさっさと逃げようか」

豊音「うん!」

胡桃「…ところで、他の皆はどうしたのかな?」
637 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/21(水) 17:21:37.77 ID:XhxctJV6o

トシ「何してるんだい二人とも!早く逃げるよ!」

塞「い、嫌です!私達はイケメン二人が寄り添っている様を、もう少し目に焼き付けていたいんです!」

エイスリン「二人を包む碧の光…神々しいです」

トシ「何でエイスリンは日本語が流暢になってるんだい!どこぞのオロ○ンみたいなキャラ付けか?」

塞「…それは違いますよ熊倉先生」

エイスリン「そうです。これは彼らへの憧れが齎した奇跡!決して嘘など吐いていた訳ではありません!」

トシ「…ええい!御託はいいからさっさと逃げる!」

エイスリン「おいアンタ!! ふざけたこと言ってんじゃ…」

塞「やめろエイっちゃん!!!」

トシ「…やめてくださいよ」

エイスリン「だから何度言っても」

トシ「ウダウダ言ってると殺すぞキーウィ。ムカつくんじゃ!」

 そして二人は見た。見てしまった。普段温厚そうにしている壮年女性の、悪鬼の如き顔貌を。

エイスリン「ア…ス、スミマセン」 

 あまりの恐ろしさにエイスリンは元の片言になり、

塞「…私は、貴女の僕です。私は、いと高く、清らかな貴女の僕です」

 塞は、うわ言の様に隷属の言葉を口にしていた。
638 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/21(水) 17:38:15.32 ID:XhxctJV6o

透華「…ハギヨシ」

ハギヨシ「何でございましょう?」

透華「どうにかしてあの二人を捕縛しなさい」

ハギヨシ「…恐れながら、それは無理でございます」

透華「何故?」

ハギヨシ「様々な防護機能を持った手袋が、あのGN粒子とやらに触れた途端駄目になってしまいました」

ハギヨシ「…無論、貴女が望むなら私は死を覚悟で突貫する事も厭いませんが」

透華「それだけは止めてくださいまし!」

ハギヨシ「…透華様?」

透華「ん…私とした事が取り乱してしまいました。兎に角、あの二人やその部下達は見逃すしかないのですわね?」

ハギヨシ「そういう事になります」

透華「口惜しい…折角生でオスプレイが見れるチャンスだったというのに」

ハギヨシ「戯言を仰らず、早く逃げましょうか」グイッ

透華「い、嫌っ!私は、私はまだあの二人のツーショットを見ていたいのに!

ハギヨシ「諦めて下さい」

透華「お放しになってハギヨシ…ハギヨシィィィィ!」
639 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/21(水) 18:47:17.69 ID:XhxctJV6o

久「…」

IHMC「君は逃げないのかね?」

久「もう少しだけ、貴方達と話しておきたくてね」

F「話す事など何も無い。俺はお前たちの敵…あっ」ポロッ

久「ん、何かしら…コレ?」


ヒッサ!ヒッサ!ヒッサ!ヒッサぁああああああああああああああああああああああん!!!
あぁああああ…ああ…あっあっー!あぁああああああ!!!ヒッサヒッサヒッサぁぅううぁわぁああああ!!!
あぁクンカクンカ!クンカクンカ!スーハースーハー!スーハースーハー!いい匂いだなぁ…くんくん
んはぁっ!竹井久たんの赤みがかった茶髪をクンカクンカしたいお!クンカクンカ!あぁあ!!
間違えた!モフモフしたいお!モフモフ!モフモフ!髪髪モフモフ!カリカリモフモフ…きゅんきゅんきゅい!!
中学時代のヒッサかわいかったよぅ!!あぁぁああ…あああ…あっあぁああああ!!ふぁぁあああんんっ!!
インハイ出場出来て良かったねヒッサ!あぁあああああ!かわいい!ヒッサ!かわいい!あっああぁああ!
ビデオレターも送って貰えて嬉し…いやぁああああああ!!!にゃああああああああん!!ぎゃああああああああ!!
ぐあああああああああああ!!!俺男だからヒッサに逢えないじゃん!!!!あ…そもそも女子と男子じゃレベルが…
ヒ ッ サ と は 麻雀 出 来 な い ?にゃあああああああああああああん!!うぁああああああああああ!!
そんなぁああああああ!!いやぁぁぁあああああああああ!!はぁああああああん!!清澄ぃいいいい!!
この!ちきしょー!やめてやる!!麻雀なんかやめ…て…え!?見…てる?試合映像のヒッサが俺を見てる?
和了った時のヒッサが俺を見てるぞ!ヒッサが僕を見てるぞ!悪待ちのヒッサが俺を見てるぞ!!
中学時代の竹井久ちゃんが俺に話しかけてるぞ!!!よかった…世の中まだまだ捨てたモンじゃないんだねっ!
いやっほぉおおおおおおお!!!俺にはヒッサがいる!!やったよフェルト!!ひとりでできるもん!!!
あ、悪待ちの久ちゃああああああああああああああん!!いやぁあああああああああああああああ!!!!
あっあんああっああんあ咲様ぁあ!!の、のどっちー!!片岡ぁああああああ!!!染谷ァぁあああ!!
ううっうぅうう!!俺の想いよヒッサへ届け!!清澄高校のヒッサへ届け!


F「」

久「」

IHMC「君の愛がまさかこれ程のものだったとは…少し、彼女に妬けてしまうな」
640 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/21(水) 18:47:45.67 ID:XhxctJV6o
ここまで。
641 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/21(水) 20:02:41.06 ID:FhsyBkDm0
珍しくロッカーという単語がコピペ中になかった
642 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/21(水) 20:54:35.57 ID:oAr1LnfHo

コピペ改変ワロタ
643 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/08/22(木) 03:33:10.27 ID:9O+PHGvCo

F「…た、竹井さんチョリーッス」

久「…」

F「は、はわわ…」

久「はわわじゃない!」

F「あの…じ、実はこれ俺じゃなくてそこのIHMCが書いたものなんですよ」

久「それだと、彼がさっき言った事と矛盾するじゃない」

F「えっと、それは奴の演技でして…」

久「挙動からして、堂々としている彼と酷くうろたえている貴方を比べたら…間違いなく貴方のほうが怪しいわ」

F「うぐ!」

久「…無様ね、F。貴方は口数が少なく、ミステリアスなキャラクターで通っていたというのに」

久「今の姿…もしファンにでも知られたらどうなってしまうのかしら?」
644 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/08/22(木) 04:09:43.07 ID:9O+PHGvCo

F「…それだけは勘弁して下さい。こんな事、フェルトに知られる訳にはいかないんです」

久「フェルト…ああ、このアレな長文に書かれてた子ね」

F「仕事の同僚です…彼女の献身には日頃から助けられていまして」

久「…ふーん。で、貴方から見て彼女はどんな感じなの?」

F「如何せん俺は任務で無茶ばかりするせいか…一番面倒を見てもらっている気がします」

久「場合によっては、途中でほっとかれそうな話ね」

F「ええ…しかし彼女は、俺を見捨てたりはしませんでした。若しかしたら、俺に何かしら期待するものがあるのでしょう」

F「俺は、それを裏切りたくない」

久「…F」

F「何でしょう?」

久「貴方って…多分鈍いのね」

F「鈍いって…一体何が?」

IHMC「…少年。分からないのなら今はただ黙っておく事だ」

F「…分かった」
645 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/08/22(木) 04:34:25.83 ID:9O+PHGvCo

久「まあいいわ。時間も無いし、そろそろ聞きたい事を聞かないと」

F「…何だ」

久「貴方達の言う『ガンダム』って、一体何なのかしら?」

F「語源は俺も知らない…知っているのは、それが救世主を指す言葉である事だけだ」

IHMC「同じく」

久「…貴方達に、私達が救えるかしら?」

F「…分からない。だから俺は『俺“が”ガンダム』だと口にしている」

久「少なくとも、貴方個人は独善的ではないのね」

F「今迄に為した事、今為している事、そして…これから為そうとしている事に自信が無いだけとも言える」

久「臆病なのね」

F「そうだ。しかし、臆病である事自体は悪い事じゃない…お前もまた、臆病である事に向き合って成長してきたはずだ」

F「2回戦でこそ揮わなかったが、それは必ずお前の糧になるはずだ」

久「F…」

F「それに…勝って貰わねば俺の賭け金が」

久「…さっきの無様、こっそり録画していたのよね」

F「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいアイアンクローとかジャイアントスイングとかマジ勘弁」
646 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/08/22(木) 04:38:23.14 ID:9O+PHGvCo
>>645 訂正

×:F「そうだ。しかし、臆病である事自体は悪い事じゃない…お前もまた、臆病である事に向き合って成長してきたはずだ」
○:F「そうだ。しかし、臆病である事自体は悪い事じゃない…お前もまた、臆病であるが故に多くの事に向き合い…成長してきたはずだ」
647 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/08/22(木) 04:56:06.20 ID:9O+PHGvCo

IHMC「…さて、もうそろそろかな」

F「ああ」

久「そう言えば私…碧い光を浴びたのに何とも無かったわね」

IHMC「GN粒子は、指向性を与える事で様々な効果を発揮するのだよ」

F「そして俺は、そのGN粒子に指向性を与えられる唯一の人間だ」

久「つまり、貴方達が皆へ逃げるように言ったのはハッタリでもあった訳ね」

F「…誰かに習って、分の悪い賭けをしたまでだ」

久「私にこんな事話して…大丈夫なのかしら?」

IHMC「心配する事はない。君達の記憶はこれから消えてなくなる」

久「え、それってどういう…」

 圧縮粒子が開放され、その碧い光はインハイ会場を包むようにして広がっていった。

 その結果、会場にいる全員のほぼ全員が数時間分の記憶を失った。

 中には…病気が治りストロングになった者もいれば、監督代行の座を追われてしまった者もいたが。

 取り敢えずは、CMも無かった事になったのだ。
648 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/08/22(木) 04:56:35.37 ID:9O+PHGvCo
ここまで。
649 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/22(木) 18:11:21.47 ID:9O+PHGvCo

久「…ん、ここは」

まこ「やっと目が覚めたか」

久「まこか…どうやら私、眠っちゃってたみたいね」

まこ「気にせんでええ。ワシも他の皆もついさっきまで眠りこけていたしのう」

久「それならいいのだけど。うーん、何か忘れてる気がするのよね」

まこ「ワシらもじゃ。準決勝Aブロックの開始直前までは起きていたはずなんじゃが…」

久「それって他の皆も同じなの?」

まこ「そうじゃ」

久「準決勝開始直前まで、私達って一体何してたっけ?」

まこ「確か…暇つぶしにネットでインハイの結果予想とかを見ていたような」

久「ネットかあ…あっ」

まこ「どうしたんじゃ?」

久「確か私達、ネットで変な動画を見たような気が…」



 「…え、なんですかこれ」

 「犬!お前一体何をやってるんだじょ!」

 「し、知らねえよ…俺の方が聞きたいくらいだし!」

 「というかこのCM、もう一人ってひょっとして部長なのかな?」



久「…えっ?」

まこ「一体おぬしらは何を見て…えっ?」
650 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/22(木) 18:33:55.18 ID:9O+PHGvCo

京太郎「…部長は、ロト7って知ってます?」

久「知らないわ」

京太郎「一等が最高4億円なんですよ」

久「興味ないわね」

京太郎「キャリーオーバーなら、なんと最高8億円…」

久「ねえ…」

京太郎「?」

久「貴方の夢は、金で買えるのかしら?」ドヤァ


♪ディーエースイッレ ディーエースイッラ

京太郎「はあ…かっこいい…ヤバい、涙出そう」

京太郎「…」

京太郎「…部長?」

久「…」カリッ

久「」ギョッ

京太郎「」ポカーン

♪クァーンタス テロメー
651 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/22(木) 18:55:45.49 ID:9O+PHGvCo

京太郎「」

久「」

まこ「…どういうことなんじゃ、これは」

和「二人が用事で一緒に出かけた事なんて、一度も無かったはずですが」

優希「何だか良く分からないけど、事件の臭いがするじぇ!」

咲「きょ、京ちゃん…部長…」



京太郎「…部長」

久「…何、須賀君?」

京太郎「内木副議会長からお電話が」トゥルルルルル....

久「切って」

京太郎「はい」ピッ

久「…」

京太郎「…部長?」

久「須賀君、行くわよ」

京太郎「行くってどこへ?」

久「犯人を捜し出して折檻フルコースよ。もう彼らに朝日は拝ませないわ」

京太郎「何物騒な事言ってんですか…もうすぐ準決勝なんでっ、うぁぁああぁああ!」ズルズル

久「全国優勝の前にアホ共を殲滅よ!繊細な私の心を弄びやがって!」

京太郎「だからそのアホ共って一体誰なんですかぁぁぁあああっ!」ビューン


…特に理由の無い風潮やら何やらが、今日も咲キャラ達を襲う。

652 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/22(木) 18:58:13.26 ID:9O+PHGvCo
おしまい。
…如何せん夏で頭がヒットし過ぎました。次は普通にほのぼのなやつを書きます。
653 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/22(木) 19:52:37.61 ID:pysuyuOTo
お、おう乙
654 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/22(木) 20:26:53.09 ID:xXSWTwBpo
乙ー
655 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/08/23(金) 02:27:07.84 ID:zXhS8XRfo

俺の名前は須賀京太郎。清澄高校麻雀部唯一の男子部員…だった男だ。

なんやかんやあって、この度無事高校を卒業する事になった。

卒業できる事は勿論嬉しいが、心残りは多い。

麻雀では色々頑張ったけど、結局県大会の個人戦じゃ4位止まりだった。

先輩や同期の3人は目覚しい活躍をしていたのに…そう思うと辛いものがある。

ただ…相手が悪かったし、あの3人とは打ってて楽しかったから良しとしよう。



656 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/08/23(金) 03:15:52.37 ID:zXhS8XRfo

阿佐田、赤木、そして傀…あんなのが長野みたいな片田舎に突然現れるとは思わなかった。

もしあいつ等がいなかったら、俺は間違いなく全国に行けてただろうな。

ひょっとしたら、インハイチャンピオンになれていたかもしれない。実際、全国の3強は傀達だった訳だし。

…やっぱり惜しい。

奴らに最後まで喰い下がれたのは俺と全国4位の奴だけだった。それは素直に誇っていいだろう。

だけど、俺はそこで満足しちまった。敵わねえって思っちまった。

麻雀に一旦踏ん切りをつける理由は、それで十分だった。
657 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/08/23(金) 03:27:36.46 ID:zXhS8XRfo

…そうして俺の牌に賭けた青春は終わりを告げた訳だが、迂闊にも進路の事には考えが及んでいなかった。

それでも勉強は人並みには出来たけれど、如何せん当時の俺は燃え尽き症候群になっていた。

要するに、何かに打ち込もうとする気力が無かった。

進学などしてみた所で、やりたい事も見つけられないまま無為に4年間を過ごしていただろう。

かと言って、3年の6月から就職活動と言うのもキツかった。ニートやアルバイトになる訳にもいかなかったのだが。

家族は勿論、麻雀部の皆やクラスメイトが俺の様子を見るに見かねて世話を焼いてくれたが…結局今年まで進路は決まらなかった。



――ハギヨシさん達からある申し出を受けるまでは。
658 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/08/23(金) 03:54:15.69 ID:zXhS8XRfo

ハギヨシ「京太郎君」

京太郎「何でしょうか、師匠?」

ハギヨシ「貴方が龍門渕の邸で修行するようになって、もう2年になるのですね」

京太郎「はあ、そうですね」

ハギヨシ「…貴方には多くを教えました。しかし、現状ではそれを活かしきれてはいません」

京太郎「ええまあ…日常生活だけじゃ持て余す事が多々ありますね」

ハギヨシ「そこで私は考えました。どうすれば貴方を独り立ちさせる事が出来るのかと」

京太郎「独り立ち…ですか?生憎、卒業先の進路も決まっていない奴じゃあそんな事は」

ハギヨシ「黙りなさい!」

京太郎「!!」

ハギヨシ「麻雀に未練があるのは分かりますが、それを理由に燻っていては結局何も出来ませんよ!」

京太郎「は、はい」

ハギヨシ「…仕方ありません。須賀君、私から貴方へ一つ命じます」

京太郎「はっ、何なりと!」

ハギヨシ「確か貴方は、タコスを作るのが得意でしたね」

京太郎「はい!いつの間にか、アレを作るのが趣味と言うか生活習慣になってしまいまして」

ハギヨシ「では、貴方にはこの春からタコス屋になってもらいます」

京太郎「えっ」

ハギヨシ「透華お嬢様にも話は通しております」

京太郎「なにそれ、聞いてないっす」

ハギヨシ「お嬢様は貴方の働き振りを見て、いつか正社員として雇用したいと考えておられたのですよ」

京太郎「あー…そう言われちゃ悪い気はしませんけれども」

透華「では、この契約書にサインを」

京太郎「分かりました。えっと…須賀京太郎、っと」

透華「ありがとうございます。これで契約は成立しましたわね」

京太郎「…あれ?何で透華お嬢様がここに?」

透華「私もやっと、ハギヨシと同じような事が出来るようになったので…つい」

京太郎「ご令嬢が神出鬼没になるって…大丈夫なんですか、師匠?」

ハギヨシ「ご心配なく。私は龍門渕家の執事ですから」
659 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/08/23(金) 04:01:50.96 ID:zXhS8XRfo

京太郎「えっと…俺に拒否権はありませんよね?」

透華「当然ですわ!」

ハギヨシ「須賀君、男は度胸です」

京太郎「…取り敢えず、やれるだけはやってみせましょう」

透華「その意気ですわ!」

ハギヨシ「応援していますよ。出来る限り、助けになりますから」



こうして、俺の進路先はなし崩しに決まったのだ。さて…一体どうなる事やら。
660 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/08/23(金) 04:03:00.23 ID:zXhS8XRfo
ここまで。
661 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/08/23(金) 04:48:44.19 ID:zXhS8XRfo

京太郎「…ところで、俺の他にスタッフはいないんでしょうか?」

透華「行った先で臨時のアルバイトを雇うというのも手ではありますけれど…如何せん効率が悪すぎますわね」

京太郎「となると、俺に同行してくれる人を見つけなきゃいけませんよね」

透華「そういう事になりますわね」

京太郎「…お嬢様、それと師匠。若しかしなくても思い付きだけで進めてましたよね?」

透華「え、えーと」

ハギヨシ「私も、多少は弟子の自主性に任せてみようと思いまして」

京太郎「…仮にも食材を扱う仕事ですし、最近じゃ訳分かんないアホのせいで営業妨害される時代ですよ?」

京太郎「必要なら免許とかも取らないといけませんしね…やる事は山積みです」

ハギヨシ「ふむ。それだけ意識が高いなら、心配する必要は存外無さそうですね」

透華「わ…私は、初めから貴方を信じていましたわよ」

京太郎「師匠は兎も角、お嬢様の発言ってやっぱり思い付きですよね」

透華「え、何故分かったんですの?」

京太郎「まー何となくです。バイトはせいぜい週に2,3回でしたが、それなりの付き合いではありますからね」

透華「…むう」
662 :>>658、>>659 「須賀君」は「京太郎君」に訂正でお願いします。投下終了。 [saga sage]:2013/08/23(金) 05:01:34.15 ID:zXhS8XRfo

透華「…そんな事より、同行者を決めた方が宜しいのではなくって?」

京太郎「確かにそうですね」

ハギヨシ「京太郎君…当てはあるのですか?」

京太郎「まあ、大丈夫ですよ。信用出来ない相手と付き合う程、酔狂ではないので」

ハギヨシ「それなら良いのですが…」

京太郎「えっと、俺が雇うのは…>>663です」

>>663はムロマホコンビ、大人組を除く先キャラ全員が対象です。無効安価は↓。
663 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/23(金) 06:41:26.25 ID:2Kbky6O9o
ともきー
664 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/23(金) 14:15:50.88 ID:zXhS8XRfo
>>662 訂正

×:※>>663はムロマホコンビ、大人組を除く先キャラ全員が対象です。無効安価は↓。
○:※>>663はムロマホコンビ、大人組を除く咲キャラ全員が対象です。無効安価は↓。
665 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/23(金) 18:02:48.03 ID:zXhS8XRfo

透華「…智紀?」

京太郎「ええ。今しがた連絡したら了承して貰えました」

透華「智紀は確か、アーヘン工科大学へ留学していたはず…なのに何処で交流があったのですか?」

京太郎「県大会が終わってから、俺も例のRTSにどハマりしちゃっいまして…その時に」

ハギヨシ「…確か、ランキングは50位でしたか」

透華「50位!主人である私より上ではありませんか!」プンスカ

京太郎「たまたまですし、気になさらないで下さいよ」

透華「馬鹿おっしゃい!私も必死になってあのゲームをプレイしたのに、そこまでは行けませんでしたのよ?」

透華「何で私ではなく貴方が…主より従者が目立つだなんて許せませんわ!」

京太郎「そう仰られましても…」
666 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/23(金) 18:28:08.94 ID:zXhS8XRfo

