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マクロス・ノスタルジア - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/03/06(水) 02:50:55.42 ID:P5phYZef0
マクロスの世界観だけ借りたSSです。

>>1はにわかなので、設定には適当な部分とか間違ってる部分とかもあると思いますが、ご容赦。



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1362505855
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秘境 @ 2025/06/10(火) 00:47:53.81 ID:BDVYljqu0
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【安価】上条「とある禁書目録で」鴻野江「仮面ライダー」【禁書】 @ 2025/06/09(月) 21:43:10.25 ID:qDlYab/50
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ツナ「(雲雀さん?!)」雲雀「・・・」ビショビショ @ 2025/06/07(土) 01:30:36.87 ID:AfN9Rsm0O
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【安価コンマ】障害走を極めるその5【ウマ娘】 @ 2025/06/06(金) 01:05:45.46 ID:RaUitMs20
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貴様たちの整備のお陰で使いやすくしてくれてありがとう @ 2025/06/04(水) 20:56:21.03 ID:QjuK6rXtO
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阿笠「わしの乳首に米粒をくっ付けたぞい」コナン「は?」灰原「は?」 @ 2025/06/04(水) 04:01:13.39 ID:ZjrmryLdO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1748977273/

レッド(無口とか幽霊とか言われるけどまだ電脳世界) @ 2025/06/02(月) 21:21:00.13 ID:ix3UWcFtO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1748866860/

2 :>>1 :2013/03/06(水) 02:53:05.80 ID:P5phYZef0

#プロローグ


 お前さんが例の記者さんか? 意外だな。こんな若いとは思っとらんかった。

 ケストヘイの話なんざ、若者に受けるのかね?

 ともあれ、問われれば語るのが我らの仕事だ。ようこそ、フロンティア船団歴史編纂室へ。

 なかなか時間が取れなくて悪かったな。この前までは閑職だったんだが。
 さすがに虫の事件と、新惑星への入植が重なっちまうとそうも言っとられん。我らは過去を受け継ぎ、未来を書き記さにゃならん。

 さて、記者さんがお望みなのは過去の方だったな。
 統合戦争末期のケストヘイ攻防戦――そう、最近になって機密封鎖が解かれたばかりの話だ。

 基本的な概要は公開されてるデータベースで読めるが、わざわざ足を運んできたのは御嬢さんが最初だよ。
 さあ、その熱意に敬意を表し、歴史を語ろうじゃないか。

 ――といっても、歴史上であの戦闘が果たした意味ってのはさほどありゃせんのだが。

 期待を裏切って悪いな、記者さん。ああ、ああ、そんなに吠え立てるな。そんなこと言っても、無いもんは無いんだから仕方ない。

 というか、ちょっと考えりゃわかりそうなもんだが。記者さん、データは読んだのか? ケストヘイ攻防戦は統合戦争末期の話だぞ?

 統合戦争がどういったものかは、ジュニアスクールから習ってるだろう?
 簡単に言えば世界征服だ。国家の垣根を取り払い、人類一丸となって力を高めようとした統合政府に対し、統合されてなるものかと反統合軍が噛みついた。

 まあ、無茶な話だったんだ。別々のものを無理やり一つにまとめあげようってんだから。
 人種差別やら宗教やら問題はどうしたってついてまわるし、そいつは歴史が証明している。

 それでもその無茶が通っちまったのは、統合軍の戦力が圧倒的だったからさ。

 暴力は何も生み出さず、ただ速やかに解決する。結局、反統合軍は徹頭徹尾ゲリラ戦に徹するしかなかった。
 特に反統合軍の中でも最大勢力だったロシアが降伏しちまってからは、大規模な戦闘はまったく起こらなかったといっていい。
3 :>>1 :2013/03/06(水) 02:53:49.57 ID:P5phYZef0
 ん? ああ、そうか。確かに例外はあった。マヤン島か。記者さんもあの映画を? ああ、わしもだ。

 だがランカ・リー目当てで見に行ったミーハーどもとは一緒にせんでくれよ。あの映画の制作には、我々の部署も関わってるからな。

 そこの壁に掛かってるサインも、そういう関係で貰ったものだ。決して職権乱用して手に入れたなんてことは――触るんじゃない!

