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袋持ち「それでは行くとしますか」読書家「はいはい」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/03/03(日) 14:52:54.34 ID:Uszuorj00
袋持ち「なんだなんだ、やけにやる気がないじゃないか」
読書家「あのですね、今日までいろいろあって私もそれなりに疲れているんですよ。
    手配者にされるし、家は木っ端みじんに吹き飛ばされるし、私の秘蔵コレクションが水泡に喫したんですよ」

袋持ち「それは諦めろ。
    なに、どんな本も命がなければ読むこともできないだろ。
    あんたの秘蔵コレクションはな、命を掛けてあんたを守ったんだよ」
読書家「私の秘蔵コレクションに、変な使命感与えないでください」

袋持ち「まったく、これから胸を高鳴る冒険が始まろうとしているというのに、何という諦め方よ。
    私が組もうと思ったあの頃のあんたはどこに行っちまったんだ。
    今いるあんたは、まるですぐに諦めちまう人間の人生そのものだ」
読書家「今でもここに居ますから。あのね、どんな物事にだって休み時間は必要なんですよ。
    おまけに色々と事が進み過ぎてて、これが物語なら読者置いてけぼりですよ」

袋持ち「別に構わんだろ。これは私たちの物語だ。誰かが見るわけでも、ましてや品評されるものでもない。
    そもそも人が歩んだ人生に評価をつけようなんて事が間違っている」
読書家「私に対して、すぐに諦める人間っていう評価を、今あんたが下してるわけだけど?」

袋持ち「それはさておき、本題に入ろうじゃないか」
読書家「濁しましたね」

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ハルヒ「綱島アンカー」梓「2号線」【コンマ判定新鉄・関東】 @ 2024/04/22(月) 06:56:06.00 ID:hV886QI5O
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2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/03/03(日) 15:03:47.23 ID:Uszuorj00
袋持ち「まず、私たちの置かれているこの状況についてだが」
読書家「はいはい、必修文学本『沈まぬ朝焼け』に酷似してるっていう話ですよね。
    それは私にもわかりますよ。あの本で言うところの、我々は福沢亮に当たるんでしょうかね」

袋持ち「そうなるだろうね。
    この世界の中に根付いている考え、魔物とは人間の家畜であり、人類社会における必要物資であるという考えだ。
    あんたはこの考えをひどく嫌っていたみたいだな」
読書家「ええ、私はこの考えがあまり好きではありませんので。
    なので、都では申請さえすれば貰える奉仕奴隷を受け取ってはいませんよ」

袋持ち「それだけでもあんたはまだまだ物事を考えられる人間っていうことだ。
    そんなあんたと、異国から密入国してきた私が出会った挙句に、こうして指名手配されている」
読書家「それには間違いがありますよ。出会った後、都の書物保管塔の秘密扉を開けてしまった。
    そして、書記からその秘密扉の蔵書の一つが手渡された結果、こうなったが正解です」
袋持ち「細かいことは気にするなって。
    どちらにせよ、私たちが出会った時点で、この流れは必然だったんだよ」
    
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/03/03(日) 15:13:38.13 ID:Uszuorj00
読書家「まったく、これが必然ならあんたの信じている神っていうのを殴ってやりたくなりますよ。
    ここまで生きてこれたのが不思議なくらいですからね」
袋持ち「だから、ここまで生きてこれた事も神の思し召しなんだって。
    まあ、今はそんなこと言っても仕方ないからな。
    で、この都が思った以上に本に出てきている国家体制に似ている事から察するにだ」

読書家「この都の管理局内部には面白い本がたくさんあるはずだ、ですよね」
袋持ち「私の言葉を奪うなよ。
    まあ、つまりはそういうことであるわけだ」

読書家「まぁ確かに、今になって思えば私が欲しいような物語が無いのは余りにも不自然ですからね。
    どこの場所に行っても、私が欲しがる魔物が主人公であったり、味方であったりという本は無いですからね」
袋持ち「あんたはまず、その考え自体がこの都にとって危惧すべき思考なんだと気づくべきだね。
    多分、あの書記はそういうこと黙っててくれたんだろうさ。
    そうじゃなきゃ、あんたが私と会うことも無かったはずだからね」

読書家「書記が私を庇っていたということですか。
    それはなんとも心が温かくなりますが、その結果で掃き溜めに送られるのは酷い結果ですよね」    
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/03/03(日) 15:21:45.21 ID:Uszuorj00
袋持ち「だからそれをどうにかするために、これから真夜中の地下水路に忍び込もうとしてるんじゃないか。
    まぁ、ここに私がいなかったらあんたはとっくに骸になっていただろうな」
読書家「そうですかそうですか、ところでその袋は置いてか無いんですか?
    侵入するにはちょっと大きすぎますよ」

袋持ち「馬鹿だな、この中に入っている本はな。管理局に保管されているであろう本と同じくらい価値がある。
    それをもう帰ってこないかもしれない都の、しかもあんたの家の跡地になど置いてこれるか」
読書家「なら、家が破壊される前に私の秘蔵コレクションも一緒に持ってきてくれればいいじゃないですか。
    あれを手に入れるのに、どれほどの苦労を」

袋持ち「まぁ、どっか違う場所に行けばあるはずだ、なにせ世界は広いからね。
    あの本のように、世界の大半を焼けつくすマホウなんてものを使って勝利を勝ち取る終わり方を、この世界は迎えていないのだから」
読書家「そうですかそうですか。
    まぁ、どちらにせよ。私の目的は書記を救出することですから。
    この紙がその居場所だと信じたいんですけどね」

5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/03/03(日) 15:30:49.40 ID:Uszuorj00
袋持ち「そうであってほしいけどな。
    ところで、『沈まぬ朝焼け』の終わりは知っているよな」
読書家「もちろん。
    生き残った魔物たちは人類のために働いていった。
    めでたしめでたし」

袋持ち「そう、この国はまさにその後にできたような国なんだ。
    普通、こんなに魔物に厳しい環境を与えていたら、魔物たちの不満が爆発するはずなのにそれが起きない。
    私はそれが気になっていて仕方ない」
読書家「その謎が、管理局の中に隠されていると?」

袋持ち「そうでもなければ、こんな地下水路などを通ってまでして管理局には潜り込まん。
    多分、魔王灯が使われていることは確実だろうが、それだけでも説明がつかない」
読書家「魔王灯なんてあるわけないでしょう。
    魔物を操ってしまう装置なんて、そんなのあるわけないですよ」

袋持ち「だが、『沈まぬ朝焼け』においては、魔物が人間を操るためにそう言ったものを使っているだろう?
    なら、その逆もまた然りと考えるべきだろう。
    それに、私は魔王灯の実物を見た事があると言っただろうが」
読書家「物体がないのに信じろというのが無理なんですよ」

6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/03/03(日) 15:39:34.14 ID:Uszuorj00
袋持ち「あんたは本当に見たものしか信じないんだね。
    まぁ、それを探しに行くのが冒険の醍醐味ではあるが」
読書家「仕方ないでしょう。
    本読んでると良く出てくるでしょう。嘘か真かとか。幻をあたかもあるように語るところとか。
    そういうところに目移りしてくると、疑い癖も付くものです」

袋持ち「まったく、冒険活劇や不思議な物語が好きなくせに。
    現実の事となると見たもの主義者とはな。本とは心を豊かにするものではないのかな」
読書家「私がこう育ったのは本の所為じゃないですから。
    それと、そろそろ水路の監視が入れ替わる時間です」

袋持ち「ま、現物をみればあんたも納得するだろうから、ここまでにしておくさ。
    その代わり、ここから先は命を掛けることになる」
読書家「もうすでに命がいくつあっても足りない雰囲気しかないので、心配すること無いですよ。
    多分、あの闇討ちの時に私は死んでいたはずですからね」

袋持ち「そうかそうか、私に感謝しているんだな。わかるわかるぞ」
読書家「はいそうです」

袋持ち「いきなり素直になんなよ!
    びっくりするだろうが!」
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/03/03(日) 15:46:23.91 ID:Uszuorj00
読書家「これは失礼。
    それじゃ、私の後についてきてください」
袋持ち「はいはい、わかったからさっさと誘導しろってんだ。
    これで、袋の中にまた面白いものが増えるな〜」

読書家「本当に冒険みたいな、そんな感じがしてきたな。
    まぁ、心躍る冒険じゃなくて、なんというか都の中っていうのが癪に障るけどね」
袋持ち「まあ、出会って3日でこんな波乱になるなんて、誰も想像できん。
    余り気にするな」

読書家「なら3日前に戻って、書物保管庫に来ないようにしてもらえますか?
    そうすれば、私も書記もまだ平和な生活を送れたはずなのでね」
袋持ち「過ぎてしまった事は仕方ないから、このままいける場所まで行こうではないか!
    なに、この私がいるから大丈夫!」

読書家「出た時は大船でも、結局沈没船になってしまうような気がしてならないな」
袋持ち「暗いことは言わないようにな。

読書家「それじゃ入りますよ」
袋持ち「うむ、どんとこい!」
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/03/03(日) 15:59:34.06 ID:Uszuorj00
    ―3日前―
 〜都・書物保管庫・受付〜

書記「そんな本は置けませんよ」
読書家「それは困ったな」

書記「どうしてこれが困るのでしょうか?
   たしかにこの書物保管庫のご利用が一番多いのは確かですが、ならば別の本を借りていけばいいのでは?」
読書家「あのね、私は魔物が出てくる本とは言ったけどさ。
    こうね、魔物が一方的に悪く描かれている本には興味がないんだよ」

書記「君が読みたがっている本は知っているよ。
   魔物が主人公であったり、味方であったりする冒険活劇。または不思議な物語でしたね。
   現在扱っている本の中でレビンソンなどが一番の候補ですが」

読書家「レビンソンは駄目だ。
    最後に食糧庫を荒らしたのが、魔物ですぐにレビンソンによって殺された。
    魔物がやった行為は確かに重いけど、ここは肉食の野生動物でも良かったはずだ
    腹が減っていて食糧庫を襲ったという表現はあるが、魔物である必要はない。
    あれは、ただ魔物を殺すために付けたような文章じゃないか」

書記「そう言われましても、魔物は絶対悪という認識ですから。
   それに背く内容の本がこの都に出ることなんてありえません」
    
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/03/03(日) 16:08:14.24 ID:Uszuorj00
読書家「書記だって魔物だろう?
    そういう本があったっていいって思うだろう?」

書記「たしかに私は魔物ですが、そのような物語があったらいいなという考えに至ったことはありません。
   そんな物語がここにあったら、私はすぐに掃き溜めに送られることでしょうね」

読書家「書記はきれいだからな、男たちが放っておかないだろ。
    ま、私は興味がないから別に良いが」

書記「その年にもなって妻子、いや妻も持ってないのは少しいかがなものかと思いますが。
   それとも、男色――」

読書家「恐ろしい冗談はやめてくれないか。
    何時私が、男のむさくるしい姿を見ながら興奮するって言った?」

書記「私の中で、結構な年になっても一般的な家庭を持っていない男性は男色というのが信条なのですが。
   こちらのバラ男途芽などを読んでいただければ、納得していただけると思いますが」

読書家「これ、どう見ても掃き溜めに送られるだろ。
    それに私にそんな趣味は無いと言っている」

書記「そうですか、それは残念です。
   ところで今日は本を返しに来たんですよね。返却表に記入しますから、本をお渡しください」

   
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/03/03(日) 16:23:02.74 ID:Uszuorj00
読書家「ああ、これだ」

書記「それでは表に書きこみまして、戻す棚の場所はわかりますよね?
   もう1年はここを利用しているんですから、覚えているでしょう」

読書家「覚えてるわけないだろう」

書記「そんな堂々と言われると呆れる気持も薄れますね。仕方ない。
   私の髪の毛に先行させますので、その後を追いかけてください」シュルルル

読書家「何度見ても不思議なものだ」

書記「ちょ、なんで私の髪を手に取るんだ。
   今から案内を……あふっ」

読書家「魔物っていうのはこういうことができるんだから
    伸ばしたり、動かしたり、束ねて硬くしたりとかさ」ナデナデ

書記「ちょ、あまり、さ、触らないでください。
   く、くすぐった、いんです」

読書家「ああ、すまない。
    でも、やっぱり触ってみたくなるんだよ。
    ほら、書記の髪はすごくサラサラしていて、細かいからね」

書記「そうですか、それよりも早く本を返してきてください。
   こうやって髪を伸ばしたり動かしたりするのは、結構神経を使うのですから。
   この頃は君くらいしか来てくれないからね。制御も一苦労だ」

読書家「はいはい、それじゃ返してきますか」

書記「棚に入れ終わったら髪を撫でてください。
   髪をこちらに戻したいので」

読書家「分かってますよ。それじゃ、出発」
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/03/03(日) 16:36:49.22 ID:Uszuorj00
書記「思ったよりもお早い御戻りで。
   それで何を借りますか?」

読書家「ああ、書記。今回はなにも借りない事にしようと思ってな。
    今さっきの棚を見ても、これだ!っていう感じの本は無かった」

書記「なら、これを借りて行きなさい。
   世界中の子供たちに愛され読まれている絵本がたくさん入ってる一冊ですよ」

読書家「あのね、私は物語を読みたいわけで、今さらそんな子供が読む本に興味なんてないんですよ」

書記「第三者から言わせてもらえば、君が読んでいる本はどちらかと言えば子供向けですよ。
   マホウ、ドラゴン、主人公が選ばれし人で、多彩な仲間たちと共に困難に立ち向かっていく、まさに子供向けですよ」

読書家「おい、人の好みは関係ないだろ!
    た、確かにな。私の呼んでいる本が大人の読む本なのかと言われたら、確かに怪しいかもしれないけど。
    ちゃんとしたものは面白いんだ。ジェスチャーで説明してもいい」