透華「…話を戻しますけど、智紀で本当に大丈夫なんですの?」

京太郎「ディブロマ(卒業証明書)はもう発行して貰っていると聞きましたが」

透華「そうではありません。智紀は内向的なきらいがありますから、私としてはとても心配で」

?「…その心配はない」

透華「貴女は…智紀!?」

智紀「私もこの2年ですっかりイメチェンしたからナー。明るい接客くらいお茶の子さいさいなんだナ」


           ∨/////〃            \   \\
              ∨/// ,′         {      \   ヽヽ
              \//l     /  / ', ',    i;ヽヽ   ヘ ',
              |\|     ,′ /  '. ヽ、  iiヽ_」_    } ′
              |  |   l | ,. r‐…ヘ  ヽ、}「 _」L、  } }
               | l从l   レ |´| / _,.=ミ. \ 乂ィfフ'}ノハ  ′j
.             | /{八  い、.ィf゚]:::ハ    \ 弋り 从/ /
             j {{ /\ 丶{ヽ乂タノ       :::::{ |
               j  \ (__ \'.  ::::::      丶   j |
            イ/   !`ー-ヘ、      _..  ァ   イ ,'
          / 〃  ,′ i  |` .._    「  ノ / |/___
.        / /   //  i /`ー-、_`   ..__/厶 '´ ̄>  `丶rヘ,
       / /  /\ ̄\ -┘     ̄o|[ 「o \=彡'´   ヘ  }} \__,,..  -─…ヘ¨ ̄
  --─=彡  '′ /     ヽ==-ヘ、丶、   o |川 o  》    \ } 〃   人 : : : [| : : : : : : ゝ、
     // r=┘      ヽ     `丶、丶、弋弋\ /   イ二ユ. ∨:: . /  厶、: : : : :_;..  -─
.   / 厶イ  ー──-   ',      ,>ュ .._ `'<r─-=ミ、   丶、丶、-─   `丶、
  -─<             ',     /  . -─≧┴--=ニ≧]、   ..:ヽ \:::../::..   `  、
        ー─---    ___  ',   \/  \   ....   \ \:.:.:.:.:.:.!::.:.:..∨:::.::.:.:.:....
   ニ二二.. _        ,.::.:...--一   ....:.:ヽ:.:.:.:.:.:.:.:.::.::.:..\ \::.::.i:.:.:.:.: }ーヘ、:.:..:...
        \   ̄i ̄ ̄|`く:.:.:.:.:.:.:....  ....:.:.:.:.:.::. ', ::.::.::.::.::..::.::.i i:\ \::.:.:.:.: j.    \
          \  i    |  |\:::.:::.`丶、:.::.::.::.::.: ', :.:.:.:.: '" { {:  \ \::.:.′    \


透華「誰ですの貴女!?」

智紀「誰って、智紀だけど…後これはウィッグとかつけたりメイクで色直ししただけだから」

透華「…それ以外にも、ツッコミ所は沢山あったような気がするのですけれど」

ハギヨシ「沢村さん…身だしなみについて教えた甲斐がありました」

透華「ハギヨシ貴方、智紀の様子を見に行かせた時にそんな事までやっておりましたのね……」
667 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/23(金) 18:39:05.45 ID:zXhS8XRfo

智紀「…とりあえず宜しく。京太郎君」

京太郎「こちらこそ」

智紀「…貴方は可愛い私の教え子。RTSのみならず、他方面でも良い成果を挙げて欲しい」

京太郎「期待に応えられるよう、精一杯頑張ります」

智紀「それならいい…私も精一杯手伝うから」



透華「…どうやらRTSは、2人の交流を深めるのに一役も二役も買ったようですわね」

ハギヨシ「そのようですね」
668 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/23(金) 18:39:37.53 ID:zXhS8XRfo
ここまで。
669 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/23(金) 19:00:37.81 ID:zXhS8XRfo
>>666 訂正

×:透華「誰ですの貴女!?」
○:透華「ホントに誰ですの貴女!?」

>>667 訂正

×;智紀「それならいい…私も精一杯手伝うから」
○:智紀「…それならいい。私も、自分に出来る限りの事は何でもするから」
670 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/23(金) 21:43:10.58 ID:2Kbky6O9o

RTSってすごい
671 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/08/24(土) 03:34:38.89 ID:sVPgQXIco
>>667 再訂正

×:智紀「…貴方は可愛い私の教え子。RTSのみならず、他方面でも良い成果を挙げて欲しい」
○:智紀「…貴方は私の可愛い教え子。RTSのみならず、他方面でも良い成果を挙げて欲しい」
672 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/08/24(土) 04:07:19.48 ID:sVPgQXIco

―――それから二人は2ヶ月間、タコス屋台の開業を目指して修行を始めた。



智紀「京太郎君…タコスの具にはどんなものを盛ればいいの?」

京太郎「何でもいいっすよ」

智紀「…何でも?」

京太郎「ええ。タコスに挟む具にルールとかそういったものは無いんですよ」

智紀「じゃあ…果物とかを挟んでも構わないの?」

京太郎「問題ありません。メキシコじゃ具の内容には地域色が出る事も多くて、場所によっては昆虫が具になったりしますから」

智紀「ふむふむ」

京太郎「後、時間帯によって具の内容が変わるとも言われてますね」

智紀「なるほど…サンドイッチとはその辺りに差異があるのね」

京太郎「といってもやはり差別化は難しいですけどね…クレープとかだってありますし」
673 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/08/24(土) 04:30:45.87 ID:sVPgQXIco


二人は試行錯誤しながら、よりよいタコスを作れるよう邁進する。


智紀「…京太郎君、タコスが出来たわ」

京太郎「おお、ハードタコですか。大分形が整えられるようになりましたね」

智紀「私は料理に明るい方じゃないけど…根気はある方だから」

京太郎「それじゃあ、まずは一口…ぐっ!」

智紀「京太郎君…どうかした?」

京太郎「…辛っれええぇえぇぇぇええぇえぇ!なんだこれ!なんだこれ!辛すぎっすよこれ!」

智紀「ああ…それは具にブート・ジョロキアを入れたから。朝の目覚めにちょうど良いかと思って」

京太郎「目覚めの後にショックで永眠してしまいますよ!ハバネロの10倍とかどんだけ辛いんですか!」

智紀「…駄目?」

京太郎「駄目ですね」

智紀「…そう」シュン

京太郎「こう言っちゃ何ですけど、落ち込まないで下さい。智紀さんのタコス、とても美味しかったですから」

智紀「…本当?」

京太郎「本当ですよ。ただ、唐辛子の方は変えた方が良いですね」

智紀「…分かった。貴方の言う通りにする」

京太郎(…よかった)ホッ

智紀「仕方無いから、SBカプマックスやトリニダード・スコーピオン・ブッチ・テイラーで妥協する」

京太郎「だからそれを止めろって言ってんですよ!」
674 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/08/24(土) 04:53:29.88 ID:sVPgQXIco


時には…意見の違いから対立する事も。


京太郎「何言ってるんですか智紀さん。そんなの有り得ないでしょ!」

智紀「それはこちらの台詞…京太郎君、貴方は本当にそれで良いの?」

京太郎「良いに決まってるじゃないですか!」

智紀「そう…なら私の主張も肯定すべき」

京太郎「出来ませんよ!」

智紀「…分からず屋」

京太郎「どっちがですか。そもそも、言い合いになったのは智紀さんのせいですよ」

智紀「…それは否定しない。けれど私は、自分の良心に逆らう事は出来なかった」

京太郎「…むむむ」

智紀「…ぐぬぬ」

京太郎「智紀さん!」

智紀「京太郎君!」




                「やっぱり史上最強の雀士は小泉ジュンイチロー元総理ですって!」

                   「いいや、最強は天才魔術師Mr.バード。これは譲れない」




透華「…様子を見に来てみれば、彼方達二人は一体何をしてらっしゃるの?」

京太郎「申し訳ございません」ドゲザー

智紀「…面目次第もない」ペッコリン

透華「まったくもう…これでは先が思いやられますわね」
675 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/08/24(土) 04:54:04.92 ID:sVPgQXIco
ここまで。
676 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/24(土) 07:35:33.61 ID:1Md5pZPro
乙ー
677 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/24(土) 11:36:44.63 ID:WiG/07U4o
乙乙
678 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/08/25(日) 02:19:43.37 ID:mtrWJBN/o

なんやかんやであっという間に2ヶ月が過ぎ、いよいよタコス屋開業の日が近づいてきた。

智紀は一度北海道に帰省し、京太郎は残り少ない学生生活を謳歌していた。

屋台を営業するようになってからでは、間違いなく今のような自由は得られないだろう。

そう言う事情もあってか、二人は思いっきり羽を伸ばしていた。



智紀父「…なあ」

智紀「?」

智紀父「久し振りに帰って来たかと思えば、お前はまたRTSばっかりやってるのか…しかもYシャツ一枚の格好で」

智紀「…龍門渕やアーヘンじゃ、そんな風には振舞えなかったから」

智紀母「そう…気心が知れていてやりやすいって事なのね。それは良かっ…良くないわよ!」

智紀「…何で?」

智紀母「帰ってくるなり自室に直行して、そのまま半日引き籠る事が良い事な訳無いでしょ?」

智紀「…そういえばそうか。ごめん」

智紀父「まあ良いじゃないか母さん。智紀はドイツに行ってまで、自分を磨こうと懸命に励んだんだから…少し位甘やかしても」

智紀母「…私達、それで失敗した挙句他所様の家に娘を押し付けたのよ?」

智紀父「…確かにそうだったな」

智紀「それなら別に良い…私は龍門渕で多くを得る事が出来たし」
679 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/08/25(日) 02:42:33.07 ID:mtrWJBN/o

智紀母「それはそれで良いのだけれど、私達を貴方の親と思ってくれるのなら気遣いは無用よ」

智紀父「だな。なけなしのプライドでも守らなきゃ、俺達はお前が家族である事を否定してしまいかねない」

智紀「…よく分からない」

智紀父「親ってのは、意地とかプライドとかを大事にするってこった」

智紀母「そういう自負でもなければ、人の親なんてとてもじゃないけどやってられないわね」

智紀「…二人は当時の私をどう思っていたの?」

智紀父「自室じゃYシャツ一枚だけを纏う、色を知った引きこもりだと」

智紀母「…アナタ」

智紀父「じょ、冗談だって」
680 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/08/25(日) 02:43:07.63 ID:mtrWJBN/o
眠いのでここまで。
681 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/25(日) 08:19:52.45 ID:a9FKcyOO0
おつー
682 :…こっちも悪いんだろうけど、当分メロブの事は許せそうにない [sage saga]:2013/08/25(日) 13:42:00.58 ID:mtrWJBN/o
投下開始。
683 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/25(日) 13:55:56.93 ID:mtrWJBN/o

智紀「…お父さんって、そういう人だったんだ」

智紀父「誤解だっ!」

智紀母「アナタ…私実家に帰らせて」

智紀父「言わせないよ!?」

智紀母「えー…」

智紀父「いやまあ、アレな事言ってすまんかった。だから冗談でもそれは」

智紀母「……」

智紀「……」

智紀父「…申し訳ございません」
684 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/25(日) 14:48:38.64 ID:mtrWJBN/o

智紀「…まあいい。では話の続きを」

智紀母「私はね…はっきり言って怖かった。あの頃はまともに話もしてくれなかったしね」

智紀父「ああ…確かにそうだったな。一応こちらが挨拶すれば、気だるい返事はしてくれたが」

智紀「…そうだったっけ?」

智紀母「覚えてないなら覚えてないで構わないわ。私達二人が忘れなければ、それで良いの」

智紀父「お前は、龍門渕に行ってからの人生を大切にしてくれれば良いんだ」

智紀「…分かった」

智紀父「まあ、湿っぽい話はこの辺にしようか。ところで智紀、接客業は大丈夫なのか?」

智紀「…透華にも同じ事を言われた」

智紀母「まあ、屋台なら店舗と違って彼是尋ねられる事はないから心配は要らないんじゃない?」

智紀「そうでもない…行政や地域住民との折衝をしなければならない時もあるし」

智紀母「確かにその辺りは重要よね…ただ、無視して違法な営業をしている業者もあると聞くけど」

智紀「…龍門渕グループがそんな事をする訳にはいかない。だから万事抜かりなくやる」

智紀父「うむ、その意気だ」

智紀母「話を変えるけど…智紀、貴女随分と口数が増えたわね」

智紀「そうかな…私には良く分からない」

智紀父「引き籠る前から口数は多くなかったからな…何時からそうなったんだ?」

智紀「…龍門渕に居た頃からと言いたいけれど、今みたいになったのはアーヘンに行ってから」

智紀「論文の説明を口頭で求められる事が多かったし、学際研究で複数人と議論する事もあったから」

智紀父「学際研究か…優秀な博士号候補生ばかりが参加する計画だったな」

智紀「…うん。メンバーに選ばれたのはとても嬉しかった」
685 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/25(日) 15:06:39.73 ID:mtrWJBN/o

智紀母「…一つ、分からない事があるわね」

智紀父「だな」

智紀「…何?」

智紀母「折角博士号まで取れたというのに、何故就職先がそれを生かせない所かって事よ」

智紀「…それは」

智紀父「態々留学までして勉学に励んだんだ。単なる道楽で向こうに行った訳ではないのだろう?」

智紀父「なのに何故、知り合いの少年に付き合ってタコスの移動販売なんて…」

智紀「…戦友だから」

智紀母「戦友?」

智紀「彼とはRTSでドッグタグを交換した間柄…だから私は彼の力になりたい」

智紀父「…ロマン、か?」

智紀「…何のロマンかは兎も角、それで合ってる」

智紀父「随分と非合理的じゃないか。RTSでも麻雀でも、お前は徹底したデジタル思考を貫いていたのに」

智紀「…たった一回の人生も、論理と計算づくで生きていくつもりはない」

智紀父「…そうか」
686 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/25(日) 15:30:23.16 ID:mtrWJBN/o

智紀母「今の貴女…とても良い顔をしているわよ、智紀」

智紀「…そうかな?」

智紀母「ええ、何かに思い焦がれているって感じだわ」

智紀「…私には良く分からない」

智紀父「まあ兎に角だ、俺達はお前の考えを否定するつもりはない。やりたいようにやってくれればそれで良い」

智紀母「勿論何かあれば教えて頂戴。龍門渕ほど頼りにはならないかもしれないけど」

智紀「…分かった。2人ともありがとう」



智紀父「じゃあ、話も終わった事だし…銀○伝ブラウザで勝負しようか」

智紀「…お父さん、RTSなんてやってたっけ?」

智紀父「お前が龍門渕に行ってからというもの、俺もRTSに嵌ってしまってな…」

智紀母「結果、貴女の次はお父さんが引き籠りになりかけたのよ。挙句それを止めようとした私まで」

智紀「…引き籠りって、遺伝するものだったんだ」
687 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/25(日) 15:39:50.94 ID:mtrWJBN/o

…一方その頃清澄では、


京太郎「いやー今日で和のたわわな胸も見納めか」

和「…須賀君、最後だからってセクハラは止めて下さい」


なんというか、少年が相変わらずの調子で居た。


京太郎「いいじゃないか卒業式の日ぐらい…触ってる訳じゃないんだからさ」

和「今部室に誰もいないからって、あからさま過ぎますよ」

京太郎「2年前のインハイ後からはこんな風に出来なくなっちまったからなー」

和「インハイ前だろうと後だろうと、胸を凝視されるのは不愉快です!」

京太郎「ちぇー…」

和「ちぇー…じゃありませんよ!大体貴方はいつもいつも…」
688 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/25(日) 15:52:55.30 ID:mtrWJBN/o


30分後。


和「…インハイ前の貴方はこんなに無気力じゃなかったのに」

京太郎「そうでもないさ。第一あんなに雑用頑張ってたのは、部長達に感化されてたせいでもあるしな」

和「…インハイ後の事は…その……」

京太郎「和…気にしないでくれってのは無理だろうけど、あれは決してお前のせいじゃないよ」

京太郎「単に俺が麻雀弱かったから、居場所が無くなっちまっただけの事なんだ」

和「須賀君…」

京太郎「麻雀部の皆とは多少縁遠くなってしまったけど、俺は皆の事を大切に思ってるからさ」

京太郎「だから…リーグじゃ頑張ってくれよ、原村プロ」

和「は、はい!」

京太郎「後ついでに咲…宮永プロの方向音痴も治しといてくれよな!」

和「…そんなオカルトありえません!」
689 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/25(日) 16:47:37.95 ID:mtrWJBN/o

京太郎「アレ治さないと…そのうち隣から居なくなっちまうよ?」

和「…別に良いです。生憎私は介護士ではありませんから」

京太郎「介護ってお前…」

和「須賀君…貴方が部活にあまり来なくなってから、色々あったんですよ」

和「日本国内は言うに及ばず、国際レベルでの迷子までしでかしたんですよ…咲さんは」

京太郎「国際レベルって…そんなの、冗談だよな?」

和「…冗談ならどんなに良かった事か」

京太郎「えっ」

和「公にはなっていませんが、紛争地域に行って人質にされたりした事もありまして」

京太郎「えっ…えっ…」

和「結局、海上自衛隊の真田二佐に助けられたんですけど…何故かその後麻雀打って彼をズタボロに」

京太郎「…あの人って、G8首脳級の強さじゃなかったっけ?」

和「ええ…ですから勝ててはいません。負けてもいませんけど」

京太郎「…ひょっとして…プラマイ、ゼロ?」

和「プラマイ、ゼロですね」

京太郎「」
690 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/25(日) 17:09:38.44 ID:mtrWJBN/o

和「…もう止めましょう。咲さんに常識など通らないのです」

京太郎「…そだね」

和「須賀君。どうか今からでも咲さんのお世話を手伝って」

京太郎「うん、それ無理☆」キャピッ

和「茶化すなキモいんじゃ殺すぞ」

京太郎「すんません」

和「…私、咲さんとこれからも一緒にいられるんでしょうか?」

京太郎「いや、知らんし」

和「そこは何か気のきいた文句を下さいよ!」
691 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/25(日) 17:17:55.46 ID:mtrWJBN/o

京太郎「…それじゃあ、俺はそろそろ行くわ」

和「咲さんや優希達には会っていかないんですか?」

京太郎「何となく距離を置いてしまってたからな…今更改まって顔を合わせるのもな」

和「…野暮ですね」

京太郎「かもな。でも、湿っぽいのって好きじゃないしさ」

和「私なら良いんですか?」

京太郎「お前とはほら…どういう訳か軽口叩ける位にはなったし」

和「それって、昔は咲や優希の立場だったはずなんですけどね」

京太郎「諸行無常って言うじゃん。変わらないものなんて無いんだよ」
692 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/25(日) 17:39:50.26 ID:mtrWJBN/o

和「それは…そうかもしれませんが」

京太郎「まあ、そう拘るなよ。何かしらのきっかけで昔みたいに戻れる可能性もあるかもしれないしさ」

和「そうなれば良いんですけどね」

京太郎「…いつかまた会おうぜ。俺達が一緒に麻雀を楽しんでいた、この場所で」

和「…ええ」



咲嫁「で…どうだったよ。原村さんにちゃんと告白は出来たのか?」

京太郎「あー…無理だったわ」

咲嫁「ほれみろ、やっぱり無理だったじゃねえかよこのヘタレ」

京太郎「うるせえ」

咲嫁「やっぱりお前にゃ咲ちゃんしかいねえよ。今からでも遅くはないから、部室に戻って告白…」

京太郎「ねーよ」

咲嫁「勿体ねえなあ。俺がお前の立場なら、間違いなく告ってるだろうに」

京太郎「(…お前は何も知らねえからそんな事)」

咲嫁「ん、今何か言ったか?」

京太郎「気のせいだろ」
693 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/25(日) 17:57:28.93 ID:mtrWJBN/o

京太郎「…この校舎とも今日でお別れだ。どうせなら、何か記念に残していかないか?」

咲嫁「じゃあ黒板にお前と咲ちゃんの相合傘でも…」

京太郎「やめろ」

咲嫁「やっぱ駄目か…じゃあさ、今後の抱負でも書いてかねえか?」

京太郎「おお、それ良いな!」

咲嫁「京太郎、お前は確か…タコス屋をやるんだっけか?」

京太郎「ああ、そうだけど」

咲嫁「だったら日本一でも世界一でも、何でもいいからデカい目標書いとけよ!」

京太郎「目標ねえ…インハイの夢破れた男にゃ思いつかねえよ」

咲嫁「こういうのはノリだよノリ。なあに、その気が無くたって後からそうなる可能性はあるさ」

京太郎「…そういうものなんかね。じゃあ…」


『人気店の店主になって女の子にモテたいです』


京太郎「これで良いか?」

咲嫁「…女子だらけの部活にいて、結局浮いた話一つ無いお前がこんなの書いてもなあ」

京太郎「ああもう、何でもいいって言ったのお前じゃん!」
694 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/25(日) 18:29:59.22 ID:mtrWJBN/o


…そんなこんなで、京太郎と智紀の旅は間も無く始まる。


智紀「…真っ白ね」

京太郎「お嬢様が拵えたにしては、随分と地味な移動販売車ですね」

智紀「…店名のロゴ以外は、好きに弄って良いのかしら?」

京太郎「なんか怖いんで止して下さい」

智紀「…私なら、車体をもう少し暗めの色にしていたかしら」

京太郎「深緑色とかならアリかもしれませんね。その辺りは今後考えてみましょう」



京太郎「では透華お嬢様、ハギヨシさん、行って参ります」

ハギヨシ「お気をつけて」

透華「いいですか二人とも。目立ってなんぼ、目立ってなんぼの精神ですわよ!」

京太郎「…承知しております」

智紀「…それじゃあ出発するね。ではまた」ブルルン...