 ……さておき、だ。マヤン島事変はプロトカルチャーの遺産を巡って起きた戦闘だからな。統合戦争の本筋とは微妙にずれているともいえる。

 ケストヘイは違う。鳥の人事件のようにプロトカルチャーの遺産が出てくるわけでもない。ゼントラーディもバジュラも絡まん、あくまで人と人の戦争だ。

 機密にされてた理由? ははぁ、記者さん。やはりデータを詳しく読んでなかったな? なるほど、それでマヤン島事件みたいな裏があると思ったってわけか。

 まあマヤン島に関係している、という考えは惜しいな。

 VF-0だよ。当時最新鋭の、そして今となってはありふれた可変戦闘機の第一世代。
 ケストヘイにもそいつが配備されてたのさ。いや、配備されていた、というのは正確には違うんだが……

 ともかく、そこにあったんだ。そしてVF-0の存在はマヤン島事件の煽りを受けて機密扱いだった。

 あとはわかるな? ケストヘイが機密扱いされてたのは、その煽りを食らったってだけのことなのさ。

 ……見事な落ち込みようだな、記者さん。なかなか笑える図だ。記者なんてやめて、芸人で食っていけばいい。

 ん? 笑えないか。なるほど、三日以内に記事を上げないと解雇。確かにそれは笑えん話だったな。すまんね。

 助けてやりたいところではあるが……こればかりはな。
 まさかまだ機密封鎖が解かれてない事件の話をしてやるわけにもいかんし、さりとてすでに封鎖解除済みの事件なんざ、目新しくもないだろうし。
 ふむ、そうだな……

 ……そうだ、記者さん。あんた、物書きなんぞやってるんだ。人並み程度にゃ文は書けるな?

 ケストヘイはな、歴史的にみりゃ詰まらん戦闘だったが……それでも歴史に残っている。歴史は人類の足跡だ。そこには必ずドラマがある。

 何を言いたいかというと、戦記物を書け、と言ってるのさ。2008年10月。ハンガリーはケストヘイ。そこで起きた、古臭い戦闘のな――
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/06(水) 03:00:58.86 ID:p0haBL+AO
マクロスとは珍しい
超期待
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/06(水) 08:42:28.79 ID:3uhfo662o
期待
6 :>>1 :2013/03/10(日) 12:53:47.79 ID:DZ1OCmmz0
投下
7 :>>1 [saga]:2013/03/10(日) 12:54:13.80 ID:DZ1OCmmz0
◇◇◇
#1


Isten, áldd meg a magyart "神よ、我らを祝福したまえ"

                (ハンガリー国歌 第一節より)

◇◇◇
8 :>>1 [saga]:2013/03/10(日) 12:54:40.78 ID:DZ1OCmmz0
◇◇◇


「可変戦闘機(ヴァリアブル・ファイター)は、革命さ!」

 店内に若者の叫び声が響き渡る。

 薄暗い、しかし清潔感のある酒場だった。カウンターからテーブル席、床からドアの取っ手にいたるまで、几帳面に磨きこまれている。

 若者の大声に片目をぴくりと震わせた年老いたマスターの向こうに見える酒棚には、高級酒が山と陳列されていた。

 さもありなん。ケストヘイは統合戦争が始まる前まではリゾート観光地として名高い土地だったのだ。
 当然、そこにある店舗も一定以上の質が求められる。

 その壁際の席に、声の主である青年は座っていた。テーブルの上には、既に空になった軽食の皿がある。

 見るからに嬉々とした有様で、もしも今が昼時をかなり過ぎた時刻でなければ白い目を向けられていただろう。

 だがあるいは、そんな視線が向けられても構わずに話し続けていたかもしれない。

 若者は明らかに興奮していた。鼻息も荒く、卵の黄身で汚れたフォークを振り回し、続ける。

「まさしく、革命さ――あらゆる局面にフレキシブル対応できる戦闘機だなんて。
 たった一機で制空権の確保、空中からの掃討、その後の地上制圧をこなせるんだ! これがどう言う意味かわかるかい?」