書記「君のジェスチャーでは本の内容なんて伝わってこないよ。
   それよりも、この一冊は君にとってもいい刺激になると私は思っているよ」

読書家「具体的にどんな刺激になると?」

12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/03/03(日) 16:48:03.42 ID:Uszuorj00
書記「昔読んだ時の絵本の印象が、今の君と同じというわけは無いだろう。
   昔はこうだった考えが、今となっては変わっている。それは成長をしているという素晴らしい結果。
   その成長の結果を見るのに、こうした昔読んだことのあるお話を再度読むことは、とても役に立つことなんですよ」

書記「それだけじゃありません。いつもとは違う本を読むことで脳の中に新鮮な刺激が提供される。
   つまり、脳の活性化です。脳が活発に動けば、それだけで老化の防止にもなりますし、頭の働きが良くなります。
   また温故知新、昔に読んだ本を読むことによって新しい可能性を見つけだすことができるのです」

読書家「書記……」

書記「以上の理由から、この本を借りるべきだと私は思っております。
   さぁ、温故知新で新しい発想を見つけましょう」

読書家「難しい言葉を並べてるけどさ。
    本当は私以外に来る人がいないから、それをどうにか維持するために貸出しようとしてる?」

書記「……」

読書家「書記?」

書記「とりあえず、表に記入しておきましたので。
   私があなたが来ないのが寂しいからとか、いつも一人でいるのがつまらないとかそういう理由の為だけに本を借りるよう迫っているなどあり得ない話です。以上、どうぞ本です」

13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/03(日) 18:51:10.29 ID:Pg/cFFy20
期待
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/03(日) 22:20:42.28 ID:Uszuorj00
読書家「そんなに早口で言われても説得力が無いです。
    しかもなんですか。これは一方的な押し売り、いや押し貸しじゃないですか」

書記「君は貸し出しにおける手順をちゃんと踏んで、その本を借りたのだろう。
   いくら私でも、本が嫌いな人に無理やり本を貸すなんてことするはずがない」

読書家「今さっきの書記の行動は、どう見ても一方的に手順を進めていただけだと思いますがね。
    よりによって、絵本なんて借りる羽目になるなんて」

書記「絵本もいいものですよ。たとえば――」

読書家「もう言わないでいいです。
    はい、絵本はいいものですね」

書記「そ、そうですか」ションボリ

読書家「なんでそこで残念そうにしますかね。
    まあ、借りたからにはちゃんと読みますよ。
    読ませていただきますし、ちゃんと返しに来ますよ」

書記「良い返事ですね。
   またお勧めの本を探しておきますから、楽しみにしていてくれ」

読書家「本気で――」

読書家「ん、誰か来たみたいだな。
    昼間俺が来るだけでも珍しいのに」

書記「ごきげんよう、今日はどういった本をお探しで」ニコニコ

袋持ち「ちょっと、失礼する!」ドタドタ
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/03(日) 22:33:40.42 ID:Uszuorj00
書記「え、一体何……ちょっと」アセリ

読書家「おい、書記のスカートの中に入って一体何を――」

憲兵「失礼する」

読書家「け、憲兵……だと?
    一体何がどうなってるんですか」

憲兵「我の質問に答えればよい。
   おい、魔物。
   ここに変な袋を持ったあやしい奴が来なかったか?」

書記「あやしい奴ですか……」

憲兵「そうだ、都の中に正式な手続きをせずに入り込んだ密入国者です。
   現在我々は、その輩を探しています」

書記「密入国者ですか……」

袋持ち「来てないって言って。
    言え。
    言ってよ。
    ごめんなさい、言ってもらえませんでしょうかお願いします。
    ほんと、お願いしますよ。
    一生のお願いですので、いや、ホント、マジで」ボソボソ ペコペコ

読書家「……(久々に書記の怒りの波動を感じたな)」

書記「いいえ、見かけていませんよ。
   ところで憲兵様、本のご利用はどうでしょうか」

憲兵「そうか、失礼した」

読書家「……」

袋持ち「……」

書記「またのご利用をお待ちしております。
   本の一冊も借りれないとは、憲兵は思った以上に仕事が多いようですね。
   密入国者を捕まえられないというのも、仕事の疲れが溜まっている所為ですね」

袋持ち「行った?
    あのゴリラみたいな奴はどっか行ったか?」
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/03(日) 22:42:14.52 ID:Uszuorj00
書記「ええ、ゴリラはどこかに行きましたよ。
   保護されたんじゃないでしょうか。
   ほら、ゴリラって貴重生物らしいですから」

袋持ち「そうか、よかったぜ〜。
    ありがとな、おかげで助かったぜ。
    良いしょっと、ん、なんで服を掴まれてるんだ?」

書記「でも、スカートの中に入ってきたのはちょっと許せないので。
   一回で許してあげますね」

袋持ち「え、なにが。
    すいません、顔怖いんですけど。
    あの、緊急事態っていうやつでして、仕方ないじゃないですか。
    えっと、その、ごめんなさい。
    え、駄目? 目笑ってないですよ。
    うわああああああああ、きゃいん!」スパコーン

書記「すっきりしました。
   まったく、人のスカートに入るなんて非常識な行為が許されるわけは無いのですよ。
   スカートの下には夢が詰まっているのですから」

読書家「なるほど。
    ところで、書記のスカートの中はどうなってたんだ?」

袋持ち「イタタタ。
    えっとね。結構きわどかかろっとぉぉおぉぉ!」

書記「ウフフ、あなたの穴という穴に、私の髪の毛を突っ込んであげましょう。
   とても気持ちいいはずですから。
   心配いらないですよ」
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/03(日) 22:51:53.96 ID:Uszuorj00
読書家「まぁ書記よ。
    今回はこれくらいにしておけよ」

袋持ち「あんた、いいこと言うじゃないか。
    そ、そうですよ。ちょっとしたお茶目しちゃっただけじゃないですか」

書記「いくら女の子でも、悪い事は悪い事って教えないといけませんから」

読書家「そこまでそこまで。
    っていうか、なんてこんな奴を庇ったんだよ。
    バレたら掃き溜め送り確定だぞ」

書記「そうですね。
   バレなければいいんですよ、そう考えればいいだけですからね。
   それより私のスカートの中にまだ入ってる、あなたの荷物を取ってもらえないでしょうか」

袋持ち「ああ、そうだった。
    よしっと、中身は……よかった、全部無事だ」

読書家「密入国とは、この国にはそんな事をするに値するものがあるようには思えないんだけどね。
    ここで生まれ育ってる身から言わせてもらうが、面白い本も何も置いて無いそんな場所だからね」

袋持ち「国の価値が置いてある本の内容に比例するって言いたいのか?」

読書家「そこまで大それたことは言わないが、面白い本は無いぞ。
    まあ、私から見ての話だけどな」

袋持ち「まぁ、置いてある本の内容と種類で、この国がどんな国なのかは大体想像がつく。
    だけど調べる前から、事実を突き付けてくる奴に会ったのは初めてだ」
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/03(日) 23:02:38.16 ID:Uszuorj00
読書家「まぁいいや。ところで、その袋の中身は書物か?」

袋持ち「そうだぞ。ここまで来る間に集めてきた本だな。
    結構面白いのもあるけど、あんた本に興味あるの」

書記「彼は思った以上に本に興味がある人だ。
   今は私に魔物が主人公だったり、味方だったりする本をここに置くように頼みに来ている」

袋持ち「うわ、マジかよ。
    世界の理から外れた考えする奴だな」

読書家「別に構わないだろう。
    ところで、その本読ませてくれたりするのか」

袋持ち「ん〜、なんだなんだ。
    あんた読みたいのか〜、読みたいのか〜い?」

読書家「正直に言わせてもらえば、興味があって読ませていただきたい。
    この都じゃ、読める本の傾向はわかってしまっているからね。
    今さっきなんて血迷ってこんなものを借りてしまった」

袋持ち「何々『世界の童話』だと。
    ぷっはっはっは、なんだよそれ。
    こんなの選ぶなんて相当センスないぜぇぇあああああ!」スパコーン

書記「失礼、頭に虫が飛んでいたので。
   危なかったですよ、致死性の毒をもったクロクロモッコルでしたから。
   ほんと、危機一髪でしたね」

読書家「クロクロモッコルって、童話の中の魔物の名前……いや、なんでもないです」
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/03(日) 23:09:48.56 ID:Uszuorj00
袋持ち「イテテテ、まあいい。
    ところで、この本読みたいのか?」

読書家「ああ、できればだけど」

袋持ち「交換条件だ!」

読書家「交換条件ですか。
    できる範囲の内容でお願いしますよ。
    あのゴリラを倒して来いとか、書記のスカートの中に潜り込めとか、そう言うのは無しですよ」

書記「き、君が望むのならスカートの中に入れてあげても」モジモジ

読書家「いえ、結構です」

書記「なんだろうね。酷く憎しみが疼くよ」

袋持ち「話の骨を折るなよ〜。
    大丈夫だって、神に誓って理不尽な要求しないって。
    私はこの本を見せる代わりに、あんたに条件を突き付けようと思う」

読書家「前置き長いです。
    さっさと交換条件を言ってください」

袋持ち「だぁぁ、少しだけ雰囲気出そうと思ってた私の計画に水を差すな!
    まぁ、確かに面倒だからさっさと条件を述べるとしよう。
    私の条件はだな、―――」

読書家「えっと、それでよろしいんですかね」

袋持ち「ああ、これだけで構わないぞ。
    これさえ呑んでくれれば、私の持ってきたこの本を勝手に読んでくれて構わん」

書記「だそうですが、君はこの条件を飲むのかな?」
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/03(日) 23:20:06.14 ID:Uszuorj00
読書家「……ふむ」

書記「まぁ、君のとってこれは難しい話だろうね。
   今までに無かった大きな変化が君にもたらされるはずだ。
   そう、今までに感じた事の無い葛藤や、欲望の渦に呑まれそうになりながらも、君は理性という名の岸にしがみつく事が出来るのかな?」

袋持ち「どうだどうだ?
    悪い条件じゃないだろう?」

書記「ふふ、君は成長しているかどうかを調べることも無く、この難関に立ち向かうことになるわけだ。
   私の忠告通り早くに『世界の童話』を借りて、己が成長に耳を傾けるべきだっただろう。
   真に残念だが、もうそれを試す時間は無いわけだ。
   さぁ、どうす―――」

読書家「別に構いませんよ。
    それでその本が読めるならお安いご用です」

袋持ち「お〜、いい奴だなお前。
    しかし、今すぐ動いては危ないからどうするべきか」

読書家「書記」

書記「何でしょうか。
   本の貸し出しでしょうか?」

読書家「なんで少し機嫌悪くしてるんだ。
    まぁ、それは置いて置いてだ。
    そいつを夜になったら家に連れてきてくれ」

書記「なぜでしょうか?
   私にはこの保管庫を管理する義務が……」

読書家「連れてきてくれたら、ここで本を借りるのを一カ月は続けてあげるよ」

書記「お任せください。
   夜、ほとぼりが冷めた頃にお伺いいたしますので」

袋持ち「おおー、なんという交渉術」

読書家「これ、交渉術なんて言えないけどな。
    それじゃ、俺は家に戻って準備しておくから」

袋持ち「おお、楽しみだ」

書記「君の趣味趣向がどういったものなのか――」

読書家「それじゃ」


21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/03/03(日) 23:22:09.61 ID:Uszuorj00
今日はここまでです。

 キャラクターは性別だけ書きます。

 読書家:男
 袋持ち:女
 書記 :女
   です
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/03/04(月) 10:58:22.20 ID:Yqy2w9EF0
 〜読書家自宅・居間〜

読書家「ちょっとがっかりしています。
    いや、本当にがっかりしていますよ」

袋持ち「なんだなんだ、何にがっかりしてんだ?
    それにしてもいい場所じゃないか。一人暮らしに丁度いいし、友人を招く分には申し分ない大きさだぞ」

読書家「いや、なんで他の国から持ってきた本がレビンソンなんですか。
    他のは全部他国の歴史書だったりするし、私の読みたいような本に一番近いのがレビンソンだけっていうのは、納得がいきませんよ!」

袋持ち「書物を確認しないで条件を呑んだのはあんたじゃないか。
    私としてはこの都に滞在する間の住処ができて好都合だけどな」

読書家「書記はすぐに帰ってしまうし、あと三日は仕事も休みだから期待していたというのに。
    袋を開けた結果、読む本が書記に勧められたレビンソンとか、どんな偶然ですか」

袋持ち「なんだ、あんたレビンソン嫌いなのか。
    私はそれなりに好きだぞ〜」

読書家「レビンソンが好きな人は、その人間性を疑いたくなります。
    あれは素晴らしい物語を、最後の最後で腐った物語に変えた駄文ですよ。
    主人公レビンソンも、結局はあんたの言う世界の理っていうのに忠実な人間だったということです」


23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/04(月) 11:09:59.43 ID:Yqy2w9EF0
袋持ち「レビンソンの最後の最後って、あれか?」

読書家「そう、あれです。
    辻褄が合わないんですよ」

袋持ち「……辻褄?」

読書家「そうです、辻褄ですよ。
    レビンソンは、人のいなくなってしまった村の再建に訪れるわけですよね。
    冒頭における『この寂れた村跡の周りに人の影はなく、誰もこのような土地に興味など持たないのであろう』と書かれているんですよ。
    それが最後になんですか、村が再び歩きだせるかもしれない辺りになって、いきなり魔物が現れるんです」

袋持ち「……魔物?」

読書家「なんですか、あんたレビンソン読んだことあるのかっていう顔は。
    私だって初めてレビンソンを読んだ時は楽しかったですよ。
    色々な問題に取り組み、死んでいた村を元通りにしていくレビンソンの姿を思うたびに、胸が熱くなりましたよ。
    でも、でもですよ。最後になっての豹変ぶりはレビンソンという人物像にはまったく当てはまらなかった」