ブロロロロロロロ...


ハギヨシ「…行ってしまいましたね」

透華「ええ。上手くいくと良いのですけれど」
695 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/25(日) 18:32:43.11 ID:mtrWJBN/o
ここまで。
…誤爆で迷惑を掛けてしまいました。反省。
696 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/25(日) 19:58:01.82 ID:ixVIDCTW0
縺翫▽
697 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/25(日) 19:58:38.15 ID:HFBgVT1HO
乙乙

ええんや
698 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/25(日) 20:23:43.86 ID:WLStfUGHo
乙ー
あんま気にしん方がええで
699 :>>697、>>698 そう言って頂けると助かります [saga sage]:2013/08/26(月) 03:58:54.68 ID:WiR8+4VPo
>>694 訂正

×:智紀「…私なら、車体をもう少し暗めの色にしていたかしら」
○:智紀「後…私なら、車体をもう少し暗めの色にしていたかも」
700 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/08/26(月) 04:23:21.19 ID:WiR8+4VPo

智紀「…ところで、行き先はどこにするつもりなの?」

京太郎「あー…ぶっちゃけ決めてないんですよね」

智紀「…呆れた」

京太郎「いやまあ、前もって決めるにしてもノウハウが無いし計画立てても意味無いかなって」

智紀「…確かに貴方の言う通り、実践の伴わない推論は存外理に適わない事が多い」

智紀「でも、だからといって何も考えなくても良いという事にはならない…それを忘れないで」

京太郎「…肝に銘じます」

智紀「…それと、私は説教とか似合わないから寧ろ説教してくれる位のやる気勢で居てくれると助かる」

京太郎「貴女働く気あるんですか」

智紀「…貴方一人で片付く仕事なら全て押し付けたいんだけど、駄目?」

京太郎「駄目です」

智紀「…仕方ない。なら私の胸を揉ませて…」

京太郎「駄目なものは駄目です。もしお嬢様や貴方の父親にバレでもしたら、この旅は即終了なんで」

智紀「…聞いてない」

京太郎「言ってませんでしたからね」
701 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/08/26(月) 04:30:30.22 ID:WiR8+4VPo

智紀「…そう言えば、営業時間はどうするの?」

京太郎「取り敢えずは9時から18時までを想定しています」

智紀「…ちなみに、開店前や閉店後作業はどうなるの?」

京太郎「何であろうと、基本は二人体制ですね」

智紀「…朝早く起きれるだろうか」

京太郎「最悪俺が起こしに行きますからご心配なく」

智紀「…私、襲われたりするのかしら」

京太郎「哀しいかな、そんな余裕はありません」
702 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/08/26(月) 04:40:21.70 ID:WiR8+4VPo

智紀「まあもし貴方がその気なら…とっくの昔に清澄でどうにかなってるか」

京太郎「…ほっといて下さい。ダチにも同じ事を言われたんですから」

智紀「…だろうね」

京太郎「そんな事より、今はタコスですよタコス。タコスが売れなきゃ色々困るんですから」

智紀「…タコスって元は清澄の先鋒に買って、若しくは作ってあげてたものよね」

京太郎「ええまあそうですね。疎遠になってからはアイツに作ってやる事も無くなりましたが」

智紀「…何で疎遠になったの?」

京太郎「インハイが終わってから何となく…としか言い様が無いですね」

智紀「…そう」
703 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/08/26(月) 04:49:24.70 ID:WiR8+4VPo
ここまで。
704 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/26(月) 12:27:55.30 ID:Rb/zg4BH0
縺翫▽
705 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/08/27(火) 01:37:21.52 ID:HYYJvAqmo

京太郎「今の事情はさておき、俺が今こうしているのは優希がきっかけを作ってくれたからですね」

京太郎「アイツの頼みを聞いてあちこち行ってたからこそ、ハギヨシさん…師匠達にも出逢えた訳ですし」

京太郎「そう考えると、感謝してもしきれません」

智紀「…それ、片岡さんには伝えた?」

京太郎「…伝えて無かったですね」

智紀「…今度会ったら伝えた方がいい」

京太郎「…ですね」
706 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/08/27(火) 01:53:09.17 ID:HYYJvAqmo

京太郎「ところで俺達、今どこに向かってるんでしょうか?」

智紀「…東京。競争は激しいだろうけど、他の店の動向を見れば勉強になるし」

京太郎「確かにそうですね。と言っても、タコスの移動販売なんてそんなに無いでしょうけど」

智紀「…飲食業界は、決して一部門だけでパイを奪い合うわけじゃないから」

京太郎「色々区分し辛いですよね」

智紀「それに…移動販売だと、ファミレスとかのようにレパートリーが増やし辛いのが難点」

京太郎「ファミレスすごいですね」

智紀「…透華がファミレス推しだったから、尚の事大きな存在に思える」
707 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/08/27(火) 02:10:11.66 ID:HYYJvAqmo

京太郎「ファミレスと言えば、やっぱりドリンクバーでしょうか」

智紀「…それとお子様ランチ、かな?」

京太郎「ん?何故にお子様ランチなんです?」

智紀「…偶に衣が頼んでたから」

京太郎「ああ…」

智紀「…家族団欒を作りやすいのは、ファミレスの特権だろうか?」

京太郎「場所に拠るかもしれませんが、多分そうでしょうね」

智紀「…もし私達が大型免許を取れるなら、移動ファミレスなんてものを透華は考えていたかも」

京太郎「強ち無いとも言えないのが何とも」
708 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/08/27(火) 02:34:15.26 ID:HYYJvAqmo

智紀「…話している内に、インターの近くまで来たけどどうする?」

京太郎「折角なんで、少し休みましょうか」

智紀「…分かった」


京太郎「…」

智紀「…」ハムハム

京太郎(両手でホットドッグを黙々と食べる智紀さん…可愛いなあ)

京太郎(それに何と言うか上品な感じがするし、食べる姿が様になっている)

智紀「…京太郎君、私の顔に何かついてる?」

京太郎「い、いえ…」

智紀「…それに何故か顔を赤らめているし。もし体調を崩していたのなら、早く言ってほしかった」

京太郎「いや、そう言う訳ではなくてですね…」

智紀「…何?」

京太郎「兎に角、ホント何でもないですから!」

智紀「…それならいい」
709 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/08/27(火) 04:09:15.27 ID:HYYJvAqmo

京太郎(つーか今気付いたが、智紀さんいつもの眼鏡してないじゃん!)

京太郎(あの完璧に整った姫カットが、今日は一段と鮮やかに見える…イメチェンかな?)

京太郎(まあ…仕事じゃ眼鏡は掛けられないし、それに慣れようとしてるのかもしれないけど)

智紀「…京太郎君」

京太郎「は、はい!」

智紀「…あれ」ユビサシ

京太郎「あっちに何があるんです…え?」キョトン


『可愛すぎる美人姉妹が作る最高のたこ焼き!あなたも一つどうですか?』

『日本一…いいや世界一を通り越して宇宙一のたこ焼きがここにある』


京太郎「…何でしょう、アレ?」

智紀「さあ…見た所同業者のようだけれども」
710 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/08/27(火) 04:10:38.87 ID:HYYJvAqmo
ここまで。
711 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/27(火) 07:49:18.69 ID:+J0oifaQo

可愛すぎる美人姉妹…一体誰なんだ…
712 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/27(火) 09:26:36.50 ID:90BYOVGOo
713 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/27(火) 12:57:26.22 ID:3P07I/Jy0
縺翫▽
714 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/08/28(水) 03:30:34.96 ID:U7TvOPaOo

京太郎「それにしても、よく目立つのぼりですね」

智紀「営業する訳でもないのに…何故?」

京太郎「透華さんと同じタイプの人が営業してるんじゃないですかね」

智紀「…かもね」

京太郎「それにしてもたこ焼きかあ。量の割に割高なイメージがあるんですけど」

智紀「…近頃のは大き過ぎるものもあって、身が崩れやすい」

京太郎「それもありますね。ぶっちゃけあれだと、焼いている意味が無くなっちゃう気が」

智紀「柔いと食べ応えがないし…よく噛んで味わう事も出来ない」

京太郎「うーん…そう考えるとお好み焼きにした方が」


「その考え、聊か早計すぎるんとちゃうか…兄ちゃん?」

「せやせや。言うとる事はそう間違ってへんけどな」


京太郎「貴女達は…」

智紀「姫松の愛宕洋榎、それに愛宕絹恵…どうしてここに?」
715 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/08/28(水) 04:00:02.30 ID:U7TvOPaOo

洋榎「ん、確かアンタは龍門渕の…今は春休みやさかい、短期のアルバイトでたこ焼き屋をやる事になったんや」

絹恵「…ホンマはから揚げ屋の方が良かったんやけどな」

京太郎「なら、そっちで探してみても良かったのでは?」

絹恵「ファ○チキ、か○あげクン、モ○チキン、ケ○タッキー…要するに敵が多すぎたんや」

洋榎「第一、そいつらうち等の好物やさかいな」

京太郎「あー確かに上手いっすよね。個人的にはモ○チキンが一番好きですね」

洋榎「兄ちゃん気が合うなあ。アレのカリッとした食感はホンマたまらんわあ」

絹恵「…あれ、唐揚げやのうてフライドチキンなんやけどな」

洋榎「まあ、細かい事はええやんか。どっちも揚げ物なんは変わらへんし」

絹恵「せやね」
716 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/08/28(水) 04:33:02.12 ID:U7TvOPaOo

京太郎「…ところでお二人は、粉もんってお好きなんですかね?」

洋榎「そらそうよ。地元が地元やし」

絹恵「揚げ物と言うか、唐揚げの方が好みではあるんやけどね」

智紀「…京太郎君」

京太郎「どうしました?」

智紀「車のロゴを見たら、『揚げたこ焼き屋』って書いてあった…」

京太郎「!」

洋榎「せやで。うち等が売ろうとしとるんは普通のたこ焼きやあらへん」

絹恵「揚げたこ焼きなら、焼いてから暫く置いとかんでもカリッとした食感を楽しめるんや」

京太郎「なるほど…それならお二人の好みにも合いそうですね」

洋榎「柔いだけやと食べ応えがあらへんしなー」

絹恵「身が崩れて、中身の蛸だけ出てきてまうんは嫌やし」
717 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/08/28(水) 04:34:32.68 ID:U7TvOPaOo
全然進んでないけどここまで…いつもの事か。
718 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/28(水) 04:47:30.21 ID:OcFwPny6o
719 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/28(水) 05:11:02.98 ID:BLlCDX3s0
おつ
鳥唐翌揚げもいいけど、大豆の唐翌揚げもなかなか美味しい
720 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/08/28(水) 14:49:47.40 ID:U7TvOPaOo
>>716 訂正

×:絹恵「揚げたこ焼きなら、焼いてから暫く置いとかんでもカリッとした食感を楽しめるんや」
○:絹恵「揚げたこ焼きなら、たこ焼き器に暫く置いとかんでもカリッとした食感を楽しめるんや」

大豆の唐揚げがあるとは知りませんでした…一度酒の肴に食べてみたいですね。
721 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/08/29(木) 02:28:47.42 ID:Qe+T8NXjo

まさかの京太郎が阿知賀Pの隠しキャラと聞いて。正直、反応に困ってます。



京太郎「…え、俺に出番?」

久「そうよ。おめでとう須賀君」

優希「お前は出来る犬だと信じてたじぇ!」

京太郎「出来る犬って何だよ出来る犬って」

まこ「まあまあ。兎に角これでお前さんも、清澄の部員ではぶられてるとか言われずに済むんじゃな」

咲「ふふ…よかったね、京ちゃん」

京太郎「というかそもそも、何で俺が選ばれたのか全くさっぱり分からないんですが…」

和「真面目に(雑用)やってきたからですよ」

京太郎「…だとしても、向こうを見たら素直に喜べないんだが」

和「向こうに一体何があるんで…あ」
722 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/08/29(木) 03:06:15.84 ID:Qe+T8NXjo

ソフィア「…正直しんどいわー」

花子「ってかー、何で清澄のジャーマネなのか訳分かんねーっすわー」

玉子「全く…こんなことは有り得ないのである!許されないのである!」

史織「やぁぁん…なんでこうなるの〜〜」

景子(…2回戦突破とかは当然として、それとは別に悲願が生まれてしまった)


美幸「出番無しとかやだこれもー」

莉子「いけるよね…と思ったらいけませんでした」

梢「…只々遺憾です」

澄子「出番を待っていた方々、おつかれです…」

友香「ゲームに出て大活躍でー…みたいな事は無かったね」


南浦プロ「…数絵、気に病むなよ」

数絵「お爺様…私は気に病んでなどいません。私は所詮、全国に駒を進められなかった未熟者ですから仕方が無いのです」

数絵「そう、仕方が…っ!」

南浦プロ「我慢するな。泣きたいのなら胸くらい貸してやるから」

数絵「…うう…ひっぐ…お爺様ぁ……」

南浦プロ「…よしよし」



京太郎「…すげー気まずい」

久「須賀君…勝ち残るとはこういう事なのよ。私達だって多くの雀士を蹴落としてきたんだから」

京太郎「まさか蹴落とされた側の俺が、それを実感するだなんて思いませんでしたよ…」
723 :本編開始 [saga sage]:2013/08/29(木) 04:05:58.26 ID:Qe+T8NXjo

京太郎「一応聞きますけど、お二人はこれからどこへ行くんです?」

洋榎「そらもう東京に決まっとるわ」

絹恵「ホンマは地元での準備期間が欲しかったんやけどなー。お姉ちゃんが聞いてくれへんかったんや」

洋榎「地元でだらーっとしとったら、出て行く気力が失せてまうやろ?」

智紀「…確かに」

京太郎「遠出したって、客足が多くなる保障は何所にも無いですからね。人口の多さには期待出来ますけど」

洋榎「商売は人が多くてなんぼやさかい、そこを狙い目にせえへんのは勿体無いわ」
724 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/08/29(木) 04:18:46.36 ID:Qe+T8NXjo

絹恵「…もし大勢に素通りされたら凹むわあ」

洋榎「演技でも無い事言わんとき!」

絹恵「そうは言うけどお姉ちゃん、こののぼりは正直素通りしたくなるで」

洋榎「何言うとるんや絹、うち等が可愛いんはホンマの事やろ?」

絹恵「仮にそうやとしても…瑞原プロみたいな真似はしとうないんやで」

洋榎「ハハ、そんなアホな」

絹恵「…デビューしたての瑞原プロ、丁度今のお姉ちゃんみたいな事を…」

洋榎「しゃあない燃やしたるか」

絹恵「アンタ変わり身早過ぎやで!」
725 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/08/29(木) 04:29:44.98 ID:Qe+T8NXjo

京太郎「…どうしましょう。アレは止めないとマズイですよね」

智紀「何が?」

京太郎「何って…お姉さんの方が今まさにのぼりを燃やそうとしているじゃないですか!」

智紀「燃やしたいのなら好きにさせてあげればいい」

京太郎「万一どこかに飛び火したら、どうするんですか?」

智紀「一部始終を晒す準備は何時でも出来ている…問題は無い」

京太郎「問題大有りですよ、智紀さん!」
726 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/08/29(木) 04:30:10.38 ID:Qe+T8NXjo
一旦ここまで。
727 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/29(木) 04:31:59.69 ID:MyKeZaFXO
一旦乙
728 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/30(金) 00:38:37.65 ID:tG2n4wNR0
縺翫▽縺翫▽
729 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/08/30(金) 01:52:10.31 ID:nCyFWZlio
昨日阿知ポ買って来ましたが、面子はてるてる、美子、部長、透華、かじゅでした
正直、購入当時変えてもらって良いですかって言おうと思いました…美子は○○ば民の人以外誰が喜ぶのかと
…よくよく見たらなんか可愛かったんで良しとします
730 :投下開始 [saga sage]:2013/08/30(金) 02:17:01.50 ID:nCyFWZlio

京太郎「…ふう、危ない所だった」

智紀「何故火を消してしまったのか。その上ご丁寧にのぼりを縫いなおしたのか」

京太郎「何言ってんですかあんた」

智紀「炎上はネットの醍醐味…燃え広がる炎は美しいから」

京太郎「そんなはた迷惑な醍醐味いらないです」

智紀「ちっ」

京太郎「舌打ちせんでください。ほら、お礼に貰った揚げたこ焼きあげますから」

智紀「…それって洒落のつもり?」

京太郎「違います。つーか暫くコレ食って黙ってて下さい」グイッ

智紀「んむっ…ふごふご」

京太郎「美味しいっすか?」

智紀「…美味しい」

京太郎「それは良かった。それじゃあ東京に着くまで大人しくしていて下さいねー」

智紀「分かった」パクパクモグモグ

京太郎「…手元にあるおもちゃで妙な事したら、高速のど真ん中に叩き出しますよ」

智紀「妙な事って、何?」カタカタカタカタ...ッターン!

京太郎「だからさっきの件でスレを立てるなと」

智紀「ライバルは減るに越した事はない…それに、こっちを見てないで運転に集中しないと」カタカタカタ...

京太郎「出来るかっ!」

※ともきーの工作はハギヨシさんが阻止してくれました。
731 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/08/30(金) 02:31:31.85 ID:nCyFWZlio

京太郎「ふう…やっと東京に着いた」

智紀「やっとって、須賀君は一時間も運転してないよね?」

京太郎「誰のせいでやっとだなんて言う羽目になったと…」

智紀「突然火元を作るD○○な大阪人が悪い…もっと言えば>」

京太郎「それ以上いけない」

智紀「…まあ人間、ついカッとなって何をしでかすか分からない事ってあるよね」

京太郎「まあ、否定はしませんし出来ませんが」

智紀「正直、ウチの衣やそっちの宮永さんの打つ麻雀の方が理解に苦しむ」

京太郎「ああいうのは気にしたら負けってやつですよね、ええ」

智紀「…頑なに認めない人も稀によくいるけど」

京太郎「若しかしなくても和の事ですよね、分かります」
732 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/08/30(金) 02:41:02.01 ID:nCyFWZlio

智紀「取り敢えず、今日は申請だけ出して休もうか」

京太郎「そうですね。宿はもう長期で取ってるんでしたっけ?」

智紀「抜かりは無い。と言っても手配したのは透華だけど」

京太郎「透華さんが…となると宿泊先は龍門渕グループの系列ですか」

智紀「そういう事になる」

京太郎「だったらゆっくり寛げそうですね。あー良かった」

智紀「…果たして本当にそうだろうか?」

京太郎「やな予感しますからホント止めてくださいよ!」
733 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/08/30(金) 02:56:23.31 ID:nCyFWZlio



ハギヨシ「ようこそいらっしゃいました。楽しい楽しい職業訓練の時間でございます」

透華「ふふ、私も一緒でしてよ!」

智紀「うん、知ってた」

京太郎「智紀さんがあんな事口走るからですよもー!」

智紀「……」

京太郎「いや、そこで黙らないで下さいよ」

智紀「だって言うだけ野暮だし」

京太郎「うん、まあ、そうなんでしょうけれども」

透華「二人とも…無駄口を叩いておりますと、今日のディナーは無しに致しますわよ!」

智紀「汚い流石透華汚い」

京太郎(睡眠時間で無いだけまだ有情と思えるのは、身についた奴隷根性故なんだろうか)

ハギヨシ(…従者の心構えと言い換えれば宜しいかと)

京太郎(ハギヨシさん…何で直接脳内に)

ハギヨシ(あくまで、執事ですから)

京太郎(何でもそれ言っときゃ良いってもんじゃないですよ!)
734 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/08/30(金) 03:18:41.42 ID:nCyFWZlio

※指導の光景です


ジョインジョインハギィデデデデザタイムオブレトビューションバトーワンデッサイダデステニー
ナギッペシペシナギッペシペシハァーンナギッハァーンテンショーヒャクレツナギッオカクゴォ
ナギッナギッナギッフゥハァナギッゲキリュウニゲキリュウニミヲマカセドウカナギッオカクゴーハァーテンショウヒャクレツケン
ナギッハアアアアキィーンシツジオウギ ステキメッポウK.O. オイノチハナゲステルモノ
バトートゥーデッサイダデステニー セッカッコーハアアアアキィーン テーレッテーオワカレデス!コレガシンバツデス!ハァーン、FATAL K.O.
セメテイタミヲシラズニヤスラカニオイキナサイ ウィーンハギィ (パーフェクト)…


京太郎「…腕が動かねえ」

智紀「これではタイピングが出来ない…そうだ、舌を使って」

透華「はしたないからお止しなさい!」

ハギヨシ「仕方ありませんね…秘孔を突いて治して差し上げましょう」

京太郎「え、遠慮させて…  う  わ  ら  ば  」

ハギヨシ「ん?私とした事が間違えてしまいましたかな?」

透華「言ってないで早く治して差し上げて!」

智紀(おお…もう…どうやら仕事後にPCを嗜む時間は期待出来ないらしい)
735 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/08/30(金) 03:25:35.05 ID:nCyFWZlio
>>734