「……わからないわ」

 返って来た声の出所は、青年の対面に座っている女性である。
 青年と対照的に、冷静な――というかほとんど冷たいと形容されるような声。半眼で、興奮冷めやらぬという風に喚いている青年をぼんやりと眺めている。

 青年はその態度にもひるまず(目に入っていなかったのかもしれない)、説明を続けた。

「これからは可変戦闘機が戦場を支配するってことだよ! 迅速な侵攻が可能である可変戦闘機が、戦端を切り、前線を押し上げ、戦線を維持するのさ!」

 そんな未来の想像図を、全く疑っていないという様子で青年は宣言した。


◇◇◇
9 :>>1 [saga]:2013/03/10(日) 12:56:05.13 ID:DZ1OCmmz0
◇◇◇



 ケストヘイ、というのはハンガリー西部に位置する町の名前である。

 中央ヨーロッパ最大の湖であるバラトン湖の西岸に位置する、観光客で賑わうリゾート地だ――リゾート地"だった"。

 だがその上空で観光地に相応しくない鋼鉄の群れが飛び交っているようでは、もはや観光地を名乗れまい。

 宙を舞う物の正体は戦闘機だ。数は五。その内のひとつと、編隊を組んだ残りの四つが相対し、いま正に空戦の火蓋が切り落とされようとしていた。

 それぞれの機体には所属を表すマークが描き込まれている。

 編隊を組む銀色の四機には、赤い丸の中に白い三角形が描かれた統合軍のマーク。

 そしてそれらに対してたった一機で格闘戦を挑む深緑色の機体に描かれるのは、剣のような反統合軍のマークである。

「出やがったな、音楽家気取りめ」

 その深緑の機体を睨みつけた統合軍機パイロットの一人が、そんな言葉を漏らす。

 相手の反統合同盟軍機は、ここ数日、まるで統合軍を挑発するかのように、
 これ見よがしに出現しては統合軍の拠点の上空を飛行する、という行為を繰り返していた機体である。

 おまけに、これだ――先の台詞を呟いた男は、キャノピー越しに操縦席を満たす大音量に顔をしかめた。

 Isten, aldd meg a magyart―― "神よ、我らを祝福したまえ"

 思わず舌打ちする――あの反統合野郎は、機体に付けたスピーカーからハンガリー国歌を流してやがるのだ!

 その意図は考えるまでもない。ケストヘイの住民へ反旗を促す為のアジテーションである。

 ハンガリーは最初から統合軍側につくことを選択した国家だが、国民がそれを快諾したわけではない。

 もとより戦争の始まる前から統合軍と反統合軍の、手合い違いともいえるような戦力差は話題になっていた。

 ハンガリーは理念に賛同したのではなく、銃を突きつけられるようにして統合軍側に下ったに過ぎないのだ。

 無論、そうだからと言って国民が実際に反乱を起こすかと言われれば疑問だが、どのみち、ここまでされて黙っているわけにもいかない。

 そうして、ケストヘイの統合軍はすぐさま戦闘機を上げ――その悉くが撃墜された。

 まあ悉く、と言っても、もともとケストヘイにそれほどの戦力が常駐していたわけではない。

 というより、既に統合戦争もほとんど終着しており、軍隊を駐留させる必要などないのだ。

 現在それなりの戦力が備えられているのは、未だ散発的なゲリラ攻撃が起きる南アフリカか、
 守護すべきSDF-1の存在する南アタリア島くらいのものだ。

 ケストヘイにある程度の軍備があったのは、ここで『とあるプロジェクト』が進められていたからに他ならない。

 もっともそのプロジェクトも数ヶ月前に終了し、ここに彼ら統合軍が残っていたのはほとんど偶然に近いものだったのだが。
10 :>>1 [saga]:2013/03/10(日) 12:56:35.81 ID:DZ1OCmmz0
 だが何にしろ、既存の航空戦力はほとんどが落とされた。そしてケストヘイには対空砲の類はさほど設置されていない。