袋持ち「レビンソンは豹変なんて……」

読書家「物語の内容をへし折ってまで作り上げられた文章なんて、私は読んでいて楽しくも無いです」

袋持ち「そうか、まぁなんだ。人によって感じ方はそれぞれだからな。
    でも、私の知っているレビンソンには魔物なんて出て来ないぞ」

読書家「はいはい、気休めは不要ですよ。
    すいません、ちょっと熱くなりすぎました。
    一応は客人として、あんたをもてなしている立場だっていうのに」

24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/04(月) 11:17:03.77 ID:Yqy2w9EF0
袋持ち「そうだぞそうだぞ〜。まぁ、あんたは思った以上に読書っていうのを大事にしてるってことはわかったよ。
    こんな情熱を持って本を読んでる奴は、中々いないからな」

読書家「そう言われると、ちょっと照れますね」

袋持ち「いきなり照れてんじゃないよ、気持ち悪いな」

読書家「それが家に泊めてあげている人に言う言葉ですかね。
    まぁ、客人に対して気をあげてしまう主もどうかしてますけど」

袋持ち「そう言うな。
    でも、あんたの情熱を見せつけられちまったら、私も私が信じる情熱とやらを見せつけないとならない気がしてきたよ」

読書家「なんですか、情熱を見せつけるって。
    べ、別に私が勝手に熱くなっただけですから、気にしないでください」

袋持ち「いやいや、そうとも言えん。残念ながら、あんたの読みたい本を私は持っていなかったからな。
    なら、私が情熱を持って信じている物の話でもしようと思ってな。
    読めない本くらいには有意義な話を聞かせてやるからさ」

読書家「あんたの成り立ちか何かか?」

袋持ち「まさか、私の身の上話なんてものはな。
    適当に国を出て、本を集めて回ってる。ただそれだけさ」
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/04(月) 11:26:16.03 ID:Yqy2w9EF0
読書家「で、あんたの情熱をかけて信じている物って何だ?」

袋持ち「私が情熱、いや信念をかけて信じている物は、誰でも一度はそれを信じ、だけどほとんどの者が信じなくなってしまう典型的なものさ。
    多分あんたも、書記、いや、この世界に生きながらに考えることのできる生物が一度は信じ願う存在だ」

読書家「なんだか、とてつもなく予想できるんですが」

袋持ち「そう、神だ!」

読書家「お、ちょっと今日は疲れたから早く寝ようかな」

袋持ち「ああ、ちょっとまてぇ、まだ話は終わってないし。
    神を侮辱すると神罰が下るんだぞ!」

読書家「それは神を信じていた人が、神を裏切った時に受け取るものだって思いますよ」

袋持ち「へへん、神は侮辱するものだけに神罰を与えるんだよ〜」

読書家「妄信者ならお断りなんですけど、そもそも神に対する教えをこの都は行っていませんよ」

袋持ち「それは、この都だけではない。
    私が旅してまわってきた国々は、どこもかしこも神に対する教えを行っていなかった。
    むしろ、神という言葉はある意味。禁忌のように扱われているようだった」
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/04(月) 11:40:26.50 ID:Yqy2w9EF0
読書家「それはそうでしょう、この世界で遥か昔に起きた魔物と人間の戦争に神は現れなかった。
    神に祈ろうと何だろうと、死ぬものは死ぬ。それが心理ですから」

袋持ち「皆はそう言う。だけど私は神に忠誠を誓っている。
    私はそうやって生きてきたからな」

読書家「妄信の典型例ですよ。
    悪いことは言いませんから、その考えは捨てたほうがいいですよ」

袋持ち「だが、こうしてあんたと出会えたことは神様の思し召しだと私は思っている。
    私は神の言葉を聞いてこの地にやってきたのだ」

読書家「神の言葉ですか?」

袋持ち「そうだ、神の言葉だ」

読書家「なんか、あんたは親とかに唆されてるだけじゃないのか?」

袋持ち「父母はいないから、それは無い」

読書家「さらっと、衝撃的な事を言いますね」

袋持ち「物心付いた時から、すでにいなかったからな。
    逆に父親というのは、どういうものなのか知りたいくらいだ」

読書家「私もなったことは無いから、教えられるものではないです」

袋持ち「で、神は私たちを作り、そして知恵を授けてくれたすばらしい方だ。
    まぁ、私だって全ての事を神が決めてくれるとは思っていないが、神に対しての感謝の気持ちに揺るぐものは無いのだ」
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/04(月) 11:48:16.20 ID:Yqy2w9EF0
読書家「なるほど、一種の線弾きはでできているってことですか。
    じゃあ例え話だけど、もしも神が自身の望まない展開をあんたに提供したとするなら、それをどう考える?」

袋持ち「それは試練というものだろう。
    そもそも、どんな人間にも試練は訪れよう。私は私に降りかかる試練を神が与えたものだと解釈する」

読書家「おい、あんたの考えている神への解釈って、かなり自虐的なものじゃないか?」

袋持ち「まぁ、そう言うな。
    神に忠誠を誓っているのは確かだからな。
    今のこの世があるのも神が作ったからだろう。それに人間が理を書き加えているだけだ」

読書家「神なんだから、先に世の理を作っておけってばいいのに、なんだって下地だけ作って隠れるんだろうね」

袋持ち「それはね。神が私たちを試しているからだと、考えている」

読書家「また壮大ですね。ていうことは人間たちは昔の魔物との大戦争、つまり神の仕掛けた試練に打ち勝ったってことになるよな。
    だったら、なぜにこうも神は信仰されていないんだ?」

袋持ち「そこまではわからないけど、私はもしかしたらそれを探すために旅に出るように言われたのかもしれないな」
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/04(月) 11:57:08.05 ID:Yqy2w9EF0
読書家「そうですか、神への情熱とかはいまいちわからないが、それなりに有意義な時間にはなったかね。
    まぁ、本一冊分っていうよりも、あらすじって感じだけど」

袋持ち「確かに、あれほど大きな声で言っといてなんだが、結構短く纏まったな。
    今日という日、あんたに私の情熱を話すことが運命であったとするなら、これも神の思し召しだな」

読書家「神の思し召しっていい言葉だな。使い勝手がいい」

袋持ち「言いたいことはわかるが、そういう意味で神を使う気は無いぞ。
    まぁ、自身に降りかかる災難に対しては、引用させてもらっているがな」

読書家「とんだ情熱家だな」

袋持ち「まぁ、私は神を信じているが、誰かに信じてもらおうと広める気は無いよ。
    むしろ、私だけが神を独占できてるみたいで気分がいいからな」

読書家「独占欲も強いとは、すごいやつに好かれてるみたいだな神ってのはさ」

袋持ち「馬鹿にされてる気がするけど、まあいいか。
    あははははは」

読書家「それもそうだな、ははははは」

袋持ち「ところで、ここに水を浴びれる場所はあるのか?
    今日は走って転んでばっかりだったからな」
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/04(月) 12:11:22.49 ID:Yqy2w9EF0
読書家「ああ、そこの角だ。あいにく私は一人暮らしだからな。
    服は無いので、そこに置いてある布で肌を覆ってくれ」

袋持ち「寝床はどこだ。
    まさか、そこの寝台で二人で寝るのか?」

読書家「まさか、あんたにはこの」

 ガチャ

袋持ち「な、なんだ。床が開いて……。
    これはなんという秘密部屋」

読書家「ちょっと理由があってね。
    中は少し狭いけど、寝台とかは完備してあるから大丈夫だ」

袋持ち「なんだ、秘密基地みたいで胸が高鳴るぞ。
    これもまた神の思し召しだな」

読書家「というわけで安心してくれ、あんたが水浴びてる間に軽い食事は用意しておく。
    あんたは酒飲めるかい?」

袋持ち「酒は大丈夫だぞ。
    食事までくれるのは、正直想定外だったからな」

読書家「ああ、私は思ったよりも少食でね。
    普通に行くと3日分で5日分の食べ物になるくらいだ。だから心配する必要は無い」

袋持ち「そうか、じゃあ水浴び場借りるぞ〜」

読書家「滑って転ばないようにな」

 ヒャー、ツメター 

読書家「さてと、軽くジャガイモとかを茹でておくことにしようか」

 スゴイ、カラダジュウノヨゴレガ、オチルゾー

読書家「ふーんふーん」

 マダダ、マダチャンスハアル

読書家「独り言の多いやつだな」

 ショキノヨウナ、パワフルボディヲテニイレルゾ

読書家「それは神に祈っても無理だろうねぇ。
    それにしても久々だな、こうやって誰かの分を作るっていうのは」

    
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/04(月) 12:20:32.87 ID:Yqy2w9EF0
袋持ち「ふぃ〜、ごちそうさまだぞ。
    喰ったら眠くなるな」

読書家「そうだな、もうそろそろ眠る時間かな。
    地下の寝室に案内しましょう」

袋持ち「おお、あの秘密基地に入れるのか!」

 ガチャ

読書家「足場が少し暗いので気を付けてください。
    さすがに短い階段ですが、転んだら大怪我するかもしれません」

袋持ち「これは中々に急な階段だな。そして下の方は、おおっ!」

読書家「気に入っていただければいいんですけどね」

袋持ち「これはなんというか、すごくいいな!」

読書家「ははは、これが私の秘密基地ですね。
    寝台の布団は洗濯しておいたものなので、大丈夫ですよ」

袋持ち「すごい、寝台、机、そして本が入っている棚もあるなんて。
    これは、とてもいい空間ではないか!」

読書家「そこの本は読んでもらってもいいですけど、ちゃんと戻しておいてくださいね。
    これでも、私の秘蔵コレクションなんですから」

袋持ち「ほほぅ、あんたがそういう話に興味があるというのは本当なのだな。
    これらはすべて、害書として処分される本ばかりではないか」

読書家「かなり苦労しましたよ。お金だって掛かりましたしね。
    でも、その苦労が報われるくらいにいい話ばかりですから。
    書記には悪いですけど、あの場所で本を借りて読むのが馬鹿らしくなります」

31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/04(月) 12:31:07.70 ID:Yqy2w9EF0
袋持ち「そこまでして魔物が主人公の本が読みたいのか?
    あんたは魔物至上主義者なのか?」

読書家「違いますよ。
    だったら魔物の娘を一人、私専用の奉仕奴隷として雇っているでしょうね。
    ただし丁重に扱ってあげるでしょうね。あと魔物に味方するくらいはするでしょう」

袋持ち「ん、だったらなんで」

読書家「ただ、魔物たちが死ぬまで家畜のように扱われる理が、とても嫌いなだけですよ。
    それに、その理のおかげで面白い本が読めないのは、誠に遺憾ですから」

袋持ち「そうか、っていうことはこの本を隠すために秘密部屋を作ったのか?」

読書家「そうじゃないんですけど、本も隠せて一石二鳥だったなと思っただけですから」

袋持ち「それはどういう意味だ?」

読書家「そういう意味です。それでは私はこれで失礼しますね。
    一応日が入るように鏡を設置してありますから、朝になったらわかると思います」

袋持ち「そうか、それじゃこの部屋借りるぞ。
    うわぁ〜、ふかふかだ〜」

読書家「それでは」

 ガチャ バタン

読書家「ふぅ、私は寝られるかな。
    夜中に隣の家じゃいつも通り、魔物が男に組み伏されているんだろうな。
    別にやるのは構わないが、窓を全開にしてやるのはやめてくれないかな」

読書家「悩んでいても仕方ない、今日はもう寝るとしよう」


32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/04(月) 13:14:16.07 ID:Yqy2w9EF0
 ―0日前―
 〜地下水路〜

袋持ち「それで、ここから管理局に抜けるにはどこを通るんだ?」
読書家「この先に十字路があるので、そこを右に曲がってひたすらまっすぐに行くと管理局の貯水池に出られます」

袋持ち「なるほどな。『沈まぬ朝焼け』にはこういった描写は無かったが、福沢亮ももしかしたらこのようにして政府の作戦本部に入り込んだのかもしれないな」
読書家「あそこの描写、完全に無かったですからね。結構首を傾げましたよ」

袋持ち「そういうものさ。悪いことは書かない、書かせない、乗せさせない、流行らせたりもしない。
    そこまでして表現に対して制約を敷いているんだ。この都は特にな」
読書家「思った以上に、この闇は深そうですね」

袋持ち「闇は闇でしかない。
    明りで照らされて世界が明るくなっていると思っている奴は、その明りによってできた影の裏を調べるってことをしないんだろうな。
    まぁ、それが今のこの世界の現状なんだろう」
読書家「どういうことです?」

袋持ち「つまり、明りの裏の闇の意味もちゃんと考えろってこと。今の世の中はそういうことを考える奴が少なすぎる」
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/04(月) 13:26:00.99 ID:Yqy2w9EF0
読書家「良くわかりませんね」
袋持ち「簡単な話、豚肉が明りだとすると、その裏の闇は何だと思う?」

読書家「豚肉が明りだとするとですか?
    そうですね、殺された豚でしょうか?」
袋持ち「そういうことだ。豚肉ができるってことは、その裏では豚が殺されているということだ。
    今の世の中、思った以上に人間というのは明りしか見ていない。皆がきれいな部分、便利な部分だけを見て過ごしている」

読書家「それと、この状況に何か関係が?」
袋持ち「関係あるだろう。
    あんたは今まさに、その闇の部分に居るってことだ。
    この頃の出来事でいうなら、私の持っていたレビンソンをあんたが読んだ。
    世界に一冊しかないと思われていたレビンソン、その方程式があんたの中で崩れた。
    それと同じように生活に隠れていた闇の部分が、あんたの目の前に現れただけの話さ」

読書家「書記の隠し部屋の事もそうだっていうのか?」
袋持ち「そうなるね。読書家の思っていた書記の印象はその瞬間にひっくり返ったんだからね。
    今なら毎日でも、あの場所に通いたいって思えるだろ?」

読書家「恥ずかしいけど、その通りですよ」
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/04(月) 13:38:03.32 ID:Yqy2w9EF0
袋持ち「お前の秘蔵本の数なんて屁にもならないような数の本だったな。びっくりしたぞ」
読書家「私に教えてくれればいいのに、何なら毎日でも通うっていうのにね」