×:智紀(おお…もう…どうやら仕事後にPCを嗜む時間は期待出来ないらしい)
○:智紀(おお、もう…仕事後にPCを嗜む時間は期待出来ないらしい)

ここまで。とりまロンする透華とともきーを見て来ます。
…京太郎のロンは嫌と言うほど見る事になるらしいっすね。
736 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/30(金) 03:26:25.66 ID:QM5z/8/FO
乙ー
737 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/30(金) 06:46:36.44 ID:JgixWHXb0
738 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/08/31(土) 04:37:49.92 ID:QZJLBHOZo
投下開始。
739 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/08/31(土) 05:02:12.27 ID:QZJLBHOZo

「(…あ、あれって例の…)」

「(ああ間違いない、龍門渕本家でバイトをしていた須賀京太郎だ)」

「(あの噂って本当なんでしょうか?)」

「(ハハハ、そんな事ある訳…ないよな?)」

「(訊き返さないで下さいよ!)」

「(いやだってさ、幾ら本家が滅茶苦茶な話に事欠かないからって流石にSF展開は…)」

「(でもでも!俺達確かに見たんです、須賀の奴が白糸台に出入りしてたのを!)」

「(松庵女学院でも目撃例があるんです…白糸台に出入りしてたのと同じ時間帯に)」

「(おいおいまさか、ドッペルゲンガーとかクローン人間とか言う与太話を本気で信じてるのかよお前ら)」

「(まだそんな事言って…あ)」ガタブル

「(いきなりどうしたってんだ…え)」アングリ


「淡…俺はお前のお守りじゃないんだぞ」

「ぶー、こんなに可愛い女の子を捕まえて何言ってんのさ」

「百歩譲って可愛いのは肯定しよう。でもさ、お前はなんつーかお子様過ぎて意識出来ない」

「なんだとー!」

「そうやってすぐムキになるから駄目なんだよお前は。もう少し余裕を持とうぜ」

「余裕ならいつだって持ってるもん…だって私は、高校100年生なんだよ!」

「100年ねえ…そこまで生きていても、きっとお前は今のまんまなんだろうなー」

「なにさ、バカにして!」

「バカにしてなんかないさ…お前にはそのままでいて欲しいって事だよ」

「…バカはアンタじゃないのさ」


「(え?ん?兄弟か何か?)」

「(め、目を逸らしてはならない)」

「(量産型京太郎…完成していたのか。な、なら次は量産型ハギヨシさんが)」

「(怖いからやめーや)」
740 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/08/31(土) 05:12:48.33 ID:QZJLBHOZo

京太郎「智紀さん智紀さん」

智紀「なんだい京太郎君」

京太郎「なんかよく分かんないですけど、俺のそっくりさんが日本のあちこちにいるという噂を聞いたんですが」

智紀「よくある事だし気にしない」

京太郎「俺、長野の外に出た事なんてそんなにないんですけど…何ででしょう?」

智紀「貴方はあの神出鬼没なハギヨシさんの弟子なんだから、その程度の噂が立てられても別に不思議はない」

京太郎「それだー!まあハギヨシさんに絡んだ噂なら、どんな尾ひれがついてもおかしくはないっすね」

智紀「その通り」

京太郎「ありがとうございます智紀さん。これで悩みの種が一つなくなりました」

智紀「そう…良かった」

京太郎「それじゃあ明日も早いんで失礼します。それじゃあまた明日」

智紀「ええ、また明日」



智紀「目撃例は尚も増え続けていて画像も動画も沢山あるんだけども…知らぬが仏か」
741 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/08/31(土) 05:13:42.92 ID:QZJLBHOZo
ここまで。
742 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/31(土) 11:00:19.82 ID:LcVAT8gyo
乙乙
743 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/31(土) 11:33:16.37 ID:AWXI39PG0
縺翫▽
744 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/09/01(日) 00:49:12.61 ID:0pdktGIco
投下。
745 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/09/01(日) 01:52:22.41 ID:jsggSupm0
寝落ち?
746 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/09/01(日) 02:35:07.90 ID:0pdktGIco

カタカタカタ...


【大きいのか】偽乳雀士について語ろう【小さいのか】

1 名前:名無しさん@ドラがいっぱい 投稿日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
 とりあえず宮永プロ(姉)は鉄板だな

2 名前:名無しさん@ドラがいっぱい 投稿日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
 初っ端から偽乳でもなんでもない件について

3 名前:名無しさん@ドラがいっぱい 投稿日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
 何故魔物と呼ばれる雀士は大体が貧乳なのだろうか

4 名前:名無しさん@ドラがいっぱい 投稿日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
 お、大星プロは貧乳じゃないから

5 名前:名無しさん@ドラがいっぱい 投稿日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
 グラビアで見た感じじゃCくらいはあったね…本物なら

6 名前:名無しさん@ドラがいっぱい 投稿日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
 剥いて確かめようぜ

7 名前:名無しさん@ドラがいっぱい 投稿日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
 もう何度か服を剥いでやったけど、確かにCくらいはあるよアイツ
 揉んだ甲斐があったぜ

8 名前:名無しさん@ドラがいっぱい 投稿日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
 えっ

9 名前:名無しさん@ドラがいっぱい 投稿日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
 画像はよ

10 名前:名無しさん@ドラがいっぱい 投稿日:20XX/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:???
 そもそも誰だよてめーは
 いきなり現れて好き勝手言ってんじゃねーぞ


カタカタカタ...


智紀「…こっちのと鉢合わせなくて良かった」
747 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/09/01(日) 02:57:09.74 ID:0pdktGIco

翌日。

「智紀さーん、朝ですよー」

「ああ…不破理事長のいきり立ったリーチ棒がバードの顔をあられもないものに」

「変な夢見てないで起きなさいっ!」

そう言うと京太郎は、智紀から布団を思い切り引き剥がす。

「ふぇっ!?」

叩き起こされた智紀の服装は、昨日のままだった。

どうやら彼女は、ネットにかまけていたまま眠りについていたらしい。

「…全く、今日は営業初日なんですからシャキっとしてくださいよ」

「京太郎君…寝ている乙女の部屋に入ってその言い草は」

「ネットに夢中で風呂も着替えも忘れる人に言われても…ねえ?」

「うっ」

智紀は1年も経たずしてアーヘンを卒業したが、私生活の方は色々疎かになっていた。

…彼女の両親や透華達が予想していた通りである。
748 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/09/01(日) 03:23:03.26 ID:0pdktGIco





智紀「うう、まだ眠い」

京太郎「昨日は何時くまでPCで遊んでたんですか?」

智紀「…深夜2時」

京太郎「4時間くらいしか寝てないじゃないですか…まったくもう」

智紀「でもね、別に遊んでばかりいた訳じゃない」

京太郎「と言いますと?」

智紀「ライバル店の動向を調べ直したりなどしていた…敵は昨日の愛宕姉妹だけではないから」

京太郎「なるほど…で、何かめぼしい情報はありましたか?」

智紀「…昨日愛宕姉妹に接触した事が何所からか漏れたらしく、ネットじゃいつの間にか対決の様相が出来てたりした」

京太郎「…一体誰がそんな真似を」

智紀「愛宕洋榎が、宣伝用のブログとかで事の一部始終を公表していたのが事の発端」

京太郎「ああ…騒ぎを起こすの好きそうでしたからねーあの人」

智紀「兎も角、あちらよりも多く商品を売り上げれば今後のアドバンテージにはなりそう」

京太郎「ですね。ここは受けて立つしか無さそうです」
749 :阿知賀Pをプレイしながらの投下は無茶でした [saga sage]:2013/09/01(日) 03:26:03.98 ID:0pdktGIco
ここまで。
750 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/09/01(日) 07:22:17.92 ID:WvMVJjXo0
縺翫▽
751 :昨日の吉野では良い事も悪い事もありました…クロチャーSPしおりorz [sage saga]:2013/09/02(月) 08:56:20.79 ID:rMBi4aWoo
暫くしたら投下開始
752 :http://page9.auctions.yahoo.co.jp/jp/auction/k169078693 (゚Д゚ ) [sage saga]:2013/09/02(月) 21:28:49.79 ID:rMBi4aWoo

「智紀さん…これ」

「私は知らない」

2人は目の前の光景に愕然としていた。

今日の出店場所であるイベント会場に、何故か龍門渕グループのモニュメントがそびえ立っていたからだ。

2人はそんな話を聞いてもいないし見てもいない。

「…お姉ちゃん」

「え…このイベントってモンブチは関わってへんはずやんな?」

当然、愛宕姉妹もこの件については何も知らなかった。
753 :以下、新鯖からお送りいたします [sage saga]:2013/09/02(月) 21:44:10.62 ID:rMBi4aWoo

洋榎「ちょっと!自分ら何しとんねん!」

京太郎「いや、俺らも聞かされてませんから」

洋榎「そんな事あらへんやろー。ははあ、さてはお嬢さんに頼み込んで」

智紀「頼んでない。むしろ迷惑してる」

京太郎「確かに目だってなんぼとは言われましたけど…ねぇ?」

絹恵「…2人とも、ウソはついてへんみたいやで」

洋榎「…みたいやね」




京太郎「これって、一体どういう事なんですかねハギヨシさん?」

ハギヨシ「おや、気付かれていましたか」

京太郎「そりゃまあ貴方の薫陶を受けましたし…ってそうじゃないでしょ!なんなんすかこれ!」

ハギヨシ「私はただ、お嬢様から命じられた通りに働いたまでです」

京太郎「あの方から何か?」

ハギヨシ「『勝負でイベントを盛り立てて一番に目立ちなさい!』との事です」

京太郎(めんどくさい…!!!)
754 :以下、新鯖からお送りいたします [sage saga]:2013/09/02(月) 21:59:50.79 ID:rMBi4aWoo

洋榎「それにしても、よー出来とるなあこれ」

ハギヨシ「お褒めに預かり恐悦至極」

絹恵「昨日下見に行った時には、こんな物なかったですよね?」

ハギヨシ「僭越ながら、私が一晩で用意させて頂きました」

絹恵「…は、はあ」

京太郎「すみません…この人ホントに何でも出来ちゃう人ですから」

ハギヨシ「何でもは出来ませんよ。出来ることだけ」

京太郎「ハギヨシさん、それ違う人のもじりっす」

ハギヨシ「御無礼。私、金髪巨乳が好みなものですから」

京太郎「それもなんか色々合ってて色々間違ってますよ!」
755 :以下、新鯖からお送りいたします [sage saga]:2013/09/02(月) 22:14:31.47 ID:rMBi4aWoo

智紀「…京太郎君、そろそろ時間」

京太郎「あ、ホントだ」

智紀「準備は大体済ませてあるから、急いで」

京太郎「おお…ありがとうございます。ハギヨシさん、話はまた後で」

ハギヨシ「ええ、また」

京太郎「それと、お嬢様にはこういうのを止めるように…」

ハギヨシ「恐縮ですが、言っても無駄でしょう。ぬかに釘というものです」

京太郎「あ、ですよね…洋榎さんに絹恵さん、ホントすみません」

洋榎「まーしゃあなしやからええよ。そっちが特別有利になる訳でもないみたいやし」

絹恵「せやせや、お互い売れるように頑張ろか」

京太郎「…勝つのはこっちですよ?」

洋榎「どないかな?」
756 :以下、新鯖からお送りいたします [sage saga]:2013/09/02(月) 22:48:51.03 ID:rMBi4aWoo

以下、ダイジェスト。


「シャッキリポンと、舌の上で踊るわ!柔らかでやさしい味!」

「甘ァァい!!! 身体中がとろけるように甘ァァァい!!!」

「もう息も出来ない!! 重力にさえ逆らえない!! まさしく奇跡!!」

「うおォン、俺はまるで人間火力発電所だ」

「…!! このような食べ物が人間の手で作れるのか!!」

「ドカうまーッ!!」


京太郎「ありがとうございました…!いいバトルでした…!」

洋榎「せやな!楽しかったで!」

智紀「…結局、勝負ってどうなったの?」

絹恵「まあ…細かい事はどうでもええんやない?」
757 :以下、新鯖からお送りいたします [sage saga]:2013/09/02(月) 23:08:11.13 ID:rMBi4aWoo

京太郎「勝負事でこんなに楽しかったのは久しぶりですね。御二人に会えて良かったです」

洋榎「…そういや自分、清澄高校の人間やったな」

絹恵「確か県予選じゃ個人戦で4位。それも、例のバケモン3人相手に最後まで追い縋ったんか」

京太郎「…ええ、それは確かに俺です。それが何か?」

洋榎「こんなん言うんはアレやけどな、麻雀はどないするんや?」

京太郎「…分かりません」

洋榎「…さよか。ほな行くで、絹」

絹恵「え、待ってやお姉ちゃん…しっ、失礼します!」
758 :以下、新鯖からお送りいたします [sage saga]:2013/09/02(月) 23:15:38.73 ID:rMBi4aWoo

京太郎「…」

智紀「…京太郎君」

京太郎「ご心配なく。それに、今すぐどうにかなるもんじゃないですし」

智紀「でも…」

京太郎「清澄での3年間は…もう、終わってしまったことですから。考えるべきは、これから先についてです」

京太郎「…智紀さんが良いなら、手助けしていただきたいんですけれども」

智紀「もとよりそのつもり。私が貴方に付いて来たのは、その為でもあるから」

京太郎「…そうですか」
759 :以下、新鯖からお送りいたします [sage saga]:2013/09/02(月) 23:16:10.75 ID:rMBi4aWoo
ここまで。
760 :以下、新鯖からお送りいたします [sage]:2013/09/02(月) 23:20:38.54 ID:SPCpTCt2o
乙です
761 :以下、新鯖からお送りいたします [sage]:2013/09/02(月) 23:21:26.66 ID:d8a8+dWpO
乙ー
762 :以下、新鯖からお送りいたします [sage]:2013/09/02(月) 23:23:57.20 ID:Cyqdpfui0
おつ
この執事は犬臭い気がする
763 :あ、連続更新途絶えてる…ウチの数少ないステータスが [sage saga]:2013/09/04(水) 17:45:30.14 ID:SV5K56epo
暫くしたら投下開始。
764 :以下、新鯖からお送りいたします [sage saga]:2013/09/05(木) 00:06:10.45 ID:w2dwNqj5o

『御無礼、ロンです』

なんだよこれ。

『きたぜ、ぬるりと……』

だからなんだってんだよこれは。

『ふぁー…(つまんねえ…早く終わらねえかな)』

こっちは必死こいて打ってんのに…歯牙にもかけやしねえ。

――俺の2年間は、一体なんだったんだ。



『沈まなかっただけですね…満足しましたか?』

…満足、しちまいましたよ。

『……』

…対局、ありがとうございました。
765 :以下、新鯖からお送りいたします [saga sage]:2013/09/05(木) 01:05:40.70 ID:w2dwNqj5o

――俺が今こうしているのは、結局の所麻雀から逃げたかった結果でもあるだろう。

事実、あの3人と打ってから俺は一度も牌に触れていない。

当然ネット麻雀もしていないし、対局の観戦だってしていない。

…あの日までは、麻雀の事を考えない時など片時も無かったと言うのに。

自分にやれる事は全てやった。

すれ違いから咲達と半ば袂を分かつ形になって、随分遠回りをする羽目にはなったが…相応の成果は出したはずだ。

役さえ知らなかったただのド素人が、全国屈指の打ち手と評される事になったのだから。

けれど、それが俺にとって幸福だったかどうかは何とも言えない。

舞い上がってしまった結果焼き鳥にされたし、かといっていっぱしの打ち手として認められた事は嬉しかったから。
766 :以下、新鯖からお送りいたします [saga sage]:2013/09/05(木) 01:14:37.98 ID:w2dwNqj5o

…結局、俺はどうしたいんだろう。いや、どうしたかったんだろうか。

ハギヨシさんとの縁から、龍門渕で麻雀を含め色々な事を指導しては貰ったけれど。

龍門渕への転入も勧められたけれど、俺は清澄を離れなかった。

それが何故かははっきりしなかった。

思い当たる節は多々あったけれど、今なお確信には至れぬまま。

勝ちたいから、強くなりたい。

そういう気持ちで、俺は雑用するのを止めてひたすら麻雀に打ち込んでいたのだが。
767 :以下、新鯖からお送りいたします [saga sage]:2013/09/05(木) 01:33:02.67 ID:w2dwNqj5o

きっと俺は、置いていかれたくなかったのだ。

皆がどんどん強い打ち手になっていく中、俺は雑用として麻雀部に埋没する。

弱いまま…勝てないままの麻雀を打ち続ける事になる。

それがたまらなく嫌だった。

部活動を通して、皆の打ち筋を間近で見て来たのだから尚更だ。

自分もあんな風に麻雀を打てたら。

思うままに牌を動かせて、見る者全てを魅了する打ち方が出来ればどんなに面白いだろうか。

そう思って、必死になってその方法を探した。

皆の所に追いついて、対等な立場で麻雀を打てる日が来ると信じてやってきた。

…結果、あの場所で皆と麻雀を打てなくなってしまったけど。
768 :以下、新鯖からお送りいたします [saga sage]:2013/09/05(木) 01:45:43.27 ID:w2dwNqj5o

ふと人鬼達との事を思い出してみると、やっぱり麻雀に未練タラタラだった。

きっとこの未練がなくなる事は有り得ないだろう。麻雀って、楽しいから。

何れまた、再び牌に触れる日が来るだろう。麻雀で、夢を見たくなる日が来るだろう。

けれど、それが何時かは分からない。ひょっとしたら、そんな日は来ないのかもしれない。

自分の望みは、決して麻雀だけではないのだから。

…そんな当たり前の事を忘れなければ、俺は今でも麻雀を楽しめていたのだろうか。
769 :以下、新鯖からお送りいたします [saga sage]:2013/09/05(木) 01:58:07.84 ID:w2dwNqj5o



智紀「…どうしたの、ぼーっとして」

京太郎「ええ、過去に思いを馳せていました」

智紀「何故?」

京太郎「つまらない理由で、大切なものを無碍にしてしまった事…その後悔でしょうか」

智紀「後悔、か」

京太郎「…何とも未練がましい話ですよね」

智紀「気にしないで。まあ、後悔よりは反省の方が望ましいけれど」
770 :以下、新鯖からお送りいたします [saga sage]:2013/09/05(木) 01:59:06.43 ID:w2dwNqj5o
ここまで。
771 :以下、新鯖からお送りいたします [sage]:2013/09/05(木) 02:00:45.44 ID:sdUa5zX9o
乙です
772 :以下、新鯖からお送りいたします [sage]:2013/09/05(木) 03:57:00.16 ID:+jTZUWCb0
縺翫▽
773 :以下、新鯖からお送りいたします [sage]:2013/09/05(木) 20:33:08.42 ID:xBL+HneHo
乙ー
774 :以下、新鯖からお送りいたします [sage saga]:2013/09/06(金) 13:19:52.50 ID:ln2CPWC8o

智紀「…」パクパク

京太郎「智紀さん、味はどうですか?」

智紀「…」パクパクモグモグ

京太郎「…智紀さん?」

智紀「ふぐ?」ムーシャムーシャ

京太郎「あのー…一応試食なんで味の感想を言ってもらっても……」

智紀「いつも通り、美味しい」ガツガツ

京太郎「えと…もっと具体的に」

智紀「抹茶小豆に黒蜜とアイスが上手い具合に合わさってるのがいい」ガリガリ

智紀「抹茶の苦さと黒蜜の甘さが上手く中和されて丁度よくなってるから、凄く食べやすい」ガガガガガガ

京太郎「それは良かった」
775 :以下、新鯖からお送りいたします [sage saga]:2013/09/06(金) 13:30:19.57 ID:ln2CPWC8o

智紀「ただ、一つ問題がある」ゴチソウサマ

京太郎「何でしょう?」

智紀「…正直、タコスは見飽きてしまった…食べ飽きはしてないのだけれど」パクパク

京太郎「あー…」

智紀「今年に入って少ししてからタコス屋の業務を始めて、タコスを食べない日は無かった」バリバリバリバリ

智紀「無論それは京太郎君、貴方にも言える事だけど」モグモグ

京太郎「まあ…仕方ないですよね」

智紀「うん」ムシャムシャ

京太郎「えーと…話しながらタコス食うの止めてくれませんかね」

智紀「ん、それ無理」フゴフゴ
776 :以下、新鯖からお送りいたします [sage saga]:2013/09/06(金) 13:42:37.30 ID:ln2CPWC8o

京太郎「…取り敢えず、今度の休みに食べ歩きとかにでも行きましょうか」

智紀「ん」ンムンム

京太郎「後、いい加減食うの止めないと喉に詰まりますよ」

智紀「だいじょぶだいじょぶ…んぐ!」ゴクッ

京太郎「ああ、言わんこっちゃない!」

智紀「むぐぐ…ぐ、ぐるぢぃ……」

京太郎「こうなったら仕方ない…邪ッチェリアアアァッ!」

智紀「がっ……かはっ、げほげほっ!」

京太郎「ふぅ…大丈夫ですか、智紀さん?」シレッ

智紀「…あ、ありがと…大丈夫かどうかは別として」
777 :以下、新鯖からお送りいたします [sage saga]:2013/09/06(金) 13:43:08.03 ID:ln2CPWC8o
ここまで。
778 :以下、新鯖からお送りいたします [sage]:2013/09/06(金) 16:07:57.82 ID:iYu6gedWo
乙です
779 :以下、新鯖からお送りいたします [sage saga]:2013/09/07(土) 23:03:46.18 ID:EJ9Ff3TXo
暫くしたら投下開始。
780 :以下、新鯖からお送りいたします [saga sage]:2013/09/08(日) 00:02:32.96 ID:7cpD0bG1o

京太郎「…」カタカタ...