 それ故に、こうして自分たちにお鉢が回ってくることになったのだ。

(留守番してろって命令された時は発狂するかと思ったが、まさかこの機体で実戦ができるなんてな)

 にやり、とヘルメットの下で笑みを漏らしたその時、通信機の向こうから隊長の声が響いてきた。

『プルート1より各位へ。いいか、敵は腕っこきだ。トムキャットを二対一で落としている。
 可変戦闘機ではないようだが、それでも十分に警戒し、全力で墜とせ』

『プルート2、了解。訓練の成果をみせてやりまさぁ』

『プルート3、了解。最新鋭の機体で4機掛かりとは、弱い者いじめみたいですが』

「プルート4、了解です隊長! やってやりましょう!」

『ああ、では交戦を開始する。プルート1、エンゲージ!』

 隊長からの号令を受けて、4機は綺麗に散開。真正面から突っ込んでくる深緑の機体を避け、背後に回り込む機動を取る。

 当たり前にして大原則だが、戦いは基本的に数の多いほうが有利だ。空でも陸でも海でも、それは変わらない。

 格闘技のチャンピオンでも、素人十人に囲まれれば容易く袋叩きにされてしまう。多いというのは、それだけで強い。

 だが無論、相手より兵員が多いからと言って常に勝てるというわけでもない。

 戦術や装備、あるいは時の運によって、数の差を覆した戦闘というのは存在する。

 では、この戦闘を傍から見た場合、どういう予想が立てられるか?

 数は先も言った通り。そして統合軍の機体は、4機全てがVF-0A――最新鋭の可変戦闘機である。

 可変戦闘機(ヴァリアブル・ファイター)。

 それはこれまでの戦闘機の常識を覆す、革新的な機体だった。

 単に、変形によってあらゆる状況に対応できるというだけではない。

 光速で敵を食い破るレーザー機銃に、戦車の前面装甲並の強度を誇るエネルギー転換装甲。

 そういった『未来的』とさえいえるテクノロジーをふんだんに詰め込んだ兵器なのだ。

 その有用性は――これは非公式の情報だが――先だっての"マヤン島事件"で証明されている。

 なにしろ反統合軍の可変戦闘機であるSV-51に対して、それまでの非可変戦闘機は全く歯が立たなかったのだから。


◇◇◇
11 :>>1 [saga]:2013/03/10(日) 12:57:02.30 ID:DZ1OCmmz0
◇◇◇


「可変戦闘機はまず、三つの形態に変形することができる」

 青年の講釈は続く。一応は目の前の席に座った女性相手にしているのだろうが、当の女性は何の興味もないという風に大きな欠伸などしていた。

「基本的な戦闘機形態であるファイター。格闘戦を目的とした人型形態であるバトロイド。そしてその中間であるガウォーク。
 ここで重要なのが、バトロイド形態でいうところの"脚部"に推進装置を組み込んであるってことだ」

 いいかい? と前置いて(女性は曖昧に頷いただけだったが)、青年は開いた掌を地面と平行になるように傾けた。

「この手をファイター形態だとして、中指と薬指が推進装置だとしよう。ここからジェット噴流が噴出して推力を得るわけだ。
 だけどこの推進装置はロボット形態時の足でもあるから……」

 青年が中指と薬指だけ折り曲げて見せる。

「こうして、飛行中に推進ノズルを大幅に稼働させることができる。つまり推力の向きを瞬時に変更できるわけだ。
 これにより、これまでの戦闘機と比べて機動性が格段に向上――いや、もはや別次元といっていいほどの変幻自在さを得ることができたんだ」