袋持ち「書記は思った以上に魔物が主人公になっている本が好きだということだ。
    魔物至上主義者っていうわけではないだろうが、取り扱っている本に比べたら雲泥の差だな」

読書家「そんな本を独り占めにして楽しむなんて、個人的に私が怒りたいですよ。
    まあ、あの本はすべて燃やされてしまいましたからね。そして渡されたのが『沈まぬ朝焼け』と紙が1枚」
袋持ち「これは初版でも何でもないが、何か違いがあるのかね?
    私が知る限りだと、沈まぬ朝焼けはレビンソンのような改変が加えられた作品というわけじゃないだろう」

読書家「ええ、そうなんですよ。
    でも、この挟まっていた紙が示す場所に、この本が必要ということなんでしょうかね」

袋持ち「さぁね、ただ単に怪しまれない本にしたかっただけかもしれないけどな。
    書記は会ってまだ少しだが、抜け目のない印象だからな」
読書家「そうなんでしょうけど、秘密扉をあんたが明けてしまった時はびっくりしてましたよ」
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/04(月) 13:48:17.94 ID:Yqy2w9EF0
袋持ち「そう言うな。あんたの家の秘密基地が偉く良かったからな、そういう仕掛けないかなと探っていたら見つけてしまったのだ。
   ご丁寧に本棚と本棚の隙間に隠しおって、中々に面白い冒険だったぞ」

読書家「ホント、あんたが来てから碌なことがない。
    これもあんたが言うところの神の試練ってやつですか?」

袋持ち「そう考えるのもいいが、どちらにせよこの都の魔物たちが、どうして従順なのかを知る必要はある。
    あとは、食い違った歴史の話とかね」

読書家「……食い違った歴史ですか」
袋持ち「そうだよ、あんたも読んだんだろ。
    私の持ってた他の国々の歴史記録と、あの秘密部屋にあったこの都の歴史書の変な食い違いをさ」

読書家「確かに食い違っているのは気になりますよ。
    もしもこれを真実とするなら、色々と書き直さないといけない物が増えてきますからね」

袋持ち「そういうことだ。まぁ、魔物たちの解放とかそういうことをあんたが考えてないみたいで安心したよ。
    今そんな動きが起きたら、どうなるか見当もつかないからな」

読書家「一方的な虐殺でしょうか?」
袋持ち「どちらにせよ、意味の無い戦いが始まるだろうな。その引き金になんてなるのは、私はごめんだけどね」

36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/04(月) 13:56:21.43 ID:Yqy2w9EF0
読書家「私もごめんですけどね。
    でもとりあえずは、書記の元に行くことを最優先にしましょう。
    そろそろ十字路ですね」

袋持ち「この時間は誰も見まわってないんだろうね?
    ここで、敵とご対面なんてしたかないよ私は」

読書家「多分大丈夫ですよ、それよりも一応は準備してきましたけど」

 シャキン

袋持ち「おお、いい剣だな。
    剣についてはさっぱりわからんけど。ここは褒めておいて損は無いと思いました」

読書家「剣の知識がないなら、別に言わなくてもいいですよ。
    一応の剣の作法は受けていますから、それなりに戦えるとは思いますよ。
    あのゴリラみたいなのがいっぱいだったら勝てる気しませんけど」
袋持ち「まぁ、その点は運任せに行こう。
    さすがに向こうの敵の種類を変えられるなどあるわけがないしな。
    闇討ちはあの時は二人だったみたいだから、もう管理局に話が回っている可能性もある」

読書家「そう考えると、ここを通ることも織り込み済みなんじゃないでしょうか。
    最悪、水路に水を流されるかもしれませんね」

袋持ち「そうならないことを祈っておこう」
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/04(月) 14:54:34.31 ID:Yqy2w9EF0
読書家「あんたの祈る神に慈悲の心があるとは思えないけどね。
    神はいつだって何もしない。そうじゃなきゃ、この世界には救いがなさすぎると思うよ」

袋持ち「なら、あんたが頑張ってこれを救いに変えればいいさ。
    私としても、書記が無事ならば嬉しいし、書記も私たちが着てくれれば嬉しいだろう」
読書家「それを決めるのは書記の仕事ですよ」

袋持ち「そうだな、願わくばこの先を越えられますように」
読書家「ホントに、神ってのは便利だな」
    
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/04(月) 15:01:08.87 ID:Yqy2w9EF0
―2日前―

袋持ち「うむ、いい朝だ」
読書家「それは良いことで、ところでレビンソンを貸してもらってもいいですか」

袋持ち「いいぞ〜、別に減るもんじゃないからな。
    こうして人と共に朝を迎えるのはとても久しぶりだ。
    前の街では馬小屋に隠れて朝を迎えたし、その前の国では終わりかけの図書館に忍び込むなんて無茶もしたぞ」
読書家「そんな無茶するくらいなら、ちゃんとした入国手続きを踏めばいいんですよ」

袋持ち「本を集めるくらいのお金しか持ってないからな。仕方ない」
読書家「まったく、まぁ書記が言っていたこともありますから、久々にレビンソンを読んでみたくなりましてね」

袋持ち「温故知新の心だな。
    自分自身を見つめ直すのはとても素晴らしいことだからな。
    私も日課の神への礼拝をしておこう」
読書家「礼拝って眼を瞑って手を重ねる奴ですか」

袋持ち「そうだぞ。これをやらなければ、なんか気が済まんのだ」
読書家「そうですか」
39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/04(月) 15:08:53.63 ID:Yqy2w9EF0
袋持ち「主よ、我らに与えん試練に最大の感謝を。
    我らは弱気住人、我らの弱気心は主の与えん試練によって昇華されよう。
    今日という日に主からの祝福があらんことを」
読書家「試練しか与えない神ってどうなのよ?」

袋持ち「いいのだ。私が信じている神はそういう神なのだからな。
    今日まで試練無しに、私は生きて来れはしなかったはずだからな。
    ところで、ここら辺に本を売っている場所は無いか」

読書家「今日は市場をやってはいるが、本はかなり高い……というより、闇市場っていう場所にしか置いていない。
    しかも中身は買ってからのお楽しみだからね。かなり難しいよ」
袋持ち「ふむ、目をつけられないためか?」

読書家「そんなところさ。この国は都が運営している店以外での本の販売に厳しいからね。
    表市場で本を売った商人が斬首刑にされた事があってね、それが尾を引いてる」
袋持ち「そんなことがあったのか。都が出している本に関しては、あんたの評価通りだろうから、行く気は起きないな」



40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/04(月) 15:16:56.34 ID:Yqy2w9EF0
読書家「そうなるだろうからね。私はこれから書物保管庫に向かう。
    昨日の約束があるからね、ここ一週間は毎日顔を出さないといけないだろうね」
袋持ち「ああ、あの書記って人の事か」

読書家「そういうこと、それに暇だからね。
    あそこで、このレビンソンでも読んで時間を潰そうかなって思ってね」
袋持ち「うむ、それはいいことだ」

読書家「まぁ、前読んだのは半年くらい前だからね。
    そんな劇的な思考変化が起きているとは思えないけどね」
袋持ち「それでもいいんじゃないか、本を読むだけでも楽しく過ごせそうだからね」

読書家「それで、あんたはどうするんだ?」
袋持ち「もちろん付いていく。
    あそこくらいしか、本を置いてる場所がないからな。
    袋は目立つから置いていこう」
41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/04(月) 15:22:57.91 ID:Yqy2w9EF0
読書家「袋を持ってないと、なんだかホントにただの女の子だな。
    思ったより背は小さいしな」
袋持ち「チビっていうな。
    私だっていつかは書記みたいな、素晴らしく美しい肉体を手に入れるんだ」

読書家「あんた歳いくつだよ」
袋持ち「今年で17くらいだ」
読書家「お疲れさまでした」

袋持ち「な、まだ希望はあるだろう!
    ほら、この頃胸がな、少しだけ大きくなった気がするんだ」

読書家「そうか、そうか。でも書記になるためには、もっともっと大きくならないといけないんじゃないか?
    しかも相手は魔物だ。俺たち人間なんかより発育いいし、生長期間も長い。
    だから諦めろって、その身体になったことも神の思し召しだろ?」
袋持ち「ぐぅ、試練試練と言っても、これは不公平だ」

読書家「すでに魔物と人間で土俵が違うんだ。
    素直に諦めておくのが吉ってものだ」
袋持ち「ぐぅ、種族の違いがなんだ。
    よし、私は今日、書記にその体の秘密を聞く事にする!」

42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/04(月) 15:38:23.32 ID:Yqy2w9EF0
読書家「魔物に身体の秘密を聞いたって意味ないだろ。
    あんた人間だし、俺も人間だから興味ないけどさ」
袋持ち「くそう、魔物だけズルイ!」

読書家「そもそも、魔物でも胸小さい奴もいるし、背が小さい奴もいるぞ。
    だから気にするなって、それを見て興奮してくれるような相手を見つければいいだけじゃないか」
袋持ち「ちなみにあんたは、興奮するか?」

読書家「今のところは全然」

袋持ち「怒りが沸々と湧き上がるわ」
読書家「女ってのは、よくわからないな……ん?」

魔物娘 トボトボ

袋持ち「ん、あの者は?」
読書家「ああ、隣の家で昨日の夜から相手をさせられていた娘だろうな」

魔物娘 フラフラ

袋持ち「あれはどこに帰っていくのだ?」

読書家「掃き溜めだろうな。
    奉仕奴隷、重労働奴隷たちの家の事だ。
    薄暗い地下にあるらしくてな、生き残ることができればそれでいいみたいな環境だと聞いた」
袋持ち「そんな場所で過ごしていて、なんで魔物たちは反乱を起こさないんだ?」

読書家「それが世の理なんじゃないのか?」
袋持ち「そういうものなのだろうか」

読書家「少なくとも、俺はその世の理が嫌いってことは確かだ」


43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/04(月) 16:04:29.02 ID:QhBIcj6ko
面白いものを発見した
応援してるから頑張って
44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/05(火) 12:08:41.97 ID:K0+ptFPC0
〜書物保管庫・受付〜

書記「こんにちは」
袋持ち「どうも、こんにちは」

読書家「約束通りきましたよ。世界の童話は読み終わりましたのでお返ししますね」
書記「ちゃんと読んだんですよね?」

読書家「隅から隅まで……ってわけではないですけど」
書記「君は全てを読むということを疎かにする傾向があるから、そこは直していくべきだと思うよ」

読書家「はいはい、なら書記は人に無理やり本を貸す癖を改めた方がいいと思うぞ」
書記「私がいつそのようなことをしたのか、証明できるものはありますか?」

読書家「物体的、視覚的な証拠は持ってないので立証できませんよ。
    それこそ、空間をそのまま記憶するようなマホウでもない限り」
書記「マホウなんてこの世にはありませんから立証は無理、私の勝利ですね」

読書家「これを勝利と呼ぶかどうかはあやしいですが。
    それより、今日はここで読書をしようと思うんですが、よろしいですか?」
袋持ち「改まって聞く事なのかそれ」

書記「あなたは少しばかり遠慮というものを覚えたほうがいいですよ。
   そうですね、昨日持っていた袋を持ってきていないところは評価してあげます」

45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/05(火) 12:17:28.76 ID:K0+ptFPC0
袋持ち「さすがにあれを持って歩くのは、見つけてくださいって言ってるようなものだからな。
    私もそこまで馬鹿じゃないからね」
書記「馬鹿という自覚があったんですね」

袋持ち「だから馬鹿じゃないって言ってんだろ!」
書記「いえ、自分からそこまで馬鹿じゃないと言っているということは、少しばかりは馬鹿ということでしょう。
   馬鹿でなかったら、今さっきの言葉の前文だけで十分です」

袋持ち「あんた、性格悪いな」
書記「とんでもない、私なりの愛情表現ですよ」

袋持ち「友達いないんだろ?」
書記「旅をして回っているあなたには言われたくありません。
   彼の家に泊めてもらったけど、服は無いからローブですか?」

袋持ち「どうだ、結構いいんだぞ〜。下から入ってくる風がちょっとくすぐったいけど」
読書家「そういう発言は慎んどけ、しかし書記がこうして良く喋るのは初めて見たな」

書記「君と話すのとは、少しばかり感覚が違うんだ。
   強いて言うなら、これは性別の所為だ」
袋持ち「書記は性悪女っぽいからな」
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/05(火) 12:26:02.00 ID:K0+ptFPC0
読書家「それには私も賛成だな」
書記「君、本人を前にして堂々と言うことではないと思う。私もそれなりに傷つく」

袋持ち「それより、書記!
    私はこの街の歴史書が読みたいから、案内しろ!」
書記「歴史書ですか?」

袋持ち「おう、この街の歴史にはとっても興味があるんだ」

書記「はて、自身を馬鹿だと認識しているあなたが歴史に興味があるとは。好かれる歴史も大変不憫なことですね。
   あなたのような人が、歴史を観測することによってなにか得があるように思えませんが」

袋持ち「あのさ、さすがに失礼だろ。書記と私が会ったのって昨日だろ?」
書記「そうですね、昨日ですよ。
   それに、私はあなたに名前を呼ぶことを許可した覚えはありませんが?」

袋持ち「うええ、だってあいつは名前で呼んでんじゃん!」
読書家「年季が違うからな」

書記「ええ、それにたった一人のお得意様ですので」
袋持ち「くそう、よし、それじゃ友達になろう。
    私とあんたは今から友達、だから名前で呼び合う、いいだろう」

書記「………」
袋持ち「なんだよ、その顔」

47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/05(火) 12:35:57.00 ID:K0+ptFPC0
書記「いえ、その、ちょっとですね」
読書家「おお、あの書記が照れている」

袋持ち「なんだなんだ、友達って言葉に弱いのか〜、これは面白いことを見つけたぞ」
書記「いえ、そんなことはありませんよ。
   これはですね、あなたの馬鹿な陽気が私に伝染したに過ぎませんから」