智紀「…」カタカタカタ...

京太郎「…智紀さん、敵がそちらに移動しました」カタカタ...

智紀「ん、了解」カタカタカタカタ...

京太郎「これで向こうはこちらの罠に嵌ってくれましたね。我が艦隊の勝利です」カタカタ...

智紀「うむうむ」カタカタカタカタカタ...
781 :以下、新鯖からお送りいたします [saga sage]:2013/09/08(日) 00:14:42.20 ID:7cpD0bG1o

智紀「最近はプレイヤーの技量が落ちてる…悲しい」

京太郎「皆レベルを上げて物理で殴る状態ですから仕方ないかと」

智紀「私が脱ニートをしている間に、有力プレイヤーは悉く引退してしまっていたのが痛い」

京太郎「けど殆どは俺が智紀さんに誘われた時はまだ現役でしたよね?」

智紀「…そう言えば。去年の県大会後くらいまでは誰も引退なんてしてなかった」

京太郎「ですよねー。アホみたいに強い面子ばかりでしたから、てっきりサービス終了までやり込み続けるものかと」

智紀「透華達が来なければ、きっと私もその中に入っていた。このゲームは、当時の私にとって人生そのものだったから」

京太郎「人生…ですか。俺もこの一年足らずでのめり込んでいるし、お気持ちは良く分かりますけれども」
782 :以下、新鯖からお送りいたします [saga sage]:2013/09/08(日) 00:27:20.60 ID:7cpD0bG1o

智紀「貴方と私では、その辺りが正反対ね」

京太郎「ええ、俺は麻雀よりこのRTSに…そして貴女はRTSより麻雀に没頭するようになった人間ですからね」

智紀「麻雀に、と言うよりは透華達との時間を大事にしていたと言い換えた方がいいかも」

京太郎「確かに。皆さん家族のように親しくしてますしね」

智紀「…姉妹ではなくて?」

京太郎「えーとですね…どうも俺には、純さんがお父さんで透華さんはお母さんみたいに思えてしまいまして」

智紀「私達は?」

京太郎「とりあえず衣さんが末っ子で、上に智紀さん達3人がいるという認識です」

智紀「…衣が聞いたら何と言うか」
783 :以下、新鯖からお送りいたします [saga sage]:2013/09/08(日) 00:34:07.86 ID:7cpD0bG1o

京太郎「RTSに話を戻しますけど、何であの廃人ならぬ廃神達は皆いなくなってしまったんでしょうか?」

智紀「…あ」

京太郎「どうかしました?」

智紀「私達が一緒にプレイするようになってから、敗北した記憶も記録もない」

京太郎「…ホントだ」

智紀「正直、運に助けられた面も多いのだけれど…京太郎君、麻雀でもこの運があれば」

京太郎「余 計 な お 世 話 で す」
784 :以下、新鯖からお送りいたします [saga sage]:2013/09/08(日) 00:45:07.23 ID:7cpD0bG1o

智紀「ぶっちゃけた話、貴方は麻雀以外の事なら大概の事が上手くこなせている印象がある」

京太郎「そうでしょうか…だとしたらそれは、ハギヨシさんに指導してもらったからでしょうね」

智紀「それにしたって、雑用スキルが高すぎるような気がするけど」

京太郎「実際、こき使われてましたからね」

智紀「…貴方を知って最初に驚いたのは、マネージャーではなく部員だった事」

京太郎「他校の人には大体そう言われましたね。懐かしい」

智紀「家畜人京太郎とも評されたその扱いは、半ば都市伝説と化している」

京太郎「もしそうなら裸足で逃げ出してますよ俺」
785 :以下、新鯖からお送りいたします [saga sage]:2013/09/08(日) 01:00:37.02 ID:7cpD0bG1o

智紀「そもそも、何で麻雀始めたの?」

京太郎「あちゃー…それ聞いちゃいますかー」

智紀「だって不思議で仕方ないし」

京太郎「…よく覚えてません」

智紀「本当に?」

京太郎「入部したいきさつくらいは覚えてますけど、生憎何を考えてそうしたかまでは……」

京太郎「ですが、何かしらピーンとくるものを感じたのは覚えているんです」

智紀「なるほど、自分の直感を信じた結果か」

京太郎「RTSならその直感が当たるんですけどね…何故か麻雀だけは」

智紀「牌に愛される人もいれば、牌に愛されない人だっている」

京太郎「…愛されたかったですねえ」
786 :以下、新鯖からお送りいたします [saga sage]:2013/09/08(日) 01:01:04.90 ID:7cpD0bG1o
ここまで。
787 :以下、新鯖からお送りいたします [sage]:2013/09/08(日) 01:01:55.82 ID:eGqqXuiFO
愛されてぇ……
788 :以下、新鯖からお送りいたします [sage]:2013/09/08(日) 01:06:00.46 ID:T2jt5OWmo
乙です
789 :以下、新鯖からお送りいたします [sage]:2013/09/08(日) 02:52:53.18 ID:lBl2I9CC0

家畜人…洗脳されてM奴隷扱いとか清澄怖い
790 :以下、新鯖からお送りいたします [saga sage]:2013/09/12(木) 05:44:59.85 ID:X4UkEoNPo

思えば、俺の想い人は皆つれない奴らばかりだった。

「咲さん、一緒に服を買いに出かけましょうよ!」

和は咲にぞっこんだったし、

「カン、もいっこカン…もいっこカン!ツモ!」

牌はいつも咲のような打ち手ばかり贔屓していた。

捨てなきゃ聴牌、捨てなきゃ和了りなんてのは良くある事で…俺の打ち方は悉く裏目に出てしまう事が多かった。

和に憧れてどんな時でもブレない打ち方を目指したのだけど、それは無理だった。

何故ならアイツもまた、牌に愛されていた者だから。

そして俺こと須賀京太郎は、牌に疎まれていたし弄ばれていたから。
791 :以下、新鯖からお送りいたします [saga sage]:2013/09/12(木) 05:59:41.78 ID:X4UkEoNPo

インハイから凡そ2年弱、皆のいる所を目指して精一杯やってきたと言う自負はある。

麻雀の参考書や強い打ち手の対局だって沢山見た。

それは間違いなく俺の糧になったはずだ。でなければ県大会の決勝なんか来れなかった。

―――けれどここぞという時に勝てない。

牌の事がわからない。幾ら考えてもわからない。

確かなのは、打つ度に和了りからは遠ざかっているという事だけ。



ホント、むしゃくしゃしてしょうがなかった。
792 :以下、新鯖からお送りいたします [saga sage]:2013/09/12(木) 06:09:43.76 ID:X4UkEoNPo

それでも俺は諦めずに麻雀を続けた。

「ロン!」

勝ちたくて、

「ロン!」

もう、自分じゃどうしたって抑えきれないくらい勝ちたくて、

「ロン!」

牌が自分の気持ちに応えてくれるような打ち方を、俺もしてみたいなって思って打ってきたのに、

「あはは…役満自摸っちゃったよ。これって俺の勝ちで良いんだよね?」

麻雀をつい先日知ったばかりのダチにさえもトバされてしまうくらい、俺は弱かったんだ。
793 :以下、新鯖からお送りいたします [saga sage]:2013/09/12(木) 06:22:53.26 ID:X4UkEoNPo

運が無かったと言えばそれまでかもしれない。

けれど、麻雀を知れば知るほどに自分が勝利から遠ざかるのはあまりにも辛すぎた。

自分が麻雀に打ち込んできた時間は結局徒労でしかないのだとは、信じたくなかった。

『麻雀って楽しいよね!』

そんな風に言える日が自分にもやってくると、そう…思っていた。

そうはならなかったのだけれど。
794 :以下、新鯖からお送りいたします [saga sage]:2013/09/12(木) 06:23:21.36 ID:X4UkEoNPo
ここまで。
795 :以下、新鯖からお送りいたします [sage]:2013/09/12(木) 07:42:06.00 ID:/1bCfhi+o
796 :以下、新鯖からお送りいたします [sage]:2013/09/12(木) 08:40:13.03 ID:pxhtE8Yyo
乙です
797 :以下、新鯖からお送りいたします [sage saga]:2013/09/18(水) 14:42:32.23 ID:dZnNwkp0o

…また彼は、物思いにふけっているのか。

何を考えているのかは想像がつく。大方、麻雀を打っていた頃の事を思い出しているのだろう。

打ちたければ打てばいいのに。

ネット麻雀だってあるし、私や他の皆が相手をしてもいいのだから。

「…はあ」

ため息なんてつかないで欲しい。こっちまで気が滅入ってしまう。

普段の彼なら、これ見よがしにため息をついたりなんてしないだろうに。

…トラウマは払拭出来ていないという事か。

例の三人は天才ならぬ天災だった。世界中の名だたる打ち手は、その悉くがトバされてしまった。

阿佐田ならまだいい。彼は人の心を折るような麻雀をあまり打たなかった。

問題は後の二人だ。彼らを相手にした者は皆、二度と牌を持てなくなってしまったのだから。

それどころか、命を落としてしまった者さえいる。
798 :以下、新鯖からお送りいたします [sage saga]:2013/09/18(水) 15:09:37.97 ID:dZnNwkp0o

そんな三人も、卒業と共に忽然と姿を消してしまった。

行き先は誰一人として知る由も無い。そもそも、彼らについての一切が分からないのだから。

…ただ、そんな彼らでも京太郎君の心を折る事は出来なかったと私は思う。

ふてくされてはいるけれど。

彼の未練は、一体どこにあるのだろうか。

気にはなるが、正直面倒臭いので触れない。本人は深刻ぶっているが、どうせ大した事じゃない。

彼は自分を押し殺すのが苦手な方だ。今だって、私の胸を時々チラチラと見ているんだから。

断言はしかねるが、本当に心が折れた人間なら露骨にそんな事は出来ない。

RTSでトップランカーにヒャッハーして、悪党のような高笑いなんて出来るはずはない。


         l/ 'l: ./: : l ̄〈        、 ノィ: . : : : ム: : : : /
          ′ !:/: : : !  、,.==ニ二}  /: :/:/⌒} : : l
              l': :|: : ハ  ヽ:/     ノ  //:/ __彡': : :! l
          j: :ハ: :l: :ヽ   {   /  /´ ̄ __//: : : : : トl
          /'´ ハ:l/ l\ `ニ´        /:/ : : : トl   _,,.. -‐
            l:ハ!.  l:,l ヘ __   ニ´___/´l: : : :トl-‐ '´: : : :
           ノ′` .ノ''l: fニニニl「 ̄:ハ ̄ ̄!: /: : : : : /

799 :以下、新鯖からお送りいたします [sage saga]:2013/09/18(水) 15:26:45.80 ID:dZnNwkp0o

これは猶予期間だ。

彼がふてくされるのを止めて、クソ真面目に人生をやり直す為の時間で。

過去にケジメをつけて、もう一度前を向いて歩き出す為の時間だ。

…正直な話、私にだってやりたい事がある。やるべき事がある。

こんな事に付き合っている暇なんてないだろう。単なる酔狂でしかないかもしれない。

だがどういう訳か、私は彼を放っておけないのだ。

どういう感情かは知らない。

ただ、彼を見ていると時たま子犬のように可愛がりたくなるのは確かだ。

彼が誰かに尽くす姿は、間違いなく私の何かをくすぐっている。
800 :以下、新鯖からお送りいたします [sage saga]:2013/09/18(水) 15:27:13.07 ID:dZnNwkp0o
ここまで
801 :以下、新鯖からお送りいたします [sage]:2013/09/18(水) 18:05:02.57 ID:6UFsKv3j0
縺翫▽
802 : ◆K7lrCuW9CD5k [sage saga]:2013/09/18(水) 18:42:32.65 ID:dZnNwkp0o
某所へ。このスレは本日をもって転載禁止とします。
…おこがましいから、本当はこんな事書きたくありませんでした。
803 : ◆K7lrCuW9CD5k [sage saga]:2013/09/19(木) 17:24:34.04 ID:vklSPLcSo
現行の奴打ち切り
今後は短編だけ書いてます
804 :以下、新鯖からお送りいたします [sage]:2013/09/19(木) 17:26:34.34 ID:lmxxJX5qo
把握
805 :以下、新鯖からお送りいたします [sage]:2013/09/19(木) 18:53:44.42 ID:70cnQfVoo
把握
残念だー
806 : ◆K7lrCuW9CD5k [sage saga]:2013/09/19(木) 20:20:51.70 ID:vklSPLcSo

「むう、私は一体どうすれば良いのでしょうか……」



龍門渕透華は悩んでいた。

来たる秋季大会に向けて日夜鍛錬に励んでいたが、どうにも原村和に勝てる算段を見出せないのである。

『治水』を使えば現状でも問題は無いのだろうが、生憎彼女はそれを嫌っていた。

自身のスタンスとまるで合わないし、何より自意識が曖昧になってしまうからだ。

あくまで透華は『麻雀を打って』勝利を目指している。『麻雀を打たされて』勝利するなど言語道断。

彼女の気質からして、そのような事が許されるはずは無い。

けれどそれでは、今現在の原村和に太刀打ち出来ないのもまた事実。

IHの団体戦2回戦や3回戦での体たらくには憤慨させられたが、それ以降の打ち筋は圧巻の一言。

個人戦でもベスト4に入っており、さすがIM王者だと騒がれたものだ。

…そう、彼女は間違いなく目立っていた。

ルックスもさることながら、清澄高校の躍進劇や相方の宮永咲が猛威を振るった事で尚目立った。

ついでに、龍門渕高校と清澄高校の戦績がこれでもかというくらいに比較された。

当然全てにおいて劣っているはずは無かったが、それでも心無い者達にはボロクソに言われる始末。



だが、透華にとってそんな事はどうでも良かった。
807 : ◆K7lrCuW9CD5k [sage saga]:2013/09/19(木) 20:23:12.53 ID:vklSPLcSo






「むぐぐ…去年の私達でもあそこまでは取沙汰されなかったのに。何て、何て妬ましいのかしら、原村和!」





808 : ◆K7lrCuW9CD5k [sage saga]:2013/09/19(木) 20:42:24.01 ID:vklSPLcSo

そう、彼女は原村和が妬ましくて妬ましくて仕方なかったのだ。

あのはちきれんばかりの、まことにもってけしからんバスト。

ぬいぐるみを抱きながら麻雀を打つあざとさ。

回転寿司を最近まで噂でしか知らなかった程のお嬢様っぷり。

何があっても自分のスタンスを崩さないいじらしさ。

ゴスロリ趣味。嬉々としてメイド服を着るその姿に、多くの紳士淑女が心奪われた。

どこからか漏れた『のどっち』としての顔。本人が事実を認めると、瞬く間に新興宗教が誕生した。

ナイスミドルな弁護士の父親。

未だに姿さえも窺い知れない、ミステリアスな検事の母親。

目立っている。この上もなく目立っている。

その人気は、最早一流の業界人に優るとも劣らない。
809 : ◆K7lrCuW9CD5k [sage saga]:2013/09/19(木) 20:59:55.34 ID:vklSPLcSo

「何故…何故そこにいるのが私ではありませんの!」

透華は悔しかった。

何で原村和ばかりああも目立つのかと、激しく憤慨していた。

やはり胸か、胸なのか。

透華は自前の、あるともないとも言えない胸のふくらみに手を当てる。

「…胸さえあれば、私も原村のように目立てるのかしら?」

彼女は頬を赤らめながらそう言った。

一や歩がそんな透華を見れば、あまりの刺激に卒倒してしまうだろう。

だが悲しいかな、今回は彼女らに出番はない。

しばらく物思いに耽ると、彼女は意を決して最も頼りにしている従者の名を呼んだ。

「…ハギヨシ」
810 : ◆K7lrCuW9CD5k [sage saga]:2013/09/19(木) 21:18:11.12 ID:vklSPLcSo

「はっ、透華お嬢様」

どこからか現れたバトラー…ないし執事は、透華と最も付き合いの長い従者である。

姓は萩原。名は当人と主である透華だけが知っている。通称、ハギヨシ。

謎だらけ…いや、謎しかない男である。

主が呼べばどこにでも現れ、望まれた事は必ず完璧にこなす。

龍門渕家関係者の殆どが選んだ『抱かれたい相手No.1』『結婚したい相手No.1』、その他諸々。

これでもかと言わんばかりにNo.1な男である。

彼は常に主である透華の為、衣の為、ひいては龍門渕家の為身を粉にして働いている。

月月火水木金金とは、まさに彼のような者の為にある言葉だろう。

というか、いつ休んでいるのか想像もつかない。
811 : ◆K7lrCuW9CD5k [sage saga]:2013/09/19(木) 21:42:02.72 ID:vklSPLcSo

現在の時刻、深夜2時。大体の人間はとっくに寝ている時間である。

ハギヨシは何時も通りの燕尾服。

透華はネグリジェ一枚。

どう考えても不味い状況なのだが、普段の二人ならエロい事にはならない。

そう、普段ならば。ハギヨシは普段通りだったが、透華はいささか平静を失っていた。

当然ハギヨシは、そんな彼女の様子に気付いていた。

気付いてはいたが、それを指摘して主の機嫌を損なうリスクを冒さなかった。

彼は、主が己の助力を望むならば何であっても誠心誠意尽くそうという心積もりだったのだ。

まさに執事の鑑。

しかし今回に限っては、執事としての矜持を捨てるべきだったのかもしれない。
812 : ◆K7lrCuW9CD5k [sage saga]:2013/09/19(木) 22:00:23.45 ID:vklSPLcSo

透華「…まさか本当に来るとは思いませんでしたの」

ハギヨシ「恐れながら、私もこのような時間に呼び出されるとは考えておりませんでした」

透華「なら何故ここに?」

ハギヨシ「私はあくまで、執事ですから。何であろうと、主の命に背く様な真似は出来ません」

透華「…本当に?」

ハギヨシ「ええ。事実私は、貴女様の命を一度として拒んだ事などございません」

透華「そう、でしたわね。ええ…貴方が私の命を拒んだ事など、ただ一度としてなかったですものね」

透華「そして貴方は、ただの一度も失敗する事なく十二分に職務をこなしてきた」

ハギヨシ「お褒めに預かり光栄でございます、透華お嬢様」

透華「……で、でしたら今回もきっと、メイビー、ズイッヒャー、大丈夫ですわよね?」

ハギヨシ「お嬢様、お顔が赤くなっておりますが熱はございませんか?」

透華「し、心配しなくともよろしくてよ」

ハギヨシ「貴女様がそう仰られるのでしたら…恐縮ですが、ご用件をお伺いします」

透華「え、えと…その…私のむ、む、むむむむむむむむむ……」

ハギヨシ「お、お嬢様?」
813 : ◆K7lrCuW9CD5k [sage saga]:2013/09/19(木) 22:01:26.20 ID:vklSPLcSo








「ハギヨシ…私の胸、揉んで下さらないかしら?」






814 : ◆K7lrCuW9CD5k [sage saga]:2013/09/19(木) 22:07:16.30 ID:vklSPLcSo
続きはまた次回。
変に間延びさせようとせず、テンポ良く進めていきたいですねー。

自分の方がもっと上手く書けるぞとお思いになる方。どうか自分の代わりに透ハギ書いて下さい…いやマジで。
815 :以下、新鯖からお送りいたします [sage saga]:2013/09/19(木) 22:13:56.99 ID:vklSPLcSo
あ、一応短編なんで今までみたいに長引きません。ワタシ、ウソツカナイ。
816 :以下、新鯖からお送りいたします [sage]:2013/09/19(木) 22:15:44.78 ID:w8x0IJyQo
乙です
817 :以下、新鯖からお送りいたします [sage]:2013/09/19(木) 22:54:42.99 ID:Q0uCx3jf0
おつ
透ハギ好き
818 : ◆K7lrCuW9CD5k [saga sage]:2013/09/20(金) 00:45:25.54 ID:cWtajotYo
投下します。
819 : ◆K7lrCuW9CD5k [saga sage]:2013/09/20(金) 00:48:55.95 ID:cWtajotYo