 ぶーん、と青年が滅茶苦茶に手を動かす。それが戦闘機の機動だというのなら、確実にパイロットは潰れて死んでいるだろうが。

 しかし、青年の説明は間違いではない。可変戦闘機を既存の戦闘機と比較した際、まず目に付くのはまさに変幻自在といって良い機動性である。

 非公式の情報故に未だ青年は知るまいが、先だってのマヤン島事件において、旧戦闘機は可変戦闘機の機動に対応できなかった。

 ドッグファイト、つまりは戦闘機による近距離戦闘においては、相手の背後を取った方が圧倒的に有利になる。

 つまりドッグファイトに強い戦闘機というのは、相手の後ろを取る為に機動性を引き上げた機体のことだ。

 より小回りに、より素早く加減速ができるように。

 従来の戦闘機はこの課題を、推力偏向ノズル――簡単に言えばジェット噴流を吐き出すノズル自体を可動させ、
 ジェット噴流の向きを偏向する仕掛けを装備することで解決しようとしてきた。(無論、それだけではないが)

 だが可変戦闘機はノズルの稼働に加え、機体に対するノズルの位置自体を変更できるという常識外れの機能を備えることで、
 まさにそれまでとは一線を画す機動性を実現したのである。

 急激な推力ベクトルの変更と、また、それに耐えることのできる機体強度を持つ可変戦闘機は、確かに空戦の王者としてその地位を確立しようとしていたのだ。


◇◇◇
12 :>>1 [saga]:2013/03/10(日) 13:01:03.25 ID:DZ1OCmmz0
◇◇◇

 視界の端を赤い閃光がよぎる。それが、最後まで残っていた部下の機体が爆発したことで起きた光であることは知っていた。

 激昂――だがそれを操縦の精度に出さない為にも、言葉にして吐き出す。

「――墜ちろ!」

 すでにロックオンは終えていた。隊長機であるこの機体にだけ積まれていたマイクロミサイルを余さず斉射する。

 敵のフレアは尽きている。ほとんど何もさせて貰えずに撃破されたプルート4はともかく、2番機と3番機は手持ちの空対空ミサイルを全て吐き出していた。

 特に先ほど撃墜されたプルート2は、自分を犠牲にしてまでこのチャンスを作ってくれた。

 逃すわけにはいかない。

 24の白煙が宙を舞い、敵機を目掛けて収束していく。

 爆発――マイクロミサイルとはいえ、24発の一斉炸裂は周囲の青空をまるで夕日のように染め上げた。

 確殺した感触に、僅かに笑みを漏らす。

 だが、次の瞬間にその笑みが凍りつく。

 爆音が響き、そして消え――入れ替わるように、あの忌々しいハンガリー国歌がキャノピーを振るわせたのだ。

 火薬の燃焼による赤色が引いた空間に、敵機の姿は既にない。即座にレーダーを確認。
 だが、その画面が急激にノイズに塗れ、敵の情報がかき消される。

(またか!?)

 この奇妙な現象は、敵機と交戦してから幾度も起きていた。だからこそ、敵の特性を未だに掴めていないのだ。

(だがいくらか分かってきた。あいつは――)

 その思考を遮るようなロックオン・アラートが耳を駆け抜けていく。

 敵機は背後だった。いつの間にか、こちらの視界外から後ろに回り込んでいる。

 左手で可変プログラムを立ち上げながら、即座に右手で操縦桿を倒しつつ、ラダーペダルを左右同時に踏み込んだ。
 "脚"が前に投げ出されるように稼働し、推力ベクトルを機体前方に向ける。

 キックバック――可変戦闘機による基本マニューバのひとつであるが、可変用のアビオニクスが未完成の為、
 使いこなせるのは相当な経験を積んだ才能あるパイロットだけだ。

 水平機動で左右に機体を振り回しながらの急減速に、敵機は攻撃を諦めたらしい。

 急減速したプルート1を深緑の機体が追い抜いて行く。

(取った!)