袋持ち「隠さなくてもいいって、あいつとも所謂友達なんだろ?
    私も故郷に居た時に友達はいたよ。友達ってのはいいもんだよなぁ?」
書記「馴れ馴れしいですよ」

袋持ち「別に友達が何人増えたって問題ないって、私は調べ物をしたらこの国を出て行くんだからさ。
    それまでの間、お試しお友達ってことにしてさ」
書記「友達にお試しとか、聞いたことありません」

袋持ち「なら、今から私とあんたは友達だ。改めてよろしく書記」
書記「なんていう一方的な契約。これは契約を一方的に破棄しても何の問題も無いはずです」

読書家「別に金品を奪われたわけでも、精神に大きな傷を負ったわけでもないし、別にいじゃないか」
書記「君、友達というのはこう作られるものなのか?」

読書家「あ〜、すまないがね。私も友達と呼べるのは書記くらいしか居ないから」
袋持ち「おい、あんたも友達いないのかよ。
    っていうか、仕事での会話とかどうしてんだよ」

48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/05(火) 12:46:32.34 ID:K0+ptFPC0
読書家「会話術は教育課程で討論という物があってな。
    そこで経験を積むことになるから、ほとんど会話には苦労しない」
書記「そもそも、必要最低限の事しか話さないから、意識したことがない」

袋持ち「あいつとは必要最低限以外の話をしてるじゃないか」
書記「仕事が無くならないようにするためです」

袋持ち「なんて寂しい思考なんだ。こんなんじゃ、この国の将来は暗いねぇ」
読書家「まだ見えない将来には興味ないから何とも言えないね」

袋持ち「ああもう、とにかく書記と私は友達だ。
    これはもう決定事項、この先何があっても揺らがない素晴らしい結束だ」
書記「一方的な契約というのは、これほど理不尽な物なのですね」

読書家「私の気持ちがわかっただろう。以後は無理やりな貸し出しは控え――」
書記「仕掛ける側は心地よい事、この上ありませんが」

袋持ち「そんなもんだろ。それじゃ、これから友達としてよろしく、書記」
書記「……よろしくお願いしますね、袋持ちさん」

袋持ち「さん付けはちょっと恥ずかしいが良しとしよう。
    読書家は、そうだな。ほとんど、あんたでいいか」
読書家「それはちょっと差別じゃないか?」
   
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/05(火) 12:56:47.52 ID:K0+ptFPC0
袋持ち「別にいいだろ。
    長く友達してる書記だって、君って呼んでんだからさ」
読書家「はいはい、分かりました」

袋持ち「うむ、よろしい。
    というわけで書記、友達になって初めての頼みごとなんだが」
書記「友達になって初めての頼み事ですか。この事だけに友達にされた気がしてきましたよ」

袋持ち「別にいいだろ。それよりも歴史関連の書物がある棚に案内してくれよ」
書記「髪の毛でよろしいですか」

袋持ち「ほら、私だと一番上の段の本は取れそうにないからさ」
書記「本を取る係ですか、私は受付を任されているんです」

読書家「大丈夫、ここに来るやつなんて滅多にないし、誰か来たら教える」
袋持ち「っていうわけで書記、歴史関連の棚に案内してくれたまえよ」

書記「その態度、少し気に入りませんが。利用者を棚に案内するのも私の仕事ですからね。
   それに、本が取れないと騒がれるのも迷惑ですしね」

袋持ち「さりげなく背が低いこと馬鹿にした?馬鹿にしたろ?
    正直に言えば、スカートに潜り込んでやるからぁ!」
書記「いえいえ滅相もございません。さぁ、付いて来てください」
50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/05(火) 14:41:01.56 ID:K0+ptFPC0
袋持ち「それにしても、こんなに多くの本を一人で管理してるのか?」
書記「そう言っていいでしょうね。この保管庫の全体責任者ですから」

袋持ち「魔物にしては珍しく重役じゃないか、今朝見た魔物の娘とは比べることもできん」
書記「掃き溜めに送られる魔物たちには問題があるのです。
   とくに問題の無い魔物はそれなりな仕事には付いていますよ」

袋持ち「書記は性格に問題ありすぎだろ」
書記「それを言ったら袋持ちさんもでしょう?」

袋持ち「別にいいだろ、それが個性ってもんだし」
書記「そうですね。着きましたよ、ここが歴史書の場所ですよ」

袋持ち「思ったよりも奥なんだな。この国の人間は自分の生きている場所の歴史に興味がないのか?」
書記「そうですね。その可能性は非常に高いと思いますよ。
   だって、ここに陳列してある歴史書は面白いものではありませんからね」

袋持ち「なんだそれ、国ができるまでには大きく時間がかかるはずだぞ。
    今の言い方じゃ、まるでこの国はこの形になるまで時間をかけていないかのような言い方だ」
書記「でも、袋持ちさんはここに来るまでの間に、他の国々の歴史書を読んできたのでしょう?」
51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/05(火) 14:53:10.33 ID:K0+ptFPC0
袋持ち「ああ、読んできた。
    国の成り立ち、建国時期などが記されていてな。これが結構読んでいて面白い」
書記「どういったところがでしょうか」

袋持ち「ここまで国が育ってきたという軌跡を見るのが楽しいんだ。
    地面に種を蒔いて、それが発芽していくように、ここに国を作ろうと考えた人という種が国を作り上げていった軌跡。
    これを読んでいると、神の試練というのは人間を強くするために存在しているんだと思えてくるんだ」
書記「今の話と神の試練に、何か関係性が?」

袋持ち「ん、私は神を信じてる。試練の神さ」
書記「つまり、この種は神の試練を乗り越えて国を作ったという解釈にしたいと?」

袋持ち「そういうこと、それが正しいなんてことは無いけどさ。
    私の中ではそう思いたいってだけでさ。
    だからここら周辺の建国の歴史を見てて、一つだけ気になったことがあったから、ここに来たんだ」
書記「気になったことですか?」

袋持ち「この都の事が気になったから来た」
書記「どういった事が気になったんです」
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/05(火) 15:05:02.57 ID:K0+ptFPC0
袋持ち「全ての国の歴史書には、この都は一番最初にできた都とされてる」
書記「はい、この都は大陸において一番最初にできた国ですよ。
   故に、この大陸の国々はこの都の理を国の理としています。
   元から属国として建国することによって、その関係を強めているのです」

袋持ち「そこはわかってる。
    異国から来た私でも、この大陸の国々が敷いている厳しい制約は驚いたものだ。
    特にあいつが好きな本に関しては、魔物永久奴隷概念の次に根強いみたいだ」
書記「ええ、それがこの国の理ですから」

袋持ち「で、それほどに属国へも制定した理が根強く浸透しているこの都が、どんな場所なのかって色々と調べて回ったんだよ」
書記「なるほど、それで面白いことが見つかったと」

袋持ち「そういうこと、でもそれはまだ教えてあげないよ〜。
    分かったら教えてやるから、手始めにあの歴史年表1を取ってくれよ」
書記「わかりました。どうぞ」

袋持ち「ありがと、あと、あれとあれとそれ」
書記「はいはい、分かりました」
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/05(火) 15:13:49.54 ID:K0+ptFPC0
読書家「ん、結構な量だな」
書記「ええ、結構な量です。
   しかも、この頃は貸し出されることも無い本ばかりでしたから、埃がたくさんで困ります」

袋持ち「なんだなんだ、書記は職務怠慢してるな〜。
    本はいつでも貸し出せるように、最大限きれいにしておくのが道理ってもんさ」
書記「そうですね。こんな歴史書でも、珍しく読もうっていう物好きがいますからね」

読書家「これ読むのか、つまらないぞ」
袋持ち「かぁ〜、都の歴史には浪漫が溢れてるに決まってるのに、本読みならその面白さに気づかないと。
    だからレビンソンの面白さにも気づけないのさ」

書記「あのレビンソンが面白いと言う人は初めて見ました」
読書家「そいつは変わり者だからな。昨日もあの袋に入れてた中で、興味が出たのがまさかのレビンソンでしたからね」

袋持ち「それは元から私が持ってきたものだからな、大事に読んでくれたまえ。
    さてと、それじゃまずはこの本から読〜、おぉ〜建国記キタ―」
書記「ここでは静かにお願いしますね」
54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/05(火) 15:24:18.31 ID:K0+ptFPC0
読書家「……」
書記「……」

袋持ち「………なんだこれ」

読書家「誰も来ませんね」
書記「ええ、いつもこんな感じですよ。
   ところで、レビンソンは今何処くらいですか?」

読書家「そろそろ畑の作物の効率的な運用方法を計画してるところだけど。
    なんか、少しここに来るのに時間が早すぎる気がする」
書記「君の読む速度が上がったのではないか」

袋持ち「なんだよこれ」
読書家「どうした〜。なんか信じられないことでも?」

袋持ち「いや、その、私はそれなりに歴史を読むのが好きなわけだ。
    だからこの都の歴史というのを見るのが、楽しみで楽しみで仕方なかったわけだ」
書記「それで」

袋持ち「一番最初に出来上がった国だから、それなりに波乱万丈なことがあるんだと。
    それこそ、一番最近できた属国の何十倍、いや何百倍もの試練があって出来上がったんだと思ったんだ」
読書家「そうだな、国っていうのは本来そうできるものらしいな」

袋持ち「それが、歴史書開いて読んでみたら。なんだこの緩やかな歴史は!
    波乱も何もない、まるでそうなるように決定されていたかのように争いも無いではないか」
55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/05(火) 15:55:05.55 ID:K0+ptFPC0
読書家「だから言ったでしょう、ここの歴史書は読んでもつまらないと」
書記「そうですね、この本に書いてることはとてもつまらないです」

袋持ち「こんな理が完全に定着した都なのに、なんでこうも争いが起きていないのだ。
    理を得るためには、多くの他の理を律するほかないというのに。
    この歴史書には、そんな血生臭さが存在していない」
書記「ところで、袋持ちさんが気づいた面白い事っていうのは、何ですか」

袋持ち「ああ、もう。
    あまりにも他の国々の歴史書に書かれていた都の成り立ち省略されていて胡散臭すぎたのだ。
    一番最初にできた国、争い無くできた国、理を作りこの国を作る基礎となった国。
    どこを見ても、その内部の深い歴史には触れていなかったから、これは何かあると思っていたのに。
    ほかの諸国じゃ、魔物の反乱もあったていうのに。まぁ魔物の反乱は元からこの都で起きるわけも無かった可能性はあるんだよな」

書記「そうですか、歴史の胡散臭さっていう奴ですか。
   ところで、魔物たちの反乱がなぜ起こらなかったと言えるんです?」
袋持ち「そんなもの、魔王灯があればどうにでもなる」
56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/05(火) 16:04:15.86 ID:K0+ptFPC0
読書家「ま、魔王灯って……、あんたあれを信じてるわけ?」
袋持ち「信じてるも何も、あれは実際にこの世に存在するものだぞ?」

読書家「そんなことあるわけないだろ。魔物を意のままに操るなんてマホウの産物以外の何物でもない」
書記「そうですね。名前は聞いたことありますが、実物を見た事は無いですよ」

袋持ち「あーそうかい。まぁ、魔物の反乱がなくても、人間同士の小競り合いはあったはずなんだ。
    それが無いのはおかしい、属国になろうとも人同士の小競り合いはあるはずなんだ」
読書家「この大陸では、もう何百年と戦争をしていないんだ。あんたの故郷のある大陸は、戦争をしてるのか?」

袋持ち「いや、してない」
読書家「そういうことだ。もう戦争なんて起きることないのさ」

書記「そうですね。戦争が起きないのはいいことです。私たち魔物は、遥か昔の戦いで敗れた先祖たちのツケを支払っているのですから」
袋持ち「書記。この魔物が永久奴隷として扱われている現状をどう思ってるんだ?
    悔しくないのか?」

書記「さぁ、どうでしょうね。それは私以外の魔物の方に聞いた方がいいですよ」
袋持ち「それもそうか、書記は結構いい仕事に付けてるからな。
    気にしたことも無いだろ」
57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/05(火) 16:04:56.56 ID:K0+ptFPC0
今はここまで
58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/05(火) 22:38:51.53 ID:K0+ptFPC0
読書家「それで結局、返す時に同伴するのは私ですか」
袋持ち「書記は最初持ってきてくれたんだから、返すのはあんたがやるのが筋ってものさ」

読書家「自分で返せばいいじゃないですか」
袋持ち「届かないんだよ。届かない物を、どうやって返せって言うんだよ」

読書家「ああ、なるほどね。あんた背が小さいから仕方ないか」
袋持ち「理解してくれてありがとう、その優しさに腸が煮えくりかえってるよ」

読書家「それにしても、やっぱり書記の髪は綺麗だな」
袋持ち「書記は髪の毛を自在に使える能力を持ってるんだってな」
読書家「本気を出せば壁を貫く位はできるらしい。まぁ、そんな使い道ないだろうけど」

袋持ち「こんな不思議な力を持ってる魔物が、人間の奴隷として生活してるなんて信じられるか?」
読書家「信じられませんが、今も世界では国や村で、魔物が奴隷として使われていますからね」
袋持ち「現実的にはおかしいけど、ちゃんと支配が行われているって考えてるのか?」
59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/05(火) 22:45:08.31 ID:K0+ptFPC0
読書家「う〜ん、何て言えばいいんでしょうか。もうそれが普通になってしまっているというのが、私の見解です」
袋持ち「これが普通と?」
読書家「いえいえ、私はこの魔物が永久奴隷として使われているこの世界の理に賛成なんてしてませんし、普通じゃないと思っていますよ」

袋持ち「普通じゃないなら、どう思ってるんだ」
読書家「もう、長い時間が経ってしまったってことですよ。魔物たちが自分たちの待遇について気にしないくらいに」
袋持ち「それじゃ、魔物たちは神の試練を乗り越えられなかったってことになるんだな」