少年の名は須賀京太郎。

見た目と言うか雰囲気がちゃらいが、献身的な仕事ぶりで清澄高校麻雀部を支えた裏方である。

おっきな胸の女の子が彼の好みだが、どういう訳か小ぶりな胸の女の子に懐かれやすい。

恋に恋するお年頃だが、残念ながら年齢=フリーである。

いつぞやに麻雀も恋も頑張ろうと意気込んでいたが、どうにもままならないものである。

悲しいかな、女子からはそういう対象として見られていない。

でも頼りにはされる。さながら、妹が兄に甘えるように。或いは…姉が弟をこき使うように。

それでも彼はめげないしくじけない。なまじ根性と能力があった為であるが。

「…愛されてぇ」

惜しい事に、彼は2枚目ではなく2枚目半だ。

だがそれ故に、唯一の男子だからと周りから要らぬ勘繰りをされずに済んだ。

そのお陰で清澄の皆は、スキャンダルなどとは無縁の平和な日常を享受している。

半殺しにされた京ちゃんなんておらんかったんや!
820 : ◆K7lrCuW9CD5k [saga sage]:2013/09/20(金) 00:51:11.34 ID:cWtajotYo



だが、そんな彼の平穏な日常は間もなく崩れ去ってしまう事になる。


821 : ◆K7lrCuW9CD5k [saga sage]:2013/09/20(金) 01:10:14.75 ID:cWtajotYo

京太郎「ただいまー」

京太郎母「おかえり、京太郎」

カピ「キュキュー♪」

ハギヨシ「京太郎様、おかえりなさいませ」



京太郎「…ん?」



京太郎「えー、不肖須賀京太郎がただいま帰宅いたしました」

京太郎母「アンタは不肖と言うか残念な子だよ…いやホント」

カピ「キュー?」

ハギヨシ「貴方様は、磨けばきっと良い執事になれますよ。ええ、僭越ながら私めがそれを保障致しますとも」



京太郎「あの…ハギヨシさん?」

ハギヨシ「はい」

京太郎「はいじゃありませんが。大体、何で貴方が我が家にいて俺を出迎えているんですか」

ハギヨシ「不肖ハギヨシ、本日を持ちまして須賀家の執事として働かせていただく事になりました」

京太郎「えと、その…龍門渕の方は?」

ハギヨシ「お暇をいただきました」

京太郎「…え、なんだって?」

ハギヨシ「ですから、本日付でお暇をいただいたんです。後、難聴はいささか以上に使い古されているのでお止めになった方が」

京太郎「生憎そういうのじゃありませんから!自分で言うのも何ですが、俺って女の子からモテませんし!!」

京太郎母「え…じゃあアンタ、男からはモテているって事なのかい?…ああ、萩原さんとはそういう」

京太郎「ふざけんな!」
822 : ◆K7lrCuW9CD5k [saga sage]:2013/09/20(金) 01:25:38.12 ID:cWtajotYo

京太郎「とりあえず、詳しい話は俺の部屋で聞かせてもらっていいですか?」

ハギヨシ「かしこまりました」

京太郎母「…京太郎。くれぐれも部屋で盛るんじゃ」

京太郎「しつけえぞ!」



ハギヨシ「…結論から申し上げますと、龍門渕は私の方から去ったのです」

京太郎「えっ…それってマジですか?」

ハギヨシ「ええ、マジです」

京太郎「一体何があったんです?」

ハギヨシ「それが、その…透華お嬢様から……するようにと」

京太郎「…すみません。もう一度お願い出来ますか?」

ハギヨシ「…お嬢様から、胸を揉んで欲しいと命じられまして…それで」

京太郎「」

ハギヨシ「なんでも、『胸をうんと大きくして、原村和より目立ちたいから』だそうです」

京太郎「」









京太郎(…なんやこれ)
823 : ◆K7lrCuW9CD5k [saga sage]:2013/09/20(金) 01:39:25.32 ID:cWtajotYo

京太郎「ところで、何でわざわざ俺の家にやって来たんですか」

ハギヨシ「龍門渕の関係者以外で当てに出来る方が、京太郎様…貴方様の他にいらっしゃいませんでしたから」

京太郎「…なんだかよく分かんないっすけど、そういう事情なのでしたら」

ハギヨシ「…ご厚意、感謝致します」





京太郎母「アンタの他に当てがないって…京太郎、きちんと責任は取るんだよ」

京太郎「お袋、少しは自重しろよ!何だってそんなにホモを推そうと……」

京太郎母「ホモ押しじゃねーし!三度の飯より、カップリングが大好きなだけだし!」

京太郎母「色恋沙汰とか、好きだからー!」

京太郎「黙れ」

京太郎母「もう、京太郎のい・け・ずー♪」

京太郎「…ホント黙れマジ黙れ」
824 : ◆K7lrCuW9CD5k [saga sage]:2013/09/20(金) 01:52:02.45 ID:cWtajotYo

京太郎「と、ところでその…」

ハギヨシ「何でございましょう?」

京太郎「ハギヨシさんって、その…童貞なんですか?」

ハギヨシ「え?そのような事、貴方様には関係ないでしょう?」

京太郎「…へえ。ハギヨシさんってそうだったんですか」

ハギヨシ「だーかーらー!私は童貞ではないと申し上げているのですよ!」





京太郎「…俺もなんです」

ハギヨシ「……京太郎様……おいたわしや……」

京太郎「君付けとかで良いですよ。同じ悲しみを知るもの同士、よそよそしいのは嫌ですから」

ハギヨシ「うっ、うう…」

京太郎(…こんなに弱々しいハギヨシさん初めて見た)
825 : ◆K7lrCuW9CD5k [saga sage]:2013/09/20(金) 02:09:38.47 ID:cWtajotYo



「うう、ハギヨシぃ…帰ってきて下さいましぃ……」



遅すぎる思春期を迎えたハギヨシは、あろうことか覚悟完了した透華を放って逐電してしまった!
彼はこの先どうなってしまうのだろうか?

次回 『高校教師、萩原』
826 :以下、新鯖からお送りいたします [sage]:2013/09/20(金) 02:31:04.36 ID:mLuB6tC+o
乙です
827 :以下、新鯖からお送りいたします [sage]:2013/09/20(金) 03:43:39.64 ID:8vyiZm2M0
ハギヨシぇ……
828 :以下、新鯖からお送りいたします [sage]:2013/09/20(金) 08:44:49.58 ID:1G4CweTMo


こんなハギヨシ見たことないww
829 : ◆K7lrCuW9CD5k [saga sage]:2013/09/21(土) 02:31:00.39 ID:5bG4y1iho
ゆっくりですけど投下します。
830 : ◆K7lrCuW9CD5k [saga sage]:2013/09/21(土) 02:42:52.34 ID:5bG4y1iho

ハギヨシ「…胸を揉むように命じられた後、いつの間にか私はその場を去っていました」

ハギヨシ「その後の事は…よく覚えていません。ふと気がつけば、私物全てを持って屋敷を後にしていました」

ハギヨシ「道中ではずっと泣きっぱなしでしたね。自分の至らなさが悔しくて悔しくて仕方が無かった」

ハギヨシ「私は旦那様から透華お嬢様のお世話を任されていたのです。それこそ、彼女が赤ん坊の頃からです」

ハギヨシ「その頃は私自身も子供でありました故、多くの方に助けられながら四苦八苦していたものです」

ハギヨシ「…ええ、あれは間違いなく無茶振りでした」

ハギヨシ「お嬢様のおしめを代えたりあやしたり、絵本を読んであげたりと…色々ありました」

ハギヨシ「あの方が何所に出しても恥ずかしくない、ご立派な淑女になれるように…それはもう必死に頑張りましたとも」

ハギヨシ「…なのに…なのに……なんで…なんであんなふしだらな物言いを唐突に……」

京太郎「……」

ハギヨシ「う…ううう、あんまりだぁ……」

ハギヨシ「HEEEEEEYYYYY あァァァァァんまりだァァァァアァ!!!」



京太郎(…この人みたいにやる事なす事様になってて、その上自分にはいつも忠実)

京太郎(贔屓目に見ても見なくても二枚目だし、助けを呼べばヒーローみたいにすぐ来てくれるし)

京太郎(…うん、多分そういう事だよな。でなきゃそんな無茶振り出来ねえだろ……)

京太郎(……)



京太郎「…ハギヨシさん」

ハギヨシ「はい?」

京太郎「あんまりなのは、貴方もおんなじだと思います」

ハギヨシ「…何故ですか?」

京太郎(あっ、この人マジだわ。これもう無理無理無理無理かたつむり)
831 : ◆K7lrCuW9CD5k [saga sage]:2013/09/21(土) 03:08:32.35 ID:5bG4y1iho

ハギヨシ「まあそれはさておき、何時までもこちらでお世話になる訳にもいきません」

京太郎母「あら…私は何時までもウチにいてくれても良いんだけどなー♪」

京太郎「お袋俺も…と言いたい所だけど、流石にウチじゃお給金は出せないからなあ」

京太郎母「そうなのよねえ。お手伝いさんくらいならともかく、萩原さん程の執事となると…ねぇ」

ハギヨシ「私としては、衣食住を保障されております点に限りまして問題は…」

京太郎「いや、それこそ無理ですから」

京太郎母「貴方程の人にまともな給金を出さないなんて、こっちが耐えられないわ」

カピ「キュキュー!」

ハギヨシ「…お褒めに預かり恐悦至極」



京太郎母「そんな訳で萩原さん、貴方にはどこかで働いて貰います」

ハギヨシ「そんな、宜しいのですか?」

京太郎母「こちらとしては、家賃代わりに給料の一部を納めてもらう事になるでしょうけど」

ハギヨシ「一部などと仰らず、私は全額でも…」

京太郎「いやいや、そりゃないっすよハギヨシさん」

京太郎母「貴方はこちらの従者ではなく、住人として暮らしてもらうんですからね」

カピ「キュー♪」

京太郎「ほら、カピだってハギヨシさんに懐いているんですから」

京太郎母「この子、家族の他には誰にも懐いたことがないのにねぇ」

ハギヨシ「…そちらがそう仰られるのでしたら」

京太郎「ええ、よろしくお願いします!」

京太郎母「今日からよろしくね、萩原さん♪」

カピ「キュー!」

ハギヨシ「こちらこそ、今後ともよろしくお願い申し上げます」
832 : ◆K7lrCuW9CD5k [saga sage]:2013/09/21(土) 03:11:08.42 ID:5bG4y1iho
>>831 訂正

×:ハギヨシ「…そちらがそう仰られるのでしたら」
○:ハギヨシ「…そちらがそう仰られるのでしたら、ぜひ」
833 : ◆K7lrCuW9CD5k [saga sage]:2013/09/21(土) 03:23:28.79 ID:5bG4y1iho

ハギヨシ「…とりあえず、明日面接に行く事になりました」

京太郎「あ、もう職探しはしてたんですね」

ハギヨシ「職安でざっと見しただけなのですが…流石に軽挙過ぎたかもしれません」

京太郎「あ、いや…貴方はいつも通りにしていれば良いと思いますよ」

京太郎母「同感」

ハギヨシ「はて…私龍門渕の名前は一切口にしておりませんが」

京太郎「いえ、その働きぶりだけで十分ですから」

京太郎母「むしろ何でウチなんかに来たんだと言われかねないレベル」

ハギヨシ「…そうでしょうか?」

京太郎「そうですとも!」

京太郎母「今日だって、我が家の家事は貴方が刹那で終わらせちゃったんだから」
834 : ◆K7lrCuW9CD5k [saga sage]:2013/09/21(土) 03:59:44.28 ID:5bG4y1iho

京太郎「ところで、明日はどこの面接へ行くんですか?」

ハギヨシ「風越女子高校です」

京太郎「えっ」

ハギヨシ「何か驚くような事でも?」

京太郎「い…いやいや、別に女子高だからって事ではなくて、その……」

ハギヨシ「ご心配なく…身を隠す術は心得ております故。偽名も使っておりますし、その為の準備も十分しております」

京太郎「偽名って…一体なんて名前で?」

ハギヨシ「『小埜典三』でございます」

京太郎「…何ででしょう。とってもコメントし辛いです」



京太郎父「え?何?元執事?」

京太郎母「そうなのよアナタ。今ある料理は全部萩原さんが拵えてくれたのよ」

京太郎父「…これ、間違い無く三ツ星シェフレベルの味だぞ」

京太郎母「なにせ大富豪に仕えていた人だからね。正直、凹んじゃいそう」

京太郎父「いやー…こりゃ相手が悪いだけだろ」



ハギヨシ「内定、いただきました」

京太郎「へっ!? 確かまだ一次面接のはずじゃ…」

ハギヨシ「試験官の方全員が、席に着くなりすぐさま採用を決めたのです」

京太郎「事前に見たそちらの立ち振る舞いを見て、という事でしょうか?」

ハギヨシ「ええ、恐らくは」

京太郎「兎に角まずは内定おめでとうございます。色々気苦労も多くなるでしょうが、どうか頑張って下さい」

ハギヨシ「勿論ですとも」
835 : ◆K7lrCuW9CD5k [saga sage]:2013/09/21(土) 04:10:24.42 ID:5bG4y1iho








衣「とーかぁ…ハギヨシ、まだ帰ってきてくれないのか?」

透華「…ええ」

衣「…えぐっ、やだよぉ…ハギヨシが帰ってきてくれないの…つらいよぉ」

透華「衣…ううっ、私が至らないばかりにこんな…こんなことに…」



ハギヨシが居なくなって、二人の精神はあっという間にズタボロだ!!
けれど残念な事に、彼が帰ってくる見込みは当分無いのです。

次回 『出逢い』
完璧と完璧が交差する時、物語は始まる―――。
836 :以下、新鯖からお送りいたします [sage]:2013/09/21(土) 04:54:40.17 ID:lCAOV5GMo
乙です
837 :以下、新鯖からお送りいたします [sage]:2013/09/21(土) 17:22:37.01 ID:nlFZvRYq0


838 : ◆K7lrCuW9CD5k [saga sage]:2013/09/21(土) 23:59:59.38 ID:EWAqGzR8o
超ギリギリだけど、一ちゃんおめでとう!

投下始めます。
839 : ◆K7lrCuW9CD5k [saga sage]:2013/09/22(日) 00:34:07.26 ID:nxWIUHzmo

季節はもう秋。

肌寒くなる気候の中、一人の少女が朝早くから学校に足を運んでいた。

彼女の名は福路美穂子。

和の影に隠れがちだが、彼女もIH個人戦ベスト4に入った巷で人気の打ち手である。

美穂子を物語るエピソードと言えば、やはり部員の為に雑用の一切を引き受けた事であろう。

多くの部員がインタビューでその献身ぶりを語り、ファンになった者は多い。

それを裏付けるかのように、彼女は今日も後続の為に部室の掃除をしに行くのだ。

誰に頼まれた訳でもない。それが彼女の性分というやつなのだ。

けれど、ここ最近の彼女はIH後から慌しい生活を送っていた為か相当疲れていた。

当然注意力も酷く散漫していた。

であるから、目の前の信号が赤である事にさえ気付いてはいなかったのだ。



けたたましいクラクションが辺りに鳴り響く。

「あっ…」

そして彼女はようやく気付く。自分の身に迫り来る危機に。

けれど…時既に遅し。

大型のトラックが、もう間近に迫っていた。
840 : ◆K7lrCuW9CD5k [saga sage]:2013/09/22(日) 00:54:54.24 ID:nxWIUHzmo

鈍い衝突音がした。

「……?」

だというのに、美穂子は怪我一つ負っていなかった。

何故なのか。

その答えは、彼女の両目に映る光景が物語っていた。



「…危うい所でございました」

涼しげな顔で、スーツ姿の男性がそう呟く。トラックを両の腕で押さえながら。

どうして人間にそんな事が出来るのか。

止まり方からしてトラックの方は凹んだりしているはずなのに、どうして何とも無いのか。

疑問など幾らでも湧いてきた。

でもそんな事、美穂子にはどうでも良かった。

颯爽と現れた救いのヒーロー。

その後姿は、間違い無く彼女を強く惹きつけていた。
841 : ◆K7lrCuW9CD5k [saga sage]:2013/09/22(日) 01:26:10.50 ID:nxWIUHzmo

ドライバー「…嬢ちゃん、本当にすまなかった」

美穂子「いえ、こちらこそ。私の方も、注意が足りていませんでしたから」

ドライバー「そう言ってくれるのはありがたいが、こっちが君の命を奪いかけた事に変わりは無い」

美穂子「……」

ドライバー「それと兄ちゃん、助けてくれてありがとな」

ハギヨシ「私は、ただ自分に出来る事をしたまでです。お礼を言われるような事は…」

ドライバー「何言ってんだ。嬢ちゃんも助かったし、俺も人殺しにならずに済んだんだからさ」

ハギヨシ「それは何より。後、どうかお気をつけて」

ドライバー「ああ…それじゃあな」



美穂子「…本当に、ありがとうございました」

ハギヨシ「無理をしてお身体に負担をかけるのは、あまり褒められた事ではありませんよ」

美穂子「ええ、全くもって貴方の仰る通りです」

ハギヨシ「貴方の身に何かあれば、貴方を慕う人達は皆悲しい思いをしてしまいます」

ハギヨシ(…今の私が言うのもおかしな話ですが)

ハギヨシ「周りに頼れる時は頼ればよいのです。私もそれで、多くの人に助けられていますから」

美穂子「あんなに凄い事が出来るのにですか?」

ハギヨシ「あくまで、執事ですから…いや、今日からは教師でしたか。私とて、何でも出来るという訳では無いのですよ」

ハギヨシ(でなければ、透華お嬢様の望みを拒んだりなどしなかった)

美穂子「そうですか…ところで、今日からは教師と言うのは……」

ハギヨシ「ええ。私本日付で風越女子にお勤めする事になりました、小埜典三と申します。どうぞよろしくお願い致します」

美穂子「…典三、様」ボソッ

ハギヨシ「?」

美穂子「い、いえっ!なんでもありませんからっ!!」カアアッ
842 : ◆K7lrCuW9CD5k [saga sage]:2013/09/22(日) 01:40:20.20 ID:nxWIUHzmo



透華母「…ありえねーわ、あのヘタレ」

透華父「私が言うのもなんだが、全くもってその通りだ」

透華母「何の為に二人が幼い頃から一緒にさせていたのか、分かっているのかしら」

透華父「いやー…野暮を言うと、分かってないから逐電したのだろう」

透華母「だよねー」



どうやら透ハギは親公認だったみたいだぞ!
でもハギヨシの方は、キャプテンに強固なフラグをおっ立てちゃったぞ!悲しいなあ…。

次回 『ハギヨシ、もてる』
強いぞ、僕らのハギヨシ!凄いぞ、僕らのハギヨシ!
843 : ◆K7lrCuW9CD5k [saga sage]:2013/09/22(日) 01:46:27.99 ID:nxWIUHzmo
一旦ここまでです。
次回はキャプテンとハギヨシがいちゃつく予定なんですが、どうも自分には思いつかない。
そんな訳で、宜しければご指導ご鞭撻(リクエスト)をお願いいたします。

では。
844 :以下、新鯖からお送りいたします [sage]:2013/09/22(日) 02:27:11.20 ID:jIN65U6DO
部室掃除中のキャプテンを見かけて手伝うハギヨシ。
ハギヨシのことを意識しすぎてうっかりミスする(椅子に乗って高いところを掃除しようとしたら落ちるみたいな)キャプテンを抱きしめるハギヨシ。

完璧系二人だと、あんまシチュが浮かばんねww
845 :以下、新鯖からお送りいたします [sage]:2013/09/22(日) 02:55:38.98 ID:qf74tZjT0

お礼に弁当作ったんだけど、ハギヨシは弁当持参しててなんやかんやでおかず交換、料理を教えてもらう約束するとか、そんなのしか浮かばないなぁ
846 :以下、新鯖からお送りいたします [sage]:2013/09/22(日) 06:05:35.67 ID:3l2QqFj1o
乙です
847 :以下、新鯖からお送りいたします [sage]:2013/09/22(日) 07:20:32.74 ID:R+RnRdEho
乙です
何かこの執事犬臭くない……?
848 : ◆K7lrCuW9CD5k [saga sage]:2013/09/24(火) 00:35:48.55 ID:TOCvfCmVo
キャプテンおめでとう。

投下開始します。
849 : ◆K7lrCuW9CD5k [saga sage]:2013/09/24(火) 00:55:34.22 ID:TOCvfCmVo





池田「……」ポカン

美穂子「〜♪」ニコニコ

池田(…なにあれ)

美穂子「…典三様…ああ、典三様……」

池田(雑用の手伝いをしに来てみれば…とんでもないものを見てしまったし!)

美穂子「やだ…私ったら独り言なんてはしたない」カアアッ

池田(つーか、「てんぞう」って誰だよ!何か犬臭い感じの名前だし!!)

池田(清澄のキャプテンと再会した後でも、こんな事にはならなかったのに)

池田(どうにも入り辛いなあ…あっ)ゴトッ

美穂子「えっ…」キョロ

池田(やっちまったぁぁああぁぁあぁぁぁぁあああああぁ!!!)アセダラダラ

美穂子「…か、華菜?」



池田「え、ええとっ!私、何にも見てませんから!!キャプテンが男の人の名を呟いてたのとか、聞いてなんかいませんから!!!」

美穂子「…そっか。聞いちゃったんだ」ウツムキ

池田「oh...」
850 : ◆K7lrCuW9CD5k [saga sage]:2013/09/24(火) 01:08:42.84 ID:TOCvfCmVo

美穂子「……」カッ

池田(ヤバい…キャプテンが両目を見開いたし!)