 瞬時に、視線入力で敵機を再度ロック。ガンポッドをフルオートで起動。

 曳光弾によって形成された射線が、敵機に迫り――だが、回避される。

(速い! こっちの細かい動きまで完全に読まれてる。どういうことだ、背後に目ついているとでもいうのか!)

 このままでは、自分も部下たちの二の舞になる。

 ミサイルは撃ちつくし、完全に背後を取った状態からのガンポッド機銃による射撃すら通じない。これでは手の打ちようが――

(いや――賭けになるが、試してみるか)

 敵機が旋回してくるのを見ながら、左手が、再び可変システムを起動。

 僅かな時間でVF-0がその身を"鳥"から"人"へと移す。
13 :>>1 [saga]:2013/03/10(日) 13:01:59.61 ID:DZ1OCmmz0

 バトロイド。本来は地上での格闘戦用として開発された形態だ。

 この形態で激しい空戦を行うのは、キックバック機動よりはるかに難しい。

 推力ノズル、つまりは脚部の可動を少し間違えただけであらぬ方向へと推力ベクトルが向いてしまい、
 所謂"股裂き"のような状態になって墜落しかけるのは初期のテストパイロット達が何度も目にした光景だ。

 プルート1もこの形態での空戦機動は得意ではない。というより得意と言えるほど習熟した者は一人しか知らない。

 だが、その場で動かずに敵を待ち構えるくらいはできる。これが思いついた"賭け"の内容だ。

 コンソールを操作し、機体出力を操作する。VF-0の動力は、本来搭載されるはずだった新型エンジンが間に合わなかったため、
 従来のエンジンをフルチューンして使用している。

 この為、ファイターモードから変身する際の速度制限や、エネルギー転換装甲システムの使用制限などの問題を生み出してしまった。

 しかしファイターに比べて消費エネルギーの低いバトロイドならば、そうした出力の問題はクリアできる。

 エネルギー転換装甲が起動し、マニュピレーター格闘にすら耐え得る強度を獲得し、さらに――

(お前がいくら速くても、光速のレーザーは避けられまい!)

 真正面から相対し、敵の機銃をエネルギー転換装甲で耐えながらレーザーをぶち込む。

 無論、流石のエネルギー転換装甲も航空機に搭載されるような機関砲を食らってまで無傷とはいかない。

 だが、何発かは耐えられるはずだ。

 大気圏内でのレーザーは減退が著しく、かなり接近しないと効果は生み出せないが、その距離まで踏み込めるとプルート1は踏んでいた。

 敵機が回頭し、こちらに機銃を向ける。こちらも牽制にとマニュピレーターで保持したガンポッドをばら撒くが、
 敵機はまるでこちらの視線をジャックしているかのように射線をかわし、反対に機関砲を叩き込んでくる。

 こちらは大した機動ができない。申し訳程度にふらふらと左右に回避機動をとるが、ほとんど躱せずに鉛の牙が機体に食い込んでくる。

 激しい衝撃に身を揺さぶられ吐き気を覚えながらも、プルート1は歯を食いしばり敵の機体に視線を固定した。
14 :>>1 [saga]:2013/03/10(日) 13:02:27.01 ID:DZ1OCmmz0

(あと少し――あと少し――)

 ガンポッドに被弾。誘爆して、マニュピレーターが吹っ飛んだ。背部に回された翼が脱落する。

 だが――

「――入った!」

 誇るべき統合軍の最新機体は、レーザーの有効距離に入るまで爆散することなく耐えて見せた。

 瞬時にトリガー。頭部に備え付けられたレーザー機銃が光弾を生み、実弾兵器には不可能な速度で飛翔。光の速度を、見て回避することはできない。

(――獲った)

 溢れるほどに分泌された脳内物質が、時間を引き延ばす。プルート1は、この瞬間、敵の機動を完全に掌握できていた。

 敵機は回避運動を取らない。まっすぐに突っ込んでくる。

 その深緑の機体に、レーザーが着弾した。一発目が食い込む。続いて、二発、三発、四発、五発――

 ――そこまで数えたところで、プルート1はようやく違和感を覚えた。
 
(なぜ――墜ちない?)