読書家「あんたの信じる神がもしもいたとしたら、そういうことになるでしょうね」
袋持ち「神はいつでも厳しいからな。神は全てに平等だ」
読書家「そうですか。ここですね」
60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/05(火) 22:52:04.38 ID:K0+ptFPC0
袋持ち「うむ、ところで読書家」
読書家「なんですか? 何か取ってほしい本でもありましたか?」

袋持ち「いや、ちょっと面白いものを見つけたんだ。こっち見てくれ」
読書家「何ですか、この本棚と本棚の隙間に何か?」
袋持ち「ほら、あの奥まだ行けそうじゃないか?」

読書家「探検でもしようっていうんですか?」
袋持ち「こういう場所に入りたくなるもんなんだよ。何かがある気がしてならないわけで」
読書家「その気持ちはわからないわけでもないですけど、私は戻ってレビンソンの続きが読みたいんですよ」

袋持ち「ん、そうか? あれほどレビンソンを駄文と言っていたくせに、久々に読んで面白さがわかったか?」
読書家「いや、なんか私の知っているレビンソンじゃない気がしてですね」
袋持ち「なるほどな。実はな今の私もお前がレビンソンを読みたいと思っているくらいに、この奥に行きたいんだ!」

読書家「うわっ……、ほんとに行きましたよ」
袋持ち「おらー、って行き止まりなだけかよ」
読書家「ほら、特に何もないじゃないですか。ささ、早く戻ってきてください」
61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/05(火) 22:58:37.65 ID:K0+ptFPC0
袋持ち「ん、何だこれ?」
読書家「どうしました?」
袋持ち「おい、ちょっと来い!」

読書家「なんですか、こんな場所に入って何か面白いものでもあったんですか」
袋持ち「ここの床なんだけどさ」
読書家「ここの床がどうしました。別に何の変哲もないように……、色が違いますね」

袋持ち「な、なんかおかしいだろ。それに、叩くと他の床と明らかに音が違う」
読書家「……これ、家の秘密部屋の扉に似てるな」
袋持ち「これは開けるしかないんじゃないか!?」

読書家「ちょっと気になりますね。この下に変な洞窟とか広がってたらって、思い始めてきました」
袋持ち「私はだね、お宝とかあったらいいなって思ってるぞ」

読書家「そっち持ってください」
袋持ち「任せろ!」

グググ、ガチャン

読書家「開きましたね」
袋持ち「私が先に行くわ。一番乗りだ〜」
62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/05(火) 23:18:14.53 ID:K0+ptFPC0
読書家「では、私も失礼してと。なんだか結構暗いですね」
袋持ち「そうだな。下はあんたの家の隠し部屋より全然広いな。暗くて何があんのかさっぱりわからん」

読書家「ん、なんか踏んだ。紙かこれ」
袋持ち「おっ、ろうそく発見したぞ。では早速点けてと」

 ボウッ

読書家「これは……本?」
袋持ち「結構な量だな。もしかして置ききれない書物入れか何かもしれんな」
読書家「なんだか聞いたことのない本ばっかり、状態は悪いのが多いですね。もう少し管理はしっかりした方がいいですよ、これは」

袋持ち「まて、これってもしかして害書じゃないか?」
読書家「何言ってんですか、管理局が直々に管理してるんですよ。そんなところに害書があるわけないでしょ?」
袋持ち「いや、だけど。そうだな、論より証拠だな。まずこの本の題名読んでみ」

読書家「これですか? え〜っと『魔王と側近』って題名ですね…」
袋持ち「次、これ」
読書家「『魔勇者伝』」

袋持ち「これ」
読書家「『バラ男途芽』」
袋持ち「あ、間違えた。これだった」

読書家「『立ち上がれ魔物』、立ち上がれ魔物って何だよ」
袋持ち「表紙を見る限りは、魔物たちへの扱いなどに対する批判を書き連ねたものじゃないだろうか。無論、国と世界の理の前では存在すら許されないはずの害書だな」

読書家「待て、じゃあここに置いてある本って」
袋持ち「信じられないが。一部を残して、全てが害書だろうな」
63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/05(火) 23:18:46.33 ID:K0+ptFPC0
今日はここまでです
64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/06(水) 12:31:51.61 ID:TTIMoRSU0
再開します
65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/06(水) 12:42:29.59 ID:TTIMoRSU0
書記「袋持ちさん、この本はどこで手に入れたのかな?」
読書家「それよりも書記。聞きたいことがあるんだけど」

袋持ち「うむ、聞きたいことがある」
書記「では、私が先に質問させてもらえないだろうか? このレビンソンはどこで手に入れたもの?」

袋持ち「それは昔から、私の家にあったものだ。では変わってこっちの質問、書記はこの保管庫に害書があるとしたらどうする?」
書記「……何のことでしょうか?」

袋持ち「とぼける理由なんてないだろ? 私たち、ちょっと面白い場所を見つけちゃってね〜」
書記「面白い場所ですか……」


66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/06(水) 12:48:46.89 ID:TTIMoRSU0
読書家「これも、それも……」
書記「触らないでくださいまし、あとそこから先に入ったら殺しますよ」

袋持ち「なんていう変貌、この秘密部屋は書記のもので確定だな」
書記「なんでこうも見つけてしまうんですか、袋持ちさんは私の秘密を暴きたいのですか?」

袋持ち「いやね、冒険してるとこういう場所に入りたくなっちゃってな。あとはあいつの家にある秘密部屋への入り口が全く同じだったから」
読書家「そうですね。なので私も協力してしまいました」

書記「そうですか、偶然とは怖いものですね。冒険してた袋持ちと、秘密部屋を持っている君がいた事によって、私の部屋が荒らされてしまったわけだ」
読書家「ここが書記の寝床なのか」

袋持ち「かなり劣悪な環境だろこれ、外から光なんてはいらないし、本を管理するにはいいかもしれないけどさ」
書記「管理しているわけではありませんよ。ここには私が好きなお話しか置いてないのですから」
67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/06(水) 12:58:19.50 ID:TTIMoRSU0
読書家「それにしても、なんでレビンソンの事なんて聞いてきたんだ。書記だってレビンソンのことくらい知ってるだろ?」
書記「ええ、知っています。あれが初版レビンソンであることも、君が嫌っているのが、改変されたレビンソンであることもね」

読書家「おわっと、本を投げるなよ。って、レビンソンが二つ?」
書記「両方の最終章を読んでみればわかりますよ」

読書家「なんだそれ?」
袋持ち「それはどうでもいいけどさ書記。なんでこんなものいっぱい持ってんだよ。管理局が直々に管理してる場所で、お前はここの最高責任者のはずなのにさ」

書記「最高責任者であるからこそ、と言ってよろしいですか?」
袋持ち「いや、こんな害書はすぐに燃やされてしまうはずだ。私の大陸でも見つかってしまった害書は、そのほとんどが消されてしまう」

書記「そうですね、これらはすべて燃やされた本です。記録上では全て燃やされています」
袋持ち「でもここに残ってる」

書記「ええ、そうです。ここには残っていますよ。記録上では私が焼き払った事になってますけど」
68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/06(水) 13:11:06.06 ID:TTIMoRSU0
読書家「ど、どうなってんだこれ」
袋持ち「どうしたんだよ、レビンソンの素晴らしさに気づいたか?」

読書家「……無い、無いんだよ」
袋持ち「何がだよ」

読書家「レビンソンの最終章、本来なら魔物が食糧庫を襲撃する話があるはずなのに、そこが丸々無くなってる」
袋持ち「レビンソンにそんな話は最初からない……、書記が言ってる改変レビンソンって」

書記「君が今まで読んでいたレビンソンは、内容に意図的な改変を加えられているからね。本来の初版、約900年以上前に出されたレビンソンには、魔物という記述すら存在しないんだ」
袋持ち「どれどれ。うわ、ほんとだ。なんか変な話が入り込んでやがる。しかも全く必要ない話、っていうかレビンソンの性格変わりすぎだろ」

読書家「こっちのレビンソンは最後まで心優しい女性のままだ。春の訪れとともに、村に人がやってくる所で終わっている」
袋持ち「たしかにこんなレビンソンが好きな人間がいたら、色々とその性根を疑うな。こんな人格破綻が突然やってくる本、衝撃的ではあるけど、笑い話の種にしかならん」

読書家「ああ、この初版の方は素晴らしい。これが好きだと言うのは、わかる気がする」
69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/06(水) 13:18:19.41 ID:TTIMoRSU0
袋持ち「で、そんな初版レビンソンの事も知っている書記は、一体何者なんだ?」
書記「私はここを任されている魔物の一人ですよ。もう少し詳しくすれば、職権を乱用して好きな本を集めている姑息な魔物、とでも言っておきましょうか」

袋持ち「それだけじゃ、納得できないんだけど」
書記「納得してもらおうなんて思っていませんよ。私にだって隠し事をできる知能は残っているんですから」

袋持ち「隠し事ね。確かにこれはすごい隠し事だよ」
書記「ええ、すごい隠し事でしょう?

読書家「ってことは、やっぱりここに置いてある本は……」
書記「はい、持っていることが明るみに出ることになれば、首が飛ぶか、掃き溜めに送られるか。どちらにせよ碌な事が待っていない、国の理が規制している『有害指定図書』です」

70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/06(水) 13:27:47.48 ID:TTIMoRSU0
読書家「有害指定図書」
書記「そう、君が持っていると思われる魔物が主人公の書物や。レビンソンのように魔物を本の中に出さない書物等でしょうか、私が知っている有害図書の概念は」

袋持ち「知っている概念? ってことは、他にも害書になり得る本があるってことなのか?」
書記「そうなりますね。私はこの二つに関しては知っていますが、一つだけ予想がつくものがあります」

袋持ち「予想がつくもの?」
書記「はい、これは普通に疑問に持つ事がなければ、誰も気にすることは無い概念です」

読書家「それはどういった概念なんだ?」
書記「君に質問しよう。ある場所に森があったして、その森は遥か昔からあったという昔からの記述があった場合、君はそれを疑うかな?」

読書家「それは遥か昔からあったと、昔の人が言っているんだから。わざわざそれを疑う必要性なんて無いはずだけど」
書記「そう、だれも気にしないはずの事です。特にこのようなすでに昔にあったということが、他の属国の歴史書からの証明が得られている国に関してはです」
71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/06(水) 13:44:08.34 ID:TTIMoRSU0
読書家「何が言いたいんだ? 私にはさっぱり分からないぞ。なにかおかしなことでもあるのか?」
袋持ち「まさか……」

袋持ち「歴史だっていうのか?」
書記「袋持ちさんは、物わかりが早くて助かりますよ。君は、まだ考えると言う力にはあまり向いていないようですが」

読書家「どういうことだよ、歴史って?」
袋持ち「とりあえず、あんたは上から歴史書を適当に一冊持ってきてくれ」

書記「ええ、少しでも知りたかったら。動いた方がいいですよ」
読書家「良くわからないけど、一冊持ってくればいいんですよね」

袋持ち「早く取ってこい!」
書記「本当に袋持ちさんはとっても不思議だね。神を信じているということも異端ですけど、なにより初版レビンソンを持って、それを所有して歩いている。これほど不思議なことはない」

袋持ち「お守りみたいなものなんでね。で、どうなんだ。ここにはその歴史に関しての害書が存在するのか?」
書記「そうですね。私は歴史にはあまり興味がないので、本当に小さい歴史書が一冊だけあるだけです」

袋持ち「害書としての?」
書記「ええ、害書としてのです」
72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/06(水) 13:59:31.58 ID:TTIMoRSU0
袋持ち「……すげぇ」
読書家「……なんだこれは」
書記「最初にできた国は、最初に作られたとされる属国です」

読書家「どういうことなんだ、こっちの歴史書にはそんな記述は無いぞ?」
袋持ち「他の国の歴史書も同じように、属国が最初の国という話はどこにもないわけだが、この害書ではそれを完全に否定している」

書記「この本は教育の一環として使われる予定だったと言われていますが、こうして害書として扱われています」
袋持ち「歴史が害書になるのはどうかしているぞ。それまでして何かを隠したいということなのか?」
読書家「この本が嘘を教えている可能性は無いんですか?」

書記「賢い質問だ。これが嘘偽りを教えている害書として扱われた可能性もあるわけだ。だけど、これが消された理由は多分この頁ではないかって、私は思っている」
袋持ち「ん、何だこの頁。黒く染まってるじゃん」

読書家「これは書記が見つけた時から、こうなっていたのか?」
書記「そうですね。私がこれの焼き払いを命じられた時には、ここの頁だけは、全てが黒く染め上げられていました」
袋持ち「つまり、この頁はこの保管庫を任されている書記のような魔物にも、見せたくなかった事が書いてあったってことだな」
73 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/06(水) 14:10:51.95 ID:TTIMoRSU0
読書家「つまり、魔物に見せたくなかった事が書いてあったということか?」
袋持ち「そういうことだろうな。見られたら困るものだったっていうことだ」

読書家「でも、だったらこの本そのものが魔物に見られることがあっていいわけがないだろう?」
袋持ち「それは私も疑問に思っていたことだ。書記はなんでこのような害書を処分できる立場にいるんだ」

書記「私はただ運が良かった。それだけですよ。続きを読みますか?」
袋持ち「お願いする」

書記「最初の国は、そのまま大きく円を描くように国を作っていきます。丁度この都が中心に来るように作ったわけですね。そして、この都が作られる計画が持ち上がった時にあった属国の数は8つあったとされています。主な作業は魔物が主体で行っていたようです」
袋持ち「昔から魔物は永久奴隷だったっていうことか?」
読書家「世界の理だな」

書記「いえ、この都が作り始められた時、この島は魔物の方が多かったと記されています。比率的に七割が魔物で、残りが人間と言ったところでしょうか」
74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/06(水) 14:28:18.88 ID:TTIMoRSU0
読書家「それなら、反乱が起きたんじゃないのか」
書記「いえ、この歴史書の記述に、魔物たちの動向によって建国が遅れた事は記されていません。また、魔物たちに関する大きな記述もほとんどありません」