美穂子「……」キッ

池田(うわ、眉間に皺が寄ってるし…あわわわわわっ、し、叱られちゃうよぉ……)

美穂子「…華菜」

池田「ひ、ひっ!」

美穂子「お願い、この事はどうか内緒にして!」

池田「え…あっ、はい」

美穂子(新任教師に一目惚れだなんて…もしこんな事が知られたら、あの方にも皆にも迷惑がかかっちゃうわ)

美穂子(風越って風紀に煩いし…まして恋愛なんて、どんな形のものであってもご法度なのよね)
851 : ◆K7lrCuW9CD5k [saga sage]:2013/09/24(火) 01:30:43.98 ID:TOCvfCmVo

―――その頃の風越職員達。



「ねんがんの、イケメンだんしがやってきたぞ」

「やったぜ。」

「漸く私達の眼鏡に適う人が現れたのね…これで喪女生活ともおさらばよ!」

「でへへ…イケメンおいしいれす」

「今までにも結構な数の男が志望者として来たけど、それを皆篩い落としてまで理想を追求した甲斐があったわ」

「理事長を含む職員全員が賛同しなければ、たとえ自分の好みであっても容赦無く不採用にしてたからね」

「耐えがたきを耐え、忍びがたきを忍び…今漸く、私達の理想が現実のものとなって現れた」

「…今日から私達はみな、愛の名の下に聖戦へと挑む戦士となるのよ」

「ああ。今日までお互い仲良くやってきたけど、それは一旦おしまいだ」

「我らは不倶戴天の敵同士にして、イケメンへの愛ゆえに全てをかなぐり捨てる者達」

「その在り方に、後悔なんてある訳ない!」

「我々は3年待ったのだ!」

「それじゃあみんな!間もなく小埜先生がこちらに来るはずだから、精一杯歓迎するわよ!」

「言われずとも!」

「我等の鍛え上げた女子力、とくとご覧に入れようぞ!」





ハギヨシ(職員室の方からただならぬものを感じるのですが、気のせいでしょうか……?)
852 : ◆K7lrCuW9CD5k [saga sage]:2013/09/24(火) 01:47:57.49 ID:TOCvfCmVo

それからなんやかんやあって、

「小埜さん素敵、抱いて!」

ハギヨシ「そのようなはしたない事、軽々しく仰るものではありませんよ」

なんやかんやあって、

「貴方と私は前世で愛を誓い合った者同士…だから、この再会はきっと運命なの」

ハギヨシ「何であろうと、貴女と私は初対面ですから愛をどうこう言っても何も始まりません」

…なんやかんやあって、

「小埜君…5年振り、だね」

ハギヨシ「私、出会った方々のお名前などは全て記憶しておりますが、貴女とは一度も会った事はないですね」

……なんやかんやあって、

貴子「私は、君が欲しい!!」

ハギヨシ「そのお言葉は、貴女のものではございません」

………なんやかんやあって!

「愛ゆえに、人は苦しまなければならぬ!愛ゆえに、人は哀しまなければならぬ!」

「滅びるがいい、我が愛と共に!!」

ハギヨシ「それは一部であって、全てではございません」

ハギヨシ「愛し合う者同士は、喜びも哀しみも分かち合って生きていくものではないでしょうか」

残念な美女達の誘惑を撥ね退け、いよいよハギヨシは教壇に立とうとするのであった。
853 : ◆K7lrCuW9CD5k [saga sage]:2013/09/24(火) 02:25:49.42 ID:TOCvfCmVo

…歴史は繰り返す。

「あの…彼女とか、いらっしゃらないんですか?」

ハギヨシ「初対面の相手に、そのような事をお聞きになるのは良くないと思われます」

何度でも、繰り返す。

「貴方と、合体したい…」

ハギヨシ「軽はずみは発言は、貴女の将来を台無しにしてしまいます。どうかご遠慮下さい」シレッ

「すっ、すみません」シュン

ハギヨシ「ですが、出会ったばかりの私に好意を抱いてくれる事には感謝致します」イケメンスマイル

「…こここ、こちらこそありがとうございます!」

何度でも、何度でも。

「私は貴方の事をもっと知りたいのです。宜しければ、今夜私の家にお越し下さいな」

ハギヨシ「お誘い頂けるのは嬉しいのですが、今回はお断りさせて下さい」

…そして、

美穂子「その節は、本当にありがとうございました」

ハギヨシ「どういたしまして。ただ、私の忠告を聞き入れて頂けなかったのは残念ですね」

美穂子「…何の事でしょう」

ハギヨシ「あの後、麻雀部の方へ行かれたのでしょう?先程お会いした時よりも、僅かに目尻が下がっておられますよ」

美穂子「あはは、見抜かれてしまいましたか」

ハギヨシ「…言っただけではどうにもならないようですね。仕方ありません、明日からは私も手伝いに行きましょう」

美穂子「えっ…宜しいのですか?」

ハギヨシ「貴方様がご無理をなされなくなるまでは、そうさせていただきましょう」キリッ

美穂子「…はい」///



(おいおい抜け駆けか)

(そんなんだから避けられがちなんだって、分かってるの?)

(というか、福路さんって何時あの人と知り合ったんだよ)

(さあ?)

(とりあえずは、調べてみるっきゃないよね!)



その後、二人が知り合った経緯を知って「あ、これはしゃーない」とクラスの誰もが納得せざるを得なかったという。

教員は…どうなんでしょう?
854 : ◆K7lrCuW9CD5k [saga sage]:2013/09/24(火) 02:34:02.69 ID:TOCvfCmVo
一旦ここまで。どうにか今日中には終わらせます。
855 : ◆K7lrCuW9CD5k [saga sage]:2013/09/24(火) 02:35:03.22 ID:TOCvfCmVo
あ、今日で完結ではないので。
856 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/09/24(火) 02:36:40.09 ID:UMGyV+mbO
了解
乙ー
857 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/09/24(火) 06:27:43.40 ID:JI3QjQp7o
乙です
858 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/09/24(火) 17:17:12.49 ID:TOCvfCmVo
再開。
859 : ◆K7lrCuW9CD5k [sage saga]:2013/09/24(火) 17:46:34.74 ID:TOCvfCmVo

「…久保ォォッ!!」

貴子「はい?」

「『はい?』じゃねーよ畜生!どういう事だよあれはっ!!」

「オマエんとこの部員が、私達のアイドルを誑かしてるんじゃねーか!」

貴子「いやまあ、彼は福路の命の恩人ですから…ま、多少はね?」

「ふざけてろよテメェ!担任の私はなぁ!あの二人の会話を間近で聞かされてんだぞ!」

「にべもない返事をされた私達の無念、晴らさずにいられるか!」

貴子「私も同じ立場でありますから、各々方のお気持ちは良く分かりますが…彼女に妙な真似はしないでくださいよ?」

「むむむ」

「畜生、私達は諦めるしかないってのかよ……」

貴子「…時間ですので、私はそろそろ麻雀部に顔を出してきますね」





貴子(クク…馬鹿共が)ニタァ

貴子(福路が彼と接触したのは全くの想定外だったが、そんな事はどうでもいい)

貴子(アイツが彼の関心を引いたおかげで、私は労せずに接触を図る事が出来る、出来るのだ!)

貴子(なあに、最初の失敗なら私のヒロイン力でなかった事にして見せるさ)

貴子(フフフ…私の春はここからだ!)ガラガラ



貴子「おーいお前ら、練習の方は捗ってるかー?」

星夏「あ…コーチ」

貴子「何か困っているみたいだが、何かあったのか?」

純代「それが、その…福路前キャプテンが」

貴子「福路がどうしたんだ?」

未春「あー…多分見て貰った方が早いですね」

池田「…キャプテン、すっごく怖いですよ」

貴子「今のキャプテンは池田、お前だろうに…どれどれ」
860 : ◆K7lrCuW9CD5k [sage saga]:2013/09/24(火) 18:12:52.51 ID:TOCvfCmVo

美穂子「…なるほど、自動卓はこう扱えば故障させずに済むのですね」

ハギヨシ「ええ…ところで何故、このような事をお尋ねに?」

美穂子「私は機械の扱いが不得手でして…時たまおかしくさせてしまうんです」

ハギヨシ「さようでございますか。でしたら私が、お悩み解決の手助けをさせていただきましょう」

美穂子「よろしくお願いします」

ハギヨシ「福路さんは物覚えが良いですから、すぐに不得手を克服出来ますとも」

美穂子「もう、小埜先生ったら…褒めても何も出ないんですからね」///




貴子「」

華菜「小埜先生と一緒にやって来て、それからずっとあんな調子なんです」

未春「部室でアレだけ一人につきっきりな前キャプテン、初めて見ましたよ」

星夏「まあ、二人が出会った経緯を考えれば無理からぬ事ですけど」

純代「…これ、生活指導とかから何か言われないですかね?」

貴子「…うっ、うう……」ウルッ

華菜「コーチ?」

貴子「うっ、うわああぁあああぁぁあぁぁあぁあぁん!」ダカダカダカ



華菜「み、みはるん」

未春「う、うん。久保コーチ、泣きながら走り去っていったよね」

星夏「コーチ、一体どうしたんでしょうか?」

純代「…さあ?」
861 : ◆K7lrCuW9CD5k [sage saga]:2013/09/24(火) 18:14:26.69 ID:TOCvfCmVo
…池田「」ってなってる所、華菜「」に脳内変換してください

池田って打った方がしっくりきてもうたんや
862 : ◆K7lrCuW9CD5k [sage saga]:2013/09/24(火) 18:48:27.49 ID:TOCvfCmVo

それからというもの、美穂子とハギヨシは毎日二人で部室を訪れていた……。



美穂子(ふふ…今日は典三様に良い所をいっぱい見せちゃうんだから!)フキフキ

ハギヨシ(いつもの事ながら流石ですね。是非とも杉乃さんに見習わせてあげたくなる)

美穂子(さて、次は高い所のお掃除をっ!?)ツルッ

ハギヨシ「危ない!」ガシャッ!


ハギヨシ「…福路さん、お怪我はありませんか?」

美穂子「え、ええ…」

ハギヨシ「いけませんよ。不安定な足場で背伸びなどなされては」

美穂子「は、はい。ところで小埜先生…その」

ハギヨシ「?」

美穂子「…胸が苦しいので、腕を解いてもらっていいでしょうか?」

ハギヨシ「っ! …私とした事が、とんだ失礼を致しました」

美穂子「いっ、いえ…別に責めている訳ではないのですよ?」

美穂子(典三様の腕や胸…見かけからでは分からないけど、とても逞しかった)

美穂子(ああ、典三様……)ウットリ

ハギヨシ(福路さんの胸、柔らかかったなあ…って、何を考えているんだ私は)

ハギヨシ(…これじゃあお嬢様に申し訳が立たないではないか)



華菜「…本当にほっといていいんですか、あの二人」ヒソヒソ

貴子「イケメン無罪」ボソッ
863 : ◆K7lrCuW9CD5k [sage saga]:2013/09/24(火) 19:05:31.96 ID:TOCvfCmVo

そのうち、弁当まで一緒に食べるような間柄にまで。



ハギヨシ「…これで良かったのでしょうか?」

美穂子「何がです?」

ハギヨシ「仮にも私と貴女は、教師と生徒の関係ですから」

美穂子「どなたも口出しなされないのですから、何の問題もないと思いますけど」

ハギヨシ「しかしですね、福路さん」

美穂子「二人きりの時は美穂子って呼んでくれないと嫌ですよ、典三様」ニコリ

ハギヨシ「…美穂子さん」

美穂子「今日は貴方の為に、腕によりをかけて弁当を作ってきたんです…よろしければ是非」

ハギヨシ「生憎、私の方でも昼食は用意しておりますから」

美穂子「それではおかずを交換して…いや、食べあいっこと言うのもアリですね」

ハギヨシ「いやその…美穂子さん?」

美穂子「んん…この卵焼き、とっても美味しいですね。よろしければ、今度コツでも教えてくださいませんか?」

ハギヨシ「ええ、私でよければ是非」



「ふむ…これは良いゴシップ記事が書けそうですね」

華菜「そうはさせないし!」

「げっ…麻雀部」

純代「…あの人の幸せの邪魔は、私達が絶対に許さない」
864 : ◆K7lrCuW9CD5k [sage saga]:2013/09/24(火) 19:13:24.61 ID:TOCvfCmVo




カタカタカタ...

智紀「ん、この画像は…」

カチカチッ

智紀「…相変わらず、人間離れしているなぁ。ハギヨシさんは」



○○○○○○マップの魔の手からは、絶対に逃れられない!
ついに居場所を突き止められそうになるハギヨシは、この先も無事でいられるのか?

次回 『愛ゆえに、哀』
儚き愛の行く末には、一体何が待ち受けるのか?
865 : ◆K7lrCuW9CD5k [sage saga]:2013/09/24(火) 19:14:12.20 ID:TOCvfCmVo
次回の前に、番外編とかあるかもしれません。

では。
866 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/09/24(火) 19:46:42.59 ID:JI3QjQp7o
乙です
867 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/09/24(火) 22:59:41.64 ID:dxQH52Wf0

なんてこった、陥落寸前じゃないか
868 : ◆K7lrCuW9CD5k [saga sage]:2013/09/25(水) 04:11:22.84 ID:biuCec55o
補足のようなものを少し。
869 : ◆K7lrCuW9CD5k [saga sage]:2013/09/25(水) 04:11:50.70 ID:biuCec55o

どうして私は、彼女からの好意を拒めないのだろう。

私には、彼女の思いに明確な答えなど出せないと言うのに。

いや、きっと私はそれを置いてきてしまったのだろう。

あの方のいる龍門渕の屋敷へと。


「貴方でないと…駄目なんです。貴方だからこそ、私はこのような真似を……」


…引き金を引いてしまうのが怖かった。

その覚悟がなかったから。

望んだ事では…いや、己の意のままではなかったから。

なんと身勝手な話か。

私は、透華お嬢様が己の意のままにならなかった事に我慢ならなくて逃げ出したのだ。

ふしだらなのは、私の方だ。

彼女が自分の事を慕っていると知っていて、されどそれを認めようとはしなかった。

あくまで自分は仕える者だと意固地になって。

いや…そんな上等なものではない。私はきっと、お嬢様との関係をあのままにしておきたかったのだ。

自らが望む形のまま、終わらせてしまいたかったのだ。
870 : ◆K7lrCuW9CD5k [saga sage]:2013/09/25(水) 04:47:57.06 ID:biuCec55o

目立ちたいという虚栄心も、元はと言えば私自身が透華お嬢様に与えたものだ。

『良き人になるには、一体どうすればよろしいのでしょうか?』

ある日、彼女はそんな事を私に尋ねてきた。

旦那様方への強い憧れを持っていた当時の透華様は、今と変わらずひたむきで。

ただ、幼さ故にどうしても思慮が足りなかった。

そんな事さえ考えずに、あのような事を口にした当時の私も大概であるが。


『良き人の所には多くの人が集まるものです。彼らから少しずつ助けを貰えれば、より大きな事が出来るようになるのです』

『どうすれば、人が自分の下に集まってくれるのです?』

『兎にも角にも、まずは大衆から注目されるようになる事です。関心を持たれなければ、結局何も伝えられませんから』

『目立てなければ…お父様やお母様みたいになれないどころか、話さえ聞いてもらえないの?』

『そういう事も、少なからずあるでしょうね』

『…うぇぇ』

『どっ、どうしましたお嬢様!』

『だ、だってぇ…わたくしが目立てなかったら、ハギヨシも口を利いてくれなくなるんでしょ?』

『…大変申し訳ございませんでした。ですが、私はそんな事致しませんよ』

『本当?』

『ええ、本当ですとも。目立ってくれた方が嬉しいのは確かですが』

『…なら、わたくし頑張ります!ハギヨシに、もっと喜んでもらいたいから…ずっと一緒に居て欲しいから』

『そういって頂けると、私も大変嬉しく思います』


どうして、目立って欲しいなどと言ってしまったんだろうか。

透華お嬢様が目立ちたがりになったのは、間違いなく私のせいだ。

無論、目立ちたいのはあの方ご自身の望でもあるだろうが…それと同時に、私の願いを叶えようとしているのだ。

ならば、私に話を振ってくるのは当たり前ではないか。
871 : ◆K7lrCuW9CD5k [saga sage]:2013/09/25(水) 05:12:19.42 ID:biuCec55o

ただ…どうして私でないといけないと仰った事は、どうにも受け容れがたい。

透華お嬢様は、単に勘違いしておられるだけなのだ。

近しい者に対する親愛と、生活を共に出来ない者に対する恋愛とでは性質がまるで異なる。

親愛とは近しい者…自分が良く知っている、或いは知っているつもりの相手に生じるもの。

気心が知れている故の安心感が、互いに情を持つ理由になるのだ。

これに対して恋愛とは、相手が遠くにあってこそ…知らないからこそ生じるもの。

未知に対する憧れのようなものによって、互いが強い情を持つのだ。

『のどっち』に対する情も、ある意味恋に近しいものなのかもしれない。

彼女もまた、人知の及ばぬ怪物の一人故に。


結局の所、透華お嬢様は恋そのものに恋焦がれているだけだろう。

あの方は決して妥協を許さない。

だから私の如き近しい者で満足できる訳はないのだ。そもそも、私はあの方に仕える身であったのだから。

私は身も心も、従者として彼女に捧げて少し前まで生きてきた。

そのはずである。

そうでなければならない。
872 : ◆K7lrCuW9CD5k [saga sage]:2013/09/25(水) 05:15:38.96 ID:biuCec55o










―――だというのに、どうして私は捨て去った過去に悔恨の情を抱いているのだろう。









873 : ◆K7lrCuW9CD5k [saga sage]:2013/09/25(水) 05:23:29.14 ID:biuCec55o

私は長い間、透華お嬢様に付き従ってきた。

衣様のお世話を任されてからも、ずっと。

あの方の事を、私はずっと見守ってきたのだ。

それと同じで、私もまたお嬢様から見守られてきた。

そのうち、彼女からの視線が何故だか熱を帯びているように思えるようになった。

いつからかは分からない。

ひょっとしたら、視線を感じ始めるより前だったのかもしれない。

けれど今となっては、それを考える事に意味はない。

そんなもの、どこにもありはしないというのに。

…懺悔のつもりか。

一体誰に対する懺悔なのだ。
874 : ◆K7lrCuW9CD5k [saga sage]:2013/09/25(水) 05:28:48.68 ID:biuCec55o
書きやすいからって、シリアス()に逃げるのはホント悪い癖だ。
…ちくしょう。

では。
875 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/09/25(水) 07:42:37.91 ID:GyGanB6Oo
乙です
876 : ◆K7lrCuW9CD5k [sage saga]:2013/09/25(水) 19:12:34.53 ID:j/PQPIyio

昨年はIH準決勝で破れ、今年は県大会決勝で敗れてしまった。

何とかIH個人戦には出場しようと思い勇んでみたものの、そちらも結果は芳しくなかった。

…なんと不甲斐ない。

目立てなければ、彼を落胆させてしまうというのに。



         `ー-、ヽ、  , -‐ニ´-‐ ' ヽ`ー‐v-、
            \ヽ'´ /       ト i   /| \
               /  ./       | |ヾi //|   ヽ
             i   /       !.| ヾ///|   |
            i.  /      /|.i`゛゛ヽ'"´!    |
           / /   ___/_.|.|_,  )__|,ィ.   |
           ノ /     /  リ    i  リ |  |
       , -‐,.´‐'     /  メャ=/≡ミ  / ,ィ'=ァ |
     / /     /. /!/ ` iィ;;;/./.... iィ;;!  |        ハギヨシ……
     i /i,ィ      / /__リ ::::::::::::(::::::::;:::: ィ   ゙、
     Y  И     / / />、     _  ノ    ヽ
    /  / \     レ' /_|.\      ,..イノ   ! .!、!
 、___!_,ノ/  >、  .!.| //丶、 ` ーュ ' , -'´   ノ! ノ リ
  `二ニ-'  __/_)  A|'´   ><´  /   /-、ソ_./ノ
 / /|   /  _,ノ ノ 〈    /><゙、. 〈    /   /ヽ
 \ ソ   | -‐´-‐ ´  .\ _ノ/ ハ ヽ >、. 〈  /   i

877 : ◆K7lrCuW9CD5k [sage saga]:2013/09/25(水) 19:21:42.60 ID:j/PQPIyio
次回の投下は、本日中か日を跨いでからになりそうです

何でか知りませんけど、透ハギには報われないという風潮がありますよね
878 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/09/25(水) 20:07:30.79 ID:ZFhX/nIho
乙です
879 : ◆K7lrCuW9CD5k [saga sage]:2013/09/26(木) 02:50:40.78 ID:wiO+Nc3eo
透華…いや投下を開始します。
880 : ◆K7lrCuW9CD5k [saga sage]:2013/09/26(木) 03:08:24.81 ID:wiO+Nc3eo