 VF-0に搭載されたレーザー機銃は、ほとんどミサイル迎撃用として用いられる。

 ファイター形態、とりわけエネルギーを消費する高機動戦闘中では、先に述べた出力の問題で満足に機動させられないからだ。

 またレーザー自体の出力も低い。仮にVF-O同士でレーザー機銃を撃ち合ったとしても、
 今のプルート1のように防御力を引き上げたガウォーク・バトロイド形態相手なら全く通用しないといって良い。

 それでも、あの敵には有効な筈だ。あの旧型の機体には――

(いや――違う!?)

 そこまで考えて、ようやく気付いた。

 相手の装甲に、全く損傷がない。あれはこちらと同じ、エネルギー転換装甲だ。

 それを敵は、VF-0でいうファイターモードで用いている!

 その事実に愕然とするプルート1の耳に、ハンガリー国歌に紛れて、太く低い、バリトンボイスが響いた。

『空は我らの領域だ。くれてやった地べたを這っていろ"脚付き"』

 それが敵機のパイロットからのメッセージだとプルート1が理解するのと同時に、VF-0が爆散する。

 争いの排除された空にはただ英雄の凱歌のように、ハンガリー国歌が響き渡っていた。

◇◇◇
15 :>>1 [saga]:2013/03/10(日) 13:03:15.67 ID:DZ1OCmmz0
◇◇◇


「まあそんな機体に、俺は明日から乗れるわけだよ。いや、テストでは乗ったんだけどさ、今回は実戦装備なんだ!
 ――明日、任務から帰ってきたらもっと乗り心地とか詳しいこと話してあげられるからね!」

 そういう青年は、いまや二人の屈強な男たちに両腕を抱えられ、ずるずると店の外へ引きずり出されるところだった。

 それでもまだにこやかな表情で、女性に向けて話かけている――青年を引きずる両脇の二人はうんざりとした顔で声を上げた。

「てめえ、4番のくせに抜け駆けとはいい度胸だ。午後から明日の飛行ルート詰めるって言ってあったろうが!」

「申し訳ありません、ヴィクトリア嬢。この馬鹿がご迷惑を――」

 気にしないで、という風にヴィクトリアと呼ばれた女性が手を振る。だが引きずられる青年は、意にも介さず叫んだ。

「迷惑じゃないよね!? 迷惑じゃないよね!? 戦闘機って恰好いいもんね!? ねえ、隊長!」

 隊長と呼ばれたのは、出口の脇に立っていた壮年の男だった。精悍な顔つきに、短く切った髪を後ろに撫でつけるようにセットしている。

 統合軍には珍しいベテランパイロットである。その彫りの深い顔に苦笑を浮かべ、ぺこりとヴィクトリアに一礼する。

「部下の自慢話に付き合ってくれて感謝する。次に店に来た時には、一杯奢らせていただきたい」

「隊長! そうやって僕をダシにして!」

「馬鹿、あれがスマートな誘い方ってもんだ! お前も勉強しろ!」

 そんな喧噪と共に、4人の戦闘機乗りが店を出ていく。

 静かになった店内で、ヴィクトリアはマスターに向かって疲れた声音で呟いた。

「戦闘機乗りって、やかましいのね」

「まあ、戦闘機自体うるさいからなぁ。乗ってる奴らもそうなるんだろう」

 ――その騒がしさが二度と聞けないことを、この時点では知る由もない。

16 :>>1 [saga]:2013/03/10(日) 13:04:20.99 ID:DZ1OCmmz0
投下終了
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2013/03/10(日) 14:09:22.64 ID:f5BNx8nw0
乙です!
マクロスのSSなんて珍しいから期待してます!
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