袋持ち「世界の理っていう奴に、その場所に住んでいた魔物全員がしたがったなんて、とてもじゃないけど思えないな」
読書家「それを見て、何か思うところがあった人間もいるはずだろ。私が今、この世界の理に対して嫌悪を抱いているくらいなんだ」

書記「昔そのような人々がいたかはわかりませんが、都完成の前に大きな反乱運動が起きています」
読書家「魔物のか?」

書記「いえ、これは人間たち主体であるようです。記述では『私利私欲のために都を占拠した集団』とされています」
袋持ち「ふ〜ん、私利私欲のためにね。その時に乗じて魔物たちが何か動きをしたとかいう記述はあるのか?」

書記「特に何も行っていません」
袋持ち「普通便乗してもおかしくないはずなんだけどな。やっぱり、そんな昔から魔王灯があったってことか」

読書家「だから、魔王灯なんてあるわけないだろ」
書記「実物がどんなものかは知りませんが、それは伝説みたいなものでしょう」
75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/06(水) 14:38:20.83 ID:TTIMoRSU0
袋持ち「でもこれではっきりしたな。都は歴史の偽りを行って、何かを隠している」
読書家「それはそうかもしれませんが、歴史を偽ってまで隠したいことって何ですか」

袋持ち「さぁね。でも、そろそろここから出ないとまずそうな気はするよ」
書記「……」

読書家「何でですか、ここにある本、できれば読んでみたいんですけど」
書記「君、それは明日でもいいだろう。土産と言ってはなんだ、この本を持っていくと良い」

読書家「『沈まぬ朝焼け』ですか。これって、ただの必修文学本じゃないですか」
書記「ああ、これを明日持ってきてくれた時は、ここの本を貸し出してあげるよ」

袋持ち「まぁ、いいじゃないか。今日は帰ろうぜ」
読書家「でも、こんな高らを前にして引き下がれませんよ。せめて一冊でも貸してくださいよ」

書記「いいではないか、楽しみは後に取っておく方がいいぞ。それに、すでに君は害書を一つ読んだだろう?」
読書家「それはそうですけど。ああ、もう。仕方ない、分かりましたよ」

書記「物わかりが良くて、私も助かるよ。入口まで送っていこう」
読書家「明日必ず読みに来ますから、お勧めの本を決めておいてください」

袋持ち「それじゃ、失礼するよ。色々とありがとうな」
書記「いえいえ、まさかあれが見つかるとは思っていませんでしたので、見つからなかったのは今日まででしたけど」

読書家「それじゃ」
書記「はい、またのお越しを」
76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/06(水) 14:38:52.13 ID:TTIMoRSU0
今はここまで
77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/06(水) 23:02:08.40 ID:TTIMoRSU0
 ―0日前―
〜管理局・入口〜

読書家「ここまですんなりと入ってこれましたね」
袋持ち「そうだな。なんて言うか拍子抜けっていう感じ、管理局ってのは万年人不足なのか?」

読書家「いや、どうなんでしょうね。私たちはそういうことを気にしたことはありませんからね」
袋持ち「だとしても、これは異様だぞ。まるで侵入者なんて関係ないと言った有様ではないか」

読書家「この管理局が誰かに入りこまれたっていう話は聞いたことないですからね」
袋持ち「それはそれでやっぱり不気味だな。この都では事件という事件が起きてないんじゃないか?」

読書家「事件とかですか? 聞いたことないですね。食料は完全配給制ですし、お金に関しては申し分ないくらいはもらえます。魔物たちはどんな状況に置かれようとも、暴走しないですし」
袋持ち「なんだ、この都は表向きにはほんわかし過ぎている」

読書家「ほんわかしているのは、良いことだって思いますけど」
袋持ち「いや、普通に生活しているあんたの近くに居るから気づかなかったが、この都の人間は余りにも争いをしない」

78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/06(水) 23:09:06.32 ID:TTIMoRSU0
読書家「争いが無いのはいいことじゃないですか」
袋持ち「いや、必要最低限の事しか話していないような気がする。確かに人々は会話をしている。魔物たちも同じくだが、書記やあんたと比べると感情に任せて発言している感じは無い」

読書家「何ですかそれ、まるでこの街で争いをしてるのが私と書記だけみたいな言い方」
袋持ち「私が見た都の中で色々と話をしてるのは、あんたと書記だけだよ。それ以外の人間も魔物も目立った話はしていなかった」

読書家「何ですかそれ、聞いてて気持ち悪くなってくるんですけど」
袋持ち「ああ、考えてみて私も気分が悪くなってくるよ。この都における人同士の繋がりが、思った以上に細すぎることにね」

読書家「細すぎますか?」
袋持ち「あんた以外の人間は、なんだか魔物たちと変わらないように見えるのさ。意思を持たない、言われたとおりに動く奴隷みたいだ」

読書家「でも、この都に住むほとんどの人間は奴隷を所持していますよ」
袋持ち「あんたは、教育課程で魔物を奴隷として持つことについて、どんなことを聞かされた?」

読書家「魔物を奴隷に持つことについてですか?」
79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/06(水) 23:17:51.95 ID:TTIMoRSU0
読書家「そうですね。『魔物を奴隷に持つことは、人間の権利であり使わなければいけない権限です』って言われましたね」
袋持ち「それで、なんであんたは持たなかったんだ?」

読書家「無理やり持つ必要がないっていうのがわかったので」
袋持ち「それは誰かに聞いて知ったのか? それとも何か本を引っ張りだして知ったのか?」

読書家「いや、なんて言うか。その頃から物語が好きで好きで、魔物を奴隷にするのよりも物語が読みたくて仕方なかったんですよね。で、魔物を奴隷として得る必要性は自然と感じなくなりました」
袋持ち「感じなくなったか、中々に面白い表現をするね」

読書家「ん、そうでしょうか?」
袋持ち「必要性っていうのは、その話を聞いた頃にはまだあったんだろ? それを感じなくなったっていうのは、なんか面白い」

読書家「私にとっては、奴隷を得る暮らしよりも、物語を読み漁る生活の方が必要に感じたんですよ。ただそれだけです」
袋持ち「だけど、他にはそんな風に必要性を感じなくなった奴はいなかったんだろ?」

読書家「そうですね。ほとんどの同期は奴隷を持っていますからね。成人の儀が終わった後に、同期の連中の傍らに魔物の姿はありましたから」
80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/06(水) 23:25:13.58 ID:TTIMoRSU0
袋持ち「やっぱり、あんたはこの都では異端なんだよ。多分、管理局も想定してなかった異分子だな」
読書家「なんでそうなるんですか。人には考えて選択する権利だってありますよ。私はそれを行使したまでで、それが私がおかしいことになんでなるんですか」

袋持ち「いやいや、とても人間らしいっていう意味さ。多分、私が初めて話した人物があんたじゃなかったら、多分この都から脱出してたはずだからな」
読書家「とても人間らしいって、どういう意味ですか?」

袋持ち「自分の思う事柄に対して決断を下してるってことさ。その点では書記も間違いなく異分子だな」
読書家「確かに、書記は他の魔物とは全然違いますよ。良く喋るし、重役にもついてる。何より害書を集めるなんて無茶までやってるんですから」

袋持ち「そう、書記には自分の思った欲望を達成するために行動するということができている。だけど、他の魔物にはそれがまったくない。っていうか、今日まで見てきた人間は、あんたを除いて全員、奴隷の魔物みたいだった」
読書家「人間が奴隷の魔物みたいだって……。奴隷を使役してるのに奴隷みたいってどういう意味ですか?」
81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/06(水) 23:32:26.10 ID:TTIMoRSU0
袋持ち「そのまんまの意味さ」
読書家「人間が奴隷になっているっていうんですか?」

袋持ち「魔物は奴隷の奴隷だな。少しだけだけど、この国のカラクリが見えてきたよ」
読書家「それは、有害指定図書の厳しい制約にも関係してくるんですか。あのように歴史書が害書とされる理由も?」

袋持ち「それはわからない。分からないけどさ。この管理局の中にそのカラクリを解く鍵があるはずだな」
読書家「本当に、そんなものがあるんでしょうか」

袋持ち「いいじゃんか。私はそのカラクリの鍵を見つける。あんたは書記を助ける、この管理局に用事があることに変わりないんだからさ」
読書家「それもそうですね。そのカラクリについては、書記を見つけだしてから考えますよ」

袋持ち「それでいいさ。なに、難しいことを考える必要無いって、ただ目で見たものだけを信じるのがあんたなんだから。それが目の前に出てきたら、考えて結論を出せばいい」
読書家「では、行きましょうか」

袋持ち「いざ!」

読書家・袋持ち「管理局の中へ」
82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/06(水) 23:33:21.25 ID:TTIMoRSU0
今日はここまでになります。
83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/07(木) 10:41:21.26 ID:Q/dohiHY0
 ―1日前―
〜都・中央広場〜

袋持ち「おい、まだか」
読書家「少しくらい待ってください。書記に差し入れを持っていくんですから」

袋持ち「いきなり差し入れを買うとか、前までそんなことしてたのかよ」
読書家「時々はしてましたけど、今回はいろいろと本を読ませてもらいますからね。その為の代金みたいなものですよ」

袋持ち「ふ〜ん、そうかいそうかい。いきなりの目の変わりよう、見ていて面白いものではある」
読書家「……、現金な奴とか思ってます?」

袋持ち「少なくとも欲望に忠実な奴とは思ってる」
読書家「仕方ないじゃないですか、私が本好きなの知ってるでしょ?」

袋持ち「そんな本好きなあんたに聞くけどさ。私の袋に入ってた他国の歴史書の感想は?」
読書家「……良くわかりませんよ。いきなり、習ってきた歴史に疑問を持てなんて、無理なことを言わないでください」
84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/07(木) 10:52:17.16 ID:Q/dohiHY0
袋持ち「でも、昨日のあの部屋にあった歴史書と内容がわなかったのは確かだろ?」
読書家「それはそうですけどね。いきなりそれを信じるなんてことはできませんよ。害書である理由も、もしかしたら間違った歴史を書いていたからかもしれませんし」

袋持ち「そうか、私はあれが正しい歴史だと思ってる。確証は無いけどな」
読書家「先の展開予想は良いですけど、どうなんでしょうね。もしも、あんたが言っていることが真実なら、私たちは嘘の歴史を遥か昔から植えつけられていたことになります」

袋持ち「信じる信じないは人それぞれだけど、ここまで色々と国を回ってきたから、全ての歴史書に置いて衝突の無かったと書かれているのには、すごく納得がいかない」
読書家「あなたは争いが起きた方がいいと思う人なんですか?」

袋持ち「争いが無ければ試練も発生しない。私の信じる神は試練の神である、同時に私は争いを呼ぶ神だと思ってる」
読書家「争いを呼ぶ神ですか、そんなものいなくてもいい存在だと私は思いますね」

85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/07(木) 10:59:09.42 ID:Q/dohiHY0
袋持ち「大抵の人間はそう言うかもしれないけど、私は争いの発生しない場所が一番異様だと思っているんでね」
読書家「平和なのが悪いことなんですか」

袋持ち「逆に聞くけどさ。この世界は平和か?」
読書家「平和かってどういうことです? 現に戦争が起きていない世界じゃないですか」

袋持ち「影の部分、そこにさえ争いが無いかもしれない世界なのに、それは平和と言えるのか?」
読書家「影の部分ってなんですか」

袋持ち「いや、何でもない。ちょっと、あんたには難しすぎたかもしれないな〜」
読書家「あんたは、人を馬鹿にするのがホントに好きですよね。ほんと、信仰する神が平等の神ならとっくに神罰下ってますよ」

袋持ち「そうかもな。でも残念ながら、私が信じているのは試練の神なので、全く問題ない」
読書家「そうですか、買うものも決まりましたし、行きますよ」

袋持ち「おう。……それにしても」


袋持ち「静かすぎる市場だな」
86 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/07(木) 12:15:54.86 ID:Q/dohiHY0
 〜都・書物保管庫入口〜

袋持ち「どう思う?」
読書家「どう思うと言われれば、多分そういうことがあったんだろうとしか思えませんね」

袋持ち「この都の管理局っていうのは、こんなに早く動くものなのか?」
読書家「私にはわかりませんけど、こんなに大々的に管理局が動くのは見た事無いですよ」

袋持ち「これって間違いなく、管理局に見つかったってことでいいんだよな」
読書家「そういうことになるでしょうね。入口の右側あたりに積まれてるのって、書記の集めていた害書じゃないか」

袋持ち「だろうな、結構な量だったから、書記の姿が見えないな」
読書家「中に入ったら、一発で捕まりそうな空気も出てますからね。ここは、一度自宅に帰るべきでしょうか」

袋持ち「ここで見つかると、とても厄介だしな。さっさとこの場から離れておこう」
読書家「そうですね」
87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/07(木) 23:18:43.85 ID:Q/dohiHY0
読書家「でも、昨日の今日で見つかるってどういうことなんですか。まるで目をつけられていたみたいじゃないですか」
袋持ち「もしかしたら本当に目をつけられていた可能性もある。書記は特殊な魔物だからな、あと、密入国した私が姿を消した付近でもあるしね」

読書家「あんたは疫病神なんじゃないのか? これほど的確に問題を起こすなんて、どうかしてる」
袋持ち「まぁ、こういうことだってあるさ。運が悪かったと諦めてくれ、そう、神からの思し召しってやつだ」

読書家「どんなことも神からの思し召しで済まそうとするのやめましょうよ」
袋持ち「それもそうだな……、だけど、どうやら本気で逃げないといけないらしい」

読書家「もしかして、見つかったとか」
袋持ち「そういうことだ。私は左に逃げるから、あんたは右な。夕方頃にあんたの家で落ち合おう」

読書家「まだ真昼間ですよ。居間から夕方まで身を隠せって言うんですか?」
袋持ち「捕まったらどうなるかなんて予想できないんだぜ。まぁ、あんたはもしかしたら大丈夫かもしれないぜ」