ハギヨシ「…私がここへ来てもう半年ですか。時が経つのはまこと早いものですね」

美穂子「そうですね。私もそう思います」

ハギヨシ「この半年間、いろいろな事がありましたね」

美穂子「ええ」

ハギヨシ「そのどれもが、あるお屋敷に勤めていたままでは決して味わえなかった事でしょう」

ハギヨシ「私は世間知らずが過ぎたのだと、思い知りましたよ」

美穂子「人は…いや人ならずとも、結局は自身の知る所でしか世間を知りませんから」

ハギヨシ「でしょうね。だからこそ、教師として過ごしてきた事に意味があったと私は確信しています」

ハギヨシ「自らの心も定められぬ者が、若人を導く立場になるのは何ともおこがましい限りですが」

美穂子「それは傲慢ですよ、典三様」

ハギヨシ「承知しております。ですが、これが私の性分でございます故」

美穂子「貴方って、本当に難儀な方ですね」

ハギヨシ「そう仰られると、耳が痛くなってしまいます」

美穂子「ですがそんな貴方だからこそ、私は心惹かれたのです」

美穂子「貴方の事を考えなかった事など片時もございませんでした。何故なら私は、あなたの事を愛していたから」

ハギヨシ「…幻滅なされても知りませんよ?」

美穂子「まさか。私はどんな貴方でも受け入れたいと思うから、今こうして貴方の傍らに居るのです」
881 : ◆K7lrCuW9CD5k [saga sage]:2013/09/26(木) 03:20:03.42 ID:wiO+Nc3eo

ハギヨシ「本当に宜しいのですか?」

美穂子「何がです?」

ハギヨシ「私には未練があります。どうしても忘れられない過去があるのです」

ハギヨシ「そして私は、あなたの事より失ってしまった過去に執心してしまうかもしれないのですよ?」

ハギヨシ「…貴方の事を、まるで気にかけなくなってしまうかもしれないのですよ?」

美穂子「…それでも構いません」

ハギヨシ「!」

美穂子「私は今なお貴方の事を愛しています。たとえ、貴方の想いが他に向けられていたとしても」

美穂子「それに、私の思いを貴方様は拒んでいらっしゃらないでしょう?」

ハギヨシ「…それは」

美穂子「誰に何と言われようと構いません。私は貴方様の厚意に甘えた上で、愛し続けようとするだけです」

美穂子「そして、いつかきっと貴方様の未練を断ち切ってみせます。共に未来を見据え、歩んでいきたいから」
882 : ◆K7lrCuW9CD5k [saga sage]:2013/09/26(木) 03:41:28.76 ID:wiO+Nc3eo

ハギヨシ「…美穂子。貴女は本当にそれで良いのですか?」

美穂子「この期に及んで馬鹿を仰らないで下さい。私は、貴女と愛し合いたいから―――」



「…その続きを口にする事は、この私が許しませんわよ」



美穂子「誰っ!?」

ハギヨシ「そんな…貴女様は」

透華「漸く見つけましたわよ、ハギヨシ。本当に…本当に心配したんですから……」

ハギヨシ「…どうして私がお分かりに?姿形などは変えていた筈なのですが」

透華「姿形は、ね…けれど貴方は生き方まで変える事が出来なかった」

ハギヨシ「私とした事が、迂闊な真似をしてしまいましたね」

透華「…言ってる場合ですかっ!」

ハギヨシ「うっ」

透華「この半年間、わたくしははずっと貴方の事を想っていました。大好きな麻雀を打っている時でさえも」

透華「貴方が傍らに居ない日々を過ごすのは…とても、とても辛かった」

透華「けれどそれを理由に挫けて、あなたの期待に応えられなくなるのはもっと辛かった…だからわたくし、一生懸命頑張りました」

透華「原村和に…いや、誰にも負けないようにがむしゃらになって麻雀を打ちましたわ」

透華「その甲斐あってか春の大会では、私が誰よりも優れた成績を残す事が出来ました。貴方に、こちらを振り向いてもらいたかったから」

ハギヨシ「…透華お嬢様」

透華「ハギヨシ…どうか、どうか私の元に帰って来て下さいまし」
883 : ◆K7lrCuW9CD5k [saga sage]:2013/09/26(木) 03:44:01.68 ID:wiO+Nc3eo
















美穂子「…そうはさせませんよ」

ハギヨシ「美穂子さん!?」

透華「福路、美穂子」ギリッ

美穂子「典三様…いえ、ハギヨシ様の未練はここで断ち切らせていただきます」
884 : ◆K7lrCuW9CD5k [saga sage]:2013/09/26(木) 03:47:17.72 ID:wiO+Nc3eo
今回はここまでです。
修羅場って、恋の極致だと思います。それ故愛からは程遠いとも思いますが。

では。
885 : ◆K7lrCuW9CD5k [sage saga]:2013/09/26(木) 07:17:30.09 ID:FoO1rGv1o
…酒に酔ってたからって何書いてんだ自分。
次々回最終話です。その後はとっととHTML化依頼出してきます。
886 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/09/26(木) 10:03:50.22 ID:d7tm+rLNo
乙です
887 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/09/26(木) 14:27:37.16 ID:X5fUwiof0
透ハギと思いきやハギキャプになって、そして最後にどんでん返し
次で最終回かー…このお話にどんなオチがつくのか期待
888 : ◆K7lrCuW9CD5k [saga sage]:2013/09/26(木) 23:16:44.25 ID:Z1Pz1PAoo
投下開始します。
889 : ◆K7lrCuW9CD5k [saga sage]:2013/09/26(木) 23:35:19.39 ID:Z1Pz1PAoo

透華「…ハギヨシの主はわたくしなのです。勝手な事を仰らないで」

美穂子「従者に見限られた人がそう仰るべきではありませんよ」

透華「だとしても、それを決めるのは貴女ではなくてよ」

美穂子「あの方の手を煩わせるのは私の本意ではない…何故それが分からないのです」

透華「ええ、分かりませんとも。分かりたいとも思いませんわ」

美穂子「なんて…なんて身勝手な人なの貴女は」ギリッ

透華「身勝手で結構。ここでハギヨシを失うくらいなら、わたくしは幾らだって身勝手を働きますわ」

美穂子「…貴女では、彼に何も与えられない」ボソッ

透華「…なんですって?」

美穂子「貴女が彼に出来る事など何もないと申し上げました。何か問題でも?」

透華「ぐ…言わせておけば」

美穂子「それにハギヨシ様は、貴女の為に誠心誠意尽くしてきましたけれども…貴女は彼に何が出来たのでしょう?」

透華「わ、わたくしだって彼の為にその…その……」オロオロ

美穂子「どうしてそこで何も言えなくなるんですか?それはつまり、私が言った事は正しいのだというのですね?」

透華「違う!そんな事は」

美穂子「何が違うと言うのです。貴女のエゴに追い詰められたから、彼は龍門渕を去ったのではないですか?」
890 : ◆K7lrCuW9CD5k [saga sage]:2013/09/26(木) 23:58:59.88 ID:Z1Pz1PAoo

透華「…わ、わたくしは…わたくしは……」グスッ

ハギヨシ「美穂子さん、もうお止め下さい!」

美穂子「黙って下さい!」

ハギヨシ「っ!」

美穂子「私は貴方と離れたくないのです。ここで彼女を拒絶しなければ、きっと貴方は私のもとを去ってしまう」

美穂子「それだけは嫌なんです。離れたくないんです。彼女のように、私も貴方の過去になってしまうのが怖いんです」

ハギヨシ「過去だなんて…私、そのような事は決して」

美穂子「貴方は先ほど…失ってしまった過去があると言いました」

透華「!?」

美穂子「そして、その過去に執心して私の事など見向きもしなくなるかもしれないと言いました!」

美穂子「それは貴方が私を突き放す為…いえ、私をなるべく傷つけない為に仰った警告なのでしょう」

美穂子「けれど私にとって、それは警告ではなく死刑宣告も同然でした」

美穂子「貴方と共に生きられない未来など…少なくとも、今の私には考えられない。あってはならない事なんです」

ハギヨシ「……」

美穂子「貴方が私を拒まなかったのは…つまり、そういう事なんです」

美穂子「私の、命の恩人である貴方に対する強い関心を、貴方は何らかの形で拒絶しなければならなかった」

美穂子「なのにこちらが幻滅するような真似をしなかったのは、優しさであり、矜持であり、そして潔癖です」

美穂子「もう、引き返す事など出来ないんですよ。引き金は…当の昔に引かれてしまったのですから」
891 : ◆K7lrCuW9CD5k [saga sage]:2013/09/27(金) 00:20:53.65 ID:cFT/4yJVo

…泣いている。

透華お嬢様が、俯きながら泣いておられる。

それに…美穂子さんの目も涙で潤んでいる。

誰のせいだ。

決まっている、全部私のせいなのだ。

私が二人をここまで傷つけたのだ。

二人の想いを私が弄んでしまったから。

私は、彼女達を馬鹿にしていたのだと今更気付いた。

まだ成人もしていない子供なのだからと、やんわりと受け流すつもりだったのだ。

世の中には自分よりも相応しい相手がいるのだと、そう結論付けて。

私の一存で、何もかもを終わらせようとしていたのだ。

諦めてくれるまで待とうだなどと虫のいい事を考えていたのだ。

私と言う人間は、なんと愚かで卑劣なのだろう。

自分が誰かに愛されている事に満足して、誰かを愛さなかった。

これはその結果だ。

それなのに私は、なおも彼女達を傷つけようというのだろうか。
892 : ◆K7lrCuW9CD5k [saga sage]:2013/09/27(金) 00:37:07.24 ID:cFT/4yJVo

…どうすればいいのだ?

出来る事なら、誰かにその答えを尋ねてみたい。

そして、何もかもを押し付けてしまいたい。

楽になりたいのだ。

従者として生きてきた私は、愛されたり尽くされたりした時の事など深く考えた事はなかった。

受けた厚意はただ返せばいいとだけ考えていた。


…そうだ、返せばいいのではないか。


結局私は今の状況に酔っていた。だから小難しく考えようとしたのだ。

だが…そもそも難しい結論など必要ないのだ。

私が全てを受け容れればいい。

そして、二人が全てを受け容れてくれればいい。

それだけの事。

ただ、それだけの事なのだ。
893 : ◆K7lrCuW9CD5k [saga sage]:2013/09/27(金) 00:51:57.19 ID:cFT/4yJVo

ハギヨシ「お二人とも、どうか聞いて下さい」

透華「ハギ、ヨシ…」グスッ

美穂子「その眼差し…結論が出たという訳ですね」

ハギヨシ「ええ」

美穂子「それでは、そのお答えを聞かせていただきましょうか」

美穂子(…どうか、どうか私を選んで下さい…ハギヨシ様)

透華(ハギヨシ…どうか戻ってきて…!)







ハギヨシ「…私としては、お二人の愛に誠心誠意応えていきたいと考えております」

透華「…へっ?」

美穂子「あの、一体それはどういう意味なんでしょうか…?」
894 : ◆K7lrCuW9CD5k [saga sage]:2013/09/27(金) 00:54:18.53 ID:cFT/4yJVo






ハギヨシ「ですから、私はお二人を愛していきたいと申し上げました」





透華「」ポカン

美穂子「」ポカーン






「「はぁ!?」」
895 : ◆K7lrCuW9CD5k [saga sage]:2013/09/27(金) 01:35:45.77 ID:cFT/4yJVo

ハギヨシ「…いけませんか?」キョトン

透華「いけませんか…じゃありませんわよ!」プンスカ

美穂子「ハギヨシ様…あまりお戯れが過ぎますと私、怒っちゃいますよ?」ゴッ

ハギヨシ「私には、お二人のどちらかを選ぶだなんて真似は出来ませんから」

美穂子「何故!」

ハギヨシ「貴女方は、私には勿体無き程素晴しい女性だと考えているからです」

透華「…その言葉、大変嬉しく思います」

美穂子「けれど私達が、そんな有耶無耶な答えを望んでいるとでも?」

ハギヨシ「無論、お二人にとっては受け容れ難き事とは承知しております。ですが、私にはこれしか思いつきませんでした」

ハギヨシ「貴女方に愛されてばかりで愛していない自分に、気が付いてしまったから」

美穂子「…」

透華「…ハギヨシ」

ハギヨシ「お二人の想いを無碍にするような真似はしたくない…離れ離れにはなりたくないのです」

透華「けれど貴方は、わたくしを置き去りにしていったではありませんか!」

ハギヨシ「それについては…本当に申し訳ございませんでした」

透華「良き人になりたければ目立つべき…貴方がそう言ったからわたくしは、わたくしは必死になって目立とうとして…」

透華「なのに貴方は私が露骨に好意を示しても、それを悉く無視して…挙句わたくしの前から逃げ出して…」

透華「やっと見つけたかと思えば、貴方の愛がわたくし以外の誰かに向けられるだなんて言われて…」

ハギヨシ「……」

透華「けれど…その真剣な眼差しで見つめられたら、わたくしは…受け容れるしかないではありませんか……」

ハギヨシ「…お嬢様」

透華「…ズルいですわ、こんなの」
896 : ◆K7lrCuW9CD5k [saga sage]:2013/09/27(金) 02:06:14.89 ID:cFT/4yJVo

美穂子「…」

ハギヨシ「…美穂子さん、その…」

美穂子「分かっております。私は…私達は、それを受け容れるしかないのでしょう?」

ハギヨシ「寛大なお答えを頂き、感謝します」

美穂子「貴方でなければ…こんな馬鹿な話、聞くまでもなく平手打ちで済ませるんですからね」

ハギヨシ「…申し訳ございません」

美穂子「謝らないで下さい。そんな事をされたら、こちらは惨めになってしまうじゃありませんか」

美穂子「思う所はありますけれど、私も貴方の出した結論を受け容れます。貴方が私を愛してくれると、そう信じてますから」

ハギヨシ「そのお言葉に、精一杯応えさせていただきます」

美穂子「当然です。私の事、沢山愛してくれなきゃ嫌なんですからね?」


ガサッ!


美穂子「な、何?」

ハギヨシ「貴女は…」

透華「一、どうして貴女がここにいるのですか!」

一「…しよう」

透華「え、何ですって?」

一「3P、しよう!ボクと透華と、ハギヨシさんの三人で!!」

透華「」

ハギヨシ「」

美穂子「え、えええ…いきなり何を言い出すのかしら!?」
897 : ◆K7lrCuW9CD5k [saga sage]:2013/09/27(金) 02:35:01.89 ID:cFT/4yJVo

一「ああ、これは失礼しました。福路さん、貴女も含めて4Pじゃないといけませんよね」

透華「…いやその、彼女が言ってるのはそういう事ではなくてよ」

美穂子「3Pとか4Pとか、どうしてそんな恥ずかしい事を」///

一「そんなの決まってますよ。ボクは透華とハギヨシさんの事が好きなんですから」

透華「えっ、私は兎も角ハギヨシを…そんなの聞いてませんわよ?」

一「言ってないからね」

ハギヨシ「ええと…私さっぱりついていけないんですが」

一「だってハギヨシさんには屋敷に来た時から、色々とお世話になっているし…」

一「昔は手錠のせいでよく転んだりしたけれど、その度にハギヨシさんがいつも助けてくれた」

一「その甲斐あってか、今じゃ手錠があってもなくても問題なく生活出来るようになったからね」

透華「…ハギヨシ」

ハギヨシ「国広さんは要領も物覚えも良かったものですから、ついつい世話を焼いてしまったのですよ」

ハギヨシ「お嬢様に強い好意を持っていたのは知っておりましたが、よもやその対象に私がいるなどとは…」



一「二人の想いは受け容れる事にしたんですよね?図々しいかもしれないけど、よければボクもその中に…」

透華「ダメですわっ!」

一「そんな…ボクは透華付きのメイドなんだから、それくらい融通利かせてくれたって」

透華「ダメといったらダメなんですっ!」

一「あ、そう言えば歩もハギヨシさんの事を…」

透華「あの子も貴女と同じですの!?」

一「そうなると5Pになっちゃうね…困ったなこりゃ」

透華「いい加減そこから離れなさいな!猿ですか貴女は!!」



美穂子「ハギヨシ様、この先一体どうなさるおつもりで?」

ハギヨシ「…何とも申し上げられません」
898 : ◆K7lrCuW9CD5k [saga sage]:2013/09/27(金) 02:53:33.24 ID:cFT/4yJVo

透華父「…国広に発信機と超小型スピーカーを持たせたら、とんでもないものを聞いてしまったんだが」

透華母「そのうち刃傷沙汰にならなければいいのだけれど」

透華父「スキャンダルが怖いし、ハギヨシにはもう少し教師を続けてもらった方が良いかなー」

透華母「でもそれだと、衣ちゃんが寂しがって何をしでかすか分からないわよ?」

透華父「あー…場合によっては、向こうに押しかけさせちゃえば万事解決じゃね?」

透華母「それしかないよねー。まあ向こうには、面倒見の良いあんちゃんがいるって聞くし」

透華父「彼ならきっとハギヨシの負担も軽くしてくれるだろうさ。仕方ないんだ、奴がモテ過ぎるのがダメなんだ」

透華母「今しがた風越に電話したら『ふざけた事ぬかすなよクソが…ブチ殺すぞ』ってもの凄い剣幕でキレられたからねー」

透華父「女子高ってこえーなあ…」





次々回って書いてたけど、話が思いつかなかったからこれでおしまいですのだ!
899 : ◆K7lrCuW9CD5k [saga sage]:2013/09/27(金) 03:08:49.97 ID:cFT/4yJVo
そんな訳でこのスレはおしまいです。
タコス屋とか都落ちとかはもし出来るなら何らかの形でリベンジしたいですが、正直難しい。
今後もどこかで、未熟な作品を書き続けていくのでしょうけど。

>>802について
内容が内容ですし、ホントはどうしてもらったって構わないんですけど…なるべくなら、の●●●●にだけは載せられたくないですね。
理由は割愛。

ご閲覧、ありがとうございました。
900 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/09/27(金) 03:19:29.35 ID:Rtdgo5rAO
乙です
都落ちについて聞きたかった事があったけどまたの機会にしますか

またいつかどこかで
901 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/09/27(金) 04:57:25.32 ID:j0LJglOPo
乙です
902 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/09/27(金) 07:25:26.08 ID:cPFpQZot0
完結乙ー
903 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/09/27(金) 07:27:17.72 ID:obIjYyXLO
完結お疲れ様でした
また何処かで
904 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/09/27(金) 08:09:16.57 ID:zJf1cUPho
完結お疲れ様
またどこかでお目にかかれると信じて
905 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/09/27(金) 11:04:26.59 ID:nt+lG9rDO
乙ー
リメイクでなくてもいいからまた気が向いたら京太郎やハギヨシが出る作品書いてほしい
906 : ◆K7lrCuW9CD5k [sage saga]:2013/09/27(金) 12:24:26.38 ID:MZwhoGgro
コメントありがとうございます。
次回作を始めるのは数日後かもしれませんし、ひょっとしたら数ヵ月後かもしれません。
数レスの短編なら某所で時たま書いてますでしょうけど。

>>900 今後お答えできるかどうか分かりませんし、宜しければご質問承ります。
907 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/09/27(金) 13:58:05.90 ID:Rtdgo5rAO
また都落ちスレたてるなら聞かないほうが良いかなー

でも一応質問
都落ちの方もこっちと同じで、ムダヅモ時空・アカツキ時空から来たヒトラー・完全者の影響で世界がおかしくなったって解釈で良いの?
908 : ◆K7lrCuW9CD5k [sage saga]:2013/09/27(金) 14:27:00.10 ID:MZwhoGgro
>>907
その解釈で間違いありません。
都落ちにも書いていました通り、第四帝国がスーパーアーリア人の力を再現して世界は『重ね合わせ』られました。
世界がおかしくなった原因自体は他にも(>>300など)あるのですが、ヒトラーと完全者の目論見が引き金になったのは確かです。

即興で書いているのが殆どなので、整合性とか諸々には目を瞑っていただけると助かります。
…ツチノコのドラローの事、完結してから気付いたりとかしましたし。ごめんよドラロー。
909 : ◆K7lrCuW9CD5k [sage saga]:2013/09/27(金) 14:40:59.59 ID:MZwhoGgro
>>908 訂正

×:世界がおかしくなった原因自体は他にも(>>300など)あるのですが、ヒトラーと完全者の目論見が引き金になったのは確かです。
○:世界がおかしくなった原因自体は他にも(>>300など)あるのですが、ヒトラーと完全者がきっかけになったのは確かです。

それでは皆様、またどこかで。
910 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/09/27(金) 18:26:14.99 ID:8YpYqQGOo
乙です
911 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/09/27(金) 20:00:36.55 ID:phWhrswMo
改めて乙
912 : ◆K7lrCuW9CD5k [sage saga]:2013/09/27(金) 20:37:38.70 ID:pekO9epFo
>>882 訂正すべき箇所なんてキリがないんですがですが、最後にもう一つだけ。

×:美穂子「この期に及んで馬鹿を仰らないで下さい。私は、貴女と愛し合いたいから―――」
○:美穂子「この期に及んで馬鹿を仰らないで下さい。私は、貴方と愛し合いたいから―――」

危ない危ない…ハギヨシが男装の麗人になってしまう所だった。
913 : ◆K7lrCuW9CD5k [sage saga]:2013/09/27(金) 20:39:56.21 ID:pekO9epFo
>>912
…ですがですがってなんやねん。
では。
914 : ◆K7lrCuW9CD5k [sage]:2013/10/02(水) 15:10:04.53 ID:9wHSDzrZo
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