読書家「そうですね。これがあんたの信じてる神の思し召しなら、逃げる以外に手なんて無いでしょう?」
袋持ち「そういうことだ、それじゃな!」
88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/07(木) 23:27:16.47 ID:Q/dohiHY0
〜都・読書家自宅前〜

袋持ち「おぉ、意外と生きてるもんだな」
読書家「一応、この都で生活してたんです。裏道とかいろいろ知ってますからね。それより、あんたは良く無事だったな」

袋持ち「こういう修羅場は結構体験済みだからな。ちょちょいと隠れてやり過ごした」
読書家「こうやって壺の中から私に話しかけてるのも、その技ってことですか」

袋持ち「そういうことだ。まずは部屋に入って状況を整理しようじゃないか、今宵は長くなりそうだしな」
読書家「今夜はもう寝ましょうよ。私は久々に神経を使ったんですから」

袋持ち「まぁ、そう言うなよ。一緒に書記が渡してくれた『沈まぬ朝焼け』でも読んで過ごそうじゃないか」
読書家「そう言えば、あの本開いてすらいませんでしたね。良く考えれば朝にでも開いておくべきだったかもしれませんね」

袋持ち「なんだ〜、書記からの別れの言葉が認められた手紙でも入ってるとか思ってるのか〜?」
読書家「縁起の悪いこと言わないでください。ただ、何かしらの意味があるんじゃないかって思ってるわけですよ」

袋持ち「まぁ、その考えには賛成だな。あの書記が意味も無く本を渡すわけ無いからな〜。特にあの部屋に置いてあった本だからな」
89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/07(木) 23:38:36.22 ID:Q/dohiHY0
読書家「……内容は、私の知ってる内容そのものですね」
袋持ち「この紙以外の感想は、以下同文で」

読書家「なんかすごく物語が改変されてるとかそういうわけでもないみたいですね」
袋持ち「まったく、こんなもの渡して書記は何がしたいんだろうね。で、あとはこの紙だけどさ。これって、どこかの見取り図だよね」

読書家「そうですね。建物でしょうか、これくらい大きな建物っていうと管理局くらいしかないですけどね」
袋持ち「ってことは、これは管理局の地図である可能性があるのか」
読書家「まぁ、大きさだけで見ればって話ですよ。実際、管理局の見取り図があってそれが何を意味するかなんてわかりませんからね」

袋持ち「たしかに」
読書家「しかも書記とは会えませんでしたし、帰りに書物保管庫前を覗いて本が焼かれた跡みたいなのは見つけました」
袋持ち「あー、勿体ないねぇ。私なら、あの歴史書、絶対に厳重保管するのにさ」

読書家「私だって、あんな数の物語をむざむざ燃やしたりしませんし、できれば読みたかった」
袋持ち「書記って魔物が主人公の話とかが好きみたいだな。題名だけ見てると、そんな感じがする」

読書家「前に私の読む本は子供向けとか言われましたね。書記も同じですよね、これじゃ」
袋持ち「確かに言えてるな。会って少しなのに、殺すとか言われちまったからな〜。いや〜、あの豹変ぶりは見ていて楽しかったよ」
90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/07(木) 23:39:17.79 ID:Q/dohiHY0
今回はここまで。
う〜ん、即興で書くのは難しいな。
91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/08(金) 19:22:58.94 ID:F2KEwjAF0
読書家「で、そんな書記がこんな本を渡してくる意味ってなんでしょうね」
袋持ち「そうだな。でも、この見取り図についてるこのマーク、ここに何かがあるって意味なんじゃないかな」

読書家「多分そうなんでしょうけどね。もしかしたら、書記に踊らされてるだけかもしれませんよ」
袋持ち「その可能性はあるさ。でも、あの保管庫の様子を見る限り、書記は捕まったんじゃないかって思う」

読書家「不吉なこと言わないでくださいよ」
袋持ち「ここで希望的な観測なんて意味無いさ。それに、今日はやけに静かなんでな」

読書家「確かに、今日はなんだか静かですよね。隣の家の音も聞こえないし。今日は良く眠れる気がしますよ」
袋持ち「そうだな〜。確かに寝るにはいい日かもしれないな」

コンコン

読書家「ん、こんな時間に誰だろう?」
袋持ち「追ってだったりしてな」

読書家「なら、この家の前に張り込んでるはずでしょう。でも、今日何かあったっけ?」

コンコン

袋持ち「何も予定ないんだよな……」
読書家「どうしたんですか、ちょっと服掴まないでくださいよ」

92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/08(金) 19:33:12.03 ID:F2KEwjAF0
袋持ち「今出るぞ〜」
読書家「って、引っ張らないでくださいよ。入口に近づけないじゃないですか!」

袋持ち「あんたは本当に鈍いな!」
読書家「何がですか、ここ水浴び場ですから、客人待たせちゃ悪いでしょう」

袋持ち「だから、お前はどこまで鈍感……、伏せろ!」
読書家「ちょ、服引っ張んな――」

ヒュン

袋持ち「入り込まれてたか!」
読書家「へっ、なに?何がどうなって?」

暗殺者1「………」
袋持ち「さぁて、どうする?」
読書家「え、えっとどちら様……」

袋持ち「悠長に話してる場合じゃない、入口も何時破られるかわかったもんじゃないからな」
読書家「状況がわからないんですけど、一体何がどうなって」

暗殺者1「……!」

ヒュン

読書家「あ、あぶな!」
袋持ち「こいつ、私たちを殺す気満々だな」
読書家「こ、殺す気って。私達、何か悪いことしましたか?」

袋持ち「害書を読むっていう悪いことしただろうが」
読書家「ただ読んだだけなのに、なんで殺されなくちゃいけないんですか。おかしい、これは理不尽だ」

袋持ち「どちらにせよ、今はこの状況をどうにかしないと」
読書家「なら、とりあえず。秘密部屋に逃げ込みましょう」

袋持ち「あんな場所に逃げ込んだら袋小路だろうが、何考えてやがる」
読書家「まぁ、私を信じてくださいよ」

暗殺者1「……」

93 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/08(金) 19:40:58.10 ID:F2KEwjAF0
袋持ち「そうかいそうかい、わかった……よ!」
暗殺者1「!!!」

 ボフッ

読書家「喰らえ!」

 ドガッ

読書家「今です! 地下に!」
袋持ち「任せろ、開けぇ!」

 ギギギ ガチャン

袋持ち「先に降りるぞ!」
読書家「すぐ行きます! 離れてくださいよ!」

 ドガッ

袋持ち「早く来い!」
読書家「お待たせしました!」
袋持ち「返事はどうでもいいから、さっさと扉を閉めろ!」

 バタン

袋持ち「扉を突破された音だな」
読書家「これで一安心ですかね。早く荷物をまとめてください、突入されたら困りますから」
袋持ち「あんな状態でも、その本を手放してないのはすごいな。私なら真っ先に暗殺者に投げつけるぞ」

読書家「仕方ないでしょう、書記から借りたものなんですから。それよりも、あのタイミングで腹に突っ込むとか、やりますね」
袋持ち「背が小さいから良く使うよ。何気に逃げるのに便利だからな、この体格は」

読書家「それじゃ、早く移動しましょう。私の本も入れられたら、その袋に入れといてください」
袋持ち「善処してみるさ」
94 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/08(金) 19:50:20.39 ID:F2KEwjAF0
袋持ち「でも、ここからどうやって出るんだ? まさか上に上がるってわけじゃないだろうな」
読書家「そんなわけ無いじゃないですか、ここを使うんです」

袋持ち「ん、ベッドの横の壁が、開いた!」
読書家「火災とかでここに逃げ込んだり、下で寝てる間に建物が崩れた時に脱出用の通路を作っておいたんですよ」

袋持ち「どこに繋がってるんだ?」
読書家「この都の地下水路ですね。少し進めばここ一体の水を管理している場所に出られますよ。さすがに、私たちが水路に逃げ込んだことを、すぐに見破られるとは思えないので」

袋持ち「よし、善は急げだ。ほら、さっさと行け」
読書家「先にいっていいですよ」

袋持ち「あのさ、そこまでして覗きたいのか?」
読書家「………あー、そうですね。失礼しました」

袋持ち「わかればよろしい」
読書家「それじゃ私から失礼してと」

袋持ち「この板を出る時に付けておけばいいのか?」
読書家「ええ、見ただけなら、それでごまかせると思うので」

袋持ち「まぁ、こんな道が準備されてるだけでもすごいからな」
読書家「ええ、それじゃ進みますね」
95 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/08(金) 20:03:17.88 ID:F2KEwjAF0
〜都・居住区・水路管理所前〜

袋持ち「うはぁ〜、何だあれ」
読書家「……」

袋持ち「距離的に、あんたの家があったあたりだよな。あの黒い煙が立ち上ってるのって」
読書家「……ええ、あそこは私の家がある場所だと思います」

袋持ち「……」
読書家「さすがに近づけませんよね。あれじゃ」

袋持ち「なんていうか、その……」
読書家「いいですよ。命は助かりましたし、本は持ってきてもらえたんですし」

袋持ち「すまない」
読書家「だから謝らないでくださいよ。たしかにね、あんたに会ってから碌なこと起きてませんけど、こうして生き残れたんで、それだけでも――」

袋持ち「あんたの本なんて、一冊も回収してない」
読書家「あんまりだー!」

袋持ち「おっと、それと招かれざる客が1人付いてきたみたいだな」
読書家「へっ?」

暗殺者2「……」

袋持ち「剣を抜いて、殺気も駄々漏れ。服装は黒いのにこれじゃ隠れる意味もないくらいだな」
読書家「なんで、ここまでして私たちを殺したがるんですか。別に良いじゃないですか、害書を読むくらい」

暗殺者2「……」

袋持ち「聞く耳持たず……、いや、これは洗脳か?」
読書家「洗脳なんて、そんなことできるわけ無いじゃないですか」

袋持ち「明らかな殺意、というかこれは闘争心かもしれないけど。これは魔王灯の力かもしれない」
96 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/08(金) 20:16:02.93 ID:F2KEwjAF0
読書家「それはどうでもいいです、今はこれをどうするんですか?」
袋持ち「あんたの協力も必要だ。生き残りたかったら私に協力しろ?いい?」

読書家「ええ、いいですよ。ここで死ぬにたくなんてありませんから」
袋持ち「良い返事だ。それじゃ、私がさっきと同じようの突っ込むからさ、殺気と同じように吹き飛ばしてやれ」

読書家「分かりましたよ。それじゃ、行きますよ」
袋持ち「良し来た」
暗殺者2「……」

袋持ち「今だ!」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


魔娘「わ、わたしは、なにを……」
袋持ち「顔隠してる布取ったら、魔物の女の子が出てきやがった」
読書家「君、本当に何も覚えてないのかい?」

魔娘「に、人間様。わ、わたし、な、なにか人間様に悪いことを……」
読書家「いや、特にソンナコトハナカッタヨ」
袋持ち「優しいんだな、あんた」

読書家「いいだろ、もう武器だって持ってない。ただの女の子じゃないか」
袋持ち「う〜ん、洗脳じゃなかったら、とっくにその子に首をねじ切られてる所なんだろうけど、そんなことなさそうだから、やっぱり洗脳だったのか?」
魔娘「あ、あの、私、何が何なのか」
97 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/08(金) 20:24:52.25 ID:F2KEwjAF0
読書家「いや、君はここに倒れていたんだ。そう、ただそれだけなんだよ」
袋持ち「そうだぞ、それを私たちが見つけて、解放しただけの話さ」

魔娘「それにしてはお二人様は、体中が汚れています。なんか、激しく転んだり、切り傷だって」
読書家「お、これはな。そう、料理をしてたんだ」
袋持ち「そ、そうだ。中々に活きのいい食材でな。切るのに苦労して、ちょっと切ってしまったんだ」

魔娘「腕をですか?」
袋持ち「そうだ。わ、私がやる料理は特殊なのだ、だからこういう傷も覚悟しなくちゃならない」
読書家「そういうこと、だから気にしないでいい」

魔娘「そ、そうですか」
袋持ち「それにしても、なんで倒れてたんだよ。倒れる前に何かあったのか」

魔娘「た、倒れる前ですか……」
読書家「……(何かあったに決まってるだろ)」
袋持ち「……(何もなくてあれなら、それもそれで問題だからな)」

魔娘「私は、掃き溜めの者です。だからいつも通りに、御呼ばれがかかるのを待っていたのです」
読書家「……(掃き溜めか)」
袋持ち「……(胸大きいな)」
98 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/08(金) 21:13:09.33 ID:F2KEwjAF0
魔娘「そしたら管理局に来るよう言われて、私の他にもう一人呼ばれました」
読書家「……(管理局か)」
袋持ち「……(スベスベしてるな)」

魔娘「管理局に着いたら、変な部屋に通されて、気がついたらここに居ました」
読書家「……他に気になった事とかは」

魔娘「その、その変な部屋の中に書物保管庫の魔物さんの姿があって……」
袋持ち「それは、本当か?」

魔娘「は、はい。あれはたしかに、あの魔物の方でした。私たちの事、見ていたので間違いないはずです」
読書家「すでに書記は管理局に居たってことか」
袋持ち「意識が消える前、何か見なかったか?」

魔娘「え、えっと、ごめんなさい」
読書家「もういいだろ、彼女だって疲れてるんだから」
魔娘「わ、私は疲れてなんていません。人間様の思うとおりに質問でも何でもしてください」

読書家「あのさ、そうやって頭下げるのやめろよ」
魔娘「ご、ごめんなさい。私、人間様に何か粗相を」

読書家「そうやって、何も悪いことやって無いのに、頭下げるような真似はやめてくれませんかね。見ていて反吐が出ます」
魔娘「え、だ、だって、私たち魔物は人間様の所有物で、そうしないと……」
99 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/08(金) 21:14:42.75 ID:F2KEwjAF0
ここまでです
100 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2013/03/11(月) 14:08:27.82 ID:ZQQzBCvg0
 破綻してるっぽいので、ここまでにします。
 
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